「脱米国化」の動きはすでに国産技術革新によって加速 ― 2025年06月24日 22:46
【概要】
最近の報道によると、米国商務省の輸出管理部門が、台湾積体電路製造(TSMC)、サムスン電子、SKハイニックスなどの主要半導体メーカーに対し、中国本土の工場に米国製の半導体製造装置を輸出する際に使用してきた特例措置(ワイバー)の撤回を通知したとされる。この措置は、これらの企業が中国での操業を禁止するものではないが、設備のアップグレードなどにおいて大きな困難を生じさせ、企業の運営負担を増大させると予想されている。ホワイトハウス関係者は、この措置について「中国のレアアース資源に対する既存の許認可制度と類似している」と述べ、ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、「新たな貿易摩擦ではない」との見解を示した。
しかし、この問題について、米国は中国で操業する企業の利益を無視したのみならず、半導体製造装置の許認可と中国のレアアース輸出規制を関連付けることで、誤りを重ねている。
まず第一に、半導体製造装置とレアアースは性質が異なるものである。レアアースは軍民両用の資源であり、民生用途については中国政府の関連規定に基づき申請すれば一般的に使用が認められている。しかし、軍事用途については国際的な安全保障上の責任から中国政府が別途管理する必要がある。一方で、半導体製造装置は主に民生用のハイテク産業向けの産業基盤であり、中国のレアアースの軍民用途に応じた管理と、米国の民生向け装置の輸出制限を同一視することは、本質的に異なる問題を混同している。
第二に、米国による装置の許認可制度の強化は中国のハイテク産業を標的にしているが、まず影響を受けるのは中国に拠点を置くグローバル半導体メーカーである。中国は世界最大の半導体製造装置市場であり、また重要な半導体製品の供給地でもある。市場の拡大と産業チェーンの充実に伴い、各国の大手半導体メーカーは中国での生産を拡大し、十分な利益を上げてきた。米国が装置輸出に障壁を設けることで、中国の半導体産業の発展を抑制するとともに、外国企業の生産拠点を中国国外に移転させようとする意図があるが、米国はこれら企業の収益や供給網における中国本土の重要性、及び生産拠点の移転に伴う巨額のコストを過小評価している。
第三に、レアアースとは異なり、米国の半導体製造装置は代替不可能ではない。2022年8月、当時のバイデン大統領が署名した「CHIPS・科学法」は、中国の先端半導体製造能力を阻止するための包括的な規制枠組みを定めたが、米国は依然として半導体産業全体を完全に支配しているわけではない。米国企業の半導体製造装置の世界シェアは約3分の1に過ぎず、オランダや日本など他国の政府や企業との協力が不可欠であり、主要グローバル企業の利益も考慮しなければならない。
長期的には、米国による装置輸出禁止措置は、グローバルな半導体供給網の「脱米国化」を加速させる触媒となっている。ASML(オランダ)や東京エレクトロン(日本)などは代替供給者として積極的であり、中国国内の装置メーカーも国産化で大きな進展を遂げている。「脱米国化」の動きはすでに国産技術革新によって加速しており、技術封鎖が独自の技術突破を促すという構図が鮮明になっている。
ブルームバーグによれば、元米国商務省産業安全保障担当次官のアラン・エステベス氏は、米国企業が部品やサービスを提供しなければ、中国の先端製造装置は「機能不全に陥る」と期待していたが、中国の国産技術の進展により、この目論見は実現しなかった。中国の半導体業界では、米国による対中半導体制裁は最終的に失敗に終わるとの認識が共通している。
一部の企業は圧力の下で慎重な対応を取っているが、グローバル半導体業界は実際の行動で現実的な選択を示している。例えば、NVIDIAは繰り返し制限を受けながらも中国向けの専用GPUを発売し続けている。この戦略は、中国市場の代替不可能性に対する業界の現実的認識を反映しており、グローバル化した供給網の中で一国による一方的な制裁の限界を示している。中国のファウンドリにおける成熟した28nmプロセスの世界シェアが25%に達すると見込まれており、米国の行政手段による供給網の断絶は、市場原理と技術進歩の二重の力によって徐々に形骸化しつつある。
【詳細】
1. 米国の新たな規制の概要
