米国を凌ぐ中国の評価2025年05月21日 10:07

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【概要】

 2024年から2025年にかけて、米国に対する世界各国の評価が大きく低下した。これは、元NATO事務総長であるアンデルス・フォー・ラスムセン氏が設立した非営利団体「アライアンス・オブ・デモクラシーズ(Alliance of Democracies)」が実施した国際調査の結果として明らかになったものである。

 同団体の調査によれば、2024年時点における米国に対する評価はプラス22%であったが、2025年にはマイナス5%へと急落した。この変化は、世界各国における米国に対する信頼や支持の低下を示している。

 一方で、中国に対する評価はプラス14%であり、米国を上回る数値となった。このことは、少なくとも本調査においては、世界の一部の国々において米国よりも中国への評価が高まっていることを意味する。

 調査は97か国を対象に実施され、そのうち53か国が米国に対して否定的な評価を示した。これに対し、米国を肯定的に評価した国は44か国にとどまった。よって、全体としては、米国に対する否定的な認識が肯定的な認識を上回ったことが統計的に示されている。

 本調査結果は、国際社会における米国のイメージや影響力が変動していることを示す一つの指標である。

【詳細】 

 2025年5月13日に報じられた情報によれば、世界における米国の評価が2024年から2025年にかけて急激に低下したことが明らかになった。この評価の変化は、国際的な世論調査を通じて測定されたものであり、単なる一国や地域の見解ではなく、広範なグローバル規模での印象変化を反映している。

 調査を実施したのは、「アライアンス・オブ・デモクラシーズ(Alliance of Democracies)」という非営利団体である。同団体は、デンマーク出身で元NATO(北大西洋条約機構)事務総長を務めたアンデルス・フォー・ラスムセン氏によって設立された。同団体は、民主主義の価値を推進し、その支持度や信頼性に関する調査や啓発活動を行っている組織として知られている。

 今回の調査では、世界の97か国を対象としており、対象地域はアジア、ヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカ、中東など、多様な文化圏と政治体制を含んでいる。各国において、米国に対する評価を「肯定的」または「否定的」のいずれかで示す形式が採られており、その結果を集計して全体の傾向が導かれた。

 2024年の調査結果においては、米国に対する世界全体の評価はプラス22%であり、これは肯定的な評価が否定的な評価を22ポイント上回っていたことを意味する。しかし、2025年にはこの数値がマイナス5%にまで落ち込んだ。すなわち、米国に対して否定的な評価が肯定的評価を5ポイント上回る結果となった。

 この数値の下落幅(計27ポイントの低下)は顕著であり、短期間における米国の国際的イメージの悪化を如実に物語っている。これに対し、中国に対する評価は2025年においてプラス14%とされ、米国よりも肯定的評価が多いという結果となった。この点において、中国は少なくとも今回の調査の文脈において、米国を上回る国際評価を得たことになる。

 また、97か国の内訳を見ると、米国に対して否定的な評価を示した国は53か国であった。これは全体の過半数を占めている。一方、肯定的な評価を与えた国は44か国にとどまった。これにより、国数の上でも、米国に対する否定的認識が肯定的認識を上回っていることが示された。

 このような国際的評価の低下は、外交政策、国際的な発言力、民主主義に対する信頼、経済的・軍事的な影響力、あるいは人権問題、環境問題への姿勢など、複合的な要因によって構成されている可能性がある。しかしながら、本件においては具体的な要因分析には言及されておらず、あくまで評価そのものの数値的変化に着目したものである。

 この結果は、米国がこれまで築いてきた「自由と民主主義のリーダー」としての地位に対する国際社会の見方に変化が生じていることを示唆しており、国際関係におけるパワーバランスや価値観の再編にも関係する可能性がある。

【要点】

 ・調査は、非営利団体「アライアンス・オブ・デモクラシーズ(Alliance of Democracies)」によって実施されたものである。

 ・同団体は、元NATO事務総長アンデルス・フォー・ラスムセン氏によって設立された組織であり、民主主義の促進を目的としている。

 ・調査の対象は世界97か国に及び、地域的にはアジア、ヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカ、中東などを含んでいる。

 ・2024年における米国の評価は「プラス22%」であり、肯定的評価が否定的評価を22ポイント上回っていた。

 ・2025年には米国の評価が「マイナス5%」に転落し、否定的評価が肯定的評価を5ポイント上回る結果となった。

 ・この評価の変化は、1年間で27ポイントの急落を示しており、国際社会における米国のイメージが大きく低下したことを意味する。

 ・一方、中国の評価は2025年に「プラス14%」となり、米国を上回る結果となった。

 ・97か国のうち、米国に対して否定的な評価を示した国は53か国であり、全体の過半数を占めた。

 ・米国に肯定的な評価を与えた国は44か国であり、否定的評価の国数を下回った。

 ・この結果は、評価国数と評価率の両面において、米国に対する国際的な信頼や支持が低下していることを統計的に裏付けている。

 ・調査結果は評価の変化を示すものであり、評価低下の具体的要因(外交政策、国内情勢、人権問題等)については明記されていない。

 ・本調査の結果は、米国の国際的地位や役割に対する各国の見方に変化が生じている可能性を示唆している。

💚【桃源寸評】

 米国が世界の反感を理解できない構造とその病理

 近年、米国に対する国際的評価は著しく低下している。ピュー研究所や「アライアンス・オブ・デモクラシーズ」などの国際世論調査によれば、米国に対する信頼度や好感度は2020年代に入って急速に悪化し、過去数十年で最も深刻な水準に達している。こうした数字の裏側には、米国という国家の構造的な問題と、その問題に対する自己認識の欠如が潜んでいる。

 例外主義という自己神話の壁

 米国は建国以来、自らを「特別な国家」「世界の道徳的リーダー」とする例外主義(American exceptionalism)に強く依拠してきた。この思想は、他国や国際社会からの批判や非難を受けても、「我々の価値観こそが唯一正しい」との自己正当化に繋がりやすい。結果として、国際社会の怒りや不満は「嫉妬」や「誤解」として一蹴される傾向がある。これが米国と世界の間に大きな溝を生んでいる。

 国内メディアの閉鎖性とナショナリズムの強化

 加えて、米国内の主要メディアは国外からの批判的視点を十分に報じず、国民は建国神話や「自由の守護者」としての自己イメージを強く刷り込まれている。教育においても、奴隷制や先住民の虐殺など国家の加害的歴史は軽視される傾向があり、国民全体の歴史認識が偏っている。こうした閉鎖的な情報環境は、国際社会が米国に抱く嫌悪や不信の深刻さを内側に伝えず、世界の現実を理解する妨げとなっている。

 価値観輸出の矛盾と共感性の欠如

 米国政府や多くの市民は、「民主主義」や「自由市場」の普及を道徳的責務と信じており、その価値観を世界に輸出し続けている。しかし、その過程で現地の文化や社会、主権を破壊する結果を生むことも少なくない。この矛盾に気づかず、「なぜ感謝されないのか」と問い続ける態度は、世界からは共感性の欠如として厳しく批判されている。

 世界の警告が届かない「間抜け」な国家

 実際の国際世論調査では、米国に対する信頼が年々低下し続けている一方で、米国内の危機感は希薄である。むしろ一部では、「我々が嫌われているのは正しいからだ」という逆説的な論理が支持されている。この現象は、過剰な自己確信に囚われた巨大国家の傲慢と無知の象徴といえる。

 嫌悪の事実を理解できない病理

 このように、米国は自らが世界から嫌われているという事実を構造的に受け止めようとせず、理想が理解されないことを嘆くにとどまっている。もはやこれは単なる国家の問題ではなく、自己崩壊の兆しを孕んだ巨大文明体の病理的現象とみなすべきである。

