米国:ロシアの核の威嚇を受けその目標を放棄2025年02月05日 16:50

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【概要】

 アメリカのウクライナ政策に関する公式の説明と実際の行動の間に乖離があったことを指摘している。特に、当初はウクライナの1991年の国境回復を目指していたにもかかわらず、ロシアの核の威嚇を受けてその目標を放棄したと主張している。

 ポイントとなる論点

 1.公式発表と実際の目標の違い

 ・バイデン政権の元高官エリック・グリーンは、アメリカが最初からウクライナの国境回復を目指していなかったと発言したが、これは過去の声明と矛盾する。
 ・バイデン大統領、NATO、G7の声明などでは「ウクライナの領土保全を支持する」と明確に表明されていた。

 2.米国のウクライナ軍事支援と目標の変遷

 ・2022年初期の声明や支援内容は、ロシア軍の撤退を求め、ウクライナを軍事的に支援する姿勢を示していた。
 ・しかし、2022年9月にロシアが4州の併合を宣言し、プーチンが核使用の可能性を示唆すると、米国は直接的な戦略変更を迫られた。

 3.ロシアの核の威嚇とアメリカの対応

 ・2022年11月のヘルソン反攻では、アメリカはウクライナに対し、ロシア軍が損害を受けすぎないよう退却を許すよう圧力をかけたとされる(ボブ・ウッドワードの本『War』より)。
 ・これは、米国がロシアの核の「レッドライン」を越えないよう慎重に行動していたことを示唆する。

 4.ザポリージャ反攻の失敗と政策の再調整

 ・2023年夏のザポリージャ反攻は失敗し、その後、米国の公式なトーンも「ウクライナの国境回復」から「必要な限り支援する」という曖昧な表現に変わった。
 ・米国はこの時点で「ロシアを完全に押し返すのは非現実的」と判断し始めた可能性がある。

 結論

 バイデン政権が当初はウクライナの国境回復を目標としていたが、ロシアの核の威嚇を受けてその方針を転換し、2023年夏以降は現実的な戦略にシフトしたと分析している。

【詳細】

 要点は、アメリカの「タイム」誌が報じた「バイデン政権は当初からウクライナの全領土奪還を目指していなかった」という主張が誤りであることを示し、実際にはアメリカが当初ウクライナの1991年の国境回復を目標としていたと論じている。

 1. 何が問題になっているのか?

 「タイム」誌は、元バイデン政権の国家安全保障会議(NSC)ロシア・中央アジア担当上級部長であったエリック・グリーンの発言を引用し、「バイデン政権は最初からウクライナの領土奪還を目指していなかった」と報じた。しかし、著者アンドリュー・コリブコは、これは歴史の書き換えであり、実際には当初アメリカはウクライナの領土回復を目指していたと主張している。

 2. アメリカの当初の立場

 バイデン政権の当初の声明を振り返ると、ウクライナの国境回復を明確に支持していたことがわかる。

 2022年2月24日(ロシアの「特別軍事作戦」開始)

 ・バイデンは「国境を武力で変更すること」を非難し、ロシアが「旧ソ連の再建を目指している」と指摘。
 ・NATOの緊急サミットでは、「ロシアはウクライナから全軍を撤退させるべき」とし、「ウクライナの領土保全と主権を支持する」と宣言。
 ・国務省報道官のネッド・プライスは「ウクライナの領土保全を断固として支持する」と発表。

 2022年2月26日

 ・当時の国務長官アントニー・ブリンケンは、バイデンの指示でウクライナへの緊急軍事支援として3億5000万ドルを提供すると発表。
 ・アメリカが主導する国連総会決議も「ウクライナの領土保全を支持し、ロシア軍の撤退を要求」。

 2022年5月(G7声明)

 ・ゼレンスキーとの会談後、G7は「ウクライナの主権と領土保全の防衛を全面的に支持する」と発表。

 2022年9月(バイデンの国連演説)

 ・「アメリカは、武力による領土併合を認めない」と明言。

 2022年10月(ロシアの併合宣言に対するアメリカの反応)

 ・バイデンは「アメリカはウクライナの国際的に認められた国境を常に尊重する」と声明を発表。

 このように、アメリカは当初、ウクライナの領土奪還を支持していたと考えられる。

 3. 転換点:ロシアの核の脅しとアメリカの対応

 2022年9月、ロシアがウクライナの4地域(ドネツク・ルガンスク・ザポリージャ・ヘルソン)を併合した際、プーチンは「ロシアの領土が脅かされれば、あらゆる手段を使う。これはブラフではない」と発言し、核使用の可能性を示唆した。

 ・ヘルソン攻勢とアメリカの介入

  ⇨ ウクライナ軍が9月のハリコフ反攻と11月のヘルソン反攻を成功させたが、ワシントン・ポストの報道によると、ヘルソン戦ではアメリカの関与がより大きかった。
  ⇨ しかし、2022年11月、バイデン政権はウクライナに対し、「ロシア軍3万人の撤退を許すよう」圧力をかけた。
  ⇨ この決定の背景には、ボブ・ウッドワードの著書「War」によると、「ロシアが題記な損害を受けた場合、プーチンが核使用に踏み切る確率が50%ある」とアメリカが判断したことがある。

 つまり、アメリカはロシア軍を撃滅させるよりも、ロシアの「核のレッドライン」を慎重に避ける戦略を採ったとされる。

 4. 2023年の大反攻とアメリカの方針転換

 ウクライナは2023年6月にザポリージャ方面で大規模な反攻を開始。しかし、

 ・アメリカは事前に「ロシアのクリミア回廊(ザポリージャ方面)を攻撃するのは危険」と助言していた。
 ・実際に反攻は失敗し、ウクライナ軍は大きな損害を出した。
 ・その結果、アメリカの公式声明では「ウクライナの国境回復」という表現が減り、「ウクライナを可能な限り支援する」という曖昧な表現に変化した。

 また、2022年11月の時点で統合参謀本部議長のマーク・ミリーは「ウクライナは戦果を活かしてロシアと交渉すべきだ」と提言していたが、ブリンケン国務長官がこれを拒否し、「戦争を続けるべきだ」と主張したことも報じられている。

 5. まとめ

 ・当初、アメリカはウクライナの1991年の国境回復を支持していた

  ⇨ バイデン政権やNATO、G7の声明がそれを裏付ける。
 ・2022年秋、ロシアが併合を宣言し、プーチンが核を示唆すると、アメリカはウクライナの行動を制限し始めた
  ⇨ 例:ヘルソン攻勢でのロシア軍撤退を許容するよう圧力をかけた。
 
