米国の渡航禁止令の恣意性と無反省性の問題点2025年06月09日 19:48

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【概要】

 アメリカのドナルド・トランプ大統領による新たな渡航禁止令が2025年6月9日午前0時をもって発効した。この禁止令により、12か国の国民はアメリカへの入国が禁止されることとなった。対象国はアフガニスタン、ミャンマー、チャド、コンゴ共和国、赤道ギニア、エリトリア、ハイチ、イラン、リビア、ソマリア、スーダン、イエメンである。

 この新たな大統領令は、主にアフリカおよび中東の国々の国民を対象としている。また、ブルンジ、キューバ、ラオス、シエラレオネ、トーゴ、トルクメニスタン、ベネズエラの国民に対しても、アメリカ国外にいるかつ有効なビザを持たない者に対し制限を強化している。

 既に発給されたビザについては取り消されないものの、例外的な条件を満たさない限り新規の申請は拒否される。このため、既存のビザを持つ旅行者は禁止令発効後もアメリカに入国できる見込みである。

 リリースによれば、ハイチ、キューバ、ベネズエラは近年アメリカへの移民が多い国である。ハイチでは貧困や飢餓、治安の悪化が続き、武装集団が首都ポルトープランスの約85%を支配している状況である。

 トランプ大統領は今回の禁止令の根拠として、対象国のパスポート管理や公共書類の審査体制に問題があること、また自国民の再受け入れを拒否する国があることを挙げている。特に、ビザの期限切れ後も滞在を続ける者(オーバーステイ)の数に注目し、2016年以降毎年作成されている国土安全保障省の報告書を参考にしている。

 禁止令は、コロラド州ボルダーで起きたテロ事件も背景として挙げられているが、事件の容疑者はエジプト出身であり、禁止対象国には含まれていない。

 この政策は難民支援団体などから批判されており、オックスファム・アメリカのアビー・マックスマン代表は、「国家安全保障を理由としたものではなく、アメリカで安全や機会を求めるコミュニティの分断と悪者扱いを目的としている」と述べている。

 アフガニスタンについては、米軍と密接に協力した者が対象となる特別移民ビザ保持者には例外が認められている。アフガニスタンは過去12か月間で約1万4,000人の難民を受け入れていたが、トランプ政権は大統領就任初日に難民受け入れを停止している。

【詳細】 

 ドナルド・トランプ米大統領が2025年6月9日午前0時に発効させた新たな渡航禁止令は、12か国の国民を対象としており、これらの国からの入国を禁止するものである。対象国は、アフガニスタン、ミャンマー、チャド、コンゴ共和国、赤道ギニア、エリトリア、ハイチ、イラン、リビア、ソマリア、スーダン、イエメンの12か国である。

 この禁止令は、米国における移民政策を厳格化する一環として制定されたもので、対象となる国々は主にアフリカおよび中東地域に位置している。加えて、ブルンジ、キューバ、ラオス、シエラレオネ、トーゴ、トルクメニスタン、ベネズエラの7か国に対しても、米国外におり有効なビザを保持していない者への制限が強化された。

 新たな禁止令により、これら対象国の市民はアメリカへの入国が禁止されるが、既に発給されているビザは取り消されず、例外的な条件に該当する者は引き続き入国が認められると、アメリカの外交機関に対して指示が出されている。これにより、過去に発給されたビザを保持する渡航者は、禁止令発効後も入国できる可能性がある。

 対象国の中でも、特にハイチ、キューバ、ベネズエラは近年アメリカへの移民の主要な出身国である。ハイチでは、貧困と飢餓に加え、治安の悪化が深刻である。特に首都ポルトープランスでは、武装したギャング集団が市の約85%を支配しており、警察と国連支援の治安維持部隊が対応にあたっている状況である。このような背景から、多くのハイチ国民は暴力や貧困から逃れるためアメリカ行きを望んでいる。

 トランプ大統領は、新たな渡航禁止令の理由として、対象国の多くがパスポートやその他公的文書の発行において不備があること、そして自国民の再受け入れを拒否する傾向があることを挙げている。さらに、ビザの期限切れ後にアメリカに滞在し続ける「オーバーステイ」の割合が高い国を中心に指定している。これは、2016年以降国土安全保障省が毎年まとめているオーバーステイ率に基づくもので、今回の禁止令では12か国中8か国のオーバーステイ率が特に注目されている。

 また、今回の禁止令の発効を背景に、コロラド州ボルダーで発生したテロ事件が挙げられている。事件の容疑者はエジプト出身であり、エジプトは今回の禁止対象国には含まれていない。容疑者は観光ビザの期限を過ぎて滞在していたとされているが、これを理由に一部で渡航制限強化の必要性が強調された。

 この新たな渡航禁止令は、難民支援団体や人道支援組織から厳しい批判を受けている。国際的な非営利団体オックスファム・アメリカの代表は、「この政策は国家安全保障のためではなく、アメリカで安全と機会を求めるコミュニティを分断し、悪者扱いすることを目的としている」と述べている。

 アフガニスタンに関しては、例外措置が設けられている。特に、米国政府と密接に協力したアフガニスタン人に対して発給される特別移民ビザ(SIV)保持者はこの禁止令の対象外である。アフガニスタンはこれまで米国における難民受け入れの大きな拠点であり、2024年9月までの12か月間に約14,000人の難民を受け入れていた。しかし、トランプ政権は大統領就任初日に難民受け入れを停止している。

 この禁止令は、トランプ政権初期に出された、主にムスリム多数国の国民に対する渡航禁止令よりも、裁判所の判断に配慮しつつ慎重に作成されたものとされている。禁止令は主にビザ申請プロセスに焦点を当てており、過去の例よりも詳細かつ法的な整合性を意識した内容となっている。

【要点】 

 ・2025年6月9日午前0時、ドナルド・トランプ米大統領の新たな渡航禁止令が発効した。

 ・渡航禁止対象国は以下の12か国:アフガニスタン、ミャンマー、チャド、コンゴ共和国、赤道ギニア、エリトリア、ハイチ、イラン、リビア、ソマリア、スーダン、イエメン。

 ・これらの国の国民はアメリカへの入国が禁止される。

 ・ブルンジ、キューバ、ラオス、シエラレオネ、トーゴ、トルクメニスタン、ベネズエラの7か国については、アメリカ国外で有効なビザを持たない者への制限が強化された。

 ・既に発給されているビザは取り消されず、特定の例外条件を満たす場合は入国が認められる。

 ・対象国の中で特にハイチ、キューバ、ベネズエラは近年アメリカへの移民が多い国である。

 ・ハイチでは貧困、飢餓、暴力や武装ギャングによる治安悪化が深刻である。

 ・トランプ大統領は対象国のパスポートや公的書類の管理が不十分なことや、自国民の再受け入れを拒否する国があることを禁止の理由としている。

 ・また、ビザ期限切れ後にアメリカに滞在し続ける「オーバーステイ」の割合が高い国を中心に指定している。

 ・コロラド州ボルダーで発生したテロ事件が禁止令強化の背景として挙げられているが、容疑者の出身国エジプトは対象外である。

 ・難民支援団体などからは、この政策は国家安全保障のためではなく、移民コミュニティの分断を狙ったものと批判されている。

 ・アフガニスタンについては、米国と密接に協力した者に発給される特別移民ビザ保持者には例外が認められている。

 ・アフガニスタンは過去12か月間で約14,000人の難民を受け入れていたが、トランプ政権は就任初日に難民受け入れを停止している。

 ・新しい禁止令は、初期の主にムスリム多数国を対象とした渡航禁止令よりも裁判所の判断を考慮し、慎重に作成されている。

 ・禁止令はビザ申請プロセスに重点を置き、法的な整合性を意識した内容である。
 
【桃源寸評】🌍

 渡航禁止令の恣意性と無反省性の問題点

 1.公平性の欠如
 
 特定の国々を恣意的に選定し、包括的な根拠や透明な基準に基づかない制限を課すことは、不公平な扱いを生み、対象国やその国民に対する差別や偏見を助長する。

 2.国際協調の破壊
 
 国連や国際機関が目指す多国間協力や共通ルールの尊重を無視し、一国の独断で強硬策を推し進める行為は、国際秩序の信頼を損ねる。各国の協調と対話を阻害する結果となる。

 3.人道的配慮の欠如
 
 紛争や貧困、迫害から逃れようとする人々を一方的に拒絶することは、国際人権の理念に反する。多くの被害者にさらなる苦難をもたらし、人道危機の拡大につながる。

 4.安全保障上の実効性の疑問
 
 恣意的な渡航禁止が本当にテロや犯罪の抑止につながるかは疑わしく、むしろ反感や対立を激化させるリスクが高い。科学的・合理的な根拠に基づかない措置は効果的な安全保障対策とは言えない。