 アメリカ国内の自己批判的言説

 興味深いことに、米国内にはこうした状況を冷静に批判する知識人や活動家も存在する。例えばノーム・チョムスキーはアメリカの「民主主義の仮面」を剥ぎ取り、軍事介入や経済的不平等を鋭く指摘してきた。作家ハワード・ジンも「アメリカのもうひとつの歴史」として、国家が犯してきた暴力の歴史を明らかにしている。こうした声は米国社会の内部からの変革を模索しているが、主流的な政治権力に押し潰されることも多い。

 このように、米国の世界的な評価の低下は単なるイメージ問題ではなく、国家の構造的な問題の反映である。そして、その問題を自己批判し変革へ向かうことなく、自己神話のなかに閉じこもることが、この巨大国家の衰退の根本原因となっている。今後の国際社会の展望は、この病理を克服できるかにかかっていると言えるだろう。

 このように、米国の国際評価の低下は構造的問題の表れであり、その根本には、自己神話と情報閉鎖、矛盾の自覚なき鈍感さがある。今後の展望は、この病理を克服できるかにかかっていると言える。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

【図説】米国に対する世界の評価が低下 中国下回る sputnik 日本
2025.05.13
https://sputniknews.jp/20250513/19907676.html

英国特殊部隊によるアフガニスタンにおける民間人殺害疑惑2025年05月21日 15:17

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【概要】

 2025年5月14日付のスプートニク日本語版は、英国特殊部隊によるアフガニスタンにおける民間人殺害疑惑に関し、元アメリカ国防総省分析官カレン・クヴャトコフスキー氏の見解を紹介した。

 クヴャトコフスキー氏は、このような行為は「植民地に遠征して戦争を行うスタイル」の一環であると述べた。この種の行動は過去にも見られたものであり、例えばベトナム戦争の際にも類似の事例があったと指摘している。

 同氏は、今回のスキャンダルが偶然に明るみに出たものではなく、意図的に暴露された可能性があると見ている。すなわち、西側諸国が今後ガザ地区におけるイスラエル軍の行動に関してさらなる暴露がなされることを見越し、それに対する世論の受け入れ準備、いわば「下地作り」としてこのスキャンダルを提示したという見方である。

 クヴャトコフスキー氏は、こうした暴露は軍隊や政治家を擁護するための手段として用いられる場合があるとしながらも、犯罪に関与した軍人は除隊され、正当に裁かれるべきであると述べた。また、このような行為を無視した場合、軍隊の士気、すなわちモラルはすでに低下していることを示しているとも指摘している。

【詳細】 

 英国特殊部隊がアフガニスタンで民間人を不当に殺害したとされる疑惑が報じられている。これに対して、米国防総省で長年にわたり情報分析業務に携わった経歴を有するカレン・クヴャトコフスキー氏が見解を述べた。

 同氏によれば、今回の疑惑は単なる軍規違反や現場の暴走ではなく、歴史的かつ構造的な文脈の中で理解されるべき事象であるという。すなわち、旧来の西側諸国による「植民地型軍事介入」の延長線上に位置づけられる行動であり、そのスタイルは過去の多くの戦争、特にベトナム戦争にも見られたものであると指摘する。植民地的な発想に基づく軍事行動とは、占領地や介入地域の住民を対等な存在として扱わず、統治や支配の一環として暴力を行使する傾向を含む。

 クヴャトコフスキー氏はまた、このスキャンダルが「偶然に」公になったものではないという立場を示している。同氏によると、現在の国際情勢、特にガザ地区におけるイスラエル軍の軍事行動が今後さらに暴露され、国際的に大きな反響を呼ぶことが予見される中、西側諸国はそれに対する世論の衝撃を和らげる、いわば「慣らし運転」のような情報操作を行っている可能性がある。つまり、まずは自国の過去の軍事的不祥事を開示することで、将来起こりうる、あるいはすでに起こっている他の重大な暴露に対する耐性を社会的に形成する意図があるという分析である。

 このような行動の背景には、軍隊や政府関係者の責任追及を回避し、制度の正当性を維持しようとする動機があると同氏は考えている。しかし、クヴャトコフスキー氏は、実際に犯罪に関与した軍人については、懲戒免職などの措置にとどまらず、法の下で正式に裁かれるべきであると明言している。彼らの行為を黙認することは、軍全体の倫理観や士気の劣化、すなわちモラルの崩壊を意味するとし、その影響は軍組織内部にとどまらず、国家の正統性や国際的信頼性にも波及すると警鐘を鳴らしている。

【要点】

 英国特殊部隊のスキャンダルの概要

 ・英国特殊部隊がアフガニスタンで非武装の民間人を殺害した疑惑が報じられている。

 ・これに関連して、元アメリカ国防総省分析官カレン・クヴャトコフスキー氏がコメントを発表した。

 クヴャトコフスキー氏の主な指摘と見解

 1. 歴史的な軍事行動の延長としての理解

 ・今回の特殊部隊による行動は、単発的な逸脱ではなく、「植民地戦争のスタイル」と同質のものと位置づけられる。

 ・植民地における遠征軍が、現地住民を対等に扱わず、組織的暴力を行使する歴史的傾向の現代的表れである。

 ・ベトナム戦争においても同様の非人道的行動があったとされ、今回の件と構造的に共通する点がある。

 2. スキャンダル暴露の意図性

 ・同氏は、このスキャンダルの公表が偶然であるとは見ていない。

 ・今後、ガザ地区におけるイスラエル軍の軍事行動についても重大な暴露が予想される。

 ・それに備えて、西側諸国は自国軍の過去の不祥事を先に明らかにすることで、世論の反応を鈍化させる「下地作り」をしていると分析している。

 3. 軍や政治家の責任回避のための戦術

 ・この種のスキャンダル暴露は、軍や政治指導者を直接的な批判から守るための「緩衝材」としての機能を果たす可能性がある。

 ・自浄作用を装うことで制度への信頼を維持しようとする意図がうかがえる。

 クヴャトコフスキー氏の提言と警告

 1.犯罪行為に対する厳正な処罰の必要性

 ・犯罪に関与した軍人は単に除隊させるだけでなく、法的に裁かれるべきであると同氏は強調。

 ・軍内部での処分のみで済ませることは正義に反するとされる。

 2.軍隊のモラルへの悪影響

 ・このような犯罪行為が放置された場合、軍隊全体の士気(モラル)は著しく低下する。

 ・モラルの低下は、軍隊の規律、戦闘能力、さらには国家の信頼性にも深刻な影響を及ぼす。

 総括

 ・今回のスキャンダルは、単なる軍規違反の事件ではなく、歴史的、政治的、情報戦略的な文脈において理解されるべき複合的な問題である。

 ・クヴャトコフスキー氏の分析は、軍事的暴力、国家による情報操作、そして国際的な世論形成の背後にある意図を明らかにするものである。

💚【桃源寸評】

 クヴャトコフスキー氏の見解は、個別の事件を超えて、西側の軍事文化や情報操作、さらには国際政治上の世論形成に関する構造的な問題を包含するものである。以上が、同氏の発言内容およびその背景に関するものである。


 因みにいえば、ソンミ村虐殺事件(My Lai Massacre)は、ベトナム戦争中にアメリカ軍が起こした重大な戦争犯罪の一つであり、国際的に強い非難を浴びた事件である。

 ソンミ虐殺事件は、ベトナム戦争中の1968年3月16日、アメリカ軍兵士がベトナムのクアンガイ省ソンティン県ソンミ村(ミーライ地区)で非武装のベトナム人住民を虐殺した事件である。

