トランプの息切れ ― 2025年05月17日 20:55
【概要】
2025年5月16日(金)、約3年ぶりとなるロシアとウクライナの二国間会談がイスタンブールにて実施された。この会談は、前週にプーチン大統領が提案した内容に対して、ゼレンスキー大統領が、恐らくトランプ米大統領の圧力のもとで同意したことで実現したものである。結果として、ウクライナ側が求めていた無条件の30日間の停戦も、ロシア側が要求していた係争地域からの全面撤退も実現には至らなかった。ただし、両国は捕虜交換と将来的な再会談の実施に合意した。従って、本会談が無意味であったとは言えない。
最も重要な点は、ロシアとウクライナが、これまでの米国による仲介が成果を上げていない状況に業を煮やしているとみられるトランプ大統領に対し、和平への関心を示すことができたという事実である。今後の米国関与の方針を決定する前に、トランプ大統領はプーチン大統領との会談を実施する可能性が高く、最低限電話で、理想的には対面での会談が数週間以内に行われる見通しである。
現在、ロシアとウクライナの立場は折り合いがつかないことが明らかになっており、米国の選択が次の局面を左右することになる。米国が関与を深めてウクライナを支援し続けなければ、ロシアは軍事的手段により最大目標を達成する可能性が高まる。唯一現実的な妥協案は、米国がウクライナに対し、係争地域の一部または全部からの撤退を強制し、それと引き換えにロシアが無条件の30日間の停戦に応じるという形である。
しかし、トランプ大統領が今年に入ってホワイトハウスに復帰してからの3か月間、米国はこのような圧力を試みていない。そのため、今後の動向は不透明である。トランプ大統領は一方でロシアに対し「壊滅的」な制裁を警告しつつ、他方でウクライナ支援に投じた数十億ドルを「無駄遣い」と批判しており、彼自身が未だ明確な方針を固めていないと考えられる。
「エスカレーションによるデエスカレーション」は、財政的・戦略的に多大なコストを伴う。その戦略的側面には、中国封じ込めを目的とする「アジア回帰(再回帰)」の実現が含まれ、最悪の場合は第三次世界大戦の勃発リスクすらはらんでいる。一方、関与放棄を選べば、欧米側にとって近年最大級の地政学的敗北を被ることになる可能性がある。
その中間案として考えられるのが、ロシアのエネルギー顧客に対する二次制裁を厳格に実施することである。具体的には、中国に対しては、最近発表された「完全な関係リセット」後の善意の表れとしてロシア産エネルギー輸入の削減を求め、インドに対しては、米国との関係維持を希望するのであれば制裁協力を示すよう促す。しかし、両国が協力を拒否するか、あるいは密かにロシアからのエネルギー輸入を継続する可能性も否定できず、その場合、米国は見て見ぬふりをするか、関係悪化を覚悟の上で制裁を実行する必要に迫られる。
このような複合的シナリオでは、トランプ大統領がゼレンスキー大統領に対してドンバスからの撤退を拒否すれば米国は関与を断つと警告し、同時にプーチン大統領には、ウクライナが撤退に同意した場合には30日間の停戦を受け入れなければ厳しい二次制裁を科すと警告する可能性がある。そのうえで、習近平国家主席およびモディ首相に電話をかけ、計画を伝達し、プーチン大統領の説得に協力するよう求めると考えられる。この案は米国にとって最も現実的かつ実現可能な提案であり、突破口となる可能性を秘めている。
【詳細】
会談の背景と結果
2025年5月16日、ロシアとウクライナの間で約3年ぶりとなる直接の二国間会談がトルコ・イスタンブールで開催された。これは、前週にロシアのプーチン大統領が提案した和平交渉に対し、ウクライナのゼレンスキー大統領が応じたことによって実現したものである。ただし、ゼレンスキー大統領が交渉に応じた理由としては、トランプ米大統領からの圧力が作用した可能性が指摘されている。
会談において、ウクライナは無条件の30日間停戦を要求し、ロシアは係争地域(主にドンバスおよびクリミア地域を指す)からの全面撤退を要求したが、いずれも受け入れられなかった。したがって、核心的な争点では妥結に至らなかったものの、捕虜交換に合意し、今後再び会談を開くことにも合意がなされた。このことから、今回の会談が完全に無意味であったとは言えない。
トランプ大統領へのメッセージと米国の立ち位置
本会談で最も重要な点は、ロシアとウクライナが共に、和平交渉に対する姿勢を米国に明確に示したという事実である。特にトランプ大統領は、2025年1月の大統領就任以来、米国の仲介努力が効果を上げていないことに対する不満を強めており、状況打開に向けた決定的な一手を模索しているとされる。
今後の米国の関与の方向性を決定する前に、トランプ大統領はロシア側の立場をより明確に把握するため、プーチン大統領と電話もしくは対面での会談を行う可能性が高い。すなわち、現在「ボールはトランプの側にある(the ball’s in Trump’s court)」状態であり、彼の判断次第で戦争継続か和平交渉かが左右されるという構図が明確となった。
今後のシナリオとトランプ政権のジレンマ
ロシアとウクライナの立場が依然として妥協不能なほど乖離している以上、今後の展開は米国の決定に大きく依存する。選択肢はおおまかに以下の3通りに分かれる:
1.ロシアが軍事的手段によって目標を達成し続ける展開
・米国がこの動きを放置すれば、ロシアは占領地の維持・拡大を目指すだろう。
2.米国がウクライナ支援を強化する展開
・軍事・財政的支援を再強化することで、ロシアの前進を阻止する方針。
3.ウクライナに領土放棄を強制し、見返りとしてロシアに停戦を要求する妥協案
・唯一現実的な妥協シナリオであり、停戦実現の可能性を残す。
しかし、トランプ政権は今年初めに政権復帰して以来、ウクライナに対する「領土譲歩を伴う停戦合意」を実現するための圧力を実質的には行っておらず、依然として曖昧な態度を維持している。このため、米国の方針は確定しておらず、トランプ大統領自身も進むべき道を決めかねているとの見方が強い。
「エスカレートしてデエスカレートする」政策とそのリスク
トランプ政権が取る可能性のある戦略の一つとして、「エスカレーションによるデエスカレーション(escalating to de-escalate)」がある。これは、一時的に軍事・経済的圧力を強めることで相手国(この場合はロシア)に妥協を促し、最終的に衝突を避けるという手法である。
しかし、この戦略は非常に大きなコストを伴う。第一に、財政負担である。第二に、戦略的リスクとして、「対中国戦略」(いわゆる「アジア回帰」)を犠牲にする可能性がある。また、最悪の場合、ロシアとの軍事衝突が拡大し、世界大戦に発展する懸念も払拭できない。
その一方で、ウクライナ支援を放棄する決断も容易ではない。仮にそのような選択を取れば、欧米が長年築いてきた対ロシア封じ込め政策が崩れ、地政学的敗北として歴史に残る可能性がある。
中間案としての「二次制裁」の活用とその課題
このような極端な選択肢の中間に位置する現実的な戦略として、米国が「ロシアのエネルギー顧客に対する厳格な二次制裁」を発動するという案がある。具体的には、ロシア産エネルギーを多量に輸入している中国とインドに圧力をかけ、その取引を停止または大幅削減させることが狙いである。
・中国に対しては:トランプ大統領が最近発表した「米中関係の全面的リセット」の一環として、ロシアとのエネルギー取引縮小を「善意の証」として期待。
・インドに対しては:米国がパキスタンへの接近を進める中、インドに対して「関係維持のために協力を示せ」という間接的圧力となる。
しかし、これらの国々が米国の要求に応じる保証はなく、むしろ表面上は協力姿勢を見せつつ、裏ではロシアとの取引を継続する可能性もある。その場合、米国は「見て見ぬふり」をするか、それとも本当に制裁を発動して関係悪化を覚悟するかという選択を迫られる。
最も現実的な打開案と外交的駆け引き
これらの選択肢を組み合わせた現実的なシナリオとして、トランプ大統領は以下のような外交的駆け引きを行う可能性がある。
1.ウクライナに対して:ドンバス地域から撤退しない場合、米国は支援を打ち切ると通告。
2.ロシアに対して:ウクライナが撤退すれば、無条件の30日間停戦を受け入れなければならない、さもなくばエネルギー輸出先への二次制裁を実施。
3.中国・インドに対して:プーチン大統領に停戦受諾を促すよう協力を求める。
このような案は、軍事衝突を回避しつつ、一定の地政学的成果を得るという意味で、米国にとって最も「実利的」な外交方針である可能性がある。そして、これが成功すれば、停戦交渉の大きな突破口となるだろう。
【要点】
1.会談の概要と背景
・2025年5月16日、ロシアとウクライナがイスタンブールで約3年ぶりの二国間会談を実施。
・会談は、プーチン大統領による提案をゼレンスキー大統領が受け入れたことで実現。
・ゼレンスキーの同意には、トランプ米大統領からの圧力があった可能性がある。
2.会談の成果と限界
・ウクライナ側の主張:無条件の30日間停戦を要求。
・ロシア側の主張:ウクライナによる係争地域(例:ドンバスやクリミア)からの全面撤退を要求。
・いずれの主張も通らなかったが、以下の点で合意:
⇨捕虜交換の実施。
⇨将来的な再会談の実施。
・会談は完全な失敗ではなく、外交継続の意思を示した形。
3.トランプ大統領の立場と影響力
・両国は、和平への意志をトランプに示すことで、米国の関与継続を促す意図がある。
・トランプは、今後プーチンと電話または対面での会談を行う可能性が高い。
・現時点で米国の次の一手がカギを握っており、「ボールはトランプの側にある」状態。
4.想定される三つの主要シナリオ
・ロシアによる軍事的進展の継続
⇨米国が関与を控える場合、ロシアが戦場で最大目標を追求。
・米国によるウクライナ支援の強化
⇨ロシアの軍事的成功を防ぐために支援継続または増強。
