トランプ:宇の紛争10の主要な障害2024年11月10日 17:34

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【概要】

 アンドリュー・コリブコ氏による「トランプ氏のウクライナでの西側/NATO平和維持部隊計画に対する10の障害」について忠実に説明する。

 トランプ氏の計画とその意図

 報道によれば、トランプ氏はウクライナでの紛争を凍結する目的で、西側諸国およびNATOによる平和維持部隊の派遣を計画しているが、米国自体はこの任務には加わらない方針だという。この計画は、ロシアが紛争で優位に立つ前に事態を収拾する意図を持つが、現実的に多くの障害が予想される。

 10の主要な障害

 1.欧州諸国のロシアとの直接的な軍事衝突への恐れ

 フランスやポーランドが紛争への関与の可能性を示唆しているが、実際には欧州諸国はロシアとの直接的な軍事衝突を懸念している。トランプ氏は、米国の影響力を活用してこれらの諸国を説得する必要があるが、この試みはリスクが伴い、逆に第三次世界大戦を引き起こす恐れもある。

 2.ポーランド国内の反対世論

 NATOの平和維持活動にポーランドが主導的に関与する可能性が高いが、夏の世論調査で69%のポーランド国民がウクライナへの派兵に反対しており、国民の反対を押し切るのは難しい。さらに、ポーランドとウクライナの間には相互不信が広がっており、説得はさらに困難である。

 3.トランプ氏の第5条に関する過去の発言

 トランプ氏は2024年2月、NATO加盟国が国防費としてGDPの2%を支出しない場合、米国はその国を守らないと発言しており、この発言は信頼を損ねている。加盟国はトランプ氏が第5条に条件を追加し、同盟の防衛を保証しない可能性を懸念している。

 4.ロシアがNATO軍を攻撃した場合の不透明な対応

 トランプ氏は、ロシアがNATO軍を攻撃した場合の対応について加盟国を納得させる必要がある。彼は第5条を履行しつつも、エスカレーションを避けるというバランスを取らなければならず、ロシアに対しても威嚇が必要であるが、計画が崩れるリスクもある。

 5.NATOは長期的な非核戦争に備えていない

 万一、非核戦争が勃発してもNATOは長期的な非核戦争に備えていない。兵站面での劣勢、東方移動を支える「軍事シェンゲン」体制の整備不足、空域防衛能力の不足(必要量の5%しかない)などが問題であり、最終的にロシアに敗北する可能性もある。

 6.外部の調停が縮小された平和維持計画につながる可能性

 ハンガリーとインドは米露双方と良好な関係にあり、独自にまたは共同で平和維持計画の縮小版を調停する可能性がある。これにより、西側軍がドニエプル川の西側に展開し、ウクライナが東部を非武装化し、ロシアが接触線を維持するという妥協案が浮上する可能性がある。

 7.欧州諸国が損失を受け入れる可能性

 これまでの要因により、欧州諸国がリスクを避けて戦況を静観し、結果としてロシアが優位に立つ事態を受け入れる可能性もある。西側にとって大きな敗北を意味するが、戦争疲れと戦争の拡大を恐れるあまり、そうした選択に傾く可能性がある。

 8.キューバ危機のような瀬戸際対立の発生

 米国の軍事・情報機関およびウクライナのゼレンスキー大統領が、トランプ氏の再就任を前に対露エスカレーションを図り、戦争を固定化しようとする可能性がある。この場合、トランプ氏は事態をコントロールできず、第三次世界大戦か、妥協的な和平協定のどちらかを受け入れるしかなくなる。

 9.ロシアがその前に勝利を収める可能性

 ウクライナの前線が崩壊し、ロシアが早期に最大の目標を達成する可能性もある。NATOがこれに対抗するためにドニエプルへの進軍を試みる可能性もあるが、状況によってはそのシナリオが回避されることもあり、その場合トランプ氏が計画するNATOの平和維持任務は不要となる。

 10.中東地域の紛争悪化がトランプ氏の最優先課題になる可能性

 中東地域の戦争が激化し、トランプ氏の再任時に優先課題になる可能性もある。イスラエルやイランはそれぞれの利益のために米国を中東での紛争に巻き込むことを画策している可能性があり、イランはソレイマニ司令官暗殺への報復として米国に打撃を与えることを目論んでいる可能性がある。

 総括

 このような状況を踏まえると、トランプ氏が米国の関与なしに西側/NATOの平和維持任務をウクライナで実施することは困難であると考えられる。 

【詳細】

 トランプ氏がウクライナでの西側/NATO平和維持部隊派遣を計画する上で、障害となる10の要因を一つずつ更に詳細に説明する。

 1. 欧州諸国のロシアとの直接的な軍事衝突への恐れ

 フランスやポーランドは、紛争への関与を仄めかす発言をしているものの、実際には欧州諸国全体がロシアとの直接的な軍事衝突に強い不安を抱いている。例えば、フランスのマクロン大統領やドイツのショルツ首相は、ロシアとの衝突を回避する方針を度々強調している。トランプ氏は、NATOの盟主である米国の影響力を活用して、欧州諸国がこのリスクを受け入れるよう説得する必要があるが、第三次世界大戦の勃発リスクがあるため、この試みは失敗する可能性が高い。

 2. ポーランド国内の反対世論

 NATOの平和維持活動において、ポーランドの主導的役割が想定されているが、国民の反対が強い。ポーランド国内では、ウクライナと同様に歴史的に不安定な関係を持つ背景から、ウクライナ支援のための派兵には慎重な姿勢が取られている。加えて、ポーランドとウクライナの間では、過去の領土問題や歴史認識の食い違いも影響し、相互不信が増大している。このため、政府が国民を説得し、派兵を実行するのは困難である。

 3. トランプ氏の第5条に関する過去の発言

 トランプ氏はNATOの集団防衛義務である第5条について、「GDPの2%を国防費に充てていない国は守らない」という発言をしており、この発言は欧州諸国の不信を招いている。多くのNATO加盟国が2%の目標を達成しているものの、将来的にトランプ氏がさらなる条件を課す可能性を懸念している。第5条はNATO加盟国が他国に攻撃された際の相互防衛を保証するが、トランプ氏がこの原則に対して条件を追加することで、同盟全体の防衛の保証が揺らぐ危険性がある。

 4. ロシアがNATO軍を攻撃した場合の不透明な対応

 トランプ氏がロシアからNATO軍への攻撃にどのように対応するかについて、加盟国の間では不安がある。トランプ氏は、ロシアの攻撃に対して適切に対応しつつ、戦争の拡大を回避するという困難なバランスを取る必要がある。このため、トランプ氏が第5条の履行を曖昧にすることで、加盟国は米国の防衛に対するコミットメントに疑問を抱くかもしれない。また、ロシアに対しても確実な抑止を行う必要があるが、対応が一歩間違えばエスカレーションが急速に進むリスクがある。

