トルコ:イスラエルとの関係を公式に断絶したと発表2024年11月14日 10:03

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【概要】
 
 2024年11月13日、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はトルコがイスラエルとの関係を公式に断絶したと発表した。トルコの報道機関メディア・エゲによると、エルドアン氏は「我々トルコ共和国の国家および政府として、イスラエルとの関係を断絶した。この時点でイスラエルとは一切の関係を持っていない」と述べた。エルドアン氏は、サウジアラビアとアゼルバイジャン訪問後、帰国途中の機内で記者団に対しこのコメントを発表した。

 エルドアン大統領は、ガザとレバノンでの「虐殺」を非難し、人道支援の提供や即時停戦の必要性を強調している。また、国際法に基づいてイスラエルへの圧力を維持し強制的な措置を取ることの重要性にも言及した。しかし、発表時点ではトルコのテルアビブ大使館は運営を続けており、エルサレムからも正式な声明は出されていない。

 エルドアン大統領は過去数年間、イスラエルに対する批判を強めており、今回の発表は両国間の外交的緊張の大幅な高まりを示している。エルドアン氏は国連やその他の国際機関に対しても、紛争被害者への食料、水、医療品などの必需品の流通を確保するために、より強力な行動を求めてきた。トルコはこの地域での人道支援活動において、パレスチナ人や難民への物流支援と政治的な支援の両方を行っている。

 エルドアン氏がイスラエルと距離を置くことで、特にサウジアラビアやアゼルバイジャンといったイスラエル政策に批判的な国々との関係強化を図る動きも見られる。これにより、中東とカフカス地域におけるトルコの影響力を強化しようとする意図がうかがえる。

 さらに、イスラエルとの断交は地域の地政学的な影響にも波及する可能性があり、トルコのNATO内での立場やシリア紛争における役割にも影響を与える可能性がある。エルドアン政権の外交政策は、中東において対立する勢力間でのバランスを取る行動を特徴としている。

 イスラエルとの関係断絶は、トルコの長年のパレスチナ支援の一環と見なされている。エルドアン政権は、過去10年以上にわたり、ガザでのイスラエルの軍事行動を非難し、国際社会に対してパレスチナ人の権利擁護とイスラエル占領の終結に向けた強力な行動を求めてきた。このような姿勢はイスラム諸国の多くで共感を呼び、トルコをパレスチナ支援の主要な支持国およびイスラエルの政策に対する強力な批判者として位置付けている。

 イスラエルとの外交的な断交が、西側諸国、特にアメリカとの関係にも影響を及ぼす可能性がある一方で、この動きはトルコが中東地域の地政学的な形成においてより積極的な役割を果たす姿勢を反映している。

【詳細】

 2024年11月13日、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はトルコがイスラエルとの関係を公式に断絶したと発表した。エルドアン氏はサウジアラビアとアゼルバイジャン訪問後の機内での記者会見で「トルコ共和国の国家および政府として、イスラエルとの関係を断絶した。この時点でイスラエルとは一切の関係を持っていない」との発言を行い、この断交がいかなる例外もないことを強調した。

 ガザ・レバノンでの「虐殺」に対する非難

 エルドアン大統領は今回の断交の背景として、イスラエルのガザとレバノンでの軍事行動を「虐殺」と位置付け、激しく非難している。これらの地域での紛争が激化する中、イスラエルによる攻撃に対して強い反発を示し、エルドアン政権は早期停戦と人道的支援の必要性を国際社会に訴え続けている。エルドアン氏は「国際法に基づき、イスラエルに対して強制的な措置をとる必要がある」と述べ、特に国連などの国際機関が積極的に関与し、イスラエルに圧力をかけるべきだとの見解を示した。

 トルコのパレスチナ支援と人道的取り組み

 トルコは長年にわたり、パレスチナ支援に注力しており、エルドアン政権下ではパレスチナ人の人権擁護やイスラエルの政策に対する批判を強めている。今回の断交は、このパレスチナ支援政策の延長として見ることができ、エルドアン氏は国際社会に対してパレスチナ人への人道支援を促進するための支援を呼びかけている。

 特に、エルドアン氏はガザ地区やレバノンで困難な状況に置かれている人々に対し、食料、水、医療物資などの必要不可欠な物資の確保と供給を強調しており、トルコ政府はこれまで以上に支援の物流および政治的なサポートを提供する姿勢を示しています。トルコは、この地域での人道支援における主要なプレイヤーとして、パレスチナや難民の支援活動において、輸送や援助物資の提供を行うだけでなく、国際社会に向けて政治的なアピールを行っている。

 中東とカフカス地域でのトルコの影響力強化

 イスラエルと断交する一方で、トルコは中東やカフカス地域での影響力を強化するべく、特にサウジアラビアやアゼルバイジャンとの関係を深めている。エルドアン大統領の最近のこれらの国への訪問は、トルコが中東地域において新たな同盟を形成しようとしている一環として捉えられています。イスラエルとの関係を断ち、批判的な立場を明確にすることで、トルコはサウジアラビアやアゼルバイジャンなどのイスラエルの政策に対して厳しい立場をとる国々との協調を図ろうとしている。

 特にサウジアラビアとの協力は、トルコがエネルギー資源や経済面での相互利益を追求する上で重要な要素である。エルドアン政権は、これらの国々との連携を深めることで、イスラエルとの断交による経済的・外交的な損失を補い、トルコの地政学的な影響力をさらに強化しようとしている。

 NATOとの関係や西側諸国への影響

 イスラエルとの断交は、トルコが加盟するNATOとの関係や、アメリカをはじめとする西側諸国との外交にも影響を及ぼす可能性があります。NATO加盟国としてのトルコは、中東地域における軍事的バランスを維持する役割を担っているが、イスラエルとの関係悪化がNATO内での立場にどのように影響するかが注目されている。特に、アメリカとの関係は中東政策において重要な要素であり、トルコのイスラエル批判がどのような反応を引き起こすかは今後の焦点となるだろう。

 また、シリア紛争におけるトルコの役割にも影響を与える可能性があり、地域における勢力バランスが変化する中で、トルコの行動がシリア内戦やその他の中東紛争に及ぼす影響は慎重に観察されている。

 パレスチナ支援政策の位置付けとエルドアン政権の外交姿勢

 トルコのパレスチナ支援政策はエルドアン政権における中東外交の柱となっており、イスラエルとの断交は、この政策の延長線上にあると考えられる。トルコは過去10年以上にわたってイスラエルのガザ攻撃などを非難し、国際社会に対してパレスチナ人の人権や自治を守るための行動を呼びかけてきた。エルドアン大統領のイスラエル批判はイスラム諸国の中で共感を呼んでおり、トルコをイスラム世界におけるパレスチナ支援の中心的な存在として位置付けている。

