「月面レンガ」の曝露実験 ― 2024年11月01日 11:42
【概要】
神舟19号のミッションは、中国の将来の月探査計画において重要な役割を担う、若手中心のクルーと新たな実験を特徴とするミッションである。2024年10月30日、北京時間午前11時に打ち上げられた後、約6.5時間で中国の宇宙ステーションに無事にドッキングした。今回のクルーは、司令官のCai Xuzheと新任の宇宙飛行士であるSong Lingdong、初の女性宇宙飛行士エンジニアであるWang Haozeで構成され、特に1990年代生まれの若い宇宙飛行士が選ばれた点が注目される。
宇宙分野の専門誌「宇宙知識」(Aerospace Knowledge)の編集長であるWang Ya’nan氏によると、このミッションは、若年層の起用と女性宇宙飛行士の参加により、今後の月面探査を見据えた意義がある。具体的には、月面探査での使用を想定した「月面土壌模擬材料」を用いたレンガの曝露実験が含まれており、これは将来の月面基地建設を視野に入れた研究の一環である。また、Caiは神舟14号に参加して以来、わずか22カ月で再び宇宙飛行を果たし、中国の宇宙飛行士として最短期間での飛行記録を更新している。
神舟19号の主な任務は、約6カ月の滞在中に神舟18号クルーとの交代、船外活動、物資の管理、宇宙デブリ保護装置の設置など多岐にわたる。さらに、神舟19号のクルーは、天舟8号貨物船と神舟20号有人宇宙船の受け入れも予定されており、2025年4月末または5月初めに地球へ帰還する計画である。
神舟19号ミッションでは、宇宙船の開発元である中国宇宙技術研究院(China Academy of Spacecraft Technology)は、軌道モジュールの設計とレイアウトの最適化を行い、積載容量を20%増加させ、時間の制約がある物資をより多く運搬できるようにした。この最適化により、宇宙ステーションの長期運用を支えるための効率がさらに高まることが期待されている。
また、神舟19号は、月面探査を目指す中国の目標に向けた大きなステップとなっている。2030年までに月面に宇宙飛行士を送る計画に向けて、若い宇宙飛行士が登用され、未来の月探査のための技術的な準備と訓練が進行中であるとされる。王氏によると、35歳から45歳の宇宙飛行士が最も適しているとされるため、1990年代生まれの宇宙飛行士の参加はこの年齢層の経験を蓄積する上で重要である。
加えて、今回の神舟19号ミッションでは、中国初の女性飛行士エンジニアの参加があり、今後の有人宇宙飛行ミッションにおいて女性宇宙飛行士が増加することが予想される。女性の参加により、宇宙ステーションや月面基地での長期滞在がより円滑に進むと考えられている。
科学実験においても神舟19号は注目され、生命科学、流体力学、燃焼科学、材料科学の分野での研究が行われる。特に、初めてショウジョウバエを実験対象とし、微重力と亜磁場環境が動物の成長と行動に及ぼす影響を調べる研究が行われる。中国科学院によると、ショウジョウバエは遺伝実験に適したモデル生物であり、この実験は将来の人間の宇宙適応の研究の基礎を築くことが期待されている。
さらに、「月面レンガ」の曝露実験も計画されており、月面環境に適した建設材料の研究が進められている。王氏は、このレンガが月面基地の建設に実用的なデータを提供することを期待しており、もし実験が成功すれば、月面基地建設の技術的な基盤が確立される可能性があると述べている。
【詳細】
神舟19号ミッションは、中国の宇宙ステーションに最も若いクルーを迎え入れた点や、複数の新しい実験計画を実施する点から、これまでの中国の宇宙開発において特筆すべき進展とされている。以下では、このミッションの各側面についてさらに詳述する。
1. 若手クルーの起用
神舟19号のクルーは、指揮官のCaiXuzheを中心に、1990年代生まれのSong LingdongとWang Haozeから構成されており、これまでで最も若いクルーとなった。Caiは、わずか22カ月前に神舟14号に搭乗しており、これは中国の宇宙飛行士としての最短間隔での宇宙飛行記録である。また、王は中国初の女性宇宙飛行士エンジニアとしての役割を担っており、女性の専門技術者の参加は、今後の長期宇宙探査においても重要な意味を持つとされている。
