コンピューターは人類の世界を結びつける力を持つこととなった2025年05月11日 19:52

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【概要】

 1945年春、アドルフ・ヒトラーの「第三帝国」は崩壊し、第二次世界大戦は終結を迎えた。戦火と血にまみれた数年間を経て、世界はようやく安堵の息を吐き、平和への希望を取り戻した。この年は、人類がより良い未来を夢見る出発点となった。

 同じ1945年の冬、もう一つの画期的な出来事があった。米国ペンシルベニア大学にて、世界初の電子計算機ENIACが誕生したのである。当初この装置は平和的な目的のためではなく、米陸軍の砲撃計算のために開発された軍事技術であった。

 しかし、歴史は皮肉に満ちている。戦争のために生まれたこの機械は、数十年のうちに家庭に普及し、日常生活に欠かせない存在となった。今日、コンピューターはあまりにも当たり前の存在となっており、それが存在しない世界を想像するには相当の想像力が必要である。

 このように、紛争に起源を持ちながらも、コンピューターは人類の世界を結びつける力を持つこととなった。誕生当初から、コンピューターは分断ではなく接続の性質を備えていた。いったん解き放たれた技術の力を再び閉じ込めることは、事実上不可能である。

 数十年前、スマートフォンが全世界に普及するとは予想されていなかった。しかしながら、その時点で既に、世界の結びつきは静かに進行していたのである。今日では、数十億のスマートデバイスが地球上のあらゆる場所をつなぎ、教育、商業、科学、文化、軍事、さらには週末の予定に至るまで多様な分野を変革している。人類は今や「地球村」という言葉にふさわしい、運命共同体として存在している。

 ただし、技術の進展が常に順風満帆であるわけではない。現在、人工知能(AI)が世界中に広がるなか、再び地政学的緊張が高まりつつある。米国は中国を「主要な戦略的競争相手」と位置付け、AIや先端半導体分野において輸出管理や供給網制限という形で障壁を築こうとしている。いわば「デジタル版鉄のカーテン」である。

 しかし、歴史が教えるのは、技術の進歩、特に第二次大戦後のコンピューターを中核とした発展は、世界的な協力によってもたらされたという事実である。インターネットやパーソナルコンピューターは、単にルールを変えたのではなく、全員が参加できる新たな競技場を築いた。これらの発明は、人類の繁栄を促す手段であり、デジタルの国境線を引くための武器であるべきではない。

 技術的な覇権は持続せず、それを維持しようとする試みはむしろ非効率的である。特にAIの進展においては、独占という考え方そのものと相容れない。

 AIの進歩は「天才一人の研究室」から生まれるものではない。現代のブレイクスルーは、無数の研究者による共同の努力、誰でもアクセス可能なオープンソース・プラットフォームに支えられている。ボストンで昨日発表された研究成果は、翌日には北京の研究所で応用される。つまり、オープンソースの存在が、特定の企業や国家による独占を防いでいるのである。

 才能ある開発者、クラウド基盤、リモートチームなどにより、知識、スキル、データは迅速に移動する。制限が厳しければ厳しいほど、技術的に封じ込められた側の革新意欲は高まり、自立的なネットワーク構築が促進される。技術を制限しようとするほど、むしろ新たな技術生態系の誕生が早まるという皮肉な結果となる。

 これは歴史が証明している。米国が中国に対して宇宙技術、通信、半導体、AI分野などで制限を課してきたが、その結果は中国の停滞ではなく、国内での技術革新の急速な進展であった。かつての障壁は、現在から見れば時代遅れに映る。

 戦後秩序は、特定の国家の覇権を保証するものではなかった。AIを中心とする新たな世界において、冷戦的思考の復活や技術独占の試みは時代遅れであり、成功する可能性は極めて低い。

【詳細】

 技術進歩、とりわけ人工知能(AI)や半導体など先端分野における国際協力の重要性と、それに反する米国の政策を批判的に論じている。

 冒頭では、1945年春にナチス・ドイツが崩壊し、第二次世界大戦が終結した歴史的転機に触れている。この年は、人類が破壊から再生への希望を抱いた象徴的な年とされている。同時に、戦時中に開発された世界初の電子計算機「ENIAC」が米ペンシルベニア大学で誕生したことも紹介されている。ENIACはもともと米軍の砲弾弾道計算のために設計されたが、その後、一般家庭にも普及する技術へと進化し、現代社会においては不可欠な存在となった。

 コンピューターが戦争から生まれたにもかかわらず、最終的には人類をつなぐ技術となった点に注目している。コンピューター技術は当初から「分断」ではなく「接続」のDNAを内包しており、それを変えることは困難であると述べている。

 また、スマートフォンやインターネットが世界中に普及し、人々の生活、教育、商業、科学、文化、さらには戦争や日常の娯楽にまで影響を与えている現状を「地球村」という表現で描写している。世界は相互依存の関係にあり、「運命共同体」として存在していると主張する。

 しかし、ここで懸念を提示する。AI技術の進展が進むなかで、再び地政学的な緊張が高まっていると述べる。特に、米国が中国を「主要な戦略的競争相手」と位置付け、AIや先端半導体などの分野で輸出規制やサプライチェーン制限を通じて「デジタル鉄のカーテン(digital iron curtain)」を築こうとしている点に批判を向けている。

