【概要】

　中国の新たな産業政策「新型工業化」は、製造業の高度化を進めるための理論と戦略に基づいている。これは、中国が直面している二つの圧力に対応するものである。第一に、上位のバリューチェーンでの地政学的圧力。特に、米国やその同盟国による先端技術へのアクセス制限が課されており、中国は高付加価値の製造分野で競争を強いられている。第二に、低位の製造業では価格競争が激化しており、ベトナムやインド、メキシコなどの低コスト労働市場との競争が激しい状況である。

　こうした背景の中、中国は「新型工業化」という概念を2002年に掲げ、製造業の高度化を目指してきた。2002年の16回党大会で江沢民が提唱したこの概念は、情報技術の統合、環境保護、産業の効率向上、そして高技能労働力の育成を軸にして、科学技術と製造業を結びつける戦略でした。この理論は、2022年の20回党大会で習近平によって再び強調され、2035年までの目標として掲げられている。

　新型工業化の主な要素は以下の通り。

　1.先端製造業の能力向上

　革新に基づいた製造業の高度化を推進し、デジタル技術、モノのインターネット、AIを活用した従来の製造業のアップグレードを図る。特に、低位の製造業者にもデジタル化を普及させ、効率を高めることが目標である。

　2.デジタルインフラの整備

　5Gや光ファイバーといった基盤となる通信インフラの整備が推進され、特に工場での5G活用やデータセンターの展開に焦点が当てられている。

　3.環境技術の推進

　グリーン技術の導入は、環境保護のためだけでなく、クリーンテック(太陽光発電や電気自動車のバッテリーなど)での国際競争力向上を目的としている。

　4.国内市場の一体化

　地方ごとに分断された市場を統合し、地域間の保護主義を抑制して産業の効率を高めることが重要視されている。特に自動車産業などでは、過剰な競争が産業の発展を阻害しているため、国全体での競争力を高めるべく、市場の効率的な運営が求められている。

　この「新型工業化」により、中国は持続可能な高品質の経済成長を目指し、先端技術と伝統的な製造業を結びつけることで産業の競争力を強化しようとしている。
　
【詳細】

　中国の「新型工業化」政策は、国家の産業政策の中心的な役割を果たしており、特に先進的な製造業の発展を通じて高品質な経済成長を実現することを目指している。これは、低コストでの製造に依存していた従来の成長モデルから脱却し、デジタル技術やイノベーションを活用して、付加価値の高い産業へとシフトするという方針に基づいている。この政策の背景や具体的な要素を以下に詳しく説明する。

　1. 背景

　中国は、過去数十年にわたって製造業を中心に急速な経済成長を遂げてきたが、GDPの成長率が低下する中、成長モデルの転換が必要とされていた。特に「中所得国の罠」に陥るリスクを回避するため、中国の経済政策は「高品質な発展」へとシフトしている。この罠は、低コストで労働集約的な製造業が成長の原動力であった国が、賃金の上昇と共に新たな成長モデルへの移行に失敗し、経済が停滞する現象を指す。

　さらに、地政学的な圧力や競争も中国にとっての大きな課題となっている。アメリカやその同盟国は中国の先進製造技術へのアクセスを制限しようとする一方で、ベトナムやインド、メキシコといった国々が中国の低価格帯製造業を脅かし始めている。この「二重の圧力」の中で、中国は既存の製造業の優位性を保ちつつ、高付加価値の先進製造業へと転換する必要性が高まっている。

　2. 新型工業化の定義と目標

　「新型工業化(新型工业化)」は2002年の第16回党大会で初めて提唱され、当時の江沢民国家主席は、産業プロセスの情報化や環境保護を強調しつつ、製造業の高度化を図ることを目的とした。現在、この政策は習近平国家主席のもとでさらに強化され、2035年までに新型工業化を実現することが国家の発展目標の一つとして掲げられている。

　2023年には、工業・情報化部の金壮龍部長が「新型工業化の推進は、中国式現代化の実現に不可欠であり、競争力を高めるための戦略的な選択である」と述べ、これが中国経済の高品質な発展を支える基盤となると強調した。

　3. 新型工業化の具体的な要素

　習近平主席の新型工業化は、以下の主要な要素に基づいている。

　(1) 高度製造業の構築と伝統的製造業のデジタル化

　中国は、デジタル技術、人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)などを駆使して、製造プロセスの効率化を図ることを目指している。特に、先進的な製造業と従来の製造業を相互に補完する形で成長させるという「循環型アップグレード」モデルが導入されている。つまり、ハイテク企業が新しい技術を開発し、それが従来の製造業に取り入れられることで、製品開発や生産効率の向上が図られるというサイクルを構築しようとしている。

　(2) デジタル通信インフラの整備

　5Gネットワークや光ファイバー、データセンターといったデジタルインフラは、新型工業化を支える基盤となっている。これらのインフラは、製造業のデジタル化を加速させ、特に中小企業が高付加価値の技術を活用する能力を高めるために不可欠である。

　(3) 環境技術とグリーン製造の推進

　新型工業化では、環境保護や資源の効率的な利用も重要視されている。特に、クリーンテクノロジー(クリーンエネルギー技術)の分野では、中国は太陽光パネルやEVバッテリーなどで世界をリードしている。これは、長年の投資と技術革新の成果であり、今後さらに競争力を高めるための重要な要素となっている。

　(4) 地域保護主義の排除と市場統合

　中国国内の地域間での産業クラスターの競争が、過剰生産や資源の無駄遣いを招く問題も解決すべき課題として認識されている。2022年に発表された「全国統一市場の構築に関する意見」では、地域ごとの保護主義を排除し、国内市場を統合することで、効率的な資源配分と産業の高度化を促進する方針が示された。

　4. 結論

　「新型工業化」は、地政学的な圧力や国内外の競争、環境問題といった複合的な課題に対処しながら、中国が先進的な製造業を中心に経済の質的な発展を目指す国家戦略である。この政策は、デジタル技術、環境技術、そして市場の効率的な活用を軸に、従来の製造業と新しい産業を一体化させることで、中国が国際的な競争力を維持し、さらに向上させることを狙っている。
　
【要点】

　1.背景

　・中国は過去の製造業依存の経済成長モデルから脱却し、高付加価値産業への転換が必要。
　・アメリカとの技術競争や他国の低価格製造業の台頭に対処するため、新たな成長戦略が求められている。

