トランプ政権の要求: GDP比5%の防衛費支出を同盟国に要求 ― 2026-01-21 17:42
【概要】
トランプ政権は同盟国に対してGDP比5%の防衛費支出を要求している。この要求に対して韓国は、2026年度予算でGDP比2.45%(約7兆円)の防衛予算を計上し、特に「防衛力改善費」を前年比11.9%増の約20兆ウォンに拡大した。韓国は米国の圧力を契機として、米国依存の深化ではなく自主能力の強化へと舵を切り、防衛産業の成長を加速させている。一方で、この防衛力増強は東アジア地域全体の安全保障環境に影響を及ぼし、周辺国からの脅威認識を高める可能性がある。日本も同様の要求を受けており、韓国の対応は重要な参照例となる。
【詳細】
トランプ政権の要求
2025年12月発表のトランプ政権の国家安全保障戦略(NSS)は、「米国がアトラスのように世界秩序を独りで支える時代は終わった」と明記した。2025年6月5日、ピート・ヘグセス米国防長官は日本・韓国を含む同盟国に対し、GDPの5%を国防費として支出すべきだと表明した。新NSSはアジアにおいて「第1列島線」防衛を核心に据える一方、北朝鮮には一度も言及しなかった。これは朝鮮半島防衛の優先順位が後退し、対北朝鮮抑止の一次的責任が韓国へ移譲されつつある現実を示している。
韓国の防衛予算の動向2026年度の韓国防衛予算はGDP比2.45%水準の65.9兆ウォン(約7兆円)である。5%基準を満たすには予算を2倍以上に増やす必要がある。韓国の国防予算は2015年から2026年まで75.7%増加した。特に2025-2026年の増加率7.5%は2008年以降で最高水準である。防衛に係る間接費用まで合わせると(NATO基準)、GDP比は3.5%を超えている。防衛力改善費の拡大2026年の防衛力改善費は前年比11.9%増の約20兆ウォンに達し、戦力運営費の5.8%増を大きく上回った。その結果、防衛力改善費比率は国防予算の30%以上へと回復している。これは韓国が「防衛力の構造的強化」へ舵を切ったことを意味する。3つの優先分野への配分増額された防衛力改善費は以下の3分野に集中配分された。
第1に、韓国型3軸体系への投資(8.8兆ウォン)である。「3軸体系」とは、キルチェーン(先制打撃)、韓国型ミサイル防衛、大量応懲報復からなる。従来は米軍の拡大抑止に依存してきた核・ミサイル対応を、韓国独自で完結させようとする体系である。
第2に、航空機分野の予算増加(2.4兆ウォン)であり、KF-21ボラメ(国産戦闘機)の初量産着手が牽引した。2030年代までに120機以上を配備し、米国製装備への依存度を相対的に低減することで、トランプ政権の「米国製武器購入増加要求」に対する交渉余地を生み出す可能性を秘めている。
第3に、AI基盤有・無人複合戦闘体系への拡大(2161億ウォン)である。これはウクライナ戦争の教訓を反映したものである。人口減少で兵力削減が不可避な韓国にとって、AI・無人体系による戦力代替は構造的課題への対応として位置づけられる。韓国の戦略的意図韓国の2026年防衛予算を精査すると、トランプ政権のNSSが明言した「富裕で発展した同盟国が自国地域に対する一次的責任を負うべき」という構想を一定程度受け入れつつも、増額分を「米国依存の深化」ではなく「自主能力の強化」へと振り向け、自立の契機として再認識する意図が透けて見える。脅威対応における同盟負担拡大という米国の戦略には合致させながらも、戦時の作戦統制権転換・技術自立を達成するための投資として予算を設計し、完全に米国の意図に従属させられることは避け、今後の交渉発言力を確保しようとしている。
防衛産業への波及効果防衛予算、特に防衛力改善費の拡大は、韓国防衛産業に複合的な波及効果をもたらしている。まず内需拡大が生産基盤を強化している。KF-21、K-2戦車、K-9自走砲、天弓ミサイルなど、主要事業は国産であり、防衛力改善費20兆ウォンの大部分が国内企業へ発注される構造である。韓国政府は「防産地域連携・生態系基盤構築」関連予算を倍増し、中小の防衛関連企業の育成にも注力している。この生産能力の底上げは、輸出競争力を生み出している。
