「長安の月」の光をいま、日本のガラスの城に照らす2025年05月12日 19:51

Geminiで作成
【概要】

 2025年版の日本の防衛白書の草案は、昨年と同様に中国の軍事活動を「最大の戦略的挑戦」と位置付けており、日本は同盟国や「志を同じくする国々」との協力・連携を進める必要があると記載している。

 中国側の専門家によれば、日本政府がこのような「脅威」論を強調するのは、防衛予算の増加を正当化するためであるとされる。また、2025年が「中国人民の抗日戦争ならびに世界反ファシズム戦争勝利80周年」に当たることから、日本が軍事力の強化・拡張を進めている現状に対し、国際社会は警戒すべきであると指摘されている。

 共同通信の5月11日付報道によれば、2025年版防衛白書の草案は、中国の軍事活動を「最も重大かつ前例のない戦略的挑戦」とし、中露の合同軍事飛行や日本近海での海軍活動への懸念にも言及している。さらに、2024年における台湾海峡周辺での軍事演習の頻度の増加も取り上げられている。

 同草案では、日本の安全保障環境について「第二次世界大戦以来で最も厳しい挑戦に直面しており、新たな危機の時代に突入している」と記し、米中対立の激化や、ロシア・ウクライナ戦争に類似した事態が東アジアで発生する可能性を示唆している。

 また、NHKの5月11日付報道によれば、日本政府は防衛力の抜本的強化のため、敵の射程外から攻撃可能な「スタンドオフミサイル」や「反撃能力」の整備、衛星連携型の情報収集システムの構築を今年度の優先事項として掲げている。

 近年の日本の防衛白書では、中国を仮想敵視するような表現が繰り返され、「中国脅威論」が強調されてきたと中国側の分析は指摘している。

 中国社会科学院日本研究所の副所長であるLü Yaodong氏は、今回の草案における中国関連の記述は根拠に乏しく、「中国脅威論」の喧伝を目的としていると述べている。また、米中関係を意図的に引き合いに出し、東アジア情勢をロシア・ウクライナ戦争と同列に語る点も問題視している。

 Lü Yaodong氏によれば、日本政府がこのような「脅威」論を誇張するのは、防衛費増額を正当化する狙いがあるとされる。日本政府は2022年末に「安保三文書」を決定し、2023年度から2027年度にかけて防衛費をGDP比約2%まで引き上げる方針を掲げている。

 Lü氏はまた、与党・自民党が防衛費の大幅増加について国民からの批判に直面した場合、外的脅威を誇張しなければ説明が困難であるとし、防衛白書において「日本の安全保障環境が悪化している」「日本は脅威に晒されている」「防衛力を強化せねばならない」といったナラティブを国内外に向けて発信していると述べている。

 『ザ・ディプロマット』誌の2024年12月の報道によれば、日本は2025年度予算で防衛費を9.4%増額しており、11年連続で防衛予算は過去最高を更新している。この増額は、防衛力強化計画の一環であるとされる。

 中国遼寧社会科学院の専門家であるLü Chao氏は、日本の現行の軍事力は自衛の範囲を大きく超えており、アジア太平洋地域や周辺国に対して脅威となっていると述べ、国際社会は日本の軍事力強化に対し警戒すべきであると主張している。

【詳細】 

 2025年の防衛白書草案において、日本政府は中国の軍事的動向を「最大かつ前例のない戦略的挑戦(most significant and unprecedented strategic challenge)」と位置付け、前年度の白書と同様の表現を用いて中国を脅威視している。また、同草案は日本が安全保障上の課題に対処するために、同盟国(主にアメリカ)および「志を同じくする国々(like-minded countries)」との協力・連携を深める必要性を強調している。

 草案は、中露両国による共同軍事演習や軍用機の合同飛行、艦隊行動が日本周辺で頻発していることに言及し、これらを地域の安定に対する脅威とみなしている。また、2024年において台湾海峡周辺での軍事演習が高頻度で行われた点にも注目している。これにより、日本の地政学的環境はますます不安定化しているという認識が示されている。

