米中間の資本市場における「極端な」デカップリング(分断)の可能性 ― 2025年04月15日 10:05
【桃源寸評】
国交断絶というシナリオを想定されるか。(➡️〖参考〗)
【寸評 完】
【概要】
米中間の資本市場における「極端な」デカップリング(分断)が生じた場合、株式および債券の売却によって最大で2.5兆米ドルの損失が発生する可能性があると、ゴールドマン・サックスが分析している。
この報告書は、ゴールドマン・サックスのアナリストであるキング・ラウ(Kinger Lau)およびティモシー・モー(Timothy Moe)らによって作成されたものであり、米国と中国の投資家がそれぞれ相手国の株式および債券保有を放棄せざるを得なくなる極端なシナリオを前提としている。
具体的には、米国投資家は、米国の証券取引所で取引されている中国企業の株式約8000億米ドル相当を売却する可能性があるとされている。一方で、中国側は、米国債保有分1.3兆米ドルおよび米国株式保有分3700億米ドルの売却に踏み切る可能性がある。
このような見通しは、米国の規制によって米国投資家の対中投資が制限されるという前提に基づいている。
米中間のデカップリングのリスクは、貿易分野にとどまらず資本市場にも波及しており、米国財務長官スコット・ベセント(Scott Bessent)が米国に上場する中国企業の上場廃止の可能性に言及したことが、その動きを象徴している。これに先立ち、トランプ政権は中国からの輸入品に対して145%の関税を課しており、中国側もすべての米国製品に125%の関税、特定の米国製品にはさらに20%の関税を上乗せして報復措置を講じている。
ゴールドマン・サックスの報告書では、「資本市場において、株式投資家は中国のADR(米国預託証券)の上場廃止リスクに再び注目している」と述べられている。
実際にこのリスクが現実化すれば、中国の大手テクノロジー企業を含む約300社に影響が及ぶこととなる。米中経済安全保障調査委員会(US-China Economic and Security Review Commission)によれば、2025年3月7日時点で、NYSE(ニューヨーク証券取引所)、NYSEアメリカン、ナスダックには合計286社の中国本土企業が上場しており、これらの企業の時価総額は合計で1.1兆米ドルに達している。
【詳細】
1. デカップリングの定義と背景
「デカップリング(decoupling)」とは、これまで相互に深く結びついていた国家間の経済・金融関係を切り離す動きのことである。本件では、世界最大規模の資本市場を有する米国と中国が、政治的・安全保障上の理由から資本市場における相互依存を解消しようとする動きが「極端な」段階に至った場合を想定している。
この懸念は、米国の新たな財務長官であるスコット・ベセント氏が、米国上場の中国企業の上場廃止(delisting)を再び検討対象とすると明言したことを契機として再燃した。
2. 想定される金融市場への影響:最大2.5兆米ドルの損失
ゴールドマン・サックスが示した試算によれば、米中デカップリングが現実化した場合、以下の通り、双方の投資家が大規模な資産の売却を強いられると見られている。
(1)米国側の売却想定
・中国企業株式:約8000億米ドル
これは、米国投資家がADR(米国預託証券)などの形で保有している中国企業の株式に相当する。規制により米国投資家がこれらの資産に投資できなくなれば、大量の売却が発生し、流動性・価格に深刻な影響を与える。
(2)中国側の売却想定
・米国債:1.3兆米ドル
中国は外貨準備として米国債を大量に保有しており、政治的対抗措置としてその放出に踏み切る可能性がある。
・米国株式:3700億米ドル
中国の機関投資家や国家系ファンドが保有する米国企業株の売却も想定されている。
これらの売却が同時に実行されれば、合計で2.5兆米ドル相当の資産が市場に放出されることとなり、世界的な金融市場の混乱を招くと警告されている。
3. デカップリングの契機:貿易戦争の激化
ベセント財務長官の発言は、米中間で再燃した報復的関税合戦の文脈で発せられている。
・米国側の措置:中国製品に145%の関税を課す。
・中国側の報復:全米国製品に125%の関税、加えて一部の製品にさらに20%の追加関税を実施。
このように、両国間の対立は貿易から資本市場へと波及しており、企業活動や投資家心理に大きな不確実性をもたらしている。
4. 上場廃止の影響範囲:286社、時価総額1.1兆米ドル
仮に米国が本格的に中国企業の上場廃止(delisting)を進めた場合、次のような実態が影響を受ける。
・対象企業数:286社(2025年3月7日時点)
・上場先:NYSE、NYSEアメリカン、ナスダック
・合計時価総額:1.1兆米ドル
これらの企業には、中国のハイテク大手や金融、消費、医療関連の主要企業が多数含まれており、投資家のポートフォリオに与える影響は極めて大きい。
5. 投資家の視点と市場の反応
ゴールドマン・サックスの分析では、特にADRの上場廃止リスクに対して、機関投資家や市場参加者が高い警戒感を示していると述べられている。報告書では、「資本市場では、株式投資家が中国ADRの上場廃止リスクに非常に注目している」との見解が示されている。
このような不安は、証券取引所や外国為替市場にも波及し、株価の変動性(ボラティリティ)の上昇やリスク回避的行動(フライト・トゥ・クオリティ)を引き起こす要因となり得る。
政治的緊張の高まりにより、資本市場にも深刻な構造的リスクが顕在化しつつあることが読み取れる。
【要点】
1.デカップリングの概要
・米中両国の資本市場における**「極端なデカップリング」が進行した場合、金融市場全体で最大2.5兆米ドル**規模の資産売却が発生する可能性がある。
・これは主に政治的・規制的要因により、相互の資産保有が不可能になるケースを想定している。
2.米国側の影響
・米国投資家は、米国に上場する中国企業の株式を最大8000億米ドル分売却する必要が生じる。
・これにはADR(米国預託証券)を通じた中国株投資も含まれ、市場流動性と株価に大きな打撃を与える。
3.中国側の影響
(1)中国政府および投資家は、以下の米国資産を保有しているが、それらを政治的・報復的措置として売却する可能性がある。
・米国債:1.3兆米ドル
・米国株式:3700億米ドル
(2)一斉売却により、米国市場の金利上昇・株価下落を招くおそれがある。
4.デカップリングの引き金
(1)米国財務長官スコット・ベセント氏が、中国企業の**米国市場からの上場廃止(delisting)**の再検討を示唆。
(2)これは、激化する米中関税合戦の一環である。
・米国:中国製品に145%の関税
・中国:全米国製品に125%、一部製品に**さらに20%**の報復関税
5.上場廃止の影響範囲
・2025年3月時点で、286社の中国企業が米国の証券取引所(NYSE、NYSEアメリカン、ナスダック)に上場。
・合計時価総額は1.1兆米ドルに達しており、廃止されれば米中双方の投資家に広範な影響を及ぼす。
6.投資家・市場の反応
・ゴールドマン・サックスは、ADRの上場廃止リスクに対して、投資家が極めて高い関心と警戒心を抱いていると指摘。
・このリスクは、株式市場全体のボラティリティ上昇や、資産の安全志向(リスク回避)につながる。
以上のように、米中デカップリングの金融的影響を具体的かつ数量的に提示しており、政策判断による市場動揺の深刻さを明らかにしている。
【参考】
☞ ADR(American Depositary Receipt、米国預託証券)
1.概要
・ADR(米国預託証券)は、米国外の企業の株式を、米国の投資家が米ドル建てで取引できるようにした証券である。
・実際の株式は、米国外の銀行や信託機関に預けられており、米国内の銀行がそれに対応するADRを発行する。
・米国の証券取引所(NYSEやナスダックなど)に上場され、通常の米国株と同様に売買可能である。
2.仕組み
・例:ある中国企業がADRを発行する場合、同社の株式が香港などに上場されており、その株式を米国の金融機関が保管。
・その保管株式に対して、預託銀行が米国でADRを発行。
・米国の投資家は、元の中国株ではなく、ADRを売買することで間接的に当該企業に投資できる。
3.特徴
・為替リスクの低減:ドル建てでの取引が可能であり、為替変動の影響を抑えられる。
・透明性の向上:SEC(米国証券取引委員会)の規制を受けるため、一定の開示基準や会計基準が求められる。
・配当の受け取りも可能:発行元企業が配当を出せば、ADR保有者も米ドルで配当を受け取ることができる(ただし為替や税引きの影響あり)。
4.代表例(中国企業)
・アリババ(Alibaba Group)
・バイドゥ(Baidu)
・JDドットコム(JD.com)
これらはいずれもADRとして米国市場に上場しており、多くの米国投資家が保有している。
4.デカップリングにおける懸念
・米国政府がADR上場を廃止する場合、米国投資家は強制的に売却を迫られる。
・上場廃止により市場流動性が失われ、株価が急落するリスクがある。
・対象企業にとっても、海外資金の調達手段が制限され、資本コストが上昇する恐れがある。
以上のように、ADRは国際的な投資の架け橋であるが、地政学的緊張や規制強化により投資リスクが高まる可能性がある。
☞ 国交断絶の想定で、既に中国は準備が進んでいるのかもしれない。以下の点についてみる。
1.中国が国交断絶後も大きく困窮しない理由
① OS(オペレーティングシステム)の自立性
・中国は自国製OS(例:麒麟OS、鸿蒙OS)を既に開発・展開しており、WindowsやAndroidが遮断されても基幹インフラや政府機関の運用に支障なし。
・モバイルではHarmonyOS(鸿蒙)が既に一部市場でAndroidと置き換えられており、スマートフォン・IoT機器における脱米依存が進行中。
② インターネットの国家主権モデル(“中国式インターネット”)
・既に「グレート・ファイアウォール」で世界のインターネットから半ば分離されており、断交後の完全独自ネットワーク体制(国家内網)への移行はスムーズ。
・Baidu(検索)・WeChat(SNS・決済)・Alibaba(EC)など、主要IT機能を自国企業で完結可能。
・DNSの国家主権運用や独自ルートサーバの設置も実行済み。
③ 国家統制・政治安定による混乱吸収力
・国交断絶直後の社会混乱(市場・物流・情報流通の乱れ)に対しても、一党体制による情報統制・治安維持体制が機能。
・愛国心・ナショナリズムの動員により、一定の不満を「団結」の方向へ誘導できる。
④ 経済自立に向けた中長期政策(「双循環」戦略)
・外需依存から内需主導経済への転換(内循環)を明言しており、断交後の輸出減退にも中長期で対応可能。
・米ドル依存の縮小、人民元圏の形成、中央アジア・アフリカとの経済連携(Belt and Road)などにより、“中国中心”経済圏の構築が進行。
結論
中国はOS・インターネット基盤の独自構築を既に成し遂げており、国交断絶後の技術的・情報的孤立には耐性がある。むしろそれらは想定済みの戦略変数であり、中国側が最も準備を整えている領域である。初期の混乱を最小限に抑えつつ、独自秩序の構築へと速やかに移行する蓋然性が高い。
2.中国が保有する主な金融ネットワークとその自立性
① 独自の銀行間決済システム:CIPS
・CIPS(Cross-Border Interbank Payment System)は、中国が主導する人民元建ての国際決済ネットワーク。
・SWIFTの代替を想定しており、特にアジア・中東・アフリカ・一部欧州と連携拡大中。
・既に100か国超・1300以上の金融機関が接続(直接/間接含む)。
② デジタル人民元(e-CNY)
・中央銀行デジタル通貨(CBDC)の先駆けとして、国家主導の電子通貨が既に実用段階にある。
・モバイル決済との統合(Alipay・WeChat Pay)により、国内の非現金経済基盤は極めて強固。
・国際化も試行中で、「一帯一路」参加国との貿易決済や援助に用いられ始めている。
③ 外貨準備の多様化
・ドル依存脱却を目指し、ユーロ・円・金などを組み合わせた多様な準備体制を構築。
・米国債保有の縮小と、金(ゴールド)の急速な積み増しが近年目立つ。
④ 上海・香港市場の資本調達力
・香港ドルの為替ペッグ体制、および上海証券取引所・香港証券取引所の連携強化により、中国内での資本調達も可能。
・外資依存の低下と同時に、中東・ロシア・ASEAN諸国との人民元建て資金調達が広がっている。
結論
金融ネットワークにおいても、中国は単なる防御だけでなく攻勢的な体制構築に成功しつつある。SWIFTやドル体制からの段階的な離脱は容易ではないが、中国の金融主権は「米国抜きでも回る」仕組みへと徐々に移行している。
米中が金融的に分断された場合、むしろ「中国の自立進行を加速させる」可能性すらあると見られる。
3.米国が陥る混乱と構造的弱点
① 基本的な生活物資の欠乏
・衣料品・雑貨・プラスチック製品・玩具・家庭用電化製品など、日常品の大半は中国製であり、短期間での代替は不可能。
・例:ウォルマートやアマゾンに並ぶ商品群の60%以上が中国または中国経由製品。
② 製造能力の空洞化
・米国は1970年代以降「脱工業化」を推進し、ハイテク以外の製造業基盤が極度に弱体化。
・部品から最終製品に至るまでの組み立てラインが国内に存在せず、再工業化には10年以上の年月を要する。
③ 代替先の未整備
・対中依存から脱却しようとしても、インド・ベトナム・メキシコ等では生産能力が全く足りない。
・中国が担っている規模(世界の工場)を代替するには極めて高コスト・非効率となる。
④ 社会的不満・格差拡大
・日用品や食料品価格の高騰により、低所得層の生活が直撃され、暴動や抗議運動の発生も懸念される。
・特に都市部において生活必需品の価格インフレと供給不安は社会秩序を不安定化させる。
⑤ 米企業の生産停止と雇用不安
・Apple、Dell、HPなどの米企業は中国に生産拠点を持つため、供給断絶で即座に生産停止。
・雇用や株価にも大打撃を与え、金融市場の混乱(債券・株式の大規模売り)に波及。
結論
・米国は現在、「物をつくれない大国」であり、日用品から工業部品に至るまでの製造基盤を中国という“外注先”に全面依存してきた。その依存構造が国交断絶によって断たれた場合、「米国は超大国ではなくなる」という見方も現実味を帯びる。これは国際覇権の構造的移行を招きうる重大な事態である。
4.サプライチェーン
①再編
・中国は内循環経済(国内市場中心)と外循環(グローバル)を分離する「双循環」戦略をすでに提示済み。
・ASEAN・中東・アフリカ・中南米などと「非米圏サプライチェーン」の構築を加速中。
・特にレアアース・半導体素材・リチウム・太陽光パネル・バッテリー素材などで、独占的優位を保持。
・米国・日本・欧州が中国依存を減らそうとする中、中国も「自前で完結する供給網」へ移行中。
