米国:核融合エネルギー分野で中国に遅れを取る2024年12月25日 17:52

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【概要】

 アメリカが核融合エネルギー分野で中国に遅れを取っている問題について、以下に説明する。

 核融合エネルギーにおける中国の進展

 中国は核融合を商業エネルギー源として実現するため、驚異的なスピードで進展を遂げている。2025年に安徽省合肥市で完成予定の「核融合技術総合研究施設(CRAFT)」は、核融合研究において他に類を見ない科学的・工学的なインフラを提供する予定である。この施設は、核融合エネルギー商業化への重要な中間ステップとして機能する。

 中国はすでに「EAST」という核融合炉でプラズマ保持の記録を樹立しており、さらなる重要な実験も各地で進行中である。2027年には「燃焼プラズマ試験炉」が稼働予定であり、これらは「中国核融合工学試験炉(CFETR)」というプロトタイプ発電所の実現に向けた基盤を構築している。

 アメリカの現状

 一方で、アメリカは長年核融合研究で世界をリードしてきたが、近年では連邦政府の支援不足により、その地位を失いつつある。ワシントンD.C.では中国との技術競争における優位性維持が語られているにもかかわらず、核融合分野への政府の取り組みは限定的である。

 民間セクターでは、多額の投資とともに商業発電の実現を目指す野心的なプロジェクトが進行しているが、政府からの支援が不十分であるため、全体的な進展が阻まれている。Fusion Industry Association(FIA)のCEOであるアンドリュー・ホランド氏によれば、アメリカは長期計画や必要な基盤整備に関する具体的な青写真を持ちながらも、連邦政府による十分な予算確保や迅速な実行が伴っていないとされている。

 政府プログラムの課題

 現在、エネルギー省(DOE)の核融合エネルギー科学プログラムには予算が増加しているものの、大部分は「既存プログラム」に割り当てられている。これらのプログラムは基礎科学やプラズマ物理学の理解には重要だが、商業化に直結する研究にはあまり貢献していない。

 一方で、「INFUSE(核融合エネルギーのイノベーションネットワーク)」や「FIRE(核融合イノベーション研究エンジン)」といった新たな公私パートナーシッププログラムも開始されている。しかし、これらの予算規模はまだ小さく、商業化への移行を本格的に進めるには十分ではない。

 民間セクターの役割

 アメリカの民間セクターでは、複数の企業が独自のプロジェクトを進めている。例えば、コモンウェルス・フュージョン・システムズ社はマサチューセッツ州デベンズでデモンストレーショントカマクを建設中であり、ワシントン州エベレットではヘリオン社が「ポラリス」というデモ機を開発している。また、Zap Energy社も「FuZE-Q」という装置をテストしている。

 さらに、MITをはじめとする研究機関は、民間資金を活用して核融合業界のための材料試験施設を設立するなど、政府の支援が限られる中でも進展を続けている。

 中国との比較

 中国政府は商業化プログラムのためのインフラ構築に積極的であり、CRAFTのような統合施設を迅速に建設している。一方、アメリカでは類似の計画が提案されているものの、実際の建設や実行には至っていない。

 提言

 ホランド氏によれば、アメリカが核融合エネルギー分野でリーダーシップを維持するためには、以下の施策が必要である:

 ・商業化インフラの整備:材料試験スタンドや燃料サイクル試験センターの設置。
 ・公共施設の活用:政府が建設した施設を民間企業が利用する仕組みの導入。
 ・予算の確保:既存プログラムに偏らず、新しい商業化プログラムに重点を置いた予算配分。

 これらの取り組みがなされなければ、中国に対する競争力を維持することは難しいであろう。

 米国が中国に後れを取る核融合競争:重要ポイント

 米国政府の資金不足

 ・核融合産業CEOであるアンドリュー・ホランド氏は、米国の核融合企業に対する政府の資金不足を指摘している。
 ・米国の官民連携プログラムは資金が不足しており、これまでに割り当てられたのはわずか4600万ドルであり、目覚ましい進展を遂げるには極めて不十分である。

 中国の戦略的焦点

 ・中国は核融合を戦略産業として優先しており、「燃焼プラズマ実験超伝導トカマク(BEST)」のようなプロジェクトを通じて主導権を握ることを目指している。
 ・エナジー・シンギュラリティやENNといった中国の民間企業は、国家支援の取り組みと並行して十分な資金を得て、核融合技術を進展させている。

