【桃源閑話】令和8年度税制改正大綱における防衛財源問題の批判的分析 ― 2025-12-25 18:10
【桃源閑話】令和8年度税制改正大綱における防衛財源問題の批判的分析
令和8年度税制改正大綱における防衛財源問題の批判的分析
【概要】
令和8年度税制改正大綱は、自由民主党と日本維新の会の連立体制の下で策定された。主要な内容として、物価上昇に連動した基礎控除等の引上げ仕組みの創設、課税最低限の178万円への引上げ、大胆な設備投資促進税制の創設、研究開発税制の拡充などが含まれる。 具体的には、物価スライド制による168万円への引上げに加え、三党合意に基づく「基礎控除の特例」10万円を上乗せし、178万円を実現している。しかし、この特例は令和8年・9年の時限措置であり、国民を一時的に懐柔するための政治的演出であるとの批判を免れない。
防衛力強化に係る財源確保については、令和9年1月から所得税額に対して税率1%の新たな付加税として「防衛特別所得税(仮称)」を課すこととされた。同時に、現行の復興特別所得税の税率を2.1%から1.1%に引き下げ、課税期間を令和19年までから令和29年までに延長する措置が講じられる。この措置により、足元での家計負担は増加しないとされている。 しかし、この防衛財源確保策には、(1)財源担保の構造的問題、(2)東日本大震災復興財源の流用という道義的問題、(3)防衛費を所得税で賄うことの憲法上の問題という3つの重大な問題が存在する。
さらに、復興特別所得税の使途変更は、財政法が定める予算の目的外流用禁止の原則に抵触する疑義があり、日本の戦争期における租税濫用の歴史を検証すれば、軍事費を所得税増税で賄う手法が、租税法律主義を蝕み、国民生活を破壊してきた事実が明らかとなる。
【詳細】
1.財源担保の構造的問題
大綱では「恒久政策には安定財源」の思想を堅持するとしながら、防衛特別所得税の導入による財源確保策には根本的な矛盾が存在する。
第一に、防衛費の恒久的増額に対して、所得税の付加税という不安定な税収に依存する構造となっている点である。所得税収は景気変動の影響を強く受けるため、経済が悪化した場合には税収が大幅に減少する。防衛力整備は継続的かつ計画的に実施される必要があるにもかかわらず、その財源を景気に左右される所得税に依存させることは、安定的な防衛力整備を阻害する要因となる。
大綱が掲げる「経済あっての財政」が真実ならば、不況時には防衛財源が不足することを容認せねばならないが、軍事計画にその柔軟性はなく、結局はさらなる増税か公債に頼る「戦時財政」の蟻地獄へ陥るリスクを孕んでいる。
第二に、大綱では揮発油税等の当分の間税率廃止及びいわゆる教育無償化に係る財源確保について、令和8年度税制改正により約1.2兆円(平年度ベース)の財源が確保されるとしているが、「これに加え歳出改革等の努力による財源捻出によってもなお不足する財源については、安定財源を確保するための具体的な方策を引き続き検討し、令和9年度税制改正において結論を得る」としている。
つまり、完全な財源確保の見通しが立っていない状態で防衛特別所得税を導入することになる。恒久的に増大し続ける防衛費という支出に対し、それを賄うための裏付け(安定財源)が全額確定していないにもかかわらず、増税という手段だけを先に既成事実化させている」という計画の杜撰さと危うさが指摘される。
第三に、税制改正大綱において賃上げ促進税制の大企業向け措置を適用期限を待たずに廃止し、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置を見直すなどして財源を確保するとしているが、これらは一時的な財源確保策に過ぎない。租税特別措置の廃止による増収は継続的に見込めるものではなく、恒久的な防衛費増額の財源としては不十分である。 特に、投資や賃上げに消極的な企業に対し租税特別措置の適用を停止する「ペナルティ」的な運用は、税制を国家目的(防衛)への服従を強いる「動員装置」へと変質させるものであり、租税法律主義の予測可能性を著しく損なう。
第四に、複数年(旧財政法:複数年度予算可能、柔軟性高め)の財政均衡について「一歩を踏み出す時に来ている」としながら、具体的な制度設計は示されていない。単年度主義に過度にとらわれない柔軟な財政運営を目指すとしているが、防衛特別所得税の導入という恒久的な増税措置を講じるにもかかわらず、財政規律の枠組みが不明確なままでは、財政の持続可能性に疑問が残る。この「複数年均衡」という概念は、単年度の議会統制を逃れるためのレトリックであり、戦時中に一般会計から切り離され暴走した「臨時軍事費特別会計」の論理を彷彿とさせる。
第五に、「経済あっての財政」の方針を掲げながら、所得税の増税を行うことは、家計の可処分所得を減少させ、消費を抑制する効果を持つ。復興特別所得税の税率引下げにより相殺されるとしているが、復興財源確保のために課税期間が10年間延長されることで、長期的には国民負担が増加する構造となっている。 「基礎控除178万円」という減税の飴を与えつつ、その裏で防衛税という鞭を恒久化する行為は、国民に対する悪質な朝三暮四である。
2.東日本大震災復興財源の流用問題
防衛財源確保のために復興特別所得税を1%引き下げ、その分を防衛特別所得税として徴収する措置は、実質的に復興財源の防衛費への流用である。この措置は、財政法が定める予算の目的外流用禁止の原則に抵触する重大な疑義を生じさせる。
財政法における予算流用禁止の原則
財政法第33条第1項は、歳出予算の各項の間(款項間)の流用を厳格に禁じている。
「各省各庁の長は、歳出予算に定める各項の経費の金額を、各項の間において相互に流用することができない」とするこの規定は、国会による予算の目的拘束性を担保するものであり、財政民主主義の核心である。
なお、財政法第32条は各省庁間での経費の「移用」を禁止する規定であり、第33条とは区別される。
一方で、財政法第27条は「予算は、毎会計年度、その案を歳入歳出予算、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為として国会に提出しなければならない」と定め、予算編成における国会の事前統制を確保している。今回の防衛財源確保策が、「家計負担増なし」という説明を伴いながら、実質的には復興財源を防衛費に転用し、かつ「将来の結論先送り」を含んだ不完全な内容で進められていることは、第27条が求める透明な予算編成プロセスの精神に反する。
さらに、第33条第1項の流用禁止原則は、国会が議決した予算の目的拘束性を守るための規定であり、その趣旨は「特定目的のために国民が負担を受け入れた税を、別の目的に使用してはならない」という財政民主主義の要請に他ならない。
復興特別所得税の使途変更は、形式的には新たな税法の制定という手続を経るが、実質的には第33条が防ごうとした「予算の目的外使用」に該当し、同条の趣旨を潜脱するものである。
財政法における「流用」とは、既に成立した予算の執行段階において、予算区分(款・項・目・節)内の経費を当初の目的とは異なる目的に振り替える行為を指す。特に国会の議決対象である『項』の間の流用は、財政法第33条第1項により原則として禁止されている。同条は『各省各庁の長は、歳出予算に定める各項の経費の金額を、各項の間において相互に流用することができない』と規定しており、これは行政の恣意を排除し、財政民主主義を確保するための基本原則である。
例外規定として、同条第2項は、予算の執行上必要がある場合に限り、「財務大臣の承認を経て」項の金額を流用することを認めているが、これは不測の事態に対応するための極めて限定的な例外である。
なお、財政法第32条は各省庁間での経費の「移用」を禁止する規定であり、第33条の「流用」(項間の異動)とは区別される。第32条は「各省各庁の長は、歳出予算に定める各項の経費の金額を、各項の間において、相互に移用することができない」と定め、省庁の壁を超えた予算の移動を原則禁止している。
また、同じく財政法第33条第2項は、目・節間の流用(移用・流用)を財務大臣の承認によって可能とし、さらに同条第4項に基づき省庁長の裁量で節内流用を許容する場合もあるが、これらには厳格な手続と事後の支払報告書提出が義務付けられている。一方、予備費(財政法第24条、第25条等)は「予見し難い予算の不足」に充てるためのものであり、予算外支出や予算超過を補填する制度である。予備費を新規事業に使用することは原則として国会の事後承諾を要する重大な手続であり、既存予算の使い道を変える『流用』とは明確に区別される。
今回の復興財源の防衛費への転用は、こうした財政法上の厳格な流用禁止規定を、法改正という形式を用いて実質的に無効化するものであり、財政法が守ろうとした「議会による予算統制」に対する明白な「潜脱」であると断じざるを得ない。
法的評価の総括
政府は「税制改正であり予算の流用ではない」と主張する可能性があるが、
これは以下の点で財政民主主義の本質を見誤った形式論である:
(1)財政法第33条第1項の趣旨との関係
同条が予算の流用を禁止する趣旨は、「国会が特定目的のために議決した財源を、行政が別の目的に転用することを防ぐ」という財政民主主義の確保にある。形式的に税制改正という手続を経たとしても、「復興のために国民が負担を受け入れた税を、防衛費に転用する」という実質において、同条が防ごうとした事態そのものである。
(2)租税法律主義の目的拘束性
復興財源確保法は、復興特別所得税の使途を明確に限定している。この法定の目的拘束を、課税期間延長という形式により実質的に無効化することは、租税法律主義(憲法第84条)が要請する「課税の根拠・要件の法定」の趣旨に反する。国民は「復興のため」という目的に同意して負担を受け入れたのであり、その目的を事後的に変更することは、租税に対する国民の信頼を根本から損なう。
(3)予算審議権の実質的侵害
このような大規模な財源の使途変更は、本来、補正予算または予算の組替えという形で国会の審議・議決を経るべきである。税制改正という形式を取ることで、より詳細な予算審議を回避していることは、憲法第41条が定める国会の予算審議権を実質的に侵害するものである。
(4)地方自治体の監査基準との整合性
地方自治法第220条第2項に基づく地方自治体の監査実務では、目的を異にする予算間の流用は厳格に禁止され、違法と判断されている。国の財政においても、同様の財政民主主義の原則が妥当するべきであり、地方自治体では違法とされる行為が国では許容されるという二重基準は正当化できない。
結論として、今回の措置は、形式的には財政法第33条第1項の直接違反には該当しないものの、同条が体現する財政民主主義の趣旨を実質的に潜脱するものであり、
憲法および財政法の基本原則に照らして重大な疑義がある。さらに、租税法律主義の目的拘束性および国民の信頼保護原則に明白に反するものと評価されるべきである。
例外規定として、第33条第2項は「災害應急費に充てる場合その他財務大臣の承認を受けた場合」に限り流用を認めるが、これは極めて限定的な例外である。また、第33条は目・節間の流用を財務大臣承認で可能とし、省庁長の裁量で節内流用を許容するが、事後報告義務が課される。予備費(財政法第26条)は予算外支出に充てられるが、新規事業に使う場合も議会承認を要し、流用とは明確に区別される。
財政法における流用規制の実務と地方自治体における同様の規制
国の予算執行において、当初予算で定められた使途とは異なる目的への支出が必要となった場合、原則として補正予算を編成し、国会の議決を経ることが求められる。財政法第33条第2項による財務大臣の承認による流用は、あくまで「予算の執行上必要がある場合」の例外的措置であり、大規模な政策変更を伴う使途変更には適用されない。
地方財政においても同様の規制が存在する。地方自治法第220条第2項は「普通地方公共団体の長は、歳入歳出予算の各項の経費の金額を流用することができない。ただし、各項の経費の金額を各項の間において相互に流用する場合にあっては、予算の執行上必要があるときに限り、条例の定めるところにより、これを流用することができる」と規定している。
地方自治体における監査実務では、この流用規制違反が厳格に判断されている。
例えば、
(1)江南市監査委員(2021年度)
款項外支出を「予算の目的外使用であり、違法不当な予算流用」と認定。
議会の議決を経ずに目的を変更したことを財政民主主義の侵害と判断。
(2)魚沼市監査委員(令和3年度)
予備費を新規事業に充当したことを「予備費の目的外使用」として違法と判断。
予備費は「予算外の支出又は予算超過の支出」に充てるものであり、新規事業への流用は認められないとした。
これらの監査事例は、「特定目的のために議決された予算を、別の目的に転用することは、たとえ手続的に適法であっても、財政民主主義の観点から許されない」という原則を示している。この原則は、国の財政においても等しく妥当するものである。
今回の復興特別所得税の実質的な防衛費への転用は、地方自治体で行われれば
明白に監査で違法と判断されるべき性質の行為であり、国の財政だからといって許容されるべきではない。むしろ、国の財政においてこそ、より厳格な財政民主主義の遵守が求められるべきである。
復興特別所得税の使途変更と財政法違反の疑義
復興特別所得税は、東日本大震災復興特別区域法および東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(復興財源確保法)によって、復興という特定の目的のために導入された実質的な目的税である。その税収は東日本大震災復興特別会計に繰り入れられ、復興事業の財源として使途が厳格に限定されている。
今回の措置は、形式的には(1)復興特別所得税の税率引下げ、(2)新たな防衛特別所得税の創設、(3)復興特別所得税の課税期間延長、という三つの税制改正として構成されている。しかし実質的には、本来令和20年以降は課税されないはずだった復興特別所得税(税率1%分)を令和29年まで延長し、その延長された期間の税収を防衛費に充当する構造となっている。
これは厳密な意味での財政法第33条第1項の「予算の流用」には該当しないが、以下の点で同条が守ろうとする財政民主主義の趣旨に反する。
(1)目的拘束性の侵害
復興財源確保法は、復興特別所得税の使途を「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保」に明確に限定している。この法的拘束を、税制改正という形式を用いて実質的に無効化することは、法律による目的拘束性を潜脱するものである。
(2)国民の信頼保護原則の違反
復興特別所得税は、被災地復興という目的に対する国民の同意と負担受容を前提に導入された。この信頼関係を裏切り、別の目的(防衛費)に転用することは、租税法律主義が要請する予測可能性と信頼保護の原則に反する。
(3)財政法の趣旨の潜脱
財政法第33条第1項が予算の流用を厳格に禁止する趣旨は、「国会が特定目的のために議決した予算を、行政が恣意的に別の目的に使用することを防ぐ」という財政民主主義の確保にある。今回の措置は、税制改正という形式を取ることで同条の直接適用を免れているが、「特定目的のために国民が負担を受け入れた税を、別の目的に転用する」という実質において、同条が防ごうとした事態そのものである。
(4)補正予算原則の回避
本来、このような財源の使途変更を行う場合には、補正予算を編成し、国会の審議・議決を経るべきである。税制改正という手法を用いることで、より厳格な予算審議を回避している点も、財政民主主義の観点から問題である。
財政法が予算の目的外流用を厳格に禁止する理由は、議会の議決を尊重し、財政民主主義を確保するためである。復興特別所得税は、被災地の復興という明確な目的のために国民が負担を受け入れたものであり、その使途を変更することは、国民の意思に反する予算執行である。仮に財務大臣の承認があったとしても、復興から防衛への使途変更は「災害應急費に充てる場合その他」の例外に該当せず、補正予算による正規の手続を経るべきである。
さらに重大な問題は、この措置が法律の形式を取ることにより、財政法違反を回避しようとしている点である。税法を改正して復興特別所得税の税率を引き下げ、同時に防衛特別所得税を導入することで、形式的には流用ではないという体裁を整えているが、実質的には復興財源の防衛費への流用に他ならない。このような形式主義は、財政法の趣旨を潜脱するものであり、財政民主主義の観点から許されない。
道義的問題と国民の信頼喪失
第一に、復興特別所得税は東日本大震災からの復旧・復興に要する財源を確保するために、平成25年から令和19年まで所得税額に2.1%を付加する形で導入された。この税は、被災地の復興という明確な目的のために国民が負担を受け入れたものであり、その使途は厳格に限定されるべきである。しかし、防衛特別所得税の導入により、実質的に復興財源の一部が防衛費に振り向けられることになる。
第二に、大綱では「復興特別所得税の税率を1%引き下げ、家計負担は増加しない形で実行する」としているが、これは国民に対する欺瞞である。復興特別所得税の課税期間を令和29年まで10年間延長することにより、復興財源の総額は確保するとしているが、本来令和19年に終了するはずだった復興増税が令和29年まで継続されることになる。つまり、令和20年から令和29年までの10年間は、本来課税されないはずだった復興特別所得税が継続されることになり、その分が実質的に防衛費に充当されることになる。
第三に、大綱では「令和8年度税制改正後も、東日本大震災からの復旧・復興に要する財源については、引き続き責任を持って確保する」としているが、具体的な確保策は示されていない。復興事業は今後も継続的に必要とされるにもかかわらず、その財源の一部を防衛費に振り向けることは、復興事業の遅延や縮小につながる可能性がある。
第四に、福島県をはじめとする被災地では、原子力災害からの復興が依然として大きな課題となっている。大綱においても、企業立地促進区域等において機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度について、新産業創出等推進事業促進計画に係る措置の適用期限を3年延長するなど、被災地支援策が継続されている。しかし、復興財源の一部を防衛費に流用することは、被災地の人々の感情を踏みにじるものであり、道義的に許されない。
第五に、復興特別所得税の使途変更は、税に対する国民の信頼を根本から損なうものである。特定の目的のために導入された税が、別の目的に流用されることが認められれば、今後導入される目的税についても、その使途が守られない前例となる。これは租税法律主義の精神に反し、財政民主主義を脅かすものである。財政法が予算の目的外流用を厳格に禁止する理由も、まさにこの点にある。
3.防衛費を所得税で賄うことの憲法上の問題
防衛費を所得税の付加税で賄うことには、憲法上の重大な疑義が存在する。
第一に、日本国憲法第9条は戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認を定めている。政府は従来、自衛のための必要最小限度の実力は保持できるとの解釈により自衛隊の存在を合憲としてきたが、防衛費の大幅な増額は「必要最小限度」の範囲を超える可能性がある。特に、防衛特別所得税という恒久的な増税措置を講じてまで防衛費を増額することは、専守防衛の原則を逸脱し、攻撃的な軍備拡張につながる懸念がある。
第二に、憲法第84条は租税法律主義を定めており、課税の根拠、課税要件、税率等は法律で定めなければならないとしている。防衛特別所得税の導入は法律に基づいて行われるため、形式的には租税法律主義に適合しているが、その実質は復興特別所得税の流用であり、国民に対する説明責任が果たされているとは言えない。特に、復興特別所得税の課税期間延長により、実質的な国民負担が増加するにもかかわらず、「家計負担は増加しない」という説明は、国民の理解を得るための誠実な姿勢とは言えない。
第三に、憲法第29条の財産権保障との関係について検討する必要がある。
判例は、租税が財産権に対する制約であることを認めつつ、「租税は、今日では、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国民の租税負担を定めるについて、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とする」として、立法府に広範な裁量を認めている(最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁)。
しかし、同判例も「租税法の定立については、……極めて広汎な裁量的判断が認められるものであることは否定することができない。しかしながら、租税法の分野における立法の裁量を考慮しても、なおそのような不合理な取扱いをすることが明らかに立法府の裁量の範囲を超えるものと判断される場合には、当該規定は、憲法14条1項に違反して無効」とし、裁量の限界を示している。
