インドとパキスタン2025年05月11日 19:06

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【概要】

 意見が分かれる中でも、最新の印パ紛争ではインドが優位に立ったと論じられている。その根拠として、インドがパーハールガームにおけるテロ攻撃への報復としてパキスタン国内の複数の軍事拠点を空爆したこと、インダス川水資源条約の停止、そして新たな軍事ドクトリンの採用が挙げられている。

 この新ドクトリンにより、インドは今後のテロ行為をパキスタンによる戦争行為と見なし、報復的な越境攻撃を実施する姿勢を明確にした。これが抑止力となるかは不明であるが、少なくともパキスタン側に再考を促す要因にはなり得るとされる。パキスタン軍はカシミール紛争の未解決状態によって自国の軍事的影響力を正当化しているため、現状が容易に変わることはないと示唆されている。

 インダス川水資源条約は停戦または「相互理解」が成立している状況にあっても依然として停止されたままであり、これが南アジアの新たな現実を形作っている。また、報道によれば、今回の紛争ではインドではなくパキスタンの側がアメリカに外交的介入を要請したとされる。インド政府は調停の存在を否定しているが、アメリカは両国間の連絡役を果たした可能性がある。

 CNNによれば、米政府高官ヴァンス氏が「憂慮すべき情報」を受けてモディ首相に連絡したとされており、これはパキスタンが核兵器使用の可能性をアメリカに伝えたことを示唆している。この背景には、インドの空爆がパキスタン国内の複数拠点に及んだことがあると考えられている。このような動きは、パキスタンが戦局で劣勢にあると感じたことを意味し、インドが「エスカレーション支配」を確立していたことを示している。

 パキスタン側もドローンやミサイルによる反撃を試みたが、多くはインドのロシア製S-400防空システムにより迎撃されたとされ、またインド側はロシアと共同開発したブラモス超音速巡航ミサイルを使用して成果を挙げたと報じられている。これに対し、パキスタンの中国製装備は期待された性能を発揮できなかったと評価されている。

 一方、オルタナティブ・メディア界隈では「親ロシア的だが非ロシア系」の論者を含め、パキスタンが勝利したと主張する者も存在する。しかし、彼らの主張には中国やパレスチナへの支持という思想的一貫性が背景にあるとされ、そのためインドに批判的な立場を取る傾向にあるという指摘がある。これらの立場は、ロシアのプーチン大統領とインドのモディ首相が「テロとの断固たる戦いの必要性」を確認したという最近の電話会談の内容とは整合しないと論じられている。

 総じて、誰が勝者であるかに関する意見は分かれているが、インドは明確な戦果を挙げたと評価されている。すなわち、報復空爆の実施、重要条約の停止、新たな軍事ドクトリンの策定という点でパキスタンを上回った。これに対し、パキスタンは同等の成果を得ることができなかった。今後も両国間で緊張が再燃する可能性は否定できない。

【詳細】

 最新の印パ紛争においてどちらが「勝者」となったかという問いに対し、意見が分かれていることを認めつつ、複数の具体的要素を根拠にインドが優位に立ったとする見解を提示している。

 まず、2025年に起きたパーハールガームでのテロ攻撃に対し、インドは軍事的報復を実施した。これにより、パキスタン領内の複数の軍事拠点がインド軍の攻撃対象となり、これらの空爆は迎撃されることなく遂行されたとされる。この事実は、インドが「エスカレーション支配(escalatory dominance)」を確立していたことを示すものとされている。すなわち、インドはパキスタンの軍事的対応能力を上回る行動を取ることに成功したという分析である。

 次に、インドはインダス川水資源条約の履行を一方的に停止した。インダス川水資源条約は、1960年に締結された印パ間の歴史的合意であり、水資源を巡る両国間の対立を回避するための枠組みである。その停止は、両国の関係において重大な意味を持つ。今回の紛争後もこの条約の停止措置は継続されており、たとえ一時的な停戦や「相互理解」が成立していても、インドは条約の再開に応じていない。これは南アジア地域における新たな現実を形作っているとされる。

