米国によるロシアとウクライナの仲介努力が限界2025年05月13日 19:16

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【概要】

 アンドリュー・コリブコは、米国によるロシアとウクライナの仲介努力が限界に近づいていると論じている。特にトランプ大統領が、ウクライナに対してロシアの要求に応じるよう圧力をかけることができない、あるいはその意思がないため、難しい局面に直面しているとされている。

 当初、米国がロシアとウクライナの和平交渉を主導することで大きな期待が寄せられたが、現在ではアメリカ側の交渉姿勢が厳しくなっていることからも分かるように、その期待は後退している。直近の展開としては、ウクライナと西側がロシアに対して無条件の停戦を要求する一方で、プーチン大統領はウクライナとの2国間協議の無条件再開を申し出た。

 ゼレンスキー大統領はこれに応じ、プーチンが提案した日程と場所である木曜日にイスタンブールを訪問すると表明したが、プーチン本人が出席するかは不明である。プーチンが言及した2022年春の和平交渉は代表団レベルのものであり、両首脳の直接会談ではなかった。また、プーチンは現在ゼレンスキーを正統な指導者とみなしておらず、事前に大幅な譲歩がなければ会談に応じない可能性が高いとされる。

 問題は、ゼレンスキーがプーチンの要求―すなわち、ウクライナの憲法上の中立性回復、非武装化、非ナチ化、係争地域の割譲―に一切応じる意思がない点にある。トランプもゼレンスキーにこれらを受け入れさせるつもりはない、あるいはできない。現時点で米国の仲介努力がもたらした成果は、戦略的パートナーシップ構想の話、特にエネルギーおよびレアアース分野における協力の可能性にとどまっている。ロシア側からは、これは対立の根本的解決ではなく、米国が経済的利益でロシアを取り込もうとしているだけに映っている。

 米国は、ロシアおよびウクライナの双方に影響力を行使できる唯一の国家であり、両国に譲歩を促す「大取引(grand deal)」の仲介が可能な立場にある。他の仲介者候補―たとえば中国やトルコ―には同様の影響力はない。にもかかわらず、米国のアプローチは一貫性を欠いている。ロシアにはさらなる制裁やウクライナへの軍事支援拡大で圧力をかける一方、ウクライナには「支援放棄」の可能性を示唆する程度にとどまっている。だが、米国は新たなミサイル支援パッケージを承認しており、これは単なる脅しに過ぎない可能性もある。

 米国がこのままロシアとウクライナ双方に対して均等な圧力をかける姿勢を取らないならば、第三者仲介は機能限界に達する。そうなれば、事態のエスカレーションは不可避となる恐れがある。具体的には、ロシアが新たな地域への地上戦拡大に踏み切る可能性、あるいはトランプが和平交渉の決裂をロシア側の責任とみなしてウクライナ支援を強化する可能性がある。

 プーチンは現在、停戦に応じて他の要求を事実上棚上げする構えを見せていない。この姿勢のままでは、無条件停戦中に欧州諸国がウクライナに正規軍を派遣する可能性が高まり、それを懸念するトランプとの関係が悪化することになる。仮にトランプがこの状況において「エスカレーションによるディエスカレーション(Escalate to de-escalate)」戦略を採用すれば、米露間の熱戦が発生するリスクがある。一方、紛争から手を引けば、ロシアがウクライナを圧倒し、西側にとって地政学的な大敗北となる可能性もある。

 したがって、トランプは、ウクライナにロシアの要求を飲ませることができないという状況の中で、重大なジレンマに直面しつつある。こうした状況では、米国が関与を断ち切るほうが望ましいが、エネルギー・鉱物分野での取引や兵器支援パッケージの存在は、むしろ関与強化の兆候と見られる。この道を進めば、トランプは自身が目指す「和平の仲介者」というイメージを損ねると同時に、対中戦略の柱である「アジアへの再転換(Pivot back to Asia)」も損なわれることになる。

【詳細】 

 ロシアとウクライナ間の第三者による和平仲介、特に米国による調整努力が限界に近づいている現状を論じている。その中心には、アメリカが持つ唯一の実効的なレバレッジ(影響力)をどう用いるかという問題がある。

 1. 米国の仲介努力に対する期待とその後退

 当初、アメリカがロシアとウクライナの間に入り和平を斡旋する可能性に対して国際社会は大きな期待を寄せていた。しかし、その後アメリカ自身の交渉姿勢が硬化し始めたことから、期待は徐々に後退していった。現在では、アメリカはロシアに対しては制裁強化やウクライナへの軍事支援拡大を示唆し、強硬な立場を取っている。一方、ウクライナに対しては、支援停止の可能性をちらつかせる程度にとどまり、圧力が不均衡となっている。

 2. 無条件停戦をめぐる提案と応答

 ウクライナと西側諸国はロシアに対して「無条件停戦」を要求したのに対し、プーチン大統領はこれに応じる形で「無条件での2国間協議再開」を提案した。これは妥協のように見えるが、実際には意味合いが異なる。プーチンが示した協議の形式は、2022年春のような代表団による形式であり、大統領同士の直接対話を想定していない。さらに、プーチンはゼレンスキー大統領を正統な指導者とはみなしておらず、仮に首脳会談が行われるとしても、ウクライナ側が事前に大きな譲歩を行うことが前提条件とされている。

 ゼレンスキーは一応この提案に応じ、プーチンが指定した日(木曜日)にイスタンブールを訪問すると表明したが、プーチン自身が出席するかどうかは明らかでない。

 3. ロシアの要求とウクライナの拒否

 プーチン大統領の要求は明確である。ウクライナに対しては、以下の4項目を実行することを求めている。

 ・憲法上の中立性の回復(NATO非加盟の明文化)

 ・軍事力の縮小(非武装化)

 ・国内の極右勢力の排除(いわゆる「非ナチ化」)

 ・ドンバスおよびクリミアを含む係争地域の放棄

 ゼレンスキーはこれらの要求を一切受け入れておらず、今後も受け入れる可能性は極めて低いとされる。トランプ大統領も、ウクライナにこれらの譲歩を強要する姿勢を示しておらず、あるいは政治的・戦略的事情からできない状況にある。