 このように、今回の渡航禁止令はその発出過程も内容も極めて問題が多く、国際社会の一員として責任ある行動とは到底言えない。国際法や多国間協調の精神に立ち返り、冷静かつ公平な対応が求められる。

 米国の介入・CIAの裏作戦・制裁がもたらした影響

 1.政治的不安定化の誘発
 
 米国の直接的または間接的な介入や秘密工作(CIAの裏作戦など)は、多くの対象国で政権転覆や内戦、混乱を引き起こし、結果として社会基盤や統治機構の崩壊を招いた。

 2.経済制裁による苦境の深化
 
 米国が科してきた経済制裁は、対象国の経済を著しく圧迫し、貧困や失業、インフラの破壊を助長した。これにより、国民生活が困窮し、移民や難民の増加につながっている。

 3.難民・移民の増加の根源
 
 紛争や経済苦境の多くは、こうした米国の政策が原因であるにもかかわらず、その結果として生じる移民や難民に対し、米国は渡航禁止や強硬措置で対応している。原因を解消せず、結果だけを問題視する姿勢は矛盾している。

 4.国際的責任の放棄
 
 自らが関与した問題に対して、対話や支援ではなく排除や制裁で応じることは、国際社会に対する責任放棄であり、持続可能な解決を遠ざける行為である。

 このように、米国の介入や制裁政策の結果として生じた問題に目を向けず、表面的な安全保障論だけで渡航禁止を行うことは、公正でも建設的でもない。根本原因の解決を図るべきであり、その責任の一端は米国自身にあることを忘れてはならない。

 国連本部を中国に移転するという案

 非常に大きな国際的な変化を伴う提案である。現在の国連本部はアメリカ・ニューヨークに所在しており、多くの国際政治や外交の中心地として機能している。中国に移転する場合、国際社会のパワーバランスや運営体制、外交のあり方に大きな影響を及ぼすことが考えられる。

 米国が国連本部を置くに相応しくない理由

 1.国際安全保障への貢献の実態不足
 
 米国は自国の利害を優先し、軍事介入や一方的な外交政策を繰り返してきた。これにより、多くの地域で不安定化を招き、世界の安全保障にマイナスの影響を与えている。国連の理念である「国際平和と安全の維持」に寄与しているとは言い難い。

 2.多国間主義の軽視と一国主義の強行
 
 国連は加盟国間の協調と対話を重視するが、米国は近年、国連の決議や国際ルールを無視して独自路線を突き進んだ。これにより国連の権威や機能を弱体化させ、世界秩序の基盤を揺るがせている。

 3.国連本部を置くことによる影響力の私物化
 
 国連本部が米国に所在することで、米国は国連の運営や政策決定に過剰な影響力を持っている。これは公平中立であるべき国連の運営に歪みを生じさせ、特定国家の利益が優先される状況を生み出している。

 中国に国連本部を移転することの適切性

 1.多国間主義の推進と国際協調への積極的姿勢

 中国は近年、国際機関や多国間フォーラムにおいて協調を重視する姿勢を示している。国連本部を中国に置くことで、多国間主義が強化され、加盟国の意見調整や共通の目標達成が促進されやすくなる。

 2.地政学的バランスの是正
 
 国連本部の所在が米国に集中することは、世界のパワーバランスを米国に偏らせている。中国への移転は、アジアの台頭を反映し、より多極的で公平な国際秩序の構築に資する。

 3.国際開発と経済支援の拡充
 
 中国は「一帯一路」構想などを通じて、開発途上国の経済成長支援に積極的である。国連本部が中国にあることで、開発支援や経済協力がより効率的に進められ、世界全体の安定と繁栄に寄与できる。

 以上の観点から、米国が国連本部を置くことは世界の安全や多国間協力に逆行するものであり、中国に移転することが国際社会の平和と安定、そして公平性を高めるために適していると言える。

 文化的側面も含め、米国に国連本部が置かれることが適切でない理由と、中国への移転がより相応しい理由を多角的に論じる

 1. 政治的・安全保障面

 ・米国は自国の国家利益を最優先し、軍事力を背景に一方的な政策を推進してきたため、世界の安定に逆行する行動が多く見られる。

 ・国連の多国間協力の理念と乖離し、国際ルールを軽視した姿勢は国連の公正性を損ねている。

 2. 地政学的バランスの問題

 ・米国に国連本部があることで国際秩序は一極的に米国中心となり、世界の多極化や地域バランスの公平な反映を阻害している。

 ・中国に移転することで、アジアをはじめとした新興勢力の存在感が高まり、多極化時代にふさわしい国際機関の拠点となる。

 3. 経済面

 ・米国の経済政策はしばしば保護主義や制裁措置を伴い、国際経済の安定にマイナスの影響を及ぼす場合がある。

 ・中国はグローバル経済の成長エンジンであり、「一帯一路」構想などを通じて開発途上国支援に積極的で、国連の開発目標達成に資する可能性が高い。

 4. 文化的・社会的側面

 ・米国は多民族国家であるものの、国際社会における文化的影響力はハリウッドや資本主義的価値観の押し付けと批判されることが多い。多様な文化・価値観の尊重に乏しいとの指摘がある。

 ・中国は数千年にわたる豊かな歴史文化を持ち、東洋哲学や調和を重んじる価値観を有している。国連本部を中国に置くことで、多様な文化や価値観の共存を促進し、単一文化の押し付けではない国際協調の姿勢を示すことができる。

 5. 言語とコミュニケーション

 ・現在の国連は英語を中心言語としているが、これは米国の影響力に起因する。英語圏以外の文化や言語圏の国々にとって不公平感が生じている。

 ・中国に移転することで、中国語(標準語・普通話)を含め多言語運営の強化が期待でき、言語多様性の尊重が進む可能性がある。

 6. 国際イメージと信頼性

 ・米国は内政・外交において矛盾や不安定な政策を繰り返しており、一貫した国際リーダーシップの信頼性に疑問符が付く。

 ・中国は国連加盟国数の多さや経済成長、国際協力への姿勢から、国際社会に安定的なイメージを与え、信頼性向上につながる可能性がある。

 以上の多方面からの視点に照らしても、米国が国連本部を置くことは現代の多様で複雑な国際社会の要請に合致せず、文化的価値観や言語の多様性、国際的な公平性を高めるためには、中国への移転がより適切であると言える。

【寸評 完】🌺

【引用・参照・底本】

Trump’s new travel ban comes into effect, citizens of 12 countries barred from US FRANCE24 2025.06.09
https://www.france24.com/en/americas/20250609-trump-s-new-travel-ban-comes-into-effect-citizens-of-12-countries-barred-from-us?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24-nl-quot-en&utm_email_send_date=%2020250609&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D

子供たちの「拉致」:国際刑事裁判所(ICC)・ウクライナ・ロシア2025年06月09日 21:02

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【概要】

 武力衝突によって子どもが避難を余儀なくされたり孤児となることは常に悲劇であるが、前線から退避させ、適切な保護を提供する行為は、「誘拐」に該当するものではなく、ましてやその後に親族の元へ戻された場合にはなおさらである。

