ロシアと北朝鮮の同盟関係 ― 2025年08月09日 18:07
【概要】
2025年7月29日付『Foreign Affairs』に掲載されたダニエル・スナイダーによる論考であり、ロシアと北朝鮮の同盟関係が最近大きく深化している事実を報じているものである。
2025年7月初旬、ロシアのラブロフ外相が北朝鮮・元山を3日間訪問した。豪華な新リゾートでの歓待や、金正恩委員長のヨット上での会談などが行われ、鉄道・航空路線の再開、ロシア人観光客の訪問、北朝鮮の人工知能研究者のロシア派遣など、関係強化を象徴する出来事が伴った。ラブロフは、2024年6月に締結された条約によって両国は「同盟国」となったと述べ、地理的近接性や主要課題における一致、特にウクライナ戦争やインド太平洋における米国の存在への対抗を強調した。
最も目に見える協力は、北朝鮮からロシアへの武器供与と兵員派遣である。11000人以上の兵士と数百万発の砲弾、100発以上の弾道ミサイルが提供され、ロシアからは軍事技術、特にドローン技術が共有された。ロシアからの石油・食料供給は国連制裁を事実上無効化している。また、制裁に反して北朝鮮労働者がロシアに流入しており、一部は「研修生」を装って奴隷的条件で労働していると報じられている。
さらに、ロシアは北朝鮮の核兵器保有を公然と認め、中国すら避けてきた立場を取っている。北朝鮮の核・衛星開発について、ロシアは「宇宙探査は合法的権利」として技術協力の余地を認めている。また、南北統一を放棄し韓国との恒久的対立を前提とする金正恩の政策を支持している。ロシアの戦略家にとって北朝鮮は、ベラルーシと同様の軍事・政治同盟国であり、反西側安全保障ブロックの東端拠点と位置付けられている。
表面的には中朝露三国が米国の影響力低減を目指す軸を形成しているが、中国は北朝鮮の過度な挑発や朝鮮半島不安定化を望まず、露朝急接近に慎重であると分析される。中国は大規模な軍事支援を避け、米韓日との対立激化を回避していると指摘される一方、ロシアは北朝鮮をより直接的に支援し、個人的にも金正恩とプーチンの関係が良好であるとされる。
この同盟の影響について、一部はウクライナ戦争に伴う取引的関係で、戦後は貿易や資金流入が急減するとの見方を示す。しかし、ロシアの非核化政策転換と南北分断支持は、現状維持を支持する長期的姿勢を示しており、反米的国際秩序構築の一環として位置づけられている。
ジョルギー・トロラヤは、この同盟が北東アジアにおける新たな安全保障・協力体制形成の要素となり得ると結論づけている。
【詳細】
2025年7月に行われたラブロフ外相の元山訪問を起点に、露朝関係が単なる接近を超え、軍事・経済・政治の各分野で実質的に深化していると論じられている。特にウクライナ戦争が同盟深化の触媒となり、両国間で「同盟」(Lavrovの表現)ないし「武器の兄弟関係」といった用語で表現される結びつきが形成されている点が強調されている。
訪問の象徴性と具体的措置
ラブロフ外相の3日間の元山訪問には、豪華な新リゾートでのもてなしや、金正恩のヨット上での二者会談、鉄道・航空便の再開、ロシア人観光客の誘致、北朝鮮のAI研究者のロシア派遣などが伴った。これらは単なる儀礼に留まらず、人的・物流的接続の再活性化と技術人材交流の実務的進展を示す象徴的な出来事として位置づけられている。Lavrovは2024年6月の条約締結に言及し「我々は同盟国となった」と明言した。
軍事協力の実態
最も明瞭な実態は、北朝鮮からロシアへの大量の兵器供与と兵員派遣である。記事は、1万1千人を超える兵士の派遣、数百万発に及ぶ砲弾の供給、そして100発超の弾道ミサイルの供与を指摘し、これらがロシアの戦域で実戦的に用いられていると述べる。
交換としてロシアはドローンなどの軍事技術を提供しているとされる。さらに、このような軍事物資の移動は、国連制裁を事実上無効化する形でのロシアからの石油・食料供給と並行して進行していると報じられている。
経済・労働力面の連携と制裁回避
軍事協力に加え、経済面でも実務的な結びつきが拡大している。ロシア側からの現物供給(石油・食料等)は制裁効果を弱める役割を果たしている。また、北朝鮮人労働者のロシア流入が制裁違反として指摘されており、移動の多くは「研修生」を装う形で行われ、現地で事実上の強制労働に置かれているとの調査報道がある。これらの動きは軍事・経済の両面で両国関係を支える実体を形成している。
核・宇宙技術と政治的正当化
ロシアは従来の核拡散抑止の立場から後退し、北朝鮮の核保有や関連技術を公然と擁護する姿勢を示している。Lavrovの発言として、DPRKの核保有を事実上承認する趣旨の発言や、朝鮮半島周辺の軍事的緊張の責任を米国側に帰する論調が紹介される。またロシアは、名目上は宇宙探査・衛星開発の「合法的権利」を理由に、衛星関連技術やノウハウの提供に一定の道を開いているとの専門家指摘がある。
朝鮮半島政策の変化とロシアの立場
ロシアは金正恩の「韓国との統一放棄」ないし「二国家存在」方針を事実上認める立場を採っていると論じられる。ロシアは北朝鮮をベラルーシに類する政治・軍事同盟国と見なし、反西側の安全保障ブロックの東端を担う戦略的拠点と位置付けている。こうした立場は、南北関係や地域外交におけるロシアの影響力を恒久的なものとして定着させる可能性を示唆する。
中国との微妙な関係
表面的には中朝露の三国関係が米国主導体制への対抗軸のように見えるが、記事は中国が露朝関係の急接近に必ずしも好意的でない点を指摘する。中国は朝鮮半島の急激な不安定化を避けたいとの動機があり、大規模な軍事支援や北朝鮮への全面的な軍事的エンパワーメントは回避する公算が大きいとされる。ロシア側の一部研究者は、対中関係が相対的に希薄である点をロシア側優位の理由として挙げている。
同盟の性格と将来展望に関する論点
記事は二つの対立する見方を提示する。一方では、現在の深まりはウクライナ戦争に伴う一時的・取引的な性格を持ち、戦後に関係の勢いがそがれる可能性があるとの見解(Andrei Lankov)が示される。他方では、ロシアの核・安全保障政策の変化、南北分断の事実上の承認、制裁回避の仕組みといった要素が長期的な現状固定化を支えうるとの見解が紹介される。最終的に、ロシアと北朝鮮の結びつきは、北東アジアにおける新たな安全保障・協力の枠組みの因子となり得ると結ばれている。
まとめ
軍事物資・兵員の移動、制裁回避的な物資供給と労働力移動、ロシアによる核的正当化と衛星技術協力の容認、そして南北分断を前提とする政治的支持という複数要素が重なり、露朝関係は単なる外交親密化を超えて制度的・実務的に深化していると論じられている。これらは地域秩序と安全保障の在り方に影響を与えうると結論付けられている。
【要点】
訪問と象徴的演出
・2025年7月初旬、ロシアのラブロフ外相が北朝鮮・元山を3日間訪問した。
・豪華な新リゾートでの歓待、金正恩のヨット上での会談などが行われた。
・鉄道・航空路線の再開、ロシア人観光客の訪問、北朝鮮AI研究者のロシア派遣などが行われた。
・2024年6月の条約締結により両国は「同盟国」になったとラブロフが発言した。
・ウクライナ戦争やインド太平洋における米国の存在への対抗を強調した。
軍事協力の実態
・北朝鮮はロシアに1万1千人以上の兵士を派遣した。
・数百万発の砲弾と100発以上の弾道ミサイルを供給した。
・ロシアは北朝鮮に軍事技術、特にドローン技術を提供した。
・ロシアから北朝鮮への石油・食料供給が行われ、国連制裁が事実上無効化された。
労働力と経済面の協力
・北朝鮮労働者がロシアに流入している。
・多くは「研修生」を装って入国し、奴隷的条件で労働しているとの報道がある。
・COVID-19以前の水準に匹敵する人数がロシア極東地域に存在するとされる。
核・宇宙分野でのロシアの立場
・ロシアは北朝鮮の核兵器保有を公然と正当化した。
・米国・韓国・日本の軍事的動きを批判し、北朝鮮の核開発の理由を理解すると述べた。
・衛星開発支援は宇宙探査の合法的権利であるとの立場を取った。
朝鮮半島政策に関する立場
・ロシアは金正恩の「南北統一放棄」方針を事実上認めた。
・北朝鮮をベラルーシに類する反西側ブロックの戦略的拠点と位置付けた。
・韓国新政権からの融和的提案を北朝鮮は拒否している。
中国との関係と違い
・中露朝の三国は米国の影響力低下を目指すが、中国は北朝鮮の過度な挑発を望まない。
・中国は北朝鮮への大規模軍事支援を避け、地域の安定を優先している。
・一部ロシア専門家は中朝同盟を「空洞化」した関係と見なし、露朝関係の優位性を強調している。
同盟の性格と将来像
・一部はウクライナ戦争を契機とした取引的同盟で、戦後に縮小する可能性を指摘している。
・他方で、核政策転換と分断支持は長期的な現状維持を支えるとの見解がある。
・ロシア・北朝鮮同盟は北東アジアの新たな安全保障枠組み形成要素となり得ると結論づけられている。
【桃源寸評】🌍
I.米国主導制裁
1. 米国主導制裁の特徴と構造
・国連安保理の活用