 さらに同草案は、日本の安全保障環境が「第二次世界大戦以来最も厳しい状態にある」と警告し、「新たな危機の時代に突入した」との表現で現状を危機的に捉えている。その根拠として、米中間の対立の激化およびロシア・ウクライナ戦争のような有事が東アジアでも発生する可能性があることを挙げている。

 このような安全保障認識に基づき、日本政府は「反撃能力(counterstrike capabilities)」の整備を含む具体的な軍備増強計画を示している。特に、敵の射程圏外から攻撃可能な「スタンドオフミサイル」の導入や、複数の衛星を連携させた情報収集システムの構築が重要施策として掲げられている。NHKによると、これらの能力は2025年度中に優先的に強化される予定である。

 一方、中国の学術界では、これらの日本政府の動向に対して警戒と批判の声が上がっている。中国社会科学院日本研究所の副所長・Lü Yaodong氏は、「中国脅威論」は根拠が乏しいとしたうえで、日本政府がこの論調を利用して防衛費の大幅増額を正当化しようとしていると指摘している。同氏はまた、日本が米中対立やウクライナ戦争のような外部の緊張関係を東アジアに無理に適用しようとしていると見ている。

 2022年末、日本政府は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」のいわゆる「安保三文書」を改定し、2023年度から5年間で防衛費をGDP比2%程度にまで引き上げる方針を正式に打ち出した。この政策方針に基づき、日本は毎年防衛予算を拡大しており、『ザ・ディプロマット』誌によれば、2025年度の防衛予算案では前年比9.4%の増額が盛り込まれ、11年連続で過去最大の防衛予算が計上される見通しとなっている。

 中国遼寧社会科学院の研究者・Lü Chao氏は、現在の日本の軍事力は本来の「専守防衛」の枠を超えており、周辺諸国にとって脅威となる水準に達していると述べている。同氏は、2025年が「中国人民の抗日戦争勝利80周年」および「世界反ファシズム戦争勝利80周年」に当たる節目の年であることを踏まえ、日本の軍事力強化には歴史的教訓を踏まえた国際的な監視が必要であると主張している。

 このように、中国側は、日本の防衛白書が毎年「中国脅威論」を繰り返す構成となっている点を問題視し、その意図が防衛予算の増額や国際的な支持獲得を目的とした情報操作であると分析している。

【要点】

 日本防衛白書草案の主な内容

 ・2025年版防衛白書草案は、中国の軍事活動を「最大かつ前例のない戦略的挑戦(most significant and unprecedented strategic challenge)」と位置付けている。

