人工知能(AI)を活用した艦艇の消磁(デガウシング)訓練2025年05月12日 23:53

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【概要】

 中国人民解放軍(PLA)海軍は、人工知能(AI)を活用した艦艇の消磁(デガウシング)訓練を初めて実施したと、2025年5月11日付の中国国営メディアが報じた。消磁とは、艦艇の磁気署名を低減させてステルス性能を向上させる作業であり、海中の磁気機雷の起爆を防ぐなどの目的がある。

 この訓練は、北部戦区海軍の基地により実施されたものであり、緊急消磁支援部隊が、磁気探知器、位置測定装置、消磁ワイヤーなどの装備を携行して迅速に展開し、「損傷艦艇」に見立てた艦艇を対象に緊急対応の訓練を行った。訓練に使用されたのは、PLA海軍が多数保有する054A型ミサイルフリゲートの1隻であると、中国中央テレビ(CCTV)が伝えている。

 CCTVによれば、AIを用いた意思決定支援システムがこの訓練で初めて運用され、作業効率は60%向上したとされる。このAIシステムは、最適なアルゴリズムを導き出し、消磁の効果を検証することにより、作業の迅速化と効率化を実現している。

 PLA日報は、艦艇は地磁気や機械の運転によって磁化が蓄積されるため、定期的な消磁が必要であると説明している。磁気消去により艦艇は磁気ステルス性を得ることができ、磁気兵器からの脅威を回避し、磁気探知を避けることが可能になる。

 中国の軍事専門家・宋忠平は、消磁は各国海軍にとって長年にわたり重要な課 題であり、処理速度の向上は艦隊全体の戦闘力向上につながるとし、AIの導入はこの点で有効であると述べた。

 この訓練には平均年齢23歳未満の新兵も参加しており、CCTVの報道では、若手隊員の劉運河が「本番の戦場では試行錯誤の余地はない。電流が流れた瞬間、自らの戦闘位置が最前線であることを実感した」と語っている。

 また、同基地の上級士官・孫輝によれば、12人の新兵が緊急支援部隊に配属され、高リスク環境下での訓練に参加した。これにより、新兵を同時に教育・戦力化する新たな支援部隊育成モデルへと移行していることが示されており、即応体制の構築と戦力化の迅速化が図られているという。

【詳細】 

 1.消磁(デガウシング)の意義と背景

 艦艇が長期間航行や作戦行動を行う過程において、地球の磁場や艦内の機械装置からの磁気影響によって徐々に磁化される現象が生じる。この蓄積された磁気は「磁気署名」として艦艇の外部に放出される。磁気署名が大きくなると、磁気機雷や磁気探知システムに探知されやすくなり、作戦上の脆弱性を生む。このため、艦艇は定期的に消磁処理を施し、磁気署名を低減させ、いわゆる「磁気ステルス性(magnetic stealth)」を維持する必要がある。

 特に現代戦においては、磁気感知型兵器が多様化・高精度化しており、消磁技術の重要性がますます高まっている。消磁の迅速性・正確性は、戦闘準備能力や生存性に直結する要素である。

 2.訓練の概要と特徴

 今回報じられた訓練は、中国人民解放軍北部戦区海軍の基地によって実施された。訓練の主目的は、損傷艦艇を想定した緊急消磁任務の実行能力を高めることにあった。CCTVの報道によれば、訓練には緊急消磁支援部隊が参加し、磁気探知器、位置決め装置、消磁ケーブルといった機材を搭載し、現場に迅速展開した。これにより、即応性と実戦環境への適応力が確認された。

 対象となった艦艇は、PLA海軍が主力として運用する054A型ミサイルフリゲートである。同型艦は現在、数十隻が配備されており、広域任務や多目的任務に用いられている艦級である。

 3.0AIの導入とその効果

 この訓練では、人工知能(AI)を活用した意思決定支援システムが初めて運用された。このシステムは、以下のような機能を果たすものである。

 ・最適な消磁アルゴリズムの導出

 ・磁気署名のリアルタイム分析

 ・消磁効果の即時検証

 これにより、従来よりも消磁作業の効率が向上し、CCTVの報道では作業効率が60%改善されたとされる。AIは複雑な磁場データを高速処理することで、人的判断による誤差や遅延を排除し、短時間で効果的な処理を可能にしている。

 4.人的要素と部隊育成モデルの転換

 本訓練には、平均年齢23歳未満の若手新兵12名が参加しており、実戦想定下での即応訓練に従事した。CCTVのインタビューによれば、参加者の劉運河は「本物の戦場では試行錯誤の時間は与えられない。電流を流した瞬間、自分が最前線にいると感じた」と述べ、緊張感の高さと責任感を示した。

 また、同基地の高級士官である孫輝は、新兵を即座に実戦配備可能な部隊に組み込む「戦力即時化モデル」への転換を進めていることを明かした。これにより、教育と運用を同時に進める体制が構築され、人的戦力の生成サイクルが大幅に短縮されている。

 5.軍事的含意と今後の展望

 軍事評論家の宋忠平によれば、消磁技術は伝統的に各国海軍において重視されてきた領域であり、特にその速度と正確性が艦隊全体の即応能力を左右する。AIの導入によって、消磁は単なる保守作業から戦力発現の要素へと昇華しつつある。

 今後は、AIによる予測型消磁、無人支援システムとの連携、艦艇設計段階からの磁気最適化などが進むことが予想され、海上作戦におけるステルス性・機動性がさらに向上する可能性がある。

【要点】

 1. 消磁訓練の目的と背景

 ・艦艇は地球磁場や機械作動により徐々に磁化され、「磁気署名」が蓄積される。

 ・磁気署名が大きいと、磁気機雷や磁気探知装置に探知されやすくなる。

 ・消磁(デガウシング)は磁気署名を低減し、艦艇の「磁気ステルス性」を回復させるために必要な作業である。

 ・定期的な消磁処理は、戦闘時の生存性と即応性の確保に直結する。

 2.今回の訓練の概要

 ・実施部隊:北部戦区海軍のある基地。

 ・訓練形式:緊急事態を想定した実戦形式の消磁訓練。

 ・対象艦:054A型誘導ミサイルフリゲート(損傷艦を模擬)。

 ・使用機材:磁気探知器、位置決め装置、消磁ワイヤーなど。

 ・目的:迅速な現地展開と即時対応能力の実証。

 3.AIの導入と効果

 ・AI支援型の意思決定システムを初めて実戦形式で導入。

 ・主な機能

 - 最適な消磁パラメータの算出。
 - 磁気署名のリアルタイム分析。
 - 消磁効果の即時検証。

 ・作業効率:従来比で60%向上(CCTV報道による)。

 ・AIにより人為的な判断誤差や作業の遅延が抑制された。

 4.若年兵の参加と人材育成

 ・平均年齢23歳未満の新兵12名が訓練に参加。

 ・実戦的な環境下で即応任務に従事。

 ・新兵の育成と即戦力化を同時に行う「戦力即時化モデル」への転換を実施。

 ・現場指揮官は「教育と運用の融合によって戦力化の速度が向上した」と評価。

 5.専門家の評価と軍事的意義

 ・宋忠平(軍事評論家)による評価

 - 消磁技術は従来より海軍作戦で重要視されてきた。
 - 消磁処理の速度は艦隊全体の戦力展開能力に影響を及ぼす。
 - AIの導入により、消磁は単なる保守作業ではなく「戦力の一部」として機能するようになった。

【引用・参照・底本】

PLA Navy deploys AI in warship degaussing drill for first time: report GT 2025.05.11
https://www.globaltimes.cn/page/202505/1333788.shtml

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