米国は国連安保理常任理事国として、独自の外交・安全保障上の目的を国際制裁決議に組み込み、自らの政策目標を「国際合意」として正当化する。例として、対北朝鮮制裁や対イラン制裁は米国発の主導で形成された。
・二次的制裁(セカンダリー・サンクション)
米国は自国内の法律(例:国際緊急経済権限法=IEEPA)を用い、自国企業のみならず第三国企業にも適用し、米国と取引する権利を人質に制裁履行を迫る。この構造は事実上、同盟国・第三国を米国の制裁網に従わせる仕組みである。
・制裁の長期化
キューバへの経済制裁は1960年代から60年以上続き、国連総会では毎年ほぼ全会一致で解除を求める決議が採択されるが、米国は履行していない。
2. 制裁がもたらす人道的影響
・一般市民への影響
制裁は政権指導層の行動変更を狙うとされるが、実際には医薬品・食料・生活物資の輸入制限や価格高騰を招き、最も影響を受けるのは一般市民である。国連機関やNGOは、制裁による人道被害を繰り返し報告している。
・「標的型制裁」の限界
米国は近年、軍や政権関係者を狙った資産凍結・渡航禁止などを「標的型」と称して導入するが、実務上は金融や物流の広範な遮断を伴い、結果的に経済全体を締め付ける。
・北朝鮮の場合
2006年以降の安保理制裁に米国独自制裁を重ねることで、鉱物輸出、海運、金融取引、海外労働者送金などがほぼ全面的に遮断されている。食料不足やエネルギー不足の深刻化は国連食糧農業機関(FAO)や世界食糧計画(WFP)も指摘している。
3. 覇権性と政策目的
・「安全保障」の名の下の恣意性
米国は制裁を国際安全保障のためと称するが、対象国選定には一貫性がない。同様の行為を行っても同盟国には制裁しない事例(例:サウジアラビアのイエメン介入)や、政権交代・政策転換を迫る政治目的の色彩が濃い事例が多い。
・同盟国への圧力
二次的制裁は、同盟国を含む他国に米国の外交方針を強制的に追従させる。欧州連合はイラン核合意(JCPOA)離脱後の米国制裁について「国際法に反する域外適用」と批判したが、実務では米国市場やドル決済の依存度から抗しきれなかった。
・軍事力と経済力の組み合わせ
制裁は軍事的抑止や武力行使と組み合わせて使われることが多く、事実上の包囲戦略として機能する。
4. 国際法・人道法上の問題
・国連憲章との関係
国連安保理による制裁は憲章第7章に基づくが、その執行や解除において常任理事国の政治的判断が支配的である。米国は拒否権を背景に、自らに不利益な制裁や既存制裁の解除を阻止することができる。
・人道的配慮義務
国際人道法の観点からは、民間人への過度な被害を回避する義務があるが、包括的経済制裁はその基準を満たさない恐れが高い。国連人権理事会の特別報告者も、包括制裁は「集団的懲罰」に近いと警告している。
5. 事実としての評価
・米国主導の制裁は、対象国政府よりも一般市民を貧困化させる傾向がある。
・政策目的は安全保障や人権擁護と説明されるが、実際には米国の地政学的利益や同盟管理に資する場合が多い。
・長期化・全面化する制裁は、国際社会における分断を深め、交渉や外交的解決を困難にする。
II.北朝鮮(DPRK)を対象とした制裁の発動~現在(2025年)まで
1.年表(主要な制裁・監視の節目)
・2006年(10月) — 初の包括的国連安保理制裁(決議1718):北朝鮮の最初の核実験を受け、武器禁輸などを含む制裁枠組みが開始された。以降、核・弾道関連の試験に対して段階的に追加決議が採択された。
・2009年(2009頃) — 決議1874 等の追加措置:制裁の監視体制(Panel of Experts)の設置など、制裁の監視・実施体制が強化された。
・2013–2017年 — 大幅強化のフェーズ:複数の核・ミサイル実験を受け、2013年(決議2094)、2016年(決議2270)、2017年(決議2371・2397など)で経済・海運・金融・石炭輸出等に対する追加措置が相次いで導入された。
・2023–2025年 — 監視体制の継続と多国間監視(MSMT)発足・報告:国連の従来パネルに加え、ロシアとの関係悪化等を背景に創設された多国間の監視チーム(Multilateral Sanctions Monitoring Team, MSMT)が報告を発し、2024–25年の露朝軍事協力や物資移送・労働者派遣などの違反事例を指摘している。(アメリカ合衆国国務省・カナダ政府)
2.制裁が北朝鮮経済に与えた大枠の変化(指標ベース)
注:北朝鮮は公的統計をほとんど公開しないため、公式でない推計(韓国・国際機関・研究所など)を基にする必要がある。推計値には方法論差異があることに留意されたい。
・GDP・成長推計
韓国・Bank of Korea(BOK)や一部研究機関は北朝鮮の実質GDP成長率や水準を推計しているが、推計値は研究者間で見解が分かれる。BOKの推計は近年マイナス成長を示す年があるとされるが、推計方法については批判もある。具体的傾向としては、2000年代以降は緩やかな回復と停滞・縮小が混在しているとの評価がある。
・貿易(対中貿易中心の回復と変動)
対中国貿易は制裁導入後大幅に縮小したが、部分的に回復する時期も観測される。例えば2023年・2024年の対中輸出入は依然として過去(制裁前)水準より低いものの、増減が見られるとの分析がある(研究機関の分析参照)。
・外貨獲得手段の変化(鉱物・労働者・サイバー収入等)
主要な外貨獲得手段は(1)鉱物・鉱産物輸出(制裁で制約)、(2)海外労働者による送金(制裁回避の懸念)、(3)サイバー犯罪等による不正手段、の複合であると指摘されている。近年、海外労働者やサイバー関連活動が外貨獲得で重要な役割を果たしているとの報告が複数存在する。
3.貿易・収入に関する具体的データ例(公開報告・研究より)
・対中貿易(例示):一部研究・機関の推計では、2023年の対中輸出は前年度比で増加の年がありつつも、制裁前の水準(2010年代前半)に比べて大幅に低いとされる(KIEP の分析等)。この推計は中国公式統計と北朝鮮側資料のミスマッチ等を勘案している。
・海外労働者による外貨流入の推計:研究・調査報告は、対ロシアや対中国での労働者派遣が存在し、数千〜数万規模の労働者移動があった時期があると示す。労働者収入は国家財源の一部を構成するとの指摘もある。
4.人道影響(栄養・食料・医療)——報告書ベースの要点
・食料安全保障と栄養状態の悪化
複数の国際研究・専門誌は、COVID-19流行以降の自国閉鎖政策、および制裁の影響が重なり、北朝鮮の食料状況が悪化したと報告している。2022年以降、食料不足と物価上昇が観測され、脆弱層の栄養状態が懸念されている。
・子どもの栄養・保健
過去の国連・UNICEF報告等では、急性栄養不良に悩む子どもが存在する旨が指摘されている。制裁により人道物資の移送が遅延・阻害される事例が報告されており、これが被援助者に影響を及ぼすとの懸念が示されている。NGOや人権団体も、制裁が人道支援流通を複雑化させている点を指摘している。
・人道支援の実務上の障害
「標的型」制裁は人道例外を謳う場合が多いが、実務上の銀行取引遮断や物流制約により、結果的にNGOや国連機関の物資搬入が遅延する事例が報告されている。
5.制裁回避・違反の実態(近年の報告から)
・軍事物資・兵員移送の報告(MSMT・報道)
2024–2025年のMSMT報告および複数メディアは、北朝鮮からロシアへの弾薬・ミサイル等の大量供与、ならびに兵員派遣(1万1千人超との報告)を指摘している。これらは国連の制裁枠組みに反する行為として報告されている。
・海外労働者の利用
NGO調査や分析機関の報告は、北朝鮮が「研修生」「学生」「観光名目」等を使って労働者を国外に派遣し、賃金の一部を政府が徴収する仕組みがあると指摘している。これらは制裁回避の一形態とされる。
・サイバー・経済犯罪収入
公的報告や報道は、北朝鮮がサイバー関連の不正収入(暗号資産盗難、詐欺等)を外貨獲得源として活用していると指摘している。最近のデータ漏洩や調査はこの点を補強している。
6.データの限界と注意点(吟味の結果)
・推計の不確実性:北朝鮮の統計不開示と意図的な情報統制のため、GDPや貿易額、生活水準の正確な数値は推計に依存する。推計手法(衛星観測、貿易相手国の統計、価格データ等)により結果は変動する。BOKなどの推計は参照に値するが、方法論批判も存在する。
・因果の同定困難性:食料危機や経済悪化の原因は複合的であり(制裁、COVID-19の国境封鎖、気象条件、国内政策等)、単一要因として「制裁のみ」が直接的に全ての悪化を生じさせたとは断定しにくい。報告書は複数要因の重複を指摘している。
・情報源の多様化の必要性:国連報告、学術記事、NGO調査、政府発表、メディア報道の横断的照合が必要であり、単一報告のみを基に断定すべきではない。以上の整理は、複数の公開情報を照合した上での要約である。
7.まとめ(要点)
・制裁開始以降(2006年~)、北朝鮮は段階的に国際的制裁網の下に置かれ、経済活動・貿易・金融取引は大きな制約を受けた。
・経済指標は推計に頼るしかなく、BOK等の推計は停滞・縮小を示す年がある一方、推計方法への批判も存在する。貿易は制裁前水準に戻っていないが、対中貿易などで変動がある。
