『令和8年版外交青書(外交青書2026)』- コンパクト私的総括2026-04-12 13:00

Geminiで作成
 『令和8年版外交青書(外交青書2026)』- コンパクト私的総括

 序章:外交青書の性格と2026年版の特徴

 本書は、原則として令和7年(2025年)1月1日から12月31日までの国際情勢及び日本が行った外交活動の概観を記録した公式文書である。ただし、一部の重要事項については令和8年(2026年)初めまでの動きも記述している。

 外務大臣の巻頭言によれば、世界は今、地政学的競争の激化と国際秩序の揺らぎ、グローバル・サウスの台頭、AIを始めとする加速度的な技術革新等、歴史の大きな変革期にあり、日本を取り巻く安全保障環境は戦後最も厳しく複雑なものとなっている。こうした中で日本は、「多角的、重層的連携をリードする包容力と力強さを兼ね備えた外交」を展開するとしている。

 本書の構成は大きく分けて、巻頭特集二本、第1章から第4章までの本論、そして資料編から成る。巻頭特集では2025年に開催された大阪・関西万博とTICAD 9(第9回アフリカ開発会議)が詳細に取り上げられている。以下、各章の内容を順に詳説する。

 巻頭特集その1:2025年日本国際博覧会「大阪・関西万博」外交

 開催の概要と規模

 2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとして、2025年4月13日から10月13日までの184日間、大阪府大阪市の人工島「夢洲」で開催された。これは1970年の大阪万博、2005年の愛・地球博に続く20年ぶりの日本主催の「登録博」である。参加した国と地域は158、国際機関は7で、日本で開催された国際博覧会としては過去最多を記録した。来場者数は2,902万人を超え、目標の2,800万人を上回る結果となった。

 青書はこの万博の意義を、「世界中の人々が多様でありながらも、ひとつにつながり、対話し、共働し、それぞれの文化を共鳴させ合い、共に万博を共創し、いのち輝く未来社会に向けたメッセージを発信することができた」と総括している。

 参加招請と機運醸成活動

 外務省は万博開催に向けて、国際社会に対して積極的な参加招請を行った。その結果、過去最多の参加国等の確保に大きな役割を果たした。特に注目すべきは、開発途上国に対する「包括的かつきめ細かな支援」である。設営や運営、関係者の宿泊、ナショナルデーの開催などについて幅広く丁寧にサポートした結果、アフリカ、中南米、大洋州を含む幅広い国々が、展示や行事を通じて自国の魅力を十分にアピールすることが可能となった。開催前には数多くの在外公館において、レセプションやイベントを活用した機運醸成活動も積極的に展開された。

 ナショナルデーとスペシャルデーの開催

 万博期間中、参加国・地域及び国際機関の参加をたたえ、各々の文化に対する理解を深め、国際親善の増進に寄与することを目的として、ナショナルデー及びスペシャルデーが連日開催された。外務省はこれらの機会に合わせて、参加国・地域及び国際機関の代表を「博覧会賓客」として招聘し、一日を通して万博会場内における賓客一行の接遇に大きな役割を果たした。

 外務副大臣や外務大臣政務官等の外務省幹部は日々、公式式典及び公式催事、午餐会や晩餐会に出席し、日本館や各国パビリオン視察に同行した。これらの行事を通じて、各国・地域及び国際機関の公式参加者のほか、一般の来場者とも交流を深めることができた。

 万博外交の成果-要人往来

 万博開幕以降、ナショナルデー及びスペシャルデーといった機会に、約90人に及ぶ元首・首脳級や、約50人の外相級を含め、世界各国から多くの要人が万博会場を訪問した。石破総理大臣(当時)は約50件、岩屋外務大臣(当時)は約40件の会談を実施し、二国間関係や国際社会の諸課題について各国との意思疎通を図りつつ、連携を一層強化することができた。

 青書は特に次の点を強調している。「総理大臣や外務大臣が、なかなか出張で訪れる機会を持てない国も含め、じっくりと二国間関係や国際情勢について意見を交わす機会を得られたのは、万博開催国ならではの成果である」。来日された各国要人には、万博のテーマを体現する日本の姿を全体として感じ取っていただき、今後の外交につながる強固なネットワークを構築することができたとされる。

 具体的な事例として青書はヨルダンを挙げている。ヨルダン館は「未来を紡ぐ」をテーマに、名所であるワディラム砂漠の砂約22トンを日本に運び込んで再現し、来館者の心をつかんだ。この展示は「テーマ解釈」部門で金賞に輝いた。5月7日のヨルダン・ナショナルデーにはフセイン皇太子殿下が来日し、高円宮妃殿下が大阪で出迎えられた。さらに秋篠宮皇嗣同妃両殿下は秋篠宮邸において夕饗を催され、佳子内親王殿下並びに悠仁親王殿下も同席された。フセイン皇太子殿下は東京も訪問し、石破総理大臣と会談して二国間関係の更なる発展とガザ情勢を始めとする中東地域の諸課題について議論を深めた。

 また、ペッセント米国財務長官が率いる米国大統領代表団が7月に訪日し、石破総理大臣を表敬した。同代表団は大阪・関西万博で開催された米国のナショナルデー関連行事に出席し、日本からは赤澤亮正経済再生担当大臣が出席して公式式典でスピーチを行った。

 地球規模課題への挑戦-万博とSDGs

 2025年は、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)達成の目標年である2030年まで残り5年となる年であり、SDGs実現への取組を加速するために極めて重要な年でもあった。その節目となる年に開催された大阪・関西万博は、地球規模課題にも挑戦するプラットフォームとなった。

 開催国のパビリオンである日本館では、「いのちと、いのちの、あいだに」をテーマに、多彩な「循環」を表現した。特に注目されたのは「水盤」であり、ごみから生まれた水をたたえるというコンセプトは循環型社会の象徴として内外の賓客から高い評価を得た。また、万博会場内で開催されたSDGsシンポジウム「OSAKA JAPAN SDGs Forum」の冒頭において、岩屋外務大臣はビデオメッセージを寄せ、万博がSDGsのベースとなる知見を国際社会と共有する知的交流の場であることを強調した。

 閉幕と「大阪・関西万博宣言」

 閉幕日である10月13日、「大阪・関西万博宣言フォーラム」が開催され、万博の成果を広く世界に発信するため、「大阪・関西万博宣言」が発表された。宣言は以下のような内容を含んでいる。

 世界各地からの参加者と出展者が、「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマのもとに大阪・関西に結集し、世界中から2,900万人を超える来場者を迎え入れたこと。会期前のパビリオン建設や展示準備における様々な制約、そして会期中の運営における困難などを乗り越え、関係者は一貫して密接に連携し、日々改善・進化を続けて会期を全うしたこと。国際社会が多様な課題に直面し将来に向けた展望に不確実性が高まる中、165の公式参加者とホスト国はナショナルデー・スペシャルデーを称え合いながら、それぞれの独自の文化とアジェンダを力強く表現し、大屋根リングに体現される「多様でありながら、ひとつ」とのメッセージを世界に発信したこと。

 宣言は最後に、関わったすべての人々が対話し共働し文化を共鳴させ合う中で、いのち輝く未来社会に向けたメッセージを発信してきたとし、そうした議論や実践が今後の万博に継承されるとともに、世界の人々が未来社会をデザインしていくことに資することを願う、と結ばれている。

 巻頭特集その2:TICAD 9 -革新的な課題解決策の共創、アフリカと共に-
TICADとは何か

 TICAD(アフリカ開発会議:Tokyo International Conference on African Development)は、1993年に日本が立ち上げたアフリカ開発に関する国際会議である。アフリカの「オーナーシップ」と、日本を含む国際社会との「パートナーシップ」という基本理念の下で、アフリカの開発を支援している。日本はアフリカ支援において「援助から投資へ」の転換を主導してきた。

 TICAD 9の開催概要

 TICAD 9は2025年8月20日から22日まで、横浜で開催された。アフリカから49か国(うち首脳級33人)が出席し、これに加えて共催者(国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行、アフリカ連合委員会(AUC))、国際機関、民間企業、国会議員、市民団体等が参加した。テーマは「革新的な課題解決策の共創」であり、経済、社会、平和と安定の三分野について全体会合が開かれた。特に、各分野を横断する重要事項として、民間セクター主導の持続的な成長、若者・女性、地域統合及び域内外の連結性に焦点が当てられ、活発な議論が行われた。

 横浜宣言と日本のコミットメント

 三日間の議論の成果は、首脳宣言である「TICAD 9横浜宣言」にまとめられ、最終日に採択された。会議終了後に開かれた共同記者会見で、石破総理大臣は、今後もTICADの原点を生かしながら、TICADを絶えず良いものに発展させるため取り組んでいくことを表明した。

 石破総理大臣はTICAD 9において、今後日本として次の七つの分野について取組を加速させることを表明した。第一にアフリカへの投資促進、第二に民間資金動員の促進、第三にAI(人工知能)・DX(デジタル・トランスフォーメーション)の活用と鉱物資源サプライチェーン強靱化を含む産業協力強化、第四にアフリカ域内外の連結性強化、第五に保健政策の強化、第六に若者・女性に焦点を当てた人材育成・人材交流、第七にアフリカの平和と安定に向けた取組の進展である。

 具体的な新イニシアティブ

 これらの表明の中から、特に注目すべき具体的な取組を紹介する。

 「インド洋・アフリカ経済圏イニシアティブ」は、インド洋諸国と協働し、地域間の連結性強化と自由で公正な経済圏の構築を後押しすることにより、アフリカの域内統合や産業発展に貢献していくことを目指すものである。

 「ナカラ回廊開発によるグローバル・サプライチェーンの強靭化」は、モザンビーク、マラウイ、ザンビアを対象とする広域オファー型協力である。内陸国のザンビア、マラウイからモザンビークのナカラ港を経てインド洋とつながるナカラ回廊において、地域の輸送インフラ整備・強化及び産業振興を進めるものである。

 「日本とアフリカの経済連携強化に関する産学官検討委員会」は、アフリカ連合(AU)の重要施策であるアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)について、日・アフリカ双方の関係機関や有識者等の間で、その実現に向けた協力や今後の経済面での連携の可能性について議論する委員会を立ち上げるものである。

 「アフリカ保健投資促進パッケージ」は、アフリカ各国自身が将来への投資としてガバナンス向上、投資環境整備、国内資源の投入に取り組む必要があるとして、このような取組を支援するために立ち上げられた。