今回の措置における問題点は、課税の重さそのものというよりも、以下の点において立法府の裁量権の逸脱が疑われることである。
(1)課税目的の正当性の欠如
復興という目的で国民が負担を受け入れた税を、事後的に防衛費に転用することは、課税の根拠となった目的を国民への十分な説明なく変更するものである。これは租税法律主義が要請する課税の予測可能性を著しく損なう。
(2)手続的正統性の欠如
このような重要な政策変更について、十分な国民的議論や国会での実質的審議を経ていない点は、租税民主主義の観点から問題である。
(3)信頼保護原則との抵触
復興特別所得税は「被災地復興」という特定目的への国民の同意に基づいて導入されたものであり、この信頼関係を事後的に裏切ることは、法的安定性を害し、憲法第29条が要請する財産権保障の趣旨に反する。
なお、大綱で示された極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置(基準所得金額の特別控除額を3.3億円から1.65億円に引下げ、税率を30%に引上げ)については、この水準の課税が直ちに「没収的課税」として違憲となる可能性は低いが、防衛費捻出のために特定の所得階層に集中的な負担を求める政策判断の妥当性については、別途検討を要する。
第四に、憲法第25条は生存権を保障しており、国は社会保障の向上及び増進に努めなければならないとしている。しかし、防衛費の増額により、社会保障費や教育費などの国民生活に直結する予算が圧迫される可能性がある。大綱では、物価高への対応や子育て世帯への支援など、国民生活の安定を図る措置も講じられているが、防衛費増額との両立が可能かは不透明である。特に、少子高齢化が進展する中で、社会保障費の自然増が見込まれるにもかかわらず、防衛費を優先することは、憲法の保障する生存権を軽視するものである。
第五に、憲法第14条は法の下の平等を保障しているが、防衛費を所得税で賄うことは、所得税を納付していない者との間で負担の不公平を生じさせる。消費税など広く国民が負担する税ではなく、所得税という特定の納税者に負担を求めることは、防衛という国家の基本的機能の費用を一部の国民にのみ負わせることになり、平等原則に反する可能性がある。
第六に、憲法第41条は国会を国権の最高機関と定めており、重要な政策決定は国会の審議を経て行われるべきである。しかし、防衛特別所得税の導入は、令和5年度税制改正大綱において既に方向性が示されており、国会での十分な審議を経ずに既成事実化されている感がある。防衛費の大幅な増額という国家の基本政策に関わる重要事項について、より丁寧な国会審議と国民的議論が必要である。財政法が予算の目的外流用について議会承認を厳格に求める趣旨も、国会の予算審議権を尊重するためであり、復興財源の防衛費への流用は、この議会権限を侵害するものである。
第七に、防衛費増額の背景には、安全保障環境の悪化があるとされるが、その判断が適切かどうかについても疑問がある。憲法第9条の平和主義の理念に基づけば、軍事力の増強よりも、外交努力による平和的な紛争解決が優先されるべきである。防衛費増額ありきで税制改正が進められることは、憲法の平和主義の理念を軽視するものである。
戦争期における租税濫用の歴史的教訓
令和8年度税制改正大綱における防衛特別所得税の導入は、日本が過去の戦争期に経験した租税濫用の歴史と深刻な類似性を持つ。この歴史的教訓を検証することは、現在の防衛財源確保策の危険性を理解する上で不可欠である。
日清・日露戦争期における租税圧迫の開始
日本政府は近代化以降、軍備拡張と戦争費用を賄うため、租税法律主義の原則を踏みにじりながら国民に過重な負担を強いてきた。
日清戦争期には、政府は軍備拡張費を酒税増税で主に賄ったが、所得税導入直後から営業税・地租を圧迫し、国民の生活基盤を揺るがした。勝利後も軍拡継続のため、租税負担率が上昇し、農民・中小商工業者の困窮を招いた。この増税は法律形式を取ったものの、戦時緊急を口実に要件を曖昧化し、租税法律主義の明確主義を無視した暴挙であった。
日露戦争では事態は更に深刻化した。戦費が国家予算(明治37年度約2億5,000万円)の5-7倍に達し、公債発行が主財源となったが、租税増税が公債償還の基盤を形成した。明治37・38年に第1・第2次非常特別税法を施行し、所得税税率を大幅引き上げ、地租・営業税・酒税も増税、相続税・通行税を新設した。非常特別税は戦時限定を謳ったが、戦後も相続税が存続し、外債利払いに充てられた。相続税導入は日露戦争財源直結で、課税価格10万円超から累進課税を課し、富裕層中心ながら中小層にも波及、総増収額は8,000万円超に上った。
今回の「復興特別所得税の期間延長と防衛税への転換」は、まさにこの「非常時の負担を理由を変えて恒久化する」という徴税権力の歴史的慣性を再燃させるものである。
政府は「国家危急」を盾に議会を操り、課税要件を不明確にし、行政の恣意を優先した。この結果、国民負担は戦後も続き、租税負担許容水準を不当に引き上げ、財政赤字を慢性化した。合法性の原則を破り、税務当局に減免裁量を与えず強制徴収を強いた点で、国民圧迫の極みであった。
第一次世界大戦期における税制濫用の拡大
第一次世界大戦参戦時、積極財政下で軍備拡張費が増大し、大正7年(1918年)寺内内閣が所得税増徴を実施した。個人・法人所得税率を平均20%引き上げ、超過累進税率の最高階級を拡大、戦時利得税を創設した。課税対象を配当金・留保所得に広げ、小所得者軽減を謳いつつ実質負担増大を招いた。
大正9年(1920年)所得税法全文改正で総合課税主義を強化、低所得者負担軽減を図ったが、戦後恐慌で貧富格差拡大を助長した。軍事費財源として酒税・所得税を増徴、国債償還停止を併用、平年度1億3,000万円超の増収を期待した。この税制は戦時経済変動を口実に要件明確主義を欠き、納税予測を不可能にした。政府の裁量独走は租税法律主義の法定主義を崩壊させ、国民の財産を軍拡に没収したに等しい。
第二次世界大戦期における租税圧迫の頂点
第二次世界大戦期は国民圧迫の頂点である。日中戦争(1937年)から軍事費が急膨張、臨時軍事費特別会計が一般会計を上回り、1940年(昭和15年)所得税源泉徴収を開始、社会保険料増額を並行した。課税最低限を引き下げ(1945年3千円超)、最高税率を68.7%(100万円超)に引き上げ、臨時利得税を繰り返し増徴した。
国税総額に占める所得税・法人税比率が33%(1935年)から69%(1944年)に急増、個人所得税が後半重点化、購買力吸収を目的に中下層(申告者の66%)負担率を11.5%超に押し上げた。財産税・戦時補償特別税で最大90%課税、預金封鎖を伴い国民財産を再分配、戦時補償を無効化した。
賀屋大蔵大臣は「国家収入増加と購買力吸収」を公言、インフレ抑制名目で生活破壊を正当化した。課税ベース拡大(軍需生産で所得伸長)も、勤労所得中心の構造変動で低所得層犠牲を強いた。この全過程で租税法律主義は形骸化、軍部主導の行政裁量が課税要件を恣意的に拡大、手続保障を無視した。国民は飢餓・貧困に陥り、戦後財政破綻の遠因を生んだ。
租税法律主義の4要素の侵害と予算流用の蔓延
これらの戦争期税制は、すべて租税法律主義の4要素を侵害した。第一に法定主義については、政府は緊急性を盾に法律を急造・改正し、議会を形式的追認機関に貶めた。第二に明確主義については、課税要件を曖昧にし、税務当局の裁量を拡大することで、納税者の予測可能性を奪った。第三に合法性の原則については、戦時という非常時を理由に、法の支配を停止し、行政の恣意的判断を優先した。第四に手続保障については、税務当局に絶対徴収権を与え、納税者の権利救済手段を事実上剥奪した。
戦前・戦時における予算流用の実態と財政法制定の歴史的背景
さらに重大な歴史的事実として、戦時において予算の目的外流用が常態化し、財政民主主義が完全に崩壊したことが挙げられる。
(1)旧憲法下の予算制度の欠陥
大日本帝国憲法下では、予算は法律ではなく「天皇の大権事項」とされ、議会の統制が不十分であった。特に軍事費については、「統帥権の独立」を理由に議会の関与が制限され、事実上の聖域となっていた。
(2)臨時軍事費特別会計の暴走
日中戦争開始後の1937年、政府は「臨時軍事費特別会計」を創設した。この特別会計は一般会計から完全に切り離され、議会の統制が極めて弱かった。当初は戦時限定とされたが、戦争の長期化とともに膨張を続け、1944年度には一般会計(80億円)を大きく上回る220億円に達した。
(3)民生予算の軍事転用
「国家総動員法」(1938年)の下、政府は勅令により民生予算を軍事目的に転用する権限を持った。教育費、社会政策費、産業振興費など、本来国民生活のために編成された予算が、議会の議決を経ずに軍事費に転用された。
(4)予算審議の形骸化
戦時中、予算案は「軍事機密」を理由に詳細が秘匿され、議会は実質的な審議を行えなかった。議員が予算内容について質問することすら「非国民的行為」とされる状況であった。
(5)戦後財政法制定の理念
このような歴史的教訓を踏まえ、1947年に制定された財政法は、予算に対する国会の統制を徹底的に強化した。特に第33条第1項による予算流用の厳格な禁止は、「特定目的のために議決された予算が、行政の判断で別の目的に転用されることを二度と許さない」という強い決意の表れである。
(6)現代への警告
今回の復興特別所得税の実質的な防衛費への転用は、形式こそ異なるものの、「民生目的の財源を軍事目的に転用する」という構造において、戦前・戦時の予算濫用と本質的に共通している。財政法第33条第1項が厳格に流用を禁止する趣旨は、まさにこのような事態を防ぐためであり、税制改正という形式を取ることでこの趣旨を潜脱することは許されない。
結果、国民負担率は急増(戦前期9%未満から戦時15%超)し、経済歪曲・社会不安を招き、民主主義を損ない、戦後復興を阻害した。この圧迫史は、国家権力の租税濫用と予算流用がもたらす惨禍の教訓である。
現代における危険な類似性
令和8年度税制改正大綱における防衛特別所得税の導入は、この歴史的教訓を無視するものである。
第一に、防衛費という軍事目的のために所得税を増税する構造は、戦争期における所得税増税と本質的に同一である。
第二に、復興特別所得税の課税期間延長という手法により、実質的な増税を隠蔽する手法は、戦時における「非常特別税」が戦後も存続した構造と酷似している。
第三に、「家計負担は増加しない」という説明により国民の理解を得ようとする姿勢は、戦時において「小所得者軽減」を謳いながら実質負担増大を招いた欺瞞と同様である。
第四に、安全保障環境の悪化という名目で防衛費増額を正当化する論理は、「国家危急」を盾に増税を強行した戦時の論理と変わらない。
第五に、国会審議が形式化し、既成事実化が進む現状は、戦時において議会が形式的追認機関に貶められた状況の再現である。
第六に、財政規律の枠組みが不明確なまま恒久的増税を行う姿勢は、戦時において課税要件が曖昧化され、行政裁量が拡大した状況と類似している。
第七に、復興財源を防衛費に流用する手法は、戦時において民生予算が軍事目的に転用された歴史と重なる。財政法が予算の目的外流用を厳格に禁止する理由は、まさにこの戦時の予算流用を二度と繰り返さないためである。復興特別所得税の使途変更は、財政法の趣旨を潜脱し、戦前の予算濫用を復活させる危険な試みである。
戦時中の「臨時軍事費特別会計」が辿った無制限の膨張という破滅的な経路を、我々は「複数年均衡」や「防衛特別所得税」という名の下に再び歩もうとしているのである。)
歴史からの警告
歴史は明確に警告している。軍事費を所得税増税で賄う政策は、租税法律主義を蝕み、国民生活を破壊し、財政を破綻させ、最終的には国家そのものを崩壊に導く。戦時における租税圧迫は、一時的な緊急措置として開始されながら、恒久化し、拡大し、制御不能となった。非常特別税として導入された相続税が戦後も存続したように、防衛特別所得税も一度導入されれば、撤廃されることなく恒久化する危険性が高い。
さらに重要なことは、戦争期における租税増税と予算流用が、単に財政問題にとどまらず、民主主義そのものを破壊したという事実である。議会が形式化され、行政裁量が拡大し、国民の権利が制限される過程は、まさに全体主義への道程であった。防衛特別所得税の導入と復興財源の流用は、この危険な道を再び歩み始める第一歩となる可能性がある。
憲法第9条と戦後の財政法は、この歴史的教訓を踏まえて制定された。戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認という徹底した平和主義、および予算の目的外流用の厳格な禁止は、二度と戦争による国民圧迫を繰り返さないという決意の表れである。防衛特別所得税の導入と復興財源の流用は、憲法と財政法の理念を根本から否定するものである。
【要点】
令和8年度税制改正大綱における防衛財源確保策は、次の重大な問題を抱えている。
第一に、財源担保の構造的問題である。恒久的な防衛費増額に対して、景気変動に左右される所得税に依存する構造は、安定的な防衛力整備を阻害する。完全な財源確保の見通しが立っていない状態での増税実施、租税特別措置の廃止などによる一時的な財源確保策への依存、複数年の財政均衡の具体的制度設計の欠如など、財政の持続可能性に疑問がある。「経済あっての財政」を掲げながら所得税増税を行うことは、家計の可処分所得を減少させ、消費を抑制する矛盾を含んでいる。
第二に、東日本大震災復興財源の実質的転用という法的・道義的問題である。
(1)法的問題の所在
復興特別所得税の税率を1%引き下げ、同時に防衛特別所得税(税率1%)を創設し、さらに復興特別所得税の課税期間を10年延長するという一連の措置は、形式的には三つの独立した税制改正として構成されている。
しかし実質的には、本来令和20年以降は課税されないはずだった復興特別所得税(税率1%分)を令和29年まで延長し、その延長期間の税収を防衛費に充当する構造となっており、これは「復興財源の防衛費への転用」に他ならない。
(2)財政法との関係
この措置は、厳密な意味での財政法第33条第1項の「予算の流用」には該当しない。同条は「既に成立した予算の執行段階における項間の流用」を規制する規定であり、税制改正により新たな歳入を創設する行為は、形式的には同条の適用範囲外である。
しかし、財政法第33条第1項が予算の流用を厳格に禁止する趣旨は、「国会が特定目的のために議決した財源を、行政の判断で別の目的に転用することを防ぐ」という財政民主主義の確保にある。今回の措置は、税制改正という形式を取ることで同条の直接適用を免れているが、「復興のために国民が負担を受け入れた税を、防衛費に転用する」という実質において、同条が防ごうとした事態そのものである。
(3)租税法律主義の目的拘束性
復興財源確保法第2条は、復興特別所得税について「東日本大震災からの復興のための
施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置に要する費用の財源に充てるため」と明確に目的を限定している。この法定の目的拘束性を、課税期間延長という形式により実質的に無効化することは、租税法律主義(憲法第84条)の趣旨に反する。
(4)国民の信頼保護原則
復興特別所得税は、被災地復興という目的に対する国民の続ける同意と負担受容を前提に導入された。この信頼関係を裏切り、別の目的(防衛費)に転用することは、租税法律主義が要請する予測可能性と信頼保護の原則に反し、ひいては憲法第29条の財産権保障の趣旨にも抵触する疑義がある。
(5)法的評価の結論
以上より、今回の措置は、形式的には財政法第33条第1項の直接違反には該当しないが、同条が体現する財政民主主義の趣旨を実質的に潜脱し、租税法律主義の目的拘束性
および国民の信頼保護原則に明白に反するものである。
財政法は1947年制定時から、戦前の予算乱用を反省し、歳出予算の款項間流用を厳格に禁止してきた。同法第33条第2項は「国からの経費の支出は、歳出予算に定める各項の経費の金額について、これを超える支出をすることができない」と規定し、議会の議決を尊重し財政民主主義を確保することを目的としている。例外は「災害應急費に充てる場合その他財務大臣の承認を受けた場合」に限定され、実務上は補正予算が適正手続とされる。
地方自治法第220条第2項も同様の規定を置き、江南市監査や魚沼市監査では款項外支出や予備費の新規事業充用が違法と判断されている。
復興という特定目的のための税収を防衛費に振り向けることは、財政法の根本趣旨に反する。復興特別所得税は被災地の復興という明確な目的のために国民が負担を受け入れたものであり、その使途変更は国民に対する欺瞞である。課税期間を10年間延長し、令和20年から令和29年までの本来課税されないはずだった期間の税収を実質的に防衛費に充当する構造は、時間軸を利用した財政法の潜脱である。これは被災地の人々の感情を踏みにじり、税に対する国民の信頼を根本から損なうものである。
第三に、防衛費を所得税で賄うことの憲法上の問題である。 憲法第9条の平和主義の理念に照らせば、防衛特別所得税という恒久的な増税措置を講じてまで防衛費を増額することは、専守防衛の原則を逸脱し、攻撃的な軍備拡張につながる懸念がある。 憲法第84条の租税法律主義の観点からは、復興特別所得税の実質的な流用でありながら「家計負担は増加しない」という説明は、国民への説明責任を果たしていない。
憲法第13条の個人の尊重及び第29条の財産権保障の観点からは、高所得者に対する過度な課税強化(基準所得金額の特別控除額を3.3億円から1.65億円に引下げ、税率を22.5%から30%に引上げ)は、これらの権利を侵害する可能性がある。
憲法第25条の生存権保障の観点からは、防衛費増額により社会保障費や教育費などの国民生活に直結する予算が圧迫されることは、生存権を軽視するものである。
憲法第14条の平等原則の観点からは、所得税納付者のみに負担を求めることは、防衛という国家の基本的機能の費用を一部の国民にのみ負わせることになり、平等原則に反する可能性がある。
憲法第41条の国会の地位に関して、防衛費の大幅な増額という国家の基本政策に関わる重要事項が、国会での十分な審議を経ずに既成事実化されていることは、国会の地位を軽視するものであり、財政法が予算流用について議会承認を厳格に求める趣旨にも反する。
第四に、戦争期における租税濫用と予算流用の歴史的教訓である。 日清・日露戦争から第二次世界大戦に至るまで、日本政府は軍備拡張と戦争費用を賄うため、所得税をはじめとする租税を急激に増税し、租税法律主義を踏みにじりながら国民に過重な負担を強いた。
日清戦争期には、政府は軍備拡張費を酒税増税で主に賄ったが、所得税導入直後から営業税・地租の負担も増加させ、国民の生活基盤を揺るがした。戦費総額は約2億円(当時の国家予算の約2倍)に達し、勝利後も軍拡継続のため租税負担率が上昇し続けた。この増税は法律形式を取ったものの、「戦時緊急」を口実に課税要件を曖昧化し、租税法律主義の明確主義原則を軽視する端緒となった。
日露戦争では非常特別税として所得税税率を大幅引上げ、相続税・通行税を新設し、戦費が国家予算の5-7倍に達した。第一次世界大戦期には所得税率を平均20%引上げ、戦時利得税を創設した。第二次世界大戦期には所得税源泉徴収を導入し、課税最低限を引下げ、最高税率を68.7%に引上げ、国税総額に占める所得税・法人税比率が33%(1935年)から69%(1944年)に急増した。
これらはすべて「国家危急」「戦時緊急」を口実とした租税圧迫であり、租税法律主義の4要素(法定主義・明確主義・合法性・手続保障)をすべて侵害した。政府は緊急性を盾に法律を急造・改正し、議会を形式的追認機関に貶め、課税要件を曖昧化し、行政裁量を拡大し、納税者の権利救済手段を剥奪した。さらに重大なことは、戦時において予算の目的外流用が常態化したことである。
本来民生目的の予算が軍事目的に転用され、議会の予算審議権が形骸化した。財政法が予算の目的外流用を厳格に禁止する規定を設けた理由は、まさにこの戦前の予算濫用を二度と繰り返さないためである。結果、国民は飢餓・貧困に陥り、国民負担率は急増(戦前期9%未満から戦時15%超)し、経済歪曲・社会不安を招き、民主主義を損ない、戦後財政破綻の遠因を生んだ。
第五に、令和8年度税制改正大綱における防衛特別所得税と復興財源流用が、戦争期の歴史と危険な類似性を持つことである。
軍事目的のための所得税増税、「非常特別税」の恒久化と同様の復興特別所得税課税期間延長、「家計負担は増加しない」という欺瞞的説明、防衛力強化(安全保障環境悪化)という名目での正当化、国会審議の形式化、財政規律の枠組み不明確化、そして民生予算の軍事転用と同様の復興財源の防衛費流用など、戦時租税圧迫と予算流用の構造が再現されつつある。
