キンジヨノヰド2022-01-01 18:29

キンジヨノヰド伊藤仁斎
 『一年生の修身 キンジヨノヰド』伊藤仁齋 2022.01.01

 キンジヨノヰド(166-172頁)
 
 ナガヤ ノ ヰドサラヒ ニ デタ

 イトウジンサイ ハ ムカシ ノ ナダカイ ガクシヤ デ アリマス、キヤウト デ デシ ヲ アツメ テ、ガクモン ヲ ヲシヘ テ オリ マシタ。ソノキンジヨ ニ ヰド ガ アリ マシ テ、ジンサイ モ キンジヨ ノ ヒトタチ ト イツシヨ ニ、ソノヰド ノ ミヅ ヲ クンデ、カホ ヲ アラツタリ ゴハン ヲ タイタリ シ テ オリ マシ タ、
 アル ヒ、ジンサイ ガ ツクエ ニ ムカツテ ホン ヲ ヨンデ ヰ マス ト、オホゼイ ノ ヒトタチ ガ アツマツテ ヰド ノ マハリ デ ナニ ヤラ サワイデ オリ マス。
 『ナハ ヲ モツテ コイ、 ナワ ヲ。』
 『ヲケ ハ コレ デ ヨイ カ?』
 『サア、オロス ゾ。』
 『ミンナ ヒツパレ』
 『シヅカ ニ シヅカ ニー センセイ ノ オジヤマ ニ ナル ト イケナイ ヨ。』
 ナド ト イツテ ヰ マス。ヰドサラヒ ガ ハジマツタ ノ デ アリ マシ タ。
 ジンサイ ハコレ ヲ キク ト、サツソク ハカマ ヲ ヌイデ ワルイ キモノ ニ キカヘ、タスキガケ ニ ナツテ デカケ テ ユキ マシ タ。スルト
 『ア、センセイ ガ デ テイラツシヤツタ。ソレ ダ カラ アマリ オホキナ コヱ ヲ ダスナ ト イツタ ノ ニ・・・・。』 
 ト イヒ ナガラ、オモダツタ ヒトリ ガ ハチマキ ヲ トツテ、
 『ドウモ マコト ニ マウシワケ ガ ゴザイ マセン、シズカニ シヨウ ト ハ オモヒ マシ タ ガ、 ナニシロ オホゼイ ナ モノ デ ス カラ、 ツヒ ゴベンキヤウ ノ サマタゲ ヲ イタシ マシ テ オソレイリ マス。』
 ト アヤマリ マシ タ。ジンサイ ハ
 『イヤ イヤ。ワタシ ハ トガメ ニ キ タ ノ デ ハ ナイ。テツダヒ ニ ヤツテ キ タ ノ ダ。ワタシ ニ モ ナハ ヲ ヒツパラシ テ クレ。』
 ト マウシ マス ト、ミンナ ハ オドロイテ
 『トンデ モ ナイ。コンナ コト ハ ワタクシタチ デ デキマス。センセイ ニ テツダツツテ イタダク ナド トイフ、ソンナ モツタイ ナイ コト ハ デキ マセン。ドウカ オカヘリ クダサイ。』
 ト トメ マシ タ ガ、ジンサイ ハ キキ イレ マセン デ シ タ。
 『イヤ ソレ ハ イケナイ。ミナサン ト イツシヨ ニ ワタシ モ マイニチ コ ノ ヰド ノ ミヅ ヲ ツカツテ ヰル ノ ダ。ソシテ コレ カラ モ ヰド ノ ゴヤクカイ ニ ナラネバ ナラナイ。シ テ ミレ バ、ジブンダケ ヰドカヘ ニ デナイ デ ハ、ミナサン ニ タイシ テモ、マタ コ ノ ヰド ニ タイシ テ モ スマナイ。』
 ドウ シ テ モ カヘラズ ニ、シマヒ マデ キンジヨ ノ ヒトタチ ト イツシヨ ニ、ドロマミレ ニ ナツテ ヰドサラヒ ニ ハタラキ マシ タ。 

引用・参照・底本

『一年生の修身』模範兒童文庫刊行會著 昭和五年十一月十日發行
(国立国会図書館デジタルコレクション)

小栗上野介軍備擴張ノ熱心2022-01-02 17:52

海軍歴史鈔
『海軍歴史鈔』(二四八頁) 2022.01.02

 小栗上野介軍備擴張ノ熱心

 此時勘定奉行小栗上野介用途ノ貲セスシテ海陸軍備ノ振ハサルヲ深ク憂ヒ百方計畫シテ先此議ヲ呈シ大ニ皇張スル處アラントセシニ奈何セン當時上下否隔人心潰離シ外ニ又種々掣肘スル處アルヲ以テ其事終ニ及ハスシテ止ム然レ共此人斷然議ヲ固執シ衆怨ノ府トナルヲ顧ミス其君ノ爲メニスルノ赤心ハ磨而不磷偉丈夫ト稱スヘシ

引用・参照・底本

『海軍歴史鈔』勝安芳 (海舟) 著「小栗上野介軍備擴張ノ熱心」(二四八頁)
『海軍歴史.6』勝安芳 (海舟) 著「小栗上野介軍備擴張ノ熱心」(海軍歴史卷之十四 三十八)
(国立国会図書館デジタルコレクション)

一燈を提げて2022-01-05 17:10

佐藤一斉 肖像. 2之巻
 一燈を提げて 2022.01.05

  ◇

 『言志晩錄』(二頁)

 提一燈。行暗夜。勿憂暗夜。只頼一燈。
  
 一燈を提げて、暗夜を行く。暗夜を憂ふる勿れ。只一燈を頼め。
 
  ◇

 『陽明學派.下巻 言志晩錄』(三三七-三三九、三四七、三五〇-三五一、三五四-三五五、三七九-三八〇頁)

 憤を發して食を忘る。志氣かくの如し。樂みて憂ひを忘る。心體かくの如し。老の將に至らんとするを知らず。命を知り天を樂しむかくの如し。聖人は人と同じからず。又人と異らず。

 學者は當に先づ自ら己の心あるを認むべし。而して後存養して力を得。又當に自ら己の心なきを認むべし。而る後存養して効を見る。

 認めて以て我となす者は氣なり。認めて以て物となす者は氣なり。その我と物との皆氣なるを知る者は氣の靈なり。靈は即ち心なり。その本體は性なり。
 
 人心の靈は、知ることあらざるなし。只この一知は、即ちこれ靈光なり。嵐霧の指南と謂ふべし。

 一燈を提げて、暗夜を行く。暗夜を憂ふる勿れ。只一燈を頼め。

 天下の物、理あらざるなし。この理は即ち人心の靈なり。學者當に先づ我にあるの萬物を窮むべし。孟子曰く、萬物皆我ら備はる。身に反して誠なる、樂、これより大なるはなしと。即ちこれなり。

 倫理、物理は、同一理なり。我學は倫理の學なり。宜しく近く諸を身に取るべし。即ちこれ物理なり。

 程子は萬物一體を言ふ。試に思へ天地間、飛潛動植、有知無知、皆陰陽陶冶中より出で來る。我その一なり。易を讀み理を窮め、深く造りてこれを自得すれば、眞に萬物の一體なるを知らん。程子の前、絶えてこの發明なし。
 
 大に從ふ者を大人と爲す。小に從ふ者を小人と爲す。今の讀書人は攷據瑣猥を以て能事と爲す。畢生の事業こゝに止まる、亦嘆ずべし。

 暗夜に坐する者は體軀を忘れ、明晝に行く者は形影を辯ず。

 體實にして虚、心虚にして實。中孚の象は即ちこれなり。

 海防の任に膺る者は、民和を得るを以て先と爲す。器械れに次ぐ。又須らく彼此の長短を校べ、以て趨避を爲すべし。尤も釁端を啓き以て
後患を貽すなきを要す。
 
 我國獨立して、異域を仰かず。海外の人皆これを知る。𦾔法を確守するの善なるに如かず。功利の人、事を好む。濫りに聽くべからず。

 人の齢は、四十を踰えて以て七八十に至り、漸く老いを極むる、海潮の如く然り。退潮は進退せず。必ず一前一却して漸退す。即ち回旋して移るなり。進潮も亦然り。人人宜しく自ら驗すべし。
 
 我より前なる者は、千古萬古にして、我より後なる者は、千世萬世なり。假令我壽を保つこと百年なるも、亦一呼吸の間のみ。今幸に生れて人たり。庶幾くは人たるを成して終らん。これのみ。本願ここにあり。

 心氣清明なれば、能く事機を知り、物先に感ず。至誠の前知するこれに近し。

 生はこれ死の始めなり。死はこれ生の終なり生ぜざれば即ち死せず。死せざれば即ち生せず。生は固生、死も亦生なり。生生これを易と謂ふとは、即ちこれなり。

 凡そ人は少壯の過去を忘れて、老歿の將來を圖る。人情皆然らざるなし。即ちこれ竺氏權教の由つて以て人を誘ふ所なり。吾儒は則ち易にあり。曰く、始めを原ね終に反る。故に死生の説を知る、と。何ぞそれ易簡にして明白なるや。

 死の後を知らんと欲せば、當に生の前を觀るべし。晝夜は死生なり。醒睡も死生なり。呼吸も死生なり。

 無は無より生ぜずして、有より生ず。死は死より死せずして、生より死す。

 勞佚は形なり。死生は迹なり。勞の佚たるを知らば、以て人を言ふべし。死の生たるを知らば、以て天を言ふべし。

 海水を器に斟み、器水を海に飜さば、死生直ちに眼前にあり。

 生を好み死を惡むは、即ち生氣なり。形に牿するの念なり。生氣已に徂けば、この念を幷せて亦徂く。故に天年を終ふる者は、一死睡るが如し。

 夢中の我も、我なり。醒後の我も、我なり。その夢我たり、醒我たるを知るは、心の靈なり。靈は即ち眞我なり。眞我は自ら知りて、醒睡に間なし。常靈常覺、萬古に亙りて死せざる者なり。
 
  ◇

 『修養大講座 第二卷』(二五四-二五五頁)

 一燈を頼め

 提一燈。行暗夜。勿憂暗夜。只頼一燈。
 一燈を提げて暗夜を行く。暗夜を憂ふること勿れ。只だ一燈を頼め。

 一張の提灯を提げて闇の夜を行きますと、決して夜の暗いのを心配すろことはない。たゞ一つの提灯を恃んでゆけばよいので、人間が道理を志して一個の目的を立て、それに向かつて進んでゆくならば、人生の暗澹たることも決して悲しむに及ばぬので、希望は一つの光を人間に齎し、此の光によつてこの世を渡ることも出來るのは、恰も提灯を提げてゆけば暗夜が照らされるやうなものであります.
 この語は、西郷先生も非常に面白く感ぜられたとして、之れを抄出せられて居りますが、慶應四年一月、徳川慶喜が大擧して上洛せんとし鳥羽、伏見に於いて官軍と衝突しました、其の時岩倉右府が大に心配して『勝敗はどうであるか』といふことを西郷に訊いた折に、西郷が答へて、『隆盛此處にあり、憂ふること勿れ』と言うたといふ話があります。之は一燈を提げて暗夜を行くもので、自ら任ずろこと斯くの如くであつてこそ大事を成すことが出來ると思ふのであります。

  ◇

 『受験漢文研究』(五七頁)

 九 史書

 【大旨】古今の歴史の書を讀む效益を説いた。

 人一生履歴除幼時與老後、率不過四五十年間(原文は日→月)。其所聞見、殆不足一史。故宜讀歴代史書。上下數千年事迹、羅在胸臆、不亦爲快乎。著芽處、最在人情事變上。

 【解釋】人の一生の經て行く間は、幼少の時と老後を除くと、大抵は四五十年の間に過ぎない。その四五十年間に聞いたり見たりする事柄は、些少のもので、大方一部の歴史の書物の事柄にでも及ばない。。それゆゑに古來の人の經驗等を知るために、代々の歴史の書を讀むが宜しい。歴史の書を讀んで前後幾千年の事柄が、心の中に連つて記憶してゐむることは、なんと愉快なことではないか、愉快なことであらう。さうして歴史の書を讀んで、特に注目すべき要點は、各時代の人情の特質や時勢の變事の事柄とを注意するのが宜しい。

  ◇

 『先哲遺芳』

  佐藤一齊(二十頁)

一齊名は坦、字は大道、一齊は其號なり、父は岩村侯に仕ふ、幼にして讀書を好み字を習ふ、成童に至り嶄然頭角を見はす、寛政二年始めて仕藉に登り藩の公子に近侍す、翌年大阪に遊び又林氏の門に入り始めて儒を以て業とす、後平戸侯の聘に應じ經を維新館に講ず聽者三百餘人、文化二年林氏の塾長となり門生を督す、天保十二年擢せられて幕府の儒官となる、安政六年卒す年八十八、其著言志錄四篇は一齊の學を窺ふべきもの盛に世に行はる、 

引用・参照・底本

『言志四錄』佐藤一齊先生著 明治四拾年十月廿三日發行 松山堂發行
『陽明學派.下巻』昭和十一年二月二十日發行 春陽堂
『受験漢文研究:官公私立高等専門諸学校入学試験漢文科受験研究用書』佐藤正範著 昭和三年十月十五日發行 シグナル週報社
『先哲遺芳』京都府教育會 池内鼎三著 明治三十六年八月二十日發行 芸艸堂
『修養大講座 第二卷 言志四錄(ニ)省諐錄』加藤咄堂著 昭和十六年七月十五日發行 平凡社
『肖像. 2之巻』明治廿四年秋日文紹
(国立国会図書館デジタルコレクション)

ペルリ2022-01-11 16:26

ペルリ渡来繪入讀本家庭教育日本歴史
 ペルリ 2022.01.11

  ◇

 『明治史話 ―事件と人物―』菊池寛 著

 ペルリは恩人か(一-二一頁) 
 
 米國の領土擴張

 今日ペルリの名は、國民學校の兒童でも知つてゐるが、何故日本に彼がやつてきたといふことになると、本當のところは、國民にはなかなか分つてゐないのである。
 彼が「開國の恩人」として、銅像にまでなつて感謝される資格は、なかつたことだけは言つておくべきだと思ふ。このことを現在ハツキリさせて置くことが必要だと思ふので、これからその理由を書いてみようと思ふ。
 アメリカは建國以來その領土を次ぎ次ぎと擴張してゐるが、一八四六年(弘化三年)にはメキシコと戰つて、カリフオルニア州とニユーメキシコ州を獲得して、はじめて太平洋岸にまでその地盤を擴げてきたのである。此の間にも、南部諸州では、地味豐かなミシシツピー河流域地方を拓いて綿花、煙草、穀類を豐富に収穫し、北部諸州の商工業の發展と並んで、その國勢は大躍進の勢を示して來た。
 また、これより先、北太平洋方面に於けるアメリカの捕鯨船は盛大を極め、このためにロシアとの間に二回も漁業條約を結び、アラスカ沿岸から北太平洋に向つて出漁する米國船は、年に千二百隻といはれ、その人員は、實に三萬五千人といふ盛況を呈してゐた。
 その結果、捕鯨船は段々と太平洋を渡つて、東洋に向ふことになり、一八四四年(弘化元年)には支那との間に、米支通商條約が結ばれ、アメリカ捕鯨船は燃料食糧の補給に、支那官憲の便宜を得ることになつた。
 支那との交渉が開ければ、當然その中間に在る日本にも、條約締結の要求がつきつけられるのは明らかである。捕鯨船が日本の港に碇泊して、薪水食糧の供給を得ることは、アメリカにとつて絶對に必要であつたのだ。
 かうした點から、「ペルリが日本を開國させたのではなく、鯨が日本の鎖國を打ち破つたのである」といはれるわけなのである。
 英國の歴史家のクリーシーが、ペルリ來航二年前の嘉永四年に、この米國の積極的な意氣込みを見て、
「將來日本をして強ひて開國せしむるものは、必ず米國であらう。而も米國がこれを遂行するに際しては、きつと大膽にして厚顔な手段に出るであらう。此の新しい共和國は、やがて世界の有力なる國家となり、吾人の想像も及ばぬほどの大勢力となるであらう」
 と豫言してゐるが、この豫言は誤ることなく、日本に開國を強請して、成功したのはアメリカであつた。
 提督ペルリを日本に派遣することを決心したアメリカ政府當局を、絶えず聲援したのは、その輿論であつた。
「日本を開國せしむるのは、基督教國民の義務である」
 といふのがその合言葉であつた。
 そして、その聲が最も強かつたのは、米國の捕鯨業者の保護のために派遣された海軍の提督たちで、彼等は口を揃へて、日本を開國させることは、アメリカの捕鯨業と貿易に緊要であることを述べ立ててゐる。
 米大陸以外の地に干渉すべからずとした有名なモンロー主義の主唱者であるモンローが文政二年、議會への教書の中で、
「米國の貿易を保護するために、太平洋に強大なる米國海軍を維持するの必要を認む」
 と云つた言葉を、この際われわれは忘れてはならない。モンロー主義といふものが、如何にいい加減な空念佛であつたかといふことにより、アメリカの太平洋に於ける海軍が、どんな目的の下に使用されるかといふことを考へなければならぬ。
 ペルリ來航以前にも、米國政府は米國東印度艦隊司令官ビツドルに命じて、日本に來航させたが、彼は弘化三年江戸灣に入つたが、アツサリと通商を拒絶されて空しく廣東に引返さざるを得なかつた。此の時、ビツドルの率ゐた艦隊は僅二隻だつたので、威嚇の効果がなかつたと思つたのだらう。ペルリは日本遠航の司令長官を受諾する條件として、東印度艦隊を二倍に増強することを大統領に要求して、六隻編成の艦隊を率ゐて、江戸灣に現れたのであつた。
 ビツドル提督の後に、長崎にやつてきて、遭難したアメリカ水夫を引取つて歸國したグリーン少佐は、嘉永四年六月十日附で、大統領フイルモア―に日本開國の意見書を述べてゐるが、この中で、
「日米間の通称條約は、カリフオルニア・支那間の米國航路の安全のため、絶對に必要と存じ候……是等の約定は、早晩平和的手段にてゆかずば、武力に訴ふることも實現すべきものに有之候」
 と言つてゐるが、彼等が、ここに初めて、
「武力に訴ふるとも……」と言つてゐるのは注意すべきだと思ふ。
 またペルリ來航の直前にも、米國新聞紙の論説は、大いに侵略的で、「印度は既に英國の征服する所となり、支那もまた同轍を踏まんとしてゐる。我が米國は共和政體確立して國威熾んである。宜しく迅に太平洋忠の諸島を征略し、就中、人口稠密、物資豐かなる日本國を、野蠻的鎖國より文明世界に導き、米國の版圖に加へなければならない」
 と論じてゐる。しかもその侵略的野心をそそる先例として、英國の東亞侵略を焦燥の念を以て見てゐるところは蔽ふべくもない。早くアメリカも手を出さないと、英國だけに甘い汁は皆吸はれてしまふぞといつた風が露骨に窺はれるのである。
 この點はペルリも同じであつて、彼は日本來航の途中、マデイラ島より海軍大臣に宛てた手紙にも、
「海上權につき我等が大競爭者たる英吉利が、東洋に有する占領地と、その防備ある港灣とを著々増加するのを見る時、我が國も亦敏速の措置を講ずるの必要を、痛感せずにはをられぬ」
 と書いてゐる。
 ペルリは喜望峰廻りで向つてきたのであるが、その途次寄港した港は、セイロン、新嘉坡、香港、廣東、上海、みな英國東洋制覇の牙城ばかりである。これを見て、アメリカの將來に對して、焦慮の念に驅られたのは當然であらう。

 ペルリの日本研究

 當時の日本が祖法たる鎖國政策を固く採つて、螺蠑のやうに蓋を開かないことは、世界中知らない國はなかつた。この日本と、僅かに九州の一角なる長崎出島を通じて、辛うじて交渉を持つことが出來たのは、オランダ一國であつた。他の國の船は、一切日本の沿岸諸港に寄りつけなかつたし、たとへ難船して漂着しても、牢屋にぶち込まれるといふ思ひ切つ待遇を受けなければならなかつた。
 だから、ペルリの艦隊が編成されて、日本遠航のことが發表されると、バルチモアの一新聞は「日本を開國せしめ得ると信ずるとは、徒に内外の笑ひを買ふに過ぎず」と揶揄し、またロンドン・タイムズは「これ巧妙なる輕業師をして、風船に乘じて、遊星に旅行せしむる如し」と嘲笑してゐる。要するに、あの頑固極まる日本を翻意せることが出來るとは思へないといつた聲が、當時多かつた。
 それだけに、新任務を與へられたペルリは愼重であつた。彼は日本に關する悉
ゆる著書を蒐集して、日本の國情を研究した。當時、日本に関する資料を最も多く持つてゐたのは、言ふまでもなくオランダであつた。
 ペルリは、そのオランダの史料を得るために、國庫から三萬弗も支出させた。そのために日本關係の古書籍が歐州に於て、著しく昂騰したとしはれるくらゐである。
 ペルリの日本研究の成果は、その浩瀚なる「日本遠征記」の序論に詳細に述べられてゐる。
 日本の名の起源、領域、地理、日本民族の起り、政府、宗教、過去に於ける外交關係、日本の産業技術の進歩と文明程度、文學及び美術、自然生物等の項目に分けて、なかなか要領よく書かれてゐる。當時の外國人が日本を何う見てゐたか、また日本に關する何の程度の知識を持つてゐたかを知るには、恰好の史料である。
 そしてその中でペルリが最も理解するのに苦しんでゐるのは、わが國體と皇室のことであつた。
 しかし、その他の點では、當時としてはよくこれだけ調べ上げたと思はれるほど知つてゐて、殊に日本の地理や産業、またその國民性に就いて、なかなか科學的で的確な評を下してゐる。
 日本の歴史にもなかなか通じてゐて、頼朝、太閤樣、三河侯家康の名などが見え、珍しいのは蟬丸、景清の名まで出てくる。みんな日本へ嘗て來朝した宣教師の本を讀んで覺えたものであらう。また神道には、唯一神道と南部神道の二派があるなどと書いてゐるが、その理解はなかなか相當なものである。
 かうしてペルリは日本に關して、手あたり次第に知識を吸収して行つたが、興味あることは、此處には日本研究家として著名なシーボルトとの關係が出來たことである。ペルリは日本に關する書物では、シーボルトとケムプエルのものを最も高く評價してゐるが、それはまた當然のことである。
此處に日本研寛家として著名なシーボルトとの関係か出来たことである。
 ペルリは卜本に闘する書物では、シーボルトとケムプエんのものを最も高く拝價してゐるが。それはまた索然のことである。
 シーボルトは出島の和蘭人に雇はれた醫者であるが、日本に於てなしとげた業績の高さと多方面のことでは、今日知らぬ人はないくらゐ有名である。彼が開いてゐた鳴瀧の塾は、「今や歐州の學術を尊崇する日本人の集合所となり、この區々たる一小天地より、科學的開明の新しい光は四方に擴がつて行つた」と自ら誇らかに書いてゐる。その門弟にも、伊東玄朴、二宮敬作、高野長英、小関三英などの洋學者の錚錚たるところを擁してゐた。
 しかし、彼の聲望も長くは續かず、幕府の天文學者、高橋作左衛門から、北海道樺太の地圖を秘密のうちに手に入れたことが發覺して、日本を追放されてゐる。彼が何故、そんな危險まで冒して、こんなことをしたか、その理由はいろいろに推測されてゐるが、要するにハツキリ分らない。ただ彼は幕府の手に捕まる前に、その地圖の寫しをとつて置いて、追放されると直ぐ歐洲に歸り、伊能忠敬實測の八十六萬分の一の地圖を發表してゐる。そしてこれがロシアに非常に喜ばれ利用されたことも事實であつた。
 歐洲に在って、やや轗軻の心境にあつたシーボルトは、ペルリが新しく編成された艦隊を率ゐて日本へ行くと知つて、直ちに一書を呈して、自分を遠征隊の一員に加へてくれと熱望した。その手紙は大體次のやうなものであつた。
 「ペルリ提督が、日本問題について、余の深き知識と長き經験とを如何に評價してゐるかを知つてゐることは、大いに欣快の至りである。ただアメリカの日本遠征隊の日程を組むために、余を招致せざりしは甚だ遺憾なり。余に相談あれば、日本を世界に開放すべき計畫を示し得たであらう。かかる計畫を仕組み得る者は、余一人のみと言ふとも謙譲の域を越えないであらう」
 「恐らく貴下のあらゆる提案は拒絶されるであらう。日本政府は外交談判を引きのばす術を知り盡してゐるため、忍耐しきれぬ目に逢はされるであらう」
 「提督よ、日本政府に對して暗に、彼等の都市、船舶、人間を破壊するのは意のままであるが、これは自分の意志ではないと告げ、友好的に談判を續けようと話を進めるのが最も賢明である」
 この途法もない自負自尊にあふれてゐる手紙に對して、ペルリはハツキリと拒絶の意志を舎げてゐる。ペルリはシボールトの屬するオランダ東印度會社を仇敵と認めてゐたし、また一種の國事犯たるシーボルトを同行することは、却つて日本の嫌忌を増すのみだと考へてゐたからである。
 シーボルトに教へられるまでもなく、彼は自分の艦隊が持つ威嚇的な實力に充分の信頼を持つてゐた。
 「要するに、六隻の軍艦の威力がモノを言ふのだ。そして長崎や函館などでなく、日本の首都江戸灣に直接飛び込んで行つて、イヱスかノーを言はせるだけだ」
 さう心に固く決めて、ペルリは滿々たる自信に頬を紅潮させるのであつた。時に彼は、五十八歳であつた。

 小笠原占領

 嘗て「開國の恩人ペルリ」といふので、ペルリを大いに徳としてゐた時代に、高橋作衛博士は「ペルリは果して日本人恩人なりやにといふ論文を發表して、蕩々たる時流に抗議するところがあつた。そしてペルリの日本來航の使命が侵略的であつたことの引證として、大の二點をあげてゐる。
 その一は、ペルリが日本來航途上マデイラ諸島より、米國海軍卿へ宛てた書狀であり、その二は米國務卿ヱヴエレットよりペルリに宛てた翌年二月十五日付の返信である。
 即ちペルリの手紙の一節には、
 「實行し易き手段としては、我が捕鯨船その他船舶の避難及ぴび必嬰品供給のために、一港または數港を直ちに獲得するの必要ありと考へられる。艦隊は日本の南部にて良港を有し且つ薪水食料等を得るの便宜ある一二の山嶺に根據地を設くること第一に望ましく且つ必要である。海上權につき我等が大競爭者たる英國が、東洋に有する占領地と、その防備ある港灣とを著々増加するのを見る時、我が國もまた敏速の措置を構ずるの必要を、痛感せずにはをられぬ」
 と述べ、自分でハツキリと侵略的意圖を述べてゐるのに對し、國務卿ヱヴエレットの返信には、「大統領は便宜ある一ケ所又は數ケ所の避難港を得るは、貴官の率ゐる遠征隊の安全のため必要ならんとの意見に對し同意してをられる。大統領は貴説の如く琉球に於て、此の目的を達し得べしとの意見である」  ’
 といふ注目すべき言葉が吐かれてゐる。
 時の米國大統領はフイルモアーで、彼はこの遠征によつて、英國に負けないだけの權益を得ると共に、當時米國海軍切つての大立物であるペルリを派遣することによつて、米國民の注意を東方に向け、以て國内の南北派の内紛を緩和しようといふ内政上のねらひもあつたわけである。
 それ故、當時の米國としては思ひ切つた大艦隊を編成させこれに威嚇と、國内的宣傳の二つの目的を持たせたのであつた。
 そしてペルリ艦隊が直接に日本に對して野心を持つてゐた地點は何處かと言ふのに、それは言ふまでもなく琉球と小笠原諸島であつた。
 ペルリは江戸灣に姿を現したのは前後二囘であるが、琉球へ上陸したのは五囘に上つてゐる。以てその關心のなみなみならぬことが察しられやう。          、
 彼はその「遠征記」に於て、くり返し琉球の風俗習慣言語などが、日本に酷似してゐる點を強調してゐることから察すれば、その政治的に日本に歸屬するものであることぐらゐは知つてゐたのであらう。彼は那覇王廷に於て、薩摩侯の勢力が隠然として支配してゐることを、いろいろの例をあげて説明してゐる。       ’
 しかも彼は浦賀でやつたと同じやうな高壓的態度で終始することによつて琉球王宮を脅かし、また極めて無作法なやり方で沿岸測量をしたり、資源調査をやつてゐる。
 殊に貯炭所設置に就いては、その野心は露骨で、
 「六百噸を貯蔵し得る貯炭所に充つべき適當にして便利なる建物をわれわれは欲している。もし適當な建物がなかつたならば、島民勞働者を使用して、琉薩風の建物を建築せんと欲す」
 といふ訓令の下に、琉球當局を脅かしてゐる。
 そして琉球當局が、ペルリ一行が寺院を勝手に宿にしたり。貯炭所をつくるなど、迷惑な話であると、婉曲に辭ると、ベルリは起ち上つて、
 「自分の要求全部に對して滿足な回答を貫へぬなら、二百人の兵士を上陸させて、首里に行進し、同地の王宮を占領し、事が結着するまでそれを占據する」
 といつて、遂に「明かに日本人より柔弱で、知識の低い」琉球人をして、その要求に同意せしめてゐるのである。
 まづ御馳走をして、それから要求を出す。返事を少しでも澁ると、すぐ武力を……といふのがペルリの常套手段であつた。琉球で小手調べをして、それに自信をもつて、浦賀では一層念入りに實演したわけである。
 ペルりの遠航の月的が平和的のものであると、どんなに熱心に主張する者でも、彼等が小笠原諸島を、嘉永六年九月二十八日に「合衆國の名に於て」正式に占領した事實を否定することは出来ない。
 琉球を去つて日本へ來る途中、ペルリ艦隊は六月十四日に、小笠原諸島の一つたる父島(ビール島)の二見港(ロイド港)に碇泊した。
 ペルリは「小笠原諸島の最初の發見者は明かに日本人である」と、その遠航記に書き、ビール島とかロイド港などと名をつけて自分達が發見したやうな顛をしてゐるイギリスを揶揄して、
 「同請島は一八二七年にキヤプテン・ビーチーによつて訪問された。彼はイギリス探検家に共通な、皆さん御承知の所謂謙遜さを以て、同請島がはじめてその時母初に實測されたものの如く結構な名前を附したらである。」
 と言つてゐる。
 ペルリの父島滯在は短期間であつたが、踏査隊まで出して熱心に調査をし、「ボーニン(小笠原)諸島の主要港灣は將來太平洋航路の第一の中繼港になるものと信ずる」旨を本國海軍卿に手紙で告げてゐる。
 そして、日本への第一回訪問を終つた歸途、特にケリー中佐をプリマス號にのせて小笠原諸島へ急行させ、これを正式に占領させてゐる。ケリーは小笠原のベーリー島といはれた島に到つて、この鳥を嘗て訪れたアメリカの捕鯨船長コフインの名を採つてコフイン島と命名し、同島の波打際から一間ばかり離れたところにあつた無花果の木に、占領指示板をぷら下げたのであつた。
 また後にペルリは日本遠航から歸國して後に發表した覺書には、小笠原諸島が東洋貿易並にアメリカ捕鯨船の根據地として好適の地であると述べ、「余の計畫は小笠原諸島中の主島父島内の二見港に一植民地を建設することなり」と書いてゐる。彼はこの植民地建設の具體案も發表してぬるが、それには株式會社をつくつて、若い夫婦の移民を多數送り、宗教的にも自由なこ一ユートピアをつくるなどと、まるで自分達の國が、新しい州をつくつて行つたやうなやり方を、東洋に於て行はうとしてゐるのである。

 ペルリの計畫がそのまゝ行はれて、小笠原諸島がいつの間にかアメリカ領土にたつてゐたら、日本の將來は、太平洋に關しては全く手も足も出ない狀態に陥つたであらう。
 小笠原請鳥の主權が日本に屬したのは、英米の捕鯨船の破落戸が發見したと稱するより遥かに古く、秀吉が伏見城を築いた前年、信濃の人、小笠原貞頼の發見にはじまる。そして此の儼たる事實、印ち日本の主權を各國が正式に承認したのは。明治八年であつて、米國政府は勿諭この時.日本の主張に抗議を試みてゐる。しかし、アメリカは當時南北戰爭といふその歴史はじまつて以來の大内亂を經たばかりだつたので、日本の主張を覆すことは出來なかつた。ペルリ艦隊派遣のやうな威嚇手段をとることはもう出來なかつたのである。

 主權の侵害

 浦賀に着いてから、國書捧呈が終るまでに採つた。ペルリの傲岸たる態度は、今日あまりによく知られてゐる。
 ペルリは日本の開國といふ目的のためには凡そ手段を擇ばなかつた。いよいよ日本が承知せねば武力でといふ肚があるから、浦賀碇泊中も、毎日戰闘訓練をやつてゐる。
 浦賀與力が、米國艦隊を即刻長崎に廻航すべく要求した時、ペルリは、
「もしわが大統領の親書が受領されぬなら、直ちに艦隊は江戸へ行く。一體今日、世界各國がみな通商を營むのに、貴國のみこれを拒むのは天理に背く。もし強ひて拒むならば、我等は直ちに砲門を開いて天理に背くの罪を問はんのみ。その場合、力及ばずして和を乞ふ時の用意に、この白旗を立てられよ」
 と白旗二旒を與へようとしてゐる。
 また止むを得ずして幕閣が豫備交渉に應じ、そこでまた交渉が停頓すると、ペルリは艦隊を北上させて、羽田沖まで進めさせ、殷々たる空砲を放つて、指呼の間にある江戸市民を脅したのである。
 またその交捗中にも、實にあらゆる威嚇的言辭を弄した。「彼は威張り、威嚇し、また侮辱さへした」と、アメリカの歴史家さへ書くほどである。
 武力行使をほのめかされれば、日本側ははじめから戰爭回避を建前としてゐたのだから、次第に譲歩せざるを得なかつた。このペルリの威嚇外交は、當時から非難があつたもので、ペルリの通譯官ウィリアムズも[正義及び祖國の名誉を顧みざるもの」であると、その手記で言つてゐる。
 ペルりがわが外交官に對して採つた高壓的な侮辱的な態度は、それだけでも實に無禮極まることであつたが。その外に、彼が日本に居た間中、日本沿岸の測量を傍若無人にやつたことは、實に許し難い。            ’
 當時の幕府は、如何に穏健であつたにしろ、こと國防上に關する點に於ては、眞剣だつたのである。幕府は嘗て日本人が作つた地圖を持つてゐたといふ理由だけで、シーボルトを國外追放處分にしてゐるくらゐだ。ペルりが浦賀灣に於て、ボートに測量員をのせて、水深を計るのを見て、嚴重な抗議を何度もしてゐる。
 「浦賀の奉行はわれわれの測量作業を見て、かかる調査は日本の法律に違反するものであると語つた。これに對して、アメリカの法律の命ずるままに行ふものであり、貴下が日本の法律に從ふが如く、アメリカ人はアメリカの法律を遵守すべき義務を有するのだと答へた。」
 と、ペリル自ら「遠航記」に記してゐるが、これが果して「開國の恩人」の言葉であらうか。「翌朝、日の出と共に、艦隊は浦賀から約五哩の所に在る或る灣へ進航した。われわれはこれをサスクエハンナ灣と名付けた。そしてボートは熱心に同灣の測量に從事した。又艦の甲板からは西方に當つて、陸地の遠景が見えた。その景色は、草木に覆はれて獨特の綠色を呈し、その風光は美しかつた。一方の側には、その附近の海を最初に探檢した測量隊を率ゐてゐたベン卜大尉が『ペルリ島』と名づけた美しい小島があつた。疑ひの目を以てみると、その高地の森かげには、一つの日本の砲臺が覗いてゐた」
 彼等は許可なくして他國の沿岸を測量したばかりでなく、實に東京灣内の入江や島に、勝手にアメリカの名をつけて行つたのである。    ’
 又彼等は浦賀を去つて行く途中、八丈島沖を通つた時、伊豆諸島の名が自分の海圖に記入されてゐないとの理由で、「アメリカ及びヨーロッパの發見者が普通にやるやうな特權を以て」勝手に名をつけてゐる。
 ミシシツピ島サスクエハンナ島、プリマス島、サラトガ島と、めいめいの艦の名をとつて、「命名の名誉」を與へてゐる。しかも伊豆諸島が日木の領土であり「日本人は自分達の領土を有効に使用しようと、何時でも注意を怠らない」と自ら知つてゐながら、。それをやつてゐるのである。
 そして「日本遠航記」には、自ら公然と嘯いてゐる。
 「日本當局の抗議にも拘らす、又、砲臺の大砲に牽制されながらも、江戸灣を測量したことは、一つの重要な利益であつた。こけ嚇しや見せかけの武力によつて、アメリカ人を驚かせ、逃去させやうとの試みの馬鹿々々しいことをば、それによつて日本人に教へたばかりでなく、日本の首府までも航行しうることを初めて明かにし、又日本の首都に近づくためのあらゆる便宜を、吾が遠征隊の水路調査隊による觀測の結果作製された海圖に記入したのである」
 われわれは「開國の恩人」の正體を、もつと早く見破るべきであつた。ペルリによつて日本が得た利益を強調するばかりで、今までただ有難がつてゐたのは不見識であつたと思ふ。

  ◇

 『繪入讀本家庭教育日本歴史』

 ペルリー渡來

 嘉永六年ノ三月三日ニ、アメリカ合衆國ノ使者、ペルリト言フノガ、軍艦四艘ヲ引連レテ、相模國ノ浦賀ヘ來マシテ、浦賀奉行ノ戸田良榮ヘ、「貴國ノ重臣ニ面會シテ、交際ト貿易トノ約束ヲシタイ。」ト言ヒマシタガ、ソノ頃ノ徳川幕府ハ、頻ニ外國人ヲ嫌ツテ、和蘭ノ外ノ國ニハ、交易ヲ許シテ居ナイノデスカラ、詞ヲ設ケテ、「ソレハ大事件ダカラ、容易ク返事ハ能キナイ。何レ來年中ニ、長崎ニ居ル和蘭人カラ、返事ヲ傳ヘサセル。」ト言ツテ、ペルリヲ欺イテ歸ラセマシタ。所ガソノ翌年、スナハチ安政元年ノ正月ニ、ペルリハマタ軍艦四艘ヲ率ヰテ、浦賀ヘ來テ、「去年ノ返事ヲ聞カセロ。」ト言ヒマシタガ、幕府ハ仍リ打遣ツテオイテ、返事ヲシナイモノデスカラ、ペルリハ怒ツテ、「ソレナラ江戸ヘ行ツテ、返事ノ催促ヲスル。」トイツテ、實ハ軍ヲスル積リデ、軍艦ヲオヒオヒ内海ヘ進メテ、遂ニ品川ノ砲臺ヘ迫リマシタ。幕府ハモウ打遣ツテ置ケマセンノデ、林大學ナドヲ幾ツテ、横濱デ應接ヲサセ、ナホマタ伊豆ノ下田デ應接ヲサセテ、「以來交際ヲスル」ト答ヘサセマシタノデ、ペルリハ無事ニアメリカヘ歸リマシタ。

  ◇

 『修史餘課』徳富猪一郎著

 嘉永、安政と大正、昭和 
 
 三 ペルリは日本の恩人乎(一七七-一七九頁)

 私はこの際に少しくお話を申して見たいと思ふものがあります。世の中ではペルリ提督をもつて日本の恩人と考へて、この恩人の銅像を横濱に造らうといふ計畫があつた。けれども平生私はペルリ傳も讀んで見た、ペルリの報告書も見た、ペルリに關することは可なり調査しましたけれども、ペルリを日本の恩人といふやうなことは、何處を叩いても出て來ない。アメリカ人からすれば、或はアメリカの恩人であるかも知れない。が、日本から考へて、私は決して日本の恩人とは思はれないのであります。
 ペルリはアメリカ人の立場から云へば偉い男である。恐らくペルリ以後日本に來た人は澤山ありませうが、あれ以上の人はない。あの人は日本人は嚇すより外にないといふことを、すつかり看破つた人である。それで日本人がむこの人にお目にかゝりたいと、再三申込んでもなかなか出て來ない。まるで神棚の奥にでも居る樣な尊嚴を装つ居る。日本人を應接するには、下役をして應接させて居つた。
それだからといつて、いざとなれば大いに劍突くを喰はせた。幕府の役人には殆んど嚇すやうな挨拶をして居つたのである。そして彼はまづ小笠原島を取ると云ふ考へで、それから琉球を取る、臺灣を取るといふ考へで日本に臨んだ。小笠原島を取り、琉球を取り、臺灣を取つて、いざとなれば日本を襲ふと云ふやうな人を、日本の恩人と云ふことは、餘程これはどうも考へなければ解らないことである。恐らく考へても解らないと思ふ。アメリカ人が日本の眠りをさましたことが恩人といふことであれば、眠をさましたのは必ずしもペルリ一人ではない。今ではだんだん鯨は減つて居るが、その時分は日本では鯨を獲ることが上手でなかつた。それで日本の沿海には、鯨がうようよしてをつた。丁度これから先の田の中の鰌のやうに、日本の沿海は鯨がうようよしてをつた。ことに金華山沖では船と鯨がぶつゝかるほどで、それでアメリカの捕鯨船が鯨を追うて、段〻日本の沿海に近づいて來た。房州の沖にやつて來た。館山の沖にやつて來たのであります。或はそれが函館附近にやつてくるといふわけであつたのであります。鯨の跡を追うてアメリカの船が、日本に來たから恩人であると云ふならば、一番先に頌徳表を奉るべきものは、ペルリでなくしてそれは鯨であります。鯨大明神であります。さういふ風に歴史を讀んで見れば、その動き方といふものが解るのであります。アメリカ人と云へば、難だか有難いやうに始めから考へて、アメリカ人であれば五光がさすかのやうに考へて、感心せんでもよいところに感心するのである。私はこれは間違つた考と思ひます。

  ◇

 『郷土史話叢書 ジョセフ・ヒコ』

 ペルリの使命(五十六頁)

 乙吉方に逗留してゐる間に、乙吉は
 「支那や和蘭はこれまで日本へ交易して、品物は高い利を取つて、亞米利加や英吉斯へ賣拂ふてゐるので、亞米利加や英吉斯は、日本と直々交易をせんと、その取持をして呉れと、先年から支那や和蘭へ頼んだが、若し亞米利加や英吉斯が、直々日本と交易することになると、支那や和蘭は不利であるから、承知したとは言つてゐながら、等閑にして置いたので、亞米利加は直々日本へ交易を掛合はうと云ふので、今度はペルリと云ふ大將が軍艦四五艘を率ゐて日本へ行くことになつたのだ」などゝ談した。

  ◇

 『少年藤田東湖傳』

 太平の眠りを覺ます蒸氣船
    たつた四杯で夜も寝られず、(四三三頁)

 アメリカの米より喰はぬ國なれど
      日本人はあわを食ふなり、(四三四頁)

 町中へ打出でて見れば道具屋の
      鎧兜は高値にうれつつ。(四三九頁)

  ◇

 『シーボルト先生 其生涯及功業』

 (四十一)米國艦隊司令長官ペルリの來朝(三九八、三九九頁)

 北米合衆國に於ては弘化元年支那と通商條約を締結して、相互の交通頻繁となりしより、兩國間に新航路を開設せんとするにつき、我日本に適當の貯炭所を得んとし、又更に日本とも通商の途を開 かんとするの意見・盛んに國内に起りたるが、先きに北米会衆國の船が日本に來りでも寄付られず、支那艦隊司令長官の派遣も其甲斐なかりしより、假令多少の威嚴を示すとも、日本の開國を強ゐさざるべからとの議論・朝野の間に臺頭し、嘉永三年(一八五〇年)聯邦の議會に於て、遂にその議決を見るに至りしかば、同五年(一八五二年)の十月(十一月)北米合衆國の水師提督ペルリMttew Carbrait perryはその使命を帶びて日本に派遣せらるることゝなりしなり。シーボルト先生は之を聞くや、兼ての持論を以てミシシッピー艦上の友人を介して、ペルリ提督に進言し、仁恕と忍耐とを以て日本に臨み、之を平和の内に世界貿易の爲に開きたき樣申通せしが。右友人はシーボルト先生に對し、嘉永五年十一月九日(一八五二年十二月二十日)の日附にて『ペルリ提督は君(シーボルト先生を指して云ふ)が余に託せしことを告げたるに對して「君の意見と君の經驗とは今囘の使命に關して大に益することあるべきも、君を我一行の一人として差し加ふるを得ざるは遺憾なり」と云へり』と回答し來れり。ペリー提督は即ち嘉永六年の六月三日(一八五三年七月八日)サスケハンナ・ミシシッピーの二汽艦・プライマウス・サラトガの二帆艦より成れる強大なる艦隊を率ゐて、今迄の外船が皆長崎に來りて交渉を開始せんとするに反し、一路直航して江戸に近く浦賀に來りて、そこの奉行戸田伊豆守氏榮・井戸石見守弘道に面會を求め、奉行が前列により長崎に航戸川伊豆守氏柴・井戸石見十弘道に而會を求め、本行加前例により長崎に廻航すべきよし諭せしも、之に應せず。『直樣江戸灣に進み入り幕府に掛合ふべし』と主張し、頻りに兵威を示して我に臨みしかば.徳川幕府の諸執政輩は周章狼狽して爲すべき筋を知らず。遂に其年の六月九日(七月十四日)と云ふを以て浦賀奉行をして久里濱に於てペルリに會見して、その國書を受領せしめたれば、ペルリ六月十二日(七月十七日)に明春再たび渡來すべき旨を云ひ置きて、浦賀を解纜せり。その國書と云ふは即ち我が鎖國の不利を説きて、米國との和親を初めとして歐・米諸國と通交するの利益を述べて之を勸めたものなり。幕府は之を受取りて其譯書を作り、之を國中に頒ちて各藩の意見を求めたるに。諸藩鐄の意見區々にして未だ何れとも決定せざる間に、翌嘉永六年正月(一八五三年十二月)ペルリ提督は前よりも更に強大の艦隊(汽船・帆船・合せて八隻、大砲二百三十門)を以て、再たび江戸灣に來りて幕府の要吏に會見を求め。幕府は林大學頭煒・井戸對馬守覺弘・伊澤美作守政義をして之を神奈川に迎へて接見せしめ、和親の條約を結ぶより外には開戰を避くべき途のなく、開戰を敢てするにはその・準備整はざるを覺りて、遂に米國の要求を容れて、之と「米國船の漂着するときは之を救助し保護すること、米國船の爲めに下田函館二港を開きてその寄泊を許すこと、こゝにて航海の必需品の購求を許すこと、その貨幣なき時は舶載の貨物にてそれに充當すること、米國にて必要と認むれば下田に領事を駐箚せしむること」等を契約せるは、安政元年三月三日(一八五四年三月三十一日)にして.世に之を神奈川條約と云ふ。

  ◇

 『東西史論』

 一五 ペルリの人物(二一二-二一四頁)

 それでもう一言二言、例へばぺルリがどう云ふ人間であつた乎と云ふ事の例を申しませうならば、彼が下田に居つた時に、御承知の通り、吉田松陰先生が、ペルリの旗艦にやつて來た。安政元年三月二十七日の夜の出來事であります。
 其の當日に丁度ペルリ提督の部下に居るスタリング、それからウヰリアムス――是は『中國』と云ふ本を作つた支那學者――此の二人が下田の山邊に行つて、植物を採集する時に、吉田松陰先生が金子重劫を連れて、出曾ひ頭に洋行の志願を漢文にて認めたる手紙を渡した。さうして其の夜ペルリの旗艦にやつて來た。其の時にペルリの考へたのが面白い。中々考へたものでありまして、是は多分幕府から探偵をやつて、斯う云ふ事をして、若し俺が此の男を連れで行くとでも云へば、貴君は約束を破つたぢやないかと突つ込むかも知れない。それだからしで此者等を無暗に連れて行くと云ふ譯には行かない。さう云ふ風に考へた。同時に又だ彼は左の如く考へた。「けれども考へて見れば、此人々も輕蔑は出來ない。日本人が斯う云ふ流義でやつて行けば、將來はどう云ふ偉いものになるかも知れない。先きは中々油斷がならぬぞ」。それで兎に角お前等は返れと云ふので旗艦から端艇を下して、陸迄送り届けてやつた。
 別の話であるが、一度御馳走の時に日本の酒を飲ました。さうするとペルリは矢張日本の酒は美味しかつたと見えて少し飲んだ。流石に亞米利加人である。此の酒は幾らする乎と云つて聞いた。此の酒は一升幾ら、一斗幾ら、一石幾らと云ふ事でペルリは其の話を聞いて吃驚した。斯う云ふ美味しい酒をさう安く賣つては、是は國民の爲めに大變な害である。さう云ふ安い酒ならば。勞働者でも誰でも飲んで、日本人はまるで酢つ拂ひの國になる。是はどうも國家の爲めに損だからと云うたのである。中々彼は油斷のならない漢である。眼の着ける所が色々の點に着けて居る。中々普通の外人ぢやない。さう云ふ事を申して見ても此の男は食へない人間と云ふ事がよく分るのであります。

  ◇

 『琉球百話』

 七六、ペルリ提督と琉球條約(二〇五-二〇九頁)

 文化文政の頃より和・英・佛・米等の船艦屡々琉球に來つて通商貿易を要請したが、鎖國時代の事とて容易に許諾しなかつた。けれども彼等は交易を強要し、或は宣教
師を留めて日本の開國に對する待機の姿勢を執つてゐた。此等外人往来の際、藩廳は或は歌舞音曲を禁じ、或は商家の門戸を鎖さしめ、市内恰も諒闇のやうなこともあつた。左の俗歌はよく當時の消息を傅へてゐる。

  淺ましや浮世 アメは(や)フランスが
    上下も共に袖(ゆ)を濡らち(琉歌)

 西暦千八百五十二年(嘉永五年)米國政府は、日本へ遠征艦隊派遣に決し、水師提督ペルリを艦隊司令長官並特命公使に任じた。ペルリは喜望峰印度洋を經て翌年香港に到着し、之より琉球を經て日本へ赴く手順をとつた。   ‘
 嘉永六年四月彼は旗艦サキスハンナ號以下數隻を伴つて那覇港外に投錨した。琉球總理官は随員を從へて艦を訪悶しペルリ提督と會見をなした。提督は通商和親を請うたが、琉球は洋中の孤島にて物資に乏しく未だ大國を俟つに堪へず、薪水は之を與ふるも交易の件は之を辭せん、と答へた。其後ペルリは王城を訪問すべき旨申込んで來たので、總理官は書を送り「小國未だ大國使臣を迎接する設備なく且母后先年外臣登城の際驚愕して病を發し猶ほ全治せず、依つて登城見合されたい」と懇請したが、提督之に關せす却つて示威運動を試みるべく旗皷堂々進軍して首里へ上つた。
 總理官等入城を拒まうとしたが肯んぜず、米國々歌を吹奏して城門へ押寄せた。一行は城門に面して捧げ銃の禮を行ひ、ヘールコロンビヤ奏樂の中に提督は部將を隨へて入城した。總理官は之を北殿に案内して接見した。提督は先づ國王及母后の安否を伺ひ、醫藥其他所用の物品を調達せん事を傳へて今後の和親を請ひ、本艦は一兩日の後出港し.十日後再び寄港すべし、其時總理官以下を艦上に迎へて饗應せむ、といつた。約一時間の後總理官は起つて一行を其の自邸に案内せんことを請ひ、提督亦之を快諾した。自邸とは大美御殿と稱する王家の別邸であつた。かねて準備せる十二品の盛膳を供したるに一行大滿足の意を表し、其の禮儀に通じたるを賞讃した。かくて饗宴半ばにして提督は起つて琉球國人民の繁榮と、琉米和親の爲め乾盃し.總理官亦提督の健康を祝して乾盃した。此日提督は種々の進物を國王、總理官、布政官及び那覇官へ贈り五月三日、米艦二隻小笠原へ出發した。
 五月二十六日提督は浦賀に至り、米國大統領フィルモアの國書を上りて通交の許可を嬰請した。幕府其の旨を朝廷に具申し、且諸侯の意見を徴して明年回答すべしと答へたので、ベルリ之を諾し艦隊を率ゐて那覇へ歸航した。其の間琉球滯留中の米國士官は那覇官及板良敷通譯を介して
 一、天久の聖現寺を一年間賃借すること
 二、貯炭所を設くること
 三、市場を設けて自由に交易すること
 四、琉球偵吏の追跡を見合すこと
等數件を要求せる提督の書類を提出した。
 かくて數日の後提督は回答を促した。總理官は言を左右にして極力謝絶したが、提督悉く之を理由なきものとして斥けたので琉球側は遂に其の要求を承諾すべき旨を答へた。
 十二月二十三日提督は又軍艦三隻を率ゐて來港し幕府の回答を聽くべく江戸へ向つて發航した。安政元年米人亦通商條約の締結を迫り、琉球政府は百方辨疏して之を拒絶したが及ばず、遂に六月十七日公見して調印を終へた。是れ即ち「琉球條約」である。
一、自今米國人來琉の時は好意を以て取扱ひ要求する物品は官民共相當の代價にて賣渡すこと
一、米國船何れの港に來泊するも相當代價にて薪水を供給すること
一、米國船琉球管下の屬島にて難破する時は其の生命財産を救助すること
一、米國人琉珪海岸に上陸し島内遊歩の時尾行又は迫害せざること、但不法行為ある時は琉球官之を捕縛して船長に引渡すこと
一、泊村にある米人墓地を荒廢せしめざること
一、琉球政府は冲合に現はれだる船舶に水先案内を附して往復共案内すること、但案内人に五弗を支拂はしむ
一、米國船那覇投錨の際は薪一千觔、及び水三〇ガロン入の樽六個につき三千六百貫文の割合にて船へ供給すること
 右條約は英文漢文兩樣に認め、那覇公館に於て米國使節ペルリと琉球攝政尚宏勳(與那城按司朝紀)勘定座役人馬良才(棚原親方)に依つて調印せられた。
 かくてペルリは嘉永六年四月來琉以来一年有餘にして其の使命を果し、安政元年六月艦隊を率ゐて退去した。

  ◇

 『皇國海防秘史』

 一、ペルリ艦隊の日本遠征(一二九-一三四頁)

 英佛軍艦の琉球蹂躙に惱されてゐる折炳、米國の水師提督ペルリの率ゆる日本遠征艦隊旗艦サスクヱ・ハンナ號、ミシシッピー號.サラトガ號、プリマス號の四艘は、マデイラ島を經て、希望峰を廻り印度洋に出で.支那海岸を訪問して、嘉永六牟四月十九日(西一八五Ξ)突如琉球那覇港に現はれた。
 ペルりの琉球訪問の眞の目的は、英國の東洋侵略に對抗して、米支間の交通路に當
る。我が南西諸島、即ち琉球と大島に、一二の要港を占領して、これを東洋侵出の根據地として、獲得する野望であつた。
 そして、ペルリの占領の目標に狙はれたのが、那覇港や大島の古仁屋灣.龍鄕灣、湯灣などであつた。
 ペルリは、嘉永五年十一月四日(西一八五二)米國のノルフオークを出發後、最初の寄航地ポルトガル領マデイラ島から、時の米國海軍大臣に宛て、左の如き意見書を送つた。
 『閣下、日本訪問の任務を首尾よく達成し得べきや否やは、小官母國出帆以來.常に苦慮懸念する所なり。小官は彼の鎖國政府と、直に有効なる談判を遂行し得べきやは、尚疑問なりと雖も、終局の第目的を達すべき充分の確信を有す。
 劈頭第一に着手すべきは、彼の地に於て米國捕鯨船の船舶のため、補給及避難港に必要なる港灣を得るにあり。
  日本若し之を肯ぜず、武少と流血を要すとせば、先づ之に對して、日本南方諸島は一二の根據地を占むるを嬰す。
 該根據地たる良好なる埠頭、及給水補給の充分なる能力を具備し、住民と平和的交誼を交へんがため、温和懇切を旨として、之を懐柔せざるべからず。琉球諸島は、(下略)エム、シー、ペルリ』
 とペルリは、我が南島占領の野望を述べ書簡を送つたが.時の大統領ミルラルド、フィルモールは、英國の東進勢力に怖れて、其の時期に非ずとし、ペルリの野望は阻止されたのである。
 これに依つて見れば、ペルリが日本遠征艦隊を率ゐて、舳艫相啣んで琉球に來航した目的が那邊にあるかは明瞭である。
 ペルリの那覇入港の時、英國宜教師ベツテル・ハイムは、海岸近くの住居の屋上高く、英國旗をあげて、ペルリ艦隊を驚かした。ペルリは那覇入港の三日後、四月二十二日に琉球本島、東海岸及び島の要地の測量を命じた。此の時、琉球王、居城首里城も測量されてゐた。そして、六月六日には、ペルリは二門の野砲隊を先頭に、武装の陸戰隊を加へて、隊伍を整へて堂々と首里城内に進入し、琉球政廳の高官を訪問した。それからプリマス號を琉球整備に殘し、小笠原島を探檢して那覇に歸り、同年五月二十六日、那覇を出發して浦賀へ向つた。
 ペルリの艦隊は、同年六月三日、相州城ヶ島の沖に達し、その日に浦賀に着いた。ペルリは、浦賀入港に際し、全廳隊に戦闘準備を命じ、砲口を開いて彈藥をこめ、浦賀砲撃の態度を示して、浦賀奉行を脅し傍若無人にも、江戸灣内品川沖まで測量を行つたのである。
 ペルリの率ゆる米國艦隊の、この傲慢無禮な態度に對し、憂國の志は憤激した。當時海防の備へのなかつた幕府では驚愕して、井戸石見守弘道をペルリ會見せしめ、その國書を受けさせたのである。
 ペルリは下田に於て、幕府に通商條約の締結を廻り、強硬なる談判を行つたが、幕府は確答を明年に與ふを旨告げてペルリを去らしめた。
 ペルリは六月二十八日浦賀を出港し、七月一日には、再び琉球に歸つてて來た。當時琉球那覇港は、蒸汽船サスタヱハンナ號、ミシシツピー號、ポーハタン號、帆船マセドニアン號、パンタリヤ號、レキシントン號、サザンプトン號等が碇泊し、ペルリ艦隊の根據地の觀を呈してゐた。
 ペルリは、琉球でも、琉球政廳に強硬談判を行つた。ペルリの琉球訪問の眞の目的は、江戸幕府との談判のかけ引きに、琉球列島を占領する考へであつたことは、彼の米國出發最初の寄港地マデイラ島から、海軍大臣に宛てた書翰の通りである。
 ペルリは、艦隊の一部を小笠原島に派遣して、我が領土たる小笠原島を、米國政府の名をもつて占領し、一面琉球に左の要求を突きつけた。
一、米國と通商貿易を約する事、
一、石炭庫を設けることを許可する事、
三、將來米國軍艦の將校水兵が上陸したる時は、役人を附まとはしめざる事、
 右の三ケ條を應諾せざる時は、陸戰隊二百名を上陸させ、首里を占領すると威嚇して、那覇に石炭庫と、海軍病院を設立することを承諾させ、七月十七日に香港へ出發した。
 ペルリの日本遠征の報傳はるや、世界列國は重大開(關)心をもつて、その成行を注意した。かねて我が此海に侵略の野望を抱いてゐたロシアでは、米國の日本遠征に對抗して、プチーチン少將の率ゆる四隻の軍廳を長崎に急行せしめた。
 ロシアの腹は、米國が若し日本を攻撃するやうなことがあつたら、ロシアは日本を助けて、米國艦隊を撃退し、日本にロシアの力を植へ付けんとの野心を抱いてゐたのである。プチヤーチンの率ゆるロシア廳隊が長崎に入港した時は、ベルリの浦賀を去つたあとであつた。プチャーチンは幕府に對し通商開港を求め、『若し米國が日本を攻撃するやうなことがあつたら、ロシアは憐國の情誼をもつて日本を助けん。』と幕府に提言した。
 幕府では、今更海防の念を痛感し、江戸灣内品川沖に臺場を築き、砲臺を据付け、軍艦を購入し、海防の備へを怪化した。
 幕府では、ロシア艦隊のプチヤーチンに對し、回答を明年に延期して、之を去らしめたが、ペルリは再び、浦賀を訪問したので、幕府では、井戸覺弘と伊澤政義をして、横濱に於てベルリと會見せしめ、長崎の外、下田と函館の二港を開港することを約した。幕府は米國の外英、露、蘭三ケ國とも條約を締結した。
 開國必しも非ならず
 又なぶられ、嬲られ
 國を開かば
 神洲の正氣の振張如何せん。
 藤田東湖をして、かく嘆じさせたのは、實はこの時であつた。この時、琉球警備軍では相手が表面は米國の使節でもあり、隠忍自重、實に断腸の恩ひで、彼等の横暴を監視して萬一の魯合に備へたのである。

  ◇

 『アメリカの戦略と其全貌』

 ロ、ペルリ來航の巓末(七〇-七二頁)

 扨て第一次ビツドルの黑船騒ぎは事なきを得たものの、第二次黑船騒ぎとしてのペルリが來る迄の七年間に於て、米國の日本に對する態度は急轉換をなし強硬となつた。則ちペルリがフイルモア大統領より表面上受けた對日交渉要目は、
 一、日本近海で難波、或は日本の港灣に避難した米合衆國の海員及ぴ所有物に對する保護、
 二、食料、薪炭の補給所並に難破修理用具供給の爲若干の港灣を指定すること、
 三、通商の爲の開港
であり、所謂指定された目的であつたのである。然るにペルリが日本遠征の途中、一八五二年十二月十二日、モロツク西方洋上のマデイラ島に投錨した際、海軍長官に宛て送つた意見書の中に「日本の南方には、良港を有し、飲料水及び食料を得るに便宜ある島嶼一二箇(小笠原群島ならむ)を占領し、軍艦の屯所を作り而して後徐ろに其の目的を達すべく手段を廻すこと、――世界の地圖を見るに東印度及び支那海、而して支那海に於ける重要なる地點は既に英國の占むる所となつた。幸ひ日本及び太平洋の諸島嶼は未だ英國の手が觸れて居ない。のみならず其中の或物は通商の要路に當り、我合衆國にとりて重要な地點である」の個所がある。此侵略的意圖が多分に盛られた字句は單にペルリ個人の意志とは見られず、寧ろ當時の米國に於ける東亞侵略の總意と見るべきであらう。琉球に關しては、ペルリは那覇島に石炭貯藏所の設置されん事を大守に強要し、本國の海軍長官に「若し日本政府が交渉を拒絶するか、或は我國の商船或は漁船が避難する港を開く事を拒絶するならば、日本が米國市民に對する侮辱と損害の代償として、予は此琉球島を我保護下に置かんとす」との侵略的意圖を明瞭に述べて居る。又小笠原群島に關しても同樣である。

  ◇

 『日米交渉五十年史』

 第二節 第二回ペルリの來航(神奈川條約締結)(三三--三六頁)

 ペルリは其第一回の折衝美事に其功を遂げたるにより凱歌を奏して媽港に旋りたるが、飜つて我邦の狀態如何と見るに、ベルリの執れる示威的態度は幾分我國民の敵愾心を刺激し、以て攘夷論の氣焔を熾ならしめ、之が爲めに幕府の蒙りたる打撃は頗る大なる者ありしなり、即ち此一事は傾きかけたる徳川氏三百年の覇業を根底より覆滅し、王政維新の新局面に一歩を進むるの機會となれるこそ是非なけれ、試にペルリが浦賀を辭したる後七月朔日閣老阿部正弘が老中以下諸侯を城中に會し、米國大統領の國書和解を發表すると共に本事件に付き演達したる言に見よ、曰く、
 今度浦賀表へ渡來のアメリカ船より差出候書翰和解第二冊相達候此度の儀は國家の一大事に有之實に不容易筋に有之候間、各書翰の趣意得と被遊熟慮銘銘存寄の品も有之候はゞ假令忌諱に觸候ても不苦候間聊心底不相殘可被申聞候、此度アメリカ船持参之書翰於浦賀請取候儀は全一時の權道に有之候間右に不泥存意の趣可被申聞候、
 國政に關しては幕府の専擅を以て之を行ひ、豪も列藩諸侯の容喙を許さゞるは家康の垂れたる施政の準繩にあらずや、然るに今諸侯をして縱令將軍の忌諱に觸るゝとも國家の爲め正明なる意見を陳述せよと令す、徳川幕府以來破天荒の新例にして政局の一大變革を來すべき警鐘たらざるを得む哉。
 右の諮問に對する諸大名及び幕吏の答申は種々なりしと雖、之むを大別すれば三となるべし、一は絶対的攘夷鎖國論にして、二は開國論、三は姑息論なり、而して第一に屬する論者中最も極端なる意見を發表したるは福井藩主松平越前守慶永なり、渠は曰く「武備の整はざるを以て御猶豫有之、先假に兩三年五七年の間御許容有之候は神州の國脈絶候前證と奉存候」と、第二の開國論中特に無遠慮なる建白をなしたるは彦根藩主溜間詰なる井伊掃部頭直弼にして豪も憚る所なく大膽に喝破して曰く「扨又交易の儀は國禁なれども時世に古今の差あり、有無相通ずるは天地の道なり、祖宗の神に告て巳來は此方より商船を和蘭會所皎𠺕吧其他の商館へ遺して交易すべし」と、而して第三に屬する論者は最も多かりしが如し、就中外交當局者に於て然りき、海防掛御目附の建白に曰く「御代々樣御成法を被爲守、成敗は天意に被爲任べく候別に御所置も有之間敷、必戰之思召にて御決心急度御拒絶有之、不可犯之御威嚴顯候は不戰して退縮仕候義も可有之」と宛然攘夷論者の口吻なり、而も大船は國防の爲必要なるを以て之が製造の國禁を改めむことを建言し、尚説いて曰く、「鎖國の御制は此例に無之、彌以御堅固御尊守被爲在候外有之間敷奉存候」と衷心其實行を危ぶむ者の如し、而して其意見の要點は「明年入船の處は御國政多端の由にて御謝絶可被爲在候得共、其後の所は是非共有無の御挨拶に相成可申候、夫迄に内海丈の御備は不及申、豆相房總の要害嚴重に御手當其餘國々邊隅之所も御一戰の御決心の處相徹候はゞ別段御沙汰に不及、一時に整飾可仕候哉」と云ふにあり、要するにこれ言を左右にして米國への返答を延期し、其中に海防を整備せむとするにあり。然れども果して一年二年の日子を以て上記の國防完成し得べしと信じたる乎、頗る疑わはしと云はざるべからず、蓋し其眞意は攘夷派の激昂を恐れて一時を糊塗せむとするにあるが如し、幕府の意も亦斯くの如くなりしならむ。

引用・参照・底本

『明治史話 ―事件と人物―』菊池寛 著 昭和十九年四月三十日再版(五・〇〇〇部)汎洋社
『修史餘課』徳富猪一郎著 昭和六年一月二十日發行 民友社
『繪入讀本家庭教育日本歴史』「ペルリー渡來」
『郷土史話叢書 ジョセフ・ヒコ』大正六年十二月一日發行 鷺城新聞社
『少年藤田東湖傳』中村時藏著 昭和九年五月五日發行 大同館書店
『シーボルト先生 其生涯及功業』呉秀三著 大正十五年十月四日 吐鳳堂書店
『東西史論』徳富猪一郎著 昭和八年二月五日發行 民友社
『琉球百話』島袋源一郎著 昭和十六年十二月五日發行 沖縄書籍
『皇國海防秘史』茂野幽孝著 昭和十七年一月二十日發行 新興亞社
『アメリカの戦略と其全貌』中島肇著 昭和十七年十二月十五日發行 研文書院
『日米交渉五十年史』大日本文明協會 明治四十二年五月二十日發行
(国立国会図書館デジタルコレクション)

幕府と政權2022-01-16 17:54

江戸時代の繪畫第七圖湯女圖
 幕府と政權 2022.01.16

『明治維新 上卷』近代日本歴史講座[第一册]法學博士 尾佐竹 猛著

 第一篇 總 論

 二七-四一頁
 第二章 幕府と政權

 明治維新の中核は、幕府を倒すのであつた。幕末史の緒論であり結論である幕府、維新史の前提としての幕府、いづれの方面よりするも幕府の本質の研究が第一であらねばならぬのであるが、事柄があまりに明白なるためか、從來は比較的その研究が閑却されて居つたかの如き漢があるのである。
 抑〻幕府とは如何なるものか、その幕府と政權との關係如何といふことが第一に研究すべき問題であらねばならぬ。
 幕府といふ言葉は、『將軍職在征伐所在爲治曰幕府』『古者出征爲將師軍還則罷理無常處以幕帟爲府署故曰幕府』で、つまり戰地に於ける軍政署である。それが、後には將軍その人の別名として呼ばれたこともあつたが、この將軍の語が、また後には征夷大將軍を指すに至るのである。征夷大將軍は本來、蝦夷征討の臨時の軍職であつたのが、その後新たに勃興した武門武士の統領たるものが、その私兵を公法化せんとしてこの職を要望して任命せられてより恰も軍隊統率權の總攬者たる如き榮職と化したのである。
 惟ふに朝廷の軍職たるものが公卿の獨占であつて、文官化し既に實權なきに歸したるとき、新たに武人の統轄者として臨時の官職たる邊境軍司令官たる如き軍職に任じたる當初にあつては、恐らくは政權の所在と密接の關係を生ずるに至ることを推知したるものは多くはなかつたであらう。
 然るに、武人が政權を把握するに至つては、征夷大將軍は、當然にその職名であるかの如き概念を輿ふるに至つたのである。別言すれば、軍隊統率權を有するものが政權掌握するの實際政治の現象は征夷大將軍たるものは政權を有するものなりとの概念となつたのである。此間征夷大將軍に任ぜられながら、軍隊統率の實權なきものもあれば、これに反し征夷大將軍にあらずして軍隊統率の實權を有するものもあつたのであるが、それでも征夷大將軍を僭稱することに因つて政權を把握したるものもあつた。こと程、征夷大將軍の重要性を加へたのである。
 即ち征夷大將軍たるものは軍隊統帥權の總攬者たるの内容を有するに至つて、その重要性を加へたことは、更らに一面また征夷大將軍の官職としての支配性の強固を加へたのである。別言すれば、征夷大將軍の官職の支配性は軍隊統帥權の總攬者が任ぜらるゝことに於て強固となつたのである。故に若し、その軍隊統帥權の總攬者としての實質的地位が確固不動の地位を占むるに至れば、征夷大將軍の官職としての支配性は空名に歸するのである。而して徳川氏に至つて政權が固定するや、徳川氏と政權と征夷大將軍とは三位一體となり、征夷大將軍は寧ろ一片の辭令化するに至つたのである。即ち政權の把握者は、文武權を總攬するのである。武權の一作用たる征夷大將軍の如きは、その政權の前には、極めて低き地位に過ぎないのである。唯だ、徳川氏は、臣節として、征夷大將軍の辭令は朝廷より頂戴するのであるが、これは、朝權に實權ありね官職の支配性を有したるときの慣例に基づくに過ぎないので(以下五文字不明)すれば、一の儀式化であるのである。
 徳川氏は徳川氏なるが故に政權を有するのであつて、征夷大將軍なるが故に政權を有するでもなく、征夷大將軍はその装飾化に過ぎなかつたのである。
 然らば政權は何に歸属して居るかの初歩的質問が起るのであるが、これはいふ迄もなく、政權は實力に基づくのであり、實力とは反對派を壓服するに足る武力とそしてこれを賄ふ財力の所有者である。徳川氏は俗に關東八州八百萬石、旗下八萬騎と稱するそれ自身一個の大大名である。他の如何なる大名にも優越する武力を有するのである。此實力を以て天下を支配して居つたのである。即ち力の政治である。故に覇道の語を以て、これを説明し、皇室を王道とし王土王臣の語を以てこれを對比した尊王賤覇の辯は、その本来の王道覇道の説明とは稱趣を異にしたとはいへ、我邦政治の説明としては、極めて適當した語である。既に力の政治である。力の弛むときは、その立場を失ふのである。力の有るものは、これに取つて替らんとするも何等の不思議はないのである。武士道は倫理化され主君に對しては絶對の忠義を誓ふのであるが、諸大名は徳川氏に向つて忠義の倫理觀は發達しなかつたのである。故に一方に於て倫理道徳の總本山であらせらるゝ皇室が、輝き出で給ふに於ては、幕府は旭日の前の殘霜に過ぎないのである。
 徳川氏はそれ自身の兵力財力を以て、天下を支配して居るのであることは恰も近年に至る迄の支那の支配者の如きもので、天下の兵力財力を以て天下を支配して居るのではない。故に漸次行き詰まりを感じ來るのは當然であり、しかも外交問題より國防問題に及び、日本全國の力を合せて外國に對せざるの時に當り、鎖國的對内的であつた封建割據、各藩單位の國防と、徳川氏自身の兵力財力だけでは到底これに對應すべく餘りにも不充分の組織であつた。徳川幕府が外交問題に端を發して倒壊したるは、斯る理由からでも説明すべき多分の觀點を有するのである。
 力の政治の長所はやがては短所となり、幕府の基礎の動揺するや、さしも三位一體と見えたる徳川氏と政權と征夷大將軍とは漸次分解作用を來すのである。といふことは、その反面に於て、この分解作用が即ち幕府の基礎の動揺である。
 本來幕府政治なるものは、單に力の政治であるから、我が國體にも反すれば、勿論合法的のものではなかつたが、徳川氏に至つては、委任政治の語を以て、これを合法化して居つたのであるが、その始めは、
 文久三年三月十四代將軍徳川家茂上洛、五月一橋慶喜名代として参内、孝明天皇に拝謁上奏の一節に
 是迄モ都テ御委任ニハ候得共、猶又御委任被成下候儀御座候は、転嫁ヘ號令ヲ下シ外夷ヲ掃除仕度云々
とある。これ迄の政治も御委任であることの追認と、將來に向つての確認とを奏上したのである。しかして、これは攘夷問題の前提として、朝廷は他の進言を容れられず幕府を御信任あらせられたき旨の本意からではあるが、兎に角、委任政治が公的に唱へられた第一聲である。
これに對し、畏くも
 天皇聞召され「庶政は從來の如く關東へ委任する存慮なり、攘夷の擧は猶ほ出精すべし」と玉音朗に勅し給へり(徳川慶喜公傳)
然るに關白鷹司輔熙は
 征夷大將軍儀、總てこれまで通り御委任遊ばさるべし攘夷の儀精々忠節を盡すべき事
と書して與へた。庶政委任といふことゝ、征夷大將軍委任といふことゝニ樣の如くでもあり、一體のごとくでもある。
そこで慶喜は
 最初の四文字は勅語中には仰出されざりしかど、大體に於て異なる所なかりければ、今は強いても異義を唱へ給はず、之を拝受して宮中を退出し、二條城に登りて復命せられたるは六日の暁天なりき。(同上)
こゝに至つて、幕府政治は初めて合法的に御委任を蒙つたのである。「徳川慶喜公傳」は
 抑幕府は其創立と同時に、事實上政治を總攬せるものにて、後に稱して庶政御委任といふといへども、鎌倉幕府以來、未だ曾て朝廷より御委任の御沙汰ありしを聞かず、徳川氏政権を掌つてより二百餘年、今にして事新しく庶政御委任の朝旨を請はざるを得ざるは、これ却て覇者の實權を失へるを證明するものにして、幕府が此勅許を得て一時なりとも其地位を固くしたるは、又明に朝威の發展を證明するものなり。
と述べて居る如く、合法化したのであるが、形式の整つたときは、反つて内容の空虚となるの例の多きと同じく、幕府の衰を示すものであるが、此時の根本問題として、將軍職と庶政御委任との關係が如何に解せられたのであらうか、勅旨と關白との意見は、この點に於て明確をを缼くの嫌ひがある。そもそも將軍職あつての御委任か、別言すれば將軍職を其儘にしての庶政御委任であるのか、または將軍職を此時更めて委任任命であるのか、は不明であるが、將軍職には當然政權が伴ふといふ概念に、疑點の入つたことは、即ち將軍職と委任政治即ち政權との分離の曙光が萌したのである。
 別言すれば、征夷大將軍の官職としての支配性の復舊の機運が動き出したのである。政權の基礎が強固なる間こそ、征夷大將軍は空名なれ、その政權が動揺すること即ち、實力に離れんとするときは、征夷大將軍は、その本來の支配性を取り戻して、他の實力者に移行して、強固ならんとするに至るのである。
 しかもこの二つの概念が明確に分離したのは、政權奉還のときである。普通教科書の十の十迄は政權奉還即ち征夷大將軍辭退と速斷して居るが、十五代將軍徳川慶喜が政權を奉還したのは、慶應三年十月十四日であり、征夷大將軍辭退は、これより十日を距てゝ、同月二十四日であり、別々に御裁可になつて居り猶ほ同年十二月九日の王政復古の大號令には
 徳川内府從前御委任大政返上、將軍職辭退之兩條、今般斷然被聞召候云々
とあつて、大政返上、將軍職辭退とを兩條とあつて別箇の行爲となつて居る。然らば何が故に、二箇の行爲に出でたのかといへば、政權奉還直後の十月十六日、慶喜側近の重臣、松平越中守定敬、板倉伊賀守勝靜より江戸の老中への書翰の一節に
 御政權は御返上被遊候得共大將軍は空名ながら御返上に不相成候間云々
こゝに所謂『空名ながら』とは、政權の固定してある間こそ、空名ではあるが、政權を離れては、新たに政權を獲得したる者が、これを有すべく、決して空名とはならぬのである。而して、政權を奉還しながらも、何が故にその空名を辭退せなかつたのであるか、そもそもまた、空名の辭退に先立ち、政權を奉還したのであるか、手紙は猶ほ續く
 愈以海陸二軍、眞之御實備に相成候樣、御同樣御役人末々迄、猶更偏に誠實を以、勉勤可仕事に候
ともいつて居り、また老中格松平縫殿頭乘謨は上書して
 御當家(徳川)にては上院議事の上位に御立被爲在候而終に全國守護兵之惣指揮御心得相成候はゞ可然と奉存候云云
といつて居る、この上院議事云々は、後に述ぶるのであるが、惣指揮官といふことが眼目である。
 また、政權奉還上奏案に副へたる老中の演達書にも、
 此上益以御武備御充實相成不申候ては決而不相成義に付、各於て聊氣弛み無之前文之御趣意相貫き御武威相張候樣一層奮發忠勤精々可被申合候
とある。即ち政權を奉還しても、武力を充實し、その統率權たる征夷大將軍を堅持し、實力を以て天下に臨まんとするの底意である。この思想は、未だ此時ほど政局の切迫しなかつた慶應元年十月朔日十四代將軍家茂が、政權を辭退し慶喜をして相續せしめたいと上表した際に、水戸藩士豐田亮の國事記に一説として
 御所より將軍職御脱剝相成候共八百萬石は御先祖弓矢之御力を以て御所領相成候義に候間、假令御所より彼是御減高等御差引有之候とも御答御詞も有之右之、通八百萬石御力さへ有之候へば又々御囘復之道も有之候得共云ふ
といふ一節がある朝廷より將軍職を剝奪せられても、我に八百萬石の實力あり、この實力に依り囘復する敢て難なきにあらずとの意見である。此種の意見が、此頃勢を得て居つたのである。
 更らに、政權を奉還しても、征夷大將軍を辭退すべからず、と明確に論じたのは會津藩であつた。即ち、征夷大將軍辭退後の慶應三年十一月二十八日、會津藩手代木直右衛門が松平春獄に對し
 肥後守(松平容保)在職已前より存込居侯は、徳川家之政權は朝廷へ被歸幕府にては王命を奉じ、順正之御政道に相成侯はゞ可然と存居侯處此度之御一擧にて年來之誠心も違却仕、失望の極致に御座侯。政權を一途に被歸候は乍ら御尤至極の御儀奉存候得共、幕府迄被成候ては治り方附き申間敷云々
といひ、政權奉還は當然の美擧としても、幕府まで捨てるのは、遺憾至極、失望至極であるとは、會津の藩論である。尊王奉幕二本立の立場からは、必然の論結ではあるが、然らば、政權を奉還しても、征夷大將軍を辭退せずとは、如何なる意味なりやといへば、朝廷は尊崇すべし、幕府は實際政治の衝に當るべしといふにあつて、結局、幕府政治の維持に過ぎない。唯だ從來は朝廷尊崇の念が薄かつたのを、飽迄、恭敬の誠を盡すべし、といふ點に於て、一進展を示して居るのに過ぎないのである。而して、また右手代木談話の全體の趣旨から推しても、朝廷には政治の經驗なき故、多年の經驗ある幕府をして當らしむるこそ、國家のためであり、朝廷のためである、といふ所信である。故に、政權を奉還しても、征夷大將軍を辭退せざることは矛盾するものでないといふ、政治的意見であつたのである。これは彼の熱烈なる尊王論者としての淺見絅齋が、「天ニ二ツノ日ナク土ニ二ツノ王ナシ普天ノ下王臣ニ非サルナシ」と高唱しながらも
 恐レアルコトナレドモ、只今トテモ天子ノ崇ヘ天子ノ御名代トシテ天下ヲ東ヨリ御下知アルハ、古西伯ノ事體ノナリニテ、上下如此穩ナレハ、十分古王代ノ時ノ樣ニ天子ノ權コソナケレ、頼朝ガ何トナク窃ミタル體トハ、抜群違ツテ正シキ事也。
と現狀肯定論者であるのと同じ思想であった、若くは、その信奉者であると謂へる。故に更らに會津流の議論を押し進むれば、政權を奉還しても、改めて朝廷より御委任を受け、征夷大將軍として政治を行へば、名實共に任命せられ、形式は正したが、實質は依然たるものであつたと同じ行き方である、これは恐らくは、當時の武士階級大部分を支配したる考へであつたろう。
 かゝる意見は、勿論幕府側にては、有力な意見であつたらう。これが即ち、當初政權を奉還しても征夷大將軍を辭退しなかつた所以であることは、想像し得るのである。
 今、單に用語例として見ても、政權奉還當時、慶喜の最高秘書としての西周助(使の男爵)が、後年某書に叙した一節に
 徳川慶喜順に歸し政兵の大權を解きて之を奉還するに至れり云々
 夫兵馬の大權は行政の大權と相終始し云々
とある。即ち政權とは行政權の謂ひで、兵權は政權とは別の意味のものと思つて居つたのである。斯る意見も、影響のあつたことゝ思はるる。
 即ち政治理論として幕府側の意中を忖度すれば、政權は委任政治と自稱して居るものゝ、本來合法的の根據のなかつたのに反し、征夷大將軍は立派に辭令を頂戴して任命せられたる官職である。政權は返上しても征夷大將軍としての軍隊統帥權は合法的に有して居るのである。この指揮權さへ在らば政權奉還何かあらんといふ、机上の空論も成立ち得るのである。その昔し、豐臣秀吉は、關白職を秀次に譲りながらも、兵權を把握して居つたから、依然として政權の地位に在つた先例を調査したものもあつたかも知れぬ。
 しかし、これは理論として成立ち得るだけである。始め政權を獲得を獲得手段としての征夷大將軍を要望した時代とは、時代が變じて居る。征夷大將軍は政權の一作用たる官職に過ぎなかつた時代となりては、その政權に離れて、征夷大將軍だけを留保する譯には行かぬ。ただ政權に離れんとする動揺を食ひ止めんとして、先ず征夷大將軍を確保せねばならぬ。征夷大將軍の確保は同時に政權確保なりと自覺したる實際政治家は、政權奉還の方を空名として、征夷大將軍の方を實名として、當面の難局を切り抜けんとしたる意圖なりとしたならば、實際政治家としては強ちに批難すべきではない。しかし、その政權の動揺は武力の動揺に基づくとすると、武力だけの確保が、既に容易でないのである。俄かに徳川氏の軍備充實を要望しても間に合わぬのである。政權の基礎たる武力財力が腐朽し枯渇とし居るのを気附かなかつたのである。よしや多少は心づいて居つても多年の傳統的惰力を過信して居つたのである。徳川氏一箇を維持するする力と政權を維持する力とを混同して居つたのである。創業の始めに於ては、徳川氏を強くすることが、政權を確保する所以であつたが、今や政權を維持するの力は衰へて、徳川氏を維持するに全力を注ぐべき時期に到達し居つたのである。
 つまりは、幕府側は、實力論に立脚して、政權奉還を空名たらしめんとするのであり、空名とは結局再委任の下心であり、或は。名を捨てゝ實を取るの術策であつたのである。
 斯る幕府側の實力論に對し、討幕側は默視して居る筈はない。政權奉還の上は征夷大將軍をも辭退、せしむべしとなし、十月十四日政權奉還上表後の對策として岩倉具視が、正親町三條實愛、中御門經之をしてニ條攝政に進言せしめた一節に
 王政復古斷然御治定の事
 將軍職辭退御内諭の事
とあり、また『大久保利通日記』にも
 十四日小太夫(小松帶刀)登城、内府公(慶喜)拝謁尚亦曲言上有之左之五ケ條を決す
 一、政權返上之儀早々於朝廷被聞召候事
 一、征夷大將軍職返上之事(他略)
とあるから、結局、慶喜に於ては、征夷大將軍をも辭退するに至つたものと思はるる。
 そこで、然らば、征夷大將軍を保持しての政權奉還とは如何なることであるかを今一應檢討しなくてはならぬ。
 これには、後章に述ぶる倒幕論は封建制度破壊論ではないといふことを先づ以て念頭に置かなくてはならぬ。徳川氏は政權を奉還し幕府は廢せられても大名としての徳川氏は存續すべきである。政權を奉還すると同時に、徳川氏はその關東八州八百萬石と旗本八萬騎をも共に奉還すべきであるといふのは、現代の内閣明渡の概念と混同したものである。徳川氏の關東八州旗本八萬騎は政權に伴ふて頂戴したものでなくて、その以前小田原戰後徳川家康が豐臣秀吉より關東八州を貰ひ、旗本八萬騎は自己の費用にて養成したものである。這は恰も島津氏の薩日隅の三州、毛利氏の長防二州と同じ關係に立つて居る。倒幕前の薩長氏が自己の領土を奉還せずして、徳川氏に向つてのみその奉還を要求するの理據如何と反問さるれば適當の答辯に苦しむのである。
 此點が、最も明確に論議せられたのは、慶應三年十二月二十四日、越前藩の重臣中根雪江、酒井十之丞が、中御門經之、正親町三條實愛、長谷信篤、萬里小路博房に對し
 徳川氏の關八州は豐臣氏の頃、三、遠、駿、甲と振替に相成候事に而、武功を以て代り取り候も同然、其外之土地迚も、其頃之世態に而、朝廷より賜はり候と申事も無之、夫々之由緒有て領し來候事にて、誰のを奪ひしともなく、何方より譲られたるにも無之候。又將軍職之儀は、再應御辭退申上しかど、強て被命候事にて願ひたる事には無之、夫れより以來は代々振合を以、二百餘年相承纘致候事にて、官位に付ての議にも更に無之。然るに唯今と相成、右政權を返上奉り候徳川氏は、領し居候土地迄も返上致候事而は不適次第と相成、又政權に關らぬ諸侯は依然として舊對を領し居候ては、徳川氏は代々政權御預り申上、心を勞し力を費候戈け之不幸と相成候道理に當りて、素々政權と領地と將軍職と官位とは各自別段にて更に名義に相拘係すべぎ物には有之間敷歟と云々                           ―
と力説したのが、最も筋道か立つて居る。        、      ’ 故に 故に政權奉還とは、一片の上奏沓である。明渡すべき内閣はないのである。自己の費用で自己の役人で天下を支配して居つたのである。これは引渡すの必要はないのである。政權奉還の眞意に付では、後にこれを詳述するのであるが、政權を奉還の條件として上下兩院を開き、徳川氏は首相兼議長として、徳川中心内閣を組織し、その實力と、傳統の勢力を以て、政局の擔當者たらんとしたのである。即ち名を捨て實を採るの策に出たのでうある。こゝに於てこそ、政權を奉還するも征夷大將軍は保持せんとしたのである。
 然るに反對側たる岩倉具視、大久保利通はその心術を看破し、政權奉還は畢竟一の空名に過ぎず、そめ政權の基礎たる實力を打破するにあらずんば意味を爲さず。とて、辭官納地を以て迫り來りたるは、流石に實際政治家である。が、しかし、この議は直ちに行はれなかつたのは、徳川氏にのみ、これを要求する理據なきこと前述の如き時勢であつたからである。しかし、時勢は行き盡すところ迄行かねば止まず、徳川氏は、鳥羽伏見の戰に敗れて、こゝに實質的に、廢滅したのであるが、これは、直に封建制度そのものゝ。全般的破滅ではなかつた。徳川氏は静岡藩として、一封建大名として更生したのであつた。
 以上は冷静なる政治理論に權略を交へたる政策であるが、當時これを明瞭に意識したものは恐らくは、當の慶喜以外には極めて少數であつたであらう。今日に於てすら、政權奉還と征夷大將軍辭退とを混同し、若くは倒幕論と封建制度廢止論とを同視するものゝ多いのであるから、當時の憒々者流は第一に、徳川氏の滅亡としてただ無暗に驚き騒ぎたるものの多かつたのも無理からぬのである。
 上來叙述したるは要するに幕府の本質と政權との関係を述べる序に政權奉還にまで及んだのである。木來幕府なるものは戰地に於ける軍政より始まつたのであるから、これが常設の官職となつても、その組織は軍政組織であり、武人政治である。吉田東伍博士が、徳川氏は三百年間戒嚴令を布いて居つたのである、戒嚴治下には切捨て御免は當然であるとの比喩は説き得て妙を得て居る。
 既に武人政治であり、文官と武官との區別はない。武官が凡ての官吏である。紋に例へば大老井伊掃部守といへば總理大臣であるが、いざ戰爭となれば徳川四天王の随一、井伊の赤備としで先陣の家柄である。平時には首相であるが、戰時には最高指揮官又は参謀總長である。與力同心といへば司法警察官として印象づけられるが、これは戰時に於て與力同心する部隊である。大名行列美々し街道を練り行くのは戰時行軍の式である、故にその宿舎はまた本陣と呼ばるゝのである。
 凡てが斯の如くであるから、その組織を貫くものは嚴重なる階級制度である。封建制度は階級組織を以て中樞となすのである。故に一君萬民の倫理觀と四民平等の立憲思想と結びつく事に於て、封建制度はこゝに終滅を告ぐるのであるが、實際の政治情勢としては、幕府といへる大なる封建は倒れても猶ほ、藩(大名)と稱する封建國家群は數年の命脈を保つて居つたのである。事は後編に説明するところである。

参照 拙著『日本憲政史論集』第二章大政奉還の意義
    同『日本憲政史大綱』上卷第一編第三章第四節
    同『維新前後に於ける立憲思想』第六章

引用・参照・底本

『明治維新 上卷 』近代日本歴史講座[第一册]法學博士 尾佐竹 猛著 昭和十八年二月十日再版發行
『國史研究會編輯 岩波講座 日本歴史 第六囘配本 江戸時代の繪畫』藤懸静也 第七圖湯女圖(24頁) 昭和九年三月六日發行
(国立国会図書館デジタルコレクション)

日韓間の財産請求権の問題2022-01-19 18:31

 日韓間の財産請求権の問題 2022.01.19

 第050回国会 衆議院本会議 第7号 昭和四十年十月二十一日(木曜日)午後二時開議

 外務大臣   椎名 悦三郎
 議員     井手 以誠
 内閣総理大臣 佐藤 榮作
 農林大臣   坂田 英一
 法務大臣   石井 光次郎
 通商産業大臣 三木 武夫

○国務大臣(椎名悦三郎君) 去る六月二十二日に東京において署名いたしました日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結について承認を求めるの件並びに財産権及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案に関し、趣旨の御説明をいたします。
 わが国と近隣関係にある韓国との諸問題を解決して、両国及び両国民間に安定した友好関係を樹立することは、平和条約によってわが国が国際社会に復帰して以来のわが国の重要な外交上の課題でありまして、政府は、韓国との国交を正常化するにあたり、諸懸案を一括して解決するとの基本方針に従って、十四年の長きにわたり困難な交渉を重ねてまいりました。その結果、先般ようやく、基本関係、漁業、請求権及び経済協力、在日韓国人の法的地位及び待遇、文化財及び文化協力、並びに紛争解決のおのおのについての条約とそれに関連する諸文書について、韓国政府との間で完全な合意に達し、去る六月二十二日に東京において署名の運びとなった次第であります。
 いま、これらの諸条約についてそのおもな点を御説明申し上げれば次のとおりであります。
 第一に、基本関係に関する条約は、善隣関係及び主権平等の原則に基づいて、両国間に正常な国交関係を樹立することを目的とするものであります。したがいまして、この条約は、両国間に外交関係及び領事関係が開設されることを定め、併合条約及びそれ以前のすべての条約はもはや無効であること、及び韓国政府が国際連合第三総会の決議第百九十五号に明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府であることを確認し、両国間の関係において国際連合憲章の原則を指針とすること等、両国間の国交を正常化するにあたっての基本的な事項について規定しております。
 第二に、漁業に関する協定は、漁業資源の最大の持続的生産性の維持及び保存並びに合理的発展をはかり、両国間の漁業紛争の原因を除去して相互に協力することを目的とするものであります。この協定は、公海自由の原則を確認するとともに、それぞれの国が漁業水域を設定する権利を有することを認め、その外側における取り締まり及び裁判管轄権は漁船の属する国のみが行なうこと、共同規制水域を設定して暫定的共同規制措置をとることを定める等、両国間の漁業関係について規定しております。
 第三に、財産及び請求権の解決並びに経済協力に関する協定は、両国間の財産、請求権問題を解決し、並びに両国間の経済協力を増進することを目的とするものであります。この協定は、両国及びその国民の財産、権利及び利益並びにその国民の間の請求権に関する問題を完全かつ最終的に解決することを定めるとともに、韓国に対する三億ドル相当の生産物及び役務の無償供与並びに二億ドルまでの海外経済協力基金による円借款の供与による経済協力について規定しております。
 第四に、日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する協定は、わが国の社会と特別な関係を持つ大韓民国国民に対して日本国の社会秩序のもとで安定した生活を営むことができるようにすることによって、両国間及び両国民間の友好関係の増進に寄与することを目的とするものであります。この協定は、これらの韓国人及びその一定の直系卑属に対し、申請に基づく永住許可を付与すること、並びにそれらの者に対する退去強制事由及び教育、生活保護、国民健康保険等の待遇について規定しております。
 第五に、文化財及び文化協力に関する協定は、文化面における両国の学術及び文化の発展並びに研究に寄与することを目的とするものでありまして、また、一定の文化財を韓国政府に引き渡すこと等を規定しております。
 第六に、紛争の解決に関する交換公文は、両国間のすべての紛争を、別段の合意がある場合を除くほか、外交上の経路を通じて解決すること、及びそれができなかった場合には、調停によって解決をはかるものとすることを定めております。
 以上を通観いたしますに、すでに累次の国会の本会議及び委員会における質疑等を通じて説明申し上げてまいりましたとおり、これらの諸条約によって、長年にわたって両国間の国交正常化の妨げとなっておりましたこれらの諸問題が一括解決されることとなり、こうして、両国間に久しく待望されていた隣国同士の善隣関係が主権平等の原則に基づいて樹立されることとなるわけであります。これらの諸条約の基礎の上に立って両国間の友好関係が増進されますことは、単に両国及び両国民の利益となるのみならず、さらに、アジアにおける平和と繁栄とに寄与するところ少なからざるものがあると信ずる次第であります。
 次に、大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案について趣旨の御説明をいたします。
 さきに御説明いたしました財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定は、その第二条において、日韓両国間の財産及び請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決されることになったことを確認し、日本国にある韓国及び韓国民の財産権に対しとられる措置に関しては、韓国はいかなる主張もできないものとする旨を規定しております。この規定上、これらの財産権について具体的にいかなる国内的措置をとるかはわが国の決定するところにゆだねられており、したがいまして、この協定が発効することに伴ってこれらの財産権に対してとるべき措置を定めることが必要となりますので、この法律案を作成した次第であります。
 この法律案は、三項及び附則からなっており、その内容は、協定第二条3に該当する財産、権利及び利益について規定するものであります。
 まず、第一項においては、韓国及び韓国民の日本国及び日本国民に対する債権及び日本国または日本国民の有する物または債権を目的とする担保権を消滅せしめることについて規定しております。第二項においては、日本国または日本国民が保管する韓国及び韓国民の物についてその帰属を定め、第三項においては、証券に化体された権利であって第一項及び第二項の適用を受けないものについて、韓国及び韓国民はその権利に基づく主張をすることができない旨を規定しております。なお、附則におきまして、この法律案の施行の日を協定発効の日としております。
 以上が、日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結について承認を求めるの件、並びに大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案の趣旨でございます。(拍手)

○井手以誠君 私は、日本社会党を代表いたしまして、日韓条約の重要な問題点について、佐藤総理の所信をただし、あわせてわが党の立場を明らかにいたしたいと存じます。(拍手)
 質問の第一は、領土管轄権と国連憲章の関係であります。
 基本条約は、韓国の地位について、一九四八年の国連総会決議第百九十五号(Ⅲ)を援用されております。そもそも朝鮮問題の発端は、朝鮮民族の独立を約束した一九四三年のカイロ宣言にあり、これを引き継いだポツダム宣言を日本が無条件に受諾したことにあります。御承知のとおり、民族自決は国連憲章の大原則であります。その第一条に、民族の同権と自決、第二条は、内政不干渉を宣言いたしておるのであります。さらに、第百七条は、第二次大戦の戦後処理について、国連は関与できないことを明記いたしておるのであります。以上明らかなように、当然、朝鮮の管轄については、朝鮮民族みずから、朝鮮民族だけがきめる権利を持っておるのであります。しかも、朝鮮代表が参加していない十七年前の古い国連決議をもって、朝鮮の領土の分割をしいたり、片方の管轄範囲をきめたりすることは、たとえ国連といえ、また、いかなる国も許されないことであります。(拍手)したがいまして、基本条約に国連決議を援用したことは、国連尊重を力説する佐藤内閣みずから国連憲章に違反するものといわねばならぬのであります。(拍手)
 質問の第二は、北朝鮮との関係であります。
 政府は、ただいま、北朝鮮との関係は一切白紙であると説明されました。今日、休戦ラインの北に朝鮮民主主義人民共和国政府が北朝鮮を有効に支配していることは、厳たる事実であります。この北朝鮮とわが国が、好むと好まざるにかかわらず、貿易や帰還問題などの関係を持つことは必然であります。一方、全朝鮮を領土とした憲法を持っている韓国政府が、この条約で日本が今後北朝鮮と外交関係を持つことを阻止することができたと公言しておることは周知のとおりであります。この韓国政府と北朝鮮政府は、不幸にして敵対関係にあります。したがいまして、わが国が、武力北進、武力で全朝鮮を統一することを国是とする韓国政府と基本関係を結べば、当然の反応としてわが国は北朝鮮と対立関係に立たざるを得ません。ここに本条約の軍事的性格があるのであります。(拍手)また、逆に、わが国が北朝鮮と何らかの接触をはかろうとすれば、必ず韓国政府からの反発と抗議を招くでありましょう。現に国際電気標準会議の経過を見ても明らかであります。
 そこでお伺いをいたします。今後、北朝鮮とは対立関係に立ち、一切の接触も持たないお考えなのか。それとも、朴政権の不当な横やりは退け、実務的接触を進められるお考えなのか。総理は、先日、どこの国とも仲よくすると言明されました。ケース・バイ・ケースは独立国の外交には不見識であります。いずれの道をとられるか、明確にお答え願いたいのであります。(拍手)
 質問の第三は、請求権、経済協力の問題であります。
 端的にお伺いいたします。政府は、従来、請求権は法的根拠のあるものに限ると公約してきました。この筋を通した解決方法を、何ゆえに経済協力に切りかえられたのか。このことは、平和条約第四条に反しはしないのか。また、経済協力五億ドルの根拠と性格は何であるか。この協定によって放棄される日韓双方の引き揚げ者の財産請求権は固有の権利であって、法律上の疑義を残してはならないのであります。その解決策を承りたい。
 この請求権は、わが国三十六年間にわたる朝鮮統治の評価と深い関係があるのであります。もし、本条約に調印した高杉首席代表の発言のようであれば、五億ドルのつかみ金を出す必要はございません。また、植民地支配の反省があるならば、当然正当な償いをしなくてはならぬのであります。平和条約第四条は、南北全朝鮮に関する請求権であります。総理は、北朝鮮の請求権をどう扱うつもりか、基本的な方針を明らかにされたいのであります。(拍手)
 申すまでもなく、この経済協力は、日本国民の金によって支払われるものでありますから、韓国民衆のため真に生かされねばなりません。いやしくもアメリカ援助の二の舞いを演じたり、利権化されては断じてなりません。相手が汚職に包まれている朴政権であり、日本の独占資本が経済侵略を非難されているだけに、あえて申し上げます。経済協力の実施に疑惑を招かない万全の用意があるのか、総理の所信を承りたいのであります。(拍手)
 質問の第四は、漁業協定であります。
 漁業協定最大の眼目は、李ラインの撤廃であります。韓国側は、不法きわまる李ラインの存続を言明しております以上、国防上、大陸だな保護上の理由から、いつ国内法を発動するか、不安は依然として去りません。国内法を条約と同格に扱う韓国に対し、何ゆえ撤廃の確約を得られなかったのか。協定期間後また韓国側に主導権を握られ、李ライン復活のおそれはないか、承りたいのであります。
 わが国の海洋政策は、国際海洋法会議で明らかにされておるはずであります。それが、この漁業協定によって無原則に、とほうもなくゆがめられました。今後、国際漁業に重大な影響を及ぼすものといわねばならぬのであります。特に、第一領海をきめなかったことは重大な失態ではないか。漁業専管水域十二海里全域に領海と同じ主権が及ぶおそれがございます。第二、韓国沿岸から四十海里以上も離れた済州島及び黒山島をなぜ独立の島として取り扱わなかったのか。妥協にも限界があるのであります。第三、済州島と本土間の広大な基線内水域は領海となるのか。合意議事録に響いてある無害通航権とは、海洋法会議において領海内と規定しておるではございませんか。第四、韓国の漁業専管水域において、国際慣行として認められている十カ年の入漁権をなぜ放棄したか、理由を承りたいのであります。
 共同規制は、資源の保護から資源の折半に変わりました。しかも、わが国だけ一方的に規制されることは、重大な後退といわねばなりません。特に指摘したいのは、わが零細漁民の打撃であります。すなわち、済州島周辺における大資本の漁場確保と引きかえに、対馬-釜山間の一本釣り漁場が大幅に狭められ、三千隻の零細漁船は千七百隻に減らされるのであります。零細漁民こそ最大の犠牲者といわねばなりません。(拍手)政府の補償と救済対策、あわせて拿捕漁船の補償を承りたいのであります。
 質問の第五は、竹島の帰属であります。
 竹島問題は領土主権に関するものであります。この竹島を含む一括解決が日韓交渉の基本方針であったことは、よもやお忘れではありますまい。およそ国交回復にあたり、領土主権に関するものほど重要なものはないのであります。総理は、先日、紛争は条文によって解決すると言明されました。竹島のタの字も入っていない交換公文で解決の条文と自信がありますならば承りたいのであります。
 ここで私が特に指摘したいのは、この紛争解決を調停にしたことであります。漁業協定と請求権に関する協定には、仲裁委員会を設けて日韓両国を拘束することにいたしております。しかるに、この交換公文には、拘束力のない調停しか規定いたしていないのであります。何ゆえに領土問題をわざわざ弱い調停にしたのか、不可解にたえません。これでは竹島を放棄したも同然であるといわねばならぬのであります。(拍手)
 質問の第六は、法的地位の問題であります。
 この協定で定められた各種の待遇を受ける者は韓国民に限られ、朝鮮の籍の者は全く受けられません。また、これに関連して、政府は、朝鮮籍から韓国籍への切りかえを促進し、韓国籍から朝鮮籍への移動を認めない方針であります。これこそ三十八度線の対立を日本国内に持ち込み、移転、居住の自由、国籍選択の自由をうたった世界人権宣言をじゅうりんする態度といわねばならぬのであります。(拍手)政府は、即刻国籍選択を自由にし、一切の差別をやむべきであります。人道主義の立場から総理の所信をお伺いしたいのであります。
 最後に、私は、朝鮮問題についてわが党の立場を明らかにいたします。
 わが国がカイロ宣言及びポツダム宣言を無条件で受諾した以上、当然朝鮮民族の独立を承認しなければなりません。その場合、朝鮮民族がいかなる政府をつくるかは、朝鮮民族がみずからきめる問題であります。
 およそ一つの民族は一つの国家を持つのが国際法の原理、原則であります。不幸にも、朝鮮には二つの政府が現に存在しております。これを一民族一国家一政府の状態に到達させるには、朝鮮民族の努力にまかせ、他の国はこれに干渉すべきではありません。(拍手)国連もまた関与する権限はないのであります。日本は、中国問題の轍を踏んではならないのであります。アメリカが国連軍の名のもとに南朝鮮に置いている軍隊を撤退すれば、北朝鮮には中ソの軍隊は一兵もいないのでありますから、南北朝鮮の自主的統一は自然に達成されるでありましょう。こうしてできた朝鮮の統一政府とわが国は正式に国交を樹立し、その際、三十六年間の植民地統治に正当な償いをなすべきであります。
 しかし、南北に二つの政府がある現状においては、南北の両政府とそれぞれ折衝し、経済、文化の交流を積極的かつ公平に行なうべきであります。現に、インドやビルマは南北朝鮮の両方と領事関係を結んでおるのであります。日本にこれができないはずはございません。こうした両政府との接触、または三者協議の中に、経済協力、技術提携、漁業協定、文化財返還などの問題は処理できるはずであります。
 南北統一は朝鮮民族の悲願であります。南の一方とだけ国交を結んで、北との対立に油を注いではなりません。統一できるような情勢をつくってやることこそ隣国のつとめであり、植民地統治を償う人の道でありましょう。わが党は、これこそアジアの平和と友好の道であると信ずるものであります。(拍手)
 佐藤総理、この日韓条約に軍事的背景を否定なさるなら、その証拠として吉田・アチソン交換公文を破棄すべきであります。軍事協力を言明する米韓当局に抗議すべきであります。そうして三矢計画とその関係者を処分すべきであります。その勇気があれば最後に承って、私の質問を終わる次第であります。(拍手)

○内閣総理大臣(佐藤榮作君) お答えいたします。
 領土管轄権についてのお尋ねでありますが、これはすでにたびたびお答えもいたしました。御承知のように、私どもは、国連の決議、これを尊重いたしております。ただいま、国連自身が国連憲章違反だと、かように仰せられましたが、御承知のように、この国連の決議はその後毎年確認されておりますので、これは国連憲章違反だとは思いません。私どもは、国連を尊重する、そういう立場でございますので、この決議を引用することは、これは当然といわなければならない、かように御了承いただきます。(拍手)
 また、第二の問題といたしまして、北鮮との関係についてのお尋ねでございます。北鮮との関係は、これもお答えいたしましたように、今回の条約は触れておらない、また、在来の取り扱い方を変えない、こういうことを申し上げました。また、北鮮との関係においてはケース・バイ・ケースでこれをきめていきますというお話をいたしておりますので、重ねては申し上げません。ただ、お話のうちに武力北進ということばをお使いになりましたが、私は、武力北進ということばは最近は聞かないように思います。これはだいぶ前にそんな話があったようですが、こういうことは聞かない。むしろ、今日で聞いておりますのは、北鮮自身が、共産主義による南北の統一、こういうことをはっきり言っている。この点のほうが、これは最近の話でございますから、御記憶を訂正されるほうがいいかと思います。(拍手)
 次に、請求権と経済協力の問題でありますが、請求権の問題につきましては、御指摘のように、私どもは、法的根拠のあるもの、また事実関係で説明のできるもの、こういうことで日韓間でいろいろ交渉いたしました。しかし、何ぶんにももう古いことになったり、あるいはその後朝鮮事変があったりして、事実関係などもなかなか説明しにくいということで、この請求権の問題の解決のできなかったことは、御承知のとおりであります。
 そこで、今度は、請求権の問題でなしに、両国の関係を正確に認識していく、そういう点から、経済的に自立のできるように、またそういう意味のわが国の協力が望ましいだろう、しかし、その経済協力をすることによっていわゆる請求権の問題を完全に解決する、こういうことでこの経済協力に変わったこと、この点は御承知のことだと私は思います。私は、ただいま申し上げるように、いつまでも話がまとまらないからといって日韓間の状態を正常化しないということはまことに残念である、そういう意味で、両国が経済協力という形でこの問題を解決するということになったのであります。(拍手)したがいまして、これは平和条約第四条にはもちろん違反ではございません。
 また、経済協力の金額が無償三億、有償二億、こういう五億ドルはどこから出たかというお話でございますが、これは、韓国の経済建設に対するわが国の熱意と、またわが国の負担と、こういう両点からいろいろ折衝いたしまして、最終的にこの五億ドルというものにきまったのであります。
 また、この際に、個人の財産、請求権の問題を法律上疑義を残さないようにというお話がございます。御指摘のとおり、これも大事な問題でありますので、私どもは、今回の条約・協定締結によりまして何ら疑義を残しておらない、かように思っております。
 また、これで、いわゆる補償の問題なども、憲法との関係においては関係を生じない、私はさような結論を持っておるのでございます。ただ、拿捕漁船あるいは乗り組み船員等に対しましては、いわゆる憲法上の問題ではございませんが、わが国の国民のまことに気の毒な状況に対しまして、私どもが適当な救済措置をとること、これは当然である、かように考えまして、ただいま種々検討しておる最中でございます。
 次に、北鮮の請求権の問題についてお触れになりました。これは、先ほど申しますように、今回の問題は北鮮には何ら触れておらない、かような状態でございますので、この点も今回の条約・協定で北鮮との請求権の問題には触れておりません。そこで、請求権の問題を解決する意思ありやいなやということでございますが、ただいま交渉するような考えは持っておりません。
 また、経済協力が利権化してはならないというお話でございます。これはそのとおりであります。また、疑惑を生じてもいけない、かように私ども思います。いろいろ経済侵略だとか、こういうような疑念を持たれるのでありますから、そういうことのないように、ことに、相手の国におきましても、資金管理委員会を設けて、与野党の諸君がこの管理委員会で経済協力の使い方をいろいろ審議するそうであります。また、調達庁による一般競争入札、それらもはっきりいたしておるようであります。また、わが国におきましても、この実施計画についての合意、あるいは契約の認証等につきまして、これはわが国の経済関係、産業人も、さような処置をとる予定でございます。したがいまして、ただいま経済協力についてのいろいろの御心配がありますが、私は、そういうこともなしに、円滑に経済の発展に役立つように使われるものだ、かように確信いたしております。
 次に、漁業協定についてのお尋ねであります。これも、たびたび李ラインについてお答えをいたしましたので、省略をいたしたいのでありますが、ただ、この機会にはっきりまた申し上げておきたいのは、李ラインがどうあろうと、韓国側でどう説明しようと、漁業に関する限り、漁業上の安全操業はできるのだ、これだけははっきり申し上げまして、漁民の不安も一掃したいし、国民にも、李ラインの論争に巻き込まれないように御注意を願いたいと思います。(拍手)
 また、この問題は、協定後においていわゆる六年たったらまた問題が起こるのじゃないか、また韓国側にリードされることになるのじゃないか、かような御心配を述べられましたが、私は、この期限経過後、両国間におきましての親善友好関係、これは今日のような状態ではないと思いますので、ただいまからいろいろ心配することは、これはいわゆる杞憂ではないか、かように私は思います。
 次に、領海の幅をなぜ取りきめなかったかというお尋ねであります。御承知のように、漁業に関する取りきめでありますので、漁業水域、それにつきましては十分規定を設けましたけれども、いわゆる領海の幅というようなことについては、これは必要がない、こういう意味でこれをきめなかったのであります。御承知のように、領海、それから領海の外は公海、こういうことになっておりますが、この領海、公海、そのものを接続しておるその関係におきましても、漁業水域という特殊な水域を考え、そして沿岸国の排他的な管轄権を認めておる、こういうことでありますが、これはいわゆる領海からくる当然の排他的の権利とは違うのであります。その点を御理解おき願いたいと思います。
 済州島、黒山島の付近が、これは四十海里以上、この辺の基線の引き方についてはどうも理論に合わない、納得がいかないという御指摘であります。これは確かにそういう非難を受けるようになっております。これは、両者の間においてむずかしい折衝をいたしました結果、いわゆる紛争を残さないという、こういう意味で、いわゆる合意に達した、いわゆる両者の歩み寄りの話し合いでございます。かように御了承いただきたいのであります。(拍手)
 合意議事録による無害通航権の問題についてもお触れになりました。ことばが法律的なことばでございますが、私の理解するところでは、先ほど申しましたように、漁業水域は領海とは違う。漁業に関して沿岸国の排他的な管轄権を認めるので、領海及び漁業水域の無害通航の権利を含む権利を合意議事録で確認したというのが、いわゆる無害通航権の問題であります。これはいわゆる国際法上の問題としてでなくて、これはここまで確認したことが適当だった。かように私は思っております。
 入漁権を放棄した理由、これも先ほども申しましたように、基線の問題とこれが関係するのでありますが、私どもは交渉の途中においてこのアウターシックスの問題を強く主張いたしましたけれども、韓国側はこれに対して反対した。両者におきましてがまんのできる範囲で今回の漁業協定はいたしたのであります。今回私どもが特に必要だと強く主張いたしましたのは、李ラインの実質的な廃止と操業実態の尊重、こういう二つの点に重点を置いて話をいたしたのであります。ただいまのアウターシックスの問題は、もちろんこれは重大な問題でありますが、日韓間におきましては暫定的にかような処置をとった、かように御了承いただきたいと思います。
 次に、共同規制についてのお尋ねであります。零細漁民の救済をどうするかという問題でありますが、これも、今回の日韓間の交渉におきましては、漁業の資源についての十分の調査ができておりません。したがいまして、この資源についての調査が完了するまでは、現状においての数量を制限するということがやむを得ない状態だ。しかし、この制限は一方的に日本だけが受けるのではもちろんございません。日韓双方がこの規制を受けるという状態でございますので、日本だけが受けた、かようにお考えになることは、これはひがみのように思いますし、さようなことはございません。
 また、この措置をとります場合に、沿岸漁業の実態、これを基礎に置いております。したがいまして、沿岸漁業の零細漁民の実態、操業の実態というものは私どもは十分考慮して、そうしてこれをきめたのでありまして、ただいまのお話のように補償の問題はもちろん起きておらない、かように思います。実態をそこなうものではないということを重ねて申し上げておきます。
 また、この問題が他の地域との交換で、対馬-釜山間の漁民は非常に損をしたのだ、かようなお話でありますが、さような交換をした事実というようなことはありません。いわゆる取引をしたことはありません。大企業のために零細漁民が非常な不利益をこうむった、これまた事実をしいるものでありますので、これは訂正をしていただきたいと思います。
 第五に、竹島の問題であります。私どもは、いままで、一括解決、何事も全部を一括解決、かような方向で進んでまいりました。しかしながら、残念ながら竹島の問題は解決をすることができなかった。これは御指摘のとおり。私どもも、いままでの日韓交渉の大筋から申しまして、全部を一括解決するのだ、かように申しておりましたその際に、この点ができ上がらないことは、まことに遺憾でありますが、しかしながら、この紛争解決の方向といいますか、その取り上げる方向はこれできまったのでありますから、全然白紙の状態であるとか、あるいは竹島を放棄するんだとか、さようなことは全然ございません。また、皆さま方の御支援によりましても、ぜひとも私どもの固有の領土権は確保したい。幸いにいたしまして、社会党の諸君も、これはわが国の固有の領土だ、かように主張しておられますし、政府はたいへんな御叱正、鞭撻を受けておる、かように感じておりますので、この上とも御協力を願います。(拍手)
 ただ、この取り扱いの方法が、調停かあるいは仲裁か、調停のほうが弱いじゃないか、こういうような御指摘でありますが、調停か仲裁かということは、そのときどきの交渉の内容その他できまるのでありまして、これは、必ずしも一がいに、どちらが弱いとか、どちらが強いとか、かようには言えないと思います。
 また、次に、法的地位についてのお尋ねがあります。御承知のように、自分たちの意思によらないで国籍を失い、あるいは国籍を取得した、かような状態でございますから、日本在住の諸君には、これは朝鮮人といい、あるいは韓国人といい、たいへんな問題があるだろうと思います。こういう立場でいろいろ考慮もして、いままでの特殊的な事情にあること、これに十分の理解を与えて、今回の処置によって特に不都合な扱い方を受けないように、そういうことを日本政府としては重点を置いてこの問題と取り組んでおるのであります。
 韓国民についての処置は御承知のとおりでありますが、朝鮮国籍というものにつきまして私どもが認めておらないというところで非常なむずかしい問題、法律的な問題があるようであります。しかしながら、この点は今回の問題で別に条約上の義務を生じておるわけではありません。したがいまして、これは日本国内問題として処理するつもりでありますし、在来よりも悪い扱い方はもちろんしないつもりであります。
 また、国籍の変更につきまして、御指摘のように、朝鮮から韓国への国籍の変更を進めるが、韓国から朝鮮はこれを断わるとか、かようなことはもちろんございません。どうか、そういうような不公平な処置をしておるというようなことがありましたら、これは御指摘を願いたいのでありますが、ただいまのような状態でございますので、かような事実のないことをこの席からはっきり申し上げておきます。
 次に、今回の問題は軍事的背景はないということをたびたび申し上げました。また、ただいまこの問題についての社会党の考え方も伺いました。これはもう社会党の考えとして、批判はいたしません。ただ、この問題、軍事的な考慮、背景がないというその立場から、吉田・アチソン交換公文を破棄しろ、こういうお話がございますが、御承知のように、今回は日韓国交正常化の条約の批准をしておる、皆さん方に御審議をいただいておるのでありまして、これと関係のない吉田・アチソン交換公文をここへ出されましても、これは私どもは、はい、さようでございますとは申せないのであります。これは全然別なものであります。かように御了承いただきたいと思います。(拍手)
 また、三矢研究をした者を処分しろというお話がございましたが、この三矢研究は、御承知のように幕僚研究の作業でありまして、研究を行なったこと自体は、職務上の義務に違反するものではありません。したがいまして、その関係者を、三矢研究をしたからということで処分する考えはございません。
 以上、お答えいたします。(拍手)

○国務大臣(椎名悦三郎君) ほとんどすべての事項について総理からお答え申し上げてありますので、私からはほんの一、二点補足するだけにとどめておきます。
 第一の国連決議百九十五号、これは国連の使命に反して、かってに領土を分割するというようなことをやったのではないかというお話でございまして、総理は、そういうものではないということを明確に答えてありますが、しかし、なぜそういうことになるかということを、ちょっと簡単に申し上げます。
 この朝鮮問題については、大戦終了後直ちにモスクワ会議が持たれまして、英、米、ソ三国の間でいろいろ協議して、その協議の結果、さらに米ソ共同委員会というのができて、そしてこれはすぐソウルで会議をやっておるのでありますが、両者の意見が相当隔たりまして、そのままもうどうにも上げもおろしもならなくなった。そういうようなことを放置しておくと、これは平和のためによくないというので、局面打開の意味において、アメリカの要請によって設置されたのが、国連臨時朝鮮委員会でございまして、あくまで朝鮮人民の意思を尊重して、そうしてりっぱな統一政権をつくろうという使命を帯びてこれができ上がったのであります。それで、この朝鮮委員会が現地におもむいて、そして北鮮のほうに立ち回ろうとしたところが、どうしても入れない。公正な人民の選挙によって、それによる統一政府をつくるためのこの委員会の入国を極力拒否して、どうしてもがえんじない。そこで、しかたなしに南鮮だけを監視いたしまして、そして自由意思による選挙が行なわれ、その選挙の結果有効な政権ができた。この半分の機能しか発揮できなかったことを、帰って国連総会に報告いたしました。国連総会は、その報告に基づいて、朝鮮半島の一部分に大部分の人民が居住する地域にかくかくの政権ができた、これはかくかくの理由でこの種の唯一の合法政権であるという、その報告に基づいて決議をし、それぞれ加盟国に若干の勧奨をしておる。こういうことでございまして、この国連の臨時朝鮮委員会というものの使命を粉砕したのは北鮮であります。(拍手)その結果、今日の韓国政府というものが半島の一部分にできた。そういう事実を総会がただこれを認定し、それを決定しただけの話であります。今回の基本条約第三条は、それを受けて、韓国政府の性格は、かくかくのものであるということをいったにすぎないのでありまして、その国連の決議が不当に領土を分割したというようなことは、これは全然当たらないことでございますから、さよう御了承を願います。(拍手)

○国務大臣(坂田英一君) 大体総理から全部お答えのようでありますから、ただ一点、御質問の零細漁業についてでありますが、沿岸漁業については、わが国の一方的声明で自主規制でありまするが、その内容としましては、出漁する沿岸漁船について、わが国沿岸漁業の実績を尊重いたしましてでき上がっておるのでございまするから、その点御了承を願いたいと思うのであります。なお、委員会においてよく……。(拍手)

○国務大臣(石井光次郎君) さっきのお尋ねのうちで、韓国籍へ朝鮮籍から切りかえを促進して、韓国籍から朝鮮籍への移動は認めない方針であって、これはおもしろくないというお尋ねがございました。これは在日朝鮮人の国籍欄に記載されておりましたものが、平和条約の際、平和条約の発効によりまして、日本国籍を朝鮮の人たちが失ったものであり、朝鮮国籍に属しておった者が一律にその際に朝鮮という表示に切りかえたのでございます。それで、その後に、韓国へ書きかえてもらいたいという希望がたくさん出てまいりまして、本人の自由意思に基づいてこれはやったのでございまして、かつ、その大部分は、韓国代表部発行の国民登録証を呈示させた上で韓国への書きかえを認めてきたような次第でございまして、私のほうから、日本の側から無理にすすめたような次第ではないのであります。それだけの準備と用意をしてやつ九のでございまするから、朝鮮へこの際韓国から切りかえということは、そう簡単にはできるものではないということで、原則としては、これを認めないという方針をいまとっておるのでございます。(拍手)これは……(発言する者あり)ただいま説明の途中でございます。原則としてそういう方針をとっておりまするので、これは私どもといたしまして、人道に違反するとも、また、これは、さっきお話のありました人権宣言にも違反することではなく、私どもはりっぱな道を通ってきたのだと、こういうふうに信じておるのでございます。(拍手)

○国務大臣(三木武夫君) 私に対しての御質問は、韓国に対する経済協力が経済侵略になるのではないか、あるいは利権化の疑いはないかという点でございますが、総理大臣からすでにお触れになりましたので申し上げることもないのでありますが、要は、経済協力が国民的な基盤で結びつかなければ日韓の友好関係は長続きしない、そういう点で、韓国側においてもいろいろと新しい機構、調達方法を考えておるようでございますし、われわれもまた、この実施計画を通じて相談にあずかる機会がありますから、韓国の国民的な発展をはかれるように協力をいたしたいと考えておる次第でございます。(拍手)

 第050回国会 衆議院日本国と大韓民国との間の条約及び協定等に関する特別委員会 第10号 昭和四十年十一月五日(金曜日)午前十時四十八分開議
 
 委員       石橋 政嗣
 外務事務官
(条約局長)      藤崎 萬里
外務大臣      椎名 悦三郎
 委員長  安藤 覺
委員長代理      長谷川 四郎
委員         戸叶 里子
 内閣総理大臣     佐藤 榮作
内閣法制局長官    高辻 正巳
国務大臣  永山 忠則

○石橋委員 次に、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定についてお尋ねをしたいと思います。
 最初に事務的なことでございますけれども、第二条の第二項の(a)に、「千九百四十七年八月十五日」というのが出てまいるわけですが、これはどういう時点を意味するのか、ちょっと御説明を願っておきたいと思います。

○藤崎政府委員 これは終戦後日本におりました朝鮮人がだいぶ引き揚げたりいたしました。それが大体終了するのにこの年の前半くらいまでかかった。それから、このときに日韓間に民間貿易関係が開かれた、そういうことでこの時点をとらえたわけでございます。

○石橋委員 この第二条の第一項におきまして「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに問締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」とございますが、第四条の(b)項が全然出てきていないというのはどういうわけでございますか。これは外務大臣にお尋ねいたします。

○椎名国務大臣 条約局長に答えさせます。

○藤崎政府委員 平和条約四条(b)項でございますが、これは問題を提起しているのではなくて、あそこでの軍令三十三号は処理の効力を承認するということで、それは四条(a)項で全部カバーされておるものの一部について記述しておるわけでございます。

○石橋委員 (a)項で(b)項までカバーされておるというのが私には理解できません。平和条約を読んでみた場合に、どうしてそういう解釈が出てまいりますか。
○藤崎政府委員 (a)項で、日本と韓国それぞれの国民の間の財産請求権問題全般について特別取りきめの主題としているわけでございます。(b)項では、韓国のほうにあった日本の財産、権利、利益について在韓米軍当局がとった処理の効力を承認するということでございまして、(b)項に書いてあることも(a)項の内容の一部をなしておるわけでございます。

○石橋委員 そうしますと、今度の日本と韓国との間で懸案事項をすべて解決するという際に、この(b)の問題については一切関係がないとでもおっしゃるわけですか。

○藤崎政府委員 平和条約四条(b)項のものはすべて平和条約で処理済みであった。したがって今回新たに処理する必要がなかったということでございましたら、お説のとおりでございます。

○石橋委員 (b)項の解決のためにいろいろといままで交渉が行なわれておるわけですね。この間にはアメリカまで介在していることはもう御承知のとおりです。最終的に処理されたというものが今度出てこなければならないはずじゃありませんか。どこに出てきておりますか。

○藤崎政府委員 四条(b)項の問題はサンフランシスコ条約で処理されてしまったわけでございますので、日韓間で新たに処理する問題じゃないわけでございます。

○石橋委員 そうしますと、この間から問題になっております一九五七年十二月三十一日の口上書、それから昭和三十二年十二月三十一日付、日本国外務大臣と大韓民国代表部代表との間に合意された議事録のうち、請求権に関する部分、こういったものは何のためにあるのですか。

○藤崎政府委員 韓国にある日本の財産、権利、利益といたしましては、前にも御説明申し上げましたが、かりにあるとすれば、東のほうの大韓民国の管轄区域が三十八度線以北に出た部分にあり得たわけだろうと思います。ところが、これも前に申し上げましたように、北鮮当局が没収処分をしておりまして、それを大韓民国側が休戦協定でその管轄のもとに貫いたときには、また反逆分子のものとして没収したそうでございます。したがいまして、日本の取り分に関する限りは、韓国には実体的な財産、権利、利益というものは残っていなかった、こういうことは事実でございます。ただそのほか、そういう部分に関する請求権と申しますか、文句をつける国際法上の権利とか、あるいはしばしば問題になっております拿捕漁船の関係とか、そういうような軍令三十三号で処理されなかったものが残っておるわけでございます。

○石橋委員 そういう理屈でいきますと、私はいままでの政府の国民に対する説明というものとの間に矛盾があると思うのです。もうすでにこの第四条の(b)項は平和条約発効の時点で解決済み、こういう解釈をおとりになっておられる。それじゃ一体いままで何をしておったのかという問題がひとつ残りますが、それは別として、それではこの(b)項の解釈について、従来の政府の考え方というものが変わったのかどうか、確認したいと思います。というのは、この第四条(b)項において、われわれはすべての日本国民の在韓財産というものを放棄したものではない。すなわち、在韓米陸軍政庁法令第三十三号というのは国際法違反である。これはへーグの陸戦法規違反である。また世界人権宣言からいってもおかしい。こういう立場を終始とってこられておったはずです。われわれが放棄したのは、少なくとも外交保護権だけだ、こういう解釈をとってこられたはずでございますが、この見解は変わりましたかどうですか、外務大臣にお尋ねします。

○藤崎政府委員 四条(b)項についての日本政府の解釈が、当初から、日韓交渉に入るときに若干変わって、それが三十二年末にまたもとの立場に戻ったということは、この前御説明申し上げましたが、そのことは三十六年に全部発表もいたしておりますし、皆さま御存じのとおりでございます。なお、この四条(b)項で財産、権利、利益というものは全部処理されてしまったということは、これは平和条約の処理でございます。これについて文句をつけない、もう国際法違反のことをやっても日本政府としては文句をつけないということは、平和条約の十九条に規定してございます。そういうことをこの問も御説明申し上げたわけでございます。

○石橋委員 私は、長くなりますから、いままで政府が国会を通じて国民に説明しておりましたものを一々ここにあげません。簡単にお尋ねしますから、簡単に答えていただきたいのです。
 この平和条約第四条の(b)項においてわれわれは――われわれはというのは日本の政府はです。――国民の財産権の所属変更、移転まで承認したのではない、外交保護権を放棄した、それだけだ、こういう解釈をとってきた。これは間違いないでしょう。間違いないとすれば、いま、その外交保護権は放棄したという従来の説をそのまま維持しておられるのか、それとも変更して、外交保護権まで放棄したというふうに変わったのか、これは外務大臣、責任を持ってお答え願いたいと思います。

○椎名国務大臣 外交保護権の放棄であります。

○石橋委員 これはもうたいへんなことですね。従来の解釈、従来の政府の国民に対する説明というものを百八十度変えております。そんなことが一体許されますか。

○椎名国務大臣 変えておりません。

○石橋委員 外交保護権を放棄したものではないということをいままで言ったことはないというのですか。

○椎名国務大臣 外交保護権の放棄である。

○石橋委員 ちょっと待ってください。聞き方が間違えました。
 外交保護権を放棄しただけであって、個人の請求権を放棄したのではないという解釈をとっておられたわけです。――もう一度お尋ねします。国の財産権のみならず、個人の財産権の所属変更、移転まで承認したというのであるならば、外交保護権のみならず、個人のそれぞれ持っているところの国際法上の請求権すら、個人の承諾なしに、不当にも国が放棄したことになるのではないか、こういう意味です。正確を期して私もお聞きします。

○椎名国務大臣 外交保護権だけを放棄したのであります。

○石橋委員 そうしますと、各個人は韓国に対して請求権を持っておる、このように考えられるわけですか。

○椎名国務大臣 条約局長から答えます。

○藤崎政府委員 韓国で、昔だったら米軍、いまだったら韓国政府当局が、それぞれの法令によってとった措置の効力を承認したわけでございます。したがいまして、当該の日本人が自己の権利を向こうへ主張しようとしても、これは向こうの国内法上の権利であるわけでございますが、それは実際問題としては取り上げられないだろうということになるわけでございます。

○石橋委員 そうしますと外交保護権も放棄した。日本国民の個人のいわゆる所有権というものも、これも全部、その当人の承諾なしに、日本政府がかってに放棄した、こういうふうに認めていいですか。

○藤崎政府委員 前段におっしゃった外交保護権のことはそのとおりでございます。個人の請求権というものは向こうさんが認めないであろうということを申しているわけでございまして、この条約、協定で、そういうものを日本政府が放棄したということじゃないわけでございます。

○石橋委員 日本の政府は国民の生命、財産を保護する責任があるわけですよ。それをかってに放棄したと同じ形になるじゃないですか。それに対して責任を持たないのですか。

○藤崎政府委員 それが外交保護権の放棄ということでございます。

○石橋委員 いままでは分けて説明しておったはずです。外交保護権は放棄する。しかし個人の請求権は残る、こう言ってきたはずじゃないですか。では個人の請求権は残るというから、残ったつもりで韓国政府を相手に訴訟を起こそうとしても、それは実際は無理でしょう、受け付けないでしょう。名目だけの請求権になるじゃないですか。権利はないのとひとしいじゃありませんか。今度のこの協定の中で何らかの措置がとられておれば別です。何にもとられておらないということは、実質的に個人の請求権まで日本政府が抹殺したと同じじゃないですか。これはすでに法律的な問題を離れます。外務大臣、その点について責任をお感じになりませんか。

○椎名国務大臣 先方のこれに対する措置として、国内法の問題につきましては、これは外交上の関係でございませんからしばらくこれに触れませんが、とにかく外交上としてはあなたのおっしゃるような結論になるわけです。

○石橋委員 そうしますと、政府は外交保護権も放棄した、個人の請求権も実質的に放棄した、しかもその請求権者、所有権者というものの承諾は得ておりません。そうなれば、これは必然的に日本の憲法に基づいて補償の義務を生ずる、このように考えますが、いかがです。
 〔発言する者あり〕

○安藤委員長 お静かに願います。

○高辻政府委員 お答え申し上げます。
 ただいま条約局長からお話がございました趣旨は、この外交保護権の放棄ではある、しかしその在外財産自身は向こうの処理の問題であるということをお話しになりましたが、要するにそれをもう少しかみ砕いて申し上げますと、日本の国民が持っておる在外財産、その在外財産の運命と申しますか、その法的地位と申しますか、そういうものはその所在する外国の法令のもとにあるわけです。したがって、外国の法令においてその財産権の基礎が失われた場合に、日本の国民がそれを争うことができるかどうかということになりますと、それはその国の国内法の問題になります。で、いま現在問題になっておりますのは、そういう措置があったとして、そういうものについて外交上の保護をする地位を放棄してということであって、財産権自身を日本が、たとえば収用をしてそれを放棄したというのとは違うわけでございます。ところで、憲法の二十九条の三項によりますと、二十九条三項は、日本国がその公権力によって収用した場合の規定であることは御承知のとおりでございます。したがって、政策上の問題は別でございますが、憲法二十九条三項ということを御引用になりましたその点については、私どもは憲法上の補償、法律上の補償ということにはならないのではないかというふうに解しておりま

○石橋委員 外務大臣は明確に言っているわけです。外交保護権は放棄した、個人の請求権も実質的に放棄した、こう認めておられるのですよ。だから、あなたに聞いているのではないのです。もう法律解釈はわかっておる。だから内閣、政府の責任を私は追及しているんです。法律的なことを聞いているんじゃない。とにかく所有権者の、請求権者の承認も何もなく、かってに政府が放棄するというような行為が許されるか。実質的に救済の道はないのです。回復しようとしてもその道はふさがれておるという説明までなされておるのです。
 〔委員長退席、長谷川(四)委員長代理着席〕
そうしますと、これは当然国家の利益のために国民の財産が充当されたという、こういう解釈をとらざるを得ません。賠償か賠償でないかということは争いのあるところでございましょうけれども、とにかくその中に在韓財産、日本国民の財産というものが加味されておるということは、これはもう否定できないと思う、何と言おうとも。国の利益のために個人の財産が犠牲になっているのです。当然これは補償の問題が出てくると思います。いかがですか、外務大臣。総理大臣がおいでなら総理大臣に聞きたいのですけれども。

○椎名国務大臣 個人の請求権を放棄したという表現は私は適切でないと思います。高辻法制局長官が言ったように、政府がこれを一たん握って、そしてそれを放棄した、こういうのではないのでありまして、あくまで政府が在韓請求権というものに対して外交保護権を放棄した、その結果、個人の請求権というものを主張しても向こうが取り上げない、その取り上げないという状態をいかんともできない、結論において救済することができない、こういうことになるのでありまして、私がもしそれを放棄したというような表現を使ったならば、この際訂正をいたします。
 それで、これに対する何か補償権というのが一体どうなるかということにつきましては、私は法制局長官の解釈に従いたいと思う。

○石橋委員 これは総理にお伺いしたいところなんです。あなたは先ほど、実質的に放棄したと言っていいのかと言ったら、そういうことになるとはっきりおっしゃいました。それはもう正直な答弁ですよ。外交保護権は放棄したけれども、個人の請求権は残っておると言ってみたところで、それでは韓国に対して訴訟を起こして回復しよう、その道は閉ざされている。実質的に放棄したことになる。間違いないじゃありませんか。それなのに補償の義務はないという、そういう議論は成り立たないと思います。これは総理が来てから私それでは確認をすることにいたしまして、関連の申し入れがありますから譲ります。

○長谷川(四)委員長代理 関連質問の申し出がありますので、これを許します。戸叶里子君。

○戸叶委員 先ほどの法制局長官のお答えの中で、私、どうしても納得のいかない点がございますので、はっきりさしていただきたい。それはまず第一に、韓国にあった日本人の財産は、アメリカの軍令三十三号でこれを取得されたわけです。没収はされておりません。取得をされました。しかし、その後この軍令三十三号は国際法違反であるといろことはこの場でお認めになったわけです。その後におきまして、今度はその財産というものが米韓の間の協定、一九四八年に結ばれた協定によって韓国に移譲されたわけです。五条で移譲されております。しかし、その六条においてはっきり言っていることは、法的にはっきりしている財産というものは、その人の申し出があるまでは韓国がこれを管理すると言い、さらにまた、もしも韓国と日本の間に特別の処理をきめない限りは、所有者がいれば必ずその所有者に返るということがはっきり言われているわけです。もしも特別の取りきめがあれば所有者にはいかないで済むけれども、特別の取りきめがない限りはその所有者に返るということがはっきり六条で示されてあるのです。だとするならば、先ほど法制局長官がおっしゃいましたところの在外財産は向こうの措置である、しかもこの在外財産の法的地位というものは外国の法令のもとにある、こういうことをおっしゃったわけです。そうすると、外国の法令では、はっきり米韓の問で日本人の財産というものは守られているんだ、申し出があれば正当なものは返さなければいけないのだということがきめられてあるわけです。そういうことを無視して財産権がないとおっしゃるのは私はおかしいと思うわけです。その点はっきりさしていただきたい。
 〔長谷川(四)委員長代理退席、委員長着席〕

○高辻政府委員 先ほど申し上げましたように、日本の在外財産、これはどこにあっても同じでございますが、その日本国の財産の運命と申しますか、その法的地位が当該財産の所在する外国の法制によって運命が決するということは、これは一般理論として言うまでもないところだと思います。ところで、軍令三十三号の処理の効力を承認する、この解釈問題にかかるかもしれませんが、これにつきましては、外務当局から先ほどお話がありましたような経緯を経まして、その効力を承認するということによって、日本の国民の財産については、その処理の効力を承認するということで運命がきまっておるというようなことになる、それが外交保護権の放棄そのものではあるけれども、それ自体の運命は実はそういう協定によって決せられておる、こういう解釈になるわけでございますので、結果は同じことになるんではないかと思います。

○戸叶委員 私が申し上げた質問に対してのお答えになっておりません。私がお伺いいたしましたのは、一九四八年の九月の十一日だったかと思いますが、米韓の間で協定を結んでおります。その協定の五条によって、アメリカが取得したところの財産というものを韓国に移譲したわけです。トランスファーしたわけです。没収していない。それを没収してやったんじゃないということの証明には、六条にはっきり示されてある。法的にきちんとした財産というものはしばらく預かっておいて、そして申し出があればこれを返すのだ、しばらくの間管理しておくのだということが六条にある。しかもその次にあることは、別途の特別の取りきめがない間は日本のものであるということがはっきり示されてあるのです。いいですか。そういうふうに国内の法律できまるというのですかも、向こうの国内の法律できまるというのですから、韓国はこれを知っているはずなんです。知っていたら、このとおり守ってもらったらいいじゃないですか。それとも、日本人個人とそれから韓国政府との間に特別の取りきめをしたのですか。してないはずです。個人個人がしてないはずです。

○藤崎政府委員 軍令三十三号の解釈につきましては、米国政府からも明瞭な発表があるわけでございますので、疑問の余地はないと思います。この米韓協定の第六条は、この文言にもございますように、韓国にありました戦勝国、つまり連合国の国民の財産について日本側が戦争中に何か措置をとっておって、それを日本の財産だと思って韓一国に渡しますと、連合国の国民が不利益をこうむることになりますので、その点についての注意を喚起したものでございます。

○戸叶委員 そんなことを言つちやいけませんよ。六条には何と書いてありますか。大韓民国政府へ移譲された財産は、正当な所有者が適当な時日内に返還を請求し、同所有者に返還されるまで大韓民国政府はこれを管理するとあるじゃありませんか。大韓民国政府に移譲された財産はですよ。アメリカはこのときに軍令三十三号を出したけれども、自分は間違ったことをしているということを知っているから、意識してこういうものを出しているのですよ。それで全部韓国へなすりつけているのですよ。それが一つ。
 もう一つは、私は関連ですから全部まとめて言いますが、この前私がここで指摘をいたしましたように、日本の国会におきましては、この平和条約のあとにおいてさえも岡崎さん、あるいは中川さん、あるいは高橋条約局長、日本の個人の韓国へ置いてきた財産権はあるということをはっきり言っております。私は速記を持っておりますけれども、そういうことを言っていられるはずなんです。だからそれはなぜかといえば、韓国に財産があったのだという解釈できて、そして一九六一年、池田さんと朴氏と両方でもって、こうやっていたのでは解決できないから、何とか法的地位の根拠のあるものだけにしようという話になって、その翌年、金・大平メモで政治的に解決しようというふうになったわけだと思います、歴史を見ますと。ですけれども、その間において一体いつ日本人の韓国に置いてきた財産がなくなったかということは、みなふしぎでしかたがない。うやむやのうちに消えちゃってるんですよ。いやしくも日本人の個人の財産までこういう形でうやむやにされる。しかも国会においてはあると言っておりながら、そういう形をとられるということは、これは許すべからざることであると私は考えます。

○藤崎政府委員 最初アメリカと同様の解釈をとっておりながら、日韓交渉のある段階においてこれと違った解釈をとったということは、この間戸叶委員に申し上げたとおりでございます。しかし、アメリカ解釈と同じ解釈をまたとるようになって以後において、日本政府当局の者が日本国民の財産、権利、利益がそのまま残っているとお答えしたはずはないはずであると、かように考えます。

○石橋委員 それでは、やはりいままでの外務省の国民に対する説明というものをここで少し取り上げなければ結論が出ないと思いますから、読み上げてみたいと思います。これは外務省情報文化局が出しております「世界の動き」特集号の六であります。そのまま読みます。「わが国が韓国に請求しているのは、そのうち私有財産の返還である。それは私有財産尊重の原則が、歴史的にいつの時代にも認められてきた原則であるし、また朝鮮からの引揚者の利害がこの問題と密接に結びついているからである。しかも、日本人が朝鮮に残してきた財産は、はるばるわが国から渡鮮して三十余年の長きにわたり粒々辛苦働いた汗の結晶にほかならない。」、いいですか。これは外務省の文書ですよ。途中省略します。「或る人の計算によると、終戦当時朝鮮には日本人の私有財産(すなわち国有財産や公有財産は別として、個人財産と私企業財産だけの合計)は約七百三十億円あったということである(当時は一弗は約十五円であった)。今かりに、その中の六〇パーセントがいわゆる「三十八度線」の北鮮にあり、四〇。パーセントだけが南鮮にあったと仮定して、しかもさらにその六五パーセントが戦災で滅失したと推定すると、現在韓国内には約百億円の日本人私有財産が残っている計算になる。その他にも、帳簿尻の清算などを勘定に入れると日韓相互の請求権は次のようになる。日本が韓国から受け取るべき額約一四〇億円、日本が韓国に支払うべき額約一三〇億円、差引受取額約二〇億円、そこで、かりに韓国の主張のように、日本は韓国に対し請求すべきものは一銭も無く、請求権の問題というものはもっぱら韓国が日本から受取る額の問題にすぎないということであれば、この人の計算に従えば、終戦当時の金で一二〇億円を日本が韓国に支払わなくてはならないことになる。在韓財産の一切合切をフイにした上に、さらにこのような巨額を支払うということは、わが国民の決して納得しないところであろう。」、この外務省の見解こそ現在の日本の国民の気持ちじゃないですか。これはそれじゃ、うそだというんですか。

○藤崎政府委員 ただいまお読み上げになりましたのは、昭和二十八年十月二十二日の情報文化局長の談話でございまして、これは先ほど来申し上げておりますように、日韓交渉のある段階において米国解釈とも、平和条約締結の際の国会で御説明申し上げました政府の見解とも違った、一番日本に腹一ぱいの主張を韓国との交渉の上でやっておった段階の発表でございます。いまの見解とは違います。

○石橋委員 これは外務省の当時の正式見解であるということはお認めになったから、それでいいです。
 そこで、外務大臣にお聞きするのです。この当時の外務省のこの主張、これこそはまさに日本国民感情にぴったりだということです。特に、いま熱心に運動しておられますところの引き揚げ者の諸君の気持ちにぴったりしたものがこれだということなんです。この見解がいつの時点にどのような経過を経て変化を見たのか、これがいま問題になっているのですよ。少なくともこれが筋なんです。本論なんです。しかし、それを変更せざるを得ない条件があったというならば、いつの時点、どのようなものによって解決したのか、変更があったのか。これは外務大臣が答える責務がございますよ。

○椎名国務大臣 相当日本も悲惨な敗戦を喫して立ち上がったばかりでございまして、この韓国に対するいろいろな考えというものはかなり複雑多岐なるものがあるのであって、それは一面の発露であるということは私も了解し得るのでありますが、それだけをもって今日の結末に達することはできないのであります。いろいろな角度から、この両国の長い問の歴史的関係等を考慮いたしました結果、今回の条約の調印を見たような次第であります。

○石橋委員 私、そのままこれを読み上げたわけですけれども、これが当時の外務省の態度、ここから平和条約第四条の(b)が平和条約発効の時点で解決したなんという結論がどうして出てきますか。妙な法律論にすりかえないでください。少なくとも第四条の(b)項から出てくる見解というものは、当時述べられておったこれであるはずです。それが何らかの事情で変更を見ているのです。そのことによってたくさんの引き揚げ者がたいへんな損害をこうむっておるのです。その人たちに対して親切な説明をするのは政府の責任じゃないですか。こういう理由で考えを変えたのだからしんぼうしてくれ、そのかわりほうってはおかぬ、こういう態度があってこそ政治と言えるんじゃないですか。総理が来なければ答えられないのでしたら、ここで待っていてもいいですよ。外務大臣答えられないのですか。総理大臣が来なければ。

○椎名国務大臣 いま申し上げたような状況下において、全くもう廃墟の中から立ち上がって、そうして一時は食うや食わずの状況でありましたが、だんだん立ち上がりを示してまいったのでありますが、韓国との折衝過程においていろいろな複雑な国論というものが生起したという、一つのそれはまあ断面を物語るものだと私は考えております。そういう事情もあったということを十分に考慮に入れて今回のような結論に到着したわけであります。

○石橋委員 実際の利害関係者がそれで納得いきますか。外務省が、先ほど読み上げたような態度でがんばってくれておるときこそ、ああやはり政府だ、われわれ国民のことをよく考えてくれてがんばってくれていると、感謝しております。それを、何の相談もなしにいつの間にか消えちゃった、あれは交渉のかけ引きにちょいと言うただけです、そんなことで済みますか。少なくとも、それではどの時点でどのような取りきめによってこういう考えが放棄されたのか。そこからひとつ説明してください、外務大臣。

○椎名国務大臣 米国解釈をとって、そうして一切の請求権はこれを主張しないということになったのは三十二年になってからであります。そのいきさつにつきましては条約局長から申し上げます。

○石橋委員 いいです。いいです。もう法律的にごちゃごちゃ言うとわからなくなるから、お互いにみんながわかるようにひとつやりましょう。三十二年というのは、この平和条約第四条の解釈に関する米国政府の見解を伝えた在日米国大使の口上書及び昭和三十二年十二月三十一日付日本国外務大臣と大韓民国代表部代表との間に合意された議事録のうち請求権に関係する部分、これですね。

○椎名国務大臣 さようであります。

○石橋委員 この時点で個人の財産権まで日本政府は放棄を認めた、一つはこういうことですね。そして、後段において、ただし「平和条約第四条(a)に定められているとりきめを考慮するにあたって関連があるものである。」、すなわち韓国が日本に請求しておるものと関連があるものである、こういう二つの柱にささえられた口上書であるということもお認めになりますね。

○椎名国務大臣 大体さようでございます。

○石橋委員 何で大体なんて言うんですか。そうしますと、この前段において、個人の請求権、財産権まで日本政府は放棄した、昭和三十二年の十二月三十一日のこの時点で。しかし、韓国の対日請求権との関連の上で考慮する、こういうことになった。これは明らかに日本政府はこの時点で韓国の対日請求権との相殺のために日本国民の在韓財産を振り当てたということになるじゃありませんか。それを認めたということになるじゃありませんか。その点、外務大臣いかがですか。

○椎名国務大臣 しかし、その後韓国の対日請求権というものを両国の間で突き合わせてみたのでありますが、何しろ、法律上の根拠あるいは事実関係、非常に不明確である。時間もたっており、その間に朝鮮事変というものがありまして、これをいかに追求しても結論に到着することはむずかしいというので、これはあきらめて、そうして、別に経済協力、無償・有償合わせて五億ドル、その経済協力を行なうこととともに、それと並行して対日請求権はこれを終局的に完全に消滅させるということになったのでございますから、その関連の問題はもはやなくなった。しかし、法律上の関係はありませんけれども、経済協力をするという問題にいたします際に、やはりその問題を念頭に置いて問題の処理をしたということは、これは言えるだろうと思います。

○石橋委員 そうしますと、やはり関連があるわけですね。有償・無償五億ドルという額をきめるにあたって、日本国民が朝鮮に置いてきた財産というものを十分に念頭に置いてその金額をきめた、そういう意味で関連があるわけですね。

○椎名国務大臣 関連と言うと語弊がありますが、それを念頭に置いてかような処理をした。あくまで経済協力は経済協力であります。さように解釈しております。

○石橋委員 念頭に置いてという表現を使われるわけですけれども、関連があるじゃありませんか。有償・無償合わせて五億ドルの援助をしましょうと、その金額をきめるにあたりまして、日本の国民が朝鮮に置いてきた財産というものを念頭に置いて金額をきめた、関係があるじゃありませんか。それだけの財産があそこにあったからこそ五億ドルで済んだということになるじゃありませんか。そうしますと、引き揚げ者の人たち、財産を韓国に置いてきた人たちは、自分たちの財産というものを国益に供したことになるのです。これは間違いありません、いままでの一つ一つのお答えの中からも。
 総理大臣はいま来られたので、経過を簡単に説明しますけれども、とにかく、日本の外務省としては、個人のいわゆる私有財産、朝鮮に置いてきた私有財産というものは、これはあくまで返してもらわなければいかぬという立場を主張しておられた。これは、私が外務省の文書を読んだら、そのとおり承認いたしました。この私有財産を返してくれ、こういう政府の姿勢は、すべての日本国民の共感を受ける正しい姿勢であった。それがいつの間にか変わってしまった。いつ変わったのですかと聞いたら、昭和三十二年のアメリカの大使の口上書と日本の外務大臣と韓国代表部代表との間に合意された議事録のうち請求権に関係する部分、すなわち昭和三十二年十二月三十一日のこの取りきめの時点において考えが変わった。もう請求しないということにした。個人の財産も請求しないということにした。ただし、平和条約第四条においていろいろと処理をしなくちゃならぬ。取りきめをしなくちゃならぬ。その場合に、考慮するにあたって関連があるものだ。すなわち、在韓日本国民の財産というものを頭に置いて、そうしてやりなさいということを、日本、アメリカ、韓国の三国の間で合意に達した。そうすると、少なくとも有償・無償五億ドルという金を日本が援助として、名前はどうあろうと、援助として韓国にやるという場合に、五億ドルで済んだのは、たくさんの日本人の私有財産が朝鮮にあったからだ、こういうことになる。これは間違いないかと言ったら、外務大臣は間違いないと言う。それを念頭に置いてやったと、こうおつしゃる。そうすると、在韓財産を持っておられる日本の国民としてみれば、国の利益のためにおれたちは財産をみんな出したのだから、その分だけめんどうを見てください、こう言ってくるのは筋です。そのほかに方法がないのです。もう一つの方法は、韓国に対して、韓国の裁判所に訴えて返してくれという方法があるのですが、これは実質的に不可能だという答弁も政府はしておられる。この放棄したことによって、口上書と合意議事録によって不可能になっておる。それから、向こうの国内法で不可能になっておる。断然日本政府に補償の義務が私は生ずると思います。これはいま在外財産問題審議会で審議しておることは、私百も承知です。しかし、少なくとも政府としては、何とかしなくちゃならぬという気持ちに立たなければ、これは国民は納得しない。特に引き揚げ者は納得しないということを申し上げたいのです。この点、総理大臣の決意のほどを表明していただきたいと思います。

○佐藤内閣総理大臣 韓国にあった邦人の個人の財産の問題、これは、私がちょうど不在中にいろいろ議論があったそうですか、ただいま石橋君が御理解していらっしゃるように、また外務大臣が申し上げたように、三億、二億、これは結局こういうものを念頭に置いてきまった、かように申しておる。その念頭に縫いたことが法律的な義務を生じておるかどうか、これについては、法制局長官から、憲法上の問題はないと、かように答えたと思います。私は、いわゆる法律論としての法律上の問題ではこれはないのだ、その点は明確にいままでの経緯から説明されたろうと思います。しかし、こういう問題、あるいは平和条約から見ましても在外資産につきましてはいろいろの問題が残っておるわけであります。いわゆる法律的な問題としては一応片がついておる、かように政府は考えておりますが、一般的にいわゆる在外資産をいかに処理すべきか、またどういうような実情にあるか等々につきまして、いわゆる在外財産問題審議会というものができておる、そうして、ただいまそちらのほうでいろいろ研究しておる、かような状態にあることも石橋君御承知のことだと思います。政府自身は、ただいまの法律論、法律的な問題、いわゆる憲法上の問題として処理するのではなくて、一般的な問題として、こういうものをいかにするかというその調査をまずして、そうして、その結論を出すという態度でございます。

○椎名国務大臣 補足して申し上げますが、請求権をこれに振りかえたというような趣旨に私は申し上げたのではありません。念頭に置いて請求権問題を処理した。やはり、もと一国をなしておった韓国が独立をしたのであります。日本の財政事情も考慮しながら、新しく発足する韓国というものに対して、お祝いと言っては語弊があるが、りっぱに育つようにということで、主としてこの経済協力の問題は考えられておる。
 私が申し上げたいのは、第二次大戦後に旧植民地がずいぶん分離いたしました。そうして新しい独立国となったその際に旧宗主国がどういうことをやっておるかということを、私はこの際御参考までに申し上げてみたいと思います。
 イギリスでありますが、旧英領諸国の独立に際して行なった援助がまずあげられると思うのであります。すなわち、イギリスは、これら諸国の独立の際に、経済開発援助その他の資金供与などによりまして、これまで十二ヵ国に対して合計約十四億ポンド、三十九億ドル、約四十億ドルの援助を行なったのでありますが、このうち大きなものとしては、インドに対する十億四千万ポンド、パキスタンに対する一億二千万ポンド、セイロンに対する一億ポンド、ケニアに対する五千万ポンド等がおもなるものでございます。
 それから、このほか、フランスの旧仏領諸国の独立にあたって、それらの国との長期的経済友好関係の維持継続をはかるために経済協力協定を締結いたしたのでありますが、これらの協定には資金協力を約束したものが多い。フランスが独立した旧仏領諸国に対して一九六〇年から一九六三年までに供与した援助額は二十一億ドルに達しておる、こういう状況であります。この点を御参考までに申し上げておきます。

○石橋委員 私はもう資料を持っています。聞きもせぬことを長々とおやりになる。肝心なことはあんまり言わぬ。あなたのほうでお出しになっております「日韓予備交渉において両首席代表間に大綱につき意見一致を見ている請求権問題の解決方式、昭和三十九年十二月十日」、これを見ても、はっきり書いてあるじゃないですか。三億ドル、二億ドルというものをきめたときに、「上記無償、有償の経済協力の供与の随伴的な結果として、平和条約第四条に基づく請求権の問題も同時に最終的に解決し、もはや存在しなくなることが日韓間で確認される。」、もう相殺していることははっきりしているのですよ。
 そこで、総理大臣に最後にこの問題についてお尋ねしておきたいことは、この問題は、本来ならば直接政府が判断をして対処すべき問題であったと私は思います。しかし、いまはもう審議会にかけておる。その審議会が補償すべしという結論を出した場合には、必ずこれを実行される、このことを声明なさらないと、関連を持っておる方々はこの条約、協定に非常に不安を持っておりますから、ぜひひとつ言明しておいていただきたいと思います。

○佐藤内閣総理大臣 もちろん、審議会の答申といいますか、あるいはその調査の結果につきましては、これは尊重したいと思います。尊重しなければならない、かように思います。そういう場合に、政府は政府の責任においてこれを処理していくという態度でございます。

○石橋委員 それじゃ、問題を移します。
 いままでいろいろと質疑をいたしました。その中でも何度も総理はおっしゃっておられるわけですが、日本政府としては南北朝鮮の統一を妨害するとか阻害するとかいうようなことは毛頭考えておらぬ、こういうことをしきりに力説しておられます。しかし、そういうことばの裏で、朝鮮民主主義人民共和国を法律的に無視すると言われるならば、それはもうそのとおりだということも言っておられます。それから、質疑の中でも、実際には北の国というものを交えなければ完全に処理できないような問題がありながら、韓国との間だけで何とかしてしまおうというような問題のあることもはっきりしてまいりました。とにかく、この条約が発効すれば、日本と北のほうの部分の国とうまくいく条件というものは、どう見てもないわけです。悪化する条件があっても、これが今後はよくなるだろうというような、そういう見通しを持つことは全然できないと思います。現に、韓国のほうでは、韓国の総理大臣はどんなことを言っているかというと、ずいぶんひどいことを言っているのですよ。「韓日国交が正常化されたことによって、わが政府や国家全体が力を合わせ、北韓の外交関係を結ぶのを積極的に防ぐべきであり、また、通商が増加するのを、われわれが優先権を握ってこれを妨害するのに最善を尽くすべきであり、また、文化的に交流するのを、われわれが最善を尽くして防ぐべきである。」、これは丁一権総理が八月十四日の韓国の本会議で述べたことばであります。ほかの部分も、私、たくさんここに控えてきております。向こうのほうでは、とにかく、この日韓条約が発効したら、日本と北鮮の間というものを何が何でも妨害するのだ、こういうことを言っている事実というものは御承知でございますか。総理が、南北統一ということをじゃましようとか妨害しようとかいう気持ちは毛頭ないということを何度もおっしゃっておるので、それでは、向こう側はこう言っておりますが、御承知ですかと、こう総理にお尋ねしておるわけです。

○佐藤内閣総理大臣 いま丁一権総理がどうしゃべったというようなお話でございます。また、金日成がどういうようにしゃべったというようなことも新聞で伝えておりますが、これはまあ外国の問題ですから、あまりとやかく詮議しないほうがいいのだと私は思います。私は、ただいまお尋ねになりました韓国、朝鮮の単一国家、この実現を――まあ石橋君もそういうものが出現することをこれは希望しておられることだと思います。私もそれを希望しておるのですが、今回の条約自身は、御承知のように、北の部分についてはこの条約では何も取りきめてない。これは先ほど来のお話で非常に明らかになったと思う。私はしばしば申し上げるのだが、北鮮の部分はこれは白紙でございます。今回そういうことについては何ら取りきめをいたしておりませんということを申し上げておりますが、ただいまのお話から、もしも北と、それから韓国と、両方を承認しろというような御議論でありますならば、それこそこの単一国家の実現をはばむものじゃないか、私はそれを非常に心配する。だから、ただいま単一国家の実現を心から願っておるというその立場におきまして、どういう処置をとるのがいいのか、これが、ただいま言われるように、韓国を承認するのか、あるいは北を承認するのか、こういうことで石橋君の話も変わった結論になるのじゃないか、私はかように思います。私どもが韓国を承認するという、これはもう最初から平和条約以来ずっと交渉相手にしておる。ところが、北を承認した二十三ヵ国ですか、これらの国々は、北を相手にして交渉して、そして韓国を相手にしておらない。だから、この点をはっきり明確にしておかないと、ただいまるる御説明になりましたが、私どもが南北の統一をはばむものでない、このこととも関連のあるものでございますし、また、どういう立場において日本がただいまの韓国と交渉を持つか、また、北の部分についてどういう考え方を持っておるか、これの理解がなかなかいきにくいだろうと、かように思いますので、よけいなことだったと思いますが、お答えしておきます。

○石橋委員 私は、総理が南北の統一をほんとうに願うというならば、この際、統一の方式などというものはあまり条件となさらないほうがいいのじゃないかと思うのです。必ず国連方式ということをおっしゃるのですけれども、朝鮮の問題に関しては、国連は戦争の当事者なんです。こういう条件のあることを念頭に置かれないと、国連方式で統一ということをしいることは、これは実現不可能ということにもなりかねぬわけです。だから、ほんとうに統一がいいのだ、希望しているのだというならば、国連方式などということを言わないで、話し合いによる平和的な方法でやるならばいかなる方法でもいい、統一してもらいたいという気持ちを持っている、こうお考えになりませんか。それならば一致します。

○佐藤内閣総理大臣 残念ながら石橋君の御意見に同意するわけにまいりません。私は国連を引き合いに出したと、かように申されるが、国連こそはこの世界における唯一の平和機構でございます。だから、やはり国連方式。また、国連自身が権威を持っておる。その立場から見ますと、この国連方式というものは、ただ単に参考にすべきようなものでなしに、これはやはり、これを採用するかしないかということは重大な問題だ、かように私は思っております。

○石橋委員 これは、幾ら言っても、意見の違うということを総理おっしゃっているのですから、これ以上申しません。
 そうしますと、今度の日韓会談、日韓条約、諸協定の成立というものは、決して軍事的な要素を持っておらぬという、そういう御説明に対して、私はお尋ねをいろいろしてみたいと思うのです。
 まず第一に、これまた、韓国のほうではことごとに、反共体制の確立、これができるのだということを言っております。これも私たくさんここに控えてきておりますが、長くなりますから、韓日会談白書の一番最後の結論のところだけ読みましょう。「韓日間の国交正常化は、単にわれわれにだけ関係のあることではなく、激動する国際情勢、とくに極東における反共堡塁を強化するために是が非でも実現すべき命題であることにかんがみ、当事国である日本を初め、アメリカ、ひいてはドイツ等の自由友邦諸国のこれに対する要請も高まっている。同時に韓日間の国交正常化によって、韓、米、日の三角関係の連帯を強化して、国際的な経済協力体制を促進させ、国家的には勝共統一のための自立経済体制の確立と経済的繁栄を成就する基礎が築かれるということは、誰も否認出来ない事実である。」、こういうふうに明確に言っております。国会におきます丁一権総理、李東元外務大臣、一貫してこういう立場をとって説明をしておられます。反共堡塁、あるいは日本の経済援助によって韓国の力が強くなって、勝共統一ができる、こういう考え方を韓国のほうでは終始主張し続けておるわけです。日本側では否定しておりますけれども、向こうでは堂々と述べておりす。
 とにかく、ここで言いたいことは、いま世界の焦点はアジアです、私に言わせれば、ことしはアジアの年です。残念ながら、いい意味じゃないんです。世界じゅうの紛争がアジアであっちこっちで火をふいている。まことに情けない状態ではございますが、そういう意味でのアジアの年です。その危機は一体何が原因か。たどっていけば、結局アメリカと中国というものが出てまいります。そして、このアメリカにつながる軍事同盟を持った国として韓国が浮かび上がってきます。台湾が浮かび上がってまいります。日本が浮かび上がってまいります。東の共産の側もそういうことになります。この中でも特に、本来ならば一つの国であるべきところが大国の恣意によって不自然に分割されておるという部分が最も危機的要素を多く持っております。朝鮮であり、ベトナムであり、台湾です。非常に対立が激しい。その対立の激しいところで日本はどちらを支持していますか。どちらと結んでおりますか。これはもう明々白々です。対立する大きな二つの力の中にあって、日本は片一方の陣営のアメリカと安保条約を結んでいるのです。韓国もアメリカと軍事条約を結んでいるのです。台湾も結んでいるのです。この白書にもいわれておるように、ここで三つの国が軍事的にも結束を囲めることができた、こう言うのも決してゆえなきことではないかと私は思います。時間が急がれておりますから、私は、その点では意見を述べるにとどめて、質問に入ります。
 八月十日の韓国の特別委員会におきまして、丁一権総理は、「韓国に駐とんしている国連軍は国連決議によって派遣されており、また再び南侵があるときには即時自動的に報復をしなければならない義務を持っている」こう述べておりますが、これは間違いない、こう判断されますか。

○佐藤内閣総理大臣 いまのお尋ねになりましたことは、これは、国連軍の韓国に駐留している目的が、南侵があればこれを守るということ、こういうことだと思います。
 ただ、先ほどの問題で、少し誤解を受けると困りますから、一言私は、お尋ねではございませんが、お答えしておきたい。それは、いわゆる反共体制ということばです。反共体制――なるほど私は共産党はきらいなんだから、そういう意味で、いつも申し上げるように、日本の国は民主主義で、そして自由主義で、この国をりっぱにするんだということをいつも言っておる。だから、私は、そういう意味で反共だといわれることはたいへん光栄に思う。ただ、問題になりますのは、反共体制ということでなしに、反共軍事体制というのが問題なんです。軍事という二字があるかないかでたいへん違ってくるのです。だから、国民自身は、先ほど来言われる反共体制というそのことばの中に、軍事という、反共軍事体制、こういうことに誤解をされないことを私は希望するのです。しばしば社会党の方は、いわゆる軍事的に入るんだ、かように言われますが、それならば、諸君がしばしば主張するところの日本の憲法はどうなさるのですか。日本の憲法は、はっきり、紛争を武力解決しないのだ、戦争を放棄したんだ、こういうことをいっているじゃないですか。また、自衛隊法は、はっきり自衛隊の目的というものを明確にしておる。こういう法律があるにかかわらず、特に軍事体制、かようなことばを使われることは――軍事体制は使われないが、それと開き間違うような、いわゆる反共体制ということばで、そうしてこれを軍事体制に結びつけられることは、私はごめんこうむりたいのです。国民は十分この点を明確にして理解してもらいたい。だから、同じように石橋君が習われるけれども、私はそこは違っておる。私は共産党はきらいだけれども、いわゆる反共軍事体制、そういうものはつくっておらない。はっきり申し上げます。

○石橋委員 それでは、いま私が丁一権総理のことばをそのまま用いまして、このとおりかと言ったら、このとおりだとおっしゃったわけですが、問題は、またそのあとにこういうのがあるのです。「日本が国連における自由陣営国家の一員であるならば、国連軍のワクの中で、継続してこのような事態が到来するならば貢献するものと予想されます。」こういうことを言っております。すなわち、再び南侵があったら、韓国におる国連軍は直ちに自動的に義務を果たす、その場合に日本は、国連支持であり、自由主義陣営の一国であるから、この国連軍のワクの中で、継続してこのような事態が到来するならば貢献するものと予想されると言っておりますが、この点についてはいかがお考えですか。

○佐藤内閣総理大臣 いまの国連軍に協力するということが、軍事的にのみ、あるいは派兵するとか、こういうように考えていらっしゃったら、日本は憲法並びに自衛隊法でさようなことはございませんから、派兵はいたさないということがわかるわけです。ただいま、国連に協力というような意味では一体どうなのかということですが、いわゆる吉田・アチソン協定、覚え書きですか、交換公文、さらにまた、それを受けた岸・ハーター交換公文というようなものがある。こういうことで、いわゆる軍事的な積極的な派兵というような問題ではございませんが、その他の事柄におきまして、私どもが国連の目的遂行に容易なように協力することはあり得る、かように理解していただきたいと思います。

○石橋委員 憲法があるから海外派兵なんかあり得ないとおっしゃいましたが、従来の政府の説明を思い出していただきたいと思います。自衛隊の海外派兵は憲法上できないけれども、国連軍として活動する場合は別である、このように林法制局長官は答弁しておりますよ。また変わったんですか。

○高辻政府委員 お答え申し上げます。
 この国連軍の協力の問題でございますが、国連軍という場合にはいろいろな形のものがあることは御承知のとおりでありますが、武力の行使にわたる面であれば、これはむろん憲法九条の容認するところでないことは確かでございます。同時にまた、武力の行使の面に全くわたらないという場合には、理論の問題としてはあり得ると思いますけれども、やはり、南侵の場合にどうするというようなことになれば、これは武力の行使を切り離しては考えられないと思いますので、先ほど総理が仰せになりましたように、憲法九条はこれを許さないということになると思います。

○石橋委員 この点については、椎名外務大臣が、九月の二十三日、ニューヨークの記者会見において、「平和維持のための国連活動に自衛隊を海外に出すことをただいま検討中である」、こういうことを言ったというのが日本の新聞には載ったんです。しかも、昭和三十五年の四月二十八日の安保特別委員会におきまして、先ほど申し上げたように、林法制局長官は、全然国連軍として自衛隊が出ていく場合は別問題だと言っているんですよ。何だったら読んでみましょうか。当時の会議録の三二ぺ-ジを開いてください。「かつて石橋委員にも私お答えしたことがございますが、いわゆる国連の決議あるいは国連軍あるいは国連警察軍という問題と海外派兵という問題は、これはおのずから私は別問題だ、これは私は可能だとは必ずしも申しませんけれども、いわゆる海外派兵の問題とは別問題として考えるべき問題である、かように考えております。」、はっきり言っていますよ。だから、全然封じられていないんです、国連軍としての活動は。純然たる海外派兵というものと区分けして、国連軍として自衛隊が動くという場合には何か幅があるんです。このことだけは間違いないわけですね。これは私、総理大臣にお伺いしておきます。

○佐藤内閣総理大臣 先ほど来申し上げておるように、いわゆる法律論が――あなた、法律的な議論をお聞きになりましても、これじゃなかなか満足されぬのか知りませんが、それよりも、私ども、実際問題としていかにこういう場合に処理するかということが政治家として一番大事なことなんです。私が先ほど来申し上げておるのは、法律論がどうあろうと、また、先ほど来法制局長官も申しておりますように、いわゆる軍事行動、戦闘行為はやらない、そういう場合はちょっと違うというような議論で、私はだいぶん話が違うと思っておりますがね。

○石橋委員 瞬間を非常に急いでいるようですから、それじゃ、もう一つお伺いします。
 先ほど、南侵が始まったら自動的に在韓国連軍は報復行動を起こすとおっしゃいましたが、その場合には戦場は朝鮮に限らぬということが国連軍によって声明されておることを御承知でしょうね、総理大臣。

○佐藤内閣総理大臣 私はちょっとそれを記憶しておりませんので、事務当局から説明させます。

○石橋委員 先ほど簡単にお認めになりましたけれども、非常に重要な意味を持っているんです。私は北鮮のほうが南に侵入してくるかどうか知りません。しかし、とにかく、そういう名目であろうと何であろうと、北が南に侵入してきた、その場合は在韓国連軍は直ちに発動できるように、行動できるように、毎年、毎回国連決議をやっております。そのことはお認めになりました。しかも、その場合は戦場は朝鮮半島に限らぬぞということを国連軍は言明しているのですよ。外務大臣、知っていますか。防衛庁長官、知っておりますか。これほどの重要なことをだれも知らないとは言えないはずです。知っている方はひとつお答えください。

○椎名国務大臣 どこでどういうふうにきまっているのか、私は知りません。

○石橋委員 かくも重要なことを知らないでは、朝鮮問題に対処できないんです。それでは紹介いたします。これは、朝鮮戦争が、休戦協定が結ばれて停戦になりました。そのときに、当時朝鮮に派兵をいたしました十六ヵ国がワシントンにおきまして共同政策宣言を発表しているわけです。一九五三年七月二十七日のことであります。朝鮮休戦に関する十六ヵ国の共同政策宣言、私はここに持っていますけれども、時間をとりますから主要な部分についてのみ読み上げますと「われわれは、国際連合の原則に挑戦する武力攻撃が再発する場合には、世界平和のために再び団結し、急速にこれに対抗することを確認する。このような休戦協定の違反は重大な結果を招くものであるゆえに、戦闘行為を朝鮮国境内に同根することは不可能となろう。」こういう声明をしているんですよ。しかも、だれも知らないんです。すなわち、今度朝鮮で戦争が起きるようなことになったならば、朝鮮から越えて中国の中に入っていく。休戦のそのときに共同宣言をやっているんです。これほど重要な問題だということを、これこそ念頭に置いておいてください。こんなことも知らないで、簡単に、南侵があれば在韓国連軍が動くのは当然です、日本もある程度の協力をするのは当然です、そんなことを言うから国民が心配するんですよ。

○椎名国務大臣 ただ、具体的にどこでどういうふうにきまったかということは知りませんでしたが、いまお読みになったことはここにありますが、これは当然のことだろうと思う。世界の、この極東の平和というものが脅かされる場合には、これに有効に対処するということは当然のことだと思います。

○石橋委員 今度あなた方の言う北鮮が南侵してきたら、国連軍が直ちにこれに対抗する、そのときは朝鮮国境を越えて中国に行くのが当然だという。ほんとうですか。

○椎名国務大臣 まあ、そういう場合には、戦局が発展して、この地域だけの軍事行動では済まされなくなるかもしらぬという政治的な見解をここに示しておるのである。でありますから、相手の出方がおとなしければ適当にやる。それから、なお平和と安全が脅威されるならば、それに対して有効な方法をとるということになるのであります。ただ、この場合は、あくまで防衛的な態度でこの問題を論じておる。

○石橋委員 この点について、鹿島守之助さんが訳した「アメリカと極東」という書籍の中に、シャノン・マキューンが解説をした文があります。そこにもはっきりと、戦争は朝鮮半島から中国本土にまで拡大することになる、そういう意味だという解説が加わっておるということを申し添えておきます。
 それでは、次に最後の質問をいたします。韓国では、軍隊を出動してデモを鎮圧し、言論を封殺し、そして国会においては憲法違反の単独採決をやって、この条約、諸協定の批准を強行いたしました。日本におきましても、十月十二日のデモに対する警察官の態度などというものは、はるかに警備の限界を越えておるということが問題になりました。私は、ここで重大な警告をしておきたいと思います。
 〔発言する者多し〕

○安藤委員長 御静粛に願います。

○石橋委員 警察は、中立公正、不偏不党、こういう立場を貫いていかなくちゃならない、これはもう厳然たることだと思うのです。警察法の第二条第二項を引き合いに出すまでもなく、第三条を引き合いに出すまでもなく、不偏不党、公平中正ということは、これは警察の生命だと私は思います。この警察が、生命ともいうべき中立性を放棄して、特定の政党に奉仕して走狗となり下がるようなことがあったら、たいへんだと私は思います。そういう意味合いにおきまして、これからもデモなどが盛んに行なわれるわけですけれども、厳正中正な立場で警察は行動をしておるし、今後もするということを、国家公安委員長は言明できますか。

○永山国務大臣 厳正公平に、中正に、不偏不党でやる考えでございます。

○石橋委員 それでは、警察官が警察の組織を利用いたしまして特定の政党のために働いたという事実があった場合には、所定の手続をとって厳重に措置をすると確約できますか。

○永山国務大臣 警察官の行為に不当なることがありましたときには、厳重に処断をいたします。

 第050回国会 参議院本会議 第8号 昭和四十年十一月十九日(金曜日)午前十時五十六分開議

 議員     草葉 隆圓
 外務大臣   椎名 悦三郎
 議員     森 元治郎

○草葉隆圓君 
 次に、請求権及び経済協力に関する問題でございます。本協定によりまして、わが国は将来十年にわたって、無償三億ドル、有償二億ドルに相当する生産物及び役務を提供することになっておりまするが、これは賠償の性質を有するものであるかどうか。また、請求権問題の処理と全く無関係であると言い切り得るものであるかどうか。この点、外務大臣の御答弁を伺いたいのであります。
 また、本協定第二条によりまして、在韓日本財産の喪失はおおよそいかほどであるか。そのうち、日本人の私有財産に対して、幾らかの補償なり見舞いをなすことが適当であると考えられまするが、これは財政の許す範囲内において、政府は今後これを考える意思があるかどうか。この点は慎重に御検討をいただいて、御答弁を願いたいと存じます。

○国務大臣(椎名悦三郎君) 
 それから、請求権の問題と経済協力、これは、日本の対朝鮮請求権は、軍令及び平和条約等のいきさつを経て、もはや日本としては主張し得ないことになっておりますが、反対に、韓国側の対日請求権、この問題について、この日韓会談の当初において、いろいろ両国の間に意見の開陳が行なわれたのでありますけれども、何せ非常に時間がたっておるし、その間に朝鮮動乱というものがある。で、法的根拠についての議論がなかなか一致しない。それから、これを立証する事実関係というものがほとんど追及ができないという状況になりまして、これを一切もうあきらめる。そうして、それと並行して、無償三億、有償二億、この経済協力という問題が出てまいりました。何か、請求権が経済協力という形に変わったというような考え方を持ち、したがって、経済協力というのは純然たる経済協力でなくて、これは賠償の意味を持っておるものだというように解釈する人があるのでありますが、法律上は、何らこの間に関係はございません。あくまで有償・無償五億ドルのこの経済協力は、経済協力でありまして、これに対して日本も、韓国の経済が繁栄するように、そういう気持ちを持って、また、新しい国の出発を祝うという点において、この経済協力を認めたのでございます。合意したのでございます。その間に何ら関係ございません。英国であるとかフランスなんか、旧領地を解放して、そうして新しい独立国が生まれた際にも、やはり、この経済的な前途を支持する、あるいは新しい国家の誕生を祝う、こういう意味において相当な経済協力をしておる。その例と全然同じであります。

○森元治郎君 
 次に、請求権、経済協力について伺います。
 平和条約四条にちなんだ請求権の解決は、結局どんぶり勘定八億ドルという経済協力に変わってしまったことは事実であります。条約に規定したこの請求権解決の方法というのは一体どこへ飛んでいってしまったのか。また、この八億ドルの積算の根拠は何か。韓国が日本に出してきた対日請求八項目は、政府の計算でもせいぜい五千万ドルとはじいております。それが八億ドルにふくれ上がったのは驚きます。大蔵省、外務省が試算するという五千ドルの根拠と八項目の内容を説明してもらいたい。李承晩大統領が出した七十億ドルの対日請求権の要求は別としても、韓国は大体これ一まで六-八億ドルの線で日本に要求をしております。妥結したところを見ると、ちょうど向こうの数字にぴったり合うのであります。ですから、これはほんとうのつかみ金、どんぶり勘定と見なければなりません。日本側も、個人の請求権はだんだん額を上げて、五千万ドルぐらいあると、当時小坂外相が主張したことがあるらしい。ここに双方の要求額を、日韓交渉以来のものを順序をつけて明らかにしてもらいたいのであります。何年度はこっちは何千万ドル、向こうが幾ら。ことに、韓国が二十八年ごろ、終戦時の評価で九十億円から百二十億円の対日請求権があると言っていたのに対し、三十六年から八年の間に八億ドルにはね上がってきたのは、どういうところをなめられたのか、これらを明らかにするのが国民に対する政府の義務であります。
 アメリカは、三十億ドル以上の経済協力を韓国につぎ込んでいます。たいていの国は、援助というものがありますると、みな立ち直っています。それがなぜできないのかというと、韓国がいたずらに反共を唱えて軍事に狂奔し、アメリカの援助政策もまた軍事中心であったために、経済の基盤が今日までとうとう固まっていないのであります。この誤った考え方の根本を是正して平和共存の方針に切りかえなければ、このわれわれの経済協力は、いっときのささえにしかなりません。日本の財界、産業界は、不況打開のため韓国進出にしのぎを削っております。そして安い労働力に目をつけております。韓国ではこの動きを日本の経済侵略と見ている者が多く、一歩間違えば国交開始前よりももっとひどい状況になります。この面からも条約締結はやめるべしと思うが、外務大臣の見解を伺います。
 政府は、北朝鮮に対する請求権が残ると言っております。残るのはあたりまえであります。日本は平和条約上、全朝鮮と請求権を処理すべき義務があるからであります。北鮮政府とは、いつ交渉をやるのか。双方の請求権はどのくらい残っているか、試算をしたものが当然あるはずでありますから、明らかにしてもらいたい。
 なお、個人の財産請求権の保障については、再再政府から、審議会の答申を尊重するというお話がありますが、この尊重するということは、必ず実行する――お金が大きくちゃ、たまげちまう。そうでなくて、実行してやるのだという御決心があるかどうか、承りたい。
 これで終わりますが、これを要するに、この条約は、いろいろな面で、将棋でいう詰めがなされていない。食い違いが多い。条約交渉の中間報告といったような内容のものであります。基本条約と称せるものではありません。妥協の産物たる条約でありまするから、これが実施された暁には、条約締結の心組みの違いというものが、在日朝鮮人の法的地位や待遇の問題に加えて、ことごとく日本にはね返ってまいることは必至であります。もし、この条約がほんとうによいものであるならば、日本におる朝鮮人がみな韓国籍になだれ込んで入っていくだろうと思います。しかし、約六十万の在日朝鮮人のうち、韓国籍が依然二十万、あとの北鮮系、中立系その他の朝鮮の人々は四十万――動かないのであります。このことが、どういう条約であるかをりっぱに証拠立てているものと思います。
 私は、最後に、この条約はせっかく椎名さんが御苦心しておつけになったが、もはや無効である、こう信じて私は終わります。(拍手)

○国務大臣(椎名悦三郎君) 
 それから請求権の問題に関して、請求権の行くえはどうなったか――八項目の提示がありましたけれども、それを追及するということは、ほとんどもう不可能である。ということは、法的根拠なり、あるいは事実関係というものがはっきりしなければならぬ。ところが、もう朝鮮事変がその間に起こっているし、年月もたっている。それから、両者の法的根拠に対する見解の相違というものは非常に著しいものがあり、これを追及するということは、ほとんどもう百年河清を待つようなことになりますので、これをやめて、そうして経済協力一本でいくということになったのでございますが、これは、請求権のかわりに経済協力をやるというのではない。これはあくまで、新しい国をつくったから、そのお祝い、それから、韓国が今後経済発展の上において少なくとも絶対に必要であろうという点を十分に勘案し、わが国の財政事情も十分に考えた上で、有償二億、無償三億ドルというものが決定したのであります。これは、イギリスあるいはフランスが、旧属領が独立して国をつくる場合に、よくこういう手をやったのであります。これは私は、旧宗主国の当然の義務、責任であろう、かようにまあ考えておる次第でございます。
 以上が私の申し上げる点でございます。(拍手)

 第120回国会 衆議院予算委員会 第16号 平成三年二月二十二日(金曜日)

 外務省条約局長 柳井 俊二

○柳井政府委員 ただいま御指摘の日韓請求権・経済協力協定でございますが、御案内のとおり、この協定の第二条におきまして日韓両国及び両国間の請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたということが確認されておるわけでございます。そしてこの第二条の規定、もう少し詳しい規定がございますが今ちょっとそれは省かせていただきますが、いずれにいたしましてもこの第二条の規定は国民という点に、国籍に着目しているわけでございます。したがいまして、この協定及びこの協定を受けまして、我が国では韓国の方々の請求権、財産請求権の問題を法律で処理しております、消滅させておりますが、一定の例外はございますけれども、原則的には消滅をさせております。このような処理は、もしサハリンに残留された方々の中で韓国籍をお持ちである方々があれば、その方々にも、この協定と法律の適用があるということでございます。

○柳井政府委員 先ほど御説明申し上げましたのは、もし韓国籍の方々がおられればという全く理論的なことでございますが、もし逆に韓国籍の方方が全くおられないという状況で、ただいま先生がお話しになったようなことが恐らく実態だろうと思いますが、その場合には日韓請求権・経済協力協定に基づく処理はサハリンの方々には及ばないということになるわけでございます。
 御案内のとおり北朝鮮籍の方々の財産請求権の問題につきましては、いまだ処理がなされていないわけでございまして、最近始められました日朝国交正常化交渉の中で北朝鮮側と話し合っていくということになろうと思います。

 第120回国会 参議院予算委員会 第15号 平成三年四月四日(木曜日)

 外務省条約局長 柳井 俊

○政府委員(柳井俊二君) お答え申し上げます。
 一つお断りいたしたいのでございますけれども、御質問の通告をいただきましてから韓国側にこの正文の確認をする時間がなかったものですから、私とりあえず手持ちの仮訳に基づいて御説明させていただきたいと思います。
 ただいま御指摘の法律は一九七一年に公布されたものでございまして、その第二条におきましてこの請求権申告の対象の範囲を規定しているわけでございます。二つの面から規定しております。第一点は人的な範囲でございまして、第二点はこの請求の権利の範囲でございます。
 まず、人的な範囲につきましてはこの第二条第一項におきまして、この法律の規定による申告対象の範囲は、一九四七年八月十五日から一九六五年六月二十二日まで日本国に居住したことのある者を除いた大韓民国国民となっております。
 次に、権利の範囲でございますが、そのような大韓民国国民が一九四五年八月十五日以前、その後括弧はちょっと飛ばさせていただきますが、八月十五日以前に日本国及び日本国民に対して有していた請求権等で次の各号に掲げるものとするとございまして、次の各号というのが第一号から九号までございます。そこで、一号から八号までは、例えば日本銀行券でございますとかあるいは有価証券、預金、海外送金、寄託金、保険金というようなものを挙げまして、九号のところで、日本国によって軍人軍属または労務者として召集または徴用され一九四五年八月十五日以前に死亡した者というものを挙げているわけでございます。
 したがいまして、この法律におきましては、私、外国の法律でございますから有権解釈はできませんけれども、少なくとも文理上はいわゆる在日韓国人の方々は除かれておりまして、そして請求の権利の対象という面におきましては、この九号におきまして四五年八月十五日以前に亡くなった方だけが対象になっておりますので、一九四七年以降日本に居住した在日韓国人というのはこの面でも落ちているわけでございます。
 なお、具体的なことは別途また大統領令において定められております。

○政府委員(柳井俊二君) いわゆる韓国との請求権・経済協力協定の規定との関係でございますが、もとよりこの協定の方は日韓間の条約でございますので、韓国側の国内法とは趣旨、目的等において若干の相違がございますので、この規定の表現ぶりが完全に一致するというものではないわけでございます。
 ただ、ただいま御指摘の点につきましては、御案内のようにこの協定の第二条におきまして、この括弧書き的なところはちょっと飛ばさせていただきますが、一項で「両締約国は、両締約国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、」「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」と規定しておりまして、第三項で、長くなりますから省きますが、要するに、この財産、権利、利益につきましては、お互いに他方の締約国の管轄下にあるものに対してとられた措置についてはいかなる主張もしない。また、財産、権利、利益に当たらないような請求権につきましては、同日、同日というのはこの協定の署名の日、署名の日以前に生じた事由に基づくものに関してはいかなる主張もすることができない。いわゆる請求権放棄という形で処理をしているわけでございます。
 ただ、第二条の第二項におきましてそのような処理の例外というものが二つ挙げてございまして、ただいま御議論をされておられます在日韓国人に直接関係ございますのは二項の(a)というところでございます。二項の(a)は「一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益」というふうに挙げてございまして、こういうものについては第二条の一項、一項は最終的な解決でございますから適用があるといえばあるのでございますが、三項のようないわゆる請求権放棄あるいは国内措置に対する請求権の放棄というものは適用がない、そういう例外になっておるということでございまして、この部分の表現は確かに対日民間請求権申告に関する法律の先ほど読み上げました表現と一致しているわけでございます。

 第121回国会 参議院予算委員会 第3号 平成三年八月二十七日(火曜日)

 外務省アジア局長 谷野作太郎
 外務省条約局長  柳井 俊二

○政府委員(谷野作太郎君) 個々のケースによって当事者の方々のお気持ち等は異なるのではないかと思います。一概に私の方から御説明する資料もございませんけれども、他方、いずれにいたしましても、先生も御存じのとおりでございますが、政府と政府との関係におきましては、国会等でもたびたびお答え申し上げておりますように、六五年の日韓間の交渉をもってこれらの問題は国と国との間では完全にかつ最終的に決着しておるという立場をとっておるわけでございます。

○政府委員(谷野作太郎君) 先ほど申し上げたことの繰り返しになりますが、政府と政府との間におきましてはこの問題は決着済みという立場でございます。

○政府委員(柳井俊二君) ただいまアジア局長から御答弁申し上げたことに尽きると思いますけれども、あえて私の方から若干補足させていただきますと、先生御承知のとおり、いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。
 その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。

 第121回国会 参議院外務委員会 第2号 平成三年九月五日(木曜日)

 外務省条約局長  柳井 俊二
 外務省アジア局長 谷野作太郎

○政府委員(柳井俊二君) ただいまの一九一〇年の条約についての御指摘でございますけれども、日朝国交正常化交渉におきまして北朝鮮側はこの条約、いわゆる日韓併合条約でございますが、これは強制を背景に締結されたものであって当初より無効であるというような主張をしているわけでございます。
 日本政府といたしましては、従来からいろいろな機会に御答弁申し上げておりますとおり、この条約は一九六五年の日韓基本関係条約第二条によりまして「もはや無効である」ということが確認されておるわけでございますが、一九一〇年の当時には有効に締結され実施されたものであるという考え方をどってきているわけでございます。ただ、このような法的な評価の問題それからこの条約が締結されました当時の政治的その他の背景とは別の問題であるというふうに考えておる次第でございます。

○政府委員(柳井俊二君) ただいま田先生から御指摘ございましたように、サンフランシスコ平和条約第二条には御指摘のような規定があるわけでございます。この規定、第二条でございますが、これは御承知のとおり領土の処理にかかわる規定でございまして、したがいましてこの第二条で用いられておりますいわゆる請求権は最近問題になっております財産権的な請求権という意味ではございませんで、領土の領有関係の主張にかかわる概念であるというふうに解しております。
 他方、我が国と分離独立いたしました地域との間の財産・請求権の問題の処理につきましては、サンフランシスコ平和条約ではむしろ第四条の(a)項におきまして、日本国と現にこれらの地域の施政を行っている当局との間の特別取り決めの主題とするという規定がございます。そのような規定に基づきまして、日韓におきましては御承知の一九六五年のいわゆる日韓請求権・経済協力協定によりましてこの問題を完全かつ最終的に解決したということでございます。

○政府委員(柳井俊二君) この点につきましても、ただいま田先生から御指摘ございましたとおり、平和条約第四条(b)におきましては、「日本国は、第二条及び第三条」、第三条はこの場合関係ございませんけれども、「に掲げる地域のいずれかにある合衆国軍政府により、又はその指令に従って行われた日本国及びその国民の財産の処理の効力を承認する」という規定があるわけでございます。したがいまして、これは合衆国軍政府のとった措置を承認するということにとどまるわけでございまして、北朝鮮におきましてのこのような処理というものはなかったと思いますので、この北朝鮮におきましての財産の問題というのはこれとは基本的に別個の問題であるというふうに考えております。
 北朝鮮におきまして我が国の財産等がどのように処理されたかということの詳細につきましては。残念ながらよくわからない点が多いわけでございますが、ただ私ども承知している限りにおきましては、北朝鮮におきましていわゆる北朝鮮臨時人民委員会が一九四六年三月五日の北朝鮮土地改革に関する法令というものによりまして、日本国、日本人及び日本人団体の所有地を没収いたしまして、一九四六年八月十日の産業、交通・運輸、逓信、銀行等の国有化に関する法令というもので日本国及び日本人所有の施設を国有化したというふうに承知しております。なお、一九四八年の九月八日に交付されました朝鮮民主主義人民共和国憲法におきましても、日本国及び日本人の財産は国家、すなわち北朝鮮でございますが、の所有に属するとされておりまして、日本国及び日本人の土地所有は永久に廃止されるというふうに規定されているものと承知しております。
 いずれにいたしましても、我が国と北朝鮮との間におきましては両国及び両国国民間の財産・請求権の問題は未解決のままで残っているわけでございますので、今後日朝国交正常化交渉の場でこの問題を解決していきたいというふうに考えているわけでございます。

○政府委員(柳井俊二君) ただいまの点は、先ほどもサンフランシスコ平和条約に触れましたときに日本側の財産・請求権というものもこの規定の対象になっていることを申し上げましたけれども、これはいろいろな戦後の請求権処理の問題で常に問題になってきたところでございますが、北朝鮮との関係につきましても、我が国が置いてきた財産の処理という問題についての請求権というものはこれは交渉の対象になる問題であるというふうに考えております。

○政府委員(谷野作太郎君) 北朝鮮側の主張は、いわゆる日本の統治時代の人的な被害あるいは物的な損害、こういうものを賠償という形で補償せよ、こういうことでございまして、私どもの立場は先ほど来条約局長が申し上げているところでございますが、いずれにいたしましても、そういった個別の先方からの請求に対しましてはやはり私どもといたしましても客観的な事実をまず御開示いただきたい。帳簿を見せろということは言っていないと私は思います。必ずしもそういう具体的な表現ではなかったとは思いますけれども、具体的な積算根拠を政府に示していただきたいという議論を始めております。
 大臣が冒頭申し上げましたように、そういうことも含めて第四回目でようやくそういった具体的な論議を始めたということでございます。

○政府委員(柳井俊二君) ただいま御指摘の日韓基本関係条約の第三条でございますが、第三条におきましては、御承知のとおり、「大韓民国政府は、国際連合総会決議第百九十五号に明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府であることが確認される」というふうにうたっているわけでございます。そして、第三回総会で採択されましたこの百九十五号の決議の前文に当たりますが第二項のところで申しておりますことは、単に唯一の合法的な政府と言っているだけではございませんで、この総会が認識したところの政府というものにつきましていろいろなことを言っているわけでございます。
 例えば、この大韓民国政府が全朝鮮の人民の大多数が居住している朝鮮の部分に対して有効な支配及び管轄権を及ぼしている合法的な政府であるということでございますとか、また朝鮮のその部分の選挙民の自由意思の有効な表明があったというようなこと、さらに当時設立されました臨時委員会が観察した選挙に基づくものであるというようなこと、並びにこの政府が朝鮮における唯一のこの種の政府であることを宣言すというふうに言っているわけでございます。したがいまして、これを受けまして基本関係条約で貝先ほど申し上げましたように、国連総会決議に明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府という認識を言っているわけでございます。
 結論的には、北半分につきましては白紙であるという立場をとっているということでございます。

○政府委員(柳井俊二君) このたび北朝鮮と韓国双方が国連に加盟するということになれば、当然これは国連憲章に言う加盟の資格が認められるということになるわけでございます。
 他方、いわゆる朝鮮国連軍につきましては、ただいま田先生からも御指摘がございましたように、当時ソ連の安保理欠席というような背景もございましたけれども、いずれにいたしましてもその拒否権が発動されなかったために実現されたという経緯があったことは事実でございます。そして、国連憲章との関係で言いますれば、この国連軍いわゆる朝鮮国連軍の設立というものは国連憲章四十二条に基づくものではございませんで、いわゆる強制的な措置というものではございませんで、安保理の勧告に対しまして加盟国が自発的に応じて編成されたものでございます。
 このようにして編成され現に存在するいわゆる朝鮮国連軍の位置づけがどのようなものになるかということは、今後の朝鮮半島におきます南北間の対話、そして軍事的な意味での均衡の問題、また軍縮の問題、そのようなものと総合的にあわせまして検討されていくものであろうというふうに考えます。
 いずれにいたしましても、これまでこのような国連軍の存在、そして板門店におけるいろいろな接触というものが朝鮮半島の安定の維持に一定の役割を果たしてきたということは言えるのではないかと思います。

 第122回国会 衆議院国際平和協力等に関する特別委員会 第9号 平成三年十二月二日(月曜日)

 外務省アジア局長 谷野作太郎
 外務省条約局長  柳井 俊二

○谷野政府委員 お答え申し上げます。
 戦後の補償、賠償と申します場合に二とおりのことがあろうかと思いますが、一つは日本と交戦関係にあった東南アジアの国々でございますが、これらにつきましては、戦後、法的な措置をとりまして、条約のもとに逐一賠償を払って、それによって決着したということは先生御承知のとおりでございます。もう一つは、日本から分離してまいりましたいわゆる朝鮮半島等でございますが、これも先生御案内のように、長い交渉の末に六五年、請求権の形でずっと議論をいたしましたけれども、結局最終的には経済協力の供与ということでこれを決着いたしました。ただいま、したがいまして残っております北側、北朝鮮との関係におきまして同じような請求権の問題を今鋭意先方政府と交渉中であるということでございます。

○谷野政府委員 ただいま御答弁申し上げましたようなことで、多くの国との間には、国と国との関係におきましてはこの問題はすべて決着済みということでございます。他方、例えば韓国のようなところで民間の間で補償を求める声が起こっておることは私ども承知いたしておりますけれども、国と国との関係におきましては、この補償の問題というのはすべて六五年の協定において決着済みというのが私どもの理解でございます。

○柳井政府委員 お答え申し上げます。
 ただいま先生から日韓あるいは日ソの間におけるいわゆる請求権の処理の問題についてお触れになりました。また、中国との関係についても御指摘がございましたが、いずれにいたしましても、例えば日韓請求権・経済協力協定におきましては、両国間の問題といたしましては、先ほどアジア局長から答弁ございましたように、国家及び国民の請求権の問題は「完全かつ最終的に解決された」というふうに規定しているところでございます。また、日ソにつきましても、一九五六年の日ソ共同宣言におきまして、これは具体的には第六項でございますけれども、「日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五年八月九日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄する。」というふうに規定しているわけでございます。他方、中国につきましては、これは御案内のとおり、日中の国交正常化をいたしました際に、中国の方から「戦争賠償の請求を放棄する」ということを宣言しているわけでございます。これも御案内のとおりでございますが、日中共同声明の第五項におきまして、「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。」というふうに規定しているわけでございます。

 第122回国会 参議院国際平和協力等に関する特別委員会 第3号 平成三年十二月五日(木曜日)

 外務省条約局長 柳井 俊二
 委員      矢田部 理

○政府委員(柳井俊二君) 総理、外務大臣から御答弁あると思いますが、私の方から手短に御答弁を差し上げたいと思います。
 矢田部先生もよく御承知のとおり、国連憲章におきましては、国際の平和の維持のために大きく分けまして二つの方法が規定されているわけでございます。第一はいわゆる平和的解決でございまして、これは交渉とか調停その他でございます。もう一つはいわゆる強制的な解決でございまして、平和的な解決が不幸にして功を奏しなかった、そして侵略があった、あるいは平和が破壊されたという場合には、この憲章上の考えでは、国連軍というものを創設いたしまして、それによってそういう侵略を実力をもって排除する、そういう考え方でございます。
 ただ、現実の問題といたしましては、まだ国連軍は創設されていない、こういうことでございます。

○矢田部理君 その解釈は間違っています。これも政府見解とも違う。
 国家間では、日韓交渉とか日中交渉もそうでありますが、なかなかそういう個別の被害者の積み上げで具体的積み上げをしてまとめるのは難しいということで、日韓などでは、つかみでまとまったお金を差し上げて一応国家レベルでは処理をした経緯があります。しかし、個人と国家との関係はそれで終わったわけではない。わかりますか。個人の請求権を国内法的な意味で消滅をさせたものではない。
 例えば日韓請求権協定。日韓両国が国家として持っている外交保護権を相互に放棄はしたけれども、個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではない。したがって、請求権が残っているというのが日本政府の立場なんです。それはお認めになりますか。

○政府委員(柳井俊二君) 政府間で今までいろいろな取り決めをしておりますけれども、そのいわゆる請求権の放棄の意味するところは外交保護権の放棄であるという点につきましては、先生仰せのとおりであります。したがいまして、例えば韓国政府が韓国の国民の請求権につきまして政府として我が国政府に問題を持ち出すということはできない、こういうことでございます。
 ただ、個人の請求権が国内法的な意味で消滅していないということも仰せのとおりでございます。

○政府委員(柳井俊二君) 条約上の処理につきましては、先ほど申し上げたとおりでございますが、ただ我が国が賠償あるいは請求権の処理に関連して支払いましたものを相手側でどのように国民に分配するかということは、それぞれ韓国なりあるいはその他の条約の相手国の国内的な処理に任されたわけでございます。
 したがいまして、我が国との関係で政府間でいわゆる請求権の放棄をやったと申しましても、一切処理をしなかったということではございませんで、例えば韓国の場合では無償三億ドル、有償二億ドルだったと記憶しておりますけれども、これを請求権、経済協力という形で支払った、そして恐らくその一部が関係の個人にも韓国側で支払われたというふうに記憶しております。また、ほかの国につきましてもそのような関係だったわけでございます。
 しからば、そういうような処理をした上で、なおかつ日本の占領中あるいは戦争中に大変に苦労をされた方々がおられるわけでございますから、その方々の個人個人に対して政策的にどのような補償をすべきかどうか、そういう点につきましてはちょっと私の所管ではございませんので、その点は差し控えさせていただきたいと思いますが、法律的な関係あるいは条約上の関係につきましては以上申し上げたとおりでございます。

 第122回国会 参議院予算委員会 第3号 平成三年十二月十三日(金曜日)

 外務省アジア局長 谷野作太郎
 外務省条約局長  柳井 俊二
 委員       上田耕一郎
 外務省欧亜局長  兵藤 長雄
 内閣総理大臣   宮澤 喜一

○政府委員(谷野作太郎君) お答え申し上げます。
 お尋ねの件につきましては、いろいろな数字が日本国内あるいは中国なら中国側においてあるわけでございまして、政府としてこのような場で有権的に申し上げ得る数字はないわけでございますけれども、一、二例どういう数字が記載されておるかということでお聞き取りいただきたいと思います。
 例えば、日本の高校の教科書等には、中国においては約一千万人、フィリピン等では約百万人、インドネシア、ベトナム等ではそれぞれ二百万人という数字が記載されておるのを私ども承知いたしております。それから他方、最近の人民日報等の報道によりますと、中国のある学者の方は、日中戦争で犠牲になった中国の方の数字は二千万人というような数字もございます。
 いずれにいたしましても、いろいろな数字がございまして、遺憾ながら政府としてこういう場で確定的に申し上げる数字は、何せ戦争の混乱中のことでございますから、ございません。御理解いただきたいと思います。

○政府委員(谷野作太郎君) お答え申し上げます。
 まず、冒頭に申し上げなければならないことは、詳細は時間の関係で省きますものの、累次御答弁いたしておりますように、国と国との関係におきましては、そのようなことは既に多くの場合決着済みであるということをまず申し上げたいと思います。
 その上で、ただいま仰せのような先方からの要求、要請が日本の外務省を通じて日本の政府に提起されておることも中国の場合は事実でございますし、例えば先ほどちょっと言及いたしました中国の歴史学者の方によれば、日中戦争によって損失した中国側の財産は約一千億ドルに上るというようなこともございます。他方、中国とは別に、先生も御存じのとおりでございますが、補償要求ということになりますと、朝鮮半島との関係で日本の法廷に、地方裁判所に、例えばサハリンに残留された韓国・朝鮮人の方々の補償要求ということで既に提訴がされておりますし、また最近の事例では、昨日も本委員会で御議論がありましたいわゆる従軍慰安婦の方々からの訴訟が提起されておるような状況でございます。

○政府委員(柳井俊二君) 官房長官からお答えがある前に私の方から、これまでのいわゆる請求権の処理の状況につきまして簡単に整理した形で御答弁申し上げたいと存じます。
 御承知のように、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定の二条一項におきましては、日韓両国及び両国国民間の財産・請求権の問題が完全かつ最終的に解決したことを確認しておりまして、またその第三項におきましては、いわゆる請求権放棄についても規定しているわけでございます。これらの規定は、両国国民間の財産・請求権問題につきましては、日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄したことを確認するものでございまして、いわゆる個人の財産・請求権そのものを国内法的な意味で消滅させるものではないということは今までも御答弁申し上げたとおりでございます。これはいわゆる条約上の処理の問題でございます。また、日韓のみならず、ほかの国との関係におきましても同様の処理を条約上行ったということは御案内のとおりでございます。
 他方、日韓の協定におきましては、その二条三項におきまして、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって同協定の署名の日に他方の締約国の管轄のもとにあるものに対してとられる措置につきましては、今後いかなる主張もなし得ないというふうに規定しております。この規定を受けまして、我が国は、韓国及び韓国国民のこのような財産、権利及び利益、これはいわゆる法律上の根拠ある実体的権利であるというふうに両国間で了解されておりますが、そのようなものにつきまして国内法を制定いたしまして処理したわけでございます。その法律におきましては、韓国または韓国国民の日本国または日本国国民に対する一定の財産権を消滅させる措置をとっているわけでございます。
 なお、いわゆる請求権という用語はいろいろな条約でいろいろな意味に使われておりますが、この日韓の請求権・経済協力協定における請求権と申しますものは、実体的な権利でない、いわゆるクレームとよく言っておりますが、そのようなクレームを提起する地位を意味するものでございますので、当時国内法で特に処理する問題がなくしたがって国内法を制定することはしなかったわけでございます。ただ、これはいわゆる請求権の問題が未処理であるということではございません。
 以上にかんがみまして、このようないわゆるクレームの問題に関しましては、個人がこのようなクレームについて何らかの主張をなし、あるいは裁判所に訴えを提起するということまでも妨げるものではないわけでございますが、先ほどアジア局長からも答弁申し上げましたように、国家間の問題としては外交的には取り上げることはできないということでございます。
 以上が日韓間のいわゆる財産・請求権問題の処理の状況でございます。

○上田耕一郎君 柳井局長が言われたように、国と国との間では一応条約で外交の保護権、これはなくなっている、政府間の請求権を放棄しているんですけれども、個人の請求についてはあるわけですね。これは今大問題になりつつあって、韓国ではデモその他大問題になっている。
 外務省にお伺いします。同じ敗戦国で第二次大戦の主役だったドイツでは、こういうヨーロッパ諸国その他に対する被害にどういう補償をやってきましたか。

○政府委員(兵藤長雄君) ドイツが第三国に対していわゆる補償という意味で行ったことについてまとめて御報告申しあげますと、まずイスラエルでございますけれども、一九五二年九月のユダヤ人難民のイスラエルにおける居住及び再統合の拡大のための財及び役務の行使に当てるための条約によりまして、総額三十四・五億マルクを支払っております。一方、フランスを初めといたします十二の西側の国とは、一九五九年から六四年にかけまして次々と取り決めによりまして、国は省かせていただきますけれども、総額は九・九億マルク。さらに、一九六一年から七二年にかけましてポーランド等東欧四カ国に向けまして、同じく個別の取り決めによりまして総額一・二億マルクを支払ったというふうに承知いたしております。
 さらに、国際的な措置といたしまして、戦争により発生いたしました難民支援を目的といたしまして、一九六〇年十一月に国連難民高等弁務官と協定を締結いたしまして、当初四千八百五十万マルクの基金を設置いたしまして、それをさらに八一年、八四年に追加取り決めによりまして八百五十万マルクの補充支出を行い、総額五千七百万マルクを支払ったというふうに承知いたしております。

○国務大臣(宮澤喜一君) 戦後、我が国が荒廃から立ち上がります段階で、我々の先輩が平和の回復についていろいろな苦労をされました。それはサンフランシスコ講和会議を初め多くの二国間条約、その中には賠償協定もございましたが、あるいはまたいわゆる共同宣言といったようなもの、いろんな形で国と国との関係は、先ほど政府委員が答弁を申し上げましたように、ともかくも国民の負担において処理をされたわけでございます。それは先輩たちの非常な御努力のおかげであったと考えておるものでございまして、新たに個人が自分の立場からそういう請求権を提訴してこられる、国と国との関係は処理されておるわけでございますけれども、そういうことが起こってまいりました。
 これはしかし、なかなか容易ならぬ問題でございます。事実関係の究明ということもございましょうし、またここまで先輩が処理をされてぎた問題との関連もございましょうし、大変に難しい問題だと思いますが、先ほど官房長官が、昨日も申し上げておりましたけれども、こういう問題についてできるだけ事実関係の解明に当たりたい、まずそれを考えております。

 第123回国会 衆議院予算委員会 第2号 平成四年二月三日(月曜日)

 委員       山花 貞夫
 外務省アジア局長 谷野作太郎
 外務省条約局長  柳井 俊二

○山花委員 今のテーマにつきましては、総理の施政方針と外務大臣の過日の方針と、似ているようで外務大臣のは、誠意を持ってやるということがきちんと書いてあったので、そこのところを評価したいと思います。これからもそういう姿勢で進んでいただきたいと思いますが、お答えしてもここだけで議論とめるわけにはいきませんから本論に戻して、先ほどの日韓首脳会談に戻して伺っておきたいと思うのですけれども、韓国の政府は、その中で一つのテーマとして残った従軍慰安婦の問題について一月二十一日、韓国側でも各省庁の実務責任者会議を開いて、日本政府に対して徹底した真相解明とこれに伴う適切な補償などの措置をとるよう求めている、こういう方針が決まったそうです。韓国内の市民運動が国連に持ち出すという問題もある。大体この問題については、政府はずっと問題に触れないで、逃げて逃げて逃げてきましたね。実態、真相究明、調査をすると言いながら、みずからこういうものがありましたという報告はなかった。市民運動や学者の先生がやっと見つけた資料が世にあらわれて、そこから動き始めだというのが実態じゃなかったでしょうか。
 実は、この問題につきましては、これまで五点ほどの資料が集まったということのようでありますけれども、その後、四十七点ぐらいの新しい資料が見つかったということにつきまして、これは私は行いません。昨日それを入手いたしました、後ほど我々の同僚の伊東秀子議員がこの問題に基づいて、新しい四十七点の資料に基づいて伺いたいと思いますので、真相究明の努力につきましては、そうした資料を積極的に政府が発表して、そして内外に明らかにする中でオープンな格好で進めていただきたいという、これからの予算委員会での問題について御紹介するにとどめたいと思います。
 さて、そこで、問題絞っていきまして、従軍慰安婦の補償の問題につきまして、現在の政府の基本的な考え方はどうなっているんでしょうか、この点について伺いたいと思います。

○谷野政府委員 先生も御案内のとおりでございますが、本件につきましては、ただいま日本の国内におきまして訴訟の手続がとられております。政府といたしましては、その帰趨を見守るということでございますが、あえて申し上げますれば、この種の問題も含めて法的には六五年の日韓の正常化の折に決着済みであるというのが政府の立場でございます。

○山花委員 決着済みであるということについてもう少し敷衍して御説明をいただきたいと思います。なぜ決着したんですか。この点について御説明いただきたいと思います。

○柳井政府委員 お答え申し上げます。
 先生も御承知のとおり、一九六五年、昭和四十年の圧韓請求権経済協力協定の第二条におきまして、日韓両国及び両国国民間の財産請求権の問題がこの協定をもって完全かつ最終的に解決したということを確認しているわけでございます。また、この協定の第二条三項におきましては、いわゆる請求権放棄についても規定しているわけでございます。
 それで、これらの規定は、両国国民間の財産請求権問題につきましては日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄したことを確認しているものでございまして、これ自体はいわゆる個人の財産請求権そのものを国内法的な意味で消滅させるものではないということは、今までも何度か御答弁申し上げたとおりでございます。
 これらのいわゆる条約上の処理の問題でございますが、この日韓の場合におきましては、これも御承知のとおり二条三項におきまして、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって同協定の署名の日に他方の締約国の管轄のもとにあるものに対してとられる措置につきましては今後いかなる主張もなし得ないというふうに規定いたしまして、一定の国民の権利、我が国におきましては韓国及び韓国国民の財産権等を、法律をもって、法律を制定いたしまして消滅させたということでございます。
 長くなりますのでこの程度にとどめますけれども、冒頭申し上げましたとおり、日韓両国間におきましては、両国間の問題といたしましてはこの請求権の問題というものが完全かつ最終的に解決したということでございます。

○山花委員 短く伺いたいと思います。
 完全かつ最終的に解決されたと説明しましたが、解決したということは、相手側に対して賠償金を払うなり和解金を払うなりしたということなのでしょうか。この点について伺います。

○柳井政府委員 簡単に要点だけお答えを申し上げますと、当時のこの日韓の交渉におきまして、一方におきましては、ただいま申し上げましたように財産請求権の問題は完全かつ最終的に解決したということ、同時にまた、我が国から経済協力といたしまして無償、有償の一定額の資金を供与をすることを約束をし、これを実施したということでございます。このような形におきまして我が国から一定の資金が、具体的には財産、役務ということでございますけれども、一定額の経済協力が行われた、そして同時に請求権の問題が解決された、こういうことでございます。
 さらに、若干繰り返しになりますけれども、この財産請求権の問題につきましては、この協定によりまして、日韓間で外交的にこれを取り上げることは行わないという形で解決したわけでございます。

○山花委員 私が伺ったところとちょっとずれたお答えになっているわけですけれども、お話は、無償三億ドルの供与、有償二億ドルの長期低利の貸し付けという経済協力ということによって完全かつ最終的に請求権問題については解決されたということの説明だったと思いますけれども、この無償、有償五億ドルの経済協力ということは、請求権との関係ではどういう関係にあるんでしょうか。この点について、今の御説明ではよくわかりません。御説明していただきたいと思います。

○柳井政府委員 当時の日韓国交正常化交渉におきましては、この請求権の問題につきまして、先生も御承知のとおり大変に長いかつ複雑な、困難な交渉が行われたわけでございます。その結果といたしまして、ただいま先生もお触れになりましたように、無償三億、有償二億ということがこの協定で約束され、実施されたわけでございます。
 これは、この協定上は直接韓国及びその国民に対する補償と、直接そのような支払いという形では行われなかったわけでございますけれども、ただ、先ほども申し上げましたように、経済協力という形で日本から実質的には資金が韓国の方に行く。そして、一方におきましては、先ほども若干触れましたように、請求権の問題につきましては、一定の場合には請求権の放棄あるいは国内的な財産権の処理に対して相手側が主張しないという形で解決をしたわけでございます。
 したがいまして、経済協力と請求権の処理というものがこの協定のもとにおいて並行的に行われ、俗に言えば一つの大きなパッケージとして解決がなされたということでございます。

○山花委員 パッケージという言葉の意味がわかりませんね、聞いておって。この経済協力の性質は何だったんでしょうか。請求権問題の処理あるいは請求権を解決するために肩がわりとしての五億ドルということだったんでしょうか。この点について伺いたいと思いますが。

○柳井政府委員 先ほども申し上げましたとおり、この経済協力というのは韓国側の請求権あるいは請求に対する直接の支払いというものではございませんけれども、日韓両国国家間におきましては一定の額の資金が実質的には韓国側に支払われるわけでございますので、そのようなことも考慮して、請求権の放棄等の形で請求権問題を解決した、そういう一つの大きな外交的な交渉の結果であったということでございます。

○山花委員 経済協力を行うことになった、それで請求権がなくなった。この関係はどういう関係なのですか。法律的な関係か何かあるのですか、あるいは全く関係ない話なのですか。全く関係ないということになれば、この完全かつ最終的に解決されたということはわかりにくくなると思いますけれども、この点についてさらに伺いたいと思います。

○柳井政府委員 この点、若干繰り返しになって恐縮でございますけれども、先ほど来申し上げておりますとおり、日韓請求権経済協力協定におきまして、一方においては請求権の放棄等の形での請求権問題の処理、解決ということをなし、同時に並行的に経済協力というものを行うという形で、この協定上、直接その請求権の補償というような形では規定しておりませんけれども、しかし、全体としてはそれぞれが外交交渉上関連を持って妥結に至ったということでございます。これを俗にパッケージと、大きな形のパッケージということを言って申し上げているわけでございます。

○山花委員 ということですと、請求権の問題と経済協力の問題は全く関係なかったんだと、関係なかったんだけれども、並行的に解決したから一緒に整理したんだ、こういうことですか。要するに、法律的に、条約上法律的には関係ない問題がたまたま一緒になって解決したと、外交上政治的に解決したということですか。そういうことならそういうことでいろんなこれから出てくる問題についての対応の仕方が出てくると思いますけれど、も、もう一遍そのパッケージの中身、わかりませんね、聞いておって。全く関係ないものがたまたま一緒になってということなのですか、それとも関係あるのですか。両方がパッケージということの意味についてさらにちょっと伺いたいと思います。

○柳井政府委員 これは全く関係ないということではございませんで、むしろ外交上一つの大きな交渉の中で関係があったからこそパッケージということを申し上げているわけでございます。
 繰り返しになりますが、請求権の補償という形で規定してはおりませんけれども、請求権の解決を考慮に入れて、日本側から見れば経済協力を行う、また韓国側から見れば日本側から経済協力という形で実質的に資金が供与されるということを考慮してこの請求権の問題を解決したということでございます。したがいまして、この規定上は請求権の補償という直接の書き方はしておりませんけれども、全体としてこれは両者関連して大きな一つの当時の外交上の判断として、これは両方、両側の判断でございますけれども、この問題を解決したということでございます。
 当時既に日本の韓国に対する支配というものが終わって相当の年限もたっておりました。具体的な請求権の積み上げ金額等についてもいろいろ議論が交渉上あったわけでございますけれども、相当の年月もたち、また資料も必ずしも全部そろっているわけではないということも考慮いたしまして、一つの大きな解決策ということで、一方においては経済協力をなし、一方においては請求権問題の解決、放棄等の処理を行うということでございます。したがいまして、両者は交渉上関連をしていたということでございます。

○山花委員 請求権の補償ということではないけれども関連を有しておった、こういう結論というふうに聞きました。
 請求権というのはどんな中身があったんですか。その中身には例えば慰安婦の皆さんの補償問題等は入っておったんですか、入ってなかったんですか。

○柳井政府委員 当時、日韓国交正常化の大変長い複雑な、かつ困難な交渉の中でいろいろな具体的な請求が韓国側からなされていたわけでございます。ただいまここにそのすべての資料を持っておりませんけれども、その結論といたしまして、日韓請求権経済協力協定の第二条の第一項におきましては、ちょっとこれは短いので読ましていただきますが、「両締約国は、両締約国及びその国民」、ちょっと間を飛ばしますが、「の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題がこサンフランシスコ「平和条約第四条同に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」というふうに規定しているわけでございます。したがいまして、交渉の過程でいろいろな具体的な請求がなされた経緯がございますけれども、そのようなものをすべて含めて完全かつ最終的に解決されたということでございます。
 この交渉の過程で出されました具体的な請求につきましては、例えば対日八項目の請求というようなものもあったわけでございます。ただ、いわゆる慰安婦の問題について当時具体的にそのような請求がなされたというふうには私は承知しておりません。ただ結論といたしまして、あらゆる請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたということでこの条約上の合意をしたということでございます。

○山花委員 今お話がありましたとおり、当時八項目の請求がありました。その中に、今またお話がありましたとおり慰安婦の補償問題についてはその中には入っていなかったということです。入っていなかったのに全部解決したという理屈はどこから出てくるんですか。全く相談していなかった、解決していなかった問題について整理できてないんじゃないですか。テーマの中に入っていなかったんだけれども解決したはずであるというその理屈について説明していただきたいと思います。今これはわかりませんね。

○柳井政府委員 お答え申し上げます。
 ただいま申し上げましたとおり、いわゆる対日請求八項目というようなものがございまして、そのような中で韓国側が具体的に請求したものの中に、いわゆる慰安婦の問題というのが入っていなかったという経過はあるわけでございます。ただ、それでは当時韓国側があらゆる問題について、あらゆる請求について具体的に請求をしたかということになりますと、これは大変に日本の統治時代のいろいろな問題、これを具体的に請求するというのは種々困難があったと思います。
 この請求権の処理の問題というのは、日韓に限りませんけれども、具体的な問題の処理ということでいろいろ議論はいたしますけれども、そのような請求の根拠なり資料なりが必ずしもそろわないということも現実でございます。そこで、交渉上ある一定の時期に妥結を図るということになりました段階におきまして、そのような具体的には触れることができなかったような問題も含めて請求権問題をすべて完全かつ最終的に解決するという処理がしばしば行われるわけでございまして、繰り返しになりますのでこれ以上申し上げませんけれども、先ほど読み上げましたように、日韓の条約の上では、そのような当時具体的に取り上げられなかった問題も含めてすべての請求権の問題が両国間では完全かつ最終的に解決されたというふうに規定しているわけでございます。したがいまして、この点につきましては、日韓両国政府間で合意の上でそのような処理をしたということでございます。

○山花委員 議題として取り上げられていなかったということについては、今お話しのとおりでありまして、取り上げていなかったことについて解決したと言うのは、これは理屈に合わないというように思います。この問題については、八項目の中で全体として対応しているわけでありますから、全体としてそういう理屈にならざるを得ないと考えるわけでありまして、また今資料の問題がありましたけれども、改めてこの問題については取り上げていきたいと思っています。
 最後に訴訟の問題について、訴訟の推移を見守るということだったわけですけれども、単に長い裁判を見守るだけでよろしいのでしょうか。こうした問題について五年、十年長く続いていくならば、その間見守っているということでは足りない、政治的な決断が必要なのではなかろうか。この点について、これは官房長官がこの問題についてずっと担当しておった経過もおありになるようですから、この問題についてどういうように対応するお気持ちなのか、新しい議論も出てきておるようでありますから、この点についてまとめて伺っておきたいと思います。

○加藤国務大臣 私が累次記者会見等で申し上げてまいりましたことは、このいわゆる韓国人慰安婦の問題につきましては、法的、条約的にはただいま言いましたように個人の補償の問題は処理が終わっているというのが政府の解釈でございます。ただいま条約局長が申しましたように、しかし、個人の訴権をまたこれを奪うものではないので、現在進行されております裁判において司法部がいかなる判断をするかを見守っていきたい、こう思っております。
 ただ、この慰安婦の問題は、単にそれだけではない心の傷の問題という点もございますので、我々はそういう観点から何をなし得るのかということを考えていかなければならないと思っておりますけれども、しかし、それをどういう形にするのか、これからいろいろ政府としても慎重に考えていかなければならない問題、またいろいろな意見をお伺いしながら考えていかなければならぬ問題だと思っております。

○山花委員 この問題については、裁判の訴状を一遍ごらんになっていただきたい、こういう気がいたします。大変分厚いものではありますけれども、この現物を読んでいただきたい。まさにこれまでの私たちの歴史をそこから知らなければいけない。そして、その中にある苦難に満ちた原告の皆さんのその叫びというものをぜひ直接聞いていただきたい。そうした中で、官房長官も今この問題についての重要性について触れましたけれども、この問題については、単なる裁判を見守るということでは到底済まない問題だということを強調しておきたいと思います。

 第123回国会 衆議院予算委員会 第4号 平成四年二月十九日(水曜日

 委員       伊東 秀子
 外務省条約局長  柳井 俊二
 内閣総理大臣   宮澤 喜一

○伊東(秀)委員
 あと次に、従軍慰安婦問題について質問を移らせていただきたいと思います。
 従軍慰安婦問題では、一月に宮澤さんは訪韓なさって、日本国の総理として謝罪なさったその誠意には、私も大変敬意を表するものでございます。しかし、そこにやはり裏づけになる補償がないということで、大変韓国の方々も、それから日本の私も含めてやはり悲惨な実態、従軍慰安婦の方々の実態を思うときに、非常に良心と誠意が問われているということを思うわけでございます。
 平成三年の三月二十六日の参議院の内閣委員会で政府は、日ソ共同宣言における請求権放棄の問題に関して、放棄したのは国家自身の請求権及び国家が自動的に持っていると考えられる外交保護権であって、国民個人からソ連またはその国民に対する請求権までは放棄していないという御答弁をしておられます。
 これを裏返しますと、つまり今従軍慰安婦の方々が日本国政府を相手として損害賠償請求をしているわけでございますが、彼女らが個人として日本国政府に対する請求権、損害賠償請求、それは何ら消滅していないというふうに受けとめていいわけでございますね。

○柳井政府委員 お答え申し上げます。
 いわゆる請求権放棄の条約上の意味につきましては、これが国家の持っている外交保護権の放棄であるということは、従来からいろいろな機会に政府が答弁申し上げているとおりでございます。そして日韓の請求権の処理でございますが、いわゆる日韓請求権・経済協力協定におきましては、ほかの場合よりも若干詳しい規定を置いておりますことは、先生も御承知のとおりでございます。
 御案内のことなので余り詳しく御答弁申し上げませんけれども、重要な点でございますので、ポイントだけ申し上げさせていただきたいと思います。
 この日韓請求権・経済協力協定の第一条におきましては、いわゆる経済協力のことを規定しているわけでございますが、第二条の第一項で、日韓の両国間のあるいは両国民間の財産、権利及び利益並びに請求権に関する問題が、「完全かつ最終的に解決されたこととなる」ということを確認しているわけでございます。そして二項では若干の例外、すなわちこの協定による請求権処理の対象にならないものを挙げておりますが、これは戦後の通常の日韓間の取引に基づく財産権というようなものでございますので、従軍慰安婦のような問題には関係ないわけでございます。そして三項におきまして、要点としては、財産、権利及び利益に関する措置、国内的な措置、そして請求権につきましては「いかなる主張もすることができない」ということを規定しているわけでございます。そして、この三項の規定を受けまして、これも御承知のとおり、我が国におきましては昭和四十年に財産権の処理に関する国内法を制定いたしまして、いわゆる法令上の根拠のある実体的な権利につきましては、韓国及び韓国国民が我が国において有するそういう財産権を消滅させる措置をとったわけでございます。ただ、この場合におきまして、そのような国内法上の根拠のない財産的価値を認められるいわゆる実体的権利というものでない請求権につきましては、この法律の対象になっていないわけでございます。
 そこで、それではこのような意味の請求権は何かということになるわけでございますが、これはクレームとも言っておりますけれども、このような請求を提起する地位を意味すると考えております。いわゆる外交保護権の放棄でございますから、そのような個人がこのようなクレームを提起するということまでも妨げるものではない。したがいまして、我が国の裁判所に訴えを提起するというようなことは、そこまでは妨げておらないということでございます。

○伊東(秀)委員 裁判において請求する権利、つまり請求権は消滅していないという結論だと思うのですが、それで、韓国において首相は、補償の問題については裁判の行方を見守りたいということを両首脳会談の中でも発言しておられます。しかし、今問われているのは、日韓基本条約の締結の段階では、軍の関与は全くなかった、民間業者が勝手に連れ歩いていたのだという事実のもとに締結した条約であり、さらに新しい事実が出てきたときにその事実に基づいて宮澤総理は謝罪をした、その新しい事実に対しての一つの加害国としてその誠意をどうあらわすか、つまり道義的責任、政治的責任がこの問題では問われているのではなかろうか、こう考えるわけでございます。
 そこで、それに入る前に、まず現在の従軍慰安婦に関する軍の関与についての首相の認識をお伺いしたいと思います。
 訪韓の段階では、軍が何らかの形で関与していたことは否定できないという大変消極的な事実認定のもとに謝罪なさったわけでございますが、その後、私は二月二日に四十七点の新しい従軍慰安婦に関する資料を入手いたしましたし、昨日さらに九点資料を入手いたしました。その入手した資料では、総理の訪韓前の見つかっていた五点の資料にはないものがいろいろ出てございますが、総理はそういった新しい資料に基づく内容を報告を受けているかどうか、さらに、その報告に基づいてどのような事実認識を持っておられるか、ちょっとお伺いいたします。

○伊東(秀)委員 今の御答弁では、大変消極的な、まあ言いづらいことかもしれませんけれども、かつての戦争は聖戦であったというふうに日本国政府は言っていたわけでございますから、言いづらいことなのかもしれませんが、私が入手した文書にはっきり出ているわけでございますね。
 それは昭和十三年の七月一日から七月三十一日までの歩兵第九旅団陣中日誌というものの中に出てくるものでございますが、これは、昭和十三年の六月二十七日に、北支那方面軍参謀長岡部直三郎という人から陸軍の方面軍各部隊に指示した通牒としてこういうふうなものが出ております。つまりこの北支那方面ですけれども、軍占拠地内の治安が大変悪くなってきている。治安回復の進捗は遅々たるものである。その主なる原因は、「軍人及軍隊ノ住民ニ対スル不法行為カ住民ノ怨嗟ヲ買ヒ反抗意識ヲ煽リ共産抗日系分子ノ民衆煽動ノロ案トナリ治安工作二重大ナル悪影響ヲ及ホスコト尠シトセス」。中略しますと、「日本軍人ノ強姦事件カ全般ニ伝播シ実二予想外ノ深刻ナル反日感情ヲ醸成セルニ在リト謂フ」。この軍の発行した文書に、日本軍の強姦事件がその占領地全般に伝播しちゃってどうしようもない状況だ。だからこのような「軍人個人ノ行為テ厳重取締ルト共ニ一面成ルヘク速ニ性的慰安ノ設備ヲ整へ設備ノ無キタメ不本意乍ラ禁ヲ侵ス者ナガラシムルヲ緊要トス」。このように軍の参謀長自身が、強姦とか放火とか住民に対する不法行為がもう蔓延してどうしようもない、だから取り締まると同時に、もはや慰安所をつくって何とかしなければいけないということを通牒として出しているわけですね。ここに見られることは、日本軍が、いかにこれは聖戦と言いながら蛮行を繰り返していたかということの、この太平洋戦争の内実が明らかにされるかと思いますし、女性をセックスの対象としか見ない、この軍の発想というもの、これが非常に人道上も問題であるということを、軍自身の文書が裏づけているのではなかろうかと思われるわけでございます。
 これは昭和十五年に、さらに軍紀振作対策という、支那事変の経験より見たる軍紀振作対策という文書でございますが、陸軍省の副官の文書にも、川原直一という人が出した文書の中にもはっきり出ておりまして、もうこの支那事変の中で、中身だけ紹介させていただきますと、略奪、強姦、放火、捕虜惨殺等、皇軍の本質に反する幾多の犯行を生じたために、聖戦に対する内外の反感はもうどうしようもない状況に至っているということがうたってあるわけでございます。このような目的から非常に、何とも非人道的な目的から軍の慰安所が設置されたということが資料上明らかになっておりますし、さらには、もう一つ重要な文書としては、金沢大学の医学部の教授で、当時、軍の軍医大尉という位におられた早尾席雄と読むのでしょうか、この方の「戦場ニ於ケル特殊現象ト其対策」という中にも同じようなことがありまして、さらには上海事変、これは昭和十二年のころですが、大変強姦がふえたことと、中国での商売の女性との接触から性病が軍隊に蔓延している。だから内地や朝鮮半島の少女たちを、女たちを連れてきて、性病を予防して、その管理も軍がやらなきゃいけないというようなことが書いてあるわけでございます。
 こういった、本当にこの日本の戦争の本質にかかわるようなことを暴露する形で、今回従軍慰安婦の方々の訴訟が提起されている。まさしく、これは法的な責任などというものではなくて、私は、新たな日韓関係の構築とか、国際社会で信義を求めたいという、首相の施政方針演説にもございました。これから見て、まさしく道義的責任、政治的責任が問われていることではなかろうか。この事実に誠実に対処するためには、被害者になられた方々のいる国の方々に対して、申しわけなかったと、誠意をこういう形で受け取ってくださいと自発的に補償を申し出るのが、私は、本当に新しい日韓関係の構築につながると確信しているわけでございますが、そういった点については、首相はいかがお考えでございましょうか。

○伊東(秀)委員 裁判の経緯を見守るということをおっしゃっていらっしゃいますけれども、もう原告になられた方々は大変高齢である。戦後五十年近く経ておりますし、しかも、ここには内閣法制局長官もいらっしゃるように、この事件は戦前の事件である。戦前の事例を国家に対して、国家の不法行為に対して損害賠償を請求する場合の法的な、適用される法律があったのか。民法上は、天皇は神聖にして侵すべからずであり、天皇のもとにあった皇軍の不法行為は問われない状況、民法の適用はないじゃないか。さらには、国家賠償法というのは昭和二十二年にできた法律でございます。ですから、これが裁判にかかっているといっても適用される法律はないわけでございまして、裁判の経緯を見守るというのはまさしく時間稼ぎ、責任逃れの方便にすぎないじゃないか。本当に誠意があり、新しい日韓関係の構築を真剣に模索するのであれば、この韓国の国民感情、それはもう私などよりも、首相が一月に訪韓なさったときにつぶさにごらんになったと思うのですけれども、それに政治家の決断として何らかこたえるということ、それが今問われているのじゃないかと思うわけでございます。
 裁判の経緯を見守るということは、非常に責任逃れである。それはなぜかといいましたら、適用される法の問題、時効の問題、あらゆる、また慰安所の中のあのおぞましい実態を重言しなければ、今原告になった方々は損害賠償を受けられないのかという非常に人道上問われる問題があるわけでございます。こういったことを考えても、まだ首相は裁判を見守るとおっしゃるのかどうか、いかがでしょうか。

○宮澤内閣総理大臣 先ほど条約局長からお聞き取りいただきましたような国と国との法律関係、それから訴訟について、個人が我が国の法廷に訴訟を起こすということは、もとよりその個人の自由である、権利である、ただ国家的な保護は受けないけれどもという、そういう法律関係等々万般のことを考えてまいりますと、我々の先輩が我が国として、サンフランシスコの講和条約を初め多国間あるいは二国間のいろいろな条約、協定等によって、問題はともかく整理をされてきたという、過去のそういういわば事実がございます。そういうことも考えながら問題を考えてまいりませんとなりませんので、そういうことから先ほど申しましたようなお答えをいたしておるわけであります。

 第123回国会 衆議院外務委員会 第2号 平成四年二月二十六日(水曜日)

 委員      土井たか子
 外務大臣    渡辺美智雄
 外務省条約局長 柳井 俊二

○土井委員 最近非常にニュースでクローズアップをされております従軍慰安婦の問題も含めて強制連行をされた人たち、従軍した人もあれば、あるいは日本の国内で炭鉱やまた建設現場や軍需産業なんかで強制労働に従事した人もございますが、そういう人たちから補償の請求があるときに、もうこの問題は解決済みでございますという答弁を今までされてきた。解決済みとおっしゃる根拠はどこにあるのですか。

○柳井政府委員 御承知のとおり、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定におきましては、日韓両国及び両国国民の財産請求権の問題は日韓間の問題として完全かつ最終的に解決したということが確認されているわけでございます。これまた御承知のとおり、この解決と並行いたしまして無償三億、有償二億ドルという経済協力を実施したものでございます。いわゆる個人の請求権にかかわる問題につきましても、この日韓間における条約上の処理の対象となっていますことはこの条文上も明らかでございます。したがいまして、日韓間の問題としてこの請求権の問題は完全かつ最終的に解決したということでございます。
 根拠と申しますのは、この一九六五年の日韓間の請求権・経済協力に関する協定でございます。

○土井委員 柳井さんの御答弁というのは、外務省のその条約にかかわる御答弁としては大分に変遷しているのです。
 先日予算委員会での御答弁で、今おっしゃった有償、無償五億ドルですね、これは一条の問題だと思いますが、後でおっしゃった完全かつ最終的に解決という、これは二条の問題だと思いますが、これを大きなパッケージとして解決がなされたとおっしゃっておる。これは法的に関係しているのですか。

○柳井政府委員 この協定上は、ただいま先生おっしゃいましたとおり経済協力の問題は第一条で規定しておりまして、いわゆる請求権、財産請求権の問題は第二条で規定しているわけでございます。
 この協定上、直接財産請求権の問題の解決のために五億ドルを支払うというような規定はしておりませんけれども、これも先生御承知のとおり、当時日韓の国交正常化に至る大変な長い、かつ困難な交渉の中で、請求権の問題というのは非常に深く、幅広く討議されたわけでございます。ただ、もう当時既に戦後相当の時日がたっておりましたし、また第二次大戦後におきましても朝鮮動乱ということもございまして、一つ一つの請求権の積み上げ、あるいはその裏づけということができなかった、非常に困難であったという事情があったわけでございます。その結果、日韓間の交渉によりましてこの請求権の問題は一括してこの協定に規定されているような形で最終的かつ完全に解決する、そしてそれとともに経済協力を行うという形で決着したということでございまして、規定上この経済協力の問題と請求権の問題を直接関連づけて書いてはございませんけれども、この交渉の中で、先日予算委員会で私御答弁申し上げましたけれども、一つの大きなパッケージとして関連づけられて解決したということでございます。

○土井委員 今の柳井さんの御答弁からしますと、請求権はこの日本から出した金額によって放棄するという意味を持つというふうに聞こえるのですが、当時の、これは請求権及び経済協力協定ですけれども、審議をずっと読んでみますと、全く違いますよ。
 椎名外務大臣の明確な答弁がある。一条と二条とはどういう関連にございますかという質問に対して、「法律的な関連性はございません。」そうして、「経済協力はあくまで経済協力でございます。もしこれが賠償的性格を帯びるものであれば、協定の細部にそれがあらわれるはずでありますけれども、そういうことはございません。あくまで経済協力として取り扱っております。」そして、経済協力の性格は何かという質問に対して、「経済協力でございます。」繰り返しこれを答弁されて、「請求権問題と経済協力とは、何ら法律上の因果関係はございません」と答えられていますよ。「総計五億ドルの経済協力はあくまで韓国の経済建設に役立てるため供与するものでございます。」と明確に答弁されていますよ。
 今の柳井さんの御答弁と大分違うのです、これは、いつの間に変わったのですか。当時は、この協定を締結することのための質問、答弁、その場所での御答弁が、外務省の答弁としてそうだった。大臣の答弁としてそうだった。大臣が責任持って答弁された中身がそうだったのですよ。

○柳井政府委員 私、先ほども御答弁申し上げましたとおり、この協定上経済協力の問題と請求権の問題が法律的に関連して規定されているということではないということも申し上げている次第でございます。
 ただ、この交渉の過程で、この請求権の問題が論じられる一方、それと並行して経済協力の問題も討議されまして、そして最終的には経済協力を行う、そしてそれと並行して財産請求権の問題も解決するという一つの大きな合意ができたわけでございます。したがいまして、私が御答弁申し上げたことと、この協定を審議していただきましたときに当時の椎名外務大臣その他政府の関係者が御答弁されたこととの間に、別段変更とか矛盾とか、そういうことはないというふうに考えております。

○土井委員 大きなパッケージとしてわざわざ言われるところが紛らわしいのです、これ。よっぽど今私が申し上げた椎名外務大臣の答弁で、はっきりしている。はっきりしていることを何だかわからない、誤解を生ずるような紛らわしい表現につくり変える必要はないのです。だから、その辺はまずはっきりしておいていただきたいと思うのですよ。
 一条と二条というのは、法的因果関係はない、関連性はないということをはっきり答えられているのですから。大臣、よろしゅうございますね、これは。議事録に従って私は申し上げております。これは大臣からお聞かせいただきたいと私は思いますよ。政治的な判断ですから、はっきり。

○柳井政府委員 条文は大変長いので、また先生もよく御存じでございますので、これを読み上げるということはいたしませんけれども、(土井委員「読んでくださらなくて結構です。議事録に従っているのです」と呼ぶ)この協定上は、先ほども申し上げましたとおり、請求権の問題と経済協力の問題が法的に直接関連づけて規定されているということではございません。
 また、この協定の締結当時、当時の椎名外務大臣はこのように申されております。これはちょっと短いので引用させていただきますが、「請求権の問題と経済協力、これは、日本の対朝鮮請求権は、軍令及び平和条約等のいきさつを経て、もはや日本としては主張し得ないことになっておりますが、反対に、韓国側の対日請求権、この問題について、この日韓会談の当初において、いろいろ両国の間に意見の開陳が行なわれたのでありますけれども、何せ非常に時間がたっておるし、その間に朝鮮動乱というものがある。で、法的根拠についての議論がなかなか一致しない。それかも、これを立証する事実関係というものがほとんど追及ができないという状況になりまして、これを一切もうあきらめる。そうして、それと並行して、無償三億、有償二億、この経済協力という問題が出てまいりました。」云々というふうに申されております。

○土井委員 今私は議事録に従って申し上げているので、さらにそういうことの注釈というのは不要だと思うの。この点ははっきり、条文上についてどういうふうに考えたらいいかということを私がお尋ねしたことに対するこれは裏づけになるそのときの議事録でございますから。よろしいですか。
 さあそこで、ここで「完全かつ最終的に解決」とおっしゃっていることは、いわゆる個人の請求権そのものを否定してはおられませんね。いかがですか。

○柳井政府委員 条約上、先ほども先生がお触れになりましたとおり、第二条でいわゆる財産請求権の問題を規定しているわけでございますが、ここでは要するにこれらの問題が「完全かつ最終的に解決された」ということを言っているわけでございます。ただいま申し上げましたのは第二条の一項でございます。
 そして、この同じ第二条の三項におきまして、ここはちょっと短いので読ませていただきますけれども、一定の例外がございますが、その例外を別としまして、「一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であって同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。」この「同日」というのは、この協定の署名の日、すなわち一九六五年の六月二十二日でございます。
 このように規定しておりまして、いわゆるその法的根拠のある実体的権利、いわゆる財産権につきましては、この協定を受けて、我が国におきまして、韓国の国民の財産権を一定の例外を除いて消滅させる措置をとったわけでございます。したがいまして、このような法律的な根拠のある財産権の請求につきましては、以後、韓国の国民は我が国に対して、私権としても国内法上の権利としても請求はできない。そのような措置をとることについて、この協定によりまして、ただいま読み上げましたこの二条の三項におきまして、韓国側としては、それに異議を申し立てることはできないということでございます。
 この二条の三項で「財産、権利及び利益」ということを言っておりますが、これは当時作成されました合意議事録におきまして、これは合意議事録の二項の(a)というところでございますが、「「財産、権利及び利益」とは、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが了解された。」ということになっております。したがいまして、この二条の三項で言っております「財産、権利及び利益」以外のもの、すなわち請求権というものがございます。これにつきましては、ただいまの定義から申しまして法律上の根拠のない請求、いわゆるクレームと言ってもいいと思いますが、そのような性質のものであるということでございます。
 それで、しからばその個人のいわゆる請求権というものをどう処理したかということになりますが、この協定におきましてはいわゆる外交保護権を放棄したということでございまして、韓国の方々について申し上げれば、韓国の方々が我が国に対して個人としてそのような請求を提起するということまでは妨げていない。しかし、日韓両国間で外交的にこれを取り上げるということは、外交保護権を放棄しておりますからそれはできない、こういうことでございます。

○土井委員 るるわかりにくい御説明をなさるのが得意なんですが、これは簡単に言えば、請求権放棄というのは、政府自身が持つ請求権を放棄する。政府が国民の持つ請求権のために発動できる外交保護権の行使を放棄する。これであって、このことであって、個人の持つ請求権について政府が勝手に処分することはできないということも片や言わなきゃいけないでしょう、これは。今ここで請求権として放棄しているのは、政府自身が持つ請求権、政府が国民の持つ請求権に取ってかわって外交保護権を発動するというその権利、これでしょう。だから、個々の個人が持つ請求権というのは生きている。個々の個人の持つ請求権というのはこの放棄の限りにあらず、これははっきり認められると思いますが、いかがですか。

○柳井政府委員 ただいま土井先生が言われましたこと、基本的に私、正確であると思います。この条約上は、国の請求権、国自身が持っている請求権を放棄した。そして個人については、その国民については国の権利として持っている外交保護権を放棄した。したがって、この条約上は個人の請求権を直接消滅させたものではないということでございます。
 ただ、先ほど若干長く答弁させていただきましたのは、もう繰り返しませんけれども、日韓の条約の場合には、それを受けて、国内法によって、国内法上の根拠のある請求権というものはそれは消滅させたということが若干ほかの条約の場合と違うということでございます。したがいまして、その国内法によって消滅させていない請求権はしからば何かということになりますが、これはその個人が請求を提起する権利と言ってもいいと思いますが、日本の国内裁判所に韓国の関係者の方々が訴えて出るというようなことまでは妨げていないということでございます。

○土井委員 結局は個人としての持っている請求権をお認めになっている。そうすると、総括して言えば完全にかつ最終的に解決してしまっているとは言えないのですよ。まだ解決していない部分がある。大いなる部分と申し上げてもいいかもしれませんね。正確に言えばそうなると思います。いかがですか。

○柳井政府委員 先ほど申し上げましたとおり、日韓間においては完全かつ最終的に解決しているということでございます。ただ、残っているのは何かということになりますと、個人の方々が我が国の裁判所にこれを請求を提起するということまでは妨げられていない。その限りにおいて、そのようなものを請求権というとすれば、そのような請求権は残っている。現にそのような訴えが何件か我が国の裁判所に提起されている。ただ、これを裁判の結果どういうふうに判断するかということは、これは司法府の方の御判断によるということでございます。

○土井委員 さあ、ここで外務大臣にお答えいただきたいと思うのですが、これは今しきりに問題になっている、私自身も聞いて胸が詰まる思いがするのですが、従軍慰安婦の人たちの問題、どう抗弁いたしましても日本国民として恥ずかしいです。大変恥ずかしいと私は思っている。外務大臣はどうお思いになりますか。恥ずかしいとお思いになりませんか。いかがですか。

○渡辺(美)国務大臣 人を殺したり傷つけたり、そのような今おっしゃったような不幸な立場を強制したりするようなことは、全く戦争の罪悪であって、恥ずかしいと思います。

○土井委員 恥ずかしいと思いますとおっしゃることについて、これは具体的に問われているのは国政関与者の責任だということになると私は思うのです。
 実は一九八二年の六月に外務省が調査をされた結果を裁判所に対して付言という形で、判決が出る資料になっているのです。おもしろいですね。これは私、最近初めて知ったのですけれども、なるほどと思ったのですよ。
 これはどういうことかといいますと、台湾人元日本兵士の補償問題、台湾人の台湾に在住しておられる方々十三名が原告となって日本政府に補償請求を求めて東京地裁にそれが提訴されたのです。東京地裁さらに東京高裁に参りまして、八五年の八月に東京高裁。地裁も高裁もいずれも棄却判決になりました。そのときに高裁は付言をこの判決にしたのです。
 どういうことを言っているかといいますと、「控訴人らは、ほぼ同様の境遇にある日本人と比較して著しい不利益をうけていることは明らかであり、……早急にこの不利益を払拭し、国際信用を高めるよう尽力することが、国政関与者に対する期待である」と書いてある。
 外務省がこの調査をされたのは「負傷または戦死した外国人に対する欧米各国の措置概要」でございまして、ここで調査の対象になっているのはアメリカ、イギリス、フランス、イタリア、当時の西ドイツの五カ国なんです。いずれも外国人となった元兵士に対して自国民とほぼ同等の年金または一時金を支給しているのです。この五カ国を見ますと、植民地を持っていないカナダをここに加えたらまさしくサミットになるのです。サミット参加国の中で、こういう問題に対してそっぽを向いて、解決済みでございます、解決済みでございますと言い続けたのは日本だけですよ。日本だけがこれは特異な国ということになるわけであります。
 と同時に、先ほど財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定について二条の一をお出しになりましたが、その二条の二というところを見ますと、「この条の規定は、次のものに影響を及ぼすものではない。」という中に、「一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益」とはっきり書いてあるのですよ。
 そうすると、韓国籍の人でも日本にその間おられる方については、この条約は関係ないんです。そうすると、日本国民と同等の取り扱いをやってしかるべきであるにもかかわらず、外務大臣ここからが大事なんですよ、実はそれが全く外されてしまっているのであります。全く外されてしまっている。
 それは外務大臣も御存じだと思いますけれども、平和条約が発効すると同時に日本では、戦争によって被害を受けた人たちに対する援護並びに補償の法ができてまいりました。その皮切りは戦傷病者戦没者遺族等援護法に始まる十三法、以後あります。すべてのその法律から国籍条項を用意しました。日本国民でなければ、日本国籍を所有していなければこの補償の対象でないということに法の上でなっているのですよね。国籍条項と申し上げねばなりません。
 私は、難民条約のときあるいは国際人権規約を審議するとき随分、国内の外国籍の人に対する処遇に対して、年金もそう、保険もそう、住宅もそう、改善されたことを覚えています、内国民待遇ということで。ところが、たった一点この問題だけが除外にされてきたんですが、なぜこれが問題にならなかったかといういきさつが杳としてわからない。
 なぜこれだけを外されたんですか。ほかの年金にしたって保険にしたって、いろいろとそれ以前と違った、取り扱いを変えましょうというのが難民条約や国際人権規約のときの国内的措置として問題になったんですよ。だけれども、この財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定では、影響を及ぼさないはずの在日の人たちを切り捨ててしまっているという格好になっているのですが、これは一体なぜですか。

○柳井政府委員 この協定の二項で二項の例外措置が規定されているということは、先生おっしゃるとおりでございます。この二項で(a)と(b)という二つの例外がございまして、その(a)というのが先ほどお読みになった例外でございます。
 この意味するところでございますけれども、「千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがある」一方の締約国の国民ということを言っておりますが、これは実際には主として在日韓国人の方々を指しているわけでございます。そのような方々の財産、権利及び利益についてはこの規定の例外とするというふうに述べているわけでございますが、先ほどちょっとお答えいたしましたとおり、この財産、権利及び利益というのは、合意議事録におきまして、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいう」ということが日韓間で了解されているわけでございます。したがいまして、そのような法律上の根拠に基づく財産的価値を有する権利というものはこの協定上は例外にしている。
 そして、先ほど申し上げました財産権を消滅させる法律を当時つくりましたけれども、その中でも、このような在日韓国人の方々の法律上の根拠のある財産権は除いている、すなわち消滅させていないということでございます。その限りにおいて、この協定の処理の例外になっているということはそのとおりでございます。ただ、一般的なそういう法律に基づかないいわゆる請求というものは、この規定の例外の対象ではないわけでございます。
 他方、いろいろな国内法で国籍条項があるということにつきましては、これはそれぞれ所管の官庁におきましてその法律の制定の経過を承知しておりますので、必要があればまた照会いたしたいと思います。

○土井委員 さあ、そこで外務大臣、今の御答弁はまたややこしい、わかりにくい御答弁でしたが、二点しっかり外務大臣に押さえておいていただいて、そして最後に一言言って、私はこの質問は終えたいと思うのです。
 それは、今、日韓間の請求権並びに経済協力に関する協定と略して言いましょう。この条文の中では、個人の持つ請求権についてこれは認められているということが一点。二点目は、第二条の二項のところで影響を及ぼさないはずの在日韓国人に対して影響を及ぼして、そして当然認めなければならない戦争による被害に対する手だてというのを、法律の中で国籍条項をわざわざつくって対象としていないという問題です。これは、この条約の二条の二項からしたらおかしい取り扱いなんですよ。間違った取り扱いと申し上げましょう。したがって、二点申し上げたい。
 一つは、個人の持つ請求権というのは認められているんだから、したがって提訴ということも当然あり得るんですが、先ほど御答弁を承っておりますと、裁判の判決の結果をひとつ考えてというふうな御趣旨の御答弁でもありましたが、だから私がわざわざ、外務省がかつて調査をなすった結果を裁判所は付言としてこう言われていますよということを言った意味があるのです。
 もう一度言います。「ほぼ同様の境遇にある日本人と比較して著しい不利益をうけていることは明らかでありこ裁判を起こした人がですよ、「早急にこの不利益を払拭し、国際信用を高めるよう尽力することが、国政関与者に対する期待である」と言っているんです。裁判所の判決というのはいつ出るかわかりません、これは。二年かかるか三年かかるか、場合によったら五年かかるかわからない。その判決が出るまではひたすら待ち続けますというんじゃないのであって、問題は、「国際信用を高めるよう尽力することが、国政関与者に対する期待である」、この点に対して外務大臣は、先ほど予算委員会の場所でしょう、御答弁の中で心あるこれに対しての対処の仕方ということがあってしかるべきだという御趣旨の御答弁をなすったやに私は知っているわけでありますけれども。この二点、国籍条項を外すということの検討が一つ、あと一つは判決を待つまでもなくこれに対してどのように考えていくかという問題、いかがですか。

○渡辺(美)国務大臣 私は両方の意見もこれずっと聞いておるのですが、やはり日本は法治国家でございますから、法律に書いてあるとおり実行しなければならないということが一つだと思います。
 ただ問題は、法律問題としては裁判所があとは結論をどう出すかという問題でしょう。しかしこの従軍慰安婦の問題というのは、私は法律の問題ということでなくて人道的な問題であって、政治問題であることは間違いありません。大変痛わしい、胸の痛むような話でございまして、まずその実態を調べなきゃならぬということで今官房を中心にして調べておりますので、そういう実態の上にどういう政治判断をするかということは、これは法律の問題じゃない問題でございますから、何らかの私は、けじめと言っては語弊があるのかもしれませんが、結論を出す必要があると考えております。

○土井委員 終わりますが、それは外務大臣いつごろですか、今結論を出す必要があるとおっしゃる結論は。

○渡辺(美)国務大臣 調査の終わり次第、日本側でも調査をしているし韓国側も調査はしておりますので、そう多年月を要することはないだろうと思います。

○土井委員 きょうのところはこれで終えますけれども、法治国家としてという立場に立ては、締結した国際条約、国際法規並びにそれに従って制定された国内法規、これを基礎に置いて考えても今の日本の取り扱いというのはそれに反するというおそれが非常にあるということも私は予言しておきまして、これは改めてまた申します。
 ありがとうございました。

 第123回国会 衆議院本会議 第7号 平成四年三月三日(火曜日)

        山元勉
 内閣総理大臣 宮澤喜一

○山元勉君 私は、日本社会党・護憲共同を代表し、ただいま提案のありました外国人登録法の一部を改正する法律案について、宮澤総理並びに関係大臣に質問いたします。
 言うまでもなく、外国人登録法が対象としている約百七万人の外国人は、さまざまな国籍と民族から成っております。しかしながら、その半分以上をいわゆる在日韓国・朝鮮人が占めていることもまた事実であります。そして、これらの人々の処遇は、我が国の外交政策と密接に関連しており、日本政府が南北朝鮮に対して正当な敬意を払ってこそ、在日韓国・朝鮮人を人間として処遇する前提条件が整備されることになるのであります。
 そこでお尋ねしますが、いわゆる核査寮問題も解決の方向にある今日、日本と朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化交渉を、従来に比し、より積極的な姿勢で、また、より速いテンポで進める考えはないのか。また、従軍慰安婦問題や強制連行問題等に関連し、南北朝鮮及び日本に居住する朝鮮半島出身者に誠意ある補償を行う考えはないのかどうか、基本的姿勢の問題として、お尋ねいたします。(拍手)
 次に、今回の法律案の是非を問う前提となる二つの大きな政策上の問題点についてお伺いいたします。
 第一に、いわゆる外国人犯罪と外国人登録制度の関係についてであります。
 まず、統計的に見て、近年の外国人犯罪がどういう傾向で推移しているか、そして、それぞれの犯罪を犯した者の正規の在留日数や在留資格がどういう傾向にあるか、お尋ねいたします。そして問題は、そういった外国人犯罪を抑止するために、外国人登録制度はこうでなくてはならないということが果たして言えるかどうかであります。
 我々が、いわゆる外国人犯罪と聞いてまず思い浮かべるのは、正規の滞在日数が一年を超えることはなくしたがって外国人登録の指紋押捺とは無関係な外国人であります。したがって、外国人犯罪を抑止するためには、一年以上在留する外国人で、かつ特別永住者と永住者以外の者について指紋押捺を残さなくてはならないと言われても、納得がいかないのであります。この点についての政府の見解はいかがですか、お尋ねをいたします。(拍手)
 第二に、日本国民と外国人の同一人性確認のあり方についてであります。我々日本国民は、その同一人性確認のために、国によってつくられた証明書を常時携帯する義務を課せられているわけではありません。したがって、例えば外国船舶の出入りする港を歩いていて警察官や入管職員等から職務質問され、その同一人性の証明を求められたとしても、当該職務質問への応答または運転免許証や職場の身分証明書等の提示で足りているわけでありますし、よほどの場合においても、第三者に電話で連絡するなりして同一人性を証明してもらうこともできるわけであります。しかし、外国人の場合は、特別永住者、永住者も含め、外国人登録証の常時携帯及び提示義務が定められており、それは今回の政府の改正案においても手つかずなのであります。
 定住性の高い外国人にまで、日本国民にはないような煩雑な同一人性確認のシステムを強要するのは、内外人平等を定めた国際人権規約に違反する疑いが濃いと言わざるを得ません。とりわけ、東アジアの国々に源流を持ち、我が国に長年居住する人々に常時携帯義務を課すのは、機能的に見ても全く無意味であります。
 日本人と称しても通用する容姿を持ち、かつ流暢な日本語を話す人々について、この人は在日外国人だと識別している警察官等が、当該外国人が合法的に在留する者であることを識別できないことはあり得ないのではないでしょうか。また、そこをも疑わざるを得ないとすれば、一人一人の国民について、外国人ではないかどうか、もっと言えば、日本人に成り済ました不法入国者、不法残留者でないかという点も含め、一々疑わざるを得ないのではないでしょうか。
 以上を踏まえ、我が国に在留する日本国民及び外国人の同一人性確認のあり方について、政府の見解をお聞かせいただきたいと思います。(拍手)
 次に、法案について具体的にお尋ねいたします。
 まず、指紋押捺制度についてであります。
 先ほども触れましたように、外国人犯罪の抑止のために指紋押捺の全廃はできないとの主張は説得力を持ちません。また、この制度は、内外人平等を定め、かつ、非人道的または品位に欠く取り扱いの禁止を定めた国際人権規約に違反することも明らかであります。我が国も既に批准したこの国際人権規約に従い、いわゆる不法入国者や不法残留者も含め、すべての外国人について人としての権利が保障されなければならないのであります。
 その観点からいたしますと、国際人権規約に違反する指紋押捺制度を一部の外国人についてのみ残すということ、しかも、一年未満在留の者は指紋が免除されている状態でそうするということは、それ自体が国際人権規約に違反する施策と言えるのであります。
 以上の理由により、我が党は、この法律案は、指紋押捺制度を完全に廃止するものとして書き改めるべきと考えますけれども、政府の御見解はいかがか、お伺いをいたします。(拍手)
 次に、外国人登録証の常時携帯制度についてであります。
 これも先ほど触れましたように、特別永住者、永住者も含め、外国人登録証の常時携帯及び提示義務が定められており、それは今回の政府案においても手つかずでありますが、これは国際人権規約の定める内外人平等に反するばかりか、機能的に見ても、その存在意義を疑わざるを得ないものであります。もちろん外国人登録証を持つ必要のない九十日未満在留の外国人には、旅券または上陸許可書の常時携帯制度が定められており、その旅券または上陸許可書の常時携帯まで国際人権規約違反とすぐに断定できるわけではないことも事実であります。しかし、特別永住者、永住者を含め一定水準以上の定住性を有する外国人にまで証明書の常時携帯を義務づけることはいかがなものでありましょうか。この点について改善する内容を盛り込む方向で法案の修正を行うべきかと考えます。見解をお尋ねいたします。(拍手)
 第三に、外国人登録法の刑罰制度についてであります。
 外国人登録法においては、ついうっかり申請をし忘れたような単純なミスに対してまでも「一年以下の懲役若しくは禁錮又は二十万円以下の罰金」という重罰が科せられております。そして今回の改正案では、新たに不署名罪という罪名に基づく刑罰制度が科せられようとしています。しかし、逮捕や強制捜査に直結するこのような重罰制度をいろいろな項目について設けるのはいかがなものでしょうか。
 これに対し、日本国民の登録制度に関しての法である戸籍法と住民基本台帳法においては、虚偽申請といった悪質な違反を除いた部分については過料、いわゆる過ち料で対応しております。この点についても内外人平等に違反する疑いが濃いと言わざるを得ません。
 また、外国人登録法の刑罰制度に基づく逮捕、強制捜査等が何らかの政治的目的に使われるのではないかとの在日外国人の心理的負担の大きさも考慮しないわけにはいきません。そこで、この点についても、戸籍法と住民基本台帳法の類似規定との横並びを図りながら、過ち料を基本とした制度に転換すべきであります。こういう方向で法案を書き直す考えがないかどうか、お尋ねいたします。(拍手)
 以上、私は、本法案の修正を求める立場に立って幾つかの点についてお尋ねをいたしましたが、最後に申し上げたいのは、第一に、外国人の処遇を初めとする日本の人権状況を問う内外の世論、第二に、指紋押捺制度廃止を九三年一月までに行うべしとした日本の韓国に対する国際公約、第三に、参議院における与野党逆転等々四囲の状況を勘案して、政府・自民党は野党との誠意ある対話に応じ、円満な問題解決に努めるべきだということであります。この点を特に強調して、私の質問を終わります。(拍手)
 
