米国:和平交渉における立場を明確に強硬化2025年05月10日 21:32

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【概要】

 ドナルド・トランプ大統領およびJ.D.バンス上院議員によるロシアとの交渉に関する最新の発言から、米国が和平交渉における立場を明確に強硬化させていることがうかがえる。トランプは、ゼレンスキー大統領の主張と歩調を合わせ、無条件の30日間停戦を要求するとともに、その停戦が破られた場合には制裁を課すと警告した。バンスは、ロシアがウクライナに対し係争地域からの完全撤退を求めている点について、「要求が過大である」と述べている。

 これらの発言は、2025年3月下旬に始まった和平交渉に対する米国の不満が高まっていることを示しており、同交渉の破綻と、それに続く米露間の代理戦争の激化を予兆している可能性がある。

 トランプは和平交渉が失敗した場合には、ロシア産原油を購入する国に対して厳格な二次制裁を科すと予告していた。1カ月後、彼はプーチン大統領が交渉を引き延ばしていると示唆し、その制裁の可能性を再確認した。この間、米国とウクライナは長らく待望されていた鉱物供給に関する協定を締結しており、予測していた通り、これに続いて米国からの追加兵器供与が実施される見通しとなった。

 また、これらの動きとは別に、プーチン大統領と中国の習近平国家主席がモスクワで7時間に及ぶ会談を行っており、これは実質的にロシア側の対応策であると解釈される。会談直前には、「ウクライナ和平交渉が決裂した場合に発動される大規模な合意を両者が取り決める可能性がある」と予測されており、実際にその通りの展開となった可能性がある。これがトランプの発言の背景にあると考えられる。

 ロシアは、ミンスク合意時代の前例から、無条件の30日間停戦がウクライナに兵力再配置や再武装の機会を与えると警戒しており、これに反対している。ロシアが求めるのは、自国が法的に領土と見なしている係争地域全域の掌握と、それらの地域に対する「完全な併合と非ナチ化」である。

 これに対して、バンスの発言は、米国がロシアのこの要求を過剰と見なしており、ウクライナに対してそのような撤退を強制する意志がないことを明確に示している。従って、トランプの停戦要求は、ロシアの意向に反して現在の前線(接触線)を事実上固定化させることを意図している可能性がある。

 さらに、停戦に応じない場合の制裁措置、特にロシア産原油の購入者への二次制裁は、プーチンとその主要な石油輸出先に対する圧力として機能することが見込まれる。トランプは最近、トルコのエルドアン大統領との電話会談において、ウクライナ戦争終結に向けた共同の努力について議論したと明かしており、また中国に対しても協力を要請する可能性に言及している。これにより、米国はエルドアンと習近平に対し、プーチンへの圧力をかけるよう促す構えであると考えられる。加えて、インドのモディ首相もまた、ロシアの主要な原油購入国であることから、この圧力の枠組みに巻き込まれる可能性がある。

 このような状況の下で、和平交渉が継続するには、ロシアが前線を突破して軍事的優位を確立するか、もしくは米国から実質的な譲歩を引き出して停戦に応じるなどの大きな転機が必要となる。公に知られることのない非公開の取引が行われる可能性もあるが、現時点でその見通しは不透明である。

 結論として、現在の情勢は、和平交渉の破綻と、それに伴う米露代理戦争のエスカレーションを示唆している。米国は、自国の立場を明確にし、交渉決裂の原因を対外的に説明しつつ、制裁強化とウクライナへの武器供与を通じた対応を準備していると見られる。

【詳細】

 1.米国の交渉姿勢の変化とその背景

 2025年3月末から始まった米露間の和平交渉において、米国の態度は当初、交渉継続の可能性を探るものであった。しかし、4月以降、トランプおよびバンスの発言により、明確に強硬化していることが示された。

 ・トランプは、無条件の30日間停戦を要求し、その履行を監視すると同時に、違反時には制裁を科すと表明している。

 ・バンスは、ロシアがウクライナに求めている領土撤退要求を「過大」と明言し、米国がその要求に同調しない立場を明らかにした。

 このような発言は、米国がロシアに譲歩する意思が乏しく、交渉の「失敗の責任」をあらかじめロシア側に帰するための準備を進めている兆候と解釈される。

 2.停戦条件をめぐる根本的な対立

 ロシアは、無条件の停戦案に対して一貫して懐疑的な立場を取っている。これは、過去のミンスク合意において、ウクライナが停戦期間中に軍備を再整備し、戦線を立て直したという前例があるためである。
したがって、ロシアにとって停戦は「軍事的な一時休止」にすぎず、現状を固定化するリスクがある。加えて、ロシアが「自国の法的領土」と主張する地域(ドネツク、ルハンシク、ザポロージエ、ヘルソンの4州)を確保・再統治し、いわゆる「非ナチ化」を完了することは、戦争目的の核心である。