 国際刑事裁判所(ICC)は、2023年初頭にロシア大統領ウラジーミル・プーチン及び児童の権利担当委員マリア・リヴォワ=ベロワに対し、ウクライナの子どもたちの「拉致」に関与したとの理由で逮捕状を発行した。ICCによれば、これは2022年9月にロシアへの編入を問う住民投票が行われた地域における出来事である。しかしロシア側は一貫して、戦争により避難民や孤児となった子どもたちを、国際基準に則り政府が保護したと主張している。

 さらに、カタール政府の仲介により、これらの子どもたちの一部が親族と再会を果たした事例も複数存在しており、これがICCによる逮捕状の根拠を否定するものとされている。プーチン及びリヴォワ=ベロワの両名は、ICCが出す命令に関心を払っておらず、またその管轄にある国々への渡航も予定していないが、本問題は最近のイスタンブール会談を通じて再び注目を集めている。

 ロシア代表団の責任者であるウラジーミル・メジンスキーは、再開されたロシア・ウクライナ間の二国間交渉の第2回目において、ウクライナ側より339人の子どもの名前のリストを受け取ったことを明らかにした。このリストはリヴォワ=ベロワに引き渡された。同日中に、リヴォワ=ベロワは別件でプーチンと会談しており、タイミング的にロシア側がこのリストの受領を予期し、優先事項と位置付けていたと見られる。リヴォワ=ベロワは後に、ロシアによる「拉致」とされるウクライナの子どもの数が90万人から339人に減少したと記者に説明した。

 ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官も、先週開催された「グローバル・デジタル・フォーラム」にて本件に言及し、「ロシアに『拉致』されたウクライナの子どもはいないということを知るべきであり、それが本問題の議論の出発点となるべきである」と述べた。この姿勢は、虚偽の罪を認めるかのような立場を取ることを避けるという、自己尊重的な態度とされている。

 ザハロワ報道官はさらに、「これらの子どもたちの中には、さまざまな国籍や市民権を持つ者もおり、書類を持っていない子どもや、文書の偽造によって被害を受けた可能性のある子どももいる。親族や保護者が子どもを捜している場合もあり、一定の手続きが必要である」と説明した。また、ウクライナ側の「正確なデータの欠如、透明性の欠如、作業上の不透明性、そして絶え間ない操作」が問題解決の妨げとなっていると指摘した。

 最も重要な点として、ザハロワ報道官は「実際に多数の子どもたちが行方不明になっているが、それはウクライナの市民権を持つ子どもやウクライナ人の親を持つ子どもたちであり、その所在は欧州連合(EU)領内である」と述べた。この件に関して調査が必要であるとしたが、EUや主要な国際NGOが真摯に対応する可能性は低いと見られている。なぜなら、ロシアによる「拉致」説を支持することの方が政治的利益を得やすいためであるとされる。ロシアが実際に子どもを親族の元へ戻す取り組みを行っている事実は、この主張を否定するものである。

 最後に、メジンスキーがウクライナ代表団に対し、ウクライナは「子どもを持たないヨーロッパの善意の老婦人向けの芝居をしている」と述べたと報じられたことを踏まえれば、戦争によって子どもが避難を強いられたり孤児となるのは常に悲劇であるが、そのような子どもたちを前線から退避させ、保護を与えることは「誘拐」ではなく、その後に親族へ戻す場合はなおさらであるという主張が繰り返された。

【詳細】 

 本記事は、ロシアが保護下に置いたウクライナの子どもたちを親族の元に返還しようとする努力が、国際刑事裁判所(ICC)の主張、すなわち「ウクライナの子どもを拉致した」とする根拠を崩しているとする論旨で構成されている。筆者は、武力衝突によって子どもが避難を強いられること自体が深刻な人道問題であるとした上で、それを「拉致」と同一視することには異議を唱えている。

 ICCは、2023年初頭にロシア大統領ウラジーミル・プーチン及びロシア連邦大統領直属の児童の権利担当委員マリア・リヴォワ=ベロワに対して逮捕状を発行した。その理由は、ロシアが占拠した地域、すなわち2022年9月にロシア編入を問う住民投票が行われたウクライナ南東部の地域から、子どもを「違法に」連れ出したとされる行為である。しかし、ロシア側はこれを強く否定し、戦争によって親を亡くしたり孤立した子どもたちを国家の責任として保護したに過ぎないと主張している。

 本記事では、カタールが調整役として仲介し、ロシアが保護していた子どもたちの一部をウクライナの親族と再会させることに成功した具体例に言及している。この事実は、ICCがプーチン及びリヴォワ=ベロワに下した逮捕状の前提を覆すものとされており、ロシア側の主張の正当性を補強する材料とされている。

 記事中では、最近のイスタンブールでのロシア・ウクライナ間協議にも言及されている。交渉にあたったロシア代表ウラジーミル・メジンスキーによれば、ウクライナ側は339名の子どもの名前を記載したリストをロシア側に提出し、それをマリア・リヴォワ=ベロワに引き渡したという。この事実は、ロシア政府が該当する子どもたちの帰還問題を外交的優先事項として扱っていることを示唆するものである。

 また、リヴォワ=ベロワはその後に記者団に対し、ICCが主張していた「拉致された」子どもたちの数がかつては90万人とされていたが、今回のリストで339人にまで減少したことを明らかにした。この点は、ICCの主張が誇張されていた可能性を示唆する材料とされている。

 この問題に関しては、ロシア外務省報道官マリア・ザハロワも発言している。彼女は、先週の「グローバル・デジタル・フォーラム」において、「ロシアに『拉致』されたウクライナの子どもはいない。まずそれを前提に議論を始めなければならない」と述べた。これは、ロシアがICCやウクライナ側の提示する枠組みに乗ることは、虚偽の罪を認めることになるため、断固拒否するという立場である。

 ザハロワ報道官はさらに詳細な説明を加え、ロシアが保護している子どもたちは必ずしもウクライナ国籍に限らず、複数の国籍や身元不明の子どもも含まれており、一部は身分証明書を所持していないケースや、第三者による書類の偽造被害に遭っている可能性もあると述べた。また、これらの子どもたちを探している親族・保護者が存在することもあり、そのための調整や確認には所定の法的・行政的手続きが必要であると主張した。

 ザハロワ報道官はさらに、ウクライナ側の「透明性の欠如」「情報の不備」「作業の非効率性」および「政治的操作」が、子どもたちの返還問題の遅延を招いているとも批判した。

 注目すべきは、ザハロワ報道官が「実際に多数の子どもたちが失踪しているが、それはロシアではなく欧州連合(EU)領内においてである」と指摘した点である。彼女は、これが事実であれば調査対象となるべき問題だとしながらも、EUや主要国際NGOはこの点を真剣に調査する可能性が低いと述べた。その理由として、これらの主体にとっては「ロシアによる拉致」説を支持する方が政治的利益を得やすいという現実があるとした。

 記事は最後に、再びメジンスキーの発言に言及する。彼はウクライナ代表団に対して、「ウクライナは、子どもを持たない欧州の情にもろい老婦人たち向けに演出された芝居をしている」と述べたとされる。筆者は、子どもたちが前線から退避させられ、適切な保護を受けている現実は「拉致」とは異なるものであり、さらにそれらの子どもが親族の元へ戻された場合、ICCの主張は実態と乖離していると主張している。