　2.新型工業化の定義と目標

　・2002年に提唱され、現在の目標は2035年までに「新型工業化」を実現。
　・先進製造業とデジタル技術を活用して高品質な経済成長を達成。

　3.新型工業化の主要な要素

　(1)高度製造業の構築と伝統的製造業のデジタル化

　　・デジタル技術やAIを活用し、製造業全体の効率と競争力を向上させる。

　(2)デジタル通信インフラの整備

　　・5Gやデータセンターなどのインフラ整備で、製造業のデジタル化を加速。

　(3)環境技術とグリーン製造の推進

　　・クリーンテクノロジーの分野での世界的なリーダーシップを維持し、環境負荷を軽減。

　(4)地域保護主義の排除と市場統合

　　・国内市場の統合と効率的な資源配分で、地域ごとの競争や無駄を解消。

　4.結論

　・新型工業化は、中国が地政学的な圧力や競争に対応し、持続的かつ質の高い経済成長を達成するための重要な国家戦略である。

【参考】

　☞ バリューチェーン(Value Chain)とは、製品やサービスが顧客に提供されるまでの一連の活動やプロセスを指す。この概念は、1985年に経営学者マイケル・ポーターが提唱したもので、企業が価値を生み出し、競争優位を築くための分析手法の一つである。

　バリューチェーンは、主に以下の2つの大きな活動に分けられる。

　1. 主活動(Primary Activities)

　これらは、製品やサービスを直接的に生み出し、顧客に届けるための活動である。具体的には以下の5つの活動が含まれます：

　・購買物流(Inbound Logistics): 原材料や部品の受け入れ、保管、在庫管理を行う活動。
　・オペレーション(Operations): 原材料を加工し、製品を作る生産活動。
　・出荷物流(Outbound Logistics): 製品を顧客に届けるための保管、配送、流通活動。
　・マーケティングと販売(Marketing & Sales): 製品やサービスの販売を促進するための広告、販売戦略などの活動。
　・サービス(Service): 製品やサービスを使用する顧客に対して、サポートやアフターサービスを提供する活動。

　2. 支援活動(Support Activities)

これらの活動は、主活動をサポートし、全体的な効率性を高めるために行われるものです。以下の4つが含まれ。

　・企業インフラ(Firm Infrastructure): 財務、法務、経営管理など、企業全体の管理機能。
　・人的資源管理(Human Resource Management): 従業員の採用、教育、評価、報酬などの活動。
　・技術開発(Technology Development): 新技術の研究、開発、導入などの活動。
調達(Procurement): 資材、設備、サービスなどの購入や外部契約の管理。
　
　バリューチェーンの目的

　バリューチェーン分析の目的は、各活動がどれだけの価値を生み出し、コストがどの程度発生しているかを理解することである。これにより、企業は付加価値を高め、コストを削減し、競争力を強化できる部分を特定できる。

　バリューチェーンは、企業が競争優位を築くために、どの活動で差別化を図り、顧客に高い価値を提供するかを見極める重要なフレームワークである。
　
【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

“New Industrialization”: The Industrial Upgrading Theory Driving China’s Advanced Manufacturing Policy CSIS Interpret:China 2024.07.14
https://interpret.csis.org/new-industrialization-the-industrial-upgrading-theory-driving-chinas-advanced-manufacturing-policy/

【概要】

　ミシェル・チョスドフスキー教授のビデオ「2020年の経済危機：世界的な貧困、失業、絶望」では、2020年3月の新型コロナウイルスのパンデミックによる世界的なロックダウンが、史上最も深刻な経済・社会的危機の始まりであったと主張されている。彼は、このロックダウンは公衆衛生の名目で行われたが、実際には世界的な経済戦争であり、意図的に計画されたものであるとしている。

　主張のポイント

　1.経済の崩壊と意図された結果: ロックダウンは、世界中の経済を停止させ、多くの中小企業を倒産させ、何百万人もの失業者を生み出した。これにより、貧困や飢餓、社会の不安定が引き起こされ、経済的な混乱を助長した。

　2.債務の危機と国家の民営化: 多くの政府が企業救済や失業者支援のために膨大な債務を負うことになり、この債務は返済不可能であると述べている。結果として、国家は金融機関や債権者の支配下に置かれ、最終的に国家が「民営化」されると予測されている。これにより、福祉国家の終焉や、財産、土地、公共施設の民営化が進むことになる。

　3.経済と社会の崩壊: 経済活動の停止は、労働市場から多くの人々を締め出し、特にインフォーマルセクター(非正規労働者や自営業者)が甚大な被害を受け、彼らは飢餓や完全な周縁化に直面している。この状況は偶然ではなく、計画的に仕組まれたものであるとしている。

　4.恐怖の操作と富の移転: 株式市場のクラッシュやロックダウンは、恐怖のキャンペーンや情報操作を通じて操作され、これにより富の史上最大の移転が起こり、ごく少数の富裕層が莫大な利益を得たと述べている。

　5.反対運動の必要性: チョスドフスキーは、この「悪魔的なプロジェクト」に対抗するために、国際的かつ全国的な草の根運動が必要であると主張している。彼は、債務プロジェクトの正当性を否定し、腐敗の要素を調査する必要があるとしている。

　結論

　このビデオは、2020年のコロナウイルスパンデミックが引き起こした経済的混乱を、意図された戦略とし、金融機関や政治的権力の支配を強めるための手段であると解釈している。チョスドフスキーは、この状況を「人類に対する戦争」と表現し、この危機に対抗するためには大規模な抵抗運動が必要だと強調している。
　
【詳細】

　ミシェル・チョスドフスキー教授のビデオ「2020年の経済危機：世界的な貧困、失業、絶望」の内容は、2020年3月に新型コロナウイルスのパンデミックを理由に行われた世界的なロックダウンが、単なる公衆衛生対策ではなく、意図的に計画された経済戦争であったとする強い主張を含んでいる。彼は、これが現代史上最も深刻な経済および社会的危機の始まりであり、その影響は長期にわたって続くとしている。以下は、ビデオで展開された議論のさらなる詳細である。

　1. ロックダウンの目的と影響

　チョスドフスキーは、2020年3月に190以上の国が実施したロックダウンが、各国の経済を意図的に破壊するために計画されたと主張している。彼によれば、経済の停止によって中小企業は次々と倒産し、何百万人もの人々が失業した。これは、単に感染拡大防止を目的とした措置ではなく、もっと広範な目的、つまり世界的な経済システムの再編成と社会不安を意図したものであるとしている。

　ロックダウンにより、経済活動が停止し、企業や個人が財政的に行き詰まり、結果として大規模な貧困と絶望が生じました。特に中小企業は壊滅的な打撃を受け、大企業と政府だけが残る状況が生まれたと指摘している。

　2. 金融危機と債務の罠

　さらにチョスドフスキーは、ロックダウンが始まる直前の2020年2月に金融市場が崩壊したことにも注目している。彼は、多くの経済学者がこの金融危機とパンデミックの間に直接的な関係を見いだしていないことを批判し、実際にはこれらは一体となって進行していたと主張する。

