米国の防衛企業:中国製のジェットエンジンを使用した可能性 ― 2025年03月16日 22:09
【概要】
アメリカの防衛企業が、中国製のジェットエンジンを使用した可能性があるとして、注目を集めている。2025年3月5日、カリフォルニア州のスタートアップ企業であるMach Industriesは、垂直離陸型巡航ミサイルのプロモーションビデオをソーシャルメディアに投稿した。このミサイルは、地上から垂直に発射され、ターゲットに向かって急降下する様子が映し出され、神風ドローンの攻撃パターンに似ているとされた。また、ミサイルの3Dプリントされたボディとエンジンの組み立ても強調されていた。
しかし、視聴者がビデオを分析した結果、そのエンジンが中国製のSwiwin SW800 Proと似ているとの指摘がなされた。Mach Industriesは、2022年に設立された企業であり、同社の「戦略打撃」ミサイルは、180マイル(290km)の射程距離と10kg(22ポンド)を超える弾頭を搭載できると報じられている。さらに、このミサイルはAIによる視覚認識技術や、無線周波数(RF)センサー技術を統合する予定だとされている。
Mach Industriesの創設者であるイーサン・ソーントンは、このエンジンに関する疑惑に対し、SNSで否定的なコメントを投稿した。「ViperはJetCatエンジンを搭載しており、中国製の部品は一切使用していない」と主張したが、コメントでエンジンとSwiwin SW800 Proの類似点を指摘された後には、「エアフレームに関しては、中国製の部品をテスト用に爆破することには問題を感じていない」と述べた。
もしこのミサイルが中国製のエンジンを使用していた場合、Mach Industriesが「中国がスケールで支配している」と述べ、自社の戦略と矛盾することになる。また、このミサイルがまだ開発段階で、推進システムよりも空力設計をテストすることが目的であり、コスト削減のために市販の民生用エンジンを使用している可能性も考えられる。しかし、この場合でも、中国製の民生用エンジンがミサイルのテストに十分であるのか、という疑問が生じる。
さらに、もしMach Industriesが中国製エンジンを第三者から調達したのであれば、これは中国の輸出規制が予想以上に緩いことを示唆していることになる。2024年5月、中国の商務省をはじめとする政府機関は、構造部品やエンジンを含む航空宇宙関連の技術輸出規制を強化したが、Swiwin SW800 Proは依然としてオンラインで販売されており、128,000元(約17,600米ドル)で購入可能である。Swiwin社は、同エンジンが主にホビー用航空機や個人用飛行装置に使用されることを強調している。
この件が真実である場合、中国の輸出管理が意図した通りに厳格に施行されていない可能性があり、またアメリカの国際武器取引規制(ITAR)が防衛機器への外国製部品の統合に対して十分に厳格に執行されていないことも示唆される。
【詳細】
Mach Industriesが製造したとされる「戦略打撃」ミサイルに関する中国製エンジンの疑惑は、アメリカの防衛産業における供給チェーンの問題と、アメリカと中国の間で進行中の技術競争が浮き彫りにするものである。この疑惑は、同社が新たに開発したミサイルのプロモーションビデオがきっかけで広まった。ビデオでは、ミサイルが地面から垂直に発射され、ターゲットに向かって急降下する姿が映し出され、その空力設計が注目された。このミサイルには、3Dプリント技術を使ったボディとエンジンが搭載されているとされており、そのエンジンが中国製のSwiwin SW800 Proに似ているとの指摘がなされた。
Swiwin SW800 Proエンジンは、中国河北省に拠点を置くSwiwin Turbine社が製造する小型航空エンジンで、主にホビー用航空機や個人用飛行装置に使用されるものである。このエンジンは、民生用として販売されており、最新のエアショーで展示されることもあるが、軍事用途には使用されないとされている。しかし、視聴者の間で、Mach Industriesのミサイルに搭載されたエンジンがこのSwiwin SW800 Proエンジンと非常に似ていると指摘された。
Mach Industriesの反応とその後の疑惑
Mach Industriesの創設者であるイーサン・ソーントンは、ビデオの公開後にSNSを通じて疑惑に反論した。彼は「ViperはJetCatエンジンを搭載しており、中国製の部品は一切使っていない」とコメントしたが、視聴者が引き続きSwiwin SW800 Proとの類似性を指摘する中で、彼は「テスト目的で中国製の部品を爆破することには問題を感じていない」と発言した。この発言は、同社がテスト用に中国製の部品を使用している可能性を示唆しているが、これに関しても疑問を投げかけるものとなった。
軍事と民生用エンジンの違いと輸出規制