歴史は明確に示している。軍事費を所得税増税で賄い、予算を目的外流用する政策は、租税法律主義と財政民主主義を蝕み、国民生活を破壊し、財政を破綻させ、民主主義を崩壊させる。一時的な緊急措置として開始された戦時増税と予算流用が恒久化し、拡大し、制御不能となった歴史を、我々は決して忘れてはならない。憲法第9条の平和主義と財政法第27条の予算流用禁止規定は、この歴史的教訓を踏まえたものである。
結論として、令和8年度税制改正大綱における防衛財源確保策は、法理的・道義的・歴史的に重大な欠陥を抱えており、即刻撤回されるべきである。戦争は常に財政の不透明化と租税民主主義の死から始まることを忘れてはならない。
【閑話 完】
【引用・参照・底本】
「強い経済」への決断と実行 令和8年度与党税制改正大綱を決定 自民党 2025.12.19
https://www.jimin.jp/news/policy/212129.html
令和8年度与党税制改正大綱
https://storage2.jimin.jp/pdf/news/policy/212129_1.pdf
令和8年度税制改正大綱における防衛財源問題の批判的分析
【概要】
令和8年度税制改正大綱は、自由民主党と日本維新の会の連立体制の下で策定された。主要な内容として、物価上昇に連動した基礎控除等の引上げ仕組みの創設、課税最低限の178万円への引上げ、大胆な設備投資促進税制の創設、研究開発税制の拡充などが含まれる。 具体的には、物価スライド制による168万円への引上げに加え、三党合意に基づく「基礎控除の特例」10万円を上乗せし、178万円を実現している。しかし、この特例は令和8年・9年の時限措置であり、国民を一時的に懐柔するための政治的演出であるとの批判を免れない。
防衛力強化に係る財源確保については、令和9年1月から所得税額に対して税率1%の新たな付加税として「防衛特別所得税(仮称)」を課すこととされた。同時に、現行の復興特別所得税の税率を2.1%から1.1%に引き下げ、課税期間を令和19年までから令和29年までに延長する措置が講じられる。この措置により、足元での家計負担は増加しないとされている。 しかし、この防衛財源確保策には、(1)財源担保の構造的問題、(2)東日本大震災復興財源の流用という道義的問題、(3)防衛費を所得税で賄うことの憲法上の問題という3つの重大な問題が存在する。
さらに、復興特別所得税の使途変更は、財政法が定める予算の目的外流用禁止の原則に抵触する疑義があり、日本の戦争期における租税濫用の歴史を検証すれば、軍事費を所得税増税で賄う手法が、租税法律主義を蝕み、国民生活を破壊してきた事実が明らかとなる。
【詳細】
1.財源担保の構造的問題
大綱では「恒久政策には安定財源」の思想を堅持するとしながら、防衛特別所得税の導入による財源確保策には根本的な矛盾が存在する。
第一に、防衛費の恒久的増額に対して、所得税の付加税という不安定な税収に依存する構造となっている点である。所得税収は景気変動の影響を強く受けるため、経済が悪化した場合には税収が大幅に減少する。防衛力整備は継続的かつ計画的に実施される必要があるにもかかわらず、その財源を景気に左右される所得税に依存させることは、安定的な防衛力整備を阻害する要因となる。
大綱が掲げる「経済あっての財政」が真実ならば、不況時には防衛財源が不足することを容認せねばならないが、軍事計画にその柔軟性はなく、結局はさらなる増税か公債に頼る「戦時財政」の蟻地獄へ陥るリスクを孕んでいる。
第二に、大綱では揮発油税等の当分の間税率廃止及びいわゆる教育無償化に係る財源確保について、令和8年度税制改正により約1.2兆円(平年度ベース)の財源が確保されるとしているが、「これに加え歳出改革等の努力による財源捻出によってもなお不足する財源については、安定財源を確保するための具体的な方策を引き続き検討し、令和9年度税制改正において結論を得る」としている。
つまり、完全な財源確保の見通しが立っていない状態で防衛特別所得税を導入することになる。恒久的に増大し続ける防衛費という支出に対し、それを賄うための裏付け(安定財源)が全額確定していないにもかかわらず、増税という手段だけを先に既成事実化させている」という計画の杜撰さと危うさが指摘される。
第三に、税制改正大綱において賃上げ促進税制の大企業向け措置を適用期限を待たずに廃止し、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置を見直すなどして財源を確保するとしているが、これらは一時的な財源確保策に過ぎない。租税特別措置の廃止による増収は継続的に見込めるものではなく、恒久的な防衛費増額の財源としては不十分である。 特に、投資や賃上げに消極的な企業に対し租税特別措置の適用を停止する「ペナルティ」的な運用は、税制を国家目的(防衛)への服従を強いる「動員装置」へと変質させるものであり、租税法律主義の予測可能性を著しく損なう。
第四に、複数年(旧財政法:複数年度予算可能、柔軟性高め)の財政均衡について「一歩を踏み出す時に来ている」としながら、具体的な制度設計は示されていない。単年度主義に過度にとらわれない柔軟な財政運営を目指すとしているが、防衛特別所得税の導入という恒久的な増税措置を講じるにもかかわらず、財政規律の枠組みが不明確なままでは、財政の持続可能性に疑問が残る。この「複数年均衡」という概念は、単年度の議会統制を逃れるためのレトリックであり、戦時中に一般会計から切り離され暴走した「臨時軍事費特別会計」の論理を彷彿とさせる。
第五に、「経済あっての財政」の方針を掲げながら、所得税の増税を行うことは、家計の可処分所得を減少させ、消費を抑制する効果を持つ。復興特別所得税の税率引下げにより相殺されるとしているが、復興財源確保のために課税期間が10年間延長されることで、長期的には国民負担が増加する構造となっている。 「基礎控除178万円」という減税の飴を与えつつ、その裏で防衛税という鞭を恒久化する行為は、国民に対する悪質な朝三暮四である。
2.東日本大震災復興財源の流用問題
防衛財源確保のために復興特別所得税を1%引き下げ、その分を防衛特別所得税として徴収する措置は、実質的に復興財源の防衛費への流用である。この措置は、財政法が定める予算の目的外流用禁止の原則に抵触する重大な疑義を生じさせる。
財政法における予算流用禁止の原則
財政法第33条第1項は、歳出予算の各項の間(款項間)の流用を厳格に禁じている。
「各省各庁の長は、歳出予算に定める各項の経費の金額を、各項の間において相互に流用することができない」とするこの規定は、国会による予算の目的拘束性を担保するものであり、財政民主主義の核心である。
なお、財政法第32条は各省庁間での経費の「移用」を禁止する規定であり、第33条とは区別される。
一方で、財政法第27条は「予算は、毎会計年度、その案を歳入歳出予算、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為として国会に提出しなければならない」と定め、予算編成における国会の事前統制を確保している。今回の防衛財源確保策が、「家計負担増なし」という説明を伴いながら、実質的には復興財源を防衛費に転用し、かつ「将来の結論先送り」を含んだ不完全な内容で進められていることは、第27条が求める透明な予算編成プロセスの精神に反する。
さらに、第33条第1項の流用禁止原則は、国会が議決した予算の目的拘束性を守るための規定であり、その趣旨は「特定目的のために国民が負担を受け入れた税を、別の目的に使用してはならない」という財政民主主義の要請に他ならない。
復興特別所得税の使途変更は、形式的には新たな税法の制定という手続を経るが、実質的には第33条が防ごうとした「予算の目的外使用」に該当し、同条の趣旨を潜脱するものである。
財政法における「流用」とは、既に成立した予算の執行段階において、予算区分(款・項・目・節)内の経費を当初の目的とは異なる目的に振り替える行為を指す。特に国会の議決対象である『項』の間の流用は、財政法第33条第1項により原則として禁止されている。同条は『各省各庁の長は、歳出予算に定める各項の経費の金額を、各項の間において相互に流用することができない』と規定しており、これは行政の恣意を排除し、財政民主主義を確保するための基本原則である。
例外規定として、同条第2項は、予算の執行上必要がある場合に限り、「財務大臣の承認を経て」項の金額を流用することを認めているが、これは不測の事態に対応するための極めて限定的な例外である。
なお、財政法第32条は各省庁間での経費の「移用」を禁止する規定であり、第33条の「流用」(項間の異動)とは区別される。第32条は「各省各庁の長は、歳出予算に定める各項の経費の金額を、各項の間において、相互に移用することができない」と定め、省庁の壁を超えた予算の移動を原則禁止している。
また、同じく財政法第33条第2項は、目・節間の流用(移用・流用)を財務大臣の承認によって可能とし、さらに同条第4項に基づき省庁長の裁量で節内流用を許容する場合もあるが、これらには厳格な手続と事後の支払報告書提出が義務付けられている。一方、予備費(財政法第24条、第25条等)は「予見し難い予算の不足」に充てるためのものであり、予算外支出や予算超過を補填する制度である。予備費を新規事業に使用することは原則として国会の事後承諾を要する重大な手続であり、既存予算の使い道を変える『流用』とは明確に区別される。
今回の復興財源の防衛費への転用は、こうした財政法上の厳格な流用禁止規定を、法改正という形式を用いて実質的に無効化するものであり、財政法が守ろうとした「議会による予算統制」に対する明白な「潜脱」であると断じざるを得ない。
法的評価の総括
政府は「税制改正であり予算の流用ではない」と主張する可能性があるが、
これは以下の点で財政民主主義の本質を見誤った形式論である:
(1)財政法第33条第1項の趣旨との関係
同条が予算の流用を禁止する趣旨は、「国会が特定目的のために議決した財源を、行政が別の目的に転用することを防ぐ」という財政民主主義の確保にある。形式的に税制改正という手続を経たとしても、「復興のために国民が負担を受け入れた税を、防衛費に転用する」という実質において、同条が防ごうとした事態そのものである。
(2)租税法律主義の目的拘束性
復興財源確保法は、復興特別所得税の使途を明確に限定している。この法定の目的拘束を、課税期間延長という形式により実質的に無効化することは、租税法律主義(憲法第84条)が要請する「課税の根拠・要件の法定」の趣旨に反する。国民は「復興のため」という目的に同意して負担を受け入れたのであり、その目的を事後的に変更することは、租税に対する国民の信頼を根本から損なう。
(3)予算審議権の実質的侵害
このような大規模な財源の使途変更は、本来、補正予算または予算の組替えという形で国会の審議・議決を経るべきである。税制改正という形式を取ることで、より詳細な予算審議を回避していることは、憲法第41条が定める国会の予算審議権を実質的に侵害するものである。
(4)地方自治体の監査基準との整合性
地方自治法第220条第2項に基づく地方自治体の監査実務では、目的を異にする予算間の流用は厳格に禁止され、違法と判断されている。国の財政においても、同様の財政民主主義の原則が妥当するべきであり、地方自治体では違法とされる行為が国では許容されるという二重基準は正当化できない。
結論として、今回の措置は、形式的には財政法第33条第1項の直接違反には該当しないものの、同条が体現する財政民主主義の趣旨を実質的に潜脱するものであり、
憲法および財政法の基本原則に照らして重大な疑義がある。さらに、租税法律主義の目的拘束性および国民の信頼保護原則に明白に反するものと評価されるべきである。
例外規定として、第33条第2項は「災害應急費に充てる場合その他財務大臣の承認を受けた場合」に限り流用を認めるが、これは極めて限定的な例外である。また、第33条は目・節間の流用を財務大臣承認で可能とし、省庁長の裁量で節内流用を許容するが、事後報告義務が課される。予備費(財政法第26条)は予算外支出に充てられるが、新規事業に使う場合も議会承認を要し、流用とは明確に区別される。
財政法における流用規制の実務と地方自治体における同様の規制
国の予算執行において、当初予算で定められた使途とは異なる目的への支出が必要となった場合、原則として補正予算を編成し、国会の議決を経ることが求められる。財政法第33条第2項による財務大臣の承認による流用は、あくまで「予算の執行上必要がある場合」の例外的措置であり、大規模な政策変更を伴う使途変更には適用されない。
地方財政においても同様の規制が存在する。地方自治法第220条第2項は「普通地方公共団体の長は、歳入歳出予算の各項の経費の金額を流用することができない。ただし、各項の経費の金額を各項の間において相互に流用する場合にあっては、予算の執行上必要があるときに限り、条例の定めるところにより、これを流用することができる」と規定している。
地方自治体における監査実務では、この流用規制違反が厳格に判断されている。
例えば、
(1)江南市監査委員(2021年度)
款項外支出を「予算の目的外使用であり、違法不当な予算流用」と認定。
議会の議決を経ずに目的を変更したことを財政民主主義の侵害と判断。
(2)魚沼市監査委員(令和3年度)
予備費を新規事業に充当したことを「予備費の目的外使用」として違法と判断。
予備費は「予算外の支出又は予算超過の支出」に充てるものであり、新規事業への流用は認められないとした。
これらの監査事例は、「特定目的のために議決された予算を、別の目的に転用することは、たとえ手続的に適法であっても、財政民主主義の観点から許されない」という原則を示している。この原則は、国の財政においても等しく妥当するものである。
今回の復興特別所得税の実質的な防衛費への転用は、地方自治体で行われれば
明白に監査で違法と判断されるべき性質の行為であり、国の財政だからといって許容されるべきではない。むしろ、国の財政においてこそ、より厳格な財政民主主義の遵守が求められるべきである。
復興特別所得税の使途変更と財政法違反の疑義
復興特別所得税は、東日本大震災復興特別区域法および東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(復興財源確保法)によって、復興という特定の目的のために導入された実質的な目的税である。その税収は東日本大震災復興特別会計に繰り入れられ、復興事業の財源として使途が厳格に限定されている。
今回の措置は、形式的には(1)復興特別所得税の税率引下げ、(2)新たな防衛特別所得税の創設、(3)復興特別所得税の課税期間延長、という三つの税制改正として構成されている。しかし実質的には、本来令和20年以降は課税されないはずだった復興特別所得税(税率1%分)を令和29年まで延長し、その延長された期間の税収を防衛費に充当する構造となっている。
これは厳密な意味での財政法第33条第1項の「予算の流用」には該当しないが、以下の点で同条が守ろうとする財政民主主義の趣旨に反する。
(1)目的拘束性の侵害
復興財源確保法は、復興特別所得税の使途を「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保」に明確に限定している。この法的拘束を、税制改正という形式を用いて実質的に無効化することは、法律による目的拘束性を潜脱するものである。
(2)国民の信頼保護原則の違反
復興特別所得税は、被災地復興という目的に対する国民の同意と負担受容を前提に導入された。この信頼関係を裏切り、別の目的(防衛費)に転用することは、租税法律主義が要請する予測可能性と信頼保護の原則に反する。
(3)財政法の趣旨の潜脱
財政法第33条第1項が予算の流用を厳格に禁止する趣旨は、「国会が特定目的のために議決した予算を、行政が恣意的に別の目的に使用することを防ぐ」という財政民主主義の確保にある。今回の措置は、税制改正という形式を取ることで同条の直接適用を免れているが、「特定目的のために国民が負担を受け入れた税を、別の目的に転用する」という実質において、同条が防ごうとした事態そのものである。
(4)補正予算原則の回避
本来、このような財源の使途変更を行う場合には、補正予算を編成し、国会の審議・議決を経るべきである。税制改正という手法を用いることで、より厳格な予算審議を回避している点も、財政民主主義の観点から問題である。
財政法が予算の目的外流用を厳格に禁止する理由は、議会の議決を尊重し、財政民主主義を確保するためである。復興特別所得税は、被災地の復興という明確な目的のために国民が負担を受け入れたものであり、その使途を変更することは、国民の意思に反する予算執行である。仮に財務大臣の承認があったとしても、復興から防衛への使途変更は「災害應急費に充てる場合その他」の例外に該当せず、補正予算による正規の手続を経るべきである。
さらに重大な問題は、この措置が法律の形式を取ることにより、財政法違反を回避しようとしている点である。税法を改正して復興特別所得税の税率を引き下げ、同時に防衛特別所得税を導入することで、形式的には流用ではないという体裁を整えているが、実質的には復興財源の防衛費への流用に他ならない。このような形式主義は、財政法の趣旨を潜脱するものであり、財政民主主義の観点から許されない。
道義的問題と国民の信頼喪失
第一に、復興特別所得税は東日本大震災からの復旧・復興に要する財源を確保するために、平成25年から令和19年まで所得税額に2.1%を付加する形で導入された。この税は、被災地の復興という明確な目的のために国民が負担を受け入れたものであり、その使途は厳格に限定されるべきである。しかし、防衛特別所得税の導入により、実質的に復興財源の一部が防衛費に振り向けられることになる。
第二に、大綱では「復興特別所得税の税率を1%引き下げ、家計負担は増加しない形で実行する」としているが、これは国民に対する欺瞞である。復興特別所得税の課税期間を令和29年まで10年間延長することにより、復興財源の総額は確保するとしているが、本来令和19年に終了するはずだった復興増税が令和29年まで継続されることになる。つまり、令和20年から令和29年までの10年間は、本来課税されないはずだった復興特別所得税が継続されることになり、その分が実質的に防衛費に充当されることになる。
第三に、大綱では「令和8年度税制改正後も、東日本大震災からの復旧・復興に要する財源については、引き続き責任を持って確保する」としているが、具体的な確保策は示されていない。復興事業は今後も継続的に必要とされるにもかかわらず、その財源の一部を防衛費に振り向けることは、復興事業の遅延や縮小につながる可能性がある。
第四に、福島県をはじめとする被災地では、原子力災害からの復興が依然として大きな課題となっている。大綱においても、企業立地促進区域等において機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度について、新産業創出等推進事業促進計画に係る措置の適用期限を3年延長するなど、被災地支援策が継続されている。しかし、復興財源の一部を防衛費に流用することは、被災地の人々の感情を踏みにじるものであり、道義的に許されない。
第五に、復興特別所得税の使途変更は、税に対する国民の信頼を根本から損なうものである。特定の目的のために導入された税が、別の目的に流用されることが認められれば、今後導入される目的税についても、その使途が守られない前例となる。これは租税法律主義の精神に反し、財政民主主義を脅かすものである。財政法が予算の目的外流用を厳格に禁止する理由も、まさにこの点にある。
3.防衛費を所得税で賄うことの憲法上の問題
防衛費を所得税の付加税で賄うことには、憲法上の重大な疑義が存在する。
第一に、日本国憲法第9条は戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認を定めている。政府は従来、自衛のための必要最小限度の実力は保持できるとの解釈により自衛隊の存在を合憲としてきたが、防衛費の大幅な増額は「必要最小限度」の範囲を超える可能性がある。特に、防衛特別所得税という恒久的な増税措置を講じてまで防衛費を増額することは、専守防衛の原則を逸脱し、攻撃的な軍備拡張につながる懸念がある。
第二に、憲法第84条は租税法律主義を定めており、課税の根拠、課税要件、税率等は法律で定めなければならないとしている。防衛特別所得税の導入は法律に基づいて行われるため、形式的には租税法律主義に適合しているが、その実質は復興特別所得税の流用であり、国民に対する説明責任が果たされているとは言えない。特に、復興特別所得税の課税期間延長により、実質的な国民負担が増加するにもかかわらず、「家計負担は増加しない」という説明は、国民の理解を得るための誠実な姿勢とは言えない。
第三に、憲法第29条の財産権保障との関係について検討する必要がある。