 5. NATOは長期的な非核戦争に備えていない

 仮に、ロシアとNATOが核兵器を使用せずに戦争を遂行する状況が発生した場合、NATOは長期的な非核戦争に備えていないと指摘されている。特に、NATOの東部への物資移動を迅速化するための「軍事シェンゲン」体制が整備されておらず、物資の供給や兵站面での脆弱性が露呈する可能性がある。また、防空能力も不足しており、必要とされる能力の5%しか保有していないことが、NATOの防衛力の限界を示している。

 6. 外部の調停が縮小された平和維持計画につながる可能性

 ハンガリーやインドといった国々は、米国およびロシアと良好な関係を持っており、独自にまたは共同で平和維持計画の妥協案を提案する可能性がある。この妥協案としては、西側の部隊がウクライナの西部のみを担当し、ウクライナが東部地域を重火器での非武装化する代わりに、ロシアが接触線を維持するという内容が想定される。これは完璧な解決策ではないが、最悪のエスカレーションを避けるための妥協策として可能性がある。

 7. 欧州諸国が損失を受け入れる可能性

 上述した障害が重なり、欧州諸国がリスクを取ることを避け、戦況が自然に進行するに任せる可能性もある。もし欧州諸国がウクライナへの派兵を拒否すれば、ロシアが優位に立つことが確実視され、西側にとっては大きな敗北となるが、第三次世界大戦のリスクを回避するために、慎重な判断を下す可能性もある。

 8. キューバ危機のような瀬戸際対立の発生

 米国の「ディープ・ステート」やウクライナのゼレンスキー政権がトランプ氏の再就任前に対ロシア戦争を固定化するため、意図的に緊張を高める可能性がある。これは、トランプ氏が「ウクライナを見捨てる」と懸念する勢力が、彼の影響力を削ぐための戦略として行われる恐れがある。仮にこれが実現した場合、トランプ氏は事態をコントロールできず、米露間の深刻なエスカレーションに直面するリスクがある。

 9. ロシアがその前に勝利を収める可能性

 ウクライナでの前線が崩壊し、ロシアが早期に勝利を収める可能性も存在する。NATOがこの事態を避けるためにドニエプル川まで進軍する可能性もあるが、ロシアの進撃を阻止するための準備が不足していることから、この計画が失敗する可能性がある。もしロシアが勝利を収めれば、トランプ氏の平和維持計画は不要となる。

 10. 中東地域の紛争悪化がトランプ氏の最優先課題になる可能性

 トランプ氏が再就任した際、イスラエルやイランが中東での対立を激化させ、米国の関与を引き込もうとする可能性がある。イスラエルは米国の支援を得てイランの脅威を排除することを目指し、イランはソレイマニ司令官の暗殺に対する報復として米国の地域的利益に打撃を与えようとするかもしれない。この場合、ウクライナの紛争はトランプ氏にとって後回しになる可能性が高い。

 総括

 トランプ氏が計画するウクライナでの西側/NATO平和維持活動には、上記の10の障害が立ちはだかっている。米国が関与せずに計画を実施することは極めて困難であり、実現する可能性は低いとされる。

【要点】

 ・欧州諸国のロシアとの直接的な軍事衝突への恐れ:欧州諸国はロシアとの軍事衝突を恐れ、トランプ氏の計画に慎重。

 ・ポーランド国内の反対世論:ポーランドではウクライナ支援への派兵に反対する国民が多い。

 ・トランプ氏の第5条に関する過去の発言:トランプ氏の発言がNATO加盟国の防衛義務に対する信頼を揺るがしている。

 ・ロシアがNATO軍を攻撃した場合の不透明な対応:ロシアの攻撃に対する対応が不明確で、NATO加盟国の不安が高まる。

 ・NATOは長期的な非核戦争に備えていない:NATOは物資供給や防空能力が不足しており、長期戦への準備が不十分。

 ・外部の調停が縮小された平和維持計画につながる可能性:ハンガリーやインドなどの調停案により、トランプ氏の計画が制限される可能性。

 ・欧州諸国が損失を受け入れる可能性:リスク回避のため、欧州諸国が派兵を拒否し、戦況を静観する可能性がある。

 ・キューバ危機のような瀬戸際対立の発生:「ディープ・ステート」やゼレンスキー政権が緊張を高め、米露間の対立が深刻化するリスク。

 ・ロシアがその前に勝利を収める可能性:ロシアがウクライナで早期勝利を収めれば、平和維持計画は不要になる。

 ・中東地域の紛争悪化が最優先課題になる可能性:中東情勢の悪化により、トランプ氏のウクライナ計画が後回しになる可能性がある。
 
【引用・参照・底本】

10 Obstacles To Trump’s Reported Plan For Western/NATO Peacekeepers In Ukraine Andrew Korybko's Newsletter 2024.11.10
https://korybko.substack.com/p/10-obstacles-to-trumps-reported-plan?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=151446947&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

トランプと東アフリカ2024年11月10日 19:06

【概要】
 
 アンドリュー・コリブコ氏によるこの記事は、エチオピアとソマリランドがトランプにアピールし、米国の介入を通じて東アフリカ地域の緊張を緩和できる可能性について述べている。

 まず、東アフリカ地域(ホーン・アフリカ)では近年、エリトリアがエチオピアを裏切りTPLF(ティグレ人民解放戦線)との和平合意を成立させた後、ソマリアがエチオピアとソマリランドの間で結ばれた覚書に対し反発し、戦争を辞さない姿勢を見せた。その後、ソマリアはエリトリアおよびエジプトと手を結び、エチオピアに対抗する構図が形成された。このような背景のもと、トランプがすでに存在する戦争を終結させるとともに新たな戦争を回避することを約束している点から、エチオピアとソマリランドは彼の支援を得るために早急にトランプのチームに現状を伝えるべきであると主張されている。

 トランプがこの地域の緊張に介入するためには、エチオピアとソマリランドがその利益を強調し、アスマラ・アクシス(アスマラ同盟)が緊張に与える影響についても指摘する必要があるとされる。ソマリランドは独立再宣言から30年以上経過しているが、国際的な認知を受けていない。彼らの独立への意欲、民主主義的な評判、および地政学的な重要性は、米国にとっての有益な要素である。

 エチオピアについては、米国の伝統的な地域パートナーであり、米国内のエチオピア系アメリカ人の一部は、バイデン政権がTPLFを支持した北部紛争における対応に不満を抱いている。また、アビィ・アハメド首相はトランプの最初の任期中に良好な関係を築いており、これらの要素が重なり、エチオピアの指導者、外交官、活動家がトランプの次期政府に接触するための道を開く可能性がある。

 さらに、トランプには新たな戦争を防止するという公約に加え、ソマリランドを認知する見返りとしてアデン湾・紅海(GARS)地域に軍事基地を構築することや、バイデン政権が撤回したエチオピアのアフリカ成長機会法(AGOA)への復帰を米国企業の特権的な経済アクセスと引き換えにすることも視野に入れている可能性がある。

 また、エチオピア軍が対テロ作戦で派遣されている現状でソマリアのアルシャバブがアフガニスタンでのタリバンの再台頭と同様の動きを見せれば、トランプ政権にとってもアメリカのアフリカ政策に大きな影響を及ぼす恐れがあるとされる。トランプはバイデン政権のアフガニスタンからの撤退を激しく批判しており、同様の失態を避けたいと考えている可能性がある。