 ビジネス促進と若者の活躍

 2013年のTICAD Vで「援助から民間投資へ」という考えが打ち出されて以降、日本企業のアフリカへの関心はますます増してきている。今回のTICAD 9ではTICAD 8の三倍超となる324件のビジネス関連の協力文書が結ばれた。JETROが主催した「TICAD Business Expo & Conference」には過去最多の194企業・団体が出展し、日・アフリカ双方の企業関係者等約1万人が参加した。

 2050年には世界の若者人口の三分の一以上をアフリカ諸国が占めることになると予想されている。こうした時代背景を踏まえ、TICAD 9では特に「若者」に着目した。若者版TICADとして開催された「Youth Forum」には日本とアフリカの若者延べ約400人が参加し、「Youth Agenda 2055:The Future We Want」を発表した。さらに、模擬国連に倣った「模擬アフリカ連合会議」も実施され、日本とアフリカの学生・若者がチームを組み、AU加盟国代表を模して経済、政治、科学・技術をテーマに意見を述べ合い、三つの総会決議を採択した。

 会談の詳細

 TICAD 9の機会に、石破総理大臣は34件、岩屋外務大臣は30件、それぞれアフリカ各国・国際機関の代表との間で会談等を行った。また、藤井比早之外務副大臣、松本尚外務大臣政務官及び英利アルフィヤ外務大臣政務官も様々なカウンターパートと面会した。こうしたきめ細かい外交機会の活用を通じ、アフリカ各国のニーズに沿った協力、また国連安全保障理事会の改革を含む国際場裡における協力について幅広い関係者と意見交換を行うことができた。

 第1章 国際情勢認識と日本外交の展望

 1 情勢認識-歴史的変革期の詳細分析

 第二次世界大戦終結から80年、そして国際連合の創設から80年を迎えた2025年は、国際社会にとって一つの節目といえる。ポスト冷戦期において、自由で開かれた国際秩序の拡大、グローバル化の進展、そして国家間の相互依存の深化を特徴とする国際潮流が多くの国々に繁栄と安定をもたらした。しかしながら、自由で開かれた国際秩序は大きく動揺している。パワーバランスの変化や地政学的競争の激化を受け、歴史の大きな変革期にあり、現在、日本を取り巻く安全保障環境も戦後最も厳しく複雑で、一層緊迫したものとなっている。青書は明確に「かつての『ポスト冷戦期』といわれた比較的安定した時代は既に終焉を迎えたといえるだろう」と記している。

 2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略は、国際秩序の根幹を揺るがす暴挙であり、国連憲章を含む国際法の重大な違反である。また中東では、2023年10月に発生したハマスなどによるイスラエルに対するテロ攻撃以降、地域全体が不安定化し、特にガザ情勢をめぐる国際社会の対立構造の複雑化、イランをめぐる情勢の緊迫化など、地域を越えた国際社会全体の課題となっている。

 同時に、国際社会及び日本を取り巻く安全保障環境の変化が様々な分野で加速度的に進んできている。日本周辺においては、中国の外交姿勢や軍事動向、北朝鮮による核・ミサイル開発、さらには露朝間の軍事協力の進展といった懸念すべき動きが見られる。これらの個別の事象は、グローバルな国際社会において相互に関連し、地域・国際情勢に多様な変化をもたらしている。

 加えて、いわゆるグローバル・サウスと呼ばれる開発途上国・新興国の台頭により、既存の国際秩序の維持、グローバル・ガバナンスの在り方が問われている。グローバル・サウス諸国は、経済成長と人口拡大を背景に、国際政治での発言力と影響力を急速に強めている。これらの国々の多くは、既存の国際秩序や国際機関の限界を指摘し、より公平で包摂的なシステムへの改革を求める声を強めている。そうした不満を背景に、自国のナラティブに基づいてあたかも国際秩序の擁護者かのように振る舞いつつ、都合よく国際秩序を作り変えようと試みる国々も出現している。

 また近年、安全保障と経済を横断する領域で様々な課題が顕在化する中、サプライチェーンの強靱化を始めとする経済安全保障の重要性は高まっている。さらに現代社会における科学技術の進展は、その速度と影響範囲において前例を見ないものとなっている。人工知能(AI)や量子技術といった先端分野におけるイノベーションは加速度的に進展し、国力をも左右する主要な要素としてその重要性が増している。また、デジタル技術の発展により、国家を背景とするサイバー攻撃を始め、サイバー空間における脅威が急速に増大し、サイバー安全保障分野での対応能力の向上が急務となっている。こうした中で、「技術覇権」をめぐる国家間競争が激化しており、次世代技術の発展が、各国の安全保障にも直結するとともに、将来の国力や中長期的な国際秩序に大きな影響を及ぼす時代となっている。

 2 日本外交の展望-六本の柱

 第一の柱:法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の堅持と日米同盟の強化
日本は自国及び国民の平和と安全、繁栄を確保し、自由、民主主義、人権、法の支配といった価値や原則に基づく国際秩序を維持・強化し、平和で安定した国際環境を能動的に創出しなければならない。この実現のために、日米同盟の強化に加えて、同志国とのネットワークを構築し、それを拡大していくことが重要である。

 日米同盟は日本の外交・安全保障政策の基軸であり、インド太平洋地域の平和と繁栄の礎である。安全保障面では、幅広い安全保障協力を進め、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していくとともに、日本における米軍の態勢の最適化に向けた取組を進め、普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指して辺野古移設を進めるなど、沖縄を始めとした地元の負担軽減と米軍の安定的駐留に全力を尽くしていく。経済面では、関税に関する日米間の合意の着実な実施を通じて、日米双方の成長と経済安全保障の強化を実現させ、引き続き経済分野での日米協力を拡大・深化させていく。こうした取組を通じて、日本はトランプ政権との間で引き続き強固な信頼関係を構築し、日米関係を更に深化させていく。

 第二の柱:同盟国・同志国連携のネットワーク化

 「自由」と「法の支配」の擁護、「多様性」、「包摂性」、「開放性」の尊重を中核的な理念とする「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を日本外交の柱として、時代の変化に合わせて戦略的に進化させていく。この実現のために、G7、ASEAN、オーストラリア、インド、太平洋島嶼国、EU、NATOなどとの協力関係を更に強化し、日米韓、日米豪、日米フィリピン及び日米豪印を始め、実践的かつ多面的な協力を広げていく。

 オーストラリアとは、同志国連携の中核として、幅広い分野で緊密な協力関係を構築している。防衛装備品、経済安全保障、サイバー分野を含む安全保障協力の強化を始めとして、「特別な戦略的パートナーシップ」の更なる深化に取り組んでいく。EU、NATOとは、欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分であるとの認識の下、近年の協力進展を踏まえ、安全保障に係る連携を更に強化していく。

 第三の柱:近隣諸国との関係

 近隣諸国とは、難しい問題、課題に正面から対応しつつ、安定的な関係を築いていく。

 日本と韓国は、国際社会における様々な課題への対応パートナーとして協力していくべき重要な隣国であり、現下の戦略環境の下、日韓関係の重要性は一層増している。国交正常化以来これまで築かれてきた日韓関係の基盤に基づき、日韓関係を未来志向で安定的に発展させていく。

 日本と中国との間には、尖閣諸島情勢を含む東シナ海や南シナ海における力又は威圧による一方的な現状変更の試みや、日本周辺での一連の軍事活動を含め、数多くの懸案や課題が存在している。また、台湾海峡の平和と安定も重要である。さらに、中国の人権状況や香港情勢等についても深刻に懸念すべき状況にある。同時に日中両国は、地域と世界の平和と繁栄に対して大きな責任を有している。中国との間で「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築していく方針は一貫している。日中間に懸案と課題があるからこそ意思疎通が重要であり、日本は中国との様々な対話についてオープンである。このような姿勢の下、中国との意思疎通を継続しつつ、今後も国益の観点から冷静に、適切に対応していく。

 北朝鮮による核・ミサイル開発は断じて容認できるものではない。また、北朝鮮によるロシアへの兵士の派遣や、ロシアによる北朝鮮からの弾道ミサイルを含む武器・弾薬の調達及び使用といった露朝軍事協力の進展は、ウクライナ情勢のみならず、日本周辺地域の安全保障に与える影響の観点からも、深刻に懸念すべき動向である。日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化を実現するとの方針は変わらない。とりわけ、拉致被害者やその御家族も御高齢となる中で、人命にかかわる拉致問題は、一刻も早く解決しなければならない人道問題であるとともに、国家主権の侵害である。全ての拉致被害者の一日も早い御帰国の実現を含め、北朝鮮との諸課題を解決するため、あらゆる手段を尽くして取り組んでいく。

 第四の柱:経済外交

 日本の経済力強化のため、日本が優位性を持つ技術力・課題解決力や日本企業の海外展開を外交面で後押しし、新規市場の開拓やイノベーションの創出に貢献していく。

 ルールに基づく自由で公正な国際経済秩序の維持・強化も重要である。CPTPPの高い水準の維持や戦略的な拡大を含む経済連携の推進、WTO改革の推進、「安全、安心で信頼できるAI」エコシステムの構築に取り組んでいく。同時に、一層重要性を増す経済安全保障上の課題に対応するため、エネルギー・食料の安定的な確保に加え、重要鉱物を含むサプライチェーンの強靱化や経済的威圧への対応、重要・新興技術の保全・開発促進などに全力で取り組んでいく。

 第五の柱:グローバル・サウスとの連携強化と地域外交

 国際社会で発言力を強めるグローバル・サウス諸国との連携は不可欠である。OSAによる安全保障協力や、ODAによる「日本らしい顔の見える開発協力」を通じて、相手国のニーズも踏まえたきめ細かな協力を進めていく。

 インド太平洋の中心に位置するASEANは、世界の成長センターであり、FOIP実現の要である。その安定と繁栄は、日本、そして地域全体にとって極めて重要であり、日本は外交の最優先事項の一つとして、政治・経済の両面で存在感を増すASEANとの関係強化に取り組んできた。「心と心」のつながる「信頼のパートナー」として、日本は、OSAやODAも活用しつつ、海洋安全保障やAIを含むデジタル、グリーン・トランスフォーメーション(GX)、連結性、人材開発といった幅広い分野において、東南アジア諸国との連携を深め、地域との関係を一層強化していく。