 中東地域における新たな地政学的な役割

 エルドアン大統領によるイスラエルとの関係断絶は、トルコが中東地域でより積極的に役割を果たすことを示唆している。中東における紛争や人権問題に対してトルコが主導的な立場を取ることで、地域の地政学的な状況に変化が生じる可能性があります。また、トルコがサウジアラビアやアゼルバイジャンといった国々と連携を強化することは、イスラエルや西側諸国と対立する新たな地域連携の形を見せ、エルドアン政権がトルコを中心とする新たな勢力圏の形成を目指していることを示している。

【要点】

 1.トルコとイスラエルの断交

 ・エルドアン大統領はトルコがイスラエルとの公式関係を断絶したと発表。
 ・イスラエルとのあらゆる関係を放棄したと明言。

 2.ガザ・レバノンでの「虐殺」非難

 ・イスラエルの軍事行動を「虐殺」と呼び、非難。
 ・停戦と人道支援の必要性を強調。

 3.トルコの人道支援と国際的な働きかけ

 ・ガザやレバノンに食料、水、医療品の供給を求め、支援の物流を確保。
 ・国際社会に対し、イスラエルに圧力をかけるべきだと呼びかけ。

 4.中東およびカフカス地域での影響力強化

 ・サウジアラビアとアゼルバイジャンとの関係強化を目指す。
 ・イスラエルと距離を置き、他の中東諸国と連携強化。

 5.NATOや西側諸国との関係への影響

 ・トルコのイスラエル批判がNATO内での立場やアメリカとの関係に影響を与える可能性。
 ・シリア紛争への影響や中東地域でのバランスに変化の懸念。

 6.パレスチナ支援政策の強化

 ・トルコは長年パレスチナ支援を外交政策の柱にしており、イスラエル批判を強化。
 ・イスラム諸国で共感を集め、トルコをパレスチナ支援の中心的存在に位置付け。

 7.地政学的な役割の変化

 ・サウジアラビアやアゼルバイジャンとの連携強化で新たな地域連携を形成。
 ・中東におけるトルコの影響力強化を狙い、イスラエルや西側諸国と対立する姿勢。 

【参考】

 ☞ トルコがイスラエルとの関係を断絶したことは、シリア紛争および中東地域の勢力バランスにおいていくつかの懸念を引き起こしている。以下に詳細を説明する。

 1.シリア紛争への直接的な影響

 トルコはシリア紛争において、長年にわたりシリア反体制派を支援してきた。一方、イスラエルもシリア内のイランおよびヒズボラの影響力拡大を抑えるため、シリア領内での軍事行動を行っている。トルコがイスラエルと断交することにより、シリアにおけるこれらの勢力間での協調がさらに難しくなる可能性がある。イスラエルとトルコがそれぞれ異なる方向で行動を起こすことで、シリア国内の紛争がさらに複雑化する懸念がある。

 2.ロシアとの関係における影響

 シリア紛争においては、ロシアがアサド政権を強力に支援しており、トルコとロシアの間には不安定な協力関係が築かれている。トルコがイスラエルと断交し、イランやシリアに対する姿勢を強化することで、トルコとロシアの連携がさらに緊張する可能性がある。このことはシリア紛争におけるパワーバランスに影響を与える。

 3.イランとヒズボラの影響力の増大

 トルコがイスラエルと距離を取ることは、反イスラエルの立場を持つイランやヒズボラとの関係改善の可能性をもたらすかもしれない。これにより、シリア内や中東全体でイランの影響力が相対的に増大する可能性がある。一方で、トルコがあまりにイラン寄りに傾倒すれば、トルコとサウジアラビアや湾岸諸国との関係に亀裂が生じるリスクもある。

 4.中東地域での米国の立場への影響

 トルコはNATO加盟国であり、米国との同盟関係がある一方で、近年米国とは関係が揺らいでいる。トルコがイスラエルとの関係を断絶したことは、米国の中東戦略にとって負担となる可能性がある。米国は中東での同盟国としてイスラエルを重要視しており、トルコとイスラエルの対立が深まることで、米国は二国間での板挟みに陥る可能性がある。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

Turkey Cuts Off Relations With Israel: Reports Newsweek 2024.11.13
https://www.newsweek.com/turkey-cuts-off-relations-israel-1985013?utm_source=STMailing&utm_medium=email&utm_campaign=BreakingNews&emh=875c208bfdb91599791b24ecf34f9546ee63c6dc178cc0873d1b700ea5690a33&lctg=67274ce71670258ac508433e&utm_term=%5BAudience%5D%20-%20BreakingNews

TSMC:中国への7nm以下の半導体チップ供給を停止2024年11月14日 13:10

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【概要】
 
 TSMC(台湾積体電路製造)は、アメリカの制裁措置に基づき、中国の人工知能(AI)チップおよびグラフィック処理ユニット(GPU)を製造する顧客への7nm以下の半導体供給を停止する予定である。この決定は2024年11月11日から適用され、特に中国のHuawei Technologiesが第三者を介してTSMCに注文を行うことを防ぐ狙いがあると報じられている(中国のITサイトJiwei.comによる)。

 一方で、TSMCは自動車やスマートフォン向けのチップを製造する中国の顧客には、引き続き7nm以下のチップを供給可能である。TSMCはこの報道について「法令遵守を徹底している」と述べるにとどまり、具体的なコメントは控えている。

 中国のファブレス半導体メーカーのうち、TSMCの製造サービスを利用してAI/GPUチップを製造している企業には、AlibabaのT-Head、BaiduのKunlunxin、Iluvatar、Enflame、MetaX、Black Sesame International、Jaguar Micro、Nio、Xiaopeng、Horizon Roboticsなどが含まれる。主要な中国AIチップメーカーのCambrian Technologies、Biden Intelligent Technology、Moore Threads Technologyは、2023年にアメリカ商務省産業安全保障局(BIS)の「エンティティ・リスト」に追加され、TSMCのファウンドリーサービスを利用できなくなったが、一部では第三者を介した取引の可能性も示唆されている。

 11月8日、Jiwei.comによる報道を受けて、中国の半導体メーカーの株価に影響が及び、Cambrianの株価は9.5%下落、Horizonは2.7%下落した。一方、SMIC(中芯国際集成電路製造)、Sugon(曙光信息産業)およびNaura Technology Groupといった中国の半導体関連企業の株価は上昇した。