②海底ケーブルの掌握・通信ネットワーク
・中国はHuawei Marine(現HMN Tech)を通じて、東南アジア・アフリカ・中東を繋ぐ独自の海底通信ケーブル網を構築中。
・中国主導の海底ケーブルは、米系ルートを迂回する形で急増している。
・国家情報法により、中国製通信設備は政府管理下に置かれ、通信遮断に対する即応性が高い。
・インターネットについても、中国国内は金盾(Great Firewall)により独立した情報統制空間を確保しており、外部遮断への備えができている。
③BRICS+との技術連携と金融共通基盤
・中国はBRICS+構想を通じて、ロシア・インド・ブラジル・南ア・イラン・サウジアラビアなどと独自の技術・貿易・金融連携網を構築中。
・デジタル通貨・人工知能・通信技術(特に5G・IoT)で中国主導の標準化が進行中。
・2024年にBRICS首脳会議で議題となった「BRICS共通通貨」も、人民元の役割強化を後押しする構想の一部。
評価
米中断交という極端な状況が起きた場合でも、中国は以下のような方向で対応可能と考えられる。
・金融・通貨においては 人民元圏・CIPS圏での自立性強化
・産業・資源では 非米圏との連携と自国内部供給網の強化
・通信・情報では 海底ケーブル・インターネットの独立構築
・技術標準では BRICS・グローバルサウスとの共同開発による米欧依存の脱却
5.宇宙通信に関する中国の現状と対応能力
① 衛星通信インフラの自立化
・中国は独自の衛星測位システム「北斗(BeiDou)」を完成済み(2020年7月に最終衛星打ち上げ)。
・米国のGPSに依存せず、軍事・物流・通信・金融の基幹システムを運用可能。
・ユーラシア、アフリカ、中南米諸国も北斗の端末や測位サービスを導入中。
② 衛星通信ネットワーク(低軌道通信網)
・中国は、低軌道衛星による通信ネットワーク「GW計画(Guowang)」を推進中。
・約13,000基の衛星で中国版Starlinkの構築を目指す国家戦略。
・2021年時点ですでに数百基を申請、中国電子科技集団(CETC)や中国航天科工集団(CASIC)が主導。
・軍民融合型通信として設計されており、平時通信と有事指揮通信の両立が可能。
③ 地上局・衛星打ち上げ能力
・中国は海南・酒泉・西昌・太原など複数の打ち上げ基地を保有。
・年間50回以上の打ち上げ実績(2023年以降はアメリカに匹敵)。
・衛星打ち上げから地上通信局とのリンク構築まで完全に自前で完結可能。
④ 海外への通信ネットワークの拡張
・パキスタン、ベネズエラ、アルジェリアなど中国製通信衛星を導入した国が増加中。
・中国が開発・打ち上げ・運用を担い、BRICS諸国やグローバルサウスとの宇宙通信連携も進行中。
5.国交断絶時における実際の効力
・米中間でのインターネット遮断・物理的通信線(海底ケーブル)の切断が起きた場合でも、中国は北斗+GW網による独自の衛星通信網を用いて、軍・行政・大企業の通信を維持可能。
・民間通信の一部は混乱するが、主要産業・政府機能・軍通信は自立的運用が可能。
・一方、米国はStarlink等を有しているが、その展開地域や同盟国依存度が高いため、断交はより広範な国際混乱を伴う可能性がある。
まとめ
宇宙通信分野における中国の独立対応力
項目 内容
衛星測位 北斗(BeiDou)でGPS不要
通信衛星 GW計画(Starlink相当)推進中
打ち上げ能力 年間50回超、自前で完結
国際展開 パキスタン・南米・アフリカで通信衛星提供
米国依存 事実上ゼロ(GPS、インターネット双方)
6.中国国内市場の特徴と戦略的強み
① 世界最大級の消費市場
・総人口:約14億人(世界最大)
都市部人口の増加と中産階級の拡大が継続中。
・eコマース取引額では世界最大(アリババ、京東、拼多多など)。
・2024年時点で自動車・家電・スマートフォン市場は世界最大規模を維持。
② 国家主導による「内循環」経済戦略
・2020年以降、「双循環戦略(国内大循環+国際小循環)」を掲げる。
・輸出依存から脱却し、内需主導型経済への移行を強化。
・食料、エネルギー、先端部品の国内自給率向上を国家政策として推進。
③ インフラと物流の全国展開
・中国全土に高速鉄道網(4万キロ超)、高速道路網、港湾整備が完了。
・地方経済の都市化と市場開拓(西部開発や東北振興)が進行中。
④ 技術的自立と国内ブランドの台頭
・スマホ:Huawei、Xiaomi、OPPO、Vivo などが中国市場を席巻。
・自動車:BYD、Geely、Nio などのEVブランドが内需をけん引。
・AI、5G、量子通信、クラウド、半導体なども内製化を推進。
⑤ 金融市場と資本動員力
・国有銀行、政策金融機関、地方政府融資プラットフォーム(LGFV)**による資金動員力が圧倒的。
・中国証券市場(上海・深圳・北京)も拡張中で、海外資本の代替となる国内投資家層が育成されている。
・戦略的含意:国交断絶下での自律的維持
・中国は、国家主導の産業政策・都市化・消費喚起策を総動員し、米国市場を喪失しても内需で経済を再構築する力を有する。
・特に、「共同富裕」政策の下、農村・中小都市層の購買力向上を図ることで、従来の「成長鈍化」を構造的に補う戦略を取っている。
まとめ:国内市場が持つ3つの支柱
分野 内容
消費力 都市部中間層+新興都市の勃興
生産力 製造業の完全内製化・全国展開
投資力 国有主導の資金動員と投資統制
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
‘Extreme’ US-China decoupling could cost US$2.5 trillion in equity, bond sell-off: Goldman SCMP 2025.04.14
https://www.scmp.com/business/china-business/article/3306443/us-china-decoupling-could-cost-us25-trillion-extreme-goldman-warns?utm_medium=email&utm_source=cm&utm_campaign=enlz-china&utm_content=20250414&tpcc=enlz-china&UUID=5147fda4-c483-4061-b936-ccd0eb7929aa&next_article_id=3306451&article_id_list=3306443,3306451&tc=3
国交断絶というシナリオを想定されるか。(➡️〖参考〗)
【寸評 完】
【概要】
米中間の資本市場における「極端な」デカップリング(分断)が生じた場合、株式および債券の売却によって最大で2.5兆米ドルの損失が発生する可能性があると、ゴールドマン・サックスが分析している。
この報告書は、ゴールドマン・サックスのアナリストであるキング・ラウ(Kinger Lau)およびティモシー・モー(Timothy Moe)らによって作成されたものであり、米国と中国の投資家がそれぞれ相手国の株式および債券保有を放棄せざるを得なくなる極端なシナリオを前提としている。
具体的には、米国投資家は、米国の証券取引所で取引されている中国企業の株式約8000億米ドル相当を売却する可能性があるとされている。一方で、中国側は、米国債保有分1.3兆米ドルおよび米国株式保有分3700億米ドルの売却に踏み切る可能性がある。
このような見通しは、米国の規制によって米国投資家の対中投資が制限されるという前提に基づいている。
米中間のデカップリングのリスクは、貿易分野にとどまらず資本市場にも波及しており、米国財務長官スコット・ベセント(Scott Bessent)が米国に上場する中国企業の上場廃止の可能性に言及したことが、その動きを象徴している。これに先立ち、トランプ政権は中国からの輸入品に対して145%の関税を課しており、中国側もすべての米国製品に125%の関税、特定の米国製品にはさらに20%の関税を上乗せして報復措置を講じている。
ゴールドマン・サックスの報告書では、「資本市場において、株式投資家は中国のADR(米国預託証券)の上場廃止リスクに再び注目している」と述べられている。
実際にこのリスクが現実化すれば、中国の大手テクノロジー企業を含む約300社に影響が及ぶこととなる。米中経済安全保障調査委員会(US-China Economic and Security Review Commission)によれば、2025年3月7日時点で、NYSE(ニューヨーク証券取引所)、NYSEアメリカン、ナスダックには合計286社の中国本土企業が上場しており、これらの企業の時価総額は合計で1.1兆米ドルに達している。
【詳細】
1. デカップリングの定義と背景
「デカップリング(decoupling)」とは、これまで相互に深く結びついていた国家間の経済・金融関係を切り離す動きのことである。本件では、世界最大規模の資本市場を有する米国と中国が、政治的・安全保障上の理由から資本市場における相互依存を解消しようとする動きが「極端な」段階に至った場合を想定している。
この懸念は、米国の新たな財務長官であるスコット・ベセント氏が、米国上場の中国企業の上場廃止(delisting)を再び検討対象とすると明言したことを契機として再燃した。
2. 想定される金融市場への影響:最大2.5兆米ドルの損失
ゴールドマン・サックスが示した試算によれば、米中デカップリングが現実化した場合、以下の通り、双方の投資家が大規模な資産の売却を強いられると見られている。
(1)米国側の売却想定
・中国企業株式:約8000億米ドル
これは、米国投資家がADR(米国預託証券)などの形で保有している中国企業の株式に相当する。規制により米国投資家がこれらの資産に投資できなくなれば、大量の売却が発生し、流動性・価格に深刻な影響を与える。
(2)中国側の売却想定
・米国債:1.3兆米ドル
中国は外貨準備として米国債を大量に保有しており、政治的対抗措置としてその放出に踏み切る可能性がある。
・米国株式:3700億米ドル
中国の機関投資家や国家系ファンドが保有する米国企業株の売却も想定されている。
これらの売却が同時に実行されれば、合計で2.5兆米ドル相当の資産が市場に放出されることとなり、世界的な金融市場の混乱を招くと警告されている。
3. デカップリングの契機:貿易戦争の激化
ベセント財務長官の発言は、米中間で再燃した報復的関税合戦の文脈で発せられている。
・米国側の措置:中国製品に145%の関税を課す。
・中国側の報復:全米国製品に125%の関税、加えて一部の製品にさらに20%の追加関税を実施。
このように、両国間の対立は貿易から資本市場へと波及しており、企業活動や投資家心理に大きな不確実性をもたらしている。
4. 上場廃止の影響範囲:286社、時価総額1.1兆米ドル
仮に米国が本格的に中国企業の上場廃止(delisting)を進めた場合、次のような実態が影響を受ける。
・対象企業数:286社(2025年3月7日時点)
・上場先:NYSE、NYSEアメリカン、ナスダック
・合計時価総額:1.1兆米ドル
これらの企業には、中国のハイテク大手や金融、消費、医療関連の主要企業が多数含まれており、投資家のポートフォリオに与える影響は極めて大きい。
5. 投資家の視点と市場の反応
ゴールドマン・サックスの分析では、特にADRの上場廃止リスクに対して、機関投資家や市場参加者が高い警戒感を示していると述べられている。報告書では、「資本市場では、株式投資家が中国ADRの上場廃止リスクに非常に注目している」との見解が示されている。
このような不安は、証券取引所や外国為替市場にも波及し、株価の変動性(ボラティリティ)の上昇やリスク回避的行動(フライト・トゥ・クオリティ)を引き起こす要因となり得る。
政治的緊張の高まりにより、資本市場にも深刻な構造的リスクが顕在化しつつあることが読み取れる。
【要点】
1.デカップリングの概要
・米中両国の資本市場における**「極端なデカップリング」が進行した場合、金融市場全体で最大2.5兆米ドル**規模の資産売却が発生する可能性がある。
・これは主に政治的・規制的要因により、相互の資産保有が不可能になるケースを想定している。
2.米国側の影響
・米国投資家は、米国に上場する中国企業の株式を最大8000億米ドル分売却する必要が生じる。
・これにはADR(米国預託証券)を通じた中国株投資も含まれ、市場流動性と株価に大きな打撃を与える。
3.中国側の影響
(1)中国政府および投資家は、以下の米国資産を保有しているが、それらを政治的・報復的措置として売却する可能性がある。
・米国債:1.3兆米ドル
・米国株式:3700億米ドル
(2)一斉売却により、米国市場の金利上昇・株価下落を招くおそれがある。
4.デカップリングの引き金
(1)米国財務長官スコット・ベセント氏が、中国企業の**米国市場からの上場廃止(delisting)**の再検討を示唆。
(2)これは、激化する米中関税合戦の一環である。
・米国:中国製品に145%の関税
・中国:全米国製品に125%、一部製品に**さらに20%**の報復関税
5.上場廃止の影響範囲
・2025年3月時点で、286社の中国企業が米国の証券取引所(NYSE、NYSEアメリカン、ナスダック)に上場。
・合計時価総額は1.1兆米ドルに達しており、廃止されれば米中双方の投資家に広範な影響を及ぼす。
6.投資家・市場の反応
・ゴールドマン・サックスは、ADRの上場廃止リスクに対して、投資家が極めて高い関心と警戒心を抱いていると指摘。
・このリスクは、株式市場全体のボラティリティ上昇や、資産の安全志向(リスク回避)につながる。
以上のように、米中デカップリングの金融的影響を具体的かつ数量的に提示しており、政策判断による市場動揺の深刻さを明らかにしている。
【参考】
☞ ADR(American Depositary Receipt、米国預託証券)
1.概要
・ADR(米国預託証券)は、米国外の企業の株式を、米国の投資家が米ドル建てで取引できるようにした証券である。
・実際の株式は、米国外の銀行や信託機関に預けられており、米国内の銀行がそれに対応するADRを発行する。
・米国の証券取引所(NYSEやナスダックなど)に上場され、通常の米国株と同様に売買可能である。
2.仕組み
・例:ある中国企業がADRを発行する場合、同社の株式が香港などに上場されており、その株式を米国の金融機関が保管。
・その保管株式に対して、預託銀行が米国でADRを発行。
・米国の投資家は、元の中国株ではなく、ADRを売買することで間接的に当該企業に投資できる。
3.特徴
・為替リスクの低減:ドル建てでの取引が可能であり、為替変動の影響を抑えられる。
・透明性の向上:SEC(米国証券取引委員会)の規制を受けるため、一定の開示基準や会計基準が求められる。
・配当の受け取りも可能:発行元企業が配当を出せば、ADR保有者も米ドルで配当を受け取ることができる(ただし為替や税引きの影響あり)。