判例は、租税が財産権に対する制約であることを認めつつ、「租税は、今日では、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国民の租税負担を定めるについて、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とする」として、立法府に広範な裁量を認めている(最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁)。
しかし、同判例も「租税法の定立については、……極めて広汎な裁量的判断が認められるものであることは否定することができない。しかしながら、租税法の分野における立法の裁量を考慮しても、なおそのような不合理な取扱いをすることが明らかに立法府の裁量の範囲を超えるものと判断される場合には、当該規定は、憲法14条1項に違反して無効」とし、裁量の限界を示している。
今回の措置における問題点は、課税の重さそのものというよりも、以下の点において立法府の裁量権の逸脱が疑われることである。
(1)課税目的の正当性の欠如
復興という目的で国民が負担を受け入れた税を、事後的に防衛費に転用することは、課税の根拠となった目的を国民への十分な説明なく変更するものである。これは租税法律主義が要請する課税の予測可能性を著しく損なう。
(2)手続的正統性の欠如
このような重要な政策変更について、十分な国民的議論や国会での実質的審議を経ていない点は、租税民主主義の観点から問題である。
(3)信頼保護原則との抵触
復興特別所得税は「被災地復興」という特定目的への国民の同意に基づいて導入されたものであり、この信頼関係を事後的に裏切ることは、法的安定性を害し、憲法第29条が要請する財産権保障の趣旨に反する。
なお、大綱で示された極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置(基準所得金額の特別控除額を3.3億円から1.65億円に引下げ、税率を30%に引上げ)については、この水準の課税が直ちに「没収的課税」として違憲となる可能性は低いが、防衛費捻出のために特定の所得階層に集中的な負担を求める政策判断の妥当性については、別途検討を要する。
第四に、憲法第25条は生存権を保障しており、国は社会保障の向上及び増進に努めなければならないとしている。しかし、防衛費の増額により、社会保障費や教育費などの国民生活に直結する予算が圧迫される可能性がある。大綱では、物価高への対応や子育て世帯への支援など、国民生活の安定を図る措置も講じられているが、防衛費増額との両立が可能かは不透明である。特に、少子高齢化が進展する中で、社会保障費の自然増が見込まれるにもかかわらず、防衛費を優先することは、憲法の保障する生存権を軽視するものである。
第五に、憲法第14条は法の下の平等を保障しているが、防衛費を所得税で賄うことは、所得税を納付していない者との間で負担の不公平を生じさせる。消費税など広く国民が負担する税ではなく、所得税という特定の納税者に負担を求めることは、防衛という国家の基本的機能の費用を一部の国民にのみ負わせることになり、平等原則に反する可能性がある。
第六に、憲法第41条は国会を国権の最高機関と定めており、重要な政策決定は国会の審議を経て行われるべきである。しかし、防衛特別所得税の導入は、令和5年度税制改正大綱において既に方向性が示されており、国会での十分な審議を経ずに既成事実化されている感がある。防衛費の大幅な増額という国家の基本政策に関わる重要事項について、より丁寧な国会審議と国民的議論が必要である。財政法が予算の目的外流用について議会承認を厳格に求める趣旨も、国会の予算審議権を尊重するためであり、復興財源の防衛費への流用は、この議会権限を侵害するものである。
第七に、防衛費増額の背景には、安全保障環境の悪化があるとされるが、その判断が適切かどうかについても疑問がある。憲法第9条の平和主義の理念に基づけば、軍事力の増強よりも、外交努力による平和的な紛争解決が優先されるべきである。防衛費増額ありきで税制改正が進められることは、憲法の平和主義の理念を軽視するものである。
戦争期における租税濫用の歴史的教訓
令和8年度税制改正大綱における防衛特別所得税の導入は、日本が過去の戦争期に経験した租税濫用の歴史と深刻な類似性を持つ。この歴史的教訓を検証することは、現在の防衛財源確保策の危険性を理解する上で不可欠である。
日清・日露戦争期における租税圧迫の開始
日本政府は近代化以降、軍備拡張と戦争費用を賄うため、租税法律主義の原則を踏みにじりながら国民に過重な負担を強いてきた。
日清戦争期には、政府は軍備拡張費を酒税増税で主に賄ったが、所得税導入直後から営業税・地租を圧迫し、国民の生活基盤を揺るがした。勝利後も軍拡継続のため、租税負担率が上昇し、農民・中小商工業者の困窮を招いた。この増税は法律形式を取ったものの、戦時緊急を口実に要件を曖昧化し、租税法律主義の明確主義を無視した暴挙であった。
日露戦争では事態は更に深刻化した。戦費が国家予算(明治37年度約2億5,000万円)の5-7倍に達し、公債発行が主財源となったが、租税増税が公債償還の基盤を形成した。明治37・38年に第1・第2次非常特別税法を施行し、所得税税率を大幅引き上げ、地租・営業税・酒税も増税、相続税・通行税を新設した。非常特別税は戦時限定を謳ったが、戦後も相続税が存続し、外債利払いに充てられた。相続税導入は日露戦争財源直結で、課税価格10万円超から累進課税を課し、富裕層中心ながら中小層にも波及、総増収額は8,000万円超に上った。
今回の「復興特別所得税の期間延長と防衛税への転換」は、まさにこの「非常時の負担を理由を変えて恒久化する」という徴税権力の歴史的慣性を再燃させるものである。
政府は「国家危急」を盾に議会を操り、課税要件を不明確にし、行政の恣意を優先した。この結果、国民負担は戦後も続き、租税負担許容水準を不当に引き上げ、財政赤字を慢性化した。合法性の原則を破り、税務当局に減免裁量を与えず強制徴収を強いた点で、国民圧迫の極みであった。
第一次世界大戦期における税制濫用の拡大
第一次世界大戦参戦時、積極財政下で軍備拡張費が増大し、大正7年(1918年)寺内内閣が所得税増徴を実施した。個人・法人所得税率を平均20%引き上げ、超過累進税率の最高階級を拡大、戦時利得税を創設した。課税対象を配当金・留保所得に広げ、小所得者軽減を謳いつつ実質負担増大を招いた。
大正9年(1920年)所得税法全文改正で総合課税主義を強化、低所得者負担軽減を図ったが、戦後恐慌で貧富格差拡大を助長した。軍事費財源として酒税・所得税を増徴、国債償還停止を併用、平年度1億3,000万円超の増収を期待した。この税制は戦時経済変動を口実に要件明確主義を欠き、納税予測を不可能にした。政府の裁量独走は租税法律主義の法定主義を崩壊させ、国民の財産を軍拡に没収したに等しい。
第二次世界大戦期における租税圧迫の頂点
第二次世界大戦期は国民圧迫の頂点である。日中戦争(1937年)から軍事費が急膨張、臨時軍事費特別会計が一般会計を上回り、1940年(昭和15年)所得税源泉徴収を開始、社会保険料増額を並行した。課税最低限を引き下げ(1945年3千円超)、最高税率を68.7%(100万円超)に引き上げ、臨時利得税を繰り返し増徴した。
国税総額に占める所得税・法人税比率が33%(1935年)から69%(1944年)に急増、個人所得税が後半重点化、購買力吸収を目的に中下層(申告者の66%)負担率を11.5%超に押し上げた。財産税・戦時補償特別税で最大90%課税、預金封鎖を伴い国民財産を再分配、戦時補償を無効化した。
賀屋大蔵大臣は「国家収入増加と購買力吸収」を公言、インフレ抑制名目で生活破壊を正当化した。課税ベース拡大(軍需生産で所得伸長)も、勤労所得中心の構造変動で低所得層犠牲を強いた。この全過程で租税法律主義は形骸化、軍部主導の行政裁量が課税要件を恣意的に拡大、手続保障を無視した。国民は飢餓・貧困に陥り、戦後財政破綻の遠因を生んだ。
租税法律主義の4要素の侵害と予算流用の蔓延
これらの戦争期税制は、すべて租税法律主義の4要素を侵害した。第一に法定主義については、政府は緊急性を盾に法律を急造・改正し、議会を形式的追認機関に貶めた。第二に明確主義については、課税要件を曖昧にし、税務当局の裁量を拡大することで、納税者の予測可能性を奪った。第三に合法性の原則については、戦時という非常時を理由に、法の支配を停止し、行政の恣意的判断を優先した。第四に手続保障については、税務当局に絶対徴収権を与え、納税者の権利救済手段を事実上剥奪した。
戦前・戦時における予算流用の実態と財政法制定の歴史的背景
さらに重大な歴史的事実として、戦時において予算の目的外流用が常態化し、財政民主主義が完全に崩壊したことが挙げられる。
(1)旧憲法下の予算制度の欠陥
大日本帝国憲法下では、予算は法律ではなく「天皇の大権事項」とされ、議会の統制が不十分であった。特に軍事費については、「統帥権の独立」を理由に議会の関与が制限され、事実上の聖域となっていた。
(2)臨時軍事費特別会計の暴走
日中戦争開始後の1937年、政府は「臨時軍事費特別会計」を創設した。この特別会計は一般会計から完全に切り離され、議会の統制が極めて弱かった。当初は戦時限定とされたが、戦争の長期化とともに膨張を続け、1944年度には一般会計(80億円)を大きく上回る220億円に達した。
(3)民生予算の軍事転用
「国家総動員法」(1938年)の下、政府は勅令により民生予算を軍事目的に転用する権限を持った。教育費、社会政策費、産業振興費など、本来国民生活のために編成された予算が、議会の議決を経ずに軍事費に転用された。
(4)予算審議の形骸化
戦時中、予算案は「軍事機密」を理由に詳細が秘匿され、議会は実質的な審議を行えなかった。議員が予算内容について質問することすら「非国民的行為」とされる状況であった。
(5)戦後財政法制定の理念
このような歴史的教訓を踏まえ、1947年に制定された財政法は、予算に対する国会の統制を徹底的に強化した。特に第33条第1項による予算流用の厳格な禁止は、「特定目的のために議決された予算が、行政の判断で別の目的に転用されることを二度と許さない」という強い決意の表れである。
(6)現代への警告
今回の復興特別所得税の実質的な防衛費への転用は、形式こそ異なるものの、「民生目的の財源を軍事目的に転用する」という構造において、戦前・戦時の予算濫用と本質的に共通している。財政法第33条第1項が厳格に流用を禁止する趣旨は、まさにこのような事態を防ぐためであり、税制改正という形式を取ることでこの趣旨を潜脱することは許されない。
結果、国民負担率は急増(戦前期9%未満から戦時15%超)し、経済歪曲・社会不安を招き、民主主義を損ない、戦後復興を阻害した。この圧迫史は、国家権力の租税濫用と予算流用がもたらす惨禍の教訓である。
現代における危険な類似性
令和8年度税制改正大綱における防衛特別所得税の導入は、この歴史的教訓を無視するものである。
第一に、防衛費という軍事目的のために所得税を増税する構造は、戦争期における所得税増税と本質的に同一である。
第二に、復興特別所得税の課税期間延長という手法により、実質的な増税を隠蔽する手法は、戦時における「非常特別税」が戦後も存続した構造と酷似している。
第三に、「家計負担は増加しない」という説明により国民の理解を得ようとする姿勢は、戦時において「小所得者軽減」を謳いながら実質負担増大を招いた欺瞞と同様である。
第四に、安全保障環境の悪化という名目で防衛費増額を正当化する論理は、「国家危急」を盾に増税を強行した戦時の論理と変わらない。
第五に、国会審議が形式化し、既成事実化が進む現状は、戦時において議会が形式的追認機関に貶められた状況の再現である。
第六に、財政規律の枠組みが不明確なまま恒久的増税を行う姿勢は、戦時において課税要件が曖昧化され、行政裁量が拡大した状況と類似している。
第七に、復興財源を防衛費に流用する手法は、戦時において民生予算が軍事目的に転用された歴史と重なる。財政法が予算の目的外流用を厳格に禁止する理由は、まさにこの戦時の予算流用を二度と繰り返さないためである。復興特別所得税の使途変更は、財政法の趣旨を潜脱し、戦前の予算濫用を復活させる危険な試みである。
戦時中の「臨時軍事費特別会計」が辿った無制限の膨張という破滅的な経路を、我々は「複数年均衡」や「防衛特別所得税」という名の下に再び歩もうとしているのである。)
歴史からの警告
歴史は明確に警告している。軍事費を所得税増税で賄う政策は、租税法律主義を蝕み、国民生活を破壊し、財政を破綻させ、最終的には国家そのものを崩壊に導く。戦時における租税圧迫は、一時的な緊急措置として開始されながら、恒久化し、拡大し、制御不能となった。非常特別税として導入された相続税が戦後も存続したように、防衛特別所得税も一度導入されれば、撤廃されることなく恒久化する危険性が高い。
さらに重要なことは、戦争期における租税増税と予算流用が、単に財政問題にとどまらず、民主主義そのものを破壊したという事実である。議会が形式化され、行政裁量が拡大し、国民の権利が制限される過程は、まさに全体主義への道程であった。防衛特別所得税の導入と復興財源の流用は、この危険な道を再び歩み始める第一歩となる可能性がある。
憲法第9条と戦後の財政法は、この歴史的教訓を踏まえて制定された。戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認という徹底した平和主義、および予算の目的外流用の厳格な禁止は、二度と戦争による国民圧迫を繰り返さないという決意の表れである。防衛特別所得税の導入と復興財源の流用は、憲法と財政法の理念を根本から否定するものである。
【要点】
令和8年度税制改正大綱における防衛財源確保策は、次の重大な問題を抱えている。
第一に、財源担保の構造的問題である。恒久的な防衛費増額に対して、景気変動に左右される所得税に依存する構造は、安定的な防衛力整備を阻害する。完全な財源確保の見通しが立っていない状態での増税実施、租税特別措置の廃止などによる一時的な財源確保策への依存、複数年の財政均衡の具体的制度設計の欠如など、財政の持続可能性に疑問がある。「経済あっての財政」を掲げながら所得税増税を行うことは、家計の可処分所得を減少させ、消費を抑制する矛盾を含んでいる。
第二に、東日本大震災復興財源の実質的転用という法的・道義的問題である。
(1)法的問題の所在
復興特別所得税の税率を1%引き下げ、同時に防衛特別所得税(税率1%)を創設し、さらに復興特別所得税の課税期間を10年延長するという一連の措置は、形式的には三つの独立した税制改正として構成されている。
しかし実質的には、本来令和20年以降は課税されないはずだった復興特別所得税(税率1%分)を令和29年まで延長し、その延長期間の税収を防衛費に充当する構造となっており、これは「復興財源の防衛費への転用」に他ならない。
(2)財政法との関係
この措置は、厳密な意味での財政法第33条第1項の「予算の流用」には該当しない。同条は「既に成立した予算の執行段階における項間の流用」を規制する規定であり、税制改正により新たな歳入を創設する行為は、形式的には同条の適用範囲外である。
しかし、財政法第33条第1項が予算の流用を厳格に禁止する趣旨は、「国会が特定目的のために議決した財源を、行政の判断で別の目的に転用することを防ぐ」という財政民主主義の確保にある。今回の措置は、税制改正という形式を取ることで同条の直接適用を免れているが、「復興のために国民が負担を受け入れた税を、防衛費に転用する」という実質において、同条が防ごうとした事態そのものである。
(3)租税法律主義の目的拘束性
復興財源確保法第2条は、復興特別所得税について「東日本大震災からの復興のための
施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置に要する費用の財源に充てるため」と明確に目的を限定している。この法定の目的拘束性を、課税期間延長という形式により実質的に無効化することは、租税法律主義(憲法第84条)の趣旨に反する。
(4)国民の信頼保護原則
復興特別所得税は、被災地復興という目的に対する国民の続ける同意と負担受容を前提に導入された。この信頼関係を裏切り、別の目的(防衛費)に転用することは、租税法律主義が要請する予測可能性と信頼保護の原則に反し、ひいては憲法第29条の財産権保障の趣旨にも抵触する疑義がある。
(5)法的評価の結論
以上より、今回の措置は、形式的には財政法第33条第1項の直接違反には該当しないが、同条が体現する財政民主主義の趣旨を実質的に潜脱し、租税法律主義の目的拘束性
および国民の信頼保護原則に明白に反するものである。
財政法は1947年制定時から、戦前の予算乱用を反省し、歳出予算の款項間流用を厳格に禁止してきた。同法第33条第2項は「国からの経費の支出は、歳出予算に定める各項の経費の金額について、これを超える支出をすることができない」と規定し、議会の議決を尊重し財政民主主義を確保することを目的としている。例外は「災害應急費に充てる場合その他財務大臣の承認を受けた場合」に限定され、実務上は補正予算が適正手続とされる。
地方自治法第220条第2項も同様の規定を置き、江南市監査や魚沼市監査では款項外支出や予備費の新規事業充用が違法と判断されている。
復興という特定目的のための税収を防衛費に振り向けることは、財政法の根本趣旨に反する。復興特別所得税は被災地の復興という明確な目的のために国民が負担を受け入れたものであり、その使途変更は国民に対する欺瞞である。課税期間を10年間延長し、令和20年から令和29年までの本来課税されないはずだった期間の税収を実質的に防衛費に充当する構造は、時間軸を利用した財政法の潜脱である。これは被災地の人々の感情を踏みにじり、税に対する国民の信頼を根本から損なうものである。
第三に、防衛費を所得税で賄うことの憲法上の問題である。 憲法第9条の平和主義の理念に照らせば、防衛特別所得税という恒久的な増税措置を講じてまで防衛費を増額することは、専守防衛の原則を逸脱し、攻撃的な軍備拡張につながる懸念がある。 憲法第84条の租税法律主義の観点からは、復興特別所得税の実質的な流用でありながら「家計負担は増加しない」という説明は、国民への説明責任を果たしていない。
憲法第13条の個人の尊重及び第29条の財産権保障の観点からは、高所得者に対する過度な課税強化(基準所得金額の特別控除額を3.3億円から1.65億円に引下げ、税率を22.5%から30%に引上げ)は、これらの権利を侵害する可能性がある。
憲法第25条の生存権保障の観点からは、防衛費増額により社会保障費や教育費などの国民生活に直結する予算が圧迫されることは、生存権を軽視するものである。
憲法第14条の平等原則の観点からは、所得税納付者のみに負担を求めることは、防衛という国家の基本的機能の費用を一部の国民にのみ負わせることになり、平等原則に反する可能性がある。
憲法第41条の国会の地位に関して、防衛費の大幅な増額という国家の基本政策に関わる重要事項が、国会での十分な審議を経ずに既成事実化されていることは、国会の地位を軽視するものであり、財政法が予算流用について議会承認を厳格に求める趣旨にも反する。
第四に、戦争期における租税濫用と予算流用の歴史的教訓である。 日清・日露戦争から第二次世界大戦に至るまで、日本政府は軍備拡張と戦争費用を賄うため、所得税をはじめとする租税を急激に増税し、租税法律主義を踏みにじりながら国民に過重な負担を強いた。
日清戦争期には、政府は軍備拡張費を酒税増税で主に賄ったが、所得税導入直後から営業税・地租の負担も増加させ、国民の生活基盤を揺るがした。戦費総額は約2億円(当時の国家予算の約2倍)に達し、勝利後も軍拡継続のため租税負担率が上昇し続けた。この増税は法律形式を取ったものの、「戦時緊急」を口実に課税要件を曖昧化し、租税法律主義の明確主義原則を軽視する端緒となった。
日露戦争では非常特別税として所得税税率を大幅引上げ、相続税・通行税を新設し、戦費が国家予算の5-7倍に達した。第一次世界大戦期には所得税率を平均20%引上げ、戦時利得税を創設した。第二次世界大戦期には所得税源泉徴収を導入し、課税最低限を引下げ、最高税率を68.7%に引上げ、国税総額に占める所得税・法人税比率が33%(1935年)から69%(1944年)に急増した。
これらはすべて「国家危急」「戦時緊急」を口実とした租税圧迫であり、租税法律主義の4要素(法定主義・明確主義・合法性・手続保障)をすべて侵害した。政府は緊急性を盾に法律を急造・改正し、議会を形式的追認機関に貶め、課税要件を曖昧化し、行政裁量を拡大し、納税者の権利救済手段を剥奪した。さらに重大なことは、戦時において予算の目的外流用が常態化したことである。
本来民生目的の予算が軍事目的に転用され、議会の予算審議権が形骸化した。財政法が予算の目的外流用を厳格に禁止する規定を設けた理由は、まさにこの戦前の予算濫用を二度と繰り返さないためである。結果、国民は飢餓・貧困に陥り、国民負担率は急増(戦前期9%未満から戦時15%超)し、経済歪曲・社会不安を招き、民主主義を損ない、戦後財政破綻の遠因を生んだ。