○内閣総理大臣(宮澤喜一君) 日朝国交の正常化につきまして、この問題は、第二次世界大戦後の日朝間の不正常な関係を正すという側面と、それが朝鮮半島の平和と安定に資するものとなることが大切であるといういわば国際的な側面、二つの面をあわせ持っております。我が国としては、国交正常化がこのような二つの面を有しているということを十分考慮しつつ、また、原則的立場を踏まえながら、関係国とも緊密に連絡をとりまして、誠意を持って交渉を継続していく所存でございます。
 次に、いわゆる従軍慰安婦あるいは被強制連行者に対するお尋ねでございましたが、政府といたしまして、朝鮮半島地域のすべての人々に対し、過去の一時期、我が国の行為により耐えがたい苦しみと悲しみを体験されたことについて、深い反省と遺憾の意を表明いたしております。また、いわゆる従軍慰安婦の問題につきましては、先般、私が韓国を訪問いたしました際にも、衷心より遺憾と反省の気持ちを述べるとともに、この問題についての日本政府の関与のあり方について誠心誠意調査を行うということをお約束をし、また現にそれをいたしておるところでございます。
 日韓両国間では、六五年の日韓請求権・経済協力協定により、御指摘の補償の問題をも含め、日韓両国及び両国民間の財産・請求権の問題は、完全かつ最終的に解決済みであります。また、これに並行して、五億ドルの経済協力をも実施したことは、御承知のとおりでございます。
 次に、日朝間の財産・請求権の問題につきましては、日朝国交正常化交渉の場において、さらに話し合ってまいりたいと考えております。
 それから、指紋の押捺は、外国人の同一性の確認の手段として合理的であり、また必要な制度でございますから、永住者及び特別永住者以外の外国人についてこれを維持しなければならないと思っておりますし、このことは、国際人権規約にもとより反するものではございません。
 それから、外国人登録法の改正法案審議に関しまして、参議院云々という御指摘もございました。もとより審議に当たりまして、各党の御意見を謙虚に承ることはもちろんのことでございます。
 残りの問題は、法務大臣からお答えを申し上げます。(拍手)

 第123回国会 衆議院予算委員会 第12号 平成四年三月五日(木曜日)

 厚生省援護局長   多田 宏
 外務省国際連合局長 丹波 實
 外務省条約局長   柳井 俊二

○多田政府委員 韓国につきましては、日韓の協定に基づきまして別途処理がされたというふうにされておりますので、韓国については帰化しても既に処理済みという理解でございます。その他の地域、台湾あるいは北朝鮮といったようなところについては帰化することによって可能になる場合がある、こういう理解でございます。

○柳井政府委員 援護法につきましてはまた別途関係の省庁から御答弁があると思いますが、日韓請求権経済協力協定につきましては、ただいま先生御指摘ございました第二条の二項で二つの例外を掲げているわけでございます。
 その二つの例外と申しますのは、ただいま御指摘のように、その一つが、「一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益」というものはこの協定の二条の処理の対象外であるというふうに規定しているわけでございます。そして、この「財産、権利及び利益」と申しますのは、この附属の、当時、協定締結のときに作成いたしました合意議事録の二項の(a)というところで、「「財産、権利及び利益」とは、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが了解された。」というふうになっているわけでございます。そのような意味におきまして、この二条二項の(a)では若干わかりにくい書き方になっておりますけれども、実際には主として在日韓国人の今申し上げましたような財産、権利及び利益につきましてはこの条の規定は影響を及ぼさないというふうになっているわけでございます。
 で、御承知のとおりこの二条の三項におきまして、我が国におきましては、当時国内法を制定いたしまして、いわゆる財産、権利、利益というもので韓国の方々が持っておられるものを消滅させる措置をとったわけでございますが、その措置に言う財産、権利、利益というのはこの二条に言っているものでございます。

○多田政府委員 私どもの理解では、請求権については特別合意に基づいて処理をされた、そしてその処理された対象の中には在日韓国人の請求権も含まれているというふうに理解をいたしております。したがって、そういう理解に立ちますと、既に処理済みで、一度日本国といたしましてはその方々に何らかの処理をした対象の方々に対して別途また給付というものを起こす、同じ事由に基づいて給付を起こすということは、これは重複の問題が起きるわけでございますので、当然に給付の対象外というふうに理解をしているわけでございます。

○柳井政府委員 日韓請求権経済協力協定締結当時の処理につきまして、若干補足させていただきたいと存じます。
 先ほど申し上げましたこの昭和四十年の法律でございますが、いわゆる日韓財産及び請求権に関する協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律、正式の題名はもっと長いのでございますが、要約すればそういう法律を制定したわけでございまして、その一項で、「次に掲げる大韓民国又はその国民の財産権であって、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条3の財産、権利及び利益に該当するものは、次項の規定の適用があるものを除き、昭和四十年六月二十二日において消滅したものとする。」と、こういうふうに規定しているわけでございます。
 そして、ここで対象にしておりますのは、この「協定第二条3の財産、権利及び利益に該当するものはこと、こういうふうに言っておりますので、この協定の二条三項の規定している「財産、権利及び利益」というものをここの法律の第一項の対象にしているわけでございます。そして、この協定の第二条三項におきましては、「2の規令に従うことを条件としてこというのが頭にございまして、「一方の締約国及びその国民の財産、催利及び利益」、それから後に請求権というものも規定しておりますが、この「財産、権利及び利益」というのは、先ほど申し上げましたように、合意議事録で要するに「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利」であるというふうに言っているわけでございます。したがいまして、この法律で引いております「財産、権利及び利益」というのは、この協定及び合意議事録で言っている意味の財産的権利であるということでございまして、この協定二条三項の冒頭に「2の規定に従うことを条件としてことございますので、この二条二項の例外もここにはきいてくるということでございます。

○柳井政府委員 結論的な点だけお答え申し上げたいと思います。
 最終的に解決したということを言っておりますのは、この二条に書いてありますとおり、具体的にはこの二条の三項によって行われた処理について今後日韓間では問題を提起しないということでございます。
その処理には二つあるわけでございますが、この三項に規定してありますとおり、これはもう先ほど申し上げましたので省略いたしますが、要するに法律的な根拠のある実体的な権利については、まあ我が国でそれを消滅させる措置をとったわけですが、それについて韓国側はいかなる主張もすることができないということで解決をしたわけでございます。そして、実体的な権利でないもの、すなわち法律上の根拠のない、いわゆるクレームといった方がいいと思、いますが、そのような請求権についてもいかなる主張もできないということを二条の三項で言っているわけでございます。そしてその中で、在日韓国人の実体的な権利につきましては、二条の二項の(a)で言っているとおり、これは消滅させていないということでございます。
 まあ韓国側の措置につきましては、先生御指摘のとおり、韓国側の国内法においても在日韓国人の場合は除いてあるというふうに承知しております。


○柳井政府委員 前提になる協定上の問題につきまして、一点だけ確認させていただきたいと存じます。
 先ほど来御答弁申し上げておりますとおり、この財産請求権協定の二条二項で除いておりますのはいわゆる実体的権利、すなわち国内法に根拠のある財産、権利及び利益ということでございますので、そうでない、国内法上の根拠のない、いわゆるクレームというものにつきましては、この二条で例外を設けていないわけでございます。したがいまして、問題の請求権が国内法上根拠のあるもの、すなわち実体的権利であるか、あるいはそのようなものでない請求であるかによって結論は分かれてくるわけでございまして、先ほど厚生省の方からお答えがありましたのは、我が国の国内法上の根拠のないそのような請求につきましては、在日韓国人のものも含めて、全体としてこの二条で処理がなされているということでございます。
 その処理の意味は、三項の後段に書いてございますように、そのような請求権についてはいかなる主張もすることができない。さらに言えば、これは日韓間で相互に外交保護権を放棄した、すなわち国と国との間でそのような請求の問題を持ち出すことはできない、そういう形で処理をした。そのようなものについては、在日韓国人の例外条項というのはないわけでございます。

○柳井政府委員 ただいま御指摘の点についてだけ確認させていただきたいと存じます。
 二条の二項(a)で言っております「財産、権利及び利益」というのは、先ほどもちょっとお答え申し上げましたが、合意議事録の二項の(a)というところで「「財産、権利及び利益」とは、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが了解された。」そのように日韓両国間で合意されているわけでございます。したがいまして、この協定二条二項の(a)で除外しております「財産、権利及び利益」の中には、いわゆる法律上の根拠はないけれどもいろいろ請求したいというようなもの、いわゆる請求権というものは含まれてないわけでございます。
 それは三項の方を見ていただきますと明らかになるわけでございますが、三項の前段の方では、先ほど申し上げましたように、「2の規定に従うことを条件としてこということがまず冒頭ございまして、その後に「財産、権利及び利益」については、他方の締約国で国内的な措置をとっても文句を言わないということが前段で書いてございます。そして後段で、「並びに」というところの後でございますが、「請求権」というのを挙げておりまして、これについてもいかなる主張もできないということを言っているわけでございます。
 したがいまして、先ほどちょっと、この前の前の御質問の中で言っておられました、訴えを提抽する権利はどうか。そこは、財産、権利及び利益でない、単に請求を提起する個々人の権利というものは、外交保護権の放棄という処理によっては、そういう訴えを提起するような権利までは殺していないということでございます。ただ、そこで言っている請求権というのは、法律上の根拠のあるものではない、もろもろのクレームを言っているということでございます。

○柳井政府委員 私の方から一点だけお答え申し上げたいと存じます。
 先ほど来るる御説明申し上げましたのは、協定第二条二項で例外にしておりますのは韓国人の実体的権利ということでございます。したがいまして、例外にしたのは、この協定締結当時韓国人の権利として我が国の国内法上認められていたものがあれば、そのようなものは消滅させないという趣旨でございます。(「だから、帰化すればということです」と呼ぶ者あり)いや、ですから、その帰化をする権利というものがどういうものであるか、これは少なくとも直接その給付の請求権になるというものではないと私思いますけれども、帰化する権利というものが実体的権利というふうには恐らく解されないであろうと思います。

 第123回国会 衆議院予算委員会 第15号 平成四年三月九日(月曜日)

 外務省条約局長  柳井 俊二
 委員       伊東 秀子
 内閣法制局長官  工藤 敦夫
 外務省アジア局長 谷野作太郎
 外務大臣     渡辺 美智雄
 大蔵大臣     羽田 孜

○柳井政府委員 この問題につきましては、これまでいろいろな機会に私どもの考え方、るる申し上げておりますので、それを繰り返すことはいたしたくないと思います。
 結論から申し上げますれば、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定におきまして、その第二条で、財産請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたと規定しているわけでございますが、具体的には、この第二条のそれ以下の規定におきまして、いわゆる国内法的根拠のある実体的権利については、相手国でそれを消滅させる等の措置をとったとしてもそれに対して文句は言わない、それから、法律的な根拠のないその他の請求についてもいかなる主張も行うことができないということでございまして、財産権であれば、我が国の場合には、韓国及び韓国国民の財産権を消滅させる法律を当時制定してこれを消滅させたわけでございます。それ以外の請求につきましては、日韓間の問題としては、いわゆる外交的にこれを取り上げることはしない、すなわち外交保護権を行使することはしないという意味で解決をしているということでございます。

○柳井政府委員 先ほども申し上げましたが、この協定上措置をとって、そして権利を消滅させる等の国内的な処理をするということの対象は、いわゆる「財産、権利及び利益」と協定で称しているものでございます。合意議事録で了解が確認されておりますように、このような「財産、権利及び利益」というのは、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうこと」が定義されて了解されているわけでございます。
 いわゆる慰謝料請求というものが、いわゆるクレームというものがどのようなものと国内法上観念されているかにつきましては、私必ずしもつまびらかにいたしませんけれども、いわゆるこの「財産、権利及び利益」というものには該当しないものが多々あろうと思います。そのようなものにつきましては、この協定上は、いわゆる財産、権利、利益というもの以外の請求権というふうに観念しているわけでございまして、そのような請求権につきましては、国内的に、国内法的に処理をとるということはここでは想定しておりませんけれども、いずれにせよ、そのような問題を国家間で外交的に取り上げるということはこの協定の締結後できないというのが当時の日韓間の合意であったというものでございます。

○柳井政府委員 当時の協定上の処理といたしましては先ほど申し上げたとおりでございまして、いわゆるクレーム、財産権以外の、実体的権利以外のクレームにつきましては、外交保護権の放棄という形で決着を図る一方、それと並行して経済協力というものを行ったわけでございます。いわゆる無償三億、有償二億という経済協力を供与いたしまして、そういう全体の合意によってこの問題も含めて、日韓国家間では最終的に解決したという処理を行ったわけでございます。
 そして慰謝料等の請求につきましては、これは先ほど申し上げたようないわゆる財産的権利というものに該当しないと思います。そのようなものについては、いわゆる財産的な権利につきましては国内法的な処理をしても文句を言わないという規定があるわけでございますが、それ以外のものについては外交保護権の放棄にとどまるということで当時決着をした。これはいわゆる請求を提起するという地位までも否定しないという意味においてそのような権利を消滅させていないわけでございますが、しかしそれが実体的な法律上の根拠を持った権利である、実体的に法律上の根拠を持った財産的価値を認める権利であるというふうには当時観念されなかったろうと思います。

○伊東(秀)委員 今の条約局長の御答弁を伺っていますと、慰謝料請求権そのものは消滅してないという御答弁になるわけで、放棄したのは外交保護権であるということをはっきりおっしゃいました。そうすると、慰謝料請求、彼女たちが今問題にしているのは慰謝料の問題でございまして、そうしたら最終的に解決したとは言えないじゃないか、論理的にも。全くそれは最終的に解決してはいない。
 ただし、今もう一つ条約局長は重要なことを御答弁なさったと思いますが、彼女たちの権利は実体法上の根拠があるかないかというようなことを問題になさいましたが、条約局長としては、慰謝料請求権は消滅はしてはいない、残っている、しかし、実体法上の根拠がある請求権ではないという趣旨に御答弁なさったと伺ってよろしいでしょうか。

○柳井政府委員 協定の解釈に関します、いわゆる「財産、権利及び利益」の定義につきましては、先ほど読み上げましたとおりでございます。いわゆる慰謝料請求権というものが、この法律上の根拠に基づき財産的価値を有すると認められる実体的権利というものに該当するかどうかということになれば、恐らくそうではないのだろうと私は考えます。いずれにいたしましても、昭和四十年、この協定の締結をいたしまして、それを受けて我が国で韓国及び韓国国民の権利、ここに言っております「財産、権利及び利益」について一定のものを消滅させる措置をとったわけでございますが、そのようなものの中にいわゆる慰謝料請求というものが入っていたとは記憶しておりません。

○伊東(秀)委員 慰謝料請求権は入っていなかった。そうしたら、政府がこれまで繰り返してきました彼女たちの請求権は完全かつ最終的に解決したということが、全く答弁を覆さなければいけなくなると思いますが、官房長官、いかがでございましょうか。

○柳井政府委員 官房長官の御答弁の前に一点だけ補足させていただきたいと存じますが、いわゆる個人の請求の問題については解決していないのじゃないかという御指摘もあるわけでございますけれども、先ほど私答弁いたしましたとおり、この日韓請求権・経済協力協定におきましては、これは繰り返しませんけれども、先ほど申し上げたような規定によって日韓両国間においては完全かつ最終的に解決を見たということで合意がなされたということでございます。ただ、いわゆる法律的な根拠に基づかない財産的な実体的な権利というもの以外の請求権については、これは請求権の放棄と申しますことの意味は、外交保護権の放棄ということでございますから、それを個人の当事者の方々が別途裁判所なりなんなりに提起をされる、そういうような地位までも否定するものではないということは、これまでもいろいろな機会に政府側として御答弁申し上げているとおりでございます。

○伊東(秀)委員 そこが大変論理的に矛盾であるところでございまして、訴権があるのは当然である、だれでも裁判所に訴える権利はあるわけでございまして、訴権とそれから慰謝料請求権という実体法上の権利とは全く別である。裁判所に訴える権利というのは手続法上認められている訴権でございまして、今条約局長が答弁なさったのは、従軍慰安婦だった方々の慰謝料請求権については消滅していない、これは解決の枠外というふうに答弁されたわけですから、とすれば訴権にすりかわる論拠は全然ないわけでございます。それがなぜ手続法上の裁判所に訴える権利だけで実体法上の権利は消滅したんだということになるかが全く論理矛盾である、そういうことで私は先ほど官房長官の御答弁を求めているわけでございますので、もう一度、慰謝料請求権を当人の承諾なしに国家が消滅させることはできないという条約局長の見解を前提にして、何ゆえにそれでは政府は解決したと言うのか、この点を明快にお答えいただきたいと思います。

○柳井政府委員 官房長官へのお尋ねがどうやら私の答弁が原因になっているようでございますので、一点だけ補足させていただきたいと存じます。
 先ほども申し上げましたとおり、我が国としては、この協定上外交保護権を放棄した、そして関係者の方々が訴えを提起される地位までも否定したものではないということを申し上げたわけでございますが、しからば、その訴えに含まれておりますところの慰謝料請求等の請求が我が国の法律に照らして実体的な根拠があるかないかということにつきましては、これは裁判所で御判断になることだと存じます。ですから、その点についてはちょっと誤解があるといけませんので補足させていただきます。

○伊東(秀)委員 訴権があるのは、だれも訴権を否定されている人はいないわけでございますから、訴権があることは当然である。問題は、今問題になっているのは、訴権のあるなしじゃなしに、彼女たちの慰謝料請求権、個人としてそれは消滅しないという答弁をされたわけですから、それをなぜ解決したと言うかが問題だということを私は伺ったわけです。
 それはおきまして、内閣法制局長官に伺いますが、条約でもって国家が個人の精神的な損害に対する慰謝料請求、これを放棄できるかどうかということが第一点と、今政府はできないということを前提としつつも、その残っている慰謝料請求権は裁判所に訴える権利、つまり訴権でしかないんだというふうに非常に限定的にしているわけでございますが、この二つの点に関する法制局の見解をお答えください。

○工藤政府委員 お答えいたします。
 ただいま条約局長あるいは官房長官からもお答えございましたように、現実に日韓の請求権協定といいますかで放棄しておりますのは、我が国の外交保護権あるいは韓国の、双方の外交保護権でございますので、そういう意味で外交保護権についての定めというもの自身が直接個人の請求権とかこういったものの存否に消長を及ぼすものではない、こういうことだろうと思います。
 次に、第二の点のお尋ねでございますが、それ自身につきましては、現在訴訟になっておりまして、現実に裁判所でどのようないわゆる法規の適用といいますか、そういうものが行われるか、私の方から予断を持って申し上げることはいかがかと存じます。

○伊東(秀)委員 私は、裁判の中身のことをお伺いしているのではございませんで、今法制局長官がお答えくださいましたように、外交保護権の放棄が個人の請求権の消滅には何ら影響を及ぼさない、とすれば、全く影響を受けていない個人の請求権が訴権だけだという論理が成り立つか否かという見解、解釈を伺っているのでございますが、いかがでしょう。

○工藤政府委員 お答えいたします。
 訴権だけかというお尋ねでございますけれども、現実に訴えを起こしまして、私もその内容を詳細には存じませんけれども、損害賠償請求をされているわけでございます。その損害賠償請求について、いかなる取り扱いがされるか、これは裁判所の判断にまつところであろう、こういうことでございまして、訴権だけであって、あと損害賠償請求権があるとかないとか、そこの部分を私の立場で申し上げる……

○伊東(秀)委員 あるなしの問題じゃなくて、損害賠償請求権は消滅しないと言いながら、それが訴権だけという論理が成り立つかどうかを潤いておりまして、裁判所の判断をかわって言ってもらいたいと言っているのじゃないのでございますが、その点について、そういう論理が成り立つかどうかを答えてください。

○工藤政府委員 訴権だけというふうに申し上げていることではないと存じます。それは、訴えた場合に、それの訴訟が認められるかどうかという問題まで当然裁判所は判断されるものと考えております。

○伊東(秀)委員 今の御答弁で、つまり今まで政府が、請求権は消滅してすべて解決済みとかあるいは消滅していないけれどもそれは裁判所に訴えるという権利のみだということが、大変論理的に矛盾であるということが明らかになったのではなかろうかと思います。
 そこでその問題はおきまして、次にもう一つ、条約局長の二月三日の御答弁に即してお伺いいたします。
 二月三日の山花議員の質問に対して、柳井条約局長が、「日韓の条約の上ではこ「当時具体的に取り上げられなかった問題も含めてすべての請求権の問題が両国間では完全かつ最終的に解決されたというふうに規定しているわけでございます。したがいまして、この点につきましては、日韓両国政府間で合意の上でそのような処理をしたということでございます。」という答弁がございます。
 そこで一点目。まず、私はここに請求権及び経済協力に関する協定、議事録、すべての書類を持ってきておりますが、この最終的に解決されたというふうに規定してあるというのはどこの部分に規定してあるのでしょうか。最終的に解決されたというのが、つまり対日八項目要求、これも私ここに用意してございますけれども、これ以外に取り上げられなかったこと、議題にならなかったこともすべて解決するというふうにこの協定に規定されているというふうにお答えになっているわけでございますが、取り上げられなかった問題まで解決するというのがこの協定のどこに書いてあるのか、教えていただけますでしょうか。

○柳井政府委員 それは協定の第二条の一項に、ここにいわゆるサンフランシスコ平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて完全かつ最終的に解決されたというふうに言っているわけでございまして、国交の正常化でございますとかあるいは平和の回復ということを行います場合に、平和条約あるいはこのような日韓間の協定等いろいろな条約を結びまして請求権の問題を解決するわけでございます。
 その際に、大抵の場合は個々の請求項目についていろいろ議論をするということがあるわけでございまして、御指摘のとおり日韓の当時の交渉におきましては、いわゆる八項目の請求というものが韓国側から出されて、その請求に対する補償の積み上げというような話し合いもしたわけでございますが、当時既に戦後相当時間もたっていた、そしてその間にいわゆる朝鮮動乱というものも介在したということで、一件一件の積み上げではこれは到底解決のめどが立たないということで、いわゆる一括解決方式というものが日韓間で基本的に合意されまして、そしてそのような線に沿ってこの条約が起案され合意されたわけでございます。
 この協定上の根拠ということになれば、それは「完全かつ最終的に解決された」ということでございまして、これが八項目にあるかないかということで判断するというよりは、日韓間の請求権の問題を一括して全部解決したと。そこで論議されたものもあったでしょうし、あるいは具体的な論議の対象にならなかった請求というものもあったと思います。しかし、そのような論議されなかったものあるいは場合によっては八項目の請求の中に関係のあるものもあるかもしれませんが、論議されなかったものを後になってあれもあった、これもあったということでは、いわゆる一括解決というのはできないわけでございますから、それはこの条約の趣旨、そしてこの第二条の規定から申しまして、現在問題になっているような請求についても、これは日韓間の問題としては一括、完全かつ最終的に解決されたという趣旨であるということを申し上げた次第でございます。

○伊東(秀)委員 今、取り上げられなかった問題も請求権もすべて解決したというのは、条文上の規定としてはこの二条一項でしかないということが明らかになりました。しかしこれは、法の一般原則に反するのではなかろうかというふうに私は考えるわけでございます。
 というのは、二つの理由から法の一般原則に反しております。一つは、政府はこれまで昨年の十二月まで、軍の関与はない、民間人が勝手にやっていたことだという公式見解をずっと表明してまいりました。つまり、前提となる事実認識において全く新たな事実が判明したという、つまり、前提事実に錯誤があったということに法律上はなろうかと思います。つまり、こういう場合には、契約の前提になる事実に変更が後で発見され、かつその変更が全く予期できなかったような場合には、法の一般原則として事情変更の原則というものがとられるわけでございます。
 これは何も日本だけの問題ではなくて、フランスでは、例えば不予見の理論とか、つまり予見できなかったことが契約の後に発見されたらその契約の効力はなくなる、あるいはドイツでは行為基礎の理論と言われておりまして、行為の前提となった、契約の前提となった基礎が崩れたときにはその基礎の上に立っていた契約は無効になるという論理があるわけでございますが、こういった法の一般理論からいっても、全く事実認識が変わってきた今も、しかも全然それが事実認定が違っていたために取り上げられなかったことに対して、それがこの請求権の中に入っているんだという論理はどうしてもとり得ないんじゃないか。その点について法制局長官にお伺いしますが、今のように、条約の解釈において法の一般理論というものは適用になるということが私は当然だと思うのですが、いかがでしょうか。

○柳井政府委員 法制局長官から御答弁がある前に、私の方から一点だけお答えさせていただきたいと存じます。
 いわゆる慰安婦の問題につきまして、政府が関与したか否かという問題が確かにあるわけでございますが、いずれにいたしましても、この日韓の協定上は、韓国国民の我が国政府に対する請求あるいは財産権というものだけではなしに、我が国の政府に対する請求ももちろんでございますが、両国国民間の請求の問題あるいは財産権の問題というものも含めてこの条約上の処理の対象にしているわけでございます。

○工藤政府委員 お答えいたします。
 個別具体の事情を離れまして一般的にと申されますと、非常に私の方もお答えしにくいわけでございますが、もちろん国内法的にも事情変更といったようなものは一つの考え方として働き得ると思いますが、ただ同時に、事情変更というものをただ安易に、容易に認めていくというのもまた問題があるということだと存じます。

○伊東(秀)委員 今の御答弁で、安易には認められないけれども、その考え方は条約を解釈する場合にも適用になるというふうに理解いたします。
 このことは、私は事前に質問通告の中にお渡ししておきましたが、法制局長官にもう一度お伺いしますが、国際間の紛争を解決する場合の国際司法裁判所規程の第三十八条の一項Cというところにも認められているんですね。つまり、どういうものに準拠して国際的な紛争を処理するかというときのその適用するものの中に、「文明国が認めた法の一般原則」というふうに書いてございますが、つまり事情変更の、原則的なその前提事実が変わった場合の条約の解釈に関するものが、この国際司法裁判所規程の中では「文明国が認めた法の一般原則」という形で認められているというふうに解釈してよろしいかどうか、いかがでしょうか。

○柳井政府委員 事情変更の原則等につきましていろいろ御指摘があったわけでございますが、まず一般的な問題といたしまして、もとより各国の国内法で認められた、事情変更の原則を含めましていろいろな原則があるわけでございますが、そのようなものがそのまま国際法の原則として適用されるというものでないことは当然でございます。したがいまして、もちろん国際法の解釈につきまして、いろいろ類推でございますとかあるいは参考になるということが各国の国内法の中にあることは事実でございますし、事情変更の原則というのも、特にその条約の無効取り消し原因という観点から非常に議論されておりまして、これについては非常に議論の多いところでございます。
 その条約の無効取り消し原因というのはただいまの問題ではございませんのでこれ以上触れませんけれども、例えばそういうような問題につきましては、国際間で条約法条約というようなもので合意されて、その意味あるいはそれを適用する場合の一定の手続というものをきちっと決めて適用するということになっているわけでございます。したがいまして、事情変更の原則というようなものがそのまま国際法に適用されるということはむしろ言えない、そういう考え方はあるけれども、そのままの問題ではないということでございます。
 他方、国際司法裁判所規程の三十八条一項には、御指摘のとおり法の一般原則というものが挙げられているわけでございます。この三十八条一項のいわゆる柱書きのところは、「裁判所は、付託される紛争を国際法に従って裁判することを任務とし、次のものを適用する。」とありまして、aとして条約等を挙げております。それからbとして、法として認められたいわゆる国際慣習というのを挙げておりまして、そしてcとして、「文明国が認めた法の一般原則」というものを挙げております。さらにその他の点も書いておりますが、いずれにいたしましても、裁判所が法の一般原則を適用するというのは、個々具体的な国際間の争いについて、特に条約あるいは国際慣習法というようなもので解決ができないというような場合に「文明国が認めた法の一般原則」というものも適用して判決を下すということでございまして、そのような個々具体的な争訟を離れて何が国際的に適用される法の一般原則がということは言えないことでございます。

○伊東(秀)委員 それは当然でございまして、今回従軍慰安婦問題では大変日韓間の重要な、外交レベルには乗っているかどうか別に伺いますけれども、国民感情の問題として、これはもうどうしようもない状況に来ているんじゃないかと思われるわけですね。
 つい先日の新聞報道によりましても、三月一日の独立記念日を前に韓国紙が韓国国民に日本観を問うた、アンケートをしたところ、日本人に好感を持てないというのが六七・四%、日本という言葉を聞いただけで気分が悪くなる、二六・一%、日本政府は南北統一に反対していると思う、七九%、こういう形で大変反日感情がふだんより高まっている。その大きな原因として従軍慰安婦、自分たちの民族がこれほど凌辱されたという事実が明るみになったことが大きく問題があるというふうに報道されているわけですね。だからこそ、この問題は国際間のこういった条約の解釈において非常に重要な問題になってくるであろうと私は考えるわけでございます。
 しかも、先ほど読み上げました柳井条約局長の答弁では、もう解決済みというのは、「日韓両国政府間で合意の上でそのような処理をしたということでございます。」というふうに答弁なさっておられますが、実はそうではない、韓国の方にも、私は政府要人にもお会いしましたが、それは別としまして、韓国政府はことしの一月二十一日、各省庁の実務責任者会議を開いて、日本政府に対して徹底した真相究明と適切な補償などを求めていくという、そういった方針を決定したというふうに伝えられているわけですね。つまり、韓国政府はここで処理済みということには納得していないということがこの報道で明らかにされるわけでございますが、そういう意味でも国際司法裁判所規程に用いられているようなこの法の一般原則ということは大変重要になろうかと思うわけでございます。
 そこで、外務省にもう一度お伺いしますが、外交ルートを通じてこのような徹底した真相究明及び適切な補償というようなことが韓国政府から伝えられておりますでしょうか。

○谷野政府委員 ただいま先生がお示しになりました韓国側の措置について、その部分を読み上げてみたいと思います。
 まず徹底真相究明に努めてほしい、そしてこれを基礎に補償、賠償等の問題について国内の専門家あるいは当事者の意見をよく聞いて、その上で日本と外交交渉を展開する、こういうことでございまして、私の申し上げたいのは、今までのところ韓国政府が外交ルートを通じまして日本政府に要請してきておりますのは、まずは徹底して真相の究明をしていただきたいということでございまして、補償あるいは賠償という話は今のところございません。

○伊東(秀)委員 私が韓国の方からお伺いしたところでは、この問題は非常に民族の尊厳の根幹にかかわる問題であり、基本的な新たな事実が判明した現時点においては要求したから払うという性質のものではない。申しわけなかったというふうに謝罪するのであれば、日本側が信義のある国として自発的に補償を申し出てくるというのが国際間の信義であろうと考える。だからそれを今は見守っている。ただし、日本政府があくまでも解決済みということを、前提を早急に変えないのであれば法的な措置をとるということを、私は直接韓国の政府関係者の方からお伺いいたしました。ということは、今は適切な補償の要求が外交ルートに乗ってないにしても、早晩、いつまでも裁判を見守るとか決着済みということを繰り返している限り外交ルートに乗るであろうということが予想されるわけでございます。
 外交ルートに乗った場合どうなるかということを私は調べてみましたが、これは先ほど条約局長も条約の無効や取り消しの問題にちょっと触れましたが、条約法に関するウィーン条約というのがございまして、この四十八条というところに「錯誤」の項がございます。つまり、条約を締結するときにその基礎をなしていた事実関係に錯誤がある場合には、この場合は韓国側ですけれども、韓国側はこの条約の無効、だから、日韓条約の一部、従軍慰安婦については請求済みと日本が主張し続けているこの部分に関してのものをたとえ前提にしたにしても、これの無効を主張して、国際的な、国連への平和的解決の協議の申し出とか、あるいはそれでも日本政府が聞かない場合には国際司法裁判所へ訴え出るというような重要な外交問題になるのではなかろうかということが予想されるわけでございます。
 こういったこれまでのことを前提にして、渡辺外務大臣、まだ真相究明ができるまでは裁判の結果を見守るという態度を続けるのか、あるいはとにかく新たな事実が発見された、しかもその前提事実には錯誤があった、条約の解釈としても錯誤無効という、一部条約の無効という問題が外交ルートに乗るかもしれないということを前提にして、どうお考えになりますでしょうか。お答えお願いいたします。

○渡辺(美)国務大臣 日韓条約が交渉が始まって締結されるまでには十三年ぐらい長い時間がかかっているんです。当然その中では意見の違いがあるから、交渉が長引いた。最初は賠償というようなことも出たでしょう。いろいろ出ました。しかし、いや、こちらは別な意見を出した、そして最終的には賠償でなくて、それで請求というようなものに決着をつけようということになり、それは経済協力という形をとろう。で、無償三億ドル、有償二億ドルということで決まったわけです。
 じゃ、何でそれを算出したんだ、無償という金の中身を。これについても私など当時の交渉の記録等に出ているところを見ると、やれ軍隊の徴用だとかいろんな問題が出たそうです。出たけれども、それじゃそれらを全部金目にして、何が幾ら何が幾らと積み上げることは事実上、事実上ですよ、これは不可能に近い、評価の仕方が。そこで、政治決着ですから、こういうものは。だからそれはひっくるめて、それで無償三億ドルでお金を差し上げますから、経済協力で、どういうふうにお使いになるも向こうにお任せする。それから有償については二億ドル出します。当時は、まあ三百六十円ぐらいのレートだったと思いますが、予算も今の恐らく十分の一ぐらいじゃないですか。正確なことはちょっとわかりませんが、一千億円ぐらいの金を出したんですから、今でいえばまあ数兆円か一兆円か、それぐらいの金額に匹敵するでしょう、経済の規模あるいはGNPの大きさ、予算の規模等から比べると。そういう中ですから、当時としては日本の国力もそれほどじゃありませんし、かなりのものを出すことで決着がついたということですね。
 そこで私は、法律論争をこれは幾らやっても同じことの平行線で、これは繰り返したと思うのです。しかし、現実の問題として、大きな人道問題としてこれが提起され、それでまた政治問題になっている。これは事実ですから、だからこれは法律論争で負け勝ちを決めると言ったって、実際は、それはそう簡単に決まる話じゃない。幾ら国際裁判所へ訴えようが何しようが、年数ばかりかかっちゃって、私は決着しないんじゃないかと思う。したがって、非常に悲惨な方々ですから、だれが考えたってお気の毒だ、本当に申しわけないという気持ちはあるんですよ。だから、そういうものについて何か、まあ申しわけなかったというんなら申しわけなかったようなことを、目に見える形で何かするのがやはり政治かなという感じを受けているんです、実際は。
 しかしながら、そうはいっても、じゃ、だれとだれがその対象なんですか、今訴え出た人だけなんですかと。すると、数名という話になっちゃうわけですね。だからもっと実際はいるんじゃないかというようなこともあって、しかし、そういうような方の実態がわからないことにはやりようがありませんから、裁判は裁判でそれは継続されるのは結構ですが、一方はそういうような実態調査をやって、大体この程度の人が確実ということになれば、しかし、この問題についてやり方を間違うと、どんどんどんどん広がっていっちゃって、何のために日韓の条約を結んで、ここで一切終わりと決めたかわけがわからなくなってしまいますからね。
 そこらの兼ね合いも、これは日本としては国益の問題ももちろんありますし、負担が多ければ多いほど日本国民が喜ぶという話じゃありませんから、これは国の税金との関係もあるわけですから、だから、ほかのところにどういうふうに広がるか広がらないかという問題も含めて、韓国政府は政府として当時の軍人さんとかなにかには何がしのものを出したということも聞いていますよ。だから、そことの兼ね合いというものも一体どうなるのかというもの等も含めて考えなきゃならぬ。
 しかし、お気の毒であったということも事実ですから、どういうふうにするかは、これはまあそこらのところを全部見た上で解決をするというのが政治じゃないかなというように私は思っているんですよ。しかし、それは今訴えられている方の御希望どおりになるかどうか、それはわかりませんよ、それはわかるはずがないんですから。だから、そこらのところでどうなるかはもう少し調べていかないと結論は出せないと私は考えています。

○伊東(秀)委員 大変積極的な御答弁で私としてはうれしいわけでございますけれども、今の御答弁で伺いますと、つまりだれが慰安婦であったかが、調査というか真相究明は、だれが慰安婦であったか。つまり、支払い先を確認しなければいけないということが、それがわかれば支払います、軍が積極的に、しかも組織的また計画的に関与していたという事実を前回私は明らかにしたわけでございますが、支払いはするけれども支払い先を明確にしたい、そういうことと受けとめてよろしいんでしょうか。

○渡辺(美)国務大臣 そこまで私は具体的に言っているわけじゃないんですよ。何かの記念事業という問題もありましょうし、よく戦没者等に忠霊碑を建てるというようなこともございましょうし、何かそれはこれから考えることであるが、しかし大体どれくらいの人数でいるかということも全くわからないのですね。もう三人や五人の解決なら話は簡単ですよ。しかしそういうこと、実態がまずつかめなければ話のしようがもちろんないわけですから、ですからそういう点については向こうでもよく真相を究明をする、調査をしてみると言っているそうだし、我々の方でも調査をしますと言っているわけですから、そこは友好国との間でございますから、よく相談をしながらやるということではなかろうかと存じます。

○伊東(秀)委員 実態調査は当然しなければいけないことでありますし、宮澤首相も誠実な調査を韓国に約束してきたという事情もございますので当然かどば思いますが、ここに、日朝の交渉に出席しておられる第六回交渉の中平代表の発言というものの中に大変気になるのがあるんですよ。従軍慰安婦の問題の噴出に驚いている、朝鮮の指摘する罪行の真相が解明されるには何世紀かかるかわかもないというようなことを言っているわけです。つまり、何世紀かかるかわからないような調査のことを考えているとしたら大変問題なわけで、あくまでも誠実に、実態が解明したら、形はともあれ支払う気持ちがあるということを前提にするのかどうかのことは大変重要な問題だと思うんですね。払うか払わないかはわからないけれども、何世紀かかってでもとにかくえっちらほっちら調査しましょうなんというんじゃ、大変国際関係の、重要な外交のパートナーとしての韓国との日韓関係はますます悪くなるんじゃないかと思うわけでございます。宮澤さんが初めての外国訪問に韓国を選ばれたというのも、やはり北東アジアの平和とか安定にとって非常に重要なパートナーだというお考えのもとに私は韓国にいらっしゃったんだというふうに理解しておりますし、やはり調査というからにはいつごろをめどに何と何を明らかにするということを明確にしなければいけないんじゃないかと思うわけですね。
 それと、あとこういうことは、私が従軍慰安婦でしたということを名のり出て受け取る側も非常に恥ずかしい。もう今お金が欲しくてこういう訴えをしているのではなくて、やはりあれは軍は関与してない、民間人が勝手にやったんだというふうに言い切っていた政府の態度に対する自分の屈辱に、汚辱にまみれた人生は何だったのかという、戦後五十年たって彼女たちの人間としての憤りと憎しみが噴出したのが今回の訴えであり、日本政府に対する請求だと私は思うわけでございますけれども、そういう意味からいっても、だれに払うかわからないというんじゃなしに、とにかくこういう事実が従軍慰安婦と言われる人たちに対して行われた。そうすれば、とにかく、基金にするかあるいは記念碑を建てるか歴史博物館を建てるか、あるいはそういった人たちの生活保障、名のり出てきた人たちに蓋然性が証明されれば生活を援助いたしましょうと、何らかの形をとるとか、そういったことが非常に私は、日本は経済大国と言われているわけでございますけれども、大事なことじゃなかろうかと思うわけでございます。そこまでもういま一歩踏み込まなければだめなんじゃないかなという気がするわけでございます。
 それで、それを前提にしまして、また今までこういった措置が幾つかとられておりますので、こういったことは考えられないかという形で提起できる例があるわけでございますが、昭和六十二年の九月に台湾住民の戦死傷者への補償という形で弔慰金を払っているんですね、議員立法をつくって。こういう方法もあるのじゃなかろうかと思うわけですが、これをすることに何か支障があるかどうか、この辺の見解はいかがでしょうか。

○渡辺(美)国務大臣 これは、日本の軍に徴兵されてそれで戦死した方とか、それかも重度の負傷を受けて目が失明したとか、あるいは腕が足がなくなったとか、いろいろなそういうような方、悲惨な方があって何もされていない。そういうようなことで議員立法をされたことは事実ですが、こういうのはどんどんそれはもう申し出がありますよ。だから人の確定もしやすい。しかし、この従軍慰安婦の問題というのは、申し出の問題というのはなかなか実際問題として、これは生存されておったとしても、あるいは遺族にしても薄々わかっておってもそれはなかなか言いづらい問題ではなかろうかと私は思います。したがって、そういうものも含めて何らかの済まないという気持ちをあらわす何がいいか、それは今後考えていきたい。それには一人一人の者がみんなわからなければなんて、そんなことはそれはもう不可能ですから、大体大ざっぱなところがわかれば政治的な配慮をしていくということ以外に私はないんじゃないかという感じですよ。これは内閣で決まったわけじゃないからちょっと言い過ぎかもしらぬけれども、よく相談をしていきたいと思っています。

○伊東(秀)委員 大変積極的な御姿勢でうれしいのですが、もう一つ、立法は難しいとすれば、在韓被爆者への処置として、九〇年の五月に盧泰愚大統領来日の折に、総額四十億円の支援を表明された。つまり、人道的な立場から、本来ならもう日韓条約で決着しているけれども、政治的な決断として、四十億円在韓被爆者への支援をしたわけですね。そして、医療費とか診療体制とか、あるいは福祉センターをつくるとか、そういった韓国に住んでおられる被爆者の方々への四十億円予算措置をして、去年十七億、ことしの平成四年度の予算でも二十三億円計上しているんですね。こういった措置は考えられないか。つまり、個々人を特定しなければというんじゃなくて、もう政府の関与がここまで明らかになった、そうしたら、この在韓被爆者への措置的な一種の基金をつくって、そして後は、基金の使い道は、当事者とかあるいは韓国にそういった関係者が集まった機関をつくってもらって、その機関に任せるというような方法、これはいかがでしょうか。

○谷野政府委員 私の方から、事実関係だけ確認のために申し上げたいと思いますが、在韓被爆者の問題、確かに四十億円の基金をつくりました。ただいまお願いしております予算案でそのうちの二十三億円をお願いしておるわけでございますが、その前提になりますのも、先生もお触れになりましたように、六五年でこの種のことも含めて日韓間においては決着済みだということを日本側は明確にいたしました上で、この問題を特に取り出して、人道的な見地から何とかしてさしあげなければいけないということで、四十億円の手当てを基金の形でさせていただいておるわけでございます。

○渡辺(美)国務大臣 私が今答弁した中で、大ざっぱな調査と言ったみたいですが、それは語弊がありますから訂正しますが、おおよそという意味ですからね。正確な一人一人、何千何百何十何人という意味じゃないという意味です。
 それから、その後のことは、数字を挙げて何をするというような具体的なことをここでまた申し上げられる段階ではない。

○伊東(秀)委員 いや、外相として、こういった政治的な解決、立法までしなくても、基金を設置して、そして関係者の福祉に役立ててもらうというような構想についてはいかがですかというお伺いをしているのです。

○渡辺(美)国務大臣 そういうことがいいのか、もっと気持ちがすっきりするような形がいいのかも含めまして、それは内々、相談をする場合は、内々話をするということじゃないのか。ここで一方的にこっちが決めちゃってどうのこうのという話じゃないと私は思っています。まだその段階ではありません。

○伊東(秀)委員 内々というのは、韓国との間でというふうに私は理解してよろしいんでしょうね。
 それから、調査の問題にもう一回戻りますが、誠実な調査、それから真相を徹底的に究明するというのであれば、今まで政府がやってきたような調査では大変私は、まさしくふまじめだと思うんですね。どういう調査をやってきたかを伺いましたところ、ヒアリングを平成二年の六月に五名、二日間にわたって厚生省の勤労局にもと勤めていたような人から聞いたということとか、あと、やはり平成二年度に、二日から三日かけて九万人の強制連行者の名簿を当たったが従軍慰安婦らしき人はいなかったとか、それで、裁判が起きてから、昨年の十二月十二日に、自治体への調査とか、六省庁に調査を指示したというのですけれども、もっと本格的に、韓国の方の方々も含めたり、韓国へ出かけていくぐらいの実態調査が必要じゃないかと思うわけです。それには、たとえ数百万円でも予算措置を講ずべきだと思うわけですが、この点について、大蔵大臣、いかがでございましょうか。

○羽田国務大臣 この点につきましては、昨年の末から官房の中で調整、調整といいますか連絡をとりながら調査を始めているということでありますし、また先ごろも、たしか先生に対する御答弁だったですか、総理からも誠心誠意やります、調査をしていきたいということを申し上げて、実際に調査に各関係省庁が今当たっておるということでございまして、今予算的な問題があるというふうに私どもは聞いておりません。予算的に、予算がないからどうこうということじゃなくて、各省の中でそれはやりくりしながら十分調査ができ得るものであろうというふうに考えております。

○伊東(秀)委員 特別には予算措置は講じるつもりはないというふうに御理解してよろしゅうございますでしょうか。

○羽田国務大臣 関係省庁の中でそれは手当てしながら対応しておるというふうに承知しております。

○伊東(秀)委員 ぜひともこの問題については、誠実にして現実的な対処をお願いしておきたいと思います。

 第123回国会 参議院予算委員会 第6号 平成四年三月二十一日(土曜日)

 委員      清水澄子
 外務省条約局長 柳井 俊二

○清水澄子君 時間がなくて論争できませんけれども、日本人の女性を慰安婦にしたことにも私は非常に大きな問題があると思っております。しかし、朝鮮の女性たちにはさらに植民地支配という、そういうやはり民族的な支配と差別があったという、この問題は私たちはやっぱり反省しなきゃいけないと思うわけですね。それが、何か戦争一般論でこのお話をしていらっしゃるところに、私は、この問題の深刻な取り組みなり事態の受けとめ方がやっぱり弱いんじゃないかと非常に心配をしております。
 もう時間がございませんので、次にお尋ねいたしますけれども、それでは、この日韓条約の請求権協定ですね、そういう中でこの従軍慰安婦の補償問題というのはもうすべて解決されていたものなのか、どうなんでしょうか。

○政府委員(柳井俊二君) お答え申し上げます。
 結論的に申し上げますと、この昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定のもとで、御承知のとおり、日韓両国間の請求権の問題は完全かつ最終的に解決したということが、この協定の第二条第一項に結論的に書かれているわけでございます。詳細につきましては、御承知のことと存じますが、この協定のもとで一方においては経済協力を行い、これと並行して請求権の問題は一切解決したということになったわけでございます。
 その方法につきましては、必要あればまた詳しく御説明したいと思います。

○清水澄子君 非常に矛盾だと思います。つい最近まではそういう事実はなかったとおっしゃっておられて、どうして一九六五年にこの問題は終わっていたのでしょうか。その関係をお話しください。

○政府委員(柳井俊二君) ただいま、最近までそういう事実はなかったとおっしゃいましたことの意味を私は必ずしも十分に理解いたしませんでしたけれども、いずれにいたしましても、この請求権の問題は当時の日韓間の長い交渉の中でいろいろ討議をされまして、当初は一件一件の請求の事実を積み上げてそれを検討して、それに補償をするというような方法がとれないものかということで議論があったわけでございます。
 しかし、当時、もう既に戦後相当の時日を経ておりますし、またさらには朝鮮動乱という大変大きな事件が介在いたしましたために、その裏づけになる資料、事実関係等が明らかでたかった。また、双方の法律的な考え方につきましても非常に大きな懸隔があったということで、結論的には、一方において経済協力を行い、一方においてはこの請求権の問題は一括解決するということでこの協定ができたわけでございます。
 したがいまして、私どもが今までいろいろな機会に御説明申し上げておりますことと先ほど申し上げたこととの間に別に矛盾はないと思います。

○清水澄子君 矛盾があります。矛盾がなければもう何にもしなくていいわけなんですね、法的にもすべてそれが完結しているならば。そうじゃないんだと思います。
 次に、じゃ、日韓条約のこの請求権協定の中から外れているものは何なんですか。

○政府委員(柳井俊二君) 結論から申し上げれば、外れているものはございません。日韓両国間におきましては、請求権の問題はこの協定をもって最終かつ完全に解決したということでございます。

○清水澄子君 では、北朝鮮の人たちは外れて、この中に含まれないのですね。そして、サハリン残留の韓国人の財産とか請求権補償、在日の人たちもみんなこれは含まれていないということですか。

○政府委員(柳井俊二君) 先ほど申し上げましたことは日韓両国間においては外れているものはないということでございまして、北朝鮮との関係におきましては、まさに現在国交正常化の中でこういう問題を含めて協議を行っているということでございます。
 なお、サハリンの関係につきましては、この日韓の協定は韓国人という、すなわち韓国の国籍ということで個人の方々をとらえておりますので、もしサハリンに韓国籍の方がおられれば、それはこの協定の対象になるということでございます。ただ、私の承知している限り、サハリンにおられる半島系の方々は、恐らく大部分は北朝鮮の国籍をお持ちであるか、あるいはソ連、現在はロシアでございますが、の国籍をお取りになったか、あるいは無国籍の方もあるというふうに聞いております。

○清水澄子君 それでは、しかし、日韓条約のこの協定第二条一項でいう財産、請求権というのは、そしてこれが完全に解決されたとおっしゃっているのは、これはいつもおっしゃるように日韓両国の外交保護権の問題であって、両国民の個人が持っている権利というものはいかなる理由があろうとも国家が消滅させることはできないということは、これは確認ができると思いますが、いかがですか。

○政府委員(柳井俊二君) ただいま御指摘の問題につきましては、以前にも先生にお答え申し上げたことがございますが、ただいまおっしゃいましたとおり、いわゆる請求権放棄というものは、条約上の問題について申し上げますれば、まさに御指摘のとおり、外交保護権を放棄したということでございまして、この条約をもって個人の権利を国内法的な意味で直接消滅させたというものではないわけでございます。
 ただ、若干補足させていただきますと、この請求権・経済協力協定の第二条の三項に具体的な請求権処理の規定があるわけでございますが、ここでは一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益」、その後はちょっと長くなりますから飛ばしますが、「に対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権」については「いかたる主張もすることができない」という形でいわゆる外交保護権の放棄というものをやっているわけでございます。国については自分の権利を放棄するということでございます。そこで、ここで「財産、権利及び利益」と言っておりますのは、この合意議事録の方で確認しておりますように、「「財産、権利及び利益」とは、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいう」というふうに決められているわけでございます。
 したがいまして、いわゆる従軍慰安婦の請求の問題というのはこのような実体的な権利というものではないわけでございますが、法律上の根拠のある財産的な、実体的な権利というものにつきましては、我が国においては、昭和四十年当時国内法を制定いたしまして、韓国の方々のこのような実体的な権利についてはこれを消滅させたという経過があるわけでございます。

 第123回国会 決算委員会 第2号 平成四年三月二十五日(水曜日)午前十時開議

 委員      志賀 一夫
 外務省アジア局 
 北東アジア課長 武藤 正敏

○志賀(一)委員 ぜひそれを解明していただくように、特に要求をしておきたいと思います。
 次に、日本と韓国の当面の関係でも、戦後処理がされてないために大変訴訟が多い。二、三を申し上げますと、元BC級戦犯の朝鮮人軍属と遺族七名が平成三年十一月十二日に東京地裁、それから軍人軍属の遺族七名、徴用された労働者の遺族六名、軍属一名の計十四名が平成三年十二月十二日に東京地裁に提訴、韓国戦争犠牲者千百名が平成四年二月十七日に対日補償を求めて訴訟というふうに、そのほかにも幾つかありますが、たくさんの方々が戦後補償を求めて裁判に提訴しているという事態を考えますと、日韓協定で五億ドルの賠償、補償ですべて相済みだという政府の一方的理解では日韓関係の正常化を期待することはできないのではないか、この辺に対する見解をお聞きしたいと思います。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 政府といたしましては、朝鮮半島全域のすべての方々に対しまして、過去の一時期、我が国の行為により耐えがたい苦しみと悲しみを体験されたことにつきまして、深い反省と遺憾の意を累次の機会に表明してきたところでございます。
 日韓間におきましては、六五年の日韓請求権・経済協力協定によりまして、御指摘の補償の問題を含めまして日韓両国及び両国民間の財産請求権の問題は完全かつ最終的に解決済みということでございます。また、これと並行いたしまして五億ドルの経済協力を実施してきたところでございます。
 日朝間の財産請求権の問題につきましては、現在日朝国交正常化交渉が行われておりますので、この場におきましてさらに話し合っていきたいと考えております。

○志賀(一)委員 日朝関係の今後の話し合いで進めるというお話でありますが、こういう相次ぐ訴訟がなされた場合に、どういう方針で政府としては対処されようとしているのですか、お伺いしたいと思います。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 私どもといたしましては、訴訟の行方を見守っていきたいと考えております。

○志賀(一)委員 結局、訴訟だけで相済むもので。はなくて、やはり今後の日韓の間のこの問題についての話し合いが、国と国との間の話し合いというものが極めて私は重要になっているのではないかというふうに思います。
 特に最近、韓国では政府側が、六五年日韓条約締結当時と違って新しい事実が相次いで明らかになっておって、その当時の状況とは変わった認識に立っているということでの、後から申し上げますが、元従軍慰安婦の徹底究明と補償要求を政府に対してしている事実があります。これについてはどう思いますか。

○武藤説明員 日韓の財産請求権の問題につきましては、完全かつ最終的に解決済みという立場でございます。

○志賀(一)委員 今、解決済みだ、こういうようなお話でありますけれども、しかし、国と国との間の賠償については解決済みだということで、国際ルールからいえば必ずしも個人の補償はされていない、賠償と補償は違う、こういう見解も当然国際ルール上あるわけでありますから、単に一方的なそれだけの理由では朝鮮のみなさんが納得できないのではないでしょうか。今後もこれらの問題は、韓国ばかりではなくて、北朝鮮からも恐らく相次いで出てくるだろうと思うにつけても、それだけの解釈で通すことができると思いますか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 これは何度もこれまで答弁申し上げているとおりでございまして、私どもといたしましては、過去の一時期我が国の行為によって耐えがたい苦しみと悲しみを体験されたことについて深い反省と遺憾の意を累次の機会に表明してきたわけでございますけれども、財産請求権の問題につきましては、完全かつ最終的に解決済みということで御説明申し上げているところでございます。

○志賀(一)委員 次に、今の問題は一応おきまして御質問いたしたいと思いますが、昨年の十二月六日、元従軍慰安婦ら三十五名が約七億円の補償要求を東京地裁に提訴、こういう問題が明らかになった段階で、宮澤総理が訪韓した際に、一月十七日、韓国大統領からしかるべき措置を要求されて、総理は韓国民に対し謝罪し、慰安婦問題についての調査を継続して行う旨約束をいたしたことがありますが、その後の経過についてお聞きをいたしたいと思います。
 さらにまた、今回従軍慰安婦にかかわる関係資料が防衛庁の図書館から見つかったことや、あるいはアメリカの大学教授が保管をしておった資料でもこの問題に対する国としてのかかわりは明らかになっているわけでありますが、これら慰安婦に対して国としての補償をするということは当然のことだ、そういうふうに思いますけれども、お答えをいただきたいと思います。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 従軍慰安婦の問題につきましては、宮澤総理が先般韓国を訪問されました際に、衷心よりおわびと反省の気持ちを申し上げますとともに、日本政府が関与していたか否かにつきまして誠心誠意調査を行いますということを申し上げたわけでございます。現在この調査を外政審議室を中心といたしまして行っているところでございます。
 先ほどからも御答弁申し上げておりますとおり、日韓の財産請求権の問題というのは完全かつ最終的に解決済みということでございまして、六五年当時予想できなかったことについてもこの協定により解決済みという考え方でございます。

 第123回国会 衆議院法務委員会 第4号 平成四年三月二十七日(金曜日)

 委員        高沢 寅男  
 北東アジア課長   武藤 正敏
 法務省民事局長   清水 湛
 賃金時間部企画室長 朝原 幸久

○高沢委員 そういう問題の一つとして従軍慰安婦の問題がありますね。このことで、宮澤総理が韓国を訪問されて非常にそういうことについての陳謝をされた、謝られた。謝られたけれども、そのことに対する償いをこうするという具体的な問題の出し方は宮澤総理はなかったわけですから、今度は韓国の政府側から、政府ですよ、韓国の政府側から日本に対してこの問題はやはり何とかしてもらわなきゃいかぬというようなことも出ているということ、これは大臣も御承知かと思いますが、この韓国のそういう動きについて、これは今度は外務省がおられますね、外務省として韓国が本当に外交ルートで日本政府に対してそういう賠償を求めてくるところまでいくのかどうか、あるいは今のところはそこまでいかないが、韓国政府として強く日本に対しておれたちにはそういう権利があるぞということを言っておられるのかどうか、その辺の状況判断はどうですか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 本年一月に宮澤総理大臣が訪韓されましたとき、二回首脳会談を行いましたけれども、第二回の日韓首脳会談におきまして盧泰愚大統領は、いわゆる従軍慰安婦問題につきまして真相究明に引き続き取り組んでいきたい、その上でしかるべき措置をお願いしたい旨発言されました。現在の韓一国政府の公式見解は、大統領が言われたとおりであるというふうに私ども承知しております。
 なお、つけ加えて申し上げますと、これに引き続きます首脳会談の直後に行われました両首脳による共同記者会見におきましても、大統領から、私は挺身隊など過去の問題に対し日本政府がより積極的に真相を究明し、その結果に従って相当の措置を誠実に行うよう要請しましたといった発言がございました。

○高沢委員 今の武藤北東アジア課長の御説明の中に、盧泰愚大統領がちゃんとした調査をしてくれ、その調査に基づいて言うならばしかるべき措置を、こう言われたら、そのしかるべき措置という言葉の意味が、これはまあ相手のことですからあなたから今確定的に言えといっても無理でしょうが、しかしこれは極端に言えば、日本政府と韓国政府との間におけるまた何かの賠償要求というような形になり得る可能性があるという性格のものなのかどうか、その辺の判断はどうでしょうか。

○武藤説明員 盧泰愚大統領がしかるべき措置と言われた内容について、私ども推測する立場にはございませんけれども、いずれにいたしましても法的には、先ほど先生もおっしゃいましたとおり日韓間では六五年の日韓請求権経済協力協定によりまして、御指摘の問題も含めまして日韓両国及び日韓両国民間の財産請求権の問題は、政府間の問題としては完全かつ最終的に決着済みということでございます。

○高沢委員 今のお話では十年たてばそういう文書は整理していいというふうな立場でのお答えがあったわけですが、それに関連しますけれども、今度は、昭和三十三年にこれは法務省の民事局長の心得通達というものが出ておりまして、こういう朝鮮人労働者に対する未払い賃金等の供託書類、これが十年の時効の過ぎた後もその金を国庫へ納付するとかあるいはその書類を整理してしまうとかいうふうなことはしてはいけません、こういう当時の法務省の民事局長心得通達というのが出ているわけでありますが、これはどういう目的、どういうねらいでこういう通達を出されたのか、それをお聞きします。

○清水(湛)政府委員 当時の朝鮮人労務者の未払い賃金の供託というのは、一般の、例えば現在の会社の社員の賃金の供託と同じような弁済供託という形でされるわけでございます。このような供託金につきましては、民法の規定によりまして、供託のときから十年たちますと、十年間供託金の還付請求がありませんと、時効によって消滅をする、これは民法の規定によって消滅するという解釈がされているわけでございまして、この解釈は現在も変わってないわけでございます。
 ところが、そういうことになりますと、この問題の供託というのは十年たちますとすべて国庫に入れるということができるわけでございます。しかしながら、昭和二十七年に平和条約というものが締結されまして、その平和条約の四条だと思いますけれども、その四条の中で、朝鮮とかそういう関係者の関係の請求権については特別に取り決めをする、それによって処理をするということにされたわけでございます。そういたしますと、十年たてば、例えば会計法の債権ですと五年たちますと当然絶対的に消滅しますけれども、民法の規定による時効消滅でございますので、時効で消滅させるためには、日本政府の方でこれは時効によって消滅したということを援用するという行為がありませんと時効によって消滅するということにはならないわけでございまして、そういうような平和条約の関係がございましたので、援用するかどうかということを暫時留保するということで、とりあえず十年間によって、時効によって消滅したという見解はもう変える余地はないけれども、これを援用して歳入納付をするかどうかということについては請求権についての特別取り決めが確定するまで待とうということで、当時この通達が出されたというふうに私どもは理解しているわけでございます。

○高沢委員 今の清水局長の御説明でありますが、これは対日平和条約の第四条の中の条項をもとにして御説明になったと思います。そうすると、つまりこの平和条約第四条は、例えば韓国の人が日本に対して持っている請求権、そういうものを処理するには、相手の韓国と日本との二国間の協定に基づいて処理しなさいというようなことがこの平和条約の第四条にあるわけですね。だから、中国人が日本に対して持っている請求権処理は日中の条約の中で処理する、韓国の人は日韓の条約で処理する、こういうようなことになるわけだと思います。そして、その後、現実に昭和四十年に日韓条約が結ばれて、請求権の協定もできた、となれば、今やもうこの時効になった供託の関係はもはや国庫納付していいという条件が整った、こういうふうに見てもいいわけでしょうか。この辺、どうでしょう。

○清水(湛)政府委員 御指摘のように、昭和四十年の日韓請求権協定によりまして、韓国民の日本国に対する請求権、これは供託金の還付請求権は日本国に対する請求権になるわけでございますけれども、これは放棄されたわけでございます。そして、さらにそういう請求権協定を踏まえまして、協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律という法律までつくられまして、そういう韓国民の還付請求権はもうないということが国内法においても明定されたという経緯があるわけでございます。
 ただ、そこで私ども一つ問題になると考えますのは、韓国との間にはこのようなことでございますから韓国民が請求権を行使することはあり得ないわけでございますけれども、北朝鮮との関係においてどうなるかという問題が残されておる。このことは必ずしも定かではございませんけれども、そういう問題があるのではないかということと、それから被供託者として掲げられておられる方が韓国の方なのか北朝鮮の方なのか、もし韓国、北朝鮮ということを区別するということになりますと、果たしてその方は韓国の方なのか、いわゆる北朝鮮の方なのかということについては判別資料は何もございませんので、現在のところそのまま供託を持続させるという措置と申しますか、特段の措置をとらないということにいたしておるというのが現状でございます。

○高沢委員 今のお答えに関連して幾つかお聞きしたいのですが、一つは北朝鮮の関係ですね。今、現に日朝の国交の交渉が行われているわけでありまして、したがってあの交渉の中で、私はいずれ妥結すると思いますが、その妥結に至る過程で北朝鮮側からこういう請求権は一体どうするんだということは、必ず今度は日本政府に対して、日本の代表団に対してそういう問題の提起が出てくるのじゃないかという感じがします、これは外務省にお聞きしますけれども。日本と北朝鮮の交渉の中で、今のところはまだそういう問題は出ていないということですか、もう出ているのですか、どうでしょうか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 日朝国交正常化交渉におきまして、経済的な問題につきましては現在北朝鮮側と話し合っているところでございますけれども、現在までのところ先生御指摘のような点についてまで議論は至っていないということでございます。

○高沢委員 私の理解するところでは、北朝鮮側は、戦争終了まで日本が朝鮮を植民地として支配していたそのころに対する賠償、それから今度は第二次大戦後今日までのいろいろの日本と北朝鮮との関係に伴う償いというような両面の立場の主張が北朝鮮側はある、こう私は承知しているわけでありますが、この問題も戦争が終了するまでの間のことにも関連するわけですね。今までのところはまだ具体的に北朝鮮側から出ていないというふうにさっきは言われましたけれども、これから出る可能性は、武藤課長、どう考えますか。

○武藤説明員 北朝鮮との国交正常化交渉におきまして経済的諸問題の交渉の状況でございますけれども、現状は、日本側から、これは財産、請求権として処理すべき問題であるということを御説明いたしまして、こういった形で処理するためにはどういった事実について請求するのか、その根拠となるものは何か、法律的な根拠は何かということを示していただきたいということをお願いしているところでございます。現在までのところ、私どもこういった点について十分御説明いただいていないわけでございますので、それ以上の問題についてまだなかなか今突っ込んで議論できないという状況でございます。

○高沢委員 では、この問題は今後の問題ということでわかりました。
 武藤課長、今度は、日韓の請求権協定によって、供託されたものの請求権ということもこれでもうなしにした、こういう清水局長の先ほどの御説明ですが、しかしこの日韓請求権協定のときにこれらの問題に触れて、例えば徴用された朝鮮人労働者の未払い賃金はどうだとか、それはもうなしにしましょうとか、日韓協定のときにその種のことに触れた話し合いがあって、それでもうなしというふうな合意になったのかどうか、これはどうですか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 韓国人労働者に対する未払い賃金の問題を含めまして日韓間の財産、請求権の問題は、六五年の日韓請求権経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みということでございます。韓国側から対日請求要綱、いわゆる八項目と言われるものでございますけれども、これが出されておりまして、完全かつ最終的に解決済みの内容でございますけれども、この八項目に含まれるもの、また含まれないもの、すべて解決済みということでございます。
 なお、被徴用者韓国人未収金の問題につきましては、対日請求要綱八項目の中の第五項に含まれておりまして、そういった見地からもこれで解決されているということは明らかだろうと思います。

○高沢委員 先ほどの清水局長の御説明の中で、この人は韓国なのかあるいはこの人は北朝鮮なのかという識別が非常に複雑で難しい。確かに、日本にいる在日の人たちの中でも朝鮮という国籍を持っている人もいる、韓国の国籍を持っている人もいる。だけれども、朝鮮という国籍を持っている人も、よく聞いてみると出身は南朝鮮だという人が非常に多いという状況の中で、そういう関係者の朝鮮人、韓国人、こちらは韓国だ、こちらは朝鮮だという識別は現実には非常に難しい、私はこんなふうに思います。そういう難しいということを考慮してこの供託問題の処理はなおそのままにして保留しているとさっき局長のお話がありましたが、そういうふうに理解していいですか。もう一度御説明願います。

○清水(湛)政府委員 昭和四十年の日韓請求権協定というのが、要するに現在の韓国だけの範囲に限定された協定であるということになりますと、朝鮮半島のその余の分の問題は積み残されることになるのではないか、こういう問題意識から私ども残しているわけでございますけれども、実際問題といたしましても、先生先ほど御指摘のようにどちらかわからない、私ども調べたわけではございませんけれども、一、二当たってみますとそれはわからないというのは正直言ってそのとおりでございますので、現在のところはそのままにせざるを得ないと考えているわけでございます。

○高沢委員 その点はよくわかりました。もっとも、この点はまた後でちょっと触れることになりますが、一応次に進みます。
 それで次に、一九九〇年に韓国政府から要請があって、日本政府は強制連行されてきた朝鮮人の名簿の調査をする、そのことを一昨年の五月二十九日の閣議で決定をされた。そして、その調査の作業に取り組みをされて今日に至っておる。その調査の中心のあれは労働省がおやりになるということも申し合わせされている、こう聞いているわけですが、労働省、その復そういう強制連行の人たちの調査で今までにどの程度のことがわかったのか。向こうの要請で始めたわけですから、それを韓国の政府に報告するというか通告するというか、そういうことも当然必要になるかと思いますが、そういうふうなことは今までにどういうふうにされてきたのか、現状を説明してください。

○朝原説明員 いわゆる朝鮮人徴用者にかかわる名簿の調査ということでございまして、これにつきまして労働省といたしましても調査していったわけでございます。調査範囲としましては、都道府県あるいは公共職業安定所等を中心にやっていったわけでございます。ただ、これに基づきましての調査の結果自体は、私どもの職業安定局の方でやっておりまして、今ちょっと手元に資料を持ち合わせてございませんので、そのことにつきましては今はお答えは控えさせていただきたいと思います。

○高沢委員 では、今言われた、ここでは説明できないという資料は、また別途私の方へ説明をお願いしたいと思います。
 ただ、ある程度まとまったものを韓国政府に対して、このくらいありましたよということを報告というか通告をされたやに聞いておりますが、その辺はどうですか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 一昨年五月の盧泰愚大統領訪日時の日韓外相会談におきまして、韓国側より、終戦前に徴用された方の名簿の入手について協力要請がございまして、これに日本政府として協力をすることを受けまして、労働省が中心となって調査を行ったわけでございます。その結果、昨年三月、調査によって存在が確認されました九万八百余名分の名簿を韓国側に引き渡しました。

○高沢委員 戦争中に日本へ連れてこられた朝鮮人の数は百何十万というふうに伝えられているわけですが、今のお話ではその中でとりあえず九万という報告ですけれども、これはまだまだですね。これからそういう調査を当然続けて、より多くこの名簿を見つけていかなければいかぬということだと思いますが、今後さらに進めて調べていくというのは労働省が中心でしょうから、これからのやり方はどんなふうにやっていくというふうなプランを持っておられるか、お考えを持っておられるか、労働省の立場をお聞きしたいと思います。

○朝原説明員 先ほど外務省の方がおっしゃられたように九万人というような調査結果が出ておりますけれども、引き続きまして労働省といたしましてはその調査を続けていくということで考えております。まだその結果等についてはまとまった数字はありませんが、今現在もそういうふうな調査は引き続き行っているということでございます。

○高沢委員 先ほど私は、昭和二十一年に当時の厚生省の労政局長から出された通達の中で三部の報告を二部は本省に置きなさい、一部は都道府県の県庁に置きなさいと言っているけれどもそれは今どうなっているんだと聞いたら、一切ない、そういうものは今一つも見つからないというような報告であったわけですが、こういうものがあれば、その中に供託をして、相手の朝鮮の人、当時は朝鮮の人もみんな日本名を名のっていることが多かったからそうでしょうけれども、それにしても、だれだれ、だれだれ、だれだれ、それは幾ら、幾ら、幾らというものがあればちゃんと資料が発見されるということになったと私は思います。そういうものが一つもなかった。しかし、これからさらに調査を進めますということになりますと、どういうところへ、どういう方法で調査をされるお考えか、これを説明してください。なるほど、そういうやり方ならある程度見つかるだろうとわかるような説明を願いたいと思います。

○朝原説明員 先生の御質問でございますけれども、我々としてもどこにあるかということがわかっていれば非常にわかりやすいのですけれども、実際どこにあるかということがわからない中で調査するということでございまして、非常に難しい状況にありまして、先ほど言いましたように、今までのところは九万人ほどについて判明したという状況なわけでございます。そういう状況ではございますけれども、これぞということはなかなか言えませんけれども、地道に我々といたしましても、この問題につきます国民世論等の高まりあるいは関心の高まり等の中で、こういう強制的に連れてこられた労働者の名簿等についてさらに新たな発見が出てくるのではないかと考えておるところでございます。

○高沢委員 私が労働省に教えてあげると言っては大変失礼かもしれませんが、こういう方法はどうなんですか。戦争中に朝鮮人徴用工を使っていた会社、企業はどれとどれとどれか、これは恐らくわかるでしょうから、そういうところが名簿を持っているとすれば、持っているはずなんであって、そういうところに照会されて、戦争中の朝鮮人の労務者を使った名簿を出しなさい、資料を出しなさいということはできるのじゃないですか。
 それからもう一つは、日本でもそういう問題に非常に熱心に取り組んでいる個人や団体がありまして、そういう人たちがどことこへ行ってこういう資料を見つけた、どこどこを探したらこういう名簿が見つかったというような形で随分、言うならばボランティアの形で、あるいは別な言葉でNGOと言っていいのかな、そういう運動をしている人が非常にたくさんありますね。労働省はそういう人たちに協力を求めて、教えてくれ、資料を提供してほしいというような形で求めるのも一つの方法じゃないですか。どうですか。

○朝原説明員 関係のありそうな企業については前回の調査でもいろいろお聞きしたところでございます。今先生がおっしゃられたそういうふうな団体等を通じてのいろいろな情報提供がありましたら、我々としては十分そういうものを受けてさらにその実態について明らかにしていきたいと思っております。

○高沢委員 もう一つの方法は、さっき清水局長から、朝鮮、韓国のいろいろな状況を考慮して、既に十年の時効が済んだ、本来ならば国庫へ納付すべき供託についてもそういう措置はとらないでなお留保しているというお話がありましたが、そういたしますと、供託を受けた全国の法務局を調査されて、法務局がなおそういう資料を持っている、その法務局の持っている資料を収集されることも最も有力な調査の方法としてあるのじゃないかと私は思いますが、これは労働省、法務省が協力されればそういうものが出てくるのじゃないですか。どうでしょう。

○清水(湛)政府委員 これは先ほど来答弁しておりますように、普通の弁済供託という形でされたものでございまして、現実には年間六十万件の供託があり六十万件の還付がある、常時数百万の供託案件がある、こういうことになっているわけでございます。そういう状況の中で具体的にその一々をチェックするということは非常に難しい問題がありますとともに、もう一つは、これはいささか形式論かもしれませんけれども、供託書というのは利害関係人、つまりその供託金還付請求権を差し押さえようとする者とか、供託金について相続人として還付を受けようとする者とか、いわば銀行預金と同じような性格を持つものでございますので、そういう法律的な意味での利害関係を有する者にしか見せられないというようなことになっているわけでございまして、供託関係を通じて調査をするということは非常に難しいことではないかと私どもは今のところ考えているわけでございます。

○高沢委員 清水局長の答弁ですが、これはちょっといただけない。大体この種の供託は、昭和二十一年、二十二年、二十三年、あのころのタイミングで供託されているわけです。ですから、そういう年に限って供託された件数を調べるということはそんなに困難なことじゃないと思うし、その供託がいずれもだれに幾ら、だれに幾らというような関係がちゃんと中身もある供託として出されているわけですから、それを調べるということをやれば、少なくも法務局で、もうそんな資料はありませんと言う法務局ならいざ知らず、法務局によってちゃんとありますと言う法務局があるわけですから、そういうところを調べることは十分可能であると私は思います。
 それから、今個人関係、権利関係に絡むからとおっしゃるけれども、この場合は国がやる調査ですから、政府がやる調査ですから、したがって政府の機関である法務省法務局にそういう資料の提供を求める。この場合には供託をした企業と相手の朝鮮人、韓国人との権利関係ということになるわけですから、そこへだれか第三者がしゃしゃり込んできてその権利をとってしまうというようなこともあり得ないケースですから、これはそこをちゃんと調査されるのが一番確実な道じゃないかと思うのですが、どうでしょう。

○清水(湛)政府委員 私ども一、二そういう例をたまたまわかっているものについて見たこともあるわけでございますけれども、日本名のものもかなりたくさんございますし、果たして正確な事実をそれによって掌握することができるのかどうか。それから、私ども聞くところによりますと、供託後に未払い賃金、当時の供託額は一人について数十円というような供託金額でございますけれども、これの還付を受けた方もかなりおられるということでございまして、そういうものが果たして正確な数字をあらわし得るものであるかどうかということについてもやはり問題があるのではないか。そういうようなことを考えますと、先生の御指摘ですから研究はいたしますけれども、なかなか難しい話ではないのかなというふうに思っておる次第でございます。

○高沢委員 次へ進まなければいけませんが、じゃ、もう一回だけ言っておきます。
 朝鮮の人で日本名を名のった人は、例えば金さんは金山さんとか金本さんとか、朴さんは新井さんとか大体決まった名前の名のり方をしているケースが多いのですよ、そうでない人もあるかもしれませんが。ですから、名前が日本名だから判別はできないということだけではこれは通らないことなのであって、そしてその当時に供託されたものと見れば、大体中身は朝鮮人の労働者対象の供託なのですから、大体これは皆朝鮮の人、韓国の人、こういうふうに見て私は間違いないと思っております。そういう意味で、既に還付されたものがあったとしてもそれならその還付された人の名前がわかるわけだし、まだ還付してないものはしてないものでその名前や金額があるわけですから、それを調べるということはぜひひとつやってもらいたい、やるべきだ、こういうことを要望として申し上げます。
 次へ進みますが、きょう本来お尋ねしたかったことは、これに関連して三菱重工の長崎造船所で働いていた金さんという韓国の人、この人から実はこの供託に関連し三菱重工に対して自分の未払い賃金の請求が出されているということに関連して、あとお尋ねをしたいと思います。
 この金さんという方は、金順吉、韓国読みにすればキム・スンギルという人だそうですが、この人が徴用工として昭和二十年の一月から八月まで長崎の造船所で働いた。そして、長崎に原爆が落とされて、この人のいた場所は爆心地から遠かったから幸い重大な障害は受けなくて、そしてもうおれは帰ろうということで韓国へ帰ったそうです。
 この人が昨年の夏長崎へやってきて、三菱重工に対して、私の未払い賃金があるわけだがそれをひとつ払ってくれというふうに申し込んできた。それに対して三菱重工長崎造船所では、それはあなたの分も含めてそういう朝鮮の人のものは全部昭和二十三年に供託しました、供託したからもう我が社としては関係ないのだ、この件は済んでいるのだ、こういうふうに会社は答えるというやりとりから事が始まったわけですが、この金さんは韓国の釜山にいる人だそうです。したがって、しょっちゅう日本に来るわけにいかないから、それで長崎造船所の労働組合にこの交渉の権利を委任したということでもって、後この労働組合がいろいろ会社側あるいは法務局あるいは県庁とやっておるということであります。
 供託したということに対してそれを確認しなければいかぬというので、造船の労働組合が昭和二十一年通達では各地方長官のところへ一部残すということになっているから、そういう供託の資料がありますかと言って県庁へ行ったら、もう県庁にはありません。それから、法務局へ行ったら、長崎の法務局では、そういう資料はないという言い方あるいは見せられないという言い方あるいは既にそういう資料を廃棄したという言い方、何かいろいろの言い方で答えているらしい。要するに、ないというふうに長崎の法務局では言っているということであります。それから、会社側もその供託の件を法務局へ聞きに行ったが、法務局ではその供託の番号、ナンバーを言わなければ何も見せられないと答えられたというのですね。
 そこで、まことに奇怪なことでありますが、三菱重工長崎造船所が本当に供託したとすれば、その供託書の正本は長崎造船所の会社が持っておるわけです。それで、法務局にはその副本があるわけですね。したがって、副本のあるなしは別として、まず本来持っているべき第一義的責任者である長崎造船所がその大事な正本の供託の書類がない、こういう状況にあるわけですが、これは三菱ほどの、三菱ともあろうものがそういう大事な書類が今ないというふうなことを、ああそうですか、ないですかということでは到底済まないことだと私は思うのですが、この辺は法務省にお聞きしたらいいのか、やはり法務省でしょうな。今ないというこのことを一体どう考えたらいいのか、お聞きしたいと思います。

○清水(湛)政府委員 御指摘のように、長崎の法務局に金順吉さんという方の供託があるかどうかというお尋ねがあったということでございます。そこで、現地の法務局でいろいろ調査をしてみたわけでございますが、金順吉さんを被供託者とする供託書副本は発見することができなかった、見当たらなかったというふうに私どもは報告を受けているわけでございます。
 もし、本当に三菱重工長崎造船所が供託をしているということであれば、先生御指摘のように供託書正本はそちらにあるはずだということになるわけでございますけれども、これは三菱重工株式会社の内部の問題でございますので私どもとしてはどういうことなのかちょっとわかりませんけれども、果たして供託がされたのかどうか、私どもの方からいたしますと、供託書副本がございませんのでこの点についてはないという事実だけをお答えすることしかできない、こういうのが現在の実情でございます。

○高沢委員 これは、同じ三菱で広島にも造船所があるのですね。それで、広島の三菱の造船所は同じ時期に同じように朝鮮人の労働者の未払い賃金などを広島の法務局へ供託したというわけですが、広島でそういう供託の資料があるかどうか、この間、事前のあれでは法務省からはそれはあるというお答えでありましたが、もう一度ここで広島の状況を御説明ください。

○清水(湛)政府委員 広島法務局には三菱重工新式会社がした供託がございます。たしかこれは昭和四十九年でございますか、三菱重工広島造船所自身が、これは御本人は供託者でございますので当然そういう供託関係の書類を閲覧することができるわけでございますが、閲覧をしたという事実がございます。

○高沢委員 同じ三菱で広島はある、長崎はない。このことを考えるときに、一つの私の仮定の考えですが、そもそも供託したと言っているけれども、しなかったのではないのか。しなかったのならあるはずがない。そして、しなかったのにしたと言っているのではないのか、こんなことが一つのケースとして考えられる。
 それから第二のケースは、供託はしたけれども、何らかの理由で長崎の法務局が供託の金を国庫へ納入してしまったのか、それに関連して供託の書類を廃棄してしまったのかというふうなことで今長崎法務局にありません、こうなっているのかどうかですね。
 それから第三は、十年の時効になる前に三菱が長崎の法務局へ一たん供託したのを、あれはもうやめた、返してくれ、取り下げというのか取り戻しというのか、そういうふうなことをやったのか、それで法務局には今は何もないということになっているのかな。こんなふうに、一のケース、二のケース、三のケースでそれを考えてみたわけですが、私は素人ですが、そういうケースの考え方はどうかな。法務省は専門家としてどうお考えですか。

○清水(湛)政府委員 これは本当に仮定の事実で、理論的な可能性としてお答えするしかないというふうに思うのでございますけれども、供託がなければ供託書副本がないのはこれは当たり前ということになろうかと思います。あるいは、供託はあったけれども、法務局の方でこれは時効だということで処理をしてしまったということも、それは全くあり得ないことではないのかなというような感じは、それはしないわけではございません。しかし、これはまことに古い話でございまして、現在の長崎の地方法務局の責任者としては、関係書類を調査したところ見当たらない、これだけが責任を持って言える事実であるということでございますので、その事実を超えていろいろ想像を交えて申し上げることは、ちょっと現段階においては差し控えさしていただきたいというふうに私ども思う次第でございます。

○高沢委員 それじゃ、先ほど三菱は広島ではちゃんとやって広島には資料があるということが確認されました。
 ではもう一つ。同じ長崎で戦争中に朝鮮人の労働者を使っていたという企業はほかにあるわけですね。川南造船とかあるいは高島炭鉱とか、そういうものが長崎にあるわけだから、そういう企業、会社は朝鮮人労働者の未払い賃金のそういう供託をしているかどうか。その資料は今でも長崎法務局にあるのかどうか。私は、これは一回法務省で、今ここでお答えをもらえれば一番いいんだけれども、もしそうでなければまた改めて調べてお答えをいただきたいと思うんです。もし、そういうところはちゃんとしている、しかし三菱はしていないということになると、どうも初めからしなかったんじゃないかというふうな感じにもなるわけですが、この辺のところはどうでしょうか。

○清水(湛)政府委員 私ども、三菱重工以外にどういう会社が供託をしたかということについては現在資料を持ち合わせておりませんので、答弁は現段階ではちょっと留保させていただきたいと思います。

○高沢委員 それは結構です。今ここでの質問ですから、後で調べていただいて、そのことのわかった結果をまた教えていただきたい、連絡していただきたい、こう思います。
 それで、そうなってまいりますと、供託をしたかしないかは一応別として、請求権者である金順吉さんからすれば、自分の受け取るべき権利のあるそういう請求権はあるんだ、だけれどもとにかく今まで受け取っていないというふうになりますと、これをとにかく私はもらいたい、請求するというときに、請求の相手はその供託を受けた国であるのか供託をすべきであった三菱重工であるのか、この辺は裁判の関係からするとどっちになるんでしょう。

○清水(湛)政府委員 供託の事実があったという前提をとりますと、金順吉さんは国に対して還付請求をするということになるわけでございますが、この点については先ほど来御答弁申し上げておりますように時効によって消滅し、かつ四十年の請求権協定によって、韓国の方のようでございますから絶対的に消滅をしているということでございますのでもう既にその請求権を行使することができない、こういうことになろうかと思います。
 それから、供託をしていないということになりますと、三菱重工に対して未払い賃金の支払い請求をするということになろうかと思いますが、これについても恐らく時効の問題が生じ、かつ先ほど来申し上げておりますような日韓請求権協定によって韓国民の日本国民に対する請求権は放棄され、またそれに基づく国内法によってそういう権利が消滅しているということになろうかと思います。これは、三菱重工と金順吉さんの関係について私どもが申し上げるべきことでは広いかもしれませんけれども、そういうふうなことになるのではないかというふうに思います。国に対する関係においては請求権は絶対的に消滅している、このことについてはもう争う余地がないというふうに思う次第でございます。

○高沢委員 請求権者の金順吉さんからすれば、供託をしたという三菱重工がそれを立証する大事な大事な書類を持ってない、しかも先ほども言いました三菱ほどの大企業、ちゃんとした事務の体系の整っておる会社がそれを証明する資料を持っていないということは、供託しなかったという認定もできるし、供託をしたにしてもそれを証明するものを失ったということはやはり三菱重工の大きな責任である、当然そういうことになろうかと私は思います。そういう点において、その場合には金さんから三菱重工に対して支払いの請求を提起する、裁判の提起もしたいというふうに言っておられるようでありますが、いずれそういう展開になるかもしれませんが、私はそういうことになろうかと思うのでありますが、そのときに、さっきの局長の説明では、日本国民に対しての請求権も既にないんだから、もう金さんはそういうことを三菱に対して提起する根拠というか権限もないんだ、こういうふうな御説明であったように聞きますが、そう理解していいのか。あるいは権利があったにしても、もう時間が四十年以上たっている、だから時効で、この請求は時効によっても請求できないというような意味も含めて何かお答えがあったような気がしますが、それはそういうことなんでしょうか。どうですか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 六五年の日韓請求権・経済協力協定第二条一項は、日韓両国及び両国国民間の財産、請求権問題は完全かっ最終的に解決したことを確認しておりますけれども、この規定は、日韓両国国民間の財産、請求権問題については日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄したことを確認するものでございまして、いわゆる個人の財産、請求権そのものを国内法的な意味で消滅させているものではございません。同協定におきましては、第二条三項におきまして、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって同協定の署名の日に他方の締約国の管轄のもとにあるものに対してとられる措置については今後いかなる主張もなされないと規定しておりますけれども、これを換言いたしますと、同協定の対象となっているこれらの財産、権利及び利益について具体的にいかなる措置をとるかについては他方の締約国の決定にゆだねられることを意味しております。
 同規定を受けまして、我が国は韓国及び韓国国民に係る財産、権利及び利益につき国内法を制定して処理してまいりました。

○高沢委員 私、素人だから、今の武藤課長の説明は、いろいろ言ったけれども、要するに三菱に対して金さんが請求を提起する根拠はもうないんだ、こういうことですか。わかりやすく言ってください、根拠はないのかあるのか。

○武藤説明員 日本国及び日本国民に対する債権については消滅しているということでございます。日本国民でございます。

○高沢委員 すると、仮に金さんが今度三菱を相手取って請求の裁判を起こしたときに、もう裁判所は入り口で断るんですか。根拠はありませんよ、こうなるんですか。どうでしょう。それは裁判官の判断になりますか。裁判官が、これはやはり三菱は払うべきであるというふうな判断もできるわけですか。

○清水(湛)政府委員 先ほど外務省の方からお答えがございましたように、四十年の請求権協定第二条に基づく日本の国内法としての法律が別途制定されまして、この法律の中で日本国及び日本国民に対する債権については消滅をするというふうに、国内法としてもそういう法律がつくられたわけでございます。
 それで、先生の御指摘は、訴訟法的に申しますと、門前払いの判決をするのかあるいは裁判所は本案について裁判をするのかといういささか訴訟法的な分類に伴う御質問だというふうに考えますと、門前払いということではございませんで、やはり権利はもうこの法律の規定によって消滅したという認定をして、請求棄却をするということになるのではないかというふうに私どもは思うわけでございます。ただ、これは先ほど申しましたように三菱重工と金順吉さんの間の問題でございますから、私どもが確定的にその間の訴訟がどうなるこうなるというようなことを申し上げるべき立場ではないということは前提として御理解いただきたいと思う次第でございます。

○高沢委員 もうこれで終わりますけれども、私はこれに関して、この金順吉さんの委任を受けていろいろやっている長崎の造船の組合の人たちあるいは長崎でこの問題にかかわっておる我々社会党の仲間の人とか、あるいは金さん本人と十分協議してこれからの対応をひとつ決めていきたいと思います。
 ただ、一言言いたいことは、金さん自身は自分のそういう権利が供託されているということ自体も知らされずに、全く知らずにずっと四十年たってきて、そして今ここでもってそういう自分の権利があるということに気づいて求めてきたことに対して、もう済んでいるよというふうなことでは、それこそ日本の第二次大戦に対する責任として済まぬじゃないか、こんな感じが私はするわけです。これは最後に私の見解として申し上げて、終わりたいと思います。

 第123回国会 参議院予算委員会 第11号 平成四年四月一日(水曜日)午前十時八分開会

 委員        吉川 春子
 外務省条約局長    柳井 俊二
 国務大臣 
(内閣官房長官)    加藤 紘一
 外務大臣       渡辺 美智雄

○吉川春子君 永久保存の極秘文書は全部焼却されたんですね。そして、今もうこれを各省に任されていて、それを禁止するような法律的な措置は何もないんです。
 この問題は別の委員会で引き続き取り上げていきたいと思いますが、強制連行によって従軍慰安婦にさせられたことは否定しようもない。そして、しかも自分で書類を全部焼却しておいて、証拠が出るまで認めないということはもうけしからぬことだと思うんです。とりあえず、日本政府がこの問題の関与を認めたのならば、次の質問に移りますが、何らかの補償をすべきではありませんか。

○政府委員(柳井俊二君) 日本国政府が当時関与したという前提に立つ場合におきましてその補償の問題はどうかということでございますが、これは御承知のことと存じますので長くは申しませんけれども、韓国との関係につきましては、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定におきましてこの請求権の問題を処理したわけでございます。これも御承知のとおりでございますが、結論的にはその第二条におきまして、このような請求権あるいは財産、権利、利益というような問題は日韓間では完全かつ最終的に解決されたということが規定されているわけでございます。

○吉川春子君 外務大臣、今の論議はちょっときょうは時間がないのでしませんが、何らかの償いをすべきだと思いますが、いかがですか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) これは私はかねて答弁をしておるんですが、日韓両国の間では、国家間においてはこれはもう論争をすることはないんです。完全かつ最終的に解決がすべてついております。しかしながら、政治問題として、人道問題として騒ぎが起きておるわけでございますから、これについては政治的な配慮のもとで解決するための何らかのことを考えなければなるまいな、そう考えております。

○吉川春子君 官房長官、政府は関与を認めておられますが、総理は補償については裁判の経緯を見るとおっしゃっています。そしてその後、渡辺外相が政治的な配慮を行うという答弁を衆議院の予算委員会でもされておりますが、これは政府として裁判待ちでなく何らかの政治的な判断を、配慮をする、こういうふうに受け取ってよろしゅうございますか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 私は、具体的にどうするこうすると言っているんじゃなくして、要するに政府間政府はそれはすべて解決済みと。しかしながら個人が日本の裁判所に訴え出ることまで拒否するということはできません。それは個人の補償を求めて裁判に出ているわけですから、その個人の補償問題というのは裁判で決着をつけてもらわなけりゃなるまい、さように考えております。
 しかし問題は、それじゃ裁判に出ている人だけが慰安婦だったのかということになりますと、その数は非常に少ない数でございまして、こういうような者が他にあっても訴えて出るような性質の方は私は少ないんじゃないか。例えば遺族とか何かが残っておっても、うちの係累のだれだれがこうだったというようなことで裁判に出てくるケースというものは、私は皆は出てこないと。また、政府が仮に名のりを上げてくれと言ったからといって、名のり出るというケースは実際問題として私はそう多いとは思っておりません。したがって、なかなか個人の補償というのは難しいだろう、しかしながら何らかのことはやはりする必要があるんじゃなかろうか、そういうことを言っておるのであって、これは総理の答弁と少しも食い違いはありません。

○吉川春子君 そういたしますと、政府として裁判の経緯待ちではなくて、今のようなことも含めて何らかの政治的な配慮をする、これが内閣の方針である、このように受け取ってよろしゅうございますか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 内閣としてそういうことを閣議決定したわけではありませんから内閣の方針とは言えないかもしれませんが、しかし、調査をもう少しやってみて、どれくらいの規模でどんなふうな形態であったのかということについては、これは私は韓国だけではないんじゃないかと。もちろん内地からも、日本からもたくさん行っているわけですから、そこらのところをどうするかですね。
 しかし、今問題が表面化しているのは、裁判に出ている方、または一部韓国の世論も日本の世論もありましょうが、どういうふうにするかについてもう少し実態がわからぬとなかなか結論が出ない。したがって、鋭意その実態を正確に調べているというのが現状であります。

○国務大臣(加藤紘一君) 総理大臣もただいま渡辺外相がおっしゃられたとおりの気持ちでおります。

 第123回国会 参議院内閣委員会 第4号 平成四年四月七日(火曜日)午前十時二分開会

 委員         翫 正敏
 国務大臣
(内閣官房長官)    加藤 紘一
 外務省アジア局審議官 竹中 繁雄
 委員長        梶原 清

○翫正敏君 加藤官房長官に質問をいたします。
 きのう四月六日、中国共産党の江沢民総書記が来日をいたしました。江沢民総書記は今回の訪日に先立つ記者会見において、この訪日の意義について、ことしは中日国交正常化二十周年であり、共同声明と友好条約の基礎の上に、未来を見つめて一層の中日・関係の発展を推進したいと述べておられます。日中両国間の一層の友好関係を深める上で、我々日本人における原点は何といっても日中間の近代における歴史の事実を直視し、日本が中国に対する侵略の非を率直に認め、謝罪をし、さらに日本の侵略によって被害を受けられた方々に適切なる補償をすること、また、過去の歴史を知らない若い世代の人たちに、その歴史の意味と教訓を受け継ぐための教育をすることであろうと私は確信をいたしております。
 そこで、私はまず、日本国の国会議員の一人として、中国の人々にこの件について深く謝罪をしたいと思います。また同時に、一人の日本人として、いや何よりも一個の人間として、日本の侵略行為に対する痛切なる反省に立って、戦争責任、戦後責任を全うしていく所存であることを表明いたします。
 江沢民総書記は、戦争賠償の問題について、日本軍国主義が中国侵略戦争を起こし、中国人民に大きな損害をもたらした、一部の戦争の残した問題は実事求是で厳粛に受けとめるという原則により、協議によって善処すべきだと言っております。また、江沢民総書記に先立って銭其シン外相も、中国への侵略戦争がもたらした複雑な問題。について日本政府は当然適切に処理すべきだと言い、事実上民間の賠償請求権を認める発言をしています。そして、江沢民総書記もまたこの外相のコメントを公的な見解だと言っているところでございます。また、昨日四月六日の宮澤首相との首脳会談においては、中国は前のことを忘れて未来を見る、日本は前のことを忘れず後の戒めとすることが重要であると、このような発言をしたということが報じられております。
 さて、日本のかつての侵略による被害に対する民間の賠償請求権の問題については、昨年一九九一年三月、中風の国会であります全国人民代表大会、全人代に建議が出されまして、昨年八月の海部前首相訪中時には海部首相あての請願書も出されているところであります。そして、この三月二十日に始まった中国の全国人民代表大会には法案として提出をされるところにまで民間の要求が高まってきているということが報道されております。さらには、この国会に当たる全人代だけではなくて、重慶市などのいわば地方議会においてもこの民間の賠償請求の動きは広がりを見せております。
 そこで、まず官房長官に総論的にお尋ねをしますが、昨年の全人代の建議に始まりまして、続いておりますこれら一連の動きにつきまして、その経過とか内容について、また、日本政府にあてて提出されたものなどについてはそれをどのように受け取っているのか、受け取った上で、現在政府としてはどういう処置や話し合いを進めているのかなとを含めて、概略状況の報告をいただきたいと思います。

○国務大臣(加藤紘一君) 総論的に申しますと、アジア・太平洋を初めとする関係地域の人々が過去の一時期、我が国の行為により耐えがたい苦しみと悲しみを体験されたことにつきまして、我々は深い反省と遺憾の意を表したいと思っておりますし、またこれはこれまで日本の総理大臣が表明されてきたところでございます。我々はこのこうした過去の過ちを直視し、歴史を正しく伝え、二度とこのような過ちは繰り返さないという戒めの心をさらに培って、養って、国際社会の一員としての責務を果たしていくという心構えが肝要なことだと思っております。
 なお、先生が今御質問になられましたここ一両年の中国におけるいろいろな動き、建議、その経過等につきましては担当者の方から、また御質問があれば詳細にお答えいたしていきたいと思いますが、いわゆる賠償等の問題につきましては、連合国及び戦後我が国より分離した地域との間の請求権の問題につきましては、我が国としてはサンフランシスコ平和条約、二国間の平和条約その他の関連する条約等に従って誠実に対応してきているところでございます。
 中国との関係について申しますならば、戦争にかかわる日中間の請求権の問題は一九七二年の日中共同声明発出後存在してないものと思っておりますし、かかる認識は中国政府も累次明らかにされているところでございます。

○翫正敏君 そこで、条約と外交保護権の問題につきまして少し立ち入って質問していきたいと思いますので引き続きお願いいたしますが、細かい条約の解釈などについて政府委員の方から答弁があっても結構だと思います。
 民間の損害賠償請求権の問題につきましては、例えば日ソ共同宣言第六項に、「日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五年八月九日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄する。」、こう書かれているところでありまして、この条約の法的解釈について、これは国家の持つ外交保護権が放棄されたということであって決して個人の請求権が放棄されたものでは。ないと、昨年三月二十六日の本内閣委員会において私の質問に対して政府は、外務省の当局でありますが答弁をしたところであります。
 それからまた、日韓請求権協定第二条の一項に、「両締約国は、両締約国及びその国民一法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題がこ「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」、こういうふうに述べられていることについても同様の答弁を政府は、外務省として衆参の予算委員会などでしておるわけであります。ちょっと読みますと、平成三年八月二十七日の参議院の答弁では、柳井俊二政府委員、「日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。」、こう答弁されておることで明らかなのであります。
 この国民の請求権ということに関して、日本と各国との戦後処理条約、賠償協定、経済協力協定において、その基本的な枠組みはもちろんサンフランシスコ平和条約でありますけれども、このサンフランシスコ平和条約においては、第十四条の(b)に「連合国は、連合国のすべての賠償請求権、戦争の遂行中に日本国及びその国民がとった行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権並びに占領の直接軍事費に関する連合国の請求権を放棄する。」、こう書かれてありまして、また第十九条の(a)には、「日本国は、戦争から生じ、又は戦争状態が存在したためにとられた行動から生じた連合国及びその国民に対する日本国及びその国民のすべての請求権を放棄しこ云々、こう述べられております。
 ところで、連合国側の請求権放棄の条項であるこの十四条の(b)は、一九五一年三月の原案におきましては、「戦争の遂行中に日本国及びその国民がとった行動から生じた連合国の請求権」、こうなっておりまして、「連合国」と「国民」という言葉が当初入っていなかったのでおりますが、それでは範囲が不明確であるということで、日本政府が主張したことによって「連合国及びその国民」という文言がわざわざ入れられたということであります。
 当時、一九五一年十一月九日の参議院の平和条約及び日米安全保障条約特別委員会においてこのことは明文において明らかにされております。参考までに読みますが、昭和二十六年十一月九日の参議院、西村熊雄政府委員、「その点は三月の原案では連合国の賠償請求権だけあったのであります。それに対しまして、私どものほうから、それでは範囲が不明確であると主張いたしまして、戦争遂行中日本国又は日本国民がとった行動から生じた連合国政府又は連合国民の請求権という文句が入った次第でございます。」、こういうように答弁しておられることからも明らかなことであります。このように条約の文言に「国民」という言葉が入っているかどうかということは実は大変重要な問題なのであり、厳密にせねばならないことであります。
 ところで、御承知のとおり、日中共同声明の第五項にはこのように述べられております。「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。」、こう述べられております。ここには「国民」という言葉はありません。したがって、民間の賠償請求権問題についての今までの政府の答弁に沿って理解するならば、まず、どう考えましても、被害者個々人が直接責任ある企業やまた日本政府に対して責任の範囲で請求するという、こういう権利があることは、これは、それが消滅していないということはもちろんのことでありますけれども、中国と日本との条約の場合、共同宣言の場合には、この被害を代表して中国政府が交渉することができるという意味での外交保護権というものすら中国政府は放棄しないということになると思いますが、どうでありましょうか。
 もちろん、現在中国政府は、被害者個々人が直接日本の企業や、またその他政府などに接触し交渉することには干渉はしないのだ、こういう立場をとっておりまして、賠償問題は解決済みであるという、先ほど官房長官が答弁になりました日本国政府の考え方と大枠においては立場を変えておらないことは私も理解をしておりますけれども、そういう意味では外交保護権を行使するというところに至っていないことも事実であります。しかし、江沢民総書記が述べておりますように、協議によって善処すべき問題だ、こう言わざるを得ないほどに中国の民間の中でのいわゆる民間賠償の要求が高まっているということも事実であろうと思います。
 かつて中国におきましては、日本の侵略の責任は日本軍国主義者にあるのであって日本人民にあるのではない、日本の人民に多大な負担をかけるわけにはいかない、第一次世界大戦後のドイツのように莫大な賠償を背負わされたことがかえってナチスの台頭を生むことになった、当時の日本に莫大な戦争賠償を請求することは、かえって日本軍国主義の復活につながるということで、戦争賠償を放棄したということを私は再三いろんなもので読んで聞かされているところであります。私はここに中国人の日本に対する、戦争に対する温情とか道義とかといったものを感ぜざるを得ないわけであります。
 サンフランシスコ条約の第十四条(a)にも、「日本国は、戦争中に生じさせた損害及び苦痛に対して、連合国に賠償を支払うべきことが承認される。しかし、また、存立可能な経済を維持すべきものとすれば、日本国の資源は、日本国がすべての前記の損害及び苦痛に対して完全な賠償を行い且つ同時に他の債務を履行するためには現在充分でないことが承認される。」、このように書かれております。ところで、現在の日本はどうかといいますと、サンフランシスコ条約締結当時、また日中共同声明発表当時の日本に比べれば、その経済的な力量は比べるもなく大きくなっているわけであります。その証拠に、その結果といいますか、これだけ経済大国になったのだからということで、人的な貢献も含めての日本の国際貢献のあり方というものが国会においても、また国民各層においても大きな議論になっているというのが現状であります。
 実際、日本は湾岸危機、湾岸戦争に際しましては、米国、多国籍軍に対して増税をしてまで莫大な金額のお金を拠出いたしました。このことに関しては前回のこの委員会でも私質問をいたしましたが、まだこの使途等について重大な疑義が残っておりますので、次の機会にはまた取り上げていかなきゃならないことと思っておりますが、それはともかくとして、私に言わさせていただくならば、日本がまず真っ先になすべき国際貢献とは戦争にお金を出すことでないのはもちろんのこと、海外に自衛隊を出すことではもちろんなく、これらの戦争の歴史というものを直視する中からこれらは一番してはいけないことであって、この国際社会に対して貢献するという立場からいうならば、まずかつての戦争の責任、戦後責任というものを果たしていくということがなければならないと思います。
 中国の全人代に提出されたことで明らかなように、むしろ日本は莫大な債務というもの、これを負っていると言わなければなりません。借りているものも返さずに、一体本当に国際貢献などということが成り立つものでしょうか。疑問に思うわけであります。
 そこで、加藤官房長官に、この中国の民間の戦争被害に対する賠償問題、日中共同声明及び日中平和友好条約という立場に立って、この条約と民間の戦争被害との関係の問題について、補償問題についてどのように認識しておられるか、お答えをいただきたいと思います。

○説明員(竹中繁雄君) お答えいたします。
 先生御指摘になりました日中共同声明でございますが、これは日中国交正常化という大目的の達成のために、日中双方の基本的立場に関連するいろいろ困難な法律問題があったわけでございますが、これを政治的に解決しょうということででき上がったものでございます。こういう経緯もございますものですから、この賠償問題に関する規定におきましても、こうした事情を反映した表現ぶりになっているわけでございます。日中共同声明第五項がサンフランシスコ平和条約における戦争にかかわる請求権に関する規定とは規定ぶりが異なっているというのも、その背景はそのように御理解いただければありがたいと思います。いずれにせよ、戦争にかかわる日中間の請求権の問題はこの一九七二年の日中共同声明発出後存在していないというのが我々の立場でございます。

○国務大臣(加藤紘一君) 今、審議官からお答えしたとおりでございます。

○翫正敏君 資料に基づいて、るる説明をして質問したわけでありますけれども、では、そのことについて逐次外務省の方から、サンフランシスコ条約のときには、最初「国民」という言葉が入っていなかったのを、日本政府が条約の協議の中で入れたということですね。こういう経過の問題についてどうなのか、それが一点。
 それからもう一点は、外交保護権の問題と条約との関係の問題。この二つについてもう少し厳密に答弁してください。

○説明員(竹中繁雄君) 私、条約の専門の者ではございませんので、必ずしも完全にお答えできるかわかりませんけれども、先ほど先生が引用されました、当時の条約局長の答弁ぶりから拝察しますところ、先生のおっしゃるような論点、「国民」という言葉を入れるかどうかということに関してはあったんだろうと思われます。

○翫正敏君 外交保護権。

○説明員(竹中繁雄君) 国際法上の請求権については、一般に私人は国際法上の主体とはなり得ないというのが国際法上の立場でございます。外国人が個人の資格で日本政府に対し、政府官憲の行為に基づく損害について補償を請求した場合に、これが認められるか否か、これは我が国の国内法上の規定によるということだと認識しております。

○翫正敏君 国民の請求権という、国民のという文言があるなしにかかわらず、まず確かめておきますが、従来の政府の見解や答弁を変更されるわけなんですか、変更されないんですか。さっき私読みましたでしょう。昨年八月二十七日の参議院の予算委員会における柳井政府委員の答弁の内容を読みましたね。変更されますか、されませんか。

○説明員(竹中繁雄君) 変更するつもりはございません。

○翫正敏君 それで、さっき言いましたように、一般的に、国民の請求権という言葉が入っていようがいまいが、一人の人が例えば被害を受けた、例えば労働賃金をもらってない、そういうようなものについて、そういうものは条約によってなくなるものではないという、これは日本政府の基本的な考え方であるということは私は理解しました、従前からそういう答弁をいただいておりますから。その上で、なおかつ私がここで問題にしているのは、日中共同声明の場合には、先ほどおっしゃっな言葉では、いろんな政治的な状況の中でこの共同声明ができ上がったわけでしょうけれども、中国側が一方的に日本に対する賠償を放棄するということを声明した、わけですけれども、その中に国民のという言葉が入っていないことの持っている重さ、これをどう受けとめるかと、こういうことをお尋ねしているわけですよ。ですから、外務省の方は結構ですから、官房長官の方でもう一度、政治的な配慮の中で請求権の放棄が中国から一方的になされたというそのことと、そして、その文章の中に国民のという言葉が入っていないということの重さ、これをやっぱり受けとめる御答弁をぜひいただきたいと思うんです。重ねてお伺いしますが、いかがですか。

○国務大臣(加藤紘一君) サンフランシスコ条約が締結されたときの条約交渉の経緯等につきましては、ちょっと私も専門でないんでわかりませんけれども、いずれまた専門家から答弁させる機会をいただきたい、こう思いますけれども、今、竹中審議官が申しましたとおり、いわゆる一九七二年の日中共同声明によりまして、いわゆる政府対政府、国家間の請求権、国家間の賠償に関する請求権は中国側が放棄された。そして、その際に国民が訴える権利をなくしたものかどうかにつきましては、いろいろこの国会で、過去累次御議論があったと思います。そして、条約局長等が答弁しておりますように、個人の訴権、訴える権利というものは存在するけれども、それを政府が外交保護権をもって日本側に要求する権利は中国側が放棄してくれたというふうに理解いたしております。
 したがって、外交上個人が持っております訴える権利、日本政府に訴える権利というのは、国際法上私人は主体上なり得ないわけでございますので、そうしますと、それはどう取り扱われるかにつきましては、先ほど竹中審議官が申したとおり、日本の国内法上の規定によって処理をされるという形になるものと理解しております。

○翫正敏君 それで、そういう政府の立場は、中国の方の現在の政府のお立場も、民間の人たちが被害の請求をすることについては干渉しない、タッチをしないということを言っておりますから、現在のところ、日本政府の立場と中国政府の立場は、そういう意味では同じでありますので、外交上の問題はこの点に関しては起きていないと、こう理解をしております。
 ただ、一方中国の国内においては、さまざまな形で民間の賠償を求める動きが数年前から起こっております。もっと前からもありましたが、後からちょっと時間があれば言いますが、近年非常に高まっております。そのことはやはり重く受けとめなければならないと、こう私は思うんですけれども、その中国における民間の賠償要求の動きが、全人代への建議等も含めて各地区でのいろんな団体の動き、日本でもいろんな地区におけるさまざまな民間団体の要求とか、動きというものが、もちろん公害問題とかさまざまなことがございますけれども、中国においてもそういう動きが活発になってきているということは、これは大きいこと、重いこととして受けとめるべきだと、こう思うんですが、その点に関していかがですか。どういうふうに受けとめておられますか。

○国務大臣(加藤紘一君) 同じ答弁になるかと存じますけれども、戦争賠償の権限を相手側の国が放棄し、その状況のもとで、それぞれの国の国民の皆さんがどういう訴える権利を有するか。この問題につきましては、この委員会でも議論になりました朝鮮半島出身の慰安婦賠償の問題等についても、我々の立場は累次申し上げてきたところでありまして、訴権は存在する。したがって、日本の司法当局にそれを訴える権利は有するけれども、しかしそれは日本国内法上によって処理をされていく。そして、中国のことについても同じように理解しております。
 今、先生が御指摘になりました、ことしの三月二十三日、中国の銭其シン外相が記者会見で述べられておりますように、戦争賠償の問題については、中国政府は一九七二年の日中共同声明の中で明確に表明を行っており、かかる立場には変化はないということは、従来中国政府が言っておりますように、戦争賠償の問題は中国政府としては放棄した。そして、これは我々は、個人の訴権に対して外交保護権を行使しないというものであろうと理解しております。

○翫正敏君 次に行きますが、外交保護権を行使しないということ、これが現在の中国の立場であることはよく理解をしておりますが、条約上できないということとは同じではないわけで、その点について先ほどから日中共同声明における「国民」という文言が入っていない問題について質問をしましたが、回答が平行線でありますので、さらに機会がありましたらまたお尋ねしたいと思います。
 ところで、さきにも触れました民間の賠償請求のこの件に関して、中国外相のコメントを報ずる三月二十四日の東京新聞がございました。これに対して日本の外務省の方の見解も同時に載せられておりましたが、それによると、外務省は、従来どおり政府間の賠償問題は決着済みであると、こう今おっしゃったようなことを述べた上で、「中国民間の賠償請求は中国政府に対して行われるべきだ」と、こういうふうに述べたと新聞には書かれておりますが、こういうふうにおっしゃったのかどうか、その点をお答えいただきたいと思いますが、私は、もし外務省がこのようなことを新聞に発表したということならばゆゆしき問題だと、破廉恥と言ってもいいんじゃないかと思うんですけれども、ちょっと事実関係を確かめさせていただきます。
 もし、中国に対しては折に触れて経済協力や経済援助をいろいろしてきた、こういうことを理由にしておられるのであれば、例えば日韓請求権・経済協力協定のような取り決め、これに類するものがいつどのような形で中国に対してなされたのか。そして、この国民の請求権という問題について中国との間で議論をして、そういうことについてどんな形で同意が得られたのか。そういうことを明確にしていただきたいと思いますし、そのような戦後処理というものも明確になされていないままに、中国の方が一方的にこの請求権を放棄したのだからということをいいことにして、中国人の民間人の要求は中国政府に請求しなさいというようなことは、これは先ほど恥知らずという言い方をしましたが、ちょっと別の言い方をしますと恩知らずであると、こういうふうに言わなきゃならないんじゃないかと思うんです。そういう意味で、経済協力というようなことではこの条約上の問題は解決しないのではないか、このように思います。
 それで、他の国の例をちょっと挙げておきますが、昨年八月、戦争末期にフィリピンで起こりました日本軍によるパミンタハン大虐殺から奇跡的に生き残って、そのときに銃剣で胸を五カ所刺された、後ろの方も刺されておられましたが、そのせいで戦後もぜんそくがひどくて仕事に満足につけなかったというガルシアさんという方が戦後の補償を求めて日本に来られましたとき、私が外務省の方に同行をいたしました。そのとき訴えをされるガルシアさんに対して外務省の担当の方は、名前が今問題なのではないので申しませんが、その担当の方は、日本とフィリピンの間の賠償問題は、サンフランシスコ条約に基づいて一九五六年日比賠償協定が結ばれ、日本の方から千九百八十億円お支払いをして解決いたしましたと、こういうふうに答えたわけです。
 そのときのやりとり、私まざまざと今も覚えておりますけれども、ガルシアさんは裸になられて自分の傷跡を見せられまして、そしてその上で、でも私は一ペソももらっておりませんと、こういうふうに言われて、涙ながらに自分の被害というものをお訴えになった姿が忘れられないわけであります。
 現在、日本のODAというものが大きな金額になっております。しかし、そのことがかえって軍事政権を支えることになってしまっているという批判があったり、また、人権抑圧や環境破壊につながっているのではないかという指摘などもされているところでありまして、ODAの問題もやはり出発点は戦争賠償というような問題の解決に始まっていると聞いておりますけれども、こういうことも順次今後取り上げていきたいとは思っておりますけれども、こういう一つの例として、今のフィリピンの方のお訴えを取り上げさせていただきました。
 そこで、ちょっと質問したいわけでありますが、日中共同声明で中国政府が放棄をしました戦争賠償とは一体どれくらいの額であるのか、これを政府としてどう考えておられるのか、お聞かせください。
 また、いかなる意味においても放棄されない個々人、民間の損害額というもの、これは外交保護権の行使は中国政府はしないわけでございますけれども、どういうふうに解決するかしないかの問題は別として、とにかく金額として算出するとどれくらいのものになると日本政府は考えておられるのか、お答えをいただきたい。もちろん被害額というもの、人命というようなものに関する被害額を金銭で計算するなどということは、これはできないことであるという、こういう前提にもちろん立っているつもりでございますけれども、あえてそれを換算するとどれくらいになるのか。中国の全人代の方に提出されているものによりますと、一国家間のものが千二百億ドルだと、米ドルでですね、こういうことになっております。民間のものが千八百億ドルであると、こういう建議がなされております。
 この金額について、官房長官は大き過ぎると思われるか、少な過ぎると思われるか、このくらいだと思われるか、御感想を述べていただきたい。全然わからないと言うならば、ぜひ綿密な調査をされるべきではないかと、そういうことが日中友好の今後ということについて大事なのではないかと、そう思います。
 それで、もしサンフランシスコ条約の第二十一条「中国は、第十条及び第十四条(a)2の利益を受ける権利を有し」に基づいて、サンフランシスコ条約の締結国でない中国も、日本が旧満洲などに残した在外資産などを処分する権利を得たのであるから、国民の請求権についてもサンフランシスコ条約に従って解決されたと、こういうふうな見解ではないと思いますが、もしそういう見解であるとするならば、まずサンフランシスコ条約の枠組みの中で、一九五二年四月に締結された中華民国政府、現在の台湾政府との日華平和条約それから日中共同声明、この関係も明らかにしていかなければならないと思います。日華平和条約においては、請求権問題はまた別の「特別取極の主題とする」と、こういうことになっていたわけですが、その特別取り決めがなされることがないままに、一九七二年九月、日中共同声明において日本の方から中華人民共和国政府を中国の唯一合法政府であるという承認をしたことによりまして、日華平和条約は失効したということであります。確かに日華平和条約には、「この条約及びこれを補足する文書に別段の定がある場合を除く外、日本国と中華民国との間に戦争状態の存在の結果として生じた問題は、サン・フランシスコ条約の相当規定に従って解決するものとする。」と、こういうふうに述べられております。
 これによって、日華平和条約はサンフランシスコ条約を準用することで中国の対日請求権というものが放棄されたと、こういう見方も学者の中にはあるようでありますけれども、それはやはり基本的に正しい理解ではなくて、条約自体に請求権問題は別の取り決めをするということが決められておって、それがそういうふうにできなかったというわけでありますから、この問題は別の定めがあってしかるべき場合と、こういう場合に当たるのだと思います。
 さらに、日華平和条約と同時に交わされた交換公文では、「この条約の条項が、中華民国に関しては、中華民国政府の支配下に現にあり、又は今後入るすべての領域に適用がある」と、こうされております。中国大陸全体が中華民国政府、現台湾政府の支配下に今後入るというようなことはとても考えられないことでございますので、日華平和条約の効力はそもそも大陸には及ぶものではないと、こう理解すべきだと思います。
 そういう日華条約と日中共同声明との関係について考えた上で申し上げたいのですが、そもそも日中共同声明は、他の協定などのようにサンフランシスコ条約の枠組みの中でなされたものと、こういうふうに考えるべきではないと思います。それは、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し一ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」とありますように、日中共同声明の歴史的起源はむしろ直接ポツダム宣言に立ち返っているものであると思います。
 そのポツダム宣言の第八項を見ますと、「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルベク」、こう述べられておりまして、そのカイ呈り言の関連箇所を若干引用してみますと、右同盟国、米国、中国、英国の目的は、日本国より一九一四年の第一次世界大戦の開始以後において日本国が奪取し、または占領したる太平洋における一切の島嶼を剥奪すること並びに満洲、台湾及び瀞湖島のごとき日本国が中国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還することにあり、日本国は、また暴力及びどん欲により日本国が略取したる他の一切の地域より駆逐せらるべしと、このように書かれております。これはもちろん国家の領土について言っているものでありますけれども、今日の私たちにおいては、かつての日本の侵略によって中国から奪い取ったものを中国人に返し、そして殺し尽くし、焼き尽くし、奪い尽くした、こういう中国人の命と物に対する補償というものは今後も全力を挙げて取り組んでいかなければならないと、こう思います。
 具体的に、三月二十四日の東京新聞に掲載されました外務省の見解の真意を外務省からお答えいただきますとともに、今ほど私の方から少しく問題提起をしましたことについて官房長官のお考えをお聞かせいただきたいと思います。

○委員長(梶原清君) まず、外務省から答弁を命じます。

○説明員(竹中繁雄君) 最初に、先生の方から、三月二十四日の東京新聞に外務省の関係者のコメントとして、民間人が賠償請求しているが、それは中国政府にあるとか、こういうことを言ったというようなことの報道があったが事実がと、こういう御質問がございました。
 先生の御指摘を踏まえまして、我々も調べてみたのですが、確かにかかる報道がなされていることは確認いたしましたが、外務省関係者のいかなる具体的発言を踏まえた報道であるのかというのは残念ながら承知しておりません。私ども知っている限りでは、こういうことを言っている者はおらないと……

○翫正敏君 ないと。

○説明員(竹中繁雄君) はい、ございません。
 それから、法律的な問題で、日本国に対する中国の賠償請求のもとは何かという御質問があったと思いますが、これに対する、日本国に対する賠償請求に係る問題については、政府の立場は、サンフランシスコ平和条約の第十四条並びに日華平和条約の十一条及びその議定書1の(b)により処理済みであるというのが法律的に見た場合の我々の立場でございます。

○翫正敏君 わかりました。
 官房長官の方から。

○国務大臣(加藤紘一君) 先ほど翫先生が、いろんな条約等があっても、個人が我が国政府に対していろいろ賠償請求する権利はあるだろうという趣旨のことをおっしやられました。条約等の解釈等につきましては先ほど述べたとおりでございます。個人の訴権はあるものと思っておりますけれども、それに対する外交保護権は放棄されたものと日中両国政府は理解しておるわけでございます。
 ただ、その際に、それぞれ一人一人のアジアの国の国民の皆さんに、日本はどう考えるかと、そして今日本は豊かになったじゃないかというような問題でございますけれども、その点につきまして、我々は、先ほど申したように過去の一時期私たちの国の行為によって耐えがたい苦しみと悲しみを与えたことについて深い反省と遺憾の意を心の中に持ち、そしてそういう過去の過ちを先生が御指摘されておりますように、直視して、その歴史を正しく伝えていかなければならない、そういう心構えを持つべきではないかなと思っております。
 そして、確かに一人一人の方に対する賠償の問題はいろんな議論がありますけれども、しかし、相手国政府も我々と合意したところでございます。そういう問題のあることはわかりますけれども、しかし、それは国と国との間でお互いに放棄し、そして今後我々は将来に向けて新しい関係を築き、そして日本はその国の民生安定、発展のために日本のでき得る限りの貢献をしていく、国全体に貢献していって、その国の民生の安定と福祉の向上に御協力申し上げるという形で戦後考えてきたものだし、また、今後も我々は考えていかなければならないのではないかなと思っております。

○翫正敏君 あと十五分残っていますけれども、自民党の方の出席もないようですので、しばらくちょっと留保させてください。速記とめてください。

○委員長(梶原清君) ちょっと速記をとめてください。
   〔速記中止〕
○委員長(梶原清君) 速記を起こして。

○翫正敏君 外務省の新聞コメントはあれはそういう発言はしてない、こういうふうに確認させていただきましたけれども、官房長官の方から、私が再三質問して、中国の方からの請求権の放棄という問題、それから「国民」という言葉が入っていないということの条約上の問題を含めて重みを尋ねておりますが、全然前向きなお答えがないので非常に残念に思います。これまで二十年の日中関係というものを今後さらに強固なものにしていくというような立場から考えましても、そして中国の国内において民間の賠償要求というのは高まってきているというこの実情を考えてみましても、やはり政府は従来のそういうかたくなな態度というもの、こういう恩義を否定するような態度はよくないと思います。中国の方は、暴に報いるに徳をもってすという、これは現在の政権の幹部の言葉ではないかもしれませんが、そういうことで対日請求権をすべて放棄したわけであります。
 そういうことの持つ重みを十分受けとめていくというのは、私ども日本の国会議員一人一人に課された課題でもあり、そしてそれは日本政府の重大な責務であると私は痛感するものであります。
 ところで、先ほどから触れております全人代に提出をされました建議、法案などにおきましては、日本の侵略による中国の民間損害賠償額千八百億ドル、こう算出されております。この額についてどう思うかという質問をしましたけれども、何らのそれについての具体的なお答えもありませんでした。もう一度聞きますから、ちょっと考えておいてください。
 約二十四兆円、こう現在の円に換算するとなるようでありますが、この内訳として、この建議書を見ますと五つのことが並べられております。海部前首相あての請願書の内容と同じということなので、この請願書の内容に即してこれを読み上げてみますと、一としまして、中国市民を罪なく虐殺したことに対して負うべき賠償、殺害あるいは負傷させた中国市民、負傷者、捕虜等については関係資料、統計によれば約一千万人である。二番、中国人を強制的に苦役に服させたことに対して負うべき賠償、関係資料、統計によれば約三百万人である。三番、有毒、化学及び細菌武器を使用して中国市民に重大な支障をもたらしたことに対して負うべき賠償。四番、中国の公的及び私的財産を略奪、破壊したことに対して負うべき賠償。五番、中国においてアヘン侵略を行って、中国市民に重大な損失を与えたことに対して負うべき賠償、こういう五点が挙げられております。
 ここで、この五点について一つ一つ詳しく確かめていかなければならないわけでありますけれども、本日の質問だけではとても時間も足りませんので、今後に順次譲っていきたいと思います。
 この二番にあります、中国人強制連行の問題についてだけ、それも中国東北部、いわゆる旧満洲地区などに中国大陸において強制連行、強制労働させられた例は今回はこれも除きまして、いろいろ除くのばかりでありますが除きまして、そして日本の国に強制連行された方が約四万人、この問題に限って一、二ちょっと例を挙げて確かめてみたいと思います。
 なお、そのほかの南京大虐殺の問題、七三一部隊の細菌兵器人体実験などの問題、毒ガス兵器の遺棄問題などについてもいろいろ資料を取り寄せて調べておりますので、今後順次取り上げていきたい、このように思っておるところでありますが、花岡事件について質問します。
 終戦直後の一九四五年、昭和二十年六月三十日、秋田県大館市の郊外で起きた事件である。日本政府は、戦争が激化する中で国内の労働力を補うためにおよそ百万人の朝鮮の人たちを強制連行し、さらに一九四二年、昭和十七年、東条内閣が閣議決定によっておよそ四万人の中国人を日本国内の百三十五の事業所に強制連行したのである。花岡事件はこのような中で、日本官憲や企業側の極度の拷問と虐待に反抗して、およそ七百人の中国人が蜂起した事件であります。そしてその結果四百十八人が死亡しました。彼らは、当時残虐行為を行った日本の企業に対して合計四十九億円の賠償と謝罪を要求しています。具体的には謝罪の要求というものは、この企業が行いましたので一応済んだかと思いますが、あと一人当たり五百万円の補償というものを要求し、また大館市と中国の北京市に、こういうことが二度と起きないようにという意味の記念館を建ててくれという三点の要求をしておるわけであります。
 これは、具体的には現在企業に対して中国の民間の団体がしておられるわけですから、これはこれでどういうふうに解決するかはそこの問題だと思いますけれども、我が国政府はこれにどういう関係があるのかどうかということをお聞きいたします。昭和十七年十一月二十七日、「華人労務者内地移入に関する件」を閣議決定した、これは事実です

○説明員(竹中繁雄君) 昭和十七年十一月二十七日、「華人労務者内地移入に関する件」という閣議決定がございました。

○翫正敏君 そうしますと、この強制連行の問題、中国人の強制連行、日本国への四万人の方だけの問題に絞って今取り上げているんですが、これについて現在中国の民間の人たちが団体をつくって、グループをつくって当該企業と交渉しておるというところでありますが、このことについて政府は傍観者であって、その様子を見ておればよいということでは済まないのではないか、日本政府に責任がある、こう私は思うんですけれども、どういうお考えでしょうか。官房長官お述べください。

○国務大臣(加藤紘一君) いわゆる昭和十七年の十一月二十七日の閣議決定のことでございますが、当時の国内の労働力不足を背景に中国人労働者の移入を目的として行われたものと思っております。この風議決定によれば、中国人労働者の移入は契約に基づいて行われることになっておりますが、当時の詳しい事情については今明らかではございません。この閣議決定を見てみますと、契約は二年であって、その後「二年経過後遺当の時期において希望により一時帰国せしむること」とか、それから「華人労務者の食事は米食とせず華人労務者の通常食を給するものとしこれが食糧の手当に付ては内地において特別の措置を講ずること」とか、「華人の慣習に急激なる変化を来さざる如く特に留意すること」ということなどがいろいろ書かれておりまして、この閣議決定そのものは移入されてきます中国人労務者の人に対してかなり配慮をした閣議決定になっております。
 しかし、当時どのような状況で、事実上どうであったかということにつきましては、終戦直前の話でございますので、なかなか詳しい事情はわかりません。ただし、当時の状況から、日本に来られた多くの中国人労務者が不幸な状態に陥ったことは事実であろうと思っております。
 また、花岡事件につきましては、今申しましたように、かなり不幸な状況にあったということにつきましては、政府として甚だ遺憾なことだと思っておりますが、いわゆる請求権等の問題につきましては、先ほど言いましたような政府の立場でございます。また、この事件については民間の訴訟事件として提起されておりますので、その流れを見ていきたいと思っております。

○翫正敏君 この事件だけではなくて、中国人強制連行というものは、極秘と判こを押してあります昭和十七年の閣議決定に基づいて行われたものである以上、政府に責任があるということをお認めになるかどうかが一点ですね。
 それからもう一点は、先ほど、民間の賠償請求額は中国の全人代の方に建議されておりますのでは千八百億ドルである、現在の日本円にして約二十四兆円であるということになっていますが、この額についてどういうふうに受けとめておられるか、これについて二点お答えください。

○国務大臣(加藤紘一君) 当時のいわゆる華人労務者、中国人労務者の移入に関しての状況がどういう事実関係であったかというのは、今具体的に明らかでございません。それが強制的に移動させられたんではないかという今の御指摘、そして、政府がそれについてどういう責任があるのかという御質問でございましたけれども、当時のこと、事実関係が明確でありませんので、なかなかコメントしにくいところだろうと思います。
 それから、いわゆる千八百億米ドルの訴訟の金額の高をどう思うかということでございますが、この童増という方が建議されております書き物、建議を見ましても、根拠がなかなかわかりにくい、そういうものは示されていないし、その数字についてはあえてコメントは申し上げないことにいたしたいと思います。

○翫正敏君 民間賠償と国家間の賠償を分けておられるというところに非常に厳密さがあると私は思うんですが、この建議を見まして。そういうものに基づいてさまざまな民間団体の要求や訴訟などが起こされている、こういうことだと思うので、そういうふうに分けているということの厳密さを、金額はさっきあなたお答えになったようによくわからないらしいが、そういうようなことをどう思われるかをお答えいただきたい。
 それから、強制連行の問題については、当時の事実関係が明確でないので今のところ明確な答弁はできないと、こう理解をしましたが、その場合、当然政府として事実関係をさらに詳細に調査をして責任が明らかであるということが明確になればその立場に立って対処すると、こう理解してよろしいか、二点をもう一度お伺いして、これで終わります。

○国務大臣(加藤紘一君) 戦争賠償責任と、それから中国人民と財産に対する賠償請求と、これを分けていることが条約上、法律上どういうことになるのか、ちょっときょう条約の専門の人間が来ておりませんので、いずれまたその際には申し上げさせていただきたいと思います。
 それから、先ほどの中国人労務者の強制移入という、連行とおっしゃいましたけれども、この問題につきましては、事実関係は明確でございませんが、いずれにしましても、個人の国に対する請求権というものは一九七二年の日中共同声明によって放棄されたものだと、それに対する外交保護権は放棄されたものだと思っております。

○翫正敏君 とにかく調査してください。事実関係を調査してください。これいいですか。先ほどは事実関係が明確でないということだったから、事実関係だけは調査してください。事実関係も調査しないということじゃないでしょう。

○国務大臣(加藤紘一君) いずれにしましても、当時の状況というのは終戦直前の混乱期でございますので、当時の詳しい事情についてはなかなか明らかにするのに困難なところがあると思います。

 第123回国会 参議院予算委員会 第13号 平成四年四月八日(水曜日)午前九時一分開会

 委員   清水 澄子
 外務大臣 渡辺 美智雄
 
○清水澄子君 日中共同声明は、中国は「日本国に対する戦争賠償の請求を放棄する」とありますし、日韓条約のように、国及びその国民の間の請求権とはなっておりませんし、さらに日韓条約のように「完全かつ最終的に解決」ということはうたわれていないわけです。
 ですから、こういう場合に、中国の国民からの賠償請求がありました場合、その扱いは韓国とおのずと異なってくるということになると思いますが、その点の御見解を外務大臣、お聞かせください。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 私は日本の外務大臣ですから、日本の国益も考えなければならぬのです、日本の国益も。政府に莫大な金を払え払えと言うことは日本国民に払えと言うことでございますから、日本国民がそういうコンセンサスであればそのように大きな動きになるかもしれません。しかし政府間ではこれはもう解決済みということになっておりまして、そういうことで、我々としては友好関係を促進するために中国に対しましては円借款を初めエネルギー借款その他のいろんなことで今後とも大いに協力してやっていこうと、そういうようなことをやっておるわけであります。
 しかし、中国の中の動きを我々はとめることはそれはできません。できませんが、しかし国家間の問題を大きくそこに切り傷を開いていくというやり方は私は賛成いたしません。

○清水澄子君 その国益本位の国家主権の枠組みという考え方をむしろこれから点検し直さなきゃならないのが今日の時代だと思うんです。しかしそれをすべて補償金という形で私は申し上げているのじゃありません。ですから、どのように認識されているかというのは、こういう問題が出てくる背景、そしてどれほど私たちは過去の克服に対して誠意と謙虚さを持って対応してきたかというその問題を認識することが私は重要だと思っていたんですけれども、相変わらず金が幾らかかるとかそういうところだけ、やはりそこに私は一番アジアの人々からの不信があると思います。
 そこで、三月二十四日の東京新聞に、そういう対日賠償請求に対して、外務省はそういう問題は中国政府に行えばいいということの見解が出ているわけですけれども、これは本当にそうなんですか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) それは国民一人一人とどの国においても日本政府が交渉をしたりどうこうすることは不可能なんです、実際問題として。したがいまして、国家間の取り決めというものはいろいろございましょうが、それはそれなりに国と国との間では問題を解決していかなければいつまでたっても国交正常化というようなことはできません。したがって、長い間、十数年かかってできなかったものを解決するためにはお互いにある程度我慢し合うところは我慢し合ってやらなければならない、大きな大乗的見地に立ってやっておるわけであります。
 しかしそのことによって、我々は戦争の被害でいろいろな御迷惑をかけたことについて、それはまことに申しわけない、二度と再びこういうことを起こしてはならない、そしてまた復興のためにはできるだけの御援助あるいはそういうようなことをやってまいりましょうということでやってきておるわけでございますので、国益というのは政府だけの話じゃなくて国民全体の問題でございますから、我々は今後とも日中間の問題については誠心誠意仲よくやる方向で、またそれがいろんな国の国情によってやり方は違いましょうけれども御協力を申し上げてきたところでありますし、今後もそういう方針でやってまいりたいと考えております。

 第123回国会 衆議院法務委員会 第6号 平成四年四月十日(金曜日)

 委員      高沢 寅男
 外務省アジア局
 北東アジア課長 武藤 正敏
 法務大臣    田原 隆
 法務省民事局長 清水 湛

○高沢委員 私は、前々回のこの法務委員会におきまして、戦争の終わるとき、長崎県の三菱重工の造船所で働いていた金順吉さんという徴用工の人の賃金の未払い問題、今その方がまた日本へやってきて支払いを求めている、この問題についてお尋ねいたしました。それで、なお若干そのことでお尋ねしたいことがありますので、きょうこれからその質問を申し上げたいと思います。なお、きょうは主として外務省関係でお尋ねするようになると思いますが、もちろん法務省関係、また大臣の御見解を求めることもありますから、よろしくお願いいたします。
 まず初めに日韓請求権・経済協力協定、一九六五年の協定でありますが、この協定によって日韓両国はお互いに持っている請求権を相互に放棄するということを約束し合ったわけでありますが、そのときに、そのお互いに放棄する請求権、日本から韓国に対してはこういう、こういう、こういう請求権がある、ところが韓国から日本に対してはこういう、こういう、こういう請求権がある、それぞれ具体的に挙げて、そしてそれを放棄するというふうな形にこの協定ができ上がったのかどうか。そういう具体的な放棄する請求権をお互いに確認し合ったということがどういうふうに実態としてなっているのか。初めに、まずそれをお尋ねしたいと思います。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 六五年の日韓請求権・経済協力協定でございますけれども、これによりましてどういうものを放棄したかという御質問でございました。
 韓国側から、交渉の過程におきまして対日請求要綱、いわゆる八項目というものが出てまいりまして、そして交渉を行ったわけでございますけれども、日韓交渉におきましてはこの日韓間の財産・請求権問題は完全かつ最終的に解決済みということでございまして、いわゆるこの八項目を含めましてすべて解決済みということでございます。
 ちなみに八項目、これをお読みいたしますと、
 第一項朝鮮銀行を通じて搬出された地金と地銀の返還を請求する。
 第二項 一九四五年八月九日現在の日本政府の対朝鮮総督府債務の弁済を請求する。
 第三項 一九四五年八月九日以後韓国から振替又は送金された全員の返還を請求する。
 第四項 一九四五年八月九日現在韓国に本社、本店又は主たる事務所があった法人の在日財産の返還を請求する。
 第五項 韓国法人又は韓国自然人の日本国又は日本国民に対する日本国債、公債、日本銀行
券、被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請求権の弁済を請求する。
 第六項 韓国人(自然人及び法人)の日本政府又は日本人(自然人及び法人)に対する権利の行使に関する原則。
 第七項 前記諸財産又は請求権から生じた諸果実の返還を請求する。
 第八項 前記の返還及び決裁は協定成立後即時開始し、遅くとも六カ月以内に終了すること。ということになっております。
 繰り返し申し上げますけれども、六五年の日韓請求権・経済協力協定によりまして解決されましたものは、こういったものも含めましてすべて完全かつ最終的に決着済みということでございます。解決済みということでございます。

○高沢委員 今韓国側からのそういう八項目の御説明がありましたが、この際参考のために、日本側から対韓国でそれに類するような、これはこういう請求権があるよというようなことの提示はあったのかどうか。これはどうでしょうか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 交渉の過程において一時請求したことがございましたけれども、ただ、日本側の財産につきましては連合軍によって接収されておりましたので、具体的にこうこうこうということは現時点、現在資料として持っておりません。

○高沢委員 今完全かつ最終的に清算されたということが説明があったわけですが、どうも最近の韓国と日本との関係を見ますと決して完全かつ最終的ではない、こう思わざるを得ない動きが次々に出ているわけであります。その一例として、一昨年韓国の盧泰愚大統領が来日されましたが、その際に、日本で、広島、長崎で原爆を受けた被爆の韓国の人たちに対する、これは補償というべきなのか何かあれですが、被爆者援護基金として四十億円を支出するということが日本の政府の決定として決められたわけであります。こういうふうな被爆に対するお金を四十億出すということになった、この場合、さっきの協定の完全かつ最終的に決着した、もう何もないんだということとこのことの関係は一体どうなるのか、お聞きしたいと思います。
  〔委員長退席、田辺(広)委員長代理着席〕

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 在韓被爆者に対しましては八一年から八六年まで渡日治療を実施してまいりました。その後、九〇年五月に盧泰愚韓国大統領訪日の際に、当時の海部総理より今後総額四十億円程度の支援を行うとの意図表明を行ったわけでございます。これに基づきまして、治療費の支援ですとか健康診断費支援それから健康福祉センター建設費支援を行うことにしたものでございます。これまでも繰り返し御説明申し上げましたが、日韓間の財産・請求権というのは六五年の日韓請求権・経済協力協定によりまして法的には解決済みでございます。
 在韓被爆者の支援につきましては、先ほど御説明いたしましたとおり、これは歴史的な経緯を踏まえまして、原爆という特殊な原因で後にその後遺症等で悩んでいらっしゃる方々がいらっしゃるわけでございまして、こうした在韓被爆者の方々に対しまして医療面での支援を人道的な観点から行うことにしたものでございます。したがいまして、こうした支援は補償といった性格のものではございませんで、請求権協定の枠組みに影響を与えるものではないということでございます。

○高沢委員 もう一つ具体例を挙げたいと思います。
 本年の一月二十一日、韓国の政府は各省庁の実務責任者会議を開いて、日本政府に対して従軍慰安婦問題での徹底した真相解明とそれに伴う適切な補償などの措置をとることを求めるということを決定したわけですね。この韓国政府の決定によって、外交ルートで今まで日本の政府、外務省に何かこのことについての申し入れがあったかどうか、まずそれをお聞きします。

○武藤説明員 韓国政府が一月二十一日に、日本に対しましていわゆる従軍慰安婦問題の真相究明、補償、歴史教科書への反映等を求めること及び韓国政府内に本件問題についての合同対策班を設置すること等を内容といたします挺身隊問題に関する政府方針というものを発表したことは承知しております。私どもも報道資料等を入手してこれは承知しているわけでございますけれども、これまでのところ、韓国側からこの方針に基づいた申し入れは来ておりません。

○高沢委員 今までのところは来ていないということでございますが、しかし私は、これからそういうものは来る可能性がある、こう見るべきではないかと思います。
 そういう要求が来たときに、日本の政府の対応としては、それは日韓請求権協定でもはや完全かつ最終的に決着は済んでいるんだ、だからそういう問題はもはやお聞きする余地はありませんというふうな対応をとられるのかどうか、これはいかがですか。

○武藤説明員 韓国側からこうした申し入れが来た場合どういうふうに対応するかといった仮定の質問にお答えするというのは、必ずしもこの場では適当ではないと思いますけれども、いずれにいたしましても先生おっしゃいましたとおり、日韓間の財産・請求権の問題は、日韓請求権・経済協力協定により完全かっ最終的に決着済みでございまして、この点については韓国政府の方でも御理解くださっているものと考えております。

○高沢委員 私は、そういうふうな理解を韓国政府がもししていればこの種の要求は出てこないはずだと思います。しかし、この種の要求が出てくるということは、あの協定の決着済みということではこれは決着できない問題というふうに先方は考えているからこの要求が出たのだろう、こう思うのであります。先ほど原爆被爆者については、この請求権の協定の問題とは別に人道上の措置として、非常に特殊な歴史的経過があったから人道上の措置としてやった、こう言われるのでありますが、私はこの従軍慰安婦などというケースの場合はなおさら特別な歴史的経過を持っている、なおさら人道的な措置をしなければならぬ、こういう性格のものではないかと思うのであります。しかし、そういうことに対して既に決着済みということで対応される考えか。あなたは外務大臣でないからそこまで聞くのはあるいは酷かもしれませんが、しかし条約上の考えとしてはもはや決着済みということでそれは通すのだ、こういうお立場がどうか、それを聞きます。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 昨年の八月十七日に、韓国の李相玉外務部長官が定例記者会見におきまして、政府レベルにおいては一九六五年の韓日国交正常化当時に締結された請求権及び経済協力協定を通じてこの問題が一段落しているため、政府がこの問題を再び提起することは困難であるというようなことを言っておられます。先ほどから申し上げておりますとおり、この問題につきましては、六五年の協定によりまして決着済みというのが法的な立場でございます。

○高沢委員 そういたしますと、私、前回のときもお尋ねしたのでありますが、この問題について渡辺外務大臣は、これは何らかの措置は必要である、こういうふうな発言をされているわけでありますが、この決着済みという立場と何らかの措置が必要であるということとの相互の関連は一体どうなるのか、あなたの立場でひとつ理解を示してもらいたいと思います。

○武藤説明員 渡辺外務大臣が国会等の場におきまして、いわゆる従軍慰安婦の方々に対し申しわけないというお気持ちを目に見える形で何かするのが政治ではないかといった趣旨の御発言をなさっていらっしゃるということは、私どもとしてもよく承知しております。これは大臣の政治家としてのお考えを述べられたものだと思います。
 いずれにいたしましても、いわゆる従軍慰安婦の方々の補償の問題につきましては、現在訴訟が行われておりますし、この訴訟の行方を見守っていきたいと考えております。さらに、まず、先般宮澤総理が韓国を訪問されましたときも、事実関係について誠心誠意調査をしていきたいというふうに言っておられますので、私どもとしてもこの調査に誠心誠意専念したいと考えているところでございます。
 
○高沢委員 これから大臣に対するお尋ねになりますが、日本と韓国との関係で言うと、それこそ植民地支配をした経過であるとか、それが第二次世界大戦につながっていった経過であるとか、非常に特殊な歴史的な経過があります。そして、今次々にこの種の問題が出てくるということは、そういう歴史の経過の中から生まれてきているということであって、協定ではもう済みましたというふうに幾ら言っても、しかしやはり韓国の側からすれば、あるいは韓国の国民の側からすれば、これはどうしてもこのまま済ますわけにはいかないというふうなことが、原爆被爆者の問題もそうやって出てきた、従軍慰安婦の問題もこうやって出てきた。あるいは当時無理やりに日本人にさせられて日本の軍隊に入れられて戦死した人たち、そういう人たちに対する、これもまた何ら行われていないわけですね。日本の軍人は、あの戦争で戦死した人あるいは傷ついた人は、後で軍人恩給というものを受けておりますが、しかし韓国で同じ立場の人は何らそういうものは受けていない。この人たちは、おまえたちは日本人だぞ、植民地時代はそう言われた。そして、今度、いよいよ戦争が終わってそういう補償を受けなければならぬというときになったら、おまえたちはもう正本人じゃないよ、日本の国民じゃないからそういうものはやれないというふうな形で今日まで来ているわけですね。
 そういうことを数え上げれば切りがないほどあるのですが、そういうことが、今度は韓国の国民の側からすれば、これは何とかすべきだ、してほしいということがまた次々に出てくることは、私は歴史の経過からいってやむを得ざることである、そしてその一つ一つをとってみると、いずれも、さっき原爆の被爆者は人道上の措置である、こういう説明があったのですが、どれをとっても人道上の措置としてこたえるべきそういう性格のものじゃないか、私は実はこう思うのです。したがって、そういうふうな立場で見たときに、この種の問題に日本の政府が、もう日韓の請求権の協定で済んだ、こういうふうな対応だけで私はいけるものじゃないし、またいくべきものでもない、こう思うわけです。
 協定を結んだ立場でそこをどうやるかはなかなか難しい問題はあろうかと思いますが、しかしそれはそれとして、もう人道上という一つの前例が原爆の被爆者の問題であるのですから、そういう人道上のというような前例を大いに前向きに、積極的に活用する、そして対応するというふうなことがこれから日韓の関係あるいは日本と朝鮮の関係等々で非常に必要になるのではないのか、私はこう思います。渡辺外務大臣の何らかの措置というのも、恐らくそういう一つの政治的な判断があって出立言葉じゃないかと思いますが、法務大臣、やはり国務大臣でおられるわけですから、今私の申し上げたようなことについてどういう御見解をお持ちか、ひとつお尋ねをしたいと思うのです。

○田原国務大臣 法務大臣は国務大臣で内閣の一員でありますが、ただ明確に所管が分かれておりますので、所管を越える問題について本来はなかなかコメントできないと思いますけれども、ただ先生の人道的なお気持ちは理解できるわけですが、渡辺先生が副総理として言われたか外務大臣として言われたかわかりません。渡辺先生の方に直接お聞きしておりませんので、それはそんたくして申し上げなければいけないし、私は、大変悪うございますが、意見を差し挟むことを、コメントを控えさせていただきたいと思います。

○高沢委員 この辺は政治家として当然一言あってしかるべきだと思いますが、どうしても言われないのを無理やり言わせるというのも大変困難でありますから、もう時間があれですから次へ進んでまいります。ただ、進む前に、やはり内閣の一員としてこの種の問題は人道的に、前向きに対応すべきであるということは、ひとつ十分腹の中に入れておいていただきたい、こんなふうに思います。
 それで、また外務省になりますが、こういうことが次々に出てくる。仮に、韓国の政府の政府ベースの問題でそういうことを要求してくる、日本はもう済んでおるということになったときに、意見の違いが出ると、そこにいわゆる紛争の解決というふうなことになってくる可能性があるのですが、日韓請求権協定の三条では、紛争の解決という項があって、そういう紛争がもし生じたならば外交経路で解決するとか、どうしてもつかなければ仲裁委員会にかけるというふうな規定があるわけでありますが、この規定はどういう意味と目的を持って置かれたものであるのか、そういうことを聞きたいと思います。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 日韓請求権・経済協力協定第三条は、この協定の解釈及び実施に関する両締約国間の紛争の解決のための手続を定めたものでございます。ただ、御指摘の補償の問題も含めまして日韓間の財産・請求権問題が完全かつ最終的に解決したことを確認したこの協定第二条の解釈及び実施につきましては、先ほど御紹介いたしました李相玉外務部長官の発言にもございますとおり、日韓間に紛争が生じているわけではございませんで、協定三条の規定に基づいて解決すべき問題ではないというふうに考えております。

○高沢委員 そうすると、紛争の解決ということで該当するのは一体どういうことなのですか。
 この協定の第一条では三億ドル、二億ドルの経済協力が規定されている。これは皆上げてしまったからもう済みですよ、今さらこれで何か紛争が起きる可能性はない、それから第二条で完全かつ最終的に決着済み、これももう紛争が起きる余地はない、こう言われるとすれば、もはや紛争が起きる可能性は全然ない。この三条というのは一体何の意味があるのかということになるのですが、どうですか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 第三条の規定に基づきまして具体的にこうこうこういった事例といったことで想定しているわけではないというふうに承知しております。

○高沢委員 これは私の意見ですが、これから日韓の間で紛争が生ずるとすれば、今言った請求権の問題、済んだと協定ではなっているが、これは、済んだでは我々は納得できないという問題が出てくることが、これからの紛争の可能性の大きなものを非常にはらんでいるということを私は申し上げて、外務省もそのことはしっかり考えておいていただきたい、こう思います。
 それから、戦争中に徴用等で雇用されていた朝鮮の人に対する未払い賃金等については供託の措置をとるようにということが昭和二十一年に政府から通達がなされて、そして関係の企業は、多くは皆供託の措置をとったということでありますが、その供託は十年で時効になるということが一方にあるわけですね。前にも清水局長からもお答えありました。そして、十年で時効になるけれども、昭和三十三年の段階でもう時効になったからこれは済んだと言って国庫へ戻し入れということは、普通ならやるのだそうですが、それはやるべきでない、そのまま置いておけということが、また昭和三十三年に通達が出された。それは日本と韓国、日本と朝鮮、その間におけるこの種の問題の協定ができるまでということであったわけですが、日韓の協定は既にできたわけでありますが、その後、そうやってずっと保留されていた供託のお金の国庫への戻し入れがなされたのか、今でもなされないで置かれているのか、この辺はどうでしょう。

○清水(湛)政府委員 前回答弁申し上げましたように、本来ならこれは十年で時効消滅しているわけでございます。しかしながら、平和条約で、朝鮮半島の地域に施政を行っている当局あるいはその住民の請求権につきましては特別取り決めの対象とするということが定められました。そういうようなことを背景といたしまして、本来なら当然行っていいはずの時効による歳入納付という手続を見合わせようということで、昭和三十三年の通達によりまして見合わせたわけでございます。その後、日韓の問題につきましては、先ほど来御答弁がございますように請求権協定がされまして完全に解決されたということになるわけでございます。
 ただしかし、日韓間の請求権協定というのは、北朝鮮との関係においてはその効力が及ばないのではないかというようなこと、これは外務省の方でお答えになる問題でございますけれども、そういうような疑問もございましたので、韓国関係におきましては完全に消滅しているわけでございますけれども、供託されている方々が韓国の方々なのかあるいは北朝鮮の方々なのかわからないというようなこともございまして、現在、歳入納付の手続はとらないまま推移していると承知しているところでございます。

○高沢委員 もう五分前の通告が来ましたからあれですが、今現に北朝鮮との国交交渉をやっておりますから、いずれまとまるまでにはこういう経済協力というか請求権というか、そういうものが、今度は日本と北朝鮮の間で当然結ばれなければならぬ、こうなると思いますが、そのときに、今まで日韓で結んだものと全く同じものが果たしてできるのか、北朝鮮側は、あれではだめだ、こういうものでなければだめだという主張が当然に出てくると私は思います。そういうことにおいて、これからの日本の外務省の対応も相当難しい、場合によれば思い切った決断をしなければならぬという局面も来ると思いますが、それは一応指摘だけしておいて、時間がありませんから次へ行きます。
 それで、問題の三菱重工の長崎造船所で働いていた金順吉さんのことですが、要するに三菱重工は、それは供託したからもう済んだんだ、こういう態度をとっているわけですね。金さんは、それに対して支払いを求めるということで、これから裁判にも訴えようというようなことになっていますが、その供託をしたということが、三菱重工が供託書の正本をちゃんと持っていて供託したことが証明されるということになるかというと、それが文書がないのですね。つまり、供託したことが証明されない。されないとすれば、逆に考えれば、今度は供託をしなかったと結局認識せざるを得ない。そうすると、金順吉さんの支払い請求に対しては当然支払いをする責任がある、義務があるということになろうかと思うのですが、この点はいかがですか。

○清水(湛)政府委員 これは私どもの方で答えるべき筋合いの問題であるかどうか、つまり金順吉さんという韓国の方が日本の法人である三菱重工に対して請求権を持っているということになるのだろうと思います。しかし、その請求権につきましては、先ほど請求権協定で日本国民に対する請求権についても放棄がされることになっておりますので、そのことについて三菱重工がどういう御主張をなさるのかという問題であろうかと思います。三菱重工と金順吉さんの間の関係でございますので、私ども、それについてとやかく申し上げる立場にはないということだけを申し上げさせていただきたいと思います。

○高沢委員 三菱重工がどう答えるかということは確かに会社の立場ですね。ただ、それに対して、支払いを求めるという金順吉さんの、言うならばまた権利はあるということを私としてはここで確認したいと思うのです。それは具体的に訴訟ということになっていくかもしれませんが、そういうことを私としては確認をしたいと思います。
 それで、前回のときに、これとの関連で、三菱重工が本当に供託したのかどうかを側面的に立証する一つとして、当時同じく長崎でそういう朝鮮人徴用夫を使っていた高島炭鉱あるいは川南造船、これの供託をしたかどうかの資料はどうかと実はお尋ねしたのですが、それを後で聞いたら、川南造船という会社は登記上ない、それから高島炭鉱という会社もない、したがってそういうことの探しょうがないという説明が法務省から実はあったのです。
 そこで、私ももう一度よく調べてみたら、高島炭鉱というのは三菱石炭鉱業株式会社の高島横業所、それから川南造船も川南工業株式会社の造船所ということがより正確にわかったので、この名前で、昭和二十一年、二十二年、あのころの段階で未払い賃金の供託がなされたかどうかを、その資料をお尋ねしたいと思いますが、今ここですぐにわからなければ、別途また私の方へその連絡をいただきたいと思いますが、いかがでしょう。

○清水(湛)政府委員 これは供託制度についての一般論でございますけれども、いわば供託をする人からその相手方のために金を預かるということでございまして、供託をした方は供託金の取り戻し請求権がある、供託をされた方は供託金の還付請求権があるということで、それぞれ金銭債権を有する関係にあるわけでございます。したがいまして、この供託につきましては、どういう方がどういう方に対して供託をしたかということは一般的に公開しない。その供託をされた方あるいは供託をした方御自身あるいはその相続人の方が、そういう者であるということを証明して供託所に参りますと、その関係でその事実関係を明らかにすることがありますけれども、一般論としてこういう方がこれだけの供託をしていますということは申し上げることはでさない、私どもはそういう扱いをしているわけでございます。
 もちろんその前提といたしまして、そういう会社が、いや、供託をしたからその供託の事実を確認したいとみずからそういうことを明らかにして供託所へ来るということでございますと、それはいわばみずから公開したわけでございますから問題はないと思うわけでございますけれども、一般論ということになりますが、そういう扱いをしているということについて御理解をいただきたいと思うわけでございます。

○高沢委員 もう終わっていて済みません。もう一問だけお許し願います。
 前回の質問のときに、三菱重工の長崎造船所はそういう供託をした資料が何もない。ところが、広島の造船所は広島の法務局に対して供託をしていて、確かにその資料が確認できた、千七百何名の供託があったということは前回の委員会でもお答えがあったわけです。それは法務省から調べていただいてそのことの確認があったわけですが、今度の三菱石炭鉱業、それから川南工業、これも同じような意味において調べていただいて、つまりこれは求めている人が金順吉さんですから、したがって三菱が供託したかどうかを、最も利害関係人であるこの人にそういうこともまた資料として伝えてあげるということがあっていいのじゃないかと私は思いますので、今の点を調べていただいて、私に教えてもらえば今度金さんの方へそのこともお伝えすることもできるわけで、まるっきり利害関係人でないということでもないので、その御配慮を願います。

○清水(湛)政府委員 広島で三菱重工が供託書を閲覧したという事実はございますけれども、それはその前提として、三菱重工の広島造船所は自分たちはこういう形で供託をしているということを対外的に公表いたしまして、その供託の詳細を確認するということで三菱重工みずからが供託所にそういう調査に来られたということでございます。そういう意味におきましては、三菱重工としては供託の秘密をも公開しておるということでございますので、私どももこの間ここでそういう事実があるということはお答えいたしたわけでございます。
 三菱重工の長崎造船所につきましては、長崎造船所の方でも供託をしたというふうにおっしゃいまして、金順吉さんもそのことを長崎造船所で確認をいたしまして、そして私どもの方へやってまいりましたので、長崎造船所としても供託の事実をいわば公開しているということになりますので、調べてみたわけでございますけれども、この間お答えいたしましたように、そういう関係書類が法務局には見当たらなかったということで、そういう経過になっているわけでございます。

 第126回国会 衆議院予算委員会 第26号 平成五年五月二十六日(水曜日)午前九時一分開議

 委員          宇都宮 真由美
 外務省条約局長     丹波 實
 外務省アジア局長    池田 維
 内閣官房内閣外政
 審議室長兼内閣総理大臣 
 官房外政審議室長    谷野 作太郎

○宇都宮委員 次に、PKOの問題はこれから日本がどう生きていくかにかかわる問題でございまして、そのことはまた今までの、過去の生き方をどう処理するかという問題にも共通点があると思いますので、ちょっと戦後補償の問題についてお尋ねしたいと思うんですけれども、その前にいわゆる日韓条約、その解釈について二、三確認をさせていただきたいと思うんです。
 一つは、協定第一条第一項の無償三億ドルと有償二億ドルの経済協力、それと同第二条第一項の「財産、権利及び利益」並びに「請求権に関する問題」の解決、この二つは法律的には対価関係がないというふうに言われていますけれども、政治的といいますか存在的といいますか、経済協力するからまあ財産等の問題は解決したのだ、解決するから経済協力するんだという意味においては対価関係にあると思うんですけれども、そういう形で連動しているとは言えないのでしょうか。

○丹波政府委員 お答え申し上げます。
 先生はこの問題に大変お詳しい先生でございますので、ごく簡単に経緯を御説明申し上げたいと思いますけれども、日韓国交正常化交渉におきましてのこの財産請求権問題の討議は、法的な根拠があり、かつ事実関係も十分に立証されたものについてのみ日本側がその支払いを認めるという前提に立って交渉を行ったわけでございますけれども、法的な根拠の有無に関する日韓間の見解というものに非常に大きな隔たりがあった。また、御承知のとおり戦後十数年を経過し、かつ朝鮮動乱が間にあったということで、事実関係の立証自体も非常に難しかったということでございます。それで、しかしそのような状況の中でこのような両国の対立を無期限に放置し、そのために正常化もおくれるということであってはいかぬということで、両国が大局的な見地から考えてこの協定をつくったわけでございます。
 そこで、両国の正常化後、韓国の民生の安定、経済の発展に貢献することを目的といたしまして、韓国に対しまして経済協力を行うことが適当であるということを考えましてこの協定を締結いたしまして、先生が今おっしゃいましたとおり、第一条におきまして五億ドルの経済協力の供与を合意するとともに、当時国会でも何度も説明申し上げましたが、それと並行的にとかあるいはあわせてという言葉を使っておりますが、それと並行的にあるいはあわせて、第二条におきまして両国間の財産、請求権の問題を処理した。完全、最終的に処理したということでございます。
 先生今おっしゃいましたとおり、この第一条と第二条の間には法的な直接のつながりはございませんけれども、当時の経緯を考えまするに、そこにはやはり政治的なつながりがあった、あるいは人によっては政治的なパッケージであったという言葉を使って説明される方もおられますけれども、いずれにしても、そのような関係であったというのが歴史的な事実ではないかと思います。

○宇都宮委員 次に、この協定第二条第一項の「財産、権利及び利益」と「請求権」との関係についてお聞きしたいと思うんです。
 それはどうしてかといいますと、この当時の合意議事録によりますと、ここで言う「「財産、権利及び利益」とは、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが了解された。」というふうに書かれております。そしてまた、今までの外務委員会とか予算委員会での議事録を見ますと、「財産、権利及び利益」というのは法律上の根拠のある請求権である、そして「請求権」というのは法律上の根拠のない請求権であるというふうな説明がなされております。このような両方の説明からしますと、ほとんどの権利は「財産、権利及び利益」の中に入って、いわゆる何というか全く根拠のない、言いがかりをつけるようなものだけが「請求権」の中に入るというふうな感じにちょっと感じられるのです。
 そこで、もう少しわかりやすく、「財産、権利及び利益」の中にはどういう権利が入って、「請求権」の中にはどういう権利が入るのか、具体例を挙げて、かつ簡単に御説明いただきたいと思うのですけれども。

○丹波政府委員 いわゆる財産、権利、利益と請求権との区別でございますけれども、「財産、権利及び利益」という言葉につきましては、日韓請求権協定の合意議事録の中で、ここで言いますところの「財産、権利及び利益」というのは、合意議事録の2の(a)ございますけれども、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利」を意味するということになっておりまして、他方、先生御自身今おっしゃいましたとおり、この協定に言いますところの「請求権」といいますのは、このような「財産、権利及び利益」に該当しないような、法律的根拠の有無自体が問題になっているというクレームを提起する地位を意味するということになろうかと思います。
 具体的にとおっしゃいますので、ちょっと具体的に申し上げますと、御承知のとおり、この第二条の三項におきまして、一方の締約国が財産、権利及び利益、それから請求権に対してとった措置につきましては、他方の締約国はいかなる主張もしないというふうな規定がございまして、これを受けまして日本で法律をつくりまして、存在している実体的な権利を消滅させたわけでございますけれども、まさにこの法律が対象としておりますのは、既に実体的に存在しておる財産、権利及び利益だけである。
 具体的に申しますと、それは例示いたしますと、日本国あるいは国民に対する債権あるいは担保権あるいは物権といったものを消滅させた。これがまさに実体的な権利でございまして、請求権はなぜこの法律の対象でなかったかと申しますと、まさにその消滅させる対象として請求権というものが目に見える形で存在していないということだと思うのです。
 先生はもう弁護士の先生でございますので、これ以上あれする必要はないと思いますけれども、例えばAとBとの間に争いがあって、AがBに殴られた、したがってAがBに対して賠償しろと言っている、そういう間は、それはAのBに対する請求権であろうと思うのです。しかし、いよいよ裁判所に行って、裁判所の判決として、やはりBはAに対して債務を持っておるという確定判決が出たときに、その請求権は初めて実体的な権利になる、こういう関係でございます。

○宇都宮委員 今の御説明をお聞きしますと、財産、権利、利益の中に入る権利というのは、例えばよく例に出されるのは郵便貯金の返還請求権とか、そういうのが言われるのですけれども、一見して証拠上だれが見ても権利が存在していると認められるような、判決書とか国の権利証みたいな、そういうものだというふうに考えて、そしてそういうまだはっきりしていない権利というのは、損害賠償請求権なども法律上の根拠があるかないかといえば、私はあるんだろうとは思うのですけれども、そういう損害賠償請求権とかあるいは慰謝料請求権、あるいは労働契約に基づく賃金の支払い請求権なども、そういうはっきりした証拠がなければ請求権の方に入るというふうに解釈してよろしいのでしょうか。

○丹波政府委員 これは条約、協定あるいは国内法でもそうかと思いますが、いかなる意味合いで請求権という言葉が使われているかということによって違うと思うのですが、しかし先生、一番重要なことは、請求権につきましても、日韓両国、両政府の間では、国家あるいは国民の請求権も相互に放棄され、完全、最終的に解決されておるというのが、この問題につきましてのこの条約上の一番重要な問題ではないかと考えております。

○宇都宮委員 重要な問題がどうかということをお聞きしたわけじゃなくて、権利の分類が私の解釈で間違ってないでしょうかということを確認させていただいたのですけれども。

○丹波政府委員 ですから、請求権という言葉がどういう文脈あるいはどういう法律の中でどのような形で使われているかということによって、そこは実体的なものを持っているのかどうかも違ってくるのではないかと考えます。

○宇都宮委員 済みません。もう一回だけ確認させてほしいのですけれども、証拠がはっきりしているかどうか、だれの目で見ても一見明らかに存在すると見られるような権利が「財産、権利及び利益」の中に入って、それがはっきりしないような権利が「請求権」なんだというふうに一番最初例説明されたのではないのですか。

○丹波政府委員 先ほど申し上げましたとおり、この「財産、権利及び利益」と申しますのは、法律上の根拠に基づきまして既に財産的価値を認められています実体的な権利を意味しておる。それで、「請求権」と申しますのは、「財産、権利及び利益」に該当しないような、法律的根拠の有無自体が問題となっているようなクレームを提起する地位、それを意味しておるということでございます。

○宇都宮委員 今までの外務委員会等での議事録に書かれているとおりの御答弁なんで、これ以上はやめますが、何でああいうわかりにくい説明をするのか、私はよくわからないのですけれども。
 いずれにしましても、財産、権利、利益の中に入るものも、請求権の中に入るものも、条約上はその権利を消滅させていない。財産、権利、利益に対する日本国の措置に対して、そしてまた請求権に対して、国家は何らの主張もしない。要するに主語は国家であって、その権利が消滅したことを条約で言っているわけではないと思うのです。この条約では、要するに外交保護権の放棄を言っているだけの話で、権利自体の消滅についてはこの条約は言っていないということはいいわけですね。

○丹波政府委員 お答え申し上げます。
 この第二条の一項で言っておりますのは、財産、権利及び利益、請求権のいずれにつきましても、外交的保護権の放棄であるという点につきましては先生のおっしゃるとおりでございますが、しかし、この一項を受けまして三項で先ほど申し上げたような規定がございますので、日本政府といたしましては国内法をつくりまして、財産、権利及び利益につきましては、その実体的な権利を消滅させておるという意味で、その外交的な保護権のみならず実体的にその権利も消滅しておる。ただ、請求権につきましては、外交的保護の放棄ということにとどまっておる。個人のいわゆる請求権というものがあるとすれば、それはその外交的保護の対象にはならないけれども、そういう形では存在し得るものであるということでございます。

○宇都宮委員 韓国政府がその外交保護権を放棄したからといって、日本の法律で直接その韓国人の権利を消滅させるという、その根拠は何なんでしょうか。

○丹波政府委員 それは、何度も立ち戻りまして恐縮ですけれども、韓国との請求権・経済協力協定の第二条一項を受けまして三項の規定があるものですから、日本政府が相手国、この場合韓国ですが、韓国政府及び国民の財産、権利及び利益に対していかなる措置をとっても、相手国あるいは相手国政府としてはいかなる主張もしないということになっておるものですから、その意味で、日本政府がまさにこの財産、権利及び利益というものを消滅させても、韓国としてはいかなる主張もしないということが規定されておるものですから、日本政府としてはそういう措置をとったということでございます。

○宇都宮委員 それは韓国政府が何も言わないということで、韓国人が何も言わないということまでは決めていないと思います。ちょっと長くなりますので、もうこれでやめます。
 次に、戦後補償の問題なんですけれども、いろいろあるんですけれども、韓国の従軍慰安婦の方の問題についてちょっと質問させてもらいたいと思うんです。
 政府の立場は、今言いました一九六五年の日韓間の請求権・経済協力に関する協定、これで、戦後補償の問題については韓国及び韓国民との間では既に解決済みであるという態度を繰り返して述べられております。そしてまた一方では、この元従軍慰安婦の方には補償にかわる何らかの措置をする必要があるというふうにも言われています。
 この解決済みであるということと、何らかの補償をしなければならないということとの関係というのは、どういうふうに考えたらいいんでしょうか。法律的には解決済みだけれども、何らかのことをする政治的な義務とかあるいは人道上の義務があるというふうにお考えなのか、それとも、義務はないけれども、まあするんだというふうに考えるのか。どちらなんでしょうか。

○池田政府委員 いわゆる従軍慰安婦問題の法的な立場についてはただいま条約局長から御答弁があったとおりでございますけれども、本件の性格にかんがみまして、道義的、人道的観点から、我々としては日本国民の気持ちを何らかの形であらわすことはできないだろうかということで検討しているわけでございます。

○宇都宮委員 そこで、何らかの道義上の義務があるというふうに考えられているんだろうと思うんですけれども、今まで私たちというか、元慰安婦の方たちも、要するに事実の調査をしてほしいということを訴えてまいりました。
 それで、いろいろ政府の方でも文書の調査はなさって、昨年の七月にも第一回目が発表されて、また二回目の調査の結果を発表するということでございますけれども、この書類とか文書とかの調査以外に、聞き取り調査をなさるということを三月の参議院の予算委員会でおっしゃられました。聞き取り調査の対象とか方法とか、具体的に決まっていれば御説明願えますか。
    〔委員長退席、石川委員長代理着席〕

○谷野政府委員 お答え申し上げます。
 ただいま聞き取り調査ということでございましたが、私どもが行っております聞き取り調査は、当事者の方々の、慰安婦の方々から直接お話を伺うということと、それから、それ以外のいわば関係者の、日本の方も含めてですけれども、その方々からお話を伺うのと二通りあろうかと思いますが、後者につきましては既にいろんな形でお話を伺っております。
 難しいのは当事者の方々から直接お話を伺うということでございまして、私どもは、現在進めております調査をより完全なものにするためには、当事者の方々から直接お話を伺うことが必要であろうという感じになっておりまして、ただいま外務省にお願いいたしまして、現地の大使館を通じて当事者の団体の方々と連絡をとらしていただいております。向こうの側でもいろんなお考えがあるようでございまして、いま少しく、いつどういう形でやらしていただくか、時間がかかろうかと思いますが、何とか実現にこぎつけたいと思います。

○宇都宮委員 今まで、そういう証言の信憑性については疑問を持っているということで、私たちがそういう聞き取り調査を行うべきでないかと言っても、行わないという方針だったと思うんです。
 そしてまた、もう一つは、そういうもとの当事者の方に聞き取り調査をすれば、その人たちは、強制的にやらされた、従軍慰安婦にさせられた、いわゆる強制連行されたというふうな証言をなさっている方が多いわけです。そういう証言が出てくることは明らかだと思うんですけれども、この強制連行については政府はどのようにお考えなんでしょうか。

○谷野政府委員 まさに先生のただいまお話しのようなポイントも含めまして、私どもは別に予断を持っているわけではございません。なすべきことは、なるべく真実を究明するということでございまして、それに尽きると思います。そのような考え方に基づきまして調査を進め、聞き取り調査も行うということでございます。

○宇都宮委員 だとすれば、この聞き取り調査をするということに方針を変えたのはどうしてなんですか。何か理由があるんですか。

○谷野政府委員 聞き取り調査のお話だったと思いますが、政府は確かにひところまで、この当事者の方々のプライバシー等の問題もあろうかと思いまして、これの問題について若干消極的なことを述べておったかと思いますけれども、その後、先ほど申し上げましたように、より実態に迫るために、かつまた韓国側からも内々これを実施してほしいという強い御要請がありまして、ただいまのところでは、先方の協力が得られればということが条件でございますけれども、先方が応じてもいいということになりますれば、ぜひそのような段取りを進めたいと思っております。

○宇都宮委員 この聞き取り調査に関して、なかなか難航している、いろいろと韓国の団体の方にも反対があるというのでなかなか難航しているというふうな報道がなされておりましたけれども、見通しといいますか、特に元従軍慰安婦の方の聞き取り調査ができるかどうかの見通しと、それに対します、どうすれば実現できるかというその方法など、どういうふうにしたいか考えていらっしゃれば、お伺いできますか。

○谷野政府委員 これは、先方の団体とのお話し合いは、外務省、出先の大使館にお願いしてございますので、あるいは外務省の方からお答えいただいた方がよろしかろうかと存じますが、私どもの承知いたしておるところでは、いろいろ先方にも、団体の方にこれに応ずるにおいてもいろんな条件とかお考えがあるようでございまして、その辺のところをいま少しく解きほぐすために時間が必要だと思います。したがいまして、相手のあることでございますから、私の方の立場でいつまでにということはなかなか申し上げにくいわけでございます。
 それから、しかりとすれば、どういう規模で、どういう形で、どこで何人くらいということは、そういった話し合いを通じてお互いに合意をして出てくる話でございまして、とにかく今は私どもの考え方を向こうの団体の方に伝えて、私どもの考え方をわかっていただくというふうなことで努力をさせていただいております。

 第154回国会 参議院 内閣委員会 第15号 平成14年7月16日(火曜日)午前十時二分開会

【発言順】
 外務省アジア大洋州局長 田中 均
 男女共同参画担当大臣  福田 康夫
 議員          岡崎 トミ子
 外務省条約局長     海老原 紳

○政府参考人(田中均君) 国連の人権委員会とか国際場裏で議論が行われているというのは、今、委員も御指摘のとおりでございますけれども、今御指摘のその従軍慰安婦の問題を含め、そういう大戦にかかわる財産賠償請求権、その問題については、さっきも申し上げましたとおりでございますけれども、サンフランシスコ平和条約という中で二国間の条約も含めて処理がされてきておる。例えば、米国の連邦地方裁判所の判決におきましても、戦争後に締結された一連の条約が日本に対するすべての戦争請求権の解決を目的としていたことは明確であるという判示をしているということでございます。
 ですから、非人道的な行為であると、正にそういう言い方というのは当然できると思うし、そのことに関しては河野官房長官の声明もそうでございますけれども、それに対して非常に強いおわびの気持ちということは持っているわけです。ですけれども、それに至る責任ということに関しては二国間条約等で処理がされているということでございます。

○国務大臣(福田康夫君) 今はサンフランシスコ平和条約とか、そういったようなことで法的な面のお話をされました。委員のおっしゃることは、非人道的ということは、要するに、非人間的な行為とかいったような、そういう観点からの質問でもあったのではないかと、こういうふうに思います。
 そういうことで、私から申し上げるのは、これは、私からこういう立場で申し上げることが適当なものであるかどうか分かりませんけれども、一個人の立場で申し上げれば、それは今の、戦後育った人間、私のような人間からすればそれはとんでもない非人間的なことであったと、こんなふうには思います。それは今の私の立場でそういうことは感じているわけでございまして、その当時の社会でそれがどのように受け止められていたのかということについては、私は正直言って分かりません。

○岡崎トミ子君 サンフランシスコ条約等、二国間条約ということについて度々触れられておりますけれども、この締結当時に慰安婦や中国人そして朝鮮人強制連行問題は、これはどのように認識されていたんでしょうか。あれだけの大規模な戦争のすべての問題を一つの条約だとか二国間条約とか協定ですべて解決できたというふうには考えられませんね。講和条約、賠償協定などは基本的には国と国との戦争状態に終止符を打つというもので、賠償も基本的に問題意識としては国と国との問題に限定されていたんではないですか。
 当時のその認識と、このことについてお答えいただきたいと思います。

○政府参考人(田中均君) 委員御指摘のとおり、当時、戦争中に起こった個々の行動について、きちんとした事実関係をもってそれを一つ一つ検証していくということは可能ではなかったというふうに思います。可能でなかったがゆえに、これは韓国との請求権協定、一九六五年の基本条約というのもそうでございますけれども、そういう個々の積み上げというのは可能でない、したがって一括してその請求権の問題を処理をするという形になったわけでございます。
 ですから、そういう意味でいけば、当時、その個々の問題について十分検証はされていたかといえば、それはそうではないのかもしれません。しかしながら、そういうことが不可能であるがゆえに全体として、政府と政府の間で一括して請求権の問題について決着をしましょうという国の意思として条約が締結されたというふうに考えております。

○岡崎トミ子君 それでは、個人の被害とか加害の問題まで完璧に解決できたとは思っていないんですね。

○政府参考人(海老原紳君) お答え申し上げます。
 この点に関しましては、先ほども答弁がありましたように、国家及び国民の財産、請求権、これらの問題すべてがサンフランシスコ平和条約、あるいはその後締結されました二国間の平和条約、あるいは今のお話のありましたような、日韓の場合は一九六五年の日韓請求権・経済協力協定によってすべて解決済みであるということでございまして、例えば平成十三年の十月の十一日に東京高裁の判決というのがございます。これはオランダ人の元捕虜、民間抑留者の損害賠償に関する控訴審の判決でございますけれども、この判決におきまして、ちょっと読ませていただきますけれども、「連合国及びその国民と日本国及びその国民との相互の請求権の問題は終局的に一切が解決された」というべきであるというふうに判示されているところでございます。

○岡崎トミ子君 だから、考えていただきたいんですね。この平和条約とか協定を私は否定しませんし、破棄してほしいなんというふうに言っているわけでもないんですね。ここに含まれなかった問題に関して、又は解決できていない問題について追加的に措置を講じる、あるいは補完する、そのことが今求められているんだと思いますけれども、いかがですか。

○政府参考人(田中均君) 今、条約局長から御答弁申し上げましたように、正に国の意思として非常に多大の国民の税金を使って戦後処理をする。それは、そういう個々の、死んだ方もおられます、死んだ方もおられるし、強制的に日本に労働に連行した方もおられる、慰安婦のような方もおられる。しかしながら、そういうことに対する責任の問題というのはすべて一括して請求権協定で処理をする、サンフランシスコ平和条約で処理をする、その後の二国間の条約で処理をするという選択をしたわけでございます。その選択は日本国として支持をされ、諸外国にも支持をされる形で処理がされてきたということでございます。

○岡崎トミ子君 どうしてもドイツの例を言わなければいけないと思いますけれども、ドイツも戦後、いろいろな追加措置を立法を行って実施してきておりますよね。一昨年、二〇〇〇年に制定されました強制労働補償基金はその総仕上げとされるもので、百五十万人を対象に総額五千四百億円をドイツ政府と企業六千四百社が共同で出し合って設立をいたしました。米国も一九八八年に、戦争中の日系人の強制収容への謝罪と補償を立法で行っております。
 なぜ日本ではできないんでしょうか。

○政府参考人(田中均君) ドイツの例につきましては、ドイツが分断国家であったということがございまして、日本がサンフランシスコ平和条約、その後の二国間の条約でやったような形で国と国との関係で処理ができなかった。ドイツの場合にはナチスの犯罪ということで、むしろ個人に対して種々の補償を行うという方式を選択をしたということでございますし、ドイツはその方式に従ってやってきている。
 ですから、国と国との関係、政府と政府との関係で一括して処理をするのか、それともドイツのようにナチスの犯罪という形で一定の基金を設けて個人に対して資金の支払をするのかという、その方法といいますか、いずれも過去の責任、そういうものに対して国としてどういう対処をするかという基本においては同じでございますけれども、そういう形になっているということだと思います。
 それから、米国の例を委員は指摘をされましたけれども、米国については、これはあくまで米国国民の問題、正に米国憲法の下で不平等な扱いがされた。それに対して、日系人といえども米国国民に対しての支払ということだと理解をしております。

○岡崎トミ子君 経過が異なるというのは、これは当然だと思いますね。しかし、戦後補償に関して、世界はドイツを評価して日本を評価されておりません。これも事実ですよね。第二次世界大戦から半世紀以上もたって、ドイツは既に総額七兆円に及ぶ支払を行ってきましたけれども、まだやり残したことがあると政府と企業が一緒になって百五十万人も対象とした補償基金を設立しているんです。立派じゃないですか。
 確かに、ドイツ政府も、戦争犯罪を犯したのはかつてのナチス・ドイツで現政府は責任を負わないと、法的責任の継承を否定しています。しかし、パッチワークと言ったら申し訳ないかもしれないけれども、次々に補償を行って、また歴代大統領や首相が被害地を訪問して、これは必ずしもストレートに謝罪ではないけれども、心に刻む、過去の克服、許しを請う、こういうことを誠実に語り続けてきております。謝罪ということは言葉であると同時にプロセス、過程だというふうに思います。幾ら謝ったと加害者の方の側が一方的に主張しても、謝罪を受ける側の方が納得して了解できるものでなければ意味はありません。
 かつて、一九七〇年に当時のウィリー・ブラント西ドイツ首相がポーランドを訪れて、ワルシャワのユダヤ人ゲットー記念碑の前でひざまずいて一言も言葉を発することがなかった。けれども、世界じゅうの人々はそれを見て、ドイツは誠実に謝罪をして反省しているということを実感したわけなんです。四月十七日にはラウ大統領がイタリア北部のマルザボットという小さな町を訪れまして、虐殺の跡地で、ドイツ人は暴力と計り知れない悲しみをもたらした、後の世代もこの罪を直視しなければならないと語っています。こういう誠意というものが問われているのではないかと思うんですね。ほかの国の立派な行為を、実はこうなんですよ、一括してやったのと、その選択なんですよというふうに暗に否定しようとする、そういう態度は非常にこそくだというふうに思います。
 女性のためのアジア平和国民基金ですね、この償い金に添えました総理の手紙が被害者から送り返された。ドイツの補償に対して反対のデモが行われたとか、ドイツの首相の手紙に対して突き返されたなんということはかつてなかったと思いますけれども、外交的に大失態で逆効果ではないですか。どうですか。

○政府参考人(田中均君) 委員の前段の御指摘、ドイツはきちんとしたことをやっていて日本はそうではないという趣旨のことを言われましたけれども、決してそうではない。日本も戦後処理、戦争処理、そういうことと同時に、やはり基本的な反省、歴史を直視するという形で、これは近隣国との関係でも常に日本として意識をしてやってきていることでございますし、それから東南アジア諸国に対する経済協力もそうでございますし、一連、やはり日本としては、戦後の状況において戦争処理を行うと同時に、近隣諸国との間で信頼関係を作るという観点から外交を展開してきているわけでございます。決して、ドイツが良くて日本が悪いということではないんだというふうに思います。
 それから、フィリピンのケースについてお話がありました。
 これにつきましては、委員御案内のとおり、正に日本の道義的な意識から、当時、一九九五年、村山内閣でございましたけれども、果たしてどういう形でこの慰安婦の問題に政府として対応するのが適当かということで、ただ、国が直接、個人補償をすることはできないという前提の中で、それでは民間の基金を使って、民間の国民の寄附をお願いをした上で、それを個々の慰安婦の方々に償い金として支払をしようという形で政府としての決定がされたわけでございます。
 そういう形で、この慰安婦基金につきましては償い金、それから政府の拠出から成り立っている福祉事業、それから福祉金と言う場合もございますけれども、それから総理の手紙ということで、その手紙も付けた上で個々の慰安婦で申請があった方に対してはお届けをしているということでございます。
 ただ、ただ、フィリピンにおいてそういう手紙を受け取りたくないという御指摘があったので、御本人の事情を聞いたということでございます。

 第186回国会 参議院外交防衛委員会 第4号 平成二十六年三月十七日(月曜日)

 委員   中西健治
 外務大臣 岸田 文雄

○中西健治君 重要な隣国でありますから、是非そうした対話を促進していただきたいと思いますが。
 いろんな懸案事項について話をされたということでありましたけれども、幾つかの問題をちょっと取り上げたいと思いますが、今日の時間の許す限りお話ししたいと思いますが、一つ目が、私は慰安婦の問題、あえて取り上げませんが、より経済的問題としてなじむものとして戦中の徴用工の問題、これをお聞きしたいと思います。
 朴槿恵政権は、殊更、安倍政権は過去の歴史を覆そうとしているということを諸外国に向けてこれまで発信してきていたと思います。この徴用工問題については、もう平成二十一年に韓国政府自らが請求権協定で外交上解決済みだという立場を明らかにしたものでありますけれども、今またこうしたことについて蒸し返されてきているということについて、過去の歴史を覆そうとしているのは、まさに私たちではなくてあちらの国なのではないかということについてどう思われるでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) まず、日本と韓国との間の財産請求権の問題、これは日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが我が国の一貫した立場であります。これまでも、こうした立場につきまして外交ルート等を通じまして様々なレベルに対して韓国政府に向けて申入れを行ってきているところです。
 そして、今委員からも御指摘がありましたこの旧民間人徴用工の問題に関しましては、韓国政府も我が国と同様の認識に立っているということで、日韓請求権・経済協力協定で解決済みという立場については韓国政府自身がこれを公表してきております。ですから、この件につきましては、あくまでもこれは韓国政府自身が解決すべき問題であるというのが我が国の考え方であります。
 是非、今後とも我が国の政府の一貫した立場に基づいて、韓国政府が早急かつ適切に対応することをしっかり求めていきたいと考えています。

○中西健治君 韓国政府が適切に対応することを求めていくと、そういうことなんだと思いますが、最近、韓国政府の実務者から、日本企業が原告側に見舞金を支払うことなどで和解できないかと暗に打診してきたということに対して、日本政府が和解に応じないと方針を韓国側に伝えたとの報道がされておりますけれども、この事実関係はどうなっているんでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) 詳細については申し上げるのは控えなければならないと思いますが、いずれにしましても、こうした日本側の民間企業と連絡を取りつつ、日韓間の財産請求権の問題に対する我が国の政府の一貫した立場に基づき対応していかなければならないと思っています。
 是非この立場、従来の立場につきましてはしっかり堅持した上で、こうした民間企業ともしっかり連携しつつ日本側として対応していきたいと考えています。

○中西健治君 私自身は、あちらの大審院、最高裁の判決が確定する前にも、国際司法裁判所にこうした請求権協定の存在確認、これを求めるというようなことをするべきなんじゃないかなと思います。
 そして、あと一つお聞きしたいと思いますが、南スーダンのPKOでの韓国軍に対して銃弾一万発の無償提供を行った件でありますけれども、この弾薬提供に当たっては、現地のやり取り以外にも韓国の駐日大使館から外交ルートで日本政府に要請があったというふうに外務省の方から以前伺いましたが、それは事実かどうか、御確認いただきたいと思います。

 第186回国会 参議院外交防衛委員会 第5号 平成二十六年三月二十五日(火曜日)午後一時開会

 委員   中西 健治
 外務大臣 岸田 文雄

○中西健治君 もう一つ外務大臣にお伺いしたいと思いますけれども、韓国の戦時中の徴用工についてはこれまで二度か三度この委員会でも取り上げさせていただきました。新たなことが、同じような事案が中国でも起こってきたということであります。中国の裁判所、北京市の第一中級人民法院が訴えを受理したということでありますけれども、韓国については、先週の委員会でも外務大臣は、韓国政府自身が解決すべき問題であると、ですので見守っていきたいと、こんなようなことをおっしゃられたと思います。私自身は、私がそこで申し上げたのは、あちらの大法院の判決が確定する前にも国際司法裁判所に対して請求権協定の存在の意義確認をするべきではないかということを申し上げました。
 中国についても同じことが言えるのではないかと思いますけれども、あくまで事態を見守って待つという姿勢なのか、それとも何らかの方策を政府として行っていくのか、それについて御見解をお伺いしたいと思います。

○国務大臣(岸田文雄君) 中国の状況について御説明もいただきましたが、まず、政府としましては、いわゆる中国人の強制連行そして強制労働問題について、当時多数の方々が不幸な状況に陥ったことは否定できないと考えており、戦争という異常な状況下とはいえ、多くの方々に耐え難い苦しみ、悲しみを与えたことは極めて遺憾であったと考えております。
 そして、中国でのこの訴訟、この二月二十六日に提訴されて以降、政府としては関心を持って状況を注視していますが、先般、中国の裁判所において訴状が受理されたことは中国国内で類似の事案を誘発することにもなりかねず、日中間のこの戦後処理の枠組み、あるいは日中経済関係への影響、こういったものに大きな、深刻な影響を与えることを懸念せざるを得ない、このように考えております。
 さきの大戦に係る日中間の請求権の問題については、日中共同声明発出後存在しておらず、日本政府としては引き続き関心を持って状況を注視し、そしてその上でしかるべく対応していく考えであります。

○中西健治君 状況を注視してばかりだということで、これ何らかのやはり深刻な影響が日本の企業活動にも及びかねないという事柄だというふうに思いますので、是非何らかの知恵を絞って行動をしていただきたいと思います。私が申し上げたのも一つの策なんではないかと思いますが、ほかに知恵も働かせられるのかもしれませんが、是非そうしたアクションも求めたいと思います。
 私の質問はこれで終わらせていただきます。ありがとうございました。

 第186回国会 衆議院外務委員会 第9号 平成二十六年四月四日(金曜日)

 委員   玄葉 光一郎
 外務大臣 岸田 文雄

○玄葉委員 まさにこれは難しい判断だと思いますけれども、総合的な判断をしていかなきゃいけないんだろうというふうに思います。
 国際法の観点で、また別の問題を一つだけお聞きしたいんですけれども、きょうは国際法にできるだけ特化して聞こうと思っていたんですが、韓国、日韓関係、今度時間があったら一度じっくり全般的にやりたいんですけれども、きょうは、国際法絡みでいうと、幾つかあるんですけれども、一つだけ聞きたいと思います。
 いわゆる徴用工をめぐる裁判というのが、日本企業が敗訴しているわけであります。これは、もちろん個人の請求権においても、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定で完全かつ最終的に解決されたのだというのが我々というか日本国政府の立場だというふうに思います。そういう状況の中で、これは判決が確定する可能性が強いという状況になってまいりました。
 中国でもどうやら同じような動きがあって、日本企業がかつて強制連行、炭鉱だとか建設現場だと思うんですけれども、連行して過酷な労働を強いたという問題で、これまでは政治的に中国政府はこの訴えを受理しなかった、中国政府は受理しなかったと言うと正確ではありませんが、ただ、事実上中国政府の影響下にある司法が受理をしなかったということでありますが、最近は受理をし始めたということで、日本企業二十社くらいが訴訟リスクにさらされるという、これは大問題だと思うんです。
 例えば、韓国で判決が確定したとすれば、これは国際法違反として日本国政府としては争うということなのか、それとも、あくまで外交的な解決を求めていくということなのか、その点についてお伺いをしたいと思います。

○岸田国務大臣 御指摘の旧民間人徴用工の問題を含め、日本と韓国の間の財産、請求権の問題につきましては、日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みである、これが我が国の政府の一貫した立場であります。そして、こうした立場は、今までも外交ルートを通じまして、韓国政府のさまざまなレベルに対してしっかりと申し入れを行い、伝えてきております。そして、韓国政府も、本件につきましては、日韓請求権・経済協力協定で解決済みだという立場であると我々は承知をしております。韓国政府自身も、こういった立場については正式に表明をしてきております。
 ですから、本件は、あくまでもこれは韓国政府自身が解決すべき問題であると考えておりまして、我が国としては、韓国政府が早急かつ適切に対応することを求めている、これが今現状の我が国の立場であります。
 我が国としましては、引き続き民間企業とも連絡をとりつつ、日韓間の財産、請求権問題に対する我が国政府の一貫した立場に基づき、適切に対応していきたいと思っております。状況を注視していきたいと考えています。
 その上で、どういったことになるのか、その点につきましては、あらゆる可能性を念頭に適切に対応していきたいと存じますが、現状においては、これは韓国の政府が適切に対応する問題であるということで、まずは状況を注視していきたいと考えています。

○玄葉委員 中国はどうですか。つまり、中国は、恐らく中国政府として、これまでと違って、もっと言うと、韓国政府とも違って、個人の請求権あるいは民間の請求権は、日中共同声明の中で扱ったような形で請求権放棄をいわゆる個人と民間はしていないんだみたいなことを中国政府が言うのではないかというふうに思うんですけれども。

○岸田国務大臣 中国との間の請求権の問題については、日中共同声明発出後、存在をしていないというのが我が国の立場であります。
 そして、今回の訴訟につきましては、こうした訴訟の状況によっては、戦後の日中の経済関係、経済協力、そういったものを揺るがしかねない大変大きな問題であると認識をしております。そうした認識のもとに、引き続き注視をしていきたいと考えています。

 第186回国会 参議院外交防衛委員会 第15号 平成二十六年五月十五日

 委員   中西 健治
 外務大臣 岸田 文雄

○中西健治君 
 それでは、話題を変えまして、日韓関係、お伺いしたいと思います。
 あした東京で日韓局長級会議が行われるということでありますけれども、慰安婦問題や元徴用工の問題も話し合われることになるのではないかというふうに考えております。韓国政府は、慰安婦問題で何らかの進展がない限り日韓の首脳会談を行わないという立場を取り続けているかと思います。中国も、靖国参拝や尖閣諸島について注文を付けて、それが解決されない限りは首脳会談を行わないという立場を堅持しているようでありますが、先方の注文を聞かなければ首脳は会わないという、こうした態度が続くとすれば、幾ら我が国政府が努力しても、先方が考えることを変えることでしか解決できないということになってしまいますが、何らかの打開策というものについて政府は今どのような考えを持っていらっしゃるのか、聞かせていただきたいと思います。

○国務大臣(岸田文雄君) まず、日韓の局長級協議、本日開催する予定になっております。この日韓の間の協議ですが、双方の関心事を取り上げて協議を行うということになっておりますので、御指摘のように、徴用工問題を始め様々な議題が取り上げられることになると想定をしています。
 中国との間においては、様々な難しい局面があり、個別の問題があります。是非、難しい問題は存在いたしますが、こういった問題があるからこそ、前提条件付けることなく率直に話し合うことが重要だと我々は訴え続けております。──失礼。済みません、中国でなく韓国であります。韓国との間には様々な問題があります。韓国との間には難しい問題があるからこそ議論をするべきだと申し上げております。
 こうした局長級協議を始め様々なレベルでの対話、様々な分野における議論、こういったことを積み上げることによって是非高い政治のレベルでの対話につなげていきたいと考えております。韓国側にもこういった我々の姿勢、しっかり受け止めてもらいたいと思っております。そういった意味で、今回、日韓の局長級協議を行う意味はあると我々は感じております。
 是非、未来志向の日韓関係を実現するために、こうした努力は続けていかなければならないと認識をしております。

○中西健治君 対話がなければ何も始まらないというふうに思いますので、今日の局長級会議でも何らかの進展があることを私自身は願っております。
 質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

 第186回国会 衆議院外務委員会 第17号 平成二十六年五月二十一日(水曜日)

 委員   小川 淳也
 外務大臣 岸田 文雄

○小川委員
 最後に、ちょっと大臣に胸をおかりしてお聞きしたいと思います。
 先ほど鈴木委員が、商船三井の船舶の中国からの差し押さえに関して御指摘になられました。日中韓の投資協定が最近になって発効されたというふうにお聞きしています。御存じのとおり、日中、日韓との間には、戦前戦中の強制徴用、強制雇用の問題をめぐって訴訟に発展しています。
 私の理解では、人道的には私もいろいろ思うところがあります、この方々の抱えておられる無念なお気持ちなりがもし晴らせるのであれば、何とか官民挙げてこれはその方向に協力できたらという人道的な思いは私にもあります。
 しかし一方で、国際法的観点からいえば、日韓基本条約に伴う請求権協定、それから日中平和友好条約に伴う両国間の合意を前提にすれば、少なくとも法的には個々の損害賠償請求権はお互い放棄し、なかったことになるという取り扱いを前提に日本企業は当該相手国との間で企業活動をしているということになるんじゃないかと思います。
 それからいいますと、後からはしごを外される形でこういう法的な損害、法的請求に直面するということは極めて遺憾な重大な事態であり、私が申し上げたいのは、投資協定の中身にもよると思いますが、国際仲裁、ISD条項を発動して、きちんとした仲裁を求めていく、あるいはその活路を研究するという日本政府の姿勢が中国、韓国に対する牽制効果を持つのではないかという気がいたしますが、一連の私の提案、問題意識に対してどうお考えになるのか、お答えいただきたいと思います。

○岸田国務大臣 日中、日韓の関係ですが、まず、中国との関係におきましては、日中間の請求権の問題、これは、日中共同声明発出後、存在しないというのが我が国の立場であり、中国側も日中共同声明を遵守するという立場、これは変わりがないと承知をしております。
強制連行、強制労働に関する訴えですが、類似の事案を誘発することにもなりかねないと影響を深刻に懸念しておりますが、引き続き関心を持って注視をしていかなければならないと思っています。
 また、日韓の間ですが、財産、請求権の問題、これは日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが我が国の立場であり、そして、韓国政府も、我が国同様、この日韓請求権・経済協力協定で解決済みという立場、これは今までも表明しておられました。
 ですから、日韓の間にある旧民間人徴用工問題、これはあくまでも韓国政府自身が解決すべき問題であると考える、これが我が国の基本的な立場であります。
 その上で、投資協定との関係の御指摘がありました。中国と韓国とは、それぞれ、日中投資協定、そして日韓投資協定を既に締結しておりますし、今月十七日には日中韓投資協定が発効しております。
 中韓両国は、これらの協定に基づいて、我が国投資家の投資財産に対して十分な保護、保障及び公正、衡平な待遇を与える、こうした義務を負っていると考えております。
 我が国としましては、こうした協定も踏まえながら、中韓両国に対して、我が国の投資家の投資財産が不当に侵害されることがないように、適切に対応していきたいと考えております。

○小川委員 歴史問題、歴史認識を含めて、私は衝突を回避すべきは回避すべきだと思います。しかし、法的にきちんとすり合わすべきはすり合わすべきで、現政権には、そこのめり張りに、力点の置き方に若干アンバランスがあるんじゃないか、私はそういう感想を持ちます。
 加えて、きょうとにかく申し上げたかったのは、もはや日本は先進国の大国という地位、位置に甘んじていられる時代は終わったという認識がこれら全ての始まりではないかと思います。そのことを重ねて指摘させていただき、質問を終わります。
 ありがとうございました。

 第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第19号 平成二十七年七月十日(金曜日)

 内閣総理大臣 安倍 晋三
 委員     細野 豪志
 外務大臣   岸田 文雄

○安倍内閣総理大臣 談話につきましては、我々、まさに七十年前、二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない、この誓いのもと、その後の日本の平和国家としての歩みがあるわけでございます。
つまり、痛切な反省、そして、それに至るまで、二十世紀という世界はどういう時代であったか、その中で日本がどういう行動をとり、どこに課題があり問題があり反省点があるのかということについて、まさに、現在有識者の皆様に御議論をいただいているわけでございます。
そして、戦後の歩みは、まさに今申し上げた反省の上に立つ歩みであり、そして自由で民主的で、そして人権を守り、法の支配を貫徹させる、そういう価値観を世界とともに共有する国として、地域やアジアの発展のためにも貢献をしてきた。そのことについては我々は誇りを持つべきであろうということについても、きのう、あるシンクタンクのセミナーにおいて述べたところでございますが、そうしたこと等々について今御議論をいただいているところでございまして、この御議論を踏まえた上において七十年における談話を発出していきたい、このように考えているところでございます。

○細野委員 総理から朝鮮王朝についてはコメントがありませんでした。
 単純比較はできませんよ。もちろん歴史も違うし、それぞれ国民の理解も違う、しかし、我が国は天皇家を持ち、それが国家のアイデンティティーとして非常に継続している。それは一つ非常に大きいですよね。途中、苦しい時代もあったけれども、そのときも天皇制をしっかり守ってきた。保守の政治家であれば、他国のものであっても、そういったものについてしっかりと見識を持って、そういう判断を日本がしたということについては、これは反省をするという姿勢がないのは非常に残念ですね。
 そのことを指摘した上で、私は、この日韓関係というのを考えたときに、そういう歴史認識はしっかり持ちながら、我が国は、国際的なルールに基づいて、さまざまな言うべきことは言っていかなければならないというふうに思います。
 そこで、先日の世界文化遺産登録についてのやりとりについて、これは日韓関係を考える上でも非常に重要だと思いますので、外務大臣にお伺いをしていきたいというふうに思います。
 まず、ちょっとパネルをごらんいただきたいと思います。これは、七月の五日、世界文化遺産登録が決まったときに、我が国のユネスコの政府代表部の大使が発言をした、声明と言ってもいいものだというふうに思います。
 英文で発表されておりますので、それをそのまま読みますと、「ブロート アゲンスト ゼア ウイル」、これは意思に反してということですね、「アンド フォースト トゥー ワーク アンダー ハーシュ コンディションズ」、これは厳しい環境の下で働かされたというふうに日本語では訳されている。
 後段の部分をもう一度確認したいんですが、「フォースト トゥー ワーク」というのは、これは受け身で「フォースト」、強制力が働かされたというふうに読めますね、このまま読むと。それに「トゥー ワーク」という、これは動詞でそれを継いでいるだけで、これをそのまま、フォーストを形容詞にしてワークを名詞形にすると、フォーストワーカーとなるわけですね、そのまま、英文でいうと。
 そして、ILOにおける強制労働の記述というのはフォーストレーバーとなっている。
 これを、違うんだと言って、強制労働について日本は認めたのではないという主張を日本政府としてはしているんです。私は認めるわけにはいかない、認めるべきではないという考えですよ、もちろん。しかし、この説明は、もう少しきちっとしてもらわないと、なかなか国際的に通用しないんじゃないかと思うんですが、まず、外務大臣に、どういう理屈でそういうことになるのか、簡潔に御答弁いただきたいと思います。

○岸田国務大臣 まず、御指摘いただきました日本政府代表団の声明文ですが、この中にあります「フォースト トゥー ワーク」という部分ですが、対象者の意思に反して徴用されたこともあったという意味で用いています。
 これは、一九四四年九月から一九四五年の八月、終戦までの期間において、朝鮮半島に適用された国民徴用令に基づいて、朝鮮半島出身者の方も徴用された、こうしたことが行われたことを記述したものであり、まずもって、これは従来から我が国が申し上げていることについて何ら新しい内容を含むものではないということを説明させていただいております。
 そして、ILOの用語との区別について御指摘がありました。その部分について申し上げますならば、国際条約において、強制労働ニ関スル条約という条約が存在いたします。その中で、フォーストレーバーあるいはコンパルソリーレーバー、こうした強制労働というものはまずもって禁止をされています。しかし、その中にあって、この第二条の二項という部分において、戦時中の徴用などは含まれていないとされています。よって、我が国がこの声明文の中で使っている言葉、これは国民徴用令に基づく対応を述べているわけですから、国際条約上、強制労働に当たるものではないと整理をしております。
 そして、日韓の間における条約ということを考えますときに、朝鮮半島出身者の徴用者を含め、日本と韓国との間の財産及び請求権の問題は、一九六五年の日韓請求権そして経済協力協定、この条約によって完全かつ最終的に解決済みである、こういった立場には全く変わりがないということであります。
 これが我が国の立場でありますが、今回の日本側の発言についてですが、従来の我が国の政府の立場を踏まえたものであり、強制労働があったことを認めるものではないと繰り返し述べているわけですが、これは韓国側にも明確に伝えておりますし、そして、韓国側とのやりとり、外交上のやりとりを通じて、韓国政府は今回の我が国代表の発言を日韓間の請求権の文脈において利用する意図はない、このように理解しており、このことを韓国政府との間においてハイレベルで確認しているということであります。

○細野委員 大臣、韓国の外交部のホームページを見ますと、強制的に労働というふうに書いてあるんですよね、今回の声明について。はっきり書いてあります、そういう表現で。ですから、請求権の文脈において利用する意図はないというのは、それは何らか確認する文書などはあるんですか。
 加えてもう一つ、徴用工の問題というのは訴訟になっていますね。仮に韓国政府がそこは利用しないと言ったとしても、そういう訴訟において利用される可能性について、ないと言い切れますか。

○岸田国務大臣 だから、先ほど申し上げましたように、この国際条約、強制労働ニ関スル条約における整理をまずさせていただいております。そして、その上で、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定の中で、これは明示的にこの部分について完全かつ最終的に解決済みである、こうしたことが確認されていると我々は考えております。この部分について、こうした考え方、立場について全く変更がないということをまず申し上げたわけであります。
 そして、そのことについて、韓国政府との間において、やりとりはもう今までもさまざまなやりとりが行われているわけですが、我が国の立場、これは明確に伝えています。
 そして、今回のやりとりの中にあっても、その外交上のやりとりを通じて、韓国政府側として、今回の我が国代表の発言、これを日韓間の請求権の文脈において利用する意図はない、このことをハイレベルで確認したということであります。

○細野委員 ちょっと、大臣、短目に答弁をお願いしたいんです。
 裁判にもなっているわけですね、個別の。そこで利用されないということについて、間違いなくそれはないというふうに大臣として言い切れますか。

○岸田国務大臣 まず、韓国政府とはハイレベルで確認しているわけですが、何よりも、これは国際条約、そして日韓間における協定、条約においてこの部分は確認されています。
 条約を誠実に履行する、これは両国における当然果たさなければいけない義務であると我々は考えています。

○細野委員 裁判については何も御発言はありませんでしたね。
 世界文化遺産登録は確かに大変いいことですよ。しかし、非常に大きな代償を払った可能性があるのではないかと私は思います。
 総理、この言葉を改めてちょっと確認していただきたいんですが、この「アゲンスト ゼア ウイル」という言葉は、これはどこかで聞いたことがあるなと思っていろいろ調べたら、実は、河野談話の従軍慰安婦のところで二回使われている言葉なんです、意思に反してというのは。
 ですから、徴用工と従軍慰安婦の問題を、多分、総理は非常に河野談話というのを、これまで、どちらかというと批判をしてこられた立場ですから、その河野談話よりも徴用工の問題が、同じ言葉が使われているのがまず一点。
 そして問題は、河野談話以上にと申し上げたのは、フォーストという言葉は河野談話の従軍慰安婦のところにも出てきません。このフォーストという言葉を、徴用工という、一九六五年の日韓基本条約が締結をされたときに、全てもう明らかになっていて、請求権をもうここで放棄したという明確な外交上の事実があることについて、これだけ踏み込んで言った、これは私は問題だと思いますよ。
 ちょっと時間も限られていますが、総理、簡潔に御答弁いただけますか。

○安倍内閣総理大臣 簡潔にまず申し上げますと、明確に、河野談話のときと混同させようという意図を感じるんですが、明確に、明確に違います。
 なぜ明確に違うか。
 意に反してという言葉については同じであります。河野談話についてはそうであります。今回も、確かに意に反して。これは、徴用工においても、みんな、工場や何かで働きたい、もちろんそういう人もいたかもしれませんが、そうでなくても、これは徴用されますから、いわば国内でもそうだったわけでありますから、これは徴用されますからそうであります。そして、慰安婦のときにも、これはみんな、自分の意思ではなくて、さまざまな、経済状況等も含めて、意に反する場合もあっただろうということであります。
 しかし、あのときは、河野さんが、それは強制連行も認めているんですねという質問に対して、そう捉えていただいて結構ですとお答えされたわけでございます。
 今回は、まさに外務大臣が直ちに、直ちに記者会見の場において、これは強制、フォーストレーバーを意味しないということを明確にし、かつ、これは六五年の基本条約においての取り決めを覆すものではない、そして、かつ、それをいわば徴用工の裁判等でこれは利用することもないということを明確にしているということをちゃんと記者会見で述べているという点において、これはまさに全く違うということは申し上げておきたい、こういうことでございます。
 そして、日本政府代表団の声明文にある、働かされた、「フォースト トゥー ワーク」とは、対象者の意思に反して徴用されたこともあったという意味で用いているわけでありまして、かつ、それは先方にもそう伝えているわけでありまして、この岸田大臣の記者会見等に対して、それは違うということを、今韓国側政府は、岸田外務大臣の記者会見における発言は間違っているということを今まで一度も言っていないということは、まさに、これは確認された証左だろう、このように思うわけでございます。
 なお、これは今、徴用されたということは、まさに一九四四年九月から一九四五年八月の終戦までの期間に朝鮮半島に適用された国民徴用令に基づき朝鮮半島出身者の徴用が行われたことについて記述したものであって、何ら新しい内容を含むものではないというのが日本の立場であり、それは先方にも伝えているわけでありまして、繰り返し大臣もそう答えているわけであります。
 そして、まさにそれに対して、それが間違っているということを、今の表現については間違っているということを韓国側は表明していないということでございます。
 そういう中で、新聞はいろいろ書いていますよ。韓国側の新聞はいろいろ書いておりますが、そういう韓国側の新聞の論拠において、今細野議員はそれに質問をされているんだろう、このように思うところでございます。

○細野委員 二つだけ指摘をしたいと思います。
 一つは、今総理は、フォーストという部分については何ら答弁されませんでしたね。ここは河野談話を超える言葉なんです。それは幾ら日本語で取り繕ったところで、フォーストに強制性というのが形容詞にしたときに出てくるのは、これはそういうふうに読まれても仕方がない部分もありますよ。そのことを御答弁されなかった。
 もう一つ申し上げると、韓国政府は、政府としては、これは徴用工の問題について利用しないと言ったかもしれませんが、個別の裁判において韓国人が言うことについて制約なんかできないですよ。裁判所はまた別の判断をしますよ。
 そこも含めて、確かにこれは、世界文化遺産登録をしたかったというのはわかりますけれども、私は、代償は大きかったのではないかというふうに思います。しかも、それを、さんざん河野談話を批判してきた安倍政権でやったということは、総理、しっかり認識をしていただいて今後対応していただきたいという趣旨でこの質問をさせていただきました。

 第193回国会 参議院予算委員会 第11号 平成二十九年三月十三日(月曜日)

 委員    山谷 えり子
 外務副大臣 薗浦 健太郎

○山谷えり子君 ありがとうございます。
 外務省にお伺いをいたします。
 韓国の政治、本当に国政、停滞状態にあるわけでありますが、そのような中で、朝鮮半島統治時代に徴用された人々の徴用工の像が釜山の総領事館前あるいは港に建てられるという計画があるということで、先週、外務省は韓国に申入れをしたと聞いております。どのような申入れをしたのか、そして日本の立場について御説明ください。

○副大臣(薗浦健太郎君) 御指摘の韓国の市民団体の動きは、間違いなく日韓関係に好ましくない影響を与えます。また、我が国の総領事館前に仮に設置されることになれば、領事関係に関するウィーン条約第三十一条に照らして問題であると考えております。韓国側に対しては、在韓国臨時代理大使から韓国外交部の東北アジア局長に対して強く申入れを行い、対応を求めました。
 先方の反応については外交上のやり取りでございますので詳細は控えますが、一般論で申し上げれば、韓国側は、外交公館前に造形物を設置するようなことは公館の保護に関する国際礼譲から望ましくないという立場を表明してきております。
 いずれにしても、民間人徴用工の問題も含めて、日本と韓国との間の財産請求権の問題は、一九六五年の日韓請求権協定により完全かつ最終的に解決済みであります。

 第197回国会 衆議院本会議 第3号 平成三十年十月三十日(火曜日)

       馬場 伸幸
内閣総理大臣 安倍 晋三

○馬場伸幸君 日本維新の会の馬場伸幸です。(拍手)
 冒頭、通告をしておりませんが、先ほど速報で、韓国の大法院において、新日鉄住金に対し、戦時中の徴用工への賠償金支払いを求める判決が出ました。本件について、総理の見解をまずお尋ねいたします。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 馬場伸幸議員にお答えをいたします。
 冒頭、先ほどの、徴用工問題に関する、韓国、大韓民国大法院の日本企業に対する判決について御質問がございました。
 本件については、一九六五年の日韓請求権協定によって、完全かつ最終的に解決をしています。この判決は、国際法に照らして、あり得ない判断であります。日本政府としては、毅然として対応してまいります。

 第197回国会 衆議院予算委員会 第2号 平成三十年十一月一日(木曜日)

 委員     岸田 文雄
 内閣総理大臣 安倍 晋三

○岸田委員 我が国は、二〇一五年のNPT運用検討会議において大変残念な思いをしました。ぜひ、二〇二〇年のNPT運用検討会議、日本としてしっかりとした存在感を示していただきたいと思います。
 そして、最後に、韓国についてお伺いいたします。日韓関係です。
 北朝鮮情勢が動く中にあって、日韓、日米韓の連携はまことに重要です。また、ことしは日韓パートナーシップ宣言二十周年という節目の年です。しかしながら、最近の日韓関係、好ましくない事態が立て続けに起こっています。
 先月だけでも、韓国国際観艦式への自衛艦派遣見送り、韓国国会議員十数名による竹島上陸が行われました。そして、つい先日、三十日には、韓国大法院が徴用工裁判に関する判決を言い渡し、日本企業に賠償を命じました。これは明らかに一九六五年の日韓請求権協定に反し、両国友好の法的基盤を根底から覆しかねない、こういった事態です。さらには、慰安婦問題で韓国政府が和解・癒やし財団の解散を示唆しています。これは、世界が評価した二〇一五年十二月の日韓合意をないがしろにするものであると思います。
 こうした事態は、日韓関係あるいはアジア太平洋の安定、こういったものにもマイナスの影響を与える、このように心配をしています。
 日韓関係をどのようにマネージしていくのか、これを、最後、総理にお願いいたします。

○安倍内閣総理大臣 日韓関係については、九月の国連総会の際の文在寅大統領との会談を始めさまざまな機会に、未来志向の日韓関係構築に向けて協力していくことを累次確認してきたにもかかわらず、御指摘の韓国主催国際観艦式における自衛艦旗掲揚の問題や韓国国会議員の竹島上陸、あるいは韓国大法院の判決など、それに逆行するような動きが続いていることは大変遺憾であります。
 旧朝鮮半島出身労働者の問題につきましては、この問題については、一九六五年の日韓請求権協定によって完全かつ最終的に解決しています。今般の判決は、国際法に照らせば、あり得ない判断であります。日本政府としては、国際裁判も含め、あらゆる選択肢を視野に入れて、毅然として対応していく考えでございます。
 なお、政府としては、徴用工という表現ではなくて、旧朝鮮半島出身労働者の問題というふうに申し上げているわけでございますが、これは、当時の国家総動員法下の国民徴用令においては募集と官あっせんと徴用がございましたが、実際、今般の裁判の原告四名はいずれも募集に応じたものであることから、朝鮮半島の出身労働者問題、こう言わせていただいているところでございます。
 日韓の間の困難な諸課題をマネージしていくためには、日本側のみならず、韓国側の尽力も必要不可欠でありまして、今回の判決に対する韓国政府の前向きな対応を強く期待しているところでございます。

 第197回国会 衆議院外務委員会 第2号 平成三十年十一月十四日(水曜日)

 委員             山川 百合子
 政府参考人
 (外務省大臣官房参事官)   田村 政美
 理事             穀田 恵二
 外務大臣           河野 太郎
 政府参考人(外務省国際法局長)三上 正裕

○山川委員 ぜひ、真に必要な防衛力のあり方について、本当に議論をしていきたいというふうに思っております。よろしくお願いいたします。
 続いて、今度は日韓関係について、徴用工問題と、韓国における個人に対する支援策について伺いたいと思います。先ほども御質問もございましたが、私の方からもお伺いをしたいと思います。
 徴用工問題をめぐる韓国の大法院による判決について、我が党の枝野代表は記者会見で、判決は大変残念であり遺憾に思うと述べて、朝鮮による日本人拉致問題などの解決には韓国との連携が不可欠だということを指摘し、韓国政府には、一九六五年の日韓請求権協定を踏まえて適切な対応をとることを強く期待しているというふうに述べています。
 当然ながら、私も枝野党首と同じ立場に立っている一人でございます。
 その上で、国家間の協定や合意のはざまで個人が忘れ去られてはならないというふうに思います。国と国との話合いがありますが、それがどうであれ、救済されるべき個人がどのように支援を受けてきたかという課題について、私は民間の国際人道支援NGO出身者として大きな関心を持っているわけであります。
 一九六五年の日韓請求権協定から既に五十三年もの月日が経過しております。今日の徴用工問題に至る、韓国における個人への支援策について、時系列かつ具体的な御説明をお願いをいたします。

○田村政府参考人 お答え申し上げます。
 韓国政府の措置について、日本政府として説明する立場にはございませんが、我々が、韓国政府が発表した資料等を御紹介させていただきます。
 まず、韓国政府は、日本政府が日韓請求権協定に基づき供与した五億ドルの一部を使用する形で、一九七五年から一九七七年にかけて、日本国により軍人軍属又は労働者として徴集又は徴用され、一九四五年八月十五日以前に死亡した者の遺族を対象として補償を支給しております。さらに、二〇〇五年、韓国政府みずから設置した官民の共同委員会が、日本から受領した無償資金のうち相当額を被害者の救済に使わなければならない道義的責任があると発表したことを踏まえ、二〇〇七年及び二〇一〇年に関連の支援法を制定していると承知しております。
 この支援法等によって、死亡者の遺族だけではなく、行方不明者、負傷者、治療等が必要な生存者、未収金被害者又はその遺族も対象に含める形で給付が実施されたものと承知しております。

○穀田委員 日本共産党の穀田恵二です。
 きょうは徴用工問題について質問したいと思います。
 韓国の大法院は、十月三十日、日本がアジア太平洋地域を侵略した太平洋戦争中に徴用工として日本で強制的に働かされたとして韓国人四人が新日鉄住金に損害賠償を求めた裁判で、賠償を認める判決を言い渡しました。
 河野大臣は、この判決について、一九六五年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に終わった話であり暴挙だ、さらに、国際法に基づく国際秩序への挑戦だと、韓国側を強く非難する姿勢を示されておられます。
 改めて、この問題での河野大臣の所見を伺いたいと思います。

○河野国務大臣 今般の韓国大法院の判決は、日韓請求権協定に明らかに反して、日本企業に対し不当な不利益を負わせるものであります。そればかりか、今御指摘いただきましたように、一九六五年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の法的な基盤を一方的かつ根本から覆すものであって、極めて遺憾と言わざるを得ません。
 日本政府としては、韓国政府に対しまして、このような国際法違反の状態を直ちに是正することを含めた適切な措置を講ずるように強く求めているところでございまして、韓国政府が毅然とした対応をしてくれるというふうに期待をしているところでございます。

○穀田委員 今の発言は、所信表明と、それから官房長官の記者会見と大体同じ内容でずっと言っておられると拝察しました。
 そこで、徴用工問題や強制動員の問題は、日本の植民地支配のもと、朝鮮半島や中国などから多数の人々を日本本土に動員し、日本企業の工場や炭鉱などで強制的に働かせ、劣悪な環境、重労働、虐待などによって少なくない人々の命を奪ったという重大な人権問題であります。
 本件の原告も、いわゆる、政府が言っていますけれども、募集などと言っておりますが、その実態は甘言や暴力を伴うものだった。一日八時間の三交代制で働き、月に一、二回程度しか外出を許可されず、月に二、三円程度の小遣いが支給されただけだった。賃金全額を支給すれば浪費するおそれがあると理由をつけ、本人の同意を得ずに、彼ら名義の口座に賃金の大部分を一方的に入金し、その貯金通帳と印鑑を寄宿舎の舎監に保管させた。賃金は結局最後まで支払われなかった。当初の話と全く違う過酷な条件で働かされ、逃げ出さないように厳しい監視下に置かれ、殴打されるなど体罰を振るわれたことが裁判で明らかになっています。
 そこで、外務省に聞きたいと思うんですけれども、元徴用工の請求権については、政府は、日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決している、判決は国際法違反だとの姿勢ですが、私はそうした政府の姿勢に重大な問題があると思います。
 韓国大法院の判決は、元徴用工の個人の請求権は消滅していないと判定を下しています。この個人の請求権について、日本政府は国会答弁などで、請求権協定によって日韓両国間での請求権問題が解決されたとしても、被害に遭った個人の請求権を消滅させることはできないと公式に繰り返し表明してきたはずであります。
 私、当時の議事録を持ってきましたけれども、例えば一九九一年八月二十七日の参議院予算委員会で、外務省の柳井条約局長は、日韓請求権協定の第二条で両国間の請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたと述べていることの意味について、「これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。」と述べ、「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。」と答えています。これは間違いありませんね。

○河野国務大臣 個人の請求権が消滅したと申し上げるわけではございませんが、個人の請求権を含め、日韓間の財産請求権の問題は日韓請求権協定により完全かつ最終的に解決済みでございます。
 具体的には、日韓両国は、同協定第二条一で、請求権の問題は完全かつ最終的に解決されたものであることを明示的に確認し、第二条三で、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての請求権に対していかなる主張もすることができないとしていることから、このような個人の請求権は法的に救済されません。
 日韓請求権協定において、請求権の問題は完全かつ最終的に解決され、個人の請求権は法的に救済されないというのが日本政府の立場でございます。

○穀田委員 日本政府の立場はそういうことだということを言っているわけですけれども、問題は、今の説明は、簡単に言うと、国と国との請求権の問題と個人の請求権を一緒くたにして、全て一九六五年の日韓請求権協定で解決済みだ、個人の請求権もないとしているところに、そこに重大問題があります。
 私が聞いているのは、請求権協定で個人の請求権は消滅したのか消滅していないのかということを聞いているんです。外務省、お答えください。

○三上政府参考人 お答え申し上げます。
 ただいま大臣より答弁申し上げたとおりでございますけれども、御指摘の柳井条約局長の答弁につきましては、個人の財産権、請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではない旨述べるとともに、日韓請求権協定による我が国及び韓国並びにその国民の間の財産、権利、利益並びに請求権の問題の解決について、国際法上の概念である外交的保護権の観点から説明したものであるということでございます。
 韓国との間におきましては、日韓請求権協定により、一方の締約国の個人の請求権に基づく請求に応ずべき他方の締約国及びその国民の法律上の義務が消滅し、その結果、救済が拒否されるということになっております。

○穀田委員 いろいろありましたけれども、一番最初に言ったところが肝心でして、消滅させたものではないということが肝心なんですね。
 それで、柳井条約局長は、一九九二年の二月二十六日の外務委員会でも「条約上は個人の請求権を直接消滅させたものではない」と答えて、今お話あったように、結局のところ、そういう、訴求したり、いろいろなことをしても無駄よという話は出ているけれども、関係者の方々が訴えを提起される地位までも否定したものではないとはっきり答えているわけですね。
 さらに、その訴えに含まれておりますところの慰謝料請求権等の請求が我が国の法律に照らして実体的な根拠があるかないかということにつきましては、これは裁判所で御判断になることだと存じますと答えているわけですね。
 このように、たとえ国家間で請求権問題が解決されたとしても、個人の請求権は消滅しない、そしてその訴えをどう判断するかは司法府の判断になると繰り返し言明してきた。これが政府の公式の立場だと言ってよろしいですね。

○三上政府参考人 お答え申し上げます。
 先ほど申し上げましたように、柳井条約局長の答弁は、請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではないとしつつも、日韓請求権協定による我が国及び韓国並びにその国民の間の財産、権利及び利益並びに請求権の問題について、国際法上の概念である外交的保護権という観点から説明したものでございますが、同時に、その日韓請求権協定と申しますのは、先ほど大臣から答弁申し上げたとおり、完全かつ最終的に解決されたとか、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての請求権に関していかなる主張もすることができないということで、明確に個人の請求権が法的に救済されないということを全体として書いているという理解でございます。

○穀田委員 何度もおっしゃるように、そう意味はないと言っているだけで、消滅したとは言っていないというところが大事なんですよ。すぐ話をそらすわけだけれども、違うんですって。消滅していないというところが、今、私が問うている問題なんですよ。やっても意味がない、そういうことを言っているのは知っていますよ。
 そこで、強制連行による被害者の請求権の問題では、中国との関係でも問題になっています。
 二〇〇七年四月二十七日、日本の最高裁は、中国の強制連行被害者が西松建設を相手に起こした裁判で、被害者個人の賠償請求権について、請求権を実体的に消滅させることを意味するものではなく、当該請求権に基づいて訴求する機能を失わせるにとどまると判断しています。
 この判決は知っていますね。

○三上政府参考人 はい、この判決は承知申し上げております。

○穀田委員 この判決は、日中共同声明によって個人が裁判上訴求する機能を失ったとしながらも、実体的な個人の賠償請求権は消滅していないと判断し、債務者側において任意の自発的対応をすることは妨げられないとまでして、日本政府や企業による被害者の回復に向けた自発的対応を促したのであります。
 この判決が手がかりとなって、被害者は西松建設との和解を成立させ、西松建設は謝罪し、和解金が支払われたという経緯があります。
 たとえ国家間で請求権の問題が解決されたとしても、個人の請求権を消滅させることはない、政府が繰り返し言明してきたこの立場に立って、被害者の名誉と尊厳を回復し、公正な解決を図るために冷静な努力を今尽くすべきだ、このことを私は強調しておきたいと思います。
 そして、韓国大法院の判決は、原告が求めているのは、未払い賃金や補償金ではなく、朝鮮半島に対する日本の不法な植民地支配と侵略戦争の遂行に直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員への慰謝料、これを請求したものだとしている。そして、日韓請求権協定の交渉過程で、日本政府は植民地支配の不法性を認めず、強制動員被害の法的賠償を根本的に否定したと指摘し、このような状況では、強制動員の慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれるとみなすことはできないと述べています。
 政府は、日韓請求権協定の締結に際し韓国側から提出された対日請求要綱、いわゆる八項目に、被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請求権と記されており、合意議事録には、この対日請求要綱の範囲に属する全ての請求が含まれているというけれども、その中に慰謝料請求権は入っているのですか。外務省。

○三上政府参考人 お答え申し上げます。
 そういう請求権も含めて、全て対象となっているという立場でございます。(穀田委員「もう一度」と呼ぶ)
 そういった請求権も含めて、日韓請求権協定で全てカバーされており、解決済みという立場でございます。

○穀田委員 慰謝料請求権は入っているかと聞いて、ばくっと答えて、入っていますと言われても困るんだよね。きちっと言ってほしいんですよ。
 一九九二年三月九日の衆議院予算委員会で、柳井条約局長は、日韓請求権協定上、財産、権利及び利益というのは、「財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが定義されて了解されている」と述べ、慰謝料等の請求につきましては、「いわゆる財産的権利というものに該当しない」と答えています。
 つまり、請求権協定で個人の慰謝料請求権は消滅していないということではないんですか。

○三上政府参考人 お答え申し上げます。
 請求権協定の二条でございますけれども、「両締約国は、両締約国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、」と書かれておりますので、請求権協定で財産、権利、利益と並んで、いわゆる請求権も入っているということでございます。

○穀田委員 いつからそういうふうに範囲が拡大しているんですか。そんな話に書いていないですよ。
 柳井条約局長は、その後にまた、「慰謝料請求権というものが、この法律上の根拠に基づき財産的価値を有すると認められる実体的権利というものに該当するかどうかということになれば、恐らくそうではない」と答弁しているんですよ。
 そしてさらに、「昭和四十年、この協定の締結をいたしまして、それを受けて我が国で韓国及び韓国国民の権利、ここに言っております「財産、権利及び利益」について一定のものを消滅させる措置をとったわけでございますが、そのようなものの中にいわゆる慰謝料請求というものが入っていたとは記憶しておりません。」明確に慰謝料請求というものが入っていない、入っていたとは記憶していないと答えているわけですよ。
 したがって、個人の慰謝料請求権は請求権協定の対象に含まれていないということは明らかではありませんか。

○三上政府参考人 お答え申し上げます。
 ちょっと柳井条約局長の全文が手元にないものですから、そこはお許しいただきまして、先ほど申し上げたように、請求権協定の中には財産、権利及び利益並びに請求権ということで入ってきているわけでございます。柳井局長が実体的権利と申し上げたのは、その四つのうちの財産、権利及び利益、確定的に実体的に存在しているものということだと理解しております。それを日本国内法の措置法で消滅させたということを言っていると思うんですが、請求権、慰謝料の請求権はその消滅させた実体的権利の中に入っていない、ただ、請求権は請求権協定の中には入っているので、この請求権協定で全てが解決されているということでございます。

○穀田委員 持っていないからというわけにはいきませんでね。そういうことを聞くと言っているわけだから。
じゃ、念のためにもう一度お読みしましょう。
 一九九二年の三月九日に柳井さんは、「「財産、権利及び利益」というのは、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうこと」が定義されて了解されているわけでございます。」と。「そして慰謝料等の請求につきましては、これは先ほど申し上げたようないわゆる財産的権利というものに該当しない」と。明らかにこの問題を問われて、これは該当しないということを答弁しているわけですよ。今ごろになってばくっと請求権の中に入ってますのやなんという話が通用せえへんほど明確に言っている。ここをちゃんと見なあきまへんで。
 さらに、もう一度言いますと、いわゆる慰謝料請求権というものが、この法律の根拠に基づき財産的価値を有すると認められる実体的権利というものに該当するかどうかということになれば、恐らくそうではないだろうと考えますと。
 更にあるんですよ。
 いずれにいたしましても、昭和四十年、この協定の締結をいたしまして、それで我が国で韓国及び韓国国民の権利、ここに言っております財産、権利及び利益について一定のものを消滅させる措置をとったわけですが、そのようなものの中にいわゆる慰謝料請求というものが入っていたとは記憶していませんと。
 だから、明らかに、この一連の請求権協定にかかわる交渉の過程で行われた問題について慰謝料請求権というものは入っていないということを二度三度にわたって明確にしている。これがこの間の答弁ではありませんか。その答弁を否定するということですか。

○三上政府参考人 たびたび申しわけありません。答弁申し上げます。

 柳井局長の答弁を否定するつもりはございません。日本国内の法律をつくって、その実体的な財産、権利、利益については消滅させたわけです。しかし、請求権というのは、そういった財産、権利、利益のような実体的権利と違う潜在的な請求権ですから、それは国内法で消滅はさせられていないということを柳井局長は言ったと思います。
 国内法で消滅させたのは、実体的な債権とか、もうその時点ではっきりしている財産、権利、利益の方でございまして、その時点で実体化していない、請求権というのは、いろいろな不法行為とか、裁判に行ってみなければわからないようなものも含まれるわけですので、そういったものについては消滅はしていない。
 したがって、最初に申し上げたように、権利自体は消滅していない。しかし、裁判に行ったときには、それは救済されない、実現しませんよということを両国が約したということだと思います。

○穀田委員 最後、いろいろ言っていますけれども、結局のところ、これは、それぞれの国内法において消滅したとか消滅していないと言っているけれども、明らかに、この問題については、その慰謝料の請求権というものは入っていないということは今の答弁で極めて明らかだと。しかも、当時の答弁はそのとおりだということを確認しておきたいと思います。
 最後に、河野大臣にお伺いしたいんですけれども、一九六五年の日韓基本条約及び日韓請求権協定の交渉過程で、日本政府が植民地支配の不法性について認めた事実はございますか。

○河野国務大臣 ないと思います。

○穀田委員 ありませんよね。
 そうすると、私は、日韓のこの基本条約、日韓請求権協定の交渉過程で、日本政府が植民地支配の不法性についてやらなかったことを、これを公式に大臣が述べたということについては重要な意味が私はあると思います。一切そういうことについては、一切と言っていませんけれども、なかったということですから、一切なかったということだと思うんですね。
 日韓基本条約は、一九一〇年の韓国併合をもはや無効と述べるだけで、日本側の責任や反省については何ら触れていません。
 そこで、私は思い出すんですが、私は京都に住んでいますから、小渕内閣で官房長官を務められた野中広務氏は、二〇〇九年の新聞インタビューに答えて、次のように語っています。
 子供のころ、鉱山で働く朝鮮人が、背中にたくさんの荷物を背負い、道をよろよろ歩く、疲れ切ってうずくまるとむちでぱちっとたたかれ、血を流しながら、はうようにまた歩き出す、そんな姿を見てきました。戦後六十四年が経過した今でも、戦争の傷は癒えていません。北朝鮮との国交回復、賠償の問題も残っています。多くの未解決の傷跡を見るとき、まだまだ日本は無謀な戦争の責任がとれていない。そのこと自体が被害者の方々にとって大きな傷になっていると思われ、政治家の一人として申しわけない思いです。こう語っておられます。
 同じ京都にずっと活動してきたもので、非常に重い発言だと思いますし、園部には、住んでおられたところにはマンガン鉱もありまして、そういうところで、こういう仕打ちを受けたということについて、政治家としての思いを語られておられます。
 その点では、外務大臣は、政治家としてのこういう点についての、どういう思いをされますか。

○河野国務大臣 安倍政権として、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでおり、今後も引き継いでいく考えでございます。

○穀田委員 その歴代歴史認識ということについていいますと、そういう歴史認識について、韓国のこの間の問題について反省をしたということについて、今の安倍政権がその話を述べたことは、少なくともありません。
 ことしは、日本の韓国への植民地支配への反省、痛切な反省と心からのおわびということで、日韓両国の公式文書で、小渕恵三当時首相と、一九九八年ですね、そして金大中大統領による日韓パートナーシップ宣言から二十年の、二十周年の節目の年であります。日本政府が、私は、過去の植民地支配と侵略戦争への真摯で痛切な反省を基礎に、この問題の公正な解決方法を見出す努力を強く求めたいと思います。
 先ほど述べたように、多くの未解決の傷跡を見るとき、まだまだ日本は無謀な戦争の責任がとれていない、こうおっしゃっています。そういう意味でいいますと、私は、この問題の公正な解決、先ほど述べた努力をする際に、日韓双方が、この徴用工の、元徴用工の被害者の尊厳と名誉を回復するという立場から、冷静で真剣な話合いをすることが極めて大切だということを述べて、質問を終わります。

 第197回国会 参議院外交防衛委員会 第2号 平成三十年十一月二十日(火曜日)

 委員   白 眞勲
 外務大臣 河野 太郎

○白眞勲君 では、ちょっと別の観点からなんですけど、北海道で戦争中ダム現場で働いて、そこでお亡くなりになった韓国の方の御遺骨をふるさとにお返しするボランティア活動をされているお寺の御住職様のお話を聞く機会があったんですけれども、発掘された遺体、遺骨の状態からしても、相当、当時、ダム現場の仕事が過酷であったことが想像されるようなんですね。
 そこで、外務大臣にお聞きしたいんですが、現在、韓国との間ではいわゆる徴用工の問題で大臣もいろいろな機会に御発言をされていますけれども、事実、当時、半島から相当の数の人がやってきて、これ、日本人と一緒に働いている。日本人の御遺骨もあるようなんですけれども。そういう中で、まあ、私は思うんです、その人の一回しかない貴重な人生に影響を及ぼしたということは確かだと思うんですね、歴史的な観点からですね。補償するしないはどうであれ、それを踏まえた上で村山談話というのは出ているというふうに思いますが、大臣のこの辺の御認識はどうでしょうか。

○国務大臣(河野太郎君) 安倍政権といたしましては、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでおり、今後も引き継いでまいりたいと思います。

○白眞勲君 その言葉が重要だと私は思うんですね。
 今回の件について政府は、ICJに提訴することも含めて韓国側の出方を注視しているという今状況だと思うんですけれども、今後どうなるかは政府の考え方ですけれども、少なくとも今言及された内容というのはやっぱり基礎として、この内容を基礎としてお話しすべきだと思いますが、その辺、外務大臣はいかがでしょうか。

○国務大臣(河野太郎君) 請求権協定の話をされているのであれば、この請求権協定によって全てのことは完全かつ最終的に終了しているという認識に何の変わりもございません。

○白眞勲君 ですから、そこに村山談話とか何かを、例えば話すときにそういったことというのは話すべき、あるいは念頭に置くべきではないかなというふうに思うんです。その辺はどうでしょうか。

○国務大臣(河野太郎君) 請求権の問題は法的な問題でございますので、請求権協定で最終かつ完全に終了していると考えております。

 第197回国会 衆議院予算委員会 第4号 平成三十年十一月二十六日(月曜日)

 委員   井野 俊郎
 外務大臣 河野 太郎

○井野委員 ぜひ、総理におかれては、長年懸念だったこの日ロ平和条約締結に向けて頑張っていただきたいと思っておりますし、我々も後押しをしていきたいというふうに思っております。
 さて、日ロとはちょっとまた話がかわりまして、最近ちょっとなかなかうまくいっていないと私なりに思っているのが日韓関係でございます。徴用工の裁判、そして慰安婦財団の解散など、韓国は立て続けに、日韓関係を悪化させるような一方的な対応をとり続けているように感じられます。我々も、正直言って、あきれ果てているといいましょうか、大変これについては困惑しているというか、どうしたらいいのかというような感じでありますし、その分、我が国民の多くは、やはり冷静に対応しているのかなというふうに思っております。
 こういった韓国の感情といいましょうか、そういった感情的に対応している外交に対して、やはり我々は、もう一度きちんと冷静になってもらいたいというふうに思っておりますし、冷静になってもらうために、ただ抗議するというだけではやはり私は足りないのかなというふうに思っておるんですけれども、以前、韓国の在韓大使を一時帰国させたりという措置をとったように思いますけれども、今後、このような韓国に対してどのような対応をとるのか。まず外務大臣、教えてください。

○河野国務大臣 ことし初めから、未来志向の日韓関係を築いていこうという話を先方の外務大臣と繰り返ししていたにもかかわらず、それと逆行するような動きがずっと続いているのは極めて残念だと思っております。
 日韓合意については、先方は、日韓合意の破棄は考えていない、あるいは再交渉を求めることもないということを繰り返し述べておられますので、日韓合意についてはしっかりと韓国側の履行を求めていきたいと思っております。日本側としては、日韓合意で課せられた義務は全てやってきているわけでございますので、先方にもしっかり履行していただきたいと思っております。
 また、先般の大法院の判決は、これはもう一九六五年の国交正常化以来の日韓両国の法的基盤を根本から覆すようなことでございますので、これはもう韓国側にしっかりとした対応をしていただく以外にはないわけでございます。それがない場合には、国際裁判も視野に入れ、あらゆる選択肢を考えていかんというふうに思っております。
 そういうことも考えておりますので、とりあえず、ハイレベルの交渉を維持するために大使はこのまま置いておくつもりでございまして、一時帰国は今のところ考えておりません。

○井野委員 我が国としては、まずは冷静に対応していくということだということであります。それについては、我々も一緒になって感情的になってもだめだという先ほど外務大臣のお話だというふうに感じました。それはそれで、私も、そういうふうに交渉をきちんと進めていき、対応を改めていくということが何より大事だと思いますし、さはさりながら、やはりこのままではいけないんだというふうに思いますので、ぜひその対応を誤らないようにしていただきたいというふうに思います。
 もちろん、韓国では、実際問題、経済活動を行っている企業もあります。こういった日本企業の経済活動が萎縮しないように他方でしなければならないというふうに思いますけれども、この点について、まず世耕大臣はどのように考えているのか。

○世耕国務大臣 韓国は、日本にとりましては、中国、アメリカに次ぐ三番目に貿易額が多い国であります。また、投資額の面で見ると、韓国から見たら、対内直接投資は日本が一番なんです。そういう意味では、いろいろな意味で企業のビジネスが日韓間では盛んに行われているわけでありますけれども、今起こっている諸問題が、両国企業の貿易ですとか投資の意欲を冷やすことになれば、これはもう、日韓はお互い補完的な経済関係があるわけでありますし、今サプライチェーンはグローバルにいろいろな形でつながっていますので、こういったサプライチェーンを毀損することにもなりかねないというふうに思っています。
 こういった状況にならないように、まずは、日本政府として、外務省とも連携をしながら、韓国政府に直ちに適切な措置を講ずるよう求めていくということ、そして、日本企業に対しては、日本政府がどういう立場をとっているか、あるいは関連訴訟をめぐる韓国内の状況について、経産省、外務省で連携をして情報提供をしっかりとやっていくということが重要だというふうに思っています。もう既に、今裁判で提訴を受けている企業向けの関係省庁合同説明会というのも何回も開かせていただいているところでございます。

○井野委員 ぜひ、世耕大臣、そういった日本企業の経済活動にも支障がないように、さまざまなレベルで配慮していただきたいというふうに思いますので、ぜひその点もよろしくお願いいたします。
 世耕大臣はもう結構でございますので。

 第197回国会 参議院国土交通委員会 第3号 平成三十年十一月二十七日(火曜日)

 委員      中野 正志
 国土交通省海事
 局長      水嶋 智

○中野正志君 大和堆から、この頃は北海道沖、大変広い面で北朝鮮漁船、また、御存じをいただきますように、難破した船が相変わらず今まで以上に日本に揚がっているという現実もあるわけでありまして、是非、海上保安庁を含めて頑張っていただきたいものだと思います。
 韓国は隣国でありますけれども、大変残念ですけれども、民主的な手続や約束事を軽んじられる向きがあります。徴用工の最高裁の異常な判決しかり、また、最終的、不可逆的な解決を確認した二〇一五年の日韓合意に基づいて日本政府が十億円を支出した例の和解・癒やし財団、これを解散すると発表したり、国際社会の一員として、ぶっちゃまけて言えば、韓国は未熟であるなということを認識せざるを得ません。
 もう一つ、韓国のルール違反について申し上げます。
 日本政府は、六日、韓国が自国の造船業界に過剰な補助金を支給しているのは国際的な貿易協定に違反しているとして、WTOへ提訴する手続を開始したと発表されました。
 造船業界は、二〇〇八年のリーマン・ショック前の好況期に各社も設備投資をし、当然、よその国も大変な設備投資をして、世界的に供給過多となっているそうでありますが、こうした中で、韓国が経営危機に陥った自国の造船企業に政府系金融機関を通じて巨額な資金援助を行えば、当然、市場の原理とは違う価格低下を生じさせてしまいます。
 こういうことを一つ一つ国際的に提訴していくことは大切なことであると思いますが、提訴の準備状況と、今後日本造船産業へどのような影響があるのか、また、政府として、海洋国家日本、これはもうすごいブランドでありますから、この海洋国家日本、再浮揚させていくためにも、造船業界に対してどういう施策を講じていかれるのか、この機会にお伺いをいたします。

○政府参考人(水嶋智君) お答え申し上げます。
 世界の造船市場でございますが、先生御指摘のとおり、リーマン・ショック前の新造船の大量発注とその後の需要の低迷によりまして供給能力過剰の状態にあり、各国の造船業は厳しい状況にございます。
 足下の業況といたしましては、二〇一八年に入りまして我が国造船業の受注シェアは回復傾向にはございますが、韓国では数年前から経営難に陥った自国造船所の救済等の公的助成が大々的に行われておりまして、結果、供給能力過剰問題の解決を遅らせるとともに、我が国造船業に大きな悪影響を及ぼしているところでございます。
 これまで我が国は、OECD造船部会や日韓課長級会議の場におきまして、韓国政府、公的機関による自国造船業に対する過度な支援は造船市場を歪曲するものであり、造船業の供給能力過剰問題の早期解決を阻害するものであると累次にわたり指摘してきたところでございます。また、先月には海事局と韓国産業通商資源部との局長級協議を実施いたしまして、韓国に対して我が国の懸念を改めて伝えるとともに、本問題の友好的かつ迅速な解決の必要性を強く訴えましたが、措置の撤廃には至っておりません。
 このため、関連業界の要望も踏まえまして、関係省庁と協議の上、WTO協定に基づく紛争解決手続を用いて本問題の解決を図ることとし、十一月六日、韓国政府に対して当該手続に基づく二か国間協議を正式に要請したところでございます。その後、韓国政府より協議要請に応じる旨の回答がございまして、現在、外交ルートを通じて韓国政府と協議日程等の調整を行っているところでございます。
 当該手続を通じて韓国による市場歪曲的な措置が撤廃されることとなれば、造船市場における公正な競争環境の確保が図れることになり、供給能力過剰問題の早期解決、船価水準の回復等が期待されまして、我が国造船業の更なる発展につながるものと考えておるところでございます。
 また、国土交通省におきましては、二〇二五年に世界新造船建造シェア三〇%を獲得することを目的として、技術開発の促進など海事生産性革命、i―Shippingと称する一連の施策を推進しているところでございまして、公正な競争環境の確保と併せまして、我が国造船業の競争力強化に向けた取組を総合的に推進してまいりたいと考えておるところでございます。

○中野正志君 海上保安庁長官に、アジア各国への技術支援、お伺いをしたかったんでありますけれども、時間となりましたのでお許しください。
 終わります。ありがとうございます。

 第197回国会 衆議院外務委員会 第4号 平成三十年十一月二十八日(水曜日)

 委員   中曽根 康隆
 外務大臣 河野 太郎

 まず、日韓関係についてです。
 私も、韓国は非常に好きな国ですし、大切な友人もたくさんおります。近年の人的交流、また文化的交流がどんどん広がっていること、これは非常に喜ばしく思っております。だからこそ、この徴用工の問題というのは非常に残念で仕方がありません。
 大臣は、今回の十月三十日のこの新日鉄住金の大法院の判決、これについてまずどういうふうにお考えになっているか、そして、いわゆる慰安婦財団、この解散も発表されておりますけれども、こちらについての政府の対応というのをお教えいただきたいと思います。

○河野国務大臣 委員御存じのとおり、ことしは金大中・小渕パートナーシップ宣言二十周年といういわば節目の年でございますので、首脳間、外相間、あるいはあらゆるレベルで、日韓、未来志向の関係を築いていこうということをことしの初めから約束し、韓国側、日本側、タスクフォース、有識者会議を立ち上げて、さまざまな提言もいただきました。そんな中で、残念ながら、この未来志向と全く逆行するような動きが続いているというのは大変残念なことだと思っております。
 さきの韓国の大法院におけるこの判決は、一九六五年の日韓国交正常化以来の両国関係のいわば法的基盤を根本から覆すようなことになってしまいまして、これはもう極めて遺憾な話でございますし、これはほかの問題と違いまして、日韓の両国関係を規定している、いわば一番の底が抜けてしまうような話でございますので、極めて深刻な状況にある。それを韓国側に、しっかりと韓国の政府に認識をしていただいて、適切な対応を至急とっていただく必要があろうかと思っております。
 また、先般、慰安婦問題に関する日韓合意のもとで設立された韓国側の財団を一方的に解散するという方針を韓国政府が発表いたしましたが、これはもう日韓合意に照らして到底受け入れられるものではございません。
 この日韓合意という国際約束は国際社会からも極めて高い評価を得ているものでございますので、日本側としてはこの日韓合意で定められた義務をしっかりと履行してまいりました。今、韓国側がこの日韓合意をしっかり履行してくれるかどうか、日本だけでなく国際社会も注視している中でございますので、引き続き韓国にはこの日韓合意を着実に履行することを求めてまいりたいというふうに考えております。

 第197回国会 衆議院安全保障委員会 第4号 平成三十年十一月二十九日(木曜日)

 委員        長島 昭久 
 外務大臣      河野 太郎
 政府参考人
(外務省国際法局長) 三上 正裕

○長島委員 新会派、未来日本の長島昭久です。
 両大臣、大変お疲れさまです。ラスト十分ですから、簡潔に御答弁をいただきたいと思います。
 本日の午前中にまた、韓国の最高裁、大法院におきまして新たな最高裁判決が出ました。十月三十日の新日鉄に続いて今度は三菱重工にも賠償命令、こういうことになったわけでありますが、こんなことを続けていると日韓関係も本当に破壊されますし、韓国でビジネスもやっていられないという話になりますよね。
 河野大臣におかれましては、どこかでやはりけりをつけていただきたい、この負の連鎖をどこかでとめなきゃいけない、こう思うんですが、まず、きょうの判決に対する御所見を承りたいと思います。

○河野国務大臣 前回の大法院の判決、それから今回の大法院の判決を含め、日韓請求権・経済協力協定に明らかに違反をし、一九六五年の国交正常化以来築いてきたこの日韓両国の関係の最も根本的な法的基盤を覆してしまうもので、これは極めて遺憾であり、断じて受け入れることができません。
 韓国に対して、こういう国際法違反の状況をなるべく早く是正することを含め適切な措置を講ずるよう求めてきておりますので、韓国側にしっかりと対応していただきたいと思っているところでございます。

○長島委員 今、大臣から国際法違反というお話がありましたが、幾つか、きょうはそういう意味で確認をさせていただきたいことがあります。
 一つは、まさに議論の大前提、国際法、国際条約のことについてでありますが、条約法に関するウィーン条約というものがございます。第二十六条、「効力を有するすべての条約は、当事国を拘束し、当事国は、これらの条約を誠実に履行しなければならない。」二十七条、「当事国は、条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない。」コンメンタールによると、国内法だけじゃなくて、国内事情を理由にしてはならない、こう解されるそうでありますが、これは「当事国」と言うんですから、行政府や立法府のみならず、司法府も当然のことながら拘束をすることになるんだろうというふうに思いますが、韓国はこのウィーン条約を批准しているでしょうか。

○河野国務大臣 済みません、事前に通告がないものですから、確認しているところでございます。

○長島委員 していますよね。

○三上政府参考人 申しわけありません。
 韓国も批准しております。

○長島委員 批准もしておりますし、韓国の憲法も私は調べてみましたが、韓国の憲法第六条は、我が国の九十八条二項とほぼ同じ、国際法遵守の条文がございます。
 したがいまして、ここまで条件がそろえばこういった判決は当然のことながら出てこないはずなんですが、そこで、大事な点をもう一つ確認をしたいんですけれども、個人の請求権という話がこの間何度も出てくるわけでございまして、今回の韓国の大法院の判決は、元徴用工、私どもは、旧朝鮮半島出身労働者、いわゆる徴用工ですが、元徴用工の個人の請求権は消滅していない、そういう判断を下しております。
 日本政府は、柳井条約局長の答弁を始め、これまでも累次にわたって、請求権協定によって日韓両国間での請求権問題が解決されたとしても、被害に遭った個人の請求権を消滅させることはできない、こういう答弁を繰り返してきているわけですが、この点を加味しながら、本当に日韓の間で最終かつ完全にこの請求権の問題が解決したと言い切れるその理由をるる述べていただきたいというふうに思います。

○三上政府参考人 お答え申し上げます。
 個人の請求権を含め、日韓間の財産請求権の問題は、日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが我が国政府の一貫した立場であります。
 具体的には、日韓両国は、同協定第二条1で、請求権の問題は完全かつ最終的に解決されたものであることを明示的に確認しております。
 また、第二条3で、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及び国民に対する全ての請求権に関して、いかなる主張もすることができないとしておりますことから、慰謝料請求権も含め、一切の個人の請求権は法的に救済されないということでございます。

○長島委員 今、救済されないという説明をされましたけれども、訴える権利は保障されているんでしょうか、個々人が。

○三上政府参考人 国内法的に、請求権そのものが消滅したという言い方はしておりません。訴えることはできますけれども、それに応ずべき法律上の義務は消滅しておりますので、救済が拒否されることになるという整理でございます。

○長島委員 訴える権利はあるんだけれども、その権利は救済されない、こういう説明だと思うんですけれども、じゃ、どこがその救済の義務を負っているんでしょうか、これは日韓の合意の中で。

○三上政府参考人 先ほど申し上げましたように、この請求権の問題につきましては、日韓請求権・経済協力協定によって、日韓の間で完全かつ最終的に解決済みであるということでございます。そこに尽きるということでございます。

○長島委員 いや、ちょっとよく最後がわからないんですけれども。要するに、個人として請求権、訴えることはできる、しかし、それは最終的には裁判所に持ち込んでも救済されないんだ、その根拠は何ですかと聞いているんですが。

○三上政府参考人 先ほど申し上げましたように、権利そのものは消えるということは申し上げておりませんけれども、日韓協定におきまして明確に、完全かつ最終的に解決された、それから、いかなる主張も請求権に関してはすることができないということがセットになっていますので、これが全体としてこの問題については完全に解決済みであって、法律上の救済ができないということでございます。

○長島委員 大臣、救済の道義的責任は韓国政府が負うというのが韓国の政府の認識でもあり、日韓間の合意、コンセンサスじゃないんですか。それは、二〇〇五年、盧武鉉政権のときに、これはもう軍事政権じゃなくて民主化された政権ですよ、当然のことながら。このときに日韓協定にかかわる外交文書を全部公開して、その上で官民の合同チームできちっと再検証した結果、この救済についての道義的責任は韓国政府が負うものだというそういう結論であると認識しているんですけれども。そうであるからこそ、今回強い態度に日本は出られると認識しているんです。いかがですか。

○石川政府参考人 お答え申し上げます。
 委員御指摘のとおり、盧武鉉政権時代、二〇〇五年におきまして、盧武鉉政権の総理主宰のもとの官民共同委員会、ここにおいて、日韓請求権・経済協力協定の法的効力の範囲及び韓国政府の対策の方向等について検討した結果を発表しました。
 その中で、官民協議会は、この旧朝鮮半島出身労働者に関連して請求権協定を通じて日本から受け取った無償三億ドルは、強制動員被害補償問題解決の性格の資金等について包括的に勘案されているとして、政府は受領した無償資金のうち相当金額を強制動員被害者の救済に使わねばならない道義的責任があるという内容を発表したというふうに承知しております。

○長島委員 ですから、それに基づいて、二〇〇七年、二〇一〇年と韓国は国内法をわざわざつくって、そういう方々に対する支援を行っているんですよ。これは確認できませんけれども、恐らく、今回の原告の方たちもこの法律に基づいて支援を受けているはずなんです。
 こういうこともぜひ調べていただいて、最後、大臣、このまま何か角突き合ってもしようがないと思うんですが、私、一つ提案があります。仲裁委員会をぜひ開いていただきたい。
 なぜならば、これまでずっと韓国の政府の姿勢を待っていてはどんどんこのような訴訟が起こってしまう可能性がありますので、それにも歯どめをかける意味でも仲裁委員会をぜひ開いていただきたいと思いますが、最後に一言だけお願いします。

○岸委員長 河野外務大臣、簡潔にお願いします。

○河野国務大臣 当然に、そうしたことも視野に入れて政府として対応を考えております。

 第197回国会 参議院法務委員会 第5号 平成三十年十一月二十九日(木曜日)午前十時七分開会

【発言順】
 委員        糸数慶子
 外務大臣官房参事官 田村 政美

○糸数慶子君 沖縄の風、糸数慶子です。
 横山委員長、私は、二十二日の法務委員会の冒頭で、この委員会運営においては野党の意見を尊重し、誠実に対応していただくようお願いをいたしました。残念ながら、誠実どころか余りの乱暴なこの委員会の設置に怒りを禁じ得ません。恐らく、参議院の職員も役所の職員も議員事務所も、多くがほとんど徹夜の作業を強いられたのではないかというふうに思われます。中立公平な立場であるべき委員長が、野党の意見に耳を貸すことなく、理性を失い常軌を逸した委員会の運営をされていること、そのことに強く抗議をし、質問いたします。
 まず、徴用工をめぐる最高裁判決について伺います。
 日本における朝鮮半島統治下で日本の製鉄所で労働を強いられたとし、元徴用工の韓国人四人が損害賠償を求めた訴訟で、韓国の最高裁は十月三十日、元徴用工のその請求を認めて、新日鉄住金に損害賠償の支払を命じる判決を言い渡しました。
 韓国の最高裁は二〇一二年五月、上告審で、植民地支配の合法性について日韓両国が合意しないまま協定を結んだ状態で、日本の国家権力が関与した不法行為による損害賠償請求権が請求権協定で解決されたと見るのは難しいとして個人請求は消滅していないと判断、二審判決を破棄し、差し戻しました。ソウル高裁は、二〇一三年七月の差戻し審で新日鉄住金に約四千万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。しかし、被告の新日鉄住金は請求権は消滅したとする日本政府の見解に基づき上告し、朴槿恵政権は判決を先延ばしにし、文在寅政権となって今回の判決が出されたわけです。
 この判決直後から、日本政府は、既に解決済みや、あり得ない判断などと抗議し、韓国政府を批判しています。河野外務大臣は即日、韓国の李洙勲駐日大使を外務省に呼び、日韓請求権協定に明らかに違反し、国際社会の常識では考えられないことが起きていると抗議をいたしました。日本の企業や日本国民に不利益が生じないよう、直ちに必要な措置を厳格にとってもらいたいと強く求めたと報じられています。
 他国の独立した司法の判断が出たからといって、日本政府がこのような抗議を行い、メディアの多くが解決済みなどと報道し、ネット上ではすさまじい韓国批判が行われていることに、正直戸惑い、違和感を覚えました。
 一九一〇年、大日本帝国と大韓帝国は日韓併合条約を締結し、日本が朝鮮半島を統治下に置き、三十六年に及ぶ植民地支配が始まりました。韓国は武力を背景に不法に締結させられたと主張し、日本は国際法に基づいて合法的に締結されたと主張したことから、認識の違いを超えることはできず、いわゆる玉虫色の決着をしたため、植民地支配に対する賠償は行われませんでした。
 そこで、外務省にお伺いいたします。
 日本政府は、請求権は完全かつ最終的に解決されたという立場を取っていますが、一九九一年八月二十七日の参議院の予算委員会で清水澄子議員の、請求権は解決済みとされてまいりましたが、今後も民間の請求権は一切認めない方針を貫くおつもりですかとの質問に対し、当時の外務省の柳井俊二条約局長は、日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終的かつ完全に解決したわけでございますと答弁した上で、その意味するところについては何と答弁されているのでしょうか、外務省の方にお尋ねいたします。

○政府参考人(田村政美君) お答え申し上げます。
 個人の請求権を含め、日韓間の財産請求権の問題は、日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが我が国政府の一貫した立場でございます。
 具体的には、日韓両国は同協定第二条一で請求権の問題は完全かつ最終的に解決されたものであることを明示的に確認し、第二条三で一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての請求権に関していかなる主張もすることができないとしていることから、このような個人の請求権は法的に救済されないものとなっております。

○糸数慶子君 「いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。」というふうにそのときは答弁されています。完全かつ最終的に解決されたと言いながら、実は請求権協定も曖昧な部分を残したまま政治決着が図られたということだと思います。
 過去の外務省見解を振り返ることなく、外交の最高責任者が感情的に韓国政府を批判することは、両国間の友好関係に水を差し、米朝首脳会談以降、朝鮮半島情勢が大きく変わろうとする中、日本が蚊帳の外に置かれてしまうのではないかと大変危惧しております。
 法的な解決が行われても、日本が植民地支配したその道義的責任は消えないのだということを申し上げ、次の質問に入りたいと思います。

 第197回国会 参議院外交防衛委員会 第6号 平成三十年十二月四日(火曜日)

 委員   白 眞勲
 外務大臣 河野 太郎

○白眞勲君 おはようございます。白眞勲でございます。立憲民主党でございます。
 まず、質問通告していないんですけれども、大臣の認識として、ひとつ外務大臣の認識としてお答えいただきたいんですけれども、韓国の徴用工の判決の件です。
 ちょっとこれ、文章を読みますので聞いていただきたいと思うんですけれども。
 韓国政府は卑劣でひきょうだ。請求権協定当時、政府が代表して金を受け取ったのに、法の手先、この場合裁判官を意味するようですけれども、を通して慰謝料として賠償を再び求めるのが正しいのか、正しいと言えるのか。韓国政府が補償すべきだ。日本は当時、個人賠償を直接して、こうした問題の発生を防ごうとしたが、韓国政府が全部手に入れたんだよね。じゃ韓国政府に責任があるのでは。これ、引用はここまでです。あるいは、もう一つちょっと読みますね。対日請求権資金を受け取り国家再建に成功したなら、国が、この国というのは韓国を指すのですが、該当者を探して慰労、賠償しろ。どこのこじきのように日本に数十年も物乞いしているのか。
 これ、一体誰が書いた、投稿されたものか、お分かりになりますでしょうか。これは、私の出身の新聞社の韓国の朝鮮日報のインターネット版に韓国の読者が投稿したものなんですね。最初の意見、最初の意見は、これはインターネットですから賛成、反対でクリックするんですけれども、この意見に賛成が二十八で反対二。後の方は、これもっと実はその後すごい過激なことを書いてあるので、ちょっと私もこれ以上読み上げられないなと思うぐらいなんですけれども、これが賛成二百十九、反対十一なんですね。
 もちろんこれが全てだということは言えないとは思うんですけれども、私が申し上げたいのは、今回の件も含めて、例えば一部のマスコミの中には韓国けしからぬ一辺倒で批判の記事を書きまくっているメディアもありますよ。もちろん、それで嫌韓意識をあおろうとして、その方が売れるかもしれない。しかしながら、一流のメディアならきちんと韓国を取材してもらいたいなというふうに私は思っているんですね。
 韓国にも、韓国と一概に言っても様々、やはり民主国家である以上は今の徴用工の判決についても様々な意見があるということですし、私の韓国の友人にも日韓関係の今後に心を痛めている方もたくさんいるということも事実です。
 だからこそ、お互い隣同士で、私も今度、十三日から日韓議員連盟で訪韓する予定で、胸襟を開いて韓国の議員たちとも話をしてみたいと思いますけれども、日本政府としましても、やはり韓国政府側の出方を今の段階では静かに見守るというスタンスであるなら、スタンスであろうと私は思っていますが、この辺の大臣のお考えについて、よろしければお考えを聞かせていただきたいと思います。