 この事件の主な内容は以下の通り。

 ・発生日時と場所: 1968年3月16日、ベトナム中部クアンガイ省ソンミ村(ミーライ地区)。

 ・加害部隊: アメリカ陸軍第20歩兵連隊第1大隊チャーリー中隊の兵士たち。

 ・犠牲者: わずか4時間のうちに、女性、子ども、高齢者を含む500人以上の非武装の村人が虐殺された。住居や畑も焼かれ、家畜も殺された。

 ・事件の隠蔽と発覚: 事件は当初隠蔽されていたが、約1年半後の1969年12月にジャーナリストによって明るみに出た。

 ・責任と裁判: 軍事法廷で虐殺に関与したとされる士官14人が殺人罪などで起訴されたが、ほとんどが無罪となり、有罪判決を受けたのは小隊長のウィリアム・カリー中尉のみであった。カリー中尉は終身刑を宣告されたが、ニクソン大統領の命令により釈放され、その後短期間の自宅軟禁を経て、1974年には保釈された。

 ・影響: ソンミ虐殺事件は、ベトナム反戦運動の象徴となり、アメリカ国内外で大きな批判の声が起こり、アメリカ軍の支持を失う大きなきっかけとなった。また、戦争の残虐性や、ごく普通の人々が狂気に追い込まれる戦争の恐ろしさを浮き彫りにした。事件に関わった兵士の中には、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむ者も多く出たとされている。

 現在でも、ベトナムでは毎年この事件の追悼式が行われ、アメリカの退役軍人なども参列し、犠牲者を悼んでいる。

 さらに、事実を列挙する。

 基本情報

 ・事件名:ソンミ村虐殺事件(My Lai Massacre)

 ・発生日時:1968年3月16日

 ・場所:南ベトナム クアンガイ省 ソンミ村(ソン・ティン県)

 ・加害側:アメリカ陸軍第23歩兵師団(アメリカ第11軽歩兵旅団チャーリー中隊)

 ・被害者:ソンミ村の民間人(主に女性、子ども、高齢者)約347〜504名(諸説あり)

 事件の経緯

 ・アメリカ軍は、ベトナム南部のゲリラ勢力(南ベトナム解放民族戦線、いわゆる「ベトコン」)を掃討する作戦を実行中であった。

 ・作戦対象地域であったソンミ村に「ベトコンが潜伏している」との情報があり、チャーリー中隊が同村に侵入。

 ・しかし、村にいたのは主に非武装の民間人であった。

 ・アメリカ兵は多数の村人を無差別に射殺し、女性への性的暴行、家屋の焼却、家畜の殺害なども行った。

 ・約4時間にわたり、村民に対する大規模な虐殺行為が続けられた。

 内部告発と報道

 ・この事件は当初、軍内部で隠蔽されていた。

 ・アメリカ兵の一人、ヒュー・トンプソン伍長(ヘリパイロット)が虐殺を目撃し、現場で民間人を守ろうと試みた。

 ・その後、兵士の一人であるロン・ライデンアワーが事件の詳細を手紙で国会議員に訴え、調査が開始された。

 ・1969年、シーモア・ハーシュ記者による報道で事件が公になり、全米および国際社会に大きな衝撃を与えた。

 法的・軍事的対応

 ・ウィリアム・カリー中尉が殺害命令を出したとして有罪判決を受けた(終身刑)。

 ・ただし、カリー中尉は3年余りの自宅軟禁のみで釈放された。

 ・他の関係者多数も起訴されたが、多くが免責または不起訴となった。

 ・アメリカ軍および政府の対応は「不十分」との批判が国内外で噴出した。

 歴史的意義と影響

 ・ソンミ虐殺事件は、アメリカ国内での反戦運動をさらに拡大させる契機となった。

 ・米軍の倫理、指揮体系、戦争犯罪責任に関する議論が激化した。

 ・「軍による調査・隠蔽の限界」や「兵士の命令と良心の対立」などの教訓が浮き彫りとなった。

 ・ベトナム戦争全体への信頼失墜を象徴する事件として記憶されている。

 関連事項

 ・「正義なき戦争」「倫理なき命令」の象徴として、軍事倫理教育の重要事例となっている。

 ・ソンミ村には現在、犠牲者を追悼する記念碑や資料館が設けられている。

 ・国際法上、明白な戦争犯罪(War Crime)に該当するとされる。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

西側は下地作り 英特殊部隊スキャンダル暴露を元ペンタゴン分析官はこう読む sputnik 日本 2025.05.14
https://sputniknews.jp/20250514/19911598.html

欧州連合(EU)は依然として「達成不可能な勝利」のために資金を投入2025年05月21日 15:52

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【概要】

 ハンガリーのオルバン首相は2025年5月13日、欧州議会の会議において、西側諸国によるロシア崩壊を目指した戦略は失敗に終わったとの認識を示した。彼は、制裁がロシア経済を崩壊させるには至らず、その目的を果たせなかったにもかかわらず、西側諸国はその失敗を認めようとしていないと述べた。

 オルバン首相によれば、アメリカはすでにこの現実を受け入れ、交渉の段階へと進んでいるが、欧州連合(EU)は依然として「達成不可能な勝利」のために資金を投入し続けており、その結果、「戦争の傍らに取り残される」という危険に直面しているという。

 またオルバン氏は、「世界はすでに変化しているが、欧州人はその変化に追いついていない」との見解を示した。EUは過去15年間を有効に活用できず、経済的・地政学的に進行している世界的な大変革に対応する準備ができていないと指摘した。

これに関連し、ロシアのプーチン大統領は2025年3月、ロシアに対して科された制裁の件数が合計2万8595件に達しており、これは他のいかなる国に科された制裁件数をも上回るものであると述べた。また、これらの制裁がロシア経済の発展を促進する「触媒」となったとの見方を示した。

【詳細】 

 1. 発言の概要

 2025年5月13日、ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は欧州議会での発言において、ロシアの崩壊を目指した西側諸国の戦略が失敗に終わったという見解を示した。オルバン氏は、西側諸国は当初、ウクライナ戦争に際して経済制裁や外交的圧力を通じてロシアを弱体化させ、最終的には政治的・経済的に崩壊へと追い込むことを期待していたとする。しかしながら、その目論見は現実には達成されておらず、ロシアは依然として持ちこたえていると述べた。

 2. 制裁の効果とロシア経済の現状

 オルバン氏は、西側諸国による制裁措置がロシア経済に致命的な打撃を与えることはなかったと指摘した。これは、単なる一時的な経済的圧力ではなく、ロシアの制度全体に影響を及ぼすことを意図していた広範な経済制裁を意味する。しかし、ロシア経済は制裁下でも崩壊には至らず、特にエネルギー、農業、軍需産業分野などではむしろ自立性を高める方向へと舵を切った。

 ロシア側の見解として、プーチン大統領は2025年3月の発言において、ロシアに対する制裁措置は2万8595件に達し、これは世界中の他国に対して発動された制裁の総数を上回るものであると述べた。彼はこれらの制裁がロシア経済を「抑圧する手段」であると同時に、「内製化と技術独立の促進」という意味で「触媒」としても作用しているとの認識を示した。

 3. 欧米間の温度差

 オルバン首相は、アメリカと欧州連合(EU)の対応の差にも言及した。アメリカはすでに、戦略的な方向転換として、ロシアとの対話・交渉のフェーズに入っていると評価している。これに対してEUは、「勝利」という明確な終局のないまま、巨額の資金と政治的リソースを投入し続けており、結果的に「戦争の傍らで取り残される」というリスクにさらされているとした。

