「グローバリゼーションは終わったのではなく、新たな形で始まっている」2025年04月20日 18:34

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【概要】

 ウォーリック・パウエル(Warwick Powell)氏による論説であり、2025年4月19日に発表されたものである。主張の中心は、「グローバリゼーションは終わったのではなく、新たな形で始まっている」という点にある。著者は、「グローバリゼーションの終焉」といった言説に対して、それが誤解であり、むしろ「西洋的特徴を持つグローバリゼーションの終焉」であり、「多極的特徴を持つグローバリゼーション」の始まりであると論じている。

 まず、従来のグローバリゼーションとは、米欧を中心としたトランスアトランティック経済圏の優位性に基づいていたが、その体制はすでに過去のものとなっている。現在進行しているのは、米国や西側諸国の中心性が相対的に低下し、代わって多極的な構造に移行しつつある新しい段階である。これは孤立主義や自給自足体制への後退ではなく、むしろ米国を含むか否かに関わらず、継続的かつ拡大された貿易、分散された資本流動、地域・準地域レベルにおける多極的な経済および安全保障ガバナンス体制によって特徴づけられる国際関係の深化である。

 著者は、米国による関税戦争がこの多極的グローバリゼーションの加速をもたらす条件を生み出していると述べている。これからの国際的相互作用の基盤は、強化された協調関係である。

 また、現在のグローバリゼーションの象徴的存在として、中国の存在が挙げられている。中国は150以上の国と貿易関係を持ち、製造業大国としての地位を確立しており、世界経済システムの混乱に対して安定装置としての役割を果たしている。その市場をさらに開放することで、他国の企業にとっての代替的な機会を提供し得る。

 このような「多極的特徴を持つグローバリゼーション」を推進・加速するには、以下のような取り組みが必要であるとされている。

 1.世界貿易機関(WTO)への支持継続

 地域的・二国間協定よりもWTOを重視し、これを現代的要請に合致するよう改革することが求められる。こうした多国間制度を尊重することは、国際的信頼性と合意履行能力の証明につながる。

 2.貿易協力の拡充

 国内政策を調整し、サプライチェーンの最適化を図ることで、互恵的な発展が実現される。また、米国市場への依存度低下に対応して、需要を下支えする財政的手段を動員する必要がある。

 3.デジタル標準の整備

 国境を越えたサプライチェーン情報に関する標準化を進めることにより、税関などの規制当局が迅速な処理を行えると同時に、買い手や金融関係者がデータを活用した決済・精算を効率化できるようになる。

 4.資本流動の促進とグローバル・サウス支援

 世界銀行や国際通貨基金(IMF)といった既存の制度が開発支援において十分な成果を挙げていないため、改革が必要であると同時に、BRICSによる新開発銀行やアジア開発銀行など新たな制度の役割拡大が求められる。これにより、国際的な不均衡な発展の是正に寄与する。

 5.安全保障制度の見直し

 全体安全保障を重視する制度の構築が重要であり、ゼロサム的な安全保障の枠組みを乗り越える必要がある。中国の「平和共存五原則」や、バンドン会議に見られる非同盟運動の理念が、新たな統治と外交の枠組みとして再評価されうる。

 最後に、著者は「西洋的グローバリゼーション」の終焉を認めつつも、多極的な協調と協力を通じて新たな形のグローバリゼーションがより多くの国々に利益をもたらす可能性があると結論づけている。

 本稿の執筆者であるウォーリック・パウエル氏は、クイーンズランド工科大学の客員教授、Taihe Instituteの上級研究員、そして元オーストラリア首相ケビン・ラッド氏の顧問を務めた人物である。

【詳細】

 問題提起:グローバリゼーションは本当に終わったのか

 現在、米国を中心とした関税政策の激化、いわゆる「関税戦争(tariff war)」の文脈において、「グローバリゼーションの終焉」が語られることが増えている。しかし、著者はこの言説に対し懐疑的である。確かに、トランスアトランティック(米欧)を軸とした従来型のグローバリゼーションは既に終わりを迎えているが、それは「グローバリゼーションの終焉」ではなく、「西洋的特徴を持つグローバリゼーション(globalization with Western characteristics)」の終焉であり、むしろ今は「多極的特徴を持つグローバリゼーション(globalization with multipolar characteristics)」の始まりであると指摘している。

 新たなグローバリゼーションの特徴:多極性

 この新しいグローバリゼーションは、単に「非西洋的」であるだけでなく、多極的である。つまり、世界は単一の支配的プレイヤー(たとえば米国)によって動かされるのではなく、複数の国・地域・制度が相互に影響しあう構造に移行している。具体的な特徴は以下の通りである。

 ・米国や欧州中心主義の後退(decentering of the West)

 ・米国の一時的な「後退(retreat)」:関税政策によってグローバル経済との積極的関与を控える傾向

 ・自給自足への退行ではなく、むしろグローバルな結びつきの深化

 ・多極的な貿易・投資・制度的ネットワークの台頭

 多極的グローバリゼーションを支える柱

 1.貿易(Trade)

 世界貿易機関(WTO)を基礎とする多国間の貿易ルールが依然として中心である。著者は、地域的・二国間の協定よりも、WTOのような包括的制度がより重要であると主張している。こうした制度が国家間の信頼の基盤となり、協定の遵守性と信頼性を保証する。