2. 宇宙ステーション内の主要任務
神舟19号の主な目的には、神舟18号のクルーとの交代、6カ月間の滞在中に科学実験や技術試験の実施、さらには船外活動(EVA)や宇宙デブリ対策装置の設置・回収といった重要な活動が含まれる。また、天舟8号の貨物船や神舟20号の有人宇宙船を受け入れるための準備も行い、これにより宇宙ステーションの運用効率と長期的な機能性の向上が図られる予定である。
3. 科学実験と技術検証
ミッションにおける重要な取り組みの一つが、生命科学、流体力学、燃焼、材料科学に関する実験である。今回初めて実験対象となるのがショウジョウバエで、これは亜磁場環境と微重力が動物の成長と行動にどのような影響を及ぼすかを調べるためである。ショウジョウバエは遺伝実験に適したモデル生物であり、短いライフサイクルと少数の染色体数、さらにはヒトと共通の遺伝子を多く持つことから、宇宙環境での生物学的研究において重要な役割を果たす。
さらに、未来の実験として、ラットを使った研究も計画されており、これによりさらに大型の動物での影響を調べ、長期間の有人探査ミッションにおける人間の適応力向上に役立てられることが期待されている。
4. 月面基地建設に向けた「月面レンガ」実験
神舟19号ミッションの重要な要素には、月面環境で使用することを想定した「月面レンガ」の曝露実験が含まれている。このレンガは、月面土壌を模した材料から作られ、宇宙放射線に対する耐久性や機械的性能、熱的性能などが評価される。これは、将来の月面基地建設において現地調達の材料を活用するための研究の一環である。このような現地での製造方法を確立することにより、地球から資材を運搬するコストを抑え、月面での持続可能な居住地構築が可能となると期待されている。
もしこの実験で得られるデータが良好であれば、月面基地の建設技術が確立される基礎データが得られるため、中国が目指す2030年の有人月探査において非常に重要な知見となるだろう。
5. クルーの年齢層と今後の有人探査の展望
今回の神舟19号ミッションで選ばれたクルーは若年層であり、これは今後の宇宙探査や月探査を見据えた世代交代の一環でもある。35歳から45歳が最適とされる宇宙飛行士の年齢層を考慮し、1990年代生まれの宇宙飛行士が若手として訓練を積むことは、複雑な未来のミッションにおいて中核的な役割を果たすことが見込まれている。
【要点】
1.若手クルーの起用
・神舟19号のクルーは最も若い編成であり、指揮官のCaiと1990年代生まれのSong Lingdong、Wang Haozeから成る。
・Wang Haozeは中国初の女性宇宙飛行士エンジニアであり、若手と女性技術者の参加は今後の宇宙開発に重要な意義を持つ。
2.宇宙ステーション内の主要任務
・神舟18号クルーとの交代、6カ月間の科学実験や技術試験の実施。
・船外活動(EVA)、宇宙デブリ対策装置の設置・回収、天舟8号や神舟20号の受け入れ準備を含む。
3.科学実験と技術検証
・生命科学、流体力学、燃焼、材料科学の実験を実施。
・初めてショウジョウバエを対象とした亜磁場と微重力下での動物成長・行動研究を行い、宇宙環境での生物適応に関する知見を得る。
3.月面基地建設に向けた「月面レンガ」実験
・月面土壌模擬材で作成したレンガを宇宙で曝露し、放射線耐性や機械的・熱的性能を評価。
・将来の月面基地建設に向けた現地調達材料の利用可能性を検証する。
4.クルーの年齢層と今後の有人探査の展望
・若年層のクルーが未来の有人月探査や長期探査に備えた世代交代の一環として活躍。
・最適な35~45歳層での運用を目指し、若手が次世代の中核的役割を担う準備を進める。
【引用・参照・底本】
Three taikonauts of Shenzhou-19 crew enter China Space Station GT 2024.10.30
https://www.globaltimes.cn/page/202410/1322121.shtml