 インドは、基本的価値と戦略的利益を共有する、FOIPの実現に向けた重要なパートナーである。「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」の下、安全保障、経済・投資・イノベーション、人的交流など、幅広い分野における協力を一層推進していく。

 中東は、国際社会にとり主要なエネルギー供給源の一つであり、日本も原油輸入の約九割をこの地域に依存している。したがって、シーレーンにおける航行の安全の確保を含む同地域の平和と安定は、エネルギー安全保障や日本を含む世界経済の安定と成長にとっても極めて重要である。中東の平和と安定に大きな影響を与えるイスラエル・パレスチナ問題については、日本は、ガザにおける速やかな人道支援の実施や早期復旧・復興を後押しし、「二国家解決」の実現に向けて引き続き積極的な役割を果たしていく。

 2050年に世界の人口の四分の一を占めるとされ、豊富な天然資源を有するアフリカは、若く、希望にあふれ、ダイナミックな成長が期待できる大陸である。日本は1993年にアフリカ開発会議(TICAD)を立ち上げて以降、30年以上にわたり、アフリカ自らが主導する開発を後押ししていくとの精神で取り組んできた。8月のTICAD 9では、「革新的な課題解決策の共創」というテーマの下、日本の技術や知見を生かしながら、日本とアフリカ双方の繁栄につながる課題解決策について議論した。

 第六の柱:多国間外交の推進

 2026年は日本が国連に加盟して70周年を迎える。世界が抱える諸課題を解決するため、国連を中核とした多国間外交を推進するとともに、安保理改革を含む国連の機能強化に取り組んでいく。また、核軍縮・不拡散については、「核兵器のない世界」の実現に向けて、2026年4月の核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議を含め、NPT体制を維持・強化するための現実的で実践的な取組を進めていく。

 第2章 地域別に見た外交

 第1節 法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の推進

 インド太平洋は、アジア太平洋からインド洋を経て中東・アフリカに至る広大な地域であり、世界人口の半数を擁し、高い経済的潜在力を有する世界の活力の中核である。しかし同時に、強大な軍事力を有する国が数多く存在し、その中で法の支配に基づく国際秩序の根幹を揺るがすような行動が継続・強化されている。

 日本は、2016年8月に安倍総理大臣がケニアで開催された第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)の基調演説の機会に、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を対外発表した。同演説において安倍総理大臣は、国際社会の安定と繁栄の鍵を握るのは、成長著しいアジアと潜在力あふれるアフリカの「二つの大陸」、自由で開かれた太平洋とインド洋の「二つの大洋」の交わりにより生まれるダイナミズムであり、日本はアジアとアフリカの繁栄の実現に取り組んでいくと述べた。

 加えて、2023年3月に岸田総理大臣は、FOIPのための新たなプランをインドで発表し、国際社会を分断と対立ではなく協調に導くという目標に向け、歴史的転換点におけるFOIPの考え方や取組について具体的に示した。新プランでは、「自由」と「法の支配」の擁護、「多様性」、「包摂性」、「開放性」の尊重といった原則は維持しつつ、今後取るべきアプローチとして、「対話によるルール作り」、各国間の「イコールパートナーシップ」、「人」に着目したアプローチを重視することを明らかにした。また、新たにFOIP協力の「四つの柱」(平和の原則と繁栄のルール、インド太平洋流の課題対処、多層的な連結性、「海」から「空」へ拡がる安全保障・安全利用の取組)を打ち出した。

 2025年10月、高市総理大臣は、総理就任後初の所信表明演説において、FOIPを外交の柱として引き続き力強く推進し、時代に合わせて進化させていくと表明している。

 FOIPの実現に向けて日本は様々な国との連携・協力を進めている。米国とは、2月の日米首脳会談及び10月の日米首脳会談において、FOIPを力強く推進するため緊密に連携していくことを確認した。日米豪印4か国は、1月及び7月の外相会合においてFOIPの実現に向けたコミットメントを再確認し、海洋・越境安全保障、経済的繁栄・経済安全保障、重要・新興技術及び人道支援・緊急対応の4つの分野を優先協力事項として推進することを確認した。日米韓3か国は、5回の外相会合を実施し、FOIPの実現のため強固な日米同盟・米韓同盟及びその戦略的連携を示し続けることの重要性を再確認した。ASEANとは、2025年の日・ASEAN首脳会議で、高市総理大臣がFOIPを改めて日本外交の柱と位置付け、AOIPとの連携をより一層強化することを表明し、「AOIPの更なる推進と実施に関する日ASEAN首脳共同声明」を採択した。

 第2節 アジア・大洋州

 アジア・大洋州地域の概観

 アジア・大洋州地域には、世界人口の実に半分以上となる約42億人が居住している。これらの国々の名目国内総生産(GDP)の合計は世界の30%以上を占めており、この地域は豊富な人材にも支えられ、国際社会の成長と繁栄の中心である。一方、北朝鮮の核・ミサイル開発、地域諸国による透明性を欠いた形での軍事力の強化・近代化、法の支配や開放性に逆行する一方的な現状変更の試み、海洋をめぐる問題における関係国・地域間の緊張の高まりなどにより、この地域の安全保障環境は厳しさと複雑さを増している。

 2025年は首脳レベル・外相レベルの活発な外交が展開された。石破総理大臣は1月、就任後初の二国間訪問としてマレーシアとインドネシアを訪問し、それぞれの首脳と会談した。4月にはベトナムとフィリピンを訪問し、FOIPの実現に向け安全保障を含む協力を強化していくことを確認した。9月には韓国を訪問し、李在明大統領と会談して日韓関係を安定的に大きく発展させていくことで一致した。10月に発足した高市内閣の下、高市総理大臣は就任後初の外国訪問としてASEAN関連首脳会議に出席するためマレーシアを訪問し、FOIP実現の要であるASEAN諸国との連携強化を確認した。

 中国

 中国情勢

 内政面では、3月の第14期全国人民代表大会第3回会議において、李強国務院総理が政府活動報告を読み上げ、2025年のGDP成長率目標を前年同様の5%前後と設定した。10月には第20期中央委員会第4回全体会議(四中全会)が開催され、「第15次五か年計画に関する中共中央の提案」を可決した。12月には中央経済工作会議が開催された。

 外交面では、中国は2025年も習近平国家主席を始めとするハイレベルを筆頭に、様々なレベルによる外交活動が活発に行われた。特に中国は8月末から9月初旬の「上海協力機構(SCO)天津サミット」、「中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年記念大会」、10月の「世界女性サミット」といった式典・会議を自国で開催し、各国元首・首脳らを招いて首脳会談を実施した。中でもSCOサミットで習近平国家主席は、「グローバル・ガバナンス・イニシアティブ」を初めて提唱した。

 ロシアとの関係では、5月の対ドイツ戦勝利80周年記念軍事パレードに併せて習近平主席がロシアを訪問し、中露首脳会談を実施した。両国の包括的・戦略的協力パートナーシップ関係の更なる深化に関する共同声明が発出され、「中露の伝統的友好と深い相互信頼を妨害・破壊しようとするいかなるたくらみにも共に対抗する」とした。また、9月の「中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年記念大会」には北朝鮮の金正恩国務委員長も訪中した。

 米中間では、2025年1月に発足した第二期トランプ政権との間で、幅広い分野において関税措置を含む貿易制限措置の応酬が展開された。一時は相互に125%の追加関税を掛け合う状況となったが、5月にスイスで第1回米中経済・貿易会談が開催され、米中共同声明が発表された。これにより相互に高止まりしていた関税の撤廃や一時停止が表明された。10月には韓国で米中首脳会談が実施され、フェンタニルを理由とする追加関税の引下げや、中国によるレアアース輸出管理措置の一時停止などの合意に達した。

 軍事・安保面の動向

 中国は「軍民融合発展戦略」の下、核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心として、軍事力の質・量を広範かつ急速に強化しており、宇宙・サイバー・電磁波やAI、無人機といった新たな領域における優位の確保も重視している。

 2025年は、引き続き中国による日本周辺での活動が活発に行われた。6月には、中国海軍の空母「遼寧」が硫黄島より東側の海域(いわゆる「第二列島線」より東側の海域)で活動したこと、空母2隻「遉寧」及び「山東」が同時期に太平洋上で活動したことを初めて確認・公表した。9月には、電磁カタパルトを装備しているとみられる空母「福建」が航行していることを初めて確認・公表した。12月には空母「遼寧」が太平洋に進出し、沖縄本島東方から奄美大島東方の公海を航行したことが初めて確認された。加えて、中国は台湾周辺の海空域において4月及び12月に軍事演習を実施した。

 日中関係

 中国とは、戦略的互恵関係を包括的に推進し、建設的かつ安定的な関係を構築していくことが一貫した方針である。中国との間には、尖閣諸島情勢を含む東シナ海や南シナ海における力又は威圧による一方的な現状変更の試み、ロシアとの連携を含む日本周辺での一連の軍事活動や、中国によるレアアース等の輸出管理措置など、数多くの懸案や課題が存在している。重要な隣国であり、様々な懸案と課題があるからこそ、意思疎通を継続しながら、国益の観点から冷静かつ適切に対応していく。

 2025年は、3月に東京で日中韓外相会議が開催され、岩屋外務大臣と王毅外交部長が日中外相会談を行った。両外相は、国際情勢が大きく変動する中で、率直に議論することが重要であることを確認した。7月には、ASEAN関連外相会議に出席するためマレーシアを訪問中の岩屋外務大臣が、王毅外交部長と再び会談を行った。

 10月31日、APEC首脳会議に出席するため韓国を訪問中の高市総理大臣は、習近平国家主席と首脳会談を行った。両首脳は、「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築するという日中関係の大きな方向性を改めて確認した。高市総理大臣からは、安全保障や経済安全保障など懸案や課題があるからこそ、それらを減らし、理解と協力を増やし、具体的な成果を出していく重要性を指摘した。また、尖閣諸島周辺海域を含む東シナ海での中国によるエスカレーションや海洋調査活動、日本周辺の中国軍の活動の活発化につき、深刻な懸念を伝えた。さらに中国関連の輸出管理措置について懸念を表明し、日中輸出管理対話の開始と当局間の意思疎通強化を確認した。中国における邦人拘束事案については、邦人滞在の不安感を考慮し、安全確保と早期解放を求めた。台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、南シナ海、香港、新疆ウイグル自治区等についても深刻な懸念を表明した。