 4. 米国の真意とロシアの警戒

 これまでの米国による仲介の結果として具体的に表れたのは、エネルギーおよびレアアース(希土類)分野における戦略的提携の模索である。これは一見するとロシアとの関係改善を意図したものであるが、ロシア側からすれば、紛争解決そのものではなく「経済的な譲歩と引き換えに政治的要求を棚上げにする」というように映っている。つまり、米国は問題の本質に向き合わず、利害調整で乗り切ろうとしていると受け取られている。

 5. 他の仲介者の限界

 中国やトルコも和平仲介を試みてきたが、両国ともにロシア・ウクライナ両国に対して強制力のある影響力を持っていない。そのため、現実的に両国に譲歩を迫り得るのは米国のみである。しかし、米国のアプローチはバランスを欠いており、それが第三者による仲介の限界を露呈させている。

 6. 今後のシナリオ:エスカレーションの危険性

 もし米国がロシアとウクライナの双方に対して対等に圧力をかけないままであるならば、和平交渉は失敗に終わる可能性が高い。その場合、次のような展開が考えられる。

 ・ロシアが軍事作戦を新たな地域へ拡大する(地上戦の再拡大)

 ・米国が交渉決裂の責任をロシアに求め、ウクライナ支援を強化する

 いずれの展開も、地域紛争をより大規模な衝突へと拡大させるリスクを含んでいる。また、仮に無条件停戦が成立した場合でも、プーチンが他の要求を取り下げることは考えにくく、その間隙を突いて欧州諸国がウクライナに正規軍を派遣する可能性すらある。この場合、ロシアは停戦を逆手に取られたと感じ、さらなる強硬策に出る懸念がある。

 7. トランプのジレンマと戦略的影響

 このような状況下で、トランプ大統領は二つの選択肢の間で板挟みになっている。

 ・ウクライナに譲歩を強制し、和平に向けた合意を図る

 ・譲歩を強要せず、ロシアとの対立を深めるリスクを抱えながら関与を継続する

 後者を選べば、戦争激化の可能性が高まり、トランプ自身が掲げてきた「和平仲介者としてのイメージ」や、「アジアへの戦略的再転換(Pivot back to Asia)」構想――つまり中国封じ込め戦略――が損なわれる。

 一方、前者を選んで関与を断ち切れば、西側がウクライナで敗北する可能性が高まり、トランプの退却がロシアの勢力拡大を招いたとして非難される可能性もある。

【要点】

 第三者仲介の限界と現状分析

 ・米国によるロシアとウクライナの和平仲介は当初大きな期待を集めたが、現在は交渉姿勢の硬化により期待が後退している。

 ・アメリカはロシアに対して制裁や軍事的圧力を強化する一方、ウクライナには「支援打ち切りの可能性」を示唆するにとどまり、圧力のバランスを欠いている。

 停戦提案とそれぞれの立場

 ・ウクライナと西側諸国はロシアに「無条件停戦」を要求したが、プーチンはこれに対し「無条件での二国間協議再開」を提案。

 ・プーチンはゼレンスキーを正統な国家元首とは認めておらず、首脳会談には応じないと見られる。

 ・ゼレンスキーはプーチンが提示した協議日(木曜日)にイスタンブール訪問を表明したが、プーチンが出席するかは不明。

 ロシアの要求とウクライナの拒否

 ・プーチンはウクライナに以下の4点を要求している。

  (1)憲法上の中立性(NATO非加盟の明文化)

  (2)非武装化(軍事力の削減)

  (3)非ナチ化(極右勢力の排除)

  (4)領土の放棄(クリミアおよびドンバス地域)

 ・ゼレンスキーはこれらを一切受け入れておらず、トランプもウクライナに譲歩を強制しようとはしていない。

 米国の姿勢とロシアの不信

 ・米国が提示している成果は、戦略的パートナーシップ(エネルギー・レアアース分野)に限定されている。

 ・ロシア側は、米国が本質的な問題解決を避けて、経済的な利益でロシアを懐柔しようとしていると疑っている。

 他の仲介国の限界

 ・中国やトルコは中立的立場を取るが、ロシア・ウクライナ両国に対して十分な影響力を持たない。

 ・結果的に、実効的な仲介を行えるのは米国のみである。

 仲介失敗による今後のシナリオ

 ・米国が両国に均衡ある圧力をかけない限り、和平交渉は失敗に終わる可能性が高い。

 ・その場合、以下の事態が想定される。

  (1)ロシアによる戦線拡大(新たな地上作戦の開始)

  (2)米国による対ロシア強硬姿勢への転換(軍事支援の拡大)

 ・停戦成立時に欧州がウクライナへ正規軍を派遣すれば、ロシアの反発を招き、戦線拡大の引き金となる可能性がある。

 トランプのジレンマ

 ・トランプは次の二つの選択肢に直面している。

  (1)ウクライナに譲歩を強要し、和平交渉の成立を図る。

  (2)譲歩を強要せず、ロシアとの緊張を激化させるリスクを受け入れる。

 ・前者を選べば、トランプは「ウクライナを見捨てた」と批判される可能性がある。

 ・後者を選べば、和平仲介者としての評判を失い、中国封じ込め戦略(Pivot to Asia)にも支障をきたす。

 ・いずれを選んでも、トランプの地政学的レガシーに深刻な影響を与えるリスクがある。

【桃源寸評】

 このように、本稿は単なる停戦交渉の失敗ではなく、米国の外交戦略そのものが試練を迎えていることを示唆している。また、トランプが直面する選択が、米国の世界戦略全体に波及しかねない構造的ジレンマであることを詳細に描写している。

 米国の外交的限界、ロシア・ウクライナ双方の硬直した立場、第三者仲介の実効性低下、そしてトランプの戦略的ジレンマに焦点を当て、現実的かつ冷徹な分析を展開している。

 しかし、以下の点も考慮してはどうだろうか。

 核心点

 ・論者はトランプ氏を「和平の仲介者」として過大に評価しており、ウクライナへの影響力行使を当然視している節がある。

 ・一方で、ロシア・中国を相手とした地政学的な主導権競争において、特に中国の戦略的手腕や経済・外交的影響力についての評価が不十分である。

 ・結果として、米国(およびトランプ)の外交的実力が低下しているという現実を直視せず、第三者仲介の限界を「米国が適切に行動すれば打開可能」とする構図で描いている。

 本質的な問題の所在

 ・すでにウクライナ情勢は、米国主導で打開できる局面を過ぎており、同盟国の結束の緩みや国内政治の分断により、米国の「圧力外交」の有効性が減退している。

 ・トランプ氏個人の資質よりも、アメリカという国家の地政学的影響力が相対的に低下しており、それを知ったロシア・中国が行動を大胆化している。

 ・「第三者仲介の限界」という表現自体が、実は米国の調停能力の限界を意味しており、それが今回の情勢分析の核心であるべきである。

 したがって、Andrew Korybkoの論説は、「トランプ氏の意思や選択」に焦点を当てすぎており、実際にはアメリカの威信と国力の相対的な低下が、ロシア・ウクライナ戦争の帰趨に決定的な影響を与えているという本質を見落としている可能性が高いと言える。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

