比:竹筏の上に火薬庫を築くようなもの2025年02月11日 18:07

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【概要】

 フィリピンは「外部の軍事力を借りる」ことで安全になったのか?(環球時報 社説)

 カナダのデビッド・ハートマン駐フィリピン大使は最近、カナダとフィリピンが相互に軍隊を配備できるようにする「訪問軍地位協定」(Status of Visiting Forces Agreement, SOVFA)の交渉が最終段階にあり、年末までに締結される見込みであると述べた。これにより、カナダは南シナ海での軍事演習や行動に「より実質的な参加」が可能となる。また、ハートマン大使は、中国の「挑発的かつ違法な行動」に懸念を表明した。フィリピンは以前にも米国、日本、オーストラリアと同様の協定を締結しており、現在はカナダのほかフランスやニュージーランドとも交渉を進めている。この動きに対し、一部のフィリピン国内では、外部の軍事力を「借りる」ことで「世界水準の軍事力」を構築し、中国に対抗できると考える向きもある。

 表面的には、フィリピンは引き続き「被害者」としての立場を装っているが、実際にはASEAN諸国の中で最も積極的に「武力を誇示」し、地域の安全保障を最も不安定にしている国となっている。2月4日、フィリピンと米国の空軍が「合同空中哨戒」を実施し、フィリピン空軍のFA-50戦闘機と米国のB1-B爆撃機が黄岩島上空を飛行した。翌日には、フィリピン、米国、日本、オーストラリアが共同で多国間海上作戦を実施し、中国に対する軍事的圧力を強めた。昨年以降、こうした二国間・多国間の軍事演習が常態化しており、特に南シナ海の敏感な海域での実施が増えていることから、地域の他国が行う通常の防衛演習とは異なり、より攻撃的な性質を持っている。フィリピンのこうした挑発的行動は、地域の安全と安定に深刻な影響を与えている。

 フィリピンは、座礁した軍艦を巡る問題を煽り、域外の国々と軍事協定を結び、さらにはカナダのような国まで引き込もうとしている。これらの動きは一見すると大掛かりな戦略のように見えるが、実際には政治的パフォーマンスと戦略的計算が入り混じった「政治ショー」に過ぎない。こうした「同盟関係」は、フィリピンの不安定さを露呈するものであり、国際法や一般的な国際規範の下で正当化できない主張を補うために、外部勢力を頼りに南シナ海問題を国際化・激化させているのが実情である。その結果、フィリピンは自国の安全を犠牲にしてまで、米国のインド太平洋戦略に組み込まれる道を選んでいる。これはフィリピンの長年の野心と誤った認識を反映しているだけでなく、一部の国々が持つ覇権主義的な思考をも浮き彫りにしている。

 元来、フィリピンは重大な外部の安全保障上の脅威を抱えていなかったが、自らの行動によって最も不安定な国の一つへと変貌し、地政学的な駆け引きの中で「駒」となっている。この国は歴史的な誤った方向へ進み、国の安全保障を外部勢力の軍事駐留に委ねてしまっている。フィリピンは、まるで「軍事スーパーマーケット」のような状態に陥り、主権を安全と引き換えにしている。このような状況は、竹筏の上に火薬庫を築くようなものであり、単なるポーズにとどまらず、危機を孕んでいる。米軍の長年の駐留によって苦しんできたフィリピンは、外部勢力への依存をさらに深め、国の発展に必要な貴重な資源を浪費し、真の独立と自主性からますます遠ざかっている。

 一部の分析では、フィリピン政府の挑発的な姿勢は同国の中間選挙と関連していると指摘されている。しかし、NATOの「アジア初の支部」として振る舞うことが、フィリピンに「創設メンバー」のような利益をもたらすことはなく、むしろ手に余る行動によって自国に害を及ぼす危険性がある。2023年、フィリピンは米軍に対して4つの新たな軍事基地を開放したが、そのうち2つは台湾島と向かい合うカガヤン州に位置している。この決定は現地で強い反発を招き、同州のマヌエル・マンバ知事は、中国、韓国、日本からの投資がカガヤンを避けるようになったと指摘している。彼らは同地域が「米国の軍事前哨基地」になることを恐れているのだ。

