ロシアの地上作戦拡大の可能性2025年03月20日 10:11

Ainovaで作成
【概要】
 
 ロシアがウクライナにおける地上戦を拡大し、スームィ州、ドニプロペトロウシク州、ハルキウ州へ進軍する可能性について論じている。主要な論点は以下の通りである。

 1.ロシアの戦略的選択肢

 現在、ロシア軍はクルスク州のウクライナ側への押し戻しを進めており、南西ドンバス戦線ではドニプロペトロウシク州の境界に迫っている。この状況で、プーチン大統領はロシアが2022年に編入を宣言した4州(ドネツク、ルガンスク、ザポリージャ、ヘルソン)のみに地上戦を限定するか、それともスームィ、ドニプロペトロウシク、ハルキウの各州に戦線を拡大するかの決断を迫られている。

 2.拡大の意義

 これらの地域に進軍することで、ドンバスやザポリージャの前線防御を迂回し、ロシアが完全制圧を目指す地域の攻略を有利に進められる可能性がある。2024年5月にハルキウ州へ進軍した前例があるが、当時は戦局が膠着し、目的は達成されなかった。しかし、現在の戦況は変化しており、スームィ州への進軍が成功すれば、ウクライナの防衛体制を揺さぶる「ドミノ効果」を引き起こせる可能性がある。

 3.トランプ政権との関係

 2025年のトランプ政権下でロシアと米国の間に「新デタント(緊張緩和)」が模索されているが、最近のプーチン・トランプ会談では停戦には至らなかった。ただし、トランプはエネルギーインフラへの攻撃停止を条件にロシアとの交渉を進める可能性がある。この状況下でロシアが戦線を拡大すれば、トランプが「ロシアは和平の意思がない」と判断し、二次制裁を厳格化するか、ウクライナへの軍事支援を強化する可能性がある。

 4.ロシア国内の「強硬派」の影響

 ロシア国内の強硬派は、さらなる軍事的圧力によってウクライナを降伏に追い込むべきだと主張する可能性がある。プーチン大統領は通常、慎重な姿勢を取るが、交渉を有利に進めるためには一定のリスクを冒すべきだと考えるかもしれない。

 5.欧州の対応と戦略的考慮

 ロシアが戦線を拡大すれば、トランプがウクライナ支援を縮小しても、欧州が独自に軍事支援を継続する可能性がある。その場合、ロシアにとって停戦はウクライナの再武装を許すだけの結果となり得る。したがって、ロシアにとって現実的な選択肢は、スームィ、ドニプロペトロウシク、ハルキウの各州への進軍を通じてウクライナの軍事力を継続的に削ぐことである。

 6.「トランス・ドニエプル非武装地帯」の構想

 ドニエプル川の東側と、ロシアが領有を主張する地域の北側に「非武装地帯」を設ける構想についても触れられている。これは、ロシアの安全保障上の利益を確保するための一つの手段として議論されている。

 7.慎重な軍事行動の可能性

 プーチン大統領が全面的な拡大を避ける場合でも、局所的な軍事行動は続けられる可能性がある。例えば、ウクライナ軍をスームィ、ドニプロペトロウシク、ハルキウの各州に追いやり、次の防衛拠点へ退却させることで、ロシア軍の優位性を維持する戦術が考えられる。この戦略はロシアの地上戦力の優位を示し、トランプ政権に対し、ウクライナに譲歩を迫るよう圧力をかける狙いがある。

 8.ロシアの意図の事前通告と管理可能なエスカレーション

 ロシアは戦線拡大を行う場合でも、その意図を米国に事前に伝えることで、過度なエスカレーションを避けようとする可能性がある。プーチン大統領が慎重な戦略家であることを考慮すると、無制限な拡大ではなく、交渉と並行した軍事圧力の強化を選択する可能性が高い。

 総じて、ロシアがスームィ、ドニプロペトロウシク、ハルキウへの進軍を決断するかどうかは、戦局の推移、米国の対応、欧州の動向による影響を考慮した上での判断となる。プーチン大統領の慎重な姿勢を踏まえれば、全面的な侵攻よりも限定的な軍事行動を維持する可能性が高いが、戦況の変化次第では拡大の可能性も否定できない。