 米国CHIPS法からの教訓

 ・CHIPS法による540億ドルの半導体投資は、政府資金が戦略産業における民間セクターの成長をいかに促進できるかを示している。
 ・米国の競争力を維持するためには、核融合分野でも同様の資金提供が必要である。

 労働力開発の比較

 ・中国は核融合科学と工学における博士号取得者を米国よりはるかに多く輩出している。
 ・米国は市場主導型の解決策に依存して労働力を訓練しているが、優秀な米国訓練生が国内での機会不足により海外に流出する懸念が存在する。

 米国のインフラ需要

 ・米国の国立研究所は、DIII-DトカマクやNSTX-Uのような老朽化した施設に注力しており、画期的な進展を生む能力が限られている。
 ・研究中心の科学から商業化志向のインフラへ移行するための投資が必要である。

 官民連携の可能性

 ・米国は宇宙商業化で成功を収めたNASAのCOTSプログラムを核融合分野で再現できる可能性がある。
 ・マイルストーンベースの資金モデルは民間セクターのイノベーションを促進し得るが、これには大幅な財政支援が必要である。

 中国の二重アプローチ

 ・中国の核融合の取り組みは、政府主導のイニシアチブと成長する民間セクターの関与を融合させている。
 ・資金源として、電気自動車企業のNIOや国家支援プログラムが挙げられる。

 米国の行動の緊急性

 ・中国が急速に進展する中、米国の立法者は今後の競争力資金で核融合を優先するよう求められている。
 ・提案には、核融合インフラと官民連携のための30億ドルから100億ドルの追加資金要請が含まれている。

 戦略的意味合い

 ・核融合は、二酸化炭素を排出しないエネルギーを提供し、エネルギー安全保障や世界的な科学的リーダーシップの課題に応えるものである。
 ・核融合競争で後れを取ることは、米国の戦略的および技術的リーダーシップを損なう可能性がある。

【詳細】

 アメリカが核融合エネルギー開発において中国に遅れを取っている現状を取り上げている。核融合技術は将来のエネルギー供給において画期的な技術とされており、エネルギー安全保障や地球温暖化対策の観点から重要性が高い。この分野での国際競争は激化しており、中国がこの分野で急速にリードを広げていることが強調されている。

 中国の取り組み

 中国は2025年に予定されている「核融合技術総合研究施設(CRAFT)」の完成に向け、核融合エネルギーの商業化に必要な科学技術インフラを構築している。さらに、中国の「中国核融合工学試験炉(CFETR)」のプロトタイプが計画中であり、「燃焼プラズマ試験炉」が2027年に稼働予定である。これに加え、中国のEAST(超導核融合試験炉)はプラズマの閉じ込め時間で記録を保持しており、その他の核融合関連実験も各地で進行している。中国政府はこれらのプロジェクトに多額の投資を行い、必要な研究者や技術者を養成している。

 アメリカの現状

 一方で、アメリカは1950年代から核融合研究のリーダーであったものの、近年は連邦政府による支援の不足が問題視されている。特に、米国エネルギー省(DOE)の核融合エネルギー科学プログラムは予算の増加があったものの、多くの資金が既存の「レガシー」プログラムに割り当てられており、新規プロジェクトへの資金配分が不足しているとされる。これらのレガシープログラムは基礎科学やプラズマ物理学の研究には重要だが、核融合エネルギーの商業化に直結するものではない。

ただし、アメリカには核融合エネルギーに関する長期的な計画が存在している。2021年には米国核融合研究コミュニティがDOEの要請に応じ、核融合エネルギーの実現に向けた長期計画を策定した。また、2022年にはホワイトハウスが「核融合の商業化に向けた大胆な10年ビジョン」を発表した。しかしながら、これらの計画を実行するための予算が依然として十分ではないとされる。

 民間セクターの役割

 アメリカでは、政府の支援が不足している中でも、民間企業が核融合エネルギー開発の中心的役割を担っている。例えば、Commonwealth Fusion Systems(CFS)は、マサチューセッツ州でトカマク型核融合装置のデモンストレーターを建設中である。また、Helion Energy(ヘリオン)はワシントン州で「Polaris」と名付けられた装置の建設を進めており、Zap Energyも同州で新しい核融合技術の試験を行っている。さらに、マサチューセッツ工科大学(MIT)は核融合業界が利用できる材料試験用のサイクロトロンを構築するため、フィランソロピーの資金を調達している。

