「アジア版NATO」構想の愚2025-08-08 21:21

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【概要】

 石破茂新首相が提唱した「アジア版NATO」構想と、それに対する米国側の反応について報告している内容である。

 石破氏は、これまで4回の自民党総裁選で敗北しながら、今回ついに首相となった。総裁選において石破氏は「アジア版NATO」の創設を主張し、日米同盟や米韓同盟、米比同盟などを有機的に結合させるべきだと述べた。また、中国をこの枠組みに含める可能性にも言及し、「中国を入れるか入れないかは決められない」と発言した。

 しかし、同時期に米国のハドソン研究所へ送った寄稿文では、中国を「脅威の対象」と明記していた。中国を含む集団防衛体制は日本の安全保障政策の根幹を崩すものであり、中国主導の「東アジア共同体」構想に近い形になるとの指摘がある。

 石破氏の寄稿文「石破茂氏の日本の新安全保障時代・日本の外交政策の将来」は2024年9月28日にハドソン研究所から発表された。その中で石破氏は次の骨子を述べた。

 ・ウクライナがロシアに侵略されたのはNATOに加盟していなかったためであり、「今日のウクライナは明日のアジア」である。ロシアを中国、ウクライナを台湾に置き換えるべきである。

 ・アジアにはNATOのような集団防衛システムがないため戦争が起こりやすい。中国抑止には米欧諸国によるアジア版NATO創設が不可欠である。

 ・アジア版NATOは中国、ロシア、北朝鮮の核戦力を抑止するものであり、米国の核シェアや核兵器のアジア地域への持ち込みを考慮すべきである。

 ・日本の自衛隊は他国防衛のためにも出動・戦闘できるよう国内法を改正する。

 これらはいずれも日本の安全保障政策を根本的に改変する内容であるが、国内での議論や示唆がないまま米国に向けて表明された。

 米国側の反応は総じて冷淡であった。ハドソン研究所のジェームズ・プリシュタップ上級研究員は「巨大な発想だが時期尚早であり、実現することは決してない」と丁重ながらも否定的に評価した。ランド研究所のジェフリー・ホーナン日本部長、外交関係評議会のシーラ・スミス研究員も「非現実的」と一蹴した。取材に応じた米国関係者の中には「日本の新首相がこんな現実性に欠ける政策を発表するとは信じられない」と述べる者もいた。

 記事は、アジア版NATO構想の非現実性についても指摘する。日本、韓国、フィリピン、インドなどが反中同盟に結集できるのかは疑問であり、インドは非同盟を国是とし、韓国が有事に日本の自衛隊を受け入れる可能性も低い。また、日本は憲法上、集団的自衛権の行使に制約があり、米国の核兵器を国内に持ち込む提案も過去に行っていない。

 NATOは1949年にソ連の軍事的脅威を抑止するために結成され、自由民主主義や法の支配、人権尊重といった共通の価値を持つ国々による同盟である。アジアの状況はこれとは大きく異なる。すでにインドと中国はこの構想に反対を表明している。

 記事は最後に、石破氏がこの構想を国際的な否定的反応を受けて引っ込め始めたことに触れ、そのような人物に国家の運命を委ねることへの不安を示している。

【詳細】 

 経緯と全体像

 石破茂氏が自民党総裁選に過去4回立候補して敗れた経歴を経て、ついに日本国の首相となったことが出発点である。総裁選や首相就任に伴い、対外・安全保障政策について多くの主張を行ったが、そのなかで注目されたのが「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」構想である。

 構想の提出先と本文の位置づけ

 石破氏は、総裁選と前後して米国のハドソン研究所に「石破茂氏の日本の新安全保障時代・日本の外交政策の将来」と題する寄稿を行い、その中でアジア版NATOの骨子を示したと記事は伝えている。記事はこの寄稿をアメリカ側に向けて表明した重大な方針表明であると評価している。

 寄稿(アジア版NATO)で示された主要骨子

 記事は寄稿の内容を以下のように整理している。各項目は記事の記載に基づくものである。

 (1) ウクライナの事例を引き、ウクライナがNATOに加盟していなかったため侵略を受けたとし、「今日のウクライナは明日のアジア」であるとして、ロシア→中国、ウクライナ→台湾と置き換えて議論すべきであると述べている。
アゴラ 言論プラットフォーム

 (2) アジアにはNATOのような集団防衛システムがないため紛争が起きやすいとして、中国を抑止するために米欧側諸国を含む「アジア版NATO」の創設が不可欠であると主張している。

 (3) その抑止の対象として中国、ロシア、北朝鮮の核戦力を挙げ、抑止力確保のために「米国の核のシェア(共同使用)」や「米国の核兵器のアジア地域への持ち込み」について検討すべきだと述べている。