・人道面では食料・栄養・医療の脆弱性が継続的に報告されており、制裁に伴う実務的障害が人道支援の流れを複雑化させているとの指摘がある。
・最近の報告(MSMT等)は、制裁違反・回避(軍事物資移転、兵員派遣、労働者派遣、違法金融チャネル等)を明示している。これらは制裁枠組みの実効性と人道的影響の双方に関係する重要事実である。
参考(抜粋)
・UN Security Council / Panel of Experts 報告書一覧(1718 Committee)。
・Arms Control Association — UN Security Council Resolutions on North Korea(概説)。
・Multilateral Sanctions Monitoring Team(MSMT)報告および各国の共同声明(2024–2025)。
・WFP 年次報告・食料安全保障関連の分析。
・HRNK・C4ADS 等の研究(海外労働者・密輸・制裁回避に関する調査)。
・KIEP 等による対中貿易分析。
・報道(The Guardian, AP など)によるMSMT報告のまとめ報道。
III.米国や一部西側が「米国に反抗する国家=悪」というレッテルを貼る構図は正当性を欠く
1. 歴史的背景と一貫性
(1)朝鮮戦争以降の安全保障環境
・1950–53年の朝鮮戦争は休戦協定で終了したが、米朝間の平和条約は締結されていない。北朝鮮はこれを「常時戦時状態」と位置づけ、体制維持を最優先課題としてきた。
・米韓合同軍事演習や在韓米軍の駐留は、北朝鮮にとって継続的な脅威の象徴であり、外交文書や国連演説でも繰り返し「侵略準備」と批判している。
(2)非同盟的立場と自主路線
・冷戦期から北朝鮮は「主体思想」に基づく自主外交を掲げ、ソ連・中国との関係にも距離を置く時期があった(例:1960–70年代にソ中対立下で両陣営を天秤にかけた外交)。
・これが現在の「どの大国にも従属しない」姿勢や、対米強硬姿勢の根拠となっている。
2. 制裁と「いじめ」構造の指摘
(1)制裁の段階的強化と経済封鎖性
・国連安保理制裁は2006年以降、北朝鮮の核・ミサイル活動に対して段階的に強化され、石炭・鉄鉱石など基幹輸出品をほぼ全面的に禁止、金融取引も遮断されている。
・こうした包括的制裁は、標的は軍事活動としつつも、実際には一般経済や人道物資供給に深刻な影響を与えており、「民間人に対する集団的懲罰」に近いとする批判も国際法学者やNGOから出ている。
(2)制裁例外の実務的機能不全
・人道物資や医薬品の搬入は名目上許可されるが、銀行送金や輸送ルートの遮断により実際には遅延・縮小が頻発。国連人権理事会や国際赤十字は、この「過剰遵守(over-compliance)」が人道危機を悪化させると報告している。
3. 「レッテル貼り外交」の事例
(1)「悪の枢軸」発言(2002年 米ブッシュ政権)
・当時の米大統領が北朝鮮をイラン・イラクと共に「悪の枢軸」と名指し。これは外交関係を著しく悪化させ、北朝鮮は米国を「敵国」と公式に規定し続ける契機となった。
・国際関係論的には、交渉余地を減らし「敵対関係を自己成就させる言説」として批判された。
(2)核開発を唯一の説明枠にする報道構造
・多くの西側主要メディアでは、北朝鮮の軍事的行動を「独裁・脅威」として単線的に描く傾向があり、制裁の副作用や安全保障上の相互不信の背景は過小評価されてきた。
・これは「構造的暴力(structural violence)」の一形態として学術的に論じられている。
4. 朝露関係での「矜持」の発揮
(1)(1)2023–25年の露朝接近
・MSMT報告や各国諜報評価によれば、北朝鮮はロシアへの弾薬・ミサイル供与や兵員派遣を実施(推定1万1千人超)。
・北朝鮮はこれを「反米・多極化連帯」と位置づけ、国営メディアでは「帝国主義に立ち向かう兄弟的協力」と称している。
・米欧からは強い批判を浴びたが、北朝鮮にとっては制裁圧力下での生存戦略かつ国家の威信維持策と解釈できる。
5. 国際法・倫理的論点
(1)集団的懲罰の禁止
・国際人道法(ジュネーブ諸条約等)は民間人に対する集団的懲罰を禁止しており、包括的経済制裁がこの原則に抵触する可能性が指摘される。
・制裁は標的型(targeted)であっても、経済全体を締め付ける場合は「事実上の包囲」として違法性が議論される。
(2)安全保障と自己決定権
・国連憲章第1条は「人民の自決権」を明記しており、国家の外交方針選択や同盟関係もこれに含まれる。米国や西側による価値基準の押し付けは、国際法上の対等原則に反するとする学説がある。
6. 要旨(批判的視点の整理)
・北朝鮮は朝鮮戦争以降、一貫して体制維持と自主外交を国家最優先としてきた。
・国際制裁は軍事行動の抑止を目的としつつ、実際には一般国民の生活を圧迫し、「集団的懲罰」に近い効果を生んでいる。
・米国を中心とした「反抗国家=悪」という言説構造は、歴史的・国際法的に普遍的正義と呼べるものではない。
・朝露関係の強化は、圧力に対抗しつつ威信を保つための現実的戦略として発動されている。
IV.現在の国際秩序は冷戦後の「米国一極」から、多極化への移行が加速
北朝鮮の事例も、この潮流の中で読み解くと位置づけがより鮮明になる。
1. 米国一極体制の揺らぎを促す主要要因
(1)ロシアのウクライナ侵攻(2022年〜)
・米欧による経済制裁は予想ほどロシア経済を崩壊させず、むしろ非西側諸国(中国、インド、イランなど)との経済・軍事連携を強化する結果となった。
・北朝鮮はこの中でロシアとの軍事協力を深め、国際的孤立を緩和。
(2)中国の台頭
・世界最大規模の製造業基盤と急速な軍事近代化によって、インド太平洋における米国の優位は縮小。
・北朝鮮は中朝同盟を背景に経済・安全保障の後ろ盾を確保しつつも、現在はロシアとの関係強化を戦略的に活用。
(3)非西側の多極化ネットワーク
・BRICS拡大(2024年にサウジアラビア、イラン、エジプトなど加盟)や、上海協力機構(SCO)などが「西側以外の国際枠組み」を拡張中。
・北朝鮮は正式加盟はしていないが、こうした動きに対し「帝国主義に対抗する連帯」として肯定的言説を展開。
2. 北朝鮮が享受している「揺らぎ」の効果
(1)制裁回避ルートの多様化
・ロシア・中国・イラン・ASEAN一部国家との非公式経済取引や、海上での「瀬取り」が監視困難になっている。
・ロシアとの石油・食料・技術取引が、従来の中国依存一辺倒を緩和。
(2)安全保障的後ろ盾
・ロシアが国連安保理で北朝鮮制裁緩和を阻止する動きが増加(拒否権行使)。
・米国・韓国・日本の三国安保連携に対抗しやすくなっている。
(3)国際的孤立の部分的緩和
・国営メディアで「孤立ではなく選択的同盟」として正当化できる環境が整った。
・対米強硬姿勢が、米国中心秩序への反発を共有する国々と共感を生みやすい。
3. 米国のレッテル構造の弱まり
・「反米=悪」の単純図式が、非西側ではほとんど通用しなくなっている。
・米国の制裁政策は、一部では「国際秩序の維持」よりも「覇権維持の道具」と見なされている。
・北朝鮮はこの風向きを利用し、自らを「多極世界の一員」「反帝国主義の前線」と位置づけている。
この流れを1990年代後半の単独制裁期 → 2006年以降の国連制裁期 → 2022年以降の多極化加速期という3段階に整理すると、
北朝鮮が「いじめに耐える国家」から「多極化の潮流に乗る国家」へとシフトしてきた変化が、より明確に見える。
V.北朝鮮をめぐる国際環境の変化
単独制裁期 → 国連制裁期 → 多極化加速期の3段階に分ける。
1.第一段階:単独制裁期(1990年代後半〜2005年)
冷戦終結後、米国は北朝鮮を「核開発の潜在的脅威」として監視し続けた。1994年の米朝枠組合意(Agreed Framework)で一時的に核計画の凍結が成立したものの、1998年のテポドン1号発射実験や、2002年のウラン濃縮計画疑惑によって関係は急速に悪化する。2002年1月、ブッシュ大統領が北朝鮮を「悪の枢軸」と名指ししたことで、外交的孤立は決定的となった。
この時期の制裁は主として米国単独、または日韓など同盟国によるもので、金融制裁や特定企業・個人への渡航禁止措置が中心だった。経済指標を見ると、北朝鮮の対外貿易総額は1990年代後半に年間20〜25億ドル程度まで低迷し、慢性的な食糧不足と燃料不足が社会を覆った。しかし、制裁は国際的包囲網には至らず、中国・ロシアとの最低限の経済関係によって体制は維持された。
2.第二段階:国連制裁期(2006年〜2021年)
2006年10月の初の核実験により、国連安保理は北朝鮮に対する初の包括的制裁(決議1718)を採択。以後、2016年・2017年の核実験とICBM発射に伴い、石炭・鉄鉱石・海産物・繊維などの主要輸出品を順次禁止、さらに石油精製品の輸入上限設定、北朝鮮労働者の国外送還、金融・保険取引の封鎖が進められた。