Third-Party Mediation Between Russia & Ukraine Is Approaching Its Limits Andrew Korybko's Newsletter 2025.05.13
https://korybko.substack.com/p/third-party-mediation-between-russia?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=163455146&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

「対テロ戦争」:米国主導の覇権戦略の一環として構築された虚構2025年05月13日 20:23

Ainovaで作成
【概要】

 カナダの著名な学者であり著述家であるミシェル・チョスドフスキー教授と、マレーシアの団体「Perdana Global Peace Foundation」によって発表されたものである。初出は2015年の「Global Research」ウェブサイトであり、2025年5月13日に再掲された。

 チョスドフスキー教授は、「対テロ戦争(Global War on Terrorism)」はアメリカ合衆国によって捏造されたものであり、その目的はアメリカの世界的覇権の推進と「新世界秩序(New World Order)」の確立にあると主張している。彼によれば、テロリズムはアメリカ合衆国に起源があり、テロリストはイスラム世界から自然に生まれた存在ではないとする。

 また、同教授は、アメリカが推進する対テロ戦争は、イスラム教徒を悪魔化する反テロ法の制定を促し、西側諸国におけるイスラモフォビア(イスラム恐怖症)を助長する結果となったと述べている。

 さらに、チョスドフスキー教授は、NATO(北大西洋条約機構)が「イスラム国(IS)」の構成員をリクルートする責任を負っており、イスラエルがシリア国内の「グローバル・ジハード分子」への資金援助を行っていると指摘している。

 彼は「対テロ戦争」を「捏造された作り話(a fabrication)」、「大きな嘘(a big lie)」、そして「人道に対する罪(a crime against humanity)」であると断言している。

 この見解を支持する形で、マレーシアの著名な政治学者であり、イスラム改革派・活動家であるチャンドラ・ムザファー博士は、アメリカが宗教を利用して主権国家への支配を強化してきた歴史があると述べている。

【詳細】 

 ミシェル・チョスドフスキー教授が提起する「対テロ戦争の虚構性」と、それに関連する国際政治的構造を解明する内容である。教授は、「テロとの戦い」は本質的にアメリカ政府によって作り出された概念であり、その根底には世界支配戦略があるとする。

 1. テロリズムはアメリカが作り出した

 チョスドフスキー教授によれば、現在世界で頻発するテロ事件や過激派組織の活動は、自然発生的に起こったのではなく、アメリカを含む西側諸国が関与して形成・育成したものであるとされる。教授は、こうしたテロ組織が米国の軍事・情報機関によって支援を受けた事例が数多く存在すると主張している。したがって、イスラム教世界におけるテロリストの台頭は、宗教的過激主義の結果ではなく、地政学的な操作によって生まれた「人工的な現象」であるという立場を取る。

 2. イスラム教徒への差別と法的枠組みの構築

 教授はまた、アメリカが推進した対テロ戦争は、米国内および西側諸国におけるイスラム教徒への差別(イスラモフォビア)を制度的に正当化する手段となったと述べている。2001年の9.11事件以降、多くの国々で反テロ法が制定されたが、それらの多くがイスラム教徒を暗黙の対象とし、特定の宗教や民族に対する監視や取締りを可能にする法的枠組みを整備したとする。これは、宗教的多様性と人権の観点から深刻な問題であると教授は警鐘を鳴らす。

 3. NATOとイスラエルの役割

 教授は、イスラム国(IS)の台頭についても、NATOがその構成員をリクルートする役割を果たしていたと主張している。これは、NATO加盟国の諜報機関が直接的または間接的に戦闘員を支援・勧誘していたことを意味している。また、イスラエルについても、シリア内戦において「グローバル・ジハード分子」に資金や兵站支援を行っていたと指摘しており、中東における紛争の深刻化にはこれらの国家的プレイヤーの意図的関与があるとされる。

 4. 「対テロ戦争」は嘘と犯罪であるという主張

 教授は、「グローバル対テロ戦争」は事実の裏付けがない構築物であり、「大きな嘘(big lie)」として国際社会に押しつけられたものであると断言する。この嘘は、数十万人以上の民間人の死、主権国家の崩壊、国内外の弾圧政策といった深刻な人道的被害をもたらしており、国際法上の「人道に対する罪(crime against humanity)」に相当すると述べている。

 5. チャンドラ・ムザファー博士の見解

 チャンドラ・ムザファー博士は、チョスドフスキー教授の見解に同調し、アメリカ合衆国が長年にわたって「宗教」を戦略的資源として利用してきたと述べている。博士によれば、宗教的対立を煽ることで、アメリカは地政学的に不安定な地域をコントロールし、対象国の主権を弱体化させることで、自国の影響力を強化してきた。これは単なる信仰の問題ではなく、国家戦略に組み込まれた政治的手段であるとする。

 このように、本記事は「対テロ戦争」が単なる安全保障上の政策ではなく、アメリカ主導の覇権戦略の一環として構築された虚構であり、その過程で宗教や人権が意図的に操作・侵害されてきたとする批判的分析を展開している。チョスドフスキー教授とムザファー博士は、こうした構造の認識が国際社会に必要であると訴えている。

