テクノクラシーとトランプ政権2025年03月27日 15:06

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【概要】

 1930年代のテクノクラシー運動と現代の類似点

 1930年代に「テクノクラシー運動」として知られる一派が、北アメリカの国境を統合し、パナマ運河までを含む単一の統治体を形成する構想を提唱していた。この運動は、伝統的な国家や政治体制ではなく、科学と技術による効率的な社会運営を目指していた。

 テクノクラシー運動の背景と理念

 この運動の起源は1921年に出版された技術者ウォルター・ヘンリー・スミスの著書『テクノクラシー』に遡る。スミスの考えを基に、エンジニアや学者らが集まり、伝統的な政治経済システムの非効率性を批判し、科学的管理による社会運営を提唱した。

 1932年、技術者で経済学者のハワード・スコットが「テクニカル・アライアンス」を設立し、これが後の「テクノクラシー・インク」へと発展した。運動の支持者は、資本主義や社会主義ではなく、エネルギー効率に基づく生産・消費の管理が必要であると考えた。これにより、機械化と自動化を進め、労働時間の削減と社会全体の生産性向上を実現することを目的とした。

 運動の衰退と批判

 この運動は、大恐慌(1929~1939年)の影響で一時的に注目を集めたが、1930年代後半には衰退した。その理由の一つは、民主的統制の欠如に対する懸念である。専門家による統治は、民衆の意思を反映しない独裁的な体制を生む可能性が指摘された。また、当時の労働組合は「ニューディール政策」に賛同しており、労働者の権利を強化するこの政策を支持する傾向が強かった。

 現代における類似の動き

 2025年の現在、テクノクラシーの概念が新たな形で議論されている。特に、米国政府が設置した「政府効率化局(DOGE)」の動向が注目される。テスラやスペースXの創業者であるイーロン・マスクが主導し、官僚機構の削減を進めている。この方針は、1930年代のテクノクラシー運動が主張した「非効率な政治家の排除」と共通点を持つ。

 また、マスクの祖父であるジョシュア・N・ハルデマンが、カナダにおけるテクノクラシー運動の指導者の一人であったことから、マスク自身もこの運動の理念に影響を受けている可能性がある。

 一方で、現政権の方針とテクノクラシーの理念には相違点も存在する。例えば、マスクの事業は競争と市場原理に依存しており、中央管理による計画経済とは異なる。また、1930年代のテクノクラシーは貨幣や賃金制度の廃止を主張していたが、現政権は経済的自由を重視している。

 テクノクラシーの影響と現代の技術社会

 テクノクラシー運動の思想は、現在のデータ主導型の政策立案やエネルギー効率化、都市計画などに一定の影響を与えている。特にシンガポールや中国のような技術官僚による統治の側面を持つ国家では、この考え方が一部実践されている。

 1930年代には労働組合の強い支持を得られなかったテクノクラシー運動であるが、今日では人工知能(AI)やビッグデータの発展によって、再び「専門家による統治」の是非が議論されている。民主的プロセスと技術官僚主義のバランスが、今後の政策決定において重要な課題となるであろう。
 
【詳細】

 1930年代のテクノクラシー運動と現代の類似点

 1. テクノクラシー運動とは何か

 テクノクラシー(Technocracy)運動は、1930年代のアメリカとカナダで広まった社会改革運動であり、科学と技術を活用して社会を効率的に運営することを提唱した。従来の政治的枠組みや経済システムを廃止し、科学者や技術者がデータに基づいて資源配分や生産を管理する社会を目指した。

 この運動の中心となったのは**ハワード・スコット(Howard Scott)であり、彼は1920年代に「テクニカル・アライアンス(Technical Alliance)」を設立し、後に「テクノクラシー・インク(Technocracy Inc.)」**へと発展させた。運動は当初、技術的に管理された経済システムの可能性を研究することを目的としていたが、1929年の世界恐慌によって急速に注目を集めることとなった。

 2. テクノクラシー運動の主張

 テクノクラシー運動の基本的な理念は、科学技術を活用して社会を合理的に管理し、非効率や資源の浪費を排除することであった。具体的には、以下のような方針を掲げていた。

 国家の枠組みの廃止と「テクネート(Technate)」の創設
北米全域(アメリカ、カナダ、グリーンランド、メキシコ、中米の一部)を統合し、技術的に管理された一つの巨大な政治単位「テクネート」を形成する。国家や政治的な境界は無意味であり、科学と技術によって統治されるべきとした。

 資本主義・市場経済の廃止

 価格や市場競争ではなく、エネルギー消費量に基づいて経済活動を管理することを提唱。生産と消費は「エネルギー配給証(Energy Certificates)」によって統制され、貨幣制度や賃金労働を廃止することを目指した。

 政治家による統治の廃止と専門家による管理

 選挙で選ばれる政治家は非効率であり、社会の管理は科学者や技術者などの専門家によって行われるべきだとした。この考えは「政治の廃止」を含意しており、後の技術官僚主義(テクノクラシー)的な統治理念にも影響を与えた。

 オートメーション化による労働の削減

 機械化・自動化を推進し、労働時間を大幅に削減することを提案。生産は技術的に最適化され、労働者の負担は最小限に抑えられるべきとした。

 3. テクノクラシー運動の影響と衰退

 この運動は1930年代初頭に広まり、一時的に数万人規模の支持を集めた。特に技術者や科学者、進歩的な思想を持つ人々の間で注目された。しかし、1930年代後半には次第に影響力を失い、運動は衰退した。その要因として以下の点が挙げられる。