 TSMCの収益において、2024年第3四半期には3nm、5nm、7nmチップの売上がそれぞれ20%、32%、17%を占め、中国向けの収益は全体の約11%を占めた(2023年全体では12%)。

 また、10月9日にはカナダのTechInsightsが、HuaweiのAIトレーニングカードAtlas 300T A2上でAscend 910Bチップが発見されたと報告している。TSMCはこの事例を受けて10月中旬にXiamen Sophgo(Bitmainのビットコインマイニング機器関連会社)へのチップ供給を中止し、アメリカ商務省に報告しているが、SophgoとBitmainはHuaweiとの業務関係を否定している。この事案に関連するウェハーはすべてTSMCによって廃棄されたとされる。

 中国のチップデザイナーは、今後の詳細な出荷規制を待ち、AIチップやGPUの製造においてTSMCの施設を利用する場合はライセンスの申請が必要になる見通しである。AI専門家のXiang Ligang氏は、中国企業が早い段階でTSMCとの協力を望んでいたことを指摘するが、一部専門家はTSMCの決定が中国国内のAIチップメーカーに与える影響を過小評価していると主張する。

 アメリカのバイデン政権は、さらに対中半導体輸出規制を強化する可能性があるとされているが、中国メディアではトランプが2025年1月20日に大統領に就任する予定であることから、より強硬な措置が期待されるともされている。

【詳細】

 TSMC(台湾積体電路製造)は、世界最大の半導体製造請負会社として、2024年11月11日より7ナノメートル(nm)以下の半導体チップを中国の人工知能(AI)やグラフィック処理ユニット(GPU)を製造する企業へ供給を停止することが報じられた。この措置は、アメリカ政府が中国企業、特にHuawei Technologies(華為技術)が第三者を通じて高度な半導体チップを調達することを防ぐための制裁措置に基づくものである。この決定は、中国のIT専門サイトである集微網(Jiwei.com)が11月8日に報じたものに基づいている。

 TSMCの方針転換の背景には、アメリカ政府が先端半導体技術の中国への流出を防ぐため、輸出規制を強化してきた経緯がある。特にアメリカ商務省産業安全保障局(BIS)は、アメリカの技術を用いた製品の対中輸出を制限しており、これによりTSMCのようなグローバル企業が影響を受けている。BISは2023年に複数の中国AI関連企業(Cambrian Technologies、Biden Intelligent Technology、Moore Threads Technologyなど)をエンティティリストに追加し、これらの企業がTSMCから直接的にサービスを受けられなくなるよう制約をかけてきた。

 しかし、TSMCは自動車やスマートフォン向けのチップを製造する中国顧客には、引き続き7nm以下のチップを供給することが可能である。このため、TSMCが顧客の製品用途に基づいて対応を変えることで、中国国内での供給制限はAIや高性能GPUの分野に限られる可能性が高い。

 中国の主要なファブレス半導体企業のうち、TSMCの製造サービスを利用してAIおよびGPUチップを生産している企業には、AlibabaのT-Head、BaiduのKunlunxin、Enflame(燧原科技)、Black Sesame International(黒芝麻)、Horizon Robotics(地平線機器人)などが含まれている。これらの企業は中国のAI技術や自動運転技術の発展を支える役割を担っているため、TSMCの出荷停止は中国の半導体産業に大きな影響を与えると見られる。

 この発表の影響は早速市場に現れ、集微網の報道後、上場企業であるCambrian Technologies(寒武紀)の上海株式は9.5%の下落を見せ、Horizon Roboticsの株価も2.7%下落した。一方で、SMIC(中芯国際集成電路製造)や曙光信息産業(Sugon)、北方華創(Naura Technology Group)といった中国の半導体製造関連企業の株価は上昇し、中国国内の製造業への需要が増加する期待感がうかがえる。

 TSMCの収益状況において、2024年第3四半期には3nm、5nmおよび7nmチップの売上がそれぞれ20%、32%、17%を占めており、中国向けの収益は全体の約11%を占める(2023年通年では12%)。このような依存度を考えると、TSMCにとっても今回の出荷停止は収益面でのリスクとなる可能性がある。

 さらに、10月9日にはカナダのテクノロジー調査会社TechInsightsが、HuaweiのAIトレーニングカードAtlas 300T A2にAscend 910Bチップが搭載されていることを報告しており、これが制裁回避の手法であるかが注目されている。TSMCは、この事案に関連してXiamen Sophgo(比特大陸、Bitmainの関連会社)へのチップ出荷を10月中旬に中止し、アメリカ商務省に報告している。SophgoとBitmainはHuaweiとの業務関係を否定しているものの、この事案に関連するウェハーはすべてTSMCによって廃棄されているとされている。

 この制裁措置の下、TSMCの施設を利用してチップ製造を行いたい中国企業は、具体的な出荷規則が定まるのを待ち、必要に応じてアメリカ商務省からライセンスを取得する必要が生じる見込みである。ライセンス申請が必要となるのは、製造プロセスの初期段階である「テープアウト」(試作品の作成)を含むため、今後の製造計画には大きな影響を及ぼすと考えられる。

 一方で、IT専門家であるXiang Ligang氏は、TSMCが中国のAIおよびGPU向けの7nm以下のチップ製造を停止することについて、中国企業が国内ファウンドリーに依存する可能性が高まると指摘している。しかし、ある広東省のコラムニスト「新一飛」は、TSMCの決定が中国の半導体産業に与える影響を過小評価すべきではないと主張している。中国国内のファウンドリー(SMICなど)は7nmの製造能力を持つものの、生産能力や歩留まりの問題により、全ての需要に対応できるかは疑問視されている。

【要点】

 ・TSMCの決定:2024年11月11日より、TSMCは中国のAIおよびGPUチップを製造する企業への7nm以下の半導体チップ供給を停止。
 ・背景:アメリカ政府の制裁に基づき、特にHuawei Technologiesが第三者を通じて高度な半導体を調達するのを防ぐ目的で、TSMCは中国への出荷停止を決定。
 ・対象企業:AIおよびGPUチップを製造する中国企業(例:AlibabaのT-Head、BaiduのKunlunxin、Enflame、Horizon Roboticsなど)。
 ・例外:自動車やスマートフォン向けの7nm以下チップは引き続き供給される。
アメリカの制裁:アメリカ商務省産業安全保障局(BIS)は、複数の中国AI企業をエンティティリストに追加しており、これらの企業がTSMCからチップを調達できないよう制約。
 ・影響