 加えて、エチオピアとソマリランドの活動家がこの地域の緊張に関する情報をトランプのチームに提供することは、米国の安全保障にとっても重要であり、米国の利益がこれらの緊張の早期緩和と一致することを認識させる必要があるとされる。 

【詳細】

 アンドリュー・コリブコ氏のこの記事は、エチオピアとソマリランドがトランプ氏に地域の緊張を軽減するための支援を求め、米国が積極的に介入するよう促す方法についての詳細な分析を提供している。以下に、記事の主要なポイントをより詳細に説明する。

 1. 地域の緊張の背景

 東アフリカ(ホーン・アフリカ)地域は、最近非常に緊張している。その原因として以下の事例が挙げられる。

 ・エリトリアとエチオピアの関係:エリトリアは、エチオピアとの和平合意に続き、エチオピアがティグレ人民解放戦線(TPLF)との和平を結ぶ際に裏切り行為を行った。これは、エリトリアがエチオピアの一部に対して敵対的な姿勢を続けていることを意味する。

 ・ソマリアとエチオピアの対立:ソマリアは、エチオピアがソマリランドと結んだ覚書に対して強い反発を示した。この覚書は、エチオピアとソマリランドの間での協力を促進するもので、ソマリア側はこれを受けて、エチオピアに対して戦争の可能性を示唆したこともある。

 ・ソマリアの同盟関係:その後、ソマリアはエリトリアおよびエジプトと手を結び、エチオピアに対抗する形となった。これにより、地域の緊張は一層高まり、複雑な国際関係が生まれている。

 このような状況を受けて、トランプが地域の緊張を緩和するために積極的に介入できる可能性があるとコリブコ氏は述べている。

 2. トランプの支援を得る方法

 エチオピアとソマリランドがトランプ政権にアプローチし、米国が地域の緊張を軽減するために介入する可能性を高めるためには、いくつかの戦略が考えられる。

 ・エチオピアとソマリランドの外交活動:エチオピアは米国の伝統的な地域パートナーであり、アメリカ国内にいるエチオピア系アメリカ人は、バイデン政権がティグレ戦争中にTPLFを支持したことに反発している。これに対して、トランプはエチオピアとの関係を強化した経緯があり、エチオピアの指導者や外交官、活動家は、トランプの次期政府にアクセスするチャンスがあるとされている。

 ・ソマリランドの独立と地政学的な重要性:ソマリランドは1991年にエチオピアから独立を宣言したが、国際的には認められていない。ソマリランドは民主主義的な制度を維持しており、その政治体制と地理的な位置(アデン湾および紅海に面していること)は米国にとって戦略的に重要とされている。ソマリランドは、国際的な認知を求めており、トランプ政権がこれを認めることで、アメリカにとって重要な軍事基地の設置が可能になると考えられている。

 3. トランプの政策と動機

 トランプ氏がこの地域に介入することには、次のような理由がある。

 ・新たな戦争の回避:トランプはその任期中、戦争を回避し、既存の戦争を終結させることを公約として掲げていた。これを実現するためには、ホーン・アフリカの緊張を解消することが理にかなっている。

 ・地政学的利益:トランプがソマリランドを認めることで、アメリカは紅海とアデン湾に接する戦略的な基地を確保することができる。この地域は、世界貿易にとって重要な航路であり、エネルギー輸送の要所でもある。

 ・エチオピアへの支援:エチオピアが米国のアフリカ成長機会法(AGOA)に再加入できるようにすることで、米国企業はエチオピア市場へのアクセスを得ることができる。また、エチオピアは急成長を続ける経済を持ち、これに米国企業がアクセスすることは双方にとって利益をもたらすと考えられる。

 ・アルシャバブの脅威:ソマリアのアルシャバブが支配を強化すれば、地域の安全保障に大きな影響を及ぼし、米国の顔を潰す結果となる可能性がある。トランプは、アフガニスタンからの撤退が失敗したことに批判的であり、ソマリアにおいても同様の事態を避けたいと考えている可能性が高い。

 4. エジプトとエリトリアの役割

 ・エジプトとエリトリアは、地域の緊張を煽る役割を果たしている。エジプトはエチオピアのダム建設計画(ナイル川の水利権を巡る問題)に強く反発しており、エリトリアはエチオピアとの長年の敵対関係にある。トランプ政権は、米国がエジプトに対して持つ影響力を利用して、エジプトの行動をより建設的な方向に導くことができる可能性がある。

 また、トランプは反共産主義者であり、エリトリアの左翼政権に対して批判的である。これにより、エリトリアの不安定化要因を排除することが、米国の安全保障政策にとって重要であると見なされるだろう。

 5. 地域の緊張の解消に向けた行動

 エチオピアとソマリランドは、これらの問題をトランプのチームに迅速に伝え、米国の利益がこの地域の緊張を解消することと一致していることを強調する必要がある。具体的には、次のような点が挙げられる。

 ・ソマリランドの国際的な認知を求めること。
 ・エチオピアの経済的な潜在力を活かし、米国企業に利益をもたらすようにすること。
 ・エジプトおよびエリトリアの地域での行動を抑制し、積極的な外交関与を促すこと。
 
 地域の安定化は、米国にとっての安全保障上の利益に直結するため、トランプ政権が介入する可能性は十分にあると言えるだろう。

【要点】

 1.地域の緊張の背景

 ・エリトリアとエチオピアの関係:エリトリアはエチオピアとの和平後、ティグレ人民解放戦線(TPLF)との和解を裏切った。
 ・ソマリアとエチオピアの対立:エチオピアとソマリランドの覚書に反発し、戦争の可能性を示唆。
 ・ソマリアの同盟関係:ソマリアはエリトリアとエジプトと手を結び、エチオピアに対抗。

 2. トランプの支援を得る方法

 ・エチオピアの立場:エチオピアは米国の伝統的なパートナーであり、バイデン政権のTPLF支持に反発するエチオピア系アメリカ人が多い。
 ・ソマリランドの独立:ソマリランドは1991年の独立宣言を求めており、米国にとって地政学的に重要。
 ・トランプ政権との関係:エチオピアはトランプ政権と良好な関係を築いており、外交的に接触を増やすチャンス。
 
 3. トランプの政策と動機

 ・新たな戦争の回避:トランプは戦争を回避する方針を掲げており、ホーン・アフリカの緊張を解消することが利益に合致。
 ・地政学的利益:ソマリランドを認めることで、米国は紅海・アデン湾地域での戦略的基地を確保可能。
 ・エチオピアへの支援:エチオピアのAGOA再加盟を通じて、米国企業はエチオピア市場にアクセスできる。
 ・アルシャバブの脅威:ソマリアのアルシャバブが支配を強化すれば、米国にとって大きな安全保障問題となる。

 4. エジプトとエリトリアの役割

 ・エジプトの影響:エジプトはエチオピアのダム建設に反発しており、地域での行動を制御することが米国にとって重要。
 ・エリトリアの不安定化要因:トランプは反共産主義者であり、エリトリアの左翼政権に対して批判的。