 ・前年と同様の表現で中国を脅威と見なしており、「志を同じくする国々」との連携強化を打ち出している。

 ・中露の共同軍事演習、合同軍用機飛行、艦隊行動に対する懸念を示している。

 ・2024年における台湾海峡周辺での中国軍の演習増加についても警戒を強めている。

 ・日本の安全保障環境が「第二次世界大戦以来最も厳しい」とし、「新たな危機の時代」に入ったとの認識を示している。

 ・米中対立の激化やロシア・ウクライナ戦争のような事態が東アジアで起こり得ると警告している。

 軍備増強の具体的方針

 ・敵の射程圏外から攻撃可能な「スタンドオフミサイル」の整備を優先する。

 ・複数の衛星を連携させた情報収集・監視・通信システムの構築を進める。

 ・「反撃能力(counterstrike capabilities)」の保有を明確に打ち出している。

 ・NHK報道によれば、これらの能力は2025年度中に強化される予定である。

 中国側専門家の見解

 ・中国社会科学院のLü Yaodong氏は、日本による「中国脅威論」は根拠に欠けると主張している。

 ・同氏は、日本政府が防衛予算の増額を正当化するために意図的に中国を脅威と見せていると批判している。

 ・「安保三文書」(2022年末採択)により、日本は防衛費をGDP比2%に引き上げる方針を採用している。

 ・与党・自民党は防衛費の増額を正当化するために外部脅威を誇張しているとの見方が示されている。

 防衛予算の推移

 ・『ザ・ディプロマット』によると、日本は2025年度に防衛予算を前年比9.4%増加させた。

 ・これにより、11年連続で防衛費が過去最高を更新する見通しである。

 ・この動きは「防衛力整備計画(Defense Buildup Program)」の一環であるとされる。

 地域および国際社会への影響

 ・遼寧社会科学院のLü Chao氏は、日本の現在の軍事力が「専守防衛」の枠を超えており、地域の脅威になりつつあると警告している。

 ・同氏は、2025年が「抗日戦争勝利」および「反ファシズム戦争勝利」の80周年にあたることから、国際社会が日本の軍事拡張に警戒すべきであると主張している。

【桃源寸評】

 中国側は日本の防衛白書における対中言及を「中国脅威論」の誇張であると批判しており、背後には日本政府が防衛費増額を国内外に正当化する意図があると見ている。

 加えて、米国との同盟関係の中で、日米の戦略的一体化が進んでおり、こうした動向に米国の意向が色濃く反映されているとの分析は、中国だけでなく、他のアジア諸国や一部の専門家からも指摘されている。

 日本が海に囲まれた島国であることは、戦略上の脆弱性と表裏一体であり、戦争や大規模有事の際には国民生活や物流が直撃される。こうした状況での「危機煽動」によって、防衛政策や予算増額が加速されるとすれば、冷静な議論の余地が狭められる可能性がある。特に、住民避難、情報統制、経済活動への影響などが現実的に想定される中で、政府の説明責任とメディアの役割は一層重要になる。

 ・日本の「スタンドオフ防衛」構想と米国の対中戦略の整合性

 ―有事想定下における日本の国民保護法制の現状と限界―

 ① 日本の「スタンドオフ防衛」構想と米国の対中戦略の整合性

 ・日本の「スタンドオフ防衛」構想とは、敵の攻撃圏外から精密打撃を加える兵器体系を整備し、抑止力と対処能力の向上を図るものである。射程の長いスタンドオフミサイル(例:12式地対艦誘導弾の改良型やトマホーク導入など)を中心に、防衛力の質的転換が進められている。

 ・この構想は、米国の対中戦略、特に「統合抑止(integrated deterrence9」や「第一列島線における拒否戦略(denial strategy)」と整合的である。米国は中国のA2/AD(接近阻止・領域拒否)戦略に対抗するため、日本や台湾、フィリピンを含む島嶼線での前方展開・戦力分散を進めており、日本のスタンドオフ兵器配備は、米国の対中封じ込め構想において「火力投射拠点」として期待されている。

 ・したがって、日本の「スタンドオフ防衛」構想は、表向きは「専守防衛」の枠内にとどまるとされつつも、実質的には米国のグローバルな対中戦略の一翼を担うものとして機能している。日本が自主的に構想した防衛態勢であるか否かは、政策決定過程における米国の影響を踏まえると疑問が残る。

 ② 有事想定下における日本の国民保護法制の現状と限界

 ・日本では2004年に「国民保護法」が制定され、武力攻撃事態などの緊急時における避難、救援、生活支援などの措置を定めている。自治体は「国民保護計画」の策定を義務付けられ、定期的な訓練も実施されている。

 ・しかし実効性には多くの限界がある。第一に、都市部における避難インフラの整備が不十分であり、ミサイル攻撃等の際に即時避難が可能なシェルターは極めて限定的である。第二に、住民の国民保護制度に関する認知度が低く、避難行動要領が周知されていない。第三に、法制度上、自治体の裁量に任される部分が大きく、全国で対応の質にばらつきがある。さらに、台湾有事などの複雑なシナリオでは、難民対応、通信遮断、物流停滞などが同時多発的に起きる可能性があり、現在の法体制だけでは対応が不十分であることは政府の有識者会議でも指摘されている。

