インディアの政治と宗教の関係2025年03月21日 21:34

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【概要】 
 
 インドのナレンドラ・モディ首相は、宗教的な人物であり、インディア・ビジュ・パーティ(BJP)の下で、インドは世俗的な統治とヒンドゥー民族主義の間で微妙なバランスを取っている。モディ首相の下で、BJPは宗教的アイデンティティと政権運営を結びつけ、ヒンドゥー主義の国家への移行が懸念されている。BJPは公式には神権政治を目指していないと主張しているが、その政策や言説はヒンドゥトヴァ(ヒンドゥー文明主義)の原則に基づくものが多い。

 この状況はインド特有のものではなく、世界中で宗教と文化的アイデンティティに結びついたナショナリズムが高まっている。しかし、インドのケースは特に重要である。インドは世界最大の民主主義国家であり、経済的に急成長を遂げている国であり、その政治的・社会的な動向は国内外に多大な影響を与える。

 BJPは1951年に設立されたバラティヤ・ジャナ・サンフに起源を持ち、これがインド国民会議(Congress Party)に対抗する形で発展した。BJPはヒンドゥー民族主義を掲げる一方、インディア国民会議の社会主義モデルから離れ、経済自由化と自立を推進してきた。この政策はインドの経済成長に大きく寄与し、インドのGDPは2014年の2兆ドルから2024年にはほぼ4兆ドルに倍増した。2030年にはインドが世界第3位の経済規模を持つと予測されている。

 BJPは2014年の政権獲得以来、世俗主義を弱めてきたと批判されている。批判者は、2019年に成立した市民権改正法(CAA)や、BJP支配地域で制定された改宗禁止法(anti-conversion laws)がヒンドゥトヴァ政策に基づいており、宗教的少数派をターゲットにしていると指摘している。特に、CAAは近隣諸国からの非イスラム教徒難民に対して市民権を迅速に付与するもので、宗教的差別の懸念を引き起こしている。

 モディ首相は宗教的な問題にも積極的に関与しており、2020年にはアヨーディヤのラーム・マンディール(ラーマ寺院)の基礎を築いた。これにより、1992年にヒンドゥー教徒の暴徒によって破壊されたバブリ・マスジッド(モスク)との歴史的な対立を再燃させた。

 BJPの成功は、長年にわたるインディア国民会議の支配に対する反応として理解される。インディア国民会議はソーシャリズムと官僚主義的な体制で民間産業を制限し、非効率的で成長が遅い結果を招いた。しかし、歴史的には、インディア国民会議もBJPと同様にマイノリティに対して不寛容だったとの指摘もあり、特にムスリムに対する差別があったとされる。

 インディアの宗教と政治は密接に結びついており、ガンディーも独立運動を宗教的・道徳的な戦いとして捉え、ヒンドゥー教の概念を用いて多様なコミュニティをまとめようとした。また、アメリカの歴史家ローレンス・タウブはインディアを「宗教的ベルト」に位置づけ、西洋の政治イデオロギーがこの地域には合わないと指摘している。

 インディアの霊的指導者サッドグルーは、ヒンドゥー教の復興において独自の立場を占め、伝統的な宗教グループと個人の霊的成長を重視するグループの両方に訴えかけている。サッドグルーはインディアの霊的遺産を強調し、ヒンドゥー哲学をガバナンスに統合することを提唱しており、BJPの広範なイデオロギーとも一致している。

 インディアが世俗的な民主主義を維持するのか、それともヒンドゥー文明国家に移行するのかは不確定である。しかし、BJPは現在、国民の多くがインディアが正しい方向に進んでいると信じているという調査結果を受けて安心している。

 宗教と文化の復興はインディアに限らず世界中で見られ、伝統的な左派・右派のイデオロギーやグローバリズムへの反発が高まっている。国民は民主主義そのものに疑問を呈しているわけではないが、民主主義の結果、社会的な不安や生活水準の低下、システムの崩壊に対する不満を抱いている。

【詳細】 

 インディアのナレンドラ・モディ首相は、インディアの政治と社会において重要な変化をもたらしている。モディ首相とその率いるインディア人民党(BJP)は、ヒンドゥー教に基づくナショナリズムを強く推進しており、これがインディア国内外で注目を集めている。モディ政権の政策は、ヒンドゥタ(ヒンドゥー教徒の国としてのアイデンティティ)を強調しており、この点がインディアの世俗的な特徴と対立する形になっている。

 インディアは、長らく世俗的な政治体制を維持してきたが、モディ首相の下で、政治と宗教が密接に結びつく傾向が強まった。この流れは、インディアがヒンドゥー教を中心にした国家へと変わりつつあるという懸念を生んでいる。BJPは公に神政国家の樹立を目指していないと主張しているが、その政策と発言にはヒンドゥタの原則が色濃く反映されている。