神舟19号のミッションは、中国の将来の月探査計画において重要な役割を担う、若手中心のクルーと新たな実験を特徴とするミッションである。2024年10月30日、北京時間午前11時に打ち上げられた後、約6.5時間で中国の宇宙ステーションに無事にドッキングした。今回のクルーは、司令官のCai Xuzheと新任の宇宙飛行士であるSong Lingdong、初の女性宇宙飛行士エンジニアであるWang Haozeで構成され、特に1990年代生まれの若い宇宙飛行士が選ばれた点が注目される。
宇宙分野の専門誌「宇宙知識」(Aerospace Knowledge)の編集長であるWang Ya’nan氏によると、このミッションは、若年層の起用と女性宇宙飛行士の参加により、今後の月面探査を見据えた意義がある。具体的には、月面探査での使用を想定した「月面土壌模擬材料」を用いたレンガの曝露実験が含まれており、これは将来の月面基地建設を視野に入れた研究の一環である。また、Caiは神舟14号に参加して以来、わずか22カ月で再び宇宙飛行を果たし、中国の宇宙飛行士として最短期間での飛行記録を更新している。
神舟19号の主な任務は、約6カ月の滞在中に神舟18号クルーとの交代、船外活動、物資の管理、宇宙デブリ保護装置の設置など多岐にわたる。さらに、神舟19号のクルーは、天舟8号貨物船と神舟20号有人宇宙船の受け入れも予定されており、2025年4月末または5月初めに地球へ帰還する計画である。
神舟19号ミッションでは、宇宙船の開発元である中国宇宙技術研究院(China Academy of Spacecraft Technology)は、軌道モジュールの設計とレイアウトの最適化を行い、積載容量を20%増加させ、時間の制約がある物資をより多く運搬できるようにした。この最適化により、宇宙ステーションの長期運用を支えるための効率がさらに高まることが期待されている。
また、神舟19号は、月面探査を目指す中国の目標に向けた大きなステップとなっている。2030年までに月面に宇宙飛行士を送る計画に向けて、若い宇宙飛行士が登用され、未来の月探査のための技術的な準備と訓練が進行中であるとされる。王氏によると、35歳から45歳の宇宙飛行士が最も適しているとされるため、1990年代生まれの宇宙飛行士の参加はこの年齢層の経験を蓄積する上で重要である。
加えて、今回の神舟19号ミッションでは、中国初の女性飛行士エンジニアの参加があり、今後の有人宇宙飛行ミッションにおいて女性宇宙飛行士が増加することが予想される。女性の参加により、宇宙ステーションや月面基地での長期滞在がより円滑に進むと考えられている。
科学実験においても神舟19号は注目され、生命科学、流体力学、燃焼科学、材料科学の分野での研究が行われる。特に、初めてショウジョウバエを実験対象とし、微重力と亜磁場環境が動物の成長と行動に及ぼす影響を調べる研究が行われる。中国科学院によると、ショウジョウバエは遺伝実験に適したモデル生物であり、この実験は将来の人間の宇宙適応の研究の基礎を築くことが期待されている。
さらに、「月面レンガ」の曝露実験も計画されており、月面環境に適した建設材料の研究が進められている。王氏は、このレンガが月面基地の建設に実用的なデータを提供することを期待しており、もし実験が成功すれば、月面基地建設の技術的な基盤が確立される可能性があると述べている。
【詳細】
神舟19号ミッションは、中国の宇宙ステーションに最も若いクルーを迎え入れた点や、複数の新しい実験計画を実施する点から、これまでの中国の宇宙開発において特筆すべき進展とされている。以下では、このミッションの各側面についてさらに詳述する。
1. 若手クルーの起用
神舟19号のクルーは、指揮官のCaiXuzheを中心に、1990年代生まれのSong LingdongとWang Haozeから構成されており、これまでで最も若いクルーとなった。Caiは、わずか22カ月前に神舟14号に搭乗しており、これは中国の宇宙飛行士としての最短間隔での宇宙飛行記録である。また、王は中国初の女性宇宙飛行士エンジニアとしての役割を担っており、女性の専門技術者の参加は、今後の長期宇宙探査においても重要な意味を持つとされている。