 ③ 東アジア地域の「相互脅威認識」が軍拡のスパイラルを生んでいる構造

 ・東アジアにおいては、「自国の安全保障措置が他国にとっての脅威と映り、それに反応した相手国の措置がさらに自国の不安を煽る」という「安全保障のジレンマ(Security Dilemma)」が典型的に発生している。

 ・例として、日本の防衛白書が中国を「最大の戦略的挑戦」と位置づけると、中国側はこれを「軍拡の口実」と非難し、逆に軍備強化の理由とする。同様に、中国が南シナ海・東シナ海での活動を強化すれば、日本や米国は「覇権的行動」と認識し、警戒感を強める。韓国、台湾、フィリピンなどもそれぞれの立場から脅威を認識し、個別にまたは米国との連携で防衛力強化に動く。これが結果として、域内全体の軍拡スパイラルを加速させている。

 ・このような構造は、信頼醸成措置(CBM)や透明性の確保が欠如している限り容易には解消せず、軍備管理メカニズムの欠如が構造的不安定性をさらに悪化させている。

 ・「日本は米国を守る辺土の防人国家である」という表現は、日米同盟の構造的な非対称性と、日本の防衛政策が米国の戦略的利益に従属しているとの批判的視座を端的に表している。以下に箇条書きでこの主張の背景と含意を整理する。

 「防人国家」的構造の指摘に関する要点整理

 ①日米同盟における非対称性
 
 日本は米軍基地を多数提供し、自衛隊も米軍との統合作戦に向けて法整備・運用改革を進めているが、米国からの防衛義務は条約上も明示されておらず、片務的性格を持つと批判されている。

 ②南西諸島の「緩衝地帯」化

 沖縄・与那国・石垣などへの部隊配備、ミサイル部隊設置は、米国の「第一列島線」戦略の前線を担うものであり、万一の有事においてはこれら地域が「捨て石」と化す危険性がある。

 ③スタンドオフ防衛の実態

 敵基地攻撃能力や長射程ミサイルの導入は、「専守防衛」からの逸脱との懸念がある一方で、実際には米軍との統合作戦(攻撃補完)を視野に入れた整備であり、日本単独での防衛力強化ではない。

 ④国民保護の実効性の欠如
 
 シェルター整備、避難計画、物資備蓄、情報伝達手段の多くが未整備であり、有事の際に国民が即座に保護される制度的裏付けが乏しい。

 ⑤政府の国民への説明不足

 「日米同盟の抑止力」や「反撃能力保有」など抽象的説明に終始し、国民に具体的な有事想定や影響を共有していない点が、政策の一貫性や信頼性を損なっている。

 ⑥「主権国家」としての独立性の喪失懸念
 
 米国の戦略に日本が過度に依存・追従しているとの印象を与える政策運営は、国民の間に「誰のための安全保障か」という根源的疑問を生じさせている。

 つまり、日本が「国民を守るための防衛国家」ではなく、「米国の世界戦略における橋頭保(forward base)」として機能しているとの懸念は、軍事戦略だけでなく政治哲学の問題でもある。

 スタンドオフ防衛構想の問題点

 ①日本列島の地理的制約

 日本は南北に長いが、東西の幅は狭く、特に本州・四国・九州では敵の長射程兵器からの「後方安全圏」が事実上存在しない。長距離ミサイルを「撃ち返す」という構想は、発射地点の安全を前提とするが、日本の国土ではその余地が乏しい。

 ②スタンドオフ兵器導入の意味の混乱

 「敵の射程外から撃つ」とは言うが、敵が超長距離巡航ミサイルや極超音速兵器を有する現代において、「スタンドオフ距離」自体が時代遅れになっている。

 ③実戦的効果への疑問

 スタンドオフ攻撃を実施するには、精確なリアルタイムの標的情報(ISR=情報・監視・偵察)と指揮統制系統が不可欠であるが、日本単独ではその能力が限定的で、事実上米軍に依存している。