 しかし、2025年11月以降、中国は日本に対して一方的な批判や威圧的措置を強めている。特に中国の在大阪総領事によるSNSの投稿は、在外公館の長の発信として極めて不適切であり、中国側に対し累次にわたり強く抗議した。また、中国政府は中国国民に対し日本への渡航自粛要請を行った。さらに、中国の国連常駐代表は事実に反する書簡を発出し、駐日中国大使館は「旧敵国条項」に関する発信を行った。12月6日には、中国軍の戦闘機が航空自衛隊の戦闘機にレーダー照射を断続的に行う事案が発生した。2026年1月6日には中国が日本向けデュアルユース品目の輸出管理強化措置を発表し、2月24日には一部の日本企業等に対するデュアルユース品目の輸出禁止等を発表した。日本はこれらの措置に対して強く抗議し、撤回を求めている。

 韓国

 韓国情勢

 2025年4月4日、憲法裁判所は尹錫悦大統領の弾劾訴追を全員一致で妥当と判断し、尹大統領の罷免を宣告した。これを受けて6月3日に実施された大統領選挙では、野党「共に民主党」の李在明候補が勝利した。李大統領は就任後、「123の国政課題」を選定し、「世界を導く革新経済」、「皆が豊かに暮らす均衡成長」及び「基本が堅固な社会」を公表した。

 外交面では、李大統領は就任直後にトランプ米国大統領と電話会談を行ったほか、6月にカナダで開催されたG7カナナスキス・サミットに出席し、石破総理大臣を含む各国首脳らと会談した。また、10月31日及び11月1日には慶州においてAPEC首脳会議を成功裏に開催した。対中関係では、11月の慶州APEC首脳会議の機会に李大統領は国賓として訪韓した習近平国家主席と初めての対面での首脳会談を行った。

 日韓関係

 日本と韓国は、互いに国際社会における様々な課題への対応にパートナーとして協力していくべき重要な隣国であり、現下の戦略環境の下、日韓関係の重要性は一層増している。2025年は国交正常化60周年に当たり、首脳の「シャトル外交」をはじめ、両国間で緊密な意思疎通が行われた。

 6月17日、石破総理大臣はG7カナナスキス・サミットの機会に李大統領との間で対面では初となる首脳会談を行った。8月23日には訪日中の李大統領との間で首脳会談を行い、発出された共同プレスリリースにおいて、両首脳は日韓関係を未来志向で安定的に大きく発展させていくことで一致した。両首脳は、地方創生、少子高齢化・人口減少、農業、災害に対する強靭性の確保など、両国が直面する共通の社会・経済課題について、両政府間の協議の枠組みの立ち上げで一致した。9月30日には石破総理大臣が韓国・釜山を訪問し、李大統領との首脳会談を行った。10月30日には高市総理大臣がAPEC首脳会議出席のため韓国を訪問し、李大統領との間で初となる首脳会談を行った。2026年1月13日には、高市総理大臣は奈良県を訪問中の李大統領との間で首脳会談を行い、日韓関係の戦略的重要性について認識を共有した。

 こうした首脳・閣僚間のものに加え、この一年間で日韓次官戦略対話、日韓共通の社会課題への対応に係る当局間協議、日韓科学技術協力委員会といった様々なレベルでの意思疎通も活発に行われた。

 両国間の往来について、2024年は約1,204万人、2025年は約1,311万人と過去最高を記録した。「日韓交流おまつり」は2025年は東京とソウルで開催され、両国合わせて約11万6,000人が参加した。

 北朝鮮

 北朝鮮は、2025年も弾道ミサイルの発射を繰り返すなど、核・ミサイル開発を継続した。2025年は4回にわたり、少なくとも5発の弾道ミサイルの発射を行った。一連の北朝鮮の行動は、日本の安全保障にとって重大かつ差し迫った脅威であるとともに、地域及び国際社会に対する明白かつ深刻な挑戦であり、断じて容認できない。

 2024年4月にロシアの拒否権により国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネルの活動が終了したことを踏まえ、同年10月に日本を含む同志国が設立した「多国間制裁監視チーム(MSMT)」は、関連安保理決議の完全な履行に貢献するため取組を強化している。2025年5月、MSMTは武器移転を含む北朝鮮とロシアとの間の不法な軍事協力をテーマに第1回目の報告書を公表した。7月にはMSMT参加国が国連本部において同報告書に関するブリーフィングを開催した。10月にはMSMTは北朝鮮によるサイバー及びIT労働者の活動をテーマとした第2回目の報告書を公表した。同報告書では、北朝鮮は2024年に約12億ドル相当、2025年1月から9月までの間には約16.5億ドル相当の暗号資産を窃取したと指摘されている。

 拉致問題については、現在日本政府が認定している日本人拉致事案は12件17人であり、そのうち12人がいまだ帰国していない。拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はあり得ないとの基本認識の下、その解決を最重要課題と位置付けている。2025年10月、高市総理大臣は所信表明演説で「被害者や御家族が御高齢となる中で、拉致問題はこの内閣の最重要課題です。全ての拉致被害者の一日も早い御帰国を実現するために、あらゆる手段を尽くして取り組んでまいります。」と表明した。11月には「全拉致被害者の即時一括帰国を求める国民大集会」において、「あらゆる選択肢を排除せず、私の代で、何としても突破口を開き、拉致問題を解決したい」と述べた。

 東南アジア

 ASEANは、FOIP実現の要であり、世界の成長センターである。日本は2015年のASEAN共同体設立以降、ASEANの更なる統合に向けた取組を全面的に支援してきている。2023年12月の日・ASEAN友好協力50周年特別首脳会議において採択された「日・ASEAN友好協力に関する共同ビジョン・ステートメント」とその具体的な「実施計画」に基づき、三つの柱の下で協力の強化が進められている。第一の柱は「世代を超えた心と心のパートナー」として長年の信頼関係を次世代につなぎ強化していくこと、第二の柱は「未来の経済・社会を共創するパートナー」として共通の課題への解決策を見いだしていくこと、第三の柱は「平和と安定のためのパートナー」として自由で開かれたインド太平洋を推進することである。

 2025年10月の日・ASEAN首脳会議では、高市総理大臣から、ODAやOSAに加え、「安全、安心で信頼できるAIエコシステムを共に構築するための日ASEAN・AI共創イニシアティブ」の立ち上げが表明された。また、日・ASEAN経済関係強化のためのワーキンググループを立ち上げ、幅広い方策について議論することを提案し、ASEAN側より歓迎された。

 インド

 インドは、世界第1位の人口、世界第5位の経済規模を有し、国際社会における存在感を高めている。日本とインドは、基本的価値や戦略的利益を共有するアジアの二大民主主義国であり、「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」の下、経済、安全保障、人的交流など幅広い分野における協力を深化させてきた。

 2025年は、首脳会談を始めとするハイレベルの意見交換が頻繁に行われた。8月には、首脳間年次相互訪問の枠組みとしては約7年ぶりとなるモディ首相の訪日が実現した。その際、両首脳は2008年に発表した「日印安全保障協力に関する共同宣言」を改定するとともに、インド海軍への「艦艇搭載用複合通信空中線(ユニコーン)」の早期移転実現に向けて後押ししていくことで一致した。また、重要物資のサプライチェーン強靱化を始めとする両国の連携を強化するために、日印で「経済安全保障イニシアティブ」を立ち上げた。両首脳は、今後10年の日印共同ビジョンとして、安全保障、経済・投資・イノベーション、人的交流の3分野で協力を一層強化することで一致した。

 大洋州

 オーストラリアとは、9月に第12回日豪外務・防衛閣僚協議(「2+2」)を東京で実施し、2022年に発出した「安全保障協力に関する日豪共同宣言」に沿って、共同の抑止力の強化に向けた協力を更に発展させていくことで一致した。また、8月にはオーストラリア政府が日本の「もがみ」型護衛艦の能力向上型を次期汎用フリゲートとして選定したことを発表した。

 太平洋島嶼国に対しては、2024年7月の第10回太平洋・島サミット(PALM10)の成果を踏まえ、気候変動や防災分野での協力を強化している。特に「太平洋気候強靱化イニシアティブ」の下、日本の技術・ノウハウ・資金を総動員したオールジャパンの取組を進めている。

 第3節 北米

 米国

 日米間では、2025年1月から同年12月末まで、首脳間で9回(うち電話会談6回)、外相間で6回(うち電話会談1回)の会談が行われた。

 2月7日、ワシントンD.C.を訪問した石破総理大臣は、トランプ大統領と対面で初めてとなる日米首脳会談を行った。両首脳は、厳しく複雑な安全保障環境に関する情勢認識を共有し、FOIPの実現に向けて緊密に協力し、日米同盟を新たな高みに引き上げていくことを確認した。石破総理大臣からは日本の防衛力の抜本的強化への揺るぎないコミットメントが表明され、トランプ大統領はこれを歓迎した。トランプ大統領は、米国による核を含むあらゆる能力を用いた日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメントを強調した。両首脳は、日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを改めて確認した。

 10月28日、高市総理大臣は、訪日中のトランプ大統領と日米首脳会談を行った。両首脳は、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していくため、幅広い安全保障協力を進めていくことで一致した。高市総理大臣は、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境において、日本として主体的に防衛力の抜本的強化と防衛費の増額に引き続き取り組んでいく決意を表明した。両首脳は、関税に関する日米間の合意について両国による迅速かつ継続的な取組を確認する文書(「合意の実施 -日米同盟の新たな黄金時代に向けて-」)に署名した。また、重要鉱物及びレアアースに関する文書(「採掘及び加工を通じた重要鉱物及びレアアースの供給確保のための日米枠組み」)に署名した。

 日米経済関係については、日本は米国内の直接投資残高で6年連続世界最大の対米投資国である。2025年は米国による広範な関税措置が大きな影響を及ぼしたが、同年7月に日米両国の利益になる形での合意に至った。同合意では、日本からの輸入品に対する相互関税については「上乗せなし」で15%とすること、日本に対する自動車・同部品関税も同様に「上乗せなし」で15%の扱いとすること、日本企業による5,500億ドル規模の対米投資を促進することなどが確認された。

 カナダ

 カナダでは、2025年3月、マーク・カーニー氏が首相に就任した。カーニー新政権は、米国との新たな経済・安全保障関係構築を模索すると同時に、貿易多角化の観点から、欧州やインド太平洋諸国との協力関係の強化を推進している。2025年はカナダがG7議長国を務め、6月のG7カナナスキス・サミットを主催した。