【詳細】 
 
 ロシアが今後の地上作戦をスームィ(Sumy)、ドニプロペトロウシク(Dniepropetrovsk)、ハルキウ(Kharkov)の各州に拡大する可能性について分析している。主な論点は以下のとおりである。

 1. 現在の戦況とロシアの選択肢

 ロシアとアメリカの間で「新デタント(New Détente)」の動きがあるものの、プーチンとトランプの最近の会談では停戦合意には至らなかった。これにより、ウクライナ紛争の「熱戦段階」は継続している。ただし、ロシアはウクライナのエネルギーインフラへの攻撃を停止する意向を示しており、それはキエフ側の対応次第である。

 現在、ロシア軍はクルスク(Kursk)州からウクライナのスームィ州へ進軍しつつあり、南西ドンバス戦線ではドニプロペトロウシク州の境界に迫っている。この状況の中で、プーチンは地上作戦を現在の占領地域(2022年の住民投票でロシア併合が宣言された4州)に限定するのか、それとも新たにスームィ、ドニプロペトロウシク、ハルキウへ拡大するのかという決断を迫られている。

 2. 地上作戦拡大の可能性

 ロシアがこれらの地域へ進出する理由として、以下のような戦略的利点が考えられる。

 (1)ドンバスやザポリージャの前線防御を迂回する

 ・2023年5月にロシアはハルキウ州へ一時的に進軍したが、大規模な戦果を挙げることはできなかった。しかし、現在の戦況は当時とは異なり、仮にスームィ州へ進出すれば、ウクライナ軍の防衛線に圧力をかける可能性がある。
 ・特に、ドニプロペトロウシク州へ攻勢をかければ、ザポリージャ方面のロシアの進撃を加速させる効果も期待できる。

 (2)「トランス・ドニエプル」緩衝地帯の形成

 ・ロシアの長期的な軍事目標の一つとして、ドニエプル川東岸に「非武装地帯」を設置する構想がある。スームィ、ドニプロペトロウシク、ハルキウの各州に進出すれば、その実現可能性が高まる。

 (3)ウクライナの戦力削減(非武装化)

 ・現在のウクライナ軍は西側の支援を受けて戦闘を継続しているが、ロシア側としてはこれを徹底的に削減し、ウクライナを「戦えない状態」にすることで戦争終結に持ち込む狙いがある。

 3. 作戦拡大のリスクと政治的影響

 ロシアがこれらの地域へ進軍した場合、以下のようなリスクが伴う。

 (1)トランプの反応

 ・もしロシアが大規模な攻勢をかければ、トランプは「プーチンが交渉の時間稼ぎをしている」と判断し、ロシアへの制裁を強化する可能性がある。具体的には、ロシア産エネルギーに対する二次制裁(第三国経由の輸入禁止)を徹底することで、クレムリンに経済的打撃を与えようとするかもしれない。
さらに、トランプがウクライナへの武器供与を最大限強化する可能性もある。

 (2)ヨーロッパ諸国の対応

 ・一方で、トランプが仮にウクライナ支援を縮小したとしても、欧州諸国が独自に軍事支援を継続する可能性が高い。ロシアにとっては、停戦のタイミングを誤れば、ウクライナが再武装する猶予を与える結果になりかねない。

 (3)軍事的リスク

 ・2023年5月のハルキウ進軍のように、ロシア軍が新たな地域で持続的な支配を確立できなければ、戦線が膠着する危険がある。また、戦線を拡大すれば補給線が長くなり、防衛負担も増大する。

 4. プーチンの選択肢と予測

 プーチンは本来、慎重な戦略家であり、大きなリスクを避ける傾向がある。しかし、戦局が有利に進んでいる現在の状況では、局所的な前進を容認する可能性がある。

 (1)限定的な進軍

 ・ロシアはスームィ、ドニプロペトロウシク、ハルキウの各州に対して大規模な進攻を行うのではなく、ウクライナ軍の防衛拠点を圧迫する範囲で限定的な作戦を展開する可能性がある。
 ・これは、トランプとの交渉を有利に進めるための戦術的な手段として機能する。