・妥協案としての領土放棄+停戦取引
⇨米国がウクライナに係争地撤退を強制し、代わりにロシアに停戦を要求。
5.現状の不透明さとトランプの迷い
・トランプは就任から3か月間、上記のような強制的外交措置を実施していない。
・ロシアに対して「壊滅的制裁」を示唆する一方で、ウクライナ支援を「無駄遣い」と批判。
・現段階では、トランプ自身が進むべき方針を決定していないと見られる。
6.「エスカレートしてデエスカレートする」戦略のコスト
・この戦略は短期的圧力で譲歩を引き出すものであるが、重大なリスクを伴う:
⇨膨大な財政負担。
⇨対中国政策(「アジア回帰」)の遅延または放棄。
⇨米露衝突がエスカレートし、最悪の場合は第三次世界大戦の可能性。
5.現実的な中間案:二次制裁戦略
・米国が、ロシアの主要エネルギー顧客(中国・インド)に圧力をかけ、輸入縮小を狙う。
⇨中国:米中関係改善の「善意の証」として圧力を期待。
⇨インド:米国との良好関係を維持するための「協力度」試験。
・ただし、両国が協力を拒否するか、裏で継続輸入する可能性もあり。
・その場合、米国は:
⇨見て見ぬふりをするか、
⇨両国に制裁を科して関係を悪化させるか、いずれかを選ぶ必要がある。
6.最も現実的な打開策(複合型外交シナリオ)
・ゼレンスキーに対して:ドンバスからの撤退を拒めば米国が支援打ち切りと通告。
・プーチンに対して:ウクライナが撤退すれば、無条件30日停戦を受け入れなければ二次制裁を科すと警告。
・中国・インドに対して:プーチンに停戦を受け入れるよう説得することを要請。
・このシナリオは、軍事衝突を避けつつ米国の面子と戦略的利益を保つという意味で最も現実的。
・停戦の突破口となる可能性がある。
【桃源寸評】
1.トランプ外交の「どじ」の構造
(1)ゼレンスキーとのワシントン会談が最初の躓き
・ゼレンスキーとの首脳会談が、政権復帰後のウクライナ政策の出発点となった。
・その場でトランプが強い圧力をかけるでも、明確な支持を示すでもなく、あいまいな態度を取ったことが、以降の混乱の「ボタンの掛け違い」となった可能性がある。
(2)一貫性のないメッセージ
・ロシアに対しては「壊滅的制裁」を口にする一方で、ウクライナ支援は「金の無駄」と公言。
・こうした相矛盾する発言が、当事者国にとって信頼性を欠いた「騒がしいが中身のない」外交と映る。
(3)戦略の欠如
・軍事的介入・制裁・外交交渉などの選択肢の中で、どれにもはっきりと舵を切らず、場当たり的に振る舞っているように見える。
・トルコの和平会談にしても、当初の戦略的目標(停戦、緊張緩和、支出削減など)が何であったのかが不明確である。
2.「どじを踏む外交」とされる理由
・目的と手段の乖離:和平を目指すと言いながら、具体的な圧力手段を発動せず、結果として関係国に中途半端な期待や誤解を与えている。
・「最大限の圧力」か「撤退」かの中間戦略が曖昧:二次制裁などの実効性ある措置にも踏み込まず、決断を先送りしているように見える。
・国際社会への影響力低下:同盟国・友好国に対しても、協調姿勢を欠いた独善的な対応に見え、米国の外交的信用が揺らいでいる。
3.政策転換の可能性と課題
・仮にトランプ政権が「どじ」から脱却し、戦略的に再構築を図るのであれば、以下の要素が不可欠である。
⇨ ウクライナ・ロシアに対する明確なレッドラインの設定。
⇨ 中国・インドとの調整による二次制裁の具体化。
・国内の支持を得られる形での「出口戦略」(例えば限定的支援+停戦合意)。
・それがなければ、「失敗外交」とすら言えず、むしろ「混乱外交」「責任放棄外交」と評されるリスクが高まる。
総じて言えば、「ゼレンスキーとの会談での曖昧な対応」が最初のボタンの掛け違いであり、以後の外交が「失敗」というより「迷走」と「誤算」の連続、すなわち「どじを踏む外交」と言われても不思議ではない状況にある。
そして飽く迄トランプの手腕に期待する論者も実態を無視し過ぎている、と言わざるを得ない。中国・インドを論述の中に放り込んで来るなど、状況認識が甘すぎる。単なる言葉遊びに過ぎない。
トランプの「手腕」に過度な期待を寄せる論者への批判
1.実態との乖離した楽観論
・トランプの「ディールメイカー」としての過去の実績や演出に引きずられ、「今回も何とかするだろう」という期待が根強い。
・しかし、現実の国際政治は極めて複雑化しており、一国の個人技では収拾がつかない段階にある。
・特にウクライナ戦争のような構造的・歴史的対立には、トランプ流の直感的交渉術では限界がある。
2.「中国・インドを動かせる」という幻想
・中国とインドを外交シナリオに都合よく組み込むこと自体が、米国中心の旧来的な思考に囚われている。
・中国
⇨ 米国との競争を「戦略的長期戦」として位置づけており、単なる「善意の表明」では動かない。
⇨ ロシアとの「準同盟的」関係を重視し、エネルギー安保・対米牽制を背景に接近を深めている。
・インド
⇨ 自主独立外交を基本とし、「戦略的自律性」を守る姿勢。
⇨ ロシアとの武器・エネルギー協力は国益に直結しており、米国の要請だけで簡単に輸入をやめるとは考えにくい。
・このような現実を無視し、「トランプが一喝すれば両国が譲歩する」といったシナリオは極めて非現実的である。
3.過剰なトランプ中心主義
・国際関係は多極化が進行しており、米国大統領の意思だけで状況を制御できる時代ではない。
・トランプにすべての決断と成果を託すような言説は、構造分析を欠いた感情的擁護に過ぎない。
4.結論:状況認識の甘さが問題の核心
・トランプの「手腕」を信じて外交が進展すると見る立場は、もはや根拠のある分析というよりは政治的信仰や期待の投影である。
・中国・インドを「説得可能なプレイヤー」と見なす軽率な発想は、現在の国際秩序と各国の戦略的動機への無理解を露呈している。
・よって、そうした論調には「状況認識が甘すぎる」と言わざるを得ない。
トランプ外交への過度な期待を現実的に批判し、中国・インドの国際的立場や利害関係を踏まえた分析が不可欠であることを強調すべきであろう。
〈窮鼠猫を噛む〉という構図:トランプ外交の副作用
1.圧力一辺倒の交渉術
・トランプの外交は、しばしば「極端な要求」と「制裁の恫喝」によって相手を屈服さ せる「ディール(取引)」型。
・しかしこの手法は、相手国を追い詰めるだけであり、出口を用意しないままに強圧をかけると、相手は自国の生存をかけて「反撃」や「暴発」に出る可能性が高まる。
2.〈窮鼠猫を噛む〉=予測不能な反発・対抗
・伝統的に抑制的であった国、あるいは慎重外交をとってきた国家ですら、極限まで追い込まれると自らの国益・主権・体制を守るため、強硬姿勢に転じることがある。
・この構図は、イランの核問題、北朝鮮のミサイル発射、中国の南シナ海政策、ロシアのウクライナ侵攻などに通底しており、いずれも「追い詰められた側の反発」が背景にある。
3.対米従属の代理(proxies)にも波及
・トランプ政権が期待するような“米国の指示に従う代理国家”であっても、行きすぎた圧力・切り捨て外交に遭遇すれば、逆に離反や暴走に出る可能性がある。
・例:サウジアラビアが独自の中露接近を試みた事例、イスラエルの単独行動、中国とASEAN諸国との再接近など。
4.同盟国でさえ、追い詰められると牙をむく
・NATO諸国、日本、韓国といった伝統的同盟国も、アメリカによる一方的な要求(防衛費負担、貿易赤字削減など)に不満を蓄積。
・「従属と自立の間で揺れる」構図が、より強烈に露出するようになった。
5.トランプ外交は「敵か味方か」ではなく「敵に変える外交」
・トランプ流外交は、確かに短期的には譲歩を引き出すことがある。
・しかしその反動として、「穏健派の過激化」「同盟国の自立志向」「対米不信の蔓延」といった(窮鼠猫を噛む)現象が常態化しつつある。
・これは単に個別の国の問題ではなく、米国の地位そのものを内側から蝕むリスクをはらむ。
したがって、トランプ流の外交術は〈窮鼠猫を噛む〉状態を引き起こす」。まさに現代外交の根底にある構造的脆弱性を言い当てたものと言える。今後の国際秩序において、このような構図が常態化するならば、トランプ外交は一過性の「異端」ではなく、不安定性を制度化する契機となる恐れすらある。
トランプ=短距離ランナーという特性
1.短期成果を重視する性向
・トランプは「即効性」や「目に見える勝利」にこだわり、交渉相手を急かし、短期間で「勝者」としての成果を得ようとする傾向が強い。
・対中貿易戦争、北朝鮮との首脳会談、イラン核合意の破棄などに見られるように、「長期的な安定」より「短期的なインパクト」が重視される。
2.政治的自己演出としての外交
・外交を「劇場」として用い、自らを“交渉の達人”として見せることを最優先する傾向がある。
・これは任期や支持率との関係から理解できる一面もあるが、継続的な信頼形成や制度的な積み上げには不向きである。
国際政治は「長距離レース」である理由
1.多層的・段階的交渉
・国家間の交渉は、利害調整・信頼醸成・国内政治の整合などを踏まえながら、段階的に進む「時間のかかるプロセス」である。
・合意形成には「根回し」「外交儀礼」「継続的対話」といった粘り強い努力が不可欠。
2.国際秩序の維持には持続性が必要
・貿易、安全保障、環境、エネルギーなどのグローバル課題は、「継続的関与」と「制度的枠組み」が安定の鍵。
・一時的な圧力や取引ではなく、長期視点での国際的合意の積み重ねが求められる。
3.信頼の蓄積がパワーになる
・「この国となら長く付き合える」という信頼は、短期間では築けない。
・トランプの「取引型」外交は、こうした信頼の積み上げを無視・軽視しがちで、かえって不信を拡大する。
テンポの不一致が外交的失敗を招く
・トランプは「100メートル走」で勝負を決めようとするが、国際政治は「マラソン」に近い。
・そのテンポの不一致は、以下のような形で露呈する。