4.代表例(中国企業)
・アリババ(Alibaba Group)
・バイドゥ(Baidu)
・JDドットコム(JD.com)
これらはいずれもADRとして米国市場に上場しており、多くの米国投資家が保有している。
4.デカップリングにおける懸念
・米国政府がADR上場を廃止する場合、米国投資家は強制的に売却を迫られる。
・上場廃止により市場流動性が失われ、株価が急落するリスクがある。
・対象企業にとっても、海外資金の調達手段が制限され、資本コストが上昇する恐れがある。
以上のように、ADRは国際的な投資の架け橋であるが、地政学的緊張や規制強化により投資リスクが高まる可能性がある。
☞ 国交断絶の想定で、既に中国は準備が進んでいるのかもしれない。以下の点についてみる。
1.中国が国交断絶後も大きく困窮しない理由
① OS(オペレーティングシステム)の自立性
・中国は自国製OS(例:麒麟OS、鸿蒙OS)を既に開発・展開しており、WindowsやAndroidが遮断されても基幹インフラや政府機関の運用に支障なし。
・モバイルではHarmonyOS(鸿蒙)が既に一部市場でAndroidと置き換えられており、スマートフォン・IoT機器における脱米依存が進行中。
② インターネットの国家主権モデル(“中国式インターネット”)
・既に「グレート・ファイアウォール」で世界のインターネットから半ば分離されており、断交後の完全独自ネットワーク体制(国家内網)への移行はスムーズ。
・Baidu(検索)・WeChat(SNS・決済)・Alibaba(EC)など、主要IT機能を自国企業で完結可能。
・DNSの国家主権運用や独自ルートサーバの設置も実行済み。
③ 国家統制・政治安定による混乱吸収力
・国交断絶直後の社会混乱(市場・物流・情報流通の乱れ)に対しても、一党体制による情報統制・治安維持体制が機能。
・愛国心・ナショナリズムの動員により、一定の不満を「団結」の方向へ誘導できる。
④ 経済自立に向けた中長期政策(「双循環」戦略)
・外需依存から内需主導経済への転換(内循環)を明言しており、断交後の輸出減退にも中長期で対応可能。
・米ドル依存の縮小、人民元圏の形成、中央アジア・アフリカとの経済連携(Belt and Road)などにより、“中国中心”経済圏の構築が進行。
結論
中国はOS・インターネット基盤の独自構築を既に成し遂げており、国交断絶後の技術的・情報的孤立には耐性がある。むしろそれらは想定済みの戦略変数であり、中国側が最も準備を整えている領域である。初期の混乱を最小限に抑えつつ、独自秩序の構築へと速やかに移行する蓋然性が高い。
2.中国が保有する主な金融ネットワークとその自立性
① 独自の銀行間決済システム:CIPS
・CIPS(Cross-Border Interbank Payment System)は、中国が主導する人民元建ての国際決済ネットワーク。
・SWIFTの代替を想定しており、特にアジア・中東・アフリカ・一部欧州と連携拡大中。
・既に100か国超・1300以上の金融機関が接続(直接/間接含む)。
② デジタル人民元(e-CNY)
・中央銀行デジタル通貨(CBDC)の先駆けとして、国家主導の電子通貨が既に実用段階にある。
・モバイル決済との統合(Alipay・WeChat Pay)により、国内の非現金経済基盤は極めて強固。
・国際化も試行中で、「一帯一路」参加国との貿易決済や援助に用いられ始めている。
③ 外貨準備の多様化
・ドル依存脱却を目指し、ユーロ・円・金などを組み合わせた多様な準備体制を構築。
・米国債保有の縮小と、金(ゴールド)の急速な積み増しが近年目立つ。
④ 上海・香港市場の資本調達力
・香港ドルの為替ペッグ体制、および上海証券取引所・香港証券取引所の連携強化により、中国内での資本調達も可能。
・外資依存の低下と同時に、中東・ロシア・ASEAN諸国との人民元建て資金調達が広がっている。
結論
金融ネットワークにおいても、中国は単なる防御だけでなく攻勢的な体制構築に成功しつつある。SWIFTやドル体制からの段階的な離脱は容易ではないが、中国の金融主権は「米国抜きでも回る」仕組みへと徐々に移行している。
米中が金融的に分断された場合、むしろ「中国の自立進行を加速させる」可能性すらあると見られる。
3.米国が陥る混乱と構造的弱点
① 基本的な生活物資の欠乏
・衣料品・雑貨・プラスチック製品・玩具・家庭用電化製品など、日常品の大半は中国製であり、短期間での代替は不可能。
・例:ウォルマートやアマゾンに並ぶ商品群の60%以上が中国または中国経由製品。
② 製造能力の空洞化
・米国は1970年代以降「脱工業化」を推進し、ハイテク以外の製造業基盤が極度に弱体化。
・部品から最終製品に至るまでの組み立てラインが国内に存在せず、再工業化には10年以上の年月を要する。
③ 代替先の未整備
・対中依存から脱却しようとしても、インド・ベトナム・メキシコ等では生産能力が全く足りない。
・中国が担っている規模(世界の工場)を代替するには極めて高コスト・非効率となる。
④ 社会的不満・格差拡大
・日用品や食料品価格の高騰により、低所得層の生活が直撃され、暴動や抗議運動の発生も懸念される。
・特に都市部において生活必需品の価格インフレと供給不安は社会秩序を不安定化させる。
⑤ 米企業の生産停止と雇用不安
・Apple、Dell、HPなどの米企業は中国に生産拠点を持つため、供給断絶で即座に生産停止。
・雇用や株価にも大打撃を与え、金融市場の混乱(債券・株式の大規模売り)に波及。
結論
・米国は現在、「物をつくれない大国」であり、日用品から工業部品に至るまでの製造基盤を中国という“外注先”に全面依存してきた。その依存構造が国交断絶によって断たれた場合、「米国は超大国ではなくなる」という見方も現実味を帯びる。これは国際覇権の構造的移行を招きうる重大な事態である。
4.サプライチェーン
①再編
・中国は内循環経済(国内市場中心)と外循環(グローバル)を分離する「双循環」戦略をすでに提示済み。
・ASEAN・中東・アフリカ・中南米などと「非米圏サプライチェーン」の構築を加速中。
・特にレアアース・半導体素材・リチウム・太陽光パネル・バッテリー素材などで、独占的優位を保持。
・米国・日本・欧州が中国依存を減らそうとする中、中国も「自前で完結する供給網」へ移行中。
②海底ケーブルの掌握・通信ネットワーク
・中国はHuawei Marine(現HMN Tech)を通じて、東南アジア・アフリカ・中東を繋ぐ独自の海底通信ケーブル網を構築中。
・中国主導の海底ケーブルは、米系ルートを迂回する形で急増している。
・国家情報法により、中国製通信設備は政府管理下に置かれ、通信遮断に対する即応性が高い。
・インターネットについても、中国国内は金盾(Great Firewall)により独立した情報統制空間を確保しており、外部遮断への備えができている。
③BRICS+との技術連携と金融共通基盤
・中国はBRICS+構想を通じて、ロシア・インド・ブラジル・南ア・イラン・サウジアラビアなどと独自の技術・貿易・金融連携網を構築中。
・デジタル通貨・人工知能・通信技術(特に5G・IoT)で中国主導の標準化が進行中。
・2024年にBRICS首脳会議で議題となった「BRICS共通通貨」も、人民元の役割強化を後押しする構想の一部。
評価
米中断交という極端な状況が起きた場合でも、中国は以下のような方向で対応可能と考えられる。
・金融・通貨においては 人民元圏・CIPS圏での自立性強化
・産業・資源では 非米圏との連携と自国内部供給網の強化
・通信・情報では 海底ケーブル・インターネットの独立構築
・技術標準では BRICS・グローバルサウスとの共同開発による米欧依存の脱却
5.宇宙通信に関する中国の現状と対応能力
① 衛星通信インフラの自立化
・中国は独自の衛星測位システム「北斗(BeiDou)」を完成済み(2020年7月に最終衛星打ち上げ)。
・米国のGPSに依存せず、軍事・物流・通信・金融の基幹システムを運用可能。
・ユーラシア、アフリカ、中南米諸国も北斗の端末や測位サービスを導入中。
② 衛星通信ネットワーク(低軌道通信網)
・中国は、低軌道衛星による通信ネットワーク「GW計画(Guowang)」を推進中。
・約13,000基の衛星で中国版Starlinkの構築を目指す国家戦略。
・2021年時点ですでに数百基を申請、中国電子科技集団(CETC)や中国航天科工集団(CASIC)が主導。
・軍民融合型通信として設計されており、平時通信と有事指揮通信の両立が可能。
③ 地上局・衛星打ち上げ能力
・中国は海南・酒泉・西昌・太原など複数の打ち上げ基地を保有。
・年間50回以上の打ち上げ実績(2023年以降はアメリカに匹敵)。
・衛星打ち上げから地上通信局とのリンク構築まで完全に自前で完結可能。
④ 海外への通信ネットワークの拡張
・パキスタン、ベネズエラ、アルジェリアなど中国製通信衛星を導入した国が増加中。
・中国が開発・打ち上げ・運用を担い、BRICS諸国やグローバルサウスとの宇宙通信連携も進行中。
5.国交断絶時における実際の効力
・米中間でのインターネット遮断・物理的通信線(海底ケーブル)の切断が起きた場合でも、中国は北斗+GW網による独自の衛星通信網を用いて、軍・行政・大企業の通信を維持可能。
・民間通信の一部は混乱するが、主要産業・政府機能・軍通信は自立的運用が可能。
・一方、米国はStarlink等を有しているが、その展開地域や同盟国依存度が高いため、断交はより広範な国際混乱を伴う可能性がある。
まとめ
宇宙通信分野における中国の独立対応力
項目 内容
衛星測位 北斗(BeiDou)でGPS不要
通信衛星 GW計画(Starlink相当)推進中
打ち上げ能力 年間50回超、自前で完結
国際展開 パキスタン・南米・アフリカで通信衛星提供
米国依存 事実上ゼロ(GPS、インターネット双方)
6.中国国内市場の特徴と戦略的強み
① 世界最大級の消費市場
・総人口:約14億人(世界最大)
都市部人口の増加と中産階級の拡大が継続中。
・eコマース取引額では世界最大(アリババ、京東、拼多多など)。
・2024年時点で自動車・家電・スマートフォン市場は世界最大規模を維持。
② 国家主導による「内循環」経済戦略
・2020年以降、「双循環戦略(国内大循環+国際小循環)」を掲げる。
・輸出依存から脱却し、内需主導型経済への移行を強化。
・食料、エネルギー、先端部品の国内自給率向上を国家政策として推進。
③ インフラと物流の全国展開
・中国全土に高速鉄道網(4万キロ超)、高速道路網、港湾整備が完了。
・地方経済の都市化と市場開拓(西部開発や東北振興)が進行中。
④ 技術的自立と国内ブランドの台頭
・スマホ:Huawei、Xiaomi、OPPO、Vivo などが中国市場を席巻。
・自動車:BYD、Geely、Nio などのEVブランドが内需をけん引。
・AI、5G、量子通信、クラウド、半導体なども内製化を推進。
⑤ 金融市場と資本動員力
・国有銀行、政策金融機関、地方政府融資プラットフォーム(LGFV)**による資金動員力が圧倒的。
・中国証券市場(上海・深圳・北京)も拡張中で、海外資本の代替となる国内投資家層が育成されている。
・戦略的含意:国交断絶下での自律的維持
・中国は、国家主導の産業政策・都市化・消費喚起策を総動員し、米国市場を喪失しても内需で経済を再構築する力を有する。
・特に、「共同富裕」政策の下、農村・中小都市層の購買力向上を図ることで、従来の「成長鈍化」を構造的に補う戦略を取っている。
まとめ:国内市場が持つ3つの支柱
分野 内容
消費力 都市部中間層+新興都市の勃興
生産力 製造業の完全内製化・全国展開
投資力 国有主導の資金動員と投資統制
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
‘Extreme’ US-China decoupling could cost US$2.5 trillion in equity, bond sell-off: Goldman SCMP 2025.04.14
https://www.scmp.com/business/china-business/article/3306443/us-china-decoupling-could-cost-us25-trillion-extreme-goldman-warns?utm_medium=email&utm_source=cm&utm_campaign=enlz-china&utm_content=20250414&tpcc=enlz-china&UUID=5147fda4-c483-4061-b936-ccd0eb7929aa&next_article_id=3306451&article_id_list=3306443,3306451&tc=3
英国の国民感情がアメリカに対して悪化 ― 2025年04月15日 15:09
【桃源寸評】
今の国際社会は正に、<風が吹けば桶屋が儲かる>式の因果関係によって結ばれている。
【寸評 完】
【概要】
米中貿易戦争の激化が英国に与えている影響について詳述している。特に、英国の国民感情がアメリカに対して悪化している状況を描写している。
ロンドン在住の歯科医リッチ氏は、米中間の関税応酬が英国の生活費危機をさらに悪化させるのではないかと懸念している。彼は、アメリカが中国への依存を減らそうとする理由は理解するものの、中国は日常的に使用される多くの製品を供給しているため、関税がかけられるとサプライチェーンに混乱が生じ、結果として価格上昇が英国にも波及する可能性があると述べている。
英国では、トランプ大統領が主導する強硬な関税政策に対する不満が高まっており、これらの政策は既に英国の経済成長予測を半減させ、政府が輸出産業への支援として数十億ドル規模の追加支出を余儀なくされている。
英国が直接影響を受けている米国の新たな関税措置には、10%の「ベースライン関税」や、鉄鋼および自動車産業を対象とする25%の関税が含まれている。
さらに、トランプ政権の貿易政策は、英国経済に対し間接的かつ予測困難な形で打撃を与える可能性もある。具体的には、米中関税戦争の激化が投資家の信頼を損ない、サプライチェーンを混乱させ、世界経済の成長を鈍化させる懸念があるとされている。
アメリカは年初から中国製品に対する関税を145%引き上げ、実効関税率は約156%に達している。一方で、中国も報復措置としてアメリカからの輸入品に125%の関税を課している。
このように、米中間の貿易摩擦が他国にも波及し、とりわけ英国経済や国民生活に深刻な影響を及ぼしつつある実態が報じられている。
【詳細】
2025年4月14日にロンドン発で報じられたものであり、米中間で進行中の貿易戦争が英国にもたらす影響について、英国市民の視点から具体的に描写している。以下において、内容をさらに詳細に分析・説明する。
1.英国市民の懸念と現実的な影響