米国商務省の輸出管理部門は、台湾積体電路製造(TSMC)、サムスン電子、SKハイニックスといった主要なグローバル半導体企業に対して、中国本土の工場へ米国製の半導体製造装置を輸出する際に適用していた特例措置(ワイバー)を撤回する意向を通知したと報じられている。このワイバーにより、これらの企業は米国の輸出規制を免れ、米国製の装置や技術を中国国内の工場で使用できていたが、これが取り消されることになる。
2. 規制の直接的影響
今回の措置は、中国国内での半導体生産そのものを禁止するわけではないが、工場の設備更新や新規ラインの導入、保守に大きな支障をきたすと予想されている。結果として、企業は生産能力の維持や最新技術の導入に追加の負担を強いられることになる。
米国政府(ホワイトハウス)は、この規制強化について「中国のレアアース輸出管理制度と同様の性質を持つ」と説明しており、「新たな貿易摩擦ではない」との立場を示していると、ウォール・ストリート・ジャーナルが伝えている。
3. レアアース規制との比較の不適切さ
米国がこの規制を中国のレアアース輸出管理と比較した点を問題視している。
レアアースは軍民両用資源であり、民生利用については中国政府の規定に従い申請すれば一般的に利用可能であるが、軍事用途については国際安全保障上の責任から管理が厳格化されている。
一方、半導体製造装置は主に民生用の高度産業インフラであり、元来、軍事目的よりも一般産業のハイテク分野での利用が中心である。したがって、これらを同列に扱い、「中国がレアアースを管理しているのだから、米国も装置を管理するのは正当だ」とする論理は、筆者の視点では二つの異なる事象を混同した誤りである。
4. 中国市場の重要性と影響
米国の新たな規制の狙いは、中国の半導体産業の発展を妨げること、さらには外国企業が中国における生産拠点を縮小または移転するよう誘導することにある。しかし、中国はすでに世界最大の半導体製造装置市場であり、またグローバルな半導体供給網の中核的存在でもある。
主要な半導体メーカーは、中国市場における需要拡大と高度な産業基盤に着目して生産能力を拡大してきた経緯があり、これによって相応の利益を確保している。米国が輸出障壁を設けても、企業にとって中国市場からの撤退は多大な収益損失と高額な移転コストを伴うため、そう簡単には進まないとみられている。
5. 米国製装置の代替可能性
さらに、米国の半導体製造装置が絶対的な存在というわけではない点が指摘されている。2022年8月、バイデン大統領は「CHIPS・科学法」に署名し、中国の先端半導体製造技術の獲得を阻止するための包括的な規制網を構築したが、現実には米国企業の装置シェアは世界全体の約3分の1にとどまる。
米国は、オランダのASMLや日本の東京エレクトロンなど、他国の装置メーカーの協力が不可欠であり、これらの国々の企業も米国の一方的な規制に必ずしも全面的に追随するとは限らない。
6. 「脱米国化」と国産化の加速
米国の規制がむしろ「脱米国化」を加速する要因となっていると述べる。ASMLや東京エレクトロンなどの非米国企業は、米国企業が供給できない部分を積極的に補おうとしており、中国国内の装置メーカーも国産化を推進し、代替技術の開発に成功している。
こうした動きはすでに勢いを増しており、技術封鎖が逆に独自技術開発の原動力となっている。米国による装置供給停止が必ずしも中国の製造能力を止めるとは限らず、むしろ国産化努力を促進する形になっている。
7. 規制の実効性への疑問
ブルームバーグの報道によれば、元米国商務省産業安全保障担当次官アラン・エステベス氏は、米国企業が部品やサービスを提供しなければ中国の装置が機能不全に陥ると考えていた。しかし、中国の技術革新の進展により、その目論見は現実には実現していないとされる。
8. グローバル企業の現実的対応
規制の強化にもかかわらず、グローバルな半導体企業は現実的な対応を選択している。NVIDIAはその一例であり、対中制限が繰り返される中でも中国向けに特化したGPUを開発・販売し続けている。この行動は、中国市場が依然として不可欠な市場であるという企業側の認識を示している。
9. 中国の成熟プロセスの存在感
中国のファウンドリが展開する成熟した28nmプロセスの生産能力は、世界全体の25%を占める見通しであるとされる。これにより、米国が行政措置のみでグローバル供給網を断絶しようとしても、市場原理と技術進展によって徐々にその実効性が損なわれている。
10. 結論