 5. 地域の緊張解消に向けた行動

 ・ソマリランドの認知:ソマリランドの国際的な認知を求める。
 ・エチオピアの経済的潜在力:米国企業のアクセスを促進し、経済的利益を確保。
 ・エジプトおよびエリトリアの抑制:両国の行動を抑え、積極的な外交介入を促す。

 以上の点をエチオピアとソマリランドがトランプのチームに迅速に伝え、米国の利益と一致する形で地域の緊張を解消する必要がある。

【参考】

 ☞ ティグレ人民解放戦線(TPLF)は、エチオピアのティグレ州出身の政治組織および武装勢力であり、エチオピア国内で重要な役割を果たしてきた。以下にその主要な特徴と歴史をまとめる。

 1. 設立と背景

 ・設立年:TPLFは1975年に設立された。
 ・目的:最初はエチオピア政府に対してティグレ州の権利を擁護することを目的としたゲリラ運動としてスタートした。その後、広範な反政府運動として成長し、エチオピアの中央政府に対抗した。

 2. エチオピアの政治における役割

 ・エチオピア人民革命民主戦線(EPRDF):TPLFは1991年、エチオピアの独裁者メンギスツ・ハイル・マリアム政権(ダルゲ)を倒した後に、エチオピア人民革命民主戦線(EPRDF)の一部となった。EPRDFは、エチオピアを統治するための連邦制政党連合であり、TPLFがその中でも主導的な役割を果たしていた。
 ・政治的支配:TPLFはエチオピア政府内で強い影響力を持ち、特にエチオピアの政治、軍、経済において重要な位置を占めていた。TPLF出身の指導者は、長年にわたってエチオピアの政治を支配した。

 3. ティグレ戦争(2020年)

 ・衝突の発端:2018年、アビ・アフメド首相が改革を進める中で、TPLFは中央政府の改革に反発し、政府との対立が深刻化した。特に、アビ政権が軍の再編成を行い、TPLFの影響力を排除しようとしたことがきっかけとなり、2020年11月にはティグレ州で武力衝突が勃発した。
 ・戦争の展開:ティグレ戦争は、エチオピア政府軍とTPLFが主導するティグレ人民解放戦線との間で行われ、非常に激しい戦闘が続いた。戦争は多数の民間人の犠牲者を出し、数百万人の難民を生み出す結果となった。

 4. 国際的な反応

 ・国際社会の関心:ティグレ戦争は国際的に大きな関心を集め、特に人道的危機が深刻であることが注目された。国連や国際人権団体は戦争中の人権侵害を非難し、紛争の平和的解決を求めた。
 ・エチオピア政府の立場:エチオピア政府はTPLFを反逆者と見なし、ティグレ州を軍事的に制圧するために軍事介入を行った。

 5. 現在の状況

 ・和平合意:2022年11月にエチオピア政府とTPLFは和平合意に署名し、戦争は終息に向かった。和平合意の内容には、停戦、戦争捕虜の交換、人道支援の再開などが含まれている。
 ・復興と和解:戦後の復興と和解の過程は進行中であり、エチオピア国内での政治的対立を解消するための努力が続けられている。

 6. TPLFの現在の立場

 ・TPLFは現在もティグレ州内で一定の支持を集めており、エチオピア国内での影響力を持ち続けているが、中央政府との関係は依然として緊張している。

 ☞ アルシャバブ(Al-Shabaab)は、ソマリアを拠点に活動する過激派イスラム主義組織であり、広義にはアフリカの角地域全体に影響を与えている。以下にその概要と主要な特徴を説明する。

 1. 組織の設立と背景

 ・設立年:アルシャバブは、2006年にソマリアのイスラム法廷連盟(Islamic Courts Union, ICU)の一部として設立された。イスラム法廷連盟はソマリア内戦を終わらせるために結成されたもので、アルシャバブはその武闘派分子として台頭した。
 ・目的:アルシャバブの主要な目的は、ソマリアにおいて厳格なシャリーア法を適用し、イスラム国家を樹立することである。これを達成するために、ソマリア国内外の政府や勢力に対して武力行使を行っている。

 2. 活動地域

 ・ソマリア内戦への関与:アルシャバブは、ソマリアの政府とその支援を受けた軍隊に対する攻撃を行い、ソマリア国内の一部地域を支配していた。特に、モガディシオ(ソマリアの首都)などの主要都市を支配することを試みた。
 ・地域的拡大:ソマリア国内での勢力拡大だけでなく、ケニアやウガンダなど周辺国にも攻撃を加えている。アルシャバブは、ソマリア政府とその支援を行うアフリカ連合(AU)の平和維持軍に対しても頻繁に攻撃を仕掛けている。

 3. アルカイダとの関係

 ・アルカイダとの同盟:アルシャバブは、2009年にアルカイダと公式に同盟を結び、世界的なジハード運動の一環として活動を続けている。この同盟により、アルシャバブは国際的なジハードネットワークの一部として位置づけられ、国際的なテロ組織との関係を深めた。

 4. 主な戦術と活動内容

 ・自爆攻撃と爆弾テロ:アルシャバブは自爆攻撃や爆弾によるテロ行為を頻繁に行っており、特にソマリア国内の政府施設や軍隊をターゲットにしている。また、ケニアなど周辺国でもテロ攻撃を実行している。
 ・ゲリラ戦:アルシャバブは都市部での制圧戦だけでなく、ゲリラ戦術を駆使して、地方部や広大な地域で勢力を維持している。これにより、長期間にわたる抗争を繰り広げてきた。

 5. 国際的な影響と反応

 ・国際社会の対策:アルシャバブは国際的なテロ組織として認定されており、アメリカ合衆国はアルシャバブをテロ組織として指定している。また、アフリカ連合(AU)や米国を中心とした多国籍軍は、アルシャバブに対する軍事介入を行い、組織の勢力縮小を目指している。
 ・ソマリア政府との戦闘:ソマリア政府はアルシャバブと長年にわたり戦闘を続けており、特にアフリカ連合の平和維持軍(AMISOM)と連携し、アルシャバブの支配地域を奪還している。

 6. アルシャバブの影響と現状

 勢力の衰退と反攻:近年、アルシャバブは一部地域での支配力を失いつつあるが、依然としてソマリアの一部地域では強い影響力を持ち続けている。特に田舎の過疎地や山岳地帯では、アルシャバブが依然として活動しているとされている。
人道的危機:アルシャバブの活動は、ソマリア国内での人道的危機を悪化させており、民間人への攻撃や支配地域での厳しい統治が問題となっている。

 7. 将来の見通し

 ・和平の可能性:アルシャバブはその過激なイデオロギーと行動から、ソマリア政府や国際社会との和平交渉を行う意向を示していません。したがって、今後も軍事的な対立が続く可能性が高いと見られている。
 ・国際的な対策:アルシャバブに対しては引き続き軍事的・外交的手段が講じられているが、ソマリア国内の安定化には時間がかかると予測されている。

