ドイツの政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の国籍観2025年05月09日 22:09

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【概要】

 ドイツの政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の国籍観について論じている。主張の中心は、AfDの民族的結びつきに基づく国民観が「極端」ではなく、人類の歴史や非西洋諸国においては一般的な見解であるという点にある。

 まず、ドイツの国内情報機関がAfDを「極右的」として監視対象に指定したことに触れている。この措置は後に訴訟のために撤回されたが、監視や禁止の根拠とされ得るものである。これに対して、アメリカのJD・ヴァンス副大統領やマルコ・ルビオ国務長官は批判的な立場を取っており、ヴァンスはこれを「新たなベルリンの壁」と見なし、ルビオは移民政策の見直しをドイツに求めている。

 問題の核心は、情報機関が「AfDの民族・出自に基づく国民理解が自由民主主義基本秩序と相容れない」とした点にある。AfDは、民族ドイツ人が自国と特別な結びつきを持つと考えており、特に文明的に異なる南半球からの新規移民にはこのようなつながりが欠けていると見なしている。

 このような国民観は歴史的にも文化的にも広く共有されてきたものであり、特に非西洋諸国においては現在も主流であると述べている。アフリカ、西アジア、インド太平洋地域などにおいて、先住民族が自国に特別な関係を持つという考え方は一般的であり、新参者の子孫が同等の結びつきを得るには数世代を要するのが通例である。

 一方、西洋の自由主義的グローバリズムはこの「特別な結びつき」の存在を否定し、外国の地を踏んだだけで誰もが即座に同じ国民的意識を持つとする点で、むしろ歴史的には例外的な立場であると主張する。ただし、この特別な結びつきを認めることが、他の民族出身者に市民権を否定することを意味するわけではなく、むしろ「体制民族」の社会文化的権利を保護するための措置であると説明している。

 この主張を補強するため、ロシアの例を挙げている。2020年の憲法改正により、「ロシア語は国家構成民族の言語であり、ロシア連邦における国家語である」と明記された。この改正は、多民族国家としての市民の平等を再確認しつつ、国家形成におけるロシア民族の役割を強調するものである。

 さらに、ロシアでは外国人が長期滞在許可や市民権を得るためにロシア語、歴史、法律に関する試験を受けることが義務づけられており、これは同化や統合を拒む人々による社会文化的リスクを軽減するための政策とされている。加えて、2023年から2024年にかけてキリル総主教がこの問題に三度言及したことや、プーチン大統領と共に宗教的・民族的憎悪に対しても非難を表明した点も紹介されている。

 このように、ロシアの事例を用いて、体制民族の特別な結びつきを認めつつも、他民族の権利と両立させることが可能であると論じている。同化政策や文化的一体性の確保は極端ではなく、むしろ尊重と現実的配慮に基づくものであるとし、AfDがドイツにおいて同様の政策を求めるのも自然であると結論づけている。そして最後に、こうした国籍観こそが人類の歴史的な常識であり、自由主義的グローバリズムの方こそが例外であると主張している。

【詳細】

 1. ドイツにおけるAfDの現状と当局の対応

 冒頭では、ドイツの右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が最新の世論調査で最も支持を集めた政党であるにもかかわらず、ドイツ国内の情報機関が同党を「過激主義的(extremist)」と指定したことに言及している。この指定は訴訟により一時的に撤回されたが、指定が有効であれば同党に対する監視や、最終的には活動禁止につながる可能性があるとされている。

 この動きに対し、アメリカのJD・ヴァンス副大統領は、かつてのベルリンの壁になぞらえて強く非難し、マルコ・ルビオ国務長官もドイツ政府に対して指定の撤回と移民政策の見直しを求めている。

 2. 情報機関による「過激性」の根拠とAfDの立場

 ドイツ当局がAfDを「過激」と見なした理由は、同党が「民族や出自に基づいて国民を定義する見解を持ち、これは自由民主主義の基本秩序と相容れない」と判断した点にある。