 モディ政権の下でインディアでは経済成長が顕著であり、GDPは2014年の2兆ドルから2024年にはほぼ4兆ドルに達し、世界で日本とドイツに次ぐ規模となった。しかし、同時に新たな立法や政策が世俗主義を弱体化させ、ヒンドゥー教徒以外の宗教的マイノリティに対する差別を助長しているとの批判もある。

 たとえば、2019年に成立した市民権(修正)法(CAA)は、隣国からの非ムスリム難民に対して市民権を迅速に付与する内容であり、ムスリムの市民権に対する差別的な側面が指摘されている。また、BJPが支配する州では、宗教的な改宗を禁止する法律が導入されており、これも宗教的マイノリティ、特にムスリムに対する圧力として批判されている。

 モディ首相はまた、インディアの宗教的象徴であるラーム神殿の建設に関与するなど、宗教的な問題にも深く関わってきた。2020年にはアヨディヤのラーム神殿の基礎を築く式典を主導し、これがインディア国内でのヒンドゥー教徒とムスリム間の緊張を再燃させる結果となった。このような宗教的背景の中で、BJPはインディアの経済政策にも大きな影響を与えており、インディアの経済は急速に成長している一方で、社会的には宗教的対立が深まっている。

 インディア国内でのこうした変化は、インディアに限らず、世界的なナショナリズムの台頭と関連している。特に、ドナルド・トランプやウラジーミル・プーチン、習近平など、世界の指導者たちはナショナリズムと宗教的な物語を取り入れ、自国の価値観を強調する傾向を見せている。インディアにおいても、BJPが推進するヒンドゥー教を基盤にしたナショナリズムが、他の国々の政治的変化と並行しているという視点がある。

 宗教的な復興運動はインディアにとどまらず、世界中で見られる現象であり、多くの国々で国民国家のアイデンティティを強調する動きが高まっている。インディアの政治は、このような世界的な潮流の中で、世俗的な伝統と宗教的ナショナリズムとの間で揺れ動いている。このような状況において、インディアが今後どのように自国のアイデンティティを形成し、宗教と政治をどのように融合させるかは、国内外に大きな影響を与える重要な問題である。

【要点】

 1.インディアの政治と宗教の関係

 ・モディ首相とBJP(インディア人民党)は、ヒンドゥー教に基づくナショナリズムを強調している。
 ・BJPの政策は、ヒンドゥタ(ヒンドゥー教徒の国家としてのアイデンティティ)を反映しており、インディアの世俗的な特徴と対立している。
 ・モディ政権は、インディアがヒンドゥー教を中心にした国家へと移行することに対する懸念を引き起こしている。

 2.BJPの政策と立法

 ・市民権(修正)法(CAA、2019年)は、隣国からの非ムスリム難民に市民権を迅速に付与する内容で、ムスリムに対する差別的な側面が指摘されている。
 ・宗教的改宗を禁止する法律がBJP支配の州で導入され、ムスリムなどの宗教的マイノリティに対する圧力を強めている。

 3.モディ首相と宗教的シンボル

 ・2020年、モディ首相はアヨディヤでのラーム神殿の基礎を築く式典に参加し、宗教的な問題に関与した。
 ・ラーム神殿の建設は、ヒンドゥー教徒とムスリムの間の緊張を再燃させた。

 4.インディアの経済成長と社会的対立

 ・モディ政権の下でインディアのGDPは急増し、世界第3位の経済規模になると予測されている。
 ・経済成長とともに、宗教的な対立が深刻化している。

 5.世界的なナショナリズムの台頭

 ・インディアにおけるヒンドゥー教ナショナリズムの台頭は、ドナルド・トランプやウラジーミル・プーチン、習近平など他国の指導者によるナショナリズムの強化と並行している。
 ・世界的に宗教や文化に基づくナショナリズムが高まり、伝統的な左派・右派のイデオロギーに反発が生じている。

 6.インディアの未来

 ・インディアが今後も世俗的な民主主義を維持するか、ヒンドゥー教を基盤にした国家へと移行するかは不確かである。
 ・モディ政権は、国内外の政治的影響を受けながら、インディアのアイデンティティと方向性を決定する重要な局面に立っている。

【引用・参照・底本】

India’s Modi presaged the global surge in nationalism ASIA TIMES 2025.03.20
https://asiatimes.com/2025/03/indias-modi-presaged-the-global-surge-in-nationalism/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=0eb5d59746-DAILY_20_03_2025&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-0eb5d59746-16242795&mc_cid=0eb5d59746&mc_eid=69a7d1ef3c#

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