・こうした状況を総括し、米国の対中半導体制裁は最終的には失敗に終わると結論づけている。
・中国の半導体産業は米国の規制を受けながらも国産化を加速し、技術的自立を進めているため、制裁の実効性は徐々に低下しているとみなしている。
・また、グローバルな半導体企業は市場原理を重視し、中国市場の重要性を認める行動を取っていることが、この流れを裏付けていると述べている。
【要点】
・米国商務省の輸出管理部門は、TSMC、サムスン電子、SKハイニックスなどに対し、中国本土工場で米国技術を使用するための特例措置(ワイバー)を撤回する意向を通知したと報じられている。
・この措置は、中国での半導体製造を禁止するものではないが、設備更新や運営コストに大きな負担を与えると予想されている。
・ホワイトハウスは、この規制強化を「中国のレアアース輸出管理と類似している」と説明し、「新たな貿易摩擦ではない」と主張している。
・レアアースと半導体製造装置は性質が異なると指摘している。
・レアアースは軍民両用資源であり、民生用には規定に従えば許可されるが、軍事用途には安全保障上の管理が必要である。
・一方、半導体製造装置は主に民生用のハイテク産業基盤であり、軍事目的と直接結びつくものではない。
・米国が装置輸出の許認可制度を強化することで、中国のハイテク産業を抑制し、外国企業に中国からの生産拠点移転を促そうとしていると分析されている。
・しかし、中国は世界最大の半導体装置市場であり、サプライチェーンの中核でもあるため、企業にとって撤退は収益減と高額な移転コストを伴う。
・米国の半導体製造装置は代替不可能ではなく、世界シェアは約3分の1である。
・米国はオランダや日本など他国の協力が必要であり、他国企業が完全に米国の規制に従う保証はない。
・この規制は「脱米国化」を加速させる要因となっており、ASMLや東京エレクトロンなどが積極的に供給を担おうとしている。
・中国国内の装置メーカーも国産化を推進し、代替技術開発が進んでいる。
・技術封鎖は逆に中国の独自技術開発を促進する結果となっている。
・元米国商務省高官アラン・エステベス氏は、米国企業が部品供給を止めれば中国の装置が機能しなくなると考えていたが、実際には中国の技術革新でその想定は外れている。
・一部企業は慎重な対応をしているが、NVIDIAは中国向け専用GPUを継続的に提供しており、企業側の現実的な市場重視の姿勢が示されている。
・中国の28nmプロセスの生産能力は世界シェアの25%に達する見込みであり、米国の行政措置だけでは供給網断絶は実現困難である。
・結論として、筆者は米国の対中半導体制裁は最終的に失敗に終わると指摘している。
【桃源寸評】🌍
米国の対中半導体制裁に対しる視点――すなわち、自らの能力を過信し、国際産業構造や中国の技術発展動向を正確に見極める力を欠いた「夜郎自大」的態度が、逆に米国自身の首を絞めているという観点から論じる。
米国の「夜郎自大」的錯誤と思い上がり
米国は長らく、自国の技術優位性と市場支配力を根拠に、グローバルサプライチェーンに対して一方的な規制や制裁措置を講じてきた。特に半導体産業においては、米国が保有する装置・EDA(電子設計自動化)・IP(設計資産)分野の技術が不可欠であると見なしてきた。しかしながら、こうした認識はすでに過去のものであり、現在の世界市場は、もはや米国単独の支配で成立するものではない。
それにもかかわらず、米国は自身の影響力を過大評価し、中国の半導体産業を封じ込めることで主導権を握り続けられると信じてやまない。このような認識は、まさに「夜郎自大」の典型であり、現実を見据える冷静さを欠いた政策判断である。
制裁によって誘発される「逆制裁」的現象
米国による輸出規制は、表向きは国家安全保障を名目としているが、実態は経済的な覇権維持に他ならない。しかし、その制裁措置がもたらしたのは、制裁対象国である中国における国産化の加速と技術的自立の推進である。
制裁によって中国企業のサプライチェーンは一時的に混乱したが、それは「自己変革」の触媒となった。製造装置、材料、設計技術に至るまで、中国国内での代替と再構築が急速に進みつつある。皮肉なことに、米国の「封じ込め」がなければ、これほどのスピードで自立は進まなかったであろう。
さらに中国は、自国の膨大な市場規模と消費力を盾に、制裁を跳ね返す形で米国企業への圧力手段を強化している。これは一種の逆制裁であり、米国が火の粉を払おうとした結果、自らの経済的衣服に火をつけた格好である。