この時期、北朝鮮の対外貿易額は2016年の約70億ドルから2020年には約8億6千万ドル(推定)まで激減し、輸入食料・医薬品の確保も困難になった。国連や国際赤十字は繰り返し「人道支援物資が制裁の過剰遵守により滞っている」と警告したが、制裁解除には至らなかった。米国は北朝鮮を一貫して「核放棄すべきならず者国家」と規定し、制裁を外交カードとして保持し続けた。
この時期、北朝鮮は中露への依存度を高めつつも、国際社会における孤立感は強まった。国内宣伝では「包囲網に屈せぬ革命国家」として、自立と軍事力強化を国民結束の軸に据えた。
3.第三段階:多極化加速期(2022年〜現在)
2022年のロシアによるウクライナ侵攻は、米欧と中露を中心とする陣営対立を先鋭化させた。米欧による対露制裁に対し、中国やインドをはじめとする多くの非西側諸国は同調せず、むしろエネルギーや軍事協力を通じてロシアとの結びつきを強化した。こうした環境は、長年制裁下にある北朝鮮にとって格好の「戦略的余地」となった。
北朝鮮はロシアに対し、砲弾やロケット弾、短距離弾道ミサイルを供給し、その見返りとして石油、食料、技術的支援を受け取っているとされる。また、ロシアは国連安保理で北朝鮮制裁関連決議の強化に反対し、拒否権を行使するようになった。貿易統計は制裁前の水準には遠く及ばないものの、2023〜24年には公式・非公式ルートを合わせ輸入量が増加傾向を示し、国営メディアでは「多極世界の同志的連帯」と称して米国主導秩序への挑戦を誇示している。
こうして北朝鮮は、孤立を余儀なくされた「制裁耐性国家」から、米国一極体制の揺らぎを背景に動く「多極化戦略の一角」へと変貌しつつある。
VI.北朝鮮をめぐる国際環境の変容と「貿易額推移」「主要な国連安保理決議発効年」「外交イベント」
1.第一段階:単独制裁期(1990年代後半~2005年)
冷戦終結後、北朝鮮は1994年の米朝枠組み合意による一時的安定を経たものの、1998年のテポドン発射や2002年のウラン計画疑惑を契機に米国の圧力が再燃しました。特に2002年にはブッシュ政権が北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しし、外交的孤立を深めました。この時期の制裁は主に米国や日本、韓国の単独措置で、貿易額について正確な統計は乏しいものの、1990年代末から2000年代初頭にかけて、北朝鮮の対外貿易総額は20〜25億ドル程度と低迷していたと推測されます。一方で、中国・ロシアとの最低限の経済関係を通じ、国家体制は維持されていたと考えられます。
2.第二段階:国連制裁期(2006年~2021年)
2006年10月9日の北朝鮮による初の核実験を受け、同年10月14日には国連安保理決議1718が採択され、包括的な経済・軍事制裁がはじまった。
続く2009年には決議1874(6月12日)が可決され、軍事物資の全面輸出禁止や貨物検査の強化が図られた。
さらに、2016年3月2日に決議2270、2017年8月5日に決議2371が相次いで採択され、石炭や鉄鉱石、水産物など主要輸出品に対する制裁が強化され、年間10億ドル規模の収入が失われるおそれも指摘された。
2017年末には決議2397が出され、精製石油などにも制限が加えられた。
この結果、北朝鮮の貿易は急激に縮小し、2022年には貿易収支が-6億ドル程度の赤字に達した。経済的には極度に孤立化し、食糧や医療物資へのアクセスも困難になるとともに、国連や赤十字から「人道支援の過剰遵守」が懸念された。
外交的には、六者会談の停滞、核実験/ミサイル発射による緊張の繰り返し、さらには国内では「包囲網に屈しない革命国家」という宣伝文脈が強化された。
3.第三段階:多極化加速期(2022年~現在2025年)
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻は、多極世界への移行を加速した。米欧によるロシア制裁が長期化する中、中国・インドなど非西側国は協力関係を維持し、国際秩序は米国一極体制から揺らぎ始めている。
この潮流の中、北朝鮮はロシアとの軍事協力を強めており、北朝鮮からロシアへの武器供与や兵員派遣が報じられている。また同時にロシアが国連安保理で北朝鮮制裁の強化に反対し、拒否権をちらつかせる場面も増えた。
貿易面では2024年および2025年に、貿易総額が2.7億ドル台まで回復し、対中貿易が増加傾向をみせている。2024年の輸出は約3.60億ドル、輸入は約23.36億ドル、貿易赤字は約19.75億ドルとやや縮小した。
諸素材やウィッグ(加工品)が輸出で増加し、中国依存は依然高いものの、インドネシアやセネガルなどとの取引拡大も確認される。
政治プロパガンダでは、「多極世界における同志的連帯」「帝国主義への挑戦」といった言説が強調され、従前の「孤立化」から「戦略的選択の主体」へと自己位置付けを変えている。
この三段階によって、北朝鮮は「1990年代:米国単独制裁による限定的孤立」→「2006年以降:国連制裁による全面的経済封鎖」→「2022年以降:多極化進展とロシアとの新たな関係構築」という軌跡をたどり、制裁下でも生存戦略と矜持を貫く国家像へと変容してきたことが明瞭になりる。
VII.今後の予測:米国主導制裁モデルの信頼性低下
1.発言力の相対的低下
・多極化の進展に伴い、国際社会で米国の「唯一の基準」としての価値観押し付けは通用しにくくなる。
・ロシア・中国・グローバルサウス諸国が、安保理や国際会議で米国の議題設定を意図的に拒否・修正する事例が増加。
2.経済圧迫力の限界
・ドル基軸体制は依然として強いが、人民元・ルーブル・インドルピー・仮想通貨など多様な決済手段が制裁回避を容易にする。
・二次制裁の効果も減少し、米国の制裁対象国同士が貿易網を構築する傾向が加速。
3.軍事力の地盤沈下
・米軍の世界展開は継続するものの、ウクライナ支援や台湾海峡の抑止など多戦線負担による消耗が深刻化。
・技術的優位は維持するが、ドローン・極超音速兵器分野で中露が追いつき、抑止力の絶対性は失われる。
4.キャッチフレーズ(レッテル張り)の無力化
・「悪の枢軸」「専制主義vs民主主義」といった二元的な価値観設定は、国際社会の多様な政治・経済現実と乖離。
・制裁対象国が実際には経済成長や技術発展を遂げる事例が増え、米国の「道徳的権威」が失墜。
5.国際社会の反応の変化
・かつては米国の非難声明が国際報道の主軸だったが、今後は「一国の意見」に過ぎないとみなされ、対抗的な声明や第三国の仲裁発言が増加。
・特にアフリカ・中東・中南米では、米国批判が外交的に安全かつ有利な立場と認識される傾向が拡大。
VIII.制裁対象国側の「機会」と「戦略」
1. 米国一極体制の弱体化を活用
(1)機会
・国際社会が米国主導の道徳的レッテルを疑い始めることで、外交的反撃の余地が拡大。
・国連安保理で拒否権を持つロシア・中国は、米国の制裁強化提案をブロック可能。
(2)戦略
・国際会議やメディアで「制裁は帝国主義的手段」「人道違反」とのフレーミングを広める。
・制裁解除交渉を主導するのではなく、制裁無効化の国際的正当性を作り上げる。
2. 多極経済圏の拡大
(1)機会
・BRICS拡大(サウジ、イラン、UAE、エジプトなど参加)が、西側以外の貿易・金融ルートを提供。
・人民元・ルーブル・デジタル通貨を利用することで、ドル依存を低減。
(2)戦略
・北朝鮮:中国・ロシア経由の迂回貿易や、インドネシア・アフリカ諸国との小規模高収益貿易を強化。
・ロシア:エネルギー輸出をアジア・中東にシフト。
・中国:自前の決済ネットワーク(CIPS)を拡大し、制裁回避能力を向上。
3. 軍事・安全保障の相互補完
(1)機会
・制裁対象国同士の軍事技術や物資の共有が可能(例:北朝鮮の弾薬・ロシアの衛星技術)。
・米国の複数戦線負担(ウクライナ・中東・台湾)を利用し、局所的な優位を確保。
(2)戦略
・北朝鮮:ロシアとの武器取引・共同訓練を通じて軍事技術を向上。
・ロシア:中国やイランとの無人機・防空システム共同開発。
・中国:米国の同盟網分断を狙い、東南アジア・アフリカへの軍事援助や港湾投資を拡大。
4. 制裁の「副作用」活用
(1)機会
・制裁により国内産業が外資依存から脱却し、輸入代替工業化が進む。
・西側市場に依存しない経済構造が長期的に安定要因となる。
(2)戦略
・北朝鮮:軽工業・農業の自給体制強化、ウィッグ・繊維加工などニッチ輸出。
・ロシア:半導体・航空部品の国産化と友好国からの輸入ルート確保。
・中国:ハイテク分野で米国製部品の代替技術を国内開発。
5. 情報戦・価値観戦略
(1)機会
・SNS・国営メディアを通じて、西側の二重基準や人道的失敗(例:イラク戦争、ガザ紛争)を強調可能。
・西側市民への直接的な情報発信で世論分断を誘発。
(2)戦略
・制裁対象国間でのメディア連携(共同ニュース配信、SNSキャンペーン)。
・「多極的正義」「主権尊重」「反植民地主義」をキーワードにした国際広報。
【寸評 完】 💚
【引用・参照・底本】
For Moscow, the North Korean Alliance With Russia Takes a Turn 38NORTH 2025.07.29
