米・中・日が超大型戦艦の開発競争2025年03月15日 16:55

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【概要】
 
 米国、中国、日本が超大型戦艦の開発競争を繰り広げており、将来の太平洋における海戦の勝敗を決定するのは単なる技術力ではなく、艦載ミサイルの火力であると指摘されている。これは第一次世界大戦前の英独海軍の軍拡競争に類似しており、各国は大型で重武装のミサイル搭載艦の建造を進めている。

 巡洋艦は、空母を除く水上戦闘艦の中で最も大型で重武装の艦種であり、駆逐艦やフリゲート艦よりも大きな排水量を持つ。巡洋艦は水上戦闘群(SAG)の旗艦や艦隊防空の指揮センターとして機能する。一方で、現在巡洋艦を正式に運用しているのは米国とロシアのみであり、一部の駆逐艦は巡洋艦に匹敵する能力を有している。

 日本のASEV

 日本の「イージス・システム搭載艦(ASEV)」は、米国の防衛企業ロッキード・マーティンによって開発が進められている。2025年3月、アブダビで開催されたIDEX(国際防衛展示会)でその模型が公開された。ASEVは、米国のズムウォルト級を除けば世界最大のステルス誘導ミサイル駆逐艦となる見込みであり、日本の弾道ミサイル防衛能力を大幅に強化する。

 ASEVは全長190メートル、排水量14,000トンを超え、中国の055型駆逐艦(NATOの分類では巡洋艦)を上回る性能を持つとされる。主な装備には、AN/SPY-7 AESAレーダー、128セルの垂直発射システム(VLS)、極超音速ミサイル迎撃用のグライド・フェーズ・インターセプター(GPI)、およびトマホーク巡航ミサイルが含まれる。日本政府は2028年までの配備を予定しており、これは中国および北朝鮮の脅威に対抗するため、陸上配備型防衛システムからの戦略転換を示している。

 米国のDDG(X)

 米国海軍は、次世代誘導ミサイル駆逐艦「DDG(X)」の開発を進めており、これは老朽化したタイコンデロガ級巡洋艦と、将来的なアップグレード余地が限られるアーレイ・バーク級駆逐艦の後継となる。2025年1月の報道によれば、DDG(X)は現在概念設計段階にある。

 米海軍のビル・デイリー少将は、「白紙からの設計が必要」と述べており、40メガワットの予備電力を確保することで、将来の指向性エネルギー兵器(レーザー兵器)や先進センサーの搭載を可能にする。また、ズムウォルト級の統合電力システム(IPS)を採用し、高度な電力管理能力を備える計画である。しかし、建造コストの高騰が課題となっており、当初は1隻あたり33億ドルと見積もられていたが、44億ドルに達する可能性があるとされている。米海軍は28隻の建造を計画しているが、就役は早くても2034年以降と予測されており、中国との軍事的競争における戦略的即応性に影響を及ぼす可能性がある。

 中国の055型巡洋艦

 これに対し、中国はすでに055型巡洋艦の第二次生産を開始している。2025年2月の報道によると、中国は大連と江南の造船所で追加の建造を進めており、既存の8隻に加えてさらなる艦艇を配備する計画である。

 055型巡洋艦の建造費は1隻あたり8億2740万ドルとされ、ステルス性を重視した設計、先進的なレーダーシステム、および強力な武装を備える。特に、112セルのVLSを搭載し、防空、対艦、対地攻撃用ミサイルを発射可能である。また、極超音速ミサイルや対潜兵器を搭載することで、多用途性を高めている。この艦は、中国の空母や強襲揚陸艦を護衛し、艦隊指揮センターとして機能することが想定されている。

 太平洋におけるミサイル火力競争

 太平洋地域の海軍は、高度な海戦シナリオに備え、航空・弾道ミサイル・巡航ミサイル防衛能力を強化する艦艇を導入している。特に、各国がVLSの増強に注力しており、日本、中国、米国を含む各国の新型艦艇がその傾向を示している。

 ただし、大型のVLSを搭載するには艦内スペースや甲板面積を大きく取る必要があり、高高度レーダーとの統合にも技術的な課題がある。米国防総省(DOD)の2024年版「中国軍事力報告書」によれば、中国の人民解放軍ロケット軍(PLARF)は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)400基、中距離弾道ミサイル(IRBM)500基、準中距離弾道ミサイル(MRBM)1300基、短距離弾道ミサイル(SRBM)900基、地上発射型巡航ミサイル(GLCM)400基を保有しているとされる。

 さらに、2023年2月の報道では、北朝鮮がすでに米国本土のミサイル防衛を圧倒するだけのICBMを保有している可能性が指摘されている。北朝鮮は10〜12基の「火星-17」ICBMをパレードで公開しており、これに4つの弾頭を搭載すれば、米国の地上配備型迎撃ミサイル(GMD)システム(迎撃ミサイル44基)を圧倒する可能性があるとされる。

 米中のVLSセル数と造船能力の差

 2024年12月の国際戦略研究所(IISS)の報告によると、中国はVLSセルの総数で米国との差を縮めており、米海軍の約50%の火力を確保したとされる。中国海軍は84隻の水上戦闘艦に4,300セルを備え、米海軍は85隻に8,400セルを有している。