韓国の防衛産業輸出は2021年の73億ドルから2022年に173億ドルへ急増し、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の統計で世界シェア2.2%(10位圏)、NATO向けシェア6.5%(米国に次ぐ2位)を記録した。特に、2025年7月のポーランド「K-2戦車2次契約」(65億ドル)は単一輸出として韓国史上最大となった。内需で量産体制を確立し、コストを低減し、実戦配備で信頼性を実証した装備が輸出市場で競争力を持つという好循環が生まれている。東アジア安全保障環境への影響トランプ政権のNSSは、韓国が巧妙に維持してきた「戦略的曖昧性」を許さないという米国の意思を含んでいる。
従来、韓国は米国との強固な同盟関係を保ちながらも、中国との経済関係を深化させ、「安保は米国、経済は中国」というバランシングを試みてきた。米中対立の激化とトランプ政権の「負担共有」要求は、この曖昧性の維持コストを急速に引き上げることとなる。韓国が選択した「自主国防能力強化」は、それに対する妥協案とも考えられる。ただし、
韓国軍の戦力向上は、結果として韓国が「望まない紛争」に巻き込まれる可能性を高める。韓国が強化しているいくつかの兵器体系は、原則的には「北朝鮮の核・ミサイル脅威への対抗」を名目としている。しかし、玄武シリーズ弾道ミサイルの進化は最も象徴的である。射程1000km級の玄武4型、改良すれば射程5000kmを超える玄武5型は、北朝鮮はもとより、中国の首都圏や沿海部、日本の全地域をも射程に収める。従来の対北朝鮮限定の理由では、この開発経緯を周辺国に納得させることが困難になってきている。
2025年10月のトランプ大統領訪韓の際にも話題となった原子力推進潜水艦(SSN)保有推進も、その使い方の説明は簡単ではない。韓国は従来型潜水艦でも充分な対北朝鮮作戦能力を持つ。あえてSSNを追求することは、作戦海域が朝鮮半島沿岸から第一列島線を越えて西太平洋へ拡張される可能性を含むので、従来の半島防衛という限定的な戦略目標とは異なる。李在明大統領がトランプ大統領にSSNの必要性を訴える際に「中国牽制」に言及したことは、その真意はともかく、周辺国が疑うに足る十分な理由となる。「脅威とは能力と意思の乗積である」という国際政治の基本定理がある。
韓国政府は対北朝鮮のみと強調するが、周辺国の脅威認識は、韓国の表面的意図ではなく、実在する攻撃能力に基づいて形成される。よって、韓国の防衛力増強は、米国の要求に応じる形ながら、周辺国にとって「攻勢的シグナル」として受け取られてもおかしくない。中国にしてみれば、海空軍、ミサイル戦力によるA2/AD(接近阻止・領域拒否)戦略のさらなる強化を図ることが当然ということになる。ロシアは北朝鮮への軍事技術提供、中国との連携強化を通じて、地域内の戦力バランシングを試みると考えられる。北朝鮮は従来型防衛が独自では不可能になる中、先制核使用ドクトリンの強化に向かい、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の精密化、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)搭載原潜確保を加速するだろう。
日本への示唆
韓国はトランプ政権の「GDP5%の防衛費」要求に対して自主防衛能力強化を選択した。それは日本の安全保障政策にとっても示唆する点が多い。
第1に、防衛に対する米国依存の限界を認識する必要性である。トランプ政権による同盟国の防衛費増額要求は、米国の単独秩序維持の終焉を意味する。韓国が防衛力増強を対北朝鮮抑止の自立化として再認識したのと同様に、日本も東シナ海・台湾海峡における一次的防衛責任を再認識し、その能力を早期に完備することが求められよう。特に、その背景・意義・方向性を丁寧に説明し、国民と共有する努力が欠かせない。
第2に、日本の能力構築に独自性を高めることである。韓国が推進する国産弾道ミサイル、戦闘機開発や原子力潜水艦保有は、米国への依存軽減を目指すものである。日本は、最近「抜本的な防衛力強化」を目指しながらも、主な攻撃手段に関しては依然として米国への依存度が高い状況にある。それは同盟関係への配慮などを含んでの決定であると考えられるが、昨今の世界情勢を鑑みると日本が追求する防衛力の「強靭性」には繋がらない。
第3に、防衛予算増額がもたらす経済波及効果の極大化である。日本も防衛予算増額に伴い防衛産業に対する期待がますます高まっている。しかし、内需市場での低い利益率、輸出(装備移転)への過度な制限は防衛産業の体質改善を妨げる要因となる。防衛産業の効率性向上を伴う成長は、日本が目指す防衛力強化の根幹になり得る。