 フィリピンやカナダが進めるこのような軍事的関与は、「19世紀の地政学的思考で21世紀の問題を解決しようとする」ものであり、時代錯誤であるだけでなく危険でもある。ASEANの苦労して築き上げた団結が、こうした行動によって損なわれつつある。フィリピンが外部の軍事力を導入することは、「南シナ海における関係国の行動宣言」(Declaration on the Conduct of Parties in the South China Sea, DOC)の核心原則と矛盾している。同宣言は、当事国間の平和的交渉による紛争解決を強調しており、フィリピンの行動はこれに真っ向から反する。米国が推進する「安全保障の保証」は、重層的で重複する軍事的関与を生み出し、問題の本質を覆い隠し、安全保障のジレンマを生み出す要因となっている。

 歴史が示すように、外部の軍事介入は南シナ海の安定にとって常に破壊的な要因であった。現在の膠着状態を打破する鍵は、問題の本質に立ち戻ることである。中国とASEAN諸国は、南シナ海行動規範(Code of Conduct in the South China Sea, COC)の協議を積極的に推進しており、過去数年間で海上捜索・救助、石油・ガス協力などの分野でいくつかの信頼醸成措置を確立してきた。このような地域協力の動きと、フィリピン・カナダの軍事協定とは対照的である。一方では地域諸国が協力のネットワークを構築しようとしているのに対し、他方では外部勢力が封じ込めの連鎖を編み上げているのである。

【詳細】

 カナダとフィリピンの軍事協定の進展

 カナダの駐フィリピン大使であるデビッド・ハートマンは最近、両国間のStatus of Visiting Forces Agreement(訪問軍地位協定、SVFA)が最終交渉段階にあり、年末までに署名される見込みであると発表した。この協定が締結されれば、カナダはフィリピンとの間で軍隊を相互に派遣し、南シナ海での軍事演習や作戦により積極的に関与することが可能となる。ハートマン大使は、中国による「挑発的かつ違法な行動」に懸念を示した。

 フィリピンはすでに米国、日本、オーストラリアと同様の軍事協定を結んでおり、現在カナダに加え、フランスやニュージーランドとも交渉を進めている。これに対し、中国の視点から見ると、フィリピンは「外部の軍事力を借りる」ことで強大な軍事力を手に入れ、中国に対抗しようとしていると映る。

 フィリピンの対外姿勢と軍事演習の活発化

 フィリピン政府は自国を「被害者」と位置づけているが、実際にはASEAN諸国の中で最も対外的な軍事活動を活発化させており、地域の安全保障において「最も攻撃的な存在」になっているとGlobal Timesは主張する。

 特に2月4日にはフィリピンと米国の空軍が「合同空中哨戒」を実施し、フィリピンのFA-50戦闘機と米国のB-1B爆撃機が黄岩島(スカボロー礁)上空を飛行した。さらに翌5日には、フィリピン、米国、日本、オーストラリアが共同で海上軍事演習を行い、中国に対して軍事的な圧力を強めた。

 これらの演習は、単なる防衛的な訓練を超えた「挑発的な性格」を持つものであり、南シナ海における地域の安定を損なう要因になっているという。特に昨年から、フィリピンは二国間および多国間の軍事演習を頻繁に実施し、敏感な地域での活動を活発化させている。

 フィリピンの軍事戦略とその限界

 フィリピン政府は、軍事協定を次々と締結することで、中国に対抗しうる強力な安全保障体制を築いていると見せかけている。しかし、中国側の視点では、これは「政治的なショー」にすぎず、実際には国際法や一般的な外交規範において正当性を欠くものと見なされている。

 フィリピンは独自の軍事力では中国に対抗できないため、外部勢力を巻き込むことで南シナ海問題を国際化しようとしているが、それは同時に自国の安全保障を危険にさらす行為でもある。フィリピンは「アジア版NATO」としての地位を確立しようとしているが、それは単なる幻想であり、結果的に自国をより不安定な状況に追い込むことになるとGlobal Timesは指摘している。

 対外依存によるフィリピンの「軍事スーパー化」

 フィリピンはかつて直接的な外部の安全保障上の脅威にさらされていなかったが、近年の政策により「地域で最も不安定な国」の一つになっている。Global Timesは、フィリピンが米国などの外部勢力に安全保障を依存しすぎることで、真の独立性と主権を失い、「軍事スーパー」に成り下がっていると批判する。

 2023年には、フィリピン政府が米国に対し4つの新たな軍事基地の使用を許可し、そのうち2つは台湾に近いカガヤン州に設置された。これにより、同州の住民や地方政府は強い反発を示し、州知事のマヌエル・マンバは、中国、韓国、日本からの投資が米軍基地の影響を懸念して敬遠される可能性を指摘した。