冒頭では、ロンドン在住の歯科医リッチ氏の発言を通じて、英国の一般市民が感じている切実な不安が紹介されている。彼は、アメリカが中国依存を減らすという戦略的目的そのものには理解を示しつつも、グローバルな生産と供給の中心的役割を担う中国への関税が、結果として英国を含む第三国にも負の連鎖を引き起こすと警告している。具体的には以下の通りである。
・供給網の混乱(サプライチェーン・ディスラプション)
中国は多くの消費財や部品の製造・供給を担っており、それに高率の関税が課されることで、製品の調達コストが世界的に上昇している。英国は製造業のみならず、小売や医療分野など広範な業種で中国製品に依存しており、こうしたコスト増加は消費者価格へ転嫁され、生活費の上昇(cost of living crisis)を一層深刻にしている。
2.米国の関税政策が英国経済に与える直接的影響
英国がアメリカの貿易政策により直接的な打撃を受けていることを明記している。
(1)新たな関税措置の具体例
・10%のベースライン関税:広範な商品カテゴリに適用されており、英国から米国への輸出コストが一律で増加している。
・25%の高関税(鉄鋼・自動車):これらは英国の代表的輸出産業であり、競争力が著しく低下。輸出量の減少や生産調整が強いられることで、雇用や関連産業への波及も懸念される。
(2)経済成長予測への影響:英国経済の成長見通しは既に半減しており、これは関税による輸出環境の悪化に加え、企業の設備投資や外資の流入が鈍化していることも一因である。
(3)英国政府の対応:この状況に対し、政府は輸出部門を支えるために数十億ドル規模の財政支援を決定している。だが、これは財政赤字拡大のリスクを孕み、中長期的な経済健全性に影響を及ぼす可能性もある。
3.中貿易戦争の構造的激化と英国への間接的波及
米国と中国の関税応酬は、数値的にも極めて高水準に達しており、以下のような実態が記されている。
・米国による関税引き上げ:2025年初頭以降、米国は中国製品に対する関税を累計で145%引き上げ、**実効関税率は156%**に達している。
・中国の報復措置:これに対し、中国も125%の報復関税を米国製品に課している。
このような高率関税の応酬は、世界的な投資環境の悪化を招いており、国際的なサプライチェーンの再構築を強いる形で、英国を含む第三国の経済活動にも深刻な不確実性をもたらしている。
・投資家信頼の低下:英国はブレグジット後、外資誘致を戦略の柱としているが、貿易不確実性の高まりは投資の慎重化を招き、成長の足かせとなっている。
・グローバル経済の減速:米中の巨大経済圏が共に抑制的になることで、世界全体の貿易量が減少し、それに依存する英国も外需縮小という形で影響を受けている。
4.英国国内の感情の変化
これらの影響を受けて、英国国内ではアメリカに対する感情が悪化していると記事は指摘している。米中の対立に英国が巻き込まれる構図に不満が高まり、「アメリカ第一」の通商政策が同盟国にまで打撃を与えていることへの認識が広がっている。
また、こうした感情の変化は単なる世論の動揺にとどまらず、将来的に米英間の外交的・経済的な信頼関係にも影響を及ぼす可能性がある。
総括
米中間の貿易摩擦が単なる二国間の問題にとどまらず、第三国、特に米英同盟関係にある英国に深刻な経済的・社会的影響をもたらしている実態を、当事者の証言と経済データを通じて明らかにしている。特に、グローバルなサプライチェーンの時代において、一国の保護主義的政策が世界各地に波及する様子を、英国の視点から忠実に報じているといえる。
【要点】
1.米中貿易戦争の影響に対する英国の懸念と現状
・ロンドン在住の歯科医リッチ氏は、米中間の貿易戦争が英国の**生活費危機(cost of living crisis)**をさらに悪化させることを懸念している。
・同氏は「米国の中国依存低減の目的は理解できるが、中国は多くの消費財を生産しており、関税がかかれば供給網が混乱し、価格上昇につながる」と指摘している。
・このように、英国国民は間接的被害者として、米中の経済対立に巻き込まれている。
2.米国の関税政策による英国経済への直接的打撃
・米国は英国製品に対し10%のベースライン関税を課しており、輸出コストが全体的に上昇している。
・特に鉄鋼および自動車産業に対しては25%の関税が課されており、これらは英国の主要輸出分野である。
・英国政府の発表によると、こうした影響により経済成長予測が半減しており、政府は輸出産業への支援として数十億ドル規模の補助金を投入している。
3.米中の関税応酬と英国への間接的波及
・米国は2025年初頭以降、中国製品への関税を累計145%引き上げ、実効関税率は約156%となっている。
・これに対し、中国は125%の報復関税を米国製品に課している。
・このような関税の応酬は、世界的な投資環境の悪化やサプライチェーンの混乱を引き起こし、英国経済にとっても深刻な不確実性をもたらしている。
4.米国に対する英国国内の感情の悪化
・英国では、米国の通商政策に対して不満と怒りが拡大しており、「米中対立のとばっちりを受けている」との見方が一般的になりつつある。
・「アメリカ第一主義」が英国を含む同盟国にまで経済的損害を及ぼしているという認識が広まりつつある。
・このような感情の変化は、将来的に米英間の信頼関係や政策協調にも影響を与える可能性がある。
5.総括的観点
・米中貿易戦争はもはや両国間の問題にとどまらず、第三国を巻き込む国際的経済現象となっている。
・英国は、直接的な関税対象となると同時に、間接的なグローバル経済の減速と供給網の混乱によって二重の影響を受けている。
・この状況下で、英国政府と企業は対応策の再検討を迫られており、中長期的な構造変化が必要とされている。
【引用・参照・底本】
British anger grows over US tariff blitz: ‘it’s not just affecting China’ SCMP 2025.04.14
https://www.scmp.com/economy/global-economy/article/3306451/british-anger-grows-over-us-tariff-blitz-its-not-just-affecting-china?utm_medium=email&utm_source=cm&utm_campaign=enlz-china&utm_content=20250414&tpcc=enlz-china&UUID=5147fda4-c483-4061-b936-ccd0eb7929aa&next_article_id=3306431&article_id_list=3306443,3306451&tc=5
今の国際社会は正に、<風が吹けば桶屋が儲かる>式の因果関係によって結ばれている。
【寸評 完】
【概要】
米中貿易戦争の激化が英国に与えている影響について詳述している。特に、英国の国民感情がアメリカに対して悪化している状況を描写している。
ロンドン在住の歯科医リッチ氏は、米中間の関税応酬が英国の生活費危機をさらに悪化させるのではないかと懸念している。彼は、アメリカが中国への依存を減らそうとする理由は理解するものの、中国は日常的に使用される多くの製品を供給しているため、関税がかけられるとサプライチェーンに混乱が生じ、結果として価格上昇が英国にも波及する可能性があると述べている。
英国では、トランプ大統領が主導する強硬な関税政策に対する不満が高まっており、これらの政策は既に英国の経済成長予測を半減させ、政府が輸出産業への支援として数十億ドル規模の追加支出を余儀なくされている。
英国が直接影響を受けている米国の新たな関税措置には、10%の「ベースライン関税」や、鉄鋼および自動車産業を対象とする25%の関税が含まれている。
さらに、トランプ政権の貿易政策は、英国経済に対し間接的かつ予測困難な形で打撃を与える可能性もある。具体的には、米中関税戦争の激化が投資家の信頼を損ない、サプライチェーンを混乱させ、世界経済の成長を鈍化させる懸念があるとされている。
アメリカは年初から中国製品に対する関税を145%引き上げ、実効関税率は約156%に達している。一方で、中国も報復措置としてアメリカからの輸入品に125%の関税を課している。
このように、米中間の貿易摩擦が他国にも波及し、とりわけ英国経済や国民生活に深刻な影響を及ぼしつつある実態が報じられている。
【詳細】
2025年4月14日にロンドン発で報じられたものであり、米中間で進行中の貿易戦争が英国にもたらす影響について、英国市民の視点から具体的に描写している。以下において、内容をさらに詳細に分析・説明する。
1.英国市民の懸念と現実的な影響
冒頭では、ロンドン在住の歯科医リッチ氏の発言を通じて、英国の一般市民が感じている切実な不安が紹介されている。彼は、アメリカが中国依存を減らすという戦略的目的そのものには理解を示しつつも、グローバルな生産と供給の中心的役割を担う中国への関税が、結果として英国を含む第三国にも負の連鎖を引き起こすと警告している。具体的には以下の通りである。
・供給網の混乱(サプライチェーン・ディスラプション)
中国は多くの消費財や部品の製造・供給を担っており、それに高率の関税が課されることで、製品の調達コストが世界的に上昇している。英国は製造業のみならず、小売や医療分野など広範な業種で中国製品に依存しており、こうしたコスト増加は消費者価格へ転嫁され、生活費の上昇(cost of living crisis)を一層深刻にしている。
2.米国の関税政策が英国経済に与える直接的影響
英国がアメリカの貿易政策により直接的な打撃を受けていることを明記している。
(1)新たな関税措置の具体例
・10%のベースライン関税:広範な商品カテゴリに適用されており、英国から米国への輸出コストが一律で増加している。
・25%の高関税(鉄鋼・自動車):これらは英国の代表的輸出産業であり、競争力が著しく低下。輸出量の減少や生産調整が強いられることで、雇用や関連産業への波及も懸念される。
(2)経済成長予測への影響:英国経済の成長見通しは既に半減しており、これは関税による輸出環境の悪化に加え、企業の設備投資や外資の流入が鈍化していることも一因である。
(3)英国政府の対応:この状況に対し、政府は輸出部門を支えるために数十億ドル規模の財政支援を決定している。だが、これは財政赤字拡大のリスクを孕み、中長期的な経済健全性に影響を及ぼす可能性もある。
3.中貿易戦争の構造的激化と英国への間接的波及
米国と中国の関税応酬は、数値的にも極めて高水準に達しており、以下のような実態が記されている。
・米国による関税引き上げ:2025年初頭以降、米国は中国製品に対する関税を累計で145%引き上げ、**実効関税率は156%**に達している。
・中国の報復措置:これに対し、中国も125%の報復関税を米国製品に課している。
このような高率関税の応酬は、世界的な投資環境の悪化を招いており、国際的なサプライチェーンの再構築を強いる形で、英国を含む第三国の経済活動にも深刻な不確実性をもたらしている。
・投資家信頼の低下:英国はブレグジット後、外資誘致を戦略の柱としているが、貿易不確実性の高まりは投資の慎重化を招き、成長の足かせとなっている。
・グローバル経済の減速:米中の巨大経済圏が共に抑制的になることで、世界全体の貿易量が減少し、それに依存する英国も外需縮小という形で影響を受けている。
4.英国国内の感情の変化
これらの影響を受けて、英国国内ではアメリカに対する感情が悪化していると記事は指摘している。米中の対立に英国が巻き込まれる構図に不満が高まり、「アメリカ第一」の通商政策が同盟国にまで打撃を与えていることへの認識が広がっている。
また、こうした感情の変化は単なる世論の動揺にとどまらず、将来的に米英間の外交的・経済的な信頼関係にも影響を及ぼす可能性がある。
総括
米中間の貿易摩擦が単なる二国間の問題にとどまらず、第三国、特に米英同盟関係にある英国に深刻な経済的・社会的影響をもたらしている実態を、当事者の証言と経済データを通じて明らかにしている。特に、グローバルなサプライチェーンの時代において、一国の保護主義的政策が世界各地に波及する様子を、英国の視点から忠実に報じているといえる。
【要点】
1.米中貿易戦争の影響に対する英国の懸念と現状
・ロンドン在住の歯科医リッチ氏は、米中間の貿易戦争が英国の**生活費危機(cost of living crisis)**をさらに悪化させることを懸念している。
・同氏は「米国の中国依存低減の目的は理解できるが、中国は多くの消費財を生産しており、関税がかかれば供給網が混乱し、価格上昇につながる」と指摘している。
・このように、英国国民は間接的被害者として、米中の経済対立に巻き込まれている。
2.米国の関税政策による英国経済への直接的打撃
・米国は英国製品に対し10%のベースライン関税を課しており、輸出コストが全体的に上昇している。
・特に鉄鋼および自動車産業に対しては25%の関税が課されており、これらは英国の主要輸出分野である。
・英国政府の発表によると、こうした影響により経済成長予測が半減しており、政府は輸出産業への支援として数十億ドル規模の補助金を投入している。
3.米中の関税応酬と英国への間接的波及
・米国は2025年初頭以降、中国製品への関税を累計145%引き上げ、実効関税率は約156%となっている。
・これに対し、中国は125%の報復関税を米国製品に課している。
・このような関税の応酬は、世界的な投資環境の悪化やサプライチェーンの混乱を引き起こし、英国経済にとっても深刻な不確実性をもたらしている。
4.米国に対する英国国内の感情の悪化
・英国では、米国の通商政策に対して不満と怒りが拡大しており、「米中対立のとばっちりを受けている」との見方が一般的になりつつある。
・「アメリカ第一主義」が英国を含む同盟国にまで経済的損害を及ぼしているという認識が広まりつつある。
・このような感情の変化は、将来的に米英間の信頼関係や政策協調にも影響を与える可能性がある。
5.総括的観点
・米中貿易戦争はもはや両国間の問題にとどまらず、第三国を巻き込む国際的経済現象となっている。
・英国は、直接的な関税対象となると同時に、間接的なグローバル経済の減速と供給網の混乱によって二重の影響を受けている。
・この状況下で、英国政府と企業は対応策の再検討を迫られており、中長期的な構造変化が必要とされている。
【引用・参照・底本】
British anger grows over US tariff blitz: ‘it’s not just affecting China’ SCMP 2025.04.14