 ・2023年の反攻失敗後、アメリカの目標は領土奪還から「可能な限りの支援」に変わった
  ⇨ 「ウクライナが生き残ること」が目的となり、国境回復への言及が減少。

 結論として、アメリカは当初ウクライナの国境回復を目指していたが、ロシアの核の脅しによって「完全勝利」の方針を変更したと考えられる。
 
【要点】
 
 1. 「タイム」誌の主張と問題点

 ・「タイム」誌は、バイデン政権が当初からウクライナの領土奪還を目指していなかったと報じた。
 ・しかし、実際にはアメリカは当初、ウクライナの1991年の国境回復を支持していた。
 ・「タイム」誌の主張が歴史の書き換えであると指摘し、証拠を示して反論している。

 2. アメリカの当初の立場(2022年前半)

 ・2022年2月24日:バイデンは「ロシアはウクライナの領土を侵略している」と非難し、「国境の武力変更を認めない」と表明。
 ・2022年2月26日:国務長官ブリンケンは「ウクライナの領土保全を支持する」と発言し、3億5000万ドルの軍事支援を発表。
 ・2022年5月(G7声明):「ウクライナの主権と領土保全を全面的に支持」と明言。
 ・2022年9月(バイデンの国連演説):「アメリカは武力による領土併合を認めない」と表明。
 ・2022年10月(ロシアの併合宣言):バイデンは「ウクライナの国際的な国境を常に尊重する」と強調。

 3. 転換点:ロシアの核の脅しとアメリカの対応(2022年秋)

 ・2022年9月:ロシアがドネツク・ルガンスク・ザポリージャ・ヘルソンを併合し、プーチンが「核の使用を辞さない」と発言。
 ・2022年11月:ウクライナがヘルソンを奪還する際、アメリカは「ロシア軍3万人の撤退を許すよう」圧力をかけた。
 ・背景:アメリカは「ロシア軍が大きな損害を受けた場合、プーチンが核を使用する確率が50%」と判断(ボブ・ウッドワードの報道)。
 ・結論:アメリカは「ロシアを過度に追い詰める戦略」を回避し始めた。

 4. 2023年のウクライナ大反攻と方針転換

 ・2023年6月:ウクライナがザポリージャ方面で大規模反攻を開始。
 ・アメリカの事前警告:「クリミア回廊を攻撃するのは危険」と助言。
 ・反攻の結果:ウクライナ軍は大きな損害を受け、目標を達成できず失敗。
 ・その後の変化:「ウクライナの国境回復」への言及が減り、「ウクライナを可能な限り支援する」という曖昧な表現に変わる。

 5. まとめ

 ・当初、アメリカはウクライナの1991年の国境回復を支持していた(公式声明多数)。
 ・2022年秋、ロシアの核の脅しを受け、ウクライナの攻勢を制限し始めた(例:ヘルソン攻勢でロシア軍撤退を許容)。
 ・2023年の大反攻失敗後、アメリカの目標は領土奪還から「ウクライナの存続支援」にシフトした。
 ・「タイム」誌の主張(バイデン政権は最初から領土奪還を目指していなかった)は誤りであり、歴史の書き換えである。

【引用・参照・底本】

Time Magazine Is Wrong: Putin’s Nuke Threats Made The US Give Up On Restoring Ukraine’s Borders Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.04
https://korybko.substack.com/p/time-magazine-is-wrong-putins-nuke?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=156439645&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

問題:ウクライナの希土類鉱物資源の大半が現在ロシアの支配下2025年02月05日 18:46

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【概要】

 ドナルド・トランプ大統領がウクライナのレアアース(希土類)鉱物資源に関心を示していることが、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領にとって不利に働く可能性があると指摘している。

 トランプ政権がウクライナ支援をどのように進めるかについては不透明な部分があるが、彼の関心がウクライナの希土類鉱物に向いていることは、ゼレンスキーにとって有利であるとの見方もある。ゼレンスキーの「勝利計画」の一環として、ウクライナの同盟国が国内の重要鉱物資源を採掘することが含まれているためである。

 新たに国務長官に就任したマルコ・ルビオは、中国がレアアース供給網を支配することで得る戦略的優位性について警鐘を鳴らしており、これがトランプの認識に影響を与えた可能性がある。また、リンジー・グラム上院議員は2024年6月にウクライナを訪問し、ウクライナには10~12兆ドル相当の重要鉱物資源があると発言した。トランプ政権の外交方針が中国の影響力抑制に重点を置いていることを踏まえれば、ゼレンスキーの「勝利計画」のこの部分にトランプが関心を持つのは当然といえる。

 しかし、問題はウクライナの希土類鉱物資源の大半が現在ロシアの支配下にあることである。ウクライナ軍は前線で後退を続けており、これらの資源を奪還できるかは不透明である。同時に、トランプ政権のウクライナ・ロシア担当特使であるキース・ケロッグは、ウクライナが選挙を実施する必要があるとの見解を示しており、これはトランプが停戦の仲介に関心を持っていることを示唆している。停戦が成立すれば戒厳令が解除され、選挙が実施され、新政府が和平交渉を開始する可能性がある。

 トランプは、ウクライナへの軍事支援を強化し、ウクライナ軍がこれらの鉱物資源をロシアから奪還することを支援するのではなく、ロシアと取引を行う可能性がある。つまり、トランプはウクライナにロシアが占領している地域から撤退するよう圧力をかける代わりに、プーチンに対して米国への希土類鉱物の供給を求める可能性がある。この取引が成立すれば、トランプにとっては軍事支援を抑えつつ、重要鉱物資源の確保という戦略目標を達成する手段となる。

 プーチンにとっても、この取引は一定の利点がある。ロシアは希土類鉱物資源を完全に活用するための資本と技術を必要としており、それらを米国から供給してもらうことは有益である可能性がある。さらに、米国がこの合意をロシアとEUの関係修復の一歩として活用し、一部のロシア産ガスの輸入再開を認める可能性もある。こうした経済的相互依存の再構築は、米国の管理下で進められることになるが、ロシアにとっても一定の利益をもたらすものである。

 一方で、ウクライナにも一定の選択肢が残る。ロシアの支配下にない希土類鉱物資源がウクライナ国内にも存在し、これを米国に提供することで軍事支援の継続を引き出すことが可能である。ただし、バイデン政権下の2023年夏の大規模反攻の時期と比較すれば、トランプ政権が提供する軍事支援は限定的になると予想される。もしトランプがロシアとの取引を成立させれば、ゼレンスキーにとって他の選択肢はほとんど残らず、ウクライナはこの新たな枠組みに従うしかなくなる可能性がある。