  ⇨ 株価反応:TSMCの出荷停止報道後、Cambrian Technologies(寒武紀)の株価は9.5%下落、Horizon Roboticsは2.7%下落。
  ⇨ 中国企業の株価:SMIC(中芯国際集成電路)や曙光信息産業(Sugon)などの中国半導体企業の株価は上昇。

 ・TSMCの収益構造:2024年第3四半期の収益では、3nm、5nm、7nmチップが全体の69%を占め、中国向け収益は約11%。
 ・Huaweiとの関連:Huaweiは7nm Kirin 9100チップを使用予定のMate70スマートフォンを11月中に発表予定。これがアメリカの輸出規制強化の引き金になる可能性。
 ・制裁の影響

  ⇨ TSMCが中国のファウンドリーに供給を停止したことにより、中国のAIチップメーカーは国内ファウンドリーに依存することになる。
  ⇨ ただし、中国国内のSMICなどは7nmチップ製造能力に限界があり、需要に十分に応じられない可能性。

 ・短期的影響:多くの中国のファブレス半導体企業は、7nmチップの供給不足により事業縮小や閉鎖に追い込まれる可能性。

【引用・参照・底本】

TSMC’s 7nm chip ban targets China’s AI chipmakers ASIATIMES 2024.11.11
https://asiatimes.com/2024/11/tsmcs-7nm-chip-ban-targets-chinas-ai-chipmakers/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=02dcf2e11e-DAILY_11_11_2024&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-02dcf2e11e-16242795&mc_cid=02dcf2e11e&mc_eid=69a7d1ef3c

インドがRCEPへの参加を再検討2024年11月14日 13:43

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【概要】
 
 インドがRCEP(地域的包括的経済連携協定)への参加を再検討している可能性がある。インドはこれまで、RCEPに参加しなかった理由として、国内の企業や農業に対する影響を懸念していた。しかし、世界の貿易動向が変化する中で、その見解が変わりつつあると考えられている。

 インド政府の主要な政策立案機関であるNITIアヨグのBVR Subrahmanyam CEOは、インドがRCEPとCPTPP(環太平洋経済連携協定)に参加すべきだと述べている。彼によれば、特にインドの中小企業(MSME)セクターにとって、これらの貿易圏への参加が有益であるとされている。インドの輸出の40%は中小企業から出ており、大企業の輸出はそれほど多くないため、これらの貿易協定によって市場アクセスが拡大し、より多くの機会が生まれると期待されている。

 また、インドがRCEPに参加しなかった理由の一つは、高い関税が、インドが「中国プラスワン」戦略によるサプライチェーンの多様化から十分に利益を得るのを妨げているという点であった。Subrahmanyamは、インドが中国に依存しない供給網を構築する機会を最大限に活用できていないと指摘している。

 RCEPは、アジア太平洋地域の15カ国による自由貿易協定で、GDP規模で世界最大の経済圏を形成している。この協定は、貿易品目の約90%の関税を20年以内に撤廃し、投資、知的財産、電子商取引などの規制の標準化を進めることを目指している。

 インドは当初、RCEPの交渉に関与しており、協定が結ばれる前からその設立に関与していたが、最終的には国内経済への影響を考慮して参加を見送った。しかし、世界貿易の環境が不確実な時代に突入する中で、インド政府の見解が再評価されつつある。

 CPTPPは、インドや中国を除く11カ国が加盟する別の貿易協定であり、USが主導したTPPを置き換える形で発足した。これもインドにとって重要な貿易機会となる可能性がある。

 一方、インドは米国が推進するIPEF(インド太平洋経済枠組み)にも参加しているが、この枠組みは関税引き下げや市場アクセスの改善には限りがあり、貿易協定としての効果は薄いとの指摘がある。IPEFの商業・貿易分野が2023年に放棄され、米国の保護主義的な傾向が強まる中で、インドはより有利な市場アクセスを求める必要がある。

 インドは、米国、中国に次ぐ購買力平価(PPP)で世界第3位の経済を持つ国であり、今後の成長が期待されている。インドがRCEPやCPTPPに参加することで、自国企業に新しい市場アクセスのチャンスが広がり、さらなる経済成長が見込まれる。

【詳細】
 
 インドがRCEP(地域的包括的経済連携協定)への参加を再検討している背景には、世界貿易の急速な変化とインド経済の成長に対する新たな期待がある。

 1. インドの貿易戦略とRCEP参加の背景

 インドは、RCEP(地域的包括的経済連携協定)交渉に初期から関与していたが、最終的に2020年に参加を見送った。主な理由として、国内産業や農業への影響が懸念されたことが挙げられる。インド政府は、RCEPが国内市場に対して過度に開放的になりすぎ、特に農業や中小企業(MSME)セクターが不利益を被ると考えた。しかし、その後のグローバルな貿易動向やサプライチェーンの変化、インド経済の成長見通しなどが、この立場を再考させる要因となっている。

 2. NITIアヨグのB V R Subrahmanyam CEOの見解

 インド政府の主要な政策立案機関であるNITIアヨグ(国の発展と改革を担当する機関)のBVR Subrahmanyam CEOは、インドがRCEPやCPTPP(環太平洋経済連携協定)に参加すべきだと強調している。彼は、特にインドの中小企業(MSME)セクターにとって、これらの貿易協定に参加することが有益だと述べている。インドの輸出の約40%は中小企業からのもので、大企業が主導する貿易活動よりも、中小企業の輸出活動のほうが重要な役割を果たしている。これにより、市場アクセスが広がり、インドの中小企業にとって新しいビジネスチャンスが生まれる可能性が高まる。

 3. 「中国プラスワン」戦略と関税

 Subrahmanyamは、インドが「中国プラスワン」戦略を十分に活用できていないと指摘している。この戦略は、企業が中国に依存せず、他のアジア諸国に生産拠点を分散させることを目的としているが、インドは高関税によりこの機会を十分に利用できていないとのことだ。特に、RCEPに参加することで、インドは中国に代わる製造拠点としての位置づけを強化できる可能性があるとされている。

 4. RCEPの特長とインドへの影響

 RCEPは、15カ国(オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、中国、インドネシア、日本、ラオス、マレーシア、ミャンマー、ニュージーランド、フィリピン、韓国、シンガポール、タイ、ベトナム)による自由貿易協定で、世界経済の約30%を占める規模を誇る。RCEPは、関税の撤廃や貿易に関する規制の標準化を進め、特に貿易品目の約90%に対する関税が20年以内に撤廃されることが予定されている。この協定は、知的財産、投資、電子商取引などの新たな分野においても規制の調整を行い、商業活動のスムーズな進行を目指している。これにより、インドの企業は新たな貿易市場へのアクセスを得ることができ、特に中小企業にとってはメリットが大きいとされている。