○国務大臣(河野太郎君) 今年は、小渕・金大中パートナーシップ宣言二十年という、言わば節目の年に当たります。
 私も、ワシントンに留学をしていたときに、当時ワシントンの近郊にいらっしゃった金大中さんの御自宅で飯を食わせていただいた、いろんな話を直接伺ったという経験もあります。金大中大統領は、この日韓の千五百年にもわたる長い関係の中で不幸な数十年のことがあったけれども、そのことだけでこの千五百年の関係を投げ捨ててはいかぬということをおっしゃっておりまして、それはもう私も全くそのとおりだと思っております。
 日本と韓国は、国交正常化するときにこの請求権協定を結び、それを法的基盤として両国関係を築いてきたわけでございますから、この法的基盤を今後もしっかりと日韓両国守りながら、未来志向の関係をしっかり築いていきたいと思っております。韓国政府がしっかりとそうしたこれまでの歴史を踏まえて確実に対応を取ってくれるということを期待をしたいと思っております。

 第198回国会 衆議院予算委員会 第10号 平成三十一年二月二十日(水曜日)

 委員     井上 英孝
 外務大臣   河野 太郎

○井上(英)委員 この拉致問題の解決、前進に向けて、今晩の電話会談、ぜひお願いをしたいというふうに思います。
 また、北朝鮮も絡めた、やはり韓国との、今、日韓関係というのが非常に懸念事項の大きいものになっています。その中でも、徴用工の問題に関して、少し経過を踏まえさせていただきながら、質疑に入らせていただきたいというふうに思います。
 昨年十月に韓国の大法院が新日鉄住金に対して、戦時中、徴用工として働かせていた旧朝鮮半島出身労働者三名に対しての慰謝料を払うよう命じたということに端を発したいわゆる徴用工問題というのが、非常に日韓関係を悪化させている。
 先般、二月の十五日、ドイツのミュンヘンにおきましても日韓外相会談が行われましたが、韓国政府からは何ら明確な回答というのがありませんでした。
 現状は、韓国は、差し押さえた日本企業の資産を現金化すべく、資産売却の手続を進めているというふうにもお聞きをしています。
 こういった状況の中で、当然、相手方もあることですし、これがあります、あれがありますと恐らくおっしゃれないとは思いますけれども、このような状況になっているということを、改めて、外務大臣、どのようにお考えか、お答えいただけますでしょうか。

○河野国務大臣 旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題につきましては、現在に至るまで、韓国政府が日韓請求権協定違反の状況を是正する具体的な措置をとっておりません。
 委員おっしゃいましたように、原告側による差押えの動きが進んでいるということは、これは極めて深刻に捉えております。日本企業の正当な経済活動を保護するという観点から、引き続き日本政府として適切に対応してまいりたいと思っております。
 一月の九日の時点で請求権協定に基づく協議を要請し、二月の十二日だったと思いますが、回答の督促をいたしました。また、先般のミュンヘンでの日韓の外相会談の中でも、協議に応ずるように求めたところでございます。
 日本政府としては、誠意を持って韓国政府がこの協議に応ずるものと思っておりますが、万が一の場合には、さまざま対策を、対抗策をとらねばならぬというふうに考えております。

○井上(英)委員 対策をぜひとっていただきたいというふうにも思うんですね、最悪の場合は。
 ですから、韓国側は、逆に、日韓請求協定というものの土俵に上がってしまうと、日本側に正当性があるということはやはりわかっているんじゃないかなというふうに思うんですね。だからこそ、それには乗らず、慰謝料の請求という新しい切り口が、日本企業にそういう形での支払いを命じたというふうにも言われております。
 しかし、韓国政府が韓国国民に補償を行わなかったことで生じる慰謝料というのは、やはり韓国政府にしっかりと支払いをしていただくということが我々の恐らく思いではないかなと思いますし、また、目に見えるような形で、対抗策と言うと強硬的に聞こえますけれども、やはり今のままでは寛容過ぎるんじゃないかという気持ちもあります。
 先ほど、いろいろな手があるということをおっしゃっておりましたけれども、その中で、よく一般的に言われているのは、国際司法裁判所への提訴だとか、それから日韓請求権協定の中にある仲裁、そういった方法もあるということを改めて確認をさせていただきたいと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○河野国務大臣 先ほども申し上げましたように、我々としては、韓国が誠意を持って協議に応じてくれるというふうに思っておりますが、万が一の場合には、国際法に基づいて、国際裁判を含めたあらゆる選択肢を検討する、既にしておりますし、万が一のときにはさまざまな対抗策を発動する用意がございます。

○井上(英)委員 ぜひ、そういったことも考慮に入れて、総理を含め、外務大臣を含めて、そして外務省の職員も含めて、決してそんな悪くなるようなことを、当然、関係が悪くなることを考えているわけじゃないというふうに思いますし、真摯にやっていただいているというふうにも思います。
 ただ、一方で、今度は、韓国の国会議長によるブルームバーグ通信のインタビューの件も近々にありましたけれども、そういったものをいろいろ聞いていると、やはりちょっと、その件に関しては、私、ちょっと正確な数字はあれなんですけれども、報道ベースでは、八〇%以上の方が議長の発言が不快だったという世論調査も出ているというふうにも聞いています。これは、一国会議員というより一国民としても、やはりちょっとやられ過ぎなんじゃないかなというふうに思うんですね。
 そういったことも含めて、当然、これから韓国との関係をやっていく上において、国際世論というのも大事ですけれども、やはり国内世論、国民一人一人の国内世論の大きい感覚というのも非常に大事にして、今後も事に当たっていただきたいと思いますけれども、外務大臣として国民世論についてどのようにお考えか、お答えいただけますでしょうか。

○河野国務大臣 今般の韓国の国会議長の発言は極めて無礼でありまして、外交部を通じ、謝罪と撤回を累次求めてきたところでございます。
 特に、この場合、深刻だと私が思っておりますのは、この人物は、単に国会議長というだけでなく、韓日議連の会長も務めた経験がございます。韓日議連あるいは日本側の日韓議連というのは、これまで、振り返ってみれば、日韓両国関係が難しくなったときに、前へ出てそれぞれ話をすると同時に、国内世論に向けてもこの両国関係の大切さというものを訴えてきたのが韓日議連の先輩方であって、私も、何人もそうした方に韓国でお目にかかりましたけれども、本当に尊敬に値する立派な方々でございました。
 そうした歴史があるにもかかわらず、この韓日議連の会長まで務めた人間がこのようなことを言うというのは、極めて深刻でありまして、先般の外相会談の中でも、この件については本当に驚いたし、残念だということを先方にお伝えをいたしました。本来なら、外交部と韓日議連が、今この問題の取りまとめをしている国務総理を両側で支えているべき人がこういう状況では、本当に日韓関係、心配だ、外交部には、しっかりとこの件、対応をお願いするということを申し上げてまいりました。
 ただ、今、こういう人物でさえこのような発言をするということは、少し強く相手に物を言うと、それに呼応して、わあっと盛り上げる、そういうグループがあって、そこへ向けて発言をするというようなことが繰り返されることになると、日韓両国関係にとっては必ずしも得策ではありません。
 こういう状況ではありますけれども、日韓、昨年、一千万人を超える往来がございました。日本から韓国を訪れる方より、韓国から日本を訪れる方の方が倍以上多いわけですけれども、日本から韓国を訪問する方も二八%ふえたということを考えると、やはり、こういう状況の中でも、お互いの行き来がしっかりあって、草の根で、人的交流の中で、お互いの国民がお互いの国のことをよく理解をするというのは大事なんだろうと思いますので、こういう時期だからこそ、相手をののしるのではなく、少し冷静になって、この両国関係の大切さというものをしっかり認識ができる、そういう対応をきっちりやってまいりたいというふうに思っております。

○井上(英)委員 言葉を悪くすれば、国民からは、ちょっと弱腰なんじゃないかというような指摘をされるときもありますけれども、やはり毅然とした態度で、先ほど言われるような、一部の方に受けるためにそういう発言をされているということであるならば、やはり寛容過ぎるんじゃないか。もう少し日本として、適切に返すことは返していくということをやはりやっていくような必要もあると思いますので、ぜひ外務大臣、頑張っていただけたらというふうに思います。

 第198回国会 予算委員会第三分科会 第1号 平成三十一年二月二十七日(水曜日)

 兼務          小田原 潔
 政府参考人
(外務省大臣官房審議官) 石川 浩司

○小田原分科員 自民党の小田原潔であります。
 予算委員会の第三分科会、質問の機会をいただいて、ありがとうございます。
 私は、ポスターもネクタイもオレンジ色がテーマカラーであります。きょうは大臣も井野主査も同じ色で、一致団結して質問をさせていただきたいと思います。引き続き、我が国の国益を守り、国際社会で応分の敬意を受ける活動をするために予算を有効に活用していただきたいと思います。
 私からは、日韓関係について質問をさせていただきたいと思います。
 と申しますのも、外務大臣政務官を務めさせていただいておりました二〇一六、一七年のころ、いわゆる少女像問題について随分と腐心をいたしました。私自身は、歴史的認識の違いについてコメントするのを極力避けました。
 二〇一七年の一月の三十日に、ウォールストリート・ジャーナルに、私は政務官として寄稿いたしました。それは、二〇一五年の十二月二十八日に、いわゆる慰安婦問題については最終的かつ不可逆的な合意をしたにもかかわらず、投稿の前年、一六年の十二月三十日に、釜山の領事館の前にも少女像が設置されたことに大変落胆をし、無力感とは申しませんけれども、半ばあきれた気持ちになったというのが、今振り返れば言えなかった本音であります。
 投稿の内容は、不可逆的な合意をしたこと、そして、財団に十億円を支出し、我が国はその責務を果たしていること、そして、翌年の十二月三十日に、残念ながら新たな少女像が置かれてしまったこと、それは領事関係に関するウィーン条約からしても問題であること、また、何よりも強調いたしましたのは、当時既に北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射を繰り返していて、日韓は本来は力を合わせて無謀な挑発を抑止するべき、そういう間柄であるべきだということ、また、国際社会からもそういう役割を期待されているはずなのだということ、いわば、目を覚ましてくれというような内容を寄稿させていただきました。
 しかしながら、その翌年には、今度は、少女像をつくった御夫婦と同じ方、同じ工房なのだと思うんですけれども、今度は徴用工の像というのをおつくりになって、この手の活動というのはエスカレートするばかりであるというふうに思われて仕方がありません。さらには、韓国の最高裁の判決で、我が国の企業が賠償責任を負うという判決が出てしまった。
 少女像や徴用工の像も極めて問題であり、残念でありますが、我が国の法人、個人の生命や資産、安全が脅かされるということを放置するわけにはまいりません。まずは、この徴用工と言われるものの問題についてどのように対処していくべきなのかについてお聞きをしたいと思います。
 今月、二月の八日に、アジア平和貢献センター共催シンポジウムとして、社団法人経済倶楽部が「東アジアにおける「法の支配」の構築に向けて」というシンポジウムを開いています。
 そこで、萬歳寛之早稲田大学教授は、徴用工に関する韓国大法院判決の問題点を、日韓請求権と日韓経済協定だけでなく、日韓国交正常化の一般的な文脈や日本の戦後補償裁判との関係で評価をしています。
 「国際法の観点から見た韓国徴用工問題」と題して、韓国はサンフランシスコ条約に入っていないのに、徴用工判決では、戦争賠償だけではなく、債権債務関係を持ち出した、国交正常化とは、懸案事項を解決した上で将来関係を構築することを意味する、一九六五年の日韓国交正常化の際の懸案事項は経済協力や個人の請求権だった。
 朴正熙大統領が国民の当時の激しい世論を何とか説得をして国交の正常化にこぎつけたその大きな判断材料は、韓国にとっては経済の発展、我が国にとっては個人の請求権、これをそれぞれ折り合いをつけて国交が正常化したというのが現実でありましょう。それが、ちょっと言い方はラフになり過ぎかもしれませんけれども、別の要因でだんだんむしゃくしゃしてきたので、そのたびに我が国に謝れと言い出すようでは、健全な関係は維持できません。私は、どのように、はっきり言えば、今現在の新日鉄住金を差押えから救うべきかということにまずはエネルギーを使わなければいけないと考えております。
 また、皮肉なことに、特にPOSCOは、当初、世銀やアメリカ合衆国からの資金拠出をまだ時期尚早ということで撤回された、それに対して、我が国の国交正常化に伴う資金を注入してでき上がった会社であります。しかも、当時の八幡製鉄、富士製鉄、そして日本鋼管が技術供与をして、世界品質にたえ得る製鉄会社となったという経緯があります。
 二〇〇〇年には新日鉄と戦略的提携の契約を結んでいます。にもかかわらず、当時、新日鉄が、鉄の芸術品と評されるほどの高品質の方向性電磁鋼板、これは電力インフラに不可欠な変圧器の心臓部、鉄心に使うものでありますが、この品質が急に上がってきた。新日鉄のエンジニアからすれば、独自の技術開発でこんな急速に品質が上がるわけないという疑念がありました。
 何と、その後、POSCOの社員が中国に機密情報を漏えいしたというかどで、POSCOがその社員を訴えた。すると、その社員は法廷で、もともとこの技術はPOSCOのものではなくて新日鉄のものだという証言をした。結果的に、請求額が一千百五億四千百二十万円の請求額でありましたが、二〇一五年の九月に三百億円の支払いで和解をした。ただし、技術料を払うこと、そして、どの先に売っていくかということを事前に協議することということで代償を払ったわけであります。
 我々からすると、多少うがったように聞こえるかもしれませんが、今回の徴用工の判決、そして新日鉄住金の資産に手をつけるという、その話合いをしようと言い出すということは、あたかも江戸のかたきを長崎で討つつもりなのかと言わざるを得ません。
 現在、差押えの対象になりそうなものは、新日鉄住金が持っているPOSCOの三・三二%の株式の持分か売上げ債権ではないかと言われているようであります。
 POSCOの持分は、ニューヨーク証券取引所の米国株式信託証書の形、ADRと略しますが、で保管されているので、そう簡単には手がつけられないだろう、アメリカ合衆国で法的な手続をとり、それが許可されなければ手をつけられないだろうと考えられているようですが、現在、この徴用工判決に対抗すると申しますか、があったとしても、我が国の当初の合意に基づき、我が国法人の資産を守るにはどのような対処をされているか、答えられる範囲で結構でありますので、教えてください。

○石川(浩)政府参考人 お答え申し上げます。
 旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題につきましては、現在に至るまで韓国政府が日韓請求権協定違反の状態を是正する具体的な措置をとらず、加えて、原告側による差押えの動きが進んでいるということは極めて深刻だというふうに思っております。
 我が国としましては、韓国による協定違反の状態を解決すべく、韓国政府に対して協定に基づく協議を引き続き要請しているところでございまして、韓国が当然誠意を持って協議に応じるものと考えております。
 いずれにせよ、今御指摘のとおり、日本企業の正当な経済活動の保護の観点、こういった観点から、引き続き、関係企業と緊密に連絡をとりつつ、日本政府としての一貫した立場に基づき適切に対応してまいりたいと思っております。

○小田原分科員 どうか、我々の目から見れば罪のない、現在新日鉄住金で働いている人たち、そしてその財産を、国益をかけて守っていただきたいと思います。
 次に、いろいろなところで議論になっているので、できるだけ手短にいきたいと思うんですが、どうしても、我が国海上自衛隊のP1哨戒機に対する火器管制レーダー照射事件について触れざるを得ません。
 その後、韓国からいろいろな釈明がありました。テレビでも随分と国民の目にさらされました。一国が潔白を証明するために国際社会で提出する動画になぜ音楽をつけるのか、私にはやや理解ができないところがありますが、事の流れを普通の国民が類推するに、二そうあると言われている大変小さな、漁船のような船を人道的に救助するために、なぜ海上保安庁みたいなボートとか救命ボートではなくて、百三十五メートルもある軍艦が行くのか。そこには、そもそも我が国の排他的経済水域でありますから、当然パトロールが及ぶであろうということは百も承知であったろうに、軍艦が行かなければいけない、それは、どうしてもその状況を守らなければいけない理由があったのではないか。
 また、一応と言うと失礼ですが、我が国と韓国は、日韓基本条約、貿易協定、そして九八年の共同宣言を結んだ間柄であります。そういった国の哨戒機に対してレーダー照射までしなければいけない、そうしてでも追い払わなければいけない理由があったのではないか。
 すなわち、その小さな二そうの船の中には、軽くて、かさばらなくて、しかも値段の高いものが入っていたのか、決定的な人物が中にいたのかと思わざるを得ない、ほとんどの国民はそう思っているのではないかと思います。

 第198回国会 参議院予算委員会 第7号 平成三十一年三月八日(金曜日)

 委員   浅田 均
 外務大臣 河野 太郎

○浅田均君 考える気、考えたってもええという感じですね。
 済みません、一分になってしまいました。何か進行に協力をしてしまったみたいで。
 河野大臣、いらいらされていると思いますので、せっかくお越しいただいたので、麻生大臣はいてはるのが当然なのでね、わざわざお越しいただいたので、一問、二問質問をせぬとね。まあ、ええですわ。
 韓国の徴用工訴訟についてお伺いしたいんです。
 韓国の徴用工訴訟ですね、徴用工が賠償請求して、日韓請求権協定でもうこれは片済みやと言うても、向こうの大法院が決めた。実際、日本の会社に来て、これからどうされるんですか。

○国務大臣(河野太郎君) この旧朝鮮半島出身労働者に関する大法院判決につきましては、日本企業に不利益が発生した場合には対抗措置をとりたいというふうに思っております。現時点では、李洛淵国務総理が韓国側でこの件について対応策をまとめていらっしゃるというふうに承知をしておりますので、不利益が発生しない限り、それを待ちたいというふうに思っております。

○浅田均君 国家の役割というのは国民の生命、財産を守ることだと常におっしゃっているわけですから、この財産権の侵害、これは絶対守っていただきたいということをお願い申し上げまして、質問を終わらざるを得ないので、終わります。

 第198回国会 衆議院財務金融委員会 第7号 平成三十一年三月十二日(火曜日)

 委員          丸山 穂高
 財務大臣
 国務大臣
(金融担当)      麻生 太郎
 政府参考人
(財務省関税局長)    中江 元哉
 政府参考人
(外務省大臣官房審議官)石川 浩司

○丸山委員 しっかり周知いただいて、状況を確認しながら、必要であれば指針を更に示していくとか、非常に大事な順番になっていくと思いますので、ぜひよろしくお願い申し上げたいというふうに思います。
 関税、今回のを見ていますと、基本的には、しっかりやっていただきたいなと我が党としても賛成なんですが、関税の関係で昨今気になるところで、ここも検討すべきじゃないかなというところが韓国の、徴用工とは言いたくないですが、いわゆる徴用工、徴用された方々に対する訴訟に関して、日本企業の資産を現地で差し押さえるというニュースがある。それに対して、対抗措置として、国として関税の引上げを検討しているような記事が出ているんですけれども、これは飛ばしなのか、それともしっかりそうしたものを検討されているのか、事実関係をお伺いしたい。
 同時に、もしこうした措置を適用する場合、関税を引き上げるというのを適用する場合にはどんな手続が必要なんでしょうか。関税を見ていて、法律上、こうした手続はないと思う、特定の国に対して関税を引き上げるというのはないと思うんですけれども、そうした部分こそ、この関税の改正というのは必要じゃないかな、検討するに値する部分じゃないかなと思うんですけれども、今回の法改正ではもちろんこういった部分は入っていませんが、こうした部分、まずはお答えいただけますでしょうか。

○中江政府参考人 お答え申し上げます。
 旧朝鮮半島出身労働者問題について、現在、日本政府は韓国政府に対し、韓国による日韓請求権協定違反の状態を解決すべく、協定に基づく協議を要請しているところと承知いたしております。
 この協議要請に加えて、今後、日本政府としてどのタイミングで何を行うかといった具体的内容については、官房長官から記者会見において、我が方の手のうちを明らかにすることになりますので差し控えたいと述べられているものと承知しております。
 いずれにいたしましても、日本企業の正当な経済活動を保護する観点からも、関係省庁と連携しつつ、適切に対応してまいりたいと考えております。

○丸山委員 検討するだけなら誰でもできちゃうんですね。私ですらできるし、逆に言えば、別に行政府じゃなくても一般の方でもできてしまうし、もっといけば、小学生でも検討しますと言うことはできるので、非常に聞いている方が歯がゆいですし、もっといけば、本当に検討されているのかなと、中身もおっしゃらないと余計考えるんですけれども。
 関税を今回議論する中で、今記事に出ているような、もし関税を特定の国に、韓国に対して対抗措置として当てるとしたら、これは関税法の改正が要るわけですよ。少なくとも時間がかかるわけで、法改正ですからね、急に国会が開いていないときにできるわけがないですし、国会に提出して議論しなきゃいけませんから非常に時間がかかるわけで、非常に、今のを聞いているだけでも、関税一つとっても歯がゆいですし、その他の対抗措置も、どう考えているのかもお述べにならないということは、非常に、本当に検討しているのかなというところを、聞いていらっしゃる皆さんは不安に思いますし疑問に思うと思うんですけれども、本当に検討はされているんですか。それはどうなんですか。

○石川政府参考人 お答え申し上げます。
 ただいま財務省からもございましたとおり、旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題につきましては、現在に至るまで、韓国政府が日韓請求権協定違反の状態を是正する具体的な措置をとらず、加えて、原告側による差押えの動きが進んでいることは極めて深刻というふうに考えております。
 我が国としては、韓国による協定違反の状態を解決すべく、韓国政府に対して、協定に基づく協議を要請し、協議に応じるよう重ねて求めているところでございまして、韓国側は当然誠意を持って協議に応じると考えております。
 この協議要請に加えまして、どのようなタイミングで何を行うかといった具体的な内容につきましては、我が方の手のうちを明らかにするということになるため、差し控えさせていただきたいと思います。

○丸山委員 毎回もうずっとそのお答えで、何をやっているのかなと、お聞きになった皆さんはお思いになると思いますし、実は、慰安婦のときも同じことを、私、外務委員会で、あのときはちょうど岸田さんでしたね、岸田外務大臣だったんですけれども、合意をしたという話をされて、本当に大丈夫ですか、慰安婦の問題も、財団をつくったけれどもこれは本当に解決するんですか、いつも、毎回ひっくり返っていますよという話をそのときもしたんですけれども、いや、合意を守らせます、合意を守らせますとずっと岸田大臣はおっしゃっていたんですけれども、案の定、慰安婦の話もああいう状況になってしまった。
 同様に、レーダー照射の件も、あと低空飛行の件もありますが、それはおいておいて、日本の企業の経済活動が損なわれる中で、しっかり対抗措置というのは国としてはとっていかなきゃいけないし、もちろん、こちらからあえて荒立たせることはないという気持ちもわかります、外交がありますから。しかし、本当に聞いている皆さんは不安になると思いますし、どんどんどんどん、韓国のいつものパターンだとやられると思いますので、しっかり対応いただきたいとしか言えませんが、よろしくお願いしたいと思います。
 次に韓国がやってくるのは、恐らく、アメリカとか欧州の、自国だけじゃなくてほかの国の日本企業の、例えば今回、三菱重工業が対象になっていますが、彼らの、企業のほかの国にある資産を、その国の裁判所に訴えて差押えにかかっていくというのが通常考えられると思うんですけれども、欧州に対してやるんじゃないかみたいな話を彼らの弁護団が既に述べています。このあたりをどのように考えられていて、どのように対応されようと考えているのか、政府の見解をお聞かせください。

○石川政府参考人 お答え申し上げます。
 委員がただいま御言及になりましたような、御指摘のような報道、こういうことがなされていることについて我々も承知しております。また、御指摘の、原告側はいろいろ発表していますが、その一々について政府としてはコメントすることは差し控えたいというふうに思っております。
 いずれにいたしましても、これまで政府として繰り返し申し上げていますとおり、本件問題につきましては、日本企業の正当な経済活動の保護の観点から、引き続き、関係企業と緊密に連絡をとりつつ、日本政府としての一貫した立場に基づき、適切に対応させていただきたいと思っております。

○丸山委員 きょう、関税の議論ですけれども、出てきている内容は非常に細かい話が多くて、もちろん、それぞれの部分に関しては、関与していることは非常に大事な大きな案件ですけれども、何かしら、こういう他国との関係で大きな影響がというのは比較的見られない案件です。そうした中で、本当はこの関税にしてもこうした議論すべき案件があるんですけれども、何となく政府の中では後手後手な感じのイメージを与えてしまっているので、手のうちは明かせません、検討していますでは説得力がありません。しっかりこれは前に進めていただきたいと思いますが、もう繰り返しになりそうなので聞きません。
 ただ、この一連の韓国側の対応に対しては、政府側も憤りを感じているのは、たびたび政府の閣僚の皆さんの御答弁を聞いていても思いますし、何かしらできないかというのは、恐らく、与党の皆さん、自民党の中でも考えていらっしゃると思いますし、何とかしたいという思いを持っていらっしゃる議員も多いと思うんですけれども、このあたり、本当にそろそろ、ただ言うだけじゃなくて、しっかりと具体的に出していくというのは、タイミングだと私は思うんですけれども、大臣、このあたりも含めて、韓国の一連の対応等、国がどういうふうに対応していくべきか、大臣としてどのようにお考えになるか、お答えいただけますでしょうか。

○麻生国務大臣 外交の話なので外務省が所管しているところだと思いますが、対抗する措置というのが幾つもあるのはもう御存じのとおりなので、関税に限らず、送金停止とかいろいろな方法がありますので、ビザの発給停止とかいろいろな報復措置があろうかと思いますけれども、そういったものになる前のところで今交渉されているというところだと思いますので。
 私どもは与党をやっていますので、野党であおる立場じゃありませんので、このことに関して、少なくとも、政府として、相手国のある話でもありますので、きちんとした対応をやっていかないかぬと思っていますが、これ以上事が進んで実害がもっと出てきたということになってくると、これはまた別の段階になりますので、その段階では考えないかぬという、段階によって対応の仕方が変わってくるんだとは思っておりますけれども、いろいろなことを考えているかといえば、はい、考えています。

○丸山委員 最初の発言、いろいろな話が出ましたけれども、タイミングという話がありましたし、しっかり、国民の皆さんが見ていますし、何より、韓国側も今結構センシティブなタイミングです、三・一独立運動の百周年とか。そうですが、しかして、外交ですから、言うべきところは言っていかないとあれだと思いますし、特にこの関税の議論をしているときにずっと思ったのは、そうした部分の大きな議論もなく細かい話だけで済ませているのは非常に一人の議員としても危惧しますし、対韓関係を見ていても気になる点なので指摘させていただきたいというふうに思います。
 時間もなくなってきたんですが、これは質問じゃなくて、通告が時間的に間に合わなかったのできょうはお話しかできないので、次に質問しようと思うんですけれども、大阪が、政令指定都市なんですが、堺市というところの市長が、今、政治資金収支報告書の訂正の問題で荒れているんですけれども、大きなニュースになっていまして、収支の訂正がぽろぽろいっぱい出てきて、全部で二百個以上で、それが一億三千万円以上の訂正をされるという形になるという非常に驚きの状況になっているんです。
 その市長から提出された資料をちょっと、出てきたので、きょう、ぺらぺら見ていてびっくりしたのは、税理士の方からそれは提出されているんですけれども、タイトルは、竹山修身氏の政治団体における会計処理に関する調査報告書というものです。
 税理士の方なのに、絶対的な正確性が担保されるものじゃないとか、あと、りそな銀行の通帳の残高証明がついているんですけれども、それが間違っているんだと。平成二十二年、二十五年、二十七年の額が一致しませんが、銀行からの残高証明の誤りですと書いてあるんですけれども、通常の感覚で考えたら、銀行の残高証明が三年分も誤るなんて考えられないですし、りそな銀行がまさか本当に残高証明を間違えて出したというなら、これは銀行法上、問題だし、この委員会にも来ていただいてしっかりりそな銀行に、どういうことだと聞いていかなきゃいけないというふうに思っているんですが、時間ももう終わりますし、通告の関係できょうはできませんでしたが、この話をまた次回触れさせていただきたいというふうに思います。
 これで、時間が来ましたので終わります。ありがとうございました。

 第198回国会 参議院外交防衛委員会 第3号 平成三十一年三月十二日(火曜日)

 委員   浅田 均
 外務大臣 河野 太郎

○浅田均君 日本維新の会、浅田均でございます。
 私は、韓国の徴用工訴訟についてお尋ねいたします。
 日本政府は、賠償問題は一九六五年の日韓請求権協定で解決済みとのお立場であります。したがいまして、韓国大法院の判決による新日鉄住金の資産差押えを受けて請求権協定に基づく二国間協議を韓国政府に要請しているということでありますが、これに対する韓国側の回答はどのようなものだったのでしょうか。外務大臣にお尋ねいたします。

○国務大臣(河野太郎君) 先般の日本側からの協議要請に対し、現時点では韓国政府からの回答はございませんが、我々としては、韓国政府が当然誠意を持って協議に応じるものと考えております。

○浅田均君 現時点で回答はないということですが、これ、私、こういうことを余り聞いたことがないので、この請求権協定というので訴訟とか何かの場合は協議するというふうに協定書の中に書かれてあるわけですよね。だから、何か問題が生じた場合は協議しましょうということになっているのに、回答はないと。
 やがて回答はあるだろうということですが、現実にもう訴訟手続というかは前の方に進んでしまっているわけですよね。それでもやっぱり回答を待たれるという基本的なお立場には変わりはないわけですね。

○国務大臣(河野太郎君) 日韓請求権協定でこの協議というものがうたわれているわけでございますから、韓国政府として当然に協議に応じるものと考えております。

○浅田均君 それで、また、先般、私、予算委員会で河野大臣に質問させていただいたんですが、この件に関しまして、李洛淵首相が対応策の取りまとめに当たっているという御答弁でありました。
 取りまとめの内容について報告は受けておられるんでしょうか。

○国務大臣(河野太郎君) 李洛淵国務総理が、この問題で韓国政府の中、取りまとめに当たっているわけでございます。外交上のやり取りの詳細についてお答えをするのは差し控えさせていただきたいと思いますが、李洛淵国務総理にしっかりとした取りまとめ、対応策を出してきていただきたいというふうに思っております。

○浅田均君 取りまとめ作業に当たっているという段階で、この何か原告団、原告側弁護団が日本にまで来て、本社に協議に応じよというような話にまで進むんかというふうな疑問を持ってしまうんですが、取りまとめ、やってます、やってますって、やるやる詐欺みたいな、やってます、やってますと言うてるだけなんと違うんですか。

○国務大臣(河野太郎君) 日本企業に不利益が発生する前に韓国政府が対応をしてくれるものというふうに考えているところでございます。
 李洛淵国務総理は日本のことをよく理解をされている方でございますから、この問題が、日韓請求権協定という六五年の国交正常化以来、両国間の法的基盤を成してきている協定であり、その法的基盤が根底から覆されかねない出来事であるということはよく理解をいただいているわけでございますので、我々としては、李洛淵国務総理を中心に真摯に韓国側が対応してくれるものと考えております。

○浅田均君 今の御答弁の中でも、大臣の発言にあったんですが、日本企業に不利益が生じるという御発言を今もされました。
 具体的にどういう事態を想定されているんでしょうか。

○国務大臣(河野太郎君) 請求権協定に基づく協議を要請をし、我々としては、韓国側がこの協議に誠意を持って応じてくれるものと思っておりますが、万が一日本企業に不利益が及ぶようなことがあれば、日本政府として対抗措置をとらざるを得なくなるわけでございます。
 ただ、何をトリガーにしてどのようなことをやるかということを申し上げるのは、こちら側の手のうちをさらけ出すことになってしまいますので、それについて、今、公の場で、何をトリガーにしてどういうことをやるかということを申し上げるのは差し控えているところでございますので、御理解をいただきたいと思います。

○浅田均君 私は、何が引き金になるかは聞いておりません。大臣が御発言になっている、日本企業に不利益が生じると、不利益というものがどういうものであると想定されているのかをお尋ねしているんです。

○国務大臣(河野太郎君) 日本企業に不利益が生じれば対抗措置をとらざるを得ないということを常々申し上げてきておりますので、不利益が生じるということイコールトリガーということになってしまいますので、その点についてのお答えを差し控えさせていただいております。

○浅田均君 分かりました。
 そうしたら、不利益が生じると判断されると対抗措置と、不利益が生じたと判断されるということをもって引き金を引くというふうに理解させていただきます。
 実際の話、これ、新日鉄住金を相手取った訴訟の原告側弁護士は、二月十四日に、弁護士らが二月の十五日に東京の同社本社を訪れて協議を要請したと、これに応じない場合は差し押さえた韓国内の資産について売却命令を早期に裁判所に申請せざるを得ないと警告したと報道されています。
 だから、韓国の大法院が認めて、差し押さえた新日鉄住金の差押え物件を売却してもよいかというお伺いを裁判所に立てて、それで、了解されたら売却すると、すなわち現金化するということだと思うんですけれども、これ、またあれですね、答えられませんよね。答えられないの分かっていて聞くのもつらいんですが、質問ですので、お尋ねいたします。

○国務大臣(河野太郎君) 日本政府として、日本企業の正当な経済活動を保護するという観点から適切な対応を講ずる考えでございます。そのための様々な措置を検討してきているところでございます。
 詳細につきましては、申し訳ございませんが、差し控えさせていただきたいと思いますが、しっかりとした対応ができるように努めてまいりたいと思います。

○浅田均君 今はいいですけど、終わってから、いやいや、実はあのときこうやったんやという詳細をお知らせいただけたら非常に有り難いと思います。どういう言語を使われたときはどういう作業をやっているということがこれから類推できますので、よろしくお願い申し上げます。
 実際の話、これ、日本企業に不利益が生じたときをもってトリガー、対抗措置をとるきっかけにするというふうに今おっしゃっているわけですが、向こうの原告側弁護団ですよね、差し押さえてそれを現金化すると、報道ではいろいろされていますけれども、実際にそれ現金化されてしまった時点で、大臣、総理もいつもおっしゃっております、国家の役割というのは日本国民の生命と財産を守ることだと、その財産を守るという点において、これをやられてしまうと国家の役割を果たせなかったということになってしまうんですが。
 そういう御自覚を持っていろいろ対応されていただいているものだと思うんですが、それにしても何かこう、レーダー照射事件始め、一方的にやられ放題と。何か防戦一方で、こちらはまともに対応している、正しい判断で正しい行動をしていると国民みんな思っていると思うんですが、それに対して、何か日本はこう、何というのかな、言いがかりを付けられ放題で、それに対して何も対抗できていないんではないかという不満が国民の間にあると思うんですけれども、大臣はこういう国民の皆さんの声に対してどういうメッセージを送られますか。

○国務大臣(河野太郎君) この大法院判決に関する係る問題は、先ほど申し上げましたように両国の言わば法的基盤を損なう非常に大きな問題でございますので、この問題については日本側として韓国側にしっかりと対応することを求めてきているわけでございますし、必要ならば様々な措置をとらなければならないというふうに考えております。
 その他、先般の国会議長の発言ですとかレーダーの照射事件とか様々ございますが、向こうが何か不適切な発言をしたからこちらも不適切な発言をするという子供じみたことはすべきでないというふうに考えておりますし、また、韓国からは昨年一年間に七百五十万人を超える多くの方が日本を訪問をしてくださっておりまして、日本側から韓国を訪問している旅行者が二百五十万人を超え、両方合わせて一千万を超えるという、両国の国民の交流はこれまでになく多い状況にございます。そういう中で、多くの方に日本に来ていただき、あるいは韓国を訪れていただき、両国を見ていただく、あるいはそれぞれの国民と実際に触れ合っていただくということがこの両国の関係の強化には非常にいいことだと思っております。
 私としては、こうした国民の交流を更に強めていくということをやりたいと思っておりまして、実は、昨年の前半、日韓両国、未来志向の関係をつくろうということで、先方の康京和外交部長官と私と、それぞれ有識者会議、タスクフォースを立ち上げて、日韓の未来志向の関係をいかにつくるかという提言までいただいたところでございます。今こういう状況になってしまって残念ながらそこは進んでいないわけでございますが、両国のしっかりとした関係をつくっていく、そのためにもこの大法院判決に係る問題、韓国側に適切に早期に対応していただきたいというふうに思っております。

○浅田均君 韓国側に適切な対応を求めるということでありますが、他方、この日韓請求権協定によりますと、これは第三条でありますが、両国はこの協定の解釈及び実施に関する紛争は外交で解決し、まさにこの段階だと思うんですね、今。で、解決しない場合は仲裁委員会の決定に服するとなっております。
 この三条二項で言うところの仲裁要請の公文というものを韓国政府に発しておられるんでしょうか。

○国務大臣(河野太郎君) 現在、協定第三条一に基づく協議を要請をしているところでございます。今お尋ねの協定第三条二に基づく仲裁を要請する公文を発出した事実はございません。

○浅田均君 そうしたら、ステージ、協議を求めるというステージであって、その次のステージで仲裁要請の公文ということになるという理解でいいんでしょうか。

○国務大臣(河野太郎君) まず三条の一の、協議で解決をするということになっておりまして、それにより解決することができなかった紛争については、いずれか一方の政府が相手方に対して公文をもって仲裁を要請するというふうに規定がされているわけでございます。
 ただ、仲裁あるいは国際裁判の段階であっても、両国間が協議で問題を解決するという可能性はあるわけでございますので、ステージが進んだからといって協議で問題を解決しないということにはならないわけでございます。

○浅田均君 ありがとうございます。次に聞こうと思っていたところまで答えていただきまして、ありがとうございます。
 それで、しつこいようでございますが、日本企業に不利益が発生した場合というところで、何かもう既に新聞等では関税措置を講ずるというふうなことが書かれてありますけれども、仮に、仮にそういうことを考えておられるのだとすれば、これは私はおやめになっていただきたいというふうに思っております。
 だまし討ちで、こう言うたら何かそこについて答えてくれはるん違うかなという変なことは考えておりませんので御安心いただきたいと思うんですが、やっぱり日本というのは貿易、自由貿易を拡大するという基本的なスタンスでやっているわけですから、その日本が関税措置をもって対抗措置とするならばそれは誤った判断だと私は思っておりますので、ああいう報道に書かれてあることがもし事実であるとするならば方針は変えていただきたいと思いますが、答えられないですよね。

○国務大臣(河野太郎君) 御意見は承りました。詳細についてお答えをすることはお許しをいただきたいと思います。

 第198回国会 参議院財政金融委員会 第7号 平成三十一年三月二十八日(木曜日)

 委員        藤巻 健史
 財務大臣      麻生 太郎
 委員        渡辺喜美
 外務大臣官房参事官 田村 政美

○藤巻健史君 韓国との問題が大分混乱してきていますけれども、いわゆる徴用工問題ですね、徴用された方々に対する訴訟において日本企業の資産差押えが起こっていると思うんですけれども、それにやっぱりいろんな対抗処置を考えなくちゃいけないと思うんですけれども、アメリカが中国にやっているような関税引上げというのは一つの方法だと思うんですよね。それを実際発動するかは別として、そういうような、うちは、日本はそういうことだよということを示すということは韓国に対してもすごいプレッシャーになるかと思うんですけれども、いざというときにそういう法律がなければもう向こうも甘く見ちゃう、日本のことを甘く見ちゃうと思うんで、要するに韓国を念頭にそういうような法律を考える気があるのかどうか、大臣にお聞きしたいと思います。

○国務大臣(麻生太郎君) この旧朝鮮半島出身労働者のいわゆる問題につきましては、これは今、日本政府が韓国政府に対して、いわゆる韓国には、日韓請求権協定違反という状態がなっておりますので、それに基づいて協議を要請しているというのが今の状況でありますけれども、この協議要請に加えて、今後の対応についての対抗措置を聞いておられるんだと思うんですけれども、どのタイミングで何を行うかといった具体的な内容というものにつきましては、これは手のうち明らかにするような話になりますので、これは差し控えさせていただきます。
 今関税局長が答弁したように、この現行の関税関連法というのは、これは御存じのようにWTO等々の国際ルールというものに沿って整備をされているものですから、別途の措置を講ずる場合ということになりますと、これは対外的に効果、影響、様々な問題を考えて検討する必要があるというのは確かだと思いますので、これはどのようなものをやりますか、これはいろいろ検討が進められているのは事実ですけれども、その内容についてここで述べることは差し控えさせていただきます。

○藤巻健史君 手口を明らかにするというのはおっしゃるとおりだと思うんですけれども、ここに、法律に、日本の法律に例えばスペシファイ、ある国をスペシファイして関税を上げるというようなことが書いていないということは、我が国では関税を引き上げるという政策は今現在では取れませんよという手口を明らかにしちゃうようなことじゃないかと思うんですよね。国際問題に関しても、アメリカでそういう法律がある以上、日本も同じような法律を早めに作って用意しておくのがいいんじゃないかなと思います。これは感想ですけど、一応感想を述べさせていただきました。
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○渡辺喜美君 自由貿易を国是とする我が国が報復関税を検討せざるを得ないという状況になったんですね。恐らくこんな事態は初めてだろうと思いますよ。お隣の韓国、文在寅政権は相当特異なイデオロギーを持っている政権であります。御案内のように、反日統一思想とでもいうべき革新的イデオロギーに基づいて、慰安婦問題はちゃぶ台返しをする、レーダー照射の事後対応しかり、そして、司法権の独立と言いながら実際の独立はない徴用工問題しかりであります。
 麻生大臣が、ついせんだって、衆議院の財金で、恐らくアドリブだとは思いますが、政治家としての御答弁をされた。非常にこれは効き目があったと思いますね。問題は、その実効性が問われて足下を見透かされないようにしていくことが大事であります。
 人、物、金、こうした流れの中で、例えば今、韓国は非常に経済が苦しい。学生さんは就活が大変なんですね。日本と真逆ですよ。そういう中で、例えば日本に就活に来る学生がいる。麻生大臣の御答弁にもありましたが、ビザの発給を制限する、こういうことは可能ですか。

○政府参考人(田村政美君) お答え申し上げます。
 委員御指摘の韓国人を対象とする査証につきましては、現在、一般旅券を所持する韓国人は、九十日以内の短期滞在の目的により日本に入国しようとする場合に査証免除の対象となっております。
 我が国としましては、韓国による日韓請求権協定違反の状態を解決すべく、韓国政府に対し協定に基づく協議を要請し、協議に応じるよう重ねて求めているところでございます。韓国側は、当然誠意を持って協議に応じるものと考えております。この協議に加えまして、どのタイミングで何を行うかといった具体的な内容につきましては、我が方の手のうちを明かすことになるため、お答えを差し控えさせていただきたいと思います。
 いずれにしましても、日本企業の正当な経済活動の保護の観点からも、国際裁判や対抗措置も含め、あらゆる選択肢を視野に入れて適切に対応していく考えでございます。

○渡辺喜美君 誠意を持って対応してくれるとおっしゃいましたけれども、革新的イデオロギーを持った政権ですから、そんな甘い考えを持たない方がよろしいと思いますよ。
 続いて、物でありますが、例えばフッ化水素をサムソンが半導体の洗浄に使うんだといって申請してきたら、これは拒むことはまず無理でしょうね。一方、北朝鮮は、米朝首脳会談が失敗に終わったことを受けて、また元の路線に行きつつある。北のミサイルは、一番の難関がヘッドですよ。ヘッドの部分は特殊な素材が使われておるわけですね。日本はそういう素材を作る技術は持っている。
 もし、こういうのが韓国経由で入っていったらどうするんですか。そこまで審査、ちゃんとやっていますか。

○政府参考人(飯田陽一君) お答えいたします。
 ただいま御指摘のございました大量破壊兵器等に転用のおそれのある貨物の扱いでございますけれども、この輸出につきましては、現在、外国為替及び外国貿易法に基づきまして、経済産業大臣の許可が必要ということになってございます。
 許可申請が出た場合の取扱いでございますが、これは一般論でございますけれども、個別の取引ごとに審査を行いまして輸出許可の是非を判断するということになるわけでございます。

○渡辺喜美君 とにかく膨大な数の審査をやっておる。ところが、こういういまだかつて想定していない事態が発生しているわけですから、これは余り甘く考えない方がいいですよ。この政権は今までの政権とはかなり違います、文在寅政権はね。
 一番手っ取り早くできそうなのが金ですよ。麻生大臣も、送金停止とかという具体的なところに言及しておられます。現行ルールで可能ですか。

○政府参考人(武内良樹君) お答え申し上げます。
 外為法第十六条第一項では、条約等国際約束の誠実な履行、国際平和のための国際的な努力や我が国の平和及び安全の維持を要件として、送金を含む支払について許可制とすることは可能とされております。
 ただ、韓国への対抗措置については、政府としてあらゆる選択肢を視野に入れて適切に対応していく考えでございますが、どのタイミングで何を行うのかといった具体的な内容については現段階では明らかにできないことを御理解いただきたいと思います。
○渡辺喜美君 とにかく、足下を見透かされないことが大事なんですよ。アドリブとはいえ、大臣が国会で発言しておられるんですから、このことは非常に重いですよ。これは事務方としても心して掛かっていただきたい。
 それから、直接投資、今、事後の届出制になっておりますが、これを事前規制に変更して、内容の変更、中止を求めるということは可能ですか。

○政府参考人(武内良樹君) お答え申し上げます。
 現行の外為法は、対外取引を原則自由としつつ、我が国経済の円滑な運営、国際的な平和及び安全、公の秩序の維持の観点から、漁業、皮革等の製造業、武器、麻薬等の製造業等、一定の業種に対する対外直接投資について財務大臣への審査付事前届出義務を課しており、財務大臣は、必要がある場合には投資の変更、又は中止の勧告、命令を行うことが可能とされております。
 御指摘のように特定の国に対する投資をすべからく事前審査に付することにつきましては、特定の観点から特定の業種を指定していく現行法の基本的な考え方とは大きく異なるところでございますが、韓国との関係でどのようなタイミングで何を行うかについては、具体的な内容について現段階では明らかにできないことを御理解いただけたらと思っております。

○渡辺喜美君 現行ルールでは非常に難しい、ハードルがあるということなんですね。
 そうすると、先ほども議論があったように、関税法改正というのはかなりハードルが高い。どうですか、大臣、こうした議論を踏まえて、大臣の口から出た話でありますから、もう一度御答弁をお願いします。

○国務大臣(麻生太郎君) それこそ手のうちを明かすことになるの極みですな、今のお話は。
 ですから、そういった意味では、先ほど申し上げましたように、この間申し上げましたように、こういったようなものが考えられるということだけ相手に認識してもらっておかなきゃいかぬところは確か。いざやるということになったら、そういう状況になったら、そのときに対応させていただきたいと存じます。

○渡辺喜美君 とにかく、実行可能なんだというメッセージを出していく必要があるんですよ。
 日本には、古来、言霊信仰という信仰があるんですね。口から出た言葉には魂が宿る。この魂の宿った言葉が国民の心にすとんと落ちれば非常にハッピーになるという思想ですね。ところが、この言葉に魂がこもっていないということになりますと言葉が空中浮遊してしまう。実行可能なんだという魂を入れた検討をやっていただきたいと思います。
 以上、終わります。

 第198回国会 衆議院外務委員会 第7号 平成三十一年四月十二日(金曜日)午前九時一分開議

【発言順】
 委員          佐々木 紀
 政府参考人
(外務省大臣官房参事官)安藤 俊英

○佐々木(紀)委員 これもやはりちょっと理解に苦しむんですよね。こちらが建てかえしたいのでお願いしますと申請を出しておいて、わかりました、では、建てていいですよと許可をもらって、いろいろ検討しておって期限が来たから、それもちょっと説明としては何か理解に苦しむというか、もし明確にそこに何らかの意思があれば、はっきりと申し上げるべきだと思うんですよね。
 やはり今後、今から少し質疑を続けていきますけれども、元徴用工の訴訟のこともあります、本当に、韓国との問題というのは、やはり毅然と言うべきときに物事を言っていかないと、これはずるずるずるといって結果的に変なことになりますので、ぜひそういった厳しい姿勢で対応することを求めていきたいというふうに思います。
 そこで、続いての新聞記事、新聞記事ばかりで恐縮ですけれども、徴用工訴訟、近く差押申請、こんなような記事も最近多く見かけるわけでございます。元徴用工や元女子勤労挺身隊らが原告の訴訟で、日本企業、三菱重工や新日鉄住金、現の日本製鉄でありますけれども、不二越に対して資産差押えの動きが相次いでおります。
 この確定判決がどのような形で出ているのか、あるいは、資産の差押えの状況について御説明いただきたいと思います。

○安藤政府参考人 お答え申し上げます。
 まず、訴訟の状況でございますけれども、韓国大法院は、昨年十月三十日、日本製鉄に対し、慰謝料の支払い等を命じる判決を言い渡しました。また、昨年十一月二十九日には、三菱重工に対して同様の判決を二件言い渡しております。不二越に対する一連の訴訟につきましては、いまだ確定判決は出ておりませんけれども、本年一月十八日、二十三日及び三十日に、それぞれ第二審判決が出された状況と承知しております。
 次に、資産差押えの現状でございます。
 これらの訴訟について、原告側による各日本企業の資産差押えの動きが進んでいると承知しております。
 例えば、日本製鉄につきましては、原告側による資産差押えに関する通知が日本企業側になされております。また、三菱重工につきましても、確定判決に基づく資産差押えが、不二越につきましては、第二審判決に基づく資産差押えの仮執行、これを原告側弁護団がそれぞれ発表しているというふうに承知しております。

○佐々木(紀)委員 確定判決が出たのは二社、そして、資産差押えがもう既にされているというのが三社あるということです。
 それに対して、では、日本政府はどのような対応をしてきたのかなというふうに思うんです。繰り返し、韓国政府が日韓請求権協定違反の状態を是正する具体的な措置をとっていないから大変遺憾ですみたいな、こんなことを都度発表しておいでですけれども、やはりそろそろ何らかの対抗措置を考えないといけない時期に来ているのではないか、そのように思うわけでもございます。
 これは本当にこのままの状況ですと、どんどんどんどんこんなような状況が助長されて、どんどん悪化をしていくのではないかなというふうに懸念をされているところでもございます。
 例えば、五日の新聞記事ですけれども、徴用工訴訟、今後も続出とか、元徴用工八件追加提訴、新たに日本コークスも対象、こうなっているんです。つまり、遺憾の意を発表してはいるんだけれども、何の措置もしていないから、どんどんどんどん向こうはちょっと調子に乗っているんじゃないかなというふうに思うんです。
 追加提訴のこの話も、中身を見ると、もう既に確定判決が出た、出たにもかかわらず、また更に同様の原告を探して追加提訴をしているわけなんですよね。今回は遺族まで引っ張り出してきてやっているんです。こんなことをしたら、いつ、どんな形で終わるのか全然見えてこないわけなんですよね。
 したがって、そろそろ対抗措置を講じないと、これはどんどん日本企業に損害というか、これは何も損害は発生していないんじゃないかみたいなことも言う人もいますけれども、決してそうではないですよね。訴訟対応するだけでもこれはリスクですし、資産の差押えももう既にされているわけで、資産を動かせないわけですから、これは事実上もう損害が発生していると言ってもいいんだなというふうに思います。
 そこで、対抗措置をとるべきではないか、あるいは、その対抗措置について検討状況、どのような内容で、いつされるつもりなのか、その辺についてお伺いしたいと思います。

○安藤政府参考人 お答え申し上げます。
 委員御指摘のとおり、旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題につきましては、現在に至るまで、韓国政府が日韓請求権協定違反の状態を是正する具体的な措置をとらず、加えて、原告側による差押えの動きが進んでいることは極めて深刻と考えております。
 我が国といたしましては、韓国による協定違反の状態を解決すべく、韓国政府に対し、協定に基づく協議を要請し、協議に応じるよう重ねて求めているところであり、韓国側は当然誠意を持って協議に応じるものと考えております。
 この協議要請に加えて、どのタイミングで何を行うかといった具体的な内容につきましては、政府内でさまざま検討しているところでありますけれども、我が方の手のうちを明らかにすることになるため、差し控えさせていただきたいと思います。
 それから、議員御指摘のとおり、日本企業の正当な経済活動の保護の観点からも、国際裁判、対抗措置を含め、あらゆる選択肢を視野に入れて適切に対応してまいりたい、このように考えております。

○佐々木(紀)委員 もうそろそろその時期が来ていますから、しっかり準備して、速やかに対抗措置をとっていただきたいというふうに思います。
 実際、今回のこの元徴用工の訴訟のことだけじゃなくて、これまでもさまざまなことをやられているわけですよね。竹島に韓国の国会議員がたびたび上陸したりとか、その周辺に海洋調査船を出したりとか、和解・癒やし財団を一方的に解散したり、国際観艦式でのこともございましたし、火器管制レーダーの照射というのもありました。最近は、新札を出すというと、それにまで何かいちゃもんをつけているわけですから、本当にもう暴挙を繰り返しているわけなんです。これは国家間の合意も常識も国際法も全部踏みにじる姿勢ですよ。これは、もう既に僕は機が熟しているというふうに思います。ぜひ、この対抗措置を速やかにとるようにお願いをしたいというふうに思います。
 ですから、先ほどの大使館の話も、何か手続上こんなことになっていますと言っていますけれども、これはやはり明らかに、大使館の前の少女像、これを撤去しない限り、国際儀礼上無礼な状況を改善しないから我々は建設しないんですよと、私はこれははっきり言うべきだと思います。やはり、しっかりその都度その都度言って、対抗措置をとっていかないと、これはずるずるずるずると来ますから、下手すると日本がこれを容認しているみたいな話にまでなってくると、これは本当に困るわけなんです。しっかり国益に基づいた対応をとっていただきたいと思います。
 もうG20もすぐそこまで来ているわけでありますから、韓国の大統領もお越しになるんだというふうに思います。こんな状況で来られるのも、来られる方も本当に、何というか、つらいというか恥ずかしいという状況だと思うので、速やかに対抗措置をとるなりし、この幕引きを図っていただきたい、しっかりと毅然とした対応をしていただきたい、そのように申し上げておきたいというふうに思います。

 第198回国会 衆議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会 第3号 平成三十一年四月二十四日(水曜日)

委員   丸山 穂高
外務大臣 河野 太郎

○丸山委員 大臣、どこかのぶら下がりか記者会見かわかりませんが、二国間協議の呼びかけの話をされていましたが、一方で、G20が近づいていますので、そこでの日韓首脳会談は取りやめるかもしれないみたいな記事も出ていて、このあたり、非常に気になるところなんですが、一方で、韓国とはもうほかにもいろいろややこしい案件を、問題を抱えていまして、いわゆる徴用工、戦時中の朝鮮半島出身の労働者の件でも日本企業は差し押さえられていますし、韓国に対する対応措置をどうするかという話も、財金委でも麻生大臣と随分やったんですけれども、そういった意味では、一回冷却化するために、もう交渉をしない方がいいんじゃないかという意見もあるわけです。でも一方で、二国間協議、そしてG20に向けて日韓の首脳会談をどうするかという話題も出ていますが、こうした二国間協議やG20での首脳会談については前向きにやられるんでしょうか。いかがなんですか。

○河野国務大臣 G20は、まあG20と言っていますけれども、実際には二十七カ国、それプラスさまざまな国際機関のトップがいらっしゃるわけで、時間的にも非常に制約があり、議長国ということもありますから、総理のバイ会談のスロットというのが幾つとれるかというのはまだ確定をしておりません。そういう意味で、G20でさまざまなバイの会談をどうするかということは何も決まっていないというのが現実でございます。
 日韓関係、委員おっしゃるように、さまざま難しい問題はございますけれども、まずは請求権協定の仕組みにのっとって、我々としてしっかりと韓国に請求権協定の中での協議ということを持ちかけておりますし、当然に誠意を持って韓国側はそれに応ずると思っておりますので、まず、請求権協定の中でしっかりと問題の解決を目指してまいりたいというふうに考えております。

○丸山委員 もし、今回のをあえて前向きに捉えるとしたら、上級審の動きが、まあ今回の動きが韓国に対して確定したわけで、これを分析していろいろ日本はまだ水産物をほかの国にも、地域も含めると二十三カ国ですかね、とめられているわけですよ。こうしたところへの提訴も含めて、次の戦略としては具体的には考えていかなきゃいけないと思うんですけれども、こうした他の国に対する対応も前向きに考えていかないと今回のは覆らないわけですから、言われてしまうわけだと思うんですけれども、このあたりについてはどうお考えですか。

○河野国務大臣 当然に、WTOの提訴も含め、それぞれの国、地域に対する働きかけの戦略というのを今考えているところでございまして、外務省の中でのレビューが終わり次第、どうするか具体的に動いていきたいというふうに思っております。

○丸山委員 ぜひ今回の、まあ私は失敗だと思いますけれども、これを受けてしっかりと他の国についても対応をやっていただきたいというふうに思います。そこで必ずかち取って、それを前に進めるというのが非常に大事なツールだと思いますので。
 もう一つ大事なツールとしては、ちょっと長期化するかもしれませんが、先ほどWTOの不満を大臣もおっしゃいましたけれども、これは日本もお金を出しているわけで、しっかりこれに対しておかしいことはおかしいと言わなきゃいけませんし、特に、二審で終わっちゃって、これを差し戻す制度もありませんし、こうした意味では、これはしっかり訴えていかなきゃいけないと思うんですけれども、こうしたWTO自体の改革について、大臣、どう進められますか。

○河野国務大臣 WTOについて、差戻しができないとか、あるいはWTOの中でどうも時代に合っていないよねという部分もございますし、通報義務について余り機能していないのではないかというようなさまざまな論点がありますので、アメリカ、ヨーロッパを始め、このWTO改革について、さまざまな国が今問題意識を持っているところでございます。
 我が国としても、きちんとWTOの改革の必要なところは主張し、問題提起をしていきたいというふうに思っております。

○丸山委員 ぜひそうした部分のロビーイングを前に進めていただきたいですし、やはりこの上級審のメンバーにも入れ込んでいくというのは非常に大事な部分だと思いますので、ぜひよろしくお願いします。

 第198回国会 参議院外交防衛委員会 第14号 令和元年五月十六日(木曜日)

 委員   浅田均
 外務大臣 河野 太郎

○浅田均君 それでは、日韓関係について河野大臣にお尋ねいたします。
 先般、韓国の李洛淵首相が徴用工問題の解決に関して、司法手続が進む中で政府が対策を立てるのは限界があるというのが結論と発言されております。G20首脳会議の前に政府見解を出すのは困難だと公で発言されておるわけでありますが、外務大臣は徴用工問題についてこれから解決に向けてどのように話を持っていかれようとされているのか、お尋ねいたします。

○国務大臣(河野太郎君) この旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題につきましては、現在、日韓請求権協定に基づきまして韓国政府に協議の要請をしているところでございます。
 私としては、韓国政府がこの協議を受け入れて速やかに協議を始めることができるのではないかと期待をしているところでございますが、この問題は韓国側で韓国政府が責任を持って対応されるべきものというふうに考えておりますので、日本企業に実害が出ないように韓国政府が対応するものと考えておりますが、万が一そうでない場合には、日本政府として必要な措置をとらざるを得ないというふうに考えているところでございます。
 李洛淵国務院総理がこれまでこの問題に対応してこられたというふうに私も認識をしておりますが、やや先日の発言については困惑をしているところでございますが、私としては、これはもう日韓両国の国交の法的基盤を損ないかねない事態でございますから、韓国政府の責任者としてそのようなことに発展しないようにしっかりと対応してくださるものと信じております。

○浅田均君 外務大臣が私と同じような御認識をお持ちだということを知りまして安心しましたが、これからも取組の方をよろしくお願い申し上げまして、また続きは次回質問させていただくということで、今回はこれで終わらせていただきます。ありがとうございました。

 第198回国会 参議院決算委員会 第7号 令和元年五月二十日(月曜日)

 委員        古賀之士
 外務大臣      河野 太郎
 委員        浜口誠
 外務大臣官房審議官 石川 浩司

○古賀之士君 そういった日韓関係の重要性を改めて認識した上で、今度は河野外務大臣にお伺いをいたします。
先ほども質問があったかと思いますが、これについては通告をしていない、今日の出来事でございますが、報道によりますと、韓国最高裁の日本企業に徴用工への賠償を命じた判決をめぐって、一九六五年の日韓請求権協定に基づいての仲裁委員会の設置を求める方針という報道がなされておりますけれども、現状での見通し、そして見解を、是非、河野外務大臣からお願いします。

○国務大臣(河野太郎君) 一月に請求権協定に基づく協議の申入れをいたしました。それから四か月たつわけでございますが、韓国側は李洛淵総理がこの問題の責任者として対応を検討されているということでございましたので、我々としては、韓国側が何らかの対応をしっかりしてくれる、そういうふうにも考えていたわけでございます。しかし、先般、李洛淵総理が、政府の対応には限界があるというような御発言がありましたものですから、我が方としては、残念ながら、請求権協定に基づく仲裁に進まなければならないという判断をした次第でございまして、今日の午前中に仲裁付託をしたことの通告を韓国側にしたところでございます。
この問題は日韓両国の言わば国交の法的基盤でございますので、それを損なうことがないように、韓国側としてはこの仲裁にしっかり応じていただきたいというふうに思っているところでございます。
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○浜口誠君 まあどうなるかまだ分からないので、なかなかすっきりと御答弁できないお立場がにじみ出ておりましたが、やっぱりしっかりとこれ検討していく必要があると思いますし、予算も百二兆円という大規模な予算を組んでいるんですから、その実態というのをちゃんと踏まえて、いろんな判断を的確に正確に慎重にやっていただきたいなというふうに思っております。
 続きまして、元徴用工の件に。
 今日、僕、元々しようと思っていたんですよ。しようと思っていて、で、今日のニュース、うちの古賀委員もそうですし、松下委員の方からも徴用工の仲裁委員会の設置と。僕の質問の中にも、第三者、第三国を入れた仲裁の場を設ける次の一手を打つ必要があるんじゃないかということを聞こうと思ったら、その答えがもう今日の外務省の動きの中で出てきたということなので、そこの点はあえて聞きませんけれども。
 そもそも論ですけれども、この韓国の旧徴用工の皆さんの最高裁判決、一九六五年に日韓の請求権協定が締結されて、この請求権協定に対してのやっぱり締結内容を覆す、そういう判決だというふうに私は理解しているんですけれども、日本政府の見解と、なぜ韓国がこういった、最高裁の判決とはいえ判決に至ったのか、そのことを韓国政府はどう受け止めているのか、この辺の両政府の見解についてまずはお伺いしたいと思います。

○政府参考人(石川浩司君) お答え申し上げます。
 委員御指摘の、昨年の韓国大法院による一連の判決は、日韓請求権協定に明らかに反しまして、日本企業に対し不当な不利益を負わせるものであるばかりか、一九六五年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の法的基盤を根本から覆すものというふうに認識しております。
 これらの判決に対する韓国政府の見解についてお尋ねでございますが、我が国として韓国政府の見解について有権的に説明する立場にはございませんが、我が国としては、韓国政府に対して、国際法違反の状態を是正することを含め適切な措置を講ずることを求めてまいりたいと思っております。

○浜口誠君 一方で、韓国の原告代理人は、韓国国内の訴えられている日本企業の資産を差押えをして、それを現金化する手続にもう既に入っていると。そういう背景もあって、仲裁委員会を今回設置しないといけないという、そういう御判断にも至っているのではないかなというふうには思っておりますけれども、実際訴えられている日本側の企業に対しての実害とか不利益、これ生ずる可能性があるというふうに認識しておいた方がいいんでしょうか。その点はいかがですか。

○政府参考人(石川浩司君) お答え申し上げます。
 委員御指摘のとおり、現在、本件につきまして原告側による差押え等の動きが進んでいるというのはそのとおりでございまして、また、先般、五月一日でございますが、原告側が発表のとおり、今後、差押資産の売却に向けた手続が進められ、日本企業の資産が不当に売却される事態となれば、我が国として断じて受け入れられず、政府としては事態を一層深刻に捉えております。
 その上で、日本企業への実害の具体的内容について現時点で予断を持ってお答えすることは差し控えさせていただきたいと思います。

○浜口誠君 ちょっとこれは、今から聞くのは、先週の木曜日の段階では今日の仲裁委員会を要請するということは分かっていなかったので聞きますけれども、今度、仲裁委員会を韓国側に今日開催を要請したということですけれども、この仲裁委員会が設けられれば、日本企業への実害、不利益、これは回避ができるという認識でよろしいでしょうか。これは、大臣、いかがですか。

○国務大臣(河野太郎君) この旧朝鮮半島出身労働者に関する韓国の大法院判決というのは、日韓両国の国交正常化以来の最も根本的な法的基盤を著しく損傷する、ダメージを与えるものでございますから、韓国政府も当然にそうしたことは認識をされているというふうに考えております。
 我々としては、韓国政府が責任を持って日本企業に対する実害が及ばないような対策を取ってくれると信じてきたわけでございますが、先般、その責任者でありました李洛淵総理が政府の対応に限界があるというような発言をされたことに我々は大変驚いておりまして、今まで協議を要請してずっと待ってきたわけでございますが、ここできちんと仲裁のプロセスに入っていきたいというふうに思っておりますので、こうした仲裁のプロセス、あるいは必要ならば国際的な手法に訴えて、日本企業に対する実害が及ばないようにきちんと対応を取っていきたいというふうに考えているところでございます。

○浜口誠君 是非、最後に河野大臣言われましたけれども、日本企業に実害が及ばないように、これはもう政府としてしっかりとした対応をやっていただくのはこれ当然だというふうに思っておりますので、韓国との間でしっかりそういう和解のプロセスが図られるように全力を尽くしていただくことをお願い申し上げ、質問を終わります。
 ありがとうございました。

 第198回国会 参議院外交防衛委員会 第16号 令和元年五月二十八日(火曜日)

 委員        浅田均
 外務大臣      河野 太郎
 外務大臣官房審議官 岡野 正敬

○浅田均君 日本維新の会、浅田均でございます。
 ただいま議題となっております五つの条約、協定に関しましては、我が方は自由貿易圏の拡大が日本にとっては必要だという立場でございますので、いずれも賛成であるという旨申し上げておきます。
 それから、続いて、引き続きの質問なんですが、徴用工問題について、先ほどもちょっと質問がありましたけれども、質問をさせていただきたいと思います。
 問題を整理しておきますと、これは一月に日韓請求権協定に基づく協議要請をされたと。一月に協議要請をされて、それから四か月以上返事がなかったということで次の段階に入られて、五月二十日に請求権協定に基づく仲裁委員会への付託を通告されたということであります。これに対して、韓国側は、仲裁委員会の開催要求を保留している、すなわち仲裁委員もまだ選んでいないということでありますが、これで間違いないんでしょうか。
 それと、もし韓国側がこの仲裁委員会の開催要求に同意しなかった場合、今後我が国はどのような手続を取るのか、併せて外務大臣にお答えいただきたいと思います。

○国務大臣(河野太郎君) 仲裁委員の選任はたしか三十日以内ということでございますので、韓国側は今検討されているんだろうというふうに思います。また、請求権協定に基づく仲裁の付託はいたしましたけれども、その間に韓国側が請求権協定にのっとった対応策をきちんと出していただければ大きく問題解決に前進をするわけでございますので、仲裁の付託はいたしましたが、韓国側ではしっかりと文在寅大統領中心に対応策を御検討いただけるのではないかというふうに考えているところでございます。

○浅田均君 協議要請をされて四か月間待たれたと。今回は、仲裁委員会へ付託を通告して三十日以内に仲裁委員を選ぶか、あるいは請求権協定にのっとって文在寅大統領あるいは李洛淵首相が適切な対応を取られるということを期待されておるわけでありますので、同意しなかった場合どうするのかというのはちょっと答えにくいという答弁になろうかと思いますけれども、それを承知であえて、どのような手続を取られるんですか、もし向こうが仲裁委員会に乗ってこなかった場合。

○国務大臣(河野太郎君) 請求権協定に基づく協議をお願いをしたわけでございますが、先方、李洛淵総理が中心となって対応策の検討をしているということでございましたので、我が方としてはその対応策を待ちたいと思っていたわけでございます。
 しかし、先般、今月の半ばに李洛淵総理が政府の対応には限界があるというような御発言を公でされましたものですから、残念ながらこれ以上待っていても対応がなされないという判断をして、まず協議から仲裁に移行したところでございます。李洛淵総理が対応に限界があると、こうおっしゃる以上、韓国側はトップの文在寅大統領の下で検討していただかなければならないんだろうというふうに思っているところでございます。
 また、この仲裁申立て後の期間がたった場合については、我が方として手のうちを明かすということは公では差し控えたいというふうに思っているところでございます。

○浅田均君 我が方はどう対応するかというのは差し控えたいと、答えることは差し控えたいということでありますので、あえてもう一回お尋ねしますけれども、日本にとってどういう選択肢があるんでしょうか。三十日以内に韓国が仲裁委員を指名しない、乗ってこないという場合に、日本としてどういう次のステップとして選択肢があるのか、お答えいただけませんか。

○国務大臣(河野太郎君) 様々な選択肢があろうかと思います。それは、国際司法の場で解決を図るということも当然その中には含まれるんだろうというふうに思います。

○浅田均君 様々な対応、選択肢があって、そのうちの一つとして今ICJのことも御発言いただきましたけれども、このICJの手続も、これ韓国の同意がないと実現しないわけですよね。なかなか、今までのやり取りを外側から見ていますと、向こうの主張は非常にかたくなであるというふうに私どもは受け止めるわけです。
 それで、河野大臣、これからどういうふうにされていくのか、非常に大変な問題であるというのは承知しておりますけれども、それをちょっと聞かせていただいて、私どもも安心するのか、あるいはこれからもっとこういうふうにされた方がいいんではないですかというふうに提言するとかしたいと思っておりますので、ICJへ行く可能性が高いというふうにお考えでしょうか。

○国務大臣(河野太郎君) 御提案があればいつでも承りたいというふうに思っておりますが、我が方がどのようなことを考えているかというのを公で申し上げるというのは、こちら側の手のうちさらしてゲームをすることになりかねないわけでございますので、それは差し控えたいと思います。

○浅田均君 それは、外務大臣おっしゃること非常によく分かるんですが、韓国政府としてそういう発言はないんですが、この日韓請求権協定あるいはこの徴用工のような問題に関して調べていくと、一番問題になると思われるのが、柳井条約局長の一九九一年八月の発言というところになると思います。それで、もちろん韓国側政府もこれをよく理解していた上でいろんな作戦を講じているんだと思います。
 それで、皆さん方にその一九九一年八月の当時の柳井条約局長の請求権に関する協定に関しての御発言を紹介しておきますと、柳井条約局長は参議院の予算委員会で次のように御発言になっているわけであります。「いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。」、これは河野大臣あるいは安倍総理の御発言と一致するところでありますが、その次に、「その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。」というふうに答弁されておりまして、ここをこれからついてくると思うんですね。
 これ、もう一度、この九一年の当時の柳井条約局長発言に関しての外務省の御認識、御見解を伺っておきたいんですが。

○政府参考人(岡野正敬君) 個人の請求権を含め、日韓間の財産請求権の問題は、日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが日本政府の一貫した立場でございます。
 具体的には、日韓両国は、ただいま申し上げました請求権協定第二条一項で、請求権の問題は完全かつ最終的に解決されたものであることを明示的に確認しております。それとともに、第二条三項で、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての請求権に関していかなる主張もすることはできないとしていることから、一切の個人の請求権は法的に救済されないものというのが政府の理解でございます。
 その結果、我が国及び韓国並びにその国民の間の請求権の問題については、日韓請求権・経済協力協定により、韓国及びその国民の請求権に基づく請求に応ずべき日本及び日本国民の法律上の義務が消滅していると、その結果、救済が否定されることになるということで、法的に解決済みになっているというのが政府の一貫した立場でございます。
 柳井答弁について御指摘がございましたが、当時の答弁は、そのやり取りの中での文脈の中で、国際法上の概念である外交的保護権との関係でどういうふうにして整理されるべきかという議論の中で説明があったものと理解しております。

○浅田均君 確認ですが、外交保護権の行使としては取り上げることはできないと。だから、外国で何か損害を受けた人が訴えた場合、国がそれを言わば応援することはできないということを言われているだけであって、個人が請求することに関してノータッチであるよというふうに言われたにすぎないというふうに私どもは受け止めるんですが、間違いないですか。

○政府参考人(岡野正敬君) 国と国との間の関係で外交保護権はどういうことかということになりますと、先ほど申し上げたとおりでございます。
 実際、今御指摘がありましたように、ある国が他方の国に対して訴えることができるかどうかということでございますけれども、請求権協定の第二条一項及び第二条三項の規定を読めば明確に分かることは、日本及び日本国民が相手方の請求に応ずべき義務というのは消滅しているというのが我々の協定の解釈でございます。

○浅田均君 それで、外交、国と国の間はそういう解釈が成り立つと思うんですけれども、それは必ずしも個人が請求することを禁じているということではないというふうに受け止められるので、今回のこういう状況に至っていると思うんですね。
 だから、これから仲裁委員会あるいはICJへ進む可能性もありますけれども、そういうところをついてこられると思いますので、国としてもどういう対応を取られるのか、これは注目していくしかないんですけれども、そういうところをついてくるということを肝に銘じて、河野大臣あるいは所管、担当の方々におかれましては対応をよろしくお願いいたします。これから非常に重要な問題であって、これがうまくいかないと、どんどんほかのところに波及しますので、対応方よろしくお願い申し上げます。

徴用工・日韓請求権問題国会議事録他2022-01-21 15:31

 徴用工・日韓請求権問題国会議事録他 2022.01.21


 ◆【資料編】 日本の外務省は令和元年8月2日付HP「旧朝鮮半島出身労働者問題」で、「(参考資料)第5次日韓全面会談予備会談の一般請求権小委員会の第13回会合(記録)」(昭和36年5月10日北東アジア課作成)を公開している。極秘の秘密指定解除したものである。
 以下その内容の全文である。

 「第5次日韓全面会談予備会談の一般請求権小委員会の第13回会合」
(註)(参考資料)第5次日韓全面会談予備会談の一般請求権小委員会の第13回会合(記録)(PDF)から文字起こしである。段落等は適宜付加した。

秘密指定解除
情報公開室
                     ------
                     |極秘|
                     ------ 

 第5次日韓全面会談予備会談の一般請求権小委員会の第13回会合
                         昭和36.5.10
                         北東アジア課

 1. 一般請求権小委員会13回会合は、昭和36年5月10日午前10時35分から約2時間、外務省507号室において次のとおり双方委員出席の下に開催された。
 
日本側出席者
  
 主査代理 大蔵省理財局次長    吉田信邦
 副主査  外務参事官       卜部敏男
 補 佐  大蔵省理財局外債課長  桜井芳雄
 〃    〃      事務官  玉置邦男
 〃    〃      〃    杉田昌久
 〃    大蔵省理財局外債課事務官
                  本多行也
 〃    〃      〃    岩瀬多喜造
 〃    外務省条約局条約課長  兼松武

 〃    〃   法規課事務官  小和田恒

 〃    アジア局北東アジア課長 前田利一
 補 佐  外務省アジア局北東アジア課事務官
                  池部 健

 〃    〃       〃   杉山千万樹
 〃    〃       〃   浜本康也
 〃    〃       〃   久一昌三 
韓国側出席者
韓国側出席者 
 主査代理 韓国銀行国庫部長    李相徳
 補  佐 日韓会談代表      李天祥
 〃    代表部参事宕      文哲淳
 〃    韓国銀行調査部次長   洪允燮
 〃    韓国産業銀行業務部長  洪升喜
 〃    ソウル大学法大助教授  鄭一永
 〃    外務部二等書記官    李秀佑   
 〃    三等書記官       金正勲


 2. 議事要旨

 (1) 冒頭吉田主査代理より、「日韓請求権問題に関する米国の見解の表明」及び「軍政法令第33号の日付問題」に関する日本側見解Iとして別添の文書を読み上げた。(別添文書は5月10日午後韓国側こ手交した。)
 これに対し李主査代理より、何れ文書を戴いた上で韓国側の意見を述べるが、誤解がないよう2,3意見を申し上げたい。日本側は、賠償請求に関し韓国が平和条約上根拠があるとかないとかいつているが、韓国側は平和条約第14条による戦争賠償を要求するものでなく、第4条によるクレームを要求ずるものであることは前にしばしば申し上げた通りである。このクレームは、韓日の多年間の支配関係による色々な内容と広範な意味をもつことは当然であつて、日本側はカイロ宣言、ポツダム宣言には関係なく平和条約の規定だけが関係をもつと言われるが、韓国側としては、この歴史的事実を考慮しないでこの問題を理解することは困難であると考える。即ち、韓日間の平和条約第4条によるクレームはこのような歴史的事実を考慮に入れて解決されるべきものであることを繰り返し申し上げたい。
 また軍令33号の問題に関してして日本側は、33号以前の法冷、布告は日本財産の所属変更と関係なくまた、33号の準備立法でないと主張されるが、8月96日付で日本財産が所属変更されたことは33号の明文によって明らかなことはもち論であつて、その補充説明として33号以前の布告や法令の問題を申し上げたものであるから韓国側発言の趣旨を誤解のないようお願いすると述べたので、吉田主査代理は、日本側の見解は33号以前の諸法令が財産の所有者とか権利、権原の移転に無関係であるということで、その他の点についてまで無関係であるというわけではないと述べた。

 (2) 次に韓国側請求要綱分の細目(2)「日本系通貨」の問題にについて次のような討議を行った。 
  (イ) 吉田主査代理より、「日本系通貨」の範囲について質問したのに対し、李主査代理は、種類が多いが日銀券が大部分である。その他政府紙幣(小額紙幣)、軍票、上海の儲備銀行券といつたところだ 答えた。
  (ロ) 吉田主査代理より、軍票はすべて無効とされ、結局無価値なものにしてしまわれたのではないか、と指摘したところ、李主査代理は、無効にすると宣言したことは事実だが、それは韓国側の国内措置であつて日本に対する請求権を放棄したものではないと述べたので、吉田主査代理は無価値なもので要求されることは理解できないと述べたところ、李主査代理は、それとこれとは関係がない、それならば日銀券を焼却した際日本側では何のためにこれに立会い、サインしたのかと反問したので、吉田主査代理、日銀券焼却の問題は後で述べるが、焼いたこと自体或意味では不可解である。価値を象徴するものとして将来何らかの請求をしようと言うのに何故焼いたのか、債務証書にしてもそれを焼くことは或意味では権利を放棄することになるのではないか、権利として要求するに必要なものを何故焼いたか理解に苦しむものである。これは日銀券焼却め問題であるが,軍票については更に日銀券は日本では現在でも価値があるが、軍票は日本でも価値を認められないものであつて、その意昧で両替には差があると述べた。これに対し李主査代理は、これは今まで伺つた中で最も理解出来ない話である。明白に韓国側政府の機関で焼却し、その記録もあり、日本側からも念のため立会つて焼いたものに対し、証文を捨てたようなものだと言われることは何とも理解し難い。また軍票を無効にしたのは韓国側の国内措置であつて、無効にするなり交換するなり
するのは韓国側の国内金融政策上の問題である。そんなことをいえば、今まで持つていなくてはならないかということになるのかと述べたので、吉田主査代理は、紙幣というものを焼くことがどういう意味をもつかは、皆さん通貨当局者としてよく御存じのことと思うと述べたところ、李主査代理は、焼却は個人が行つたものではなく、政府の手で、公の立場から行つたものであると繰返した。そこで吉田主査代理は、焼却の事実を確認したということは聞いているが、焼くことによつて日本銀行に債務が残ることを確認する書類をとつたのか、日銀側は立会えと言われて立会つたまでで、それだけでは無意味ではないか、これだけのものを焼くがその額は貸しにするぞという文書をとられているかどうか、寧ろ問題はそれに懸つてくると思うと述べたところ、李天祥委員は、証拠があるかないかという問題なら記録もあるし、日本側を立会わせた趣旨がそういうことを明白にするためであり、一方的焼いたものではないと説明し、李主査代理は、日銀券に関するクレームに日本側が応ずる義務があるとかないとかという議論ならまだしも、焼いたから請求権として完全でないという議論は理解できないと述べた。これに対して、吉田主査代理は、われわれは結論を出そうとしているのはなく、紙幣にしろ証文にしろ、これを焼くことは相当重大な問題であるからそれに対する債権を確認する措置をとつておかれたかどうかという事実を明確にさせたいのであると述べたところ、李主査代理は、日本側立会の上で焼いたことは事実であつて、問題点は、証拠物である銀行券を焼いたから請求権として不充分であるということか、それとも他に意味があつてそういう議論をされるのか理解できないと述べたので、吉田主査代理は、関係書類を見せて貰いたいが、日本側が立会つて焼いたことによつて、日銀券であれば日本銀行が、政府紙幣であれば政府が、債務であることを了承するという意味で焼かれたのかを伺いたいのだと説明したところ、李主査代理は、韓国側が日本側の代表立会いの上で紙幣を焼いたのは、それを日本に請求するという意味であるととは勿論であつて、そうでなかつたらわざわざ立会いを要求する意味がないではないかと述べた。そこで吉田主査代理より、例えば自分達が韓国の通貨をもつていてそれを韓国側の銀行員を立会わせて焼いたとする。その事実で請求すれば韓国側では直ちに支払うのかと尋ねたが、李主査代理は、それでは日本側は何の意味で立会つたのかと反問したので、吉田主査代理は、日本側としては立会えと言われたから立会つたまでで、立会の意味がどこまで明らかにされていたかという問題であると答えたところ李主査代理は、韓国側は現物をとつておく必要がないと認めたから焼いたので、立会いは後日の関係を考えたからであると述べた。そこで卜部副主査より、立会及び焼却の事実は明らかであるが、それに基づいてクレ-ムを提起するということがはつきりしていたかどうかという点を伺つているのであると述べ、また吉田主査代理より、それだからこそ債券、債務の関係を明確にしておくべきではなかつたか、日本側が債務を認めるという手続き上の措置が必要でなかつただろうかと述べたところ、李天祥委員は、請求権の有無が根本問題であると述べ、また李主査代理Iは、焼いた事実が請求権に影響を与えるような日本側の理論は、遺憾である。通貨債務を払うかどうかというのが基本的な問題であると述べたので吉田主査代理は、普通、紙幣を焼くことによつて直ちに債権、債務を生ずると言い得るだろうかという常識的な問題を提起しているにすぎないと述べ、更に、それでは焼いただけで債務は確認していないわけかと尋ねたところ、李主査代理はそうは考えないと述べたので、吉田主査代理は、更にそれを日本側に確認させた書面があるかと尋ねたところ、李主査代理は、それは書面をみれば分ることであると答えた。
  (ハ) 卜部副主査より、日銀行員が立会つて焼いた中には、政府紙幣も入つていたかと尋ねたのに対し、李主査代理は.これを肯定した上で儲備券も軍票も含まれていたと答えたので、卜部副主査は、日本銀行と関係ないものまで日銀行員か立会つわけか、儲備券は日銀にも日本政府にも関係かない建前になつていたと述べた。李主査代理は反対に申せば現物をもつでおれば請求権は無条件だが、焼いから認めぬということかと尋ねたので、吉田主査代理は、自分は結論を言つているのではなく只事実を明確にするために議論しているのであると答えた。
  (ニ) 吉田主査代理より、焼却日銀券の中に新円も入つていたというように聞いているがどうかと尋ねたのに対し、李主査代理は、韓国側の記録には新円、旧円の区分はしていないと答えた後、旧円に千円札があつたかどうか新円発行の時期について尋ねたので吉田主査代理は、旧円は百円までで千円札はなかつた、新円の発行は昭和21年3月頃で、千円札の発行は更に後だと思うと答えたととろ、李主査代理は、第1回の焼却は1946年4月22日で、その中には千円札が2偉円近くあつた。新旧円の関係は分らないが多分新円は含まれていなかつたように思うと述べたが、当時旧円の千円札が発行されていたか否かについては日本側でも不確かな点があるしので再調査することについてした。
  (ホ) 吉田主査代理より、焼却は占領軍の行為ということになるのかと尋ねたのに対 し、李主査代理は、それを肯定しSCAP、韓国の方の軍政当局、旧朝鮮銀行、日本銀行の四者立会いの下で行なわれた旨答えた。
  (ヘ) 吉田主査代理より、当時鮮銀券が不足していたため,日銀券にスタンプを押して鮮耳券の代用として流通させる計画があつたように聞いており、そのため未発行の日銀券が終戦当時相当持ち込まれていた筈だが,その点について伺いたいと述べたところ李主査代理は焼却したものはすべて流通紙幣であつた。また日銀券にスタンプを押して通用させたことは記憶にもないし銀行の計画にもなかつたと思うと答えた。
  (ト) 卜部副主査の質問に答え李主査代理は、当時朝鮮では日銀券と鮮銀券が両方通用していた旨説明したので、吉田主査代理由り、当時朝鮮で流通していた日銀券の量は多くなかつたように思う。焼却した中には引揚韓国人の持ち帰りも相当入つていたのではないかと尋ねたのに対し李主査代理は、そういうものは含まれていなかつたと答えた。
  (チ) 李主査代理は、ついでには申しあげるが、この他に韓国側に現物で残jつているものが約600万円、動乱の緊急措置として日本側の立会いなしに焼いた分が約200万円あると述べた。
  (リ) 吉田主査代理より、これらの40ものを請求されるということは具体的には、これに見合うだけの円を要求するという意味かと尋ねたのに対し李主査代理は、そのとおりであると答えた。
  (ヌ) 吉田主査代理より、焼却分についての書類を戴けるかと尋ねたのに対し李主査 代理は、必要なときば何時でも差上げるげると答えた。

 (3) 続いて韓国側請求要綱5の細目(3)「被徴用韓人未収金」の問題ついて次のような討議を行なつた。
  (イ) 吉田主査代理より、韓|国側は被徴用韓人の数につい調べた資料があるかと尋ねたのに対し李主査代理は,韓国側にはない。
 1950年10月21日のSCAPの手紙に基いて日本側で調査されたものがあると聞いていると答えたので吉田主査代理は、韓国側では1946年に申告をとられたと聞いているが、と尋ねたところ李主査代理は、そういう事実はない、日本側の資科を戴きたいと述べた。そこで吉田主査代理は、日本側Iでは被徴用者の未払金についてある程度の調査はしたが、北鮮に帰つた者等もあるのでその意味では不完全であるから双方の資料をつき合わせたいと思うと述べた。
  (ロ) 李主査代理より、未収金の総額はお分りかと尋ねたので卜部喘副主査より、完全ではないが一応のものはあると答え、吉田主査代理は、日本側では一応当時の会社について調べてある。また金額は供託させる方法で残してあるが、属地性の点については調査していないと述べた。
  (ハ) 吉田主査代理より、未払給与については終戦後一部各地の朝鮮人連盟から強硬な要求があつて支払つたものが若干あると説明したのに対し李主査代理は、分りましたと述べた。
  (ニ) 吉田主査代理より、朝鮮内部で徴用されたものは無関係ですねと念を押し、李主査代理はこれを肯定した。更に吉田主査代理は未収金の範囲については国民徴用令等で自ら明白になつていると思うと述べた。

 (4) 最後に韓国側請求要綱5綱の細目(4)「戦争による被徴用者の被害に対する補償」の問題については、次のような応酬があつた。
  (イ) 吉田査代週より、本件項目はどういう意味かと尋ねたのに対し李主査代理は、この項目には一般労務者の他に軍人軍属全部を含めて、生存していいる者、負傷、死亡した者に対してそれぞれ補償してもらいたいという意味である人数等についでは日本側に相当資料があると思うと述べた。
  (ロ) 吉田主査代理より、「補償」の意味について、例えば国民徴用令には遺族扶助料とか埋葬料の規淀があり、その他の場合には工場法、工業法等に同様の規定があり、軍人軍属についても同じような規定があり、そういうもので未払金として計上してあるが、そういうもののことであるかと尋ねたのに対し、李主査代理は、これはそれとは別個に、韓国側としては新しい基礎の上に立つて相当の補償を要求するものであると答えたので卜部副主査より、新しい基礎とはどういう意味かと尋ねたところ、李主査代理は、強制的に動員し、精神的、肉体的苦痛を与えたことに対し相当の補償を要求すことは当然だと思うと答えた。これに対し吉田主査代理より、種々問題はあると思うが、当時は一応日本人として徴用されたわけで、これらの者に対し韓国側で、日本人に対してとられていたと同じような援護措置をとつてほしいということか、又は、別の立場で考えてほしいということかと尋ねたところ、李主査代理は、韓国側は新しい立場で要求しているのである。当時韓国人は日本人として徴用令が適用されたといわれるが、われわれはそう考えていない。日本人が日本人として戦争のために徴用されることは別の話で、われわれは全く強制的に動員され、又非常に虐待をうけたのであるからその意味で考え方を変えて理解していただきたいと述べた。
  (ハ) 吉田主査代理より、これに関する要求は個人に対して支払つて欲しいということかと尋ねたのに対し李主査代理は、国として請求して、国内での支払は国内措置として必要な範囲でとると答えた。そこで吉田主査代理は、自分達としでは死亡者、傷病者に対してはできるだけのことはしたいという気持をもつている。遺族の場合には相続人に対し援護するする等ということになると思うが、韓国側で具体的な調査をされ、それを日本側とつき合わせをする用意があるかと尋ねたところ、李主査代理は、勿論そういうふうに考えているが、それはこの会議と直接関係がないと思う。それは韓国倒の国内措置でやるべき問題だと思うと答えたので卜部副主査は、韓国側の言われる、新らしい基礎に立つ補償とか、支払の方法も個人ベースによらないということはわれわれのterms of referenceと離れてしまつたように思うと述べた。
  (ニ) (前項の未収金の問題について)吉田主査代理は、自分としては未収金は払うべきであり、また払い得る措置がとられているものである。これらは元来被徴用者が正式な手続を経てやめていればそのとき支払いえたものが、今日まで国交が正常化していなかつたため支払が円滑に行なわれなかつたもので、これは両国政府のあつせんで直ぐにでも支払われるようにすることが必要ではないかと考えている。この問題は以前の会談でも具体的な相談に移ろうという話であつたもので日本側でもこれは明らに債務として支払の準備をしていたわけである。実際問題として早急に処理レた方がいいと思うので韓国側でもあつせんして調査をして貰いたい。只これが本人の手に渡らないようでは意味がないと思うと述べた。
  (ホ) (再び補償金の問題に戻り)李主査代理より、補償金の場合、日本人で死亡したり傷病した者に対しては援護をしておられるようだが、まして外国人を強制的に動員して、それが死亡したり傷病者に対しては相当の補償金を出すべぎであると述べたたで、吉田主査代理は、徴用当時は外国人でなく、終戦によつて外国人になり同時に徴用を解かれたもので、そういう援護をどうするか当然考えなければならない面もあると思う。現に日本内地に家族のある被徴用韓人、軍人軍属であつた者に対しては援護を行なつているが、朝鮮の場合はそれが届き得ないのだと説明した。これに対し李主査代理は、日本の援護法によると韓国人は除外されているので1945年以後死亡者、傷病者に対しては援護されていない。当時日本人であつた云々ということについては、事実関係の考慮なしに韓国側の要求の意味は理解されないと思うので申し上げるが、当時韓国では道路を歩いている者を引つぱつて行つて最も激しい労働に従事させられもので,言わば牛馬の扱いを受けたものである。これが公の文書としてはポツダム宣言、カイロ宜言の表現となつて現われたものである。日本側では同じ日本人の扱いをしたと言われるが実情はこのように違のであつて、このような扱いを受けた者に対し当然相当な補償がなくてはならないと述べた。
  (ヘ) 吉田主査代理より、今の状態では、出身地も正確には分らないので名簿を明かにして、戴くと援護措置についても比較的早く考え得る手懸りになると思うと要望したのに対し李主査代理は、多少の資料はあるが不完全なものであると答えたので、吉田主査代理は、不完全なのはお互いさ-まで、つき合わせによつてはつきりさせ得る余地かあると思うと述べた。その際卜部副主査よりも、日本の現在の援護法を援用、準用して個人ベースで払うことになるとしても傷病者、行方不明者、死亡者の家族に全然金が届かないようでは困るし、又日本側国内に対する説明ためにも名簿のつき合わせが必要である旨説明したのにの対し、李主査代理は、われわれの考えも同じであつて韓国側の手で本人に届くように措置すると述べた。
  (ト) 吉田主査代理は、徴用等により死亡、負傷した人がはつきりしている場合は、援護推置をする必要があると思うが、それには終戦後年数もたち、その間朝鮮事変よつて対象となる者の調査所在等も相当変つている状況を考慮して、それが正当な受取人の手に渡り得るなら相互に具体的に明白して行きたいという趣旨である。日韓両国民の感情のわだかまりが残つているとすれば、こうした金の問題もその一因になつているのではないかと考えている。
 日本の韓国に対する考え方も昔と今では確かに変つてきているが、両国民の相互理解のために相互に努力することが必要である。
 従来のいきさつはあろうが、相互の国民感情を徒らに刺激することなく互いに融和して行こうというのがわれれわれの目的であると思う。そのためにも日本側は韓国政府を無視するという意味ではな、この問題についても韓国に居られる方、遺族の方々を直接対象として考えたいということであると日本側の考え方についてるる説明した。これに対し李主査代理は、日本側のいわれる趣旨はよく分る。本人の手に届くようにすることは手続の問題でであるが、それは韓国政府め方で国内措置として然るべく処理する。問題はそのことと金額と実際の人数の問題をどう考えるかであつて、支払の問題は韓国政府の手で行ないたいという立場をとつていると締り返し述べたので吉田主査代理は、人数なり、傷病の程度なりは具体的に確認し、具体的に積み上げてゆかねばならぬと考えており、これは有価証券の場合にはこれを提示すると同様の問題であると思う。そのために韓国政府の手で具体的な形の申告を行ないそれを相互に確認するとう筋合のものでなければならぬと思うと述べたところ李主査代理は、その点は更に話を進めれば理解されると思うが、韓国側も資料もなしによこせというのではないと答えた。

 (4) 卜部副主査より、1953年年5月28日のエイドメモによると名簿の提出はできると言つておられるが、先程はそんなものはをないというお話しであつたが、ただ今の発言は名簿を出すということかとたずねたのに対し李主査代理は、韓国側の名簿は不完全であり、その後調査もしていないので必要なときは調査しなければならぬと思うと答えた。そこで池田主査代理は、最終的なものは場合場合によつて判断されねばならず、具体的には種種問題があると思うが、形としては具体的なものの積上げということにならざるをえないと思、そういうことによつて、日本は給与も支払わなかつたという韓国人の気持を和らげて両国民が親しくなれるようにすべきだと考えているが、とにかく権利に対する義務の問題として具体的に処理して行かねばならぬと思うと述べたところ、李主査代理は、つぐないは両国民の親善のため必要だと思うが、具体的な名簿が手続きの問題として必要であるとの趣旨かとたずねたので、卜部副主査より、つぐないというか、当然支払うべきものを支払うということは上で決めることだが、こういうものについては、われわれのレベルでも何か考えたいということであり、考える場合のより所として個人ベースの調査が必要であるということだと説明した。これに対し李主査代理は、名簿作成のため困難なのは日本側の記録を終戦当時焼いたことで、多数の人が軍人、軍属として動員、又は徴用されたことは事実だがdetailは調査困難である。韓国政府の手で申に基いた数字はとつてあるが個人の名は不完全なものであると答えたので、吉田主査代理は、互い資料を持ちよつて具体的ケースを確認し合うことが必要だが、日本政府が直接調査をするかどうかは相談の問題である。韓国側として実際に被害を受けた者の調査をすることができるかとたずねたところ李主査代理は、日本側でいくら呉れるかを言つてくれれば韓国側でも調査ができると答えたが更に名簿の問題はいずれにせよ、多数が死亡、行方不明になつたことは動かし得ない事実で、生存した者も痛手を蒙つている。人数の確定は、申告させることも結構だが他の方法でもできると思うと述べた。吉田主査代理より、こういう人達に対し韓国側で今まで何らかの援護をされているのかとたずねたところ、李主査代理は、韓国側は金がないのでやつていないと答えた。

 (5) 次回会合は、5月17日(水曜日)午前10時30分よりとすることを申合わせた。 

 (6) 新聞発表については、前例どおり前田、文両委員に一任することを申合わせ、両委員打合わせの結果次の事項を発表することとした。
  (イ) 吉田主査代理が冒頭で述べた「日韓請求権問題に関する米国の見解の表明」及び「軍政法令第33号の日付問題」に関する日本側見解の・概要
  (ロ) 韓国側請求要綱5の細目(2)「日本系通貨」(3)「被徴用者未収金」(4)「戦争による被徴用韓人の被害に対する補償」の問題について、事実問題及び法律問題についての討議を行つたこと
  (ハ) 次回会合は5月17日10時30分に開催することを申し合わせたこと。


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    5月10日請求権小委員会第13回会合における吉田主査代理の発言要旨 

 4月28日に開かれた本小委員会の第12回会合において、韓国側李相徳主査代理が行われた発言に関して、日本側の見解を一言申し述べておきたいと思います。
 平和条約第4条(b)項及び在朝鮮米軍政府法令第33号の解釈に関する韓国倒の発言につては十分検討いたしましたが、それが本委員会の第10回会合において李主査代理の行つた発言を繰りかえされたものであつて、第11回会合においてわが方から補足説明した点に答えられておらないのは、残念なことであります。したがつて日本側としては、これ以上議論の繰りかえしに入ることを避け、特に韓国側において、さきに第9回及び第11回会合において日本側から申し述べた諸点をもう一度よく吟味の上、日本側見解の正しい理解を得られるよう切望いたします。
 なお、さきに行つた日本側の説明の中、韓国側で誤解しておられるように見受けられる点が1、2ありますのでこれらの点につき簡単に補足説明しておきたたいと思いす。
 (1) 平和条約上によりつつも、韓国が日本に対して賠償的性質の請求権を主張する根拠のないことは、本委員会において韓国側も確認された点であります。しかるに、他方において韓国側は、平和条約第4条によりつつもカイロ、ポツダム両宣言及び1945年9月7日付太平洋米国陸軍最高司令官の布告第1号を引用せられ、日本に対し広汎な内容のclaimをなしうるかの如き発言をしておられるのは理解に苦しむところであります。
 カイロ、ポツダム両宣言又は太平洋米国陸軍最高司令部布告第1号が韓国の請求権について何ら言及していなことはいうまでもありません。 
 連合国がその対日平和処理を最終的に確定した法的文書が平和条約であることは申すまでもありません。したがつて本委員会が対象とする請求権の検討は、平和条約の実定的規定にしたがつてのみ行われるべきものであつて、平和条約上根拠を有しない主張が認められないことは余りにも 明白であります。
 (2) 平和条約第4条(a)項における特別取極ついては、既に当方の見解を述べておりますが更に理解を深めるために、別の角度から説明すると次のとおりになります。
 即ち、平和条約第4条(a)項における特別取極の対象となるのは、「日本国及びその国民の財産で(第2条にかかげ地域)あるものならびに日本国及びその国民の請求権で現にこれらの地域の施政を行つている当局及びそこの住民に対するもの」ならびに「日本国におけるこれらの当局及び住民の財産ならびに日本国及びその国民に対するこれらの当局及び住民の請求権」の処理であつて、ここでいう請求権か法律上有効に成立しているものに限ちれることはいうまでもありません。しかるに、同条(b)項はこの同条(a)項にいう日本財産及び請求権の中、韓国との関係においではその大部分が法令第33号によつて消滅せしめられたことを承認するという意味をもつものであります。このことは、いいかえれば、同条(a)項に従つて本来ならば日本側が韓国側に対して主張しうるはずの「日本国及びその国民の財産ならびにその請求権」がこの第4条(b)項の規定に・つて消滅したということに他ならず、したがつて
この消滅の事実が「特別取極の考慮において関連をもつ」という米国解釈の意味は、この在韓日本財産引きわたしの事実が第4条(a)項に従つて韓国め主張しうるものとしての、法律上有効に成立している請求権をある程度まで消滅又は充足せしめる効果をもつものであることを確認した趣旨に他ならないことは極めで明瞭であります。
 (3) 法令第33号に関する日本側見解については既に明らかにしたとおりでありますが、第12回回会合において韓国側が行たつた「法令第33号以前に発布された諸布告令と法令とが法令第33号のいわゆる準備立法としてrelevantである」という主張については、第11回会合にておいて申し述.べた点、すなわち「日本財産の所属変更は法令第33号によつてはじめて行なわれたものであつて、それ以前に発せられたこれらの諸布告、法令の場合には、当該財産の権利権原の移転に関しては何ら法律的な効果を発するものではない」という事実に重ねて韓国側の注意を喚起したいと思います。すなわち、これら8月9日以降、法令第33号以前に発せられた諸布告、法令は日本財産の凍結、対外取引の禁止を命じた指令たる性質をもつものにすぎず、この段階では、当該日本財産の所有権移転の効果か発生していないことはいうまでもありません。したがつて、12月6日付の法令第33号よつて行なわれた所属変更措置の結果として、はじめて権利権原を移転せしめられた日本財産の範囲如何を決定するに当つては、これらの諸布告、法令が法理上全くirrelevantあることはきわめて明らかであります。すでに日本側か指摘してきたとおり、かかる決定は、法令第33号の規定と、その法律的効果とを検討することによつてのみなされるものに他なりません。法令第33号は、その明文の規定上、所属変更の効果を8月9日現在米軍政府の管轄下に所在した、すべての日本財産に及ぼす意図を有していないことが明瞭であるのみならず、たとえその効果をこれら財産のすべてに及ぼし、8月9日以後の所在の如何をとわず所属変更の対象としようとする意図を有していたとしても、同法令の本質的制約から生ずる法律的効果の限界に鑑み、12月6日現在米軍政府の管轄下に所在しなかつた日本財産については、かかる意図が法理上実現されえなかつたものであることは、さきに第9回会合において日本側が申述べた見解においてすでに明らかとなつているものと考えます。

 ◆ 質問主意書

質問本文情報 平成三十年十一月九日提出  質問第四九号

日韓請求権協定における個人の請求権に関する質問主意書

提出者  初鹿明博

日韓請求権協定における個人の請求権に関する質問主意書

 大韓民国大法院で元徴用工に対する賠償を日本企業に命じる判決が確定したことに対する受け止めを問われた安倍総理は「一九六五年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決している。今回の判決は国際法に照らしてあり得ない判断だ。」と答えています。
 また、河野外務大臣も「日韓請求権協定は日韓の国交樹立以来、両国の法的基盤となってきた。今日の判決は法的基盤を韓国側が一方的かつ、かなり根本的に毀損するものだ。法の支配が貫徹されている国際社会の中で常識では考えられない。」とのコメントを出しました。
 日韓請求権協定について、政府は「両国間の請求権の問題は最終的かつ完全に解決した」とし、「日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄したことを確認する」ものではあるが、「いわゆる個人の財産・請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではない」との見解を明らかにしてきました。
 この立場は国会審議の中でも明確にしており、一九九一年八月二十七日参院予算委員会での清水澄子議員、同年十二月十三日参院予算委員会での上田耕一郎議員の質問に対し、柳井俊二条約局長(当時)が、「日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます」「昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定の二条一項におきましては、日韓両国及び両国国民間の財産・請求権の問題が完全かつ最終的に解決したことを確認しておりまして、またその第三項におきましては、いわゆる請求権放棄についても規定しているわけでございます。これらの規定は、両国国民間の財産・請求権問題につきましては、日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄したことを確認するものでございまして、いわゆる個人の財産・請求権そのものを国内法的な意味で消滅させるものではないということは今までも御答弁申し上げたとおりでございます。」と答弁しています。
 この答弁を踏まえて、以下質問します。

一 この度の安倍総理並びに河野外相の発言は一九九一年の柳井俊二条約局長の答弁を変えるものであるのか、政府の見解を伺います。
二 それとも、日韓請求権協定は、いわゆる個人の財産・請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではないという見解は変わりないのか、政府の見解を伺います。

 右質問する。

答弁本文情報

平成三十年十一月二十日受領 答弁第四九号

  内閣衆質一九七第四九号 平成三十年十一月二十日

内閣総理大臣 安倍晋三

       衆議院議長 大島理森 殿

衆議院議員初鹿明博君提出日韓請求権協定における個人の請求権に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員初鹿明博君提出日韓請求権協定における個人の請求権に関する質問に対する答弁書

一及び二について

 大韓民国(以下「韓国」という。)との間においては、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和四十年条約第二十七号。以下「日韓請求権協定」という。)第二条1において、両締約国及びその国民(法人を含む。)の間の請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認し、また、同条3において、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての請求権であって日韓請求権協定の署名の日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとしている。
 御指摘の平成三年八月二十七日及び同年十二月十三日の参議院予算委員会における柳井俊二外務省条約局長(当時)の答弁は、日韓請求権協定による我が国及び韓国並びにその国民の間の財産、権利及び利益並びに請求権の問題の解決について、国際法上の概念である外交的保護権の観点から説明したものであり、また、韓国との間の個人の請求権の問題については、先に述べた日韓請求権協定の規定がそれぞれの締約国内で適用されることにより、一方の締約国の国民の請求権に基づく請求に応ずべき他方の締約国及びその国民の法律上の義務が消滅し、その結果救済が拒否されることから、法的に解決済みとなっている。このような政府の見解は、一貫したものである。

 ◆ (参考)日本国との平和条約(サンフランシスコ平和条約)(1951年)抜粋引用(『国際条約集2003』有斐閣)
 
第二章 領域
第二条【領土権の放棄】
(a)日本国は、朝鮮の独立を承認して、済洲島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。
(b)日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。
(c)日本国は、千島列島並びに日本国が千九百五年九月五日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。
(d)日本国は、国際連盟の委任統治制度に関連するすべての権利、権原及び請求権を放棄し、且つ、以前に日本国の委任統治の下にあつた太平洋の諸島に信託統治制度を及ぼす千九百四十七年四月二日の国際連合安全保障理事会の行動を受諾する。
(e)日本国は、日本国民の活動に由来するか又は他に由来するかを問わず、南極地域のいずれの部分に対する権利若しくは権原又はいずれの部分に関する利益についても、すべての請求権を放棄する。
(f)日本国は、新南群島及び西沙群島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。

第四条【財産】
(a)この条の(b)の規定を留保して、日本国及びその国民の財産で第二条に掲げる地域にあるもの並びに日本国及びその国民の請求権(債権を含む。)で現にこれらの地域の施政を行つている当局及びそこの住民(法人を含む。)に対するものの処理並びに日本国におけるこれらの当局及び住民の財産並びに日本国及びその国民に対するこれらの当局及び住民の請求権(債権を含む。)の処理は、日本国とこれらの当局との間の特別取極の主題とする。第二条に掲げる地域にある連合国又はその国民の財産は、まだ返還されていない限り、施政を行つている当局が現状で返還しなければならない。
(b)日本国は、第二条及び第三条に掲げる地域のいずれかにある合衆国軍政府により、又はその指令に従つて行われた日本国及びその国民の財産の処理の効力を承認する。
(c)日本国とこの条約に従つて日本国の支配から除かれる領域とを結ぶ日本所有の海底電線は、二等分され、日本国は、日本の終点施設及びこれに連なる電線の半分を保有し、分離される領域は、残りの電線及びその終点施設を保有する。

第五章 請求権及び財産
第十四条【賠償、在外財産】
(a)日本国は、戦争中に生じさせた損害及び苦痛に対して、連合国に賠償を支払うべきことが承認される。しかし、また、存立可能な経済を維持すべきものとすれば、日本国の資源は、日本国がすべての前記の損害及び苦痛に対して完全な賠償を行い且つ同時に他の債務を履行するためには現在充分でないことが承認される。
 よつて、
1 日本国は、現在の領域が日本国軍隊によつて占領され、且つ、日本国によつて損害を与えられた連合国が希望するときは、生産、沈船引揚げその他の作業における日本人の役務を当該連合国の利用に供することによつて、与えた損害を修復する費用をこれらの国に補償することに資するために、当該連合国とすみやかに交渉を開始するものとする。その取極は、他の連合国に追加負担を課することを避けなければならない。また、原材料からの製造が必要とされる場合には、外国為替上の負担を日本国に課さないために、原材料は、当該連合国が供給しなければならない。
2(I) 次の(II)の規定を留保して、各連合国は、次に掲げるもののすべての財産、権利及び利益でこの条約の最初の効力発生の時にその管轄の下にあるものを差し押え、留置し、清算し、その他何らかの方法で処分する権利を有する。
 (a)日本国及び日本国民
 (b)日本国又は日本国民の代理者又は代行者並びに
 (c)日本国又は日本国民が所有し、又は支配した団体
 この(I)に明記する財産、権利及び利益は、現に、封鎖され、若しくは所属を変じており、又は連合国の敵産管理当局の占有若しくは管理に係るもので、これらの資産が当該当局の管理の下におかれた時に前記の(a)、(b)又は(c)に掲げるいずれかの人又は団体に属し、又はこれらのために保有され、若しくは管理されていたものを含む。
(II) 次のものは、前記の(I)に明記する権利から除く。
 (i) 日本国が占領した領域以外の連合国の一国の領域に当該政府の許可を得て戦争中に居住した日本の自然人の財産。但し、戦争中に制限を課され、且つ、この条約の最初の効力発生の日にこの制限を解除されない財産を除く。
 (ii) 日本国政府が所有し、且つ、外交目的又は領事目的に使用されたすべての不動産、家具及び備品並びに日本国の外交職員又は領事職員が所有したすべての個人の家具及び用具類その他の投資的性質をもたない私有財産で外交機能又は領事機能の遂行に通常必要であったもの
 (iii) 宗教団体又は私的慈善団体に属し、且つ、もつぱら宗教又は慈善の目的に使用した財産
 (iv) 関係国と日本国との間における千九百四十五年九月二日後の貿易及び金融の関係の再開の結果として日本国の管轄内にはいつた財産、権利及び利益。但し、当該連合国の法律に反する取引から生じたものを除く。
 (v) 日本国若しくは日本国民の債務、日本国に所在する有体財産に関する権利、権原若しくは利益、日本国の法律に基いて組織された企業に関する利益又はこれらについての証書。但し、この例外は、日本国の通貨で表示された日本国及びその国民の債務にのみ適用する。
(III) 前記の例外(i)から(v)までに掲げる財産は、その保存及び管理のために要した合理的な費用が支払われることを条件として、返還しなければならない。
(IV) 前記の(I)に規定する日本財産を差し押え、留置し、清算し、その他何らかの方法で処分する権利は、当該連合国の法律に従つて行使され、所有者は、これらの法律によつて与えられる権利のみを有する。
(V) 連合国は、日本の商標並びに文学的及び美術的著作権を各国の一般的事情が許す限り日本国に有利に取り扱うことに同意する。
(b) この条約に別段の定がある場合を除き、連合国は、連合国のすべての賠償請求権、戦争の遂行中に日本国及びその国民がとつた行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権並びに占領の直接軍事費に関する連合国の請求権を放棄する。

 ◆【国会議事録(1945年1月1日~2019年9月30日)編】 

 (註)
 (1)徴用工・日韓請求権問題関し、「国会会議録検索システム(kokkai.ndl.go.jp)」からの抜粋である。また段落等は適宜付記した。【発言順】については附記した。
 (2)国会会議錄検索システムは令和元年12月23日にリニューアルされている。

 第020回国会 衆議院厚生委員会 第4号 昭和二十九年十二月六日(月曜日)午後一時二十七分開議

【発言順】
 委員           杉山元治郎
 厚生事務官
 (保険局国民健康保険課長)菅野 周光

○杉山委員 厚生年金と生活扶助との関係について実は質問いたしたいのですが、その実例を申し上げて――これはたくさんあることだと思いますので、本来ならば大きな問題ですから大臣からお答えをいただきたいのですが、今大臣がお見えにならぬので、ぜひお聞き取りを願つて後刻大臣から御答弁を願いたいと思うのであります。
 その実例の一つでありますが、朝鮮から戦時中に徴用工としてつれて来られた方でありまして、現在横浜市鶴見区馬場町というところに住んでいる金山万鎮という方でありますが、この人が日本鋼管で働いているうちに、ちようど鋲打ちをしておりました日がたいへん寒い雪の降つた日でありまして、誤つて落ちまして、そして両足が折れた。こういうことでいろいろ長い間治療をいたしまして、六年間経過いたしているような状態でありまして、厚生年金をいただいておりましたが、一年わずか三千六百円でございます。それでは生活ができないから、民生委員の方から生活扶助として月々三千二百八十円をいただいている。これでようやく生活をしておつたのでありますが、五月から御承知のように厚生年金の改正によつて厚生年金を一箇年に二万七千六百円をいただくようになつた。これはたいへんけつこうなんですが、そういうようにふえたことによりまして、生活扶助の方が今度の例では減らされまして、月にようやく八百八十円をいただく。こういうことになつたので、厚生年金は増加するけれども生活扶助が減らされたので、差引いたしますと、月に前よりも約千円ほど減る、こういうことに相なるのであります。そういうようになりますと、せつかく厚生年金を増加していただいても何の役にも立たないばかりでなしに、かえつてこの人の迷惑になつた、こういうことなんであります。おそらくこの方ばかりでなしにそういう方がたくさんあろうかと思いますので、私はこういう人たちに対してはせめて従来いただいた額くらい何とかならないかという問題をぜひひとつ政府の方で考えていただきたい。また多少この人たちが働いて行くような場合に従来生活扶助からすぐ引かれましたけれども、そういうことでは怠けな人間をこしらえることになりますので、自分である程度もうけた場合には、生活扶助の方をすぐに減らさないで行くことが国家のためにまた国民のためにいいのじやないか。特にこの方の願つているのは、厚生年金を三箇月々々々でいただくのでそれでは生活ができないということなんです。やはり毎月々々にそれを割つていただけるような方法はできないものか。こういうことがこの人の言うて来ている点でございます。この問題はこの人ばかりではないと思いますので、よく厚生省でお考え願いたい。これは小さいようで大きな問題ですから、大臣の御出席があつたら御答弁いただきたいと思いますが、ぜひこれについての政府の方向をお示しいただければありがたいと思います。

○菅野説明員 厚生年金の法律の問題でもございますが、これの出し方及び生活扶助のやり方ということに関係いたしますので、私厚生省にもどりまして関係の方にただちに連絡いたしまして、後ほど御回答申し上げることにいたしたいと思います。

 第025回国会 衆議院法務委員会 第4号 昭和三十一年十二月五日(水曜日)午前十一時十六分開議

【発言順】
 委員   古屋 貞雄
 法務大臣 牧野 良三

○古屋委員 私は外国人登録に関して法務大臣にお伺いしたいと思います。外国人登録の目的は、御承知の通り、居住の関係、身分関係を明らかにいたしまして外国人の公正な管理をすることにあるのですが、同じ外国人でございましても、かつて日本人であり、日本の国民として納税の義務、兵役の義務を果し、さらに大東亜戦争には身をもって戦争に参加をさせられ、あるいはたくさんの徴用工として強制労働をしいられました朝鮮の方たち並びに台湾の方たち、これらの人々は、日本がポツダム宣言を受諾いたしました以後外国人としての取り扱いを受けておるのでございます。しかもこれらの人々は相当数日本におります。しかし、これらの人々は、ポツダム宣言を受諾した直後に、あるいは日本が平和条約をサンフランシスコにおいて締結いたしました当時に、国籍選択の自由を与えられていないのです。日本に長いことおり、内地を永住の地と定め、しかもそこで生まれて参りました人々も相当おるわけであります。その後日本に帰化をしておる方もありますし、最近においても帰化の申し出をしている方たちがあり、私どももそのお世話をしているのがずいぶんあるのです。そういうような特殊関係に置かれている事実、この人々は他の外国人と本質的に異なっておる。従って、同じ外国人といたしましても、これらに対する取扱いは同一であってはならないと思うのです。従いまして、台湾、中国、朝鮮の国籍を持っておるが、日本に長年住んでおり、しかも現在は朝鮮に帰りたいと思いましても日本政府自身が帰さないという不合理な状況に追い込まれておる人々に対して、ほかの外国人と相違のあることを法務大臣はお認めになられるかどうかということをまず最初にお尋ねいたしたい。

○牧野国務大臣 私は古屋委員のお心には沿いたいと思うのでありますが、どうもわれわれ日本人は戦争に負けました直後少し用意が足りませんでした。立法が行き届いておりません。御指摘のようなまことに遺憾な状態に置かれているようであります。と同時に、今お話しのような人々の中からあまりにも犯罪者が多いということから、またその特殊な考えをわれわれ日本人が持つような事態がありますので、これは深く現在の事態を見きわめまして正しい立法をして、まじめなこれらの人々に不必要ないやな思いをさせないようにいたしたいと思っておりますが、それをどういたしたらいいかということに私も大へん苦慮いたしております。むしろ、私は、だんだん国際関係を正常化いたしまして、これらの人々が容易に自分の欲する地方へ、国へお帰りになれるようにした方がいいのじゃないか、かように考えますが、この点については成案が熟しておりません。どうか皆さんと一緒になってこういう者の取扱いに関する特別な法規を制定するようなところまで持っていきたいと思います。御質問の御趣旨に対しては、私も非常に苦慮しているということを御推察賜わりたいと存じます。

○古屋委員 大臣は非常に良心的で、御心配になっていることはよくわかりますが、ただいま申し上げたような、ほかの外国人と違ったケースで、違った歴史で日本にいる。先日も本会議におきまして総理大臣から、韓国に関する大村収容所の方の釈放問題の質問に対して答弁がありましたが、そういうことももちろん大事でありますが、そういう小さいことを抜きにして、不幸にいたしまして朝鮮が南北二つに分れているという関係もございましょうけれども、しかし、在住朝鮮人の六十万の方々は大部分帰りたいという方が多いわけであります。それが御承知の通り韓国においては受け入れない、拒否されているというような現状がありますし、北鮮では、昨年参りましたのですが、喜んで帰してもらいたいという要望がある。このことは、法務委員会だけの問題ではなくて、両国間における国交の正常化の問題、あるいは従来の自由の問題、その他の貿易、文化交流の問題がございましょうが、法務委員会に関係のありますことで私は制限してお尋ねしたいのですが、ただいま申し上げましたように、生活が困っている、犯罪が多い、こういうことを私ども詳しく考えて参りますときに、日本が犯罪を犯さなければ生きていけないような状況に追い込んでいるわけです。それは日本だけではない。韓国では帰りたい者を受け付けない。しかし、北鮮では、幾らでも帰してもらえば受け入れます、こういうことを申し述べておりますし、帰りたいというので、しばしば代表の方たちが、実は本年も相当長い間赤十字の前にすわり込みまでして、帰してもらいたい―。この問題については、さきごろ国際赤十字から代表が参りまして、北鮮と南鮮を調査されました。日本人の大村の状況も調査されました。そして少くも来たるべきニューデリーの国際会議においてはこの問題が取り上げられることでありましょう。そして、私は、国際赤十字が中心になって、南と北と日本の赤十字を呼び寄せて、そこで相談して何とか解決してもらわなければならぬということを強く要望いたします。このことは、人道上の問題でありますから、やがて実現されるであろうと思います。それでありますが、そういう、今大臣が御心配になっているような問題は、総合的に大きな解決の道がつかなければ解決がつかぬのでありますけれども、私が当面の問題としまして承わりたいのは、ただいま御答弁がございましたように、そういう特殊な関係に置かれている朝鮮の方たち、台湾の方たち、これらの人々に対します登録の切りかえが迫っておるわけです。この登録の切りかえについて、こまかいことは入管の局長に私はお尋ねいたしますが、相当人権じゅうりんが行われておるわけです。しばしば私のところにも全国の代表が参りまして陳情をされておりますし、お願いを申し上げておるのでございますが、実は本日もここに大阪から日本人並びに朝鮮人諸君七千名の署名の文書が私のところに届いております。いずれ正当な手続をいたすつもりでおりますけれども、登録の問題につきまして特別な取扱いをしてもらいたいというのが要望なんです。たとえば、今私が御質問申し上げたように、特殊な事情下に置かれておる人でありますから、他の外国人のように、日本に一定の期間を切って旅行しておる人、あるいは日本に特殊な事務処理のための用件で上陸された方たち、こういうようなばらばらに日本に参ります外国人とは違った、固定した生活を持ったいわゆる生活の根源は日本にございました。登録令の目的でありますところの住居の関係、それから身分関係というものは、もうこれらの人々は何十年間おりまして、日本の政府ではっきりと管理されておるわけです。これらの人々が同じように登録令によって登録の切りかえをしいられるということに、今問題が起っておるわけです。全国の六十万の朝鮮人の諸君だけでも相当これはトラブルが起きております。なるほど、このトラブルの原因は非常に複雑でございまして、地方々々によって違っておりますが、そのトラブルの起きておりますということは、法務大臣がただいま御答弁ございましたように、なるべくいやな気持にさせないように、スムーズに何ものも処理して参りたいというお気持とは、およそ相反する結果が生まれておるわけです。新聞にも出ているように、指紋問題について相当ごたごたが起きております。それから、このことは、各市町村並びに区役所などの係の方たちが十分にこの規定の運営について考慮されていないという点に問題があると思うのです。従いまして、私が端的に法務大臣にお尋ねしたいのは、これをスムーズに何とか納得させて登録の切りかえをいたすような御方針で法務大臣はこれに対する処理をされるかどうか。長い間日本におり、ただいま申したような、日本の戦争にも協力しておるし、納税もしてきたし、日本を永住の地と心得て日本に生活しておった、こういう方たちは、この外人登録のワクからはずすべきものではないか、そういう立法がほんとうに正しい立法ではないか、こう私は思います。この問題については、これも法務大臣のお考えだけはあとから承わりたいと思うのでありますが、その特殊事情にかんがみまして、登録をいたしますことを、少くも何らかの方法によって塩る一定の期間まで、猶予と申しますとちょっと変でありますが、相当の弾力性を持たれた処置をされる御意思が奉るかどうか。このことは、ただいま申し上げましたように、毎年一定の期間が参りますと北鮮に帰れる見込みのついた朝鮮の方たちが相当あるわけです。そういうような道が開けるまで、あまり無理をせずに、登録問題については弾力性のある御処置が願えるかどうかということが、法務大臣に対する私の質問なんです。この点はいかがでしょうか。

○牧野国務大臣 御意見は私も全く同感なので、善後策のことを具体化することであろうと存じます。第一は、すでに幸いにして七、八〇%は指紋押捺その他の手続が終っております。残っているところに対して心配があるのと、どうも下の人々が取扱いにはなはだ行き過ぎがある。その誤まりがこれらの人を刺激して、まことに遺憾にたえません。それは何とか今後を戒めるということでお許しを請うよりほか、ただいまはないと思います。私といたしましては、法律を制定する際に不用意であったと思いまするが、今は、これをどうして取り返すか、なるべく早く帰りたい人を帰す道を講ずるということを急いでおりますが、もう一つは、いい人、そうして日本にいたい人は、日本人に帰化する手続を簡易にした方がいい、そうして帰化をお許しすることのできない人は、はっきりあなたほお許しすることができないという理由を明らかにする方がいいと思うのであります。入国の手続及び帰化の手続について毎日御陳情を受けておる。それほど問題は重大だと私は思っておりますから、この点は、古屋さん、あなたのようなお方とよく御懇談申し上げて、具体的な善後措置を講ずる、そうして、とりあえずの措置としては、下部で実際事に当っている人々を深く戒めて、どこの人たるとを問わず、指紋をとることをいやがらないように思わせたい。文明人ほど指紋をとることをいやがらないのであります。現に、あなたも私も、どこで指紋をとられてもいやがらない。これを犯罪人扱いをしているからいかぬので、そういうことのないように大切に取扱いをすれば皆さんもおきらいしないものを、非常に不親切な取扱いをするらしいのであります。それは事務の方面を打ち合せまして深く戒めたいと存じますが、ほんとうに心配でありますから、この点に対してはどうか御協力をいただきたいと存じます。

○古屋委員 非常に御親切な御答弁でございますが、問題は、八〇%までとられておるということになっておりますが、それはとれたかもしれません。しかし、それはスムーズにとれた問題ではなくして、たとえば非常にむずかしい無理な処置をとっておるわけであります。強制して連れていってしまいます。それで、登録令違反で、切りかえが行われなければ、やられるわけです。ひどいのは、陳情にも来ておりますが、山仕事に行っております間に、七日に一度しか家に帰らぬということで、警察がそれをつかまえて、やほり登録令違反ということで引っ張っている事実もある。それからまた、はなはだしいのは、現に今私が裁判をやっているのですが、日本人を登録令違反で起訴しているのです。私は、検事ざんに、これは一体どういう理由ですか、日本人ですよ、日本人にこういうことをして起訴をしておる、これは職権調査事項だから、裁判所でお調べになって片づけたらどうですかと言ったのですが、これは三回開かれて、私も驚いたのです。楊八重子というのですが、楊八重子という名前ではないのです。ところが本人らしい。それは台湾人と結婚したというだけです。結婚したことは事実です。国籍は抜けていない。帰化に関する手続であるとか、国籍も何も見ないで、部長が告発したのか、どこが告発したのか知りませんが、これが調べられて起訴されておる。この事実一つだけでも、どれほどでたらめにやっているかということがはっきりわかる。それだけ厳重に相手方に対して苦しみを与えておるということが証明されると思う。私は、日本の国籍を喪失しておるかどうかは、法務省のこれこれに行けばおわかりになりますと検事さんに説明するのだけれども、これは三回ほど開かれておる。まことに迷惑千万です。日本人なんです。日本人においてさえしかりですから、登録令違反がいかに厳重に末端においてほんとうに常識はずれのことをやられているかが証明されるわけです。そこに人権の侵害があるわけです。こういう問題がありますので、朝鮮人の諸君にいたしましても、台湾人の諸君にいたしましても、登録令に絶対に省かれるものであるし、当りまえじゃないか、日本人じゃないか、日本人であって戦争に行って死んでおるじゃないか、しかも今戦争で死んだ数万の遺骨は、政府はそのまま呉と佐世保に積んでおるじゃないか、こういうでたらめなことをしておりながら、日本の法律に従えということは一体何事かと言うのも、私は無理はないと思います。従いまして、法律がございますから、この法律を例外的に取り扱えということは無理でございまし、うけれども、私の申し上げるのは、相当弾力性のある処置をしていただきたい。これは、なるほど、法務大臣は指紋をとることは文明人のやることだとおっしゃいますが、遺憾ながら東洋思想からいくとあまりよくない。現に中央の商業使節団の方たちが日本に代表で参っておりますが、日中貿易促進議員連盟の池田君に対して、あの指紋登録をするなら絶対に中国では遺憾ながら日本には使節団の派遣をいたしませんとまで言われておる。東洋におけると申しますか、アジアにおけると申しますか、古い考えかもしれませんが、遺憾ながら実際はそういう考え方を持っておる。登録をさせて指紋をとることは犯罪人だという先入観が入っておる。これを無理にしいて、国際上におもしろくない感情を与えたり、今後日韓交渉の再開されようとするこの大事なときに、そういう感情を起させるということも、あまりよくないことだと私どもは信じまして、日本の将来のために、一つ法務大臣は度量を大きくしていただきまして、相当に取扱いは慎重にすると同時に、登録の切りかえに対する処置について弾力性のある考え方をどうか下の方にお漏らしを願って、公然と法律違反をしてもいいということは言えませんでしょうが、そこはやはり法務大臣の政治性に基いて弾力性のあるお示しが願えればけっこうだと思う。
 なお、参考に申し上げますが、朝鮮の総連にいたしましても、台湾の華僑にいたしましても、ずみから自分たちの方では組織的に一斉に啓蒙はすると言っておりますので、やはり納得をさしてやっていただきたいと思います。それについて相当の期間今日まで実際やって参りましたが、末端までそれが届いておりません。自分の方でもとりあえず努力する、従ってこれは取扱い当局の方でもこれに対する弾力性のあるお取扱いのお示しを願いたい、こういうのが今の緊急的なお願いなんです。恒久的にはこのワクをはずしてもらいたい。これは、私どもが立法者としての立場から、今から政府の協力を賜わりまして、この改正には努力をいたしたいと思います。どうかそういう点について明快な法務大臣のお心持を発表願えれば、この問題を非常にスムーズに行えるのじゃないかと存じます。
 繰り返して申しますが、近く北鮮、南鮮に対する往来自由の原則の道を赤十字において開かれるという見通しがついておりますので、長い時間ではございませんから、その間におきまする取扱いを、ただいま申し上げたような弾力性のあるお取扱いを願えることをお約束ができればけっこうだと思いますが、法務大臣、いかがでございましょうか。

○牧野国務大臣 できるだけ御希望に沿うようにいたします。すべて御意見は同感でございます。とりあえずのところは、団体の代表の方とよく打ち合せてそうして仲よくやる、無理なことはしないということが大事だと思います。具体的にはなはだ誤まったことを御指摘いただきましたが、これはほんとうに人権じゅうりんのはなはだしきものであってよろしくございません。そういうものについては断固たる処置をとりましてそういうことを例として下の方にはどこまでも慎重に扱えということを徹底させることにいたします。

○古屋委員 その通り実行ができますように御配慮を願いたいと思います。入管の局長もいらっしゃいますので、局長の方からもどうか一つそういうような趣旨の処置をお願いいたしたいと思います。
 ただ、私最後にお願い申し上げたいことは、韓国に対する問題で緊急質問いたしておりますけれども、北鮮のことについては政府もあんまりお考えになっておらぬようですが、北鮮の方はもう帰してもらえれば受け取ると言っているのですよ。それで、非常に北鮮では喜んで受け付ける、それからなお、困った者には金も送る、赤十字を通じて送るということになっておりますので、大村におきまする収容所の問題につきましても、やはりこの大村の諸君に対する処置を緊急に何とか御配慮願いたい。法務大臣は、非常にその点について責任を感じて御解決を願うような、いわゆる釈放を願えるような御配慮をしていただいておるそうでございますけれども、これらの人々を北鮮では受け入れると言っておる。そして金も送りますと言っております。生活の困る者については金も送りますと言っておる。特に日本の生活保護を受けている関係が非常にでたらめだというので、厚生省ではやかましくこれを整理しておりまして、その整理の行き過ぎもあるようです。その生活費も赤十字を通じて送りたいと言っております。教育費用も赤十字を通じて送りたいと言っておる。こういう点を相当御考慮賜わりたい。今の現状においては、食うに食われないから犯罪を犯す――これは、朝鮮人諸君でなくしても、日本人といたしましても、生活が困るから悪いことをするのです。朝鮮には帰さないわ、職業は与えられないわ、上の方からはやかましくその本人の管理をされているわ、これでは立つ瀬がない。従って、自殺も行われるし、凶悪な犯罪も行われるというような結果に追い込んでいるような、これに対する政府の責任も多少考えて、こういう人々に対する態度というものは、こういう事情だということの事情をよく御考察の上で処理していただかなければならぬ。その意味において、大村収容所におりまする方たちも、長いのは四年もおりますし、相当人権じゅうりんも行われておる姿になっておりますので、やはりこの点は近い期間に開かれまするニューデリーの世界赤十字大会においても大村収容所の問題の報告が行われると思うのです。そういうような重大な責任もあることでございまするから、これらの人々の釈放も、やはり日本の韓国における抑留民との交換というような、そういう功利的なお考えではなくして、人道上から釈放するのだということで、国際的な、民族的な信用を高めていただきたいと、かように私は要望する次第でございます。

○牧野国務大臣 よくわかりました。私どももほんとうにもう十カ月それに没頭しておるのであります。なお思うように実現できないということに対しては深い責任を感じておりますから、必ず御期待に沿うように努力いたします。

○古屋委員 終ります。

 第026回国会 衆議院予算委員会 第14号 昭和三十二年三月六日(水曜日)午前十時四十二分開議

【発言順】
 委員      古屋 貞雄
 内閣総理大臣  岸 信介
 厚生大臣    神田 博
 厚生事務官
(引揚援護局長) 田邊 繁雄
 法務大臣    中村 梅吉

○古屋委員 私は外務大臣である総理大臣にお尋ねしたいと思うのですが、外務大臣は二月の四日に外交方針の基調について本会議で述べられておりますが、これはまことに重要でありまするから私読み上げますが、お聞きを願いたいと思うのです。「わが国外交の基調として政府が重視しておりますことは、アジア隣邦諸国との関係の強化であります。わが国とアジア諸国とは、あらゆる面にわたり、きわめて密接なきずなによって結ばれていることは、今さら申すまでもないところでありまして、政府は、これら諸国との懸案を解決して、各国との友好協力の関係を一段と強化することを、ぜひ必要と考えております。」云々という御発表をなされておりますが、これを実践をする、実行をする御決意があるかどうか、お尋ねしたいと思います。

○岸国務大臣 お答え申します。私が外交方針で述べておることは、私、外務大臣として、責任を持ってこれを実現したいと考えておるのであります。

○古屋委員 そこで、その日の御発表になっていまする中に、日本と従来歴史的にも非常に密接な関係を持っておりました朝鮮の問題につきまして、簡単に韓国の問題をお触れになっておるわけでございまするが、朝鮮問題の根本的な解決をする意思があるかどうか。ことに、朝鮮の諸君がわが国に七十万も在住しておりまするので、非常に日本の政治経済の上に重要性を持っております。この問題を根本的に解決する意思があるかどうか。もしおありになるならば、どういう御方針でおやりになるのか、御答弁を願いたいと思います。

○岸国務大臣 朝鮮と日本との関係は、私が今さら申し上げるまでもなく非常な深い関係でありまして、特にこういう状態になりました戦後におきましていろいろむずかしい懸案事項のあることは御承知の通りであります。私どもは、韓国との間の懸案事項でまず解決しなければならぬ緊急な幾多の問題がございますので、韓国との間にまずこの懸案の事項を解決するという考えのもとに韓国と交渉をいたしておる次第であります。

○古屋委員 韓国との関係の懸案と申しますが、懸案の問題は、むしろ、韓国にあらずして、日本におりまする朝鮮の諸君の問題が重要性を持っておるわけです。経済の面におきましても、あるいは思想の面におきましても、その他幾多の面で重要な関係を持っておるわけなんですが、この点をどうお考えになられるかということが一つと、その日本におりまする朝鮮の諸君の七十万の八割までは北鮮の国籍を希望をしておるし、北鮮の方であります。従いまして、北鮮に対する緊急事項としてのあらゆる問題について、在住朝鮮人の諸君から政府の各方面に強い陳情を数年間やっております。あるいは、職が与えられていない問題についてはその職を与えるように、あるいは、自分の祖国に帰りたいので帰してもらいたいというように、あるいは、教育の問題についても、大学に進学して一人前の人間になりたいという面について、あらゆる諸般の事項について政府に強い要望をしておるはずであります。その問題につきまして、相手の北鮮におきましては、日本との間にすみやかに国交の正常化をはかって、これら諸懸案の問題をまず解決したいという希望を強くお持ちになっておるのでありまするが、これに対する総理大臣並びに外務大臣の根本的解決に対する所見を承わりたい。

○岸国務大臣 日本内地に居住しておる朝鮮人に対しましては、やはり、日本国内において生活が安定し、それぞれ所を得ていくように努めていくことがこれに対する根本の考え方だと私は思います。具体的の問題がいろいろ未解決でありますし、またこれら在留の朝鮮人の人々の要求と必ずしも合致し得ないものもございますけれども、今申した根本の趣旨においてやっていかなければならぬと思います。ただ、御承知の通り、朝鮮が三十八度線でもって北鮮と韓国との二つに分れておるという事態そのものから、いろいろ問題が複雑になっておりまして、解決されておらない、解決を非常に困難ならしめておるという実情にあるわけであります。私どもは、韓国と朝鮮が民族的に統一され、そして国として秩序ができ、安定していくということが一番望ましいことであります。しかし、それは現在の状態においてはまだなかなか望み得ないという状況であります。そこで、私どもは、南の方で特に日本と関係の深い、また日本との間にいろいろな現実の問題を起しており、緊急に処理しなければならない問題を提供しておる韓国との間に、先ほど申したような折衝をいたしておる、こういうことであります。

○古屋委員 朝鮮との問題が、南北統一されていない複雑な関係にあることは、これはもう議論の余地のないことだと思います。しかし、北鮮に国籍を有する人で朝鮮に帰りたいという人々の問題につきましては、人道的な立場から自由に帰すべき方法を講ずべきではないか。今総理大臣から御説明がありました韓国における緊急の問題については、具体的にこれが緊急だという御説明がありませんから、私はよく存じませんけれども、かりに、抑留されておりまする日本人をすみやかに帰すのだ、――私はこの気持はよくわかります。当然帰すべきだと思います。しかし、これと同じように、これに数十倍する朝鮮の諸君の北鮮に帰りたいということをお考えにならなければ、人間的な立場から考えましても、道義的に考えましても、国際道義から、推察いたしましても、私はどうも理解がつかない。日本の数十万に及ぶ北鮮の国籍を有する人たちの祖国に帰りたいという希望と、どちらに重点を置かれるのか、それとも、両方一緒に私は解決すべき問題だと思うのですが、これに対する御意見を承わりたいと思います。

○岸国務大臣 韓国の釜山に多数の漁民が抑留されておって、これを釈放して日本に帰還せしめようということは、これらの留守家族の人々の強い要望であり、また国民的な要望でもございます。それと同時に、大村に収容しておる韓国人の釈放の問題も私ども考えて、同時に釈放するということによってこの問題を解決したいと考えて実は交渉をいたしておるわけであります。北鮮に帰りたいという希望を持っておられる方は、適当な――日本の船で帰すというわけにもいかないけれども、外国船によって帰るということは、これは従来も許しておるように私は承知いたしておりますが、なお非常にたくさん帰りたいという希望があるということであれば、私は、原則として帰られることは差しつかえない、こういうふうに思っておりますけれども、なお事情を少し調べてみたいと思います。

○古屋委員 どうも、そういうような御説明で、私実は驚くのですが昨年、祖国に帰りたいという朝鮮の諸君が、しかも日本におっては女、子供で働く能力を持っていない、生活ができない、生活保護法が窮屈になってきて、どうしてもこれでは人間的生活ができないから帰りたいというので、日赤の前に数十日間居すわりをして、日赤に頼んで、人道的問題であるから帰してもらいたい、そういう要求をされた事実は、しばしば新聞に報道されておる事実であります。また、それらの人々をついに最後に私ども議員団の一部やその他の有志の者によって金を集めてお帰し申したという事実がございますが、これも半年以上かかったわけなんです。政府に釜山に抑留されております日本の人々をすみやかに帰したいという熱意と友情一がございまするならば、やはりこれと同じような立場に置かれておりまする朝鮮の諸君、日本において生活ができない、祖国に帰りたい、この人々を帰してやるというだけの熱意を持ち、それに対する計画と施策をすみやかにすることが、私、冒頭に読み上げました隣邦との友愛を深めアジアにおける平和的な国交調整をいたしまする最も近道であると思うのでありますが、その点はいかがでございますか。

○岸国務大臣 今、私申し上げましたように、十分に事情を検討いたしまして、私としては帰りたいという人は帰した方がいい、こう思っておりますから、それの支障をなしているような事態を十分検討いたしまして、そういう方向に進みたい、こう思います。

○古屋委員 その点、もう少し熱意のある、誠意ある方策を講じていただきたいと思います。
 さらに私はお尋ねを申し上げたいのですが、それ以上に人道的立場から断じて許すべからざる行為が行われておるわけです。かつて日本が戦争を、あなたたちが大東亜戦争をお始めになりましたおかげで、朝鮮からたくさんの徴用工を日本に強制的に連れて参りました。当時の朝鮮の諸君は、日本の国民として、強制的に戦線に送られる徴兵に徴集をされておりました。それらの人々が戦争によって戦死され、あるいは徴用工を解除になりましてから後に祖国に帰ります途中で海のもくずとなりまして、数万の遺骨が日本にとどまっておるはずなんであります。しかも、それが今日まで十数年の間、たしか佐世保と呉の援護局の倉庫の中に積まれておりまして、朝鮮の諸君が、これに対して、人間の立場から、残された人の立場から、同胞の立場から、ある場合におきましてはこれを拝ましてもらいたい、保管をさしてもらいたい、しかも日本の仏教徒におきましても決議をいたしまして、その遺骨を保管したいからという申し出を政府にしておるはずなんです。こういう問題について、総理大臣兼外務大臣は、すみやかにこういう要望をいれて、これら遺骨に対して尽すべき礼を具体的に行うべきものだと私は思うのでありますが、この点に対する所見を承わりたいと思います。

○神田国務大臣 遺骨の方の処理は厚生省で所管しておりますので、担当の私から先にお答えいたしたいと思います。
 今お述べになりましたように、戦時中に約二万の戦死者がございまして、そのうち約一万の遺骨が戦地から内地に護送を見たのであります。そこで、政府におきましては、そのうちの七千柱を当時の連合国の司令部を通じまして朝鮮にお送りいたしたのでございますが、残余の数につきまして、ただいまお述べになりましたように、福岡県の佐世保の世話課あるいは呉の世話課でございますか、安置いたしておりまして、これを朝鮮に引き渡すことができないのを遺憾に思っておりますが、しかし、この保管につきましては最善の処置をいたしておる次第でございます。

○古屋委員 最善の保管と申しておりますが、私は、さような御答弁がありますと、承わります。厚生大臣、あなたは、たとえば死んだ方の命日あるいは先祖の法事ということをおやりになっておらないのでしょうか。十一年間拝みたいと言っている。拝ましてもらいたいと言っている。それを今日までほうっておいて、それで一体最善の努力をしたというお答えができるかどうか。即時引き渡しをする決意があるかどうか、拝んでもらうような方法を講ずる決意があるかどうか。もっと申しますならば、少くとも戦争の犠牲になった人たちでありますから、日本のお互いの同胞の犠牲になった方と同じ処遇をすべきだと私は思う。そういう処遇をされたかどうか。

○神田国務大臣 お答えいたします。
 安置いたしております遺骨の遥拝等につきましては、お盆であるとかあるいは適当の機会にお祭りをいたしおりまして、関係の方々には参拝していただく、こういうような処置をとっております。
 そこで、この遺骨の本国への送還でございます。これは、できるだけ引き渡す方針のもとに処理をしておるのでございますが、何しろ外国のことでございますので、引取人を正確に把握するということがなかなか困難の事情等もございまして、これらの点が確認し次第、逐次お引き渡しする、こういうような処置をとっておる次第でございます。

○古屋委員 どうもあまりでたらめの御答弁をなさいますと、あとで問題になりますよ。一体どこでいつ関係者を呼んでお祭りしたか、お聞かせを願いたい。数年間、日本の仏教徒会議まで開いて仏教徒から申し出があったはずです。厚生省には、まとめてお祭りして自分たちが拝みたいから引き渡してくれという陳情書が、請願が出ておるはずです。そういうようなことの切ない要望をしておるにかかわらず、今日まで放置されております。倉庫にそのままあるんですよ。どこでどういうときにやったか、具体的に説明して下さい。それじゃ、いつ幾日どこでどういう人を集めてお祭りしたか。一部の人ではだめですよ。何万とあるのですから。しかも朝鮮の総連ではそういう申し出を正式にしておるのです。具体的に御答弁して下さい。

○田邊政府委員 お答えいたします。昨年の秋、福岡県で保管しております朝鮮関係の戦没者の遺骨につきまして、朝鮮人関係の団体の方の御出席を得まして、福岡県で慰霊祭を行なった次第でございます。

○古屋委員 そんなでたらめの、わずかばかりの、形式ばかりのことでは相済まぬと思うのです。さらによく調べまして厚生大臣ははっきりした御答弁を願いたいと思うのです。毎日陳情も出ているはずですよ。引き渡してくれという請願も出ているわけです。しかも、一応引取手のわからない者がたくさんあるだろうから、自分の方で保管して、自分の費用でお祭りいたします、そうしなければ、日本の遺家族や日本の英霊に対してだけで、同じように戦争に召集されて同じように死んでおる、同じように戦いに倒れておるのに、区別するのは困るというのが彼らの非常に強い要望でありまして、これは正しい要求だと私は思うんですよ。こういう問題を解決しなければ、隣邦民族とのほんとうの心からの融和というものはあり得ないと思うのです。どうです、総理大臣。

○岸国務大臣 私は、今御指摘のような点は、民族的の感情から言って非常に重要な問題であると思います。いろいろ事情はあると思いますが、これはやはり十分に事情を調べまして、特に引き取るというようなことになりますと、引き取る人が正当な遺族であるかどうかということもはっきりしないというと、あとからまた問題が起ってもいけませんから、十分に検討いたしまして、誠意をもってこういう遺骨等に対する弔意また方法を講じたい、かように考えております。

○古屋委員 なお、これは、前に私御質問申し上げたときに、戦争によってなくなられた遺族の方については、日本の遺族に対する関係と同様なお取扱いをしておるという御答弁を願っておりましたのですが、その具体的な事実がございましたら、政府委員でもよろしゅうございますから、一応簡単に御説明を願いたいと思います。

○田邊政府委員 朝鮮、台湾出身の軍人、軍属の方で戦没された方々の遺族の処遇につきましては、今日恩給法及び遺族援護法におきましては処遇をいたしておらないのでございます。御承知の通り、恩給法におきましても、また遺族援護法におきましても、遺族の範囲として、要件といたしまして、日本の国籍を持っているということが一応の、要件になっております。従いまして、この法律では処遇いたしかねるのであります。この問題は別途の問題として処理するほかはないのではないかと考えております。

○古屋委員 今の問題は重要な問題でございますので、外務大臣におかれましては、特にすみやかに日本の遺家族と同じような処遇をすべき御計画と実践をしていただきたいと、私は要望を申し上げます。
 そこで、さらに進んで私が承わりたいことは、朝鮮の人で祖国に帰りたいという方が多い、しかしこの帰す方法がないということでございましたけれども、北鮮の赤十字は、日本の政府に対して、さような人々の世話をして北鮮に帰すために赤十字の代表を日本に送りたい、こういうことを昨年申し出ておるはずであります。しかるに、今日まで日本の政府はこれを拒否しておるように承わっております。これは、人道的な立場から考えまして――しかも、日本におります朝鮮人の諸君が日本の生活保護法のお世話になっておるその生活保護費の金額から考えましても、その数少くとも二十億になんなんとする生活保護費をもらっておるような状況でございます。この日本の貧乏の国において、――われわれの税金でこういう負担をすることもやむを得ないとは存じまするけれども、それらの人々はすみやかに、祖国に帰りたいと言っておるのです。これを帰す方法をふさいでおいて、そういう無駄なことをしておることが、一方においては感情を破壊し、一方においては国の予算を消極的な方面に使うというようなことになっておりますので、その点を考慮しまして、北鮮の赤十字の代表を日本に入国することをお許しを願って、世話をして、そしてこれらの人々を帰す、もしそれができなければ、韓国との関係で工合悪いというならば、韓国の赤十字の代表も日本に招致して、日本の赤十字の代表と北鮮の赤十字の代表と三者相協力をいたしまして、これらの人々を帰すということ自体が、私は人道的立場から考えましてもまことに当を得た施策だと思いまするが、外務大臣のお考えはどうでございましょうか。

○岸国務大臣 朝鮮の問題につきましては、今日の朝鮮が二つに分れていることに非常に問題解決を困難ならしめている一切の禍根があるように思います。今のお話のように、三国の赤十字が人道的立場から話し合ってこれらの問題を処理するというお考えにつきましては、十分一つ研究してみたいと思います。

○古屋委員 それでは、もう一つお尋ねしますが、北鮮の政府におかれましては、日本における朝鮮の学生諸君の学費が足りない者に自分の方から送ろう、また生活に困ってる人に対して補助金を送ります、こういうことを申してきておるのでありますが、外務大臣は、この金をすみやかに送らして、そうして日本におります生活に困っている朝鮮の人々の生活費に充て、学費に充てるということについての御決意はございましょうか。

○岸国務大臣 そういうはっきりした事実については私どもまだ承知していないようですが、しかし、今のような意図で北鮮の政府が日本内地にいる人人に送金をするということは、これを妨げるべき何らの理由はないと思います。またそういう法規もありませんし、またそれを妨げなければならないという扱いは私はないと思います。ただ、私、そういう事実がはっきりあるかないかということを今外務省の事務当局に尋ねてみましたけれども、そういうはっきりした事実は承知しておらないということでございます。

○古屋委員 そういううかつさでございますから、驚くべきですが、私ども直接交渉したのです。日本の赤十字にもその交渉は私どもいたしました。向うから電報で言ってきております。外務省も知ってるはずです。それでは、今後そういうような具体的な申し出が北鮮の赤十字からあった場合、外務大臣はこれを即時お許しになって、これをあっせんするかしないか、それを承わりたい。

○岸国務大臣 今申し上げた通り、はっきりした事実があれば、お断りする理由はないと思います。

○古屋委員 そこで、私は、その問題はその問題といたしまして、韓国との関係で承わりたいのでありますが、韓国の代表者が日本にいらっしゃるということを聞いておるのですが、それは韓国代表者としていらっしゃるのでしょうか、その点承わりたい。

○岸国務大臣 日韓の間の協定によりまして、日本に代表者を置いております。

○古屋委員 協定で置いておるのでありますが、日本はあちらにそれと同じように公平に代表部を置いておりますかどうか、置く意思があったが断わられたのかどうか、その点承わりたい。

○岸国務大臣 これは、置いておりません。その置いておらない理由は、まだ韓国政府の方でそういう代表部を韓・国に置く時期にあらずとして受け入れないというために置いておりません。

○古屋委員 もう一つ承わります。韓国側は日本に韓国銀行の支店や貿易商が駐在しております。そうして、商売をやったり、いろいろやっておりますが、日本ではあちらに置いておらないが、隣国との友好を深めるという熱意のある外務省は、これに対して、これを置く意思があるかどうか、置く意思はあったけれども断わられたのかどうか、お尋ねします。

○岸国務大臣 私は、韓国との関係がこういう状況にあることは非常に両国のためによくないというので、日韓両国の間の国交を正常化す意味におきまして、いろいろと内交渉をやっておるわけでありまして、従いまして、日本としてはもちろんそういうものを置き、さらに進んで国交を正常化して、正常な外交関係を開きたい、こう考えております。

○古屋委員 そういう関係ではなく、あちらに日本の商社を置いたり、日本銀行の支店を置いて、そうして商売をさせる意思があるかどうかということが一つ。もう一つ承わりましょう。韓国の人々が日本に来て自由に旅行しております。日本の人は絶対に断わられています。これはどういう理由なんでしょう。その点を承わりたい。

○岸国務大臣 これは韓国政府が日本に対してそういうことを許可しないし、またそういう取扱いはしないということでありまして、そういう状態自体が非常に遺憾な状態である。従って、今申したような交渉によってそういう状態をなくしようというのが私どもの考えであります。

○古屋委員 もう一つ承わりたいのですが、韓国の通信機関とか報道機関は日本で自由に活動をして報道をいたしております。ところが、日本の報道機関やあるいはこれに類する人たちが韓国に行かれてそういう報道活動をすることは禁じられていると承わっておりますけれども、どういうわけで、こういう工合に日本ばかりが義務づけられたような、一生懸命こういうものを認められて、やらせられて、日本が向うに行って情報を集めたり、将来文化の交流のために報道をする機関を置くことができないか、この点も承わりたいと思います。

○岸国務大臣 今申し上げましたように、日韓の間の関係はきわめて不公平な、また日本から考えまして望ましくない状態であると思います。これにはいろいろな事情があるかもしれませんけれども、今の韓国政府そのものが、日本に、いろいろな問題を解決するにあらざれば、そういう問題についても日本と同様には扱わないという方針のもとにきておりますので、私は、そのもとである日韓の間の国交正常化・それにはいろいろな懸案問題を解決しなければならぬと考えますが、そういう関係になっておると思います。

○古屋委員 重ねて承わりますが、今総理からお話しになった抑留者の問題ですが、勝手に李ラインを作って、勝手に日本の漁夫を拿捕しておる。こういうことは日本の完全なる行政法権が及ばないということなんです。こんな姿では一体政治をしていると言えるかどうかということを私は疑うのです。これをどういう工合に是正し解決するかということについて明快な御答弁を承わらなければ、国民は安心して漁労に出られないと思うのです。総理大臣、外務大臣としてのお立場から明快な御答弁をいただきたいと思うのです。

○岸国務大臣 私は、現在韓国との間の交渉におきまして、まず第一に人道的立場から、あらゆるものに先立って、抑留されておる漁夫を釈放し、同時にこれに対して向う側の要求である大村収容所に収容されておる者を釈放するという相互釈放によってまずこの問題を解決し、さらに進んで日韓会談を再開して、そして日韓の間に存しておる幾多の問題、このうちには今の李ラインの問題も当然重要問題として解決しなければならない問題でありますが、そういう問題を解決する日韓会談を再開して、これらの問題を公正に現実に即して解決をしまして、そうして日韓関係の正常化をはかる、こういうふうに進んで参りたい、こう思っております。

○古屋委員 そういう考え方は私は驚くべきことだと思うのです。現象形態だけを片づけて、根本問題に対する施策は何もないじゃないですか。正常化をはかると申しますが、李ラインを侵せば何べんでもひっぱられますよ。それでは、私、承わりますが、平等互恵の立場に置かれておりまするわが国が、まるで韓国の属国のような姿じゃないですか。今私がお聞きした具体的な事実は何一つ認められていないじゃないですか。これで平等と言えますか。占領下にいるのと同じじゃないですか。日本は韓国の占領下ですか。違うでしょう。私はそう思うのですよ。全くこの点については、国民がおそらくあなたから承わりたいのは、今まではこういう不平等な勝手なことを韓国からされたのだけれども、この内閣だけは少くもこういう問題の根本解決をする施策がある、こういうことを承わりたかったから私は質問しておる。それでなければ、今までのようなこんなへっぴり腰で解決がつくと思うのですか。国民もおそらく信頼しないと思う。その点について、少くも独立国とおっしゃるあなたたちの信念において、徹底的に平等互恵の立場から交渉を始めるという態度をおとりになれないか。現象形態の一千や二千の人を帰す帰さないという問題は、わずかの一時的な事案としての解決方法です。根本的な正常化――最初に申し上げたいことは、平等の立場に立って交渉するところの資格をかちとらなければならぬということになるんじゃないでしょうか。ただいま私が具体的に御質問申し上げたのは、全部不平等な、占領下におけることと同じことばかりです。少くも独立国家として、たといこれがどこの国にどういう関係がございましょうとも、韓国と日本との間においては平等でなければならぬと私は思う。しかも、これは、国際法上の正しい立場から正しい主張をするのが正しいと思うのであります。しかしながら今のような人道問題を片づけることにきゅうきゅうとして、根本的な不平等の立場を改める意思があるかどうか、この点について具体的な方針があったら聞かせてもらいたい。これはおそらく日本国民があなたから承わりたい要望の一つだと思います。御答弁願いたい。

○岸国務大臣 日韓の関係を正常化して両国の長い友好関係を作り上げなければならぬというのが究極の目的であることは言うを待ちまちません。しかし、それを解決するのに、長い間の国民的感情、特に留守家族等の人々の気持から申しましても、われわれから言えば不当だと思われるような釜山に多数の漁夫が抑留されております。そうして、平等の立場から話をしようとしても、いわゆる心理的に言えば一種の人質的な形において交渉するということは、いわゆる平等なる立場において公正に話し合うということの基礎ができないと思います。そこで、両方とも、そういう人道的問題、国民感情に非常に強く響いているところの問題をまず解決して、そうして両国の関係を互いに独立国として公正な立場からいろいろな懸案問題を――李ラインの問題や、財産権の問題や、いろいろの問題がございます。これらの問題を平等な立場で話し合って解決する。そうして、歴史的に言うても、民族的に言うても、地理的に言うても非常に深い関係のある日韓の間がこういう状態にあるということを一日も早く除いて、そうして平等な立場で友好的な関係を作り上げていくことが、日韓両国のために必要である。しかし、それには、今非常に感情的になっている人道的な問題をまず解決する。そうして続いて日韓会談をやって根本問題を解決する。根本問題と今の問題をからませてすべて一挙にやろうとすると、今のなにから言っても、国民感情から言っても、感情的な問題があり、また考えようによっては一種の人質的な交渉をしなければならぬというふうな結果になるのであります。従って、そういう意味において、今の抑留者の問題をまず解決して、続いて日韓の間の懸案問題を公正にかつ現実に即して両者が平等な立場で話し合って、そうして永遠なる友好関係を作り上げる、これが私の考えであります。

○古屋委員 くどいようですが、私から申し上げますならば、人道問題は、これはほかのことを言わないでも片づけるべき問題ですよ。人道問題が片づかないからほかの問題は不平等でもいいという理論は成り立たない、私はそう思います。しからば、根本的な問題が片づかなければ何人でも何百人でもまたつかまってしまうじゃないですか。そんな連鎖的な、わずかばかりのできごとの感情問題を解決することにきゅうきゅうとして――私は根本的な両国の正常化問題を解決してもらいたいと思う。それにはもっと根本的な施策を持たなければならぬと思うのです。もっと独立国家としての態度をはっきりしてもらいたいと思う。こんなようなへっぴり腰で、しかも日本民族がほとんど韓国から侮辱されているような立場に置かれておりますことがこのままでは、私は根本的に解決がつかぬと思うのです。と申しますのは、何と考えましても不平等の扱いを受けておることを認めたことになっておるじゃありませんか。人道問題についてその問題を解決することにきゅうきゅうとするばかりであって、根本的に不平等だという抗議な申し出ていない、これを是正する努力を政府はしていない。こういうことならこれらはもうすでに韓国から侮辱された、圧迫された国の姿だと私は思うのです。これを直さなければだめです。と申しますのは、李ラインの問題につきましても、竹島の問題につきましても、その他の問題についても、この問題を片づけなければ、今の問題は副作用的に起ってくる問題です。李ラインがあるから抑留されているのですよ。その李ラインの問題の根本を解決する方針や努力を持たなければ、その結果の方を何とかしょうと、根本を片づけずに裏の草を刈っても草は幾らでも生えますよ。この根本問題、竹島問題、李ライン問題、これをほんとうに片づけるだけの決意と態度と方針を私は聞かしてもらいたい。人道問題は当然片づく問題です。だからその問題について施策がありますならば、これは聞かしてもらいたい。なければないということであって、国民からほとんど無能の内閣である、無能の外務大臣であるというそしりをあなたは受けなければならない。その点をお聞かせ願いたい。

○岸国務大臣 古屋君もよく御承知でありますが、人道上の問題は自然に解決するというが、簡単にこれは解決しておらないのです。それからもちろん李ラインの問題は、これを解決しなければならぬことは言うをまちませんが、李ラインの問題にしましても、竹島の問題にしましても、われわれはそういう問題に対しては強くわれわれから抗議を申し込んでおることも御承知の通りであります。ただ抗議を申し込んでおってもそれを聞かないというのが現状でありまして、そういう状態をなくするために、われわれが日韓会談を過去においても数回やっておりますが、これが解決しておらない。そうして現在はやはり人道上の問題で、これはほおっておいても解決するかというと、そうでないので、去年以来この問題だけを解決しようとしても、これが解決されておらないという状態で、遺家族その他これの関係者からこの問題については非常に熱烈な要望をしていることも御承知の通りであります。私はこの問題さえ解決すればあとはどうでもいいというような考えではもちろんありません。この問題をまず解決して、そうして続いて日韓会談を再開して、李ラインの問題や竹島の問題やいろいろなむずかしい問題がございます。これを平等の立場から、また日韓両国の永遠の友好関係を作り上げる上からこれを解決しよう、こういう考えでありまして、その方へ先に取り組んで、釜山のものはほおっておいても自然に解決するのではないか、こういうお話のようでありますけれども、私はこういう事態ではないと思う。この問題は、釜山の抑留者の問題はまずこれを一日も早く日本に帰して、そうして続いて日韓会談を再開して、今の根本問題に取り組んでこれを解決するそうして永遠の友好関係を作り上げるというのが私の考えであります。

○古屋委員 どうも私と総理の意見は、私は根本問題を解決しなければ、派生的な副次的なできことは何ぼ解決してもいろいろあとから生まれてくるという意見を申し上げているのですが、しからば私はこういう工合に質問申し上げましょう。これまで韓国側は日本に対する要求を、私どもが知っております範囲では、久保田発言を取り消せ、日本の韓国にあるところの例の財産の請求権を放棄しろ、韓国の日本に対する各種の賠償請求権とこれを相殺しろ、李ラインを承認しろ、竹島の領有等、いずれもこういう問題を承認してくれば日韓会談に応じるというふうに伺っておるのですが、こういう問題に対する外務大臣の対処すべき御方針はどうでしようか。この問題について私は具体的に承わりたいと思う。

○岸国務大臣 韓国側の要求は今お話の通りであります。われわれはこれに対して反対の提議を従来いたしております。従いましてこの両者の意見がまとまらずにおるというのが、会談の現在までの段階であります。しかし私はこれらの問題を解決するのに、必ずしも従来の主張にとらわれることなく、現実に即して公正な見地からこれらの問題を解決したいということを申しております。具体的に一々私はこの席で、久保田発言をどうするのだ、財産権の問題をどうするのだ、李ラインはどうする、竹島はどうするということを結論的に申し上げますことは交渉の前に当りまして私は適当ではないと思います。しかしこれらのむずかしい問題を、両国の永遠の友好関係を作り上げるというこの両方の了解のもとに、公正に現実に即してこれを話し合おうじゃないかという提議をいたしておるわけであります。両者の従来の主張はま正面に対立しておることは御承知の通りでありまして、従って今日まで解決を見ておらないというのが現状でございます。

○古屋委員 総理大臣は施政演説の中で、日本の青年の民族自決の精神の振興とか復興とかを非常に強調されて、青年が将来の日本を背負って立つ責任感に燃えて熱烈に立ち上らなくちゃならぬということをおっしゃっておりますが、こういうへっぴり腰な政府のやっていることを見せつけられる青年はまじめな、はっきりした民族自決の強い精神、民族に対する自覚の強い精神をもって立ち上ろうということを、先頭に立って模範を示すべき方たちがこういうへっぴり腰でありますから、どうも私はぴんとこないと思う。そういう意味においてまことに残念でございますけれども、どうかただいま私が申し上げましたような、不平等な取り扱いを受けておりますところの韓国に対する基盤の是正に努力すべきだと思う。
 そこで話を変えまして、それじゃ承わりますが、これと一緒に同じように、わが国といたしましては考えなくてはならぬ立場にいる北鮮に対しましては、北鮮の政府は喜んで日本と自由な往来、自由な貿易、国交の正常化をすみやかにしたいということを申し出ております。声明をしております。従いまして、韓国のこういう問題がなかなか見通しのつかない困難な状態に置かれておりますならば、北鮮の方とはすみやかにできる状態にありますから、北鮮と国交正常化の交渉をやる御意思があるかどうか。向うでは日本に呼びかけてきている、文化の交流もいたしましょう、貿易もいたしましょうといっている。特に北鮮にはわが国に最も必要な大事な生産物がたくさんあるように心得ております。黒鉛であるとか無煙炭であるとか、すぐ日本の経済の上に非常に役立つものがある。しかも向うでは日本に売りましょうといっている。こういう貿易の再開、北鮮に対するところの国交正常化、回復の御意思があるかどうか。北鮮から申し出がありますならば、これを受けて立つだけの御決意があるかどうか、これを承わりたい。

○岸国務大臣 私は今最も現実の問題として、いろいろな懸案をたくさん控えております韓国との間の国交正常化を、先にすべきものであるという立場に立っております。今北鮮とそういう交渉をする、もしくはそういう方向に進んでいくということは、現実にわれわれが懸案を解決しなければならない重大な必要に迫られている韓国との関係を処理する上からいうと、望ましい結果にならないと思います。従って今日のところにおいては今御提議になったようなことの意思は私は持っておりません。

○古屋委員 その点は私ども通念的に考えて、お前の方がやらなければ北の方とやるぞというような態度をとることが、南の方との不平等関係を是正する一つのいい示唆になりはしないかと思いまして申し上げたのでありますが、私はそう思うのです。両方一緒に、南北両方同じような態度をもって同じように交渉することが、将来の統一された朝鮮民族に対して、日本が隣邦として最も友好親善を深めるゆえんであると思いますので、少くとも南に交渉するならば北にも交渉するというような平等な立場から、朝鮮問題解決の基本的な線を出していただかなければならぬと思いますが、南北両方をくるめた統一朝鮮としての立場から、朝鮮民族に対する根本的な、総理大臣、外務大臣の施策をお聞かせ願えればけっこうだと思うのですが、いかがでしょうか。

○岸国務大臣 朝鮮の統一は、隣国として望ましいことだと私は思いますが、これは朝鮮民族の問題でございますし、朝鮮自体の問題でありまして、私どもがいかんともすることのできない問題であることは言うまでもないことであります。私は先ほど来申し上げましたように、自分としては現実に問題になっていることを処理して、御指摘のような不平等な関係にあるものを是正することが、この際内閣として最も力を入れてやらなければならぬことだと考えておりますので、今両方に平等に交渉するという考えは持っておりません。

○古屋委員 そうしますと、冒頭に申し上げました総理、外務大臣の外交政策については、韓国との交渉について不平等な取扱いを受けまして、今問題は壁にぶつかっておる、今後これに対する解決の見通しはないということに承わっておけばいいのでしょうか。それとも見通しはこうだということを国民に御発表なさり、私の質問に御答弁ができるかどうか、この点も承わりたいと思います。要するに、朝鮮問題並びに隣邦に対する日本の外交政策について、最も近い、密接な関係を持った韓国の問題は、ただいま私が御質問申し上げたような不平等な立場に置かれたままで壁にぶつかっておる。この打開については政府には具体的にこうだという施策はない。それで当分の間は、日本の政府といたしましては、努力はするけれども、この状態ではやむを得ないとお考えになっておるのか、この点をもう一度お伺いしたいと思います。

○岸国務大臣 私、外務大臣に就任以来、韓国の当局側の代表者と直接に、この韓国との問題について、先ほど申しましたような方針において、まず抑留漁民を即時釈放するという話を進めてきております。続いて日韓会談を再開して、日韓の間の懸案を解決するという話し合いを続けておりまして、韓国の代表者もその間本国に帰って政府と打ち合せもして参っております。今いつまでにどうなるということを申し上げることはできませんけれども、今の努力を続けていくならば、これらの問題の解決の糸口を見出し得る、こういう考えでおります。

○古屋委員 今の御答弁によりますと、昭和二十八年からやられております韓国交渉と一歩も出ていないと私は思うのです。これは二十八年からです。もう四年も五年もたっておる。そこでもう少し待てと言われましても、日本の漁民の生活は非常に苦しくなっておりますし、この問題の解決は日本の国民生活安定に非常に重要な影響を及ぼすものでありますが、やはりただいまの御答弁以外には確答をいただくわけにいかないのでございましょうか。四年越しの問題がいまだに解決しない、見通しもつかないということになると、国民の立場から申し上げますならば、政府の重大なる責任を追及せざるを得ないということに相なるわけでありますが、いかがでありましょうか。

○岸国務大臣 私、誠意をもってこの解決に当っておりまして、今申し上げましたように、まだいつにはどうなるということをはっきり申し上げる段階に達しておりませんけれども、しかし、私が就任以来の交渉の経過にかんがみてみますと、解決の方向に相当進んでおるということだけは申し上げ得ると思います。

○古屋委員 まことに残念でありますけれども、もうこれ以上御質問申し上げても御答弁いだたくわけにいきませんから、この点は切り上げまして、今度は在外財産の問題を承わりたいと思うのです。
 岸総理大臣は、かって幹事長のときに、在外財産の問題について引揚者団体全国連合会の諸君とお約束をしておるはずなんです。誠意をもってこの問題は片づけるというお約束をしておるのでありますが、この問題を具体的に解決をするところの案がおありになったのかどうか。新聞で拝見しますと、前には四百五億を出す、今回は五百億を出すということが見えておりますけれども、果して政府は五百億で解決をする御意思であるかどうか。もう一つ、この問題につきましては、従来国会の両院の会議におきまして決議されておることであります。しかも超党派的に審議会において全会一致答申が出ておるはずであります。従いまして新聞に発表されておりますような問題について、政府の御意向であるのか、それとも明確に政府はこれをお出しになる決意が行われたのであるかどうか、その点をまず承わりたいと思います。

○岸国務大臣 詳しいことは厚生大臣からお答え申し上げますが、私は、今御指摘がありましたように、自民党の幹事長をいたしておりますときに、引揚者の代表者とこの問題の解決に与党として誠意をもって当るということを申しました。それに基いて内閣に在外資産問題の審議会ができまして、これは超党派的に、また在外財産を持っておる引揚者の代表者も入れまして、その答申ができましたので、石橋内閣の施政方針の中に、この答申の線に沿うてこれを解決するということを国民の前に明らかにいたしております。しこうしてこの問題には誠意をもって政府も解決に当りまして、この予算審議に間に合うように結論を出すという考えのもとに、今日まで努力をいたして参りました。その結論的なことは厚生大臣から申し上げることにいたします。

○神田国務大臣 お答え申し上げます。海外同胞の在外財産等に対する処遇の問題でございますが、ただいま総理大臣からお答え申し上げました方針に基きまして、政府といたしましては、給付公債によって五百億円十ヵ年賦、それから六分の公債を発行して給付公債として支給いたしたい。それからそのほかに海外引揚者の生業資金と申しましょうか、そういう用途に充てるというような意味をもちまして、市中公債を担保にして、あるいはまた対人担保等をも勘案いたしまして、年間二十億円、約五ヵ年間で百億円というような予想を立てまして、これを生業資金に充てたい。それからまたさらに、御承知のように、引揚者の住宅環境が非常に悪いのでございまして、これを第二種住宅といたしまして、五年間に二万戸程度の住宅を建設して、引揚者の用に供したい、こういうような方針をもちまして昨日その方針を決定いたしております。交付の内容等につきましては、詳細目下検討いたしておりまして、成案のでき次第法案を国会に提案したい、こういうふうに考えております。

○古屋委員 なお私は総理に承わりたいのですが、総理はこの今の金はこれは新聞で拝見しますと、涙金であるというようなことが新聞に書かれておりまするが、これは涙金ということのお考えでやられておるのか、それとも補償というような意味でやられておるのか、それとも総理が戦争を引き起した当時の責任者でもあるし、その戦争の結果日本の軍人が原住民に与えたいろいろの残虐な行為に対するその報復を、終戦後残されて外地におりました日本の同胞が、日本の八千万国民にかわってその報復を身をもって体験をして参りました。そういうような気の毒な立場に対する一つの贖罪というような意味でこの金が出されておるのか、この点を承わりたいと思うのです。というのは少くも総理が戦争中なさった行為について心から反省し、贖罪の決意があるということを御答弁なさっておりますので、そういうような強い意思のもとにこの金を出されるようなことになったのかどうか。全連の諸君とそういう立場で心からのお約束をしたのかどうか、この点も承わりたいと思う。

○岸国務大臣 引揚者のこの在外財産のいわゆる補償問題の扱いにつきましては、従来も審議会においていろいろと研究をされてきた問題であります。相当長い歴史的な問題でございますが、私は昨年これらの人々と話をして誠意をもって解決するということを申し上げて、そうして内閣に審議会を置いたのであります。この審議会におきましても在外資産の補償をすべきであるかどうであるかという法律論につきましては、いろいろ専門家なりあるいは各方面から論議を尽されたことも御承知の通りであります。その結果といたしまして、とにかく今お話の涙金とかなんとかという意味ではございませんけれども、国家が補償するというのには法律的に補償の義務があることが明確でなければ、国家として補償すべきじゃないことは言うを待たないのであります。その点については議論が分れまして、結論が出なかったのであります。そこで給付金という問題があり、またさらにこの引揚者のいろいろな生活環境その他を見て、この問題を解決するためには給付金の問題と、それからあわせて生業資金や住宅問題も解決するということが、答申になっておることは御承知の通りでありまして、私はその答申の御趣旨に忠実に沿うて、そうしてこの問題を解決するというつもりで、今の結論を出したわけでございます。

○古屋委員 最後に一つ承わりたいのは、この問題は超党派的に今までやってきた問題でありまして、今御説明の通りであります。従いまして今後これが立法化す場合に、やはり社会党その他の各政党ともしっくり相談の上でおやりになる意思があるのかどうか。ことにこの五百億という金は、社会党の昨日の官房長官に対する申し出に対する御返事として御決定になったのかどうか、それとも社会党はかまわない、自分たちはこれで勝手にきめるのだというような御意思であるのかどうか、この点をお尋ねしたいと思いますのは、この金を出しまする経過並びに今日までの事情から申し上げまして、超党派的にいずれもこれは決定して参った事案でございます。従いましてこの金の問題につきましても、もちろん政府が予算の問題については責任を持っておりまするけれども、最後の決定をいたしまする場合には、従来の超党派的な立場から、社会党その他の政党にもよく御相談をして決定をすべき筋合いだと私は思うのです。それからまたこの立法化につきまして、やはり共同提案の立場で立法化をはかるべきだと思いますが、この点に対する所管大臣の御説明を承わりたい。お心がまえを承わりたいと思います。

○神田国務大臣 お答えいたします。政府提案の法律案として御審議を願いたい、こういうような現在の考え方でございます。

○古屋委員 それからもう一つ厚生大臣に承わりたいが、さっきの二十億のまかないとかなんとかいうのは、この問題はニュアンスからいきますと、いかにも金を出すようなものですが、これはことしの二十億の予算の中で融資をするということであって、今後の問題についてはただそう考えておるということであるかどうか。住宅問題についても、二万戸というものを将来引揚者のために何とか世話しようということであって、ことし具体的に何戸をどういう方法でやるかということについて御説明がないようですが、一体五百億のほかに何か引揚者に対する政府負担となるべき支出をするようなお考えがあるのかどうか、この点も承わりたい。

○神田国務大臣 生業資金等による貸付につきましては、国民金融公庫を通じまして、今年すでに二十億予定いたしております。交付公債を担保として借りる、あるいはまた無担保で借りる。これは無担保では他の一般方法に準じて借り得るわけではございまするが、給付公債の担保なしの財源があった場合には、その方面にも使ってもらう。これは今年同様の程度の処置を、今後今年をもととして五年間継続いたしたい。それから住宅の建設の問題は、この三十二年度では引揚者用といたしまして第二種住宅に一千戸計上いたしております。それをさらに三十三年度以降四ヵ年をもちまして一万九千戸、すなわち二万戸を目標として予算化していきたい、そういうことを政府の方針としてきめたわけでございます。

○古屋委員 さっきの私の質問は、これに対する立法の問題については、表面上は政府提案ではございますが、ところが従来の慣例は、やはり与党と社会党と政府と一体となって相談をした形において、そうして立法化す、提案する、こういうことに行われておったのですが、そういうような御意思のもとに行われておる政府の御提案でございましょうか。

○神田国務大臣 ただいまお答え申し上げましたこの五百億の給付公債を支給するということに関する法律案の立案、提案等につきましては、政府といたしましては超党派的に御審議願った、斯界の権威も加えて御審議を願った審議会の答申の線の通りにいたしていきたい、こういう考えでございますので、審議会が政府に答申されたわけでございまして、そのまた内容も今申し上げたような線が加わっておったのでございまするから、政府がこれを立案して、そうして御審議を願う、そういうふうに現在考えております。

○古屋委員 今私の方から承わっておるのは形式じゃないのですよ。その内容についてさようなお考えを持っておるかどうかを聞くだけなんです。その点いかがでしょうか。

○神田国務大臣 お答えいたします。審議会の答申の線を尊重して、そうして立案するのでございまするから、それは何といいましょうか、超党派の、いわゆる野党の意見も入っておった、またおまかせ願っておったのだという私は考えを持っておりますので、政府といたしまして、それを尊重して立案御審議を願うような方途を講ずれば、それでよろしいのではないか、こう考えておったのでございますが、御納得はいきませんか。

○古屋委員 そういうことをそういうように開き直ると、こっちも開き直りたくなるのです。そういうことは実はこういうことなのです。わが党からもこの問題について案が出ておるのです。わが党から案を出しまして、そうして最後決定をするときはやはり全連の代表者に対する政府の御意向は社会党その他の政党とも相談して決定いたしますということを約束されておる。だから私は聞いているのです。従ってわが党は今日まで政府並びに自民党から五百億を決定したということについての御相談や通告を受けていないのです。だから私はしつこいようですが承わっておくのですが、この問題はやはり重要な問題でございまして、相当論議の過程においてたくさんの疑義を包蔵しながら片づけようとする事件でございますか、そういう意味において、私はこれは総理に承わりたいのですが、五百億を決定する前に社会党に相談する意思があったかどうかということ、そうして他の政党とも協力の上に超党派的に相談をして、最後の決定をするというような態度をおとりになっていただかなければならぬ筋合いでありますが、そういうようなお考えがあったかどうかを承わりましょう。

○神田国務大臣 要綱を審議会の線に沿って決定いたしたわけでございますから、ただいまの御意見もございますので与党にこの立法化を相談する際に、一つ社会党の方にも要綱を提示いたしまして、そして御納得をお願いいたしたい、提案は政府としてやはり提案いたしたい、こういう所存でございます。

○古屋委員 法務大臣に一つ承わりたいと思うのですが、今日まで日本におりまする朝鮮の方たちの登録の問題なんですが、これは一般の外国人と同じような取り扱いを受けておるわけでありますが、この日本におりまする大部分の朝鮮の方たちは、先刻も申し上げましたように、日本の国民として日本に在住をされた、そうして日本の国民としての納税の義務も徴兵の義務も果して参りました。しかるに終戦の事実によりまして外国人ということに相なったわけであります。でありまするから、外国の人たちが日本に旅行をされ、日本に在住しておりまするところの管理の必要上なさっております登録の問題といたしましては、私はその歴史とその経過の事実について、普通の外国の人と同一視するわけにはいかない問題であると思います。従いましてこれらの人たち、いわゆる生れてから今日まで、あるいは数十年にわたって日本におって日本の国民であったものが、外国人になってしまったというこういう歴史的な経過の事実がございますので、この登録というような外国人管理の根本的な適用を受けなくても、この点の管理は十分にでき得ると思うのでありますが、この登録法の例外規定を設けて、これらの人々を例外的に取り扱うところの意思が法務大臣にあるかどうか、この点を承わりたいと思います。

○中村国務大臣 お答えいたします。お話のように台湾関係、朝鮮半島人関係の人たちは他の外国人とはなるほど歴史は異なっておりますが、終戦後日本の領土から独立をして分離をいたしましたので、従って本質的に外国人であることは御異論がないと思うのであります。かような前提に立ちまして、昭和二十二年に御承知の通り外国人登録令がしかれ、さらに昭和二十七年講和条約の発効の際に、国会の議決を経て外国人登録法が制定されまして、この法律の運用に基いて登録制度をいたしておるのでございますから、多少歴史の上に移動はございましても、外国人登録を実施いたしておりまする以上は、これに対して特殊の例外を設けるということはかえって取り扱いを困難ならしめることになると思いますので、私どもとしてはそういう例外を設けることは至難であろうと思います。従いまして現在の実施されております外国人登録法に基いて、外国人である以上はすべて同じ平等の取扱いにおいて登録の制度を遂行して参りたい、かように考えておる次第であります。

○古屋委員 以上のような事情でやむを得ないといたしますならば、今度は取扱いの実施方法についてはなんとか手かげんができないかどうか、こう申しますのは、登録令違反の現在の数字は、すでに全国で数千に及んでおるように私どもは聞き及んでおりますので、これらに対する処罰の関係、制裁の関係につきましては、前の事情を相当くまれてこの取扱いをしていただくことができるかどうか、その点をお尋ねしたい。

○中村国務大臣 御指摘の点につきましては、なるほど外国人登録法が実施されまして、ちょうど昨年の十月、十一月にわたった時期が、主として一斉に登録制から登録法への登録がえをいたしました期限になりましたので、昨年の十月ないし十一月の登録がえが多かったわけでございます。ところが初めての切りかえでもございますので、その期限より三十日以内に登録がえの申請手続をすることになっておりますが、期間を遅滞をいたしたものが相当ございまして、これがそれぞれ告発の手続を受けております。これは実は御承知の通り登録の手続は各市町村の窓口でいたすものでありますから、その期間内に登録を遅滞いたしたものに対しては事務的に同列に告発が行われておるわけであります。従ってその告発されておるものを今後どう処理するかということにつきましては、古屋議員お話のように、できるだけそういうような事情を勘案いたしまして、告発があったから必ず処罰をする、あるいは処罰は執行猶余も与えないで罰金を徴収するというのでなしに、できるものについては起訴猶予をできるだけ行う。またどうしても性質が処罰に値するものと判断をされる場合におきましても、直ちに徴収をしないで、罰金の執行猶予の決定をするとかいうようなことにつきましては、できるだけ円滑な登録法実施の運行ができますように、私どもとして考慮を払っていきたい、かように考えております。

○古屋委員 もう一つ、永住の許可を受けております朝鮮の諸君で、従ってこちらで出生をいたしたような場合がございます。この出生の場合に対しての取扱いが、地方におきまして出生をいたした場合におきましても、中央に出て参りまして諸般の手続をしなくちゃならぬというような関係がありますので、非常に複雑と費用がかかるわけであります。この点につきましては、今ここで御答弁をいただかなくてもけっこうでございますから、私御要望申し上げたいのは、さような手続に関する簡素化、努めて在住朝鮮人の諸君の負担が重くないような御処置を考慮されまして、御解決をいただきたい、こう考えます。
 以上要望申し上げまして私の質問を終ります。

 第028回国会 参議院本会議 第5号 昭和三十三年一月三十日(木曜日)午前十時三十四分開議

【発言順】
 議員     石黒忠篤
 内閣総理大臣 岸信介
 外務大臣 藤山愛一郎
 法務大臣 唐澤俊樹
 議長   松野鶴平

○石黒忠篤君 私は緑風会を代表いたしまして質問をいたします。
 まず第一は、わが国の外交について、もう少し自主性を持ってやっていただきたいということであります。(拍手)総理大臣及び外務大臣が述べられましたわが国外交の三大原則は、多少あいまいなところがありますけれども、それはよいとして、その実行に当って、今までのように、あまりに現実に左右せられることなく、努めてわが国の自主性を堅持して、はっきりとやっていただきたいと存ずるのであります。それでないと、せっかく唱えられているところの、アジアの一員としての立場を堅持して、その信頼を得て行くこともできません。自由主義諸国と協調して行くのに、対等の立場を保って行くこともできません。(拍手)
 昨日、総理大臣は、演説の冒頭において、自分は機会あるごとに核実験の禁止を全世界に向って強調して参ったと申されました。これはいかにも申された通り、全人類最大の課題と申されたが、その通りと思います。国家の安危にかかわる政治の眼目であると申されたが、その通りと思います。それであればこそ、わが参議院は三回、衆議院は二回、決議を行なって、このことに関して、世界中で特殊の地位にあるわが国民の痛切なる要望を表明したのであります。しかるに、この国民の声を政府はいかに世界に伝達したのでありましょうか。私は遺憾ながら、総理の言葉はきわめてよろしいが、真剣さを欠いて、小細工に失した感に打たれざるを得ないのであります。(拍手)政府は、現実的見地よりというようなことを言うて、国連において、さきには澤田代表をして核実験の続行を前提とする登録制の提案をいたさせました。しかし、それはちっとも顧みられることなくして、実現を見ずして終ってしまったのであります。そしてまた昨年は、藤山外相、松平代表は、これを軍縮の進捗にからませて、次の総会まで十二ヵ月の実験停止を主張されましたが、この案はあいまいな案だと評されました。そもそも国民を代表するわが国会の決議は、一つの独立の核実験禁止の要望であります。実験それ自体が、人類に及ぼす累積的危害があるということの警告でありまして、一般軍縮とからみ合せたものでありません。この点を軽視して、実は容易にまとまることのできないような軍縮にからませたことは、見方によるというと、実現を困難にする条件をつけたとさえ思われるのであります。(拍手)案の定、この提案もまた軍縮小委員会に送り込まれて、第一に否決されたのであります。一向に現実的措置ということにはなって参らないのであります。日本の国連における地位は進みました。そこで、総理が最重要視するところの核実験禁止を今後いかにして主張せんとせられるか、お伺いいたしたいのであります。(拍手)
 米英が核実験禁止を好まぬことはわかり切っております。その鼻息をうかがって控え目に主張をいたしたり、ソ連の主張に乗ったように見えるからなどと気を回して、現実的方法などという小細工を弄することは、もうやめたらどうかと思うのであります。(拍手)私は自主的立場から、原爆被害の唯一の犠牲者であり、世界的な死の灰の谷に住む国民としての強い要望を、率直に、たゆまずに主張し続けることであると思いますが、政府の考えはいかがでありましょうか。(拍手)
 総理はさきに、松下立大学長を特使として、禁止問題を英国初め世界に訴えしめられました。そして松下学長は、純粋に、実験それ自体の人類に及ぼす危害を説いて、その禁止を熱心に主張され回ったのでありました。私はこのことを衷心より多といたし、この特使を発した岸総理大臣に感謝をいたしております。その松下学長は復命において今後は実験が人類に及ぼすおそるべき危害を持っておるということを、ますます科学的実証をもって説くことが必要であると述べておられるのであります。この問題に関しまして独得の立場にあるわが国は、幸いにして、この問題の科学的研究上、他国の有せざる最も適当な試験動物として蚕を持っておるのであります。しかのみならず、かつてその遺伝学的改良によりまして、わが国の貿易の大宗たらしめた優秀な研究者のすぐれた学識経験と、数万の卵の中から一粒、二粒の突然変異を見出すような鋭利熟練の観察力を備えておるのであります。この際これをこの方面に動員して核実験のフォール・アウトが人類の後の世代に及ぼすおそるべき遺伝学的影響を予知せしめ、人類の将来に貢献することこそ、わが国の努力すべきところであると考えるのであります。
 さきに、総理大臣はこの私の主張をお聞き下さいまして同感さ、れたのでありますが、今回の予算に科挙奨励に相当に支出をされるようになっておりますが、それは、はなばなしい方面にのみ注入されてはならぬと考えます。政府の施策は、かくのごときじみな、わが国独自なものに対して注がれなければならないと考えます。試験の一年は、人類数世代に当る結果を持ち来たすのであります。総理大臣は、これに対して同感はされ、所によっては私の受け売りをなさることもあったようでありますが、その実行に関しては、いかなる手段をとられんとするのでありますか、お伺いいたしたいのであります。(拍手)
 旧臘の日韓交渉で、釜山に不法抑留されました人々が釈放せられ、また四代の内閣にわたって持ち越された日韓交渉が、ようやく三月一日から正式に再開されることになつたのは、まことに御同慶にたえま昼ん。しかしながら、これらの喜びはそれといたしまして私は従来の交渉の過程においてまた近々再開される第四回全面会談を前に控えまして、一抹の心配を感ぜざるを得ないのであります。それらの点について、外務大臣でもよろしい、もと兼摂外務大臣からでもよろしい、どちらからでもよろしいが、お伺いをいたしたいと思うのであります。それは、わが国側の在韓財産請求権の一方的放棄についてであります。日本側が韓国側に出しました口上書には、日本政府は、久保田貫一郎代表が行いました発言を撤回する。さらに、日本政府は昭和三十二年十二月三十一日付の、「日韓請求権の解決に関する日本国との平和条約第四条の解釈についてのアメリカ合衆国の見解の表明」を基礎として、昭和二十七年三月六日に日本国と大韓民国との間の会談において、日本政府代表の行なった在韓財産に対する請求権主張をここに撤回するとしるされております。共同声明にも、同様なことが繰り返されておるのであります。私は久保田発言の撤回について言うべきことを多く持っておりますが、それはしばらくおきます。後段の在韓財産に関する請求権につきましては、日本側が一方的に放棄しているだけで、韓国側のことについては何ら触れておらないのは、いかような次第でありましょうか。そして昭和三十二年十二月三十一日、すなわち会談妥結のどん詰まりの日付の「アメリカ合衆国の見解の表明」というのは、どういうものでありますか、お伺いいたします。おそらくこれに関して両国1の見解が対立して、窮余の策であったろうと事情は了解するのでありますが、前会談において、あれほど主張されたところのものを、にわかに譲歩せざるを得なかったのはどういう次第であるか、伺いたいのであります。もしここまで譲らなければならぬことになったならば、何も、アメリカの意見に基いてなどと言わないで、わが政府の責任で、日本の自主的放棄になぜしなかったのか、遺憾をもってこれをお尋ねするのであります。
 次に、今年は総選挙必至の年であります。衆議院の解散がいつになるか、それは総理大臣自身ですら、まだわかっておらないことと存じます。しかるに、その選挙の事前運動は、すでに相当大胆に、かつ悪質に行われておると伝えられておるのであります。その上にまた、今秋より明春にかけて、都道府県、市町村等において公職選挙が合計四千九百八十二件行われるはずであります。選挙関係筋の推測によると、おそらくこれらの選挙においては、露骨な悪質な選挙運動が、半ば公然と、きわめて旺盛に行われることであろうと考えられておるように思われるのであります。なぜ、かように選挙違反の大発生が当然のように考えらるのでありましょうか。それは、ここ一両年のうちと予想される皇太子殿下の御成婚に伴う、必然行われるであろうところの恩赦によって違反炉許されるということが、激増を予想される理由であるということであります。そこで、皇太子御成婚恩赦から選挙違反を除外せよという世論が、すでに各方面に起っておることは、総理大臣も御承知のことと存じます。これに関しましては、近い先例があります。政府は、一昨三十一年十二月の国連加盟を国家の慶祝事として恩赦を行いましたが、その適用せられた範囲は、個別恩赦はわずかに三千人だったのに、公職選挙法違反等の政令によっての恩赦は七万三千人の多数に上ったのであります。このことに関する当時の衆議院法務委員会の速記録を見ますと、牧野法相の措置について自民党はもとより、社会党、共産党の諸君まで、一致して同調せられておるのであります。まことに珍しい光景でありますが、われわれには実に苦々しく感じられるのであります。更正なる民主政治発達のために、まことに遺憾に思われます。何のための公職選挙法であるか、何のための選挙取締りであるか、法治国として、まことに憤慨、憂慮にたえません。(拍手)これよりさき、かくのごとき恩赦の実現をするおそれが見えたので、わが緑風会は、その不当なるゆえんを力説して、善処を政府に要望する事前の申し入れをなしましたが、五日あとの閣議は、これを無視して決定されたのであります。ついに阻止することができませんでした。われわれの無力を痛嘆ずるほかないのであります。そこで、かくのごときことを再びあらしめてはならないというので、われわれは、第十七控室並びに無所属クラブの諸君とはかって、行政府が恩赦を行う場合には、必ずこれを恩赦審議会に諮らなければならぬことといたしで、その厳正なる審査によって、法の悪用を防ぎ、公明選挙の実行に資せんとする同法の一部改正案を参議院の法務委員会に提出したのであります。この提案は、つとに、わが宮城委員等によりまして、法務委員会において主張されたのであったが、案件山積のために、審議の進捗思うにまかせず、継続審議となって今日に及んでおります。今後われわれは、一人でも多く同志の人々を得て、この案の審議を推進したく考えております。しかしながら、多数議員諸君の御協力を得るにあらずんば成立させることができません。そこで、自民党、社会党、共産党の諸君にお願いを申し上げます。今後は何とぞこの件に関して、一致したる御同調を下さらんことを願います。(拍手)なお、この機会に、首相並びに海相から御成婚恩赦には選挙違反は含ませないという力強い声明を、ここにいたして下さることができるならば、幾多の災いを未然に防ぎ得て、幸いこれに過ぐるものはないと存じます。かくのごとき何らかの阻止方法が確立せられるにあらずんば、国民に順法精神を求めることは不可能であります。法律の尊厳は地を払い、民主政治は根底から崩壊する憂いがきわめて深くあると思います。首相及び法相の御意見をお伺いいたします。(拍手)
 
 〔国務大臣岸信介君登壇、拍手〕

○国務大臣(岸信介君) 石黒議員の御質問にお答えをいたします。
 第一の、外交は自主的立場を堅持しなければならないというお話は、これは全く私もさように考えておりまして、従来とも、その点を非常に高調し、また実現するのに努力をいたしておることは御承知の通りであります。ただ、原水爆実験禁止の問題につきまして私は理論として常に主張しておることは、今、石黒議員のお話の通りであります。また、議会の決議に表われている国民のこの意思というものを、各国にこれを伝達し、これが考慮を求めておることも事実であります。ただ、国連において実効的な、いかなる方法をとるかという問題に関しましては、私は、やはり各種の事情を考える必要があると思うのです。今、国連において、軍縮問題とある種の関連を持つということは不可能条件だということをお話になりましたが、遺憾ながら、今日の現状は、この軍縮問題に関連せしめることも、一方の陣営から見るというと絶対に反対であり、全然軍縮問題と離してこれを原水爆の問題だけを別に取り上げることも、これはまた一方の陣営の反対するところであります。この間を縫ってどういうふうに、一歩でも、この実験禁止を一日も早く有効に成立せしむるかということは、現実の外交としては当然考えなければならぬと思います。理論的にわれわれの主張がどういうものであるかということについては、今、石黒議員のお話の通りに私は考えております。
 なお、これの実験が、いかに人類や、また一般に影響を持つか、特に人類の遺伝等について、いかなる影響を持つかという科学的な研究について蚕のお話がございましたが、これは御引用になりました通り、私もかねて伺って、これが研究を推進することにつきましては、きわめて有意義なことでありますから、今度の科学技術の問題に、研究機関の整備、研究費の増額等につきまして十分それは考慮したいと思っております。
 日韓問題について、いわゆる在韓財産の請求権の問題は、御承知の通り、サンフランシスコ条約の規定の解釈問題に関連があるのであ力ます。従来、日本としては、これが返還を今までの会談において強く主張して参っておりますし、韓国側も、これに対して非常に強力な反対をして、日韓会談が行き詰まっておったということも御承知の通りであります。日韓の間における正常なる関係を作るための正式会談におきまして、いろいろなむずかしい問題があります。財産の問題とか、あるいは李ラインの問題とか、国籍の問題とか、いろいろな問題があることは御承知の通りでありますが、その一つの財産の問題につきましてこれに対する最後の結論ということは、よほどむずかしい問題でありましたために、二年余も実は釜山に抑留されておる漁民を、われわれは釈放せしめることができなかったのであります。しかし、私は日韓の永遠の友好関係を築くためには、この日韓両国が抑留しておる人を一日も早く釈放し合う。人道的立場において、いろいろな問題、国民感情を刺激しておるこの問題をまず解決しなければ、私は、とうてい日韓の間の恒久的な友好関係はできない。また、その話し合いすらできない。これを何としても一日も早く釈放し合うということが、これからいろいろな問題をお話する上において、冷静にお互いが話し合いのできる基礎である、こう考えまして、これは一日も早く釈放せしめるという立場に立って、実は予備会談をいたしたのであります。この見地から、日韓財産権の問題については、平和条約の解釈として、日本の解釈とアメリカ側の解釈が従来違っておる。この解釈問題は、私はアメリカの解釈を採用する、韓国側もこれを採用するようにということを述べたのでありますが、それもなかなかむずかしかった。これは財産問題に関するアメリカ剛の平和条約の解釈は、日本はその権利を放棄したものだと解釈する。同時に韓国側もこれに対して日本側に対する従来の財産権をこれに見合って考慮すべきであるという趣旨の解釈でございます。従いまして、これに両国が意見が一致するためには、なかなか歩み寄りがむずかしかったのでありますけれども、そういう趣旨において、韓国側も意見が一致しまして、釈放ということが成り立つたわけであります。
 選挙の問題についていわゆる皇太子殿下の御成婚の場合における恩赦を目当てにして、いろいろな事前運動等が悪質なものが行われる、あるいは選挙違反が行われるおそれがあるという御心配につきましては、私もいろいろな事態から、このことにつきましては石黒議員と憂いを同じくするものであります。従来の例を見まするというと、過去における皇太子殿下の御成婚の場合においては、減刑は行われておりますけれども、恩赦は行われておりません。もちろん恩赦の問題については、国会の意見等も十分に考えなければなりませんけれども、私は公明選挙の立場を堅持する立場と、今申しまする過去の先例等も十分考えまして、これが選挙違反に利用されるがごとき事態のないように措置して参りたいと思います。(拍手)

  [国務大臣藤山愛一郎君登壇〕

○国務大臣(藤山愛一郎君) 総理大臣が、そつのない答弁をされておりますので、その答弁につけ加えることはないと思いますので……。

○国務大臣(唐澤俊樹君) 御成婚恩赦と選挙違反との関係につきましてお尋ねがございましたが、すでに総理からのお答、えのあった通りでございまして恩赦が行われるだろう、罪が許されるだろうということで、その見込みのもとに選挙違反が行われるということは、まことに憂うべきことでございまして、法務当局といたしましても、これは厳重に戒めて行かなければならぬと考えております。
 なおこの際、御参考までに先例を申し上げますと、今上陛下、皇太子当時、御成婚に際しまして恩赦が行われております。大正十三年一月の恩赦でございまして、その恩赦は、勅令による減刑でございます。大赦令は出ておりません。勅令減刑でございますから、その内容は、私が御説明申し上げるまでもなく、刑の確定した者ばかりを恩赦の対象といたしておりまして、大赦令が、広く刑の確定、未確定、あるいは捜査中の者、未発覚の者一切をあわせて恩赦の対象としてこれを許しておるというものと比較いたしますれば、その範囲の広狭において、非常に違いがあるのであります。なお、十三年の恩赦の際には、特別特赦が行われておりますけれども、それは前年の関東大震災の混乱に際して行われましたいろいろな犯罪に対する恩赦でございまして、特別のケースでございまして、先例にはならぬと考えております。いずれにいたしましても、恩赦があって罪が許されるだろうという見込みのもとに選挙違反を行うということは、これは法務省といたしましては、厳重に戒めて参りたいと思います。(拍手)

○議長(松野鶴平君) 質疑はなおございますが、これを次会に譲りたいと存じます。御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(松野鶴平君) 御異議ないと認めます。
 次会は、明日午前十時より開会いたします。議事日程は、決定次第、公報をもって御通知いたします。
 本日は、これにて散会いたします。
   午後零時四十八分散会

 第031回国会 衆議院外務委員会 第12号 昭和三十四年三月十三日(金曜日)午前十時四十八分開議

【発言順】
 外務政務次官 竹内俊吉

○竹内(俊)政府委員
 次に日韓会談における秘密協定があるかどうかという問題でありますが、韓国の駐日柳公使が日韓会談にはその途上において秘密協定がある、場合によってはこの秘密協定を暴露してわが方に報復するという意味のことを公言しておるのであるが、秘密協定が実際あるのかという大西委員のお尋ねに対して、そのような秘密協定はない、ただ会談中に日韓間で取りきめた事項でこの部分だけは公表しないでおこう、いわゆる非公表を双方合意した部分が若干あるとお答えしたのでありますが、その非公表事項は何々かというお尋ねでありますので、その点をお答えするわけでありますが、これは昭和三十二年十二月三十一日抑留者相互釈放及び日韓会談再開に関し日韓間で取りきめた事項中非公表分の項目を申し上げるわけであります。
 その第一は合意議事録についてでありますが、その中に三点あるわけでありまして、その第一は抑留者相互釈放の実施期間、第二は日韓会談の議題及びその細目、第三は日韓請求権問題の処理、これが合意議事録についての今申し述べました非公表事項であります。
 第二は文化財問題の取扱いに関する口頭伝達事項であります。これも双方合意の上に非公表事項としております。
 第三は大村収容所の仮釈放者の帰還について。以上非公表事項としては今申し述べました一、二、三の三件がございます。
 第三に大西委員のお尋ねになった点で弁護人を韓国に送って不法拿捕されておる漁夫の裁判に当って弁護するという件でありますが、前回の委員会においてもあらましの御説明を申し上げましたが、今までの経緯をもう一度申し上げますと、去る一月二十二日いわゆる李ラインを侵犯したかどによって韓国警備艇に不法拿捕された大洋漁業所属の第一八三及び第一八五明石丸の乗組員二十五名は、現在韓国海洋警備隊に身柄を拘束されており、近く釜山の地方法院において裁判されることになる予定であります。この間右乗組員の留守家族に対して一月三十日付で韓国海洋警備隊司法警察官警正ていきてんから拘束通知書が送付されてきました。本通知書によれば韓国の刑事訴訟法第八十七条によって弁護人を即時選任することができると述べておるのであります。右の通知書によって大洋漁業は留守家族の依頼を受けて直ちに弁護人選任の手続を開始したのでありますが、元来韓国の刑事訴訟法第三十一条によれば、弁護人は弁護士中から選任しなければならないと規定されており、この意味において在日の外国人で韓国の弁護士の資格を持っている者を探し出すことが第一条件となったので、いろいろと手がかりを求めた末、富国ビルにおいて民事の弁護士をやっている米国人ヘンダーソンが右の資格を有することを確認し、同氏に対して弁護人の依頼を行なったのでありますが、同氏はこれを受諾しませんでしたので、同氏の知人である同じく米国人のマーレイ・スプラング、これは韓国の弁護士の資格を持っていないのであります。この方を紹介してきましたので、大洋漁業はこのスプラング氏と日本人弁護士守谷英隆氏を弁護人とすることとして、守谷氏の旅券の下付を三月九日に受けて、同日入国査証申請書類を持って韓国代表部におもむいて、本人が旅券の査証の下付を求めたのであります。ところが韓国李総領事及び陳三等書記官が一行を応接しましたが、韓国の弁護士でない者を弁護人として選任する場合には韓国の地方法院の許可が必要であり、右の許可書を持ってくるのでなければ査証の申請書類は不備であって受けつけることができないと主張し、これに対し大洋漁業測は入国申請を許可されてこそ、韓国地方法院に対し、直接に情理を尽して事情を説明し、弁護人選任の許可を求めることができるのであるから、まず入国の申請を受理せらるべきであると主張しましたが、韓国はこれを了承しなかったのであります。右話し合いの最後に、大洋漁業側から、しからば守谷氏及びスプラング氏の渡航目的を法廷における弁護のためということでなくて、韓国に入って韓国の弁護士の資格を持つ弁護人の選任と訴訟手続の打ち合せという名目に変えたならば、申請を受けつけて入国を許可するかという交渉をしましたところ、先方はそれはニュー・プロブレムであるから本国政府に問い合せて十一日ごろに返事すると約束をしましたが、まだその返事が大洋漁業には参っていないようであります。
 今後の措置についてでありますが、韓国刑事訴訟法第三十一条によれば、弁護人は弁護士中から選任しなければならないとなっており、ただし大法院以外の法院は、特別な事情があれば弁護士でない者を弁護人として選任することを許可することができるというようになっております。従って、韓国代表部の言う、まず法院の許可が先決であり、それがあって入国の可否を論議するという議論はもっともな点もありますので、守谷氏とスプラング氏の弁護人選任許可願を直接釜山の地方法院に郵送するとともに、できれば別に米人一名、日本人一名を立てて韓国弁護士の選任のための入国許可を並行して推し進めることが、最善の措置であろうと考えます。外務省といたしましては、これについてもはや表面に出てこれらの問題について援助をしてしかるべきときと考えますので、今明日中に韓国代表部に対して、この入国許可に対して何らかの交渉をするつもりであります。その交渉は書簡によりますか口頭によりますか、今明日中にそれをきめて交渉する手はずにしております。
 以上、お答えいたします。

 第038回国会 衆議院外務委員会 第9号 昭和三十六年三月十七日(金曜日)午前十時四十七分開議

【発言順】
 委員      松本 七郎
 外務大臣    小坂善太郎
 外務事務官
 (国際連合局長) 鶴岡 千仭
 外務事務官
 (アジア局長) 伊關佑二郎
 外務事務官
 (条約局長)  中川 融
 委員      戸叶 里子
 委員      森島 守人
 委員長     堀内 一雄
 委員      川上貫一

○松本(七)委員 それから国連ではさらに朝鮮問題がいつごろ議題になるかということが、またわれわれの一つの関心事ですが、朝鮮の統一に対しては日本政府としてはどういう態度で臨もうとしておるのですか。

○小坂国務大臣 朝鮮問題を国連でいつ取り上げるかということについては、今のところまだ決定されておりません。この統一問題については、われわれはやはり国連監視下の選挙という従来の行き方が民主主義的な行き方であろうと思っております。

○松本(七)委員 そうすると、この四月の国連では問題にならないというお見通しですか。秋の国連ではその可能性はどうでしょうか。

○鶴岡政府委員 今大臣からきまっていないと申し上げた意味でございますが、今度の再開十五回総会に一応予定されてはおりますけれども、御承知のように今度の再開総会で何を議題にするかということについてまだ決定いたしておりませんわけで、朝鮮問題も出るか出ないか、出さない方がいいという意見があったり、一応出ている議題は全部やった方がいいという意見もあったりしまして、決定に至っておりませんということを申し上げたわけでございます。

○松本(七)委員 日本政府としては早く議題にすることを望ましいと考えられますか。大臣どうですか。

○小坂国務大臣 それは諸般の事情がありますけれども、そうした考慮なしにすれば早い方がいいと思います。早く議題にすべきものであろうと思います。という意味は、当初から予定の議題になっておりますから、予定議題は全部早くやった方がいい、こういう意味でよいと思います。

○松本(七)委員 社会党では、朝鮮の統一をなるべく早く実現するという意味からも、従来しばしば外務委員会でもこれは述べたのですけれども、やはり南北の代表部を日本にも設置する方向に向かった方がいいだろうということは、もう以前から言っておったことなんですね。最近北朝鮮から例の国家連合の呼びかけもなされておる。このことはちょうどわれわれの南北の代表部を設置するという考えと軌を一にすると思うのですが、大臣は、この北朝鮮が先般呼びかけた国家連合、あるいはそれがもしできない場合には経済委員会とか民族委員会を持って南北の交流をはかろうという、そういう動きのある今日、依然国連の監視による選挙というものが実現性があると考えておられますかどうですか。

○小坂国務大臣 朝鮮につきましてはなはだ不幸なる事態は、韓国と北鮮とがそれぞれかなり激しい感情を朝鮮事変以後残しておるということであろうと思います。北鮮の方は共産主義陣営であり韓国は自由主義陣営であるということで、非常に問題がむずかしいだろうと思います。そういう事態の中において、そうしたものを越えて一つの民族として統合するという考え方から統一選挙をやるということは、これはむずかしい考えだと思いますけれども、やはりそのことを進めることは統一の上の一番の大道であるというふうに思います。

○松本(七)委員 そうすると、その選挙のやり方なり統一の方式はさておくとしても、国連でも朝鮮の統一ということを一つの目標にしておるのですから、日本政府としても南北朝鮮の統一ということを目標にして今後進むことには変わりはないのですか。

○小坂国務大臣 その形が望ましいという考えにおいて考えております。

○松本(七)委員 最近の、二月二十八日の大邱におけるデモ、これは四万からのデモだと言われておるのですが、かなり最近の張勉内閣は不安定な様相を呈しておるようですが、政府の集められた情報なりその他に基づいて、南朝鮮全体についてどのような現状把握をされておるか。

○小坂国務大臣 民主主義の建前をとっております以上、デモは行なわれるわけでございます。ですから、そのデモそのものがあったからといって、直ちにそれがあったから大へんだという判断もいかがかと思いますが、共産主義の体制のもとにおいてはそういうことはないわけです。そこでいろいろな報道がなされておりますけれども、張勉内閣はこれを乗り切ろう、経済的な貧困もございましょうし、何か経済をもっとぱっとしたものに展開したいというふうに考えて苦労しておられるのだと思いますけれども、またいろいろな党派によるところの政争もあるようでございますが、そうしたものを乗り越えて、何とか安定していきたいということで努力しておられるだろうと思っております。

○松本(七)委員 努力はしておっても、相当不安定な要素が強くなっておるということは、政府も理解されておるのですか。

○小坂国務大臣 安定、不安定というのは、これは程度の問題でございまして、他国の政情について私がここで見解を述べることは不適当かと思います。

○松本(七)委員 そうすると、われわれの聞いているところでは、これは外務省あたりでも同じいろいろな情報をとっておられるのだから、同じ見解だろうと思うのですが、去年の李承晩の打倒された当時と、今日のデモの様子だとか種々の情勢を考えると、かなり反米的な運動が一年前よりも強くなっておるように思うのですが、この点は大臣はどう見ておられますか。

○小坂国務大臣 李承晩時代には言論とか集会その他の行動というものを非常にきびしく規制したというふうにわれわれ理解しておるのです。従って、そういう規制がはずされたあとには、いろいろな行動の自由からする集団示威というようなものもありましょうし、あるいはまたアメリカの政策に対する批判というようなものも自由になって行なわれるわけでございますから、その限りにおいてはいろいろな書物等にそういう言論が現われるということはあると思うのであります。それだからといって、どうこうという批判は私の立場からは差し控えたいと思います。

○松本(七)委員 批判じゃない、やはり見通しをはっきりしておかなければ日本にも重大な影響があるので、批判じゃない。われわれとしては、たとえばこのデモが激しくなってくる、この前の米韓経済協力協定のときにも、これに反対してあのような四万も動員されておるデモが起こるのですから、そうなると、今後この張勉内閣が安定して国内情勢がおさまるか、あるいはいよいよ不安定になってこういった動きが活発化するかによって、日本にも重大な影響が出てくるわけです。第一、アメリカの二個師団というものが朝鮮にはいるし、万一の場合には韓国人と米軍の衝突というようなこともあり得ると思うのです。一体そういうことは絶体ないという保証がありますか。どうです。

○小坂国務大臣 他国の内政についていろいろな想定をしてその見通しがどうだということを私に聞かれるのは無理な話だと思いますが、私はさっき言うたように、これはいろいろな行動の自由からするところの動きというものはあると思うのです。それが民主主義の建前なんです。しかし、それを乗り切っていくべく努力しておられるのであろうから、これは乗り切っていかれるであろうと思っておるわけです。

○松本(七)委員 人ごとじゃないですよ。あなた、日韓会談をやるのでしょう、日韓会談をやる目的は何ですか。

○小坂国務大臣 日韓両国の国交を正常の道に乗せるということであります。従って、私どもは、松本さんがここで政権があぶなくなるのじゃないか、こういう趣旨で、私にそういう見通しでなくてどうしてやっているのだとお聞きになっておるから、あぶないんだろうと言わせようと思ってやっていらっしゃるのだろうと思いますが、私はそうは思いません。できるだけ努力してやっておられることなんだろうと思います。他国のそうした政権の見通し等について私がここでそういうことを言うことは差し控えなければならぬことだと思います。うまくいくべく努力しておられるのだろうし、うまくやっていくのでしょう、こういうわけであります。

○松本(七)委員 それは大臣の希望なり観測はどうであろうと、現にデモが起こっているのは事実なんですから、そういう今の国情を土台にしてわれわれは考えなければならぬ。現実の政治を進めていくのには……。今、日韓会談をやっておられる、その中では米韓経済協力協定をめぐって四万人からのデモが行なわれた。そうして食糧危機も四月にはますます激しくなって、それがどうなるかというような、いろいろな――NHKの報道一つ聞いたって、そういうことはどんどん言われてきているのですよ。国民はみなそれを心配しているのですから、そういう心配の中で、あなた、日韓会談をやろうと言われる以上は、当然そういうことを考慮して、そうしていかにしたらこれが成功するかということを考えなければ、ただ相手がけっこうよくやってくれるだろうでは済まないと思うのです。現実にやはり対処していくのですから……。現に日本と韓国の関係では吉田・アチソン交換公文に関する交換公文というのが今度の新安保で生きることになっているのですから、そういう関係からすれば、もしも南朝鮮の事態が急迫して韓国人と米軍とが衝突するようなことになったら、当然日本の運命にもかかわってくるでしょう。そうなりませんか。その点はどうですか。

○小坂国務大臣 そのことよりも、そういうふうにならない事態を日本としてできるだけ希望し、そういうふうにするように考えていくのが、私は政治だと思うのです。その意味において、韓国との国交というものを正常化して妙な事態にならないようにしていくことが必要である、こういうことを考えておるわけであります。これから日韓会談を始めるのじゃないかとおっしゃいますが、そうじゃない。日韓会談というのは現にやっておるのです。やっておるのですから、その間にいろいろ先方の話も聞いて、こちらの考えも十分言って、この話を慎重に進めて参ろうということで、現に交渉しているわけであります。

○松本(七)委員 国交正常化ということをしきりに言われるけれども、それでは、場合によっては懸案の解決は先に延ばしても、とにかく国交正常化だけはやろう、こういう方針ですか。

○小坂国務大臣 これは事と次第によると思うのです。延ばす懸案の種類にもよりますし、一般的にいえば懸案を解決すべく交渉しているわけでありますから、その先の方は言わない方がよろしいと思います。

○松本(七)委員 国交正常化をやるといっても、今までのいわゆる日韓会談の経過からいえば、場合によっては、一切の懸案は解決しないでも、国交正常化だけはやるという意向は、日本政府に今まであったのでしょう。中川さんどうですか。今までの日韓会談の経過からいって、むずかしい財産請求権の問題だとか、あるいは李承晩ラインの問題だとか、こういうものまで含めて一切がっさい解決しなければ国交正常化はやらないという方針できたのか、あるいは国交正常化をとにかく急ぎたいという方針で日本側はきたのか、今までの経過と、それから今回の韓国側のこれに対する態度と、日本政府の交渉に臨む態度、そこらを聞いておきたい。

○伊關政府委員 たしか第一回の日韓会談、昭和二十七年の二月でございましたか四月でございましたか、このときに、そういうふうな、まず基本関係を開いて、そして懸案の解決をあとに延ばしてもいいじゃないかというような考えが日本側から出ております。それは韓国側は賛成いたしませんで、その後消えております。今のところは、両方とも懸案を解決してからという考えに立ってやっております。

○松本(七)委員 そうすると、一切の懸案を解決するまでは国交正常化はしない、こういうふうに了解していいのですね。

○伊關政府委員 そうでありませんで、一切の懸案を解決して国交正常化に持っていくのが望ましいという考えでやっておりますが、これをやっております過程において、あるいは変わることもあり得るかもしれぬと思います。

○松本(七)委員 そうなると、おそらく第一の基本関係等も、その交渉では懸案の重要な事項として含まっておるという了解のもとに、われわれは観察しなければならぬと思いますが、間違いありませんか。

○伊關政府委員 基本関係はほかの懸案が解決しました上でやろうということになっております。ですから、全部の懸案が解決いたしますと基本関係もやるというふうな順序になります。

○松本(七)委員 そうすると、李ラインあるいは財産請求権、これらの解決の後に基本関係に移る、こういう順序ですか。

○伊關政府委員 最後の調印をいたしますときは同時でございますけれども、話の順序は、請求権とか法的地位とか漁業とか、これらについて大筋の話し合いがついてしまったその上で基本関係に入る、こういうふうに考えております。

○松本(七)委員 今のお話ですと、われわれの考えでは、韓国政府というものの国際的な地位がどういうものであるか、日本側としてどういうふうにこれを認めているのか、また韓国側がどのようなものとして日本に認めさせようとしておるのか、これについての合意が成立しないで、他の一切の懸案の解決ができるものだろうか、その点がはっきりしなければ、他の懸案の解決は私は不可能じゃないか、と思います。どうでしょうか。その韓国政府の国際法上の地位というものがはっきりしないで、そして他の懸案の解決をやろうといっても無理じゃないか。ですから、まず日本としては、この韓国政府の国際的な地位というものをどのように認めているか、韓国としては、日本政府に対してどのように認めさせようとしておるのか、この点を少しはっきりしていただきたい。

○伊關政府委員 それは理論的にはおっしゃる通りでございまして、やはりいろいろな問題をやっております間にその問題は出て参ります。われわれとしましては、四八年のあの国連の決議に従ったものが韓国の地位である、こういうふうに考えております。請求権にいたしましても、韓国だけについて今議論をしているわけでありますが、やはり確かにそういう問題は交渉の過程においておのずから出て参り、おのずから意見の一致が見られていく、こういうふうに考えております。

○松本(七)委員 今の御説明では四八年十二月十二日の決議によるものということですから、そうすると全朝鮮を代表する政府としてではなしに、ある部分における、つまり三十八度線以南における民意を代表する政府、こういうふうに理解していいのですね。

○伊關政府委員 まあ非常にむずかしい点がございますが、現実的に見ればそうです。しかし一つの国家に一つの政府というふうな観点から見ますと、やはりある種の正統政府というような観念も出て参りますが、現実には三十八度線以南に限られております。ですから、あの決議がこの辺をぼやっと言っておりますから、あの決議を引用するのが一番いいだろう、こういうふうに考えております。

○松本(七)委員 今までの政府の説明もそうなんです。唯一の合法政府といいながら、しかしそれでは全朝鮮を代表するかというと、いやそうではない、それは三十八度線以南の民意を代表する政府だ……。そこのところははっきりしておきたいと思う。間違いないですね。

○小坂国務大臣 今までの答弁で何回も申し上げておりますが、その支配権は三十八度線から北に及んでないという事実を頭に入れて交渉しております。

○松本(七)委員 そうすると、南ベトナムの場合、あのときの御説明で、南ベトナム政府が全ベトナムを代表する、こう言われましたね。その南ベトナムは現実に全ベトナムを代表してない。北と南に分かれておる、支配権は北には及んでおらない。しかし南ベトナムの場合は、南ベトナム政府は全ベトナムを代表する。朝鮮の場合には、全朝鮮を代表する政府ではなくて、三十八度線以南に限られる、こういうことになるのはどういうわけでしょう。

○小坂国務大臣 これは国としての成立の過程を見ていただけば、その差異が明瞭だと思いますが、条約的の法理解釈を中川条約局長からいたさせます。

○中川政府委員 ベトナムの場合は、御承知のように一九四八年の国連決議のようなものがございません。従ってベトナムは、初めからベトナム一国ということで、その正統政府がどちらであるかということで、北ベトナム政府ができた事実もございますし、南ベトナムの政府ができた事実もあるのでありまして、要するにおのおのの政府が全ベトナムを代表するということで初めから始まっておるわけでございます。一方韓国の方は、選挙が行なわれましたのが四八年でございまして、それが国連の監視下に選挙が行なわれた、その選挙が三十八度線から南にしか実施できなかった、そういうふうなことから、国連自体で、三十八度線以南に有効に支配権を及ぼす唯一の合法政府ということを決議しておるのであります。従って韓国自体は、全朝鮮の正統政府であるというような主張はしておるでありましょう。しかし、世界各国――国連の各国は、国連決議の趣旨に従ったこれが政府であるというふうに初めから観念いたしておるのでありまして、その間、ベトナムと韓国とはおのずから地位が違っておると考える次第でございます。

○松本(七)委員 そうすると、ベトナムの場合は全ベトナムを代表するが、朝鮮の場合は比較的限定されたものだ、こういうことになるわけですね。そうすると、日華条約も、ある意味では、つまり条約適用地域では限定されているけれども、賠償問題などでは全中国を代表している、こういうふうに解釈されておりましたね、これは間違いないですね。

○中川政府委員 その通りに考えております。

○松本(七)委員 そうすると、この日華条約の場合よりも朝鮮の場合はより限定されている、こういうことになりますか。

○中川政府委員 そういうことになると思います。

○松本(七)委員 そうすると、今の御説明によると、いよいよ南朝鮮政府というものは地方政権というふうな性格を持ったものになります。そういう地方政権的な、非常に限定された政権と国交正常化することが一体どういう意味を持つか。さっきは統一ということを目途にするとは言われながら、これは口だけで、現実のそういう事態から考えて理論的に推していくと、これは結局今の分裂を固定化する役しか果たさないということになると思います。こういう限定された南の政権と国交正常化するということは、どうでしょう。

○小坂国務大臣 統一が望ましいことは、だれもそう思うわけでありますが、それじゃ現実に統一がどういう形でできるか。われわれは、民主主義の建前からすれば選挙だ、住民の意思によってどういう政権を統一する国のもとに作るべきかをきめることがいいのだと思う。ところが現実の問題としますと、韓国側は二千三百万人の人口、北鮮側は千百万人といわれておる。そうすると、地方政権とおっしゃいますけれども、韓国の方が非常に大きな地域を占めておるわけです。そこで今までみたいにはっきり主義信条の違う体制のもとに両方があって、それで選挙をやったら、韓国側の投票の方が多いだろうと思われます。それじゃ一体どうして統一がすぐできないか、こういうことにもなるわけですが、なかなか統一というものは言うべくしてできないのじゃないかということにもなるわけです。そこで、わが国は韓国との間には事実上のいろいろな交流はあるわけでして、ことに最近韓国のいろいろな学生諸君だの運動の選手だのが来てやっておる。一般的にいえば通商関係もある。そういう関係をもっと軌道に乗せる必要があるじゃないか。しかも海はほんとうの共通の海を使っておって、そこに漁業の問題が非常に厄介な形で存在している。李承晩ラインというものもある。そういうものを解決して、何といっても近い国なんでありますから、その間の関係を正常化する、こういう意味における国交の調整ということは、正規の形でやるのがいいじゃないかと思われるのは、私は常識上当然だと思います。なればこそ、今までの政府も過去において四回も会談し、今度で五回目のわけでございます。これは日本の国民としてとにかく至当であると考えて従来からもやっており、また今もやっておる、こういうことだとお考えを願いたい。

○松本(七)委員 今の北の事情なりあるいは南の事情からいっても、先ほど大臣の言われたような国連監視下の選挙なんということはほとんど実現の見込みがない状態にだんだんなってきている。北の方からの呼びかけである完全な自由な選挙、あるいはそれができなければ国家連合でいこう、さらにそれが一挙に実現がむずかしければ、経済委員会なりあるいは民族委員会で経済的な交流、文化の交流をやろうというようなこの呼びかけが非常に大きな反響を今南でも呼んでいるわけです。ですから今のような御趣旨で、今日、地方政権にひとしい南の政府と国交正常化をやろうといっても、私は南の韓国民自身がそれを認めるかどうかさえ問題だろうと思います。そういう中で、正常化される場合の形式はどういうふうになるんですか。何か新たに条約でも結ぶということになりますか。

○小坂国務大臣 韓国の国民は、李承晩時代に特にそういうふうによけい感情をかきたてられた点もあったと思いますが、過去において日本によって非常に苦痛をなめさせられた、そういう感じを持っているわけです。それが最近非常に緩和の方向に向かってきた。いつまでもこういう気持でいたんではいけない、こういう気持に向かってきつつある。私どもはそうした感情を大事にして、やはり近い国の国民の感情というものをわれわれに親愛感を持たせるような方向にするということが必要だと思っているのです。そういう意味において韓国との関係をもっと正常なものにしていく、できることからまず始める、こういうことであるわけです。その場合の条約の形というのは、条約局長からまた専門的にお答えいたさせます。

○中川政府委員 今日韓交渉をやっておりますが、まだ実は条約の形あるいは協定の形というような格好で交渉しているのではないのでございまして、実質を交渉している段階でございます。その実質が形を結びました際にどんな形をとって参りますか、これはその後の問題になると思うのでありますが、あるいは一本の条約にいたしまして、その中にいろいろの事項を規定いたしますか、あるいは数個の条約ができますか、そこらあたりはまだ実は検討いたしていないのでございます。もっぱら実質問題を今やっておるところでございます。

○松本(七)委員 その可能性を聞いているのです。その内容にまでわたった御説明は無理かと思いますが、条約を新たに結んでやる場合、あるいは条約なしで大公使の交換というようなこともあるわけでしょう、そういうこともあり得るわけでしょう。

○中川政府委員 もちろん請求権の問題でありますとか、あるいは漁業の問題でありますとか、そういう問題については何らかの形の協定が要るわけでございます。国交正常化で大使を交換するということについてはたして条約が要るかどうか、それはまだ今後の交渉の様子を見てみないと何とも言えません。単に大使を交換するだけでありますれば、これは必ずしも別個の協定とか、条約が要らないとも言えるのでありまして、そこらは今後の交渉の様子によってきめていくことになろうと思います。

○松本(七)委員 それは、単なる大使の交換だけになるかどうかは今後の交渉によってきまるでしょうけれども、かりに大公使の交換だけになった場合、その場合は新たな法律、在外公館設置法の改正というような形で新たに出てきますか。

○伊關政府委員 この点は設置法などでなくてもすでにいつでも開けるようになっております。在韓大使館というものはすでに外務省の設置法その他に入っています。

○松本(七)委員 それはいつの法律でそういうふうになっておりますか。

○中川政府委員 これは最初に在外公館設置法ができました際に、韓国大使館は当然設けられるものという前提のもとでありましょう、在韓国日本大使館というものがすでに入っておるのであります。しかしながらこれはもちろん実際にはまだ置けませんから、そのまま実施しないままに残っておるのでございますが、法律的には、必ずしも新しい条約とか法律とか要らない形になっておると思います。

○松本(七)委員 そうすると、それは最初の設置法のときですか、昭和二十七年……。

○中川政府委員 的確に覚えておりませんが、おそらく最初の設置法のときだったと思います。

○松本(七)委員 そうなると、これは交渉の過程で、条約になるかあるいは単なる大使の交換になるか別として、大使の交換ということになった場合は、もう新たに国会にはからずに大使の交換ができるわけですね、政令だけで。

○中川政府委員 それは、大使の交換に関する限りはできると思います。しかしその時期は、おそらくそのほかのいろいろきめます事項、それと一緒の時期に大使の交換も行なわれることになると思いますので、ほかの実質問題についての協定なり条約なりの御審議を願いまして、国会の御承認を得た上で大使の交換ということになるのじゃないかと思います。従って、時期としてはそういうことになると思いますが、大使館の設置、それだけから申しますれば、特にあらためて国会の御承認はなくてできる形式になっておると思います。

○松本(七)委員 これは非常に重大な問題ですよ。大臣、これは一つよく考えていただきたいのですが、先ほどのアジア局長の御説明によっても、懸案の解決をして、そして国交正常化になるか、あるいはその交渉の過程では、つまり大公使の交換だけで一応の国交正常化をするということも考えられる、それは今後の交渉によってだ、こういうわけですね。もしも交渉の結果、すべての懸案解決はなかなかむずかしい、しかしとにかく大公使の交換だけはやろう、こういう方針を今後政府がとった場合、在外公館設置法が昭和二十七年制定されたときに、すでに韓国には在外公館の設置ができることになっている、そういう今の御説明によりますと、国会の審議をせずに大公使の交換というのはもうできる状態になっているわけですね。しかし先ほど申しますように、朝鮮の場合にはいろいろな複雑な問題がからんでおる、日本の今後の運命に重大な影響のある国交正常化なんですから、それは、政府はこれが非常に国民の利益になるという考えを持っておられても、われわれ初め多くの国民がこれについては心配している。そういうときに、かりに二十七年の在外公館設置法にそれが含まっておって、もう政令だけでできるような状態になっておっても、それを実行するまでには、十分国会の審議を経て、そして国民の世論を問うてこれを実行するということが非常に大事なことであると思いますので、一つはっきりこの点は大臣から約束しておいていただきたいと思います。

○小坂国務大臣 今松本さんの御質問は、大使を置く場合に別に法律が要るかという御質問であったのでありますから、その問題は各省設置法ですでにきまっております、こういう答弁があったので、その答弁があったからといって、やみくもにぱっと政令でやってしまうんだろうという御心配は要らないだろうと思います。これは私どもは十分国民の利益のためを思ってやっておることなのでありますから、よく御相談をしながらこの問題は片づけたいと思います。ただ、松本さんいろいろ御心配になっておられますけれども、私は、朝鮮の統一というものはすぐできるんだから、そのあとに待て、こうおっしゃいますが、まず第一に、できるかどうかということの認識の問題、私どもの判断ではなかなかできないだろうと思う。かりにできた場合、それじゃ今より非常に有利になるかどうかということも考えなければいけない、かれこれ考えて、私は今のような行き方が最も現実的であり、かつわれわれ国民の利益にも合致し、また韓国の国民の利益にも合致する、こう考えてやっておることであるのであります。

○松本(七)委員 私が念を押したのは、設置法でもうすでにきまっておるということになれば、政府がずるくかまえれば、これは国会の審議をしないでやれる建前になるわけでしょう。だから十分相談すると言われても、それはどこに相談するのか、国会の審議を十分経てやるというはっきりした言明をいただかないと、相談するといっても自民党だけに相談するという手もある。ちゃんと国会の審議を経ると言って下さい。

○小坂国務大臣 国会というものは話し合いの場でありますし、わが内閣の方針としても重要問題はできるだけ御相談しよう、こういう建前でございますから、何かずるくかまえてどうこうという御心配がありますけれども、あまりそういうふうにお考えにならぬでいただいたらどうかと思います。

○松本(七)委員 言葉を濁す必要はないでしょう。これほど重要な問題ですから十分国会の審議を経て実行する、こう言っていただけばいいのです。それは二十七年のときはおそらく外務委員会で審議したものだそうですね。内閣に移ったのはその後だから。

○中川政府委員 設置法全体で外務委員会で御審議になったのだと考えております。

○松本(七)委員 それではさっき懸案のことを少し御説明あったのですが、日本としては大臣、李承晩ラインを認める用意はあるのですか。

○小坂国務大臣 今までも認めておりませんし、今後も認める意思は全くありません。

○松本(七)委員 そうすると、いわゆる韓国の対日請求権というものは認められるのですか。

○小坂国務大臣 これは交渉の題目になっておるわけです。どのくらいのものがあるかということになるだろうと思います。

○松本(七)委員 そうすると、請求権は認めるが、どのくらいのものになるかが問題だと言われることは、いわゆる日本の請求権との相殺を主張する、こう理解していいですか。日本の請求権との相殺も認めないでまるまる韓国の請求権を認めるか、あるいはいわゆる相殺を主張して、その関連で認める程度の問題だ、こういうわけですか。

○小坂国務大臣 一九五七年の十二月三十一日に出されておりまするいわゆるアメリカの解釈、これによりますと、日本の対韓請求権というものはサンフランシスコの講和条約第四条(b)項で放棄されておるというけれども、そうした放棄された事実を頭に入れて、今度取りきめをする場合に四条(a)項によってやっていく、こういうことになっておりますから、一種の相殺思想といいますか、そういうものが出ているわけです。われわれはそれにのっとっていくわけであります。

○松本(七)委員 相殺思相を主張される方針ですか。

○小坂国務大臣 そうであります。

○松本(七)委員 そうすると、正式の国交ということはなかなかむずかしくなると思うのですが、その場合に正式国交がなくても南朝鮮との経済協力はやられるおつもりですか。

○小坂国務大臣 今のところ考えておりません。

○松本(七)委員 そうすると今後はどうですか。やはり正式国交がなされなければ、経済協力もしないのか。

○小坂国務大臣 今御承知のように韓国側が国交正常化の後でなければ経済協力の問題は考えない、こういうことを言っているわけですね。民議院の決議とかなんとかいうのでそうなっているわけです。ですから私どもは考えてない。

○松本(七)委員 いやいや日本のことを聞いているのです。

○小坂国務大臣 われわれは考えておりません。

○松本(七)委員 正式国交しなければ経済協力はやらない、こうですか。

○小坂国務大臣 ですから今申し上げますように、先方がそう言っておるものを何もやる必要はない。向こうがいやだと言っておるものを考える必要はないわけですね。ですから考えてないのです。

○松本(七)委員 そうすると向こうが、今大臣の言われるように正式国交以前の経済協力はしないと言っておる限りは、日本もそれを主張する意向はないということですね。

○小坂国務大臣 そういうことです。

○松本(七)委員 李ラインもやはり向こうはあくまで主張するでしょう。それはどうですか。

○小坂国務大臣 これは交渉の過程でないとわかりません。しかしあくまで主張するかどうか、これはそういう建前はあるでしょうけれども、ものを合理的に判断するという建前を張勉政府がとっておられますから、この問題については十分話し合うことができる、かように思っております。

○松本(七)委員 韓国張勉政府側はどうなんですか。国交正常化については今までと態度が違ってきておるでしょう。

○伊關政府委員 今までと違うとおっしゃるのは、李承晩政権時代と違うという意味かどうか存じませんが、懸案解決の上での全面的な国交回復ということが理想的な形ということではその通りであります。

○松本(七)委員 それから漁業問題については実質的な討議に入る方針ですか。

○伊關政府委員 今週から実質的な討議に入っております。漁業に関する資源論に入っております。

○松本(七)委員 資源論というと、いわゆる技術的検討というやつですか。

○伊關政府委員 私も専門家でございませんのでよくわかりませんが、漁業協定を結ぶときには大体資源論から入るのだというふうに聞いております。

○松本(七)委員 その場合韓国周辺の海域を対象とするのですか。

○伊關政府委員 問題になっております水域が対象になるわけでありますけれども、魚は動きますので、どこまで動く魚を追っていくかというところがまず問題になると思います。

○松本(七)委員 そうすると技術的討議の内容はまだ全然きまってないのですか。

○伊關政府委員 専門でございませんから私もあまりよく存じませんが、要するに資源論をやるということでやっておるわけであります。

○小坂国務大臣 漁業の問題に対しては、今までの交渉では先方は内容の討議に入るということを全然拒んだわけでありますが、今度は一つ内容の討議に入ろうということになってきたわけです。この窓口は水産庁でございますので、水産庁の方から向こうの専門家と専門的な見地から話し合いに入っていくということになっております。私どもはそうした窓口を開いておるわけなんで、内容的な詳しい問題はよくわかりません。

○松本(七)委員 さっき出た相殺思想なんですが、三十二年十二月三十一日付のいわゆる合意議事録の中の請求権に関する部分についてというのは発表になったわけですが、これの全文はお出し願えないのですか。

○中川政府委員 合意議事録はその会談の際に双方の代表がどういうことを言ったか、そのうち将来に証拠に残しておく必要があるものを合意議事録にするわけでございまして、これは慣例といたしまして、やはり非公表のものでございます。しかしながらそのうちの今の請求権に関する分といいますか、財産請求権に関する分だけはアメリカの解釈とどうしても関係がありますので、アメリカの解釈を会談の中途ではございますが公表するということになりました関係上、その分だけは特にあわせて公表しようということでこの間双方で同意いたしまして、一緒に公表いたしたわけであります。従ってそれ以外の合意議事録につきましてはやはり日韓双方としては依然としてこれは非公表にしておく方が適当であるという考えに立ったわけでございまして、従ってこれは公表しないことになっております。それ以外の分は公表しないことになっております。

○松本(七)委員 それは両国の話し合いですか。

○中川政府委員 両政府間の話し合いでございます。

○松本(七)委員 それからこの前川上さんの質問に対する御答弁だったと思うんですが、請求権に関する日本の従来の主張を撤回する、アメリカ側の解釈が出てから日本の主張を撤回したわけでしょう。そうすると三十二年の十二月三十一日から日本の主張は変わった、こう解釈していいですね。その点ちょっと確認しておきたいと思います。

○中川政府委員 撤回いたしましたのは、三十二年の十二月三十一日でございますので、それから日本の解釈が公に変わったということがはっきりしたわけでございます。

○松本(七)委員 そうすると結局それ以後は日本側が一方的に請求権を放棄して、そうして韓国側の請求権だけが残るということを日本政府は同意した、こう理解していいですね。

○中川政府委員 その点が第一点でございますが、そのほかに、要するに日本側の請求権が放棄されたという事実は韓国側の請求権を交渉する際に考慮に入れるべきであるということが第二点としてあるわけでございまして、その両方について日本は同意したわけでございます。

○松本(七)委員 そうするとその次に問題になるのは、日本政府としてはさっき大臣がちょっと言われたようにどの程度で韓国の請求権が消滅したとかあるいは満たされたと考えられるか、これは問題になるわけですね。

○中川政府委員 そういうことでございます。

○松本(七)委員 だからどの程度で満たされるものと考えるんですか。

○中川政府委員 その点をこれから交渉できめようというわけでございます。

○松本(七)委員 そうするとまだ全然めどがつかない……。

○中川政府委員 これから交渉するわけでございます。

○松本(七)委員 これはいつですか、だいぶ前ですね、中川さんが書いておられるのは。例の久保田発言のとき久保田発言が一九五三年の十月二十一日ですね。この決裂した日韓会談の様子が翌年の一九五四年の初めに出たんです。これは「世界の動き」特集号ですね。中川さん、あれを見られたでしょう。

○中川政府委員 特に記憶しておりません。どういうことが出ておりましたか……。

○松本(七)委員 それにこういうことが書いてあるんです。この会談は約二週間続いた。この決裂したときの会談は……。韓国側の主張は、従来の通り日本側が明治四十三年韓国を併合し、自来三十六年間占領を続け、韓国を奴隷にした、まあそういう観念で出発しているということが解説されているわけですよね。そうしてここから一切の議論を引き出す態度であった。これには中川さんもちゃんとそれを書いておられる。たとえば財産請求権の問題に関して日本側が戦前韓国にあった日本の公有財産は平和条約によって韓国がこれを取得することは認めるが、日本国民が持っていた私有財産、カッコして終戦時の価格で約百二十億円ないし百四十億円、金額が出ているんですよ、に対しては請求権を有すると主張するのに対し、これは日本側がそういう額をあげて主張したのですね、に対して韓国側は日本人は在外私有財産に対しても一切の請求権を認められないのであるとして抗弁した。そうして、続いて財産請求権の問題は、日本における韓国人の財産九十億円ないし百二十億円に関する請求権だけに関して考えられる、韓国側が主張した。こうして両方の主張は金額をあげてなされたように書いてあるのですね。そういう事実はあるのですか。

○中川政府委員 会談の過程におきまして金額が正確に言及されたということはないと考えます。従って日本の韓国における財産が百四十億ですか、百八十億ですか、そのころの価格であったということも、それは日本側のその当時の推算ではないかと思います。また韓国側が日本に対し百二十億ですか、そこでいわれておる、それを主張したということも、それは非公式の推算ではないかと思います。会談録を見ましても、特に金額が双方の代表から言及されたということはない模様でございます。

○松本(七)委員 続いてこの米国の解釈なるもの、見解、三十二年十二月三十一日に示された米政府の見解というのは、平和条約締結当時は日本は全然それは知らなかったわけですか、どうですか。

○中川政府委員 一番最初のアメリカの解釈のいわば中核をなすクォーテーションで引用してある部分、これが韓国側に提示をされましたのが、平和条約が発効した日かその次の日でございます。従ってそのときに韓国側に知らされたわけでありますが、同じ年の五月十五日だったかと思いますが、在ワシントン日本大使館にもその写しをアメリカ側から送ってきておるわけであります。このときはすでに第一回会談は終わったあとでございまして、従って第一回会談中は、日本政府はアメリカ側の解釈なるものをはっきりは知っていなかったわけでございます。

○松本(七)委員 そうすると、平和条約当時は依然としてこのような、そのあとわかったアメリカの解釈というものは、国際法違反だという考えであったと理解していいわけですね。

○中川政府委員 第一回の会談でわが方から主張した通りの解釈をとっていたわけでございます。

○松本(七)委員 第一に問題になりますのは、その平和条約の当時は、それがわかっていなかった。それから日本側の解釈もまたアメリカの見解とは違った解釈を持っておった、こういうことになると、その後解釈を変えるについて日米間だけでこれは解釈を変えていいものかどうか、平和条約というのは日米間の条約じゃないのだから、はたして日米間だけで、つまりそういった米国だけの解釈によってこれをやることが正しいのかどうかという問題があると思う。その他の連合国の意見を一体聴取したことがあるのかどうか、その点はどうでしょうか。

○中川政府委員 本件につきましては、このアメリカの解釈ということは、もちろん向こう側から知らしてきたわけでございまして、五七年になりましてまたそれを敷衍いたしまして、さらに知らしてきたわけでございます。アメリカの解釈はそれではっきりわかっておるわけでありますが、それではほかの連合各国の意見を聞いたかどうかというお尋ねでございますが、これは特に聞いておりません。というのは、日本の政府が解釈を変えました理由は、アメリカの解釈といわれるものが、それが条約のすなおな解釈である、それが適当である、それの方がむしろ初め日本側がやっておりました解釈よりも適当である、と考えましたから変えたのでございまして、特に連合各国がみなその解釈をとっているから日本もそれに従ったのだということではないわけでございます。条約の解釈は、それぞれ当該国がこれをなし得るわけでございまして、従って、特にこの条約に参加いたしました連合各国の意見を聞きまして、その過半数がこういう解釈だからというわけで何も解釈を変える必要はありません。また解釈について疑義があれば、最後には国際司法裁判所に訴える道も開かれておるのでございまして、むしろ日本政府が自発的にアメリカの解釈が適当であるというふうに考えまして、これを採用したわけでございます。

○松本(七)委員 解釈は独自にできるとしても、そうするとその次に起こる問題は、三十二年に解釈を変更したことによって、解釈の変更だけで国の財産あるいは私有財産を放棄することが一体できるのかどうか。その法的根拠はいかがですか。

○中川政府委員 解釈の変更と申しますけれども、最初からそういうふうに解釈すべきであったということでございまして、その政府の解釈を変えたから、それによって放棄されたのだという法律論にはならないのでございまして、要するに、最初からそういう意味の条項であったということになるわけでございます。従って平和条約発効と同時に在韓日本財産は権利をすべて持ち去られたというふうに解釈するわけでございます。

○松本(七)委員 それはちょっとおかしいじゃないですか。あなたは最初からそうすべきだったと言っても、最初は全然違う解釈が政府の正式の解釈として出されておるのです。その解釈に基づいて国会は承認しているわけでしょう。

○中川政府委員 国会で御審議のありました際の議事録を詳細に私も調べてみたのでございますが、この四条(b)項につきましては、明確な発言が政府当局からも特になされておりません。また御質問もないのでございますが、その当時の政府当局のこの条項についての説明は、これは新しく実は最後の草案が示された以後に入った条項であって、十分これについての連合国側、起草者側の解釈を聞くいとまもなかった。またあのときの状況を振り返ってみますと、結局条約は草案の段階で非常に関係各国と協議して、アメリカ、イギリス両国が起草にあたりまして協議したのでございますが、サンフランシスコに会議が開かれましてからは、各国の意見というものをそれぞれ各国代表が演説する、それが一応終わりますと、そこで調印ということになったわけでございまして、その会議の席上であらためてこれの修正を申し出るとか、そういうような形の会議ではなかったのでございます。四条(b)項というものはむしろ最後の段階において入ったということで、日本代表団としても、はっきりその解釈について、いわば公定解釈というようなものについてアメリカ側と打ち合わせたという記録がないのでございます。それで国会における御審議におきましても、むしろそういう趣旨の説明が政府当局からありました。しかしここに書いてあることは、日本の財産はこれでなくなったものである、しかしながらその事実は韓国との請求権問題の協定をする際に考慮に入れるということになるであろう、こういうような説明をその当時政府委員からいたしております。従って、そういう趣旨で国会は通った、国会の御承認を得たものであると思うのでありまして、政府側のそのときの答弁を見てみますと、今のアメリカの解釈とそう違ったものでもないようでございます。むしろ、わが方が日韓会談において当初から正規な法理論を展開いたしまして、請求権というものは依然として日本に残るのだということを主張いたしましたのは、むしろ交渉の最初の過程におきまして、初めから日本が全然日本財産はないのだ、こういうような主張をいたしますと、これはほんとうなら韓国から請求権の膨大な要求がありましても断われるものも断われなくなるといういろいろな事情を考慮いたしまして、いわば交渉技術という点も考えに入れましてこういう主張をしたとも見られるのでありまして、交渉がだんだん進みますと同時に、わが代表団といたしましても、やはりよりすなおな、より適当な解釈に変える必要を認めまして変えた次第でございます。初め調印し、国会の御承認を得ましたときの解釈と違った解釈を特に政府が三年前からとったということでは必ずしもないと思うのでございます。これは日韓交渉という交渉を片方にやっておりました関係上、このような過程になったわけであります。

○松本(七)委員 いろいろ交渉の過程で戦術上だとかその他の理由から解釈を変えるのだという、その経過は別として、いやしくも私有財産なり国の財産についての取り扱いがこれで変わるわけですね。あなたの書いておられるシリーズによっても、最初の解釈は、「日本側は、サンフランシスコ条約第四条(b)項で、日本が認めた米軍の処置は、占領軍としての米軍が戦時国際法で合法的に行いうる限度の処置であって、私有財産を没収するようなことは、戦時国際法において認められないところであるから、サンフランシスコ条約で認めた限度には入らないと主張した。又、いわゆる「取得命令」それ自体も必ずしも日本財産を完全に没収したものと解すべきでなく、戦時国際法で認められた限度内の敵国私有財産管理の処置と見るべきであり、従って原権利者の補償請求権は依然残っていると解釈すべきであると主張した。」こういうふうになっているのです。そうすると、日本の国民の私有財産の補償は、今度は日本国政府に対しては依然としてこれは要求できるということになりますか。憲法二十九条や八十三条の関係になってくると思うんですがね。

○中川政府委員 その点は、平和条約十四条(b)項あるいは十六条によりまして、在外日本私有財産があるいは連合国あるいは国際赤十字に引き渡されております。その処置と同じことになると思うのでございまして、平和条約によりましていわば所有権が持ち去られた在外日本財産というものに対する措置と同じことになると思います。

○松本(七)委員 在外日本財産と言われるけれども、朝鮮の場合は日本の法秩序の中にあったのですね。だから、その点は普通の在外財産とは法律的には違うと思うんですが、どうなんでしょうか。

○中川政府委員 日本の法秩序のもとにあったと申されますが、たとえば関東州租借地も日本の法的秩序のもとにあったわけでございますが、ここの財産もやはり同じようなことになると思います。戦争まであるいは終戦まで日本の法的秩序のもとにあったかどうかは別といたしまして、平和条約によっていわばきれいさっぱりと、そういうものが要するに日本の手から離れることになったのでございます。従って、日本の法的秩序のもとにあったかどうかということにおいて特にその点の差異は出てこないように思います。

○戸叶委員 関連して、今松本委員の質問を伺っておりますと、中川局長は、日本はアメリカが韓国にある日本の財産を勝手に所有してしまっても、それは戦時国際法上違反でないというような考え方を最初から持っていたかのような発言をされておるのでございますけれども、そういうふうな態度で私は最初から臨まれたのではないというふうに考えます。なぜならば、この間木原さんが予算委員会で質問されたときに、小坂外務大臣の御答弁を速記で読みますと、こう書いてあります。「これは御承知のように一九四五年に軍令によりまして、韓国にありましたわが方の財産については取得し所有するということに、米軍がいたしておるわけであります。四八年にこれが韓国へ引き渡されておるのであります。一九五一年に平和条約ができまして、その四条(b)項におきまして、引き渡されておるという現状を認めたのであります。そこで一九五二年に日韓の交渉が最初に行なわれましたときに、ただいま木原さんが言われたような趣旨をもって、わが方から、占領軍は戦時国際公法に認めたことしか行なえないのであるから、これは私有財産には及ばない、従って四五年の軍令においては、これは管理したにすぎないから、管理権の移転というものはあったけれども、それを認めたにすぎないのだという主張をした」が、これがもとになって韓国を刺激して先方が激高して、そしてこの交渉を断わったんだ。それからアメリカの見解というものが出てきて、そして日本はアメリカの見解が正しいのだというふうに見直したということを答弁されております。こういうふうにこの答弁を見ましても、アメリカが韓国にあった日本の私有財産まで全部没収してしまうというその権利というものは、国際法上認められないという考え方に日本は初め立っていたはずです。それがこのアメリカの見解というものに日本が服従したということになるのではないか。これはすなわち国際法上の考え方というものを、このときから日本が曲げて考えてきたとしか私たちは考えられないのでございますが、この点はいかがでございますか。

○小坂国務大臣 一九五二年の最初の交渉のときに、さような主張をわれわれがしたことは、今お読み上げになった速記録の通りでありますが、そういう主張をこっちがして、そして韓国側との間に全く意見が対立して膠着している。そこで米軍解釈というものが出て、これは五七年に出たわけではなくて、その前から出ておって、結局五七年になって双方が中に立った米軍の解釈というものを認めたわけなんです。アメリカの解釈にわれわれは屈従したのではなくて、両方意見が全く相反しておるので、こういう解釈でどう思う、これはもっともですということで両方合意したわけなのです。その中には先ほどから申し上げておるように、日本が私有財産を放棄したという事実を、今度は四条(a)項の特別取りきめの際に考慮するのだ、こういう相殺思想において認めたわけなのです。確かに占領軍が軍令によって私有財産を取得し所有するということは、それをまた没収を認めるということは、ハーグの陸戦法規の四十六条を越える措置だと思います。しかしこの越える措置というものは、やはり戦争の規模がいろいろ変わり、五十年前のハーグの陸戦法規ができた当時といろいろ状況が変わっておるのだから、そのもとにおいて新たなる解釈というものが出てくることは、これは国際法というのは御承知のように慣習法のような、慣習の積み重ね的なものが国際法の一つの基礎になっておるわけですから、そういう意味においてわれわれはそれを認めた、こういうことであるのであります。

○戸叶委員 関連ですからこれ以上追及しませんが、それではこういうふうに占領軍がどこかの国へ行って私有財産を没収して、そうして勝手にそれをすることができるというようなことが国際法上許されると、これからの国際法はそういうふうに解釈するのだと、こういうふうにお考えになるのでしょうか。そしてまた世界各国ともそういう解釈のもとにあるのかどうか、この点も伺いたいと思います。

○小坂国務大臣 この韓国財産に関する問題は四条でございますけれども、そのほかにもさっき話が出ましたように、十四条(b)とかあるいは十六条においては、ことに中立国にある財産まで国際赤十字に出しておるわけです。ドイツの場合においてもこれは同様なことが行なわれておるのであって、やはりこうしたことが一つの先例になっていくということになろうかと思います。

○戸叶委員 これは先例になって、そして戦前の国際法上から見たこういう問題に対する解釈が戦後は変わった、こういうふうに理解するわけでございます。

○中川政府委員 国際慣習法が今度の戦争以後に変わったというのは行き過ぎだと思います。そこまでまだ慣習が確立したわけではございませんが、そういう事例が相当出てきておるということは事実でございます。

○戸叶委員 この問題は非常に重大な問題ですから、この次の機会にもう少し深くやってみたいと思います。

○松本(七)委員 最後に相殺思想についてですが、これは外務省の見解と言われている。だれが言われたか知らないけれども、他の機会で述べられているところと一致するところを見るとおそらく中川さんではないかと思うのですがね。例の外務省が日韓請求権に関する文書を公表したときの外務省の見解として、どの程度まで相殺されるかが問題だ。しかしこれは機械的に財産権の大小を比較して突き詰めたものではない、こういうことが言われているのです。そうすると何で一体はかるのですか。この相殺の定義といいますか……。

○中川政府委員 これは何ではかるかということは非常にむずかしいことでございまして、はかるものさしというものがきまっていないわけでございます。これを考慮に入れるということだけはさまっているわけでございますが、どの程度考慮に入れるかということは、アメリカの解釈でも、要するに的確な材料を持ち合わせていないからこれは日韓双方の話し合いできめるべき問題であるということを言っておるのでございまして、それをこれからの会談できめるわけでございますが、ものさしがございませんので、これは非常に困難な交渉になろうかと思いますけれども、その点は今後双方の交渉でお互いの意見の開陳によってそこで打開をはかるということになろうと思います。

○松本(七)委員 そうすると、ものさしがなくてこれはなかなか困難だということはわかるのですが、少なくとも朝鮮内に置いてきた日本の資産が総額どのくらいあるか、日本側としてはどの程度に考えておられるのですか。

○伊關政府委員 完全なものかどうかわかりませんが、日本に引き揚げてきた人たちからの報告を徴しまして、大蔵省でそういう資料を持っております。私はそれが当時の金額で幾らかということは覚えておりませんが、大蔵省で資料は集められるだけ集めております。

○松本(七)委員 それは出していただけるのですか。

○伊關政府委員 大蔵省とも相談いたしまして出します。

○松本(七)委員 しかし軍令三十三号によって接収した財産は、これは韓国に引き渡したわけでしょう。韓国に引き渡したという証拠は何でしょうか。

○伊關政府委員 四八年九月何日でございましたか、アメリカと韓国の間の財政並びに財産に関する取りきめというものがございます。これによって渡しております。

○森島委員 関連して。先ほど在外公館設置法で自由に韓国大使が任命できるというふうな御発言があり、小坂さんからは御相談をするというふうな御発言がありましたが、これは国内的な措置と対外的な措置とを混淆しているからこういうことになるのではないか。少なくとも韓国との間には、私は外交使節の交換とか国交の回復とかあるいはその他実質上国交開始に至る諸条項を含んだ条約等ができるものと思う。これらのものを基礎として大使が任命されるということで、国会に対してはぜひとも審議が必要だと思うのですが、これに対するはっきりしたお答えを外務大臣から伺っておきたい。

○中川政府委員 条約的な見地の分を私からまず最初に御説明したいと思います。
 基本関係についての条約を日韓間で作る必要ありやいなやという問題は、実は非常に大きな問題でございまして、ただいま森島委員御指摘のように、作る方が自然であるという考えもあるわけでございます。われわれ初めはそういう考えでいたのでございますが、この際日韓間に基本的なことをきめる条約を作る方が、大きな政治的な意味ではたして適当であるかどうかという別な見地もございます。従って、そこらのことは今後の様子を見た上で、いわば弾力的にきめていく方がいいんじゃなかろうか。従って、もしそういう基本条約ができないという場合がかりにありとすれば、その際大使の交換だけということであれば、形式的には今の設置法だけでそれでもできるということもあり得るということを申し上げた次第でございます。

○森島委員 先日の御説明によりますと、私ここに速記録を持っておりますが、日本政府に対する準外交機関として設置をされたのだ、こういうような御説明があって、やはり両国政府間に相互承認なり何らかの法的な措置がとられなければ、そのまま在外公館設置法だけで任命するということは私は不可能だと思う。その点対外的な関係と国内的な関係とを混淆しておるんじゃないかと私は思っておるのです。この点をもう一度はっきりしていただきたい。

○中川政府委員 もちろん日韓間に大使館をお互いに設置するということをきめます際には、両国政府間の合意が必要でございます。しかし、その合意は従来のほかの国の例に見ましても、必ずしも国会にお出しして御承認を求めるような格好での条約とかなんとかいうことではなくて、あるいは文書の交換とかその程度のものでやられることがむしろ多いんじゃないかと思います。従って、合意は必要でありますけれども、特に条約というような形はとらなくてもよろしいということを申し上げた次第でございます。

○委員長 川上貫一君。

○川上委員 私は前会の質問が残っておりますし、また、きょう松本委員の御質疑に対する政府の御答弁の中には、片言隻語ではありましたけれども、大へんな重要な問題を含んでおると私は思います。この点についてはきょうは時間がありませんから私の質問は留保させていただいて、次の国際情勢に関する質疑の場合に適当な時間を与えていただくように、これをお願いして終わります。

○堀内委員長 承知しました。

○戸叶委員 議事進行について。よんどころない用事で帰られた黒田委員、それから岡田委員その他の委員の希望でございますが、次の国際情勢の審議のときには、やはりこの日韓問題についてさらに質疑を続けたいのですから、たとえば大蔵省の関係の方なりそうした質問に答えられる人を十分そろえておいていただきたい、こういうことでございましたので、委員長からそのことをお計らい願いたいと思います。

○堀内委員長 承知しました。

 第038回国会 参議院予算委員会第二分科会 第4号 昭和三十六年三月三十日(木曜日)午前十時四十九分開会

【発言順】
 委員      田畑金光
 外務大臣    小坂善太郎
 委員      森元治郎
 外務省条約局長 中川 融
 主査      塩見 俊二

○田畑金光君 私は日韓問題、請求権の問題、在外財産の問題について若干お尋ねしたいと思うんですが、三月九日の日に、野党側の強い要求で、例の日韓請求権問題に関する米国務省の口上書及びこれに関連する当時の日韓合意議事録が公表されたわけですが、その後、日韓予備会談の進行状況についてどうなっているか、お尋ねしたいと思います。

○国務大臣(小坂善太郎君) 日韓予備会談は、その後、今まで触れておりませんでした請求権の問題、それから漁業の問題、この二つについても話し合いが始まりまして、それぞれの小委員会においていたしております。ただ、今お話のような請求権の問題に関しましては、まだ、もっとも始まったばかりでもあるわけでございますが、双方で主張を交換しているという状態でございます。

○田畑金光君 その後、李ラインの中で、この交渉が始まってから漁船の拿捕とか船員の抑留とか、こういうようなことはあるのかないのか教えてもらいたいと思います。

○国務大臣(小坂善太郎君) 御承知のように昨年の十月、張勉政権は当時抑留しておりましたわれわれ同胞船員を釈放してくれたのでございます。その後しばらくございませんでしたが、一月十三日一度ございました。しかしこれはわが方から厳重に抗議いたしましてほどなく釈放されました。それから最近、三月の中旬、第二進栄丸が拿捕せられたのでありますが、これまたわが方から厳重に抗議いたしまして、先方から釈放を受けました。現在は秋田丸一隻が抑留せられておりまして、約十名の同胞が抑留されております。こう聞いております。

○田畑金光君 秋田丸が拿捕され、船員十名が抑留されているわけですが、これについては話し合いはどうなっておるのか、釈放される見通しはあるのかどうか、それを明確にしてもらいたいと思います。

○説明員(宇山厚君) 第二秋田丸の拿捕事件がございまして、さっそく外務省といたしましては韓国側に厳重な抗議をいたしまして、釈放を要求しておるのでございます。口頭で二回やりましたあとでまた正式に書面で要求をしておるのでございますが、韓国側はまだ回答をよこしておりません。最近の状況を見ますと、先ほど大臣から御説明がございましたように、入江丸の事件、それから第一進栄丸の事件、ともに釈放をいたすようになっておりますので、今度の場合にも何とかしてできるだけ早くその釈放が実現するように、今後とも努力いたしたいと、こう考えております。

○田畑金光君 この点は大臣どうですか。近く解決の見通し、また、韓国に話をして韓国が快く了解して、釈放されるという自信をお持ちですかどうか。

○国務大臣(小坂善太郎君) 今、友好的に会談を進めておる際でございまするので、かようなことをされることははなはだ遺憾であるという点を強く申し入れておる次第でございます。ただいま参事官から御答弁申し上げましたように、前二回はわれわれの主張を入れてくれたわけでございます。今回もさようになりますように極力努力したいと考えております。

○田畑金光君 韓国の政情が非常に不安定である。ことに四月の革命すらも流されておるという微妙な情勢があるように聞いておりますが、これがやはり張晩内閣と今交渉を進めておられまするが、今後の日韓交渉に影響等があるようにわれわれとしては見ておりますが、その点はどうお感じであるか承りたいと思います。