 このシナリオが実現すれば、トランプ政権はウクライナへの支援を最小限に抑えつつ、停戦を実現し、ロシアとの経済的関係を米国の管理下で再構築するという外交的成果を得ることができる。しかし、これには米国とロシア双方の強い意志が必要であり、米国がウクライナに対し強い圧力をかける必要もある。これらの条件がすべて揃う保証はなく、今後の展開は不透明である。

【詳細】

 トランプ前大統領がウクライナのレアアース資源に関心を示していることが、ゼレンスキー政権にとって逆効果となる可能性を論じている。以下、その詳細を整理する。

 トランプのウクライナ政策とレアアース資源への関心

 トランプは大統領として復帰した場合、中国に対抗する戦略の一環として、レアアースの確保を重要視する可能性がある。レアアースは半導体や軍需産業にとって不可欠な資源であり、米国はこれまで中国への依存度を減らす政策を模索してきた。新たな国務長官マルコ・ルビオも、中国がレアアース供給網を支配していることの戦略的リスクを指摘しており、トランプの政策決定に影響を与えたと考えられる。

 ウクライナには推定10~12兆ドル相当の希少鉱物が埋蔵されているとされ、米上院議員リンジー・グラハムは2024年6月の訪問時にこの点を強調した。ゼレンスキーの「勝利計画」には、同盟国にウクライナのレアアース資源採掘を許可する構想が含まれており、トランプがこれに関心を示すことは自然な流れである。しかし、ウクライナの重要な鉱床の多くはすでにロシアが支配しているため、この問題は戦略的に複雑なものとなる。

 トランプの選択肢:軍事支援強化かロシアとの取引か
トランプは、ウクライナへの軍事支援を強化し、ゼレンスキー政権がロシア支配下のレアアース鉱床を奪還するのを支援する道を選ぶこともできる。しかし、これは長期的な紛争継続につながるため、トランプの基本的な外交方針と矛盾する。トランプは中国への圧力を強化しつつ、ロシアとは一定の関係改善を模索する可能性があるため、軍事的エスカレーションよりも交渉による解決を目指す可能性が高い。

 この観点から、トランプがロシアと取引を行い、ロシア支配下のレアアース資源の一部を米国に輸出させる可能性が浮上する。その際、トランプはウクライナに対し、ロシアが占領する領土の一部から撤退するよう圧力をかけるかもしれない。

 ロシアにとっての利点と条件

 プーチン大統領がこの取引に応じる可能性は、トランプがウクライナにどの程度の譲歩を迫るかによって左右される。ロシアはレアアース資源を完全に活用するための資本と技術を必要としており、米国がこれを提供するならば、経済的な利益は大きい。特に、制裁下にあるロシアにとって、凍結された資産の一部が解放され、その資金がレアアース採掘に投資されるという条件が付く可能性がある。

 さらに、この取引が成立すれば、欧州連合(EU)とロシアの経済的相互依存関係を部分的に復活させる契機となるかもしれない。米国の監督下でEUがロシア産エネルギーの輸入を部分的に再開する可能性もあり、これはロシアにとって大きな外交的・経済的利益となる。

 ウクライナにとっての影響

 ウクライナは、現在ロシア支配下にあるレアアース資源を取り戻すことが難しくなり、ゼレンスキーの「勝利計画」の一部が実現不可能となる可能性がある。しかし、完全に孤立するわけではなく、ウクライナ領内に残されたレアアース資源を米国に提供することで、引き続き軍事支援を受ける道は残される。ただし、その支援規模は、バイデン政権下での大規模な援助よりも縮小される可能性が高い。

 トランプがロシアとの取引を優先する場合、ゼレンスキー政権は米国からの全面的な支援を受けられなくなり、和平交渉を受け入れざるを得ない状況に追い込まれる可能性がある。特に、米国のウクライナ特使キース・ケロッグがウクライナに選挙の実施を求めたことは、戦時体制を終結させる方向への布石と見ることができる。

 結論

 トランプがウクライナのレアアース資源に関心を持つことは、ゼレンスキー政権にとって必ずしも有利には働かない。トランプがロシアとの取引を選択した場合、ウクライナは戦況の悪化とともに、戦争目的の修正を迫られる可能性が高い。これは和平の実現という点では望ましいが、ウクライナにとっては苦渋の決断となる。

 最終的に、このシナリオが実現するかどうかは、トランプがどこまでロシアとの交渉を進めるか、ウクライナにどの程度の圧力をかけるか、そしてプーチンがどのような条件で合意するかにかかっている。いずれにせよ、ウクライナ紛争における米国の立場は、バイデン政権時代とは大きく異なるものとなる可能性が高い。
 
【要点】
 
 トランプのウクライナ政策とレアアース資源への関心

 ・トランプは中国への対抗策としてレアアース確保を重視する可能性が高い。
 ・ウクライナには10~12兆ドル相当の希少鉱物が埋蔵されていると推定される。
 ・ゼレンスキーの「勝利計画」には、同盟国にウクライナのレアアース採掘を許可する構想が含まれる。
 ・主要な鉱床の多くは現在ロシアが支配しているため、戦略的に複雑な状況にある。

 トランプの選択肢

 1. 軍事支援強化

 ・ウクライナへの軍事支援を増やし、ロシア支配下の鉱床奪還を支援する。
しかし、トランプの外交方針(紛争縮小・支出削減)とは矛盾する。
 
 2.ロシアとの取引

 ・トランプはロシアと交渉し、ロシア支配下のレアアース資源を米国に輸出させる可能性がある。
 ・その場合、ウクライナに対し、ロシア占領地の一部を諦めるよう圧力をかける可能性がある。

 ロシアにとっての利点と条件

 ・レアアース採掘には資本と技術が必要で、米国が協力すればロシアにとって経済的利益となる。
 ・制裁解除や凍結資産の一部解放が交渉の条件となる可能性がある。
 ・EUがロシア産エネルギーの輸入を部分的に再開する可能性も浮上。

 ウクライナへの影響

 ・ロシア支配下のレアアース資源を取り戻せなくなる可能性が高い。
 ・トランプ政権下ではウクライナへの軍事支援が縮小する可能性がある。
 ・米国のウクライナ特使キース・ケロッグがウクライナに選挙実施を求めており、戦時体制終了への圧力が強まる。
 ・ゼレンスキー政権は和平交渉を受け入れざるを得ない状況に追い込まれる可能性がある。

 結論

 ・トランプのレアアース資源への関心は、ゼレンスキー政権にとって必ずしも有利ではない。
 ・トランプがロシアとの取引を進めた場合、ウクライナは戦況の悪化とともに戦争目的の修正を迫られる可能性がある。
 ・米国のウクライナ政策はバイデン政権時代とは大きく異なるものになる可能性が高い。