もしMach Industriesが中国製のSwiwin SW800 Proエンジンを使用しているとすれば、それは中国の厳しい輸出規制に対して疑念を抱かせるものとなる。中国は、2024年5月に航空宇宙関連の構造部品やエンジンを含む技術の輸出を制限する規制を発表しており、これには軍事転用の可能性がある部品や技術が含まれる。しかし、Swiwin SW800 Proは民生用であり、この規制の対象外であるため、商業的に購入することは可能である。価格は約17,600米ドルとされ、オンラインで販売されている。
この点で重要なのは、もしMach Industriesがこのエンジンを第三者経由で調達していた場合、アメリカと中国の間で進行中の貿易戦争や技術競争における供給チェーンの脆弱性が浮き彫りになることだ。アメリカの国際武器取引規制(ITAR)は、外国製の部品がアメリカの軍事機器に組み込まれることを厳しく制限しており、これが適用される場合、Mach Industriesが外国製部品を使用していることは問題となる。
供給チェーンの複雑性と中国の技術競争力
また、この件は、アメリカと中国が軍事技術と民生技術において競争している現実を示している。中国は、民生用航空エンジンや小型航空機技術の分野で急速に進歩しており、その技術が商業的に普及していることが、アメリカにとっては脅威となり得る。アメリカの防衛産業が中国製のエンジンを使用することは、技術的な競争優位性の喪失を意味し、同時に供給チェーンのリスクを増大させる可能性がある。
このような事例は、アメリカ軍が以前にも中国製の部品を使用した事例があることを思い出させる。例えば、2023年3月のトルコ地震救援活動中に、アメリカ軍が中国製のラベルが付けられた支援物資を使用している場面が報じられ、2023年9月にはアメリカ海兵隊が中国製の「ロボットヤギ」をテストする様子が明らかになった。これらの事例は、グローバルな供給チェーンの複雑さと、軍事技術の開発における外部依存度の高さを示しており、今後、アメリカと中国の間で続く技術戦争の中で、供給チェーンのセキュリティが重要な課題となることが予想される。
結論
Mach Industriesの「戦略打撃」ミサイルが中国製のエンジンを使用しているという疑惑は、アメリカの防衛産業における技術供給チェーンの脆弱性を浮き彫りにし、中国との技術競争が進行する中で、今後の防衛政策にどのような影響を与えるかが注目される。もしMach Industriesが中国製の部品を使用していた場合、アメリカの規制が適切に機能していない可能性があり、供給チェーンの安全性を確保するためには、より厳格な管理が必要である。
【要点】
・疑惑の発端
Mach Industriesが公開した新しいミサイルのプロモーションビデオで、搭載されたエンジンが中国製のSwiwin SW800 Proエンジンに似ていると指摘された。
・Swiwin SW800 Proエンジン:
中国河北省のSwiwin Turbine社が製造した小型航空エンジンで、民生用として販売され、主にホビー用航空機や個人用飛行装置に使用されている。
・Mach Industriesの反応:
創設者イーサン・ソーントンは、SNSで「JetCatエンジンを搭載しており、中国製部品は使用していない」と反論したが、視聴者からはSwiwin SW800 Proとの類似性が引き続き指摘された。
・中国の輸出規制
・2024年5月、中国は航空宇宙関連の構造部品やエンジンの輸出を制限する新たな規制を発表したが、Swiwin SW800 Proは民生用として販売されており、輸出規制の対象外となる。
・エンジンの購入経路
Swiwin SW800 Proエンジンはオンラインで商業的に販売されており、約17,600米ドルで購入可能。もしMach Industriesがこれを第三者経由で調達した場合、輸出規制を逃れる形になる。
・アメリカの国際武器取引規制(ITAR)
・外国製部品がアメリカの軍事機器に組み込まれることを制限しており、Mach Industriesが中国製部品を使用していた場合、この規制に違反する可能性がある。
・過去の類似事例
2023年3月、アメリカ軍が中国製の支援物資を使用していた事例や、2023年9月には中国製「ロボットヤギ」のテストが報じられるなど、アメリカ軍の供給チェーンに中国製部品が含まれる事例が過去にもあった。
・グローバル供給チェーンの脆弱性
このような事例は、グローバルな供給チェーンの複雑さと、軍事技術開発における外部依存度の高さを浮き彫りにし、供給チェーンのセキュリティが今後の重要課題となる。
・結論
Mach Industriesが中国製エンジンを使用していた場合、アメリカの規制が適切に機能していない可能性があり、今後の防衛政策に影響を与えることが予想される。
【引用・参照・底本】
Did a US military contractor use a Chinese-made jet engine in ‘Strategic Strike’ missile? SCMP 2025.03.16
https://www.scmp.com/news/china/science/article/3302388/did-us-military-contractor-use-chinese-made-jet-engine-strategic-strike-missile?module=top_story&pgtype=subsection