○国務大臣(小坂善太郎君) 韓国の政情につきましてはいろいろと言われておるのでありまするが、何としましても韓国の国内に、やはり三十六年間にわたる日本の圧制というものに対する非常な反発がございます。もちろんわれわれはそれと異なった見解を持っておるわけでありまするが、そういうことに対しての非常に強い反発もある。そこで親日というものを掲げている張勉政権に対しまして、これに反発する力も相当あるわけでございます。で、韓国の民議院におきましても、なぜ李承晩ラインを侵犯されることを黙認しているのかという強い突き上げもあるようでございます。そういうような点がときどきああいう拿捕事件になって現われるのだろうと思いますけれども、何としましても公海上にああした排他的な線を引くということは、これは国際法上から見ましても私どもは不当だと考えておるのであります。まあ、やっていいことをやめてくれというのではなくて、不当なことをやっているということについては、これはあくまでも先方の翻意を求めなければならぬというわけで、さような点でいっているわけでありますが、これは民主主義の国でございまするから、当然いろいろな意見が勝手に言われるわけであります。その勢いのおもむくところ、なかなか各種の困難な情勢も出ることは、現象といたしましては、ある程度そういう現象はあり得ることと考えます。

○田畑金光君 先ほど冒頭に申し上げました日韓請求権問題に関する米国務省の口上書、これはどういう背景のもとに出されたのか、日本の要請によって出されたのか、それとも日韓両国の要請によってこの口上書というものが出されたのか、その点承りたいと思います。

○政府委員(中川融君) 米政府の解釈に関する覚書というのは、これは昭和三十二年の十二月三十一日に出されておるのでございますが、御承知の通り、同じ内容――その中核をなす内容は、それより先に、すでに一九五二年当時から、日韓双方に示されておるのでありまして、その間数年のあれがあったわけでありますが、日韓の交渉の進捗状況にかんがみまして、アメリカの解釈というものをさらに敷衍したものをこの際アメリカが出すということが、交渉の円満な進捗に適当であるということを日韓双方が認めまして、またアメリカもそれに同意いたしまして、それで昭和三十二年の末にああいう形のものが出されたわけでございます。

○森元治郎君 私今持ってないんだが、その口上書中に、対日平和条約の起草者は云々ということが書いてあるのですね。条約の起草者とは一体だれを言うのか、条約の起草者にアメリカ政府が委託されてしゃべっているのだということが、一体どこに書いてあるのか。ありますね、何とか、条約の起草者は云々という、その起草者ということは一体だれか、そうして、どことどこの国が起草者かしりませんが、一応アメリカ政府がこれらの国々を代表して対日口上書というものになってきた、この間のことがわからない。
 もう一点は、条約の四条(b)項の解釈――日本は管理権だけをアメリカに譲り、アメリカがさらにこれを韓国に譲ったんだと、こういう主張であったのだけれども、いや、そうではなくて、日本の財産は取得し、没収されてしまったんだと、こういう解釈になっておるのだが、もしほんとうに日本の当初の主張が正しいと信ずるならば、アメリカのその解釈に飛びつかないで、平和条約の終わりの方にある、何項ですか、専門家の中川さん知っておるだろうが、国際司法裁判所にかけるというところを援用していくという措置をなぜとらなかったか、この二点です。

○田畑金光君 関連質問ですから、それにお答え願いたいと思います。そういうような点、私これから質問しようと思っていたところですが、そこで、実は今条約局長の御答弁を承りますと、この米口上書はすでに数年前米国から示されていた、昭和三十二年十二月三十一日で、それをさらに敷衍して確認したと、こういうお話ですね。一体数年前とはいつごろなのか、この点を明確にしてもらいたいと思うのです。

○政府委員(中川融君) 初めに森委員の御質疑の点からお答えいたしたいと思いますが、平和条約の起草者ということが米国の解釈に出ております。平和条約の起草に当たりましたのはアメリカ政府でございます。なお当初平和条約の準備にあたりましては、アメリカが起草いたしまして、起草した案をおもな連合国、生としてイギリス、フランス、あるいはソ連等に見せたのでありまして、それらの連合国の意見を聞きまして、さらに起草し直し、またその段階において日本にも見せまして日本の意見も取り入れまして、最終的な案をきめたということになっているのでありますから、起草者というのは、ここではやはりアメリカ政府を指すものであろうと考えるわけでございます。
 なお、どうして平和条約自体の解釈の、紛争がある際には、国際司法裁判所に出すという規定があるにかかわらず、そういう方法をとらなかったかという点でございますが、これは一番初めの御説明で明らかになったと思うのでありますが、日本政府がアメリカ政府の解釈とあくまで反対であるという場合であれば、これは国際司法裁判所まで提訴して解釈をきめるということも必要であったでありましょう。しかしながら、日本政府はアメリカ政府の解釈の方がより適当であるという考え方に変わったのでありまして、従ってそういう手続はとる必要がなかったわけでございます。

○森元治郎君 その起草者にアメリカ大使がかわってしゃべるという、その起草者とアメリカ大使――米国との関係はどうですか。そういうことを起草者にかわってやれるのか。

○政府委員(中川融君) アメリカ政府の解釈というのは、要するにアメリカ大使館からよこしておるわけであります。従ってアメリカ政府の解釈でありますが、アメリカ政府が平和条約を作ったとき――ときというのでは、権威があまり十分でないのであります。やはりそれはアメリカ政府でありましても、平和条約を起草しましたアメリカ政府という意味で、これに平和条約起草者ということを特に書いたのであろうと思うわけでございます。

○田畑金光君 あなたの、先ほど私の質問に対して、数年前に、すでに解釈については、アメリカの方から示されていたと――数年前というのはいつごろですか。

○政府委員(中川融君) 一九五二年四月二十九日に、韓国側に提示されまして、同じ年の五月十五日に日本側に提示されております。

○田畑金光君 その当時、すでにアメリカ側から解釈が示されておる。なるほどこの口上書によりましても、アメリカ合衆国国務省は、「千九百五十二年四月二十九日付の韓国大使あての書簡において、日本国との平和条約第四条を次の通り解釈した。」こういうようにすでに一九五二年の四月に韓国の大使あてに書簡で示されておる。そうして日本にも、五月にはこれが示されておる。ところがその当時の日韓交渉において、さらにその後の交渉においても、日本政府としては一貫して、特に第四条のこの問題等については、あくまでも請求権というものを日本は持っておるのだ、こういう立場で交渉を進めてきておるわけです。その当時においては、明確にそんな立場をとってやっておられるわけです。ところが、それから昭和三十二年の十二月三十一日を契機にして百八十度転換したというのは、これはどういうことなんですか。

○政府委員(中川融君) 請求権問題についての平和条約四条の解釈について、日韓間の解釈が根本的に相違したという事実は、実は第一回の日韓会談ではっきりしてきたのでありまして、第一回の日韓会談というのは、五二年の二月に始まりまして四月にこれが決裂したわけであります。この四月に決裂しました大きな原因が、この日韓の請求権の解釈が違っておるという事実であったわけであります。これは一九五七年の末に日本が、この今のアメリカの解釈をとりまして、そうして従来の請求権の主張を撤回したときに公表されましたものがございますが、その公表いたしましたものの中でも、一九五二年三月六日に日本国代表が行なった在韓財産に対する請求権の主張をここに撤回する、ということをいっておるのでありまして、日本代表の主張というものは、実は五二年の三月六日に正式に先方に提示されたわけであります。従ってそこで日韓の見解が非常に食い違って交渉が難航した、そういう事実にかんがみまして、アメリカがその後四月二十九日にその解釈というものを示したわけでございます。従ってその次に、一年後に第二回会談が行なわれたのでありますが、五三年春に行なわれました第二回会議におきましては、日本側は従来の請求権の主張は変えはしませんでした。法理論は変えはしませんでしたけれども、やはりアメリカの解釈等におきましても考慮いたしまして、法律問題を展開しないで、現実の事実問題から片づけようということで、各項目ごとにどういう事実はどうなっているかということから討議しようということで、あまり正面切っての議論はやらないようにということで始まったのであります。先方もそれに同意いたしまして、そういう形で実はこの法理的衝突を回避しながら問題の妥結をはかろうということで、第二回会談を始めたのであります。従って第二回会談におきましては、あまり法理的な見解は主張は表に出していなかったのでありますが、第三回会談、同じ年の秋でありますが、第三回会談で妙な行きがかりから、いわゆる久保田発言というものが表に出て参りまして、結局、これが決裂してしまった。従って法理的なこの日本の見解というものは変えはしませんでしたけれども、事実上は表にして強く主張することは避けて、第二回、第三回を行なったと、その後相当長い間会議は中絶したのでありますが、その間にいろいろ考えました結果、今の解釈につきましてはアメリカの解釈をとるという立場に変わったわけでございます。

○田畑金光君 昭和二十八年ですね。その第二回の会談のあとと思いますが、外務省の情報文化局で発行しておられる「世界の動き」、これを見ますと、請求権問題等について明確に見解を述べておられるのです。その前に請求権、請求権といっておりますが、これはその財産請求権は国有財産なのか、公有財産なのか、私有財産なのか、問題になっているのはどの財産のことを意味しているわけですか。

○政府委員(中川融君) これは平和条約四条に番いてあります通り、国有も公有も私有も全部含んでおるのでございます。従って問題になりました法律的解釈は、その全部にやはり適用される法律的解釈でございます。

○田畑金光君 先ほど申し上げたこの「世界の動き」という外務省の発行されておる雑誌によりますと、こう書いておりますね。「わが国が韓国に請求しているのは、そのうち私有財産の返還である。それは私有財産尊重の原則が、歴史的にいつの時代にも認められてきた原則であるし、また朝鮮からの引揚者の利害がこの問題と、密接に結びついているからである。しかも、日本人が朝鮮に残してきた財産は、はるばるわが国から渡鮮して三十余年の長きにわたり粒々辛苦働いた汗の結晶にほかならない」。それから「平和条約で日本が認めているように、韓国にあったアメリカの軍政府の手で処分されてしまったものについては、その対価の返還を求めることになるわけである。」非常にこの点については財産権の請求権、特に私有財産の請求については国際法あるいは先例慣行、これによってあくまでもこれを確保しなくちゃならぬ、こういうことは昭和二十八年の交渉のときに明確に出しているわけです。しかるにあなたのお話のように、すでにアメリカからは一九五二年、その前の年の五月に、日本に対して条約四条の解釈はこうであるべきだということが示されておる。政府としてはアメリカの解釈があったにかかわらずなおかつ主張を通してきておる。こういうことを見たと声、なぜ突如として一九五二年の十二月の末にそういう解釈に発展しなければならなかったのか、この点を明確にしてもらいたいと思うのです。

○政府委員(中川融君) 今御指摘になりました「世界の動き」でございますが、これは久保田発言を契機といたしまして、第三回会談が決裂いたしました直後に、日本の立場はどういうものであったかということを国民に明らかにする意味で、実は解説的な意味で出したものであるのでございます。その中で私有財産だけを取り上げておりましたのは、結局財産問題の交渉におきまして、国有、公有につきましては国家相続の原則によって、結局これは新しくできた韓国政府に引き渡すのが自然であろうという日本側の考え方でありましたので、従って国有、公有については特に問題はないけれども、私有財産だけは日本としては基本的にいえば、やはり請求権があるのだ、という立場をとっておりました関係上、私有財産について強調しておるわけでございます。「世界の動き」の説明ぶりは、久保田発言に基づきまして決裂した直後でありますので、勢い日本の立場というものを強調して出しておるわけでございます。しかしながらその後三年間日韓会談が一歩も進まない。これは結局請求権にについての日本の主張と韓国の主張が百八十度違っておるからということが大きな原因でありました。また平和条約の起草者であるアメリカの解釈もこうであるということはすでに明らかになっていたのでありますので、その点についていろいろ検討いたしました結果、日韓会談を円満に進めるという上には従来の解釈は解釈そのものがやはり少し適当でない、つまり法理論としてはいろいろな理屈をつけ得るのでありまして、その一つの理屈をつけて主張もしたのでありますが、その理屈を押し通すということは、やはり平和条約の素直な解釈として適当でない、むしろアメリカの解釈は韓国の主張しておったこととちょっと違うのであります。御承知のように、日本の財産がなくなったということは、韓国側の財産権を検討する際に考慮さるべしということが入っておるのでありまして、アメリカの解釈がやはり最も適当な解釈であるということを信じまして、その解釈にのっとって日韓間の話し合いを始めようということ、幸いに韓国側もそれに同意いたしましたので、そこで初めてその措置に踏み切ったわけでございます。

○田畑金光君 いや、アメリカの解釈解釈と言われておりますが、さっき森さんからも質問があったように、この条約の解釈について紛争が起きたとか、疑義が出たとかという場合については、これは当然アメリカだけの解釈に待つことでなくて、国際司法裁判所等の手続を経てもっと公正な機関においてこの解釈の問題を解決すべきだとこう思うのですが、どういうわけでアメリカの解釈をもって即わが国の解釈とすることになったわけですか。

○政府委員(中川融君) いろいろ研究いたしました結果、アメリカの解釈というものがより適当な解釈である。それは平和条約のいろいろの経緯から見まして、平和条約の素直な解釈としてはやはりアメリカの解釈のような解釈の方がより適当であると考えまして、日本政府はいわば積極的にその解釈をとったのでありまして、日米間に解釈が違うという問題ではありませんので、国際司法裁判所等の手続は取らなかったわけでございます。

○田畑金光君 少なくともあなたの先ほどの答弁にありましたように、一年以上の間……、これは昭和二十六年の末から韓国とは予備会談が行なわれて、昭和二十七年に、さらに昭和二十八年にと、こう会談が重なってきて、おるわけでありますが、その間においては、アメリカの解釈が示されたにかかわらず、なおかつ日本はあくまでも私有財産尊重の原則に立って日本の立場を貫いてきたわけで、さらに一九四五年の十二月でしたか、アメリカの軍令によって韓国にある日本の財産の帰属の変更とか、あるいは管理とか、こういう点についてはどこまでもそれは財産のアメリカ軍の管理を日本としては認めたのだと、そういう立場に立って条約の第四条を解釈してこられたわけですが、なぜ一年以上も問題となって、日韓会談において日本政府の方針として主張されてきたことを、アメリカだけの解釈によって曲げたのか。そうしますと、当時皆さん方が外務省の情報文化局で流されたこの解釈この態度というものは、これは間違いだったのですか。これをちょっと明確にしてもらいたい。

○政府委員(中川融君) 前の解釈が間違いであったかというお尋ねでございますが、先ほども申しました通り、法律的にはまあ二つの解釈をし得るわけでございまして、その一つの解釈を最初に主張したわけでございますが、やはり検討いたしました結果、この解釈よりはもう一つの解釈の方がより適当である、よりすなおであるというふうに考えましたので、それを採用いたしたのであります。どういうわけでそれじゃ第二回会談、第三回会談の際にそういう解釈を採用しなかったかというお尋ねもございましたが、これは、その当時は韓国側が、はたしてこのアメリカの解釈をそのまま受け入れるやいなやということがわからなかったわけでございます。その後もなお数年間は実はわからなかったのでありまして、その点がはっきりいたしましたのは五七年、三十二年の暮れでございます。暮れといいますか、三十二年になりまして、韓国側の態度はアメリカの解釈を基礎としてよろしいというふうにだんだんはっきりしてきたのでありまして、従って、その際にこれに踏み切ったというわけでございます。これは一つ、日韓交渉、長い交渉でございますが、交渉の過程におきまして、やはりそういう時期が、一番適当な時期が五七年の暮れであったと、こういうことでございます。

○田畑金光君 米口上書というのは、日韓両国の立場に立って見た場合、一体これはどちらの側に有利であり、どちらの側に不利であると皆さんは考えておられるか、これをちょっと外務大臣から承りたいと思うのです。

○国務大臣(小坂善太郎君) これは、日本が韓国にありました財産を放棄する、その財産に対する請求権を放棄したという事実を頭に入れて、韓国の日本に対する財産請求権を考慮するということでございますから、この解釈そのものは、今、条約局長から申し上げましたように、非常にすなおな解釈であろうということで、われわれも同意したわけでありますが、問題は、それを適用するにあたってどの程度考慮するかということによって問題は違ってくると思うのであります。どちらに有利であり、どちらに不利だということは、特に言えないと思いまするが、この解釈通りするということが、最も日韓間の請求権の問題を解決するにふさわしいことであろうと思っておる次第であります。

○田畑金光君 この日韓合意議事録というものもあわせて発表されておりますが、合意議事録を簡単に説明すればどういう内容なんですか、簡単に一つ御説明願いたいと思う。心政府委員(中川融君) 合意議事録で公表された部分は、この財産請求権に関する点でございますが、それは、このアメリカの解釈を採用いたしましたことに関連いたしまして、韓国側は、韓国は、もし会談が再開された場合においては、従来韓国側が出した請求権についての案をやはり出したいということを言いまして、日本側は、その場合には韓国側のその請求について誠意をもって討議することに異存はないということを答えたのが第一点でございます。第二は、日本側から、韓国もこのアメリカの解釈について同意見であると考えるが、そうか、ということを言ったのに対して、韓国側が、同意見であると言いまして、なお、第三点といたしまして、形式的には日本側から言ったことになっておりますが、このアメリカの解釈というのは、財産請求権の相互放棄――レシプロカル・リナウンシエーションと英語では書いておりますが、相互放棄を意味するものではないと了解する、と言ったのに対して、韓国側が、その通りであるとうことを言っておる。こういうのが合意議事録の内容でございます。

○田畑金光君 今三つの点について御説明がありましたが、その第一の点において、韓国側は引き続き請求権を日本に要求する、そしてまた日本側は今までの請求を引っ込める、こういうことを第一にはっきり認めているわけで、どこにも今伝えられているように、日本側が請求権を放棄したから韓国の日本に対する請求権については相殺の思想で軽減されるのだ、こういうようなことは合意議事録の中に全然出ておりませんが、その点はどうですか。

○政府委員(中川融君) その考慮するという点は合意議事録でなくて、アメリカの解釈そのものにはっきり出ているわけでございます。合意議事録はアメリカの解釈そのものに関連いたしましてのいろいろの問答をここに記録にとめたということでございます。従って、その考慮するという点についてはいささかも変化はないわけでございます。

○田畑金光君 口上書に基づいて合意議事録ができているのですから、少なくとも相殺の思想が当初においてあったとするならば、当然これは合意議事録の中において、韓国側も請求権については、日本の財産請求権を放棄したことを考慮する、こういうようなことが入れられてしかるべきであって、合意議事録に問題がない限りにおいては、あなた方のその御答弁というのは、解釈というのは、一方的な日本政府の解釈もっての当時から今日まで継続しているにすぎない、こう見られるわけですが、この点は外務大臣はどうお考えでしょうか。

○国務大臣(小坂善太郎君) この最後のところに、「アメリカ合衆国の見解の表明については、大韓民国政府もこの表明と同意見であると了解する。」、こう言っているのでございます。なお、われわれのそのことに対しまして、そういうことを申しましたのに対して、大韓民国代表部代表も「本代表の了解も、そのとおりである。」と、こう言っているわけであります。このアメリカの解釈についての見解というものに、そこで完全に同意されたものと考えているのであります。

○田畑金光君 それは何ですか、合意議事録のあれですか。

○政府委員(中川融君) 発表されたものと同じものであります。つまりアメリカの解釈と同意見である……。

○田畑金光君 それは合憲議事録の中に載っているのですか。

○政府委員(中川融君) 載っております。三月九日に発表したものに載っているのでございます。

○田畑金光君 あなた方の、政府の今日までこの問題に関していろいろ述べておられる解釈は、われわれ常識的に判断すれば、当然相殺的な思想によって考慮さるべきである。日本国民として、また日本国民の利益の上から当然そうでなければならぬ、こう考えておりますけれども、しかし、この口上書の文章を読みますと、政府の解釈のようにとれるところもあるし、ところが最後のところに参りますと、アメリカもこの厄介な問題について逃げている。たとえば、「合衆国が千九百五十二年四月二十九日付の韓国大使あての国務省の書簡に述べた解釈を示したことは、平和条約の規定に対する合衆国の責任からして、適当であった考えられる。しかしながら、平和条約に定められている特別取極の締結に当たって、韓国内の日本財産の処理が当事国によりまさしくいかに考慮されるべきかについて合衆国が意見を表明することは、適当とは思われない。」、こう書いてあります。また、「特別取極は、関係両政府間の問題であり、かかる決定は、当事国自身又はその決定を当事国が委任する機関のみが、当事国の提示することのある事実と適用される法理論とを十分に検討した後に行なうことができるものである。」、この点になっていきますと、政府の解釈とはどうも、相殺的な思想でこの口上書が書かれているとは読みにくいのです。その最後のところにいきますと、こういうようなところが、韓国との話し合いが、日本は請求権を放棄したが、韓国はあくまでも当初の方針をくずしていない、こういうことであろうと考えますが、この点どうでしょうか。

○国務大臣(小坂善太郎君) 日本の財産請求権放棄の事実が、この特別取りきめにあたって考慮されるということは、双方で合意されているわけです。そこでアメリカの解釈でありますが、今お読みになりました通り、「韓国内の日本財産の処理が当事国によりまさしくいかに考慮されるべきかについて合衆国が意見を表明することは、適当とは思われない」云々と書いてあるのであります。そこで、との程度考慮されるか、これはその当事国が話し合ってきめることだというだけでありまして、考慮されるという事実はここに明々白々に書いてあると思います。

○田畑金光君 そこで、私はさらにお尋ねしたいわけですが、私有財産の尊重の問題について、当初申し上げたように、こんなに強く外務省はこの問題については明確な見解を昭和二十八年の当初においてはとっておられるわけですね。このように、また、たとえば、読んでみますと、請求権の問題は非常に複雑であるが、日本側の主張の妥当性を考える場合、第三者の判断を求めていない現状では、先例をたぐってみることも便法であろう。この点、第二次世界大戦後のイタリア平和条約の場合は、割譲地域やトリエステ自由地域にあったものは、国有財産と準国有財産(例えば公有財産やファッシスト党の財産)は無償で譲受国や分離地域に譲渡されたが、私有財産については、これらの地域に居住していたイタリア人の財産は譲受国の国民の財産と同様に、またこれらの地域に居住していなかったイタリア人の財産については第三国の国民の財産と同様に、それぞれ尊重されている。またヴェルサイユ条約では、割譲地域にあるドイツ財産は、国有財産はイタリア条約の場合と同様に無償譲渡され、私有財産も留置、清算される建前であったが、実際には、原則として割譲地の住民であったドイツ人の財産は、国籍選択によってドイツ国籍を恢復した場合にも、留置、清算から除外されていたので、事実上私有財産尊重の原則は貫かれている。こういうことを明確に外務省は国際法の解釈あるいはヴェルサイユ条約、イタリヤの平和条約、こういう点々等から見て、私有財産をあくまでも尊重されねばならぬ、その原則は貫くのだ、こういう態度できているわけです。この点については政府の見解は今日変わったのかどうか、この点を外務大臣から承りたい、こう思います。

○国務大臣(小坂善太郎君) 先ほど条約局長が御答弁いたしましたように、その解説者なるものは、当時決裂後の会談のあとを受けて、日本政府はかくいう態度をとったのであるという解説であるわけです。従って私有財産の没収というものに対してのわれわれの見解というものを非常に強く強調したものと考えております。しかし、累次における研究の結果、現在のような解釈になっておるわけでありまして、平和条約の全体の流れを見ましても、たとえば十四条において、あるいは十六条においては、中立国における財産までも国際赤十字に引き渡しておるのでありまして、全体としてこの第四条問題だけについて言うということも不適当であろうというふうに考えておるのが現在の解釈でございます。

○田畑金光君 韓国との話し合いが決裂した直後書いたものであるから、こういうことになったというお話ですが、そうしますと、外務省は、この国際法の解釈や条約の解釈等についても、そのときそのときの事情によって解釈を右にし左にするのですか。

○政府委員(中川融君) 国際法あるいは条約の解釈をそのときそのときによって左右する、そういうふうに曲げてやるということでは決してないのでありますが、たとえば二つの解釈があり得る際に、そのうちの日本国にとって、いわば有利である片方の解釈をとる、そのときの日本の立場なり主張なりに有利なものを傍証として取り上げるということは、当然することでございまして、今の韓国側の主張に対抗する意味でのこの文書で、啓発文書でございますので、日本側は解釈に有利な面を取り上げて書いておるわけでございます。それ自体が間違いであるとは申せませんが、そのほかの面もあるということでございます。

○田畑金光君 この財産請求権の問題は、この条約四条の問題ということですが、この条約の四条というのは、これはどういうことですか。適用されるのは当然北鮮も含めて朝鮮全体をさしておると考えますが、この点はどういうことですか。

○政府委員(中川融君) 条約四条の(a)項(b)項とあるわけでございますが、(a)項は第二条地域、この全部にもちろん適用あるわけでございます。なお(b)項は第二条、第三条の地域にそれぞれ適用あるわけでございます。

○田畑金光君 ですから、私のお尋ねしておるのは、北鮮も含めて、朝鮮全体について適用されると、こういう意味でしょう。

○政府委員(中川融君) 北鮮の問題でございますが、たとえばこの第四条の(a)項の取りきめを結ぶ際に、相手が必要なわけでございまして、日本は、ここには当局という言葉、その当局と、こういう取りきめを結ぶということになっておりますが、朝鮮半島におきまして、日本がこういう権限のある当局として承認しておりますのは、結局今の大韓民国政府でございます。従って、大韓民国政府とこの財産の取りきめは行なうといへうことになると思います。なお四条の(b)項でございますが、これは、ここに書いてあります通り、合衆国軍政府によって行なわれた措置を承認するということになっておるので、合衆国軍政府は、朝鮮におきましては、南鮮だけに存在したわけでございますから、(b)項が適用あるのも、これは南鮮だけでございます。

○田畑金光君 外務大臣にお尋ねしたいわけですが、この条約第十四条が賠償の問題と在外財産の問題を書いておるわけです。先ほど第十六条の中立国にある日本資産の問題について、何か述べておられたようですが、その前に、この第十四条の賠償と在外財産の点について、ことに第十四条の(a)の二項に掲載されておる内容です。すなわち日本国及び日本国民――ここでは国有財産、公有財産も含んでおりますが、特に私有財産について連合国の中にあった私有財産というものが、すべて差し押え、留置、清算する権利を認めておる。相手方の国が処分する権利を日本はこれを認めておる。この在外財産の没収というか、処理を認めておる。このことはどういう性格のものなのか、この点について外務大臣の一つ見解を承りたいと思います。

○国務大臣(小坂善太郎君) 正確とおっしゃいますと、ここに書いてある通りでございますが、要するに日本が無条件降伏したということによって生じた結果だというふうに考えるのであります。

○田畑金光君 これは私有財産も没収されたわけですが、賠償の一部として引き当てられたものとして見るのですが、この点はどうでしょうか。

○国務大臣(小坂善太郎君) そういう点は解釈のしようだと思いますが、要するにここに書いてある文書から読むよりほかはありませんけれども、実質的にそれだけのものをとったから、それだけ賠償をやめたとも考えられないこともないかもしれませんけれども、要するに、それとそのままつながるというふうには読めないのであります。

○田畑金光君 これは第十四条を通して読めば、明確に(a)項の一においては賠償ということを規定しているわけです。生産賠償、沈船引き揚げによる賠償、役務提供による賠償、そうして、同じ賠償の(a)項の中の第二項ですよ、今私の問題にしておるのは。その中には国有財産、公有財産、その他いろいろのものがあるわけです。これらは含めて実質的な私は賠償として読むべきだ、賠償に充当されたものとして見るべきだ、こう思うのですが、この点は外務大臣としてはどうお考えになりますか。

○国務大臣(小坂善太郎君) 賠償にとるにはまだ十分でない状態に日本はある、日本の戦後の状態は賠償をとるということに適さない、そういう賠償をとるということが、その次に来たるべき世界平和の建設のためによくない、こういう思想から平和条約ができておると思いますのですけれども、しかし、そういう思想からいたしまして、とにかく日本に対し、この十四条の二項にある、ここに記載してあるようなものを没収する、かようなことになったと読むのが一番すなおだと思います。

○田畑金光君 没収したわけですが、その没収したものはただで、何らの根拠なしにやったわけではないので、戦勝国家が敗戦国家の財産を、戦争の損害や苦痛の一つの代償という立場から、賠償の一部に引き当てたのだ、こう見るのがこの条文のすなおな見方だと思うのですが、この点はどう解釈されるか。

○政府委員(中川融君) この十四条の(a)項の2の解釈につきましては、平和条約を御審議願っておりましたころから、いろいろの問題の議論が取りかわされた条項でございます。なるほどこの前文的なものとしては、賠償をとるのには日本の資源が十分でないということから、第一にある限定された範囲における役務賠償というものが1として掲げられ、2に、在外財産を勝手に処分することを連合国に認めるという規定があるのでございまして、賠償の問題と全然無関係ということはいえないと思いますが、しかし、これが賠償にかわるものだ、賠償にかわる意味でこれをとったのだというところまでも関連づけるそれだけの根拠もない。要するにここに書いてある通りのことを日本は受諾したのだという以外に、これの的確の解釈はないというのが、そのころからの政府の説明だったと思います。現在でも大体そういうふうに考えております。

○田畑金光君 その当時の平和条約審議等の特別委員会等の際にも、政府はこの点については、非常に今あなたは不明確なお答えをなさっておりますが、賠償の全体に相当するものでなくても、賠償の一部にやはりこれは該当する、充当されたのだ、こう解釈されていたのが、その当時の政府の態度であったと、われわれは見ておりますが、どうでしょうか。その点はっきりしてもらいたいと思うのです。

○政府委員(中川融君) これは平和条約を作る際の過程を考えてみますと、平和条約の第一草案では、役務賠償という問題もなかったのでありまして、連合国もきれいさっぱり賠償を放棄いたしました。そのかわりと申しますか、連合国にある日本財産は、そのかわり全部取ってしまうことができるという規定になっていたのでありますが、その後この役務賠償の規定が、アジア諸国の希望で入ったために、この十四条が非常に賠償関係の条項のようになってきたのでありますが、十四条はむしろその当初の意図したところは、在外財産を勝手に処分できるという意味の規定であったわけであります。従ってこれが賠償そのものである、賠償の一部であるというふうにまで解釈することは、必ずしも適当ではない。しかしながら、賠償権を放棄したことと実質的な関係はもちろんあるというところがすなおな解釈であろう、私はそのように、平和条約を御審議願ったころから、政府は大体そういうような答弁をしているように、私が読んだところでは、そういうふうに記憶いたしております。

○田畑金光君 時間もないので、この点は不明確なお答えのままでありますが、沿革から見ても、この条文の構成から見ても、これは賠償の全部ではないにしても、とにかく連合国家においては、その国にある日本の財産あるいは日本国民の財産を処分することによって、実質的には賠償の一部に、あるいは賠償の全部に充当しているわけで、事実関係から見ても、そういう結果になっているわけです。そうでしょう。また国際法学者の中でも、明確にこれは賠償だといっているわけです。すなおに読むなら、そう見るのがほんとうだと思うのです。そこで私は大臣にお尋ねしたいのですが、憲法二十九条との関係です。「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」、明確になっているわけです。しかも私有財産は、申し上げたように、公共のために用いる場合については、当然法律によってきめられた場合でなければ、個人の財産というものを使用することはできない、こういう建前になっているわけです。私有財産というものが、今申し上げたように賠償の一部に充てられた。賠償というのは、私は国民の債務だと思うのです。国民全体の債務だと思う。国民全体の債務であるなら、個人の財産が賠償に充当されたとするならば、その限りにおいて、当然国はこれに対して補償措置というものを考えなければならない、こう考えるわけですが、この点は外務大臣どうお考えでございましょうか。

○国務大臣(小坂善太郎君) 憲法二十九条に書いてあります通り、わが国の政府が、公共のために私有財産を使用するという場合には、これに正当な補償を支払わなければならぬということでございます。平和条約によりまして日本が放棄いたしましたる財産につきましては、これは敗戦の結果、日本がこれらの財産というものを外国の圧力によって放棄した、こういうことでございまして、これは今いろいろ申し上げました、ように、十四条二項の問題は、賠償とは読めないのでありまするし、また、そういう趣旨の違いがございまするので、私は今、田畑さんのおっしゃられたような解釈はとらない次第でございます。

○田畑金光君 それから二十九条ですね。正当な補償のもとに、公共のために用いることができる。ただそれを読み上げられただけにすぎませんが、これは公共のために用いる、使用すると、こういっておるわけで、収用するということじゃないのですね。もっと広いことをこれは意味していると、われわれは考えておるわけです。先ほど私があげましたこの資料を見ましても、外務省のこの雑誌を見ましても、私有財産の尊重というものは、長年の国際的な慣行である。それが第二次世界大戦以後いろいろ事情があって変わっておる点は、われわれも見ておりますが、イタリアの平和条約を見ましても、明確にこの点については国が補償するということを書いておるわけですね。イタリアの平和条約には書いております。その点はどうですか。

○政府委員(中川融君) イタリアの平和条約によりまして、在外財歴は、やはりおのおののその連合国がいわば自分の方の請求権の引き当てにこれを勝手に処分できる。その限度では勝手に処分できるという規定になっており、それを受けまして、そういう私有財産を奪われた個人に対しては、イタリア政府が適当な補償をするということが条約の中に書いてあるのでございます。

○田畑金光君 現にイタリアの平和条約においてはそのように書いてあるじゃありませんか。これをなぜ日本政府が落としたかということは、これは日本政府の責任です。先ほど外務大臣は、戦争の結果、日本はいくさに敗れてこの条約を無条件に認めて、そうして財産の処分権を相手方に渡したのだと、こう言っておりますが、大体戦争行為自体、これは国家の責任として起きたことじゃございませんか。そう見てくるならば、当然戦争の結果起きた事態であり、講和条約締結の結果財産権が放棄されたとするならば、われわれの見るところですよ、条約を締結するのも、これは国家の行為です。国内において土地収用法によって、法律によって処分するのも、これは国家の行為です。条約締結と、すなわち条約と国内法というものとは別にそう違ったものじゃないと、こう思うのですが、その点どうでしょうか。

○国務大臣(小坂善太郎君) イタリアの条約には、先ほど条約局長が申し上げたようにそうした規定が、補償のことが書いてあるのでありますけれども、これは実際問題として実行されておらないというように聞き及んでおります。そうした規定を入れることすでに無理があったという解釈のもとに、実行されておらないというように聞いておるのであります。私どもは、この条約に書いてある通りにすなおに読んで処分するのが適当と、処置するのが適当であると、かように思っておるのであります。

○主査(塩見俊二君) 田畑君に申し上げますが、発言の時間が……。

○田畑金光君 わかりました。時間がきましたから、やむを得ませんけれども、イタリアの平和条約が実行されていないというのも。一つ資料を提出願いたいと、こう思うのです。今の答弁は、外務大臣、私は答弁としてなっていないと思うのですがね。もっと法律的な根拠、条約上の解釈を明確にして説明願わぬと、私はやっぱり条約の締結ということも国家の権力の一つの発動である、法律、国内法の制定もそうだと。国内法によって、土地収用法なら土地収用法によって、個人の財産を正当な対価を払うことによって使用することができる。同じように、戦争による敗戦の結果、国民全体の債務として支払うべき賠償が、一部国民の、たまたま外地に居住したその人の私有財産をもって充当する、こういうことになってきますならば、その限りにおいて、当然政府はこの私有財産の問題については考慮を払うべきである、こう考えておりまするが、この点もう一度大臣の見解を承りたいと、こう思うのです。
 さらに私、時間がないので、この際あわせてお尋ねいたしますが、台湾の問題でも、日華平和条約によって、同国間の取りきめということになっておるわけですね。この点は一体その後話し合いをしたのかどうか。日華両国間によってこれが話し合いになってきたのかどうか。この点はどう解釈すべきであるか、その点を一つ伺いたいと、こう思うのです。

○国務大臣(小坂善太郎君) このたびの戦争の結果、われわれは北方において、あるいは南方において、あるいは旧満州地帯において非常に多くの権益を放棄いたしておるのであります。で、また敵国にあった――その当時の旧敵国にあった財産、これも放棄いたしておる。それから中立国にあった財産も放棄しておる。こういう関係は田畑さん御承知の通りであります。で、そこで、こうしたものに対して、先ほどから御説明しておるように、この平和条約を結ぶ際に、今度の条約においては、賠償なき講和というものをやろうじゃないかというのが当時の原案でございましたが、それについて、日本がその放棄した地帯で持っておったものに対しては、その財産権を放棄するということになった。ところが、その賠償なき講和というものが、いろいろな関係国の言い分を入れまして、賠償という字も、役務賠償という形において入ってきておるのは、御承知の通りでありまして、先ほどから御説明しておるように、この賠償ということと、この日本の外地に持っておった財産権というものを放棄したこととの間には、直接の条約上の関連はないのであります。ただそうしたことが、同じ財産の放棄である、財産の失権であるという形においてのつながりが、全然ないとも言い切れぬところも、これは問題の解釈のしようによって多少あるかもしれませんが、すなおな解釈からすれば、これは関係ないということであります。
 それから台湾の問題についてお話がございましたけれども、この点については、当方からいろいろ話をしようという申し入ればしておるようでございますけれども、しておったと聞き及んでおりまするけれども、この問題については、先方からまだそれについて応諾して、話し合いをしようということになっておらないというふうに了解いたしております。

○田畑金光君 最後に一つ。この台湾の問題ですね。私はこれもっと詳しく条約に基づいて、あるいは議定書に基づいて質問しようと思っていたんですが、時間の関係でやむを得ませんけれども、この問題については昭和三十一年の在外財産問題審議会の当時、中川さんが何か外務省を代表して出ておられて、その当時も、まだ話し合いをしていない、こういうようなことを言っておられるのですが、話し合いをしておらないのじゃない、話し合いができないのでしょう、事実上。

○政府委員(中川融君) 日華条約に基づきまして、相互の財産について交渉することになっておるのでありまして、これはその日華条約ができました直後から再三先方に交渉開始を申し入れておるのであります。三十一年当時にもそのようなお答えをしたと思いますが、申し入れ、また最近もこれを申し入れております。しかしながら、遺憾ながら、中華民国政府の方は、この問題について、まあいろいろな事情が、複雑な事情があるからということで、まだこれを応諾するに至っていない。従って、まだ交渉が始められていないのが現状であります。

○田畑金光君 これで私は終わりますけれども、きょうの質問は、外務大臣の御答弁も、局長の御答弁も、非常に不満足でして、特に外務大臣の答弁は、条約上の根拠とか法律上の根拠というものを確信のできるような御答弁になっていないことを非常に残念に思っているのです。まあたとえば、「昭和二十七年(ワ)第三千六百五十号」、これは東京地裁の判決でしたが、「在外公館等借入金返還請求訴訟事件」、これを見ますと、この判決の理由書の中にこういうことを書いてあるのです。被告、これは国ですが、国は、「本件借入金を支払うことは在外財産を持ち帰ったと等しく、他の戦争犠牲者との負担の公平を失すると云うが、平和条約第十四条によって、日本国民が喪失した在外財産についても、被告が」――すなわち国が、「之を補償することは望ましいことであるのみならず」、云々と、こう書いてあるわけで、この判例の一つをやはり見ましても、裁判において明確にこういう解釈を十四条について下しておるんです。また国際法学者の、あるいは憲法学者等の意見を聞いてみましても、第十四条の解釈については、やはりこの在外財産の処分というものが賠償に振り充てられておるんだと、従って国は憲法二十九条に基づいて、これについての補償措置を講ずべきだ、こういう意見が私は多いように見受けられるわけです。政府のとっておられる解釈というものは、憲法学者の一部の人は、確かにそういう解釈をとっておりますが、しかし、この条約をすなおに読む限り、政府の解釈には非常に無理がある。それを私は率直に認めていただきたいと思うんです。しからば、そのあとの処理はどうするかという問題は、私はそこまで今触れているわけじゃないのです。もっとこの問題については、政府としてもすなおに条約を読んで、またこの条約を結んだ前後の事情、連合国と日本国との関係、あるいはまた国際法の建前等々から十分この問題については掘り下げて検討願いたい。このことを要望して、いずれまた別の機会にさらに質問を続けたいと思っております。

 第040回国会 参議院予算委員会 第5号 昭和三十七年三月五日(月曜日)午前十一時十八分開会

【発言順】
 委員      坂本 昭
 内閣総理大臣  池田 勇人
 外務大臣    小坂善太郎
 委員長     湯澤三千男
 外務省条約局長 中川 融
 委員      木村禧八郎
 委員      亀田 得治
 委員      戸叶 武
 委員      杉原 荒太
 大蔵大臣    水田三喜男

○坂本昭君 次の問題は、われわれ、特にアジアにおけるわれわれは、今二つの大きな危機を持っている。それは限定原子戦争の危機、人間が作った機械でわれわれ自身が殺戮されるという一つの危機と、もう一つは、相次ぐ軍事クーデターによって民主政治の基盤が殺戮されようとしているこの危機。私はこの点で、このクーデター問題について若干お伺いいたしたい。
 その第一は、この現世界における軍事クーデター一般について、総理の見解をお聞きしておきたい。というのは、一部の軍隊あるいは極右翼の者あるいは極端主義者、アメリカで言えば、たとえばジョン・バーチ協会の人たち、こういう人たちの行動は、これは民主主義に対する挑戦であると考える。総理はどういうふうなお考えを持っておられるか、この際承っておきたい。

○国務大臣(池田勇人君) クーデター自体は、やはりお話のように、民主主義に対する、何と申しますか、破壊活動であります、それ自体は。しかし、今回のビルマのあれも、やはり今の政治がよくない、もっと民主主義的にやりたいという希望があるのじゃないか。今から二年半前、ちょうどネ・ウィンのクーデターで、一時ネ・ウィンが首相の地位につきましたが、その後政局が安定したという場合におきましては、これを文民政権に、ウー・ヌー政権に渡した。しかし、ウ・ヌー政権の状況を見まして、これでは各州の協力が――独立できる各州の協力がない、ビルマ全体の害になるということを考えたのでしょう、ああいうことをやった。しかし、このクーデターがいつまでも続くとは私は考えません。過去の例から申しまして、また文民政府に移ることを期待いたしておるのであります。また、韓国におきましても、そういう気持があるのじゃないか。パキスタンにおきましても、そういう気持で私はやったと思います。また、タイにおきましても、そういう気持がわれわれに看取できるのであります。で、クーデター自体はわれわれは絶対に排撃しなければならぬ民衆の敵である。しかし、彼らのやっておることは、そういう気持でやっておるように感じられる。しかし、それで私は是認するというわけじゃございません。われわれがクーデターを絶対排撃するということは、国民全体の気持でございます。是認するものではございません。外国のほうではそういうふうな気持でやっておるように見受けられます。

○坂本昭君 次の点は、去る一月十九日の施政方針演説の中で、アジア外交の推進について、「世界の新しい波に針路を誤り、軽率にも無謀な戦争を強行し、悲惨な敗戦を経験したのであります。」と、率直な反省の上に立ってこのアジア外交、友好諸国との協力を進めていきたいという決意を披瀝されたのである。ところが、日本の一部に、この総理の所信について、これを批判し、非難をしている向きがある。総理は、この過去の誤れる軍国主義戦争政策、これを排除すべきものだという方針を明らかにされたのであるが、当然この方針は微動だにもされるはずがないと思うのですが、この際一応伺っておきます。

○国務大臣(池田勇人君) 施政方針で申し上げたのは、私の心からなる叫びでございます。

○坂本昭君 第三点は、日本におけるクーデターの問題であります。
 で、われわれは、このクーデターというものをまことに非民主的な、前近代的なもので、いわばわれわれ日本人にとって、一つの恥辱であると考えるのですが、先般の三無事件、これについて総理はどういうふうな理解をしておられるか、どう心得ておられるか、ひとつ承っておきたい。巷間、一部、これはフレーム・アップ、でっち上げの事件であるという意見もある。そしてまた、その背後関係についても、最近、日韓会談を推進するグループの数名の人も、この背後関係にあがってきております。さらにまた、奇妙なことには、最近、台北AFP電として、この三月に左翼クーデター――右翼じゃないですよ、左翼クーデター説というものが流布されておる。私はこういう左翼クーデターなんというような言葉は聞いたことがないのですが、特にこういう日本のクーデターについての総理の見解を、この際承っておきたい。

○国務大臣(池田勇人君) 三無事件のごときはまことに遺憾千万でございまして、お話のとおり、国際的にも私はあまりいい影響があったとは思いません。非常に悪い影響があったと思います。しかし、世界の人は、やはり日本がそういうことをする国だとは私は考えておられぬように思っております。また、日本国内におきましても、一応は驚きましたけれども、非常に無謀な処置で、こういうことは今後あり得ないというぐらいに国民大多数も考えられておると思います。しかし、事が起こりました以上、これに対しましての対策は、破防法によって今首謀者その他の関係者を取り調べ中であるのであります。その結果につきましては、まだ十分承知いたしておりませんが、十分調査を進めておるはずでございます。

○国務大臣(安井謙君) いわゆる三無事件につきましては、今総理のお話しのとおり、昨年の秋ごろから、この日本の国情に対して、特に共産主義革命に対する危惧を持った一部の人が、それに対する政府の施策に不満を感じて、現政府を転覆して強力な反共政府を作るという意図のもとに計画を進めておったわけでございます。これは事前にその情報をキャッチいたしまして、昨年の十二月十二日にその一味を逮捕し、現在、二十二名を取り調べました結果、十三名が起訴されておる次第でございます。

○坂本昭君 左翼クーデターはどうなんですか。

○国務大臣(安井謙君) 左翼クーデターがあるというような計画につきましては、政府は全然こういったものを探知しておりません。この三無事件の起こった基礎には、その人方は、三月ごろ左翼のクーデターが起こるのじゃないか、それに対して十分な処置をするのに、政府の施策が手ぬるいという感じから起こったように聞いております。

○坂本昭君 過去の誤れる戦争政策について、これを否定して、新しい友好のもとにアジアにおける経済的援助、そういったものをしようとするならば、私は当然ここに賠償問題について新しい配慮というものが必要になるであろうと考えるのであります。ところが、例の鶏三羽で二百億というベトナムの問題につきましても、その後ダニムの発電所が逐次工事が進んでおります。ところが、この十六万キロワットのダニムの発電能力は、これはその後われわれの知るところでは、アメリカの持っておる六十カ所の航空基地、あるいは十一カ所の軍港、さらにまた久保田前大使も指摘しておる兵器工廠、こうしたものに使われるのであって、真にこの賠償がその国民の福祉のためにどれだけ使われておるかということは、非常に疑わしいと思います。私は、この賠償の実施にあたり、また今後も行なわれるわけでありますが、こうした賠償が真にその国の国民に、われわれ日本国民の反省の上に立って償いとして送られるところの賠償が、正しく行なわれておるかどうか。それについての総理の見解をこの際承っておきたい。

○国務大臣(池田勇人君) 国々によって違いますが、今ダニムの発電、これはベトナムでございますが、ビルマの例をとりますると、日本の賠償でやりました八万五千キロの発電は完了いたしましたが、ビルマ経済はその電力をフルに使うだけの産業もまだ起きていないようであります。私は、向こうに参りまして、そのことを聞いて、経済の復興を急がなければならぬということを、ビルマについて申したのでございます。ベトナムにつきましては、まだ詳しい事情は知りませんが、お話のような点はビルマにおいてあったのは事実でございます。したがいまして、これは発電事業はできたけれども、それに伴う産業の立ちおくれのために、十分電力がフルに利用されていないということは聞いているのであります。ベトナムにつきましては、私は十分承知しておりません。そういうことが全然考えられぬということはないと思います。したがいまして、工事の進捗につれて、これが利用方法はやはり考えていかなければならぬと思います。

○国務大臣(小坂善太郎君) 賠償を実施するにあたりまして、われわれはそれが軍事的な目的に使われないようにという配慮を十分にいたしているつもりであります。ただ、賠償の性格上、先方が要求するものをこちらは提供していくわけでございますが、現在までのところ、非常に先方の民生安定に貢献しているというように承知いたしております。総理からお話のございましたビルマのバルーチャン発電所なども、これによりまして先方の電力が二倍になったということでございます。ベトナムのダニム発電所は、現在二〇%ぐらい工事が進行したという段階と承知いたしておりますが、もちろん、この電力というものは、これは工業の基礎でございます。これができますることによりまして、工業が先方の地にできていく、あるいは工業に至らざるまでの間にも、この電力というものを農業水利等の面にも利用いたしますことによりまして、非常に先方の経済の拡大に多く貢献するものと期待いたしているわけであります。

○坂本昭君 確かに電力は工業の基礎ではあるが、不幸にして、その国民の福祉のために使われなくて、軍事的目的のためにより多く使われているということを、私は伺っているわけであります。たとえば、昨年フィリピンに参りましたが、賠償で送った日本の漁船、それがマニラ湾にいたずらに停留されて、動いていない。そうして私が行きますと、漁撈関係者を送ってもらいたい、そういう言葉もあった。またさらに、インドネシアについて申しますならば、あそこは広い海域を持っておって、特に日本の和歌山県の漁業公社がこのインドネシアとの間に漁業協定を結ぼうとしている。しかし、こういった技術協力、経済協力に対して政府当局は干渉をして、十分な協力をさしていない。そうしてかえってアメリカ側が、インドネシアとの漁業協定を先に締結しているというように聞いている。つまり、ほんとうにその国の人たちの幸福になるような賠償あるいは経済協力をやっていないじゃないか、そういうように私は伺っている。もう一ぺん外務大臣の御答弁をいただきたい。

○国務大臣(小坂善太郎君) お話のように、このフィリピン、インドネシア、ともに非常に水域を利用する必要の多い国柄でございますが、フィリピンに対しましては、機械類、電気器具が二十七億円、鉄道車両、船舶、自動車等、運搬用機器が二百四十億円、プラント類九十五億円、鋼材、セメント等五十二億が要求されております。また、インドネシアに対しましては、船舶、自動車等運搬用機器が百十億円、機械類及び電気機器五十三億円、プラント類六十五億円、橋梁十五億円、化学製品十億円などを供給いたしておりますが、その他にも賠償によりまして留学生や研究生の交流もいたしておりますことは、御承知のとおりであります。ただいまお話しの和歌山県の漁業の問題は、非常にその後話が進みまして、円滑に、インドネシア政府との間にも実施についての話し合いが行なわれる段取りになって参りました。アメリカが特にさようなものを推進しているというふうには、私はよく承知いたしておりません次第でございます。

○坂本昭君 外務大臣は何も知らないのであって、そういうことだから、日本の賠償がほんとうにその国の人たちのしあわせに役立っていない。むしろ逆な効果を与えている。今、南ベトナムについては総理は知らないと言うけれども、一番今日世界の中心になって、宣戦布告のない戦闘が行なわれている。そういわれている南ベトナムについて、近い日本の総理大臣が知らぬとは何事ですか。アメリカの共和党の委員会でさえも、第二の朝鮮戦争だという点で政府に対して強い質問が行なわれている。こういうときに、この日本の総理大臣がベトナムのことをよう知らぬ、そういうことは私は極東のこの外交の中心にある日本の総理大臣として許されることではないと思う。
 さらに私は申し上げたいのは、こうしたベトナムの二百億という協力を含めた賠償金、あるいは今度あなたたちがやろうとするタイの特別円九十六億円、あるいはまた韓国が請求権という言葉で要求している二千億から三千億になろうかといわれている金額、またさらにガリオアの援助による返済金二千八十五億、こうしたものがいずれも、名前は違いますよ、一つは請求権といったり、あるいは特別円といったり、あるいは返済金といったり、いろいろ名前は違うけれども、いずれも自由主義諸国の、しかもアメリカが特に軍事的に関係の深いところ、そういう国々ばかりにやられるではありませんか。そうして日本国民は、いろいろな名前の、結局は国民のふところから出ていくいわば戦争につながったところの賠償の形のもの、また、われわれは戦争は済んでいると思っておったのだけれども、政府のやるところを見ているというと、なかなか戦争は終わっていない。それどころではない。さらにずっと今後の賠償の内客、これをひとつ私はこの際財政的に明らかにしていただきたい。今までに一体日本国民はどれだけ支払ったか、それから今後はどういうふうに支払っていかなければならないか、年次的なその国民の負担、これについてひとつ御説明をいただきたい。

○国務大臣(小坂善太郎君) 先ほどのインドネシアとの漁業の問題は、これは賠償ではございません。経済協力でやっていこう。ただ、これを賠償の解釈に振りかえるかどうかということは、インドネシア側の話を聞いてみてやる考えでございます。さらに、最近先方の主管庁が、従来軍人復員省というのでやっておりましたが、農林省に移管されまして、そのため若干渋滞のきらいがございましたが、最近、先ほどお話がございましたように、だんだんと円滑にいっております。
 それから、タイのことは、これは御承知と存じますが、協定の中にはっきりと、これは軍事物資には使わないということを明記いたしてございます。
 それから、最後の点で、賠償の実施の状況でございますが、本年一月末現在では、履行済みの額が一千二百十億円でございます。義務賠償額は三千六百六十八億円、すなわち三分の一を終了しているという状態でございます。

○坂本昭君 今伺うと、大づかみにいって、日本の賠償というものは私は不当に高いと思うのです。今までに千二百十億の支払いが済んだということですが、まだこれからさらに三千六百六十八億ある。さらに、今度はガリオア、エロアの返済金も入ってくる。私はこれらを含めますというと、賠償そのものでも五千億に近かろうと思う。ことにまた、ビルマあたりからは、さらにこの五条の検討要項を振りかざして再要求もある。そうしてきますというと、日本の負担というものは非常なものであります。大体西ドイツの場合は三千億程度だ。イタリーの場合でも千二百九十六億、西ドイツが二千九百八十八億。こういう数からいって、私は日本の賠償の負担というものは非常に多過ぎる。こういう点で、やすやすといろいろな国の要求に従うということは、国民生活を破綻させるもとにならざるを得ないと思うのであります。
 そこで、今度はタイ特別円の問題について、具体的な点を一点お伺いいたしたい。それは第一に、昭和三十年の八月の日本国とタイ国との間の協定が、これが大体非常にあいまいで、かつ政治的なものであって、当時国会においても金約款の解釈等をめぐって法的な検討も十分されていない面があると私は思うのであります。昭和三十年三月三十一日の参議院予算委員会で、松澤兼人議員の質問に対して当時の重光外相は、過去の協定を離れて両国で合意するより方法がないと答弁をしている。そうして当時のタイ国の外貨の事情が悪いこと、タイの軍事費が大きいこと、旧同盟国であったということ、こういうことの背景から政治的解釈にまかされた気配が非常に強いのであります。で、今回の衆議院段階における政府の答弁を読みますというと、外務大臣も、総理大臣も、二人とも大所高所に立ってという言葉が実にひんぱんに出てくる。一体、大所高所とは何でありますか。昭和三十年の非常にあいまいなやりとりを再び繰り返そうとしているのではないかと思う。私は、国民の側の大所高所に立って総理にひとつお尋ねをいたしたい。大所高所とは何ですか。

○国務大臣(池田勇人君) 過去、現在、将来の日本とタイとの関係を考えまして、そうしてこういういざこざは、この際できるだけ両国の納得のいくような方法で解決した方がいい、こういうのが私が大所高所からと言う意味でございます。

○坂本昭君 大所高所になっておらぬですね。字引を引いたら、今の総理の答弁が大所高所に当たるかどうかということは一目瞭然だと思う。国民を愚弄するも私ははなはだしいと思う。
 さらに、続けて伺います。第一の問題点は、これは国民は信じているように見えます、現段階では。それは、昭和三十年八月の協定自体が、実は非常におかしいのであります。問題点を、非常に微妙な点がありますので整理をしてみますと、まず、昭和十六年の十二月の二十一日に日本とタイ国は同盟条約を結びました。それから、軍費の借款覚書によって、バーツ貨で買い入れるということになりました。そうして昭和十七年の七月一日現在に、未返済残額は金をもって返済するということになっておって、この金支払い分の一部が天引き渡しのままにあったようであります。そうして昭和十七年の四月の二十一日に、日本外務省とタイの大蔵省の了解事項として、貿易外支出は特別円によるということに定められたのであります。それからさらに、昭和二十年の九月十一日に、日タイ同盟条約とそれに付随するすべての協定、もちろん特別円協定を含む協定の破棄の通告がされてきました。そのときの残高は約十五億円あったとされています。一体、この十五億円あったという証拠は、記録として残っているかということも、これはあとで御説明いただきたい。さらに、昭和二十八年にタイは一兆億円の支払いを求めてきたのであります。そうして私はこの点注意を促したいのですが、朝鮮戦争が終わったのが昭和二十八年であって、朝鮮戦争の終わったあとに、この一兆億円の支払いが求められてきておる。そうして二十九年の九月に、問題の米人顧問のサージ・リップスとオーク、この二人が東京に送り込まれて、今度は千三百五十億円の要求が突きつけられてきたのであります。そして、こまかいことを省きますが、千三百五十億円が七百五十億になり、五百億になり、二百七十億になり、二百十六億になり、百八十九億になり、百六十二億となり、いろいろな段階がありますが、さらに百五十億となって、そしてこの百五十億をもととして、外貨五十四億五年払い、それから投資及びクレジットの形式で九十六億ときまったのであります。このときのそもそもの百五十億円のきまり方の基礎がきわめてあいまいだと思う。一説によると、残高十五億あった、十五億を十倍したらちょうど百五十億になった。ずいぶんでたらめな話だと思うんですが、ただ、当時五十四億の支払いということが関心の的であったということだけは私は間違いないと思う。
 ところで、この五十四億円の根拠について、条約破棄当時の残高は、約十五億円のうちに金約款部分がある。これは額として四千四百万円、それにイヤマークした金の未引き渡し分〇・五トンを加えて、これを換算しますと五十三億七千四百九十九万円となる。これが五十四億円と言われている額であるように見受けられる。で、この四千四百万円が十五億円の口とは別だと。第一に十五億円と、第二に金売却夫実行分四千四百万円、第三に金イヤマーク未引き渡し分〇・五トン、この三つをあげている人もおります。で、これは三十年の協定の第三条にあげられた三つの請求権に照応していると思う。第一がつまり十五億円そのものですが、第二がこの金売却未実行分、これが三十七億千二百九十四万円、第三の金イヤマークの分二億二百五万円、これを合計しまして五十四億一千四百九十九万円、この見解については一体どうであるか、ひとつお答えをしていただきたい。その当時の三十年協定の第三条にも書いてありますが、内容的には、日銀・タイ特別円勘定残高十五億円は、これは昭和十九年の四月から二十年の七月までの政府日銀借り入れ十二億五千万円の分と、それから次に、それ以前の特別円残高分と、さらに利子追加分との合計からなるものかどうかということについて、政府当局の責任あるひとつ答弁をいただきたい。

○国務大臣(小坂善太郎君) お答えを申し上げますが、タイ側では昭和二十年の九月十一日に、先ほどお話のありました日・タイ間の特別円協定を含む条約の破棄を通告してきたわけであります。したがって、この以前の問題についてはこの効力はないわけでございまするが、ところで、日・タイ特別円勘定が設定されましてから、わがほうの日本銀行の帳簿に残高としまして、十五億二百五万三千六十五円五十五銭という残高が記帳されてあるわけでございます。これについて、これをどう評価するか、金約款というのは、もちろんこれはないわけでございまするが、これをどう評価するかという基準が実はないわけでございます。これをこの基準をどこへ求めるかということで、双方が相談をするということしかこの解決の方途はなかったわけでございまするが、結局その中から金を売却するという約束をしておって、まだわがほうが実行していない分が四千四百万円ございます。これを差し引きますると、十四億五千八百五万三千六十五円五十五銭となるわけでございます。そこで、この四千四百万円というものをどう見るかということでございますが、純金一グラム四円八十銭という、当時の戦前の相場で換算をいたしますると、この金は九・一六六六六六六六グラム九トン何がしになるわけでございます。これを現在のわが国の金公定価格で換算いたしますと、すなわち一グラム四百五円の割合で円に換算いたしますと、三十七億一千二百四十九万九千九百九十七円三十銭ということになるわけでございます。そのほか今お話のありました、約〇・五トンの金がございます。これはタイ側の分でございまして、三八・八五トンございましたけれども、三八・二八トン送金をいたしまして、残っているのが〇・五七ミトンあるわけでございます。しかしながら、これは戦争中にタイに渡すべかりしものであったわけでございます。その未引き渡し分につきまして――〇・五七二八六八トン、この約〇・五トンのものを現在わが国の金公定価格、一グラム四百五円ので換算いたしますると、二億三千二百一万一千五百四十円になりまするので、合計いたしまして五十四億二百五十六万四千六百二円八十五銭ということになりまするので、五十四億円ということを出したわけでございます。今申し上げたように、当時の日銀残高というのは、これはもう私どもが約束しておりましたもので、いわば商業勘定に属するもので、特別円協定の破棄とは関係がないということになりまして、これをいかに処理するかということでございましたが、結局この処理の基準というもの、法的基準というものを見出すことに非常に困難を感じまするわけで、当初タイ側は、その当時の、戦前のポンドとタイのバーツとの交換比率、すなわち一ポンド当たり十一バーツ、これで換算して千三百五十億円になるという計算を持ってきて、その後それの四割の五百四十億円を要求したということでございましたが、わがほうはもちろんこれに応じない。そこで、昭和三十年の三月末、ナラティップ外相が来日いたしまして、特別円残高十五億円を十五バーツとみなして、これを当時のバーツとドルの換算比率、すなわち一ドルが二十バーツ、七千五百万ドルになる、すなわち二百七十億円になる。これでこの一部を現金、一部を物で払ってもらいたいという要求をいたしたのでございますが、これをいろいろ交渉いたしまして、結局全体を百五十億円にした。そこで、百五十億円のうち五十四億円をポンドで払い、あと九十六億円を日本人の役務と物資の形でタイ側にクレジットあるいは投資の形において供与する、こういうことにいたしましたわけでございます。そういうようなことで、換算の基準というものが当時から非常に明確なものがなかった。このことが非常にこの交渉を困難にした、こういうことであろうかと思います。

○坂本昭君 今の四千四百万円は、十五億円の口とは別かどうかということと、さっきの三つの点が照応しているのだが、これについて見解を求めたが、それの返事……。

○国務大臣(小坂善太郎君) 十五億円のうちから四千四百万円を引いて、十四億円何がしというものを出して、四千四百万円というのを、これをまた計算して、そしてまたこれを加えたということです。

○坂本昭君 それからあとの点……。

○国務大臣(小坂善太郎君) あと何でございましたか。

○坂本昭君 あと三つの請求権が照応して……、ちょっとこまかくなりますが、それをこの際はっきりしておいてもらいたい。

○国務大臣(小坂善太郎君) 条約局長から御答弁いたします。

○政府委員(中川融君) お尋ねは、昭和三十年の協定案の第三条に書いてありますカッコの一、カッコの二、カッコの三ということで、タイ側の請求権を放棄する規定がございます。このカッコの一がいわゆる十五億円、特別円勘定の残高、これから四千四百万円を引いたものに相当するわけでございます。カッコの二は、その四千四百万円になる、要するに金売却協定未実行の分、これは三つ、中に細目の区分けがございます。その三つの売却契約に相当する分でございます。第三が〇・五トンの金、タイ名儀の金が日銀にありましたものをタイに渡すというその義務、それに関連するものが第三項でございます。したがって、一、二、三がおのおのお上げになりました三つの項目に対応しているわけでございます。

○坂本昭君 そうすると、条約第三条の三通の書簡による金売却約束分四千四百万円は、十五億円中に含まれるという見解のもとに計算されているわけですね。

○政府委員(中川融君) これは売却契約に基づきまして、金を向こうに売る際には、その代価として十五億円の中から特別円勘定を差し引くわけでございます。この三つの分は十五億円の中に含まれるわけでございます。

○坂本昭君 金塊の天引き渡し分〇・五トンというのが昭和十六年十二月の八千万円軍費借款の未払い残額に対する積立の未引き渡し分と思われるのでありますが、大蔵省発行の国の予算昭和二十四年版、これの貴金属特別会計の項を見ると、インドシナ、タイ等、この等というのには他の国を含むかどうかの問題も残っておりますが、とにかくインドシナ、タイ等のイヤマーク金七十二・七トン、ちょうど八千百八十四万ドルになりますが、これが米占領軍に接収されたとしてあり、国の予算の二十七年版、これを見ますと、これらは占領軍が当該国すなわちフランス、タイ等に引き渡したとしてあります。このインドシナの分はフランスが三十ミトン引き取ったといわれていますから、残り三十九・七トンがタイなどのものとなるわけでありますが、これが全部タイのものとなっていると、金一グラム四円八十銭で一億八千万円となり、現行レートで計算しますと百六十億八千万円ということになるわけですが、この天引き渡し確認〇・五トンの金塊、この〇・五トンの金塊は、日本が積み立てなかったために生じたものか、これは条約局長でけっこうです。当局の見解を伺いたい。あるいは積み立ててあったのが、占領軍が正確に引き渡さずに紛失したものであるか、これも明確な当局の見解を伺いたい。もし紛失したということになれば、これはたいへんなことになろうと思うのです。で、今度の九十六億円どころの問題ではなくなってくる。今の点について明確な御答弁をいただきたい。

○政府委員(中川融君) お尋ねの点でございますが、大蔵省の資料、実は私、直接承知いたしませんが、タイに渡しました金塊、これはタイの金といたしまして戦争中に日本銀行の倉庫にありました金の中で、タイにイヤマークしたものがあったわけでございます。そのうちこのタイに戦後に引き渡したわけでございますが、その引き渡し分、すなわちタイにイヤマークしておるうちの〇・五トンが連合軍からの指令によりまして、それは日本の戦争中の占領地域、つまりタイ以外の占領地域、具体的に申せば英国の領土から持ってきた金である、したがって、イギリスに引き渡せという指令が参りました。〇・五トン分はタイにイヤマークしておりましたけれども、その分はタイにはいかずに、この分だけは英連邦に引き渡すように指令を受けたのであります。したがって〇・五トンは戦後イギリスに渡したのでありますが、その際、このタイ側はこの〇・五トンのイヤマークされた金がイギリスにいくことは認めたけれども、それと同量の金を将来自分のほうに渡してもらう権利を留保したのであります。その留保の分が〇・五トン残っておりまして、これを三十年協定の際にポンドで渡したわけでございます。

○坂本昭君 それはおかしい。それでは日本としては〇・五トンの金塊は、この占領軍の、当時、命令によって引渡した、引渡したが、それはタイへいかないでよそへいった。場合によれば紛失したかもしれない、そうしておいて、あとの責任をわれわれ日本がこれを負わなくちゃならない、これはどういう理屈ですか、これは総理大臣から……。

○政府委員(中川融君) これは戦争中に日本銀行の中でタイにすでに売り渡しまして、その金、具体的な金にこのイヤマーク、タイに対して渡しているもので、すなわちタイの財産としてイヤマークしておったのでありますが、その金自体は別にタイから来たのではなく日本の金でございます。日本の金として、これをどこから日本が入手したかということが問題になったわけでございますが、戦後に、これはそのときの連合軍の調べによりますと、日本が英連邦の領土から戦争中に取ってきたものである、そういう金であるから、これはタイのものに一応なっておるけれども、その金塊自体は英連邦のものであるから、戦領後、英連邦のほうに引き渡すべし、日本人が戦争中略奪してきた財産であるということで、引渡命令が来たわけでございます。したがって、日本はタイに金塊を売り渡す契約をして、すでにそれは実行して、金をイヤマークして日銀に持っていったのでありますが、その金自体は連合国軍のほうから、いわばクレームがつきまして、これをそちらのほうに略奪財産として渡さなければならないわけでございます。したがって、日本としてはそれにかわるものをタイに将来引き渡せという義務が出ておったのであります。したがってその分を今度はポンドで引き渡したわけでございます。

○坂本昭君 この金の未引渡分〇・五トンは、最終協定文では、タイ外務省の経済局長とタイ銀行総務部長が一九五〇年一月に、日本の占領中になりますが、署名した金の引渡確認書に掲げられている未引渡分とされているのですが、この彼らの行なった確認書はアメリカ占領軍と行なったものであって、いわば日本としては関知しない。しかし日本としては関知しないが、タイの外務省では、これは占領軍との間に今の引き渡しの確認書を受け取っているのだから、その点は文書によって日本の責任が明らかになっているのではないか。

○政府委員(中川融君) この三十年の協定の第三条の中に、第三項に、今御指摘になりましたような引き渡しの確認書ということが書いてあるのでありますが、一九五〇年一月四日に署名した金の引渡確認書、これは結局〇・五トン分だけは渡っていない、それ以外の分が渡っている。そういう意味の確認書でございます。この際、これはしかもこの分はイギリスに渡すことになるのであるから、将来引渡分の〇・五トンについては、タイ側は同等のものを日本からもらう権利を留保するのだということを書いた確認書でございます。したがってこのとき司令部の、いわば司令部が仲立ちいたしまして、日本は一つには、タイに対し未引渡分のタイのイヤマークした金塊を渡しますと同時に、〇・五トンはタイに渡さないということをこのときタイ側と約束したのであります。渡さなかった〇・五トンについては、タイは、そのとき同じものを将来日本からもらう権利を留保するということをはっきり書いたものがここに書いてある金の引き渡し確認書でございます。これに基づきまして請求権を持っておる、この三条の三項で、タイ側はこの三十年協定の結果といたしましてこれを放棄するということをここに確認したのがこの三条三項の規定でございます。

○坂本昭君 今の確認書の写しをひとつ資料として提出していただきたい。

○委員長(湯澤三千男君) 条約局長、出せますか。

○政府委員(中川融君) はい、承知いたしました。

○坂本昭君 まだこの点はさらに追及したいと思いますが、さらにほかの点にわたって非常に疑問の点が多いのであります。で、たとえば戦争中の同盟国間の債権債務関係は、敗戦の場合に一体どうなるのか。

○政府委員(中川融君) 戦争中の同盟国相互間の債権債務が戦後どうなるかということについては、国際法上きまった原則というものはないわけでございます。しかし、前例はいろいろあるのでございまして、たとえばドイツとイタリア、あるいは日本とドイツというような関係におきましては、条約におきましてお互いに相互主義を条件として放棄するということを書いた事例があるのでございまして、タイの特別円協定の際にもこのようなことをする例があるから、日タイ間は同じようにしたらどうか、こういうことを日本側はいったのでありますが、タイが承知しなくて三十年の特別円協定ができたわけであります。

○坂本昭君 特に、タイは同盟条約とこれに付随する協定の廃棄通告を行なってきておる。したがって、タイの対日債権というのは私は無効ではないかと思う。この点はどうですか。

○政府委員(中川融君) 今の点は外務大臣からお答えになったのでありますが、廃棄通告をして参りました。したがってその日以後、この戦争中の特別円設定に関する日タイ間の覚書は失効したわけであります。しかしながら、そのとき現在で日本銀行の帳簿に残っておりました十五億特別円というこの日本側への債権、これは依然として有効であるわけでありまして、その点でこれをやはり何とか解決しなければいけないということが三十年の特別円協定の一番のもとになったわけでございます。

○坂本昭君 この前も、三十年協定というもの自体が非常に私は疑義に満ちておると思う。当時もちろん審議もされたのですが、いろいろの資料の提出などの関係で十分されていない。あいまいの中で政治的解決が行なわれ、さらにまた今度再び大所高所から政治的解決が行なわれておる、そういう大きな疑点が私はあると思う。さらに、日タイ同盟を結んだのは昭和十六年、そうして昭和十七年一月にタイは英米に対して宣戦布告をしておる。昭和二十年に日本が降伏するとともに、二十年八月十六日、米英に宣戦布告の無効通告をタイのほうから出しておる。そして二十一年一月に英国とは戦争妥結の条約を結び、米国は宣戦布告無効通告を認めて戦争しなかったことにして、今度はアメリカはタイを戦力拠点としてつまり利用するようになり、そして御承知のように昭和二十五年には米タイ軍事援助協定ができ、二十九年にはSEATOの中心がバンコックに置かれる。そうして、二十九年の九月に米人顧問が東京に来て、三十年八月にタイ特別円の協定ができる。非常におかしい経緯をわれわれは歴史的に認めざるを得ない。私は明らかにこれはアメリカの示唆によるものだと思うのです。当時、一体昭和二十八年か二十九年、池田さん何をしておられましたか。そうして今のこのタイ特別円の協定をめぐってあなたはどういうふうにお考えになられますか。

○国務大臣(池田勇人君) 私は昭和二十七年の十一月に通産大臣をやめまして、二十八年の五月に自民党の政調会長になったと記憶しております。それで二十九年のいつごろでございましたか、春か夏の初めに政調会長をやめまして幹事長になったと思います。二十八年の中ごろから二十九年の中ごろまで政調会長、それからその次、幹事長をやっておったと思います。

○坂本昭君 あとでまたその点はお尋ねいたします。
 それで、このタイの場合の九十六億の扱い、こういうところで経済協力の問題が出てくるのであります。それで御案内のとおり、賠償は最初ビルマとの賠償から始まったのですが、これが二十九年の十一月に調印されて、三十年の四月に発効しています。ところが、南ベトナムの賠償が大詰めにきたときに、ビルマはおこって例の第五条の再検討条項の時限爆弾の爆発をさせてきた。そうして協定発効、これ四年たっても経済協力というものが実施されていない。先ほどこまかい点について外務大臣は落とされたと思うのですが、このビルマの経済協力について昨年少し方針を変えたように伺っておる。が、この経済協力というもの、この扱い方が私は非常に問題点を含み、紛糾のもとになってきていると思う。たとえばこのタイの三十年協定の場合にも、あと九十六億残っておる。これは投資並びにクレジットというつもりでおったのですが、その間に九十六億円を利用して日本鋼管あるいは丸善石油、またあるときには富士車輛と丸善石油、こういう人たちによる石油精製の建設プランができておったと聞いておる。しかし、これは海外石油資本と結びついたタイ国の内部政治事情のために妨害を受けて成立しなかった。私はこの経済協力がきわめて不首尾であるということ、これは政府当局の責任であろうと思う。そうして、こういう経済協力が不首尾でうまくいかないために、国民はいわばつんぼさじきにほうり上げられておいて、今度こうしたタイ特別円の九十六億というような問題が出てくる。しかも、今回こうしたことで九十六億円がきまれば、こういう日本とタイ、つまりこの前の三十年協定のときもずいぶん日本はがんばって、そのがんばった立場というものを全部放棄してしまうということは、今後の、まだ賠償問題は終わっておりません、あと引き続いてビルマやその他、あるいはシンガポールあたりからも虐殺された人の補償の問題も出ている。また、太平洋の旧委任統治等についても出ておったはずであります。今後の賠償に大きな影響を与えると思うのですが、総理大臣の御意見を承りたい。

○国務大臣(池田勇人君) 私は、今経済協力の問題は、賠償を払っておるフィリピンあるいはインドネシアとは非常に円滑にいっております。それから、ビルマとは五千万ドルの経済協力がほとんど行なわれていないのであります。これはやはりその国によることでございまするが、こういう経済協力と、それからタイとのこの事情、関係全然そのもとが違っています、性質が全然変わっているものでございまして、こういうことについて他の国への影響は私は全然ないと思います。

○坂本昭君 さらにタイ特別円の九十六億無償支払いという場合に、タイの国民がほんとうに喜ぶかということ。向こうからの情報によれば確かにこの旧タイ貿易の赤字の穴埋めには一応なるかもしれんが、現在日本のいろんな製品、特に紡績関係のダンピングによって、日本品は二五%ぐらいダンピングしているようです。そのために向こうでは相当な倒産も相次いでいる。タイとしては、農産物を買い付けてもらいたい希望のようですが、これさえ、米も、昨年と一昨々年比べると四四%ぐらいタイ側の輸出が減っている。こういうことでは、タイの一般国民としても非常な迷惑だといってこれを歓迎していない。これでほんとうの賠償になるか、いかがですか。

○国務大臣(池田勇人君) これは全然賠償の観念じゃないのでございます。そしてタイの国民感情はどうかとおっしゃいますが、私が参りましたときに、在留邦人の意見も聞きました。そしてきめたあとの在留邦人の喜びようもたいへんであります。そして政府要路の方のみならず、国民全般が非常に喜んでおるということを、この目で見てきたのであります。
 御承知のように、タイと日本との関係は、最近の統計では、日本の輸出が一億一、二千万ドル、向こうからの、日本の輸入は六、七千万ドル、五千万ドル程度の差があるのであります。一昨年なんか、もっとひどかったと思います。ただ米が入らないようになった関係上、われわれとしては日本に必要としたトウモロコシを向こうで栽培して、今五、六十万トン、六、七十万トンのトウモロコシが日本に来ている。そういう状態でも、なおかつ二対一というような状況でございます。だから昨年なんかは、五千万ドル日本の輸出超過、百八十億円の輸出超過である。そこで十億円払いましたからといっても、百八十億円の輸出超過、向こうは輸入超過、十億円分日本が徴発物資のかわりに出すからといって、そう貿易上の赤字が非常に減るというわけのものでもございません。また、サリットと私の話では、福祉国家、とにかく社会保障的なものに使いたい、こういうふうな関係でございまして、私は日タイ関係には非常に好影響を与えておると見て参りました。
 またその後の状況におきましても、日本の商社の方々が、あれで非常にタイにおきましても日本人の肩身が広くなった。そして今後の日タイ貿易は、非常に不安であったけれども、よほどよくなってくるという情報も聞いておるのでございます。

○坂本昭君 この九十六億円が預託された場合に、これがどこの銀行に預託されるのか。さらに預託された場合に利子はどうなっているのか、これについて御説明をいただきたい。

○国務大臣(池田勇人君) 私は五月に支払うということをきめた気持は、向こうは当初現金即時払い、あるいは二年間に払ってくれ、こういうあれでおったのであります。われわれは十年間、こういうことでがんばって、結局八年になったのですが、向こうの予算が十月から九月で、なるべく早く使いたいということがありますので、五月ということにいたしました。当初の十億円は五月に出したとすれば、すぐそれが使われずに、銀行に預けられるかもしれない。しかし原則として、私は昭和三十八年度に支払うべきものは、三十八年の五月に支払う場合におきまして、もう日本からの資本財や役務の買付が済んで銀行預金にならずにすっと支払われるということが望ましいことであろうと思います。初年度におきましては、まだアイテムがきまっておりませんから、一時預かりということもありましょうが、原則としては私はもう前から約束いたしまして引き渡し済みで、すぐ現金が日本の商社、いわゆる輸出社に払われると思っておるのであります。預金というものが主体ではないことははっきりしております。ただ、初年度において、たまたま預金するというような場合のときに、金利を、定期預金になる方法ではいかないというので、通知とか普通預金とか、あるいは当座ということにいたしております。当座であれば無利子でございます。普通預金、定期預金にいたしましても日歩六厘とか七厘程度で、これは貯蓄という意味のものではないと思います。銀行をどこにするかということにつきましては、まだ聞いておりませんが、タイの銀行もありましょうし、日本の内地本店の銀行もあると思います。その点は今外務省、大蔵省で相談しておると思います。

○木村禧八郎君 関連。

○委員長(湯澤三千男君) 関連ですか。

○木村禧八郎君 関連。総理は今支払いの場合、物資とか役務にすっと向こうのほうへ支払われていくと、こういう御答弁があったのですが、最初総理は、たとえば七十一億を七年間七分の利子でころがしていくと九十六億くらいになると、そういうふうに総理は考えていたやに聞いておるのであります。もし、この支払いの場合、預金した場合、利子がつくわけですが、総理は預金をされないであろうという、すっと向こうへ物資とか役務で支払われるのだ、こういうふうに言われておるのですが、それはこちらの考えであって、総理はそう考えるのです。しかし、これが預金された場合はどうなりますか。はたして預金されないということは、私ははっきりしないと思うのです。ですから、たとえば普通預金の利子でもって返すことになると、百億以上のことになる場合もあるわけです。こういう点はどうなっておるのですか、預金は拒否するのか。あるいは金利をさっき当座なら無利子であると、こういうことを言われましたが、そういう利子のつかない預金になると、そういうはっきり確認をされたのか、あるいは預金というものを拒否するのか、その点がどうもはっきりしてないわけです。こちら側はそういうことを望んでないと言われますが、あちら側との話し合いがあるのかどうか。また実際にはどうなのか。その点は九十六億では済まなくなってくるのじゃないかと思うのですね。その点はどういうことですか。

○国務大臣(池田勇人君) 具体的にサリット首相と私との話をいたしますと、あそこに大きい水道管がずっと並んでおります。私は、あの水道管を見るとフランスのものじゃないかと言ったら、いや、実は日本とフランスが水道計画を競争したところが、フランスが勝った。自分としては日本に落とさせたかったのだけれどもと、こういうような話です。ああいうものを即座にやらなければいかぬ、それで早く金を回せと、こういうことからきまして、そういうことなら年数を君らの一年とか二年というのを八年まで延ばす、しかもおしまいに二十六億となにしたのだから初年度を早くやりましょうと、君らの会計年度に一つ出そうというので、五月ということにいたしたのであります。私とサリットとの関係におきましては、もう来年から注文がきまして、日本から船積みするというところくらいをずっとやらなければ私はいかぬ。この気持はわかるけれども……、私は初め金利の問題なんかあまり考えずに、預金なんか起こらぬだろう、こう思ったところが、交渉中で、とにかく全部使うわけじゃない、少し残ったらどうかというので定期預金というような話が起こった。それはいけない、当座かあるいはとにかく預金して利殖するという考え方は、僕とサリットとの間には原則としてないのだということで、当座あるいは普通、通知ということに相なったと思います。で、この問題は両者の誠意の問題でございます。私はタイが復興を急ぎ、社会保障の拡充を急いでやろうとすれば、早くからどんどん注文がくることを私は考え、またサリットもそう思っておると思います。

○木村禧八郎君 総理は今誠意の問題と言われましたが、預金をさせる意思がないというならば、協定の中にはっきりこれはさせる必要があるのじゃないですか。ただ、すっとほかの物資、役務でいっちゃうというのでは、こちらがそういうふうに期待している。で、話し合いでは預金にならないような話し合いになっているといいますけれども、それははっきりしてないわけですね。ですから、そのくらいはっきりさせる御意思があるのならば、協定ではっきりこれをうたったらどうですか、それはうたえないですか。

○国務大臣(小坂善太郎君) その点は合意議事録の第十三項に書いてございます。ただ預金といいましても、これは利殖を目的とするものではなくて、保管を目的とするものであるという趣旨で、これはやっぱり銀行に預けたほうがいい、こういうことでございます。財政資金としては九十六億より出ないわけでございます。銀行に入っておりますればある程度の利子がつくことは、これは仕方のないことでございます。そういう利子がつく問題も起こらないようにしよう。どんどん金を使い切るようにしようということに双方で合意いたしまして、議事録にさような約束がうたってあるわけでございます。

○木村禧八郎君 関連質問ですから簡単に。一問だけでやめます。合意議事録では内客はどうなっていますか。もしはっきりと、利息のつく預金はしないと、こういう合意になっているのですか、それならこの問題は起こるはずはない。ただこちらが、さっき総理は誠意の問題だと言われておるのですけれども、しかし、そんなにはっきりしているなら預金の問題が、利子の問題は起こるはずがないのですよ。合意議事録でははっきり利子のつく預金をしない、こういう合意になっているのですか。

○国務大臣(小坂善太郎君) でございますから、利殖を目的とする定期預金はしない、少なくとも当座預金、普通預金、あるいは通知預金までであるということにしたわけでございます。

○木村禧八郎君 最後です。利殖を目的とするとか、しないとか、それは判断になるわけです。結果として利殖になる、金利がつけば。その点もっとなぜはっきり協定にうたえないのですか、これは問題になりますよ、今後。今後そういう問題が起こったときにどうするかということを、あらかじめ協定の審議をするときは、やはりそこまで考えておかなければならないわけですね、もう一度念を押して伺っておきます。

○国務大臣(小坂善太郎君) ただいま申し上げましたように、合意議事録の十三項に「協定第四条1に関連し、毎年すみやかに協定に定める調達契約を締結し、実施し、及びこのための特別勘定からの支払を行ない、毎年支払われる金額ができる限り短期間に費消され、特別勘定の残高が最小限度にとどまることとなるようにすることがタイ政府の意向である。」ということを先方から約束しておるわけでございます。

○亀田得治君 ちょっと関連。

○委員長(湯澤三千男君) 関連ですか、簡単にひとつ。

○亀田得治君 ただいまの合意議事録は資料として出してもらいたい。その上で関連質問をいたします。

○委員長(湯澤三千男君) 政府委員に申しますが、資料として出せますか。

○政府委員(中川融君) 資料として、まだ出してなければ至急出します。

○委員長(湯澤三千男君) 出すそうですから。

○坂本昭君 次に、ガリオア援助の問題について、簡単に時間の関係上申し上げますが、第一点は債務の問題について、これは十分お尋ねする時間的余裕がありませんので、一点だけ申し上げたいのは、池田総理の従来からの御答弁をずっと聞いており、またさらに政府の答弁を通じてわれわれの理解する範囲内では、少なくとも池田総理がかつて大蔵大臣としてロバートソンと会ったとき、あのときの池田・ロバートソン会談以来、いろいろな問題が私は変わってきておると思う。このガリオア援助についての方針もあのときから変わってきておると思う。私はこの際、この当初の池田・ロバートソン会談の内容について御説明いただきたいと思います。

○国務大臣(池田勇人君) 昭和二十八年に私がワシントンでロバートソンと話をした前から、私は債務と心得ておるということを言っております。その以前にも内輪での外務大臣との話はあったと思います。私がロバートソンと会ったときの問題は、このガリオア、エロアの問題を早急に解決しよう。ドイツのほうも解決できた、直ちにこの交渉を開始しよう、こういう原案であったのであります。しかし、ドイツと日本とは違う。直ちにというわけにはいかないというので、結局近い将来にしよう。こういうことは東京で会談しよう、こういうことに相なったのであります。以上がロバートソンと私の会談の内容であります。

○坂本昭君 それだけでしたか、その他にあったと思うのですがね。ガリオア援助の返済金の使途についてお伺いしたい。使途についてのいろいろな取りきめがありますが、そのうちで、まず教育文化のための二千五百万ドル、これは何に使う予定であるのか。

○国務大臣(小坂善太郎君) これはその後アメリカ側が、日本が返済いたします金の中から、千二百五十万ドルずつ二回にわたって、最初の分から円に積み立てよう、こう言って参っております。したがいまして、これが円貨として日本に残留する、滞留するわけでございますが、これをどういうふうに使うかということでございます。この点については、教育文化関係に役立つように、十分日本側の気持も聞いて使いたいということのようでございますが、最終的な決定はいまだいたしておりません。

○坂本昭君 ライシャワー駐日米国大使の通報、これが資料としてありますが、この通報は何を意味するか、特に非常に急いでおる。第一回第二回の支払いの中で、日本円を要求しているわけです。急ぐ理由はどういうことですか。

○国務大臣(小坂善太郎君) これは第一回、第二回で二千五百万ドルの円貨相当額の約百億円の円貨が積み立てられるということで、これがまた利殖といいますか、これこそ銀行預金になります。これが利子を生んでいくとすれば、よけい使える。これはみんな円貨でございますから、外貨資金によらざる日本の留学生の渡航にも一そう利益するところである、こういうことではないかと思います。

○坂本昭君 昭和三十七年一月三十一日に文化及び教育の交流に関する日米合同会議の最終コミュニケが発表されておる、これとの関係はどうですか。

○国務大臣(小坂善太郎君) これとの関係は別に今のところはございませんわけです。教育文化に関する合同会議は、双方の、この問題に対して識見を持ち、興味を有する人たちが集まって、フリー・ディスカッションをしたということでございまして、これと直接の関係はございません。

○坂本昭君 しかし、このコミュニケの中で重点が置かれているのは、勧告が政府及び民間の機関によって検討されることを希望する。つまり勧告を十分に聞いてもらいたいということ、さらに民間資金の獲得に役立つような機関が作られなければならない、そういう特に二カ国間の機関を創設する必要がある、そういうことが非常に強く主張せられておる。これがこのコミュニケの中を通じて機関を作ること、さらには資金をかまえること。非常に強くたびたびこれで指摘されております。これは、このことと今の返済金の使途とは密接な関係があろうかと思います。重ねて外務大臣の意見をお聞きいたします。

○国務大臣(小坂善太郎君) この合同会議の勧告は、要するに勧告でございまして、そういう意見を強く参会者一同が持った。しこうして、政府においても十分これを尊重してもらいたい。こういう気持の表明でございまして、拘束力のあるものではございません。しかしながら、日米双方において、教育文化に関する双方の理解を深めようといいます場合には、そこにやはり資金が要るということを考えることも当然でありましょうし、そういう気持の表明ということは十分私どもも承っております。しかし、さればと言って、今の二千五百万ドルと、これが直接関係がつくのか、あるいは将来つくのかということになりますと、今お答えいたしたように、まだその点はきまっておらない、こういうことでございます。

○坂本昭君 さらに支払金の使途に関する交換公文の中に、適当な立法措置を経ることを条件とする、これはどういうことですか。

○国務大臣(小坂善太郎君) これは日本の返済金は、アメリカに返されるわけでございますから、アメリカのほうの議会において、これに対して適当な承諾を与える、こういうことだと思います。

○坂本昭君 さらに、このうちで、低開発国における経済援助に関する合衆国の計画、こういう言葉がありますが、この合衆国の計画については、どういうような協議をしてありますか。また、さらに今のような立法措置がとられる場合の事前の協議については、どういうような相談がしてありますか。

○国務大臣(小坂善太郎君) アメリカにおきましては、対外援助法というものを昨年の六月に通したわけでございますが、その際の予算措置として七十二億ドルを五カ年間で支出するということに議会の協賛を経たようでございます。そのうちで毎年三億ドルずつガリオアその他の返済金をもってこの七十二億ドルの基金の財源に充てる。すなわち、初年度は十二億ドル、あとは十五億ドルになっておったと思いますが、その五カ年間に毎年度約三億ドルの返済金をこれに充てたい、こういうことで決定しておるようでございます。さらにいわゆる低開発国援助、これをアメリカはどういう計画を持っておるかということにつきましては、いまだ私どもも詳しく聞いておりません。このガリオアの返済金が国会において御協賛をいただきましたら、私ども十分この点を討議していきたいと考えております。

○坂本昭君 さらに、この交換公文の中に「東アジアの諸国」と書いてありますが、この言葉は、これはたしかケネディ大統領が新しく使い始めた言葉だと思うのですが、あるいは池田さんが行って教えた言葉かもしれませんが、この「東アジア」とは一体どこを含むのか。さらに「深い関心を有する同地域」、この「地域」ということはどういうことを指すのか。具体的に一つお示しいただきたい。

○国務大臣(小坂善太郎君) この協定を作ります前に覚書に署名したわけでございますが、覚書の中では「アジア」というふうに言っております。今度の協定になりまして「束アジア」ということになったわけでございますが、従来、われわれ東南アジアと言っておりまするのが通例でございまするが、東南アジアと言いましても北東アジアもある。そこで、アジア全体を含めたらどうか。ところが、アジアを西と東に分けて、インド、パキスタンというものについては例の債権国会議によりまして相当な援助が行なわれておる。そこで、そういう対象になっていない地域の計画というものを考えたらどうかという趣旨のようでございます。しかし、非常に厳密に地区を限定して、これに入っていなければどうこうというような非常なビビッドなものではない。ばく然と東アジア、アジア全体と、こういう意味にとっても差しつかえないのじゃないかというふうに考えております。

○坂本昭君 いや、あなたのほうでは簡単に言われるけれども、この「東アジア」という言葉には非常に私は重大な問題点があると思う。さらにまた、日米が「深い関心を有する同地域の安定と平和」、これは「安定と平和」とはどういうことを指しているのか。その地域の国民の福祉ということではなしに、「同地域の安定と平和に不可欠であること、」というような条件が書いてある。さらにもう一つ不可解なことは、「この目的に寄与する開発援助が緊要であること」、この「緊要」という言葉、これは本文では「アージェント・ニード」という言葉を使っておる。一体、経済開発にアージェント・ニードということがあるのか。この交換公文の中で示されている東アジア、また同地域の安定、さらに開発援助の緊要性――アージェント・ニード、これらを通じて、この支払金の使途というものが、今朝来たびたび指摘して参りましたように、普通の経済協力ではないのじゃないか。非常に軍事的な目的を多分に持っているのではないか。現に南ベトナムの状況など、総理大臣は、宣戦布告された戦闘の状態だということもよく知っておられないようです。しかし、今日アメリカの司令部が南ベトナムにおって、五千人の兵力が行っている。そうして五十人に一人はアメリカの兵隊が指揮を取っている。そういうふうな、これこそきわめて切迫した状況にある。私は、そういうことに対応されて、このガリオア資金というものをわれわれ国民が債務を持っていなかったにもかかわらず強行して、そうしてこういうことにつくろおうとするのではないか。特に今のアジアの地域の問題とさらにアージェント・ニードという言葉について釈明を求めます。

○国務大臣(小坂善太郎君) この交換公文は二つございまして、御承知のように、第一項については低開発国地域に対する経済援助をしたいということ。ところが、その低開発国といいましても非常に範囲が広いので、日本が非常に関心を持っているアジアを中心に考えてくれ。これはこちらの要望でかような言葉が第二項に入ったわけでございます。しかし、これは、開発援助について大いにお互いに協議しようということでございまして、第一項は援助するということ。これは二つ分かれておるのでございます。アジアの問題については大いに日本の知恵をかりたい、また日本の知識によって教わりたい、こういうアメリカ側の気持を出したわけでございます。そこで、東アジアの地域の安定と平和はなぜこう書いてあるか。これはもうこの地域が経済が交流に赴き、その経済が安定することによって平和がくる、こういう意味でございます。
 それから「開発援助が緊要である」というのは、これはアジア地区における貧困というものが早く芟除されねばならない、それによって世界の平和、アジアの平和というものもぜひ招来しなければならない問題であるという気持を、これは日本側としても大いに主張いたしまして、かような字句が入ったわけでございます。本来、この支払基金というものは、これはアメリカに入るわけでございますので、この使途について日本が注文をつけるということは、これは普通の考え方からいいますと、若干わがほうの考え方というものは、金を払っておいてその金の払い先まで言うことでございますから、普通の考え方からいいますと、よくそこまで聞いてくれたのじゃないかという気もするのでございますが、西独の場合はさようなことがございませんわけです。西独は別にその資金の使途等については何も申しておりませんことは御承知のとおりでございます。

○坂本昭君 大体ガリオアの援助に対する債務はわれわれは持っていないと思う。時間の関係でその点今日ここで議論できなかったのだけれども、大体、債務のないものをむちゃくちゃに勘定書を突きつけられて払う段階になって、それはあたりまえですよ。せめてそのぐらいまであなたが注文をつけるのはこれはあたりまえのことで、勘定書に応じないというのが私は基本的な態度だと思う。
 次に、日韓会談の問題について若干お尋ねしたい。総理は日韓会談の政治的折衝を非常に急いでおられる。なぜこんなに急がれるのか。しかも、新聞の報ずるところを見ますというと、向こうのペースに乗せられてこの政治折衝を急いでいるふうに多分に見られる。昨年秋十一月に池田・朴会談をされたときに何か特別な約束をしているのではないかと思われる節がある。昨年の池田・朴会談の内容、また、なぜ急がれるか、その理由をひとつ御説明いただきたい。

○国務大臣(池田勇人君) 韓国と日本との歴史的、また文化的、地理的その他過去の状況から申しまして、私はできるだけ早く国交を正常化したいという気持を持っておるのであります。これは多数の国民が私は共感されると思います。そうしてその前提に立ちまして、私はこの前朴議長と、平和条約四条の請求権の問題、これはやっぱり法律的根拠のあるものでなければならない、こういうことを申し合わせたのでございます。

○坂本昭君 今の韓国の経済の実態はどうであるか。たとえば新しい朴政権が五カ年計画を立て、また経済成長率を、これはどうも池田さんにならったのかもしれませんですね、計画期間中平均七・一%。そうして一九六二年を五・七%。これはもう総理としては指摘されたことだと思いますけれども、韓国の実績を見るというと、一九六一年が六〇年に比して〇・一%成長率が落ちている。しかも、これは人口増加率から計算し直すと、二・九八%の減少。大体三%減少している。これは公式の発表なんですよ。別にわれわれが作った発表じゃなくて、公式な発表を通してでもこういうふうに経済成長率というものは悪い。こういう悪いところへもっていって今度保税加工の調査団が行って、そうしてその調査団は向こうで韓国側のいわば言いなりほうだいの条件をのんでいるように伝え聞いておる。たとえば無為替、延べ払いにする、あるいはあとの保証は政府としてしない、それから工場の製品は再輸出する、非常に条件の悪い相談を進め、かつまた、経済の実態は非常によくない。こういうふうなことを十分に御理解になっておられるかどうか。その点が一点。
 それからもう一つは、それは、あらゆる国と国交を結ぶことはけっこうですが、結ばなくちゃいけないところと結ばないでおって、何を好んで現在戒厳令下にあるところの軍事政権、戒厳令下にある軍事政権と急いで手を結ばなければならぬ、そういう理由がわからない。この点についての御説明をいただきたい。

○国務大臣(池田勇人君) 韓国の経済成長率は存じませんが、大体一人当たりの所得が日本の十分の一程度ではないかと思っております。しかし、五カ年計画によりまして急速に経済成長を企図していることも聞き及んでおるのであります。
 第二段の戒厳令下の何で何ですが、私は向こうの政治の状況いかんにかかわらず早く正常化したいということで、パキスタンなんかももう過去三、四年、戒厳令下でございます。安定への基礎固めの状態と認めておるのでございまするから、できるだけ早く正常化いたしたいと思います。
 ただ今の加工貿易とか延べ払いとか、こういうことにつきましては、私は何も聞いておりません。政府としてそういう約束――経済協力という段階にはまだいっていないのであります。

○坂本昭君 向こうの政治状況はどうであろうとも一刻も早く手を結びたいというのは、われわれ国民としては受け取れない。もし政変が起こった場合、そうした場合に一体総理としては責任をどうとられますか。

○国務大臣(小坂善太郎君) 先方の経済の状況でございまするが、先方で昨年クーデターがありまして以来、不正腐敗ということを非常に強く排撃いたしまして、民生安定のための諸施策を強力に実行して参りました。その結果、まあだいぶ経済状況がよくなったというふうに言われております。韓国の産業の中心は、御承知のように農業でございまして、農家人口は総人口の約六割を占め、食糧生産は年々増加しておりまするが、昨年の米作が一千八百九十万石という大豊作であった。このことはかなり軍部政権ではありまするが、農村対策が奏功したという面で、必ずしも暗い見通しではないということが言われております。それから工業面におきましては、現在のところ軽工業が中心でございまして、重工業はようやく建設の緒についたという程度でございます。物価問題につきましては、著しい上昇傾向は現在認められておりませんけれども、インフレの潜在的な危険性についても、韓国政府も十分に認識いたしまして、その対策を講じているようでございます。韓国の国民経済としましては、一九六一年の国民総生産が約一兆二千二百二十二億ホワン、邦貨換算では三千四百億円でございます。この経済成長率は、過去五年平均をとりますと、年平均五%というふうに言われております。
 政権が安定しないのにと言われまするが、今申しましたような状況で、非常に経済状況は前よりよくなっておる。韓国の軍事政権は明年の八月には民政に移管するということを公約しておりますので、私どもはこの韓国との関係を改善するには非常に、現在よい時期であるというふうに考えております。

○戸叶武君 関連質問……。

○委員長(湯澤三千男君) 戸叶君。坂本君の持ち時間も切れておりますから、きわめて簡単にお願いします。

○戸叶武君 先ほどから池田総理の答弁を聞いておりますと、この韓国の軍事政権の問題ばかりでなく、池田総理がビルマにおいて、あるいはタイにおいて、パキスタンにおいて、東南アジア一帯における異常なクーデター及び軍事政権に対して、クーデターというものは排撃するがという前置きをしているが、これはやむを得ないものであるというような形で、目的のためには手段を選ばずというような論理で、これを肯定しているような向きの答弁がありますけれども、これは私はゆゆしき問題だと思うのです。韓国の軍事政権に対しても、韓国のことであるから、われわれは内政には干渉いたしたくはありませんけれども、こういうアジアをめぐる反共を名とするところの軍事政権が、すべての国においてクーデターによって異常な政治状態をかもしているというのに対して、これはやむを得ないことであるという形において、これを受け取っているやり方というものは、先ほどの三無事件に対する総理大臣の答弁もそうですが、これは軽視できません。昭和四年に山木宣治氏が殺され、五年に浜口総理大臣がピストルで撃たれ、六年にいわゆる三月事件、十月事件という錦旗革命のクーデターなるものが未然に発覚して、そのあとにおいていわゆる昭和七年の血盟団事件、五・一五事件、満州事変二・二六事件というふうに、このテロとファッシズムは、一個の軍事政権と戦争への道を切り開いて来たのです。三十五年におけるわが党の河上顧問の刺殺未遂、浅沼委員長の刺殺、昨年におけるところの中央公論社長宅におけるこの殺傷及びこの三無事件、あの一九二九年の世界経済恐慌の波濤の中から、テロとファッシズムが台頭してきたときの足どりとやや似ているような無気味なものを感じているのです。そのときに際して一国の総理大臣が、このアジアにおけるところの異常な空気の中に立って、これに消極的にしろ賛意を表するような言動を行なうということは、日本をテロとファッシズムの波濤の中に巻き込んでいく危険性というものがあると思うので、このあとで速記録を十分に調べますけれども、私は一国の総理大臣の言動というものは非常に注意深くやらないと、核実験に対する問題でも、クーデターに対する問題でも、三無事件に対する問題でも、反共を名とするならば、いかなることでもよろしいかと思われるような印象を国民に与えるときにおいては、日本の政治姿勢というものがくずれると思うのでありまして、この点に対する池田総理大臣の弁解、答弁をお願いいたします。

○国務大臣(池田勇人君) 速記をお調べ下さればわかると思いますが、戸叶さんのあれは誤解であると思う。私は先ほど申しましたように、クーデターは民主主義の敵である、私は目的のために手段を選ばない、そういう考え方は毛頭持っておりません。これは絶対に排撃すべきものでございます。しかしクーデターは排撃すべきものであるが、ほかの国がクーデターをやったら、そういう国は相手にしないというわけのものではございますまい。これは私は今言ったようにクーデターが必ずしも反共の線であるとは言えない。ビルマの二年前のクーデター等は、必ずしも反共から出たものばかりとは言えないので、ただ問題は、そういうことは民主主義にのっとり、自由を尊ぶわれわれとしては、絶対に排撃すべきものである、目的のために手段を選ばない、そういう問題のものではございません。ただ外国において、そういうことが起こった場合に、われわれはクーデターはきらいだからその国は相手にしないのだということも、これはいかがかと思うのであります。その国が文民政権に移るという前提で努力しているのならば、それは一応認めていくのが、国際の常識じゃないかと思うのであります。

○木村禧八郎君 関連して……簡単です。

○委員長(湯澤三千男君) きわめて簡単に願いたい。木村君。

○木村禧八郎君 先ほど外務大臣から韓国の経済に対する御説明がございましたが、これは資料として御要求しますが、先ほどの説明では、非常に楽観的な御説明でした。しかし、これでは、客観的にもっと実態をつかまなければいけないと思うのです。われわれが韓国関係の新聞で読んでいるところとたいへん違うのですよ。なるほど農産物は豊作でした。しかし、鉱工業生産はどうですか。それで、鉱工業生産のマイナスの成長率を農産物のこの非常な豊作の成長率でカバーしているのでありまして、過去五%の成長率は最近はどうなんですか。昨年あたり一%ぐらいじゃないですか。成長率は非常に低いのですよ。もっと実態を……。インフレにつきましても、為替の切り下げをやりましてから非常なインフレの状態にあるのですよ。韓国経済が非常に安定しているというようなことは、今の御説明ではあまり無責任であると思う。もう少し客観的に、資料は十分あるわけですよ、外務省の経済局か何かでお調べになったかしりませんが、もう少し客観的に、そのプラスの面もあるでしょう、マイナスの面もあるでしょう、そういうものはもっと正確に、この国会でございますから、先ほどのようなあまり無責任な、私も黙っていようと思ったのですが、あまり無責任ですからね、もう少し具体的な資料として、韓国の経済の実態について御報告していただきたいと思うのです。答弁を願います。

○国務大臣(小坂善太郎君) 私どもの役所において作りました資料について申し上げた次第でございますが、なお御要求ございますからそのようにいたしたいと思います。

○委員長(湯澤三千男君) 委員長から申し上げますが、外務大臣はなおよく調査してお答えをするという……。(「資料です。」と呼ぶ者あり)資料ですか、資料は別に出しますね。

○国務大臣(小坂善太郎君) ええ出します。

○委員長(湯澤三千男君) 別に出しますそうですから。

○亀田得治君 資料は結論的なものでなしに、その資料を作った根拠まで揃えて出していただきたい。

○国務大臣(小坂善太郎君) できるだけさようにいたしたいと思いますが、何分にも外国のことでございますから、一定の限度はあるかと思います。
○坂本昭君 先ほど来の外務大臣の説明を聞いていると、ほんとうに的確に韓国の実態をつかんでないと思う。韓国の実態をつかんでないところで、まあそのために調査団を派遣する必要があるかもしれませんが、しかしそういう安易な気持で国民に対してこの日韓会談を進めろというような、そういう指導の仕方、訴えの仕方をすることは、はなはだ私どもとしては許すことはできない。特によその国の内政のことはとやかく言いたくありません。言いたくないけれども、とにかく軍事クーデターという、最も非民主的な方法で成り立っている政権をわれわれは認めることができない。かつ、今日イデオロギーを離れた報道関係の説くところでも、朴政権の明日の運命というものは私ははかり知れないものがあると思う。いろいろなあれを見ますというと、たくさんのクーデター計画が相ついで起っているようだ。そして多数の人が逮捕されている。私はこのことは経済的な不安並びに政治的な不安という点でこの朴政権というものの民主的な基礎というものはきわめて危険ではないか。この危険なところへもって、何をもって火中のクリを拾うのに急いでいられるのか。だから私はその点を追及しているのです。聞くところによると、池田・朴会談の中で密約がかわされたということも聞いている。この際明らかにしていただきたい。そういう勝手なことをあなた方おきめになって、しかもこういう経済の不安があり、民心の不安があり、政治が乱れている中で、日本国民に対しては十分な説明もしないで勝手な会談を進めるということについては、われわれとして許すことができない。今の点についてこの朴政権の民主的な基礎、さらにあなたと朴議長との密約という、そういうゆゆしい問題についての御答弁をいただきたい。

○国務大臣(池田勇人君) 私の見るところでは、朝鮮は、先ほど申し上げましたように、一人当たり年五十ドル程度ではないかと思います、もっといっておるか……まあ日本の大体十分の一ぐらいの一人当たりの所得ではないか、これが私の考えでございます。動きにつきましても、私はある程度はわかっておりますが、総理としてあまり詳しくしないほうがいいと思って大体の御答弁をしているわけであります。それからこれからの伸びにつきましては、やはり五カ年計画でいろいろやっておられるようでございます。私はその努力は見るべきものがあり、そうして来年の文民政権への移行を心から願い、努力していることを朴氏と会ったときにも感じるのであります。隣邦といたしまして、できるだけ早く正常化し、韓国人民の生活、福祉の向上はわれわれとして願うところであります。そういう意味におきまして正常化を急いでおるのであります。
 朴氏との密約、全然ございません。ただ今申し上げましたように、請求権の問題は法的根拠のあるもの、そうして経済協力というものは請求権とは別である、こういうことでございます。密約があるとか何とかいろいろな御想像はあるようでございますが、この池田はそういうことはいたしておりません。

○坂本昭君 もちろん密約の内容を言うような人はあろうはずがありませんが、それほど疑惑の目をもって見られているという事実だけは、総理としては心にとめておかれる必要がある。そうしてまた、民政移管についてもあなたのほうでは率直にいろいろと意見を言っているそうですが、私たちの見るところでは非常な確実性がない。そういう点ではもっとわれわれとしてはこの国の問題については見てあげるというか、協力をする別の方法もあるのではないか。今のような行き方では非常に危険だということをわれわれとしては心配をしている。特に最近これは第七艦隊の司令官が二月の二十八日に記者会見で韓国の鎮海、ここにアメリカの基地がありますが、この領海で記者会見をして、韓国水域に核装備をした原子力潜水艦の配置を公表いたしております。私はこうした問題は、われわれとして韓国水域とは一体どこまでをいうのか。さらにこの問題について仄聞するところによると、小坂外務大臣が、これは去年アメリカへ行かれたときに、横須賀外五つ、日本の六つの港に原子力潜水艦の入港を黙認をする。これは従来原子力潜水艦の入港を断わると政府が声明しておったのに反して、黙認をするという極秘の返答をしていると私は聞いている。これらのことは全然無関係ではないと思う。この韓国の場合といい、あるいはまた小坂外務大臣はおそらくあなたは否定されるでしょう、否定されるでしょうが、そういう話が伝わってきている。私はそういう点ではこの韓国の問題は、今のような安易な経済の見方で、この日韓会談を進めたりしている時期ではないと思う。そういう点について小坂大臣の釈明もおありでしょう、が、総理みずからひとつ御答弁をいただきたい。

○国務大臣(小坂善太郎君) 私に関することですから、私にお答えさしていただきますが、さような事実は全然ございません。

○坂本昭君 もうこれで終わります。答弁が全くぬかにくぎで、われわれがほんとうに求めていることについての誠意のある答弁を得られない。韓国問題についてもこれをごまかそうとしている。そういう様子が見られるし、あるいはまた私たちが非常に今心配しているベトナムの問題についても総理並びに外務大臣からは、この取り上げ方について一言の説明もない。あなたたちは国民の目をおおい、耳をふさいで、そうして勝手なことをなされているようにしか受け取れない。で、特に先ほど来クーデターの問題も出ました。で最近皆さんも、総理も、あるいはまた情報関係を担当しておられる方々は御承知だと思うのでありますが、ラオスの問題やベトナムの扱いについては、アメリカの外交を扱っている人たちで相当危惧の念、というよりも非常な心配をして、たとえば昨年の八月の八日の下院におきまして、民主党のマルターという人が、これが、フレッド・クックという新聞記者がアメリカの情報局の内幕を書いたベストセラーがあります、これを取り上げて、そしてこれが現在アメリカの国会の議事録にそのまま載っておるのであります。余分がありますから総理に進呈いたしますが、これらの中に書かれていることは、もうキューバの政策が情報局としてのあやまちであったということ、さらにキューバだけではありません、イランだとかあるいはラオス、それらを事こまかに書いてあるし、またアメリカの国会自体で問題として取り上げている。私たちは、こうしたことを一体日本の政府は十分に理解しているのかどうか。また理解しようと努めておるのか。そういう中から、たとえばラオスにも日本の軍人が現われている、そういうような新聞報道も出ている。またベトナムについては日本の新聞には出ないが、再三英文の新聞には出ている。英文の新聞には、金子某あるいは富岡某、そういった人の問題も出ている。まあたまたま山加電業の深井茂之助氏の逮捕された問題は、これは日本の新聞や週刊誌にも出ておりますが、しかしそういう点で、極東の事態というものは、謀略を伴って、非常に私はゆゆしい問題点を含んでいると思う。したがって、こうしたこととの関連性の中で、たとえばベトナムの問題も韓国の問題も、われわれとしては慎重に対処すべきではないかと思う。ところが、皆さんのほうでは積極的に事態を説明している。こういう状態であり、われわれは、だからこの極東の平和を守るために、また未開発の地域の経済援助のためにこうしなければならない、そういった積極的な意思表示ではなくて、こっちが聞けばそれに対してしぶしぶ答える、そういうことではわれわれはあなた方を信頼するわけにいかない。私はこの際特に今のクーデター論に関連して、この情報関係について、これはアメリカの場合は大統領が直接こうした国家安全保障会議にも出ております。で、総理大臣の最近のアメリカ外交における情報の取り扱いの問題、さらに工作の問題、こうしたことについての御見解を承って、私のきょうの質問を終わりたいと思います。

○国務大臣(池田勇人君) 当初の御質問で、ベトナムのダニム・ダムの問題をお聞きになりましたから、私はこれらについて詳しいことは存じていないと申し上げたのであります。しかしラオス、ベトナムのこの状況につきましては、私はもう昨年末、ことに内閣組織以来深甚の注意を払っておるのであります。最近のゴ・ディエンディエムの爆撃の問題、そうしてベトコンと南ベトナムの二十数万の陸軍、その間の確執の問題等、十分検討いたしております。またお話のアメリカ情報局の報告が国会の問題になったことも知っております。世論の的になったことも聞いておりますが、私はできるだけの資料を集め、外交に間違いのないように外務省その他を督励いたして注意いたしておるのであります。ただ問題は、アメリカの外交政策がどうだとか、アメリカの情報がどうだとかということを一々私が申し上げることは差し控えたいと思ってやっておるのであります。

   午後三時十四分開会

○委員長(湯澤三千男君) これより予算委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き質疑を行ないます。杉原荒太君。

○杉原荒太君 総理大臣並びに関係大臣に質問いたします。
 第一は、地域間の所得格差の是正の問題についてであります。
 まず、政府は昭和三十七年度予算及び財政投融資計画等において、地域格差の是正のために特にどういう配慮をしておられるかお尋ねいたします。まず、大蔵大臣の御答弁を求めます。

○国務大臣(水田三喜男君) いわゆる地域格差の是正の問題は、政府として特に重要な施策に考えておりまして、すでに北海道、東北、九州、四国、離島というような未開発の後進地域につきましては、御承知のように特別の地域開発法ができておりまして、それに基づいての長期開発計画を決定して開発投資を進めております。また産業の地方分散についても、各種の施策を講じてきたところでございますが、三十七年度の予算で申しますと、この方針に基づいて、北海道、東北、九州、四国、離島等の地域については、重点的な予算の増額をはかったつもりですし、たとえば北海道は三十七年度の予算で五百三十二億、昨年より八十二億円ふやしておりますし、離島は昨年の四十一億に対して二割五分以上の五十一億円以上、それからそのほかの特定地域に対しては五百三十二億、昨年に比べて約百億円地域開発関係の予算は増額となっております。それから企画庁の管轄にございます国土総合開発事業の調整費も、本年は中国及び北陸を加えまして、昨年より大幅な増加をはかっております。また三十六年に作りました未開発後進地域の公共事業費の国庫負担特例法、いわゆる未開発地域に国の補助を傾斜配分するという、この法律に基づきまして三十六年度の予算に比べまして今年は五十三億円増の百八十億円の大幅な増額を行なっておる。それから本国会へ提出しております新産業都市建設促進法案、これに伴う所要の経費を計上してございます。
 それから財政投融関係でございますが、これは北海道、東北開発のために公庫の融資ワクを前年よりも相当大きく増額しましたし、それ以外の地域は開発銀行の地方開発資金を百七十億から今年は二百億円に拡大してございます。また、今度の予算で問題になっております産炭地域の振興をはかるために産炭地振興事業団というものを作りましたので、予算措置と同時に財政投融資の措置も取ることにいたしております。そのほかやはり地方格差の問題で重要なことは工業用水とか下水とか、あるいは地方の電気開発関係というようなものに対する地方債のワクも今年は昨年に比べて二百億円以上増額しておるというようなことで、全体から見ますというと、投融資においても、この予算計上においても地域格差というような問題には相当考慮を払ったつもりでございます。

○杉原荒太君 地方開発のための資金の供給を目的とする公庫等特殊の金融機構の今後のあり方について政府はどういうふうにお考えであるか。現存の機構でよい、あるいは十分と考えておられるのか、あるいは改正の必要を認めておられるのか、まだ決定という方針でなくてもいいから、その辺の考え方について……。

○国務大臣(水田三喜男君) 地方開発のための特別の公庫は東北開発公庫しかございませんが、この公庫を通じて特に北海道、東北の開発のために必要な資金を供給する。そのほかの地域は今のところ開発銀行を通じて融資することになっておりますので、やはり今後も開発銀行を通じてやることがいいんではないかと考えております。特にこのために統一した投融資の機構というようなものを作るよりは、従来の機構を活用してこの資金量を強化していくという方法がやはり一番いいんじゃないかと思っております。

○杉原荒太君 次に、日タイ特別円協定に関してお尋ねいたします。このたび政府が国会の承認を求めておられる日タイ特別円協定によると、わが国は新たに九十六億円の財政負担を負うことになり、三十七年度から四十四年度に至る予算に関係を持ってくるわけでありますから、国民はその理由について政府から納得のいく説明を求めておると思う。こまかいことは外務委員会における質問に譲りますが、ここには本件の骨格をなすと思われる要点についてお尋ねいたします。
 まず最初に、戦時中に結ばれた特別円決済に関する日本の大蔵省とタイの大蔵省との間の協定覚書なるもの、及び特別円の金への振りかえに関する了解事項なるものが、いつからいつまで法的効力があったと政府はみておられるのか、その点をお尋ねいたします。

○国務大臣(小坂善太郎君) タイは、終戦以後昭和二十年九月十一日、同盟条約及びそれに連なる一切の条約及び協定は、特別円決済に関する両国大蔵省間協定、覚書をも含め終止したものとみなす、という旨を日本に通告して参りました。したがいまして、この日以後の戦時中に締結されました特別円に関する協定は一切無効となったと存じます。しかしながら、協定が有効に存続しておりました当時生じました特別円の残高については、このタイ側の通告以後においてもタイの有効な証券として存続したものと考えておる次第であります。

○杉原荒太君 今の通告ですね、通告の性質効果ですが、今ここにあげております協定、覚書及び了解事項についていえば、その通告なるものは、どういう法的の性質のものであって、またどういう法律効果を持つと政府は解しておるか。

○政府委員(中川融君) お答えいたします。ただいま外務大臣からお答えいたしましたとおり、向こうから廃棄通告があったのでございますが、その廃棄通告がありました日以後、この戦争中の日タイの同盟条約及びこれに付属する諸協定は、その日以後効力を失ったということでございまして、したがってその日以後、これに基づく一切の日タイ間の権利義務関係は、この日以後の分、もしこの日以後この協定を援用していろいろな要件がありました場合には、その日以後はこれは効力がない、その日以後、これの効力を、日本もタイも双方ともこれを認めることができない、こういう事態と考えるわけであります。

○杉原荒太君 それは政府の解釈はそうだとおっしゃいますが、今のここで問題にしておりますもの、これをかりに取りきめという簡単な言葉でいいますが、この関係の取りきめでいえば、そうすると、これはどうなるのです。取りきめの中にきめてある効力の発生の期日は、「昭和十七年五月二日より実施せらるべきものとし、両国政府の何れか一方が他方に対し終了の予告を為したる日より三カ月の期間の満了するまで効力を有するものとす」。私はさっきこの通告のこの取りきめに当てはめていうとどういう性質を持っているかと聞きましたのは、そこなんです。ここの、いわゆるこの取りきめにいう終了の予告という性質を持っているのか。そうして法律効果を聞きましたのは、つまり通告予告の日から三カ月間の満了の日まで効力を持つ、それ以後は効力を失う、そういう法律効果を持つのか、それを聞いているのですから、そこのところはどうなんですか。

○政府委員(中川融君) この戦争中にできました日タイ間の大蔵省の覚書、これはただいま杉原先生が御指摘になりましたとおり、その第四項というので、両国政府のいずれか一方が他方に対し終了の予告をなしたる日より三カ月の期間を満了するまで効力を有するものとする、一応このときの覚書は終了せしめる際には、あらかじめ三カ月のゆとりをもってこれを終了せしめるということを通告し、その三カ月がたったときにこの効力を失う。その間にいろいろその終了したあとの取り扱いについて双方で協議して扱いをきめて、いわば円満に終了させるということを予測していたのでございますが、しかし終戦という新しい事態に際しまして、タイ国側はいわば一方的に日タイ同盟条約及びそれに付属するこの特別円協定も含めまして、これに関連する協定を一方的にいわば廃棄して参りました。したがって、通常のやり方による終了の方法ではなくて、いわば非常事態、あるいは情勢の変化と申しますか、そういうものを根拠にしての廃棄通告であるのでありまして、したがって、この廃棄通告は即刻効力を発生いたしまして、廃棄の日以後、これら一切の同盟条約及びこれに関連する協定は効力を失ったと、こういうように解釈せざるを得ないと考えるものでございます。

○杉原荒太君 まあ今の点は、実際の問題としては、それから三カ月ふえるかどうかという点だけでありますし、私そう問題にもいたしませんが、いずれにいたしましても、そうしますというと、この戦時中の金売却取りきめの分を別といたしますと、昭和三十年の特別円協定締結の際には、特別円残高処理の法的の基準、ことに評価基準、換算率を定める基準について、日タイ間にあらかじめ約束した合意は法律的には存在していなかったということになるわけでございますか。

○国務大臣(小坂善太郎君) お説の通りでありまして、この特別円残高をいかに処理するかという問題につきましては、日タイ間の合意と申しますか、双方において合意した法的基準というものは存在しなかったということだと思います。

○杉原荒太君 では、そういうところがら、この昭和三十年の協定締結前にタイ国が要求しておった要求金額の計算の基礎となった換算率というのは、わがほうとしてはのむわけにいかぬという立場をとられたのですか。

○国務大臣(小坂善太郎君) さようでございます。

○杉原荒太君 三十年の協定締結当時、わがほうでは特別円一円は現行円一円であるとの立場はくずさないで、ただ戦時中の金売却取りきめは、特別円取りきめの金振りかえ条項とは別個に有効とする建前を基礎として、前の協定第一条の支払い金額五十四億円というものを算定されたと了解しております。それに違いありませんか。

○政府委員(中川融君) ただいま杉原委員御指摘のとおり算定いたしたのでございます。
○杉原荒太君 前にあげた協定覚書及び了解事項が、かりに三十年の協定締結当時生きておって、そうして、その中の金振りかえ条項の発動条件が満たされていたとすれば、わがほうの支払うべかりし金額は幾らになったはずでしょうか。

○政府委員(中川融君) これを前の協定がそのまま生きていたと仮定いたしまして換算いたしますと、千二百六十七億三千五百七十二万七千円になっております。

○杉原荒太君 以上の質疑を通じて、特別円問題処理の法的の基準、ことに評価基準、換算率の基準については、三十年の協定締結当時、日タイ間にあらかじめ約束した合意なるものは存在しなかったということがはっきりした。その当然の帰結として、タイ側が計算の基礎とした換算率も、またわがほうが特別円一円を現行円一円の立場をくずさずとしたことも、ともに日タイ間にあらかじめ合意された約束という法的の根拠はなかったことが明らかになったのですね。また、前にあげた協定覚書及び了解事項は、わがほうの敗戦に伴う特殊事情のもとに廃棄されたものの、それがもし生きておって、その中の金振りかえ条項の発動条件が満たされていたとするならば、わが国は、今、条約局長が言ったように、千二百六十七億余円を支払わざるを得なかったことが明らかになったわけですね。
 そこで、さらにお尋ねいたしますが、先ほどの政府の解釈によると、さきにあげた取りきめは、昭和二十年の九月十一日まで効力があったというが、その中には金振りかえ条項が含まれていたけれども、その日以後は法的の拘束力がなくなったから、それだから、特別円の処理に当たっては、その点を全然考慮する必要なしという立場をとっておられたのか。それとも、法的の拘束力はないけれども、初めから金振りかえ条項というものが、当事者間の合意として全然なかった場合とは事実上の事情が違うから、また、わが国の敗戦という特別の事情によってタイ側の廃棄通告がなされたのであるから、特別円問題の処理にあたっては、それらの事情も実際上しんしゃくしてやらねばならないという考慮も払われたわけですか、これはどっちですか。

○国務大臣(小坂善太郎君) 条約局長から答弁いたします。

○政府委員(中川融君) その当時の経緯でございますので、私かわりましてお答えいたしますが、その当時やはり法的な基礎がない、換算率についての法的な基礎が一つも日タイ間にはないということで、一特別円はやはり一円として計算するのが至当であるというのが基本的な考え方であったわけでございます。しかしながら、契約いたしまして未実行に終わりました別個の金売却契約はこれをそのまま有効と認める。そのほかタイの名義として日本銀行に保管しました金塊〇・五トンはこれをそのままその時の価格において、公定価格でポンドに換算して支払う、この三つをきめまして、五十四億円を払う。しかしながら、他方タイ側の要求、これは初めの千三百五十億から漸次下がりまして百五十億に下がったのでございますが、この百五十億は、タイ側の数字をも考えまして、それとの差額、これは経済協力でその差額を埋めよう、こういうのが考え方の基礎であったわけでございます。

○杉原荒太君 特別円の問題の性格は、もともとこれは債権債務の関係の処理という点では、これはもちろん法律的の性格の面があるけれども、以上の政府の答弁を総合してみましても、この問題の処理について、日タイ双方があらかじめ合意した法的の基準、評価基準、換算基準などは存在しないために、この問題は解決方法の上から見るというと、単純に法律的に処理するわけにいかず、日タイそれぞれ各自の主観的に合理的だとも思うところと現実の事情というものを考慮に入れて、そして実際的に処理するよりほかないという性質のものなんです。すなわち、その意味においては政治的妥協の対象とならざるを得ない性格のものであったわけですね。そうしてタイ側の言い分も、法律的にはともかくですよ、実際的にみるというと無理からぬ面も、少なくともなきにしもあらずといったようなところがつきまとっていたことは、これまでの質疑を通じてみても率直にこれは認めざるを得ないところではありませんか。そうであったればこそ、結局今度の協定にまで尾を引いてきている実質的の根源は、実はそこにひそんでおるわけではありませんか。第二条の解釈問題については私はあとで質問しますが、まずこの第二条の解釈問題が出てくる実質的の根源の所在点について、政府はどうみておられますか。

○国務大臣(小坂善太郎君) 仰せの通りでございまして、とにかく日本銀行の帳じりを見まして十五億円何がしある。ところが金の売却未実行分がある。また、金の引き渡し未実行分がある。これらについては当時の金価格において換算し直すというようなことで、この帳じりで出しまして、今の二点と、帳じりから当時の四千四百億円のものを引いたものを出しまして、三十四億円というものを出したわけであります。
 一方タイ側としても、金約款がありせば一千二百六十七億円というものが出てくる。そこで当時のポンドとバーツの比率で換算してくれば千三百五十億円程度のものが出る。あるいは今度はそれをドルとバーツの換算でやってくれば二百七十億円余のものが出るというようなことで、いろいろ政治的な、何と言いますか、妥協への努力をしたわけでございます。そういう点から、非常に法的基準がおっしゃいますように明確な双方に合意したものがなく、結局その当時歩み寄ってきめたものであるというところから、いろいろな今日まで解決を迫られる問題が出てきた。全額百五十億円というものから五十億を引いたものが、これが投資あるいはクレジットの形式において供給されることになっておって、そのことはやはりタイ側としては何か若干割り切れぬものを、協定文の上では言われれば一言もなしと言いながら、若干割り切れぬものを残こしてきたということではなかったかと存ずる次第でございます。

○杉原荒太君 次に前の協定第二条の解釈について、日・タイ間でずっと意見の対立があったことはよく承知しておりますが、私がちょっと奇異に感ずることは、政府の提案理由の説明の中に「タイ側は、協定の解釈に関する日本側の立場は正しいことを認めざるを得ない」という態度に出てきたということが言ってありますが、ほんとうにタイ側との間に、第二条の解釈に関して意見の一致ができたのであれば、何を苦しんでこれを変更する必要があるか。もっとも政府の提案理由の説明の中には、今の言葉を受けて、「日本側の立場は正しいことを認めざるを得ないが、」と「が」というのが入っている。「そもそも戦時中の日本の債務であった特別円問題を解決する協定を実施した結果、逆にタイ側が債務者となるような解決方法は、タイの国民感情として納得できないので、何とかこれをもらえるような形で解決してもらえないかと要請して参りました。」こう提案理由の中に書いてあります。これを法律的に見ますと、この前後の関係は必ずしもはっきりしませんが、この後段のところは法律的に見ても、あるいはそういう条件がついておるようにもうかがわれる、はっきりしない。しかし条件づきの同意であって、無条件同意ではないともとれる、平たく言えば表面の文字解釈は日本側の言うておるとおりかもしれぬけれども、実質的には自分のほうはこのままではどうしても納得できないのだ、こういう趣旨とも解されるようなんです。果たしてしからば、法律的には条件づきの同意は同意じゃないから、厳密な条約解釈論としては、結局最後まで前の協定第二条の解釈適用については、日・タイ間に意見の一致が得られなかったことが真相ではないか、だからこそ新協定の必要が生じたというのが、条約論的には正確な言い方であり、またかえってそれが筋が通るではありませんか。実際上、このむずかしい問題であった第二条の問題をほぐしていくにあたって、政治家同士の話としてはこれは政治家らしいものの見方をするのがむしろ当然ですから、それはそれとしてよいのでありますけれども、条約改定の筋道を法律論的に、条約論的に立てていく場合には、私の今申したような言い方が真相をより的確に表現しているのではありませんか。別に私の説を押しつけるわけじゃありませんが、政府の率直な御答弁を求めます。

○国務大臣(小坂善太郎君) 条約について非常に通暁せられ、また政治家でもあられるあなたの御意見は、私としてはまことにそのとおりの感じがするのであります。しかしながら私どもとして交渉いたしまする際には、あくまで第二条の協定をたてにとって、こう書いてあるではないか、君のほうもそれに承知をしたのではないかということを強く言わざるを得ないという立場で交渉いたしました、そう思いましたのでその立場で交渉いたしました。先方の最高首脳者は、しばしばこの点につきまして意見を述べたものでございますが、たとえば歴代の政府が政府部内でしばしば討議しながらも、民衆に対して本問題につき沈黙を守らざるを得なかったのは、政府としては現に存在する協定と民衆の感情の板ばさみになっていたからである、ということも申しましたし、あるいは協定をたてにとって言われれば一言もない、しかしながら日本は現協定を守ろうというなら、タイ側としては何とも仕方のないようなことであるけれども、こういうような失敗があったということを、教訓としてタイ国の青史に残すものであるということも言っておるのでございます。すなわち協定をたてにとって言われればこれは日本の主張のとおりであろう。しかしながら何としても自分らのほうとしては、先ほど御引用になりましたように、自分が貸したと思っていたものが、判をついてみたら自分が借りたものになっていたというのは何としても納得し得ない、しかし協定をたてにとって無理押しをするならば、すなわちこのことは青史に残るであろう、日本に対するタイの友好感情に非常に暗いものが出る。すなわち日本とタイの貿易関係等についても、十分のわれわれは覚悟があると言わぬばかりのことがあったということであろうと思います。しかしながらそういう問題について政治的にやはり大所高所に立って、日・タイ双方の間でこの問題を清算すべき時期になった。かような判断においてこの協定第二条について新協定を結びました次第でございます。

○杉原荒太君 私は今外務大臣の言っておられることも考慮に入れて質問したつもりですが、私は今最後に申しましたような第二条の問題の解釈適用についても、双方の立場を法律的、政治的に見て、その場合、一体これは私の申しましたようなことと同じ見解かどうかという点だけをひとつ聞きたいのです。そこのところが大事だと思います。こういうことが大所高所につながっていくことだと思う。

○国務大臣(池田勇人君) 杉原さんのお話のとおりでございます。私は前からずっと聞いておりましたが、今の特別円の問題は御承知のとおり金約款がついて、金で払うという建前になっているのであります。当初は、日本の徴発物資その他の貿易帳じりは大体半分くらいは金で払うということでいっておったのであります。しかし戦争遂行上いろいろな徴発物資に対して金で払うのだが、とりあえず半分を払うというので、半分でやっておった。だんだんこれが少なくなりまして、金約款のありますものの、タイと日本との間で十分の一くらいしか金で払えぬあるいは十五分の一ということになったのが、今の残りの四千四百万円の分であります。全部払うというのが、だんだん半分から少なくなって、取り残された分だけを金で払う。こういうことはタイもよく知っております。日本もよく知っております。ただ幸か不幸かと申しますると、どっちとも私は言えませんが、昭和二十年九月十五日に日本とタイとの条約並びに協定を全部破棄したから、われわれはその効力はない、こういうことで条約上の金約款というものを全部捨ててしまった。タイとしてはそうは言っても前の精神は守ろうじゃないかというので、十一バーツーポンドこれで千二百数十億あるいは千三百五十億、こうやってきたのでございます。タイはやはりもともと金約款があったのであるから、しかも日本は金約款で初めは半分、しまいには十分の一ぐらいしかやってくれなかった。しかももともと金約款だから金の換算で払うべきだ。これがタイには強かった。しかし日本は、タイが幸か不幸か捨ててしまったのだから、昔の一円も今の一円も同じだ、戦争中の円も今の円も同じだと、こういう経済的にはどうかと思いますが、条約を破棄したものだから、昔の一円が今の一円だと経済的には少し無理なような気がいたしますが、そういう二つの状態が続いていたわけであります。そうして三十年にまあまあというので、昔の一円が今の一円だという日本の主張を通しながら、昔約束した一部の、十五億円のうちの一部の四千四百万円だけを金でやろう、別の〇・五トンはイヤマークがございますが、こういうふうにした関係上、なかなか日本人の気持ばかりではいかぬし、タイの気持ばかりでもいかぬ。ところが三十年のときに五十四億円の現金払いも、九十六億円の投資、またはクレジットの形式で資本財または労務を供給する、こういうことになっているわけであります。そこがいいかげんだとは申しませんが、両方の代表であれしたのであります。そういう点がずっと今もなお残っておるのであります。そこで外務大臣が答えたように、日本に昔の金で十五億徴発されて、その決済として九十六億円の借金を負うということは、いかにしてもできないということが向こうの感情でありますが、そうして法律的に申しますと、二条で「供給する」ということがきまっておりますが、四条では「両国は、この協定の円滑な実施を確保する目的のため、協議及び両政府への勧告のための機関として、両政府の代表者から構成されるべき合同委員会を東京に設置する」。二条の履行については四条の合同委員会というのが前提となっておる。合同委員会ができない、そういう関係にあります。これをそのままやっていきますと、合同委員会ができないから二条のほうがきまらぬということになりますと、いつまでもこの問題が尾を引きまして、両国間の信頼のみならず、この実際のことを考えてみたときに、私はこういうところで手を打つことが両国のために、もしそれ向こうが昭和二十年九月十五日にあの条約並びに協定を破棄しなかったならば、千三百五十億円あるいは千二百五十億円を要求をしたときに日本はどう出るかという、非常に苦しい立場になることはお説のとおりであります。そういう点を考えまして四条の規定もあることだし、いつまでもこれをほおっておくわけにはいかぬというのが、われわれ政府の今回の協定を結ぶに至った理由でございます。

○杉原荒太君 私は、今まで政府の説明を聞くだけではどうも疑問としていた点がありますが、ただいまも総理の御説明で、私の疑問としておった点はよくわかりました。そうしてまた、ずっと従来の取りきめなどの効力関係その他も、政府の答弁でよくわかりました。そこで、どうも外務委員会で聞いた政府の提案理由の説明だけでは釈然としないものがあったので、きょう実は質問いたしましたが、本日の説明で私はよくわかりました。
 次に、日韓問題、特にいわゆる請求権問題についてお尋ねいたします。私のお尋ねいたしたい点は、交渉内容や請求権の内容の具体的問題ではありません。請求権問題の処理の仕方に対する政府の基本的の態度であります。政府は、請求権問題の処理の仕方について、これを法律的に処理せんとしておられるのか、政治的に処理せんとしておられるのか。つまり一定の法律的基準に照らして法的根拠の明確なるものを取り上げて法律関係の整備として取り扱うというような、そういう態度に出ようとしておられるのか。あるいは両国の間にいわゆる請求権問題として事実上問題となっているものを、いろいろの事情を考慮に入れて実際的に処理せんとしておられるのか。問題のこなし方に対する政府の基本的な態度は、そのいずれにあるか、その点をお伺いいたします。

○国務大臣(小坂善太郎君) 日韓会談の請求権問題につきましては、従来から種々法律論を戦わしたり、あるいは請求権の裏づけとなりまする事実関係の資料検討等を行なって参りましたけれども、しかし双方の法律的主張の中には並行線をたどるものもございまするし、また、従来の事務的折衝のみではなかなか事実関係等の突き合わせにおいても至難である面も出て参りましたので、これをより高いレベルで折衝するということにいたしまして、漁業の問題等も含めて大局的な見地に立った解決を試みるということが、この時期としては必要となってきたのではないかと、かように考えているわけでございます。いわゆる法律的、事務的という言葉を使いますれば、法律的にも事務的にも両問題は並行して考えて行く、かようなことで解決をはかって行くということでございます。

○杉原荒太君 今の外務大臣の説明、実際そういうふうだと私少しわからなくなったのですが、このいわゆる法律的処理をするというものについては、私は非常に疑問を持っているから質問しているのです。法律的に処理するためには、その前提として、言うまでもなくまず問題解決の基準となるべき日韓双方の認め合った共通の法的基準がなければならない。また、その法的基準に照らして法的根拠を証明する証拠事実もそろわなければならない。少なくともそれらがなくしては法律的の解決ということは成り立ち得ないわけでしょう。平時通常の場合においてすら、国家と国家との間の請求権問題の処理については、当事国双方を拘束する共通の法的基準が具体的に確立していない場合が多いために、単純に法律的に解決するわけに行かない。結局いわゆる政治的妥協によるほかない場合が多いでしょう。いわんや戦時関係のものになるとなおさらです。それに日韓の請求権問題になると、戦前の内地と朝鮮との特殊な関係が加わって、さらにその上に母国からの分離独立という国際法の分野でも一番実定法上の確立を欠いている関係が伴ってくる。そればかりでなく、朝鮮における南北の分裂という事情が追加されてくるというふうに、幾重にも重なり合った複雑きわまる関係の中にあって、日韓の間のいわゆる請求権の問題を法的に解決しようとしても、その前提となる国際間に確立している法的基準が一体充足しているでしょうか。また、特定の問題に限って見ても、日韓双方が承認し合う、また受諾し得るような共通の法的基準あるいは評価基準、その証拠事実が完備しているものでしょうか。日韓請求権問題の処理基準となっているサンフランシスコ対日平和条約の規定もばく然としておって、いわゆる請求権の範囲や具体的な内容を決定する基準を示していないでしょう。まずその基準を示し得ないのは、むしろ無理からぬことではないでしょうか。先ほどのタイの特別円問題一つにしてもそうであります。典型的な請求権問題でありながら、法律的に解決する基準が充足されていないために、結局政治的解決によるほかないわけでしょう。特別円問題の幾層倍あるかもしれない日韓の請求権問題に対するアプローチの仕方は、よく考えないと、解決の道を発見し得ないのみか、かえって大きな紛糾を来たす結果に私はなりはしないかと思う。法律的に処理すると言うと、理論上からすると筋が通っているように聞こえるけれども、実際上の実行可能性に多大の疑いなきを得ない。私はそういった疑いを持つがゆえにただすのですが、政府は、以上の点について基本的にいかなる考え方をしておられるか、その基本的の考え方いかんによってその解決の方式も違ってくるし、また協定の作り方も違ってくるのだが、これはしかし事務的にきめ得ない。政府の最高決定に待たなければならぬ性質のものであると思うから、その点、池田総理のお考えをお伺いいたします。

○国務大臣(池田勇人君) 全くお話のとおりでございます。で、私と朴議長との間におきまして、請求権の問題も法的根拠のあるものという原則はきめましたが、その法は何法かという問題があるわけでございます。たとえば日本の国籍を持ち日本の恩給請求権があった前の日本人、今の韓国人、国籍喪失によりまして権利を喪失することは当然のこと。しかし、それだといって全然やらずにおけるか、問題がある。何かにつきましで、こうなんです。そして在籍財産、在韓国財産といたしましても、これは属地主義かどうかというようないろいろな点があるわけです。こういう点を考えますると、今までのように、自分のところの法律だけをがんばって日本はいく、韓国は韓国で設けられた法律ばかりでやる。それから属地主義なりや属人主義なりやと、こういう国際法的な問題等々をやりますと、法律的根拠のあるものといいましても、なかなかお話のとおりむずかしいのです。そこで、一応の事務の折衝はやりまするけれども、すべてそういう国際法的なもの、そして国内法的のもの、両方違いますから、そういう問題の妥協をどうしていくかということは、事務の折衝をやると同時に、やはり大所から別の政治的考え方から話し合いをする必要があると私は感じておるのでございます。なかなかむずかしい問題でございます。ことに日本の国であったものが分かれていったような場合には、なかなかこれはむずかしいことも私よく承知いたしまして、十分その点を考えながら進めておるのであります。

○杉原荒太君 時間がありませんから、先のほうに進みますが、国連問題について少しお尋ねいたします。

 第040回国会 衆議院外務委員会 第9号 昭和三十七年三月七日(水曜日) 午後零時三十六分開議

【発言順】
 委員       細迫 兼光
 外務事務官
(アジア局長   伊關佑二郎
 外務大臣    小坂善太郎
 委員      北澤 直吉
 外務事務官
(経済局次長   中山 賀博
 外務事務官
(移住局旅券課長)志水 志郎
 委員      受田 新吉
 外務事務官
(条約局長)   中川 融
 内閣官房副長官 服部 安司

○細迫委員 きょうは韓国問題に関しまして少しばかり質問の序文的なところをやりたいと思います。
 韓国に対しましてだいぶ以前からこげつき債権がそのままになっていると思うのですが、それは始末がついたでしょうか。その後の状況を御報告願いたいと思います。

○伊關政府委員 たしか昨年の四、五月でありましたか、韓国の方から、今後、貿易残高と申しますか、韓国の輸入超過が二百万ドルをこすたびに現金で支払っていく、毎月十日でございますかにその貿易じりを払う、その間といえども二百万ドルをこしたならばすぐ払うというふうなことを申し出て参りまして、その際に、この貿易じり残高四千五百七十三万ドルでございましたか、この問題も取り上げまして、これはすみやかに払うようにしたいということを向こうが一札を入れております。

○細迫委員 払うようにしたいと言いながら、まだどうも現実には払っていない意味だと受け取りますが、しかるに、韓国に対しましていろいろ日本の企業が進出を企てておるようでありますが、すでに湯川康平氏なんかの調査団も行っておるようですが、保税加工方式の輸出、すでに計画の緒についておるように承っておりますが、これらの企業、韓国へ設定せらるべき企業について、韓国としては一切どんなことが起きても保証はしないということを言明しておることが新聞に出ておりますが、外務省で受け取られておる情報においても韓国がそういう態度をとっておることは間違いありませんか。

○伊關政府委員 この湯川氏の調査団が参りまして、近く帰ってくるか、あるいは一部帰っておるかもしれませんが、これは政府とは全然無関係のものでございまして、私どもも新聞でそのやっておることを知っておる程度でございます。実際の問題といたしましては、まだ調査団が行っている程度であって、現実の具体的な話にはなかなかならないんじゃないかと思っています。韓国側も、新聞によりますと、そういうふうに政府保証はしないということで、新聞には出ております。

○細迫委員 韓国が一切保証しないと言っているぐらいですから大丈夫だと思うのですが、日本の政府関係においてもこれを何らかの保証をするというような考えはないものと理解していいですか。

○伊關政府委員 現実には、何と申しますか、そういうふうに韓国に対する投資というものはまだほとんど話ができたものはないんじゃないかと思いますが、何かいい話が出て参りまして、そしておそらく無為替輸出の許可を申請するというふうなことがあり得るかもしれませんが、現在のところは一つもございませんが、そういうときにはケース・バイ・ケースでもって考えるということになろうと思います。

○細迫委員 保証の問題はどうですか。韓国の今の経済状態では韓国政府は保証しないと言明しておりますから、日本の輸出する企業としてはどこかに保証を得たいと思うだろうと思うのですが、その際における日本政府の態度としましては、保証なんというようなことを考慮する余地があるのか、余地がないのか、その態度をお聞きしたいと思います。

○伊關政府委員 具体的に何か政府に対しましてそういう無為替輸出の申請等でもございませんとよくわかりませんが、無為替輸出を認めれば、たしか九割程度の輸出保証があるとかという、私もあまり専門家ではございませんから、そういうことを認めるか認めぬかということは、そのプロジェクトがいいかどうか、そのプロジェクトに対して韓国の方でだれが保証しておるか、韓国銀行が保証するという場合もございましょう、あるいは外国銀行、まあ個々のケースに当たってみませんとわからないことで、これは確かにあぶないものを政府が保証するというようなことはなかろうと思っております。

○細迫委員 これはガリオア・エロアの問題にも関係してくるのですが、あの支払金の使途に関する交換公文がございますね。あの中を見ると、たしか東アジアにおいてその経済復興にアメリカ・日本が重大な関心を持つ地域にこれを使うというような趣旨のことがありますが、東アジアという言葉はちょっと今まであまり聞いたことのない言葉ですが、どういう地域をさしておるのでしょうか。御説明願いたいと思います。

○小坂国務大臣 交換公文は、御承知のように、一項、二項とございまして、この返済金はアメリカがこれを使うわけですが、アメリカ側としては低開発国の援助に使う、こう書いてございます。第二項の方には、日本とアメリカが東アジアの経済の状況についてはよく相談し合う、こういうことが書いてございます。従って、一項、二項をそのままに読めば、相談したからすぐにその金が使われるということではないわけでありますが、この東アジアという言葉の意味ですが、これは、アジアをわれわれ東南アジアと言っておりましたが、アジアには東南アジアのほかに東北、北東アジアもあるわけですし、それから、いわゆる西アジアと言っているのもあるわけであります。そこで、束と西に分ければ東アジアと西アジア。西アジアの方は大体インドとパキスタン、これが通常西アジアと言っておりますが、これらの地区に関しましては、いわゆるコンソーシアム、債権者国会議というものがあって、日本はインドにもパキスタンにもそれぞれ債権者になって援助しておるわけでございます。そういうものが行なわれていない地区ということを考える、こういうことだと思います。

○細迫委員 韓国は当然この東アジアに入るだろうと思うのですが、いかがでしょうか。

○小坂国務大臣 それはやはり東のアジアで、今申したように西アジアは抜けているわけですが、西アジア以外の地区はみな東アジアということだと思います。

○細迫委員 韓国がその地域に入るとすれば、ガリオア・エロアの使途においても当然目標地域と考えられるわけでありますが、さっきもお聞きしたように、韓国の経済事情はまことに弱い。ここへ使われる可能性というか、危険性というか、非常にあるように私は思うのです。韓国へは絶対に使われるはずはないという御言明ができましょうか、できませんか。

○小坂国務大臣 これはアメリカが使うのでございます。アメリカが使う場合には、低開発国の援助にする。すなわち、アフリカや何かも入る。中南米も見方によってはそういうふうになるわけであります。われわれは、いわゆる東アジアの経済状況についてアメリカと今後いろいろ緊密に話していく、こういうことでございますから、日本として日本の金を使う場合なら国会でいろいろ言うこともできますけれども、これはわからないと申し上げるのが一番適当だと思います。

○細迫委員 これはガリオア・エロアの問題に入りますから、やめておきます。(笑声)

○北澤委員長代理 静粛に願います。

○細迫委員 韓国の態度を見れば、資本の輸入については非常に熱心で、非常な有利な条件の法律が出て、税金なども数年にわたって免除あるいは軽減するような、資本導入に非常に熱心で条件もいいようですから、これは日本の企業家にとっても非常に垂涎ものだと思うのです。一番の難点は、彼らがおそれることはおそらく政情不安定であることと経済的に弱いこと、これが足踏みをさせる要因だと思うのです。これはいずれ本格的には政府がやはりタッチせなければならぬと思うのですが、日韓会談にあたりまして、例の進め方の方式、懸案を解決した上で国交正常化をはかるという線が一度出ておりました。だが、その線がまたくずれたような印象も受けておるのであります。この十二日から崔外務部長とお会いになるという新聞記事が出ておりましたが、それはほんとうでありましょうか。そして、今申しました懸案解決の上で国交正常化という線はその後やはり変更を見たでありましょうか、その通りになっておりますか。

○小坂国務大臣 今の二点は仰せの通りでございます。

○細迫委員 と申しますと……。

○小坂国務大臣 と申しますると、第一点、十二日から崔外務部長官と会談を始めるや、しかり、第二点、懸案解決後に国交正常化するか、しかり、ということであります。

○細迫委員 その際、竹島問題には小坂外務大臣ちょっと触れたけれども、それには反対して議題にならないのだということが韓国の主張であるようでありますが、竹島問題は懸案の中に入っていないのですか。

○小坂国務大臣 日韓会談は、従来からやっております議題として三つの問題があるわけであります。すなわち、、請求権、それから李ライン漁業の問題、それから法的地位の問題で、この中には入っておらないわけであります、しかし、国交正常化ということを考えます場合、私は当然この問題について何らかの合意があるということが必要だと思っております。

○細迫委員 今の御答弁は、ほとんど八〇%、九〇%私は満足に思います。と申しますのは、竹島問題は困難だろうからといってこれを回避する態度がずっと前の経過においてにおわれるのでありますけれども、国交正常化については領土の確定ということがまず何よりも先行すべき懸案でなければならぬと思うのです。御承知のように、それがために日ソの平和条約も足踏みしておるような状況であります。竹島問題をあわせて解決せなければならぬという御態度は当然なことだと思っております。その際、経済問題に返りますが、直ちに通商航海条約なんかも結ばれる予定でありますか。

○伊關政府委員 将来の問題としてはそういうものができることが望ましいと思っておりますが、これは国交正常化後の問題であります。

○細迫委員 今、国交正常化をしようとして相手取っておられます朴政権、このもとにおける韓国事情は非常に民生不安定の極にあるということが私の耳には入っておるのでありますが、政府として、その朴政権のもとにおける韓国の民生状況、いかように判断しておられますでしょうか。

○伊關政府委員 御承知のように、六〇年の四月に革命がございまして、また昨年の五月十六日に革命がありました。そういうふうな政情の不安定ということがございますと、従って経済活動も萎靡するという点は確かにございます。いろいろな指数を見ましても、昨年の六月、七月、八月というときには非常に悪い徴候を示しておりました。これが九月ごろから逐次よくなり始めまして、まだ本年一月の数字は私の方は持っておりませんけれども、物価騰貴、インフレの心配もないし、大体生産が逐次上がってきておるということで、次第によくなっておるというふうに見ております。それに、昨年は、米の収穫でございますが、大体一昨年一千六百万石をちょっと切ったものが、一千九百万石近い、約三百万石の増収がございまして、こういうことも非常に農村の安定に寄与しておるというので、状況は逐次よくなりつつある、こういうふうに見ております。

○細迫委員 昨年の十二月二十日ごろのことですが、合計十四万人の者が逮捕せられた。政党関係六百六名、社会団体二百五十二名、学生が五百四十六名、学生、教師六百名をこえるこういう莫大な逮捕者が出ておる。それから、こういうふうな弾圧が行なわれておるにかかわらず、旧民族青年団系列のものが、これは軍隊の中にも関係者があるそうですが、これらのものが朴政権を倒すクーデターの計画が発覚した、あるいは、旧民主党系列としては新興義烈団なるものが組織せられて、これまた朴正煕政権を除去しようというクーデター問題が表面化したというようなことが言われておるのでありますが、政府の方には、外務省の方にはこういう情報は入っておるのでありましょうか、いないのでありましょうか。

○伊關政府委員 軍事革命以来逮捕されました者の総数は一万三千二百七十五名ということになっております。そのうちで、すでにもうこの起訴の期間というものが終わっておりますので、結局起訴されました者が全部で六百九十六名、そして、その中に百八十三名の逃亡者がいるということで、現在、起訴中の起訴者のうち四百五十二名が既決になっておるという程度でございます。ですから、有罪の判決を受けております者は四百五十二名という程度でございます。(「外務省のその情報はどこから入ってくるのですか」と呼ぶ者あり)それは韓国政府が発表しております。
 それから、最近小さい革命の陰謀みたいなものが二つほどあったのでありますが、これも報道されておりますが、これは、名もないような小さな団体の者がやったので、ほとんど取るに足りないようなものだと言っております。

○細迫委員 日本の企業者の韓国への進出、これを政府としては奨励をなさるつもりですか、あるいは、少しあぶない、怪しいから慎重にしろというブレーキをかけられるおつもりですか。大体の御方針はいかがですか。

○中山説明員 お答え申し上げます。いろいろ業界から視察団の計画もあるように聞いておりますけれども、何と申しましても、根本はコマーシャル・ベースでやっていただかなければならぬというふうに考えます。それで、まだいろいろ案もあるようでございますし、先ほどお話しになりましたような保税加工制度というようないろいろな案も出ておるようでございますが、まだまだ具体的なことはわれわれのところに達しておらないありさまであります。従いまして、もう少し具体的な点も見て態度をはっきりさせたいと思いますが、根本的には、コマーシャル・ベースでやっていただくということが原則だと、こういうように私は考えております。

○細迫委員 もし奨励する態度をとられて、そして企業がどしどし韓国に進出するということになれば、何かの保証、保護というものが政府の責任になってくる関係に相なると思います。そういう場合に、政府の保証、これは生命財産に関する問題と経済上の問題と、大体二つに分けられると思うのですが、どういうことを用意しておられるか、あるいは用意してないのか、あるいはこれに関する御方針について承りたいと思います。

○中山説明員 お答え申し上げます。今後業界の方々が韓国に渡られましていろいろ事業活動やあるいは貿易その他の活動をなさいますときに、政府としてのどういう保証があるかという話でありますが、生命その他の財産の直接の損害につきましては、これは国際法上の原則に照らしていろいろ交渉になることと思いますが、純粋に商売の面から話を考えてみますと、たとえば資本並びに商品の輸出をした場合に、これに対する保証制度というものは、現在のところ考えられるのは、たとえば輸出保険とかその他の制度がございます。現にこれは通産省で取り扱っておりますけれども、根本はあくまで保険料を払って保険してもらうという考え方でございまして、商売というか、コマーシャル・ベースをはずしたものではございません。従って、将来の日韓間の貿易その他の事業活動につきましても、先ほど申し上げましたように、保険の適用その他につきましても、これはあくまで根本はコマーシャル・ベースでいくべきものだ、こういうように考えております。

○細迫委員 ちょっと枝葉の問題ですが、せっかく来ていただいておるのではないかと思いますが、旅券課の関係の方、今韓国との間に人間が行ったり来たりする、その旅券の発行はこちらでやっておられるのですか。

○志水説明員 お答えいたします。外務省の旅券課でやっております。

○細迫委員 ビザはどこで取り扱っておりますか。

○志水説明員 ビザは私の方の旅券課でやっております。

○細迫委員 韓国の新聞では、旅券発給者氏名・本国入国許可者の氏名公告を韓国駐日代表部領事課旅券担当官というものがやっており、並びに、これと肩を並べて、在日韓国居留民団中総民生局長、この二つのものが名前を並べて本国入国許可者の氏名を毎日発表しておるのですが、これはこの形から見ると外務省の方ではほとんどノータッチのような感じがするのですけれども、そんなことはないのですね。

○伊關政府委員 日本人で韓国に参ります者は、外務省でもって旅券を発行いたしまして、韓国代表部でもって入国の査証をもらって参るわけでございますが、おそらく、新聞記事は、ここにおります在日韓国人が韓国に行く場合のことを書いておるのじゃないかというふうに考えます。

○細迫委員 在日韓国人が韓国に行く場合の手続並びに取り扱いはどういうふうになっておりますか。

○志水説明員 お答えいたします。在日韓国人が韓国に参ります場合は、法務省の入国管理局で許可を受けて参ります。

○細迫委員 韓国から今日本が輸入しておる品物は、おもなものはどんなものがあるのでしょうか。

○中山説明員 お答え申し上げます。昨年の日本の輸入総額は一千六百万ドルでございましたが、おもなるものは、農産物二百万ドル、金属類、これは鉱石の格好だと思いますが、四百万ドル程度でございます。

○細迫委員 最近韓国の米を五万トンばかり輸入するということがきまったような新聞記事がありますが、ほんとうでありましょうか。

○中山説明員 韓国は約十万トン手持ちの米があるというわけで、日本にも累次買ってほしいということを申し出ておられます。しかし、いまだに、数量・価格その他すべては将来の交渉に待つ方針でございまして、何ら具体的に決定したものはございません。

○細迫委員 鮮魚も相当に入っておると聞くのですが、どれくらい入っておるのでしょうか。

○中山説明員 昨年、年間で百八十万ドル入っております。

○細迫委員 小坂外務大臣が十二日に会われる崔外務部長官とのお話は、いつまで続く予定でありますか。

○小坂国務大臣 十二日に会いますのですが、その後のことは、いろいろ話し合ってまたきめたいと思っております。

○細迫委員 他の問題は留保しまして、今日は終わります。

○北澤委員長代理 受田新吉君。

○受田委員 私は、最初に、先ほど問題になったロイター通信のディリー・エキスプレスという英国の新聞の報道についてさらに深く掘り下げてお尋ねをし、その次に、日韓会談を直前にした重要な問題点をお尋ねしたいと思います。
 ディリー・エキスプレスという新聞紙はどの程度の実力を持った英国の新聞紙であるか、お答えを願います。

○中川政府委員 ディリー・エキスプレス紙は、イギリスにおける大衆新聞でございまして、購読数は相当多いのでございますが、新聞の質は必ずしもよろしくない、こういう新聞でございます。

○受田委員 質はあまりよくないけれども、大衆が多く読んでいる新聞だ、こういうことになると、質のよしあしにかかわらず、大衆に与える影響力は非常に大きい新聞だと判断してよろしいかどうか。

○中川政府委員 いわゆる大衆に対する影響力は相当あると思いますが、しかし、そこに書いてある新聞記事が全部ほんとうであるというような意味で必ずしも大衆が読む性質の新聞では実はないのでございまして、興味本位で読む新聞でございます。従って、そういう種類の新聞でございますので、必ずしも日本の実情とはちょっと比較ができないのでございます。

○受田委員 私は、少なくともそうした大衆に影響力を持ついわゆる有力紙といわれる新聞が、米の大気圏内の核実験宣言に対応して沖繩を使用すべしなどという暴論をはくに至ったということをよいかげんに取り扱ってはならないと思うのです。日本政府としても、そうした大衆紙の影響力ということも考えて、何らかの形でこれに警告的な抗議的な意思を表明しなければならないと思いますが、具体的にはまだ何ら措置がしてないわけですね。

○伊關政府委員 おそらく、ごく近いときに在英大使から報告してくると思いますので、それを見ました上で何らかの措置をとりたいと思っております。

○受田委員 日本政府として、いやしくもわれわれの血のつながった同胞を持つ沖繩を問題の地域にしようなどというけしからぬ主張に対しては、重大な警告なり抗議なりがされるべきだと私は思います。十分この点は御注意を願いたい。
 次に、日韓会談の政治的な重要会議を目前にして小坂さんにお尋ねをしたいのですが、十二日から開かれる両国外相会議というものにはどのようなメンバーが参列されることになっておるか、場所をどこに指定されておるのか、及び、そこで議題にされる重要な問題点は何であるか、この三つについてお答えを願います。

○伊關政府委員 会議の場所は外務省でやるつもりでおりますが、向こうの出席者につきましては、向こうの崔徳新外務部長官が来ることはわかっております。それに、ここにおります襄大使も参加すると思いますが、それ以外の随員につきましてはまだ氏名がわかっておりません。それから、取り上げます問題は、日韓会談では請求権、漁業問題、法的地位、この三つがおもな問題でございます。これらにつきまして、事務レベルでもって各委員会のレベルでやっておるわけでございます。委員会のレベルで解決しないようなむずかしい問題はすべてこの外務大臣レベルに上げて、ここで取り上げるということになっております。

○受田委員 その会談には、日本国側の政府当局はだれとだれが参加されますか。

○伊關政府委員 先方の参加者がはっきりいたしませんので、日本側からだれが出ますか、最終的には確定いたしておりませんが、おそらく、大臣、それから杉首席代表、それに私も出る、それから、問題によりまして、請求権の問題のときには請求権委員会の主査をしております大蔵省の理財局長、漁業の問題のときには漁業委員会の主査をしております水産庁の村田次長、あるいは法的地位ならば入管局長というふうに出られると思っておりますが、まだきまっておりません。

○受田委員 私は、そこで議題にされます請求権の問題に関しまして掘り下げてお尋ねしたいのですけれども、大体、韓国にあった日本の私有財産、これは、終戦直後のアメリカの軍令によって一応没収された形になっておるのか、あるいは敵の財産という敵産管理の形に処理されたのか、あの軍令の内容は、性格は没収か敵産管理であったのか、これをまずお尋ね申し上げたいのです。

○中川政府委員 いわゆる軍令第三十三号でございますが、これの中には、日本財産をヴェストしオウンすると書いてあるのです。ヴェストしかつオウンするということの法律的な効果といたしまして、それに関する所有権はやはり全部このときはアメリカ軍に移った、そのアメリカ軍に移ったものがさらに韓国に移った、かようになっておると思うのでありまして、しいて言えば没収に近い、こう考えます。

○受田委員 すでに、この私有財産の尊重については、ヘーグの陸戦法規にも、没収ということは絶対にできない規定が書いてある。この没収が現に今あなたの御答弁のようにあるとするならば、そのような措置をされている例がほかにどこにありますか。

○中川政府委員 占領軍の権限といたしまして、陸戦法規に書いてありますことは、敵国の私有財産は、これを管理あるいは使用することはできるけれども、没収してはいけないという規定になっていることは御指摘の通りでございます。従いまして、純粋の占領軍当局の行為としては陸戦法規の範囲を逸脱する行為であると言わざるを得ないのであります。しかし、最終的に戦争の結末をつけました平和条約におきまして、日本はこの効力を承認しておるのでございます。従って、平和処理といたしましてこのような措置を承認したのでございます。同様の措置、いわゆる戦争中あるいは旧敵国の私有財産をいわば取ってしまうという措置は、このほかには、たとえば平和条約十四条における連合国にある日本の私有財産、こういうものもございます。あるいは、いわゆる中立国にある財産を国際赤十字に渡すという規定も平和条約にございます。なお、イタリア平和条約におきましても、ある場合におきましては旧イタリア領域にありました私有財産を取ってしまう措置をきめておるのでございます。なお、ドイツにおきましても、今次戦争の結果といたしまして、ドイツの在外財産というものは連合国がどのような処分をしてもドイツは文句を言わないという協定ができておるのでございます。従って、今次戦争の結果といたしましては、一九〇七年にできましたヘーグの陸戦法規できめましたようなこと、あるいは十九世紀に発達いたしました国際法において原則として言われておりました私有財産の尊重というようなことが、実は第一次大戦、第二次大戦の結果として相当破れてきておるというのは、客観的な事実として認めざるを得ないのでございます。

○受田委員 はなはだ消極的な外務省の態度であります。今あなたは平和条約であっさりあきらめたような御答弁でありますが、昭和三十二年の末米国務省の覚書が出て、没収されたものを韓国に移転したことを日本が初めて了承したのではないですか。それまでは四条の(a)項中心の立場で日本国政府としてはその請求権を留保しておったのじゃないですか。もう平和条約であっさりあきらめたとおっしゃるが、米国務省の覚書で初めてあきらめられたのじゃないですか。

○中川政府委員 平和条約の解釈といたしまして、アメリカのとっております解釈、あの解釈がやはり正当な解釈であるということを日本政府は認めたのでありまして、従って、それをはっきり表に出しましたのは三十二年の暮れでございますが、しかし、日本政府としての解釈は、要するに、平和条約によって陸戦法規の措置を越えたような措置をも認めたんだ、こういう解釈を正式にとっておるのでございます。従って、これは平和条約そのものから出ることである。実はかように考えております。

○受田委員 あなたの御答弁で、遡及して平和条約の四条(b)項による処分として認めたというような形になるようですが、三十二年の末のあの覚書が出るまで、日本国の政府としてはどういう態度だったのですか。ここは大事なことですから、一つ確認をしておきたい。

○中川政府委員 三十二年に覚書が出たわけでございますが、その覚書の実体となりますものは、それよりさらに四、五年前にすでに日本・韓国両方の政府に提示されていたのでございます。日本政府は、第三次日韓会談だったと思いますが、一九五三年の暮れだったと思いますが、そのときまでは、韓国に対して、平和条約といえども陸戦法規に違反したことは認める趣旨ではないと日本は解釈するということで、交渉上そういう態度をとったのでございますが、一九五三年当時以後は、日韓会談は中絶したのでありまして、その後、日本政府はどういう態度をとっておるか、どういう解釈をとっておるかということを先方に言う機会も実はなかったのでありまして、その間いろいろ検討いたしました結果、日韓会談の当初言っておりましたような解釈はやはりすなおな解釈ではないという結論に達しまして、従って、平和条約第四条(b)項の解釈といたしましては、やはりそれは陸戦法規を越えた措置をも日本は平和条約で認めたんだ、はっきりそういう解釈をとっておるわけであります。

○受田委員 外務大臣、この事件はあなたの前任になる藤山さんが外務大臣の当時だと思うのです、日本国政府としてはあまりにも軟弱なやり方であったと思うのです。少なくとも当初の主張を引っ込めて米国務省の覚書を容認したということは、これは陸戦法規違反をアメリカがやっていることをそのまま認めた形になるのです。小坂外務大臣もこの韓国における日本の私有財産の没収は明らかに陸戦法規違反であると断定できるかどうか、外務大臣から御答弁願います。

○小坂国務大臣 今条約局長が申し上げましたように、一九〇七年にできましたヘーグの陸戦法規、これを越えるような規定、たとえば十四条の規定あるいは十六条の規定というようなものが、第四条(b)項以外にも平和条約の中にできているわけでございます。従いまして、彼此いろいろ勘案いたしまして、日本政府としては昭和三十二年十二月三十一日の米国務省覚書について了承したという事実は、私もその通りに考えていきたいと思っております。

○受田委員 私がお尋ねしておることは、陸戦法規違反であると外務大臣は断定するかどうか、アメリカの国務省覚書というものはどうか、そのことです。

○小坂国務大臣 陸戦法規を越える規定であるというふうに考えております。

○受田委員 越える規定とは、違反であるということになるのかどうか。

○小坂国務大臣 その後における国際間の情勢、あるいは戦争の状況、あるいは占領の状況、いろいろなものが変わりまして、一九〇七年当時規定されたもの、それを越える解釈というものが国際間でできてきた、かように思わざるを得ないと思っております。

○受田委員 越える解釈ということは、結局違反をしているということになるわけですね。

○中川政府委員 一九〇七年に陸戦法規ができました当時は、要するに、戦争というものは非常に短期間に片づき、ことに、戦後処理というものは、どんなに長くても一年半か二年すれば片づいた時代でございます。従いまして、占領というものもきわめて短期間に行なわれる事態であったのであります。ところが、第一次戦争、第二次戦争の跡始末になりますと、非常に長期にわたって戦後処理がかかるのでありまして、このような長期にわたる戦後処理がある時代においては、なかなか五十年前にきめました規則によっては律し得ないような事態がどうしても出てくるのであります。従って、軍令三十三号というものも、その趣旨は、要するに、韓国というものを独立させ、日本から切り離して新しく発足させるためにやむを得ない措置、必要な措置をとにかくとったということでございまして、なかなか五十年前の陸戦法規では律し得ないような事態があることは、これは客観的に認めざるを得ないのであります。従いまして、単純に陸戦法規違反というふうにきめつけることも必ずしも適当でない、むしろ越えるというのが適当ではないか。そのもとになる事態がだいぶ変ってきておるのでありまして、変った事態を律するために、昔の短期間の占領があったのみの十九世紀末ごろの要する国際法の観念をもってこれにそのまま当てはめるということは、必ずしも適当ではないのではないかということも考えられるのであります。違反と言わずに越えるという表現を用いるのは、そういう趣旨でございます。

○受田委員 その越える場合も国際司法裁判所に提訴することができるかどうか、お尋ねいたします。

○中川政府委員 これは、結局、サンフランシスコ平和条約四条(b)の解釈として、日本がたとえばアメリカのとります解釈と違う解釈をとったという場合に、日本はこの平和条約の規定に基づきまして国際司法裁判所に提訴できるわけであります。

○受田委員 提訴できるというのですね。そうしますと、法的には提訴可能な事項である、こういうことであります。
 そこで、この問題で今日現実の問題として並べられるのは、台湾、中華民国と日本との平和条約です。これには、双方の請求権というものは両国の合意によってこれが処理されるという形にになっている規定があると思います。台湾の場合と韓国の場合とが違うことになるのです。これは公平の原則に反しませんか、同じ日本の植民地で。

○中川政府委員 まさしく、台湾の場合と韓国の場合とは、そこにある日本財産の処置について平和条約の規定するところは違うわけでございます。しかし、これは、台湾というのは、日本の領土の一部が中華民国の一部にいわば譲渡されるという事態でございまして、領土を一国からほかの国に移すという場合に当たるわけであります。これに反しまして、韓国の場合は、日本の領土の一部が独立して一つの国家になる、国家そのものになるわけであります。従って、領土の一部がほかの国に譲渡されるという場合には、そこの私有財産を尊重するということは、これは当然国際法上大体確立された原則でございます。しかしながら、一国の中から一国の一部が独立して完全な独立国になるという場合、これはどうなるかという、ことにそれが戦後措置として行なわれるという場合でございますので、必ずしも、これは、台湾の場合と違う取りきめをしたということがいわば権衡を失する――それは、そこに私有財産を持っておられる個人にとっては非常な違いでございましょう。しかしながら、全体の大きな戦後処理という見地から申しますれば、必ずしもこれが同じでないからおかしいということも言えないのではないかと思います。もちろん、日本として決して朝鮮半島における日本の財産が没収されることを喜ぶ理由は一つもないのでありまして、これはぜひそういうことはやめたいわけでございますが、平和条約で認めたという基礎に立ちますと、これはやはり違う措置であったということを認めざるを得ない、かように考えるのでございまして、これはほかの戦敗国の場合にもやはり同じような問題もあるのでございます。ドイツからオーストリアが独立したというような場合には、やはりそこにおける私有財産というものは必ずしもその他の地域とは同じ取り扱いを受けていないということであったと思います。

○受田委員 あなたが今御答弁されたことに関連するのですが、アジアの国国、新興国家、英国の植民地であったりフランスの植民地であったりした、あるいはアフリカの英、仏等の植民地であった国がそれぞれ独立したのです。植民地が独立している。その植民地が独立した際に、やはり今あなたが唱えられたような方法で財産というものが移譲されているかどうか、あるいは、無償援助というような形、無償供与というような形がされているのかどかう、御答弁を願います。

○中川政府委員 戦後に、たとえば従来イギリスの植民地であったところが相当たくさん独立いたしまして、これらはしかしいずれも平和裏に独立したのでありまして、従って、私有財産というものは尊重されていると思います。私有財産が尊重されていない例といたしましては、インドネシアの場合でございまして、これは、オランダと結局長い戦争をやりました結果独立した、しかも、その際の円卓会議というものが、結局、一時はできましたけれども、実施されないままにまたオランダとインドネシアは断交する、こういうような事態になりまして、結局、その後インドネシアが布告を出しまして、オランダの私有財産を要するに没収措置をとったのでありまして、これは例外でございます。しかしながら、そういういろいろなやり方があるということは、この例で一応わかるのではないかと思います。

○受田委員 そのいろいろなやり方を具体的に各国別に一つ資料として出していただきたい。他国はどういうふうにされているかということ。日韓会談に臨まれるにあたって、類似の国々の状況もよく伺っておかないと、政府に野放図におまかせするわけにいかない。国民関心の日韓会談でありますので、植民地が独立国になった場合における私有財産の取り扱い及び無償供与等の措置がどうされているかを具体的にお示しを願いたいと思います。
 なお、マッカーサー司令官は占領直後に布告を発しまして、すべての陸戦法規その他の約束を厳守しなければならないという宣言がされているのです。そういう宣言をされた親方自身がそういう違反をするというようなこと、それがおかしいのであって、国際司法裁判所に十分提訴して、日本国の従来の主張の立場から、第四条の(a)項に基づく立場から当然これは提訴すべき性質のものじゃないか。なぜ当時提訴しなかったのか、このことを今あらためて外務大臣にお伺いしておきます。あなたの政治的責任ですから。

○中川政府委員 従来の経緯の関連で私から一応御答弁申し上げますが、もし日本政府当局がほんとうにこの四条(b)項の解釈について陸戦法規以内のことしかここできめていないのだということを考えて、それがあくまでもどこへ出しても十分根拠のある主張であるという立場をとっておりますとすれば、まさしく、受田委員の言われる通り、これは国際司法裁判所まで出してでもアメリカと争うべき問題であるわけでありますけれども、しかし、これは交渉技術上そういう主張をいたしましたけれども、翻って考えてみますと、それが、この第一次戦争、第二次戦争の結果といたしましての戦後の処理の私有財産のあり方というようなものから見まして、そういう解釈はどうも少し無理じゃないかという考えがどうしてもするのでありまして、そういう見地から、むしろ日本の自発的な考え方としてこのアメリカ式の考え方を採用したのであります。従って、日本もそういう解釈でありますので、これを国際司法裁判所に持ち出して争うという必要はないわけでございまして、むしろ、この解釈によりまして韓国との間に一日も早く公正妥当な財産権の処理をしたいうこうい考えでおったわけでございます。

○受田委員 韓国にある日本の私有財産の総額は終戦当時及び現在における価格によってそれぞれどの程度のものがあるのかを御答弁を願います。

○伊關政府委員 全朝鮮半島を通じます私有財産につきましては、引き揚げてきました人たちの報告に基づいて大蔵省の管財局で調べたものがございますが、これは今のところ発表しないということになっております。

○受田委員 終戦直後に大蔵省がそういう調査をやって一応発表された数字があるはずです。在外財産全体の場合を例にとって私はお聞きしましょう。それは韓国のみでなくて幾らくらいになっておりますか。――では質問の終わりにでも一つ御答弁願うことにいたしましょう。その額によってもまた今度会談に対する問題があるわけです。私は、今度の政治会談で物事を円満に解決しようという向こうの気持もあるようでございますので、日本側としても主張すべきことは当然強力に主張して、少なくとも日本の個人あるいは法人が持った私有財産の尊厳というものを傷つけぬような形でこの問題を考えでいってもらいたい。特に、アメリカの国務省の覚書などというものは、こちらの要求するものと向こうの要求するものと何とかして相殺させようというお気持があったと思うのですが、大臣、あれは、向こうが日本へ賠償を要求することをやめさせ、こちらは私有財産権を放棄するということで片づけさせたいという政治的配慮でそれを日本が了承した、かように考えてよろしゅうございますか。

○中川政府委員 昭和三十二年暮れの、要するにあのときの日本の考え方でございますが、これはアメリカ解釈を基礎として日韓間でこれによって財産の請求権の処理をしようということを合意したわけであります。そのアメリカ解釈の中に、日本財産は軍令ですっかりなくなった、しかし、そのなくなったという事実は今後の日韓請求権の処理に関連がある、どの程度関連があるかということは日韓間で相互にいろいろ資料を持ち寄ってきめるべきである、こういうことが基礎になっているわけであります。従いまして、関連があることは事実であります。しかし、それをどの程度しんしゃくするか、あるいは考慮に入れるかということは、今後日韓間の話し合いで結局公正妥当なところをきめる、こういうことになるわけでございます。

○受田委員 そうすると、外務大臣、向こうは日本に賠償要求をしようとした、それを押えるために私有財産権の放棄をさせたというアメリカの配慮、そこには相殺的な思想が動いている、そういうあっせんの労をとった、それに日本は乗っかったのだ、かように了解していい、こう考えてよろしゅうございますか。これは重大な問題ですから外務大臣から答弁を願います。

○小坂国務大臣 どうも私はそのままにもとれないところがあると思います。今条約局長が申しましたように、そうした事実はこの問題を解決するにあたって関連があるということを考慮する、こういうことでございます。私は非常に微妙な問題だからことさらに答弁を差し控えているのでありますが、十分私どもの主張すべきことは主張するつもりで考えております。ただ、この場でいろいろ申し上げることがいいかどうか、これは済んでから十分に申し上げさせていただきたいと考えております。

○受田委員 会談に臨む前に一応日本側の意思というものをはっきりしておいていいと思うのです。そうして、そのはっきりした線の中から交渉の幅というものが生まれてくるのであって、何もかもみなあなたまかせのような形になっても困るわけで、一応、日本側の主張、国民の要望、こういうものを十分に頭にとどめおいてから交渉しなければならぬと思うのです。
 そこで、問題は、ここに官房副長官がおられるから、あなたは総理大臣にかわって答弁してもらいたい。外務大臣は今私有財産権の放棄を宣言されている。ところが、韓国と同じ立場にある植民地の台湾については、双方の国の政府で合議でこの処理をするという条約を結ばれているのです。こういう段階で、在外財産の補償というものが日韓会談における私有財産権の放棄という形で全然見通しがつかぬということになれば、これはやはり国の責任で何らかの措置をとるべきである。引揚者給付金支給法などというそういうこそく手段ではなくて、本質的に、在外財産の補償は会談の結果だめである場合には国内で補償する、こういう形のものになるのかならぬのか、原則論をあなたから総理大臣にかわって御答弁していただきたい。

○服部政府委員 受田委員にお答えいたします。
 在韓日本財産は、在韓米軍政府の帰属命令によって米軍政府がみずからの所属に帰せしめ、その後米韓協定によりこれを韓国に移譲したのでありますが、わが国は、平和条約第四条(b)項の規定により、在韓米軍政府の在韓日本財産に対するこの処分については異議を申し立てないことになっているのでございます。在韓日本財産が在韓米軍政府に帰属し韓国に移譲されたことによって生ずる財産喪失の損害は、前述のようにあくまで米国政府の措置に基因するものであって、日本政府の処分によるものではないので、政府としては損失補償の責めに任ずるものではないと考えているのでございます。しかしながら、現実には、多数の在外同胞が生活の本拠とする外地からほとんど無一物で引き揚げてこられた気の毒な実情にかんがみ、先ほどお話がございましたが、まず引揚者給付金の支給その他の援助措置を講じて参った次第でございます。
 そこで、在韓日本財産を放棄した場合という仮定の質問でございますが、御承知の通りに、今交渉中でございまして、私といたしましては、そういうまだ答えも出ておりませんものについて十分答えられないのでございます。

○受田委員 そうしますと、今副長官の御答弁によると、まだ私有財産の件は放棄してない、こういうお話のようでございます。そういう仮定のものは答えられないと言うのですが、これはどういうことです。国務大臣から一つ……。

○小坂国務大臣 経緯は、御承知のように、軍令三十三号によって日本人の在韓の財産は米軍に没収されたわけであります。その後米韓協定によってこれが韓国の米軍に引き継がれた。そこで、日本は、平和条約によって第四条(b)項で米軍の処理の効力を承認したわけです。そこで問題は一段落しているわけでございます。すなわち、副長官が言われましたように、日本財産の処理の効力というものは、これはアメリカによってなされたものでございまして、日本政府の行為によっておるものではないのでございます。日本は戦争に負けました結果平和条約を承認した。その平和条約の中における規定によって、在韓財産というものは、米軍の処理の効力を承認して放棄しているわけでございます。

○受田委員 これは大へん私は残念なことなんです。これではアメリカという国は勝手にアメリカのやり方で日本国民に損害を与えておることになるんですね。日本政府は承知していないということです。あの三十二年末の覚書を日本政府が拒否すれば、それはもっとはっきりしたものが出たはずなんです。結局アメリカの立場に屈従させられた結果、今のあなたの言うようにアメリカに責任を負わしておられる。また、今度、ガリオア・エロアあるいはタイ特別円に対する多くの負担を引き受けようとしておる。こういうようなことは、どうも日本政府が自主性を失っておると思うし、また、韓国で長期にわたって蓄積したその勤労の結晶を簡単に処分されるようなそういうアメリカの命令に日本政府は従っておいて、タイ国やアメリカのガリオアというようなこういう問題に金を出すことばかりに真剣になっておられるということにも私は問題があると思う。もっと日本の自主性を尊重して、同時に、韓国で苦労された人々に対するはっきりした私有財産擁護という、憲法にも国際法にもはっきりしてあるこの原則を会談の途中において十分主張しなければならぬと思うのです。大臣、どうですか。

○小坂国務大臣 その問題については、やはり日本が戦争に負けたということを考えてみなければならぬと思います。われわれは男らしく負けようということで平和条約に調印いたしまして、その中には、御承知のように、第十四条におきましての規定もございますし、策十六条においては、これは中立国に対する財産ですね、これも同様な苦心の結晶でございますが、その中立国における財産も放棄しておるわけでございます。第十九条の規定も、御承知のように、日本が負けた結果、占領軍費も負担するという規定にもなっておるわけであります。すべてこれは敗戦の結果生じたものと考えざるを得ないのであります。しかし、今おあげになりましたガリオア、これは別でございます。ガリオアは、累次御説明申し上げておりますように、幸いに御質問がございましたから申し上げるのでございますけれども、あれは、アメリカの方から来た物資について、それに見合うものを日本に積んでおいたわけです。この金額が二千九百十九億円あります。簡単に申し上げますが、それをいろいろ利殖をいたしまして、日本の国内で七分七厘くらいで政府の財産が動いておるわけです。これが、昭和二十四年に見返資金を作りましてから今日までの間に四千億になっておると言われております。その中から二千八十五億円返すというので、これは、もともともらったものがあって、そのうちの一部を、アメリカ側では約二十億くれたと言っているのですが、その四分の一を返す、こういうことでございまして、もらったものの中から一部を返すということでありますので、これは事柄が違います。しかし、お話の気持については私も十分わかっておりますから、それは交渉の過程において十分主張いたします。
 なお、タイの問題は、これも触れられましたから申し上げますると、これは、日本とタイの間に同盟条約がございまして、昭和十六年同盟条約ができた。そこで、十七年に特別円の協定を結んだ。その勘定じりが十五億円日銀の残高の帳簿にあるわけであります。それで、この特別円の協定には金約款がついておった。ところが、その金約款のうち一部は適用しないということがあって、全額金約款というふうには読み切れない。しかし、二十年になりましてこれをタイ側が廃棄してきたわけです。そこで、十五億円をいかに計算するかということで計算しまして、この五十四億円と九十六億円、合わせて百五十億円というものをいかにして処理するかという協定が三十年にできた。ところが、それが動きませんから、今回それを動くようにしようというのが私どもの考え方でございまして、御質問がございましたから申し上げる次第でございますが、ちょっとそれは事情が違うわけでございます。

○受田委員 私はガリオア・エロア、タイ特別円の質問をしたのでないのです。そのことははっきり間違えないようにしてもらいたい。
 そこで、私がお尋ねしているのは、そうした日本政府の軟弱性を暴露したのが、今度の米国務省覚書の暗黙の容認だということになってきたと私は思うし、また、今度韓国が無償供与、無償援助ということを要求してきておるわけです。こういうものに対しても、日本国政府ははっきりしたものを持って会談に臨まれないと、これは日本国民がまた大きな損害を受けることになるわけなので、筋を通した日本国の自主性を十分立てて、また、アメリカの道義的責任も追及していく。アメリカが勝手にああいう覚書などを出して日本に押しつけたということに対する道義的な責任が十分にあるのですから、これは、大臣、アメリカの道義的責任というものが十分あるのだということをお考えになりましょうね。ちょっと答えていただきたい。

○小坂国務大臣 私も、いろいろなことを考えまして、ただぼんやりと会談に臨む気はさらにないのでございます。ただ、今申し上げにくいので、これができましたときには、なるほど小坂はそこまで考えてくれたか、こう言っていただけるようなものにしたいと思います。

○受田委員 きょうは、会談に臨む前に大臣の心得をかためておく必要があったので、あなたに注意を申し上げておいたのであります。
 これで一応質問は終わります。

○北澤委員長代理 本日はこれにて散会いたします。
   午後三時十七分散会

 第040回国会 参議院予算委員会 第17号 昭和三十七年三月二十二日(木曜日)午前十時二十分開会

【発言順】
 委員   田畑 金光
 外務大臣 小坂善太郎
 委員   亀田 得治

 午後一時五十分開会
○委員長(湯澤三千男君) これより予算委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き質疑を行ないます。田畑金光君。

○田畑金光君 私は三十七年度の予算に関連して、政府に主として日韓交渉の問題と沖縄の新政策の展開に関連して、二、三の質問を行ないたいと思います。
 まず最初に日韓問題についてお尋ねいたします。
 三月十二日から五回にわたりました小坂外相、崔外務部長官の政治会談は簡単な声明を発表して、三月の十七日終了しております。共同声明によりますと、両外相の間で次期会談をなるべくすみやかに開くことの意見の一致を見て、同会談の具体的事項については後日協議の上発表する、こういう声明内容になっております。日韓会談の杉首席代表が二十日の日に新聞記者と会見いたしまして、もし韓国が要求するように、ソウルで会談を開くとするならば、時期は五月の上旬になるだろう、こういうことも言われておるわけでございます。ところが、昨日から本日の新聞を拝見いたしますと、韓国においては尹大統領が政治活動浄化法という法律に対し、これを不満とし、こういう法律は民主主義の建前に反する、政治家の良心として自分は認めるわけに参らない、こういう経過を経て、尹大統領が辞任の申し入れをば最高会議長になされたと、こう伝わっておるわけでございます。その後、おひるの報道によりますると、尹大統領の辞任は認められて、韓国においては正式に尹大統領の辞任という新たな事態が発生したことを伝えておるわけでございます。
 政府は、そうして総理並びに小坂外相は昨年五月のクーデターで成立した朴政権は一体合法政権であるのか、あるいは非合法政権であるのか、こういう国会における追及に対して、朴政権は合法政権である。それはなぜか、尹大統領が張勉時代に憲法によって選ばれた大統領であり、憲法に基づく唯一の国家機関として大統領が正規の手続と民主主義の原則によって選ばれた大統領である。したがって大統領が存続する限り張勉政権を朴政権は継続しておるのだ。政権の継続性は認められるのだ、合法政権である、こういう建前を取って今日まできておられまするが、唯一の合法政権である根拠である大統領が辞任をしたということになって参りますと、これは新らたな事態の発生だと言わなければなりません。朴政権の合法性というものは完全にすっとんだということになろうと考えております。この新しい事態に対処されて、政府は、今後の韓国に対する方針等について、当然再検討なさるべきだと考えておりまするが、政府の方針を承りたい。同時に、韓国大統領の辞任の理由と、そしてまた今後の見通しについて承りたい。

○国務大臣(小坂善太郎君) ユン・ポソン大統領が辞表を提出し、韓国の国家再建最高会議がこれを受託したという話は私どもも新聞情報によって知っております。しかし詳細についてはまだ正確にこういう公式の場でお答えするようなものをキャッチいたしておりませんわけでございますけれども、まあ、そのとおりであろうかと思います。そこで今田畑さんお話しのように、韓国の昨年の革命によってできました政府がどういう性格の政府であるかということにつきましては、この場でお答えいたしましたように、大統領の問題もございまするし、また明年の夏、民主政権に移行する、こういうことを公約いたしておりまするので、前の内閣との継続性、また今後できると予想される政権への継続性、そういうものから見まして、過渡的な性格を持つものであるけれども、これは合法的な政府である、かように申し上げておったわけであります。そこでユン・ポソン大統領が辞職した、こういうことになりますと、その間の連絡がとだえるではないか、法的に見てですね。そういう問題があるわけでございまするが、私どもの今朝来研究いたしたところによりますると、国家再建非常措置法という法律によって韓国は現在憲法規定を大幅に上回わる権限をもって運営されているわけでございまするが、この十一条に大統領が事故ある場合は国家再建最高会議長、また議長が事故ある場合は副議長、副議長が事故ある場合は総理大臣というものが、これが代行をなし得る、こういう規定がございまするので、大統領の辞任の場合、あとをどういうような形で継続されるか知りませんけれども、その継続する形が現在ございまする法律によってその法律の中において行なわれるものであるならば、これはやはり継続する、かような見方ができる、こういうふうな見解を持っておる次第でございます。例としてパキスタンでクーデターがございまして、その後に、そのときの大統領がしばらくいたしまして、その後に現在のアユーブ・カーン大統領がこれにかわっておる。しかし、パキスタンの政権というものは継続しておるということで、新たなる承認の問題、その他は起こっておりません。その時代の例がございますわけでございまして、さような解釈がなし得る、かように思っておりますが、詳報をさらに取り寄せてみませんと、この段階において、これが最終の解釈であるということはいかがかと思いますけれども、一応私どもはさように考えております。

○田畑金光君 御答弁を承りますと、パキスタンの例をいつもあげておられまするが、異常な措置、非常な措置がある特定の国に起きたことを直ちに全体の問題として引例されるところに私は問題があろうかと思うわけです。
 まず、お伺いいたしたいのは、尹大統領の辞任の問題については、すでに昨日から新聞に報道され、政府部内においても、今朝来、この問題については討議に討議を重ねておられることはわれわれが承知しておるわけでございます。すでに昼のニュースにおいて正式に辞任が認められ、辞任がきまったということになれば、政府においても十分この辺の事情は明らかにされておるはずでございます。私はまだ十分情勢を把握されていないから、こういうようなことで、この国会において報告をなされ、実情を伝えられることをやめられていることは非民主的であろうと考えておるわけです。私はこの際、どういう事情によって、どういう経過をたどって、このようなことになったかということを明らかにしていただきたい。

○国務大臣(小坂善太郎君) 私は国会におきまして、私の知っておる限りを御報告申し上げるということが適当だろうと考えまして、今のようなことを申し上げたわけでございます。しかしながら、公式な確認される情報に基づきまして最終的なことを申し上げるのが、これまた私の立場から必要であろう、こう思いまして、今のような詳細な御答弁を申し上げた次第でございます。
 大統領ユン・ポソン氏の辞職というものが、その動機が那辺にあったかということは、これまた新聞の伝える報道によるのでございまして、何ゆえかといいますと、私どものほうでは、韓国の代表部というものが東京にございますが、わが国の代表部は韓国にないわけでございます。したがって、東京の代表部に問い合わせて確認をするという形をとりまするので、新聞の情報その他よりこれはどうしてもおそくならざるを得ないのでありまして、その点はひとつ御了承いただけるものと思います。
 そこで、これも情報、新聞等の伝えるところによりますると、政治活動浄化法というものに不安を持ったといったと伝えられております。私もその程度しかここで申し上げられる確認を持ち合わせていないわけであります。

○田畑金光君 大臣の先ほどの御答弁こよりますると、政権の継続性については、国家再建非常措置法の十一条によって継続するものと考える、新たな解釈態度を政府は明らかにされたわけでございますが、しかし今まで衆参両院の関係委員会における質問に対し、朴政権が合法政権と認めるのか、認めないのか、その唯一の根拠というものは、先ほど申し上げたように、尹大統領が張勉時代からの大統領であり、それが今日国家最高の機関の地位にあるということは、張勉政権を朴政権が受けついでおるということになり、政権の継続性ということを意味することになるのだ、こういう唯一の政権継続性の原因にあげられておりまするが、そういたしますと、政府が今日まで合法政権として指摘された事情というものが変わってきたことになるならば、今までの政府の主張は大きく崩れたことになろうと考えますが、これはお認めになるのか、ならぬのか。

○国務大臣(小坂善太郎君) 昨年の革命が起きましたその時点におきまして、次にできた政権が継続性があるかどうか、こういう問題になりますると、そのときにおりました大統領がその時点以後また引き続いて大統領であったということが継続性の一つの根拠になると思います。そこで、その大統領のもとにおいて、国家再建非常措置法というものができまして、そうしてこれが運営されておって今日に至っておる。そこで、その法律に基づいて、今度はその大統領から国家再建最高会議の議長にこの地位が移譲されるということになりますれば、そこにやはり法的な継続性があろう、こう見るのが一般的な解釈ではなかろうか、かように思っておるわけであります。

○田畑金光君 国家再建非常措置法をあげておられますが、この法律はどういう立法手続で成立した法律であるのか、この法律は国民の意思に基づいて成立した法律であるのかどうか、国民の意思とこの法律とはどういうつながりをもって生まれてきた法律であるのか、これを明らかにしていただきたい。

○国務大臣(小坂善太郎君) 国家再建非常措置法は、クーデターに伴って非常事態下の軍事政権の最高統治機関となった国家再建最高会議が、みずからの性格、組織、権限などを規定したものでございます。この非常措置法は、憲法との関係において、憲法の規定中、その非常措置法に抵触する規定はこの非常措置法によるという規定がございまして、憲法の規定を上回る権限を付与されておるわけでございます。しかし、非常措置法の各条項より判断いたしましても、憲法の諸規定中停止されている事項のおもなものは、国会の機能、国家による政党の保護、大統領による内閣首班の指名、大法院長、大法官の選挙、憲法裁判所、地方自治団体の長の選挙、地方議会、憲法の改正に関する事項などでございますが、その他非常措置法には憲法で規定されている国民の権限に対し、国家最高会議が指示、統制を行なうようにし、また、憲法上国民で決定することになっていた項目中のおもなものを国家再建最高会議の議決にゆだねる、かようなことにいたしておるわけでございます。

○田畑金光君 今、大臣がお認めになったように、国家再建非常措置法という法律は、朴政権がクーデターにより国家権力を握って以来、直ちに独裁政権が権力を維持する統治機構として、あるいは統治の最高法規としてみずから作った法律であって、お認めになったように、その法律は国民の意思とは何ら関係はないわけです。国会の解散をやり、国会の機能を停止し、その他すべてが独裁政権として権力を維持する内容に満たされておるわけで、それ自体としては何ら国民の意思とつながっていないわけです。それに基づいて、その法律があるからその法律の十一条によって、大統領に事故あるときは最高会議の議長が、あるいは副議長が、あるいは首班が――内閣総理大臣が大統領にかわって権限を行使するのだといわれておりますが、その法律自体が民主主義の原則に基づいて国民の意思によって議会において制定された法律でないというならば、これをもとにして合法政権である、民衆の意思に基づくものであるなどといわれるということは、まことにこれは独断の解釈のそしりを免れない、こう考えますがどうでしょうか。

○国務大臣(小坂善太郎君) 現在のいわゆる朴政権、これが民主的な政権であるということは私言っておりませんわけでございます。ただ韓国の国内法に基づきまして合法的なものである、韓国において認められ諸外国もさように考えておる、かような意味において合法政権である、そう言っているのであります。しかもそれが暫定的な性格を持っておる、かように理解しておるということを申し上げておるわけであります。すべての国の政権が、今日の世界において、すべて民衆の直接の選挙による意思表示によって成立している、ということは必ずしも言えぬ場合も幾つかあることは御承知のとおりでございますが、一応他国のことでございまするので、その政権の内容についてとかく言うことは、内政干渉にわたるものでございますからお互いに差し控える。その国によってそれが合法的な政権であるというふうに認められ、法的な根拠があればさように認識しておる、というのが国際法の通例であるわけでございます。

○亀田得治君 ちょっと関連。一点簡単にお伺いいたします。この韓国政府が国際的にも認められておる、というふうに政府が解釈しておる根本の出発点は、一九四八年の例の国連決議にあるはずです。私はこの根本が一番問題ではないかと考えるのです。この国連決議が指摘しておる点は、韓国政府は選挙民の自由意思の有効な表現だということを一応認めて、その根拠の上に立っておるわけなのです。従来政府もこの点を韓国政府の性格としてやはり基本的に強調してきているわけなのです。そして勇大統領はその自由選挙による大統領、その国の一番トップの人が、ほかはいろいろ問題はあるが、ともかくトップのポストというものがこの国連決議の趣旨につながっているのだ、こういう点を強調していたはずであります。ところがその点は今度の事変によりまして飛んでしまうわけなんですね。飛んでしまうわけなのです。尹大統領がおる間に作った法律、その法律によって継続性を外務大臣は今説明されるわけですけれども、それよりももっと根本の点がふっ飛んでしまっておるわけですね。韓国政府が認められた根拠、これ自体が国連決議に合わない。パキスタンとよく比較をされますが、これは問題の次元が多少違うのじゃないかと思うのです。韓国政府はともかく北鮮との関係なりいろいろ問題がありまして、そうしてともかくこういうものが国際間において、はたして認められるかどうか、これはやはりパキスタンとは違った問題を抱えておる。それだけに国連決議でそれが認められるということは、それは大事なことであり、したがって、それを認めた根拠が大事なのです。ところが、その根拠にまさしく矛盾するような事態があるわけですから、この非常措置法の十一条云々といったような問題じゃなしに、根本のところはどうか、尹大統領がやめたあとの韓国政府というものは一体国連決議に沿うものであるかどうか、これ自体はどういうふうに外務大臣としては御判断になるか。

○国務大臣(小坂善太郎君) 一九四八年の国連決議がございまして、そしてその後に昨年のクーデターがあった、この事態をどう見るか、こういうことは非常に大きな問題でありますことは御指摘のとおりでございます。そこでこれについては、まあ前の政権と継続しておるという点、これは当時大統領が同一人である、こういう点が一つあげられるわけでございます。それから後において、明年民主的な選挙を行なって民主的な政権を作るという公約をしておる。そこでそれに至る間の暫定的な性格を持つ合法政権、こういうことで国連においても従来と同じ扱いを十六回の国連総会でいたしたわけでございます。そして新たなる事態はユン・ポソン大統領がいなくなった、これをどう見るか。こういうことなのでございまするが、私は先ほど御説明したように、ユン・ポソンはいなくなったし、しかしユン・ポソンの治下においてきめた法律によって、その手続によって次のかわる人が選任されるならば、これはやはりそのユン・ポソン大統統治下のものとの継続性が、次にできるものとの間にはあるということで、以前との継続性は言えると思うのでございます。しかも明年民主的な選挙を行なって新たなる民主的な文民政権を作る、こういう公約が消えていない限りにおいては、やはりその間の継続性は将来にわたって継続するものである、かように解するのがよろしいのではないか、よろしいと、かように思っておるわけであります。

○亀田得治君 ちょっと説明が納得いかないわけですが、私がお聞きしましたのは、少なくとも従来の韓国政府においては、問題はありましてもトップの大統領が選挙によったものだが、この点が明確であったわけなんです。それがないわけですね。したがいまして、現在の韓国政府では、韓国民の選挙によってこの政権を所持している人は一人もなくなるわけなのです。まあ、非常措置法の十一条によって代理をするとかせぬとか、そんな多少理屈っぽいことは抜きにしましょう。端的にみて選挙によって今の韓国政府を構成している者は一人もいない。そういうものがはたして一九四八年の国連決議の趣旨に沿うものかどうか、これは私は沿うとは言えぬと思う。なるほど来年は民政に移管するという声明はありますが、これは将来のことでありまして、その時になってみなければわからないわけなのです、今日の事態にしたって、おそらくこれは日本政府として予想もしなかったでしょう。どんな事態が起きてそんなことができなくなるかわからない。だからやはり今日まで、一応韓国政府を認める立場に立つ人の立場に立っても、何も来年のことがそれほど重要性を持つわけじゃないのでありまして、やはり勇大統領があったということが一番大きな要素であり、国連決議と何とかマッチしていける要素であったと思う。その点を聞いているわけなのです。一人も選挙によった者がないのに、これがはたして国連決議の趣旨に合う政府であるかどうか、これを端的にひとつ答えてほしい。

○国務大臣(小坂善太郎君) これはいろいろ私ども理屈を考えてみまして、御質問があったので今申し上げたわけでございますが、実は詳報もまだわかりませんわけでございますので、詳報があったのちにまたいろいろ研究をいたしまして考えたいと思います。

○田畑金光君 来年朴政権は民政に移管することを約束しておると言われておりますが、その保証があるのかないのか。どう政府はこれを判断しておられるのか承りたい。

○国務大臣(小坂善太郎君) そういう公約をしておるわけでございます。ですから公約をしておるからそうであろう、こういうことでございます。確証があるかと言われますと、お前さんのほうはそうするのかと聞いてみますと、そうしますとこうは言っているわけです。それ以上のことはちょっと私申し上げられません。

○田畑金光君 民政に移管する前提として、政治活動浄化法というものを作った、その政治活動浄化法というのが今回の尹大統領の辞任を促した最大の原因になっておるわけです。そういうことを考えたときに、来年夏以降の民政移管というものが、一体どういう政治の内容になっていくかということは、おのずからわかると思うのですが、この点どうでしょうか。

○国務大臣(小坂善太郎君) これもさように伝えられておるわけでございます。どうも政治活動浄化法という名において、政界で今まで活動した人が政界になかなか出てこれなくなるような内容というものが、尹大統領をしまして自分のみがいわゆる既成政治家であって、かかる地位にいるということはどうも耐えられないような気がするということであったというふうに、これは新聞報道でございますが、さように伝えられておるわけでございます。その内容等についても私どものほうはあまりまだよく承知しておりませんので、この時期でいろいろ申し上げることは差し控えさせていただきたいと思います。

○田畑金光君 質問に対して、内容について正確な詳報を把握していないから答弁を差し控える、こういうお話でございまするが、先ほど来お尋ね申し上げていますように、とにかく朴政権というのは、尹大統領が辞任することによって、国民とのつながりは全くなくなってきた、明らかにクーデター政権、独裁的な政権ということになってくるわけです。そうなってきますと、先ほど亀田委員からも質問がありましたように、一九四八年の国連決議に基づく韓国の合法政権というものは完全に失われてくるわけです、政府は今日まで国連の決議はかくかくであるのだ、尹大統領がその職にあるんだ、来年の夏には民政に移管する約束をしているんだと言われてきましたが、その前提が大きくくずれたとするならば、政府の今日までとってきた態度についても再検討が加えられるべきであると考えますが、その点はどうでしょうか。

○国務大臣(小坂善太郎君) いろいろな外国におきましていろいろなできごとがあるわけでございますが、新たにできた政権に対してどうこれに対処するか、どう事態を判断するかということは諸般の考慮からなされるべきでございまして、クーデターによって最近できました政権――他にもあるわけでございますが、そういう国に対する態度なども、それぞれの観点からきめられるべきでございまして、ただいまの正午のニュースによって、直ちにこの場で私が内閣を代表してどうこうというお答えを申し上げることはいかがかと思いますので、差し控えさせていただきたいと思います。

○田畑金光君 今の御答弁は、今後の事態がさらに正確に伝わり、正確な内容がわかってきた場合には、それに基づいて新たに検討を加え、政府の態度も新たな角度で検討する、こういう意味に解釈してよろしいですか。

○国務大臣(小坂善太郎君) 日本と韓国は非常に近い地理的な立場にもございますし、歴史的にもいろいろな関係がある、それでこれとの国交を正常化したいという気持は私ども持っておるわけでございます。しかしそれにつきましていろいろな御意見もあるし、また正常化するにはいろいろな条件もあるわけでございます。そういう点をよく勘案いたして、常に検討をいたしてこの問題に対処するということは、政府としては当然のことだと考えております。

○羽生三七君 ちょっと関連して。簡単に一点伺いますが、一九四八年の国連決議からみて、もし国連が今度の尹大統領の辞任に関連をして、何らかの新しい態度をとるようになった場合、従来の国連の考え方と異なった考え方がもし持たれるようになった場合、日本政府はどうなさいますか。

○国務大臣(小坂善太郎君) まあ国連の構成国としての日本の主張、これは当然国連の次定に反映する問題であろうと思います。そこでわれわれも、そういう問題が起きまする場合には、われわれの考え方もきめて、主張すべきものは主張しなければなりませんけれども、国連尊重の建前からいたしまして、国連における考え方がどうなるかということは、もちろん私ども至大の関心事でございまして、国連の決議に反して何かするということは、私の従来からの外交方針でも、そういう態度はとっておらないのでございます。今後のことにつきましては、これはいわゆる仮定の問題でございますから、そのときに申し上げたいと思います。

○田畑金光君 そうしますと、政府は今回の韓国における尹大統領の辞任をめぐって、いろいろ国連等においても新たな動きがあるかもしらぬが、そういう国連の動きを見ながら、同時にまた尹大統領辞任に伴う韓国の国内政治情勢の発展等を見ながら、その上に立って今後の日韓交渉の問題等については検討をして参りたい、こういうことに解してよろしいですか。

○国務大臣(小坂善太郎君) 国連において直ちにこの問題が取り上げられるかどうかということは、私はわからないと申し上げるよりほかはないと思います。現在急にそういう問題が起きるとも考えられないわけでございます。しかしいずれにしましても新たなるそうした事態をどう解釈すべきかということにつきしては、先ほど来申し上げた考え方を持っておりますけれども、しかし事態をもっと正確に把握した上でないと、断定的なことを申し上げるのは、いかがかと存じているわけでございます。

○田畑金光君 三月十七日の小坂外相、崔外務部長官との共同声明によれば、なるべくすみやかに次期会談を持つような約束になっておりますが、これはいつごろになる予定ですか。

○国務大臣(小坂善太郎君) この時期は全く今のところわかりません。

○田畑金光君 そうしますと、先ほど私が読み上げましたように、杉首席代表は去る二十日の新聞記者との会見で、ソウルで聞くということになれば時期は五月初めになるだろう、こういうことを言っておりますが、これは外務大臣との打ち合わせでも何でもないことですか。

○国務大臣(小坂善太郎君) 実は韓国側はこっちに来たのだから次はソウルでやってもらいたい、こういう御希望があったようでございましたけれども、私はこれは会談であるとは言い条、私が出てやる以上は外交渉でございますから、やはりそれぞれの時点において政府に請訓をしなければならぬとすると、代表部のないところで会談をするのは、私は困る、こういうふうに言っておりますわけでございまいます。従って韓国側に、私が会談をする場合には、代表部を韓国に置いてもらうということにおいて、初めて韓国で会談をするという条件ができるわけでございます。私はそれ以上のことは考えておりません。

○田畑金光君 政治会談においても一番両国の話し合いで困難にぶつかったのは請求権の問題であった、こう言われておりますが、どういう点で困難な内容が出てきたのか、どの点が両国の折衝の中で一番困難な問題として持ち越されておるのか、これを簡単に述べていただきたい。

○国務大臣(小坂善太郎君) 従来から事務的に折衝しておりました問題は、請求権の問題と李ライン――漁業の問題、それから在日朝鮮人の法的地位の問題。三つあったわけでございます。その三つともいろいろむずかしい問題がたくさんございまして、合意に至りません。そのほかにもございます。しかし、内容でございますから、これはしばらく御容赦賜わりたいと思います。

○田畑金光君 私は広くあらゆる問題に触れて質問する時間がございませんので、請求権の問題だけについてしぼってお尋ねしておるわけです。交渉の過程であるから答弁できないというお話でございますが、新聞の伝えるところによると、請求権の時期について、わが国は一九四五年の十二月六日と主張し、韓国は一九四五年八月九日というような主張がなされておる。これは事実ですかどうですか。

○国務大臣(小坂善太郎君) そういう主張もございますけれども、それが非常に大きな問題とも私には思われません。それはそういう主張もあることもあります。

○田畑金光君 さらにもう一つの点は、請求権の適用地域について、韓国側は南北両鮮を主張し、わが国は三十八度線以南を主張した、そうして非常な見解の相違があったと伝えられておりますが、この点はどうなっておりますか。

○国務大臣(小坂善太郎君) これも交渉の内容でございますから申し上げることを差し控えさしていただきたいのですが、私がここでしばしば申し上げておるように、現在の韓国の政府支配の及ぶ範囲が三十八度線から北に及んでいないということを頭に入れて交渉いたしておるわけでございます。

○田畑金光君 さらにもう一つ問題になっておる点は、例の昭和三十二年の十二月三十一日の日韓請求権に関するアメリカ国務省の覚書、これについて政府は一貫して、これは日本が在韓財産を放棄したので、そのことを考慮して韓国は対日請求権において相殺されるのだ、そういう相殺したその上に立っておるという立場で説明されてきましたが、この点についても意見の衝突があるやに新聞は伝えております。この点は意見の一致を見たのかどうか、これを伺いたい。

○国務大臣(小坂善太郎君) これは考慮に入れられるべきものであるということでございまして、どの程度考慮されるかということは、これは韓国側が考慮するだけじゃなくて、日本側でも考慮すると、こういうことであるべきだと思っております。そういう点も話が出ましたが、さっき申し上げましたように、まとまったものは一つもありません。

○田畑金光君 まとまったものがないとお話になりましたが、相殺については、昨年の三十八国会において小坂外務大臣が、韓国側もこれは了解しておる。そういう答弁をなさっておるわけです。今日その点についてまとまっていないというのは昨年うそを言われたということになりますが、それはどういうことになりますか。

○国務大臣(小坂善太郎君) アメリカ解訳に対しまして、双方がこれを受諾していると、こういう内容でございます。しかし、これをどの程度まで考慮に入れるかということになると、そこに見解の相違が出てくる、こういうことでございます。

○田畑金光君 そうしますと、韓国側も相殺すること自体は了承しているが、どの程度しからば相殺するかという内容の問題で、あるいは量の問題で意見の一致を見ない、こういうことですか。

○国務大臣(小坂善太郎君) まずこれを請求するものの考え方にもよろうと思います。非常に膨大な請求をしておいて、そうして考慮したのだと、こういう言い方には私どもは納得できないという点もあるわけです。

○田畑金光君 そこで私は、先ほどお伺いしましたが、そのことば昨年の第三十八国会において、長い間秘密にしておりましたアメリカの覚書が国会で問題になり、そうしてようやく政府が発表した、あの節は今言うような答弁ではなくして、アメリカの覚書を両国が認めた。さらに覚書に基づく相殺についても韓国もこれを了承している。その上に立って話を進めて行くのだ、これが政府の態度であったと思うのですが、明らかに食い違っているじゃございませんか。

○国務大臣(小坂善太郎君) アメリカ解釈を韓国側も認めていることは、これは間違いないのであります。しかし、認めると言っているその内容が、私どもの了承し得ないところであれば、話はまとまらぬと思います。

○田畑金光君 日韓会談は、今後、先ほど申し上げたように新たな再検討すべき段階に私はきていると思いますが、それはそれといたしましても、とにかく交渉の内容自体についても非常に食い違いがあるわけです。政府は、聞くところによると、国会対策もあるので、この国会開会中はとりあえず避けて、あるいは五月にまとめる腹だなどとも伝えられておりますが、今後の見通しはどういうことにお考えですか。

○国務大臣(小坂善太郎君) 私どもは国民を代表する政府といたしまして、国民の納得を得ないような形において妥結することは、これはできないわけです。したがいまして、当方の主張が先方と合意に達し得るような条件になれば、これはまとまると思いますし、達しなければなかなかこれはまとまらない、こういうことになることは事の自然だと思います。

○田畑金光君 政府に要望しておきますが、韓国の今回の大統領辞任に基づく新たな韓国の政治情勢、こういうのがわかり次第、ひとつ国会を通じ明らかにしていただきたい。同時にまた、とにかく政府は今日まで一九四八年の国連の決議に基づく合法政権である、国連も認めているから合法政権として日本政府も認める。しかもその唯一の根拠が大統領の継続性、これを理由にあげてきたわけで、大きな変化がここに起きたわけです。したがって希望することは、今後政府は新たな情勢が生まれたとするならば、十分この情勢の上に立って、慎重にひとつ韓国との交渉については取り運びを考えていただきたい、このことを要望として申し上げておきます。
 次に、私は沖縄の問題についてお尋ねいたしますが、ケネディ大統領が沖縄の新政策について明確な意思表示をなさったのは三月七日でございます。ところが、このケネディ新政策が日本政府に連絡があったのは十三日ないし十四日だと聞いております。これに対して日本政府の要請に基づいて発表を二、二百おくらしてケネディ大統領の政策発表ということになりましたが、この間、政府はアメリカ大統領の申し入れに対してどういう態度をとられたのか。あるいはまた、アメリカにどんな申し入れをなさったのか、この辺の事情を聞かしてもらいたい。

 第041回国会 参議院予算委員会 第2号 昭和三十七年八月二十七日(月曜日)午前十一時開会

【発言順】
 委員      杉原 荒太
 外務大臣    大平 正芳
 外務省条約局長 中川 融
 委員      吉田 法晴
 大蔵大臣    田中 角榮
 内閣総理大臣  池田 勇人
 委員      羽生 三七
 内閣法制局長官 林 修三
 委員      田畑 金光

○杉原荒太君 日韓問題にしぼって質問をいたします。現に行なわれている交渉の具体的内容の問題に立ち入ることをこの際差し控えまして、交渉の背景または基礎として重要と認められる若干の問題並びに朝鮮に対するわが国外交政策の基本目標に触れる問題について、政府の所見をただしたいのであります。
 まず第一に、政府はクーデターによって成立した朴政権を国際法上韓国を代表する正当政府として認めておられるに違いないが、その法的根拠はどこにあるという見解をとっておられるか、まずその点をお尋ねいたします。
 ただ、申しておきますが、私の質問は、何も政治上の理由を問題にしておるのではありません。また、法的の根拠がないという予想のもとに質問しておるのでもありません。また、その法的根拠というものは、ただ一つだけしかこの場合にはあり得ないのであって、その法的根拠のとり方というものが一つの問題であるということを私は念頭に置いて質問するのでありますから、その辺のところを御考慮の上で御答弁願いたいと思います。

○国務大臣(大平正芳君) 韓国が私どもが交渉の相手として適格性を持っておるという根拠として考えておりますのは、一つには、一九四八年の十二月に国連の第三回の総会におきまして、朝鮮における唯一の合法政府であるという国連の宣言がございまして、ただいま五十一カ国がその宣言を尊重いたしまして韓国を承認しておるという事実がございます。それから、しかしながら今御指摘のように、韓国に昨年の五月にクーデターが起きた。で、クーデターをめぐる状況は、韓国の憲法におきまして、政権の授受を行なう手続というものにその性格上若干の瑕疵があったかと思うのでございますけれども、大統領は引き続き在任をしておりまして、大統領の憲法権限の範囲内におきましてこの政権授受が行なわれたということ、したがいまして、政権の性格が変わったと国際的に見るのは無理じゃなかろうかというような判断に立っておるわけでございます。今御指摘のように政治問題として考えますと、ほかにもいろいろ申し上げなければならぬ点もございますけれども、法的な根拠といたしましては、そのような事情を踏まえて考えておるわけでごいいます。

○杉原荒太君 ただいま外務大臣が引用されました国連総会の決議、これは、言うまでもなくわが国のほかにも従来韓国政府を朝鮮における唯一の合法政府と認めてきたものがあるという事例の説明であって、別に私の今質問しているところと直接にはこれは関係のないことであります。今外務大臣の御説明を伺いますというと、私の質問している点に対する、それに対応するお答えの部分をお聞きしますというと、憲法上大統領に認められた非常事態のもとにおける権限を根拠とされることは、要するに朴政権は韓国の国内法上合法的に成立したものと見て、それを根拠として、わが国としては特に承認を要せずしてその正当政府たることを認めることができるという、その法的根拠、そういう見解をとっておられるものと思う。そういう見解をとられるために、前の国会などでも、朴政権が韓国の国内法上合法的に成立したものであるという、その合法性の根拠づけのためにいろいろと御苦心になった見解の表明がありました。また、そういう見解をとっておられるために、わが国会内でも、韓国の国内法上の合法性あるいは非合法性というところまでの詮議だてまで行なわれておったのであります。たいへん御苦労なことだと思う。もとより朴政権自体としては、どのような根拠づけをしようとも、それはわれわれがかれこれ言う筋合いのものではないと思います。しかし、朴政権をわが国の立場から正当政府として認めるということは、これはわが国、わが政府が決するところでありますから、申すのでありますが、朴政権を政府が韓国を代表する正当政府として認めていくということにされたこと自体は、政治論としても私はもとより適当な措置だと思う。また、そういう方針をとるにあたって、その方法として特に覚書や通告などの明示的な承認の方法というものをとらなかったことも、よく理解できるところであります。ただ私の疑問とするところは、政府がなぜ黙示的な承認という建前をとられなかったかということであります。その方法をとるならば、何も国内法上の合法性、非合法性を論ずる必要はない。また黙示的な方法であれば、それは外から見た形の上では別にどうということは起こらぬ。しかるに、今の御説明によると、そういう黙示的な承認という建前をとられたのではないように思うが、その理由を御説明願いたいと思います。

○政府委員(中川融君) お答え申し上げます。
 先般朴政府ができました際に、明示または黙示の承認の措置を政府がとらなかったということにつきましては、外務大臣から御説明申し上げましたとおり、その当時の事態が特にあらためて政府の承認をすることを必要としないような事態であったと、こういうふうに判断されたのでございまして、この判断は、日本のみならず、ほかの各国も同様の態度を、とったわけでございます。明示の承認をしなかったのみならず、黙示も承認もほかの国もしなかった。日本といたしましても、先ほど外務大臣が申されましたような事情により、やはり大きな意味での政府の継続性、法的な意味の政府の継続性は依然あるものと、かように判断いたしまして、特に新しく承認は必要としない、かような態度に出たわけでございます。

○杉原荒太君 私は、今の政府の見解も全然間違いだとか、そういうふうにまでは考えません。ただ、この問題のすなおな、また、無用の論議を起こす必要がない方法としては、むしろ今言ったような黙示の承認というほうがかえってベターじゃなかったかという私は個人的な見解を持っているから、ただしたのでありますが、しかし、これはこれ以上の論議の必要はないと思いますから、その辺で、政府の見解だけ明らかになりましたから、これでこれ以上質問いたしません。
 次に朴政権の公約しておる民政移管に関する問題について三つの点をお尋ねいたします。
 第一点は、今年三月十六日制定公布されました韓国の政治活動浄化法の実際の運用ぶりいかんです。民政移管を骨抜きにするかいないかの一つの試金石として重視されてきておるところでありますが、この法律に定められた適格審査の対象となる者として指定を受けた旧政界人らの数は何名であるか、これに対し適格審査審判を申請した者の数は何名か。またそのとき適格と判定されて、明年以降政治活動を認められることになった者の数は何名か。適格の判定を受けた者のうち、張勉政権時代の民議院議員、参議院議員は何名含まれておるか、また旧各政党所属別にそれぞれ何名か、わかっておる分だけでよろしいですから、お答え願います。

○国務大臣(大平正芳君) 政治浄化委員会に適格審査対象者と指定された旧政界人らの総数は四千三百六十九名であると四月十六日に公告されております。これに対しまして二千九百五十八名が通称審判を申請いたしました。そのうち五月三十日までに千三百三十六名が審査のしで適格と判定されております。で、張勉政権時代の民議院議員適格と判定された者の中には、張勉政権時代の民議院議員二十二名、参議院議員八名が含まれています。各党派所属別には旧自由党が六百四十七名、旧民主党が二百九名、旧新民党が百九十四名となっております。以上です。

○杉原荒太君 第二点は、本年七月中旬設置された憲法審議委員会のほかに、民政移管の具体体的準備はどう進められておるかという点であります。

○国務大臣(大平正芳君) 昨年の八月二日に最高会議議長が発表いたしましたスケジュールによりますと、明年初頭より政治活動を認めまして三月までに新憲法を制定公布する、五月に総選挙を実施して夏までに民政移管を完了するということになっておるわけであります。

○杉原荒太君 第三点は、昨年十二月十四日、国連の朝鮮統一復興委員会における崔徳新韓国外務部長官の発言の中に、民政移管のための韓国の選挙は一九六三年五月、国連の監視のもとに行なわれるという言明があったと思うが、その選挙は国連の監視のもとに行なわれるということは、国連のほうで、すでに決定しておるかどうかということ、また政府は、韓国側から選挙の時期は明年五月ということの確報を得ておられますかどうかということ、その点をお尋ねいたします。

○国務大臣(大平正芳君) 国連の朝鮮統一復興委員会というものが総選挙の監視に当たるということは国連で決議されておると承っております。で、国連の第十六回総会に韓国の外務部長官が出席いたしました上記の言明もございますので、日本政府としては、それが予定どおり実行されるものと期待いたしておるわけでございます。

○杉原荒太君 次にお尋ねいたしたいのは、朴政権は南北統一の方式に関する基本的態度について、対外的にどういうコミットメントをしておるか、李承晩はしばしば武力北進を唱え、南北統一のため同盟国の援助が得られない場合には、単独でも武力を使用する旨を声明しております。朴政権はクーデター発生の際発表した革命綱領の中で、反共を強調しつつも、武力による統一方式を否定しておったと思うが、この武力による統一方式の否定について、朴政権は国連やアメリカに対して、はっきりした言明ないし誓約を与えている事実があるかどうか。またこの点はわが国として重大関心事だと思うが、政府は今日まで韓国政府側との接触の機会において、この点に関する韓国側の意向を聞かれたことがあるかどうか、その点をお伺いいたします。

○国務大臣(大平正芳君) 御承知のように朝鮮統一の方式につきましては、一九四七年の十一月の国連総会の決議によりまして、国連監視下の全朝鮮自由選挙に基づき全朝鮮単一政府を作るという、いわゆる国連方式が策定されております。自来、これが国連の確定した方針となっておりますが、朴政府は従来よりこの国連方式による朝鮮の統一を主張して参っております。昨年
 私は前の国会での質問において、いわゆる請求権問題の解決方式として、六月の軍事革命後、一時は軍事政権が武力北進を唱えるのではないかという憂慮が一部にございましたが、同政権は革命後間もない六月二十四日に外務部長官談話をもちまして、これを正式に否定いたしまして、国連方式による統一を主張することを確認いたしております。この軍事政権の立場は、昨年の国連第十六回総会に対する国連朝鮮統一復興委員会の報告を通じまして、国連加盟各国に伝達されております。また革命直後軍事政権が一木を含む諸外国に派遣した親善使節団によりましても、特に強調されたわけでございます。特に昨年十一月最高会議議長はアメリカを訪問いたしましたが、十一月十五日付でケネディ大統領との間に発表された共同声明におきましても、朴議長とケネディ大統領とは、国連総会が提示し、かつ再確認した原則に従いまして、平和的な手段をもって自由な朝鮮の再統一を達成するという決意を再確認したと述べております。
 なお一番最後の御質問の点でございますが、私どもが日韓交渉の経過におきまして、諸懸案の解決のための、こういった討議におきまして、南北の統一問題というものを今まで論じたことはございません。

○杉原荒太君 以上、日韓交渉の前提または背景として無視できないと思われるものを若干について質問したのでありますが、次に、日韓交渉全体の成否を決するかぎだとも見られておる、いわゆる請求権交渉の基礎となる事項について三つの点だけ質問いたします。
 私は前の国会での質問において、いわゆる請求権問題の解決方式として、純粋な意味における法理的の解決ということは、この種の問題について現状において日韓両国を拘束する実体法の法則が欠如しておるから、大体無理な話ではないかということ、またかりに両国間で、ある程度法的基準について合意ができたとしても、その基準に当てはまる各具体的のケースの証拠事実を整えることが困難または不可能な場合が多いから、厳密な意味における法理的の解決ということは、実行の可能性が乏しいのではないかという疑問を提起しました。本日ここに質問したいと思う第一点は、そういった疑問にも関連することでありますが、いわゆる請求権交渉の基礎となっている対日平和条約第四条(a)項に言う請求権なるものを政府はどう解しておられるかということであります。これは一見テクニカルなこまかい問題のように見えて、実はいわゆる請求権交渉の内容に大きな関係を持ってきて、ひいては交渉全体に重大な影響を及ぼす問題であると私はかねて見ておるのでありますから、私はあえて質問する次第であります。

○政府委員(中川融君) 平和条約第四条に規定いたしております請求権というものを、どう考えているかでございますが、これは条約の規定にもございますように、「請求権」と書きまして、その下にカッコして、「(債権を含む。)」というふうに書いてございます。したがって請求権は、いわゆる債権よりは広い概念である、これは条約から見ても明らかなわけでございます。請求権というものは、英語ではクレームという字が使ってあるのでございます。通常クレームということを申します際には、やはり権利ありとして主張するいわば地位と申しますか、そういうことであろうかと思うのであります。権利から離れるわけではございませんが、しかし権利そのものでは必ずしもまだない次第でございまして、相互交渉した結果真に権利ありやいなやを確かめる、こういうプロセスが必要である問題である、かように思うのであります。

○杉原荒太君 今条約局長の言われたように、平和条約四条の日本語の請求権に該当する英語のほうはクレームですね、これはフランス語ではレクラマシオンとなっている。日華条約のその該当部分のところで中国文では要求となっている。対日平和条約では、私が言うまでもなく英文、仏文、スペイン文というものが正文になっておって、日本文は正文になっておらぬ。解釈に疑いあり、相違がある場合には、オ-センティックな、有権的の効力がある正文によることは当然のことだと思う。したがって正文をもとにして見るとなると、明確な権利としての請求権ということじゃなくして、要求または請求という意味に解してよいのではないか、あるいはむしろそれが正当ではないかという疑いを私は持っている。またいずれにしても、いわゆる請求権問題について、日韓間の取りきめができ上がって、初めてその法律効果として権利が発生し、確定するのであるから、それ以前、交渉の過程において請求または要求の問題として取り扱うのが適当ではないか。私は以上二つの根拠からして、交渉の過程において請求権の処理として、そういうアプローチの仕方には、かねて疑問を持っておるのでありますが、この点に関する政府の見解を尋ねたい。

○国務大臣(大平正芳君) 杉原委員と全く同様な考え方をしております。

○杉原荒太君 私は今まで政府のほうから、そういうふうなことを聞いたことがなかったので、本日の外務大臣のその、言明に私は非常に同感――非常にけっこうなことだと思います。いわゆる請求権問題に関しては、対日平和条約第四条(b)項に関する米国解釈を基礎としてなされておると思うが、その米国解釈なるものの解釈について日韓両国間に意見の一致を見ておるかどうか、その点をお尋ねしておきます。

○政府委員(中川融君) いわゆる米国解釈によって請求権問題は片づける。そのことにつきましては、日韓双方で意見が一致しておるところでございます。

○杉原荒太君 その今条約局長の言われた点は、米国解釈なるものの内容の読み方、それについて意見が一致しておると、ここまで含んでおりますか。

○政府委員(中川融君) いわゆる米国解釈によって請求権問題を片づけようということには、その方式には日韓間で意見の一致を見ておるのでありますが、米国解釈そのものの実質的解釈となりますと、必ずしも一致してない面もあるのでございます。一例をあげますと、日本の請求権がすでに平和条約上消滅しておる、しかしながらその事実は、韓国側の請求権を検討する際に考慮に入れなければならないという点が米国解釈の中にあるのでございますが、たとえばこれにつきまして、日本側は今やっておる交渉において、それを考慮すべきであると言っておるのに対して、韓国側はすでにそれは考慮に入れた要求を自分のほうは出しておるのだ、こういう主張をしておる。これは一例でございますが、そういうふうに実質に至っては、必ずしも全面的に一致していない、こういうふうな実情でございます。

○杉原荒太君 一九四五年在韓アメリカの軍政府が帰属命令によって接収した在韓の日本財産の内容並びに一九四八年米韓協定によって、米軍政府から韓国に移譲された財産の内容は、政府においてわかっておりますか。この際、内容の説明を私は求むるものではないのでありますが、政府にその内容がわかっておるかどうかという点をお尋ねいたします。

○政府委員(中川融君) 在朝鮮あるいは韓国に限定いたします。在韓国日本財産、これがその後四五年のいわゆるヴェスティング・デクリーによって、アメリカに接収され、さらに一九四八年の米韓協定によって韓国政府に渡されておるわけでございますが、その具体的内容につきましては、正直のところ、日本側にはわれわれの資料というものはないわけであります。引揚者から、その引き揚げの際に申告を受けたもの、これが唯一の根拠でございますが、これとても不完全なものであるわけ、でございます。それで具体的に米国が韓国に渡した際に、どんな財産があったのか、その内容を知らしてもらいたいということをアメリカ政府に久しく前から要求しておるのでございます。その要求に基づきまして、ある程度の資料は最近参りました。しかしながらこれまた十分でないのでございまして、さらにその残余の分についても、資料を出すようにと、今アメリカに折衝いたしております。なお韓国側にも、この資料の要求を求めておりますが、韓国側からは、この点についての資料はわれわれのところに送ってきていないのが現状でございます。

○杉原荒太君 最後に、朝鮮に対するわが国外交政策の基本目標に触れる問題について、若干政府の見解をただしたいと思います。
 朝鮮半島は世界政治の危険地帯の一つであり、しかもわが国として最も重大な関心を持たざるを得ないところであります、大局的に見て、朝鮮半島における国際平和の維持はわが対外政策の基本目標の一つでありましょう。しかるに、これがためわが国としてとり得るあるいはなし得る有効な方策というものが、わが国の能力から見てきわめて限られているように思われるのであります。その限られた範囲のうち、現に行なわれておる日韓交渉の外交努力は、正当に評価されてしかるべきものでありましょう。しかし、朝鮮半島の平和維持の問題の背景は、広く深いものがあります。政府は、今後、朝鮮半島の平和維持に日本は日本なりの貢献をするために、日韓交渉の成立を期するほか、またその日韓交渉の成果を補完する意味においても、特にどういうところに目をつけて、重きを置いてやっていこうとせられるのか、その点をお伺いいたします。

○国務大臣(大平正芳君) 今御指摘のように、半島の平和の問題、繁栄の問題ということに対しまして、日本が寄与し得る力の限界というものがございますことは、今杉原委員が御指摘されたとおりでございまして、私どももさように考えております。したがって、国連に関係の委員会がございまするし、現にアメリカを初め関係国が協力いたしまして、韓国に平和がよみがえり、かつ繁栄が結ばれるように、私どもは応分の寄与をなすべきものと心得ております。したがいまして、これはすべての外交問題がそうでございまするように、国際協力の精神にのっとりまして、わが国としては、近接した特殊な関係がある地域であるということを頭に置きまして、応分の積極的な寄与をなすようにして参りたいと考えております。

○杉原荒太君 朝鮮の平和維持のための方途を考える場合に、単独外交では弱い。日本の立場としては、連合外交の手段に相当のウエートを置かざるを得ないでしょう。その意味において、私は、今外務大臣の申されたその線は、そのとおりだと思います。現実的には、特に米国との話し合い、国連外交のやり方を重視せざるを得ないことは、これは現実的に見て、当然の帰結であると思う、米国との関係については、政府においてとっくに考えておられることと思いまするので、ここに質問はいたしません。国連において、朝鮮問題の担当委員会が中心となって、朝鮮における国連の目的は、朝鮮における国際平和の完全回復にあることを認めるとともに、武力統一の方式を否認して、これを現在の韓国政府にも受諾せしめておるというその事実は、朝鮮における平和維持という日本の朝鮮に対する基本目標の上から見ても現実的の意味のあることであり、またそれは、単独外交ではできがたいことが、連合外交の力によって可能となる面があることを示すものでもありましょう。国連外交の問題としては、大卒外相の国連総会における演説草案として新聞に伝えられているような森羅万象の事柄があるにはあるけれども、わが日本としては、身近かな、しかも大事な朝鮮の平和維持の問題と真剣に取っ組んで、これをわが国連外交の最大の特色として打ち出していくということこそ、わが国の分に応じた、板についた行き方であり、またそのほうがかえって国連でも光ってくるゆえんではないかと思うのであります。その点に対する政府の御所見を承りたいと思います。

○国務大臣(大平正芳君) お説と全く同感でございます。特に、先ほど申し忘れましたが、国際協力を基調といたしまして朝鮮の問題は取り組むべきであると申しましたが、その国際協力という気運を醸成して参る上におきましても、日本が自主的にやって参る日韓国交正常化ということも、国際協力を醸成する場合に非常に必要なことだと、私どもは考えております。

○杉原荒太君 これで私の質問を終わります。ありがとうございました。

○吉田法晴君 最初、私も日韓会談に関連をして質問いたしたいと思います。質問を始めるにあたって注文を申し上げておきたいと思います。本会議で質問を申し上げました際にも、交渉中だということで、十二分の答弁が得られません。重大な問題でもございますし、国民の利害に重大関心の問題でございますから、せっかくの国会の最中でございますから、国会を通じて国民の前に明らかにするという態度を示していただきたい。
 今、日韓会談の第六次、その予備会談が行なわれているのであります。二十一日、二十四日と進められて参りまして、その予備会談で何の話があっているのか、正式には説明がなされておらぬように私は感ずる。請求権問題が論議せられているがごとくでもあり、そうでないようでもあり、あるいは平和条約に関連のある、朝鮮の分離独立に関連をする諸懸案の問題が討議せられているようでもあり、そうでないようでもあり、明確にわかりやすく国民の前に明らかにしてもらいたい。

○国務大臣(大平正芳君) 予備会談は、御案内のように、二回ただいままでやらしていただきました。そこで何が討議されたかということは、政府側で発表いたしてございます。すなわち、請求権問題というものについて、当方の考え方を先方に示して、討議が行なわれた。第二回目におきましては、先方からこれに対しまして考え方の提示があったということでございます。世上、今吉田委員が指摘されましたように、マスコミにはいろいろな論議が行なわれておりますけれども、私どもといたしましては、今交渉中――何が問題になったかということを、正規のスポークスマンを通じまして御発表申し上げるという域を出ていないわけでございます。

○吉田法晴君 それでは、二十一日、特に二十四日のようでありますが、日本側提案、あるいは韓国側からの意向というものについて、具体的に承りたい。請求権問題に関連をして討議がなされておるということですが、その対日請求権を含む無償供与と長期低利借款を合わせて三億ドルの案を提出をした、あるいは韓国側からは六億ドル案が提出されたと、これはほとんど共通をして報道がなされておる。三億ドルあるいは六億ドルの内訳、基本的な点についてお示しを願いたい。それから、三億ドルあるいは六億ドルといわれておりますが、その金は、日本の評価でするならば、金にするならば幾らになるのか、ひとつ御説明願いたい。

○国務大臣(大平正芳君) 先ほど申し上げましたとおり、私どもの請求権問題に対する考え方というものを提示いたしまして、討議が行なわれたわけであります。それを幾ら幾らの金額を盛ったかということにつきましては、たいへん恐縮でございますけれども、今の段階、表に御発表申し上げることは差し控えさせていただきたいと思います。ただ一つ申し上げられ得ることは、今有償の経済協力という問題がすでに言及をされましたけれども、先方の考え方は、それは国交正常化のあとだという考え方を今のところ先方は持っておるように伺っております。

○吉田法晴君 金額については言えぬということでありますが、この問題については、いわゆる法的根拠のある請求権云々という点については、大蔵省でも計算がなされたということでありますから、大蔵省の所見を伺いたいのでありますが、その日本側から提示しました金額、これは新聞紙上には三億ドル、あるいは韓国側から、四億ドル近いものが出された云々という点は、これは新聞に全部報道された。あるいは、韓国に帰られたペ大使というのですか、彼も語られておることでありますから、これは外務省、あるいは政府が国会に言わぬだけの話で、国民の間には報道機関を通じて知らされているということでありますが、なお国会には明らかにされようとしないのか、大蔵省の所見、あるいは金額なり――日本で計算をすればどうなるのか、こういう点をお示しをいただきたい。

○国務大臣(大平正芳君) マスコミにやられております金額は、マスコミ側の推測でございます。したがって、それを私どもは否定するとか肯定するとかいうようなことになりますると、金額を公表したことになりますので、それは差し控えておるまででございます。

○吉田法晴君 それじゃ、新聞に報道せられる、あるいは韓国で新聞記者に語られたペ大使のお言葉等を否定なさるのですか、そうではないのでしょう。それから、お尋ねしておったのは、大蔵大臣に、その数字を大蔵省から見られて日本円に換算すると幾らになるかという点をお尋ね申し上げたんでございます。あとでいいです。

○国務大臣(大平正芳君) 政府は、いかなる形におきましても、発表いたした覚えはないのであります。

○国務大臣(田中角榮君) 第一問については、外務大臣がただいま申されたとおりであります。
 それから第二の、大蔵省でかつて試算をした数字という点についてでありますが、これは参議院の選挙前に外務省、大蔵事務当局等で試算した数字があるようでありますが、私はそれを承知をいたしておりません。

○吉田法晴君 それでは、新聞に報ぜられておる三億ドルあるいは六億ドルという数字について、外務大臣否定もしない、こういうことですか。

○国務大臣(大平正芳君) 全く日本の新聞は自由でございまして、私どもがその報道される実態につきまして干渉する余地はないわけであります。私どもは否定もしないし、肯定もしない、全然発表していないということを先ほど申し上げたとおりでございます。

○吉田法晴君 発表してないといっても、おそらく新聞の記事は、外務省その他から漏れたと言ってはあれですが、大綱について、あるいは趨勢について語られたものが報道せられておる。食い違いがあるというなら別でありますけれども、全部一致をしておるのであります。しかも、新聞を通じて国民にはある程度知らされた。しかし、国会には言えぬ。これは私は国会あるいは国会を通じて国民に対しての侮辱であると思うのです。韓国側なら韓国側が、あるいは飛行場で語られ、あるいは報告がなされた。そしてこれに対する対案が立てられた。こういう段階で、発表をしたら云々ということで、それだけで済むものではなかろうと私は思うのですが、そこで、新聞に報ぜられておるところは否定はなさらない、こういう念を押しているわけですが、どうですか。

○国務大臣(大平正芳君) 御承知のように、今予備折衝が始まったばかりでございますので、私どもは、今の段階におきまして内容を発表するということはいたさないほうがいいという判断に立ちまして、御発表申し上げていないわけでございます。これは決して国会を軽視するとかいうようなことではなくて、国会を尊重するがゆえに、私どもは今の始まったばかりの状態において軽率に申し上げるというような非礼は避けたいと考えております。

○吉田法晴君 大蔵大臣にお尋ねをいたしますが、三億ドル、六億ドルと、これはドルで計算をされている。しかし、日本で計算をする場合には、これは日本の国民の税金を支出することでありますから、円に換算されることだろうと思うのですが、それは一ドル三百六十円で換算をし、三億ドルと言われるときには千八十億、あるいは六億ドルと言われるのは二千百六十億、こういう計算をしていいのかどうか、その点だけ聞いておきたい。

○国務大臣(田中角榮君) 対韓問題につきましては、ただいま外務大臣が申し述べられたとおりでございます。今発表する段階でもありませんし、外交のもちろん特殊性を考えまして、私はこの交渉に対しては外務大臣に一任をいたしておりますから、私としては申し述べることは何にもございませんということを先ほどから申し上げておるわけであります。
 なお、一二億ドルを日本の金に換算して幾ら、六億ドルは幾らかということでありますが、これは朝鮮問題とは全然関係なく言えば、今あなたが言われたとおり三百六十円かければ出る数字でありまして、これとは日韓問題は全然関係なく、あなたが今言われたとおりであります。

○吉田法晴君 それでは、三億ドルは千八十億、あるいは六億ドルは二千百六十億という点は、これは認められたわけですね。

○国務大臣(田中角榮君) それは今御発言のありましたとおり、日本円の為替換算率でございますから、そのとおりでありますが、日韓交渉とは何ら関係がなく御質問でありますし、私もその意味で答弁を申し上げたのです。

○吉田法晴君 向こうは発表しておるのに、こっちは発表しない、国会を通じて明らかにしないという点は、けしからぬ態度だと思うのですが、経過から見て、三億ドル云々という点は否定はなさらなかったようであります。
 その内訳ですが、金額はとにかくとしまして、長期低利借款あるいは経済協力といわれるものと対日請求権を含む無償供与と、こう二つに分かれておるという点は、これは提案の中の説明として、これはできますか。

○国務大臣(大平正芳君) 請求権問題に対する接近でございますが、合法的な根拠、合理的な根拠を探求をいたしまして積み重ねてやって参るということは、先ほど杉原委員も指摘されましたように、実定法上の条件を十分備えられるかどうかという困難もございまして、私どもといたしましては、もう少し工夫がないものかどうかということについて、考え方を提示して、先方に考慮を求めておる段階でございまして、どういう内容か、どういう金額かということにつきましては、ここで言明を差し控えさしていただきたいと思います。

○吉田法晴君 金額の発表は差し控えさしていただきたいというさっきからの御発言ですが、その中身について、短期請求権を含む無償供与と長期低利借款と合わせて提示をされた総額幾らという提示ですね、その中身は半々だという報道もございますが、二項目を合わせて総額を私どもは新聞紙上その他を通じて三億ドルというものを聞くわけであります。二つに分け、二つを含んで総額を示された、こう理解してよろしいですか。

○国務大臣(大平正芳君) 金額と内容につきましては、まだ交渉が始まったばかりでございますので、たいへんしつこいようですけれども、差し控えさしていただきたいと思います。

○吉田法晴君 私も繰り返してあれですけれども、新聞紙を通じては経過がある程度報告をされる、あるいは向こう側では発表があるのに、日本の国会では交渉中だからということで言えない。これは私は国会を通じて国民の意思を問う――最終的には税金から幾ら出さなければならぬという点をきめるわけですから、政府の態度としては私はけしからぬと思うのです。
 繰り返しても同じことですから、次に進みますが、この三億ドルだとか、あるいはこれに考慮を加えるかどうかといわれておるものの性格について伺いたい。いわゆる請求権について池田首相は、合法的なもの、あるいは根拠あるものに限ると今まで言ってこられました。そうして法律的根拠あるもの、あるいは合理的な根拠あるものとして、大蔵省では最初三千万ドル、これは百八億になるようでありますが、と計算をされました。あるいはその後五千万ドル、百八十億円、それが最近では七千万ドル、二百五十二億円と、だんだんと上がってきたと聞いている。いわばこれは差額が二千万ドルずつですが、バナナのたたき売りみたいな、一たたき七十二億円国民から出さねばならぬかという、その差が七十二億もついているわけであります。ところが、経緯をここに繰り返しませんけれども、在韓日本国民の財産の請求権があったということを考慮するということで、この請求権について、合法的な根拠あるものに限るという強い原則あるいは積算方式がだんだんくずれてきつつあるのではないか。そうして、今度は商い次元で解決したいという高次元論が出てきたようでありますが、そうすると、今までの法律的根拠あるものあるいはそれを積算をする、こういう方法は、これはくずされたのか、伺いたい。どんぶり勘定になったのか、あるいは法律的、合理的な根拠あるものに限ると、今まで首相あるいは外務大臣その他から繰り返して言われたことでありましたが、その議論はくずれたのかどうか、伺いたい。

○国務大臣(大平正芳君) 請求権問題に対する接近のし方といたしましては、合理的な根拠あるいは法律的な根拠のあるものに限るという原則はくずしてございません。ただ、問題は、日韓の間に国交を正常化する、できるだけすみやかにもろもろの懸案を解決いたしまして正常化に持ち込みたいというのが、私どもの交渉の基本の目的でございまして、その目的を達する場合に、合法的、合理的根拠のある請求権に限るという接近の仕方で長後まで有効な結果が得られるかどうかということにつきまして、若干疑問を持ちますので、先ほど申しましたように、ここで若干の政治的工夫をこらす余地はないかという考え方で先方の考慮を求めているという実情でございます。

○吉田法晴君 それでは、この法律的根拠があるもの、いわば積算方式のみに固執をしているのじゃなくて、その結果プラス・アルファということで考えている、いわば高次元論といいますか、高い次元で云々という点は、この積算方式、合理的、合法的な根拠のあるもののみではない、しかしそれははっきり数字は持っている、それにプラスをする、そのプラスの政治的な考慮云々という点が馬次元論といわれるんですか、その辺をはっきりしておいていただきたい。

○国務大臣(大平正芳君) そうではございませんで、請求権に固執した考え方でやれる限りにおきましては、合法的、法律的根拠のあるものに限るという態度はくずしておりません。しかし、請求権という問題はあるいは主張しないとか、あるいは請求権問題は解決したという前提に立って工夫をこらす余地がないかというのが、いわゆる私どもが考えている政治的工一夫の問題でございます。請求権問題プラス・アルファというような考え方はございません。

○吉田法晴君 固執をせず、あるいはプラス・アルファということでなければ、請求権とは関係なしに、今のお言葉の中にありましたけれども、請求権は解決したということで、全然別の角度から、あなたの高い次元というのは、別の角度から考える。理由はないけれども、理由はあとで聞きますが、何かあるのかもしれませんが、理由はとにかくとして、国交を早く回復したいから、あるいは援助をしたいから、そこで請求権問題に固執をしないで、別の理由で解決をしたい、こういう態度ですか。

○国務大臣(大平正芳君) 先方におきまして請求権は主張しないというような考え方になっていただけますならば、私ども政治的な工夫を加えることができるだろうということで、私どもの考え方を先方に提示して、考慮を求めておるという実情でございます。

○吉田法晴君 それでは、はっきり請求権問題ではなくなった、請求権についての先方のあれを固執しないならば考えようということで、これは従来の請求権の内容は、各項目ごとに事務当局で検討したものを積み上げていかなければならぬ、あるいは合法的なもの、あるいは合理的なものに限るという線がくずれているようですが、池田総理、いかがですか。その点は池田総理も今まで言明されてきた大きな原則はくずして日韓交渉をすると、こういうことですか。

○国務大臣(池田勇人君) 請求権問題は、先ほど杉原委員の言われたように、何も民法上の権利というふうなものが初めからきまっているものではないのでございます。向こうの要求でございまして、その要求に対してこちらも考え方があります。で、プラス、アルファといわれるかもわかりませんが、向こうでは、マイナス・アルファと言っているかもわかりません。そこで、法律的根拠があり、そしてお互いが納得し得るものであるということは、私も特に朴議長との会談で一応きめておるのでありまするが、法律的根拠とは何ぞや、そしてもし法律的根拠があったときに具体的の数字を出すように事実関係の確認ができるかということになりますと、なかなかできない。できなければ、できなくてもほうっておけばいいじゃないかという議論もありましょう。しかし、それは日本の置かれる立場、すなわち善隣友好の関係、アジアの平和のためという点から考えて、そういう数字にばかりとらわれておることがどうかという問題が新たに出てくるわけでございます。
で、私はあるところで聞いてみますと、前とは非常に変わったと、前の外務大臣と今の大平大臣は非常に変わったと、こう言われるけれども、それは交渉内容をお知りにならぬから、そういう議論があると思います。お互いに誠意をもってまとめていこうという場合において、もともとの法律的根拠とか具体的事実の上に認証という問題はありまするが、それをやる上におきまして、何もそういう理屈ばかりにとらわれずに、お互いに納得のいく方法はないものかと、お互いの要求に対してそういうところを考えて、高い次元という言葉が適当かどうかわかりませんが、交渉の経過から申しますると、だいぶ両方とも誠意が認められつつありまして、そうして交渉が私は進展しておると、変化というんじゃなしに、進展しておると、こうこれはお考え願うべきだと思のです。もちろん、いいかげんの数、字でどうこうというわけじゃございません。やはり法律的の問題も考えましょう。そしてこれを裏づけする具体的の事実の認証も検討してみなければなりません。しかし、それにしましても、長いことたっておる間でございまするから、事実の認証がだめだと、証拠が不十分だという場合に、これをゼロにするか、あるいはどうするかという問題があるときに、やはりそこは良識で考えるべき筋合いのものだと思います。したがいまして、理論的な根拠並びに両方の誠意から、そうして交渉を両国民の納得のいくような方法でまとめていこうとして今交渉いたしておるのであります。変化でも何でもございません。だんだん交渉が進展していくということになっておると私は考えるのであります。

○羽生三七君 関連。私は金額とか、法的根拠、すべてそういう質問は避けます。ただ一点だけ、今善隣友好とかアジアの平和という、いわゆる高い次元に立ってというお話でありましたが、交渉が進んでいって、日本としてはこれが一つの日本が譲り得る最高限といいますか、限度という壁はあるのでありますか。そういうものなしに、高い次元でどこまでも金額も高くなっていくと、こういうことなのか、一つの壁、これが譲り得る限度というものは存在しておるかどうか、これを伺いたい。

○国務大臣(池田勇人君) 交渉の途中でございまして、限度がないとか、高くこれからなるとかいうことにつきましての意見は差し控えます。

○吉田法晴君 その、進展をしておる、変化じゃないと、こう言われますけれども、しかし池田総理は、国民の納得のいく数字、こういうことを言われておる。それはちゃんと説明のつく理由がなければなりません。その説明のつく理由が、合理的な、あるいは法律的な根拠のあるもの、こういうことが従来いわれてきた。で、あるいはその法律的な根拠、あるいは合理的な根拠といっても、なかなか事実が認定できない、あるいは合意できないと、こう言われますけれども、出ているものはこれは私どもが拝見をしても、具体的なもの、その具体的なものについての検討をやめて別の次元で考える、一つ一つの事実についてこれを合意に達せぬから全然別のもので云々というときには、これは次元も変わっておりますが、理由も変わっておる。じゃあ、何ですか、別のあるものは。何もなしに、ただこの合意に達するために次元を変える、あるいは理由を変える、こういったって、それで国民が納得できると考えられますか。おそらく理由のない金を出したら、国会も国民も承知をしないでしょう。それは変化じゃなくて進展と言われますけれども、はっきり説明の理由は、これは変わっている。
 その次元と言われる理由について伺いたいのですけれども、その理由は戦争の償いなんですか、あるいは植民地支配の償いなのか。これについて従来池田・朴会談では、日本に対する報復的な、あるいは賠償的な性質のものから出ているのではないと、こう言ったと報ぜられている。積算方式あるいは合法的根拠のあるもの以上の高い次元のものというならば、それは、国民に説明のつかない、いわば高い理由だ、こういうことになろうと思うのですが、いわれております金額も、先ほど申し上げましたように、三億ドルといえば千八十億、あるいはそれを譲歩して四億ドルに近い云々という意向等も漏れているようでありますが、そうすると、四億とすれば千四百四十億、これは当面しているこの高度成長政策のひずみによって困っている国民に、あるいは生活保護費であるとか、あるいは失対費であるとか、あるいは高校全入の費用であるとか、そういうものを償って余りある金額です。あるいは減税は来年はできないとしきりに言っておられますけれども、一千億をこす金は一千億減税を可能にする金額です。その二千億をこす金を、理由のない、このいわば高い理由と言われますけれども、説明のつかぬ理由で出すということについては、国会、国民は断じて承知するわけには参りません。高次元と言われるのは何なのか、アメリカの要請というのか、あるいは反共陣営のてこ入れというのか、あるいは独立のお祝いに御祝儀を差し上げるという、理由は立たぬけれども御祝儀相場なのか、承りたい。

○国務大臣(大平正芳君) 先ほど申し上げましたように、日韓の間は現在のような不自然かつ不安定な状態であることは好ましくないわけでございまして、なるべく早い機会に国交の正常化をしたいというのが私どもの願いでございました。それを達成する手段といたしまして、諸懸案の討議が今彼我の間で行なわれておるような状態でございます。もとよりこの交渉は、根本におきまして古田委員が御指摘されますように、国民が納得をする、納得をいただけるものでなければならぬということは、衝に当たっておる私どもの昼夜念頭を離れない最高の要請であると承知をいたしておるわけでございます。そういう御納得がいただけるということを基準にいたしまして、せっかく苦労をいたしておる次第でございます。

○吉田法晴君 今まで総理としても、いろいろ発言をしてこられた。あるいは池田・ケネディ会談あるいは池田・ラスク会談等でも、池田総理が行って言われたというものが報ぜられておるのです。その中には、日韓問題解決であれ国交正常化のために努力したいという点もありますが、大国主命以来の日本と韓国との関係、朝鮮との関係、日本の死命を制する南朝鮮の反共体制に重大な関心を払い云々という発言等もあるようでありますが、今の外務大臣の正常化したいから、国民の納得のいく数字云々と言われても、高い次元ということで、ただそれだけでは説明がつきません。そのほかに理由を私はあげてお尋ねをしたわけでございますが、総理から所信をお伺いいたします。

○国務大臣(池田勇人君) 私は以前から、内閣首班になる以前から、朝鮮問題を早期解決をはからなければならないという考え方を持っておるものであります。それは歴史的に、地理的に、民族的に申しまして、日本と韓国とは最も緊密であるべき立場にあるのであります。それが戦後正常化されていないことは、日本としては非常に不幸なことであり、また韓国としても同様に不幸なことでございます。私は外交政策の基本として一日も早く正常化したいという強い念願を持っておる次第であります。その念願で今交渉をしておるわけでございます。

○吉田法晴君 国文を正常化したいというのは、それは気持です。しかし国民の納得のいく数字云々という点は合法的な根拠あるもの、そういうものを抜けて別にあるはずがない。高い次元と言われるけれども、今の総理なりあるいは外務大臣の説明では、そのほかに理由はないじゃないですか。何があるのです、答弁になっておりません。

○国務大臣(大平正芳君) 交渉が始まったばかりでございますので、詳しく内容を申し上げるわけには参りませんが、私どもは吉田委員が御指摘されたとおり、国民の納得がいただけるようなやり方で取り進めたいということで進んでおるわけでございます。いずれ話がある段階に参りまして、納得がいくように私どもも説明しなければならぬと思っておりますが、交渉が始まったばかりでございますので、ただいまのところは申し上げる段階でございませんので、差し控えさしていただきたいと思います。

○吉田法晴君 韓国との間に国交を回復したい、だから問題を解決をして国交回復をはかろうということでこの請求権問題が起こってきた。ところが、その請求権問題について合法的な根拠のあるもの云々ということを検討しておったけれども、その理由は捨てた。そうするとあと何が残るか。池田・ケネディ会議等で言われておったような韓国の情勢については重大な関心を持ち、現況でいろいろ欠陥はあるけれども、反共体制を強化しなければならぬから、こういうことでかかる費用はどれだけであっても、あるいは韓国の了解を得るためにはどれだけ金が、事由がつこうがつくまいがお金を出して、とにかく納得させ、国交正常化をはかる、こういう以外にないじゃありませんか。あとのあるいは李ラインの問題、あるいは領土問題等々についても、これはどうなってもかまわぬ、あるいはそれをたな上げしても共同宣言方式でいこうということですか。そういうことでは、これは韓国の政権があるいは限定をされておる、あるいは非民主的で、軍事クーデターを通じてたくさんの人たちを、民主的な人たちも、あるいは新聞社の社長等も、言論、新聞等を弾圧しながら今日まできておる。国会、選挙によってできた政権でもないじゃないか。あるいはそれと国交回復することは、朝鮮の統一を妨げるのではないか。国連の統一と繁栄の委員会の存立を無視して国交正常化を進めようとするのか。それは朝鮮の統一とアジアの平和に寄与する道ではないじゃないかという非難がある。これに対して十分の説明ができますか。できないじゃないですか。

○国務大臣(大平正芳君) たびたび申しますように、国交正常化をはかるということが目的でございまして、そのためにどういう手段で解決して参るかということで諸懸案の討議に入っておるわけでございます。私どもが申し上げられることは、先ほど申しましたように、この国交正常化をはかる手段として私ども考えますことも、国民の御納得がいくようなものでなければならぬと思っております。同時にまた、請求権問題、ほかの諸懸案をたな上げして請求権の問題を片づけようというようなことではなくて、一括して諸懸案を解決いたしまして、国交の正常化に持ち込みたいと、しかもそれは今言われたような国民の納得のいくような方法、手段によってやりたいと、せっかく努力いたしておる次第でございます。

○吉田法晴君 時間もございませんから、論戦はこの程度に差し控えたいと思うのですが、とにかく合理的あるいは合法的根拠というものをなくして、理由はわからぬけれども、高い云々ということでは、これは国会、国民を納得させるわけには参らぬということだけ申し上げておきたいのですが、韓国に対する日本人の請求権はどうなっておるか。戦時国際法でも没収をするということはできないのですが、これの経過、取り扱いについて、それについて国民に対してはそれでは戦時国際公法で没収せられない財産権に対する補償は、どういう処置をせられるのか、伺いたいと思います。

○国務大臣(大平正芳君) 在韓の日本財産は、在韓米国政府の帰属命令によりまして、米軍政府がみずからの所属に帰せしめまして、その後米韓協定によりましてこれを韓国に移譲いたしました。わが国は平和条約の第四条(b)項の規定によりまして、在韓米軍政府の在韓日本財産に対する譲渡処分につきましては、異議を申し立てないことになっております、したがいまして、これによって生ずる財産その他の損害はあくまで米国政府の措置により基因するものでございまして、日本政府の処分に基因したものではございませんので、政府といたしましては、この際その補償の責任に任すものではないと考えております。政府はしかしながら在外財産の補償については、以上のように考えておりますけれども、現実には多数の者が、同胞が生活の根拠とする外地からほとんど無一物で引き上げられたという実情にかんがみまして、引揚者給付金その他の援護措置を講じて参っておる次第でございます。

○吉田法晴君 中川条約局長と法制局長にお尋ねをいたしますが、三十二年十二月三十一日付日本国外務大臣と大韓民国代表部代表の合意議事録というのは、これは性格はやはり条約じゃありませんか。今、外務大臣は米国の措置によって云々と、日本の措置云々ということではございませんが、合意議事録の中に盛られている内容によって国民の権利、財産権が処分された、これを認めた、これが根拠だと思うのでありますが、条約局長にお伺いいたします。

○政府委員(中川融君) ただいま御指摘になりました昭和三十二年十二月三十一日付の日韓間の合意議事録で、日韓双方ともいわゆる米国解釈に異存がないということを確認しておるわけでございます。しかしながら、この日本側の考え方、解釈というものは、昭和三十二年に初めてとったのではないのでございまして、これは結局そういう解釈が一番適当である、それが正当な解釈であるということを、いわばはっきりしたというだけのことでありまして、平和条約そのものの解釈であります。したがいまして、平和条約第四条(b)項のいわゆる米軍司令官のとった措置というものは、やはりそういう意味に解釈すべきあるというのが、そのときはっきり表に出しただけでございます。したがってその効果というものは、平和条約とともに起きているのでございます。したがって、先ほど外務大臣の申されたとおり、ほかの、たとえば平和条約第十四条に基づきます一般在外財産と同じく在韓日本財産は占領軍の手によってあるいは連合軍の手によって処分されている、日本は今受け身の立場にあるということでございます。したがって、先ほどの憲法解釈あるいは国内法上の解釈ということがそこから出てくるわけでございます。
 なお、藤山外務大臣と金韓国大使との間に結ばれております合意議事録が何であるか、条約であるかどうかということでありますが、われわれは解釈を確定したというだけのことでございまして、われわれは決して新しい要するに法律的効果をそこから生じたものではないという考えでございます。したがって、これはいわゆる憲法七十三条にいう条約ではない、政府間の、要するに方針を共同して宣明したものである、かように考えております。
○吉田法晴君 さっき、法制局長官の答弁を求めましたが……。

○政府委員(林修三君) 三十二年の十二月三十一日の合意議事録、この性格については条約局長のお答えしたとおりでございまして、これは新しい条約と解釈すべきではないのでございます。やはり平和条約第四条(b)項の解釈をお互いが、日韓両国はアメリカの解釈でやっていこうという方針をお互いにきめた、そういうものにすぎない、かように考えております。

○吉田法晴君 外務省にお尋ねをいたしますが、朝鮮にあった日本人の財産、今、いわゆる請求権といわれておりますけれども、この総額等については調査ができておりますか、あったらお示しを願いたいと思います。