2025年7月29日付『Foreign Affairs』に掲載されたダニエル・スナイダーによる論考であり、ロシアと北朝鮮の同盟関係が最近大きく深化している事実を報じているものである。
2025年7月初旬、ロシアのラブロフ外相が北朝鮮・元山を3日間訪問した。豪華な新リゾートでの歓待や、金正恩委員長のヨット上での会談などが行われ、鉄道・航空路線の再開、ロシア人観光客の訪問、北朝鮮の人工知能研究者のロシア派遣など、関係強化を象徴する出来事が伴った。ラブロフは、2024年6月に締結された条約によって両国は「同盟国」となったと述べ、地理的近接性や主要課題における一致、特にウクライナ戦争やインド太平洋における米国の存在への対抗を強調した。
最も目に見える協力は、北朝鮮からロシアへの武器供与と兵員派遣である。11000人以上の兵士と数百万発の砲弾、100発以上の弾道ミサイルが提供され、ロシアからは軍事技術、特にドローン技術が共有された。ロシアからの石油・食料供給は国連制裁を事実上無効化している。また、制裁に反して北朝鮮労働者がロシアに流入しており、一部は「研修生」を装って奴隷的条件で労働していると報じられている。
さらに、ロシアは北朝鮮の核兵器保有を公然と認め、中国すら避けてきた立場を取っている。北朝鮮の核・衛星開発について、ロシアは「宇宙探査は合法的権利」として技術協力の余地を認めている。また、南北統一を放棄し韓国との恒久的対立を前提とする金正恩の政策を支持している。ロシアの戦略家にとって北朝鮮は、ベラルーシと同様の軍事・政治同盟国であり、反西側安全保障ブロックの東端拠点と位置付けられている。
表面的には中朝露三国が米国の影響力低減を目指す軸を形成しているが、中国は北朝鮮の過度な挑発や朝鮮半島不安定化を望まず、露朝急接近に慎重であると分析される。中国は大規模な軍事支援を避け、米韓日との対立激化を回避していると指摘される一方、ロシアは北朝鮮をより直接的に支援し、個人的にも金正恩とプーチンの関係が良好であるとされる。
この同盟の影響について、一部はウクライナ戦争に伴う取引的関係で、戦後は貿易や資金流入が急減するとの見方を示す。しかし、ロシアの非核化政策転換と南北分断支持は、現状維持を支持する長期的姿勢を示しており、反米的国際秩序構築の一環として位置づけられている。
ジョルギー・トロラヤは、この同盟が北東アジアにおける新たな安全保障・協力体制形成の要素となり得ると結論づけている。
【詳細】
2025年7月に行われたラブロフ外相の元山訪問を起点に、露朝関係が単なる接近を超え、軍事・経済・政治の各分野で実質的に深化していると論じられている。特にウクライナ戦争が同盟深化の触媒となり、両国間で「同盟」(Lavrovの表現)ないし「武器の兄弟関係」といった用語で表現される結びつきが形成されている点が強調されている。
訪問の象徴性と具体的措置
ラブロフ外相の3日間の元山訪問には、豪華な新リゾートでのもてなしや、金正恩のヨット上での二者会談、鉄道・航空便の再開、ロシア人観光客の誘致、北朝鮮のAI研究者のロシア派遣などが伴った。これらは単なる儀礼に留まらず、人的・物流的接続の再活性化と技術人材交流の実務的進展を示す象徴的な出来事として位置づけられている。Lavrovは2024年6月の条約締結に言及し「我々は同盟国となった」と明言した。
軍事協力の実態
最も明瞭な実態は、北朝鮮からロシアへの大量の兵器供与と兵員派遣である。記事は、1万1千人を超える兵士の派遣、数百万発に及ぶ砲弾の供給、そして100発超の弾道ミサイルの供与を指摘し、これらがロシアの戦域で実戦的に用いられていると述べる。
交換としてロシアはドローンなどの軍事技術を提供しているとされる。さらに、このような軍事物資の移動は、国連制裁を事実上無効化する形でのロシアからの石油・食料供給と並行して進行していると報じられている。
経済・労働力面の連携と制裁回避
軍事協力に加え、経済面でも実務的な結びつきが拡大している。ロシア側からの現物供給(石油・食料等)は制裁効果を弱める役割を果たしている。また、北朝鮮人労働者のロシア流入が制裁違反として指摘されており、移動の多くは「研修生」を装う形で行われ、現地で事実上の強制労働に置かれているとの調査報道がある。これらの動きは軍事・経済の両面で両国関係を支える実体を形成している。
核・宇宙技術と政治的正当化
ロシアは従来の核拡散抑止の立場から後退し、北朝鮮の核保有や関連技術を公然と擁護する姿勢を示している。Lavrovの発言として、DPRKの核保有を事実上承認する趣旨の発言や、朝鮮半島周辺の軍事的緊張の責任を米国側に帰する論調が紹介される。またロシアは、名目上は宇宙探査・衛星開発の「合法的権利」を理由に、衛星関連技術やノウハウの提供に一定の道を開いているとの専門家指摘がある。
朝鮮半島政策の変化とロシアの立場
ロシアは金正恩の「韓国との統一放棄」ないし「二国家存在」方針を事実上認める立場を採っていると論じられる。ロシアは北朝鮮をベラルーシに類する政治・軍事同盟国と見なし、反西側の安全保障ブロックの東端を担う戦略的拠点と位置付けている。こうした立場は、南北関係や地域外交におけるロシアの影響力を恒久的なものとして定着させる可能性を示唆する。
中国との微妙な関係
表面的には中朝露の三国関係が米国主導体制への対抗軸のように見えるが、記事は中国が露朝関係の急接近に必ずしも好意的でない点を指摘する。中国は朝鮮半島の急激な不安定化を避けたいとの動機があり、大規模な軍事支援や北朝鮮への全面的な軍事的エンパワーメントは回避する公算が大きいとされる。ロシア側の一部研究者は、対中関係が相対的に希薄である点をロシア側優位の理由として挙げている。
同盟の性格と将来展望に関する論点
記事は二つの対立する見方を提示する。一方では、現在の深まりはウクライナ戦争に伴う一時的・取引的な性格を持ち、戦後に関係の勢いがそがれる可能性があるとの見解(Andrei Lankov)が示される。他方では、ロシアの核・安全保障政策の変化、南北分断の事実上の承認、制裁回避の仕組みといった要素が長期的な現状固定化を支えうるとの見解が紹介される。最終的に、ロシアと北朝鮮の結びつきは、北東アジアにおける新たな安全保障・協力の枠組みの因子となり得ると結ばれている。
まとめ
軍事物資・兵員の移動、制裁回避的な物資供給と労働力移動、ロシアによる核的正当化と衛星技術協力の容認、そして南北分断を前提とする政治的支持という複数要素が重なり、露朝関係は単なる外交親密化を超えて制度的・実務的に深化していると論じられている。これらは地域秩序と安全保障の在り方に影響を与えうると結論付けられている。
【要点】
訪問と象徴的演出
・2025年7月初旬、ロシアのラブロフ外相が北朝鮮・元山を3日間訪問した。
・豪華な新リゾートでの歓待、金正恩のヨット上での会談などが行われた。
・鉄道・航空路線の再開、ロシア人観光客の訪問、北朝鮮AI研究者のロシア派遣などが行われた。
・2024年6月の条約締結により両国は「同盟国」になったとラブロフが発言した。
・ウクライナ戦争やインド太平洋における米国の存在への対抗を強調した。
軍事協力の実態
・北朝鮮はロシアに1万1千人以上の兵士を派遣した。
・数百万発の砲弾と100発以上の弾道ミサイルを供給した。
・ロシアは北朝鮮に軍事技術、特にドローン技術を提供した。
・ロシアから北朝鮮への石油・食料供給が行われ、国連制裁が事実上無効化された。
労働力と経済面の協力
・北朝鮮労働者がロシアに流入している。
・多くは「研修生」を装って入国し、奴隷的条件で労働しているとの報道がある。
・COVID-19以前の水準に匹敵する人数がロシア極東地域に存在するとされる。
核・宇宙分野でのロシアの立場
・ロシアは北朝鮮の核兵器保有を公然と正当化した。
・米国・韓国・日本の軍事的動きを批判し、北朝鮮の核開発の理由を理解すると述べた。
・衛星開発支援は宇宙探査の合法的権利であるとの立場を取った。
朝鮮半島政策に関する立場
・ロシアは金正恩の「南北統一放棄」方針を事実上認めた。
・北朝鮮をベラルーシに類する反西側ブロックの戦略的拠点と位置付けた。
・韓国新政権からの融和的提案を北朝鮮は拒否している。
中国との関係と違い
・中露朝の三国は米国の影響力低下を目指すが、中国は北朝鮮の過度な挑発を望まない。
・中国は北朝鮮への大規模軍事支援を避け、地域の安定を優先している。
・一部ロシア専門家は中朝同盟を「空洞化」した関係と見なし、露朝関係の優位性を強調している。
同盟の性格と将来像
・一部はウクライナ戦争を契機とした取引的同盟で、戦後に縮小する可能性を指摘している。
・他方で、核政策転換と分断支持は長期的な現状維持を支えるとの見解がある。
・ロシア・北朝鮮同盟は北東アジアの新たな安全保障枠組み形成要素となり得ると結論づけられている。
【桃源寸評】🌍
I.米国主導制裁
1. 米国主導制裁の特徴と構造
・国連安保理の活用
米国は国連安保理常任理事国として、独自の外交・安全保障上の目的を国際制裁決議に組み込み、自らの政策目標を「国際合意」として正当化する。例として、対北朝鮮制裁や対イラン制裁は米国発の主導で形成された。