 (2)「段階的圧力」戦略

 ・ロシアは軍事作戦の拡大を通じて、ウクライナに対するプレッシャーを高めながら交渉を続ける姿勢を取るかもしれない。
 ・ただし、「一定の自制」を示しつつ、トランプに「ロシアは交渉に応じる用意がある」というシグナルを送ることで、アメリカの強硬対応を避ける狙いがある。

 結論

 ロシアがスームィ、ドニプロペトロウシク、ハルキウの各州へ本格的に進軍するかどうかは、今後の戦況やトランプの対応次第である。しかし、ロシア側にとって戦略的な誘因は十分にあり、特にウクライナ軍を圧迫しつつ交渉を有利に進めるための限定的な作戦は実行される可能性が高い。

 ただし、ロシアが過度に攻勢を強めれば、アメリカの反応を引き起こし、最終的にロシアにとって不利な状況を招く可能性もあるため、プーチンは慎重なバランスを取りながら行動することが予想される。

【要点】

 ロシアの地上作戦拡大の可能性(スームィ、ドニプロペトロウシク、ハルキウ)

 1. 現在の戦況とロシアの選択肢

 ・ロシアとアメリカの「新デタント」の動きがあるが、停戦には至らず戦闘継続中。
 ・ロシアはウクライナのエネルギーインフラ攻撃を停止する意向を示すも、キエフの対応次第。
 ・現在、ロシア軍は以下の地域で進軍中:

  ⇨ スームィ州(クルスク州からの進軍)
  ⇨ ドニプロペトロウシク州(南西ドンバス方面)
  ⇨ ハルキウ州(限定的な攻勢)

 ・プーチンは戦線拡大の決断を迫られている。

 2. 地上作戦拡大の戦略的利点

 ・ドンバスやザポリージャの防御線を迂回し、ウクライナ軍を圧迫。
 ・「トランス・ドニエプル」緩衝地帯(ドニエプル川東岸の非武装地帯)の形成。
 ・ウクライナの戦力削減(非武装化)を進め、持久戦を有利にする。

 3. 作戦拡大のリスクと政治的影響

 (1)トランプの反応

 ・大規模攻勢の場合、トランプは「プーチンの時間稼ぎ」と判断し、制裁強化の可能性。
 ・ロシア産エネルギーへの二次制裁やウクライナへの追加武器供与の可能性。

 (2)ヨーロッパ諸国の対応

 ・トランプがウクライナ支援を縮小しても、EU諸国が独自に支援を継続する可能性。

 (3)軍事的リスク

 ・2023年5月のハルキウ攻勢のように、持続的支配が困難になれば戦線膠着の危険。
 ・戦線拡大による補給負担増大。

 4. プーチンの選択肢と予測

 (1)限定的な進軍

 ・大規模作戦ではなく、ウクライナ軍防衛拠点を圧迫する範囲での攻勢。
 ・交渉を有利に進めるための戦術的手段として機能。
 
 (2)「段階的圧力」戦略

 ・軍事圧力を高めながら交渉を継続。
 ・アメリカの強硬対応を避けるために「自制」を示す可能性。

 5. 結論

 ・ロシアの地上作戦拡大は、戦況とトランプの対応次第で決定される。
 ・戦略的な理由から、スームィ、ドニプロペトロウシク、ハルキウへの限定的な攻勢の可能性が高い。
 ・ただし、過度な攻勢はアメリカやEUの強硬対応を招くリスクがあるため、慎重なバランスが求められる。

【引用・参照・底本】

Will Russia Expand Its Ground Campaign Into Sumy, Dniepropetrovsk, And/Or Kharkov Regions? Andrew Korybko's Newsletter 2025.03.19
https://korybko.substack.com/p/will-russia-expand-its-ground-campaign?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=159397773&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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