 さらに、インドは今回の紛争を契機として新たな軍事ドクトリンを正式に導入した。このドクトリンは、パキスタンからのいかなるテロ行為も、国家的な戦争行為と見なし、それに対して報復的な軍事攻撃を行うという内容である。従来、インドはテロ攻撃に対して限定的な対応に留めていたが、この方針転換により、軍事行動の範囲が明確かつ広範なものとなった。

 パキスタン側の対応については、軍事的反撃としてドローンやミサイルを用いてインド領内への攻撃を試みたものの、ロシア製S-400防空システムによって多くが迎撃されたとインド国内では報じられている。一方、インドはロシアと共同開発したブラモス超音速巡航ミサイルを用いて、パキスタンの拠点に対する攻撃を成功させたとされている。これにより、ロシア製兵器の有効性がインド国内で高く評価されている。一方、パキスタン側が主に使用している中国製兵器は、事前の期待を下回る性能しか発揮できなかったとの報道がなされており、これが両国の軍事技術水準の評価に影響を与えている。

 外交面においては、アメリカが両国間の仲介に関与した可能性が指摘されている。報道によれば、アメリカ国務副長官クラスの人物であるヴァンス氏が「憂慮すべき情報」を得た後にインドのナレンドラ・モディ首相に連絡したとされる。この情報とは、パキスタンが核兵器使用の可能性を示唆したものであると推測されている。この背景には、インドによるパキスタン軍拠点への空爆があったとされ、パキスタン側が戦況において劣勢を感じていたことが示唆される。

 また、アメリカ政府は両国の公式会談の場において、パキスタンの意向をインドに伝えた可能性があるが、インド政府はこれを否定している。したがって、正式な「仲裁」ではなく、非公式なメッセージ伝達に留まった可能性が高い。

 加えて、オルタナティブ・メディア(いわゆる「Alt-Media」)の一部では、パキスタンが勝利したとの主張がなされている。特に、「非ロシア系だが親ロシア的」とされる言論人の間では、パキスタン支持の姿勢が顕著である。しかし、これらの言論人はしばしばパレスチナや中国への支持も表明しており、インドがイスラエルと友好関係にあり、中国と対立している点から、思想的一貫性の観点からパキスタン支持に傾いている可能性が指摘されている。

 これに対し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とインドのモディ首相は、直近の電話会談において「テロとの妥協なき戦いの必要性」を共同で強調しており、印露関係の中ではインド支持の姿勢がより明確となっている。したがって、Alt-Media内でのパキスタン支持の言説は、ロシア政府の公式方針とは一致しないとされる。

 結論として、記事は「誰が勝者か」という点に関しては意見が分かれているとしながらも、インドが実質的に有利な立場を確保したとする立場をとっている。すなわち、インドは軍事的報復を成功させ、水資源条約を停止し、新たな軍事ドクトリンを採用した。一方、パキスタン側には同等の成果が見られず、また核の可能性に言及したとすれば、それは敗勢を示唆する行動であると位置づけられている。