 米国はタイコンデロガ級巡洋艦の退役とアーレイ・バーク級の建造ペースの遅れにより、VLS容量の減少に直面している。これに対し、中国は055型巡洋艦や052D型駆逐艦の迅速な建造によってミサイル発射能力を向上させている。

 造船能力においても、中国は世界の46.59%を占め、韓国(29.24%)、日本(17.25%)と比べて圧倒的な優位を持つ。米国の造船能力はわずか0.13%に過ぎず、継続的な艦隊増強が困難な状況にある。

 結論

 太平洋における海軍競争は、単なる技術力ではなく、艦艇のミサイル火力と造船能力が決定的な要素となる可能性が高い。

【詳細】 

 米国、日本、中国の間で進行中の大型ミサイル艦の開発競争について詳述している。これは、第一次世界大戦前の英独間の海軍拡張競争に類似しており、各国が次世代の強力な艦船を建造することで、西太平洋における軍事的優位性を確保しようとしている状況を示している。

 1. 巡洋艦と駆逐艦の定義と役割

 巡洋艦は通常、空母を除く水上戦闘艦の中で最大かつ最も重武装な艦種であり、艦隊防空や水上戦闘の指揮を担うことが多い。現在、正式に巡洋艦を運用しているのは米国とロシアのみだが、一部の駆逐艦は巡洋艦に匹敵するサイズと能力を持っている。

 2. 日本のAEGISシステム搭載艦(ASEV)

 日本のASEV(AEGIS System Equipped Vessel)は、世界最大級のステルス誘導ミサイル駆逐艦となる見込みである。

 ・全長:190メートル
 ・排水量:14,000トン超
 ・VLS(垂直発射システム):128セル
 ・搭載兵器:トマホーク巡航ミサイル、グライド・フェーズ迎撃ミサイル(GPI)など
 ・レーダー:AN/SPY-7 AESAレーダー

 この艦は、特に弾道ミサイル防衛能力を強化するために開発されており、2028年までに配備予定である。これは、中国や北朝鮮のミサイル脅威に対抗するため、日本が陸上配備型の迎撃システムから海上配備型へシフトしていることを示している。

 3. 米国のDDG(X)計画

 米海軍は、老朽化したタイコンデロガ級巡洋艦の退役と、能力的に限界に達したアーレイ・バーク級駆逐艦の後継艦として、DDG(X)計画を進行中である。

 ・特長:ズムウォルト級駆逐艦の統合電源システム(IPS)を採用し、40メガワットの予備電力を確保
 ・搭載予定兵器:レーザー兵器、次世代ミサイル、強力なレーダー
 ・課題:コスト増加(当初1隻33億ドル、現在は44億ドルに達する可能性)
 ・建造開始予定:2034年

 米海軍はこの艦を28隻建造予定としているが、コスト高騰と開発の遅延が課題となっている。

 4. 中国の055型駆逐艦(巡洋艦)

 中国は既に次世代駆逐艦の量産を進めており、055型駆逐艦(NATO分類では巡洋艦)の第2バッチの建造が開始されている。

 ・建造コスト:1隻あたり約8億2740万ドル
 ・VLS:112セル
 ・搭載兵器:対空、対艦、対地攻撃ミサイル、極超音速兵器、対潜兵器
 ・役割:空母・強襲揚陸艦の護衛、艦隊指揮

 中国は大連造船所と江南造船所の2拠点で生産を進めており、既に8隻が配備済みである。これにより、海上戦闘力の強化と指揮能力の向上を図っている。

 5. VLS搭載数による戦力比較

 各国の艦船に搭載されるVLS(垂直発射システム)のセル数は、海戦における火力の指標の一つとなる。

 ・米海軍:8,400セル(85隻)
 ・中国海軍(PLAN):4,300セル(84隻)(米海軍の約50%のVLS火力を確保)
 ・日本のASEV:128セル(2隻配備予定)

 中国は055型駆逐艦と052D型駆逐艦の量産を進めることで、VLS火力の差を縮めている。一方、米海軍はタイコンデロガ級巡洋艦の退役によってVLSセル数が減少し、新造艦の建造速度も中国に劣る状況にある。

 6. 造船能力の比較

 海軍戦力の決定要因の一つは造船能力であり、特に長期戦では艦船の建造速度と修理能力が重要になる。

 ・中国:世界の造船市場の46.59%を占有
 ・韓国:29.24%
 ・日本:17.25%
 ・米国:0.13%

 中国の造船能力は米国を圧倒しており、仮に戦争が発生した場合、中国は短期間で大量の艦船を建造・修理できる強みを持つ。

 7. 大規模海戦におけるミサイル運用戦術

 近年の海戦シナリオでは、大量のミサイルを同時発射する「マス・ファイア(Massed Fires)」戦術が重要視されている。

 ・目的:敵の艦載防空システムを飽和攻撃により突破
 ・必要条件:大量のVLSセルを搭載した巡洋艦・駆逐艦の確保
 ・課題:米国と同盟国の造船速度が中国に遅れを取っている