○政府委員(中川融君) 先ほど杉原委員の御質問に対してもお答えいたしましたが、正確な数字が実はまだ日本政府として持っていないのでございまして、できるだけこの数字を、はっきりしたものを得たいと鋭意努力しておるところでございます。

○吉田法晴君 これは衆議院その他で要求がされておるにかかわらずなかなか出されない。平和条約締結の際に、外務省なり大蔵省で集められた形跡は十分あり、書類の一部の写し等も私ども入手しておるわけでありますが、これは早急に出されることを要求をいたします。
 それから懸案をいわばたな上げをして国交正常化のための共同宣言方式が考えられておるということですが、そうなのかどうか。本会議の質問に答えて、諸懸案を一緒に解決すると、こういう希望だけは述べられました。いわゆる李ライン問題、漁業問題、それから竹島問題等について、竹島問題については国際司法裁判所に提訴をし、その応訴を条件にして云々という話ですが、国際司法裁判所に提訴をするということは紛争を認めるということになるのですが、これに応訴をするということが保証できるかどうか。それから司法裁判所にかけて何年もかかりますが、その結果にいっても、これを強制執行をする方法はない、応訴するということそれ自身も問題があるが、竹島問題それ自身を解決する見通しが応訴だけでもないように思います。同時解決ということにならぬのではないか。どういう方針か承りたい。
 それからもう一つ。李ライン問題については、伝えられるところによると、軍事的なラインとしてはこれを容認をし、そして日韓共同事業をする。あるいは漁業施設を供与する、こういうことを含んで漁業協定を結びたい、こういうお話です。ところが、ラインは公海上に引かれたラインで、不当なことはこれは国際的にも何人にもはっきり主張し縛るところでありますが、それを認めて云々という点は、私ども国民として了承することはできませんが、このラインの問題を同時に解決をすると言われるその方向を一つ承りたい。
 それから不当なラインに従って漁船が拿捕をされ。あるいは一部艦艇に変装をされて使われたりいたしております。これらの点についての補償問題をどうするか、あわせて承りたい。

○国務大臣(大平正芳君) 諸懸案をたな上げにしておきまして国交の正常化を急ぐというようなことは、国民の納得いただける趣旨ではないと思います。私どもは、あくまでも諸懸案を解決した上で正常化をやりたいと思っております。
 それから竹島問題につきましては、たびたび当方から国際司法裁判所のほうに持ち込もうじゃないかということを先方に申し入れておりますことは事実でございます。ただいまのところ、先方がまだそれを受諾していないというのも事実でございますが、この点につきましては、先方が応訴していただけるように鋭意努力いたしたいと思います。
 それから漁業問題につきましては、李ラインというものを政府は公にも私的にもこれを認めたことはございません。政府として認めたことはございません。で、最初、李ラインというものを前提にして云々ということは、交渉の初期においてあったかのようでございますが、先方におきましても、これはやはり漁業協定というものを前提にして、資源論を中心にいたしまして日韓双方の漁業の共栄をはかっていこうというような趣旨に基づいて、今、煮詰みつつあるようでございます。したがってこの漁業協定におきまして、今までの懸案をフェアに解決するという方向で進みたいと考えております。

○田畑金光君 時間がございませんので、私、日韓会談の問題について一、二お尋ねしたいと思いますが、最近の予備会談における政府の態度を見てみますと、昨年の池田・朴会議の合理的根拠に基づく解決じゃなくして、われわれの心配したどんぶり勘定、政治的な解決に明らかに入ったと、こう見るわけです。大臣は高い次元で解決すると言われておりますが、高い次元とはどういうことですか。

○国務大臣(大平正芳君) 池田・朴会談は双方がすみやかに国交、正常化のために努力しようということと、それから、事請求権に関しましては、合理的、かつ根拠のあるものに限ろうではないか、こういうような話し合いがあったと承っております。私どもは、請求権というものを問題にする限りにおきましては、池田・朴会談で話し合われた原則に沿って、合理的、かつ根拠のあるものに限るべきだという方針を変えておらないわけでございます。しかし、第一の原則でございまする国交正常化をすみやかにいたそうじゃないかということにつきまして、請求権というもののレベルにおきまして数字を積み上げるというようなことには、実定法上の要件から考えましていろいろ問題がございますので、国交正常化を促進いたしますためには、もう少し考えようがあるのではないか、工夫を施すべき余地があるのではなかろうかという考え方を、今、先方に提示しておりますことは事実でございます。これが先方がどのように反応をして参るかということは、私どもただいままだわかりません。

○田畑金光君 大蔵大臣は、話がまとまれば結局金を払わなければならぬ立場の方ですが、大事な責任者ですが、高い次元というとどういうことなんですか。

○国務大臣(田中角榮君) お答えいたします。
 高い次元とは、今外務大臣が言われたとおり、一衣帯水であり、日韓間は特別の間柄でありますし、しかも戦後十年間以上も交渉を続けながら全然一進一退ということは、日本の立場から考えますと、できるだけ早い機会に両国の間は正常な国交関係に入りたいという考え方をさすものと考えます。

○田畑金光君 対日請求権八項目については、これは煮詰まったのかどうか。それから、四つの委員会を設けて、それぞれの問題点について話を詰めてこられたが、それは煮詰まったのかどうか。その上に立って今日の予備折衡の段階では具体的な提案をされているわけですから、そういうような合理的な処理の上から、今回の第六次予備会談に入っているのかどうか。

○国務大臣(大平正芳君) 各懸案になっておる問題、領域につきまして進展は見ておりますけれども、煮詰まったという段階ではございません。

○田畑金光君 大事な問題点の話し合いがつかないのに、すでに額を提示するということは、合理的な解決に非常に反するんじゃございませんか。

○国務大臣(大平正芳君) 緒懸案につきましてはそれぞれの委員会を設けまして、ただいま申しましたように論議が相当進展いたしておりますが、まだ煮詰まったという段階になっていないことは申し上げたとおりでございます。そこで、私どもが折衝に臨みます場合に、いろいろの懸案はございますけれども、請求権を優先的に論議しようということ、そのことは全体の懸案の取りまとめにつきまして、いわばそれに先行する要件であるように受け取れるわけでございますので、その問題に特に力点をおいて話し合いを進めるようにというのが今日の実情であります。

○田畑金光君 請求権問題の話し合いがつけば、その他の問題点については話し合いが案外スムーズに解決ができる、その他についてのめどは請求権問題のいかんにかかっておる、こういうように見てよろしいわけですか。

○国務大臣(大平正芳君) 今申しましたように、まず請求権を論議しようということでございまして、この問題について煮詰まりを見ることができれば、その他の問題の妥結ということにつきましては、事は非常にやさしくなってくるものと私どもは考えております。

○田畑金光君 昭和三十二年十二月三十一日の例のアメリカの日韓請求権に関する解釈の問題、これは先ほど杉原委員からの質問の御答弁でわかりましたが、そのようにまだ両国が、日韓両国の間において、あの解釈についての、実費的な内容について意見の一致を見ない、そういう段階において、政府が具体的な支払額を提案されたということは、これはふに落ちないわけです。そういうことでは国民が納得しないと思います。合理的な解決でないと、こう思いますがどうでしょうか。

○国務大臣(大平正芳君) 先ほど申しましたように、国交正常化ということが私どもの目的でございまして、その目的に合ったようにいろいろの手段を工夫して参ることは当然のことと思うのでございまして、しかしそういうことを進めて参る上におきまして、私どもは終始国民に御納得をいただけるような方法、手段、範囲、程度におきまして処理すべきものと考えております。

○田畑金光君 時間がきてまことに残念でございますが、とにかく今の政府の交渉の姿を見ておりますと、昨年の池田・朴会談の話し合いと大きく逸脱しておるわけです。ことになぜ――私は池田総理にお尋ねいたしたいわけでございますが、この朴政権の存続しておる間に、いうなれば民政に移る前に、なぜ解決を急がなければならないのかと、この問題です。われわれも懸案を解決して、隣国との正常化をはかることについては大いに賛成でございますが、しかし国民の納得する解決をしていただきたいということです。また大平外相が近く渡米をされますが、アメリカに行くまでに話し合いをつけたいというのが、なんともどうもアメリカに面子を立てるような、そういうような感じがしないでもないわけです。ことにまた、今回の政府の提示された額を見ますると、その中には長期借款いわゆる経済協力も、それから無償供与も、それから請求権に該当するもの、どんぶり勘定に入っておるわけです。請求権を積算してくると話がまとまらぬから無償供与も一緒に含めたのだ、そうなってきますと、当然そこに出てくるのは、賠償という性格を私は確かに持っておると思うのです、賠償。韓国側は長い日本の植民地時代に物的、精神的に非常なた苦痛を受けたから、その賠償を払うべしというのが請求権の大きな内容とわれわれは聞いておりますが、今回の政府の支払い方式あるいは金額そのものは、まさに賠償を認めたような解釈が出ておるわけです。そういうことになってきますと、将来北鮮との問題がまた出てきた場合に、二重払いの危険性等も出てくるとわれわれは見ておるわけです。さらにまた経済協力の問題も、私はあわせて提案するということは意味がわからない。韓国は経済協力は、当然国交正常化を実現した暁においてなすべきだ、こういうことをいっております。むしろ筋は、韓国の主張が通っておると思うのです。これに対して日本政府は、経済協力の問題は、長期の借款であるから、もらったと同じようなことである。こういうようなことも説明されておるように新聞では伝えておりますが、ますますこうなってきますと、国民としては理解ができない。こういう点について私たちは、隣国との国交正常化については賛成であるが、しかしあくまでも合理的な、しかも国民の納得のいく立場に立って問題の処理をはかっていただきたいと考えますが、なぜ政府は、このように解決を急がなければならないのか。
 さらに私はもう一つ、吉田委員の質問に関連してお尋ねしたいことは、当然日韓請求権の問題が解決されるならば、韓国に営々と築いてきた、かつての在留邦人、すなわち対韓請求権の問題、特に私は私有財産の問題については、先ほど大平外務大臣は、例の引揚者給付金等支給法によって処理済みだ、こういうことを言われておりますが、そういうことで処理済みだということで片づけられるのかどうか。私は池田総理大臣から明確に承りたいと思うのでございますが、少なくとも昭和二十八年十二月三十一日対韓請求権を撤回するまでは、私有財産については当然これは返還すべきだという立場をもって、皆さん方は韓国と会談をなされていたわけです。それを十二月三十一日アメリカの新解釈採用で一挙に撤回をされたわけでございます。こういう歴史的な経緯を見ましても、また私は、あの平和条約の第十四条を見ましても、結局かつて海外に残してきた私有財産というものは、戦勝国家の賠償に振り出てられておる。現実にそうなっております。賠償というのは敗戦の結果、戦争に敗けた結果生まれた現実でございますから、当然それは国民全体の負担において賠償は支払うべきだ、それを一部海外引揚者の在外財産によって処理することは、国際法の建前、憲法二十九条の精神から見ましても、これは不当である、違法であるとすら私は言いたいわけでございますが、この点について総理の明確な見解を承りたいと考えておるわけであります。

○国務大臣(池田勇人君) もう御質問の点は、ほとんど私は言い尽くしておると思います。前提がわれわれと違った考え方でおられるのでございまして、私とは並行線になると思います。
 第一の朴政権を認めるのがいかぬということは、なぜ朴政権を認めてやるかということにつきましては、もう隣国との関係で早く仲良くしたいと、こういうことです。朴政権は正当に認められておるものだということは、杉原君の質問でお答えしたとおりでございます。
 それから賠償という観念は、ないということは、たびたび、言っております。これは朴政権も言っております。賠償じゃないかという前提であなたは御質問になるが、賠償ではございません。やはり法的根拠のあるものについて誠意を持って交渉する、その法的根拠というものをどうやるか、具体的な証拠その他をあれすることは、なかなかむずかしいから、そこで誠意を持って話し合いを進めていくというのでございますから、別の観念ではない、それで金額はどうとかこうとか言いますが、これは十何年も前のことを証拠のあるものとして探したときに、今のこちらの裁判所で、ほんとうに証拠と言い得るものが、山国間で出せましょうか。それはなかなか出ないし、証拠の法的根拠の確実なものと認められるものを誠意を持ってお互いに話し合おうというのでございます。カテゴリーは同じでございます。それをすぐ賠償だと一人ぎめなさいますと、幾ら質疑応答しても際限がないと思います。
 私はあくまで国民の利益をまず第一にし、そして第二に韓国国民の利益も考えて、国交を正常化したい、こういう気持で言っておるのであります。長期借款なんかということも、これはもう、西欧諸国がどんどんやってきておるじゃございませんか。それを私がほんとうに広い意味で、両国民の幸福になるような意味におきまして、単に請求権だけにおいてやるということよりも、やはり漁業問題、法的地位の問題全般のもので、ひとつ今後の両国のあり方をどうこうしようということを話題にするのは当然だと思います。この問題は請求権だけに限るとか、漁業権だけに限るとか、そういうことは、ほんとうに誠意を持って国交を正常化するゆえんのものじゃございません。私はそういう意味におきまして、国民の納得のいくようにあらゆる努力をしています。変わってきたとか、いろいろなことを言っておりますが、私は初めの所信を変えていない、そういうつもりでやっているのでありますから、今しばらく交渉が成功するのをお待ち願いたいと思います。われわれ責任を持ってやっております。

○田畑金光君 私有財庭の問題は……。

○国務大臣(池田勇人君) これも、たびたび申しておりますように法的の関係は、ただいま申しているとおりであります。憲法二十九条に違反しているということ、これも、あなたからたびたび聞いております。そのつど答えておりまして、あなたとの質疑応答だけでも相当、数年間やっている。これはもう際限がないと思います。私は外務大臣の申し上げました気持と同じでございます。

 第042回国会 衆議院予算委員会 第1号昭和三十七年十二月十一日(火曜日)午後一時三十九分開議

【発言順】
 委員長    塚原 俊郎
 委員     黒田 壽男
 内閣総理大臣 池田 勇人 
 外務大臣   大平 正芳
 通商産業大臣 福田 一
 国務大臣   志賀健次郎
 委員     木原津與志
 外務事務官
(アジア局長) 後宮 虎郎
 委員     岡田 春夫

  午後三時五分開議
○塚原委員長 休憩前に引き続き、会議を開きます。
 昭和三十七年度一般会計補正予算(第1号)、同特別会計補正予算(特第1号)及び同政府関係機関補正予算(機第1号)、以上三案を一括議題といたし、これより質疑に入ります。黒田壽男君。

○黒田委員 きょうは、私は、日中国交回復問題と日韓会談問題にしぼって質問をいたします。私どもの党の主張は、言うまでもなく、日韓会談は即時打ち切る、日中国交回復のために努力する、こういうのが根本の主張でございますので、きょうの私の質問の全体を貫く根本精神となるものはこの考え方であります。これだけ申し上げておきまして、質問に入りたいと思います。
 最初に、ケネディ大統領の発言問題に関する政府の御解釈を承りたいと思います。
 ケネディ大統領は、去る三日、日米貿易合同委員会の日米両国代表の昼食会の席上で、次のように演説をされました。中共問題に触れたところを申し上げてみますと、中共の封じ込め政策に日本も参加してほしいという意味の注目すべき発言を行なった、新聞紙はこのように報道しております。これは、私ども日中国交回復のために大きな関心を持っており、またそのために努力をしておる者にとりましては、聞き捨てならぬ言葉でございます。きのうの本院の本会議におきまして、勝間田議員のこの問題に対する質問がありましたが、これに対しまして、首相はある程度の答弁をなさいました。しかし、質疑の場所が本会議場でありました関係上、質問者といたしましても十分意を尽くしたとは言えませんので、きょうあらためて質問する次第であります。池田首相は、ケネディ大統領の演説の内容について、格別のこともないように軽く受けとめておられるように見受けたのであります。私の考え方はあとで申し上げるといたしまして、このあたりで一応総理のあの演説に対する御解釈を聞かしていただきたい。

○池田国務大臣 私は、外務省が会談におけるケネディ大統領の発言として持って参りましたものを一応読みまして、そうして本会議でお答えしたように答弁いたしたのであります。きょうは外務大臣が来ておりますので、外務大臣が実際聞いたのですから、外務大臣から答えさせまして、もし政府の所信ならば、その次に申し上げていいと思います。

○大平国務大臣 総理大臣が申されたのは、ケネディ大統領の発言を受けた日本としては、日本がみずからの自主的な立場で考えるべき問題だという趣旨でございますが、私は、この御発言を受けたときに、このように感じたのでございます。アメリカ政府が従来中共政権に対して警戒しておりましたことは、黒田委員も御承知の通りでございます。最近のキューバ問題あるいは中印国境問題等における言動を通じましても、警戒の度を深めておったことは理解にかたからぬところでございまして、アメリカ大統領としてああいう発言をされたことは、別に不思議なことではないと思うのでございます。ただ、問題は、われわれ日本の立場でございますが、日本は、御案内のように、アメリカとの間には広範な協力関係を打ち立てておるわけでございます。軍事、経済、教育、文化、あらゆる分野にわたりまして、広範な協力関係を持っておりますが、御案内のように、軍事面でアメリカと協力するということにつきましては、国会の御承認を得て締結されました安保条約に、そのワクがちゃんときまっておるわけでございまして、それ以上のものでもなく、それ以下のものでもないわけでございまして、ケネディ発言を契機といたしまして、アメリカ側からこの改定について申し出るというようなことはないわけでございます。また、そういうことは私ども期待いたしておりませんし、アメリカ側もそういうことを考えておるわけではございません。一方、経済協力の面におきましては、かねがねアメリカ並びに先進工業国と協力いたしまして、アジア圏に対する経済協力を進めておりますことは、これまた御案内の通りでございまして、この関係につきましても、この御発言があったからというて特別の変化はないわけでございます。むしろ、私どもは、自主的に進んで経済技術協力はもっと太い構想をもって進めなければならぬとさえ考えておるわけでございまして、これからの経済協力を通じまして、アジアの低開発地域の経済開発がされまして、民主が安定し向上するような状況をつくることに御協力申し上げることが、いわゆる日本がアジアの一員といたしまして当然なすべき役割でございまして、こういうことは、すでに歴代の政府がこういう定立した政策に基づきましてやってきておることでございまして、こういった軍事、経済等の協力分野におきまして、この御発言があったからというて、これを更改して参るというようなことは一向ないわけでございます。そういう意味におきまして、このことは、私どもは特別な驚きをもって聞かなかったということでございます。

○黒田委員 私は総理に御所信をお伺いしたのでありますが、昨日本会議場でお答えになったような、あの程度の御解釈しか総理はなさっていないのでありましょうか、総理からお答えを願いたいと思います。

○池田国務大臣 ケネディ大統領がアジアにおける共産主義勢力の侵略を阻止しようという気持で話されたと、私は報告を受けておるのであります。しこうして、その気持は私も同じでございます。私は、自由国家群の国として、自由主義の立場で、共産主義勢力のアジアにおける侵略に対しましては、これは阻止しなければならぬ、同じ考えを持っておるわけでございまして、別に驚きもいたしません。それをきのう本会議で申し上げたのであります。

○黒田委員 総理に対し続いて御質問申し上げますが、その前に、ただいませっかく大平外務大臣からお答えいただきましたけれども、何ら問題の核心に触れた御答弁ではなかったと思います。実は私にとって必要でないことばかりをお答えになったと思います。だから、大平大臣の御答弁について私は何も申し上げません。
 ただいまの総理大臣の御答弁は、大体昨日の御答弁と同じようなことでありましたが、しかし、私どもには、あのケネディ演説について、すなおな読み方をいたしますならば、決してただいま総理の御解釈になったような程度の内容を持ったものとして受けとめることには納得することができません。
 そこで、私は、総理の御解釈は御解釈としまして承っておきます。私は、客観的に見て一般にこれをどう受けとめておったかということを調べてみたのでございますが、ここに一例がございますから、御紹介申し上げてみましょう。わが国の有力新聞紙のワシントン特派員が、――これは現地におったのでありますから、その場の空気はよくわかっておる。その特派員が、この演説を次のように理解して報道しております。それは、大統領が直接日本側六閣僚に、日本がもっと米外交に積極的に協力するよう呼びかけたこと、しかも、その内容を初めは秘密にしていたが、あとに公表したこと、また、その言葉づかいが昼食会のあいさつとしては異例に激しいものであったこと、さらに、数カ月後には何らかの考慮がなされることを希望していると、かなり具体的な構想を持っておるように暗示したこと、かようなことから、今日のケネディ発言はきわめて重要な意義を持つものと見られる、ケネディ大統領は相当な決意を持って意識的にこのような提案をしたものと見る向きが多い、こういうように報道しております。他の有力な日本の新聞の特派員の方々も、現地から大体大同小異の内容を持った報道をされておるのであります。このような見方からいたしましても、また、私どもがケネディ演説を読んだ上でのすなおな感じからいたしましても、この演説が、池田首相が昨日勝間田君に対し、きょうまた私に対してただいまお答え下さいましたような、そのような御答弁のように、共産主義浸透に対する資本主義国としての態度を抽象的に原理的に表明し強調したものにすぎないというように解釈することは、私にはできないのであります。それはあまりにも総理の自己主観に片寄り過ぎた御解釈ではないかと私は思います。客観性を欠いた解釈ではないかと思う。悪く言えば、ずるい答弁だ。こうまで言っては、ずるいとかごまかしとか言っては失礼になるかもしれませんが、はなはだ不親切な、少なくとも不親切な答弁である、私はそう思う。
 そこで、このような首相の御解釈からは、私どもといたしましては何らの説得力を感ずることができないのであります。大統領は、中共封じ込め政策に日本も参加してほしいとの、非常に注目すべき意味の発言を行なっておるのであります。私は、日米両国は盟友として今後数カ月後にはどんな役割を果たすことができるか、共産主義のアジア支配を防ぐためにどんな役割を果たすことができるかについて何らかの考慮がなされることを希望しておる、こうはっきりと言っておられるのでありますから、単なる一般論としての反共論を述べた、心がけを述べたというようなものとしてこれを見るべきではなく、そこに具体的な何ものかがある。具体性を持って何らかの中共封じ込め政策がやがて現われて、それについての日米協力への期待を日本にかけている、そういうように大統領は示唆したもの、私はこう解釈するのであります。この点、もう一度、私のような解釈に対しまして総理のお考えをお聞かせ願いたいと思います。

○池田国務大臣 アジアにおける共産主義の拡大を阻止するよう考えたい、盟邦としてどういうことを考えるか、これは数カ月後とお訳しになっておるようでありますが、それはある新聞が取り消しておるでしょう。将来と取り消したと思います。そこで、そういう希望を、反共のケネディ大統領がどういうことを考えたらいいだろうかということをこちらに言われることは、これはケネディ大統領の自由でしょう。しこうして、共産主義の侵略を阻止しようとする私は、一つ考えようじゃないかというときに、考えましょう、――それは、われわれ独自の考えでやるべきであって、こう言われたからすぐその線に乗って日本が国民の許さないことをしなければならぬように考えることは、もうこれは占領下と違うのでございますから、そんなにとる必要はないのじゃございますまいか。ケネディ大統領がいろいろなお話をなさるでしょうが、われわれはわれわれとして、日本の立場をはっきり考えて、そして、共産主義勢力の侵略を阻止することはわれわれとして考える。日本として考えたらどうだというお話に対しましては、それは、われわれはわれわれとして考えましょう、これでいいのじゃございますまいか。それを、言われたから今度は何とか数カ月後に処置しなければならぬと考えることは、私は日本国民の代表としていやでございます。

○黒田委員 ケネディ大統領の演説は、将来中共封じ込めのための何らかの政策が出てくる。
  〔発言する者多し〕

○塚原委員長 お静かに願います。

○黒田委員 その何らかというものの内容はわかりません。けれども、ただ一般的に将来のことを警戒する意味で言ったのではなくて、何らかのものが出てくる、そのものが出てきて、これに対する日本の参加ということを要請した、覚悟しておってくれぬか、私はこういうように言ったものと思うのです。ところが、総理は特別にそういうものではないというような御解釈のようです。私は、それではそのように承っておきましょう。しかし、総理がこういう御答弁をなさっておりますと、日本の何らかの報道機関によって、日本の総理大臣はケネディ大統領の演説をこのようなものとして受けとめておるということがアメリカに伝わって、ケネディ大統領がそれを知ったなら、おそらく失望もし、あるいは憤慨もするだろうと思う。われわれとしてはその方がよろしいのです。しかし、池田首相の解釈によって、ケネディ大統領の演説の客観的意味が変わるものではないのです。私どもが問題にしておるのはそこなのです。総理がどう解釈せられようと、ケネディはどう考えておるかということが私どもの問題である。そこで、池田首相の御解釈を聞きましたからといって、それによってケネディ大統領の演説に対する私どもの大きな不安が解消されたというように私どもは考えることはできないのであります。ことに、皆さんも御承知のように、最近ケネディ大統領はキューバ危機以来いわゆる断固たる決意をしておるようであります。アジアにおいて何をやり出すかわからないというような不安を私どもは持っておる。われわれは、ケネディ何をやり出すかわからないという不安を持っておる。そういう不安をわれわれが持っておったそのやさきに、問題のこの演説を聞かされたのであります。しかも、それは一応秘密にされておった。何もないものなら秘密なんかにする必要はありません。一たん秘密にして、それを後に公表したというような、われわれにとりましては発表方法もきわめて薄気味の悪さを漂わせておるのです。
 そこで、私は、もう少し真剣に政府の御見解を確めておきたいと思うのであります。しかし、総理の方ではあまり深く触れたくないというようなお考えのようでございますから、むしろ私の方から、こういうことではないか、こういう心配もわれわれは持っておるがどうかというように、われわれの考え方を申し上げまして、政府の御所信を聞くということでやってみましょう。
 封じ込め対策と申しますのは、これは軍事的意味のものもありますし、半ば軍事的なものもございますし、それからまた経済的なものもあります。軍事的な封じ込め対策について申しますならば、アメリカは中国に対してそれをこれから始めるというのではございません。すでに一定の規模と方法で実行しておるのであります。それにわが国も参加しておる。これは非常に重要なことである。ケネディ演説は、それをさらにいかに発展強化させるかということに関して言われておるものと私どもは理解しておる。われわれはこう解釈しております。そこに私どもの不安があるのであります。
 そこで、首相に御質問いたしますが、首相としては、アメリカの中共に対する軍事的封じ込め対策というものが具体的に現われておるというようなお考えでありましょうかどうでございましょうか。また、その封じ込め対策にわが国が参加しておるというような自覚を持っておいでになりますかどうですか。この点ちょっとお伺いしておきたいと思います。

○池田国務大臣 ケネディ大統領の発言に対しましての日本政府としての所信は、本会議で、また先ほど申し上げた通りでございまして、これは国民に対して申し上げると同時に世界じゅうに対して私は言っておることでございます。私は、これに対してケネディ大統領がとやこう言われる筋合いじゃないと思います。私の考えでございます。向こうが特定な案件について要求して意見を聞いたわけじゃございません。
 そこで、ただいま御質問の、アメリカ政府が中共に対して軍事的に封じ込めをしておるかどうかということにつきまして、私はつまびらかにいたしません。日本は、アメリカとは安保条約によりましてやっておる。アメリカがどういう封じ込め政策をやっておるかということをお聞きになりましても、私はそれに答える自由を持っておりません。

○黒田委員 私がただいま質問いたしましたことは、別に特別な専門的軍事知識を必要とするというようなものではございません。いやしくも一国の責任ある政治家であるならば常識上当然に知っておるべき事実を申し上げたにすぎません。そこで、しかし首相がそういうようにお答えになりますから、これも私の方から申し上げてみましょう。すでにでき上がっておると私どもが考えておりますところのアメリカの中国封じ込め政策がどんなに危険な帝国主義的政策であるかを指摘してみたいと思う。
 中国大陸に対する日本の帝国主義的進出は、御承知のように、第二次世界大戦争におけるわが国の敗戦によりまして挫折してしまった。そのあとに、日本にかわってアメリカが、蒋介石政権をいわゆるパートナーといたしまして、アジア地域に対する支配を確立しようと企てたのでございますが、しかし、その意図は、御承知のように、中国革命の勝利によって挫折したのであります。中国が、長い間の外国帝国主義による支配から、筆舌に尽くし得ぬ苦しい、そして激しい闘争を経て、ようやく解放された。そして中華人民共和国が出現したのであります。このとき以来、アメリカのアジア政策は、いかにして中華人民共和国を崩壊させるか、それがそこまで成功しないとしても、少なくとも中国を封じ込めること、及び中国の影響がアジアの植民地諸民族の解放運動に及ぶことを極力阻止するということに向けられてきたということは、周知の事実でございます。この政策を軍事的に裏づけるために、アメリカを中心といたしまして、米・韓国、米・台湾、米・タイ国、米・フィリピンあるいは米・南ベトナム等のそれぞれの相互援助条約という軍事同盟が結成せられました。わが日本国もアメリカと日米安全保障条約を締結しておるのであります。その上にSEATOがつくられた。このようにいたしまして、西はインドから東は日本に至るまでを連ねて、長い三日月形で中国、北鮮、北ベトナムを含めて、これを包囲する軍事網がつくられておるのであります。これはもう常識でわかるわけであります。これが、すでにでき上がっておるアメリカの中国封じ込め政策の軍事的な現象形態であると私は思う。わが国もこれに参加しておるのである。沖繩の核武装された兵器が一体どちらの方向に向かっておるか、私はこれを知らぬ日本人はいないと思う。われわれは真剣に考えておる。ところが、この包囲網も、最近におきまして、たとえばラオスでは、人民大衆の平和中立への熱望から、アメリカの勢力は敗退いたしまして、中立国ラオスができたのである。それから最近南ベトナムの形勢も、アメリカによって支持されておりますゴ・ディンジエム政権が、人民大衆の解放闘争によりまして危機に瀕しておることは、アメリカ側も認めておるところでありまして、私どもはたびたび新聞でこのことを知らされておる。そして、問題の南朝鮮でも、朴政権は世界に比類のない残酷な武力弾圧を行使することによって維持されてはおりますが、それも決して安定した政権といえないことは、日本人のだれも知っておる。かような時期に、日韓会談が朴政権を相手として今進められておるのである。これが成立すれば、韓国の軍事力と日本の軍事力とが公然と協力関係に入るということは、防衛庁の言動からいたしましても明らかであります。きょう私はこまかい軍事的問題は取り上げませんが、ただいま申しましたことは、常識上われわれがすでに知っておるところである。すでにSEATOはでき上がっておる。次はNEATOだ、アメリカはダレス以来一貫してこれを執拗に追求してきたのでございますが、このNEATOの成立によって、封じ込めば現在よりもさらに一歩前進することになるのである。ケネディの演説は、日韓会談の推進、NEATOの結成へと日本政府の政策を進めることを日本政府に期待しておるものではないかという推測を私どもは持つのである。日韓会談を推進すれば、客観的にはそうなる。それをケネディも期待しておる。この疑いは多くの国民によって持たれておるのであります。首相は、NEATO問題について、日韓会談はNEATOになるものではないということをおっしゃっておりますけれども、私は、今のように解釈すれば、日韓会談の成立はNEATOの成立になる、こう憂えざるを得ないのであります。これに対して池田総理の御見解を承ってみたい。

○池田国務大臣 東北アジア軍事同盟なんかは夢にも考えておりません。私は、そういうふうな問題から日韓会談を考えるべきじゃない、日韓会談というものは、日本と韓国との国交を正常化する、そのこと自体を目的としてやっておるのであります。

○黒田委員 それはその程度に聞いておきます。
 次に、方面を変えまして、封じ込め政策の中には経済的なものもあるわけです。これは、みずからは中国と貿易をしない、他国にもこれをさせない、こういう方法で現われてくるのでありまして、ケネディ演説に対するいま一つの解釈は、日本に対し対中国接近の危険性を警告して、当面日中貿易の伸展を牽制しようとするねらいがあるのではないかということ、これも一応懸念され、心配されるところであります。なぜこういうことを申すかといいますと、この九月に、ハリマン米国務次官補が、日米協会で、日中貿易拡大が中国の政治目的に利用されないようその危険性を十分認識してもらいたい、こういう演説をいたしまして、これは日本の識者からむしろ失笑を買った。政府もこの点についてはしっかりした態度をとっておいでになったと思う。そうみておる。しかし、アメリカの方ではこういうふうに考えておる。日中貿易の伸展をかような演説によって牽制しようとしたことは、私どもの耳にまだ新しく残っておるところであります。アメリカにはこういう考えがある。中共は現在経済不況にあえいでおるのだ、この際自由陣営が結束して中共の孤立をはかるべきだ、貿易によって中共に少しでも利益を与えるということには反対だ、こういう考え方が根強くアメリカにはびこっておる。アメリカは、日本側の最近の日中貿易拡大への努力に対しまして、率直に不愉快の念を表わしておると私どもは見ております。このときにあたってケネディ大統領のこの演説がなされたのでありますから、それがまた前述のように何か中共貿易に対して牽制でもするのではなかろうか、そういう意味ではなかろうかと受け取られるのは、私は一応十分な理由があると思います。この演説によりまして政府の中共貿易に関する態度が影響を受けるものではないと私は確信はしておりますけれども、一応念のために、政府のきぜんたる態度を一つお示し願いたい。

○池田国務大臣 アメリカにおきまして、中共に対してのいろいろな考え方があることも私は聞き及んでおります。しかし、日本の独自の考えでやるべきことでございます。中共貿易はコマーシャル・ベースによって私は進めていく考えでおります。

○黒田委員 私は、この機会に、政府の対中国政策につきまして若干質問してみたいと思います。
 政府は、現在朝鮮の一部にすぎない南朝鮮の朴政権と国交正常化の会談を進めておられますが、私どもはアジアの大局から見、日本の将来百年の大計を考えるなら、中国との国交回復、日中間の国交の正常化に向かって努力することの方がむしろ先決問題である、こういうふうに考えております。この方が日本の経済の発展のためにもアジアの平和のためにも、冷静に考えてみて大いに役立つ、こう思う。何ゆえに中国との国交回復に向かって努力をしなければならぬかということにつきましては、今さら説明を要しないほど明白なことでございますから、省略させていただきます。わが国からその国に向かって侵略戦争をしかけましたその中国に対して、国交回復の実現ということは、わが国の自由な意思にまかされておる事柄ではなくて、むしろ法的に考えても道義的に考えても、それはわが国にとって、国際的な義務であり責務であるというように私どもは真剣に考えておる。しかるに、戦後数十年を経ました今日まで、日本の政府といたしましては、日中国交回復への努力としては、ほとんど何一つとしてなさなかった。この間、日本と中国との友好関係のきずなをつないで参りましたのは何か、政府の政策に抗しながら、民間の団体や個人、私どもの所属しております社会党などが、経済的に文化的に、また政治的にこのきずなをつないできたのであります。これが事実だ。最近に至りまして、しかし多少変わった傾向が出て参りました。政府与党の有力な議員であります松村さんや高碕さんが、中国との間に友好的な会談を行なわれました。私どもは両氏の御努力に対しまして高くこれを評価し、感謝します。これは貿易問題を主としたものでありましたけれども、しかし私は貿易と政治とはそう簡単に分離することはできないと思う。また、松村、高碕両先輩は政府与党の有力者でありまして、池田首相と十分了解を取りつけられながら中国を訪問されまして、その成果につきましても政府に報告されておるという手続がとられております。また、それだけでなくて、高碕氏の締結して参られました協定につきましては、その実現が政府機関の態度と直接のつながりを持つというような点におきましても、両先輩と中国指導者の共同発表や協定は、従来の民間団体等による日中交渉とは異なった、特殊の重要な意義を持っておると私は理解いたしております。そしてこの共同発表や貿易協定について、それが日中国交正常化の方向に向かって動くか動かないかということは、一に政府の態度いかんにかかっておると思うのであります。
 そこで、きょうは時間の関係もございますから、あまり経済問題をこまかくはお尋ねいたしません。ただ二、三根本的と思われます事項についてだけお尋ねしてみたいと思います。第一に松村氏と周恩来首相との会談に関する共同発表というものがあります。これに関連した質問をしてみたいと思います。
 九月十九日の新華社の報ずるところによりますと、松村・周会談の内容は次のように報じられております。「周恩来総理と陳毅副総理は自由党顧問松村謙三氏と十六、十七、十九日の三日間にわたって友好的かつ率直な会談を行った。中国側は政治三原則、貿易三原則、政経不可分の原則を堅持することを重ねて表明するとともに、これらの原則は引き続き有効であると認めた。双方は、貿易をさらに促進し、発展させたいとの願いを表明した。双方は漸進的かつ積み重ねの方式をとり、政治関係と経済関係をふくむ両国の関係の正常化をはかるべきであると一致して認めた。」これが共同発表の全内容であります。きわめて簡単な共同発表ではございますけれども、そしてまた表現が相当抽象的ではありますけれども、しかし日中国交正常化という観点から見ますと、非常に重要な問題点を含んでおるように私には考えられるのであります。
 この共同発表に関して御質問申し上げたいと思いますが、その前に、これはあえて御質問申し上げる必要はないと思いますけれども、首相は松村氏からこの共同発表について報告をお受けになっておられると思いますが、念のために御質問申し上げてみます。また、その共同発表の報告をお受けになっただけでなくて、これをお認めになられたことと思いますが、この点につきまして、事実関係のことですからお聞かせ願えればけっこうだと思います。
○池田国務大臣 松村さんの中共訪問に対しましての報告は、一応簡単に聞きましたが、共同発表云々のことは聞いておりません。従いまして、共同発表を私は是認した事実もございません。

○黒田委員 私が非常に感心しておりますのは、松村さんが必ず池田首相と、ちゃんと了解を得、連絡をとって、礼を尽くした態度で中国問題につきまして終始して行動しておられるということであります。これは私も非常に感心しております。その松村さんが中国からお帰りになっての御報告の中で、その共同発表を首相に特にお示しにもならず、首相もこれをごらんにならなかったということは、私は実はこのことをただいま承って、非常に意外に考えます。これはしかし非常に重要なことでございます。日本の総理大臣は、松村さんの努力して参られました共同発表を知らない、これは日中関係を判断する上におきまして非常に重要なことであります。私はむろん知っておいでになることと思っておりました。そこで、知らないとおっしゃいましても、先ほど申しましたように、大体読めばすぐわかるような非常な簡単な常識的なものでございます。ただ含んでおる問題の内容は非常に重要なことだというように考えます。
 そこで、読んでおいでにならぬとおっしゃいますけれども、一応御質問申し上げますが、「中国側は政治三原則、貿易三原則、政経不可分の原則を堅持することを重ねて表明するとともに、これらの原則は引き続き有効であると認めた。」こういうようにあります。総理としまして、政治三原則とか政経不可分というような原則につきましては、どのようにお考えになっておるのでございましょうか。これは、この共同談話を離れてもお答え願えることだと思いますので、しかも、これは非常に重要な問題でございますから、お考えをお聞かせ願いたいと思います。

○池田国務大臣 従来からいろいろここで御質問があり、答えておったのでありますが、私は、政治と経済とは別で取り扱う、従いまして、中共を承認しなくても経済は進めていってもいい、こういう考えで進んでおります。
 それから松村さんとの会談は、いろいろ口頭で聞きました。そのときに、前の日にはそのことは出なかったようでございます。そして、こちらのある放送の分が、それが出なかったというのがいったものだから、二日目にはかなりそれが出たというようなことを聞いております。そういう話はいたしましたが、こういう共同声明をしたということは私は聞いておりません。

○黒田委員 その点は別にしつこくお聞きするほどのことでもありません。知らない、報告を受けなかった、とおっしゃるのでございます。それはまあそれで、事実をお答えいただいたものとして、これをそのままに承ってます。
 それから政経不可分ということにつきましては、可分論のお答えであったように思います。中国側が政経不可分と言っておりますのは、決してそうむずかしいことを申しているのではない。事実といたしまして、たとえば安保条約体制というものがあって、またアメリカと日本との関係において沖繩にも非常に強力な核武装地帯ができていて、それが中国に向かってその威力を示威しておる。日本本土にも、安保条約によりましてアメリカの基地がたくさん作られておる。それがどこを目標とする基地であるかということは、常識上すぐにわかることであります。こういう状態が一方にありながら、他方では貿易上の利益だけを得ようというような態度では、ほんとうに善隣友好の関係を打ち立てることにならぬではないか。現在の状態のもとで、直ちに自民党政府に向かって安保条約を破棄しろなどということを中国も要求しておるとは思いません。しかしながら、できるだけ政治的にも努力をして、中国との間に友好関係を回復する方向に向けての誠意のある努力を始める。いろいろな客観的諸条件のもとで、百パーセントそういう態度を示すことができないとしても、できるだけ誠意を示す、その誠意の表われと日中貿易の促進というものは両立する、こういうように中国では考えておると思います。それが政経不可分である、むろん中国は、私ども社会党などに対しましてはそういうことは申しません。もっとしっかりやれ、やるべきじゃないか。われわれも中国に向かって、やろうじゃないか、しっかりやれ、アメリカ帝国主義に対して解放のために努力しようじゃないか、お互いにしっかりやろうじゃないか、しっかりやれという考え方です。各自がその国の独自性に基づいてアメリカ帝国主義の政策と戦う、こういう関係のあることを社会党などとは中国は語り合います。けれども、まあ自民党に対してそこまでのことは言いません。そこまでのことは言いませんが、しかし中国に対する関係が今までのような態度でいいんだというように考えながら、貿易上の利益だけは得ようというような、そういうことは中国としては許さない、そう考えている、こういう意味であると私どもは考えます。で、私どもは、さき述べた原則は当然に認めるべきものであると考えますけれども、池田首相は政経不可分の原則は認めない、こういうようなお話でございます。これは、しかしそういうように平気な顔で言うて済まされるような問題かどうか。ほんとうに中国と貿易をやろうと思えば、同時にまた政治的にももっと前向きに考うべきところがなければならぬ。これは私は政治家の常識だと思うのです。これは決して過大な要求を向こうがしておるというわけじゃないと私は思う。誠意の示し方というものは、いろいろの限度においてあり得るものでございます。そこが人間と人間との関係だ、そういうように私は考えます。総理のお答えは、非常に私は残念に思いますけれども、これ以上申しましても、同じことを繰り返すだけと思いますので、もうこれ以上は申しません。
 それからもう一つ、これも押し問答になるかもわかりませんが、共同発表の最後の部分にこう書いてあります。すなわち「双方は漸進的かつ積み重ねの方式をとり、政治関係と経済関係をふくむ両国の関係の正常化をはかるべきであると一致して認めた。」これは「双方は」という主語でこういう結論が出ております。この点も私は松村さんから首相に御報告があったことと思います。形式的に文書をお読みにならなかったとしても、話の中で政治的及び経済的、漸進かつ積み重ね方式というやり方で日中両国関係の正常化をはかろうではないかという意見の一致を見たというような御報告は、お聞きになったかどうか、念のためにお伺いしたいと思います。

○池田国務大臣 共同声明として、私は説明を受けた記憶はございません。ただ、松村さんの考え方として、そういうふうなお考えはあるやに私は想像できます。しかし、その説には私は必ずしも賛成するものではございません。貿易の方では、積み重ねということは、行かれる前にも聞いております。政治問題を積み重ねで、日中の将来を政治的に、何といいますか、承認し合うというふうなことは、日本政府といたしましては、国連においてああいうふうな決議がございます。また蒋介石政権、台湾政府を承認しております関係上、これは日本の世界的立場といたしまして、今積み重ね方式で政治的のあれをやっていくということについて、直ちに私は賛成できないわけでございます。松村さんの意向としては、そういうことがあるのではないかというぐらいのことは私も想像できますが、政府としては、今のところそういうことは考えておりません。

○黒田委員 賛否はいずれにいたしましても、首相のお考え方それ自体は、私どもはっきり承ることができました。(「けっこうじゃないか」と呼ぶ者あり)けっこうではないと思う。私どもははなはだ遺憾に思います。しかし、お答えとしてははっきりしておりますから、これ以上繰り返しません。そこでただいままでの質疑を通じまして、私はもう少し松村さんの御努力が首相の胸の中にもしみ込んでおるのじゃないかと思うて、期待しながら御質問申し上げたのですけれども、はなはだ残念でありました。
 そこで、政治問題はその程度に打ち切りまして、日中貿易の問題につきまして一点だけ御質問を申し上げておきます。きょうは私はあまり技術的な問題には入りません。
 政府の日中貿易に対する積極性の尺度となるものとして、私どもの常識上、延べ払いに対する政府の態度いかんということがあると思うのでございます。外務省は、新聞の報ずるところによりますと、高碕訪中使節団による貿易協定は、信用供与が大き過ぎるという批判的なまなこをもって見ておるというように伝えられております。日中貿易につきまして、アメリカ側の見解も先般の経済貿易の合同委員会で、閣僚の中でも通産大臣は十分お聞きになってお帰りになったことと思います。日米経済委員会も終わったあとでございますので、この際中共貿易につきまして、特に延べ払いという問題につきまして、これは通産大臣から、お聞かせ願いたいと思います。

○福田国務大臣 お答えを申し上げます。
 先般の日米貿易経済閣僚会議に参りまして、こういう日中貿易の問題について、特に何も話があったわけではございません。従ってまた、この間の会合があったからといって、政府としての態度は何も一つも変わっておりません。われわれといたしましては、総理からもお答えがございました通り、政治と経済は分離して処理をしていくという考え方に立ちまして、そうして高碕さんがおいでになるときに、政府としてはこういう問題はどういうふうに考えるかというようなお話がございましたので、それについての御意見は申し上げておきました。その後帰っておいでになりまして、一応の案を承っておるのでありますが、これにつきましては、ただいま政府部内におきまして事務的にいろいろ研究をいたさせております。そうして、当初私たちが申し上げました方針に基づいてこれを処理していく方針でございまして、延べ払いの点につきましては、たとえば硫安等については、一年とか一年半とかいうような一応の話をいたしておりますし、塩安の問題につきましては、一年あるいはその前後というお話をいたしておりました。それから、鉄鋼、農機具等につきましては一年半前後というようなお話を申し上げておりましたので、この線に沿って、おきめになった問題等もよく具体的な内容を研究いたしまして、そうして前向きの形でこれを処理していくということについては、いささかも方針を変えておりません。

○黒田委員 そうしますと、私の方から一点だけ簡単な数字を出して、一応のお答えを願いたいと思います。この延べ払いという問題につきましては、これはいろいろと議論がございまして、ヨーロッパ諸国の中国貿易に対する態度というようなものを、日本としても相当に参考にすべきだというような議論もあります。先日イギリスを訪問されました経済使節団のお話によりますと、イギリスの中共に対する延べ払いの供与は、最長五年のものもある、英国の中国貿易に対する態度、特に延べ払いの条件などは、日本で想像しておった以上に積極的なもののようであると見てきた、こういうようなお話をされておるのでありまして、具体的に五年というような数字が外国でも出ておるのでございますが、これはただいま通産大臣のお話しになりました数字と少し離れた数字でございます。政府のお考えとしては、こういうところまでいくような部門もあり縛るかどうか、そういう問題につきまして、念のために聞かしていただきたいと思います。私どもとしては、英国がやるくらいのところまではこっちもやるというくらいの積極性を持って中共貿易に取り組んでいくべきだ、こう考えておりますが、これは簡単な御答弁でけっこうでございます。御質問申し上げます。

○福田国務大臣 その問題につきましても、いろいろ政府として調査をいたしておるのでありますが、実は、いろいろな品物につきましても、具体的にこうであるという内容をつかむことが非常に困難でございます。しかし、総理が前々から申されております通り、中共貿易につきましては、やはり西欧並みというようなことでやっていけばいいじゃないか、こういうお話でありますので、ただいまのお話を聞いておりますと五年でやっておるという例があるということでもございますが、この機会でなくても、もし具体的におわかりのことがありましたらお教えを願いたいと思います。

○黒田委員 貿易問題につきましては、きょうはこれ以上触れません。別な機会に他の委員によりまして十分専門的に御検討願いたいと考えております。
 そこで、私は、今度は話題を変えまして、日韓の正常化の問題につきまして若干の御質問を申し上げてみたいと思います。
 最初に、私の方からの見方を申し上げてみます。その中に結論として質問が出てくるわけでございます。なぜ政府は日韓正常化を急いでおるのか。これは私どもの見方でございますから、参考のためにお聞き願っておきたいと思います。
 御承知のように、アジア、極東地方におきまして、南ベトナムのほか、いま一つ危機の焦点と見られておりますのが問題の南朝鮮であります。最近の南朝鮮は、どういう情勢によって特徴づけられておるか。これは相当客観的な調査だと考えられるものを見て申し上げるのでございます。相当詳しくわかっておりますけれども、時間の関係がございますから、簡単に申し上げてみたいと思います。
 第一は、国連軍という名のアメリカの軍隊は、朝鮮においてその体制をますます固めておるということであります。それから、これも最近帰ってきた、これは公平にものを見てきた人の話として聞きましたが、経済情勢は非常に悪い、大衆の生活は極度に貧窮しておる、前途の暗い感じを抱いておる、こういう話でございました。そのために、また、南朝鮮人民の朴政権に対する不信の念も高まってきている。従って、政治危機が深化しているように見える。その中で言論その他の基本的人権に対する弾圧は依然として続いておる。こういうところが特徴的なものだ。これは、私が他の人から聞きましたり、読んだりいたしまして知ったところでございます。これらの一つ一つの事柄について、その内容は相当詳しくわかっておりますけれども、これは省略することにいたします。
 こういう韓国の状態であって、ことしの夏以来アメリカが日韓交渉の早期妥結ということに対し私どもから見ると非常に力を入れ出したように見られますが、それはどういう理由があるか。これは南アジアあるいは極東における事態からそういう態度が出てきておるのだと思います。東南アジアにおきましても、先ほども申しましたが、南ベトナムでは、いかにアメリカが金や兵器を供給いたしましても、人民の心をつかむことができない。そのために、武器や兵力を供給しても、絶えずゴ・ディンジェム政権は脅かされているというような状態で、今ではアメリカ兵自身が戦争の前面に出てきておるというようなことも聞いております。テレビで見ると、アメリカの軍人がずいぶんたくさん南ベトナムで行動しているのを私ども見せられているのでありまして、これは非常に深刻な情勢である。その上に、さらに南朝鮮も楽観できないというようなことになって参りますと、アメリカとしましては致命的になる。こういうところに、アメリカが日韓会談を急がせなければならぬ情勢がある、私どもはこう情勢を分析しております。日韓会談というものが、決して政府のお考えになっておるような簡単な両国の国交正常化ではない、条約の表面に現われてくるような、諸問題を拾い上げてそれを集めたもの、これが問題の全部だというような、そのような問題ではないと私は思います。日韓会談が成立いたしますれば、現在アメリカの軍隊のもとに韓国軍隊は置かれておるのでございますが、これは当然日本の兵力との結びつきができる。これは韓国における軍事力を強化することになるのでありまして、こういうことがアメリカによって考えられておると思います。防衛庁はこのことをお隠しになっていないようであります。もっともこれは新聞が報じたところでございますが、こう言っておる。日韓交渉が年内にも妥結する見通しが強くなってきたので、純軍事的立場から日本と韓国の相互関係を検討して、正常化後には、軍事協力、ソウルには駐在武官を置く、防空共同作戦体制を固めるのだ、こういうように言っておる、そう報道せられております。ここに、国交正常化後の日本と韓国との間に軍事協力の線が明瞭に打ち出されてあるのであります。かようにいたしましてNEATOというものが成立してくるのだ。形式的に申しますれば、日本と韓国との間にも相互防衛条約が締結せられませんと、完全なNEATOと申すことはできないかもしれませんが、しかし、実質上は協力関係ができ上がってくる。その協力関係が確立されるということになりますれば、実質的にNEATOの成立と言い得られると思います。
 私どもが日韓会談の進行に反対しておりますのは、日韓会談がこういうものを生む、NEATOをねらっておるのだということ、これが私どもの党が日韓会談に反対いたしております大きな理由になっております。こういう事実関係が発生するものであるかどうかということですね。NEATOという言葉を使うか使わないかということは、これはどちらでもよろしいが、こういう事実関係が発生するのだということにつきまして、政府の見方を聞かせていただきたいと思います。これは防衛庁長官でもけっこうです。

○志賀国務大臣 日韓両国の国交が正常化された場合のことについてのお尋ねでございますが、もとより、日本と韓国は、歴史的にもまた地理的にも非常に深い関係のあることは御案内の通りであります。従って、韓国の安全を望むことは当然でございますが、軍事協力するかどうかということにつきましては、さいぜん池田総理から明確に答弁せられておる通りでございます。従って、防衛庁長官として、今日まで、韓国と国交正常化の暁におきまして軍事協力をするかどうかということは、一回も私は考えたことはございません。また、研究いたしたこともございません。
 また、ただいまお尋ねの防衛駐在官でございますが、これまた同様に、私は全然考えたことはございません。(「予算要求をしているぞ」と呼ぶ者あり)御承知の通り、現に世界の七カ国に防衛駐在官を派遣いたしておるのでございますが、韓国が正常化した後において防衛駐在官を派遣するということは、現在少しも考えておりません。さように御了承願いたいと思います。

○黒田委員 ただいまの防衛庁長官のお話は、私は、残念ながら全部が全部――こんなことを申しましてはなはだ失礼でございますけれども、承服しかねるのでございます。これはまた別の機会にもう少し詳しくお聞かせいただきたいと思います。実際上はいろいろな形において日韓の無事的協力はすでに行なわれております。きょうは一々その例は申しません。私どもその事実を知っておるのでございます。そこへもってきて、ここでNEATO体制の成立、私どもはこう考えるわけであります。これが私どもの日韓会談に反対する大きな理由の一つになっております。
 それからいま一つ、特にこれは日本国民としましてよほど考えておかなければならぬことと思いますので申し上げておきます。南朝鮮へのわが国の資本の進出と日韓会談というものにはどういう関係があるのかということについてであります。私が申すまでもなく、わが国の資本主義は、戦後、敗戦の打撃から復興の過程を経まして、その後目ざましい経済成長を遂げて、生産力も非常に発展して参りました。そこで、これは資本の当然の論理といたしまして、海外へという考え方が起こってくる。これはもう当然のことであります。わが国は、経済的にも、軍事的にも、外交的にも、アメリカに対する従属関係を脱し得ていないのでございますけれども、そういう状態のもとにありながらも、わが国の独占資本は、独自の力で、アジア極東地域への経済的進出を資本の論理として当然に考えているのである。また、最近は、御承知のように、あまりにも急速な設備投資で生産能力がふくれ上がっております。そこで、どうしても貿易ということにつきまして従来以上に真剣に考えなければならぬ事情が出てきている。中国貿易あるいは日ソ貿易というようなものが現われた客観的事情は、こういう資本の事情の中にあると私は思うのであります。ただ、そこに、先ほども申しましたように、アメリカというものがあって、ソ連あるいは中国との貿易に対しましては、これは、何と申しましても相当な牽制をしようとしている。そこで、当然南朝鮮に対する資本の進出ということが考えられるようになってきておるのでありまして、こういうところにも日韓会談が急がれておる理由があるように私は思います。だが、これは非常に重要な問題を含んでいることでございますが、もし日本において、日韓会談の成立を機会に再び独占資本の南朝鮮への再進出という考え方でコースを進めて参りましたならば、これは大へんなことになる。私は、最近韓国を見て帰った人から聞いたことでございます。日本人としてこのことについて大きな認識不足があると思うのでございますが、日本の三十有余年間の朝鮮に対する帝国主義的植民地政策に対して、これは南朝鮮の人についての話でございますが、北も同様だと思いますが、これに対しては非常に大きな怒りと憤慨の念を抱いておるとのことであります。だから、日本の資本主義がまた来るのじゃないかというようなことについては、驚くほど敏感に警戒の目をもって見ている、こういう話を私は聞かされました。再び、日韓会談を通じまして、朝鮮に対する資本主義的、帝国主義的支配を打ち立てようというようなことを絶対に考えてはならぬと私は思う。せっかく植民地から独立いたしました朝鮮です。北であろうと南であろうと、私どもは朝鮮の人々に対しましては心からの友好精神を持っておるのでありますが、再び日本が独占資本の進出によって朝鮮で大きな誤りを犯してはならない。このことは特に日本人として考えなければならぬことでございます。私どもの見るところによりますと、無反省に資本の利益という立場から南朝鮮への再進出が考えられておるように思われます。日韓会談の成り行きをこのままに放置しておきますと、必ずそういう現象が強く出てくる。しかし、これは日本としては、してはならぬことである。日本の多くの人々に、総督府統治期間中に日本人のやりましたことに対する反省が足りないと思う。こういう独占資本の画進出が必ず行なわれると私は思います。日韓会談をこういうものにしては、朝鮮民族に対し日本国民として友好の立場をもって国交の正常化を実現するということには断じてならない。これを私どもはおそれます。けれども、これは実際に行なわれようとしておる。こういうことからも、私は、池田政府の方針のもとにおける日韓会談促進には断固として反対せざるを得ません。私どもは、朝鮮に近い国の国民といたしまして、南であろうと北であろうと、朝鮮の人民とは、ほんとうの意味において、日本による植民地時代の政治に対する根本的な自己反省の上に立って、友人としてつき合う、そういう正しい関係において国交を回復したいというのが私どもの考えでありますが、どうもそういう心がまえが政府にはできておりません。こういう点におきましても、私は、日韓会談の現在のやり方に対しましては反対せざるを得ないのであります。
 それから、私はもう二つ三つ御質問申し上げたいと思います。朝鮮南北の統一ということであります。朝鮮との国交正常化に対する私どもの根本的な態度は、朝鮮の南北の統一が完成せられた後に、その統一朝鮮との間で国交の正常化を実現すべきである、これが私どもの考え方であります。朝鮮の一部にすぎない韓国との国交正常化は、南北朝鮮の統一を阻害するものでありまして、朝鮮民族に対しまして非常に大きな不幸をもたらすものであると私は考える。この点も案外日本人はむぞうさに考えておりますけれども、私は非常に重要な問題だと思います。私どもがこういうように申しますと、南北の統一というようなことを言ってみたところで、近い将来にそういうことが実現できる見通しは少ない、こういうように言う人があります。しかし、私は、こういう考え方の中には非常に大きな欠陥があるように思う。それは、現在、朝鮮人民全体が、思想の相違を越えて、南と北との考え方の相違を越えて、朝鮮民族の統一ということを最大の願望としておりまして、その実現のためにどんなに苦慮しておるかということを私どもは知っております。私どもがそういうことを知らぬか、あるいは知っても知らないようなふりをするというようなことでありますならば、これは日本人として、隣国たる朝鮮人民に対し真にその幸福を思うゆえんではないと私は思います。私どもが何よりも尊重しなければならぬことは、朝鮮民族のこの統一への民族感情である。これはおそらく私ども日本人が想像できないほどの強さでこの統一への民族感情というものが抱かれておるようであります。この実に根強い民族感情をわれわれ日本人が見抜くことができないで――いわんや、われわれ政治に関係しておる者がこれを見抜くことができないで、この民族感情を無視して、この朝鮮民族の最大の願望を無視して、統一の妨げとなるようなことをいたしますならば、日本民族と朝鮮民族との間の真の友好関係の成立を破壊するという大きな誤りを犯すことになる。こう考える。歴史家の私どもに教えてくれたところによりますと、朝鮮の歴史の著しい特徴、それをこう指摘しております。それは、遠い昔から外国の圧迫を受けながら、常にそれに抵抗して、今日に至るまでその民族的団結を失わなかった、そういう点にある、こう指摘しております。統一の見込みがないとか、むずかしいとかいうようなことを言っておりますのは、これはたとえばアメリカもそういうことを言っております。あるいはまたそのかいらい政権である朴正煕一味もこういうことを言っておりますが、そういうことを言う者は、朴正煕のように力をもって統一を妨げておる者である。そういう者が統一がむずかしいと言っておるのである。自分で統一を乱しながら、統一がむずかしい、むずかしいと言っておるのであります。これが真相である。私ども日本人としてこれをまねてはならぬ。われわれは朝鮮の内部におるものではございませんから、統一をみずから進める力はございません。しかし、少なくとも朝鮮の外におる私どもといたしまして、統一を妨げておる外からの力を除くために努力する、せめて外から統一を妨げるようなことをしないようにすることだけは、最小限度といたしまして日本国民として断じて守らなければならぬことだと私どもは痛切に考えておるのであります。この努力をすることが両国人民の真の友好を促進することになるのでございまして、これを妨げながら――結果において客観的にこれを妨げることになるような仕事をやりながら、国交の正常化を実現するなどと言ってみても、それは真の国交正常化にはならぬ。現在進行中の朴政権を相手としての日韓会談は、朝鮮民族の統一を妨げる者を相手としてやっておる会談なのでございますから、このような日韓会談を進めることは統一阻止に協力することになる。このことは明々白々であります。統一の見込みがないなどと申しておる者は、もう一度事実を振り返って見ればいいのです。朴政権が出現する以前に、いかに朝鮮の南の部分におきましても統一の機運が盛り上がっておったかということを、もう一度顧みる必要があると私は思う。これを抑圧するために、民意によらないで軍事力、クーデターによって成立したのが朴政権だったという事実を、もう一度顧みるとよいと思う。このファッショ的な力と、これをバックするアメリカ帝国主義の軍事力が朝鮮民族を分割しておるということは、これは疑いのないところである。朴政権を相手とする日韓会談は、この分裂の力、分割の力に利益と援助を与えようとするものであります。意識的にどう考えようと、結論においてそうなる。われわれは統一のために力をかすべきでありまして、分裂を固定化する日韓会談には断じて賛成することができないのであります。
 もう一つ朝鮮のことを考えてみなければならぬ。それは朝鮮の地理的関係、資源配分の関係から申しましても、南北を合わせて一つの朝鮮にしなければ、せっかく国際条約で独立を認められましても、真の意味において新しい独立国として自立することができないという一つの自然的、運命的条件のもとにあるわけであります。こういう朝鮮をしいて二つに分けるということに外部から加工するということは、いわばなま木を裂くような残酷さをあえてすることになると思います。長い間朝鮮民族を植民地民族として搾取して参りましたわが国は朝鮮の分裂に力をかすというような誤りを再び犯すことは断じてしてはなりません。日本人の中には、朝鮮統治時代に何かいいことをしてやったというような考えを持っておる者がある。ついこの間も、ある大学の教授が京城でそういうことを言いました。朝鮮人は、彼は日本帝国主義の密使として潜行した者である、こう言うて怒ったそうであります。日本が朝鮮統治時代に何かいいことをしてやったというようなことを言うと、徹底的な反撃を受ける。過去の三十六年間の植民地時代の苦難に対する朝鮮民族の怒りの感情はこれほど熾烈なものであるということを私どもは知らなければなりません。
 NEATOの問題は答弁を聞きましたので、その後で触れました二つの問題につきまして、総理の御所信を承りたい。私は総理がこのままで日韓会談を進められますなら、将来に至って今日を顧みて、首相は朝鮮の分裂に加工した政治家であったということになりますぞ。私はそう考えます。どうですか、一つお考えを聞かせていただきたいと思います。

○大平国務大臣 長時間にわたりまして、日韓国交の評価につきましての御提言を拝聴いたしました。私どもはNEATOを考えておるものではないということは、たびたび申し上げておりまして、黒田先生がよく御存じの安保条約というのは、日本とアメリカとのバイラテラルな協力規定でございまして、これは、決してNEATOというようなものをそもそも考えられるような構成になっていないことは、御案内の通りでございます。
 それから南北の統一は、南北両政権におきまして、それぞれ統一の方式においてまとまっていないということは、あなたが御承知の通りでございまして、私どもも朝鮮民族の統一を希求することにおきまして人後に落ちないわけでございますけれども、遺憾ながら、朝鮮半島の自体の問題として統一方式がまだ帰一していないということでございまして、私どもが日韓交渉をやるから統一を妨げておるなんということは、私どもに不当な責任を転嫁されるものだと思いまして、私どもはそれに承服できません。
 それから経済協力の問題につきましては、私どもは朝鮮だけでなくて、アジア地域全体にわたりまして、できる限り経済の協力を進めていこうという態度をとっておるわけでございまして、朝鮮は例外でないわけでございます。従いまして、私どもはいつも申しております通り、南北の朝鮮を、その悲願が成就するまで今の不自然な状態に放置しておいていいかと考えますと、そのように考えないということで、今努力をいたしておるわけでございます。

○黒田委員 多少私も反論したいところもございますけれども、時間も迫っておりますので、ただいまのことは、これを承っておくことにいたしまして、もう少し先に進んでみたいと思います。
 請求権の問題について承りたいと思います。本来請求権問題というのは、全朝鮮を日本が相手にして解決すべき性質のもので、その利益を受ける者があるとすれば全朝鮮の人民である。こういう性質の問題でございます。講和条約においてはそういう規定になっております。しかるに、全朝鮮人民を朴政権は代表していないだけでなくて、南朝鮮の人民をすら合法的には朴政権は代表していないのでありまして、こういうものを相手にして請求権問題を解決するということは、講和条約の精神にも反するし、民主主義にも反する。私は、かような不法なことをやるべきではないと考えます。これだけ申し上げておきまして、もう少し私の考え方を申し述べてみたいと思います。
 私は、朴政権は日本と条約を締結する当事者としては適格性がないと思うのであります。それは、朴政権は朝鮮人民の自由なる意思に基づいてつくられた政権ではないからである。かりに朴政権と日本政府が協定を締結したとします。南朝鮮で一体朝鮮人民が、朴が締結した協定の賛否を意思表示する機関がありますか。そんな権利は与えられていない。日本ではそれがある。内閣が締結いたしました条約を、私どもが国会で賛否の意思表示をすることができるだけの民主的制度になっております。南朝鮮にはそれがない。朴政権がきめればきめただけで終わりです。人民がどう考えておりましょうとも、その賛否の意思を合法的に表示する手段が与られておりません。こういう状態のもとにある政府を相手に条約を締結するなぞというようなことは、日本国として慎まなければならぬ、差し控えなければならぬと思う。逆に今やれというような、今のうちにやれというようなことで、かりにも急いでやるということをするのは、これはもっての外のことであります。今、朴とやってみても、それは朝鮮人民の意思を問わずしてできた協定でありますから、かりに後日になって民主的代表機関ができて、朴のやったことは知らぬのだと言われたら一体どうなるか、私はそう思う。このような不安定な協定を日本政府は締結すべきではない、もっと慎重にやらなければならぬ、こう考えます。来年になってどんな政権ができるかわかりません。私はまずこれについて政府の御見解を聞いてみたい。

○大平国務大臣 朝鮮半島全体を代表する政権として私どもは交渉を持っておるわけではございませんで、たびたび本議場を通じても申し上げております通り、現に支配する地域ということで進めておるわけでございます。
 それから朴政権の性格論でございまするが、これは、それぞれの国に、政権のおい立ちはいろいろの過程があったわけでございます。ただ、私どもは、最小限度各国の憲法の規定によりまして、政権の継承があったと見ておるわけでございまして、国連におきまして、その支配する地域における唯一の合法政権であるという決議がありますことも御案内の通りでございまするし、五十一カ国がすでに承認をいたしまして、正常な国交関係を持っておる国であるということ、並びに、きのう本会議で申し上げました通り、この政権が、暫定政権として、明年夏を期しまして民政に移管する手順、準備を着実に進めておるという事実を指摘するにとどめたいと思うわけでございまして、私どもは、今のような不自然な状態をいつまでも放置するということは、国民に対して責任を負う政府としてやるべきことじゃございませんので、誠意をもちまして、できるだけこの正常化を進めたいと存じておる次第でございます。しかし、私どもは、特に急いでおるわけでもなく、特になまけておるわけでもございません。問題は、国民の納得いくような条件におきまして正常化が可能かどうかということにつきまして鋭意検討し、努力を続けておるということでございます。

○黒田委員 講和条約に関連した問題につきましては、あとでいま一度御質問申し上げたいと思います。
 それから、朴政権の条約締結の適格性につきましては、私どもは民主主義者として、下からものを見る。政府は上からものを見ていて、それは形式論です。私はただいまの御説明で納得はしません。朴政権のようなものが他の国と一国を代表して条約を締結する資格があるものとは、私どもは絶対に考えない。これだけは、はっきりと申し上げておきます。
 そこで、請求権の問題でありますが、これは、いろいろと新聞にも報ぜられておりますし、私どものような新聞によってだけしか知り得ないような者にとりましては、平たい言葉で申しますと、さっぱりわからぬ。一つ今日までの経過をできるだけ詳しくお聞かせ願いたいと思います。

○大平国務大臣 請求権問題は、国交正常化にからまる諸懸案の一つでございまして、私どもは、請求権問題を含めまして、諸懸案を一括してでき得れば解決いたしまして、正常化への道を開きたいという念願でやっておるわけでございます。この請求権問題につきましては、世上いろいろ論議され、報道されておるわけでございまするが、私どもは、この問題につきまして本議場を通じて申し上げましたことは、これが正常化にからまる懸案の一つであるということ、そして、これを解決することが、ほかの懸案とともに国交正常化の道に通ずるのだということでこれまで取り扱ってきたということ、そして、この請求権問題につきまして、今まで政府が公に申しておりましたことは、純法律的なものとして処理したいということを、池田・朴会談を通じまして合意いたしたわけでございます。その後、私が担当いたしましていろいろ検討してみますと、これもここで申し上げました通り、法律関係並びにそれをささえる事実関係、そういったことが、いろいろ資料が散逸いたしまして、十分なものが得られないということを発見いたしたのでございまして、いろいろ推定の要素を加えましてつくり上げるというようなことで国会はお認めいただくほど寛容でないと思います。従いまして、私どもとしては、いかにしてこの請求権問題を解決するかについて苦慮いたしました結果、過去のいろいろの不十分な、散逸した、つかみにくい資料を基礎にいろいろほじくってみても、どうも解決の曙光が見えないわけでございまして、むしろこれは、新しい観点に立ちまして、将来に向かいまして日本が韓国に対しまして有償、無償の経済協力をある程度するということにいたしまして、いわゆる複雑な内容を持ち、経緯を持ちました請求権問題は解決したという合意に達し得るかどうかという新しい問題として御提案申し上げて、せっかく検討中であるというのが、今の実情でございます。

○黒田委員 どうも、もう少し成り行きを具体的に聞かしていただきたいと思うのです。今承ったところによると、法的根拠を発見するということがなかなかむずかしいから、法的根拠のあるものとしての問題解決の方法はやめて、無償及び有償の供与という方法でやる、そういうお話でございます。そうすると、請求権というようなものではなくなるわけですか。その点どういうことになりますか。

○大平国務大臣 いわゆる請求権問題というのはあるわけでございまして、この問題に接近する方法といたしまして、純法律的な見地から的確な事実をつかまえて、それを積算して参ることも一つの方法でございまして、これで両者が合意すれば、それで一つの解決ができ上がるわけでございますけれども、そういう解決方式では、双方の距離があまりに開き過ぎておりまして、一向に妥結の線が出てこないわけでございます。むしろ、そういう過去にこだわるよりは、日韓悠久の将来を考えまして、そうして、将来に向かって日韓両国が友好関係を続けて参るという観点に立ちますならば、将来に向かって日本が韓国に経済協力を申し上げる、従って、そういうことによって過去のいわゆる請求権問題というものは解決したということにならぬものかということで、目下折衝中であるという実情でございます。

○木原委員 外務大臣にちょっとこれに関連してお尋ねしたいのですが、日韓会談の内容の中で財産請求権がいつも問題になるのでございますが、ここで明らかにしていただきたいのは、一体韓国政府は日本政府に対して財産請求権というものがあるのかどうか、もしあるとすればその内容はどんなものか、何と何と何が、どういうような財産上の請求権が日本政府に対してあるのか、その点をまずお尋ねしたい。

○大平国務大臣 韓国から八項目にわたる請求権要求というものがございまして、それを今から事務当局から御紹介させます。

○後宮政府委員 過去の会談におきまして韓国側から提起してきております請求権の項目といたしましては、朝鮮銀行を通じて搬出された地金銀、それから被徴用韓国人の未払い給与、恩給等々八項目からなっておりまして、非常に膨大なものでございます。さっき申しました地金、徴用工の未払い給与以外に、恩給の問題、それから郵便貯金の残額、保険金の未払い額、あるいはその積立金、そういうものでございます。

○木原委員 そこで、明らかになったのは、これは、郵便貯金だとか、あるいは徴用工の未払い賃金債権、それから恩給、こういったようなものが主として韓国のいわゆる財産請求権の内容になっておるのですね。そうなると、それは政府と政府間の債権・債務を処理する関係でなくて、そういうような韓国の特定の人が、日本政府に対して、賃金を払えとか、恩給を払えとか、持ち去られた地金を払えとかいうような債権関係なんでしょう。こういう債権関係が国交正常化、外交関係正常化の前提条件になるというのはおかしいじゃないですか。一韓国人あるいは特定の韓国人が、日本政府に対して、恩給だとかあるいは未払い賃金がある、あるいは持ち去られた財産がある、それを払ってくれという、これは個人的な財産請求が主たる内容なんでしょう。それならば、これをあえて両方の国交正常化の中でそういつまでもがみがみ言うて話し合いをしなくても、この点は、金額と日本政府が払わなければならぬその人が特定すれば、金額と個人が特定すれば当然日本政府として払うべき債務でございますから、払えばいい。その支払いの金額について争いがあったのでしょう。しかも、これは新聞の報道ではございますが、朴議長がことしの七月に見えられて池田総理と話し合いをされたときに、そういうような法的に根拠のある個人請求権は大体七千万ドルということに合意が成立したというようなことも新聞で報道されているでしょう。そういう韓国の個人で日本政府に対して債権を持っておる人、その金額は一体幾らか、この点を明らかにしてもらいたい。

○大平国務大臣 先ほど申しましたように、韓国側からの膨大な要求はございますけれども、これを実証するところの事実関係が捕捉しがたい状態にあるということは、私からかねがね申し上げた通りでございまして、それを、的確な事実関係、論拠がはっきりすれば、木原委員がおっしゃるように、双方そういう金額で合意することも不可能ではないと思うのでございますけれども、そういったものが得られませんので、そこで、私どもといたしましては、先ほど申しましたような次元でこの問題を解決すべきではないかということで、目下努力中であるということです。

○木原委員 いま一点だけ。そういう個人的な日本政府に対して持っておる債権というものは、はっきりできないという性質のものじゃないでしょう。これは明らかになりますよ。もしそれができないということになれば、故意にしてないのです。政府においても、終戦のときに全部書類が散逸したわけじゃないし、根拠になる書類というものは残っておるでしょう。また、韓国にもそういう書類は残っておるはずなんです。預金通帳にしたところで、すべて証拠物は残っておる。そういうものを合算して、両国の話し合いの中で、金額は幾らだ、だれだれに対して幾ら未払い債務がある、幾らの恩給があるというようなことは当然特定しなければ、その金を韓国の政府にそのまま渡して、その渡った金がそれらの特定の人々に配られるという保証は何にもないじゃありませんか。韓国政府にはそんな個人の財産請求権で取った金を勝手に使うことはできないはずです。これは、どうしても、どんな困難があろうとも、日本国に対する韓国の人間の債権なんですから、これは払わなければいけないのですよ。払うべきです。われわれは払うのに文句を言うのではないけれども、それが資料がないからつかみ金で払うんだと言われるから、私ども納得いかない。しかも、そのつかみ金がだんだんだんだん上がっておるじゃありませんか。一番最初、終戦直後ごろ、昭和二十三年でしたか、外務省が発表されたのは、そういう未払いの債権は大体九十億円ないし百二十億円と発表された。その後だんだんだんだん金額が上がって、この間池田さんと朴議長との話し合いでは七千万ドルというふうに値上がりした。インフレですよ、これは。そうしてまた、最近になってのあれでは、三億ドル無償供与、二億五千万ドル有償供与、まるで上がり方もひどいじゃないですか、そうして、それがつかみ金だということになれば、そういう説明をされて、どうして国民が筋の通った納得をすることができますか。私はその点をお聞きしたいのです。関連でございますから、いずれあとで私自身の質問のときに詳しくお尋ねいたしますが、そういう性質の請求権だということは外務大臣もお争いにならない。だから、その資料、幾ら幾らということの資料をはっきりさせてこの国会に臨んでいただきたい。いかがです。

○池田国務大臣 韓国政府の請求権につきましては、平和条約第四条に規定してございます。しこうして、その内容につきましてはいろいろございます。今アジア局長が言ったもの以外に、たとえば、京城において焼き捨てた日本銀行券をどうするか、あるいは大阪にあった朝鮮銀行の銀塊をどうするか、いろいろな点がたくさんございます。軍人・軍属等々。そうして、そういうものの計算をどうやるかということは、なかなかむずかしい問題でございます。しこうして、今おっしゃった点で事実のないことは、私は朴議長と七千万ドルということを言った覚えはございません。こんなことは実際話しておりません。ただ、あの当時におきまして、われわれはいろいろこちらの資料その他で研究いたしております。いろいろな見方があるのでございます。自分としては、朴議長とは、とにかく法律的根拠のあるものを考えよう、こう言ってやったわけであります。しかし、その間の折衝中におきまして、資料の点もありますし、法律論なんかもなかなかむずかしいのであります。金額だけ払えばいいじゃないか、その通りであります。しかし、それがなかなかきまりません。向こうとこちらの言うのが合いません。そこで、どういうふうなことでこれを処理するかということで、今外務大臣が言っているような構想で話を進めておるようでございます。まだ金額につきましてはきまっていない。個人のものだから、それは韓国の個人が日本政府に請求すべきじゃないかというお話は、国際的には通りません。

○木原委員 韓国の国民が日本政府に請求せよということを言っておるのじゃない。これは外交交渉で片づけていいのですよ。しかし、事の性質、債権の性質というものは、国家と国家間の債権・債務じゃないということを私は言うのです。恩給にしたところで、未払い賃金にしたところで、銀行預金にしたところで、郵便貯金にしたところで、これは、預金をした人、働いた人が当然日本政府に対して請求をする権利なんです。これは外交交渉で片づけていかぬといえ、問題じゃないのです。しかも、あなた方は金額がわからぬと言われるが、わからぬのがあたりまえじゃありませんか。朝鮮銀行にあった預金、あるいは郵便貯金というものは、何も今の三十八度線で境されておる韓国人だけの預金じゃありませんよ。北朝鮮の人たちの預金もある。あるいはその他退職金だとか未払い債権だとか、こういうようなものは南の人だけじゃない。北の人も当然含んでいる。それをそのまま二つに分けてそうして支払いをするというからわからぬようになるのじゃないか。だから、これは南鮮と北鮮と一体となって債権者を確定し、債権額を確定しなければ外交交渉の対象にならぬじゃないかということを総理に私は言うのだ。どうです。

○池田国務大臣 郵便貯金とか保険金ばかりのことを頭に入れておられるようでございますが、朝鮮銀行券、その他朝鮮銀行の持っておった国債、いろんなものがある。たとえば、今申し上げましたような、大阪の銀塊の問題とか、あるいは向こうが主張しておりまする朝鮮から取り去った金塊の問題等々ございます。従いまして、ただいまの交渉は、朝鮮が三十八度線で分割せられているということを頭に置いて交渉はいたしておるのであります。

○黒田委員 請求権問題ではまだ私もいろいろとお尋ねしたいことがございますが、次の点を確かめておきたい。
 今、請求権問題として政府がお取り扱いになっておりますものは、名前は請求権ということでありますが、実際は、全然法的根拠はないものという前提のもとでやっておられるのですね。だから、権なんというものではない。もう請求権というものはなくなったとして取り扱っている。法的根拠がないというのはそういう意味ですか。

○大平国務大臣 法律構成並びにそれをささえる事実関係が必ずしも的確に捕捉できない事情にあるということでございまして、いわゆる請求権問題というものはあるわけでございまして、それを何とか解きほぐさなければ正常化への道は開けない、こういう立場におるわけです。

○黒田委員 そこに非常に国民を迷わせる内容が含まれておる。請求権という権利性のあるものは、もはやないものとして――法的根拠を持っているものはないものとして、しかし何らかの意味において金銭の供与をやろうと言っておられるわけですね。それを請求権問題という呼び方で取り扱うと、何か権利があるもののように思われる。それが国民を迷わせる。もうこうなってくれば、正確を期して、請求権とい言葉を使わぬ方がいいですね。実質的にはそういうものになってしまっておるんじゃないでしょうか。何も法律的に相手に供与しなければならぬ義務はない、ただこちらから贈与するんだ、そういうものになってしまっておるのじゃないでしょうか。

○大平国務大臣 従いまして、私は請求権問題と申し上げたわけです。

○岡田(春)委員 関連です。これは外務委員会でも再三伺っている点ですが、あなたの答弁は常に不明確であるために、われわれはわからない。だから、はっきり伺うのですが、請求権の問題ならわかります。請求権というものならば、先ほどから答弁にあるように、平和条約第四条にある。請求権問題というものは第四条の規定にありますかどうですか、これを伺いましょう。

○大平国務大臣 私は第四条に請求権問題というものがあるとは考えておりません。

○岡田(春)委員 請求権問題は第四条の規定に基づかない、こういう答弁を今されましたね。それじゃ、第四条の規定に基づかない交渉を今やっておられるということになりますか。

○大平国務大臣 第四条の請求権の問題を解きほぐす上におきまして、これをどのような処理の仕方をするかということを苦心いたしておるわけでございまして、いわゆる請求権という法律構成、そしてそれをささえる事実関係を的確にするという手立てが十分でないという事情もたびたび申し上げておるところでございます。しかしながら、依然として日韓の間には私の言ういわゆる請求権問題というのがあるわけでございまして、これを何とか解きほぐさなければならぬ立場におるということを申し上げておるわけです。

○岡田(春)委員 少なくとも、請求権と請求権問題とは同じものではない、こういう点についてはあなたお認めになった。第二の点は、請求権に関する問題ならば第四条の問題であるが、請求権問題は第四条の問題ではない、こういう点も御答弁になった。それでは、この二つの点が食い違っているのですが、あなたが違うとおっしゃるのはどういう点が違うのですか。

○大平国務大臣 純然たる法律問題として片づける的確な手段を必ずしも持っていないという立場にあることをるる申し上げたわけでございます。しかし、依然として請求権問題というのはあるわけでございますので、その問題をどうほぐしていくかということを考えているということはたびたび申し上げているつもりでございます。

○岡田(春)委員 関連ですからもう申し上げませんが、あなたは、請求権問題を交渉しているんで、請求権の問題を必ずしも含まない。とするならば、あなたは第四条に基づく交渉をやっているんではない。日韓会談の交渉というのは、平和条約に基づく交渉ではないのですか、第四条の交渉は含まないのですか、この点はどうなんです。しかも、請求権の交渉ではなくて、それ以外の問題の交渉を含んでいるということになるならば、これは具体的に何を意味するのか、この点を伺わなければ、われわれは、今、日韓会談の交渉というのは平和条約に基づく交渉だということで、その内容についてもいろいろ考えておった。違う交渉をおやりになっておるというならば、これは別な交渉ですと言って別な交渉をおやりになったらいいじゃないですか。今までは平和条約に基づく交渉をやっていたんですよ。あなたは別な交渉をやるならほかであらためておやりなさい。何を一体交渉されているんです。

○大平国務大臣 第四条に基づく請求権の問題も、日韓正常化への前提に横たわる懸案の一つでございまして、この問題を解決しないと日韓正常化への道は開けないわけでございまして、この問題をどういう方法で接近して解決するかという方法で苦心いたしておるわけでございます。

○岡田(春)委員 これで終わります。あなた、ごまかしちゃだめですよ。請求権の交渉は第四条の交渉ですよ。あなたの今答弁したのは請求権の交渉でしょう。あなたがさっき答弁したのは請求権問題の答弁をしているじゃないですか。だから、話が違う。なぜあなたはそういう苦しい答弁をするかというと、請求権ということになれば、これは池田さんと朴との会談において明らかのように、合理的に数字が出て、そういうものでなければならない。それは第四条の規定に基づいているから。請求権問題というごまかしの言葉を使って請求権にあらざるものを交渉しようというから、ここであいまいもことしたごまかしを国民の前に出していくので、表面上は請求権問題というごまかしを使おうとしているのですよ。そこに問題があるからわれわれは質問しているのです。あなた、もっとはっきり言いましょうか。請求権は七千万ドル以上どんなに組んだって組めないのですよ。あとは無償供与に該当する部分を祝い金という形でこれはごまかそうというのです。これはタイの九十六億円と同じ手口なんだ。こういう点は、われわれをごまかそうたってごまかされませんよと、今からこれを念を押してわれわれ言っておかなければならないわけです。そうでなければ、われわれ国会で予算を審議するにあたって、国民に対して申しわけない。そういうごまかしの金をわれわれは承認するわけにはいかないのです。請求権問題などという、問題という言葉をつけてごまかすようなことはおやめなさい。数字をはっきりなさい。数字は国民にははっきりわかってない。あなただってわからないんだ。わからないから問題と言ってごまかしているのです。それが実態じゃありませんか。そんな交渉はもうおやめなさい。

○黒田委員 要するに、今請求権問題と言われておるのは、全く権利の問題じゃなくて贈与の問題だ、こういうことになってしまっておるのじゃないですか。お祝い金、つかみ金、だからもう全然性格の違ったものになっている。ただで金をやるという、全然請求権とは違ったものになってしまっておるのじゃないですか。だから、法的根拠はないのだと、こう言っておる。そうじゃないですか。その点をはっきりして下さい。

○大平国務大臣 ただいまも申しましたように、請求権の問題を解決するという方法として、将来にわたって経済協力を考えるということでございまして、請求権の問題を解決するということにほかなりませんで、問題は方法論でございます。

○黒田委員 これも詭弁ですから、幾ら繰り返しても私ども納得できない。今経済協力と言われましたけれども、その中に無償供与というものがあるのです。

○大平国務大臣 先ほども申しました通り、有償、無償の協力を考えております。数字の点につきましては、まだ的確にきめておりません。

○黒田委員 その無償供与のことを、独立お祝い金、こう言われるわけですか。

○大平国務大臣 その請求権の問題を解決する手段として、将来にわたっての経済協力を考えておるということ、そういうことで相談にならないかということで交渉中だということでございます。

○池田国務大臣 誤解があってはいけませんので、今七千万ドルというようなことがありましたけれども、これは私は全然存じません。なんぼになるか話をしたことはないのでございますから、既成事実をおつくりにならないように願いたいと思います。
 それから、請求権、これは平和条約の第四条の請求権です。これを日韓で話をしようというので出発しておるのであります。しこうして、出発いたしまして、請求権を法律的根拠というのでずっと議論をしているわけなのです。これを請求権として解決するか、あるいは、いろいろな事実関係その他がありますから、この請求権を含めて、請求権の問題として解決するかというのは、今考慮中でございまして、無償とかなんとかという問題は、まだきまったわけではございません。
  〔「答弁が食い違っている」と呼びその他発言する者多し〕

○塚原委員長 御静粛に願います。

○大平国務大臣 第四条の請求権の問題の解決に接近する方法として、いろいろ考えておるということでございます。

○黒田委員 いろいろとただいまの問題につきましてあとから新たな問題が出て参ります。今まで無償供与という問題も出ておったのじゃないでしょうか。外務大臣にお答え願います。そうして、その無償供与というものはどういう理由で出てくるものかということを聞いているわけです。

○大平国務大臣 私どもは、先ほど申しましたように、将来に対して日本が韓国に対しまして経済協力をするということで、その内容につきまして今検討をいたしておるわけでございまして、こういうことをやることによって、いわゆる請求権の問題というのは解決したということにならないか、こういうことで折衝中であるということでございます。

○黒田委員 今の外務大臣の経済協力というものの中には、よく新聞に出ております無償供与の部分、そういうものを含めて経済協力、こうおっしゃっておるのですか。

○大平国務大臣 有償、無償も含めて検討をいたしております。

○黒田委員 そこで、その経済援助の中には、今尋ねておりまして、無償という部分が出てくるから、これについて私お尋ねしておるわけです。どういうところから無償でやるという根拠が出てくるかと尋ねている。これは法律的根拠はない。

○大平国務大臣 将来の日本から韓国に対する経済協力ということを考えておるわけでございまして、そういうものの内容につきましては、今検討中であるということでございます。

○黒田委員 どうも私の質問に対するお答えにならないわけですが、なぜ経済協力の中に無償というものを加えるのか、そういう質問を私はしておるわけです。無償というものが出てくるから、それについてお尋ねしておるのです。これは国民の税金を他国へ与える問題ですから、これは大へん重要な問題です。ただで朴政権のようなものに相当多額の金を渡すというのですから。その金は国民の血税である。そこで、ただで渡すというのはどういうことか、無償供与とはどういうものか。

○大平国務大臣 今考えておる経済協力の問題は、先ほど私が申し上げました通り、請求権の問題という厄介な問題がございます。そして、それをどう解決するかということについていろいろ苦慮いたしました結果、一つのこの解決方法として、経済協力を将来に向かってやるということによってこの問題を解決するという工合にいかないかということで、相談中であるということであります。

○黒田委員 経済協力の中に無償でやるという部分があるから、その意味を尋ねておる。

○大平国務大臣 つまり、純然たる経済協力を白地にしてやるというのではなくて、こういういろんないきさつがあって、請求権問題というのは日韓の間に長く横たわっているわけでございまして、それを解決する方法として私どもが経済協力を考えたということでございます。従って、経済協力の内容につきましては、そういう前提でお考えをいただきたいということでございまして、有償、無償につきまして私ども考えておりますけれども、まだそれを具体的にどうするかというところまではきめていないわけでございますので、この席で私からお答えするというわけには参りません。

○黒田委員 はっきりしません。そうすると、無償という問題はまだこれから考えてみるというのですか。

○大平国務大臣 経済協力の内容につきまして目下検討中でございまして、最終的にきめておるわけじゃございませんから、権威ある国会でまだ御報告する段階にないということです。

○黒田委員 最後に一つ確かめておきます。そうすると、無償というものはなくなるかもわからぬのですか。経済協力の中に無償というものが含まれるのならば、その無償というものについてはっきりした御説明をいただきたいと思います。無償というものがなくなるならば、これは私の質問は同時に消滅する。何だか無償ということは将来どうなるかわからぬというように最後に御答弁になったものですから、そこをちょっと最後に確かめておきたい。そうすると、今までの御答弁と非常に違ってくるわけです。

○大平国務大臣 先ほど申しましたように、今考えられておる経済協力の問題は、無前提の経済協力というわけでなくて、請求権の問題というものを解決する手段として考えておるということでございまして、その角度から私は経済協力の内容につきまして目下検討中である、こういうことでございます。

○黒田委員 私の質問に対するお答えは得られないわけです。無前提でないなら無償ということは出てこないはずである。無償ということで問い詰められると、何だか将来そういうものが消えていくかもしれぬというようなお話にも聞けます。残るものならもっと徹底的に聞かなければなりません。この点については私はきょうは質問を留保しておきます。

○塚原委員長 岡田君より再度関連質疑の申し出がありますので、これを許します。岡田君。

○岡田(春)委員 再度私は質問をしなければならないのは、それはなぜかというと、大平さんが私に先ほど答弁されたことと、何か先ほど混乱している最中に答弁されたことには、食い違いが起こっているのはどういう点かというと、第四条の規定に基づく交渉ではありませんとあなたは先ほど言ったはずだ。ところが、先ほどの答弁の中では、第四条に基づく交渉であるかのごとき答弁をしている。これはどっちかはっきりしてもらわなければならない。私たちの観念で言えば、今日韓の交渉をやっているのは、当然平和条約に基づく交渉であり、平和条約に基づかない、関係のない交渉をおやりになるならば、これは別途な交渉としておやりになる必要がある。第四条の交渉であるからこそ今交渉が進められているんだと私は思った。だから、先ほどあなたに伺ったわけでしょう。二つ区別して言いましたね。請求権の問題なら第四条の交渉ですよ。請求権問題というのは必ずしも請求権だけではありませんと、あなたはこう言われた。それならば第四条ではありませんねと言ったら、その通りです。こう言った。それじゃ、第四条ではないというのならば、どういう交渉をおやりになっているのか。先ほどの答弁が間違っているというのならば、外務大臣として責任があるから、はっきり、先ほどの答弁は間違っておりました、取り消しますとお答えなさい。これははっきりしておいてもらいたい。

○大平国務大臣 請求権の問題に関連した交渉をやっているわけでございまして、第四条と無関係の交渉であるというように私が申し上げたとすれば、それは間違いでございますから、取り消します。

○岡田(春)委員 それは、あなた、答弁が勘違いしていませんか。あなたは、第四条の規定に基づく交渉ではないのですというこをさっき言ったんですよ。それを取り消すとおっしゃるならば、それでもいいのです。しかし、その問題に関連して私伺っておきますが、第四条以外のもので請求権に関する問題を交渉はできないはずです。あなた、先ほどから黒田委員の質問に答えて言っているじゃありませんか。あなたの答弁によると、請求権以外のものを、経済援助という形で、経済協力という形でやる、この中には無償供与、有償供与がある、こういうものを考えておりますということをあなたは答弁された。ところが、その論拠になるべき請求権というものがあいまいであるから、そういう交渉をするということは、そのこと自体これはきわめてごまかしじゃありませんか、どうですか。韓国の方ではこれだけの金額を言う、日本の方ではこれだけの金額を言う。この点に話の食い違いがあるから、その差額についてどうするということの話し合いなら、これは別だ。ところが、どちらも論拠がないという中で、その話をきめるのに経済援助を持ってくるということ、そのこと自体客観的な論拠がないということを証明しているじゃありませんか。それはごまかしだということですよ。だから、無償援助などという形でごまかしをやろうとしているんだとわれわれに言われても仕方がないじゃありませんか。そういう点は一体どうなんです。論拠がないじゃありませんか。論拠があるならば論拠があるように、朴・池田会談によって論拠のあるものに限ったらいいじゃありませんか。そこの点に、第四条によらざるを得ないにもかかわらず、第四条によらないという、そのあなたの苦しい立場が出てくるわけです。その点をごまかしてはいけないということを再度私は申し上げておきたいわけです。その点の見解いかんです。

○大平国務大臣 第四条にいう請求権の問題を解決する手段としていろいろ工夫しておる、こういうことでございます。

○岡田(春)委員 それはだめです。私はそれでは納得しません。

○黒田委員 時間もだいぶ迫って参りましたので、問題を残しておりましけれども、今の問題で、少し政治的に見た私の考え方を申し上げておきます。法律論といたしましては、私は質問を留保しておきまして、後日また詳しく質問することにいたします。
 そこで、ただいまの質疑を通じてわかりますように、いわゆる請求権問題は、条約に基づく本来の請求権という問題から離れて、すなわち、朝鮮人民に対する支払いというような性質から離れて、朴政権という人民に基礎を置かない一つの政権のために、それとの取引として、理由のつかない金のやり取りが交渉されておる、私はこういうものに堕落してしまっておると思うのです。政治的に見ればそういうようなものになってしまっておる。今請求権問題と称せられて交渉されつつあるものの内容を政治的に見れば、こういうものに変質してしまっておると思います。むろん、こういうものに私ども賛成することは絶対にできないわけです。なお、請求権の問題につきましてはいろいろと問題が残っておりますが、時間がございません。
 最後に一点だけ質問をいたしまして、きょうの私の質問を終えます。

○塚原委員長 黒田君に申し上げますが、申し合わせの時間も経過いたしましたので、結論をお急ぎ願いたいと思います。

○黒田委員 あまり時間はかかりませんので、御了解をいただきたいと思います。これは多少議論になるところかと思いますが、サンフランシスコ条約の解釈によりますれば、またこの条約が予想していたところによりますれば、先ほども申しましたように、請求権とか法的地位とかいうような問題は、本来は統一朝鮮の問題といたしまして、全朝鮮の唯一の政府と日本政府との交渉によって処理せらるべき性質のものである、私はそう考えるわけです。そこで、韓国政府という特殊な政府とだけについて起こる問題は、私は李ライン問題と竹島問題しかないと思うのです。それ以外の問題は韓国政府との問題ではない。だから、いわゆる日韓会談というものの議題になるものがあるとすれば、私は竹島問題と李ライン問題だけだと思うのです。そのほかの、請求権の問題とか、法的地位の問題とかいうようなものは、朴政権を相手の交渉の対象になるべき問題ではない、こういうように私どもは考えております。この点については、このあとからなおもう一点だけ質問をいたしますが、一応政府の御見解を聞かしておいていただきたいと思います。

○大平国務大臣 先ほど申しましたように、朴政権の支配する地域ということを前提にして進めております。

○黒田委員 それについて念を押しておきたいと思います。そうしますと、政府は、韓国についても請求権や法的地位の問題を取り扱い得る、こういう見地に立って交渉を進めておいでになりますか。日時はちょっと忘れましたが、さきに松本七郎君の質問に対しまして、韓国政府はいわゆる限定政権だ、こういうように答えておられます。地域的に全朝鮮に及ぶものではない、こういう御答弁がありましたし、それからまた、岡田春夫君の御質問に対しましては、朝鮮の北の部分についても南の部分とは別に請求権の問題は考えられる、こういうようにお答えになったようであります。これについては、政府の御見解にその後変化は生じていないと思います。ただいまの御答弁からもそう受け取られます。そうであることを前提として、最後に一つお尋ねしておきたいと思います。そういう見解であるといたしますならば、かりに日韓会談が成立いたしまして、韓国との問題が、請求権とか法的地位というような問題も含めて解決したといたしますならば、次のプログラムとして、北の朝鮮の部分に対しても、政治的にそれが実際にいつ実現されるか、実現されぬかは別問題といたしまして、法律的には、韓国に対すると同様な問題がある、同様な問題が法的には存在して、北の部分とも国交正常化の問題が法的には考えられる、こうなってこなければ私は論理が合わないと思います。この点非常に重要な問題でございますから、この点について御答弁をいただきまして、それをもって私は、きょうは、まだ問題は残っておりますけれども、私の質問はこれで終了いたします。

○池田国務大臣 お答え申し上げます。
 先ほど来申しておりますごとく、朴政権は、国連におきまして一応合法的に成立したものとして、オブザーバーとして行っております。しこうして、今度の日韓交渉というものは、朴政権の施政下における韓国とやっておるのであります。従って、三十八度線以北の北鮮の問題が今度交渉の相手になる場合におきましては、また別個の問題でございます。

○塚原委員長 次会は明十二日午前十時から開会することとし、本日はこれにて散会いたします。
  午後五時三十六分散会

 第043回国会 衆議院予算委員会 第2号 昭和三十八年一月二十九日(火曜日)午前十時十一分開議

【発言順】
 委員長      塚原 俊郎
 委員       川俣 清音
 内閣総理大臣   池田 勇人
 委員       井出一太郎
 外務大臣     大平 正芳
 通商産業大臣   福田 一
 国務大臣     志賀健次郎
 建設大臣     河野 一郎
 委員       勝間田清一
 大蔵大臣     田中 角榮
総理府事務官
 (特別地域連絡局長)大竹 民陟
 総理府総務長官  徳安 實藏
 内閣法制局長官  林 修三
 国務大臣     宮澤 喜一
 大蔵事務官
(財務調査官)  松井 直行
 農林大臣     重政 誠之

○塚原委員長 これより会議を開きます。
 昭和三十八年度一般会計予算、昭和三十八年度特別会計予算、昭和三十八年度政府関係機関予算、以上三案を一括して議題とし、審査を進めます。
 この際、川俣清一音君より議事進行に関し発言を求められております。これを許します。川俣清音君。

○川俣委員 予算審議を始めるにあたりまして、政府に注意を喚起いたしておきたいと存じます。
 それは、今国会に提出されまする予算関係法案九十六件といわれておりますし、条約について十四件等がございまするほかに、地方財政計画をすみやかに提出されなければならないと思うのでございます。そのことは、地方選挙を前にいたしまして、各自治体が早く議会を終了いたしたいという念願に対しまして、政府はこれに対応しなければならないと存じます。本予算委員会をすみやかに審議をし、十分意を尽くすためには、少なくとも予算関係法律案は二月の中ごろまでに提出を願いたい。もしもこれがおくれるということになりまするならば、総理のいわゆる十分審議してほしいという趣旨にも反し、私どもの審議にも差しつかえまするので、すみやかに予算関係法律案を提出されることと、並びに、地方選挙を前にして、すみやかに地方財政計画を本委員会に提出されるよう要望いたします。これに対して総理の見解をお尋ねいたします。

○池田国務大臣 川俣委員のお話、まことにごもっともでございまして、政府におきましても、予算関係法案九十数件は二月の中ごろまでには出せるよう着々準備を進めております。また、地方財政計画につきましては、御承知の通り、各府県より資料をとってその後に作成する関係上、えてしておくれがちでございますが、今年は地方の統一選挙もあることでございますから、特に意を用いまして、できるだけ早くお出しするようにいたしたいと思います。

○塚原委員長 これより総括質疑に入ります。
 井出一太郎君。

○井出委員 私は、自由民主党を代表いたしまして、昭和三十八年度予算に関連をして質問をいたします。
 先般行なわれました総理の施政方針並びに外務、大蔵両大臣の演説にも言及しつつ、予算の背景をなす諸問題についてただしたいのでありますが、本日は主として外交関係にしぼって申し上げたいと思うのであります。
 本年の年頭にあたりましては、世界の指導者というべき各国の首脳から活発な外交上の発言がございました。一月十四日、若きケネディ大統領は、二カ年の経験と実績を踏まえて、さらにキューバ問題の解決に自信を得て、世界の未来像にも触れた年頭教書を発表いたしました。翌々一月十六日には、東独社会主義統一党大会に臨んだフルシチョフ首相は、一段と老練さを加えて、平和共存を主とした長時間の演説を行なっておるのであります。ケネディ教書と日を同じくして、フランスのドゴール大統領は、ナッソー協定に同調せず、英国のEEC加入に冷淡な口ぶりをもって応酬をいたしておるのであります。さらにまた、中共の伍修権代表は、言葉激しくユーゴの修正主義を攻撃することによって、中ソの対立はまことに顕著なるものがあることを示したのでございます。とのように、二つの陣営はそれぞれ内部において問題をはらみながら、国際環境はまことにきびしくかつ険しいものを思わせるのでございます。
 本年の国際関係は、このように、それぞれの陣営が内部調整に追われるというふうなことに相なりましょうが、日本の外交もこれと波長を合わせまして展開される必要があろうかと思うのでございます。
 わが国をめぐる外交問題の中で、最初に、まず一番手近な、そして当面の急務であります日韓交渉の問題から入って参ります。これはやや詳しく伺いたいと存じます。外交上機微に属する点もございましょうけれども、どうか、国会の論議を通じて国民に語りかける、こういうおつもりで御答弁をいただきたいのでございます。すでにこの問題は長い間議論されておりますので、あるいは重複する点もございましょうけれども、一応この辺で日韓関係についての議論を整理をしておく、これは政府にとっても与党にとっても必要な時期でございましょうか、さような意味で以下申し述べたいと思うのでございます。
 もとより私は日韓両国の国交正常化をできるだけ早い機会に実現するように願ってやまない一員でございます。かつて、漁業の問題でございますが、私が農林省におりました当時、抑留漁民の家族の方々から切々たる訴えを幾度か受けたことがございまして、このような形でほうっておくということはどうも耐え得ないのでございます。ただ、問題は、国民の納得を十分に得なければならないのでありまして、相手国の事情というものもありましょうけれども、まず自国民が支持するという問題が先決であるわけであります。そして、今日良識ある国民の心の中に宿るものは何かというと、納得のいく線であるならば、これは早いところこの辺で幕を引いて、そして善隣友好の関係を樹立したい、こういう気持ではなかろうかと思うわけでございます。
 そこで、第一点として私が伺いたいのは、今日素朴なる国民の率直な疑問というものがある。それは、在日韓国代表部というものは東京に存置しておりますけれども、一方日本の代表部というものがソウルに置かれておらないという問題でございます。これはどうもいかにも片手落ちではないか、対等の関係を欠いているのではないか、こういう疑問があろうかと思うのであります。かつて金裕沢という人が日本に参りましたときに、私は会談をいたしてこの問題に率直に触れたのでありますけれども、向こうは言を左右にして明快な答えをいたしませんでした。今日韓国の情勢というものはなかなか変転きわまりない情勢である。こういう際に、やはりこちら側としても的確な情報を得なければ、なかなか外交を処理していくことも困難だろうと思うのでありますが、こういう点、どうも片手落ちだといった国民の疑問に一つお答えを願っておきたいのであります。

○大平国務大臣 仰せの通り、ソウルに日本の代表部が置かれてないということは、非常に不便でございまして、私ども、終始、相互主義に基づきまして、ソウルに代表部を置くことを認めるように韓国側に要請いたしております。遺憾ながら今日まで向こうの同意を得るに至っていないのでございます。去年の三月、小坂前大臣と崔徳新外務部長官との会談の際、先方にこの要請を小坂大臣がされましたところ、ただいま国交正常化の話が進んでおる、今代表部を置くということになりますと、韓国民に与える影響といたしましては、何か正常化の話が延びるのではないかという印象を与えはしないかとおそれるので、国交正常化を早めて、正常化のあとにしたいということを申したのでございます。その後の朴最高会議議長の言明も、このラインに沿った意思表示であると思っております。従いまして、私ども、先方の同意が得られない以上は、本体でありまする正常化の話し合いをできるだけ早く促進して、正常化のあと公館を設置するということにするのもやむを得ないのではないかと思っておるわけでございますが、しかし、必要に応じまして、要すれば、その過程におきましても、代表部の設置を極力先方の同意を得るように努力いたしたいと考えております。

○井出委員 これからの折衝過程においてもさらに代表部設置を要求し得る機会というものはあるであろう、かように私今了解したのでありますが、これは、早期に妥結をすればけっこうでありますが、どうもまだ相当手間がとれそうだという情勢であるならば、やはり一つそういうところは遠慮なく相手方に御要求になってしかるべきものだ、こう考えるわけであります。
 そこで、問題の核心でございます請求権その他の問題に入りますが、われわれ承っておるところでは、いろいろな案件がある。請求権はもとより、李ラインないしは漁業問題、さらに在日韓国人の法的地位の問題、竹島の問題、こういった全懸案を一括して同時に解決をするのだ、これが先般の外務大臣の御演説の中で明確に指向されました。この解決の仕方、内容、これはいろいろございましょうけれども、この一括解決の原則、このいずれもが並列的に、いずれが重い、いずれが軽いということなしに、いずれも必要な条件なんだということで、同時解決の原則、これを私はもう一ぺん確認をいたしたいのですが、いかがでございましょうか。

○大平国務大臣 仰せの通り、全懸案を一括いたしまして同時に解決するという基本方針に変わりはございません。

○井出委員 この交渉の結論というものはどういう形になりましょうか。条約を結ぶ、協定ができる、こういうことでありましょうが、一括したものが一本の条約協定という体裁をとるでございましょうか。それとも、総論的なものと各論的なものとが分かれて、たとえば漁業なら漁業というものについては別個に漁業条約が結ばれるという構想でありましょうか。その辺を明らかにしていただきたいと思います。

○大平国務大臣 今実体の究明をやっておりますので、そのでき上がりを見ないと、どういう形式のものにいたしますか、確たる方式を今持っているわけではございません。ただ、漁業なら漁業の協定と請求権の問題の協定とが別個にできましても、その協定は同時に発効するという手順にいたしたいということは変わりございません。

○井出委員 ずいぶん長い間の会談の継続でございまして、十年交渉あるいはそれ以上になるのでしょうから、そのあたりまで私はかなり煮詰まっておるもののように考えておったのですが、これはいずれにもせよ同時に解決をするのだということであればけっこうかと思うのであります。
 そこで、請求権の問題でございますが、これは一昨年の十一月でしたか、朴議長が池田総理と会談になられた。そのときあたりから非常な了解が進んで今日になったわけでありますが、従来、法的根拠のあるものに限るのだ、こういうふうに承知をしておったわけでございます。その過程におきましては、ときには、大蔵省側の見解あるいは外務省側の見解、いろいろ数字のようなものが流れて聞こえて参りましたが、法的なものを積み上げて参りますと七千万ドル程度だというふうなことが聞こえて参ったわけでございます。しかし、おそらくは、もう終戦以来二十年近くにもなるのでありますから、いろいろな資料などにおいて散逸をしたものもございましょう。はたしてほんとうに明確な積算というものができるかどうか、このあたりは困難のように見るわけであります。しかし、ともかく、最近、無償援助で三億ドル、有償援助で二億ドル、こういう数字が出てくるに至りまして、何か一足飛びにそこまで上がってしまったという感じが国民の間でいなみ得ないようであります。これは、外務大臣がよく言われる大所高所に立ってといいますか、高い次元において解決をされるということでございましょうけれども、二十三日の予備会談でありましたが、向こうからこれに対する合意書というものが提示されるやに聞いたのでございますが、このあたりは、提示されたのでありましょうか。あるいは、もしそれが来たとすれば、向こう側はどなたが責任の署名をされておるのか、こちらはだれにあてられたものであるか、そういうあたり、もしお漏らしがいただければお聞きをしたいわけであります。

○大平国務大臣 請求権問題は、日韓間の懸案の中で一番厄介な問題でございます。御案内のように、韓国側からは八項目にわたる要求がございまして、これはすでに新聞紙上を通じて発表いたしてあります通りでございます。それで、一昨年の十一月の池田・朴会談で、今御指摘のように、法律的根拠のあるものに限ってやろうというお話し合いがございましたことは事実でございまして、従いまして、先方の要求されます八項目につきまして、予備折衝を通じまして法律論を戦わしてきたわけでございます。たとえば朝鮮銀行が日本の朝鮮統治時代に搬出いたしました地金でありますとか地銀、金、銀というようなものを一例をとつてみますと、これは、韓国側は、地金銀の搬出そのものが不法なんだ、それを規制している法律そのものは正当性を持っていないんだという建前をいつも主張されたのでございますけれども、わが方としては、実定法上朝鮮銀行というものは地金銀の売買をやることになっておりますし、その当時の相場で対価を払って搬出したものであるから正当なんだということを主張する。一つの事案をつかまえてみましても、そのように事実関係がはっきりしているものにつきましても、法律論といたしましては平行線をたどるわけでございます。それから、事実関係がはっきりしていない例を申しますと、たとえば徴用工の被害の補償にいたしましても、一体、徴用の事実の有無、それから、それに対する賃金の支払いの有無、これを的確に捕捉する事実を捕捉するということができない。一部はできても全部はできないというような例がたくさんあるわけでございまして、従いまして、その後の予備折衝の討議を通じまして私どもが考えましたことは、請求権について正確に事実関係を踏まえた上で法律関係を明確にして、しかもその両方について両者の意見が一致するということは、非常に望ましいことではございますけれども、事実上非常に困難、あるいは場合によっては不可能という事態に逢着いたしたわけでございます。しかし、そういう過程をいつまでも繰り返しておるということは、せっかくわれわれが意図いたしております国交の正常化ということが百年河清を待つということになりますので、適当でないと判断いたしまして、私どもといたしましては、そういう過去の不正確な資料をせんさくするという態度を変えまして、将来に向かって日韓は協力して相互の繁栄をはかる、こういう意味合いにおきまして、前向きの展望に立ちまして、日本は今御指摘のように有償・無償の経済協力をする、そして、その反射的と申しますか、随伴的な結果として、そういう厄介な請求権の問題というのはないことに両国で確認し合うというようなことでこの問題を割り切っていくよりほかに道はないじゃないかという判断に立ちまして、そのような方向に進めてきたわけでございます。
 しからば、請求権の問題につきまして、現時点におきまして完全に日韓双方に合意があるかというと、そうでないのでございます。これは、大筋において合意はございますけれども、細目につきましてまだ煮詰めなければいかぬ問題がございますので、全体として請求権問題に関する限り合意があるとは申し上げられない一わけでございます。従いまして、この問題につきまして日韓双方でイニシアルをかわすというようなことは一切いたしておりません。一つの交渉の過程における合意でございまして、これは何らの拘束力を今の段階では持っておりませんで、先ほど井出委員がおっしゃったように、全懸案を一括して解決する時点において本ぎまりするわけでございます。これは、今後、漁業問題でございますとか、その他の懸案をも同じようにそれぞれの交渉過程におきまして荒筋の合意はして参らなければ、本協定の材料が整わぬわけでございますので、そういうことはやって参るつもりでございますけれども、それは両国の間で責任を持ってやるという外交文書ではございません。交渉の過程における合意でございます。その最後の協定の素材をつくっておるというふうに御承知願えたらしあわせだと思います。

○井出委員 承りますと、これはなかなか複雑な問題であることはよくわかります。先方が要求しました八カ条というものも、今おっしゃる地金銀の問題、その他韓国人の保有しておった有価証券の問題だとか、徴用者に対する賃金その他の問題とか、いろいろあるようでございますが、これが、予備会談その他の過程においては、向こうの要求額の項目の中で、これは認められる、これはアウトであるといったような仕分けは十分にされまして、そうして、とどのつまりが、それにこだわって計算を積み上げるということはなかなか困難だ、こういう認識の上に立たれたというふうに私は了解をするわけであります。
 そこで、請求権と申しましても、この金銭で評価されるもののほかに、船の問題がある、あるいは文化財の問題がある、こういうことを聞くわけであります。従って、これらは別建に相なるのかどうかということを伺いたいのでありますが、船については、韓国の港の船籍簿に登載をされておる船は向こうに引き渡せ、あるいは終戦直後に向こうの水域へ日本の船が逃避をしたというふうなものをどうとか、今度こちらから言えば、朝鮮戦争当時に何隻かの船を貸与したということも私聞いておる。また、漁船が抑留されて、向こうに没収されたままになった船もおそらくあるだろうと思うのです。これをバランスシートをつくって調べて、差引はどういうことになるのか、そのとどのつまりは、何がしかのものを向こうの要請に応じて船を供与するとでもいいますか、あるいは独立のはなむけと言っては何でしょうけれども、何かそういうような気持でこれを処理されようとでもお考えになっておるのか、船の問題について一ぺん伺いたいのであります。
 ついでに、文化財の問題でございますが、これは、韓国の古い文化というものを考えてみれば、たとえば、新羅の都であった慶州の仏像など、私も見ました。あるいは向こうの陶磁器、李朝のものなどは、日本の茶人のこれは垂涎おくあたわないものであります。こんなものを一体よこせというのであるか、法隆寺の国宝百済観音も、美術史家は向こうから来たものだと言っていますが、まさかそれをよこせと言うのじゃないでしょう。何か、文化財について、今国立博物館あたりにある何かを引出物みたいに向こうに渡す、そういうお考えを持っておるのか、船と文化財の問題についてお伺いをいたします。

○大平国務大臣 船舶問題も文化財の問題も、広い意味における請求権の問題でございます。当初八項目を一緒に要求されておったのでございますけれども、船舶の問題と文化財の問題は別建にいたしまして要求して参っておりまして、先ほど私が申しました八項目以外に、船舶の問題と文化財の問題があるわけでございます。そこで、請求権というものは、先ほどの大原則によりまして、日本が経済協力をやるということの随伴的な效果として、こういう船舶の問題も文化財の問題一切ないことに確認し合うということが私どもの基本的な方針でございますが、ただいまの段階で、まだその二点につきまして先方がそれでよろしいというようには言って来ていないわけでございますが、私どもとしてはそういう方針で対処していきたいと考えております。
 ただし、漁船の問題は、これは終戦後の問題でございまして、いわゆる対日請求権の範疇に属さない問題でございまして、これは漁業交渉を通じての一環の問題として処理して参りたいと考えております。
 ただ、文化財につきましては、出土国がそれを保存し、かつ鑑賞するということが望ましいという先方の要望も一応理解できるところでございますので、国際法上返す返さないという問題になって参りますと、法律論として考えますと、必ずしもその義務はないと思うのでございますけれども、将来の日韓の友好関係を考えてみますと、先方の要望につきまして私どもある程度の考慮はしなければならぬのじゃないかというような気持は持っておるわけでございます。

○井出委員 船舶問題と文化財の問題は、先ほど申し上げましたような大きな意味の請求権の中には入っても、ここで今金銭で表現をされておる請求権とは異なる、こういうふうに一応理解をいたします。
 そこで、私は、国民諸君が何か非常に一足飛びに三億ドル、二億ドルという額が出ましたことに対して意表をつかれたような感じもあるではないか。従って、このあたりはPRが必要だと思うのです。私は、きょうは、限られた時間でありますから、ほかの問題もございますので、そう詳しくは詰めませんけれども、この点は十分御留意になって、これだけの額にまとめるのにはかようかくかくな理由に基づくのだということで、ただ大所高所という表現以外に、もう少しその辺をきめこまかく説得をなさる必要があろうと思うのであります。
 そこで、請求権の問題がかりに片づく、こういう場合に、これはもう相手方に信を置いて交渉をいたしておられるのですから、私は、俗に言うように、請求権だけが解決をして、あとの問題はすったもんだトラブルが起こるというふうなことでは困る。よく、請求権だけ食い逃げにされるおそれはないのか、こういうふうなことを下世話で申します。もちろん、これであっては相なりませんが、せんだって、総理が記者会見で発言をなさったあと、向こうの外務部長官が、請求権と漁業問題は別だ、こういうような発表もしておりますので、そのあたり、もちろん一括解決が原則でございまして、請求権だけ済んで、あとはごたごたするというのでは、これは問題にならぬと思うのですが、この辺の感触を一つ確かめておきたいと思うのです。

○大平国務大臣 仰せの通りでございまして、全懸案は一括して同時に解決するという基本方針は不動の方針でございます。

○井出委員 そこで、請求権問題はまだいろいろございますが、例の平和条約四条に基づきまする、これは法的解釈になりますが、あれは(a)項と(b)項とあったと思います。そこで、日本側の韓国へ残して参りました国の財産、あるいは在留同胞の持っておった個人財産、こういうものは置いてきたわけでありますね。これが米軍の接収するところとなって韓国側に返還をされた、こう理解をいたすわけでございます。これはもうはっきりわれわれは放棄をしておるので、とやかく言う筋合いのものではないでしょうが、しかしこの個人財産については、やはり向こうにおりました営々辛苦の結晶でございますから、そういう関係者は、これが日韓解決の一つの具に供せられておると解釈をするならば何らかの主張をされるのではなかろうか。こういう点に対してはどうお考えでございますか。

○大平国務大臣 平和条約は全体として無条件に受諾して、日本が国際社会に復帰したわけでございまして、日本が公私の財産を放棄したということは厳たる事実でございます。従いまして、日本政府はこれに対して発言権を遺憾ながら持っておりません。ただ、しかしながら、そういう在鮮財産を放棄させられたということは、今回の交渉と全然無関係ではございません。今御指摘のように、私有財産につきましては、いかにも理不尽かつお気の毒であるという感情は、私も井出委員と同一にするものでございますが、しかし、在鮮財産を放棄したということは、政府の意思に基づいてやったことではないのでございまして、連合国の要求であったわけでございます。従って、これに対して、政府が自発的に放棄したもの等に対する措置と、ああいう状況のもとにおきまして放棄させられた場合における措置とは、おのずから政府として違った措置をとらざるを得ないわけでございまして、これに対する補償というような点につきましては、政府は考えておりません。

○井出委員 これは国内問題にもなることでございますから、今補償ということはお考えにならぬとおっしゃいましたが、これはまた別個に議論をすることにいたしまして、先へ進みたいと考えます。
 この第四条を解釈するにあたりましてアメリカ政府の見解を求めたということがあったと記憶します。そして、(a)項にいうところの特別取りきめの際に考慮をする対象になるのだ、概略こういう意味の回答が米政府からあったように思うのでございますが、これは交渉過程において相当ものを言ったのでございましょうか、向こうの覚書はそう大して役に立たなかったのか、このあたりはいかがでございましょうか。

○大平国務大臣 米国の解釈なるものは日韓双方とも同意いたしたわけでございまして、その限りにおきましては、交渉の一つの共通の足場があったわけでございます。しかし、先ほど私が御説明申し上げましたように、請求権の問題を、請求権を通じまして法律関係、事実関係を明確にした上で片づけるという方式で進む限りにおきましては、この足場は共通の足場として活用できたわけでございましょうけれども、私どもは、そういうことによってはいつまでも平行線をたどるだけで、じんぜん時間を浪費するばかりでございますので、別な方式を考えたということでございまして、今私どもが話し合っておるベースの上では、この問題は特に取り上げる必要のないものになったと思います。

○井出委員 かねがね、韓国に対しまして、焦げつき債権が四千数百万ドルでございますが、これがやっかいな問題として残っておったわけであります。この請求権の問題を処理するにあたりまして、これはどのように扱われることに相なりましょうか。たとえば無償供与の分の中から差し引くというふうなことにすれば、これは一番簡単でありましょうが、あるいはそうでなくて、これを年賦で別建に、やるものはやってしまうんだ、もらうものはもらうんだという形で解決をすることになりましょうか、これを明らかにしておいていただきたい。

○大平国務大臣 対韓債権、これは厳然たる債権でございますので、この処理につきましては政府は慎重にやらなければならぬと思います。従いまして、本来の請求権問題とは別にいたしまして、このこと自体明確に処理いたしたいという方針で臨んだわけでございます。従って、この債権は一定期間内に政府に返していただくということは、双方でただいまの段階で合意し合っております。しかし、その一定期間を何年にするかということにつきまして、細部はまだ遺憾ながら煮詰まっていない状況でございます。

○井出委員 この請求権の内容でありますが、こまかな具体的な問題になりますと、なかなかまだ煮詰まっておらぬ部分もあるようでございます。これらは一つ御如才もありますまいが、十分気をつけられまして、やはり何といったってこれは国益と言いますか、国の利益を中心にお考えになっていることはもちろんでございますが、そのあたり一つ御如才なく処理をしていただきたいと存じます。
 次に漁業問題でございますが、私は、日韓会談に対しまして、これを即時打ち切りとかあるいは反対だとかいう御異議が一方にあることを承知しておりますけれども、事漁業に関しまして、ほんとうに零細な漁民の諸君が、知らず知らず李承晩ラインの中に飛び込んでしまった、これでひどい目にあっておるという現状に接する場合には、これは一種の人道問題だと思うのです。こういうあたりからも、やっぱり日韓の問題をこのままにはしておけないという気持が強くいたすわけでございますが、この方はいかがなことなんでありましょうか。これもわれわれ新聞情報程度しか存じませんけれども、日本側は、向こうの沿海六海里程度まではこれは韓国の水域として認める、そのまた外側にもう一つベルト・ラインを六海里くらい認めて共同操業水域とするんだ、こういうふうな案というふうに日本側の分は伝えられておりますが、向こう側は、とてつもなく幅の広い四十海里というふうなものを主張をしておられる。その上にさらにまた禁止水域のようなものを設けられる。ただいまのところでは、これはずいぶん食い違っておるようでございますが、これはどうでございましょう。この開きは徐々には詰まっておるのでございましょうか。それから、これが妥結に至るお見通しというふうなものはいかがでありましょうか、これを伺います。

○大平国務大臣 漁業問題に関して、わが方からも先方に提案をいたしてございます。それから昨年の十二月五日には、先方からの御提案もあったわけでございます。これから本格的な討議に入るわけでございますが、今の段階におきまして、韓国案はどういう仕組みを持ったものである、日本側の提案はどういう構図を持っておるかということにつきまして私が申し上げますことは、ただいま本格的な討議が始まるという段階でございますので、遺憾ながらここで明らかにし得ないことをお許しをいただきたいと思いますが、ただ、今日の段階で言えますことは、先方の提案の内容は、まだまだ柔軟性を欠いておるということは申し上げて差しつかえがなかろうと思います。
 しからば、わが方はどういう考え方でおるかということでございますが、わが方の考え方の基本は、一九六〇年の第二次ジュネーブ海洋法会議におきまして、米加両国から提案されて可決になっております方式がございます。それは、沿岸国に対しまして最大限十二海里の排他的漁業専管水域の設定を認めるということでございまして、この方式は、最近英国と北欧諸国との間における国際漁業紛争の解決がこれを基礎として行なわれておる例もございます。従って、こういった海洋法の最近の傾向はふまえておかなければならぬのじゃないかという考えが一つございます。それから第二として、わが国は第三国との間に漁業問題をたくさん持っておりますので、今度の日韓の間の漁業問題の解決におきまして、国との間の漁業問題の処理において日本側が不利な影響があるようなことが起きてはならないと考えておるわけでございます。同時にまた、韓国の漁業者の利益も考えなければならぬと思っておるわけでございまして、そういえ、ような考え方を基礎に、今私どもとしては提案をいたしておるわけでございまして、これから鋭意この問題と取っ組んで参りたいと考えております。

○井出委員 今、後段でおっしゃった、日本は四面環海の国であるから、ほかの第三国との漁業問題もなかなか幾多ある。これに差しさわりがあるようなことになっては困るという御配慮をなすっておる。これは非常に大事なことでございます。おそらく日ソ漁業問題もありましょう、中国との関係もあるでありましょう。そういうことにおいて、ここで一つ前例を打ち立てられる、しかも日本に非常に不利なものが生まれたということに相なっては、これはまことに困ります。今伺いますと、米加の間の問題、イギリスとノルウェーあたりとの問題、最近それぞれ一つの見本のようなもの、前例のようなものができた。こういうものに十分準拠されまして、一つ御交渉にお当たり願いたいと思うのであります。
 そこで従来李承晩ラインをはさみまして、日本の漁船が今まで幾多拿捕されておる。一体その隻数、トン数あるいは人員、そのうち没収されたものがどうか、返還されたものがどうか、こういうことを、時間の都合もございますから、このことは水産庁に関係しますか、外務省ですか、いずれにもせよ、これは私は資料でちょうだいしておきたいと思います。そうしてそのぎりぎりの結論として、一体今没収されたものがどれくらいあるのか、あるいは向こうに抑留されておる漁民は現在幾人おるのか、これだけは一つ明確にしておいていただきたい。

○大平国務大臣 李ライン設定以来今日まで、一月二十八日現在まで、韓国側に拿捕された漁船の総数は二百四隻でございます。一万二千百十三トンでございます。抑留漁船員の総数は二千五百六名となっております。このうち、未帰還の漁船は百七十一隻、九千六百六十六トン、現在も抑留中の漁船員は二十七名でございます。

○井出委員 今伺いました数字によりますると、人員は大部分釈放にはなったものの、漁船はほとんどまだ大部分のものが向こうに拉致されたままになっておる形のようでございます。これは今までもう少し何とか手だてがなかったものかという感じがいたしますが、これに対しては、終戦以来起こった事柄でございまして、補償を要求する、向こうはそれを考える、何かそういうようなことは議題になっておりませんか。

○大平国務大臣 先ほど私が申し上げました通り、この問題は、漁業問題処理の一環として処理して参りたいということでございまして、当方から、おっしゃったように要求すべき性質のクレームであることに間違いがございません。

○井出委員 それでは少し先へ進みますが、在日韓国人の法的地位を明確化する、これも一つの大きなテーマであるわけであります。そこで、この法的地位を明確化するということはいかなることでありましょうか、この内容を一つ明らかにされたいわけであります。現在、在日韓国人というものがおよそ何名おるということに相なりましょうか、これは南と北と区分をして数を示されれば一そうありがたいのですが、そうしてこの人々の納税の問題とか、教育の問題とか、婚姻の問題とか、あるいは戸籍が一体どうなっておるのか、いろいろな問題が私はあろうと思いますが、時間の都合もありますので、これはまあ問題を指摘するだけにとどめまして、法的地位を明確化するということの具体的内容を、簡単でよろしゅうございますがお示しを願いたい。

○大平国務大臣 在日韓国人は総数約五十八万人でございます。それで、これらの方々は終戦の日以前に日本人として来日し、引き続き在住されておる方と、それから日本で生まれたその子孫でございます。この方々はほとんど日本の言語、風習に同化しておりまして、平和条約発効時までは日本人として居住していたのでありますが、平和条約発効に伴いまして、自己の意思によらないで日本国籍を喪失されて、その結果として、日本人として受けていた待遇を失ったという事情にございます。政府としては、このような特殊な事情を十分考えると同時に、国際慣行にも照らしまして、あるいは国内に将来政治的、社会的禍根を生じないように配慮いたしつつ日韓双方の納得がいく解決点を見出したいと考えておる次第でございまして、現在永住権の問題、永住権を付与された問題に対する退去の問題、それから永住目的で韓国に帰還される場合の持ち帰り財産の問題とかいうような問題が、いうところの法的地位に関連いたしまして討議が行なわれておる状況です。

○井出委員 これもこまかく申し上げておると長くなりますから、いずれ外務委員会等に譲るといたしまして、一つだけ予算に関連をいたしまして、ことしの予算は社会保障を一つの柱として大きく取り上げられました。その中で、生活保護費七百二十二億という近来にないふくれた数字がございますが、聞くところによると、在日韓国人でかなり生活に困っておる人々が多いのだ、こういう人々が、生活保護を受けておるという数が相当にあるようであります。これは厚生大臣の管轄になりましょうか、これは一体何人くらいあって、そういう人々にわが国民の納税から出るところの予算、その生活保護の費用がどれくらい向けられておるか、これを一つ伺っておきたいと思います。

○西村国務大臣 在日朝鮮人の総数は約五十八万人ということで、そのうちで生活保護と同様な保護を受けておる人が、三十七年十月現在で六万人くらいでございました。その経費は、約二十八億円くらいになっております。

○井出委員 それでは先に進みまして、もう一つの話題の竹島問題であります。
 竹島問題というものは、びょうたる一孤島であって、大して経済価値はないものだ、こんなふうなことも申します。しかし、何と申しましても、わが国固有の領土である、この認識においては間違いないのでありまして、この問題の処理は北方領土の問題その他にも影響なしとはいたしません。そこで、これをやはり懸案事項の一つとして重大にお考えになっておるということはもちろんでありますが、これは大野副総裁あたりから共有案などというものが出たことがあります。これは加えて二で割るという方式かどうか知りませんけれども、そういう前例があるかどうか存じませんが、総理はそういったことは否定されていらっしゃる。そこで、第三国の調停とか、あるいは国際司法裁判所へ提訴をする、こっちが提訴した場合は向こうが応訴しなければ成立しないように聞いておりますが、この辺の見当はどうでしょう。まだ煮詰まるというところまでいっておりませんでしょうか。

○大平国務大臣 このような領土紛争の解決の見通しがなく、日韓間にわだかまっておるということは、将来の影響を考えますとよろしくないことであると思っております。政府は、国際司法裁判所という機関がありますが、この機関は種々の領土紛争を適切に解決された能力、実績を持っておりますので、この問題を国際司法裁判所に提訴し、先方も応訴していただくということで提案いたしたのでございます。この提案に対しまして、韓国側は、第三国または第三者の調停に付して、調停が不調に終わったときに、国際司法裁判所に提訴するか、もしくは他の解決方法をとるかは、日韓間で協議したらどうでしょうかというような提案をしてきておりまして、今御指摘のように、まだ煮詰まっていないのでございます。しかしながら、私どもとしては、どんなことがございましても、少なくともこの竹島の帰属問題の決定は、日韓どちらに帰属するかということがはっきりしないまでも、いかなる手段によって帰属を決定するかの点はきちんとさしておかなければいけないのではないかということでございまして、ただいまそういう双方の意見がまだ煮詰まらないまま討議を続けておるという段階でございます。

○井出委員 今伺います御感触の中からくみ取れることは、この問題を韓国側が面子にかけてでもとか、あるいは非常にかどばった態度ではおらぬように私はうかがいとれたわけであります。そういうふうに承知をしつつ、ここでもう一ぺん、今まででも私は大体懸案事項に触れたつもりでございますが、諸懸案を一括解決をするという原則、これは私は総理からも御答弁をいただいておきたいと思うのでありますが、もう一つ、ついでに、この日韓会談に反対をされる向きからは、日韓交渉というものが成立することによって、これが軍事同盟になるんだという懸念が指摘をされておるのであります。たとえば社会党の長老である黒田さんなんかの最近の総合雑誌に寄せた論文等を拝見しましても、これがまさに日韓軍事同盟を形成するものだ、これは事実上NEATOを成立させるものだというような意味のことがございます。事ごとに何かアメリカ極東政策の一環というふうなことに結びつけてものを考えようとされるようですが、私は、これはかえってみずから冷戦の渦中へ自分を投入するような御議論だとも思うのです。でありまするから、こういう懸念はないのだ、これはやはり総理から明確にされておいていただいた方がよかろうかと思います。

○池田国務大臣 先刻来の御質疑で明らかにされたように、日韓関係を正常化していこうというのでございまするから、あらゆる懸案を全部解決しなければ、正常化というものはあり得ないわけです。だから、個別にどうこうしようということは根本的に誤りなんだ。新聞記者会見で言った御破算にするということは、もとへ戻るということ、全部成り立たぬということでございます。そういう考え方に変わりございません。
 それからまた、日韓会談、正常化は、NEATO参加を意味するものだということは、あまりに日本が自信がなさ過ぎることを現わすものであって、国に対する自信の有無の問題だ。われわれは決してそういうことはしない。する必要がない。それをいかにもそういうことがあるようなことを言うことは、私は、よそから見て、いかにも日本はだらしがないと思われるんじゃないかといういやな気がするので、そういうことは一切いたしません。
 またこの機会に申し上げておきますが、NEATOの問題で、先般本会議で成田君の質問に、総理は韓国への借款をしないと言っておるがどうか、うそを言っているじゃないか、こういうお話でございますが、これは、さきの江田君の質問に、日韓交渉を成立さして、将来の日韓の間には借款ということはあり得ますが、今正常化しない前の借款ということはしない、こういうことでございます。ちょうどNEATOの問題と同じときに答えておりましたから、参考に申し上げておきます。

○井出委員 そこでただいまの韓国の政情というものが、なかなか変転きわまりない情勢にあるやに伝えられます。私は、この韓国の歴史であるとか、あるいは民族性というものを考察をいたしますと、これはああいった半島に位置を占めておりましたがゆえに、しばしばその独立を危うからしめるような客観事態に見舞われたという、何か歴史的にそういう不幸な運命を負わされた民族であるような気がいたすのであります。また人種的あるいは血液的に見ましても、相当これは複雑な民族でございまして、常に闘争が行なわれてきたというふうなことも顕著である。一口に言えば、韓国というものは政治過剰にして逆に経済が貧困だ、こういう気の毒な現状にあるようであります。
 最近を回顧いたしてみましても、李承晩氏の強圧政治がずっと続いた。張勉内閣があとできたが、これも弱体であった。そうして政界、財界は腐敗をする、貧官汚吏がばっこするといったような、目も当てられない状態というものになって、学生諸君、あるいは教授諸君が決起をして学生革命が起った。その後どうやら幾らか民主化の曙光が見出されたものの、これまた思うようにいかない。青年将校が決起をする、その青年将校は貧困な農村の子弟である。何かわが五・一五事件を思わせるような軍事革命であったと言えるわけであります。
 そこで、この軍事政権というものが非常に気にかかる。野党の諸君などは、この軍事政権と交渉することはけしからぬじゃないか、こう言われるわけでありますが、おそらく政府とされては十分な分析を遂げて、これは軍事政権といえども非常に純真なる動機に出ておるのだ、彼らがやっておることは比較的清廉な政治もやっておる、国内民衆の支持もあるんだ、こういうふうに認識をされておると思うのであります。これは日本の歴史を見ましても、明治維新以来憲法ができ、あるいは議会政治が生まれるというまでに、やはり二十何年かかかっておるのでございまして、そういった近代国家建設にあたっての陣痛と言いましょうか、そういった苦悩のさなかにただいまあるという意味においては、これは同情もしなければならぬわけでございます。
 そこで政府は、この朴政権を相手にずっと交渉をなすっていらっしゃるのですが、やはりこの政権が十分信頼に値する。これは総理は朴さんと親しくさしで話されたのですね、人間的なものにもしみじみ接しられたわけでありまして、そういうことも根拠になるでしょう。あるいは法的にいえば、にオブザーバーとして出席をしておるのだ、五十何カ国が韓国を認めておるのだ、こういうことも根拠になるでしょう。この辺を、韓国の政情が動揺しておればおるだけに、やはり国民を説得なさらなければいかぬという意味において、朴政権に対する評価というものをこの際伺わしていただきたい。

○池田国務大臣 お話しの通りでございまして、私は直接朴議長とも会って人柄も知っております。また革命後朴政権のとってきた民主化への努力というものを私は認めております七そうしてまた、私のみならず世界各国が、朴政権が発生するまでは三十数カ国だったと思いますが、朴政権発生以来それが五丁六カ国に相なっておる。こういうところから見まして、国際的に朴政権は合法的な正統のものと認められる、また人柄もいいし、その後の努力も私は見るべきものがあると思うのであります。その下におる人が、政党を結成する場合において、入るか入らぬかということは、これは日韓交渉に直接の関係のあるものじゃないので、われわれは隣国のよしみをもって、しかも正常化しようとお互いに努力しておるのですから、その内部に起こったことでとやこう言って交渉をやめるとか交渉に影響さすということは、私はとるべき策でないと考えておるのであります。

○井出委員 相手方の内部に起こった不幸といえば不幸、こういう事実でございますから、今の総理のような御態度でよろしいと思いますが、韓国は八月半ばをもって民政に移管をするんだ、そのプロセスとしまして、四月には大統領選挙、五月には国会議員の選挙、こういうプログラムを設定しておるようでございますが、いろいろ問題はあるようでありますね。もとの首相でありました宋堯讃という人が、朴最高会議議長が軍服を脱いで大統領に出るということはいかがなものかというような内部批判もある。あるいは最近金鍾泌氏と金東河氏との間の確執というようなものも伝えられております。これは向こうのことでございますから、私はあえてかれこれ言いませんが、ただ、こういうとき残念なのは、もう少し向こうの状況をはっきりつかみ得るという意味において、やはり在ソウル日本代表部というようなものがこういうときこそあってしかるべきものだ、こういう気がいたします。これはこれでその設置をさらに要請される御努力を願うことにいたしまして、こういった最近の政情からしまして、こちら側のプログラム、日韓妥結をなるべく急ぎ、しかるべき国会にはもう批准まで持っていくんだ、こういう予定が幾らか狂いがきておるというふうなことはどうでしょう。観測を伺います。

○大平国務大臣 私といたしましては、一日も早く全懸案がも煮詰まって妥結に至ることを希求し、そのために努力をいたしておるわけでございますが、しかし、これも相手のあることでございますので、いついつまでにこうしてみせるというわけには参らないと思います。段取りといたしましては、請求権の問題の基本につきまして一つの前進を見ておりますけれども、これから漁業問題に取っ組まなければなりません。この漁業問題というものがどういう姿において妥結が得られるかということは、今後のスケジュールに決定的な影響があるのではないかと思います。しかし、政府としてはなるべく早く妥結するように希望し、努力しておりますことに変わりはございません。しかし、外交交渉でございますから、いついつまでというお約束を申し上げるわけにも参らないことは御了承いただきたいと思います。

○井出委員 韓国問題については、まだいろいろありますが、ほかにも言及いたしたいので、この辺で一応の締めくくりをしておきたいと思います。
 今外務大臣の御答弁のようになるべくこれはスピーディでなければならぬ。しかし、いろいろな事情もありますからステデイでなければなりますまい。同時に、何と申しましても国民の納得を求めるという御努力をさらにさらに払っていただきたいのであります。私は、この韓国というものは日本も責任があると思うのです。総理は分裂国家というふうな表現を用いられましたが、とにかく終戦の結果こちらから分かれていった新国家でありますから、この新国家というものが、発足のその瞬間からこれは百点満点というわけにはなかなかいきません。まあ及第点であるならば、これは一つ大いに支援をしてやる、こういうことでいいのではないか。今おそらく政府は、諸般の事情から韓国の現状は及第点だ、こういうふうに見て当たっておろうかと思うのですが、日本が大国である、これはただいたずらに胸を張るというだけの大国じゃいけませんけれども、国際社会において韓国問題一つ解決ができ得ない姿はどうも醜態ではないか、大国たるに値しないではないか、こういうことにも私はなると思うのであります。キューバの現状というものがアメリカののどにささったとげであるというような表現がしばしば用いられますが、私は、韓国は日本の内臓疾患ではないでしょうけれども、少なくとも神経疾患だという感じがするのです。従いまして、これをやはり解決をしなければならぬ。それは困難ではありましょうけれども、さらに一つ勇を鼓して、これはおそらく池田内閣としては政治生命をかけてやる問題ですよ。そういう意味で一つ御努力を要請いたして、韓国問題はこのくらいにいたしたいと思います。
 そこで、次に私は日中の問題を少し伺ってみたいと存じます。
 今からもうかれこれ四年前になりますが、一九五九年の秋に松村謙三氏が訪中をされました。私もそれに同行いたしまして、約一カ月半、北京はもとより、かなり中国の奥地まで、揚子江をさかのぼって遠く雲南省へも参りました。黄河をずっと遡航たいしまして甘粛省あたりまで参りました。その際に松村・周恩来両氏の間で最終的に煮詰まった結論というものは、次のようなものであったと記憶をするのであります。つまり、日中両国はお互いにその政治体制を異にいたしておる、これはもう互いに認め合って、それを相侵さないことにしようじゃないか、その上に立っての文化の交流、経済の交流、これをはかっていくことは可能だ、こういった意味のものであったろうと思うのでございまして、これは一種の積み上げ方式がそこから生まれてくるのでありますが、これによって当時、言うならば糸が切れておりました日中の関係をまあまあつなぎとめることができたというふうに思うのであります。このことは私は今でも続いておると思うのですが、しかし、当時は岸内閣のことであり、かつ安保問題等が日本の内部にございまして、なかなか日中の接近というものはあり得なかったわけでございます。しかし、池田さんが総理になられて以来は向こう側も漸次認識を変えてきたようであります。そして総理のいわゆる前向きの姿勢というものがだんだん向こうにも理解されて、きたように観測をいたすわけでございます。先方が日本に何となくアプローチして参りました理由は、これは向こうの内部事情も確かにあると思う。最近の食糧危機と言いまし、占うが、凶作はひどいもののようであります。先方は、これは天災地変だというふうなことに藉口しておりますけれども、事実は、それは悪天候もあったでございましょうけれども、やはり人災的な意味のものもあったと思うのです。ことに人民公社の方式に急激に切りかえたということで、さまざまなフリクションを起こしておる。食糧増産の意欲が減退するというふうなこともありまして、一方猛烈な大躍進という言葉で表現される工業化への傾斜方式を急にとったがためにバランスを失したということがあの食糧事情の悪化に現われたものだろうと思いまするし、同時に中ソ問題というものがどうも思わしくいっていないということは、これは確かであります。私どもも、三年あまり前に黄河の中流にございます三門峡のダムというものを見せられました。これは現に私はこの目で確かめたのでございますが、あのとうとうたる大黄河の濁流をせきとめてりっぱなダムができておることはこれは確かであります。これは人海戦術を用い、いろいろやったのでしょうが、ともかく大規模のダムができた。これは日本の黒部や佐久間とスケールがちょっと違います。そのときに彼らの言うのには、来年になればソビエトから発電機が十数台到着して百二、三十万キロワットの電力がここで起きるのだ、それが楽しみなんだ、彼らはこう言っておりました。しかるに三年あまりたって最近この現場を見てきた人の報告によりますと、大黄河の水はただいたずらにむなしく放流されておるのみだ、発電機はさっぱり到着しておらぬ、こういう情報を聞くにつけましても、どうも中ソ関係というものは思うようにいっていないということは確かでございます。そういう意見で日本に向こう側が接近を開始してきたと見ていいと思うのでありますが、さてこの際、向こうは困っておる、実際食糧危機だ、困っておるからむしろ困らして、それによって共産政権が崩壊をするであろうというふうな見方をする人もございます。けれども私は、それは必ずしも考え方としては前向きではない、こういうように思うのでありまして、それにかんがみて、わが党の長老である松村さんにせよ、高碕さんにせよ、老躯をひっさげて昨秋向こうに渡られたわけでございます。松村さんが政治的なレールを敷いたとするならば、その上に高碕さんが車を走らしたのだ、こういうふうに理解していいと思うのですが、高碕さんは非常にうまい言葉で日中問題を表現をしています。ちょうど日中の関係はトンネルを掘るようなものなんだ。トンネルを掘るには、いきなり大きな穴をあけちゃいけない。これは土砂の崩壊の危険があるんだ。小さい穴でいいんだ。その穴は両方から掘り進むということが必要なんだ。その穴を掘るについては方向を誤っちゃいけないんだ。この三つの点をあげて、トンネルを掘るのにたとえて表現しておられます。私は、こういう意味において、日中の間柄というものは、今すぐに大きな貿易量を期待することは、客観的事態がこれを許しますまい。けれども、向こうの連中の言葉で言うならば、穏歩前進だ、こういう感触でおるわけでございますが、総理がよく言われる日中関係に対する前向きの姿勢とおっしゃるのは、ほぼ今私が申し上げたようなことを大体是認をされるお立場と解してよろしゅうございましょうか。総理の御見解を承りたい。

○池田国務大臣 大体においてお考えと同じでございます。歴史的、地理的に、また文化的に深い関係のある中国のことでございますから、政治体制は違っておりますが、お互いの立場を尊重し、内政不干渉の建前から、私は、貿易は徐々に進めていくべきだと思います。ただ、政治的問題になりますと、日華条約もありますし、また、事アジアを中心とし、世界の平和にも非常に影響のある問題でございますから、政治的なあれは、国連におきまして、国際世論に従っていくべきだと考えております。

○井出委員 そこで、具体的な中共貿易の点でありますが、これはおそらく量においては大して多きは望めないでありましょう。それは、向こうは支払い手段としての外貨にも事欠いておるわけでありますし、輸出と輸入がぴったりバランスしないわけであります。それは、鉄鉱石とか粘結炭を入れるということになれば、貿易量はもっとふえるでありましょうけれども、今のところ日本側としては、鉄鋼メーカー諸君は他に長期契約をすでに結んでおりますから、そうも簡単には参らない。しかし、たとえわが国が中共との間に貿易をしなくても、西欧の諸国がどんどん進出をしてくるというようなこともございますから、これはやっぱり日本としては、量はたとえ少なくても、十分意を用いておく必要はあろうと思うのであります。日本の産業界から申しましても、設備投資はかなり増大をし、生産性は向上してきておるのでして、それがさて製品となって現われるという場合に、市場は広く求めておく方がいいわけであります。ただ、向こうは国家貿易でありますから、何々公司というものが一本の窓口になっておる。こっちはいろんな商社がひしめいてやっておるわけでございまして、向こうに友好商社などといって勝手にレッテルをはられて、今まで不見識なこともありました。そうじゃなくて、これを一つの日中輸出入組合ですか、何かそういったような機関を結成することによって、向こうとの取引を円滑にするという方法が考えられる。通産大臣にこういう点は伺っておきたいのですが、こういう貿易取引の方法をやっぱりあなたも前向きでお考えになっていらっしゃると思うが、御見解はいかがですか。

○福田国務大臣 日中貿易に関する先生の一お考えについては、私も大体同じような考えを持っておるわけであります。ただいま輸出入組合の問題についてお話がございましたが、これは御承知のように、今回の貿易はやはり民間貿易ということに相なっておりまして、貿易と言います以上は、やはり相手のあることでございまして、相手がどういうことをお考えになっておられるかということが非常に大きい。そこで、向こうの感触も見ながらこの問題は処理していった方がいいんじゃないか。中共の方で特に希望もしてないのに、むやみにまたそういう方面にだけ力を入れてみてもおかしなもので、そこら辺は向こうの感触も見ながら順次具体化をしていくというような形に持っていくのがいいのじゃないか、こう思って、あまりそこに力こぶを入れるというようなやり方はいたしてはおりません。しかし、必要があればもちろんそういうふうに持っていく、そういう感触で見ておるわけであります。

○井出委員 日中関係につきまして、旧臘十二月三日でありましたか、日米貿易経済合同委員会の席上で、ケネディさんが、その午餐会において発言されたコンテインという言葉の意味が、かなり論議をかもした。これは、その前にハリマン国務次官補の発言等もありまして、ちょうど大平さん以下六閣僚のお留守中でありましたが、日本側には相当の衝撃を与えた事柄でございます。そのときに総理は、事日中の関係については、あえて他国の指図を受けるべきではない、独自の考え方で進むのだという見識をお示しになった。これは私は高く評価されていいと思うのです。そこで、総理からは、やっぱり今後もそういうお考えであるかどうか、まあそうだろうと思うのですが、これを伺いますとともに、大平さんから、そのときあなた方が受け取られました感じですね、何かケネディさんの言葉というものは強く響いたのか、このごろ大卒さんは英語も大へんごたんのうでありますから、そのあたりを先に伺いましょうか。

○大平国務大臣 十二月三日に第二回の日米貿易経済合同委員会に私ども招待されたときに、大統領の午餐会のあいさつがございました。これは大統領としては、アジアにおきまして共産主義運動の脅威、その拡張を阻止することの必要性につきまして、率直に御見解を述べたものでございます。アメリカの立場、大統領の立場としてああいうことを言われることは、一向奇異な感じを受けなかったわけでございます。しかしながら、具体的に日本にどういう協力をしてもらいたいというようなことは一切なかったわけでございまして、私どもその場におりました者といたしまして、特別のショックを受けたというようなことは、同僚の皆様も同様でございますが、そういうことはございませんでした。

○池田国務大臣 さきの国会でも申し上げましたごとく、われわれは自由国家群の一員ではございまするが、やっぱり日本の利益を第一と考えてやっていくのであります。従いまして、先ほど来外務大臣がお答えしたように、共産主義の拡大を防止すること、阻止することには協力いたします。しかし、それと日中貿易促進の関係とは、私は別個の考えで進んでおります。

○井出委員 中国側におきまして、かつて政治の三原則、こういうものを示したことがございます。これは、中国に対して敵視政策をとってもらっては困る、二つの中国の陰謀に加わらぬこと、そうして国交の正常化を望むのだ、こういうことであったと記憶をするわけでありますが、私は、これは何か的違いのことを日本に要求しておるという感じがするのです。われわれはあくまで善隣友好を望むものでございまして、六億五千万の中国の民衆の幸福が傷つけられ、これを敵視するというふうなことは毛頭考えていないわけでございますし、また、二つの中国の陰謀というようなこともとんでもないことだと私は思う。現に大陸の政権と台湾の政権と二つ存在をするという厳然たる客観的事実は、これは日本が関知してできたことじゃないわけです。さらに、日中両国が将来必ず正常化しなければならぬ。当面これはわが方においてなかなか困難な事情というものはありますげれども、これも別に問題ないことなんで、こういうことを事あらためて向こうから申される筋合いのものではない、こう思うのです。しかるに、ずっといきさつがございましたが、かつては社会党の淺沼委員長が共同声明を北京で出された。鈴木前委員長がまた行ってこれを再確認をされた。鈴木さんはその後これを取り消されるというようなことがございましたが、去年の秋に行かれた使節団の諸君、これはまた中共ぺースのもとに同じようなことを再確認して帰っておられる。どうもこの辺が私には理解に苦しむところなんでございます。私どもはいわゆる中立主義にくみする者では断じてない。これは、インドのネール首相も、いわゆる非同盟主義の哲学があの中印国境紛争問題においてむなしく崩壊をしていくという前に、いろいろと考えさせられておられると思う。そういう意味において、私はかつてレーニンの言った言葉だと聞いておるのですが、かきねの上にはすわれない、これはやっぱり翫味すべき言葉だと思うので、そういう意味において、私どもは中共とは接触はいたしましょう、けれども、自民党の立場というむのはおのずから守るべき限度がある、その限りにおいてはやっぱりきぜんとした自主性を堅持して当たらなければならぬ、こう考えておるのでありますが、こういった政治一般に対する対中共に関する心がまえといいましょうか、私は私見を申し上げて恐縮なんですが、これはどうでしょうね。大体首肯なさいますか。総理の御意見を伺いたい。

○池田国務大臣 組閣以来、機会あるごとにお話のような点を言っておるわけであります。わが国は中立主義はとり得ない、わが国に対しては非現実的だ、こう申し上げて、全くあなたのお考えと同じでございます。

○井出委員 そこで、通産大臣に伺いたいのですが、高碕使節団が向こうで結んでこられた協定、これは、ここで内容をくどくどは申しませんけれども、五年間にわたる総合長期バーター・システムとでも申しますか、往復で五億ドル前後だ。向こうへ輸出をする品目は肥料あり、鋼材あり、農機具、農薬あり、向こうから入れるものは大豆であるとか、あるいはトウモロコシ、塩、それに鉄鉱石あるいは石炭もあるでしょうが、そういったものをやり取りをするのだ。そこに延べ払いという問題も出てきておる。それから化学繊維のプラントはこれは別立てだ。およそこんなふうな内容に承知しておるのですが、これは使節団から大臣の方にも内容についての報告がございましたろうか。また、私の今申し上げたことは大体そう間違っておらぬのでしょうか。それを念を押しておきたいと思います。

○福田国務大臣 お答えをいたします。
 そういう協定を結ばれた内容については、非公式に承っております。それから内容につきましては、今、井出さんがおっしゃったような大体内容と了承をいたしております。

○井出委員 その場合、延べ払い二カ年ということでありますが、これは品目とすれば何と何か、これはいかがでしょうか。

○福田国務大臣 特殊鋼あるいは農機具というようなものは、大体二年というふうに了承しております。

○井出委員 今のは認められないものですか、認めるものですか。

○福田国務大臣 いやいや、認める認めないという問題ではございません。その内容を申し上げたのでございます。

○井出委員 通産大臣が最近の記者会見において、鋼材、農機具などの輸出については、あと払いのシステムは認めがたいんだ、こういうことを言われたように聞くのでございますが、これは事実でありましょうか。また、もしそうであるならば、それはどういう理由からでございましょうか。

○福田国務大臣 御承知のように、貿易というものは、できるならば現金でやるのが一番いいわけでございます。ところが、最近いろいろの事情がありまして、延べ払いという制度もだんだん出てきておりますが、しかし、同じ延べ払いといいましても、相手のあることでありますから、この点も考えなければいけません。延べ払いを考える場合におきましては、相手の外貨の事情がどうなっておるとか、あるいはまた延べ払いをしておる間債権が十分に確保できるかどうかという、相手国の側の事情も見なければならない。それから日本の国の立場から言いますと、輸出入銀行というものが、はたしてそういう延べ払いにどれだけ耐え得るかという問題も考えてみなければいけません。一国に許して、そうしてよその国には認めない、こういうわけにはいきませんから、延べ払いの条件を緩和すればするほど、やはり輸出入銀行の金はよけいかかってくるということになるのは当然でございます。こういうようなことをいろいろ考えてみますと、できるだけ延べ払いというものはやらない方がいいんだということは、私は一般論として認められることだと思うのでありまして、これは中共でなくても、あるいはその他の東南アジアの諸国にしても、よその国にしても、私は同じだと思うのであります。そこで、そういうような延べ払いというものはできるだけ少ない方がいいという考え方でございますが、ただ問題は、延べ払いというのにもまた解釈が二つございまして、たとえば、二年の延べ払いという場合に、品物は渡しておいて、そうして二年後に全額払うというのも延べ払いでございます。それからまた、品物を渡したとき幾部分金を受け取りまして、あと一年目に半分なら半分もらって、その次にまた二年目に半分をもらうというのも一つの延べ払いだと思うのであります。ここいら辺に延べ払いのいろいろな種類、と言ってはおかしいですが、考え方があるわけでありますが、今回の民間の協定によってでき上がったものは、あと払いの方式になっておるように私は承っておるのであります。こういうようなあと払いの方式になっておるものを、そのままここですぐに認めていいかどうかということになりますというと、やはり品目の関係とか、品物自体の内容、それから日本の国内における、先ほどあなたが仰せになりましたが、いわゆる過剰設備をうまく動かしていくには延べ払いも認めにゃいかぬじゃないかというようなものの考え方、これは当然われわれとしても考えるべきことであります。そういうような問題とか、その商品別に従いまして、そうしてまた、それが中共あるいはソ連、あるいはまた東南アジア、あるいは欧州というような国と、どういうような今現実その品物自体の取引があるかというような問題もまた考慮しなければならない。そういうふうに一つ一つの品目について十分見きわめた上で、これは態度をきめていくべきである、こういうふうに考えるのでありまして、総括して言えば、延べ払いというものはどっちかといえばあまりやりたくない。またあと払いはなおさらやりたくない。分割ならまだいいのでございますが、あと払いはなるべくならやりたくないということは、私は当然だろうと思うのであります。そういう意味での発言はいたしましたが、それでは、協定自体に盛られておるものを全部私が否定する考え方でそういうことを言っておるかというと、そういう意味では申したことはございません。そういうことは言っておりません。原則としてはそういうものだということを言っておるのであります。これは、今後個々の問題について起きた場合に、その品物によって、またそれの貿易関係等も見た上、各国との関係、あるいはまた日本の輸出入銀行の資金関係、またこれが将来ほかの国に及ぼす影響等々も十分見合わせ、同時に、日本の国内における産業の姿、あるいはまたいわゆる需給の関係等々ももちろん考慮のうちに加えた上で、慎重に検討をして態度をきめて参りたい、かように考えておるわけであります。

○井出委員 一般論としては、通産大臣の言われることはわかります。あなたは通産行政の主宰者として慎重でなければならぬ、これは当然でございます。ただ、せっかく芽が出た時期ですから、石橋をたたいて渡る、石橋は十分たたいていただかなければならぬが、たたいただけで渡らぬのじゃ意味がないのです。せっかく総理が前向きの姿勢と言っていらっしゃるのですから、あなたもそういう心がまえはお持ちを願いたい。現にソビエトには相当な延べも認めておるようでありますし、西欧水準ということがよく言われましたが、これはもうほうっておきますと、やはり一種の空間ができているのですから、これは西欧が入っていく。私かつて向こうで幾つか工場を見せられましたが、向こうにある機械類はかなり国産のものができておることは確かです。同時に、共産圏のチェコであるとか、あるいは東独であるとか、この方面からの機械も入っておりましたが、その中で目についたのは、カナダあるいは西ドイツ――ちゃんとそのメーカーのネーム・プレートが打ってある機械を幾つか見たわけであります。そういうふうなこともございますので、そうかたくななことでなく、少なくとも西欧水準、こういうふうな感触をお持ち続けを願いたいと思っております。
 それから、延べ払いないしはあと払いというところまで一歩前進をいたしましたことは、従来の民間だけのバーターの取引ということではなくて、少なくとも輸出入銀行が、政府機関であるこういったものがそこに介在をして保証の責に任ずるということでありま旧すから、まず一歩前進だ。政府間協定ということを――向こうは貿易三原則とか、何かあっちは原則が好きなのですね、そういうことを言ってはおりますが、政府間協定というものに踏み切るということは、これはいろいろな事情もございましょうけれども、これも非常に話題になっておることですから、やはりこの席上でこれは総理から、そういうふうなことはまだ無理があるのか、そのあたりをお話し願っておきたいと思います。

○池田国務大臣 正常な国交が開かれておりませんので、政府間協定ということは、私は差し控えたいと思います。ただ問題は、通産大臣がお答え申し上げましたように、外貨の向こうの事情でございます。最近の状況を見ますと、農作物の不作のために、大体一九六一年から六四年までに千二百万トン小麦を入れる。それが八億ドルでございます。運賃を入れますと九億ドルぐらいであります。今その半分五百五十万トンぐらいの支払いはしておるようであります。なかなか外貨事情もよくございません。先般の塩安につきましては二十万トン、これはあと払いということでやむを得ずいたしました。これは滞貨もありますし、生産能力が相当あるものであります。しかし硫安をやりますということになると、これは台湾とか、あるいは韓国、あるいはまた契約ができそうで今ちょっと悩んでおりますインドネシアにも関係いたします。こういう点がございますので、ことにどこの国でもあと払いということはない。みな延べ払いというのは、ソ連にいたしましても、どこの国でも、また中共自身が濠州やカナダから買いますときも、やはり三〇%の前金を出して、そうして初めは九カ月、今は一年くらいになっております。日本にだけあと払いということを言うのは、日本の常識にも合わぬわけです。だから、塩安はやむを得ずいたしましたが、鉄鋼あるいは農機具等につきましては、なかなかこれはむずかしい問題であるのであります。よその国に影響いたします。これはやはり今慎重に考えておる次第でございます。ソ連なんかにもやはり前金幾ら、そうして年賦あるいは半年賦ということになっております。中共だけということにつきまして非常な悩みがあるわけであります。

○井出委員 少し先を急ぎまして、日中関係の問題でもう一点です。志賀長官おられますか――このごろ私は新聞で見た範囲でございますが、中共が原爆を保有するに至るであろう、これはおそらく情報を基礎にしての御発言であったろうと思いますが、これがかなり耳目を聳動した、こういう事実があったようであります。中共というのは、たとえば一種の軍事国家みたいなものであって、常備兵力地上軍四百五十万というふうなことを、かつて私は向こうへ行ったときに、向こうから直接ではありませんけれども、そういったことを聞いたこともあります。航空機は三千を保有する。そのうち半分はジェットである。こういった兵力を持った上に核兵器を持つに至るということは、これはなかなか看過し得ないことである。こういう意味において、長官のこの間の御発言というものをここで確かめておきたいと思います。

○志賀国務大臣 お答えいたします。
 中共の核開発の進展につきましては、防衛庁といたしましても、注意深くいろいろな情報なり資料に基づいて検討いたしておるのであります。ただいまのところの判断では、中共の最初の核爆発は早くて一年、二年のうちに行なわれるという観測の上に立っておるのであります。これはただいま仰せの通り、いろいろな世界じゅうで行なわれておる観測なり、あるいは新聞報道、資料その他の情報に基づく私どもの観測でございます。なお、こうした趣旨に基づいて私の発言があったわけでございますが、私の発言の中に、核二個の保有説というものが新聞に伝わったのでございますが、今日核を持っておりまする国々の実験の経過を見ますと、最初の核爆発は少なくとも二回行なわれております。もとより一回の試験では十分ではないのでございますから、少なくとも二回試験が行なわれておるのでございまして、もしも中共が初めて核爆発を行なうとしますならば、少なくとも二個は持たなければ実験はできないというのが常識であると私は判断いたしておるのであります。

○井出委員 そこで、ただいまの問題でありますが、私は志賀長官の御発言を一つの観測という程度に伺うのでございますが、これは場合によりましてはなかなか大きな波紋を呼ぶ問題でございまして、これによりまして極東の戦略的均衡というふうなものにも異変が起こるのではないか、あるいは米軍もこれに対処するためには、さらに核装備を増強するというふうなことにも発展しかねない、こういう問題をはらんでおることでございまして、私はここで注意を喚起するという程度にとどめておきまするが、問題は、中共の将来というものを考えましたときに、そういう事態にまで相なるという場合は、これが国連の中に入っておらないというならば、トラを野に放っておるにひとしいわけでございまして、これを考えずして一体世界の軍縮というものが可能なのか、あるいはこの核爆発の実験停止交渉というようなものも、やがては中共を考慮のうちに置かなければならぬのではないかというような問題にも相なるかと思うのでございます。従って、国連総会において、中共の加入を重要事項に指定をするということで当面をしのいでおるようでございますけれども、はたして将来こういったなまぬるいことでいいのか、このあたりは将来の問題でありましょうけれども、どうか総理からそういったお見通しというようなものをこの際伺っておきたいと思います。

○池田国務大臣 二、三年前から中共の核爆発ということが話題に上って参りました。私がヨーロッパへ参りましたときにも、いろいろ聞かれましたが、私は十分資料がございませんので、適当に答えておきましたが、しかし、何と申しましても、核爆発の実験をしたからといって、すぐ核装備に移るということはなかなか困難でございます。しかも、核爆発の実験に至る原材料がどこから来ているかということも問題でございます。そうしてまた、幾つ持っているかということも問題でございます。もちろん、中共には二人ほど非常に有能な学者がおられることも知っております。しかし、数年前から建設中の黄河の水力発電が、ただいまお話のようにほとんどできていない。そして最近の共産圏の多元化と申しますか、中ソの関係等々から申し上げまして、私は、非常にこのことは慎重に考えなければならぬ、研究しなければいかぬことだと思っております。そうしてまた、核爆発を中共がやることによって、これを国連加入との問題に関連せしめるという考え方もございます。それは核爆発のみならず、六億五千万の民、しかも相当陸軍の強力な力ということも話題に上っておるのでございます。そこで、われわれは、中共の問題を世界の重要な案件として解決をはかるべきではないかということで、一昨年来やっておるのであります。これは今軽々に核爆発を一、二年のうちにやるだろうということで、すぐ中共の問題をどうこうということにはいきませんが、しかし、世界的に大きい問題として各国が考えなければならぬ問題だと思っております。

○井出委員 どうかその点十分に御注意を願いたいと思います。私は、ここで一応中共の問題はこれくらいにいたしますが、要は、やはり中共というものが、あの膨大な国土と六億五千万あるいは七億といわれる人口を擁しておって、日本とは、何といいましても総理が先ほどお話のような、従来の深い関係があるわけであります。それじゃ今の北京政権というものが簡単に転覆するかと言えば、私どもの認識をもってしますると、どうもさようなものではなかろう、やはり一つの権力国家、軍事国家でありますけれども、かなり末端まで統制力は浸透しておるようであります。
 そこで、私は東亜という地帯を考えました場合に、将来の展望としては、日本も東亜における一流国である、これは間違いない。中国の将来というものもこれは軽々に看過すべきものではない。向こうへ参りますと、日本にも非常な影響力を与えております。同時に、中共自身が日本のことに非常に関心を持っておる。日本の放射能もある意味においては向こうへ行っておる、向こうの放射能も来ていましょう、そういうことでございまして、やはり中共というものをわれわれは軽々しく扱ってはならぬのであって、このためには、もっと交流なども密にしていいと思うのです。向こうの旅券なんかも、外務省がしょっちゅう値切って、滞留期間を短かくしたりなどというけちなことはもうなさらないで、もっとおおらかにつきあっていいと思う。向こうから人間がくることによって、これで日本が赤化をされる、向こうの病菌をふりまかれるという意見もありましょうけれども、そんなことで日本がどうかなるというような虚弱体質ではないと思う。やはり日本というものは、もっと健康な国家だと思うのであります。そういう意味で、自由陣営の中で、何といったって日本が一番中国に対して、地理的にいっても何からいったって、深い関係があるのでございますから、世界政策をやる上において、これはケネディさんでも、かりに中共をどうするという場合に、まず日本に対して、あなたの方は中共をどう考えるのだ、こちらの考え方が世界政策を動かすに至るであろうというような、そういう見識を私は日本が持たなければいかぬと思うのであります。そういう意味で中共に当たっていただきたいと存じます。
 あと残り時間もだんだん迫って参りましたので、少し飛ばしまして、私は、最近のEECの問題を少し議題にいたして参りたいと思うのであります。もちろん、対米外交というものが、日本外交の一番中心的な基軸であるということを私はいなむものではございません。これは何といったって、貿易量からいいましても、日本の安全保障からいいましても、対米外交というものが、円滑にいっていなければならぬ。これが基本であるということは申し上げるまでもございません。また、アメリカとの間にも若干の問題はあります。向こうの輸入の制限の問題であるとか、あるいは最近の、ノーテラス潜水艦が日本へ寄港する問題であるとか、問題もありましょうが、これも私は飛ばしまして、むしろそれに対する政府の善処をお願いするというだけにしまして、西欧の問題を少し取り上げて参りたいと思うのであります。
 これももうかれこれ私が申し上げるまでもなく、総理は昨秋のヨーロッパ旅行においてはだに感じてこられたわけだと思いますが、今日の六カ国の共同体は、人口から申しましても、あるいは石炭、鉄鋼といったような資源、エネルギーないしは工業力等において、米ソとあえて拮抗し得る力をたくわえつつある。貿易量のごときはアメリカを抜いておる。ソ連をはかるかに引き離しておる。だから、今日ヨーロッパの天地に咆哮する怪物は何か、それはEECだというようなことまでいわれておるわけでございます。私も、実は昨年の五月、かけ足で一歩きいたして参りました。そこで、今日大きな問題になっておりますのは、英国のEEC加入の問題でございます。マクミラン首相は、保守党の運命を分かつと申しましょうか、あるいは英帝国の王冠をかけて、そしてEEC加入の措置に踏み切ったわけでございます。国内の農業者はこれに反対をしておる。英連邦諸国はかれこれ文句をつけておる。これをしんぼう強くあるいは説得をする、あるいは打ち切る、こういうことでもって、英国の運命を展開しようとしておるわけでありますが、そこに立ちはだかっておるドゴール大統領という厚い壁があるわけであります。ドゴールさんはおそらく大国の栄光といいましょうか、フランスの栄光を取り戻したい、欧州大陸のリーダーならんという気がまえでこれに対して立ちはだかっておるようでございますが、英国のEEC加盟問題は、きのうから開かれたブラッセル交渉で最終的に煮詰まるかどうか、なかなか逆賭しがたい状態にあるようであります。英国の加入というのは英連邦にも響きますし、カナダ、豪州、ニュージーランド、これらの国が日本に対してどういうビヘイビアになってくるか、このあたりもなかなか重要な問題であろうと思うのであります。そこで総理が回られました英国のEEC加盟問題について、何か御見解がありましたらこの際伺いたいと思います。

○池田国務大臣 六カ国のうちで五カ国まで回り、この問題について見て参りました。ルクセンブルクには参りませんでした。しかし英国の加入に対しましての考え方は、やはりいろいろ変わっております。しかし全体といたしましては、私があの当時行ったときには、一九六四年、五年くらい、すなわち一年か一年半のうちにはできるんではないかというのが、大体の意向でございました。しかしその後フランスの態度がかなり変わってきたようで、これは核兵器の問題等から変わってきたようであります。今のところでは、英国の加入がいつできるかどうかという問題は、なかなかむずかしい問題ではないか。ブラッセル会議でヒース国璽尚書がどういう発言をいたしますか。英国内にもかなりの議論もあるようであります。なくなられた労働党の党首、また副総裁の方々も、あの当時は参加賛成ということでございました。その後ある程度の変化はあるんじゃないかと思います。それからまた今フランスとドイツの意向がああいうように出たのでございますが、イタリア、ことにベネルックス三国は必ずしもそうじゃない、イギリスの加入を強力に願っておるようであります。六カ国の関係がどうなりますか、いましばらく様子を見る必要があると思います。またお話しの通り、英国の加入によりまして、カナダ、豪州、ニュージーランド等にも相当な影響があります。これが別の方面から日本にまたかなりの関係が出てくると思います。まあしばらく様子を注意深く見ていくべきだと思います。

○井出委員 だいぶ遠いヨーロッパのことですから、ここで今すぐどういうきめ手もないでしょうけれども、英国のEEC加入問題と、もう一つ、私の回りました当時非常な関心を呼んでおった問題は、ヨーロッパ政治統合の問題でございました。経済統合までは曲がりなりにもいくであろう、しかし政治統合というものははたしてどうか。これは藩籍奉還みたいなことをして、主権国家というものを解体して一つの新国家を形成するという論者と、そうではないのだ、各主権は保持しながら国家連合的なものをつくるんだ、この論争もあったようでございまして、これらも重大な問題の一つでありますが、これは飛ばして次に参ります。
 そこで、EECに対する日本の関心というものもかなり高まっておりまして、このごろはメジロ押しに向こうへ視察その他で出かけて参ります。日本の財界などの中にも、この影響を受けまして、向こうにあれだけの強力な一つの経済共同体ができる、アメリカは中南米を中心にブロックを形成する、日本は一体孤立をしてしまうのではないかというような感じを持つ人々があるようでございます。しかしながら、欧州の経済がよくなり、そうして生産性が高まり、生活水準が上がってくれば、日本の商品といえども、単にカメラやトランジスターばかりではない、いろいろな品物が、たとい関税障壁があっても、それを乗り越えて向こうに行くであろうというふうに、希望を持ってながめておるわけでございます。
 これは私は河野設建大臣をわずらわしたいのです。河野さん、手持ちぶたさでおられるようであります。そこでなぜ私は河野さんに伺うかといえば、二、三年前に河野さんが出されたパンフレットがございます。EECというものにいち早くあなたは注目をされたという先見を私は大いに評価するからであります。そこで日本の産業もなかなか国際競争力という点になりますと、EECとの対抗というようなことにおいてずいぶん問題がある。自動車一つとってみましても、フォルクスワーゲンが一社で七十万台くらいつくるといわれる。最近イタリアのフィアットとフランスのシトロエンが合同するという、そうするとこれも四、五十万台の規模になるというようなことで、よほど日本側も体質を改善いたしませんと、これは相拮抗はできないと思うのであります。特に河野さんの受け持っておられる公共事業などの方ですが、道路といい港湾といいあるいは上下水道といいないしは工業用水の問題といい、日本としてはよほどこの立ちおくれを回復しなければついていけない、こんなふうに感じますので、あなたの当面の主管のお仕事とあわせて、日本のEECに対するこれからの態度、あり方、こういったものを一つ伺っておきたいと思うのです。

○河野国務大臣 当面私の所管いたしております建設行政とEECの関係につきましては、ただいまお話しになりましたような点もさることながら、現在のイギリスの置かれております立場というものは、よほどわれわれとして深く考慮いたさなければならぬじゃなかろうか。EECが順次発展強化して参りましたことの圧力が英国に及びまして、そうして英国が今日のような状態を――初めはEECに入る意思はなかった、ところが今や入るとか入らぬとか議論しましても、必然的に入ることの方が、イギリスとしてはあらゆる立場を乗り越えてそうしなければならぬということになって、今日のイギリスとEECの問題がある。わが国といたしましても、当然年を経てその影響力は順次深まってくる。そうして国際的にこういったブロック経済というものが強化して参り、それが日本の経済に非常に強い圧力を及ぼしてくるものであるというふうに考えまして、日本の農業というものは、イギリスの崩壊いたしております農業とそれは問題になりませんけれども、それがやはり一つの大きな問題になっておるということも深くわれわれは反省いたしまして、日本の農業に対する政策を、今にして広域経済に可能なように日本の農業というものの構造の改善が必要であるというふうに私は考えております。われわれといたしましては、今はイギリスの問題のように考えておりますけれども、これは単にイギリスの問題でない、日本自身の問題であるというふうに考えつつ、EECに対処する。すなわち世界の広域経済、いわゆるブロック経済の世界の動向に深く留意し、われわれの将来の行くべき道を考えなければならぬじゃなかろうか。それにつけても、私の所管いたしております建設行政におきましては、新産業都市の建設、これらの経済と強力に日本の経済が競争できますように、ただ単に国内的な視野に立っての産業施設、公共投資でなしに、世界の経済の動向とにらみ合わせて公共投資を行なっていく必要があり、これらと競争のできるようにしていく必要があるだろう。これは先般も総理からもお話がありました通りに、ラインの流れを中心にした欧州の全体の動き等も、われわれとしては大いに参考にして考えていかなければならぬだろうというふうに考えております。

○井出委員 あと通産大臣に一点伺います。
 河野さんは今農業のことに言及をされました。私はむしろ産業構造の問題をも伺いたかったのでありますが、農業の問題その他はいずれまた機会をあらためて質問したいと思っておりますが、通産大臣、現地を歩きまして、日本の商社が非常な勢いでネコもしゃくしもヨーロッパへ殺到しております。これはまあ日本民族のエネルギーの発現と見れば見られますが、中にはろくな商売もしないで、外貨をいたずらに食っておるのもあるようです。そこで向こうの連中の申しますのには、この過当競争の弊害を何とかしなければならぬ。お互いに足を引っぱって売りくずしをして、みすみす国損を招いておる。何とかこれをもう少し系列化でもする道はないものか。たとえば国別にやるとか、商品別に分けるとか――特に、輸入というものは割合楽ですけれども、輸出は、これはなかなか困難ですね。大蔵大臣はせんだっての演説で、輸出を大いに強調されたけれども、輸出業者というものは、たとえば雑貨を例にとるならば、一つ一つの商品をPRしてこれを侵透させて売り込んでおる姿というものは、これは努力は大へんなものだと思うんです。そういう諸君から、今の、何とかもう少し過当競争を防止する道はないか、あるいは独占禁止法が障害になっておる部分もある、これをもう少し緩和してもらいたいというような要望も受けたことがございますが、これについてのお考えを承りたい。

○福田国務大臣 ごもっともな御意見でございまして、実はEECだけでもなく、日本の貿易というものから見て、今のような問題が各地に実は存在をいたしておるようなわけであります。特にEECになりますと、御承知のように、欧州といろところとほかとはまた違って、あそこはやはり秩序を重んずる。商慣習というものはまた別であります。よそとまた違った、特に秩序を重んずる土地でございますから、そういうところへ日本が過当競争でいってむやみな競争をしますと、非常なひんしゅくを買うわけであるし、またそれが日本の輸出に大きな障害になってはね返ってくることにもなるわけであります。そこで、そういうことを考えますと、今のところは、貿易の額は日本の貿易の額のうちで六、七%しか占めておりませんけれども、これは今もお話がございました通り、EECというものはだんだん強力になってくる。そうしてまた日本にとって大きな輸出市場になるべきもの、またしていかなければならないものであるということを考えますと、今のいわゆる秩序の問題というものが非常に大事だと私たちは考えておるわけであります。もっとも、これは全然手を打っておらないわけではございませんので、系列化等の問題につきましては、洋がさでありますとかカメラ等は一応系列化をやっております。数量制限については、やはり繊維とか、あるいはトランジスター・ラジオ等についてもやっておるわけでございます。しかしそういうことを今後一つ大いに考えていかねばいかぬ。そこで、この春も輸出会議をやるのでありますが、ただいま通産省といたしましては、商品別に輸出の秩序を立てるということが必要である。特にEECだけではございませんけれども、そういうことを今やらしておるわけでありますが、それをやるにつけても、お説の通りいわゆる独禁法の問題等も十分考えていかなければならない面が出てきておるわけでございまして、お説のような御趣旨を体しながら、一つ輸出振興ということについて特に力をいたしたい、かように考えておるわけでございます。

○井出委員 私は日韓、日中、EEC、それぞれ不十分ではございましたが触れて参りましたので、ここに締めくくりの意味で、もう一つ外交問題で伺いたいのは、せんだって妥結を見ましたビルマとの賠償問題でございます。ビルマ賠償については大筋の妥結が見られてオン・ジー代表以下がこのごろ帰国されたわけでございますが、前回の協定とは別個に、これは新協定というものが結ばれることになりましょうか、あるいは前の協定を生かしながら一部修正というふうなことになるのか、支払いの時期は前のものが完了をしたあとに継ぎ足していくというふうなことになるのか、そのあたりを、これは事務的な問題ではございますが、この際一ぺんお聞きをしておきたいと思います。

○大平国務大臣 現行協定と別個の新協定にするつもりでございます。支払い開始時期は、現行賠償が終了いたしましてから、すなわち一九六五年の四月から開始するということになります。

○井出委員 この間来、賠償はこれでもって終止符を打つのだ、こういうふうに承っております。昨年の今ごろを顧みますと、当委員会の席上で一番大きな話題はガリオア、エロアであり、あるいはタイ国との特別円の問題でございました。そこでいよいよ賠償が大体これで終結をしたというときに、一言私は申し上げておきたいのですが、ビルマ賠償以外には再検討条項のついた協定というものはないのだ。韓国の請求権問題がございますけれども、こういったものが寝た子を起こす、連鎖反応を起こして、ほかからまた何か上回った要求が出てくるというふうなことはもうない、これは一つ確言をしておいていただきたいのでございます。これが一つ。
 それからちなみにもう一点。せんだってのあなたの演説に、すでに賠償実施済み金額が三億八千万ドルだ、こういうふうに申された。賠償が終結したという機会に私はこれは資料としてでいいのですが、日本の各国との間の賠償関係の記録といいますが、リストといいますか、どこの国にはどれだけでどれほど済んだんだ。これからまだどう残っておるのだ、こういうものを一括した表のようなものを本委員会にお示しをいただけば、審議上非常に便宜かと思います。そうして賠償について申し上げたいことは、これは何と言いましても国民の税金をこれに充てておるのでございますから、生きた使い方をしてもらいたいわけです。これはもう死んだ使い方をされては実に残念なんです。賠償というものは、過去の償いではあるにしましても、同時にこれは将来に対する一つの布石であるわけでございます。このパイプを通じて、東南アジア各国などの経済自立のこれは呼び水になるわけでございます。そこでこの国民の税金で払われた賠償というものが現在政商の食いものになっておるというようなものは一体ないのか、あるいはプラントを向こうへ持っていったが、どうもさっぱり運転ができないで、むなしくさびついておるというふうなものはないのか、現地のまだ未熟な政権によって運用されて、何か政治資金かなんかで湯水のように使われてしまっておるような心配はないのかというようなことを私はやはり十分監視をしなければならぬ。それは相手国の内政に干渉するわけにはいきますまいけれども、国民に対してはそういう措置をして、ただ賠償協定ができたからそれで能事足れりというのではいけないのじゃないか、こう思います。私は今大体二つの点について申し上げたのですが、御答弁を願います。

○大平国務大臣 ビルマ以外の求償国には、御指摘のように再検討条項がございません。従いして、ビルマ以外の求償国から追加求償を受けるものとは考えておりませんし、万一そういうことがございましても、当方としてはそれに応ずる意思はございません。
 それから賠償実施済み額等につきましての資料でございますが、さっそく取り整えまして、当委員会に御提出申し上げます。
 それから賠償実施は、国民の尊い負担によってやるわけでございますから、政商の食いものになる、その他、そういうことのないようにという御注意でございました。私もその通り考えるものでございまして、各国との実施交渉にあたりましても、いつもその点先方の政府にも御要望申し上げておるわけでございまして、終始清潔にしかも有効に実施しなければならないと決意いたしております。

○塚原委員長 井出一太郎君に申し上げますが、申し合わせの時間も経過いたしましたので、結論をお急ぎ願いたいと思います。

○井出委員 それでは、委員長のお言葉もありますから、結論を申したいと思いますが、これは私はあえて御答弁は求めません。
 以上で、私は、外交に関する若干の質問を終わったわけでありますが、この機会に一音しておきたいことは、岸内閣当時以来、外交についての三原則というふうなものがございました。これは言うまでもなく、一つは自由陣営の立場に立つということ、第二は国連中心の外交である、第三にはアジアにその位置を占めておるという点に留意をする、こういったことでございますが、この三つは、独立にそれぞれを見れば、これは正しいといわなければなりませんし、またしごく当たりまえなことを言っておるわけであります。この三つのものがプリンシプルだ、日本外交の三原則だと言うのには、どうも少し内容がラフだという感じが私はこのごろいたすわけであります。今の複雑にして変転きわまりないこの国際外交に処するためには、やはりもう少し密度の高い、きめのこまかいものが必要になってくるのではないか。この三原則は、言うならば初等数学における三元一次方程式みたいなもので、どうもこれだけでは、二次、三次の未知数をどうやって発見するかということには少し頭を働かせなければだめじゃないか、こう思うのです。たとえばアジアの問題を考えます場合に、アジアの諸国家というものは、自由主義の国もある、共産国もある、また中立主義もなかなか数が多い。してみれば、この新興国家に対する問題を取り上げる場合、自由陣営にも頭を向けておる、同時に共産陣営にも顔を向けて、そうしてできるだけ援助をよけいに得たいというふうな格好でございます。だからして、こういう具体的現実的な問題に対処いたしますためには、この三原則はそれでいいとしても、もう少し日本外交というものが、流動性、弾力性を持って当たる必要がありはしないか、こういうことをこれは私の感じとして申し上げるわけでございます。
 そこでもう一つ、国連外交、これが日本外交の場としては中心の舞台であるといたしましても、もう少し日本の外交の地位なり権威なりというものがあそこに表現されてほしい、こういう願いが私は国民の間には充満しておると思うのであります。総理は、この間、日本の経済的地位が非常に高まったことを申されました。これはこれで事実でございますが、しからば、国連のわが国の外交が、この大国たる経済を背景とした日本の国力が、はたしてそのままに映っているかというと、どうも何かそうではない、言いわけばかりしておるような事態が従来ございました。キューバの危機に際してアメリカの立場を理解する、これは理解することはいいのですよ。もう少し何か知恵がないものかというような感じもしないではありません。核実験停止の問題にしましても、ケネディ、フルシチョフ両氏の交換書簡によって、かなり具体的な曙光が見えつつありますことは、これは大きな喜びであります。今日人類の願いは、何よりもまず私は平和であると思う。私は、かりに繁栄を失うことがあっても、平和を失ってはいけない、こういう気持でおるわけでございまして、核による被爆の経験をした唯一の民族の声を、やはり日本外交というものは、世界にもっとコミュニケートするというような義務が課せられておるはずだと思うのでございます。さような意味におきまして、総理が、日本が尊敬される国、畏敬される国となるための御努力を一そう続けなければならぬことはもとよりでありますが、経済上の力に合わせて、それを裏づけた日本外交というものが、もう少し見識というか信念というか、こういうものをお持ちになっていただきたいことを希望するわけでございます。
 もう一つ委員長お許しをいただきたいことは、これで私は予定した質問を終わりますが、もう一つ、豪雪対策の問題を最後にお願いをして質問を終わりたいと思うのであります。これはこの間の本会議でも取り上げられておって、政府も総理府に雪害対策の本部を設けることに決定された、そうして政務次官を団長とするお見舞というか調査団というか、こういうものが派遣をせられたわけでございますが、きょうはこの予算委員会の壁頭でございますから、本委員会を通じて政府の雪害対策についてのお考えを御発表をいただければまことにけっこうであります。

○池田国務大臣 先般、今回の豪雪に対しまして、関係職員を派遣することを申し上げておいたのでございますが、本日の閣議におきまして、災害基本法に基づきまする非常災害対策本部というものを正式に置くことにいたしました。豪雪の被害調査並びにこれが善後措置につきまして万全を期する考えでおります。

○井出委員 これにて終わります。

○塚原委員長 午後は一時十分から再開することとし、暫時休憩いたします。
   午後零時三十六分休憩
     ――――◇―――――
   午後一時二十分開議

○塚原委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 昭和三十八年度総予算に対する質疑を続行いたします。
 勝間田清一君。

○勝間田委員 私は、日本社会党を代表しまして、主として経済並びに外交の問題についてしぼって質問いたしたいと考えます。
 まず、外交問題の中の特に日韓問題についての質問をいたしたいと思います。
 日本の戦後の外交の中で一つの大きな誤りがあったと考えますのは、吉田内閣の当時における、台湾を承認して、これと平和条約を締結したことだと考えております。もしこの誤った外交がなかったならば、今日の日本の状態なりあるいはアジアの状態はおそらく一変いたしておったのではないかと私は考えるのであります。しかし、今やはり池田内閣によって同じようなあやまちが繰り返されようといたしておることを見のがすわけには参らぬと思うのであります。それは、とりもなおさず、日韓会談の今日の池田内閣の強引な進め方がそれだと考えるのであります。
 この会談は、過去半世紀にわたって日本が支配をし、また、平和条約によりまして、第二条あるいは第四条等によって朝鮮の独立を承認をいたしまして、全朝鮮人民に対する日本全国民の抱いている友好的な念願というものを、それぞれ深刻に、またきわめて峻厳に考えていかなければならない、私どもの重要な課題だと実は考えるのであります。この会談が、またこの会談の結果が、将来、日本の、あるいは韓国、朝鮮のそれぞれの両国民に対してどういう運命をもたらすものであろうか、あるいはこれがアジアの平和に対してどういうような関係を生み出すものであろうか、こうした問題に対する深く洞察された考え方に基づいてなされているのではなくて、私は、一時的な、あるいはきわめて自主性のない追従精神とでも言いましょうか、そうした非常な浅い軽挙な立場で扱われておるような感がしてならないのであります。従って、まことに原則的な、まことに当然のことのようであって恐縮でありますけれども、私は池田総理にこの際お尋ねをいたしたいのであります。
 この朝鮮半島並びに朝鮮全人民、これと日本との外交というものは、基本的に両国人民と友好関係を回復していくことが第一の原則であって、これが私どものゆるがすことのできない目的だと私は実は考えるのであります。この目的をどう達成するかという場合に、もちろん現実というものもあるでありましょうし、もちろんその場合における日本の利益という問題も考えていかなければならぬでありましょう。しかし、この原則は、私は絶対に忘れてはならない態度でなければならぬと実は思うのです。特に、講和条約の第二条及び第四条などというものは、思想のいかんを問わず、政情のいかんを問わず、日本国民が当然果たしていかなければならぬ義務というものをそこにうたわれたのだと私は実は考えているのであります。この基本的な考え方に間違いがあったのでは、私は日韓会談なりあるいは朝鮮半島との国交の回復なりというものは非常な間違いを生ずると思うのでありまして、まことに原則的なことを申し上げなければならぬことを遺憾に思いますけれども、私は総理大臣にこのことをまず一つお尋ねをしておいて、以下いろいろ質問をいたしたいと考えております。

○池田国務大臣 われわれが南北統一を願うことは当然のことでございます。また、国連におきましても、一九四七年、四八年、朝鮮問題につきまして国連監視下のもとにおいて自由な選挙によって統一をはかろうと試みたことは御承知の通りでございます。しかるに、われわれの願望は達せられません。南朝鮮、すなわち韓国が国連監視下のもとに自由な選挙で政府をつくり、しかもこの韓国政府というものが国連において認められておる唯一の合法政府として取り扱われておるのであります。しかる場合において、日本と韓国との状態を今のままで置くことは、両国民の不幸でございます。不自然でございます。だから、われわれは、現実のこの事態に即して、そうして、できるものを早くして、お互いの国民の繁栄をはかっていこうというのがわれわれの考え方でございます。しこうして、この考え方は過去十年にわたっていろいろ実現しようとして努力したのでありまするが、いろいろな事情でできなかった。最近の朴政権によりまして、このことが実現の機運に向かい、今交渉しておるということは、現在の状態からして当然のことであり、日本国民もそれを念願しておるという確信を私は持っております。

○勝間田委員 総理は、これで日韓会談を進めることが南北朝鮮の統一の妨げになると考えておりますか、推進するものと考えておりますか。

○池田国務大臣 私は、朝鮮の南北の人の気持は知りませんが、日本人としては、現実に即して早くいいことをするということが必要だと思います。これをやったからといって害になるとは毛頭考えておりませんし、また、これをやれば、私は、あなた方と違って、韓国の統一が早くできる機運を醸成する一助になるのじゃないかという気持を持っております。

○勝間田委員 あなたは北鮮に朝鮮民主主義人民共和国があるというこの事実は否定することはできないと思いますが、いかがでしょうか。

○池田国務大臣 北鮮にそういう一つの政権があるという事実は、私は認めておるし、知っております。

○勝間田委員 これはオーソリティと考えてよろしゅうございますか。

○池田国務大臣 オーソリティというのをどう訳すか、いわゆる政権が存在するということは知っております。

○勝間田委員 外務大臣、北鮮におけるオーソリティを認めることは、あなたしばしば答弁をされておりますが、確認してよろしゅうございましょうね。

○大平国務大臣 さよう心得ております。

○勝間田委員 平和条約の第四条におきまして、かかるオーソリティ、当局とこの請求権の問題を主要な課題にしなければならないというその当局は、一体何でしょうか。

○大平国務大臣 第四条にいう請求権討議の対象は、韓国政府であると心得ております。

○勝間田委員 どうしてこの条約が北鮮の当局というものを対象にしたものではないのでしょうか。どうしてこれから免れることができるのでしょうか。

○大平国務大臣 平和条約の地域性は、当時の韓国政府が現に支配している地域という限界を持っておりますから、当然請求権交渉の相手方は韓国政府であると心得ております。

○勝間田委員 北鮮のオーソリティを認めて、しかもこの条約にいうサッチ・オーソリティのそのオーソリティをどうして認めることができないのですか。

○大平国務大臣 平和条約と北鮮のオーソリティとは直接関係がございません。平和条約にいうオーソリティは、先ほど私が申しましたように、韓国が支配している領域というものに平和条約の地域性の限界があるわけでございまして、平和条約にうたわれているオーソリティというのは、北鮮のオーソリティでないと心得ております。

○勝間田委員 非常な意見の相違でありますから、これからさらに明らかにいたしておきたいと思いますが、今外務大臣も北鮮のオーソリティは認めるということをはっきりこの際にも明言をされておるわけでありますけれども、同時に、韓国が三十八度線以北に及ばないというこの事実も、私は認めておられると思いますが、いかがでしょうか。

○大平国務大臣 今言われたような認識に立っております。

○勝間田委員 もしその認識に立つならば、今度の日韓交渉の何らかの妥結というものの効果が三十八度線以北に及ばない、また逆に一言えば以南に限定されたものであるというその明文化をいずれかで明らかにする必要が私はあると思うが、外務大臣はいかに考えておられますか。

○大平国務大臣 たびたび申し上げておりますように、韓国政府と交渉いみしまして、何らかの妥結に達した場合の効果は、韓国が現に支配する地域に限定されると心得ております。

○勝間田委員 それを明文化する必要があると思う。明文化をいたしますかということを聞いておるわけであります。

○大平国務大臣 今私が申しましたのは当然のことでございまして、最終の協定におきましてどのように表現いたしますか、そのところまではまだ固めておりませんけれども、今申しました認識は、私どもが交渉にあたりまして当初から終始一貫堅持しておる方針でございます。

○勝間田委員 堅持している精神ということはともかくといたしまして、それはもう疑いません。明文化をいたしますかどうかということを聞いておるわけであります。

○大平国務大臣 協定の案文の作案に入っておるわけではございませんので、まだそれに言及する材料を持っておりませんけれども、たびたび申し上げておるように、そういう認識に立ってやっておるということは、繰り返し申し上げておる通りでございます。

○勝間田委員 明文化をするかしないかということをはっきり言っていただけばよろしいのでありまして、それをぜひ一つお願いをいたしたいのであります。

○大平国務大臣 先ほど申し上げましたような認識に立ちまして交渉を進めておりますし、そして、その実体が煮詰まりましたら協定案の作案にかかるわけでありまして、今言ったような認識に立ちましてその問題の処理をやりたいと考えております。

○勝間田委員 私は、これは明文化をすると解釈をいたします。異議ありませんか。

○大平国務大臣 協定案が幸いにできました暁に御討議をいただきたいと思います。

○勝間田委員 もう一つ、大切な問題だと私は思いますのは、将来、これからとる日本の北鮮に対する外交、これは広い範囲で考えていいと私は思うのでありますが、たとえば貿易あるいは人事的交流その他そうした広い外交の問題について、日本と朝鮮民主人民共和国の持っている当然の権利、当然の義務というものをも含めまして、これらに制限を韓国側から加えない、またその干渉は受けないというのが私は当然だと思いますが、この態度をあなたは了承されますか。外務大臣にお尋ねをいたしたいと思います。

○大平国務大臣 今日与えられた状況のもとにおきまして、わが国として自主的な判断に基づいてやって参るつもりです。

○勝間田委員 私は、池田内閣の日韓交渉の立場には反対でありますけれども、もしこの韓国との妥結ができたという場合でも、日本と朝鮮民主人民共和国が持っている正当な権利義務の関係は決して消滅するものでもなければ、決して干渉されるものでもない、その権利は残る、こう私は解釈いたすのでありますが、外務大臣はそれをどう考えていらっしゃいますか。

○大平国務大臣 双方の権利義務は残るというように心得ております。

○勝間田委員 外務大臣は、外務委員会あるいは予算委員会におきまして、請求権レベルの段階ではどうもうまくいかないので、新しい工夫を今考慮しているんだという答弁をしばしばされて参ったわけであります。その新しい工夫というのは、もう何か目鼻がついたわけですか。井出委員に対しても、何か請求権の問題については原則的な話はついたが、まだ細部にわたってはできておらない、またそれが拘束力は持たないというようなことも言われておったように私は聞いておりますが、一体どの程度の目鼻がついたのですか。その点を一つお聞きをいたしたいと思います。

○大平国務大臣 先ほど井出委員の御質問に対しましてもお答え申し上げました通り、日韓の間の懸案がたくさんございます。請求権問題はその一つでございまして、私どもは全懸案につきまして十分これを煮詰めた上で一括して同時に解決するという基本の方針でおりますことは、たびたび本議場を通じて申し上げておる通りでございます。従って、現在の段階は、各懸案につきましてこれを討議いたしておる段階でございます。すなわち、交渉の過程にあるわけでございます。
 請求権問題について一つの前進があったと申し上げたのは、請求権問題は、本来法律的根拠の明確なものに限定しようというような考え方であるべきはずでございまして、その線に沿いまして、予備交渉を通じまして討議を重ねたわけでございますけれども、たびたび私が申し上げましたように、法律的解釈に依然として彼我の間に距離があるばかりでなく、平行線をたどるケースが多いということ、またそれを支える事実の立証が不可能または不可能に近いものが多いということを発見いたしたわけでございまして、そういう状態のままいつまでも請求権の討議をやって参りますことは生産的じゃないわけでございます。そこで、この問題を何か割り切る工夫がないものかということを考えまして、私どもといたしましては、韓国に対しまして有償・無償の経済協力を将来に向かってやる、供与する、こういうことをいたしますその随半的な効果として、請求権の問題は双方主張しないというか、あるいは解決したことを確認するということでこの問題を割り切る以外にほかにいい工夫がないと判断いたしまして、そういう構想で先方とお話し合いをいたしたわけでございます。そういう構想の大筋につきましては、交渉過程の合意は得ておりますけれども、しかし、その細目につきましてはまだ煮詰まっていない面がありますので、請求権問題全体が交渉過程において合意に達しておるという段階ではないということを申し上げたわけでございます。しかし、かりに請求権問題全体が交渉過程において合意に達しましても、それは、ほかの懸案が煮詰まりまして、同じような交渉過程の合意を得て、そうして最終の協定成立というまでは、法的拘束力は持つものではございません、こういうことを申し上げたわけです。

○勝間田委員 そのいわゆる無償・有償の供与で請求権の方は解決をするという、まあ新しい工夫と言われますけれども、私は大へんなすりかえだと思います。しかし、その方式は合意を得ておるわけですか。

○大平国務大臣 その方式につきましては、交渉過程を経て合意を得ております。

○勝間田委員 その交渉過程というのは、あなたと金情報部長との間における書簡でできておるわけですか。

○大平国務大臣 金氏と私との間の会談は、側面的に予備交渉の支援をする、協力をするという立場でございまして、その間、私どもの間で到達した理解というものは、あげて予備交渉に移してございまして、予備交渉の場面におきまして大筋は合意する、こういう返事をちょうだいいたしております。

○勝間田委員 その予備交渉が十二月二十六日の予備交渉ですか。

○大平国務大臣 さようでございます。

○勝間田委員 それは、いわゆる基本構想だけではなくて、やはり、金額まで、あるいは条件までその予備交渉では合意に達しておるのじゃないですか。

○大平国務大臣 金額、条件等ももちろん含んでおります。

○勝間田委員 それを今ここで発表はできませんか。

○大平国務大臣 無償協力といたしまして韓国に三億ドル十年間に供与する、有償協力につきましては、同じく十年間に二億ドル、しかも、その条件は、利率は三分五厘程度、据置期間七年程度、償還期限は二十年程度というような大筋につきまして、大体の合意を取りつけております。
 なお、それと同時に、そういうことをやることによって請求権問題は片づいたという確認をするということ。あわせて、今まで残っておりました対韓債権四千五百七十三万ドルというものは一定期間内に返済するということもあわせて合意いたしております。

○勝間田委員 これの全文を文章でわれわれに示していただくことはできますか。

○大平国務大臣 今私が申し上げた通りでございますが、文書で出せといえば、お出しいたしましてけっこうです。

○勝間田委員 もう少し事実をはっきりさしておきますが、無償供与は三億ドルで十年間に平均分割払いを原則とする、ただし、韓国側の消化能力に応じて支払い期間の繰り上げを考慮するのですか、しないのですか。

○大平国務大臣 韓国側の消化能力でなくして、わが国の財政能力に応じて繰り上げることが可能であれば、双方合意の上で繰り上げることができるという話し合いはいたしております。

○勝間田委員 そうすると、これは、韓国側の消化能力ではなくて、わが国の経済能力ですか。それから、今のいわゆる経済協力基金による返済期間の据置期間の七年というのは、もうすでに合意に達しておるわけですか。

○大平国務大臣 七年程度で考えていこうという大筋には合意いたしております。

○勝間田委員 焦げつき債権は、これは結局三カ年無利子ということですか。

○大平国務大臣 三カ年ときまったわけではございませんけれども、一定期間内に償還を求める、払いましょう、こういう合意でございまして、もちろんその期間中無利子でございます。

○勝間田委員 これは文書をもって外務省から一つ提出していただきたいと私は思いますが、あなたと金情報部長との間における書簡はどういう内容のものであるか、これを明らかにできませんか。

○大平国務大臣 これは、外交の慣例上、そういったものは先方の同意がなければ公表すべき性質のものではございませんので、ここで公表するということは差し控えさせていただきたいと思います。

○勝間田委員 これは、一説には、大野伴睦氏も、韓国を訪問したときに、そういう約束があったということで向こうから見せられて、びっくりしたということも伝えられておりますけれども、しかし、もし内容がここで明らかにならないとするならば、それは単に請求権の扱いだけの問題なのですか。請求権を扱うことと他の諸懸案との関連の問題にも及んでいる問題なのですか。この点はお答えできると思いますが……。

○大平国務大臣 もちろん、会談全体の進め方、それから、われわれが全懸案の同時解決でおるというような点はつけ加えて申し上げてございます。

○勝間田委員 たとえば、韓国側における外務長官の記者会見などを見ますと、同時解決という問題については、これは少しも了承していないように実は発表をされておる。また、請求権の問題は過去の問題なのであって、李ラインその他の漁業の問題はこれから将来の問題なのだから次元が違うのだ、これを同時解決あるいは請求権を条件としてこれらの問題を解決するということはできないのだ、そういう態度を実は表明しておる。これは私は大平外務大臣のただいまの答弁とは違うように思う。この一括解決という問題、また、一括解決しなければこの請求権がたとい合意されてもそれは白紙に返す、池田総理の記者団との会見談が正しいならば、御破算にする、これでよろしゅうございますか。

○大平国務大臣 そのように心得ております。しかし、私どもはそういう事態がないように努力しなければならないと思っております。

○勝間田委員 そこで、事実はお聞きいたしたわけであります。問題はやはり非常にあろうかと私は考えるわけでありますが、池田総理、大平外務大臣ともども、今日までの請求権に関する答弁というものは、全く混迷、私は答弁の資料をずっと読ましていただきましたけれども、前に言ったことはもう次にくつがえされておるというのが実は今日の状況です。これはまことに遺憾なことだと考える。まず不思議に思う事柄は、昭和三十六年十一月の池田・朴会談においての対日請求権に対する処理の方針というものは、すでに公表されておる通り、法的な根拠のあるもの、また事実関係の明白なものに限るということを確認されておる。しかも、三十七年八月二十三日の森島委員の質問に対する大平外相の答弁においては、今度は、ただいまのお話の通りに、積み重ね主義ではどうも格好が悪い、何か工夫をこらしたらどうかという考え方に変わった。それから、ただいまのお話によると、合意に達したと言われるけれども、無償供与と長期借款の方式に変わっているわけであります。私は、単に請求権の問題が法的なものあるいは事実明らかなものについての交渉が困難だから、だからこういう無償・有償の供与に変えたのだ、こういう論理は成り立たないと思う。第四条の条約において一つの財産権に対する請求権というものは明確にきめられておることなんだ。これが国際法上のはっきりした立場なのだ。この国際法上の立場というものを、いかに困難といえども、目的を変えた他のものにこれを切りかえるということは、私は不可能だと考えておる。それができないならば、それは池田内閣の責任なのである。それができないならば総辞職をすべきなのである。それを便宜な他の方法に持っていくというのならば、それは私は実は間違いだと思う。一体、法的な根拠、明白なものに限るいうこの合意というものについて、なぜ追及をしなかったのですか。なぜそれに努力しなかったのですか。それをにわかに三億、五億というようなものに切りかえて、無償・有償に切りかえて、こっちがまずかったのだからこつちの方法にしましたというようなことで、一体世間が納得するでしょうか。国民はそれで納得いくでしょうか。私はそこに外務大臣としての責任があると思う。四条にきめられたる請求権をいかに処理するか、これが池田内閣の日本国民から受けておる大きな義務だと私は思う。こういう意味から言って、一体、この方式というものは、二条、四条にきめるところの請求権の問題というものとどういう関係があるのか、その関係をここで一つはっきりお示しを願いたい。

○大平国務大臣 勝間田委員がおっしゃる通り、請求権の問題を事実関係をはっきりさせて、法律関係を明徴にいたしまして、しかもそれを双方が合意いたしまして解決することができれば、それにこしてのことはないと思います。また、そうすべきだと思います。そうして、私どもは、一昨年の秋以来、法律的根拠、事実関係の立証につきまして懸命に努力して参ったわけでございます。ところが、御案内のように、法律論自体も対立でございますし、事実関係は捕捉が困難または不可能なものがあるわけでございます。だからこの問題はそのまま放置しておいていいかと思いますと、私ども責任者といたしましてそういうわけには参りません。こういうことでじんぜん日をむなしゅうするわけに参りません。国交の正常化を庶幾いたします以上は、何らかの工夫をこらさなければならないというのは、私ども責任者といたしまして当然の責任だろうと思うのでございます。そこで、先ほど申しましたような新しい構想でもって、将来にわたって経済協力をすることによって請求権問題を片づけるという決意をいたしたわけでございます。平和条約に、請求権の取りきめを将来日韓の間で行なうということになっておるわけでございまして、それは御指摘の通りでございます。私どもは、この取りきめを請求権を通じて法律的根拠によってやることがむずかしいと判断いたしましたので、今申しましたような構想で経済協力をやるということによって、四条にいう請求権というものはないのだということを双方で確認するということによってこの問題を最終的に片づけよう、こういう態度で臨んでおるわけでございます。

○勝間田委員 これこれの無償・有償の供与をやるから、平和条約にいうところの請求権はないのだということを向こうが承知すればいいのだ、こういう論理だと私は思いますが、それならば、朝鮮民主人民共和国がこの四条ご請求してきた場合に一体どうなるのか、これはどうされますか。

○大平国務大臣 その点につきまして政府はただいま白紙でございます。ただ一言指摘しておきたいことは、軍令三十三号というものは、韓国の支配する領域以外には及んでいないということは指摘しておきたいと思います。

○勝間田委員 先ほど来申し上げた通りに、北の朝鮮民主人民共和国と日本との権利義務も残るんだ、こういうお話を確認をいたしておるわけでありますが、私は、その意味では、韓国といかなる取りきめを行なっても、北の方を制約するものではないと思いますけれども、そのように南の方にはかくかくの状態で請求権を処理し、北の方ではかくかくの請求権を処理するというような状態で、一体真に友好的な外交というものが進められるかどうか。一時的にそういうことはできても、永久の友好関係というものがそれで回復できるかどうか。私は、日本の外交というものがそう行き当たりばったりのものであってはならないと考えているからはっきり申し上げる。これが一つ。
 もう一つ大事なことは、正当な請求権として国民が納得して平和条約四条というものをわれわれは承認したわけです。全国民が国会でこれを承認したわけでしょう。法的な根拠の明らかなものである、正当にきめられた四条の請求権というものをやってもいいという状態で平和条約を皆さんは承知されたのだと私は思う。しかし、そうならば、たとえば池田氏と朴氏との間におけるように、法的な根拠が明らかであり、同時に事実の明確なものに限るという状態でいった場合と、無償、有償のこうした経済援助でいった場合における日本国民に与える不利益というものは非常に大きな違いです。早く言えば、あなたが請求権を有償、無償に切りかえることによって生じるところの日本国民の不利益は実は重大なものだと私は思う。もっと別な言葉で言えば、金額の算定の基礎が違ってくるということであります。目的が違うだけでなく、金額も違うということであります。これは私は著しく日本国民に不利益を与える自民党のやり方だと思う。いかがですか。

○大平国務大臣 私どもは、日本政府並びに国民に対しまして不利益を与えるというようなことは寸毫も考えてはならぬと思います。あらゆる瞬間におきまして、日本政府と国民の利益になることをこそ希求いたして真剣にやっているわけでございます。ただ問題は、日韓の間にわだかまっておる懸案を解決しなければ国交の正常化はないということでございまして、日本の都合によりまして、そういう日本の財政的負担を全然伴うことなく国交の正常化が可能であれば、もちろんそれは一番けっこうなことでございますが、こういうわだかまった永年の懸案をどのように日本国民の利益のために解決するかという点に苦心を重ねておるわけでございまして、日本国民の不利益などということは寸毫も私どもの脳裏をかすめたこともございません。

○勝間田委員 私は、明確に請求権として考えていけば、また池田・朴のお互いの約束からいけば、最大限度見積もっても七千万ドルという話を今日しばしば聞いている。それが三億になり五億になるというのは、いや無償供与だ、有償供与だ、いや経済協力だと、それにすりかえていくから、そういう膨大なものになってくるのであります。あなたはいかにも国民に不利益を与えていないと言うけれども、国民は、約束した請求権を忠実に処理して下さい、正当にやって下さいと願っておるのであります。経済援助の問題は別個の問題です。条約処理の問題とは関係いたしておりません。条約処理の関係の問題でなくて、国民が現に池田内閣に対して要求していることは、四条による請求権を処理して下さい。それだからこそ平和条約に皆さんは賛成されてやられたのでしょう。それを、請求権の問題という国民の利益にかかる重大な問題を、今度は経済協力にすりかえて解決をつけていくのだというような考え方で国民は平和条約を了承したのじゃないでしょう。だから、いかにも合理的に見えて、いかにも言いのがれのように見えるけれども、全く目的も内容もすりかえたというのがこの実態じゃないですか。だから、たとえばここに自民党の総務会まで決定されたPR版がありますよ、三十七年十二日八日の。これは何ですか。このパンフレットを読みますと、いわば朝鮮が独立したのだから本国の日本が独立した国に何か見舞金をやるのはあたりまえじゃないか――請求権は見舞金ですか。隣の国が困っているのだからこれに金をやるのはあたりまえじゃないですか、人道的です――四条の請求権は人道的な恵みなんですか。またこれは、南鮮が反共で戦っているときに経済援助をするのはあたりまえじゃないか――請求権は反共のための資金なんですか。これが今日の自民党のPR版です。いかにも国民をごまかすかのごとく見えるけれども、誠実に実行すべきものは四条の請求権をどう計算しどう処理するかです。経済援助の問題はこの条約とは関係がないのです。あなたはそこにまことに重大なあやまちを犯そうとされている。国民に著しき不利益を与え、国民をまどわす議論をされておる。もし請求権の問題が処置できないなら、それはあなたが無理にやる必要はないのです。あなたは解決しなければならぬ義務がある、こう言われるけれども、それなら北鮮もあります、それなら中国もあります。あらゆる懸案が今日終戦以来十数年続いておるのです。韓国問題だけを今日こうしたすりかえを行なって解決しなければならぬ、国民に相済まぬなどという状態ではないと私は思う。ここにどうして、こうして請求権の処理の問題をこういう経済援助の問題にすりかえていくのですか。目的も金額も違ってきますよ、それならば私ははっきり聞きます。三億ドルという金は何が基礎で計算されたのですか、バナナでも売るようにきめたんですか。なぜ一体二億ドルといういわゆる協力資金の三分五厘でやらなければならぬという基礎が生まれたんですか。大平さん、国民に、この金はどういう計算をされてきまったんですか、どういう話できまったんですか、われわれはこれをどういうわけで払わなければならぬのですか、その基礎を聞かして下さい、こう言われて、あなたはこれに返事ができますか。私は、そういう意味で請求権の処理を経済援助に切りかえる、請求権なら七千万ドルであるべきものを、こういう五億ドルのものにすりかえる。しかも計算の基礎もないということは一体どうなんですか。私は、こういう考え方で請求権問題を処理するなどという考え方というものはもってのほかのことだと実は思う。
 まず私は聞きたい。請求権の処理とこれとどう一体解決つけるのか。どういう計算で一体五億ドルという金が出てくるのか、これを一つ聞かしてもらいたい。

○大平国務大臣 私がたびたび申し上げておりますように、私と勝間田さんの一致する点は、請求権を法律的な根拠のあるものに限ってきちんと処理したいという願望はあなたと私と同一です。私もできればそれをやりたいのです。そのような方向で努力いたしましたところ、法律論のみならず、事実関係につきましても、双方の意見は大きな扞格を来たしたままでございます。従って、こういう状態をいつまでも放置しておけないから、新しい構想をこらしたのだということは、私がたびたび申し上げたわけでございます。請求権の問題が、あなたのおっしゃるような方法論で彼我の間に一致した見解を見出すことが可能であれば、私が何を好んで新しい工夫をこらす必要がありましょうか。請求権の問題の検討を通じまして私どもはそういう困難に直面いたしましたから、これを打開する方途として、責任者として考えたわけでございます。
 それからまた、請求権の問題と経済協力の関係いかんということでございまして、あなたがおっしゃる通り、これは全然無関係でございます。ただ、経済協力を将来に向かってやるということが、反射的結果として、請求権問題は主張しないよう、にしようということで請求権問題は処理するんだということを申し上げておるわけでございまして、幾ら幾らが請求権だから、経済協力のこの金額の中には幾ら含まれておるというようなものではございません。全然別個の問題でございます。しからば、三億、二億ドルの有償ご無償の経済協力というのはどういう積算の基礎で作ったかと申しますと、これは、もとより韓国も独立当初、経済再建の計画をお進めになっておられますので、外貨に期待するところがあることは承知いたしております。また、わが国といたしましても、わが国の財政能力、経済能力から判断いたしまして、十年間にこの程度の経済協力は可能であろうという確信に立脚いたしまして私どもが考えた案でございます。

○勝間田委員 全然話にならぬと私は思いますけれども、それならば池田総理、一つお尋ねしますが、今言ったような請求権の処理の仕方をするのですけれども、あなたの方の政党の総務会決定のPR版で、自分の国が独立をするのに、本国であるわれわれが金を贈るのはあたりまえじゃないかという主張と、請求権とは関係がありますか。また、隣の人が困っているのに、これに金を与えるのは人道上あたりまえなのじゃないかということと、請求権とは一体関係ありますか。

○池田国務大臣 平和条約第四条によりまして、韓国には請求権がございます。しこうして、今お話しのあれによりますと、私と朴議長との会談で、法的根拠があり、事実関係の明らかなもの、こうつけ加えられておりますが、それは二人の間にはございません。法律的根拠のあるものということだけでございますから、事実関係の明らかなものというのは、あなたがつけ加えられたことでございます。
 そこで、分離国家に対して、その分離国家の繁栄、ひいて韓国と日本との関係、これをよくし、両方を繁栄に導くために、請求権という条約上の権利を消滅させるために、無償あるいは有償のあれをやるということは、請求権の変体でございます。変体というのは、請求権がそういうものに変わってくるということでございます。これはあり得ることであります。しかし、お気の毒だから隣の人に援助するということは、これは請求権に基づくものではございません。それはもうわかり切ったことであります。

○勝間田委員 それならば、自民党のこのPR版が、まことに今の総理大臣とは違ったものであるということはわかったのですけれもど、念のためにもう一つ聞きますが、韓国が北と反共で戦っているときに金を出すのはあたりまえじゃないか、これはどうですか。これは請求権とどういう関係がありますか。

○池田国務大臣 請求権と直接関係はございません。これは、有償・無償供与をやるという気持には関係がございません。しかし、そういういろいろな点から請求権を消すために、いろいろな現実の事態から有償・無償の供与をしよう、こういうことでございます。

○勝間田委員 しかし、事実はどうであろうと、結局はやはりこれがねらいなんでしょう、今度の五億ドルの金を払うというのは。それは自民党さんの方が正直なんでしょう。これは自民党さんの言うのは、はからずも正直に出たということではないですか。反共の戦線を結成するために韓国に経済的援助を行なう無償有償の供与である。それをやれば請求権は何とかかんべんしてもらおうじゃないか、こういうのじゃいなですか。だから、このPR版がその点では正しいのではないですか、どうなんですか。

○大平国務大臣 私どもは、たびたび申し上げております通り、日韓間の国交が不正常なままでいいとは思っておりません。これは、できるだけ早い機会に正常化すべきものだという基本の観念に立っておるわけでございまして、その正常化をどうして達成するか、その前提に横たわるもろもろの懸案をどのようにして割り切っていくかということでせっかく苦心いたしておるわけでございまして、あるべき国交の正常化を希求いたしまして、そのための努力を払っておるわけでございます。自民党側におきましてそれに対してどのようにPRされるか、これは自民党の問題でございます。

○勝間田委員 もう一つ大きな変化だと私が思いますのは、これは本会議でもありましたけれども、池田総理が江田三郎議員に対して、韓国への借款はやらないのだ、こういう答弁をされた。その後また総理は、速記録を読みますと、いや正常化した国に借款をやるのはあたりまえじゃないか、こういう言葉にまた切りかえた。それからまた、これは三十七年十月十五日ですけれども、わが党の森島委員に対して大平さんは、「世上いろいろ借款の問題が論議されておりますけれども、私ども、少なくとも、借款ということは、国交正常化の条件ではないと思います。従いまして、この問題は、政府におきましても、民間におきましても、将来韓国との間に経済の交渉を通じましてそういう事態があり得るかもしれませんけれども、少なくとも、今の段階における交渉におきまして、そのことは国交正常化への条件であるというような形で取り上げるべき性質のものではないと考えています。」こういう答弁をされておる。そうすると今度の長期借款は、これは経済援助なり借款なりではないですか。

○池田国務大臣 この前本会議でも成田君の御質問がございまして、私がうそを言った、無責任というような言葉がございました。私は速記をとって調べてみた。江田さんの質問はこういう御質問でございます。「一体、日韓交渉はどこまで進展しているのか。政府は、韓国の政権を安定した政権と認めて、長期の借款を与えるのかどうか。」こういうことでございます。そこで私は、その前提が日韓交渉がどこまで進展しておるか、朴政権を安定した政権と認めて長期の借款をするかどうか、こういうことでございますから、今国交が正常化するまでは、私は政府借款をするつもりはございません、そこで政府借款をやるつもりはない、こう言ったのでございます。そうすると、今度江田さんはあと立って、政府借款はしないということをおれは確かめておくぞ、こういうのでございますが、この質問は、日韓交渉はどれだけ進んでおるのか、これが前提なんです。そうして朴政権を正統の安定した政権と認めて、あるいは安定した政権と認めて長期借款をするかと、こうおっしゃるから、その気持はありませんと言っておる。国交が正常化して韓国と日本との間がほんとうに繁栄する場合におきましては、これはインドやパキスタンやらと同じように、国際社会における日本の立場からいって、正常化したならば、私は借款はやらぬなんということはあり得ない。交渉がどういうふうに進展しておるかということが前提でございますので、今、国交正常化までは私はしないと、こう言っておるのでございます。

○大平国務大臣 それから私が外務委員会で述べた答弁に言及されましたが、私の申します意味は、つまり借款というのは、大へん広い意味がございまするが、たとえば輸出における延べ払いの問題とか、ああいうことも借款でございます。従って今、日韓の間には貿易関係があるわけでございまして、その輸出金融等の形で借款、信用供与があり得るわけでございますから、そういうものは国交正常化の条件――今総理が言及されました政府借款というものじゃない。そういう考えでございます。

○勝間田委員 私は、総理の答弁もさることながら、今の外務大臣もどうですか、借款を条件に国交回復はやらないのだ、条件にはしないのだ。しかし、あなたは今度はやっぱり借款を条件にするのでしょう。しかもこれは請求権の放棄の条件なんでしょう。条件になっているじゃないですか。

○大平国務大臣 今有償・無償の経済協力というものは、これは協定化いたしまして、一連の懸案とともに国交正常化の前提として片づけなければならぬ問題でございますけれども、しかし、個々の取引に伴う信用供与というようなことは現にあり得るわけでございますから、そういうものは国交正常化の条件というものじゃございませんということを申し上げた。

  〔発言する者あり〕

○塚原委員長 御静粛に願います。

○勝間田委員 この経済協力の金、三分五厘の金を出すということは、これは借款じゃありませんか。それが国交回復の今度は条件になるわけでしょう。それと、一体今まであなたが借款を条件にしないと言ったこととはどう違うのですか。

○大平国務大臣 三分五厘で二億ドルの供与を考えておるということは、先ほど申しましたように、国交正常化の前提になるもろもろの懸案を片づける場合に、これを両国の間で協定を結びまして、きちんと取り整えた上、国交正常化に持っていくわけでございまして、その政府借款というのは国交正常化の条件になっておるということは、あなたの御認識と私と同一でございます。私が国交正常化前でも借款はあり得るという意味は、そういうものでなくて、個々の商取引を通じましての信用供与というものは、韓国ばかりでなく他の国々でもやっているじゃありませんか。そういう意味の借款は、これは国交正常化の条件じゃございません。このように区別して申し上げておるわけでございます。

○勝間田委員 国交回復と借款という問題をそういうように言いのがれをして、本筋を間違えたような議論というものは私は初めてです。もっとお互いにはっきりと正常化の問題と借款の問題とが交換条件になるかならぬかという本筋の議論として私はしてほしい。とにかくそういう常に言いのがれをしていこうという考え方はいかにも大平さんらしくないと私は考える。この池田総理が朴氏と話をして、法的根拠が明らかになるものに限ろうじゃないかという同意をしたのですが、これが七千万ドルであったということを大平さん承知しますね。

○大平国務大臣 七千万ドルというのは例示的に言ったわけで、いろいろ計算の仕方があるわけでございます。先ほど申しましたように、法律論としても問題が多々あるわけでございますが、こういう法律論が正しいと仮定すればこういう数字になるという仮定の数字は幾つかつくったことがございます。しかし問題は、日本側がそれで納得いたしましても、先方がそれで納得しなければ問題の解決にならないわけでございまして、そういう点が私どもが最も苦心をいたしているところでございます。

○勝間田委員 その七千万ドルに匹敵する法的根拠のあるというものは一体どういうものですか。その場合の法的根拠のあるものとは一体何ですか。

○大平国務大臣 ただいま私どもは各項目につきまして御説明申し上げる材料は持っております。しかしながら、問題は、交渉全体がまだ緒についたばかりでございますので、この請求権の考え、そういうようなものをこの段階で本委員会を通じて明らかにするということは、微妙な交渉に影響を与えるおそれがございますので、大へん恐縮でございますが差し控えていただきたいと思います。

○勝間田委員 この法的根拠の明らかなものの七千万ドルの内訳が一体われわれに発表できないということは不思議だと思います。法的根拠の明らかなものなら明らかなもので出して下さい。法的根拠の明らかなものは法的根拠の明らかなものなのですから、それをかく信ずるというものを出していただきたい。何も隠す必要はない。

○池田国務大臣 誤解があってはいけませんから……。私と朴氏との間においては金額は一切出ていないのであります。法的根拠のあるものによってやろうという話だけで、いかにも今の御質問だと、私と朴氏との間で法的根拠のある七千万ドルにしようというように国民がとられちゃ大へんでございますから、そうじゃない。法的根拠のあるものによってやろう、こういう申し合わせだけであります。七千万ドルというのはどこから出たか私は知りません。しかし、これはいろいろ計算の仕方がございまして、たとえば、先ほどお話しになりました朝鮮銀行から持ってきた金に対してどうするかとか、あるいは徴用工とか、あるいは死亡者等々の人数、あるいはそれに対する補償、そうしてそれがいつやったがいいか、それから後の金利、いろいろな点がございますので、これはいろいろな計算の仕方もありましょう。ことにインフレなんか入れたら大へんなことになる。大平君が言ったのかも知りませんが、私は、あのころからの交渉で七千万ドルというのは日本政府が有権的に出した数字じゃないと私は心得ております。

○大平国務大臣 その資料を出せということでございますが、いずれ出したいと思います。しかし今はその時期でないということだけ申し上げます。

○勝間田委員 これは今出すのが当然だと私は思うのですけれども、しかし時期でないというならば若干それは待ちましょう。しかし、こういうものをはっきり出して主張して、国民世論を問いながら外交をしていくのが本筋なのであって、そういうことをやらないで、今度はどうも困難だからおれは無償、有償の供与に切りかえたんだ。やぶから棒に切りかえられちゃ国民は目をぱちくりしますよ。ましてやごまかされますよ。私は、そういう外交のやり方は非常な災いを残すと実は考えますから、せっかく外務大臣に注意してほしいと思います。
 もう一つ私どもの明らかになっていない点は何があるかというと、けさも井出委員から拿捕事件その他の問題で非常な被害があることがわかったのですが、池田総理はこれに対する賠償を要求するようなことはないと言い、大平さんは、ああいう総理の答弁をするのは迷惑だ、はっきり言えばそういうことです。だから、私は、一体総理の方の言うことを聞いた方がいいのか、大平さんの主管大臣の方のことを聞いたらいいのか、間違います。国民はこういうものははっきりさすべきだと思います。一体こういう拿捕の問題は当然賠償要求すべきだし、そうしてそれは閣議決定なさっておる通り、内払いとして現在払っておるのでしょうから、漁船に対する保険料あるいは遺家族に対する見舞金、そういうものは内払いとして当然払って今後精算をすべきでしょう。これは一体どういう統一意見に決定されたのですか。明らかにしていただきたい。

○大平国務大臣 午前中井出さんの御質問に対してお答え申し上げました通り、この問題は請求権とは範疇を異にする問題でございます。終戦後に起こった問題でございます。そこで、私どもは請求権と別個に漁業問題の処理の一環としてこの問題の処理をしてみようという考えでございます。

○勝間田委員 この金額はどの程度になるのですか。またそれは漁業問題の一環としてその賠償を請求するということは日本政府の態度だと思いますが、そう理解してよろしゅうございますか。

○大平国務大臣 これまでの拿捕の事実、拿捕された漁船の状況を勘案いたしまして、漁業問題の処理と関連して片づけるつもりでございますが、現在その評価が幾らであるかという的確な資料は私の手元にまだ持っておりません。

○勝間田委員 もう一つ明らかにしておきたいと思いますが、一括同時にということを言われておるわけですが、一括同時に入るものはどういう案件ですか、どういう懸案事項ですか、それに含まれるものは何ですか。

○大平国務大臣 広い意味の請求権の問題として、平和条約第四条に基づく請求権の問題として一つございます。その中には、けさも言及いたしましたように、船舶の問題、それから文化財の問題が含まれております。それからいうところの新しい漁業協定をつくりまして、安全操業を確保するという問題、それから在日韓国人の法的地位の問題、それから問題の竹島の処理の問題、それだけが一括国交正常化の前提に横たわる全懸案でございます。

○勝間田委員 そのいずれもが解決がつかなければ請求権も御破算だ、こう解釈してよろしゅうございますね。

○大平国務大臣 さようでございます。

○勝間田委員 私はここで政府に一つお尋ねをいたしますが、アメリカの韓国に対する経済援助の金額はどういう変化をいたしておりますか、実数を一つお示しを願いたい。

○大平国務大臣 今私は手元に持っておりませんから、後刻取り調べまして、御報告いたします。

○勝間田委員 これは政府委員がおると思いますから、直ちにここで発表していただきたい。

○後宮政府委員 お答えいたします。米国の対韓経済援助は、主としましてAID援助と米国公法四百八十号によるものでございますが、最近におきます対韓経済援助額は大体年間二億ドル程度で、この額は漸次減少の方向にございます。なお、そのほかに軍事援助がやはり年間およそ二億数千万ドル行なわれているというのが実情でございます。

○勝間田委員 これは言うまでもなく、アメリカの韓国に対する援助は年々これを減少させ、しかも今日までの状態は、経済援助もまた軍事援助もほとんど失敗であるというのがアメリカ側の調査からもはっきり出ていると私は思う。そういう状態の中で、この請求権の問題を、全く性質と目的の異なったこうした経済の援助、すなわち無償、有償の援助に切りかえていこうという態度は、われわれが懸念をしたいわばドル防衛の片棒をかつがされて、反共体制を整えていこうというところに私はこのねらいがあるのではないだろうかと思う。まことに遺憾なことでありまして、われわれはこの請求権の問題については絶対に賛成することができないということを明らかにいたしておきたいと思います。
 時間も相当経過いたして参りましたから、さらに私は最近の韓国の政治情勢について一つお尋ねをいたしてみたいと思う。これは御案内の通りに、金情報部長があるいは除名勧告を受ける、あるいは民主共和党の発起人委員長を辞任をする、やれ金東河が同じようなことをする、また昨日は急遽また復帰する、妥結ができたなどという、まことに不可解な経過があるのであります。現在の朝鮮政情というものを一体政府はどう見ているのか。特に今度の対立は、どういうところにいかなる者といかなる者とのどういう対立があったのか、対立の性格をはっきりこの際に明らかにしてほしい。

○大平国務大臣 韓国の政権が民主政治に移行する決意を持って手順を公表いたしておりますことは、御案内の通りでございまして、ことしの一月から政党が認められて政党活動が始まった。そのことは政府に対する批判勢力が育成される素地をつくることでございまして、私は全体として見てみまして、韓国が民主化の過程をたどっておると見ておるわけでございます。それからその過程におきまして、各政党内部にどういう勢力の対立があり、それはどういう考え方の対立であるかというような点につきましては、寡聞でございますが、つまびらかにいたしておりません。問題は、民主化を目ざしまして今いろいろな意味で陣痛の苦しみを苦しんでおるという状態につきましては注視を怠っておりませんし、同時にまた深甚な同情を持っております。

○勝間田委員 どういう対立があるのかということをよくつまびらかにしておらないというのでありますが、しかし、金鍾泌と金東河との対立は一体何なのか、派閥的な性格のものなのか、あるいは主導権的なものを求めているのか、政策上の相違からきておるものなのか、これは実は私は重大な問題だと思う。これは自民党の派閥以上のものだと思う。だから、その意味からいけば対立の性格というものを明らかにすべきだ。また、私どもの一番大切だと思うのは、今度でき上がってくる民主共和党というものが非常な独裁的な性格を持っているものだということも明らかだということです。また最近これが民政移管という点を考えてみましても、たとえば憲法のでき上がったものの内容、やがて政党法をつくろうとする態度、政党法で縛っておいて選挙法をつくっていこうという態度、早期な総選挙に移行していこうという態度、また、各地域に党組織の事務局をつくっていこうという態度、私は、この態度というものは全く共産党と同じ、あるいは独裁的な国と同じ傾向が韓国に現われておると思う。そういう政権というものは、真に民主的な政権の移行とは私は考えていない。だれが考えたってそれはそうだ。その政党の首班であろう、その政党の指導者であろう金鍾泌というものと、正常化前に、あるいは民政移管前にこうした条約を結んでいくということは、政権てこ入れの政治ではないか。それは結局朴政権をてこ入れしていこうというやり方ではないか。

  〔委員長退席、野田委員長代理着席〕

 その意味では非常に重大な問題だけれども、これは内政干渉を含んでいると私は考える。もし日本に何らかの選挙が行なわれているときに、その政権を他の国から援助をされ、てこ入れをされるとするならば、日本国民は怒るに違いない。これは決してやるべき外交の姿ではないと思う。民政移管前に、こうした特定の政権を支持するための日韓会談なんというやり方というものは、この際絶対にやめるべきだ。これは基本原則でなければならぬと思う。ましてや、今日のようなこの政情不安の中で、こうした日韓友好の非常な長期的に重大な関係のある問題を解決していこうなんという軽率な態度は、遺憾しごくだと思う。総理どうですか、これはおやめになったらけっこうじゃないですか。

○池田国務大臣 たびたび申し上げておりますごとく、日韓が一日も早く正常化することは、国民大多数の気持と私は思います。さきには軍事政権だからいかぬと言い、今はまた政情が不安定だ、こういうことを言っておったら、いつまでたってもできない。われわれはいいことは早くやるべきだ、こういうふうに思います。

○勝間田委員 これは大平外務大臣にお尋ねいたしますが、私は率直にもう無理をすべきときじゃないと思う。この日韓会談は、もう事実上私は相当おくれるのじゃないかと思う。また、おくれるのはあたりまえだと私は思う。日韓会談のこれからはどうですか。

○大平国務大臣 私は、これまでも特に急いでおるわけではございません。無理をいたしておるわけではございません。長い間の懸案でございますので、責任者といたしまして、できるだけ早く妥結を庶幾いたしたいという気持で交渉いたしておるわけでございますが、交渉はようやく軌道に乗りつつある段階でございまして。これからもろもろの懸案がたくさんございますので、これを全部こなした上で、最終の解決に持っていくのには相当の時間がかかります。特に急ぐ、特に無理をするわけでもございません。当然の仕事を当然のごとくやっておるにすぎないわけでございまして、いついつまでにどうしようという、特にかまえた姿勢でおるわけではございません。

○勝間田委員 日韓問題については、一応その程度にいたしておきます。
 もう一つ、私はこの際に特にお尋ねをしておきたいと思いますのは、沖縄に対する問題であります。これは時間もありませんから、一つ明確にお答えを願いたいと思いますが、池田さんとケネディ氏との話し合いによって、沖縄に対する援助のいわゆるケネディ・プランというものができて、経済援助の構想あるいは自治権の回復、そういうようなものを主内容とするところの話し合いができて、調査団その他も往復をするという状態ができた。しかし、この際に私は非常に疑点に実は思うのは、一体これらの経済援助が、的確に行なわれておるかどうかということも一つでありましょうし、また、自治権の回復が予定通り行なわれておるかどうかということも、重大な問題があると思う。だか、経済援助なり自治権の回復なりが、施政権の返還につながり、沖縄の本土復帰につながるということでなければ、これは何らの意味がないと私は思う。これはどぶに金を捨てるとは私は言いません。同じ日本人が助かることには違いないでしょう。しかし、あくまでも自治権の回復、経済援助が施政権の返還と本土復帰につながるということでなければならぬ。一体これをどう実現をしていくかという基本的な態度を私は聞きたいのであります。答弁をいただきます。

○大平国務大臣 ただいま沖縄がアメリカの施政下にあるということは、勝間田委員御承知の通りでございます。私どもは日本国民といたしまして、沖縄が一日も早く復帰することを希求いたしておることに、これまた間違いがないわけでございます。そこで、現在の沖縄政策というものがどういう構図で進められておるかと申しますと、これは基本的にはアメリカが手離して、日本に復帰することをアメリカが認めなければ、第一話にならぬわけでございます。幸いにわが国朝野の努力によりまして、去年の三月、ケネディ大統領が声明いたしましたように、沖縄に日本の潜在主権を認めるという態度をはっきり明言されたこと、そしてこれから行なう沖縄援助というものは、沖縄の生活水準、経済の水準を上げまして、そして日本に復帰する場合の困難を少なくしていくんだという構想がこれまた明らかにされたわけでございまして、私どもはこのラインに沿いまして、今回も沖縄援助を去年の倍額にふやすという決意をいたしたわけでございますし、アメリカにおきましても、去年よりも今回は倍にするということにいたしておりますゆえんのものも、そういう方向に沿った施策であると承知いたしておるわけでございます。問題は、かくいたしまして、アメリカが日本に沖縄を返すという決意をされる時期をしんぼう強く待たなければなりませんし、また、アメリカにそういう決断をしていただく情勢をつくって参らなければならぬのであります。すべてこの問題は、日米間の信頼が一番大事だと思うわけでございまして、沖縄につきまして私どもがただいまやっておりまする政策は、そういう意味におきまして、きわめて建設的な歩みを続けておるという意味に判断いたしております。

○勝間田委員 いつもそういう議論をされるのですけれども、実際現地の報告を聞いてみますと、むしろ逆で、施政権返還なり、本土復帰をたな上げするという傾向の方がむしろ強いのじゃないですか。しかし、それを議論しておってもいけません。
 私は大蔵大臣に一つお尋ねしますが、沖縄に国有財産はどのくらいありますか。その収入は幾らですか。それはどこの会計に入っているのですか。

○田中国務大臣 本年三月の国有財産台帳によりますと、大体三千四百万程度でございます。収入は御承知の通り、平和条約に基づきまして、沖縄の米国側がこれを管理し、琉球政府に交付をして使用せしめておるわけであります。

○勝間田委員 今の国有財産三千四百万円ですか、これは琉球政府に入っていないのじゃないですか。琉球政府にこれを繰り入れてもらいたいというのが琉球の要求じゃないのですか。

○田中国務大臣 私の知るところでは、アメリカ側が管理をして、この利益分を琉球政府に交付をしておる、このように承知をいたしておりますが、詳しいことは調べて御報告をいたします。

○大竹政府委員 ただいまの国有財産から生ずる収入でございますが、一九六〇年の六月までアメリカ側が管理をいたしておりました。それ以後、国有財産のうち、山林原野の管理、これは琉球政府に委任されまして、それから出て参ります収入はすべて琉球政府の歳入に入れておりますそれ以前の収入につきましては、一部アメリカがまだ持っておるようでございますが、その他の部分は、やはり琉球政府に交付されておる、こういう格好になっております。

○勝間田委員 その国有財産の管理をアメリカがやっておって、その収益が結局琉球政府の一般会計ではなくて、それはアメリカの民政府の一般会計、すなわち、いわゆる弁務官資金という中にこれがつぎ込まれて、各種の政治資金に使われたのじゃないですか。また、その国有財産を貸しておるのにも、たとえば八セントというような民間ベースよりも、半分以下でこれが使われているのじゃないですか。この国有財産の使い方というものについてやはり明確にして、これを真に琉球政府の会計に持っていくという努力がなされるということが、簡単ではないけれども、重要なことではないかと私は考える。また、今も申した通りでございますが、弁務官資金というものは、一体どんなもので、その財源は一体どこでどう使われるのかということも、これは総理府の方からでも御答弁願いたいと思います。

○徳安政府委員 災害対策委員会の方に出ておりまして、おくれて参りました。
 高等弁務官の資金につきまして申し上げますが、琉球列島における経済的社会的発展の促進に関する法律におきまして、いわゆるプライス法第三条によって高等弁務官に設置の権限を与えられた特別資金でありまして、ガリオア援助の見返り資金を積み立てて運用し、その収益を大統領の承認のもとに沖縄の利益に還元しているものであります。

  〔野田委員長代理退席、委員長着席〕

○勝間田委員 これが今言ったような資金もあり、他の資金もあって、結局選挙のときなどは、その選挙地域に行って小切手で、お前のところは水道をつくれと言って小切手を渡す、お前のところは一つ井戸を掘れと言って小切手を渡す、こうした選挙干渉の費用にまでこれが使われて、この前の選挙の際は選挙管理委員会から重大な抗議を受けるといったようなことまで引き起こしておるのです。こういう自主性のない財政の問題についてもきびしく批判すべきだし、それからこれは総理大臣に念のために聞いておくことでありますけれども、アメリカの下院の軍事委員会において、御存じの通り、施政権とは第三国に譲渡できない、それを拒否する権利だ、こう言っておりますが、そういう解釈はあなたは了承されますか。

○池田国務大臣 私は下院の決議を見ておりませんが、施政権返還の問題につきましては、先ほど外務大臣が答えたように、ケネディ大統領は、潜在主権があり、行く行くは日本に返還することを前提にして物事を考えておるようでございます。下院の決議の問題につきましては、法制局長官から解釈をお答えさせます。

○林(修)政府委員 もちろん、これは御承知のように下院の決議でも何でもないので、下院で議論された問題だと思っておりますが、これはいわゆる潜在主権の内容について議論されたことだと思います。潜在主権というものの内容について、現在においてはいわゆる施政権は完全にアメリカが持っておる。従って、日本に残されたものは、現在においては日本の承諾なしにあそこの領土主権を他に譲渡することができない、こういうことではないかというような趣旨だと思います。この点につきましては、だいぶ前でございますが、私あるいは外務省からもこの席でお答えしたことがあると思います。現在においては平和条約第三条で、施政権は全部アメリカが持っておるわけでございます。従って、いわゆる施政権の内容は日本にはないわけで、ただ領土主権は日本が持っておる。これがいわゆる潜在主権で、この潜在主権は、現状においては日本の承諾なしに他に領土主権を譲ることができない、こういうことが現在における状態であると思います。そういう意味で、きわめて法律的に割り切って言えば、ああいう議論も出てくることかと思うわけでございます。表現の問題はいろいろあると思います。

○勝間田委員 この際、一つ要求しておきたいと思いますが、沖縄の問題をわれわれは真剣に考えてみるときに、はたして現在の沖縄の皆さんが希望ある経済生活なり文化生活をやっておるかといえば、まことに悲惨な状態に私はあると思います。また、これが、たとえばライシャワー氏なりが、日本の本上の県並みにまで一つ行政水準を引き上げていきたいのだ、こう言われましても、はたしてその適確な施策が行なわれているかどうかということについても、私は重大な疑問を持つのです。ただ、私どもが忘れてはならないことは、沖縄の皆さんに対しては、日本の本土が国家の財政をもって積極的に援助していくということが、私は絶対に必要だと思います。同時に、その援助というものが、先ほど来申し上げた通りに、施政権の返還につながり、またそれが本土復帰につながるものでなければならぬということを、私は根本的に考えておかなければならぬことだろうと思います。もしそのことを怠るならば、この援助というものは、結局アメリカのドル防衛に協力するにすぎないという結果に陥ってしまうのであります。ドル防衛に終わるか終わらないか、真に沖縄の人たちの幸福につながるかつながらないかは、やはり施政権返還、本土復帰にこの援助がつながるかつながらないかということにかかっておると私は思います。この意味で、私どもは一つ強く政府に要望しておきたいと考えるわけであります。
 次に、私は、池田総理並びに大蔵大臣その他の皆さんに、日本の経済、財政の問題について一つお伺いをいたしたいと思います。
 この前の本会議の席上で、成田書記長が、池田内閣の経済政策は酔っぱらい運転だという意味のことを言われましたが、まことに適切な表現だったと思う。
 まず、私はお示し願いたいと思いますけれども、最近の十ヵ年間の、予算説明当時における当初の経済成長見込みというものと、一年たった実績というものとは、一体どういう数字になっておりますか。この数字を経済企画庁長官に一つ発表していただきたいと思う。当初見込みは幾らで、実績は幾らだったか、過去十カ年です。

○宮澤国務大臣 昭和二十七年度から申し上げますが、この当時には見通しによる推定がございませんので、推定と実績との比較を三十年度から申させていただきます。
 実質で申し上げる方が御便宜でありましたら、実質で申し上げます。三十年度の推定は四・五と推定をいたしまして、実質は一〇・三でございます。三十一年、四・二と推定いたしまして、実績は九でございます。三十二年、六・五と推定いたしまして、実績七・九、三十三年、三%と想定いたしまして三・二、三十四年、五・五と推定いたしまして一七・九、三十五年、六・六と推定いたしまして二一丁二、三十六年、九・二と推定いたしまして一四、三十七年につきましてはまだというところでございます。

○勝間田委員 池田総理どうですか。われわれに予算を説明し、経済の見通しを話すときにはかくかくの数字だが、結果は全く違ったものになる。特に私は思い出すのでありますけれども、三十六年の正月のときに、当時いわゆる安定成長か、高度成長か、七%か九・何%かという議論をしたことがございます。その当時、経済企画庁もわれわれも、この際は安定成長でいくべきである。私は、その当時本会議におきまして、景気の上向くときにはむしろ政治は控え目にやるべきだ、景気が悪いときには積極的にてこ入れをやるべきだ、問題は、安定がこの際政治のとるべき態度だという話をしたところが、また私にまかせておきなさいというあなたの答弁だった。が、そのときに私どもが非常に痛烈に批判したのは、同時に公定歩合を引き下げるという政策をとってはならぬということだった。たとい、あるかないかは知らぬけれども、あなたが証券業界に義理があったとしましても、金利を下ぐべきじゃないんだという主張をわれわれはした。しかし、これを押し切った。そこで、どうです。経済は過熱になって、そうして膨大な成長になって、国際収支は赤字。これからせっかく引き下げた公定歩合も二回にわたってまた引き上げざるを得ないという状態になって、あのときの一年間の結果を見れば、池田さん、あなたは落第でしたよ。これは結果においてはっきり現われていると私は思う。これは一体見込みの間違いですか、政策の間違いだったのでしょうか、両方だったのでしょうか。過去十カ年間におけるこれほどの乱脈というものは、これは成田書記長が言われるように酔っぱらい運転だったかもしれほい。一体、今までの経過を見、特に三十六年度から今日までの推移を考えてみて、見込みの間違いですか、政策の間違いですか、どっちですか、池田さんに一つお尋ねをいたします。

○池田国務大臣 ごらんの通りに、三十二年、三十三年のときがよかったか、あるいは三十五年、六年のときがよかったかといったら、やはり成長率の多いときの方がよかったと言うでしょう。私はここでとやこう申しませんが、これは客観的立場にあります世界の人が言うことを一つお聞きになったらどうですか。見込み違いということももちろんあります。経済の成長というものは、なかなか見込みの立たぬものです。それはなぜかといったら、日本人の努力と創造力が強いのです。まあ見てごらんなさい。最近世界で一番景気がいいといっているのは、フランスとイタリアでございます。これが五%程度です。五%ないし五・五%の総生産の増加でございます。しかし、イギリスなんかに至っては二・七%くらいです。前年は、一九六二年ですが、一%程度なんです。ドイツがあれだけいっておりましたが、ドイツも生産は非常に鈍って、国民所得の伸びは三、四%くらいじゃございませんか。それが、今企画庁長官が言ったように、三十七年度はわかりませんが、過去平均三年間一五%いっておる。こういうのは世界の驚異なんです。政策の見違いとか、あるいは政策の拙劣とか、見込みのどうこうということよりも、高度成長したがゆえに、格差もだんだんなくなりつつあり、そうして国民全体の生活水準が非常に上がってきておる。これを何と見るか。こういう意味からいえば、減税もやり得たり、あるいは社会保障も拡充したり、文教も刷新できる、これが一番の政策でしょう。成長率がどうこうということよりも、社会保障や社会資本や減税や、あるいは国民生活水準が上がるということが政治の目標ではありますまいか。私は、その点からいって、見込みは過大に見込んで非常に少なくなったよりも、九%という見込みが、ごらんの通り一五%平均になったのです。これがいいか悪いかということは、後世の人が批判するでしょう。らち外の第三者が批判してくれると思います。私は、こういうことがあったから、日本がだんだん先進国に早足で近づきつつあるということでございます。後世の批判と第三者の批判を待ちたいと思います。

○勝間田委員 私は、経済成長というものを決して否定するものではない。しかし、経済成長というものが、たとえば一四だとかあるいは一三だとかといったような、そういう成長をしたのだから、おれは成功したのだ、こういう考え方をするのは非常な間違いだと私は思う。何となれば、そのために犠牲を受けるものがあるわけです。たとえば国民の消費率が五四・八なら五四・八というものに低く押えられるという条件なり、あるいは社会保障、社会資本がそれだけ立ちおくれるという、そういう犠牲の上になされるのだから、決して成長だけがあなたの自慢になるわけじゃないと私は思うのです。よくあなたは、高度成長が世界的だから評判がいいのじゃないかと言います。よく外国ではワンダフルという言葉を使いますけれども、ワンダフルということは、私も辞書を引いたわけでもございませんが、驚異ということも、感嘆ということもあるでしょうけれども、どうも奇妙きてれつというような、不思議ということも私はあると思うのです。だから私は、池田さんの一体一三%の成長率というものがほめられたのか、よくもまあ日本国民はこうがまんをさせられたものかという、一体どっちに解釈しているのか、一ぺんまた機会があったら調べてみたいと実は思っておりますが、いずれにしましても、私はここで経済企画庁長官に一つ聞きたいと思いますが、なぜこんなに見込みが違ってくるのでしょうか。また違ってもいいものなのでしょうか。一つお尋ねいたします。

○宮澤国務大臣 お尋ねは、なぜ見込みが違っているか、もう一つ何とおっしゃいましたか。

○勝間田委員 またそんなに見込みが違っていいものなのでしょうか。

○宮澤国務大臣 それは、なぜこれだけ見込みが違ったかということの一つの基本の問題は、いろいろ説があると思いますけれども、わが国が戦後技術革新の波にかなりおくれておったわけでございますが、一九五五年ごろから急速に技術革新に入りまして、そうして現在まだその過程のどこかにあると思われます。しかし、それがどの程度の波にどの程度入っておるかということの判断がつかなかったということが、やはり私は問題の基本にあると思います。その点は正直を申して、今日といえども、大企業については技術革新の傾向が一巡したように思われますが、中小についてはまだそのように思われませんので、従って、わが国の経済そのものが、何分通りそういういわゆる技術革新によるところの経済構造の変革をなし終えたかということが、正直のところ何人にも明らかでないと思います。この点についての見通しを欠き、現在といえどもなおこれを確証するところの確たる要素をつかみ得ないというところが、やはり問題の基本にあると思います。
 それからもう一つは、それと直接に関係のあることでありますが、先ほど総理から答弁のありましたように、これだけの国民の持っておるところの創造力とエネルギー、それがどういうふうにどっちへ向かうかということについての予測がやはりやりにくい。これは現在でもやりにくいと思いますが、そういうところに基因をいたしておると思います。

○勝間田委員 池田総理の施策が手放しで私は賞賛するわけには参らないと実は考えておる。結局この経済の成長が、たとえば三十四年が一七とか、五年が一三、あるいは六年が一四とかということで、これが結局民間の設備投資をこれだけ余分にやったことなんでしょうけれども、この結果生まれてきているいわゆる欠陥、日本経済の課題というものは、設備の過剰ができてきている、あるいは物価、料金が値上がりせざるを得なかった、あるいは通常いわれておる社会資本の立ちおくれがきてしまった、また国際収支を悪化させた、この重大なことだけはあなた認めるでしょう。こういう結果が今日生まれたということは、あなたはわかるでしょう。これを認めますか。こういう結果を生んでしまったということはあなた認めますか。
○池田国務大臣 設備の過剰があり、そうして卸売物価の弱含みがあり、そうして国際収支が赤になった、これは認めます。しかし、その設備の過剰が今後働き出し、そうして三十七年度の成長をある程度抑えたために、国際収支は黒字に変わり、将来伸びていく発展があったと私は考えております。

○勝間田委員 そこで、一つ大蔵大臣に御意見を聞かしていただきたいと思うのですが、本会議におけるあなたの演説をお聞きいたしましたが、なかなか精細にわたって述べられたことについては、私は敬意を表します。しかし、ことしの経済の課題は何だろうか、私はその経済の課題にこたえるためにかくかくの予算を組みました、この透徹した議論をあなたから聞きたかったのであります。どこどこに何パーセント出した、どこどこに何パーセント出したということよりも、ことしの経済の課題は何だ、これにこたえるために私はかくかくの予算を組みました、それがこういう結果になりました、こういうやり方があってしかるべきだろうと私は思うのです。これは有名な、私どもも敬服しておるのでありますけれども、たとえばイギリスの労働党のある大蔵大臣のごときは、これをやりますと皆さんにフランスのコティをもう一個お届けすることができます……私はそういう態度が望ましいと思うのです。ことしの経済の課題をあなたは一体何とつかまえていらっしゃいますか。それを一つあなたに聞かしてもらいたい。

○田中国務大臣 お答えいたします。
 自由化の波の中に洗われながら、新しい日本を築いていく、新しい立場からの第一年次になるであろう、またしなければならない、こういう基本的な気がまえを前提としたわけであります。御承知の通り、IMFは二月の初めに理事会を開いて、日本に対する八条国移行勧告を行なうであろうと思われますし、また、ガットの会議も日本の自由化に対しての議論を二月から始めるわけでありますし、関税の一括引き下げというような時代に対応していかなければならない日本でありますから、御承知の通り、国際収支改善という大きな仕事と取り組んで参ってきた日本が、最終段階において円満に国際収支改善の実を上げ、新しい立場に立って自由化に対応し、輸出第一主義をとりながら産業の基盤強化に処さなければならない、これが日本の経済に対する基本的な考え方であります。

○勝間田委員 基盤強化、特に八条国移行に伴う日本経済のあり方、それに対する経済対策、私は、これは最も重要な課題だと考えておる。もう一つ、やはり重要な問題は、言うまでもなく、現在の経済のいわゆる景気後退、あるいは不況とも言っていいと私は思いますが、この状態をいかにして回復するかという課題、それからもう一つは、所得格差なりその他の格差の是正という、国民全体に対する公平の原則をどう実現していくかという問題が私はあろうと思う。この日本の現在の経済不況の原因というものをあなたはどうつかまえていらっしゃるか、この点をどう回復されようとして考えておられるのか、その点を一つお尋ねをさしていただきたい。

○田中国務大臣 ただいま勝間田さんも申されましたが、先ほどの御答弁につけ加えて申し上げれば、健全にして長期安定的な経済の発展を築かなければならない具体的な問題としては、国内均衡をはかりながら、地域格差や業種間格差の是正もあわせて考え、立ちおくれておる社会資本の充実をはかりながら、文教や社会保障を充実せしむるというのが、三十八年度予算の大綱をなしておるわけであります。また、経済の萎縮面に対してどういうふうな刺激対策をとるかという問題でありますが、これは事実を申し上げると、その認識は非常にむずかしいのであります。その意味で、私は先ほど、新しい国際情勢に処して日本が長期安定的な経済発展をせしむる第一年次にしなければならないという基本的な考えを申し上げたのですが、確かに一四%実質の経済が伸びた三十六年度に比べまして、三十七年度は御承知の通り名目六・五%、実質経済の成長率四・五%と押えておりますから、この通りの数字を考える場合には、まさに三十六年の三分の一にもなるわけでありますから、その面において相当しわ寄せをされておる産業部面があることも認めるわけであります。でありますから、それらの産業に対しては十分の配意をしながら、各種のてこ入れを行なっていかなければなりませんし、同時に、輸出振興という意味において、輸出産業に対する諸般の施策も行なわなければなりませんし、また中小企業や、一面において、三十六、七年度までに設備の過剰投資が行なわれたといわれながら、自由化に対して中小企業その他まだ設備改善、近代化が行なわれておらない部面もたくさんあるわけでありますから、それらの部面に対しては、なお設備改善を進めていかなければならないわけであります。でありますから、大きな企業や設備過剰のものに対しては、設備投資を押えながら、立ちおくれた産業に対しては設備の改善、近代化を進めていかなければいかぬ。相反する面に対して合理的な施策を適切に行なわなければならぬというのが、今年度、来年度の一番大きな問題であり、またむずかしいことだと考えるわけであります。私は、そういう意味で、ちょっと手を許すと国際収支の危機を、また逆戻りをするようなおそれもありますし、ある一面においては、沈滞した産業に対して適切な処置をしながら景気刺激を行なわなければならない。こういう問題に対して、われわれが三十七年度の下期からいろいろな施策を行なっております。ただ、一般会計による景気刺激というようなものだけではなく、産業投融資の面において弾力的な運用を行なったり、御承知の日銀の買いオペレーションやいろいろな施策によりいわゆる民間資金の活用等をはかって、昨年六、七月から適切な施策を行なっておるわけであります。また、三十八年度の予算で、御承知の石炭鉱業に対する問題、非鉄金属鉱山の再建に関する問題、なお外航船建造に関する問題とか、肥料工業に対する施策とか、各般の施策を行ないつつあるのでありまして、ただ萎靡沈滞をしたからということだけに目を奪われて、国際収支をまた逆調に導かないように十分の配意をしながら、国内産業の均衡をはかるという面に重点を置いて施策を行なっておるわけであります。

○勝間田委員 有効需要をふやしていくという場合に、田中さんはどの有効需要をふやしていこうとするのか、それをどうして持っていこうとするのか、それを端的にまず一つお尋ねをいたしたいと思います。

○田中国務大臣 有効需要をふやすという問題については、一つには輸出を拡大することでありますし、もう一つは国内的に消費の拡大ということになるわけでありますが、消費拡大ということにつきましては、あまり消費を拡大することに重点を置くと、三十五年、六年、七年のように、異常なともいうべき消費の拡大が行なわれるわけであります。また、現在のような状態をずっと続けて参ると、国民消費は非常に沈滞をしていくということになると思いますので、適切な目標を立てながら、国民消費をどの程度に押えるかということに配慮をして参らなければいかぬ。来年度の国民消費の目標は、御承知の通り一〇%という程度に考慮をいたしておるわけであります。

○勝間田委員 経済企画庁長官に一つお尋ねをいたしたいと思いますが、最近の重要産業の操短率はどの程度になっておりましょうか。

○宮澤国務大臣 製造工業を平均いたしまして、八〇をちょっと割っておると思います。鉄鋼業が七五くらい、化学、石油化学に至っては六〇%台であります。

○勝間田委員 池田総理に一つお尋ねいたしますが、あなたはよく賃金インフレだとか、コスト・インフレだとか盛んにそういう言葉を使われますけれども、一番今大きな問題は、私は、操業率が低くて、逆に言えば操短率が高くて、資本負担が非常に重くなっておるというのが今日の状況ではないでしょうか、そこが問題点じゃないでしょうか。

○池田国務大臣 資本負担というのは、やはり設備拡張によりますもの、そうしてまた金利の高いということ等の原因がございます。コスト・インフレということは、各国でずっと悩んでおるところでございます。御承知の通りイギリスからアメリカ、そうして三年ぐらい前からドイツという状況です。日本も生産性が非常に伸びておるときは、賃金がある程度上がってもやはり下回っております。本会議でお話しいたしましたごとく、生産性は相当伸びておりましたが、昭和三十六年の六月ごろから、三十六年の春闘から賃金の上がりが非常に多いようになりまして、そうして三十七年も相当賃金が上がっておりますが、生産性はあまり伸びなかったということで、これは一時的現象としてはそう心配はございませんが、この生産性の向上よりも賃金の上昇の方が上回るということになりますと、いわゆるコスト・インフレということに相なるのであります。一番いい例はドイツでございましょう。最近におきまして、ちょっとイタリアが今その傾向があるというので調べておりますが、これはやはり賃金の上昇ということもある程度考えなければなりませんが、やはり生産性の向上よりもこれが上回る、それが長い間上回るということは、健全な経済の発展によくないと私は考えておるのであります。もちろん最近操業率が落ちまして、生産性の向上が十分ではございません。しかし、いずれはまた相当の、生産も伸びることでございましょう。こういうときに、もちろん生産性の向上よりも賃金の上昇が半年あるいは一年くらいあとになるということは、これはわかり切ったことでございます。この間の関係をよくしていかないと、健全な長い目で見た経済の発展はあり得ない。それで私は、ここ二、三年前からそういうことを言って、反省と申しますか、自戒をお願いしておる状態でございます。