【要点】 

 背景とICCの訴追内容

 ・国際刑事裁判所(ICC)は、2023年にロシア大統領プーチン及び児童の権利担当委員マリア・リヴォワ=ベロワに逮捕状を発行した。

 ・その理由は、ロシアが2022年に編入を宣言したウクライナの地域から子どもを「拉致」したというものである。

 ・ロシアはこれに対し、戦争で孤児または避難を余儀なくされた子どもたちを国として保護したに過ぎないと反論している。

 子どもの返還努力とカタールの役割

 ・ロシアは一部の子どもたちをウクライナの親族に返還している。

 ・これらの返還にはカタール政府が調整役として関与した。

 ・返還の事実は、ICCの「拉致」という主張の信憑性を損なうものである。

 イスタンブール会談における進展

 ・2025年のイスタンブールでのロシア・ウクライナ間交渉において、ウクライナ側が339人の子どもの名前リストをロシアに提出。

 ・ロシア代表のメジンスキーはこれを児童権利担当委員リヴォワ=ベロワに引き渡した。

 ・同日、リヴォワ=ベロワは別件でプーチンと面会しており、リストの受領は事前に予期されていた可能性がある。

 ・リヴォワ=ベロワは、ICCがかつて主張していた「拉致された子ども90万人」という数字が、実際には339人まで縮小されたと発表した。

 ロシア外務省の立場(ザハロワ報道官の発言)

 ・ザハロワ報道官は「ロシアに拉致された子どもはいない」と明言し、それを前提に議論すべきであると主張した。

 ・子どもたちの国籍や身元は様々であり、一部は書類を持っていないか、第三者によって文書が偽造されている可能性があると述べた。

 ・多くの子どもは親族により捜索されており、返還には正式な手続きが必要であるとした。

 ・ウクライナ側の「データの不備、透明性の欠如、政治的操作」が問題解決を妨げていると批判した。

 EU域内での子ども失踪の主張

 ・ザハロワ報道官は「多数のウクライナ人の子どもがEU領内で行方不明になっている」と主張。

 ・この問題について調査が必要であるとしつつも、EUや国際NGOが真摯に対応する可能性は低いとした。

 ・その理由は、「ロシアによる拉致説」に信憑性を持たせることの方が政治的に有利であるためである。

 メジンスキーの発言と筆者の主張

 ・メジンスキーは、ウクライナ側が「子どもを持たない欧州の老婦人向けに演出された芝居」をしていると発言したとされる。

 ・筆者は、戦争による避難や保護措置は「誘拐」ではなく、返還が行われている事実を踏まえれば、ICCの主張は根拠を失っていると論じている。
 
【桃源寸評】🌍

 本記事はICCの訴追根拠に対するロシア側の反論と、具体的な行動による論拠の提示(リストの受領、返還事例、手続きの存在、他地域での子どもの失踪など)を通して、ロシアの立場の正当性を主張するものである。

 しかし、以下のような点が判明しないようでは、依然として疑問は残る。

 判明していない重要情報

 ① ロシアに実際に保護されているウクライナの子どもの総数

 ・記事内では「90万人」とされていた数字が「339人」に縮小されたとマリア・リヴォワ=ベロワが語った旨の記述があるが、

  ☞この「90万人」という数値の出典や内訳、

  ☞実際にロシア国内で保護されている人数の公式統計
は一切示されていない。

 ・ロシアが「一部の子どもをウクライナ親族に返還した」とされているが、それが全体の何%に相当するのかも不明である。

 ② 保護されている子どもの「名前・特徴・身分」などの特定状況

 ・2025年のイスタンブール会談でウクライナ側から「339人分の名前リスト」が渡されたという事実は示されているが、

  ☞この339人が現在ロシア国内に実際に所在しているのか

  ☞そのうち身元(親族や出生地)が確認されている者は何人なのか

  ☞国籍、年齢、言語、出身地、収容場所などの具体的な属性
は一切記載されていない。

 ・ザハロワ報道官が「多くの子どもが身元不明であり、文書が偽造されている例もある」と述べているが、

  ☞その「多く」がどの程度の割合・人数か

  ☞どのような調査手続きが採られているのか

は明らかにされていない。

 その他、記事では触れられていないが重要な論点

 ・子どもたちがロシアに「移送された経緯」

  ☞軍用車両による搬送か、民間の避難措置か

  ☞一時的な保護なのか恒久的な再定住なのか

 ・保護された後の子どもたちの「生活環境」

  ☞孤児院か、里親制度か、特定施設か

  ☞教育・言語・宗教などの適応状態

 ・「返還」の基準と手続きの具体的な内容

  ☞家族との再会に必要な証明書類や手続きの透明性

  ☞国際機関(例:赤十字、UNHCR)の関与状況

 まとめ

 したがって、本記事はロシアの立場を説明・擁護する内容に終始しており、具体的データ(人数・名簿・処遇・返還状況)には踏み込んでいない。

 このような情報の不在は、国際的な信頼性を担保する上でも重大であり、検証可能な第三者機関による報告書や、公式統計の開示が不可欠である。

 国連、赤十字、ユニセフ、あるいはロシア・ウクライナ各政府の公式発表や第三者報道をもとに、追加調査の支援も可能であるが、それら等の機関なども結果的にかなど、嘘を付いている可能性もある

 なぜ国際機関や各国政府も「信用しきれない」のか

 1. 情報の非対称性とアクセス制限

 ・紛争地への物理的アクセスが制限されているため、国際機関も現場を直接確認できないケースが多い。

 ・報告の多くは関係当事者(ロシア/ウクライナ)からの情報提供に依存している。

 2. 資金と影響の構造

 ・国際機関は多くの場合、特定の加盟国や支援国(例:米国、EU)からの資金提供を受けており、完全に中立的な立場を保ちづらい。

 ・特に政治的に敏感な問題(戦争犯罪、人道問題については、資金提供者の意向を忖度した報告になる傾向も否めない。

 3. ロシア・ウクライナ両政府の宣伝戦(プロパガンダ)

・両国とも「正統性の主張」や「国際世論の誘導」のために、自国に都合のよい情報のみを発表する傾向がある。

 ・ロシアは「人道的避難措置」として、ウクライナは「強制移送」「拉致」として、それぞれ全く異なる枠組みで語っている。

 情報の客観性をどう確保できるのか?

 正直に言えば、この種の事案では“完全に客観的な真実”を特定することは極めて困難である。特に以下のような場合。

 ・子どもが未成年で意思表示できない

 ・親族が消息不明または戦争で死亡している

 ・書類が戦争により破棄・偽造されている

 ・よって、現実的な対応としては以下のアプローチが必要である。

 現状における可能な分析姿勢

 1.「矛盾する複数の主張」を並列的に把握すること→ どちらの言い分にも触れ、その根拠と論理の構造を比較する。

 2.「確認できる事実(fact)」と「主張(claim)」を明確に区別すること→ 例えば「子どもを返還した事例がカタールを通じて行われた」は事実だが、「ロシアはすべて合法的に保護した」というのは主張。

 3.数字の出典と変化に注目すること→ 「90万人」→「339人」という数字の乖離は、情報操作の可能性があるため精査対象となる。

 結論的整理

 ・現時点で「ロシアが何人の子どもを保護しているか」「その身元が判明している子どもは何人か」については、信頼に足る独立した情報源が存在しない。

 ・国連、赤十字、ユニセフ、ウクライナ政府、ロシア政府、全てに一定のバイアスまたは制限がある可能性が高い。

 ・よって、本件の全体像把握においては、「確定的な事実」を求めすぎず、複数の相反する情報の構造と使い方を理解することが現実的な対応である。

 親の所在が「判明していない」ことの意味と影響

 1. 子どもが「孤児」であるのか、「行方不明の親を持つ避難児」であるのかが不明

 ・本当に孤児であれば、国家や他者による一時的保護が必要であるが、

 ・親や親族が生存しており、ただ連絡が取れないだけであれば、それは「保護」ではなく「分断」となる可能性がある。

 ・しかしその区別がほとんどの事例で明確にされていない。

 2.親の所在が不明なことにより、子の身元確認・返還プロセスが極端に困難化

 ・保護された子どもを返還するには、法的に「親または親権者の証明」が必要であるが、

 ・戦争により戸籍・出生証明書・パスポートなどの証拠が失われているケースが多く、

 ・ウクライナ側も一貫した情報を持たないとロシア側が主張している。

 3. 政治的に悪用されるリスク

 ・ウクライナ側は「親を隔離して子どもをロシアに同化させようとしている」と主張するが、

 ・ロシア側は「ウクライナが親の所在を把握せず、協力的でもない」と反論しており、→ 結果として、親の所在不明という状況そのものが政治的プロパガンダの“空白地帯”として利用されている。