国際サプライチェーンを軽視する愚策
現代の半導体産業は高度に分業化された国際産業構造に支えられており、いかなる国であれ単独で完結させることは不可能である。米国の制裁は、こうしたサプライチェーンの連続性と共存関係を破壊し、市場の信頼性を低下させる行為である。
サプライチェーンの破綻は、最終的には米国製品の競争力低下をもたらす。米国企業は中国市場でのシェアを失うのみならず、他国企業(日本、韓国、オランダ、台湾など)との連携も損ねるリスクを負っている。たとえば、NVIDIAのように中国向け製品を継続投入する企業は、米国の方針とは一線を画し、現実的な利益優先を選んでいる。
中国市場の「中国による奪還」とは何か
制裁が長引けば長引くほど、中国市場は自らの技術・設備・製品で再構築されていく。これは単なる「現地化」ではなく、世界最大の消費市場が米国依存から脱却し、技術的にも自主運営される段階に突入することを意味する。
米国は、こうした「市場の喪失」、すなわちかつて自国が主導していた分野を、対象国自身に奪い返される構造変化の危機感を持っていないか、あるいは直視しようとしていない。これは極めて致命的な過ちであり、国際経済においては一度失われた市場支配力を回復することは極めて困難である。
総括:墓穴を掘る愚かさ
米国の対中制裁は、まさに「自ら墓穴を掘る」政策である。自国の技術優位を過信し、相手国の実力と潜在力を軽視し、国際サプライチェーンという繊細な構造への配慮を欠いたその姿勢は、戦略ではなく短慮である。
米国が真に自国の利益と安全を守るのであれば、対立ではなく共存を前提とした技術協調体制の再構築こそが必要である。そうでなければ、「夜郎自大」の誤りを繰り返し、最終的には孤立と衰退の道を歩むことになろう。
【寸評 完】🌺
【引用・参照・底本】
US compounds its mistake with plan to revoke waivers for foreign chipmakers in China GT 2025.06.23
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1336784.shtml
最近の報道によると、米国商務省の輸出管理部門が、台湾積体電路製造(TSMC)、サムスン電子、SKハイニックスなどの主要半導体メーカーに対し、中国本土の工場に米国製の半導体製造装置を輸出する際に使用してきた特例措置(ワイバー)の撤回を通知したとされる。この措置は、これらの企業が中国での操業を禁止するものではないが、設備のアップグレードなどにおいて大きな困難を生じさせ、企業の運営負担を増大させると予想されている。ホワイトハウス関係者は、この措置について「中国のレアアース資源に対する既存の許認可制度と類似している」と述べ、ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、「新たな貿易摩擦ではない」との見解を示した。
しかし、この問題について、米国は中国で操業する企業の利益を無視したのみならず、半導体製造装置の許認可と中国のレアアース輸出規制を関連付けることで、誤りを重ねている。
まず第一に、半導体製造装置とレアアースは性質が異なるものである。レアアースは軍民両用の資源であり、民生用途については中国政府の関連規定に基づき申請すれば一般的に使用が認められている。しかし、軍事用途については国際的な安全保障上の責任から中国政府が別途管理する必要がある。一方で、半導体製造装置は主に民生用のハイテク産業向けの産業基盤であり、中国のレアアースの軍民用途に応じた管理と、米国の民生向け装置の輸出制限を同一視することは、本質的に異なる問題を混同している。
第二に、米国による装置の許認可制度の強化は中国のハイテク産業を標的にしているが、まず影響を受けるのは中国に拠点を置くグローバル半導体メーカーである。中国は世界最大の半導体製造装置市場であり、また重要な半導体製品の供給地でもある。市場の拡大と産業チェーンの充実に伴い、各国の大手半導体メーカーは中国での生産を拡大し、十分な利益を上げてきた。米国が装置輸出に障壁を設けることで、中国の半導体産業の発展を抑制するとともに、外国企業の生産拠点を中国国外に移転させようとする意図があるが、米国はこれら企業の収益や供給網における中国本土の重要性、及び生産拠点の移転に伴う巨額のコストを過小評価している。