結論として、日本が今後取り組むべきは、防衛費増額の「質的設計」である。単なる米国製装備の購入増ではなく、①国産開発への配分拡大、②防衛産業の輸出環境整備、③地域安定を前提とした地域内の同志国、例えば韓国との防衛協力の制度化、この3つを同時に進める戦略的な予算編成が求められる。
【要点】
・トランプ政権の要求: GDP比5%の防衛費支出を同盟国に要求。新NSSは第1列島線防衛を核心とし、北朝鮮に言及せず、朝鮮半島防衛の責任が韓国へ移譲されつつある。
・韓国の予算対応: 2026年度予算はGDP比2.45%(65.9兆ウォン)で、5%には遠く及ばないが、防衛力改善費を前年比11.9%増(約20兆ウォン)に拡大し、予算比率を30%以上に回復させた。
・3つの優先投資分野: ①韓国型3軸体系(8.8兆ウォン)で対北抑止の独自化、②国産戦闘機KF-21の量産(2.4兆ウォン)で米国依存軽減、③AI・無人戦闘体系(2161億ウォン)で人口減少への対応。
・戦略的意図: 米国の要求を受け入れつつも、増額分を「自主能力強化」に振り向け、戦時作戦統制権転換と技術自立を達成し、交渉発言力を確保する「したたかさ」を示している。
・防衛産業の成長: 内需拡大で生産基盤を強化し、輸出競争力を獲得。2021年の73億ドルから2022年に173億ドルへ急増し、世界シェア2.2%、NATO向けシェア6.5%(米国に次ぐ2位)を記録。
・地域安保への影響: 韓国の防衛力増強は周辺国に「攻勢的シグナル」として受け取られる可能性がある。玄武ミサイルやSSN保有は対北朝鮮限定では説明困難で、中国・ロシア・北朝鮮の脅威認識を高め、地域の軍拡競争を誘発する恐れがある。
・日本への示唆: ①米国依存の限界を認識し一次的防衛責任を再認識すること、②能力構築の独自性を高めること、③防衛産業の経済波及効果を極大化すること。防衛費増額の「質的設計」として、国産開発への配分拡大、防衛産業の輸出環境整備、韓国など同志国との防衛協力制度化が必要である。
【引用・参照・底本】
【元韓国海軍将校が分析】トランプが迫る防衛費「GDP比5%」 したたかに対応する韓国、そして日本の選択 JBpress 2026.01.21
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/92778
トランプ政権は同盟国に対してGDP比5%の防衛費支出を要求している。この要求に対して韓国は、2026年度予算でGDP比2.45%(約7兆円)の防衛予算を計上し、特に「防衛力改善費」を前年比11.9%増の約20兆ウォンに拡大した。韓国は米国の圧力を契機として、米国依存の深化ではなく自主能力の強化へと舵を切り、防衛産業の成長を加速させている。一方で、この防衛力増強は東アジア地域全体の安全保障環境に影響を及ぼし、周辺国からの脅威認識を高める可能性がある。日本も同様の要求を受けており、韓国の対応は重要な参照例となる。
【詳細】
トランプ政権の要求
2025年12月発表のトランプ政権の国家安全保障戦略(NSS)は、「米国がアトラスのように世界秩序を独りで支える時代は終わった」と明記した。2025年6月5日、ピート・ヘグセス米国防長官は日本・韓国を含む同盟国に対し、GDPの5%を国防費として支出すべきだと表明した。新NSSはアジアにおいて「第1列島線」防衛を核心に据える一方、北朝鮮には一度も言及しなかった。これは朝鮮半島防衛の優先順位が後退し、対北朝鮮抑止の一次的責任が韓国へ移譲されつつある現実を示している。
韓国の防衛予算の動向2026年度の韓国防衛予算はGDP比2.45%水準の65.9兆ウォン(約7兆円)である。5%基準を満たすには予算を2倍以上に増やす必要がある。韓国の国防予算は2015年から2026年まで75.7%増加した。特に2025-2026年の増加率7.5%は2008年以降で最高水準である。防衛に係る間接費用まで合わせると(NATO基準)、GDP比は3.5%を超えている。防衛力改善費の拡大2026年の防衛力改善費は前年比11.9%増の約20兆ウォンに達し、戦力運営費の5.8%増を大きく上回った。その結果、防衛力改善費比率は国防予算の30%以上へと回復している。これは韓国が「防衛力の構造的強化」へ舵を切ったことを意味する。3つの優先分野への配分増額された防衛力改善費は以下の3分野に集中配分された。
第1に、韓国型3軸体系への投資(8.8兆ウォン)である。「3軸体系」とは、キルチェーン(先制打撃)、韓国型ミサイル防衛、大量応懲報復からなる。従来は米軍の拡大抑止に依存してきた核・ミサイル対応を、韓国独自で完結させようとする体系である。
