米国とパキスタンの関係再強化:タリバンとインドを接近させる結果 ― 2025年10月12日 17:03
【概要】
米国とパキスタンの関係再強化がタリバンとインドを接近させる結果をもたらしたと論じるものである。
インド外相ジャイシャンカルがアフガニスタンの閣僚ムッタキの訪印中にアフガニスタン駐在技術代表部を大使館に格上げすると発表した事実と、前夜にパキスタンがアフガニスタン国内のTTP(パキスタン・タリバン)関連標的を空爆した出来事を結びつけ、両国の接近はリアリズムに基づくものだと指摘している。さらに、米パク関係の復活、トランプ政権(記事では「トランプ2.0」)によるバグラム基地への米軍復帰要求や対中圧力といった要因が絡み合い、地域の勢力関係が再編されつつあると論じている。
【詳細】
インドは外相ドクター・スブラマニヤム・ジャイシャンカルのもと、アフガニスタンのアミール・カーン・ムッタキの六日間の訪問中に技術ミッションを正式な大使館へ格上げすることを発表した。これはムッタキの訪印が実現した翌日に表明された出来事である。
その前夜、パキスタンはアフガニスタン内のいくつかのTTP(テフリーク・イ・タリバン・パキスタン)とされる標的を爆撃した。記事はTTPを米国指定テロ組織として位置づけ、過去三年間で攻撃が十年ぶりの激化を見せていると述べる。
ムッタキは訪印で「我々はインドに対して声明を出したことはない。むしろインドと良好な関係を求めてきた」と述べ、タリバン側にも現実的な利害関係があることを示した。
記事は、インドとパキスタンの歴史的対立に加え、タリバンとパキスタンの関係悪化が現在の接近を促したと説明する。特に、米国占領終了の一年後に安全保障上のジレンマが生じ、タリバンはポストモダン的クーデターであるイムラン・カーン排除の後に米パキ同盟を警戒し、パキスタンはタリバンがデュランド線を承認しないことを恐れたという相互不信があるとする。
これらの相互懸念が、インドとアフガニスタンの領土問題と結び付き、タリバン・インド間の関係改善を促進した。さらに、トランプ2.0によるバグラム基地への米軍復帰要求(これにはパキスタンの便宜が必要とされる)と対インドの新たな圧力キャンペーンがこの過程を加速させたと論じる。
報道によりパキスタンが米国に港を提供しようとしている可能性が指摘されており、これが米軍の地域復帰につながる恐れがあると述べる。同時に、インドはパキスタンがカシミールでテロを支援していると非難し、タリバンはパキスタンがISIS-Kを支援していると非難している点も挙げる。パキスタン側はインドが「バローチスターン解放軍」を支援していると非難し、タリバンはTTPを支援しているとされる。これらの相互非難は、共同での圧力行使の口実となり得ると論じられている。
中国については、米国がパキスタンの対米接近を利用して軍事的圧力を強める可能性があると指摘される。トランプがバグラム復帰を通じて中国の近隣の核施設を脅かすことを意図しているとの記述や、トランプが対中関税を100%とする新方針を打ち出したことが、米パキ関係の復活と同時に中国への警戒を強めていると述べる。
ただし中国は、パキスタンに対してBRI(一帯一路)下のCPEC(中パ経済回廊)を通じて数十億ドルを投資し、パキスタンへの武器供給量でも最大の取引相手であるため、パキスタンを見限る可能性は低いと評している。
最終的に、米国がパキスタンに対して対中距離を求め、もしパキスタンがそれに応じれば、結果として中国とインドがアフガニスタン支援で協調し、復活する米・パ二極体制に対抗する形で地域の地政学的バランスが再形成される可能性があると結論づけている。
【要点】
・インドはアフガニスタン駐在の技術ミッションを大使館に格上げすると発表し、ムッタキの訪印が両国関係の再開を象徴している。
・パキスタンによるアフガニスタン内のTTP標的への空爆と、TTPの近年の攻撃激化が地域の緊張を高めている。
・タリバンとインドの接近は、相互の現実的利害(リアリズム)に基づくものであり、伝統的なイデオロギー対立だけでは説明できない。
・タリバンとパキスタンの関係悪化は、イムラン・カーン排除後の米─パキスタン協力へのタリバン側の警戒と、タリバンによるデュランド線非承認へのパキスタン側の懸念に起因する。
・トランプ2.0のバグラム復帰要求や対中圧力、米─パキスタン関係の復活が地域の勢力均衡に影響を及ぼしている。
・相互の非難(パキスタン―インド、パキスタン―タリバン、タリバン―ISIS-K、など)は、共同圧力行使の口実となる可能性がある。
・中国はパキスタンとの深い経済・軍事関係のため直ちに離反する可能性は低い一方、米国の動き次第では中印がアフガニスタン支援で協調し、地域秩序が再編される可能性がある。