第三に、レアアースとは異なり、米国の半導体製造装置は代替不可能ではない。2022年8月、当時のバイデン大統領が署名した「CHIPS・科学法」は、中国の先端半導体製造能力を阻止するための包括的な規制枠組みを定めたが、米国は依然として半導体産業全体を完全に支配しているわけではない。米国企業の半導体製造装置の世界シェアは約3分の1に過ぎず、オランダや日本など他国の政府や企業との協力が不可欠であり、主要グローバル企業の利益も考慮しなければならない。
長期的には、米国による装置輸出禁止措置は、グローバルな半導体供給網の「脱米国化」を加速させる触媒となっている。ASML(オランダ)や東京エレクトロン(日本)などは代替供給者として積極的であり、中国国内の装置メーカーも国産化で大きな進展を遂げている。「脱米国化」の動きはすでに国産技術革新によって加速しており、技術封鎖が独自の技術突破を促すという構図が鮮明になっている。
ブルームバーグによれば、元米国商務省産業安全保障担当次官のアラン・エステベス氏は、米国企業が部品やサービスを提供しなければ、中国の先端製造装置は「機能不全に陥る」と期待していたが、中国の国産技術の進展により、この目論見は実現しなかった。中国の半導体業界では、米国による対中半導体制裁は最終的に失敗に終わるとの認識が共通している。
一部の企業は圧力の下で慎重な対応を取っているが、グローバル半導体業界は実際の行動で現実的な選択を示している。例えば、NVIDIAは繰り返し制限を受けながらも中国向けの専用GPUを発売し続けている。この戦略は、中国市場の代替不可能性に対する業界の現実的認識を反映しており、グローバル化した供給網の中で一国による一方的な制裁の限界を示している。中国のファウンドリにおける成熟した28nmプロセスの世界シェアが25%に達すると見込まれており、米国の行政手段による供給網の断絶は、市場原理と技術進歩の二重の力によって徐々に形骸化しつつある。
【詳細】
1. 米国の新たな規制の概要
米国商務省の輸出管理部門は、台湾積体電路製造(TSMC)、サムスン電子、SKハイニックスといった主要なグローバル半導体企業に対して、中国本土の工場へ米国製の半導体製造装置を輸出する際に適用していた特例措置(ワイバー)を撤回する意向を通知したと報じられている。このワイバーにより、これらの企業は米国の輸出規制を免れ、米国製の装置や技術を中国国内の工場で使用できていたが、これが取り消されることになる。
2. 規制の直接的影響
今回の措置は、中国国内での半導体生産そのものを禁止するわけではないが、工場の設備更新や新規ラインの導入、保守に大きな支障をきたすと予想されている。結果として、企業は生産能力の維持や最新技術の導入に追加の負担を強いられることになる。
米国政府(ホワイトハウス)は、この規制強化について「中国のレアアース輸出管理制度と同様の性質を持つ」と説明しており、「新たな貿易摩擦ではない」との立場を示していると、ウォール・ストリート・ジャーナルが伝えている。
3. レアアース規制との比較の不適切さ
米国がこの規制を中国のレアアース輸出管理と比較した点を問題視している。
レアアースは軍民両用資源であり、民生利用については中国政府の規定に従い申請すれば一般的に利用可能であるが、軍事用途については国際安全保障上の責任から管理が厳格化されている。
一方、半導体製造装置は主に民生用の高度産業インフラであり、元来、軍事目的よりも一般産業のハイテク分野での利用が中心である。したがって、これらを同列に扱い、「中国がレアアースを管理しているのだから、米国も装置を管理するのは正当だ」とする論理は、筆者の視点では二つの異なる事象を混同した誤りである。
4. 中国市場の重要性と影響
米国の新たな規制の狙いは、中国の半導体産業の発展を妨げること、さらには外国企業が中国における生産拠点を縮小または移転するよう誘導することにある。しかし、中国はすでに世界最大の半導体製造装置市場であり、またグローバルな半導体供給網の中核的存在でもある。
主要な半導体メーカーは、中国市場における需要拡大と高度な産業基盤に着目して生産能力を拡大してきた経緯があり、これによって相応の利益を確保している。米国が輸出障壁を設けても、企業にとって中国市場からの撤退は多大な収益損失と高額な移転コストを伴うため、そう簡単には進まないとみられている。