第五に、令和8年度税制改正大綱における防衛特別所得税と復興財源流用が、戦争期の歴史と危険な類似性を持つことである。
軍事目的のための所得税増税、「非常特別税」の恒久化と同様の復興特別所得税課税期間延長、「家計負担は増加しない」という欺瞞的説明、防衛力強化(安全保障環境悪化)という名目での正当化、国会審議の形式化、財政規律の枠組み不明確化、そして民生予算の軍事転用と同様の復興財源の防衛費流用など、戦時租税圧迫と予算流用の構造が再現されつつある。
歴史は明確に示している。軍事費を所得税増税で賄い、予算を目的外流用する政策は、租税法律主義と財政民主主義を蝕み、国民生活を破壊し、財政を破綻させ、民主主義を崩壊させる。一時的な緊急措置として開始された戦時増税と予算流用が恒久化し、拡大し、制御不能となった歴史を、我々は決して忘れてはならない。憲法第9条の平和主義と財政法第27条の予算流用禁止規定は、この歴史的教訓を踏まえたものである。
結論として、令和8年度税制改正大綱における防衛財源確保策は、法理的・道義的・歴史的に重大な欠陥を抱えており、即刻撤回されるべきである。戦争は常に財政の不透明化と租税民主主義の死から始まることを忘れてはならない。
【閑話 完】
【引用・参照・底本】
「強い経済」への決断と実行 令和8年度与党税制改正大綱を決定 自民党 2025.12.19
https://www.jimin.jp/news/policy/212129.html
令和8年度与党税制改正大綱
https://storage2.jimin.jp/pdf/news/policy/212129_1.pdf
匿名で「日本は核兵器を保有すべきだ」と発言:特別補佐官であり、核軍縮・不拡散を担当する尾上定正 ― 2025-12-25 19:09
【概要】
日本メディアは、匿名で「日本は核兵器を保有すべきだ」と発言した首相官邸の高官が、高市早苗首相の特別補佐官であり、核軍縮・不拡散を担当する尾上定正であると報じた。この発言は国内外で強い批判を招き、首相の人事責任や日本の安全保障姿勢を巡る議論が拡大している。
【詳細】
週刊文春は、首相官邸の匿名高官として報じられていた「日本は核兵器を保有すべきだ」との発言の主が、尾上定正であると伝えた。大江は高市首相の特別補佐官で、核軍縮・不拡散を担当しており、首相と同じ奈良県出身の近しい関係にある防衛分野の重要な助言者であるとされる。
政府関係者の話として、核兵器保有を支持する人物が核軍縮を所管する立場にあることは不適切であり、本来は首相の任命責任が問われ、発言自体も解任に値するとの指摘が紹介されたが、現時点で措置は取られていないと報じられた。
問題の発言は12月18日に、首相官邸で安全保障を担当する高官がオフレコ取材で行ったもので、発言内容のみが匿名で報道された。週刊文春は12月20日に大江の自宅前で取材を試みたが、回答は得られず、その後の首相事務所への問い合わせも応じられなかったとしている。
この核武装発言は、日本の元政治家、与野党議員、市民団体から批判を受け、周辺国からも強い反対が示された。SNS上でも多くの批判的意見が投稿された。
さらに、高市首相が安全保障関連文書の改定議論を進める考えを示したことに関連し、中国外務省の報道官は、日本側の動きは偶発的なものではなく、戦後国際秩序や地域の平和と安定を脅かす危険なシグナルであると批判した。
【要点】
・「日本は核兵器を保有すべきだ」との匿名発言の主は、尾上定正特別補佐官であると日本メディアが報道した。
・大江は核軍縮・不拡散を担当する立場にあり、発言との矛盾が指摘されている。
・発言はオフレコ取材で行われ、本人および首相事務所は取材に応じていない。
・国内外から批判が相次ぎ、首相の人事責任を問う声も出ている。
・中国側は、これを日本の再軍備志向を示す危険な動きだと非難した。
【引用・参照・底本】
Japanese media unveils PM's non-proliferation aide outed as official behind nuclear weapons possession claim GT 2025.12.25
https://www.globaltimes.cn/page/202512/1351452.shtml
日本メディアは、匿名で「日本は核兵器を保有すべきだ」と発言した首相官邸の高官が、高市早苗首相の特別補佐官であり、核軍縮・不拡散を担当する尾上定正であると報じた。この発言は国内外で強い批判を招き、首相の人事責任や日本の安全保障姿勢を巡る議論が拡大している。
【詳細】
週刊文春は、首相官邸の匿名高官として報じられていた「日本は核兵器を保有すべきだ」との発言の主が、尾上定正であると伝えた。大江は高市首相の特別補佐官で、核軍縮・不拡散を担当しており、首相と同じ奈良県出身の近しい関係にある防衛分野の重要な助言者であるとされる。
政府関係者の話として、核兵器保有を支持する人物が核軍縮を所管する立場にあることは不適切であり、本来は首相の任命責任が問われ、発言自体も解任に値するとの指摘が紹介されたが、現時点で措置は取られていないと報じられた。
問題の発言は12月18日に、首相官邸で安全保障を担当する高官がオフレコ取材で行ったもので、発言内容のみが匿名で報道された。週刊文春は12月20日に大江の自宅前で取材を試みたが、回答は得られず、その後の首相事務所への問い合わせも応じられなかったとしている。
この核武装発言は、日本の元政治家、与野党議員、市民団体から批判を受け、周辺国からも強い反対が示された。SNS上でも多くの批判的意見が投稿された。
さらに、高市首相が安全保障関連文書の改定議論を進める考えを示したことに関連し、中国外務省の報道官は、日本側の動きは偶発的なものではなく、戦後国際秩序や地域の平和と安定を脅かす危険なシグナルであると批判した。
【要点】
・「日本は核兵器を保有すべきだ」との匿名発言の主は、尾上定正特別補佐官であると日本メディアが報道した。
・大江は核軍縮・不拡散を担当する立場にあり、発言との矛盾が指摘されている。
・発言はオフレコ取材で行われ、本人および首相事務所は取材に応じていない。
・国内外から批判が相次ぎ、首相の人事責任を問う声も出ている。
・中国側は、これを日本の再軍備志向を示す危険な動きだと非難した。
【引用・参照・底本】
Japanese media unveils PM's non-proliferation aide outed as official behind nuclear weapons possession claim GT 2025.12.25
https://www.globaltimes.cn/page/202512/1351452.shtml
米国防総省:中国の軍事・安全保障に関する年次報告書 ― 2025-12-25 19:27
【概要】
米国防総省が発表した中国の軍事・安全保障に関する年次報告書について、その内容が矛盾した二重の物語を含んでいると指摘するものである。一方では中国の軍事力を誇張し「脅威」と描きながら、他方では米中関係の安定化や軍事対話の拡大を強調している点を取り上げ、これを現在の米中関係の複雑な現実を映すものとして論じている。中国の国防政策が防御的で透明であり、覇権を求めるものではないと強調し、対話と協力こそが米中両国および世界にとって唯一の正しい選択であると訴えている。
【詳細】
国防総省の報告書が中国の「歴史的な軍備増強」を強調し、米国本土の安全が脅かされているとする従来の論調を踏襲している点を批判する。こうした「中国軍事脅威論」は年次報告書の恒例となっており、米国がアジア太平洋地域で軍事介入を正当化する一方、中国の正当な国防力整備を問題視する二重基準であると述べている。
中国の軍事支出は長年GDP比1.5%未満で推移し、世界平均より低い水準にあること、また国防力の強化は14億人を超える国民と領土主権を守るための正当な措置であると説明している。中国は長い陸上国境と広大な海洋領域を持ち、歴史的に戦争の被害を受けてきた国であり、平和と安全を何よりも重視しているとする。
中国の国防政策は防御的性格を持ち、覇権や勢力圏の拡大を目指すものではないと繰り返し強調する。軍事力の発展は、防衛戦争への備えと紛争抑止を目的とし、国家の総合力や国際的責任に見合ったものであり、特定の大国を基準として競争するものではないと述べる。
また、米国防総省報告書が米中関係の安定化や軍事間対話の拡大に言及している点を前向きな兆候として評価し、協力から利益を得て対立から損失を被るという歴史的教訓を踏まえる必要性を指摘する。世界が大きな変化の時代にある中で、米中両国が負う責任はむしろ増しており、「トゥキディデスの罠」を回避するためにも、協調と安定を基調とした関係構築が不可欠であると主張している。
さらに、中国は国連平和維持活動への多大な貢献や、アデン湾での護衛任務、人道支援、医療支援などを通じて大国としての責任を果たしてきたと述べ、中国軍事力の発展は国際社会に公共の安全財を提供するためのものであり、脅威ではないと結論づけている。
【要点】
・米国防総省の報告書は、中国を脅威と描く一方で米中関係の安定化も強調する矛盾した内容である。
・中国の軍事力整備は防御的かつ正当であり、覇権や拡張を目的とするものではない。
・中国の国防支出は抑制的で透明性があり、国家の安全と国際的責任に見合ったものである。
・米中関係の安定と軍事対話の拡大は、世界の平和と安定にとって重要である。
・対話と協力を通じて相互不信を克服することが、米中両国と国際社会にとって唯一の正しい道である。
【引用・参照・底本】
How to view the contradictory narrative in the Pentagon’s report: Global Times editorial GT 2025.12.25
https://www.globaltimes.cn/page/202512/1351423.shtml
米国防総省が発表した中国の軍事・安全保障に関する年次報告書について、その内容が矛盾した二重の物語を含んでいると指摘するものである。一方では中国の軍事力を誇張し「脅威」と描きながら、他方では米中関係の安定化や軍事対話の拡大を強調している点を取り上げ、これを現在の米中関係の複雑な現実を映すものとして論じている。中国の国防政策が防御的で透明であり、覇権を求めるものではないと強調し、対話と協力こそが米中両国および世界にとって唯一の正しい選択であると訴えている。
【詳細】
国防総省の報告書が中国の「歴史的な軍備増強」を強調し、米国本土の安全が脅かされているとする従来の論調を踏襲している点を批判する。こうした「中国軍事脅威論」は年次報告書の恒例となっており、米国がアジア太平洋地域で軍事介入を正当化する一方、中国の正当な国防力整備を問題視する二重基準であると述べている。
中国の軍事支出は長年GDP比1.5%未満で推移し、世界平均より低い水準にあること、また国防力の強化は14億人を超える国民と領土主権を守るための正当な措置であると説明している。中国は長い陸上国境と広大な海洋領域を持ち、歴史的に戦争の被害を受けてきた国であり、平和と安全を何よりも重視しているとする。
中国の国防政策は防御的性格を持ち、覇権や勢力圏の拡大を目指すものではないと繰り返し強調する。軍事力の発展は、防衛戦争への備えと紛争抑止を目的とし、国家の総合力や国際的責任に見合ったものであり、特定の大国を基準として競争するものではないと述べる。
また、米国防総省報告書が米中関係の安定化や軍事間対話の拡大に言及している点を前向きな兆候として評価し、協力から利益を得て対立から損失を被るという歴史的教訓を踏まえる必要性を指摘する。世界が大きな変化の時代にある中で、米中両国が負う責任はむしろ増しており、「トゥキディデスの罠」を回避するためにも、協調と安定を基調とした関係構築が不可欠であると主張している。
さらに、中国は国連平和維持活動への多大な貢献や、アデン湾での護衛任務、人道支援、医療支援などを通じて大国としての責任を果たしてきたと述べ、中国軍事力の発展は国際社会に公共の安全財を提供するためのものであり、脅威ではないと結論づけている。
【要点】
・米国防総省の報告書は、中国を脅威と描く一方で米中関係の安定化も強調する矛盾した内容である。
・中国の軍事力整備は防御的かつ正当であり、覇権や拡張を目的とするものではない。
・中国の国防支出は抑制的で透明性があり、国家の安全と国際的責任に見合ったものである。
・米中関係の安定と軍事対話の拡大は、世界の平和と安定にとって重要である。
・対話と協力を通じて相互不信を克服することが、米中両国と国際社会にとって唯一の正しい道である。
【引用・参照・底本】
How to view the contradictory narrative in the Pentagon’s report: Global Times editorial GT 2025.12.25
https://www.globaltimes.cn/page/202512/1351423.shtml
密輸事件について指名手配:最大25万元の懸賞 ― 2025-12-25 19:36
【概要】
中国山東省威海市公安局は、台湾在住の2人の人物が関与する密輸事件について指名手配を行い、最大25万元の懸賞金を設定したと発表した。本件はいわゆる「Hongtai 58」事件に関連し、当初台湾側で主張された海底ケーブル損傷を巡る政治的主張に対し、中国当局および専門家は、事実に基づく刑事事件であると強調している。本事件は司法上の代表的事例であると同時に、政治的操作を映し出す事例であると位置付けられている。
【詳細】
2025年12月24日、山東省威海市公安局は、2025年6月に「Hongtai 58」の中国本土側乗組員7人(劉姓の容疑者を含む)を捜査する過程で、台湾在住の簡姓および陳姓の2人が首謀する密輸組織を摘発したと発表した。両名は過去にも密輸に関与した疑いがあり、2014年には福建省漳州税関密輸取締局により、廃棄物密輸容疑でオンライン指名手配されていた。
公安当局の発表によれば、この密輸組織はトーゴ船籍の貨物船「Hongtai 58」を含む複数の船舶を支配し、長期間にわたり冷凍品を中国本土へ密輸していたとされる。現在、両名の逮捕につながる有効な情報提供者には、状況に応じて5万元から25万元の報奨金が支払われるとされ、通報者の個人情報と合法的権利は法に基づき保護されるとしている。
台湾事務弁公室の報道官は、2025年2月に発生した台湾—澎湖間の海底ケーブル損傷について、台湾当局が「中国本土による意図的破壊」や「グレーゾーン行為」と主張した点に言及し、それは事実に反すると述べた。当該事故は、簡姓および陳姓の2人が密輸活動のために「Hongtai 58」を運航していたことによるものであると説明した。
中国本土の台湾問題専門家らは、本件は本来典型的な刑事事件であったにもかかわらず、台湾の民進党(DPP)当局が政治的事件として意図的に操作したと指摘している。最近の指名手配などの司法・行政措置は、その政治的操作に対する直接的な反証であり、隠されていた事実を明らかにするものであると評価されている。
【要点】
・台湾在住の簡姓および陳姓の2人が、長期的な密輸活動の首謀者として中国公安当局により指名手配された。
・「Hongtai 58」は冷凍品密輸に利用されていた船舶であり、事件は刑事案件であると中国側は説明している。
・海底ケーブル損傷を巡る「グレーゾーン行為」との主張について、中国当局は事実に基づかない政治的操作であると反論している。
・本件は司法的事例であると同時に、政治的主張の真偽を映し出す事例であると専門家は指摘している。
【引用・参照・底本】
Mainland authorities issue wanted notices for two residents in island of Taiwan on illegal smuggling case, offer rewards up to 250,000 yuan GT 2025.12.24
https://www.globaltimes.cn/page/202512/1351423.shtml
中国山東省威海市公安局は、台湾在住の2人の人物が関与する密輸事件について指名手配を行い、最大25万元の懸賞金を設定したと発表した。本件はいわゆる「Hongtai 58」事件に関連し、当初台湾側で主張された海底ケーブル損傷を巡る政治的主張に対し、中国当局および専門家は、事実に基づく刑事事件であると強調している。本事件は司法上の代表的事例であると同時に、政治的操作を映し出す事例であると位置付けられている。
【詳細】
2025年12月24日、山東省威海市公安局は、2025年6月に「Hongtai 58」の中国本土側乗組員7人(劉姓の容疑者を含む)を捜査する過程で、台湾在住の簡姓および陳姓の2人が首謀する密輸組織を摘発したと発表した。両名は過去にも密輸に関与した疑いがあり、2014年には福建省漳州税関密輸取締局により、廃棄物密輸容疑でオンライン指名手配されていた。
公安当局の発表によれば、この密輸組織はトーゴ船籍の貨物船「Hongtai 58」を含む複数の船舶を支配し、長期間にわたり冷凍品を中国本土へ密輸していたとされる。現在、両名の逮捕につながる有効な情報提供者には、状況に応じて5万元から25万元の報奨金が支払われるとされ、通報者の個人情報と合法的権利は法に基づき保護されるとしている。
台湾事務弁公室の報道官は、2025年2月に発生した台湾—澎湖間の海底ケーブル損傷について、台湾当局が「中国本土による意図的破壊」や「グレーゾーン行為」と主張した点に言及し、それは事実に反すると述べた。当該事故は、簡姓および陳姓の2人が密輸活動のために「Hongtai 58」を運航していたことによるものであると説明した。
中国本土の台湾問題専門家らは、本件は本来典型的な刑事事件であったにもかかわらず、台湾の民進党(DPP)当局が政治的事件として意図的に操作したと指摘している。最近の指名手配などの司法・行政措置は、その政治的操作に対する直接的な反証であり、隠されていた事実を明らかにするものであると評価されている。
【要点】
・台湾在住の簡姓および陳姓の2人が、長期的な密輸活動の首謀者として中国公安当局により指名手配された。
・「Hongtai 58」は冷凍品密輸に利用されていた船舶であり、事件は刑事案件であると中国側は説明している。
・海底ケーブル損傷を巡る「グレーゾーン行為」との主張について、中国当局は事実に基づかない政治的操作であると反論している。
・本件は司法的事例であると同時に、政治的主張の真偽を映し出す事例であると専門家は指摘している。
【引用・参照・底本】
Mainland authorities issue wanted notices for two residents in island of Taiwan on illegal smuggling case, offer rewards up to 250,000 yuan GT 2025.12.24
https://www.globaltimes.cn/page/202512/1351423.shtml
TikTok問題 ― 2025-12-25 20:06
【概要】
中国商務部(MOFCOM)は、TikTokの米国合弁事業に関する報道についてコメントし、中国政府としては、関係企業が中国の法律・法規を遵守し、各方面の利益をバランスよく考慮した解決策に到達することを望んでいると表明した。また、米国側に対し、中国企業が安定して事業を行える公正で開かれた事業環境を提供するよう期待を示した。
【詳細】
中国商務部の報道官である何咏前は、定例記者会見において、TikTokが複数の投資家と合意し、米国で合弁会社を設立するとの報道に言及した。その中で、中国政府は、企業が中国の法律および規制に適合し、関係各方面の利益を総合的に考慮した解決策を見いだすことを希望していると述べた。
また、両国首脳の電話会談で達成された重要な共通認識を実行するため、中米両国の経済・貿易チームが、相互尊重と対等な協議に基づき、TikTokを含む関連問題を協力によって適切に解決するための基本的枠組みについて合意に達していたことを明らかにした。
さらに、米国側に対し、中国と同じ方向で努力し、関連する約束を誠実に履行し、中国企業に対して公正、開放的、透明かつ非差別的なビジネス環境を提供することで、中米間の経済・貿易関係の安定的かつ持続的な発展を促進するよう求めた。
【要点】
・中国政府は、TikTok問題について中国の法律・法規を遵守した解決を望んでいる。
・中米両国は、相互尊重と対等な協議に基づき、TikTok問題解決の基本的枠組みで合意している。
・中国商務部は、米国に対し、中国企業に公正で非差別的な事業環境を提供するよう期待を表明した。
【引用・参照・底本】