⇨ 交渉破綻や一方的な離脱(例:イラン核合意)
⇨ 合意しても定着しない(例:北朝鮮との合意文書)
⇨ 他国の警戒・反発を呼ぶ(例:中国・EUの対米不信)
したがって、「トランプは短距離ランナーであり、国際政治を取り仕切るには急ぎ過ぎる」見解は、彼の外交手法とグローバル秩序の構造的性格との根本的な不整合がますま軋み音を出すことになる。このままのスタイルを続ければ、国際社会は「疲弊」し、アメリカの外交的影響力は「息切れ」を起こしかねない。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
The Ball’s In Trump’s Court After The Latest Istanbul Talks Andrew Korybko's Newsletter 2025.05.17
https://korybko.substack.com/p/the-balls-in-trumps-court-after-the?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=163766572&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email17
2025年5月16日(金)、約3年ぶりとなるロシアとウクライナの二国間会談がイスタンブールにて実施された。この会談は、前週にプーチン大統領が提案した内容に対して、ゼレンスキー大統領が、恐らくトランプ米大統領の圧力のもとで同意したことで実現したものである。結果として、ウクライナ側が求めていた無条件の30日間の停戦も、ロシア側が要求していた係争地域からの全面撤退も実現には至らなかった。ただし、両国は捕虜交換と将来的な再会談の実施に合意した。従って、本会談が無意味であったとは言えない。
最も重要な点は、ロシアとウクライナが、これまでの米国による仲介が成果を上げていない状況に業を煮やしているとみられるトランプ大統領に対し、和平への関心を示すことができたという事実である。今後の米国関与の方針を決定する前に、トランプ大統領はプーチン大統領との会談を実施する可能性が高く、最低限電話で、理想的には対面での会談が数週間以内に行われる見通しである。
現在、ロシアとウクライナの立場は折り合いがつかないことが明らかになっており、米国の選択が次の局面を左右することになる。米国が関与を深めてウクライナを支援し続けなければ、ロシアは軍事的手段により最大目標を達成する可能性が高まる。唯一現実的な妥協案は、米国がウクライナに対し、係争地域の一部または全部からの撤退を強制し、それと引き換えにロシアが無条件の30日間の停戦に応じるという形である。
しかし、トランプ大統領が今年に入ってホワイトハウスに復帰してからの3か月間、米国はこのような圧力を試みていない。そのため、今後の動向は不透明である。トランプ大統領は一方でロシアに対し「壊滅的」な制裁を警告しつつ、他方でウクライナ支援に投じた数十億ドルを「無駄遣い」と批判しており、彼自身が未だ明確な方針を固めていないと考えられる。
「エスカレーションによるデエスカレーション」は、財政的・戦略的に多大なコストを伴う。その戦略的側面には、中国封じ込めを目的とする「アジア回帰(再回帰)」の実現が含まれ、最悪の場合は第三次世界大戦の勃発リスクすらはらんでいる。一方、関与放棄を選べば、欧米側にとって近年最大級の地政学的敗北を被ることになる可能性がある。
その中間案として考えられるのが、ロシアのエネルギー顧客に対する二次制裁を厳格に実施することである。具体的には、中国に対しては、最近発表された「完全な関係リセット」後の善意の表れとしてロシア産エネルギー輸入の削減を求め、インドに対しては、米国との関係維持を希望するのであれば制裁協力を示すよう促す。しかし、両国が協力を拒否するか、あるいは密かにロシアからのエネルギー輸入を継続する可能性も否定できず、その場合、米国は見て見ぬふりをするか、関係悪化を覚悟の上で制裁を実行する必要に迫られる。
このような複合的シナリオでは、トランプ大統領がゼレンスキー大統領に対してドンバスからの撤退を拒否すれば米国は関与を断つと警告し、同時にプーチン大統領には、ウクライナが撤退に同意した場合には30日間の停戦を受け入れなければ厳しい二次制裁を科すと警告する可能性がある。そのうえで、習近平国家主席およびモディ首相に電話をかけ、計画を伝達し、プーチン大統領の説得に協力するよう求めると考えられる。この案は米国にとって最も現実的かつ実現可能な提案であり、突破口となる可能性を秘めている。
【詳細】
会談の背景と結果
2025年5月16日、ロシアとウクライナの間で約3年ぶりとなる直接の二国間会談がトルコ・イスタンブールで開催された。これは、前週にロシアのプーチン大統領が提案した和平交渉に対し、ウクライナのゼレンスキー大統領が応じたことによって実現したものである。ただし、ゼレンスキー大統領が交渉に応じた理由としては、トランプ米大統領からの圧力が作用した可能性が指摘されている。
会談において、ウクライナは無条件の30日間停戦を要求し、ロシアは係争地域(主にドンバスおよびクリミア地域を指す)からの全面撤退を要求したが、いずれも受け入れられなかった。したがって、核心的な争点では妥結に至らなかったものの、捕虜交換に合意し、今後再び会談を開くことにも合意がなされた。このことから、今回の会談が完全に無意味であったとは言えない。
トランプ大統領へのメッセージと米国の立ち位置
本会談で最も重要な点は、ロシアとウクライナが共に、和平交渉に対する姿勢を米国に明確に示したという事実である。特にトランプ大統領は、2025年1月の大統領就任以来、米国の仲介努力が効果を上げていないことに対する不満を強めており、状況打開に向けた決定的な一手を模索しているとされる。
今後の米国の関与の方向性を決定する前に、トランプ大統領はロシア側の立場をより明確に把握するため、プーチン大統領と電話もしくは対面での会談を行う可能性が高い。すなわち、現在「ボールはトランプの側にある(the ball’s in Trump’s court)」状態であり、彼の判断次第で戦争継続か和平交渉かが左右されるという構図が明確となった。
今後のシナリオとトランプ政権のジレンマ
ロシアとウクライナの立場が依然として妥協不能なほど乖離している以上、今後の展開は米国の決定に大きく依存する。選択肢はおおまかに以下の3通りに分かれる:
1.ロシアが軍事的手段によって目標を達成し続ける展開
・米国がこの動きを放置すれば、ロシアは占領地の維持・拡大を目指すだろう。
2.米国がウクライナ支援を強化する展開
・軍事・財政的支援を再強化することで、ロシアの前進を阻止する方針。
3.ウクライナに領土放棄を強制し、見返りとしてロシアに停戦を要求する妥協案
・唯一現実的な妥協シナリオであり、停戦実現の可能性を残す。
しかし、トランプ政権は今年初めに政権復帰して以来、ウクライナに対する「領土譲歩を伴う停戦合意」を実現するための圧力を実質的には行っておらず、依然として曖昧な態度を維持している。このため、米国の方針は確定しておらず、トランプ大統領自身も進むべき道を決めかねているとの見方が強い。
「エスカレートしてデエスカレートする」政策とそのリスク
トランプ政権が取る可能性のある戦略の一つとして、「エスカレーションによるデエスカレーション(escalating to de-escalate)」がある。これは、一時的に軍事・経済的圧力を強めることで相手国(この場合はロシア)に妥協を促し、最終的に衝突を避けるという手法である。
しかし、この戦略は非常に大きなコストを伴う。第一に、財政負担である。第二に、戦略的リスクとして、「対中国戦略」(いわゆる「アジア回帰」)を犠牲にする可能性がある。また、最悪の場合、ロシアとの軍事衝突が拡大し、世界大戦に発展する懸念も払拭できない。
その一方で、ウクライナ支援を放棄する決断も容易ではない。仮にそのような選択を取れば、欧米が長年築いてきた対ロシア封じ込め政策が崩れ、地政学的敗北として歴史に残る可能性がある。
中間案としての「二次制裁」の活用とその課題
このような極端な選択肢の中間に位置する現実的な戦略として、米国が「ロシアのエネルギー顧客に対する厳格な二次制裁」を発動するという案がある。具体的には、ロシア産エネルギーを多量に輸入している中国とインドに圧力をかけ、その取引を停止または大幅削減させることが狙いである。
・中国に対しては:トランプ大統領が最近発表した「米中関係の全面的リセット」の一環として、ロシアとのエネルギー取引縮小を「善意の証」として期待。
・インドに対しては:米国がパキスタンへの接近を進める中、インドに対して「関係維持のために協力を示せ」という間接的圧力となる。
しかし、これらの国々が米国の要求に応じる保証はなく、むしろ表面上は協力姿勢を見せつつ、裏ではロシアとの取引を継続する可能性もある。その場合、米国は「見て見ぬふり」をするか、それとも本当に制裁を発動して関係悪化を覚悟するかという選択を迫られる。
最も現実的な打開案と外交的駆け引き
これらの選択肢を組み合わせた現実的なシナリオとして、トランプ大統領は以下のような外交的駆け引きを行う可能性がある。
1.ウクライナに対して:ドンバス地域から撤退しない場合、米国は支援を打ち切ると通告。
2.ロシアに対して:ウクライナが撤退すれば、無条件の30日間停戦を受け入れなければならない、さもなくばエネルギー輸出先への二次制裁を実施。
3.中国・インドに対して:プーチン大統領に停戦受諾を促すよう協力を求める。
このような案は、軍事衝突を回避しつつ、一定の地政学的成果を得るという意味で、米国にとって最も「実利的」な外交方針である可能性がある。そして、これが成功すれば、停戦交渉の大きな突破口となるだろう。
【要点】