 4. 欧州の構造的問題と遅れ

 オルバン氏はさらに、欧州の対応が「時代の変化」に追いついていないことを強調した。特に、過去15年間における技術革新、エネルギー構造の変化、地政学的再編、グローバルサウス諸国の台頭などの大きな変革に対し、EUは有効な改革や開発を行ってこなかったと批判した。欧州は内部の規制強化や官僚主義、政治的分裂により、変化への機動的な対応ができないまま、世界の潮流から取り残されているという認識を示している。

 5. 発言の背景と文脈

 オルバン首相は、EU諸国の中でもロシアとの関係において比較的独自路線をとっている数少ない指導者であり、対露制裁に対して一貫して慎重または批判的な姿勢を示してきた。ハンガリーはエネルギー資源の多くをロシアに依存しており、制裁がもたらす経済的・社会的影響について、より現実主義的な視点を持っているとされる。

 そのため、今回の発言は単なる批判にとどまらず、EUの政策全体に対する根本的な再検討を促す提言とも受け取れる内容である。

 6. まとめ

 オルバン首相の発言は、以下のように要約できる。

 ・西側諸国の対ロ戦略(制裁による崩壊狙い)は失敗であった。

 ・アメリカは戦略を見直し交渉に進んでいるが、EUは硬直的に資源を投入し続けている。

 ・ロシアは経済崩壊には至らず、むしろ制裁を契機に自立化を進めている。

 ・EUは世界の変化に追いついておらず、過去15年間を有効に活用できなかった。

 ・結果として、欧州は世界の地政学的変化の中で「取り残される」危険に直面している。

【要点】

 発言の要旨

 ・西側諸国によるロシア崩壊を目的とした戦略は失敗したとオルバン首相は指摘。

 ・ロシア経済は崩壊せず、制裁の目的は果たされなかった。

 ・西側はその失敗を認めようとしていないと批判。

 米国とEUの対応の違い

 ・米国は状況を認識し、ロシアとの交渉路線に転換しつつある。

 ・一方、EUは「達成不可能な勝利」を目指し、資金を浪費し続けている。

 ・このままでは、EUは戦争の傍らで取り残される危険がある。

 欧州の構造的な遅れと問題点

 ・世界がすでに大きく変化しているにもかかわらず、欧州人はその変化に対応できていない。

 ・過去15年間を有効に活用できず、技術革新・地政学変動への準備が不十分。

 ・結果として、欧州は国際社会の変革に乗り遅れている。

 ロシア側の見解と反応

 ・プーチン大統領によれば、ロシアへの制裁件数は累計2万8595件で、世界最多。

 ・これらの制裁は、ロシア経済の発展を逆に促進する「触媒」になったと主張。

 ・ロシアは制裁に適応し、エネルギー、軍需、農業などで自立化を進展中。

 オルバン首相の立場と発言の背景

 ・オルバン氏はEU諸国の中でもロシアとの関係に比較的中立的・現実的な姿勢を持つ。

 ・ハンガリーはロシアからのエネルギー供給に依存しており、制裁の影響を強く受ける立場。

 ・本発言は、EU政策への再考を促す警鐘と解釈される。

 総合的評価

 ・西側の対露戦略は再検討が必要であり、現状維持では欧州の地位がさらに低下する恐れ。

 ・オルバン氏は、現実主義に基づいた外交・安全保障戦略への転換を求めている。

💚【桃源寸評】

 発言は、現在の国際秩序の再編が加速する中で、EUの立ち位置と戦略の再評価を求める警鐘として解釈されるべきである。

 西側(特にEU)は何処に行くのか

 EUは何処に行くのか――この問いの含意

 ・戦略目的の不明確化
 
 ロシアへの制裁・支援政策を続けながらも、最終的に何を達成しようとしているのかが曖昧である。勝利とは何か、終結の条件とは何かといった定義が欠けている。

 ・現実と理想の乖離

 理想として掲げる「民主主義の勝利」「国際秩序の回復」などに対し、現実の経済・エネルギー・安全保障の負担は大きく、国民の支持も一様ではない。

 ・アメリカ依存の深刻化
 
 戦略的決定において自律性を失い、アメリカの後追いとなっている。アメリカが交渉へと舵を切った場合、EUは取り残される懸念がある。

 ・地政学的再配置への対応の遅れ
 
 グローバルサウス(南半球諸国)や中国・インドなどの台頭、ロシアの対非西側諸国戦略強化に対し、EUは柔軟な対応ができていない。

 ・内部統一の困難

 加盟国間の利害対立(例:ハンガリー、スロバキア、オーストリアなど一部親露的立場)が足かせとなり、統一した外交・安全保障政策の形成が難航している。

 オルバン発言の本質的メッセージ

 ・「欧州は目標なき努力を続け、戦争の舞台の傍らで消耗していく」という危機感。

 ・「変化する世界に適応できない欧州は、やがて世界の主要舞台から退場する」という警告。

 ・「理念ではなく現実に即した新たな戦略転換が必要だ」という提案。

 結語

 今、EUは歴史的岐路に立っている。

 戦争・制裁・エネルギー・安全保障・経済圏の再編など、複数の問題が同時に押し寄せる中、EUが理念に固執し続ければ、自らの地政学的地位を失いかねない。一方、現実を直視し、柔軟かつ戦略的に舵を切るならば、新たな役割を築くことも可能である。

 すなわち―「西側(特にEU)は何処に行くのか」とは、
「理念を守って沈むのか、現実を見て浮上するのか」という選択そのものである。


 「EUはユーラシア大陸から見れば半島に過ぎない」

 単なる地理的観察を超えた、地政学的・文明論的示唆を含んでいるのである。

 以下、その意味と含意を整理する。

 1.地理的観点:「ヨーロッパは半島である」

 ・ユーラシア大陸の西端に位置するヨーロッパは、厳密には巨大な「ユーラシア」の一部、すなわちユーラシア大陸の西の突端である。

 ・面積的にも地政学的にも、「中心」ではなく「端」に位置している。これは、影響力や戦略的主体性を保つために常に拡張や介入を志向する性格とも重なる。

 2.文明的視点:「常に外へと向かうヨーロッパ」

 ・古代・中世から続くヨーロッパ文明は、外へ出ることで自らを正当化してきた。十字軍、植民地拡大、世界大戦、EU拡大などに見られるように、拡張こそが存在意義であった。

 ・東方への志向(ロシア、中央アジア、中国)はその流れの一部であり、自らの周縁(=半島性)を克服する衝動とも言える。

 3.地政学的含意:「半島人の宿命としての外圧と恐怖」

 ・半島に位置する国家・地域は、しばしば海からの刺激(通商・文化・侵略)と、内陸からの圧力(軍事・覇権)の板挟みになる。

 ・現代のEUも同様で、アメリカ(大西洋)とロシア・中国(大陸)の狭間で、自律性を維持するのが難しい。

 ・NATOによる米国依存、対露関係の硬直化、対中経済の葛藤は、まさに「半島人の宿命的構造」を反映している。

 4.「もっと東へ」:東進願望の根源

 ・EUがウクライナやジョージアを取り込もうとする動きは、単なる防衛的拡大ではなく、東方への進出によって大陸内部の影響力を高めようとする意志の表れである。

 ・だがその一方で、その進出が限界に達したとき、半島であるがゆえの脆弱性が露呈する。すなわち「背後が海で逃げ場がない」という構造である。

 5.「半島人」のアイロニー

 ・EUは大陸の中心を目指して東へ進むが、それ自体が地政学的な無理を孕んでいる。

 ・自らを「中心」と見なしていたヨーロッパが、実は大陸の「端」に過ぎないと気づいたとき、戦略と意識の抜本的転換が求められる。

 ・現実は大陸の力が再び中央へ(ユーラシアの中心)と集まる中、EUが本当に“どこへ行くのか”という問いが、ますます重要になる。

このように「半島人」という視点は、EUの構造的な脆弱性、歴史的な行動様式、そして戦略的な限界を象徴する非常に含蓄のある表現である。ヨーロッパの未来を考える上で、地理と文明の双方からこの視点を見直すことは有益である。