　ロックダウンの結果、各国政府は企業の救済や社会保障に多額の資金を投入し、国際金融機関や債権者から巨額の借り入れを行った。しかし、この借金は返済不可能な水準に達しており、国家自体が債権者の手に落ちる危険があるとしている。具体的な例として、イタリアの国債がジャンク債に分類されたことを挙げ、これが国家の民営化につながる可能性があると述べている。国家の財政が破綻し、債権者が福祉制度を含む公的な機関や財産を支配するようになるという「民営化」のプロセスが進行していると警告している。

　3. 国家の民営化と福祉国家の終焉

　チョスドフスキーは、特に西欧諸国において、国家の役割が大きく変わりつつあると警告している。彼は、政府が抱える膨大な債務が返済不可能な状態にあり、これが国家の完全な民営化を引き起こすと述べている。つまり、金融機関や多国籍企業が国家の財政を支配し、政府はそれらの「傀儡」と化し、福祉国家の概念が崩壊するだろうと予測している。

　特にギリシャの例を引き合いに出し、数年前にギリシャが直面した財政危機の際に行われた緊縮政策や民営化のプロセスが他国にも波及すると指摘している。公共の土地や建物、社会保障制度など、あらゆるものが民営化される危険があると強調している。

　4. 貧困、失業、そして社会の崩壊

　この経済危機は、特にインフォーマルセクター(非正規労働者や自営業者)が占める割合が高い発展途上国で甚大な影響を与えている。例えば、インドやラテンアメリカ諸国では、多くの人々がホームレス状態に陥り、飢餓や完全な周縁化に直面している。チョスドフスキーは、この状況が偶然ではなく、計画的に仕組まれたものであると強調している。

　ILO(国際労働機関)の統計を引用しつつ、この危機が引き起こす失業の規模が甚大であり、今後もさらに拡大すると予測している。特に、経済活動が縮小し続けることで、労働市場から締め出される人々が増加し、全世界的な貧困と絶望が広がっていることを懸念している。

　5. 富の移転と恐怖の操作

　また、チョスドフスキーは、株式市場のクラッシュとロックダウンが、恐怖や情報操作によって引き起こされたと指摘している。彼は、2020年2月の株式市場のクラッシュが、世界史上最大の富の移転をもたらしたと述べている。多くの投資家や企業が損失を被る一方で、富の一部がごく少数の超富裕層に集中したとされている。この富の移転が、パンデミックの危機を利用して仕組まれたものだと強調している。

　6. 抵抗運動の必要性

　チョスドフスキーは、この「悪魔的なプロジェクト」に対抗するためには、草の根レベルでの国際的な抵抗運動が必要であると主張している。彼は、現在の状況を単に「新しいパラダイム」によって解決できるものではなく、政府や企業の支配に対抗する大規模な運動が必要だと強調している。

　具体的には、債務の正当性を否定し、債務を通じて国家を支配しようとする計画に対抗するために、国際的な協力が必要だと述べている。彼はまた、現在進行中の危機が人類全体に影響を及ぼしていることから、グローバルなレベルでの行動が求められているとしている。

　まとめ

　ミシェル・チョスドフスキー教授のビデオでは、2020年の新型コロナウイルスに関連するロックダウンが単なる公衆衛生の対策ではなく、意図的に計画された経済的および社会的な操作であるとされており、この危機が世界的な貧困、失業、そして絶望を引き起こしたとしている。彼は、この危機に対抗するためには国際的な抵抗運動が必要であると強調し、特に国家の民営化と福祉国家の崩壊に対する懸念を強調している。この危機は、偶然の結果ではなく、長期的な計画の一部であり、人類全体にとっての戦争であるとしている。
　
【要点】

　・ロックダウンの目的と影響: 2020年3月のロックダウンは経済破壊を意図して計画され、中小企業が倒産し、大規模な貧困と失業を生んだと主張。

　・金融危機と債務の罠: 2020年2月の金融市場崩壊はロックダウンと連動し、各国が巨額の借金を抱え、返済不可能な状態に追い込まれたと指摘。

　・国家の民営化: 国の債務が返済不可能な水準に達し、金融機関や多国籍企業が国家を支配し、福祉国家が崩壊するリスクを警告。

　・貧困と失業の拡大: 特に発展途上国で失業が急増し、社会全体が貧困と絶望に陥る状況が広がっていると強調。

　・富の移転と恐怖の操作: パンデミックによって恐怖が煽られ、富が超富裕層に集中する一方、広範な層が損失を被ったと述べる。

　・抵抗運動の必要性: グローバルな経済的操作に対抗するために、国際的な草の根運動が必要であると提唱。

【参考】

　☞ Michel Chossudovskyの主張によると、2020年のロックダウンは計画的な経済戦争であり、背後には世界的な金融機関や特定の支配層が存在するという見解である。彼の見解では、ロックダウンは公衆衛生の名目で行われたが、実際には意図的に経済を破壊し、政府を負債に陥れ、最終的に国家の民営化を目的としたものとされている。

　以下がChossudovskyが主張する「ロックダウンを仕組んだ勢力」の特徴である。

　1.世界的な金融機関と巨大企業

　・銀行や金融機関が政府の負債を引き受け、経済をコントロールする形で国家の政策に影響を与える。
　・ロックダウンにより多くの企業が破綻し、最終的には巨大な資本の集約が進み、富裕層がさらに富を蓄積。

　2.「中央の権威」による指示

　・各国政府は「中央の権威」からの指示を受け、ロックダウンや経済活動の停止を行ったとされている。この「中央の権威」が具体的にどの組織を指すかについては詳細に言及していないが、国際的な金融機関や特定のエリート層が暗に示されている。

　3.ネオリベラル主義の推進者たち

　・ロックダウンの背後には、極端なネオリベラル主義の政策を推進する者たちがいるとされ、彼らは国家を弱体化させ、民営化を進めることで、国家の資産や福祉プログラムを企業に売り渡すことを狙っている。

　Chossudovskyの観点では、これらの勢力がロックダウンを「仕組んだ」とし、その結果として経済活動の停止や国家の負債危機が意図的に引き起こされたと考えている。

　☞ Michel Chossudovskyの見解に基づくと、2020年のロックダウンやそれに関連する経済戦争の影響を特に受けた主要国は以下のように分類される。

　1.アメリカ合衆国

　・世界最大の経済国であり、ロックダウン政策により多くの企業が破綻し、失業率が急増。
　・財政赤字が拡大し、連邦政府の負債が増大。

　2.イタリア

　・ロックダウンによって経済が大きく打撃を受け、国家の負債が増加。
　・投資家からの信頼が低下し、イタリア国債が「ジャンク債」とされる状況に。

　3.フランス

　・国家の支出が増え、ロックダウンに伴う失業者や企業の倒産が問題に。
経済的な不安が高まり、社会的な緊張が増加。

　4.カナダ

　・政府が大規模な経済対策を講じたが、財政負担が増大。
　・国際的な金融機関との合意により、議会での討論を制限する動きが見られた。

　5.イギリス

　・ロックダウンによって経済活動が大幅に減少し、国民生活に影響。
　・財政政策の見直しが必要となる一方で、政府の借入金が増加。

　6.発展途上国(例：インド、ペルーなど)