【桃源寸評】🌍
デュランド線(Durand Line)
デュランド線(Durand Line)とは、アフガニスタンとパキスタンの国境線として知られる線である。
概要
1893年に、当時の英領インド政府代表モーティマー・デュランド(Mortimer Durand)と、アフガニスタンのアブドゥル・ラフマン・ハーン国王との間で結ばれた協定によって画定されたものである。
全長はおよそ2,640キロメートルに及び、アフガニスタン東部からパキスタン西部(旧英領インド領内)を分ける形で引かれている。
歴史的背景
この線は、イギリスが自国のインド支配を守るために、ロシア帝国の南下(いわゆる「グレート・ゲーム」)に対抗する防衛線として設定したものである。
デュランド線の設定により、パシュトゥーン人の居住地が分断され、現在もアフガニスタン側とパキスタン側にまたがって存在している。
現代の問題
パキスタンはデュランド線を国際的な正式国境として承認している。
しかし、アフガニスタン側(歴代政権およびタリバンを含む)はこれを正式な国境として承認していない。その理由は、パシュトゥーン人の分断に対する歴史的・民族的反発にある。
このため、両国間では国境警備、密貿易、越境武装勢力の移動などをめぐり、しばしば緊張や衝突が発生している。
現在の意義
デュランド線問題は、アフガニスタンとパキスタン関係の根本的対立点であり、特にタリバン政権下でも依然として解決されていない。
また、この記事(アンドリュー・コリブコの論考)でも指摘されているように、タリバンがデュランド線を認めないことがパキスタン側の安全保障上の懸念となり、両国関係の悪化を招く主要要因となっている。
【寸評 完】 💚
【引用・参照・底本】
Pakistan & The US Brought The Taliban & India Together Andrew Korybko's Newsletter 2025.10.12
https://korybko.substack.com/p/pakistan-and-the-us-brought-the-taliban?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=175928044&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
米国とパキスタンの関係再強化がタリバンとインドを接近させる結果をもたらしたと論じるものである。
インド外相ジャイシャンカルがアフガニスタンの閣僚ムッタキの訪印中にアフガニスタン駐在技術代表部を大使館に格上げすると発表した事実と、前夜にパキスタンがアフガニスタン国内のTTP(パキスタン・タリバン)関連標的を空爆した出来事を結びつけ、両国の接近はリアリズムに基づくものだと指摘している。さらに、米パク関係の復活、トランプ政権(記事では「トランプ2.0」)によるバグラム基地への米軍復帰要求や対中圧力といった要因が絡み合い、地域の勢力関係が再編されつつあると論じている。
【詳細】
インドは外相ドクター・スブラマニヤム・ジャイシャンカルのもと、アフガニスタンのアミール・カーン・ムッタキの六日間の訪問中に技術ミッションを正式な大使館へ格上げすることを発表した。これはムッタキの訪印が実現した翌日に表明された出来事である。
その前夜、パキスタンはアフガニスタン内のいくつかのTTP(テフリーク・イ・タリバン・パキスタン)とされる標的を爆撃した。記事はTTPを米国指定テロ組織として位置づけ、過去三年間で攻撃が十年ぶりの激化を見せていると述べる。
ムッタキは訪印で「我々はインドに対して声明を出したことはない。むしろインドと良好な関係を求めてきた」と述べ、タリバン側にも現実的な利害関係があることを示した。
記事は、インドとパキスタンの歴史的対立に加え、タリバンとパキスタンの関係悪化が現在の接近を促したと説明する。特に、米国占領終了の一年後に安全保障上のジレンマが生じ、タリバンはポストモダン的クーデターであるイムラン・カーン排除の後に米パキ同盟を警戒し、パキスタンはタリバンがデュランド線を承認しないことを恐れたという相互不信があるとする。
これらの相互懸念が、インドとアフガニスタンの領土問題と結び付き、タリバン・インド間の関係改善を促進した。さらに、トランプ2.0によるバグラム基地への米軍復帰要求(これにはパキスタンの便宜が必要とされる)と対インドの新たな圧力キャンペーンがこの過程を加速させたと論じる。