 (4) 日本の自衛隊について、従来は日本本土への攻撃への対処に限定されていたが、アジア版NATO下では国内法を改めて他国の防衛にも出動して戦うようにする、との方針を示している。

 国内での提示手続きに関する論点

 記事は、これらがいずれも日本の安全保障政策の根本的改変につながる重大方針であり、国内での十分な議論や示唆を経ずにアメリカ側に向けて表明された点を問題視している。記事はその行為自体を「日本国民への根本的な背信行為」と評している。

 米側の受け止め(専門家の反応)

 記事は、米側関係者・専門家の反応を取材した結果、概してこの構想は「非現実的」と受け止められ、一笑に付されたと記述している。具体例として、ハドソン研究所日本部上級研究員ジェームズ・プリシュタップ氏が「アジア版NATOは巨大な発想だが、その時期は来ていない。実現することは決して無いだろう」と述べたことを挙げている。ランド研究所のジェフリー・ホーナン日本部長や外交関係評議会のシーラ・スミス研究員も「非現実的」「実現できない発想」と評したと記事は伝えている。

 取材で得られたより辛辣な評価

 記事は、名を出さない条件での米側関係者の発言として、「日本の新首相がこんな現実性に欠ける政策を対外的に発表するとは信じられない」や「無知に等しい」といった辛辣な反応があったことを報告している。全体として米側専門家の反応は嘲笑、苦笑に近い印象であったとされる。

 構想の現実性を巡る具体的な問題点(記事で指摘された点)
 
 記事はアジア版NATOの構想が日本国内で想起すれば直ちに明らかになる非現実性を列挙している。主な指摘は次のとおりである。

 ・日本、韓国、フィリピン、インドなどが反中集団同盟として結集し得るのか疑問である。特にインドは非同盟の国是を長く維持してきた点を挙げている。

 ・韓国が有事に日本の自衛隊を自国内へ招き共同戦闘を展開する可能性は低いと記事は指摘している。

 ・日本は憲法上の制約により集団的自衛権の行使に制約があるままであり、他国防衛のために自衛隊が戦闘を行うよう国内法を改めることは重大な制約変更を伴う点を問題視している。

 ・米国の核兵器を日本国内へ持ち込む、あるいは核の「共有」を実行に移すことは、日本の安全保障政策のこれまでの枠組みを大きく変える提案であり、石破氏自身がこれまで提起してきた例は乏しいと指摘している。

 NATOの成立背景とアジアとの相違点

 記事は、NATOが1949年にソ連の軍事的脅威を抑止する目的で結成された歴史的経緯を説明している。当初の加盟国は12か国であり、現在ではフィンランドやスウェーデンを含めて加盟国は32か国となった。NATO加盟国は自由民主主義、法の支配、人権尊重など共通の価値を有する点が特徴である。これと比較して、アジアの状況は共通基盤の乏しさや国家間の利害の違いが大きく、NATO的な集団的安全保障体制の成立は困難であると記事は論じている。

 国際的反応とその後の動き

 記事は、すでにインドや中国が反対を表明したことを伝えている。また国際的にネガティブな反応を受け、石破氏がその案を引っ込め始めたと記事は述べている。記事はこうした経緯を紹介した上で、「こんな非現実的な構想を実際に提起して、国際的にネガティブな反応に怯えたかのようにその案を引っ込め始めた石破新首相、そんな人物に国家の運命を委ねることに深刻な不安がある」と結んでいる。 