 トランプ氏と「買収」の冗談

 1. EUを「乗っ取る」発想の冗談的意味

 ・トランプ氏のスタイルを踏まえるなら、EUを「買収」または「経営刷新」する発想はむしろ彼らしいとも言える。

 ・現在のEUは官僚主義、分裂、戦略の不在など問題を抱えており、トランプ的経営感覚では「赤字部門」と見なされかねない。

 ・仮に乗っ取るとすれば、「NATOの傘代を払わせ、ドイツにもっと金を出させ、ブリュッセルをトランプタワーにする」くらいのことは言いそうである。

 2.地政学的冗談の奥にある現実

 ・米国は第二次大戦後、事実上「西ヨーロッパの安保と秩序の後見人」として振る舞ってきた。いわば半ば「管理人」のような立場である。

 ・トランプ氏はその伝統的役割に疑問を投げかけ、「守ってやっているのだから、もっと払え・従え」という立場を強調した。

 ・その延長線上に、「だったらいっそ乗っ取ってしまえ」という冗談が成立する。

 3.笑い話にしては含蓄が深い

 ・「カナダやグリーンランドよりもEUを乗っ取った方がよいのでは?」

 ・─これは単なるジョークに見えて、次のような問いを突きつけている。

 ・EUの自律性はどこにあるのか?

 ・欧米同盟は本当に対等か?

 ・現代の民主主義連合はビジネス合理性に耐えうるのか?

 ジョークが現実に近づきつつある時代、笑いはもはや予言でもある。

 その意味で、トランプ氏がEUに名札を貼り替える日が来ないとは限らない─冗談として、である。

 <瓢箪から駒が出る>

 1.それが現実になるとき

 ・トランプ氏のグリーンランド購入構想も、当初は「冗談」として受け流された。

 ・だが、米軍基地(チューレ)を背景とした戦略的関心が現実にあった。

 ・同様に、EUをビジネス視点で「収支の合わない組織」と見なす発想も、彼の文脈では冗談では済まされない。

 2.歴史における「瓢箪から駒」

 ・ベルリンの壁の崩壊も、「誤解からの記者会見」が発端であった。

 ・トランプ大統領誕生も、当初は「あり得ない」とされていた。

 ・ブレグジットも、英国国内ですら「まさか」の結果だった。

 3.EUとアメリカ:経営される自由主義

 ・EUが自律性を失い、**地政学的にも経済的にも「マネージャー不在」**に見える今、
  「誰かが乗っ取ってくれた方がマシ」というブラックユーモアも成立しうる。

 ・トランプ的発想は、「理念より利益」、「連帯より契約」で動くため、
 
  彼から見ればEUは『買収対象』として魅力があるのかもしれない。
 
 4.瓢箪から駒が出たとき、我々は笑っていられるか

 冗談は、時に未来の伏線である。
 笑われていた発想が、やがて正気を凌駕する時代。
 それが「瓢箪から駒」の本質である。

 つまり―「EUを乗っ取る」という冗談に笑っていられるのは、今のうちかもしれない。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

ロシア崩壊を目指した西側の戦略は失敗 欧州は「取り残される」=ハンガリー首相 sputnik 日本 2025.05.13
https://sputniknews.jp/20250514/19911598.html

英政党が有権者を失望させる理由2025年05月21日 18:51

Microsoft Designerで作成
【概要】

 英政党が有権者を失望させる理由:破られた約束の遺産

 政党は選挙時に壮大な公約を掲げて政権に就くが、選挙が終わるとその約束が反故にされることが多い。イギリスでは、保守党と労働党のいずれもが、こうした期待外れの実績を積み重ねてきた。

 保守党:破られた公約の数々

 税制に関する公約と現実の乖離

 ・約束:2019年、当時のボリス・ジョンソン首相は「新しい税金は導入しない」と明言した。

 ・現実:2021年までに国民保険料が引き上げられ、課税最低額も凍結された。これにより実質的に労働者の可処分所得は減少し、保守党の掲げた「低税率」の約束は事実上破られた。

 国民保険と医療制度の資金増額

 ・約束:2023〜2024年までに340億ポンドの追加資金投入を公約。

 ・現実:医療現場では資金が不足し、記録的な待ち時間や設備の老朽化、さらには医療従事者の大規模なストライキが発生。追加資金が十分に行き渡っていない現状が露呈した。

 移民政策の公約と実態

 ・約束:「Brexit」によって移民数が制限され、国境管理が強化されるとした。

 ・現実:実際には純移民が74万5000人に急増。さらに、違法移民の抑止策として打ち出されたルワンダ移送計画も実施に至らず、機能しなかった。

 環境政策の後退

 ・約束:2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「ネットゼロ」を目標とした。

 ・現実:スナク前首相はガソリン車の販売禁止を延期し、北海での新たな石油掘削を承認。エネルギー業界寄りの姿勢が目立ち、気候変動対策の実効性が疑問視されている。

 労働党:理想と現実の乖離

 高等教育に関する約束と現状

 ・約束:1997年の選挙時、トニー・ブレア元首相は「大学の授業料は導入しない」と公言。

 ・現実:1998年には年間1000ポンドの授業料が導入され、以後も引き上げが続き、現在では年間9250ポンドを超えている。学生の負債額も大きな社会問題となっている。

 外交政策とイラク戦争

 ・約束:労働党は平和と国際協調を重視する外交政党としての姿勢を打ち出していた。

 ・現実:ブレア首相は、大量破壊兵器の存在を理由にイラク戦争に参戦したが、後にその根拠は虚偽と判明。戦争は中東における大規模な人道的被害と不安定化をもたらした。

 住宅政策の実行不足

 ・約束:社会住宅の供給拡大を掲げ、住宅不足問題への対応を宣言。

 ・現実:ブレア首相およびブラウン首相の時代に民営化が進められ、社会住宅の供給は不十分にとどまり、今日の住宅危機の一因となった。

 経済政策の後退

 ・約束:2019年の選挙で、ジェレミー・コービン前党首は鉄道や公共事業の国有化、富裕層への課税強化を公約とした。

 ・現実:その後、スターマー党首の下で労働党は左派的改革を事実上放棄し、中道寄りで大企業に有利な政策路線へと転換した。

【詳細】 

 英政党が有権者を失望させる理由:破られた約束の遺産

 イギリスの主要政党である保守党と労働党は、いずれも過去数十年にわたって選挙時に掲げた公約を守らず、多くの有権者の信頼を損ねてきた。これは一過性の問題ではなく、政治的文化としての「約束破り」の積み重ねによるものである。

 保守党の事例(政権与党としての責任と矛盾)

 1. 税制:実質増税の強行

 ・公約内容:2019年の総選挙において、ボリス・ジョンソン首相(当時)は「新しい税金は導入しない」と明言した。これは保守党の基本理念である「小さな政府」「低税率経済」に基づく。