 アルシャバブは、ソマリアの安定と発展を妨げる大きな障害となっており、その活動は広範囲にわたり影響を及ぼしている。

【参考はブログ作成者が付記】
 
【引用・参照・底本】

Ethiopia & Somaliland Can Convince Trump To Help Mitigate Regional Tensions Andrew Korybko's Newsletter 2024.11.08
https://korybko.substack.com/p/ethiopia-and-somaliland-can-convince?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=151367857&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

フィリピン:「フィリピン海事法」の制定2024年11月10日 20:58

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【概要】
 
 中国外務省と全国人民代表大会(全人代)は、フィリピンの「フィリピン海事法」の制定を強く非難している。声明によると、この法律は、中国が違法で無効と見なしている南シナ海に関する2016年の仲裁判断を執行するためのフィリピンによる取り組みと見なされている。この法律には、フィリピンの海域内にある黄岩島(スカボロー礁)や南沙クンダオ(南沙諸島)の一部など、中国が主張する領土が含まれており、中国の領土主権と海洋権を侵害している。

 中国は、フィリピンが南沙昆島のいくつかの島や岩礁を不法に占拠し、軍艦を仁愛角(セカンドトーマス礁)に何十年も座礁させ続けるなどして、中国の権利を侵害していると主張している。これは国際法、特に南シナ海における締約国の行動に関する宣言(DOC)に違反していると考えられており、無人島の地位を変更する可能性のある行動を思いとどまらせている。

 中国は、これらの地域からのフィリピン人員の即時撤退と、座礁した軍艦の撤去を求めている。中国政府はさらに、フィリピンによるいわゆる「カラヤーン諸島」の創設は、フィリピンの領土境界を超えているため、違法であると強調している。

 中国はまた、フィリピンが「海域法」を主張を正当化するために利用しないよう警告し、国連海洋法条約(UNCLOS)とDOCに違反していると述べた。中国政府は、南シナ海における挑発行為や侵害とみなされるフィリピンのいかなる活動にも引き続き反対する意向であり、中国の主権と海洋権益は歴史、国際法、国連海洋法法条約に根ざしていると主張している。

 また、中国外務省は、フィリピンの「群島シーレーン法」が国際海事規制に抵触するとの懸念を表明し、国際法を尊重し、南シナ海における他国の法的権利を損なう行為を控えるよう求めた。 

【詳細】

 中国の外交部と全国人民代表大会(NPC)は、フィリピンが制定した「フィリピン海事法(Philippine Maritime Zones Act)」に対して強く反発し、非難の声明を発表した。この法案は、フィリピンが2016年の南シナ海仲裁裁定を国内法として強制しようとする試みと見なされており、中国の領土主権と海洋権益を深刻に侵害するものだとされている。

主な内容

 1.南シナ海仲裁裁定とその位置づけ

 中国は、フィリピンの海事法案が2016年の南シナ海仲裁裁定を国内法に反映しようとしていると主張している。この裁定は、南シナ海に関するフィリピンの立場を支持するもので、中国はこの裁定を「違法」「無効」として認めていない。中国の立場は、南シナ海における領土権と海洋権益は、歴史的かつ国際法に基づいて確立されているというものであり、この裁定が中国に対する不当な制約を課すものだと考えている。

 2.フィリピン海事法の影響

 フィリピンの海事法は、フィリピンの海域として、中国の領土である黄岩島(スカボロー礁)や南沙群島(スプラトリー諸島)のほとんどの島礁、及び関連する海域を含める内容であるとされている。この法案によって、フィリピンは中国の領土を自国の海域として規定し、2016年の仲裁裁定を基にした違法な領有権を国内法に組み込もうとしている。これにより、中国の領土主権と海洋権益が侵害されるというのが中国の主張だ。

 3.中国の領土権主張

 中国は、フィリピンが南沙群島のいくつかの島礁、例えば馬換島(マフアン島)、飛新島(フェイシン島)、中業島(チョンイエ島)などを不法に占拠していると指摘し、これらの占拠が国際法に反していると主張している。また、フィリピンは、自国の約束に反して、中国の南沙群島にある仁愛礁(第二トーマス礁)に艦船を不法に座礁させたままであり、この行為も中国の領土主権を侵害し、南シナ海行動宣言(DOC)の第5条に違反していると非難している。

 4.中国の対応

 中国は、フィリピンに対して、直ちに南沙群島にある中国の島礁から全てのフィリピン人の軍人や施設を撤去し、座礁した艦船を引き揚げるよう要求している。さらに、フィリピンが自国の領土外に「カラヤアン諸島グループ」を設定したことが、中国の領土主権を侵害しているとし、この行為は違法で無効であると強調している。

 5.南シナ海における状況の複雑化

 中国は、フィリピンが「海事法」を通じて南シナ海の領有権を主張することは、国際法、特に国連海洋法条約(UNCLOS)に違反し、無効であると述べている。また、このような立法措置が南シナ海の情勢をさらに複雑化させると警告しており、中国はフィリピンのいかなる挑発的行為や侵害活動に対しても強く反対する姿勢を示している。

 6.「フィリピンの海路法」の問題点

 中国は、フィリピンの「海事法」が国際法や国際海事機関(IMO)の規定に適合していないと指摘し、フィリピンに対して国際法を遵守し、他国の合法的な権利を損なうような行為を控えるよう求めている。特に、UNCLOSに基づく他国の海洋権益に配慮し、自己の領土主権を超えて他国の権益を侵害することがないようにするべきだと強調している。

 結論

 中国は、フィリピンの新しい海事法に対し、強い反発を示し、フィリピンに対して領土の侵害を即時に停止するよう求めている。また、中国は、南シナ海における自身の領土権と海洋権益が歴史的及び国際法に基づいて確立されており、フィリピンの国内法によってそれが変わることはないと主張している。この問題は、南シナ海における緊張をさらに高める可能性があり、地域の平和と安定を守るために、フィリピンに対して慎重な行動を求めている。

【要点】

 ・フィリピン海事法の制定

 フィリピンが「フィリピン海事法(Philippine Maritime Zones Act)」を制定。中国の領土(黄岩島や南沙群島など)をフィリピンの海域に組み込む内容。

 ・中国の反発

 中国はこの法案を2016年の南シナ海仲裁裁定を国内法で実施しようとする試みとし、違法で無効だと主張。

 ・領土主権の侵害

 中国はフィリピンが南沙群島の島礁を不法に占拠しているとし、特に仁愛礁に座礁したフィリピン艦船の撤去を要求。

 ・「カラヤアン諸島グループ」の設置に反対

 フィリピンが自国の領土外に「カラヤアン諸島グループ」を設定したことが中国の領土主権を侵害すると非難。

 ・国際法とUNCLOSの遵守を求める

 フィリピンの海事法が国際法や国連海洋法条約(UNCLOS)に違反していると指摘。フィリピンに対し、他国の権益を侵害しないよう求める。

 ・中国の領土権の主張

 中国は、南シナ海における領土権と海洋権益は歴史的及び国際法に基づいているため、フィリピンの国内法で変更されることはないと強調。

 ・地域の平和と安定のための対応

 中国は、フィリピンに対し一方的な行動を停止し、南シナ海の状況を複雑化させないよう求めている。
 
【引用・参照・底本】

China’s FM, top legislature condemn so-called Philippine maritime act GT 2024.11.08
https://www.globaltimes.cn/page/202411/1322701.shtml