1.会談の概要と背景
・2025年5月16日、ロシアとウクライナがイスタンブールで約3年ぶりの二国間会談を実施。
・会談は、プーチン大統領による提案をゼレンスキー大統領が受け入れたことで実現。
・ゼレンスキーの同意には、トランプ米大統領からの圧力があった可能性がある。
2.会談の成果と限界
・ウクライナ側の主張:無条件の30日間停戦を要求。
・ロシア側の主張:ウクライナによる係争地域(例:ドンバスやクリミア)からの全面撤退を要求。
・いずれの主張も通らなかったが、以下の点で合意:
⇨捕虜交換の実施。
⇨将来的な再会談の実施。
・会談は完全な失敗ではなく、外交継続の意思を示した形。
3.トランプ大統領の立場と影響力
・両国は、和平への意志をトランプに示すことで、米国の関与継続を促す意図がある。
・トランプは、今後プーチンと電話または対面での会談を行う可能性が高い。
・現時点で米国の次の一手がカギを握っており、「ボールはトランプの側にある」状態。
4.想定される三つの主要シナリオ
・ロシアによる軍事的進展の継続
⇨米国が関与を控える場合、ロシアが戦場で最大目標を追求。
・米国によるウクライナ支援の強化
⇨ロシアの軍事的成功を防ぐために支援継続または増強。
・妥協案としての領土放棄+停戦取引
⇨米国がウクライナに係争地撤退を強制し、代わりにロシアに停戦を要求。
5.現状の不透明さとトランプの迷い
・トランプは就任から3か月間、上記のような強制的外交措置を実施していない。
・ロシアに対して「壊滅的制裁」を示唆する一方で、ウクライナ支援を「無駄遣い」と批判。
・現段階では、トランプ自身が進むべき方針を決定していないと見られる。
6.「エスカレートしてデエスカレートする」戦略のコスト
・この戦略は短期的圧力で譲歩を引き出すものであるが、重大なリスクを伴う:
⇨膨大な財政負担。
⇨対中国政策(「アジア回帰」)の遅延または放棄。
⇨米露衝突がエスカレートし、最悪の場合は第三次世界大戦の可能性。
5.現実的な中間案:二次制裁戦略
・米国が、ロシアの主要エネルギー顧客(中国・インド)に圧力をかけ、輸入縮小を狙う。
⇨中国:米中関係改善の「善意の証」として圧力を期待。
⇨インド:米国との良好関係を維持するための「協力度」試験。
・ただし、両国が協力を拒否するか、裏で継続輸入する可能性もあり。
・その場合、米国は:
⇨見て見ぬふりをするか、
⇨両国に制裁を科して関係を悪化させるか、いずれかを選ぶ必要がある。
6.最も現実的な打開策(複合型外交シナリオ)
・ゼレンスキーに対して:ドンバスからの撤退を拒めば米国が支援打ち切りと通告。
・プーチンに対して:ウクライナが撤退すれば、無条件30日停戦を受け入れなければ二次制裁を科すと警告。
・中国・インドに対して:プーチンに停戦を受け入れるよう説得することを要請。
・このシナリオは、軍事衝突を避けつつ米国の面子と戦略的利益を保つという意味で最も現実的。
・停戦の突破口となる可能性がある。
【桃源寸評】
1.トランプ外交の「どじ」の構造
(1)ゼレンスキーとのワシントン会談が最初の躓き
・ゼレンスキーとの首脳会談が、政権復帰後のウクライナ政策の出発点となった。
・その場でトランプが強い圧力をかけるでも、明確な支持を示すでもなく、あいまいな態度を取ったことが、以降の混乱の「ボタンの掛け違い」となった可能性がある。
(2)一貫性のないメッセージ
・ロシアに対しては「壊滅的制裁」を口にする一方で、ウクライナ支援は「金の無駄」と公言。
・こうした相矛盾する発言が、当事者国にとって信頼性を欠いた「騒がしいが中身のない」外交と映る。
(3)戦略の欠如
・軍事的介入・制裁・外交交渉などの選択肢の中で、どれにもはっきりと舵を切らず、場当たり的に振る舞っているように見える。
・トルコの和平会談にしても、当初の戦略的目標(停戦、緊張緩和、支出削減など)が何であったのかが不明確である。
2.「どじを踏む外交」とされる理由
・目的と手段の乖離:和平を目指すと言いながら、具体的な圧力手段を発動せず、結果として関係国に中途半端な期待や誤解を与えている。
・「最大限の圧力」か「撤退」かの中間戦略が曖昧:二次制裁などの実効性ある措置にも踏み込まず、決断を先送りしているように見える。
・国際社会への影響力低下:同盟国・友好国に対しても、協調姿勢を欠いた独善的な対応に見え、米国の外交的信用が揺らいでいる。
3.政策転換の可能性と課題
・仮にトランプ政権が「どじ」から脱却し、戦略的に再構築を図るのであれば、以下の要素が不可欠である。
⇨ ウクライナ・ロシアに対する明確なレッドラインの設定。
⇨ 中国・インドとの調整による二次制裁の具体化。
・国内の支持を得られる形での「出口戦略」(例えば限定的支援+停戦合意)。
・それがなければ、「失敗外交」とすら言えず、むしろ「混乱外交」「責任放棄外交」と評されるリスクが高まる。
総じて言えば、「ゼレンスキーとの会談での曖昧な対応」が最初のボタンの掛け違いであり、以後の外交が「失敗」というより「迷走」と「誤算」の連続、すなわち「どじを踏む外交」と言われても不思議ではない状況にある。
そして飽く迄トランプの手腕に期待する論者も実態を無視し過ぎている、と言わざるを得ない。中国・インドを論述の中に放り込んで来るなど、状況認識が甘すぎる。単なる言葉遊びに過ぎない。
トランプの「手腕」に過度な期待を寄せる論者への批判
1.実態との乖離した楽観論
・トランプの「ディールメイカー」としての過去の実績や演出に引きずられ、「今回も何とかするだろう」という期待が根強い。
・しかし、現実の国際政治は極めて複雑化しており、一国の個人技では収拾がつかない段階にある。
・特にウクライナ戦争のような構造的・歴史的対立には、トランプ流の直感的交渉術では限界がある。
2.「中国・インドを動かせる」という幻想
・中国とインドを外交シナリオに都合よく組み込むこと自体が、米国中心の旧来的な思考に囚われている。
・中国
⇨ 米国との競争を「戦略的長期戦」として位置づけており、単なる「善意の表明」では動かない。
⇨ ロシアとの「準同盟的」関係を重視し、エネルギー安保・対米牽制を背景に接近を深めている。
・インド
⇨ 自主独立外交を基本とし、「戦略的自律性」を守る姿勢。
⇨ ロシアとの武器・エネルギー協力は国益に直結しており、米国の要請だけで簡単に輸入をやめるとは考えにくい。
・このような現実を無視し、「トランプが一喝すれば両国が譲歩する」といったシナリオは極めて非現実的である。
3.過剰なトランプ中心主義
・国際関係は多極化が進行しており、米国大統領の意思だけで状況を制御できる時代ではない。
・トランプにすべての決断と成果を託すような言説は、構造分析を欠いた感情的擁護に過ぎない。
4.結論:状況認識の甘さが問題の核心
・トランプの「手腕」を信じて外交が進展すると見る立場は、もはや根拠のある分析というよりは政治的信仰や期待の投影である。
・中国・インドを「説得可能なプレイヤー」と見なす軽率な発想は、現在の国際秩序と各国の戦略的動機への無理解を露呈している。
・よって、そうした論調には「状況認識が甘すぎる」と言わざるを得ない。
トランプ外交への過度な期待を現実的に批判し、中国・インドの国際的立場や利害関係を踏まえた分析が不可欠であることを強調すべきであろう。
〈窮鼠猫を噛む〉という構図:トランプ外交の副作用
1.圧力一辺倒の交渉術
・トランプの外交は、しばしば「極端な要求」と「制裁の恫喝」によって相手を屈服さ せる「ディール(取引)」型。
・しかしこの手法は、相手国を追い詰めるだけであり、出口を用意しないままに強圧をかけると、相手は自国の生存をかけて「反撃」や「暴発」に出る可能性が高まる。
2.〈窮鼠猫を噛む〉=予測不能な反発・対抗
・伝統的に抑制的であった国、あるいは慎重外交をとってきた国家ですら、極限まで追い込まれると自らの国益・主権・体制を守るため、強硬姿勢に転じることがある。
・この構図は、イランの核問題、北朝鮮のミサイル発射、中国の南シナ海政策、ロシアのウクライナ侵攻などに通底しており、いずれも「追い詰められた側の反発」が背景にある。
3.対米従属の代理(proxies)にも波及
・トランプ政権が期待するような“米国の指示に従う代理国家”であっても、行きすぎた圧力・切り捨て外交に遭遇すれば、逆に離反や暴走に出る可能性がある。
・例:サウジアラビアが独自の中露接近を試みた事例、イスラエルの単独行動、中国とASEAN諸国との再接近など。
4.同盟国でさえ、追い詰められると牙をむく
・NATO諸国、日本、韓国といった伝統的同盟国も、アメリカによる一方的な要求(防衛費負担、貿易赤字削減など)に不満を蓄積。
・「従属と自立の間で揺れる」構図が、より強烈に露出するようになった。
5.トランプ外交は「敵か味方か」ではなく「敵に変える外交」
・トランプ流外交は、確かに短期的には譲歩を引き出すことがある。
・しかしその反動として、「穏健派の過激化」「同盟国の自立志向」「対米不信の蔓延」といった(窮鼠猫を噛む)現象が常態化しつつある。
・これは単に個別の国の問題ではなく、米国の地位そのものを内側から蝕むリスクをはらむ。
したがって、トランプ流の外交術は〈窮鼠猫を噛む〉状態を引き起こす」。まさに現代外交の根底にある構造的脆弱性を言い当てたものと言える。今後の国際秩序において、このような構図が常態化するならば、トランプ外交は一過性の「異端」ではなく、不安定性を制度化する契機となる恐れすらある。
トランプ=短距離ランナーという特性
1.短期成果を重視する性向
・トランプは「即効性」や「目に見える勝利」にこだわり、交渉相手を急かし、短期間で「勝者」としての成果を得ようとする傾向が強い。
・対中貿易戦争、北朝鮮との首脳会談、イラン核合意の破棄などに見られるように、「長期的な安定」より「短期的なインパクト」が重視される。
2.政治的自己演出としての外交