　・ロックダウンにより多くの自営業者や小規模企業が影響を受け、特に非公式セクターが壊滅的な打撃を受けた。
　・貧困と飢餓の問題が深刻化し、社会的な混乱が生じる。

　Chossudovskyの見解では、これらの国々は国家の負債が増大し、経済の私有化が進むという共通の問題を抱えているとされ、金融機関や富裕層の利益が優先される政治的状況が生じていると主張している。

　☞ Chossudovskyの見解は一般的には抽象的であり、特定の個人や組織を明示することなく「金融機関」や「中央権威」といった広範なカテゴリーを用いている。このため、以下のような批判や疑問が生じることがある。

　1.具体性の欠如

　・具体的な証拠や事例が不足しており、一般的な枠組みの中での議論に留まっているため、主張が曖昧に感じられる。

　2.陰謀論的要素

　・経済的な出来事や政策決定を一つの陰謀として捉える傾向があり、複雑な経済問題を単純化することで誤解を招く可能性がある。

　3.因果関係の明確さ

　・ロックダウンや経済危機が意図的に仕組まれたものであるという主張は、因果関係を示す明確な証拠を欠いているため、読者にとって信憑性が薄く感じられる。

　4.広範な責任の所在

　・「金融機関」や「中央権威」といった言葉は、特定の責任者を特定することなく、広く一般化されるため、批判が対象を曖昧にし、具体的なアクションを求めることが難しい。

　5.反論の余地

　・経済危機の原因や影響については多様な見解があり、Chossudovskyの主張に対して反論や異なる視点が存在する。特に、ロックダウンが公衆衛生の観点から必要な措置であったとする意見もある。

　このように、Chossudovskyの主張は確かに様々な解釈を生む可能性があり、受け手によっては信じることが難しい内容と映るかもしれない。議論の複雑さを理解し、多角的な視点から情報を検討することが重要である。

　☞ 確実な情報や証拠を求めることは重要であり、そのためには、以下のようなアプローチが有効である。

　1.信頼できる情報源の利用

　・学術的な研究や公式な報告書を参照し、情報の裏付けを確認する。

　2.データの分析

　・経済的なデータや統計を詳細に分析し、ロックダウンやその影響を具体的に評価する。

　3.異なる視点の考慮

　・複数の専門家やアナリストの意見を聞き、さまざまな観点から状況を理解する。

　4.具体的な事例の調査

　・各国の政策決定過程やその結果を調査し、実際のデータに基づいて評価する。

　5.批判的思考の活用

　・提供される情報に対して常に批判的に考え、裏付けや論理的な整合性を検証する。

　このように、情報を精査することで、より明確で具体的な理解を得ることが可能となる。最終的には、自分自身で情報を分析し、判断を下すことが重要である。

　☞ ネオリベラル主義(Neoliberalism)は、1970年代から1980年代にかけて広まった経済的および政治的な理論・実践を指す。この理論は、自由市場の拡大、政府の役割の縮小、個人の自由の強調を重視する。以下に、ネオリベラル主義の主な特徴を挙げる。

　特徴

　1.自由市場の優先

　・市場が最も効率的に資源を配分し、経済成長を促進すると考える。
　・市場競争の促進が重要視され、政府の干渉は最小限に抑えられるべきとされる。

　2.民営化

　・公共サービスや国営企業の民営化が推進され、私企業により効率的に運営されることが期待される。

　3.規制緩和

　・業界や市場に対する規制を緩和し、企業が自由に活動できる環境を整える。

　4.政府の役割の縮小

　・政府の介入を最小限にし、公共支出を削減することで財政健全化を図る。
　・社会保障や福祉制度の見直しが進められることがある。

　5.国際貿易の自由化

　・貿易障壁の撤廃や自由貿易協定の推進により、国際的な経済活動を活性化させる。

　6.個人主義の強調

　・個人の自由と選択を重視し、自己責任の原則が強調される。

　背景

　1.起源

　・ネオリベラル主義は、主に経済学者フリードリヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンなどの影響を受け、自由主義経済の理念を基にしている。

　2.実施の事例

　・1980年代に、アメリカのレーガン政権やイギリスのサッチャー政権の政策として具体化した。

　批判

　1.社会的不平等の拡大

　・市場主義の強化が貧富の差を広げ、社会的不平等を助長するとの批判がある。

　2.公共サービスの劣化

　・民営化や規制緩和が進む中で、公共サービスの質が低下し、社会的弱者が苦境に立たされる可能性が指摘されている。
　
　3.環境問題

　・短期的な利益追求が環境に悪影響を及ぼすとの懸念も存在する。

　ネオリベラル主義は、現代の経済政策や国際関係において大きな影響を及ぼしているが、その実践には賛否が分かれることが多い。
　
【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

Video: The 2020 Economic Crisis: Global Poverty, Unemployment, Despair. Prof. Michel Chossudovsky Michel Chossudovsky 2024.10.11
https://michelchossudovsky.substack.com/p/video-the-2020-economic-crisis-global-71d?utm_source=post-email-title&publication_id=1910355&post_id=150154109&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

【概要】

　NATOの将来とウクライナ戦争における現状について、ステファン・ブライエンが懸念を示している。以下にその要点を整理する。

　ウクライナの立場: ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアとの交渉を一切行わない意向を示している。彼は、交渉によって得られるものが彼自身にとって致命的であると認識している。

　和平提案の失敗: ゼレンスキーが主催予定だった和平サミットは、参加者がいないために延期されている。欧州で提唱されている「和平の枠組み」は、実質的な影響を持たないとされ、戦闘を凍結し、ロシアの占領を認めた上で、ウクライナのNATO加入または他の安全保障保障を提供することが検討されている。

　ロシアの要求: ロシアはウクライナの非武装化と中立を求めており、ルハンスク、ドンバス、ザポリージャ、クリミアの承認を要求している。これらの要求は、現行のウクライナ政府やNATO諸国によって満たされる見込みが薄い。

　NATOの将来: ブライエンは、NATOの拡大が防衛機能を無視して進められていることに疑問を呈している。ウクライナはこの拡大の一部であり、南コーカサスにも広がりを見せているが、実際には防衛可能な国境を持たないことが問題視されている。