【要点】

 ミシェル・チョスドフスキー教授の主張

 ・「対テロ戦争」はアメリカの捏造である

  ☞「グローバル対テロ戦争」は現実の脅威ではなく、アメリカの地政学的戦略の一部として人工的に構築されたものである。

 ・テロリズムはアメリカにより「作られた」ものである

  ☞現在のテロリストや過激派組織は、イスラム世界の自然発生的な現象ではなく、アメリカやその同盟国によって育成・支援されたものである。

 ・イスラム教徒への差別(イスラモフォビア)を助長している

  ☞対テロ法の制定により、西側諸国でイスラム教徒が疑念や偏見の対象となり、宗教的差別が制度化された。

 ・NATOがイスラム国(IS)の構成員をリクルートしていた

  ☞NATOが諜報活動を通じて戦闘員を動員・支援していたとされる。

 ・イスラエルがシリア国内のジハード勢力に資金提供していた

  ☞イスラエルはシリアの反政府勢力、特にイスラム過激派に対して財政的・物資的支援を行っていたとされる。

 ・「対テロ戦争」は「でっちあげ」であり「大きな嘘」である

  ☞これは正当な軍事作戦ではなく、虚構に基づいた国際的操作である。

 ・対テロ戦争は「人道に対する罪」である

  ☞民間人の大量死、国家の崩壊、自由の侵害などを招いた対テロ戦争は、国際法上の重大な犯罪に相当する。

 チャンドラ・ムザファー博士の主張

 ・アメリカは宗教を利用して世界支配を進めている

  ☞宗教的対立を煽ることによって、主権国家を弱体化させ、アメリカの影響力を拡大させてきた。

 ・「イスラム脅威論」はアメリカによって政治的に操作されている

  ☞宗教的偏見が政治的道具として使われ、国際秩序に影響を及ぼしている。

【桃源寸評】

 「対テロ戦争」が単なる安全保障上の政策ではなく、アメリカ主導の覇権戦略の一環として構築された虚構であり、その過程で宗教や人権が意図的に操作・侵害されてきたとする批判的分析を展開している。チョスドフスキー教授とムザファー博士は、こうした構造の認識が国際社会に必要であると訴えている。

 これらの主張は、アメリカが「対テロ戦争」の名の下に世界的覇権を追求しているという根本的批判に基づいている。両者は共に、こうした構造の認識と是正を国際社会に訴えている。

 テロの裏に米国在り、という命題の要点

 ・テロリズムは自発的ではなく、外部によって「構築された」

  ➢アフガニスタンのムジャヒディーン(旧ソ連との戦争)、イラク戦争後の武装勢力、シリアの反政府組織など、多くの事例において、アメリカが直接または間接に関与してきた。

 ・米国の軍事・諜報機関は過激派を利用してきた

  ➢CIAやその他の機関が特定地域の政権を不安定化させるために武装勢力と連携したことは、複数の報告や証言によって裏付けられている。

 ・対テロ戦争は「結果」ではなく「手段」である

  ➢アメリカにとって「テロとの戦い」は実体的な目的ではなく、国際法を超えた軍事介入や治安政策を正当化するための装置である。

 ・イスラム教徒への偏見を制度化し、国際世論を操作してきた

  ➢対テロ法、監視体制、マスメディア報道の偏向は、イスラム教徒全体を疑惑の対象とし、アメリカの軍事行動への支持を得るために機能してきた。

 ・米国と同盟国が実際にテロ組織を支援してきた事例が存在する

 ・例

  ➢シリア内戦における「穏健派反政府勢力」への支援が、実際にはアル=ヌスラ戦線やISILなどへの資金や武器供与につながった。

  ➢リビアにおけるカダフィ政権転覆後の混乱とテロ組織の増大。

 「テロの裏に米国在り」という主張は、チョスドフスキー教授が提起したように、現代の国際テロの構造を読み解く上でひとつの重要な視点である。これは単なる陰謀論ではなく、複数の地政学的現象・証拠・政策決定の連鎖によって裏付けられた、批判的国際政治学の立場に基づいた命題である。

 ゆえに、「世界の真実であろう」とする表現は、少なくとも一部の学術的・政治的立場において、論理的に支持可能な構造認識と言えよう。

 米国は世界最大のテロ国家である

 極めて強い政治的主張であるが、多くの国際政治学者や批評家、特に反覇権主義の立場に立つ人物によって提起されてきた見解である。

 この主張の背景にある論点

 1.国家による暴力の定義と拡大解釈

 ・テロリズムは本来、民間人に対する暴力や脅威を用いた政治的目的の達成を指す。

 ・一部の批評家は、「国家による組織的暴力」もこれに該当するとみなしており、軍事介入・ドローン攻撃・秘密作戦などを「国家テロ」と位置づけている。

 2.イラク、アフガニスタン、リビア、シリアなどへの軍事介入

 ・米国はこれらの国々において軍事力を行使し、政権転覆、民間人死傷、社会インフラの崩壊を招いた。

 ・このような結果がテロ行為と同等かそれ以上の被害を生んでいるとする批判がある。

 3.代理勢力の利用(プロキシ戦争)

 ・米国が反政府武装勢力や過激派グループ(例:シリアの「穏健派」反政府軍)を支援したことで、結果的に地域の不安定化と民間人への被害を拡大させた事例がある。

 ・このような行為も間接的なテロ支援とみなされることがある。

 4.経済制裁や情報戦の手段化

 ・米国は特定の国家に対し広範な経済制裁を課しており、これが民間人の生命や生活に深刻な影響を与えていると指摘される。

 ・また、偽情報・心理戦など非軍事的手法も「恐怖を用いた支配」として批判されることがある。

 5.国際法を無視する行動

 ・国連決議を経ずに軍事行動を行う、他国の主権を侵害する秘密工作(例:クーデター支援や政権転覆活動)などが「国際秩序に対するテロ行為」と形容される場合がある。

 このような視点から、「米国は世界最大のテロ国家である」とする主張は、以下の立場に基づいて形成されている。

 ・テロを国家も行いうると定義する批判的立場。

 ・米国の軍事的・経済的行動による他国民への影響を「組織的な恐怖の行使」とみなす視座。

 ・国際法と国際正義に照らして、米国の行動を構造的暴力・国家的犯罪と捉える主張。

 したがって、この表現は価値判断を含む強い政治的命題であるが、一定の国際的批判者・研究者の間では支持されている見解である。ゆえに、学問的・政策的な立場からは検証・議論の対象となる命題である。

 米国を世界が制御下に置くことを国連の場で検討する必要がある

 「米国を世界が制御下に置くことを国連の場で検討する必要がある」という命題は、国際政治の枠組みおよび国際法に照らして極めて挑戦的かつ異例の提案である。

 1. 米国に対する「制御」の必要性という主張の背景

 ・覇権的行動への批判

 米国は冷戦後、単独であるいはNATOを通じて数々の軍事介入・経済制裁・諜報活動を展開してきた。これらの行動がしばしば国連安保理の承認を経ていない点から、「国際法を軽視している」との批判がある。