 AfDは、民族ドイツ人(ethnic Germans)が自国と特別な文化的・歴史的結びつきを持つとし、特に文明的に大きく異なるグローバル・サウス(南半球)の国々からの移民は、そのような結びつきを自然には持たないと主張している。

 3. 歴史的・国際的文脈での正当化

 AfDのこの見解が「極端」とされるのは、あくまで西側の自由主義的価値観の文脈においてのみであり、人類の大部分の歴史や非西洋諸国の現在の状況に照らすと、むしろ一般的な考え方であると主張している。

 たとえば、アフリカ諸国、西アジア(中東)、インド太平洋地域などでは、「土着民族(先住の民族)」が国家と特別な関係を持つという観念は広く見られる。そこでは、移民の子孫がその国家と等しい帰属意識を持つには、数世代にわたる時間が必要とされている。

 このような文化的背景を前提とすれば、AfDの国民観も特段異常ではなく、「グローバルスタンダード」であると著者は述べている。

 4. リベラル・グローバリズムの特異性

 西側の自由主義的グローバリズム(liberal globalist ideology)が、「国に足を踏み入れた瞬間にすべての人間がその国と同等の国民的意識を持つ」とする考え方こそが、歴史的にも文化的にも異常な立場であると位置づけている。

 この文脈でのAfDの主張は、「他民族出身の市民が権利を持つことを否定するものではなく、体制民族の社会文化的権利を保護する措置」であると解釈されている。

 5. ロシアの例:民族的結びつきと国家の両立

 AfDの見解がロシアにおける制度と類似していることに着目する。

 ロシアでは、2020年の憲法改正により、「ロシア語は国家構成民族(state-forming people)であるロシア人の言語であり、国家語である」と明記された。これは、ロシアが多民族国家であることを前提としつつ、ロシア人の国家形成への貢献とその文化的中心性を制度的に位置づけたものである。

 さらに、外国人が長期滞在や市民権を取得するためには、ロシア語・歴史・法律に関する試験に合格する必要があるとする法律も施行された。これは、ロシア社会への同化・統合を拒む者による社会的リスクを軽減することを目的としている。

 6. ロシア正教会と国家の対応

 2023年から2024年にかけてロシア正教会のキリル総主教がこの問題に三度言及したことにも言及されている。また、クロクス・テロ事件の際には、プーチン大統領とキリル総主教がともに民族的・宗教的憎悪の扇動を非難したことが紹介されており、文化的結びつきを強調しつつも、他民族・他宗教の権利を侵害しない姿勢が示されている。

 7.歴史的常識としてのAfDの国籍観

 最終的に、AfDの国籍観が「極端」ではなく、むしろ歴史的にも世界的にも一般的な立場であると結論づけている。自由主義的グローバリズムこそが例外的なイデオロギーであり、AfDが求めるような「体制民族の文化的特権の尊重」と「移民の同化・統合」は、合理的かつ慎重な国家運営の一形態であると位置づけられている。
 