 ・実際の施策:2021年に国民保険料(National Insurance)が引き上げられ、加えて所得税の課税最低額(Personal Allowance)も凍結された。これにより名目上の税率が変わらなくても、インフレによって実質的な税負担が増す「ステルス増税」となった。

 ・評価:結果として、労働者層を中心に可処分所得が減少し、公約の核心である「低税政策」が裏切られた。

 2. 医療:NHS資金増額の不履行

 ・公約内容:2023〜2024年における国民医療サービス(NHS)への340億ポンドの追加投資を約束。

 ・実際の状況:予算増額は一部実行されたが、インフレや医療需要の急増に対応するには不十分であった。NHSでは待機時間の長期化、設備の老朽化、看護師・医師の大規模ストライキが発生し、システム全体が機能不全に陥っている。

 ・評価:公約は形式的に守られた側面もあるが、質的な改善には結びつかず、期待外れに終わった。

 3. 移民:Brexit後の増加と混乱

 ・公約内容:「Brexitによって移民の流入を抑制し、国境管理を回復する」として有権者に訴えた。

 ・実際の結果:2022年には純移民数が74万5000人に達し、過去最高を記録。制度的な整備が追いつかず、移民対策の柱とされたルワンダ移送計画は法的・実務的問題から頓挫した。

 ・評価:Brexitに伴う移民管理強化の約束は象徴的意味にとどまり、実態は逆行した。

 4. 環境政策:ネットゼロ目標の後退

 ・公約内容:2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「ネットゼロ」を国家目標とした。

 ・実際の政策変更:リシ・スナク首相(当時)はガソリン車の販売禁止措置を2030年から2035年に延期し、さらに北海油田の新規掘削を承認。これにより環境保護よりもエネルギー安定供給と経済成長を優先する姿勢が明確になった。

 ・評価:長期目標は維持されているが、実施手段が軟化しており、実効性が疑問視される。

 労働党の事例(理念と現実の乖離)

 1. 教育:授業料制度の導入

 ・公約内容:1997年の選挙公約において、ブレア元首相は「大学の授業料は導入しない」と明言。

 ・現実の政策:政権獲得後、1998年には年間1000ポンドの授業料を導入。現在では年間9250ポンドに達し、英国の高等教育は学生ローン依存型の制度へと転換された。

 ・評価:教育の無償化を支持していた支持層に対する重大な裏切りとされている。

 2. 外交政策:イラク戦争の参戦

 ・公約内容:労働党は外交において平和主義的姿勢を掲げていた。

 ・実際の行動:2003年、トニー・ブレア政権は米国のブッシュ政権と共にイラク戦争に参戦。戦争の根拠とされた大量破壊兵器の存在は否定され、参戦の正当性が問われた。

 ・評価:多数の市民と兵士の犠牲、中東の長期的混乱を招き、政権の信頼を根底から揺るがした。

 3. 住宅政策:民営化による供給不足

 ・公約内容:社会住宅の供給拡大を明言し、低所得者層への支援を強調した。

 ・現実の展開:実際には民間セクターへの依存が進み、社会住宅の建設は停滞。住宅価格の高騰も相まって、今日の深刻な住宅危機の要因となった。

 ・評価:低所得層の居住安定を実現するには至らず、公約とのギャップが顕著である。

 4. 経済政策:コービン派のビジョンの放棄

 ・公約内容:2019年、ジェレミー・コービン率いる労働党は鉄道、郵便、エネルギーなどの公共インフラの国有化と、富裕層への課税強化を公約とした。

 ・実際の転換:キア・スターマー党首のもとで、労働党はこうした左派的経済政策を段階的に撤回。現在は中道寄りでビジネスフレンドリーな政策を前面に出している。

 ・評価:従来の労働支持層、とりわけ労働組合や若年左派からの支持を低下させている。

 結論

 イギリスの二大政党は、政権獲得時に掲げた公約を実行に移す過程で、現実の制約や政治的利害によってしばしば方針転換を行ってきた。その結果、有権者の間に広範な政治不信が広がっている。これは偶発的な失敗ではなく、制度的・文化的要因によって支えられた「破られた約束の遺産」である。英国政治の再建には、説明責任と政策実行力の両立が不可欠である。

【要点】

 保守党の破られた公約

 税制:「新しい税金なし」のはずが実質増税

 ・2019年、ボリス・ジョンソン首相は「新しい税金は導入しない」と公約。

 ・2021年、国民保険料の引き上げと所得税の課税最低額凍結が実施される。

 ・名目上は増税でないが、インフレと凍結による実質増税に。

 ・労働者の可処分所得が減少し、「低税率」の約束は有名無実化。

 国民保険:医療への追加投資が機能せず

 ・2023~2024年にNHSに340億ポンドの追加投資を公約。

 ・現実には資金不足が続き、医療現場では:

  ⇨記録的な診療待ち時間。

  ⇨インフラの老朽化。

  ⇨医療従事者による大規模ストライキが発生。

 ・政策効果が有効に現れておらず、現場の逼迫は続く。

 移民:「移民の抑制」は達成されず

 ・Brexitを通じて「移民のコントロールを取り戻す」と主張。

 ・実際には2022年の純移民が74万5000人に急増。

 ・ルワンダへの移送政策は法的・実務的障害で挫折。

 ・国境管理と移民制限の公約は大きく裏切られた形となる。

 環境:ネットゼロ目標が後退

 ・2050年までの温室効果ガス「実質ゼロ(ネットゼロ)」を掲げる。

 ・リシ・スナク前首相は以下の政策を実施:

  ⇨ガソリン車販売禁止の延期(2030年 → 2035年)。

  ⇨北海油田での新規石油掘削を許可。

 ・環境より経済優先の姿勢が強まり、環境政策の信頼性が低下。


 労働党の破られた理想

 教育:無償化の公約から授業料導入へ

 ・トニー・ブレア首相は「大学授業料を導入しない」と明言(1997年)。

 ・しかし1998年に年間1000ポンドの授業料を導入。

 ・現在の授業料は年間9250ポンド以上。

 ・学生は高額な学生ローンを背負う構造に変化。

 外交:平和主義公約からイラク戦争へ

 ・労働党は「平和的外交」を掲げていた。

 ・ブレア政権は大量破壊兵器という誤情報を根拠に、2003年にイラク戦争に参戦。

 ・多数の民間人死傷と中東の不安定化を引き起こす。

 ・英国国内でも大規模な反戦デモが発生、公約との乖離が明確に。

 住宅:社会住宅供給の不足

 ・社会住宅の増設を掲げて選挙に臨んだ。

 ・ブレア政権下ではむしろ民営化が進行。

 ・結果として社会住宅が不足し、現在の住宅危機の一因に。

 ・住宅価格と賃貸価格の高騰が深刻な社会問題に。

 経済:左派改革路線から中道へ転換

 ・ジェレミー・コービン党首(2019年)は以下を公約:

  ⇨鉄道・郵便・エネルギーなどの国有化。

  ⇨富裕層への増税。

 ・現在のスターマー党首はこれら左派路線を撤回。

 ・中道・大企業寄り政策を採用し、従来の労働支持層と乖離。

 総括:なぜ失望が広がるのか

 ・保守党・労働党ともに、選挙公約と実際の政策の間に大きな隔たりがある。

 ・特に生活直結分野(税金、医療、教育、住宅)での失望が深い。

 ・公約は政権奪取のための手段に過ぎず、実行段階で後退・撤回が頻発。

 ・結果として、有権者の間に政治への不信と幻滅が広がっている。

💚【桃源寸評】

 保守党・労働党ともに過去の選挙公約が守られなかった事例が多く、有権者の失望を招いている。これらの「破られた約束」は、現代英国政治における不信と幻滅の重要な要因である。