・二次的制裁(セカンダリー・サンクション)
米国は自国内の法律(例:国際緊急経済権限法=IEEPA)を用い、自国企業のみならず第三国企業にも適用し、米国と取引する権利を人質に制裁履行を迫る。この構造は事実上、同盟国・第三国を米国の制裁網に従わせる仕組みである。
・制裁の長期化
キューバへの経済制裁は1960年代から60年以上続き、国連総会では毎年ほぼ全会一致で解除を求める決議が採択されるが、米国は履行していない。
2. 制裁がもたらす人道的影響
・一般市民への影響
制裁は政権指導層の行動変更を狙うとされるが、実際には医薬品・食料・生活物資の輸入制限や価格高騰を招き、最も影響を受けるのは一般市民である。国連機関やNGOは、制裁による人道被害を繰り返し報告している。
・「標的型制裁」の限界
米国は近年、軍や政権関係者を狙った資産凍結・渡航禁止などを「標的型」と称して導入するが、実務上は金融や物流の広範な遮断を伴い、結果的に経済全体を締め付ける。
・北朝鮮の場合
2006年以降の安保理制裁に米国独自制裁を重ねることで、鉱物輸出、海運、金融取引、海外労働者送金などがほぼ全面的に遮断されている。食料不足やエネルギー不足の深刻化は国連食糧農業機関(FAO)や世界食糧計画(WFP)も指摘している。
3. 覇権性と政策目的
・「安全保障」の名の下の恣意性
米国は制裁を国際安全保障のためと称するが、対象国選定には一貫性がない。同様の行為を行っても同盟国には制裁しない事例(例:サウジアラビアのイエメン介入)や、政権交代・政策転換を迫る政治目的の色彩が濃い事例が多い。
・同盟国への圧力
二次的制裁は、同盟国を含む他国に米国の外交方針を強制的に追従させる。欧州連合はイラン核合意(JCPOA)離脱後の米国制裁について「国際法に反する域外適用」と批判したが、実務では米国市場やドル決済の依存度から抗しきれなかった。
・軍事力と経済力の組み合わせ
制裁は軍事的抑止や武力行使と組み合わせて使われることが多く、事実上の包囲戦略として機能する。
4. 国際法・人道法上の問題
・国連憲章との関係
国連安保理による制裁は憲章第7章に基づくが、その執行や解除において常任理事国の政治的判断が支配的である。米国は拒否権を背景に、自らに不利益な制裁や既存制裁の解除を阻止することができる。
・人道的配慮義務
国際人道法の観点からは、民間人への過度な被害を回避する義務があるが、包括的経済制裁はその基準を満たさない恐れが高い。国連人権理事会の特別報告者も、包括制裁は「集団的懲罰」に近いと警告している。
5. 事実としての評価
・米国主導の制裁は、対象国政府よりも一般市民を貧困化させる傾向がある。
・政策目的は安全保障や人権擁護と説明されるが、実際には米国の地政学的利益や同盟管理に資する場合が多い。
・長期化・全面化する制裁は、国際社会における分断を深め、交渉や外交的解決を困難にする。
II.北朝鮮(DPRK)を対象とした制裁の発動~現在(2025年)まで
1.年表(主要な制裁・監視の節目)
・2006年(10月) — 初の包括的国連安保理制裁(決議1718):北朝鮮の最初の核実験を受け、武器禁輸などを含む制裁枠組みが開始された。以降、核・弾道関連の試験に対して段階的に追加決議が採択された。
・2009年(2009頃) — 決議1874 等の追加措置:制裁の監視体制(Panel of Experts)の設置など、制裁の監視・実施体制が強化された。
・2013–2017年 — 大幅強化のフェーズ:複数の核・ミサイル実験を受け、2013年(決議2094)、2016年(決議2270)、2017年(決議2371・2397など)で経済・海運・金融・石炭輸出等に対する追加措置が相次いで導入された。
・2023–2025年 — 監視体制の継続と多国間監視(MSMT)発足・報告:国連の従来パネルに加え、ロシアとの関係悪化等を背景に創設された多国間の監視チーム(Multilateral Sanctions Monitoring Team, MSMT)が報告を発し、2024–25年の露朝軍事協力や物資移送・労働者派遣などの違反事例を指摘している。(アメリカ合衆国国務省・カナダ政府)
2.制裁が北朝鮮経済に与えた大枠の変化(指標ベース)
注:北朝鮮は公的統計をほとんど公開しないため、公式でない推計(韓国・国際機関・研究所など)を基にする必要がある。推計値には方法論差異があることに留意されたい。
・GDP・成長推計
韓国・Bank of Korea(BOK)や一部研究機関は北朝鮮の実質GDP成長率や水準を推計しているが、推計値は研究者間で見解が分かれる。BOKの推計は近年マイナス成長を示す年があるとされるが、推計方法については批判もある。具体的傾向としては、2000年代以降は緩やかな回復と停滞・縮小が混在しているとの評価がある。
・貿易(対中貿易中心の回復と変動)
対中国貿易は制裁導入後大幅に縮小したが、部分的に回復する時期も観測される。例えば2023年・2024年の対中輸出入は依然として過去(制裁前)水準より低いものの、増減が見られるとの分析がある(研究機関の分析参照)。
・外貨獲得手段の変化(鉱物・労働者・サイバー収入等)
主要な外貨獲得手段は(1)鉱物・鉱産物輸出(制裁で制約)、(2)海外労働者による送金(制裁回避の懸念)、(3)サイバー犯罪等による不正手段、の複合であると指摘されている。近年、海外労働者やサイバー関連活動が外貨獲得で重要な役割を果たしているとの報告が複数存在する。
3.貿易・収入に関する具体的データ例(公開報告・研究より)
・対中貿易(例示):一部研究・機関の推計では、2023年の対中輸出は前年度比で増加の年がありつつも、制裁前の水準(2010年代前半)に比べて大幅に低いとされる(KIEP の分析等)。この推計は中国公式統計と北朝鮮側資料のミスマッチ等を勘案している。
・海外労働者による外貨流入の推計:研究・調査報告は、対ロシアや対中国での労働者派遣が存在し、数千〜数万規模の労働者移動があった時期があると示す。労働者収入は国家財源の一部を構成するとの指摘もある。
4.人道影響(栄養・食料・医療)——報告書ベースの要点
・食料安全保障と栄養状態の悪化
複数の国際研究・専門誌は、COVID-19流行以降の自国閉鎖政策、および制裁の影響が重なり、北朝鮮の食料状況が悪化したと報告している。2022年以降、食料不足と物価上昇が観測され、脆弱層の栄養状態が懸念されている。
・子どもの栄養・保健
過去の国連・UNICEF報告等では、急性栄養不良に悩む子どもが存在する旨が指摘されている。制裁により人道物資の移送が遅延・阻害される事例が報告されており、これが被援助者に影響を及ぼすとの懸念が示されている。NGOや人権団体も、制裁が人道支援流通を複雑化させている点を指摘している。
・人道支援の実務上の障害
「標的型」制裁は人道例外を謳う場合が多いが、実務上の銀行取引遮断や物流制約により、結果的にNGOや国連機関の物資搬入が遅延する事例が報告されている。
5.制裁回避・違反の実態(近年の報告から)
・軍事物資・兵員移送の報告(MSMT・報道)
2024–2025年のMSMT報告および複数メディアは、北朝鮮からロシアへの弾薬・ミサイル等の大量供与、ならびに兵員派遣(1万1千人超との報告)を指摘している。これらは国連の制裁枠組みに反する行為として報告されている。
・海外労働者の利用
NGO調査や分析機関の報告は、北朝鮮が「研修生」「学生」「観光名目」等を使って労働者を国外に派遣し、賃金の一部を政府が徴収する仕組みがあると指摘している。これらは制裁回避の一形態とされる。
・サイバー・経済犯罪収入
公的報告や報道は、北朝鮮がサイバー関連の不正収入(暗号資産盗難、詐欺等)を外貨獲得源として活用していると指摘している。最近のデータ漏洩や調査はこの点を補強している。
6.データの限界と注意点(吟味の結果)
・推計の不確実性:北朝鮮の統計不開示と意図的な情報統制のため、GDPや貿易額、生活水準の正確な数値は推計に依存する。推計手法(衛星観測、貿易相手国の統計、価格データ等)により結果は変動する。BOKなどの推計は参照に値するが、方法論批判も存在する。
・因果の同定困難性:食料危機や経済悪化の原因は複合的であり(制裁、COVID-19の国境封鎖、気象条件、国内政策等)、単一要因として「制裁のみ」が直接的に全ての悪化を生じさせたとは断定しにくい。報告書は複数要因の重複を指摘している。
・情報源の多様化の必要性:国連報告、学術記事、NGO調査、政府発表、メディア報道の横断的照合が必要であり、単一報告のみを基に断定すべきではない。以上の整理は、複数の公開情報を照合した上での要約である。
7.まとめ(要点)
・制裁開始以降(2006年~)、北朝鮮は段階的に国際的制裁網の下に置かれ、経済活動・貿易・金融取引は大きな制約を受けた。
・経済指標は推計に頼るしかなく、BOK等の推計は停滞・縮小を示す年がある一方、推計方法への批判も存在する。貿易は制裁前水準に戻っていないが、対中貿易などで変動がある。
