最も悲むべき人種戰爭2022年09月19日 15:03

蛮国名勝尽競之内英吉利龍動海口
 『對米國策論集』國民對米會編 編者 葛生能久
 
 (一〇〇-一〇八頁)
 日本國民の覺悟 法學博士 上杉愼吉氏  2022.09.19

 第三 最も悲むべき人種戰爭

 加ふるに最も悲しむべき事は、之に人種の爭ひと云ふことが加はつて居ることであります。人種の爭ひと云ふ事は、正義の上から見て人道の上から考へても、洵に理由無き事であることは申すまでもない。併し乍ら理由が無い道理が無いと申しましても、古來人種上の偏見と感情と云ふものは、どうしても是は人類の頭の内から取去ることは出來ないのであります。私は正直に云へば、正義人道の上から人種的僻見或情を有つて居ると云ふことを米國人に對して攻撃しますけれども、矢張り私は一種の人種的感情を有つて居ると云ふことを自狀しなければならぬ。どうしても米國人は嫌ひであります何として嫌ひである。(拍手起る)然らば此の人種的感情と云ふものは人類の頭から取去ることの出來ざるものである。寧ろ是は道埋に合せぬと云ふよりも、如何なる學理上の理由からして斯かる人類的の威情が生ずるのであるかと云ふ事を研究する方が事實に當つて居ると云ふ事を、近來學者は皆申して居るが如き有様であるのである。然らば此人種の爭ひと云ふことを加昧した日米の將來の衝突と云ふものは、最も惨酷で、昔の歴史家が三千年の未來には、人類の殲滅戰が行はれるてあらう、子供も女も悉く殺される戰があると云つたとは、恐らくは此日米の衝突を豫言したものであると云ふ事を私は大いに恐れるのであります。人種と云ふ事に就ては、私は彼の巴里講和會議に於て人種問題が起りました時に、聊か人種と云ふ事に就て研究しました。
 歐州人は何と云つても我々日本人が彼等に対して劣等なるものであると信じ切つて居るのである。歐州人と猿と兩方に居つて、其眞中に有色人種がある有色人種は其いづれに近いかと云へば寧ろ猿の方に近い。斯様に否でも應でも子供でも女でも當然の常識として信じ切つて居る。是が彼等の人種の偏見の基く所でありますが、私は當時私から考へた。我日本人の中にも、或は日本人は西洋人よりも劣等でないかと思つて居る人が居るのである。正直に居る。そこで私が考へましたのに、若しも學理上人種の優等、劣等の區別であるものならば、是は一つ考へて見なければならぬと斯樣に心附きました故に、今迄の無學を白狀する譯でありますけれども、人種學の書籍を多少研究して見たのでありますか、其結論は人種の差別は、全然根據の無いことで、人種學者は如何にして、如何なる標準に由りて人種を區別すべきかと云ふことに就て、令迄に決定した議論を持つて居らないことを知つたのであります。況んや人種の間に於て學理上、生理上、差別ありと云ふことを證明することは到底出來ないと云ふことが、人種學者一般の論であると云ふことを知つた。私は自分の無學を恥づるのでありますけれども此結論を得た時に心中私かに快哉を叫び、卓を拍つて喜んだのであります。人種が學理上差別なき以上、我々は何の恐れる所も無いのである。堂々として人種の平等を叫ぶことが出來ると云ふ確信を得たのであります。(拍手起る)もう一つ日米の關係を深刻ならしめる所以のものは、今阪谷男爵から御話がありましたが、將來の國際間に於て之が最も困難な問題でありまする。我々個人の間にも資本勞働、金持貧乏の爭ひが存在して居るのでありますが之は國際間の資本勞働の爭ひ、貧乏金持の爭ひに比較して見ますと、殆んど云ふに足らざるものであると云つて宜しのであります。個人が富の力に於てどれ丈け違つたと云つた所が知れたのものである。誰も金を母の胎内から握つて生れたものは一人も居らぬのである。所が國家は初めから金を握つて生れ出て來るのである。米國は如何なる幸福な國であるが、始めから穀類は世界の總額の七八割、石炭もも石油も、綿も、鐵も世界の産額の半額を産する國として出來上つて居る。之に向かて日本と云ふ國は生れ附きの貧乏國で、鐵も石油も石炭も綿も殆んど無い程である。のみならず我々御互い食べる米さへ十分に取れぬのである。本年の如く天氣が悪くて雨が降らぬと我々六千萬の國民は、天を仰いで此秋になつて腹一杯米が食へるであらうかどうかと心配して居る。故に蠶と云ふ蟲を養つて糸を取つて、之を外國に輸出して辛うじて命脈を續いで居るのである。實に憐れ果敢無き情けなき國民と云はざるを得ない、誰れが斯う云ふことをしたか、誠に神があるかどうか知りませぬが、國家面積の地球上の分布たるや、實に不公平極まれりと申さなければならぬ。