 ④「反撃能力」としての矛盾

 専守防衛を標榜しつつ、長距離ミサイルで相手領域に先制的反撃を行うという構想は、戦略的・法的にも一貫性を欠いており、国際社会からの批判を招きかねない。

 ⑤コストと持続性の非効率性
 
 スタンドオフミサイル(トマホーク、12式地対艦ミサイル改良型など)の導入には数千億円単位の費用がかかるが、それらが有事において十分活用される保証はなく、費用対効果が低い。

 ⑥国民防護との落差
 
 攻撃力の強化には膨大な予算を割く一方で、国民の避難・防護体制(地下シェルター整備や警報システム整備等)は後回しにされており、「何を守るための防衛なのか」が不明確である。

 要するに、「スタンドオフ防衛」は日本の国土条件や実戦環境を無視した空理空論、あるいは米国の戦略の補完装置にすぎないという批判が成り立つ。

 「白昼夢」である。

 さらに、「戦争を想定した政策」であるにもかかわらず、その被害想定や国民への説明がないことも、構想の信頼性を著しく損ねている。

 「ガラスの城」国家=脆弱性の象徴

 ①物理的脆弱性

 日本は地理的に細長く、人口密度が高く、主要都市が沿岸部に集中しているため、外部からの攻撃に対して極めて脆弱である。まさに「一撃必殺」で国家機能が麻痺しかねない。

 ②都市集中とインフラの過密
 
 首都圏を中心に、行政・経済・通信・交通インフラが一極集中しており、「四畳半の中にぎゅうぎゅう詰め」という表現は、空間的な逃げ場の無さと、人口過密状態を的確に描写するものである。

 ③精神的防衛力の欠如
 
 「爆弾が炸裂することも想像できない」という言葉は、現実の戦争や有事を想定せず、平時の論理だけで政策を語る政治家たちの想像力と責任感の欠如を鋭く批判している。

 ④平時の口調=戦時の準備なき政治

 「一端の口を平時にきいている」という表現は、国民の命や暮らしを左右する防衛政策を、リアルな有事想定なしに語る軽さ・無責任さに対する痛烈な批判である。

 ⑤このように見ると、「ガラスの城」はまさに、

 ⇨防衛力の空洞化

 ⇨民衆の無防備状態

 ⇨政治の観念的な空論主導

を象徴する言葉であり、日本の現在の安全保障政策への根源的な警鐘として非常に有効である。

 「ガラスの城」国家論―日本の構造的脆弱性と虚構の防衛戦略

 ①「ガラスの城」とは何か

 「ガラスの城」とは、美しくも脆く、外見の堅牢さとは裏腹に、ひとたび衝撃を受ければ一瞬で崩壊する構造物である。この比喩を日本国家に適用し、現在の日本が直面している防衛・安全保障上の構造的危機を明示する。

 ② 地理的脆弱性

 ・四周海に囲まれた閉鎖的空間
 
 日本列島は太平洋の孤島であり、逃げ場が存在しない。主要都市や産業基盤は海岸部に集中しており、外洋からのミサイル・巡航攻撃に極めて脆弱。

 ・狭小かつ集中した国土利用
 
 可住地が限られ、約70%が山地であることから、都市・インフラ・人口が限定された平野部に密集。いわば「四畳半の中にぎゅうぎゅう詰め」であり、攻撃を受ければ即座に国全体が機能不全に陥る。
 
 ③ 政治的脆弱性と戦略空白

 ・現実無視の安全保障論
 
 スタンドオフ防衛、反撃能力(counterstrike)、マルチ衛星連携等の「未来志向」は、戦争の実相を見ない空論である。現代戦のリアリティ(サイバー、無人機、飽和攻撃)を想定した実践的戦略が欠如している。