・外交を「劇場」として用い、自らを“交渉の達人”として見せることを最優先する傾向がある。
・これは任期や支持率との関係から理解できる一面もあるが、継続的な信頼形成や制度的な積み上げには不向きである。
国際政治は「長距離レース」である理由
1.多層的・段階的交渉
・国家間の交渉は、利害調整・信頼醸成・国内政治の整合などを踏まえながら、段階的に進む「時間のかかるプロセス」である。
・合意形成には「根回し」「外交儀礼」「継続的対話」といった粘り強い努力が不可欠。
2.国際秩序の維持には持続性が必要
・貿易、安全保障、環境、エネルギーなどのグローバル課題は、「継続的関与」と「制度的枠組み」が安定の鍵。
・一時的な圧力や取引ではなく、長期視点での国際的合意の積み重ねが求められる。
3.信頼の蓄積がパワーになる
・「この国となら長く付き合える」という信頼は、短期間では築けない。
・トランプの「取引型」外交は、こうした信頼の積み上げを無視・軽視しがちで、かえって不信を拡大する。
テンポの不一致が外交的失敗を招く
・トランプは「100メートル走」で勝負を決めようとするが、国際政治は「マラソン」に近い。
・そのテンポの不一致は、以下のような形で露呈する。
⇨ 交渉破綻や一方的な離脱(例:イラン核合意)
⇨ 合意しても定着しない(例:北朝鮮との合意文書)
⇨ 他国の警戒・反発を呼ぶ(例:中国・EUの対米不信)
したがって、「トランプは短距離ランナーであり、国際政治を取り仕切るには急ぎ過ぎる」見解は、彼の外交手法とグローバル秩序の構造的性格との根本的な不整合がますま軋み音を出すことになる。このままのスタイルを続ければ、国際社会は「疲弊」し、アメリカの外交的影響力は「息切れ」を起こしかねない。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
The Ball’s In Trump’s Court After The Latest Istanbul Talks Andrew Korybko's Newsletter 2025.05.17
https://korybko.substack.com/p/the-balls-in-trumps-court-after-the?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=163766572&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email17
「名月を取ってくれろと泣く子」に似たり ― 2025年05月17日 22:00
【概要】
2025年2月下旬、ドナルド・トランプ大統領は、アフガニスタンのバグラム空軍基地におけるアメリカ軍のプレゼンス回復を計画している旨を発表したが、その方針をカタール駐留の米軍に向けた演説の中で改めて表明した。この発言を受けて「トランプが本気でアフガン戦略を進めるなら、パキスタンと取引せざるを得ない」と以前に分析しており、インドとパキスタン間の最近の衝突を背景に、両国間で密かな交渉が進行している可能性があると述べている。
また、トランプは中国との「完全な関係再構築(total reset)」を提唱しており、これが米中の複数極化を特徴とする「G2」もしくは「チメリカ(Chimerica)」と呼ばれる枠組みの復活に繋がる可能性があるとされている。もしこのような方向に向かえば、米国が従来進めていた「アジアへの再転換(Pivot back to Asia)」、特にインドに対して期待されていた中国封じ込めの役割は重要性を失う。この文脈において、トランプがインドとの関係を軽視しているように見える背景が説明されうる。
ただし、バグラム空軍基地への復帰が中国国境に近いという地理的要因から強く意識されていることを鑑みれば、トランプ政権が中国との新たな緊張緩和(“New Détente”)を模索する中でも、対中戦略上の「保険」としての側面を持つと考えられる。
さらに、米国がアフガニスタンに軍を再配置するためには、パキスタンの協力が不可欠であり、テロ対策を名目としたパキスタンへの軍事支援の再開が想定される。このことは、中国とパキスタンが推進する中国・パキスタン経済回廊(CPEC)の安全保障を米国が黙認する可能性を意味しうるが、CPECはインドが自国領と主張するカシミールを通過しているため、インドにとって重大な懸念となる。また、軍事支援がインドとの武力衝突に転用される恐れがあることからも、インドの反発は必至とされる。
このような取り決めが進展した場合、ロシアにとっても悪影響が及ぶ可能性がある。2024年12月に計画されたロシアによるパキスタンの資源部門の近代化プロジェクトは、当時、米国が制裁を見送った背景として、中国の影響力を相対的に抑える意図があったと分析されている。しかし、米中間で「新デタント」が実現した場合、米国はロシアとの関係よりも中国との協調を優先し、このようなロシアの利権に関心を示さなくなる可能性がある。
また、米国がパキスタンへの影響力を行使して、ロシアに対してアフガニスタンへの米軍再駐留を黙認させる交換条件として、同国の資源契約をロシアに与える可能性もある。その場合、米国とロシアはアフガニスタンで「友好的な競争者」として共存する形を取りつつ、ロシアの既存または計画中のプロジェクトを継続させるとの見通しも提示されている。
このように、パキスタンおよびアフガニスタンを舞台とする米露中の三者間協力、あるいは競合が本格化すれば、インドにとって深刻な懸念となる。とりわけ、ロシアとパキスタンの間でアフガニスタンを経由した貿易回廊が形成され、さらにCPECおよび米国による戦略的鉱物への投資、加えて米国からパキスタンへの武器供与が行われれば、地域秩序の大幅な再編に繋がる恐れがある。
この新たな地政学的枠組みにおいて、米国、中国、パキスタン、さらにはロシアからの圧力がインドに加えられ、「大ユーラシア構想(Greater Eurasia)」の実現という名目の下で、カシミール地方の分割を受け入れるよう迫られる可能性もあるとされている。
【詳細】
バグラム空軍基地への米軍復帰構想の背景
トランプ大統領は2021年のアフガニスタンからの米軍撤退を「不名誉な退却」と位置付けており、自らの外交・安全保障戦略の中でその修正を志向している。2025年2月に公表されたこの方針は、同年5月に米軍向け演説でも再確認され、アフガニスタンのバグラム空軍基地への米軍の再駐留が重要政策として位置付けられている。
この復帰計画に関連して、アフガニスタンへのアクセス確保に必要な地政学的条件として、パキスタンとの協力が不可欠であるとされている。これは、米国がアフガニスタンに直接接する唯一の陸路アクセスを、パキスタンの領域を通じて行う必要があるためである。
米中関係と「新デタント(新たな緊張緩和)」の可能性
同時に、トランプは中国との「全面的な関係再設定(total reset)」を模索しており、これは2000年代の「チメリカ(Chimerica)」、すなわち米中二大国による世界秩序管理という枠組みへの回帰とも捉えられうる。これは複数の極が共存する「双多極化(bi-multipolarity)」として理解され、現在の国際秩序に変化をもたらす可能性を秘めている。
この場合、従来の「アジア回帰(Pivot to Asia)」戦略、特にインドを対中封じ込めの要とする構想は重要性を低下させる。この地政学的構造変化は、インドに対する米国の戦略的優先順位が低下していることを意味し、トランプがインドの利害に配慮しない姿勢を見せている理由の一端ともなる。
バグラム復帰と中国への「保険」
しかし、バグラム空軍基地の地理的位置、すなわち中国西部との近接性は、軍事戦略的観点から無視できない要素である。したがって、たとえ米中関係に改善の兆しが見えたとしても、トランプ政権がこの地域における軍事的プレゼンスを維持・強化しようとするのは、万が一米中関係が再び緊張した際の「戦略的保険」として機能させる意図があるとされる。
パキスタンとの取り引きとCPECの容認
米国がアフガニスタンに軍を再配置するにあたり、パキスタンの支援が不可欠である。そのため、米国はパキスタンへの軍事支援を「テロ対策」の名目で再開し、それにより中国とパキスタンが推進する中国・パキスタン経済回廊(CPEC)の安定化に貢献する可能性がある。
これは、米国が暗黙のうちにCPECを容認することを意味するが、CPECはインドが自国領と主張するジャンムー・カシミールを経由しているため、インドにとっては主権侵害と捉えられている。そのため、インドは米国のこの姿勢に強く反発することが予想される。
さらに、パキスタンへの米国の軍事支援は、形式上は対テロ戦略であっても、実質的にはインドとの軍事的均衡を変える可能性があり、特に最近の印パ衝突を受けてその懸念は高まっている。
ロシアの地政学的利益との衝突
ロシアは2024年12月、パキスタンの資源セクターの近代化を支援する計画を進めており、当時の米国はこのプロジェクトに対する制裁を控えていた。これは中国の影響力を緩和する戦略的判断とされていたが、米国が中国との「新デタント」を優先させる場合、パキスタンにおけるロシアの利権に対する関心は希薄となり、制裁の可能性も再浮上することがある。
一方で、米国はパキスタンに影響力を行使し、ロシアに対してアフガニスタンへの米軍再駐留を黙認させる見返りとして、パキスタンの資源契約をロシアに与える可能性もある。このような「相互譲歩」によって、米露はアフガニスタンで「友好的な競合者」として共存し、ロシアのインフラ・エネルギープロジェクトが引き続き実施される可能性も排除できない。
インドにとっての地政学的脅威