○勝間田委員 この生産性と賃金との関係の問題を非常にわずかな短期の間の変動だけで見ていこうとする、早く一言えば、短期の傾向から見てそれで鬼の首でもとったような考え方を持っていくという、そういう態度のものであってはならぬと思います。生産性と賃金の問題は、少なくとも三年ないし五年のロングランに見られた比較でなければ、これが正実なものということはできないと私は思うのです。この点で池田総理と何も議論をする必要はございませんけれもど、問題は、この非常な低い操短率、これは逆に言えば、あなたの無計画な民間設備投資の激成からくる反動としてのこの非常なきびしい操短率というものを一体いかにして引き上げていくか、そのための有効需要をいかにしてつくり上げていくかということ、あるいはそのための経済条件をどうつくっていくかということが、私はそれが中心だと実は考える。その中心から真剣に取り組んでいくならば、私は、当然考えられるべき事柄は、設備投資を誘発していこうというその考え方ではなくて――これは非常に景気刺激としては有効な手段でしょう。設備投資なり在庫投資に持っていこうということで一番やさしいことなのでしょう。しかしそれは自己撞着でありまして、自分の景気をつくるために、また自分と対立する工場を拡張していくということでありまして、こういう手段をやっているから、これが私は自転車競争のようなあるいは自分の足を自分で食うような経済政策のやり方だと実は考えるわけであります。やはりこの際に問題になっていくのは、やはり最終需要を目的として対外貿易あるいは国内消費あるいは公共事業、こういうところに問題を持っていくということでなければならぬと私は実は思うのです。その意味からいくと、設備投資の刺激に期待をかけていこうとする政策のようにどうも見受けられてならない。それはたとえば金利政策なり、あるいは政策減税のやり方なり、あるいは財政資金の使い方なりというものを見れば、私はよくわかると思うのです。だから私はむしろこの際に大切なことは、一つは貿易の振興、一つは国内の一般消費の引き上げ、公共事業、こういうことになると実は考えるのであります。ところが大蔵大臣の今回の説明を聞いておりますと、まず一般消費の面を非常に押えていくかに見受けられてならない。それは世間で言われるような所得減税というものが非常に押えられたということが、一つの印象からきておるのでありましょうし、なぜ一体この所得税減税というものをこんなに押えたのですか。これはあなたの財政政策に直接つながる方針だと私は思うのです。所得税減税をなぜこんなに押えたか、この点を一つ大蔵大臣から明らかにしていただきたいと思うのであります。

○田中国務大臣 お答えいたします。
 所得税減税を押えたわけではありませんし、所得税減税を押えるなどという考えは毛頭持っておりません。過去数年間において、減税は一兆一千億以上も行なわれたわけでありますが、これが七〇%に及ぶ金額は、所得税中心の減税であったということは御承知の通りであります。でありますから減税というのは、いつの時代でも時の政府、時の財政当局は、できるだけ減税を行なっていかなければならぬということは、これは政治の基本でありまして、私も財政の責任者として当然そのような基本的な考えを持っておるわけであります。しかし、経済は御承知の通り非常に微妙な段階でございますし、テンポの早い国際情勢に対処して日本の経済を運営していくのでありますから、そのときの情勢によって取捨選択しながら、弾力的な運用をやらなければならないこともまた言うを待たないわけであります。その意味において昨年までに――御承知の通り昨年度は税制改正の三年目でありましたが、間接税中心の大幅減税を行なったわけでありまして、税制に対しましては、根本的な税制のあり方を新しい内閣につくられた税制調査会に諮問をいたしております。その諮問については、広範な角度から、将来の日本の税制そのものに対して、また減税のあり方そのものに対して諮問をいたしておるわけであります。三十八年度の予算編成に際して、少なくとも三十八年度予算編成の中に織り込まなければならない部面に対しての答申があったわけでありまして、われわれはその答申を十分尊重をする建前で検討いたしました結果、先ほどから申し上げておるように、国際収支の改善という問題もありますし、自由化という問題もありますし、一括関税引き下げという問題もありますし、八条国移行という問題もありますし、日本民族としては非常に重大な立場に立っておるわけでありますから、元も子もなくするというようなことよりも、先ほどから総理が申し上げておるように、国際収支の状況をよくし、自由化に耐えていく国際競争力をつくり、貿易を振興していかなければ、社会保障の拡充も教育の振興も何もできないのだから、まず基本的な貿易の振興ということを前提にしようということでありますので、経済政策の第一に輸出振興を掲げました。
 その輸出振興を第一にやらなければならない産業はどうかというと、あなたが先ほど言われておるように、多少設備の過剰等がありまして、鉄鋼でも肥料でもあらゆる産業に対して何らかの措置をしなければならないような状態になっておるわけでありますので、産業政策の一環として政策減税を行なったわけでありまして、来年も再来年も、これから何年か引き続いて税制の改正が行なわれるわけでありますので、われわれは所得税の減税に対しては、将来、今までやってきたと同じような立場で減税政策を進めていくつもりでありますので、今年度に対して、答申の一万円控除が二項目にわたって五千円に減ったという事実だけをもって、われわれが非常に減税に消極的であったということではないというふうに考えておるわけであります。

○塚原委員長 勝間田君に申し上げますが、申し合わせの時間が経過いたしましたので、結論をお急ぎ願いたいと思います。勝間田清一君。

○勝間田委員 減税に不熱心であったというわけではないとこう言われますけれども、それでは所得税の納税者数は、一体ここ数年間どういう数字になっていますか。

○田中国務大臣 こまかい数字問題は、政府委員をして答弁せしめます。

○松井説明員 お答え申し上げます。
 シャウプ税制当時千四百万人でございます。それから二十九年、三十年に減って参りまして、二十九年が千百万人、三十年が一千万人でございます。大体千百万程度が三十四年まで続いております。三十五年に入りまして千三百八十四万、三十六年度で千五百万でございます。本年度、三十七年度は、当初予算で千四百七十三万と見込んでおりましたが、見込みでは千七百万くらいに相なるかと思います。現状のままで参りますと、税制改正がなかりせば、千八百万以上になるかと思いますが、減税の結果、平年度百五十万、初年度百二十万の減員になる予定でございます。

○勝間田委員 今の数字ではっきりわかる通りに、納税者を減らしていきたいと言って池田総理、豪語しておりましたが、遺憾ながら総理とは逆な結果がここに出ております。
 それでは、もう一つお尋ねいたしますが、税制調査会を云々されましたけれども、あの税制調査会でいきましたのは、御存じの通りに所得税の自然増収の約三〇%程度でしたか、やはり減税をしていかなければ、いわゆる物価の値上がりと名目所得の増加からくる累進課税との関係から、むしろ増税になってしまうのだ、私は、あれはこういう答申であったと実は記憶をいたしておるわけです。そうならば、今日、たとえば所得税の自然増収を二千億円として考えてみるならば、その三〇%、六百億円というものは減税をすべきはずだった。六百億円の減税をしないで、あなたは今度二百七十五億円の減税だということになりますれば、実質的に三百二十五億円の負担増になるのじゃないですか。だから、あなたは減税々々と言うけれども、減税じゃないのです。実質的な増税ですよ。これは税制調査会のはっきりした答申に基づくものを基礎とする数字でありますから、私は申し上げていいと思うのですけれども、明らかにこれは所得税に対する負担増です。調整の域を越えています。そういう意味からいくと、池田内閣は、今度所得税を減税したと言うわけには決していかぬと私は思う。これに反駁する理由がありますか。

○田中国務大臣 先ほどお答え申し上げましたように、昭和三十三年当時千百万であったものが三十五年に千三百万になり、三十六年に千五百万になり、三十七年に千七百万近くになるという数字から見まして、非常に増税になっておるという簡単な理屈を言っておられるようでありますが、そうではなしに、その間には基礎的控除率をどんどん上げておるのでありますし、実際において経済成長率は、先ほど宮澤長官が申した通り、三十一年度九%、三十二年七・九、三・二、一七・九と大幅に経済指数が上がっておるのでありますから、収入がどんどんふえて日本の国力がふえれば納税者がふえるということは、これは総理がいつもお答えになっておる通りだと思うわけであります。しかし、こまかい数字をずっと検討しまして、物価の値上がりよりも減税率が少ないという場合には、あなたの言われる通り増税式になるというような理論が生まれるかもしれませんが、少なくとも今度政府が減税をいたしました一般減税については、物価の値上がりを十分織り込んで、少なくとも増税にはならない、増税よりもむしろ政府が長年考えておる基本的な線に沿った減税が行なわれておるという線において減税の率をきめたわけであります。もちろん今年だけで終わるものではなく、来年、再来年ということを考えておるのでありますし、御承知の通り、三十六年、七年の両年度にわたっては、日本が自由化に対応して一体先行きどうなるのだ、日本の経済というものは鎖国経済では行けないのだ、こういうことを真剣にお互いが検討したわけであります。でありますから、減税ももちろん必要でありますが、一年でも半年でも二分の一に延ばし得るものであって、その金を公共投資に向けるとか、また産業基盤の強化に向けるとかということをもって今年度五%の減税をするということと、より積極的な施策をするために明年度以降一〇%の減税が行なわれるとしたならば、政治の責任としては後者を選ぶべきであります。私たちは政策減税との間のバランスを十分考えて、もちろん増税にはならない、明らかに減税であるという限度を守りながらこの減税政策をきめたわけでありまして、いやしくも増税にはならないという理論的根拠を持っております。

○勝間田委員 いやしくも増税にはならぬと言いますけれもど、税制調査会の答申を見ますと、所得税の方は本来は実質所得に対する負担を中心に考えるべきであるという勧告をして、そうして結局三十八年度の実質的な負担増というものは三〇%であるから自然増収に対して三〇%約六百億円というものは減税をすべきだったのに対して調査会は三百九十二億円を減税すべきだ、こういう勧告をしたのでしょう。この勧告を政府はとって二百七十五億にこれを切り下げた。そうでしょう。もし六百億円減税をすれば、これは実質所得からいけばとんとんなはずだった。そのとんとんなはずだったやつをあなたはここで二百七十五億という小さな幅にしちゃったから、実際上は実質所得から見れば三百二十五億円の増税になるのです。こういう点をはっきりさせなければ、いかにも減税々々と言われますけれども、これは田中さん大きな間違いでないでしょうか。
 まだ私はもう一つ、時間がなんですから申しますけれども、なぜ一体三政策減税をやらなければならぬのですか。配当と利子に対してどうして減税をやらなければならぬのですか。これをまず私は聞きたいと思う。

○田中国務大臣 お答えいたします。
 私は減税をやらないなどということは言っておるのじゃないのであります。過去も歴年やりましたし、これからも内閣の税制調査会の答申を尊重しながら、より大きな減税をやっていきたいという基本的な態度を明らかに言明いたしておるわけであります。今度の内閣税制調査会からの答申と提案をいたしました減税政策をただそのままに比べますと、あなたの言われたような議論が成り立つわけでありますし、私たちも答申の線そのまま六百億を守れずして、平年度二百数十億という減税案に踏み切らなければならない場合には、その軽重に対しては十分慎重な配慮を行なったわけであります。これはしかし、政治の責任者として考える場合、やはり比較をしまして、将来にプラスになる道があるならばそれを選ばなければならないときも当然あるわけであります。それは皆さんがいつでも言っておられる通り、人事院は五月一日からの昇給を勧告したけれども、諸般の情勢、いろいろなものを比べてみる場合には、やむを得ず十月一日に施行しなければならないというより高い立場から考えなければならないことは当然あるわけでありまして、私たちは、そういう意味で今年度の答申の線を守りながら、明年度以後において行なわれるものに対して、一部政策減税に振りかえて調整をとったというにすぎないわけであります。しかも今預金の利子を五%に下げた問題や、株式に対する課税率を五%に下げたような問題について言及されましたが、私が先ほど申し上げている通り、日本が国際競争力をつけていくために一体何をしなければいかぬのか。先ほどあなたも言われた通り、過剰設備投資にあえいでいるではないか、これに対して一体どうすればいいのだということを言われまして、それを一歩進めてあなたが質問せられれば、低金利にならないのか、低金利だけではなく、石炭鉱業や今の海運に対しては政府は一般会計から繰り入れを行なえ、また行なわなければならないという状態もあるわけでありますから、やはり先ほど申した通り、元も子もなくするような政策はとれないのであります。私たちも政党政治家でありますから、当然減税政策を行ないたいということはあなたと同じことです。答申より以上に減税を行なった過去の例もあるのでありますから、今度も、私も初めての大蔵大臣でありますから、大いに減税をやりたい。あなたの言う通りのことを考えているのですが、そこがやはり責任ある立場で、将来の日本の長いあしたを考えるときには、ある時期だけ一般減税を待っていただかなければならぬというような配慮をやったわけでありまして、産業資金が不足をしていると皆さんがお考えになっても、日本の大半の産業が自由化の嵐を前にしながら、借入金と自己資本の比率がどのような状況になっておって、このような状態で一体自由化に立ち向かえるのかということは、お互い皆日本人は考えているのでありますから、その意味において、一般減税を一年減じていただくかわりに、より深刻な事態に対処する政策減税を加味したにすぎないのであります。

○勝間田委員 大へん恐縮ですけれども、大事なところですからもうしばらくお願いします。
 この政策減税、利子、配当の減税をやる。すなわち、一つは、今までのたとえば分離課税をもう二年間延期しようとか、あるいは今までの源泉徴収の特別措置というものをやって、しかも一〇%を五%に下げよう、そういう施策というのは一体目的は何だということ、その目的というものは、あなたの言う通りに、一つここで金を集めていこうという考え方でしょう。その金を集めていこうというのは、政府保証債の発行ともつながり、日銀の買いオペともつながり、産業投融資の計画の資金源ともつながっておるということは、私はわかっております。ところがそういう減税の仕方が今の経済の実態に合ってくるのか、むしろ増税に悩んでいる所得税の減税をやって、一般消費を高めていった方がいいのかということは、私は政策論上重大な問題だと実は思う。だからここで二百二億の金を利子課税、配当課税の方に持っていかずに、なぜ当然増税になる一般の所得税の方の減税に持っていかなかったか、ここが私は重大な点であると思いますけれども、これ以上あなたと議論をしてもしようがありませんから、その見解を明らかにしておきたいと思います。
 次に私は、今度のあなたの予算を見て非常に重大に思いますのは、長いことを、三十九年のことを言えば鬼が笑うかもしれません。そのころには池田さんはもう内閣から辞職されておると私は考えておりますから、何も九年のことをそう心配する必要はないと私は思いますけれども、しかし三十九年に一体内閣をとる者があるとすれば、それは非常に迷惑な話だと私は考えておる。すなわち、その意味で私は申しますけれども、われわれが今心配をいたしておりますのは、そういう減税をやりながらもここで政府保証債を広範にやっていこう、外債をやっていこう、そして金を集めてぎりぎり一ぱいの財政政策をとった。もう一つ大事なことは、本年度の財源をほとんど使ったということであります。第一次補正、第二次補正、これで三十七年度のいわゆる増収分というものはほとんど使って、九年度に持っていく部分というものはほとんどなくなったということであります。あなたの今度の財政というものはその意味ではぎりぎり一ぱい、あるいは少し多過ぎかるもしれない一般会計を組んだ。それでもなお足らないで一兆一千億以上の産業投融資をつくった。そして今言ったような無理な資金を動員するという体制をとった。この積極的な態度というものについては私は必ずしもとやかく言いませんけれども、一番大きな問題は、三十九年に及ぼす影響というものを私は非常に重大に考える。そこで支出増、収入の減あるいは弾力性を失うということから見て、一番問題になってくるのは、私は減税の問題ではなくて、公債政策というものがどう首を出してくるかということが一番の課題だと実は思うのです。この国会で、あるいはインフレ論、何論というものが本会議でもあったりして、池田さんもかなり興奮した答弁をされておりましたけれども、問題はここだと私は思うのです。でありますから、先ほど田中さんは、これは池田さんもそうです。この前の答弁を見ておりますと、記者団の会見において何と言っておるかというと、いや来年は大幅に減税をやります、そういうことを言っておる。一体来年大幅の減税の余地があるのですか。これを私ははっきりしておいてもらいたい。

○田中国務大臣 三十八年度、現在提案いたしております財政規模が積極性を持っておるということに対しては、勝間田さんも同感の意を表されたのでありまして、非常にありがたいと思います。私も先ほどから申し上げておるように、国際収支の改善という微妙な問題を考えますときには、財政規模がどうあるべきかということに対しては非常に深刻な配慮をいたしたわけであります。同時に、先ほどからあなたが言っておられます通り、何らかの景気刺激をやらなければならないという事態がたくさんあるじゃないか、かくかくの産業に対しては首切りをやらなければいかぬじゃないか、かくかくの産業に対しては配転ができないじゃないかというような問題、こまかくは申し上げませんでしたが、そういうことを前提にして御質問になられておるわけでありますから、それらの問題に対してどういうふうに景気刺激をしなければならないか、これをいかにして調和をせしむるかというのが三十八年度の予算だ、私はそう考えて予算編成に深刻な考えで当たったわけであります。
 その意味において、一面産業刺激というような面から見た予算の積極性に対しては賛成をせられましたが、一面、三十七年度の財源を全部食ってしまって、弾力性がなくなってしまって無責任な予算だ、あとから予算を組む人は一体どうするのかという問題でありますが、これは理屈を申し上げるつもりはありません。いつでも、大きな自然増収を残すと財政法違反だ、こういう議論も絶えず行なわれたわけでありまして、財政法の考え方からいえば、もちろん単年度の財政収入でまかなうという健全性を堅持すべきでありますから、これは、私はそのような財政法上の理屈だけで押そうという考えではありませんが、少くとも三十七年四・五%の経済成長率を議論したときには、これで一体いいのかという問題と、これでもまだ国際収支は逆戻りをするおそれもあるぞという相反する議論がなされておることは事実でありまして、私はこれを調整をとるために三十七年度の予算というものに対しても非常に配慮をしたつもりでありますが、今、三十七年度に財政法を改正して、三十六年度の剰余金千何億かの半分を取りくずすというような意見もありましたし、今年度は、どうしても社会資本をふやすためには一部建設公債の発行もしなければならないという議論もありましたし、また外債などは、三億も五億ドル借りても大したことはないではないかという議論もありましたが、いずれにしても、それらのことを配意しながら三十七年度の税収を中心にした経常収支の範囲内で予算がまかない得ておるということについては、ただいまあなたが申された通り先食いをしたというような考えは持っておりません。私はこの三十七年度の第一次、第二次補正予算を合わせて、われわれが今心配をしておるような諸般の事情に対処でき得て、前向きに長期安定の第一歩を踏み出せれば幸いだと考えておるわけであります。
 もちろん、そうすると三十九年度の予算を組めなくなるということでありますが、その程度、多少景気刺激を盛り込み過ぎたではないかというような状態で予算を組んでも、来年は、一体あなたは、一面においては予算が大き過ぎると言いながら、需要は何によって起こすのだ、私たちは三兆六千億の民間設備投資は三兆五千億にはどうしても減るだろう、あるいはもっと減るかもしれぬ。それは財政資金でまかなわなければいかぬ、おくれておる公共投資その他でまかなわなければならないという配慮のために予算を組んだわけでありますが、それでもまだ、来年は総理が言う通り景気がよくなるのですかという逆な面からの御質問もあるわけでありますから、私は三十七年度の予算を通じて景気は上向きになり、三十八年度、私は積極的にも考えておらないわけでありますが、この予算は三十五年、三十六年、三十七年、比べてまあ健全均衡のワク内の予算である、こういうふうに考えておりますが、こういう予算を続けていくために日本の経済は健全化し、来年の三月はうんと法人決算は悪いだろうと思ったものが、九月決算も思ったより悪くならず、十二月決算の会社も何とか横ばいになり、このままでは三月決算もわれわれが考えておるものに近い決算の数字が出るだろう。そういう状態を配慮しながら予算を組んだわけでありまして、私としては精一ぱいの予算を組んだ。それは量において精一ぱい組んだというのではなく、合理的な範囲において予算を組んだと考えております。
 第三点は、これが三十九年度には当然赤字公債になる。赤字公債をつくらないためにこのような予算を組んでおるのであります。公債論につきましては、総理が本会議で御答弁を申した通り、公債必ずしも出さないというのがいいのではないという議論を総理からはお述べになられましたが、私は財政当局者として、戦後混乱の中で十七年間も健全性を貫いてきたものでありますから、三十八年も同じように、三十九年も赤字公債を発行しないで、また赤字ではなく建設公債といっても、公債のようなものにたよらないで、税収を中心にした経常収支内でまかなって十分な伸びを期待していけるような予算を組む、また組むためにも三十八年度の予算で相当な配慮を行なった、こういうことでありまして、三十九年度に赤字公債を発行するなどという考えは、現在予算の編成をいたした過程において一度も考えたことはありません。

○勝間田委員 先まで答弁されたのでありますが、私の質問したことは、そういう状態であるならばおそらく減税はできないだろうということ、それを聞いたのです。

○田中国務大臣 減税問題は先ほどからたびたびお答えをいたしましたので申し上げなかったわけでありますが、減税に対しては、先ほど申し上げましたような、減税は数字の上で減税をしてはならないのであります。私が率直に申し上げたいのは、実質的な減税を行なうためには、物価の安定もはからなければなりませんし、通貨価値の維持もはからなければなりませんし、そういう意味で、三十七年度、八年度の両年度予算を通じて健全な経済成長を促して、長期安定的な初年度、次年度にしたいという考えでありますから、私がただいま申し上げたような状態が三十七、八年度の政府施策において行なわれるならば、当然正常な経済発展が行なわれるわけでありますので、税収もふえるでありましょうし、また、その場合当然減税問題が起きるわけでありますし、三十八年度に行ない得なかった減税は三十九年、四十年と将来ますます減税政策を進めて参るという考えでございます。

○塚原委員長 勝間田君に再度申し上げますが、だいぶ時間も経過いたしましたので、結論をお急ぎいただきたいと思います。

○勝間田委員 もう十分お願いしたいと思います。やはり双方の関係から出ているのですから、もうちょっとお願いします。

  〔発言する者あり〕

○塚原委員長 御静粛に願います。

○勝間田委員 公債も発行しませんし、減税も毎年どんどんやりますと、まあ田中さんもいい気持でやられておるのでございますけれども、そういう態度では、とても踏み切れない。むしろ自民党では漸次公債政策に切りかえていくのじゃないかという危険を私は考えますから、ここでむしろ警告を発しておきたいと考えるわけであります。
 最後に御質問をいたしたいと思いますのは、何といっても、今重大なのは、最初申しました八条国移行に伴う国内体制を一体どうするかというこの緊急の問題であろうと実は考えるわけであります。御案内の通りに、二月、もう間もなく、IMFの理事会においては日本に対する勧告をきめて参るだろうと私たちは想像いたしておるのでありますが、そうなれば勧告が行なわれる。そして、それに対する交渉が行なわれるにいたしましても、直ちに起きてくるのは、ガット十二条への問題が出て参ろうと思います。そうして、経常取引に対する為替統制ができないだけでなく、いわゆる貿易に対する自由化というものが無条件的に進められてくるという状態が今の日本の状態ではないだろうかと私は思う。一体これにどう対処していくかという問題はたくさんあります。金利問題も聞きたいし、いろいろな問題も聞きたいと私は思いますけれども、きょうはそれらの問題に言及をいたしません。
 そこで、一つ重要な問題は、やはり日米通商航海条約が一体このままでいいかどうかということが私どもの心配になるところであります。一体、この日米通商航海条約というものの改定をせられるのかせられないのか、すなわち、為替統制をできるようにしておくかおかないか、ここが一つの問題点だろうと思う。
 もう一つは、国内法として、外資導入の関係から見て、いわゆる日本産業の保護の政策をとっていく必要があるかないか、この問題が第二の点だろうと私は思うのです。
 それから、第三の点は、これは通産大臣に重大な関係を持つものだと思うのですけれども、いわゆる新産業体制というものを何か計画されておるようでありますが、これは重大な内容、結果をもたらすものでありまして、非常に警戒をせなければならぬ一種の国家独占資本主義のいき方だと私は思う。その場合に、中小企業に対して中小企業基本法を考えるのだろうが、これをどうするのかという一つの課題と、もう一つは、独占禁止法というものを一体どういうような扱いにするのかという問題が私は当然残ってくると実は思うのです。
 いろいろの問題があるけれども、これらの諸問題というものがどのように進められていくかという緊急な事態にある。これが私の一つの問題点でありますから、関係大臣からそれぞれ御答弁を一つお願いをいたしたい。
 もう一つ重大なことは、これは農林大臣がそうだと私は思いますけれども、重政農林大臣、一つお願いをいたしますが、特に最近は、こうした事態もありますために、砂糖の自由化の問題が出るし、ネーブル、オレンジその他の自由化の問題が出る。しかし、いずれにしましても、八条国移行の問題が出れば、来年か再来年の春ごろまでにはどうしても農産物のウエーバー獲得ということは困難だという見通しが出てくるのではないだろうか。そうなりますと、農畜産物に対する影響というものは、私どもは非常な深刻なものがあると実は考えるのであります。これを一体どう処理するかということは今日考えておかなければならぬ問題であろうと私は思う。そういう問題について一体農林大臣はどう考えるのか。砂糖の問題、ネーブル、オレンジその他の問題、やがて八条国移行の実現の暁における農畜産物の扱いの問題、特に後進地域諸国が農畜産物に対するウエーバーに対しては非常な反対をするというのが最近の傾向であることは御存じの通りであります。そういう状態のもとで、一体この問題について農畜産物を守り通せるかどうか。私は断じて守らなければならぬと思いますが、一体政府はこの農畜産物の問題に対してどういう態度をとるか。
 八条国移行に伴うこれらそれぞれの問題について関係大臣はどのように考えておられるか、これを私は最後に質問を申し上げるのであります。
 なお、この問題と直接関係のある問題でありますけれども、通産大臣に申し上げておきたいと思いますが、最近石炭に対する閉山あるいは合理化、全く無計画にここに殺到し宣伝をしているという状態は、単に宣伝だけでなく、労働者の生活不安を非常に招いているという状態は、私はゆゆしい状態だと思う。しかも、政府もそう約束したし、また、有澤調査団もそうだと思うけれども、審議会をつくり、雇用計画というものを立て、そして雇用と生活の不安のない体制の中で並行的に近代化を進めていくのだ、そういう組織をつくっていくのだ、こういうことが勧告もされたし、それが正しいことだと私は思うのです。そういう事態をまだ招かない今日において、労働者に不安を与えるような現在の資本家の態度というものは、私は許すべからざるものがあると思う。これを一体どう処置されるのですか。これを私はこの際通産大臣に伺うと同時に、特に私は今のこの石炭問題に対する池田総理のはっきりした態度を一つお聞きをいたしたいと思います。
 そして、ここに自由化八条国移行に対する諸問題をそれぞれ一つ各閣僚から御答弁をいただきまして、もし不審な点がございましたらば、またそれに対する質問は当然さしていただきたいと考えております。

○塚原委員長 答弁は簡潔に願います。

○田中国務大臣 御説の通り、来月の初め行なわれるIMFの理事会において、国際収支上の理由によって為替制限をすることができないという決定がなされるであろうというふうに看取せられるわけであります。これが行なわれればガットに通報せられるわけでありまして、こうなれば、自由化というものは一そう促進を要求せられるわけであります。その後時期を見て日本が八条国移行宣言を行なうわけでありますが、もちろん、これが行なわれれば、経常取引の自由化を行なわなければならないわけであります。この場合といえども、資本取引に対しては幾らかの制限をするということは各国ともやっておる問題であり、各国との間にもこれらの問題に対して了解を取りつける等、十分な配慮を進めなければならないというふうに考えているわけであります。いずれにいたしましても、こういう情勢でありますから、自由化に対応して国際競争力をつけるためにはあらゆる角度から検討するとともに、実際的な具体的な手段を講じていかなければならないことは当然であります。そのような状態で、日米通商航海条約との問題についても、これが関連に対して政府部内で早急に検討を始めなければならないというふうに考えておるわけであります。

○福田国務大臣 産業新秩序の問題についてのお話でございますが、お説の通り、今、日本としましては、これはどうしても、八条国移行の問題にも関連し、自由化にも関連しまして、この際国際競争力を産業につけていくということは重要な命題になっております。しかし、その場合において、政府として、何でもそういうようなものを政府の方針としてこうせいああせいというような考え方を私たちは持っていないのでありまして、おのおの産業に関係しておられる人が、自主的に一つこの日本の置かれた経済情勢、国際情勢をよく理解されて、そうして新しい秩序をつくって、いわゆる体質の改善をやってもらうというようにわれわれとしては希求いたしております。しかし、中には、そういうような場合においても、やはり何らかの、官僚統制ではございませんが、そういう、この産業だけはどうしても何かした方がいいんだというふうに考えた場合においても、これは役所だけで考えるのではございません。もちろん、第三者も入れ、その産業の人たちも入れ、また金融業界の人も入れ、役所の人も入れて一応考えてみても、どうしてもこれは何らかの処置をとっていった方がいいというようなものもないとは言えないのであります。そこで、ただいま私たちといたしましては、こういう国際競争力をつけるという意味において、特定産業に関する国際競争力強化に関する法案というものをこの国会に出したらどうかという考え方に基づきまして、各方面と折衝をいたしておる段階でありますが、しかし、それは、決して、今申し上げたように、官僚統制をやろう、また、あなたが御心配になっているようなそういう考え方を持っているものではございません。ただ、そういうことをやる場合に、これが独禁法とどういう関係にあるかというようなことは、これはもちろん十分いろいろ話はしなければなりませんので、ただいま公取等とも打ち合わせをしているという段階でございます。
 一方、これに関連をいたしまして、たとえば特定産業をそういうふうに一つのワクにはめて競争力を強化するというか、体質改善をはかる場合に、中小企業との関係はどうなる、そういうものをした場合の下請、中小企業との関係はどうなる、また中小企業基本法との関係はどうなるという御質問であったと思うのでございますが、これは別個の――全然関係ないとは申しません。その産業についてはそういう関連はもちろんありますが、日本の経済の中における中小企業というものは、特殊の、各国には例を見ない一つの位置を占めている。これをどういうふうにして今後強化し、また近代化していくか。中小企業といえども、やはり今言った八条国移行の問題等の自由化の波にさらされていくことになるのでありますから、これもやはり強化していかなければならぬ、近代化もしていかなければならぬというようなことから、これをどういうふうにしてやっていくがいいかということを基本にいたしまして、中小企業基本法というものを今度は出すということで、今案を進めておるということでございまして、私は、これは直接関係はそれほど大きくはないと思いますけれども、しかし、そういうようないわゆる特定産業の国際競争力強化に関する法律という毛のができて、それによって、ある程度そこの中小企業に影響がある場合等につきましては、これは具体的な問題として私は処理ができるものである、こういうふうに考えておるわけであります。
 それから、石炭のお話でございましたが、確かに、最近三井、三菱あるいは北海道炭礦等の整理の問題を会社の重役あるいは社長が言っておることは、新聞紙上で散見をいたしております。しかし、これは、私は、経営者としてはどういうようなやり方をするのだと言うことを、お前らは言ってはいかぬと言うわけにはいかぬと思うのであります。われわれはこういう計画を持っておるのだということを言ってはいかぬと言うわけには私はいかないと思う。しかし、それでは政府としてはどういう立場をとっておるかといいますならば、今お話がございました通り、また有澤調査団もそれを言っておるのでありますけれども、いわゆる合理化審議会というものをつくりまして、審議会におきまして、どういうものを閉山をし、どういうものをスクラップ化していくかという案を立て、また閉山に見合うところの雇用の問題をそこでちゃんと出して、そうして、見合った形において、一応地域別、炭田別くらいに計画を立て、その内容を決定をしてもらい、その決定の内容に基づきまして、今度は炭鉱の鉱山主と組合の方とでいろいろ話をして、そうしてそれをやっていく、こういうふうに指導をしていきたいと考えておるのでありまして、私は、会社の社長がそういうことを言っておるという事実は聞いてはおりますけれども、そういうことを一切言ってはいかぬということまでは言うわけにはいかないのじゃないか、かように考えておるわけであります。

○重政国務大臣 八条国移行の問題が日程に上がって参りまして、おそらく両三年後にはそういうことになるだろうと思うのであります。お述べになりましたように、そうなりますと、ガットに対してウエーバーの申請をして、特定の農産物等につきましては、例外を設けてもらうということをやらなければならない。これが、仰せになりました通りに、そう簡単なものではあるまいということは、私も想像をいたしておるわけであります。昨年の十二月の日米貿易経済合同委員会におきましても、また本年の一月の中旬の日加経済の閣僚委員会におきましても、私は、米麦でありますとか、あるいは酪農製品というような農家の所得を形成する上においてきわめて重要な農産物、また、日本農業の特殊性である零細農経営によっているという構造上の事情もございますので、そういうものについては、特に自由化は早急にできないということを強調しておいたわけでありますが、いずれにしましても、これらの農産物につきましては、八条国に移行せられましても、どうしてもガットに例外の申請をやって、その目的を達せなければならぬと思うのであります。しかし、いつまでも鎖国農業をやるというわけには参りませんから、たとえば、酪農製品のようなものは、少なくともその飼料政策を確立をいたしまして、そうしてその生産コストのダウンをやって国際競争力をつける、こういう方向に向かっていかなければならぬ、こう考えております。三十八年度予算におきましても、こういった方針に基づきまして、何としても農業構造の改善を各方面にわたっていたさなければならぬというので、これを重点に置きまして予算の編成もいたしておるというようなわけであります。

○池田国務大臣 八条国移行に基づきます対策につきましては、各大臣が答えた通りであります。
 また、直接御質問の石炭につきましても、通産大臣が答えた通りに、われわれは、有澤調査団のあの報告に基づき、そうして、御審議願っておる石炭関係法案に基づいて施行するのでございます。新聞その他に出ておりまするけれども、これは、通産大臣が言ったように、単に会社の経営者としての見込みを言っておるだけであります。実際には、調査団の報告に基づき、そうしてまた法律に基づきまして善処いたしたいと思います。

○塚原委員長 次会は明三十日午前十時から開会することとし、本日はこれにて散会いたします。
  午後四時二十一分散会

 第043回国会 衆議院予算委員会 第3号 昭和三十八年一月三十日(水曜日)午前十時十三分開議

【発言順】
 委員     木原津與志
 外務大臣   大平 正芳
 外務事務官
(条約局長   中川 融
 委員長    塚原 俊郎
 大蔵大臣   田中 角榮
 内閣総理大臣 池田 勇人

○木原委員 次に、日韓交渉の問題について総理並びに外務大臣、大蔵大臣にお尋ねいたしたいと思います。
 私は、戦後の日本の外交をずっと見て参りまして、日韓交渉くらい、筋の通らない、しかも、屈辱といいますか、屈服といいますか、全く相手方にねじ伏せられたような交渉をやっておられるという感じを持つ外交交渉はないと思う。
 まず過去にその最大のものを一つだけ指摘いたしてみますと、これは池田さんの内閣のときにやったことではございませんが、あの昭和三十二年の十二月三十一日、日韓の合意書をつくられたときに、それまで日本が韓国に対して主張してきておった日本の在韓財産の請求権を、アメリカの覚書通りに放棄してしまった。その放棄するにあたりましての合意書を見てみますと、日本は財産請求権を放棄する、そして韓国は抑留しておる日本漁民百数十人を釈放するということが、当時の三十二年十二月三十一日の日韓合意書の中に書いてある。日本人が持っておる韓国に対する財産請求権を放棄して、これを犠牲にして、そうして李ラインで不当に抑留された漁民を釈放してもらう、平たく言えば、漁民を返してくれ、そのかわり日本は韓国に対する財産請求権を放棄します、こういうことを合意書でつくっておる。私は、これはもう最大の韓国に対する屈服だと思う。その当時の、韓国に請求することのできる日本の財産請求権の金額がどれくらいあったかというようなことについては、あとでまた詳細に御説明をお聞きしますが、現在在外財産補償の請求をしておる人たちの話によれば、あれによって犠牲を受けた日本人の引揚者は三十万人、一兆二千億の財産請求権を漁民の返還と引きかえに放棄してしまったということさえ言っておる。私は、これが日韓交渉における第一の屈辱的な合意だろうと思う。
 第二の合意は、今回の日韓請求権の合意の問題で、請求権の解消にかえて、さらに日本で韓国の財産請求権を認めて、三億ドルの無償供与及び二億ドルの有償供与、いずれも十カ年を提供することによって、請求権の合意をしたのだ、こういうことを昨日勝間田委員の質問にはっきりお答えになった。私は、この請求権の問題を韓国の経済援助ということに切りかえて、これほどたくさんの金員を、有償・無償の金を出して合意をされたということ、これが第二番目の屈辱的な条約の締結だ、こういうふうに考えるのであります。
 従いまして、以下この請求権の問題から外務大臣並びに総理の御答弁をいただくわけなんですが、まず、両国の国交の正常化あるいは条約の締結の中において一番最初に前提条件として問題になるのは、その相手国の主権の範囲、特に領土主権の範囲はどうだ、どこまでが領土であるかということが、一切の条約とか協定の締結の中での前提条件になると思うのであります。
 そこで、この請求権の問題に関しまして、韓国の支配する政権の範囲は三十八度線以南に限っておる、従って、三十八度線の範囲内における請求権の解決であって、三十八無線以北の、いわゆる北朝鮮人民共和国の請求権とは関係がないということを、これは総理も外相もしばしば当委員会において発言しておられるのでございます。ところが、私、韓国の憲法を読んでみますと、あなた方は韓国の支配する領土は三十八度線以南だというつもりでこの協定を結ぶのだと言っておられますが、韓国の憲法には、韓国が全朝鮮を支配しておる主権だ、こういうことがうたってある。そうすれば、日本だけで、お前と協定を結ぶが、お前との協定の範囲は三十八度線以南だというつもりでも、韓国は、それが全朝鮮を支配しておる主権だから、おれはその全朝鮮の代表者として条約の交渉締結をするんだ、こういう主張になれば、お互いに食い違って、交渉にならないわけなんです。
 そこで、外務大臣にお尋ねいたしますが、将来もありますが、今までの合意のできたこの請求権の問題については、はっきりその点について韓国はこの合意の内容は三十八度線以南だということを認めて合意書ができておるのか、あるいは日本だけが三十八度線以南と心得て請求権についての合意ができておるものか、その点はっきりしない。その点を一つ外務大臣から交渉締結の前提条件としてはっきりさしていただきたい。

○大平国務大臣 お答えを申し上げる前に、木原さんは前提として三十二年の合意文書なるものを引用されましたが、在韓財産を放棄いたしましたのは、平和条約によりまして連合国に対して放棄したわけでございまして、そのときに、三十二年になって放棄したわけではないと私存じますので、その点はお考え直しを願いたいと思います。
 今度の交渉の地域性の問題でございますが、御案内のように、平和条約によりまして日韓間で請求権の処理をしなければならないことになっておるわけでございまして、そこには、現に支配しておる地域という地域性の限界がはっきりうたわれておるわけでございます。私ども、この交渉の当初から、たびたび本議場を通じまして申し上げておる通り、そういう韓国政府が現に支配している地域というものに地域的な限界を置きまして、すべての交渉を続けておるわけでございます。

○木原委員 これは外務大臣からとんでもないことを聞いた。あなた、三十二年の十二月三十日の合意書をごらんになったことがございますか。あの中にはっきり書いてあるじゃありませんか。あの三十二年十二月の合意書は、それまで日韓会談が停滞して開かれなかった。これをどうして正規のルートに乗せて開くかということで、アメリカが仲介に入って合意書をつくったのでしょう。あの合意書の中に、はっきり、日本は今まで主張してきておった請求権を、アメリカの主張の通りに認めて、これを放棄する、そして韓国は抑留漁民を即時釈放をする。そういうことができた暁において、三月十七日を期して日韓会談を再開する。これが合意書の内容じゃありませんか。それならば、抑留漁民を解放してもらうために岸さんが、岸内閣のときに抑留漁民をこっちに帰してもらうために放棄した。それでちゃんと合意書の中に書いてあるじゃありませんか。日本は請求権を放棄をする、韓国は抑留漁民を即時釈放する、そうして両国は三月十七日から日韓会談を再開する。これが三十二年のあの合意書じゃありませんか。あなた考え違いしてはおりませんか。

○大平国務大臣 私は考え違いをいたしておりません。

○木原委員 当時の外務省の当局者、どなたかおられたら、その点について合意書のできたいきさつを御説明して下さい。

○中川政府委員 三十二年末の合意の内容でございますが、その内容は、ただいま大卒外務大臣の言われた通りの趣旨のものでございます。今、日本側がこの請求権をそのとき放棄したというような御発言でございましたが、あの合意の際の発表を見ましても、請求権を放棄したというのではないのでありまして、請求権に関して第一回の日韓会談で日本の代表がいたしました発言、主張、これを撤回する、言ったことを撤回すると言ったのでございまして、第一回の際に、日本の代表は、請求権について、その請求権は残っているのだ、日本側の最終的な権利は残っているのだという主張をしたことは事実でございます。しかしながら、これは交渉の初めにおきまして、日本側の主張を有利にするために、いわば交渉上そういう発言をしたのでございます。日本政府といたしましては、その後慎重にこの問題を検討していたのでございますが、その主張にやはり無理がある、交渉技術上した主張ではございますが、いつかはこれはやはりもっと自然な解釈を当然とるべきである。また、平和条約は、当初からそういう解釈で書かれたものであるということを考えていたのでございまして、従って三十二年になりまして、ようようその時期が熟しましたので、そういうことをそのとき申しました。そうしていわゆるそのときの合意ができたわけでございます。しかしながら、これはあくまでも平和条約四条b項の解釈でありまして、四条b項ではっきり、アメリカ軍当局のいたしました日本財産に対する処置を承認しておる。それがどういう意味か、その解釈をいわゆる米軍解釈、米側解釈というものを基礎にして今後日韓間で話を進めていこう、こういう合意でございまして、決してそのときに日本財産を放棄したわけではないのでございます。

○木原委員 講和条約ができたのは昭和二十六年、その講和条約締結以後、外務省、この日韓交渉に当たった人は、日本の韓国に対する財産請求権は講和条約によって日本が放棄したのではない、まだ残っているのだということを、その講和条約成立以後数回にわたってあなた方は主張してきているじゃないですか。そしてこれをアメリカの解釈、覚書に基づいて日本の請求権は放棄したんだという、あのアメリカの覚書をあなた方は承認しないでずっと交渉をやってきておる。最後に三十二年の十二月三十日に初めてアメリカの覚書の趣旨、請求権を放棄したと解釈するということをあなた方は承認されたんじゃないか。それが三十二年の十二月三十日なんだ。そしてその三十二年の十二月三十日の同じ日付の合意書の中に、韓国はその放棄に見合うて抑留しておる日本人漁民百数十名を即時に釈放するという合意書ができているじゃないか。それならばはっきりしているじゃないか。何も講和条約四条b項の解釈を変更をしたのではなくて、この変更したのは抑留漁民を帰してもらう、その引きかえに放棄したということがはっきり文書の中に出ておるじゃないか。
 委員長、今この三十二年十二月三十日の合意書について重大な見解の相異があるようですし、これは非常に重要な問題と思いますから、これを当委員会に提出していただきたいと思いますからお取り計らい願いたい。

○塚原委員長 わかりました。

○中川政府委員 三十二年十二月三十日の日韓の合意は、共同声明といたしましてその当時発表されておるのでございます。ただいま御要望でございますから、共同声明のコピーをとりましてここへ御配付いたしたいと思いますが、若干時間の御猶予を願いたいと思います。

○木原委員 そこで前段の質問に入りますが、今の領土主権の問題、これは相手方、韓国との了解がついておるかどうか。それはついておるとすれば口頭でついておるのか、あるいは文書にしてついておるのか、その点いかがです。

○大平国務大臣 領土条項に触れて文書を取りかわしたり、合意を見ておるとかいうような手順を踏んでおるわけじゃございません。私が申し上げますように、本交渉を始めるにあたりましての基本的態度は、そういう地域的限界を持った交渉であるという前提に立ちまして、すべての懸案の煮詰めにかかっておるということでございます。

○木原委員 今の領土主権の範囲の問題、これは非常に重要なことでございますから、今後の交渉の過程においてでもその点を十分確認をし、お互いに了解しておかないと、これがもし今度の交渉によって妥結を見るというようなことになった場合に、批准の問題になってから非常に大きな問題になろうかと思う。特に私があなたになおこの点についてお聞きして確かめたいのですが、なぜ私がそういうことを今ごろになってくどくあなたに聞くかというと、この間あなたと請求権の問題について合意をされました金鍾泌ですね。この金鍾泌との五億ドルの合意、このあなた方二人の合意が契機となって、日韓問題が急速に、請求権問題は解決したいきさつがあるわけです。ところがその後金鍾泌情報部長が、情報部長と最高委員、それから政党の発起人、共和党の発起人も辞職するというような問題でがたがたいたしまして、その後の新聞情報によりますと、金鍾泌氏がまた翻意してもとの位置に復帰したということでございますが、その当時いろいろ新聞に出たところによりますと、朴正煕と金鍾泌、この二人の中の強固な政権の一つのたがといいますか、これが非常に最近ゆるんできていろんじゃないかということを私どもは察知できるのです。と申しますのは、そのごたごたした当時、軍の最高委員の人たちであった元の総理の宋堯讃並びに柳原植、こういうような人たちが、この革命政府の委員を辞任して、そうして辞任するときの声明の中にこういうようなことが書いてある。現在の朴軍事政権は公約に違反をしておるというようなことを公然と発表しておる。特にまた私はここであなたの注意を喚起したいのは、この最高会議の外務委員長であり国防委員長を兼ねておる金東河、この金東河氏が最高委員をやめた今月の二十一日の声明ですが、この二十一日の声明によれば、朴軍事政権は国民を裏切っている、日韓会談は担当する主務官庁が不明だ、こういう声明をしている。あなたと金鍾泌氏との間にできたメモが基本になって、それが契機になって請求権が妥結したかのごとく見えておるにかかわらず、この金東河最高委員、外務委員長ですよ、これは。最高会議のこの外務委員長が、今月の二十一日に日韓会談の主務官庁は何が何だかわからぬのだ、こういうようなことを、爆弾声明とでも言いますか、言っておるのです。私はこれを見たときに、一体韓国の政治情勢というようなものは、これは私どもが日本で云々することじゃありますまいが、少なくとも日韓会談が、請求権において一応の合意をみたといっておるさなかに、当の外務委員長の金東河という人が、外務委員長も国防委員長もやめてしまって、そうしてその人の口から公式に今月の二十一日に、軍事政権は国民を裏切っているんだ、日韓会談を担当する主務官庁がどこにあるかわからぬのだ。こういうようなことを声明するというようなこの状態の中では、一体将来あなたと金鍾泌との、やみ取引とは言いませんが、その一応の合意ができて、その合意が両国間の合意になろうとしておる。これはやがて日韓会談が妥結するということになると、あと批准ということになりましょう。民政に移管して批准ということになった場合に、日韓会談を担当する主務官庁が不明だというようなことを当の外務大臣が言うというようなことで、はたしてこれが円満に批准までこぎつけ得るかどうか。もしこれがその段階においてそういうようなことが批准ができないということになれば、池田内閣の責任、大平さん、あなたはやめねばならないことになるでしょう。責任は重大ですよ。一体こういうような状態の中で、あなた方がこの日韓交渉を急いでおられるというその真意がわからないのです。あなたは今私が指摘した日韓会談を担当する主務官庁は不明だということの声明はお読みになりましたか。もしお読みになりましたら、日本の外務大臣として、交渉の当事者としてどういう感じをなされましたか、お聞きしたい。

○大平国務大臣 日韓交渉は、日韓両国政府の間の交渉でございまして、御案内のように、東京で予備折衝が行なわれておるわけでございます。金鍾泌氏と私との間の話し合いは、あげて予備交渉にあげまして、とるべきものはとり、捨てるべきものは捨てる、こういうことで進んでおるわけでございまして、相手方は韓国の政府であるということでございまして、韓国の要人が個人的な見解を発表されるということにつきまして、私が責任を負わなければならないという性質のものでないと思います。

○木原委員 もちろん韓国の内部のことにあなた責任を負えということを私は言っておるわけではないのですが、少なくともこういうような政権のあり方ですね、そういうものと、あなた方が八千万の国民を代表して外交交渉をするというそのことが、国民の負託にこたえた外交当事者のする態度であるかどうかということについてあなた方も反省をされて、この会談は、こういうような状態ならばこれはやめなきゃならないのじゃないかというような気持になられるのではないかと私は思うのです。大体一国と一国の一番重大な日韓会談のこの交渉の中で、担当する主務官庁がわからないというようなことを外務大臣が言うというようなことだったら、これは他日この協定を批准するという段階になったら、あれはやみだ、金と大平とが勝手にやみ工作でやったのだから知らぬといって、民政移管された後に否定される、批准を拒否されるというようなことにでもなったら、あなたどうされますか。あなたのために私はそういう措置を心配するわけなんです。

○大平国務大臣 先ほど申しましたように、政府と政府との間の話し合いをやっておるわけでございます。

○木原委員 大平さんは政府と政府と言っておるが、向こうは、政府はどこにあるかわからないと言っておるのだ。これは向こうの外務大臣が言ってやめたのだから一番確かだろうと思うのです。ほかの者がすてっばちでわからぬと言うのだったら話は何しませんが、外交についての最高の責任者が、おれはこんなものやめた、そうして日韓会談を担当する主務官庁がわからないというようなこと、これでは……。

  〔「大平君がやめてもちっともかまわぬじゃないか」と呼ぶ者あり(笑声)〕

○塚原委員長 不規則発言は御遠慮願います。

○木原委員 どうしても差しつかえないという確信と自信を大臣が持っておられるようですから、その点についての問題はこれで終わりといたします。
 次に、私がお聞きしたいことは、昨日、勝間田委員の質問に答えて、韓国に対する有償供与二億ドル、無償供与三億ドルという説明の中から、法的根拠のあるものは七千万ドルじゃないかということを勝間田さんがあなたにお尋ねしたときに、法的根拠のあるものは七千万ドルだ、それについては資料もある、こうあなたはお答えになった。そこで私が次の質問に入る前にどうしても必要なんですから、この法的根拠のあるものが七千万ドルだということになれば、その内容は一体どういうものか、その資料を手元に持っておるとおっしゃるのですから、その資料に基づいて、あなたは今提出できればもう説明は要りません。ここに提出されるならば……。しかし、提出されないならば――いずれ提出されるということもおっしゃっておりますから、その提出される時期と、今提出できないというならば、その資料に基づいて、その法的根拠のある韓国の日本に対する財産請求権の内訳、それを一つここではっきりしていただきたい。これは私が聞くんじゃない、国民が聞きたいのですから、いかがです。

○大平国務大臣 七千万ドルということを今言及されましたが、法的根拠のあるものを取りそろえますと七千万ドルになるのだというようなことは、政府は申し上げたことはございません。請求権につきましては、御案内のように法律論が一方にございます。一方に事実立証の問題がございます。従いまして、この二つの要素で、こういう法律的根拠をとればこうなる、こういう事実関係を確実なものと想定すればこうなる、こういうことで計算をいたしますと、たくさんの数字が出てくるわけでございます。従いまして、そういった日韓の間に法律論としてどういう見解の相違があるか、事実の立証推定の方法としてどういう見解の相違があるかというようなことは、これほど問題になったことでございまするから、ある段階におきまして、私どもは皆様に御理解いただく機会を持ちたいと思っておるわけでございます。従いまして、ただいまの段階は、交渉中でございますので、こういった過去の究明に深く入っておりまして、交渉に影響があるというようなことは差し控えなければなりませんので、交渉に影響がないという判断がつきますれば、その段階におきまして、こういうとり方をすればこうなる、こういうとり方をすればこうなるということにつきましては、皆様に開示して御判断をいただくようにいたしたいということをきのう申し上げたわけでございます。
 それから第二段の、先方の要求はどれだけか、こういうことでございますが、これはきのう申し上げました通り、八項目の要求がございます。それは、すでにもう新聞に発表されたことでございますが、本委員会に提出せよということでございますので、提出の用意をいたしております。

○木原委員 八項目の韓国の要求については、もうこの前明らかにされましたから、別にあなたにお答えを願わぬでもよろしゅうございます。しかし、ぜひお答えを願いたいのは、その事実関係において立証がつき、さらにまた法律的に根拠のあるものが七千万ドル、これは日本が当然負うべき筋合いのものだということになりましょう。この七千万ドルの内訳ですね、どういうものが幾ら、たとえば預金が幾ら、未払い賃金が幾ら、恩給が幾ら、退職金に見合うそういうようなものが幾ら、これは個人的財産請求権になりますが、そのほかに国としての請求権があれば国の請求権は幾らという内訳は、これはぜひとも一つ明らかにしていただきたい。あなたの方に資料があるのですから、あるとおっしゃったのだから、明らかにできないはずはないと思う、それを知りたいのです。

○大平国務大臣 今、私が御答弁申し上げました通り、七千万ドルが、法的根拠を取りそろえて日本側でこう考えておるというようなことを申し上げた記憶は一切ないわけでございまして、たくさんの案があり得るということでございます。前提のとり方によりましていろいろな案がたくさんあるわけなんだということをきのう申し上げたわけでございます。従って、こういうとり方をすればこうなるというようなことは、ある時点においては明らかにいたしましょうと申し上げておるわけでございます。木原さんは、七千万ドルというのは何か政府で一致した見解で、これは日本が払うべきものだと一応きめたというようにおとりになっておるのは、それは大へん誤解でございまして、問題は、答案は幾らでも出るわけでございます。従って、七千万ドルにとらわれられないように一つお願いいたしたいと思います。

○木原委員 外務大臣、その手は食いませんよ。池田さんと朴正煕さんとの間で会談をなさったときに、請求権は法的に根拠のあるものに限るというお話があったはずなんです。それを池田さんはその後の、会談のあとで記者会見をして、その点をはっきりさせられておる。それに基づいて外務省でもいろいろと資料を検討されたのでしょう。それが七千万ドル。だから、七千万ドルだと言うから、それを勝間田さんがきのうも、財産請求権というのは金額は七千万ドルじゃないかということを質問した。それに対してあなたが、外務大臣が、七千万ドルについては法的根拠があるし、また事実の確認もできる、資料も持っておりますということをはっきり言われた。私は委員として聞いておった。だから今その点について、あなたが資料をお持ちになっておるというから、ただし、そのときに資料は今は出す時期じゃないとおっしゃったから、それならば私が聞くのは、資料はいつ出されるかということをここで言明をしていただき、さらにまた資料を出すことができなければ、その内訳、今言った韓国の請求権の内訳、七千万ドルでいいですから、一千万、もっとふえてもいいし、幾らでもいい、法的根拠のあるものが幾らあるか。あなたの方の資料にあるものの内訳を委員会でぜひ明らかにしていただきたい、こういうのです。あなたが現にあるというから、私はそれを聞くのです。きのう言ったんだ。議事録を調べてみます。

  〔発言する者あり〕

○塚原委員長 御静粛に願います。

○大平国務大臣 先ほど御答弁申し上げた通りでございまして、私は、七千万ドル案について申し上げるということを言った覚えはございません。これはもう無限の答案があり得るわけなんです。従いまして、それはどういう前提に立てばこういう数字になる、どういう法律論を論拠にすればこういう数字になるということは、木原さんも御了解いただけると思うのでございまして、どういう点に見解の相違があり、事実関係の立証においてどういう困難があるか。しかし、困難がありましても、こういう前提に立てばこういう数字になるというようなことにつきましては、後日時期がくれば皆さんに提出いたしますということは、私はお答えいたしたわけでございますが、七千万ドル案につきまして、私は、申し上げるというお約束をいたしたものではございません。

○木原委員 韓国の財産請求権が、法的に根拠のあるものが幾らだということは、外務省に資料がないはずはない。ずっと以前からあるのです。あればこそ、あの昭和二十八年の、久保田発言で日韓会談が決裂をいたしました直後に、外務省で、当時新聞記者に対して声明を出しておる。その中で、これは池田総理が前国会のときに御説明になりましたが、日本の解釈では、韓国の財産請求権は九十億円ないし百二十億円、日本が韓国に対して持っておる財産請求権が百二十億円ないし百四十億円、こういうことで折衝した。その交渉の経過の中であったんだということを、池田総理も、あなたの説明を補足して、この前の臨時国会のときに言っておられるのです。二十八年当時、外務省では、韓国の日本に対する請求権は九十億円ないし百二十億円という主張をしてこられたのですから、この主張は何らの根拠なしにやったものじゃない。おそらくはっきりした資料――今あなたの言われる七千万ドルの資料というのはこのことだろうと思うのです。この資料に基づいて言っておられる。二十八年当時は九十億円ないし百二十億円と外務省が言っておったのが、今度は七千万ドル、こう金額がふえておるから、それならば、おそらくあとからまた追加された資料に基づいて七千万ドルという数字が出たのじゃないかと私は考えますし、さらにまた、二十八年当時の九十億円ないし百二十億円というのが、インフレで、それを少し歩上げをして、そうして七千万ドルになったのかどうかということもなおあなたに聞きたいと思うので、今、その七千万ドルの法的根拠の資料を明らかにしていただきたいということを言うのであります。あとさき違わなければ、あまりあなたにやあやあ言うことはないんだけれども、かつて外務省が発表したものには九十億円ないし百二十億円、日本はそう主張し、さらに日本から韓国に対する請求権は百二十億円ないし百四十億円という主張で対立したんだということを言っておられる。この九十億円ないし百二十億円というのは、先ほどから何回も言いますように、おそらく法的根拠があり、事実の確認ができたものだろうと思うのです。それが今度は、事実の確認ができ、法的根拠のあるものは七千万ドルという数字にはね上がってきたから、その資料をお出しなさいということを言うんだ。あなたが、今の段階においてはどうしても資料は出せないというのであれば、私は無理は申しません。無理は申しませんから、いつごろ出すということを確約したいただきたい。そのかわり、その七千万ドルの資料に基づいて、請求権の金額は、何が幾ら、預金が幾ら、未払い賃金が幾らというふうに項目がありましょう。その項目をこの機会に明らかにしていただきたい。

○大平国務大臣 たびたび申し上げますように、前提のとり方によって数字がいろいろあるわけでございまして、あなたは七千万ドルに非常に固執されておりすまけれども、七千万ドルということで日本側の見解が統一されたというようなことはないわけでございます。しかし、いずれにいたしましても、請求権の問題につきまして彼我の主張の相違、立証の困難性等につきましては、十分解明しなければならぬ責任がございますので、私は、交渉に決定的な影響がない時期を見計らいまして御審議をいただくようにいたしたいと思います。

○木原委員 七千万ドルよりほかになお数字のとり方がいろいろある、こうおっしゃいましたね。そのいろいろ全部説明しようじゃありませんか。もう請求権の問題についてかれこれ議論をするのは最後ですよ。だから、何でもかんでも洗いざらいきちっとして、われわれの疑惑なり国民の要望を一つ満たそうではありませんか。そのほかにもいろいろあるのだというのだったら、どういうものがあるか、それを明らかにして下さい。

○大平国務大臣 今申し上げますように、前提のとり方によって答案が幾つも出るわけでございます。従いまして、私は、交渉に影響がないという時期を見計らいまして御審議をいただこうと思っております。

○木原委員 今法的根拠のあるものが七千万ドルで、しかもそれは資料があるということを、はっきり大臣が言明されたのを私はきのう聞いておるのでありますから、私の聞いたのが間違いかどうか、今速記を取り寄せて確認した上でなおその点についての説明を求めたいと思います。今の点については留保さしていただきます。

○塚原委員長 ただいま調べましたところによりますと、速記は今印刷局の方に回っているそうです。ただいまのところは間に合わないと思いますから、後刻でさましたらごらんになりまして……。また、たくさんあなたの方にも質問者があることでしょうから、どなたがおやりになってもけっこうだと思います。

 御質問をお続け願います。

○木原委員 それでは、今の点についての質問は後日に留保いたして、次に進みたいと思います。
 そこで、いま一点だけお聞きしたい点は、無償供与三億ドル、有償供与二億ドル、これが十年間だということになっている。そうすると、毎年の無償供与の金額は三千万ドルということになるわけです。その点、そういうことになりますか。

○大平国務大臣 年々均等支払いにするかどうかという点は、最終的にきめたわけではございませんけれども、大体仰せのようなことに、この協定が成立し発効すればそういうことになるのではないかと思います。

○木原委員 そうすれば、この点についてもただしておかなければならぬと思うのですが……。韓国に対する経済援助というのが賠償でないことは、これはもう自他ともに間違いがないと思います。恩恵的な給付ですね。ところが、私、調べてみましたところ、日本が戦争中東南アジア諸国のいろいろと大へん迷惑をかけたフィリピンだとか、インドネシア、ビルマ、べトナム、そういったようなところに対する戦時賠償と私は比べてみたのです。そうしたところ、戦時賠償ですら、フィリピンに対する賠償は年間二千五百万ドル、この二千五百万ドルが最高なのです。賠償でさえ二千五百万ドル一年間に払うということになっておる。それを迷惑も何もかけておらぬ――池田さんの言葉で言えば、これは分裂国家だ。分裂国家の朴政権、独立したお見舞金、こういう名目で――さんざ痛めつけて迷惑をかけたフィリピンやあるいはインドネシア、こういったようなところに毎年最高フィリピンに二千五百万トル払うのを――朴政権の、まあわれわれに言わせれば政権の強化のためですよ。この強化のために、戦時賠償でさえ二千五百万ドルを、韓国に対して三千万ドル、おまけにそれには有償供与がくっついてですよ。このほかにプラスして有償供与がくっつくわけです。こういうようなことをおやりになるということは、これは国民としてはなはだ奇異の感を抱かざるを得ないのでありますが、この点について、あえてそういうような高額の金を毎年々々韓国に援助をされる決意をなさったいきさつを一つお聞きしたい。

○大平国務大臣 日韓の間に、御案内のように、まだ国交の正常化を見ていないわけでございます。この国交を正常化いたしまして善隣友好の実をあげたいというのが、私どもの立っておりまする根本的な立場でございます。国交正常化をする必要がないのだという論拠に立ちますれば、また話は全然別になると思います。私どもはいかにしてこの国交の正常化をなし遂げたいという希望を持ちまして、鋭意努力をいたしておるわけでございますが、しからば、その国交の正常化を期するためには、言うところの日韓の間に横たわっているもろもろの懸案があるわけでございまして、漁業の問題にいたしましても、竹島の問題にいたしましても、法律的な地位の問題にいたしましても、そして今問題になっておりまする請求権の問題またしかりでございます。こういった懸案の妥当な解決がなければ、国交の正常化というものはあり得ないわけでございまして、私どもは懸案の解決を懸案のためにやっているわけではなくて、すべての懸案を国交正常化との関連におきまして吟味し、でき得べくんば解決の道を見出したいということで今日まで努力してきたわけでございます。
 そういう前提に立ちましてお聞き取りいただきたいのでございますが、その場合、もろもろの懸案の中で一つの請求権の問題というものがある。これは木原さんのおっしゃるように、私は、日本人の感情といたしまして、韓国になぜ金を払わなければならないかということについて、十分御納得がいっておるとは思いません。私自身もそう思います。しかしながら、一方韓国側におきましては、日本に対しまして、三十六年の統治を通じましてたくさん有形無形の言い分があることも、またよくわかるのでございます。こういう日本に対するクレームがある。日本側はないということをいつまでも続けておったのでは、これは国交正常化の前提に横たわる懸案の一つさえ解決ができないということになりますると、正常化ということは所期できないわけでございまして、こういった日韓間に非常な落差のある問題につきまして、何かこれを割り切る道がないかということを工夫してみるのは、外務大臣としての私の当然の責任だろうと思うのでございます。
 しからば、この請求権の問題を、法律関係、事実関係を明徴にいたしまして解決する道があるかと申しますと、きのうも、井出先生、勝間田先生の御質問に対しまして私が答えました通り、法律論といたしまして、彼我の間に非常な見解の相違があるわけでございます。きのうも一例として申しましたように、朝鮮銀行から持ち出しました金地金というものは、朝鮮銀行法によりまして正当な売買をしたものだとわれわれは主張する、先方は、そもそも不当な統治をやっておるのであるから、すべての実定法の根拠を認めないという立場にお立ちになるわけでございまして、双方の間には氷と炭みたいな見解の相違があるわけであります。従いまして、法律的な見解の帰一を見るということは、これはむずかしいといいますよりは、ほとんど不可能ではないかと私どもは判断するわけでございまして、また、それをささえる事実関係につきましても、推定の要素をたくさん加えないと事実関係の構成ができない。その推定の方法につきまして、また平行線をたどるという過程を繰り返してきたわけであります。しかしながら、国交の正常化はやり遂げなければならない歴史的な課題であるとすれば、そういった問題をどのように割り切るかということは、一つの方法しか残らぬのじゃないかと思うのです。過去の事実をせんさくするかわりに、将来に向かって日韓両国は相提携して、将来の繁栄と相互の利益をはかろうじゃないか、そのためには、世界全体が今経済協力時代でありまして、先進工業国が後進国の経済開発に応援をいたしている、そういう時代になってきている。従って、わが国が、一番近い隣邦である韓国の経済再建に対しましてある程度の援助を申し上げるということをいたしますから、どうぞ百年河清を待つような請求権論議をいつまでも両国が繰り返しているという愚をやめて、こういう問題は、一方において将来の展望に立って経済協力をすることによって、この問題は解決したのだということを両国で確認したらどうだということの御提案を申し上げまして、大筋において先方も、そういうことにするより以外に解決の道がございませんでしょうという点にまで歩み寄ってきていただいておるわけでございまして、そういう意味合いでわれわれは経済協力を考えておるわけでございますが、今、三億ドル、五億ドルという経済協力という問題は非常に過当ではないかという御判断であります。木原委員もお認めのように、これは賠償ではございません。従って、フィリピンやインドネシアとのバランスをとって考えるべき性質のものではないと思うのでありまして、一にかかって日本の財政能力からいたしまして、また、海外支払い能力からいたしまして、許される限度において考えるべきものだと判断いたしまして、きのう申し上げたような数字を考えておるわけでございます。

○木原委員 大臣が長々と私に説教されましたが、その説教の趣旨は、要するに、今度の協定の五億ドルというのは、経済援助という名の賠償だ、名前は経済援助だけれども、実際は賠償だと思うて、国民もあきらめてくれと言わんばかりの泣き言ではありませんか。それならば、国民は、すでに不当に国際法に違反して、朝鮮在住三十万の当時の在韓日本人が、終戦後私有財産にして一兆二千億といわれておるこの点について大蔵大臣からまた資料をいただきますが、関係者に言わせれば、十万人の個人財産一兆二千億という財産を、当時アメリカの軍司令官の軍令三十三号によって没収されてしまった。その没収された上に――これは没収か接収か知りませんが、この点についてもあとで外務省の見解をただしますが、それを一九四七年に、一方的に不法に国際法に違反して、アメリカが日本人の財産を接収して、そしてそれを米韓協定によって韓国にそっくりそのままただでやっておるのです。そうして先ほども言いましたように、韓国政府に対する財産請求権を、李ラインによって抑留された気の毒な抑留漁民を釈放してもらうそのカタに、岸内閣が当時放棄してしまった、もう取れなくなったというようないきさつがある。このいきさつに加えて、また五億ドルを税金で国民が負担しなければならぬということになれば、これはガリオア・エロア以上の財産を取られた人たちにとっては二重払い――五億ドルとして千八百億円、人口一人当たり割り当てても、年寄りから赤ん坊に至るまで一人千円の負担じゃありませんか。一兆数千億円の財産を不法に取り上げられて、韓国にそれがただで与えられる。その上五億ドル、一人当たり一千円の負担で韓国に経済援助をする。しかも、それが百年の計においてまことに日本民族にとって喜ばしいことというならばまた格別、何回も申し上げましたように、韓国は南北に分裂して、そうして統一という悲願のもとに立っておる。今ここで朴政権にこういうテコ入れがされるということになれば、永久に朝鮮民族の統一ができないというような状態の中で、いわゆる反共の保険料として払うのだというようなことを、自民党はパンフレットでPRしておられるようでございますが、これではあまり国民がかわいそうだと私は思う。しかも、あなたはきのう、こうして取り上げられた在韓日本人の財産は、政府が取り上げたんじゃない、軍令三十三号によってアメリカが一方的に没収したのだから、その財産の補償をする意思はないということを、はっきり井出委員にもおっしゃっておる。こういう中でこの援助という名の賠償をあえてあなた方がおやりになるということについて、私どもはどうしても納得がいかないわけです。
 ついでに、大蔵大臣に資料の要求をいたしますが、アメリカが軍事占領と同時に日本の財産を没収した、その没収した財産は、韓国の対日請求権の支払いの場合に考慮するという覚書があるわけなんです。そのために必要なんですから、一体どういう財産、金額幾らぐらいの財産をアメリカが没収したか、その明細について私は以前から聞いておるのですが、その資料の明細を国会に出していただきたい、これは相殺の対象になる債権なんですからということをあなたに要求しておった。あなたは、それは一部はあるけれども、全部はないという前回の答弁でしたが、すでに合意は五億ドルで成立したという段階ですから、もうここに出し惜しみされる必要はないと思う。幾らの財産を当時米軍が接収をしたのか、その点はっきりしていただくし、あなたの手元にある日本人の没収財産の目録を一つお示し願いたい。

○田中国務大臣 木原さんから、先回の国会だと思いますが、資料を提出する要求があり、私も外務大臣も、できるだけつまびらかになればこれを国会に提出をいたしますということをお答えしてあるわけであります。この在韓財産の明細書というものは一体どこにあるのか、また、これがどこで一番的確なものがつかみ得るのかという問題については、先回も申し上げましたが、韓国政府が一番的確なものを持っておると思いまして、韓国政府側に対してこれが提出を求めておるのでありますが、韓国政府側は日本政府側の要求に応じないわけであります。それからアメリカ軍が当時軍令三十三号によって接収をしたのでありますから、一体これに対してアメリカ軍は適切なものを持っておるということであるならばもらいたいということで、外務省側も調査を進めておるようでありますが、ごく一部のものしかまだこちらへ届いておらないという事実のようであります。それから第三には、当時韓国から引き揚げてきた方々が自発的に集計をしたようなものもありますが、これに対しては、自分のものを自分で申告をしたということであり、現在の段階でこれにどの程度の信憑性を置けばいいかという問題に対しては、さだかな結論を得ておらないわけであります。なお、日韓の問題については交渉妥結と言われますが、現在の外交上の状態では、この問題に対して資料を提出できるような状態ではないように考えているわけであります。

○木原委員 没収日本人財産のリストを、アメリカからか、あるいは韓国政府からとって、これを国会に出してもらわなければ――この財産の金額を韓国の請求権と相殺するということが、アメリカの三十二年の覚書にはっきり書いてある。日本が財産請求権を放棄したということが、韓国の対日請求権の場合に考慮せらるべきだということになっておるわけなんです。それで、リストの上でどれくらいの財産請求権を当時日本は持っておったかということが明らかにならなければ、相殺するにもしようがないわけなんです。それが明らかになったということにならねば、これは終局において請求権の問題の合意はできるはずがないと私は思う。ところが、今あなたもおっしゃるように、どれだけの財産が没収されたのか明らかにならないということになれば、これは全く今度の五億ドルの合意というのは、これは積算の根拠に困るのじゃないかと私は思う。あなたの方でどうしてもそれが明らかにならないということになれば、せっかくあなたの方に没収したもののリストの一部はあるのでしょう、アメリカからきたリストが、あなたは一部あると言っていた。一部でもいいから、一応この委員会に、もう最後ですから、一つその目録をお出し願いたいと思いますが、お出しになるかどうか、もし出すとすればいつまでに出されるか、その点を承りたい。

○田中国務大臣 お答えいたします。
 アメリカ側から日本政府に届いておるものはごく一部でありまして、これも大蔵省にあるのではなくて、外務省に保管をいたしておるのであります。一部でありますから、現在の段階において、これを国会に提出する時期ではないというふうに政府側として考えておるわけであります。

○木原委員 現在に至ってもまだ国会に提出する時期ではないとおっしゃるならば、その一部を一体韓国のどこの地域にあった日本の財産であるか、その財産が不動産か動産か、あるいはその他の貴金属か、そういうような分類に基づいて、その点の資料をお出しになることは差しつかえなかろうと思いますが、その点外務大臣どうです。

○大平国務大臣 いずれ全部の資料を整えました上で、御審議を願うことにいたします。

○木原委員 全部の資料はもう整う見込みがないと言われるのだ。一部の資料はあるけれども、全部がないから、全部のものが整った上で出しますということを昨年から約束してあるのです。それが今日になって、もう両者の間に請求権の合意が一応できて、あとの問題は、その支払い方法だとかあるいは対韓焦げつき債権の問題だとか、そういうような問題だけに問題はもう移ってしまっておる。この段階になってもそれが整わないということになれば、いつまで待っても全部の資料ができるということはもう目安がつきませんから、一部でもいいからあるものを、これは外交文書じゃないと思うので、出して差しつかえなかろうと思う。一部でもいいから出すことを希望するのですが、いかがですか。

○大平国務大臣 政府といたしまして、ある程度まとまれば、出していいと判断いたしますれば出しますけれども、まだその段階ではないということでございます。

○木原委員 本会議で、池田総理にわが党の成田書記長から、請求権を南北とも公平に解決をするために、日・韓・北鮮、この三者の合議によってこれを解決しなければ、韓国だけとの妥結では不都合じゃないかという質問をされたのに対して、総理はそういう意思はないという御答弁がありました。そこで、私はいま一回総理に再考を求めたいのでございますが、われわれがその三者合一でなければ請求権の公平な解決ができないと主張するのは、本来この財産請求権というものは、韓国の主張の中にはいろいろ国家的な請求権も含んでおるようでございますが、これは私は法的に理由に乏しいと思う。本来日本が終戦当時朝鮮人に負うておった債務を、分裂国家になったについて支払いが停止されておるのを個人の債権を清算して支払うということが、この請求権問題の本質であるし、また、財産請求権というものはそういった性質のものであろうかと思うのでございます。そうなれば、今朝鮮は北と南と別れておりますが、統治権の範囲を異にして国籍は違うてはおりますが、この人たちは、いずれも旧朝鮮人として日本国に対して個人的な財産請求権を持っておった人なのだ。この人たちが国籍のいかんにかかわらず日本に財産請求をするということは当然のことだと思う。それならば、総理の言われるように、朝鮮における合法政権は韓国だけだから、韓国としかこの交渉はしない、北鮮はオーソリティということになっておるけれども、まだ国連でも認めておらないオーソリティだから、北鮮との交渉はやらないというお考え方は、これは大きな誤りじゃないか。外務大臣、そう思われるでしょう。これは明らかに個人的な請求権ですから、国籍のいかんにかかわらず支払ってやるべき性質のものであり、また、そうしなければ公平な財産請求権の解決にはならないと思う。先ほどから外務大臣が、事実関係が非常に複雑でわからぬ、立証は困難だと言うのは、北だけを除外して南とだけ交渉をするから、事実関係が明らかにならない。この際、北も南も、国籍のいかんにかかわらず、国連が認めておるとか認めないとかいうようなことでなくて、旧朝鮮人の日本に対する財産請求権を合理的に支払う、支払ってやるという立場に立つならば、むしろこの際、この請求権の解決の問題は、三国が一緒に協議してこそほんとうの解決の方法になる、こういうふうに考えるのでありますが、いかがでしょう。外務大臣並びに総理の御見解を承りたい。

○大平国務大臣 三者会談の問題でございますが、わが国は国連の決議に基づきまして韓国を合法政府として交渉の相手にいたしておりますことは、御案内の通りでございます。一方北と南との間の問題は、朝鮮半島の問題でございますけれども、韓国政府が政治上の問題につきまして北鮮政府と話し合う立場、状況にあると見ることは無理なようでございまして、せっかくの御提案でございますけれども、これは実際的な御提案ではないと私どもは感じております。

○池田国務大臣 外務大臣の答えた通りです。

○木原委員 それでは、日韓交渉についての残余の質疑は、記録が出るし、さらにまた外務省からの資料が出た上ですることにいたしまして、時間がありませんから、もう二、三問お尋ねいたしたいと思います。

○塚原委員長 念のため申し上げます。木原津與志君の持ち時間はあと十七分でございますから、念のために申し添えます。

○木原委員 総理は、いつも池田内閣の外交の基調は国連中心主義だと宣明されておられる。ところが、最近の外交のやり方を見てみると、これは国連中心主義というようなものとはちょっと逸脱しておるんじゃないかという感がするのであります。
 そこで、時間がありませんから、端的にお聞きしたいと思いますが、との間、成田質問の際に、アメリカのキューバ封鎖のときに、日本は何もしなかったんじゃないかという質問に答えて、総理は、日本はアメリカのやったことが適当な措置だということを確認した。こういうような御答弁があった。私はそれを聞いて、これは国連中心主義とはいささか飛躍しておるんじゃないかと思うのであります。国連中心主義というのはどういう外交のやり方か、あとで御説明を聞きますが、当時御承知のように、ソビエトのフルシチョフがミサイルをキューバから撤去しないという事態になったら、おそらく第三次世界戦争の発端になるんじゃなかったろうかという、世界の、大戦後最大の危機だったと私どもは認識しておる。その原因は、アメリカのいわれなき国際法を侵犯した海上封鎖その他の封鎖にあったと思うのであります。これが、アメリカのやったことが正当だということを規定づけたという総理のお言葉でございますから、一つその点について、どういう点が、アメリカのやったことが正当な、国連憲章にも違反しない、国際道義にも違反しない、あるいは国際法にもかのうた行為であったと思われるのか、その点についての御解明をお願いしたい。

○池田国務大臣 世界の平和を確保するということが最大の目的でございます。東西の力の均衡で世界の平和が維持されておるこの際において、キューバにソ連のミサイル基地が置かれるということは、世界の平和のためによくない、こういうので、アメリカのとった態度を私は是認したのであります。これはアメリカ、中南米はもちろん、自由国家群のおもなる国はみなわれわれと同じ態度をとって、そうして事なきを得たのであります。もちろん、これはアメリカの力もありましょうが、米ソ両国首脳が戦争回避のために忍耐強く努力されたたまものでございます。その点は、私どもは、結果からいって両方ともよかったと考えます。

○木原委員 ソ連がキューバにミサイルの基地を持つということが、世界の平和のために非常に危険なことだという前提に立つとおっしゃった。そうすると、力の均衡という立場からいって、アメリカが、ソ連の封じ込めのために、トルコやイタリアあるいは韓国、そういった他国の領土にミサイルを持つ基地をつくってソ連を包囲するということは、世界の平和にとって脅威にならないという前提に立つのでございますか。

○池田国務大臣 現に、トルコ等に米国のミサイル基地がありましても、世界の平和は確保されておるではございませんか。しかるに、今新たにキューバに置こうとしたときに戦争が起こりそうになった、いわゆる危険が勃発した。その危険をなくすることによって平和が保たれる、こういうことでございます。

○木原委員 具体的に、こういうような、他国がアメリカの近所でソ連のミサイルの基地を許容するということ自体は、これは国連憲章あるいは国際道義上間違った行為であるということになるのでございましょうか。

○池田国務大臣 戦争の危険を誘発するということでございます。理論上いい悪いの問題じゃございません。事実問題でございます。

○木原委員 戦争の危険を誘発するということは、これは国連憲章に違反をしたり、あるいは国際法に違反をしたり、あるいはまた国際道義に違反をした措置を一方の強国がとるというようなことが、より以上世界の平和に対する脅威となるのだということはいかがです。

○池田国務大臣 世界の平和の脅威には、いろいろな場合もございましょう。国際法に従ってやったという場合でも脅威する場合もありましょうし、いろいろな場合があると思います。

○木原委員 少なくとも国連憲章、国連尊重という立場に立って、国連中心主義の外交をやるということがあなたの外交の基調であるとするならば、何としてもまず国連を尊重する、そうして国連憲章を尊重して、これの上にのっとって外交を行なう、その中で世界の平和を求めていくという態度、これが私は国連中心主義であるし、この国連の憲章に違反する国があれば、何国といえどもその違反を指摘して、そうして平和を維持する方向に外交を持っていかれるという態度が、ほんとうのあなたの言われる大国日本の外交の方針じゃないかと思うのですが、いかがでしょう。

○池田国務大臣 大体、そういうふうにいっておるのであります。アメリカがああいう措置をとったということにつきまして、われわれはその措置を一応是認いたしました。しこうして国連におきましては、この問題を取り上げようとした。これはあたりまえのこと。しかし、それを取り上げる前において、先ほど申し上げました米ソ両国の首脳の良識ある了解のもとにこれが片づきましたので、国連の方では取り下げたことになるのであります。国連中心主義は何ら害していないわけであります。

○木原委員 それならば、あの場合、国連が取り上げたということになれば、あなたはアメリカのとった措置を是認されなかったろうと思いますが、どうです。

○池田国務大臣 国連が取り上げる前に私はアメリカの措置を是認した。そうして国連でこれを審議することになる、こう思っておったのでありまするが、先ほどお答えした通りの状態になったのであります。

○木原委員 あなたの言うことは、もう国連中心主義という看板をおろさなければ――何でもかんでもアメリカの言うことに従うことが国連中心主義だと、こういうような考えをわれわれは持たざるを得ないのであります。
 そこで、時間がありませんから、かけ足でやりますが、中国問題ですが、今われわれが一番心配でならぬのは、きのう防衛庁長官もおっしゃいましたが、中国が膨大な軍隊を持っておる。しかもやがて核も保有して、実験もやるだろうということが予想されるというようなことがいわれましたが、こういう非常に日本にとって大きな脅威を感ぜざるを得ないというこのさなかに、ケネディが先般の十二月の三日に、中共封じ込めに協力を要請するというような趣旨のことを、日本の五閣僚に日米貿易委員会で発言されたという報道を聞いて、国民は非常にショックを受けたと思うのです。あなたは良識ある政治家として、この封じ込め政策に協力をされるつもりか、そうでないか、その点お聞きしたい。

○池田国務大臣 私は、ケネディ大統領が言われたことは、東南アジアにおける共産主義の拡大を阻止しようという言葉だと考えております。私は全く同感でございます。しかし中共と日本との経済関係につきましては、これは漸次発展さしていく。共産主義の東南アジアにおける拡大はアメリカと同じこと。貿易はしていきます。

○木原委員 貿易はやっていくということは、きのうもおっしゃったから、私はその点についてお聞きしませんが、一言だけ最後にただしておきたいのですが、こういうような中共封じ込めの政策をとってみたところで、びょうたる日本がアメリカと協力しても、とてもその脅威を取り去るというようなことは不可能じゃないか、むしろそういう封じ込めというような政策に立脚をしないで、私ども日本のとるべき態度としては、中共を国連の中に入れて、そうして国連のベースの中で将来の軍備縮小、軍備全廃あるいは核非武装、実験の停止、こういうような態度を国連の中に入れてそうしてやっていくということが、日本の安全のためにも良識ある政治家のとらるべき態度であって、いたずらに相手を激発させることによって力で阻止するというようなことは、アジア、極東の平和のためにとらるべき態度じゃないと思うのでございますが、将来のこの中国の代表権問題に対してさような考え方を持っておられるかどうか、その点をお尋ねいたします。

○池田国務大臣 一昨年の国連総会におきまして、日本の立場は十分世界に表明しております。しこうしてこの問題は、重要問題として、国連で審議されることになっておるのであります。

○塚原委員長 この際、御報告いたすことがございます。
 長らく本委員会の委員であり、かつて本委員会の委員長を勤めてくれました三浦一雄君が本日急逝いたされました。まことに痛惜哀悼のきわみであります。ここにつつしんで同君の御冥福をお祈りいたします。
 次会は明三十一日午前十時から開会することとし、本日はこれにて散会いたします。
   午後三時三十五分散会

 第043回国会 衆議院予算委員会 第5号 昭和三十八年二月二日(土曜日)午前十時十一分開議

【発言順】
 委員      春日 一幸
 内閣総理大臣  池田 勇人
 外務大臣    大平 正芳
 外務事務官
(条約局長)   中川 融
 内閣法制局長官 林 修三
 大蔵大臣    田中 角榮
 国務大臣    宮澤 喜一
 通商産業大臣  福田 一
 委員      野原 覺
 文部大臣    荒木萬壽夫

○春日委員 私は、民社党を代表いたしまして、内政、外交全般にわたりまして、特にわが国が当面いたしまする重要とおぼしき諸問題について、その疑義をただしたいと存じます。
 まず第一番は日韓交渉に関する問題でありまするが、本日の新聞の報道しておりまするところによりましても、また、先般来総理、外務大臣の答弁によって示されたところによりましても、日韓交渉の現状は、請求権の一部に合意点ができたとはいいながら、しかしながら、領土の問題でありますとか、あるいは李ラインの問題、また韓国人の法的地位の問題、こういうようないろいろな問題については、ほとんど未解決である。なおその交渉の前途は非常に困難が予想されておるという、このような状況にかんがみまして、これを全体として案ずるならば、これはなお星雲状態の域を脱してはいない、こういうふうに見受けられるのでありますが、総理の認識はいかがでありますか。まずこの点からお伺いいたします。

○池田国務大臣 交渉の経過等につきましては所管大臣からお答えする方が正確であろうと思います。外務大臣より答えさせます。

○春日委員 交渉の経過そのものについては、これからぼつぼつ伺おうと思うのでありまするが、ただ、現時点におきまする交渉の実態というものは、今形成されておりまするこの現段階においてこれを案ずるならば、たとえば、これは固まったものがない、全体として固まってはいない、だから星雲状態である。あるいはこれが後日凝結して一個の形に固まるかもしれないし、あるいは、ととのわずして雲散霧消する場合もあり得る。だから、言うならば、なお日本としてはフリー・ハンドといいましょうか、そういうような立場にあるのではないかと見受けられるのでありますが、総理大臣としての御認識はいかがであるか、まずこの点からお伺いをいたしたいのでございます。

○池田国務大臣 外交交渉でございますから、いつどうこうということはございませんが、われわれは、ぜひとも正常化のための妥結を見るべく努力を重ねております。私は、妥結するものという強い希望を持っております。

○春日委員 もとより、政府が交渉を開始されましたからには、妥結を期して交渉をなされておることは当然のことでございます。ただ、私は、いろいろと、これに随伴するといっては語弊がありますが、交渉の核心ともなるべき諸問題がきわめて困難な状態にある、特に請求権をめぐる一部分的な妥結がなされたにとどまっておる現状から判断をいたしまして、ここに交渉というものは、なお全体として一個の流動性と申しましょうか、非常に星雲的な、固まりを見せていない姿であると思うのであります。
 しかし、それはそれといたしまして、ここでお伺いをいたしておきたいことは、物事にはすべて経過があって結果がある。従いまして、日韓交渉がこのような形で取り運ばれておるという、このことの淵源、これをこの際ただしておく必要があると思うのでございます。それは、すなわち、まず第一番に韓国の独立、総理の言葉で言いますと分裂国家というのでありますが、この韓国の独立は、ポツダム宣言第八項、そうして、韓国の主権と国土、これはサンフランシスコ講和条約第四条、これを基礎としてすべてが展開されておると思うのでございます。従いまして、現在の日韓交渉というものは、直接的には、平和条約第四条、これに基礎を置いておるものと考えますが、外務大臣、いかがでございますか。

○大平国務大臣 平和条約を基礎としてやっておりますことは、お話の通りです。

○春日委員 平和条約第四条を基礎として交渉を進められておることに間違いございませんか。この間、勝間田君の御質問に対して、条約第四条は足場にはしていないという御答弁でございましたので、特に私がこの質問を行なうのでありますが、この点、あらためて御答弁を願います。

○大平国務大臣 平和条約第四条は請求権の処理をすることにいたしておりますので、請求権の処理は、この四条にうたわれた処理、始末をつけるということを目標にいたしまして続けておるわけです。

○春日委員 そういたしますると、外務大臣が今予備交渉を行なわれておりまするそれらの交渉は、その基礎が第四条にある、四条に基づいての交渉、こういう工合いに理解してよろしいか。

○大平国務大臣 さようです。

○春日委員 そういたしますと、先般、勝間田質問に対する御答弁で、四条を足場にしていない、こういう見解の意思表明がございましたが、それとこれとは全然違った御答弁でありますが、何か補足の御説明をいただくことはありませんか。

○大平国務大臣 四条にいう請求権の処理は、いかにしてなし遂げなければならぬ仕事でございます。私が申し上げましたのは、請求権の問題を請求権を通して解決するということは、法律的にも事実の立証の上からも困難であるということでございますので、経済協力の方法によって、経済協力をすることによりまして、その結果、四条の処理、請求権の処理が始末がつくという方法を選んだのである、こういうことを申し上げたのです。

○春日委員 私が特にこの問題をただしておりますのは、将来、韓国との交渉が妥結を見ました後において、あるいは北鮮との間においてこの種の交渉を行ない、妥結をはからなければならない場合があり得ると思うのでございます。従いまして、この交渉が何を根拠に置くものであるかということ、これを明確にしておくことは、今後のわが国の外交折衝の展開の上においてきわめて重要なポイントであると考えますので、あえてこの問題をただしておるのでございます。従いまして、大臣の答弁によって明確にされましたことは、平和条約第四条(a)項、(b)項に基づいてこの日韓交渉が行なわれておるものである、いわゆる大所高所論なるものは、その交渉を展開する、すなわちその目的を達成するための一個の手段にしか過ぎないものである、こういう工合に理解をいたしておきたいと思うのでございます。当然このことは将来北鮮オーソリティとの間に持たれるであろう交渉に重大なる影響を与えますので、この一点だけは一つ明確にしておく必要があると思うのでございます。
 そこで、私は、だといたしまするならば、この際明らかにいたしておきたいことは、今までなされて参りましたところの交渉、本日まで二十五回にわたって予備交渉がなされておるとのことでございまするから、従いまして、各個の交渉の段階において、すべての事柄が法律に基づき、法律に従って適法になされておるかどうか、これがきわめて重大な問題になると思うのでございます。従いまして、私は、この際、今まで二十五回にわたりましてさまざまな予備折衝がなされて参ったのでございまするが、その一つ一つの交渉の成果というものが次の交渉のやはり足場になって参っておると思いますので、その一つ一つというものが間違ってなされたようなことはないかどうか、その個々の疑義をこの際ただしておきたいと存じますので、責任ある見解の開陳を願いたいのでございます。
 まず第一番に、請求権問題でありまするが、その発端となりまするものは、韓国にありました日本国並びに日本国民の財産をアメリカ当局が接収したことに問題の端を発すると思うのでございます。従って、ここでお伺いをいたしたいのは、アメリカ軍令第三十三号をもって国有・私有の一切の在韓日本財産をアメリカは没収いたしました。この行為は、「陸戦ノ法規慣例二関スル条約」第四十六条、ヘーグの戦争条約第四十六条の「私有財産ハ、之ヲ没収スルコトヲ得ス。」、戦勝国といえども私有財産についてはこれを没収することを得ず、このヘーグの戦争条約に違反するの行為であると思うが、総理の御見解はいかがでありますか。

○池田国務大臣 私は、アメリカの軍令三十三号によりまして私有財産を没収した措置は適当ではないと考えておったのでございまするが、しかし、あの戦後の状況から申しまして、われわれはやむを得ずサンフランシスコ講和条約でこれを放棄したのであります。この例は陸戦法規に抵触するといういろいろな議論もございますが、第二次世界大戦の結末といたしまして、韓国ばかりでなしに、オーストリアにおけるドイツの財産権も同じようなことに相なったと聞いておるのであります。

○春日委員 私は、他国にいかなる例がありましょうとも、違法の例をもってこれを是認するという態度は許されるべきではないと思うのであります。私有財産の尊重並びにこれを没収し得ないといたしまするところのこの戦争条約における明確かつ断定的な国際法規、これは本日も効力を持っておる。こういうものが否定されたり、あるいはまた改正されたという前例は、そういうことはないと思うが、この点、事務当局から御答弁を願います。

○中川政府委員 お答え申し上げます。
 ヘーグの陸戦法規は、現在においてもなお有効な国際条約でございます。しかしながら、ヘーグの陸戦法規はずいぶん前にできた条約でございまして、あの当時の戦争と最近の戦争とはずいぶん態様を異にしておりますので、必ずしもヘーグの陸戦法規の規定そのものが、戦後十年以上にわたって占領が続くというような現状の占領というものにはたしてそのまま適用できるかどうかという点については、いろいろ疑問を出す者もあるわけでございます。国際法としてあの条約が依然有効であるということは、これは疑いのないところでございます。

○春日委員 およそ、秩序の根源となるものは法律・規則でございます。世界秩序の根源をなすものは国際法規でございます。従いまして、その国際法規が廃止されるとか修正されるとかいうことがありません限りは、その法律は現存するものであり、その秩序のもとにおいてすべての行為が律せられるものである、こういう工合に解釈するのが当然でございまして、古くなったから、あるいはその後における戦争の形態が変わったから、これがその変わったことを容認されてもやむを得ぬという説をなすがごときは、許すべからざることである。今日、太政官官制であろうと何であろうと、それが廃止されたり、あるいは改正されるにあらざれば、それが有権的な拘束力を持っておることは、論ずるまでもないことである。従いまして、このヘーグの国際条約、戦争条約というものは今日でも国際的に有権的な効力を持っておる、こういう工合に理解してもよろしいか。これは事務的に御答弁願えばよろしい。改正されたら改正された事実を明らかに、廃止されたら廃止された事実を明らかにされたい。ただそれだけでございます。

○中川政府委員 ヘーグの陸戦法規は今日においても有効な国際条約でございます。

○春日委員 そういたしますると、アメリカ軍令第三十三号は国際法違反であることは明らかであると思うが、総理の見解はいかがでありますか。

○池田国務大臣 先ほど申し上げましたように、適当な措置ではなかったと思います。しかし、それがサンフランシスコ条約によって有効となったと私は心得ております。

○春日委員 適切でないということは、一体どういうことでございましょうか。宥恕されるべきであるというのでございましょうか。それは法律違反であるから断じて許すべからざるものであるとするのでございましょうか。いかがでありますか。この点一つ御明確に願いたい。
 なお、私はあわせて総理の見解を伺いたいのでありますが、敗戦国として違法行為を承認せざるを得ないのだと解釈をされておるのでありましょうか。ただいまの御答弁のニュアンスはそこにございます。敗戦国としては違法行為を承認せざるを得ないのだ、もしそれ、かくのごとく解釈をするというのであるならば、こういうことが考え得ると思います。敗戦国が戦勝国の違法行為を容認することが不可避事項でありとするならば、この陸戦に関する国際条約は何ら効力を有しないものになってしまう。すなわち、戦勝国といえども、なし得ることと、なし得べからざる限界がこの国際条約によって律せられておる。従いまして、戦勝国の権利義務はおのずからこの条約の中に厳然として定められておるところでございます。従いまして、敗戦国が戦勝国の横暴、法律じゅうりん、こういうようなことを容認せざるを得ないとするような態度をとるならば、この国際条約は全面的にその効力を失うに至るものでございます。これは重要な問題でございます。戦勝国が敗戦国に対して法律を無視したり、そういう禁止事項を犯したり、そういうような場合は、当然、後日民事上の請求権を発生いたしますとか、あるいは国際的な制裁を受けるとか、これでなければ秩序を保つことはできないと私は思うのでありまするが、いかがでありますか。

○池田国務大臣 この平和条約の性質というものが、それ以前に行なわれたいかなる行為も、正当、不当の行為も、これをクリアーする、もうなくしてしまうという性質のものでございますので、平和条約以前において行なわれた行為に対しましてとやこう言うことは、私はできないと考えております。

○春日委員 条約第四条(b)項によってこれを了承いたしました。承認をいたしました。だから、その法律関係、すなわち債権債務に関する問題はそういう処理がなされてはおります。けれども、あの当時米軍が韓国において没収したものは、すなわち日本国民の私有財産を没収したことは、明らかにヘーグの戦争条約に違反をして、これをじゅうりんしてアメリカがやったのだというこの事実関係は、厳然としてここに残ると思うのでございます。しかも、それを承認したりとはいえ、私は後ほど論じたいのでありますが、一九五二年十二月三十一日、アメリカ大使が日本国政府にもたらしたこの平和条約第四条(a)項、(b)項の解釈に対する口上書、この中において、没収されたとはいいながら、その問題の事後処理というものについて含蓄深き言及が行なわれておるのでございます。いわば一個の救済がアメリカの自発的意思においてなされておるのでございます。そういうような実態からかんがみまして、私は、アメリカが行なったところのその没収行為は国際法の違反行為であった、こういう認識はあってしかるべきであると思うのでありますが、いかがでございますか。

○池田国務大臣 それは、先ほど来お答えしている通りに、不法な行為であったということはわれわれも考えております。しかし、平和条約によってこれを正当化したものとせざるを得なかったのでございます。

○春日委員 それでは、日本国総理大臣の見解表明は、あの米軍令第三十三号なるものはすなわちヘーグの戦争条約に違反をした行為であったけれども、あのような国際情勢の背景の中においてこれを受諾せざるを得なかったものと、かくのごとくに表明されたものと理解をいたしまして、質問を進めます。
 この条約第四条(b)項についてお伺いをいたしたいと思います。私どもがこの問題をいろいろと探究するにあたりまして、特にこの四条の(a)項、(b)項を対照して判断をいたしますると、少なくともその趣旨は両立しがたいものでございます。というのは、(a)項は、日本の請求権あるいは韓国の対日請求権、こういうようなものがありとするならば、それは当事国の取りきめとしょう、話し合いをして解決しろ、要求するものは要求して取れ、こういうことがきめられておる。しかるに、その(b)項においては、日本はこの対韓請求権を放棄することを承認せしめられておる。片方では、請求して取れといって、片方では、これはもう放棄したのだ、こういうことですから、少なくとも、この(a)項、(b)項の趣意は両立しないものである。これは非常に妙な条文の構成になっておるのでございます。
 私はこの際特に池田さんにお伺いをいたしたいのでございまするが、あなたはその当時吉田代表全権とともに全権としてサンフランシスコへいらっしゃつたと思うのでありまするが、この条約四条の(b)項なるものは、当時日本政府に事前に提示されたるところの条約案の中にはその条文がなかったもので、あなた方がサンフランシスコに調印におもむかれたその後に付加された条項であると伝えられております。しかも、このことはすでに公知の事柄に属しておるのでありまするが、願わくばこの際その真相を明らかにされたいと思うのでございます。それは、日本国の利益のために、日本国民の権利を確保するために、この間のいきさつをつまびらかにされたいと思うのであります。

○池田国務大臣 サンフランシスコへ行きます前にやはりこの(b)項はあったのでございます。いつごろから入ってきたかということは、私は記憶いたししておりません。

○春日委員 そういたしますると、この(a)項は、両国における請求権は両国の取りきめとみなすということでございますから、請求権は厳存いたしておるのでございます。ところが、(b)項は、その厳存しておるとおぼしき請求権を放棄したことを承認せしめておるのでございます。少なくとも、(a)項、(b)項、一条の中の法の構成が両立しない。これは変だとはお思いになりませんか。いかがでありますか。

○池田国務大臣 平和条約第四条の(a)項は、韓国ばかりではないと記憶しております。(春日委員「韓国も含んでおる」と呼ぶ)韓国も含んでおりますが、台湾その他も入っておる。(b)項は韓国のことだけを規定しておるのでございます。条約の詳しいことは事務当局からお答えさせます。

○春日委員 事務当局の答弁は必要ではございません。今御答弁がございましたが、とにかく、韓国を含めて(a)項は請求権の厳存をここに保障いたしておる。ところが、(b)項は、韓国に対してはその請求権の放棄を余儀なくいたしております。これは両立しない。相反するところの取りきめがここに行なわれておることから判断をいたしまして、こういうようなばかげた法律の構成というものはあり得ないのでございまして、あり得ないことがここに現に行なわれておるということは、これは当初構想に基づくものではなくして、一個の構想は当然(a)項であった、ところが、(b)項がここに介入したということの経緯は、すなわち、韓国からそういう要求があったとか、あるいは軍令第三十三号なるものが国際法違反によって行なわれておることからするアメリカ政府の保障権ですね。日本国の財産を没収した、それはヘーグ条約に違反をして没収をした、このことから発生してくるところのいろいろな責任、これをその条約四条の中で消化せんとしてその後こういう形になって現われたものと思わざるを得ないのであるが、この間のいきさつ、見解はいかがでありますか。

○池田国務大臣 先ほど答えたように、第四条の(a)項は、韓国のみならず、台湾その他にも適用するものでございます。しこうして、(b)項は韓国に対して規定されたのでございます。それで、条約の構成上別にどうこうということは私はないと思います。こういう規定の仕方がありましょう。韓国との特別の関係を(b)項で規定したのでありますから、当然のことだと思います。

○春日委員 調印の責任者の一人といたされまして、そんな理屈の通らない、筋の通らない条約に調印してきたのだとあっては、その責任を感ぜられて、そういう御答弁はなし得ないと私もこれはしんしゃくいたします。けれども、事実関係は、だれが見たって、片方では請求によって解決をなさるべしと言っておいて、片一方の条項で、請求してはならない、そんなばかなことは、常識的に考えてもこれは成り立たない議論でございます。こういうような問題は、戦勝国、戦敗国の力関係において余儀なくせしめられたものである。しかし、その後においてこの問題の救済が随所になされておるのです。
 でございますから、私は、今外務大臣に申し上げたいことは、わが国は(a)項において権利が保障されており、(b)項において権利の制限がなされておるが、いずれの立場をとるかということでございます。(a)の立場をとることもよし、(b)の立場をとることもいいが、しかし、日本国の外務大臣、日本国の政府が、日本国と日本国民の利益のために立ち働くものであるとするならば、不利益な(b)の立場をとるにあらずして、(a)の立場を選択すべきことは当然のことであると思う。いかがでありますか。

○大平国務大臣 仰せのように、常に国民の利益を考えてやるべきものと心得ます。

○春日委員 ならば、(a)項の立場をまずもって選ぶべしということになると思います。(a)項の立場や(b)項の立場を含蓄しながら、当然(a)項の立場に立って、請求権ありという立場で交渉というものは進められてしかるべきである。
 ところが、ここに問題となることは、藤山外務大臣とそれから金裕沢大使、これは昭和三十二年十二月三十一日の共同声明、この中でこういうことが述べられております。すなわち、「日本国政府は、大韓民国に対し、日本国政府が、昭和二十八年十月十五日に久保田貫一郎日本側首席代表が行った発言」、――その発言とは、日本に対韓請求権ありとの発言、この「発言を撤回し、かつ、昭和三十二年十二月三十一日付の合衆国政府の見解の表明を基礎として、昭和二十七年三月六日に日本国と大韓民国との間の会談」、――これは第一回の会談ですね。サンフランシスコ講和条約が発効いたしましたのはたしか翌年の四月八日か何か、そんなことでした。だから、その発効する前に第一回の会談が持たれたときにも日本国は(a)項に基づいて対韓請求権ありとの立場から対韓請求権に基づいて要求いたしました。この請求権を「撤回することを通告した。」と書いてあるのですね。この藤山外務大臣とそれから当時の在日本大韓民国代表部代表金裕沢氏との間で、久保田発言すなわち対韓請求権、これも撤回いたします、それから、第一回当初会談に持たれた請求権、この請求を行なうことも撤回することを通告をいたされました。それは共同の利害が形成されてそのような通告が発せられたものと思うのでございます。
 私はここでお伺いいたしたいのだが、請求すべき請求権を撤回したということはどういうことを意味するのでありますか。これは請求権の消滅を意味するのか、あるいは一時的な撤回を意味するのか、永久的に撤回して、もはや請求を行なわないということを意味するのか、その当時外務大臣が行なった請求権撤回の文言とその内容、考慮、これを一つ御答弁願います。

○大平国務大臣 平和条約の(a)項、(b)項につきましての御論議がございましたが、平和条約というのは全一体をなしておるものでございまして、日本が国際社会に復帰する場合に、この条約全体を評価いたしましてこれを承認することによって国際社会に復帰できたわけでございまして、個々の条章につきましては、春日委員が御指摘のように、もろもろの瑕瑾・瑕疵があることは私どもも十分承知いたしております。しかし、この条約に調印することによって、各条章に掲げられた条約の条項なるものを日本が承認いたしたわけでございます。今も御指摘の第四条(b)項も、日本がおごそかに承認いたしたものでございまして、従いまして、韓国に対する公私の財産に対する請求権は、平和条約の調印によりまして、これを没収した事実を日本が承認いたしたわけでございまして、その段階において確定いたしておるわけでございます。今御指摘の日本政府と韓国政府との間の昭和三十二年十二月三十一日付の覚書は、従来の日韓交渉におきまして日本側が請求権ありという交渉技術上の主張をしておったが、その主張は撤回するという趣旨でございまして、平和条約の効力そのものの本質に触れた覚書の交換ではないと私は承知いたしております。

○春日委員 問題は、そういうことを伺っておるのではございません。ここで藤山国務大臣が日本国政府を代表して、金大使との間に、いわゆる久保田氏が要求した請求権ありとの説、すなわち請求を行なうの行為、それから、その前に行なわれましたところの第一回会談、このときに日本国代表が韓国に対して行なった請求権なるもの、こういうものを撤回すると言ったのだが、それは一時的にそのときとりあえず撤回しておくわと言ったのか、もうあと請求せぬわ、全然これはやめるわ、こういうことは言わぬわと言ったのか、政府は一体どういうふうに理解しておるかということでございます。すなわち、永久撤回であるならば請求権の消滅を意味するし、一時的に、とりあえず、こういうことを言わないで一ぺん交渉をやってみよう、交渉の推移に基づいてもう一ぺんこのことを言うわと言ったのか、どういうふうにこれを理解すべきであるか、政府の統一見解、伝統ある、ずっと引き継がれております統一見解を伺いたい。

○大平国務大臣 私が先ほど御答弁申し上げた通りでございまして、対韓財産請求権は、平和条約において日本がその没収を承認いたしておるわけでございます。従って、これを主張するという根拠は、平和条約からは出てこないわけでございます。しかしながら、その後交渉の過程におきまして日本側の代表が請求権があるんだというようなことを主張されておりましたことは、これは交渉技術上の問題でございまして、平和条約の効力の本質に触れたものでないということは、私が先ほど申しましたことでございまして、そういう交渉過程上の技術上の主張は撤回するんだということをはっきりさせたというにすぎないものでございます。

○春日委員 この前にも触れましたように、(a)項、(b)項はいずれも有権的なものである。日本の権利は平和条約(a)項によって保障されておる。(b)項によってそれが制限を受けておる。しか・し、日本国政府は日本国の利益と国民の利益のためにいずれの道をとるかというのであるならば、当然(a)項の道からスタートをするのであって、その(a)項というものはやはり平和条約によって保障されておるところの日本国の権利なんですね。だから、(b)項だけに従って(a)項の権利というものを全然行使しないということは、これは明らかに間違いでございます。よろしいか。私はこういう理論が出てくると思うのです。私は、ここにその解釈に対するアメリカ政府の口上書がありまするから、これによって御理解を願えると思うのでありますが、全的に消滅してはおりません。
 ただ、その前に私は明らかにいたしておきたいことは、藤山外務大臣がどういう考えであったかということです。今大平外務大臣が述べられたがごとくに、この(b)項によってすでに権利というものが喪失されておるがゆえに、(b)項に基づいてこれを請求しないのだ、また、請求しようにも、その根源、要するにその権利がないんだといたしまするならば、(a)項というものは一体何のために存在するのか、こういうことになって参るのでありますね。だから、この際、私は、(a)項と(b)項との関連においてその解釈が成り立ちませんときには、総理大臣、やはりその条約の起草者の意思というものを確かめてみる必要があると思うのです。勝手に日本国だけで有利に判断をしても独善的であるし、不利に解釈するということは、これまた屈辱的である。だから、平和条約の起草者の真意、第四条は何であるか、これを確かめることは、問題の本質を明らかにする上において必要なことである。利益とか不利益とかいうものではない。公正に問題を処理するためにも必要である。これはただ単に韓国ばかりじゃございません。北鮮オーソリティとの将来問題が起きて参りましたときに、やはりわれわれは正当なる立場に立って主張せなければならぬものは主張せなければならぬのであります。従って、その法律上の根拠というものは厳粛に理解されておかなければならぬと思います。
 そこで私は、このアメリカ大使の口上書、これは長いものでありまするから、特別に要点だけ言いますると、こういうことが書いてございます。「アメリカ合衆国国務省は、一九五二年四月二十九日付の韓国大使あての書簡において、日本国との平和条約第四条をつぎのとおり解釈した。」韓国に対してアメリカの解釈が通告されております。それは、「合衆国は、日本国との平和条約第四条bならびに在韓国合衆国軍政府の関連指令および措置により、大韓民国の管轄権内の財産についての日本国および日本国民のすべての権利、権原および利益が取り去られたという見解である。」、こういうふうに日本の不利益なことを述べてはおります。「したがって、合衆国の見解によれば、日本国はこれらの資産またはこれらの資産に関する利益に対する有効な請求権を主張することができない。」としておる。ところが、「もっとも、日本国が平和条約第四条bにおいて効力を承認したこれらの資産の処理は、合衆国の見解によれば、平和条約第四条aに定められている取り決めを考慮するに当たって関連があるものである。」、しかし、この関連がこんなに小さく述べられておりますけれども、その次にはこれが大きく膨張しております。こういうのが韓国へ通告されたところの、平和条約起草者たる合衆国政府の見解であると韓国に述べて、以降が日本国への通告でありまするが、合衆国政府は前に韓国に言った通りそういう考え方を持っておるが、「この見解および平和条約の該当条項の背後にある理由を説明することは有益であろう。」として、その理由を説明しておる。それで、「朝鮮における独立国家の設立のためには日本国とのきずなをきれいに、かつ、完全に断ち切ることが必要と思われたので、」こういうことをやった、こう言っておるのです。そうして、その次にこういうことを言っておる。「権原の所属の変更と補償の問題とを区別することは法的見地から可能であると認められるが、」これは、権限の所属の変更ということは変更である、けれども、この変更については、補償を必要とするのだから補償はせなければならぬが、この補償の問題と同様に区別して処理することは「法的見地から可能であると認められるが、合衆国政府は、日本国の補償に対する請求権は、当該事情の下において、」なかなかむずかしいと思われたので、これをやめた、こう書いておりますね。そういうふうにいたしまして、ここにこういうことが書いてありますよ。「この請求権が韓国内の日本財産の所属変更によりすでにある程度満たされたことが明らかであったにもかかわらず、」と書いてあります。起草者の意見というものがこういうふうに書いてあります。この請求権、すなわち、韓国の請求権が問題となりましたときに、韓国の対日請求権なるものが、韓国内の日本財産の所属が変更されたことによって「すでにある程度満たされたこと」、――いいですね。請求権に見合うものはすでにこの三十三号で支払われてしまっておるのだぞ、言うならば、双方おおむねとんとんになっておることが明らかである、明確であったにもかかわらず、平和条約の中に解決を定める明文を置かなかったその理由は何であるかというと、これは十分な事実関係と法理論が明確でなかったと言っておる。十分な事実とは何ぞや。それは、日本に合邦されていた間に向こうで損傷したものがあるであろう、同時に、日本国の努力によってそこに付加増大されたものがあるであろうが、そのプラス・マイナスという事実関係を明確に立証することができない。アメリカでもできない。日本でもできない。韓国でもできない。そういう事実関係、十分な事実も、また適用される法理論の十分な分析も有していない。ということは、適用される法理論とは、分離国家に対して母体国家、これが一体どういう権利を持ち、どういう義務を持つものであるか、国際慣例というものが明確にない。だから、ここで問題となりますのは、この平和条約の(a)項、(b)項の関係において、前に関連があるもの、韓国が日本に請求するときには、あの三十三号によって没収の事実、また(b)項によって承認の事実、これが有権的に完全的に効力を発生するためには、(a)項というものが大いなる関連を持つものである。その(a)項というものは、ここに書いてありますように、この請求権が、韓国内の日本財産の所属変更によりすでにある程度満たされたものである。このことは明らかであった。明らかであったから、論証し明文化すべきであったけれども、しかし、日本国が、合併されておった間に向こうでいろいろ損耗したものがあるであろうが、日本国の努力によって、貢献によってそこに付加されたもの、増大されたもの、プラス・マイナスの明記がない。事実関係が粗雑だから、立証しようがない。それからまた、国際法規の上においても、分離国家と母体国家との間の権利義務に対する法律論の展開が十分にまだ行ない得ない、こういう関係だから、こういう工合に一まず書いているのだ。書いているけれども、その請求権というものは、(a)項、(b)項の関係においておおむねとんとんだぞ、これは起草者の意思として、ここにきちっと両国にこれが通達されているのですよ。いかがでありますか。そういう工合に、たとえば今大平大臣の言われるように、(b)項によって放棄しちゃったもんだから、藤山さんが請求権を撤回するということは、(b)項に基づいて行なった有権的行為だ、こう言うことは間違っている。これはわが国の利益を放棄するの言動である。私は、韓国との問題ばかりでなしに、将来これは北鮮との間においてこういう問題と取り組まなければならないので、平和条約の起草者の意思というものは、正当に、公正にわが方がこれを受けて判断し、その厳粛なる理解の上に立ってやはり応対していかなければならぬ。だから、藤山さんの放棄、請求権を撤回したということは、これは何ら日本を拘束するものではないと思う。また、実際放棄しているというならば、それはわが国の憲法違反である。憲法二十九条は私有財産不可侵の原則ですね。それから財政法においては、国の財産が変更するとき、減るとき、ふえるときこれは国会の承認事項である。財政法の、これは八条でありますか、国の債権の全部もしくは一部を免除し、またはその効力を変更するには、法律に基づいて行なわなければならぬといっている。内閣法によれば、内閣は法律に基づいてのみその行政を執行することができるのであって、このような国会の承認を求めることなくして日本の財産権に大いなる変更を与えるがごとき意思表示をなすことはできないはずである。やったとすれば違法行為である。法律の手続を踏んでいないから、これは全然効力を持たないものである。日本は今もなおフリー・ハンドの立場にあると思うが、いかがでありますか。

○大平国務大臣 今、(a)項、(b)項の関連におきましての解釈をめぐって御論議がございました。それで、これは立法者の意向はどうであるかということを究明することが大切ではないかという御指摘でございまして、今米国解釈に触れられたわけでございます。この米国解釈は、日本は在鮮財産に対して平和条約に基づきまして請求権はないのだ、しかし、現に没収された財産を、その没収の事実を承認したということによりまして、ある程度(a)項に言う請求権は満たされたと思う、従いまして、(a)項の請求権の処理におきましては、その事実は考慮されるべきである、こういう米国の解釈でございまして、日韓両国とも、今春日委員が御指摘された米国の解釈につきましては、意見の相違はないわけでございまして、そういう解釈に立脚いたしまして交渉を進めておるわけでございます。

○春日委員 おおむね私はそれでよろしいと思う。ということは、すなわち、藤山さんの請求権撤回の、日韓両当局のこの声明文というものは、決定的なものではないですね。決定的なものであらしめようとすれば、当然韓国にありますところの請求権を日本国が放棄してしまうことになりますから、当然財政法第八条に基づいて国会の承認を取りつけなければならない。取りつけられていないから、これは無効である。だから、日本はどんどんとこれから請求したらよろしい。韓国に向かっても、北鮮に向かっても、請求すべきものは堂々と請求したらよろしい。数がふえたり減ったりすることはあるでございましょうけれども、やはりその根拠とするところの法律というものは尊重されなければなりませんぞ、大平外務大臣。あなたは高い次元に立って大所高所から政治的に話をまとめると言っておるけれども、そういうことは非常に危険な結果をもたらすおそれなしとはしない。いいですか。たとえばオタマジャクシがカエルになる場合もあるし、あるいはサナギがチョウチョウになる場合もある。相当変貌することがある。変貌はするけれども、そのカエルなりチョウチョウの生命というものは、オタマジャクシであり、サナギである。だから、あなたは今高度の政治的立場において大所高所からこれを妥結せしめようとしておるけれども、しかし、それは一個の手段でしかないのである。すなわち、その根源となるものは第四条の(a)項と(b)項であり、(a)項についてはアメリカが、すなわち、この平和条約の起草者が、厳然として、第三十三号によって韓国の対日請求権はすでに相当の部分にわたって満たされた――満たされたということは、幾らか部分的に返されたということではないですよ。満たされたというのだから、一つの器の中に満たされたということは、水が大体九分九厘ぐらい入ったときが満たされたのであって、底の方にちょぼっと水がつがれたのは、コップに水が満たされた状態ではないのだから、この点は一つ明確にして今後の交渉に当たってもらわなければいかぬ。この点を、総理大臣、政府の腹がまえとして腹に入れてもらいたいと思うが、よろしゅうございますね。僕と大平外務大臣との質問応答において妥結したものは、(a)項の請求権は現存しておるぞ、アメリカの解釈によっても現存することが保証されておる、今そのことを言う言わぬという問題は、交渉を妥結するためにいろいろな手段、方法として考慮されるにすぎないものであって、藤山外相によるところのその撤回は、何ら効力を奏しないものである、日本国政府の今後の交渉、それは大韓民国に対して、また北鮮人民共和国に対して、何ら日本政府のその意思というものを拘束することのできないものである、こういう工合に理解しておいてよろしゅうございますね。

○池田国務大臣 どうも春日君、あまり雄弁だもんで、ちょっと誤解があってはいけませんが、四条(a)項というものは、韓国のみならず、他の台湾等につきましても、お互いに請求権はあるということを認めておるのであります。しこうして、(b)項によって、韓国に対しては、今の軍令三十三号による没収に対してわれわれは請求しない、こういって請求権を放棄しておる、これだけのことでございまして、私は平和条約第四条をこういうふうに解釈しておるのであります。

○春日委員 池田総理が責任を持って日本国政万事に当たっておられる、これには私は大いに日ごろ敬意を払っておる。政策においては間違っておる点が多いけれども、心がまえとしては、あなたは愛国者として真実に問題と取り組んでおられることは、私は認めておる。けれども、今のお言葉は適当ではございませんぞ。(a)項は台湾その他の国を含んでおるということにアクセントのウエートを置いておられるが、それは間違いなんだ。いいですか。台湾というのは、蒋介石総統がそのヒューマニズムの立場から対日請求権は放棄しておる。賠償分も放棄しておられる。みずから宣言されておる。残るところは、結局は主たるものは朝鮮なんですね。韓国なんですよ。(a)項と(b)項とが四条の中に同時併記されておるということも、その関連においてなされておる。だからその(a)項の中にも、対韓請求権は日本にあるのだ、あるから、後日交渉して取りきめなさい、そのことは韓国を、あるいは北鮮を意識してこれが書かれておるのですよ。それは台湾を意識して書いたのじゃないのです。そういうものは、やはり同時的にそういうことも処理されるべきことであろう、あろうけれども、四条の関係においては、対韓請求権あるいは対北鮮請求権というものは日本に現存するから、交渉のときにおいてやりなさい、(b)項というものがあるので、日本は心配だろうけれども、(b)項に対する解釈はこうです、その解釈を国務省がわざわざ書いておる。さすがに良心の片鱗を見せておるのです。それは相当の部分にまたがって満たされたものである――満たされたと書くべきであるけれども、事実関係が明細に実証できないし、また法理論としての展開ができ得ないから、この際これは後日の取りきめにゆだねたと言っておるのですからね。だから、対韓請求権、対朝鮮請求権、これは日本国に現存するものである、藤山さんと金さんとの共同声明は有権的なものではない、日本はこれによって拘束を受けることはない、この立場を、愛国者池田勇人の名において、この際明確に国の内外に向かって宣言される必要があると思う。勇気を持ってやりなさい。

○林(修)政府委員 私からちょっと、今春日先生の……。

○春日委員 林君、僕は許しません。君は三百代言的なことをときどき言うからだめだ。僕は政治家としての、日本国総理大臣の言明を求めておる。

○塚原委員長 委員長が法制局長官に発言を許しております。

○林(修)政府委員 法律的見解について、春日先生の御理解が、先ほどから総理大臣あるいは外務大臣から申しましたことに対する御理解がちょっと違っておるように思いますので、その点だけをちょっと御説明いたします。
 四条の(a)項と(b)項は、もちろん、包括的に解釈すべきものであることは当然でございます。同じ平和条約の中に二つ並列してあるわけでございますから、(a)項と(b)項とを包括的に一緒にして解釈すべきものでございます。(a)項は、先ほどからお答えがありましたように、すなわち、対朝鮮問題のみならず、台湾、南洋群島その他旧領土関係の請求権問題も包括して書いてあるわけでございます。その中に、もちろん対韓請求権もありとすれば(a)項が含まれておりますけれども、しかし、これに(b)項がございまして、いわゆる韓国において、連合軍、主として米軍でございますが、米軍がとった措置については、この(b)項で常に日本は承認しなければならない立場になっております。その場合において、いわゆる軍令三十三号の財産の没収に対して、没収行為は承認するけれども、それに対してさらに補償請求権があるかないかという問題があったわけでございまして、それは、日韓交渉の当初においては、日本側は交渉技術として一つそういう問題を持ち出したことは御承知の通りでございます。しかし、それについていろいろ議論がございましたので、四条(b)項については、立案者であるアメリカの解釈を求めたわけで、その四条(b)項についての立案者のアメリカの解釈が、先ほどお読み上げになりましたいわゆるアメリカ側の覚書でございます。日韓両国ともこれによってその後の請求権交渉をやることになっておるわけでございますから、その点については、これは一致しておるわけでございます。そのアメリカ当局の解釈でございますが、これは、四条(b)項に関する限りは日本に請求権なしという解釈でございまして、その点がちょっと先生、誤解がおありじゃないかと思う点でございまして、要するに、(b)項に関する限り、三十三号に関する限り、日本側にはもう財産そのものの請求権もないし、財産に変形した金銭的請求権もない、そういうことでございまして、そういう事実は、しかし日韓両国の請求権交渉においては考慮せらるべきである、ある程度韓国側の請求もそれによって満たされているであろうから、そういうことがあった事実は考慮すべきであるというのが、アメリカ側の解釈でございまして、その解釈に基づいて交渉しておるわけであります。
 それで、昭和三十二年十二月三十一日のいわゆる覚書でございますが、これは先ほど条約局長からもお答えいたしたと思いますが、日本側が主張を放棄してありましたことは、請求権を放棄したわけではないのでありまして、請求権ありとした主張、いわゆる四条(b)項の解釈に関する主張をもう言わないということでありまして、四条(b)項の解釈について議論のあった点、それをいわゆる立案者であるアメリカ側の解釈に従って、四条(b)項は、すでに平和条約のときにおいて日本側に請求権なしという解釈でございますから、その解釈に従う、従って、日韓の交渉において久保田全権等が発言した請求権ありという主張は撤回する、そういう意味でございまして、請求権を放棄したわけではございません。その点、一つ誤解のないようにお願いしたいと思います。

○春日委員 これは、まあ申し上げておきますが、求めもしないところの答弁で僕の貴重な時間を蚕食した、この事実関係は認めてもらわねばならぬ。(笑声)だから、私は、私の質問時間を大体三十分延長願います。(笑声)
 そこで、今の(b)項について請求権のないということは、(b)項において請求権のあらざることは、私もこれは認めておる。ところが(a)項においては、請求権を基礎とするところの諸問題は、これは(a)項において、当事国の取りきめとして認められておる以上は、やはり日本の請求権がありとみなすのが、これは事実関係として――事実関係としてということは、この末尾の方に、口上書の中に書いてありますが、要約して言うならば、韓国の請求するものに相当するものは、すでに取得していることをあわせ考えてとりきめるべきだ、こういうことが(a)項に書いてあるんですね。あわせ考えて処理すべきだ、要するに、韓国が日本に請求するに相当するものは、すでに三十三号軍令によって韓国が取得しておるのだ、そのことを有権的に、最終的に処理がされてしまうまでは、それは生きておるのですよ。要するに、所属がえがされたものに対する潜在主権といいますか、潜在財産権というものが含まれておる。だから、そのことについて言及するならば、それは請求権の形になって表明せられる以外にないのだ。それは君は法律家であって、こういう人情の機微はわからぬかもしれね。(笑声)わずかこれは二時間ですから、この問題は重要な問題でありますから、日本国の立場において政府も十分研究願いたい。それから国会も、他の委員会その他において、これはやはり厳粛に深耕細打した形で問題の帰趨を確かめていただく必要がある。アメリカとの間にも、なおこの不明確な文言についてはいろいろと応酬があってしかるべきだと思う。どうかそういう意味で、この請求権ありという立場で交渉していく。そこから発展して、いろいろな論理の飛躍があったって、条件の飛躍があったって、譲歩があったって、それは差しつかえない。問題を妥結せしむることが目的であるから、その最終目的に到達するために、手段方法がどのような変化を見せようとも、これは問うところではありません。けれども、それは国民が納得し得る形態のものであるということが前提になるが、しかし、そういう立場に立って、日本に請求権はないのだと、われわれは(a)項だけで拘束する、不利な条件だけわれわれはとって、有利な条件は放棄するのだ、そんなばかげた日本国政府というものはあり得るものではない。池田総理はそのような見解をお持ちになると思わぬが、あとから妙な悪知恵を買うから、はからずもその判断をあやまたれておることをまことに遺憾とする。御同情申し上げる。話を先に進めます。
 そこで問題は、南北朝鮮が統一をいたしました場合、あるいは南北朝鮮が決定的に分裂をいたしまして二つの国家となった場合、北朝鮮に対する日本側の請求権はどうなりますか。具体的にこの点を伺いましょう。

○池田国務大臣 そういう問題は、初めから起こればはっきりすると思うのでございますが、(a)項、(b)項とは関連して考えるべきものであるという点につきましては同じでございます。しこうして、この(b)項は、軍令第三十三号による処置に対するものでございますから、軍令は三十八度以南にしか適用になりません。従いまして、三十八度以北につきましては軍令がありませんから、今、日本と朝鮮との間におきましては、請求権は厳然として残っておると解釈しております。

○春日委員 まず、部分的に明確にはなりました。けれども、今の答弁の中で、なおかつ未練たらしく韓国に対してその権利放棄の言辞を弄しておられますが、これは遺憾なんですよ。三十三号と(a)項、(b)項の関係で、アメリカさんは、日本よがんばれ、あなたの方の請求権はあるんですよと、ここに言っておるのに、ああだ、こうだと詭弁を弄されておるということは、これは適当ではない。けれども、それは後日論ずることといたしまして、とにかく北鮮に対しては明確に請求権ありと、こういう工合に立場をとられるのでありますね。――よろしい。
 そこで、今度は逆に、後日北鮮政府より、今回韓国政府が自発的に日本に発したような請求権問題を内容とするところの支払い請求、これが提起されました場合、政府は北鮮当局との間においてどういうような方針で解決をするのであるか、これを一つ、その方針を述べておいていただきたい。

○池田国務大臣 日本国は北鮮を承認いたしておりません。従いまして、今後北鮮がどうなるか、国家形態がどうなるかということが前提でございまして、今その国家形態をなしていない、承認していないときに、どういう交渉をするということは、少し早過ぎると思います。

○春日委員 その答弁は適切ではございません。ということは、今この世界に共通する外交の基本的理念というものは平和共存である。従いまして、われわれは政治体制の相異なる国々とも、これは外交関係を樹立しているんですね。たとえば、ソ連との間に戦争状態終結宣言、国交は回復いたしております。それから中共を承認するということも、これはもはや時間の問題であるとされております。従いまして、こういうような国際的政治背景の中においては、当面中共承認の問題は国際政治の日程に上っていないといたしましても、これはしょせんは日程に上らざるを得ない問題である。そういうような立場と、もう一つは、世界の平和と、それから違った政治体制の国々とも友好親善を深めていくというこのことは、各国政治家に課せられておるところの至上命令である。従いまして、北鮮との間にも、現段階においては経済、文化の交流にとどまっておって、何ら外交的な問題が今政治的に論じられてはいないといたしましても、このような、いわゆる大平君の言をもってすれば、大所高所論からいたしますれば、しょせんは問題は解決をせなければならない問題であり、そのことは、次第に僕は日程が迫っておると思うのですね。従いまして、この際、韓国との間にこの問題を解決するときに、北鮮がこういう要求をしてきた場合においては日本はこうするのだ、これは厳然たる態度で、法律に基づいて、また国際法規に基づいて、また日本国の自主的な判断の上に立ってかくかくするのだ、こういうことも日本国民に向かって、また北鮮に向かって、関係諸国に向かって宣言しておくということは、有益なことであり、必要欠くべからざることであると思うが、どうか。

○池田国務大臣 ただいまそういうことをすることは有益でない、有害であると思います。私は朝鮮の統一を最も望むものであります。
 韓国は国際的に認められた国でございます。しこうして、その韓国民の悲願である統一ということに賛成しておる私が、いかにも二つの朝鮮があるがごとく取り扱うということは、私は、今のところは有益でなしに、有害と考えておりますから、申し上げないのであります。

○春日委員 それはヒットのごとくであって、実はヒットではない。問題というものは、抽象的、観念的であってはならぬ。あなたがいつも言っておられるように、具体的事実、現状に即して物事の処理が進められて参らなければ相なりません。
 そこで、北鮮政府がこの間声明を発表いたしております。北鮮民主主義人民共和国声明、日韓会談に対する声明がなされ、日本政府に対する意思表示がなされております。これによりますると、北朝鮮政府は、対日賠償権についてこういうことを言っております。それは、日本の朝鮮合邦、これによる損害に対する賠償要求がずっとうたわれておる。だから私は、この際、政府の見解、私が伺いたいのは、そういう抽象的な問題ではないのです。北鮮が今、日本に発しておるところの賠償請求というものに対して、日本はこれを何と理解しておるのか、賠償請求権というようなものが一体あると思うのか、ないと思うのか、それともまた、北朝鮮の請求権は、いわゆる法律的根拠、たとえば徴用でありまするとか、貯金でありまするとか云々という、そういうものに限られておると思うのか、あるいはまたここにうたわれておるような、いろいろの賠償というような意味合いを加味したところの多くの請求権が、北鮮に存在しておると思っておるのかどうか、そのことを伺って偽るのです。この機会に政府の見解を明らかにしておかれることが必要であろうと思います。

○池田国務大臣 それは平和条約第四条の(a)項によりまして、双方請求権があると私は考えております。

○春日委員 賠償責任はどうでありますか、ここに言っておる賠償責任。

○池田国務大臣 いわゆる賠償、レパレーションの責任は、韓国、朝鮮に向かってはないと私は確信しております。

○春日委員 そこで、政府が今回韓国に対して、無償供与三億ドル、有償供与二億ドル、この借款によって、いわゆる広義の請求権、要するに朝鮮としての請求権、これが解決したと考えるのか。しこうして、その解決の効力の及ぶ範囲、これはどこどこまでとされておるのか。日韓両国政府が共通の理解を持っておると思うが、その理解されておるところをこの際明らかに示されたい。

○池田国務大臣 韓国と日本との交渉で、それが妥結すれば、平和条約第四条の請求権はこれで解決するのであります。日本と韓国とはそれですっきりしたことになると私は考えております。

○春日委員 そういたしますと、ここでただしておきたいことは、外務省当局の法律根拠に基づく対日請求権六千万ドル、最高の場合といえども六千万ドルといわれておる。それが無償供与によって三億ドルに飛躍いたしております。だから、今、総理が答弁をされましたが、請求権問題は解決を見たと理解すると言われておりますが、その三億ドルと二億ドルの解決の効力の及ぶ範囲というものは、南北朝鮮に及ぶものであるか、韓国だけに限るものであるのか、このことを明らかにしておいていただきたい。

○池田国務大臣 六千万ドルとか七千万ドルということは、有権的なものでもなんでもございませんことは、たびたび申し上げておる通りであります。しこうして、今度の正常化の交渉は、韓国と日本との間に限っております。ほかには及びません。

○春日委員 ちょっと問題がややこしくなると思うのでありますが、有権的効力がないとはいいながら、とにもかくにも伝えられておる外務省の一応の資料に基づく六千万ドル、これが三億ドルに飛躍しておるということは、これを一、個の賠償的性格をも含めたところの請求権問題の解決、こういう工合に韓国は理解しておると思うのですね。そこで、北鮮との間は、法律的根拠に基づくものということになるわけでありますから、そうすると、北鮮に残存するところの請求権というものは、たとえばこれに見合うものは、韓国の場合の六千万ドルに該当するもの――六千万ドルか、五千万ドルか、二千万ドルか、それは後日数字が有権的に固められるといたしまして、その六千万ドルのものが三億ドルによって解決をされるということは、韓国の理解は、これは請求権を含む、要するに、賠償を含むところの請求権問題というような工合に理解されておる。大卒外務大臣は、いわゆるお祝い金を含むところの請求権問題、こういう工合に理解しておると思う。あとでその点は明らかにします。そういうわけでありますから、従って、後日北鮮との間に問題が処理されるような場合、北鮮にあるところの法律的根拠に基づくところの請求権なるものは、今回韓国においてなされたがごとく、すなわち、六千万ドルが相当に膨張飛躍したがごとくに、北鮮においても膨張飛躍するというようなことがあり得るのかどうか、それともまた、韓国に今回渡すところの三億ドルによって、韓国政府の責任において、すなわち、賠償を含むというような理解の上において、あるいは理解されていないが、暗にそういうような考え方の中において処理されておるとするならば、その三億ドルの中で北鮮問題も向こうで話し合ってくれということになるのか。韓国において法律根拠に基づくものが、相当法律根拠に基づかぬ膨張をしたから、北鮮の場合も法律根拠に基づくものがここに現存しておる、それが交渉のときには、やはり機会均等の原則によって相当に膨張することがあり得るのかどうか、このことをちょっと外務大臣から……。

○大平国務大臣 先日、木原委員の御質疑に対しましてお答え申し上げました通り、請求権という問題は、法律的な前提、事実関係の基礎、この前提のとりょうによって、いかようにも無限の答えが出し得るものであるということでございまして、木原さんが七千万ドルと言われ、春日さんが六千万ドルと言われた数字は、先ほど総理が申し上げました通り、政府の見解としてそういうことをきめたものではないのです。その点、誤解のないようにお願いいたしたいと思います。
 それから、春日さんの根本の観念について私は申し上げたいのでございますが、請求権の問題と経済協力の問題は、全然別個の問題であるということでございまして、これは関連がないわけでございます。無償協力の中にどれだけの請求権が含まれておるかというようなことではなくて、無償協力はあくまでも経済協力でございまして、請求権とは関係がないわけでございます。そのうちに幾分請求権を含んでおるという性質のものではございません。私が申し上げておりますのは、経済協力をやりますということをきめますと、その結果として、請求権は主張しない、なくなるのだという、随伴的な結果が生ずるんだということを申し上げておるわけでございまして、これは全然別個の観念であるという点に立脚されて御検討をいただきたいと思います。

○春日委員 今の問題は重大だと思うのですよ。条約の解釈を締約国において一致しておくということは必要なことである。まちまちの希望的な解釈を許しておくということは、この間のタイ特別円処理の協定において、総理がどんぶり勘定で九十六億円つまみ金で出してしまったというような結果になってくるおそれなしとはしない。だからこの問題は、大平外務大臣がこの無償供与なる文言の意義について今述べられた、それはあくまで経済協力だと言っておられるが、先方もそういうふうに受け取っておるのでありますか。問題はそこなんですね。われわれが研究いたしております範囲内でありますと、たとえば大平外務大臣の言う無償供与の文言の意味はお祝い金ということで、請求権をもすべて包含するという、そういう中身を含んだ無償供与である。ところが韓国側の理解は賠償を加味した請求権、賠償プラス法律根拠に基づく請求、そういうものを加味して、そうしてその名前を、ここに無償供与という共通の名称を用いておる、こういう工合に伝えられておる。従いまして、私は、今外相が述べられたように、この無償供与という文言の意味というもの、その中身の理解というものは、今言われたように、もう何もかも請求権なしにしちゃおう、純粋の経済協力だ、向こうも全然何も言わないと、そのことは将来北鮮との関係、いろいろと波及する問題、根になって残る問題があると思うので、この点は解釈の意義を有確にしておく必要があると思う。日本はこういうふうに思っておるが、君の方はそういうふうに思っておれというようなことでは、北鮮がその有利な思い方を思うに至るであろうことが予測される。それは統一解釈は明確になっておりますか。
○大平国務大臣 有償、無償の経済協力を供与するということの結果といたしまして、請求権の問題は一切解決するということにしようということにつきましては、先方も大体了承いたしております。

○春日委員 請求権の中には――無償供与というような言葉は、これはあなたがっくり出した言葉であって、ほかにベトナムでありますか、ラオスでありますか、そういうものは、無償経済協力というのはありますけれども、無償供与というようなものは今までありますか。いかがです。

○大平国務大臣 経済協力でございまして、それに応じて信用を供与するとかいう用語はございますけれども、用語上の問題でございまして、私が申し上げておりますのは、純然たる経済協力をいたすのである、その結果としてやっかいな請求権の問題は片づくということに双方確認し合おうじゃないかということでございます。

○春日委員 それならばどうして無償経済協力としないのですか。外交上いろいろな文言が使用されておるけれども、無償経済協力なら無償経済協力、無償供与というような新しい言葉をここにつくり出さなければならないについては、それだけの理由がなければならぬ。そうでしょう。理由がなければ今までの慣例を踏襲されて無償経済協力とされたらどうです。

○大平国務大臣 無償経済協力といたしております。

○春日委員 無償供与という文言は今後訂正されますか。

○大平国務大臣 それは俗語でありまして、私どもが責任を負う言葉じゃございません。

○春日委員 俗語と言われるが、金鍾泌との間の交換文書の中に無償経済協力になっておるか、無償供与になっておるか、事実関係はいかに。

○大平国務大臣 私と金氏との間に合意文書はございません。

○春日委員 メモランダムを交換しておる事実があると思うが、そのときに無償供与になっておるか、無償経済協力になっておるか。その記述はいかなる文言が使用されておるか、これを伺っておきます。

○大平国務大臣 メモランダムを交換した覚えもございません。

○春日委員 じゃ書きつけ。

○大平国務大臣 私どもの話し合いを先方がどのようにメモをとりましたか、私は存じません。

○春日委員 そのメモの中にいかにメモられておるか、そのメモの中にどういう文字でメモられておるか。

○大平国務大臣 それは私は存じておりません。先方がどのようにメモをとられたか存じません。

○春日委員 善良な大平君がそういう老獪な答弁をされてはまことに遺憾ですね。とにかく無償経済協力という文言は一ぺんも新聞に載っておりませんよ。無償供与なんですね、ただでやるということなんだ。経済協力ならばいろいろな方法論とか、またポリシー、いろんなものがあると思うのです。無償供与ということはただでやるということなんだ。無償経済協力というものはそれぞれ協力協定というものがいろいろあるのですよ。ビルマの場合だってあるし、ラオス、カンボジア、そういうところでもみんなその条約を執行するに伴うところの合議やいろんなものがあると思うのだ。変わってくるのですね。あなたは同じものだと言うけれども、それは違ってくるのだな。

○大平国務大臣 予備折衝におきまして請求権の大筋の話し合いをいたしまして確認し合った文書には、経済協力となっております。御心配のないようになっております。

○春日委員 それでは無償供与というのは新聞の報道の間違いか。

○大平国務大臣 新聞に一々どのように用語が使われておりましたか、私はつまびらかにいたしませんけれども、今春日委員が御心配になるようなことはございません。経済協力というふうにいたしております。

○春日委員 それは無償経済協力であって、無償供与ではない。これは明確になりました。よろしい。
 次は、この問題を明らかにしておく必要があると思います。そこで、四条(a)項では、「日本国及びその国民に対するこれらの当局及び住民の請求権の処理」こうありますね。従いまして韓国民の請求権に対する処理はどうなるか。韓国国民の対日請求権の処理はどうなるか。韓国国民に対して、韓国政府はこれらの請求権を責任を持って全的に解決すべき義務があると思う。この点について韓国側の態度は打診してあるか。そうでないと、韓国の債権者は納得しないと思うのですね。韓国国民にして対日請求権を有する者のその対日請求権は、韓国が日本政府から取得をしたところの、今まで無償供与といっておりましたが、今度は無償経済協力ですね、その三億ドルを原資として、これによって韓国国民の財産、これを日本国政府にかわって代位弁済することになるのであるかどうか。その辺は日本は、一応国際法上債務者である。すなわち、国際法においても、あらゆる場合に私有財産不可侵の原則、没収することはできない。債権債務は外国人でも払わなければならぬですね。だから韓国国民が日本国人に対して、あるいは日本国政府に対して、請求権があると思うのだ。そういうものは今度三億ドルの無償経済協力なるものを財源として、原資として韓国政府が日本国政府にかわって代位弁済するものであるのかどうか。日本は債務者として重大な責任があるので、日韓両国において話し合いされておる、すなわち取りきめられているその内容を、われわれは債務者として、この際、この点を明らかにしておく必要があると思う、どうです。

○大平国務大臣 先ほど申しましたように、有償無償の経済協力をいたします随伴的な結果として、幸いに平和条約第四条上の一切の問題が解決する。問題を残した解決はあり得ないので、すべての問題、一切の請求権の問題が最終的に解決するというようにいたしたいと考えているわけでございまして、そうなりましたら、日本政府として、国際法上今言われたような請求に応ずる義務がありません。韓国と韓国民の問題は韓国政府の問題でございまして、私どもが関知するところじゃございません。

○春日委員 とにかく国際司法裁判所なりなんなり、請求権というものは、その国内ばかりでなしに世界じゅうに及ぶものですよ。地球の上あまねく及ぶものである。だから韓国国民が対日請求権を持っておるとすれば、それは韓国内で処理すると言ってはおれない。それは免責の事項にならない。向こうが裁判を提起してくれば、裁判所が支払いの義務ありと判決すれば、払わなければならぬ。それだから、今回の日韓交渉において韓国国民の対日請求権、こういうものは無償経済協力というものがそういう一切のものを含んでおると仮定いたしましても、またそういう工合に理解いたしましても、やはりそれは韓国政府が日本国もしくは日本人にかわって代位弁済をするものであって、そういうことの取りきめというものを明確になされておかないと、日本国は債務者であるという立場において、すなわち四条(b)項においてそれが放棄されておるのですね。そういう意味において、ここに残るものが債務である。そうすると債務者の責任を果たす上において、やはり今度これだけのものを払うから、この中で君の方でうまく処理をせよ、こういう保障が取りつけられておく必要があると思いますが、この点いかがでありますか。

○大平国務大臣 先ほど私が御答弁申し上げた通りでございますが、問題がそのようにあとに残ることは解決にならぬわけでありますから、今春日さんがおっしゃったような御心配のないように処理するつもりです。

○春日委員 伺います。政府は、この政府の責任において、その米軍政庁命令三十三号を受諾をいたしました。総理は国際法違反である、これは許しがたきことであると言われましたけれども、四条の(b)項において余儀なくこれを受諾し承認をいたしました。これは政府の意思によって受諾をしたのでございます。従いまして、政府はこれに対する補償を行なわなければならぬと思います。少なくとも在韓財産は、ここに(b)項によって最終的に放棄されたものである。これについて、やっぱり政府に対策がなければならぬと思います。申し上げるまでもございませんけれども、イタリアにおいて、この在外資産の補償については立法例がございます。十分御調査にはなっておると思いますが、イタリアは一九四七年二月十日、パリにおいて調印された連合国との平和条約第七十四条の中で「イタリア国政府は、この条に基づいて賠償目的のために財産が取り上げられる一切の自然人または法人に対し補償を与えることを約束する。」ということになって、そして七十九条の中の「イタリア国政府は、イタリア国民であって、この条に基づいて財産が取り上げられ、しかも返還を受けない者に対し補償することを約束する。」この約束に基づいて、イタリア政府は一九五四年十月、在外財産補償法を公布いたしまして、在外資産に対する補償を定めておる。こういうような略奪徴発関係のものばかりでなしに、これとの均衡においてイタリアは平和条約の規定にないそういうものに対してもやはり一カ条法律をつくって、この補償の責任を果たしております。平和条約の規定に関係のない一般の戦争損害に対する補償については、一九五三年の戦争損害法、この戦時損害法によりまして、イタリア国民に対し、戦争に関連した財産の損害に対して補償金を支給することを規定しておる。外国においてこうむった損害に対してもまた同然である、こういう国際慣例がございます。日本国政府は、私は、おとといの外相答弁を伺っておりますと、日本政府の意思に基づいて放棄したものではない、だから補償責任はないと言われておる。けれども、サンフランシスコ講和条約というものは、日本国政府の意思に基づいて吉田茂全権大使が調印し、日本国の意思に基づいてこれを批准したものである。だから、イタリアで補償したように日本も補償しなければならぬと思うが、この点に対する政府の方針はいかがでありますか。

○大平国務大臣 米軍の没収という事実がございまして、これは日本政府の意思に基づいてやったものではない。従って、日本政府としては補償する立場にはないのだということをこの間申し上げたわけでございます。しかし、朝鮮等におきまして粒々辛苦の末財産を持たれ、営業権を持たれた方々がこれを失われたということは、政府として無関心であり得ないわけでございまして、そういう方々の立場も考えまして、先年、御案内のように、引揚者給付金等支給法なるものをつくりまして、可能な限りの措置をいたしたわけでございます。問題は、この大戦争によりましての戦後補償ということを考えることは観念上できるわけでございますけれども、国民の一人々々が何らかの形におきまして政府に対して求償的な立場にあると思うのでございまして、こういう問題をどう処理するかは非常に高度の政治の問題でございまして、ただいままで引揚者に対しましてはそのような措置が講ぜられておるということでございます。

○春日委員 困難であろうとも、実情がどうであろうとも、そういう判断は、これはやはり憲法二十九条三項でございますか、とにかくその観点において評価、判断、決定されるべき問題であって、何もそれを議題に供しないで、補償すべきものではないと答弁することは適当ではないと思う。イタリアにおいてもこういう事実がある。それから今おっしゃった引揚者給付金等支給法でございますか、こういうような法の立て方と、その在韓財産を補償するかどうか、第四条(b)項に基づいて、日本国政府が自発的意思に基づいてこれを調印をし、国会がこの条約を批准したのであるから、日本国の意思としてこれを放棄したのであるから、また、日本国自体としてこれを放棄したのであるから、憲法は、補償を受けることなくして財産を没収されることはないというこの保障に基づいて、基本的人権の立場において、これは当然措置されてしかるべき問題である。措置する過程において日本の財源問題です。たとえばこれは地主さんに二千億もやらなければならぬから一つ君の方は泣いてくれというようなことに対する善悪の判断、政策の選択、それは国会みずからが民主的な手続で行なうべきものであって、そういうような選択の機会を与えることなくして、かくのごときものは補償するにあらずと断定的に問題を殺してしまうことは、適当ではないと思うのですが、総理の所見はどうでありますか。

○池田国務大臣 イタリアの例をお出しになったようでございますが、イタリアは平和条約でその補償の義務を規定しておるのであります。日本はそういう規定をしておりません。そうして憲法の解釈といたしましては、日本政府が没収したのではない、アメリカ政府が没収したのでございまして、政府には一応責任がないという考え方でおります。なお、これは在韓の財産ばかりではなしに、連合国における財産はみなそういうふうに今までなっておるのであります。私は今までの政府の解釈で進んでいきたいと考えております。

○春日委員 これは明らかに今お説のように、アメリカがやったんだからアメリカに責任がある。だとすれば、責任者のアメリカに対して要求すべきであるが、四条(b)項によってこれを承認したから、従って、日本国政府においてこの責任を持たざるを得ない、これは論理が明確でございます。現に明確であるがゆえに、イタリアにおいてその処理がなされておる。だから、それを日本がしないということは適当ではないと思うが、この問題は他の委員会においてさらに検討を進めていただくことにいたしたいと思います。
 時間がだんだんと迫って参りましたので、次に二、三の重要な問題だけを伺いますが、これはどうなっておりますか。李承晩ラインを侵したということで不当に抑留されております日本の漁船、それから漁船員、それから起こるところの損害、ここに算出されておるものを見ますと、総計九十億円余に上っておると思います。日韓交渉においてこれが補償についてはどういう扱いがされておりますか、伺います。

○大平国務大臣 これはこの間も明らかにいたしましたように、請求権の問題と別個でございまして、終戦後起こった事態でございます。この問題は日韓の漁業交渉の一環として処理したいという心組みでおるわけでございます。

○春日委員 日韓漁業交渉のときにその不当に拿捕された船舶、船員、そういう生命、財産に与えられた損害について日本が賠償請求を行なうことができる、その機会は留保されておるのでございますね。

○大平国務大臣 今申し上げました通り、漁業交渉の一環として処理したいと思っています。

○春日委員 総理に伺います。この日韓交渉は、請求権問題は交渉内容の一部分であって、そうして竹島の領土問題、それから李ラインの問題、韓国人の日本国における法的地位の問題、こういうような問題を同時に解決をするという大方針が、本会議において明らかにされております。そこで心配なことは、この領土問題と李ラインの問題、あるいは国防ラインの問題でございますが、これはほんとうにその同時解決ができるという確たる見通しを政府は持ち得るのでございますか。たとえば竹島の領土問題にいたしましても、これは第三国の調停にゆだねるにしろ、あるいは国際司法裁判所の判決に待つにいたしましても、これは問題を後日にたな上げする形に事実上なってしまうのではないでございましょうか。漁業問題にしても、こういうような方針で後日交渉するのだというのだけれども、さて実際問題といたしまして、本日の新聞報道によっても、相手方に譲歩するところがない、きわめて難航が予想されておる。こういう問題は、いわゆる未解決の解決であってはならぬと思うのです。こういう仕方で解決しようという方法だけ妥決して、これをもって一括解決とみなすというようなことであってはならぬと思うのです。だから実質的、本質的解決、領土問題はこれこれ、国防ラインについてはこれこれ、もう明確にこれを具体的に実質的に解決をして、これを全的解決とみなすのであるか。この点は重大な内容を含んでおると思いますので、明らかにしておいていただきたい。

○大平国務大臣 一切の懸案につきまして問題を残すことがないようにいたさなければならぬと思います。そうしないと、せっかくの正常化の実をあげ得ないわけでございますので、非常に困難な問題ではございますけれども、鋭意努力いたしておるところでございます。

○春日委員 私は、この領土問題なんかについて、特に総理に注意を喚起いたしたいことは、たとえば国際司法裁判所に提訴する、向こうも応訴した、判決がおりた。その場合、かりに日本の領有であると決定された場合でも、あるいは韓国の領有であると、その最終的帰属が明確になった場合、やはり不利な判決を受けたものに対しては、その国民に相当のショックがあると思うのです。ばかなことはないといってわあわあ騒ぐ場合がないとは言えない。だから、そういうような場合、やはり一括解決ということで三億ドル出した、二億ドルも出した。出しておいて、問題がその時点において発火して、そうして日韓両国の間において国民感情を刺激し合って、そこに両国の友好親善を阻害するようなことがあってはならぬと思うのです。もしそんなことがあったら、やらずのぶったくりにあったようなものです。そういう意味で、私は、そういう問題の推移を相当見通しを立てて、冒頭に、そういうような場合においての取りきめをきちっとしておいて、禍恨を将来に植えることのないように解決をはかっておかなけなればならぬと思うが、それに対する心がまえはどういうものでありますか。

○池田国務大臣 竹島が日本のものであるとわれわれは主張し、そういうふうにすぐ解決すればよろしゅうございますが、しかし、国際司法裁判所に提訴しようと両者が合意すれば、これは私はそれで解決と見て差しつかえないのじゃないかと思います。ただ問題が、国際司法裁判所の決定が日本に不利であった、あるいは韓国に不利であったということでとやこういう問題は起こらないようにしなければならぬ。それは心がまえの問題で、お話しの通り、最近のカンボジアとタイの間の寺院の帰属の問題等がありますが、それは、両国民がやはりそういうように決定したら、それに従うという良識を持たなければいかぬと考えます。

○春日委員 次はビルマ賠償の増額問題について疑義をただしたいと思います。このビルマ賠償の再検討条項、これに基づいて今回日緬当局の間に合意されたと理解してよろしいか。この点伺います。

○大平国務大臣 さようでございます。

○春日委員 そういたしますると、本日までにおきまするこの再検討条項に対する国会審議の経過をたどってみますると、フィリピン賠償の審議における質疑応答、これは穂積委員と一萬田蔵相との間にかわされております。再検討条項を誘発するおそれはないかと、こういう質問に対して一萬田蔵相、すでにきまったビルマ賠償に影響はないか、この点につきましても十分考慮いたしまして、あの条件では私の考えでは、ビルマの方が特にまた新しく要求してくることはないと考えておる、こういう答弁。穂積委員が、フィリピン協定をやる前後に、ビルマがこの五条(a)三号を援用して増額を要求してこないという見通しを立てられるなら、あなたはそういうことを立証するだけの根拠がなければならぬ、どういう具体的な根拠に基づいてその答弁をなすか。一萬田蔵相の答弁は、これは今それを答弁したわけであって、フィリピンに対して五億五千万ドル、ビルマに対して二億ドルということは、それぞれの国に対する日本の賠償額として最も適当である、言いかえれば、また同時に両国の関係においてもバランスがとれておる、均衡がとれておる、だからそういうような五条(a)の三号誘発のおそれなしと断定的に答弁をここでいたしておる。そういうような同様のあれがございまして、次はインドネシア賠償の審議における質疑応答、これは須磨委員と藤山外相との間のあれでございます。須磨委員は、たとえばビルマにいわゆるエスカレーター条項と称せられるものがあるが、そういうものにかんがみて何かまた問題を起こしてくるということになるならば、これはひとりわれわれビルマとの関係のみならず、一般の友好関係を広めるための協定の目的が阻害される、見通しはどうか。藤山外相の答弁は、ただいまお話がありましたビルマとの賠償協定につきましては、再検討条項がついておることは事実であるが、この問題の進展にあたりまして、今日までビルマ側からその問題について何らの意思表示も、あるいは日本政府の意図を尋ねたこともなかった。われわれとしては二億二千三百八万ドルという金額は、ビルマ及びフィリピンとの賠償金額の関連においても適当なものであると確信する、後日問題を起こす心配はない。松本七郎君も同じようなことを尋ねておりまして、藤山外相、その心配はない、再検討条項を誘発するおそれはない。こういう工合に断定的な答弁がなされております。それと今回のビルマに対して一億四千万ドルの供与、これをなされたことは一体どういう関係になりますか、御答弁願います。

○大平国務大臣 ビルマとの間に現行協定によりまして再検討条項があることは御案内の通りでございまして、その条項によりましてビルマ政府側から要請がございまして、日緬関係の将来を考えまして、わが国の財政が耐え得る限度内におきまして有償・無償の経済協力に応ずるということにいたしたのでございます。その結果、ビルマ側は、将来にわたって再検討条項は持ち出さない、こういう約束をすることになったわけです。

○春日委員 私は国会における答弁というものはこれは重大だと思う。民主政治は言動政治であり、その言動の責任というものは、これは最高度に責任をとっていただかなければ何にもならぬと思うのです。政治家の言動、わけて国務大臣、国会議員の言動というものは、これは問題の事柄を形成していく根源になるのです。ああは言っておいたけれどもこう違ったんだというように、でたらめになれば、これは漫才や落語とちっとも変わらない、実際の話が。だから私は、ここで特に総理の注意を喚起したいことは、鳩山内閣あるいは岸内閣、これは何といっても同一の政党の内閣なんですね。だから池田総理大臣は、自民党の総裁として、やはり自民党というものに対して最高の責任をになわれておる。岸内閣において、鳩山内閣において、それぞれの外務大臣が見通しを誤ったのです。そのときの便宜的な答弁を行なうことによって国会審議を誤らしめた。その結果、今日日本国民に対して、一億四千万ドルといえばかれこれ五百億円でありますが、こんな大きな新しい負債を支払う義務を発生せしめたことについて私は責任が重いと思う。この際国民に向かって、かつは国会審議を誤らしめたその責任について、この際ほんとうにすなおに陳謝なさいませんか。

○池田国務大臣 当時の日本政府といたしましては、再検討条項がございましても、ビルマはそれを要求してこないだろうという見通しで答えたと思います。従いまして、その後においてこういうことになったということは、見通しを誤ったということを言わざるを得ません。私はここに国民に対して、見通しを当時誤ったということをおわびいたしたいと思います。

○春日委員 すなおにあやまられてしまっては二の句が継げない。まことに傲岸不屈なところとまことにすなおなところと、善悪二要素から成り立っておって、捕捉するところまことに困難。(笑声)
 そこで外務大臣に伺いまするが、この二十五日の覚書では、一億四千万ドルは無償の経済協力となっておりますね。賠償の増額分としないで、なぜ無償の経済協力とやったのですか。あなたはときどき新しいやり方を編み出すので、われわれとしてはずっと経過的に審議しておって、波長が乱されてきて困るのです。五条(a)三号に基づいて誘発したところのこれが賠償の増額であるならば、賠償の増額となぜ書かないのです。無償の経済協力なんという新造語を使われてはちょっと困るのですが、しかし、何かしかるべき事由があるなら述べていただきたい。

○大平国務大臣 五条(a)三号の再検討条項の問題が、無償・有償の経済協力をやることによりまして将来に向かって主張しないということになるわけでございまして、この問題を片づける方法としては、春日さんのおっしゃるように、端的に賠償増額という方法もございましょうし、また経済協力によって、その結果としてこれがなくなるという方法もあり得ると思うのでございまして、日緬関係悠久の将来の経済協力という観点に立ちまして、私どもは後者である方が適当であると考えて、そういう方法によったわけであります。

○春日委員 無償の経済協力ということは、今までのこういう賠償協定の中には、ラオスとカンボジアの場合にはその前例がありますけれども、それは相手国が日本に対する賠償請求を放棄したことに対する報いとして、そういう無償経済協力、こういう文言が使われた。このエスカレーター条項に基づくところのビルマの要求は、これは明らかに賠償分の増額であるから、これは賠償分の増額であるとしないと、私は後日やはり禍根を植えていくことになると思うのです。やはり協定はあなたが調印なすったようだけれども、正式な条約の作成というものは今後にあると思うが、これはすべからく賠償分の増額という文言に立ちかえるべきであると思うがいかがでありますか。

○大平国務大臣 そういう方法で悪いわけじゃございませんが、私どもがとりました方法によって問題が将来に残らないということでございまして、同一の効果を生ずるわけでございますので、御心配のようなことはないと思います。

○春日委員 心配がないと言われるが、心配は絶無ではないのです。ということは、私は、こういう問題を派生して判断をしておく必要があると思うのです。エスカレーター条項の五条(a)三号でございまするが、これはやはり最後の時に問題を処理する、こういうことになっております。すなわちビルマとの平和条約五条一の(a)の三号でございまするが、「日本国は、また、他のすべての賠償請求国に対する賠償の最終的解決の時に、その最終的解決の結果と賠償総額の負担に向けることができる日本国の経済力とに照らして、公正なかつ衡平な待遇に対するビルマ連邦の要求を再検討することに同意する。」とあるのです。この条項によって一億四千万ドルというものの増額が決定されたとするならば、この文言を行使しなければならぬと思うのです。文言を行使しないとどういうことになるかというと、私はこういうことが言い得ると思うのです。ビルマと日本国との間において、これが最終的解決の時であるかどうか、それを有権的に規定することになると思うのです。いいですか。第五条の(a)三号に基づいて賠償分を増額した。なぜか、もうどこもかも全部払ってしまって、払うところがない最終的段階であるがゆえに、条項に基づいてこれだけの増額要求に応じたということになれば、もうああいうふうに再検討条項において示されたごとく、賠償の支払いはこれでことごとく終了したのだという意思表示が、間接ではあるけれども、ここになされると思う。ところが、これが賠償の増額分でなくして無償の経済協力であるということであるならば、この条項はなお将来に生きていくのですよ。まだ請求することができるのです。それからまた第三国に対してもまた支払いの義務が絶無とは断じがたい。けれども、ここに条項の第五条に基づいて、もう最終的に払ってしまったのだ、もうあとには払わないのだ、だから日本国の経済力にかんがみてそれぞれの均衡上ここに一億四千万ドル支払うというのであるならば、これは将来に対していろいろ影響するところがある。たとえば台湾政府あるいは中共政府が後日要求してきたことがあるかないかわからないけれども、あったような場合、もうその話は済んでしまっておるのだ、現にビルマとの五条一の(a)の三号の中でこういうふうにやっちゃっておるのだ、もうこれでおしまいになっておるのだということも言い得ると思いますし、またビルマ政府がかわって、また難題をふっかけるようなことはないと思うけれども、法律の文言上その主張はなし得ることになっておる。その点大蔵大臣、あなたが財布の責任をしょせん背負わなければならないが、これはやはり賠償の増額分という文言を使うべきであると思うが、あなたの考えはどうか。あなたはなかなか良心的だから……。(笑声)

○田中国務大臣 お答えいたします。私の方は、日緬の間の問題が全部片づけばいいのでありまして、それ以上払おうなどという気は毛頭ありません。その意味で、外務大臣が答弁をしましたように、当然これが条文整理の段階においては、五条の条件は満たしたことであって、以後日緬間においては、これらの問題は起こらないということが確約せられると思いますので、表現は、外務大臣が今答弁した通りでよろしいという見解をとっております。

○春日委員 私は、物事は、やはりきちっと法律に基づいて、法律に従って適法に処理されなければいかぬ、後日はからざる問題をこれは常に起こしてくるのですよ。私は、この間のタイ特別円処理協定なんかもそうだと思うのですね。ややこしい文字を使ったがためにああいう問題が起きてきて、九十六億円支払いの義務を新しく発生したような前例もある。他山の石としなければならぬ。前轍を踏まざるの心がまえがなければならぬ。私は、こういう意味合いにおいて、ここに賠償の増額分であることに間違いない。五条の規定によって明確に文言で表示されておる。明示されておる事柄を、ことさらに無償の経済協力というややこしい文章を使うということは、日本のために不利である。すなわちとの条項に基づいて、その賠償をなされたこの時点において最終的処理をなしたんだ。だから、そのエスカレーター条項に基づいて増額したんだ、これでいいじゃありませんか。こうすべきじゃありませんか。総理大臣どうですね。

○池田国務大臣 御意見の点はわからぬことはございませんが、外務大臣が答えた方がよりいいやり方だと私は万般の事情をしんしゃくしまして結論にしたわけでございます。

○春日委員 それじゃ、また再来年くらい自民党の総裁から陳謝を取りつけることにいたしましょう。そういうことでございます。時間がございませんから外交問題その他いろいろありまするが、分科会に譲るといたしまして、今度は重要な問題だけ伺っておきたいと思います。
 経済問題。主として中小企業問題になると思いまするが、私はここで総理大臣に伺っておきたいのでありまするが、私どもが自民党政府の大企業偏向政策をいろいろと批判いたしまする場合、そのとき総理大臣並びに関係経済閣僚の答弁は、野党の諸君がそういうことを言うけれども、しかしこの自民党政府の歴年の施策の成果として日本の経済は成長したではないか、日本国民の生活水準はかくのごとくに高まっておるではないかと答弁されるのが、また反論されるのが通例でございます。私はこの際その国際的の事実関係を照らし合わせて、総理に判断を求めたいと思うのであります。
 これは経済企画庁の調査、一九六二年五月現在のものでありまするが、それによりますると、日本、米国、英国、フランス、西独、イタリー、ソ連、中共とありまするが、そこの中で各国の経済力の比較表、これは日本がそのとき十五億八千六百万ドル、今はずっとふえておるでありましょうが、そうである。このときに西独は六十億である、人口は九千四百万であるのに対して、西独は四千八百万、輸出能力は日本が四十二億ドルであったに対して、西独は百二十六億ドル、国民生活の水準は日本を一とするならば、西独は二・九、イギリスは三・四、アメリカは七・五、西独は約三で日本の三倍。それで国民一人当たりの所得は日本の十万七千五百十五円に対して、西独は三十三万二千六百四十円。これを一体総理は何と判断されておるかという問題でございます。
 御承知の通り、日本も西独も同じように第二次世界大戦における敗戦国、しかし違いまするところは、西独は戦場になりました。そして国土が二分割されました。そしてその敗戦のとき、占領しておったソ連軍が、西独にあったところの機械、設備を全部略奪して、ソ連国内に持ち去ったことは御承知の通り。これは満州における満州重工業関係のものを持ち去ったことと同様であります。その当時二百億ドル、満州関係八十億ドルと評価されたほどであります。それでありまするから、西独は丸裸になっちゃった、同じ敗戦国でも。そうして人口は二分されて四千八百万、国土は日本の五分の一。この西独が戦後十数年間西独国民の勤労の成果、それから西独政府のその施策のよろしきを得た結果といたしましてか、とにかく日本の半分の人口、五分の一の国土でもって日本の三倍の経済力、国民生活は三倍に高められ、保有外貨はかれこれ四倍近い、輸出能力は、やはりこれも三倍以上ということになりましょう。だといたしますると、その国民性も類似しておる、工業国として、勤勉国として非常に似通っておる西独において、こういうような大いなる繁栄がある。私は自民党内閣の歴年にわたるところの経済施策は、やはり功績は功績としてこれを認めるにやぶさかではない。けれども、西独のそれに比べてなおかつ劣るものが多くある。山谷のドヤ街に、釜ケ崎のドヤ街に、全国のそのような特殊スラム街に絶望者たちが数十万人おります。生活保護者が百四十何万人、そうしてボーダー・ラインにおって、今にも生活保護に転落しようという低所得階級が一千一百万人。このことは西独の勤労者の所得がうんと高まって、今や西独国における国民の中堅階層がその生活も地位も安定しておることとあわせ判断して、日本におきまするこれらの実態は非常なおくれがあると思う。だとすれば、このことは日本におけるあなた方の施策が何か足らないものがありはしないか。何か間違っておるものがありはしないか。西独、イタリー、こういうような敗戦国のその再建と経済成長、国民生活水準の向上とあわせ判断して、大まかな一つの反省というものがあってしかるべきであると思うが、いかがでありますか。

○池田国務大臣 外貨保有高につきましては、お話しのごとく各国いろいろな事情がございます。ただ、私が申し上げておることは、日本国民の努力によりまして非常に高度の成長を続けておるということであるのであります。もちろん過去の蓄積等は、これはもう西ヨーロッパに対しまして比較になりません。しかしただ、日本が非常な早い速度で伸びつつ行っている、またインフレその他の懸念もない、こういうことをわれわれは誇りとし、それを続けていこうとしておるのであります。もちろんイギリスのような国が、あれだけ過去の蓄積を持ちながら、成長力が非常に弱まっておるというふうなことから比べると、日本はこれから先進国に伍していける素質を持っておるということで、その素質を伸ばしていこうといたしておるのであります。

○春日委員 私がお伺いいたしました要旨は、まあ自民党さんも一生懸命やっていらっしゃる。しかしわれわれの観点からすれば、それは大企業偏向である。中小企業並びにそのもとに働く関係労働者あるいは農民その他の者に対する施策は非常に薄い。だからわが国の経済は二重構造になっておる。二重構造のひずみの中からいろいろなおくれや貧困を発生しておる、こういうふうに申し上げておるのでございまするが、それは他の機会に深く論ずることといたします。
 そこで私は総理にお伺いいたしたいことは、何といってもわが国の産業経済を分析いたしまするならば、それは経済学者も経済評論家も、相当の経済人も、これは二重構造であると言っている、ある者は多重構造だと言っている。これは要するに企業間、地域間、産業間に相当の断層があるといわれておる。このことは、労働大臣がお見えでございましょうけれども、昭和三十六年の企業別賃金格差対比率によりますると、大企業の賃金を一〇〇として、三十人未満の事業場における中小企業関係労働者の賃金は四九・三、これは三十六年度の通算でありまするから、三十七年度にこれは多少変わっておるといたしましても、実態にそんなに変化はない。同じ政府のもとにおいて、憲法のもと、法律施策の上において、国民は平等の原則が保障されておるが、同じ施策のもとにおいて生きる国民が、同じ国民が、ある者は一〇〇の賃金所得が保障せられ、ある者はその半分にも満たないような賃金しか得れないというこの経済の実態を何と見るか。これは何とか是正しなければならぬ。所得格差を是正すること、それから所得の均衡をはかること。高度成長政策とか何とかというものも総理からずいぶん伺いました。それはいろいろと分配するもとをまずつくるんだというその説、もう聞き飽きております。ただ問題は、日本の経済というものの所得格差、この断層を圧縮することのためには、まず今までのやり方と変わったやり方が必要ではないか。安定成長、均衡ある発展、こういうことでなければならぬ和そのためには、現在の日本の経済構造を、これを政策的に大きく改善、改革せなければならぬとはお思いになりませんか。この点についてお考えを……。

○池田国務大臣 所得格差はどこの国にでもあるのでございます。今、労働者の点から申しましても、イギリス、ドイツ等におきましても、大企業としからざるものの間におきましては、大企業を一〇〇とすると七五、六、八〇以下でございます。ただ日本の状態は、三十五年の終わりぐらいまでは、お話の通り四八、九であったと思います。しかし今は五四、五になっていっておると思います。しかしそれでもなお足りません。そこで私は、どういうふうにしてこの所得格差をなくするかということにつきまして、従来から考え、まず第一の問題は農業でございましょう。それからまた業種別、規模別格差、これが今のお話の点だと思います。これをどうやっていくかという場合におきましては、私はやはり高度の経済成長によって薄い方を厚くすることが第一だと考えておるのであります。従いまして、高度成長内におきましての所得格差はかなり縮まってきつつあります。そこで、いろいろな消費物価の上昇等を言われますが、これは、物価は上昇しないに越したことはございませんが、しかし、所得格差をなくしなければならぬという強い命題から申しますと、ある程度はがまんしていただかなければならぬと私は考えておるのであります。従いまして、中小企業、ことに自由職業の方の賃金も相当上がってきております。徐々に格差をなくする方向に進んでいっておる。しかもその進み方は、外国のそれよりも非常に早くいっておる、格差をなくする上におきましても早くいっておる、こう私は考えております。

○塚原委員長 春日君に申し上げます。申し合わせの時間が経過いたしましたので、結論をお急ぎ願いたいと思います。

○春日委員 法制局長官が妨害した時間だけは僕は……。

○塚原委員長 その分は十分に加味しております。

○春日委員 問題は、総理、あなたは今まで高度成長、所得倍増政策をその経済政策の基本方針とされておりました。まあ、そういうことも必要でございましょう。とにかく分配を豊かにするためには、そのもとを大きくすることは必要でありますけれども、今やこの段階においては、パイを大きくつくることは必要ではあるけれども、しかしそれを分配するそのメスの入れ方ですね。それを、ある者だけがうんとたくさん食って、他の者がほんの薄っぺらなものも食えないということでは、これは何も国民に福祉をもたらす形にはならぬ。経済政策の要諦は国民福祉の増大にある。そういう点から考えますと、何といっても、これはすなわち、あなたの政策の具体的な方向というものを、この際は、高度成長から、やはり二重構造の解消、それから国民所得の均衡をはかる方向、ここへ重点を置きかえなければならぬと思うが、宮澤経企長官、それから大蔵大臣、通産大臣、この三大臣、一つ答弁してみてくれ。

○宮澤国務大臣 過去のことをおきまして、今の時点で考えますと、まさしくそういう問題が私どもにとって一番大切な問題だと思います。農業については、今総理がちょっと触れられましたが、先日申し上げましたように、技術革新に伴うところの設備の更新等が大企業については一巡したやに思われますが、これから中小企業にも、おそらくそういうことが起こるであろうということを先日申し上げかけたわけでありますが、それはそうなければならぬことだと思います。中小企業基本法等、いろいろな法体系の用意、あるいは金融措置なども用意されておりますが、経済の大きな動きとしては、まさにそういうことがこれから中小企業を中心に起こっていくであろうと思います。それとともに、おそらく五年くらい先には、かなりの中高年令層を別にいたしまして、一般的な労働事情の逼迫と申しますか、生産性を高める必要が起こって参りますから、趨勢としてはまさしくそうであると思います。

○福田国務大臣 日本の中小企業には特殊の事情が起こったことは、地理的、歴史的、いろいろな事情があったことは、あなたもおわかり願えると思うのでありますが、しかしこの段階において二重構造を是正をしなければならないというお考え、その方針には私は賛成でございます。

○田中国務大臣 地域間や業種間の格差是正に対して諸般の立法処置を行ない、予算措置も行なっておることは御承知の通りであります。中小企業に対しては、春日さん中小企業の専門家であり、私も御質問を受けながら随時検討いたしておるわけでありますが、これは政治の面、行政の面で一つ思い切って取り組まなければならない問題であるということだけは事実であります。また、三十八年度の予算でも、あなたがいつでも言っておられましたように、中小企業投資育成会社等にも踏み切りましたし、今度の税制等の改正につきましても、圧縮記帳の問題、その他中小企業育成等の各種の手段を行なっておるわけでありますが、中小企業そのものをただ現実的な目で見て、このままの姿でもって中小企業と大企業との格差が必ずしも直ちに是正できるかということは、問題があると思うのです。
 時間がありませんから簡単に申し上げますと、日本の中小企業はいかにも多種多様である、こういうところに大きな問題がありまして、お互いこの問題に対しては、一つ積極的に取り組みながらこの問題を解決しないと、日本のほんとうの経済革新というものもできないという考えに立って、政府も鋭意これが目的達成に努力を払っているわけであります。

○春日委員 結局、明らかになりましたように、今後の具体的経済政策の方向というものは、高度成長にあらずして、二重構造の解消、国民所得の均衡をはかるという方向にこれは組み直さなければならぬと思う。かくのごとき要請にこたえるものが、私は中小企業基本法であろうと思うのですね。だから問題は、私は総理以下関係閣僚に申し上げたいのでございますが、この中小企業基本法というものは、中小という名前がついておるものだから、何だか政治問題としてその価値の評価が中ぐらいのもの、あるいはちっぽけな政治問題のごとくに印象づけられておるというきらいなしとはしないのですね。だから、私はそういうような大目的、国民の福祉の増大、富の所得の格差、これをなくする、均衡をはかるという大きな問題、これは政治問題の全的なあらゆる要素を包含しておると思うのですね。従って、この中小企業基本法こそは、わが国の経済改造法案みたいなものだと思うのですね。社会改造法案、日本国改造法案、私はこのような大きな使命をになうものであると思うので、従って各条文の作成、これは基本法であるからおのずから国家宣言になるであろうと思うが、その宣言は、私は、てきぱきとした明確な、篠田弘作氏のような人柄で、ばりっと言いたいことを言ってもらうような、そんな発言、表現が必要だと思うのですよ。私は、中小企業基本法を読んでみると、一体どちらを向いてものを言っておるのか、実際わけがわからぬ。私は、通産大臣に対してきわめて遺憾の意を表せざるを得ないのだが、これは一体どちらを向いてものを言っておるのか。大企業に気がねして、あるいは農民団体や消費者団体にも気がねをして、そしてぶつぶつとひとり言をつぶやいておるようなものですね、実際の話が。厳然として国家の意思を宣言するの鮮明さを欠いておるのですね。だから、私はこれが日本国経済改造法案である、日本国改造法案であるという見識の上に立って、この文言あるいはその宣言内容というものをもう少し高めていただくのでなければならぬ。昨日も新聞報道によると、いろいろな団体がいろいろな圧力をかけて、その弱いつぶやきをさらにサイレントにしようとしておるのですね。まことに悲しむべき事態と申さなければならぬ。
 そこで総理、伺いますが、中小企業基本法はいつ提出されますか。

○池田国務大臣 なるべく早く出すように督励いたしております。

○春日委員 そういうことは三年も前から言っておりました。だからこの国会においては、今度の国会は中小企業国会といわれるほど、全国四百万の中小企業者、千七百万の店員、工員の諸君は、これは非常に期待している。だから私は、やはり予算審議と相並行して、この重要問題はこの地方統一選挙を前に国民のその関心の中で十分深く論じられなければならぬと思うが、これは早期提出を要望いたします。
 通産大臣、この中小企業法の国家宣言に基づく関連法規としていろいろな法案が準備されておると思うが、今政府が予定しておる関連特殊立法、これは何々であるか、これを述べられたい。

○福田国務大臣 まず大いに中小企業問題の重要性を説いていただいておるお気持はよくわかるのでありますが、その方針について、もう少しばりっとしたものでなければいかぬというお話であります。私は、政治というもののやり方は、一挙に革命的なやり方をするのも一つのやり方であり、一つの調和をとりながら政治をやっていくということもまた一つの成長のやり方であると考えておるわけであります。そういう意味からいえば、春日さんが言われるような、いわゆる非常に急激な形においてこの法案ができておるかどうかということについては、これは議論が出てくるところではあると思いますが、私たちは、現段階において中小企業を育成していくという姿においては、現在提出する法案が、まあまあ妥当な線であるという見識のもとに立って、実はこの法案を出しておるということをまず御了解を願いたいのであります。
 なおこの法案をいつ出すかということでありますが、大体われわれの今予定しておるところは、来週中にも基本法の方は出したいと考えております。それからその他の関連法案につきましては、相当、九つ程度、八つになりますかありますが、これは今つくっておるものもあります。名前を言えとおっしゃれば、今長官から述べさせますが、これもすみやかに提出するようにして御期待に沿いたいと考えております。

○春日委員 時間もだいぶ過ぎておりますし、同僚諸君の土曜日の御迷惑もありましょうから、この辺で結論にいたします。
 ただ私は、総理に申し上げたいことは、とにかく四百万の経営者というものは、今中小企業基本法の制定を強く政府、国会に向かって要請いたしておりまするが、それは自分の所得を増大したいというその欲望から要求しておると受け取るべきではないのでございます。というのは、統計に示されておりまする通り、そのもとに働く店員、工員の総数は千七百万である。これだけの諸君がいろいろと中小企業の置かれておりまするその立場からして、その企業利潤が少ない、少ないから、ないが意見の総じまいということで、低賃金、重労働を余儀なくいたしておる。縁あって自分のところにきた店員、工員が憎かろうはずがないから、所得はふやしたい。官公吏、大企業並みにふやしたい。ふやしたいけれども、ふやすことができない。それは企業利潤が少ないからである。それは施策が乏しいからである。施策とは、すなわち税制において重い。金融においてそれは窮迫しておる。組織の面においては、大企業の圧迫、その他の圧迫がここに跳梁しておる。こういうものを排除することは、排除してくれといっておることは、労働省の賃金統計対比率に示されておりまするように、それは四九・三、今五四であるといたしましても、それをできるだけ所得の均衡をはかっていこうという、すなわち、経営者にゆだねられておるその関係労働者に対する賃金と、生活の責任を果たすための要求なんですね。だからその要求というものは、なすわち国的家な責任であり、社会的な責任を満たすための要求なんだから、国がそのような使命を彼らに果たさしめることのために必要な協力を行なうということは必要なことである、それは不可欠の要件である、当然事項である。こういう意味におきまして、ここに中小企業基本法の制定というものが必要になってきておるのでありますから、どうかそのような意味合いにおいてこの文言、中小企業基本法を読んでみますと、中小企業の事業活動の機会の適正化なんというようなこと、これはわかりますか。まるで奥歯にものがはさまって、もぐもぐしておって、何のことかわからぬです。中小企業の事業活動の機会の適正化なんていうもんじゃない。これはやはり要請せんとするところは、大企業というものは中小企業を圧迫するので、中小企業の産業分野の確保、これは社会党も民社党も、歯に衣を着せないで明確に言っておる。何でも初めに言葉ありという。初めに明確な言葉で言わなければだめなんですよ。だから、そういうような意味合いにおいて、今度の中小企業基本法というものは、そういう民族的要請、そうして国際的な各国の繁栄と経済力、また国民生活の対照から判断するならば、日本国として一日もこれをゆるがせにすることのできない緊急のことに属しておる。どうかそういうような意味合いにおいて、総理を先頭にして関係閣僚が、少なくともこの池田内閣の責任において抜本塞源的な二重構造の解消と国民所得の均衡化をはかり、長年にわたる大懸案が根本的に解決をはかり得るように、そのような有効な、有益な中小企業基本法案を提出され、それに必要とする関連立法も同時に提出されんことを強く要望いたしまして、自後の質問は他の委員会に譲ることにいたします。

○塚原委員長 午後一時三十分から再開することとし、暫時休憩いたします。
   午後零時三十七分休憩
   午後一時四十分開議

○塚原委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 昭和三十八年度総予算に対する質疑を続行いたします。
 野原覺君。

○野原(覺)委員 私は、日韓問題と文教、労働の問題を中心に政府にお尋ねをいたしたいと思うのでございますが、日韓の問題につきましては、本委員会におきましても、勝間田、木原、午前中に春日君が質疑をいたしておるのであります。その質疑を承りましても、政府の答弁は、どうも私が聞きまして明確を欠いておる。そこで、私は若干重複する点はございますけれども、この問題について、今少しく掘り下げてお伺いをいたしたいと思うのでございます。
 第一にお尋ねいたしたいことは、日韓の間の諸懸案の一括解決がなければ日韓の国交正常化はできないんだ、やらないんだということを総理は再三言明されておるのであります。そこで、この諸懸案の一括解決がなければ、日韓間の国交正常化はあり得ないという基本的な態度は、韓国側も了解をしておるのかどうか、この点について総理にお伺いいたします。

○池田国務大臣 私は直接交渉に当たっておりませんが、日本政府の基本方針はそうでございます。

○野原(覺)委員 それは了解いたしておるという意味でございますか、はっきりおっしゃって下さい。

○池田国務大臣 日本政府の基本方針ははっきりしております。それを外務大臣並びに代表に言っております。

○野原(覺)委員 外務大臣にお伺いいたしますが、あなたが交渉の責任者でございますが、韓国の方は、この基本的態度をもとより了解して請求権のあのような解決を見たものだと思うのでございますが、いかがですか。

○大平国務大臣 私どもの一貫した方針は、常に先方に申し上げてあるわけでございまして、先方もそういう前提の上に立っておるものと考えております。

○野原(覺)委員 それならば総理にお伺いいたしますが、これは総理でなくて外務大臣でもけっこうですが、いつどういう形で了解を取りつけたのかということです。あなたは、先方が了解しておるだろうというあなたの推測でございますか。この基本的態度については、韓国の方も一括解決しなければ国交正常化はしないんだ、こういう了解を明確におとりになっていらっしゃるかどうか、これをお聞きしたいと思うのであります。

○大平国務大臣 明確に文書で了解を取りつけるまでもなく、当然のことでございまして、私はそのように先方も了解の上に立ってやっておるものと考えています。

○野原(覺)委員 昨年の暮れでございましたか、大野さんが韓国を御訪問なさったのでありますが、この大野さんに同行された記者団が、朴議長に竹島の問題について質問をしておるのであります。そういたしますと、朴さんがこういうような答弁をいたしておる。竹島問題は日韓会談とは別個の問題だ、従ってこの問題は日韓会談が成立して、国交が正常化した後に外交的に解決すべき問題だ。これが朴議長の昨年暮れの見解なんです。ところが日本政府の方は諸懸案の一括解決がなければ、つまり竹島について申し上げますと、竹島問題が解決しなければ国交の正常化はあり得ないというのが日本政府の態度。ところが朴さんに言わせますと、竹島の問題はあと回し、国交の正常化が済んでから外交的に解決すべき問題だと言っておる。これは基本的態度について了解をとっていないじゃないですか。この違いはどうなんですか、外務大臣。

○大平国務大臣 先方の御意向が新聞に出たことは承知いたしておりますけれども、ただいま総理が言明されました通り、わが方といたしましては一括解決という不動の方針で進んでおります。

○野原(覺)委員 答弁をそらしてはいけないと思うのです。大平さん、わが方の方針を聞いておるのではない。わが方の方針を韓国もまた了解しておるかと聞いておる。だから竹島問題の解決がなければ国交の正常化はあり得ないというのがわが方の方針、ところが朴議長並びに韓国最高会議の広報室長、この方もまた最近、いや竹島問題はあと回しだ、国交の正常化が済んでからやるんだ、こう言っておる。了解がとれていないじゃないかということを聞いておる。あなたの先ほどの答弁とそれから今の答弁が若干違いますよ。これはとれてないのかとれておるのか、この基本的態度についていかがですか。

○大平国務大臣 これは、両方が意見が合わなければ妥結がないわけでございまして、わが方といたしましては、そういう方針でやっておるということでございます。問題は、今竹島に言及されたのでございますが、竹島問題の解決ということにつきまして、先般来日本側の見解といたしましては、こういう領土紛争がございますから、これは国際司法裁判所のような、それを解決する実績と能力と信用を持ったところに提訴し、先方も応訴するということにしたらどうかという提案を申し上げておりますことは、本委員会を通じましても申し上げておるわけです。問題は、それではそれを解決と見るのか、それとも領土紛争でございますから、どちらに帰属するかがはっきりするのを解決と見るのかということになりますと、私どもは、帰属がはっきりするということでありたいわけでございますけれども、こういう領土のめんどうな問題でございますので、国際司法裁判所のような機関に提訴し、応訴するというようなことになれば、これを一つの国交正常化の前提としての解決というように受け取らざるを得ないのじゃないかという考えでございますので、今野原委員がおっしゃられる解決、そうして先方が申しておる解決がどのような段階における点をさしておるのか、そのあたりは私は究明いたしていないわけでございますが、ともかく私どもの既往の方針は、今問題になっておる諸懸案というものが解決するか、あるいはこの解決に至る手順が双方においてはっきり確認されるというようにしないと、国交正常化はあり得ないと考えております。

○野原(覺)委員 日本の政府の考えは、あなたがおっしゃったことで私も了解いたします。しかし私がお聞きしておりますのは、請求権については無償経済援助とかあるいは有償経済援助という形で一応ああいうすりかえの解決をしたのです。これは最終の解決でなくても一応の話し合いをおつけになられたのです。私がここで問題にしたいのは、諸懸案の一括解決だと総理は何回となく言明しておられるのでございますから、まずこの基本的な態度について韓国も了解した上で一つ一つの問題を取り上げていくべきではないかと思うのです。どうも私は、竹島の問題にしても、李ライン、漁業協定の問題にいたしましても、今日新聞で報道せられておるところから私が判断いたしまする限り、どうも諸懸案の一括解決ということは日本が勝手にひとりで言っておるだけなんです。韓国は一括解決しなければ国交の正常化はあり得ないという、池田さんが何回となく私どもに言明した基本的態度については、了解をしていないのじゃないかという疑いがあるからお尋ねをしておるのです。この点、外務大臣、もう一度明確にして下さい。長い御答弁は、要りません。了解しておるのか、いないのか。

○大平国務大臣 冒頭に私が申し上げましたように、当然の前提として何回も先方に日本側の趣旨は述べてあるわけでございまして、そういうことは先方もよく承知の上でおられることと思います。

○野原(覺)委員 先方も承知しておるのに、竹島の問題でこういうそごを来たすのはなぜかと申しますと、これまた私の考えでございますが、解決とは何かということが明確でないのであります。諸懸案の一括解決と総理は申されますけれども、総理にお尋ねいたしますが、解決とは具体的に言って一体どういうことでしょうか。もっと分けて申し上げますと、日韓双方が合意に達することを解決というのか、それとも、日本政府の要求しておることが実現することをもって解決というのか。先ほど春日君に外務大臣から御答弁されたのによりますと、後日問題が残らないようにすることが解決だと、こう言っておるのでございますが、後日問題が残らないようにするというのも、これはきわめてあいまいである。後日問題が残らないようにしよう、こういう合意で、一応竹島の問題はたな上げにしようじゃないか、漁業協定については後日問題が残らないようにしよう、あとで相談しようじゃない、とにかく暫定措置として君のところの四十海里のこのラインを認めようじゃないか、こういうことも解決に入るのでございますか。総理、どうなんですか、これは。

○大平国務大臣 たびたび申し上げておるように、日韓の間の懸案の解決は、両国の国民が納得するようなことでなければなりませんし、両国の政府が合意し得るものでなければならぬと思うわけでございまして、あらゆる懸案につきまして、そういう角度から私どもは鋭意検討を重ねておるわけでございます。

○野原(覺)委員 では、外務大臣に具体的にお尋ねしますが、竹島問題のたな上げもあり得るわけですか。それから、李ラインや漁業問題はあと回しにするという日韓双方の合意ができれば、これも諸懸案一括解決の解決に入る、こう受け取ってよろしゅうございますか。

○大平国務大臣 今申しましたように、そういうことでは国民の御納得がいかぬと思うので、私どもは、そういうことは毛頭考えていません。

○野原(覺)委員 では、外務大臣、竹島問題についての解決とは何ですか。竹島問題について後日問題が残らないようにする、その解決という具体的な内容は何でございますか。

○大平国務大臣 竹島の帰属がはっきりするというところまで参らなくても、その帰属をはっきりせしめる手段方法について双方が確実に合意し合うものがないと、解決と言えないと考えております。

○野原(覺)委員 その手段方法につきまして、朴議長は、日韓会談が成立して国交が正常化したあとに外交的に解決すべきだと言っておるのです。この朴議長の言は、これは竹島問題の解決の中に入りますか。いかがですか。

○大平国務大臣 帰属をはっきりさすことができるような手段方法というものを、双方において国交正常化前に合意しておかなければならぬと思っております。

○野原(覺)委員 朴議長のこの発言は、それでは解決の中に入るのですか。朴議長は諸懸案一括解決のこれにそごをした発言をしておるのではない、こういう御理解ですね。

○大平国務大臣 少なくとも私どもの方としては今申し上げましたような考え方でおるわけでございまして、そのラインに沿って先方が国交正常化後すでに確認した方法において帰属を決定する手順を進めるのだという意味においては、了解し得ると思います。

○野原(覺)委員 国交正常化の後に竹島問題が外交的に解決されなければならぬという朴議長のこの見解は、日本の政府の見解とは違う、こう受け取ってよろしゅうございますか。

○大平国務大臣 私の今申し上げた考え方で日本はおるわけでございますので、そのように御了承願います。

○野原(覺)委員 それでよろしいかと言っている。

○大平国務大臣 先方の方がどのようにおっしゃろうと、私どもはそういう考え方でおるということを申し上げておるわけです。

○野原(覺)委員 そういたしますと、朴議長の新聞記者団に御答弁になったことは日本政府の考えとは違うということがここではっきりしたのであります。
 そこで、私は総理にお尋ねいたしますが、諸懸案の一括解決という諸懸案とはたくさんある。これは総理が御承知の通りであります。日本として最も重大な関心を持たねばならぬ懸案は何でございましょうか。請求権の問題、李ラインの問題、漁業の問題、竹島の問題等々ございますが、日本国民が今日日韓会談の解決でこの問題だけはどうしても解決してもらいたいという関心を持っているものは、総理は何だとお考えでございますか。

○池田国務大臣 今お話しの四つの問題が重要な問題だと考えております。

○野原(覺)委員 四つの問題が重要問題。そこで、あなた方は財産請求権の問題から手をつけていかれたのです。日本国民が最も関心を持っているものは、これは漁業問題です。李ラインの問題です。国際法違反の問題です。もとより、財産請求権の問題は、平和条約の四条をわが国が受諾しておるのでございますから、これは解決しなければなりません。しかし、国民として一番関心を深めておるのは、李ラインをなぜ早く撤廃してもらえないかという問題じゃございませんか。どうも、池田内閣のこの日韓交渉のやり方を見ておりますというと、そういう問題があと回しになっておるのです。請求権の問題から先に手がけていっておる。
 そこで、私が総理にお尋ねいたしたいことは、請求権の問題が解決すれば、李ラインの問題や、漁業協定の問題や、竹島の問題等は、いずれ日本の主張が通せるだろうから、韓国が一番深い関心を寄せている請求権の問題から手がけよろ、これで韓国を納得させるならば、竹島、李ライン、漁業問題は、これは幾らかでも日本の主張が通るだろうという期待があって、請求権の問題解決に乗り出されたのではなかろうかと思うのでございますが、いかがですか。

○池田国務大臣 全部を一体として考えていっておるのであります。それは、問題によりまして先に話が進むものもありましょうし、あとまで残るものもありましょう。これは交渉の経過によることで、全体として一括決定することに変わりはないのでございます。

○野原(覺)委員 それでは、次にお尋ねをいたしますが、昨年の十二月の暮れに、大野さんが韓国をおたずねなさったのであります。おたずねなさった大野さんが日本にお帰りになられて、総理にどういう御報告がございましたか。できれば詳細に承りたいのであります。

○池田国務大臣 朴議長と会われ、そして、いろいろ両方の国交正常化を急いでやろうという話、また、韓国の事情等をお話しになったのであります。

○野原(覺)委員 外務大臣の大平さんと、それから金鍾泌氏との間に会談が持たれまして、そして大平・金会談のメモというものも問題になるのでございますが、あの大平・金会談のすみやかな実現方を池田首相に要請してくれという、朴議長の伝達があなたにございましたか。

○池田国務大臣 特定の問題についてどうこうという話はございません。全体の問題でございます。

○野原(覺)委員 その際、大野さんは、竹島問題については共有論でいくべきではなかろうかという御意見の開陳が総理にございませんでしたか。

○池田国務大臣 ございません。

○野原(覺)委員 一体、大野さんの御報告というのは、ただいまの総理の御答弁によりますと、これは朴議長との会談の結果の御報告だということでございますが、この御報告というものは、大野さん個人の意見としての報告でございますか、それとも、あなたが大野さんを韓国に使節として派遣をされて、朴議長との間に外交的な交渉を持った、その外交交渉の結果の御報告でございますか。どちらですか。

○池田国務大臣 大野伴睦君には外交交渉権はございません。

○野原(覺)委員 外務大臣にお尋ねいたします。大野さんはどういう旅券で韓国に行っておられますか、お伺いします。

○大平国務大臣 外交旅券を交付いたしております。

○野原(覺)委員 外交旅券というのは、旅券法によりますと、公用旅券、一般旅券、――公用旅券の中に外交旅券があるようでございますが、外交旅券を出す場合はどういう場合ですか。

○大平国務大臣 外交旅券をどういう基準において出すかということは、国内法上も国際法上も特別の規定はございません。従いまして、外務大臣が各国の慣例等を勘案いたしましてきめることになっております。

○野原(覺)委員 外務大臣の判断でできるわけですね。そうしますと、外務大臣はどう判断をして外交旅券をお出しになったのですか、大野さんに。

○大平国務大臣 現段階における日韓の友好関係機運を醸成するということは大切なことと判断いたしまして、大野伴睦氏の立場、経歴等を考えまして、外交旅券を交付すべきものと判断いたしました。

○野原(覺)委員 そういたしますと、日韓交渉を進めることは重要なことだ、こうあなたは判断をされたのですね。つまり、これは日韓会談という外交交渉をするから外交旅券を与えられたのじゃございませんか。日韓交渉という外交交渉じゃございませんか。
 あなたの党から過日周恩来の招請によって松村謙三さんが中国にいらっしゃった。これは何という旅券を出していますか。

○大平国務大臣 松村先生の場合は今確認しておりませんから、あとで確認してお答えいたしますが、大野副総裁の訪韓は外交交渉ではございません。外交権は、乏しきながら私が専管いたしておるわけでございます。

○野原(覺)委員 松村さんは日中貿易の問題で周恩来に招請をされていらっしゃったのだ。そのときの旅券は、私の聞くところによれば一般旅券です。これは公用旅券でもないのです。大野さんは、総理のただいまの御答弁によりますと、個人の資格で行ったのだという。ところが、外務大臣は、外交交渉じゃありませんが、日韓会談は重要だから出したのだと言われる。日韓会談が重要だということは、日韓の外交交渉を早く実現させなければならぬという意図があるとあなたは判断して出したのじゃございませんか。私は、外交旅券というものは外交の折衝をする者に与える旅券だと思うのです。外交の折衝とは、政府を代表して外交するものです。そうでしょう。勝手に私が韓国に行く、北鮮に行く、中国に行くというときに、私に旅券を与えますか、国会議員だからといって。松村謙三さんにも与えていない。高碕さんにも与えていないのです。ともに、中国の総理から招請されておるのに、一般旅券なんです。公用旅券でもない。ところが、大野さんの場合には外交旅券でございますから、これは、どう考えても、外交交渉の任に当たる者に与える旅券でございますから、単なる個人の資格とは私どもは判断できないのであります。
 そこで、外務大臣にお尋ねいたします。まことに失礼なことをお尋ねいたしますけれども、国政審議の場でございますから、私はつつ込んでお伺いいたすのでございますが、外交旅券でいらっしゃったとすれば――しかも、日韓交渉を促進してもらうためにと、あなたはそういうお言葉がございました。外交旅券でいらっしゃったとするならば、訪韓の費用というものは当然国が負担をしなければならぬのであります。大野訪韓の費用は。外交旅券を出しているのですから。これはどうなっておりますか。

○大平国務大臣 私は、外交交渉を促進するために訪韓をお願いしたとは申し上げていないわけでございます。日韓の間の友好の機運が醸成されることは政治的に大事だということで大野先生の訪韓を評価いたしておるわけでございます。外交旅券をどのような場合に出すかということは、先ほど私が御答弁申し上げた通りでございまして、大野訪韓は、大野副総裁個人の資格であると承知いたしております。

○野原(覺)委員 国から経費はお出しになりませんでしたか、外務省から訪韓の経費は。

○大平国務大臣 訪韓の経費は負担いたしておりません。

○野原(覺)委員 この点は、私ども国政審査の権利があるのであります。巷間いろいろなことが実はうわさをされておるのであります。うわさでございますからあえて私は申し上げたくないのでございますけれども、たとえば、外務大臣に対しておみやげ代を請求したとかしないとか、そうして、大平外務大臣は、それは韓国にいらっしゃるならばおみやげ代も要るだろうといって承諾したとかしないとか、こういうことがうわさされておるのでございますから、こういったうわさというものは、私どもは国会においてはっきり解明しなければならぬと思うのであります。そこで、あなたが外務省からはびた一文金を出していないとおっしゃるならば、これは私どもは絶えず適当な機会にこの問題は国政審査の権利がございますから調査をいたしたいと思うのであります。
 そこで、総理にお伺いいたしますが、日韓共有論については何の話もなかった、こういうことでございますが、大野さんが日韓共有論者であるということはあなたは御承知ですか。

○池田国務大臣 大野さんの意見は直接聞いておりませんので、私は、大野さんの考え方をどの論者だということを断定するわけにはいきません。

○野原(覺)委員 一月十日の朝日新聞でございますが、大野さんが九日岐阜に参られまして談話を出しておるのであります。それによりますと、日朝交渉の妥結は三月末か四月になるだろう、これは韓国に行って朴議長と会われた大野さんの談話であります。そこで、請求権問題が大筋の妥結を見たので、残された漁業交渉の問題等では韓国はあまり無理を言わぬだろう、竹島の帰属についてはアメリカの調停で日韓両国の共有にしたらという話が出ておる、共有にして解決した例は外交史上にも先例がある、こういう考え方で、自民党におきましては、船田さんが会長をしておるあの調査会でございますか、そこではこの問題を研究課題にしておるという新聞報道も出ておるのであります。総理は何か問題を提起されるかと思って警戒をするのかどうか知りませんが、私は、日韓共有論がこうして新聞に書かれ、あなたの党で今日研究課題になっておるものを、何らそういう話も聞いていないということはいかがなものかと思うのであります。
 そこで、こういうようにして、とにかく大野さんの訪韓問題につきましては、外交旅券で行っておる。私どもの鈴木茂三郎が中国に参りますときに、かつて委員長であったときに周恩来の招請で参りましたが、これは一般旅券であります。松村さん、高碕さんも一般旅券であります。外交旅券という特典を与えて、しかも総理の親書を持って、朴議長との間に、単に請求権の問題だけではない、竹島の問題、李ライン、漁業の問題、懸案事項の核心について大野さんは朴議長と話し合いをされておる。そうして、それを総理に報告をして、そこで、総理が、大平・金会談のメモ等もあるのならばやむを得ぬじゃないか、あるいは請求権問題が解決するならば李ライン、漁業等もうまくいくかもわからないといったような期待等も手伝って、あの請求権問題が無償・有償の経済援助というすりかえの形でああいう一応の妥結を見たものではなかろうかと私どもは思うのであります。
 そこで、これは委員長に要望いたしますが、この問題は実は社会党としては重大に考えておるのであります。そこで、私どもとしては、この際本委員会において、すみやかな機会に大野先生にここに出ていただきまして、いろいろ朴議長との会談の模様等についての詳細なお話も承りたいし、私どもの考えておる点も実はお尋ねをしたいと思うのでございます。このことは、衆議院規則の八十五条かに参考人の喚問に関する件というのがございますから、この八十五条の二項によりまして、大野さんに本委員会にすみやかにお越しいただくようなお取りはからいを委員長に御要望いたしますが、委員長、いかがでございますか。

○塚原委員長 野原君の申し出の件につきましては、いずれ理事会において御相談いたしたいと存じます。

○野原(覺)委員 請求権問題でございますが、実は、十年間の交渉の経過を私どもいろいろ調べてみたのであります。調べてみますと、日本政府は、最初、韓国の対日請求権は請求の根拠はないのだ、こういう見解を一番最初の時点においてはとっておる。その次には、日本の在韓財産と相殺するのだという見解に変わってきたんです。そうして、その次には、法的根拠に基づく支払いだ、こういうことに発展をいたしまして、最後に、有償・無償の経済援助、随伴的な効果として請求権は消えてなくなる、こういうことに、十年の交渉の経過を見てみると、実にネコの目の変わり方よりももっとひどい変わり方をしておるのであります。一体、こういうことで国民が納得できるか。今日まで日本政府のとってきた財産請求権のこういった変わり方を知った国民がどうして納得するでございましょうか。
 そこで、これは外務大臣にお尋ねいたしますが、この点は、勝間田氏なりあるいは先ほどの春日君に対する御答弁にあったかと思いますけれども、私はもう一度確認の意味で明確にしたいので、お答え願いたいのでございますが、あなたがおとりになられた有償・無償の経済援助によって、その随伴的な効果として財産請求権をなくするというあのやり方は、サンフランシスコ平和条約四条の本質的な解決ではない、随伴的な効果としてなくなるだけのものだ、平和条約四条の本質的な解決ではない、このことをあなたはお認めになられたような御答弁だと思ったのでありますけれども、一応、事態を明確にする意味で、再確認の意味でお伺いいたします。いかがですか。

○大平国務大臣 本質的な解決になると思っております。

○野原(覺)委員 そういたしますと、これは速記を調べないといけません。本質的な解決であるとあなたはお認めになるのですか。もう一度お伺いいたします。

○大平国務大臣 本質的な解決でなければ、そういう解決の方法をとることは私にはできません。

○野原(覺)委員 随伴的な効果としてなくなるのだということはどうなるのですか。本質的な解決というのと、随伴的な効果として消えてなくなるというのとは違うじゃありませんか。あなたのこの予備交渉における申し合わせを私は資料要求して取りましたが、そう書いてある。随伴的な効果としてなくなるという。本質的な解決ならばああいう文言は要らないじゃありませんか。いかがですか。

○大平国務大臣 解決する手段の問題でございまして、解決の効果は本質的な解決でございます。

○野原(覺)委員 それでは、平和条約四条の本質は何ですか。平和条約四条の財産請求権の本質とは何ですか。もっと具体的にお尋ねいたしますと、賠償でしょうか、それとも法的根拠に基づく支払いでございましょうか、それとも経済援助でございましょうか。平和条約四条をようく分析して読んでいただきたい。賠償でしょうか、法的根拠に基づく支払いでしょうか、それとも無償・有償の経済援助で消えてなくなるものでしょうか。あの平和条約四条の本質は何でございますか。

○大平国務大臣 あの請求権は賠償でないことは、韓国が日本と交戦国でなかったわけでございますから、それは野原委員も御承知の通りでございます。平和条約四条の(a)項に、こういう請求権の処理取りきめを日韓の間でやるという建前になっておるわけでございまして、これを処理するということで私どもは努力をいたしておるわけでございます。従いまして、(a)項にいうところの請求権は処理しなければならぬ。処理する方法といたしまして、私どもは、有償・無償の経済協力をやる、その随伴的な結果として請求権は主張しない、なくなるということを双方で確認して最終的な処理をするということになるわけでございます。

○野原(覺)委員 答弁は私の質問にお答え願いたいのです。あまり長たらしい答弁は要求いたしません。本質は何かと聞いておる。私は中身を三つ言った。法的根拠に基づく支払いでしょう、あの本質は。賠償ではない。経済援助でもないでしょう。とすれば、法的根拠に基づく支払い。この本質は、池田・朴会談で、一昨年でございましたか、確認されたでしょう。本質は法的根拠に基づく支払いでしょう。いかがですか。

○大平国務大臣 請求権の処理を取りきめることを、平和条約四条(a)項は申しておるわけでございます。それで、私どもが考えておる経済協力をやることの効果として、先方がその請求権を放棄するとかあるいは主張しないとか、これはなくなったと認めますというようなことを判断し処理する自由は、韓国にあると思います。

○野原(覺)委員 それは大平・金会談の了解点なんです。そんなことは聞いておりません。平和条約四条の本質を聞いておるのです。もう一度御答弁願います。

○大平国務大臣 旧日本の領土にある総領土を足場といたしまして、日韓双方にあるところの請求権の処理の取りきめをやれというのが第四条(a)項でございまして、それを処理することを私どもの任務としてやっておるわけでございまして、それは今言ったような方法においてやるんだ、こういうことでございます。

○野原(覺)委員 あの四条に書かれておる中身、本質は経済援助ですか。日本は韓国に経済援助をやるとは書いてないでしょう。法的根拠に基づく請求権でしょう。あなたの御答弁を聞きますと時間をとりますから、これはまた、外務委員会等の機会もございますから、私どもはそこで究明いたします。そういったすりかえたごまかしの答弁をされちゃ困る。
 それなら、外務大臣にもう一度お尋ねいたしますが、昨年の三月十二日でございましたか、小坂さんが崔氏と政治会談をやって決裂をいたしましたね。あの決裂した理由は、外務大臣、何でございましたか。お尋ねします。

○大平国務大臣 小坂・崔会談は、日韓双方の請求権に関する双方の主張に大きな隔絶があるということを認めざるを得なかったというように、私は承知いたしております。

○野原(覺)委員 これは条約局長に聞いてもよいのでございますが、私は記録によって調べましたから申し上げますと、小坂さんは、韓国の請求権は、日本の持っておる韓国にある財産を放棄した、日本が在韓財産を放棄した事実を頭に入れて韓国の請求権を出してもらわなければ困るという第一の原則をあの会談に持ち出されておる。それから、第二の原則は、北鮮の問題も考慮に入れて出してもらわなければ困ると、こういう二つの原則を出しておる。これに対して、崔の方では、いや、そういう原則はあと回しだ、一体日本は金を幾らやるんだ、こういうことで正面衝突をして、一応ああいった形になって打ち切られたのであります。そうして中断をしておるのであります。
 そこで、この二点の主張、北鮮の問題も考慮に入れたもの、それから、在韓財産を日本が放棄した事実を考慮に入れて韓国の請求権をきめなければならぬという、この二つの主張というのは間違ってはいない。これが正しい主張であったんだと私どもは思うのでございますが、大平さん、あなたはどう考えていますか。

○大平国務大臣 三月の小坂・崔会談におきまして小坂大臣が主張されたことは、正しいことだと思っております。

○野原(覺)委員 これが正しかったとすれば、あなたはこの正しかった主張を直ちに放棄されたんです。あなたは、外務大臣に就任するやいなや、高い次元で解決するのだ、こう言って、小坂さんがあれほどがんばって、国民のためにがんばってきた正しい主張を、あなたは弊履のごとく放棄したじゃありませんか。私は、これは、池田総理のもとで外務大臣がかわったからといって、こういった基本的なことが簡単に放棄されてよいのかどうか、まずこれを疑っておるのであります。国民はこれに非常な疑問を持っておるのです。あれほど小坂さんががんばって決裂したものを、外務大臣が大平さんにかわると、簡単に放棄されてしまっておる。どう考えても、これは国民の常識上から言って納得できないのであります。
 そこで、私はお尋ねいたしますが、小坂さんが三月十二日の時点であの請求権交渉に臨まれた。これは、予備交渉で議論が尽きないので――三月十二日といえば最後の政治会談でございました。当時予算委員会をやっておった。小坂さんは予算委員会の忙しい中で持たれた会談であったと私は記憶いたすのでありますが、請求権の交渉に日本の外務大臣が出るのに、金額の腹づもりがなしに出やしないと私は思うのであります。交渉のやり方としては、まず原則からいこうじゃないか、こう言ったでございましょうけれども、やはり、政治会談でございますから、妥結をしなければならぬ。その三月十二日の小坂・崔会談のこの時点における当時の日本政府の腹づもりというものが、金額はどれだけでございましたか。これは率直にお答え願いたいのです、いいかげんなことではなしに。新聞は書いておりますよ。あなた方は、六千万ドル、七千万ドルというのは勝手に新聞が書いたのだとおっしゃるかもしれませんけれども、池田内閣がその新聞報道に一度も抗議を申し込んだことを私は聞いていないのです。この時点における腹づもりの金額は幾らでございましたか、お伺いいたします。

○大平国務大臣 私どもは、たびたび申し上げますように、金額を算出いたしますには、そのよって立つ前提をはっきりさせなければならぬわけでございまして、どういう法律解釈論に立脚するかということ、どういう事実が正しいものと認めるかということがはっきりしないと、金額は出ないわけでございまして、金額交渉に入る前に、そういったことについて双方の意見が討議されるというのが順序だと考えるわけでございます。三月の小坂・崔会談におきましては、そういう前提になる事実につきまして双方に大きな懸絶があるということを、私どもは伺っておるわけでございます。

○野原(覺)委員 これは本予算委員会における速記を調べた上であらためて問題にしたいのでございますが、私どもの党の木原君が、七千万ドルではないか、こう質問したのに対して、外務大臣は、今は言えない、言うべき時が来たらその金額も申し上げます、こう言ったんです。あなたは自分が御答弁したのですから御記憶にあろうと思うんですが、一体、との金額についてはいつ明らかにいたしますか。今国民がこれも不可解にたえないのは、三億ドルの無償経済援助でどれだけの財産請求権の実体がなくなるかということを知りたいのです。率直に言って、国民はそれを知りたいのです。一体日本の計算ではどれだけであったのか。幾ら困難であっても、――およそ賠償請求とかこの種の問題は困難です。日本がフィリピンに賠償するといったって、簡単にだれにもわかりはしない。およそ日本の見解というものは幾らであったのかということを知りたい。ところが、これを言っては大へんだ、一億五千万ドルの差があるじゃないかというようなことになっては大へんだからというので、ひた隠しに隠しておるのでしょう。そのひた隠しに隠しておる外交を秘密外交と言う。国民をめくらにする外交と言う。外交というものはある程度秘密を要することは私どもも知っておる。しかし、新聞が六千万ドル、七千万ドルを書いておる。それを言わない。それで、新聞に君らはそういうことを書いちゃ困るという抗議をしたこともない。新聞は書きっぱなし。一体いつあなたは御発表になるのですか。木原君には他日答えると言いましたが、その他日とはいつでございますか。私どもは国会議員として国政で日韓会談を審議するのに、こんなものは日韓会談の妥結調印が終わってから聞いたのでは話にならぬ。これは国会議員をばかにしています。国政審議はできません。いつ言うかといえば、私は今言ってもらいたい。そうでしょう。いっあなたはおっしゃるつもりですか。調印のあとですか。

○大平国務大臣 今野原委員が御指摘された通り、国民が関心を持たれておることをよく承知いたしております。従いまして、私どもは、交渉の過程を見まして、交渉に微妙な影響を与えない段階におきまして、資料を提出いたしまして御審議を願いたいと思っています。

○野原(覺)委員 この問題はあらためて追及いたしましょう。
 時間の関係もございますから急ぎたいと思いますが、この植民地が独立するにあたって、たとえば韓国、あるいは大きな事例としてはインドがそうですが、独立するにあたって旧本国から無償経済援助を受けた先例が外交史上ございますかどうか、お伺いいたします。

○大平国務大臣 いろいろの事例がございますので、きのう本委員会からの御請求がございましたので、資料を手元に差し上げてございます。

○野原(覺)委員 その資料に基づいて御答弁願いたい。

○大平国務大臣 まず、アメリカがフィリピンに対して、戦後の復興、経済建設のために、戦後復興援助というタイトルで、無償六億七千万ドル、有償一億一千万ドルいたしております。それから、フランスが、旧アフリカ十四カ国並びにアルジェリアに対しまして、独立の準備段階において種々の援助を与えておりますが、独立後も継続いたしまして援助を行なっております。その援助は大部分無償でございまして、一九六〇年の支出実績を見ますと、同年中に無償六億二千万ドル、有償五千万ドルを与えております。英国は、長期的な観点に立たれたのか、やがて独立後もその国が円滑に独立を達成し得るように、独立前から各種の援助を与えておりますが、独立後も福祉増進のために継続的に無償・有償の援助を与えております。インド、パキスタン、セイロン、それからシェラレオネ等に与えております。イタリアは、リビアとソマリアに対しまして、同様に無償・有償の援助を与えておるわけでございます。詳しくは、ただいまお手元にあります資料によって御検討いただきたいと思います。

○野原(覺)委員 そういう場合に、つまり、そういう植民地が独立をする際に、旧本国から無償経済援助を受けておるそれは、事例によって今御説明をいただきましたが、その際植民地は旧本国の私有財産を没収した事例がございますか。あるとすれば、それはどこですか。

○大平国務大臣 私がお答えいたしました事例の領域におきましては、今御指摘の公私の財産を没収したという事例は私は聞いておりません。

○野原(覺)委員 日本は韓国に無償経済援助をする、その上に私有財産を没収されるのであります。これは外交史上初めてであります。私は、この事実をまずここで明らかにできたと思うのであります。これはいまだかってないことであります。そうして財産請求権の金額は六千万ドル、七千万ドル、無償経済援助は三億ドル、有償が最高の優遇条件で海外経済開発の協力基金から年三分五厘、英国がインドに対して有償の経済援助をやっておりまするけれども、英国はその他と差別をしていないのです。日本の韓国に対するやり方というものは、私はどう考えてもあまりにもひどい。外交史上先例のないやり方ではなかろうかと考えておったのでございますが、今その事態が明白になったのであります。
 そこで、もう一点お伺いいたしますが、北鮮との関係です。これは本予算委員会なり外務委員会等でたびたび論議をされたのでございますが、政府は、韓国は三十八度線以南を支配するのだということを念頭に置いて交渉しております、こう言っておる。ところが、これは何回も私どもが申し上げておりまするように、韓国の方は、全朝鮮をおれは支配しておるのだと、こう言っておる。そこで、問題が請求権の問題だけではなしに、諸懸案が一括解決をして妥決調印する場合ができたときに、この領域については明白に文書をもって規定される意思があるのかないのか。今はただ念頭に置いてやっておるでございましょうが、はっきり文書で――それは条約の中なり付属文書なり何でもよろしい。はっきり書きものに残して、三十八度線以南の解決であるということを明白に規定しなければならぬという決意がおありであるかどうか、承っておきます。

○大平国務大臣 そういう観念に立ってやっておるわけでございまして、協定案文ができておるわけじゃございませんで、いろいろな懸案を煮詰めました上で、協定案文をつくるわけでございまして、今の御注意はよく私どもは承って善処しなければならぬことだと思っております。

○野原(覺)委員 そこで、外務大臣に続いてお尋ねいたしますが、これは先ほど春日君が午前中に尋ねたことであります。それは李ラインで日本漁船が拿捕されて、日本の漁夫が何千人と抑留された、このことに対する損害賠償をどうするのかという質問が、本委員会でも何回となく行なわれましたが、これに対するあなたの御答弁は、漁業交渉の場で交渉するというこの一語に尽きておるのであります。賠償を請求するのでございますか、いかがですか。ただ交渉をするとは、賠償をはっきり請求するという意味の交渉でございますか、いかがですか。

○大平国務大臣 これから本格的に漁業の討議に入るわけでございますが、私が申し上げられる限度は、漁業交渉の一環として処理するつもりでございますということでございまして、どのように主張をしていくかということは、今の段階におきましては申し上げられないわけでございます。

○野原(覺)委員 賠償請求をするという基本的な態度は政府はきまっていないのですね。ただ交渉する、向こうの出方を見て交渉するというのであって、あの国際法違反の李ラインで何千人もつかまって、そのうち何人かはあの監獄の中で死んで、そうしていまだにものすごいたくさんの船が返されていない。このことを漁業交渉の場で交渉をする、交渉するとは賠償請求ではない、そういうことはまだきまっていない、こう受け取ってよろしゅうございますか。

○大平国務大臣 私が申し上げておるのは、漁業交渉を通じましてその問題を処理いたしたいということでございます。

○野原(覺)委員 処理いたしたいということは、賠償の要求が入りますか。賠償要求するという基本態度はきまっておるのであるか。いかがですか。

○大平国務大臣 今御指摘の事実を踏まえた上で、この問題の処理を漁業交渉を通じてやりたい、こういうことでございます。

○野原(覺)委員 どうもはっきりいたしませんね。大事な点になるとあなたはぼかされる。どうもはっきりしない。私は賠償の要求をするのかと聞いておる。
 それじゃお尋ねいたしますが、一体損害の金額は幾らですか。あなたは交渉するのだと言いますが、もう漁業交渉は始まっている、予備折衝が。損害の金額は幾らですか。

○大平国務大臣 この問題は、御案内のように、拿捕の事実があったケース、ケースにおきましてわが国は賠償権を留保いたしておりますことは、野原さんも御承知の通りでございます。今の問題、幾らぐらいの金額になるかということになりますると、事実百七十一隻の漁船の評価ということは、正確に、慎重にやらなければならぬ性質のものでございまして、大まかに幾らになるというようなことでただいまお答えはできる段階ではございません。

○野原(覺)委員 あなたは交渉すると言いながら、いまだに金額の算定もしていない。しかも、賠償請求するかと言ったら、言葉を濁すのです。しない腹でしょう。はっきり言って下さい。国民は聞いておるんだ。しない腹でしょう。いかがですか。賠償請求するのですか。するのか、せぬのか。簡単です。するか、しないか。金額はむずかしいからあと回しでもよろしい。とにかく賠償請求はしなければならぬという基本的な態度をとっているのか、とっていないのかということだ。交渉することはわかっております。どうなんですか。するのかせぬのか。イエスかノーかです。

○大平国務大臣 それは、ただいま申し上げました通り、賠償権は留保してございます。

○野原(覺)委員 そういたしますと、賠償金は留保してございまするから、賠償請求をする、こう理解してよろしゅうございますね。

○大平国務大臣 そういう事実の上に立ちまして、漁業交渉を通じて処理いたします。

○野原(覺)委員 実に不明確です。これはしなかったら大へんですよ。昭和三十二年の十二月十七日に閣議決定をしておりますね。これは外務大臣御承知でございますか。抑留中になくなった者に対して見舞金を出したのです。ところが、この見舞金の性格が問題になったのです。日本政府の責任で抑留されたわけじゃないんだ、どうしたものだろうかといったら、三十二年の十二月十七日の閣議では、これは賠償金の内払いだということで決裁をした。決議を出しておる。しかも、外務大臣はただいまいみじくも御答弁になったように、あなたは、日本の漁船がつかまってひどい目にあっておるときに、そのつど外務省は抗議の口上書を出しておる。その口上書を読んでみなさい。賠償金は留保すると書いてある。これはどう考えても、国際法違反の李ラインで日本の船をとっつかまえてひどい目にあわして、賠償金の請求をするとあなたが明言できない理由は何ですか。私は、するのかしないのかと、こんな簡単な問題で押し問答することは、時間が惜しくてならぬのでありますけれども、これは国民が聞きたいから、私は押し問答しておるのですよ。何ですか、一体その態度は。いかがですか。あなたは、そういう事実を踏まえて交渉をする、こう言いましたが、そういう事実を踏まえて、今言った閣議の決定、これも事実、それから賠償金を留保した抗議の口上書も事実、そういう事実を踏まえてあなたは交渉するということは、当然これは賠償の要求を出すんだ、その基本態度をもって臨むのだ、こう受け取ってよろしいかどうか、再度お尋ねいたします。

○大平国務大臣 賠償請求権は留保してあるわけでございます。今、野原さんおっしゃった通り、日韓の間に横たわる懸案として漁業問題は最大の問題の一つだと思うのでございまして、これを両国民が納得がいくように解決することに成功しなければ、国交の正常化と言うことができないわけでございまして、そういう重大な問題の交渉を目睫に控えておるわけでございまして、今私が申し上げましたように、あなたが御指摘されたもろもろの事実、そうして私どもが従来賠償権を留保した経過等を踏まえた上で、漁業交渉を通じて処理いたしますと、こう申し上げておるわけでございます。

○野原(覺)委員 そういたしますと、賠償請求をすると私は理解いたします。
 そこで、総理にお尋ねいたします。総理は、昨年の八月二十一日の予算委員会でございましたが、損害賠償の請求に対する答弁で、こう言っておるのです。「損害賠償をどうするかという問題は、やはりそれをしなければ日韓交渉をしないというわけのものじゃございません。われわれは今までの不本意な状態を今後正常化によって、いわゆる李ライン問題が資源確保、共同利益のために解決すれば、あえて過去のものを私は問おうという考え方は持っておりません。」どうもこれは文章が難解でございまして、私ども何回も繰り返して読んだのでありますが、やはり最後のところが大事だと思うのです。資源確保、共同利益のために漁業問題が解決すれば、あえて過去のものを私は問おうという考え方は持っておりません――総理、この御答弁は、今日もお変わりございませんか。

○池田国務大臣 われわれは、前向きで、過去の事実を考えながら正常な妥結をはかりたい、こういうのでございます。

○野原(覺)委員 総理にもう一度だめを押したいのですが、賠償請求をするのかしないのかは、漁業交渉の場で、いろんなことを判断をしながら進めなければならぬ、こういうお考えですね。

○池田国務大臣 過去の事実は事実として主張いたします。しかし、それにとらわれることなしに、両国民の相互納得のいくような方法で解決したいと思っております。

○野原(覺)委員 そうなれば、あなたははっきりそういうように答弁をしなければならぬが、この速記は、「私は問おうという考え方は持っておりません。」こういうことなんです。これで終わっておるのです。実は、これが外務委員会で問題になりましたら、大平外務大臣は――九月の二日、外務委員会の速記にこう書いてある。「ああいう時期にああいうことを言われたのは、私どもにとって若干迷惑だ、そういう心境であります。」外務大臣が、総理の答弁こんなことじゃけしからぬじゃないか、抗議の口上書、賠償留保、閣議決定、いろんなことを指摘されて追及されたら、われわれは迷惑だ、あんな答弁を総理から言われて迷惑だ、こういう心境であります、こう言っておるのです。総理はどうお考えですか。

○池田国務大臣 私は前向きに答弁したのでございます。こちらの主張すべきことはもちろん主張いたしますが、しかし、それで正常化すれば、もう今までのあれはなくして前向きでやっていこう、こういう考え方でございます。

○野原(覺)委員 そこで、私は、漁業問題について、若干お尋ねをいたしたいと思うのであります。
 私は、漁業問題で私どもがまず考えなければならぬのは李ラインの問題だろうと思うのであります。李承晩宣言というのは、いまだに生きておるのかどうかということなんです。あなたむちゃくちゃな李承晩宣言が一体生きておるのかどうか。韓国は生きておるというので、いまだに逮捕を続けておるじゃありませんか。だから、私は、漁業問題を解決するにあたっては、一九五二年一月十八日の李承晩宣言、つまり、李ラインの撤回をまずやらせなければならぬ、こういう基本的態度をとるべきだと思うのでございますが、外務大臣、いかがですか。

○大平国務大臣 広く公海にわたりまして、一方的に排他的な権利を行使するというようなことは、不法、不当でございまして、私どもはそれを容認するわけには参りません。

○野原(覺)委員 李ラインの撤廃は主張しないということですか。

○大平国務大臣 私どもは、一方的に排他的な権力を公海において行使するということは容認できないと今申し上げたわけでございまして、李ラインの不法、不当性はすでに明々白々でございまして、その問題が訂正されない限り漁業交渉の妥結のあり得ないことは、もう当然のことと考えております。

○野原(覺)委員 そこで、漁業交渉に入りますが、ここで大事なことは領海の問題です。やはり領海ということが問題になる。私どもは、かつて、日本は三海里を主張しているというふうに実は聞いてきたのであります。今日日本は何海里を主張し、韓国は領海とは何海里だと言っているのでありますか、これをお教え願いたいのであります。

○大平国務大臣 この間本委員会の御質疑に対しましてお答えしたのでございますが、今から漁業交渉が本格化して参る段階でございまして、日本側の主張がどういう主張であり、韓国側の主張がどういう主張であるということを本議席から申し上げるということは、穏当でないと思います。ただ、私どもがただいまの段階において申し上げられるぎりぎりは、韓国側の御提案はまだなお柔軟性を欠いておるように思われるということが一点。それから、わが方といたしましては、最近の海洋法の傾向にもかんがみまして、また、イギリスと北欧の妥結した漁業条約等の先例にもかんがみまして、最近の海洋法の傾向についてわが国としても十分の理解を持つ必要がありはしないかという点と、それから、わが国が第三国と漁業条約を結ぶ場合に、日韓の間の漁業条約の結びようによりまして不当な不利があるようなことをしちゃいけない。双方の漁業者が最大限の利益を得るように、与えられた資源の上にたちまして、双方共存共栄の実を上げる道がないかというようなことが、私どもの最大の関心事でございます。こういうことでございます。

○野原(覺)委員 なぜこういうことをくどくどお尋ねするかと申しますと、大平外務大臣のやり方を見てみると、私どもはあぶなっかしくてしょうがないのです。財産請求権、平和条約の本質は、法的根拠に基づく支払い、これをあなたはああいう経済的援助の形で、随伴的効果でなくなるのだという解決をする、そういう外務大臣でございますから、これは韓国が、聞くところによれば、第二次交渉では四十海里を持ち出しておると私どもは聞いておる。この四十海里をどうしても日韓会談で、あなたが外務大臣の在職中にまとめなければならぬというようなこと等もあって、これは押し切られるのではなかろうかということ、韓国ペースで何もかも解決するのではなかろうか。率直に申し上げまして、李ラインも竹島も、とにかく反共の基地を強化しなければならぬということもあるし、アメリカの要求もこれはきびしいのです。このことには触れません。そこで、今国民が聞きたいことは、海洋法会議の十二海里、これは絶対固執しますね。日本は三海里を領海としてきめておりましたけれども、最近領海は長くこうなってきております。調べてみると、六海里、十二海里、海洋法会議では十二海里と、結論は出ておりませんが、大体これに近いのが大多数の意見である。この十二海里ということは、いかなることがあっても日本は譲歩できない、四十海里なんということは許さぬ、こういった基本的な言明くらいは、国会でしたらいかがですか、あなたの決意を。

○大平国務大臣 そういう国際的な傾向というものにつきましては、十分の理解をもって臨まにゃいかぬと考えております。

○野原(覺)委員 総理大臣にお尋ねいたします。竹島の問題ですね。先ほど総理は、大野さんから承ったことはないということであったのでありますが、竹島の共有論について、先ほど私は大野さんの談話を読み上げたのです。それじゃお伺いしますが、承っていなければそれでいいのでありますが、共有論については総理はどうお考えですか。今自民党の中では、これが問題になってきつつございます。あなたは、竹島の日韓共有論についてどうお考えですか。

○池田国務大臣 私はそういうことについて考えたことはございません。従って、私の考えはこうだということは言えませんが、竹島問題につきましては、国際司法裁判所で――両当事国間できまればよろしゅうございます。きまらない場合におきましては、国際司法裁判所の判決によっていくべきだということは、私は従来から言っておるのでございます。

○野原(覺)委員 そういたしますと、総理に、これは外務大臣でもけっこうでございますが、韓国が訴訟に応じない、応訴してこない、これは総理御承知の通り。そこで、政府は共同訴状をつくっておるかどうかということです。国際司法裁判所に提訴する、こう申されておりますが、こういったものを国際司法裁判所に持ち出す場合には、おれが提訴するが、お前はどうだと言ったら、それじゃ応訴いたしましょう、こういう基本的な了解をまず第一段階で取りつける。そしてその第二段階としては、それじゃというので、提訴する側の方が訴状をつくる。その訴状を相手国に見せて合意書をとる。こういう形で、共同訴状ということで、これは国際司法裁判所に付託されるというのが、国際司法裁判所の規定に書かれております。訴状はかつてつくったことがあるのでございますか、外務大臣。

○大平国務大臣 本問題に対するただいままでの経過は、たびたび申し上げておりますように、私どもが先方に対しまして、司法裁判所に提訴するから、あなたの方は応訴を願いたい、こういう提案をいたしております。これに対しまして先方は、それも一つの方法でございましょうけれども、第三国あるいは第三者に調停を願って、その調停が不調に終わった場合、国際司法裁判所に提訴するかどうかということは、日韓両国で御相談しましょうじゃございませんかというのが、ただいままでの先方の返事でございます。従いまして、今両者の見解をそういう状態におきまして調整をはからなければいかぬというのが、私どもの課題でございまして、共同訴状をつくるというような段階までまだいっておりません。

○野原(覺)委員 この問題は、これは池田総理が言明されましたように、私は、第三国の調停などで解決できる問題ではないと思う。いわんや、竹島の日韓共有論で、これは朴さんの方も非常に憤慨をしておるようであります。これは私は、いずれ大野さんが本委員会にお見えになるでございましょうから、そのときにお尋ねいたしますが、朴は非常に憤慨しておる。新聞記者に談話を出しておる。そういうことを言った覚えはない、そういうことは絶対反対だと言っておる。そこで私は、やはり政府が今日までとって参りましたように、領土問題の解決は国際司法裁判所、この方針でいくべきだということを重ねて申し上げておきたいのであります。
 日韓会談の最後の段階に入って参りましたが、金鍾泌の地位が最近動揺いたしまして――また元に、民主共和党の幹部に返り咲いたようでありますが、その動揺したときに国民がひとしく心配したのは、一体大平外務大臣は金さんを相手に交渉してきておったが、この人の地位がなくなったら日韓交渉はどうなるだろうか、これが素朴な国民の懸念であったのであります。この懸念がこの委員会でも質問をされた。そうしたら、政府の方はこう答弁しておる。責任者は朴さんだ、金がどうなろうと会談には影響はない。この答弁は間違いではないと私も思う。そこで、それならば、この四月に大統領選挙があって、朴さんが大統領に当選できない、あるいはまた民主共和党の内紛がいつどうなるかわからないです。私もいろいろ情報を聞いておりますが、どういうことに発展するやら、朝鮮の政情はにわかに逆睹しがたいものがある。そこで、朴政権が倒れるとかあるいはどうしても朴が大統領になれないという場合には、この今までの日韓交渉というものは、根本から破壊される、やり直ししなければならぬと私は考えるのでございますが、外務大臣いかがですか。

○大平国務大臣 これは日韓両政府の間の交渉でございまして、一応韓国の政情とは関係ないわけでございます。韓国の政情の推移につきましては、私どもも注視はいたしておりますけれども、それの是非を論評することは差し控えたいと思います。あくまでも両政府間の交渉でございます。私は外務大臣といたしまして、韓国の政情がどうでありましても、日韓の国交正常化という歴史的課題が私どもの肩にあるわけでございまして、日韓の間の国交はどういう姿で正常化すべきものかという問題は、どの瞬間においても忘れてはならない大事な懸案と心得て、追及、探求していかなければならないと考えております。

○野原(覺)委員 韓国は国会がないのですから、これは朴さんが倒れたら御破算になるのです。これはもうはっきりしておる。だれもあとで責任を引き継ぐ者がないのです。そうなった場合の政府の責任は重大であるということを、今から警告しておきたいと思うのです。
 最後に私は――日韓会談の最後でございますが、総理にお伺いいたします。政府がかりにこの日韓交渉をまとめて妥結調印をした、その次は批准ということになるわけでございますが、たとえば財産請求の解決にしても、ああいうすりかえの解決をしておるし、いろいろな問題が介在しておるのでございますから、少なくとも日韓交渉に関しては、批准の段階において国民の総意に聞かなければならないと私は考えますが、総理の所信はいかがですか。

○池田国務大臣 必ずしもあなたの意見に同意はできません。

○野原(覺)委員 なかなか用心深い発言であります。御用心深い御発言でございますけれども、これは国民の総意にお聞きにならなければならないことであろうと私は思うのでございます。
 時間の関係もございますから、私は次に問題を発展させまして、文教の問題を若干お尋ねしたいと思うのであります。
 総理の施政演説を拝聴いたしまして、私は、あの人つくりという言葉の内容が初めて施政演説に出て参ったことに対しては敬意を表します。そこで、総理にお伺いしたいことは、人つくりということと教育ということは同じか、違うかということです。人つくり政策ということは、あなたの施政演説の中身を読んでみますと、文教政策と読みかえてもいいように私は思う。従来国民は文教政策と言ってきた。どういうわけであえて人つくり、こういう新語をお使いになられたのか。これは総理の何らかの御理由があろうと思うのでございますが、この点はいかがですか。

○池田国務大臣 人つくりというものは、私は、これは文教政策、家庭教育、社会教育等といろいろございますが、だれがっくるかといったら、一人一人自分がつくっていくのだという考え方でございます。しこうして、文教政策は、そういうりっぱな人を自分がつくるような手助けをする、環境をつくる、そういう気持を発展させ、伸ばすということであろうと思います。

○野原(覺)委員 人つくりという言葉は文教政策、人つくり政策とは文教政策、こう受け取ってもよろしいような御答弁でございました。そこでなお、施政演説の中にこう書いてある。「人つくりの主たる対象は、何といっても将来をになう青少年でありましょう。」、こう言っておる。そうなりますと、私は、人つくり政策とは、これは完全な同義語にはなりませんけれども、青少年教育対策、こう考えても差しつかえなかろうと思いますが、いかがですか。

○池田国務大臣 そうではない。人つくりというものは、自分が自分をりっぱにつくっていくのでございます。教育というものは、教える者と教えられる者とある、その間に、教える者も自分が教えられることもありましょうけれども。そこで、人つくりというものは、自分がりっぱな人をつくるようにすることが人つくりなんでございます。そして、自分が自分でつくり得るような環境をつくり出す、それを助けるというのが教育でございます。

○野原(覺)委員 そうなって参りますと、あなたは施策演説の中にこう書いておる。確かに総理のお考えはこういうふうに出ております。そのところは、「このような人つくりは、国民一人一人がみずからの問題として精進すべきことであり、」とあります。これはわかりました。これは私も教育のあり方からいって当然であろうと思う。失礼でございますが、総理大臣が人をつくるのじゃなかろうと思っておったのです。自分自身がつくらねばならぬことは、これは当然でありますが、「われわれ政府の任務は、」として、政府の任務をその次にうたっておりますね。だから、この人つくり政策、人つくりでは政府の任務が重大でありまして、こう書いてあります。「政府の任務は、家庭、学校、社会のそれぞれの場において、このような機運を醸成し、そのための環境と条件を整えることにある」環境と条件を整える、学校をたくさん建てるということ、先生をきちっと置くということですね。それが政府の任務だと、こうあるわけでございますから、政府の任務は非常に重大になってくるわけであります。そこで、私どもの党の柳田秀一君が本会議であなたにお尋ねをいたしました。一体施政演説のどこを見ても、教育基本法という言葉がないじゃないか、憲法という言葉がないじゃないか、こう言ってお尋ねいたしましたら、あなたが御答弁になられておる。こう言っておる。「人づくりの内容につきまして、教育基本法とどういう関係か。われわれは憲法並びに教育基本法の精神に沿っていくことは当然でございます。教育基本法の精神に従っていっておるのであります。私はそれを敷衍して国民の皆様によくわかっていただくように、施政演説で申し上げておるにすぎないのであります。」これは教育基本法の教育の目的、第一条に書かれておるようなことが、なるほどそう言えばずっと施政演説の中に出てきておるのであります。あなたは教育基本法を尊重されておる、当然だ、こう言われておるのであります。ところが総理大臣、困ったことが起こっておるのです。この政府の任務である、環境と条件を整備しなければならない文教政策の責任者であります文部大臣の荒木さんは、教育基本法では人づくりはできないと言っておるのです。御承知でございましょうか。あなたは、教育基本法で人をつくるのだ。こうおっしゃいますけれども、荒木さんは、教育基本法では人づくりはできないと言っておるのです。この点をあなたはどうお考えになりますか、お伺いいたします。

○池田国務大臣 私は、あそこで答えたように、教育基本法はもちろん憲法の精神にのっとりまして、そうしてりっぱな人づくりをしたい、こういうので、矛盾はないと思う。荒木君がどう言っておるか、教育基本法で人づくりができぬという意味がわかりませんので、荒木君から答えることにいたします。

○野原(覺)委員 荒木さんは言っておるのですよ。荒木さんはそこにいらっしゃるから、これは確かめたら一番はっきりするのです。あなたは教育基本法で人づくりをやる。ところが、荒木さんは教育基本法では人づくりはできないと言っておるのですよ。私は指摘いたしましょう。朝日新聞にこう書いてある。荒木文相は、広島県庁で開かれた文部省主催の中国ブロック市町村教育長研究協議会に出席し、約三百人の中国五県下の教育長を前に、教育基本法は占領時代に押しつけられたもので、この範囲では日本民族の優秀性を伸ばせないため、国情に合ったものに改正したい云々、こう言っておる。教育基本法では人つくりができない、こう言っておるのです。愛国心の養成も、国民としての自覚を持たせることも、あなたの施政演説を見て下さい、あなたの施政演説は、愛国心の養成、国民としての自覚、ずっとこう述べてある。そういうことも、今の基本法ではできないと言っておるのです。あなたは文教政策を荒木さんに御一任になっていらっしゃるのですね。総理としてこのことをどう考えますか、もう一度お尋ねいたします。

○池田国務大臣 私は、教育基本法第一条のりっぱな人格を形成する等の精神をくんで言っておると思うのであります。ただ、荒木君の説明を私はまだ聞いておりませんが、荒木君が言うのには、教育基本法だけでは不十分な点があるということを言ったのじゃないかと思います。だからその点は、せっかく来ておりますから、ここで聞いてみようじゃありませんか。

○野原(覺)委員 全くただいまの点は総理に同感であります。私も今荒木さんにお尋ねしようと思っておったのであります。そこで、お尋ねする前に申し上げて置きますが、これはまた同じく朝日新聞にこう書いてあるのです。今度は全国都道府県の教育委員長協議会と、同じく教育長協議会、これは教育政策では重要な会議です。その臨時合同総会の席上でこう言ったのです。「りっぱな日本人をつくり、諸民族から敬愛される人間を教育するには、教育基本法をはじめ、戦後の制度は物足りないのではないか。」こう言っておるのです。私は文部大臣に率直にお伺いいたしますが、事は重大ですから、お伺いいたしますが、あなたはかってこういうことをおっしゃったことはございませんか。あなたの教育基本法に対する見解を腹蔵のないところを総理大臣も聞きたいと言っておるし、国民も知りたいのでございますから、今ここで述べていただきたい。

○荒木国務大臣 お答え申し上げます。
 ただいま御指摘になりましたような趣旨のことを言いました。今でもそう思っております。それは御承知の通り、憲法すらも、今、国会の審議を経ました法律に基づく憲法調査会で、改正すべきかいなかを含めて、盛んに数年来検討されております。教育基本法も、制定当時は、教育勅語がなくなってからっぽのままでいいかどうか懸念されるという心配をなすった識者、刷新委員会の方々が、お堀ばたの存在を念頭に置きながら、当時として許される、いわば最小限度のアプルーバルのもらえる範囲内のものは何だろうという考慮のもとに、原案がつくられて、むろん国会の審議を経まして制定された法律であります。ですから、当時の刷新委員会の方々すらも、不十分であることを意識していらっしゃると私は推察いたします。憲法にしてすでにしかり、教育基本法の生い立ちの記が以上のごとしとするならば、独立を回復してから十年にもなる今日、日本人みずからの自由の見識において、教育基本法はいかにあるべきかということを検討すべき一つの課題であろう、そういうことの趣旨を申しました。今日でもそう思っております。
 また、教育基本法では人がつくれないということを申したわけではございません。教育基本法そのものについて、以上のような見解を私は持っておりますから、できれば立法論としては、今後よりよきものに検討さるべき課題であろう。従って、もし足らないところがあるとするならば、文部省はもちろん、教育委員会も学校の先生方も一緒になって、足らないものを補う心がまえでやるべき課題があるのじゃなかろうかという気持を、一両回言ったことはございます。従って、総理の答弁のごとく、現実に何に基いて、何に従ってやるかというならば、当然のこととして、憲法の趣旨を体し、また教育基本法の前文にも書いてありますように、憲法の趣旨を体してつくられた教育基本法に従い、また憲法と教育基本法の趣旨に従ってつくられた学校教育法その他もろもろの法律に従って教育が行なわるべきことは当然のことだと心得ております。

○野原(覺)委員 きわめて重大な発言であります。総理、私はお尋ねいたしますが、あなた教育基本法を尊重すると言うが、今荒木文部大臣の御答弁を何とお聞きになりますか。荒木さんが教育基本法ではやはり依然として問題があると言っておるのです。教育基本法で人づくりはできない、文教政策は教育基本法では進展しないと言っておるのです。総理の御見解を承って、私は重ねてお尋ねいたしましょう。

○池田国務大臣 別にそう変わってはおりません。私は憲法並びに教育基本法の精神に従っていくことは当然だ。ただ、教育基本法が万全なものか、これで十分かということになりますと、人、人によって、これはまだ改正しなければならぬという人と、もっとこういうことを明らかにせねばならぬということもあるかもわかりません。しかし、私の教育基本法の精神にのっとりということには、荒木君も違いないと私は今聞いておりました。

○野原(覺)委員 総理がそういうような御答弁をされたら大へんなことになりますよ。人、人によって教育基本法に対する考え方の違うことは認めましょう。しかし今日、日本の教育は何によって行なわれておるのですか。教育基本法じゃありませんか。その教育基本法では文教政策が進まないのだ――これが単なる一民間人がお話したならば、これは問題がない。文部大臣がそれを言う。文教の責任者である文部大臣が、教育基本法ではできないのだとはっきり言っておるのです。今文部大臣の御答弁を聞きますと、いろいろ言葉じりを濁された点がございましたが、あなたが東京新聞に寄稿した「文教の本質をこう思う、荒木萬壽夫」というのに、あなたがはっきり書いている。これは総理もお聞き願いたい。人、人によって違うことは私も認めます。それから教育基本法に対する注文のあることも認めます。しかし、日本の教育は憲法と教育基本法が行なわれておるのに、責任者である文部大臣が、教育基本法ではできないのだ、こう言っておる。これもいいでしょう。ところが、総理大臣が、教育基本法で教育をやるのだと言っておる。この食い違いがあるということを、私はここに指摘したいのです。東京新聞に荒木さんはこう書いておるのです。「教育基本法第一条を見ると、これはまぎれもなく敗戦によって与えられた法律に違いないのだが、」それからずっと第一条の文言を書いて、「ここにはわれわれが考えているような意味の日本人をつくるという精神がみじんも出ていないということを指摘しなければいけない。」文部大臣はこう言っておるのです。日本人の教育は、教育基本法ではできないと言っておるのです。総理大臣はどう考えますか。あなたの教育基本法を尊重するという答弁はうそですか。これをどう考えますか。

○池田国務大臣 第一条にりっぱな国民をつくるということが書いてあります。私は、この精神はわれわれ守っていくべきだと思います。ただ人、人によって、国際的の立場に多く立つか、あるいは日本の国ということを強く出すかという、出し方の問題はありましょう、ニュアンスの問題として。しかし、あの一条の精神は、私は古今を通じて誤まらない――と言ってはひどいかもしれませんが、とにかくりっぱな精神でございます。ただ、人によっては、物足らぬという気持の人はあるかもしれません。本質的にどうこうではなく、ただ少し物足らぬという考え方の人はあるかと思います。しかし、教育基本法というものを否定するという言葉じゃないと思います。

○野原(覺)委員 とんでもないことをおっしゃってはいけません。みじんも出ていないと言っているのですよ。いいですか、日本人をつくるという精神はみじんも出ていないと言っているのです。教育基本法ではできないと言っているのです。あなたは内閣総理大臣として、文教政策の最高の責任者ですね。あなたが柳田君に答弁されたことはうそですか。あれを取り消しになりますか。それならば荒木さんをかばいなさい。しかし、あなたの柳田君に答弁したものは、教育基本法の精神を尊重して人をつくる、こう言ったのです。文部大臣は教育基本法ではできないと言っておる。どうしますか。

○池田国務大臣 私の言ったことは私の信念でございます。取り消す必要はございません。

○野原(覺)委員 文部大臣はできないと言っておる。どうなさるのですか。文部大臣はできないと言っております。荒木萬詳夫として署名入りで書いておるのです。みじんもできない、日本人はつくれないと言っているのです。あなたはどうするのですか。

○池田国務大臣 私の信念に変わりはございません。荒木君ができないと言うのは、それは十分でないという意味かと思いますが、それは荒木君にここでお聞きになったらよろしゅうございましょう。私の責任ではございません。ただ私の考え方と本質的に非常に間違っておれば、私は責任を負いますが、私は大体合っておると思います。

○野原(覺)委員 総理、ただいまの答弁は重大ですよ。あなたは日本憲法を御承知でしょう。今日の日本憲法は、内閣一体の原則をうたっております。そうしてあなたは行政各部の指揮監督をし、同時にあなたの方針にたがったところの者はこれを罷免する権利を憲法が与えておるのですよ。あなたの方針は人づくりだ。その人づくりは教育基本法でやるのだと国会で答弁をして、国民にはっきり明らかにしたのであります。ところがあなたが任命をするところの、あなたが文教政策を一任しておる荒木文部大臣はできないと言っている。なぜあなたは憲法に基づいた行動をしないのですか。あなたは憲法を破壊するのですか。憲法に書いておるじゃありませんか。憲法六十六条に書いておるじゃございませんか。なぜあなたはこの憲法六十六条に従っておやりにならないのですか、お伺いいたします。

○池田国務大臣 私も憲法の規定は存じております。しかしあなたは、私と荒木君が全然反しておるという前提に立っておられるようでございます。それを一つ釈明しなければあなたの議論は成り立たぬでしょう。

○野原(覺)委員 全然反しておりませんか。あなたは、教育基本法の精神を尊重してそれでやると言う。荒木文部大臣は、教育基本法では日本人の教育はみじんもできないと断言をする。これが反しておりませんか。総理、反していないですか。

○池田国務大臣 荒木君の意見を十分に聞かれたらどうですか。それから追及なさったらいいでしょう。

○野原(覺)委員 文部大臣の御意見は、これは重要な段階ですからお尋ねします。しかし、あなたは反してないというような独断を言うから言っているのです。文部大臣、それじゃ一つあなたの所信をもう一度承りましょう。

○荒木国務大臣 私の憲法及び教育基本法についての所信は先刻申し上げた通りでございます。その通りの考え方を求められて立法論を述べたのであります。およそこれは、共産党を引き合いに出すとしかられますけれども、共産党の諸君は、ともすれば悪法は法にあらずと言う。私どもはそう思わない。いやしくも憲法、法律というものがある以上は、それに従ってしか行動できない。これは民主政治、議会政治の形態をとる日本人として、例外なしに当然のことだと心得ます。そのらち内において就任以来行動しておるのであって、いまだかつて一瞬間といえどもそののりを越えたつもりはございません。今御指摘のことも、その立法論を申し上げたにすぎないのであります。そこで、おっしゃる通りだとするならば、言葉を返すようですけれども、たとえば大学の問題にしましても、中教審の答申を受けて現行法の欠陥を整備しようということすらも言えないという道理らしく考えられる。そういうことは毛頭ないはずでありまして、念を押されるまでもなく、憲法、教育基本法その他もろもろの法律に従って行政は行なわるべきだ。繰り返し申し上げるまでもなく当然のことと思います。ただし、立法論を述べることは、行政府の責任者としても当然のこと、職責の一端だと心得ております。

○野原(覺)委員 総理大臣に申し上げますが、私は、何回も同じことを申し上げるようでございますが、教育基本法では人づくりはできないというこの文部大臣の考え方は依然としてあなたのお聞きの通り変わっておりません。あなたは教育基本法を尊重すると言う、文部大臣は教育基本法では人づくりはできないと言う、日本人づくりはできないと言う。もっと詳しく言えば、日本人づくりをして初めて人間づくりに到達するのだということも書いてある。日本人づくりができないということは人づくりができないということです。これはあなたの考えに違いませんか。あなたの考えにたがうことでしょう。私は、内閣が施政方針として打ち出したところの、教育基本法の精神で人をつくるのだというこの内閣の方針にたがう文部大臣であると思います。どう御判断になりますか、お尋ねします。

○池田国務大臣 ただいまお聞きの通り、文部大臣も、憲法並びに教育基本法の線に沿っていくのだ。ただ立法論として、今の教育基本法について自分はこういう考えを持っているということは、文部大臣の意見です。しかし法に従っていくということは、文部大臣が答えた通りでございますから、私の意見と変わりありません。

○野原(覺)委員 立法論じゃございませんよ。内容論ですよ。あなたはどうお聞きになったのですか。教育基本法ではみじんも日本人がつくれないということは立法論ですか。断言されておる。そうして、私は確かにそう言った、それはおれの信念だ、こう今文部大臣は言っているじゃありませんか。立法論じゃありませんよ。戦後できたことは事実です。戦後できたからといって、これを改正しなければならぬという立法論、それから来ておるのじゃないのです。この内容では人がつくれないというところから来ておるのです。この問題は重大でありますから、私どもはこの問題は重ねて追及いたしますが、この機会に総理に申し上げておくことは、憲法六十六条の精神から見て、内閣一体制の原則から見て、あなたの方針と違う、内閣の方針と違うことを国民の前に公言してはばからない文部大臣をそのまま内閣にお残しになるということはいかがなものかと私は思うのです。私は、荒木さんに情において忍びませんけれども、もしあなたがあえてそのことを不問に付するというならば、過日本会議において柳田君の質疑に答弁したあの答弁はお取り消しになったがいいでしょう。あなたが教育基本法の精神を尊重するというならば、あなたは憲法六十六条の規定に従って処断すべきです。結論を出すべきです。私はこのことを申し上げて、先に進みたいと思うのであります。ただいま申し上げた問題は、今後私どもは徹底的に本日の速記をもなおよく読み返しまして、追及して参りたいと思うのであります。
 そこで、次に申し上げたいことは、人づくりの演説で総理はこういうことを言っております。「輝かしい歴史を生み出すものは、世界的な視野に立ち、活発な創造力と旺盛な責任感を持った国民であります。国民の持てる資質を最高度に開発し、それを十二分に発揮することは民族発展の基礎であり、その発展を通じて世界人類に寄与するゆえんでもあります。このような人つくりは、国民一人一人がみずからの問題として精進すべきことであり、われわれ政府の任務は、家庭、学校、社会のそれぞれの場において、このような機運を醸成し、そのための環境と条件を整えることにある」というのであります。私は、この文章を実は読み返し、あなたの施政演説を聞いたときに、ほんとうにからだが躍動するのをとめることができなかったのです。実に力強い文章なんです。
 そこで私はお尋ねしたいことは、一体人づくり、人づくりと、こうおっしゃいますけれども、そうしてこうしたりっぱなことをお述べになられますけれども、人づくりをする上で、今日私ども政治家として反省をしなければならない点は、総理、何だとお考えでございますか。あなたが人づくりをなさる上で――私も政治家の末席を汚しておりまするが、われわれ政治家として反省しなければならない点は何だと総理はお考えでございますか。

○池田国務大臣 人、人によって違いましょうが、私はやはり施政演説で申しております通りに、りっぱな社会人、りっぱなよりよき市民として、常に自粛自戒し、国民のりっぱな代表としての務めを果たしたいと、こう施政演説でも申しておる通りであります。やはりわれわれとしては、りっぱな民主主義議会政治制度を守り抜くということであろうと思います。

○野原(覺)委員 私どもが反省しなければならない点は、はたして憲法と教育基本法の精神に従って今日の教育政策、教育行政が徹底的に進められておるかということが第一点です。そうして日本は戦争を引き起こしたのです。戦争を引き起こした一番大きな責任は、政治家にあるのです。この責任をほんとうに痛感しておるかという問題です。あなたはここの中で、旺盛な責任感を持った国民であると、こう言っておりまするが、旺盛な責任感を持った国民だとして、総理大臣としてこれを国民に要望される前に、今日の政治が責任を持って行なわれておるかということを御反省になったことがありますか。日本は戦争を引き起こしたことに対する責任を、一体今日の政治がほんとうに考えておるだろうかという疑惑が国民の中にあるじゃありませんか。私は具体的に申し上げます。戦争を引き起こした戦犯というものは、これは政治の先頭に立つべきものではないと私どもは考えておる。それからまた国民に責任を説く前に考えなければならぬことは、選挙違反で当選をしてこられたような方が、選挙違反だといって関係者が起訴せられておるような方が、少なくとも責任ある大臣というような地位だけは、その問題が解決するまでは私は遠慮すべきだろうと思う。こういう卑近なことが、実は国民が大きな疑惑を持っておるのであります。私は、あなたの書かれたことは、言葉だけから言えばまことに賛成です。しかしながら、この書かれた言葉というものが、現実の具体的な政策の上に、政治の上に遺憾ながら現われていないのであります。
 そこで議論を進めます。どう現われていないのか。もう一度総理にお尋ねいたしますが、政府の任務は、環境と条件をつくり上げるとこうある。あなたははっきり施政演説で私どもに方向を示されたのでございますけれども、義務教育の場で環境と条件をつくり上げるためには、今何と何に重点を置かなければならぬのですか。環境と条件をつくり上げるための義務教育の場における努力すべき点は、総理は何だとお考えですか。

○池田国務大臣 教育内容の改善あるいは教育者のよりよき良識と知識、いわゆる教育者の素質向上、あるいはまた学校施設の整備拡充等々、いろいろあります。私は三十八年度予算におきましても、そういう意味におきまして、施政演説にも申し述べておりますごとく、教科書の無償供与あるいは学校給食等、各方面にいろいろ力を尽くしたつもりでおります。

○野原(覺)委員 教科書の無償というお言葉が出ましたから、これは大蔵大臣にお尋ねいたしますが、この三十八年度の予算を見ますと、教科書は小学一年から小学三年まで全額国庫負担、これは公立にも私立にも給与する、この三原則で実は計上されておるのであります。この三原則というものは私はくつがえしてはならないものだと考えますが、大蔵大臣、財政当局の責任者としてどうお考えでございますか。

○田中国務大臣 教科書の無償につきましては、御承知の通り党及び政府の間で長いこと問題になっておったわけでありますが、昭和三十七年の予算編成にあたりまして、小学生一年分に対して国が全額支出をして教科書を無償で交付をすることにいたしたわけであります。第二年次目の昭和三十八年度予算編成に際して、一年から三年まで全額国庫負担で給付することになったわけであります。しかし、この問題につきましては、地元負担の問題、いわゆる地方公共団体の負担等の問題に対しては、あわせて次年度以後において検討することになっておりますが、それは御承知の内閣に設けました調査会の結論としまして、地方負担その他に対しても、自後において考慮した方がいいという答申がありますので、来年度以後においてこれができるかできないかというような問題も、あわせて検討するということであります。しかし、あくまでもこの教科書については、御承知の通り、地方公共団体が主体でありますので、国はこれに対して補助をするというような建前で法律上の措置をいたしておるわけであります。

○野原(覺)委員 大蔵大臣の御答弁を承りますと、総理が、人づくり政策の政府の努力しておる点の一つにあげた教科書無償については、ほんとうに来年も全額国庫負担でいけるのやら、供与という方針でいけるのやら、私立学校にも渡せるのやら、検討しなければならぬというのです。総理大臣、あなたはこれはそう言っておりますけれども、私は、どうもこの教科書無償の問題をじっと見ておりますと、何かしら人気取りのようなにおいがしてしょうがないのです。これは、はっきり自民党なり、池田内閣が教科書無償として打ち出した限りは、完全無償の計画を国民の前に出しなさい。小学校六年、中学校三年、この九年間は何年計画でやるのだというものをかつて出したことがございますか、ないのじゃありませんか。去年は予算を小学一年だけ、ことしは三年まで計上したが、来年はどうなるかという方針がありますか。ないでしょう。来年はどうなるのですか。来年は小学校六年までなるのですか。それとも中学校の三年まで全部来年は完全無償でいけるのでございますか、文部大臣、お尋ねします。

○荒木国務大臣 野原さんお話しのように、きちんと何年までに完了するということは、政府全体としてきまっておりません。それは事実であります。ただし、この前の通常国会で御審議願いましたあの法律に基づきまして、義務教育の教科書を無償とするという方針は確定していただきました。そのやり方については、これまたあのときの法律に定められましたがごとく、調査会を設けて検討するということで、ほとんど一年近く、昨年の十一月末日まで検討していただきました。その結論としては、今のお尋ねの点についてだけ申せば、年次計画を定めてそれを完成しなければならぬという趣旨のことがございます。その年次計画が何年以内だということはむろん具体的には出ておりません。今まで関係省とも相談いたしまして当面三十八年度予算に、今御指摘のごとく三年生までということまでたどりつきました。文部省だけの希望としましては五年以内に完了したい、かように思っております。政府全体の結論ではございませんけれども、のんべんだらりとやるべきではなかろう、できれば五年以内に完了したいものだ、かように思っております。

○野原(覺)委員 文部大臣の御決意はわかりましたけれども、大蔵省では事ごとに反対をしております。これは半額国庫負担にすべきだという考え方もあるのです。これは田中大蔵大臣なかなかつらい立場です。事務当局は承知しないと言っておるのです。大蔵関係の議員の中でも反対をしておるのです。だから、あなたの計画、あなたの決意はわかりましたけれども、これが池田内閣の方針であるかには疑問がある。
 それから、総理の人づくりの努力点で次に申されたのは、施設の拡充ということでした。私は最近朝日新聞を見て驚いたのです。高等学校急増対策について朝日新聞が全国的にわたって調査した「お寒い限り」という見出しで書かれておるのを見て驚いたのです。時間もございませんからこれは急ぎますけれども、新潟県では七つ学校を建てたければならぬのに、建っているのは四校で、間に合うというのが二校、一校はまだ完全に工事にも着手していない。これはことしの四月から始まらねばならぬ学校であります。神奈川県においては、これまた七校建てるというのに、間に合うのは一校だけだそうです。大阪においては、この急増対策が間に合いませんから、工業高等学校の地下室に今度の新入の高等学校の生徒を入れるというのであります。ベニヤ板で間仕切るならよいのでございますけれども、福島、函館、茨城等々、全国の実情を朝日新聞が調査して発表しておる。こういう実情が片一方ではあるのに、片一方では人づくり、政府の任務は環境と条件をつくり上げること、こう言うのです。そうしてそれが施政演説に出てくる。そうして私はやっておると言うけれども、何にもやっておらぬ。一体この高等学校急増の問題は、私は荒木文部大臣に去年文教委員会で何べんも申し上げたはずだ。荒木さん、御記憶でございますか。進学率を六〇%にしておるのは少ないぞ、これでは大へんなことになるぞと言ったら、あなた方は当時がんばったでしょう。なぜ去年六一・八%に是正しないのですか。今ごろになって、あと二カ月で学校が始まるというのに、六一・八%と進学率を是正する。これをどろなわ文政というのです。私は指摘しておるのだ。しかも六一・八%というのも、これは少ない。これでいきましても、私どもの計算によれば、十四、五万人の高等学校に行きたくても行けない生徒ができるのです。これを俗に中学浪人というのです。
 時間がございませんから次に入りますけれども、たとえば学級定数の問題、これから子供はだんだん減っていきます。小学校の生徒は減っていきます。小学校の生徒が減少して参りますと、勢い教員の数もこれは減っていくのではなかろうかという問題が生ずるのであります。ところが、幸か不幸か、日本の学級定数というものは諸外国に比べて非常に高い。文部大臣が御承知の通り、三十七年度は五十五名であった。ことし五十名にする。フランスは三十名、アメリカは二十五名です。ベルギーは、これは二十何名です。英国のごときは、ある小学校の校長が、三十七名以上持てと言ったら、私は責任が持てないと言った。子供の教育をするのに、ほんとうに個別に即して、池田さんの言うように、産業界の要求に間に合うような技術者、技能者をつくらなければならぬ、片一方には精神づくりをしなければならぬ、この二本の柱があなたの人づくりのようでございますけれども、あなたの人づくりというものをほんとうに実現するためには、政策の上では学級定数を減らさなければならぬ。文部省では減らす計画があるようです。まずその計画を一応発表していただきたい。どういうような計画で学級定数を減らそうとなさっておるのか。何年になったら、少なくとも四十名ぐらいの――ヨーロッパ並みの三十五名とはいかなくても、一学級四十名ぐらいの生徒の定員に何年たったら実現するのでございますか。文部大臣、承りたいのです。