 ・「脅威の演出」に依存した予算構成
 
 「中国脅威論」や「台湾有事」を政治的道具にして、防衛予算を膨張させる構図は、現実的国防の議論ではなく、対米従属を背景にしたアリバイ作りにすぎない。

 ・軍事一体化と独立の欠如
 
 実際の戦争計画・軍事運用は米軍主導下にあり、日本は防衛の当事者ではなく「戦略的地政空間」として利用されているにすぎない。

 ④国民精神の非戦備状態

 ・戦争心理と社会基盤の乖離
 
 有事の際の避難計画・国民保護・物資備蓄等が極めて不十分であり、政府の「口先の強硬論」に反し、国民は極度の不安と混乱に晒される可能性が高い。

 ・徴兵制度なき戦略幻想
 
 実動部隊の増強も行わず、人的基盤を欠いたまま高額兵器に依存する戦略は、いわば「城だけが豪奢で中は空洞」の状態を示す。

 ⑤対外従属と内在的崩壊

 ・米国による前方展開戦略の犠牲地
 
 日本は地政学的に、中国・朝鮮半島・台湾海峡との中間にあり、米国の第一列島線戦略の盾である。日本の防衛政策は自律ではなく、「前哨基地」としての米国戦略に組み込まれている。

 ・戦争に巻き込まれるリスクの先鋭化
 
 中国・北朝鮮・ロシアとの周辺摩擦が高まる中、「自衛」と称して参戦可能性を高めることは、自壊への第一歩である。

 ⑥ガラスの城に未来はあるか

 「防衛力の強化」は、幻想と現実の間に深い溝を抱えたまま進行している。日本が直面しているのは、「脅威を排除する防衛国家」ではなく、「脅威に曝される標的国家」であるという厳しい現実である。

 したがって、「ガラスの城」としての日本の未来を考えるには、防衛費の増額や兵器開発ではなく、根本的な戦略思想の見直しと、国民と国家との信頼再構築こそが急務である。

 さらに「スタンドオフ防衛」が大陸国家向けである理由

 「スタンドオフ防衛」という概念は、地理的・戦略的深度を有する大陸国家に適した発想であり、日本のような狭隘で縦に細長い島嶼国家には、原理的に馴染まない面がある。以下にその論理的矛盾を箇条書きで整理する。

 ①「スタンドオフ防衛」が大陸国家向けである理由

 ・大陸国家は戦略的緩衝地帯を有する
 
 米・中・露のような大国は、自国領土内に戦術・戦略的な「余白」があり、遠距離から敵に圧力を加え、かつ後退・再配置の余裕がある。

 ・広大な地理空間を前提とした射程概念

 スタンドオフ兵器(例:射程500km以上の巡航ミサイル)は、敵の火力圏外からの攻撃を想定しているが、日本列島では射程=国内全域射程となるため、敵の先制攻撃リスクが逆に高まる。

 ・分散展開・機動性前提の運用が困難
 
 地形的制約(海岸線の多さ・都市集中・平野の乏しさ)から、装備の分散・隠蔽が難しく、スタンドオフ火力のプラットフォーム(車両・艦艇・航空機)は発見・先制攻撃されやすい。

 ②スタンドオフ防衛」が日本で非現実的な理由

 ・発射地点=撃破対象
 
 列島の幅が短いため、どこから撃とうが敵に探知・迎撃される可能性が高く、「先に撃てば勝てる」という構想自体が破綻している。

 ・市街地と軍事目標の地理的近接
 
 多くの自衛隊基地が都市近郊に存在し、発射された瞬間に都市ごと報復対象となる恐れがある(例:青森・三沢、東京・市ヶ谷、鹿児島・那覇など)。

 ・国民保護との整合性ゼロ
 
 先制反撃能力を持つならば、報復を覚悟しなければならないが、その国民保護策が一切講じられていないため、「攻めるだけ攻めて、守れない」という不整合が露呈する。

 ③まとめ

 スタンドオフ防衛のような「大陸国家的発想」を、島嶼国家である日本に機械的に導入することは、戦略の文脈を無視した模倣にすぎず、まさに間抜けの極みである。

 「長安の月」の光をいま、日本のガラスの城に照らす

 ― 阿倍仲麻呂と日中関係の精神的遺産 ―

 ①ガラスの城としての日本

 今日の日本は、軍備強化を急ぎ「スタンドオフ防衛」などと称する戦略構想を掲げるが、これは国土の実態や地政学的制約を無視した、空理空論に等しい。日本を「ガラスの城」と形容する。すなわち、