もしこのような米中、米露、さらにパキスタンを含む新たな地域枠組みが形成された場合、インドにとっては四面楚歌のような状況となる。特に、ロシアとパキスタン間でアフガニスタンを通じた貿易回廊が構築され、それがCPECや米国の鉱物資源投資と連動し、さらには米国製兵器の流入まで加われば、地域の戦略的均衡は大きく変動する。
このような状況下では、「大ユーラシア構想(Greater Eurasia)」の実現を名目として、インドに対してジャンムー・カシミールの最終的な分割(インド・パキスタンの実効支配線を事実上の国境として固定)を受け入れるよう圧力がかかる可能性がある。米国、中国、パキスタン、さらにはロシアまでもがこの立場に立てば、インドの外交的孤立が強まる恐れがある。。
【要点】
トランプ政権のバグラム空軍基地再利用計画とその含意
・トランプ大統領は、アフガニスタンのバグラム空軍基地への米軍の再駐留を計画しており、2025年2月と5月に繰り返し言及している。
・この計画は、アフガニスタン周辺への戦略的影響力を再確立する意図を示している。
・実現にはパキスタンの協力が不可欠であり、現在、米パ間で非公開の交渉が行われている可能性がある。
米中関係と「新デタント」の可能性
・トランプは中国との「全面的な関係再設定(total reset)」を提唱している。
・これは米中G2(チメリカ)構想、すなわち米中共同による世界秩序管理の復活を意味しうる。
・その場合、インドは米国の対中戦略における優先順位を失うことになり、米印関係は冷却化する可能性がある。
バグラム基地の対中地理的優位性
・バグラム空軍基地は中国西部に近接しており、戦略的価値が高い。
・トランプ政権は、中国との協調を模索する一方で、対中けん制の「保険」として同基地を利用しようとしている可能性がある。
パキスタンとの協力とCPECの容認
・米軍のアフガン再駐留には、パキスタンの領域を通る兵站線が必要不可欠である。
・米国はテロ対策を名目に、パキスタンへの軍事支援を再開する可能性がある。
・これは結果的に、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)の安全保障に寄与し、事実上の容認と見なされる。
・CPECはインドが領有権を主張するカシミールを通過しており、インドにとっては重大な安全保障上の懸念である。
印パ関係への影響
・米国からパキスタンへの軍事支援が再開されれば、インドはその兵器が対印目的にも使われる可能性を懸念する。
・印パ間で最近も軍事衝突が発生しており、このような状況での米国の姿勢はインドを刺激することになる。
ロシアの利害と米露取引の可能性
・ロシアは2024年末、パキスタンの資源セクター近代化支援を計画していた。
・当時、米国はこのプロジェクトに対する制裁を見送っており、中国の影響力緩和を狙っていたと見られる。
・米中「新デタント」が実現した場合、米国はロシアの利害に対して無関心になる可能性がある。
・一方、米国はパキスタンに圧力をかけて、ロシアに資源契約を与える代わりにアフガンでの米軍再駐留を黙認させる可能性もある。
地域秩序の再構築とインドへの圧力
・米中露パの協調により、新たなユーラシア地政学構造が形成される可能性がある。
・ロシアとパキスタン間でアフガニスタンを経由する貿易回廊が整備される可能性があり、これはCPECおよび米国の鉱物投資と連動する。
・こうした構造の中で、インドは外交的に孤立し、米中露パからカシミールの分割(実効支配線の固定)を受け入れるよう圧力をかけられる可能性がある。
・このような圧力は、「大ユーラシア構想(Greater Eurasia)」の実現という大義名分のもとで行われる可能性がある。
【桃源寸評】
トランプのバグラム空軍基地復帰構想は単なる軍事再配置にとどまらず、米中関係、米印関係、米露関係、さらには印パ関係という多層的な地政学構造に重大な影響を与える可能性を秘めている。
バグラム空軍基地の再活用をめぐる動きは、南アジア・中央アジア全体の地政学的秩序に大きな再編をもたらす潜在性を有しているといえる。
しかし、「名月を取ってくれろと泣く子かな」(=実現不可能な願望を無邪気に求める様子)にも似たりてははないか。
1. バグラム空軍基地の再稼働の非現実性
・アフガニスタンにおける現在のタリバン政権は、2021年の米軍撤退後、明確に外国軍駐留に反対している。
・タリバンの同意なしに米軍が再びバグラムに進出するという前提は、極めて非現実的であり、主権国家の意思や国際法を無視した仮定である。
2. パキスタンの地政学的複雑性の過小評価
・パキスタンが米中露という大国の思惑を天秤にかけながら均衡外交を取っている中、米国の意向だけで軍事協力を即決するとは考えにくい。
・米中関係が改善している状況下で、中国の最大の地政学的パートナーであるパキスタンが、米軍の地域再進出を容易に許すかは大いに疑問である。
3. インドへの圧力構造の形成の非現実性
・米中露パが結託し、インドにカシミールの領土放棄を迫るような協調行動を取るという筋書きは、政治的現実から乖離している。
・ロシアとインドの歴史的関係や軍事協力の深さを無視しており、露がインドに対して領土問題で圧力を加えるという想定は説得力に欠ける。
4. CPECと米国の利益の整合性の欠如
・米国はCPECに含まれる中国国有企業、特に軍民融合企業に対して長年警戒を示しており、これを「黙認」するという仮定には大きな論理的飛躍がある。
・米国が中国の主要戦略プロジェクトに結果的に「安全保障」を与えるような行動を取ることは、自らの対中戦略と矛盾する。
5. 全体的な「大ユーラシア再編」構想の抽象性
・ロシア・中国・米国・パキスタンという大国が、それぞれ異なる価値観・利益・対立要素を抱えたまま、インド包囲のような戦略的一致を形成する可能性は極めて低い。
・現実の国際関係では、経済、民族、宗教、国内政治の要因が複雑に絡み合っており、これを単線的に並べて「圧力構造」とするのは、やや願望的である。
議論には、一定の戦略的着眼点はあるものの、現実的な障壁や外交の複雑性を十分に踏まえないまま、あまりに広範かつ抽象的な地政学的再編を描き出しているという批判も成り立つ。
まさに「名月を取ってくれろと泣く子」に喩えられるような、現実を超越した構想であり、現実的な政策判断に直結させるには慎重な吟味が必要である。
カナダ・クリーンランド・パナマ運河などの、まるで「名月を取ってくれろと泣く子かな」の現実を無視
1.カナダ:同盟軽視と経済圧力への反発
・NAFTA再交渉とUSMCA:トランプ政権はNAFTA(北米自由貿易協定)を「最悪の貿易協定」と非難し、カナダ・メキシコと再交渉してUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)を締結したが、その過程では強硬な交渉姿勢が目立ち、カナダ政府や世論から「侮辱的」との反発が広がった。
・鉄鋼・アルミ関税の導入:国家安全保障を理由に、カナダ産の鉄鋼・アルミに追加関税を課したことも、大きな反発を呼び、「同盟国に対する敵対行為」とカナダ政府は厳しく批判した。
2.カナダ首相の発言と対応
・「カナダは売り物ではない」
・2025年5月、トランプ氏がカナダを「51番目の州」と称し、統合の可能性に言及した際、カナダのマーク・カーニー首相は「カナダは売り物ではない」と明言し、国家の主権と独立性を強調した。
・「我々は押し切られない」
・トルドー首相は「カナダ人は礼儀正しく、合理的だが、押し切られることはない」と述べ、トランプ政権の関税政策に対する強い姿勢を示した。
・「非常に愚かな行為」
・2025年3月、トランプ政権がカナダ産品に対して関税を課した際、トルドー首相はこれを「非常に愚かな行為」と非難し、即座に報復措置を取ると表明した。
3.カナダ政府の具体的な対応
・報復関税の導入
カナダ政府は、米国からの輸入品に対して最大25%の報復関税を課し、主に共和党の支持基盤に影響を与える製品を対象とした。
・農業分野での対応
⇨ 新たに任命されたヒース・マクドナルド農業相は、米国および中国との貿易問題の解決を最優先課題とし、特にカナダの農産物輸出に対する関税問題に取り組む姿勢を示した。
⇨ これらの発言や対応は、カナダがトランプ政権の一方的な政策に対して、国家の主権と経済的利益を守るために毅然とした姿勢を取ってきたことを示している。
・G7サミットでの侮辱:2018年のG7サミット後、カナダのトルドー首相を「非常に不誠実で弱い」と公然と非難し、米加関係は戦後最悪の状態と評された。
グリーンランド:買収提案への侮辱感と外交的拒絶
1.「グリーンランド購入」発言:トランプ大統領は、米国がグリーンランドをデンマークから「買収」することに関心があると発言し、これはデンマーク政府とグリーンランド自治政府から「不愉快かつ非現実的な提案」として強く拒否された。
2.デンマーク首相への侮辱発言:デンマークのメッテ・フレデリクセン首相がこの提案を「ばかげている」と述べたことに対し、トランプは「無礼だ」と応酬し、訪問予定だったデンマーク訪問を突然キャンセル。
・この発言は、グリーンランドの人々にとって「主権の軽視」と映り、「植民地主義的発想」として非難された。
パナマ運河:アメリカ中心主義的発言への警戒感
1.トランプ政権はパナマ運河に対して明確な政策を打ち出したわけではないが、米国第一主義の延長線上で中南米のインフラや運河などに関して、「戦略的権益」としての扱いを示唆する発言があった。
2.中国の影響拡大に対する警戒:パナマが中国と接近し、中国企業が運河周辺の港湾権益を拡大していることに対して、トランプ政権は非公式に懸念を表明。これに対し、パナマは主権国家としての自由な外交選択を擁護した。
3.米国の「干渉的態度」に対し、ラテンアメリカ諸国では「モンロー主義の再来」として不信感が強まり、特にパナマでは「米国の過去の支配的関与」に対する記憶が再燃した。
4.これらの事例に共通する反発の根源は以下の通りである。