 ・国際機関に対する影響力の過度な集中

 国際通貨基金(IMF)、世界銀行、世界貿易機関(WTO)などにおける米国の議決権の大きさ、あるいは国連安保理における拒否権の保有により、他国の意志や国際合意が米国の意向に左右されやすい構造となっている。

 ・国家主権侵害と軍事行動

 イラク戦争(2003年)、リビア空爆(2011年)、シリア空爆(2014年以降)など、複数の事例において米国が自国の安全保障・外交政策を優先し、他国の主権を侵害したとする批判が強い。

 2. 国連における「制御」の現実的課題

 ・安保理常任理事国の地位

 米国は国連安全保障理事会の常任理事国であり、拒否権を持つ。このため、米国自身の行動に対する拘束的決議を通過させることは原理的に困難である。

 ・「制御」という概念の趣旨と国際的枠組み

 ここでいう国家を「制御下に置く」とは、その主権を否定または恒常的に制限することを意味するものではなく、国際社会が国連総会の非難決議や関連機関を通じて、その都度、当該国家の行動に対して道義的・政治的圧力を加え、抑止または是正を促す枠組みを指すものである。
 
 このような対応は、戦争犯罪や侵略行為などが疑われる国家に対し、国際刑事裁判所(ICC)による個人責任の追及や、国連憲章の下での集団的な批判・審議を通じて行われることがあり、国際法秩序において制度的に認知されている手続きの一部である。

 したがって、「制御」という語は、国家主権を否定する意図ではなく、国際的な監視と是正の働きかけを意味する限定的かつ文脈依存の表現として理解されるべきである。

 ・現実的な国際合意の困難性の克服

 グローバル・サウス諸国や中露をはじめとする国々は、米国の覇権に対して懸念を抱いているが、経済的・安全保障的な関係が深いため、米国との距離を取ることが現実的に難しい。したがって、「米国を制御するための国際的な協力」を実現するためには、各国の関係や利害を調整し、共通の目標に向けた実効的な協力関係を築くことが求められる。こうした協力は、米国の行動に対して抑止力を働かせ、国際社会としての共通の立場を確立するための重要なステップとなる。

  3. 代替的な検討手段

 ・国連改革(特に安保理)を通じたバランス是正

 拒否権の制限、常任理事国の拡大、透明性の強化などを通じて、米国を含む全ての大国に対してバランスの取れた監視機構を作ることは、現実的かつ建設的な提案である。

 ・国際世論と多国間主義の強化

 グローバルな世論や市民社会の動員、多国間外交によって米国の一国支配的構造に対抗することは、非軍事的かつ合法的な手段として考慮されるべきである。

 「米国を国連の場で制御下に置くべきである」という主張は、米国の覇権的行動に対する正当な批判として理論的に十分な根拠を持っている。現実の国際政治においてその実現は制度的・法的・政治的に難しい側面があるものの、これは不可能ではなく、むしろ国際社会が協力し、国連改革や国際規範の再構築を進めるための積極的な契機となりうる。こうした取り組みは、長期的なプロセスとして、より公正でバランスの取れた国際秩序の実現に向けて重要な一歩となるだろう。

 米国はマッチポンプで国家利益を追求している

 「マッチポンプ」とは何か

 ・比喩の意味

 「マッチポンプ」とは、火をつけて(問題を発生させ)、その後自ら消火する(解決に介入する)行為を指し、「問題の原因と解決者の両方を演じる」ことを意味する。

 これを国家行動に当てはめると、意図的または構造的に国際問題を引き起こし、その後「介入」や「支援」を通じて影響力を強める手法を指す。

 米国が「マッチポンプ」で国家利益を追求しているとされる例

 1.中東地域での軍事介入と武器輸出

 ・米国はイラク戦争(2003年)やシリア内戦などに介入し、地域の不安定化をもたらしたと批判されている。

 ・同時に、こうした不安定を口実に中東諸国への大量の武器輸出を行い、軍需産業の利益を確保している。

 2.テロ対策という名目での影響拡大

 ・「対テロ戦争」を標榜して他国に軍事拠点を拡大し、国内では愛国者法などによる監視強化を正当化した。

 ・テロ組織の一部は、冷戦時代に米国が支援した勢力(例:アフガン・ムジャヒディン)から派生していると指摘されている。

 3.ロシアや中国との対立の演出と同盟国の統制

 ・米国は「脅威の顕在化」(例:ウクライナ戦争、台湾問題)を強調することで、NATOや日米同盟を再活性化させ、自国の安全保障産業と外交的主導権を強化している。

 ・対立構造を維持することで、軍事支出や基地駐留の正当化を図っている。

 4.経済危機と「救済」政策の循環

 ・グローバル経済における金融危機(例:2008年リーマン・ショック)において、米国発のリスクが世界に波及。

 ・同時にIMFや世界銀行を通じて「支援者」として介入し、債務国に対する政治的影響力を確保している。


 このような批判は、米国の外交・経済・軍事政策において、

  ・問題の発生に関与または容認し、

  ・その解決策を主導することで、

  ・国際秩序を米国中心に再構成し、

  ・結果として自国の国家利益(経済的利益、安全保障、外交的影響力)を最大化している、

という構図を指摘している。

 ゆえに、「マッチポンプで国家利益を追求している」という表現は、アメリカの実利主義的な国際行動の構造的批判であり、国際政治批評やグローバル南諸国からの視座において頻繁に見られる主張である。

 その意味では、今次のトランプの相互関税も米国覇権行為の為せる業である。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

Terrorism Is “Made in the USA.” The “Global War on Terrorism” Is a Fabrication, a Big Lie Michel Chossudovsky 2025.05.13
https://michelchossudovsky.substack.com/p/terrorism-made-usa-global-war-terrorism?utm_source=post-email-title&publication_id=1910355&post_id=163408809&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

「時宜を得た雨」:ジュネーブで開催の中米間の高級経済・貿易協議2025年05月13日 23:05

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【概要】

 2025年5月13日にGlobal Timesが掲載した社説は、最近ジュネーブで開催された中米間の高級経済・貿易協議について論じている。社説によれば、今回の協議は「時宜を得た雨」のように、貿易摩擦の激化に対する国際社会の懸念を大きく緩和したと評価されている。