5. 米国製装置の代替可能性
さらに、米国の半導体製造装置が絶対的な存在というわけではない点が指摘されている。2022年8月、バイデン大統領は「CHIPS・科学法」に署名し、中国の先端半導体製造技術の獲得を阻止するための包括的な規制網を構築したが、現実には米国企業の装置シェアは世界全体の約3分の1にとどまる。
米国は、オランダのASMLや日本の東京エレクトロンなど、他国の装置メーカーの協力が不可欠であり、これらの国々の企業も米国の一方的な規制に必ずしも全面的に追随するとは限らない。
6. 「脱米国化」と国産化の加速
米国の規制がむしろ「脱米国化」を加速する要因となっていると述べる。ASMLや東京エレクトロンなどの非米国企業は、米国企業が供給できない部分を積極的に補おうとしており、中国国内の装置メーカーも国産化を推進し、代替技術の開発に成功している。
こうした動きはすでに勢いを増しており、技術封鎖が逆に独自技術開発の原動力となっている。米国による装置供給停止が必ずしも中国の製造能力を止めるとは限らず、むしろ国産化努力を促進する形になっている。
7. 規制の実効性への疑問
ブルームバーグの報道によれば、元米国商務省産業安全保障担当次官アラン・エステベス氏は、米国企業が部品やサービスを提供しなければ中国の装置が機能不全に陥ると考えていた。しかし、中国の技術革新の進展により、その目論見は現実には実現していないとされる。
8. グローバル企業の現実的対応
規制の強化にもかかわらず、グローバルな半導体企業は現実的な対応を選択している。NVIDIAはその一例であり、対中制限が繰り返される中でも中国向けに特化したGPUを開発・販売し続けている。この行動は、中国市場が依然として不可欠な市場であるという企業側の認識を示している。
9. 中国の成熟プロセスの存在感
中国のファウンドリが展開する成熟した28nmプロセスの生産能力は、世界全体の25%を占める見通しであるとされる。これにより、米国が行政措置のみでグローバル供給網を断絶しようとしても、市場原理と技術進展によって徐々にその実効性が損なわれている。
10. 結論
・こうした状況を総括し、米国の対中半導体制裁は最終的には失敗に終わると結論づけている。
・中国の半導体産業は米国の規制を受けながらも国産化を加速し、技術的自立を進めているため、制裁の実効性は徐々に低下しているとみなしている。
・また、グローバルな半導体企業は市場原理を重視し、中国市場の重要性を認める行動を取っていることが、この流れを裏付けていると述べている。
【要点】
・米国商務省の輸出管理部門は、TSMC、サムスン電子、SKハイニックスなどに対し、中国本土工場で米国技術を使用するための特例措置(ワイバー)を撤回する意向を通知したと報じられている。
・この措置は、中国での半導体製造を禁止するものではないが、設備更新や運営コストに大きな負担を与えると予想されている。
・ホワイトハウスは、この規制強化を「中国のレアアース輸出管理と類似している」と説明し、「新たな貿易摩擦ではない」と主張している。
・レアアースと半導体製造装置は性質が異なると指摘している。
・レアアースは軍民両用資源であり、民生用には規定に従えば許可されるが、軍事用途には安全保障上の管理が必要である。
・一方、半導体製造装置は主に民生用のハイテク産業基盤であり、軍事目的と直接結びつくものではない。
・米国が装置輸出の許認可制度を強化することで、中国のハイテク産業を抑制し、外国企業に中国からの生産拠点移転を促そうとしていると分析されている。
・しかし、中国は世界最大の半導体装置市場であり、サプライチェーンの中核でもあるため、企業にとって撤退は収益減と高額な移転コストを伴う。
・米国の半導体製造装置は代替不可能ではなく、世界シェアは約3分の1である。
・米国はオランダや日本など他国の協力が必要であり、他国企業が完全に米国の規制に従う保証はない。
・この規制は「脱米国化」を加速させる要因となっており、ASMLや東京エレクトロンなどが積極的に供給を担おうとしている。
・中国国内の装置メーカーも国産化を推進し、代替技術開発が進んでいる。
・技術封鎖は逆に中国の独自技術開発を促進する結果となっている。
・元米国商務省高官アラン・エステベス氏は、米国企業が部品供給を止めれば中国の装置が機能しなくなると考えていたが、実際には中国の技術革新でその想定は外れている。