【引用・参照・底本】

Trump’s Interest In Ukraine’s Rare Earth Minerals Might Backfire On Zelensky Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.04
https://korybko.substack.com/p/trumps-interest-in-ukraines-rare?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=156442896&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

モディ首相の訪米とインド・米国関係の展望2025年02月05日 19:05

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【概要】

 インドのモディ首相は2月12日から14日にかけて訪米し、トランプ大統領と会談を行う予定である。この会談では貿易と軍事協力が主要議題となるが、インド側はロシアとの関係および「カリスタン」問題についても米国の支持を得ることを目指している。

 貿易に関しては、トランプ大統領は過去にモディ首相の関税政策を批判したことがあるが、インドは最近、一部の関税を引き下げた。これを受けて、自由貿易協定(FTA)の交渉が開始される可能性がある。軍事面では、米国とインドは共に中国の軍事的影響力を抑制する意向を持っており、トランプ政権はインドとの協力を強化する姿勢を示している。そのため、大規模な武器売却や、それに関する交渉の開始が期待される。

 トランプ政権はインドを中国に対する部分的な経済・軍事的カウンターウェイトと見なしている。ただし、インドが完全にその役割を果たすことは困難であり、限定的なものにとどまる可能性が高い。しかし、それでも米国にとって戦略的に重要な役割を担うことに変わりはない。バイデン政権はインドの民主主義や人権問題を重視し、これに関する批判を行っていたが、これが両国の信頼関係を損なう要因となった。一方、トランプ政権の外交政策はネオリアリズムに基づく現実的な利益重視のアプローチを採用しており、この点でモディ政権との相性が良いと考えられる。

 モディ首相は今回の訪米を機に、ロシアおよび「カリスタン」問題についてもトランプ大統領の支持を得ようとしている。ロシアに関しては、インドがロシアとの貿易を拡大した理由について、ロシアが過度に中国に依存することを防ぐためであると説明すると考えられる。もしロシアが中国の資源供給国としての役割を強めれば、中国の超大国化が加速する可能性があるため、インドの行動は米国の戦略的利益にも合致すると主張する可能性がある。そのため、インドとしては米国に対し、ロシアとのエネルギー貿易やイラン経由の貿易に関する二次制裁の免除を求めることが予想される。

 「カリスタン」問題に関しては、モディ首相がトランプ大統領に対し、北米に拠点を持つ過激派組織の活動に関する詳細な資料を提供すると考えられる。特に、これらの組織が麻薬取引に関与し、その資金をテロ活動に使用している可能性がある点を強調すると見られる。トランプ大統領は麻薬犯罪への対応を重視しており、カナダ政府がこの問題に対して消極的な姿勢を示していることを踏まえ、モディ首相は米国がカナダ政府に対し、これらの組織への取り締まりを強化するよう働きかけることを期待している。

 もしインドがこれらの問題について米国の支持を得ることができれば、中国への対抗策としての戦略的役割を強化し、バイデン政権時代に損なわれた信頼関係の修復につながると考えられる。トランプ政権としても、中国の台頭を抑制し、インドとの協力関係を強化することは、米国の国益に適うものである。

【詳細】

 モディ首相の訪米とインド・米国関係の展望

 インドのナレンドラ・モディ首相は、2025年2月12日から14日にかけて米国を訪問し、ドナルド・トランプ大統領と首脳会談を行う予定である。この訪問の主な議題は貿易と軍事協力であるが、インド側はロシアとの経済関係および「カリスタン」問題についても米国の支持を得ることを目指している。

 貿易問題:関税引き下げとFTA交渉の可能性

 インドと米国の貿易関係は、関税政策を巡る対立を抱えていた。トランプ大統領は過去にインドの関税政策を批判し、特に米国製品への高関税を問題視していた。しかし、インド政府は最近、一部の関税を引き下げており、これにより米国との貿易交渉の進展が期待されている。

 現在、インドと米国の間では自由貿易協定(FTA)の交渉開始の可能性が浮上している。インドは国内の製造業と農業を保護するため、これまで自由貿易協定に慎重な姿勢を取ってきたが、中国との競争激化や経済成長の促進を目的として、より開放的な貿易政策へと移行しつつある。トランプ政権は「米国第一主義」を掲げる一方で、インドとの経済関係を重視しており、関税引き下げの動きがFTA交渉の進展に寄与する可能性がある。

 軍事協力:インド太平洋戦略と対中国政策

 軍事面では、インドと米国は共に中国の軍事的台頭を抑制することに関心を持っている。トランプ政権は中国を米国の主要な競争相手と見なし、経済・軍事の両面で中国への対抗策を強化している。そのため、インドとの軍事協力は、米国のインド太平洋戦略の重要な要素となっている。

 具体的には、次のような協力が考えられる。

 1.武器売却と技術移転

 ・米国はインドに対し、高度な兵器システムの供給を拡大する可能性がある。過去にはP-8I哨戒機やMH-60Rシーホークヘリコプター、S-400ミサイル防衛システムに関する取引が行われたが、今回はさらに大規模な武器売却が協議される可能性がある。
 ・特に、次世代戦闘機やドローン技術、ミサイル防衛システムの共同開発が議題に上がると見られる。

 2.合同軍事演習の拡大

 ・米印両国は「マラバール」演習をはじめとする合同軍事演習を実施しており、これをさらに拡大する可能性がある。
 ・インド太平洋地域における海軍協力の強化が期待される。

 3.インドの防衛産業の強化

 ・米国はインドの「Make in India」政策を支持し、防衛産業の成長を支援する可能性がある。これにより、インド国内での米国製兵器の生産が促進される。

 ロシアとの関係:制裁免除と経済バランス

 インドはロシアとの貿易関係を拡大しており、特にエネルギー分野での協力を深めている。バイデン政権はロシアへの制裁を強化し、インドにもロシアとの取引を縮小するよう圧力をかけてきた。しかし、インド側は、ロシアが過度に中国に依存することを防ぐために、経済協力が不可欠であると主張している。

 モディ首相は、インドのロシアとの経済関係が「ロシアの中国依存を防ぎ、結果的に米国の利益にもなる」という論理をトランプ大統領に説明すると考えられる。もしロシアが中国の「資源供給国」としての役割を強めれば、中国の経済的・軍事的台頭が加速し、米国にとって不利な状況を生み出す可能性がある。したがって、インドのロシアとの貿易を認めることは、米国の対中戦略にも合致すると主張するだろう。

 具体的な要求としては、以下の点が挙げられる。

 ・ロシアとのエネルギー取引に対する二次制裁の免除
 ・インドとロシアの貿易ルート(特にイラン経由の輸送ルート)に対する米国の黙認
 ・ロシア産原油の決済に関する制裁の緩和