米空軍:近代化や革新のニーズに直面2024年11月10日 21:27

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【概要】
 
 米空軍は、年々厳しくなる予算の制約と、近代化や革新のニーズに直面しており、中国の急速な軍備増強に対応する能力において課題を抱えている。今月のAir & Space Forces Magazineによると、米空軍長官のフランク・ケンダルは、グレープバイン(テキサス州)で開催されたAirlift Tanker Association Symposiumにおいて、次世代空中優勢戦闘機(NGAD)、次世代空中給油システム(NGAS)およびコラボレーティブ・コンバット・エアクラフト(CCA)ドローンに関する資金調達上の課題を強調した。

 これらの3つの主要プログラムは、中国との将来の空中戦争に備えるために必要とされており、ケンダルは「予算制約にもかかわらず、将来の部隊編成には創造性が必要」と述べている。また、核抑止力の近代化義務や、中国からのミサイルの脅威が高まる中、米空軍が近代化に苦慮している状況にも言及した。特に、米国の空軍基地や機動プラットフォームに対する中国の精密ミサイルの脅威が指摘されている。

 ケンダルによれば、空軍は限られたリソースからより多くの能力を引き出すための工夫をしているが、これが「中国という基準となる課題への対応能力に影響を及ぼしている」と述べた。さらに、戦闘空軍を支援するためのステルスタンカーと米宇宙軍の拡充の重要性にも触れ、予算増額の緊急性を強調している。中国の習近平国家主席が2027年までに台湾を奪取する準備を指示しているとされる中、米空軍の近代化ニーズに応えるための投資が急務であるとした。

 こうした米空軍のプロジェクトについて、Brandon Weichertは、2024年5月にThe National Interest(TNI)で、6世代戦闘機の開発は無駄であり、不要な資源投入であると主張している。Weichertは、ドローンやAIを組み込んだこれらの先進戦闘機は、米軍の能力を大きく向上させるものではないとし、既存の第5世代戦闘機の強化や宇宙ベースの兵器プラットフォームの開発に注力するべきだと提案している。

 一方、Dan Goureは、2024年8月のReal Clear Defenseの記事で、空中優位性を維持するためにNGADの開発を推進する必要があると論じ、F-22(1990年代後半の設計)の代替が求められると述べた。彼は、激しい電子戦環境ではドローンではなく有人プラットフォームが必要であると主張し、イスラエルが2024年4月にイランのドローンやミサイルを撃墜した例を引き合いに出し、無人機には限界があると指摘している。また、英、日、伊がグローバル・コンバット・エア・プログラム(GCAP)を通じて第6世代戦闘機の開発を進めており、仏、独、西もフューチャー・コンバット・エア・システム(FCAS)で同様に進行中であると述べた。

 一方で、中国はJ-15Tという改良型艦載戦闘機を珠海で開催された航空宇宙展で発表した。このJ-15Tは、先進の電子装備、中国製WS-10エンジン、カタパルト発射に対応しており、Fujianを含む全ての中国の空母で運用可能であるとされる。新しい広角ホログラフィックHUDやAESAレーダーの搭載により、燃料と武装を多く積載でき、作戦能力が向上している。

 加えて、J-35Aという陸上用ステルス戦闘機も公開され、中国が世界の戦闘機市場での存在感を高める可能性を持っている。

 元インド太平洋軍司令官のジョン・アキリーノは、2024年3月の米上院での証言で、船舶数で世界最大の海軍を有する中国が、まもなく世界最大の空軍をも手にする可能性があると警告し、米空軍が組織と技術の変革を要すると指摘した。

 また、米空軍は「グレートパワー競争に向けた最適化」という新たなイニシアティブの一環で大規模な再編を進めている。 

【詳細】

 米空軍の予算制約と近代化の必要性

 米空軍は現在、厳しい予算制約の中で次世代戦闘機や給油機、無人機の開発を進めなければならない状況にある。これにより、次世代空中優勢戦闘機(NGAD)、次世代空中給油システム(NGAS)、および協調戦闘航空機(CCA)ドローンの開発が遅れ、近代化が進まず、中国の軍備増強に対抗する準備が整っていないとの懸念がある。

 空軍長官フランク・ケンダルの発言

 米空軍長官フランク・ケンダルは、テキサス州で開かれたシンポジウムで、予算の制約が空軍の近代化計画に大きな影響を与えていると指摘した。特に中国の軍備拡張に対抗するには、予算増加とクリエイティブな部隊編成が不可欠であり、現状の資源で能力を最大限に引き出す「多くの工夫」が求められていると述べた。

 核抑止力と中国のミサイルの脅威

 米空軍は核抑止力の近代化という重要な任務も抱えており、この取り組みによる予算圧力が空軍の通常戦力の近代化を妨げている。また、中国のミサイルが米空軍基地や移動式プラットフォームを精密に標的にできる技術を持つことで、これらの基地やシステムが中国の攻撃に対して脆弱になっているとの指摘がある。

 ステルスタンカーと宇宙軍の成長の重要性

 ケンダルは、戦闘空軍が敵地で安全に作戦を行うために、敵の防空圏内でも運用できるステルスタンカーの開発が必要だと強調した。また、米国の宇宙軍の成長も中国の宇宙領域における脅威に対抗するために欠かせない要素であるとし、宇宙領域での優位性を確保するための資源拡充が求められている。

 中国の台湾侵攻準備と米空軍の対応の必要性

 中国の習近平主席は人民解放軍に2027年までに台湾奪取の準備を指示しているとの報告があり、これに対抗するためには米空軍の即応性と近代化が急務となっている。ケンダルは、こうした背景から近代化予算の増額と迅速な投資の必要性を訴えている。

 Brandon Weichertの主張:第6世代戦闘機の必要性に疑問

 米国の軍事評論家であるBrandon Weichertは、米空軍が開発を進めている第6世代戦闘機について、その技術的進歩が不確実であり、リソースの無駄遣いになると主張している。代わりに、宇宙ベースの兵器プラットフォームの開発や、既存の第5世代戦闘機の強化を進める方が費用対効果が高いと述べ、よりシンプルで低コストの無人システムが米軍にとって有利であると提案している。

 Dan Goureの反論:NGADの開発継続の重要性

 軍事専門家のDan Goureは、NGADの開発は空中優位性を維持するために不可欠であり、F-22のような1990年代の設計機体を代替する必要があると主張している。Goureは、有人機が無人機に比べて戦闘状況下での意思決定能力に優れているため、特に電磁戦が激化する環境下では有人機の重要性が高いと述べている。また、イスラエルが2024年に数百台のイランのドローンを撃墜した事例を挙げ、多くの国が無人機対策を講じていることから、無人機のみでは限界があると強調している。