https://www.scmp.com/economy/global-economy/article/3306451/british-anger-grows-over-us-tariff-blitz-its-not-just-affecting-china?utm_medium=email&utm_source=cm&utm_campaign=enlz-china&utm_content=20250414&tpcc=enlz-china&UUID=5147fda4-c483-4061-b936-ccd0eb7929aa&next_article_id=3306431&article_id_list=3306443,3306451&tc=5
誤爆でなく、軍事的・戦略的な判断に基づく正当な攻撃 ― 2025年04月15日 17:57
【概要】
2025年4月13日(聖枝祭)にウクライナ・スームィで発生したミサイル攻撃をめぐり、「戦争犯罪」であるとのウクライナの主張、「ひどい過ち」とするトランプ元大統領の見解、そして「正当な攻撃」であると主張するロシア政府の説明の三つの立場が存在している。
本件の発端は、ロシア国防省の発表によれば、攻撃目標は「セヴェルスク作戦戦術グループの司令部会議」であり、外相セルゲイ・ラブロフはさらに、そこにNATOの軍人が出席していたと述べた。一方、ウクライナはこの攻撃が教会に集まった民間人を標的にしたものだとして、戦争犯罪であると非難した。また、トランプ元大統領のウクライナ特使であるキース・ケロッグもウクライナ側の主張に同調した。
トランプ氏は、攻撃の事実を否定することはなかったものの、ロシアによる意図的な民間人攻撃というウクライナの主張に加担することも避け、「ひどい過ち」であったとする中間的な立場を選んだ。これにより、彼は米露間の対話を継続させる余地を確保しつつも、民間人死傷を容認することなくバランスを取った形である。
ロシアの主張によれば、攻撃対象は正当な軍事目標であり、民間人犠牲はウクライナ側が軍事資産を民間地域に配置した結果生じたものである。実際、隣接するコノトプ市の市長が、117旅団の兵士に対する表彰式が同日にスームィで開催され、その場に民間人が招待されたと述べている。彼によれば、この式典はロシアの攻撃を招くおそれがあるとして事前に警告されていたにもかかわらず、地域の軍政長官が実施に踏み切ったという。
ロシアの視点からは、このような高官・兵士の集結は攻撃の価値がある軍事目標であり、一部の民間人犠牲を伴ってでも作戦の目的達成が可能であるならば、長期的には戦争の早期終結につながると判断された可能性がある。国際法上も、ロシアにはウクライナ国内の軍事目標を攻撃する権利があり、他方でウクライナには民間地域への軍事資産の配置を避ける義務がある。
こうした背景を踏まえ、筆者は、この攻撃は戦争犯罪でもなく、誤爆でもなく、あくまで軍事的・戦略的な判断に基づく正当な攻撃であったと結論づけている。
また、今回の攻撃はロシア領クルスク州に侵入しているウクライナ部隊に打撃を与える目的もあり、これらの部隊を完全に撤退させることが今後の停戦交渉における前提条件の一つとなる可能性がある。そのため、スームィでの攻撃はこの広範な軍事目的の一部であるとも見られる。
ウクライナはこの攻撃を西側世論を喚起する材料として利用し、ロシアとトランプ陣営の対話を阻止しようとしている。とりわけ、ロシアが「エネルギー停戦」の延長を決断する直前の時期に攻撃が行われたことで、その影響力が増すとウクライナは考えている。
しかしながら、トランプ氏は「戦争を始めるなら勝てるという前提で始めるべきだ」「相手が20倍の規模であるなら、それを踏まえて行動すべきだ」と発言しており、これはウクライナへの軍事支援拡大には消極的であるという姿勢を示している。このような考え方により、ウクライナはこの事件を最大限に活用したとしても、望むような成果を得るのは難しいと見られる。
以上を総合すると、本件に対する各陣営の立場はそれぞれ戦略的意図に基づくものであり、トランプ氏の中立的姿勢が当面の和平プロセスの継続を可能としているが、根本的な合意には依然として時間が必要であるとの見通しが示されている。
【詳細】
2025年のパームサンデー(聖枝祭)に、ウクライナのスームィ市に対してロシアがミサイル攻撃を実施した。この事件に関して、3つの異なる見解が提示されている。
1つ目はウクライナ側の主張であり、これはロシアが教会の礼拝者を意図的に標的としたとして戦争犯罪と非難するものである。この見解はウクライナ政府のみならず、トランプ元大統領のウクライナ特使であるキース・ケロッグも共有しており、西側諸国にさらなる対露圧力を促す材料として活用されている。
2つ目はドナルド・トランプ自身の発言による見解であり、「ひどい間違い(terrible mistake)」があったとのものである。彼は、事件自体を否定することは避けたが、ウクライナの「戦争犯罪」主張に同調することも避けた。代わりに、ミサイルの誤誘導や情報の誤認など、明確に断定しない形での「ミス」による結果として処理し、アメリカとロシアの和平交渉への影響を最小限にとどめる立場を取った。
3つ目はロシア政府による主張であり、この攻撃は合法的な軍事目標に対する正当な攻撃であったとするものである。ロシア国防省は、「セヴェルスク作戦戦術群の指揮官級会議」が標的であったと説明し、セルゲイ・ラブロフ外相もこれに加え、NATO要員も会議に参加していたと述べた。また、ロシア側は、ウクライナが民間地域に軍事施設や兵員を配置していることが原因で、結果として民間人に被害が及ぶと主張している。
この主張に関しては、近隣のコノトプ市長によるビデオ証言が存在し、事件当日、スームィで第117旅団の兵士を対象とした表彰式を州知事が開催したことが確認されている。さらに、民間人も式典に招待されていたとされ、このような形で軍事的要員と民間人を同一空間に集めたことが、ロシアによる攻撃の判断に影響を与えた可能性がある。市長によれば、この式典の開催については事前にリスクが指摘されていた。
このような文脈から、Korybkoはこの攻撃について、「戦争犯罪」や「ひどい間違い」ではなく、**戦略的な判断の下に行われた正当な攻撃(legitimate strike)**であると評価している。ロシアの視点に立てば、VIP級の軍人やNATO要員を除去することで戦争終結が早まり、長期的には民間人の被害を抑え得ると考えられる。また、ロシアには国際法上、ウクライナ国内の軍事目標を攻撃する権利がある一方で、ウクライナには軍事要素を民間地域に配置しない義務があるとされる。
Korybkoの説明では、この攻撃は単独の軍事行動に留まらず、ウクライナによるロシア・クルスク州への侵入作戦を指揮していた部隊を標的としたものでもある。従って、ロシアはこの攻撃を通じてウクライナ軍のクルスク地域からの排除を進めようとした可能性があり、これが和平交渉の前提条件の一部ともなり得る。
ウクライナにとっては、この攻撃による民間人死傷を外交的・宣伝的に利用する動機があり、とりわけこの事件の「映像的な印象(optics)」を活用することで、西側諸国にロシアとの対話を中断させる圧力を強めようとしている。特にこの攻撃の直後に、プーチン大統領が「エネルギー停戦」の延長を判断する期限が迫っていることもあり、攻撃の政治的効果が注目されている。
しかし、トランプの発言に見られるように、アメリカ側はこの事件をロシアとの交渉を中止する理由とは見なしておらず、和平プロセスの継続を望んでいると解釈される。トランプは、ウクライナに対して「戦争を始めるなら、勝てる確信を持って始めるべき」と述べ、ウクライナへの武器供与継続にも否定的な姿勢を示している。
以上のように、Korybkoの論考は、スームィ攻撃をめぐる三つの異なる見解(ウクライナの戦争犯罪主張、トランプの中立的評価、ロシアの正当性主張)を比較しつつ、最も説得力があるのはロシアの説明であると評価し、この攻撃を「正当な軍事攻撃」と位置づけている。また、同攻撃には戦略的な背景があるとし、和平交渉や戦局全体に与える影響についても言及している。
【要点】
1.基本情報
・事件の概要:2025年のパームサンデーに、ウクライナのスームィ市がロシアのミサイル攻撃を受け、多数の死傷者が発生。
・焦点:この攻撃が「戦争犯罪」「ひどい誤爆」「正当な攻撃」のいずれであるかをめぐる評価。
① ウクライナの主張(戦争犯罪説)
・内容:ロシアは意図的に教会を標的にし、民間人を殺害したと非難。
・目的:西側の支援を引き出すために、被害を「戦争犯罪」として国際的に訴える。
・支持者:トランプ政権下の元特使キース・ケロッグなどが同調。
② トランプの見解(誤爆説)
・内容:「ひどい間違い(terrible mistake)」との表現で、意図的攻撃説には与せず、詳細な非難も避ける。
・狙い:事件を過度に政治化せず、ロシアとの和平交渉の余地を維持する。
・外交姿勢:ウクライナへの軍事支援に懐疑的であり、早期和平を優先。
③ ロシアの立場(正当な攻撃説)
・標的:第117旅団指揮官の会議およびNATO要員が出席していた軍事会議。
・根拠
⇨ ウクライナが民間施設に軍事目的の集会を設定。
⇨ 市長の証言によれば、式典に兵士と民間人が同時に参加していた。
・国際法の論拠
⇨ ロシアは敵国(ウクライナ)領内の合法的軍事目標を攻撃可能。
⇨ ウクライナ側には、軍事目標を民間と分離すべき義務あり。
④ 実際の状況と証拠
・コノトプ市長の証言:州知事主催の表彰式が軍人向けにスームィで開催された。
・民間人も同席:兵士の家族など、一般市民が同空間に招待されていた。
・事前警告の存在:リスクが指摘されていたが、式典は強行された。
⑤ Korybkoの結論(正当な攻撃と評価)
・戦略的目的:クルスク州に侵入したウクライナ部隊の指揮系統を攻撃対象とした。
・長期的視点:攻撃により戦争終結が早まり、結果的に民間人被害が減少する可能性がある。
・攻撃の法的正当性:ロシアの主張と周辺証拠により、「戦争犯罪」や「誤爆」ではなく、合法な攻撃と見なせる。
⑥ 政治的・外交的含意
・ウクライナの狙い:民間被害を利用して西側にさらなる対露圧力をかける。
・タイミング:プーチンが「エネルギー停戦」延長を判断する時期と重なり、政治的効果を意識した可能性。
・アメリカの対応
⇨ トランプは交渉継続を望む姿勢。
⇨ ウクライナに対して「勝てる自信がないなら戦争すべきでない」と発言。
総括
・最も信頼性が高いのはロシアの説明との評価。
・西側の「戦争犯罪」認定には慎重さが必要。
・事件の扱い方次第で、和平交渉の行方や戦局全体に大きな影響を及ぼし得る。
【引用・参照・底本】
Sumy: War Crime, Terrible Mistake, Or Legitimate Strike? Andrew Korybko's Newsletter 2025.04.15
https://korybko.substack.com/p/sumy-war-crime-terrible-mistake-or?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=161366947&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
2025年4月13日(聖枝祭)にウクライナ・スームィで発生したミサイル攻撃をめぐり、「戦争犯罪」であるとのウクライナの主張、「ひどい過ち」とするトランプ元大統領の見解、そして「正当な攻撃」であると主張するロシア政府の説明の三つの立場が存在している。
本件の発端は、ロシア国防省の発表によれば、攻撃目標は「セヴェルスク作戦戦術グループの司令部会議」であり、外相セルゲイ・ラブロフはさらに、そこにNATOの軍人が出席していたと述べた。一方、ウクライナはこの攻撃が教会に集まった民間人を標的にしたものだとして、戦争犯罪であると非難した。また、トランプ元大統領のウクライナ特使であるキース・ケロッグもウクライナ側の主張に同調した。
トランプ氏は、攻撃の事実を否定することはなかったものの、ロシアによる意図的な民間人攻撃というウクライナの主張に加担することも避け、「ひどい過ち」であったとする中間的な立場を選んだ。これにより、彼は米露間の対話を継続させる余地を確保しつつも、民間人死傷を容認することなくバランスを取った形である。
ロシアの主張によれば、攻撃対象は正当な軍事目標であり、民間人犠牲はウクライナ側が軍事資産を民間地域に配置した結果生じたものである。実際、隣接するコノトプ市の市長が、117旅団の兵士に対する表彰式が同日にスームィで開催され、その場に民間人が招待されたと述べている。彼によれば、この式典はロシアの攻撃を招くおそれがあるとして事前に警告されていたにもかかわらず、地域の軍政長官が実施に踏み切ったという。
ロシアの視点からは、このような高官・兵士の集結は攻撃の価値がある軍事目標であり、一部の民間人犠牲を伴ってでも作戦の目的達成が可能であるならば、長期的には戦争の早期終結につながると判断された可能性がある。国際法上も、ロシアにはウクライナ国内の軍事目標を攻撃する権利があり、他方でウクライナには民間地域への軍事資産の配置を避ける義務がある。
こうした背景を踏まえ、筆者は、この攻撃は戦争犯罪でもなく、誤爆でもなく、あくまで軍事的・戦略的な判断に基づく正当な攻撃であったと結論づけている。
また、今回の攻撃はロシア領クルスク州に侵入しているウクライナ部隊に打撃を与える目的もあり、これらの部隊を完全に撤退させることが今後の停戦交渉における前提条件の一つとなる可能性がある。そのため、スームィでの攻撃はこの広範な軍事目的の一部であるとも見られる。
ウクライナはこの攻撃を西側世論を喚起する材料として利用し、ロシアとトランプ陣営の対話を阻止しようとしている。とりわけ、ロシアが「エネルギー停戦」の延長を決断する直前の時期に攻撃が行われたことで、その影響力が増すとウクライナは考えている。
しかしながら、トランプ氏は「戦争を始めるなら勝てるという前提で始めるべきだ」「相手が20倍の規模であるなら、それを踏まえて行動すべきだ」と発言しており、これはウクライナへの軍事支援拡大には消極的であるという姿勢を示している。このような考え方により、ウクライナはこの事件を最大限に活用したとしても、望むような成果を得るのは難しいと見られる。
以上を総合すると、本件に対する各陣営の立場はそれぞれ戦略的意図に基づくものであり、トランプ氏の中立的姿勢が当面の和平プロセスの継続を可能としているが、根本的な合意には依然として時間が必要であるとの見通しが示されている。
【詳細】
2025年のパームサンデー(聖枝祭)に、ウクライナのスームィ市に対してロシアがミサイル攻撃を実施した。この事件に関して、3つの異なる見解が提示されている。
1つ目はウクライナ側の主張であり、これはロシアが教会の礼拝者を意図的に標的としたとして戦争犯罪と非難するものである。この見解はウクライナ政府のみならず、トランプ元大統領のウクライナ特使であるキース・ケロッグも共有しており、西側諸国にさらなる対露圧力を促す材料として活用されている。