 「カリスタン」問題:米国・カナダの対応強化

 「カリスタン」問題とは、一部のシク教徒によるパンジャーブ独立運動であり、インド政府はこれをテロ活動とみなしている。特に、北米(米国・カナダ)にはカリスタン独立を支持する過激派グループが存在しており、インド政府はこれらの団体が麻薬取引を通じて資金を調達し、インド国内での活動を支援していると主張している。

 モディ首相は、トランプ大統領に対し、「これらのグループが麻薬取引に関与しており、米国の麻薬犯罪対策にも影響を与えている」という点を強調すると考えられる。トランプ政権は麻薬犯罪に厳しい姿勢を取っており、特にメキシコの麻薬カルテルに対して強硬策を進めている。カリスタン派過激派が麻薬資金を使ってテロ活動を行っているという証拠を提供することで、トランプ政権に取り締まりを求める可能性が高い。

 また、カナダ政府の対応についても議題となる可能性がある。ジャスティン・トルドー首相は、カリスタン派過激派に対する取り締まりに消極的であるとインド側は批判している。モディ首相は、米国がカナダ政府に圧力をかけ、これらの団体の活動を制限するよう求める可能性がある。

 結論

 モディ首相の訪米は、インド・米国関係を強化する重要な機会である。貿易・軍事協力の深化に加え、ロシアとの関係維持と「カリスタン」問題の解決に向けた米国の支持を得ることが目標となる。特に、トランプ政権が中国を最大の競争相手と見なしていることを利用し、インドの戦略的重要性を強調することで、これらの要求を実現しようとするだろう。
 
【要点】
 
 モディ首相の訪米とインド・米国関係の展望(2025年2月12日~14日)

 主要議題

 ・貿易関係の強化(関税引き下げ・自由貿易協定(FTA)交渉)
 ・軍事協力(対中国戦略・武器売却・共同訓練)
 ・ロシアとの経済関係維持(制裁免除の交渉)
 ・「カリスタン」問題(米国・カナダでの過激派取締り要請)

 貿易問題

 ・インドは一部関税を引き下げ、米国との貿易交渉を前進させる狙い
 ・FTA交渉開始の可能性(インドは従来慎重だったが、開放的な貿易政策へ転換しつつある)
 ・トランプ政権は「米国第一主義」を掲げながらも、インドとの経済関係を重視
 ・交渉の焦点は米国製品への関税削減と市場開放

 軍事協力(対中国政策)

 1.武器売却と技術移転

 ・次世代戦闘機、ドローン、ミサイル防衛システムの導入・共同開発
 ・インドの「Make in India」政策に基づく防衛産業支援

 2.合同軍事演習の拡大

 ・「マラバール」演習の強化(インド・米国・日本・オーストラリアの連携強化)
 ・インド太平洋地域での共同作戦能力向上

 3.中国牽制

 ・インド太平洋戦略におけるインドの役割強化
 ・米国の中国包囲網(QUAD)への協力強化

 ロシアとの経済関係維持

 ・インドはロシア産エネルギーの輸入を継続
 ・米国の対ロ制裁がインド経済に影響を与えるため、制裁免除を交渉
 ・インドの主張:「ロシアの中国依存を防ぐためにインドがロシアとの取引を維持することが重要」
 ・具体的要求

  ⇨ ロシアとのエネルギー取引に対する二次制裁の免除
  ⇨ インド・ロシアの貿易ルート(イラン経由)に対する米国の黙認
  ⇨ ロシア産原油の決済に関する制裁緩和

 「カリスタン」問題(インド国内の分離独立運動)

 ・シク教徒の一部がパンジャーブ独立を主張(インド政府は過激派と認識)
 ・北米(米国・カナダ)に拠点を持つカリスタン派グループが麻薬取引を通じて資金調達
 ・インドの要求:米国・カナダでのカリスタン派の取り締まり強化
 ・トランプ政権は麻薬犯罪に厳しいため、麻薬資金の流れを証拠として取り締まりを要請
 ・カナダ政府の対応に不満(トルドー政権の消極姿勢を批判)→米国がカナダへ圧力をかけるよう要請

 結論

 ・モディ首相の訪米は貿易・軍事・外交の重要な転換点
 ・インドは対中戦略での重要性をアピールし、米国の支持を獲得しようとする
 ・米国はインドとの協力を強化しつつ、ロシアとの関係維持を巡り調整が必要
 ・カリスタン問題は米加関係にも影響を及ぼす可能性あり

【引用・参照・底本】

Modi & Trump Will Talk About More Than Just Trade & Military Topics During Their Summit Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.04
https://korybko.substack.com/p/modi-and-trump-will-talk-about-more

サウジアラビア:BRICS正式加盟への逡巡2025年02月05日 19:47

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【桃源寸評】

 政治は正しく"風見鶏"か。そう云えば"政界の風見鶏"という決まり文句があった。

【寸評 完】

【概要】

 サウジアラビアがBRICS正式加盟を保留している理由は、多極的な外交戦略の維持、地政学的リスクの回避、そして経済的利益の確保にある。

 第一に、西側諸国からの見方に配慮する必要がある。BRICSは反西側のブロックと見なされることがあり、サウジアラビアが正式加盟すれば、そのイメージを固定化する可能性がある。特に、サウジアラビアは過去に西側と緊密な関係を築いてきたが、近年はインドのように多方面と協調する「マルチアライメント(多極的戦略)」を採用している。この外交路線を崩すことは、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(MBS)の戦略にとって望ましくない。

 第二に、BRICSの加盟国であるイランとの関係が障害となっている。現在、イランはフーシ派(フーシー派)を支援しており、彼らは紅海での攻撃を活発化させている。この状況下で、サウジアラビアがイランと同じ国際組織に正式加盟することは、外交的な整合性を損ないかねない。また、イランはハマスを支援しており、2023年10月7日の攻撃により、サウジアラビアが重要な役割を担う予定だった「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)」の進行が遅れている。

 第三に、米国とイスラエルの影響が強く関係している。IMECの主要投資国である両国は、サウジアラビアがイランと同じBRICSに加盟することを歓迎しない可能性が高い。特に、米国のドナルド・トランプ前大統領が再び政権を握る場合、イランに対する「最大限の圧力」政策を再開するとされており、この状況下でBRICS加盟を決定すれば、米国との関係が悪化する恐れがある。IMECは「ビジョン2030」にとって重要なプロジェクトであり、サウジアラビアはその進展を優先するため、米国とイスラエルとの協調を維持する必要がある。