 日本とカナダの間では、2022年に両国間で発表した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)に資する日加アクションプラン」を着実に実施している。2025年7月には日加情報保護協定が署名され、2026年1月に発効した。また、日加防衛装備品・技術移転協定については、2026年1月に署名された。エネルギー分野では、日本企業が参画するLNGカナダプロジェクトの出荷が始まり、カナダ産LNGの日本を含むアジアへの供給が開始された。

 第4節 中南米

 中南米地域には、世界の日系人の約6割を占める約310万人から成る日系社会が存在しており、100年以上に及ぶ現地社会への貢献を通じて同地域における伝統的な親日感情を醸成してきた。日本は2014年以来、「3つのJuntos!!(共に)」の理念の下で対中南米外交を展開してきた。2024年、岸田総理大臣はブラジルにおいて、「中南米と共に拓く『人間の尊厳』への道のり」と題した対中南米政策スピーチを行い、10年ぶりにその指針をアップデートした。

 2025年は「日本ブラジル友好交流年(外交関係樹立130周年)」であり、3月にルーラ・ブラジル大統領を国賓として招いた。また、「日・中米交流年」に当たり、グアテマラ、パナマ、ベリーズの大統領・首相が訪日した。大阪・関西万博の各国ナショナルデーに際しては、中南米地域から首脳11人、外相13人を含む閣僚級16人が訪日した。

 経済分野では、CPTPPを通じた自由貿易の推進に取り組んでいる。2025年11月にはコスタリカのCPTPPへの加入手続が開始され、同年11月にはウルグアイの同協定への加入手続の開始が決定された。

 第5節 欧州

 欧州各国、EU及びNATOは、日本にとって自由、民主主義、法の支配及び人権などの価値や原則を共有する重要なパートナーである。ロシアによるウクライナ侵略が長期化し、欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障が不可分であることがますます明らかとなっている。

 ウクライナ支援

 日本は一貫してウクライナ支援と対露制裁を継続してきた。2025年も、G7を始めとする国際場裡での諸外国との連携を通じて、ウクライナにおける公正かつ永続的な平和の実現に向けた取組を展開した。

 財政支援としては、4月に円借款「ウクライナのための特別収益前倒し融資」(供与限度額:4,719億円)に関する書簡の署名及び交換を行った。これは2024年のG7プーリア・サミットにおいてG7首脳が立ち上げについて一致した枠組みの下での供与である。12月には、ウクライナの財政が特にひっ迫する2026年前半の資金ニーズに応えるため、総額約60億ドルの支援を行うことを表明した。

 地雷対策としては、10月に東京で「ウクライナ地雷対策会議(UMAC2025)」を開催した。日本は同会議で、「ウクライナ地雷対策支援イニシアティブ」を発表した。これは人材育成と技術の強化、復旧・復興プロセスへの円滑な移行(ネクサス)、第三国や国際機関等との間のパートナーシップの多角化・強化を三本柱とするものである。

 EU・NATOとの連携

 EUとは、7月に第30回日・EU定期首脳協議を実施し、政治・安全保障や防衛、経済安全保障や競争力強化といった幅広い分野で連携を深めていくことを確認した。また、4月に第2回日・EU外相戦略対話を実施し、欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分であるとの認識を改めて共有した。

 NATOとは、2025年1月にNATO日本政府代表部が在ベルギー日本国大使館から独立し実館として開設された。4月にはルッテNATO事務総長が就任後初めてのインド太平洋地域への訪問先として日本を訪れ、石破総理大臣と会談するとともに共同声明を発出した。6月のNATO首脳会合には岩屋外務大臣が出席し、日本の外務大臣の出席は4年連続となった。

 主要国との関係

 英国とは、3月に日英経済版2+2閣僚会合(経済版2+2)の初回会合を東京で開催した。8月から9月にかけて、英国空母「プリンス・オブ・ウェールズ」率いる空母打撃群(CSG25)が横須賀及び東京に寄港した。その際には海上自衛隊護衛艦が英空母等に対し、英国軍に対しては初となる防護を実施した。2026年1月にはスターマー首相が初めて訪日し、高市総理大臣と会談した。

 フランスとは、5月に岩屋外務大臣が訪仏し、バロ欧州・外務相と外相会談を実施した。インド太平洋地域における安全保障分野での日仏協力を高く評価するとともに、経済安全保障分野においてレアアース等重要鉱物の安定供給確保のための協力が進んでいることを歓迎した。

 ドイツとは、5月にメルツ政権が発足した。8月にはヴァーデフール外相が訪日し、第1回日独外相戦略対話を実施した。9月には航空自衛隊F15機等が初めてドイツに寄航した。11月のG20ヨハネスブルグ・サミットの機会に、高市総理大臣はメルツ首相との間で初の日独首脳会談を実施した。

 第6節 ロシア・ベラルーシと中央アジア・コーカサス

 ロシア

 ロシアによるウクライナ侵略は2025年も継続した。日本は、一日も早くウクライナの公正かつ永続的な平和を実現するため、G7を始めとする国際社会と連携しつつ、厳しい対露制裁措置を実施している。

 日露関係にとって最大の懸案は北方領土問題である。北方領土は日本が主権を有する島々であり、日本固有の領土であるが、現在ロシアに不法占拠されている。日本政府として、北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するとの方針の下、これまで粘り強く交渉を進めてきた。しかしながら、2022年3月、ロシア政府は平和条約交渉を継続しない、自由訪問及び四島交流を中止するなどの措置を発表した。現下の事態は全てロシアによるウクライナ侵略に起因して発生しているものであり、ロシア側の対応は極めて不当であり断じて受け入れられない。北方四島交流・訪問事業の再開は日露関係における最優先事項の一つであり、特に御高齢となられた元島民の皆様の切実な思いを踏まえ、北方墓参の再開を粘り強く求めていく。

 中央アジア

 日本は2004年、「中央アジア+日本」対話(CA+JAD)の枠組みを立ち上げた。2025年12月、この枠組みの首脳会合を初めて東京で開催した。6か国の首脳は、同首脳会合において中央アジアの産業高度化・多角化を後押しする互恵関係のための「CA+JAD東京イニシアティブ」を立ち上げ、「グリーン・強靱化」、「コネクティビティ(連結性)」、「人づくり」を重点協力3分野とした共同宣言(東京宣言)を採択した。官民合わせて150件以上の文書が署名・披露された。

 第7節 中東と北アフリカ

 中東地域は、世界の石油埋蔵量の約5割、天然ガス埋蔵量の約4割を占め、世界のエネルギーの供給地としても重要である。同時に、歴史的に様々な紛争や対立が存在し、今も多くの不安定要因・課題を抱えている。

 中東和平問題

 2023年10月7日、ハマスなどパレスチナ武装勢力がガザ地区からイスラエルに対し攻撃を行った。イスラエル側では少なくとも1,200人が殺害され、250人以上が人質になった。ガザ保健当局の発表によれば、2025年12月末時点でガザ地区では7万1,266人以上の死者、17万1,222人以上の負傷者が発生している。

 2025年1月に停戦合意が発効したものの、3月にはイスラエルによる攻撃が再開された。10月にはトランプ米国大統領による「ガザ紛争終結のための包括的計画」の下、当事者間で合意が成立し、停戦と人質解放が実現した。日本は一貫して、ハマスなどによるテロ攻撃を断固として非難し、全ての当事者に対し停戦と人質解放、国際人道法の遵守、人道状況の改善を求めている。また、「二国家解決」の実現に向けて積極的な役割を果たしている。

 日本独自の取組としては、「平和と繁栄の回廊」構想を推進している。2025年末時点で、旗艦事業のジェリコ農産加工団地(JAIP)ではパレスチナ民間企業18社が操業し、約285人の雇用を創出している。また、2023年10月以降、総額約4億1,000万ドルのパレスチナに対する人道・復旧支援を実施している。

 イラン問題

 2025年6月、イスラエルがイランの核関連施設等に対して攻撃を行い、同月には米国もイランの核関連施設に対する攻撃を実施した。これに対しイラン側も報復攻撃を行い、攻撃の応酬が継続した。日本は、イスラエル及びイランからの邦人退避支援を実施した(イスラエルから25人、イランから103人)。これは初の二か国同時での陸路退避オペレーションであった。

 イラン核問題については、日本は一貫してイランによる核兵器開発は決して許されないとの立場を取っている。対話を通じた核問題の解決が重要であり、米国とイランの間の協議の早期再開の重要性を強調している。

 第8節 アフリカ

 アフリカは、54か国に約15億人を擁し、2050年には世界人口の4分の1を抱えるようになるといわれるなど、若く、エネルギーと潜在力にあふれた地域である。豊富な鉱物資源や高い経済成長率を誇り、日本の経済安全保障やバリューチェーンの確保の観点からも重要な地域である。

 2025年8月に横浜で開催されたTICAD 9には、33人の首脳級を含むアフリカ49か国に加え、共催者、国際機関、民間企業等が参加した。「革新的な課題解決策の共創」をテーマに、「経済」、「社会」、「平和と安定」の三分野について活発な議論が行われた。

 「経済」分野では、日本から民間セクター主導の持続的な成長の促進、地域統合と域外との連結性強化、産業エコシステム強化による経済多角化などに関する取組を紹介した。「社会」分野では、誰一人取り残すことのない社会をアフリカと共に創り上げるため、教育・人材育成、保健、環境、防災分野に関する日本の取組を紹介した。「平和と安定」分野では、「平和と安定」は持続的な経済成長、包摂的な社会の礎であるとして、同分野における日本の取組を紹介した。三日間の議論の成果は、首脳宣言である「TICAD 9横浜宣言」にまとめられ、採択された。

 第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

 第1節 日本と国際社会の平和と安定に向けた取組

 安全保障に関する取組

 日本は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している。2022年12月に策定された新たな「国家安全保障戦略」では、反撃能力の保有を含む防衛力の抜本的強化、能動的サイバー防御の導入、経済安全保障政策の促進などが打ち出されている。

 政府安全保障能力強化支援(OSA)を2023年に創設し、同志国の軍等に対して資機材の供与やインフラ整備等の協力を行っている。2025年末までに10か国に対する支援を決定している。マレーシアへの無人航空機(UAV)及び救難艇の引渡し、インドネシアへの高速警備艇、フィリピンへの複合艇の供与、スリランカ及びトンガへのUAV供与などを決定した。