 5. CPTPPとの関係

 CPTPP(環太平洋経済連携協定)は、インドが参加していないもう一つの重要な自由貿易協定で、アジア太平洋地域の11カ国(オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム)が加盟している。この協定は、米国がドナルド・トランプ大統領下で離脱する前に発展したもので、米国主導のTPP(環太平洋経済連携協定)を置き換える形となった。CPTPPは、自由貿易を促進するための規範を定め、特にデジタル貿易や知的財産権、環境保護などの分野においても厳格な基準を設けている。インドがCPTPPに参加することで、これらの分野での市場アクセスが改善され、経済成長を加速させることができると期待されている。

 6. インドの経済成長と参加の影響

 インドの経済は、2024年に6.9%の成長が予測されており、世界で最も急成長している経済の一つである。インドは、米国や中国に次ぐ世界第3位の経済規模を持ち、購買力平価(PPP)においては中国と米国に次ぐ位置にある。この急成長を背景に、インドは貿易協定を通じて他国との経済的な結びつきを強化することが求められている。RCEPやCPTPPに参加することで、インドは新たな貿易市場へのアクセスを得ることができ、経済的な利益を享受することが期待されている。

 7. 保護主義の影響

 米国は、トランプ大統領の下で保護主義的な立場を強めており、これがインドや他の国々にとって貿易政策の見直しを促す要因となっている。米国が主導していたIPEF(インド太平洋経済枠組み)の貿易分野が2023年に放棄され、保護主義が強まる中で、インドは貿易市場の拡大を図る必要がある。インドは、米国や中国との貿易摩擦が続く中で、より多角的な貿易戦略を追求することが求められている。

 結論

 インドは、RCEPやCPTPPに参加することで、国内企業の国際競争力を高め、新たな市場アクセスを得ることができると期待されている。特に中小企業にとって、これらの貿易協定は大きなチャンスを提供する。インドの経済成長を支えるためには、世界の貿易環境の変化に適応し、新しい貿易協定を通じて国際的な連携を強化することが重要である。

【要点】

 ・インドのRCEP参加見送り: インドは当初RCEP交渉に関与していたが、国内産業や農業への影響を懸念し、2020年に参加を見送った。

 ・中小企業(MSME)の重要性: インドの輸出の約40%を中小企業が占めており、RCEP参加によって市場アクセスの拡大が期待される。

 ・BVR Subrahmanyamの見解: NITIアヨグCEOは、RCEPやCPTPPに参加することがインドの貿易促進と経済成長に有益だと強調。

 ・中国プラスワン戦略: インドは「中国プラスワン」戦略を活用できておらず、高関税が障壁になっている。RCEP参加で製造拠点としての強化が期待される。

 ・RCEPの利点: RCEPは関税撤廃、貿易規制の標準化、知的財産や電子商取引に関する規制調整など、インドの貿易市場アクセスを改善する。

 ・CPTPPとの関係: CPTPPはアジア太平洋の自由貿易協定で、インドが参加することでデジタル貿易や知的財産分野での規範に適応できる。

 ・インド経済の成長: インド経済は急成長しており、RCEPやCPTPP参加によって貿易市場の拡大と経済成長の加速が期待される。

 ・保護主義の影響: 米国の保護主義が強化される中、インドは他国との貿易関係を多角化する必要がある。

 ・結論: インドはRCEPやCPTPPに参加することで国際競争力を高め、中小企業にとって新たなビジネスチャンスが生まれる。

【参考】

 ☞ 中国プラスワン(China Plus One)戦略は、中国の製造拠点に依存している企業が、リスク分散のために中国以外の国を追加で製造拠点として選定する戦略である。中国の労働コストや貿易摩擦、政治的なリスクを避けるため、企業は多国籍の供給網を構築し、特にアジア地域の他の国々を選ぶ傾向がある。

 具体的には、次のような理由で中国プラスワン戦略が採用されている。

 ・中国依存からの脱却: 米中貿易戦争や中国の厳格な規制など、中国単独でのリスクが高まっているため、製造拠点を分散させることでリスクヘッジを図る。

 ・コストの最適化: 中国の人件費の上昇により、コスト削減を目的として、他のアジア諸国(例:インド、ベトナム、インドネシアなど)への移転が進んでいる。

 ・供給網の強化: 複数の国に製造拠点を持つことで、供給網の柔軟性を確保し、特に自然災害や地政学的リスクに対する耐性を強化する。

 この戦略は特に製造業で広く採用されており、インドや東南アジア諸国が「プラスワン」として注目されている。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

India giving RCEP free trade pact a needful second look ASIATIMES 2024.11.11
https://asiatimes.com/2024/11/india-giving-rcep-free-trade-pact-a-needful-second-look/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=02dcf2e11e-DAILY_11_11_2024&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-02dcf2e11e-16242795&mc_cid=02dcf2e11e&mc_eid=69a7d1ef3c

指向性エネルギー兵器(DEW)の開発2024年11月14日 13:57

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【概要】
 
 米国と中国は、無人機の群れを無力化する技術を巡って熾烈な競争を繰り広げており、両国はそれぞれ、台湾戦争における無人機の脅威を打破するため、指向性エネルギー兵器(DEW)の開発に注力している。

2024年11月、The War Zoneの報道によると、中国の無人機対策は進展しており、2024年の珠海航空ショーでは、複数の高出力マイクロ波システムが披露された。これらのシステムは、主に無人機を無力化することを目的として開発され、南方工業集団(CSGC)と北方工業(Norinco)によって製造されたもので、8×8の軽装甲車両に搭載されたマイクロ波システムや、8×8のトラックに搭載されたシステムが含まれている。これらのシステムにはターゲット検出および追跡用のレーダーと平面アレイが搭載されているが、その能力については詳細は不明である。

 一方、米国陸軍は、Coyote Block 2迎撃システムを使用して170回の成功した無人機撃墜を達成したと報じられており、同システムは米国の中央軍(CENTCOM)、アフリカ軍(AFRICOM)、欧州軍(EUCOM)の各地域に配備されている。Coyote Block 2は、レイセオン社が製造した高爆発性弾頭を搭載した迎撃ミサイルで、低速で高高度の無人機に対応するため、LIDS(Low, Slow, Unmanned Aircraft Integrated Defeat System)の一部として使用されている。この迎撃システムは、今後さらに6700基の迎撃ミサイルと追加の発射装置やレーダーが導入される予定であり、また、非運動エネルギー兵器を搭載したBlock 3型の開発も進められている。