2つ目はドナルド・トランプ自身の発言による見解であり、「ひどい間違い(terrible mistake)」があったとのものである。彼は、事件自体を否定することは避けたが、ウクライナの「戦争犯罪」主張に同調することも避けた。代わりに、ミサイルの誤誘導や情報の誤認など、明確に断定しない形での「ミス」による結果として処理し、アメリカとロシアの和平交渉への影響を最小限にとどめる立場を取った。
3つ目はロシア政府による主張であり、この攻撃は合法的な軍事目標に対する正当な攻撃であったとするものである。ロシア国防省は、「セヴェルスク作戦戦術群の指揮官級会議」が標的であったと説明し、セルゲイ・ラブロフ外相もこれに加え、NATO要員も会議に参加していたと述べた。また、ロシア側は、ウクライナが民間地域に軍事施設や兵員を配置していることが原因で、結果として民間人に被害が及ぶと主張している。
この主張に関しては、近隣のコノトプ市長によるビデオ証言が存在し、事件当日、スームィで第117旅団の兵士を対象とした表彰式を州知事が開催したことが確認されている。さらに、民間人も式典に招待されていたとされ、このような形で軍事的要員と民間人を同一空間に集めたことが、ロシアによる攻撃の判断に影響を与えた可能性がある。市長によれば、この式典の開催については事前にリスクが指摘されていた。
このような文脈から、Korybkoはこの攻撃について、「戦争犯罪」や「ひどい間違い」ではなく、**戦略的な判断の下に行われた正当な攻撃(legitimate strike)**であると評価している。ロシアの視点に立てば、VIP級の軍人やNATO要員を除去することで戦争終結が早まり、長期的には民間人の被害を抑え得ると考えられる。また、ロシアには国際法上、ウクライナ国内の軍事目標を攻撃する権利がある一方で、ウクライナには軍事要素を民間地域に配置しない義務があるとされる。
Korybkoの説明では、この攻撃は単独の軍事行動に留まらず、ウクライナによるロシア・クルスク州への侵入作戦を指揮していた部隊を標的としたものでもある。従って、ロシアはこの攻撃を通じてウクライナ軍のクルスク地域からの排除を進めようとした可能性があり、これが和平交渉の前提条件の一部ともなり得る。
ウクライナにとっては、この攻撃による民間人死傷を外交的・宣伝的に利用する動機があり、とりわけこの事件の「映像的な印象(optics)」を活用することで、西側諸国にロシアとの対話を中断させる圧力を強めようとしている。特にこの攻撃の直後に、プーチン大統領が「エネルギー停戦」の延長を判断する期限が迫っていることもあり、攻撃の政治的効果が注目されている。
しかし、トランプの発言に見られるように、アメリカ側はこの事件をロシアとの交渉を中止する理由とは見なしておらず、和平プロセスの継続を望んでいると解釈される。トランプは、ウクライナに対して「戦争を始めるなら、勝てる確信を持って始めるべき」と述べ、ウクライナへの武器供与継続にも否定的な姿勢を示している。
以上のように、Korybkoの論考は、スームィ攻撃をめぐる三つの異なる見解(ウクライナの戦争犯罪主張、トランプの中立的評価、ロシアの正当性主張)を比較しつつ、最も説得力があるのはロシアの説明であると評価し、この攻撃を「正当な軍事攻撃」と位置づけている。また、同攻撃には戦略的な背景があるとし、和平交渉や戦局全体に与える影響についても言及している。
【要点】
1.基本情報
・事件の概要:2025年のパームサンデーに、ウクライナのスームィ市がロシアのミサイル攻撃を受け、多数の死傷者が発生。
・焦点:この攻撃が「戦争犯罪」「ひどい誤爆」「正当な攻撃」のいずれであるかをめぐる評価。
① ウクライナの主張(戦争犯罪説)
・内容:ロシアは意図的に教会を標的にし、民間人を殺害したと非難。
・目的:西側の支援を引き出すために、被害を「戦争犯罪」として国際的に訴える。
・支持者:トランプ政権下の元特使キース・ケロッグなどが同調。
② トランプの見解(誤爆説)
・内容:「ひどい間違い(terrible mistake)」との表現で、意図的攻撃説には与せず、詳細な非難も避ける。
・狙い:事件を過度に政治化せず、ロシアとの和平交渉の余地を維持する。
・外交姿勢:ウクライナへの軍事支援に懐疑的であり、早期和平を優先。
③ ロシアの立場(正当な攻撃説)
・標的:第117旅団指揮官の会議およびNATO要員が出席していた軍事会議。
・根拠
⇨ ウクライナが民間施設に軍事目的の集会を設定。
⇨ 市長の証言によれば、式典に兵士と民間人が同時に参加していた。
・国際法の論拠
⇨ ロシアは敵国(ウクライナ)領内の合法的軍事目標を攻撃可能。
⇨ ウクライナ側には、軍事目標を民間と分離すべき義務あり。
④ 実際の状況と証拠
・コノトプ市長の証言:州知事主催の表彰式が軍人向けにスームィで開催された。
・民間人も同席:兵士の家族など、一般市民が同空間に招待されていた。
・事前警告の存在:リスクが指摘されていたが、式典は強行された。
⑤ Korybkoの結論(正当な攻撃と評価)
・戦略的目的:クルスク州に侵入したウクライナ部隊の指揮系統を攻撃対象とした。
・長期的視点:攻撃により戦争終結が早まり、結果的に民間人被害が減少する可能性がある。
・攻撃の法的正当性:ロシアの主張と周辺証拠により、「戦争犯罪」や「誤爆」ではなく、合法な攻撃と見なせる。
⑥ 政治的・外交的含意
・ウクライナの狙い:民間被害を利用して西側にさらなる対露圧力をかける。
・タイミング:プーチンが「エネルギー停戦」延長を判断する時期と重なり、政治的効果を意識した可能性。
・アメリカの対応
⇨ トランプは交渉継続を望む姿勢。
⇨ ウクライナに対して「勝てる自信がないなら戦争すべきでない」と発言。
総括
・最も信頼性が高いのはロシアの説明との評価。
・西側の「戦争犯罪」認定には慎重さが必要。
・事件の扱い方次第で、和平交渉の行方や戦局全体に大きな影響を及ぼし得る。
【引用・参照・底本】
Sumy: War Crime, Terrible Mistake, Or Legitimate Strike? Andrew Korybko's Newsletter 2025.04.15
https://korybko.substack.com/p/sumy-war-crime-terrible-mistake-or?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=161366947&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
ロシアが掲げる「ウクライナの非ナチ化」の目標 ― 2025年04月15日 18:39
【概要】
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相がアンタルヤ外交フォーラムにおいて語った「ウクライナの非ナチ化」に関する見解を取り上げ、それを米露間のウクライナに関する交渉の文脈で分析している内容である。
ラブロフ外相は「非ナチ化(denazification)」という語を直接用いてはいないが、その意義に関連する事項を長時間にわたり説明した。特に、トランプ政権との協力関係についての質問に対する返答の途中から、彼は非ナチ化に関する考えを詳述した。
ラブロフは「我々は領土の問題ではなく、その地に何世代も暮らしてきた人々の問題である。彼らがオデッサなどの都市を築いた」と述べ、2014年以降ウクライナが彼らから言語的、宗教的、人権的自由を奪ってきたことを指摘した。また、ゼレンスキー大統領が民族ロシア人に対して敵意を抱いているとし、ナチス時代の協力者を称賛するウクライナの風潮についても言及した。
ラブロフは「我々の目標は、領土を得ることではなく、そこに暮らす人々の基本的権利を確保することである」と述べ、EUが「ナチ体制を擁護し、人権侵害を無視している」と非難した。ロシアは、2022年9月の住民投票以降、ドネツク、ルガンスク、ヘルソン、ザポリージャの各地域を自国領とみなしており、それらの地域における人権の回復は憲法上の義務となっている。
ロシアはこれら四州全域を完全に掌握しているわけではないが、軍事的手段で得た地域に加え、残る地域も軍事・外交を組み合わせた「ハイブリッド手段」により掌握を目指している。そのうえで、ラブロフの発言によれば、「非ナチ化」の主眼は、これら地域のロシア系住民の権利を回復することにあるとされる。
ロシアは、これら四州に対しては憲法上の義務として「非ナチ化」を行う意志を持つが、ウクライナ本土(いわゆる「残余ウクライナ」)における非ナチ化については外交手段による追求が意図されている。ラブロフの「我々は領土ではなく人々について語っている」という発言は、ロシアが新たに編入した地域以外に対する領土的野心を否定するものである。
ラブロフの説明によれば、住民投票でロシア編入を選んだ人々は、キエフによって奪われた権利を回復することを望んだのであり、ロシアはそれを保証する義務を負った形となっている。この憲法上かつ人道上の義務が、現在のロシアの軍事・外交活動の基盤となっている。
ウィトコフ氏は、ウクライナ紛争の停戦には、米国がロシアの領有権主張を認めることが最短経路であるとトランプ氏に助言したとされるが、ウクライナ特使のキース・ケロッグ氏はこれに反対したと報じられている。ケロッグ氏は、現在提案されている停戦案として、接触線に沿って15マイルの非武装地帯を設け、西側とロシアでウクライナを分割統治する案を提唱している。
しかし、ラブロフは、このような「西側の平和維持軍」はロシアと戦うために投入されるとの懸念を示し、ミロシュニク氏もこれが「新たなエスカレーションを招く」と警告した。また、平和維持軍の配置は、非武装地帯の東側に居住するロシア系住民の権利回復を阻害するものであり、非ナチ化が不完全に終わる可能性を示唆している。
ラブロフは「ゼレンスキー政権のような体制が権力にある限り、マイノリティの言語・宗教的権利は回復されない」と述べ、この体制を擁護するために西側が平和維持軍を使用する意図を非難した。彼のこの主張は、ミロシュニク氏の「西側は政治体制を軍事的に支配し、対外的支配を維持するために軍を派遣しようとしている」との見解と一致する。
これにより、「非ナチ化」はウクライナにおける体制転換、すなわち政権交代も含意する概念であることが示唆されている。仮に外国軍の駐留によりゼレンスキーの再選が保証されたり、同様の政策を持つ別の人物に交代された場合、ロシアにとっては非ナチ化が達成されないことになる。これにより、ロシアは残る地域に対して軍事手段を強化せざるを得ず、米国はロシアとの直接対立か、ウクライナへの圧力かという選択を迫られる。
もしトランプ氏が対中戦略のためにウクライナ戦争を早期に終結させたいと考えるならば、ウィトコフ氏の提案に従い、ロシアの領有主張を認めることで戦争を収束させる道を選ぶ可能性がある。仮にそれにより住民の大量流出が起こったとしても、トランプ氏は「戦争を終わらせるための大義」としてそれを正当化しようとするであろう。
その際、ロシアは非ナチ化目標を四州に限定し、それ以外の地域への拡大を控える可能性がある。さらに、ウクライナのドニエプル川以東地域を非武装地帯とし、非西側の平和維持勢力が統治する案や、米国が資源開発面でロシアに利益を提供する案も、双方の妥協点として浮上している。
要するに、ロシアの非ナチ化目標の柔軟性は、四州以外の地域における実施の是非に限定される。四州における完全な掌握と権利の回復は最低条件であり、それが外交手段で達成されなければ、軍事手段が継続されることとなる。
そのため、トランプ氏が非ナチ化のこの性格を理解し、ウィトコフ氏の提言を真剣に受け入れるならば、米国はウクライナへの圧力を通じて戦争の早期終結を主導できる可能性がある。交渉の停滞を回避し、過激派による妨害を防ぐうえでも、戦略的譲歩による妥協の拡大が望まれるというのが、この記事の中心的な論点である。
【詳細】
ロシア外相セルゲイ・ラブロフは、2025年のアンタルヤ外交フォーラムにおける質疑応答の場で、ロシアが掲げる「ウクライナの非ナチ化」の目標について、明示的な用語は用いずに、具体的かつ詳細な説明を行った。
まず、ラブロフは「非ナチ化」という言葉そのものを用いていないが、その関連事項に多くの時間を割いて言及しており、特にロシアとトランプ政権との協力関係についての質問への回答の中で重要な発言がなされた。ラブロフは、トランプ元大統領の非公式ロシア特使スティーブ・ウィトコフが、領土問題の解決が本質的であると認識していた点を引き合いに出した上で、「我々が重視しているのは領土ではなく、そこに住んでおり、その祖先が何世紀も前からそこに住み、オデッサのような都市を築いた人々の権利である」と述べた。
この発言に続いて、ラブロフは、2014年以降、ウクライナがこれら住民から人権、言語権、宗教的権利を奪ってきたことに触れ、さらにゼレンスキー大統領が民族ロシア人を非人間的に扱い、彼らへの憎悪を公然と述べたことにも言及した。また、ウクライナがナチス時代の協力者を讃えることについても批判した。
このような発言の文脈で、ラブロフは、ウクライナが戦前の国境の回復以外を受け入れないとする主張に対し、「彼ら(ウクライナ側)が受け入れるかどうかの問題ではなく、何世紀にもわたりそこに住んできた人々が権利を奪われないことを100%確実にすることが重要である」と応じた。加えて、EUがウクライナの政権を「ナチ政権」と見なし、その人権侵害を無視していると非難し、ロシアは既に編入された地域でその人々の権利を回復していると主張した。
ラブロフの発言を踏まえると、「非ナチ化」とは、ロシアが2022年9月の住民投票を根拠に領土として編入したドネツク州、ルガンスク州、ヘルソン州、ザポリージャ州において、歴史的にロシア人が住んできた地域の住民に対して剥奪された諸権利を回復することであると解釈される。この地域は、ロシア憲法の2020年改正によって「領土の割譲が禁止」されていることから、ロシア側はこれらを「不可分の領土」とみなしており、その全域に対する支配権の獲得が国家的義務とされている。
現在、これら地域の一部はロシアが軍事的に制圧済みであるが、全域の支配には至っておらず、残る地域については軍事と外交を組み合わせた「ハイブリッド手法」により、地上戦を継続しつつ、アメリカとの交渉によりウクライナによる「自発的な撤退」を目指している。
一方、残る「ウクライナ本体(rump Ukraine)」における非ナチ化については、ラブロフの説明によれば、これは主に同国に居住するロシア系住民の権利回復を意味し、軍事的手段ではなく外交的手段を通じて実現を図るとしている。ロシアの領土的要求は、2022年9月以降に領有を主張する4州に限定され、それ以外のウクライナ領域には明示的な主権主張はしていない。
さらに、住民投票によりロシアへの編入が承認されたとされる地域の人々が、キエフによって奪われた権利の回復をロシアに求めたことこそが、非ナチ化の正当性の根拠であるとされる。したがって、非ナチ化とは、これらの地域における憲法上および人道上の命題となっている。