 なお、記事の末尾では、今回の紛争における経験からパキスタンが教訓を得たかどうかは不明であり、将来的な衝突の再燃も排除できないとの見通しが示されている。


【要点】

 軍事的側面

 ・インドはカシミール地方のパーハールガームにおけるテロ攻撃を受け、パキスタン領内の軍事拠点に対し空爆による報復を実施した。

 ・インドの空爆はパキスタンの迎撃を受けることなく成功し、インド側の「エスカレーション支配(escalatory dominance)」を示した。

 ・パキスタンは報復としてドローンやミサイルによる攻撃を試みたが、インドのロシア製S-400防空システムにより多くが迎撃された。

 ・インドはロシアと共同開発したブラモス超音速巡航ミサイルを使用し、軍事的優位を示した。

 ・パキスタンの主力兵器である中国製システムは期待以下の性能しか発揮できなかったと報じられている。

 戦略・政策面

 ・インドはインダス川水資源条約の履行を停止し、水資源を対パキスタン圧力の手段として利用し始めた。

 ・インドは、パキスタンからのテロを国家的戦争行為とみなし、報復攻撃を正当化する新たな軍事ドクトリンを導入した。

 ・この新ドクトリンにより、今後インドは限定的ではない軍事対応を選択肢とすることになる。

 外交的動向

 ・アメリカ国務副長官級のヴァンス氏がモディ首相に連絡を取り、パキスタンの核兵器使用に関する懸念を伝えた可能性がある。

 ・この接触によりインドは事態の一時的沈静化を受け入れたとされるが、公式にはアメリカの仲裁は否定されている。

 ・ロシアのプーチン大統領とモディ首相は電話会談を行い、テロに対する妥協なき戦いを共有し、インド支持の姿勢を確認した。

 世論・情報戦

 ・一部のオルタナティブ・メディア(Alt-Media)ではパキスタンの勝利が主張されているが、これらは親パレスチナ・親中国的立場からの意見に過ぎないとされる。

 ・ロシアの公式姿勢はインド寄りであり、Alt-Mediaのパキスタン支持はロシアの方針と整合していない。

 ・パキスタンが核の可能性に言及したこと自体が、戦況での劣勢を示唆する行動と受け取られている。

 総括

 ・インドは空爆成功、水資源戦略、軍事ドクトリン転換という三点で優位に立った。

 ・パキスタン側は軍事的・外交的にも同等の成果を得られなかった。

 ・将来的に再び同様の衝突が発生する可能性は否定できず、パキスタンが今回の結果から学ぶかどうかが今後の焦点である。

【桃源寸評】

 アンドリュー・コリブコの記事における「インドはパキスタンの反撃(ドローン・ミサイル攻撃)をS-400で迎撃し、被害を最小化した」という描写は、インド側の優位を強調する構成である。一方、ASIA TIMES(2025年5月9日付)の記事「India loses top fighter jet – bad news for its future air combat」では、異なる視点が提示されているとされ、比較対象として興味深い。

 以下、両者の対比を箇条書きで示す。

 ① インド側防空能力に対する評価の違い
 
 Korybko記事:

 ・パキスタンのミサイル・ドローン攻撃の大部分はインドのS-400システムにより迎撃されたと主張。

 ・ロシア製防空システムの実力とインドの技術的優位を印象づける論調。

 ASIA TIMES記事:

 ・インドが「最上位の戦闘機」を失ったことに言及。

 ・迎撃体制の限界や、航空戦力への打撃の深刻さを強調。

 ・特に今後の空中戦力(future air combat)への悪影響を指摘。

 ② 戦略的帰結に対する評価の違い

 Korybko記事:

 ・インドの新軍事ドクトリン導入やインダス条約停止をもって、インドの「勝利」と断定。

 ・空爆の成功、迎撃成功によってインドがエスカレーション優位にあるとする。

 ASIA TIMES記事:

 ・パキスタンによる反撃(少なくとも一部)はインドの防空を突破した可能性を示唆。

 ・インド空軍の損失がインドの防衛計画や調達戦略に悪影響を与えると指摘。

 ・全体としてインドの脆弱性や戦略的リスクにも言及。

 ③ 報道姿勢・地政学的立場の違い

 Korybko記事(RT系・ロシア寄り分析):

 ・インド=対テロの正当な主体として描写。

 ・ロシア製兵器(S-400、ブラモス)の優秀さを間接的に宣伝。

 ・「非ロシア系親ロシア論者」によるパキスタン支持に対する批判を含む。

 ASIA TIMES記事(シンガポール拠点のアジア系分析):

 ・比較的中立的ながら、中国やパキスタンに対する軍事分析に定評あり。

 ・インドの損失を冷静に取り上げ、楽観視を戒める内容。

 このように、同一事象をめぐる報道でも、立場や意図によって記述の重点が大きく異なる。インドの防空能力が実際にどこまで有効だったか、また航空機損失の戦略的影響がどれほどかについては、両報道を照合し、さらに第三国の独立した軍事報告なども参照する必要がある。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

Who Won The Latest Indo-Pak Conflict? Andrew Korybko's Newsletter 2025.05.11
https://korybko.substack.com/p/who-won-the-latest-indo-pak-conflict?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=163319270&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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