 指向性エネルギー兵器(DEW)、特に高出力マイクロ波(HPM)などは、迅速で精密なターゲティングが可能であり、理論上は無限の弾薬を持つことから、短時間で複数の無人機を無力化できるという利点がある。しかし、これらの兵器は大量の電力供給を必要とし、特に遠隔地や高強度な戦闘において運用が難しいという制約もある。

 小型無人機迎撃システムは、都市部や複雑な環境でも適応できるため、特に有用であるが、その運用範囲には限界があり、バッテリーの持続時間が短く、大規模で素早い無人機の群れには対応が難しい場合もある。したがって、複雑な状況下では、HPMのような指向性エネルギー兵器の方が効果的であると考えられている。

 また、台湾海峡における無人機の群れによる脅威は、米国と中国の対無人機技術の開発を加速させる要因となっており、中国が無人機の製造大国であることから、台湾への侵攻において無人機群を使用して台湾の防御を圧倒し、精密ミサイル攻撃を指導する可能性が指摘されている。米国と台湾は現在、無人機の能力を強化するため、「Hellscape」計画などの新たな防衛構想に取り組んでおり、無人機や電子戦能力の向上が急務とされている。

 無人機がウクライナ戦争において重要な役割を果たしている中、今後の戦争における無人機の戦略的影響については専門家の間でも意見が分かれている。一部の専門家は、無人機が戦術的に優れた適応性を見せており、低コストで効果的な攻撃戦略を可能にしていると指摘している。特に、AIを活用した自律型無人機が登場し、戦争の様相を大きく変える可能性があると論じられている。

 他方で、無人機はまだ戦争の革命的な変化を引き起こすほどの影響を与えていないとの意見もある。ウクライナ戦争における無人機は、主に情報収集や砲兵支援に使用されており、伝統的な兵器の補完的な役割を果たしているに過ぎないという見解もある。

【詳細】
 
 米国と中国は、無人機の群れに対する効果的な対抗技術を巡って激しく競争しており、この技術競争は台湾戦争を含む未来の戦争における重要な要素となる可能性が高い。両国は、無人機の群れが戦闘において決定的な役割を果たすことを認識し、これに対処するためのさまざまな戦術的および技術的手段を開発している。特に、指向性エネルギー兵器(DEW)は、これらの無人機を効果的に無力化するための最前線の技術となっている。

 中国の指向性エネルギー兵器

 2024年11月に発表された報道によると、中国は高出力マイクロ波(HPM)システムの開発を加速させており、2024年の珠海航空ショーでは、無人機を標的にした高出力マイクロ波兵器のシステムが公開された。このシステムは、主に無人機やその他の空中脅威を無力化することを目的としており、具体的には以下のような特徴を持つ。

 ・モバイル化されたシステム:システムは8×8の装甲車両やトラックに搭載され、移動可能で現場での迅速な展開を可能にしている。これにより、戦場での柔軟な対応が可能となり、特に広範囲の地域で無人機の群れに対処できる。
 ・高出力マイクロ波の利用:マイクロ波システムは無人機に直接的なダメージを与えるのではなく、無人機の内部電子機器を破壊することで機能を停止させる。これにより、無人機の制御が効かなくなり、地面に落ちるか、飛行を停止する。
 ・ターゲット追跡と検出:これらのシステムには、高度なレーダーと平面アレイが組み込まれており、遠距離で無人機を検出し、精密に追尾することができる。

 このようなシステムは、無人機の群れが戦争の戦術を一変させる中で、重要な役割を果たすとされている。しかし、この技術の実際の能力については、現在のところ詳細な情報は不明であり、実戦での効果が証明されるまでには時間がかかる可能性がある。

 米国のCoyote Block 2と他の対無人機システム

 米国もまた、無人機に対抗するための技術開発を急速に進めており、特にCoyote Block 2迎撃システムが注目されている。このシステムは、無人機を効果的に撃墜するために使用され、以下の特徴がある。

 ・迎撃ミサイルの使用:Coyote Block 2は、レイセオン社が製造した高爆発性弾頭を搭載した迎撃ミサイルで、無人機や低空飛行するターゲットに対して非常に高い命中精度を誇る。これにより、無人機の群れに対する効果的な対抗が可能となる。
 ・広範囲の配備:米国は、このシステムを36ヶ所以上の拠点に配備しており、特に米国中央軍(CENTCOM)、アフリカ軍(AFRICOM)、欧州軍(EUCOM)の各地域で使用されている。この広範な配備は、米国がグローバルに無人機脅威に対応する準備を整えていることを示している。
 ・非運動エネルギー兵器の開発:米国はまた、Coyote Block 2の新型として、非運動エネルギー兵器を搭載したBlock 3型を開発中であり、これはエネルギー兵器(DEW)の一環として、無人機を物理的に撃墜する代わりに、高出力の電磁波やレーザーで無人機の電子機器を無力化することを目指している。
 
 米国は、無人機の迎撃技術に加えて、指向性エネルギー兵器や電子戦システムといった新しい技術を組み合わせて、複雑な空中脅威に対応する多層的な防衛網を構築しつつある。このような技術の進展は、無人機の群れが戦争の戦術において中心的な役割を果たす中で、米国の防衛戦略を進化させる一助となっている。

 指向性エネルギー兵器(DEW)の利点と課題

 指向性エネルギー兵器(DEW)である高出力マイクロ波(HPM)やレーザーは、無人機群に対する対抗手段として注目されているが、これにはいくつかの利点と課題がある。

 利点

 ・迅速かつ精密な攻撃:DEWはターゲットを迅速にロックオンし、即座に攻撃を実行できるため、無人機の群れに対して短時間で対処可能である。
 ・理論上の無限弾薬:物理的な弾薬を使用しないため、弾薬の制限を気にせず、理論上は無限に攻撃できる。これにより、複数の無人機を続けざまに無力化することができる。
 ・低い衝突損害:DEWは無人機に対して直接的に物理的な破壊を加えるのではなく、電子機器を攻撃することで無力化するため、周囲に被害を及ぼすことなく迅速に目標を排除することができる。

 課題

 ・エネルギー供給の問題:高出力のエネルギーを持続的に供給するためには、膨大なエネルギー源が必要となる。特に遠隔地や戦場では、これを供給するためのインフラ整備が難しくなる可能性がある。
 ・環境条件に対する制約:天候や地形によっては、DEWが正常に機能しない場合もある。例えば、雨や雪、霧といった条件下では、レーザーやマイクロ波の伝播に障害が生じる可能性がある。