 中国の新型戦闘機J-15TとJ-35Aの発表

 中国は、最新の艦載戦闘機J-15Tと陸上用のステルス戦闘機J-35Aを正式に発表した。J-15Tは、WS-10エンジンと電磁カタパルト離陸対応機能を搭載し、より重い兵器や燃料を搭載できるように強化されている。J-35Aは、PLAAFの関心が集まるステルス戦闘機で、FC-31をベースとした新型機であり、コスト効率の良い運用が可能で、輸出市場にも対応する意図があるとされている。

 米空軍の組織改革:大規模編成と指揮構造の強化

 米空軍は「大国間競争の最適化」計画の一環として、空軍の構成を再編成している。特に、より効果的な戦闘準備のために、個々の飛行隊ではなく、戦闘任務を遂行可能な「ウィング(大規模部隊)」を投入する方針を打ち出した。また、新設の「統合能力指揮部」により近代化が進み、改名された「エアマン開発指揮部」によって人的資源の強化が図られる。

 インド太平洋地域での持久戦力の課題

 Timothy WaltonとMark Gunzingerは、米空軍がインド太平洋地域で広大な距離をカバーしつつ持続的な作戦能力を維持する必要があると述べており、「距離の暴虐(tyranny of distance)」と称される広範な地理的制約に加え、中国軍の兵力の数的優位に対処する必要があると指摘している。

 F-35Aのエンジン強化、長距離兵器の導入などの提案

 WaltonとGunzingerは、F-35A戦闘機のエンジン強化(エンジンコアアップグレード)や、NGADおよびCCAの開発、長射程兵器であるAIM-260の導入、さらに敵対地域内で運用可能なステルスタンカーの取得が重要であると述べている。しかし、米空軍はこれらの進展を進める上で、予算の制約と費用対効果を考慮しつつバランスを取る必要があるとも警告している。

【要点】

 ・米空軍の予算と近代化のジレンマ

 米空軍は予算の制約が厳しくなる一方で、中国の急速な軍備増強に対抗するための近代化と革新が求められている。

 ・空軍長官フランク・ケンダルの指摘

 空軍長官のフランク・ケンダルは、次世代空中優勢戦闘機(NGAD)、次世代空中給油システム(NGAS)、および協調戦闘航空機(CCA)ドローンに必要な資金が不足しているとし、予算が厳しい中で創造的な部隊編成が求められると述べた。

 ・米空軍の核抑止力と中国のミサイルの脅威

 米空軍は核抑止力の近代化義務に追われつつ、中国からの精密ミサイルの脅威も高まっている。特に、米空軍基地や機動プラットフォームが標的になるリスクが指摘されている。

 ・ステルスタンカーの必要性と宇宙軍の重要性

 ケンダルは、戦闘空軍が敵対的な地域で作戦を行うためにステルスタンカーが必要であること、さらに宇宙軍の拡充も重要であると述べている。

 ・台湾侵攻準備に関する中国の動き

 中国の習近平国家主席が2027年までに台湾を奪取する準備を指示しているとされ、米空軍の近代化と予算投資の重要性が高まっている。

 ・Brandon Weichertの主張

 TNIの記事で、Weichertは6世代戦闘機の開発は不必要で資源の浪費であり、第5世代戦闘機の強化や宇宙ベースの兵器開発に注力すべきと述べた。

 ・Dan Goureの主張

 一方、GoureはReal Clear Defenseの記事で、6世代戦闘機の開発は空中優位性の維持に必要であると主張し、F-22の代替が必要であると述べた。また、有人機がドローンに比べて決定的な能力を持つとし、無人機には限界があると述べた。

 ・中国のJ-15TとJ-35Aの発表

 中国は新型の艦載戦闘機J-15Tと陸上用ステルス戦闘機J-35Aを発表し、それぞれの能力向上と輸出市場での存在感拡大を図っている。

 ・米空軍の再編成計画

 米空軍は「グレートパワー競争に向けた最適化」の一環として、大規模な再編成を進め、戦時任務に対応した「統合能力指揮部」や「エアマン開発指揮部」を新設し、部隊の戦闘力向上を図っている。
 
【引用・参照・底本】

US lacks the planes to win an air war with China ASIATIMES 2024.11.07
https://asiatimes.com/2024/11/us-lacks-the-planes-to-win-an-air-war-with-china/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=00e61f11d6-WEEKLY_10_11_2024&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-00e61f11d6-16242795&mc_cid=00e61f11d6&mc_eid=69a7d1ef3c

中国の地上レーダー:F-22とF-35を約180kmで検知2024年11月10日 21:49

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【概要】
 
 中国の新たなシミュレーションにより、アメリカのステルス戦闘機であるF-22とF-35の弱点が明らかになり、中国のレーダーがこれらの機体を作戦行動に影響を与える距離から検出可能であることが示されている。台湾や南シナ海における緊張が高まる中、この技術的進展が重要な影響を及ぼす可能性がある。

 中国人民解放軍(PLA)国防大学の共同作戦学院および北京の国家重点実験室が主導するシミュレーション研究によると、中国の地上配備レーダーはF-22やF-35を180キロメートルの距離から探知でき、これによりこれらの戦闘機が精密な地上攻撃を行う際のステルス性能が損なわれるとされている。このシミュレーションは、アメリカが日本から上海を攻撃するという設定で行われた。また、F-35の「ビーストモード」(長距離ミサイル攻撃を可能にする設定)はステルス性能が低下するため、450キロメートルの距離から検出される可能性があると報告されている。

 この研究は、エンジニアのCao Wei氏が率い、限られた数のレーダーで得られたデータをもとに検出距離と警戒時間を算出するアルゴリズムを使用している。この結果はあくまで保守的な数値である可能性が示唆されている。また、近年アメリカが日本にF-22を配備する動きが見られるため、中国はステルス機の脅威に対抗する技術の開発に力を入れている。

 さらに、中国の研究者はコスト効率の高いステルス機探知レーダーも開発している。これは、中国のBeiDouナビゲーションシステムからの信号を使用し、ステルス機の検知と追跡を可能にするものであり、電波を放出せずに目標を検出できる独自のアルゴリズムを備えている。このレーダー設計は、国立宇宙マイクロ波通信研究所のWen Yuanyuan氏が率いるチームが担当し、低コストでの展開と操作のしやすさが特徴とされ、BeiDouが妨害された場合にはGPS、Galileo、GLONASSなど他の衛星信号にも対応できる設計が施されている。

 アメリカとその同盟国は、F-22やF-35のステルス機を用いて、台湾有事において中国の侵攻に対応する計画を立てている。2022年12月の記事で、ウォリアー・メイヴンのKris Osbornは、これらの戦闘機が台湾海峡での制空権を確保し、中国の上陸部隊を排除するために活用される可能性を指摘している。また、アメリカ海兵隊のアメリカ級強襲揚陸艦から運用されるF-35Bは、垂直離着陸が可能で、前方展開の柔軟性を提供する。