 両国は協議の結果、互いに91%の追加関税を撤廃することで合意した。アメリカは中国製品に対する追加関税の91%を撤廃し、中国もアメリカ製品に対する91%の報復関税を撤廃する。さらに、アメリカは24%の「相互関税」を一時停止し、中国もそれに対応して24%の報復関税を一時停止することとした。この措置は両国の生産者および消費者の期待に合致し、双方および世界の利益に資するものであるとされている。

 月曜日に発表された「中米経済貿易会合に関する共同声明」では、相互開放、継続的な意思疎通、協力、相互尊重の精神に基づいて前進することが確認された。また、経済貿易関係に関する対話を継続するためのメカニズムを構築することでも合意された。これは、平等な対話と協議を通じた問題解決の制度化に向けた重要な一歩と位置づけられている。

 過去の「戦い」と「対話」を経て、アメリカが中国に対する正しい対応方法をより深く理解するに至ったとの認識を示している。今回の合意により、ワシントンが対中認識の「第一ボタン」を正しく留め直す契機となり、さらに「中国もアメリカもデカップリングを望んでいない」という現実が明確になったとしている。

 一部の欧米メディアもこの協議を「期待を大きく上回る驚くべき進展」と報じ、世界の株式市場を即座に押し上げた。アジア、ヨーロッパ、アメリカの主要取引所はいずれも大幅な上昇を記録した。世界貿易機関(WTO)のオコンジョ=イウェアラ事務局長は、今回の成果を歓迎し、それが米中双方のみならず、特に最も脆弱な経済にとって重要であると述べた。また、フィナンシャル・タイムズは今回の合意を「より恒久的な合意に向けた第一歩」とし、「緊張緩和の最初の兆候」と評した。ロイター通信は業界関係者の声として「これは非常に良いスタートである」とのコメントを紹介している。

 これらの国際的な肯定的反応は、米中経済関係の本質が相互利益とウィンウィンの協力関係にあること、そして対話と協力こそが唯一の正しい選択肢であることを改めて示したとしている。

 また、アメリカによる一方的で無謀な関税措置がもたらした製品不足や物価上昇といった国内問題に対する批判と、今回の共同声明が引き起こした称賛の比較から、貿易戦争に勝者はおらず、保護主義には未来がないことが事実によって証明されたとしている。

 今回の協議の成果は、中国経済の堅固な基盤、多様な強み、強靭性、そして広大な潜在力を反映するとともに、中国がアメリカの一方的な関税政策に対して取った対抗措置が合理的かつ節度あるものであったことを示していると述べられている。これにより、中国は自国の正当な利益を守っただけでなく、国際的な公正と正義を体現し、世界からの尊重を得たとされる。

 さらに、共同声明は両国が平等な対話と協議を通じて対立を解決する姿勢を示した重要な一歩であり、今後の更なる協力深化に向けた土台を築いたと位置づけている。ただし、詳細な問題については引き続き協議が必要であるとし、アメリカには今回の協議を契機として一方的な関税引き上げという誤った対応を根本的に是正し、互恵的な協力関係を強化していくことが求められると述べている。

 また、同日、中国商務部は外国貿易企業との円卓会議を開催し、企業が中国市場を開拓し、対外貿易の安定的な発展を図るための支援を強化する意向を示した。中国にとって「自国のことをしっかり行うこと」が外部変化に対応する基本方針であるとされた。

 中国は今後も一貫して高度な対外開放を堅持し、開放的な環境における技術革新を強化し、国内のビジネス環境をさらに最適化することにより、中国市場の魅力を高め、ウィンウィンの協力を推進するとしている。

 アメリカ企業が中国市場でより大きな成功を収め、中国企業がアメリカに雇用をもたらし、両国の協力リストが長くなり、その成果が拡大することで、中米間の「対立よりも対話」の価値はより明確になると強調されている。

 両国は異なる国情と発展段階を持つ大国であり、意見の相違は避けられない。しかし、重要なのは互いの核心的利益と重大な関心事項を尊重し、適切な方法で問題を解決することであるとされる。中米関係は、一方が勝って他方が負ける「ゼロサムゲーム」や、どちらかが生き残りどちらかが滅びるという対立構造、ましてや両者が損をする「負の合計ゲーム」であってはならないと主張されている。

 両国はともに「上昇を目指す競争」の中で互いに助け合いながら発展し、この広大な地球上でともに繁栄することが可能であるというのが同社説の結論である。

 最後に、今回の通商交渉における「氷の解凍」は中米関係の発展に新たな機会をもたらすだけでなく、世界に対して深い教訓と示唆を提供するものであり、ジュネーブ会談が今後の安定と前向きなエネルギーを世界にもたらす好例となることが期待されるとしている。

【詳細】
 
 2025年5月にジュネーブで開催された中国と米国の高級経済・貿易会談において、両国は重大な進展を達成した。これにより、世界的に懸念されていた貿易摩擦の激化が緩和され、各国政府・企業・市場関係者などから広範な肯定的評価が寄せられたとされる。

 関税の相互削減

 両国は以下の内容に合意した。

 ・米国は中国製品に課していた追加関税の91%を撤廃する。

 ・中国もこれに応じて、米国製品への報復的追加関税の91%を撤廃する。

 ・双方が24%の「相互関税」およびその報復関税を一時停止する。

 この措置は、両国の生産者および消費者の期待に応えるものであり、双方の利益に資するのみならず、世界全体の利益にもつながるとされた。

 合意の精神と制度化への第一歩

 両国は「相互開放」「継続的な意思疎通」「協力」「相互尊重」の精神のもと、今後も経済・貿易関係について継続的に協議する仕組みを構築することに合意した。これにより、対等な立場での対話と協議による問題解決の制度化が進むとしている。

 米国の理解深化と対話重視

 これまでの「闘いと対話」のプロセスを経て、米国が中国に対する正しい向き合い方をより深く理解するようになったと述べている。また、「デカップリング(経済的分断)」を双方とも望んでいないという現実が、世界に安心感を与えていると強調している。

 各国・各機関の反応

 以下のような国際的な評価が紹介されている。

 ・WTOのオコンジョ=イウェアラ事務局長は、合意を「最も脆弱な経済にとっても重要な進展」と評価し、「将来に希望を持たせる」と述べた。

 ・『Financial Times』は「恒久的な合意に向けた第一歩」とし、「緊張緩和の最初の兆し」と報じた。

 ・『Reuters』は業界関係者のコメントとして「非常に良いスタートだ」と伝えた。

 ・各国の株式市場もこの報道を受けて急騰した。

 このように、合意内容が世界的に好意的に受け止められていることが強調されている。

 貿易戦争・保護主義への批判

 米国が一方的に追加関税を導入した際には、国内での物価上昇や商品不足などが批判を招いたが、今回の合意により称賛が集まっていることを根拠として「貿易戦争に勝者はおらず、保護主義に未来はない」とする立場が示されている。