米国側との交渉に関しては、ウィトコフがトランプ氏に対し、ロシアの領有主張を認めることで停戦を実現することが最も迅速な解決策であると進言したとされているが、ウクライナ問題担当のキース・ケロッグはこれに反対したと報じられている。ケロッグはまた、戦線を凍結し、15マイルの非武装地帯を設置してウクライナをロシアと西側の「勢力圏」に分割する案を示している。
ラブロフは、このような西側の平和維持部隊の導入案について、「実質的にはロシアと戦うために投入されるものだ」と暗示しており、これを同僚のミロシュニクも「エスカレーションの新段階を招く」と警告している。また、非武装地帯の西側に残るロシア系住民の権利が保障されない限り、非ナチ化は不完全に終わると指摘された。
ラブロフは、こうした西側の案が実質的にはゼレンスキー政権の維持を目的としたものであり、そのような体制が国連憲章などに基づく少数民族の権利を実施する意思を持たないことが問題であると述べた。
このように、ロシア側の非ナチ化目標には、ゼレンスキー政権の交代(体制転換)という含意がある。ミロシュニクも、西側の平和維持部隊の派遣計画は、ウクライナの政治体制を軍事的に掌握し、交渉結果に関係なく外部からの統治を維持することにあると述べている。
もし、ゼレンスキーの再選が不正に行われるか、もしくはロシア系住民への政策を継続する指導者に交代した場合、非ナチ化の実現は大きく阻害されることになる。この場合、ロシアは残る未制圧地域に対して、外交ではなく軍事的手段を強化する可能性が高まる。
仮にトランプ氏が米中対立に集中するためにもウクライナ問題を早期解決しようとするのであれば、ウィトコフの提案に従い、ロシアの領有主張を認め、ウクライナに対して該当地域からの撤退を迫る選択を取ることが現実的である。
この際、大規模な住民の移動が発生すれば、「民族浄化」といった批判が生じる可能性もあるが、トランプ氏は戦争の早期終結と第三次世界大戦回避という大義で応じる可能性がある。
ロシア側が新たな地域における非ナチ化の完全実施と引き換えに、米国に対し資源投資の優先権を提供する可能性も示唆されており、こうした交渉の積み重ねが米露間の妥協点を形成する可能性がある。
【要点】
1.「非ナチ化」の定義に関するラブロフの発言
・ラブロフは「非ナチ化」という用語を直接は使わず、関連事項として民族ロシア人の権利回復を中心に語った。
・強調されたのは「領土」ではなく、「そこに住む人々の人権・言語・宗教の自由」である。
・ロシア系住民が歴史的に多く住む地域(特に南東部)での差別と弾圧への対応を求めるものとして非ナチ化が位置づけられた。
2.非ナチ化の地理的範囲
・2022年にロシアが併合を主張した4州(ドネツク、ルガンスク、ヘルソン、ザポリージャ)の全域。
・現在一部がロシアの軍事支配下にあり、未制圧地域は今後の戦争または外交交渉によって獲得を目指す。
・これらの地域はロシア憲法により「不可分の領土」とされており、割譲は許されない。
3.方法論(軍事・外交の使い分け)
・併合済地域:軍事的手段を通じて完全制圧と統治の確立を追求。
・それ以外のウクライナ領(rump Ukraine):外交的手段でロシア系住民の権利回復を目指す。
・アメリカとの交渉が鍵となり、戦闘と交渉の並行が続く。
4.米国の関与と交渉案
・トランプ氏の非公式特使ウィトコフは、ロシアの領有を認めることで停戦が可能と主張。
・対照的にケロッグは戦線凍結と非武装地帯設置を提案。
・ロシア側は後者の提案に否定的であり、西側による間接支配の継続と捉えている。
5.西側の平和維持部隊案への警戒
・ロシア外務省や元交渉官は「平和維持部隊」案をロシアへの間接軍事介入と見なしている。
・この案では、ロシア系住民の権利保護が不十分であると指摘。
・よって、ラブロフはゼレンスキー体制の存続そのものが問題であると示唆。
6.「体制転換」の含意
・ラブロフ発言からは、ゼレンスキー政権の打倒または転換がロシアの間接的目標に含まれていることが読み取れる。
・ミロシュニクらも、ウクライナ政府の性質が変わらない限り、非ナチ化は完了しないと警告している。
・非ナチ化の最終目的は、体制の変更を通じてロシア系住民の恒久的権利保護を制度的に確立することである。
7.ロシアの最小限の要求と妥協可能性
・最小限の要求は、併合済4州の完全支配と、そこに住む住民の完全な権利回復。
・それ以上の領土要求は現時点では示されていない。
・トランプ政権が、ロシアの領有を事実上容認し、戦争を終結させる可能性がある。
・見返りとして、米国企業への投資機会や経済的利益が交渉材料となる可能性がある。
【引用・参照・底本】
Lavrov Elaborated On Russia’s Envisaged Denazification Of Ukraine Andrew Korybko's Newsletter 2025.04.15
https://korybko.substack.com/p/lavrov-elaborated-on-russias-envisaged?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=161361555&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相がアンタルヤ外交フォーラムにおいて語った「ウクライナの非ナチ化」に関する見解を取り上げ、それを米露間のウクライナに関する交渉の文脈で分析している内容である。
ラブロフ外相は「非ナチ化(denazification)」という語を直接用いてはいないが、その意義に関連する事項を長時間にわたり説明した。特に、トランプ政権との協力関係についての質問に対する返答の途中から、彼は非ナチ化に関する考えを詳述した。
ラブロフは「我々は領土の問題ではなく、その地に何世代も暮らしてきた人々の問題である。彼らがオデッサなどの都市を築いた」と述べ、2014年以降ウクライナが彼らから言語的、宗教的、人権的自由を奪ってきたことを指摘した。また、ゼレンスキー大統領が民族ロシア人に対して敵意を抱いているとし、ナチス時代の協力者を称賛するウクライナの風潮についても言及した。
ラブロフは「我々の目標は、領土を得ることではなく、そこに暮らす人々の基本的権利を確保することである」と述べ、EUが「ナチ体制を擁護し、人権侵害を無視している」と非難した。ロシアは、2022年9月の住民投票以降、ドネツク、ルガンスク、ヘルソン、ザポリージャの各地域を自国領とみなしており、それらの地域における人権の回復は憲法上の義務となっている。
ロシアはこれら四州全域を完全に掌握しているわけではないが、軍事的手段で得た地域に加え、残る地域も軍事・外交を組み合わせた「ハイブリッド手段」により掌握を目指している。そのうえで、ラブロフの発言によれば、「非ナチ化」の主眼は、これら地域のロシア系住民の権利を回復することにあるとされる。
ロシアは、これら四州に対しては憲法上の義務として「非ナチ化」を行う意志を持つが、ウクライナ本土(いわゆる「残余ウクライナ」)における非ナチ化については外交手段による追求が意図されている。ラブロフの「我々は領土ではなく人々について語っている」という発言は、ロシアが新たに編入した地域以外に対する領土的野心を否定するものである。
ラブロフの説明によれば、住民投票でロシア編入を選んだ人々は、キエフによって奪われた権利を回復することを望んだのであり、ロシアはそれを保証する義務を負った形となっている。この憲法上かつ人道上の義務が、現在のロシアの軍事・外交活動の基盤となっている。
ウィトコフ氏は、ウクライナ紛争の停戦には、米国がロシアの領有権主張を認めることが最短経路であるとトランプ氏に助言したとされるが、ウクライナ特使のキース・ケロッグ氏はこれに反対したと報じられている。ケロッグ氏は、現在提案されている停戦案として、接触線に沿って15マイルの非武装地帯を設け、西側とロシアでウクライナを分割統治する案を提唱している。
しかし、ラブロフは、このような「西側の平和維持軍」はロシアと戦うために投入されるとの懸念を示し、ミロシュニク氏もこれが「新たなエスカレーションを招く」と警告した。また、平和維持軍の配置は、非武装地帯の東側に居住するロシア系住民の権利回復を阻害するものであり、非ナチ化が不完全に終わる可能性を示唆している。
ラブロフは「ゼレンスキー政権のような体制が権力にある限り、マイノリティの言語・宗教的権利は回復されない」と述べ、この体制を擁護するために西側が平和維持軍を使用する意図を非難した。彼のこの主張は、ミロシュニク氏の「西側は政治体制を軍事的に支配し、対外的支配を維持するために軍を派遣しようとしている」との見解と一致する。
これにより、「非ナチ化」はウクライナにおける体制転換、すなわち政権交代も含意する概念であることが示唆されている。仮に外国軍の駐留によりゼレンスキーの再選が保証されたり、同様の政策を持つ別の人物に交代された場合、ロシアにとっては非ナチ化が達成されないことになる。これにより、ロシアは残る地域に対して軍事手段を強化せざるを得ず、米国はロシアとの直接対立か、ウクライナへの圧力かという選択を迫られる。
もしトランプ氏が対中戦略のためにウクライナ戦争を早期に終結させたいと考えるならば、ウィトコフ氏の提案に従い、ロシアの領有主張を認めることで戦争を収束させる道を選ぶ可能性がある。仮にそれにより住民の大量流出が起こったとしても、トランプ氏は「戦争を終わらせるための大義」としてそれを正当化しようとするであろう。
その際、ロシアは非ナチ化目標を四州に限定し、それ以外の地域への拡大を控える可能性がある。さらに、ウクライナのドニエプル川以東地域を非武装地帯とし、非西側の平和維持勢力が統治する案や、米国が資源開発面でロシアに利益を提供する案も、双方の妥協点として浮上している。
要するに、ロシアの非ナチ化目標の柔軟性は、四州以外の地域における実施の是非に限定される。四州における完全な掌握と権利の回復は最低条件であり、それが外交手段で達成されなければ、軍事手段が継続されることとなる。
そのため、トランプ氏が非ナチ化のこの性格を理解し、ウィトコフ氏の提言を真剣に受け入れるならば、米国はウクライナへの圧力を通じて戦争の早期終結を主導できる可能性がある。交渉の停滞を回避し、過激派による妨害を防ぐうえでも、戦略的譲歩による妥協の拡大が望まれるというのが、この記事の中心的な論点である。
【詳細】
ロシア外相セルゲイ・ラブロフは、2025年のアンタルヤ外交フォーラムにおける質疑応答の場で、ロシアが掲げる「ウクライナの非ナチ化」の目標について、明示的な用語は用いずに、具体的かつ詳細な説明を行った。
まず、ラブロフは「非ナチ化」という言葉そのものを用いていないが、その関連事項に多くの時間を割いて言及しており、特にロシアとトランプ政権との協力関係についての質問への回答の中で重要な発言がなされた。ラブロフは、トランプ元大統領の非公式ロシア特使スティーブ・ウィトコフが、領土問題の解決が本質的であると認識していた点を引き合いに出した上で、「我々が重視しているのは領土ではなく、そこに住んでおり、その祖先が何世紀も前からそこに住み、オデッサのような都市を築いた人々の権利である」と述べた。
この発言に続いて、ラブロフは、2014年以降、ウクライナがこれら住民から人権、言語権、宗教的権利を奪ってきたことに触れ、さらにゼレンスキー大統領が民族ロシア人を非人間的に扱い、彼らへの憎悪を公然と述べたことにも言及した。また、ウクライナがナチス時代の協力者を讃えることについても批判した。
このような発言の文脈で、ラブロフは、ウクライナが戦前の国境の回復以外を受け入れないとする主張に対し、「彼ら(ウクライナ側)が受け入れるかどうかの問題ではなく、何世紀にもわたりそこに住んできた人々が権利を奪われないことを100%確実にすることが重要である」と応じた。加えて、EUがウクライナの政権を「ナチ政権」と見なし、その人権侵害を無視していると非難し、ロシアは既に編入された地域でその人々の権利を回復していると主張した。
ラブロフの発言を踏まえると、「非ナチ化」とは、ロシアが2022年9月の住民投票を根拠に領土として編入したドネツク州、ルガンスク州、ヘルソン州、ザポリージャ州において、歴史的にロシア人が住んできた地域の住民に対して剥奪された諸権利を回復することであると解釈される。この地域は、ロシア憲法の2020年改正によって「領土の割譲が禁止」されていることから、ロシア側はこれらを「不可分の領土」とみなしており、その全域に対する支配権の獲得が国家的義務とされている。
現在、これら地域の一部はロシアが軍事的に制圧済みであるが、全域の支配には至っておらず、残る地域については軍事と外交を組み合わせた「ハイブリッド手法」により、地上戦を継続しつつ、アメリカとの交渉によりウクライナによる「自発的な撤退」を目指している。
一方、残る「ウクライナ本体(rump Ukraine)」における非ナチ化については、ラブロフの説明によれば、これは主に同国に居住するロシア系住民の権利回復を意味し、軍事的手段ではなく外交的手段を通じて実現を図るとしている。ロシアの領土的要求は、2022年9月以降に領有を主張する4州に限定され、それ以外のウクライナ領域には明示的な主権主張はしていない。
さらに、住民投票によりロシアへの編入が承認されたとされる地域の人々が、キエフによって奪われた権利の回復をロシアに求めたことこそが、非ナチ化の正当性の根拠であるとされる。したがって、非ナチ化とは、これらの地域における憲法上および人道上の命題となっている。
米国側との交渉に関しては、ウィトコフがトランプ氏に対し、ロシアの領有主張を認めることで停戦を実現することが最も迅速な解決策であると進言したとされているが、ウクライナ問題担当のキース・ケロッグはこれに反対したと報じられている。ケロッグはまた、戦線を凍結し、15マイルの非武装地帯を設置してウクライナをロシアと西側の「勢力圏」に分割する案を示している。
ラブロフは、このような西側の平和維持部隊の導入案について、「実質的にはロシアと戦うために投入されるものだ」と暗示しており、これを同僚のミロシュニクも「エスカレーションの新段階を招く」と警告している。また、非武装地帯の西側に残るロシア系住民の権利が保障されない限り、非ナチ化は不完全に終わると指摘された。
ラブロフは、こうした西側の案が実質的にはゼレンスキー政権の維持を目的としたものであり、そのような体制が国連憲章などに基づく少数民族の権利を実施する意思を持たないことが問題であると述べた。
このように、ロシア側の非ナチ化目標には、ゼレンスキー政権の交代(体制転換)という含意がある。ミロシュニクも、西側の平和維持部隊の派遣計画は、ウクライナの政治体制を軍事的に掌握し、交渉結果に関係なく外部からの統治を維持することにあると述べている。