・人道面では食料・栄養・医療の脆弱性が継続的に報告されており、制裁に伴う実務的障害が人道支援の流れを複雑化させているとの指摘がある。
・最近の報告(MSMT等)は、制裁違反・回避(軍事物資移転、兵員派遣、労働者派遣、違法金融チャネル等)を明示している。これらは制裁枠組みの実効性と人道的影響の双方に関係する重要事実である。
参考(抜粋)
・UN Security Council / Panel of Experts 報告書一覧(1718 Committee)。
・Arms Control Association — UN Security Council Resolutions on North Korea(概説)。
・Multilateral Sanctions Monitoring Team(MSMT)報告および各国の共同声明(2024–2025)。
・WFP 年次報告・食料安全保障関連の分析。
・HRNK・C4ADS 等の研究(海外労働者・密輸・制裁回避に関する調査)。
・KIEP 等による対中貿易分析。
・報道(The Guardian, AP など)によるMSMT報告のまとめ報道。
III.米国や一部西側が「米国に反抗する国家=悪」というレッテルを貼る構図は正当性を欠く
1. 歴史的背景と一貫性
(1)朝鮮戦争以降の安全保障環境
・1950–53年の朝鮮戦争は休戦協定で終了したが、米朝間の平和条約は締結されていない。北朝鮮はこれを「常時戦時状態」と位置づけ、体制維持を最優先課題としてきた。
・米韓合同軍事演習や在韓米軍の駐留は、北朝鮮にとって継続的な脅威の象徴であり、外交文書や国連演説でも繰り返し「侵略準備」と批判している。
(2)非同盟的立場と自主路線
・冷戦期から北朝鮮は「主体思想」に基づく自主外交を掲げ、ソ連・中国との関係にも距離を置く時期があった(例:1960–70年代にソ中対立下で両陣営を天秤にかけた外交)。
・これが現在の「どの大国にも従属しない」姿勢や、対米強硬姿勢の根拠となっている。
2. 制裁と「いじめ」構造の指摘
(1)制裁の段階的強化と経済封鎖性
・国連安保理制裁は2006年以降、北朝鮮の核・ミサイル活動に対して段階的に強化され、石炭・鉄鉱石など基幹輸出品をほぼ全面的に禁止、金融取引も遮断されている。
・こうした包括的制裁は、標的は軍事活動としつつも、実際には一般経済や人道物資供給に深刻な影響を与えており、「民間人に対する集団的懲罰」に近いとする批判も国際法学者やNGOから出ている。
(2)制裁例外の実務的機能不全
・人道物資や医薬品の搬入は名目上許可されるが、銀行送金や輸送ルートの遮断により実際には遅延・縮小が頻発。国連人権理事会や国際赤十字は、この「過剰遵守(over-compliance)」が人道危機を悪化させると報告している。
3. 「レッテル貼り外交」の事例
(1)「悪の枢軸」発言(2002年 米ブッシュ政権)
・当時の米大統領が北朝鮮をイラン・イラクと共に「悪の枢軸」と名指し。これは外交関係を著しく悪化させ、北朝鮮は米国を「敵国」と公式に規定し続ける契機となった。
・国際関係論的には、交渉余地を減らし「敵対関係を自己成就させる言説」として批判された。
(2)核開発を唯一の説明枠にする報道構造
・多くの西側主要メディアでは、北朝鮮の軍事的行動を「独裁・脅威」として単線的に描く傾向があり、制裁の副作用や安全保障上の相互不信の背景は過小評価されてきた。
・これは「構造的暴力(structural violence)」の一形態として学術的に論じられている。
4. 朝露関係での「矜持」の発揮
(1)(1)2023–25年の露朝接近
・MSMT報告や各国諜報評価によれば、北朝鮮はロシアへの弾薬・ミサイル供与や兵員派遣を実施(推定1万1千人超)。
・北朝鮮はこれを「反米・多極化連帯」と位置づけ、国営メディアでは「帝国主義に立ち向かう兄弟的協力」と称している。
・米欧からは強い批判を浴びたが、北朝鮮にとっては制裁圧力下での生存戦略かつ国家の威信維持策と解釈できる。
5. 国際法・倫理的論点
(1)集団的懲罰の禁止
・国際人道法(ジュネーブ諸条約等)は民間人に対する集団的懲罰を禁止しており、包括的経済制裁がこの原則に抵触する可能性が指摘される。
・制裁は標的型(targeted)であっても、経済全体を締め付ける場合は「事実上の包囲」として違法性が議論される。
(2)安全保障と自己決定権
・国連憲章第1条は「人民の自決権」を明記しており、国家の外交方針選択や同盟関係もこれに含まれる。米国や西側による価値基準の押し付けは、国際法上の対等原則に反するとする学説がある。
6. 要旨(批判的視点の整理)
・北朝鮮は朝鮮戦争以降、一貫して体制維持と自主外交を国家最優先としてきた。
・国際制裁は軍事行動の抑止を目的としつつ、実際には一般国民の生活を圧迫し、「集団的懲罰」に近い効果を生んでいる。
・米国を中心とした「反抗国家=悪」という言説構造は、歴史的・国際法的に普遍的正義と呼べるものではない。
・朝露関係の強化は、圧力に対抗しつつ威信を保つための現実的戦略として発動されている。
IV.現在の国際秩序は冷戦後の「米国一極」から、多極化への移行が加速
北朝鮮の事例も、この潮流の中で読み解くと位置づけがより鮮明になる。
1. 米国一極体制の揺らぎを促す主要要因
(1)ロシアのウクライナ侵攻(2022年〜)
・米欧による経済制裁は予想ほどロシア経済を崩壊させず、むしろ非西側諸国(中国、インド、イランなど)との経済・軍事連携を強化する結果となった。
・北朝鮮はこの中でロシアとの軍事協力を深め、国際的孤立を緩和。
(2)中国の台頭
・世界最大規模の製造業基盤と急速な軍事近代化によって、インド太平洋における米国の優位は縮小。
・北朝鮮は中朝同盟を背景に経済・安全保障の後ろ盾を確保しつつも、現在はロシアとの関係強化を戦略的に活用。
(3)非西側の多極化ネットワーク
・BRICS拡大(2024年にサウジアラビア、イラン、エジプトなど加盟)や、上海協力機構(SCO)などが「西側以外の国際枠組み」を拡張中。
・北朝鮮は正式加盟はしていないが、こうした動きに対し「帝国主義に対抗する連帯」として肯定的言説を展開。
2. 北朝鮮が享受している「揺らぎ」の効果
(1)制裁回避ルートの多様化
・ロシア・中国・イラン・ASEAN一部国家との非公式経済取引や、海上での「瀬取り」が監視困難になっている。
・ロシアとの石油・食料・技術取引が、従来の中国依存一辺倒を緩和。
(2)安全保障的後ろ盾
・ロシアが国連安保理で北朝鮮制裁緩和を阻止する動きが増加(拒否権行使)。
・米国・韓国・日本の三国安保連携に対抗しやすくなっている。
(3)国際的孤立の部分的緩和
・国営メディアで「孤立ではなく選択的同盟」として正当化できる環境が整った。
・対米強硬姿勢が、米国中心秩序への反発を共有する国々と共感を生みやすい。
3. 米国のレッテル構造の弱まり
・「反米=悪」の単純図式が、非西側ではほとんど通用しなくなっている。
・米国の制裁政策は、一部では「国際秩序の維持」よりも「覇権維持の道具」と見なされている。
・北朝鮮はこの風向きを利用し、自らを「多極世界の一員」「反帝国主義の前線」と位置づけている。
この流れを1990年代後半の単独制裁期 → 2006年以降の国連制裁期 → 2022年以降の多極化加速期という3段階に整理すると、
北朝鮮が「いじめに耐える国家」から「多極化の潮流に乗る国家」へとシフトしてきた変化が、より明確に見える。
V.北朝鮮をめぐる国際環境の変化
単独制裁期 → 国連制裁期 → 多極化加速期の3段階に分ける。
1.第一段階:単独制裁期(1990年代後半〜2005年)
冷戦終結後、米国は北朝鮮を「核開発の潜在的脅威」として監視し続けた。1994年の米朝枠組合意(Agreed Framework)で一時的に核計画の凍結が成立したものの、1998年のテポドン1号発射実験や、2002年のウラン濃縮計画疑惑によって関係は急速に悪化する。2002年1月、ブッシュ大統領が北朝鮮を「悪の枢軸」と名指ししたことで、外交的孤立は決定的となった。
この時期の制裁は主として米国単独、または日韓など同盟国によるもので、金融制裁や特定企業・個人への渡航禁止措置が中心だった。経済指標を見ると、北朝鮮の対外貿易総額は1990年代後半に年間20〜25億ドル程度まで低迷し、慢性的な食糧不足と燃料不足が社会を覆った。しかし、制裁は国際的包囲網には至らず、中国・ロシアとの最低限の経済関係によって体制は維持された。
2.第二段階:国連制裁期(2006年〜2021年)
2006年10月の初の核実験により、国連安保理は北朝鮮に対する初の包括的制裁(決議1718)を採択。以後、2016年・2017年の核実験とICBM発射に伴い、石炭・鉄鉱石・海産物・繊維などの主要輸出品を順次禁止、さらに石油精製品の輸入上限設定、北朝鮮労働者の国外送還、金融・保険取引の封鎖が進められた。