 一方、米国とウクライナにとっては、停戦を通じて戦線を安定させることで軍事的体制を整え、再攻勢に備える余地を確保する意味合いがある。両者の停戦に対する目的が根本的に異なるため、交渉は膠着しやすい構造となっている。

 3.エネルギーと制裁をめぐる経済的圧力構造

 トランプは、交渉失敗の責任がロシアにあると判断すれば、「二次制裁」を強行すると予告している。これはロシア産原油の購入者(例:中国、インド、トルコなど)に対し、ドル取引や金融ネットワークからの排除を通じて圧力をかけることを意味する。

 この制裁は、ロシア経済の最大の収入源であるエネルギー輸出に打撃を与えることが目的であり、同時にそれを支える第三国にも選択を迫ることになる。トランプはエルドアン(トルコ)、習近平(中国)、モディ(インド)といった主要国の首脳に対し、「和平推進」という名目でロシアに対する圧力行使を期待している。

 米国はこうした外交・経済の両面からの圧力によって、ロシアの交渉姿勢を変化させる、あるいは国際的孤立を進める戦略を採っている。

 4.中露首脳会談の戦略的位置づけ

 2025年4月末、プーチンと習近平がモスクワで7時間にわたって会談を行った。この異例の長さの会談は、単なる儀礼的な首脳交流ではなく、ロシアと中国の間で今後の戦略を調整する本格的な交渉であった可能性が高い。

 コリブコは、両者が「和平交渉が決裂した場合に備えた包括的協力枠組み(グランド・ディール)」を取り決めたと推測している。この合意が存在すると仮定すれば、それはロシア側にとって「交渉決裂時の保険」であり、米国からの経済制裁や軍事的圧力に対抗するための後ろ盾となる。

 このように、ロシアは中露同盟を背景としつつも、和平交渉が不首尾に終わった場合でも戦略的孤立に陥らないよう、並行して中国との協調体制を強化していることになる。

 5.今後の展開:二極化か決裂か

 今後の展開としては、以下のいずれかのシナリオが想定される。

 ・ロシアが戦線を突破し、軍事的主導権を握る。

 これにより、和平交渉においてより有利な条件を提示できるようになる。

 ・ロシアが事実上の停戦(戦線凍結)を受け入れる。
 
 ただしこの場合、米国が「何らかの重大な譲歩(例:制裁緩和や安全保障面での保障)」を水面下で提示する必要がある。だが、これが公に明らかになる可能性は低い。

 ・和平交渉の決裂と代理戦争の激化

 米国はその際、より厳格な制裁措置と兵器供与を加速させる。特に高精度長距離兵器や防空網強化などが含まれる可能性がある。

 いずれのシナリオにおいても、米国はあらかじめ世論に対して「交渉失敗の原因はロシア側にある」とする物語(ナラティブ)を準備しており、その上で対露強硬路線を正当化する構えを見せている。

 以上の分析に基づき、米国は和平交渉が失敗する可能性を見越して、その後の段階に備えた複数の外交・軍事・経済手段を同時並行的に動かしていると考えられる。この構造的対立が解消されない限り、代理戦争の激化は不可避となる公算が大きい。