 サイバー安全保障に関しては、能動的サイバー防御の実現に向けてサイバー対処能力強化法及び同整備法が2025年5月に成立し、公布された。同法に基づき、官民が連携し、より早期かつ効果的にサイバー攻撃を把握し対応するとともに、サイバー攻撃による重大な危害防止等のためのアクセス・無害化措置の実施が可能となる。

 日米安全保障体制

 日米両国は、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)及び平和安全法制の下で、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化しており、ミサイル防衛、サイバー、宇宙、情報保全などの幅広い分野における協力を拡大・強化している。同時に、普天間飛行場の辺野古移設を含む在日米軍再編を着実に進め、沖縄を始めとする地元の負担軽減と在日米軍の安定的駐留のための施策に取り組んでいる。

 2024年12月14日、沖縄からグアムへの海兵隊要員の移転開始の対外発表が行われた。また、2025年1月には、キャンプ瑞慶覧のロウワー・プラザ住宅地区跡地に「沖縄健康医療拠点」として琉球大学病院が移転・開院し、4月には琉球大学医学部が移転・開学した。

 軍縮・不拡散

 日本は、「核兵器のない世界」の実現に向けた国際社会の取組を主導していく歴史的使命がある。同時に、日本は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面しており、米国が提供する核を含む拡大抑止が必要な状況にある。

 2026年に開催予定の第11回NPT運用検討会議に向けた第3回準備委員会が4月から5月まで国連本部において開催され、岩屋外務大臣が出席した。日本主導で実施した軍縮・不拡散教育に関する共同ステートメントは、過去最多の96か国の賛同を得た。

 「核兵器のない世界」に向けた国際賢人会議は、2022年に立ち上げられ、第6回会合(2025年3月、東京)で最終提言を発出した。また、日本は1994年以降、核兵器廃絶に向けた決議案を国連総会に提出してきており、2025年の決議案は国連総会第一委員会で145か国、国連総会本会議では147か国の支持を得て採択された。

 国際連合における取組

 日本は1956年に国連に加盟して以来、国連安保理の非常任理事国を加盟国中最多の12回務めてきた。2025年9月の第80回国連総会ハイレベルウィークには、石破総理大臣と岩屋外務大臣が出席した。石破総理大臣は一般討論演説において、安保理改革の緊急の必要性を力強く訴えた。

 日本は、常任・非常任理事国双方の拡大を通じた安保理改革の早期実現と日本の常任理事国入りを目指している。安保理改革に関するG4(ブラジル、日本、インド、ドイツ)外相会合を9月に主催した。

 第2節 日本の国際協力(開発協力と地球規模課題への取組)

 開発協力

 2023年6月に閣議決定した「開発協力大綱」では、様々な主体がその強みを持ち寄り、対話と協働によって解決策を共に創り上げていく「共創」を基本方針の一つとして掲げている。また、日本の強みを生かした魅力的な協力メニューを開発途上国に積極的に提案する「オファー型協力」を打ち出した。

 2024年の日本のODA実績(贈与相当額計上方式)は、対前年比15.9%減の約164億9,353万ドルで、OECD/DACメンバーの中では米国、ドイツ、英国に次いで第4位であった。対GNI比は0.39%で同第13位となっている。

 日本の開発協力の主な地域別の取組としては、以下のものが挙げられる。東・東南アジアでは、2023年9月に発表した「日ASEAN包括的連結性イニシアティブ」の下、ハード・ソフトの両面で連結性強化を推進している。南西アジアでは、インドに対する「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」の下での協力、スリランカに対する債務再編プロセスの主導等を行った。太平洋島嶼国では、PALM10で採択された共同行動計画に基づき、気候変動・防災分野での協力を強化している。中南米では、「中南米外交イニシアティブ」の下、気候変動・環境、保健・医療、治安等の分野での協力を実施している。中央アジア・コーカサスでは、12月の「中央アジア+日本」対話・首脳会合で合意された「グリーン・強靱化」、「コネクティビティ」、「人づくり」の重点協力分野に沿った協力を進めている。中東・北アフリカでは、エジプトにおける日本式教育の導入支援、ヨルダンに対する財政支援、シリアに対する人道支援等を実施している。アフリカでは、TICAD 9で表明された七つの分野での取組を加速させている。

 地球規模課題への取組

 日本は、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の下、SDGsの達成に向けた取組を推進している。2025年7月の国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF)では、4年ぶり3回目となるSDGsの進捗に関する自発的国家レビュー(VNR)を実施した。

 人間の安全保障については、日本は長年にわたってこの理念を外交の柱として提唱しており、2023年6月に改定された開発協力大綱においては、人間の安全保障を日本のあらゆる開発協力に通底する指導理念に位置付けている。

 防災分野では、2025年は「世界津波の日」の国連総会決議採択から10周年を迎えた。11月にニューヨーク国連本部で啓発イベントを共催し、また仙台市で「世界津波の日」高校生サミットを開催した。9か国の高校生27人が訪日し、日本の高校生61人と共に「仙台未来宣言」を取りまとめた。

 気候変動分野では、日本は2021年から2025年までの5年間での官民合わせて最大約700億ドル規模の支援を表明し、着実に実施している。2025年11月にはブラジルのベレンでCOP30が開催され、日本は「グローバル・ムチラオ決定」の採択に貢献した。また、10月にはマレーシア・クアラルンプールで第3回アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)首脳会合を開催した。

 第3節 経済外交

 外務省は2025年8月、経済局に総務課、経済外交戦略課、経済安全保障課を新設する機構改革を行った。新たな体制の下、新規市場・イノベーションの創出、ルールに基づく自由で公正な国際経済秩序の維持・強化、経済安全保障の強化を軸として経済外交を戦略的に展開している。

 経済連携の推進

 CPTPPについては、2025年11月に開催された第9回TPP委員会において、ウルグアイの加入に関する作業部会の設置が決定された。また、UAE、フィリピン及びインドネシアを加入要請エコノミーとして特定した。RCEP協定については、2025年10月に発効後初となるRCEP首脳会議がクアラルンプールで開催された。日・UAE経済連携協定(EPA)の交渉は2024年9月に開始され、2026年1月までに7回の交渉会合を行った。日・バングラデシュEPAについては、2026年2月に署名に至った。

 広島AIプロセス

 日本は2023年に生成AIの国際ガバナンスに関する「広島AIプロセス」の立ち上げを主導した。2025年2月には東京で「フレンズグループ」対面会合を初めて開催した。同年12月時点で、60の国・地域がフレンズグループに参加している。10月の日・ASEAN首脳会議では、「日ASEAN・AI共創イニシアティブ」の立ち上げを発表した。

 経済安全保障

 経済安全保障の推進において、外交が果たす役割は大きい。日本は、同盟国・同志国との連携の更なる強化、現行のルールを踏まえた対応、新たな課題に対応するルールの形成などについて、国際社会と協力しながら積極的な外交を展開している。

 G7の枠組みにおいては、6月に開催されたG7カナナスキス・サミットにおいて、「G7重要鉱物行動計画」、「繁栄のためのAIに関するG7首脳声明」、「量子の未来のためのカナナスキス共通ビジョン」の三つの首脳声明が発出された。日米豪印外相会合では、「日米豪印重要鉱物イニシアティブ」を立ち上げた。日米韓3か国では、5回の外相会合を開催し、経済安全保障についても議論を積み重ねている。日英経済版2+2閣僚会合、日独経済安全保障協議、日仏経済安全保障作業部会など、二国間の枠組みでも協力を深化させている。

 第4節 日本への理解と信頼の促進に向けた取組

 外務省は、国際社会で日本に関する理解が深まり、客観的事実に基づく認識が形成されるよう、発信の取組を強化している。特に、国際的な情報戦が恒常的に生起する昨今において、日本の信用を毀損する情報発信へ適切に対応することが極めて重要である。

 戦略的対外発信の拠点「ジャパン・ハウス」は、サンパウロ、ロンドン、ロサンゼルスの3都市に設置されており、2025年12月末の累計来館者数は842万人を超えた。

 文化・スポーツ・人的交流では、JETプログラムが1987年の開始以来、累計参加者は約8万1,000人を超えた。2025年度は54か国から1,501人の新規参加者を含む5,933人が全国に配置された。対日理解促進交流プログラム「JENESYS」では、2025年に約1,700人の青年が参加した。日本語普及については、国際交流基金の調査によれば、143の国・地域で約400万人が日本語を学習している。日本語能力試験(JLPT)の2025年の受験応募者数は約194万人で過去最高を記録した。

 第4章 国民と共にある外交

 第1節 世界とのつながりを深める日本社会と日本人

 国際機関で活躍する日本人

 日本政府は2025年までに国連関係機関で勤務する日本人職員数を1,000人とする目標を掲げてきた。2024年末時点で979人が専門職以上の職員として世界各地の国連関係機関で活躍している。特に注目すべきは、大沼俊之氏が2026年1月にICAO(国際民間航空機関)理事会議長に選出されたことであり、アジア大洋州地域出身者の選出はICAO創設以来約80年の歴史において初めてである。また、目時政彦氏はUPU(万国郵便連合)国際事務局長として2025年9月に再選された。岩澤雄司氏はICJ(国際司法裁判所)所長、赤根智子氏はICC(国際刑事裁判所)所長を務めている。

 JICA海外協力隊

 JICA海外協力隊は2025年に発足60周年を迎えた。1965年の発足以降、99か国に延べ5万7,442人の隊員を派遣している。11月13日には天皇皇后両陛下の御臨席のもと、記念式典が行われた。

 第2節 海外における日本人への支援

 2025年は、年間延べ約1,473万人の日本人が海外に渡航し、約130万人の日本人が海外に居住している。外務省は2025年8月に領事局内の体制を再編し、海外邦人緊急事態課と海外邦人安全支援室を新設した。

 緊急事態発生時には「海外緊急展開チーム(ERT)」を派遣している。2025年は、ミャンマー中部での大地震(3月)や、イスラエルとイラン間の交戦激化(6月)などの際にERTメンバーを派遣した。特に6月のイスラエル・イラン間の攻撃応酬激化の際には、イスラエルから25人、イランから103人の邦人及びその家族等について陸路による隣国への退避支援オペレーションを二つ同時に実施した。これは初の二か国同時での退避オペレーションであった。

 海外安全情報の発信については、「たびレジ」の登録者数が2025年10月時点で累計1,210万人を突破した。また、外務省はセミナーや訓練を通じて海外安全対策・危機管理に関する国民の知識や能力の向上を図っている。