 また、BRICS自体が加盟国に明確な経済的利益を提供していない点も考慮される。BRICSはドルに対抗する新通貨を創設するとの誤解があるが、インド外相スブラマニヤム・ジャイシャンカルはこの主張を否定している。それにもかかわらず、トランプ政権がそのような見方をする可能性があり、サウジアラビアがBRICS正式加盟に踏み切れば、経済的な制裁や投資の減少を招く危険がある。

 結論として、サウジアラビアはBRICSの知識共有やネットワーク構築の恩恵を受けつつも、正式加盟による政治的・経済的リスクを回避するという合理的な戦略を採っている。この「曖昧な立場」を維持することで、西側諸国と「世界多数派(World Majority)」の間で柔軟に外交関係を調整することが可能となる。このため、サウジアラビアが正式加盟を無期限に先送りする可能性は高い。

【詳細】

 サウジアラビアがBRICS正式加盟を保留する理由とその背景

 サウジアラビアは、2023年にBRICSから正式な加盟招待を受けたものの、2024年時点でまだ決定を下していない。この遅延は偶然ではなく、サウジアラビアの外交・経済・地政学的な戦略に基づいた慎重な判断である。以下、主な理由を詳述する。

 1. 西側諸国との関係維持と「マルチアライメント」戦略

 1.1 BRICSの「反西側」イメージを避ける

 BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカに加え、新たにエジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、アルゼンチンが加盟予定)は、特にロシアや中国によって「グローバル・サウス(世界多数派)」を代表する勢力として位置づけられている。しかし、米国や欧州諸国はこれを「反西側ブロック」と見なしている。

 サウジアラビアは、長年にわたり西側諸国と強固な関係を築いてきたが、近年は「マルチアライメント(多極外交)」を採用し、米国やEUとの関係を維持しつつ、中国やロシアとも協力を深めている。BRICSに正式加盟すれば、サウジアラビアが「反西側ブロック」に属するとの誤解を招き、西側との関係に悪影響を及ぼす可能性がある。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(MBS)は、このようなリスクを避けるため、加盟を慎重に検討している。

 1.2 インドの戦略を参考にした柔軟な外交政策

 サウジアラビアは、インドの外交政策を参考にしている可能性がある。インドはBRICSの創設メンバーでありながら、米国との防衛・経済協力を拡大しており、バランスの取れた外交を展開している。サウジアラビアも、BRICSとの協力を強化しながら、西側との関係を維持することで、最適なポジションを確保しようとしている。

 2. イランとの対立と紅海危機

 2.1 BRICS加盟国にイランが含まれることへの懸念

 サウジアラビアとイランは歴史的に対立関係にあるが、2023年には中国の仲介により国交を正常化した。しかし、両国の根本的な対立は解消されておらず、サウジアラビアがBRICSに加盟すれば、イランと同じ経済・政治グループに属することになる。この状況は、サウジアラビア国内の保守派や安全保障関係者の間で懸念を生んでいる。

 2.2 フーシ派(フーシー派)との対立と紅海危機

 イランはフーシ派を支援しており、フーシ派は2023年末から紅海での攻撃を活発化させている。サウジアラビアは長年にわたりフーシ派と戦ってきたが、BRICSに加盟すれば、イランと同じ国際組織に属することになり、外交的な整合性を損なう可能性がある。また、紅海危機が継続する中で、サウジアラビアがBRICS加盟を決定すれば、西側諸国からの圧力が強まる可能性もある。

 3. 米国とイスラエルの圧力とIMEC(インド・中東・欧州経済回廊)

 3.1 米国の対BRICS政策とトランプ政権の影響

 ドナルド・トランプ前大統領が2024年に再選される可能性が高まる中、サウジアラビアは米国の対BRICS政策を考慮せざるを得ない。トランプはBRICSを「反米組織」と見なし、特に「BRICSによるドル支配への挑戦」と捉えている。インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は、BRICSが新通貨を創設する計画はないと明言しているが、トランプがこれを信じない可能性がある。サウジアラビアがBRICSに正式加盟すれば、トランプ政権は報復措置を取る可能性があり、これがサウジアラビアの経済・安全保障政策に影響を及ぼす可能性がある。

 3.2 IMEC(インド・中東・欧州経済回廊)の重要性

 サウジアラビアにとってIMECは、経済戦略の中心的なプロジェクトである。この回廊は、インドから中東を経由して欧州へと至る経済・物流ネットワークであり、サウジアラビアが主要なハブとなる予定だった。しかし、2023年10月7日のハマスの攻撃により、IMECの進行が遅れている。IMECの成功には、米国とイスラエルの協力が不可欠であり、サウジアラビアがBRICSに加盟すれば、米国とイスラエルの反発を招き、IMECが頓挫する可能性がある。

 4. BRICS加盟の経済的利益が不透明

 4.1 BRICS加盟国に対する具体的な経済的利益がない
BRICSは経済協力を掲げているが、現時点では加盟国に明確な経済的メリットを提供していない。例えば、BRICS銀行(新開発銀行)は存在するものの、資金供給の規模は限定的であり、サウジアラビアが期待するような大規模投資の支援は期待できない。

 4.2 サウジアラビアの経済戦略との整合性

 サウジアラビアは「ビジョン2030」に基づき、エネルギー産業の多角化、観光産業の発展、大規模インフラ投資を推進している。BRICSに加盟しても、これらの戦略目標を達成するための直接的な支援は得られない。一方、米国や欧州との経済関係を維持すれば、より確実な投資と技術支援を受けることができる。

 結論:サウジアラビアは加盟決定を無期限に先送りする可能性が高い
サウジアラビアがBRICS加盟を決定しない理由は、外交・安全保障・経済の各分野で慎重なバランスを取る必要があるからである。BRICSとの関係を維持しながらも、西側との関係を損なわないようにすることで、最大限の利益を確保しようとしている。MBSはこの戦略を継続し、正式加盟を無期限に先送りする可能性が高い。
 
【要点】
 
 サウジアラビアがBRICS正式加盟を保留する理由

 1. 西側諸国との関係維持と「マルチアライメント」戦略

 ・BRICSの「反西側」イメージを避ける

  ⇨ BRICSは中国・ロシア主導で「反西側ブロック」と見なされる傾向がある。
  ⇨ 加盟すれば、米国やEUとの関係悪化を招く可能性がある。

 ・インドの戦略を参考にした柔軟な外交政策

  ⇨ インドはBRICS加盟国でありながら米国とも協力関係を維持している。
  ⇨ サウジアラビアも同様にバランス外交を志向している。

 2. イランとの対立と紅海危機

 ・BRICS加盟国にイランが含まれることへの懸念

  ⇨ サウジアラビアとイランは歴史的に対立関係にある。
  ⇨ BRICS加盟で同じ枠組みに属することは安全保障上のリスクになり得る。

 ・フーシ派(フーシー派)との対立と紅海危機

  ⇨ イランが支援するフーシ派が紅海で攻撃を続けており、サウジと緊張関係にある。
  ⇨ BRICS加盟は、この問題を複雑化させる可能性がある。

 3. 米国とイスラエルの圧力とIMEC(インド・中東・欧州経済回廊)