【要点】

 AfDとドイツ当局の対立

 ・AfD(ドイツのための選択肢)は世論調査で最多支持を得ている政党である。

 ・ドイツの情報機関はAfDを「過激主義的」と指定したが、裁判により一時的にその指定は停止された。

 ・「過激」とされた根拠は、AfDが「民族的出自に基づく国民概念」を支持し、自由民主主義の基本秩序に反すると見なされた点にある。

 ・米国の政治家(J・D・ヴァンス、マルコ・ルビオ)はこの指定に反発し、AfDの権利擁護を訴えている。

 AfDの国籍観・国民概念

 ・AfDは「民族ドイツ人(ethnic Germans)」が自国と特別な文化的・歴史的結びつきを持つと主張している。

 ・南半球など「文明的に異なる地域」からの移民は、ドイツと自然な結びつきを持たないとする。

 ・この考え方は、移民が市民権を得ても文化的同化がなされなければ社会的摩擦を生むという前提に基づく。

 歴史的・世界的視点からの正当化

 ・AfDの見解は西側の自由主義的価値観からは異端視されるが、人類史的には一般的であると指摘する。

 ・アフリカ、アジア、中東、旧ソ連圏などでは、「土着民族が国家と特別な関係を持つ」という考え方が広く存在する。

 ・多くの国では、移民が完全に同化するには複数世代を要するという前提が受け入れられている。

 リベラル・グローバリズムへの批判

 ・西側の自由主義的グローバリズムは、「国境を越えただけで国民意識が成立する」とみなす傾向がある。

 ・AfDはこの立場に反対し、「体制民族(ethnic majority)の文化的主導権」を重視している。

 ・この考え方は、民族的優越を主張するのではなく、社会的安定のための区別であるとされている。

 ロシアの制度と比較

 ・ロシアは2020年の憲法改正で「ロシア語をロシア人の国家語」と明記し、ロシア人が体制民族であると規定している。

 ・外国人が長期滞在や市民権を得るためには、ロシア語・歴史・法制度に関する試験を受ける義務がある。

 ・これは、移民の同化を促進し、社会秩序を保つことを目的とした措置である。

 宗教指導者・国家元首の言及

 ・ロシア正教会のキリル総主教は、移民と文化の問題についてたびたび発言しており、国家との一致を見せている。

 ・クロクス・テロ事件に際しては、プーチン大統領とともに民族的・宗教的憎悪の扇動を否定する立場をとった。

 ・文化的結びつきの重要性を主張しつつ、他民族の存在を否定しない姿勢を強調している。

 AfDの立場は「極端」ではない

 ・AfDの国民観は、世界的・歴史的には常識的な立場である。

 ・「国民=法的地位+文化的同化」という観点は、非西洋諸国では標準的である。

 ・極端なのはむしろ西側自由主義の「即時的な国民同一性」の考え方であると、著者は結論づけている。

【桃源寸評】

 日本においても、伝統的に「内」と「外」を区別する社会的・文化的意識は根強く存在してきた。以下に、この「内と外(ウチとソト)」の構造が、AfDの国民観やAndrew Korybko氏の議論とどう共鳴するかを、具体的に整理する。

 1.日本における「内と外」の意識
日本語には「内(うち)」と「外(そと)」という言語的区分が深く根付いており、これは家族・共同体・国家などあらゆるレベルに適用される。

 2.「余所者(よそもの)=外人又は外国人」という概念は、法的な身分にかかわらず文化的同化の度合いや人間関係の距離感を強く反映する。

 ・たとえ日本国籍を持っていても、文化的・言語的に同化していない者は「外」とみなされる傾向がある。

 ・一方で、長年その共同体に溶け込み、習慣・価値観・言語を共有する者は「内」として受け入れられる可能性が高まる。

 3.AfDの主張との共通性

 ・AfDが強調するのは、「法的な国籍」だけでは国民的帰属意識は形成されず、「文化的共有」が不可欠であるという点である。

 ・日本の「ウチとソト」もまた、外から来た者がすぐに「内」として受け入れられるわけではなく、時間と同化の努力が求められる。

 ・この点で、AfDの「民族的・文化的な国民理解」は、西洋的なリベラル国家観と対立するが、日本的感覚には一定の共感を呼び得る。

 4.日本社会の制度的側面

 ・日本では外国人に対して、永住権や帰化申請の際に日本語能力や生活の安定性を求める制度が存在する。

 ・文化庁や法務省も「共生社会」と言いつつも、「日本文化の尊重」や「治安維持」を前提としている。

 ・このような制度設計も、AfDが主張する「移民の同化・順応」に近い発想を含んでいる。

 5.まとめ

 ・日本社会もまた、「文化的な内属感」を重視する社会構造を持っており、これはAfDやKorybko氏の指摘する「非西洋的な国民観」と一致している。

 ・「人類史的に普遍的」な国民観の一例として、日本の内外意識は極めて典型的である。

 よって、AfDの主張を「極端」と断ずるより、各国固有の国民意識のあり方として理解する方が妥当であると言える。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

​​The AfD’s Views On Nationality Actually Aren’t Extremist At All
Andrew Korybko's Newsletter 2025.05.09
https://korybko.substack.com/p/the-afds-views-on-nationality-actually?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=163189416&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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