 第二次世界大戦後の技術的繁栄は、国家間の協力と開放によって達成されたと指摘する。インターネットやパソコンは、誰もが参加できる新しい「競技場」を生み出し、技術を「覇権の道具」としてではなく、「人類全体の利益のための手段」として利用すべきであるという考えを示している。

 さらに、筆者はAI技術の本質にも触れる。AIの進歩はもはや「孤高の天才」の成果ではなく、オープンソース・プラットフォームや公開論文などを通じて、世界中の研究者や開発者の協力によって支えられていると述べる。ボストンで昨日発表された論文が、翌日には北京の研究室で活用されることもあり得るほど、技術の流通は迅速かつ国境を越えている。

 米国による技術封鎖が逆に中国の国産化や自立を促進している事例を挙げる。宇宙技術、通信、半導体、AIといった分野での米国の制限措置は、中国の自主開発を加速させ、結果として障壁が「時代遅れ」に見えるようになると述べている。

 結論として筆者は、戦後の国際秩序は単一国家の覇権のために構築されたものではなく、AI時代においても冷戦思考や技術の独占を目指す試みは時代錯誤であり、成功しないと強調している。

 中国共産党中央機関紙『人民日報』のシニア編集者であり、現在は中国人民大学の重陽金融研究院の上級研究員でもある。
 
【要点】

 ・1945年春、ナチス・ドイツの崩壊により第二次世界大戦が終結し、人類は平和への希望を抱いた。

 ・同年、米国ペンシルベニア大学で世界初の電子計算機「ENIAC」が誕生した。これは戦争目的で開発されたが、後に民間に普及した。

 ・コンピューターは戦争の産物であったにもかかわらず、最終的には人類を接続する装置となり、現代生活の基盤となった。

 ・技術は「接続」の本質を持っており、「分断」しようとしてもその性質を変えることは困難である。

 ・現代ではスマートフォンやインターネットが世界中に広がり、教育、商業、科学、文化、軍事、日常生活まで変化させ、「地球村」や「運命共同体」と表現できる状況にある。

 ・現在、AI技術が急速に発展している一方、米国は中国を「戦略的競争相手」として位置付け、AIや半導体などの分野で輸出規制・制裁を行っている。

 ・米国のこのような措置は「デジタル鉄のカーテン(digital iron curtain)」と表現され、技術分断を引き起こそうとしている。

 ・歴史的に見て、技術進歩は国際協力によって推進されてきた。特に第二次世界大戦後の技術的繁栄は、開放的な環境によって実現された。

 ・インターネットやパソコンは、特定の国の独占物ではなく、人類全体が利用できる「共通の競技場」となっている。

 ・AIの発展は「孤立した天才」によるものではなく、世界中の研究者の協力やオープンソースによって進められている。

 ・技術の共有は非常に迅速であり、例えば米国で発表された論文が翌日に中国の研究者の手に渡ることもある。

 ・米国による技術封鎖は、中国にとって技術の国産化や独自開発を加速させる要因となっている。

 ・宇宙、通信、半導体、AIなどの分野において、封鎖は中国の革新を促進し、結果的に米国の措置は時代遅れとなっている。

 ・戦後の国際秩序は、単一国家の支配を意図したものではなく、技術覇権や冷戦的思考は現代においては通用しない。

 ・結論として、技術の未来は国際的な協力と開放によって築かれるべきであり、封鎖や独占はむしろ進歩を妨げると述べている。

【桃源寸評】

 現代のパソコンが旧式のスーパーコンピューターを凌駕している理由

 ・処理能力の進化
 
 かつて軍事や天体物理など限られた分野で用いられていたスーパーコンピューターに匹敵、あるいはそれ以上の処理能力を、現代の一般的なパソコンや高性能ノートPCが有している。

 ・コストとアクセスの変化

 かつては国家的プロジェクトや大企業でしか扱えなかった計算能力が、いまや家庭や個人の机上に置かれる製品として流通している。スーパーコンピューターが一部の者の特権であった時代は終わり、誰もが「高度な情報処理装置」を保有する時代となった。

 ・この状況が意味する重要な変化

 ①シミュレーションの民主化
 
 個人や小規模な企業でも、物理・生物・経済など様々な分野の複雑な現象をシミュレーションすることが可能になった。これにより、製品開発、政策立案、教育・研究などにおいて、コストを抑えつつ高精度な仮想実験が実行できる。

 ②自己表現と創造性の拡大
 
 映像編集、音楽制作、3Dモデリング、AI生成など、かつて専門機器が必要だった創作活動が一般のパソコンでも可能となった。これは、表現手段が拡張されたことを意味し、「創造力」を実現可能な形にする土壌を広く提供している。

 まとめ

 現代のパソコンは、過去のスーパーコンピューターが担っていた役割を、より身近な形で、より多様な人々の手に届けている。これは単なる技術革新ではなく、人間の知性と創造性の範囲を質的に変化させる出来事であり、その社会的インパクトは計り知れない。

 この観点から、パソコンはもはや「道具」ではなく、シミュレーションと創造性を可能にする「現代の知的基盤」として位置づけることができる。

 よって、この技術の進歩・発展・普遍性を技術覇権で支配することは、人間性の否定に繋がる犯罪でもある。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

Tech progress comes from global collaboration, not US barriers GT 2025.05.09
https://www.globaltimes.cn/page/202505/1333682.shtml

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