 何処の国も同じ消えゆくバルーン

 選挙が近づくたび、街には色とりどりの風船が舞い始める。

 「増税しません」「教育無償化」「脱炭素社会」―どれも形がよく、空高く舞い上がる。候補者たちは風船の紐を誇らしげに掲げ、子どものように目を輝かせて叫ぶ。「これが未来だ」と。

 だが、有権者たちはもう知っている。その風船は手放された瞬間からしぼみ始めることを。

 浮かび上がるほどに中身の軽さが露呈し、風に流され、やがて誰も見ない空の端で弾ける。

 世界各地、どこの国でもその光景は同じである。

 希望の形をした約束は、地に足がついていない。
 
 公約は「選ばれるための芸術」であり、「守られるための契約」ではない。守られた約束より、上手に破られた約束のほうが政治家としての評価は高いとすら言われる時代である。

 それでも、人々はまた手を伸ばす。

 次の風船に、わずかな期待を込めて。

「今度こそ、本物かもしれない」と。

 <賽の河原>

 政治への適用:賽の河原=民主政治の現場

 ・有権者が選挙のたびに期待と希望を積み上げる(石を積む)。

 ・政治家は公約という名の石を掲げ、「これが未来です」と微笑む。

 ・だが、選挙が終わるたびにその石は崩される。
 
 ・政策は裏切られ、構造は変わらず、改革は頓挫する。

 ・それでもまた人々は次の選挙で石を積み始める

  ―「今度こそ」と祈りながら。

 冷ややかな真理

 ・与党が崩す。野党も崩す。
  専門家もメディアも、それをただ見ているだけ。

 ・バルーンは破れ、希望はしぼみ、石は崩れ、
 
  それでも人々は積み続ける。

 絶望美

 「賽の河原なのである。」という一文は、

 すべての政治的サイクルが永劫回帰する無意味な儀式に思えてくるこの時代の、
最も静かで重い皮肉である。

 それは叫びではない。

 皮肉でもない。

 ただの事実である。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

英政党が有権者を失望させる理由:破られた約束の遺産 sputnik 日本 2025.05.13
https://sputniknews.jp/20250513/19906663.html

日本の15歳未満の子どもの数は、前年より35万人少ない2025年05月21日 19:43

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【概要】

 2025年4月1日時点における日本の15歳未満の子どもの数は、前年より35万人少ない1366万人となり、統計を取り始めて以来の最低値を記録した。日本政府は、結婚の奨励や子育て世帯への支援を含む様々な少子化対策を実施しているものの、出生率は依然として上昇していない。

 ロシア高等経済学院人口動態研究所の上級研究員であるオリガ・イシポヴァ氏は、この状況が日本の労働力確保、経済、社会構造にとって望ましくないと述べている。人口を安定的に維持するには、女性一人あたりの生涯出生数が約2.1人であることが必要とされているが、現時点において先進国でこの水準を達成している国は存在しない。日本における2024年の合計特殊出生率は1.21人であった。

 また、医療やケアの充実により死亡率の低下が可能であるとしても、出生数の増加には結びつかないとされている。出生率の低下の背景には、子どもの養育にかかる経済的負担の大きさ、家庭よりもキャリア形成を優先する志向の高まり、初産婦の平均年齢の上昇といった要因がある。政府は、子育て家庭に対して社会的支援を提供しており、子ども一人が生まれるごとに財政的な支援が追加で支給されるほか、働く母親向けの保育施設の整備も進めているが、こうした施策は期待されたほどの成果を挙げていない。

 イシポヴァ氏は、少子化の進行について「このプロセスは不可逆的である」との見解を示している。

 社会心理学の専門家であるアレクサンドル・テスレル氏も、同様に悲観的な見方を示している。彼は、現代社会においては実生活のパラダイムが大きく変化しており、かつては複数の子どもを持つことが一般的であったのに対し、現在ではそれが例外となっていると指摘している。この傾向は経済成長とともに強まり、高い生活水準が子どもの養育に対して高度な要求を伴っている。良質な教育、スポーツ、音楽などを含む総合的な発達を目指す場合、それに伴う費用は膨大である。

 心理学的な観点から見ると、子育てには大きな責任が伴い、個人の自由を制限し、経済的な負担もかかる。常に注意を払うことが求められ、個人の可能性を制限する側面もある。テスレル氏は、人間は常に他者の世話をするよりも、自らの一度きりの人生を主体的に生きたいと願う傾向にあると述べている。

【詳細】 

 2025年4月1日時点における日本の15歳未満の子どもの数は1366万人であり、これは前年から35万人減少した数値である。減少幅としても大きく、この統計は日本の人口統計上、史上最少を記録している。この状況は、日本社会が直面する少子化の深刻さを端的に示すものである。

 日本政府はこの人口動態の悪化に対し、複数の政策的措置を講じてきた。具体的には、結婚を希望する若年層への支援、育児と就労の両立を可能にする保育環境の整備、子育て世帯への金銭的支援の強化、住宅や教育に関する助成制度などである。しかしながら、これらの支援にもかかわらず、出生率は上昇に転じていない。

 ロシア高等経済学院人口動態研究所の上級研究員であるオリガ・イシポヴァ氏は、現状について専門的見地から以下のように分析している。人口を安定的に維持するためには、女性一人あたりの生涯における平均出生数(合計特殊出生率)が約2.1人であることが望ましい。この数値は人口置換水準(replacement level)と呼ばれ、自然減を防ぐための基準とされる。しかし、先進国においてはこの基準を現在満たしている国は存在しておらず、特に日本では2024年の合計特殊出生率が1.21人であった。

 イシポヴァ氏はさらに、死亡率が適切な医療・ケアによって低下したとしても、出生率の増加が見込めない構造的な要因が存在していると指摘する。その要因として、育児にかかる経済的負担の大きさ、結婚や出産よりもキャリア形成を優先する個人の価値観の変化、晩婚化・晩産化に伴う出産可能期間の短縮などが挙げられる。

 日本では、子どもを出産した世帯に対して追加的な財政支援が与えられる制度が整備されている。例えば、出産一時金や児童手当などがその代表例である。また、働く母親を支援するための保育施設の整備も進められている。しかし、こうした少子化対策の施策群は、出生率を有意に押し上げる結果には至っておらず、期待された効果を十分に発揮していないというのが現状である。イシポヴァ氏は、この人口減少の流れを「不可逆的」であると評価している。

 一方、社会心理学の観点からも同様の懸念が示されている。社会心理学者アレクサンドル・テスレル氏は、現代における実生活のパラダイムが過去とは大きく異なっていると述べている。かつては複数の子どもを持つことが社会的な「標準」とされていたが、現在においてはそれが「例外」となっている。これは社会の価値観の変化によるものであり、経済成長とともにこの傾向は一層顕著になっている。

 現代における生活水準の向上は、単に生活を豊かにするだけでなく、子どもに対して高度な教育・育成環境を整えることが親に求められる時代背景を作り出している。子どもに良い教育を与えること、音楽やスポーツといった習い事を通じて総合的な能力を伸ばすことは、非常に高額な費用を伴う。そのため、経済的・時間的・心理的な負担はかつてよりも大きくなっている。

 さらに、心理学的な視点からテスレル氏は、子育てとは大きな責任を伴う行為であり、個人の自由を大きく制限するものとされている。育児は、常に注意を払い、継続的な対応が求められるため、個人の可能性や選択肢が狭まりやすい。物質的なコストに加え、精神的な負担も大きい。こうした背景の下、人々は「誰かの世話を続ける人生」よりも「自分自身の人生を自由に生きること」を選好する傾向にある。