アメリカの防衛企業が、中国製のジェットエンジンを使用した可能性があるとして、注目を集めている。2025年3月5日、カリフォルニア州のスタートアップ企業であるMach Industriesは、垂直離陸型巡航ミサイルのプロモーションビデオをソーシャルメディアに投稿した。このミサイルは、地上から垂直に発射され、ターゲットに向かって急降下する様子が映し出され、神風ドローンの攻撃パターンに似ているとされた。また、ミサイルの3Dプリントされたボディとエンジンの組み立ても強調されていた。
しかし、視聴者がビデオを分析した結果、そのエンジンが中国製のSwiwin SW800 Proと似ているとの指摘がなされた。Mach Industriesは、2022年に設立された企業であり、同社の「戦略打撃」ミサイルは、180マイル(290km)の射程距離と10kg(22ポンド)を超える弾頭を搭載できると報じられている。さらに、このミサイルはAIによる視覚認識技術や、無線周波数(RF)センサー技術を統合する予定だとされている。
Mach Industriesの創設者であるイーサン・ソーントンは、このエンジンに関する疑惑に対し、SNSで否定的なコメントを投稿した。「ViperはJetCatエンジンを搭載しており、中国製の部品は一切使用していない」と主張したが、コメントでエンジンとSwiwin SW800 Proの類似点を指摘された後には、「エアフレームに関しては、中国製の部品をテスト用に爆破することには問題を感じていない」と述べた。
もしこのミサイルが中国製のエンジンを使用していた場合、Mach Industriesが「中国がスケールで支配している」と述べ、自社の戦略と矛盾することになる。また、このミサイルがまだ開発段階で、推進システムよりも空力設計をテストすることが目的であり、コスト削減のために市販の民生用エンジンを使用している可能性も考えられる。しかし、この場合でも、中国製の民生用エンジンがミサイルのテストに十分であるのか、という疑問が生じる。
さらに、もしMach Industriesが中国製エンジンを第三者から調達したのであれば、これは中国の輸出規制が予想以上に緩いことを示唆していることになる。2024年5月、中国の商務省をはじめとする政府機関は、構造部品やエンジンを含む航空宇宙関連の技術輸出規制を強化したが、Swiwin SW800 Proは依然としてオンラインで販売されており、128,000元(約17,600米ドル)で購入可能である。Swiwin社は、同エンジンが主にホビー用航空機や個人用飛行装置に使用されることを強調している。
この件が真実である場合、中国の輸出管理が意図した通りに厳格に施行されていない可能性があり、またアメリカの国際武器取引規制(ITAR)が防衛機器への外国製部品の統合に対して十分に厳格に執行されていないことも示唆される。
【詳細】
Mach Industriesが製造したとされる「戦略打撃」ミサイルに関する中国製エンジンの疑惑は、アメリカの防衛産業における供給チェーンの問題と、アメリカと中国の間で進行中の技術競争が浮き彫りにするものである。この疑惑は、同社が新たに開発したミサイルのプロモーションビデオがきっかけで広まった。ビデオでは、ミサイルが地面から垂直に発射され、ターゲットに向かって急降下する姿が映し出され、その空力設計が注目された。このミサイルには、3Dプリント技術を使ったボディとエンジンが搭載されているとされており、そのエンジンが中国製のSwiwin SW800 Proに似ているとの指摘がなされた。
Swiwin SW800 Proエンジンは、中国河北省に拠点を置くSwiwin Turbine社が製造する小型航空エンジンで、主にホビー用航空機や個人用飛行装置に使用されるものである。このエンジンは、民生用として販売されており、最新のエアショーで展示されることもあるが、軍事用途には使用されないとされている。しかし、視聴者の間で、Mach Industriesのミサイルに搭載されたエンジンがこのSwiwin SW800 Proエンジンと非常に似ていると指摘された。
Mach Industriesの反応とその後の疑惑
Mach Industriesの創設者であるイーサン・ソーントンは、ビデオの公開後にSNSを通じて疑惑に反論した。彼は「ViperはJetCatエンジンを搭載しており、中国製の部品は一切使っていない」とコメントしたが、視聴者が引き続きSwiwin SW800 Proとの類似性を指摘する中で、彼は「テスト目的で中国製の部品を爆破することには問題を感じていない」と発言した。この発言は、同社がテスト用に中国製の部品を使用している可能性を示唆しているが、これに関しても疑問を投げかけるものとなった。
軍事と民生用エンジンの違いと輸出規制
もしMach Industriesが中国製のSwiwin SW800 Proエンジンを使用しているとすれば、それは中国の厳しい輸出規制に対して疑念を抱かせるものとなる。中国は、2024年5月に航空宇宙関連の構造部品やエンジンを含む技術の輸出を制限する規制を発表しており、これには軍事転用の可能性がある部品や技術が含まれる。しかし、Swiwin SW800 Proは民生用であり、この規制の対象外であるため、商業的に購入することは可能である。価格は約17,600米ドルとされ、オンラインで販売されている。
