核融合発電の商業化に向けて着実に前進 ― 2025年10月16日 09:49
【概要】
中国は、核融合発電の商業化に向けて着実に前進しており、2050年頃の運用開始を目指している。この目標達成のためには、6つの段階が必要とされ、現在はそのうちの第三段階である燃焼プラズマ実験のフェーズに突入した。
中国の核融合研究を担う中国核工業集団公司(CNNC)傘下の核工業西南物理研究院(SWIP)の専門家が、成都で開催された国際会議で、中国の実験先進超伝導トカマク(EAST)の次世代機によるアップグレードと、将来的な実験炉・実証炉・商業炉へと続くロードマップを明らかにした。
しかし、1億℃を超える超高温プラズマの制御や、耐熱性・耐中性子照射性に優れた材料の開発など、克服すべき科学的・工学的な多くの課題が存在する。
【詳細】
核融合ロードマップと現状
核融合発電の商業化に至るには、原理探求、スケール実験、燃焼プラズマ実験、実験炉、実証炉、商業炉の六段階が必要である。現在、中国はこのうち燃焼プラズマ実験の段階に入っており、すでに燃焼プラズマの維持に必要なパラメータを備えている。CNNCの核融合ロードマップによれば、商業的な核融合発電は2050年頃を目標としており、これは他国とほぼ同様の時期である。
SWIPの計画では、2027年頃に燃焼プラズマ実験を開始し、その後、核融合エネルギー出力を実証するパイロット炉の建設、最終的には商業炉の建設へと進むという「実験炉—実証炉—商業炉」という体系的なアプローチを踏んでいる。
技術的課題と進捗
「人工太陽」と呼ばれる核融合炉の制御は、依然として大きな挑戦である。
1.超高温プラズマの生成と維持
・核融合反応を持続させるには、重水素・三重水素プラズマを太陽の炉心温度の6〜7倍にあたる1億℃超に加熱する必要がある。
・この超高温では物質は完全にイオン化したプラズマとなり、物理的な容器は使用できないため、トカマク型磁気閉じ込めなどの非接触閉じ込め技術が不可欠である。
・主要な課題は、核融合出力ゲインの増加、プラズマ閉じ込めの安定性向上、長時間の燃焼維持、そして純エネルギー出力の達成である。
2.材料・工学技術の困難
・極端な温度と激しい中性子照射に耐える構造材料の開発が求められる。現在、低放射化鋼やタングステン合金が国際的に焦点とされている。
・高い信頼性を持つ超伝導磁石(ニオブスズ、ニオブチタン、高温超伝導体など)や極低温システム、リアルタイムでのプラズマ監視と迅速なフィードバックが可能な診断・制御システムの開発も必要である。
・三重水素(トリチウム)の自己増殖を含む燃料サイクル技術も極めて重要である。
中国の取り組み
CNNCは、これらの技術的障壁(材料の照射効果、燃焼プラズマ物理、トリチウムの自給自足など)を認識しつつ、着実に技術検証を進めている。
・次世代のEAST装置を燃焼プラズマ実験のためにアップグレードしている。
・中国の核融合技術R&D拠点では、炉心材料、プラズマ加熱、診断、制御システム、トリチウム燃料サイクル技術に関する研究開発が行われており、これら全てにおいてブレイクスルーが必要とされている。
・核工業西南物理研究院は、核融合の「ナショナルチーム」として、様々なプラットフォームを通じて技術進歩を加速させ、2050年頃の商業化を目指すことに自信を示している。
【要点】
・目標時期: 中国は2050年頃の商業核融合発電実現を目指している。
・現状のフェーズ: 核融合商業化の六段階中、第三段階の燃焼プラズマ実験に突入した。
・主要装置: 次世代の実験先進超伝導トカマク(EAST)をアップグレードし、燃焼プラズマ実験を行う計画である。
・ロードマップ: 2027年頃の燃焼プラズマ実験開始を経て、実験炉、実証炉、商業炉へと段階的に進む。
・技術的課題
⇨ プラズマ制御: 1億℃超のプラズマを安定的に長時間閉じ込め、純エネルギー出力を達成すること。
⇨ 材料・工学: 極限環境に耐える構造材料(低放射化鋼、タングステン合金)や超伝導磁石、トリチウム燃料サイクル技術の開発。
・担い手: 中国核工業集団公司(CNNC)傘下の核工業西南物理研究院が研究開発の中心を担っている。
【桃源寸評】🌍