・一部企業は慎重な対応をしているが、NVIDIAは中国向け専用GPUを継続的に提供しており、企業側の現実的な市場重視の姿勢が示されている。
・中国の28nmプロセスの生産能力は世界シェアの25%に達する見込みであり、米国の行政措置だけでは供給網断絶は実現困難である。
・結論として、筆者は米国の対中半導体制裁は最終的に失敗に終わると指摘している。
【桃源寸評】🌍
米国の対中半導体制裁に対しる視点――すなわち、自らの能力を過信し、国際産業構造や中国の技術発展動向を正確に見極める力を欠いた「夜郎自大」的態度が、逆に米国自身の首を絞めているという観点から論じる。
米国の「夜郎自大」的錯誤と思い上がり
米国は長らく、自国の技術優位性と市場支配力を根拠に、グローバルサプライチェーンに対して一方的な規制や制裁措置を講じてきた。特に半導体産業においては、米国が保有する装置・EDA(電子設計自動化)・IP(設計資産)分野の技術が不可欠であると見なしてきた。しかしながら、こうした認識はすでに過去のものであり、現在の世界市場は、もはや米国単独の支配で成立するものではない。
それにもかかわらず、米国は自身の影響力を過大評価し、中国の半導体産業を封じ込めることで主導権を握り続けられると信じてやまない。このような認識は、まさに「夜郎自大」の典型であり、現実を見据える冷静さを欠いた政策判断である。
制裁によって誘発される「逆制裁」的現象
米国による輸出規制は、表向きは国家安全保障を名目としているが、実態は経済的な覇権維持に他ならない。しかし、その制裁措置がもたらしたのは、制裁対象国である中国における国産化の加速と技術的自立の推進である。
制裁によって中国企業のサプライチェーンは一時的に混乱したが、それは「自己変革」の触媒となった。製造装置、材料、設計技術に至るまで、中国国内での代替と再構築が急速に進みつつある。皮肉なことに、米国の「封じ込め」がなければ、これほどのスピードで自立は進まなかったであろう。
さらに中国は、自国の膨大な市場規模と消費力を盾に、制裁を跳ね返す形で米国企業への圧力手段を強化している。これは一種の逆制裁であり、米国が火の粉を払おうとした結果、自らの経済的衣服に火をつけた格好である。
国際サプライチェーンを軽視する愚策
現代の半導体産業は高度に分業化された国際産業構造に支えられており、いかなる国であれ単独で完結させることは不可能である。米国の制裁は、こうしたサプライチェーンの連続性と共存関係を破壊し、市場の信頼性を低下させる行為である。
サプライチェーンの破綻は、最終的には米国製品の競争力低下をもたらす。米国企業は中国市場でのシェアを失うのみならず、他国企業(日本、韓国、オランダ、台湾など)との連携も損ねるリスクを負っている。たとえば、NVIDIAのように中国向け製品を継続投入する企業は、米国の方針とは一線を画し、現実的な利益優先を選んでいる。
中国市場の「中国による奪還」とは何か
制裁が長引けば長引くほど、中国市場は自らの技術・設備・製品で再構築されていく。これは単なる「現地化」ではなく、世界最大の消費市場が米国依存から脱却し、技術的にも自主運営される段階に突入することを意味する。
米国は、こうした「市場の喪失」、すなわちかつて自国が主導していた分野を、対象国自身に奪い返される構造変化の危機感を持っていないか、あるいは直視しようとしていない。これは極めて致命的な過ちであり、国際経済においては一度失われた市場支配力を回復することは極めて困難である。
総括:墓穴を掘る愚かさ
米国の対中制裁は、まさに「自ら墓穴を掘る」政策である。自国の技術優位を過信し、相手国の実力と潜在力を軽視し、国際サプライチェーンという繊細な構造への配慮を欠いたその姿勢は、戦略ではなく短慮である。
米国が真に自国の利益と安全を守るのであれば、対立ではなく共存を前提とした技術協調体制の再構築こそが必要である。そうでなければ、「夜郎自大」の誤りを繰り返し、最終的には孤立と衰退の道を歩むことになろう。
【寸評 完】🌺
【引用・参照・底本】
US compounds its mistake with plan to revoke waivers for foreign chipmakers in China GT 2025.06.23
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1336784.shtml