 第3節 国民の支持を得て進める外交

 外務省は、外交政策を円滑に遂行するため、国民の理解と支持を得るための情報発信に努めている。2025年は外務大臣記者会見を97回、外務報道官記者会見を33回実施した。また、外務大臣談話26件、外務報道官談話27件、外務省報道発表2,197件を発出した。

 国民との対話としては、「学生と語る」、「外交講座」、「高校講座」、「小中高生の外務省訪問」、「国際情勢講演会」などの事業を実施した。外交専門誌『外交』の発行を通じて、国際情勢に関する各界各層の意見や議論を広く国民に紹介している。

 外交実施体制については、2025年度の外務省の定員数は6,761人で、前年度から87人増となった。在外公館数は234(大使館156、総領事館等67、政府代表部11)である。しかし他の主要国と比較すると、米国27,230人、中国9,010人、英国7,498人、ドイツ7,000人などと比べて依然として少なく、引き続き体制強化が必要とされている。

 総括:2025年日本外交の全体評価

 以上、2026年版外交青書の内容を目次に沿って詳細に解説した。全体を通じて以下の点が浮かび上がる。

 第一に、日本は戦後最も厳しい安全保障環境に直面しているという認識が外交政策の全てに貫かれている。青書は明確に「ポスト冷戦期の終焉」を宣言し、それに応じた外交の再構築を図っている。

 第二に、日米同盟の強化が引き続き外交・安全保障政策の基軸であり、トランプ政権発足後も緊密な連携が維持・強化されている。関税問題をめぐる激しい交渉の末の合意は、日米関係の強靱性を示している。

 第三に、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けて、ASEAN、オーストラリア、インド、欧州などの同志国とのネットワーク化が戦略的に進められている。特にASEANとの連携は「心と心」の「信頼のパートナー」として深化している。

 第四に、中国との関係は「最も重要な二国間関係の一つ」から「重要な隣国」へと表現が変更され、現状認識の厳しさが反映されている。しかし同時に「戦略的互恵関係」と「建設的かつ安定的な関係」という基本方針は維持されており、対話の扉は開かれている。

 第五に、グローバル・サウスとの連携強化が重要な外交課題として位置付けられている。TICAD 9や「中央アジア+日本」対話首脳会合はその具体化であり、「共創」の精神に基づく新たな協力関係の構築が進められている。

 第六に、経済安全保障、気候変動、AIガバナンスといった新たな課題への対応が従来以上に重視されている。特に「広島AIプロセス」を通じた国際ルール作りの主導は、日本の強みを生かした取組である。

 第七に、大阪・関西万博は「万博外交」として大きな成果を上げ、二国間関係の強化と日本の魅力発信に貢献した。約90人の元首・首脳級の来日は、通常の外交では得難い貴重な機会となった。

 以上のように、2025年の日本外交は、厳しい国際環境の中で国益を守り、かつ国際秩序の維持・強化に貢献するという難しいバランスを取りながら、積極的に展開された一年であったと総括できる。

注:本まとめは、令和8年版外交青書(外交青書2026)101009736.PDに基づいますが、引用などの場合には、政府版をご利用ください。

【引用・参照・底本】

令和8年版外交青書(外交青書2026)101009736.PDF

令和7年版(第68号)外交青書2025 100826205.PDF
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/

【桃源閑話】外交青書2026を批判的に読む:公式見解の構造とその限界2026-04-12 18:22

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【桃源閑話】外交青書2026を批判的に読む:公式見解の構造とその限界

 はじめに

 外交青書は、日本政府の対外政策の公式な自己評価を体系的に示す年次報告書であり、その記述は「客観的な事実」の羅列ではなく、特定の政治的立場と政策的正当化の論理に基づいて構成された「物語」である。本稿では、外交青書2026を「一つの公式見解」として相対化し、その記述の特徴、内在する問題点、そして読者が留意すべき点を、特に日中関係・日米関係・価値観外交の記述を中心に批判的に検討する。

 1. 外交青書の性格とその限界

 外交青書は、その性格上、日本政府の行動を肯定的に描写し、政策の有効性と国際社会からの評価を強調するように編集されている。「日本は…に積極的に貢献した」「国際社会から高い評価を得た」「中国の行動は国際法違反である」「日米関係はかつてなく強固になった」といった表現は、それぞれの事象についての「一つの解釈」に過ぎない。青書は、これらの主張を裏付けるために特定の事実を選択的に提示する一方で、批判的な分析や代替的な見解、あるいは日本自身の行動が引き起こした反応については、その性質上、ほとんど触れることがない。読者は、これらの記述が「客観的事実」ではなく、政府の政策を正当化するための「主張」であることを常に意識しなければならない。

 2. 「価値観の共有」という前提の崩壊:民主主義の現実

 外交青書2026が繰り返し強調するのが、「自由、民主主義、法の支配、人権といった普遍的価値を共有する国々との連携」という論理軸である。しかしこの前提は、2025年の現実によって根底から揺らいでいる。

 スウェーデンの調査機関「V-Dem研究所」が2026年3月に発表した報告書によれば、米国は2025年のランキングで前年の20位台から51位に転落し、「過去50年間で初めて自由民主主義国家の地位を失った」と評価された。同研究所は自由、平等、選挙など五つの主要指標で民主主義度を測定しており、その結果として米国の民主主義がトランプ政権下で「現代では前例がない速さで壊れている」と結論付けている。ちなみに同ランキングで首位はデンマーク、上位3位を北欧諸国が占め、アジアでは韓国が22位、日本は24位であった。

 この事実は、青書の「価値観外交」論に対して根本的な問いを投げかける。日本が最重要同盟国として位置付ける米国が、国際的な評価において「自由民主主義国家の地位」を失ったとされるならば、その米国との価値観の共有を外交の基軸とする論理は、いかなる実体的根拠の上に立っているのか。青書は「同盟国・同志国との連携」を繰り返し強調するが、その「同志」の民主主義的正統性が国際的に疑問視されているという事実については、完全に沈黙する。これは単なる記述の偏りではなく、外交戦略の前提条件そのものが現実と乖離し始めているという、より深刻な問題を示唆している。

 3. 「法の支配」という言葉の政治性:誰のための「法」か

 青書は「法の支配、自由、民主主義、紛争の平和的解決といった原則を堅持する」と繰り返す。しかしここで問わなければならないのは、「法の支配」とは具体的に何を意味するのかという問いである。

 国連憲章を頂点とする国際法の体系、すなわちすべての国家が平等に服すべき普遍的規範としての「法の支配」と、特定の大国——とりわけ米国——の軍事的・経済的優位によって形成・維持されてきた秩序としての「法の支配」は、厳密には区別されなければならない。現実において、米国はイラク戦争において国連安保理の承認なく武力行使を行い、国際刑事裁判所(ICC)への加盟を拒否し続け、トランプ政権下では同盟国に対してすら関税という経済的強制手段を行使した。このような行動パターンを持つ国が主導する秩序を「法の支配に基づく国際秩序」と呼ぶことには、根本的な矛盾がある。

 青書が語る「法の支配」とは、極論すれば米国の軍事力と覇権によって担保されたルール体系に他ならないという批判は、決して的外れではない。これは国連を中心とした普遍的国際法とは本質的に異なる概念であるにもかかわらず、青書はその区別を意図的に曖昧にしたまま「法の支配」という言葉を多用する。読者はこの用語の政治性を常に意識し、「誰にとっての、誰が定めた法の支配か」を問い続けなければならない。

 4. 「自由で開かれたインド太平洋」というキャッチフレーズの空洞性

 青書は「法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の推進」を重要な外交目標として掲げる。しかしこのフレーズ自体、論理的な検討に耐えうるものであろうか。

 「自由で開かれたインド太平洋」の推進を謳うということは、現状のインド太平洋が十分に自由でも開かれてもいないという認識を前提とする。では何が「閉じられて」いるのか。南シナ海における中国の海洋進出か、北朝鮮の核・ミサイル開発か、あるいは権威主義的体制の拡大か。青書はこれを明示しない。FOIPとはつまり、特定の脅威(事実上は中国)を念頭に置きつつ、その名を直接挙げることを避けた婉曲的な戦略概念である。

 さらに問題なのは、「自由で開かれた」という価値的コンセプトが、同盟国である米国自身の行動と矛盾しているという事実である。トランプ政権が同盟国にも例外なく課した高関税は「開かれた」貿易秩序への挑戦であり、FOIPの理念と真っ向から対立する。日本が推進するFOIPの主要パートナーが、その理念を率先して破壊しているという皮肉な現実を、青書は一切論じない。FOIPが対中戦略の外交的包装紙に過ぎないとすれば、それは「自由」や「開かれた」といった普遍的価値の言語を借用した地政学的競争の道具に他ならず、その意味においてこのキャッチフレーズは実質的に空洞である。

 5. 日中関係記述の問題点:非対称的な責任帰属と沈黙の論理

 (1)位置付けの変更とその多義性

 外交青書2025では日中関係を「最も重要な二国間関係の一つ」と明記していた(038頁)。これに対し外交青書2026では「重要な隣国」(036頁)という表現に後退し、「様々な懸案と課題があるからこそ、意思疎通を継続しながら、国益の観点から冷静かつ適切に対応していく」との文脈に置き換えられた。

 この変更は外交上の重要なシグナルとして読める。「最も重要な二国間関係の一つ」という表現が経済的相互依存や地理的近接性を前面に出す協力志向のニュアンスを帯びていたのに対し、「重要な隣国」への変更は、中国を「課題の多い隣国」として位置づけ、国益優先の現実主義的対応を優先する姿勢を鮮明にしたものと解釈できる。対話の扉は維持しつつも、無条件の重視を排する二面的アプローチへのシフトである。

 しかし青書は、この変更の「なぜ」を十分に説明しない。外務省は「様々な内容を総合的に勘案した結果」と述べるにとどまる。読者はこれを「対中認識の悪化の反映」と直感的に理解するだろうが、同時に別の問いも浮かぶ。そもそも「最も重要な二国間関係の一つ」という表現が、日米同盟の圧倒的な重要性と対比したとき、実態を反映していたのかという根本的な疑問である。その観点からすれば、今回の変更はむしろ長年の乖離を是正する現実的な認識の反映と解釈することもできる。青書はこの点について読者に多角的な考察を促すことを放棄している。