US urged to provide a fair, open, transparent and non-discriminatory environment for Chinese firms: MOFCOM on reported TikTok US joint venture deal GT 2025.12.25
https://www.globaltimes.cn/page/202512/1351458.shtml
中国商務部(MOFCOM)は、TikTokの米国合弁事業に関する報道についてコメントし、中国政府としては、関係企業が中国の法律・法規を遵守し、各方面の利益をバランスよく考慮した解決策に到達することを望んでいると表明した。また、米国側に対し、中国企業が安定して事業を行える公正で開かれた事業環境を提供するよう期待を示した。
【詳細】
中国商務部の報道官である何咏前は、定例記者会見において、TikTokが複数の投資家と合意し、米国で合弁会社を設立するとの報道に言及した。その中で、中国政府は、企業が中国の法律および規制に適合し、関係各方面の利益を総合的に考慮した解決策を見いだすことを希望していると述べた。
また、両国首脳の電話会談で達成された重要な共通認識を実行するため、中米両国の経済・貿易チームが、相互尊重と対等な協議に基づき、TikTokを含む関連問題を協力によって適切に解決するための基本的枠組みについて合意に達していたことを明らかにした。
さらに、米国側に対し、中国と同じ方向で努力し、関連する約束を誠実に履行し、中国企業に対して公正、開放的、透明かつ非差別的なビジネス環境を提供することで、中米間の経済・貿易関係の安定的かつ持続的な発展を促進するよう求めた。
【要点】
・中国政府は、TikTok問題について中国の法律・法規を遵守した解決を望んでいる。
・中米両国は、相互尊重と対等な協議に基づき、TikTok問題解決の基本的枠組みで合意している。
・中国商務部は、米国に対し、中国企業に公正で非差別的な事業環境を提供するよう期待を表明した。
【引用・参照・底本】
US urged to provide a fair, open, transparent and non-discriminatory environment for Chinese firms: MOFCOM on reported TikTok US joint venture deal GT 2025.12.25
https://www.globaltimes.cn/page/202512/1351458.shtml
【桃源閑話】米国国防総省「中国の軍事・安全保障に関する議会報告書2025年版」の分析 ― 2025-12-25 22:29
【桃源閑話】米国国防総省「中国の軍事・安全保障に関する議会報告書2025年版」の分析
【概要】
本報告書は、米国国防総省が議会に提出した中華人民共和国(PRC)の軍事・安全保障の動向に関する2025年版の年次報告書である。報告書は、中国人民解放軍(PLA)が数十年にわたり資源、技術、政治的意志を結集し、世界クラスの軍隊という目標を達成してきたことを指摘している。
中国の軍事的焦点は現在、日本列島からマレー半島に至る第一列島線にある。北京はこの地域を戦略的重心と認識している。中国の戦略的重心は第一列島線に留まっているが、北京が富と力を増すにつれ、その軍事力も世界的に戦力投射が可能な軍隊へと成長し続けることが論理的である。これは、2049年までに「世界クラス」の軍隊を構築するという北京の明言された野心と一致しており、PLAは既にこの点で大きな進展を遂げている。
中国の歴史的な軍事増強により、米国本土はますます脆弱になっている。中国は、核、海洋、通常長距離攻撃、サイバー、宇宙の能力からなる大規模かつ増大する兵器庫を維持しており、米国民の安全を直接脅かすことができる。2024年には、Volt Typhoonなどの中国のサイバースパイ活動が米国の重要インフラに侵入し、紛争時に米軍を混乱させ、米国の利益を損なう可能性のある能力を示した。
PLAは2027年目標に向けて着実に進展を続けている。この目標により、PLAは台湾に対する「戦略的決定的勝利」、核およびその他の戦略領域における米国に対する「戦略的対抗均衡」、その他の地域諸国に対する「戦略的抑止と統制」を達成できなければならない。言い換えれば、中国は2027年末までに台湾をめぐる戦争で戦い勝利できることを期待している。
【詳細】
第1章:中国の戦略と米中関係
中国の国家戦略の基本
中国の国家戦略は、2049年までに「中華民族の偉大な復興」を達成することである。この構想において、復興した中国は「影響力、魅力、事象を形成する力を新たなレベルに引き上げ」、「戦い勝利し」、国の主権、安全保障、発展の利益を「断固として守護できる」「世界クラス」の軍隊を擁することになる。
中国は3つの「核心的利益」を主張している。これらは中国の国家的復興の中心であり、その公式な立場は交渉や妥協の対象とならない問題として定義されている。これらには以下が含まれる。
1.中国共産党(CCP)の統制
2.中国の経済発展の促進
3.中国の主権と領土主張の防衛と拡大
中国の指導部は「核心的利益」という用語を、台湾、南シナ海、尖閣諸島、インド北東部のアルナーチャル・プラデーシュ州における中国の主権主張を含むまでに拡大した。中国当局者は、中国と係争地域、特に台湾の統一を国家的復興の「自然な要件」と表現している。
2024年7月の第20期中央委員会第3回全体会議
2024年7月、北京は政治的規律と軍事近代化に焦点を当てたPLAの新たな改革の波を発表した。CCPは3つの主要な側面を持つ決議を導入した。第一に、規律検査部門に権限を与え、民間部門と公共部門の間の癒着のあらゆる領域への調査を強化することで腐敗と闘う。第二に、国防関連の科学、技術、産業部門の改革を通じて軍民融合を促進する。第三に、国防動員、民兵制度、中国の国境および沿岸防衛のための報告、通信、動員システムの改革の必要性を特定し、民間部門、地方政府、軍の間の相互支援を強化する。
台湾に対する圧力の増大
北京は、台湾を中国との統一に強制するための断固たる努力を行っている。単に台湾が独立を正式に宣言することを抑止しようとしているのではなく、台北に対して、北京の条件での統一に向けた有意義だが強制された進展を達成するよう、ほぼ絶え間ない圧力を加えようとしている。2024年と2025年の高官レベルの声明における「平和統一」という言葉の繰り返しの省略と、2024年と2025年の台湾周辺での中国の大規模な軍事作戦を組み合わせると、北京が、独立を抑止するだけでなく、協調的な圧力キャンペーンと積極的な誘因を組み合わせて、台北の統一を強制しようとしていることを示している。
2025年の「両会」および2025年の台湾事務工作会議での演説で使用された修辞は、この変化が観察できる。2025年2月の台湾事務工作会議の声明は、「新時代における台湾問題の解決」に関する北京の全体的戦略、「1992年コンセンサス」および「一つの中国原則」に関する言葉など、近年のテーマを繰り返した。しかし、この声明は、2023年と2024年の会議にあった「両岸関係の平和的発展を促進する」必要性に関する言葉を省略した。同様に、2025年3月の全国人民代表大会の活動報告も、台湾に関する「平和的[再]統一」への言及を省略した。
中国の米中関係の評価
北京は、その外部環境を中国の国家利益と発展目標にとってますます不安定で脅威的なものと見なしており、増大する外部圧力に直面して「最後まで戦う」と誓っている。2025年3月の全国人民代表大会で、中国の李強首相は国際環境を「極めて複雑」と表現し、北京が増大する外部圧力に直面していると指摘した。李はまた、外部環境の中国の発展に対する「不利な影響」の増大を指摘し、中国の内部経済困難に対する責任を国内政策から外部要因に移しているように見える。
2024年には、いくつかの発展が北京のますます不確実で脅威的な外部環境の認識に寄与した。これらの発展には、ビルマにおける激化する内戦、朝鮮半島における緊張の高まり、米日韓三国間協力、および台湾総統「ウィリアム」頼清徳の言動が含まれる。頼清徳は台湾の回復力を強化し、中国の浸透に対抗することで、北京が統一目標を損なうものと見なしている。
北京は、米国の同盟とパートナーシップが中国の国家目標を制約していると認識し、ワシントンがアジア太平洋地域における防衛パートナーシップと活動の範囲と規模を拡大していることを懸念している。2024年、北京はアジア太平洋地域における防衛協力を強化する米国の行動に対する懸念を高めた。これには、フィリピンへの中距離および対艦ミサイルシステムの米国配備、台湾への米国の武器販売が含まれる。
第2章:2024年のPLA戦略と能力
中国の防衛政策と軍事戦略
中国は軍隊に対し、「中華民族の復興という中国の夢の実現に強力な戦略的支援を提供し、人類運命共同体の構築に新たなより大きな貢献をする」ことを課している。したがって、中国の明言された防衛政策は、中国のより広範な地域的および世界的野心への支援を含め、その主権、安全保障、発展の利益を「断固として守護する」ことである。
PLAは以下の任務を課されている。
・侵略を抑止し抵抗する
・国家の政治的安全保障、人民の安全保障、社会的安定を守護する
・「台湾独立」に反対し封じ込める
・「チベット独立」および「東トルキスタン」の創設などの分離主義運動の支持者を取り締まる
・国家主権、統一、領土保全、安全保障を守護する
・中国の海洋権益を守護する
・宇宙空間、電磁スペクトル、サイバー空間における中国の安全保障利益を守護する
・中国の海外利益を守護する
・国の持続可能な発展を支援する
中国の軍事戦略は「積極防御」の概念に基づいている。これは戦略的防御と攻撃的行動の原則の組み合わせである。積極防御は純粋に防御的な戦略でも領土防衛に限定されるものでもない。作戦レベルおよび戦術レベルでの攻撃的および先制的側面を包含している。
中国の2027年目標
中国は軍事近代化のための3段階の発展戦略に従っている。現在、中国の軍隊近代化の目標は以下のように公に記されている:
・2027年まで:「機械化、情報化、智能化の統合的発展を加速する」とともに、軍事理論、組織、人員、武器・装備の近代化のスピードを高める
・2035年まで:「国の近代化と歩調を合わせて軍事理論、組織構造、軍人員、武器・装備の近代化を包括的に推進し、国防と軍隊の近代化を基本的に完成させる」
・2049年まで:「人民武装力を世界クラスの軍隊に完全に変革する」
中国はこれらの目標に関する情報を曖昧にしており、2027年目標の重要な要件を公に明らかにしていない。北京が2020年10月の第19期中央委員会第5回全体会議で2027年目標を初めて公に発表したが、それは2019年末のCMCの拡大会議で内部的に確立されていた。中国のメディアは、PLAの2027年目標を、アジア太平洋地域で米軍に対抗し、北京の条件で台湾の指導部を交渉のテーブルに強制する能力の開発に結び付けた。
PLAは2027年目標の達成を「三大戦略能力」の開発に結び付けている。
・「戦略的決定的勝利」(戦略決勝):これはおそらく、PLAが許容可能なコストで紛争に勝利できることを信頼性を持って要求する。PLAはおそらく、この要件を米国の関与を伴う台湾紛争に追跡している。これは、PLAが計画する最もストレスの多い不測の事態である
・「戦略的対抗均衡」(戦略制衡):これはおそらく、PLAが核抑止を含む戦略的抑止の手段を構築し、米軍の関与を十分に抑止または抑制することを要求する
・「戦略的抑止と統制」(戦略慑控):これはおそらく、PLAが水平的エスカレーションを制限したり、他国が日和見的行動を取ることを思いとどまらせたりするための戦力能力を持つことを要求する
軍事戦略指針の更新
2022年後半から、CMCはおそらく、2019年に最後に更新された軍事戦略指針として知られる最高レベルの軍事戦略の改訂を開始した。中国の新しい軍事戦略指針は、北京の中国にとって悪化する安全保障環境の見方への対応である可能性が高い。2022年、第20回党大会報告は、中国が「国際情勢の劇的な変化、特に[...]中国に最大の圧力をかけようとする外部の試み」に直面していると述べ、中国が「情報化・智能化戦争の特性とパターンを研究・把握し、軍事戦略指導を革新し、人民戦争の戦略と戦術を発展させる」必要があると述べた。
権威あるPLA文書は2022年以降、軍事戦略指針の攻撃性を高めることを強調しており、PLAは戦略的機会を掴む主導権を取り、有利な外部条件を創造しなければならないと指摘している。戦略レベルでは、これは単に中国の国境を守り、脅威に受動的に対応するのではなく、中国の周辺に中国の認識する脅威に適切に対応できる軍事態勢を積極的に構築・形成することを意味する。この指針の実施は、南シナ海と台湾周辺での中国のより断固たる軍事姿勢に見られる。
PLAの改訂された軍事戦略はまた、米国を含む軍事的エスカレーションに対する成長する自信と快適さを明らかにしている。特に、この戦略の下でPLAは引き続き長距離精密打撃能力に依存している。これらの能力の成長は、戦争の戦略、作戦、戦術レベル間の境界を曖昧にし、「すべての深度」の目標に対して長距離精密打撃を行うための基本的な戦闘方法として「エリート部隊」の使用を受け入れている。
教義
PLAは2020年11月に基本的な教義文書「中国人民解放軍統合作戦概要(試行)」を発表し、PLAの第5世代の作戦教義の開始を示した。概要はこの世代の頂点文書であり、階層的で統合された教義システムの頂点に位置し、PLAは現在、数十の追加の戦域、領域、軍種固有の教義文書を発行する過程にある。この世代は、初めて戦域司令部に教義指針を提供し、戦域司令部内の統合作戦の組織と実施、指揮権と責任に関する基本的問題に対処するため、独自に重要である。
作戦概念の最適化
多領域精密戦争(MDPW)はPLAの中核的な作戦概念であり、米国との潜在的な将来の紛争に対するPLAの作戦思考の進化を表している。構想されているように、MDPWは、PLAの指揮、統制、通信、コンピュータ、情報、監視、偵察(C4ISR)システムの統合ネットワークを活用し、中央集権的な指揮の下で統合部隊を組織し、すべての領域にわたって軍事力を即座に集約し、その多領域の力を使用して米国の作戦システムの弱点を特定し悪用する。
MDPWの主要な側面は、ビッグデータと人工知能の力を活用して膨大な量の情報を迅速に処理・分析し、迅速で情報に基づいた作戦上の意思決定を促進することである。
第3章:2024年のPLA戦力運用
2024年の演習と作戦
2024年を通じて、PLAは戦闘熟練度と即応性、統合作戦の向上に焦点を当てた一連の統合および単一軍種の演習と訓練活動を実施した。2024年のPLA訓練サイクルは、統合作戦、部隊対部隊のリアリズム、新技術の組み込み、基本的な戦闘スキルの向上に焦点を当てた。
主要な演習には以下が含まれる。
・2024年10月、PLANは初の二重空母グループ訓練イベントを実施した。これは南シナ海で行われ、PLANの2隻の就役空母、遼寧と山東、およびそれぞれの打撃群の統合作戦能力を訓練した
・2024年中、PLAは台湾総統ウィリアム頼の2024年5月の就任演説と2024年10月の台湾国慶節演説に対応して、東部戦区司令部主導の2つの突然の通知演習を実施した。これらはそれぞれJOINT SWORD 2024AおよびJOINT SWORD 2024Bと名付けられた。両演習は、PLA航空機、海軍艦艇、中国海警船が台湾本島とその外島を包囲することで構成された
中国海警の演習と作戦
2024年を通じて、PLAは台湾周辺での作戦活動中に中国海警との調整を改善し、海洋法執行能力のますます統合されたものとなった。昨年、中国海警は台湾の金門および馬祖諸島近くの制限および禁止水域への進入を週平均13回行い、2023年の週8回から増加した。この急増は、北京が2024年2月に、台湾海警と中国漁船の間の事件で2人の中国漁民が溺死した後、パトロールを増やすよう呼びかけたことに続いた。
中国海警は2024年にPLAと並んでJOINT SWORDの2回の反復に参加した。これは、2023年のPLAの東部戦区司令部主導のJOINT SWORD演習には参加しなかったことからの変化である。2024年5月のJOINT SWORD 2024A中、中国海警は台湾の外島(金門と馬祖を含む)を取り囲む水域と台湾の東側で法執行演習を実施し、PLA作戦と統合する中国海警の能力の向上を示した。
台湾海峡の安全保障状況の発展
北京は、外交圧力、情報作戦、軍事圧力、経済的強制を含む国家権力のすべての領域にわたる拡大したツールセットを使用した。北京は、積極的な誘因と戦争に満たない標的を絞った圧力を組み合わせたアプローチを通じて台湾を統一しようとしているが、2024年中に多くの積極的な誘因は観察されていない。
台湾統一を強制する中国の軍事オプション
2024年時点で、中国の指導者はおそらく、台湾作戦に対するPLAの能力が改善していると見ているが、米国の関与に対抗しながら台湾を成功裏に掌握するPLAの準備状況については確信が持てないままである。北京は、軍事行動によって台湾を武力統一するためのいくつかの軍事オプションの計画を引き続き洗練している。過去1年間、PLAはこれらのオプションの重要な要素を実行する作戦を実施した。これには、主要港の封鎖、海上および陸上目標への攻撃、紛争における潜在的な米軍の関与への対抗に焦点を当てた演習が含まれる。
以下は、中国の上級指導者が軍事行動が必要と判断した場合に北京が検討している可能性が高い4つの軍事オプションである。
1.戦争に満たない強制:北京はおそらく、台北の降伏を強制するために、国家権力の他の要素と調整された軍事圧力の拡大を組み合わせて統一を誘導しようとするオプションを検討している
2.統合火力打撃作戦:中国は、主要な政府および軍事目標に対する精密ミサイルと航空攻撃を使用できる。これには、空軍基地、レーダーサイト、ミサイル、宇宙資産、通信施設が含まれ、台湾の防衛を劣化させ、軍事的・政治的指導部を排除し、または抵抗する公衆の決意を弱める
3.統合封鎖作戦:中国は、海上および航空交通の封鎖を採用し、重要な輸入を遮断して台湾の降伏を強制できる
4.統合島嶼上陸作戦(JILC):台湾の水陸両用侵攻は、台湾に対する高度に複雑な三次元攻撃を伴い、複数の慎重に調整された作戦を含む。目標は、台湾の海岸防衛を突破し、PLAが統一を強制するために主要目標または領土を掌握するのに十分な戦闘力を構築できる橋頭堡を確立することである
第4章:防衛支出、資源、技術
中国の防衛支出の評価
中国は米国に次ぐ世界第2位の軍事支出国である。2013年(CCPの習近平総書記の最初の完全な年)から2024年まで、中国の公表防衛予算はほぼ倍増した。
中国の公に発表された防衛予算には中国の防衛支出の全体が含まれていないという、学術、シンクタンク、産業の専門家の間での広範なコンセンサスがある。2024年の中国の総防衛支出はおそらく約3,040億3,770億ドルで、北京の公表予算である2,310億ドルの3263%高かった。これには、中国の公表防衛予算と、人民武装警察、省レベルの安全保障支出、退役軍人問題、動員活動、防衛関連R&D、資本支出への支出が含まれる。
中国の防衛産業の発展
中国の第14次五カ年計画(2021-2025年)は、「独立した国内革新能力を達成するために、現代の軍事システムと破壊的技術の発展を「加速する」必要性を概説している。これらは「外国の技術と革新の源」に依存しないものである。
ミサイル産業
中国は、弾道、巡航、空対空、空対地、地対空ミサイルの広範囲を生産しており、その多くは品質において他の国際トップクラスの生産者と同等であり、国内使用および輸出用である。中国は世界をリードする極超音速ミサイル兵器庫を持ち、過去1年間に通常および核武装極超音速ミサイル技術の開発を前進させ続けた。
海軍および造船産業
中国は、ほとんどの産業指標によって世界トップの商業造船国であり続けており、大量の海軍潜水艦、水上戦闘艦、補助および水陸両用艦を生産するのに十分な能力を持っている。2024年12月、福建で最初の航空機着陸作戦が報告された。福建は中国初の国内設計・製造航空母艦であり、電磁発射システムを特徴としている。
兵器産業
中国は地上兵器産業を引き続き発展させており、自走榴弾砲、主力・軽戦車、歩兵戦闘車、対無人航空機プラットフォームなど、国内使用および輸出用の先進プラットフォームを提供している。
UAVおよび航空産業
2024年、中国の航空産業は、2024年11月の珠海エアショーを含め、新しい軍用航空機とUAVを多数デビューさせ、幅広い能力にわたる着実な進展を示した。主要なデビューには、J-35A第5世代戦闘機とJ-15D空母搭載電子戦機が含まれた。中国はまた、新しい尾翼のない設計特徴を持つ2機のステルス航空機をデビューさせた。
人工知能産業
2024年時点で、中国の防衛産業はPLAへのAI能力を研究、開発、提供している。北京は、既製の商用AI製品と、サイバーアプリケーション、情報作戦、無人システムの自律性の向上のための機能を含むと主張する、軍事専用システムのますます多様なポートフォリオを宣伝している。