 ASEANの結束と南シナ海問題の解決への影響

 フィリピンとカナダをはじめとする外部勢力との軍事協定は、ASEANの結束を損なう可能性がある。Global Timesは、フィリピンの軍事政策が「19世紀の地政学的思考で21世紀の問題を解決しようとしている」ものだとして、非現実的で危険であると警告する。

 南シナ海問題に関しては、ASEAN諸国と中国が協力して「行動規範(Code of Conduct)」の策定を進めており、海上捜索救助や石油・ガス開発など、協力関係の強化が図られている。これに対し、フィリピンとカナダの軍事協定は、「対話による解決」を基本とする南シナ海行動宣言(DOC)の理念に反するものである。

 特に、米国が推進する「多層的かつ重複する軍事同盟」は、問題の本質を覆い隠し、逆に安全保障上のジレンマを生み出す要因となっているとGlobal Timesは主張する。歴史的に見ても、外部勢力による軍事介入は南シナ海の安定を脅かしてきた経緯があり、現在の状況も同様に、安定よりも対立を助長するものであると考えられる。

 結論:フィリピンの選択がもたらすリスク

 フィリピン政府は、軍事的な同盟関係を拡大することで自国の安全を確保しようとしているが、それが逆に安全保障上のリスクを高めているというのがGlobal Timesの主張である。

 地域の安定を維持するためには、外部勢力に依存するのではなく、中国を含む地域の関係国との対話と協力を強化することが重要である。フィリピンが今後も外部勢力との軍事協力を強化し続ければ、南シナ海問題の解決はさらに困難になり、ASEANの統一性も損なわれる可能性がある。

【要点】

 1. カナダとの軍事協定の進展

 ・フィリピンとカナダの*訪問軍地位協定(SVFA)*が最終交渉段階にあり、年内に署名予定。
 ・カナダはフィリピンとの軍事演習や作戦に積極的に関与する意向。
 ・フィリピンは米国、日本、オーストラリアと同様の協定を結んでおり、フランスやニュージーランドとも交渉中。
 ・Global Timesは、フィリピンが「外部の軍事力を借りて中国に対抗しようとしている」と批判。

 2. フィリピンの軍事活動の活発化

 ・2月4日:フィリピンと米国の空軍が黄岩島(スカボロー礁)上空で「合同空中哨戒」実施(FA-50戦闘機・B-1B爆撃機参加)。
 ・2月5日:フィリピン、米国、日本、オーストラリアが共同海上軍事演習を実施。
フィリピンは近年、多国間軍事演習を頻繁に実施し、「最も攻撃的な存在」と指摘される。
 ・Global Timesは「挑発的な性格を持つ」とし、地域の安定を損なう要因と主張。

 3. フィリピンの軍事戦略とその限界

 ・軍事協定を通じて安全保障を強化しようとするが、実際には「政治的なショー」に過ぎないと批判。
 ・自国の軍事力だけでは中国に対抗できないため、外部勢力を巻き込み、南シナ海問題を国際化しようとしている。
 ・しかし、外部依存が強まることで「真の独立性と主権を失う」と警告。

 4. フィリピンの「軍事スーパー化」

 ・2023年、米国に4つの新たな軍事基地の使用を許可(うち2つは台湾近くのカガヤン州)。
 ・カガヤン州知事マヌエル・マンバは「米軍基地が投資を遠ざける」と懸念を表明。
 ・Global Timesは「フィリピンはアジア版NATOの構築を目指しているが、それは幻想」と指摘。

 5. ASEANの結束と南シナ海問題への影響

 ・ASEANと中国は「行動規範(COC)」の策定を進め、協力関係を強化中。
 ・フィリピンとカナダの軍事協定は、南シナ海行動宣言(DOC)の理念に反し、対話による解決を妨げる。
 ・米国主導の「多層的な軍事同盟」が、問題を複雑化し、安全保障上のジレンマを生むと警告。

 6. 結論:フィリピンの選択がもたらすリスク

 ・軍事同盟拡大が自国の安全を高めるどころか、逆にリスクを増大させている。
 ・真の安定には、外部勢力ではなく、地域関係国との対話と協力が必要。
 ・フィリピンが外部勢力との軍事協力を続ければ、南シナ海問題の解決は困難になり、ASEANの統一性も損なわれる可能性がある。

【引用・参照・底本】

Has the Philippines become safer by 'renting external military power'?: Global Times Editorial GT 2025.02.11
https://www.globaltimes.cn/page/202502/1328211.shtml

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