 (2)非対称的な責任帰属

 2025年11月以降の関係悪化について、青書は中国の「一方的な批判や威圧的措置」を列挙する——輸出規制強化、レーダー照射事案、駐大阪総領事の不適切なSNS発言など。これらの事実は確かに存在する。しかし、その前段階としての日本側の言動は一切分析されていない。

 具体的には、高市早苗首相の2025年11月の国会答弁が問題となった。首相は「台湾有事が日本の存立危機事態になり得る」と述べた。中国外務省はこれを「内政干渉」「戦後国際秩序への挑戦」と位置づけ、撤回を要求し、各種措置をこの文脈で正当化した。日本政府はこの発言が安全保障法制に基づく従来の見解を踏襲したものと説明し、関係悪化の責任は中国側の威圧的行動にあるとの立場を、外交青書を通じて国際社会に発信している。

 外交上の緊張はほとんどの場合、双方の行動の積み重ねの結果である。にもかかわらず青書は責任を一方的に中国に帰属させる構図を描いており、日中双方の認識のギャップを反映しつつも、その構造的な問題を読者に提示しない。

 (3)香港・新疆と人権問題の位置付け

 2026年版が新たに香港情勢や新疆ウイグル自治区の人権状況への「深刻な懸念」を明記した点も注目に値する。しかし、人権問題への言及が真に普遍的原則の発露なのか、対中強硬路線の正当化ツールとして機能しているのかという点は、批判的読解の視点として欠かせない。米国自身が民主主義指標で大幅に後退しているという現実と照らし合わせるとき、「価値観に基づく対中批判」の論理的一貫性はさらに問われることになる。

 (4)自国の安全保障政策への沈黙

 青書は「対話は開かれている」と強調するが、これは形式的に正しいとしても、実質的な対話の困難さを覆い隠す。中国の輸出管理措置やレーダー照射を「威圧的行動」と非難する一方で、日本の防衛費の大幅な増額や「反撃能力」の保有が中国にどのように認識されているかについては沈黙する。対話の扉が開かれていると主張するならば、相手国の懸念を引き起こしている可能性のある自国の行動についても、同等の透明性をもって分析すべきであろう。

 6. 日米関係記述の問題点:成果の強調と緊張の不可視化

 日米関係の記述は、青書の楽観的な性格が最もよく表れている領域である。首脳間の頻繁な会談や関税に関する合意などは「かつてなく強固になった」関係の証左として列挙される。しかしトランプ政権下での「米国第一主義」に基づく通商政策——鉄鋼・アルミニウム関税、自動車関税、相互関税など——は、日本経済に深刻な打撃を与えかねないものであった。青書は最終的な合意を強調するが、その過程で日本が譲歩を強いられた可能性や、合意内容が日本の経済安全保障に長期的にどのような影響を与えるかという分析は欠如している。

 また、日米関係の「強化」とは実質上、軍事・安全保障面での統合の深化を意味する。これは北朝鮮や中国への抑止力となる一方で、地域の軍事緊張を高め、日本が「戦争に巻き込まれるリスク」を増大させるという批判的見方も存在する。FOIPの理念の主要パートナーが民主主義指標で急落し、同盟国にも関税を課す「米国第一主義」を貫いているという現実と、青書が描く「価値観に基づく強固な同盟」の物語との間には、埋めがたい乖離がある。青書はこの矛盾を直視せず、抑止力強化の肯定的な側面のみを強調する。

 結論:青書を「読む」ための視点

 外交青書2026は、日本外交の公式な自己評価として貴重な一次資料である。しかしそれはあくまで「日本政府の公式見解」であり、そこには記述されていない事実、異なる解釈、そして批判的な視点が必ず存在する。読者は以下の点を留意すべきである。

 第一に、青書の記述を「客観的事実」と「政府の主張」に弁別して読むこと。第二に、一方的な責任帰属に注意し、ある事態の発生において日本自身の行動がどのように影響したかを常に問いかけること。第三に、「価値観の共有」「法の支配」「自由で開かれたインド太平洋」といった概念の背後にある政治性——誰が定義し、誰の利益に資するものか——を意識すること。第四に、強調されている「成果」の裏で見えなくなっているリスクやコストを想像すること。第五に、外交文書における表現の変化を単純に「悪化の証拠」と読むのではなく、その変化が何を可視化し、何を不可視化しているかを問うこと。

 そして第六に、青書が依拠する前提条件そのものの現実妥当性を検証すること。「価値観を共有する同盟国」の筆頭である米国が国際的な民主主義指標で51位に転落し「自由民主主義国家の地位を失った」と評価される現実、「法の支配」が普遍的国際法ではなく特定の覇権秩序の婉曲表現として機能している現実、「自由で開かれたインド太平洋」を推進する当事者が「閉じた」保護主義的通商政策を同盟国にすら適用している現実——これらはいずれも、青書の基本的な世界観の前提を揺るがすものである。

 外交青書は、それ自体が一つの力強い「物語」である。だからこそ私たちは、その物語を額面通りに受け取るのではなく、物語が語らないもの、語れないものを探す批判的な読解を通じて、より立体的な国際情勢の理解に到達することができる。公式文書の言語は、現実を映す鏡である以上に、現実を構築しようとする意志の産物である。その意志の背後にあるものを問い続けることが、主権者としての市民に求められる知的営為にほかならない。

【閑話 完】

【引用・参照・底本】

令和8年版外交青書(外交青書2026)101009736.PDF

令和7年版(第68号)外交青書2025 100826205.PDF

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/

米国はイランの核兵器計画放棄の拒否を協議決裂の原因と主張2026-04-12 19:38

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【概要】

 米国副大統領のJD Vanceは、パキスタンのイスラマバードで行われた米国とイランの長時間にわたる協議が決裂した原因について、イランが核兵器計画の放棄を拒否したためであると述べた。一方、イラン側は、米国の要求が「過度」であったことが合意に至らなかった理由であると反論した。協議は停戦の行方や地域情勢に影響を及ぼす重要なものであったが、短期間での合意は達成されなかった。

【詳細】 

 イスラマバードにおいて21時間に及ぶ協議が実施され、米国側はJD Vanceを中心に交渉を行った。ヴァンスは、イランが核兵器の保有およびその迅速な取得能力を放棄する明確な約束を示すことが交渉の核心であったと説明し、この点が主要な対立点であったと述べた。また、彼は協議中にDonald Trumpと複数回協議したことも明らかにした。

 これに対し、イラン外務省は、1回の会談で合意に至ることは当初から想定されていなかったとし、協議の決裂を過度に強調する見方を否定した。また、イランの準公式メディアは、米国側の要求が過度であったことが合意を妨げたと報じた。

 本協議は、1979年のイラン革命以降で最高レベルに近い直接対話であり、両国の直接交渉としては10年以上ぶりであった。パキスタン政府は仲介役を担い、外相は停戦維持と対話継続の必要性を強調した。

 背景には、2月28日に始まった紛争があり、米国およびイスラエルによるイランへの攻撃を契機として地域全体に被害が拡大した。人的被害はイラン、レバノン、イスラエルおよび湾岸諸国に及び、インフラにも深刻な損害が生じている。

 また、交渉の重要な論点の一つはホルムズ海峡であり、同海峡は世界のエネルギー供給の約20%が通過する要衝である。イランは同海峡を封鎖しており、これが世界の石油価格上昇の一因となっている。米国は航行の自由確保を求める一方、イランは同海峡の管理権や通行料徴収、資産凍結解除、戦争賠償などを要求していると報じられている。

【要点】
 
 ・米国はイランの核兵器計画放棄の拒否を協議決裂の原因と主張した。

 ・イランは米国の要求が過度であったと反論した。

 ・協議はイスラマバードで21時間にわたり行われたが合意には至らなかった。

 ・本協議は10年以上ぶりの高水準の直接対話であった。

 ・紛争は広範な人的・物的被害をもたらし、停戦維持と再交渉が課題となっている。

 ・ホルムズ海峡の封鎖と航行問題が重要な争点となっている。

【引用・参照・底本】

JD Vance says talks failed due to Iran’s refusal to give up nuclear programme The Guardian 2026.04.12
https://www.theguardian.com/world/2026/apr/12/jd-vance-says-no-deal-us-iran-pakistan-talks-islamabad

インドネシアの漁師がロンボク海峡付近で中国製の水中ドローンを回収2026-04-12 19:52

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【概要】

 インドネシアのロンボク海峡近海において、地元の漁師が中国製とみられる水中ドローン(無人水中機)を発見し、回収した。この海域は潜水艦の通航に適した戦略的に重要な深水航路であり、発見された機体には中国の軍事関連企業のロゴが記されていた。現地当局の調査により、爆発物等の危険性はないことが確認されている。

【詳細】 

 発見の経緯と場所

 インドネシアのバリ島とロンボク島の間に位置するロンボク海峡の北側数キロメートルの地点で、漁師が網を投じていた際に「魚雷のような形状」をした物体を発見した。不審に思った漁師が海岸まで運び、地元当局に通報したことで事態が判明した。

 機体の特徴と仕様

 回収された物体は円筒形で、全長は約3.7メートル(12フィート)、直径は約0.7メートルである。機体には「中国船舶重工集団(CSIC)」のロゴと複数の漢字が表記されていた。現地警察の分析では、爆発物や放射性物質は検出されず、観測装置や水中調査機器に共通する特徴を備えていると結論付けられた。

 海域の背景

 ロンボク海峡は、潜水艦が運用深度を維持したまま通航できる数少ない深水航路の一つである。太平洋とインド洋を結ぶ大型艦船の主要なルートでもあり、米国やオーストラリアによって密接に監視されている。

【要点】
 
 ・インドネシアの漁師がロンボク海峡付近で中国製の水中ドローンを回収した。

 ・機体には中国船舶重工集団(CSIC)のロゴがあり、海洋調査機器と推定されている。

 ・発見現場は軍事・戦略的に極めて重要な深水航路の近傍であった。

 ・現地警察の調査により、兵器としての即時的な脅威(爆発物等)はないことが確認された。

【引用・参照・底本】

Indonesian fisherman nets surprise catch – a Chinese underwater drone SCMP 2026.04.08
https://www.scmp.com/news/china/military/article/3349290/indonesian-fisherman-nets-surprise-catch-chinese-underwater-drone?utm_medium=email&utm_source=cm&utm_campaign=enlz-focus_sea_ru&utm_content=20260410&tpcc=enlz-focus_sea&UUID=5147fda4-c483-4061-b936-ccd0eb7929aa&tc=15