2. 宇宙ステーション内の主要任務
神舟19号の主な目的には、神舟18号のクルーとの交代、6カ月間の滞在中に科学実験や技術試験の実施、さらには船外活動(EVA)や宇宙デブリ対策装置の設置・回収といった重要な活動が含まれる。また、天舟8号の貨物船や神舟20号の有人宇宙船を受け入れるための準備も行い、これにより宇宙ステーションの運用効率と長期的な機能性の向上が図られる予定である。
3. 科学実験と技術検証
ミッションにおける重要な取り組みの一つが、生命科学、流体力学、燃焼、材料科学に関する実験である。今回初めて実験対象となるのがショウジョウバエで、これは亜磁場環境と微重力が動物の成長と行動にどのような影響を及ぼすかを調べるためである。ショウジョウバエは遺伝実験に適したモデル生物であり、短いライフサイクルと少数の染色体数、さらにはヒトと共通の遺伝子を多く持つことから、宇宙環境での生物学的研究において重要な役割を果たす。
さらに、未来の実験として、ラットを使った研究も計画されており、これによりさらに大型の動物での影響を調べ、長期間の有人探査ミッションにおける人間の適応力向上に役立てられることが期待されている。
4. 月面基地建設に向けた「月面レンガ」実験
神舟19号ミッションの重要な要素には、月面環境で使用することを想定した「月面レンガ」の曝露実験が含まれている。このレンガは、月面土壌を模した材料から作られ、宇宙放射線に対する耐久性や機械的性能、熱的性能などが評価される。これは、将来の月面基地建設において現地調達の材料を活用するための研究の一環である。このような現地での製造方法を確立することにより、地球から資材を運搬するコストを抑え、月面での持続可能な居住地構築が可能となると期待されている。
もしこの実験で得られるデータが良好であれば、月面基地の建設技術が確立される基礎データが得られるため、中国が目指す2030年の有人月探査において非常に重要な知見となるだろう。
5. クルーの年齢層と今後の有人探査の展望
今回の神舟19号ミッションで選ばれたクルーは若年層であり、これは今後の宇宙探査や月探査を見据えた世代交代の一環でもある。35歳から45歳が最適とされる宇宙飛行士の年齢層を考慮し、1990年代生まれの宇宙飛行士が若手として訓練を積むことは、複雑な未来のミッションにおいて中核的な役割を果たすことが見込まれている。
【要点】
1.若手クルーの起用
・神舟19号のクルーは最も若い編成であり、指揮官のCaiと1990年代生まれのSong Lingdong、Wang Haozeから成る。
・Wang Haozeは中国初の女性宇宙飛行士エンジニアであり、若手と女性技術者の参加は今後の宇宙開発に重要な意義を持つ。
2.宇宙ステーション内の主要任務
・神舟18号クルーとの交代、6カ月間の科学実験や技術試験の実施。
・船外活動(EVA)、宇宙デブリ対策装置の設置・回収、天舟8号や神舟20号の受け入れ準備を含む。
3.科学実験と技術検証
・生命科学、流体力学、燃焼、材料科学の実験を実施。
・初めてショウジョウバエを対象とした亜磁場と微重力下での動物成長・行動研究を行い、宇宙環境での生物適応に関する知見を得る。
3.月面基地建設に向けた「月面レンガ」実験
・月面土壌模擬材で作成したレンガを宇宙で曝露し、放射線耐性や機械的・熱的性能を評価。
・将来の月面基地建設に向けた現地調達材料の利用可能性を検証する。
4.クルーの年齢層と今後の有人探査の展望
・若年層のクルーが未来の有人月探査や長期探査に備えた世代交代の一環として活躍。
・最適な35~45歳層での運用を目指し、若手が次世代の中核的役割を担う準備を進める。
【引用・参照・底本】
Three taikonauts of Shenzhou-19 crew enter China Space Station GT 2024.10.30
https://www.globaltimes.cn/page/202410/1322121.shtml