　アメリカの関与: NATOはアメリカの軍事的支援に依存しており、アメリカの同盟国が多大な軍事的コミットメントを行うことは期待できない。ウクライナに対する支援が数千億ドルに達し、解決策が見込まれない中で、アメリカ国内では不満が高まっている。

　今後の展望: ブライエンは、NATOの信頼性を保持するためには、根本的な再編成が必要であると主張している。ウクライナの状況が改善されない場合、NATOへのコミットメントが減少する可能性がある。

　ウクライナ戦争とNATOの関係、特にNATOの拡大政策とその防衛機能の欠如についての深刻な懸念を提示している。
　
【詳細】

　ウクライナ戦争とNATOの現状について、以下のようにさらに詳細に解説する。

　1. ウクライナの交渉拒否

　ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアとの交渉を一切行わない立場を取っており、これは彼の政権にとって致命的な結果をもたらす可能性がある。ゼレンスキーは、自身の軍隊が崩壊しつつある状況で、特にアゾフ旅団と呼ばれるエリート部隊に頼っている。この部隊は、過去のネオナチ的なイデオロギーからの脱却を目指しているとされているが、その存在自体が国内外での議論を呼んでいる。

　2. 欧州の和平提案

　ゼレンスキーが主催予定だった和平サミットが参加者不在のために延期される中、欧州の一部では「和平の枠組み」が浮上している。この提案は、ロシアが現在占拠している地域を認めつつ、ウクライナにNATOへの加盟または他の安全保障の保障を提供するというものである。このアプローチは、ウクライナが軍事力を再構築し、将来的にロシアに対抗する機会を得ることを目指している。

　3. ロシアの要求とその受け入れ可能性

　ロシアは、ウクライナの非武装化と中立の確立を求めており、特にルハンスク、ドンバス、ザポリージャ、クリミアの併合を認めるよう要求している。しかし、現在のウクライナ政府や多くのNATO諸国はこれに応じることは考えていないため、ロシアの要求は現実的に満たされる可能性が極めて低い。

　4. NATOの信頼性と防衛機能の問題

　NATOはこれまでの拡大政策により、もはや防衛機能が機能していないと批判されている。特に、ウクライナの問題はNATOの拡大の一部であり、南コーカサス地域への拡大も進行中であるが、結果的に防衛可能な国境を持たない状態が明らかになっている。このため、NATOの軍事的プレゼンスは低下し、戦略的な脆弱性が浮き彫りになっている。

　5. アメリカの役割と反発

　ブライエンは、NATOがアメリカの軍事支援に依存している状況に懸念を表明している。アメリカの同盟国が軍事的コミットメントを果たすことは期待できず、ウクライナに対する支援が数千億ドルに達している現状に対する不満が高まっている。これは、アメリカ国内でのNATO拡大に対する反発を引き起こす要因となっている。

　6. 今後の展望とNATOの再編成の必要性

　ブライエンは、NATOの信頼性を保持するためには、根本的な再編成が必要であると指摘している。ウクライナの状況が改善されない場合、NATOに対するコミットメントが減少する可能性があり、これは同盟国間の信頼関係にも悪影響を与える恐れがある。NATOは現在、拡大に注力するあまり、その防衛機能が弱体化しているため、戦略の見直しが急務とされている。

　ウクライナ戦争の進展がNATOの未来に与える影響と、特にその拡大政策に対する批判を通じて、同盟の脆弱性を浮き彫りにしている。ブライエンは、NATOがより効果的な防衛同盟となるためには、単なる拡大ではなく、実質的な軍事的能力の強化が不可欠であると主張している。
　
【要点】

　ウクライナとNATOの現状

　1.交渉拒否

　・ゼレンスキー大統領はロシアとの交渉を拒否。
　・軍隊の崩壊が進む中、アゾフ旅団に頼っている。

　2.和平提案の失敗

　・ゼレンスキーが主催予定だった和平サミットは参加者不在で延期。
　・欧州で提唱される「和平の枠組み」は、実質的な影響を持たない。

　3.ロシアの要求

　・ロシアはウクライナの非武装化、中立、併合地域の承認を要求。
　・現行のウクライナ政府やNATO諸国はこれに応じる見込みが薄い。

　4.NATOの信頼性と防衛機能の問題

　・NATOは拡大政策により防衛機能が弱体化。
　・ウクライナや南コーカサスへの拡大が進む中、防衛可能な国境が欠如。

　5.アメリカの役割と反発

　・NATOはアメリカの軍事支援に依存。
　・ウクライナ支援に数千億ドルが費やされ、国内で不満が高まっている。

　6.今後の展望

　・NATOは信頼性を保持するために根本的な再編成が必要。
　・ウクライナの状況が改善しない場合、NATOへのコミットメントが減少する可能性。

　このように、ウクライナ戦争とNATOの将来に関する懸念が明確に示されている。

【参考】

　☞ アゾフ旅団(Azov Brigade)は、ウクライナの国家親衛隊に属する部隊であり、以下の特徴がある。

　概要

　・設立: 2014年に、ウクライナ東部のドンバス地域での戦闘に応じて設立された。
　・役割: 主にウクライナの国家安全保障を強化するために、ロシアの侵攻に対抗する目的で編成された部隊。

　特徴

　・ナショナリズム: アゾフ旅団は、ウクライナの民族主義的な思想を持つ兵士が多く、設立当初は極右の志向を持つメンバーが多く含まれていた。
　・シンボル: 旅団のシンボルには、トリスケリオン(スラヴ神話に由来する三つの尾のあるシンボル)が使われており、これが問題視されることもある。
　・国際的な批判: 旅団の極右的な背景から、国際的にはネオナチ的な団体と結びつけられることが多く、これがウクライナ政府やウクライナの戦争努力に対する批判の一因となっている。

　現在の状況

　・ウクライナ戦争における役割: アゾフ旅団は、ウクライナ東部での戦闘において重要な役割を果たしており、特にマリウポリなどの戦略的な都市の防衛に関与している。
　・国際的な支援: 一部の国や組織からは、ウクライナの防衛のための国際的な支援を受けており、武器や物資が供給されている。