 ・米国の対BRICS政策とトランプ政権の影響

  ⇨ トランプ前大統領が再選された場合、BRICS加盟国への圧力を強める可能性がある。
  ⇨ サウジが加盟すれば、米国の制裁や報復措置を招くリスクがある。

 ・IMEC(インド・中東・欧州経済回廊)の重要性

  ⇨ 米国・インド・欧州が推進するIMECはサウジの経済戦略にとって重要。
  ⇨ BRICS加盟で米国・イスラエルの反発を招けば、IMECの推進が難しくなる。

 4. BRICS加盟の経済的利益が不透明

 ・BRICS加盟国に対する具体的な経済的利益がない

  ⇨ BRICS銀行(新開発銀行)の資金供給は限定的で、サウジの期待する投資支援は得られにくい。
  ⇨ 米欧との経済関係を維持したほうが安定した投資と技術支援を確保できる。

 ・サウジアラビアの経済戦略との整合性

  ⇨ 「ビジョン2030」に基づくエネルギー多角化や観光業振興とBRICS加盟の直接的な関連が薄い。
  ⇨ 西側諸国との関係を重視する方が経済発展に資する可能性が高い。

 結論

 ・サウジアラビアはBRICSとの関係を維持しつつ、正式加盟は無期限に先送りする可能性が高い。
 ・MBSは「マルチアライメント戦略」に基づき、BRICSと西側の両方との関係を慎重に管理している。

【引用・参照・底本】

Saudi Arabia Has Good Reason To Dillydally On Formally Joining BRICS Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.05
https://korybko.substack.com/p/saudi-arabia-has-good-reason-to-dillydally?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=156508453&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

HRW:米国がイスラエルの戦争犯罪の「共犯」となると警告2025年02月05日 21:30

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【概要】

 米国の人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は2月4日、ドナルド・トランプ大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の会談を前に、米国がイスラエルの戦争犯罪に「共犯」となると警告した。

 HRWの声明によれば、米国のイスラエルへの軍事支援は「前例のない」ものであり、バイデン政権時代から継続されてきた。バイデン政権は、イスラエル軍が米国製の武器を使用して戦争犯罪を行っているという証拠があるにもかかわらず、軍事支援を続けたため、すでに「重大な人権侵害への共犯」となっていたと指摘されている。

 HRWの主任アドボカシー責任者であるブルーノ・スターニョ氏は、「トランプ大統領がバイデン政権のガザにおけるイスラエル政府の残虐行為への共犯関係を断ち切りたいのであれば、直ちにイスラエルへの武器供与を停止すべきである」と述べた。また、トランプ大統領が「ガザの戦争は『我々の戦争ではなく、彼らの戦争』」と発言しているものの、米国が軍事支援を続ける限り「ガザはトランプの戦争にもなる」と警告した。

 報道によれば、イスラエルのガザ侵攻開始から1年の間に、米国は過去最高の179億ドル(約2兆6500億円)の軍事支援を実施したとされる。さらに、バイデン政権は今後数カ月から数年にかけて200億ドル以上の武器供与を承認している。

 HRWの声明では、バイデン政権の高官が、イスラエル軍が米国製の武器を使用してガザで重大な人権侵害を行っている証拠を十分に認識していたと指摘。人権・人道支援団体や独立した専門家が米政府に対し広範な証拠を提出し、政府内部の公務員も同様の報告を行っていたという。

 トランプ大統領は就任後2週間で、イスラエルへの追加の武器供与を承認しており、停戦合意の維持を目指すとされるホワイトハウスの方針と矛盾する動きを見せている。イスラエル側は、すでに停戦合意を複数回違反しているとパレスチナ側は主張している。イスラエルの元駐米大使であるマイク・ヘルツォグ氏によれば、トランプ政権はバイデン政権が一時停止していた2000ポンド爆弾のイスラエルへの出荷を再開する見込みだという。

 また、ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によると、トランプ政権は議会に対し、イスラエルへの10億ドル規模の武器移転を通告したとされる。この取引には4700発の1000ポンド爆弾(7億ドル相当)と、3億ドル以上のキャタピラー社製ブルドーザーが含まれているという。

 ネタニヤフ首相は2月6日にホワイトハウスを訪れ、トランプ大統領と会談を行う予定であり、この場でバイデン政権が退任前に提案した80億ドル規模の武器取引の実行を求めると報じられている。この取引は議会の一部民主党議員によって保留されているとされる。

 人権団体はこの会談に懸念を示しており、アムネスティ・インターナショナルは2月4日の声明で「米国は国際司法を軽視している」と非難した。イスラエルのネタニヤフ首相は国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪および人道に対する罪で訴追されており、アムネスティは「米国は彼を逮捕せず、独自の調査も行わずに歓迎している。これはバイデン政権の方針を継承し、国際司法を否定する行為である」と指摘した。

 HRWは、武器供与に加え、米中央情報局(CIA)や国防総省(ペンタゴン)がイスラエル政府と緊密に協力してガザ攻撃を支援していると述べた。このような支援は、米国の戦争犯罪への関与を一層深める可能性があると警告している。

 HRWは声明で「米政府関係者も、イスラエル軍の戦争犯罪を『幇助・教唆』したとして刑事責任を問われる可能性がある」と指摘し、「イスラエル軍がパレスチナの民間人に対して広範かつ重大な戦争犯罪を行っている限り、米国は軍事支援および武器売却を停止すべきである」と述べた。さらに、米国が武器を提供した結果として生じた戦争犯罪に対し、ガザの再建と被害者への補償に貢献すべきであると提言した。

【詳細】

 2025年2月4日にTruthoutが公開したものであり、Human Rights Watch(HRW)が、米国がイスラエルに対する軍事援助を継続する限り、イスラエルの戦争犯罪に加担することになると警告している内容を報じている。特に、ドナルド・トランプ米大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の会談を前に発表されたHRWの声明に焦点を当てている。

 HRWの主張とトランプ政権の対応

 HRWは、トランプ政権がイスラエルのガザ攻撃を支持し続ける限り、米国の責任は免れないと指摘している。声明の中で、HRWの首席アドボカシー責任者であるブルーノ・スタグノ氏は、トランプ大統領が「ガザでの戦争は我々の戦争ではなく、彼らの戦争だ」と発言したにもかかわらず、米国の軍事支援が続く限り「ガザはトランプの戦争でもある」と警告した。