第5章:特別トピック
新興技術の発展
中国は、将来の軍事革新の基盤となることが約束される一連の先進的かつ新興技術を支配しようとしている。中国の指導者が商業分野で「暗殺者の鎚(銀の弾丸)」技術を開発するよう研究者に呼びかけてきたのと同様に、PLA指導者は決定的な軍事的勝利と戦場の驚きをもたらすことができる暗殺者の鎚能力を開発しようと努力している。
北京の「新質生産力」に対する経済的焦点に見合って、PLAは新興技術によって可能になる「新質戦闘力」を配備しようとしている。経済の減速にもかかわらず、北京は軍事近代化に向けて主要な資源を引き続き向けている。PLAの近代化を推進することに加えて、中国の指導者は、人工知能やビッグデータ分析などの新興技術を社会統制のための重要なツールと見なしており、国はそのデジタル権威主義のバージョンを世界的に輸出している。
中国の強制戦術、技術、手順
北京は、防衛、政策、世界開発の利益を前進させるために、軍事、安全保障、法律、経済の領域で強制的行動を選択的に採用する意欲を示している。2024年を通じて、PLAはアジア太平洋地域で中国の外交政策目標を前進させるために強制的行動を実施した。PLAの嫌がらせと危険な行動には、米国および他の国が北京が領土または海洋の主張を前進させる地域の近くで合法的な作戦を実施する能力を脅迫、抑止、妨害、または拒否しようとする、安全でない、非専門的、およびその他の行動が含まれる。
台湾圧力キャンペーンの進化
2020年から2024年まで、中国は台湾に対する軍事圧力活動の範囲、規模、頻度を増加させた。2024年中、中国は日常的な空中および海上侵入を通じて台湾の事実上の主権境界に挑戦し続けた。台湾に対する中国の軍事圧力は、JOINT SWORD-2024AおよびJOINT SWORD-2024Bという2つの名前付き作戦によって強調された。
【要点】
主要な戦略的評価
・中国の2027年軍事目標:PLAは2027年末までに台湾に対する「戦略的決定的勝利」、米国に対する「戦略的対抗均衡」、地域諸国に対する「戦略的抑止と統制」を達成する目標に向けて着実に進展している
・第一列島線への焦点:中国の軍事的焦点は日本列島からマレー半島に至る第一列島線にあり、北京はこの地域を戦略的重心と認識している
・米国本土への脅威の増大:中国は核、海洋、通常長距離攻撃、サイバー、宇宙の能力からなる大規模な兵器庫を維持し、米国民の安全を直接脅かす能力を持つ
軍事能力の発展
・打撃能力の範囲:2024年現在、PLA運動攻撃は中国本土から1,500~2,000海里以内で効果的であると推定され、十分な量があれば、アジア太平洋地域の紛争における米国のプレゼンスに深刻な挑戦と混乱をもたらす可能性がある
・防衛予算の倍増:2013年から2024年まで、中国の公表防衛予算はほぼ倍増し、2024年の総防衛支出は約3,040億~3,770億ドルと推定される
・核戦力の拡大:中国の核弾頭備蓄は2024年を通じて600発台前半に留まったが、PLAは2030年までに1,000発以上の弾頭を保有する軌道に乗っている
台湾に関する動向
・台湾への圧力増大:北京は「平和統一」という言葉を高官レベルの声明から繰り返し省略し、2024年と2025年に台湾周辺で大規模な軍事作戦を実施し、台北に統一を強制しようとする協調的な圧力キャンペーンを示している
・台湾統一の軍事オプション:北京は4つの主要な軍事オプションを洗練している:(1)戦争に満たない強制、(2)統合火力打撃作戦、(3)統合封鎖作戦、(4)統合島嶼上陸作戦
台湾周辺の作戦活動増加:2024年、PLAは台湾のADIZへの航空機侵入を3,067回(2023年の1,641回から増加)実施し、38回の統合戦闘即応パトロールを実施した
技術と能力の近代化
・ISR衛星の大幅増加:2024年1月時点で、中国のISR衛星艦隊は359以上のシステムを含み、2018年以来その軌道上収集プレゼンスを3倍以上にした
・サイバー脅威の持続:2024年、中国は米国政府、軍事、民間ネットワークに対する最も持続的なサイバー脅威のままであり、Volt TyphoonやSalt Typhoonなどのキャンペーンが米国の重要インフラに侵入した
・新興技術への投資:中国は人工知能、バイオテクノロジー、量子技術、先進半導体、先進エネルギー生成・貯蔵を含む重要な二重用途の新興技術を支配するための全国的な取り組みを実行している
地域的・国際的活動
・南シナ海での強制行動:2024年を通じて、中国海警と中国海上民兵は、放水砲、衝突、乗船を含むますます攻撃的な戦術を使用し、南シナ海での中国の違法な海洋主張を強制した
・ロシアとの深化する戦略的パートナーシップ:2024年、中国とロシアは防衛関与を拡大し、統合軍事演習の頻度、範囲、複雑さを増加させた。初めて、統合爆撃機パトロールがアラスカADIZに進入し、初の統合沿岸警備パトロールがベーリング海で実施された
・腐敗対策キャンペーンの影響:PLAは全軍種で腐敗関連の調査を引き続き経験しており、数十人の将軍の解任につながった。2024年後半までに、腐敗問題は再びCMCのレベルに達し、副主席のHe Weidongと政治工作部長のMiao Huaが拘束または停職となった
注:ANNUAL-REPORT-TO-CONGRESS-MILITARY-AND-SECURITY-DEVELOPMENTS-INVOLVING-THE-PEOPLES-REPUBLIC-OF-CHINA-2025 U.S.Department of Defense 2025を私的に要約したものである。
【閑話 完】
【引用・参照・底本】
ANNUAL-REPORT-TO-CONGRESS-MILITARY-AND-SECURITY-DEVELOPMENTS-INVOLVING-THE-PEOPLES-REPUBLIC-OF-CHINA-2025 U.S.Department of Defense 2025
https://media.defense.gov/2025/Dec/23/2003849070/-1/-1/1/ANNUAL-REPORT-TO-CONGRESS-MILITARY-AND-SECURITY-DEVELOPMENTS-INVOLVING-THE-PEOPLES-REPUBLIC-OF-CHINA-2025.PDF
【概要】
本報告書は、米国国防総省が議会に提出した中華人民共和国(PRC)の軍事・安全保障の動向に関する2025年版の年次報告書である。報告書は、中国人民解放軍(PLA)が数十年にわたり資源、技術、政治的意志を結集し、世界クラスの軍隊という目標を達成してきたことを指摘している。
中国の軍事的焦点は現在、日本列島からマレー半島に至る第一列島線にある。北京はこの地域を戦略的重心と認識している。中国の戦略的重心は第一列島線に留まっているが、北京が富と力を増すにつれ、その軍事力も世界的に戦力投射が可能な軍隊へと成長し続けることが論理的である。これは、2049年までに「世界クラス」の軍隊を構築するという北京の明言された野心と一致しており、PLAは既にこの点で大きな進展を遂げている。
中国の歴史的な軍事増強により、米国本土はますます脆弱になっている。中国は、核、海洋、通常長距離攻撃、サイバー、宇宙の能力からなる大規模かつ増大する兵器庫を維持しており、米国民の安全を直接脅かすことができる。2024年には、Volt Typhoonなどの中国のサイバースパイ活動が米国の重要インフラに侵入し、紛争時に米軍を混乱させ、米国の利益を損なう可能性のある能力を示した。
PLAは2027年目標に向けて着実に進展を続けている。この目標により、PLAは台湾に対する「戦略的決定的勝利」、核およびその他の戦略領域における米国に対する「戦略的対抗均衡」、その他の地域諸国に対する「戦略的抑止と統制」を達成できなければならない。言い換えれば、中国は2027年末までに台湾をめぐる戦争で戦い勝利できることを期待している。
【詳細】
第1章:中国の戦略と米中関係
中国の国家戦略の基本
中国の国家戦略は、2049年までに「中華民族の偉大な復興」を達成することである。この構想において、復興した中国は「影響力、魅力、事象を形成する力を新たなレベルに引き上げ」、「戦い勝利し」、国の主権、安全保障、発展の利益を「断固として守護できる」「世界クラス」の軍隊を擁することになる。
中国は3つの「核心的利益」を主張している。これらは中国の国家的復興の中心であり、その公式な立場は交渉や妥協の対象とならない問題として定義されている。これらには以下が含まれる。
1.中国共産党(CCP)の統制
2.中国の経済発展の促進
3.中国の主権と領土主張の防衛と拡大
中国の指導部は「核心的利益」という用語を、台湾、南シナ海、尖閣諸島、インド北東部のアルナーチャル・プラデーシュ州における中国の主権主張を含むまでに拡大した。中国当局者は、中国と係争地域、特に台湾の統一を国家的復興の「自然な要件」と表現している。
2024年7月の第20期中央委員会第3回全体会議
2024年7月、北京は政治的規律と軍事近代化に焦点を当てたPLAの新たな改革の波を発表した。CCPは3つの主要な側面を持つ決議を導入した。第一に、規律検査部門に権限を与え、民間部門と公共部門の間の癒着のあらゆる領域への調査を強化することで腐敗と闘う。第二に、国防関連の科学、技術、産業部門の改革を通じて軍民融合を促進する。第三に、国防動員、民兵制度、中国の国境および沿岸防衛のための報告、通信、動員システムの改革の必要性を特定し、民間部門、地方政府、軍の間の相互支援を強化する。
台湾に対する圧力の増大
北京は、台湾を中国との統一に強制するための断固たる努力を行っている。単に台湾が独立を正式に宣言することを抑止しようとしているのではなく、台北に対して、北京の条件での統一に向けた有意義だが強制された進展を達成するよう、ほぼ絶え間ない圧力を加えようとしている。2024年と2025年の高官レベルの声明における「平和統一」という言葉の繰り返しの省略と、2024年と2025年の台湾周辺での中国の大規模な軍事作戦を組み合わせると、北京が、独立を抑止するだけでなく、協調的な圧力キャンペーンと積極的な誘因を組み合わせて、台北の統一を強制しようとしていることを示している。
2025年の「両会」および2025年の台湾事務工作会議での演説で使用された修辞は、この変化が観察できる。2025年2月の台湾事務工作会議の声明は、「新時代における台湾問題の解決」に関する北京の全体的戦略、「1992年コンセンサス」および「一つの中国原則」に関する言葉など、近年のテーマを繰り返した。しかし、この声明は、2023年と2024年の会議にあった「両岸関係の平和的発展を促進する」必要性に関する言葉を省略した。同様に、2025年3月の全国人民代表大会の活動報告も、台湾に関する「平和的[再]統一」への言及を省略した。
中国の米中関係の評価
北京は、その外部環境を中国の国家利益と発展目標にとってますます不安定で脅威的なものと見なしており、増大する外部圧力に直面して「最後まで戦う」と誓っている。2025年3月の全国人民代表大会で、中国の李強首相は国際環境を「極めて複雑」と表現し、北京が増大する外部圧力に直面していると指摘した。李はまた、外部環境の中国の発展に対する「不利な影響」の増大を指摘し、中国の内部経済困難に対する責任を国内政策から外部要因に移しているように見える。
2024年には、いくつかの発展が北京のますます不確実で脅威的な外部環境の認識に寄与した。これらの発展には、ビルマにおける激化する内戦、朝鮮半島における緊張の高まり、米日韓三国間協力、および台湾総統「ウィリアム」頼清徳の言動が含まれる。頼清徳は台湾の回復力を強化し、中国の浸透に対抗することで、北京が統一目標を損なうものと見なしている。
北京は、米国の同盟とパートナーシップが中国の国家目標を制約していると認識し、ワシントンがアジア太平洋地域における防衛パートナーシップと活動の範囲と規模を拡大していることを懸念している。2024年、北京はアジア太平洋地域における防衛協力を強化する米国の行動に対する懸念を高めた。これには、フィリピンへの中距離および対艦ミサイルシステムの米国配備、台湾への米国の武器販売が含まれる。
第2章:2024年のPLA戦略と能力
中国の防衛政策と軍事戦略
中国は軍隊に対し、「中華民族の復興という中国の夢の実現に強力な戦略的支援を提供し、人類運命共同体の構築に新たなより大きな貢献をする」ことを課している。したがって、中国の明言された防衛政策は、中国のより広範な地域的および世界的野心への支援を含め、その主権、安全保障、発展の利益を「断固として守護する」ことである。
PLAは以下の任務を課されている。
・侵略を抑止し抵抗する
・国家の政治的安全保障、人民の安全保障、社会的安定を守護する
・「台湾独立」に反対し封じ込める
・「チベット独立」および「東トルキスタン」の創設などの分離主義運動の支持者を取り締まる
・国家主権、統一、領土保全、安全保障を守護する
・中国の海洋権益を守護する
・宇宙空間、電磁スペクトル、サイバー空間における中国の安全保障利益を守護する
・中国の海外利益を守護する
・国の持続可能な発展を支援する
中国の軍事戦略は「積極防御」の概念に基づいている。これは戦略的防御と攻撃的行動の原則の組み合わせである。積極防御は純粋に防御的な戦略でも領土防衛に限定されるものでもない。作戦レベルおよび戦術レベルでの攻撃的および先制的側面を包含している。
中国の2027年目標
中国は軍事近代化のための3段階の発展戦略に従っている。現在、中国の軍隊近代化の目標は以下のように公に記されている:
・2027年まで:「機械化、情報化、智能化の統合的発展を加速する」とともに、軍事理論、組織、人員、武器・装備の近代化のスピードを高める
・2035年まで:「国の近代化と歩調を合わせて軍事理論、組織構造、軍人員、武器・装備の近代化を包括的に推進し、国防と軍隊の近代化を基本的に完成させる」
・2049年まで:「人民武装力を世界クラスの軍隊に完全に変革する」
中国はこれらの目標に関する情報を曖昧にしており、2027年目標の重要な要件を公に明らかにしていない。北京が2020年10月の第19期中央委員会第5回全体会議で2027年目標を初めて公に発表したが、それは2019年末のCMCの拡大会議で内部的に確立されていた。中国のメディアは、PLAの2027年目標を、アジア太平洋地域で米軍に対抗し、北京の条件で台湾の指導部を交渉のテーブルに強制する能力の開発に結び付けた。
PLAは2027年目標の達成を「三大戦略能力」の開発に結び付けている。
・「戦略的決定的勝利」(戦略決勝):これはおそらく、PLAが許容可能なコストで紛争に勝利できることを信頼性を持って要求する。PLAはおそらく、この要件を米国の関与を伴う台湾紛争に追跡している。これは、PLAが計画する最もストレスの多い不測の事態である
・「戦略的対抗均衡」(戦略制衡):これはおそらく、PLAが核抑止を含む戦略的抑止の手段を構築し、米軍の関与を十分に抑止または抑制することを要求する
・「戦略的抑止と統制」(戦略慑控):これはおそらく、PLAが水平的エスカレーションを制限したり、他国が日和見的行動を取ることを思いとどまらせたりするための戦力能力を持つことを要求する
軍事戦略指針の更新
2022年後半から、CMCはおそらく、2019年に最後に更新された軍事戦略指針として知られる最高レベルの軍事戦略の改訂を開始した。中国の新しい軍事戦略指針は、北京の中国にとって悪化する安全保障環境の見方への対応である可能性が高い。2022年、第20回党大会報告は、中国が「国際情勢の劇的な変化、特に[...]中国に最大の圧力をかけようとする外部の試み」に直面していると述べ、中国が「情報化・智能化戦争の特性とパターンを研究・把握し、軍事戦略指導を革新し、人民戦争の戦略と戦術を発展させる」必要があると述べた。
権威あるPLA文書は2022年以降、軍事戦略指針の攻撃性を高めることを強調しており、PLAは戦略的機会を掴む主導権を取り、有利な外部条件を創造しなければならないと指摘している。戦略レベルでは、これは単に中国の国境を守り、脅威に受動的に対応するのではなく、中国の周辺に中国の認識する脅威に適切に対応できる軍事態勢を積極的に構築・形成することを意味する。この指針の実施は、南シナ海と台湾周辺での中国のより断固たる軍事姿勢に見られる。
PLAの改訂された軍事戦略はまた、米国を含む軍事的エスカレーションに対する成長する自信と快適さを明らかにしている。特に、この戦略の下でPLAは引き続き長距離精密打撃能力に依存している。これらの能力の成長は、戦争の戦略、作戦、戦術レベル間の境界を曖昧にし、「すべての深度」の目標に対して長距離精密打撃を行うための基本的な戦闘方法として「エリート部隊」の使用を受け入れている。
教義
PLAは2020年11月に基本的な教義文書「中国人民解放軍統合作戦概要(試行)」を発表し、PLAの第5世代の作戦教義の開始を示した。概要はこの世代の頂点文書であり、階層的で統合された教義システムの頂点に位置し、PLAは現在、数十の追加の戦域、領域、軍種固有の教義文書を発行する過程にある。この世代は、初めて戦域司令部に教義指針を提供し、戦域司令部内の統合作戦の組織と実施、指揮権と責任に関する基本的問題に対処するため、独自に重要である。
作戦概念の最適化
多領域精密戦争(MDPW)はPLAの中核的な作戦概念であり、米国との潜在的な将来の紛争に対するPLAの作戦思考の進化を表している。構想されているように、MDPWは、PLAの指揮、統制、通信、コンピュータ、情報、監視、偵察(C4ISR)システムの統合ネットワークを活用し、中央集権的な指揮の下で統合部隊を組織し、すべての領域にわたって軍事力を即座に集約し、その多領域の力を使用して米国の作戦システムの弱点を特定し悪用する。
MDPWの主要な側面は、ビッグデータと人工知能の力を活用して膨大な量の情報を迅速に処理・分析し、迅速で情報に基づいた作戦上の意思決定を促進することである。
第3章:2024年のPLA戦力運用
2024年の演習と作戦
2024年を通じて、PLAは戦闘熟練度と即応性、統合作戦の向上に焦点を当てた一連の統合および単一軍種の演習と訓練活動を実施した。2024年のPLA訓練サイクルは、統合作戦、部隊対部隊のリアリズム、新技術の組み込み、基本的な戦闘スキルの向上に焦点を当てた。
主要な演習には以下が含まれる。
・2024年10月、PLANは初の二重空母グループ訓練イベントを実施した。これは南シナ海で行われ、PLANの2隻の就役空母、遼寧と山東、およびそれぞれの打撃群の統合作戦能力を訓練した
・2024年中、PLAは台湾総統ウィリアム頼の2024年5月の就任演説と2024年10月の台湾国慶節演説に対応して、東部戦区司令部主導の2つの突然の通知演習を実施した。これらはそれぞれJOINT SWORD 2024AおよびJOINT SWORD 2024Bと名付けられた。両演習は、PLA航空機、海軍艦艇、中国海警船が台湾本島とその外島を包囲することで構成された
中国海警の演習と作戦
2024年を通じて、PLAは台湾周辺での作戦活動中に中国海警との調整を改善し、海洋法執行能力のますます統合されたものとなった。昨年、中国海警は台湾の金門および馬祖諸島近くの制限および禁止水域への進入を週平均13回行い、2023年の週8回から増加した。この急増は、北京が2024年2月に、台湾海警と中国漁船の間の事件で2人の中国漁民が溺死した後、パトロールを増やすよう呼びかけたことに続いた。
中国海警は2024年にPLAと並んでJOINT SWORDの2回の反復に参加した。これは、2023年のPLAの東部戦区司令部主導のJOINT SWORD演習には参加しなかったことからの変化である。2024年5月のJOINT SWORD 2024A中、中国海警は台湾の外島(金門と馬祖を含む)を取り囲む水域と台湾の東側で法執行演習を実施し、PLA作戦と統合する中国海警の能力の向上を示した。
台湾海峡の安全保障状況の発展
北京は、外交圧力、情報作戦、軍事圧力、経済的強制を含む国家権力のすべての領域にわたる拡大したツールセットを使用した。北京は、積極的な誘因と戦争に満たない標的を絞った圧力を組み合わせたアプローチを通じて台湾を統一しようとしているが、2024年中に多くの積極的な誘因は観察されていない。
台湾統一を強制する中国の軍事オプション
2024年時点で、中国の指導者はおそらく、台湾作戦に対するPLAの能力が改善していると見ているが、米国の関与に対抗しながら台湾を成功裏に掌握するPLAの準備状況については確信が持てないままである。北京は、軍事行動によって台湾を武力統一するためのいくつかの軍事オプションの計画を引き続き洗練している。過去1年間、PLAはこれらのオプションの重要な要素を実行する作戦を実施した。これには、主要港の封鎖、海上および陸上目標への攻撃、紛争における潜在的な米軍の関与への対抗に焦点を当てた演習が含まれる。