　アゾフ旅団は、そのナショナリズムや歴史的背景から物議を醸す存在であるが、ウクライナ戦争においては重要な軍事的役割を果たしている。

　☞ 「NATOへのコミットメントが減少する」という表現は、以下のような意味を持つ。

　意味

　1.軍事的支援の減少

　・NATO諸国が、ウクライナや他の加盟国に対する軍事的な支援や資源の提供を減らす可能性を指す。これには、兵器の供給や訓練などが含まれる。

　2.政策の変化

　・NATOの拡大や活動に対する各国の支持が薄れ、特にアメリカやヨーロッパの主要国がNATOの義務を軽視する傾向が生じることを示唆している。

　3.信頼性の低下

　・NATOの集団防衛の約束が強化されることなく、同盟国間の信頼関係が損なわれること。これにより、他国がNATOの防衛に依存することへの懸念が広がる。

　4.国際的影響力の減退

　・NATOがその機能を果たせない場合、国際的な安全保障における影響力が低下し、同盟国の安全保障への関与が薄れる。

　文脈

　この表現は、ウクライナ戦争が長期化し、各国が持つリソースや意欲が減少する中で、NATOの集団的な防衛体制に対する支持や関与が変化する可能性があることを強調している。特に、アメリカの市民の間でウクライナへの支援に対する疑念が高まると、NATOへの全体的なコミットメントが見直されることが懸念されている。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

No negotiations, no peace, but what about NATO? ASIATIMES 2024.10.10
https://asiatimes.com/2024/10/no-negotiations-no-peace-but-what-about-nato/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=535793b2f2-DAILY_10_10_2024&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-535793b2f2-16242795&mc_cid=535793b2f2&mc_eid=69a7d1ef3c

【概要】

　2024年10月10日のダニエル・ウィリアムズによる記事は、ヒズボラ、ハマス、その他の地域の同盟国を含む抵抗枢軸の主要人物とリソースを対象とした一連のイスラエルの攻撃を受けて、イランが直面する複雑な状況を探っている。イランのジレンマは、特にイスラエルの攻撃がハマスの指導者イスマイル・ハニヤとヒズボラの指導者ハッサン・ナスラッラーを殺害した後、同盟する民兵の期待と国家安全保障の優先事項とのバランスをとる必要性から生じている。

　イランが当初、これらの暗殺への対応を躊躇していたことが、同盟国がテヘランの共通の大義へのコミットメントに疑問を呈するかもしれないという懸念を引き起こした。しかし、イランは最終的に2024年10月1日にイスラエルに180発のロケット弾を発射して報復しました。この対応は、2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃以降、イスラエルとイランが支援する軍隊との間の緊張が高まっているパターンに従ったものである。ヒズボラのイスラエルに対するミサイル攻撃と、それに続くイスラエルの南レバノンとベイルートへの爆撃は、状況をさらにエスカレートさせた。

　イランの軍事行動、特にイスラエルへのミサイル発射は、同盟国との信頼を維持する試みと見なされており、そうしないと抵抗の枢軸国が弱体化する可能性がある。記事はまた、イランの指導部、特にマスード・ペゼシキアン大統領が、同盟国に対する決定的な支援よりも西側との核外交を優先したとされるものに対する国内の批判にも言及している。

　イランの核開発の可能性は、テヘランにとって戦略的な考慮事項として強調されており、イスラエルのさらなる攻撃がイランに核の野望を加速させる可能性があるという懸念がある。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の発言は、イランの石油インフラや核施設を含む潜在的な標的とともに、イスラエルのさらなる報復攻撃が予想されることを示唆している。

　また、イランの核活動にどう対応するかについて、イスラエルとアメリカの政治領域の両方からの圧力に直面しているジョー・バイデン米大統領にとって、この紛争がいかに課題を提示しているかについても取り上げている。バイデン氏の後継者である民主党のカマラ・ハリス氏は、イランが核保有国になるのを防ぐことの重要性を強調したが、潜在的な行動に関する具体的な内容は明らかにされなかった。

　要するに、イランは、イスラエルの侵略に対する対応を秤にかけながら、特に核開発計画と抵抗枢軸の同盟国との関係に関する国内外の圧力を管理しながら、重大な岐路に立っている。
　
【詳細】

　イランが直面する重大な選択肢と、イスラエルとの対立の中で同盟関係を維持するための戦略的な課題について詳しく述べている。特に、1979年のイスラム革命以来、イランが中東において築いてきた「抵抗の枢軸」と呼ばれる反イスラエル連合が、イスラエルによる攻撃を受けたことで大きな試練に直面していることが強調されている。

　背景と主な出来事

　2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃を契機に、イスラエルはガザ地区のハマスだけでなく、レバノンのヒズボラにも報復攻撃を開始した。ヒズボラはハマスへの支援としてイスラエルにミサイルを発射したが、それに対しイスラエルはレバノン南部とベイルートへの空爆を強化し、地上侵攻の準備として国境に3個師団を展開した。さらに、紅海でのフーシ派による商業船舶への妨害行為に対しても、イスラエルや米英の軍がドローンやロケットによる攻撃を実施した。

　イラン自体は、イスラエルと直接的な軍事衝突を避けようとしていたが、2024年4月、シリアのダマスカスでイラン革命防衛隊の司令官がイスラエルのミサイル攻撃により殺害されたことを受け、約300発のミサイルをイスラエルに向けて発射したものの、効果は限定的だった。そして、10月1日には、イスラエルによるイスマイル・ハニーヤ(ハマスのトップリーダー)とハサン・ナスルッラ(ヒズボラの指導者)の暗殺に対する報復として、180発のロケットをイスラエルに向けて発射した。

　イランのジレンマと同盟関係の維持

　イランの軍事行動は、同盟者との信頼関係を維持するために行われたと考えられる。イランが報復しなければ、「抵抗の枢軸」に属する同盟国や武装勢力がイランの忠誠やリスクを共有する意思を疑問視する可能性があると、南フロリダ大学の中東専門家アルマン・マムーディアンが指摘している。このため、イランは躊躇しつつも、同盟国に対する責任を果たすために報復を行わざるを得なかった。

　イランの核開発も重要な要素となっている。カーネギー国際平和財団の研究者ニコール・グラジェフスキーは、イランがイスラエルからの攻撃に対する抑止力として、核兵器開発を進める可能性があると述べている。これまでイランは「準核」レベルの防衛手段に依存しており、主にヒズボラやハマス、フーシ派といった代理勢力を通じて軍事力を投射してきた。また、通常兵器によるミサイルやドローンの攻撃も重要な防衛手段であった。

　国内の批判と核開発への影響

　イスラエルに対する報復が遅れたことや、米国との核交渉を優先しているとの批判が、イラン国内で強まっている。イランの保守派政治家アリ・モタハリは、X(旧Twitter)で、「イランがハニーヤの暗殺に対して即時に反応しなかったため、イスラエルがハサン・ナスルッラの暗殺にも踏み切ることができた」として政府を非難している。彼は、イラン政府がアメリカの和平交渉に騙され、同盟国への支援を怠ったと主張している。