【要点】

 1.米国の交渉姿勢とその意図

 米国は当初、和平交渉の可能性を模索していたが、4月以降、交渉失敗を見越した強硬姿勢に転じた。

 ・トランプは「無条件の30日停戦+違反時の制裁」を主張。

 ・バンスは「ロシアの要求(ウクライナからの全面撤退)は非現実的」と発言。

 ・これは、ロシアに交渉決裂の責任をなすりつける準備と考えられる。

 2.停戦条件をめぐる根本的対立

 ・ロシアは、ウクライナが停戦を軍備再建に使うことを警戒(ミンスク合意の教訓)。

 ・ロシアの目的は、4州の支配と「非ナチ化」の完了。

 ・一方、米国とウクライナは停戦を戦力立て直しの機会と見ている。

 ・双方の意図が真逆であり、交渉成立は極めて困難。

 3.エネルギー制裁と外交的圧力

 ・トランプは、交渉決裂時に「対ロ二次制裁」を発動する構え。

 ・二次制裁は、ロシア原油の買い手(中国、インド、トルコなど)にも影響を及ぼす。

 ・米国は、これらの国々に「和平のための協力」を要求し、対ロ圧力を国際化しようとしている。

 ・特に中国・インドに対しては経済的な選別的圧力をかける可能性。

 4.中露首脳会談の意味

 ・4月末、プーチンと習近平がモスクワで7時間会談を実施。

 ・コリブコは、この会談で「和平決裂時の包括的協力(グランド・ディール)」が形成された可能性を指摘。

 ・これは、ロシアが交渉失敗後も孤立しないための戦略的保険と考えられる。

 ・中国の支援が、ロシアの交渉強硬姿勢の裏付けとなっている。

 5.今後のシナリオ

 ・ロシアが戦線突破し、交渉で優位に立つ。

 ・ロシアが戦線凍結を受け入れ、裏で米国と秘密合意(例:制裁緩和)する。

 ・交渉決裂 → 米国が制裁強化・兵器供与を加速 → 戦争長期化。

 6.まとめ

 ・米国は和平交渉失敗を前提に戦略を構築しており、あらかじめ責任をロシアに転嫁する語りを準備している。

 ・ロシアは中国との連携を強化しつつ、軍事・経済面で持久戦に備える構え。

 ・停戦条件の根本的な非対称性ゆえに、実質的な和平は遠い状況にある。

【桃源寸評】

 今回のアンドリュー・コリブコの論考を踏まえると、トランプ(およびバンス)が描いている戦略にはいくつかの根本的な見込み違いがある。その中でも特に重要なものを以下に整理する。

 1.トランプの最大の見込み違い:大国を「従わせる」幻想

 ・ロシア・中国は主権的行動主体であり、米国の圧力に従属しない大国である。

 ➢ロシアは過去10年にわたり制裁圧力に耐えてきており、中国は米国と対等以上の経済・外交力を持つ。
 
 ➢二次制裁をもってしても、これらの国々が米国の意に沿ってウクライナ和平を進める保証はない。

 ・中国はむしろ米国の二次制裁に反発する傾向を強めており、対米依存を減らす方向で動いている。

 ➢習近平は「国際秩序の多極化」を掲げ、米国中心の制裁体制に対抗する構え。

 2.米国の「味方」諸国の疲労と不信

 ・欧州諸国(特にドイツ、フランス)は、ウクライナ支援に対して明らかな疲労感を示している。

 ➢経済的・政治的コストが大きく、国内世論の支持も下がっている。

 ➢ ハンガリーやスロバキアなどは、すでに協力に消極的。

 ・米国内でもウクライナ支援への批判が増しており、「味方」すら一枚岩ではない。

 ➢議会において共和党の一部は支援継続に強く反対している。

 3.制裁(=実質的な課税)の逆効果

 ・二次制裁は、米国が制裁対象国以外にも課税的措置を強いる構造になっている。
 
 ➢中国・インド・トルコなどがロシア原油を購入すれば、米国の制裁対象になる。

 ➢これは主権国家に対する「税制的干渉」であり、強い反発を招く。

 ・制裁の濫用はドル基軸体制そのものへの信認を損ね、脱ドル化の動きを加速させている。

 4.まとめ

 トランプ陣営の外交構想は、「制裁」や「圧力」によって各国を思い通りに動かせるという前提に立っている。しかし現実には、ロシアも中国も米国のコントロール外にあり、また「味方」でさえ忠実な協力者ではなくなっている。さらに、制裁を「事実上の課税」として濫用する戦術は、反発と反制を誘発するだけであり、戦略的逆効果をもたらす可能性が高い。

 トランプが信じる「制裁で相手を屈服させる」戦術は、イランやキューバの事例に照らしても、一貫して失敗してきた歴史的パターンである。しかも今回は相手が地域的な小国ではなく、エネルギー・軍事・経済で自立する大国ロシアと中国であり、対抗手段も多岐にわたる。

 トランプの制裁構想は、むしろ同盟国の疲弊と国際的反発を招き、米国の信用・影響力を損なうリスクの方が大きい。制裁を外交の「主手段」とする発想は、過去の失敗から何も学んでいない姿勢である。

 比較分析:歴史的制裁事例と現状の共通点・相違点

 1.イラン制裁(特に2018年以降の「最大圧力」政策)