第2に、航空機分野の予算増加(2.4兆ウォン)であり、KF-21ボラメ(国産戦闘機)の初量産着手が牽引した。2030年代までに120機以上を配備し、米国製装備への依存度を相対的に低減することで、トランプ政権の「米国製武器購入増加要求」に対する交渉余地を生み出す可能性を秘めている。
第3に、AI基盤有・無人複合戦闘体系への拡大(2161億ウォン)である。これはウクライナ戦争の教訓を反映したものである。人口減少で兵力削減が不可避な韓国にとって、AI・無人体系による戦力代替は構造的課題への対応として位置づけられる。韓国の戦略的意図韓国の2026年防衛予算を精査すると、トランプ政権のNSSが明言した「富裕で発展した同盟国が自国地域に対する一次的責任を負うべき」という構想を一定程度受け入れつつも、増額分を「米国依存の深化」ではなく「自主能力の強化」へと振り向け、自立の契機として再認識する意図が透けて見える。脅威対応における同盟負担拡大という米国の戦略には合致させながらも、戦時の作戦統制権転換・技術自立を達成するための投資として予算を設計し、完全に米国の意図に従属させられることは避け、今後の交渉発言力を確保しようとしている。
防衛産業への波及効果防衛予算、特に防衛力改善費の拡大は、韓国防衛産業に複合的な波及効果をもたらしている。まず内需拡大が生産基盤を強化している。KF-21、K-2戦車、K-9自走砲、天弓ミサイルなど、主要事業は国産であり、防衛力改善費20兆ウォンの大部分が国内企業へ発注される構造である。韓国政府は「防産地域連携・生態系基盤構築」関連予算を倍増し、中小の防衛関連企業の育成にも注力している。この生産能力の底上げは、輸出競争力を生み出している。
韓国の防衛産業輸出は2021年の73億ドルから2022年に173億ドルへ急増し、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の統計で世界シェア2.2%(10位圏)、NATO向けシェア6.5%(米国に次ぐ2位)を記録した。特に、2025年7月のポーランド「K-2戦車2次契約」(65億ドル)は単一輸出として韓国史上最大となった。内需で量産体制を確立し、コストを低減し、実戦配備で信頼性を実証した装備が輸出市場で競争力を持つという好循環が生まれている。東アジア安全保障環境への影響トランプ政権のNSSは、韓国が巧妙に維持してきた「戦略的曖昧性」を許さないという米国の意思を含んでいる。
従来、韓国は米国との強固な同盟関係を保ちながらも、中国との経済関係を深化させ、「安保は米国、経済は中国」というバランシングを試みてきた。米中対立の激化とトランプ政権の「負担共有」要求は、この曖昧性の維持コストを急速に引き上げることとなる。韓国が選択した「自主国防能力強化」は、それに対する妥協案とも考えられる。ただし、
韓国軍の戦力向上は、結果として韓国が「望まない紛争」に巻き込まれる可能性を高める。韓国が強化しているいくつかの兵器体系は、原則的には「北朝鮮の核・ミサイル脅威への対抗」を名目としている。しかし、玄武シリーズ弾道ミサイルの進化は最も象徴的である。射程1000km級の玄武4型、改良すれば射程5000kmを超える玄武5型は、北朝鮮はもとより、中国の首都圏や沿海部、日本の全地域をも射程に収める。従来の対北朝鮮限定の理由では、この開発経緯を周辺国に納得させることが困難になってきている。
2025年10月のトランプ大統領訪韓の際にも話題となった原子力推進潜水艦(SSN)保有推進も、その使い方の説明は簡単ではない。韓国は従来型潜水艦でも充分な対北朝鮮作戦能力を持つ。あえてSSNを追求することは、作戦海域が朝鮮半島沿岸から第一列島線を越えて西太平洋へ拡張される可能性を含むので、従来の半島防衛という限定的な戦略目標とは異なる。李在明大統領がトランプ大統領にSSNの必要性を訴える際に「中国牽制」に言及したことは、その真意はともかく、周辺国が疑うに足る十分な理由となる。「脅威とは能力と意思の乗積である」という国際政治の基本定理がある。