 親の所在確認が困難な背景(両国・制度の問題)

 1.戦争による記録破壊と人の移動

 ・前線地域(ドネツク、ルガンスク、ザポリージャ、ヘルソンなど)では多くの住民記録が失われ、混乱している。

 ・多くの家族が西ウクライナやEU諸国へ避難しており、再接触が困難になっている。

 2.書類・証拠の不一致

 ・ロシアが子どもにロシアの身分証を発行している場合もあり、

 ・ウクライナ側の書類と整合しないため、「親」と名乗る者の主張が受け入れられないケースも想定される。

 まとめ

 ・現在の情報環境では、子どもたちの保護状態・所在だけでなく、親や家族の生死・居場所さえも正確に把握されていない。

 ・これは「拉致か保護か」という争点の根幹にかかわるが、事実確認が極度に困難なため、両陣営ともに解釈戦(プロパガンダ)に依存する構造となっている。

 ・本質的には「親の所在情報」こそが、すべての議論の出発点であるにもかかわらず、それが未解決である限り、正確な評価も裁きも不可能である。

 国際刑事裁判所(ICC)自体にも疑問や批判が多く存在しており、「公正な国際司法機関」としての位置づけが本件(ウクライナの子どもに関する訴追)を含めて根本的に揺らいでいる側面がある。

 以下に、ICCに関する主な問題点と、本件への適用における違和感を箇条書きで整理する。

 ICC(国際刑事裁判所)の構造的・政治的問題点

 1. 大国(米・露・中)が加盟していない

 ・アメリカ、ロシア、中国、インドなど主要な大国はICCのローマ規程を批准しておらず、管轄外。

 ・ロシアは2016年にICCから正式に脱退(ローマ規程の署名を撤回)。

 ・にもかかわらず、ICCがロシアの大統領に対して逮捕状を発行したこと自体が制度上の矛盾を生んでいる。

 2. 選択的正義・偏った訴追

 ・ICCの起訴対象の大半がアフリカ諸国や発展途上国の指導者であり、「西側の政治的都合で動く裁判所」との批判が根強い。

 ・例:NATOのユーゴ空爆、イラク戦争、アフガニスタン侵攻などに関しては米欧側の戦争犯罪は一切裁かれていない。

 3. 証拠基準・手続の曖昧さ

 ・実質的に「被害者側とされる陣営の証言や提出資料」を基に訴追することが多く、戦争当事国の一方からの情報に強く依存。

 ・本件のように、「子どもの保護か拉致か」が未確定で、しかも親の所在すら特定できていない段階で大統領個人に逮捕状を出すのは異例。

 4. 逮捕状の実効性がない

 ・ICCに加盟していない国、あるいは加盟していても協力義務を拒否する国では、逮捕状に拘束力がない。

 ・プーチンもマリア・リヴォワ=ベロワも、逮捕の現実的危険はほぼゼロ。

 ・よって「逮捕状」は政治的象徴にすぎず、法的強制力とは言い難い。

 本件(子ども保護問題)へのICCの対応の「変さ・違和感」

 ・法的正当性:ロシアがICC非加盟国であるにもかかわらず、ロシア政府高官に逮捕状を出すことの国際法的妥当性は疑問。

 ・証拠の透明性:「子どもが拉致された」とする具体的証拠(親の証言、身元、移送経路など)の提示はなく、主に政治的主張に依拠している可能性。

 ・数字の一貫性:ICCが問題視した「90万人」という数字も根拠が曖昧で、ロシア側は「339人しかリスト化されていない」と反論している。

 ・プロセスの公正性:ICCがウクライナの一方的な証言・証拠に依存していないかという懸念。第三者による検証プロセスが不明確。

 ・ICCもまた「完全に中立な裁判機関」とは言いがたいまた「完全に中立な裁判機関」とは言いがたい

 ・ICCは制度上「人道に対する罪」や「戦争犯罪」を裁くことが目的だが、その運用には多くの政治的・法的バイアスが含まれている。

 ・本件においても、国際世論に対する象徴的なアピール(=逮捕状)として利用された可能性がある。

 ・よって、「ロシアがすべて正しい」とはもちろん言えないが、ICCの対応も決して無謬・無偏見とは言えないというのが現実的な評価である。

【寸評 完】🌺

【引用・参照・底本】

Russia’s Efforts To Return Displaced Ukrainian Children To Their Families Discredit The ICC Andrew Korybko's Newsletter 2025.06.09
https://korybko.substack.com/p/russias-efforts-to-return-displaced?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=165523407&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

協力が競争を凌駕し、共通認識が相違を上回り、機会がリスクを超えるという事実2025年06月09日 21:35

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【概要】

 2025年6月9日にGlobal Timesに掲載された本社説は、中国と欧州の関係に関する最近の動向を総括し、欧州が中国を客観的かつ理性的に理解すべきであると主張している。

 まず、近時の中欧間の外交的交流の活発化に言及している。習近平国家主席はフランスのマクロン大統領、ドイツのメルツ首相と個別に会談し、He Lifeng、Liu Guozhong両副首相が相次いで欧州を訪問した。また、デンマークとオランダの外相が相次いで訪中し、王毅外相もドイツおよびポーランドの外相と会談した。さらに、中国と欧州議会は相互交流に対する制限を同時かつ全面的に解除することを決定しており、これが両者の交流拡大に向けた積極的なシグナルであるとされている。報道によれば、7月には欧州理事会議長アントニオ・コスタおよび欧州委員会委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエンが訪中予定である。

 中国とEUの関係がパンデミックやウクライナ危機などの困難を経て、ようやく前向きな勢いを取り戻しつつある点を評価している。一方で、関係が好転する兆しが見え始めると、それを妨げる「騒音」が必ず発生するとも指摘する。例えば、EUは中国製医療機器の公共調達市場への参入を制限する措置を講じ、中国側はこれに強く反発した。また、「中国のスパイ」事件や、Huawei関連のロビー活動に関するスキャンダル、チェコによる中国のサイバー攻撃の非難、それに追随するEUやNATOの姿勢、さらには欧州での大規模停電に際して中国製ソーラーインバーターの「サイバーリスク」を疑う声など、否定的な論調が相次いでいるとされる。

 これら一連の否定的な動きのタイミングに着目し、「何者かが中欧の接近を意図的に妨げようとしているのではないか」という疑念を呈している。あるいは、欧州側自身が中国との関係の在り方について、常に迷いや葛藤を抱えている可能性も示唆している。

 仮に外的要因によるものであれば、これらの動きの影響は一時的かつ部分的なものであり、中国とEUが対話と協力を進めるという大局的な流れを揺るがすことはないと述べている。その場合、両国政府や各界の有識者がそれらの妨害に毅然と立ち向かうべきであるとする。他方で、もし欧州側自身の内部矛盾が原因であるならば、それは双方にとって極めて不利であり、問題解決を一層困難にすると指摘する。

 さらに、欧州側が中国との関係を発展させたいと望みながらも、同時に否定的な見方や根拠のない非難を行い、ビジネスを進めたい一方で多くの障壁を設けているという矛盾を強調している。このような矛盾した姿勢は、パートナーとしての誠意や整合性を欠くだけでなく、欧州内部での政策の一貫性の欠如や利害の衝突を引き起こし、混乱を招くと論じている。