 中国は第五世代戦闘機の配備数でアメリカに劣るものの、空港や艦船を地上から攻撃する能力を強化している。2024年5月、アメリカ議会の複数の議員が米海軍および空軍に対して、アメリカの太平洋拠点や航空機が中国の攻撃に対して脆弱であるとする書簡を送っており、分散配置や要塞化シェルターの整備を求めている。この書簡では、中国が過去10年で400基以上のシェルターを構築している一方で、アメリカは22基しか増設しておらず、この格差がアメリカの航空機や基地の脆弱性を高めていると指摘されている。

【詳細】

 中国人民解放軍(PLA)が実施した最新のシミュレーションによって、アメリカのステルス戦闘機であるF-22やF-35が特定の距離で中国のレーダーに検知される可能性が示された。この結果は、台湾有事や南シナ海での対立が深刻化する中、アメリカと中国の軍事技術競争において注目すべき進展と考えられる。

 シミュレーションの詳細では、中国の地上配備レーダーがF-22やF-35を約180キロメートルの距離で検知することが可能とされている。F-22およびF-35は高いステルス性を持つ戦闘機で、これらの機体は低視認性により敵の防空システムを回避し、精密攻撃を行う能力があるとされてきた。しかし、このシミュレーション結果が示す通り、もしF-22やF-35がこの距離で検知されると、その隠密性に頼った戦術が中国側の防空システムにより制約を受ける可能性がある。さらに、F-35がミサイルをフル装備した「ビーストモード」で行動するとステルス性能がさらに低下し、450キロメートルの距離からも探知される可能性がある。

 この研究を主導した中国人民解放軍のCao Wei氏らは、アルゴリズムを活用して少数のレーダーデータをもとに検出距離と警戒時間を算出したとされるため、実際にはより多くのレーダーを使用することで探知能力がさらに向上する可能性もある。こうした中国のシミュレーション研究の背景には、アメリカが近年日本にF-22戦闘機を展開していることも影響しているとされており、PLAはステルス機の脅威に対応する技術開発を一層強化していると見られる。

 また、中国はコスト効率の高いステルス機探知技術の開発にも注力しており、これには中国の衛星ナビゲーションシステム「北斗(BeiDou)」の信号を利用するレーダーが含まれる。中国の国家宇宙マイクロ波通信研究所のWen Yuanyuan氏が率いるチームが開発したこのレーダーは、発信信号を必要とせずに、独自のアルゴリズムを用いてステルス機を検出できる。この技術によりレーダーは敵に検知されるリスクを軽減しつつ、長距離からステルス機を探知できる。また、北斗が妨害された場合には、他の衛星システム(GPS、Galileo、GLONASS)からの信号にも対応できるため、安定した作戦継続が可能である。

 アメリカおよび同盟国は、台湾海峡や南シナ海での中国の攻勢を牽制するために、F-22およびF-35のステルス戦闘機を重要な戦力とみなしている。台湾有事の場合、アメリカはこれらの戦闘機を迅速に展開し、台湾海峡での制空権を確保して中国の上陸部隊を阻止することが想定されている。また、アメリカ海兵隊のアメリカ級強襲揚陸艦に配備されるF-35Bは、垂直離着陸能力を持ち、前方に柔軟に展開することが可能である。このため、F-22とF-35の空中優位性と精密打撃能力はアメリカの戦略の柱であり、中国のA2/AD(アクセス拒否・領域拒否)戦略を克服するための手段とされている。

 中国のA2/AD戦略とは、長距離ミサイル、ステルス艦艇、および先進的な防空システムを用いて、敵の侵入を防ぎつつ自国の影響力を拡大するというものである。このA2/AD戦略に対抗するため、アメリカ軍は分散指揮統制(C2)の強化を進めており、敵によるサイバー攻撃や衛星攻撃の影響を受けた際にも、各ユニットが自律的に作戦を遂行できるようにしている。新たな作戦ドクトリンである「統合全領域指揮統制(JADC2)」は、アメリカおよび同盟国の陸海空、宇宙の各戦力を統合し、多領域対応を強化することを目指している。

 アメリカにとって、F-22とF-35は、インド太平洋地域での通常戦力としての抑止力の要であり、特に国際日付変更線の西側における恒久的な配備が提唱されている。これにより、中国の軍事拡張を牽制し、地域の安定性を維持する狙いがある。しかし、中国は、DF-26「グアム・キラー」と称される中距離弾道ミサイルを含む広範な攻撃能力を保有しており、アメリカの分散された施設や航空戦力、海軍戦力に対しても攻撃可能である。

 さらに、アメリカ議会は、太平洋地域におけるアメリカ軍の施設や航空機が中国の攻撃に対して脆弱である点を指摘しており、過去10年間で中国が400以上の要塞化シェルターを建設したのに対し、アメリカは22基しか増設していない現状を問題視している。戦闘シミュレーションでは、地上に駐機しているアメリカの航空機の90%が攻撃で失われる可能性が示唆されており、アメリカ国防総省(DOD)に対して、防御体制の強化と航空機の分散配置の促進が求められている。

【要点】

 ・中国のシミュレーション結果: 中国の人民解放軍は、F-22とF-35が約180キロメートルの距離で中国の地上レーダーに検知される可能性を発見。これにより、ステルス性能が制限される恐れがある。

 ・「ビーストモード」による検知距離の増加: F-35がフル装備(ビーストモード)でミサイル攻撃を行うとステルス性能が低下し、450キロメートルの距離で検知される可能性がある。

 ・北斗を活用した新型レーダー技術: 中国は北斗衛星システムの信号を利用してステルス機を検知するレーダー技術を開発。これにより、発信信号を必要とせず、敵に検知されにくくする。

 ・F-22およびF-35の役割: 台湾有事において、F-22やF-35は制空権確保や精密攻撃の主力として重要視されており、中国のA2/AD戦略を克服するための手段とされている。

 ・分散指揮統制(C2)の強化: アメリカはJADC2(統合全領域指揮統制)を導入し、多領域での即応体制を強化しており、敵の攻撃により指揮系統が分断されても各部隊が自律的に作戦を遂行できるようにしている。

 ・恒久的配備の必要性: アメリカのインド太平洋地域での抑止力としてF-22やF-35の恒久的配備が提唱されており、地域の安定と中国の軍事力拡大への抑止が目的とされる。

 ・中国の長距離攻撃能力: 中国はDF-26「グアム・キラー」などの中距離弾道ミサイルを保有し、アメリカの基地や航空戦力に脅威を与える能力を持つ。

 ・米議会の指摘: アメリカの議会は、太平洋地域のアメリカ軍施設が中国の攻撃に対して脆弱である点を指摘。中国は400以上のシェルターを建設したが、アメリカは22基に留まる。
 
【引用・参照・底本】

China claims its radars closing in on US stealth fighters ASIATIMES 2024.11.04
https://asiatimes.com/2024/11/china-claims-its-radars-closing-in-on-us-stealth-fighters/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=00e61f11d6-WEEKLY_10_11_2024&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-00e61f11d6-16242795&mc_cid=00e61f11d6&mc_eid=69a7d1ef3c