以下は、中国の上級指導者が軍事行動が必要と判断した場合に北京が検討している可能性が高い4つの軍事オプションである。
1.戦争に満たない強制:北京はおそらく、台北の降伏を強制するために、国家権力の他の要素と調整された軍事圧力の拡大を組み合わせて統一を誘導しようとするオプションを検討している
2.統合火力打撃作戦:中国は、主要な政府および軍事目標に対する精密ミサイルと航空攻撃を使用できる。これには、空軍基地、レーダーサイト、ミサイル、宇宙資産、通信施設が含まれ、台湾の防衛を劣化させ、軍事的・政治的指導部を排除し、または抵抗する公衆の決意を弱める
3.統合封鎖作戦:中国は、海上および航空交通の封鎖を採用し、重要な輸入を遮断して台湾の降伏を強制できる
4.統合島嶼上陸作戦(JILC):台湾の水陸両用侵攻は、台湾に対する高度に複雑な三次元攻撃を伴い、複数の慎重に調整された作戦を含む。目標は、台湾の海岸防衛を突破し、PLAが統一を強制するために主要目標または領土を掌握するのに十分な戦闘力を構築できる橋頭堡を確立することである
第4章:防衛支出、資源、技術
中国の防衛支出の評価
中国は米国に次ぐ世界第2位の軍事支出国である。2013年(CCPの習近平総書記の最初の完全な年)から2024年まで、中国の公表防衛予算はほぼ倍増した。
中国の公に発表された防衛予算には中国の防衛支出の全体が含まれていないという、学術、シンクタンク、産業の専門家の間での広範なコンセンサスがある。2024年の中国の総防衛支出はおそらく約3,040億3,770億ドルで、北京の公表予算である2,310億ドルの3263%高かった。これには、中国の公表防衛予算と、人民武装警察、省レベルの安全保障支出、退役軍人問題、動員活動、防衛関連R&D、資本支出への支出が含まれる。
中国の防衛産業の発展
中国の第14次五カ年計画(2021-2025年)は、「独立した国内革新能力を達成するために、現代の軍事システムと破壊的技術の発展を「加速する」必要性を概説している。これらは「外国の技術と革新の源」に依存しないものである。
ミサイル産業
中国は、弾道、巡航、空対空、空対地、地対空ミサイルの広範囲を生産しており、その多くは品質において他の国際トップクラスの生産者と同等であり、国内使用および輸出用である。中国は世界をリードする極超音速ミサイル兵器庫を持ち、過去1年間に通常および核武装極超音速ミサイル技術の開発を前進させ続けた。
海軍および造船産業
中国は、ほとんどの産業指標によって世界トップの商業造船国であり続けており、大量の海軍潜水艦、水上戦闘艦、補助および水陸両用艦を生産するのに十分な能力を持っている。2024年12月、福建で最初の航空機着陸作戦が報告された。福建は中国初の国内設計・製造航空母艦であり、電磁発射システムを特徴としている。
兵器産業
中国は地上兵器産業を引き続き発展させており、自走榴弾砲、主力・軽戦車、歩兵戦闘車、対無人航空機プラットフォームなど、国内使用および輸出用の先進プラットフォームを提供している。
UAVおよび航空産業
2024年、中国の航空産業は、2024年11月の珠海エアショーを含め、新しい軍用航空機とUAVを多数デビューさせ、幅広い能力にわたる着実な進展を示した。主要なデビューには、J-35A第5世代戦闘機とJ-15D空母搭載電子戦機が含まれた。中国はまた、新しい尾翼のない設計特徴を持つ2機のステルス航空機をデビューさせた。
人工知能産業
2024年時点で、中国の防衛産業はPLAへのAI能力を研究、開発、提供している。北京は、既製の商用AI製品と、サイバーアプリケーション、情報作戦、無人システムの自律性の向上のための機能を含むと主張する、軍事専用システムのますます多様なポートフォリオを宣伝している。
第5章:特別トピック
新興技術の発展
中国は、将来の軍事革新の基盤となることが約束される一連の先進的かつ新興技術を支配しようとしている。中国の指導者が商業分野で「暗殺者の鎚(銀の弾丸)」技術を開発するよう研究者に呼びかけてきたのと同様に、PLA指導者は決定的な軍事的勝利と戦場の驚きをもたらすことができる暗殺者の鎚能力を開発しようと努力している。
北京の「新質生産力」に対する経済的焦点に見合って、PLAは新興技術によって可能になる「新質戦闘力」を配備しようとしている。経済の減速にもかかわらず、北京は軍事近代化に向けて主要な資源を引き続き向けている。PLAの近代化を推進することに加えて、中国の指導者は、人工知能やビッグデータ分析などの新興技術を社会統制のための重要なツールと見なしており、国はそのデジタル権威主義のバージョンを世界的に輸出している。
中国の強制戦術、技術、手順
北京は、防衛、政策、世界開発の利益を前進させるために、軍事、安全保障、法律、経済の領域で強制的行動を選択的に採用する意欲を示している。2024年を通じて、PLAはアジア太平洋地域で中国の外交政策目標を前進させるために強制的行動を実施した。PLAの嫌がらせと危険な行動には、米国および他の国が北京が領土または海洋の主張を前進させる地域の近くで合法的な作戦を実施する能力を脅迫、抑止、妨害、または拒否しようとする、安全でない、非専門的、およびその他の行動が含まれる。
台湾圧力キャンペーンの進化
2020年から2024年まで、中国は台湾に対する軍事圧力活動の範囲、規模、頻度を増加させた。2024年中、中国は日常的な空中および海上侵入を通じて台湾の事実上の主権境界に挑戦し続けた。台湾に対する中国の軍事圧力は、JOINT SWORD-2024AおよびJOINT SWORD-2024Bという2つの名前付き作戦によって強調された。
【要点】
主要な戦略的評価
・中国の2027年軍事目標:PLAは2027年末までに台湾に対する「戦略的決定的勝利」、米国に対する「戦略的対抗均衡」、地域諸国に対する「戦略的抑止と統制」を達成する目標に向けて着実に進展している
・第一列島線への焦点:中国の軍事的焦点は日本列島からマレー半島に至る第一列島線にあり、北京はこの地域を戦略的重心と認識している
・米国本土への脅威の増大:中国は核、海洋、通常長距離攻撃、サイバー、宇宙の能力からなる大規模な兵器庫を維持し、米国民の安全を直接脅かす能力を持つ
軍事能力の発展
・打撃能力の範囲:2024年現在、PLA運動攻撃は中国本土から1,500~2,000海里以内で効果的であると推定され、十分な量があれば、アジア太平洋地域の紛争における米国のプレゼンスに深刻な挑戦と混乱をもたらす可能性がある
・防衛予算の倍増:2013年から2024年まで、中国の公表防衛予算はほぼ倍増し、2024年の総防衛支出は約3,040億~3,770億ドルと推定される
・核戦力の拡大:中国の核弾頭備蓄は2024年を通じて600発台前半に留まったが、PLAは2030年までに1,000発以上の弾頭を保有する軌道に乗っている
台湾に関する動向
・台湾への圧力増大:北京は「平和統一」という言葉を高官レベルの声明から繰り返し省略し、2024年と2025年に台湾周辺で大規模な軍事作戦を実施し、台北に統一を強制しようとする協調的な圧力キャンペーンを示している
・台湾統一の軍事オプション:北京は4つの主要な軍事オプションを洗練している:(1)戦争に満たない強制、(2)統合火力打撃作戦、(3)統合封鎖作戦、(4)統合島嶼上陸作戦
台湾周辺の作戦活動増加:2024年、PLAは台湾のADIZへの航空機侵入を3,067回(2023年の1,641回から増加)実施し、38回の統合戦闘即応パトロールを実施した
技術と能力の近代化
・ISR衛星の大幅増加:2024年1月時点で、中国のISR衛星艦隊は359以上のシステムを含み、2018年以来その軌道上収集プレゼンスを3倍以上にした
・サイバー脅威の持続:2024年、中国は米国政府、軍事、民間ネットワークに対する最も持続的なサイバー脅威のままであり、Volt TyphoonやSalt Typhoonなどのキャンペーンが米国の重要インフラに侵入した
・新興技術への投資:中国は人工知能、バイオテクノロジー、量子技術、先進半導体、先進エネルギー生成・貯蔵を含む重要な二重用途の新興技術を支配するための全国的な取り組みを実行している
地域的・国際的活動
・南シナ海での強制行動:2024年を通じて、中国海警と中国海上民兵は、放水砲、衝突、乗船を含むますます攻撃的な戦術を使用し、南シナ海での中国の違法な海洋主張を強制した
・ロシアとの深化する戦略的パートナーシップ:2024年、中国とロシアは防衛関与を拡大し、統合軍事演習の頻度、範囲、複雑さを増加させた。初めて、統合爆撃機パトロールがアラスカADIZに進入し、初の統合沿岸警備パトロールがベーリング海で実施された
・腐敗対策キャンペーンの影響:PLAは全軍種で腐敗関連の調査を引き続き経験しており、数十人の将軍の解任につながった。2024年後半までに、腐敗問題は再びCMCのレベルに達し、副主席のHe Weidongと政治工作部長のMiao Huaが拘束または停職となった
注:ANNUAL-REPORT-TO-CONGRESS-MILITARY-AND-SECURITY-DEVELOPMENTS-INVOLVING-THE-PEOPLES-REPUBLIC-OF-CHINA-2025 U.S.Department of Defense 2025を私的に要約したものである。
【閑話 完】
【引用・参照・底本】
ANNUAL-REPORT-TO-CONGRESS-MILITARY-AND-SECURITY-DEVELOPMENTS-INVOLVING-THE-PEOPLES-REPUBLIC-OF-CHINA-2025 U.S.Department of Defense 2025
https://media.defense.gov/2025/Dec/23/2003849070/-1/-1/1/ANNUAL-REPORT-TO-CONGRESS-MILITARY-AND-SECURITY-DEVELOPMENTS-INVOLVING-THE-PEOPLES-REPUBLIC-OF-CHINA-2025.PDF
米国防総省の報告書:事実を歪めた根拠のない内容 ― 2025-12-25 23:12
【概要】
米国防総省の報告書が中国とインドの関係について示した主張に対し、中国外務省および国防省は、事実を歪めた根拠のない内容であるとして強く反発した。中国側は、中印関係は全体として安定しており、米国の報告書は中国の国防政策を誤って描写し、対立をあおるものであると批判した。
【詳細】
中国外務省報道官の林剣は、定例記者会見において、中印国境問題は両国間の問題であり、現在の国境情勢は概ね安定していて意思疎通のルートも円滑であると述べた。また、米国防総省の報告書は、中国が国境緊張の緩和を利用して米印関係の深化を阻止しようとしていると主Zhangしているが、これは中国の国防政策を歪曲し、中国と他国の関係にくさびを打ち込むものであり、米国が軍事的優位を維持するための口実であるとして、中国は断固として反対すると表明した。
林は、中国はインドとの関係を戦略的かつ長期的な視点から捉えており、意思疎通の強化、相互信頼の増進、協力の推進、相違点の適切な処理を通じて、健全で安定した二国間関係を発展させる用意があると述べた。
これに関連し、中国国防省報道官のZhang Xiaogangは、同報告書について、米国が毎年発表するものであり、中国の内政に干渉し、中国の国防政策を悪意をもって歪曲し、中国軍の能力や活動について根拠のない推測や中傷を行っていると批判した。同報告書は誤った中国認識と地政学的偏見に満ちており、「中国の軍事的脅威」を誇張して国際社会を誤導するものであるとして、強い不満と断固たる反対を表明した。
Zhangは、中国は防御的性格の国防政策を堅持し、積極防御の軍事戦略に基づき、国家主権、安全、発展利益を守るために国防と軍の現代化を進めていると説明した。また、中国軍はグローバル・セキュリティ・イニシアチブを実施し、国内法および国際法を厳格に順守しつつ、正当な権益を理性的かつ節度ある形で守り、国際公共安全財の提供や人類運命共同体の構築に貢献していると述べた。
さらに、米国に対し、中国を正しく理解し、中国の発展と軍の成長を客観的に捉え、虚偽の言説を作り出したり対立をあおったりすることをやめるよう求めた。
【要点】
・米国防総省の報告書は、中国外務省および国防省から事実歪曲であるとして強く批判された。
・中国は、中印国境情勢は概ね安定しており、二国間には円滑な意思疎通があると説明した。
・中国はインドとの関係を長期的・戦略的に重視し、協力と安定した関係の発展を目指す立場を示した。
・中国は、自国の国防政策は防御的であり、国際社会の平和と安定に貢献するものであると強調した。
【引用・参照・底本】
Pentagon report’s claims on China-India ties slammed by FM GT 2025.12.25
https://www.globaltimes.cn/page/202512/1351464.shtml
米国防総省の報告書が中国とインドの関係について示した主張に対し、中国外務省および国防省は、事実を歪めた根拠のない内容であるとして強く反発した。中国側は、中印関係は全体として安定しており、米国の報告書は中国の国防政策を誤って描写し、対立をあおるものであると批判した。
【詳細】
中国外務省報道官の林剣は、定例記者会見において、中印国境問題は両国間の問題であり、現在の国境情勢は概ね安定していて意思疎通のルートも円滑であると述べた。また、米国防総省の報告書は、中国が国境緊張の緩和を利用して米印関係の深化を阻止しようとしていると主Zhangしているが、これは中国の国防政策を歪曲し、中国と他国の関係にくさびを打ち込むものであり、米国が軍事的優位を維持するための口実であるとして、中国は断固として反対すると表明した。
林は、中国はインドとの関係を戦略的かつ長期的な視点から捉えており、意思疎通の強化、相互信頼の増進、協力の推進、相違点の適切な処理を通じて、健全で安定した二国間関係を発展させる用意があると述べた。
これに関連し、中国国防省報道官のZhang Xiaogangは、同報告書について、米国が毎年発表するものであり、中国の内政に干渉し、中国の国防政策を悪意をもって歪曲し、中国軍の能力や活動について根拠のない推測や中傷を行っていると批判した。同報告書は誤った中国認識と地政学的偏見に満ちており、「中国の軍事的脅威」を誇張して国際社会を誤導するものであるとして、強い不満と断固たる反対を表明した。
Zhangは、中国は防御的性格の国防政策を堅持し、積極防御の軍事戦略に基づき、国家主権、安全、発展利益を守るために国防と軍の現代化を進めていると説明した。また、中国軍はグローバル・セキュリティ・イニシアチブを実施し、国内法および国際法を厳格に順守しつつ、正当な権益を理性的かつ節度ある形で守り、国際公共安全財の提供や人類運命共同体の構築に貢献していると述べた。
さらに、米国に対し、中国を正しく理解し、中国の発展と軍の成長を客観的に捉え、虚偽の言説を作り出したり対立をあおったりすることをやめるよう求めた。
【要点】
・米国防総省の報告書は、中国外務省および国防省から事実歪曲であるとして強く批判された。
・中国は、中印国境情勢は概ね安定しており、二国間には円滑な意思疎通があると説明した。
・中国はインドとの関係を長期的・戦略的に重視し、協力と安定した関係の発展を目指す立場を示した。
・中国は、自国の国防政策は防御的であり、国際社会の平和と安定に貢献するものであると強調した。
【引用・参照・底本】
Pentagon report’s claims on China-India ties slammed by FM GT 2025.12.25
https://www.globaltimes.cn/page/202512/1351464.shtml
米国メディアによるPLAの台湾「攻撃」想定報道:戦争不安をあおるもの ― 2025-12-25 23:25
【概要】
米国メディアが中国人民解放軍(PLA)による台湾への「攻撃」を想定した報道を行っていることに対し、中国国防部(MND)の報道官は、こうした報道は根拠のない「戦争不安」をあおるものであり、台湾海峡の平和と安定を損なうだけであると批判した。中国側は台湾問題を中国の内政問題と位置づけ、外部勢力の干渉を認めない姿勢を改めて強調した。
【詳細】
中国国防部の報道官であるZhang Xiaogang上級大佐は、米国メディアがPLAによる台湾への「三段階の攻撃計画」や「最適な時期」「最適な上陸地点」などを挙げて報道していることに言及し、これらはPLAの行動を憶測で語り、意図的に戦争不安を拡散する無益な試みであると述べた。
また、米国国防総省の機密報告書の内容として、中国本土が台湾に到達する前に米国の先進兵器を破壊する能力を有しており、米国が台湾を「防衛できなくなる」とする主張が報じられている点にも触れられた。
張報道官は、台湾問題は純粋に中国の内政問題であり、いかなる外部の干渉も許されないと明言した。その上で、中国は平和的統一の可能性に向けて最大限の誠意と努力を払う用意がある一方、武力行使を放棄することは決してなく、あらゆる必要な措置を取る選択肢を留保していると述べた。
さらに、「台湾独立」分離勢力が限界を超え、いわゆるレッドラインを越えた場合には、断固たる対抗措置を取らざるを得ないと強調し、PLAは常に戦闘準備が整っており、いつでも戦う能力を有し、あらゆる戦いに勝利すると述べた。
【要点】
・米国メディアによるPLAの台湾「攻撃」想定報道は、戦争不安をあおるものであり、台湾海峡の平和と安定を損なうと中国国防部は批判した。
・台湾問題は中国の内政問題であり、外部勢力の干渉は認められないと強調された。
・中国は平和的統一を目指す姿勢を示す一方、武力行使を放棄せず、必要なあらゆる措置を取る立場を維持している。
・「台湾独立」分離勢力や外部干渉に対して、PLAは常に戦闘準備が整っており、断固として対抗すると表明した。
【引用・参照・底本】
Futile attempts made by US media to peddle 'war anxiety' will only undermine peace and stability across Taiwan Straits: MND spokesperson GT 2025.12.25
https://www.globaltimes.cn/page/202512/1351468.shtml
米国メディアが中国人民解放軍(PLA)による台湾への「攻撃」を想定した報道を行っていることに対し、中国国防部(MND)の報道官は、こうした報道は根拠のない「戦争不安」をあおるものであり、台湾海峡の平和と安定を損なうだけであると批判した。中国側は台湾問題を中国の内政問題と位置づけ、外部勢力の干渉を認めない姿勢を改めて強調した。
【詳細】
中国国防部の報道官であるZhang Xiaogang上級大佐は、米国メディアがPLAによる台湾への「三段階の攻撃計画」や「最適な時期」「最適な上陸地点」などを挙げて報道していることに言及し、これらはPLAの行動を憶測で語り、意図的に戦争不安を拡散する無益な試みであると述べた。
また、米国国防総省の機密報告書の内容として、中国本土が台湾に到達する前に米国の先進兵器を破壊する能力を有しており、米国が台湾を「防衛できなくなる」とする主張が報じられている点にも触れられた。
張報道官は、台湾問題は純粋に中国の内政問題であり、いかなる外部の干渉も許されないと明言した。その上で、中国は平和的統一の可能性に向けて最大限の誠意と努力を払う用意がある一方、武力行使を放棄することは決してなく、あらゆる必要な措置を取る選択肢を留保していると述べた。
さらに、「台湾独立」分離勢力が限界を超え、いわゆるレッドラインを越えた場合には、断固たる対抗措置を取らざるを得ないと強調し、PLAは常に戦闘準備が整っており、いつでも戦う能力を有し、あらゆる戦いに勝利すると述べた。
【要点】
・米国メディアによるPLAの台湾「攻撃」想定報道は、戦争不安をあおるものであり、台湾海峡の平和と安定を損なうと中国国防部は批判した。
・台湾問題は中国の内政問題であり、外部勢力の干渉は認められないと強調された。
・中国は平和的統一を目指す姿勢を示す一方、武力行使を放棄せず、必要なあらゆる措置を取る立場を維持している。
・「台湾独立」分離勢力や外部干渉に対して、PLAは常に戦闘準備が整っており、断固として対抗すると表明した。
【引用・参照・底本】
Futile attempts made by US media to peddle 'war anxiety' will only undermine peace and stability across Taiwan Straits: MND spokesperson GT 2025.12.25
https://www.globaltimes.cn/page/202512/1351468.shtml