太陽が長い期間エネルギーを放出し続けられるのは、核融合反応をエネルギー源としているからであり、一般的な「燃焼(化学反応)」ではないからである。
核融合反応とその持続性1. 燃焼ではない太陽は、木や石炭が燃えるような化学的な燃焼(酸化反応)を起こしているわけではない。化学的な燃焼では酸素が必要となるが、太陽の主なエネルギー源は核融合という原子核レベルの反応であり、酸素を必要としない。
2. 核融合とは太陽の中心部(コア)は、極めて高い温度(約1,500万ケルビン)と圧力に達している。この極限状態により、主に水素の原子核(陽子)が互いに衝突し融合してヘリウムの原子核を生成する。この一連の反応を陽子-陽子連鎖反応と呼ぶ。
3. 莫大なエネルギー放出と効率核融合の過程で、融合する原子核のごく一部の質量が失われ、それがアインシュタインの式 に従って莫大なエネルギー(光と熱)に変換される。核融合は、石炭などの化学燃料の燃焼と比べて圧倒的に効率が良い。太陽は、毎秒約6億キログラムの水素をヘリウムに融合させ、約400万キログラムの質量をエネルギーに変換し続けている。太陽はその質量が非常に巨大であるため、核融合の燃料である水素を大量に保持している。
4. 燃料の量と寿命太陽の質量は太陽系全体の約99.9%を占めるため、核融合の燃料となる水素も膨大である。この膨大な燃料のおかげで、太陽は中心部の水素を使い切る約50億年後まで、この核融合反応を持続させることができると推定されている。つまり、太陽が「燃え続けられる」のは、化学的な燃焼ではなく、膨大な燃料(水素)を極めて効率的にエネルギーに変換する核融合反応を、その巨大な重力と高熱によって中心部で維持しているためである。
【寸評 完】 💚
【引用・参照・底本】
China's new-generation 'artificial sun' under upgrade for burning plasma tests: expert GT 2025.10.14
https://www.globaltimes.cn/page/202510/1345631.shtml
中国は、核融合発電の商業化に向けて着実に前進しており、2050年頃の運用開始を目指している。この目標達成のためには、6つの段階が必要とされ、現在はそのうちの第三段階である燃焼プラズマ実験のフェーズに突入した。
中国の核融合研究を担う中国核工業集団公司(CNNC)傘下の核工業西南物理研究院(SWIP)の専門家が、成都で開催された国際会議で、中国の実験先進超伝導トカマク(EAST)の次世代機によるアップグレードと、将来的な実験炉・実証炉・商業炉へと続くロードマップを明らかにした。
しかし、1億℃を超える超高温プラズマの制御や、耐熱性・耐中性子照射性に優れた材料の開発など、克服すべき科学的・工学的な多くの課題が存在する。
【詳細】
核融合ロードマップと現状
核融合発電の商業化に至るには、原理探求、スケール実験、燃焼プラズマ実験、実験炉、実証炉、商業炉の六段階が必要である。現在、中国はこのうち燃焼プラズマ実験の段階に入っており、すでに燃焼プラズマの維持に必要なパラメータを備えている。CNNCの核融合ロードマップによれば、商業的な核融合発電は2050年頃を目標としており、これは他国とほぼ同様の時期である。
SWIPの計画では、2027年頃に燃焼プラズマ実験を開始し、その後、核融合エネルギー出力を実証するパイロット炉の建設、最終的には商業炉の建設へと進むという「実験炉—実証炉—商業炉」という体系的なアプローチを踏んでいる。
技術的課題と進捗
「人工太陽」と呼ばれる核融合炉の制御は、依然として大きな挑戦である。
1.超高温プラズマの生成と維持
・核融合反応を持続させるには、重水素・三重水素プラズマを太陽の炉心温度の6〜7倍にあたる1億℃超に加熱する必要がある。
・この超高温では物質は完全にイオン化したプラズマとなり、物理的な容器は使用できないため、トカマク型磁気閉じ込めなどの非接触閉じ込め技術が不可欠である。
・主要な課題は、核融合出力ゲインの増加、プラズマ閉じ込めの安定性向上、長時間の燃焼維持、そして純エネルギー出力の達成である。