○荒木国務大臣 生徒減少に伴いまする対策にお答えします前に、いわゆる高校生急増対策について言及されましたので、簡単に申し上げます。
 御指摘の通り、前向きに三十六年度から、三十六、七両年度を含めまして、三十八年度の生徒増に備えるということで、昨年一月二十六日に閣議決定をいたしました計画で前年度は進行して参りました。年度途中におきまして都道府県知事の方とも十分に連絡をし、大蔵、自治、文部三省一緒になりまして、いわば共同作業をして検討をしました結論としては、昨年一月二十六日の閣議決定の線は、御案内の通り三十五年度をとるほかになかったので、それを基準に考えまして、進学率を六〇%と見て作業をいたしました。ところが、今も申し上げた都道府県知事との現実の計画に見合いまして再検討をした結論は、六一・八%という、全国平均でいけばおおむね一月二十六日に予定しておりました現実入学者の入学率九六%を確保できそうだという結論に到達いたしましたので、年度途中におきまして、御案内のごとく五十八億円の追加財源措置をいたしまして、さらに三十八年度は、全事業量から申し上げれば、当初の計画の五百五十三億円では十分でないというので、六百八十二億円に増額いたしまして、三十八年度の年次割を二百十二億円と予定して財源措置をそれぞれいたしております。従って今申し上げた通り、入学率は九六%を確保し得る見込みでございます。
 それからなお次の問題でございますが、小中学校で生徒が御指摘のごとく減少して参ります。ほうっておけば首切りにならざるを得ない。ただ一面、五年計画ですし詰め教室解消計画を立てまして、三十八年度がその最終年度であることは野原さんも御承知の通りであります。五十人にようやく全国的にたどりついた、そこで三十八年度としましては、五十人にしますことによって、結論を先に申し上げれば、三千人ばかり教員が余る勘定になりますけれども、従来の平常時の実績の例を見てみますると、年間約一万人の自然退職者があり、さらに高校急増に移りますためにその方に教員が要る。これまた御案内のごとく年々の大学卒業者の教員志望、あるいは臨時養成等のルートを通りましてもなかなか教員充足が困難だというので、以前から計画的に、中学の先生で高等学校の免状を持っておる方々を配置転換するというやり方によって、約四千名近い者を期待いたしております。そこでそれをあわせ考えますと、三十八年度三千人ばかりの赤字が出るような勘定でありますけれども、全体としましては、相当の新規採用をいたしましてもなおかつ首切りは必要でない、そういう結果になるはずがないというその根拠に立ちまして首切りは行なわない、こういう考えに立っておるのであります。将来学級定数を何人にするかはなかなかむずかしい課題ではございますけれども、当面少なくとも四十五名を目標に、できれば五年計画くらいでもって漸次そういう方向に移行していったらいかがであろう、こういう考え方のもとに作業を進めておる段階であります。

○塚原委員長 野原君に申し上げますが、申し合わせの時間が経過いたしましたので、至急結論をお急ぎ願いたいと存じます。

○野原(覺)委員 ただいまの文部大臣の御答弁では教員の首切りは行なわない、私もこれは賛成でございますから、ただいまあなたがこの予算委員会で言明されたこのことは、これはあなたが責任を持って首切りが行なわれないように措置をして下さるものと私は確信をいたすのであります。
 それからこの学級定数の問題でございますが、これは一体四十名くらいの計画を立てなければならぬのに、このことに対する明言が、何年計画で実現するのやらきわめて怪しいのであります。聞くところによれば田中さんの大蔵省では、文部省が学級定数を減らすならば義務教育費国庫負担法に基づいて金がよけい要るから、これは何とかしなければならぬというので、義務教育費国庫負担法の改正を実はもくろんでおるかのようなうわさも流れておるのであります。これは私は大蔵大臣に申し上げておく。あなたの事務当局がそういうことを考えておるとするならば、とんでもないことなんです。池田内閣の方針は、これは人づくり、しかも人づくりは環境と条件を整備することなんです。これが池田内閣の基本方針なんです。だから教育の環境と教育の条件を整備するということに対しては、大蔵当局は、これは優先的に考えていかなければならぬものではなかろうかと私は思うのであります。
 文教問題の最後にお伺いをいたしますが、これは文部大臣にお尋ねをいたしますが、この前の臨時国会であなたは大学管理の改正案をこの国会に出す、こういう言明をされて、この言明が非常な物議を実はあちらこちらに与えておることは、大臣御承知の通りであります。ところが、今度は通常国会が開かれますと、池田さんの施政演説によって、この大学管理法というものは出さないことになったのです。文部大臣、どういう理由で出すと言明しておったものが出さないことになったのか。その理由に対して文部大臣としてはどういう御所見を持っておられるか、お伺いいたします。

○荒木国務大臣 お答え申し上げます。大学の諸制度の改善、関係法律の改正、これは御案内のごとく昭和三十五年五月二日松田文部大臣当時に中教審に諮問されましたことから、真剣な客観的な冷静な立場での御検討が行なわれまして、三年越し次々に結論的に答申をちょうだいに及びました。その答申に基づきまして、それを尊重しながら、現行法上大学制度に現実に欠陥がございますから、その意味において、文部省としましてはそれを受けて立法措置を講ずべきものは講ずる、これは当然のことでありまして、物議等がよしんばあるといたしましても、そういうことでなしに、淡々として水の流れるがごとくそれを受けて、大学をよりよくするするために、言うところの研究の自由と大学の自治を、よりよく大学人ともどもしていくための措置として、立法措置が必要であるという角度から受けまして、またその通りの内容ですから、国立大学の学長会議の意見も全部入れられた答申が出ました以上は、それを受けて立法化するものはするという考え方のもとに、通常国会に出す心がまえだ、そういう意味で一、二度御質問に応じてその考え方を申し上げました。ところで、先日の閣議で発言をいたしまして、取り下げることにいたしました。取り下げました理由は、実際問題として、だんだん日がたって当面してみますれば、統一地方選挙を控えまして、実質的な御審議の期間があまり多く期待できない。さらにまた日韓問題を初めとします当面の緊急重要課題もあることでございますから、文部当局としましては、一刻も早くという気持は十分にございますけれども、全局的な判断からしますれば、この際は提案を取りやめまして、向こう一カ年間、より一そう大学人の意見も聞き、世論にも聞きまして、よりよきものとして提案する心がまえにすることが適切であろう、かように判断しまして閣議で発言して取り下げることにいたしたのであります。

○野原(覺)委員 総理大臣にお尋ねしますが、荒木文部大臣のただいまのお答えによりますと、大学管理法を文部省は出したいのだ、けれども実質的審議が時間の余裕もないだろう、今度は選挙もあるし、それから国会では日韓会談等々の重要な問題もあるからこれは実質的に審議する時間等も少ないだろうから提案をしないということであります。あなたの方針は、国会対策上提案をしないということなのですか。いかがですか。

○池田国務大臣 今、文部大臣が答えましたように、今、大学の方におきましていろいろ自主的に管理運営につきまして反省、改善の機運があります。私はそういうところも見まして、やはりこういうものは世論の気持、そして大学の関係者のよりよき方策等々を参考にしてやった方がいい、これは荒木君も今言った通りであります。どちらかと言えば、国会の運営ということよりも、後段の方が私が主として考えた方でございます。

○野原(覺)委員 自主的運営の適正化に期待しなければならぬと施政演説に書いてある。私はこれはまことにけっこうなことだと思うのであります。賛意を表したいのであります。文部大臣が国会対策の運営でこれは出さないのだ、取り下げるのだと私は発言したとこう言っておる。違いましょう、総理大臣。違うでしょう。あなたもお聞きになったでしょう、今。私はこれはそうじゃない。総理が政施演説の中で「その運営が自主的に適正化されることを強く期待するものであります。」というので大学管理法は出さない。つまり大学が自主的に運営をしてくれるならば、適正に運営をしてくれるならば、この種の法律は要らないのだという考えだということです。しかし自主的に運営できない、じっと模様を見てもどうも適正でないという事態がきたならば考えなければならぬということは、確かにあなたは施政演説で言っておりますけれども、総理が今お話しになりましたように、自主的運営の適正化に期待をしておる。文部大臣、違うじゃありませんか。

○荒木国務大臣 お答え申し上げます。違わないと思います。と申しますのは、大学人も私のところには見えまして、提案を慎重に考えてくれという申し出がありました。また自主的に今までもある程度やったでしょうが、こういう問題がやかましくなって、特に大学人の責任を痛感し始めておる、また自主的な運営上の措置も講じたいと思っておるということを私も直接聞いておりまして、そのことも全然関係なしとは申し上げません。それは、文部省といたしましてもむろん望むところ、本来そうあってしかるべきものを、おくれたりといえども感づいていただいたことは御同慶にたえない。それに大いに期待する、これは当然のことであります。そのことと、大学人の意見もいれて中教審が答申されたこととは、また別個の問題でありまして、大学だけでもって自主的にやられて、現実に不便不利がなくなるということは望ましいことですけれども、万に一つも不便があるとするならば、それとこれとは相寄り相助けて、協力して、初めてほんとうの意味の大学のためのよりよき管理運営ができる道理でございますから、大学人が自主的に云々とおっしゃったから、それで問題がすべて解消するものでないことは、大学人みずからもよく御承知であります。
 そこで、先ほど申し上げましたような文部省としての考え方、及び今総理が言われましたようなこと、それをあわせ考えまして、この際としては取り下げるということが適切である。そこで、先刻も申し上げましたように、元来、大学側からも、法案ができたらばぜひ見せてくれという申し入れもありまして、取り下げると同時に、一応準備しました法案を公開いたしまして大学にも送り届けまして、十分に御検討を願い、御意見を承りたい、こういう措置をいたしております。それのみならず、一般の識者の、公開しましたこの法案についての御意見等も十分承りまして、そして今後よりよきものとして次の機会に提案するということを考えることこそが適切なり、かように考えた次第であります。

○野原(覺)委員 総理大臣、大学管理についてはよりよきものとして次の機会に提案するというお考えですか、いかがですか。

○池田国務大臣 教育法その他につきましては、まだ体系として十分にできていない、改善すべき点があるのであります。従いまして、文部大臣が答えましたように、中教審に対しまして答申を求めておるのであります。しこうして、文部省の方は、当初はその中教審の答申によって教育法その他の関係法令の改正を企てましたが、片一方では、私が非常に期待しておりますごとく、各大学におきまして自主的に管理、運営の改善をはかっていこうという機運がございますので、その機運の盛り上がりを期待しておるわけでございます。だから、盛り上がってくれば、あと法律は一切今後出さぬという意味のものではございません。やはり法律というものはできるだけ整備した方がいい。整備をするのに急いではだめなんで、やはり盛り上がる気持、みんなの衆知を集めてりっぱなものにしたいというのが私の念願であるのであります。だから、この改正は将来永久に出さないというわけのものではないのでございます。ただ、今国会には出さぬ。それでは来国会出すか、これはやはり盛り上がりをいろいろな点から考えて慎重にきめなければならぬ問題だと思います。

○野原(覺)委員 時間もございませんから、これをもって終わりたいと思いますけれども、私は最後に文部大臣に申し上げておきます。
 あなたは、大学管理の運営については単独立法でなければ適正化は期しがたいというのがあなたの持論であったのです。ところが、そのあなたの御持論が閣議で拒否されたのであります。私は、この政治責任は大きいと思うのですよ。しかも、あなたのただいまの御答弁を聞きますと、総理の答弁と非常に食い違っておるのです。総理は、自主的運営の適正化が期せられるならば、何も急ぐ必要はない、法の整備はそれは考えなければならぬけれども、こう言っておるが、あなたは、次の機会に出さなければならぬと言う。聞くところによれば、文部省の内藤次官なり荒木文部大臣は、閣議で破れて残念だ、閣議で破れたが、この執念は必ず実現さしてみせるぞ、こういうような放言をいたされておるやに私は承るのであります。これはきわめて遺憾千万です。私は、先ほど申し上げましたように、教育基本法の問題では、総理大臣に内閣一体性の原則から、あなたの決断を今後も促して参りたいと思いますが、同時に、大学管理法の問題を通じて、荒木文部大臣は、今日御自身進退を決定しなければならぬ時点がきたのではなかろうかと私どもは考えるのであります。
 そこで、委員長に最後に要望いたしておきますが、日韓会談につきましては、私は、先ほど大野さんを本委員会にすみやかに参考人として喚問して下さるようにお願いをいたしましたが、このことはすみやかな機会に御実現下さるように委員長に要望をいたしまして、私の質問を終わりたいと思うのであります。

○荒木国務大臣 私と事務当局が何か申し上げたようなことをおっしゃいましたが、そういう事実はないことだけを一つ御了承をいただきたいと思います。

○塚原委員長 次会は明後二月四日午前十時から開会することとし、本日はこれにて散会いたします。
   午後三時五十八分散会

 第043回国会 衆議院外務委員会 第1号 昭和三十八年二月八日(金曜日)午前十時三十五分開議

【発言順】
 委員長   福田 篤泰
 外務大臣  大平 正芳
 委員    穗積 七郎
 委員    戸叶 里子
 外務事務官
(条約局長) 中川 融
 委員    岡田 春夫
 委員    川上 貫一

○福田(篤)委員長代理 次に、日本国とグレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国との間の通商、居住及び航海条約及び関連議定書の締結について承認を求めるの件、所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とオーストリア共和国との間の条約の締結について承認を求めるの件、所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とグレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国政府との間の条約の締結について承認を求めるの件、航空業務に関する日本国とアラブ連合共和国との間の協定の締結について承認を求めるの件及び航空業務に関する日本国政府とクウェイト政府との間の協定の締結について承認を求めるの件、以上五件を一括議題とし、政府より提案理由の説明を聴取することといたします。太平外務大臣。

○大平国務大臣 ただいま議題となりました日本国とグレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国との間の通商、居住及び航海条約及び関連議定書の締結について承認を求めるの件につきまして、提案の理由を御説明申し上げます。
 日英両国間の戦後の貿易関係は、最恵国待遇の保障がないまま毎年更新される貿易取りきめによっていましたが、政府は、両国間にガット関係を設定し、最恵国待遇を相互に保障することの重要性にかんがみ、英国によるガット第三十五条の対日援用の撤回を実現することを眼目として、両国間に新たな通商航海条約を締結するための交渉を昭和三十一年以来行なって参りました。この交渉は、当初貿易条項の取り扱いについて難航を続けましたが、わが国が対英貿易の障害除去のために払った努力が漸次効果をあげ、また、わが国の経済の成長の結果、わが国が輸出市場として再評価されるに至ったという情勢の発展により、英側より、ガット第三十五条の援用を撤回し、最恵国待遇を原則として与える用意がある旨を表明するに至りました。自来その他の条項についての交渉も進捗して、昨年池田内閣総理大臣の訪英の際両国間に最終的に意見の一致を見て、十一月十四日ロンドンにおいて、本条約及びこれと不可分の一体をなす署名議定書並びに貿易関係に関する第一議定書及び第二議定書が署名調印されるに至った次第でございます。
 この条約は、国民の出入国、国民及び会社の事業活動、産品の輸出入等については最恵国待遇を原則とし、身体、財産の保証、租税、海運等の事項については原則として内国民及び最恵国待遇を保障することを骨子としており、通常二国間の通商航海条約で規定される条項と基本的には同様の内容が詳細に規定されております。
 次に、貿易関係に関する第一議定書は、いわゆる輸入品のはんらんの場合に輸入国が輸出国と協議してとることができる対応措置を定めたもので、一般にセーフガードと称されております。
 第二議定書は、従来輸入制限を継続してきた若干の品目で条約発効後即時に自由化すれば関係産業が重大な損害を受けるおそれのあるものの過渡期間における輸入制限について規定しております。
 この条約の締結と英国による対日ガット第三十五条の援用撤回により、日英両国間の通商関係はますます緊密となり、かつ安定した基礎の上で発展することが期待されます。
 よって、ここに本条約及び関連議定書の締結について御承認を求める次第であります。
 次に、所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とオーストリア共和国との間の条約の締結について承認を求めるの件につきまして、提案理由を御説明いたします。
 本条約締結の交渉は、昭和三十六年四月二十七日より六月十三日までの間ウイーンにおきまして二回にわたって行なわれ、両政府代表団の間で、大綱につき実質的合意に達しました。その後引き続き両政府間で折衝を行なった結果最終的合意に達し、同年十二月二十日ウイーンにおいて在オーストリア内田大使とオーストリア側全権委員との間で署名調印いたした次第であります。
 本条約は、二十五カ条からなり、わが国が従来締結したアメリカ、スエーデン、デンマーク、ノルウェー、シンガポールとの諸条約とほぼ同様の内容のものでありまして、特許使用料及び利子に対する課税率を二〇%を限度とし、また、教授、留学生、短期旅行者等に対する広い範囲の免税措置について規定しております。これらの規定を通じて日本・オーストリア両国間の経済、学術、文化の面にわたる交流が一そう促進されるものと期待いたしております。
 オーストリア側におきましては、昨年三月批准を了しております。
 よって、ここに、この条約の締結について御承認を求める次第であります。
 次に、所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とグレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国政府との間の条約の締結について承認を求めるの件につきまして、提案理由を御説明いたします。
 わが国と連合王国との間の所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための条約締結交渉は、通商航海条約の締結交渉と並行して昭和三十一年以来行なわれてきたところ、昨年九月最終的合意に達しましたので、同月四日東京において木大臣とモーランド駐日英国大使との間でこの条約に署名を行なったものであります。
 この条約は、二十四カ条からなり、わが国が従来各国と締結している租税条約とほぼ同様の内容のものでありまして、OECD財政委員会が欧州諸国相互間のこの種条約の典型として作成した勧告案をも参考としております。この条約の主たる内容は、配当については、日本側は一五%の軽減税率とし、英側は税制が異なるのでわが方の軽減税率に対応して所得税の付加税を免税することとし、特許使用料及び利子については、両国とも一〇%を限度として課税することとし、船舶及び航空機を運用する相手国の企業の利得につきましては、両国とも地方税を含めて免税することとし、さらに、教授、留学生、短期旅行者に対して広い範囲で免税を認めること等を規定しております。日英間には通商航海条約も署名され、両国間の全般的な通商関係が安定した基礎の上に発展するものと期待されているこの際、租税の面から、両国間の経済、技術及び文化の面における交流を一そう促進することとなるこの条約の締結は、きわめて重要な意義を有するものと考えます。
 連合王国側においては、すでに議会はこの条約の批准について承認を与えております。
 よって、ここにこの条約の締結について御承認を求める次第であります。
 次に、航空業務に関する日本国とアラブ連合共和国との間の協定の締結について承認を求めるの件及び航空業務に関する日本国政府とクウェート政府との間の協定の締結について承認を求めるの件につきまして、提案理由を一括御説明いたします。
 これら二協定につきましては、わが国の航空企業がかねて計画しておりましたクウェート、カイロ等を経由する南回り欧州線の開設に関連いたしまして、政府は、アラブ連合共和国及ばクウェート両国政府に対しそれぞれ航空協定締結交渉の申し入れを行ないましたところ、両国ともこれに同意して参りました。よって、アラブ連合共和国とは一昨年十一月に東京で交渉を行ないました結果、協定の案文について合意が成立いたしましたので、昨年五月十日に東京で協定の署名を行ない、また、クウェートとは昨年六月末からクウェートで交渉を行ない、同年十月六日に東京で協定の署名を了した次第であります。
 これら二協定は、いずれも、わが国と相手国との間に民間航空業務を開設することを目的とし、業務の開始及び運営についての手続と条件を定めるとともに、それぞれの国の航空企業が業務を行なうことができる路線を定めているものでありまして、さきにわが国が締結した米国、英国、タイ、インド、パキスタン等との間の航空協定と形式においても内容においても大体同一であります。これらの協定の締結により、わが国の航空企業は、アラブ連合共和国及びクウェートヘの乗り入れを行なう権利を持つこととなりますほか、わが国とこれら両国との間の政治上経済上及び文化上の友好関係も一そう促進されることが期待されます。
 よって、ここにこれらの協定の締結について御承認を求める次第であります。
 以上、五件につきまして、何とぞ御審議の上すみやかに御承認あらんことを希望いたします。

○福田(篤)委員長代理 この際、大平外務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。大平外務大臣。

○大平国務大臣 今国会では外交上たくさんな案件を御審議いただく予定に相なっておるわけでございます。私を初め外務当局、ベストを尽くしまして御審議に御協力申し上げる決意でおるものでございますが、何とぞ十分御指導、御協力を賜わりますようにお願い申し上げる次第でございます。
 私は、本国会の当初、外交演説で、昨年一年間の外交を、二国間、それから経済外交、国連外交というような分類に沿いまして、これを回顧して、本年の若干の展望というものを申し上げた次第でございまして、この機会にあらためて私から特に御審議の参考に申し上げるようなことはないのでございます。しかし、外交演説が行なわれまして以来、若干の変化が、国際情勢、日本をめぐる情勢に変化がございましたので、本日はその点につきまして簡単に私どもの考えておるところを申し上げて、御審議の御参考にお願いいたしたいと思います。
 外交演説がありましたときは、ビルマ賠償再検討交渉は、交渉のちょうど山にかかった段階でございまして、こういう方向でやるのだということは申し上げておきましたけれども、結果について申し上げる段階でなかったのでございますが、その後急速に話が進みまして、ビルマ政府との間にイニシアルの交換を終えたのでございまして、目下その要項に基づきまして協定案文を作案中でございます。骨子とするところは、双行賠償が一九六五年の三月末に満了いたしますので、一九六五年の四月一日から、今度交渉によって妥結いたしました経済協力を実行することになるわけでございます。一九六五年四月一日から開始するというのは無償経済協力でございます。この無償経済協力は、一億四千万ドルを一九六五年四月一日以降十二年用に均等で共与しましょうということでございます。ビルマの経済発展段階と申しますか、今の経済の構造から申しまして、ビルマ側が一番魅力を持っておられますのは無償協力でございまして、日本が現に各国に対して与えておる有償経済協力の条件というものでは、なかなか実際動かない事業もございますので、現に現行協定でお約束をいたしておりまする五千万ドルも全然今まで実行されていない状況を見ましても、先方といたしましては、通常の借款よりも無償の経済協力に魅力を感じられておったことは、想像にかたくないところでございます。従いまして、有償、無償合わせまして二億ドルでやりましょうという合意に立脚して交渉を進めたのでございますが、今申しましたような事情で、無欲の経済協力で当方としてもできるだけ努力をすることにいたしまして、先方が大して興味を示さない普通借款の方は若干金額を少なくするというような形でまとめたわけでございます。しかしながら、ちょうど去年からビルマの七カ年計画というものが始まっておるわけでございまして、ビルマは当面非常な外資を要求されておる事情もございますので、有償経済協力の方は現行賠償協定が満了以前でもこれを動かしていくということに合意いたしておるわけでございます。目下細目につきましては協定案をつくっておりまして、これはおそらくそう遠からずでき上がると思いますので、でき上がり次第提案いたしまして、御審議をお願いする予定でございます。
 それから、第二点として、外交演説後の事件としては非常にショッキングな事件でございましたけれども、EECに対して英国が加盟する交渉が突如として中断されたことでございまして、この全体のEECがどうなっていくか、英国の加盟交渉が将来どういうことになるのか、また、この事態が日本に対してどういう影響を及ぼすかというような点につきましては、なまなましい一件でございまして、今私どもも全機能を動員いたしましていろいろ調査し、検討し、かつ判断いたしておる段階でございます。従って、自身を持ってこの問題の全体の評価をするということは今まだ用意が十分でございませんが、ただ、私どもが今まで勉強したところによりましてかいつまんで申し上げますと、イギリスの加盟交渉が中断した動機は、イギリスのEECに対する加盟条件の中で、経済的な理由、特に温帯農産物のEEC輸入に伴う条件につきまして、英国と特にフランスとの間に見解の大きな懸絶があったということが直接の原因であったとは思えませんで、非常に政治的な理由が直接の動機であったのではないか、こう思うわけでございます。その後の状況を見ておりますと、フランス側では、これは失敗でない、これは延期であると言っておりまするし、フランス当局も非常に慎重に言動されておるようでございますか、いましばらくして、この興奮がさめてまたこの話はコンティニューするのだというような、非常に慎重な姿勢でおられるようでございます。英国側は、当面の当事者であっただけに、衝撃が大きかったとみえて、フランス特にドゴール大統領に対する朝野の非難が公然と行なわれておるようでございますが、しかし、他のEEC加盟五カ国との間の話は依然続けておりまするし、英国全体がEECの加盟を断念したというような状況にはなっていないようでございます。フランスを除くEEC加盟五カ国では、若干のニュアンスの相違はございますけれども、EECへの英国の加盟を振り切ってしまったという姿勢ではないようでございまして、この興奮がさめたあとにはまた何らかの話のよりを戻そうではないかという動きが見られます。特に、マクミラン首相がイタリアを訪問された共同声明によりましても、御案内の通りの空気であるようでございます。アメリカの衝撃は確かに大きかったと思うのでございますが、アメリカも急にフランス、EEC等に対する刺激する措置はとらないでいこうという空気でございますし、先般ギルパトリック国防次官が私どもに語ったところによりましても、対西欧政策は変えないのだということを申しております。ただ、通商拡大法で規定されておりましたEEC条項が頓挫したということは、通商拡大法の運用上大きな変化でございます。英国が加盟しない場合に、EEC条項、すなわち、英国を含めたEECとアメリカとの輸出額が全世界の輸出額の八〇%以上を占めるものにつきましては関税をなくしようというようなこと、あの条項は、EECだけに適用いたしますと、航空機その他一、二の品目になりますので、実際上EEC条項というのは動かないことになるわけでございます。従って、アメリカといたしましては、かねて提唱いたしておりますように、関税一括引き下げ交渉というものに力点を置いて通商拡大の方途を求めるというように出てくるのではないかと思うのでございまして、関税一括引き下げ交渉というものの重要性が非常に高まってきたということになるのではないかと思うのでございます。
 一方、わが国といたしましては、従来、御案内のように、英国とも、あるいはEEC加盟各国とも、二国間の通商交渉を精力的にやって参りました。英国とは、それが結実いたしまして、本日御審議をお願いいたしました通商航海条約の締結となったわけでございますが、その他の交渉も現に続けられておるわけでございまして、ベネルックス三国との交渉、フランスとの交渉等も鋭意続けてきておるわけでございます。従いまして、英国のEEC加盟失敗、中断によりまして、われわれの姿勢が変わるわけじゃございません。今までの二国間の交渉を地道にやって参り、そして、それを促進していこうということでございます。きのう大蔵大臣が発表されましたように、IMF理事会で八条国移行の勧告がございましたが、その理事会の席上におきましても、各国の代表がこぞって、対日輸入制限、差別待遇を撤廃しろということを、IMFでも非常に強調されたようでございまして、フランスの代表もそれに同窓を示しておったということは、新聞紙上で御案内の通りでございます。従って、私どもは、今までこのEECの加盟各国との二国間交渉は従前通りの姿勢で続けて、しかもそれをできるだけ早く促進していきたいと考えておるわけでございます。英国とは、今申しましたように、三十五条の援用撤回も踏み切っていただいたし、これから、英国と日本との貿易というものは、この安定した基盤で拡大を見ることと思うのでございます。従って、直接わが国は今度のEECに対する英国の加盟中断ということによって深刻な影響はございません。従来のペースで西欧との間の貿易は拡大の方向をとっていくものと思うのでございます。
 それから、その次の問題といたしまして、きのうの早朝三時に行なわれましたIMFの第八条国移行の勧告でございますが、政府は、これを受諾する決意をいたして、その旨発表いたしたわけでございます。今後の手続は、御承知のように、IMFの決出がガットにもたらされまして、ガットでわが国と自由化の交渉をやらなければならぬわけでございますが、どういう方法によるものか、すなわち、ガットにウエーバーを求める方法によるのか、それとも、自由化リストを出しまして、二国間または多数国間と日本との間で交渉を進めるか、この手順をどういうふうにしていくかはまだ未定でございまして、早急に政府部内におきまして意見をまとめたいと思っておるわけでございます。いずれにいたしましても、ガットの場において私どもがいろいろの困難な事情を訴えまして、できるだけ円滑な八条国移行への手順をきめていかなければならぬと考えております。この八条国移行並びに自由化の促進と関連いたしまして、先ほど申しました差別待遇撤回交渉というものは、世界の世論にもなってきておるわけでございます。私どもは、既定の線に沿いまして、ますます精力的にその方面の努力をして参りたいと思っております。
 それから、おとといアメリカの国防次官がお見えになりまして、総理大臣初め関係閣僚と懇談を持たれました。これは、私からも御発表申し上げておりました通り、国防次官としての定期的な世界旅行の一環のようでございまして、私どもは、アメリカ側の要人がたびたびお見えになりまして、世界情勢について意見の交換をする機会を持つことは、けっこうなことだと思っております。今度の御旅行では、EECに対する英国の加盟中断という事態以後のアメリカの世界政策につきましてとかくの観測が行なわれておるけれども、これは確固不動であるとういことを力説されておりました。日米の協力関係につきましては、特別の提案はございませんでした。極東の情勢につきまして先方の意見をいろいろ聴取する機会を持ったわけでございます。日本の防衛力増強に対する要請というようなものはございませんでした。要するに、できるだけ要人の交流によりまして理解が深まり、あるいは情報の交換が的確に行なわれることはいいことだと思っておるわけでございます。
 以上、外交演説がございました以後生じましたおもなる問題につきまして、私の考えておりますところを御報告申し上げた次第でございます。

○福田(篤)委員長代理 ただいまの大臣の発言に対し、穂積君より議事進行の発言を求められておりますので、これを許します。穗積七郎君。

○穗積委員 ただいま外務大臣から、今国会における政府の外交問題に対する取り組みの態度並びに本会議における外交演説後の諸問題についての報告をされたことについては、これを多といたします。私どもも、今年度は日本の外交が経済の行き詰まりとともに非常に重要な転機に立っておるというふうに判断をいたしております。そういう点については、重要なる段階であるということについては、政府を代表するただいまの外務大臣のお考えと同じでございますが、内容及び情勢の判断並びに今後の外交の路線につきましては、これは最も重要であるだけに十分討議すべきたと思うのです。そういうふうに、今国会における外交問題の重要性を特に強調されまして、政府並びに国会との間における相互信義を深める、あるいはお互いに問題の正しい前進のために協力を求められるということであるならば、これは委員会の問題でもありますけれども、この際一言申し上げて、政府の認識なり御努力をお願いしたいと思います。
 実は、大臣もお聞きになっておるかと思いますが、私どもも、今国会における外交の審議ははなはだしく重要な段階に来ておるというふうに考えましたので、衆議院における外務委員会冒頭におきましては、特に外務大臣だけでなく総理その他の関係大臣も積極的に御出席をいただいて、そして、今申しました軍事的な面あるいは経済的な画、これに即応いたしまして十分意見の交換、審議を深めるべきだという態度をとってきたわけです。ところが、外交問題の重要性を主張されながら、きょうは、政府の方はどういう御都合か知りませんが、あらかじめ与党の委員長並びに理事を通じて、本日の冒頭の委員会におきましては、池田総理自身も外務大臣とともに御出席をいただいて、今お話のありましたような重要な一般の外交情勢の検討、並びに大きな日本外交の路線の問題については直接審議をされる、そういう努力を約束されたのですけれども、けさほどの理事会で報告を受けますと、理由はわかりませんが、総理の御都合ということで、御出席をいただかなかったわけです。今申しましたように、外務大臣から冒頭に事の重要性を指摘されておるわけですから、これはいささか政府の態度としては私ども不満足に思うわけです。ですから、次の機会には、委員長からの要望にこたえて、ぜひとも総理並びにそのほかの必要とする関係大臣も外務大臣と御同席になって、真剣に外交情勢の分析並びに方針の審議に当たっていただきたい。このことを強く要望するわけでございます。
 なお、一言申し上げておきますと、今お話がありましたEEC問題であるとか、あるいは、アメリカの国防次官が、今後日本との間に定期的に問題を検討して、そして安保条約に伴う内容の充実化をはかっていこう、こういうような御意見のようですけれども、われわれは、これらの情勢につきましては、実は資本主義諸国間における内部的な矛盾と対立というものがやはり相当深刻に現われてきておるというふうに思うのです。たとえば、日本の当面の外交の重要問題である日韓会談にいたしましても、そのうらはらをなします、対ソ、対中、対その他の社会主義諸国との貿易促進の問題にいたしましても、この二つのいささか相対立するかのごとき外交政策が、二面外交というものが出てきておることも、今の日本資本主義経済の本質的な矛盾といいますか、苦悩というものの現われではないか。さらに、ヨーロッパ、EECらしめておる。さらに、もう一つは、アメリカとEEC諸国との関係にいたしましても、アメリカのこの間のナッソーの協定前後、やはり、アメリカ側は、核兵器の独占を背景として自由主義諸国間におけるヘゲモニーを持とうとしておる。これに対して、フランス並びにドイツか強い抵抗を示しておる。こういうことは、言うまでもなく、今の資本主義諸国間における経済的な行き詰まりと矛盾、その対立の形が現実の中で発展してきているのではないか。そういう点についても、これは忌憚なく率直に、政府と国会、または政府と野党との間でも審議を深めることが、今おっしゃったような重要なる転機に立つ日本外交の路線を誤らしめないための政府の態度ではないかと思う。われわれ国会もその責務を強く感ずる次第でございます。
 以上、簡単でありますが、一言申し上げまして、重要であればあるほど、一つ早い機会に、たびを重ねて総理並びに関係大国も外務委員会に出席されて、積極的に率直に、十分時間をかけて討議され、実行されることを、今のお言葉に関連をいたしまして強く要望いたしておきます。そうでないと、今おっしゃる言葉がまことに空文といいますか、からの言葉になるわけですから、私どもも大臣の今の御発言を伺いまして強く感じましたことを率直に申し上げまして、われわれもこの審議に協力をいたしますから、政府も今の精神で協力されることを強く要望いたしまして、ごあいさつといたします。
    
○福田(篤)委員長代理 国際情勢に関する件について調査を進めます。
 質疑の通告がありますので、順次これを許します。
 戸叶里子君。

○戸叶委員 今穗積委員から総理の出席がきょうなかったことに対しての言葉があったわけですが、外務大臣自身、外交問題で非常に重要な国会であるということをおっしゃったその内容、関係を見ましても、どうしても、今穗積委員の言われたような形での委員会が進められていかないと、審議にいろいろ支障が来ると思いますので、どうか政府として努力をしていただきたい。このことを委員長並びに外務大臣にもよく申し上げておきます。ことに、きょうは、外務委員会の最初で、総理と外務大臣が出ていただけるということで始めましょうというので、きょうまで待っていたわけでございますから、それが総理が来られないということになりますと、今後非常に問題が残るのではないかと思いますので、この次はぜひともこの点をお考えになっていただきたい。これをまず要望したいと思います。
 私は、今の外務大臣のお話の中でずいぶん問題があったと思いますが、そういう問題はあとにいたしまして、日韓問題について主として質問をしたいと思いますが、ただ一点だけ、今説明された中で伺っておきたいことは、ギルパトリック次官が日本を訪問された、しかし、それは定期的な世界旅行の一環として来られたのであって、大したことはないのだけれども、EECのイギリス加盟ができなかった後のいろいろな国の考え方などを聞いて歩き、日本との関係においては特別の提案もなかったし、それから、防衛力増強の意見も向こうで述べなかった、こういうふうなことを今おっしゃったわけでございますが、そのほかに何かお話し合いをされたようなことがなかったかどうか。たとえば、極東情勢についての判断、こういうふうな問題についてはお話し合いがなかったかどうかを伺いたいと思います。

○大平国務大臣 極東情勢について先方がどのように見ておるかは、もちろん私の方から聞いたわけでございます。そういう話はございました。

○戸叶委員 それに対してどういうふうに見ているかという質問に対して、どういう答えがあったでしょうか。

○大平国務大臣 極東が不安定な状態にありますし、ベトナム、中印国境紛争等が未解決の状態にあることはごらんの通りだ、一つの事件が起こりますとまた連鎖反応が起こるということでございまして、自分たちとしては、極東が一日も早く安定の方向に向かうことを希望しておるということでございました。私どもといたしましても、その限りにおきまして全然意見の違いはないわけでございまして、極東情勢は依然不安定なきびしい状態にあるという御認識でございます。

○戸叶委員 そういうような問題にからんで、日本の基地というようなものを日本人としてはできるだけ早くこれをなくしてもらいたい、こういうふうな考え方を持っているのでございますけれども、先方としてはそういうことに何か触れられたかどうか、この点も伺いたいと思います。

○大平国務大臣 基地問題には一切触れませんでした。

○戸叶委員 アメリカとしては、在日米軍というようなものを少しでも減らしていくとか、基地をだんだんなくしていくとかいうような考え方はないかどうか、この点は日本の政府としてそうしてほしいというような意見を述べられなかったかどうか、この点を伺います。

○大平国務大臣 基地問題についての言及はなかったわけであります、今回の会談では。

○戸叶委員 中共の問題などについて、日本としては中共に対しては前進した政策をとっていくというような態度を少しずつ示していると思います。それに対して、アメリカ側の、たとえばケネディの昼食会の中国封じ込めというようなああいう演説から見ましも、何か中共問題について消極的な態度というものが見られなかったかどうか、この点も念のために伺いたいと思います。

○大平国務大臣 これは、ケネディ大統領の御発言がございまして、いろいろ取りざたされておったのですけれども、私どもの態度ははっきりしておるのです。御案内のように、安保条約というのは日米の安全保障協力の約束でございますので、そのフレームの中で私どもは考えればいいわけなのであります。それを変えろという要求は先方から局しもないわけでございます。問題は経済協力の面で、弾力的に日本が処置いたしておるわけでございますから、それは、日本政府といたしましても、既定の経済協力の展開はもっと積極的にやらなければいかぬという既定方針で進んでおるわけでございます。従いまして、わが国といたしましては、今とっておる姿勢にちっとも問題はないわけでございまして、事中共に関してその拡大を阻止するために日本がどうすると申しましても、安保条約上そういうことはできないわけで、軍事面ではできない約束になっておるわけで、それを変えろというような要請も一向こうからないわけでございます。従いまして、私どもは、どなたが来られて、どういうお話があろうとも、そういうことは関係ないわけで、私どもの既定の姿勢には変わりはない、さような考えを堅持いたしておるのであります。今回の御来日につきましても、そういうことで、私どもの姿勢に少しも変わりはたいし、先方も、ここをこうしてくれああしてくれというような要請はございませんでした。

○戸叶委員 私は、そういう問題より、むしろ、アメリカから相当の力のある人が来た場合に、日本として、たとえば中国の問題にしても、中国の国連加盟の問題を促進させるべきであるという意見も積極的に吐くべきではなかったか、こういうふうに考えるわけでございますけれども、そういうふうな機運さえも見られなかったというふうに理解していいわけでしょうか。
 それから、もう一つの点は、アメリカの要人が今回来て、そして極東の状勢は不安全であるというようなことをいろいろと言われたということに、私たちは非常に心配するわけでございます。なぜかと申しますと、今、日韓会談が始まっておりますけれども、これも一つは反共軍事体制というものをつくるのじゃないかというような、懸念が、国民の中には非常にあるわけでございまして、このときに、アメリカからしかも防衛関係の責任者が来られたということは、NATOに対応しての何か防衛関係のことを考えるような空気を日本につくっていくのではないかということを非常に心配するわけでございますが、今の外務大臣の御答弁を伺っておりましても、そういうことがあるのではないかというふうに考えますけれども、極東の情勢が不安定だということにからんで、何かそこに防衛の問題あるいは韓国との問題というようなことに触れられはしなかったかどうかということを、念のために伺いたいと思います。

○大平国務大臣 韓国の問題には一切触れられませんでした。それから、極東の情勢が不安定である、どういうふうに不安定なのか、私どもといたしましてもいろいろ知っておかなければいかぬと思うのです。そういう意味で、私が先ほども申し上げましたけれども、あらゆる方面の方にできるだけよけい会いまして、彼らの持っておるインフォーメーションというものをできるだけ聞きとめておくということが必要だと思います。そういうことを怠っては、私はいけないと思います。

○戸叶委員 大平外務大臣の御答弁は、私の伺っておることと違うのです。極東の不安な情勢というものを向こうが話した、そういうふうなところから勘案して、何かの防衛体制というようなものを、だんだんに日本に、新しい形の防衛体制あるいはNATOに対応するようなものをつくり出させようとするような考え方があるのではないかということを考えますが、そういうことはどういうふうにお感じになりますかということを伺っているのです。

○大平国務大臣 それは、防衛力増強について、ここをどうしてもらいたいこうしてもらいたいというような具体的な要請はなかったということを私は申し上げておるのであります。これはあくまでもわれわれが考えることでございますから、その点ははっきりいたしておるわけです。私は、防衛問題を考えるにあたりまして、われわれがめくらであってはいけないので、できるだけ広く意見を求め、情報を求めて、われわれがしっかりした情勢を把握しておくことが必要だ、そういう意味で、ギルパトリックさんばかりでなく、いろいろな要人が各国から来られて、克明に見解を聞いておくということは私の責任であると思います。

○戸叶委員 私もそれはいいと思います。各国の責任者からいろいろな意見を聞くということはいいことですけれども、ただ、日本の今日の外交を担当されている方々の基本的な方針というものが、ややもすると一方に偏した外交方針をとっておられるために、アメリカ一辺倒になる。そこから出てくるいろいろな懸念というものがあるわけでございまして、やはり、この時期にギルパトリック国防次官が来られたということは、何か私どもは非常に不安なものを感じるのだということを申し上げているわけでございます。
 そこで、先ほど外務大臣は、日本の外交の経済外交、国連外交というふうなことをあげられまして、この経済外交についてもあとの機会で十分に私どもば質問したいと思いますが、さらに、今度のギルパトリック次官が来られたということによって、何か、防衛外交と言ってはおかしいかもしれませんが、軍事外交というようなものも一本加えて、そうして政府が力を入れるのではないかというような気がするのですが、どうかそういうことがないように、今のうちから十分に要望をしておきたいと思いますが、いかがでございますか。

○大平国務大臣 私が先ほど申し上げましたように、われわれは安保条約という条約機構を持っておるわけでございまして、その範囲内で私どもがやって参っておる。そういう基本に何ら変改はないわけでございますから、今戸叶さんの御心配のような転換というようなことはあり得ないことでございますので、その点は御安心を願いたいと思います。

○戸叶委員 安保条約を忠実に守っていくということの内容自体が、軍事外交になる危険性が非常にあるわけでございますから、こういう点は十分に注意をしていただきたいと思います。
 そこで、私は日韓会談の問題に入りたいと思いますが、日韓会談でまずお伺いいたしたいことは、三十六年の十一月の池田・朴会談で日韓会談というものが一歩前進したわけですね。その場合に、請求権の問題は、法的根拠のあるものとか、あるいは事実関係の的確なものというようなことで、一歩前進したわけだと思います。その当時、私どもは、それが七千万ドルくらい、こういうふうに一応了承していたわけでございますが、最近、政府の方では、七千万ドルなんて一言も言った覚えはありませんとか、それは根拠がありませんと、こういうふうに打ち消しておられるわけですけれども、それでは、その当時、池田・朴会談での法的根拠のあるものとして考えて発表されていた数字は一体どのくらいのものを考えていたのか、これを説明していただきたいと思います。

○大平国務大臣 池田・朴会談の了解は、できるだけ早く国交は正常化しようじゃございませんかということが一つと、それから、諸懸案の中で一番問題なのは請求権だが、請求権は法律的根拠のあるものに限ってやろうじゃないかという二つの了解があったと思うのでございます。その後、その了解に基づきまして、われわれ外務省といたしましては、先方と法律的根拠を見出すべく両方の見解の討議を行なったわけでございます。ところが、この法律的根拠に限って片づけようという場合には、法律的根拠について双方が合意することが必要なんでございます。日本側が、これが法律的根拠に合うぎりぎりのものだと考えましても、先方はそう考えないというのであれば、これはまとまりがつかぬわけでございまして、予算委員会でも申し上げたのでございますが、一例を申し上げますと、朝鮮銀行から地金を日本の統治時代に二百四十九トン搬出しておる。だから、これは事実ははっきりしておるのです。事実ははっきりしておるんだが、その搬出が合法か非合法かということで、これは日本が朝鮮銀行法に基づきましてそのときの正当な相場で金銀の売買をした、そのことは合法である、こう日本側は主張するわけです。しかし、韓国の方では、それは日本が勝手につくった法律であって、われわれはそういう実定法の効力を認めるわけにいかぬ、従って、搬出それ自体が非合法だ、こういう主張なんです。従いまして、法律的根拠によって問題を片づけるとすれば、その法律論が同一の根拠に立たないとできないわけでございます。これは非常にティピカルな法律論の対立の一つの例でございますが、もろもろの例はたくさんございます。一方、これは事実関係ははっきりしておるのですけれども、事実関係がはっきりしていないものがあるのです。たとえば、徴用工なら徴用工は、雇用の事実を確認しなければいけませんし、雇用関係があって賃金を支払いしたかしないか、事実を確認しなければいかぬし、そういう事実関係を現在の時点ではっきりさそうと思っても、物理的に不可能な条件もあるわけでございます。あるいは、たとえば郵便貯金なら郵便貯金で、これだけの金額ということがほぼ推定がつきましても、一体日韓の間で韓国人と日本人がどういう割合になっておったか、北と南の関係がどうなっておったかとなりますと、推定の方法がまた彼我の間に意見が違うということでございまするので、せっかく池田・朴会談での法律的根拠によってやろうじゃないかという了解で進めてみましたけれども、しかし、それが、事実両方の見解が合わない、また、合わし得ない、事実関係の立証さえ困難だというような問題にぶつかったわけでございます。従いまして、今お尋ねの七千万ドル云々ということでございますが、つまり、どういう法律的根拠によるか、どういう事実を選択して基礎としてとるかによりまして金額が違うわけでございます。それはもう先生もよく御想像つくと思うのでございます。従いまして、政府は、これが日本政府の見解としてこのくらいが妥当であろうということをきめたことはないのであります。こういう根拠でとればこうなる、こういう根拠でとればこうなると、幾つもの答案が可能なのでございます。そういう試算もしてみたのです。その一、二が、どこからか漏れて、あたかもこれが日本政府の見解であるように流布されたわけでございますが、日本政府としてはそういう不謹慎なことはしていないのでございます。その点は、私はずいぶん予算委員会でも御説明申し上げたのでございますが、しかし、その、こういう根拠でとればこうなる、こういう根拠でとればこうなるというような試算を試みたことも、どうしてもと御要求されたわけでございます。それは、私は、ある時点において正直に解明して提出しなければいかぬと思っておりますが、しかし、そういう方法で請求権というものについて彼我の見解をたぐっていけば何か合意に到達できると見るのは無理で、幾らやってみても平行線の面が多くて妥結ができない、こういうことにいつまでも時を費やすということは賢明でないと判断いたしまして、経済協力の方法をとったわけでございます。
 もう一度言い直しますと、七千万ドル云々なんというものが日本政府の見解であるということで発表するというような不謹慎なことはいたしていないということは、お認めいただきたいと思います。

○戸叶委員 外務大臣に申し上げますけれども、大へん懇切丁寧に説明して下さるのはありがたいのですけれども、時間がありますので、なるべく簡単に伺いたいと思います。
 今のお話によると、七千万ドルというのは根拠がない、七千万ドルよりほかにもいろいろあったのだけれども、そのうちの一部が漏れて七千万ドルというふうに出ていったにすぎない、こういうふうに了解してよろしいわけですね。そうすると、もっと多かったということになるわけですね。何かの法律的根拠というものを頭に置かれて、その法律根拠というものは考え方が違いますから、日本の場合と韓国の場合とは話し合いをしてみなければわかりませんし、総額もおそらく違うでしょう。違うでしょうけれども、ともかく法律的根拠に基づくものでやろうじゃないかということの声明だけは事実だったわけですわね。だから、そのときに頭に置いた数字というものは七千万ドルじゃないのだ、もっと多かったけれども、その一部が漏れたんだ、こういうふうに了解してよろしいわけですか。

○大平国務大臣 予算委員会で申し上げた通り、根拠のとり方によりまして、前提のとり方によって幾らでも数字が出てくるわけです。それで、一つの前提に立てば七千万ドルという数字も可能じゃないかということなのでございます。

○戸叶委員 そこで、池田・朴会談というもので、正式に法律的根拠のあるものということで声明をした。そうして、今度はいつの間にか経済協力というふうな形に大平・金会談でなっていったわけですね。しかも、金さんは、その当時、アメリカへ行く途中に寄るというような形で日本に寄って、そして話し合いをして行ったわけです。そこで、私は、大へん不可解なのは、一国の最高責任者がこういう形でいこうといって声明を出しておいて、その後うやむやのうちに経済協力に変えられた、こういうことに問題があるのじゃないかと思うのです。もしも経済協力ということでいこうというならば、池田・朴会談で一応は法律的基礎のあるものということで話をつけて声明も出したけれども、これはやはり、話が進まないから、今度は経済協力というような形、あるいはほかの形でいくんだというような声明が当然なされるべきではなかったか。池田・朴会談でははっきりした声明をしておいて、それかうやむやになってしまって、いつの間にか金情報部長が日本へ来たときにたまたま大平さんと会談をやって、そして今度のような形をとるようになった。これは一国の責任者が一度声明したことに対するけじめのつけ方としては少しおかしいのじゃないか、こういうふうに思いますが、この点はどうお考えになりますか。

○大平国務大臣 それは御心配ないようにやっておるのです。つまり、池田総理にも、朴議長にも、こういう考え方でどうでしょうかという御相談を申し上げて、それ以外に道はなかろうというような御了解を得ておるわけでございます。

○戸叶委員 御心配のないようにやっているとかなんとかいう問題じゃないと思うのです。一度最高の責任者がそういう声明を出したのですから、やはり、今度は、その最高の責任者が、そういうことはまずいのだから、こういうふうにするのだということを国民に知らせるべきではなかったかということを言っているわけです。それがうやむやのうちに、今度は大平・金会談ということになり、しかも、その金さんというのは正式代表で来ないうちに、そういうことがきまったというところに問題があるのじゃないかと思いますが、この点はいかがですか。

○大平国務大臣 うやむやのうちにちっともやっていないのです。やはり、総理演説でも、私の演説でも、その趣旨はよく書きまして、国会を通じて国民に申し上げておるわけでございます。

○戸叶委員 大平外務大臣がそういうことを発表されているのは知っておりますけれども、最初に池田さんと朴さんが、はっきり、法的根拠のあるものに限っていたしましょうということをおっしゃったのですから、そのあとの収拾を、やはり池田・朴会談で、これでは進まないからこうだということをけじめとしてすべきではなかったかということを申し上げているわけでございますけれども、大平外務大臣は、いやそれは私が外務大臣だから引き受けてやったのだからいいとおっしゃれば、それはそれまでですけれども、私らの考えとしては、最初に最高責任者がこうだということをおっしゃったならば、それを変更するならば、当然その最高責任者がそれを取り消すべきではなかったかと思うのですが、この点、けじめのつけ方というものが少し私どもにはあいまいにとれるので、この点をもっとはっきりさせておくべきではなかったかという意見なんです。

○大平国務大臣 そのけじめのつけ方でございますが、これをうやむやの間に、やみくもにやってしまおうという気持はちっともないのでございまして、国会を通じてはっきりと、法律的根拠に基づいてやるべく努力はしました、しかし、これこれこういう理由で、それは百年河清を待つというようなことになる、従って、これは別な工夫をこらさなければならぬということになりまして、こういう考え方でいくことにいたしましたということを申し上げているので、私はちゃんとけじめはつけてあるつもりでございますが……。

○戸叶委員 外務大臣としてはけじめをつけられたとお思いになるかもしれませんが、私どもとしては、一応、トップ・クラスといいますか、最高責任者の発表として出されたものですから、やはり、最高責任者が、今度は外務大臣の段階にまかしますとか、あるいは今度はそれでは進在ないから内容を変えますとか、こういうふうな声明を一度出すべきではなかったかということを私どもは考えているわけでございます。その点に外務大臣と私たちとの食い違いがあるわけですが、外務大臣は、自分はあとを引き受けてさっさとやって、国会にも報告したからいいとおっしゃるかもしれませんが、私どもの目から見れば、最高責任者同士できめたことなんですから、それが変わるときには、最高責任者が、今度はこういうふうな形でいきますというような発表、その内容が変わったという発表をすべきではないか、変わったというその相談をすべきではなかったか、こういう点を私どもはけじめをつけるべきだというふうに考えておるわけです。この点をよくあとで考えていただきたいと思います。
 そこで、請求権の問題でいろいろ問題があるわけですけれども、今回の請求権と平和条約四条との関係というものは、今までの質疑応答を聞いてみますと、いろいろと変化をしてきております。私は、その変わりをずっと速記録で読んでみて、何か一貫性がないように思うのです。ことに、池田総理大臣、――きょう私はそういう意味でも池田総理大臣に来ていただきたかったんですが、池田総理大臣は、一月二十九日の衆議院の予算委員会で、日韓両国とも繁栄に導くために、請求権という条約上の権利を消滅させるために無償あるいは有償の経済援助をやることは、請求権の変形でございます、と言っておるわけです。請求権がそういうものに変わってくるということを言っていて、そうして、請求権というものを認めて、これの変形としての有償・無償の経済協力だということを言っておられるわけです。ところが、外務大臣の方は、去年の十二月十一日のころは、黒田委員が補正予算のときに質問され、岡田委員がそれに関連質問をされて、それに対する答弁として、最初は、第四条の請求権と関係があると考えていない、こういうふうにおっしゃったんですけれども、だんだん質疑応答の結果、請求権の問題に関連した交渉をやっているわけでございまして、第四条と無関係の交渉であるというように私が申し上げたとすれば、それは間違いでございますから取り消します、こういうふうにおっしゃった。その後だんだん変わって参りまして、そうして、今度は、無償及び有償の経済協力を行なうこととし、このような経済協力を供与することの随伴的な結果として平和条約の請求権の処理が同時に一切解決したことを日韓間で確認するものでございます。こういうふうにおっしゃる。そうして、きのうの横路委員に対しても、平和条約四条の請求権とは無関係だ、こういうことを言っていらっしゃるのです。
 そこで、池田さんの方は請求権の変形だと言うし、大平外務大臣の方は、請求権とは無関係のものだ、こういうことを言っていらっしゃるのですが、一体この関係はどういうふうになっているのかということを私は実はきょうは総理と外務大臣と両方に伺いたかったんですが、一体これはどっちがほんとうなんですか。この点を確かめておきます。

○大平国務大臣 平和条約第四条の請求権の処理は、平和条約では処理について両当局で取りきめをするようにということが書いてあるわけでございます。しからばどういう方法で処理するかということについては言及されていないのです。従って、私どもが考えておりますところは、請求権の処刑はしないと国交の正常化はできないわけでございますから、いかにかしてやらなければならぬ。しかし、請求権自体を法律的根拠に基づいて探り出てる、そして両方が合意するということは、事実的にも法律論的にもむずかしいということになりましたので、全然別な方法で経済協力をします、従って、その随伴的結果として韓国の方は請求権はなくなったものと確認いたしますというような方法において処理しようというのが、われわれのただいまの考え方でございます。従って、経済協力という事実と請求権というのは無関係なんです。ただ、経済協力することによって、請求権というものを主張しないというか、なくなったものと確認するという随伴的な結果が生じて、それが平和条約四条にいうところの請求権の処理になるのだ、こういう立脚点に立っておるわけでございます。総理大臣が変形と言われたのは、どのように御理解されたのか、つまり、条約との関係におきましては私が申し上げた解釈に政府ば帰一いたしておるわけでございまして、何か請求権というものがあって、今度は経済協力で事柄が片づくから、あるいはそれを変形と見てもいいじゃないかというようなお考えであったのではないかと思いますけれども、条約の解釈論といたしまして、私が申し上げたことが政府の統一した見解であるというようにおとりいただいてけっこうでございます。

○戸叶委員 条約の解釈論として、大平外務大臣のおっしゃる通りをそのまま認めたとしても池田さんとの考え方は根本的に違っております。よくその文句を読んでいただきたいと思います。池田総理大臣のおっしゃるのは、請求権の変形ですと言っているのですよ。そうすると、請求権をもとにしたものだということになるわけです。請求権が経済協力の中に入るわけですよ。ところが、大平さんの場合には、これは全然無関係ですとなっているのですよ。それがどうして同じに解釈できますか。できないじゃないですか。

○大平国務大臣 条約解釈論としては一致しているのです。そういう経済協力というものを実体的にどう見るかということで、これは請求権の変形みたいなものじゃないかというような感じ方をされたのかもしれませんけれども、条約の解釈といたしましては、私が先ほど申し上げました解釈で、帰一いたしておるわけです。

○戸叶委員 だから、私はきょう総理大臣に来ていただきたかったのです。外務大臣が条約の解釈は一致していますとおっしゃっても、一致していないのですよ。予算委員会で当然問題にされるべき問題だったのですけれども、池田さんが、前後の速記録を読んで見てもおわかりになりますけれども、はっきりと、請求権は経済協力の変形ですと答えている。このことは今の大平外務大臣の解釈とは全然別ですよ。池田さんの解釈は、経済協力の中に請求権がある、請求権が変わってこうなったのだというのです。ところが、無償協力というものと全然別個のものが請求権だ、請求権と全然別個のものが無償協力だというのが大平外務大臣の答弁です。この辺がはっきり違っております。私は、今の外務大臣の御答弁では納得できないのです。外務大臣がどんなに政府の条約解釈は一致しておりますとおっしゃっても、明らかにその点が違っておるのですから、そこにやはりごまかしがあると思うのです。これはどうですかといって外務大臣にお聞きしても、外務大臣は、それは池田さんは私と同じ考えですとおっしゃるしか、おっしゃりようがないと思うのです。
 ですから、委員長、今度この問題をぜひともはっきりさせていただきたいと思いますから、なるべく早く総理大臣を呼んでいただきたいと思います。

○岡田(春)委員 関連して。
 私今ちょっと座をはずしておったので、あるいは前後するかもしれない
 が、この間の臨時国会の予算委員会で私が黒田委員の質問に関連して伺ったときに、この問題が出ているわけです。大平さんが、それについて、最初は請求権問題は第四条に関係はございませんと明確に答弁をされた。それは速記録に残っておる。それをあとになってお取り消しになったわけですね。お取り消しになった点では、ここにありますが、「請求権の問題に関連した交渉をやっているわけでございまして、第四条と無関係の交渉であるというように私が申し上げたとすれば、それは間違いでございますから取り消します。」、このように大平さんははっきり取り消されたわけです。関連があるんだということに一応なったわけです。ところが、先ほどからの質疑応答、それから昨日の質疑応答、予算委員会における質疑応答を聞いておると、関連があるがごとくして関連がない。そこの点、非常に重要な点なんですが、問題は関連があるがごとくして関連がないというように印象を与える。私たちがそう思うのはこの点だと思うのです。経済協力なり、あるいはこの前の国会においてあなたの言われた、請求権問題という言葉でつかわれたこのこと、あるいはまた、実数から言って三億ドルプラス一億ドルというこの数字ですね。その数字の中の根拠として、請求権にかかわるものが根拠としてあるのかどうかという点なのです。その根拠の中にそのものが入っているんだとあなたがお話しになるのならば、これは明らかに第四条に関係があるということ。ところが、あなたの今までの御答弁を伺っていると、経済協力と請求権とは一応別個であります。条約の処理上においては、あなた条約の処理上でこうしようというのでしょう。簡単に言うと、無償供与三億ドルを与えます、有償供与三億ドルを与えます、その次の条章に、第四条に規定されておる請求権はこれによって、一切放棄いたします、――それは放棄でもどういう言葉であっても、要するに放棄という意味のことを韓国側に書かせる。こういう形式を通じて第四条に関係があるんだというようにあなたは技術的にやろうとしておるんでしょう。技術的にこういうことをやったって、国民あるいはわれわれにとっては、これは技術的ながまかしをやったのであって、今ここで松本委員と私語をいたしておりましたが、松本委員のお話によると、何々の借金を返してもらうのに、飯を食った、飯を食ったんだから借金はいいじゃないかという話にした、こういうことなんではないのか、こういうことを言われた。だとは断言して言わぬ。ないのかという感じを述べられた。ですから、それならなおさら請求権と経済協力との関係がないということが立証される。飯を食った額というものはどんぶり勘定です。経済協力と請求権とには関係がない。ただ、その場合に、飯を食ったということと話し合いをつけたというところでは関係はあるかもしれない。しかし、経済協力それ自体と請求権の間に関連はないということは明らかですよ。その点が明確にならないから、関係がないではないかとわれわれは言っておる。この点について外務大臣としてはどういう見解をおとりになるのですか。

○大平国務大臣 経済協力と請求権とは無関係なのです。あなたの御理解の通りです。経済協力をやることによってて、請求権は、つまり四条にいう両方で取りきめて片づけなければならぬという請求権が消えちゃうんです。だから、四条にいう請求権の問題は片づいたということに両方合意しようということでございますから、矛盾はしないと思うのです。

○岡田(春)委員 それでは、条約の方式としてそういうものを一緒にすること自体は、私は問題があると思う。これは第四条に基づく請求権の放棄ということを明文上に明らかにする、これは南朝鮮もそれを認めるという、そのことはサンフランシスコ条約の第四条に基づく規定に関することです。経済協力というのは、何もその問題に関係してこれが行なわれるものに限っているべきものではない。別途において、たとえば韓国にこの後において経済協力がまた行なわれるかしれませんね。そういう経済協力と同じものとして扱うならば、条約の扱いとしてもおのずから別個にするのが当然です。この前払が予算委員会で伺っておるときには、あなたは、今日の交渉はサンフランシスコ条約に基づく交渉だ言われましたね。それならば、第四条の問題はサンフランシスコ条約に基づく交渉としてやらなければならぬ。経済協力の問題は、性質上おのずから違う問題ですよ。そういう問題としてこれは処理しなければならないし、それによって国民をごまかしちゃいかぬと思う。それなら、あなた、はっきりした方がいいですよ。第四条の請求権は放棄いたしましたということをはっきりしました、別途の交渉において経済協力というものは別途にきめました、それが結果的には南朝鮮においてどういう結果になるかということは、これはまた別の問題として、少なくとも国際法の論議の問題としては、それを一緒にするということは一貫性を持たない。筋が通らない。これは、もっと言うと、あなたは請求権の問題を解決する自信がないからこういうごまかしをやっておる、こう言われても仕方がない、こういうことになってこざるを得ないと思う。こういう点はどうですか。

○大平国務大臣 現在の請求権を、先ほど私が申しましたように、どういう方法で解決せよということは平和条約に書いてないのです。だから、向こうがそれを主張しない以上、なくなったと認めるということも先方の自由でできることでございます。それだけで、あなたがおっしゃるように平和条約第四条の問題が解決がつくわけであります。経済協力は全然別個の問題でございます。ただ、経済協力をすることによって、向こうがそういう決議をされるという外面的連関はありますけれども、しかし、平和条約の処理はきちんとつく、また、つけなければ交渉の意味がないわけでございますから、そんなようにやっているわけです。

○岡田(春)委員 私は関連ですからこれ以上やりません。

○戸叶委員 今の問題ですけれども、平和条約の四条は破棄しましたということがなければ、平和条約というものは依然として残っていくと思うのです。だとすれば、その処理の仕方だとおっしゃいますけれども、日本と韓国との間で結んだ協定というものは、平和条約とどっちが優先するかという問題も出てくると思うのです。そして、その両国の間ではいいかもしれませんけれども、平和条約四条そのものはあとに残って問題が出てくるのじゃないかと私たちは考えます。この点はどういうようにお考えになりますか。やはり、二国間の協定の方が優先して、平和条約はそのまま死んでしまうというようにお考えになるわけですか。これはとんでもないことだと思うのです。

○大平国務大臣 平和条約に基づいて韓国の主張すべき請求権はそこでけりがつく、韓国に関する限り片づくと思うのです。また、片づけるようにしなければならぬと思うのです。

○戸叶委員 片づくと一人でおきめになっていても、片づかないから、そこが問題なんです。さっきの総理の答弁との食い違いがありますから、私は、この問題は保留にしておいて、今度総理がいらっしたと夢にもっと深く追及したいと思います。
 そこで、もう一つ、やはり同じような問題があるのですけれども、勝間田さんが平和条約四条でオーソリティの問題を取り上げられました。このオーソリティというものに北鮮は含まれない、こういうふうに外務大臣は答弁されておりますけれども、その通りですか。これは韓国だけの問題だというように解釈されているわけですか。

○大平国務大臣 その通りです。

○戸叶委員 そうすると、オーソリティという解釈は、オーソリティにはいろいろあるわけですが、一致していないわけですか。オーソリティといっても、どうしてここで韓国だけのことをおっしゃるのでか。

○大平国務大臣 それは、たびたび申しあげておりますように、平和条約が締結され、また、国連といたしましては、韓国を唯一の合法政権と認める、そして各国もこれに同調されることを希望するという決議がありまして、日本も韓国を合法的な政権として、われわれは今交渉いたしておるわけでございます。従って、そこにいうオーソリティは韓国政府であるということに立脚してやっているわけです。

○戸叶委員 平和条約において韓国を認めている、あるいは平和条約を認めた国が韓国だけをオーソリティとしているからそうだということなんですね。ところが、ほかの国でも、同じアメリカの陣営に属する国でも、北鮮のオーソリティという言葉を使っているわけです。たとえば、一九五〇年六月二十五日の安保理事会において、オーソリティズ・オブ・ノースコリーアという言葉を使っています。それから、その後においても、オーソリティズ・イン・ノースコリーア、オーソリティズ・オブ・ノースコリーアというように、国連会下の国々が北鮮のオーソリティズという言葉を使っているわけです。だとすれば、そのオーソリティズというものは、このオーソリティズというものとどういうように違うのですか。

○中川政府委員 条文の解釈でございますので、私から申し上げますが、オーソリティズという言葉を平和条約の四条で使っております。日本語の訳として当局という言葉を使っております。これはもちろん普通名詞でございまして、オーソリティズという言葉自体から何をさすということは当然には出てこないわけであります。北朝鮮の政権につきまして、国連の決議でオーソリティズという言葉を使っておるということも事実でございます。四条では、施政を行なっている当局との間に請求権についての取りきめを行なうという規定でありますので、これから受ける第一次の印象としては、現実に施政を行なっている北朝鮮の当局もこれで権利があるのじゃないかというふうに一応考えられるようでございますが、しかし、平和条約全体の思想からいたしまして、朝鮮国の独立を認めたということは、二つの朝鮮を認めたことではない。これは当然考えられるのでございまして、やはり朝鮮半島が一つの独立国になったということを平和条約で認めておると解釈せざるを得ないと思うのでございます。従って、第四条からして、北と南と両方に当局があるから、その両方と財産権、請求権の交渉を日本がやるということになりますと、日本は二つの朝鮮政府というものを結果的に認めるということになるわけでございまして、そういうことは四条が要請しているとは解釈できない。やはり、これは日本が承認し得る朝鮮国の政府と交渉せよということであろうと考えざるを得ないのでございます。それから見まして、この第四条にいうところの、施政を行なっている当局ということは、朝鮮に関しましては、やはり日本が承認し得る朝鮮の政府、朝鮮国の政府ということであると考えざるを得ないのであります。それからいたしまして、この平和条約当市国のほとんど大部分は、その当時、一九四八年の国連の決議に基づきまして、大韓民国政府を承認していたのでございます。また、日本も、平和条約発効と同時に大韓民国政府の在外事務所、代表部を認めまして、これと日韓交渉を実は平和条約発効以前から行なっているのでありまして、日本ば明らかに大韓民国政府の方を承認したわけでございます。しかしながら、もちろん、北の半分につきましては、大韓民国政府が管轄権を法律的にも及ぼしておりませんから、従って、策四条のいわゆる請求権に関する交渉は南だけについて大韓民国政府と行なっているというのが現状でございます。北については白紙の状態であるということは、将来北につきまして日本が承認し得るような当局ができました際は、やはり四条に基づいて北について交渉し得る権利がその当局にあると考えるのでございますが、現在では、そういう当局は、四条のいうような当局は日本に関してはまだ存在していない、かように考えておるわけでございます。

○戸叶委員 そういうふうにおっしゃいますけれども、おっしゃること自体が何が何だかさっぱりわからないのです。この間の予算委員会ではっきりおっしゃったことは、北朝鮮にも請求権がありということをおっしゃいましたれ。そうすると、ありというのはどこから出てきてありというふうに認められたのですか。このオーソリティを認められたからありとしたのじゃないですか。

○中川政府委員 オーソリティの権利ということよりも、現実にそこに住んでおる朝鮮の人の日本に対する請求権、これは事実上いろいろあるわけでございますが、それについての解決はまだできていない、日韓間に交渉が妥結いたしましても、その分はできていない、こういう意味で、請求権が未解決のまま残っておる、先方の請求権はまだ残ることになる、かような答弁になったわけであります。

○戸叶委員 それじゃ、二月の二日の予算委員会で池田総理大臣が、北朝鮮の請求権は、「平和条約第四条の(a)項によりまして、双方請求権があると私は考えております。」とおっしゃっているわけです。それはオーソリティを認めているからそうおっしゃったわけではないですか。すなわち、四条の(a)項によって請求権あり、こうはっきり断定していらっしゃるのですよ。

○中川政府委員 それはその通りであるわけでございまして、北の半分については、そこの政府当局というもの及びそこの住民というもの、これらの人々あるいはこれらの当局が日本政府に対しまして、あるいは日本の国民に対しまして、何らかの請求権を持っていることは事実でございます。また、日本側も同時にそういう請求権があるわけでございまして、これは交渉する相手がまだおりませんので交渉できないままに残っておる、かような自体でございます。将来何らかの形でそういう交渉をするような時期が来れば、四条に基づく交渉ということが行なわれると考えます。

○戸叶委員 今できない、そうおっしゃることは、どういうことですか。四条に基づいて請求権ありとはっきりおっしゃっておる。そういうのは詭弁というのじゃないですかね。ちょっとわかりませんね。四条(a)項によって北朝鮮にも双方の請求権ありとはっきりおっしゃっておる。記録も残っているのですよ。それでもなおかっこのオーソリティズの中に入らないという意味は、どこにあるのでしょうか。

○中川政府委員 二つの朝鮮国家を認めることができないということから、四条によって権利のある施政当局というものには、まだ今のところ北鮮当局は入らない、かように考えるわけでございまして、もしそういう事態が将来来るということになれば、そのときには交渉が行なわれるということでございます。

○戸叶委員 二つの朝鮮を認めないというところからこの中に入らないとおっしゃるのと、それから、池田さんが言われた、この中に入るという条約上の解釈とは違うわけですね。はっきり違っていますよ。それをこじつけて一緒にして、ここでは北鮮は入らないのだ、入らないのだけれども、四条の(a)項で請求権があるのだという矛盾したことを結びつけようとするから問題がある。

○中川政府委員 池田総理が予算委員会で言われたことの通りのことを、私が言っておるわけでございまして、池田総理も、決して、現在北鮮当局が四条に基づいて権利があるということを言っておられないのであります。もしそういう権利があるならば、今交渉しなければいけないわけでございますが、交渉ができないということを言っておるのは、要するに、四条に基づいて北鮮当局が現在請求権について交渉を要求する権利ありやいなやという問題につきましては、池田総理も否定されておるわけでございます。しかしこれは将来残る問題であるということを言っておられるのでありまして、私が言ったことと同じであります。

○戸叶委員 権利があるということは、請求することができるということなんですよ。そうでしょう。そうじゃないですか。権利があるということは、請求することができる。それは今しろと言うのじゃないのです。いつか請求してくるかもしれない、その権利があるということをはっきり認めていらっしゃるのです。

○中川政府委員 権利があれば、今請求できるわけでございます。しかし、請求できないということは、権利がないわけでございます。

○岡田(春)委員 関連。
 条約局長、もう少し条約に即してやらなければだめです。それこそ、あまり言いたくないけれども、三百代言式にそういうことを言っちゃだめです。それじゃ、四条に基づいてオーソリティズが北にあるということは条約局長は認めるわけですね。

○中川政府委員 四条に基づくオーソリティズは、もう平和条約発効と同町に請求し狩る権利のあるオーソリティでありますから、従って、現在そういうオーソリティは北については存在していない。しかし、この北の問題が白紙で残るということを言っておるわけでございまして、将来いずれかの時期には、日本が交渉し得るようなオーソリティができる場合には、これはやはり四条に基づく交渉が行なわれ得る、かように考えます。

○岡田(春)委員 それは日本の政府として言うこと。向こうが請求した場合はどうするのですか。

○中川政府委員 向こうが請求いたしましても、日本の政府の解釈及び平和条約を結んだ大多数の当時国の解釈といたしまして、おそらく同じであろうと思いますが、北鮮当局は四条にいう当月じゃない、こういう解釈でございますので、日本としては、そういう交渉の申し入れがありましても、応じ得ないわけでございます。

○岡田(春)委員 もう一点だけ伺いますが、四条の英文を読みますと、こうなっているのです。あなたはさっきから意識的にあれしたわけじゃないでしょうけれども、はっきりしておきますが、オーソリティズ・プレゼントリー・アドミニスタリング・サッチ・エリアズ、――二つの地域ですね。あなた、オーソリティズだけではなくて、二つの地域と書いているのですよ。エリアズですよ。これはどういうようにあなたは解釈するのですか。

○中川政府委員 第四条は、日本から分離いたしました地域全体に適用する原則でありますので、いろいろな地域があるわけでございます。従いまして、それらの地域、複数を支配する当局と、これも複数になっておるわけでございます。要するに、そういう意味で複数になっておるということでございます。

○岡田(春)委員 四条の(b)項の場合は、朝鮮の場合ですね。違いますか。

○中川政府委員 四条の(b)項も、書く方といたしましては抽象的に書いてあるわけでございまして、朝鮮とは限らないわけでございますが、しかし、現実に具体的に問題になる、つまり、日本の財産が没収されたという意味では、南鮮だけに実際上は意味のある規定だと思います。

○岡田(春)委員 四条の(b)項というのは、朝鮮以外にございますか。

○中川政府委員 四条の(b)は、日本から分離された地域、第三条地域まで含んでおりますが、日本から分離された地域、及び、日本の潜在主権がありますけれども、日本の施政から離された地域、これらにおきまして合衆国軍政府により日本財産について何らかの処理が行なわれた場合、その効力を承認する、こういう規定でございます。観念的には、従って、どのような指令により、どのような処理が日本財産について行なわれましても、日本はそれを承認しておるわけでございます。具体的にいろいろの指令、たとえば琉球でありますとかあるいは南洋群島でありますとか、いろいろな処理が行なわれておるわけでございますか、日本の私有財産を没収するまでの処置は行なわれていない。従って、具体的に直接問題になるのは、やはり軍令三十三号が適用になりました南鮮地域である、かようになるわけであります。

○岡田(春)委員 関連ですからもうやりませんけれども、条約上の規定の中に複数として明文上明確になっている。しかも、この四条というものは、この平和条約の中につけられた経過を考えると、これは当然朝鮮の問題ですよ。これはあらためて私から申し上げる必要はないと思う。その場合は、当然、朝鮮にオーソリティズというものが二つあるという現実の上に立って、しかも二つの地域としてのエリアズというものをこれに入れて、複数にしておるのだと私は考えざるを得ないわけですよ。そういう点をことさらに無理に解釈なさると、きょうは私は関連ですからあまり言いませんけれども、あとで本格的に私は質問させていただきまずから、そういう解釈では通用しないと私は思います。
 私の意見だけを申し上げておきます。

○戸叶委員 これは非常に重大な問題ですから、あといろいろと深く質問しなければならないと思いますが、一点だけ伺っておきたいことは、国連で使うオーソリティで、そして、しかも講和条約に使っているオーソリティズ、それの中にどういうオーソリティズとどういうオーソリティズがあるのですか。その定義を聞きたいのです。それは、安保理事会でオーソリティズ・オブ・ノースコリーアという言葉を使っておるときのオーソリティズ、それから、南鮮のこの場合に、四条の(b)項は韓国だけだということを条約局長はおっしゃるわけですが、この場合のオーソリティズ・オブ・サッチ・エリアズ、こういう場合のオーソリティズ、こういうようなときに、同じ国連で使うオーソリティで、違う場合のオーソリティというのは、どういう場合ですか。

○中川政府委員 オーソリティズという言葉は、先ほど申しましたように、普通名詞でございます。要するに、日本語に訳せば当局というような訳が一番いいのではないかと思います。国連で使うオーソリティズという言葉、その使う場合々々によって、いろいろ前後の関係からその意味を把握することになると思いますか、当局あるいは政権とか、そういうことに訳するのか一番適当な訳じゃないかと思います。

○戸叶委員 そういうふうに聞いたのではないのです。国連で使う場合にも、オーソリティズの中に幾通りか解釈があるわけなんですが、この場合にはこういうふうに解釈して、この場合にはこうなんだというふうに解釈するわけですか。

○中川政府委員 同じお答えを繰り返すことになりますか、やはり、オーソリティズという一つの普通名詞でございますので、それを使う場合には、前後の関係から見て、具体的にどういう政府なり当局なりを意味しておるかということは、そこから出てくるわけでありまして、オーソリティズという言葉自体が国連で完全に一つの場合にだけ使うということもないのではないかと思います。従って、それ以上のことはどうも私ちょっと御答弁できかねます。

○戸叶委員 それから、もう一つ伺いますけれども、池田さんが、北朝鮮の請求権は平和条約四条の(a)項によって双方ありと考えますと、おっしゃったのは、英語方にはよらないで、日本文の方にだけよっているというふうに解釈するわけですか。これはどうしても英語と日本語とついているわけです。正文が英語なんですから。だから、四条によってはっきりあるとおっしゃったからには、このオーソリティズの中に北鮮が入るというふうに解釈しなければ出てこないのです。どう解釈してもそれは出てこないのですよ。そうじゃないですか。池田さんの答弁だけで考えてみて下さい。条約局長、池田さんの答弁だけでお考えになれば、このオーソリティの中に北鮮が入っているとしかとれませんね。とれますか。日本語の方だけで考えろとおっしゃるのですか。ただそれだけ確かめておけばよろしいのです。別に条約局長の考え方でなくて、池田さんのこの文句から言えば、普通に読めば、このオーソリティズには両方あるなと考えるのは当然でしょうね。そうじゃないでしょうか。

○中川政府委員 池田総理の言われましたことは、北鮮についての請求権は残る、残るということは、結局、あるということを前提とするわけですが、要するに、残るということを言われたのでございまして、私はそれには全然同じ意見でございます。

○戸叶委員 ちょっと待って下さい。今そういうことを聞いているわけじゃないのですよ。はっきりと、池田さんは、北朝鮮の請求権は平和条約四条(a)項によりまして双方請求権ありと考えると言っている。二月二日の予算委員会速記録の八ページをごらんになって下さい。ちゃんと書いてあるのです。だから、この言葉から見れば、このオーソリティズの中に含まれるとしか解釈できないでしょう。それだけを伺っているのですから、それだけでけっこうです。私見をおっしゃらなくてもいい。この言葉から、なおかつオーソリティズの中に北鮮が入っていないというのだったら、私もちょっとこんがらかってくるのですけれども、その辺だけちょっと……。

○大平国務大臣 総理大臣も用心深く北朝鮮のと言っているので、北朝鮮のオーソリティとは言っていないのです。

○戸叶委員 そういうことじゃないのですよ。北朝鮮の請求権は平和条約四条の(a)項によりまして双方請求権ありと考えます、こうおっしゃった。ということは、四条の(a)項によるというのです。四条の(a)項に何か書いてありますか。今議論したようなことが書いてある。だとするならば、ここから見れば、池田さんのおっしゃった通りをそのまま解釈すれば、オーソリティズの中に北鮮が入っていますねというのですから、おかしくないでしょう。

○大平国務大臣 今の北朝鮮のオーソリティに対日請求権があるとは言うてないので、北朝鮮の請求権はある、そして、われわれが相手にできるオーソリティができれば、それはまた相談になる場合もありましょう、こういうことだと思うのです。

○戸叶委員 今不思議なことをおっしゃいましたね。北朝鮮の請求権と北朝鮮のオーソリティの請求権と二つあるのですか。北朝鮮というものを、今オーソリティズ・オブ・ノースコリーアといって表現しているわけでしょう。ノース・コリーア、だけではなくて、オーソリティズ・オブ・ノースコリーアとおっしゃっているわけでしょう。ですから、当然北朝鮮という中にはオーソリティズという言葉は入っているわけですね。北朝鮮ということの中には、オーソリティズ・オブ・ノースコリーアのことを言っているわけでしょう。そうじゃないのですか。

○大平国務大臣 それは現在の北鮮のオーソリティをさすものじゃないという解釈に立っているということです。

○戸叶委員 これ以上議論していっても議論は尽きませんから、今度総理大臣がいらっしゃったらゆっくりその点も追及してみたいと思います。
 そこで、ちょっと一点だけ伺っておきたいのですが、政府もはっきりと北朝鮮の請求権がありということも認めておりますし、それから、韓国の方では三億ドル、二億ドルということをきめたのですけれども、韓国の方の了解としては、三億ドルなり二億ドルなりの有償・無償の経済協力というものは、これは南朝鮮だけのものであるという了解の上に立ってのきめ方でしょうか。それとも、これは朝鮮全般にわたってのきめ方だというふうな了解なんですか。どちらで交渉されているわけですか。

○大平国務大臣 私ども、申し上げておるように、韓国に対する経済協力と心得ております。

○戸叶委員 韓国の方も自分の国の三十八度線以南だけだという解釈のもとにやっているわけですか。まさか北の方まで及んでいるというような考え方でやっているわけじゃないんですね。

○大平国務大臣 韓国に対する経済協力ということで先方も受け取っておると思います。

○戸叶委員 ただ、私が心配いたしますのは、韓国の新しい憲法の三条で、韓国の範囲、朝鮮の範囲というものが規定されているわけです。その点は御存じですね。それには、大韓民国の領土は韓半島及びその付属島嶼となるというふうなのがあるわけです。だとするならば、日本はこの韓国の憲法を無視して財産請求権というものを討議している、こういうふうに理解してよろしいわけでございますか。

○大平国務大臣 韓国を相手にしてやっておるわけでございまして、韓国が現に領有するところの範囲が広がっていけば、そこに有効に働くと思いますけれども、現に支配する地域を前提としてやっているわけです。

○戸叶委員 ただ、韓国の憲法では、韓半島全部を韓国と見ているわけです。そういう観点の上に立って、請求権の問題と取り組んでいる。日本の場合は、南朝鮮、そして、北朝鮮にもありと言っているわけです。そうすると、その間に食い違いができやしないか。その点、韓国との話し合いはついているわけですか。韓国の憲法によらずに日本はこれをきめたんだということは、話し合いはついているわけですか。

○大平国務大臣 韓国を相手にいたしておるわけです。

○戸叶委員 それじゃ、韓国の憲法ということも認めた上でやっているわけですか。

○大平国務大臣 私どもは韓国政府を相手に交渉しておるということで、御理解いただきたいと思います。

○戸叶委員 政府の中には憲法もあるわけですね。

○大平国務大臣 ええ、ございましょう。

○戸叶委員 そうすると、北朝鮮との請求権の問題や韓国の請求権自体の問題にいろいろ議論が残ると思います。この議論は残しまして、私の質問を打ち切りたいと思います。

○福田(篤)委員長代理 川上貫一君。

○川上委員 非常に時間がありませんから、私の方もまとめて質問しますから、御答弁の方も焦点だけを端的にお答えをお願いします。
 私の質問いたしたいと考えるのは、原子力潜水艦の問題です。外務大臣も御承知のように、世界の歴史において、今のアメリカくらい莫大な軍事費を計上しておる例はないと思うのです。たとえば、これまた御承知のように、ミサイル関係、だけで百五十億、ドルという莫大な経費を計上しておる。この金はNATOの全軍事費に相当する。これがミサイルの費用だけなんです。このことは、どういうことかというと、最近の世界の情勢、平和勢力の増大がありますが、これに直面して、核戦争でこれに対抗しよう、こういうアメリカの力の政策の一そうの拡大、これを表わしておるものだと思う。アメリカは、その新しい政策の一部として、ヨーロッパ、カナダ、極東にかけて、多角的核戦力の創設という名前で、各種の核兵器を配置しようとする政策をとってきている。これは、それらの国々の軍事体制をアメリカの一方的な核戦力に完全に従属させるという政策だと思うのです。こういう政策に基づいて、アメリカは、これまた御承知のように、トルコやイタリアなどにおけるミサイルを撤去しました。それにかわるポラリスを配置する、こうするのでありますが、今回の日本に対する、原子力潜水艦基地の要求は、明らかに、新しいアメリカの戦略の一環を日本に背負わせるものであるということは間違いないと思う。しかるに、政府の方では、このアメリカの要求を受け入れるというお考えのようです。すなわち、非常に強力な攻撃用戦略兵器である原子力潜水艦に基地を提供するのです。外務大臣はどう考えておるか知らぬが、日本を公然とアメリカの、原子力兵器の常設基地とする。これが問題なんです。これは単に従来の日本の基地の量的な増大というものではないと思う。新たにアメリカの、原子兵器の飛地となる。これが今度の問題であって、非常に重大な危険がひそんでおる。外務大国、これをどうお考えになっておるか。重大と思うておられぬのか。原子兵器の基地を提供する新段階に入っておる。この点についてのお考えをお聞きしたい。

○大平国務大臣 私は、そういうように重大とは思っておりません。艦船の推進力として、原子力を使っておるというにすぎないのでございまして、私は、装備の重大な変更であるとは思っておりません。

○川上委員 そうしたら、この原子力潜水艦というのは、水雷を持っていますか、機雷を持っていますか、何を持っていますか。

○大平国務大臣 魚雷を持っておると思います。核装備はいたしていないと思います。

○川上委員 その魚雷の爆発源は何ですか。魚雷は何こ発するのですか。

○大平国務大臣 兵器の知識はございませんが、私の確信するところでは、核装備はしていないと思っております。

○川上委員 魚雷は何で爆発するか、わからないというのですか。

○大平国務大臣 そういう操作の問題は私はよく存じませんが、よく調べまして御報告いたします。

○川上委員 原子力潜水艦を入れておいて、その魚雷や機密が何で爆発するかということも考えないで、核兵器ではないとどうして言えるのですか。

○大平国務大臣 私は、艦船の推進力として原子力を使っておると承知いたしておるわけでございます。これは推進力としての原子力を使っておるわけでございまして、これが核装備であって装備の重大なる変更であるというように私はとっておりません。

○川上委員 外務大臣は何も知らぬ。魚雷や機雷がどういう爆発源を持っておるか知らぬ。こんなことで、原子力潜水艦の基地を認める、これでいいですか。この爆発源は核なんです。これは御承知ありませんか。ほんまに全然知りませんか。知っておって言わぬのですか。ほんまに知らぬなら知らぬでよろしいから、ほんまに知らぬと言って下さい。

○大平国務大臣 兵器がどのように操作されておるか、私は存じませんけれども、原子力潜水艦というのは、政府も申し上げております通り、百回以上も各国の港に寄港いたしておりまするし、これは核装備をしていないノーテラス型の潜水艦であるので、安全上も別に支障はないと聞いておるわけでございます。

○川上委員 なるほど、この原子力潜水艦はノーテラスで、ポラリス潜水艦でありませんから、ポラリスは持っておらぬ。しかし、これは魚雷と機雷を持っておる。この魚雷の名前はベティです。この魚雷は核魚雷。これは詳しい資料を出せというたら幾らでも出します。その威力は、広島の原爆の約三倍です。また、ルルという機雷を持っておる。この機雷がやはり核機雷。この威力は、水中およそ半径二キロの間の潜水艦を完全に破壊する。また、この機雷は、海湾に対して撃ち込まれると、一発で海湾はめちゃになり、汚染してしまう。これはどちらも核兵器なんです。ポラリスは持っておりません。これは核兵器なんです。これが言うところのノーテラス潜水艦です。これがどうして核兵器でないか。核兵器といえば、政府はどんなものだとお考えですか。核兵器というものをちょっと言って下さい。どんなものですか。

○大平国務大臣 核兵器を現在政府はどういうものとして理解しておるかということにつきましては、専門家によく伺いまして、あとで御報告さしていただきます。

○川上委員 そうすると、外務大臣は、原子力潜水艦の基地を日本が提供する、この原子力潜水艦は核兵器ではない、こう言うだけで、そんなら、核魚雷を持っておらぬのですか、持っておるのですか、核機雷を持っておらぬのですか、持っておるのですか。核魚雷と核機雷を持っておって、どうして核兵器でないと言うのですか。これは、外務大臣、技術上の問題じゃなくて、日本を核兵器の基地にするかどうかという問題なんですから、いいかげんな答弁では困ると思う。どっちなんですか。

○大平国務大臣 政府で検討いたしまして、これは核兵器ではないということに理解いたしまして、そういう前提に立って考えておるわけです。

○川上委員 アメリカが核兵器じゃないと言うたから、こういうのですか。核兵器じゃないと何で認めたのですか。あなたが核兵器でないとお認めになったその根拠は何ですか。
○大平国務大臣 政府の専門家の判断に信頼いたしております。

○川上委員 それはだれですか、政府の専門家とは。名前をあげて下さい。この次の委員会に出てもらいますから。

○大平国務大臣 政府各省で協議いたしまして、そういう判断に立っておるわけでございます。

○川上委員 だめですよ。政府各省でやっておる、そんなのはだめです。だれが核兵器でないということを証明したのですか、専門家で。その名前を言うて下さい。

○大平国務大臣 いずれにいたしましても、それが核兵器でないという判断の根拠につきましては、整えまして御報告いたします。

○川上委員 それでは、その報告を待っております。核兵器でないというか、私は、魚雷、機雷は、核魚雷、核機雷であるということを今簡単に言うたのです。しかし、これは時間がないから簡単に言いましたが、もっと詳しい説明を幾らでもします。政府がどうしてもそう言うのなら、私はここで委員長にこの問題についての公聴会を開くことを要求したい。これは、ぜひやらなければならない。日本が将来核兵器の基地になるかならぬかという重大な問題です。従来でも無制限な軍事基地をアメリカに与えております。これの量的な拡大と違うのです。今度の日本の原子力潜水艦の常設的な基地は、核兵器基地になる。この点について、繰り返して言うが、ぜひ一つ社会党も……。(「異議なし」「賛成」と呼ぶ者あり)公聴会を開くことを要求します。
 そこで、もう一問だけですが、アメリカがこの核兵器を持ってくるので、これはアメリカにとってもきわめて重要なものである、また、日本にとっても、これは大へん画期的な基地になるのだという証拠は、池田さんが受け入れるという意思表示をなさると同時に、アメリカはどうした。直後にアメリカは重要な人を日本に派遣しておる。あなたはきのうかいつかお会いになったと思う。この人はアメリカにおいてきわめて重要な軍事的地位を持っておる人であって、これは、外務大臣御承知の通り、ギルパトリック国防次官です。これに続いて大統領特別補佐官が来るのです。これはマックジョージ・バンディ。また、ロストウ国務省政策企画委員長も来る。続けて来るのです。これはほかの用事もあるでしょうが、問題はそこじゃない。これは何を意味するか。原子力潜水艦の日本配置というものがきわめて重大なものであって、アメリカの世界戦略、日本とアメリカの協調の上にきわめて重要なものであるから、このたくさんな要人を派遣しておる。ギルパトリックはすぐイタリアへ行くじゃありませんか。イタリアがミサイルを撤去してポラリスを持ってくるというのは、そこなんです。これが明らかに証明しているのです。こういう重大な問題をあなた方は国民の前にごまかそうとしておる。こういうことをやってごらんなさい。これからだんだんと公然と日本が核兵器の全面的受け入れのとびらを開こうとしておる。これはきわめて重大な問題なんです。ところが、それなのに、外務大臣は、よう知らぬ、専門家が言う。核兵器じゃないという話だ、こういうことで外交をなさって、日本の安全と平和が保てると思いますか。実際、私は、外務大臣一人がきわめて悪いのだとは言いませんが、なかなかいい人なんだが、日本の自民党政府を代表する外務大臣としては、もう少しお考えにならなければいかぬのじゃないですか。この結果、日本は、アジアと世界の戦争か平和かという問題についてどういう立場に置かれると思いますか。日本が今後どういうことになると思いますか。これをお考えになったことがありますか。私は非常に心配です。このノーチラス潜水艦が事実上核武装しておるにもかかわらず、これを知らぬ存ぜぬと言うたり、何か知らぬ核兵器ではないと言うたり、こういうことであっさりと受け入れようとしておる。国民にもこれをごまかしてしまう。こういう外交こそが、一切の日本の政治を誤らしておる、日本の国民に非常な危険を与えておると私は思う。こんなことをしておいて、日中の問題とか世界の平和とか言えますか。これは日韓会談も性質は同じものです。
 時間がありませんから、きょうはこれ以上私は聞きませんが、この次の委員会に、外務大臣が今おっしゃった核兵器ではないという、あなたの持っておられるデータ、それから、専門家の意見を聞いていろいろおっしゃるから、この専門家の名前、これを要求して、私の質問は一応終わります。

○福田(篤)委員長代理 公聴会につきましては、次の理事会で御相談いたします。本日はこれにて散会いたします。
  午後零時四十五分散会

 第043回国会 参議院予算委員会 第15号 昭和三十八年三月十九日(火曜日)午前十時二十五分開会

【発言順】
 委員       田畑 金光
 外務大臣     大平 正芳
 外務省条約局長  中川 融
 外務省アジア局長 後宮 虎郎
 大蔵大臣     田中 角榮
 農林大臣     重政 誠之
 水産庁長官    庄野五一郎
 委員       向井 長年
 総理府総務長官  徳安 實藏
 委員長      木内 四郎

○田畑金光君 私は、最初に外務大臣に対しまして、日韓交渉に臨む今後の政府の態度についてただしたいと思います。
 軍政の失敗を自認いたしまして、大統領の出馬もみずから断念いたしました朴議長が、去る十六日再び四年の軍政を延長したことに関連しまして、今後政府は、日韓会談にどう対処されようとする御方針なのか。政府は韓国の政情不安については、民政移管を前にした陣痛の悩みである、こうして説明をされて、その前提の上に立って交渉を継続すると説明されてきましたが、その前提がくずれたわけでございます。その現実に際し、政府はどういう方針をもって今後臨まれようとするのか、それを承りたいと思います。

○国務大臣(大平正芳君) 今御指摘のように、民政移管ということを目標にいたしましてスケジュールを立ててこられたようでございますが、去る十六日の提案によって軍政を延ばすということが提案されているわけでございまして、早期の民政移管ということを希望いたしておりました私どもにとりましても、たいへんこれは残念なことであると思っております。しかし、この過程を拝見して見ますと、民政移管の時期あるいは移された民政の政権の性格等について議論があったわけでございますので、私どもが重々本院を通じて申し上げておりますように、これは民政移管への陣痛であるということに間違いはないと思うのでございます。民政移管を断念したわけではないと判断いたしております。しかし、それにいたしましても、その動揺の振幅がわれわれの予想以上に幅広いものでありかつ目まぐるしいものであったということもいなめないと思うのでございます。こういう情勢を前にいたしまして、これからの会談の進め方でございますが、わが国としての態度は、きのうも本委員会で申し上げましたとおり、先方が合理的なかつ建設的な御提案を持って参りますならば、私どもとして討議を続けていくにやぶさかでないという態度は不安でございます。ただ、先方がそのような御提案を今おまとめになって会談に臨み狩る情勢かどうかという点につきましては、若干の懸念もございますけれども、日本政府としての態度は、従来申し上げたとおり、不変な姿勢で臨んでおるわけでございます。

○田畑金光君 向こうから建設的な提案があり、あるいは合理的な話し合いが、申し込みがなされる場合には政府は応ずるが、そうでなければ日本政府の側から積極的な話し合いをやるという条件もないし、政府としてもその気持はない、こういう受け取り方をしてよろしいわけですか。

○国務大臣(大平正芳君) いろいろの懸案につきまして、一応こちらの提案はいたしてあるわけでございます。それに対してどういう反応を示すかというのは、向こう側の問題になっておるわけでございます。

○田畑金光君 韓国の政情不安と韓国民の朴政権に対する批判というものはいよいよきびしく、また、深刻化しておるようにわれわれは見るわけでございます。こういう状態のもとで日韓交渉を継続するということは不適当であり、交渉妥結の強行というものは決していい結果をわれわれは生むとは見ていないわけです。こういう状況であるからして、わが党は、先般来政府に対し、交渉の停止を申し入れてきたわけでございまするが、私たちは、今日この事情のもとにおいては、当分の間事態の静観をはかるという意味において交渉の停止をはかることが賢明ではないかと、こう思いますけれども、この点について見解をお尋ねいたします。

○国務大臣(大平正芳君) 事態を注視し、観察するということは大事でございまするが、そうしておって日韓の間の問題が片づくわけではございません。きのう本委員会でも申し上げましたとおり、懸案は依然としてあるし、それをどう解きほぐして参るかという努力はあらゆる瞬間忘れてはならぬことと心得ておるわけでございまして、御提案のように、当方においてこれを中止する、停止するという考えは毛頭ございません。

○田畑金光君 去る十六日の朴政権の声明を見ましても、近く国民投票によって、軍政を継続することを認めるか認めないか、国民投票に待つと、こう言っておるわけでございますが、少なくとも国民投票により韓国民の意思が明らかになる、こういう状態を政府としては見きわめることが必要だと考えますが、そのことも待たないで、従前どおり話し合いを継続していこうという意味なのかどうか。

○国務大臣(大平正芳君) 朴提案なるものにつきましては、きのうもここで申し上げたとおり、これがどういう理由で、どういう手順で御提案されたものかどうか、そうしてそれを韓国民がどのように受けとめてどういう反応をお示しになるのか、そういうような点につきましては、これからの推移を十分注視して参りたいと思います。そのことと、これが見きわめがつくまで停止しろということとは、また別な話でございまして、私ども日韓の間に問題がある以上、これをどうこなしていくかということについて先方からもし建設的な御提案がございますれば、それを討議して悪いなんということはないと思うのでございます。むしろ討議しないほうがおかしいわけでございまして、日本政府の態度は、先ほども申しましたように、不変の姿勢で対処して参りたい、そう考えています。

○田畑金光君 十六日の朴議長の声明と同時に、御承知のように、韓国政府は非常事態収拾のための臨時措置法というものを公布して、民間の一切の政治活動を禁止するとともに、政治的な言論、出版はもとより、デモや集会についてもきびしい制限を加えておるわけです。こういう背景のもとに、たとえ軍政延長の可否を問う国民投票に訴えたといたしましても、国民の正しい意思表示を期待することは不可能であると考えておるわけです。そういう背景のもとで日韓の諸懸案の話し合いを進めるということに私は非常な疑問が残るし、また、危険なことも予測されるわけで、それだけに私たちは、今日の新たな情勢に処して、政府の従来の態度についてはもう一度慎重に再検討をはかることが賢明であると考えますが、どうでしょうか。

○国務大臣(大平正芳君) 韓国は今容易ならぬ内政上の問題に直面しておるということはよくわかるわけでございます。しかしながら、私どもとしては、これは韓国の問題でございまして、韓国民が処理すべき問題なのでございまして、私どもは関心を持ってそうして自分たちの責任としております問題は、それにもかかわらず、先ほど申しましたように、日韓の間に懸案がありこれをどう解決し消化していくかということを究明していくことなのでございまして、その努力は、先方の政情がどうございましても、日本政府としてのこの責任を懈怠していくというようなことは、お言葉を返して恐縮でございますが、賢明ではないと思います。

○田畑金光君 しからばお尋ねいたしますが、昭和三十六年の十月に本国会において承認されました日比通商航海条約は、批准書が交換をきれて効力を発生したのかどうか。

○国務大臣(大平正芳君) 日本側の批准はちょうだいいたしましたが、フィリピン側のほうはまだこれを批准するというところまで遺憾ながら参っておりません。

○田畑金光君 フィリピンの国会または政府でこの日比通商航海条約の批准を渋っておるのは一体いかなる事情によるのか。この条約が衆議院の、あるいは参議院の外務委員会で審議された節に、政府は、日比の友好を促進するためぜひ早期に国会の承認を得たいからというので、当時慎重論を吐いた野党の意見を押えられて、日本国会の承認手続を得たわけです。しかるに相手側のフィリピンはこの条約の批准をとっておりませんが、これはいかなる事情によるのか、明らかにしてもらいたいと思うのです。

○国務大臣(大平正芳君) フィリピン政府におきまして政権の交代がございましたが、フィリピン政府としては、この条約をぜひ批准に持ち込みたいという御意向は非常に強いようでございます。したがって、先方の国会の状況を見ながら、この条約が円満に批准に持ち込み得る時期等を今勘案されておると承っております。

○田畑金光君 いつごろ批准ができる見通しに立っておると見ておられるわけですか。

○国務大臣(大平正芳君) 先ほど申しましたように、先方の政府はできるだけ早く批准をしたいという気持を持っておるわけでございまして、先方の政府の誠意に私どもは信頼をいたしておるわけでございまして、いつごろ批准に持ち込み得るかどうかという判断につきましては、これはフィリピン政府の問題でございますから、私どもからとやかく申し上げる筋合いではないと思います。

○田畑金光君 日本とアルゼンチンとの通商航海条約も、昨年の二月本国に提案されて審議未了になっておるわけです。その理由は、アルゼンチンの政情不安のためだと聞いておるわけでございますが、これをひとつ、どういう事情によってこうなったか、明らかにしてもらいたいと思うのです。

○国務大臣(大平正芳君) アルゼンチンの政変がございましたけれども、政変後におきましても日ア関係というのはきわめて良好でございまして、特に私どもが心配しなければならぬような問題の生起は今見ておりません。したがって、この日ア通商条約の問題も先方で時期を見て批准されるものと私どもは期待いたしておるわけでございます。

○田畑金光君 今の外務大臣の答弁でも明らかなように、通商航海条約でする調印後批准までにはいろいろな障害があり、これを阻害する事情が発生しておりまするわけです。ましてや日韓正常化については、通商航海条約に比べますと、一そう重要な内容を含むものであり、国家間の基本的な問題を規律するものであり、それだけか、数億ドルに上りまする多額の国民の税金による負担を国民としては払わなければならぬわけです。したがって、私は、こういうような大事な国家間の基本的な関係を規律する条約の批准については、慎重な上にも慎重を期することが賢明であると考えておるわけでございますが、もう一度外務大臣の御意見を承りたいわけです。

○国務大臣(大平正芳君) お説ごもっともでございまして、慎重にやらなければならぬ重大な案件だと心得ております。慎重にやらなくていいなどということは毛頭考えていないわけでございます。私どもは、終始、重要な問題であるという認識と、そしてこれは慎重に運ぶべきだという態度を堅持いたしまして事に当たっておるわけでございます。

○田畑金光君 従来の政府の態度を聞いておりますと、韓国側に交渉の熱意があり、交渉妥結の希望があるので、池田内閣はその情にほだされて交渉を継続するのだ、こういう政府の対韓交渉の継続性には、こういうような非常に冷酷な関係を律するのに浪花節的な感情論というものが強く出ているように見受けるわけです。日米関係を見ましても、日米間は安保条約によって一心同体的な運命にあると、こう言っておりますが、一たび経済関係の面をごらん下さい。綿製品交渉の問題については、この間から本委員会でも質疑応答がありましたように、一たび国家国民の利益の問題になってきますると、アメリカはきぜんたる態度をとっておるわけです。私がこういうことを考えたときに、もっとお隣の韓国の交渉というものは、われわれはできれば早く円満に話し合いをつけたいとは思うけれども、今のような情勢のもとにおいて話を進めるということは、非常な危険性を将来残しやせぬか。この際、日本政府としては一服することも考えてみる道じゃなかろうかと、こう思っておるわけです。どうでしょう。

○国務大臣(大平正芳君) 先方が困難な事情があればあるほど、先方が容易ならぬ状況にあればあるほど、日本の態度といたしましては、最善の敬意、善意を持って臨んで差し上げるということが、当然の外交的な儀礼であると私は心得ます。

○田畑金光君 三月十一日に朝海駐米大使は、トーキング・ペーパーで、日本政府の対韓交渉についての見解を米側に通告しておりますが、わざわざそうしなければならない理由は何であるのか。その理由と、さらに、どういう説明を向こうにしたのか、その内容を明らかにしてもらいたい。

○国務大臣(大平正芳君) お互いに外交関係を持っておる国々におきましては、それぞれ共通の関心を持っておる問題につきまして、インフォーメーションの交換をし合うということは、当然の外交儀礼であるばかりでなく、実質的にも情勢判断に資するところが多いわけでございます。他国からはインフォーメーションを十分ちょうだいして、日本側からインフォーメーションを差し上げないというようなことは、筋が通らない話でございます。日韓問題につきましては、しばらく先方と意見の交換がなかったわけでございますが、この間、ここ数カ月のわれわれたどってきた経緯というものを先方にインフォーメーションとして差し上げたというにすぎないわけでございます。

○田畑金光君 その内容を同時に明らかにしてもらいたいと言っておるわけです。

○国務大臣(大平正芳君) 今申し上げましたとおり、最近のたどりました経過を申し上げたものでございます。私どもの将来に対する意見を含んでおりません。

○田畑金光君 なぜアメリカだけにそのような経過を伝えなければならぬ立場にあるのか、それを承りたい。

○国務大臣(大平正芳君) アメリカと韓国との関係は、米韓協定を結んで特別な関係にあることは田畑さん御承知のとおりでございまして、アメリカが韓国に対して、対韓政策としてどういうことを考えているかということは、私どもとしても承知していなければなりませんし、日本と韓国との間の問題がどのように取り運びつつあるかということも、アメリカ政府に知らして差し上げるということは、当然の外交儀礼だと私は考えております。

○田畑金光君 私は、今の大臣の答弁をお聞きいたしましても、日韓交渉を強行するというのが、ほんとうに日本のためからではなくして、むしろアメリカに対する義理立てからやっておるんじゃないかという疑いが国民の中に生まれてくるのも、私は無理からぬことだと見るわけです。また十三日の夕刊新聞によりますと、アメリカは、ぜひとも朴政権のもとで交渉を妥結させることを必要とするという見解を発表しておるわけであります。私はいこういうようなアメリカの態度というものが、全く主権国家の体面を無視したような態度に見受けられることはまことに遺憾であって、これこそ政府のアメリカに対する外交政策が、追随を万事やってきたというところに、こういうような姿が生まれてきたと私は考えるわけでございますが、この点、どうですか。

○国務大臣(大平正芳君) 田畑さんほどの方がそんなことを言われることは、非常に政府として迷惑でございます。私どもは、日本が主権国家として、自主的に外交を進めるという、基本の決意と方針で進んでおるわけでございまして、政府がそういう態度でやっておりますにもかかわらず、アメリカ追随じゃないかなんということを、あなたのようなお立場の方から、そう言われることは、非常に心外でございます。

○田畑金光君 私も、非常に幾らお聞きしても、そういう答弁で終始されることは、まことに遺憾であり、心外でございます。
 そこで、私は、少し今度は角度を変えて、請求権の問題について、若干お尋ねしたいと思いますが、二月二日の衆議院の予算委員会で、わが党の春日委員の質問に対しまして池田首相は、軍令三十三号による在韓私有財産の侵害行為は、「不法な行為であったということはわれわれも考えております。」と答えて、その不法行為を認めております。これはヘーグ陸戦法規の四十六条の精神に基礎を置いて考えておると思います。しかし、私はさらに同規則四十三条に違反する疑いがあると思うわけです。すなわち、四十三条によりますと、「国ノ権力カ事実上占領者ノ手ニ移リタル上ハ占領者ハ絶対的ノ支障ナキ限占領地ノ現行法律ヲ尊重シテ成ルヘク公共ノ秩序及生活ヲ回復確保スル為施シ得ヘキ一切ノ手段ヲ尽スヘシ」とあるわけです。これは占領者に対する義務規定であって、占領者は、絶対の支障なき限りは、占領地の現行法律を尊重しなければならない当然の義務があるわけです。すなわち、旧帝国憲法におきましても主権の尊重は確保され、法律もこれを保護しているわけです。そこで政府に質問いたしますが、アメリカ占領軍が軍令三十三号によって在韓財産の一切を没収したということは、ヘーグの陸戦規則第四十三条に基づいて、絶対的な支障のない限り――すなわち、没収する絶対的必要があったのかどうか。絶対的な必要があったと、政府としても同じような見解を持っておるかどうか。この点をひとつ承りたいと思うわけです。

○政府委員(中川融君) ただいまのお尋ねでございますが、ヘーグ陸戦法規は、御承知のように、これは第一次戦争前にできたものでございます。その当時の軍事占領というものは、大体、戦争遂行中に行なわれる軍事占領でございます。その期間も、そう長いものじゃなかったわけでございます。しかしながら、今回の第二次世界大戦後の占領、これは韓国の場合、日本の場合と、いずれも相当長く行なわれたのでございまして、ことに韓国につきましては、アメリカの累次の声明その他で明らかでございますが、日本と韓国との関係を一応断ち切ってしまう必要がある、そうして韓国を独立させる、こういう、いわばアメリカにとっては非常に重大な使命を占領軍として考えていたようでございます。したがって、今のいわば陸戦法規の規定からいえば、逸脱するような諸行為、日本の私有財産を没収してしまうというような行為、あるいは日本人を全部日本に帰してしまうというような行為、これはいずれも韓国を日本から切り離してしまう、この目的から出た措置でございまして、これは当時、アメリカ軍に対しましては、一般的に陸戦法規を尊重せよという訓令は出ていたのでございますが、この日本との関係を断ち切るほうの措置というものは、大統領からの直接の命令で行なわれておる、こういう説明を私ども聞いておるわけでございます。いわば、第二次戦争後の特殊の事態に処するための特殊の措置である、かように考えるわけでございます。

○田畑金光君 大統領の行政命令がかりにアメリカ占領軍にあったとしても、それはアメリカ国内の関係であって、大統領の行政命令が直ちに国際条約に優先し、他国を規制することはできないと考えますが、一体、そのことができるのかどうか。

○政府委員(中川融君) 御指摘のように、たとい、大統領の命令がございましても、それはアメリカ国内の問題でございます。あるいは連合国内部の問題でございまして、日本としては、その当時占領治下にありました関係もあり、これと直接何らの関係もないわけでございますが、日本として関連が生じましたのは、サンフランシスコの平和条約におきまして、アメリカのとりました措置を平和条約の条章によって日本が承認したというところに関連が出てくるわけでありまして、占領中の行為は、国際法規あるいは陸戦法規等を逸脱した行為でありましても、日本は、平和条約の条章でこれを承認したのでありまして、したがって、国際法に違反したかどうかという問題はすでに水に流されておる、かように考えております。

○田畑金光君 従来の国際法規に違反している、したがって、違法行為であるということを承知上で、不法行為ということを承知の上で、条約第四条で、政府はこれをのんだのかどうか、のむという結果になったのかどうか、それをお尋ねしたいわけです。

○国務大臣(大平正芳君) たびたび申し上げておりまするように、サンフランシスコの平和条約というものを全一体として評価してみますと、当時の環境のもとにおける日本が国際社会に再復起するという場合の条件としては、全一体として判断した場合に、比較的寛大な措置である。米英その他賠償も含んでおりませんし、という判断であったわけでございます。しかし、この全一体としての条約の個々の条章という点を一々検討してみますれば、御指摘のように、不満な個所が相当ございます、第一、私どもが今問題にして苦労いたしておりまする日韓の間の問題にいたしましても、本来やはり平和条約で解決しておいていただけば、今回苦労する必要はないわけでございまするが、とにかく、不満足な点はたくさんございますけれども、当時、日本が国際社会に復帰する場合には、多少の不満はありましても、この条約を受諾するということによって国際社会に復帰するほうが、日本にとって妥当な道であり、有利な道であるという大局的な判断に立たれて、今度の条約全部を承認するという態度に出ことだと思うのでございます。そうして、そのことは、その後の歴史の経過を見ますと、御承知のように、わが国の対外的な発展という、内外呼応して復興、発展して参ったわけでございまして、この決意、選択というものは、私は、日本の歴史にとりましてすぐれた判断であったと、こう思います。

○田畑金光君 私の質問している具体的な問題に対して、一般論でもってお答えされては、答えにならないわけです。軍令三十三号というのは、ヘーグ陸戦法規等の国際法規に違反する不法行為であることは承知であったけれども、条約第四条で、いろいろな情勢の上に立ってこれを認めたということに、結果としてはなったのかどうか。不法行為であることを知りながら、この不法行為の既成事実を承認したことになるのかどうか、これを私は率直に承っておるわけです。

○国務大臣(大平正芳君) 今お答えいたしましたように、そういう不満なことは重々承知の上でございますけれども、角をためて牛を殺すことのないように、全体として承認するということが日本の基本的な利益であるという判断に立ってそういう決意をいたしたわけでございます。

○田畑金光君 イタリアの裁判所では、多くの判例が、国際法上許されないような徴発命令は法的効果が発生し得ないというようなことが主張されておるわけです。また、占領軍が違法に徴発した財産を後に個人に譲渡しても、それは財産の権限を移転する効果はないと判決されている事実があるわけです。また、学説の中にも、国際法違反の占領軍の法令は、すでに占領中から無効であって、かりに占領中占領軍の権力によって実施させられていても、それは事実問題にすぎず、解釈上は当然無効であるという説を唱えた有力な学者の説もあるわけです。私は、かりにそうした法律関係は無効とされないという立場をとったにいたしましても、占領者の自由裁量権に基づく不法行為に対しまして損害賠償の問題が提起されてしかるべきだと考えるわけです。それは陸戦、法規慣例ニ関スル条約第三条が、ヘーグ陸戦規則に違反した交戦国は、損害あるときは、これが賠償の責めを負うものとするということをはっきり規定しておるわけです。でありますから、当然これは損害賠償の責任をアメリカ側に要求する法的な立場が確保されていると私は考えますが、この点はどのように見ておられますか。

○国務大臣(大平正芳君) 陸戦法規との関連におきましてこの問題だけを厳密に取り上げられるとすれば、あなたのような立論も成り立つと思います。ただ、私が今申し上げましたように、講和条約は全体として受け入れるかどうかという局面に立たされたわけでございまして、日本政府としては、日本政府が選択した道というものは日本の基本的な利益になるという判断でやったわけでございまして一つ一つの問題については、先ほども申しましたように、了解いたしかねる不満な点も多々ございますけれども、全一体としてこれを認めることが有利だという判断に立ってやったわけでございます。先ほど条約局長が言われましたように、すでにこの問題は片づいた問題で、日本の条約を承認するということによって最終的に片づいた問題だと心得ております。

○田畑金光君 あらためてその点についてお尋ねしたいわけでございますが、明らかにそれが不法行為であるということがわかっておりましても、これを承認するならば、それは正当化され、かつ、適法な法律行為に転化するのかどうか、その点をひとつ承りたいわけです。

○国務大臣(大平正芳君) 日米の間では最終的に片づいたものと承知いたしております。

○田畑金光君 たとえ平和条約において日本は特殊な立場に立っておるとは申しましても、明らかに不法行為である事実を承認したという政府の行為は正しかったと、こういうように政府は今でも考えておられますかどうか。

○国務大臣(大平正芳君) 先ほども申し上げましたように、たとえば平和条約でアメリカが対日賠償権を請求するというようなことになれば、これはもうたいへんな問題になるわけでございまして、私が申し上げましたように、講和条約を全一体と見まして、これを全体としてのむことが日本の基本的利益になるという判断でやったわけでございまして、個々の案件を検討いたしましてこれを一つ一つ相手について是非をきめるという性質のものでございません。平和条約全体をのむかのまないかという決断を迫られた場合、政府のとりました選択ということは、私は大局的に賢明だったと思います。

○田畑金光君 私は、戦勝国家とか敗戦国家とかという関係ではなくて、法の前には平等という立場に立って考えました場合に、たとえ平和条約第四条(b)項によって政府は不法行為を認めたといたしましても、これとは別の立場から、すなわち、先ほど申し上げたようにヘーグの陸戦法規の立場から見ますならば、私は日本は損害賠償の請求権というものが現存しておると、こう解釈すべきであると考えるわけなんです。この点についてもう一度ひとつ見解を承りたい。

○政府委員(中川融君) ヘーグの陸戦に関する条約第三条によれば、御指摘のように、このへーグ陸戦規則に違反した交戦者に対しては、損害賠償の義務を課しておるわけでございます。しかしながら、同時に、個々の戦争の結果といたしましては平和条約というものが結ばれるわけでございまして、その平和条約によってその戦争の間に起きましたあらゆる権利、義務の関係を清算するわけでございます。平和条約によりまして、通例、戦勝国は戦敗国に対して賠償等も課しますが、同時に、戦勝、戦敗双方通じましてこの戦争中に起きました権利、義務関係は全部平和条約をもって締め切りにして、これでもって終止符を打つということをするわけでございます。これによって、従来の戦争事態が平和事態に切りかわるわけでございます。戦争事態の残滓を平和事態にまで持ち越すことのないように、例外として賠償はございますが、それ以外はそういう残滓を残さないようにするというのがこの平和条約の考え方であるわけでございます。日本に対する平和条約におきましても、第十九条におきまして、戦争中に起きた行為及び占領中に起きた行為に基づく日本国及び日本国民の請求権は一切これを放棄すると日本は規定しておるのでありまして、これによってあらゆる戦争中の行為に基づく日本の請求権はなくなっておると言わざるを得ないのでございます。

○田畑金光君 平和条約第四条の規定を読みますと、請求権の取りきめというのは、日本と韓国だけの問題ではなくして、日本と台湾、日本と旧北方領土との関係すなわち、日本と旧植民地との全体の関係について規定しているわけです。しかるに、第四条(b)項で韓国との特殊な関係を規定したというのは、一体これはどういう事情によるのか、それを明らかにしてもらいたい。

○政府委員(中川融君) 第四条は、御指摘のように、日本と韓国だけの規定ではございませんで、日本から分離いたします地域と日本との間の請求権問題の解決について規定しておるのでございます。その(a)項につきましては、ただいま御指摘のような地域が全部対象になるわけでございます。(b)項は、書き方から見れば、別に地域を限定しておりません。日本から分離されます地域につきまして、アメリカ合衆国軍司令官がいたしました日本財産についての処理の効力を承認するという規定になっておるわけでございます。したがって、たとえば沖繩でありますとか、あるいは小笠、原、あるいは旧委任統治地域等におきましてアメリカ軍司令官が何らか日本財産について措置をとっておれば、それを承認するわけでございます。しかし、この規定自体の入りました経緯は、御指摘のように、これは韓国から注文があって入れた規定であるというふうに承知しておりますので、この実際上のねらいは、韓国の軍令第三十三号の効力を日本に認めさせるためであったと考えるのでございます。規定の姿からすれば、ただいま申しましたように、これは一般的な規定になっておるわけでございます。

○田畑金光君 昭和二十七年の八月発効いたしております日華平和条約の第三条には、明確に請求権について両国相互取りきめの議題に供するということを約束しているわけです。同じ植民地の台湾に対しては相互取りきめの対象にし、現に平和条約の相互取りきめの議題として明確にうたっておるわけです。しかるに、韓国に対してのみこのような特殊な事情を認めなければならなかったというこのことについて、日本政府の立場から言うならば、同じ旧植民地であったわけです。台湾にいたしましても、韓国にいたしましても、台湾政権に対して、韓国政権に対して、平等の取り扱いをなすのが、これは条約の建前から見ても、歴史的な事情から見ても、当然の措置じゃなかろうかと見るわけですが、どうしてこんな違った取り扱いをしたわけですか。

○政府委員(中川融君) 平和条約は、連合国が起草いたしまして、日本に一応それは提示もいたしましたが、日本と交渉するという格好で締結されたものではなくて、日本はいわば敗戦国として向こうの提示いたしましたものを最終的にはのまされた、のんだということになっておるのでございます。したがって、ただいま御指摘のような台湾と朝鮮との財産請求権についての措置が違う点のほんとうの先方の意向というものは、これは推測する以外にないのでございますが、考えまするに、朝鮮は、日本から独立してそれ自体が一つの独立国になるわけでございます。したがって、先ほど申しましたような日本との関係を全部一応きれいに断っておく必要があると考えたようでございます。台湾は、これは日本の領土であることには同じでございまましたが、中華民国に要するに返還するという思想であったわけでございまして、中華民国に対して台湾というものがいわば付加される格好になるわけでございまして、したがって、台湾における財産権問題をきれいさっぱり日本との関係を断ち切っておくという必要は当時連合国としては認めなかったのじゃないか。たとえば、日本から切り離されました旧委任統治地域あるいは北方領土等と同じような思想で台湾は扱われたものと一応推定されるわけでございます。

○田畑金光君 和解と信頼の条約と言われたサンフランシスコ平和条約が今の答弁を聞いておりますと、日本政府の意思も正しく反映されないままに、早期に取りきめましょうというところでこの条約を結んだということは、まことに遺憾なことだと思いますが、外務大臣の御見解いかん。
 同時に、日華平和条約第三条によれば、請求権の処理は両国政府の取りきめの議題になると明確に規定しておるにかかわらず、この条約による話し合いがなされたのかどうか。

○国務大臣(大平正芳君) 敗戦という冷厳な事実をふまえてかからなければいかぬと思うのでございまして、私どもは連合国のほうで起草いたしました平和条約草案と対等な立場で交渉する立場になかったということは御了承いただきたいと思うのでございます。
 第二番目の御質問は、台湾の問題ですか。

○田畑金光君 そうです。日華平和条約第三条の……。

○国務大臣(大平正芳君) その問題につきましては、終始交渉を続けておりまするが、こちらからもたびたび督促をいたしておりますが、先方のほうが交渉の軌道に乗ってくるという情勢では今ないようでございますが、極力機会あるごとに督促を続けております。

○田畑金光君 督促を続けておるというが、いつごろ督促なさったわけですか。今までこの条約が結ばれてからもう十年以上経過しておりますが、何回くらい話し合いの申し入れをして、それがそのたびにどうなっておるのか。

○政府委員(後宮虎郎君) 平和条約以来、私の記憶する限りでも数回申し入れておりますが、一番最近申し入れましたのは昨年十二月末に書面をもって要求いたしておりますが、まだ向こうのほうからは交渉の軌道に乗る回答がございません。

○田畑金光君 政府としては、この条約に基づく第三条の履行を将来どういう角度で取り組んでいこうとする御方針なのか。

○政府委員(後宮虎郎君) この問題は非常に困難な問題でございまして、先方がなぜ今まで交渉の軌道に乗ってこないかということにつきましても、はっきりとした公式の説明は聞いておらないのでございますが、いろいろ情報がございまして、一つには、御承知のとおり、日華平和条約によって国府は対日賠償請求権等を放棄しております。そういうような関係がございまして、日華間で大きくこの問題を取り上げる時期が来るまではなかなかこの問題だけを切り離しまして交渉に乗ってくるのはむずかしいというのが向こうの立場であるやに聞いております。

○田畑金光君 結果においては、そういうように話し合いの申し入れをやって向こうが断わってくる、そんなことを続けていて、結局この条約は、この条文に関する履行ができなくなる、こう見るわけですが、この点どうですか。

○国務大臣(大平正芳君) 極力向こうの翻意を促すように努力いたしたいと思います。

○田畑金光君 日韓請求権問題については、無償、有償五億ドルということに話し合いがついたわけでございますが、この結果、韓国側の自然人、法人の対日請求権というのも一切処理済みになると政府はいわれておりますが、そうなるのか。そうなるとすれば、それは将来条約ができた場合に条約前文の中に入れる手続をとるのかどうか。

○国務大臣(大平正芳君) 条約とか協定というものは、両政府間の合意でございまして、それで自然人まで当然にそれによって拘束できるかということに理論上少なくとも問題があると思うのでございまして、私どもといたしましては、あとに問題を残さないように、一切きれいさっぱり片づけたいと思うわけでございまして、要すれば、そういう条約協定というようなもののほかに、国内立法も考えなければならない場合が起こるかと考えておりますけれども、そういうことは最終的に内容が固まりましてからの話でございますので、どういうことにするかまでに最終的にきめておりません。

○田畑金光君 かりに請求権問題の話し合いがついたとしますと、日韓両国の国と国との関係における問題は処理されたといたしましても、わが国のたとえば海外に居住していた法人、自然人が日本政府に対する請求権の問題というものは厳然としてやはり生きてきょうかと、こう思うわけです。なぜなれば、これらの請求権は国家の条約締結行為によって一切失ったのであるし、しかも、これらの財産権というものは国民全体の負担で払うべき国家目的の用に充当されたのであるから、当然そこにこれらの私権の問題をどう処理するかということは重大な問題になってきょうと考えておるわけです。その事情は、先ほど未法律的な解釈等を見ましても、政府の答弁はあいまいであり、要領を得ていないわけです。根拠がないわけです。この点はどのようにお考えでございましょうか。

○国務大臣(大平正芳君) 純法律的な問題といたしましては、日本政府がその在外財産を日本政府の意見によってたとえば公益目的に提供せしめるというようなことをやっていないわけでざいまして、これは米軍が没収した、そうしてその事実を認めたという関係になっておりますので、純法律的には直ちに政府の責任はないものと思います、ただしかし、そういう問題が政治問題としてあるということは私もそのとおりだと思います。

○田畑金光君 一九四七年十一月に発効いたしましたイタリアの平和条約を見ますと、第七十九条ないし第八十四条には、在外財産が戦勝国家の賠償に充てられた場合には、その賠償の限度において国家が補償すると、イタリアの平和条約は明確に規定しておる。これに基づきましてイタリアにおいては現に一九五三年十月法律ができて、その法律に基づく私有財産の問題に対する補償措置が行なわれておるわけです。私は同じ敗戦国であるイタリアと日本の場合が、このように大きな違いがあるという点においては非常な疑問を持っておるわけですが、この点についてはどう考えておられるか。

○国務大臣(大平正芳君) イタリアの例をお引きでございますが、それはイタリアといたしましてはそのような措置を講じられたと思うのでございますが、わが国といたしましては、先ほど申しましたように、政治問題としてこれは残りますが、国内政治問題として問題があるということでございまして、純法律的には政府が直ちに責任を負うという建前をとっていないわけでございます。

○田畑金光君 この二、三日内、新聞を拝見いたしますと、在外財産問題審議会の設置の問題が与党の中でも議論されておるやに聞いておるわけです。この点について政府はどのように考えておられるか、大蔵大臣から承りたいと思います。

○国務大臣(田中角榮君) 政府与党である自由民主党の政調の中でも、在外財産に対する審議会を設置をしたいという動きのあることは承知いたしております。しかし、毎度申し上げておりますように、政府は海外からの引揚者に対しましては、内閣に設けられました審議会の答申を求めまして、去る三十二年に約五百億に及ぶ補償措置を行なっておりますので、これらの問題に対しては政府の責任は完結しておるものと認めておるわけであります。

○田畑金光君 三十二年の法律に基づく云々というお話がありましたが、昭和三十一年に、在外財産問題審議会のおりに、その審議会の中でどのように議論され、それがどういう形の答申になったかということです。当時、大平外務大臣も審議会の委員であられたし、私も委員でありましたが、そのとき政府は在外財産というのは今後交渉の結果返還される見通しもあるのだ、返還されるために日本政府は外交上の努力を払うのだ、したがって、今日この段階において返還しないという前提で補償措置を講ずることは時期尚早である、こういう見解に立ってこの問題は取り組まれておるはずです。日韓交渉を見ましても、あなた方の答弁を見れば、軍令三十三号に基づく明らかに不法な行為に対しても、損害賠償の要求もやり切れないわけです。そういうことを見まして、あの三十二年の引揚者給付金等支給法というもののよってきた、審議会の議論というものは、大きく今日は事情を変更しておると見ておりますが、その点はどうですか。

○国務大臣(田中角榮君) 当時の会議に私は出ておりませんから、つまびらかにいたしませんが、その当時の問題を現在考えてみますと、アメリカにおいて戦時中に日本人の私人財産を没収せられておるような例がありまして、アメリカの議会に対して請願等が行なわれておったようであります。現在でもこれに対してはアメリカ政府もアメリカの議会でも非常に好意的な立場でございまして、法律を作ってこれを返還しようというような動きがありますことも御承知のとおりでございます。これが返還をせられる場合、当然もとの所有主である私人に返還をせられるのでございまして、これらの事態を指してそのような御発言や審議があったものと理解をいたします。

○田畑金光君 この問題については、また別の機会にさらに詳しく追及したいと思いますが、時間の関係もありますので、別の問題に移ります。韓国により拿捕された漁船、抑留者というのは、一体今日までどの程度になっておるのか、数字的に明らかにしてもらいたい。

○国務大臣(重政誠之君) 数字にわたりますから政府委員をして御答弁いたします。

○政府委員(庄野五一郎君) お答えを申し上げます。

 韓国によりまする拿捕漁船の総数は、現在までに至ります数字といたしまして三百四隻に相なっております。それで、抑留されました船員は三千六百八十九名、こういうことになっておりますが、そのうち帰還いたしました分が百二十一隻、帰還いたしました漁船乗組員が三千六百三十八人、こういうことに相なっております。それで未帰還の漁船が現在におきまして百八十一隻、抑留中の船員が四十三名、こういうことに相なっております。

○田畑金光君 抑留されておる船員が四十三名も現在おるわけですが、現在この乗組員の人方が乗っていた船は、どういう船だったのか、それから、当時どういう事情のもとで拿捕されたのか、それを明らかにしてもらいたい。

○政府委員(庄野五一郎君) 拿捕、抑留されました漁船は、李ラインの内あるいは李ライン付近におきまして漁業操業中の船、こういうことに相なっております。それで、これらの船は御承知のように以西底びきあるいはまき網等漁船でございまして、それが操業中に拿捕された、こういうことに相なっております。

○田畑金光君 私の調べたところによれば、第百七十七明石丸あるいは第十五新栄丸等、現在拿捕された漁船は、現に操業中ではなくして黄海のエビ漁場に向かって航行中であったにもかかわらず、韓国の警備艇に不当不法に拿捕されたといういきさつになっておると聞いておりますが、その点はどうですか。

○政府委員(庄野五一郎君) 中にはそういうのもございまして、そういう漁場に到達するために航海中だ、こういうのも過去においてあったわけでございますが、そういう点につきましては事情を説明し、短期抑留で返還になっている分が相当あると存じております。

○田畑金光君 これらの拿捕された漁船の送還、抑留者の即時帰還について、政府はどういう措置をとっておりますか、農林大臣。

○国務大臣(重政誠之君) 日韓交渉が開始をせられまして、その途中でこういうような事件が起こりますことは、まことに遺憾に存じておるのであります。そういう事件が起こりますと、直ちに厳重にその返還、送還を要求をいたして参っておるようなわけであります。

○田畑金光君 ちょうど今、日韓交渉についても、先ほど外務大臣のお話によれば、話し合いはやめないで進行中であると、しかも聞くところによれば、漁業問題の話し合いがその専門家会議等でなされておると聞いておるわけです。そういうさなかに、このような漁船の拿捕であるとか、漁船員の抑留であるとかいう事件が頻発するということは、まことに遺憾であると見ているわけですが、これなんか外務省の外交折衝を通じて未然に処理できないものかどうか。こういうような話し合い等は、今の話し合いの進行の過程で、当然、話し合いの進行中はこういうようなことをお互いやめようじゃないかということぐらいはできそうなものですが、どうでしょうか、外務大臣。

○国務大臣(大平正芳君) そういう不幸な事件が起こったら、そのつど私どもとしては先方に賠償金を留保しつつ善処を要求し続けてきておるわけでございます。先方は翻意されずに、そういう事件が間々起こって参るということは、はなはだ遺憾に思います。問題は、日韓の間の友好関係、その基礎をなす理解の問題だと思うのでございまして、私どもは、韓国側の対日感情というようなものが冷静になり、正常な姿に返ることを衷心から希望いたしておるわけでございまして、そういう情勢を招致いたしますために終始善意をもって事に当たるという態度を失わずに堅持して参りたいと思います。

○田畑金光君 農林大臣にお尋ねいたしますが、李ラインの設定前、あるいは設定後、一体わが国の船舶の拿捕や、あるいは船員の抑留、あるいは人命の損失、精神的な損失等いろいろありますが、一体この船体の拿捕、その他による物的な被害総額というものはどの程度に上っておるのか。

○政府委員(庄野五一郎君) お答え申し上げます。
 拿捕によります漁船につきましては、先ほど申し上げた数字になっております。それで、これにつきましては、物的な損害と人的な損害があるわけでございますが、明らかに漁船として物的な損害というふうに算定されるもの、これは漁船の船体、あるいはそれに当時漁獲して積んでおりました漁獲物、こういったものにつきましては、大体現在のところ算定しまして十四億程度、こういうふうに算定いたしております。その他、人命あるいはそれによりまして操業ができないこういった損害もあるわけでございます。それはなかなか、いろいろな損害の額の算定ということにつきまして問題があろうかと存じますが、われわれといたしましても、そういう点の損害につきましても検討はいたしておりますが、明らかに漁船その他の物的損害というのが十四億程度、こういうふうに考えております。

○田畑金光君 今の水産庁長官の言われた損害額というものは、非常に少な過ぎる評価じゃありませんか。船体装備の評価額は十四億三千万程度だとわれわれは聞いておりますが、その他、拿捕された船舶に積んでいたいろいろな積載物、漁具であるとか漁獲物、乗組員の私物もありましょうし、あるいはまた義務的な出費もありましょう、たとえば抑留中の賃金、見舞金、その他、あるいはもし稼働したとすればこれだけかせいでいただろうと想定する金額もあるわけです。これらを総計いたしますと、十四億前後の低いものではありません。正確な数字をひとつ示して下さい。

○政府委員(庄野五一郎君) ただいまお答え申し上げました十四億三千万円、こういう数字につきましては、これは明らかに漁船の船体、あるいはエンジン、その他の装備、あるいは漁獲物、こういったもので、それをただいま漁船保険で算定いたしておりまする評価基準等を用いて算定いたしますと十四億をちょっと上回る、こういうふうに相なるわけでございます。その他、漁具とか、あるいは人的な損害、あるいは抑留されたために操業ができなくて、得べかりし収入の損害、こういったものが考えられるわけでございますが、それにつきましていろいろと評価方法がありまして、明確にまだ幾らと、こういうふうには申し上げかねるわけでございますが、大体の推定されておりますところを見ますると、大体十四億を含めまして、そういうものを入れて七十億前後に相なろうか、こういうふうに承知いたしております。

○田畑金光君 七十億と大体推定されるといたしまして、このほかに抑留された者とか、現に抑留中の者、あるいは死亡した者の遺家族の受けた精神的な損失、当然こういうようなものは、日本政府が韓国政府に対し、損害賠償の要求ができるはずだと私は考えておるわけです。日韓交渉の中で、請求権問題は処理されたといたしましても、それは終戦当時を基準とする財産権その他の問題であって、戦後の通常の通商貿易からきた債権債務関係、あるいは今私が申し上げましたような不当な漁船の拿捕、船員の抑留等からくる損害賠償の要求、これは当然日韓交渉の重大な議題の内容だと、こう考えますが、外務大臣どうお考えになりますか。

○国務大臣(大平正芳君) 仰せのとおり、この問題は平和条約第四条の請求権の問題ではございません。終戦後の問題と心得ておりまして、で、先ほども私も申し上げましたように、事件がありまして、そのつど私どもとしては善処を求めると同時に、賠償請求権は留保いたしてあるわけでございます。日韓交渉における問題の一つだと心得ております。

○田畑金光君 今のお話は、現に日韓の漁業交渉の中で取り上げて並行的にやっているという意味ですか。

○国務大臣(大平正芳君) 漁業交渉の一環として取り上げております。

○田畑金光君 昭和三十年の二月十四日に韓国軍艦に追突され沈没させられた第六あけぼの丸の損害賠償措置については、その後どういうような取り扱いをしてこられたのか。

○政府委員(後宮虎郎君) 詳しくは後刻調べまして御報告いたしますが、私の記憶しておりますところでは、一応原則的には、その問題については韓国側は責任を認めたものでございます。金額その他については、具体的の話し合いがついていないというふうに了解しております。いずれ詳しく調べまして御報告いたします。

○田畑金光君 今の局長の御答弁は、まあ非常に満足できる答弁でもなく、内容もはっきりしないので不満ですが、念を押したいことは、この第六あけぼの丸の損害賠償請求については、政府としてはこれを放棄するのじゃなくて、あくまでもこれは外交折衝の結果、損害賠償措置をとるという方針なのかどうか、現に日韓会談の漁業専門家会議等において、これは取り上げているのかどうか、これをお伺いしたい。

○国務大臣(大平正芳君) 仰せのとおりにいたしたいと思います。

○田畑金光君 日本の漁船員が銃撃によって即死した者が五名に上っております。抑留中の死亡者が八名に上っておりますが、こういう人々に対する措置はこれはどうなっておるのか。

○政府委員(庄野五一郎君) 抑留中におきまする死亡船員に対しまする救護措置でございますが、これにつきましては死亡者一人七万五千円という見舞金を出しております。これは閣議決定によりまする措置でございますが、いずれ損害賠償の内払いと、こういったような形で一時の見舞金として七万五千円を支給いたしております。

○田畑金光君 今の御答弁にありましたように鳩山内閣の時代でございまして、昭和三十年十二月十六日の閣議決定で、特定海域における被災漁船乗組員遺族に対する特別支出金に必要な経費として四百五十七万五千円、遺家族一人について七万五千円、その弔慰金を支給しただけでこの問題はその後お茶を濁されておるわけです。しかも今御答弁になりましたように、支給の条件としては、将来当該国から損害賠償がなされた場合には差し引く、こういうことになっておるわけで、その損害賠償の話し合いは、やりますやりますと言っておるが、さっぱり進捗していないわけです。そんなことで遺家族の人方は黙って泣いておらなければならないのかどうか。これは大蔵大臣、外務大臣、ひとつ御答弁願いたいと思うのです。

○国務大臣(大平正芳君) 先ほど申しましたように漁業問題の討議の場において最善を尽くしたいと思います。

○田畑金光君 こういう問題は、外務大臣、戦後に起きた問題であって、これは個別的にもこういう話し合いについては解決の糸口が見出し得ないはずはないと思うのですが、これも全般的な話し合いの中でなければそれはできないというわけですか。

○国務大臣(大平正芳君) 個別的な問題として取り上げる空気、そういう理解に到達すれば、これは非常にけっこうなことでございますけれども、目下の状態といたしましては、その他の懸案と一緒に一切解決しようということにつきまして、先方もそういうお気持になってきておるわけでございます。したがって、重要問題の一環として解決に努力しよという態度を堅持いたしております。

○田畑金光君 私は農林大臣にお尋ねしたいと思いますが、これは外務大臣の関係ももちろんあります。例の日米加三国漁業条約は十年間の有効期間が満了することになります。同条約が北太洋における漁業資源の持続的な生産を確保する、それが人類共通の利益、締約国の利益に合致するということでこの条約は結ばれておりますが、御承知のように西経百七十五度以東の広大な大洋からわが国の漁船操業が不当に遮断されておるわけです。これが日韓両国の漁業交渉にはね返り、日ソの北西太平洋の漁業条約交渉にはね返っていることは御承知のとおりであります。これの改定について政府の今後の方針はどういう方針なのか。

○国務大臣(重政誠之君) 公海における漁業につきましては、政府といたしましては資源の保護、公海における資源の平等利用という、この原則に基づきまして、従来とも関係国と協力をいたしてやって参っておるわけであります。
 ただいま御指摘になりました日米加の北西太平洋の漁業条約は、いわゆる自発的抑止原則というのが条約の骨子になっておりますので、これは公海における漁業資源を平等に利用する、公平に利用する、こういう建前からいけば遺憾の点があると考えておるのであります。したがって、近く参ります漁業交渉におきましては、この原則を改定をいたして参りたい、こういうふうに考えておる次第であります。

○田畑金光君 今、農林大臣の御答弁の中で一番大事な点は、自発的抑止の原則を万難を排して撤廃させることが漁業条約の交渉における一番大事な基本的な問題だと考えますが、政府としてはこの不当な、大洋に一線を引いて公海の自由な操業を禁止しているこの原則を撤廃させるという基本線を、あくまでも貫くという決意であるかどうか、あためて念を押しておきたいと思います。

○国務大臣(重政誠之君) それは米加の漁業におきましても非常にこれが重大な問題のようでございます。われわれにとりましてもこれは重要な問題でございますので、できるだけ誠意をもって交渉をいたして、そうしてこの条約の改定をいたしたい、こういうふうに考えておる次第であります。

○田畑金光君 もう一つ大事な点は、現行条約の中に抑止の条件の一つとしていますこの条約の効力発生直前の二十五年間の実績があったかどうかということが、将来にわたり、北太平洋東部の公海の漁業から日本が排除されるということになるわけで、この点も海洋法の原則に反すると考えておりますが、当然こういう規定も排除されねばならぬと思いますがどうですか。

○国務大臣(重政誠之君) 御承知のとおりにすでに本年からオヒョウ、ニシンにつきましては、この抑止原則から除くというような相談もまとまっておりまして、おそらくここ一、二カ月以内にはそういうことが実施されると思うのであります。いろいろ細目にわたりましては十分検討の余地があると考えますが、それらの点は十分慎重に検討いたしまして、誠意をもって米加と折衝いたしております。

○田畑金光君 今、大臣の御答弁の中にありましたように、昨年の十一月に開かれた北太平洋漁業国際委員会において、米加の両国はわが国に対し自発的抑止原則の一部を排除する建前に立って、オヒョウの操業についてある程度の譲歩を見たわけです。ところが本津の二月十九日に三国漁業委員会の中間会議において、オヒョウの資源の共同保存措置ということもお互いに取りきめたわけでございますが、聞くとこちによむますと、このオヒョウの共同保存措置の取りきめは、米加両国の中では批准手続がなかなか難航して、できそうでない、したがって操業期を目の前にして、日本の漁船が準備は完了しているが行けないという状態にあるわけです。この見通しはどうなっておるわけですか。もし米加両国がこの取りきめの批准手続をとらないということになれば、結局取りきめは取りきめに終わってしまって、何らの実効も発生せぬということになるが、これはどういう見通しですか。

○国務大臣(重政誠之君) 御承知のとおりに、この条約によって構成せられておりますこの委員会において、抑止原則からオヒョウについてはこれをはずす、そして資源保護の立場から、いかにしてこの資源を保護するかということの相談を委員会においていたしたわけであります。その委員会において相談がまとまりましたものを三国政府に対して勧告をいたしておるのであります。おそらくアメリカでは、私どもの得ておる情報では、すでに大統領のところまで、何と申しますか、承諾の書類が送達をせられておるというようなことも聞いておるのであります。おそらく今月内にアメリカからは受諾の手続がとられるのではないか、こういうふうに考えております。ただ問題はカナダでありますが、カナダは御承知のとおりに国会が解散になりまして、この四月が選挙であります、そういう関係もありますので、幾らかカナダのほうはおくれはしないかと思って非常に心配をいたしておるような次第であります。

○田畑金光君 今の点は、ひとつ米加両国がせっかくオヒョウについてある程度の操業の自由を認めた取りきめを結んだわけですから、この三月の漁期には必ず操業ができるように、政府としてもさらに外交、折衝その他を通じ努力を願いたい、こう考えているわけです。ただ米加両国がオヒョウで一部譲歩したのは、サケ、マスに関する抑止原則だけは、あくまでもこれは防衛しなければならぬ、そういう米加両国の国家的な利害という打算から戦術的に日本に譲歩したのではないか、こういわれているわけです。そうなってきますと、先ほど冒頭に質問いたしました自己抑止の原則というものが今後ともつながっていくということになるわけで、まことにこれは大事な点と考えておりますが、その点、あらためて農林大臣の見解を承りたいわけです。

○国務大臣(重政誠之君) お話のような憶測も行なわれておることを承知いたしておりますが、私はあくまでもこれは善意に解しておるのであります。抑止原則から、オヒョを除いたというのも、これもやはり科学調査によりまして、調査の結果これは除くことにいたしたわけであります。戦術的な意味からこれを除いたとは私は考えておらないわけであります。ただ、サケ、マスについての抑止原則を改定するという問題につきましては、御承知のとおりにサケ、マスというのは回遊をいたしております、百七十五度以東だけにおるのではなしに、以西のほうにもきておるわけでありまして、いろいろむずかしい実情がございますので、なかなか簡単にはこれは参りません。参りませんが、前々から申しますとおり、誠意をもって両国と折衝し、協定をいたしたい、こう考えておる次第であります。

○向井長年君 関連。サケ、マス漁業の問題とははずれるのですが、先ほどから韓国漁船の拿捕の問題につきましてもお述べになりましたが、これに関連してきょうの読売新聞にも出ております。あるいは昨夕のニュースでも明確にされておりますが九州の福徳船員組合から正式に声明を発表いたしております。これは韓国の不法拿捕に対しての、いわゆる政府の態度が非常になまぬるい、これではわれわれ自体で自衛の立場をとらなければならぬ。こういうことで、今後韓国の警備艇に対して、みずから追突と申しますか、激突をして、そうして自分たちを守るんだ、こういうことを正式に発表いたしております。非常に問題が大きいので、国際的な問題にもなるかと思いますが、これについて政府はどういう態度をもって考えるのか、この点ひとつ外務大臣なり、あるいは農林大臣もあわせて御答弁を願いたいと思います。

○国務大臣(大平正芳君) 今御指摘のような声明がなされたということは承っておるわけでございますが、私どもは日韓の間にいろいろ不祥事件が将来にわたって起こされることがないように、理解と友情を招来すべく、忍耐をもって関係の調整、打開に努力をいたしておるわけでございますので、そういった性急な行動に出られることのないように希望いたしておるわけです。

○向井長年君 希望はいいのですが、それに対する今まで日本の海上保安ですか、こういうところにおいての、いわゆるこれに対する警備、警護ですね、この点について万遺漏なくやっておるかどうか、こういう点が過去におきましても、そういう日本の保安部の警備艇の中においても、これが拿捕された、こういう実例があるわけです。したがって、みずから自衛の立場をとらなければならぬというような積極的な行動に出てくるゆえんのものは、わが国のそれに対するところの警備というものが非常に緩慢である、こういうところに原因しているので、この点あわせてひとつ御答弁を願いたいと思います。今後の態度。

○国務大臣(大平正芳君) 警備当局のほうには、十分周到な用意をもって臨まれるように要請いたしたいと思います。

○田畑金光君 私は時間の関係もありますので、次に沖繩の問題について若干お尋ねしたいと思いますが、最初に外務大臣にお尋ねします。
 ちょうどきょう三月十九日は、ケネディ大統領の沖繩新政策が発表されて一年目に当ります。同じ日に、昨年のきょう、当時の大平官房長官は、自治の拡大、民生福祉の向上について、わが国政府、国民の要望が大幅にいれられたものとして非常に歓迎の談話を発表されたわけでありますが、経済援助、民生向上の以外に、具体的に対沖繩の政策についてどういう新たなものがこの一年間に加わったのか、それをお尋ねしたい。

○国務大臣(大平正芳君) 沖繩の民生福祉の向上につきましては、日本政府各省の御協力を得まして、大幅な前進を見ましたことは田畑んさも御承知のとおりでございます。アメリカ側におきましても、当初政府が提案いたしました沖繩援助費が国会におきまして削減を懸念いたしましたけれども、しかし日本政府と同様に、対沖繩援助は大幅な増額を見たことも御案内のとおりでございます。それと同時に、わが国におきましても、沖繩に大幅な援助をいたしまする上におきまして、専門家を三回にわたりまして現地に派遣いたしまして、沖繩の事情をつぶさに調査させていただいたわけでございまして、そういう知識を基礎にいたしまして、有効な沖繩援助をやろうということで進んで参った次第でございます。一方日米の間におきましては、東京に協議会を作り、現地に技術委員会を作りまして、日米双方が見解を調整して有効な援助をやろうというお話し合いになりまして、目下その人選中であるわけでございます。そういう対沖繩援助の基礎固めというようなことで、過去一年間相当の進展を見たと私どもは考えております。

○田畑金光君 今の御答弁にありましたように、日米の協議会、あるいは現地には日米琉技術委員会が設置されるというお話ですが、なぜ一年間もこの協議会の設置がこのように延び延びになってきたのか。ほんとうに今度は具体的に発足できる段階まで話し合いができておるのかどうか、その点ひとつお尋ねいたします。

○国務大臣(大平正芳君) 日本政府の予算編成、先方のプライス法改正案の国会審議等の事情がございまして、できるだけ早く発足させたいという希望を持っておりましたが、御指摘のように若干おくれておりますけれども、今せっかく人選がまとまりかけておりまするし、関係各省の協議も一、二点を除きまして大体まとまって参りましたので、遠からずこれは発足できるものと考えております。

○田畑金光君 三月九日、この委員会でわが党の永末委員が例の五日の金門クラブにおけるキャラウエー高等弁務官の発言について「非難に値しないという場合には、政府は強くアメリカ側に抗議をする意思があるかどうか、」と総理に尋ねたところが、総理は「もちろん調査いたしまして、事実無根であったり何かしたら抗議をする、あるいは反省を促すことは当然でございます。」と答えているわけです。その後キャラウェー発言について、政府は事実調査をなされたと思いますが、どのように見られておりますか。

○政府委員(徳安實藏君) ただいまの御質問にお答えいたします。高等弁務官の発言に対しまして、先般この委員会でも、御質問がございました。政府はすぐに沖繩の出先機関に対しましてその調査を命じたわけでございますが、順次その内容につきまして報告がきております。その内容等につきましては、事務当局から御説明さしたいと思いますが、要するに両方とも、何か聞いておりますと言い分があるようでございまして、日本政府といたしましては、今直ちにどちらにどういう歩があるとか、どっちが悪い、いいということが言いかねるような状態のものでございますので、まだ勧告とか、あるいは反省を求めるような措置には出ておりません。必要でございますれば、その内容等につきまして御報告いたしたいと思います。

○田畑金光君 私も内容全部読んで質問しているわけで、今さら内容の説明を聞かなくてもよくわかっているわけです。ただ池田総理も事実を調査して、その中で当を得てない面があれば抗議する、あるいは反省を求めることもやぶさかでないと言われた炉、あなた方は、全部弁務官のあの話は無理からぬことだと、こう一方的に判断されたわけですか。

○政府委員(徳安實藏君) 高等弁務官の演説内容でございますが、一部にはいろいろ曲解もされているようでありますけれども、正しく認識いたしますれば、自分の育てている子供に忠告をしたというような意味合いでされたようでございまするし、また受けましたほうも、やはり報告を聞きますというと、多少言い分もあるようでございますので、別に今政府のほうであらためてこの問題について、事荒々しい処置をすることは適当でないと実は考えまして、ただいままだその処置には出ていないわけでございます。

○田畑金光君 弁務官演説の中で、たとえば立法方法も非難されている面があるわけです。その実例として医療法案、保険法案が例示されておりますが、これに対しまして立法院の議長の長嶺秋夫氏は、長文の反駁論文を現地の新聞に載せておりまして、だんだん弁務官の非難に対し反駁しているわけです。要するにこの二つの法律については、本土法、すなわち日本の法律をも十分検討し、日本の法律にならってこうすることが医療の大衆化をはかり、労働者の労働災害補償について全きを期することができるという前提でわれわれは立法措置を考えたが、これが反対をされた、こう言っている、堂堂と反駁しているのです。こういうふうなことについて、何ですか、もっともだと、親心だと、こういうような注意として皆さんは受けているわけですか、どうですか。

○政府委員(徳安實藏君) 高等弁務官の演説に対しまして副主席等から、あるいは立法院の議長等から意見が、あるいは反駁等が一部出ておりますことも承知はいたしております。その反駁に対して、私ども日本政府がもっともだといって買って出るべき性格のものでであるかどうかというような問題につきましては、きわめて慎重な態度が必要であると考えます。なおその判断等につきましても、考える人と、見る人によりましては相当の違いがあると思いますが、政府といたしましては、今申し上げましたように、この問題に深く、どちらがいいとか悪いとか言って、肩を持って出るような処置に出ることは今のところ妥当でないと、かように考えまして、事態を見守っているわけでございますが、一方のこうした反論に対しまして、政府の見方等に対しまする考え方がもし必要でございましたら、事務的に書類にとっておりますから、お答えいたしたいと思います。

○田畑金光君 あの演説の内容を見ますと、施政権下においては自治の拡大は不可能だという前提に立っておるわけです。私たちは、施政権のもとにおいても自治権の拡大は可能だという判断で国会でも議論しておりますが、大卒外務大臣の御見解を承りたいと思います。

○国務大臣(大平正芳君) 沖繩がアメリカの施政権のもとにある、したがいまして、沖繩における自治はそのワク内においてあるのだということは当然のことだと思うわけでございまして、この前の委員会で私もお答えいたしましたように、無制限の自治というようなものは本来考えられないのじゃないか。そうして自治を主張いたします場合には、やはりその主張するほうの側に、自治に耐える責任、能力というものをちゃんとふまえて、ちゃんと確立していくべきものである、そういう意味において高等弁務官は言及されたものと考えます。

○田畑金光君 私のお尋ねしておりますのは、施政権のもとにあっても、自治権の拡大ということは当然考えられるし、努力すべきであるし、政府も努力してきたと今まで答弁されておるが、その点はどうですかと聞いておるわけです。

○国務大臣(大平正芳君) それはあなたが先ほど御指摘の三月十九日のケネディ声明におきましても、アメリカ側が留保する必要のない権限は、すみやかに移していくように関係者の間で検討を進めるべきであるといわれておるわけでありまして、琉球政府が自治に耐えると、そうしてアメリカが留保する必要がないというものにつきましては、自治権の拡大はあり得るものと私は考えております。

○田畑金光君 キャラウエー発言の中には、立法府あるいは行政府、琉球政府の能力と責任の自覚がない、だから権限移譲、機能の移譲はできぬ、こういう前提に立っておりますが、そこで、政府は人的交流等を通じ、公務員の能力向上に資しようというお考えがございますが、この点はどうでございますか、近く徳安総務長官も現地に参っていろいろ話をしてくると新聞等では報道されておりますが、その点はどうですか。

○政府委員(徳安實藏君) 先ほど外務大臣が御説明されましたように、施政権がアメリカ側にあります関係から、日本偶が進んであまり深くものごとに介入することもいかがかと考えるわけでございますが、先ほどお話がございましたようないろいろな施策の上において満足できないような点がありまして、そこで、アメリカ側が自分の施政権をお持ちになっておるのでありますから、力一ぱいこれを指導し、援助されることはもちろんあたりまえだと思います。そこで、私どもも望むらくはそれを望むわけでありますが、もし先方のほうで日本の力を借りたいというような御意向がありますれば、人事交流等におきまして御援助いたしたいという気持をもって、ときに触れてその話はいたしておりますが、今のその問題について、先方から日本のほうに、力が足らないから日本のほうから人を寄こせという段階には至っておりません。できるだけ日本のほうでも予算を多額に入れておるわけでありますから、この施行等にあたりましてむだがないように適正を期するためには、琉球政府が完全な機能を発揮し得るような、またアメリカから参りましたものを十二分に消化し得るような機能を持つことが必要でございますので、そうした点について、もしアメリカ側で欠けるところがあるというお考えがあって、日本のほうに協力を求められる場合には、日本のほうでは進んで協力してよろしい、こういうふうに考えておるわけであります。

○田畑金光君 外務大臣にお尋ねいたしますが、この第二次世界大戦の結果、沖繩のような地位に置かれている事例があるのかどうか。南洋群島やあるいはその他の委任地域、信託地域や、自治領地域のように低開発地域には信託統治地域なんというものがあるようでございますが、しかし経済、文化、教育の面において高い水準を持ち、人口九十万を持つ沖繩のようなところが、第二次世界大戦の結果、ああいう地位に置かれているところがあるのかどうか、事例があったらひとつ教えてもらいたいと思います。

○政府委員(中川融君) 第二次戦争の結果、いわゆる連合国から見まして旧敵国と称せられる国から分離されました地域で、沖繩のように信託統治に付せられる場合にはそれに同意する、そういうことが実現するまではこの連合国の一つが立法司法行政の三権を行使する、こういうような制度のもとに置かれた地域は沖繩だけでございます。

○田畑金光君 そこで私は外務大臣にお尋ねいたしますが、平和条約第三条は、信託統治制度のもとに置くということが主目的であり、アメリカの施政権の行使は暫定措置として認められておるわけです。暫定措置であるからして、施政権者としては強い権限が与えられ、国連の監督も何も受けないことになっておるわけです。したがって、第三条前段の趣旨が事情変更によって大きく実現ができなくなった今日の事情におきましては、当然暫定措置についてこれを何らか改定するという努力は当然とられてしかるべきだと私は考えますが、この点についてどう外務大臣は考えておられるか。
 ことに第三条は、外務大臣いいですか。第三条は初めから信託統治制度のもとに置くことはできぬということを計算済みでやっているわけで、アメリカの考えていたのは、おそらく後段の暫定措置を恒久化する、そもそも初めからそんなねらいでやっていたのだと私たちは見るわけです。かりに前段を読むならば、信託統治と、こういわれておりますが、今も条約局長のお話がありましたように、国連憲章の第七十六条を見れば信託統治の目的というものがはっきりうたわれておるわけで、沖繩のような場合は明らかにこれには当てはまらぬわけです。したがって、私はこの際条約第三条の精神に基づいて暫定措置としての施政権問題については再検討すべき時期に来ておると、こう考えておるが、外務大臣の所見を承っておきたい。

○国務大臣(大平正芳君) 条約解釈問題でございますので、条約局長から説明いたさせます。

○政府委員(中川融君) ただいま御指摘のような御意見もあるのでございますが、政府といたしましては、やはり条約三条の規定いたしますところは、あそこに書いてあるとおり信託統治が行なわれればそれに同意する、このようなことが実現するまではアメリカの立法司法行政の三権を認めるということでございまして、したがって、まだ信託統治が行なわれるに至っておりません以上、やはりアメリカの立法司法行政の三権が引き続いて行なわれるということが条約上の規定からしてやはりこれは当然の結果であろうと思うのでございます。ただいまこれを改定するというようなことは考えていないわけでございます。

○田畑金光君 ちょっと一言断わっておきます。防衛庁長官並びに労働大臣に質問の通告をしておきましたが、時間の関係もありますので、後日また適当な機会に質問することにいたします。

○杉原荒太君 関連。ただいまの田畑委員の御質問に関連しまして、ただ一つだけ簡単にお尋ねをいたしたいと思います。それは占領軍の権力に関する戦時法上の限界のうち、私有財産尊重のいわゆる原則に関してであります。この点についてヘーグ条約が結ばれた当時、実際に国際間に行なわれておった慣行を取り入れてあの規定になっておるのであります。そして古い国際法の教科書などには、あれが国際法のルールということで書いているのがあるのでありますが、その後の実際を見ますというと、第一次大戦、ベルサイユ条約、また第二次大戦もそうでありますが、実際に国際間に行なわれておる慣行というものは、非常な大きな変動を来たしております。そこで今日一体私有財産に関する国際法のルールは何であるかという点は簡単に言い切れないものがあるんじゃないか、割り切れぬものがあるんじゃないか、という疑いを私はかねて持っております。そこでお尋ねをするわけでありますが、一体今日ユニバーサルな国際法のルールとして、一体いわゆる私有財産尊重ということは完全に確立しておると解しておられるのかどうか。
 またヘーグの条約の締約国間においてヘーグ条約の規定は終戦処理のための、たとえばわが国の場合降伏文書などのような一種の国際約束また平和条約のような国際条約の規定をオーバーライドする一体効力があると解するのかどうか。
 さらにまた第二次大戦以前の戦争形態のもとにおける古い形態の占領と違って、第二次大戦後の、ことに日本の場合は降伏文書というようなものが一つあるのですから、それに基づいての新しい型の占領の場合にも、古典的ないわゆる占領の場合を予想したヘーグ条約の規定というものが、そのまま完全に一体適用されるのかどうか。
 なお最後に念のためお尋ねをしておきますが、ヘーグの陸戦法規に関する条約について、アメリカは一体締約の当事国となっておるかどうか。その四点をお尋ねいたします。

○政府委員(中川融君) ただいま杉原委員のお尋ねの点でございますが、先ほどの私の答弁で申し上げたとおり、いわゆるヘーグ陸戦法規ができました当時は、戦争の遂行中における比較的短期間の占領でございまして、その占領にあたっての順守すべきルールをきめたものでございます。その後、第一次大戦があり、さらに第二次大戦がありまして、その戦後処理にあたりましては、ベルサイユ条約におきまして、あるいは今次の戦後のイタリア、日本あるいは西独についての平和処理につきましても、私有財産尊重の原則というものは相当大幅に侵蝕されているわけでございます。したがってこの私有財産尊重というルールは、確立された国際法上のルールとしていわゆる戦後処理に当てはまるものとして存在するかどうかということにつきましては、実際慣行上は相当疑問ありと言わざるを得ないと思うのでございます。しかしながら、同時に今次戦争にあたりましても、戦闘行為それ自体につきましては、やはりヘーグの陸戦法規というものが、一つの大きな準則になっていることは、これはまた事実でございます。ヘーグ陸戦法規というものは、主として軍事行動中のルールとしては今言ったように確立されているけれども、戦後処理の扱い方としては必ずしもあのとおりにいっていない事例のほうがむしろ普通になてきている、こう見ざるを得ないのであります。
 なお、アメリカについての御質問でございますが、アメリカも陸戦法規につきましては、これを順守するという立場をとっておりまして、現にマッカーサー司令官に対する訓令の中で、陸戦法規を順守すべしということがございまして、マッカーサー司令官もその旨の訓令を摩下の部隊に出しております。しかしながら、この平和処理に関する分、韓国等の財産権あるいは在外資産等につきましては、別にまた大統領から直接の命令が出ているわけでございまして、したがって最近の慣行は、大体杉原委員の御指摘になっているように考えております。

○委員長(木内四郎君) 田畑委員の質疑は終局いたしました。
 暫時休憩いたします。
 午前十一時二十五分休憩

 第043回国会 衆議院外務委員会 第26号 昭和三十八年六月十四日(金曜日)午前十一時十六分開議

【発言順】
 委員          戸叶 里子
 外務事務官
(アジア局北東アジア課長)前田 利一
 外務大臣        大平 正芳
 委員長         野田 武夫
 委員          森島 守人
 委員          帆足 計
 委員          楢崎弥之助

○野田委員長 次に、国際情勢に関し戸叶委員より発言を求められておりますので、これを許します。戸叶里子君。

○戸叶委員 外務大臣がおいでになりますので、ごく簡単に一、二点お伺いをしたいと思います。
 最近韓国が日本の漁船を盛んに拿捕しているわけでございます。そしてまた、それだけでなしに、聞くところによりますと、巡視船がつい最近韓国の警備艇によって威嚇されたということも聞いているわけでございます。そこでまず第一にお伺いしたいのは、日韓会談が始まってから一体どの程度の日本漁船が拿捕されたか、そして、つかまった人員がどのぐらいいて、そういう方々が一体どういう状態になっているのかということをこの際明らかにしていただきたいと思います。

○前田説明員 北東アジア課長の前田でございます。かわって御説明申し上げます。
 現在まで韓国に拿捕されました漁船の総数は三百五隻、うち折衝の結果帰還してまいった船を除きまして、いまだ拿捕されたままの船が百八十三隻、その間抑留されました船員の総数は三千六百九十七名にのぼっております。これは実は四月末の現状でございまして、最後に抑留されておりました抑留船員も五月十六日の記念日に全員釈放になりまして、先月末帰ってまいったわけで、韓国には抑留漁夫は一名もいない、こういう事態になったわけでございます。
 ところが、遺憾ながら、この六月に入りまして、御承知のとおり、六月の一日に一隻、それから十日に二隻、さらに十一日に一隻と、続けて四隻の船が拿捕されておりまして、その乗組員は全員で三十一名にのぼっておる、このように考えております。

○戸叶委員 そうしますと、その三十一名の拿捕された人はまだ抑留中なのですか。

○前田説明員 ただいまのお尋ねのとおり、抑留中でございます。

○戸叶委員 外務大臣、いま北東アジア課長が御説明になりましたように、一応五月の十六日で、拿捕された船それから抑留中の人が帰されたにもかかわらず、六月になってから、きょうまだ六月十四日ですから、二週間の間に四隻も捕えられて、三十一人も向こうに抑留されているという状態です。これで日韓会談の折衝はお続けになっていらっしゃるのですか。

○大平国務大臣 私の考えは、日韓折衝はずっと続けておりまするし、日韓の間の長い間に積もり積もった誤解と申しますか、理解の足らない点、そういう点が解きほぐされてまいりまして、いま御指摘のようなトラブルが起こり得ないような環境、そういうものは、国交があるないにかかわりませず、そういう状態を醸成してまいらねばいかぬということで、鋭意その方向に努力を重ねてまいったのでございまして、ようやく先月に至りまして抑留された漁業者が一人もないということになって、ほっと愁眉を開いておったやさきに、今月に入りましてそのような事態が起こりましたことをたいへん残念に思っておりますが、こういうことで本来の日韓の間の関係を改善していこうという努力においてひるむところがあってはいかぬと思うのでございまして、このこと自体につきましては厳重な抗議を通じまして先方の善処を求めなければなりませんが、それと並行いたしまして、従前どおり日韓間の関係の改善に努力をしてまいるつもりでございます。

○戸叶委員 日本と韓国との間でお互いに交渉しているその最中に、しかも半月の間に四隻も船を捕まえていくというような国を相手に一体日韓間の関係を改善していくというようなことはあり得るでしょうか。国民としてはそういうことは考えられないと思うのです。話し合いをしている最中にどんどん漁船を拿捕して、そうして抑留者をつくっていく。そういうふうなことをしているのに、日本の外務大臣が、日本と韓国との間を何とかよくしたいと言ったって、国民はとてもそんなことには賛成できないと思うのです。一体韓国は何のつもりでこういうことをされているのでしょうか。外務大臣、正式に抗議を申し入れなさったのでしょうか。もし申し込まれたならば、どういう形でいつ申し込まれて、そしてその返答は何であったか、向こうの意図するととろはどういうところにあったかということをお示し願いたいと思います。

○大平国務大臣 日韓の間の問題というのは、戸叶さんも御案内のように、なかなか積年の関係でございまして、いろんなトラブルが過去において起こったということ、この当否は別といたしまして、事実であったわけでございます。それほど日韓の間というのはむずかしい関係にあると思うのでございまして、したがいまして、言うところの日韓交渉も十年以上の歳月をけみしていまなお解決に至らぬということ、それほどむずかしい問題であるということは、あなたも御指摘のとおり、私もよく承知いたしているわけでございます。さればこそ私どもは忍耐強くこの改善に努力していかなければならぬのでございまして、こういう事件が起こったからそういう交渉をやるべきじゃないとか、あるいはそういう事件を起こすような相手であるから相手にすべきじゃないじゃないかという御議論には私は賛成しないのです。私は、そういうトラブルがあればあるほど、勇気を鼓して、関係改善に、きわめて困難でございますけれども、鋭意努力していくのが私の任務であると思っております。
 それから、御指摘の、六月に入りましての拿捕事件につきましては、そのつど、先方の代表部を招致いたしまして抗議し、先方の政府に善処方を求めておるわけでございます。最近では、きのうの午後、代表部の責任者においでいただきまして、厳重に善処方を求めておる次第でございます。したがいまして、この事件の全貌、原因、その他一体どうしてこういうことが起こったか、起こったときの状況、天候その他の詳報を受けまして、なお先方に善処を求め続けてまいらなければならぬと思っております。

○戸叶委員 外務大臣のお考えは、こういうふうな拿捕なり抑留なりすればするほど、こっちのほうから誠意を尽くして改善をするということでございますけれども、そういうふうなことをされてもなおかつ交渉の相手としてやろうというような意図が私どもにはとうてい理解できないわけです。国民としても、何も話し合いをしている間にやたらに船をつかまえたり人を連れていったりしないでもいいじゃないか、こういう感情が非常に強くなっております。そういうことを考えまして、いま向こうの意図するところぐらい何かお考えになったりお話し合いになったのかと思ってお聞きしましたら、それはまだわからないし、天候の問題、いろいろあるということでございました。このような問題が起きたときには、私は、日本の外務大臣として、こういうことをするのだったらもう交渉はやめるぞというくらいの強い態度をぜひ見せていただきたい。そうでなければ、一体どういうことをやってくるかわからないと思うのです。やはり相手を見て外交交渉というものはやっていただきたい、こういうふうに考えるわけです。
 そこで、第二の問題としてお伺いしたいのですが、十二日に何か巡視船が威嚇されたとかいうことを漏れ聞いているだけで、私どもははっきりした情報がわかりませんので、この辺のことを詳しく説明していただきたいと思うのです。何か、巡視船「のしろ」が、領海外、李承晩ラインの外にあったにもかかわらず、船長が連れていかれたとかということを聞いたのですが、この間の情勢について詳しく御報告を願いたいと思います。

○前田説明員 御説明申し上げます。
 私ども十二日の夕刻になりまして海上保安庁を通じまして聞くに至りました状況を、要点について御説明申し上げます。
 御承知のとおり、拿捕を防止し安全操業を確保するという趣旨から、海上保安庁の巡視船の「のしろ」が、十二日の十五時、午後三時に、韓国の釜山の沖合いにございます牧之島の灯台から五・三マイルの地点、これは緯度・経度について申し上げますとこまかくなりますが、北緯三十五度〇二・九分、東経百二十九度一・二分、――先ほど先生の御質問の中に領海外であるとかあるいは李承晩ラインの外であるというお話がございましたですが、そういうことはいずれにいたしましても、五・三マイル、明らかに公海上の問題でございます。この五・三マイルの地点において業務を遂行中、急に釜山の港のほうから高速度の水上警察艇が接近してまいりました。先方が急速度に「のしろ」に向かってまいりましたので「のしろ」のほうでは、一応その業務遂行中の地点からさらに東のほうに移動しました。十五時二十五分に至りまして、先ほども申しました牧之島灯台から八・四マイルの地点においてわがほうの巡視船「のしろ」に先方の船が接舷してまいって、「のしろ」の船長に対して、いろいろ話し合うことがあるので韓国側の船に乗り移るように、こういうお話でございました。そこで、船長と先方の水上警察艇との間に、最初日本側の巡視船が業務遂行をしておった地点が領海の中でであるかどうか、こういうようなことについて話し合いが行なわれましたが、結局、先方は、言うなれば、領海侵犯ではないか、こういう考え方からこちらの行動を見ておったわけでございます。これに対しまして、「のしろ」の船長のほうでは、種々の計器を使って測定いたしました地点、先ほどの業務遂行中の地点が明らかに公海上である、こういうことで反駁いたしまして、その話し合いがつかない。そこで、結局もの別れということで、話し合いの続いている間に船も動いたわけでございますが、十六時三十分現在の位置をはかった結果、やはり韓国の海雲台というところから約五・五マイル、これも公海上にある、こういうことを双方確認いたしまして、署名して、十七時五分に至りまして先方の警察艇が巡視船から離れて行った。こういうのが先生お尋ねの十二日の事件の概略でございます。

○戸叶委員 外務大臣、いまお聞きになったようなことなんですけれども、この巡視船が領海外にあって、そしてそれははかってみなくてもそのくらいのことはわかるはずですね。ところが、それにもかかわらず、韓国警察艇が船長に対していろいろな尋問をして、そして話し合いをしてごたごたしたあげく帰したわけでございますけれども、巡視船といえば日本の国の公船ですね。この間も議論になりました国の公船ですね。この公船に対して、言わば、あなたは領海内にあるというような、いやがらせといいますか、何かそういった言いがかりをつけてきた、こういう形になったわけでございます。一体こういうことが日本の国として許しておいてもいいものでしょうか。このことに対して、外務大臣として外交上どういうふうにお考えになりますか。これがもし日本でなくてほかの国の場合でこういうふうな立場に公船が置かれていた場合には、やはりそこで、宣戦布告とまでいかなくても、そういうふうな形になったり、あるいはまた自衛権の行使というようなことになったり、法律的に言えばとんでもないことになるのじゃないかと思うのです。こういうふうなことを黙っていていいのですか。日本の公船がそういうふうに連れていかれて話をされて、そして帰されたというような侮辱を受けてもなお黙っていてもいいものかどうか、外務大臣にお伺いをしたいと思います。

○大平国務大臣 御指摘のように、事公船でもございますし、私どもといたしましては、事態を詳細に究明してまいりまして、その事件の全貌をはっきりつかまえた上で、日本政府として処置すべきことを処置いたしたいと考えております。

○戸叶委員 事件が起きたのは、いま御説明のありました十二日ですね。そして十三日が過ぎてきょうは十四日ですね。それまでまだ何にも外務省として全貌はつかめないのですか。きょうまでつかめないというのは少しおかしいじゃないでしょうか。十二日にそういう事件が起きて、十三日一日あって、きょうもまた半日たっているのですけれども、全然全貌がつかめていないのですか。どういう形でいま事件の調査を進めておられるのですか。

○大平国務大臣 事実の究明は日本側でやることでございます。きのうの午後韓国のほうに事態の究明方を依頼してありますので、先方からも、いろいろ、その当時どういう事情で、どういう状況で、どういう意図でこういうことが行なわれたかという返答があると思うのでございまして、私ども、そういった事実を十分究明した上で処置いたしたいと考えております。

○戸叶委員 いま北東アジア課長が説明されたことが事実であるとすれば、それ自体で私は大きな問題になると思うのですけれども、それ以外にまだ調査すべきことがあるのですか。どういうふうなことについて調査をされているわけですか。領海外において向こうの船がやってきて、そして船長をおろしていろいろと領海外であるかどうかを確かめる、領海外にあったにもかかわらず、領海外であるかどうかを確かめるというようなことをして、一時間近くも尋問をされて日本の船が帰された。こういうこと自体でも、先ほど外務大臣が日本の公船であるから重大であるとおっしゃったとおり、重大な問題だと思うのです。にもかかわらず、なおさらにどうなっているかを調査するというのは、どういうことを調査しようとされておるのですか。

○大平国務大臣 韓国の警備艇が接舷してきた、それがどういう天候のもとでどういう視界のもとで公海内であるのか公海外であるのか判明しなかったのか、そのあたりの事情をよく究明していただいておるわけでございまして、そういった関係を正確に周到に踏まえた上で適切な処置をとりたいと、思っておるわけです。

○戸叶委員 いま北東アジア課長がはっきりおっしゃったのは、話し合いをしているうちに、公海上の問題である、領海外であるということがわかったので帰ってきたのだということをおっしゃったわけです。だとすれば、公海上で起きたことなんですから、いま外務大臣が、公海上のことか領海内のことか、こういうことの事態を究明してという、その御答弁は少しおかしいのじゃないですか。はっきりと北東アジア課長がおっしゃったのは、公海上のことであり、領海外のことだというのがわかったので帰ったというようにおっしゃった。だから、そのこと自体を考えてみても、日本の公船がこういう目にあうというのは許すべからざることであると考えますが、いかがでございますか。

○大平国務大臣 私はそういうことを申し上げているのではなくて、接舷に至るまでの先方の事情、つまり、公海内であるのか外であるのかなぜわららなかったのか、それはこういう事情でわからなかったというのであればまた話はわかるわけでございますけれども、あなたの話は接舷をしてから船上におきましていろいろ話し合ったことを言っているわけでございまして、私は、それに至るまでの過程を十分調べておく必要があると思うわけでございまして、いずれにいたしましても、この問題は、公船でございまするし、慎重にやらなければいかぬわけでございまして、私どもそれをなまけるつもりは毛頭ないのです。大事な問題でありますから、より周到にやらなければいかぬということを申し上げているわけであります。

○戸叶委員 そういたしますと、きのう先方から代表者に来ていただいていろいろ抗議を申し込まれたということでございますけれども、外務省はそれに対する詳細な返答を待った上で、公船であるからいいかげんなことでごまかされるべきではない、当然何らかの措置をとるべきである、こういうふうに了解してもよろしいわけでございましょうか。そうしてまた、その返事はいつごろまでに来ることになっているのでございましょうか。

○大平国務大臣 そのように了解されてしかるべきだと私は思います。
 それから、いつごろ返事が来るかは、時限を限ってあるわけではございませんが、遠からず、なるべく早く、先方のほうでおくれるようでございましたならば、こちらから督促してでも聴取しなければならぬと思っております。

○戸叶委員 もう一点だけ伺います。この問題がはっきりするまで、いま進められている日韓間の小委員会ですか、そういうようなものは当然やめてしかるべきと思いますが、この問題がはっきりしなくてもなおかつ続けていかれる御意思であるかどうか、その点伺いたい。

○大平国務大臣 このためにいま持っておりまする予備交渉というものを断ち切るという意図はございません。この問題もきのうの予備交渉の場面でこちらから申し上げたわけでございまして、私が冒頭に申し上げましたように、この事件というもはの不幸な事件でございます。が、しかし、こういうようなトラブルが起こらないようにどうやるかということについて、大局的な立場から交渉をどう進めるべきかについては当然私どもが考えなければならぬことでございまして、こういう一、二の件事があったということのために基本の姿勢を変えるというようなことはいたしたくないと思っております。

○戸叶委員 私はもうこれ以上言いませんけれども、問題は、先ほども説明がありましたように、六月になってから四隻も拿捕されて、三十一名の人がまだ抑留されている。そのときにまた今度は日本の巡視船という公船がこういうふうな目にあって、なおかつ一方においては予備交渉か何かを続けているということは、どう考えても国民が納得できないと私は思います。こういうことをするから韓国が結局ますます強気になって、漁船を拿捕すれば巡視船もかまわない、公船もどうだというような強気になって出てくると思う。したがって、私は、この際この問題をはっきりさせ、厳重に抗議を申し入れ、拿捕された船を返してもらうようにし、抑留された人を一日も早く帰してもらう、そうして、この巡視船の問題については何らかの措置をとる、こういうことが行なわれるまでは絶対に交渉を進めるべきではない、こういうふうに考えますので、この点についてよろしく御考慮を願いたい。私は国民の一人としてこのことを強く要望をしておきたいと思います。

○野田委員長 関連質問の申し出がありますので、これを許します。森島守人君。

○森島委員 ただいまの問題に関連しまして一、二点お伺いしたいと思います。
 第一に、船舶が三百五隻、人員が三千何百名と言われましたが、これはいかなる期間において拿捕せられた数字でございますか。
 それから、もう一つは、日韓会談開始前の数字と開始後の数字をお示し願いたいと思います。

○前田説明員 先ほど御説明申し上げました拿捕漁船数、乗り組み員数は、いずれも韓国が日本の漁船を拿捕し始めましてからの総数でございます。つまり、いわゆる李承晩ラインが一九五二年の一月に設定されたわけでございますが、それ以前にかかわる拿捕もございますので、それをも含めた総数でございます。なお、今回の、昨年の八月からの第六次会談以降の数字につきましては、ただいまちょっと手元に取りまとめたものがございませんので、少しお時間をいただきまして御報告申し上げますが、そういうことでございます。

○森島委員 こういう会談はきわめて友好的な雰囲気において行なわれなければ実効を奏さないということは当然わかり切ったことなんです。日韓会談に入るにあたりまして、拿捕等をしないという口約束でも韓国代表との間にできておりますかどうでございますか。これは外務大臣にお伺いしたいのです。

○大平国務大臣 私どもは、会談をやるにつきまして、その時点以後こういうことがないことを心から希求いたしておりますし、そういうことはあり得ないことであるということで進んでおるわけでございますが、不幸にして間々そういう事件が起こっておるということもまた事実でございまして、そのつど先方の善処を求めておるわけでございます。問題は、双方の理解が進みまして、こういうトラブルが起こらないようにするということが第一の眼目でございまして、そういう状況を醸成してまいる上において私どもはいかにあるべきかというところに判断の基準を置きまして、今日まで個々のケースにつきまして善処してまいったわけでございますし、今後もそうしてまいるつもりでございますが、今日以後そういう不幸な事件の再発ということがないことを心から希求いたしております。

○森島委員 こういう個々の事件の起きたたびにそういう希望を表明したりしておっても、きき目がないと思うのです。相手は韓国ですから、私は、交渉に入られるにあたってこの種の確約を韓国のほうから取りつけておくべきものだと思うのでございますが、私の聞いておるのは、個々のときに抗議をして拿捕したやつを釈放させるとかしないとかいう問題でなしに、特に外務大臣はこの種の事件の起きるのは非常に好ましくないとおっしゃっておるのだから、これは一括して、話し合いに入る前に、これだけのことはしないという確約をなすっておかれるのが、私は交渉促進上有利だと思うのです。これは意見の相違になりますけれども、今回の事件を機として、私は話し合いを中止するのがいいと思うのです。中止しないまでも、私は、外務大臣としてこの種の確約を一括的にお取りになることを希望してやみません。
 それから、私が前回か前々回ここで外務大臣に御質問しましたときに、韓国の現在の政情というものは民政移管に至る陣痛だと、こうおっしゃいました。それからまた、私が、この現政権にはたして日本との間に確約ができましてもこれを実行する意思と実行する能力があるかと申しましたら、外務大臣は、現政権は実行する意思と能力とを持っておるのだということで、会談を中絶する意向はないのだとおっしゃいましたが、私は、こういう事件が次々と起きることは、韓国の中央政権の意図がいかにあろうとも、出先においてこれを順守するという意思もなし、また能力もないことを現実に示したものだと私は思うので、外務大臣のこれまでの韓国現政権に対する見方や何かは、あまりに私は甘いと思う。そういうふうな見方をしておられるからこそ何回もこの種の事件が次々と起こるのだろうと思うのでございます。
 なお、もう一つ、民社党の受田委員から御質問がありましたが、日本の在外代表部を韓国に置くという問題も、私はきわめて重視すべき問題だと思うのであります。現に、池田内閣の改造直後において、日韓会談を始めるに先立って池田首相は第一回の新聞記者会見をやっておられます。そのときに池田さんは、相互平等な立場において日韓会談を始めるのだということを明言しておられます。新聞記者の質問に対しましても、その具体的内容として、ただ一項目だけ、日本の代表部を韓国に設けることが必要なんだということをはっきり言っておられます。これは当時の新聞記者会見の記録をごらんになりますればはっきり出ておるのでございますが、これに対しても外務大臣はずるずるべったりで、外務省からときどき人をやって、それで十分目的を達成するのだというふうな見方をしておられるし、これはいかに交渉しても向こうが申し出を聞かぬからしょうがないのだというようなお立場をとっておられる。
 この漁船の拿捕の問題とともに、私は、韓国の現政権には日本と約束したことを実行する意思がありやいなや、能力がありやいなやの点についても非常に問題であると思う。この点について日本の全国民も憤激をしているものだと思うのでございまして、私としては、現内閣、特に外務省においては、根本的に考えを直していただいて、日韓会談に対する根本的の対策をお立てになる必要があると思っております。そうしなければ、韓国の国民の性格としまして、弱いと思えばつけ込んでくるのは韓国民の性癖なんですから、こういう事件があとをたたないのではないかと私はおそれるので、その際日韓会談は一時中絶されることが、この種の事件を阻止せしめるに足る最も十分な措置であると信じておるのでございますが、外務大臣はこの点についていかにお考えになっておられるか、伺いたい。

○大平国務大臣 外交に御造詣の深い森島先生でございますので、釈迦に説法になるわけでございますが、私は、日韓関係というのは、これは外交問題の一つでございますけれども、日韓問題というのは、非常にディメンションの広い、非常にむずかしい外交案件であると思います。その点は森島さんも御同感いただけると思うのでございます。普通の国際的な常識によって一つ一つの案件が妥当に解決できる、そういうことで解決できるほどやさしい問題でないと申しますか、表現がやや正確ではございませんけれども、非常にむずかしい案件であると思うのでございます。そこで、私は、問題をこう考えているのでございます。要するに、戦後韓国人の日本に対する考え方、あるいは日本人が韓国人ないし韓国というものをどう考えておるかという場合、そういうわれわれの心の中にある日韓関係に対する感じ方というもの、これが直らないで、一応国交というような形ができても、両国の関係というものはなかなかうまくいかぬ。やはり、私が先ほど戸叶さんにも申し上げたように、お互いの理解というか、むしろ尊敬というか、信頼というか、友情というか、そういうようなものがだんだんと形成されてくるという実態的な改善がない限り、小手先で国交を改善しようといっても、これは木によって魚を求めるようなことになりはしないかとおそれるものでございまして、そういう観点から、私は、今日あるがままの日韓関係を見てみますと、私どもが誠心誠意敬意を持っておつき合いをする、それから、広く世界に目を開いて、日韓の関係はどうあるべきかということを日本人も考え、韓国人もまた同様に眼を開いて日本との関係はどうあるべきかと考えるということで、その考え方、感じ方がだんだん変わりつつあるように私は思うのでございます。そして、そのことは、お互いの心の中にある感じ方というものが、あるいは、あなたは、甘い、こうごらんになるかもしれませんけれども、私は、これは日とともによくなりつつあるというように、また、よくしなければならぬと思っておるわけでございまして、そういう関係の改善を事実上やっていく上におきましても、私の立場、私の姿勢、外務省の言動、外務省のわれわれの持つ感じ方というのは非常に大事なことでございますので、そういう実態的な関係をじみちに一日一日よくしていくという努力は瞬時も怠ってはならぬということ。そういう観点に立って、現在行なっておる交渉を打ち切るどころではなく、誠心誠意やるんだということがまたその事実上の関係の改善に役立つというように私は考えておるわけでございます。そして、そのことによって漸次先ほど申しましたように事態の改善に歩を進めておるというように私は感じておったのでございますが、六月に入りましてそういう不幸な事件が起こりましたが、これを早く措置いたしまして、そして、そういうことの再発というようなことにつきまして、先方がもうそういうことはできないんだくらいのそういうような気持ちに早くなっていただきたいということを希求いたしておるわけでございます。
 韓国政府の能力あるいは意図というようなものにつきましてのことでございますが、これは、韓国の国民あるいは韓国の政府の感じ方、確信というものがおありになると思うのでございます。それについて私は論評を加える自由を持っておりませんが、少なくとも、日韓関係の進め方につきましての私の心境は、いま申し上げたようなことでありまして、外交界の先輩として森島先生にもとくとお考えいただいて、足らないところは教えていただきたいと思います。

○野田委員長 なるべく短い時間中という御要求でしたからお許しいたしたのですから、その含みでひとつお願いします。

○森島委員 大局的なお気持ちはよくわかりましたが、それにも限度がありますから、ある程度で、――たとえば慎重に考慮するとおっしゃるが、今度韓国がとった態度で理解ができぬことがありましたら、厳然たる態度をおとりになることがかえって日韓関係をよくする近道であるとも私は思います。
 そこで、私がこれも何回も申し上げましたが、歴代の保守党内閣が十年間にわたって二つの大失敗をやっておる。一つは在外代表部の問題、これは、平等でやるのなら、韓国の代表にいつでも京城へ引き揚げろということを求められれば、ある時期においては私は非常ないい結果があったと思います。もう一つは、日本が韓国と通商を断絶しましても何ら痛痒がないのですから、ある時期には通商関係を断絶するという思い切った措置に出られることも私は必要だったと思う。この二つの措置を歴代の保守党内閣がとらなんだということは大失敗であると私は思っておるのでございますが、大平外務大臣のこれに対する御所感を求められるならば幸いでございます。

○大平国務大臣 先ほどの私の答弁から御了解をいただきたいのでございますが、日韓関係の打開というものは非常にむずかしい問題であるという認識が一つと、そして、これを打開していく道は、事実上の生きた、今日あるがままの関係をよくしていくための理解を深め信頼を高めてまいるという方向に処置することであるというように私は考えておるわけでございまして、いま御提言があったような措置については、私はそういうことはやるべきでないと考えております。

○野田委員長 帆足計君。
 帆足さんに御注意申し上げますが、実は、きょうは緊急質問でありまして、関連質問は遠慮していただきたいと思いましたけれども、せっかくのことですからお許しいたしました。まだもう一人おられますから、数分間のお含みでお願いいたします。

○帆足委員 現地の痛切な立場から研究しておられる楢崎委員の質問もありますから、簡単に申し上げます。
 私は、いまの森島議員からの切々たる外務大臣に対する助言なり忠告に心から賛成するものでございますから、ことばを繰り返しません。また、外務大臣の御答弁を伺いまして、非常に苦しい立場もよく理解できるのでございますが、とにかく、韓国の経済構成を研究いたしましても、また、政治分析をいたしましても、社会分析をいたしましても、現在のところ自立能力が非常に希薄でございまして、その責任の一つは、客観的に、南北分断という歴史の悲劇。もう一つは、アメリカの韓国に対する政策が残念ながら非常な失敗を来たしておるということにまでさかのぼらねばならない。そうしますと、結局、本来ならば韓国については国連の指導のワクのもとにアメリカが世話をしておるのでございますが、その辺の関係が明朗を欠いておりまして、韓国の背後の勢力というものが明朗を欠いておるところに私は一つの問題があると思っております。したがいまして、この問題につきましては、政府当局にも研究していただき、私どものほうでももう少し研究いたしまして、韓国の眼前にある困難な課題に対しまして、どのように日本が対処していくかということを、国連、アメリカの背景をも含めて外務大臣と話し合わねばならぬ、そういう問題にぶつかっており、そういう本質に触れた問題に繰り返し繰り返しぶつかっておることを痛感いたす次第でございます。
 ところで、この現地の状況を私どもはかつて視察に参りまして、海上保安庁の諸君のなみなみならぬ苦労もよく知っております。当時、無線電信をふやしまして、そうして、こういう災いにあう前に早く難を免れるような万全の措置をとるための予算措置などいたしました。それらのことにつきましても、最近緊張がゆるみまして、こうたやすく拿捕されるというのは、一体どういうところに警備上、警戒上の手落ちがあったか、私は海上保安庁の意見も次回に聞きまして、そして努力の足らないところは努力してもらいたい、設備、予算の足らないところは補いまして、われわれの同胞がこうして罪なくして囹圄の苦しみを受けるということがないようにいたすのが外務委員会のつとめである、こう存じておる次第でございます。楢崎委員からの質問もありますから、きょうはこれにとどめておきまして、次回の外務委員会においてもっと具体的に海上保安庁並びに外務大臣に御所見を伺いたいと思います。
 外務大臣は、韓国の背後にある国連並びにアメリカとの関係につきまして、一体どういう御調査なり御所見をお持ちでありますか。また、関係政府委員でもけっこうでございますから、一言だけお答えを願いたい。
 海上保安庁のことにつきましては、私は次回に詳しく聞きたいと思ております。前回参りましたとき、超党派的にいろいろ審議いたしまして、相当の成果がその後あがったのでございますけれども、今後こういう事態が慢性的に続きますならば、われわれは戦争の手段は好みませんが、しかし、海上警察の問題をもう少し合理的にスマートに行なうことは必要だと思ておりますので、これは検討したいと思っておる次第でございます。
 右について外務大臣の御所見を伺いたいと思います。

○大平国務大臣 国連と韓国との関係というのは、帆足先生もよく承知されておると思うのでございますが、予算委員会におきましても本委員会におきましても御答弁申し上げてあるわけでございますが、現に国連の朝鮮復興委員会というものが毎年開かれておるわけでございまして、国連軍が韓国に駐とんするということにつきましては、国連も現在の状態を認めておると承知いたしております。

○帆足委員 ただいまの御答弁では私は不満足でございますから、私はさらに詳細な質問をしたいのでございますが、時間の制限もありますし、現地の楢崎委員からさらに痛切な緊急質問があろうと思いますから、次の機会に御質問をしますから、ひとつ、外務省のほうでも、国連、アメリカ及び韓国政府との関係について御答弁の準備をしておいていただきたいと思います。

○野田委員長 同じく関連質問の要望がございますから、これを許します。楢崎弥之助君。
 楢崎委員に申します。いまのような事情でございますので、なるべく簡単にお願いします。
○楢崎委員 関連質問ですから、簡単に質問いたします。

 まず、十二日の、向こうの船が停船を命じて船長を呼び込んだときの状況ですね。私は説明がまだ足らないと思うのですが、あるいは発砲したのか、あるいは、発砲に類似する、小銃などをかまえて、そういう脅威のもとに船長を拉致したのか、もう少し明確にお答えをいただきたいと思います。

○前田説明員 御説明申し上げます。
 私ども海上保安庁から報告を受けたところによりましてお答え申し上げますと、先ほど御説明いたしましたように、釜山の港から韓国の水上警察艇が十五時十八分に約三十メートルのところまで接舷してまいって、その韓国の水上警察艇に装備されております機銃及び自動小銃をかまえて、先ほど申し上げました十五時二十五分に牧之島燈台から八・四マイルの地点で接舷した、こういうように聞いております。

○楢崎委員 そういう場合に、小銃あるいは機銃をかまえて寄ってきたときに、逃げることはできないのですか。そういうかまえがあったから、とまって向こうの言うとおりになったというわけですか。

○前田説明員 先ほど大臣からも繰り返し御説明、御答弁がございましたように、機銃及び小銃をかまえということでは、そのときの事実関係というものが必ずしもはっきりいたしませんので、ただいまの点も含めまして、何時何分にどういうようなことでという詳しい事情を、海上保安庁につきましても、さらに韓国側につきましても、いろいろ調べるようにお願いしてある、こういうことでございます。

○楢崎委員 向こうのほうからの答えは時間がかかるとしても、海上保安庁側の状況説明はわかるじゃないですか。おとといの話ですから、海上保安庁側の説明をもう少し詳しく言ってください。

○前田説明員 ただいまの点につきましては、いろいろ事実関係が最初からしまいまで相当こまかい点にわたりますので、私どもこの報告に接しました翌日以来、この点はどうか、この点はどうかというこまかい点につきまして海上保安庁にお願いしておるわけでございますが、私が出てまいりますまでのところ、ただいま読み上げましたそういう報告程度にとどまっておりまして、それ以上詳しいことにはまだ接しておりません。

○楢崎委員 どうしてでしょうか。おとといの話でしょう。国内の問題でしかもこういう重大な問題がどうしてそんなにおくれるのですか。

○前田説明員 私どもといたしましては、なぜそのように時間がかかるかということにつきまして、その理由を承知いたさないわけでございますが、海上保安庁といたしましても現に詳細に調査してくれているわけでございますが、何ぶんその巡視艇も海上に行動中でございましたりしたこともございまして、詳細な調査には時間がかかっておるのではないかと私どもも考えます。

○楢崎委員 「のしろ」は八管所属でしょう。舞鶴ですね。その事件後どういう行動を現在までとっておるのですか。

○大平国務大臣 そういうことは海上保安庁のほうの仕事でございますが、いま楢崎先生がおっしゃるのは、取り急いで調べろという御趣旨でございまして、私どもも早く事実関係を明徴にいたしたいと鋭意努力いたしておりますので、しばらくお待ちいただきたいと思います。

○楢崎委員 実は私は海上保安庁に問い合わせしたのです。そうしたら、一切は外務省にまかせてありますというお答えです。きのうもきょうも問い合わせた。だから、いまのような外務省側のお答えでは、私がおかしいと思うのも当然じゃありませんか。今後はすべて外交交渉になりますから、一切は外務省に報告してあるし、それから先のいろんな問題は外務省にまかせてあります、そういう海上保安庁側のお答えからすると、いまの外務省の作業では、とても私は納得できません。私はもう少し具体的にお答えいただけるのではなかろうかと思うのですが……。

○大平国務大臣 私どもは問題を隠したり遠慮したりするつもりは毛頭ないのでございまして、事実を事実のとおり正確にかつ周到に取りまとめた上で処置いたしたいということを先ほど申し上げたわけでございます。いまの段階におきまして私も全貌をまだとらえておりませんし、これを外務省が懈怠しようという考えは毛頭ないのでございますから、しばらく外務省におまかせおきいただきまして、事実を明徴にする余裕を与えていただかなければいかぬと私は思います。

○楢崎委員 こういう重大な問題ですから、間髪を入れずあらゆる手を尽くして早急に事態を把握するのが常識です。いまの外務省の作業ぶりは実に遺憾です。しかし、わかっておらぬと言われればそれまでですけれども……。
 さらに、さっき領海外つまり公海上であるということがはっきりなったから抗議したとおっしゃいますが、外務省が言っている領海というのはどのように考えての領海なんですか。一応念のために聞いておきたいと思います。

○大平国務大臣 これは、国際的な三海里説というもの以外の領海の議論、たてまえを韓国がとったということは、私は承知いたしておりません。私どもは、ソ連のように十二海里説をとっておるところもございますけれども、一般的に三海里というのが領海と心得ています。

○楢崎委員 そうすると、いまの外務大臣のお答えから言うと、日本側としては、いまこの「のしろ」問題で答弁になりました領海というのは、いまいろいろ国際海洋法会議で問題になっておおることはさておき、三マイルまでが向こうの領海で、三マイル外は公海だというたてまえのもとで進んでいらっしゃるわけですね。そうすると、たとえ韓国側が言う李ライン以内であっても、それが向こうからの接岸三マイル以外だったら公海であるという認識のもとに、いまこの「のしろ」問題を扱っていらっしゃるのですね。

○大平国務大臣 当然でございます

○楢崎委員 さらに、先ほど森島委員から御質問がありましたが、李ライン宣言は五二年で、それ以前に終戦後四七年に七隻拿捕されておる。それ以来ずっと五一年まで、たしか私の記憶によりますと九十二隻拿捕されておる。抑留船員は千九十九名、うち三名死亡しております。これは李ライン宣言の以前です。これについては、簡単でよろしゅうございますから、李ライン宣言以前だからいろいろの場合がありましょうが、大体どういう理由で向こうが拿捕したか、御説明をいただきたい。

○前田説明員 私どもが承知しておりますところでは、一九五二年一月十八日の李承晩ライン宣言以前に、韓国側によって拿捕されましたのは、主としてマッカーサー・ラインを越えて韓国側に入ってきたというような理由が多かったのではないかと記憶しております。そのほか領海侵犯などの理由をあげられたこともあったかと、そんなふうに考えております。

○楢崎委員 最後に、外務大臣は聞き及びかどうか知りませんが、この日韓請求権の問題の会談が続けられておるときですら拿捕問題が起こっておる、そこで、福岡の底びきの漁船船員組合は、もう政府をたよっておれぬ、したがって、自分たちの乗っておる船で、もし韓国のそういう水上警察船が来るならば、それにぶつかって、突入をして、そして、向こうがやられるかこっちがやられるか、自分たちは向こうの船に乗り移ってでもあとに引かないという決議を実際に組合でしたのです。それほど拿捕の問題は深刻なんです。
 まず私がお聞きしたいのは、そういう事実、船員たちがそれほどの強い決意を持っておるということを御存じかどうか。これは、やはりその後の経過でもう少し政府の出方を見てみようということで、その実際の動きはいま停止しておりますが、その決議は生きておる。こういう事実をまず御存じかどうか。
 それと、いまわが党の三委員から言われましたように、これはとんでもない話です。私は、海上保安庁からの説明がさらに詳しく来れば、また伺いますが、こんなばかな話はないと思う。機銃や小銃を持ってきて、そういう脅威のもとに船長を一時間も自分の船のところに呼んでやるなんて、そういう事実を許しておいて、日韓会談も何もないです。国民感情から言ったら言語道断な話です。私は、この問題は、過去の例があるけれども、この際、断固たる態度で処置すべきだと思うのです。日韓会談を急ぐ政府の側から言えば、進んでおる最中だからというようなことかもしれませんが、この問題についてそんななまやさしい態度では国民は納得しないと思う。それは、先ほど三委員から言われましたように、この問題についての納得のいく処置がなければ、あるいは今後そういう拿捕なんという問題を絶対に起こさないという保証がなければ、会談は中止すべきです。何のために会談しますか。一方においてそういう事件が起こりながら、何で協力を結べるのですか。
 私はこの二点について最後にお尋ねしておきたいと思います。

○大平国務大臣 先ほどの第一点の決議は、私もよく承知いたしております。また、当時新聞紙上でも報道されたことでございます。そのときに、私どもは、お気持ちはわかりますけれども、こういう事態を早く解決すべく努力いたしておるのでございまして、くれぐれも御自重をお願いいたしたわけでございます。
 第二点の中止問題につきましては、先ほど私お答えしたとおりでございまして、楢崎委員の主張されるお気持ち、正義感、そういうものは私は十分わかります。しかし、前段であなたが御主張されたように、組合がそういう決議をしなければならぬというような事態、そういう事態をしょっちゅう繰り返しているわけなのでございます。そういう関係はいつまでも続けちゃならぬ、朝鮮海峡は静かな海にしなければならぬ、生産性の豊かな海にしなければならぬために、忍耐をもって私どもやっておるわけなんでございまして、これは、中止することによってそういう問題が片づくのでございますならば、これはどんなばかが考えても中止いたしますよ。しかし、私は、そういうことは、日本の大局の上から見まして、こういう問題を永久に解決しなければならぬ日本といたしましては、そういうことをいたすべきでないという確信の上に立ってやっているわけであります。

○楢崎委員 いまの外務大臣の御答弁では実に不満です。さらにいろいろ申し上げたいことがありますけれども、関連質問ですから、きょうはこれでやめておきます。

○野田委員長 本日はこれにて散会いたします。
 午後三時四十八分散会

 第046回国会 衆議院内閣委員会 第44号 昭和三十九年六月十二日(金曜日)午前十時三十三分開議

【発言順】
 委員長      徳安 實藏
 委員       村山 喜一
 総理府総務長官  野田 武夫
 総理府事務官
(内閣総理大臣
官房臨時在外財
産問題調査室長) 栗山 廉平
 外務事務官
 (条約局長)   藤崎 萬里

○徳安委員長 次に、総理府設置法等の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を続行いたします。
 質疑の申し出がございますのでこれを許します。村山喜一君。

○村山(喜)委員 私は総理府設置法等の一部を改正する法律案について質問をいたすわけでありますが、本日は時間もそうたくさんございませんので、その中に設けられております。今度つくられようといたします在外財産問題審議会の問題について、在外財産補償問題を中心に、この一点だけ取り上げまして質問をいたしたいと思うわけでございます。
 戦争によりまして、お互い国民が物心両面にわたる被害を受けたのでございますが、それに対する処理が今日に至るまでもまだ十分な完結を見ていない状況に放置されておるわけであります。この在外財産の問題にいたしましても、これは古くして新しい問題であるといわなければなりませんが事この資産補償の問題は、基本的な人権の中に入ります経済的な権利というもの、その財産権の一部を構成いたしておりますので、日本国憲法から見た場合に、どのような位置づけをなすべきかという問題が、一つの問題点として出てまいるわけであります。さらにまた、この問題につきましては、戦争の結果生じた問題でありますので、サンフランシスコ講和条約との関係も出てまいりまするし、また二国間条約等によりますいろいろな協定等による問題も発生いたしますし、国際的な情勢、そういうような関係がございますことは、言うまでもないわけでございます。そこで私は、総理府総務長官にお尋ねをいたしたいと思いますが、昨年臨時在外財産問題調査室が設けられまして、ここに一年間の月日が流れたわけでございますが、この一年の間、どのような作業をやってきたのかということをまず第一に伺っておきたいのでございます。
 前の調査室長は、この作業の期間を通じまして、いろいろな意見を内部的な意見として申しておったようでございまして、国は補償をする義務があるという見解をもらまして作業を進めておったようでございますが、現在まで、この臨時在外財産問題調査室はどのような作業をやってきたのか。そうしてこれからまた、もし今国会において審議会ができるとするならば、どういう考え方をもって臨もうとしているのかということを、まず初めにお聞かせを願っておきたいと思うのであります。

○野田(武)政府委員 いまのお尋ねのように、総理府に調査室を設けまして、一年間やっております。その間で、先ほど前室長が補償すべきだという態度でやっておるという話でございましたが、それはその室長の個人の考えかもしれませんが、それらを判定する、つまり補償すべきかどうかという判定をする基礎調査として調査室でやっております。その間の事務のことにつきましては、事務当局から申し上げることが一番御了解しやすいと思いますから、事務当局からお答えさせます。

○栗山説明員 従来のいろいろの経過につきまして、資料を集めまして研究をさしていただきました。今後どういうものをやるかについて、内部的にいろいろ研究をいたしておるという段階でございます。

○村山(喜)委員 そこで野田総務長官にお尋ねをいたします点は、国に補償義務ありやいなやという問題でございます。これは長官も御承知のように、いままで歴代の内閣は、この在外資産の問題については、外交的な保護権だけを放棄したのである、こういう解釈をとった説明を国会でいたしております。しかしながら、最近の当該関係国の意向等、たとえばアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアあたりの見解を非公式に尋ねたものの中には、当然これは個人の請求権も日本政府は放棄したものと解釈をするという解釈が、新たに出てまいりました。さらにまた、東京地裁の原爆裁判に見られる判決文の中にも出ておりまするように、政府の今日までとってきた外交保護権だけを放棄するという考え方は誤りだ、講和条約の規定によって個人の請求権も明らかに放棄しているという判決の文章が見当たるわけであります。なお、これは古くからいわれておるわけでございますが、ハーグ陸戦法規の第四十六条「私有財産ハ、之ヲ没収スルコトヲ得ス。」という規定の存在。さらにまた憲法の第二十九条から見た場合に、これらの行為というものが公共収用に該当をしておるという解釈、さらにまたイタリアなりあるいはドイツの場合等におきましては、これはその後において国家が補償をした。しかも平和条約の中において、国が補償しなければならないという条項がつけられておったわけでございますが、日本の平和条約には、そういうような責任を国際的には負うていない。しかしながら、国際法上の違反行為にはならないけれども、しかし、そのことは、日本政府として善処しなければならない道義的な立場に立っているということを、昭和二十六年ころ、西村条約局長あたり議会で答弁をいたしておるようでございますが、その後におきましても、この問題は、国内法の問題として当然考えていかなければならないという立場から、いろいろ論議が取りかわされてまいりました。しかしながら、これが裁判によりまして、確定づけられたものがまだないわけであります。そういうような立場から、いろいろ国に補償義務ありとする意見、あるいはこの補償義務はないとする意見、こういうようなものが入り乱れておるわけでございます。なお、憲法第二十九条の三項から、直接予算的な措置を講ずることによって、これらの補償措置ができるのではないかという意見等もございますが、これは三十五年の十月十日に毛最高裁の大法廷におきまして判決が下っておりますけれども、直接憲法に基づくところの補償の請求は生じない。これはやはり手続法が要るという、いわゆる連合国財産の返還等に伴う損失の処理等に関する法律百六十五号によるところの争いに対しましては、そういう判決を下しているようでございますが、その中において入江、奥野両裁判官は、憲法第二十九条三項から、直接補償することも可能であるという意見を述べられておるようであります。このように、これは全体的な問題を律するその材料に使うわけではありませんけれども、そういう考え方が入り乱れて今日に至っておる。しかしながら、最近におけるところの問題のとらえ方といたしましては、単なる外交保護権だけの放棄だけではなくて、実質的に個人の請求権を国家が放棄したということが、この平和条約の解釈の中に明確になってきたということが、相手の国からも、あるいは最近の判例の中からも、指摘がされるようになってまいりました。ということは、それだけ国に補償の義務があるということを主張をする存在がふえてきたということであります。これらの問題について、総務長官はどういうふうにお考えになっておるのか。この問題を、審議会で義務の有無について検討をするお考えをお持ちになっているのか。それとも、国に補償義務ありという考え方のもとに、調査審議を依頼するという考え方に立たれるものであるか。やはりここは基本的な問題でございますので、政府の立場を明確にお答えを願っておきたいのであります。

○野田(武)政府委員 お話しの在外財産につきましては、平和条約の関連、また日本の憲法上の問題、私有財産に対する権利義務の問題でございます。各般の法律上の基本が、相当明瞭になってこなければならぬと思っております。そこで、もしその点についての解明が必要でございますれば、もちろんまだ政府といたしましては最後の判断をいたしておりませんが、御参考までに、外務省が来ておりますし、法制局も来ておりますから、御説明いたします。
 ただ、最後のお尋ねでございました補償の義務があるとして審議会をつくるかどうかということでございますが、やはり審議会は、在外財産問題に関する重要事項を調査、審議するということでございます。基本的には、いまの村山さんのお話しになりました、政府がこれを補償すべきかどうかということは、やはり審議会には諮問いたしたいと思っております。したがって、法律上のことでございまするし、平和条約でございますから、条約局あるいは法制局から御説明させたいと思っております。

○村山(喜)委員 政府の法制的な見解をこの場で問いただしておかないほうが、かえって前進すると私は思う。なぜかならば、やはりいままで解釈を下してきた線でしか答弁ができないですからね。だから、こういう問題もあげて審議会において検討を願うという、現在総務長官がとっておいでになる態度のほうがより前向きであると思いますので、法制局の答弁は求めないことにいたしておきたいと思います。
 ただ、外務省がお見えになっておりますので、現在の国際的な立場から見た問題だけは、この際解明をしておかなければならないと思うのです。
 私は、御承知のように、旧領土でありました外地の場合、台湾の場合には日華平和条約によりまして、この第三条が成文化されておるわけでありますが、それと同時に、議定書の第一項の(b)並びに河田・葉両代表により同意された議事録、これらによりまして、根本的には平和条約の四条の(b)項によりまして、関係国間の取りきめにゆだねられておるわけでありますが、その台湾に残しました日本国民の在外財産に対するところの請求権は、これを中華民国も承認しておるわけであります。しかしながら、この日本国と中華民国との平和条約が締結をされましてから今日まで、向こうのほうとしても、日本にはそういう請求権があるんだということを認めながらも、日本側の調査要請、あるいは資料の提出、それらに対しましては音なしのかまえをとって、今日までほとんど原則だけは承認した上でこれをたな上げにしているという実態であると伺っておる。これらの外交上の問題について、外務省としてはどういうような措置をとられたのかということが、第一の問題であります。
 第二の問題は、朝鮮の場合を考えてみますと、もちろんまだ日韓会談の結果も未知数でございますが、平和条約の四条の(b)項によりまして、これは請求権がないんだ、こういう解釈をとりまして、これは米韓協定の五条によって、日韓請求権問題に関するアメリカ国務省の口上書によって、そういうことが日本に通告をされておる。この問題をめぐりまして、一体日本に請求権があるのかないのかという問題です。これは相殺されたんだという考え方も生まれておりまするし、また、部分的には相殺をされたことは少なくとも否定ができないという、中川前条約局長あたりの見解もございます。これらの問題につきましては、日本の国が、国民の外交保護権の放棄にとどまらず、個人の請求権も放棄したということが、この段階においては、もしアメリカの解釈どおりに進むとするならば、当然生まれてまいりまするし、また、日本国民が請求権を持っておる権限と韓国民が日本に対して持っております請求権との相殺というものが部分的に生じておるといたしました場合には、日韓交渉の中で出てまいりましたような賠償をめぐる問題が、経済協力というような形の中で、その相殺した残りの数字が、政治的なつかみの数字として四億五千万ドル程度のものが出てきた、こういうことが言えるわけです。これらの点から、対韓国との間における地域別の請求権の問題は、どういう解釈を持っているのか。なお、北千島とか樺太の場合等におきましては、日ソ共同宣言が行なわれまして、請求権の相互放棄が行なわれておるわけでございます。なお、中国大陸、満州等につきましては、これは国際的な問題としてまだ未処理の状態で残されておる。さらに、旧中立国なり旧枢軸国の問題は、タイの一部を除いて、赤十字国際委員会において処理がされまして、一定額以外は日本に返還をされて、これはほとんど完結を見ておるわけであります。なお、連合国の場合には、これが敵性財産として没収され、したがって、これに対しましては、先ほど申し上げましたように、連合国財産の返還等に伴う損失の処理等に関する法律にも関係があると思うのでありますが、平和条約が結ばれる際において、日本から賠償請求をしないようにする。その裏の中で、事実上の問題として、日本の国民が敵性国家に持っておった在外財産が、賠償の担保物件として、この補償のほうに賠償物件としての性格をもって消化されてしまった、こういういきさつ等があるわけでございます。これらの問題をながめてまいります場合においては、在外財産の問題は、地域別に、あるいは各国別に、非常に違った形をとっておると思うのであります。これらの問題を取り上げてまいります場合において、日本政府が、国際的な条約に基づいて、二国間条約に基づいて、その請求を迫らなければならないものもあるし、また、今後において解決を見なければならないものもあるし、あるいは個人の請求権を完全に放棄したことを国がみずから認めているのであれば、それらを放棄せしめた人たちに対する国家としての補償の問題が当然出てまいるわけでございますが、それらの旧領土あるいは外国の地域における問題点は、どのように整理し、どういうふうにいままで進めてきたのかということを、この際外務省のほうから明らかにしていただきたいのであります。

○藤崎政府委員 在外財産の問題が、平和条約に規定がありながら、大部分が未処理の状況にあるということは、御指摘のとおりでございまして、まず最初の中華民国、これは日華平和条約第三条に規定がございます。これに基づく取りきめというものは、いまだにできておらないのでございます。中国大陸のほうは、中華民国の支配が及ぶところについてのみ平和条約は適用するということになっておりますので、支配が及んでいないという関係上、白紙の状態に残っておるのでございます。
 それから韓国の関係で第四条(b)項、これはアメリカ軍があそこでとった処理の効力を承認するという規定になっておりますが、この処理の効力については、いろいろ日本政府としては当初違った考えを特っていたことは御存じのとおりでございますが、結局有権的には、アメリカ軍がやったことなんだからアメリカ政府の解釈によるほかないということで、さっき御指摘になりましたアメリカ政府のとっている解釈に同意するという方針でやっております。ただ、そういう効力を承認したということは、日韓間で四条(a)項の特別取りきめができる場合には当然考慮されるべきものである、こういう立場で交渉いたしておる次第でございます。
 それから陸戦法規の関係を仰せになりましたが、これも全く御指摘のとおりでありまして、伝統的な国際法の上からは、私有財産は尊重されるべきものであるということになっておりますけれども、特に最近の戦争におきましては、それが必ずしも守られておらない。そして平和条約で、そういう昔の陸戦法規に照らして考えれば是認しがたいというようなことまで、容認せざるを得ないような規定になっておる。これは御指摘のとおりでございます。以上であります。

○村山(喜)委員 そこで私がお尋ねをいたしたのは、そういうような原則的な処理の方針というものがきまっておるにしても、それぞれ相手があるわけであります。たとえば台湾の蒋介石に対しまして、あなた方が今日までとっておいでになった行動、そしてこれに対してどのような態度を示してきたのか。また、日韓の問題にいたしましても、この二国間の協定に基づいて財産権の問題については話し合う余地がある、考慮するのだ、こう言いましても、これらの問題に対しまして、まことに冷たい態度をとっているのが、韓国側の状況であります。これは将来、問題が処理される場合においては、台湾と同じような形にならざるを得ないのではないか。台湾も、今日においてはもうすでに放棄されておるといっても過言ではないと思うのでありますが、その点は、あなた方が努力をなされてなお見込みがございますか。

○藤崎政府委員 逃げるわけじゃありませんけれども、実は個々の地域、案件の処理になりますと、地域局の所管になりますので、実際にどういう話し合いをしてまいったか、現状がどうで、見込みがどうかというようなところまでは、どうも的確に答弁いたしかねますので、御了承いただきたいと思います。

○村山(喜)委員 まあきょうは条約局長でございますので、次にアジア局長においでをいただきまして、この問題についてはさらにただしてまいることにして、本日は、この点は保留をさせていただきたいと思います。
 そこで、野田長官にお尋ねをいたしますが、審議会をつくりまして調査審議を進める、その内容でございます。これは御承知のように、補償義務がありやいなやという原則的な問題ももちろん検討を願うわけでありますが、それと同時に、事実の調査、あるいは評価、相手国の調査、あるいはそのほかに、引き揚げ者でないところの旧敵性国家に在外財産を有していた者のそういうような補償の問題、あるいは船舶等を没収された者のこれに対する補償の問題、あるいは個人でない法人所有の在外資産、こういうようなたぐいにわたる部面まで検討を加えるという調査、審議を進めるという方針だとも聞くのでありますが、これらの点についてはいかがでありますか、お答えを願っておきたいのであります。

○野田(武)政府委員 今回御審議を願っております審議会は、先ほど申し上げましたとおり、在外財産問題に関する重要事項を調査、審議するのでございますから、政府といたしましては、まずいま村山さんの御意見にありましたとおり、補償すべきかいなかということは、最も大事な項目でございまして、同時に、その調査、審議の対象といたしましては、ひとり引き揚げ者だけでなくて、広くいま御指摘になりました問題等につきましても、調査いたしたいと存じております。また、その必要におきましては、いわゆるその対象となる外地にも派遣いたしまして、親しく戦後の日本人の持っておりました私有財産の処理の経過、あるいはその結果、これらにつきましても、調査いたしたいと思っております。

○村山(喜)委員 ここで私は、昭和二十年の十一月八日に出されました大蔵省令九十五号、これはGHQの命令によりまして、政令の三十一号でございますが、引き揚げてまいりました者に対しまして、無体財産に対するところの報告、申請、申告を命じられまして、そして申告の期間をきめて、これに従わない者は罰則を設けて適用をするのだということでございました。当時、引き揚げ者は一人八百円程度の費用をかけまして、そして英文と和文と両方のものを出した。それが今では大蔵省の理財局に保管をされて、これは四十七万通をこえたというふうに伺うのであります。この評価額が、GHQの査定によりますと、八兆八千二百六十一億円、こういうふうに聞き及ぶのでありますが、この場合に、これらの問題につきましては他日に譲りますけれども、この無体財産の状況についての調査と、先般徳安委員長が総務長官をしておいでになりました当時努力をされましてできました小笠原群島等の旧島民等のための受領金配分方針の細則、この中には、いわゆる居住権等を含みます無体財産権が、これが積算の基礎になって、一人当たり大体二十八万円平均配分されたと聞くので、そうなってまいりますと、単なる有体財産だけでなくて、無体財産権というものも当然考えられていかなければならないのが、今日の情勢ではなかろうか。ということは、この小笠原群島の旧島民等に対するところの受領金の配分の細則等から見ましても、そういうような方向というものが今日の政府がとっておる方針だろうと思うのでありますが、これらの点については、どういうふうにお考えになっているかを、原則的な問題だけでけっこうでございますので、お聞かせ願っておきたい。

○野田(武)政府委員 ただいまお示しになりました理財局にあります当時の報告書は、承知いたしております。この報告書をどこまで参考にするかということは、これはまたあらためてお答えいたしますが、いま特に御指摘のありました小笠原関係の配分金の基準でございますが、これもお話しのとおり、その当時は、日本国民の有体、無体財産権ということを基準の一つとして加えております。したがって、今回の在外財産の処理にあたりましても、やはり審議会でありますから、これらも十分参考といたしまして、慎重審議の項目として、やはり無体財産につきましても、有体財産と同様に審議するということは、当然だと思っております。

○村山(喜)委員 最後に審議会の構成の問題でございますが、これは第一回の審議会ができましたときに、大野龍太氏が大蔵次官をやめたあと会長になられたわけでありますが、この審議会では何らの結論も出ないままに、結局第二回の三好重夫氏の会長の時代になりました。ここで国会議員等も入りまして、そして御承知のように交付公債が五百億円という見舞い金の措置がなされました。ところが、この審議会の構成のメンバーを振り返ってみますと、もうなくなられた名古屋大学の山下康雄教授あたりは、憲法学の立場から見て国家補償の義務ありという論を張られた方ですが、こういうような学者は、ややもすれば敬遠をされる、あるいは拒否される。そして佐藤功教授のような、これは補償の義務はないという学説をお立てになる方が、政府によって任命をされる。こういうようなことで、今日までの審議会の模様を見てまいりますと、この構成のあり方というものについて、外資同団体関係の方に言わしたら、きわめて不可解な存在として写っているようであります。そこで今回は、この審議会を構成される場合に、学識経験者で構成をされるやに承っているのでありますが、学識経験者だけで構成をされるのか、それとも学識経験者を中心にして、国会議員やあるいはそれらの団体の代表等も参加する中で審議会をおつくりになるのか、そのつくり方によりましては、これはいろいろな考え方が浮かんでくると思うのであります。これは私の個人意見でありますが、第三者の機関という形で、この問題については、いわゆる国に補償義務ありやなしやというきわめて重大な憲法の問題をめぐる問題に発展をしなければならない、そういうような問題をかかえておると同時に、国際法的な立場からの問題もございますので、やはりこの学識経験者という人が、この審議会の構成メンバーになるべきである、こういうように考えている、わけでございますが、その場合に、いままでのような片寄った人選の方式ではなくて、やはり補償義務ありという主張をされる学者の方も、あるいはないという学者の人も、そういういろいろな立場の人を入れなければ、そうしてだれが見ても国民が納得し得るような公正な結論が出た、しかも審議会のいわゆる答申というものに期待しております全国百万戸の引き揚げ者、四百万人に及ぶところの引き揚げ者の人たちに満足を与えると同時に、九千万国民に対して、なるほどこういう考え方のもとに出されたものは、これは当然やってやらなければいけないじゃないかという気持らを持たせるような、そういう力強い審議会というものをつくらなければならないのではないか、このように考えるものでございますが、審議会の構成については、どういうお考えをお持ちであるかをお聞かせ願っておきたいのでございます。

○野田(武)政府委員 審議会の委員の、いわゆる審議会の構成人数その他につきましては、非常に事柄が重要でありますだけに、またその人選につきましては、いまお話しのとおり、きわめて公正な結論を得たい、こういうことを思っておりますから、目下非常に慎重を期しております。大体二十名くらいという考え方でおりますが、特にいま村山さんの御意見、非常に有力な私の参考意見として拝聴いたしました。全部が学識経験者であるか、またはどういう方面の方を入れるかということは、今後でございますが、少なくともやはり学識経験者は入っていただいて、そしてその中には、国家補償の必要はないという学者だけ入れるとか必要であるという学者だけ入れるということになりますと、これは大体前提においてその学者の御意見は相当わかっておりますから、そういう一方的に偏した方を入れても、実は審議会の目的というものは達成できません。私は、いまの学識経験者の場合は、おのおの主張が違う人があれば、むしろ進んで両方の主張の方、つまり甲説とか乙説、甲の主張の方も乙の主張の方もひとつ公平に入っていただいて、そこで論議を尽くし、審査をしていただくというのが、結論を得る場合には一番公正を期することができると思っております。そこで重ねて申し上げますが、いま村山さんの御心配になっておるような学識経験者の一方に偏した人だけを入れるということは、毛頭考えていないということを、特に申し上げておきます。

○村山(喜)委員 審議会の構成の問題につきましては、まだコンクリートになっていないようでございまして、いまからそれぞれの委員の人たちの意見等も出てまいりましょうし、また、私も先ほどの質問を保留した点もございますので、また他日つけ加えて要望を申し上げる点も出てまいると思いますが、きょうは、時間の関係で、このあたりでおきたいと思います。


 第047回国会 衆議院予算委員会 第5号 昭和三十九年十二月三日(木曜日)

【発言順】
 委員   石野 久男
 大蔵大臣 田中 角榮
 委員長  荒舩清十郎

○石野委員 いまの問題はとにかくまたあとで質問するとしまして、いまそれはおきまして、先ほどの四千五百万ドルの焦げつきの処理の段階のときに、申し合わせの中ではこういうようになっているわけでしょう。韓国は一九六一年一月末の債務四千五百七十二万九千三百九十八ドルを確認し、これを早急に決済すること、というのが第一項になっているわけですよ。ですから、われわれは、あり余る金を持っているわけじゃないのだから、しかも四千五百万ドルもという金を十何年も焦げつかしたままになっている。そういうときに、その問題の解決もしない、そしてその二千万ドルというのは、先ほどの(ハ)項の条項でもないんだというわけでしょう。そうすれば、(ハ)項の条項でなければ、この四千五百万ドルの焦げつき債権との関連の中でわれわれは金の出し入れを考えなければならないのですから、そういうことを全然考慮しないでやっているというところに、私は政府の考え方について疑問を持つのですよ。韓国の国内事情が非常に苦しいかもしれないけれども、日本では中小企業は倒産倒産で、次から次へぶっ倒れておるのですよ。一日に十何軒もつぶれていっている。それに対して手当てをする金がないじゃないですか。国内におけるところのわれわれの仲間がみんな倒産してつぶれていっているときに、何で隣ののきわめて不安定な韓国へ――しかも、話によればそういう金はみんな政治資金になっちゃうだろうといううわささえも言われているのですよ。何でそういう朴政権の政治資金になるような金を、約七十億円も八十億円にもわたるようなものをやらなければいかぬのか。こういうところをまたはっきりしなければ、これは国民は理解しませんよ。

○田中国務大臣 私は、外交上の問題でございますし、外務大臣でもございませんから、あまりはっきりしたことを申し上げたくございません。しかし、あなたがそのようなことをいたけだかになって政府に申されるということになりますと、私も閣員の一人として私の責任で申し上げます。
 ただ、四千五百万ドルの焦げつき債権というものに対して、これをすぐとらなければいかぬ、これは国の債権でございますから、国民の債権でございますから、これはもう早く回収しなければならぬ、これはわかります。わかりますが、単に日韓間の問題だけではなく、日本とインドとの間、日本とアルゼンチンとの間にも、いろいろ焦つき債権の問題とか、またたな上げの問題とか、債権処理の問題とか、国際的な問題はたくさんあるのです。これはお互いが友好親善の状態において協定をして、こういうことは円満に解決をしておるわけです。しかも、韓国との間には、四千五百万ドルもとりなさい、南北の問題が円満に終わらないうちには日韓交渉はやめなさい、とにかく二千万ドルもやる金があったら中小企業に出しなさい、こういうことを国民がそのままに受け取られるとすると、そのとおりかとも思うかもわかりません。しかし、日本と韓国の間には、韓国は日本に対して十億ドル以上の要求もあるのです。その中には、かつて日本人として、軍人として、徴用工として、何年間も払わなかった給料を一体どうするんだ、九十万、百万に及んだ日本人として殺されたとか死んだとか、そういう人の遺族扶助料は一体どうなんだというような、日本に対するお互いに両国の間で話のつかない問題もあるのであります。でありますから、少なくとも十何年間にわたって日韓交渉はえんえんと続いておるのでございますから、私は少なくともそういう事実を全然隠蔽をして、日韓交渉に対しては四千五百万ドルをただとりなさい、こういうことでは国際的にはうまくいかないのであります。少なくともお互いはそういうことを知らないわけはない。事実、われわれの時代に行なわれたこういう事実は十分承知をしておるのでありますから、少なくとも政府は、その意味において、四千五百万ドルの債権は今日まで回収しないからといって、国民の利益をはからない行為ではないという観点に立っておるのです。

○荒舩委員長 ごく簡潔に・・。石野久男君。

○石野委員 いまの大臣のなには非常に怒りを持ったものでございますが、私どもは、いまの大臣のそういう話を全然無視しようとは言わない。ただ問題は、日韓会談という問題の進め方の中には、朝鮮問題は朝鮮を統一したあとでやりなさいということをわれわれは言っているわけですよ。だから、そういうときに問題が提起されるときにはまたおのずから違います。しかし、いまの段階では、むしろ朝鮮におけるところの運動というのは、ここでは触れませんけれども、やはりアメリカのアジア政策、そして極東におけるところのいろいろな諸情勢の中で朴正熙を支持するという、そういう内容が日韓会談の中にあるから、だからそういうような形で日本の血税がそこへ注がれるということについてはわれわれは疑義を持つし、それは間違いだ、こう言うわけです。平和の姿勢を示すために、またほんとうにわれわれの友好関係を進めていくためにもそれは間違いだ、こういうふうにわれわれは考えておる。私は先ほどから何べんも言っているように、かつての日本と朝鮮の関係は大いに考えなければいけない。その間に行なわれている問題についての責任は感じなければいけません。けれども、そのことが将来の日本と朝鮮の友好関係を阻害するような問題になったり、それがいたずらな弊害をもたらすようなことをやってはいかぬから、私たちはそういうときにむだな金を使っちゃいけないと言っているのですから、これは政府としてもよく理解しなければいけないと思います。

○田中国務大臣 しいてお答えを申し上げれば、私もわからぬことはありませんけれども、政府の考え方も理解をしていただきたい。これは、サンフランシスコ条約のときに全面講和でなければ絶対いかぬ、こういった議論と私は非常によく似ておると思います。しかも、あなた方もいま南北朝鮮を統一できる具体的なお考えがございますか。――いや、けっこうですが、どうもそういう実際できないことを前提にしながら、あえてできるような錯覚を起こさせながらこれを延ばしていく、じんぜん日をむなしゅうする。政府はそういう施策をとりません。

 第048回国会 衆議院予算委員会 第15号 昭和四十年二月二十日(土)午前十時十五分開議

【発言順】
 委員       久保 三郎
 内閣官房長官   橋本登美三郎
 外務大臣臨時代理 田中 角榮
 委員長      青木 正

○久保委員 最初に官房長官にお尋ねしたいのでありますが、椎名外務大臣が韓国で本日日韓基本条約の仮調印をされるというのでありますが、それは事実でありますか。

○橋本政府委員 日韓基本条約について、きょうの午後二時の予定でイニシアルが行なわれることになっております。

○久保委員 きょうの午後二時に調印されるということでありますが、その内容は公表されましたか。しかも憲法七十三条については、すでに当委員会で先般論議があったとおりでありまして、この七十三条の精神は、事前に国会の審議をしてもらうということが精神であります。ところが、この午後二時に、いま調印されるというのに、何ら公表もされないままに椎名外務大臣が処理するということは、まさに秘密外交だと思うのでありますが、どうお考えでありますか。

○橋本政府委員 きょう外務大臣が署名されますのは、いわゆる調印ではありませんで、イニシアルでありますから、その必要がないと考えております。

○久保委員 イニシアル、いわゆる仮調印、それならば、その仮調印されたものは変更できるとか、あるいは過去にそんなものがあったかどうかですが、これは、おそらくないはずです。仮調印をてこにして本調印に持っていくということが、いままでの外交的な慣例だし、また、そういう筋だと思うのです。だから、イニシアルであるから、あるいは仮調印であるからそういう必要がないということは、はなはだしく形式論にとらわれた、内容的なものではなくて、言うならば秘密外交の隠れみのに使われる、これであってはならぬと思うのですね。これについてはどのように考えていますか。

○橋本政府委員 御承知のように、本日イニシアルが行なわれますのは基本条約だけでありまして、全体のものにつきましては、なおこれから折衝を進められるわけでありますから、まだ全体の条約が仮調印、もしくは調印という形式をとっているのでありませんからして、御質問のような意味での何はないように考えます。

○久保委員 本日仮調印される基本条約なるものは、いままで政府がこの国会を通して繰り返し繰り返してきた請求権の問題、あるいは漁業権の問第、竹島問題、こういうものを一括して解決する、こういうことでありますが、単にイニシアルであるからそういうものを分離してかかろうということは、国会軽視もはなはだしいではないかとわれわれ思うのですが、その点はどうですか。

○田中国務大臣 今度椎名外務大臣が訪韓中に行なわれます日韓基本条約草案なるものは、具体的に日韓の間にわだかまっております請求権とか、その他のものを解決すべき条約案ではありません。日韓の友好を再確認をするというような基本的なものでございまして、この基本条約草案に対して合意に達しましたので、イニシアルが行なわれるということでありますが、日韓問題につきましては、再三申し上げておりますとおり、一括解決という方針を変えておりません。ですから、いままで国会で問題になっておるようなもの、また日韓間に解決を要する諸問題が一括解決をせられましたときに条約調印を行なって、国会の批准を求めるという体制になるわけであります。

○久保委員 日韓間のいわゆる紛争というか、問題点の一番大きいのは、ただいま私があげた、たとえば請求権の問題、あるいは漁業権の問題、竹島問題、こういうものが今日まで政府と韓国とがやってきた問題解決を延ばしてきたもとではないでしょうか。そういう基本的なものを解決せずして、基本条約はあり得ないではないですか。そういう根底にあるところの重大なものを切り離して、条約というか、一つのもので言うならば前文的なものを先に書いて、あとのものはあとだということでは理解しがたいと思うのですね。そういう解決は、言うならばごまかし的な一つの解決ではないか、こう思うのです。しかも、一括解決がこれからだというが、一括解決になるかどうかわからぬじゃないですか、それは。そういうものに仮調印すること自体が私は不見識だと思う。しかも、韓国内部においても南北統一の問題が今日大きくクローズ・アップされ、しかもこの椎名外相の訪韓に対しても、あるいは仮調印というか、交渉に対しても、御案内のとおり韓国内部にも大きな問題があるわけですね。そういうときに、基本的な問題は、両国の事情というようなことで逃げて、前文的なものをもって基本条約というのは筋が通らぬと私は思うのですが、いかがですか。

○田中国務大臣 日韓基本条約草案にイニシアルが行なわれるということでありますが、これの内容は後刻公表せられると思います。これは、日韓問題を一括解決をするという政府の基本方針とは全然変わっておりません。日韓の友好的な立場をお互いが相互確認し合うということを基本にいたしておりまして、これは、ただいま御指摘になりましたように、竹島の問題、漁業の問題、日韓請求権の問題等、一括解決がせられましたときに一括して国会に御審議を願い、批准をいただくわけであります。しかも、その後初めて発効するわけでありまして、日韓基本条約草案に対してお互いが合意に達したという確認を行なうだけでありますので、これが日韓間の問題一括解決の基本方針と相違するものではございません。

○久保委員 いまの御答弁では、きょう仮調印する基本条約というものは、言うならば、今後私があげた幾つかの大きな問題、こういうものを解決してから初めて発効するのだというお話でありますが、それじゃ話は逆じゃないでしょうか。何を取り急いでそういう仕事をせにゃならないか。どういう内容かわかりませんけれども、いわゆる政府が仮調印する基本条約なるものをなぜそんなに急ぐのだ。あとの漁業権、請求権、竹島問題等々、そういう一括解決をしなければならないものが解決して初めて発効する、あるいは国会の審議に付すということなら、何ゆえに椎名外務大臣が訪韓してまで、そういう重要な問題を除いて、しかも直ちに発効し、国会の審議にかけるというものではないのに何を急いでおるのですか。どういうわけですか。

○田中国務大臣 日韓間の問題は、隣国友邦でありながら、十数年の長きにわたって交渉を続けておりながら、なかなかまとまらなかったという歴史を有しておるわけであります。この過程においてまず起こりましたものは、一括解決という基本方針は堅持しながらも、大平・金メモの交換が第一にござまいした。今度の基本条約草案というものに対しては、両国の間においていろいろ検討せられておったものが、時あたかも椎名外務大臣の訪韓を契機にして、いろいろお話をしたり、意見の交換をしておる過程において合意に達したということで、これをお互いが確認し合うということでございまして、国会の批准を得ることにつきましては、すべての問題が解決をしたときに一括して国会の批准を求めるということでございますので、何ら基本的な問題とは相反しないわけであります。しかも、これは両国のために友好を確認し合うというような基本的姿勢に対して確認し合うということでありますので、好ましいことだと考えます。

○久保委員 そういう何というか。基本条約とはいうものの基本的な条約ではないようですね。そういうものをなぜ公表できないのですか。

○田中国務大臣 もう五分ばかりしたら公表できると思います。これは、一時半か二時に両国で合意に達し、最終的に態度をきめてイニシアルを行なうときに発表するというように聞いております。

○久保委員 先ほど申し上げたように、条約の締結というか、そういうものは、憲法の精神からいうなら事前に国会の審議に付すというものがたてまえなんですね。もちろん、条約の案文は両国合意の上にこれはできるわけですが、少なくともいままで当委員会を中心にして日韓の、いわゆる椎名訪韓に対しても具体的にどういう条約を結ぶかはつまびらかでなかった。わがほうの姿勢についてもあまりはっきりしてない。しかも、これはいま調印してから初めて公表する。何か国民大衆にも全部知らせぬで、そうして調印だけ済ましてこよう。しかも調印してきたものは、言うならばイニシアルだからしてあと回しにして、漁業権や請求権が一括それがきまったときに初めて国会の審議に付そう、こういうばかばかしいやり方は、私は国会軽視もはなはだしいと思うのです。どうですか。

○田中国務大臣 この基本条約草案に対するイニシアルが行なわれた瞬間、つまり二時二十分に公表するということになっております。いま申し上げたように基本条約草案がいわゆるイニシアルが行なわれたもの、そのものは国会で大体御発言になり、政府側からも絶えずお答えをしておるものでございます。これはもう発表すれば、ああそうか、こういうものでございまして、両国の友好親善という基本的な考え方を確認するというのが基本条約草案でございます。でありますので、この草案に対して両国外務大臣が合意に達したということで、草案に対する確認ということがイニシアルでございますから、これは、一括解決をするという政府の在来の基本方針の範疇にあるものでありまして、国会の審議権を侵したり、そういうものではございません。

○久保委員 あなたの解釈によれば国会の審議権を侵したものではない、こうおっしゃいますが、百歩譲ってそうだとしても、日韓問題を解決する基本的な条約ではないということははっきりしましたね。日韓問題を解決するところの基本条約の仮調印ではない。そうですな。重要な問題を残したままで、何か知らないが、宣言的なものでもおつくりになるのかもわかりません。発表がないからわかりませんが、少なくともそういういいかげんな――と言っては語弊があるが、軽い意味の、あとからでもいいのだというものを何で急ぐのか、急ぐ理由を聞きたいのですよ。

○田中国務大臣 お互いのためによきことであれば、前向きな姿勢をとるべきことは当然であります。これは、日韓問題だけを言っておりますが、とにかくある国と漁業交渉をやっておる。またある国と通商航海条約をやっておる。これは非常に長くかかっておる。しかし、両国の基本的な態度を確認し合うために、お互いに仲よくしようとか、お互いは左の事項を確認するというような合意に達しましたときに、その草案に対してお互いが確認し合う意味でイニシアルを行なうということは、外交上あることでありますし、当然そういうことをしておるわけであります。ただ、日韓会談に対しては一括解決ということを申し上げておりますし、またその覚悟でございますが、その過程において、なぜ一体こういうことをやるかということに視点を置かれての発言でございますが、十数年間もやっておるのでございまして、まあ合意に達したものだけでもお互いが確認し合った上で、これが発効するのは、政府が常に申し上げておるとおり、日韓間の問題は一括解決、こういう基本的な姿勢をくずさないということであれば、国会でいままで申し上げておるとおりの行動をとっておるわけであります。

○久保委員 いまの田中大臣のお話では、どうも私の質問と合っていないですね、ものの考え方が。たとえば一括解決というが、この日韓問で会談が長いことかかっているという原因は何であろうかということであります。これは、不信感をなくすとかなんとかいって、そういうもので基本条約とか友好条約的なものを結んでくるのだというような意味にいまとれましたが、よしんばそれであるにしても、その根底に横たわるところの漁業権、あるいは請求権、あるいは竹島の問題、こういう問題が言うならば不信感の土台になっているわけですね。両国とも問題なんです。そういう問題を抜きにして、条約にはどういう文言で表現するかわかりませんけれども、単なる修飾辞を連ねたものが条約というならば、これはやらぬほうがいいのです。そうでないでしょう。それじゃ、ひとつ聞きますが、この仮調印するところの、いわゆる朝鮮における韓国の管轄権の問題ですね。管轄権の問題はどういう表現をしているのです。

○田中国務大臣 一括解決をいたしますと、こう政府の方針を明らかにいたしております。これに対して背反をするかどうかという問題は、基本条約等を外務省が締結をして、そうして、これを国会に分離批准を求めるということになると、政府の言行不一致ということになりますが、そうではなく、十数年間も日韓交渉が行なわれておる過程において、お互いが合意に達し得るものに対しては、メモを交換しておくとか、そういうことは一括解決という基本的な態度と何ら背反するものではない、こういう考え方をとっておるわけであります。この内容そのものは一体どうか、こういうと、これは、両国間の問題でありますので、いま合意に達しつつあるわけであります。それでイニシアルが行なわれるというときに、最終段階において合意に達するわけでありますから、確認をするわけでありますので、もうしばらくお待ちいただければ発表できると思います。

○久保委員 一括解決というのは、国会の審議あるいは批准、そういうものが同心なら一括解決だという解釈をとられておりますが、それじゃ、イニシアルあるいは仮調印というのは、その前段行為としてだけの値打ちなんですか。そうですが。そうだとするならば、そんなものは先ほどから何回も繰り返しているように、根底に横たわる大きな問題が解決しないで、うわべだけの問題を解決したようなかっこうで、これはだめじゃないですか。そうなると韓国に対しての不信行為じゃないですか。大体請求権とか漁業権とか、そんなものを解決しなければ、うわべのほうの今度仮調印したものも発効しない、審議にも付さないということでは、韓国に対しての不信行為じゃないですか。問題は、韓国との関係は重要問題が根底にあるのです。単なる不信行為という表現、文言上の表現じゃないのです。その問題を解決しなければ何ぼお互いは友好親善とか言っても友好親善にはならないのですよ。そうでしょうが。だから、ほかの国の条約や何かの手続とは若干これは違う。若干でなくたいへん違うということです。しかも国会に対して再三再四、繰り返し繰り返し一括解決を主張しているが、まあまあうわべの皮のほうだけやっておこう、中身はあと回しだ、国会の審議にも付さないのだということは、国会軽視もはなはだしいし、ごまかしです。しかも、あなたは条約については発表がないと言うが、事前に発表しない約束ですか、それは秘密事項ですか。

○田中国務大臣 きょう二時二十分に発表いたすということであります。

○久保委員 それじゃ、いずれにしても二時二十分には全文を発表するのですね。

○田中国務大臣 イニシアルが行なわれれば、合意に達したものでございますから、その要綱を発表するということであります。

○久保委員 それじゃその二時二十分まで、押し問答でも困りますから待ちますが、そのとぎには即刻発表してほしい。それまでやりましょう。いずれにしても私たちの考えているのは、そういう基本的なものを解決しないで何が基本条約だと言いたいのですよ。しかも、いままで再三再四ここで繰り返して事前に尋ねても、基本的な態度もあまり明確に示されないまま、椎名大臣が何か知らぬが、政治的にはあまり資格のない資格で向こうに行って――椎名さんはいまのところ政治資格はありませんよ。そういう人がやってくる。いま田中大臣のお答えでは、それほど無理するような条約でもなさそうなんだが、これは発表してから再び申し上げましょう。
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○青木委員長 久保委員に申し上げますが、先ほど久保委員の御質問中にありました日韓共同コミュニケ並びに日韓基本関係条約案要綱が二時二十分になりましたので発表されましたので、この機会に政府の説明を求めてはいかがかと存じますが……。

○久保委員 どうぞ。

○青木委員長 外務大臣臨時代理田中角榮君。

○田中国務大臣 日韓共同コミュニケをまず読みす。
        昭和四十年二月二十日
     日韓共同コミュニケ
 椎名悦三郎日本国外務大臣は李東元大韓民国外務部長官の招待により、一九六五年二月十七日から二十日まで大韓民国を訪問した。両外相はこの間三回にわたり友好的な雰囲気のなかに会談を行なった。椎名外務大臣はこのほか、朴正煕大統領に謁見し、李考祥国会議長、丁一権国務総理および張基栄副総理兼経済企画院長官を表敬訪問した。
 椎名外務大臣と李外務部長官は現下の国際状勢ならびに現在進行中の日韓全面会談その他両国が共通の関心を持っている諸問題について意見を交換した。両外相はアジアを初め世界のその他の地域のすべての人々のために、正義と自由と繁栄とにもとずく平和を維持することが両国の共通の目的であり、日韓全面会談の妥結は日韓両国にとって著しい利益であるばかりでなく、自由世界全体のためになるものであることを再確認した。
 季外務部長官は過去のある期間に両国民に不幸な関係があったために生まれた、韓国民の対日感情について説明した。椎名外務大臣は季外務部長官の発言に留意し、このような過去の関係は遺憾であって、深く反省していると述べた。椎名外務大臣は、日韓会談を進めて両国間に新しい友好関係を樹立していくことこそが、正義と平等と相互の尊敬とに基づく両自由国民の繁栄をもたらすものであるとの強固な信念を披瀝した。
 両外相は日韓全面会談の最近の交渉の経過を検討した。両外相は正当かつ公正な基礎において会談を速やかに妥結させるため、最大限の努力を払うとの固い決意を表明した。
 両外相は基本関係条約案に本日イニシアルがなされたことに満足の意を表明した。両外相はこのことが両国間のその他の懸案を全面的に解決するための重要な一歩となると意見が一致した。
 両外相は在日韓国人の法的地位ならびに待遇に関して現在進行中の討議が結実し、これによって在日韓国人が平和な幸福なそして安定した生活を営なんでいくことを希望した。両外相はさらに、この問題の円満な解決が日韓両国民間の友好増進のための重要な橋渡しになることを認めた。
 両外相は両国間の漁業問題を合理的に解決することが望ましいと述べ、さらにこの解決が両国の漁民の利益に合致したものとなるべきであると述べた。両外相は、この問題の妥当な解決を探求するために両国の農相会談ができるだけすみやかに開催されることを希望した。
 両外相は両国間に健全で相互に利益のある貿易関係を維持することがきわめて重要であることを再確認し、両国政府がより均衡した基礎で相互間の貿易を拡大するため緊密に協加すべきであると意見が一致した。
 このことを念頭において、両外相は、両国の輸出力増強の可能性の問題を含め両国間の貿易関係を討議するためできるだけ早い機会に会議を開くことに意見が一致した。
 椎名外務大臣は季外務部長官に対し、日本国を訪問するよう招請した。季外務部長官はこの招待を喜んで受諾し、できるだけ早く訪日したいとの希望を述べた。
 両外相はこの会談が非常に実り多いものであり、両国間の諸懸案ならびにその他共通に関心を持っている諸問題について相互理解を深めたと意見が一致した。両外相はさらに、季外務部長官が日本国を訪問した際に行なわれる会議で討議を続けることに意見が一致した。以上が日韓共同コミュニケであります。
 なお、引き続いて日韓基本問題条約案の要綱について申し上げます。
  前文1) 両国民間の関係の歴史的背景と両国間の関係正常化の希望との考慮
   (2) 国連憲章の原則に適合する協力
   (3) 桑港平和条約と国連総会決議一九五(III)への言及
 本文 第一条 外交領事関係の開設。大使の交換と領事館の相互設置
    第二条 一九一〇年八月二二日以前に締結された旧条約がもはや無効であることの確認
    第三条 韓国政府は、国連総会決議一九五(III)に示されているような朝鮮にある唯一の合法的な政府であることの確認
    第四条 国連憲章の原則の尊重とそれに基づく協力
    第五条 通商航海条約の締結のための交渉の開始
    第六条 航空協定の締結のための交渉の開始
    第七条 批准条項
 以上であります。

○久保委員 本件については、時間の関係もありますし、全文が発表されたわけじゃないようでありますから、後刻に譲りまして、先ほどの国鉄の予算について続けます。

 第048回国会 衆議院外務委員会 第10号 昭和四十年三月二十七日(土曜日)

【発言順
 委員    穗積 七郎
 大蔵大臣  田中 角榮
 大蔵事務官
 (理財局長)佐竹 浩
 委員長代理 高瀬 傳

○穗積委員 大蔵大臣御苦労さまですが、あなたは、ちょっと聞いておきますが、時間はどのくらいありますか。

○田中国務大臣 四十分というお約束です。

○穗積委員 それでは、日韓会談の中でいわゆる請求権に関する部分について、これは外務大臣、大蔵大臣、両大臣が同時にいらっしゃってお尋ねいたしますと裏表よく事理を明らかにしていただけるわけでありますけれども、おもに大蔵大臣に関する質問だけ、しかも、時間がありませんから、整理いたしまして、そのうち数点だけお尋ねいたしたい。
 あなたは直接日韓会談の折衝には当たっておられませんけれども、いわゆる最近のスタートラインというものは金・大平メモ、これによってこの問題が解決されたと称しておる。それは基本線でありまして、いまもこの質疑の中に出ておったんですが、そこで、それ以後のことについてお尋ねいたします。大蔵省といたしましても、この金額並びに法源、それが妥結いたしました場合の北との関係、それから南北を含みます人民との関係、これらについては十分御検討の上で、これから最終的な承諾を与えるか、賛成するか反対するかの態度をきめられると思う。したがって、額の問題だけではなくて、すなわち、今後その決定によって他に与える影響、そういう点も十分お考えの上でこれに対する大蔵省の態度をきめられると思う。
 私は順を追うてお尋ねいたしますが、まず第一にお尋ねいたしますけれども、いわゆる請求権なるもの、これに伴う処置が経済協力という金・大平メモに化けて変わったわけです。これはなぜかというと、実は国会において特に日本国民にどういう性質のものを幾ら韓国に払うということを説明することができないから、大づかみに、初めは経済援助と言ったのを、韓国の要求によって協力という名前に変えた。ところで、お尋ねいたしますが、本来これを払うべき義務上の源、すなわち、向こうから言えば請求権の権利の源であります。これは一体、人民が持っておるものでありましょうか、政府が持っておるものでありましょうか、あるいはまた政府と人民と両方が持っておるものでございましょうか、その点を第一にお尋ねいたしておきたいと思います。

○田中国務大臣 韓国国民の私人としての債権であると思いますが、しかし、その当時の債権というものは日本国民としてのものでございます。その後日本国から分離をして韓国が新しく誕生したわけでございますので、国民の財産、また国民の日本政府に対する給与の未払いとか、そういうものに対しては、韓国の政府と日本政府との間に交渉がまとまった場合は、韓国の国民と韓国政府の間で話が残るわけでございまして、日本政府及び韓国政府の合意が行なわれた場合には、私がいま申し上げたように、向こうの国民から日本政府に対する要求というものは消滅をするという考えでございます。

○穗積委員 そういたしますと、この対日請求権の権利の源は、一切韓国政府が総括をして握っておる、韓国政府にのみ帰属するものである、このような御解釈のようでございますが、はたしてさようでございますか。いささかそれでは、国際通念から見まして、日本の大蔵大臣あるいは日本の佐藤政府はそれで納得し、そういう理解をされましても、これは外へは通用しないお考えであろうと私は思いますので、その点を念のためもう一度確かめておきたいと思います。

○田中国務大臣 請求している内容には、韓国政府のものもあり、韓国人のものもあるわけでございますが、これは一つの国家が分離をしたという特異な状態によって起こった現象であります。でありますから、現在の段階においては国民各自が日本政府に対して請求の権利を持っておるということでありますが、これは非常に確認等むずかしい問題でもございますし、両者の間にも見解の相違がございます。そういう意味で、日韓交渉がまとまって両国の政府間に合意が行なわれた場合には、韓国人の持つ日本政府に対する請求権というものに対しては、韓国政府と韓国国民の間に解決の話が進めらるべき問題であって、両国の政府間において正式な交渉が成り立ったときに、日本政府がその後韓国国民の持つ対日請求権というものに対して責任を負わないということだと思います。

○穗積委員 それはどういう法理によって、だれとだれがどこで話をされてそういうことをおきめになりましたか。

○田中国務大臣 それは国際通念上当然のことだと思います。

○穗積委員 国際通念上は政府と政府と言われる。しかも、韓国の場合におきましては、クーデター政権がだんだんとできまして、法律的フィクションとして、この政権は継続されたものである、サクシードされたものであるということをあえてあとのクーデター政権が強弁をいたしまして、そして李承晩当時からの国家の持っておる権限あるいは財産等はすべて今日の朴政権に継承されておるものであるということを言っておる。それが正しくあるかどうかはわれわれ大いに疑問があります。したがって、今日の朴政権の国際法上のシチュエーションといいますか、合法的な地位につきましては、これはまた別途に外務大臣あるいは総理にお尋ねいたしますが、いまの議論といたしましては、終戦直後から韓国政府に所属いたしておりました財産並びに請求権――債権ですね、こういうものがいまの政府に継承されて、対外的な関係においては、日本政府との間で話し合いをして、そこで合意に達したものはそれによって一切包括される。ところが、個人財産、個人債権、あるいはまた人民個人の持っております請求権、これは、いまのお話で、日本側としてはそれが有利でありますから、そのように解釈して、これで妥結したものだ、すなわち、日本政府がかつて請求権問題について交渉の要綱として示されたように、この妥結を見るならば、いわゆる韓国政府並びに韓国人民の対日請求権というものは完全かつ最終的に妥結するものであると解釈する、こういう方針を決定された。その方針がはたして一体いつどこで了承されたのか。その了承を無視して、韓国側の人民が自分自身固有に持っておる対日請求権というものを行使しようということに対して責任をのがれる何らの理由もこの話し合いによってできてはいない、このように解釈するのが国際法上正当かつ公正な態度であると私は考えます。したがって、ただいまのせっかくの御答弁でありますけれども、あなたは日本からなるべく少なく韓国並びに韓国人民に金を払うようにしたいという立場におられる大蔵大臣ですから、今度の交渉が妥結したならば、それによって政府並びに人民一切の対日債権は解決するものである、こういう態度をおとりになることについては、あなたのお気持ちはわからぬでもない。しかし、それを独断されまして、これ以上のものは出さないのだ、したがってそれ以外のものにも出さない。すなわち、これから問題になりますのは、特に北側にあります朝鮮民主主義人民共和国政府並びに人民に対するわれわれ日本国並びに日本政府の責任の問題、債務の問題でございますが、この義務の問題を討議いたしますために、このようなものでは、私は、国際法上、これをもってどの国にも当てはまる、どの人にも当てはまる一つの正しい法理の解釈であるとすること、あるいはそういう態度をもって臨むことは、許さるべからざる問題が将来生ずることは火を見るより明らかであると考えるわけです。そういう意味で、あなたの御主観はわかりますけれども、あなたの主観は必ずしも法律的にこれをジャスティファイすることはできない。したがって、対外的にもこれは証明することはできない。私はそのように思う。日本国民である私も、日本政府はそういう解釈をとられても、その解釈は誤りであると永久に指摘せざるを得ないのでございます。まして、請求権を持っております韓国の人民一人一人がそのようなものに服する義務は法律的に国際法上何らございません。したがって、それに対する説明をひとつもっと明快にやってもらいたい。

○田中国務大臣 私は、私がいま申し上げておることが国際法上十分通用する、こういう考えでございます。もう一つは、私は日本の国務大臣でございますから、日本人民の利益を代表するということでありまして、国民の利益を代表するためには最善の努力をいたしておるわけであります。しかし、それが国際法を無視するというようなことになりますとたいへんでありますが、私が申し上げたいままでの理論は国際法上も十分通用する、こういう考えでございます。あなたがいま申された中に二つございます。一つは、韓国の政権下にある南鮮の国民――人民と言われておりますが、韓国国民と韓国政府の問題、もう一つは、北鮮の地域内におる北鮮国民という問題、この二つに分けておりますが、私は、韓国の施政下における国民と政府の関係は、日韓両国政府において合意が成立すれば、当然個人の日本に対する請求権も消滅するという考えは正しいと思います。このあとの問題は、韓国国民と韓国政府の間にゆだねらるべき問題だというふうに解釈しております。北鮮に対しましては、これは現在白紙でございまして、政府もまだこれに対する見解に対しては御答弁をしておらぬわけであります。

○穗積委員 私は、その国際条約上の御解釈は誤りである、かように考えます。しかし、その問題をいまここであなたと私の間で論争をしておるいとまもありませんし、それからまた、場所といたしましても適当ではございませんから、あらためて外務委員会におきまして条約論争は別個にやりたいと思う。決してあなたの説明を認めたわけではありませんから、明確にいたしておきたい。
 そこで、お尋ねいたしますが、請求権に対するわれわれの日本側からの支払い、それは一体だれに払うものでございましょうか。手続上はかの国の政府を通じまして日本政府から払うわけでございましょう。しかしながら、最終的にこれを払う相手、すなわち、われわれが国を通じて相手に払う義務、相手の受け取る権利、相手から見れば権利ですが、その権利は韓国政府にのみ所属するものではございません。したがって、どういう見当によって今日は五億ドルというのが計算されておるか、これはまあ後の問題といたしまして、その五億ドルの支払いが最終的に帰属すべきもの、すなわち、その請求権を持っておる、所属しておるもの、これは一体どこでございましょうか。

○田中国務大臣 請求権の帰属ということに言及されておりますが、今度の大平・金了解というものは、そういう解決の方法をとっておりません。非常に新しい方法をとっておるわけです。有償・無償五億ドルを供与することによって、韓国人の持つ、また韓国政府の持つ対日請求権は随伴的なものとして消滅する、こういう非常に新しい、現状に適合する方針がとられましたので、この請求権の帰属というような問題に対しては、いま考える必要はないと思います。この問題は、もちろん、先ほど申し上げたように、韓国政府と韓国の国民との間に起こる問題でありますので、韓国政府と国民の間に十分討議がなされるものと考えます。