 国際社会が中国とEUの協力に対して高い期待を抱いており、両者が積極的な世界の二大勢力としてより大きな役割を果たすことが望まれていると述べている。その中で、フォン・デア・ライエン委員長が提唱した「独立した欧州」という概念に触れている。この発想は、ミュンヘン安全保障会議における米副大統領J.D.ヴァンスによる厳しい発言、トランプ前米大統領によるグリーンランドに関する強硬な発言、米国による同盟国への一方的な関税措置など、一連の出来事を経た欧州側の戦略的自律性に対する認識の進化を示すものとされている。

 「独立した欧州」とは、世界の重要な極として、自らの独立した存在と判断力を持ち、外部からの圧力に屈しない意思決定能力を有すべきであるという意味であるとし、それは中国に対する見方にも反映されるべきであると主張している。

 続いて、中国とEUの関係には根本的な利益相反や地政学的な対立が存在せず、両者は「共に成功するためのパートナー」であると定義する。外交関係樹立から50年間で、年間貿易額は24億ドルから7,858億ドルへと300倍以上に成長し、気候変動分野などでの多国間協力も実り多いものであったと述べている。こうした協力は中欧合わせて約20億人に具体的な恩恵をもたらすと同時に、世界の安定と繁栄にも大きく貢献しているとされる。

 現下の複雑な国際情勢において、中欧関係は戦略的意義と世界的影響力を一層増しているとし、両者が相互尊重、対等な対話、強みの補完、共同の成功を実現可能であることを示している。

 最後に、協力が競争を凌駕し、共通認識が相違を上回り、機会がリスクを超えるという事実は変わらないとして、欧州側が過去50年間の中欧関係の発展経験を深く再考し、戦略的自律性を堅持し、妨害を克服し続け、中国との共通発展の道において信頼できるパートナーとなることを期待すると結んでいる。

【詳細】 

 中国と欧州連合(EU)の関係改善が進展する一方で、その動きを妨げる複数の現象が並行して起きている現状を指摘し、「独立した欧州」が中国を客観的かつ理性的に理解することの必要性を訴えるものである。

 1. 中国・欧州間の活発な外交交流

 冒頭で、社説は2025年春から初夏にかけて展開された一連の外交的往来の活発さに言及している。主な例として、以下のような動きが挙げられている:

 ・習近平国家主席がフランスのエマニュエル・マクロン大統領、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相と個別に電話会談。

 ・He Lifeng副首相およびLiu Guozhong副首相が相次いで欧州を訪問。

 ・デンマークおよびオランダの外相が相次いで中国を訪問。

 ・王毅外交部長がドイツ、ポーランドの外相と電話会談。

 ・中国と欧州議会が相互の人的・制度的交流に対する制限を同時かつ全面的に解除する決定。

 さらに、欧州理事会議長アントニオ・コスタおよび欧州委員会委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエンが、2025年7月に中国を訪問し、中国の指導部と会談を行う予定であることも報じられている。

 このようにして、パンデミックやウクライナ戦争という長期にわたる不安定要因の中でも、中国と欧州の関係は少しずつ、だが着実に回復軌道に乗りつつあるとの認識が示されている。

 2. 関係改善への「妨害」と疑念
 
 ・しかしながら、社説はこの前向きな外交的流れと並行して、欧州側から中国に対する否定的な動きが連続して発生している点を問題視している。

 ・欧州連合が中国製の医療機器を域内の公共調達市場から排除する方針を表明。中国側はこれに「断固として反対」したとされる。

 ・Huaweiに関するロビー活動をめぐるスキャンダルや、「中国のスパイ」に関する事件が欧州で報道されている。

 ・チェコ政府が中国によるサイバー攻撃を名指しで非難し、EUおよびNATOもこれに追随。

 ・欧州での大規模停電発生後、一部では中国製ソーラーインバーターに対し「サイバーセキュリティ上の懸念」が提起された。

 ・これらの現象は、単なる偶発的な出来事とは考えにくく、ある種の「タイミングの一致」をもって「誰かが意図的に中欧関係の接近を妨げているのではないか」との疑念が示されている。

 3. 欧州側の「葛藤」あるいは「外的干渉」?

 この状況の背景として、二つの可能性を提示している。

 ・第一の可能性は、「欧州外の第三者勢力」が意図的に中国と欧州の関係改善を妨害しているという見方である。この場合、これらの妨害は一時的かつ局地的なものであり、中欧の全体的な協力関係や戦略的パートナーシップの大局を揺るがすことはないと楽観的に見る。

 ・第二の可能性は、「欧州側自身の内部における矛盾と逡巡」に起因するものである。この場合、欧州の対中政策は一貫性を欠き、内部で異なる立場がせめぎ合う結果、政策決定の混乱を招くことになる。

 ・この第二の可能性が現実のものであれば、双方にとって「極めて不利な状況」を生み出すと強く警鐘を鳴らしている。

 4. 欧州の対中姿勢における「矛盾」

 欧州側の態度に見られる一貫性の欠如と矛盾にも触れられている。

 ・対話を望みながら、一方では根拠のない非難を行う。

 ・経済協力を進めたいとしながら、一方では規制や制限を強化する。

 ・中国との友好を模索する一方で、敵対的な世論を煽る動きが続く。

 このような姿勢は、誠意あるパートナーとしての信頼性を損なうだけでなく、欧州内部の政策混乱、意思決定のばらつき、利益相反の増大を引き起こすとして批判的に論じられている。

 5. 「独立した欧州」と戦略的自律

 フォン・デア・ライエン欧州委員長が最近言及した「独立した欧州」という概念は、欧州が他国、特に米国の圧力に依存しない戦略的判断力を持つ必要性の象徴として取り上げられている。

 この発想の背景として、以下の出来事が挙げられている。

 ・ミュンヘン安全保障会議において米副大統領J.D.ヴァンスが欧州に対し厳しい姿勢を示した。

 ・米国のトランプ大統領がグリーンランドをめぐる発言を通じて欧州を軽視する姿勢を取った。

 ・米国が同盟国にもかかわらず関税を一方的に課した。

 これらは欧州にとって「痛みを伴う経験」であり、その結果として「自らの運命を自ら決定できる欧州」という考えが浮上したと社説は述べている。

 この「独立した欧州」の概念は、中国に対する認識にも反映されるべきであり、外的圧力や先入観に左右されず、自律的に対中関係を判断する必要があると説かれている。

 6. 過去50年の成果と今後の展望

 中国とEUが外交関係を樹立してから50年間にわたる成果を再確認する。

 ・年間貿易額は1975年の24億ドルから2024年には7,858億ドルにまで増加。

 ・気候変動などの地球規模課題への協力。

 ・約20億人の人々に恩恵をもたらし、世界の安定と繁栄にも寄与。

 このような長期的な協力関係の蓄積は、単なる短期的な経済利益にとどまらず、地政学的にも世界的な意義を持つとされる。

 7. 結語:協力は競争より勝る

 結びにおいて、社説は以下の基本的事実を強調している。

 ・中国とEUの関係においては、「協力が競争に勝る」。

 ・意見の相違よりも共通認識の方が多い。

 ・危機よりも機会の方が大きい。

 よって、欧州側は過去50年の関係から学び、戦略的自律性を堅持し、妨害に左右されず、中国とともに発展の道を歩み、世界の平和と安定、繁栄に寄与すべきであると締めくくられている。