併し乍ら我々は何と云つても此不公平なる運命の下に我が國家、我が民族の運命を開拓せなければならぬのであります。私は常に我が國民に向つて警告して居るのでありますが、此の貧弱なる國に於て、我々が祖先以來の國家を維持して我々が祖先以來固有して來た所の建國の大理想を發揮しなければならぬと云ふことに對しては、我々が非常なる奮發を致さなければならぬと云ふ事を常に説いて居のでありますが、誠に地球上に於ける國の分布は不公平であると云はなければならぬ。然るに米國は何と云ふかと云ふと、其の國を鎖して有餘る資源を自分等の子孫の爲に保存するが爲に日本人が食ふ米はなく、年々六十萬の人口が増加してどうしても生活することが出来ないと云ふ有樣を目前に見て居り乍ら、日本人此中に入るべからずと云ふ法律を制定したと云ふことは、強欲無道の極りと云はなければならぬ。(拍手起る)此國際上に於ける資本勞働の衝突と云ふこと、將來最も深刻を加へると云ふことを覚悟せなければならぬのであります。若しも我が日本が米國に對して一撃を加へて此問題を解決して、世界の物資と云ふものは天の與へる所であり、人類共通の賜であり、人類總てが其處に安んじて、腹一杯物を食つて行けると云ふ黄金世界を現出することが出來るならば、日本人は誠に人類三千年の歴史を一轉して、歴史上に幸福の輝きを生ぜしめると云ふ名譽を擔ふものと申さなければならぬ。(拍手起る)
 人種の問題に就ては、私は日本人は現賓の問題として殊に深く考へて見なければならぬと思ふのであります。私は日本人は此人種問題の爲に奮闘すべき二重の責任を持つて居ると客思ふ。第一には今日まで日本人は五十年間長足の進歩を致し、世界三大強國の一に列するに至つたと申しますけれども、一體如何なる事を致して來たのでありますか、自ら有色人種め一人であり乍ら、稍々勢ひが好くなるに従つて西洋人の尻馬に乘つて.西洋人の眞似をして有色人種を壓迫することの手傅を致したと云ふことは、私自ら日本人でありますけれども、諸君と共に正直に白狀せなければならぬと思ふのであります。(拍手起る)然らば此事は、今日に至つて之を悟る既に遅しと申すべきでありませうけれども、遅しと雖も語らざるには勝るのである。一旦之を悟つた以上は飜然として有色人種の先頭に立つて此牛馬奴隷の境遇に沈淪して居る有色人種の爲に一大義戰を起すると云ふことは祖先以來の侠氣を持つて居る所の大和民族の當に努めなければならぬ所であると申さなければならぬのであります。(拍手起る)之が日本人の人種戰爭に對する第一の責任でありますが、第二には、日本人が最近に斯くの如く勃興の來たと云ふ事が世界十二億の有色人種に對して非常なる影響と感動を及ぼして居ると云ふ事であります。是は近來世人の喧しく論ずる所でありますから、今日詳しくは申しませぬけれども、世界十二億の有色人種と云ふものは米國に居る一千萬人の黒人に至るまで、日本人を仰いで兄貴と思ひ、日本人が此の儘ずつと伸したる有色人種は救はれる。日本人が茲で一撃を加へられて引込んで仕舞ふならば、世界十二億の有色人種は將來永久に白色人種のの牛馬奴隷たる境遇に沈倫せなければならぬと云ふことを知つて居るのであります 。私は四五年前に黒人の代表者と云ふものと會見した事がありますが、彼等が日本人を頼みに思つて居る有様はいぢらしいと云ふか、頼もしいと云ふか、何ども云へない一種の或じを起さしめるのでありました。是は如何なる問題があつても、一片の侠氣ある日本國民たる以上は比黒人の爲に奮起せなければならぬと云ふことは、私の如きものさへ感じたのであります。(拍手起る)回教民族も、印度人も總ての有色人種と云ふものは日本人を目當に奮闘努力して居ると云ふことを知つたならば、世界の未來は日本人の双肩に掛つて居る。今日は文明の世の中と云ひますが、地球上人類の大多數を占めて居る十二億の有色人種が奴隷牛馬の有樣に沈倫して居るのを見ますれば、決して今日は文明の世の中と云ふことは出來ませぬ。第二十世紀は歴史上文明の上に於て暗黒時代であると云つても差支ないと思ふ。(拍手起る)此の暗黒時代を打破つて光明ある文明世界、人類の眞の幸福を享樂する世界を現出せしめる大使命が我日本人の双肩に掛つて居ると云ふ事を、我々は深く覺悟せなければならぬと思ふのであります。(拍手起る)

引用・参照・底本

『對米國策論集』國民對米會編 編者 葛生能久 大正十三年十二月二十五日發行 發行所 讀賣新聞社

(国立国会図書館デジタルコレクション)

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