 バイデン政権もイスラエルに対する軍事支援を継続していたが、HRWはその時点ですでに米国がイスラエルの「重大な人権侵害」に加担していたと指摘している。バイデン政権は、イスラエル軍が米国製の武器を使用して戦争犯罪を犯した証拠があるにもかかわらず、武器供与を続けていたという。

 米国の武器供与の詳細

 記事によると、イスラエルによるガザでの戦争が開始されてから最初の12か月間で、米国は史上最多となる179億ドル(約2兆6500億円)の軍事支援を行った。これには、

 ・数万発の爆弾
 ・砲弾
 ・その他の兵器

が含まれている。このうち200億ドル(約3兆円)相当の武器供与がバイデン政権下で承認され、今後も継続的に送られる予定であった。

 トランプ政権が発足してからわずか2週間で、さらに追加の10億ドル(約1500億円)の武器供与が承認されており、具体的には、

 ・4700発の1000ポンド(約450kg)爆弾(約7億ドル分)
 ・キャタピラー社製のブルドーザー(約3億ドル分)
が含まれていると報じられている。特に、2000ポンド(約900kg)爆弾の供与については、バイデン政権下で一時保留されていたものの、トランプ政権がこの制限を解除する可能性があると元イスラエル駐米大使のマイク・ヘルツォグ氏が述べている。

 ネタニヤフ首相の訪米と追加の軍事支援要請

 ネタニヤフ首相は、トランプ大統領との会談のために訪米し、

 ・バイデン政権が承認し、議会で保留されている80億ドル(約1.2兆円)の軍事支援の早期実施を求めるとされている。

 しかし、この軍事支援は一部の民主党議員によって議会で阻止されていると報じられている。

 米国の戦争犯罪への関与と国際的な批判

 人権団体からは、ネタニヤフ首相の訪米に対して強い批判が出ている。アムネスティ・インターナショナルは声明で、ネタニヤフ首相が国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪および人道に対する罪で訴追されていることに言及し、「米国は国際正義への軽視を示している」と非難した。

 HRWも、米国政府の関与が単なる武器供与にとどまらず、CIAや国防総省がイスラエル政府と協力してガザでの戦争を支援していると指摘し、

 ・米国政府関係者が「戦争犯罪の幇助」により刑事責任を問われる可能性
 ・米国がイスラエルの戦争犯罪に使用される武器を供与し続ける限り、軍事支援の即時停止が必要
 ・ガザの再建および被害に対する補償に米国も責任を負うべき
と主張している。

 独立系メディアとしてのTruthoutの立場

 この記事の末尾では、Truthoutが独立系メディアとしての使命を強調し、

 ・企業広告を掲載しない
 ・有料の壁を設けない(ペイウォールなし)
 ・「真実を大声で伝える」ことを最優先する

という姿勢を強調している。

 特に、トランプ政権による報道の抑圧やジャーナリズムへの攻撃が懸念される中で、Truthoutは「権力に屈せず報道を続ける」と宣言している。

 総括

 ・HRWは、米国がイスラエルの戦争犯罪に加担していると非難
 ・バイデン政権下でも軍事支援が続き、トランプ政権はさらに加速
 ・トランプ政権は、バイデン政権が保留した爆弾供与の再開を検討
 ・ネタニヤフ首相は訪米し、さらなる軍事支援を要請予定
 ・米国の支援は武器供与にとどまらず、CIAや国防総省の関与も指摘
 ・国際人権団体は、ネタニヤフの訪米自体を非難し、ICCへの対応を求める
 ・独立メディアTruthoutは、権力に屈せず報道を継続すると表明

 以上のように、この記事は米国がイスラエルの戦争犯罪に加担している可能性と、その責任を追及する国際社会の動きを詳細に報じている。
 
【要点】
 
 1. HRWの主張

 ・米国はイスラエルの戦争犯罪に加担していると警告。
 ・米国の軍事支援が続く限り、戦争犯罪の責任を免れないと指摘。
 ・トランプ政権はガザ戦争を「イスラエルの戦争」と言いつつ、武器供与を継続。

 2. 米国の武器供与の詳細

 ・イスラエルのガザ攻撃開始から**12か月間で179億ドル(約2兆6500億円)**の支援。
 ・バイデン政権が200億ドル(約3兆円)相当の武器供与を承認。
 ・トランプ政権発足後、さらに10億ドル(約1500億円)の追加支援。
 ・4700発の1000ポンド爆弾(約7億ドル分)、キャタピラー社製ブルドーザー(約3億ドル分)を供与。
 ・バイデン政権が保留した2000ポンド爆弾の供与をトランプ政権が再開する可能性。

 3. ネタニヤフ首相の訪米と追加支援要請

 ・米国訪問の目的:議会で保留中の80億ドル(約1.2兆円)の軍事支援の早期実施を求める。
 ・一部の民主党議員がこの支援に反対し、阻止を試みている。

 4. 国際的な批判と戦争犯罪の責任

 ・アムネスティ・インターナショナル:「ネタニヤフはICCで戦争犯罪の訴追対象、米国の対応は国際正義の軽視」。
 ・HRW:「米国は武器供与だけでなく、CIAや国防総省を通じてガザ戦争を支援」。
 ・米国政府関係者が戦争犯罪の幇助で刑事責任を問われる可能性。
 ・米国はガザの再建や被害補償に責任を負うべき。

 5. 独立メディアとしてのTruthoutの立場

 ・企業広告なし・ペイウォールなしで「真実を伝える」姿勢を強調。
 ・トランプ政権による報道抑圧やジャーナリズム攻撃に対抗する決意を表明。

 総括

 ・HRWは米国の責任を追及し、武器供与の即時停止を要求。
 ・トランプ政権はバイデン政権よりも積極的にイスラエルを支援する可能性。
 ・国際人権団体はネタニヤフ訪米に強く反発。
 ・米国の戦争犯罪への関与が拡大する中、独立メディアは権力批判を継続。

【引用・参照・底本】

US Is Complicit in War Crimes, HRW Warns Ahead of Trump-Netanyahu Meeting truthout 2025.02.04
https://truthout.org/articles/hrw-warns-us-complicit-in-israeli-crimes-ahead-of-trump-meeting-with-netanyahu/?utm_source=Truthout&utm_campaign=ce9fb4aae8-EMAIL_CAMPAIGN_2025_02_04_09_53&utm_medium=email&utm_term=0_bbb541a1db-ce9fb4aae8-653696056