 台湾海峡での無人機の役割と対策

 無人機群の脅威は、特に台湾海峡での戦争において重要な要素となると予測されている。中国は無人機を用いて台湾の防衛線を圧倒し、精密ミサイル攻撃を指導する能力を持っていると考えられており、その脅威に対して米国と台湾は防衛技術を強化する必要がある。

 ・無人機群の戦略的役割:中国は無人機を大量に投入し、台湾の防衛を無力化し、精密ミサイル攻撃を行うことが予測されている。これに対し、米国と台湾は、無人機の迎撃能力を強化するため、次世代の無人機技術を開発し、電子戦能力を強化しつつある。
 ・「Hellscape」計画:米国は、「Hellscape」計画を通じて、台湾海峡に無人機や無人潜水艦、無人艦艇を展開し、戦闘の初期段階で中国の進攻を抑えることを目指している。

 無人機の戦争への影響と展望

 無人機は、ウクライナ戦争を通じてその戦術的役割を証明しており、今後の戦争においても重要な役割を果たすと予測されている。小型無人機や自律型無人機は、リアルタイムの戦場情報提供や精密攻撃において価値を発揮しており、その応用範囲は広がり続けている。

【要点】

 無人機に対する対抗技術について、米中間での競争とその概要を以下のように箇条書きで説明する。

 中国の対無人機技術

 ・高出力マイクロ波(HPM)システム

  ・珠海航空ショー2024年に発表。
  ・無人機の内部電子機器を破壊し、無力化する。
  ・8×8装甲車両やトラックに搭載、モバイル対応で現場で迅速な展開が可能。
  ・高出力マイクロ波で無人機をターゲットにする。
  ・高度なレーダーと平面アレイを使用して無人機を精密に追尾。

 米国の対無人機技術

 ・Coyote Block 2迎撃システム

  ・無人機を効果的に撃墜する迎撃ミサイル。
  ・高爆発性弾頭で無人機を精密に破壊。
  ・36ヶ所以上の拠点に配備され、グローバルな防衛網を強化。
  ・Coyote Block 3型では、非運動エネルギー兵器(DEW)を搭載予定。
 
 指向性エネルギー兵器(DEW)の利点と課題

 ・利点

  ・高速で精密な攻撃が可能。
  ・理論上、弾薬無限、連続的な攻撃が可能。
  ・周囲への衝撃を抑えた無人機の無力化。

 ・課題

  ・高出力エネルギー供給のインフラ整備が必要。
  ・天候や地形の影響を受けやすい(例: 雨や霧)。

 台湾海峡における無人機の役割

 ・中国の無人機戦略

  ・大量の無人機を用いて台湾防衛線を圧倒。
  ・精密ミサイル攻撃の指導にも無人機を活用。

 ・米国と台湾の対応

  ・無人機迎撃技術や電子戦能力の強化。
  ・米国の「Hellscape」計画:台湾海峡で無人機や無人艦艇を展開し、中国進攻を抑制。

 無人機の戦争への影響

 ・ウクライナ戦争での実績

  ・無人機の戦術的な役割が証明され、今後も重要な戦力として活用される。
  ・小型無人機や自律型無人機が、リアルタイムの戦場情報や精密攻撃で活躍。

【引用・参照・底本】

Laser wars: US-China in drone-killing, directed-energy arms race ASIATIMES 2024.11.11
https://asiatimes.com/2024/11/laser-wars-us-china-in-drone-killing-directed-energy-arms-race/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=02dcf2e11e-DAILY_11_11_2024&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-02dcf2e11e-16242795&mc_cid=02dcf2e11e&mc_eid=69a7d1ef3c

ロシアの指導層がトランプの復帰に慎重な反応2024年11月14日 15:39

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【概要】
 
 モスクワはドナルド・トランプの大統領復帰を歓迎しているが、その反応は控えめである。モスクワではトランプがウクライナ戦争を終結させるためにロシアに対して厳しい譲歩を求める可能性が高いと考えられており、トランプの再登場がロシアにとって有利に働くという楽観的な見方は少ない。

 クレムリン報道官のドミトリー・ペスコフは、「我々の国に直接・間接的に戦争を仕掛けている敵国である」との見解を示し、トランプ政権が外交改善の意思を示さない限り、関係改善は難しいとした。プーチン大統領も慎重な姿勢を崩さず、バイデン政権の安定性を重視して支持を表明してきた。

 プーチン大統領は、伝統的なバルダイ・クラブでのQ&Aセッションにおいて、トランプとの対話に前向きな姿勢を示した。元大統領ドミトリー・メドベージェフは、ロシアの「特別作戦」の目標は「不変であり達成される」と強調し、トランプがウクライナへの支援を削減する可能性を示唆している。ロシア外相セルゲイ・ラブロフは、米国の反ロシア的政策には二大政党間での合意があり、ウクライナ問題も含まれているため、大統領が誰であっても対ロシア方針が変わる可能性は低いと述べた。

 ロシアの指導層がトランプの復帰に慎重な反応を示す理由は、トランプがゼレンスキー大統領に譲歩を強いるとは考えにくいとの見方が強いためである。ロシアの戦争目標にはウクライナの非武装化と非ナチ化が含まれているが、これらの定義は曖昧で、トランプ政権がこれらの要請に応じるとは限らない。

 また、米国がウクライナへの武器供給を停止すればウクライナは妥協に応じる可能性があるとする見解もあるが、トランプ政権がロシアの要求を受け入れるためにウクライナ支援を停止するかは不透明である。一方、トランプの側近が提案したとされる戦略では、ロシアが和平に応じない場合、ウクライナへの武器供給が増加する可能性もある。

 プーチン大統領は「最大限の領土目標」達成を目指しているが、ウクライナの制圧はドンバス地域でさえ困難を伴い、ロシア領とする宣言を守るためには法的措置も検討されている。これにより、接触ラインに沿って停戦が行われる可能性があるが、ロシアとしてはこの結果を「成功」として国内外に示す必要がある。

 ウクライナの武装解除や非ナチ化も難しい問題である。ウクライナは今後も武装を維持する見込みが高く、ロシアが求める法改正をウクライナが進める可能性も低い。NATO加盟の放棄が和平交渉の一部となることが予測されるが、すでに締結されているNATO諸国との安全保障協定により、事実上のNATO加盟と変わらない状況が続いている。