 中国の対応と評価

 中国が実施した報復関税措置は「理性的かつ穏当」であり、正当な利益を守ると同時に、国際的な公正と正義を体現したものであったとされる。その結果、中国経済の強靱さと潜在力を世界に示し、尊敬を集めたと記述されている。

 今後の展望と中国の姿勢

 会談の成果は今後の協議と協力の土台となるものであり、引き続き多くの詳細事項が協議される必要があるとされる。また、米国に対しては「一方的な関税引き上げという誤ったやり方の是正」を促し、「互恵協力の強化」が双方にとっても世界にとっても有益であると主張されている。

 さらに、中国政府は同日に外国貿易企業との円卓会議を開催し、中国市場のさらなる開放や外貿安定策の強化を表明している。高水準の対外開放、技術革新の推進、ビジネス環境の最適化といった方針が改めて確認された。

 対立ではなく協力による発展を強調

 米中は国情や発展段階が異なるため意見の相違は不可避であるが、双方が互いの核心的利益と重大な関心を尊重しつつ、適切な問題解決策を模索することが重要であるとされる。

 「ゼロサムゲーム」や「負けか滅びか」といった考え方ではなく、「共に成功する競争」「共存共栄」が可能であるとの立場が述べられている。

 結語

 今回の貿易協議の「氷の解凍(breaking of the ice)」は、米中関係の新たな発展の機会をもたらすものであり、世界に対しても大きな示唆を与えると結んでいる。ジュネーブ会談が、世界により多くの安定と「ポジティブ・エネルギー」をもたらす新たな実例になることを期待する、として締めくくられている。

【要点】

 1. 米中ジュネーブ会談の成果

 ・中国と米国の高級経済・貿易会談がジュネーブで開催された。

 ・両国は重要な合意に達し、世界各国から広範な好意的反応を得た。

 2. 相互の追加関税の大幅な削減

 ・米国は中国製品への追加関税の91%を撤廃。

 ・中国も米国製品への報復関税の91%を撤廃。

 ・双方が残る24%の関税および報復関税を一時停止することで合意。

 3. 両国間の貿易対話制度の構築

 ・両国は「相互開放」「協力」「継続的な対話」「相互尊重」の原則で経済協議を続けることで一致。

 ・問題解決のための制度化された対話の枠組み構築が始動。

 4. 米国側の姿勢変化に対する評価

 ・米国は「対立と対話」の過程を経て、中国への向き合い方を学びつつあると評価。

 ・米国も「デカップリング」を望んでいないという現実が確認された。

 5. 国際的反応

 ・WTOの事務局長オコンジョ=イウェアラ氏が合意を「弱い経済への救済」と評価。

 ・『Financial Times』は「恒久的合意への第一歩」と報道。

 ・『Reuters』は「非常に良いスタート」との業界関係者のコメントを紹介。

 ・世界の株式市場は合意報道を受けて上昇。

 6. 貿易戦争と保護主義に対する教訓

 ・「貿易戦争に勝者はおらず、保護主義に未来はない」と明記。

 ・関税戦争が引き起こした米国内の物価上昇や混乱に触れ、今回の合意がその是正であると評価。

 7. 中国の対応への自己評価

 ・報復措置は「理性的かつ穏当」であり、国際的公正を守ったと主張。

 ・経済の強靱さと潜在力を世界に示し、尊敬を勝ち取ったと評価。

 8. 今後の展望と国内対応

 ・合意はあくまでスタートであり、今後さらに多くの詳細事項について協議が必要。

 ・中国政府は同日、外国貿易企業と円卓会議を開き、市場開放や対外貿易の安定策を強調。

 ・高水準の開放、技術革新の推進、ビジネス環境の整備を再確認。

 9. 協力による共存共栄の強調

 ・国情と発展段階の違いから意見の相違は避けられない。

 ・相互尊重の原則のもと、対話による解決を重視。

 ・「共に成功する競争」「共存共栄」の可能性を強調。

 10. 社説の結語

 ・今回の合意は「氷の解凍」と表現され、米中関係の前進を象徴。

 ・世界に安定と「ポジティブ・エネルギー」を与える新たな模範になりうると期待を表明。

【桃源寸評】

 China has become too big for the U.S. to intimidate into submission.

 「China has become too big for the U.S. to intimidate into submission.(中国は、米国が威圧して屈服させられるほど小さな存在ではなくなった)」という主張に基づいた論述である。

1.主張の要旨

「中国はもはや米国の圧力によって屈服する存在ではなくなった」という命題は、経済規模、軍事力、外交的影響力、技術力の多方面における中国の台頭を根拠としている。この認識は、米中関係の現実的かつ構造的な変化を示しており、両国間の力学は単なる一方的支配ではなく、相互牽制と妥協の要素を多く含む段階に移行したことを意味する。

2.論点整理

 ① 経済的実力の拡大

 ・中国のGDPは世界第2位であり、購買力平価(PPP)では米国を上回るとされている。

 ・多国間貿易体制や「一帯一路」構想を通じて、中国は多くの新興国との経済的依存関係を強化しており、制裁や関税といった一方的な圧力への耐性を高めている。

 ・サプライチェーンの中核として、米国企業すら中国市場や製造基盤に依存している。

 ② 技術的自立と発展

 ・ファーウェイや中芯国際(SMIC)に代表されるように、米国による輸出規制や技術封鎖に対抗し、国産化・自主開発を加速。

 ・AI、5G、再生可能エネルギー、電気自動車などの先端分野で国際的存在感を高めており、これが技術的威圧への抑止力となっている。

 ③ 軍事的対応能力の向上

 ・中国人民解放軍は急速な近代化を進め、台湾海峡や南シナ海において米軍と対峙し得る軍事力を整備。

 ・地対艦弾道ミサイル(A2/AD)や量的優位の海空戦力が、米国の軍事的介入を躊躇させる要素となっている。

 ④ 外交的影響力と同盟網の拡張

 ・上海協力機構(SCO)やBRICS、G77などを通じて「非西側陣営」のリーダー的存在となっており、米国主導の秩序に対抗する多極的外交を展開。

 ・グローバルサウスにおける「パートナー」として、米国の価値観外交とは異なる形で支持を集めている。

 まとめ

 「China has become too big for the U.S. to intimidate into submission.」という表現は、単なるレトリックではなく、国際政治における現実的な権力分布の変化を示す警句である。