報道によりパキスタンが米国に港を提供しようとしている可能性が指摘されており、これが米軍の地域復帰につながる恐れがあると述べる。同時に、インドはパキスタンがカシミールでテロを支援していると非難し、タリバンはパキスタンがISIS-Kを支援していると非難している点も挙げる。パキスタン側はインドが「バローチスターン解放軍」を支援していると非難し、タリバンはTTPを支援しているとされる。これらの相互非難は、共同での圧力行使の口実となり得ると論じられている。
中国については、米国がパキスタンの対米接近を利用して軍事的圧力を強める可能性があると指摘される。トランプがバグラム復帰を通じて中国の近隣の核施設を脅かすことを意図しているとの記述や、トランプが対中関税を100%とする新方針を打ち出したことが、米パキ関係の復活と同時に中国への警戒を強めていると述べる。
ただし中国は、パキスタンに対してBRI(一帯一路)下のCPEC(中パ経済回廊)を通じて数十億ドルを投資し、パキスタンへの武器供給量でも最大の取引相手であるため、パキスタンを見限る可能性は低いと評している。
最終的に、米国がパキスタンに対して対中距離を求め、もしパキスタンがそれに応じれば、結果として中国とインドがアフガニスタン支援で協調し、復活する米・パ二極体制に対抗する形で地域の地政学的バランスが再形成される可能性があると結論づけている。
【要点】
・インドはアフガニスタン駐在の技術ミッションを大使館に格上げすると発表し、ムッタキの訪印が両国関係の再開を象徴している。
・パキスタンによるアフガニスタン内のTTP標的への空爆と、TTPの近年の攻撃激化が地域の緊張を高めている。
・タリバンとインドの接近は、相互の現実的利害(リアリズム)に基づくものであり、伝統的なイデオロギー対立だけでは説明できない。
・タリバンとパキスタンの関係悪化は、イムラン・カーン排除後の米─パキスタン協力へのタリバン側の警戒と、タリバンによるデュランド線非承認へのパキスタン側の懸念に起因する。
・トランプ2.0のバグラム復帰要求や対中圧力、米─パキスタン関係の復活が地域の勢力均衡に影響を及ぼしている。
・相互の非難(パキスタン―インド、パキスタン―タリバン、タリバン―ISIS-K、など)は、共同圧力行使の口実となる可能性がある。
・中国はパキスタンとの深い経済・軍事関係のため直ちに離反する可能性は低い一方、米国の動き次第では中印がアフガニスタン支援で協調し、地域秩序が再編される可能性がある。
【桃源寸評】🌍
デュランド線(Durand Line)
デュランド線(Durand Line)とは、アフガニスタンとパキスタンの国境線として知られる線である。
概要
1893年に、当時の英領インド政府代表モーティマー・デュランド(Mortimer Durand)と、アフガニスタンのアブドゥル・ラフマン・ハーン国王との間で結ばれた協定によって画定されたものである。
全長はおよそ2,640キロメートルに及び、アフガニスタン東部からパキスタン西部(旧英領インド領内)を分ける形で引かれている。
歴史的背景
この線は、イギリスが自国のインド支配を守るために、ロシア帝国の南下(いわゆる「グレート・ゲーム」)に対抗する防衛線として設定したものである。
デュランド線の設定により、パシュトゥーン人の居住地が分断され、現在もアフガニスタン側とパキスタン側にまたがって存在している。
現代の問題
パキスタンはデュランド線を国際的な正式国境として承認している。
しかし、アフガニスタン側(歴代政権およびタリバンを含む)はこれを正式な国境として承認していない。その理由は、パシュトゥーン人の分断に対する歴史的・民族的反発にある。
このため、両国間では国境警備、密貿易、越境武装勢力の移動などをめぐり、しばしば緊張や衝突が発生している。
現在の意義
デュランド線問題は、アフガニスタンとパキスタン関係の根本的対立点であり、特にタリバン政権下でも依然として解決されていない。
また、この記事(アンドリュー・コリブコの論考)でも指摘されているように、タリバンがデュランド線を認めないことがパキスタン側の安全保障上の懸念となり、両国関係の悪化を招く主要要因となっている。
【寸評 完】 💚
【引用・参照・底本】
Pakistan & The US Brought The Taliban & India Together Andrew Korybko's Newsletter 2025.10.12
https://korybko.substack.com/p/pakistan-and-the-us-brought-the-taliban?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=175928044&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

