100GHzを超えるクロックスピードを実現2025年03月16日 22:45

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【概要】 

 中国・北京大学を中心とする国際研究チームは、100GHzを超えるクロックスピードを実現する全光学式チップを発表した。この技術は、AIコンピューティング、次世代通信、リモートセンシングの分野で大幅な性能向上をもたらす可能性がある。

 コンピュータの中央処理装置(CPU)は、クロック信号によって内部の処理を同期させる。クロック速度はプロセッサの処理能力を決定する重要な要素であり、GHz単位で測定される。例えば、2GHzのCPUは1秒間に20億回のクロックサイクルを実行できる。一般的に、クロック速度が高いほど、より多くの処理を短時間で実行できる。

 研究チームは、電子ではなく光を用いることで、チップのクロック信号を生成する新たな方法を開発した。この技術は、プロセッサの動作をより高速かつ効率的にする可能性を秘めている。

 この研究には、中国の北京大学・先進光通信システムおよびネットワーク国家重点実験室、中国科学院・宇宙情報研究所、アメリカのカリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究者が参加している。研究成果は、査読付き科学誌「Nature Electronics」に掲載された。

 研究の筆頭著者である北京大学情報通信技術研究所の助教授、常琳(Chang Lin)氏によれば、光を情報伝達・処理の媒体とすることで、計算速度の向上が可能になるという。

【詳細】 
 
 全光学式100GHzチップの概要と意義

 中国・北京大学を中心とする国際研究チームは、従来の電子クロック信号ではなく光を用いたクロック信号生成技術を開発し、100GHzを超えるクロックスピードを実現する全光学式チップを発表した。この技術により、人工知能(AI)の高速演算、6G通信、自動運転技術の発展など、幅広い分野で計算処理能力の飛躍的な向上が期待される。

 従来のクロック信号と新技術の違い

 コンピュータの中央処理装置(CPU)は、一定のリズムで発生するクロック信号によって動作を同期する。クロック信号はプロセッサ内部の処理を調整し、演算やデータ転送のタイミングを決定する重要な役割を担う。現在、一般的なCPUは数GHz(ギガヘルツ)のクロックスピードで動作し、例えば2GHzのCPUは1秒間に20億回のクロックサイクルを実行する。

 しかし、従来の電子的なクロック信号には限界がある。特に、次のような問題が挙げられる。
 ・発熱の問題:高クロック化すると電力消費が増え、それに伴う熱の発生が増大する。
 ・伝送速度の制約:電子回路では信号の伝送速度が光よりも遅く、高速化に限界がある。
 ・同期精度の課題:クロック信号が高周波化するとノイズの影響を受けやすくなり、正確な同期が困難になる。

 今回発表された技術では、電子ではなく光を用いることでこれらの課題を克服し、超高速での動作を可能にした。

 光を用いたクロック信号の仕組み

 研究チームは、「マイクロコム(microcomb)」と呼ばれる特殊な光学技術を用いて、プロセッサのクロック信号を生成する「フォトンクロック(photon clock)」を開発した。

 マイクロコムとは

 マイクロコムは、極めて精密な周波数成分を持つ光のパルス列を生成する技術であり、超高速光通信や高精度計測技術に応用されてきた。今回の研究では、この技術をクロック信号の生成に応用し、安定した高周波信号を供給することで、プロセッサの動作を同期させることに成功した。

 フォトンクロックの特長

 1.超高速動作(100GHz以上)

 ・マイクロコムによって極めて精密な光パルス列を生成し、これをクロック信号として利用することで100GHz以上のクロック速度を実現した。

 2.低エネルギー消費

 ・電子回路ではなく光学技術を活用するため、発熱が抑えられ、エネルギー効率が大幅に向上する。

 3.高精度な同期

 ・光を利用することで信号の伝送速度が電子よりも高速になり、正確な同期が可能になる。

 研究の意義と今後の展望

 ・この技術が実用化されれば、AIの学習・推論処理の高速化、6G通信の大容量・超低遅延化、自動運転車のリアルタイム制御の高度化など、多くの分野で飛躍的な進歩が見込まれる。特に、以下の領域において大きな影響を与える可能性がある:

 1.AIとスーパーコンピューティング

 ・ディープラーニングや大規模言語モデル(LLM)などの計算負荷が高い処理を劇的に高速化できる。

 2.次世代通信(6G)

 ・100GHzクラスの超高速信号処理により、無線通信の帯域幅を飛躍的に向上させ、6G技術の実用化を加速する。

 3.自動運転・ロボティクス

 ・センサー情報の処理速度を向上させ、リアルタイム制御をより高精度に行うことが可能になる。

 研究チームと発表

 本研究は、中国の北京大学(Peking University)を中心に、中国科学院・宇宙情報研究所(Aerospace Information Research Institute, Chinese Academy of Sciences)および米国のカリフォルニア大学サンタバーバラ校(University of California, Santa Barbara)の研究者らが共同で進めた。研究成果は、2025年3月に科学誌「Nature Electronics」に掲載された。

 筆頭著者である北京大学情報通信技術研究所の助教授・Chang Lin氏は、「光を情報伝達・処理の媒体とすることで、計算速度の向上が可能になる」と述べている。

 まとめ

 ・北京大学を中心とする研究チームが100GHz超の全光学式チップを開発。
 ・電子ではなく光を用いたクロック信号技術(フォトンクロック)を採用し、従来の電子式クロックの限界を克服。
 ・AI、6G通信、自動運転など幅広い分野で革新をもたらす可能性がある。
 ・研究成果は「Nature Electronics」に掲載され、今後の技術実用化が期待される。
この技術が商用化されれば、従来の半導体技術の枠を超えた新たなコンピューティング時代が到来する可能性がある。

【要点】

 全光学式100GHzチップの概要と意義

 1.研究内容

 ・北京大学を中心とする国際研究チームが100GHz超の全光学式チップを開発。
 ・電子ではなく光を用いたクロック信号技術(フォトンクロック)を採用。
 ・研究成果は科学誌「Nature Electronics」に掲載。

 2.従来の電子クロックの問題点

 ・発熱の問題:高クロック化に伴い電力消費が増加し、発熱が大きくなる。
 ・伝送速度の制約:電子回路では光よりも信号伝送速度が遅く、高速化に限界がある。
 ・同期精度の課題:高周波化するとノイズの影響を受けやすく、正確な同期が困難になる。

 3.光を用いたクロック信号の特徴

 ・「マイクロコム(microcomb)」技術を利用し、光パルス列を生成。
 ・超高速動作(100GHz以上)を実現。
 ・低エネルギー消費で発熱が抑えられ、エネルギー効率が向上。
 ・高精度な同期が可能になり、計算処理の安定性が向上。

 4.今後の応用分野

 ・AI・スーパーコンピューティング:大規模言語モデル(LLM)やディープラーニングの処理を高速化。
 ・次世代通信(6G):100GHzクラスの超高速信号処理により、大容量・超低遅延通信を実現。
 ・自動運転・ロボティクス:リアルタイム制御をより高精度に行うことが可能に。

 5.研究チームと発表

 ・北京大学(Peking University)
 ・中国科学院・宇宙情報研究所(Aerospace Information Research Institute, Chinese Academy of Sciences)
 ・カリフォルニア大学サンタバーバラ校(University of California, Santa Barbara)
筆頭著者:常琳(Chang Lin)助教授(北京大学情報通信技術研究所)

 6.期待される影響

 ・従来の半導体技術の枠を超えた新たなコンピューティング時代の到来。
 ・次世代のAI、通信、自動運転技術の基盤となる可能性。

【引用・参照・底本】

Is a light-speed chip unveiled by China-led team the future of ultra-fast processing? SCMP 2025.03.7
https://www.scmp.com/news/china/science/article/3301145/light-speed-chip-unveiled-china-led-team-future-ultra-fast-processing?module=perpetual_scroll_1_RM&pgtype=article

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