　イラン政府は、同盟国を守るために地上部隊を派遣しないと発表し、ハマスやヒズボラには自らの防衛能力があると述べているが、これも同盟国に対する支援の遅れに対する批判を和らげるための試みと考えられる。また、イランの外務省報道官ナセル・カナアニは、イスラエルに対する攻撃が「合法的で合理的な対応」として正当化されるとしながらも、さらなる攻撃があれば「徹底的な報復」があると警告している。

　米国とイスラエルの対応

　イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イランに対する報復攻撃を続ける姿勢を明確にしており、さらなる攻撃を予告している。特に、イランの石油産業や核施設が標的となる可能性が高いとされている。これらの攻撃は、米国のジョー・バイデン大統領にとっても政治的な難題となる。バイデンは、イスラエルの軍事目標に関して議論しており、石油生産に打撃を与えるかどうかについては明確な立場を示していない。

　核問題についても、バイデンは前政権からの課題を引き継いでいる。バラク・オバマ政権下で成立した核合意は、ドナルド・トランプ大統領によって破棄されたが、バイデンはこの問題に関して、イスラエルを抑える立場をとることが難しい状況にある。特に、米国の大統領選挙が近づく中で、対イラン政策が国内外で大きな議論を呼んでいる。

　ドナルド・トランプは、イランの核施設を標的にすべきだと強調しており、イランの核開発を最優先に破壊すべきだと主張している。一方で、カマラ・ハリス副大統領も、イランが核兵器を手に入れることを阻止することが最優先事項であると述べているが、具体的な対策については言及していない。

　結論

　イランがイスラエルとの対立の中でどのような選択を迫られているのか、そしてその選択が「抵抗の枢軸」としての同盟関係や核開発にどのような影響を及ぼすのかを詳述している。イランは、同盟国の期待に応えるための軍事行動と、核開発をめぐる国際的な圧力との間でバランスを取ろうとしており、その行方は中東全体の安全保障に大きな影響を与えることが予想される。
　
【要点】

　・イスラエルとハマスの衝突開始

　2023年10月7日にハマスがイスラエルを攻撃し、イスラエルはガザ地区とレバノン南部を含むヒズボラに報復攻撃を開始。

　・イランの関与

　イスラエルがイラン革命防衛隊の司令官を攻撃し、イランはミサイルで報復。さらに、イスラエルによるハマスとヒズボラのリーダー暗殺に対してもロケットを発射。

　・イランのジレンマ

　イランは直接的な軍事衝突を避けつつ、同盟国(ヒズボラやハマス)との信頼を維持するために報復を余儀なくされた。

　・核開発の脅威

　イランはイスラエルの攻撃に対する抑止力として核兵器開発を進める可能性があり、これが地域の緊張を高めている。

　・国内批判

　イラン国内では、イスラエルに対する報復が遅れたことや、米国との核交渉を優先しているとして政府への批判が高まっている。

　・イスラエルと米国の対応

　イスラエルはさらなる攻撃を予告し、米国も石油産業や核施設を標的にする可能性を示唆。バイデン政権は、イランとの対立をめぐって難しい判断を迫られている。

　・結論

　イランは同盟国との関係維持と核開発の進展の間で複雑な選択を強いられ、中東の安全保障に影響を及ぼしている。

【引用・参照・底本】

Iran and the collapsing axis ASIATIMES 2024.10.10
https://asiatimes.com/2024/10/iran-and-the-collapsing-axis/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=535793b2f2-DAILY_10_10_2024&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-535793b2f2-16242795&mc_cid=535793b2f2&mc_eid=69a7d1ef3c

【概要】
　
　2024年10月11日に日本の新首相として就任した石破茂氏と、日米安全保障同盟の強化に関する内容を詳述している。特に石破氏が日本の防衛政策において重要な役割を果たす可能性があることを強調している。石破氏は、これまでに2回防衛大臣を務めた経験があり、国家安全保障に関する専門知識を持っている。

　石破氏は、アジアにおける集団的自衛権の重要性を強調しており、NATOのような集団防衛体制がアジア地域に欠如しているため、戦争が勃発しやすくなっていると指摘している。また、日米同盟のバランスを強化する必要性を訴え、自衛隊員を米国の基地に駐留させたり、米軍基地の共同管理を進める考えを示している。

　石破氏が内閣に安全保障の専門家を起用していることが、防衛が日本の優先事項であることを示しているとも述べている。さらに、日米同盟の歴史的背景にも触れ、1951年の米日安全保障条約やその後の改定について説明している。

　専門家の宮家邦彦氏は、安倍晋三元首相が2012年に二度目の首相を務めた際、憲法第9条の解釈変更を行い、日本がある程度、米国を守るために武力行使を可能にしたことが重要な転機であると述べている。この解釈変更により、日本は限定的ながらも集団的自衛権を行使できるようになり、それが日米同盟にとって大きな飛躍となったと強調している。

　また、2023年7月に東京で開催された日米高官会談の結果、米軍の日本駐留部隊が合同司令部に格上げされ、より多くの責任を担うことが決定されたと報告されている。この動きは日米軍事パートナーシップにおいて「歴史的な決定」とされ、70年間で最も強力な改善の一つとされている。

　さらに、宮家氏は、日米同盟がますます統合されつつあり、両国が必要に応じて共に戦う能力を示すことが重要であると述べている。また、韓国との関係改善も進展しており、2023年にキャンプデービッドで行われた日米韓首脳会談が成功したとしている。

日　本の防衛予算の増加にも言及されており、日本政府はGDPの2%まで防衛費を増加させることを決定している。2025年度の予算要求は約600億ドルとなっており、この予算で日本は長距離兵器能力を強化し、脅威検知用の衛星網を整備し、イージス艦を建造する予定である。特に北朝鮮からのミサイルの脅威に対処するため、これらの措置が重要とされている。

　宮家氏は、現代戦では空中、地上、海上に加えて、サイバー、宇宙、電磁波の6つの領域があり、さらに情報戦も加えた7つの領域での連携が必要だと述べている。日米の連携はすでに海軍や空軍で進んでおり、今後はサイバーと宇宙領域でも連携を強化していく必要があると締めくくっている。
　
【詳細】

　石破茂氏の首相就任を受けて、日米安全保障同盟の強化と日本の防衛政策に関する詳細な分析を行っている。石破氏は、日本の国家安全保障に深い関心を持ち、日米同盟における日本の役割をより強固なものにする意向を示している。特に、彼のリーダーシップのもとで、日米同盟がいかに発展し、さらなる防衛協力が進展するかに注目が集まっている。

　石破茂の防衛政策に対する見解

　石破氏は、日本の防衛政策に対して長年の経験と知識を有しており、特にアジア地域における集団的自衛権の欠如が安全保障上の脆弱性を生み出していると指摘している。彼は、アジア版NATOのような集団防衛体制を築くことの必要性を主張しており、現在のアジア地域には相互防衛の義務がないため、紛争が発生するリスクが高いと考えている。石破氏の視点は、地域全体での防衛協力を促進することで、戦争を防ぐ抑止力を高めようとするものである。