 2.中国の役割(China’s Role)

 現在のグローバリゼーションにおける最も顕著な特徴は、中国の経済的存在感の増大である。中国は150か国以上と貿易関係を持ち、製造業と物流の中心地として機能している。中国は、国際経済の安定装置であり、各国の協調行動の「焦点」となっている。今後、中国がさらに市場開放を進めることで、多国籍企業に新たな機会を提供し得る。

 3.供給網の最適化と財政政策(Supply Chain & Fiscal Tools)

 関税による短期的な貿易の混乱に対応するには、各国が自国内の政策を調整し、サプライチェーンの効率化を進める必要がある。さらに、米国市場が信頼できない存在となった場合に備えて、協調的な財政政策により需要を下支えすべきである。

 4.デジタル基準とデータ連携(Digital Standards for Trade)

 サプライチェーンにおける情報の透明性とリアルタイム性を高めるために、デジタル標準の国際的整備が不可欠である。これは、税関などの規制当局にとって迅速な対応を可能にし、企業や金融機関にとってはデータに基づいた決済・清算の効率化を促進する。

 5.開発金融とグローバル・サウス(Development Finance)

 IMFや世界銀行といった既存の制度が、開発途上国の構造的な貧困や不均衡を是正するには不十分であったとされている。これに代わるものとして、BRICSの「新開発銀行(New Development Bank)」やアジア開発銀行(ADB)などの新興多国間金融機関が注目されている。こうした機関は、南半球諸国の声をより反映し、技術・資源の動員を可能にする。

 6.安全保障制度の再構築(Security Institutions)

 著者は、軍事的・地政学的対立を前提とするゼロサム的安全保障体制ではなく、すべての国の安全保障を重視する「不可分の安全保障(indivisible security)」の原則に立脚すべきであると説く。具体的には、以下のような理念が新たな国際安全保障秩序の指針となりうる。

 - 国連憲章に基づいた多国間協調の再強化  - 中国の提唱する「平和共存五原則」  - 非同盟諸国が主張した「バンドン精神」

 7.結論:グローバリゼーションの変容とその可能性

 著者は、西洋的なグローバリゼーションが終焉を迎える一方で、国家間のより高度な協調と連携によって、多極的特徴を持つ新しいグローバリゼーションの恩恵がより広範に共有される可能性を強調している。つまり、グローバリゼーションはその形を変えて、より開かれた、よりバランスの取れた方向へと進化しつつあるという見解である。
 
【要点】 

 1.全体の論旨

 ・「グローバリゼーションは終わった」との主張は誤りである。

 ・実際には、「西洋的グローバリゼーション」が終わり、「多極的グローバリゼーション」が始まった段階である。

 2.新たなグローバリゼーションの特徴

 ・単一の覇権国(米国)による支配ではなく、複数の勢力(多極)による相互依存の構造へ移行。

 ・米国の一時的な後退(保護主義政策)は、自給自足への回帰ではなく、グローバルな再編を促進している。

 ・中国を中心とした新興国の経済的台頭により、グローバリゼーションの構図が再編されている。

 3.支柱①:多国間貿易制度の重要性

 ・WTOを中心とした多国間ルールが依然として機能しており、協定の信頼性・拘束力の源泉である。

 ・地域的・二国間協定よりも、制度的枠組みの維持が長期的には安定性をもたらす。

 3.支柱②:中国の中心的役割

 ・中国は150か国以上と強固な貿易関係を有し、グローバル製造業と物流の中心地として機能している。

 ・中国は「協調の焦点(focal point for coordination)」として、他国の政策決定や戦略に影響を及ぼしている。

 ・中国が市場開放を進めることで、世界経済への新たな統合が可能となる。

 4.支柱③:サプライチェーンと財政調整

 ・関税の影響を最小化するため、サプライチェーンの多様化と最適化が必要である。

 ・米国市場の不確実性に対処するため、各国が協調的な財政政策で内需を補完することが推奨される。

 5.支柱④:デジタル基準とデータの国際共有

 ・貿易の透明性と迅速な処理のために、デジタル標準の整備が不可欠である。

 ・データに基づく税関処理や決済は、効率性と信頼性を高める。

 6.支柱⑤:開発金融と新興制度

 ・従来のIMF・世銀はグローバル・サウスの構造的問題に十分対応できていない。

 ・BRICSの新開発銀行やアジアインフラ投資銀行などが、新たな資源動員と政策連携の担い手となっている。

 ・南半球の国々の声を反映した金融制度が、グローバル秩序の安定化に資する。

 7.支柱⑥:新しい安全保障の枠組み

 ・「不可分の安全保障(indivisible security)」の原則に基づき、包括的な協調体制が必要である。

 ・ゼロサム型の軍事同盟ではなく、国連憲章や平和共存五原則、非同盟運動の理念を取り入れるべきである。

 8.結論

 ・西洋中心の旧来型グローバリゼーションは終わったが、グローバリゼーションそのものは深化している。

 ・今後はより多極的で、制度的に洗練された新しいグローバル秩序が形成される見込みである。

【引用・参照・底本】

Globalization isn't over; it's just beginning GT 2025.04.19
https://www.globaltimes.cn/page/202504/1332431.shtml

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