「Han Feizi(韓非子)」にまつわる正体論争2025年04月22日 17:03

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【概要】

 アジア・タイムズ(Asia Times)の新たな寄稿者「Han Feizi(韓非子)」にまつわる正体論争と、その背後にある文化的・政治的・編集的な文脈をユーモラスかつ批評的に描いている。筆者のBradley K. Martinが、Reddit上で盛り上がった「Han Feizi=DoggyDog1208」説に対して、事実を注入しようとする試みである。

 1. 「Han Feizi」は何者か

 ・アジア・タイムズの新寄稿者。北京在住の金融業界のベテランとされる。

 ・名義は明らかに古代中国の法家思想家・韓非子(紀元前3世紀)から取られている。

 ・コラム内では、中国ディアスポラ(海外中国人社会)の生活について詳細に描写しており、アジア・タイムズ編集陣によると「華人(ethnic Chinese)であることは確認済み」とのこと。

 2. Redditでの疑惑と推測

 ・ユーザーたちは、かつてTwitter(X)で活動していた“Doggy_Dog1208”というアカウントとHan Feiziが同一人物ではないかと指摘。

 ・Doggy_Dog1208の旧アカウントは停止されており、新たにDoggyDog1208(スペース・アンダースコアなし)が存在し、似たような主張や文体を持つという。

 ・Redditユーザーの「bransbrother」は「Han Feiziは架空の人物ではないか」「これは西洋金融資本のプロパガンダだ」などと懐疑的。

 ・一方、「snake5k」はHan Feiziが西洋人に思えるが、それが不正とは限らないと比較的穏健な見解を示している。

 3. 筆者(Martin)の視点と皮肉

 ・筆者自身も、かつて「ROAH(Really Old Asia Hand)」というコラムで失踪したタイのシルク王ジム・トンプソンを装った文体で寄稿していた。

 ・また、David P. Goldmanが「Spengler」名義で寄稿していたことに触れ、偽名の使用が完全に異常なことではないとする。

 ・「Han FeiziがDoggyDog1208であっても驚かない」としつつ、それは問題視すべきことではなく、内容で評価すべきと示唆。

 4. 文化的・政治的背景

 Asia Timesは創刊以来、「アジア人によるアジアのための英語メディア」を志向しており、筆者はその歴史的文脈も説明。

 ・所有構造も現在では中国資本が最大株主である点に触れ、「西側メディアによる影響」という批判にも反論している。

 総括:Han Feizi=DoggyDog1208説の真相は?

 証拠は明確ではないが、可能性は高い。ただし、Asia Times編集部は少なくとも「Han Feizi」は実在する華人の人物であり、文化的盗用などの問題はないと主張している。

 つまり、「本物か偽物か」という問いよりも、「その書かれた内容が価値あるものか」を問うべきだ、というのが筆者の基本的な立場である。

【詳細】

 「Han Feizi」という筆名で寄稿している謎の新ライターを巡る Reddit 上の議論と、それに対するAsia Times側の反応をユーモアを交えて詳細に伝えているものである。以下に、記事の構成と論点、背景事情を詳しく解説する。

 ① 発端:Reddit 上の疑念

 RedditのAsia Times読者の間で、「Han Feizi」なる筆名の著者に関する正体探しが始まった。きっかけは、あるユーザーが「From low trust to high in China(中国における信頼の再構築)」という記事を無言で投稿したことだった。

 それに対し複数のユーザーが反応。

 ・snake5k:「Twitter(X)で活動していた(が現在はアカウント停止中の)Doggy_Dog1208と全く同じ主張をしている」

 ・bransbrother:「Han Feizi なんて実在しない」「Asia Timesの中の誰かが作った架空のライターでは?」

 ・fix s230-sue reddit:「この作者は Doggy_Dog1208 なんじゃないか?」

 ・TserrieddnichHuiGuo:「複数人格を使って書き分けるほど反中プロパガンダ派は知能が高いとは思えない」

 ② 筆名「Han Feizi」の意味と論点

 ・筆名「Han Feizi(韓非子)」は、実際に紀元前3世紀に実在した中国の法家思想家・韓非の名であり、同名の著作も存在する。そのため、歴史に詳しい読者には即座に「偽名」であることが明白であり、「何故こんな名前を使う必要があるのか?」という疑問が呈されている。

 ・bransbrother は、作者が本名を明かせない理由について「社会的・政治的なリスクは見当たらない」と述べ、わざわざ偽名を使う理由が不明であると主張。

 さらに、Han Feizi が中国人ではなく「hanjian(漢民族の裏切り者)」か、あるいは単に架空の人物ではないかという推測まで飛び出した。

 ③ Asia Times の立場と過去の例

 著者の Bradley K. Martin は、こうした疑念に対し以下の観点から事実を補足している。

 ・Han FeiziはAsia Times にとって本物の寄稿者であり、少なくとも編集部の数人は実名と背景を知っている。

 ・彼は 中国系であり、北京を拠点にしている金融業界のベテランである。

 ・「文化的盗用(cultural appropriation)」を避けるためにも、実際に漢民族であることは重要と述べている。

 ・また、Asia Timesの過去の筆名使用例を挙げることで、Han Feiziのような偽名の使用が 完全に前例のないことではないことも説明している:

 ・Spengler:デヴィッド・P・ゴールドマンの筆名。かつて「西洋の没落」の著者オスヴァルト・シュペングラーを引用した皮肉的筆名。

 ・ROAH(Really Old Asia Hand):著者本人(Martin)が、タイのシルク王ジム・トンプソンの「亡霊」として書いていたコラム。

 ④ Doggy_Dog1208 との関連性

 現在の X(旧 Twitter)には「DoggyDog1208」というアカウントがあるが、以前の「Doggy_Dog1208」はアカウント停止中。Han Feizi がかつての Doggy_Dog1208 である可能性は否定されておらず、著者Martin自身も、

 「もし同一人物だったとしても、驚かない」と述べている。

 しかし Asia Timesの記事には「Doggy」という名前では署名されていない。もしそれを使えば、「黒人ラッパーの名前を使っている」など別の批判(文化的盗用)が起きかねない、と皮肉を込めて指摘している。

 ⑤ 結論と全体の文脈

 Martin の記事の結論は以下の通り。

 ・Han Feiziは実在し、Asia Timesに信頼される寄稿者である。

 ・Reddit 上の疑念や陰謀論には根拠がなく、むしろ匿名で議論している読者たちこそ自己矛盾している。

 ・Asia Times は、設立当初からアジア人を中心とした編集方針を取り、現在も筆頭株主は中国人である。

 ・筆名の使用は、歴史的背景や本人の立場・安全上の理由も含めて、必ずしも不自然ではない。

 評価と考察

 この記事は、言論の自由・安全保障・文化的アイデンティティ・読者の先入観といった現代メディアを取り巻く多様な論点を、軽妙な語り口で掘り下げた好例である。筆名の裏にある人物の意図を追う試みは、同時に読者自身が抱く「情報の信憑性」に対する問いを投げかける構造になっている。
 
【要点】 

 1.Reddit 上の騒動と疑念

 ・Reddit のスレッドで「Han Feizi」名義の寄稿記事が紹介される。

 ・複数のユーザーがその正体に疑問を呈し、以下のような推測が飛び交う。

  ⇨ Doggy_Dog1208 という旧 Twitter アカウントと主張が酷似している。

  ⇨ Han Feizi という名前は明らかに偽名で、実在しない可能性がある。

  ⇨ Asia Times 自体が仕立てた架空のキャラクターかもしれない。

 ・「hanjian(漢民族の裏切り者)」ではないかという中国語由来の非難も出る。

 2.筆名「Han Feizi」の背景と意味

 ・「Han Feizi」は紀元前3世紀の法家思想家・韓非の名前。

 ・歴史的に有名な人物名を筆名にしているため、読者には即座に偽名と分かる。

 ・そのため「なぜ本名を名乗らないのか?」という疑問が強まった。

 3.Asia Times 編集部の立場

 ・Han Feizi は実在の人物であり、Asia Times 編集部は身元を把握している。

 ・彼は中国系で、北京を拠点にする金融業界の経験者。

 ・ペンネーム使用の理由には、個人の身元保護や文化的事情も含まれる。

 4.過去の筆名使用の前例

 ・Asia Times には筆名使用の前例がある。

  ⇨ Spengler:デヴィッド・P・ゴールドマンの筆名(哲学者シュペングラーに由来)。

  ⇨ ROAH:著者 Martin 自身が「ジム・トンプソンの亡霊」として書いていた連載。

 ・筆名使用は例外ではなく、伝統的な編集慣行の一部である。

 5.Doggy_Dog1208 との関係

 ・Han Feizi と Doggy_Dog1208 が同一人物である可能性は否定されていない。

 ・Martin は「仮に同一でも驚かない」と述べている。

 ・「Doggy」という名前を記事に署名すれば、文化的な批判(例:黒人文化の盗用)を招く可能性もある。

 6.記事の結論と視点

 ・Han Feizi は Asia Times にとって信頼できる執筆者。

 ・Reddit 上の疑念は根拠がなく、投稿者自身も匿名で矛盾している。

 ・Asia Times はアジア人主導の報道機関であり、筆名使用に問題はない。

 ・読者の文化的偏見やステレオタイプに対する皮肉も含まれている。

【引用・参照・底本】

Who is the mysterious new AT writer ‘Han Feizi’? ASIA TIMES 2024.01.04
https://asiatimes.com/2024/01/who-is-the-mysterious-new-at-writer-han-feizi/

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