　また、彼は日米安全保障同盟のさらなるバランスを取るべきだとも主張しており、これは日本がより自立的な防衛能力を持ち、米国に過度に依存しない形での同盟強化を目指すという考え方に基づいている。具体的には、日本の自衛隊員を米国の軍事基地に派遣し、米軍と共に基地の運営を行うことで、より強固な協力体制を築こうとしている。

　日米安全保障同盟の歴史的背景と進展

　1951年に締結された米日安全保障条約は、日本国内に米軍基地を設置し、米国が日本を防衛する義務を負うという形で、両国の安全保障の基礎を築いた。その後、1960年に条約は改定され、米軍が日本に駐留し続ける代わりに、米国は日本が武力攻撃を受けた際に防衛することを約束した。

　この同盟は、冷戦時代を経て安定して機能してきたが、21世紀に入ってから、日本がより積極的に防衛能力を強化し、同盟への貢献を拡大する動きが見られる。特に、2012年に安倍晋三氏が再び首相に就任してからは、日本の安全保障政策が大きく進化した。安倍氏は憲法第9条の解釈を変更し、米国を守るために日本が一定の武力行使を行うことを可能にした。この憲法解釈の変更により、日本は限定的ながらも集団的自衛権を行使できるようになり、日米同盟の枠組みが強化された。

　また、安倍氏は三つの国家安全保障関連文書を改定し、日本が防衛のために「打撃能力」を持つことを決定した。この決定により、日本は敵国の攻撃を未然に防ぐ能力を強化し、より独立した防衛体制を築くことが可能になった。同時に、自衛隊内に統合司令部を設置し、米軍の司令部とも協力して、より効率的に共同作戦を遂行できる体制を整えている。

　日米同盟の近年の発展

　2023年7月に東京で行われた高官会談では、米国防長官ロイド・J・オースティンIII氏が、駐留米軍を統合司令部へと格上げする「歴史的な決定」を発表した。この決定により、米軍の日本駐留部隊はより多くの責任を担うこととなり、日米間の軍事協力はさらに深まった。これは、70年にわたる両国の軍事パートナーシップにおいて、最も強力な進展の一つとされている。

　日本の防衛力強化の方向性

　石破内閣のもとで、日本はさらに防衛力を強化する方向に進んでいる。日本政府は、2025年度の防衛予算として過去最高額の約600億ドルを要求しており、この資金をもとに、長距離兵器能力の向上や脅威検知衛星網の整備、イージス艦の建造を進めている。特に、北朝鮮からのミサイルの脅威に対処するための防衛力強化が重要視されている。

　また、現代の戦争は空、陸、海の三つの伝統的な領域に加え、サイバー、宇宙、電磁波の新しい領域、さらに情報戦の要素も加わっており、これら7つの領域での戦力強化が求められている。日米の軍事連携はすでに海軍や空軍のレベルで進んでおり、今後はサイバーや宇宙の分野でも協力を深め、全領域における共同作戦能力を強化する必要がある。

　結論

　石破茂氏のリーダーシップのもとで、日本の防衛政策はより独立性を持ちながらも、日米同盟を中心とした安全保障体制がさらに強化される見通しである。日米両国は、地域の脅威に対して共に対応するための軍事協力を進めており、特に北朝鮮や中国といった周辺国の動向に対する抑止力を高めるための取り組みが加速している。
　
【要点】

　・石破茂の防衛政策の見解: 石破氏はアジア版NATOのような集団防衛体制の構築を提唱し、日米同盟のさらなるバランス強化を主張。

　・日米安全保障同盟の歴史: 1951年の米日安全保障条約で米軍が日本に駐留し、日本防衛を約束。1960年に改定され、米軍が日本を防衛する義務を負うように。

　・安倍晋三による同盟強化: 2012年から安倍氏が憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を限定的に認める。防衛文書の改定により、日本は「打撃能力」を持ち、米軍との共同作戦体制を強化。

　・米軍の役割拡大: 2023年に米軍駐留部隊が統合司令部へ格上げされ、日米同盟の軍事協力が強化。

　・防衛予算と能力強化: 日本は2025年度の防衛予算として約600億ドルを要求し、長距離兵器や衛星網、イージス艦の整備などで防衛力を強化。

　・新たな戦争領域: 空、陸、海に加え、サイバー、宇宙、電磁波、情報戦を含む7つの領域で日米の協力が求められ、共同作戦能力を強化中。

　・結論: 石破内閣のもとで日本の防衛政策は独立性を高めながらも、日米同盟の強化が進み、地域の脅威への対応能力を強化。

【参考】

　☞ 安倍前首相の在任中に策定・改定された防衛関連文書は、日本の防衛政策に大きな影響を与えた。彼のリーダーシップのもとで、特に以下の三つの文書が重要な役割を果たした。

　1.国家安全保障戦略(NSS, National Security Strategy)

　・2013年に初めて策定された文書で、日本の安全保障政策における最上位の戦略である。安倍政権下で日本は初めて明確な国家安全保障戦略を持つことになり、中国の軍事的台頭や北朝鮮の核・ミサイル開発など、地域の脅威に対する具体的な対応方針を示した。特に、自由で開かれたインド太平洋戦略の強調が特徴である。

　2.防衛計画の大綱(National Defense Program Guidelines)

　・NSSに基づき、自衛隊の役割や装備の整備に関する中長期的な方針を定める文書で、2013年に改定された。この文書は、日本がより自主的に防衛力を強化し、特に中国や北朝鮮に対抗するための方針を示している。また、離島防衛やサイバー戦、宇宙空間での防衛力強化が重点項目となった。

　3.中期防衛力整備計画(Mid-Term Defense Program)

　・2013年の「防衛計画の大綱」に基づいて策定された5年ごとの具体的な装備計画である。2014年から2019年までの計画では、島嶼防衛能力の向上、海空の監視体制強化、サイバー防衛の強化が強調された。また、集団的自衛権の行使を視野に入れた自衛隊と米軍の共同運用体制の強化も進められた。

　これらの文書は、安倍政権下での防衛政策の大きな転換を象徴しており、特に集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更に伴い、日本の防衛力の強化と国際的な役割の拡大が進められた。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

The US-Japan security alliance is growing more integrated ASIATIMES 2024.10.11
https://asiatimes.com/2024/10/the-us-japan-security-alliance-is-growing-more-integrated/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=15b34d1610-DAILY_10_10_2024_COPY_01&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-15b34d1610-16242795&mc_cid=15b34d1610&mc_eid=69a7d1ef3c535793b2f2&mc_eid=69a7d1ef3c