この時期、北朝鮮の対外貿易額は2016年の約70億ドルから2020年には約8億6千万ドル(推定)まで激減し、輸入食料・医薬品の確保も困難になった。国連や国際赤十字は繰り返し「人道支援物資が制裁の過剰遵守により滞っている」と警告したが、制裁解除には至らなかった。米国は北朝鮮を一貫して「核放棄すべきならず者国家」と規定し、制裁を外交カードとして保持し続けた。
この時期、北朝鮮は中露への依存度を高めつつも、国際社会における孤立感は強まった。国内宣伝では「包囲網に屈せぬ革命国家」として、自立と軍事力強化を国民結束の軸に据えた。
3.第三段階:多極化加速期(2022年〜現在)
2022年のロシアによるウクライナ侵攻は、米欧と中露を中心とする陣営対立を先鋭化させた。米欧による対露制裁に対し、中国やインドをはじめとする多くの非西側諸国は同調せず、むしろエネルギーや軍事協力を通じてロシアとの結びつきを強化した。こうした環境は、長年制裁下にある北朝鮮にとって格好の「戦略的余地」となった。
北朝鮮はロシアに対し、砲弾やロケット弾、短距離弾道ミサイルを供給し、その見返りとして石油、食料、技術的支援を受け取っているとされる。また、ロシアは国連安保理で北朝鮮制裁関連決議の強化に反対し、拒否権を行使するようになった。貿易統計は制裁前の水準には遠く及ばないものの、2023〜24年には公式・非公式ルートを合わせ輸入量が増加傾向を示し、国営メディアでは「多極世界の同志的連帯」と称して米国主導秩序への挑戦を誇示している。
こうして北朝鮮は、孤立を余儀なくされた「制裁耐性国家」から、米国一極体制の揺らぎを背景に動く「多極化戦略の一角」へと変貌しつつある。
VI.北朝鮮をめぐる国際環境の変容と「貿易額推移」「主要な国連安保理決議発効年」「外交イベント」
1.第一段階:単独制裁期(1990年代後半~2005年)
冷戦終結後、北朝鮮は1994年の米朝枠組み合意による一時的安定を経たものの、1998年のテポドン発射や2002年のウラン計画疑惑を契機に米国の圧力が再燃しました。特に2002年にはブッシュ政権が北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しし、外交的孤立を深めました。この時期の制裁は主に米国や日本、韓国の単独措置で、貿易額について正確な統計は乏しいものの、1990年代末から2000年代初頭にかけて、北朝鮮の対外貿易総額は20〜25億ドル程度と低迷していたと推測されます。一方で、中国・ロシアとの最低限の経済関係を通じ、国家体制は維持されていたと考えられます。
2.第二段階:国連制裁期(2006年~2021年)
2006年10月9日の北朝鮮による初の核実験を受け、同年10月14日には国連安保理決議1718が採択され、包括的な経済・軍事制裁がはじまった。
続く2009年には決議1874(6月12日)が可決され、軍事物資の全面輸出禁止や貨物検査の強化が図られた。
さらに、2016年3月2日に決議2270、2017年8月5日に決議2371が相次いで採択され、石炭や鉄鉱石、水産物など主要輸出品に対する制裁が強化され、年間10億ドル規模の収入が失われるおそれも指摘された。
2017年末には決議2397が出され、精製石油などにも制限が加えられた。
この結果、北朝鮮の貿易は急激に縮小し、2022年には貿易収支が-6億ドル程度の赤字に達した。経済的には極度に孤立化し、食糧や医療物資へのアクセスも困難になるとともに、国連や赤十字から「人道支援の過剰遵守」が懸念された。
外交的には、六者会談の停滞、核実験/ミサイル発射による緊張の繰り返し、さらには国内では「包囲網に屈しない革命国家」という宣伝文脈が強化された。
3.第三段階:多極化加速期(2022年~現在2025年)
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻は、多極世界への移行を加速した。米欧によるロシア制裁が長期化する中、中国・インドなど非西側国は協力関係を維持し、国際秩序は米国一極体制から揺らぎ始めている。
この潮流の中、北朝鮮はロシアとの軍事協力を強めており、北朝鮮からロシアへの武器供与や兵員派遣が報じられている。また同時にロシアが国連安保理で北朝鮮制裁の強化に反対し、拒否権をちらつかせる場面も増えた。
貿易面では2024年および2025年に、貿易総額が2.7億ドル台まで回復し、対中貿易が増加傾向をみせている。2024年の輸出は約3.60億ドル、輸入は約23.36億ドル、貿易赤字は約19.75億ドルとやや縮小した。
諸素材やウィッグ(加工品)が輸出で増加し、中国依存は依然高いものの、インドネシアやセネガルなどとの取引拡大も確認される。
政治プロパガンダでは、「多極世界における同志的連帯」「帝国主義への挑戦」といった言説が強調され、従前の「孤立化」から「戦略的選択の主体」へと自己位置付けを変えている。
この三段階によって、北朝鮮は「1990年代:米国単独制裁による限定的孤立」→「2006年以降:国連制裁による全面的経済封鎖」→「2022年以降:多極化進展とロシアとの新たな関係構築」という軌跡をたどり、制裁下でも生存戦略と矜持を貫く国家像へと変容してきたことが明瞭になりる。
VII.今後の予測:米国主導制裁モデルの信頼性低下
1.発言力の相対的低下
・多極化の進展に伴い、国際社会で米国の「唯一の基準」としての価値観押し付けは通用しにくくなる。
・ロシア・中国・グローバルサウス諸国が、安保理や国際会議で米国の議題設定を意図的に拒否・修正する事例が増加。
2.経済圧迫力の限界
・ドル基軸体制は依然として強いが、人民元・ルーブル・インドルピー・仮想通貨など多様な決済手段が制裁回避を容易にする。
・二次制裁の効果も減少し、米国の制裁対象国同士が貿易網を構築する傾向が加速。
3.軍事力の地盤沈下
・米軍の世界展開は継続するものの、ウクライナ支援や台湾海峡の抑止など多戦線負担による消耗が深刻化。
・技術的優位は維持するが、ドローン・極超音速兵器分野で中露が追いつき、抑止力の絶対性は失われる。
4.キャッチフレーズ(レッテル張り)の無力化
・「悪の枢軸」「専制主義vs民主主義」といった二元的な価値観設定は、国際社会の多様な政治・経済現実と乖離。
・制裁対象国が実際には経済成長や技術発展を遂げる事例が増え、米国の「道徳的権威」が失墜。
5.国際社会の反応の変化
・かつては米国の非難声明が国際報道の主軸だったが、今後は「一国の意見」に過ぎないとみなされ、対抗的な声明や第三国の仲裁発言が増加。
・特にアフリカ・中東・中南米では、米国批判が外交的に安全かつ有利な立場と認識される傾向が拡大。
VIII.制裁対象国側の「機会」と「戦略」
1. 米国一極体制の弱体化を活用
(1)機会
・国際社会が米国主導の道徳的レッテルを疑い始めることで、外交的反撃の余地が拡大。
・国連安保理で拒否権を持つロシア・中国は、米国の制裁強化提案をブロック可能。
(2)戦略
・国際会議やメディアで「制裁は帝国主義的手段」「人道違反」とのフレーミングを広める。
・制裁解除交渉を主導するのではなく、制裁無効化の国際的正当性を作り上げる。
2. 多極経済圏の拡大
(1)機会
・BRICS拡大(サウジ、イラン、UAE、エジプトなど参加)が、西側以外の貿易・金融ルートを提供。
・人民元・ルーブル・デジタル通貨を利用することで、ドル依存を低減。
(2)戦略
・北朝鮮:中国・ロシア経由の迂回貿易や、インドネシア・アフリカ諸国との小規模高収益貿易を強化。
・ロシア:エネルギー輸出をアジア・中東にシフト。
・中国:自前の決済ネットワーク(CIPS)を拡大し、制裁回避能力を向上。
3. 軍事・安全保障の相互補完
(1)機会
・制裁対象国同士の軍事技術や物資の共有が可能(例:北朝鮮の弾薬・ロシアの衛星技術)。
・米国の複数戦線負担(ウクライナ・中東・台湾)を利用し、局所的な優位を確保。
(2)戦略
・北朝鮮:ロシアとの武器取引・共同訓練を通じて軍事技術を向上。
・ロシア:中国やイランとの無人機・防空システム共同開発。
・中国:米国の同盟網分断を狙い、東南アジア・アフリカへの軍事援助や港湾投資を拡大。
4. 制裁の「副作用」活用
(1)機会
・制裁により国内産業が外資依存から脱却し、輸入代替工業化が進む。
・西側市場に依存しない経済構造が長期的に安定要因となる。
(2)戦略
・北朝鮮:軽工業・農業の自給体制強化、ウィッグ・繊維加工などニッチ輸出。
・ロシア:半導体・航空部品の国産化と友好国からの輸入ルート確保。
・中国:ハイテク分野で米国製部品の代替技術を国内開発。
5. 情報戦・価値観戦略
(1)機会
・SNS・国営メディアを通じて、西側の二重基準や人道的失敗(例:イラク戦争、ガザ紛争)を強調可能。
・西側市民への直接的な情報発信で世論分断を誘発。
(2)戦略
・制裁対象国間でのメディア連携(共同ニュース配信、SNSキャンペーン)。
・「多極的正義」「主権尊重」「反植民地主義」をキーワードにした国際広報。
【寸評 完】 💚
【引用・参照・底本】
For Moscow, the North Korean Alliance With Russia Takes a Turn 38NORTH 2025.07.29