 課題と提案

 アメリカが核融合技術でリーダーシップを維持するためには、以下の課題に対処する必要があるとされる。

 1.インフラの構築:材料試験施設や燃料サイクル試験センターなど、商業化に向けた基盤を整備する必要がある。
 2.政府と民間の連携:政府が公共施設を整備し、民間企業がそれを利用する仕組みを強化すべきである。航空宇宙産業における風洞施設の例が挙げられる。
 3.予算の増加:DOEの核融合エネルギー科学プログラムの予算を増やし、商業化に直結するプロジェクトへの投資を拡大する必要がある。

 結論

 中国が国家主導で核融合技術の商業化に向けた大規模な取り組みを進める中、アメリカでは民間セクターの活発な活動が技術開発を牽引している。しかし、政府の支援が不足している現状では、中国との競争においてリーダーシップを失う可能性がある。この記事は、アメリカが核融合エネルギーの未来において主導権を握るために、政府が早急に行動を起こす必要性を訴えている。

 核融合エネルギー開発における米国と中国の競争状況、特に両国の政策や投資の違いについて詳述している。以下に要点を整理し、さらに詳しく説明する。

 1.核融合エネルギーの重要性

 核融合は、未来のエネルギー源として極めて重要視されている。以下の特長がある。
 ・ゼロカーボン排出:二酸化炭素を排出せず、気候変動対策として有望。
 ・燃料の豊富さ:地球上に広く存在する燃料(水素同位体)を使用するため、枯渇の心配がない。
 ・エネルギー安全保障:安定した供給が可能。

 これにより、核融合はエネルギーの「聖杯」とも呼ばれ、多くの国が競争的に研究・開発を進めている。

 2. 米国の現状

 米国では核融合研究に関する政策が存在するものの、資金配分や政策のタイミングが不十分とされている。

 主要な課題

 1.資金不足

 ・予算の大半が国家プロジェクト(例えばITER)や既存の設備(DIII-D、NSTX-U)に割り当てられている。
 ・公私連携の予算(マイルストーンベースのプログラム)では、これまでに約4600万ドルしか投入されていないが、効果を出すには10倍以上が必要。
 ・例えば、NASAの民間宇宙開発支援(COTS)プログラムでは5000万ドル規模の投資が行われた結果、スペースXが成功を収めた事例がある。

 2.官僚的な停滞

 ・ワシントンでは、既存の政策が変わりにくく、新しい分野への投資が遅れる傾向がある。
 ・特に政権末期には新規予算が組まれにくい状況。

 3.人材流出の懸念

 ・米国の大学や研究機関は市場志向で、質の高い教育を提供しているが、優秀な人材が海外(英国やドイツなど)に流出している。
 
 政府の対応

 ・米国政府は、インフラ投資法やCHIPS法で半導体産業などへの大規模投資を行ったが、核融合分野はそれほど優先されていない。
 ・現在、2025年に向けて3~10億ドル規模の追加予算が提案されており、核融合分野へのさらなる投資が期待されている。

 3. 中国の取り組み

 中国は核融合エネルギーを国家戦略として位置づけ、政府と民間が連携して大規模な投資を行っている。

 主なプロジェクト

 1.政府プロジェクト

 ・BEST(燃焼プラズマ実験用超伝導トカマク):ITERクラスの装置で、ブレークイーブン(核融合反応のエネルギー収支均衡)を目指す。
 ・CRAFT(核融合技術総合研究施設):核融合研究のための包括的なインフラを提供。

 2.民間企業の参入

 ・ENN、Startorus Fusion、Energy Singularity:これらの企業が最先端の高温超伝導磁石やトカマク技術を活用して、次世代の核融合技術を開発中。
 ・電気自動車メーカーNIO:BESTの資金の一部を提供している可能性があり、民間資金が国家プロジェクトを支えている。

 人材育成

 中国では核融合科学や工学分野のPhD(博士号)取得者が米国の10倍以上いるとされ、国内での人材育成が加速している。

 体制の特徴

 ・中国の体制は完全な指令型経済ではなく、政府と民間の競争的な連携が行われている。
 ・一部の企業には「名目上民間」とされるものの、国家主導の資金が流れている。
 
 4. 米中比較のまとめ

項目     米国             中国
資金規模 不足(年間予算800百万ドル程度) 国家・民間連携で大規模投資(具体的金額不明)
政策     官僚的で進展が遅い     国家戦略として明確に優先
人材育成 質は高いが量で劣る     国内での博士号取得者が豊富
産業構造 公私連携の試みが進行中     民間と国家が緊密に協力