【要点】 

 中国と欧州の外交交流の進展

 ・習近平国家主席がフランスのマクロン大統領およびドイツのメルツ首相とそれぞれ会談。

 ・He Lifeng副首相とLiu Guozhong副首相が相次いで欧州を訪問。

 ・デンマークとオランダの外相が中国を訪問。

 ・王毅外交部長がドイツおよびポーランドの外相と電話会談。

 ・中国と欧州議会が相互交流の制限を同時に全面解除。

 ・欧州理事会議長コスタおよび欧州委員会委員長フォン・デア・ライエンが7月に中国訪問予定。

 ・パンデミックやウクライナ危機を乗り越えた前向きな関係回復が進行中である。

 関係改善への妨害的動きの存在

 ・EUが中国製医療機器の公共調達参加に制限を設け、中国側が強く反対。

 ・Huawei関連のロビー活動疑惑および「中国スパイ」事件が報道。

 ・チェコ政府が中国によるサイバー攻撃を非難、EU・NATOも追随。

 ・欧州での大規模停電後、中国製ソーラーインバーターがサイバーリスクとして疑念の対象となる。

 妨害の背後にある二つの可能性

 ・一つは「外部勢力による干渉」であり、この場合は一時的・局所的な影響にとどまるとされる。

 ・もう一つは「欧州内部の迷走と矛盾」であり、これが深刻な結果をもたらすと警告している。

 欧州の対中姿勢に見られる矛盾

 ・対話を望む一方で、根拠なき非難を繰り返している。

 ・経済協力を求めつつも、障壁を設けている。

 ・誠意を示すべきパートナーシップの姿勢に一貫性がなく、信頼性を損ねている。

 「独立した欧州」の意義

 ・フォン・デア・ライエン委員長による「独立した欧州」構想の提示。

 ・米国の不誠実な態度(副大統領の批判、トランプ元大統領のグリーンランド発言、同盟国への関税)を契機に欧州側の自立志向が強まった。

 ・この「独立性」は対中政策においても外部圧力に左右されない判断基準を持つべきであると主張している。

 過去50年の中欧関係の成果

 ・年間貿易額は24億ドルから7,858億ドルに拡大(300倍以上)。

 ・気候変動等の分野での多国間協力。

 ・約20億人に恩恵をもたらし、世界の安定と繁栄にも寄与してきた。

 社説の結論と呼びかけ

 ・中国と欧州は根本的な利害対立や地政学的対立を持たず、協力関係を深めるパートナーである。

 ・競争よりも協力、対立よりも共通利益、リスクよりも機会の方が大きいという事実は変わらない。

 ・欧州側に対し、戦略的自律性を保持し、妨害を乗り越え、中国との持続可能な発展関係を築くことを強く求めている。

【桃源寸評】🌍

 この第二の可能性が現実のものであれば、双方にとって「極めて不利な状況」を生み出すと強く警鐘を鳴らしている。

 中欧関係の重要性と今後の可能性を強調するとともに、欧州が中国を客観的・理性的に捉える姿勢を確立することの必要性を一貫して主張している。

 欧州が「真の主権」を確立するためには、米国への恋恋たる態度を捨てねばならない

 1. 主権とは、外部の意志に左右されない自己決定権である

 ・主権とは、国または地域が外部の圧力や干渉を受けることなく、自己の意思と利益に基づいて意思決定を行う力である。軍事、経済、外交、情報政策のいずれにおいても、自立した判断と行動がなければ主権は機能しない。

 ・欧州が自らの安全保障を米国主導の軍事同盟(NATO)に依存し、対外政策でも米国の利益構造や価値判断を優先している現状は、形式的な主権があっても、実質的には他国の延長線上で動いている状態に過ぎない。

 2. 恋恋たる態度は従属の心理構造である

 ・「恋恋としている」とは、単なる同盟関係や実利的協力を超えた、感情的・文化的依存状態である。欧州にとって米国は、第二次世界大戦以降の復興の父であり、冷戦時代の庇護者であり、価値観の提供者であった。

 ・だがこのような歴史的親近感が、政治的従属の正当化装置となっている限り、欧州は米国にとって便利な「応答装置」に過ぎず、自己主権的主体として立つことはできない。

 3. 現代において「独立」は物理的距離ではなく判断の距離である

 ・かつては主権国家の独立は、国境の管理や軍隊の存在によって担保された。しかしグローバル化が進んだ現代においては、情報・金融・価値観における「判断の距離」こそが独立を担保する指標である。

 ・欧州が米国と常に歩調を合わせ、共通の「敵」や「価値」を同時に設定し、同じ方向に反応するならば、それはもはや独立主体とは言えず、同調機構に過ぎない。

 4. 欧州が直面する矛盾と限界

 ・欧州は一方で「戦略的自律」や「欧州の価値観」を掲げながら、他方で自らの軍事的・技術的・金融的安全保障を米国に依存し続けている。これは単なる二重基準ではなく、未熟な主体性の表れである。

 ・このような二面性は、外交における一貫性を欠き、域内の国家間対立を助長し、結果として欧州自身の信用を損なっている。主権を持つということは、不人気な決定を下す覚悟を持つということである。米国との関係においても、自国・自地域の利益に即した反対・距離・独自路線を打ち出す姿勢がなければ、真の主権国家とは呼べない。

 5. 欧州は「別れる勇気」を持たなければならない

 ・欧州が米国との関係を完全に断つ必要はない。だが、盲目的な親近感、歴史的な庇護への感謝、価値観の同一視という幻想から目を覚まさなければ、自律は永遠に達成されない。

 ・「恋恋たる」態度を捨てることは、単なる政治の選択ではない。精神的な断乳であり、成熟した主権者への通過儀礼である。

 ・欧州が真に独立を標榜するのであれば、まずこの「恋恋」を断ち切る覚悟から始めねばならない。

【寸評 完】🌺

【引用・参照・底本】

An 'independent Europe' should establish an objective and rational understanding of China: Global Times editorial GT 2025.06.09
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335697.shtml

中国の貿易動向2025年06月09日 23:23

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【概要】

 中国の貿易動向:2025年1月から5月

 2025年1月から5月にかけての中国の物品貿易総額は、前年同期比2.5%増の17兆9,400億元(約2.5兆ドル)となり、安定した成長を維持した。これは、外部環境からの課題にもかかわらず、中国の外国貿易が回復力を示したことを意味する。  

 輸出入の内訳

 この期間中、中国の輸出は前年同期比7.2%増の10兆6,700億元に達した。一方、輸入は前年同期比3.8%減の7兆2,700億元であった。  

 5月単月の動向

 5月単月では、物品貿易総額は前年同期比2.7%増の3兆8,100億元であった。内訳を見ると、輸出は前年同期比6.3%増の2兆2,800億元、輸入は前年同期比2.1%減の1兆5,300億元であった。税関総署(GAC)の報道官であるLü Daliang氏は、5月に入り、特に米中ハイレベル経済貿易会議後に輸入と輸出の勢いが加速したと述べた。  

 貿易構造の改善

 中国の外国貿易の構造は引き続き改善している。特に、機械および電気製品の輸出は、2025年1月から5月の間に前年同期比9.3%増加し、6兆4,000億元に達した。これは中国の物品輸出総額の60%を占める。  

 主要貿易パートナー

 主要な貿易パートナーとの関係では、以下の動向が見られた。

 ・ASEAN:中国にとって最大の貿易パートナーであり続け、1月から5月までの貿易額は前年同期比9.1%増の3兆200億元であった。  

 ・EU:貿易額は前年同期比2.9%増の2兆3,000億元であった。  

 ・「一帯一路」パートナー国:貿易額は前年同期比4.2%増の9兆2,400億元であった。

 ・米国:貿易額は前年同期比8.1%減の1兆7,200億元であった。

【詳細】 

 中国の貿易動向:2025年1月から5月(詳細)

 2025年1月から5月までの中国の物品貿易は、複数の外部課題に直面しながらも、回復力と安定した成長を維持した。これは、公式データが6月9日月曜日に示すところである。

 全体的なパフォーマンス

 中国の物品輸出入総額は、人民元建てで前年同期比2.5%増の17兆9,400億元に達した。これは米ドル換算で約2.5兆ドルに相当する。この伸びは、中国経済が年頭から安定した成長を維持していることの証左である。