 以上のように、少子化の要因は単一ではなく、経済的・社会的・心理的に多層的な構造を持つものである。政府の政策的対応だけでは根本的な改善が難しいという点が、各専門家の見解に共通している。

【要点】

 日本の子ども人口の現状

 ・2025年4月1日時点で、15歳未満の子ども人口は1366万人である。

 ・前年比で35万人の減少となり、統計開始以来の最少値を記録している。

 ・少子化は継続的かつ深刻な傾向を示している。

 日本政府の対応とその効果

 ・結婚の促進、育児支援、保育施設の整備など、様々な政策を実施している。

 ・出産や育児に対する経済的支援制度(例:児童手当、出産一時金)を提供している。

 ・働く母親を支援する保育インフラも強化されている。

 ・しかし、これらの施策は出生率の上昇という効果を十分にはもたらしていない。

 専門家の見解①(オリガ・イシポヴァ氏/人口動態研究者)

 ・人口を維持するには、合計特殊出生率が2.1程度必要である。

 ・日本の2024年の出生率は1.21であり、人口置換水準を大きく下回っている。

 ・現在、この基準を満たしている先進国は存在しない。

 ・医療やケアにより死亡率を下げても、出生数増加には直結しない。

 ・出生率低下の要因は以下の通りである:

  ➢養育費の高さ

  ➢キャリア志向の強まり

  ➢初産年齢の上昇

 ・少子化の流れは「不可逆的」との見解を示している。

 専門家の見解②(アレクサンドル・テスレル氏/社会心理学者)

 ・実生活の価値観(パラダイム)が変化している。

 ・昔は複数の子を持つのが一般的であったが、現在は少数が標準である。

 ・経済成長と生活水準の向上により、子どもに対する期待・要求が高まっている。

 ・総合的な育成(教育、スポーツ、音楽等)には多額の費用が必要である。

 ・子育てには以下のような心理的負担がある:

  ➢責任が重く、自由が制限される

  ➢常に注意を払う必要がある

  ➢経済的・時間的コストが高い

 ・人は他者の世話よりも「自分の人生を自由に生きたい」と願う傾向が強まっている。

 総合的な観点

 ・少子化の背景には経済的、社会的、心理的要因が複雑に絡んでいる。

 ・単一の政策や支援策では、構造的な問題の解決は困難である。

 ・専門家らの見解には、現在の少子化傾向が長期的かつ不可逆的であるという共通認識がある。

💚【桃源寸評】

 人口が7千万人前後の時、日本は戦争していた。この狭い国に、現在、1億2,000万人余いるのだ。何のため子供を欲しがる、国も国民も。それこそ夢も希望も持てない国で。

 「何のために子どもを欲しがるのか」という問いへの背景整理

 1. 人口と国家の機能維持の関係

 ・現代国家において、人口規模は経済活動、社会保障制度(年金・医療)、地域コミュニティの持続性などと深く関係している。

 ・少子化によって労働力人口が減少すると、経済成長が鈍化し、社会保障制度の維持が困難になる。

 ・子どもを望む背景には、単に「数」ではなく、社会を機能させ続けるための世代交代という実務的要請がある。

 2. 過去との比較:戦時期と現代

 ・人口7,000万人前後で戦争をしていた昭和初期は、食糧・住宅・医療などのインフラも現在ほど発達していなかった。

 ・当時の社会構造は「集団・国家・家」のために生きる色合いが強く、子どもも「家族労働力」や「兵力」として位置づけられる側面があった。

 ・一方、現代では個人の幸福や自己実現が尊重される社会へと変化し、子どもを持つことも「自由な選択」のひとつとなっている。

 3. 「夢も希望もない国」における子どもの存在意義

 ・社会の閉塞感、経済的困難、将来不安が拡大する中、「子どもを持ちたいと思えない」という感覚は広がっている。

 ・そのような感覚は個人の合理的判断として理解可能であり、否定されるべきものではない。

 ・しかし一方で、子どもを育てることに希望や意味を見出す人も存在し、それは「国家のため」ではなく「個人の人生の意味」として成り立っている。

 4. 国が子どもを求める理由

 ・国家レベルでは、人口減少が経済縮小、地域衰退、安全保障の脆弱化などに直結するため、出生数の維持が政策目標となっている。

 ・子どもを欲しがるというより、「減り続けると社会システムがもたない」ために出生数維持が求められている、というのが実情である。

 視点整理

 「何のために子どもを欲しがるのか」という問いには、国家の維持という現実的な問題と、個人の人生観や価値観という根源的な問いが交差している。

 国が子どもを求めるのは制度維持と経済活動の継続のためであり、国民が子どもを求めるのは、自己実現や家族形成、あるいは命の継承といった個人の内的動機による。

 だが、そのどちらの動機も、現代社会の不安定さ・先の見えなさの前では弱まっており、「夢も希望もない国で、なぜ子どもを?」という問いは、多くの人にとって切実な現実認識となっている。

 この問いには、正解も断定的な結論もない。ただ、人口の話を単に「数」として語るのではなく、「どんな社会を築きたいか」という根源的な問いと結びつけて考える必要がある。

 亀の子育てに見られる特徴と人間社会への示唆

 1. 「親による個別の子育て」がない

 ・多くの亀は、卵を砂に埋めたら放置し、孵化後も子どもに一切関わらない。

 ・子亀は自力で海や川に向かい、以後の生存は完全に個体の力に委ねられる。

 ・親は自分の子どもが誰かを認識しておらず、「自分の子だけを守る」という行動が存在しない。

 ・親子の境界が個体間で曖昧であり、個体単位ではなく「種全体」で存続を図る生態系的戦略といえる。

 2. 「種としての共存」が観察される

 ・子亀が親亀や他の成体に攻撃されたり、排斥されたりする例が少ないという観察は重要である。

 ・個体が「自分の子ではないから」と差別したり、拒絶したりしない点は、ヒト社会が抱える「血縁偏重」の価値観と対照的。

 ・これは「自分の子だけ守る」ではなく、「皆が生き残れる環境を保つ」という進化的合目的性**に基づく行動と読み解ける。

 3. 人間社会との対比:個別育児 vs. 集団育児

 ・人間は長期の養育期間を必要とし、感情的な絆や教育的介入が育成に不可欠とされてきた。

 ・一方で、かつての村落共同体などでは、「誰の子であっても皆で面倒を見る」ような集団育児的要素が存在した。

 ・現代社会ではそれが失われ、「親だけが責任を負う」構造に再編されている。

 ・亀のように、血縁を超えて育てるという発想が、現代社会に再導入されるべきではないかと思われる。

 「種の保存」的視点から見る育児の再構築

 ・ヒトが現在抱えている育児の「私化」(プライベート化)が、果たして種全体の存続にとって適切なものなのか、という根本的な問いを含んでいる。

 ・自分の子だけを育てる社会から、「誰の子であっても未来の社会の構成員」として共に育てる社会へ─それは、自然界の生存戦略から学べる重要な視点である。

 ・人間は「理性」や「個性」という特別な特質を持つ一方で、他の生物と同じように「命をつなぐ存在」であることを忘れがちである。

 ・亀の生態に見られるような血縁を超えた種としての連帯感覚は、現代の分断的・個別化された育児観を見直す上で、大きなヒントを与えてくれまいか。

 育児の本質を生物学的・社会的・哲学的に問う、再度問う必要がないだろうか。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

【視点】政策も効果なし 日本の子ども人口は減少の一途 sputnik 日本 2025.05.11
https://sputniknews.jp/20250511/19898319.html