 このため、ロシアは接触ラインに緩衝地帯を設け、ウクライナからの砲撃を防ぐことで妥協を受け入れる可能性がある。その場合、ロシアのメディアはこの結果を成功として報じ、同時に西側諸国もウクライナが1991年の領土を取り戻せなかったとしてこの結果を評価するだろう。

【詳細】
 
 ロシアはドナルド・トランプの再任を歓迎しているが、その反応は慎重であり、期待以上の変化はないと見られている。以下、ロシア政府や専門家の視点を中心に、さらに詳しく解説する。

 1. プーチン大統領とクレムリンの慎重な姿勢

 クレムリン報道官のドミトリー・ペスコフは、トランプ再任について「アメリカはロシアに対して敵対的な政策をとり、ウクライナ戦争にも直接・間接的に関与している」と述べ、トランプに対する過度な期待を持つべきでないと強調した。この発言には、トランプの対露政策が不確実であること、さらに米国の政治体制全体が反ロシア的な姿勢を維持しているという見解が含まれている。ロシアはトランプ政権の意思を前提とするのではなく、アメリカの政権交代に関わらず反ロシア政策が続く可能性を認識している。

 また、プーチン大統領もトランプと協力する意思を示しているものの、バイデン政権とハリス副大統領を選好した背景には、両者の政策がある程度予測可能であるという点がある。ロシアは、予測できないリスクを避けるため、トランプの再任に際しても積極的な態度をとらず、慎重に臨んでいる。

 2. ウクライナ問題の焦点:非武装化と非ナチ化

 ロシアがウクライナに求める「非武装化」と「非ナチ化」は重要な争点であるが、これらの目標が曖昧であるため、現実的には達成が難しいと見られている。これらの要求は2022年以降繰り返されてきたが、ロシア側はこれらの条件の具体的な内容を明確にしておらず、ウクライナがどの程度まで対応すべきか不透明である。

 トランプが再任しても、米国がウクライナへの武器供給を停止する見込みは低く、むしろトランプがロシアに圧力をかける可能性があるとの見方もある。プーチン大統領は以前「米国がウクライナへの武器供給を停止すれば、交渉は現実的なものになる」と述べたが、実際に米国がこの提案に応じるかは不明である。トランプの側近からの提案によれば、ロシアが迅速に和平交渉に応じない場合、ウクライナへの武器供給が増加する可能性も指摘されている。

 3. 接触ライン(LOC)での停戦と領土問題

 ロシアの最大の目標は、ウクライナ東部の支配地域を維持しつつ、安定した停戦を確立することである。だが、ロシアが併合を宣言したドンバスやヘルソン、ザポリージャ地域においても、完全な制圧は困難であり、軍事的な達成は容易ではない。プーチン大統領はロシア領として宣言した地域を守る意志を示しており、国内の法的要件としてもこれらの領土を放棄することは困難である。

 ただし、接触ラインに沿った停戦が行われ、実質的にこのラインがロシアとウクライナの間の境界線として機能する場合、ロシアはこれを「成功」として宣伝する可能性が高い。このような形での停戦は、ロシアが最大目標を達成できなかったことを認めつつも、ある程度の外交的な成果を誇示する方法となり得る。

 4. NATO加盟問題と安全保障の緩衝地帯

 ロシアが求めるウクライナの「中立化」は、ウクライナのNATO加盟を阻止することが重要な要素となっている。しかし、現在ウクライナはNATO諸国と安全保障に関する協定を複数結んでおり、これにより事実上のNATO加盟と同様の支援を受けている。トランプがNATO加盟を阻止する協定を結ぶとしても、それが実質的にロシアに有利な結果となるかは疑わしい。

 トランプが提案する緩衝地帯がウクライナ国内に設置され、ロシアに対する砲撃や攻撃が制限される場合、ロシアはある程度の安堵を得ることができる可能性がある。この緩衝地帯が十分に広がり、ロシア都市や軍事拠点への直接的な脅威を軽減できるのであれば、ロシアはそれを妥協点として受け入れる可能性がある。

 5. 妥協的な和平の可能性とロシア国内での評価

 ウクライナ問題に関して、ロシア国内の支持層や国際社会のロシア支持層に向けて、最大の目標達成には至らなかったとしても、和平の結果を成功として認識させる必要がある。これにより、ロシア政府は停戦や妥協的な和平を一つの「外交的勝利」として国内で宣伝し、政権の安定を図ることができる。

 加えて、ウクライナもロシアとの直接対決を避けることを望んでいるが、正式に領土問題を解決せずに、暫定的な境界を認める形での停戦が成立する可能性がある。この場合、事実上の東西分断が固定化され、ドイツや韓国のような分断国家のように、停戦が現状維持の形で維持される可能性がある。

 結論

 ロシアはトランプの復帰を歓迎しつつも、最大限の成果を期待せず、現実的な妥協案を模索している。

【要点】

 ・プーチン政権の慎重な態度

 クレムリンは、トランプ再任への期待を抑え、反ロシア的なアメリカの政策が根本的に変わらない可能性が高いと見ている。

 ・ウクライナへの要求:「非武装化」と「非ナチ化」

 ロシアが求める「非武装化」や「非ナチ化」の具体的内容は曖昧で、米国の武器供給停止がない限り現実的な進展は難しい。

 ・接触ライン(LOC)に沿った停戦の模索

 ロシアは、ドンバスなどの支配地域を維持しつつ、接触ラインに沿った停戦ラインを事実上の国境として確立しようとしている。

 ・ウクライナの中立化とNATO加盟阻止

 ロシアはウクライナのNATO加盟を防ぎたいが、現状ウクライナはNATO諸国から支援を受けており、トランプ再任でも実質的に変わらない可能性がある。

 ・緩衝地帯設置による安全保障の確保

 トランプが緩衝地帯の提案を行い、これがロシアの都市や拠点への脅威を軽減するなら、ロシアは妥協する可能性がある。

 ・ロシア国内向けの「和平勝利」宣伝

 ・最大目標に達成できなくとも、停戦や妥協を「外交的勝利」として国内に宣伝し、政権の安定を図る意図がある。

【引用・参照・底本】

View from Moscow: Russia tepidly welcomes Trump’s return ASIATIMES 2024.11.08
https://asiatimes.com/2024/11/view-from-moscow-russia-tepidly-welcomes-trumps-return/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=02dcf2e11e-DAILY_11_11_2024&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-02dcf2e11e-16242795&mc_cid=02dcf2e11e&mc_eid=69a7d1ef3c