 民主主義の否定への反発

 政治家を排除し、技術官僚による管理を行うという考え方は、民主主義の原則に反するとみなされた。特に、ニューディール政策を推進したフランクリン・ルーズベルト政権は、政府の役割を強化する方向に進んでおり、テクノクラシー運動とは対立する立場を取った。

 経済的実現性への疑問

 市場経済を廃止し、エネルギーを基準に経済を管理するという構想は、現実的に実行可能かどうか疑問視された。特に、通貨制度の廃止という考え方は、経済の複雑な実態に即していないと批判された。

 労働組合との対立

 1930年代のアメリカでは労働組合が強い影響力を持っていたが、テクノクラシー運動の自動化推進方針は、労働者の雇用を脅かすものと受け取られた。そのため、労働組合はこの運動に否定的であり、支持を得られなかった。

 第二次世界大戦による関心の低下

 1939年に第二次世界大戦が勃発すると、社会の関心は軍需経済や戦時体制の整備へと移り、テクノクラシー運動への関心は急速に低下した。

 4. 現代におけるテクノクラシー的思想の復活

 近年、テクノクラシー的な考え方は、異なる形で再び注目を集めている。特に、データ主導の政策決定やAI、オートメーションの進展によって、政府の意思決定を技術者や専門家が主導する動きが見られる。

 (1) ドナルド・トランプ政権とイーロン・マスク

 2025年のトランプ政権下で設立された米国政府効率化省(DOGE: Department of Government Efficiency)は、官僚機構の削減や効率化を目指し、多くの政府機関の改革を進めている。これは1930年代のテクノクラシー運動の「非効率の排除」という思想と類似している。

 また、イーロン・マスクは自身の企業(テスラ、スペースX、ニューラリンクなど)で自動化と科学技術を活用した社会変革を推進しており、テクノクラシー運動の理念と共鳴する部分がある。さらに、マスクの祖父**ジョシュア・N・ハルデマン(Joshua N. Haldeman)**は、1930~40年代にカナダでテクノクラシー運動に関わっていたことが知られており、マスク自身がこの思想に影響を受けている可能性も指摘されている。

 (2) シンガポールと中国の技術官僚主義

 シンガポールや中国では、政府の意思決定において技術者や専門家が強い影響力を持つ。特に中国では、国家の経済計画やエネルギー政策などにAIやビッグデータを活用し、政策の最適化を目指している。これは、1930年代のテクノクラシー運動の「データに基づく統治」という考え方と一致している。

 5. 結論

 1930年代のテクノクラシー運動は一度衰退したが、その理念は現代においてさまざまな形で復活している。特に、テクノロジーによる社会管理、政治家よりも専門家による政策決定、オートメーションによる労働の削減などの考え方は、現代の政治や経済にも影響を与えている。今後、AIやビッグデータがさらに発展することで、テクノクラシー的な統治モデルがより強化される可能性もある。
 
【要点】

 1930年代のテクノクラシー運動と現代の類似点

 1. テクノクラシー運動とは

 ・1930年代のアメリカとカナダで広まった社会改革運動

 ・科学技術を活用して、効率的な社会運営を目指した

 ・ハワード・スコット(Howard Scott)が主導

 2. テクノクラシー運動の主張

 ・「テクネート(Technate)」の創設

  ⇨ 北米全域を統合し、技術的に管理された社会を形成

 ・資本主義・市場経済の廃止

  ⇨ 貨幣制度を廃止し、「エネルギー配給証」で経済を管理

 ・政治家の廃止

  ⇨ 科学者や技術者が社会を運営すべきと主張

 ・オートメーション化による労働削減

  ⇨ 機械化を推進し、労働時間を大幅に短縮

 3. 運動の衰退要因

 ・民主主義の否定への反発

  ⇨ 政治家の排除が民主主義の原則に反すると批判された

 ・経済的実現性への疑問

  ⇨ 市場経済の廃止やエネルギー基準の導入が非現実的とされた

 ・労働組合との対立

  ⇨ 自動化による雇用喪失の懸念から労働者の支持を得られず

 ・第二次世界大戦の影響

  ⇨ 戦時経済への移行により、社会の関心が別の方向へ

 4. 現代における類似点

 ・米国政府効率化省(DOGE)

  ⇨ トランプ政権下で政府の効率化を目的に設立

  ⇨ 官僚機構の削減や行政の最適化を推進

 ・イーロン・マスクの影響

  ⇨ 自動化・技術革新を重視し、テクノクラシーの理念と共鳴

  ⇨ 祖父がカナダのテクノクラシー運動に関与していた

 ・シンガポールや中国の技術官僚主義

  ⇨ AIやビッグデータを活用した政策決定

  ⇨ 科学者や専門家による政府運営の強化

 5. 結論

 ・テクノクラシー運動は1930年代に一度衰退した

 ・しかし、現代では技術官僚主義やAI統治の形で復活しつつある

 ・今後、データ主導の政策決定がさらに強まる可能性がある

【引用・参照・底本】

1930s tech bros wanted to merge the US, Canada and Greenland ASIA TIMES 2025.03.25
https://asiatimes.com/2025/03/1930s-tech-bros-wanted-to-merge-the-us-canada-and-greenland/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=b7e95743e3-DAILY_25_03_2025&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-b7e95743e3-16242795&mc_cid=b7e95743e3&mc_eid=69a7d1ef3c#

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