【要点】

 ・石破茂氏は過去4回の自民党総裁選で敗北した経歴を持ち、今回初めて首相となった経緯がある。

 ・総裁選や就任時に「アジア版NATO」構想を提唱した。

 ・この構想は、日米同盟・米韓同盟・米比同盟などを有機的に結合させる集団防衛体制を想定したものである。

 ・国内発言では中国を含む可能性に言及し、「中国を入れるか入れないかは決められない」と述べた。

 ・一方、米国ハドソン研究所への寄稿文では中国を「脅威の対象」と明記していた。

 ・寄稿文の題は「石破茂氏の日本の新安全保障時代・日本の外交政策の将来」であり、2024年9月28日に同研究所から発表された。

 ・寄稿文で示された骨子は以下の通りである。

 ☞ ウクライナのNATO非加盟が侵略を招いたとし、「今日のウクライナは明日のアジア」である。ロシアを中国、ウクライナを台湾に置き換えるべきである。

 ☞ アジアにはNATOのような集団防衛体制がなく、戦争を招きやすい。中国抑止には米欧諸国によるアジア版NATO創設が不可欠である。

 ☞ 中国・ロシア・北朝鮮の核戦力抑止のため、米国の核シェアや核兵器のアジア地域持ち込みを検討すべきである。

 ☞ 自衛隊の任務を拡大し、他国防衛のための出動・戦闘を可能とするよう国内法を改正すべきである。

 ・記事は、これらが日本の安全保障政策の根本的改変にあたるにもかかわらず、国内で議論や示唆がないまま米国に表明された点を批判している。

 ・米国側の反応は総じて冷淡であり、「非現実的」「実現しない」との評価が多かった。

 ・ハドソン研究所ジェームズ・プリシュタップ氏は「巨大な発想だが時期尚早で、実現は決してない」と述べた。

 ・ランド研究所ジェフリー・ホーナン氏、外交関係評議会シーラ・スミス氏も同様に否定的であった。

 ・匿名の米側専門家からは「現実性に欠ける政策を発表するとは信じられない」「無知に等しい」との辛辣な意見があった。

 ・記事は、この構想の非現実性として以下を指摘している。

 ☞ 日本・韓国・フィリピン・インドが反中同盟として結集できる可能性は低い。

 ☞ インドは非同盟を国是としている。

 ☞ 韓国が日本の自衛隊を自国内に招き共同戦闘を行う可能性は低い。

 ☞ 日本は憲法上、集団的自衛権行使に制約がある。

 ☞ 米国の核兵器を国内に持ち込む提案は過去に石破氏から出たことがない。

 ・NATOは1949年にソ連抑止のために結成され、当初12か国、現在32か国が加盟し、共通の価値(自由民主主義・法の支配・人権尊重)を共有している。

 ・アジアはこうした共通基盤に欠け、NATO的体制の成立は困難であると原文は述べている。

 ・インドと中国はすでにこの構想に反対を表明している。

 ・国際的な否定的反応を受け、石破氏は構想を引っ込め始めたと原文は記している。

 ・記事は、こうした経緯から石破首相に国家の運命を委ねることに深刻な不安があると結んでいる。

【桃源寸評】🌍

 この構想、<飛んで火に入る夏の虫>か
 
 「飛んで火に入る夏の虫」――まさに石破茂氏のアジア版NATO構想は、この諺がぴたりと当てはまる愚策である。火が何かと言えば、それは日本の安全保障を根底から揺るがす危険要素の塊だ。しかも、この火は米中露朝といった大国間対立の火花であり、下手に近づけば日本は焼け焦げるどころか丸焼けになる。

 まず、日本国憲法の主旨から見れば、この構想は真っ向から逆行している。憲法9条は「国権の発動たる戦争」と「武力による威嚇又は武力の行使」を放棄し、戦力の保持と交戦権を否認している。この条文の精神は、日本が国際紛争の解決に武力を用いないという明確な誓約である。ところが、石破構想は、自衛隊を他国防衛のために出動させ、共同戦闘まで行わせることを前提としている。これは集団的自衛権の全面的行使であり、憲法が禁じた武力行使の拡大解釈どころか、ほぼ真逆の方向への政策転換である。

 さらに、アジア版NATOは核兵器の共有や日本国内への核持ち込みまで含む。これは非核三原則の「持たず、作らず、持ち込ませず」を真っ向から破る行為だ。核兵器の存在は抑止力であると同時に、敵国の先制攻撃を招く最大の理由にもなりうる。つまり、石破構想は「抑止」の名を借りて日本を核攻撃の標的リストに自ら名を刻む行為に等しい。

 加えて、この構想は国際政治の現実にも著しく無知である。インドは非同盟を国是とし、韓国は歴史問題・領土問題を抱えたまま日本の自衛隊受け入れを拒む可能性が高い。そんな各国が米欧を巻き込んで一枚岩になれるはずもなく、結局は構想倒れか、日本だけが米国の戦争に引きずり込まれる「都合のいい前線基地」にされるのがオチである。

 つまり、このアジア版NATO創設は、日本を守るどころか、米中対立の火中に自ら飛び込み、燃え尽きるまで逃げられなくする危険極まりない構想である。憲法の平和主義を踏みにじり、非核三原則を反故にし、現実的な同盟関係の見通しもなく、国民に十分な説明もせず国外に約束をばらまく――これほどの無謀は、まさに「飛んで火に入る夏の虫」であり、しかもその虫は国そのものだ。

 この構想を実行に移せば、日本は自ら火に飛び込み、二度と平和憲法の庇護の下に戻れなくなる。国家の安全を守る責任を持つ者がやるべきことではなく、むしろ国を危険に晒す背信行為と言わざるを得ない。

【寸評 完】 💚

【引用・参照・底本】

米側が苦笑した石破新首相のアジア版NATO案 日本戦略研究フォーラム 2024.10.06
https://www.jfss.gr.jp/article/2096

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