 ・地理的には脆弱で逃げ場がなく、

 ・社会構造は情報と物流の網に絡め取られ、

 ・外圧には極端に敏感で、自己主張と自己防衛の境界が曖昧な国家である。

このような国家において、真に求められるのは「力」ではなく、「知」であり、「戦略」ではなく「外交的寛容力」である。

 ②阿倍仲麻呂と「文明の対等性」

 松田鐡也の本書(『長安の月 寧楽の月 仲麻呂帰らず』(松田鐡也著、昭和60年12月15日、時事通信社)が描く阿倍仲麻呂像は、遣唐使の典型を超えて、日本人が唐帝国という超大国と知と誠で対等に渡り合った証左である。

 仲麻呂は唐名を「朝衡」と改め、玄宗皇帝に仕え、科挙に合格して高官の地位に就いた。

 それは、単なる「留学生」ではなく、「文化と制度を担える人物」として認められたことを意味する。

 帰国を志すも叶わず、長安の地で最期を迎えた仲麻呂の姿に、国家と個人、忠誠と哀感の相克が浮かび上がる。

 ③「寧楽の月」を忘れた国策

 書名の「寧楽の月」とは奈良、つまり日本の地の月を指し、長安との呼応を意味している。仲麻呂が心に抱き続けた「寧楽の月」は、東アジア文明の共通意識の象徴であった。

 現在の日本政府が進める「対中抑止」や「軍事的自立」は、この文明的対等意識を完全に喪失したものである。

 中国と争うのではなく、学び、対話し、共に栄えるという「古典的外交の精神」こそ再評価されるべきである。

 仲麻呂のような「東アジア的人間像」は、日中両国が持つ精神的共通財産であり、外交における現代の模範ともなりうる。

 ④光の届くうちに

 「長安の月」が照らす光は、いまだ失われてはいない。ガラスの城に住む日本がすべきことは、透明な脆さを守るための装甲ではなく、外とつながる知恵と精神の交流の窓を開くことである。

 仲麻呂の生涯を鏡としながら、日本は今一度、自らの進路を問い直さねばならない。軍拡による「声高な自立」ではなく、文明への「静かな帰属」こそが、日本の真の道であろう。

 書籍の主題と視点(要旨)

 ①阿倍仲麻呂という存在の象徴性
 
 日本から唐に渡り、高位高官となるも、帰国を果たせなかった阿倍仲麻呂は、日本人が東アジアの大文明圏に深く関わっていた証として描かれている。

 ②「長安の月」と「寧楽の月」
 
 タイトルに込められたこの対比は、日中の精神的共鳴と距離感を象徴しており、地理的には遠くとも、文化的・人間的には一体感があったことを示す。

 ③遣唐使の実像と日中関係の原型
 
 外交とは権謀術数だけではなく、学びと尊敬、共有の精神によって結ばれうるという歴史的教訓が、仲麻呂の事跡を通じて語られている。

 ④現代への含意

 この著作は単なる歴史伝記にとどまらず、

 ・「いかにして日本は大国と向き合うべきか」
という外交と国家ビジョンの原点を問いかけている。

 とりわけ、現代のように米中のはざまで揺れる日本においては、仲麻呂のように尊厳と交流を同時に成し遂げる知恵と胆力が求められているといえる。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

New Japanese defense white paper draft continues rhetoric against China to justify budget increase: expert GT 2025.05.12
https://www.globaltimes.cn/page/202505/1333821.shtml

コメント

トラックバック