 概要

 トランプ政権は2018年にイラン核合意(JCPOA)から一方的に離脱し、イランに対して経済制裁を強化。原油輸出を断ち、外貨収入を遮断することで体制崩壊を狙った。

 類似点

 トランプが外交を「制裁強化」によって推し進めようとした点。

 ・同盟国(EU、日本、インドなど)にも「二次制裁」で協力を強要した点。

 ・制裁が国民生活を圧迫したが、体制転換も外交譲歩も得られなかった点。

 結果と教訓

 ・イランは体制を維持し、むしろ地域での軍事・政治的影響力を拡大。

 ・制裁回避のための「非ドル決済スキーム」や「スワップ協定」が台頭。

 ・欧州諸国は米国の制裁外交に不満を持ち、「経済主権」の強化を模索。

 ➢「制裁の効果は、相手の意志と耐性、そして国際的支持に依存する」

 2.キューバ封鎖(1960年代以降の長期経済制裁)

 概要

 1962年以降、アメリカはキューバに対して全面的な経済封鎖を実施。冷戦期の共産主義政権打倒を狙ったが、現在に至るまで政権は存続。

 類似点

 ・米国が「自国の敵」と見なした政権に対して経済的孤立を図った点。

 ・国際社会(特にラテンアメリカ、非同盟諸国)から反発が強まった点。

 ・経済的圧迫が長期間にわたっても、政治体制の変革を引き起こせなかった点。

 結果と教訓

 ・キューバは中国やソ連→ロシアと連携を強化し、独自の路線を貫く。

 ・国連では毎年、米国の対キューバ制裁に対して圧倒的多数が非難決議を採択。

 ➢「一国主導の制裁は、逆に『覇権の横暴』と映り、正当性を失う」

 3.北朝鮮

 北朝鮮に対する制裁は、主に核開発・ミサイル発射・人権問題などに起因しており、国連安保理制裁・米国の独自制裁・日本や韓国による地域的制裁の三層構造で展開されている。以下、歴史的経緯・制裁の具体内容・その効果・北朝鮮側の回避手段という観点から詳しく説明する。

 (1) 歴史的経緯】

 ・2006年以降:北朝鮮が初の核実験(2006年10月)を実施後、国連安保理が対北制裁を開始。

 ・2016〜2017年:5回目・6回目の核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を受けて、最も厳しい制裁が発動。

 ・2020年代:北朝鮮は弾道ミサイル発射を継続し、制裁は解除されないまま膠着。

 (2) 主な制裁内容】

 (a)国連安全保障理事会による制裁(対北制裁決議群)

 ・軍事物資・贅沢品の輸出入禁止

 ・石油製品の輸出上限設定(年間50万バレル)

 ・鉱物資源(石炭・鉄鉱石・鉛・金など)の全面禁輸

 ・労働者の海外派遣禁止(2019年以降原則撤収)

 (b)米国の独自制裁(財務省OFAC)

 ・北朝鮮の個人・企業・船舶に対する資産凍結とドル取引遮断。

 ・セカンダリー・サンクション(例:北朝鮮と取引する中国企業を制裁対象に)。

 ・サイバー攻撃・暗号資産の窃取に関与したとされる団体の指定。

 (c)日本・韓国による独自制裁

 ・日本は北朝鮮からの輸入全面禁止、北朝鮮籍船舶の入港禁止。

 ・韓国も南北協力事業の大半を凍結(開城工業団地の閉鎖など)。
 
 (3)制裁の実効性と北朝鮮側の回避手段】

 ✅ 実効性(限定的)

 ・経済的には一定の打撃(GDP縮小、食料不足、電力危機)。

 ・しかし、核・ミサイル開発は継続され、政治的行動は変化していない。

 ・国民生活よりも体制維持を優先する国家モデルのため、経済制裁は行動修正に直結しにくい。

 ✅ 制裁回避の手段

 回避手段         内容

 ・中国・ロシアの事実上の黙認 ・国境貿易の一部再開、石炭の密輸、海上での積み替え(船舶の「船籍偽装」など)

 ・暗号資産の窃取・資金洗浄 ・ラザルス・グループ等によるサイバー攻撃で暗号資産を獲得し、国際市場で洗浄。例:Axie Infinityから6億ドル以上を盗取。

 ・外交官や労働者による非公式送金 ・アフリカや中東での出稼ぎ労働者、外交団による密輸・外貨獲得活動が報告されている。

 ・マカオ・東南アジア経由の送金ルート ・制裁下でもドル以外の通貨や仮名口座を通じた資金移動が報告。

 (4)制裁の限界と地政学的構図】

 ・中国・ロシアが制裁履行に消極的であるため、「抜け穴」が制度的に存在。

 ・北朝鮮は米中対立・ウクライナ戦争・中東情勢などを利用して戦略的価値を高める動き(例:ロシアへの弾薬供与、対価として石油や技術援助を獲得)。

 ・米国や同盟国による制裁圧力は一定の経済的効果を持つが、体制行動そのものの変化にはつながっていない。

 (5)まとめ

 北朝鮮への制裁は、法的には広範かつ強力であるが、政治的意思・地政学的環境・国家体制の特異性により、その効果は限定的である。むしろ、北朝鮮は制裁体制そのものを「耐える力(主体思想)」の証として国内的正当性に転換している節すらある。