・主権軽視への憤り:「買収」「関税」「支配的影響」など、主権国家を対等なパートナーではなく、取引対象・戦略資産と見る発言に対する反感。
・一方的な交渉姿勢への不信:トランプ政権の「ディール優先」「力の論理」に対し、友好国ですら警戒を深めた。
・伝統的同盟の価値軽視:多国間主義・国際協調を軽視する態度は、長年の信頼関係を傷つけた。
トランプ大統領の発言や姿勢は、地政学的構想を描くにあたっても、こうした過去の摩擦や反発を無視できない重要な背景となる。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Trump’s Desired Return To Bagram Airbase Could Reshape South Asian Geopolitics Andrew Korybko's Newsletter 2025.05.16
https://korybko.substack.com/p/trumps-desired-return-to-bagram-airbase?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=163686274&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
2025年2月下旬、ドナルド・トランプ大統領は、アフガニスタンのバグラム空軍基地におけるアメリカ軍のプレゼンス回復を計画している旨を発表したが、その方針をカタール駐留の米軍に向けた演説の中で改めて表明した。この発言を受けて「トランプが本気でアフガン戦略を進めるなら、パキスタンと取引せざるを得ない」と以前に分析しており、インドとパキスタン間の最近の衝突を背景に、両国間で密かな交渉が進行している可能性があると述べている。
また、トランプは中国との「完全な関係再構築(total reset)」を提唱しており、これが米中の複数極化を特徴とする「G2」もしくは「チメリカ(Chimerica)」と呼ばれる枠組みの復活に繋がる可能性があるとされている。もしこのような方向に向かえば、米国が従来進めていた「アジアへの再転換(Pivot back to Asia)」、特にインドに対して期待されていた中国封じ込めの役割は重要性を失う。この文脈において、トランプがインドとの関係を軽視しているように見える背景が説明されうる。
ただし、バグラム空軍基地への復帰が中国国境に近いという地理的要因から強く意識されていることを鑑みれば、トランプ政権が中国との新たな緊張緩和(“New Détente”)を模索する中でも、対中戦略上の「保険」としての側面を持つと考えられる。
さらに、米国がアフガニスタンに軍を再配置するためには、パキスタンの協力が不可欠であり、テロ対策を名目としたパキスタンへの軍事支援の再開が想定される。このことは、中国とパキスタンが推進する中国・パキスタン経済回廊(CPEC)の安全保障を米国が黙認する可能性を意味しうるが、CPECはインドが自国領と主張するカシミールを通過しているため、インドにとって重大な懸念となる。また、軍事支援がインドとの武力衝突に転用される恐れがあることからも、インドの反発は必至とされる。
このような取り決めが進展した場合、ロシアにとっても悪影響が及ぶ可能性がある。2024年12月に計画されたロシアによるパキスタンの資源部門の近代化プロジェクトは、当時、米国が制裁を見送った背景として、中国の影響力を相対的に抑える意図があったと分析されている。しかし、米中間で「新デタント」が実現した場合、米国はロシアとの関係よりも中国との協調を優先し、このようなロシアの利権に関心を示さなくなる可能性がある。
また、米国がパキスタンへの影響力を行使して、ロシアに対してアフガニスタンへの米軍再駐留を黙認させる交換条件として、同国の資源契約をロシアに与える可能性もある。その場合、米国とロシアはアフガニスタンで「友好的な競争者」として共存する形を取りつつ、ロシアの既存または計画中のプロジェクトを継続させるとの見通しも提示されている。
このように、パキスタンおよびアフガニスタンを舞台とする米露中の三者間協力、あるいは競合が本格化すれば、インドにとって深刻な懸念となる。とりわけ、ロシアとパキスタンの間でアフガニスタンを経由した貿易回廊が形成され、さらにCPECおよび米国による戦略的鉱物への投資、加えて米国からパキスタンへの武器供与が行われれば、地域秩序の大幅な再編に繋がる恐れがある。
この新たな地政学的枠組みにおいて、米国、中国、パキスタン、さらにはロシアからの圧力がインドに加えられ、「大ユーラシア構想(Greater Eurasia)」の実現という名目の下で、カシミール地方の分割を受け入れるよう迫られる可能性もあるとされている。
【詳細】
バグラム空軍基地への米軍復帰構想の背景
トランプ大統領は2021年のアフガニスタンからの米軍撤退を「不名誉な退却」と位置付けており、自らの外交・安全保障戦略の中でその修正を志向している。2025年2月に公表されたこの方針は、同年5月に米軍向け演説でも再確認され、アフガニスタンのバグラム空軍基地への米軍の再駐留が重要政策として位置付けられている。
この復帰計画に関連して、アフガニスタンへのアクセス確保に必要な地政学的条件として、パキスタンとの協力が不可欠であるとされている。これは、米国がアフガニスタンに直接接する唯一の陸路アクセスを、パキスタンの領域を通じて行う必要があるためである。
米中関係と「新デタント(新たな緊張緩和)」の可能性
同時に、トランプは中国との「全面的な関係再設定(total reset)」を模索しており、これは2000年代の「チメリカ(Chimerica)」、すなわち米中二大国による世界秩序管理という枠組みへの回帰とも捉えられうる。これは複数の極が共存する「双多極化(bi-multipolarity)」として理解され、現在の国際秩序に変化をもたらす可能性を秘めている。
この場合、従来の「アジア回帰(Pivot to Asia)」戦略、特にインドを対中封じ込めの要とする構想は重要性を低下させる。この地政学的構造変化は、インドに対する米国の戦略的優先順位が低下していることを意味し、トランプがインドの利害に配慮しない姿勢を見せている理由の一端ともなる。
バグラム復帰と中国への「保険」
しかし、バグラム空軍基地の地理的位置、すなわち中国西部との近接性は、軍事戦略的観点から無視できない要素である。したがって、たとえ米中関係に改善の兆しが見えたとしても、トランプ政権がこの地域における軍事的プレゼンスを維持・強化しようとするのは、万が一米中関係が再び緊張した際の「戦略的保険」として機能させる意図があるとされる。
パキスタンとの取り引きとCPECの容認
米国がアフガニスタンに軍を再配置するにあたり、パキスタンの支援が不可欠である。そのため、米国はパキスタンへの軍事支援を「テロ対策」の名目で再開し、それにより中国とパキスタンが推進する中国・パキスタン経済回廊(CPEC)の安定化に貢献する可能性がある。
これは、米国が暗黙のうちにCPECを容認することを意味するが、CPECはインドが自国領と主張するジャンムー・カシミールを経由しているため、インドにとっては主権侵害と捉えられている。そのため、インドは米国のこの姿勢に強く反発することが予想される。
さらに、パキスタンへの米国の軍事支援は、形式上は対テロ戦略であっても、実質的にはインドとの軍事的均衡を変える可能性があり、特に最近の印パ衝突を受けてその懸念は高まっている。
ロシアの地政学的利益との衝突
ロシアは2024年12月、パキスタンの資源セクターの近代化を支援する計画を進めており、当時の米国はこのプロジェクトに対する制裁を控えていた。これは中国の影響力を緩和する戦略的判断とされていたが、米国が中国との「新デタント」を優先させる場合、パキスタンにおけるロシアの利権に対する関心は希薄となり、制裁の可能性も再浮上することがある。
一方で、米国はパキスタンに影響力を行使し、ロシアに対してアフガニスタンへの米軍再駐留を黙認させる見返りとして、パキスタンの資源契約をロシアに与える可能性もある。このような「相互譲歩」によって、米露はアフガニスタンで「友好的な競合者」として共存し、ロシアのインフラ・エネルギープロジェクトが引き続き実施される可能性も排除できない。
インドにとっての地政学的脅威
もしこのような米中、米露、さらにパキスタンを含む新たな地域枠組みが形成された場合、インドにとっては四面楚歌のような状況となる。特に、ロシアとパキスタン間でアフガニスタンを通じた貿易回廊が構築され、それがCPECや米国の鉱物資源投資と連動し、さらには米国製兵器の流入まで加われば、地域の戦略的均衡は大きく変動する。
このような状況下では、「大ユーラシア構想(Greater Eurasia)」の実現を名目として、インドに対してジャンムー・カシミールの最終的な分割(インド・パキスタンの実効支配線を事実上の国境として固定)を受け入れるよう圧力がかかる可能性がある。米国、中国、パキスタン、さらにはロシアまでもがこの立場に立てば、インドの外交的孤立が強まる恐れがある。。
【要点】
トランプ政権のバグラム空軍基地再利用計画とその含意
・トランプ大統領は、アフガニスタンのバグラム空軍基地への米軍の再駐留を計画しており、2025年2月と5月に繰り返し言及している。
・この計画は、アフガニスタン周辺への戦略的影響力を再確立する意図を示している。
・実現にはパキスタンの協力が不可欠であり、現在、米パ間で非公開の交渉が行われている可能性がある。
米中関係と「新デタント」の可能性
・トランプは中国との「全面的な関係再設定(total reset)」を提唱している。
・これは米中G2(チメリカ)構想、すなわち米中共同による世界秩序管理の復活を意味しうる。