もし、ゼレンスキーの再選が不正に行われるか、もしくはロシア系住民への政策を継続する指導者に交代した場合、非ナチ化の実現は大きく阻害されることになる。この場合、ロシアは残る未制圧地域に対して、外交ではなく軍事的手段を強化する可能性が高まる。
仮にトランプ氏が米中対立に集中するためにもウクライナ問題を早期解決しようとするのであれば、ウィトコフの提案に従い、ロシアの領有主張を認め、ウクライナに対して該当地域からの撤退を迫る選択を取ることが現実的である。
この際、大規模な住民の移動が発生すれば、「民族浄化」といった批判が生じる可能性もあるが、トランプ氏は戦争の早期終結と第三次世界大戦回避という大義で応じる可能性がある。
ロシア側が新たな地域における非ナチ化の完全実施と引き換えに、米国に対し資源投資の優先権を提供する可能性も示唆されており、こうした交渉の積み重ねが米露間の妥協点を形成する可能性がある。
【要点】
1.「非ナチ化」の定義に関するラブロフの発言
・ラブロフは「非ナチ化」という用語を直接は使わず、関連事項として民族ロシア人の権利回復を中心に語った。
・強調されたのは「領土」ではなく、「そこに住む人々の人権・言語・宗教の自由」である。
・ロシア系住民が歴史的に多く住む地域(特に南東部)での差別と弾圧への対応を求めるものとして非ナチ化が位置づけられた。
2.非ナチ化の地理的範囲
・2022年にロシアが併合を主張した4州(ドネツク、ルガンスク、ヘルソン、ザポリージャ)の全域。
・現在一部がロシアの軍事支配下にあり、未制圧地域は今後の戦争または外交交渉によって獲得を目指す。
・これらの地域はロシア憲法により「不可分の領土」とされており、割譲は許されない。
3.方法論(軍事・外交の使い分け)
・併合済地域:軍事的手段を通じて完全制圧と統治の確立を追求。
・それ以外のウクライナ領(rump Ukraine):外交的手段でロシア系住民の権利回復を目指す。
・アメリカとの交渉が鍵となり、戦闘と交渉の並行が続く。
4.米国の関与と交渉案
・トランプ氏の非公式特使ウィトコフは、ロシアの領有を認めることで停戦が可能と主張。
・対照的にケロッグは戦線凍結と非武装地帯設置を提案。
・ロシア側は後者の提案に否定的であり、西側による間接支配の継続と捉えている。
5.西側の平和維持部隊案への警戒
・ロシア外務省や元交渉官は「平和維持部隊」案をロシアへの間接軍事介入と見なしている。
・この案では、ロシア系住民の権利保護が不十分であると指摘。
・よって、ラブロフはゼレンスキー体制の存続そのものが問題であると示唆。
6.「体制転換」の含意
・ラブロフ発言からは、ゼレンスキー政権の打倒または転換がロシアの間接的目標に含まれていることが読み取れる。
・ミロシュニクらも、ウクライナ政府の性質が変わらない限り、非ナチ化は完了しないと警告している。
・非ナチ化の最終目的は、体制の変更を通じてロシア系住民の恒久的権利保護を制度的に確立することである。
7.ロシアの最小限の要求と妥協可能性
・最小限の要求は、併合済4州の完全支配と、そこに住む住民の完全な権利回復。
・それ以上の領土要求は現時点では示されていない。
・トランプ政権が、ロシアの領有を事実上容認し、戦争を終結させる可能性がある。
・見返りとして、米国企業への投資機会や経済的利益が交渉材料となる可能性がある。
【引用・参照・底本】
Lavrov Elaborated On Russia’s Envisaged Denazification Of Ukraine Andrew Korybko's Newsletter 2025.04.15
https://korybko.substack.com/p/lavrov-elaborated-on-russias-envisaged?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=161361555&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
米国:国務省予算の削減 ― 2025年04月15日 18:57
【概要】
2025年4月15日付の報道によれば、米国国務省および対外援助に関して、ドナルド・トランプ大統領が提示した予算案では、大幅な削減が計画されている。ロイター通信が入手した内部計画文書によると、2026年度の国務省予算は現在の544億ドルから284億ドルへと削減される見通しである。
この削減計画には、アフリカおよびヨーロッパを中心とした米国の在外公館およそ30か所の閉鎖が含まれている。また、対外援助予算は383億ドルから169億ドルに縮小される。さらに、「重複的」と見なされたプログラムは廃止される予定である。
米国の「ソフト・パワー」の中核を担ってきた国際開発庁(USAID)も今回の見直し対象となっており、その機能は国務省に統合される計画である。
これらの動きは、アメリカの外交政策および国際的関与の手段に大きな変化をもたらす可能性があるが、文書の中で意図や理由の詳細は示されていない。
【詳細】
2025年4月15日現在、ロイター通信が入手した内部計画文書によれば、ドナルド・トランプ大統領陣営は、2026年度予算において国務省および対外援助関連費用を大幅に削減する意向を示している。
国務省予算の削減
現行の国務省予算は約544億ドルであるが、2026年度には約284億ドルへと260億ドル減額される計画である。これは実に約48%の削減であり、近年の外交機関における予算削減としては異例の規模である。
この削減には、人員の整理縮小、組織再編、施設の統廃合が含まれると見られており、特に海外に展開する大使館や領事館の運営に影響を与えるとみられる。
在外公館の閉鎖
削減計画では、およそ30の米国在外公館の閉鎖が予定されている。対象は主にアフリカおよびヨーロッパの国々に所在する中小規模の公館であり、地域的な優先順位や戦略的意義に基づいて選定されていると推測される。
公館の閉鎖は、現地での外交的プレゼンスの縮小を意味し、領事業務、経済支援、人的交流の分野における活動も制限される可能性が高い。
対外援助の大幅削減
国務省とは別枠で管理されている対外援助予算についても、現在の383億ドルから169億ドルへと214億ドルの削減が計画されている。この予算には、経済支援、人道支援、保健・教育支援、災害救助などが含まれている。
削減対象には「重複的」または「冗長」と判断されたプログラムが含まれており、それらは廃止または縮小の方向で整理される予定である。
USAIDの統合
米国の対外援助機関である米国国際開発庁(USAID)も改革対象となっている。文書によれば、USAIDの機能は国務省に統合され、独立機関としての地位は縮小または消失する可能性がある。
USAIDは従来、保健、食糧援助、教育、民主主義支援、インフラ開発など多岐にわたる支援活動を展開してきたが、今後はその多くの機能が国務省内の新設部署または既存部署に吸収されると見られる。
総論
これらの削減計画は、外交政策におけるコスト効率の見直しと米国政府の財政健全化を念頭に置いたものであるとされるが、文書には政治的・戦略的な背景や正確な削減理由についての詳述はない。
なお、これらの計画が最終的に議会で承認されるかどうかは現時点で不明であり、議会審議や官僚機構内の調整を経て内容が修正・変更される可能性がある。
このように、本件はアメリカの外交・援助政策の根幹に関わる大規模な構造改革の試みであり、今後の動向が注目される。
【要点】
1.国務省予算の削減
・2026年度の国務省予算は、現在の544億ドルから284億ドルに削減される見通しである。
・削減額は約260億ドル、削減率はおよそ48%に達する。
・削減対象には、人件費、運営費、施設維持費などが含まれるとされる。
2.在外公館の閉鎖
・アフリカおよびヨーロッパ地域を中心に、約30の米国の在外公館(大使館・領事館など)が閉鎖予定である。
・閉鎖により、該当地域における外交的プレゼンスが低下する可能性がある。
・領事業務、ビザ発給、文化交流などの機能も制限される見込みである。
3.対外援助の大幅削減
・現行の対外援助予算(383億ドル)は、169億ドルに削減される計画である。
・削減額は214億ドルに上る。
・経済支援、人道支援、教育・保健支援などが削減対象となる。
「重複的」または「冗長」と見なされたプログラムは廃止される見通しである。
4.USAID(米国国際開発庁)の統合
・アメリカのソフトパワーの中核であるUSAIDは、今回の改革対象となっている。
・USAIDの機能は国務省に吸収・統合される予定であり、独立機関としての存在は弱まる可能性が高い。
・統合後も一部の活動は継続される見通しであるが、機動力や専門性が損なわれる懸念がある。
5.その他の要点
・削減計画は、トランプ大統領陣営による内部文書に基づくものである。
・削減の目的は明記されていないが、支出の抑制と組織の合理化が意図されている可能性がある。
・計画が最終的に実行されるためには、米連邦議会の承認が必要であり、今後の議会審議によって変更される可能性もある。
【引用・参照・底本】
Trump’s Budget Axe Takes Swing at State Dept. and Foreign Aid sputnik international 2025.04.15
https://sputnikglobe.com/20250415/trumps-budget-axe-takes-swing-at-state-dept-and-foreign-aid-1121873901.html
2025年4月15日付の報道によれば、米国国務省および対外援助に関して、ドナルド・トランプ大統領が提示した予算案では、大幅な削減が計画されている。ロイター通信が入手した内部計画文書によると、2026年度の国務省予算は現在の544億ドルから284億ドルへと削減される見通しである。
この削減計画には、アフリカおよびヨーロッパを中心とした米国の在外公館およそ30か所の閉鎖が含まれている。また、対外援助予算は383億ドルから169億ドルに縮小される。さらに、「重複的」と見なされたプログラムは廃止される予定である。
米国の「ソフト・パワー」の中核を担ってきた国際開発庁(USAID)も今回の見直し対象となっており、その機能は国務省に統合される計画である。
これらの動きは、アメリカの外交政策および国際的関与の手段に大きな変化をもたらす可能性があるが、文書の中で意図や理由の詳細は示されていない。
【詳細】
2025年4月15日現在、ロイター通信が入手した内部計画文書によれば、ドナルド・トランプ大統領陣営は、2026年度予算において国務省および対外援助関連費用を大幅に削減する意向を示している。
国務省予算の削減
現行の国務省予算は約544億ドルであるが、2026年度には約284億ドルへと260億ドル減額される計画である。これは実に約48%の削減であり、近年の外交機関における予算削減としては異例の規模である。
この削減には、人員の整理縮小、組織再編、施設の統廃合が含まれると見られており、特に海外に展開する大使館や領事館の運営に影響を与えるとみられる。
在外公館の閉鎖
削減計画では、およそ30の米国在外公館の閉鎖が予定されている。対象は主にアフリカおよびヨーロッパの国々に所在する中小規模の公館であり、地域的な優先順位や戦略的意義に基づいて選定されていると推測される。
公館の閉鎖は、現地での外交的プレゼンスの縮小を意味し、領事業務、経済支援、人的交流の分野における活動も制限される可能性が高い。
対外援助の大幅削減
国務省とは別枠で管理されている対外援助予算についても、現在の383億ドルから169億ドルへと214億ドルの削減が計画されている。この予算には、経済支援、人道支援、保健・教育支援、災害救助などが含まれている。
削減対象には「重複的」または「冗長」と判断されたプログラムが含まれており、それらは廃止または縮小の方向で整理される予定である。
USAIDの統合
米国の対外援助機関である米国国際開発庁(USAID)も改革対象となっている。文書によれば、USAIDの機能は国務省に統合され、独立機関としての地位は縮小または消失する可能性がある。
USAIDは従来、保健、食糧援助、教育、民主主義支援、インフラ開発など多岐にわたる支援活動を展開してきたが、今後はその多くの機能が国務省内の新設部署または既存部署に吸収されると見られる。
総論
これらの削減計画は、外交政策におけるコスト効率の見直しと米国政府の財政健全化を念頭に置いたものであるとされるが、文書には政治的・戦略的な背景や正確な削減理由についての詳述はない。
なお、これらの計画が最終的に議会で承認されるかどうかは現時点で不明であり、議会審議や官僚機構内の調整を経て内容が修正・変更される可能性がある。
このように、本件はアメリカの外交・援助政策の根幹に関わる大規模な構造改革の試みであり、今後の動向が注目される。
【要点】
1.国務省予算の削減
・2026年度の国務省予算は、現在の544億ドルから284億ドルに削減される見通しである。
・削減額は約260億ドル、削減率はおよそ48%に達する。
・削減対象には、人件費、運営費、施設維持費などが含まれるとされる。
2.在外公館の閉鎖
・アフリカおよびヨーロッパ地域を中心に、約30の米国の在外公館(大使館・領事館など)が閉鎖予定である。
・閉鎖により、該当地域における外交的プレゼンスが低下する可能性がある。
・領事業務、ビザ発給、文化交流などの機能も制限される見込みである。
3.対外援助の大幅削減
・現行の対外援助予算(383億ドル)は、169億ドルに削減される計画である。
・削減額は214億ドルに上る。
・経済支援、人道支援、教育・保健支援などが削減対象となる。
「重複的」または「冗長」と見なされたプログラムは廃止される見通しである。
4.USAID(米国国際開発庁)の統合
・アメリカのソフトパワーの中核であるUSAIDは、今回の改革対象となっている。
・USAIDの機能は国務省に吸収・統合される予定であり、独立機関としての存在は弱まる可能性が高い。
・統合後も一部の活動は継続される見通しであるが、機動力や専門性が損なわれる懸念がある。
5.その他の要点
・削減計画は、トランプ大統領陣営による内部文書に基づくものである。
・削減の目的は明記されていないが、支出の抑制と組織の合理化が意図されている可能性がある。
・計画が最終的に実行されるためには、米連邦議会の承認が必要であり、今後の議会審議によって変更される可能性もある。
【引用・参照・底本】
Trump’s Budget Axe Takes Swing at State Dept. and Foreign Aid sputnik international 2025.04.15
https://sputnikglobe.com/20250415/trumps-budget-axe-takes-swing-at-state-dept-and-foreign-aid-1121873901.html