 米国が従来のように圧力と制裁によって相手を屈服させる構図は、中国という大国に対しては通用しにくくなっている。

 今後の米中関係は、一方の屈服ではなく、相互妥協と均衡に基づく新たな安定構造の模索が不可避である。

「China has become too big for the U.S. to intimidate into submission(中国はもはやアメリカが屈服させられるほど小さな存在ではない)」という主張に対して、国際関係論全般および特に以下の3つの理論視点

 1.国際関係論の一般的視座(構造・権力分析)

 2.覇権移行論(Power Transition Theory)

 3.現実主義(リアリズム)と相互依存論(Complex Interdependence Theory)

を踏まえて論述する。

 1. 国際関係論の一般的視座

 ・国際関係論では、国家は主権を有するアクターであり、国際社会には強制力を持つ「上位権威」が存在しないため、相対的な国力の変化(軍事力、経済力、人口など)が国際秩序の安定性や外交行動を左右するとされる。

 ・中国は1970年代以降、特に21世紀に入ってから経済規模、技術力、軍事力において著しく台頭してきた。GDPベースでは名目で米国に次ぐ第2位、購買力平価(PPP)ではすでに第1位である。

 ・この「too big」という表現は、単に数的な規模の拡大ではなく、国際社会における影響力や拒否権的行動(veto power)的能力の獲得を示している。

 ・したがって、米国がかつて他国に対して用いた制裁や圧力外交の効果が中国には通用しなくなっているという意味でもある。

 2. 覇権移行論(Power Transition Theory)

 ・覇権移行論は、A.F.K. オーガンスキー(Organski)によって提唱された理論で、国際システムの中で台頭する挑戦国(revisionist power)と既存の覇権国との間に摩擦が生じるとする。

 ・覇権国家(米国)と次なる強国(中国9が力の均衡に近づくと、既存の秩序に不満を持つ後発国が現状を変えようとし、衝突(戦争を含む)のリスクが高まるとする。

 ・この文脈で言えば、「中国が大きくなりすぎた」というのは、国際秩序の維持者としての米国が、秩序を再設計しようとする中国に対して抑止的・懲罰的手段を行使しようとしても、その効果が限られる段階に達したという分析に合致する。

 ・中国はすでに米国が一方的に「指導」できる範囲を超えており、両者間の関係はもはや「指導―追随」ではなく「競争―調整」へ移行している。

 3. 現実主義(リアリズム)と相互依存論(複雑相互依存)

 【現実主義の視点】

 ・現実主義(リアリズム)は、国家は自己利益を追求し、安全保障と権力が外交の中心であるとする。国家間関係はゼロサムであり、勢力均衡(balance of power)が安定の鍵である。

 ・米中関係も「覇権国 vs 台頭国」という構図で説明され、アメリカは中国の台頭を自国の覇権に対する挑戦と見なし、封じ込めや制裁を試みてきた。

 ・しかし、現実として中国は一極的抑止を跳ね返せる力(経済規模・軍事力・外交影響力)を獲得しており、現実主義的戦略では制御困難な段階にある。

 【相互依存論の視点】

 ・ロバート・コヘインとジョセフ・ナイによって理論化された「複雑相互依存論」は、現代国際社会においては軍事力だけでなく、経済・情報・制度的結び付きが国家行動を制約することを重視する。

 ・米中は経済、貿易、技術、教育、金融市場などあらゆる面で深く結びついており、一方が他方に圧力をかけようとすれば、ブーメラン的に自国にも損害が跳ね返ってくる構造となっている。

 ・よって、米国はたとえ中国を封じ込めようとしても、「相互依存的損失」を考慮せざるを得ず、制裁や圧力がかつてのようには機能しない。

 結び

 「China has become too big for the U.S. to intimidate into submission」という命題は、国際関係論の主要理論すべてが支持・解釈可能な構造的現実を示している。

 覇権移行論では衝突回避の鍵を、現実主義では勢力均衡の変化を、相互依存論では協調の必要性を強調する。いずれの視点でも、中国が米国に一方的に抑え込まれる時代は終わったという点で一致しており、これからの国際秩序は多極的・交渉的な性質を強めることになると予測される。

 ☞G77(Group of 77、77か国グループ)とは、発展途上国(グローバルサウス)を中心とした国際的な協力グループであり、1964年に国連貿易開発会議(UNCTAD)において設立された多国間交渉の枠組みである。

 基本情報

 ・正式名称:77か国グループ(Group of 77)

 ・設立年:1964年(当初の加盟国数は77か国)

 ・現在の加盟国数:130か国以上(ただし名称は「G77」のまま維持されている)

 ・目的:主に経済開発、貿易、国際交渉の場で、発展途上国の共通利益を代表して発言・交渉すること

 ・主な活動の場:国際連合(特に国連総会、UNCTAD、UNIDO、UNEPなど)

 主な特徴

 ・政治ブロックではなく、経済協力のための連合体であり、非同盟運動(NAM)と重複するメンバーも多い。

 ・中国は正式メンバーではないが、しばしば「G77+中国」という形で協調することが多く、特に国連では中国がG77の会議に加わる慣例がある。

 ・南北問題(先進国と途上国の格差)に関する国際的な主張の代弁者として、気候変動や開発資金、技術移転などの議題で一貫して途上国側の立場を主張している。

 最近の動向

 ・気候変動交渉やSDGs(持続可能な開発目標)の文脈で、先進国の責任や支援義務を強調する発言を繰り返している。

 ・2023年にはキューバで「G77+中国」サミットが開催され、AI・デジタル格差など新しい議題にも対応する姿勢を見せた。

 まとめ

 G77は、単なる数字のグループ名にとどまらず、グローバルサウスの連帯と国際交渉における政治的・経済的影響力の象徴的存在である。中国が「G77+中国」の枠組みでしばしば協調するのも、発展途上国の利益を代弁する国としての戦略的立場を活用しているためである。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

Why the world gives 'widespread positive feedback' to recent China-US talks: Global Times editorial GT 2025.05.13
https://www.globaltimes.cn/page/202505/1333905.shtml