この点で重要なのは、もしMach Industriesがこのエンジンを第三者経由で調達していた場合、アメリカと中国の間で進行中の貿易戦争や技術競争における供給チェーンの脆弱性が浮き彫りになることだ。アメリカの国際武器取引規制(ITAR)は、外国製の部品がアメリカの軍事機器に組み込まれることを厳しく制限しており、これが適用される場合、Mach Industriesが外国製部品を使用していることは問題となる。
供給チェーンの複雑性と中国の技術競争力
また、この件は、アメリカと中国が軍事技術と民生技術において競争している現実を示している。中国は、民生用航空エンジンや小型航空機技術の分野で急速に進歩しており、その技術が商業的に普及していることが、アメリカにとっては脅威となり得る。アメリカの防衛産業が中国製のエンジンを使用することは、技術的な競争優位性の喪失を意味し、同時に供給チェーンのリスクを増大させる可能性がある。
このような事例は、アメリカ軍が以前にも中国製の部品を使用した事例があることを思い出させる。例えば、2023年3月のトルコ地震救援活動中に、アメリカ軍が中国製のラベルが付けられた支援物資を使用している場面が報じられ、2023年9月にはアメリカ海兵隊が中国製の「ロボットヤギ」をテストする様子が明らかになった。これらの事例は、グローバルな供給チェーンの複雑さと、軍事技術の開発における外部依存度の高さを示しており、今後、アメリカと中国の間で続く技術戦争の中で、供給チェーンのセキュリティが重要な課題となることが予想される。
結論
Mach Industriesの「戦略打撃」ミサイルが中国製のエンジンを使用しているという疑惑は、アメリカの防衛産業における技術供給チェーンの脆弱性を浮き彫りにし、中国との技術競争が進行する中で、今後の防衛政策にどのような影響を与えるかが注目される。もしMach Industriesが中国製の部品を使用していた場合、アメリカの規制が適切に機能していない可能性があり、供給チェーンの安全性を確保するためには、より厳格な管理が必要である。
【要点】
・疑惑の発端
Mach Industriesが公開した新しいミサイルのプロモーションビデオで、搭載されたエンジンが中国製のSwiwin SW800 Proエンジンに似ていると指摘された。
・Swiwin SW800 Proエンジン:
中国河北省のSwiwin Turbine社が製造した小型航空エンジンで、民生用として販売され、主にホビー用航空機や個人用飛行装置に使用されている。
・Mach Industriesの反応:
創設者イーサン・ソーントンは、SNSで「JetCatエンジンを搭載しており、中国製部品は使用していない」と反論したが、視聴者からはSwiwin SW800 Proとの類似性が引き続き指摘された。
・中国の輸出規制
・2024年5月、中国は航空宇宙関連の構造部品やエンジンの輸出を制限する新たな規制を発表したが、Swiwin SW800 Proは民生用として販売されており、輸出規制の対象外となる。
・エンジンの購入経路
Swiwin SW800 Proエンジンはオンラインで商業的に販売されており、約17,600米ドルで購入可能。もしMach Industriesがこれを第三者経由で調達した場合、輸出規制を逃れる形になる。
・アメリカの国際武器取引規制(ITAR)
・外国製部品がアメリカの軍事機器に組み込まれることを制限しており、Mach Industriesが中国製部品を使用していた場合、この規制に違反する可能性がある。
・過去の類似事例
2023年3月、アメリカ軍が中国製の支援物資を使用していた事例や、2023年9月には中国製「ロボットヤギ」のテストが報じられるなど、アメリカ軍の供給チェーンに中国製部品が含まれる事例が過去にもあった。
・グローバル供給チェーンの脆弱性
このような事例は、グローバルな供給チェーンの複雑さと、軍事技術開発における外部依存度の高さを浮き彫りにし、供給チェーンのセキュリティが今後の重要課題となる。
・結論
Mach Industriesが中国製エンジンを使用していた場合、アメリカの規制が適切に機能していない可能性があり、今後の防衛政策に影響を与えることが予想される。
【引用・参照・底本】
Did a US military contractor use a Chinese-made jet engine in ‘Strategic Strike’ missile? SCMP 2025.03.16
https://www.scmp.com/news/china/science/article/3302388/did-us-military-contractor-use-chinese-made-jet-engine-strategic-strike-missile?module=top_story&pgtype=subsection