 輸出と輸入の対照的な動き

 ・輸出は、この期間に顕著な伸びを示し、前年同期比7.2%増の10兆6,700億元となった。これは、国際市場における中国製品の競争力を反映している可能性がある。

 ・対照的に、輸入は前年同期比3.8%減の7兆2,700億元であった。輸入の減少は、国内需要の変動や国際商品価格の動向など、複数の要因に起因する可能性がある。

 5月の月次動向

 5月単月でみると、中国の物品輸出入総額は人民元建てで前年同期比2.7%増の3兆8,100億元であった。この月次データは、全体的な傾向を裏付けるものである。

 ・5月の輸出は、前年同期比6.3%増の2兆2,800億元を記録した。

 ・一方、5月の輸入は前年同期比2.1%減の1兆5,300億元であった。 税関総署(GAC)の報道官であるLü Daliang氏は、特に米中ハイレベル経済貿易会議の後、5月に入ってから中国の輸出入が勢いを増し、著しく加速したと指摘した。

 貿易構造の継続的な改善

 中国の外国貿易は、その構造において改善を示している。特に注目すべきは、高付加価値製品の輸出の増加である。

 ・2025年1月から5月までの期間、機械および電気製品の輸出は前年同期比9.3%増加し、6兆4,000億元に達した。このカテゴリーは、中国の物品輸出総額の実に60%を占めており、中国がより技術集約的な製品へのシフトを進めていることを示唆している。
 
 主要貿易パートナーとの関係性

 主要な貿易パートナーとの取引関係は以下の通りである。

 ・ASEAN(東南アジア諸国連合)は、この期間中も中国にとって最大の貿易パートナーであり続けた。中国とASEANブロック間の貿易総額は、前年同期比9.1%増の3兆200億元に達した。これは、地域的な経済統合とサプライチェーンの強さを示している。

 ・EU(欧州連合)との貿易は、前年同期比2.9%増の2兆3,000億元であった。

 ・「一帯一路」パートナー国との貿易は、前年同期比4.2%増の9兆2,400億元と堅調に増加した。これは、「一帯一路」イニシアチブが貿易関係の深化に貢献していることを示唆している。

 ・対照的に、米国との貿易は、前年同期比8.1%減の1兆7,200億元であった。この減少は、継続的な貿易摩擦や地政学的要因の影響を受けている可能性がある。

 これらのデータは、外部からの圧力にもかかわらず、中国の外国貿易が全体として回復力を持ち、特に輸出と構造的な改善が成長を牽引していることを明確に示している。

【要点】 

 中国の外国貿易概況(2025年1月〜5月)

 (1)全体的な成長

 ・2025年1月から5月までの中国の物品貿易総額は、17兆9,400億元(約2.5兆ドル)に達し、前年同期比で2.5%増加した。

 ・これは、外部からの課題にもかかわらず、中国の外国貿易が回復力と安定した成長を維持していることを示している。

 (2)輸出入の内訳

 ・輸出は前年同期比7.2%増の10兆6,700億元であった。

 ・輸入は前年同期比3.8%減の7兆2,700億元であった。

 (3)5月単月の動向

 ・5月単月の物品貿易総額は、前年同期比2.7%増の3兆8,100億元であった。

 ・5月の輸出は前年同期比6.3%増の2兆2,800億元であった。

 ・5月の輸入は前年同期比2.1%減の1兆5,300億元であった。

 ・税関総署(GAC)の報道官であるLü Daliang氏は、5月に入り、特に米中ハイレベル経済貿易会議後に、中国の輸出入が著しく加速したと述べている。

 (4)貿易構造の改善

 ・中国の外国貿易の構造は継続的に改善しており、特に高付加価値製品の輸出が増加している。

 ・2025年1月から5月にかけての機械・電気製品の輸出は前年同期比9.3%増加し、6兆4,000億元に達した。これは、中国の物品輸出総額の60%を占めている。

 (5)主要貿易パートナー

 ・ASEAN: 中国にとって最大の貿易パートナーであり続け、貿易額は前年同期比9.1%増の3兆200億元であった。

 ・EU: 貿易額は前年同期比2.9%増の2兆3,000億元であった。

 ・「一帯一路」パートナー国: 貿易額は前年同期比4.2%増の9兆2,400億元であった。

 ・米国: 貿易額は前年同期比8.1%減の1兆7,200億元であった。

【桃源寸評】🌍

 中国の貿易、広範な外交努力が成長に貢献

 2025年1月から5月にかけて、中国の外国貿易は全体で2.5%の増加を記録し、その回復力が際立っている。この堅調な推移は、単一の要因によるものではなく、中国が展開する幅広い外交努力が大きく寄与していると考えられる。

 特に注目すべきは、以下の点である。

 ・ASEANとの貿易が9.1%増加し、最大の貿易相手であり続けていること。これは、中国が長年にわたりASEAN諸国との関係強化に注力し、多角的な協力関係を築いてきた外交努力の成果と見ることができる。

 ・「一帯一路」パートナー国との貿易が4.2%増加していること。このイニシアチブは、経済圏の連携を深めるための重要な外交ツールであり、貿易量の増加に直接的に貢献している。

 税関総署の報道官が言及した米中ハイレベル経済貿易会議も、特定の重要な二国間関係における外交が貿易の流れを改善する可能性を示唆している。

 これらの事実は、中国が世界経済の変動や地政学的な課題に直面する中で、多角的かつ積極的な外交戦略を展開し、それが貿易関係の安定化と成長に繋がっていることを示唆している。貿易統計に見られる回復力は、これらの外交攻勢が実を結んでいる証拠と言えるだろう。

 中国の貿易戦略転換:対米依存度低下と多角化の成果

 2025年1月から5月までの中国の外国貿易は、全体で2.5%の増加を達成し、その回復力と堅調さが確認された。この背景には、単なる景気回復だけでなく、中国が近年推し進めてきた米国への輸出依存度を下げ、貿易相手国を多角化する戦略が大きく貢献していると考えられる。

 具体的な状況は以下の通り。

 (1)対米貿易の減少

 ・2025年1月から5月の期間、中国の対米貿易は前年同期比8.1%減少し、1兆7,200億元となった。

 ・特に5月単月のアフリカへの輸出額が33.3%増となるなど、米国への輸出が大幅に落ち込む一方で、他の地域への輸出が伸びている。これは、中国が意図的に対米依存度を低減させようとしていることの表れと見ることができる。

 ・過去のデータからも、中国の対米輸出依存度は2000年代後半以降、全体的に低下傾向にあり、この戦略は以前から進められていたと考えられる。

 (2)貿易相手国の多角化

 ・ASEANは引き続き中国にとって最大の貿易相手であり、貿易額は前年同期比で9.1%増加し、3兆200億元に達した。これは、米国以外のアジア市場、特にASEAN地域を重視する中国の外交・貿易戦略が功を奏していることを示している。

 ・「一帯一路」パートナー国との貿易も4.2%増加し、9兆2,400億元となった。「一帯一路」は、中国が新たな貿易ルートと経済圏を構築し、伝統的な西側市場への依存を減らすための重要な枠組みである。

 ・EUとの貿易も2.9%増加しており、主要な貿易相手国をバランス良く維持しようとする姿勢が見て取れる。

 (3)輸出品目の高付加価値化

 ・貿易構造の改善として、機械・電気製品の輸出が9.3%増加し、輸出総額の60%を占めている。これは、単に量的な輸出だけでなく、より技術的で付加価値の高い製品へのシフトが進んでいることを示唆しており、国際競争力を高める上で重要な要素である。

 これらの動向は、米中間の貿易摩擦が続く中で、中国がリスク分散を図り、より多様な市場での成長機会を追求していることを明確に示している。広範な外交努力と並行して進められるこの貿易戦略の転換が、現在の中国の貿易回復力を支える主要な要因となっていると言えるだろう。

【寸評 完】🌺

【引用・参照・底本】

China’s foreign trade up 2.5% in Jan-May, sustaining resilience despite external challenges GT 2025.06.09
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335718.shtml