 米国は制裁・関税貧乏国に成り下がる

 「米国は制裁・関税貧乏国に成り下がる」という論点は、米国が外交手段として過剰に経済制裁や関税を用いることで、かえって国際的な信頼や影響力、そして経済的優位性を損なっていく可能性を示唆している。この見方には以下のような構造的背景と歴史的含意がある。

1. 制裁と関税の乱用がもたらす「信認の摩耗」】

 ・米国は、SWIFT排除やドル決済停止、関税引き上げといった「武器化された経済手段」を頻繁に用いている。

 ・これが国際社会にとっての米国の信用低下と「法の支配」からの乖離として映るようになっている。

 ・各国は米国の政治的意思によって自国経済が翻弄されることへの制度的不信感を強めており、ドル依存・米国依存からの脱却を志向する動きが強まっている。

 2.制裁の効果が逆転している事例

 ・イラン制裁:1979年以降、何十年も続く米国制裁はイランの核開発を止めるどころか、国内の反米正当化に利用され、制裁の持続によって地域の安定性をむしろ損ねている。

 ・キューバ封鎖:60年以上にわたる禁輸措置は、政権交代も市民の親米化も実現せず、米国の「頑固さ」の象徴とみなされている。

 ・ロシア制裁:ウクライナ戦争を理由とした空前の制裁体制にもかかわらず、ロシア経済は中国・インド・グローバルサウスとの連携によって再構築され、制裁の網を潜り抜けている。

 3.経済制裁と関税による「自損」効果

 ・供給網の分断:中国・ロシアなどへの制裁や課税が、米国内産業の調達コストや製造コストを押し上げる。

 ・物価上昇圧力:特にエネルギー・鉱物・半導体材料等の禁輸がインフレ要因に。

 ・同盟国との摩擦:EU、日本、韓国などの同盟国ですら、米国の一方的な対中制裁・IRA政策(インフレ抑制法)などに不満。

 ・ドル離れの加速:経済制裁が進むほど、米国以外の国々は「ドルを使うリスク」を認識し、人民元・ルーブル・デジタル通貨への移行を試みる。

 4.「制裁・課税貧乏国」とはどういう状態か】

 ・国際的信用が落ちる(ドル決済や米国市場への依存度が下がる)

 ・世界経済の潮流から孤立しはじめる(多極化する貿易・通貨構造から米国が排除される)

 ・結果として、かつての「自由経済圏の盟主」から、経済的・制度的に封鎖された側へと逆転する危険を孕む

 5.歴史的教訓】

 ・ブレトン・ウッズ体制(1944)は、米国が「開かれた市場と自由通商」の旗手であったことがドル覇権を生んだ。

 ・今やその米国自身が「制裁・関税・規制」を濫用し、自らブレトン・ウッズ的原則を破壊している。

 6.まとめ

 ・「制裁・関税貧乏国」という表現は、単なる経済的負担の多寡だけでなく、国際秩序の中での信用喪失・孤立化・影響力低下という多面的な凋落を象徴するものである。

 ・制裁の乱用は、敵国を締め付ける手段であると同時に、味方を遠ざけ、自国を締め付けるブーメランでもある。ゆえに、その濫用は「帝国の黄昏」の兆しとも読みうる。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

The US Is Toughening Its Negotiating Stance Towards Russia Andrew Korybko's Newsletter 2025.05.10
https://open.substack.com/pub/korybko/p/the-us-is-toughening-its-negotiating?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=163258687&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&token=eyJ1c2VyX2lkIjoxMTQ3ODcsInBvc3RfaWQiOjE2MzI1ODY4NywiaWF0IjoxNzQ2ODU5MjA4LCJleHAiOjE3NDk0NTEyMDgsImlzcyI6InB1Yi04MzU3ODMiLCJzdWIiOiJwb3N0LXJlYWN0aW9uIn0.p6rIS7LMXZJrtH7NdGnk4nZTVsVptObc5KvuJgAWeK8

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