 この戦術を実現するためには、米国と日本は中国と同等の造船能力を確保する必要があるが、現時点では大きな差がある。

 8. 結論

 米国、日本、中国の間で進む次世代駆逐艦・巡洋艦の開発競争は、今後の西太平洋における軍事バランスに大きな影響を与える。

 ・日本は2028年までにASEVを配備し、弾道ミサイル防衛能力を強化
 ・米国はDDG(X)計画を進めるも、コスト増加と遅延が課題
 ・中国は055型駆逐艦を量産し、既に戦力化を進めている
 ・造船能力では中国が圧倒的な優位を持ち、長期戦に強い

 技術力だけでなく、ミサイル火力と造船能力が海戦の勝敗を決する要因となる。今後、米国と日本がどのように中国の造船能力に対抗していくかが鍵となる。

【要点】

 1.巡洋艦と駆逐艦の違い

 ・巡洋艦:大型・重武装の艦船で、艦隊防空や指揮を担当(米国とロシアのみ運用)
 ・駆逐艦:巡洋艦より小型だが、現代では同等の戦闘能力を持つ艦もある

 2. 日本のAEGISシステム搭載艦(ASEV)

 ・全長:190メートル
 ・排水量:14,000トン超
 ・VLS:128セル(トマホーク巡航ミサイル、迎撃ミサイル搭載)
 ・レーダー:AN/SPY-7 AESAレーダー
 ・配備予定:2028年
 ・目的:弾道ミサイル防衛の強化

 3. 米国のDDG(X)計画

 ・後継艦:タイコンデロガ級巡洋艦・アーレイ・バーク級駆逐艦の更新
 ・搭載技術:ズムウォルト級の統合電源システム(40メガワットの予備電力)
 ・搭載予定兵器:レーザー兵器、次世代ミサイル、強力なレーダー
 ・課題:コスト増加(1隻33億→44億ドル)
 ・建造開始予定:2034年
 ・建造予定数:28隻

 4. 中国の055型駆逐艦(巡洋艦)

 ・全長:180メートル
 ・排水量:13,000トン
 ・VLS:112セル(対空、対艦、対地攻撃ミサイル搭載)
 ・建造コスト:1隻8億2740万ドル
 ・配備状況:8隻配備済み、第2バッチ建造中
 ・役割:空母・強襲揚陸艦の護衛、艦隊指揮

 5. VLS搭載数比較(火力の指標)

 ・米海軍:8,400セル(85隻)
 ・中国海軍:4,300セル(84隻)(米海軍の約50%のVLS火力)
 ・日本のASEV:128セル(2隻)

 6. 造船能力の比較

 ・中国:世界の造船市場の**46.59%**を占有
 ・韓国:29.24%
 ・日本:17.25%
 ・米国:0.13%
 ・影響:戦時の艦船建造・修理能力で中国が圧倒的優位

 7. 大規模海戦での戦術(Massed Fires戦術)

 ・目的:敵の防空システムを飽和攻撃で突破
 ・条件:大量のVLSセルを搭載した巡洋艦・駆逐艦が必要
 ・課題:米国・日本の造船速度が中国に遅れを取っている

 8. 結論
 
 ・日本:2028年までにASEVを配備し、ミサイル防衛を強化
 ・米国:DDG(X)計画は進行中だが、コスト増加と遅延が課題
 ・中国:055型駆逐艦の量産を継続し、すでに戦力化
 ・造船能力:長期戦では中国が圧倒的優位
 ・重要課題:米国・日本が中国の造船能力にどう対抗するか

【参考】

 ☞ IRBM(Intermediate-Range Ballistic Missile:中距離弾道ミサイル)

 ・射程:3,000~5,500km
 ・主な用途

  ⇨ 大陸間弾道ミサイル(ICBM)よりも短いが、戦略目標を攻撃可能
  ⇨ 地域紛争や抑止力として使用

 ・主な運用国・ミサイル

  ⇨ 中国:DF-26(東風-26)
  ⇨ 北朝鮮:火星-12
  ⇨ イラン:Sejjil-2
  ⇨ ロシア:かつてSS-20を運用(INF条約により廃止)

 ☞ MRBM(Medium-Range Ballistic Missile:準中距離弾道ミサイル)

 ・射程:1,000~3,000km
 ・主な用途

  ⇨ 戦術・戦略目標の両方に使用
  ⇨ 核・通常弾頭の搭載が可能
  ⇨ 地域の軍事拠点攻撃や抑止力として活用

 ・主な運用国・ミサイル

  ⇨ 中国:DF-21(東風-21)
  ⇨ 北朝鮮:火星-10(ムスダン)
  ⇨ イラン:Shahab-3
  ⇨ インド:Agni-II

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

US, China and Japan racing for the super-battleship lead ASIATIMES 2025.03.14
https://asiatimes.com/2025/03/us-china-and-japan-racing-for-the-super-battleship-lead/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=5bddf65a64-DAILY_14_03_2025&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-5bddf65a64-16242795&mc_cid=5bddf65a64&mc_eid=69a7d1ef3c#

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