韓国政府は対北朝鮮のみと強調するが、周辺国の脅威認識は、韓国の表面的意図ではなく、実在する攻撃能力に基づいて形成される。よって、韓国の防衛力増強は、米国の要求に応じる形ながら、周辺国にとって「攻勢的シグナル」として受け取られてもおかしくない。中国にしてみれば、海空軍、ミサイル戦力によるA2/AD(接近阻止・領域拒否)戦略のさらなる強化を図ることが当然ということになる。ロシアは北朝鮮への軍事技術提供、中国との連携強化を通じて、地域内の戦力バランシングを試みると考えられる。北朝鮮は従来型防衛が独自では不可能になる中、先制核使用ドクトリンの強化に向かい、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の精密化、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)搭載原潜確保を加速するだろう。
日本への示唆
韓国はトランプ政権の「GDP5%の防衛費」要求に対して自主防衛能力強化を選択した。それは日本の安全保障政策にとっても示唆する点が多い。
第1に、防衛に対する米国依存の限界を認識する必要性である。トランプ政権による同盟国の防衛費増額要求は、米国の単独秩序維持の終焉を意味する。韓国が防衛力増強を対北朝鮮抑止の自立化として再認識したのと同様に、日本も東シナ海・台湾海峡における一次的防衛責任を再認識し、その能力を早期に完備することが求められよう。特に、その背景・意義・方向性を丁寧に説明し、国民と共有する努力が欠かせない。
第2に、日本の能力構築に独自性を高めることである。韓国が推進する国産弾道ミサイル、戦闘機開発や原子力潜水艦保有は、米国への依存軽減を目指すものである。日本は、最近「抜本的な防衛力強化」を目指しながらも、主な攻撃手段に関しては依然として米国への依存度が高い状況にある。それは同盟関係への配慮などを含んでの決定であると考えられるが、昨今の世界情勢を鑑みると日本が追求する防衛力の「強靭性」には繋がらない。
第3に、防衛予算増額がもたらす経済波及効果の極大化である。日本も防衛予算増額に伴い防衛産業に対する期待がますます高まっている。しかし、内需市場での低い利益率、輸出(装備移転)への過度な制限は防衛産業の体質改善を妨げる要因となる。防衛産業の効率性向上を伴う成長は、日本が目指す防衛力強化の根幹になり得る。
結論として、日本が今後取り組むべきは、防衛費増額の「質的設計」である。単なる米国製装備の購入増ではなく、①国産開発への配分拡大、②防衛産業の輸出環境整備、③地域安定を前提とした地域内の同志国、例えば韓国との防衛協力の制度化、この3つを同時に進める戦略的な予算編成が求められる。
【要点】
・トランプ政権の要求: GDP比5%の防衛費支出を同盟国に要求。新NSSは第1列島線防衛を核心とし、北朝鮮に言及せず、朝鮮半島防衛の責任が韓国へ移譲されつつある。
・韓国の予算対応: 2026年度予算はGDP比2.45%(65.9兆ウォン)で、5%には遠く及ばないが、防衛力改善費を前年比11.9%増(約20兆ウォン)に拡大し、予算比率を30%以上に回復させた。
・3つの優先投資分野: ①韓国型3軸体系(8.8兆ウォン)で対北抑止の独自化、②国産戦闘機KF-21の量産(2.4兆ウォン)で米国依存軽減、③AI・無人戦闘体系(2161億ウォン)で人口減少への対応。
・戦略的意図: 米国の要求を受け入れつつも、増額分を「自主能力強化」に振り向け、戦時作戦統制権転換と技術自立を達成し、交渉発言力を確保する「したたかさ」を示している。
・防衛産業の成長: 内需拡大で生産基盤を強化し、輸出競争力を獲得。2021年の73億ドルから2022年に173億ドルへ急増し、世界シェア2.2%、NATO向けシェア6.5%(米国に次ぐ2位)を記録。
・地域安保への影響: 韓国の防衛力増強は周辺国に「攻勢的シグナル」として受け取られる可能性がある。玄武ミサイルやSSN保有は対北朝鮮限定では説明困難で、中国・ロシア・北朝鮮の脅威認識を高め、地域の軍拡競争を誘発する恐れがある。
・日本への示唆: ①米国依存の限界を認識し一次的防衛責任を再認識すること、②能力構築の独自性を高めること、③防衛産業の経済波及効果を極大化すること。防衛費増額の「質的設計」として、国産開発への配分拡大、防衛産業の輸出環境整備、韓国など同志国との防衛協力制度化が必要である。
【引用・参照・底本】
【元韓国海軍将校が分析】トランプが迫る防衛費「GDP比5%」 したたかに対応する韓国、そして日本の選択 JBpress 2026.01.21
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/92778