 5. 今後の展望

 米国は競争力を維持するため、以下の取り組みが必要とされる。

 1.公私連携プログラムの予算を10倍規模に増やす。
 2.国家政策として核融合を「最重要戦略産業」と位置づける。
 3.人材流出を防ぎ、国内での科学技術力を維持するためのインセンティブを設ける。
 4.他国(特に中国)の進展を意識し、タイムリーな政策変更を行う。

 中国の進展を前に、米国が遅れを取るリスクは現実的であり、今後数年間が核融合開発における国際競争の分水嶺となる可能性が高い。

【要点】

 中国の取り組み

 ・2025年に「核融合技術総合研究施設(CRAFT)」完成予定。
 ・「中国核融合工学試験炉(CFETR)」や「燃焼プラズマ試験炉」など複数の大規模プロジェクトを推進中。
 ・超導核融合試験炉EASTがプラズマ閉じ込め時間で記録保持。
 ・政府が大規模な投資を行い、研究者や技術者の育成を進めている。

 アメリカの現状

 ・長年核融合研究を主導していたが、政府支援の不足が課題。
 ・DOEの核融合エネルギー科学プログラムは基礎科学に重点を置き、商業化への直接的投資が不足。
 ・2021年に長期計画、2022年に「大胆な10年ビジョン」を策定するも予算が不十分。

 民間セクターの役割

 ・Commonwealth Fusion Systems(CFS)やHelion Energy、Zap Energyなどが独自技術で開発を進行中。
 ・MITが核融合材料試験用サイクロトロンを計画中。
 ・民間企業が政府支援の不足を補い、技術開発を牽引。

 アメリカの課題

 1.インフラ整備:材料試験施設や燃料サイクル試験センターなどの基盤構築が必要。
 2.政府と民間の連携強化:公共施設を政府が提供し、民間が活用する仕組みを強化。
 3.予算の増加:DOEの商業化プロジェクトへの資金配分を拡大。

 結論

 ・中国は国家主導で核融合技術を推進し、商業化に向けてリードしている。
 ・アメリカは民間セクターが主導するものの、政府の支援が不十分。
 ・アメリカが競争力を維持するには、政府の迅速な行動と投資の拡大が必要である。

 1.核融合の重要性

 ・二酸化炭素排出ゼロ、燃料の豊富さ、安定供給可能性でエネルギーの未来を担う。

 2.米国の現状

 ・資金不足:予算はITERや既存設備に集中し、新規プロジェクトへの投資が遅れている。
 ・官僚的停滞:政策が変わりにくく、新しい分野への支援が不足。
 ・人材流出:質は高いが優秀な人材が海外に流れる傾向がある。
 ・政府対応:インフラ投資法やCHIPS法に注力するも、核融合分野の優先度は低い。

 3.中国の取り組み

 ・政府プロジェクト:ITERクラスの装置(BEST)や研究施設(CRAFT)を推進。
 ・民間企業の参入:ENN、Startorus Fusionなどが最先端技術を開発。
 ・人材育成:核融合分野の博士号取得者が米国の10倍以上。
 ・国家戦略:政府と民間が連携し、競争的な開発体制を構築。

 4.米中比較

 ・資金規模:米国は不足、中国は国家・民間で大規模投資。
 ・政策:米国は官僚的停滞、中国は明確な国家戦略。
 ・人材:米国は質で優位、中国は量で圧倒的優位。
 ・産業構造:米国は公私連携途上、中国は緊密な連携体制。

 5.今後の課題と展望(米国)

 ・公私連携プログラムの予算拡大(現状の10倍規模)。
 ・核融合を最重要戦略産業として位置づけ。
 ・人材流出防止のためのインセンティブ導入。
 ・他国の進展に即応する柔軟な政策変更。

 全体の見通し

 ・核融合技術の開発競争は米中対立の重要な一環であり、今後数年間が勝敗を左右する可能性が高い。

【引用・参照・底本】

US falling behind China in race to nuclear fusion ASIATIMES 2024.12.24
https://asiatimes.com/2024/12/us-falling-behind-china-in-race-to-nuclear-fusion/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=85d6e2cb0c-DAILY_24_12_2024&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-85d6e2cb0c-16242795&mc_cid=85d6e2cb0c&mc_eid=69a7d1ef3c

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