・その場合、インドは米国の対中戦略における優先順位を失うことになり、米印関係は冷却化する可能性がある。
バグラム基地の対中地理的優位性
・バグラム空軍基地は中国西部に近接しており、戦略的価値が高い。
・トランプ政権は、中国との協調を模索する一方で、対中けん制の「保険」として同基地を利用しようとしている可能性がある。
パキスタンとの協力とCPECの容認
・米軍のアフガン再駐留には、パキスタンの領域を通る兵站線が必要不可欠である。
・米国はテロ対策を名目に、パキスタンへの軍事支援を再開する可能性がある。
・これは結果的に、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)の安全保障に寄与し、事実上の容認と見なされる。
・CPECはインドが領有権を主張するカシミールを通過しており、インドにとっては重大な安全保障上の懸念である。
印パ関係への影響
・米国からパキスタンへの軍事支援が再開されれば、インドはその兵器が対印目的にも使われる可能性を懸念する。
・印パ間で最近も軍事衝突が発生しており、このような状況での米国の姿勢はインドを刺激することになる。
ロシアの利害と米露取引の可能性
・ロシアは2024年末、パキスタンの資源セクター近代化支援を計画していた。
・当時、米国はこのプロジェクトに対する制裁を見送っており、中国の影響力緩和を狙っていたと見られる。
・米中「新デタント」が実現した場合、米国はロシアの利害に対して無関心になる可能性がある。
・一方、米国はパキスタンに圧力をかけて、ロシアに資源契約を与える代わりにアフガンでの米軍再駐留を黙認させる可能性もある。
地域秩序の再構築とインドへの圧力
・米中露パの協調により、新たなユーラシア地政学構造が形成される可能性がある。
・ロシアとパキスタン間でアフガニスタンを経由する貿易回廊が整備される可能性があり、これはCPECおよび米国の鉱物投資と連動する。
・こうした構造の中で、インドは外交的に孤立し、米中露パからカシミールの分割(実効支配線の固定)を受け入れるよう圧力をかけられる可能性がある。
・このような圧力は、「大ユーラシア構想(Greater Eurasia)」の実現という大義名分のもとで行われる可能性がある。
【桃源寸評】
トランプのバグラム空軍基地復帰構想は単なる軍事再配置にとどまらず、米中関係、米印関係、米露関係、さらには印パ関係という多層的な地政学構造に重大な影響を与える可能性を秘めている。
バグラム空軍基地の再活用をめぐる動きは、南アジア・中央アジア全体の地政学的秩序に大きな再編をもたらす潜在性を有しているといえる。
しかし、「名月を取ってくれろと泣く子かな」(=実現不可能な願望を無邪気に求める様子)にも似たりてははないか。
1. バグラム空軍基地の再稼働の非現実性
・アフガニスタンにおける現在のタリバン政権は、2021年の米軍撤退後、明確に外国軍駐留に反対している。
・タリバンの同意なしに米軍が再びバグラムに進出するという前提は、極めて非現実的であり、主権国家の意思や国際法を無視した仮定である。
2. パキスタンの地政学的複雑性の過小評価
・パキスタンが米中露という大国の思惑を天秤にかけながら均衡外交を取っている中、米国の意向だけで軍事協力を即決するとは考えにくい。
・米中関係が改善している状況下で、中国の最大の地政学的パートナーであるパキスタンが、米軍の地域再進出を容易に許すかは大いに疑問である。
3. インドへの圧力構造の形成の非現実性
・米中露パが結託し、インドにカシミールの領土放棄を迫るような協調行動を取るという筋書きは、政治的現実から乖離している。
・ロシアとインドの歴史的関係や軍事協力の深さを無視しており、露がインドに対して領土問題で圧力を加えるという想定は説得力に欠ける。
4. CPECと米国の利益の整合性の欠如
・米国はCPECに含まれる中国国有企業、特に軍民融合企業に対して長年警戒を示しており、これを「黙認」するという仮定には大きな論理的飛躍がある。
・米国が中国の主要戦略プロジェクトに結果的に「安全保障」を与えるような行動を取ることは、自らの対中戦略と矛盾する。
5. 全体的な「大ユーラシア再編」構想の抽象性
・ロシア・中国・米国・パキスタンという大国が、それぞれ異なる価値観・利益・対立要素を抱えたまま、インド包囲のような戦略的一致を形成する可能性は極めて低い。
・現実の国際関係では、経済、民族、宗教、国内政治の要因が複雑に絡み合っており、これを単線的に並べて「圧力構造」とするのは、やや願望的である。
議論には、一定の戦略的着眼点はあるものの、現実的な障壁や外交の複雑性を十分に踏まえないまま、あまりに広範かつ抽象的な地政学的再編を描き出しているという批判も成り立つ。
まさに「名月を取ってくれろと泣く子」に喩えられるような、現実を超越した構想であり、現実的な政策判断に直結させるには慎重な吟味が必要である。
カナダ・クリーンランド・パナマ運河などの、まるで「名月を取ってくれろと泣く子かな」の現実を無視
1.カナダ:同盟軽視と経済圧力への反発
・NAFTA再交渉とUSMCA:トランプ政権はNAFTA(北米自由貿易協定)を「最悪の貿易協定」と非難し、カナダ・メキシコと再交渉してUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)を締結したが、その過程では強硬な交渉姿勢が目立ち、カナダ政府や世論から「侮辱的」との反発が広がった。
・鉄鋼・アルミ関税の導入:国家安全保障を理由に、カナダ産の鉄鋼・アルミに追加関税を課したことも、大きな反発を呼び、「同盟国に対する敵対行為」とカナダ政府は厳しく批判した。
2.カナダ首相の発言と対応
・「カナダは売り物ではない」
・2025年5月、トランプ氏がカナダを「51番目の州」と称し、統合の可能性に言及した際、カナダのマーク・カーニー首相は「カナダは売り物ではない」と明言し、国家の主権と独立性を強調した。
・「我々は押し切られない」
・トルドー首相は「カナダ人は礼儀正しく、合理的だが、押し切られることはない」と述べ、トランプ政権の関税政策に対する強い姿勢を示した。
・「非常に愚かな行為」
・2025年3月、トランプ政権がカナダ産品に対して関税を課した際、トルドー首相はこれを「非常に愚かな行為」と非難し、即座に報復措置を取ると表明した。
3.カナダ政府の具体的な対応
・報復関税の導入
カナダ政府は、米国からの輸入品に対して最大25%の報復関税を課し、主に共和党の支持基盤に影響を与える製品を対象とした。
・農業分野での対応
⇨ 新たに任命されたヒース・マクドナルド農業相は、米国および中国との貿易問題の解決を最優先課題とし、特にカナダの農産物輸出に対する関税問題に取り組む姿勢を示した。
⇨ これらの発言や対応は、カナダがトランプ政権の一方的な政策に対して、国家の主権と経済的利益を守るために毅然とした姿勢を取ってきたことを示している。
・G7サミットでの侮辱:2018年のG7サミット後、カナダのトルドー首相を「非常に不誠実で弱い」と公然と非難し、米加関係は戦後最悪の状態と評された。
グリーンランド:買収提案への侮辱感と外交的拒絶
1.「グリーンランド購入」発言:トランプ大統領は、米国がグリーンランドをデンマークから「買収」することに関心があると発言し、これはデンマーク政府とグリーンランド自治政府から「不愉快かつ非現実的な提案」として強く拒否された。
2.デンマーク首相への侮辱発言:デンマークのメッテ・フレデリクセン首相がこの提案を「ばかげている」と述べたことに対し、トランプは「無礼だ」と応酬し、訪問予定だったデンマーク訪問を突然キャンセル。
・この発言は、グリーンランドの人々にとって「主権の軽視」と映り、「植民地主義的発想」として非難された。
パナマ運河:アメリカ中心主義的発言への警戒感
1.トランプ政権はパナマ運河に対して明確な政策を打ち出したわけではないが、米国第一主義の延長線上で中南米のインフラや運河などに関して、「戦略的権益」としての扱いを示唆する発言があった。
2.中国の影響拡大に対する警戒:パナマが中国と接近し、中国企業が運河周辺の港湾権益を拡大していることに対して、トランプ政権は非公式に懸念を表明。これに対し、パナマは主権国家としての自由な外交選択を擁護した。
3.米国の「干渉的態度」に対し、ラテンアメリカ諸国では「モンロー主義の再来」として不信感が強まり、特にパナマでは「米国の過去の支配的関与」に対する記憶が再燃した。
4.これらの事例に共通する反発の根源は以下の通りである。
・主権軽視への憤り:「買収」「関税」「支配的影響」など、主権国家を対等なパートナーではなく、取引対象・戦略資産と見る発言に対する反感。
・一方的な交渉姿勢への不信:トランプ政権の「ディール優先」「力の論理」に対し、友好国ですら警戒を深めた。
・伝統的同盟の価値軽視:多国間主義・国際協調を軽視する態度は、長年の信頼関係を傷つけた。
トランプ大統領の発言や姿勢は、地政学的構想を描くにあたっても、こうした過去の摩擦や反発を無視できない重要な背景となる。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Trump’s Desired Return To Bagram Airbase Could Reshape South Asian Geopolitics Andrew Korybko's Newsletter 2025.05.16
https://korybko.substack.com/p/trumps-desired-return-to-bagram-airbase?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=163686274&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email