2.材料・工学技術の困難
・極端な温度と激しい中性子照射に耐える構造材料の開発が求められる。現在、低放射化鋼やタングステン合金が国際的に焦点とされている。
・高い信頼性を持つ超伝導磁石(ニオブスズ、ニオブチタン、高温超伝導体など)や極低温システム、リアルタイムでのプラズマ監視と迅速なフィードバックが可能な診断・制御システムの開発も必要である。
・三重水素(トリチウム)の自己増殖を含む燃料サイクル技術も極めて重要である。
中国の取り組み
CNNCは、これらの技術的障壁(材料の照射効果、燃焼プラズマ物理、トリチウムの自給自足など)を認識しつつ、着実に技術検証を進めている。
・次世代のEAST装置を燃焼プラズマ実験のためにアップグレードしている。
・中国の核融合技術R&D拠点では、炉心材料、プラズマ加熱、診断、制御システム、トリチウム燃料サイクル技術に関する研究開発が行われており、これら全てにおいてブレイクスルーが必要とされている。
・核工業西南物理研究院は、核融合の「ナショナルチーム」として、様々なプラットフォームを通じて技術進歩を加速させ、2050年頃の商業化を目指すことに自信を示している。
【要点】
・目標時期: 中国は2050年頃の商業核融合発電実現を目指している。
・現状のフェーズ: 核融合商業化の六段階中、第三段階の燃焼プラズマ実験に突入した。
・主要装置: 次世代の実験先進超伝導トカマク(EAST)をアップグレードし、燃焼プラズマ実験を行う計画である。
・ロードマップ: 2027年頃の燃焼プラズマ実験開始を経て、実験炉、実証炉、商業炉へと段階的に進む。
・技術的課題
⇨ プラズマ制御: 1億℃超のプラズマを安定的に長時間閉じ込め、純エネルギー出力を達成すること。
⇨ 材料・工学: 極限環境に耐える構造材料(低放射化鋼、タングステン合金)や超伝導磁石、トリチウム燃料サイクル技術の開発。
・担い手: 中国核工業集団公司(CNNC)傘下の核工業西南物理研究院が研究開発の中心を担っている。
【桃源寸評】🌍
太陽が長い期間エネルギーを放出し続けられるのは、核融合反応をエネルギー源としているからであり、一般的な「燃焼(化学反応)」ではないからである。
核融合反応とその持続性1. 燃焼ではない太陽は、木や石炭が燃えるような化学的な燃焼(酸化反応)を起こしているわけではない。化学的な燃焼では酸素が必要となるが、太陽の主なエネルギー源は核融合という原子核レベルの反応であり、酸素を必要としない。
2. 核融合とは太陽の中心部(コア)は、極めて高い温度(約1,500万ケルビン)と圧力に達している。この極限状態により、主に水素の原子核(陽子)が互いに衝突し融合してヘリウムの原子核を生成する。この一連の反応を陽子-陽子連鎖反応と呼ぶ。
3. 莫大なエネルギー放出と効率核融合の過程で、融合する原子核のごく一部の質量が失われ、それがアインシュタインの式 に従って莫大なエネルギー(光と熱)に変換される。核融合は、石炭などの化学燃料の燃焼と比べて圧倒的に効率が良い。太陽は、毎秒約6億キログラムの水素をヘリウムに融合させ、約400万キログラムの質量をエネルギーに変換し続けている。太陽はその質量が非常に巨大であるため、核融合の燃料である水素を大量に保持している。
4. 燃料の量と寿命太陽の質量は太陽系全体の約99.9%を占めるため、核融合の燃料となる水素も膨大である。この膨大な燃料のおかげで、太陽は中心部の水素を使い切る約50億年後まで、この核融合反応を持続させることができると推定されている。つまり、太陽が「燃え続けられる」のは、化学的な燃焼ではなく、膨大な燃料(水素)を極めて効率的にエネルギーに変換する核融合反応を、その巨大な重力と高熱によって中心部で維持しているためである。
【寸評 完】 💚
【引用・参照・底本】
China's new-generation 'artificial sun' under upgrade for burning plasma tests: expert GT 2025.10.14
https://www.globaltimes.cn/page/202510/1345631.shtml