○穗積委員 だから、あなたのいまの御答弁は、先ほど私が当初に指摘いたしましたように、論理的矛盾をみずから暴露されておるわけでございます。今度の大平・金メモというものが、すなわち韓国並びに韓国人民が日本に対して持っておる請求権処理の問題として解決されたものであるならば、その名称のいかんにかかわらず、それによって解決するでしょう。そうではないのです。それでは日本国民に、五億ドルないしは六億ドルの金を払うということのいわれと、その額を決定したことが適当であるか不適当であるかということが説明がつかないので、いまのように、いささかお得意になって御説明になっておられるようでありますが、論理的には全く誤った、筋道の立たない、新たなる、すなわち有償・無償の経済供与である、こういう形式をもって解決なさいました。そうでありますならば、先ほど言ったように、元来韓国政府並びに韓国の人民が固有に持っておる対日請求権というものをこういうもので解決したとかってに解釈いたしましても、すなわち、日本政府並びにその相手であった朴政権がかってにそういう取りきめをいたしましても、これは北鮮をはじめとしてあらゆる国並びに国際法学者が言っておるごとく、こんなものはかってな決定であって、政府並びに人民が固有に持っておる対日財産請求権というものを解決した何の根拠もございません。かってなものであります。主観的な盲断でございます。したがいまして、そういう御解釈であるということをはっきりいま大臣は言われた。すなわち、財産請求権問題と大平・金会談による経済協力というものとは法理的に別個のものである、新しいものであると言うならば、韓国の持っておる、あるいは人民の持っております対日請求権というものは無解決のまま権限がそこに留保され、残置され、残っておるわけでありまして、かってにきめましたわけのわからない経済協力に関する取りきめというものを金と大平の間で結び、それを両国政府がサクシードして、これを国会を通じて無理やりに批准をいたしましても、それは、国際法上保障されておる財産請求権を、本来固有の権利として持っておるそれを、韓国政府並びに人民がそれによって消滅するなんということを佐藤さんと朴の間で幾らきめましても、何の権威もございません。何の権威もないということをあなたはいま言っておるじゃないか。決して財産請求権問題として処理したのではない、全然新たなる特異なデラックスな構想として大平が考え出してつくったのだから、したがってこれはサクシードするものではない、こう言われるでしょう。そうであるなら、私はあえて聞きたい。こんなことはきめられるならきめられますよ、多数をもってやるならば。そうじゃない。そういうことのよしあしは別個として、そうでありますならば、財産請求権の固有の権利というものは消滅いたしておりませんから、当然財産請求権の対日請求の権利というものはあくまで残る。それは、あなた方は、対韓交渉の要綱の何項でござましたか、その中でかってに、これは完全かつ最終的に副次的な効力として消滅するのだ、そのことを願望して交渉に当たった。ダラ幹であろう朴政権は、金がほしいためにこれをついに承諾をいたしまして、七億ドルでその韓国政府オーソリティーあるいは韓国人民が持っておる請求権というものを日本に売って、その金を自分のふところへ入れるわけだ。これが請求権による処理でないとするならば、このかの国に渡りました五億ドルの金というものはだれが最終的な請求権を持っておりますか。政府がそれを何に使おうと、国内においてだれのために使おうと、すなわち、ベトナムに出兵する兵隊のために使おうと、あるいは朴なり金鍾泌がめかけのためにその金を使おうと、人民は何らそれに対して異議を申し立てることはできない。そうであるならば、固有の権利を持っておる人民はそれに対しまして何らオブリゲーションを持つべきではない。法律的にもそうであると同時に、政治的にも何のオブリゲーションを負うべき理由はございません。どうでありますか。それを私は聞いておるのです。

○田中国務大臣 あなたは、韓国政府が持っておる対日請求権と、それから韓国国民が日本国氏であった当時に持っておったものをどう解決しようというふうにお考えになっておるのですか。これに対しては、向こう側の要求は、御承知のとおり、五十万、九十万というような人間が、兵隊として、また日本の職員として、日本の徴用工として働き、そういう時代に当然払われるべき給料、それからなくなった場合の慰謝料とか、そういう問題をいまのドル換算でもって計算をすれば、十億ドルとも言い、十五億ドルとも言っている。われわれが考えるととてもそういうふうな勘定はできない。こういうことで対立したままになっておれば、両国の間に友好関係を結ぶことは永久にできないということであります。また、当時二十年も前のものを、その間の空襲にあっておる日本の官庁の中でそれだけの証憑を全部集めることが可能であるかどうかということは常識でわかる話であります。それで十何年間も日韓交渉が妥結を見なかったということは事実でございます。でありますから、韓国国民を代表する韓国政府との間に大平・金メモが交換をせられましたが、これは次善の行為であって、この精神に基づいて両国が妥結をし、両国の国会が批准をするという国際法上の手続がとられるならば、韓国国民や政府が持つ対日請求権は消滅するというお互いの合意が法律的に処理せられた場合には、私は効果はあるということを考えるのは妥当だと思います。にもかかわらず、韓国国民が日本政府に対する請求権はいつまでもあるのだ、こういう解釈は私はどうしてもとれないのであります。韓国政府との日本政府との間に三億、三億の有償・無償の協定が成立することによって、韓国政府及び韓国民が持つ対日請求権は随伴的な効果として消滅する、裏返しで言うと、消滅することを前提にして二億、三億の有償・無償の供与を行なうわけであります。何も条件がなくてやるわけではありません。随伴的な効果において消滅する、消滅するならば提供いたしましょう、こういう両国の協定が成立をして国会で批准になれば、あとの問題は韓国政府及び韓国国民の間に解決すべき問題であって、そういうふうな条約が締結されても、なお日本政府は、かつて日本国民であった韓国人私人に対する請求権を認めなければならない、こういうような法律解釈は絶対にとりません。

○穗積委員 田中さん、あなたはいまは佐藤内閣の大蔵大臣としての権限と責任を持っておる。ところが、政治的にはあなたは佐藤派の領袖として、そして非常に国際的に期待を受けておる人物です。それがこれら政治を行なうにあたりましては、一時的にこれは国民のために経済的に得だから、すなわち、李承晩はこの請求権について二十二億ドルの要求をした、ところが今日は五億ドルで済むのであるからして、そしてそれが一切解決するのであるからしてこれに賛成すべきではないかという御所論でございますが、経済的な一時的な利害得失は私は論じていない。それはあとで伺います。そういうことをおっしゃるならば、当初二十二億ドルの対日請求権の要求額が積算をされて、いまのようにだれに幾ら何に幾らということで出たときに、日本政府の大蔵省の役人がここにおられますが、それを軍令三十三号によるものと相殺いたしました結果、積算をいたしますというと韓国側の対日請求権の認められるべきものは二千数百億ドルにすぎない、そうして、とどのつまり、池田内閣当時に、積もり積もって計算をいたしましても七千万ドルをこえることはできないと大蔵省は計算したではないか。それを今日、その何千倍、何百倍、そして五億ドル、民間有償は無制限である、そうでありますならば、かの国が、最初朴政権が要求したとおり――もうすでに今日で民間供与にしても一億五千万ドルをこえると私は計算ができる。そうでありますならば、当初の要求どおり、七億ドルというものはまるまる何らの譲歩をせしめることなしにあなたは払おうとしておるのではないか。私は、その金額について妥当であったかどうかという政治的判断をいまここで論争しているのではないのです。そうではなくて、私は、政治、国際関係におきましては、あくまで国際条約の理念、国連憲章の精神にのっとって、誤りなく、公正に正しく、親切にやるべきものであると考える。そういう意味からいたしますならば、あなたは、一時的な今日の大蔵大臣として、なるべく少なく済ませたつもりであるから、おまえは何を無理解なことを言うのだ、おれは日本国の大蔵大臣として、日本人民の経済的利益のためにこれで妥結したほうが得だと思っておるのに、おまえは一体どういう立場でそういう不服を唱え、それをあばき出しておるのだ、こういうことを言わぬばかりのお答えであった。私は心外しごくです。大蔵大臣としてのみならず、お互いに意見が違いましても、私の尊敬する政治家田中角榮に対して偉大な失望を私はここで感じた。そういうことを言われたのでは、韓国人民の心ある人は、あなたを、佐藤内閣の外交政策がこのようにぐらついておる、無原則で、きのうときょうとは違い、明日はまた違う、そういうことで国際的な失笑をかっておるのは、このように佐藤内閣の中には国際的な理論、国際的な見通し、国際的な正義を踏まえておる政治家がおらぬからであるということを世間の人はみな思うのでしょう。田中さん、私はあなたの政策と違って反対党におります。しかし、あなたはこの際、佐藤さんが政権を握っておる以上、国際問題につきましても、国際路線についても、国際外交問題の処理についても、もっと正しい理論と正しい政治的正義に立って処理していただきたい。そういう意味で、あなたは額のことに転換をしておるが、いまの一体対日請求権の源並びに対日請求権を受け取るべき最終的な権利者、この五億ドルというものは一対だれが受け取るのか、だれが受け取る権利を持っておるのか、そういうことについての正しい、正義に立った、国際的な条約並びに通念に立った正しい議論をしていただくことを私は期待いたしまして、あなたの御所論は誤りであると思うので、もう一ぺん御答弁をわずらわしたいと思んうのです。五億ドルで解決することが、これでもう一切がつい因縁はないのだよ、因縁払いをするために考えたならば、おまえあまり大きなことを言って騒ぐな、騒げば日本国民のために不利益であると言わぬばかりの御注意でございました。私はその御注意をそのままお返しいたします。私は何も社会党の主張にとらわれて言っておるのではありません。固執しておるのではありません。そうではなく、あなたのために惜しむ。あなたのそういう議論をもって、この対日請求権、すなわちそれから何らの法律的なサクセッションのない金・大平会談、すなわち経済協力、これによって解決して、そうして、かってに朴と佐藤さんが、いわゆる終戦後を持っておった対日請求権、人民の請求権も含んで一切これで完全かつ最終的に消滅するのだ、そんなかってな法理解釈と政策で日本のアジア外交が進むとするならば、まさに大国主義の独善でございます。そうして利己主義でございます。それは誤りです。どうぞもう一ぺん御答弁をわずらわしたい。すなわち、私の質問はこういうことです。対日請求権の権利を持っておる源はだれであるか、ここで今度経済協力と称して五億ドル払われたときに、その金を請求する最終の権利者はだれであるか。

○田中国務大臣 対日請求権に対しては、先ほど申し上げましたとおり、韓国政府が持つものもあります。韓国の国民自体が持つものもございます。しかし、この問題を一つずつ片づけていくということは、理論の上では非常によくわかるし、筋も通っておりますが、二十年前の話を、しかも向こうが言っておることは、二十二億ドルとあなたが御指摘になったとおり、そういう道行きもありました。また、ドル換算にすればどうだとか、こういうことを実際問題として一体片づけられるのか。終点が認められるのか。片づかなくてもいいんだ、こういう観念で御議論をなさっておると、両国の間には友好的な立場においてお互いが国交を回復したいいこういう考え方でこの問題を何とか片づけたい、こういうことになると、片づく道を考えなければなりません。これは一韓国だけの問題じゃないと思うのです。日ソの間に問題があっても、日米の間に問題があっても、いろいろな問題があっても、こういう解決のしかたは新しい方法ではありますが、両国が合意に達することによって、随伴的な効果として韓国政府及び韓国の国民の対日請求権を消滅させる、向こうの合法的な政府がこう言っているのであります。でありますから、当然、その結果として、韓国国民と韓国政府との間の問題は、韓国政府と国民との間で解決すればいいことであります。私たちはそういう考えをとっておるのでございます。

○穗積委員 払った金は帰属はだれにいくのですか、最終帰属者、最終権利者は。

○高瀬委員長代理 穂積君に申し上げますが、大蔵大臣の発言が済んでから発言してください。

○田中国務大臣 この二億ドル、三ドルの払う金は韓国政府に供与するものでございますから、韓国政府の帰属でございます。

○穗積委員 大蔵省の秀才たち、先ほどからこの問題について、いろいろ法理的に、あるいはまた政治的にアドバイスをして、大臣にこういうことを決定せしめようとしておられるようだが、あなた方は、いやしくも法律を考えながら、法律の権限、義務においてのみわれわれ国民の金を使っているのですよ。あなた方が出す金は大蔵省の金ではありませんよ。そうでありますならば、一体、この経済協力なるものは、何の義務によってわれわれが五億ドル払うのか、払った金はだれに帰属するのか、いまのような御議論でよろしゅうございますか。そんなことで国際的に通ると思いますか。答えてみなさい。

○佐竹政府委員 事務当局へというお尋ねでございますので、お答え申し上げます。
 この無償三億ドル、有償二億ドルというものは、ただいま大蔵大臣の答弁のとおりでございます。

○穗積委員 そういたしますと、いいですか、念のために事務当局に例をもって聞きましょう。そのことに答えていただくことが、大蔵大臣にいまの誤りを自覚せしめるために最もいいと思うから。私が戸主であります。つまり、いまで言えば戸籍の筆頭者。そして、私の住んでいる家庭の動産、不動産、財産権、債権を含むあらゆる財産の中には、家内のものもある、それから子供の名義のものもあります。そういたしましたときに、これらの請求権というものは残っていますよ。郵便貯金は郵便局に対して請求権が残っている。それは私の子供Aの名によって残っている。Bの子供の名によって銀行へいささか、五千円でも一万円でも預けておれば、その権利は残っている。それらの一切の権利を合算をいたしまして、そして私がある人と契約をする。そのときに、およそ私のところの請求権はたとえば百万あります。そういうことでありますから、これを全部支払いますからあなたと物を売ったり買ったりしましょう、そういう調印をして、そのことによって、相手銀行、相手郵便局に対して、子供たちが持っておる権利は一切消滅いたしますという契約を結んだといたします。その契約によってこの子供の権利は消滅いたしますか。大蔵省、消滅いたしますか。そういう契約に対して、郵便局へ、それは違う、おやじのやったやつはそれは誤りである、不法な契約であるということを申し立ててこの子供が郵便局へ請求に行ったら、あなたは払わせますか払わせませんか。答えてみなさい。それは消滅しません。すなわち、対日請求権は人民、国家固有の権利でございまして、決して、朴がかってに佐藤と取引をして、五億ドルで売って、これで済んだことにするよというわけにはいかぬ。人の権利です。人の財産です。その請求権の法律的な根源、すなわち請求権によって支払われました金の最終の請求権利者というものは個人あるいは財産所有者です。答えなさい。そんなばかばかしい法理論で、あとになって北朝鮮の請求権もないとか、南朝鮮のあらゆる人民の請求権がないなんということをかってにきめさしたって、それでは通りませんよ。

○田中国務大臣 子供さんの承諾を得ずしておやじさんがそういうことをしたということになれば、これはもう当然子供さんの請求を拒否するという権限はありません。しかし、子供さんに、おまえの名前で貯金をしてやるけれども、これはおやじが要るときには使うよという契約があれば、そういうことは有効であることは、これは論をまたないことでございます。あなたは先ほどから、韓国の朴政権の韓国代表政府ということを否認してかかっておられますが、しかし、そういうたてまえでなく、国が国としてこれを決定するという場合に、韓国国民の持つ対日請求権の処理に対しては韓国政府と韓国国民の間に残る問題である。まあアメリカに日本国民がおった、そしてこれが事件が起きて、アメリカ政府に対しては請求する権能はもちろんございます。もちろんございますが、日本政府とアメリカ政府の間でその問題を解決をして、そして片づけた場合には、日本政府と今度その日本人との間に問題が残るので、政府とその人の間にものを片づけなければならぬということが起こるわけでありまして、国がその国の国民の持つ対外債権というようなものの代表権が全然ないのだ、こういう前提に立ってのお考えには必ずしも承服できません。

○穗積委員 そうではないのです。この事の起こりは、政府並びに人民の対日請求権に源を発しておる。それはどうしても認めざるを得ないという、われわれは国際法上の義務感に立ってこの問題が出てきた。そこで、最後のとどの詰まりが、先ほど言ったように、経済協力としてこれを結末をつけようとしておる。しかし、その継承といいますか、法律的な権利義務の継承というものは何らここで証明されていない。そして、おそらくは、そういうものと解釈するという覚え書きぐらいか議定書かを交換するのでしょう。そんなことは独断です。そんな国家間の契約は成り立ちません。それによって人民の持っておる固有の財産請求権というものを消滅せしめることがないから、したがって、われわれは、これは韓国人民の対日請求権というものは法律的には解決したことにならない、別個の問題として五億ドルの有償・無償の経済供与が行なわれた、こう解釈せざるを得ない。いかがでございましょうか。

○田中国務大臣 日本政府が韓国政府との合意に達して、国会の批准を得て条約としてきちんときめて、有償・無償五億ドルを韓国政府に供与しても、なお韓国国民の持つ対日請求権は消滅しない、こういう考え方は、この日韓の間に協定するものに、この協定をすることによって韓国人の持つ対日請求権は随伴的効果として消滅をする、こういう合意に達して、そしてその条項を明らかにして条約が結ばれた場合、支払いが行なわれた場合、韓国国民の日本に対する請求権は消滅する、こういう解釈をとって国際法上何ら問題はない、しかも、あとに残る問題は、韓国政府と韓国国民との間において解決せらるべき問題である、こういう解釈であります。

○穗積委員 その考えは全く誤りであります。そういうことによって人民の固有の権利というもの、あるいは固有の請求権というものを消滅せしめるべき根拠はないと思う。しかし、これは大蔵大臣と私の間でこれ以上時間をかけて議論を継続いたしましてもこの際政治的効果が少ないように思いますので、これは、先ほど申しましたと同様に、いまの御答弁を承服しがたいものとして、続いて政府との間でこのことについての論争をいたしたいつもりでありますけれども、時間がございませんからあと一、二簡単にお尋ねをいたします。北の問題につきまして一点、それから、あと、韓国側から請求してまいりました八項目以外の問題について、すなわちいわゆる請求権に含まれていない韓国側の対日請求権で残存するものがあります。そのものをどういうふうに処理するかという二点についてのみこの際お尋ねをいたしておきましょう。まだずいぶんたくさんお尋ねしなかったのだが、あなたは時間がない。時計を見てお急ぎのようですから、一ぺんに二点あらかじめ申し上げてお尋ねいたします。
 今度の交渉について、あなた方のお考えによって妥結したということを仮定いたしましてながめましたときに、これは南側の政府並びに人民に対する請求権問題の解決であって、全朝鮮、すなわち三十八度線以北の朝鮮民主主義人民共和国政府並びに人民に対する請求権問題は何ら解決されたものではない。したがって、この北朝鮮の政府並びに人民の対日請求権というものは原型のまま、まるまる残るものである、そういうふうに私は解釈をし、しかも、それに対して、こちら側からまたは向こう側からのいずれかの発意によりまして、この請求権処理のための交渉に応ずべきものであると私は解釈いたします。それについて、大蔵省は、田中さんは、どういうお考えで、この額についてどれほどが適当であるとお考えになっておられるか。

○田中国務大臣 北朝鮮の問題につきましては全く白紙である、こういうふうに申し上げたわけでございます。これはまだお互いの間に交渉もございませんし、向こうからも請求もございません。ございませんから、そのままにしておるわけでございます。しかし、韓国人、いわゆる北朝鮮人の対日請求権というものは消滅しておるかどうかという問題に対しては、消滅しておらない、今度の協定によって消滅をするものではないということは、これは正しいと思います。しかし、実際問題としてどうなるかといいますと、政府の考えから言いますと、北朝鮮には日本が主張すべき財産も相当たくさんありますので、現実問題として、両国が交渉をする場合があり得ても、南朝鮮、いわゆる韓国に交付をするような状態にはならないというふうには考えております。

○穗積委員 したがって、第二の私の質問であった、交渉の要求がありましたときには、即時無条件にこの交渉に応ずべきものであると私は考えますし、池田総理もかつてそういうふうなお考えを必ずしも否定されなかったのでございますが、あなたも同様でございましょうね。

○田中国務大臣 北鮮の国民から要求があればこちらも考えなければならぬと思いますが、何分にも交渉する道がないわけでございます。でございますので、まあ出方待ちと申し上げるか、それ以外にはないと思います。しかし、もし北鮮政権というものが国際的にどうなって、日本との間にもいろいろ交渉が起きるということになれば、この問題は当然向こうからも要求が起きてくると思います。しかし、そのときにはこちらからも要求するものがたくさんございますので、そういうものも準備をしなければならぬだろうというふうには考えます。

○穗積委員 今度の請求権問題は、いまお話しのとおり、有償・無償五億ドル、プラス一億ドル以上、これは民間融資。この一億ドルに対する政府の義務は法律的にない、政治的な道義として解釈しておる、それはすべて民間融資であるからして、利子その他の条件についてはケースバイケースに契約をすべきものである、こういうふうになっておる。そこで、今度、いまお見えになりました赤城さんがお話しになった九千万ドル以上の漁業協力資金というものも、この民間融資の理念の中へ入れる、こういうことでありますと、およそ見積もりまして、いままでに供与しておるもの、それから四千数百万ドルに及びますこげつき債権、それから、いままでに輸銀が行なっております延べ払いクレジット、こういうものをすべて入れますと、もうすでに私の計算でも一億五千万ドル前後のものになろうかと思うのです。そういたしますと、これからこの協定を結びまして日本側が韓国側に与えるべき金の額は有償・無償を合わせまして五億ドル、法律的ではないが政治的な義務を負いました一億ドルの民間融資というものは、すでに今日これだけでオーバーしておる。したがって、新たなるクレジット、新たなる借款の設定、そういうものはもう義務を果たしてしまっているわけですね。それ以上新たに向こうから、この一億ドルの話し合いがあるから、これをしてくれあれをしてくれということで、義務はないけれどもそれに対して協力をすべき政治的なオブリゲーションがあるということはないわけです。その点については一体どういうふうに赤城さんとあなたの間ですでにお話し合いになって、九千万ドル以上の漁業借款というものをお認めになったかどうか、その間のいきさつをこの際明らかにしていただきたいと思うのです。

○田中国務大臣 対韓オープンアカウントの約四千五百七十三万ドルというものについては、これはひとつ期限をきめて返していただきたい、こういうことであります。これは何年になるか、とにかく返していただけるという考えであります。
 それから、いままでも、いろいろな経済協力といいますか、経済協力というよりも民間が信用供与をしておるから、もうその大平・金メモによる一億ドルというようなものは終わっているんじゃないか、こういうことでございます。大平・金メモは、一億ドル以上、こういうことになっておるのでございます。一億ドル以上、これはまあお互いの友好的宣言条項だ、こういうことを私は申し上げましたが、日韓の国交を正常化せば、当然お互いの間に通商をやるわけでありますから、そういう基本的な立場に立っております。また、この漁業協力も、九千万ドルといいますが、大平・金メモによる(ハ)項に属するものだ、こういう考えでございますので、政府が責任を負えるものではないと考えます。しかし、その対韓民間信用供与に対して、向こうが望むような金利ということは、いま政府が責任を負えませんが、民間がそういうことを行なうように期待をしておるという立場でございまして、政府自身がどうするということはできないことでございます。もう対韓の民間の経済協力をしないでいいじゃないかということ、これは民間自体が自主的にやることでございまして、これから日韓の……(穗積委員「基本的には関係ない」と呼ぶ)関係がないことはありません。これは法律で信用供与に対しては輸出許可をしなければならない立場にございますので、政府はプロジェクト別に十分見まして許可をする、こういう立場であります。金利とかそういうものに対しては民間が自主的に行なうものであります。

○高瀬委員長代理 穂積君、時間がまいりました。

○穗積委員 時間がまいりましたから、最後に一点ちょっと念のためにこれに関連してお尋ねしますが、文化財に関する向こうの側からの対日請求
 それから個人の供託の済んだものがありますね、これに対する対日請求権、これはいわゆる八項目の向こうが設定してまいりました、要求してまいりました請求権の中に含まれるものではないわけです。以外のものですね。そうしますと、今度のものがあなた方の独断で、今度のこの経済供与が妥結をすれば請求権に関する一切のものが解決したと言うが、その請求権とは一体何と何だというカッコ内のものについては解釈必ずしもまだ伺っていない。何と何が解決したことになるのだということになるのですね。そうなりますと、韓国側が大体要求してまいりました八項目ぐらいのものに含まれるものではないか、こういうふうになってくる。これは、実はきょうは、請求権の中身は一体両者でどういうふうに合意に達しておるのか、請求権はこれで最終かつ完全に消滅するものであるという覚え書きで一切解決してしまうのだと言うが、その請求権の中身は何であるか……

○高瀬委員長代理 時間がまいりましたから、簡単に願います。

○穗積委員 そういうことに対する解釈をきょう伺うことができませんでした。
 そこで、最後にお尋ねいたしますが、その解釈はまたあらためて伺うことにいたしまして、それに含まれていないともうすでに世間から解釈されておる文化財並びに供託の済みましたものに対する権利、これは、五億ドル以外の対日請求権として、こちらは義務でございますが、これは残りますね。

○田中国務大臣 私は日韓交渉に出ておりませんからそういうこまかいことはわかりませんが、私が大蔵大臣として理解をいたしておりますのは、大平・金メモの交換によりましてこの問題が片づけば、文化財の問題その他も全部消滅をする、こういう考え方をとっております。しかし、外務大臣がどういう状態で交渉しておるかはまだ聞いておりません。

○穗積委員 それじゃ、お答えがなくて、それを御了承になっておられるとするならば……

○高瀬委員長代理 穂積君、時間でございます。

○穗積委員 大体、大臣はきょうは二時過ぎに来るという約束で、ぼくには二時過ぎに出てこいという指令があった。それをあなた、三分五分だな、――大体、そういうことを言われて、道義的に紳士的に、初めから何分ぐらいの余裕があるのだということを聞いてやっておるのに。

○高瀬委員長代理 四十分ということでありましたが、十分もう許しましたから、簡単に願います。

○穗積委員 およそ四十分と……。あなたはわれわれのこの真剣な討議を聞いておるか、委員長は。委員長、不謹慎だぞ。

○高瀬委員長代理 簡単に願います。もう穂積君の質問は五十分になります。

○穗積委員 そこで、その解釈は私は妥当なものであるとは考えないのです。それは外に出ると韓国側は解釈しておると私は仄聞をいたしておりますので、その点の食い違いは追って承ります。請求権の具体的内容、それから請求権外の残存する請求権の具体的なもの、これは彼とわれとの間に完全なる具体的なチェックオフが全部済まなければ、これは解決したことになりませんよ。大蔵省、よく聞いておいてください。秀才ども。そこで、それは交渉に当たられました外務省またはその他高杉代表に、これは経済人だからうかつはないでしょうが、これは二日の日にとくと承るつもりだ。その上で大蔵大臣もどうぞさっき言ったように、金を出さぬのがおれの役目だというなら、その点をはっきりしておいていただいて、あなたの理念どおりでやってもらいたい。それ以前に妥結することがないように願います。

○田中国務大臣 はい。

 第049回国会 衆議院予算委員会 第2号 昭和四十年八月四日(水曜日)午前十時十分開議

【発言順】
 委員      野原 覺
 内閣総理大臣  佐藤 榮作 外務大臣    椎名 悦三郎
 委員長     青木 正
 内閣法制局長官 高辻 正巳

○野原(覺)委員 
 そこで日韓の問題に入ります。
 まず総理にお尋ねいたしますが、過日六月二十二日に日韓条約が調印されたのであります。参議院選挙のまっ最中であります。私は何も取り急いでとはあえて申し上げません。十四年の課題が解決したのでございますから、喜ぶ者もあれば、これに対して批判する者もある。ところで、新聞によりますと、九月になれば批准国会を召集される、こういうことを私どもは非公式にも承っておるのでございますが、その時期はいつでございますか。批准国会の審議期間は何日ぐらいあれば総理大臣としては妥当だとお考えになっておられるのか、これをお示し願いたい。

○佐藤内閣総理大臣 この批准国会は、できるだく早くとは思っておりますが、まだはっきりしました最終的決定をしておりません。ことに、いろいろ事情もあるようで、議長もソ連に行かれるとか、あるいは議員諸君もどうも引き続いてというのも困るというようなお話もありますし、私はこういう事柄も、やはり批准国会は多数の方々の協力を得て済ましたい、かような観点を考えますと、政府自身にも何かと都合もありますし、そういうことで、その時期が、最初言われたように、九月の初めというのがどうもむずかしいのではないか、かように思っております。九月の半ば以後等になるとすれば、その次の通常国会等の関係もありますので、それらともにらみ合わせていかなければならないということでありますから、非常に簡単なような批准国会ではありますが、やはり事柄の性質上、慎重に十分関係方面と連絡をとり、相談をして、そして最終的にきめたい、かように思っております。

○野原(覺)委員 調印をされました条約、協定の詳細な内容については、政府が予定しておる批准国会において私どももお尋ねをしてまいろうと思います。したがって、ただいまから私が質問をしますことは、批准国会に臨む社会党の態度をきめる上についても大事な事柄であります。したがって、その基本的な若干の問題を私はお尋ねをしておきたいと思う。こまかな内容は批准国会に譲りたいと思うのであります。
 そこで、第一にお尋ねをしたいことは、公表された条約、協定、交換公文、合意議事録あるいは往復書簡、その他すべての文書を私は拝見さしていただきました。棒を引っぱりながらずっと何回も読み返してみたのでございますが、どうしたものか、条約、協定のどこにも竹島の字が出ていないのであります。これは、どういうことでございますか、承りたいと思います。

○椎名国務大臣 竹島という名称は、これは日本語である。それから向こうのことでいうと独島と、こう言っておる。それで、その竹島というものを必ずしも表示する必要はこの際ございませんから、日韓間の未解決の懸案という中に含めて問題の処理方法を妥結いたしました。

○野原(覺)委員 外務省から出ております「世界の動き」ナンバー一六一、八月号、これは情報文化局から出しておる。これによりますと、こう書いてある。「わが国民が大きな関心をもつ竹島問題その他の両国間の紛争は、外交経路を通じて解決するものとし、それができなければ両国合意の手続きにしたがい調停で解決することとした。」このとおりですか。

○椎名国務大臣 さようでございます。

○野原(覺)委員 そういたしますと、いま外務大臣の御答弁は、これはおそらく紛争の解決に関する交換公文で処理されるということをいま申されたと思う。このことは韓国側も了解をしておるのですか。

○椎名国務大臣 この交換公文の一字一句について、両方において完全に合意しておる次第であります。

○野原(覺)委員 もう一度お尋ねしますが、竹島問題は、――独島でもよろしい、これはいずれにしても竹島の問題、この紛争は紛争の解決に関する交換公文で処理されることを了解すると韓国側がどういう形で意思表示をしました、どういう形で。お述べ願いたい。

○椎名国務大臣 とにかく書いてあるその文句については、完全に両者の間で一致しております。

○野原(覺)委員 椎名外務大臣の答弁は、いつの場合もいまのような態度です。私が真剣に尋ねておる国の条約に関するものを、何ですか、あなたのその態度は。竹島問題はこの交換公文で処理される、こう外務大臣が答弁されるから、韓国側も了解しておるかと聞いておるのだ。了解しているかしていないか、はっきりしたらいい。何ですか、あなたその態度は。

○椎名国務大臣 私どもといたしましては、韓国は十分に了解しておると了解しております。

○野原(覺)委員 と思うとは何事です。総理大臣にお尋ねします。竹島問題は重要な日本の領土問題です。日韓両国の紛争、たとえこれが岩礁の島であろうとも領土問題で、この問題が解決しなければ日韓会談の妥結はしないと政府は一貫して答弁してきておるのだ、国民にその方針を明らかにしてきておるのだ。ところが、紛争の解決に関する交換公文だと了解したかと言ったら、と思うと、こう言うのです。了解しておると思う、了解しておるのですか、してないのですか。

○椎名国務大臣 了解しておるとわれわれは了解しております。

○野原(覺)委員 じゃ、了解しておると了解した、韓国側は了解しておるとあなたは了解した、その根拠になるものを出してください。どこで李東元が了解したと言ったのか。それとも、あなたが、韓国側はこの交換公文でいくんだと了解された根拠になるものをお示し願いたい。

○椎名国務大臣 外交交渉はきわめて複雑に多岐に及んでおります。結局両者の合意がこの文言に凝縮された、かように御了承を願います。

○野原(覺)委員 ただいまのは御答弁にならないのです。了解をした根拠になるものは、外交交渉の衝に当たった韓国の外務大臣李東元が了解したと断言をしたのか。それとも、あなたが了解したと思うとこう言うんだから、了解したと思うという何かの根拠を私どもに示してくれなければ、われわれは了解できないじゃないか。どうなんです。

○椎名国務大臣 つまり両者の了解のその一致点があの文句になってあらわれておるのであります。今度は、それを証拠立てるまた何か文書でも取りかわしたかというようなことになると、またその文書の証拠書類は何だ、そういうようなことはいたしません。とにかく両者の間で十分に話し合って、そしてあの結論に到達いたしたのでございます。

○野原(覺)委員 六月二十二日に条約の正式調印がございまして、六月二十四日に李東元外務部長官はこう言っておるのです。すべての新聞が報道しておる。竹島問題については折衝する意向はない、竹島は紛争処理の交換公文では処理されないことを意味する、処理されない、紛争の解決に関する交換公文では処理されないと、あなたも新聞で読んだに違いない。これは言っておる。あなたの言うことと李東元外務大臣の言うことは違うじゃありませんか。どうなっているんだ、これは。

○椎名国務大臣 外国の大臣の言うことよりも、日本の大臣の言うことを信用していただきたいと思います。

○野原(覺)委員 日本の大臣の言うことを、私も日本の国会議員であるから信用したいと思います。しかし、われわれが信用するには、信用するだけの根拠を出してもらわなければならないのです。だからして李東元は、この交換公文で竹島問題は処理しますと、こう言ったのですか。言ったか言わないか言ってください。言ったんですね。

○椎名国務大臣 もちろん両方でいろいろなことばを使いました。そうしてこの文言に到達したのでございます。

○野原(覺)委員 何を言っているか。言ったのか言ってないのかと私は聞いている。

○椎名国務大臣 それに類したことはいろいろな表現でもちろん両方からこの問題を盛んに言い合って、そしてこの文言に到達いたしたのであります。

○野原(覺)委員 そういたしますと、李東元が韓国に帰って出された談話とあなたに表明された意思表示は違う、あなたにははっきり――これは大事なことですよ。紛争の解決に関する交換公文で処理されるかどうかということは大事なことですよ。あなたにはっきりこの交換公文で処理されるということを言った、こう受け取ってよろしいんですね。あいまいにしちゃいかぬですよ、あなた。

○椎名国務大臣 いよいよ、言った言わぬの争いでなしに、両方が一致した文句をあくまで冷静に文理解釈いたしますと、結局竹島の問題の処理ということになるのであります。われわれはさように解釈し、さような自信を持ってこの文言を取りきめたわがほうとしては、これを採択いたしました。でありますから、いよいよ両国の間でこれを冷静に爼上にのせて、そしてこの問題を討議するという場合には、われわれの主張は間違いなく通る、こういう自信を持ってあの文言に到達した、こういう次第であります。ただわれわれの知らない場所で、そして国内においてあるいは右と言い、あるいは左と言った。一々それを追っかけて、そして本来の文書から離れてこの問題を争う考えは私はないし、またそれは無用だと思っております。

○野原(覺)委員 総理によくお聞き願いたいのですが、これは大事な問題です。条約、協定のどこにも竹島の文字が出ていない。そしてお尋ねすると、それは紛争の解決に関する交換公文で処理される、こう日本の外務大臣は答弁するんだが、李外務部長官は、そういうことはないと談話を出しておる。いま私がいろいろ聞いてみると、日本の外務大臣の答弁を信用しなさい。私は信用はしたい、信用したいと思うけれども、しかし大事な条約、協定でございまするから、私はここでやはり真実を確かめておかなければならない。椎名外務大臣が言うように、紛争の解決に関する交換公文で竹島の問題が処理されると日本が主張をして、そうして外交交渉なり両国の合意による調停なりを始めようと主張しても、韓国が応じなかったらどうするのか。韓国を応じさせる、どこに何の保障があるのか。韓国は、条約、協定のどこにも竹島はないと、こう言っておる。それから解決の交換公文は竹島を指すとはどこにもいっていない。いろいろあなたにお尋ねをしてみると、李長官が必ずしもあなたに断言したということすらあなたは言わぬじゃないか。あなたは日本国民をばかにしようというのか。失敬なことをやっちゃいけませんよ。私はまじめに聞いておるのだ。だからして、ほんとうにこの交換公文で竹島の問題は処理されるという保障がどこにあるのかね。韓国が聞かなかったらどうするのか。聞かせるところの保障はどこにあるのか、それをお示し願いたい。

○椎名国務大臣 いやしくも両国が国交正常化に関して条約を取り結ぶという場合には、もし聞かなかったらどうするかとか、その罰はこうだというような、そういう初めから不信頼感を持って二国間の条約なんというのはできるものじゃないと私は思う。

○野原(覺)委員 聞かなかったらどうするかということを聞いておるんですよ。あなたは私の質問に答えなさいよ。聞かなかったら何をもって聞かせるのかということを聞いているんです。

○椎名国務大臣 竹島の問題のみならず、すべての問題を、もし誠意を持って日本に同調して、これを実行しなかったらどうするかというようなことが同時に問題になるわけであります。これはいわゆる信頼関係というものであろうかと思います。

○野原(覺)委員 信頼関係というなら条約は要らない。二国間の条約、協定、交換公文、合意議事録、これをわれわれが問題にするのは、個人の関係にしたって、お金を貸したり借りたりするときには契約書が要るんだ、法律というものが要るんだ。だからして、その点は明確にしていなければ、あなたは日本の国を代表して条約を協定されて、あなたはいつまでも外務大臣をしないのだ、何年かたって竹島の問題がまた表に出てきた場合に、韓国が竹島はどこにあるか、紛争の解決に関する交換公文で処理するとだれが言ったか、そんなことは言っていない、こういってつっぱねられたらそれきりじゃありません、総理大臣。
 私は議論を発展させるために、これから重要な文書を読み上げます。「韓日会談白書」三月十九日に発表しておる。これは朴正煕の責任で韓国の政府の公式の国民に対する発表です。「日本側は独島」日本では竹島と呼ぶとカッコをして、「独島の帰属問題もなんらかの解決をみなければならないために、会談の懸案の一つとして入れねばならないことを主張したが、韓国側は、明らかにわが領土であるから、会談の懸案として取り上げることはできないことを明白にした。」会談の懸案といって取り上げることはできないということを明白にした。これに対する日本側の反論はない。その次、これは白書の基本関係の「G、結論」というところに、また竹島を持ち出しておる。「独島問題においては日本側はこれを基本関係条約に規定して解決するとの態度をとったが、韓国側はこの島が韓国固有の領土であるためこれが韓日会談懸案の一つとしては取り扱えない立場から除外することにした。」「除外することにした。」ですよ。この白書は韓国政府の公式文書だ。あなたはこの白書をも否認しますか。単なる談話じゃないのだ、韓国側は除外することにしたと言っておるじゃないか。そうして、竹島の問題は条約、協定のどこにもないじゃないか。

○椎名国務大臣 韓国内の内政の問題でありますから、私は批判するのは避けたいと思いますが、少なくとも先ほどの日韓間の懸案の解決云々の文言は、これはもうあらゆる論議を尽くしてこの文言に到達した結論でございます。これは天に誓って間違いございませんから、どうぞそれを御了承願います。

○野原(覺)委員 天に誓って間違いはないといっても、向こうは白書を出して、これは除外だと言い、韓国の外務部長官は、そういうことは絶対にない、こう言っておる。そう言われてみれば何も保障はない。だからして、あなたが、これは外交交渉でやろうじゃないかと日本から持ち出されても、相手は応じないのですよ。それを応じさせる何からの根拠というものを持たなければならぬじゃないか。日本は不利になるじゃないか。日本の領土というものは放棄じゃないか、これならば。どうしてうんと言わせますか、これはいかがですか。相手をうんと言わせるところの根拠になるものは何だね。

○椎名国務大臣 そういうような不信頼感を持って片っぱしから条約の成文を疑い始めたら、これはきりがありません。われわれは誠意を持って、この問題は必ず解決し得るものと確信しております。

○野原(覺)委員 総理にお尋ねします。私と外務大臣の質疑応答を総理はお聞きになられて、どういうお感じを持っておられるか知りませんが、私はこの交換公文で竹島問題が処理されるとは思われないのです。日本はそう主張するかも知れないけれども、相手を屈服させるだけの根拠になるものは何もないのです。あらゆる紛争とも書いていないのだ。ただ紛争の解決に関する交換公文、ぽつりと出ておって、相手は竹島以外の紛争だ、こう主張しておるのだ。すでに三月十九日に白書が出て、これがあなたが二月にイニシアルに行ったときからの問題なんです。そうして、いまやあなたはこの問題をごまかすために必死になっておるのです。私の言うことが偽わりならば偽わりと言ってもらいたい。あなたはいまや日本の国民をごまかすことに必死になっておるのだ。向こうは、竹島はこの交換公文では処理されないと言っておるのだ。あなたは信用しなさい、こう言いますけれども、私は信用したい。私は信用したいから聞いておるのだ、日本人だから。それでは、これが処理されるという根拠を示せというけれども、あなたはないじゃないか。根拠を示せといえば、それは信頼の問題だ、外交の問題が信頼の問題で解決できますか、総理大臣。これはどうなんです。あなたは総理大臣として、この日韓間の調印を御承認になったのですけれども、これは根拠はないのですよ。どうんですか、これは一体。交渉はできないですよ。私はいいかげんなごまかしは許さぬ。
 委員長、どうせこれは椎名外務大臣、ごまかしのいいかげんな答弁をなさるかと思う。私は委員長にこれは要求する。私どもが先ほど申し上げましたように、日韓条約についての重要な態度をきめるためにも、基本的な問題を私はここで党を代表して究明しておる。私はこれは満足できない。ほんとうに竹島問題が、交換公文で紛争が解決されることになっておるのか、なってないのか、これは韓国の代表部に問い合わせてもらいたい。そこに電話がある。そうして明確にすれば私は次に発展できる。ほんとうに、信頼感というけれども、代表部はそう確認しておるか。韓国は、竹島問題はそう確認しておるか。委員長、それをひとつやらせてください。これは発展しないですよ。電話で聞きなさい、電話で。

○青木委員長 外務大臣から答弁いたします。外務大臣。――外務大臣。

○野原(覺)委員 この答弁がなければ私は審議できない。

○青木委員長 外務大臣椎名悦三郎君。

○椎名国務大臣 責任ある韓国の外務部長官との間に私が取りかわした結論でありますから、いまさら出先の大使館あたりに電話で問い合わせるなんていう不見識なことはいたしません。

○野原(覺)委員 そういたしますと、この交換公文で竹島の問題は処理されることになったという何かなければいけませんね。あなたは取りかわした、こう言うけれども、向こうは取りかわしてないと言う。そうすることになったと言う。今後あなたが外務大臣をおやめになられて、あなたのあとの外務大臣――日本政府はそのものを持たなければたいへんな問題になるのだ。その根拠はありますね、何か合意議事録かに。この発表された合意議事録にはない。その根拠になるものを示してもらいたい。それを示さなければ承服できないですよ。これは明らかに竹島放棄ですよ。竹島の放棄になりますよ。これは出してもらいたい。それを出さなければ審議できない。

○椎名国務大臣 合意議事録は特にとらないと思います。ただ、この交換公文に対しましては両方とも署名をしておるのであります。しかし、その文言に対して何か疑念があるとおっしゃるなら、その疑念に対しては十分お答えいたします。(「文言がないじゃないか」と呼ぶ者あり)一々その一字一句について合意議事録をとるということはしないのでありますから、それでもう十分に口頭で討議をいたしまして、そうしてあの文言に到達いたしたのでございまして、責任ある者がこれに署名をしておる。そうして日韓間の懸案というものはほかにございません。竹島以外にない。

○野原(覺)委員 何を答弁しておるのか、あなたは。あなたの答弁は何を言っているのかわからない。すわって聞きなさい。あなたは一体何を言っているのですか。日本が竹島問題を交換公文の中身に従って――外交交渉なり両国の合意に基づく調停、交換公文の中身はそうなっておる。これでやろうと主張しても相手方が応じないだろう。韓国白書にも除外することにしたといっておるし、応じないだろう。その場合に相手方を応じさせる何かの根拠があるかと聞いておる。たいていこの種のものは合意議事録だ。あなたは一字一句と言うけれども、何が一字一句ですか。竹島は懸案の一つだ。日本の領土問題、その根拠になるものをお示し願わなければわれわれは信頼できませんよ、あなたを信用したいけれども。いかがですか。

○椎名国務大臣 まあこれは将来の問題で、まだ十分に条約が実質的な効果を発生したわけじゃなし、そしてまた、この竹島の問題についての折衝をもちろんまだ始める段階ではない。いわばあなたは将来の問題を言っておる。それは向こうが新聞その他で伝えておるように、向こうはおそらく応じないだろうという推測で議論をしておられるのであります。私はそうではなしに、向こうの外務部長官と十分に討議をしてこの結論に到達いたしたのでありますから、私は、その場になれば十分に向こうを同調させるだけの確信を持っておる、こういうことを申し上げているのであります。(「議事録を出せ」と呼ぶ者あり)それは信用していただきたい。

○野原(覺)委員 私は、外務大臣を信用したいために、あなたを信用したいために同じことを何回も繰り返して質問してきたのです。
 議論が発展するためにまたお尋ねをいたしますが、あなたのいまの御答弁は非常に重大なことを言われておる。あなたはこれから先、竹島の問題については明確にする。なるほどいまはあいまいだ。あなたは合意議事録を出すにも出しようがない、何も議事録はないのだから。しかしながら、私の言う議論ももっともなことだ、だから竹島の問題はこれから明確にする、こういうことですね。間違いありませんか。あなたのいまの答弁はそういうことであった。

○椎名国務大臣 ちょっと誤解があるようであります。これから明確にするとは申し上げません。いよいよ条約が発効いたしましたならば、竹島の問題について、両者の間でこの問題の解決のために協議をする……(「発効してからではおそい、いま審議しなければならない」と呼ぶ者あり)発効する前には審議はできない。

○野原(覺)委員 総理大臣、条約が発効してから私のいまの竹島問題に対する疑義は明確にするそうです。これは政府の方針ですか。重要ですからあなたに聞きますよ。それは政府の方針ですか。

○佐藤内閣総理大臣 日韓間で取りきめをいたした事柄、これがまあ正式に申せば、ただいまは調印しただけだ、こういう意味で正式に発効しない、こういうことを言っておるのだと思いますが、いずれにいたしましても、この取りきめをしたことについてお尋ねがあるのでありますから、当然これは発効する、こう考えなければならないことであります。そこで、いまの紛争の処理の規定というもの、これは両国間においてほんとうに合意に達した事項であります。そうして、その際にこの竹島問題というものについて韓国側の言い分が非常に明白になっておる。わがほうの言い分はただいま申しておらない。そうして椎名君は盛んに、わが国の外務大臣の言い分を信頼してくれ、そうして紛争解決の方法はこれによるのだ、こういうことを実は言っておる。それで、ただいま私からお尋ねするのもおかしなことですが、こういうように意見が違うということ自身、あるいは違っておるのじゃないか、かように思われることがやはり紛争と言える事柄になるのじゃないか。これがはたして紛争でないのだ、こういうことが言えるのか、いやそれは紛争なんだと言えるのか、そこらに問題があるように思うのでありまして、ただいまの話を聞いておりまして、紛争解決はこういう方法によるのだ、かように言っておる。これは椎名君も非常にはっきりしておるのでございます。そうして、いままでの片一方の国の主張、それはあらゆる機会にその主張を述べること、これは当然のことであります。その主張をそのまま承認したら、そこに紛争はないということになる、こういうふうに私は考えるのですが、そういう点ではないでしょうか。だから、したがいまして、ただいまちょうどお尋ねがございますが、この両国間の紛争処理の方法はこれでやるのだ、そういうことは、その御審議は皆さまからいただくわけであります。ただいまお尋ねになっておるのはその点だ。椎名外務大臣が言っておりますのも、その点についてはこれは理解がいくように思います。ただいま申し上げるように、紛争処理の方法はこれだ、この取りきめでやっていくんだ、そして、紛争処理の方法については一見一句といえども両国が完全に了解に達したのだ、かように実は申しております。だから、それから御判断をいただくと、おのずからただいまの問題も解明することができるのじゃないか、かように思います。

○野原(覺)委員 そこで、総理の申されておることも私にはわからないのだ。何を言っているのかわからない。
 外務大臣、これは重要なことです。そこへすわってください。私は、あなたに大事な点だから確認しておきましょう。合意議事録はございませんか、この交換公文に関する合意議事録は。

○椎名国務大臣 ございません。ありません。

○野原(覺)委員 合意議事録がなければ根拠になるものは何一つないのです。往復書簡もないのです。何にもない。公文書は何にもない。公文書が何にもなければ根拠はない。いま総理大臣が紛争紛争といわれますけれども、日本は紛争だと称してこの交換公文を持ち出す。ところが、向こうは紛争でないというのだ。竹島は除外だ、こう言っておるのです、白書で、三月十九日の韓国の正式文書で。それに対して何にも明確にしていない。これは、私どもにこういった竹島という重要な懸案事項を審議をせよといっても、私は、日韓条約の審議はできません。
 そこで、総理大臣にお尋ねいたしますが、批准国会までに、この私の疑問は、議事録か何か根拠になる書類を添えて出されるかどうか。審議のしようがないから聞いておるのだ。出されるかどうか。

○佐藤内閣総理大臣 これは外務大臣がお答えしたがいいかと思いますが、ただいまお尋ねでございますから、なお外務大臣からあと補足させますが、私は、いまの紛争処理の規定はまことに簡単な規定ですから、そういう意味で御審議をいただけばいい、かように思いますが、なお、ただいまのお尋ねはいかがですか。

○椎名国務大臣 紛争問題であることは事実でございます。ただ、どういう国内の事情か知りませんけれども、韓国側でさような説明をただいまのところはしておるように私も聞いております。しかし、これがいよいよ正式に条約が発効した場合には、向こうははっきりと交渉の経過を思い出すに違いないと私は考えております。

○野原(覺)委員 これはとても私は審議はできない。私どもは、条約を審議する前提として尋ねておる。発効してから何が一体出てきますか。これは審議はできない。だから、批准国会の前にこの問題について出すのか出さないのか、閣議を開いて相談をしてもらいたい。

○青木委員長 ちょっとこのままお待ちください。――このまましばらくお待ちください。
この際、十分間休憩いたします。
   午後三時十三分休憩
     ――――◇―――――
   午後三時三十一分開議
○青木委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 この際、先ほどの野原君の質疑に関し、外務大臣より発言を求められております。これを許します。外務大臣椎名悦三郎君。

○椎名国務大臣 竹島問題についての先ほどからの問題点につきましては、批准国会までに納得のいく説明資料を提出いたします。

○青木委員長 野原君、続いて質疑を続行願います。

○野原(覺)委員 竹島の問題は、日韓会談の重要な懸案事項でございますから、私どもは、竹島問題も当然日韓条約協定の審議にあたってはその対象になる、そういう観点で、やはりこれが紛争になるのかならないのか、明確な資料を出していただかなければ、次の批准国会には応ずるわけにはいかない。そのようなあいまいなことで条約の審議ができないからであります。いま外務大臣から明確な資料を提出するということでございますから、この問題は一応おいて、先に進みたいと思いますが、さらにもう一言だけ竹島のことでつけ加えますならば、実は韓国の警備隊が撤去をしていないのであります。私は、竹島が紛争の対象になる、それならば無人島の状態にしておくべきではないかと思う。韓国の警備隊の撤去を要求した痕跡すらない、どこにもない。依然として警備隊は、占拠を認め、条約協定のどこにも竹島の文字が一つもないし、紛争の対象になる根拠になるものもない、こうなってまいりますと、これは完全なる放棄じゃないか。放棄したのじゃないか。領土を、外務大臣と外務省の数名の者が謀議して放棄したのか、それとも佐藤内閣が閣議を開いて放棄したのか、日本国民の重大な領土を。私どもは、このことは実はそのような疑念を持つのであります。だからして、出されるところの説明資料というものは、そうでないという的確な資料でなければならぬことをここで申し上げておきたいと思います。
 次にお伺いいたしたいことは、韓国の領域の問題です。これも今日まで外務委員会、予算委員会等で何回となく論議をされてまいりましたが、いよいよ政府は正式に条約の調印をされたわけでございますから、やはり私は、ここで条約を締結した相手方の管轄権の範囲をどうするかということが、どのように規定するかということが今後の日本の全朝鮮に対する話し合いをつけていく上にも非常に関係が深い、そういう観点からお尋ねをいたします。
 韓国の領域につきましては、従来日本政府は三十八度線から南半分、もっと正確に言えば、休戦ラインから南半分ということを主張してきておるのであります。この主張は、韓国側としてはこの主張に反対をいたしまして、いや、そうではない、韓国の領域は全朝鮮だ、こう主張してきた経緯がございます。最終的にどうなったのか。

○椎名国務大臣 今回の日韓間の諸協定は、北のほうに事実上の政権があるということを念頭に置きまして、そしてこの条約の及ぶ範囲は、いま御指摘の休戦ライン以南、そういう範囲においてこの取りきめを行なった次第であります。

○野原(覺)委員 その休戦ライン以南という範囲に取りきめがなされたその根拠は何ですか。

○椎名国務大臣 国連総会の決議――基本条約の第三条ですが、「大韓民国政府は、国際連合総会決議第一九五号(III)に明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府であることが確認される。」こう書いてありまして、その範囲は、朝鮮半島におきまして朝鮮人民の大多数が居住しておる朝鮮の部分と指定して、そこに有効な支配と管轄権を有する合法的な政府が樹立されたことを認めております。この政府の管轄範囲というものに限定するというので、この国連総会の決議を根拠としておる次第であります。

○野原(覺)委員 なるほど基本条約の第三条で、韓国の領域は規定されておる、これはそのとおりであります。ところが、この第三条の解釈が問題であります。あなたの解釈と李外務部長官の解釈が私は必ずしも一致しておるとは思われないのです。日本政府の解釈と韓国政府の解釈が一致しておるとは思われない。条文は基本条約第三条で、いま外務大臣のお読み上げになられたとおり「大韓民国政府は、国際連合総会決議第一九五号(Ⅲ)に明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府であることが確認される。」これが第三条の文章。国際連合決議の一九五号(Ⅲ)の解釈は、これは私も椎名外務大臣の見解を支持いたします。一九五号(Ⅲ)の出てきたところの経緯をずっと調べてみますと、これは椎名さんが言われるとおり、確かに韓国の領域は三十八度線から南半分、こういうことです。この点に関する限り、日本政府の主張は正しいのです。ところが、この正しい日本政府の主張を韓国側が了解したかということが問題です。最終的にどうなったのか、この解釈は。これは、あなたが李さんとの間に相当議論をされたはずだ。最終的にどうなったのか。
 私がこれを問題にする理由を申し上げます。同じく三月十九日、韓日会談の白書、政府の正式文書にこう書いてある。「大韓民国の領土は憲法第三条に明示されているごとく、韓半島全域と付属島嶼で、これが日本との関係において韓日間の基本関係条約のために制約されることもないことは明白である。」韓半島と付属島嶼だ。日本との関係において絶対に制約を受けることはないと、はっきりこうしている。「ただ現在、以北にかいらい集団が不法に占拠しているのは、一つの事実上の状態にすぎぬもので、これは別途の問題である。」その次「日本側は国連決議が認定する限度内において大韓民国政府の唯一の合法性を認定するが、現実的に管轄権が南半にとどまる事実を考慮されねばならないと主張した。」日本側が三十八度線以南であると主張した。「日本側としては大韓民国政府の唯一なる合法性になんらかの制約、とくに国連の決議内容の範囲内に置く意図であったが、韓国は管轄権が南半にだけ局限されるとの表現を入れようとする日本側の主張は到底受け入れることができず、」その先が重大ですよ。「国交正常化が見られなくともこれを受け入れることはできないということを明白にした。」だから、韓国側は最後までそれは承知できない。これを承知できない。日韓国交がこのために破れてもやむを得ないという態度で来ております。これは承認しておりません。解釈は一致していない。私の見解のとおりであるかどうか、外務大臣の御所見を承りたい。

○椎名国務大臣 いまお読みになりました白書は、私も実は初めて承るわけでありまして、白書は手元にありますけれども、つい見たことはない。われわれの日韓の間の交渉はあくまで国連決議の範囲内にとどまると、こういうことで正式調印まで行なわれたのでございます。

○野原(覺)委員 そういたしますと、南半分ということは、韓国側は了解したというあなたは見解を持たれますか。私は白書を出して、了解していないじゃないかと聞いたのですが、これははっきりしてください。

○椎名国務大臣 日韓間の合意された条約は、あくまで南半分、こういうことでございます。ただそれを国内的にどういうふうに披露しておるかというようなことにつきましては、いま御指摘があったようでございますが、これは国内問題でありますから、私はとやかく申したくない。とにかく韓国の責任ある当局者と数々の折衝を重ねて結論に到達したのは南半分であります。

○野原(覺)委員 南半分だということを了解した。ところが白書は了解をしていない。なぜ私がこれに固執するかというと、先ほど申したように、請求権の処理と法的地位その他の懸案にこれが非常に関係を持ってくる。外務大臣も御承知のように、請求権の処理は平和条約第四条の(b)項によって三十八度線から北には適用されないことになっておる。(b)項というのは、日本の韓国に対する請求権です。対韓請求権、これは三十八度線から南でアメリカ軍が日本のものを押えましたから、それを日本が放棄をしたので、三十八度線から北には適用されないことになる。ところが韓国の主張でいきますと、韓国の領域が朝鮮半島全体だということになれば、そうでなくなるのですね。北に対する日本の請求権の問題が一体どうなるかということがこれからの争点になるのです。佐藤内閣にしても、今日の時点では北との国交回復をなさっておりませんけれども、国際情勢のいかんによっては北鮮を相手にして話し合いを進めざるを得ない、そういう情勢が来ないとは言えない。そういう場合に非常にこれが障害になってくる。だからして、私どもはその解釈というものを明確にしたかどうか、一致さしたかどうか。外務大臣は基本条約第三条、そのとおりだというけれども、韓国はあくまでもそうじゃないといっておるから、この点はどうかということを私は尋ねております。これは解釈も一致しましたね。韓国の領域は、休戦ラインから南半、これは一致しましたね。

○椎名国務大臣 日韓会談では一致いたしました。

○野原(覺)委員 そういたしますと、この白書についてはどういうお考えですか。韓国は公式文書をもってそうでないといっておるのです、国民に対する文書でもって。この文書が出た以上は、あなたは読んでいないということだけれども、これはやはり私は問題にしてもらわなければならぬと思いますよ。これは当然問題にしてもらわなければなりませんよ。いかがですか。

○椎名国務大臣 われわれはあくまで権威ある条約がこの問題の決定の唯一の根拠である、かように考えております。もしもこの条約の実行にあたって韓国がこれをひるがえして、その白書に書いてあるようなことを主張してきたような場合には、これは絶対に受け付けるわけにはいかない。それの解釈は、結局この基本条約に関しましては日韓、それから英文と、三国の国語で書かれております。両方の国語上の疑義は英文によるということにもなっておりますので、おのずからその紛争処理のたてまえははっきりといたしておるのでございますから、その白書は、その前には何ら価値のないものになる、かように考えております。

○野原(覺)委員 この問題は、そのように申されても、白書にはっきり書いている以上、私は疑問が残る。しかしながら、これはいずれ適当な機会になお質問をしていきたいと思う。
 その次にお聞きしたいことは李ラインです。これは撤廃になりましたね。いかがですか。

○椎名国務大臣 撤廃というと、これはいろいろなことばの使い方で疑問が起こりますが、もはや李ラインはなくなった、こういうことになると思うのであります。すなわち基本条約の前文には、明記する以外に、公海自由の原則というものは絶対そこなわれないということがまず書いてあって、そして日韓の両国の間にお互い基線から十二海里を専管水域とする。専管水域以外はこれは公海でありまして、ただ、その一定範囲を漁業規制区域ということにして、主として日韓の漁民がここで漁業をやる事実上の場所でございますから、他の国を排除するわけにはいかぬのでありますけれども、主として日韓の漁船がここで漁業をする。その場合に、無制限な漁業をやって資源を枯渇するということは、将来にわたって非常な禍根を残すことになるのでありますから、お互いに漁業に従事する船舶あるいは漁獲量というようなものに一つの規制を加えて、そして魚族資源を保護していこう、その取り締まりについては、一方的にこれを取り締まることでなしに、いわゆる旗国主義、韓国の漁船は韓国の監視船によって、日本の漁船は日本の監視船によって、その両国の協定に従って臨検あるいはその他の取り締まりを受ける、こういうことにいたしました結果、あとの海域は何らの規制を加えない、公海自由の原則が適用されるということになりましたので、李ラインというものは全くあとかたもなく消滅した、こういうことになるのであります。

○野原(覺)委員 あなたの御答弁でいささか気になるところがございます。それは、李ラインは撤廃したのかと聞いたら、さあ撤廃と言ってはちょっと問題があると、こう言っておるのです。それはどういうことですか。これはひとつ要点を的確に言ってくださいよ、長々とやらないで。

○椎名国務大臣 向こうは李ラインがあるとこう言っているし、こっちは李ラインはないとこう言っている。だから、こっちから見たら、ないものを撤廃するというような協定は適当でないのであります。だから、結局そんなものはもう問題にならぬように、ほかのほうからきめてかかるということにしたのであります、こっちは初めから認めていないのですから。そういう意味でございます。

○野原(覺)委員 初めから認めていないけれども、これは国際法違反だ。外務大臣が言うように、初めから認めていないけれども、現実には漁業資源保護法その他によってつかまって牢屋にぶち込まれる。そういうひどい目を長い間日本側が受けてきたわけです。だから李ラインの撤廃が問題なんです。これは不法だということで簡単に片づくなら、だれも問題にしないのです。ところが、いまあなたの御答弁を聞いておると、韓国側は李ラインは残っておるといまでも言うのですか、この条約が調印される段階がきてでも。これは大問題ですよ。大問題ですよ、これは。あなたは韓国側がいまでも李ラインは残っておるということを、そう主張しておると言われたんだが、その主張がありながら一体この調印をしたんですか、国際法違反のその主張を認めながらを調印したんですか、いかがですか。このところは明確にしましょう。

○椎名国務大臣 いまでも李ラインは向こうは残っていると言っておるわけではございません。この条約正式調印以前におきましては、李ラインというものを主張しておった。こっちは認めない。認めないけれども、事実上李ラインを侵すと漁船が拿捕される。われわれは漁船の拿捕ということを問題にした。そういう不当な一線を画して、そうしてそれを侵したこういうことを言って不法に漁船を拿捕するというのはけしからぬ、こういうことを言ってきたわけであります。それで、いま申し上げるとおり、十二海里の専管水域は認めます。しかし共同規制水域、これにおきましてもいわゆる旗国主義で、一定の規制を侵すか侵さぬかということについての取り締まり等は、これは従来であれば当然李ラインの中、内側でございますから、向こう側はわが領域なりとばかりに日本の漁船をどんどん拿捕していったのでありますが、今後においては、そういうことは絶対なくなる、そういう原則を向こうが認めました。これすなわち、向こうも李ラインの撤廃に踏み切ったということでございます。

○野原(覺)委員 いまでも残っておるとは言っていないということですが、間違いございませんか。撤廃されたと今日の時点で韓国は言っておりますか。存続しておるとは言っていないとあなたは言われたんだが、それは間違いありませんか。

○椎名国務大臣 今日においては、少なくとも韓国の責任ある当局は、そんなばかなことは言ってないと思います。ただ、うそでも十数年間、李ラインというのはあるぞ、あるぞというようなことを言って、漁民に説き聞かしておったわけでありますから、漁民の心情を考えて、あるいはどんなことを国内的に言っているかわかりませんけれども、実際問題としては、それはもう空虚なものである。われわれはもしこの条約が施行されることになりますれば、もう李ラインというものは影も形もなくなるということを確信しております。

○野原(覺)委員 外務省の政府委員がおるでしょう。いまのような外務大臣の答弁でいいのかね。外務省の政府委員に聞くが、今日の時点で、韓国は李ラインは残っておるとは言っていない、こう大臣は言われるが、あれでいいのかね。これは尋ねておきたい。政府委員の意見を聞く。

○高辻政府委員 ただいま外務大臣から御説明のありましたとおりでありますが、先ほども外務大臣がおあげになりましたように、日韓の漁業協定には、前文に、御承知のことと思いますが、両国の関係で「公海自由の原則がこの協定に特別の規定がある場合を除くほかは尊重されるべきことを確認し、」とございまして、特別の場合としては、専管水域等の規定があるわけでございます。したがって、少なくも日本国と韓国との間に関してはそれ以外の部分については公海自由の原則が支配をする。つまり李ラインという問題は、これはそれ自身を指摘いたしまして、条約上撤廃するというようなことがありませんので、外務大臣のさっきのおっしゃったような表現になったと思いますが、少なくも実態的に、実質的にそれが存在する余地は全然ない。これだけは安心して申し上げられると思います。

○野原(覺)委員 法律の専門家がそういう御見解ではいささか困りますよ。これは公海自由の原則が前文にうたわれておると申しますけれども、李承晩ライン宣言の末尾に何と書いてあるかというと、「公海における航行自由の原則を否定するものではない。」李ラインそのものに公海自由の原則はうたっておったんです。そうして今度は、なるほど漁業協定の前文には公海自由の原則をうたっておる。この漁業協定の前文の公海自由の原則たるやきわめてあやふやなものなんです。李ラインでもうたっておる。公海自由の原則を否定するものではない。これは李承晩ラインを見てごらんなさい、末尾にあるから。そこで、いま法制局長ですか、それから外務大臣も、お二人とも李ラインは実質的な撤廃だとこう言う。ところがこれまた同じく私は韓国白書を読み上げます。ずっと前文がありまして、「漁業協定により、日本は平和ライン内の一定の規制水域で、一定の隻数の漁船による一定量の漁獲が許されることになるのであるから、平和ラインはその本来の目的趣旨が合意された協定の形で厳然と残ることになる。」これは韓国側の見解です。平和ラインは残ると言っている。平和ラインは残るけれども、共同規制水域、つまり韓国の漁業専管水域以外の平和ラインの内には六年の期限を限って日本の漁船は入ることができる。それは十五万トンか十六万五千トンかの魚を自由にとることができる。これは漁業協定の有効期限は五年で、通告期限が一年あるから六年です。ところがこの六年の期限が満了すれば、漁業協定の改定ができない。これは一方の側がどうしても応じなければできない、こういうことになると問題が起こってくるのです。これは自動的にこの李ラインがまたもとに返る。向こうは李ラインは撤廃してないといっておる。いま外務大臣の答弁を聞いても法制局長官の答弁を聞いても、李ラインが完全に撤廃されたとは言わない。実質的撤廃と、こう言っている。完全になくなったということと実質的撤廃ということは私は違うと思うのです。違います。実質的撤廃とは、李ラインはある、形式的にある、これは認めざるを得ない。これを認めないことには韓国は調印に応じない。だからこれは認めよう、形式的の李ラインは認めよう、けれども中には日本の船が入っていくのだから、事実上李ラインの法的な裏づけをしている漁業資源法というものはあってなきがごとき状態になる。ところが漁業協定の期限は六年ですから、六年たって再改定ができなければまたもとのもくあみ、李ラインは返る。無償三億ドル、有償二億ドル、民間経済援助三億ドル、八億ドル日本から金をもらうことでもあるし、アメリカもやんやとやかましくいうことでもあるから、まあしようがない。六年だけは入れてやれ、六年たったらもとに戻るのだ、その証拠を残すために、平和ラインとして厳然として残ると、この主張を一貫してきておるのじゃありませんか。一貫してこの主張をしてきたがゆえに、日本の外務大臣は完全に撤廃されたかという私の質問にしり込みをするのです。私はこれは重大だと思う。国際法違反の李ラインを形式的にも承認して調印をしたということは重大だと思う。なぜ李ラインの問題にしても竹島の問題にしても、こういう懸案事項の重大な問題をあいまいにして調印をしなければならぬのか。十四年かかってきたことであるから、まあこの辺でやろうという気持ちはわかる。しかしながら、日本の国内にも反対勢力は強い。韓国の国内にも強い。しかもいま言った李ラインにしても実にあいまいだ。一体どうしてそういう大事なことを、形式的にも撤廃されたかどうかということも明確にしないで調印をしたかということが私はわからないのです。竹島については今後資料を出すということでございますが、どのような資料が出てきますか、私は大いに注目いたしましょう。李ラインについてはついに形式的撤廃で、形式的に残ることを承認しておる。ほんとうのこういうことをあいまいにして調印をしたということは、佐藤内閣が何か長い間の懸案を解決して、ここで点数をかせごうじゃないか、ILOもやったんだから、まあ日韓もやれば、佐藤榮作という総理大臣は長い間の懸案を解決した総理として歴史にも残ると、鳩山さんが日ソ交渉をやったし、何か一つ歴史的な懸案事項を解決しようという功名心からなさったのでございますか。総理大臣、いかがですか。これは、私はそうでないならそうでないという理由をお聞かせ願いたい。どうも私はわからないのです。

○佐藤内閣総理大臣 功名心から日韓交渉を最終的に調印したと、そんなことはございません。

○野原(覺)委員 それでは竹島の問題をあいまいにし、李ラインの形式的な撤廃で、李ラインの完全撤廃をあいまいにして、どうして調印をしたのです。こういうことは根本的に解決して調印さるべきじゃありませんか。国際法違反ですよ、李ラインは。完全撤廃になっておりませんよ。どうして調印をしたのです。――総理に聞いておる。あなたは――委員長、総理に聞いておるから、総理が答弁してから答弁させてください。

○高辻政府委員 ただいま御指名がありましたので、私の先ほどのお答えについて誤解の種があったようでございますので、一言申し上げます。
 先ほどのお答えについて、特に私指摘したつもりでございますが、この協定に特別の規定がある場合を除きますと――この協定には専管水域とかいろいろな規定はございます。そういう規定は別でありますが、そういう規定外の部分については公海自由の原則が尊重される。これは問題なしに、限定的に規定したもの以外には公海の自由が及ぶ。これはもうれっきとして両国の間に規定したことでございます。一方、なぜそれでは李ラインの撤廃を明言しなかったか。これは一応御疑問だと思いますが、李ラインというのは、われわれが再三申し上げておりますとおりに、これは国際法上不法不当なものとして実はもとから認めてないものでございます。したがって、それを明文をもって規定して廃するというようなしろものではない。とにかく実態的に李ラインというものはこの協定上相いれないことになる。したがって、それは実質的にと申し上げましたのがたいへんお気一にさわったようでございますが、とにかくそういうものとしては日韓両国の間では存在し得ない、
 これは条文からきわめて明白であろうと思います。

○野原(覺)委員 ちっとも明白でない。それでは私は――これは委員長に要求いたしますが、質問をする私が総理大臣と指名をした場合には、委員長はやはり指名された方に答弁をしていただいて、その上で総理の要請があれば政府委員が出るということにすべきであります。委員長のただいまの運営、これはただいまだけではない。いつも法制局長官というのは、前の林長官のときからそうなのです。何とかしてきょう法制局長官のその法的な知識を告さなければならぬという功名心があるのかどうか知らぬが、これは私が指名もしないのにいつもそのマイクの前に飛び出してくる。これは越権もはなはだしいと思う。われわれは国務大臣を相手に審議するんだ。法制局長官というのは国政審議のあり方を知っておるはずだ。議員が国務大臣に質問をし、国務大臣はわれわれに答弁をしなければならぬ。君らは国務大臣の相談役じゃないか。その相談役であるものがかってに出てくるとは何ごとだ。陳謝をせよ。そういうことは、自体、私はいまの場合だけでなしに、今後これは運営の問題として、委員長、特に御注意願いたい。委員長の御所見を求めます。

○青木委員長 お答え申し上げます。
 条文上の解釈でありますので法制局長官が御説明申し上げたことであります。御了承願います。

○野原(覺)委員 その場合には、これは国務大臣の要請があって答弁に立つ、こういうことにしてもらいたい。
 そこで、私はあえて法制局長官にお尋ねいたします。今度は私が指名をする。あなたが、漁業の専管水域以外に公海自由の原則が認められることになったという、これは私も承認できる。これは永久にですか。これは何か期限はございませんか。公海自由の原則がなるほど前文にうたわれておりますが、これは時間的な制約を受けておりませんか。法制局長官、あなたは法律の専門家だ、いかがですか。

○高辻政府委員 先ほども御言及になりましたが、この漁業協定については一応協定の期限というものがございます。「五年間効力を存続し、その後は、いずれか一方の締約国が他方の締約国にこの協定を終了させる意思を通告する日から一年間効力を存続する。」というのがございます。したがって、この協定は、その文言からいえばその説明を要しませんとおりに、その効力の存続期間だけあるわけでございますが、しかし、ともかくも日韓両国の間にこういう協定が締結されて、そして本来国際法の原理原則といたしましての確立された国際法規というものが現在支配しているわけでございますから、全然ない場合と違いまして、こういう協定ができた後の話、それはまた別個にこの期間が経過した後には協定が遂げられなければならぬと思いますが、それについて現在の協定そのものが非常に大きな意味を持つということも、これは疑いをいれないことだと思います。

○青木委員長 野原君、持ち時間がまいっておりますので、結論をお願いいたします。

○野原(覺)委員 これは法制局長官、私はあなたにもう一度聞きましょう。私があなたに尋ねたいことは、この存続期間は六年だ、六年の制約があるということです。六年を経過して協定の効力が存続しないということになると、日韓の間には漁業については無条約状態になるわけです。これはお認めになると思う。そうなってまいりますと、韓国は直ちに李ラインは自動的に復活したと主張するでありましょう。何となれば、李ラインの撤廃は韓国は約束しなかったのです。形式的にはおれはうんとは言えない、こう言ったのです。しかもその李ラインの法的な裏づけをしておる漁業資源保護法は、韓国は国内法として現存させるわけです。私が李ラインは残ったと主張することはともかくとして、日本の漁船を拿捕したところの法律、悪法の漁業資源保護法くらいは撤廃させなければ、漁業協定の調印はできないというくらいの交渉がしてもらいたかったんだ、政府に。ところがこれも認めてしまったんだ。こうなれば、六年の期限がたつというと、李ラインは自動的に復活するわ、直ちに生き残っておるところの漁業資源保護法によって日本の漁船は拿捕されることになるじゃありませんか。私は、これは日韓条約の調印が軽率であったという一つの証拠として申し上げておる。この点、あなたはどう考えますか。漁業資源保護法というものは撤廃さすべきであったという私の主張をあなたはお認めになりませんか。

○高辻政府委員 一国の法律は、その国の主権の作用として実はできるものでございまして、その国の法律を撤廃しろということを直接に要求するというのはいかがかと思いますが、とにかく条約ができまして、その条約と相いれない事態が事実としてはあるかもしれませんが、そういう事実がもしありとすれば、それは条約に違反する事実であって、それに対しては国際法上認められているいろいろな交渉関係というのが出てまいります。しかし、条約というものを結んだ以上は、相互にそれが善意を持って確保されていく、履行されていく、守られていくという前提に立ってでないと、条約の意味はございませんが、そういう意味からいたしまして、もしそれが韓国の漁業資源保護法と相いれないものがあれば、漁業資源保護法はおのずからその結果として改定をされるものだと私は思います。
 少なくもとにかく一国の法律そのものを撤廃しろというようなことを要求するということは、これはいかがかと思いますが、いま申したように、条約というものがあることになりますと、その条約に違反するような国内法は、その存立を結果として許されなくなる。したがって、適当なる国内措置がとられるものというふうに私は思います。

○青木委員長 野原君、結論をお願い申し上げます。

○野原(覺)委員 これは、漁業資源保護法は生き残っておるし、それから六年の期限が経過いたしますと、李ラインは自動的に復活をする。これは法制局長官も認めざるを得ないと思う。無条約状態になれば復活するかもしれないという懸念がある。私はこの懸念はあると思う。だから、あなた方が公海自由の原則によってとか、李ラインはなくなったのだと言うならば、少なくとも日韓条約の調印をするにあたっては、日本と韓国との間の水域にこのような国際法違反の不法不当なラインは設けてはいかぬぞということくらいの確約を一本とるべきなんです。自主的撤廃とは六年間の自主的撤廃だ、六年間だけ何隻かの船が入って、十何万トンかの魚がとれる、その制限を付けられた限りの撤廃だ。時間的な制約の自主的撤廃だ。その時間が経過すればもとに戻るかもわからないという状態に置かれていることを知りながら、そのことの破棄を求めないままに調印したということは、これは総理大臣、軽率のそしりを免れませんよ、この問題は。これは、私どもはやがて日韓条約の批准国会において追及をしなければならぬと考えます。
 そこで、先ほどの真のねらいというものは、そういう中身をあいまいにしながら、参議院選挙で社会党の代議士は一人も東京にいないし、国民が選挙に焦点を向けている六月二十二日の選挙のまっ最中、徹夜でやった。竹島の問題だって問題がある。李ラインだって、領域だって問題がある。あるいは法的地位だって、待遇だって問題がある。きょうは時間がありませんから触れておりませんが、韓国籍の者と韓国籍でない朝鮮人との処遇が、持ち帰り金にしたって、その持ち帰り財産にしたって、あるいは教育と生活保護はともかくとして、国民健康保険にしても、いまだに方針が出ていないようだが、これに差別待遇があるということになると、今後の朝鮮対策として、日本政府はいわゆる国際的な大きな問題点を残すことになると私は思うのです。そういうふうにたくさんの問題点を残しながらこのような調印をした真の理由というものはどこにあるのか。これはなかなか日本政府はほんとうのことを言わないのですが、韓国の朴正煕はこの点はりっぱだと思う。ほんとうのことを言っております。読み上げます。韓国の朴正煕がこう言っている、ほんとうのねらいを。「最近のアジアの情勢と、ベトナム地帯の流動的国際情勢の激変を語らずとも、自由陣営の結束は、そのいかなる時よりも最も緊急に要請されているのが実情である。もっとも、中共は核実験成功を契機として国際政治上の地位が急速にクローズ・アップされ、世界政治の舞台である国連への加入をめざし一歩一歩その基盤を固めつつあるこの時、ともに自由陣営の一員であり、地理的にも隣接する韓日両国の国交正常化は緊急に解決されねばならない問題である。」中共を目標にしたということをここに書いているのです。長くなりますから、大事なことは抜いておきます。これは朴正煕の発表です。今度はその次、ずっと省いて前文省略。「これは結局、日本も変遷する国際情勢と中共の急速な膨張に対処するため、自由陣営が結束して、とくに極東における共産勢力の脅威を最も身近に受けている韓日両国が、国交正常化を通じて結束しなければならない緊要性ないし不可避性を認識していることを語っているものだと思う。」この締結は、これはつまり反共の立場をとるということです。中共を目標、これは反共の一つの同盟だということ。私は時間が、ございませんから、これはずっと申し上げませんが、「韓日両国が国交を正常化することは、単に韓日両国だけでなく全自由世界の利益をもたらすものである。これがすなわちアメリカをはじめとする友邦国家がみなともに韓日交渉の早期妥結を強く望んでいる理由である」云々。ここで、韓日会談の白書の「自由陣営の結束」というところに韓国政府が正式に発表したもの、これを見てみますと、日韓会談とは、これは因数分解をすれば日米韓会談である。日韓会談は、日韓会談プラス米韓会談プラス米日会談、こういうふうに因数分解されて、答えは日米韓会談だ。私は、時間がないからその証拠はいまここではあえて出しません。これはアメリカの日本に対する要請、アメリカの韓国に対する要請、問題は、アメリカの中国封じ込め、そういうところからの要請がきびしいために、ベトナムの戦争も激しく展開されておるために、どうしても日本がここで立ち上がってもらわなければならない。日韓の正常化という形で自由陣営の結束を誇示しなければならぬというところに原因がきておることは、朴正煕は率直に国民に訴えておる。ところが、このことを私どもが本会議その他で質問いたしましても、そういうことは断じてない、何言っているんだ、韓国とは隣国だからやったんだ、とこう言う。隣国なら、なぜ中国とやらぬかと言えば、御答弁ができない。こういうように、平和に徹すると総理は言われますけれども、この問題はいまここでは時間的に議論はできませんが、私はあなたの平和観というものをもう少し掘り下げて承らなければならぬ時期がやがてきたならば、平和に徹するというその平和とは、具体的にどういうことか。平和とは、私は戦争をしないということだと思うのです。仲よくするということだと思う。仲よくするということであれば、何も共産主義とか資本主義のイデオロギーにこだわらないで日本は手を差し伸べるべきだ。ところが、今度の日韓会談の中身は、法的地位の待遇においても、おまえは北鮮であれば差別する、こういうような考え方に立っておることをきわめて遺憾に思うのです。時間がございませんために、まことに残念でございますが、真のねらいは中国を封じ込め、それから反共の同盟。日韓会談とは、アメリカの極東戦略によって要請されたために、竹島もあいまいにし、それから李ラインもあいまいにし、韓国の領域もあいまいにしてこの条約が調印をされておるものと私どもは断定せざるを得ないのであります。
 以上を申し上げて質問を終わります。(拍手)

 第050回国会 衆議院本会議 第7号 昭和四十年十月二十一日(木曜日)午後二時開議

【発言順】
 議長     船田 中
 外務大臣   椎名 悦三郎
 農林大臣   坂田 英一
 法務大臣   石井 光次郎
 議員     井手 以誠
 内閣総理大臣 佐藤 榮作
 通商産業大臣 三木 武夫

○議長(船田中君) これより会議を開きます。
     ――――◇―――――
 日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結について承認を求めるの件、日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定の実施に伴う同協定第一条1の漁業に関する水域の設定に関する法律案(内閣提出)、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案(内閣提出)及び日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法案(内閣提出)の趣旨説明

○議長(船田中君) 議院運営委員会の決定により、日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結について承認を求めるの件、内閣提出、日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定の実施に伴う同協定第一条1の漁業に関する水域の設定に関する法律案、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案、及び日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法案の趣旨の説明を順次求めます。外務大臣椎名悦三郎君。
  〔国務大臣権名悦三郎君登壇〕

○国務大臣(椎名悦三郎君) 去る六月二十二日に東京において署名いたしました日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結について承認を求めるの件並びに財産権及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案に関し、趣旨の御説明をいたします。
 わが国と近隣関係にある韓国との諸問題を解決して、両国及び両国民間に安定した友好関係を樹立することは、平和条約によってわが国が国際社会に復帰して以来のわが国の重要な外交上の課題でありまして、政府は、韓国との国交を正常化するにあたり、諸懸案を一括して解決するとの基本方針に従って、十四年の長きにわたり困難な交渉を重ねてまいりました。その結果、先般ようやく、基本関係、漁業、請求権及び経済協力、在日韓国人の法的地位及び待遇、文化財及び文化協力、並びに紛争解決のおのおのについての条約とそれに関連する諸文書について、韓国政府との間で完全な合意に達し、去る六月二十二日に東京において署名の運びとなった次第であります。
 いま、これらの諸条約についてそのおもな点を御説明申し上げれば次のとおりであります。
 第一に、基本関係に関する条約は、善隣関係及び主権平等の原則に基づいて、両国間に正常な国交関係を樹立することを目的とするものであります。したがいまして、この条約は、両国間に外交関係及び領事関係が開設されることを定め、併合条約及びそれ以前のすべての条約はもはや無効であること、及び韓国政府が国際連合第三総会の決議第百九十五号に明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府であることを確認し、両国間の関係において国際連合憲章の原則を指針とすること等、両国間の国交を正常化するにあたっての基本的な事項について規定しております。
 第二に、漁業に関する協定は、漁業資源の最大の持続的生産性の維持及び保存並びに合理的発展をはかり、両国間の漁業紛争の原因を除去して相互に協力することを目的とするものであります。この協定は、公海自由の原則を確認するとともに、それぞれの国が漁業水域を設定する権利を有することを認め、その外側における取り締まり及び裁判管轄権は漁船の属する国のみが行なうこと、共同規制水域を設定して暫定的共同規制措置をとることを定める等、両国間の漁業関係について規定しております。
 第三に、財産及び請求権の解決並びに経済協力に関する協定は、両国間の財産、請求権問題を解決し、並びに両国間の経済協力を増進することを目的とするものであります。この協定は、両国及びその国民の財産、権利及び利益並びにその国民の間の請求権に関する問題を完全かつ最終的に解決することを定めるとともに、韓国に対する三億ドル相当の生産物及び役務の無償供与並びに二億ドルまでの海外経済協力基金による円借款の供与による経済協力について規定しております。
 第四に、日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する協定は、わが国の社会と特別な関係を持つ大韓民国国民に対して日本国の社会秩序のもとで安定した生活を営むことができるようにすることによって、両国間及び両国民間の友好関係の増進に寄与することを目的とするものであります。この協定は、これらの韓国人及びその一定の直系卑属に対し、申請に基づく永住許可を付与すること、並びにそれらの者に対する退去強制事由及び教育、生活保護、国民健康保険等の待遇について規定しております。
 第五に、文化財及び文化協力に関する協定は、文化面における両国の学術及び文化の発展並びに研究に寄与することを目的とするものでありまして、また、一定の文化財を韓国政府に引き渡すこと等を規定しております。
 第六に、紛争の解決に関する交換公文は、両国間のすべての紛争を、別段の合意がある場合を除くほか、外交上の経路を通じて解決すること、及びそれができなかった場合には、調停によって解決をはかるものとすることを定めております。
 以上を通観いたしますに、すでに累次の国会の本会議及び委員会における質疑等を通じて説明申し上げてまいりましたとおり、これらの諸条約によって、長年にわたって両国間の国交正常化の妨げとなっておりましたこれらの諸問題が一括解決されることとなり、こうして、両国間に久しく待望されていた隣国同士の善隣関係が主権平等の原則に基づいて樹立されることとなるわけであります。これらの諸条約の基礎の上に立って両国間の友好関係が増進されますことは、単に両国及び両国民の利益となるのみならず、さらに、アジアにおける平和と繁栄とに寄与するところ少なからざるものがあると信ずる次第であります。
 次に、大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案について趣旨の御説明をいたします。
 さきに御説明いたしました財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定は、その第二条において、日韓両国間の財産及び請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決されることになったことを確認し、日本国にある韓国及び韓国民の財産権に対しとられる措置に関しては、韓国はいかなる主張もできないものとする旨を規定しております。この規定上、これらの財産権について具体的にいかなる国内的措置をとるかはわが国の決定するところにゆだねられており、したがいまして、この協定が発効することに伴ってこれらの財産権に対してとるべき措置を定めることが必要となりますので、この法律案を作成した次第であります。
 この法律案は、三項及び附則からなっており、その内容は、協定第二条3に該当する財産、権利及び利益について規定するものであります。
 まず、第一項においては、韓国及び韓国民の日本国及び日本国民に対する債権及び日本国または日本国民の有する物または債権を目的とする担保権を消滅せしめることについて規定しております。第二項においては、日本国または日本国民が保管する韓国及び韓国民の物についてその帰属を定め、第三項においては、証券に化体された権利であって第一項及び第二項の適用を受けないものについて、韓国及び韓国民はその権利に基づく主張をすることができない旨を規定しております。なお、附則におきまして、この法律案の施行の日を協定発効の日としております。
 以上が、日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結について承認を求めるの件、並びに大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案の趣旨でございます。(拍手)
    ―――――――――――――
○議長(船田中君) 農林大臣坂田英一君。
  〔国務大臣坂田英一君登壇〕

○国務大臣(坂田英一君) 日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定の実施に伴う同協定第一条1の漁業に関する水域の設定に関する法律案について、その趣旨を御説明いたします。
 まず、提案理由について申し上げます。
 日本国と大韓民国との聞の漁業に関する協定第一条におきまして、日韓両国は、自国の沿岸から十二海里以内の水域を、自国が漁業に関し排他的管轄権を行使する水域、すなわち漁業に関する水域として設定する権利を相互に認めております。このことに伴い、わが国においても、沿岸漁業の保護をはかるため、必要に応じかかる漁業に関する水域を設定し、当該水域においてわが国が行使する排他的管轄権に関し、大韓民国及びその国民に対する法令の適用を明らかにする必要があるのであります。これが、この法律案を提案いたしました理由であります。
 次に、この法律案の内容を御説明申し上げます。
 第一は、協定第一条1の漁業に関する水域を政令で定めることとする規定であります。なお、この漁業に関する水域は、その設定の目的及び趣旨等からして最小必要限度にとどめるべきものでありますが、大韓民国漁船の装備の向上等に伴って、今後わが国沿岸における大韓民国漁業とわが国沿岸漁業との交錯を生ずることが多くなることも考えられ、これら情勢の変化に応じて漁業に関する水域を設定するため、政令で定めることといたした次第であります。
 第二は、漁業に関する水域において大韓民国及びその国民が行なう漁業に関しては、わが国の法令を適用することとする規定であります。これにより、具体的に適用される主要な法律は漁業法でありますが、同法及びその委任命令により大韓民国及びその国民の行なう漁業が規制されるほか、これらの規定に違反した大韓民国国民については、罰則が課せられることとなるのであります。
 以上が、日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定の実施に伴う同協定第一条1の漁業に関する水域の設定に関する法律案の趣旨でございます。(拍手)
    ―――――――――――――
○議長(船田中君) 法務大臣石井光次郎君。
  〔国務大臣石井光次郎君登壇〕

○国務大臣(石井光次郎君) 日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法案について、その趣旨を説明いたします。
 日韓両国の友好関係を増進するためには、永年にわたりわが国に居住している大韓民国国民に、わが社会秩序のもとで安定した生活を営むことができるようにする必要があります。このような観点から、日韓協定の一つとして日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定が締結されたのでございます。
 この法律案は、右の協定を誠実に履行するために必要となる永住許可、退去強制等について出入国管理令の特別規定を設けようとするものでありまして、本文九カ条及び附則からなっているのであります。
 以下、この法律案の内容の概要を申し述べます。
 第一点は、大韓民国国民であって、終戦前から引き続き日本に居住している者及びその直系卑属として一定期間内に日本で出生し、引き続き居住している者のほか、永住を許可されているこれらの者の子として日本で生まれた者は、その申請により、法務大臣の許可を受けて本邦で永住することができるものとしたことであります。法務大臣は、一般外国人の在留管理に当たっておりますので、これを主管大臣としたのであります。
 第二点は、永住許可の申請、その審査及び許可について手続規定を設けたことであります。すなわち、申請者の便宜をはかり、申請手続の窓口事務は居住地の市町村の事務所において行なうべきものとしたのでありますが、法務大臣が審査を行なうについて必要な事実調査は入国審査官または入国警備宮をして行なわせるものとしたことであります。
 第三点は、永住許可を受けている者に対する国外退去強制事由について、一般外国人に対するよりも著しく制限を加えたことであります。すなわち、永住許可を受けている者に対しましては、内乱、外患、国交に関する罪や麻薬関係犯罪等の特定の罪によって罰せられた場合のほか、七年をこえる重い刑に処せられた場合等に限って、退去強制の手続をとり得るものとされているのであります。
 第四点は、虚偽の申請をして永住許可を受けた者や威力を用いて永住許可の申請を妨げた者に対する罰則を設けたことであります。適正、迅速かつ自由な申請手続を保障しようとする趣旨に出たものでございます。
 以上が、この法律案の趣旨でございます。(拍手)
     ――――◇―――――
 日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結について承認を求めるの件、日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定の実施に伴う同協定第一条1の漁業に関する水域の設定に関する法律案(内閣提出)、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案(内閣提出)及び日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑

○議長(船田中君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。これを許します。井手以誠君。
  〔井手以誠君登壇〕

○井手以誠君 私は、日本社会党を代表いたしまして、日韓条約の重要な問題点について、佐藤総理の所信をただし、あわせてわが党の立場を明らかにいたしたいと存じます。(拍手)
 質問の第一は、領土管轄権と国連憲章の関係であります。
 基本条約は、韓国の地位について、一九四八年の国連総会決議第百九十五号(Ⅲ)を援用されております。そもそも朝鮮問題の発端は、朝鮮民族の独立を約束した一九四三年のカイロ宣言にあり、これを引き継いだポツダム宣言を日本が無条件に受諾したことにあります。御承知のとおり、民族自決は国連憲章の大原則であります。その第一条に、民族の同権と自決、第二条は、内政不干渉を宣言いたしておるのであります。さらに、第百七条は、第二次大戦の戦後処理について、国連は関与できないことを明記いたしておるのであります。以上明らかなように、当然、朝鮮の管轄については、朝鮮民族みずから、朝鮮民族だけがきめる権利を持っておるのであります。しかも、朝鮮代表が参加していない十七年前の古い国連決議をもって、朝鮮の領土の分割をしいたり、片方の管轄範囲をきめたりすることは、たとえ国連といえ、また、いかなる国も許されないことであります。(拍手)したがいまして、基本条約に国連決議を援用したことは、国連尊重を力説する佐藤内閣みずから国連憲章に違反するものといわねばならぬのであります。(拍手)
 質問の第二は、北朝鮮との関係であります。
 政府は、ただいま、北朝鮮との関係は一切白紙であると説明されました。今日、休戦ラインの北に朝鮮民主主義人民共和国政府が北朝鮮を有効に支配していることは、厳たる事実であります。この北朝鮮とわが国が、好むと好まざるにかかわらず、貿易や帰還問題などの関係を持つことは必然であります。一方、全朝鮮を領土とした憲法を持っている韓国政府が、この条約で日本が今後北朝鮮と外交関係を持つことを阻止することができたと公言しておることは周知のとおりであります。この韓国政府と北朝鮮政府は、不幸にして敵対関係にあります。したがいまして、わが国が、武力北進、武力で全朝鮮を統一することを国是とする韓国政府と基本関係を結べば、当然の反応としてわが国は北朝鮮と対立関係に立たざるを得ません。ここに本条約の軍事的性格があるのであります。(拍手)また、逆に、わが国が北朝鮮と何らかの接触をはかろうとすれば、必ず韓国政府からの反発と抗議を招くでありましょう。現に国際電気標準会議の経過を見ても明らかであります。
 そこでお伺いをいたします。今後、北朝鮮とは対立関係に立ち、一切の接触も持たないお考えなのか。それとも、朴政権の不当な横やりは退け、実務的接触を進められるお考えなのか。総理は、先日、どこの国とも仲よくすると言明されました。ケース・バイ・ケースは独立国の外交には不見識であります。いずれの道をとられるか、明確にお答え願いたいのであります。(拍手)
 質問の第三は、請求権、経済協力の問題であります。
 端的にお伺いいたします。政府は、従来、請求権は法的根拠のあるものに限ると公約してきました。この筋を通した解決方法を、何ゆえに経済協力に切りかえられたのか。このことは、平和条約第四条に反しはしないのか。また、経済協力五億ドルの根拠と性格は何であるか。この協定によって放棄される日韓双方の引き揚げ者の財産請求権は固有の権利であって、法律上の疑義を残してはならないのであります。その解決策を承りたい。
 この請求権は、わが国三十六年間にわたる朝鮮統治の評価と深い関係があるのであります。もし、本条約に調印した高杉首席代表の発言のようであれば、五億ドルのつかみ金を出す必要はございません。また、植民地支配の反省があるならば、当然正当な償いをしなくてはならぬのであります。平和条約第四条は、南北全朝鮮に関する請求権であります。総理は、北朝鮮の請求権をどう扱うつもりか、基本的な方針を明らかにされたいのであります。(拍手)
 申すまでもなく、この経済協力は、日本国民の金によって支払われるものでありますから、韓国民衆のため真に生かされねばなりません。いやしくもアメリカ援助の二の舞いを演じたり、利権化されては断じてなりません。相手が汚職に包まれている朴政権であり、日本の独占資本が経済侵略を非難されているだけに、あえて申し上げます。経済協力の実施に疑惑を招かない万全の用意があるのか、総理の所信を承りたいのであります。(拍手)
 質問の第四は、漁業協定であります。
 漁業協定最大の眼目は、李ラインの撤廃であります。韓国側は、不法きわまる李ラインの存続を言明しております以上、国防上、大陸だな保護上の理由から、いつ国内法を発動するか、不安は依然として去りません。国内法を条約と同格に扱う韓国に対し、何ゆえ撤廃の確約を得られなかったのか。協定期間後また韓国側に主導権を握られ、李ライン復活のおそれはないか、承りたいのであります。
 わが国の海洋政策は、国際海洋法会議で明らかにされておるはずであります。それが、この漁業協定によって無原則に、とほうもなくゆがめられました。今後、国際漁業に重大な影響を及ぼすものといわねばならぬのであります。特に、第一領海をきめなかったことは重大な失態ではないか。漁業専管水域十二海里全域に領海と同じ主権が及ぶおそれがございます。第二、韓国沿岸から四十海里以上も離れた済州島及び黒山島をなぜ独立の島として取り扱わなかったのか。妥協にも限界があるのであります。第三、済州島と本土間の広大な基線内水域は領海となるのか。合意議事録に響いてある無害通航権とは、海洋法会議において領海内と規定しておるではございませんか。第四、韓国の漁業専管水域において、国際慣行として認められている十カ年の入漁権をなぜ放棄したか、理由を承りたいのであります。
 共同規制は、資源の保護から資源の折半に変わりました。しかも、わが国だけ一方的に規制されることは、重大な後退といわねばなりません。特に指摘したいのは、わが零細漁民の打撃であります。すなわち、済州島周辺における大資本の漁場確保と引きかえに、対馬-釜山間の一本釣り漁場が大幅に狭められ、三千隻の零細漁船は千七百隻に減らされるのであります。零細漁民こそ最大の犠牲者といわねばなりません。(拍手)政府の補償と救済対策、あわせて拿捕漁船の補償を承りたいのであります。
 質問の第五は、竹島の帰属であります。
 竹島問題は領土主権に関するものであります。この竹島を含む一括解決が日韓交渉の基本方針であったことは、よもやお忘れではありますまい。およそ国交回復にあたり、領土主権に関するものほど重要なものはないのであります。総理は、先日、紛争は条文によって解決すると言明されました。竹島のタの字も入っていない交換公文で解決の条文と自信がありますならば承りたいのであります。
 ここで私が特に指摘したいのは、この紛争解決を調停にしたことであります。漁業協定と請求権に関する協定には、仲裁委員会を設けて日韓両国を拘束することにいたしております。しかるに、この交換公文には、拘束力のない調停しか規定いたしていないのであります。何ゆえに領土問題をわざわざ弱い調停にしたのか、不可解にたえません。これでは竹島を放棄したも同然であるといわねばならぬのであります。(拍手)
 質問の第六は、法的地位の問題であります。
 この協定で定められた各種の待遇を受ける者は韓国民に限られ、朝鮮の籍の者は全く受けられません。また、これに関連して、政府は、朝鮮籍から韓国籍への切りかえを促進し、韓国籍から朝鮮籍への移動を認めない方針であります。これこそ三十八度線の対立を日本国内に持ち込み、移転、居住の自由、国籍選択の自由をうたった世界人権宣言をじゅうりんする態度といわねばならぬのであります。(拍手)政府は、即刻国籍選択を自由にし、一切の差別をやむべきであります。人道主義の立場から総理の所信をお伺いしたいのであります。
 最後に、私は、朝鮮問題についてわが党の立場を明らかにいたします。
 わが国がカイロ宣言及びポツダム宣言を無条件で受諾した以上、当然朝鮮民族の独立を承認しなければなりません。その場合、朝鮮民族がいかなる政府をつくるかは、朝鮮民族がみずからきめる問題であります。
 およそ一つの民族は一つの国家を持つのが国際法の原理、原則であります。不幸にも、朝鮮には二つの政府が現に存在しております。これを一民族一国家一政府の状態に到達させるには、朝鮮民族の努力にまかせ、他の国はこれに干渉すべきではありません。(拍手)国連もまた関与する権限はないのであります。日本は、中国問題の轍を踏んではならないのであります。アメリカが国連軍の名のもとに南朝鮮に置いている軍隊を撤退すれば、北朝鮮には中ソの軍隊は一兵もいないのでありますから、南北朝鮮の自主的統一は自然に達成されるでありましょう。こうしてできた朝鮮の統一政府とわが国は正式に国交を樹立し、その際、三十六年間の植民地統治に正当な償いをなすべきであります。
 しかし、南北に二つの政府がある現状においては、南北の両政府とそれぞれ折衝し、経済、文化の交流を積極的かつ公平に行なうべきであります。現に、インドやビルマは南北朝鮮の両方と領事関係を結んでおるのであります。日本にこれができないはずはございません。こうした両政府との接触、または三者協議の中に、経済協力、技術提携、漁業協定、文化財返還などの問題は処理できるはずであります。
 南北統一は朝鮮民族の悲願であります。南の一方とだけ国交を結んで、北との対立に油を注いではなりません。統一できるような情勢をつくってやることこそ隣国のつとめであり、植民地統治を償う人の道でありましょう。わが党は、これこそアジアの平和と友好の道であると信ずるものであります。(拍手)
 佐藤総理、この日韓条約に軍事的背景を否定なさるなら、その証拠として吉田・アチソン交換公文を破棄すべきであります。軍事協力を言明する米韓当局に抗議すべきであります。そうして三矢計画とその関係者を処分すべきであります。その勇気があれば最後に承って、私の質問を終わる次第であります。(拍手)
  〔内閣総理大臣佐藤榮作君登壇〕

○内閣総理大臣(佐藤榮作君) お答えいたします。
 領土管轄権についてのお尋ねでありますが、これはすでにたびたびお答えもいたしました。御承知のように、私どもは、国連の決議、これを尊重いたしております。ただいま、国連自身が国連憲章違反だと、かように仰せられましたが、御承知のように、この国連の決議はその後毎年確認されておりますので、これは国連憲章違反だとは思いません。私どもは、国連を尊重する、そういう立場でございますので、この決議を引用することは、これは当然といわなければならない、かように御了承いただきます。(拍手)
 また、第二の問題といたしまして、北鮮との関係についてのお尋ねでございます。北鮮との関係は、これもお答えいたしましたように、今回の条約は触れておらない、また、在来の取り扱い方を変えない、こういうことを申し上げました。また、北鮮との関係においてはケース・バイ・ケースでこれをきめていきますというお話をいたしておりますので、重ねては申し上げません。ただ、お話のうちに武力北進ということばをお使いになりましたが、私は、武力北進ということばは最近は聞かないように思います。これはだいぶ前にそんな話があったようですが、こういうことは聞かない。むしろ、今日で聞いておりますのは、北鮮自身が、共産主義による南北の統一、こういうことをはっきり言っている。この点のほうが、これは最近の話でございますから、御記憶を訂正されるほうがいいかと思います。(拍手)
 次に、請求権と経済協力の問題でありますが、請求権の問題につきましては、御指摘のように、私どもは、法的根拠のあるもの、また事実関係で説明のできるもの、こういうことで日韓間でいろいろ交渉いたしました。しかし、何ぶんにももう古いことになったり、あるいはその後朝鮮事変があったりして、事実関係などもなかなか説明しにくいということで、この請求権の問題の解決のできなかったことは、御承知のとおりであります。
 そこで、今度は、請求権の問題でなしに、両国の関係を正確に認識していく、そういう点から、経済的に自立のできるように、またそういう意味のわが国の協力が望ましいだろう、しかし、その経済協力をすることによっていわゆる請求権の問題を完全に解決する、こういうことでこの経済協力に変わったこと、この点は御承知のことだと私は思います。私は、ただいま申し上げるように、いつまでも話がまとまらないからといって日韓間の状態を正常化しないということはまことに残念である、そういう意味で、両国が経済協力という形でこの問題を解決するということになったのであります。(拍手)したがいまして、これは平和条約第四条にはもちろん違反ではございません。
 また、経済協力の金額が無償三億、有償二億、こういう五億ドルはどこから出たかというお話でございますが、これは、韓国の経済建設に対するわが国の熱意と、またわが国の負担と、こういう両点からいろいろ折衝いたしまして、最終的にこの五億ドルというものにきまったのであります。
 また、この際に、個人の財産、請求権の問題を法律上疑義を残さないようにというお話がございます。御指摘のとおり、これも大事な問題でありますので、私どもは、今回の条約・協定締結によりまして何ら疑義を残しておらない、かように思っております。
 また、これで、いわゆる補償の問題なども、憲法との関係においては関係を生じない、私はさような結論を持っておるのでございます。ただ、拿捕漁船あるいは乗り組み船員等に対しましては、いわゆる憲法上の問題ではございませんが、わが国の国民のまことに気の毒な状況に対しまして、私どもが適当な救済措置をとること、これは当然である、かように考えまして、ただいま種々検討しておる最中でございます。
 次に、北鮮の請求権の問題についてお触れになりました。これは、先ほど申しますように、今回の問題は北鮮には何ら触れておらない、かような状態でございますので、この点も今回の条約・協定で北鮮との請求権の問題には触れておりません。そこで、請求権の問題を解決する意思ありやいなやということでございますが、ただいま交渉するような考えは持っておりません。
 また、経済協力が利権化してはならないというお話でございます。これはそのとおりであります。また、疑惑を生じてもいけない、かように私ども思います。いろいろ経済侵略だとか、こういうような疑念を持たれるのでありますから、そういうことのないように、ことに、相手の国におきましても、資金管理委員会を設けて、与野党の諸君がこの管理委員会で経済協力の使い方をいろいろ審議するそうであります。また、調達庁による一般競争入札、それらもはっきりいたしておるようであります。また、わが国におきましても、この実施計画についての合意、あるいは契約の認証等につきまして、これはわが国の経済関係、産業人も、さような処置をとる予定でございます。したがいまして、ただいま経済協力についてのいろいろの御心配がありますが、私は、そういうこともなしに、円滑に経済の発展に役立つように使われるものだ、かように確信いたしております。
 次に、漁業協定についてのお尋ねであります。これも、たびたび李ラインについてお答えをいたしましたので、省略をいたしたいのでありますが、ただ、この機会にはっきりまた申し上げておきたいのは、李ラインがどうあろうと、韓国側でどう説明しようと、漁業に関する限り、漁業上の安全操業はできるのだ、これだけははっきり申し上げまして、漁民の不安も一掃したいし、国民にも、李ラインの論争に巻き込まれないように御注意を願いたいと思います。(拍手)
 また、この問題は、協定後においていわゆる六年たったらまた問題が起こるのじゃないか、また韓国側にリードされることになるのじゃないか、かような御心配を述べられましたが、私は、この期限経過後、両国間におきましての親善友好関係、これは今日のような状態ではないと思いますので、ただいまからいろいろ心配することは、これはいわゆる杞憂ではないか、かように私は思います。
 次に、領海の幅をなぜ取りきめなかったかというお尋ねであります。御承知のように、漁業に関する取りきめでありますので、漁業水域、それにつきましては十分規定を設けましたけれども、いわゆる領海の幅というようなことについては、これは必要がない、こういう意味でこれをきめなかったのであります。御承知のように、領海、それから領海の外は公海、こういうことになっておりますが、この領海、公海、そのものを接続しておるその関係におきましても、漁業水域という特殊な水域を考え、そして沿岸国の排他的な管轄権を認めておる、こういうことでありますが、これはいわゆる領海からくる当然の排他的の権利とは違うのであります。その点を御理解おき願いたいと思います。
 済州島、黒山島の付近が、これは四十海里以上、この辺の基線の引き方についてはどうも理論に合わない、納得がいかないという御指摘であります。これは確かにそういう非難を受けるようになっております。これは、両者の間においてむずかしい折衝をいたしました結果、いわゆる紛争を残さないという、こういう意味で、いわゆる合意に達した、いわゆる両者の歩み寄りの話し合いでございます。かように御了承いただきたいのであります。(拍手)
 合意議事録による無害通航権の問題についてもお触れになりました。ことばが法律的なことばでございますが、私の理解するところでは、先ほど申しましたように、漁業水域は領海とは違う。漁業に関して沿岸国の排他的な管轄権を認めるので、領海及び漁業水域の無害通航の権利を含む権利を合意議事録で確認したというのが、いわゆる無害通航権の問題であります。これはいわゆる国際法上の問題としてでなくて、これはここまで確認したことが適当だった。かように私は思っております。
 入漁権を放棄した理由、これも先ほども申しましたように、基線の問題とこれが関係するのでありますが、私どもは交渉の途中においてこのアウターシックスの問題を強く主張いたしましたけれども、韓国側はこれに対して反対した。両者におきましてがまんのできる範囲で今回の漁業協定はいたしたのであります。今回私どもが特に必要だと強く主張いたしましたのは、李ラインの実質的な廃止と操業実態の尊重、こういう二つの点に重点を置いて話をいたしたのであります。ただいまのアウターシックスの問題は、もちろんこれは重大な問題でありますが、日韓間におきましては暫定的にかような処置をとった、かように御了承いただきたいと思います。
 次に、共同規制についてのお尋ねであります。零細漁民の救済をどうするかという問題でありますが、これも、今回の日韓間の交渉におきましては、漁業の資源についての十分の調査ができておりません。したがいまして、この資源についての調査が完了するまでは、現状においての数量を制限するということがやむを得ない状態だ。しかし、この制限は一方的に日本だけが受けるのではもちろんございません。日韓双方がこの規制を受けるという状態でございますので、日本だけが受けた、かようにお考えになることは、これはひがみのように思いますし、さようなことはございません。
 また、この措置をとります場合に、沿岸漁業の実態、これを基礎に置いております。したがいまして、沿岸漁業の零細漁民の実態、操業の実態というものは私どもは十分考慮して、そうしてこれをきめたのでありまして、ただいまのお話のように補償の問題はもちろん起きておらない、かように思います。実態をそこなうものではないということを重ねて申し上げておきます。
 また、この問題が他の地域との交換で、対馬-釜山間の漁民は非常に損をしたのだ、かようなお話でありますが、さような交換をした事実というようなことはありません。いわゆる取引をしたことはありません。大企業のために零細漁民が非常な不利益をこうむった、これまた事実をしいるものでありますので、これは訂正をしていただきたいと思います。
 第五に、竹島の問題であります。私どもは、いままで、一括解決、何事も全部を一括解決、かような方向で進んでまいりました。しかしながら、残念ながら竹島の問題は解決をすることができなかった。これは御指摘のとおり。私どもも、いままでの日韓交渉の大筋から申しまして、全部を一括解決するのだ、かように申しておりましたその際に、この点ができ上がらないことは、まことに遺憾でありますが、しかしながら、この紛争解決の方向といいますか、その取り上げる方向はこれできまったのでありますから、全然白紙の状態であるとか、あるいは竹島を放棄するんだとか、さようなことは全然ございません。また、皆さま方の御支援によりましても、ぜひとも私どもの固有の領土権は確保したい。幸いにいたしまして、社会党の諸君も、これはわが国の固有の領土だ、かように主張しておられますし、政府はたいへんな御叱正、鞭撻を受けておる、かように感じておりますので、この上とも御協力を願います。(拍手)
 ただ、この取り扱いの方法が、調停かあるいは仲裁か、調停のほうが弱いじゃないか、こういうような御指摘でありますが、調停か仲裁かということは、そのときどきの交渉の内容その他できまるのでありまして、これは、必ずしも一がいに、どちらが弱いとか、どちらが強いとか、かようには言えないと思います。
 また、次に、法的地位についてのお尋ねがあります。御承知のように、自分たちの意思によらないで国籍を失い、あるいは国籍を取得した、かような状態でございますから、日本在住の諸君には、これは朝鮮人といい、あるいは韓国人といい、たいへんな問題があるだろうと思います。こういう立場でいろいろ考慮もして、いままでの特殊的な事情にあること、これに十分の理解を与えて、今回の処置によって特に不都合な扱い方を受けないように、そういうことを日本政府としては重点を置いてこの問題と取り組んでおるのであります。
 韓国民についての処置は御承知のとおりでありますが、朝鮮国籍というものにつきまして私どもが認めておらないというところで非常なむずかしい問題、法律的な問題があるようであります。しかしながら、この点は今回の問題で別に条約上の義務を生じておるわけではありません。したがいまして、これは日本国内問題として処理するつもりでありますし、在来よりも悪い扱い方はもちろんしないつもりであります。
 また、国籍の変更につきまして、御指摘のように、朝鮮から韓国への国籍の変更を進めるが、韓国から朝鮮はこれを断わるとか、かようなことはもちろんございません。どうか、そういうような不公平な処置をしておるというようなことがありましたら、これは御指摘を願いたいのでありますが、ただいまのような状態でございますので、かような事実のないことをこの席からはっきり申し上げておきます。
 次に、今回の問題は軍事的背景はないということをたびたび申し上げました。また、ただいまこの問題についての社会党の考え方も伺いました。これはもう社会党の考えとして、批判はいたしません。ただ、この問題、軍事的な考慮、背景がないというその立場から、吉田・アチソン交換公文を破棄しろ、こういうお話がございますが、御承知のように、今回は日韓国交正常化の条約の批准をしておる、皆さん方に御審議をいただいておるのでありまして、これと関係のない吉田・アチソン交換公文をここへ出されましても、これは私どもは、はい、さようでございますとは申せないのであります。これは全然別なものであります。かように御了承いただきたいと思います。(拍手)
 また、三矢研究をした者を処分しろというお話がございましたが、この三矢研究は、御承知のように幕僚研究の作業でありまして、研究を行なったこと自体は、職務上の義務に違反するものではありません。したがいまして、その関係者を、三矢研究をしたからということで処分する考えはございません。
 以上、お答えいたします。(拍手)
  〔国務大臣椎名悦三郎君登壇〕

○国務大臣(椎名悦三郎君) ほとんどすべての事項について総理からお答え申し上げてありますので、私からはほんの一、二点補足するだけにとどめておきます。
 第一の国連決議百九十五号、これは国連の使命に反して、かってに領土を分割するというようなことをやったのではないかというお話でございまして、総理は、そういうものではないということを明確に答えてありますが、しかし、なぜそういうことになるかということを、ちょっと簡単に申し上げます。
 この朝鮮問題については、大戦終了後直ちにモスクワ会議が持たれまして、英、米、ソ三国の間でいろいろ協議して、その協議の結果、さらに米ソ共同委員会というのができて、そしてこれはすぐソウルで会議をやっておるのでありますが、両者の意見が相当隔たりまして、そのままもうどうにも上げもおろしもならなくなった。そういうようなことを放置しておくと、これは平和のためによくないというので、局面打開の意味において、アメリカの要請によって設置されたのが、国連臨時朝鮮委員会でございまして、あくまで朝鮮人民の意思を尊重して、そうしてりっぱな統一政権をつくろうという使命を帯びてこれができ上がったのであります。それで、この朝鮮委員会が現地におもむいて、そして北鮮のほうに立ち回ろうとしたところが、どうしても入れない。公正な人民の選挙によって、それによる統一政府をつくるためのこの委員会の入国を極力拒否して、どうしてもがえんじない。そこで、しかたなしに南鮮だけを監視いたしまして、そして自由意思による選挙が行なわれ、その選挙の結果有効な政権ができた。この半分の機能しか発揮できなかったことを、帰って国連総会に報告いたしました。国連総会は、その報告に基づいて、朝鮮半島の一部分に大部分の人民が居住する地域にかくかくの政権ができた、これはかくかくの理由でこの種の唯一の合法政権であるという、その報告に基づいて決議をし、それぞれ加盟国に若干の勧奨をしておる。こういうことでございまして、この国連の臨時朝鮮委員会というものの使命を粉砕したのは北鮮であります。(拍手)その結果、今日の韓国政府というものが半島の一部分にできた。そういう事実を総会がただこれを認定し、それを決定しただけの話であります。今回の基本条約第三条は、それを受けて、韓国政府の性格は、かくかくのものであるということをいったにすぎないのでありまして、その国連の決議が不当に領土を分割したというようなことは、これは全然当たらないことでございますから、さよう御了承を願います。(拍手)
  〔国務大臣坂田英一君登壇〕

○国務大臣(坂田英一君) 大体総理から全部お答えのようでありますから、ただ一点、御質問の零細漁業についてでありますが、沿岸漁業については、わが国の一方的声明で自主規制でありまするが、その内容としましては、出漁する沿岸漁船について、わが国沿岸漁業の実績を尊重いたしましてでき上がっておるのでございまするから、その点御了承を願いたいと思うのであります。なお、委員会においてよく……。(拍手)
  〔国務大臣石井光次郎君登壇〕

○国務大臣(石井光次郎君) さっきのお尋ねのうちで、韓国籍へ朝鮮籍から切りかえを促進して、韓国籍から朝鮮籍への移動は認めない方針であって、これはおもしろくないというお尋ねがございました。これは在日朝鮮人の国籍欄に記載されておりましたものが、平和条約の際、平和条約の発効によりまして、日本国籍を朝鮮の人たちが失ったものであり、朝鮮国籍に属しておった者が一律にその際に朝鮮という表示に切りかえたのでございます。それで、その後に、韓国へ書きかえてもらいたいという希望がたくさん出てまいりまして、本人の自由意思に基づいてこれはやったのでございまして、かつ、その大部分は、韓国代表部発行の国民登録証を呈示させた上で韓国への書きかえを認めてきたような次第でございまして、私のほうから、日本の側から無理にすすめたような次第ではないのであります。それだけの準備と用意をしてやつ九のでございまするから、朝鮮へこの際韓国から切りかえということは、そう簡単にはできるものではないということで、原則としては、これを認めないという方針をいまとっておるのでございます。(拍手)これは……(発言する者あり)ただいま説明の途中でございます。原則としてそういう方針をとっておりまするので、これは私どもといたしまして、人道に違反するとも、また、これは、さっきお話のありました人権宣言にも違反することではなく、私どもはりっぱな道を通ってきたのだと、こういうふうに信じておるのでございます。(拍手)
  〔国務大臣三木武夫君登壇〕

○国務大臣(三木武夫君) 私に対しての御質問は、韓国に対する経済協力が経済侵略になるのではないか、あるいは利権化の疑いはないかという点でございますが、総理大臣からすでにお触れになりましたので申し上げることもないのでありますが、要は、経済協力が国民的な基盤で結びつかなければ日韓の友好関係は長続きしない、そういう点で、韓国側においてもいろいろと新しい機構、調達方法を考えておるようでございますし、われわれもまた、この実施計画を通じて相談にあずかる機会がありますから、韓国の国民的な発展をはかれるように協力をいたしたいと考えておる次第でございます。(拍手)

○議長(船田中君) これにて質疑は終了いたしました。

 第050回国会 衆議院日本国と大韓民国との間の条約及び協定等に関する特別委員会 第8号 昭和四十年十一月一日(月曜日)午前十一時十二分開議

【発言順】
 委員長     安藤 覺
 委員     石橋 政嗣
 外務事務官
(アジア局長) 後宮 虎郎
 外務大臣    椎名悦三郎
 委員      藤枝 泉介
内閣総理大臣 佐藤 榮作
内閣法制局長官 高辻 正巳
委員 岡田 春夫

○安藤委員長 これより会議を開きます。
 日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結について承認を求めるの件、日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定の実施に伴う同協定第一条1の漁業に関する水域の設定に関する法律案、財産及び請求権に附する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案、日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法案、右各件を一括して議題とし、質疑を行ないます。石橋政嗣君。

○石橋委員 いろいろとお尋ねをいたしたいわけでございますが、従来の質疑を通じましてお聞きいたしておりますと、政府としては、今回の日韓条約諸案件に対してわれわれが反対するのは全く理由のないことだという、そういうことをおっしゃっておられるわけです。しかし、実際に検討してみますと、明らかにこの条約の条文の解釈において、日本側と韓国側とが異なっておるというよりは、百八十度違う、もう全く違った解釈をしておる、このことだけはもう明らかだと思うのです。それを、相手がどう言おうと、条約の成立によってでき上がった条文の解釈というものはおのずからきまってくるのだから、何を言おうとかまわぬのだというようなことで切り抜けようとしておられるようでございますが、そういう立場をとられるところに非常に無理があると思う。できてからしばらくたって解釈が違ってきたというならばとにかく、最初から違う。そこに今度の条約が非常に無理をして、何とかまとめなくちゃならぬという、そういう気持ちから、当面お互いがそれぞれの国々でごまかしてでもやっていこうという、そういう考え方で交渉を進めてきたことがはっきりしておると思う。なぜそんなにほんとうに意見が一致してないのにまとめなければならぬのか、そこにいろいろな作用が働いてきているのじゃないか、それが軍事的な要請ではないのか、こういうふうな疑問が実は出てきておるわけです。
 私はそこで、なぜわれわれが反対するのか、決して理由のないことではないということを一つ一つ明らかにしていきたい、そういう立場に立ってお尋ねをしたいと実は考えております。
 本論に入ります前にまずお伺いしておきたいことは、韓国のほうはみずからの自国の憲法に基づいて国会の承認を得るわけでございますが、韓国では憲法五十六条に規定されておるようですけれども、この規定に基づいて韓国議会の承認を求めるために提案された案件は何件であり、日本で、日本の国会に承認を求めておるものと同じかどうかということを最初に確認しておきたいと思います。

○後宮政府委員 お答え申し上げます。
 韓国におきまして正式に国会の承認の対象といたしました文書は次のとおりでございます。
 一つ、基本関係に関する条約。
 二つ、法的地位に関する協定。
 三つ、漁業に関する協定。これにつきましては、附属書、合意議事録、直線基線使用の協議に関する交換公文、それから済州島両側の漁業に関する水域に関する交換公文、これを一緒に審議に提出いたしております。
 それから四番目といたしまして、財産、請求権に関する協定。これには同時に、第一議定書、第二議定書、それから第一議定書の実施細目に関する交換公文、それから協定第一条1(b)の規定の実施に関する交換公文。それからその次に借款契約。それからその次に商業上の民間信用提供に関する交換公文。それから合意議録の一と二と、これだけがこの財産、請求権関係について一緒に提出されております。
 その次に大きな項目の五といたしまして、文化財に関する協定及び附属書。
 それから最後に紛争の解決に関する交換公文。これだけをこの批准同意案の対象とする文書として提出しております。

○石橋委員 次にお尋ねしておきたいことは、この基本関係に関する条約というのはあまり聞きなれないものなんです。日本側は、最初共同宣言方式をとりたいということを考えておったようにわれわれとしては聞いておるわけであります。事実今度の場合も、領土条項は最終的に解決を見ておりません。そういう面からいっても、これは共同宣言という形をとるのが筋ではなかろうか。多少条件が違うとはいいながら、日本とソ連の間で国交回復する際にあたりましても共同宣言方式をとった。主たる理由は、領土条項の最終的な処理を見なかったということが理由であったとわれわれは承知いたしております。今度の場合、この基本関係に関する条約というような形をとったのは一体どういうわけなのか、外務大臣にお尋ねをいたします。

○椎名国務大臣 共同宣言でも条約でも別に差しつかえないのでありまして、われわれは合意によって基本関係の条約というものを選んだ次第であります。

○石橋委員 それでは、日ソ交渉の場合に共同宣言方式をとられた理由を最初にお尋ねいたしておきます。

○椎名国務大臣 条約局長からお答えいたさせます。

○藤崎政府委員 日ソ間の場合には、御指摘のとおり、平和条約という名称を用いなかったのは、領土問題について最終的な決着がついてないからでございます。平和条約という名称を用いるかどうかという点は、そういう点が非常に関係があるわけでございますが、ある国際約束に共同宣言という名称を用いるか、条約という名称を用いるかということは、条約というか協定というかと同じように、特に実体的な影響のないことでございまして、主として形式的な観点から、いずれに決してもよろしい問題だと思います。

○石橋委員 質問にまともに答えてもらいたいのです。ソビエトの場合にはなぜ共同宣言という形をとったか。

○藤崎政府委員 ソ連との場合には平和条約という名称を用いなかったことが要点なのでございまして、共同宣言という名称をとったか、条約、協定という名称をとったかは別の問題でございます。

○石橋委員 領土条項を処理するということが、やはり戦後処理の問題としては中心問題だと私は思うんですね。今度の場合は領土問題は片づいたと判断されますか。

○椎名国務大臣 国交正常化に際して、領土条項を入れる必要は認められなかった。

○石橋委員 そうすると、ここで首尾一貫しないんですよ。ソ連との交渉の場合には、領土条項が片づかないから平和条約というものを結ばなかった。共同宣言方式というものをとった。今後の交渉で領土問題が片づいたら、その時点で正式に平和条約を結ぶ、こういう立場をとっておられる。今度韓国との交渉においては、領土問題は片づかない。にもかかわらず、正式に韓国がこれは平和条約か講和条約に準ずるものだという立場をとっておる基本条約という形をとった。もう最初から、この形そのものにおいて日本は一〇〇%譲歩してしまっておる。従来言っておることと矛盾したことを、韓国側の主張に押されて、のまされておる、こう理解せざるを得ないじゃありませんか。現に韓国の無任所長官である元という人はこのことを言っております。これは明らかに一つの単純な国交正常化に対する条約というよりは、平和条約か講和条約に準ずることができる、このような性格の条約であると申し上げる次第です。このように韓国の国会で答弁しておるんですよ。だから日本はここで、はしなくも首尾一貫しない外交姿勢というものを冒頭から露呈している。あなたの説明では納得できません。領土条項は解決しておりません。にもかかわらず、共同宣言方式を放棄して、韓国の要求に屈して条約という形をとった。おかしいじゃないか。もしおかしくないというならば、全部の国民がわかるような説明をしていただきたいと思います。

○椎名国務大臣 ソ連と日本の関係は、いわゆる戦争の両当事者なんです。その関係と、それから戦争をやった両当事者ではない日本と韓国との関係は、これはまたおのずから別なのでありまして、そこにいろいろな違いが出てくるわけであります。

○石橋委員 しかし日本側は、私がいま言っているような立論に立って共同宣言方式を主張しておったことは事実なんです。このことも韓国の議会において李外務部長官が説明しております。日本は最初、単純な将来の関係だけを規定する共同宣言を主張しました。しかしわれわれの要求に屈してわれわれの立場を貫徹することができて、こういう形におさまったのであります。胸を張って向こうでは言っていますよ。この点からいっても、すでにあなたは筋の通らぬことをやっておるということを示しておるわけです。このことを明らかにして質問の第二に移ります。
 基本条約第二条に「千九百十年八月二十二日以前に大日本帝国と大韓帝国との間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認される。」こういうふうに規定されておりますが、この「もはや無効である」というのがまた争いのあるところであります。そこでお伺いしたいのでございますけれども、日本政府としては、法律的にいつの時点から無効という立場をおとりになっておるのか。道義的には別でございます。ああいう条約がよかったか悪かったかというようなことは別にいたしまして、法律的に昭和何年何月何日、どういう時点から無効と、こういうふうにお考えになっておられるのか。

○椎名国務大臣 併合条約は韓国の独立宣言のときから無効である、それから、それ以前の条約は、それぞれのその条約に規定してある条件の完了とともに、あるいはまた併合条約が成立発効したときにそれぞれ効力を失っておる、こう解釈しております。

○石橋委員 確認いたしますけれども、韓国の独立宣言の日というのは、一九四八年八月十五日のことでございますか。

○椎名国務大臣 さようでございます。

○石橋委員 そうすると、ここで問題が出てくるわけですね。これらの条約は、現に韓国が管轄しております休戦ライン以南に関する部分の条約ではないのです。日本と当時の韓国側の政府との間にいろいろな形の条約が結ばれた。そういうものは全朝鮮を相手にして結ばれたものです。それを無効とするのに、休戦ライン以南を管理しておるにすぎない、行政的に管轄権を持っておるにすぎない韓国独立の日をもって無効とするというのは、これはどういうことですか。そんな理屈がありますか。

○椎名国務大臣 それは一部でも差しつかえない解釈をとっておりますが、なおこの点に関する法律論として条約局長から申し上げます。

○石橋委員 これは条約上の問題じゃないんですよ。結局この無効と確認される「千九百十年八月二十二日以前に大日本帝国と大韓帝国との間で締結されたすべての条約及び協定」これは日本と全朝鮮との間に結ばれた条約です。それを無効にするということは、これは問題ありません。私たちも当然だと思います。しかし、その無効の時点をいつにするかというのに争いがあるのです。向こうは、全然最初からなかったのだ、こう言っております。それに対抗する日本側の主張というものが韓国独立の日だなんというのじゃ、これは対抗できませんよ。それじゃ北半分についてはどうなるのですか。いつから無効になるのですか。

○藤崎政府委員 大韓民国の管轄権の及ぶ範囲が朝鮮の南半分であることは御指摘のとおりでございますが、しかし、大韓民国の存在というものは併合条約と完全に相いれない状態であるということは、これは明白でございます。したがって、そういう完全に矛盾した状態が生じたときからこの併合条約は失効したものと認めるのが相当であるというわけでございます。併合条約自身は、地域的に南半分とか北半分で有効、無効とかいう種類の条約ではございませんので、そのときをもって併合条約が全体として失効したと認めるのが一番適当であろう、かように考えるわけでございます。

○石橋委員 相手の国の独立政府樹立の日をもって無効とするというならば、朝鮮民主主義人民共和国は一九四八年の九月八日に独立しているのです。政府成立しているのです。そうすると、北の分についてはその日から無効だというのですか。北と南と無効になる日が違うじゃないですか。だから、この点で主張されるならば、日本がポツダム宣言を受諾した日とか、降伏文書に署名をした日とか、あるいは講和発効の日とか、そういうふうな時点をとらえてそれから無効という主張をしていけば国際的にも通りますよ。しかし、南半分しか現に支配していない韓国の独立した日から旧条約は無効であるなんと言ったって、対抗できないじゃないですか。説明にならぬじゃないですか。ここでも韓国迎合の姿勢があらわれていますよ。筋なんかどうでもいい。さっきの共同宣言方式の場合もそうですか、ここでもまたもや韓国の主張に押されて、北というものを全然無視した形で第二条を規定している。これは、条約局長の説明はもうわかりました。外務大臣、おかしいとお思いになりませんか。

○椎名国務大臣 ちっともおかしくない。とにかく併合条約というものはもはや両立しないという状況になったのでありますから、この日から無効になった、こう解釈している。

○石橋委員 韓国独立の日をもって無効とする、大韓民国の政府成立宣言のあった日をもって無効とする。そうすると、北鮮のほうは九月八日に憲法を採択して、九月九日に政府成立の宣言をしております。この間に食い違いがあるのです。何ヵ月間かの食い違いがあるのですよ。一つの条約を対韓国の場合には一九四八年の八月十五日から無効、北の部分についてはそれでは一九四八年の九月九日から無効、こういうふうな妙ちきりんな解釈になるじゃありませんか。条約が無効になる時点が二つできるじゃありませんか。常識のある者にこんなばかなことが通りますか。総理、この点についていまの質疑応答を聞いておられて矛盾をお感じになられませんか。

○佐藤内閣総理大臣 先ほどから静かに聞いておりましたが、外務大臣の説明でちっとも差しつかえない、かように思います。

○石橋委員 差しつかえないなら差しつかえないように、だれでもわかるような説明をしてください。そんなことを言うから韓国の言うほうが正しいということになるのです。これでは争いにならないですよ。韓国はなかったと言っておるんでしょう、こんな条約は。もはや無効であるということは、全然なかったということだ。向こうで非常に理論的な説明をしております。必要とあれば私はここで紹介してもけっこうです。
 韓国側においては、八月八日の特別委員会におきまして李東元外務部長官がこんなことを言っております。ヌル・アンド・ボイドという語句は、当初まで遡及して無効であることを最も強く表示した法律的な用語であります。これに対して、終始一貫韓国はこの主張を貫いた。日本側は、最初無効化規定は置かぬという立場をとった。それを譲って、将来に対してのみ無効という表現を主張しだした。さらに譲って、ハブ・ノー・エフェクトということばならばいいと言いだした。それからまたさらに譲って、ハブ・ビカム・ヌル・アンド・ボイドという、日本と台湾との間で結ばれたあの方式でいこうということを言いだした。全部韓国は拒否したのだ。最後にあまり日本の外務大臣が泣きつくから――向こうはそういうことばを使っておるのですよ。オールレディということばを置くことにした。そこであらゆる学者や専門家を集めて、オールレディというのを入れればヌル・アンド・ボイドというのが死ぬか、検討してみたが、死なぬという結論になった。意味があいまいになるか、ならぬという見当が結論として出てきた。そこでオール・レディ・ヌル・アンド・ボイドということに最終的になった。向こうはもう一貫して最初からなかったのだという主張を貫き通した。日本は一歩一歩譲って、そしてわれわれの主張についに屈服をした、こう言っております。私は、この説明のしかたは非常に説得的だと思うのです。向こうは、日本の国会の大臣の答弁のような不誠意な答弁をしておりません。いままでの経過も述べ、非常に慎重に、みんなにわかるように一生懸命説明しておる。私は何度も韓国の議会の会議録を読んでみましたが、そういう姿勢だけは読み取れました。それに比べて日本の外務大臣、特に外務大臣の答弁は、何とかしていままでの経緯も話し、説得し、理解してもらおうという立場などはないじゃないですか。おかしくございません、――何がおかしくないですか。それではもっと理論的に説明してください。無効になったのは韓国が独立宣言をした日だ、一九四八年の八月十五日だというならば、北の部分を支配しておる朝鮮民主主義人民共和国は九月九日に政府をつくっておる。その日から無効だということに今度はするつもりですか。

○椎名国務大臣 あなたのいま引用されたヌル・アンド・ボイドということばは、用語例からいってただそれだけでは当初から無効であった、初めからなかったものだ、そういうふうには使っておらないようであります。それからオールレディの解釈でございますが、これはもう客観的な事実を述べて、そしてもはや無効であるということを言っておるのでございます。ことばの使い方はどうであろうと、とにかく日本が韓国と併合条約を結んで、そしてこれが一体となったという歴史的事実というものはこれはもう明らかなところでありまして、いかに向こうのほうでそういうことを主張いたしましても、われわれとしては成文の解釈上、どうしてもそうならないということを確信しておる次第でございます。

○石橋委員 ここにも北鮮側というものを全然無視した思想があらわれているのですよ、結論的に言えば。あなた方は、つじつまを合わせるためにいろいろなことをおっしゃいますけれども、韓国が現に支配しておる範囲というものは休戦ライン以南だ、こう言っておるにもかかわらず、無効宣言一つ見ても、北というもののオーソリティーというものははなから無視して、韓国だけを相手にして、そうしてやっているじゃないですか。全朝鮮と日本との間で結ばれた条約の無効を、南半分を支配しているだけの国の独立の日から無効にする、こんな首尾一貫しない主張をするから韓国に押しまくられるのです。向こうの議事録によりますと、ずいぶんひどいことを言っています。法律のホの字も知らぬのじゃなかろうか、日本の役人や代表は。こういうことすら言っている部分があるのですよ。あとで必要とあれば御紹介いたしますけれども。いまのこの一つの問題をとってみても、客観的にだれもが日本側の主張を正しと思えないような主張をしておる。だから負けるのです。韓国側が、こんなものはもう最初からなかったんだ、無効だ、と口をそろえて言っているのに対して、日本側が、韓国独立政府樹立宣言の日から無効だなんていうことを言ったんじゃ、これは対抗できませんよ。ここでも、今度の日韓交渉がいかにだらしない形で進められておるかということを露呈しておるといわざるを得ません。これが第二です。(「いまの答弁ではだめだ」と呼び、その他発言する者あり)
 それじゃ、もう一度確認いたしますが、朝鮮民主主義人民共和国が現にあるということはお認めになっておられる。この国と日本とが無効規定を何らかの形で規定しよう、表現しようとする場合には、どういう形をとられるつもりですか。韓国が独立したその日をもって無効とするなんていうのは、一〇〇%向こうは承知しませんよ。どうなさるおつもりですか。

○椎名国務大臣 事実上北に政権の存在することは承知しております。しかし、今回の日韓条約は、全然北に対しては触れておらない、全然白紙でございます。

○石橋委員 北については触れておらないと言うけれども、北も関係があるじゃないですか。関係があるじゃないですか。幾ら北を無視してやられようと、北と関係のある問題を処理するのに、無視しようがないじゃないですか。

○椎名国務大臣 そういう北に政権のあることは念頭に置きながら、今回の日韓条約の諸取りきめを行なった次第であります。それで、これとの関係はどうだ。全然関係が――いま国交正常化してもおりませんし、また、そういう気持ちもないし、われわれは白紙の状態であるということを申し上げるよりほかにないのであります。

○石橋委員 白紙と無視とは違うのです。白紙というのは、北に全然関係がないものなら白紙ということばは通るでしょう。しかし、北のほうにも関係のある問題を、そのことを全然考慮を払わずにやられることは、白紙じゃないですよ。これは無視ですよ。どう考えても無視ですよ。だから、先ほど私申し上げたように、なぜポツダム宣言受諾の日をもって無効とすとか、あるいは降伏文書調印のときをもって無効とすとか、講和発効の日をもって、平和条約の発効の日をもって無効とすとか、両方にちゃんとかかるような形でおやりにならないのですか。それならば法律的にもぴしゃっとどこにでも対抗できるじゃないですか。対抗できないようなことをやられたんじゃ、最初からなかったんだという韓国の言い方に無理があるにしても、少なくとも日本の主張よりはまだまともだ。一貫している。これは対抗できないです。対抗できませんよ。こっちもちゃんと筋が通っている、向こうも筋が通っているという場合には争いがあるのですが、向こうの言うことは、最初からなかったんだ、その意味では、その主張が正しいかどうかということは別として、筋が通っています。日本側は筋が通らぬじゃないですか。南半分の国の独立した日から無効、それじゃ、北半分を支配していつ国がある。それが独立した日は、南半分を支配している国の独立した日とは違う。対抗できない。こんなお粗末な条約を結んでおいて、そうして反対するのが間違うておるなんて、よう言えるものだと思うのです。まだ何ぼでもあるのですよ。(一事が万事だ「それはこういうときに言うのだ」と呼び、その他発言する者あり)こういうときに一事が万事と言うんだそうですか、それじゃ、お答えができないようですから……。
  〔「それじゃだめだ」と呼び、その他発言する者あり〕

○安藤委員長 お静かに願います。

○石橋委員 それでは、国民の相当部分を納得させるに足る理論をひとつ展開してくれませんか。どなたでもいいです。

○椎名国務大臣 日韓の関係が歴史的な事実として、併合され、そして三十六年間続いたということは、これはもう隠れもない事実であります。これをただ、ヌル・アンド・ボイドということばで、初めからなかったんだと主張することが、大体これはおかしい。いかに広弁長辞を使っても、ただ三つや四つのことばでそういう事実を否定するということは、これは大体おかしい。私は、多くを語らぬでも、それはもう、こんなことばの問題ではない。しかもこのヌル・アンド・ボイドというのは、用語例からいって、初めからなかったんだというふうにはっきり使われておるのではないのでありますから、いかにどういう説明をしようと、この問題についてはわれわれの解釈が正しいと、かように考えております。

○石橋委員 私も最初から申し上げております。韓国が、現実にあった条約を、最初からなかったんだなんということ自体、これはおかしいですよ。おかしいけれども、向こうはとにかく首尾一貫それを主張しております。一貫した主張をしております。とにかくなかったんだ、最初から無効なんだと主張しています。こちらはそれに対して、それはおかしい、いつの時点から無効にするのが正当だ、こう反論をしなくちゃ、相手がおかしいんだから、こっちもおかしくたってかまわぬなんてことはないでしょう。あなたのいまの説明でいくと、どだい相手がおかしいことを言っているんだから、こっちもおかしいことを言ってつじつまを合わしているんだ、こういうことになるじゃないですか。
  〔発言する者あり〕

○安藤委員長 お静かに願います。

○石橋委員 少なくともそのおかしさに抵抗できるだけのぴしゃっとした理論体系をこっちは整えてやっていかなければ、だれが聞いても納得できないような時点をつかまえて、韓国政府樹立の日をもって無効とすなんて、それは国際的にも通用しませんよ。

○椎名国務大臣 日韓併合条約というものが、たとえ一部分であっても、朝鮮半島の一角に独立国ができたということは、これは日韓併合条約というものともはや両立しなくなった、でありますから、この日から効力が失われた、こう解釈するのは当然だと思うのであります。

○石橋委員 それじゃお尋ねしますが、北の部分については、条約上、法律的にまだ有効という形になるわけですか。

○椎名国務大臣 これはそういうふうにこま切れ的に解釈すべきものじゃなくて、これは日本と韓半島全体の条約でございますから、それに両立しない状況ができたならば、これはもう根本から崩壊するわけであります。全部無効になる、こういう解釈をとっております。

○石橋委員 私が聞いている質問にまともに答えてください。結局韓国と日本との間においては――その韓国というのは休戦ラインから以南を現に管理しておる国、その韓国と日本の間においては、韓国という政府が樹立した日、それから旧条約は無効、北のほうは法律的に残る。(「残らないよ」と呼ぶ者あり)残らないなら、こんな規定をつくる必要はない。北のほうには残る。その北のほうに残っているのか、残ってないというならば、いつから無効になるのか。

○椎名国務大臣 なお法理論的な説明を法制局長官からいたします。

○高辻政府委員 御承知のとおりに、平和条約で、二条の(a)でございますが、朝鮮の独立を承認しておるわけでございます。したがって、この朝鮮の独立という事実が発生しましたとき、それがすなわち、また朝鮮の分離したというときでございますが、併合条約というものがそのときから効力を失うというのは、これは事理の当然であろうと思います。
 ところで、先生がおっしゃいますのは、北の部分について、あるいは南の部分についてということをおっしゃるわけでございますが、この併合条約というのは、分離というものと相いれないわけでございますが、そのものについて、ある部分についてどうか、他の部分についてどうかというようなことは、事柄の性質上あり得ないことだと思います。
 なお御疑問があればお答え申し上げます。
 〔発言する者あり〕

○安藤委員長 お静かに願います。

○石橋委員 とっておきの法制局長官を出したようでございますけれども、これはピンチヒッターにならぬようでございます。
 いま平和条約を持ち出されました。平和条約によって朝鮮の独立を日本は認めたわけです。その時点をもって無効とすれば、北も南もないですよ。一番正しい解釈ですよ。なぜそういう立場をとらないかと私は言っているのですよ。それが一番すなおでしょう。そうしてだれにでも対抗できるでしょう。それを、何で今度の場合には、それよりも先に、韓国の政府ができたときをもって無効とすというようなむちゃな規定をしたかと言っているのです。

○高辻政府委員 御指摘のように、平和条約二条(a)で朝鮮の独立を承認しておりますが、独立という事実が発生したのは四八年の八月十五日でございます。要するに、承認をしたのは平和条約ではございますが、事実が発生しているのは、まさに一九四八年の八月十五日、そのときに、外務大臣が仰せになりますように、なるほど大韓民国政府ではあるけれども、その国の独立ができたという事実、そのときがすなわち併合条約の失効したときである、その併合条約の失効というものは、要するに朝鮮の分離ということでございますが、それが北と南で変わるはずがない、こういうわけでございます。

○石橋委員 それはおかしいですよ。あなたの今度の議論でいくならば、私がさっきから言っているように、ポツダム宣言受諾の日か、講和条約発効の日か、その時点にすればいいですよ。そうすると、これまた問題ないですよ。対抗できますよ、独立宣言の日というから、二つの国が独立宣言した日が違うのです。そうすると、法律的に、一体どちらの国が独立した日から無効になるのか、永久に争いが残りますよ、二つの国の独立した日が違うのだから。だから法律的に問題の起きない。ポツダム宣言受諾の日から無効とか、降伏文書に署名をした日から無効とか、あるいは講和条約発効の日から無効とか、何といったって筋の通るようにしておくべきじゃないですか。

○高辻政府委員 日韓条約は、御承知のとおりに、もはや無効となったというのは、いずれの説をとりましても実は同じことでございます。したがって、それを理論的にどこであるかというのは、むろんアカデミックな議論としては成り立つと思いますが、そういう議論としては、韓国が事実として独立をしたときというふうに見ればいいと思いますが、要するに、日韓条約上の問題としては、もはや無効であるかどうかというその論点こそが問題の中心だろうと思います。しかし、おっしゃいますように、むろん議論としてはあり得るわけでございますので、その議論に対しましては、韓国が独立をしたという事実が発生したときということになるというのが政府側の御説明でございます。

○石橋委員 アカデミックな議論として成り立つなんという問題じゃないですよ。あなたもどちらかといえば、アカデミックな立場で法解釈すべき人ですよ。少なくとも法律の条文について議論をしているときに、あなたまでが政治論を交える必要はないじゃないですか。だからこそ、法制局長官は三百代言だなんていつもやじられるのです。ここにいつの時点からという問題は、実は単なる法律的な問題じゃない。先ほどから私が申し上げているように、北は白紙です、白紙ですと言いながら、無視している形がちゃんとこういう端々に出てきているということを指摘したいのですよ。少なくとも法律的に対抗できない以上は、そう断ぜられてもどうにもならないじゃないですか。これはいいです。次の問題と関連させて聞きます。
 それじゃ、法律的に日本が朝鮮の独立を認めたのはいつなんですか。法律的にですよ。

○椎名国務大臣 平和条約発効の日であります。すなわち一九五二年ですか、平和条約によって日本が韓国を承認したわけであります。

○石橋委員 そうしたら、そのときから無効にしておきさえすれば問題ないじゃないですか。この平和条約において、独立をわれわれは認めたわけです。私たちとしては朝鮮の分離を認めたわけです。いまさら読み上げるまでもありませんけれども、第二条の(a)において、日本国は朝鮮の独立を承認した。この場合の朝鮮は北も南もありません。とにかく全朝鮮の独立を認めたのです。法律的にはこの日からなんです。朝鮮が独立したのも、法律的にはこの日からです。そうすると、この日をもって無効とすという立場をとらなければ対抗できません。争いが起きたときに、どこにおいても対抗できません。

○高辻政府委員 むろん私は法律的な観点から申し上げますが、いまお話しのように、外務大臣が仰せになりましたように、韓国の独立を承認したのは、法律的には平和条約の発効の日である。しかし、承認をしたのはそのときでありますが、韓国が独立したという事実が発生した日はその日であるとは言えないわけです。その事実が発生したとき、それはすなわち、また同時に承認したわが国からいえば、その事実が発生したときに併合条約はなお効力を存していたということは言えないわけでございます。とにかく、承認した韓国が事実として独立をしているとき、そのときに併合条約の効力は失ったというわけで、私はその間の説明は首尾一貫しているのじゃないかというふうに思うわけでございます。

○石橋委員 これも法律論じゃないんです。法律的に朝鮮が独立したのは平和条約の発効の日だと言う。しかし、韓国がすでに独立しておったという事実はあったと言う。それならば、朝鮮民主主義人民共和国というものが現実に誕生しておったという事実も、その時点にはあったのです。間違いないでしょう。この事実は無視するのですか。

○高辻政府委員 北の部分に政権ができたというのは、私の記憶では韓国が独立したあとだと思いますが、いずれにしましても、韓国が独立をしたという事実が発生したとき、これは併合条約というものと相いれない事実でございますが、その事実を平和条約で承認をしたことになりますが、その事実が発生したときは併合条約と相いれない事態が生じておる、それはすなわち、併合条約でございますから、朝鮮の日本国からの分離と言ってもいいわけでございます。それが実は韓国だけについてあって北の部分についてはないということは、政府側から申しておらないと思います。いずれにしましても、朝鮮というものが日本国から分離しておる、そういう意味合いで、韓国が独立をしたその事実が発生したときに併合条約の効力がなくなった、こう言っているわけでございます。

○石橋委員 質問を何十と私用意しておるのです。それを最初からこれじゃ私は何日やったってケリがつきませんよ、入り口でこんなふうじゃ。もう総理大臣はずいぶんいままで議論を聞いておって、おわかりになったと思いますから、総理の見解をお聞きしたいのです。私が言っておるのは、これはいつの時点から無効になったかということは、メンツの問題もあり、いろいろな問題もあって、非常に政治的に韓国側では重視しておる、日本側は軽く考えたいのですね。しかし、とにかく韓国側は重視しております。だから旧条約、協定は、一切どだい最初からなかったのだという主張を終始一貫続けております。これに対してわがほうは、そんなことを言ったって事実あったものを否定しようがないじゃないですか、こういう立場をとっておられるのです。この意味では日本側の言い分が私は正しいと思います。道義的には向こうの言い分が正しくても、法律的には私は日本の言い分が正しいと思います。ところが、これほど韓国が重要視し、一生懸命になって、もはやなかったんだ、というのは、最初からなかったんだと言い張っておるときに、こちらの立論が弱ければ対抗できなくなるということなんですよ。対抗できなくなる。だからあとあと条約の規定というものは、もうこれが発効すればだれが何と言おうと通らぬと政府はおっしゃっていましょう。そうすると、客観的にどう解釈すべきかということになってしまう。そのときに、日本側は、最初からなかったと言うのは無理なんだ。そんなことはない、韓国の政府の誕生した日から、こんなことを言ったら軍配は日本に上がりませんよ。たいして影響もないならば、この辺のところは、それじゃ講和発効の日にするのがほんとうだ。なぜ最後までがんばられなかったのか。それがいやだというならば、日本から分離した、降伏文書に署名した日とか、もっと譲るならばポツダム宣言受諾の日とか、何か筋の通った主張をなぜ最後までなさらなかったのか。韓国の主張に対して対抗できないような弱点を何でおつくりになったのか。この点について総理のお考えをお聞きして締めくくりをつけたいと思います。

○佐藤内閣総理大臣 石橋君のお話、これは詳細に御意見を聞きました。私は、外務大臣もこれまたたいへん珍しく親切にお答えしたと、かように思いますが、私はただいま議論になっておりますものは、平和条約が発効の日、そのときに日本は韓国の独立を承認した、これはもうよく私どもの主張はそれでおわかりだと思う。しかし、実際に韓国に政権ができたときは一体いつかという、いわゆる併合条約が行なえなくなったのは一体いつか、かように申しますと、これは独立した日、だからそれにさかのぼって無効だ、こういうことでございます。それについてただいまお話を聞いておりますと、北が独立した日はもっと早いのだ(石橋委員「あとです」と呼ぶ)ということを言われる。それはちょっとあとだといま言われますから、北はあとであるということなら、もうはっきり私どもは、平和条約締結の日ではあるが、独立した日に併合条約は行なえなくなったのだ。だからそのことがいわゆる一九四八年の八月十五日だ、そのときのは別にこれは南だけだとか、北だとか、こういうような関係はない。併合条約自身が全域について行なえなくなった、かように私どもは考えておるということであります。

○石橋委員 それで法律的には少なくともおかしい、弱点を持ったものであるということははっきりしたのですよ。しかし事実上困らぬからいいじゃないか、いまの総理のお答えは。というのは、韓国が政府樹立宣言をしたのは一九四八年の八月十五日、北のほうが政府の樹立宣言をしたのはそのあとの九月九日、だからそのときにはもう無効になっているからいいじゃないか、これは便義主義というやつです。少なくともそういう便宜主義は通用しないということが第一と、特に総理にお聞きしたいのは、北については白紙でございますと終始一貫述べているのです。ところが、こういう一つの規定を見ても、北については白紙と言えない、無視である、こういうことを私申し上ているんですよ。北については無視である。白紙ではない。韓国の政府ができた日をもって無効とすというふうな規定を主張する、そういう態度に北というものを無視している態度があらわれているということを申し上げているわけです。この点については何か言い分がございますか。

○佐藤内閣総理大臣 ありますが――言い分ありますが、ただいまお話しのように韓国が先にできたという、また北鮮はあとだったということを石橋さんが言われますので、最初私ども聞いておりまして、北鮮が先だ、だから先に独立したんだから八月十五日というのはめちゃだ、こういうようなお話でしたが、この点はもう誤解がないように、北鮮はあとだと言われるからこれは私どももそのとおりでいい。それを便宜主義だ、かように言われますが、これは便宜主義であろうが、とにかく併合条約、合併条約が、そのときから、韓国が独立したときから行なえなくなったというのでございますから、無効になった、かように私ども考えていいと思います。そこで事実問題として――これは事実問題ですよ。事実問題として北に権威のあることは私どもも考えている。したがって、その意味においては、経済協力の問題にしてもまたその他の問題にいたしましても、北に権威のあることを絶えず考えつつ今回の条約の締結をしておる。だからこの意味においては私はいわゆる無視したということではなくて、事実関係では十分そのことを考慮してまいっておるということでございます。しかしながら法律的に、あるいは国際法上から見まして、北の権威というものを認めているか、これは無視しているんじゃないかと言われればそのとおりだと思います。無視だということになります。これは御承知のとおり、私がこの席でしばしばお答えいたしましたように、南を承認したものは北を承認しておらないし、北を承認しておる二十三カ国も南を承認しておらない。かようなのがこれは国際上の慣例でございます。だからこの点はいままで説明し、よくおわかりがいっていたと思いますが、まだこの際にただいまのように無視だという話がありますが、事実関係として私どもは北の権威を認めておる。ちゃんと事実関係としてはその点を十分考慮しておる。だからいわゆる無視ではございません。だから法律的な無視だとおっしゃるなら私はあえてそれを抗議は申しません。それは否定はいたしません。しかし、事実上はちゃんと北の権威のあることを認めていろいろのくふうをしておるということを申し上げます。

○石橋委員 私この間から総理の答弁を聞いておって気になるのですけれども、北と南と両方承認した国がないと盛んにおっしゃるのですが、ありませんか。――ありませんか。

○佐藤内閣総理大臣 私の聞いているところではございません。

○石橋委員 どなたが専門家ですか。私が調べている範囲ではあるのです。(「外務大臣答えろと呼ぶ君あり)外務大臣、それじゃ……。

○椎名国務大臣 両方承認しているところはございません。

○石橋委員 ウガンダは両方承認していると私は思いますが、その点間違いですか。

○後宮政府委員 お答え申し上げます。
 すでに御調査と思いますが、インドにつきましては北と南と両方から領事館を受けておりますが、自分のほうからは派遣しておりません。それからもう一つの例は、カンボジアは北のほうから大使館を受けておりますが、南のほうからは領事館だけということになっております。それから、ビルマは両方から領事館を受けておる。それからアラブ連合のほうは北から大使館を受けて韓国からは領事館だけを受けておる。そういう状況でございまして、こちらの承知する限りウガンダの例は知らないのでございます。

○石橋委員 私はこの資料に基づいてお尋ねをしているわけです。
 それじゃ、総理は何度も七十一ヵ国とか七十二ヵ国とか韓国を承認していると言う。これも一ヵ国違うんですね。北のほうは二十三カ国が承認していると一貫しておっしゃっておられる。正確を期するためにその七十一ヵ国か七十二ヵ国かということもはっきりしてもらいたい。その中にウガンダが入っているかどうかを確認してください。それから北のほうの二十三の中にウガンダが入っているかどうか確認してください。私の資料では両方ともウガンダは入っているんですよ。何度も何度も総理はおっしゃるから、私はよっぽど自信があるのかと思ったら、調べてない、わかりません、――いいかげんじゃないですか。

○後宮政府委員 お答え申し上げます。
 九月二十日の調査でございますが、それによりますと、われわれの持っております資料では、ウガンダのほうは韓国と一九六三年の三月二十日に承認関係に入っておるのでございますが、北鮮のほうとはまだ何もないことになっております。(「それを何で確認するのだ」と呼ぶ者あり)大使交換に関するある合意をやっておるわけです。

○石橋委員 この承認という問題をまず定義づけていかなければならぬことになりますね、そういうことになると。先ほど韓国を承認した国、北鮮を承認した国と、両方承認した国はないと総理大臣はおっしゃっているから、そのまま私は承認ということばを使っているのです。ところが、いまのアジア局長の答弁でもまだ自信がないのですね。北のほうはどうなっておるのか。

○後宮政府委員 北のほうに関しては、承認とか外交関係開始とかいう資料を全然情報がないわけでございます。

○石橋委員 だからあなたがここで承認してないということは言えないじゃないですか。いまのところ確認できませんと言うならとにかく、承認してないとは言えないでしょう。どうです。

○後宮政府委員 もう一度念を入れて確かめますが、入手しております情報では韓国だけしか承認関係がない、そういうことでございます。

○石橋委員 あなたは国交を持っておらないからわからないといまおっしゃった。わからないのに、総理はもう当然であるかのごとく何度もおっしゃるんです、北と南と一緒に承認している国はありませんと。これはまだ立証されてないのですよ。私は紹介しておきます。これは常にあなたたちの味方に立って議論を展開しておられる田中直吉という教授の「南北朝鮮の国際的地位」というこの中に、私調べてみましたら、両方承認している国にウガンダが入っているのです。私は根拠をはっきりしておきます。あなた方はこれに対抗する資料をいまだ持たずして、両方承認した国はないという、これがもう純然たる事実であるかのごとくものを言われるのは慎んでいただきたい。これは国民をごまかすことになりますから慎んでいただきたい。このことだけを申し上げておきたい。

○安藤委員長 藤崎条約局長。

○石橋委員 ちょっと、委員長。これは総理大臣がいままで私が数えただけで四、五回言われたことばなんですよ。総理大臣に、だからお伺いします。
 〔「取り消すなら取り消す」「間違っていやしないか」と呼び、その他発言する者あり〕

○佐藤内閣総理大臣 私のいろいろの発言についてそれを取り消せとか、あるいは間違っている――まあ取り消せとは言われないようですが、私はいままでもしばしば申し上げたのでございますが、朝鮮半島におけるこの二つの権威、これは民族のたいへん気の毒な悲劇、かように私は考えておる。いつも絶えず同一民族の単一国家という、これが私どもの念願でもあります。これはまた社会党の皆さん方も同じような考え方ではないかと思います。さように私どもは考えておる。またいままでの国際慣例から申しましても、こういうような分裂国家を承認している場合にしばしば問題が起こるのですが、多くの場合、これはやはり単一国家を願っておる、こういう立場で交渉を持つのでございます。たとえばフランスが中共を承認した。そのために国府が国交を断絶したと、かようなわけに、いつも二つのものが対立しておる場合には、二つを同時に承認しますと国際紛争は必ず起こる、かようなものでございますので、多くこういう場合は一つになっておるというのが、これがまあしきたりだと思っております。私は、そういう意味で、そういうことはないんだと、かように事務当局からも伺っておりますし、したがって私、かように説明したのですが、ただいま特殊な国が二つ承認しておると、かようなお話でございますから、よくその点は調べることにいたします。しかし問題は、ただいま申し上げるように、単一民族、これは単一国家を願っておる、またそれを進めることが私どもの、隣国のつとめでもある、かように私は考えておりますので、ただいままでのところ南を承認しておるもの、この国が同時に北と法律的関係を持たない、これはわが国のもう最初からの考え方でございますから、基本的な態度でございますから、この点はぜひ御了承していただきたい、かように思います。
 ただいまの具体的問題につきましては、お話しのようによく取り調べることにいたします。

○石橋委員 非常に大切な問題なんですよね。結局南北統一ということを悲願にしている、これは私たちはほんとうにそうあってもらいたいと思います。総理もそうおっしゃっております。少なくとも口の上ではそうおっしゃっておられる。しかし腹の中はわからない。一つの例として、私は先ほど、ほんの規定のしかた一つとってみても、北鮮を無視していると思われてもやむを得ないような例がありますということを申し上げました。それから南と北とを一緒に承認できないんだ、そんなことはもう土台できないんだ、例もないんだというようなことをよく調べてもおらないでおっしゃると、日本の国民は一国の総理大臣のおっしゃることですから、ああそういうことなのかと、こう思うのですよ。ところがよく聞いてみると、まだ調べが行き届いておらぬ、あまり自信がない、そういうまだ確実でもないことを反論の根拠になさるということは今後慎んでいただきたいと思うのです。
 そこで、ここでお尋ねしておきたいのは、この承認するということですが、法律的に日本が朝鮮の独立を承認したのは平和条約です。これは間違いありませんね。ところがこの朝鮮という場合には南、北を含めておられるわけです。われわれはそれを含めて朝鮮の独立を承認したわけです。そうすると、日本が大韓民国を承認する日はいつということになるわけですか。

○椎名国務大臣 大韓民国を承認した日は、平和条約発効の日であります。

○石橋委員 いかなる根拠によってですか。

○椎名国務大臣 いま申し上げたように、日本政府が講和条約発効の日に大韓民国を承認したのです。

○石橋委員 どういう手続を経てですか。

○椎名国務大臣 黙示の承認でございます。特にそれを明示したわけじゃない、黙示の承認。

○石橋委員 そんなばかなことがありますか。国家の承認なんというのが黙示の承認――恋人同士ならばものを言わぬでも目と目でわかる。(笑声)そういう手はあるかもしれませんけれども、一国が一国を承認するというのに黙示の承認とは何ですか。ちょっとウインクしたというのですか。

○椎名国務大臣 国と国との間の承認の行為は必ずしも要式行為ではございませんで、文書でやる場合もあるし、あるいはまた別の形式でやる場合もある。いろいろある。それで結局平和条約を批准して、そうしてこれが発効するときに日本は大韓民国を黙示の承認をしたと、こう解釈しております。

○石橋委員 黙示の承認なんというのは初めて聞きました。具体的にどういうことをするのですか、黙示の承認って。暗黙のうちに認めるということですか。そんなばかなことが許されますか、一国の外務大臣の答弁として……。

○椎名国務大臣 条約発効の日から在日代表部の設置を認めております。これは外交の慣例として、こういう方法がとられておることはよくあるのであります。

○石橋委員 在日代表部は、あれは居すわったのじゃないですか。しかも相互平等の原則を無視して、日本の代表部を韓国に置くことすら認めなかったじゃないですか。占領下においてGHQの中にある代表部が、そのまま講和発効後も居すわった。それを黙って見のがしておったからこれは承認になる、――ばかなことがありますか。独立国の外務大臣のそれが答弁ですか。そんなことでは絶対承知できません。

○椎名国務大臣 こういうことは慣例上認められておるのでありますから、これをもって承認行為とみなすことができるわけであります。

○石橋委員 これは承知できません。向こうがかってに居すわって、そうして日本としては困る、どうしても残るならば、相互主義の原則に基づいて日本の代表部も韓国に置いてくれと何回言ったって通らなかったじゃないですか。こんなものをあなたは承認というふうな重大な問題に結びつけるのですか。一国の国を承認するかしないかということがどんなに大切か、先ほどからの総理の答弁でもはっきりしているじゃないですか。既成事実の押し売りを承認だなどということは不見識です。許せません。

○椎名国務大臣 その際に口上書を取りかわしております。「日本外務省は、在日韓国代表部に敬意を表するとともにその地位に関する同代表部の本日付口上書について左記回答するの光栄を有する。」云々と書いてありまして、これがすなわち暗黙の意思表示によって大韓民国を承認したわけになるのであります。

○石橋委員 まず第一に、いまあなたが例示されました資料を委員会に出していただくこと。第二は、この韓国の在日代表部というのは、先ほども申し上げましたように、占領下に占領政策の一環として置かれたものです。設置されたのは一九四九年一月二十九日、それを講和条約が発効されて当然に国交のない日韓の間においては撤去しなくちゃならない筋合いのものであるにもかかわらず、韓国は居すわったのです。これは占領というその背景の中でやられたことを、既成事実として日本に押しつけてきたのです。そのことをどうして国家の承認と結びつけることができるのですか。かりに百歩譲っても、帰れという代表部が帰らぬから、しょうがない、まあやむを得ぬから置いてやろうということがかりにあったとしても、それがなぜ一国の承認と結びつくのですか。こんなばかな議論がどこにあります。

○椎名国務大臣 これはもうりっぱな外交慣例で認められておることでございまして、もはや平和条約発効ということになりますと、連合第の一部として日本に滞在することはできなくなるので、それでこれを在日韓国代表部というものに切りかえた。それを日本の承諾なくして、それはいわゆる強引に居すわったのではなくて、日本がこれを承認しておる。すなわち大韓民国というものを承認したということがここにあらわれておるのであります。

○石橋委員 代表部を置いたことが何で国を承認したことになりますか、既成事実を認めたことが。占領中の代表部が居すわった。それはしょうがないから認めた。代表部の設置を認めたということが――しかもそれは既成事実の押し売りです。そのことが何で韓国の承認に結びつくのですか、もしそれが承認に結びつくというならば、講和発効のときから日本と韓国の間には正式に国交があったということになるのですか。そんなばかなことはないじゃないですか。
 委員長、いまの資料、非常にこの点で重要ですから、出していただいてから質問を続けたいと思いますので、お取り計らいを願いたいと思います。

○安藤委員長 ただいまの石橋君の資料提出を求められましたにつきましては、理事会において協議を行なうことにいたします。
 〔発言する者多し〕

○安藤委員長 委員長より申し上げます。ただいまの資料の件につきましては、政府側より朗読いたすそうでありますから、それを朗読いたさせまして、それを資料にして出すか出さぬかは、後刻の理事会において御相談を願います。

○後宮政府委員 先ほどの口上書につきまして、前にどこかの委員会に出たことがあるかということでございます。いま調べさせたのでございますが、私の前任者の伊関局長が要旨を御説明申し上げたことはございますが、資料そのものは出てなかったことが判明いたしました。現在、この口上書全文一枚くらいのものでございますから、朗読させていただきます。
 口上書
 日本外務省は、在日韓国代表部に敬意を表するとともにその地位に関する同代表部の本日付口上書について左記回答するの光栄を有する。
 「日本政府は、在日韓国代表部が一九五一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された平和条約の効力の発生する本日から、連合国最高司令官に対して派遣された代表部としての地位を喪失するので、両国間に正常の外交領半開係が設定されるまで臨時に同代表部に対し政府機関としての地位を認め、且つ同代表部およびその構成員に対し領事館およびその構成員に通例許与されると同じ特権を許与するものである。
 日本政府は、大韓民国政府が在韓日本政府代表部に対し相互主義により、前記同代表部に与えられると同じ地位および特権を認めるものと諒解する。」
 一九五二年四月二十八日
これがこちらから出した手紙でございまして、これは形式上韓国代表部から参りました手紙に対する返簡になっておりますので、順序がちょっと狂いましたが、先に先方から参りました同日付の口上書を読ましていただきます。
 口上書
 在日韓国代表部は、日本外務省に敬意を表するとともに同代表部の地位に関して日本外務省が配慮されるよう左記を伝達するの光栄を有する。
 「在日韓国代表部は、一九五一年九月八日にサン・フランシスコ市で著名された平和条約の効力の発生する本日から、連合国最高司令官に対し派遣された代表部としての地位を喪失するので、両国間に正常の外交領事関係が設定されるまで臨時に、日本政府に同代表部に対し政府機関としての地位を認め、且つ同代表部およびその構成員に対し領事館およびその構成員に通例許与されると同じ特権を許与されるならば幸甚と存ずる。
 大韓民国政府は、在韓日本政府代表部に対し相互主義により前記代表部に与えられると同じ地位及び特権を認めることを諒解する。」
 一九五二年四月二十八日
 以上でございます。

○石橋委員 あとで資料を出していただいて私は詳しく検討したいと思いますが、いまお聞きする中でも非常におかしな問題が出てきていると思うのです。というのは、正規に外交関係、領事関係が成立するまでの間、臨時にこれを代行することを認めるというのが一つの柱ですね。もう一つの柱は、相互主義の原則に基づいて、同様の働きを持つものを韓国においても日本の機関として認めろというのが、もう一つの柱になっていると思います。あとのほうが守られてないということはお認めになるでしょうね、外務大臣。

○椎名国務大臣 これが実行に移されていなかった事情につきましては、後宮アジア局長から申し上げます。

○石橋委員 私は事実を聞いているのです。この口上書で確認されました後段の部分について、韓国側は実行しておらない、このことはお認めになりますねと聞いているのです。

○後宮政府委員 御指摘のごとく、当時すぐに向こうが相互主義に基づいて当方の在外事務所を認めるに至らなかったわけであります。朝鮮事変等の問題もございまして延び延びになっておりましたが、今般六月二十二日の条約調印を機会に、この市外事務所が開設されるに至ったわけであります。

○石橋委員 平和条約発効の日にこの口上書が交換されているのです。ことしの六月二十二日に調印されてから認められました。何年たっているのですか。それが実行されたというのですか。私はアメリカに対してのみ追随しているのかと思ったら、韓国にまで追随しているじゃないですか。日本当然主張しなくちゃならない面、国際法、慣例から言っても、いまの口上書から言っても、当然やらなくてはならないことを韓国はやってない。そんな口上書が何の値打ちがありますか。一片の紙きれになっているじゃないですか。こんなだらしない外交をやっているから、だからこそ今度の日韓条約でも全く日本側の自主性が失われるのですよ。
 それからいま一つの、正規に外交関係、領事関係が確立するまでの間臨時にやることを認めるということが、何でその国を承認したことになりますか。こんな悪例を残していいものですか。こういうばかなことをやっておったのでは、これは話になりませんですよ。いま、いろいろな点で、管轄権の問題その他で日本と韓国の間に争いがある。解釈の相違がある。いままでのあなた方の姿勢から見ても、今後どんどんどんどん韓国側の言い分が通っていく可能性が十分に出てまいりますよ。いままでにおいてすらそんな姿勢ですから。こういうことは単なる手続上の問題でも何でもございません。少なくとも国を承認するかしないか、法律的にいつからその国を承認したことになるのか、これは外交の基本です。それを一片の紙きれで一国を承認したことになるなどとよくも私は言えたものだと思う。しかもその紙きれが、相手側によって守られてもおらぬ。それなのに、日本側は守られてないことを追及するどころか、この相手によって無視された口上書によって、相手の国を承認したことになる、黙示の承認である、こんなばかなことがどうして許されますか。私がこれは承認できないだけではありません。ほんとうに血の通った日本の国民は、みんな承認できませんよ、こんな態度では。しかもこのことは、私がこれから質問することに重大な関連を持ってまいります。しかし関連質問の申し出がありますから、しばらくの間譲りたいと思います。

○安藤委員長 関連質問の申し出がありますので、これを許します。岡田春夫君。簡単に願います。

○岡田委員 関連質問からです、一つだけ伺ってまいりますが、いまの口上書の問題です。
 口上書の問題をいま朗読を聞いておっただけですから、正確に検討する機会はございませんけれども、およそ外交問題というのは、外交関係を設定するということは、言うまでもなく、相互主義の原則に基づいて外交関係が設定されなければならないのは言うまでもないことです。そこでその文面の中においても、相互主義の原則に基づいて、日本は同時にいわゆる韓国の中に、在日韓国代表部と相応する代表部を設置しなければならないという、そのような文面が口上書にあったわけですが、この事実関係を見ました場合、先ほどからお話のありましたように、相互主義の原則に基づいて在韓日本代表部というものは設置されなかった、この事実はお認めになると思うのですが、外交関係の基本原則であるその法的関係を設定する基本的な点が実行されない口上書というものが、はたして法的に有効であるものかどうか、この点についてひとつ問題が出てくると思います。第二の点は、この口上書がそれでは外交上法的な関係を設定したものであるのかどうか、この点が第二の問題として出てくるわけであります。
 まず、この二つの点にお答えいただきまして、その答弁の結果においては新たな問題が出てまいりますので、その二つの点についての御答弁を願いたいと思います。

○椎名国務大臣 外交関係の正常化と国家の承認とは、これは区別して取り扱われております。でありますから、正常な外交関係が設定される以前におきましても、国家と国家の承認行為というのはあり得る、さような解釈であります。
 それから口上書でございますが、もちろんこれは、向こうに約束を守る義務があるわけでありますが、実際問題として、その間に朝鮮事変その他両国の関係がなかなかややこしいものがございましたので、今日までその約束が守られておらなかったことはまことに遺憾でございます。かような意味からいっても、早く正規の関係を設定しなければならぬ、かように考えるわけであります。

○岡田委員 それではこれは法律関係として重要でございますから、もう一点だけ伺って関連質問を終えたいと思いますが、ただいまの答弁を伺っておりますと、国家の承認というものは国交の問題とは別である。したがって、その答弁から考えた場合、口上書に基づくところの外交関係の問題は、国家の承認とは無関係の問題である。そして先ほどから答弁としては、国家の承認はサンフランシスコ条約の発効によって黙示的に承認をされる、この答弁になってまいるわけでございますから、その黙示的承認の根拠として口上書を出すということは、何ら有効なる法的根拠をなすものではない、この点は明確である。あくまでも政府の見解は黙示承認であるということが明らかに立証されただけであって、口上書の提出によってはその国家の承認を認めたことにはならないのだということになるのだと思いますが、この点はどうですか。これが第一点。
 第二の点は、私の質問にあなた答えておらないのです。口上書の中に規定する相互主義の原則が貫徹されておらない場合、その口上書それ自体が無効ではないかということを言っておる。あなたはその点について答えておらぬじゃないですか。口上書の内容において相互主義の原則は貫徹されておらない。それならば、その口上書それ自体が無効であるからしたがって、在日韓国代表部を設置するということ自体は、口上書に基づいてあらわれるものではない。これは先ほどから石橋君の言われるとおりに、そのまま居すわりの状態が続けられているということ以外にはないということです。それ以外に法的な解釈はできないわけです。こういう点について、関連ですからこれ以上は私質問しませんけれども、明確に御答弁願いたい。

○椎名国務大臣 口上書が承認行為にどういうつながりを持つかということにつきましての法律上の解釈は、条約局長から申し上げますが、相互主義が実行されないということは、要するに、その口上書が無効の口上書であるということになるかというお話でございますが、これはいろいろな関係から、その約束が実行されない状況のままに推移したということでありまして、口上書そのものがなかったと同様になるというようなことは考えておりません。

○藤崎政府委員 政府の承認と外交関係の設定は別のことだということは、先ほど外務大臣からお答えしたとおりでございますが、この口上書には、外交関係が設定されるまでこうこうする、外交関係を開設したいという意思が明示されておるわけでございまして、これが承認の意思を表明するものとして十分であることは明らかであると思います。ただあなたの国を承認するという表現を端的にとった場合だけを、従来国際法上明示の承認と申しておりまして、いまみたような間接的な表現をとっております場合は、従来用語上黙示の承認と呼ぶことになっているわけでございます。

○岡田委員 いま藤崎条約局長の答弁を伺うと、非常にあいまいです。あなたもただいま言われたように、慣例上と言ってごまかされておる。国交の正常化が行なわれるまでという文面があったところで、あなたの論理をもってするならば、その口上書の交換というものが行なわれるということは、同時にこれは明示の承認を与えたということにならなければ、その内容がどうあろうとあなたの論理、法的な関係としては、それはそのような結論が出てこないはずです。そうすれば先ほど外務大臣の言っている黙示の承認と相反する結果があらわれる。しかもその口上書は、サンフランシスコ条約の効力の発生した同日にそれが交換されているということになれば、なおさらこれは明示上の承認といわざるを得ないのではないか。法的な関係としてはその点は当然そのようになってくると思いますが、これは法解釈の問題です。
 それから第二の点は、依然として答弁が明確でありません。果たすべき両国間の相互主義の原則に基づく権利義務の関係が設定をされることが、口上書として両国間に交換された。ところが、その相手国においてこれを実行しないという場合においては、その口上書は形式的に提出いたしましても、これは法的な効果を持たないといわざるを得ないのです。その点が法的な効果があるということならば、その根拠を法的に明らかにしてもらいたい。たとえば、あなたと私との間に、百万円を渡しますそのかわりあなたが百万円に相当する品物をこちらによこしますという約束をしたとする。ところが、私は百万円を渡したが、あなたは百万円に相当する品物をよこさなかった。よこさなかった場合においても、その契約というものは成立しますか。成立しないじゃないか。成立しないということがこれで明らかじゃありませんか。口上書においても当然じゃありませんか。それはその口上書が有効であるということにはならないのです。法的関係について、私、関連ですから、これ以上言いません。この二つの点を明確にしておいてください。

○藤崎政府委員 黙示の承認、明示の承認といいましても、効果は同じことでありまして、それほどやかましく言う必要はないかと思いますが、従来の国際法の教科書でございますと、どうもそういうのは黙示の承認ということになっておる。私も実は岡田先生と同じように、そういうのは明示と言ってもいいのではないかと思いますけれども、従来の国際法の学者の用語例に従って申しておるにすぎません。
 なお、承認は、これはまた国際法の講釈をするようで申しわけありませんが、一方行為でございまして、あの口上書を発出したときに、日本政府は明らかに承認の意思を表明したわけでございます。その後外交関係がどういうふうに進んだかということとその意思の表明とは別個の問題でございます。

○石橋委員 とても私たちが納得のできるような答弁ではないわけです。何度も申し上げておりますように、一国の承認というものは非常に重大な問題です。たとえば、いま国際連合の中で最大の関心事は何かということがあげられるならば、中国の代表権の回復の問題だということになる。日本の外交上で何が一番重要かといえば、やはり中国をどうするか、国として認めるか認めないか、非常に重要な要素を持っております。とにかく、一国の承認というものは、簡単に片づけられるような行為ではないのです。それを、一片の口上書で国を承認したことになります、こんな慣例をつくったら、私はたいへんなことになると思います。しかもその口上書は守られておらない。相手の側から無視されておる口上書、これにどれほどの価値がありましょうか。いま岡田委員からも指摘されたように、当然日本としては破棄するに価する紙きれにすぎません。それを一国承認の根拠にするなどというのはもってのほかだと私は思います。あなた方が黙示の承認ということばを先ほど使われたのは、この平和条約第二条の(a)項で独立を認めた、ここからもう自然に承認行為が出てきたというふうな、そういう見解をとっておられるのではなかろうかという疑いすら出てまいります。その点はいかがですか。

○藤崎政府委員 平和条約の第二条の朝鮮の独立、その際には、当然その前提として国家がなくてはならないから、そっちのほうから説明をするということも可能かと思います。私どもは、しかし日本の意思ということが重要なのであって、その意思という点においては、前々から御説明申し上げておりますが、事実上は、日韓交渉を始めてから日本は韓国政府を承認する意思決定をいたしておったわけでございますが、しかしこの間は外交権がございませんので、事実上の関係にすぎなかった。それが平和条約の発効によって外交権を持つと同時に法律上の関係になった、かように考えるのが一番合理的であろうと考えておるわけでございます。先ほど申し上げました口上書云々の点は、それを示すものは何かという御質問に対して申し上げておるわけでございます。

○石橋委員 非常に大切な点ですから、もう一度確認します。
 黙示の承認ということばを使われたので、私は平和条約第二条(a)項において「日本国は、朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島及び鬱陵島を含む朝鮮に対するすベての権利、権原及び請求権を放棄する。」こういうふうに確定した、これが効力を持った、もうその時点で自然に承認行為が発生しているのだ、こういう解釈をおとりになっておるからこそ黙示の承認ということばを使われたのではないか、こう聞いておるわけです。

○藤崎政府委員 平和条約第二条を含む平和条約全体の発効によって、そういうように日本が大韓民国と従来持っていた関係が法律上のものになった、それが承認だということも言えるかと先ほど申したとおりでございます。それを黙示の承認といってもよろしいわけでございますが、もう一つの口上書のほうも、また内容からいって黙示の承認と言うほかないものでございます。ほんとうにおまえの国を承認すると言わなければ、明示の承認とは従来の用語例で言わないから、そう申しておるわけでございます。

○石橋委員 それじゃ、これは非常に重要な問題が出てまいりました。この第二条の(a)項によって黙示の承認がなされたのだ、口上書のほうは明示の承認というのが、どちらかと言えば正しい表現だ、こういう解釈です。そういう解釈になりますと、第二条の(a)項によって、朝鮮民主主義人民共和国に対しても黙示の承認が与えられたという解釈が成り立ちます。これは間違いないでしょう。

○藤崎政府委員 承認というのは、その当事国の意思がポイントでございまして、日本の意思は大韓民国の承認にあったことは、先ほど来申し上げているように、日韓交渉開始以来はっきりしておるわけでございます。事実関係はそうだが、法律上の関係が平和条約の発効によって初めて明らかになった、こういうことを申し上げておるわけでございまして、日本政府は、平和条約以前にも以後にも、朝鮮――何でございますか、民主主義人民共和国なるものを承認する意思を明らかにしたことはございません。

○石橋委員 あなたは、黙示の承認というのは第二条(a)項、これを日本が認め、署名をし、効力の発生したことによって当然大韓民国を黙示的に承認したことになるのだということを認めたのですよ。そうすれば、この時点においてもう一つの、この第二条(a)項の中の「朝鮮」の中には朝鮮民主主義人民共和国というのがある。現実にあったのだ。このほうも黙示の承認を与えたことになるじゃないですか。北のほうも南のほうも平和条約の署名国じゃないですよ。しかも、この第二条(a)項の「朝鮮」の中には両方入るのですよ。片方にだけ黙示の承認を与えたなんということは成り立たぬじゃないですか。それはおかしいですよ。

○藤崎政府委員 平和条約第二条が朝鮮全体を意味するということは仰せのとおりであります。しかし、それだけで日本の意思を推定するのが間違いなんでございまして、先ほど来申し上げておりますように、日本政府の意思を推定する材料としては、日韓交渉をそれ以前から始めておったこと、それからサンフランシスコ平和条約当事国が、大部分が大韓民国を承認し、また国連も、国連尊重の趣旨を平和条約に盛られていること、いろいろございましょう。それからその一つとしてまた口上書ということもございましょう。そういうものからいって、日本の大韓民国承認の意思はきわめて明らか、特に口上書では明らかでございますが、朝鮮民主主義人民共和国の、政府としての承認を推定せしめる材料は何もないのでございます。先ほども、昨日か一昨日も申し上げましたように、第二条(a)項の朝鮮というのは、第一義的には朝鮮の地域としての独立、分離独立を承認するという意味があるわけでございます。

○石橋委員 とても納得のいく答弁ではございません。しかし、昼休みにしてくれというお話でございますから、昼食後に引き続いて質問を継続いたします。

○安藤委員長 午前の会議はこの程度にとどめ、午後二時十分再開いたします。なお、休憩中、一時五十分理事会を開きます。
 この際、暫時休憩いたします。

 第050回国会 衆議院日本国と大韓民国との間の条約及び協定等に関する特別委員会 第9号 昭和四十年十一月四日(木曜日)午前十時四十分開議

【発言順】

 参考人
(国士館大学教授) 田村 幸策
 委員長      安藤 覺
 参考人
(評論家)     御手洗 辰雄
 参考人
 委員       田中 六助
 委員       田村 良平

○田村参考人 委員長から、ここに出て今回成立いたしました条約と協定に対する何か意見を述べろという召喚状を受けましたのでありますが、御審議の参考になるようなこと、お役に立つようなことはないと信じますが、一応私どもが日韓関係正常化の正当性というものと、これに対する反対の議論を二つ三つ取り上げて、何か申し上げてみたいと考えるのであります。
 第二次世界大戦が終わりましてから、主としてアジア・アフリカでありますが、植民地の地位を脱却いたしまして新たに独立をかち得た国が、全世界で五十九あります。そのほとんど全部はアジア・アフリカでありますが、その五十九のうちで、昔のその土地を持っておった領主と新たに独立をかち得た国との間で、まだ国交の回復もないという異常な関係にある、世界の進運に取り残されておる関係にありますのは、日本と韓国のみであります。それは両国民にとって利益でもありませんければ、名誉なことでもありません。しかし、終戦以来二十年の歳月は、日韓両国民ともに、両国の平和と安全と繁栄は、いたずらに過去にとらわれずに、輝かしい将来を開拓するにあるということを気がついたのであります。それで、今回多年の懸案でありましたものを全部解決いたしました。ただ一つ領土の問題を残して全部を解決いたしました。ちょうど九年以前に領土問題を残して日ソ間に国交の再開をやったことと軌を一にするのであります。韓国におきましては、日本に対してなお憤慨の念を持っておるやに考えられますのでありますが、今日の日本は、科学技術の驚異的な進歩に伴いまして、世界のしんしんたる進運におくれないように、落後しないように、産業の開発、民生の向上に全力を傾倒しておりますので、それによっていささかでもこの激動しておりまする極東の政局の安定に寄与することを念願としておる以外に、昔のようにアジア大陸に領土を持つというような野心は全然持っておりません。韓国との経済協力というものが行なわれますが、それは、シベリアの開発に日本が経済協力をするというのがソビエトに対する日本の経済侵略でないと同様に、韓国に対しても侵略ではありません。日本の島々が太平洋に陥没するか、朝鮮半島が日本海に沈まない限り、われわれ日韓両国民は将来永遠に、千年も万年も、これは善隣として共存せざるを得ない運命に置かれております。過去におけるがごとく、将来もまたいろいろな問題が起こると思いますが、そのスタートを切ったのが今回の条約でありまして、その労を多としなければならぬと思うのであります。
 条約の内容に関しましては、いろいろなことが専門のことでたくさんございますが、一切それはあとに譲らしていただきまして、一番重要性を帯びておりますものは、この条約が調印されましてから四日目に、六月の二十六日に中共政府が特別声明を出しまして、この日韓条約に反対の声明をされたのであります。およそ五つのことが書いてあるのでありますが、これをなぜ私が重視するかと申しますと、これが日本の国内に非常な大きな影響を与えております。おそらく日本の国内にわき立っておりまする反対論の全部は、この六月二十六日の中共声明に含まれておるのであります。どちらが元祖かわかりませんが、これがその教科書になっておると見てもよろしいのであります。
 そのうちで、一つ、二つを拾い上げて時間がちょうどいいかと思いますが、その一つは、この日韓条約が、日韓の国交回復は南北の分裂を永久化するというのであります。分裂というのは、これは共産主義者のお家芸でありまして、ベルリン、ドイツ、北ベトナム、朝鮮、みないずれも共産主義者のしわざでないものは一つもありません。いわんや、ベルリンのごときは、大きな堅牢な壁までつくってこれをかたく分裂させておるのであります。さらにこれをいま強化しつつあるという話であります、最近の情報によりますと。朝鮮の場合も、モスクワ協定によりまして、朝鮮は、初めの二年間は、アメリカとソ連と両方だけで、朝鮮の独立と統一を二国限りで話をしておりました。けれども、モロトフがどうしてもソビエトの条件でなければ統一を許してくれませんので、一九四七年の十一月にこれを国連に持ち込んだのであります。米ソが自分らの意見の対立のために朝鮮にいつまでも独立を与えないのは気の毒だというので、これをアメリカは国連に持ち込みました。そのときに、モロトフは、国連憲章第百七条というものを引用いたしまして、これは旧敵国に関する問題であるから、国連に管轄権がないという主張をしたのであります。これは非常に大事なことでありまして、今日でも問題に-日本の共産党でも、いつかのテレビで拝見しますと、宮本君がこの問題を提起されております。それにもかかわらず、これを国連の総会は取り上げまして、今日まで十八年間、ずっとほとんど毎年といってもいいくらいでありますが、国連は決議をしております。そうしてその決議のどの決議にも必ずある文句は、朝鮮に関しまする国連の目的は、代議政体のもとに統一した独立の民主主義的朝鮮をつくるにあるということが繰り返してあるのでありまして、その十幾つかの決議がありますが、そのいずれにもそれが載っておるのであります。でありまして、この朝鮮の統一を妨げている罪人がだれであるかということは、きわめて明らかなんであります。国連の記録を読めば、だれにもわかることであります。
 その次の問題は、中共の声施のうちで問題は、今度のこれは日韓の友好条約でございますが、一つの仲直りする条約であります。これをあたかも軍事同盟であるかのごとく取り扱っております。曲解しております。そして、戦争であるとか侵略だということを言っておるのでありますが、しかし、だれとだれと戦争するのか、一向わからない。一体、戦争は、自由世界から申しますれば、彼らが民族解放戦争という名のもとに侵略をしない限り、すべての弱小国は彼らの好む政体のもとに生活をし得るのであります。たとえば最近も、陳毅外務大臣は、アメリカとイギリスとインドと日本とソ連が束になってこい、いくさの相手になってやるから、こういう演説をされております。これはその後訂正されたのでありますが、その訂正されたものにもこの部分だけは残っておりまして、これは実に大国の責任ある外務大臣の発言といたしましては驚くべきことでありまして、私は、これはジョークであると考えておったのであります。ある評論家がこれを、あれは憶病者が夜墓場を通るとき大きな声で詩吟をやるのと同じだと言ったことがありますが、これは強い者の言うことではないのであります。決して強い者はそういうことは言わないはずでありますので、そのジョークもまた一理ある、こういうことでありましよう。
 それから第三の問題でございますが、これが一番大事なんで、こういうことを言うのであります。今度の条約、これは奇妙でありますが、中共の声明書を見ますと、すべてこれはアメリカの帝国主義者がやったことであって、日本も韓国も全然ロボットになっております。全く当事者にされていないのであります。主体はアメリカなんであります。アメリカになっております。そしてこれは、アメリカがやがてこれでいわゆるNEATOと申しますか、北東アジア軍事同盟というものをつくって、これをSEATOに結びつけて、そうして三日月形の――これは彼らは三日月計画と号しておりますが、ずっと中共を三日月形に海から包囲する形、そういうものをアメリカがたくらんでおるために、それのスタートに今度やるのだ、こういうことを言っておるわけであります。これはなるほど彼らはすでにいまから四年前に、ちゃんとソ連も中共も北朝鮮と完全な軍事同盟を結んでおりますし、そうしてしかも、そういう無限な共産主義の膨脹に対して、われわれ自由世界が防衛する指貫といたしましては、だれびとも一応考えつく考え方なんであります。そういうことをやってよろしいわけなんであります。向こうさまがすっかりそういう体制をきめておるのでありますから、こちらもやることは一向差しつかえない。すなわち、いまはそれがアメリカを中心にして、アメリカと日本、アメリカと朝鮮、アメリカと中国と、こういうふうに縦に三つになっている、これを横につなぐのであります。日本と朝鮮と台湾、これをアメリカと一緒に置いてずっとしたものが、いわゆる彼らのいうNEATOでありますが、これはいかにも多少知能の発達した者であればだれでも考えつくのです。しかも、その中共の声明を見ますと、日本を中心にしてと書いてあるのです。日本を中心にしてアメリカは結ばせようとするのだ。ところがあいにくさんと、日本は名ざしで非常に光栄でありますけれども、日本がおるためにこれはできないのです。日本がおるためにできない。何となれば、日本は、安保条約でも、日本が侵略されたときにアメリカからは援助を受けますが、こっちからは援助することができないことになっています。する義務はありません。したがって、われわれが、いま中共が言うごとく、朝鮮や台湾と日本が軍事同盟を結びましても、これは向こうさまから日本が侵略されるときに助けてもらうという条約なら結べますが、日本が朝鮮や台湾が侵略されたときに助けるという条約は結べないのであります。憲法はこれを許さない。そうすると、もうNEATOというものは、せっかく中共は日本を中心にしと、こう言いますけれども、これは日本がおるためにこういうものはできない。またいまそういう必要もないのであります。縦でもう十分であって、横をつなぐ必要はない、こういうのが私どもこのNEATOに対する考え方でございます。
 なお、この点につきましては、この間小坂先生から、ここで何か私新聞で読んだだけでありますが、今度の条約の前文の中に、平和と安全を維持するために日韓両国は緊密な協力をすると書いてあるのであります。もとより、それは国連憲章の原則に従いと書いてありますけれども、これを見ると、いかにも平和と安全を維持するために緊密に協力するというと、これは何か同盟でも結びそうなんでありますね。原則に従い、これは私は、そういう深い意味ではなくて、あっさり国連中心主義というので、国連の原則にさえ従っておけば、これくらい無事なことはないのでありまして、ワルソー条約なんかは、ああいう共産主義の同盟条約ですらも国連憲章など引用しておるのでありますから、一番これは無難でありますから、おそらくそういうことでできたもので、ちょっと読むと、そういう疑念も起こるようなことにならざるを得ないとも考えられるのでありますが、それはそうではなくて、ただ国連の原則に従う――国連の原則というのは、これはちょっとことばがたいへんむずかしいのでありますが、あの憲章の中に、目的と原則というものがちゃんときまっておりまして、それだけをいうのか、それとも国連全体のことをいうのか。今度のこの基本条約によりますると、ひとり平和と安全のみではありません。福祉のことも書いてありますので、おそらく全体の国連の規定ということではないか、こういうふうに解釈をしておる次第でございます。
 簡単でございましたが、一応こんなことを申し上げました。(拍手)

○安藤委員長 ありがとうございました。
 次いで御手洗辰雄君にお願いいたします。

○御手洗参考人 どういうわけで私がここに呼び出されたかわかりませんが、考えてみますと、老いたるジャーナリストで、比較的韓国の事情をよく承知しており、北鮮にも友人がたくさんおります。そういったようなことで、おまえ向こうの事情がわかっておるから少し話せということだろうと思いますので、その立場で若干申し上げます。
 第一に、この日韓友好条約は、先ほどからの方方もお話しのとおりに、いろいろ欠陥はあります。私も韓国の事情をよく知っておる者として、日本人としても不満であります。その点は確かにあるのです。まあ竹島問題とか、あるいは在日韓国人の処遇の問題とか、欠陥はあります。しかし、こういう条約を承認するかしないかということをきめる重点はどこに置くのか。百点満点でなければいけないのかというと、私はそうじゃないだろうと思うのです。まあ五十五点では困りますけれども、七十点ぐらいなら大体いいのではないか。八十点ならなおさらよかろう。いわんや、この条約は、全体として見ましたときに、まず九十点ぐらいのできばえではないかと思います。(拍手)ことに十四年間の長い間の両国当事者の苦労を考えますと、これはやはりこの辺がまず手の打ちどころと言ってよいのではないか、こういうことが前提であります。要するに、この条約によって、プラスが多いかマイナスが多いか、こういうことになりますれば、プラスの面がはるかに多いのであります。
 ごく簡単な手近な例を一つ――二、三日前からの例を申し上げますが、李承晩ラインが消えたか消えぬかという話がありますけれども、この条約が調印され、まだ承認がされておらぬにかかわらず、朝鮮海峡における漁業の安全は確保されまして、日本の漁船隊は公海自由の原則に従って自由に漁業を営んでおります。そのために、下関、小倉、若松、博多、長崎等の魚市場においてはアジやサバがとれ過ぎて、もう置き場がない状態であります。(拍手)そして、値段は暴落をいたして、アジ一匹が一円、二円、一山三十円、一さら五円、六円という値段になり、漁業者が実は豊漁貧乏に困るというので、今後当分操業を停止しなければならぬという事実が起きております。これはどういうことでありましょう。マイナスでしょうか。私は大きなプラスであろう。のみならず、この漁業者たちはこれまで毎朝出漁するたびに家族と水杯をして出漁しておった。それがなくなって、天下晴れて公海に漁業に出かけて、しかも、いままで制限されておった反動として、ここに大漁大漁でお祝いができるようになった。これは大きなプラスじゃないでしょうか。松木さんは御自分の御選挙区のことですからこの事情はよく御承知と思います。(拍手)まずこれらのことを考えてみましても一これはごく手近な一例でありますが、ここに一つ申し上げたわけです。
 外交は戦争ではありません。勝った負けたというようなことではない。一方の意思をもって一方を押しつけるということは、それはできるものではありません。よくいわれるとおり、これはギブ・アンド・テーク、これは当然のことであります。こちらも譲るべし、向こうも譲ってもらうべし、いわんや日韓の間のような複雑な長い関係を解決するためには、双方にいろいろな無理が重なり、不満不平がある、これは当然のことで、ここに互譲妥協の必要がありますが、われわれの不満に比べて、皆さんに私は韓国人の友人としてお考え願いたいのは、亡国の恨みということであります。国を失った恨みというものがいかに深刻なものであるか。私どもは、歴史上にも、また現にわれわれ自身の経験の上においても、わずかな間でありますけれども経験もいたしましたが、この悲哀を考え、五十年にわたる異民族、他の国の支配のもとに置かれた韓国の人々の不満、ふんまんというものはわれわれ考えなければいけないと思うのです。これが韓国におけるあらゆる反対運動のほんとうの根にあるということを考えましたならば、向こうが一分譲るならば、こちらは八分も九分も譲る、このくらいの度量がなければ、この問題はなかなか解決がむずかしい、このことをよくお考え願いたいと思うのであります。(拍手)双方にこれだけの不満があるのに、そんな条約が親善の役に立つか、こういうお話がありますが、双方にこんな不満があるということこそ、すなわちこの条約がすこぶる公正なものであるという証拠だ、かように申してよいだろうと私は考えます。皆さん、もしこの条約をここで批准ができない場合にはどうなりましょうか。私は、事はすこぶる重大だと思います。政治家としてお考え願いたい。
 過去において、日露戦争の終わったときに、われわれの先輩たちは焼き討ちをもって政府に対するふんまんをぶつけました。あのときの焼き討ちの背後にある国民感情は、今日どころではありません。九分九厘の反対でありましたが、それに対して、政府はそれを押し切り、しかも多数党を率いた政友会の総裁西園寺公は、敢然としてこの条約を承認すべしとされた結果が、今日の日本のもとになったことをわれわれは考えたいのであります。皆さん、あのときもしあの講和条約の批准を拒んだならば、奉天の北まで行っておった日本軍の運命はどうなったでありましょう。東郷艦隊の勝利はありましたけれども、陸上における日本軍の力、国民の力はもう限界を越えておった。その危機一髪のときに、それを知らない国民が騒ぎ立てた。しかし、それに対して、政府がこれだけのことを……
 〔「古い話だ」と呼ぶ者あり〕

○安藤委員長 お静かに願います。

○御手洗参考人 決断を下し、政友会を率いた多数党の首領が踏み切ったということが、日本を救った理由じゃないでしょうか。今日に当てはめて、私はつくづくそのことを思います。ごく近い例を申しますれば、サンフランシスコの平和条約またしかり、あのときの批准がもしできなくて、あの講和条約ができなくて今日の日本のお互いの生活やお互いの経済がありましょうか。おそらく、米軍はあの当時の状況からいえば、彼らの計画しておったような軍政をもって臨んだかもしれないと思います。それらのことを考えますれば、半独立とか、いろいろな批評はありますが、われわれが主権を回復して今日の生活を楽しむことのできておるのは、あの条約の批准に踏み切ったという点にあるだろうと思う。(拍手)これらのことを考えれば、今日のこの条約に対しての政治家諸君のお考えも、ひとつ一歩高いところにお立ちになって、大局を見ていただきたい、これが私の第一の考えであります。
 まず、日支事変におきましてなぜ失敗したか。和平の機会は三度も四度もありました。これは皆さん御存じのとおりです。九分九厘まで和平の話がつきながら最後に決裂したのは、軍人たちの思い上がった一〇〇%の要求です。その一〇〇%の要求を一歩退ければ日支の平和はとっくの昔にできておった。今日あの敗戦、あの大東亜戦争というようなばかばかしいことは起こらずに済んでおった。それができなかった理由は何かといえば、一〇〇%を求めた欲ばりの人々の話であります。外交というものはそういうものだと思う。どうぞこの点においてもお考えを願いたい。あまり詳しいことを考えて、木を数えて山を見ないという人間が道を失って命を捨てるという例は、昔からあることなんです。ひとつお考え願いたいと思います。決して私は野党の方々の反対に理由がないなどと申しておるのではない。その理由の中には私も同意のできることがある。これは冒頭に申し上げたとおりです。しかし、そこを考えて、プラス、マイナスの計量を誤らない、大局を見るということが、国家を指導する政治家の責任ではないのか、こう考える次第であります。(拍手)
 一つ一つの問題につきましては、あまり詳しくなりますから、まあ目録程度にとどめますけれども、第一は請求権の問題でしょう。これは不満があります。けれども、講和条約で定められて日本の義務となっておること、韓国側にはその請求権が残っておること、いたし方のないことでありましょう。韓国の反対理由の第一は、亡国の恨み、第二の恨みは、あまりに取り高が少ないということ、フィリピンに対し、南方諸国に対する日本の支払いから見たらば、われわれに対する支払いがあまりに少ないじゃないか。李承晩時代には八十億ドルを要求しておったんです。張勉内閣になってこれが十億ドルになり、次第に下がって、ここまで下がってきた。日本側としてはまず成功と
 いってよいかと思いますが、韓国から見れば、それだけに不満、不平であります。こういうことも考えて、まずこの辺でいたし方がないと私は思います。
 李承晩ライン、これも先ほど来いろいろお話がありましたとおりで、私どもも、向こうがかってに宣言して、日本はかつて承認したことはない、それを取り消せなんと言ったところでどうにもなるものじゃありません。御自由であるといってよろしかろうと思います。しかし、日本にとってゆるがせにできないことは、この線があるためにこうむる損害である。これは先ほど申しました漁業の問題である。これはすでに解決しておる。批准ができなくとも、韓国の政府の、何と申しましょうか、友情によって取り締まりをやめたために、すでにこのことは撤廃同様にいまはなっておるのであります。これまで日本の漁船で拿捕されたもの五百隻以上、捕えられた者が四千人以上、ずいぶん乱暴なことをされておりますが、これが永遠に続くのではどうなりましょうか。この条約ができなければ、この韓国の朝鮮海峡における乱暴な国際法違反はますます激しくなると思わねばなりません。私どもとして、これはがまんのできないことである。どうしてもこの問題だけは解決しなければならない。李承晩ラインが残ったところで、そんなことは私どもの知ったことではない。平和ラインだと向こうは申しております。これは、もう一つ韓国のためにここに弁じておく必要がありますが、平和ラインは韓国としてはやむを得ない必要なこともあるのであります。今日までは日本に対してもこれが向けられておりましたけれども、これは韓国日報というソウルの新聞の十月三十日の新聞でありますが、冒頭にあります。朝鮮語は私に読めませんが、きのう韓国の新聞記者に読んでもらいましたところが、北傀の漁船がわがほうの船を多数拉致していって、九十余名の漁夫をつかまえていった。こういうことなんです。韓国側から警備艇が出て追跡したけれども  これはみな、別の新聞でありますが、同じ記事であります。漁船が三十余隻、九十何名、北傀の警備兵二十名が来襲して、そして漁船の帰還したものがなく、一隻は沈没させられた。警察の推定では百十二名がつかまえていかれた。三十八度線付近であります。越してきたのでありましょう。こういうことがある。この新聞にはありませんけれども、中共の船もしばしば朝鮮沿津を侵してくるのである。これらが、単に船が来るというのならばよろしいけれども、共産主義行動のために自分の国を侵してくる。平和ラインとして沖合いはるかなところに警備線を敷くのは当然だというのが韓国の主張なんであります。これは、私どもそんなことは承知できるとは思いませんけれども、やむを得ないことも韓国の事態としてはあるんだ。これをひとつ考えてあげなければならぬのではないか。決して私はこれを承認するというのではありません。もともとわが国はこんなものを承認したことはない。わが国として必要なことは漁業が安全にできるかできないかという一点に帰していいのであろうと思いますが、この点から申しまして、李承晩ライン問題は、日本においてはまあ大体すでに解決した、これはもう言って差しつかえないのではないのか、公海の自由の原則をはっきり向こうは認めておるのでありますから、これ以上のことを求めたところで、これは無理であろう、こういうことが私の見解でございます。もし、それでもこの条約の承認はいけないとおっしゃるならば、朝鮮海峡、東朝鮮あるいは公海上の朝鮮近海における漁場においてわが国の漁業はどうすればよいのか、その具体的な対策をお示しになられねばならぬ、これがなくてただ反対では、西日本数十万の漁民を苦しめるだけであり、これではとうてい漁業関係者は承知できないでありましょうし、同時に、西日本一帯におけるわが国の人々の食糧問題にとってもこれは重大事件であると申さなければなりません。お考えを願いたい点であります。(拍手)
 在日韓国人の地位、これは少し譲り過ぎたのではないかと思いますけれども、これも先ほど来申しますことから申していたし方がない。
 竹島問題でありますが、この問題については、この席では実は申し上げたくないことがいろいろあるのであります。それは向こうが何と申しておっても、日本がやはり領土権を主張しておるから紛争に相違ないという日本政府の見解は、私もそれでよろしいと思いますけれども、はたしてほんとうはどちらのものなんだ。これは私は野人でありますから何も私のことばには責任がないから申すのですが、日本側はいろいろ証拠物件、証拠古地図などを出しておられますが、韓国にもたくさんあるのです。したがってこれは非常にむずかしい問題である。だから、あとに残るのはいたし方一がない。ここに二、三の資料を持ってまいりましたが、これはソウル新聞という新聞の十月二十八日の新聞であります。これを見ますと、竹島というのは韓国では古名を干山島というのです。私も初めて知ったわけです。四百年前の古図が出てきた、二百五十年前の古い地図が出てきた、こういうものが出てきたのに何を日本が言うかと韓国では言っておるのであります。これは外務大臣にははなはだ御迷惑なことがだんだん出てきたと思いますけれども……。それからこういうものもあります。これは東亜日報ですか、これを見ますと、独島は韓国領、世祖――韓国の世祖というのは約百四十年前の李王朝の王様でありますが、蔚山の東に鬱陵島があり、そのまた南に干山島がある、こう書いてございます。それからまた、これにありますが、これを見ますと、七月二十八日の日本の新潟日報という新聞に出ておったが、日本の昔の地理学者で林子平という人の書いた古地図に――寛政年間ですからおよそ二百年余り前になると思いますが、この地図の中にはこれは明らかに韓国領と善いてある。これを韓国では見つけ出してきておるのであります。こういうようなことがありますから、竹島問題を解決せよ解決せよ、日本領だと主張しましても、――これはまだたくさんありますが、時間がないから略します。なかなか簡単に日本側というわけにはいかないのであります。決して私は韓国のために弁じておるのではない。公平に見て、こういう資料があるのだからそう簡単には片づきません、こういうことを申すのです。しかし、永久に片づかぬかといえば、交換公文は韓国側から椎名さんあてに出されておるので、これから紛争問題についてはお互い外交ルートを通じてやろうじゃないか、けっこうなことで、したがって、これらの資料をよく調べて、外交ルートで解決に向かえばよろしいのであろう。したがいまして、この問題が残ったことは残念でありますけれども、いたし方がないのではないか、私はかように考えております。ここにずいぶんいろんなことがありますから、お尋ねがあれば、幾らでも私が調べておりますものだけは申し上げることができると思います。
 先ほど千島のお話がありましたけれども、このことが解決しないで平和条約、友好条約はけしからぬというお話ですけれども、ソ連は千島についてあとで交渉するということも承知しないのである。先年社会党の鈴木委員長――たしか河野さんも御一緒ではなかったかと思いますが、フルシチョフ首相と会われたときにこの問題に触れられた。何と申しますか、鎧袖一触です。そんなことは、まあ手はどんな手をしたか知りませんけれども、社会党で御発行になりました報告書を私も一部いただいて持っておりますが、てんで木で鼻をくくったというか、問題にされない。こういような状態では、千島問題をあとに残そうといったって残らないのである。竹島はあとに残っておることは確かなのですからして、まあいたし方ない、あとでゆっくり平和に話し合いをしよう、この辺が手ごろではないか、これがつまり外交ではないか、かように考えるわけであります。
 南北の統一の問題でありますけれども、日韓条約がじゃまをするなどということが話にならぬことは、すでにこの委員会で皆さん御研究済みと思います。多くは申しません。先ほど来田村博士のお話のとおりでありますが、ただ一つつけ加えておきたいことは、私どもの考えでは、どうしてこれができないのか、北鮮側がもしほんとうの自由選挙によってこれが統一ができるということに踏み切ったならば、簡単にできるのではないのかと思います。しかるに、一九四七年十一月の百十二号決議を受けた翌年の百九十五号決議によって国連の委員会ができましても、これを入国を拒んだのは北鮮である。そしてその後も拒み続けております。この人々が一九五二年に提案したものは、南北同数の委員をもって、その委員会は全会一致で決定しよう、こういう提案をしておる。これが北鮮のまず唯一といってもいいくらいの平和提案であり、統一提案であります。一体できましょうか。南北同数の委員というのが、一千万人の北鮮と二千七、八百万人の南鮮を同数にすることがナンセンスである。その上に、今度は全会一致でいけなんて、これはできるわけがない。できないことを提案しておいて、一方の国連の提案を拒否し続けるということでは、これは統一のできるわけはないのです。日本がどんな条約をつくろうとも、そういうわけはありますまい。いわんや、この条約のほかに、すでに北鮮も韓国も双方ともにいろいろな国と条約を結んでおることは皆さん御承知のとおりであります。最近の北鮮では、もはや統一などということは考えない、南を併合することに全力をあげておるという事実を一つ申し上げておきます。これは私も相当な関心を持っておりますから、いろいろなことを申し上げますけれども、今日は武力によって南を征服するということは国際情勢上なかなかむずかしくなってきた。したがいまして、謀略により、思想攻略により南鮮を苦しめて、撹乱して、北へ併合していこうという政策に変わってきておることは明らかであります。その証拠を二、三申し上げますが、たとえば、本年四月、ジャカルタにおける金日成の演説を見ましても、わが党の任務は、全力を尽くして南鮮の革命勢力を成長させ、人民革命を支援することにある、これがジャカルタにおける金日成の演説です。本年十月、つい先月ですが、朝鮮労働党の二十周年記念大会における彼の演説を見ますと、われわれの主たる任務は、われわれの国をアジアの革命の基地とし、南鮮にまず革命を起こし、そしてそれを他に及ぼすことにある、こういうことが労働党の大会における金日成の演説であります。これらのことを考えてみましても、ほんとうに統一をはばんでおるものがだれかということは明らかで、日本との条約がこれをはばむなどということは大きな間違いではないか。中共・北鮮、ソ連・北鮮の間に結ばれております軍事同盟をごらんになったと思いますが、その冒頭には、われわれはマルクス・レーニン主義を堅持して、その原則に従って緊密に協力し、互いに全力をあげて支援すると書いてあります。そうして、軍事的な攻撃を受けた場合には、そして戦争状態になったらば、全力をあげて援助する、こう約束し合っております。さらに進んで、第六条には、統一の方法について、われわれはこの原則に従って平和的・民主的な統一を成就しよう、こう約束しております。一国が他の国と同盟を結んだときに、自分の国の統一の方法まで約束するなどということは、私はあまり学問がないせいかもしれませんが、よく存じません。けれども、こういう約束をしておる国が一方にあって、平和友好条約が統一を妨げるなどということは、これはよほどどうかしておりはしないか、かように考えるわけであります。
 では、なぜ日本は北鮮を相手にして韓国と同じようにやらないのか。これはもう説明するまでもないと思います。ごらんのとおりです。韓国は、李承晩時代にずいぶんひどいことをわが国にし向けましたけれども、今日では早く友好を結ぼうとしておりますが、北鮮のほうにおいてはごらんのとおりだ。スパイを放ち、破壊工作員を潜入させ、盛んなわが国の秩序の撹乱破壊をやっております。わが国を敵視しておる。この国に対してどうして手が出せるのでしょうか。それはそれとして、まあとにかく経済的にも何とかお互いに接近していこうという努力はいたしておるようでありますけれども、進んで政治的な話し合いができる相手ではございません。もし北鮮がこの態度を改めて、わが国に対しても、今日の日本の秩序を破壊するとか、あるいは秘密を盗むむスパイを放つとかいったようなことをやめ、たとえば都下にあります朝鮮大学というような不法なものを廃止するというような処置をとったならば、これは北鮮とも進んで友好を結んでよろしいと私は思う。そういうことはしない国に対して、どうしてわが国だけができるでしょう。これはできようがないことをやれということにほかならぬと思います。
 軍事同盟でありますが、これもむしろふしぎな話であります。東北アジア軍事同盟につながる、いろいろなことを伺います。けれども、それは要するにこの条約が軍事同盟というのではないようで、将来そうなるおそれがある、アメリカのだれはこう言った、朴正煕はこう言った、だれはこう言った、そこでそういうおそれがあるという、将来に対する仮想の問題、予定の問題でしょう。現在あるとは、この条約そのものが軍事同盟だとは、おそらくどんな反対の方もおっしゃるわけにはいかないだろうと思うのです。われわれが軍事同盟にするか、友好条約にするかということは、これからのわれわれの努力です。日本人が軍事同盟などを結ぶことに承知するかどうか。そんなことは私はないと思います。断じてないであろう。韓国の人々もそのとおりです。李承晩時代に、これは今日と時代が違っておりますけれども、李承晩自身がはっきり公衆の前で演説をしております。何と言ったか。もし国連軍に日本が参加するならば、われわれはほこをさかさまにして北鮮と結んで日本と戦うであろう、こういうことを申しております。そのくらい一部の韓国には反日気分が強いのです。とても軍事同盟などの結べる相手ではありません。
 また、もう一つ申したいことは、東北アジア軍事同盟、われわれのは仮想でありますけれども、現にある。どこにあるか。北鮮を中心にして、中共との軍事同盟、ソ連との軍事同盟、中共・ソ連の軍事同盟、明らかに日本を名ざしにした軍事同盟があるじゃありませんか。このあることを捨ておいて、これから何とかなるおそれがあるということを非難をされるというようなことはどうかしてやしないか。こういうようなことから考えまして、私はどうもこれはむずかしいと思います。もしもこの条約が軍事的に転化するようなことが起こったならば、そのときこそは社会党にとって政権獲得の絶好のチャンスじゃないでしょうか。私は、これは冗談を申すのでは、反語を申すのではありません。日本人の大多数はそんなものに反対しております。反対しておりますがゆえに、そんなことがもしあったらば、社会党にとってはチャンスである、こう申し上げたい。そのくらいこのことははっきりしておると思います。
 その他申し上げたいこともありますが、時間がないようです。そこで、最後に申し上げたいことは、このことについて韓国では非常な反対がある、それに対して、こんなものが役に立つか、友好ができるかという意見が日本でも広く行なわれておりますが、これは間違いです。韓国の状態はそんなものではありません。反日感情の主たるものは、亡国の恨み、これに対する償いの少ないということ、これです。そして、今度の条約においてもそれが十分に償われていないということに対する不満なんです。これならばわれわれとしては考えることを別にしなければならないのでありますが、しからば、この条約にはどうなんだ。先般の学生デモなんぞは、まあ問題にはされておりません。去年の学生デモは、残念ながらあれは戒厳令まで出るようになりましたが、その原因は、あれは何かといえば、あれは、金鍾泌・大平外相のメモが先方に誤解されたかどうか、そういうことが主たる原因。あの裏に金の取引があったということは韓国では全然ほんとうとして信じられ、これがあの大きなデモの原因になったのです。私はそんなことはないと信じますけれども、そういうことがあったのであります。ことしはそんなことは全然ない。裏も表もないのだ。学生が幾らあばれてみたところで、一万人かそこらの学生が少しどうかするだけで、たいしたことはありません。衛戌令が出て静まったじゃないかとおっしゃるが、韓国の衛戌令というのは、われわれの考えるものとは全然違います。多少のことは軍人だから手荒なことをしたでしょう。一つの例をあげます。ことしの春、あの衛戌令の出たすぐあとのことなんですが、ことしは韓国は数十年来の干ばつでした。そのために田植えができなかったのです。非常に困って、日本からも多くのポンプなどを輸入して、たいへんな騒動をやりましたが、さて七月の初めごろになりますと、急に大雨が降り続いて、もうポンプも要らぬ、そら田植えだ。ところが、とっさのことで手が足りない。そこで、衛戌令第十七条、あの問題の学生を弾圧したというあれです。十七条を発動して、全軍出動せよ。全軍農村に展開し、三十八度線の守備兵だけを残して、みんな田植えに行ったのです。そうして、一週間の間に田植えを済まして、またたく間に済まして、ことしは近年にない豊作をいま喜んでおる。これが韓国の衛戌令の実態なんです。ひとつお考え願いたいと思います。ただそういうことをすればすぐ軍人による弾圧だなどといって即断されるということはどうかと思います。韓国の新聞にしましてもそのとおり、反対運動をやったものはどうとかこうとか言いますが。実は賛成の決議や声明をしたもののほうが多いのです。そんなことはもう時間がないから略しますが、ここにたくさん書いてありますから、幾らでも申し上げられます。
 最後に、わが国の世論について申し上げますが、わが国において国民はどう考えておるか、これがおそらく皆さん政治家の方々としては大事な点であろうと思うのです。
 これについては、まず第一にあげたいことは、各新聞社の社説でございますが、この社説をずっと通読いたしますと、この条約の調印されました六月の二十二日ごろから後、これに対する正面切った反対論の社説というものを見たことはございません。日本国じゆうに一社もありません。代表的新聞としてはどうかと思いますけれども、まず朝日新聞六月二十三日の社説を見ますと、これで日韓の不自然が解消されたのである、これを親善に役立てることが大切である、われわれにも不満もあるにせよ、現時点に立って、あくまで反対するということは、これはよろしくない、妥結した以上は、国際信義を重んじ、協定を尊重して、親善に役立たせることがわれわれの当然の道である、これは朝日新聞の社説の要約であります。同じ二十三日の読売新聞の社説を見ますと、十四年目の解決にほっとしたというのが国民の偽らない心情であろう、不満はあるが、この古い隣国との正常化の一歩を踏み出したことを喜びたい、これは読売新聞の六月二十三日、調印翌日の社説であります。だいぶこれがいろいろ問題になりました後の社説を見ますと、たとえば、毎日新聞九月二十七日、あくまで議会政治の本領にに基づき、院外運動に主力を求めるような行き過ぎはやめるべきである、大衆運動で議会主義を否定するような空気をつくることがわれわれとしては最もおそろしい、これは毎日新聞九月二十七日の社説でございます。たくさんありますが、略します。
 こういったような世論の動きを見ておりますと、大体日本国民の大部分は、私はこの条約を支持しておると思います。その証拠を数字をもって申し上げますと、ことしになって世論調査を行ないましたのは、新聞社では読売新聞一社だけ、その他に時事通信社の傍系であります中央調査社、これはいまから六年前から毎月世論調査を行なっております。これを見てみますと、中央調査社においては、これは十月の調査であります。日韓条約批准に賛成四一に対して反対一一%であります。読売新聞を見ますと、賛成四五に対して反対が一二であります。大体双方とも似通った数字が出ておる。四対一というのが今日の大勢であります。これがまあまあ国民の大勢ではないか。
 もう一つ、ついでにつけ加えておきますけれども、この読売新聞の調査の内容に注自すべきことがあることをひとつお聞き取り願いたいのであります。何か。自民党を支持する国民は全部が賛成かというと、そうではないのであります。これはお考えを願わねばならない。賛成四一%に対し、やむを得ないという人が一四%であります。合計五五%の賛成に対し、反対だという人が六%あります。自民党支持者の国民にそれだけの反対があるのです。逆に、社会党支持者を見ますと、賛成二六、やむを得ぬという人が一四、合計ちょうど四〇%に対し、反対二〇%、すなわち社会党を支持する人もその倍が賛成の側である。反対は半分しかない。このことは社会党の方々もひとつよくお考えを願いたいと思うのであります。共産党の支持者は、さすがに反対三八%でありますけれども、それでも賛成者が八%、やむを得ないという人が一七%、合計二五%の賛成者があるのです。これもまことに奇妙な現象。民社党の支持者を調べますと、賛成四〇、やむを得ずが一五、合計五五に対して、反対一七%。この大勢を見ましても、やはり国民の大多数は、社会党支持者、党の支持者までもが、この条約はまあまあしかたがなかろと賛成して、早く日韓の親善に進めと、こういうことになるのではないか。何もこの世論調査を私は絶対の権威だと申すのではありません。けれども、大体常識で見ても、世論の大勢はこの辺ではないのか、こう考えております。
 ひとつこれらのことからお考えをよく願いたいと思いますことは、双方とも、これはお互い政府と国民の信義の問題だと思うのです。まあまあ、私も何度も申しますように、この条約に欠陥がないというのではない。社会党の方々、共産党の人々の言うことにも、なるほどとうなずける点はあることは確かにあるのです。ただ、プラス・マイナスはかりにかけた場合に、いずれであるかといえば、これはもう問題にならない、やはり今日はこれは批准承認を与うべきものである、かように私は考えます。
 少し時間が長くなりました。(拍手)

○安藤委員長 以上をもちまして各参考人の意見の開陳は終了いたしました。
    ―――――――――――――
○安藤委員長 これより質疑に入りますが、内海参考人は余儀ない所用のため、先ほど退席されましたので、御了承願います。
 質疑の申し出がありますので、これを許します。田中六助君。

○田中(六)委員 私は自由民主党の田中六助でございます。本日は両先生まことに御苦労さまでございます。私は、ただいま御三人の参考人の方々に非常に貴重なる御意見を伺いまして、ありがたく思います。これからこれらのお残りのお二人の方に私の意見も交えつつ御意見をさらに深く掘り下げてお伺いしたいと思います。
 私どもは、この日韓条約に関連する諸問題につきましては、どうしても善隣友好という大きな使命のもとに何とかりっぱに批准しなければならないという強い決意で臨んでおります。しかるに、一般の、社会党をはじめ、この条約に反対する人々のまず第一の意見といたしましては、なぜこの日韓条約を急ぐのか、内容が非常に食い違っておるのになぜ急ぐのかというような意見がございますし、私どもは、これに対しまして、先ほど御手洗先生の御意見にもありましたように、この十四年間ほんとうに血の出るような折衝を両国でやってきておりますし、この点からも、少しも早過ぎるという意見はわれわれの頭からは出てこないわけでございます。こういう点で、この条約を結びますと韓国の分裂を固定化するものである、そういうような意見から、韓国、朝鮮全体の統一という観点からも強い反対がございますが、先ほど田村先生は、現在第二次世界大戦後五十九カ国の独立国がある、そのうち旧領主と新独立国との間に親善関係ができてないのは日本と韓国だけであるということを御指摘になりましたし、また、御手洗先生は、朝鮮の統一問題についてはそうたやすくできる見通しはないという御見解を述べられておりますが、この問題につきまして、日韓条約はなぜ急ぐのかという疑問にさらに深くお答え願いたい、御説明願いたいというふうに思います。田村先生からどうぞ。――御手洗先生でも、どちらでもけっこうでございます。

○田村参考人 いま一度質問の……。

○田中(六)委員 この日韓条約を急ぐのはなぜか、南北の分裂を固定化するものであるというような意見からあるわけでございます。こういう意見に対しまして、先ほど田村先生は、九十五カ国が第二次世界大戦後独立して、親善関係のないのは日本と韓国だけであるという御見解をお述べになりましたが、われわれは一日も早くこの条約を批准し発効させねばならないという気持ちでおりますが、この点についての先生の御意見をさらにお伺いしたいと思います。

○田村参考人 なるほど領土問題が残っておりますことであります。非常な重大な問題で、私はまた領土に関しましては個人としては非常に関心を持っておる者でありまして、これは、李東元さんがもう交渉の余地はない、わしのものだと言い得ると同様に、日本もそのことは椎名外務大臣はおっしゃって一向差しつかえないのでありまして、これは紛争としてあとへ残しましたけれども、決してそれがために日本も韓国もあの領土権を捨てておる意味は少しもないのであります。向こうがおれのものだと、おっしゃれば、こちらも、おれのものだということで、この対立のまま残っておりますのですから。しかし、その他の問題は全部これで解決いたしましたので、この際それではあとのものを――現在日本の立場からいたしますれば、何といっても安全操業、漁業問題が一番の大切な問題でありますが、それと六十万の朝鮮人の地位というものを何とか明らかにしなければならない。これが一番大きな問題でありまして急を要する。この二つを含むすべての問題が、懸案はほとんど全部解決しておる。ただ一つ残ったのでありますが、それのためにほかのもりを、ほかの九割九分まで成功したものを犠牲にして、いつまでも国交の再開をやらないとすれば、それはちょうど、いつまでも朝鮮をああして、ああいう不安な状態にしておくという共産圏からの策謀に乗ぜられることになるのでありまして、この際は、領土問題だけはしばらく見送って、あとのまとまったものだけでやろう。これはいまの九年前の日ソ国交回復のときと全く同じあります。あのときも鳩山内閣というものは二者択一でありました。これによって領土の問題が解決しなければ、このままモスクワから引き揚げるか、それともそれはあと回しにして、一応戦争状態というものをやめさして国交を回復するかという、こういうのでありまして、日ソ共同宣言ができたわけでありますが、それと同じような、いま政府はそういう立場に置かれたわけでありましょう。でありますから、これを、永久化の問題をいま申し上げまして、また御手洗さんからもおっしゃったようなわけでありまして、実に十八年にわたる長い問題でありまして、これは記録は大きなものがあります。それを見ましても、向こうさまは、共産、いわゆる北のほうから統一するのでなければ、北のほうの条件で統一するにあらずんば統一ということはできないことはわかっておりますのですから、これを幾ら待っておっても、もう果てしのない問題でありますので、今回はそれを思い切られて、しばらく領土問題は見送って、この際やる、こういう決心をやる。あせったという、これも、いま申し上げました中共の声明の中にあります。日本があせってやる、佐藤内閣があせってやったのは、ベトナム問題で窮境におちいったアメリカを救うがためにやったのだと、こう書いてあります。十四年も待っておって、いまあせったということばは、だれが考えてもぴったり来ないのでありますが、そういうことに乗せられておる者もあるのでありまして、これなども、やがて口がさめてくると思います。きわめて近い期間にそういうことも目がさめてくると思う次第であります。

○御手洗参考人 なぜ急ぐかというお話でありますけれども、十四年もかかった交渉がいまごろ妥結することが急ぐことになりましょうか。第一、私はこれがおかしいと思うのであります。時間はとにかくとして、内容については、もうありとあらゆることをお互いに言い尽くして、韓国側はたびたびの政変でもって内閣の性格が変わりまして、言いたいことはあらゆる角度で言い尽くしてしまっておる。こちらも内閣がずいぶんだびたび変わりまして、言いたいことは言い尽くしておりますし、世論もそのとおりであります。したがいまして、これ以上話してみたところで、じゃ、まだ何カ月か何年かたてば歩み寄れるのかといえば、そういう見込みはもういまのところありません。とにかく現に紛争がいろいろあるんだ。一番はなはだしい問題は、日本から申せば、朝鮮海峡における安全操業の問題です。これ一つでも解決しなければどうにもならないんだ。一日も早くやるべきであり、そこでとりあえず合意したことでもって条約を締結し、そうしてお互いに大使を交換し、領事を交換して親善関係を結び、そうしたら次第によくなってくるのではないか。現にその例はソ連との関係がそうだと思います。十年前の平和宣言の当時などは、とても今日のような状態に十年でなろうとは、まあ思った人はあるかもしれませんが、多くの日本人はなかなかむずかしいと思っただろうと思うのです。それが十年間の国際情勢の変化及び両国の国情の変化、国民の感情の変化というようなことから、こうやってシベリア開発に日本が積極的に参加するようなこともできるようになり、日ソの間の文化交流も別に心配なくお互いにやれるようになった。こういうことになりますれば、おそらくこの次にくるものは千島問題を中心にした平和条約の問題にいくのじゃないか。その時期が私は近いと思うのです。ここいらが国際情勢の微妙な関係だと思うので、早過ぎるということは私はおかしいと思いますが、しかし、しいて早過ぎるとおっしゃるならば、二、三のことを私は申したい。
 なぜこの場合、だらだら急にやるのか。たいがい、ものの交渉なんというものはだらだら急というのがほんとうであります。個人の話であろうが、会社の話であろうが、どんな話だって、初めは何かわけのわからぬ抽象的な話をやっておって、次第に核心へ触れて、最後のところにいくとぱっと片づける。この辺がすべての交渉のいき方なんです。したがって、だら急というのは当然なことであろうと思うのであります。
 ただ、二、三具体的な問題を申し上げますと、第一には、韓国の経済と民生の問題であります。これはもうずいぶん前からひどかったのでありますけれども、李承晩政権時代には、アメリカは軍事援助のほかにばく大な経済援助を与えておった。したがいまして、韓国の人々も困りは困っても、まあまあ相当な生活ができた。それがあの事変以後だんだんひどくなりまして、最近は実に悲惨な状態になっております。その一番大きな原因は何かといえば、韓国に自立経済の計画ができず、それを行なうべき資本もなければ、資材も技術もないということであります。アメリカは、ずいぶん援助したと申しておりますけれども、その援助のほとんど大部分というものは、それは消費資材であります。食糧、衣料その他の消費資材であって、韓国に経済建設の必要なものを何ら与えていないのです。何ら与えていないと言ってよろしいでしょう。アメリカが、アジアばかりでなく、世界で帝国主義と非難される理由は、私は、この辺にもあると思うのです。アメリカのやり方は賢明でもなければ、私ははなはだ人類のために幸福とも思いません。こじきにものをやるように人にものをやっておいて、おれがものをやったやったといったってありがたがる者はおりません。やはり自分の力で生活ができるようなめどをつけてくれる、それがすなわちほんとうの援助じゃないのか。ベトナムにおいてもどうですか、非難されておる大きな理由は、消費物資や軍事の援助だけで、建設経済の援助をアメリカは怠っておる。これが大きな原因だと私は思う。韓国はまさにその見本です。日本も初めはそうでした。しかし、日本人の優秀さと日本の民族の底力によってそれをはねのけて、今日のわれわれの繁栄を築いておりますが、気の毒なことには韓国は元来民族資本が少ない。そして民族的に技術水準が非常に低い。そういうところへもってきて、アメリカの誤った政策が二十年も続いている。今日も同じなんです。発電所一つ建設を許さないのです。いわんや韓国の人々が一番先にほしがっている肥料工場なんか、これは電力がなければできるわけがありませんが、肥料工場なんぞ絶対建設させない。ある韓国の財閥がその建設を始めたところがストップを命じております。そういう事実がある。実にけしからぬ話で、これはアメリカを非難してよろしいと思うのです。そういうことがありますために、韓国民の社会不安が起こり、生活に対する希望を失い、だれが出たって同じじゃないか、何が政治だ、前進だ、アメリカは援助援助と言うが、何を援助してくれたのだ、変なやつにわいろをやっただけで、おれたちには何もくれたものはない。もし韓国でたとえ十万トンでも白国産の肥料ができることになれば、韓国の農民は光明を認めることができます。この状態に対して、朴正煕はあのクーデター以後この欠陥を見抜いて、新政権のできた直後に経済五カ年計画を立て、そして乏しい民族資本を根こそぎ動員して発電所をすでに五カ所つくっております。アメリカの反対を押し切ってやった。その中にはドイツの機械もあり、日本の機械もあります。そして、彼がクーデターを起こした五年前には二十五万キロの発電力しかなかったものが、今日は九十七万キロになっております。アメリカとしては、これははなはだ不愉快なんです。けれども彼は敢然としてこれをやっております。肥料工場もすでに三つできております。大体合計年産五万トンぐらいことしはできると思います。そのやっておる工場主が先般東京へ参りまして、私も一晩ゆっくりいろいろな話をいたしましたが、実に悲痛なことを言っております。なぜアメリカはわれわれをこんな目にあわせるのだ。そこで日本と早く結ぶ必要が韓国民にも朴正煕にも起こってきたのだ。それで、日韓友好条約が経済の面に特に力を入れるという理由はここにある。それは韓国側の要求なのです。それで日本の資材と技術を導入して、役務によって韓国の発電所、肥料工場、セメント工場といったようなものを開発していけば、どうやら自立経済のめどがつき得るであろう。そこで初めて韓国の人々は民族の前途に光明を認め得るようになるので、なぜ韓国の政情が不安定なのかという最大の原因は、政治に絶望してしまっておる。だれがかわったって何にもできはしないじゃないか、そのうしろにはアメリカがあるのです。そのことをわれわれは考えてあげなければいけない。これが今日の韓国の実情ですが、まあ御参考までに申し上げますけれども、失業者ですね、公称百五十万といっておりますけれども、韓国の統計では、一カ月に一日就業してもこれは失業者じゃないのです。したがいまして、ほんとうの失業者は三百五十万、まずこのくらいと見てよいでありましょう。大学の卒業生は年々二万人ありますが、そのうち就職し得る者が大体二千人程度でありましょう。ソウルの清掃人夫ですな、便所掃除の人夫、この中の十人に三人までは大学卒難生です。いかにひどい生活難に見舞われておるかということがわかるのであります。そういったようなことから、農村においては肥料、都会においてはとにかく就職先、これが韓国にいま求められておることなんです、これは一ぺんに解決はできませんよ。われわれの経験を見ても、まあ二十年やそこいらはかかりましょうが、そのことに着手できれば、民族には一つの光、光明、希望が見える。そこでまあ安定はしないまでも勇気が出てくる。これが日韓友好条約の積極的な――私はいままであまりこの委員会でもお論じになっていないと思いますけれども、ほんとうは大事な点です。韓国をよく知る一人として私はこれを訴えるのです。このことはぜひやらなければならない。この安定ができて初めて北からの侵入を防ぎ得る。先ほど私が申し上げました金日成がいかに力を入れましても、韓国の人心が安定して生活に希望が持てるようになったら、共産主義なんというものは受け付けはしません。これは日本人どころじゃないのです、韓国の共産主義に対する憎しみは。
 つい四、五日前に韓国へ帰りましたが、女流作家が二人、それから婦人の新聞記者、韓国日報の文化部長ですが、これがやってきておりまして、一日おきに私の事務所にあらわれていろいろな話をしておりました。そのときにこの人々の話を聞いておりますと、しみじみそれを感じたのです。こんなことをしておってわれわれは一体将来どうなるのですか。なぜ日本がもっと進んでわれわれのところへ来てこの建設を助けてくれないのか。アメリカは何もしてくれはしないのだ。だからわれわれは非常に腹も立つ、不満もあります。まあ作家の一人はこう言っておりましたよ。日本人のげたをはいておる姿とお宮の鳥居を見ると、かっと血が頭にくる、こう言うのですね。なんでそんなことを言う、いやちょいちょいげたでなぐられた。それから鳥居を見ると、あの前でおじぎを無理にさせられた。それですから日本人のげたと鳥居を見るとかっとなる。そのくらいにほんとうは反日感情を持っておるのですよ。けれども、いまはそんなことは言ってはおれないのだ、背に腹はかえられないんでしょうかね。そういうことが、日韓条約をなぜ急ぐか、私は急いだとは思いませんけれども、この際どうしても一日も早くやって、ほんとうの友好親善の基礎を築く、それは韓国の建設、経済にわれわれが手を貸す、こういうことだろうと思います。(拍手)

○田中(六)委員 いま両先生の御意見、非常に参考になりましたが、ただいま経済的な不安定から結局政局の不安定も韓国では来たしておるというようなことを御手洗先生は特に強調されましたが、やはりこの委員会における質問におきましても、現在の朴政権をかいらい政権である、もっとも南のほうも北のほうをかいらい政権と言っておるようでございますが、こういう点につきまして、朴政権の安定性ということがやはりこの条約にからんで大きな問題になっておるようでございますが、この点につきまして御手洗先生の御意見を伺いたいと思います。

○御手洗参考人 おっしゃるとおりに北は南をかいらいと言い、南は北をかいらいと言う。さっき私が新聞をお目にかけましたように、韓国の新聞は北傀、毎日の新聞にこういう見出しを使い、北鮮の新聞は南傀、こう言っておるのですから、これは同じことなんです。ですが、いまお話のことはなかなかむずかしいと思います。それは韓国の人々は非常に激情家であるということが一つ。右から左へ左右の振幅が非常に激しいのです。でありますから、少しよくなるとぱっとそっちへいく、ちょっと悪くなるとわっとまた反対にいく。こういうことから見まして、私が先ほど来申しております。とにかく幾らか世の中が明るくなるという希望を与えればたちまちよくなってくるのである。しかし、やはり同じことだということになれば、これはもうまただめだ、こういうことになります。
 いま韓国の新聞を見ておりますと、まあ政府非難攻撃がすこぶる多い。これは日本の新聞のまねをしておると思いますけれども、新聞というものは大体野党であり、韓国の新聞も初めから、これはずっと昔から野党で育ってきたのでそういうことはあります。しかし、どれだけの力があるかと申しますと、それはたいしたことはないのでありまして、先ほど新聞の社説のことを申しましたけれども、韓国のほうの新聞を見ましてもこれは同様であります。たとえだ東亜日報といえば、日本時代から実に手に負えない反日、反政府の新聞でありますが、この新聞も今日では――あの条約に反対しておりましたけれども、もうこれができた以上は、われわれとしては忍耐をもって、政治家は指導力を発揮し、国民は冷静にこの約を建設に役立てるようにしなければならない。これが反政府の急先鋒の新聞の社説であります。朝鮮日報というのも負けない反政府の新聞でありますが、このほうではまたはっきりと、これはもうやむを得ない、今後の最大の問題はわれわれが民族の主体性を堅持することである、こういっております。そういうようなことで、新聞ももう落ちついてきたと見てよいでありましょう。
 民間の団体を見ますと、これはずいぶんおもしろいので、どういうわけでありますか、日本の新聞には反対運動ばかりたくさん出ておりましたが、向こうの新聞を見てみますと、そんなことはないのであります。
 第一に学生でありますが、大学生は十二万七千人おります。そのうちでデモに常習的に出て行く者が一万人か一万五千人、それも高麗大学の七千人のうちの約千五百人、ソウル法律大学の七百人のうちの半分三百五十人、これが主力、その他の者は、まあそのときどきの都合で騒ぎに出て行くというだけのことで、他の学生たちとはたいした関係はありません。日本の全学連に対して韓国の新聞は、こういう学生のことを政治学生と書いております。政治科の生徒ではないのです。そういうことをやる学生のことを政治学生、国民はもういまでは全然相手にしておらぬのが実情であります。これは私が言うばかりではない。韓国に行ってこられた人はみな言う。東大の林健太郎先生のような篤実な学者までが、あのデモの最中に行って帰られて、日本の新聞を見ておると、たいへんな騒ぎと思って行ったら、どこにデモがあるかわからなかった、それはソウル大学の学術会議に行かれたのですから、一番知っておるはずなのが、そういうことを東京新聞に書いておられる状態であります。学生の運動はそれです。
 ところが、おもしろいのは、七月の十二日に六十三大学の総長、学長が全部集まって、教授たちは政治運動に中立でなければいけない、学生は教室に帰って静かに授業を受けよ、こういう決議を満場一致でやったのです。それを日本の新聞には一つもありません。これは韓国の新聞には出ております。騒ぐほうは日本の新聞には相当出ておりますが、こういうことはないのであります。三百人の教授が反対決議をしたということは日本の新聞にも出ておりますが、総長、学長の全会一致のそういう決議は日本には報道されておりません。
 軍人が十一人何か反対の声明を出したという記事はありましたが、その二、三日後になりますと、百二十人の前参謀総長、前国防長官、前外務部長官というような、これはみな予備将官です。この人々が百二十人集まって、条約批准促進すべしという決議、声明を出して、――これは各新聞に向こうでは載っております。これは日本の新聞には一行もない。たぶん皆さんだれも御存じないだろうと思うのです。そういうことなんです。
 経団連というのは、日本の経団連に当たりますが、傘下団体七十七団体、これも満場一致で賛成の決議をしております。その他全国畜産組合、全国映画会社連盟、十五映画会社全部です。それから全自動車運送業連合会といった実業諸団体が、みんな集まって全会一致で賛成の決議をして、新聞に向こうでは出ておるが、日本の新聞には出ておりません。これも申し上げておきますが、もっと大事なことがあります。それは一番問題の水産業者です。全国漁業組合連合会というのがあります。また、水産業者協同連合というのがあります。これも大会を開いておる。これは七月十五日です。それは五千人集まった。全韓国の漁業関係者のおもなものは全部です。満場一致で、この条約は積極的にすみやかに批准すべしと決議しております。御存じですか、皆さん。いかがですか。こんなことは日本には報道されていないのです。
 いかに向こうの状況が変わってきたかということはこれでわかるので、あなたは政権が安定しておるかどうかと言われますが、こうやって条約がこれだけの支持を得て、日本が批准をして、この条約が正しく運営され、韓国の経済にプラスになりましたならば、おそらくは政権は安定していくのではないか。それだけに、これが逆になったらば何とも言えません。これはいつ何事が起こるかもしれない。これは韓国のことであります。日本のように政党の分野が大体安定状態というわけにいかないのですから何とも言えない。要するに政局の安定度いかんというのは、この条約の成否いかん、そういうことにある、こう申し上げておきます。

○田中(六)委員 ただいま先生の御意見、非常に朴政権の安定度につきましてもわかりましたし、また、私がその次に実は聞かんといたしました世論の問題、つまり日本の世論は、先ほど時事通信と読売新聞が、大体大まかに見てそれぞれ四対一の割合で支持している、しかも社会党も、反対は賛成者の半分しかないということをおっしゃられましたし、韓国の世論も、この日韓条約にからむ諸問題についてどういうライトを浴びせておるかということにつきましても、十分先ほどの御説明で納得できましたが、さらに私は田村幸策先生にお尋ねしたいのでございます。
 先ほど先生は、わが国の今回の条約を含む内容の中にあります経済協力が侵略を意味するものではないということをおっしゃいましたが、当委員会におきましても、われわれの協力、この条約に含まれておる無償三億ドル、有償二億、ドル、民間供与の三億ドルを含めまして、これらがすべてむしろ侵略行為につながるものであるという見解を述べた方々もいますが、この点につきまして、私は、韓国の経済のこれらを受け入れたときの発展の度合い、つまり韓国経済の現実と、これらを受け入れた将来の度合いという観点から、先生の御意見をお聞きしたいと思います。

○田村参考人 これは脱帽いたしますが、私は全然門外漢でありましてわかりませんが、侵略ということばは、おそらくもうけがあれば大部分を日本のほうでひっさらって帰ってくるようなやり方を言うのであろうと思いますが、そういうことは相手をあまりにばかにした話でありまして、また、向こうさんをあまり劣等感にし過ぎるのであって、日本人と対決すれば、朴大統領じゃありませんが、日本人にあえばすぐ食われるというような、そんなことになるのでありまして、そうたやすくはお客は許してくれないのでありましょう。ソビエトの要求によって日本の実業家はシベリアの開発にこれから協力しようという、これをもって日本がシベリアに経済侵略をやるなんていうことはだれも考えていないのであります。それに、朝鮮に投資したり、朝鮮に協力するためのみにこれを侵略と言うのは、それは朝鮮人のほうがロシア人よりも劣っておるということを言うのでありまして、そんなことを言うのははなはだ失礼だと私は考えるものであります。

○田中(六)委員 この韓国の経済問題の実情というのは、何を申しましても、これから条約が批准され発効された後に発動するわけでございまして、非常に重大な関係でございますが、この点につきまして御手洗先生は、先ほど完全失業者が約三百五十万、私ども、潜在失業者を含めますと約六百万人の失業者がおるというふうに聞いております。われわれのこの協力が必ずや韓国経済の復興に寄与し、また日韓両国の大きな親善のいしずえになると確信しておりますが、この点に対する御手洗先生の御見解をさらにお伺いしたいと思います。

○御手洗参考人 それは日本のやり方にもよりますが、韓国の受け入れ方にもよると思います。まず韓国の側から申しますと、いままでのたびたびのおかしな事件で経験を積んでおりますから、今度は与党と野党との合同委員会をつくって、日本から受け入れる資金の使用方法について協議をする。その決定によってこれを使うということを、もうすでにきめております。したがいまして。その与党、野党の委員たちが怪しい行為をすれば別ですけれども、いままでよりはだいぶ明るくなってきたということはいえるだろうと思います。おそらくあまりたびたびいろいろなスキャンダルが起きておりますから、これからはそんなことはないのではないか。しかも三億ドルと二億ドルと三億ドル、これの使用方法についても、大体政府の大ワクの腹案はもうきめております。これを見ますと、大体私どもが予想しておるような韓国の基礎経済を建設していくための経費に充てるようになる、こういうふうに見られる。ことに水産業者が、先ほど申しましたように、全員があれほど反対したものが積極的に賛成したということは、日本からの協力によって自分たちの船とかあるいは陸上設備とかその他のことが改善される。それに非常な希望を持っておることなんです。この希望があの漁民たちを転換させ、大いに光明を与えた。この一つをもちましても、日本の協力がほんとうに役立つようになれば、日韓親善ということはもう問題なく解決するであろう、それは向こうの政権の安定にも役立つであろう、こう思います。
 日本側から申しますと、私はこれは非常に心配があると思います。今日まで無条約状態でいろいろな商社の人々やメーカーの人々がソウルや釜山に行っておられますが、どこの国でもやっておると同じことで、むちゃくちゃな競争をいたしております。そして韓国の人々、これは何といってもやはり、そう言っては悪いけれども日本人に対して劣等感を持っておるのですね。その人々に対する態度がどうもよくない。日本人がアメリカへ行って、いまのようなことをやっておるのなら刑におかしくはないかもしれませんが、ソウルが同じことをやると、非常に向こうの人のかんにさわってくる、刺激する。そういうことはひとつ慎まなければならぬだろう。それと、むちゃくちゃな無制限競争をやっていきますと、日本のためにも悪いでしょうが、経済協力が妙なことになっていきかねない。すでに日韓人の間でいろいろな協力の話を進めておることを私も具体的に承知しておりますけれども、それらがまじめにやるのならよろしいですけれども、この際一旗というようなことをやられては困る。これは政府と自民党の責任においてひとつ厳重な処置をとられる、どういうことをやられるか知りませんが、処置をとられる必要がある。これは第一点だと思います。
 第二点を申しますと、日本の大手水産業者の略奪漁業方式ですね。これはもう世界中で鼻つまみになっていることは御存じのとおりです。どこへ行ってもきらわれている。根こそぎとってしまう。朝鮮海峡だって、いままでにも日本の零細漁民がみなおこっておるのです。あの大手の人々の大きな船が来て底びきやトロールでやられると、海の底までかき上げてとってしまう。ほんとうに狭い海ですから、北太平洋のようなわけにいかないのです。これは魚が根絶やしになります。そういうことをやらないように、何かやはり政府、自民党、この責任の立場にある方々がお考えになって、大手の水産業者を、ひとつきびしい戒めをおやりになる。これをやらないと、せっかくのこの大事な眼目がめちゃくちゃになる。この二つの点が、私は日本側からいって心配であります。これらの点についてお考え願えれば非常にしあわせだと思います。

○田中(六)委員 最後に、御手洗先生も、それから田村先生も、お帰りになった内海先生も、参考意見として申されておったようでございますが、今回の日韓条約の論点の裏側にひそむものといたしまして、この条約は、NEATO、つまり東北アジア機構、そういうものがはっきり裏づけられておるのだということが、反対の大きな論点だったと思うのでございますが、先ほど両先生とも、そういう懸念はないのだということをおっしゃっておりました。しかし、私はこれが直ちに戦争につながるものとは思っておりませんが、野党――と言っては失礼ですが、そういう一部の人の意見は、戦争というものを非常に強調しながら、私に言わせると、むしろ国民に戦争の危機感をあおっておるという罪を犯しておるのではないかと思うのです。こういう点につきまして先生方の御意見をさらに突っ込んでお聞きしたいと思います。

○田村参考人 御説のとおりでありまして、日本人は、戦争と言えば、にしきの御旗であって、いまそのことばでもうすでにみんな脱帽するのでございますが、戦争なんてそんな簡単なものではありません。これはむろん、戦争というのは、日本が攻め込むという意味ではおそらくないと思います。アメリカが来るということだろうと思います。それの手先に日本が使われるということを意味するのだろうと思いますが、一番いい例は、五四年でありますから、いまから十一年前になりますが、米韓相互防衛条約というものができました。これはアメリカの上院でひどく討議されたものでございますが、そのときに、あのときは李承晩でございまして、ややもすればこっちから飛び出るのです。アメリカのコントロールを受けておりますけれども、飛び出るというおそれがありましたので、これをひどくとめるような条約の文句になっておるのであります。いまの陳毅外相のようなのもありますけれども、中国がいまアメリカと戦争なんかする力があるとは、これは世界のだれ人も考えていないと思いますが、またアメリカがいま中国へ攻めるなんというようなことも、全然アメリカの世論がそんなことは許しませんのです。それでなくても、ベトナムにあれだけの兵隊を送るだけでも、母親や父親はたいへんな文句を言っておるというような状態でございますから、そんなことはもう絶対に考えられないのであります。そうしますと、戦争になるというのは、だれとだれとが戦争するかということなんです。それよりは、中共とソ連が戦争をするのではないか、そのほうが公算が多いのであって、これはひとつ――でございますから、いまのNEATOの考え、これはたなざらしの案でありまして、決してきのうやきょうに始まった案ではありません。これは先ほど申し上げましたように、やや知能の発達した者だったらだれでも一応考えるのです。国際政治をやる若い学者などは、これをしばしば言うのではあります。いろいろなものを寄せ集めまして結論を出す。これは大体公式みたいに考える。縦のものを横にする、一緒にする、こうやったら非常にいいじゃないか。アカデミキャリーには当然考えられる方程式なんであります。けれども、そんなものは実際政治においていまできるわけのものではない。でございますから、これはやはり一場の――中共様がおっしゃるのですけれども、一場の宣伝とお聞きになって一向差しつかえないと思うのでございます。

○御手洗参考人 普通の日本人なら、戦争があるなんということを考えておる者はないと思います。そこへむやみやたらに、戦争がある戦争があると言うのは、イソップ物語の、オオカミがくるオオカミがくる、あんな話にちょっと似たような気がするのであります。そんなことは困ると思うのです。この前の平和条約にしましても、安保条約にしましても、あのときに騒いだのは、あんなことをすれば戦争になる戦争になると言ったが、ちっとも戦争になどなっておりません。ますます平和になっておるのです。だから、そういうことを言う人には、何か別な魂胆があるのではないかと疑いたくなる。むやみにそういう危機感をあおるということが、人心を不安にする原因なんですから、指導者としては考えなければいかぬと私は思います。
 ここで私はついでに一つ申し上げますけれども、これは私、少し行き過ぎるかもしれませんけれども、平素考えておることですが、この国会の初めのとき、一般質問のとき本会議で共産党の川上さんの御質問の中に、聞き捨てならぬ一句があったのです。それは、川上さんは、近く予想される戦争においてと言われました。はっきりこう言われました。私はテレビで聞いて驚いたのですが、政府のほうで、あるいはあなた方のほうでどなたかこのことばをとらえて、どういう戦争を予期しておるかと質問されるかと思いましたが、何のことはなくその後過ぎておる。私はふしぎにたえない。共産党の人々は、革命を輸出することによって、それは正義の戦争だといって、戦争を肯定しておられます。そういう戦争は、肯定されておるから、あるかもしれませんけれども、そういう戦争を肯定された……(発言する者あり)言っております。速記録をごらんなさい。近く予想される戦争と言っておる。明らかにある。もしなければ、またいつでも対決いたしましょう。近く予想される戦争と言っておられる。そういうことを聞きのがしにされるほうが、戦争の危機感をあおることになりはしないか、そういうようなことをお考えになったらいかがか。(発言する者あり)よけいなことではありません。国民の一人として本日は意見を求められておるから、そのことを申し述べておるのであります。もし御異論があるなら、いつでも対決いたします。速記録を見てください。

○田中(六)委員 両先生とも非常にありがとうございました。私どもも先生たちの御意見を参考にいたします。私どもは、現在推進しておりますこの条約が、日本の自主的外交路線から出発したものであり、わが国のナショナル・インタレストについても十分こたえ得るものであるという確信を持ちまして、これからやはりこの御意見を参考としていきたいと思います。どうもありがとうございました。

○安藤委員長 次に、田村良平君。

○田村(良)委員 私は自由民主党の田村良平でございます。たまたま今日お見えの田村先生とは同姓でございますが、別段御親戚でもないようであります。どうか、いまから何かと伺いますので、参考の御意見を承りたいと思います。
 ただいま田中委員からもお承りになりましたが、私はこの機会にぜひとも明らかにしていただきたい、またその御意見を承りたいと考えます点は、このたびの日韓の条約の審議にあたりまして、軍事同盟だ、軍事同盟のにおいがする、同盟につながるから反対だ、こういうことをしきって言われますが、日韓条約のどこを見ても軍事条約のことは書かれておりません。したがいまして、私は、こういう議論が、あるいはこういう反対論が、日韓の条約その他の協定に対する審議過程に論ぜられますことは、まことに国民にとりまして迷惑千万だと考えます。いかにも軍事同盟のにおいがあるので社会党さんがしきって反対しておるというような印象を与えるのであります。私はこの点について若干私見を交えて承りたいと思います。
 一体、日韓条約それ自体に軍事同盟のぐの字もないのに、何をもってこのような論争が行われるか。しからば、私は次のことを申し上げて参考人の御意見を承りたいと思いますが、日ソ不可侵条約が完全に成立をしておりましたにもかかわりませず、昭和二十年八月十五日敗戦直前約十日にして、ソ連は一方的にウスリーの川岸を渡ってこちらに挑戦をいたしてまいりました。このような事実。さらに、われわれは占領治下で全く裸の状態でありますときに、中ソ軍事同盟が締結をされております。これについて日本の社会党は今次の日韓問題等においては何一つ触れようといたしておりません。さらに、ただいま御説明のように、ソ連並びに中共と北鮮とは軍事同盟をこの四年前に結んでおります。こういうことについては日本の社会党さんは何にも触れられない。そうして日韓が十四年間ここまでやっとお互いの努力を傾けてようやく新しい国交正常化を開こうとするときに、いかにも軍事同盟のにおいがするなんと言うごときことは、まことに私は迷惑千万であります。したがいまして、これらについて、あるいはこれらの現実の問題は、日韓条約の審議ないし日韓条約そのものを賛成するか反対するかという論争には私は全く無用の論議だと考えます。したがいまして、私は、この点について参考人の方はどういうような御見解をお持ちか、いま一度ひとつ詳細に御見解を承りたいと思います。

○田村参考人 この中共の、先ほど申し上げました六月二十六日の声明書によりますと、日韓条約というものは、中共に対しても、アジアの国に対しても挑発であるから、これを承認しないといっておりますし、それから北朝鮮のほうの政府は、これは無効なものだ、無効なものだと書いてあります。しかし、これは理由が書いてないのでありますが、私ども非常に知りたかったのであります。どういうわけで無効ということをおっしゃるか。一方は、無効ということをいい、片一方は、不承認といっておる。不承認ということは、ある甲と乙との条約が丙の国の権利を害するような場合に、丙がおりおり不承認ということを言うことがありますが、今度の条約のどの条文を見ても、別に彼らの権利を害するとか抵触することは何もないのであります。どこにもないのであります。それでありますから、不承認ということは、一体法律上とういう――国際法上の制度でありますけれども、承認、不承認ということはどういう法的効力をこれに与えるのか、この辺はまだはっきりしておりません。
 それから、いまおっしゃいました戦争でございますね。これは、私が申し上げるよりも、この中共の声明書なるものがそのテキストブックでありまして、これはこういうことを申しておりますから、日本でもその生徒さんがこれを繰り返すんだろうと思いますが、この条約は日本と朴を侵略と戦争政策にかり立てておる、それが一つ。それから、この条約は、侵略的な軍事集団をでっち上げて、アジアで新しい侵略戦争を引き起こさせるものだ、こういうものであります。これはみなアメリカの計画だ、アメリカの陰謀だというのであります。日本と韓国はその召使だというのであります。主体性を持っていないのでありまして、今度のこの日韓のすべての条約及び協定は、アメリカの陰謀である、その陰謀の目的は、いま申し上げましたように侵略と戦争にかり立てるのである、それからまた新しい侵略戦争を引き起こさせようとする侵略的な軍事機構をつくろうというのである、こういうのであります。日本ではこれがテキストブックになって、このとおりな議論があらわれておりますので、私どもどちらがほんとうの著者であるかは知らないのであります。しかし、おそらく元祖は北京にあるのじゃないかということを疑わざるを得ないのであります。NEATOの問題は先ほど申し上げましたから申し上げませんが、そういうわけでございますから、戦争熱をあおるということは、ほかの目的があるのであって、まじめにこれを受け取るほどの価値もないのではないか、こういうふうに考えております。

○田村(良)委員 御手洗先生が御事情で早くお帰りになるというようなお話でありますから、恐縮でございますが、それでは先に一問だけ御手洗先生にお願いいたします。
 いまのことにも関連をいたしますが、私たちは終戦後いろいろと重大な政治問題に遭遇した。いつも殺し文句のように出てまいりますのが、戦争ということばであります。全面講和でなければ、単独講和は戦争につながると言われました。しかしながら、サンフランシスコの講和会議の後において私たち日本はこのように成長してきたのであります。戦争はやっておりません。
 〔発言する者あり〕

○安藤委員長 お静かに願います。

○田村(良)委員 あるいは日本の教職員に対してその勤務の状態を調査するという、いわゆる勤評、これは再軍備への一里塚だと申しました。教員の仕事のしぶりを調べてその実績を見ることが、何の戦争につながりますか。こういう愚かしいこともまことしやかに父兄の間に教員組合がこれをしきって伝えてきたのが、いわゆる勤評再軍備論であります。このたびもまた、日韓が十四年、いな、二十年、いな、日鮮三十六年、約半世紀にわたりまするお互いの努力が、あらためて友好条約を推進しようといたしますときに、またまたこの条約が戦争につながるなどと言うこと、あるいはとれは軍事同盟だと言うようなことは、ナンセンスそのものでありますが、この点につきまして、非常な博識をお持ちの御手洗先生からひとつ明快なる御見解を承っておきたいと存じます。

○御手洗参考人 先ほども申し上げたとおりでありますが、どこを見ましても、これが戦争につながるなんということを見出すことはできません。ただ一つ、こういうことが言えるのではないでしょうか。この条約が進められますれば、韓国の経済状態は画期的によくなるであろうということであります。韓国の国力が強くなる、民生が安定してくる、政治的な安定がもたらされるであろう、そうなりますと、北鮮が、先ほど私が読み上げましたような、金日成演説のような目的を持っておりますと、非常にじゃまになって、謀略だけで南鮮を併呑することができないから、軍事力を用いなければならないことになる。そうするとこの条約はやはり戦争につながる。まあ早く言えば、風が吹けばおけ屋がもうかるという話、そういう意味ならば戦争につながるかもしれませんが、それ以外には、私どもどこを見ても、これが戦争につながるなんということを見出す余地はありません。これも先ほど申し上げましたとおり、もしこれが戦争につながるというようなことの動きが出ましたならば、おそらく自民党は総選挙において惨敗するでありましょう。社会党にとっては政権のチャンスです。そういうことはあなた方はまさかお考えになっていないであろうと思うので、どこから見ましても、そういうことは私どもには考え得られません。むしろ、軍事同盟というものは、先ほど申すとおり北側にはすでに明らかにあり、しかも日本を名ざしにした軍事同盟がある。しかし、私どもは、関心はありますけれども、それだからといって、それに対抗する軍事同盟をつくろうなどという考えは持っておらぬ。もしあれば、これはえらいことになりましょう。そういうことを、お答えになるかどうか知りませんが、申し上げておきます。

○田村(良)委員 それでは、軍事同盟論につきましてはそれぞれ承りましたので、次に、よくいわれております。南北統一を阻止するものだということにつきまして承りたいと思います。
 現在聞くところ、北鮮は二十有余カ国とすでに正式の国交が開かれておる。これについては、南、韓国との統一を妨害する、北朝鮮が二十数カ国と国交を開くことはけしからぬ、こういうことは日本の国会では言われません。ただ、韓国と日本が友好条約を結ぼうとすると、どっこい、それは南北の統一を妨害するからけしからぬ、こういうような質疑が連日行なわれておりますが、私はまことにふしぎにたえませんので、この-点を、残られました山村参考人から承りたいと思います。二十数カ国と北鮮が外交関係を開いておりますが、南北の統一を妨害する、けしからぬ、北朝鮮と国交が開かれた、そういうことは南北の統一を阻害するから反対だというようなことが、一体世界のどこの国の国会で論争されておりましょうか、もしそういう国があるとすれば、参考までに承りたいと思います。

○田村参考人 統一の問題は、先ほど冒頭に申し上げましたように、十八年間、ずいぶん長い歴史を持っておりますので、統一を妨げている者がだれであるか、その罪人というものはもうはっきりわかっておりますので、(発言する者あり)むしろ両方置いておりますから……。それは北のほうから戦争をしかけるおそれがあるので置いてあるのでありまして、それだから、少なくともとにかく民族解放戦争という名で侵略をやることさえやめてくれさえすれば、小さい国とか弱い国はおのおの思うような生活ができますのに、それをそうさせてくれないのであります。
 〔発言する者あり〕

○安藤委員長 お静かに願います。

○田村参考人 そういうわけでございます。いま全世界の軍事力と政治力の八割五分はアメリカとソ連が持っております。あとの一割五分をあとの百十何カ国が持っておるわけであります。この二人さえ動かなければ、戦争なんというものは決して起こりません。大きなものになりません。小さなぼやは起こります。けれども、これは決して大きなものには、われわれが巻き込まれるようなものにはなりはしない。そういうことを私は日本国民に知ってもらいたいのであります。

○田村(良)委員 ただいまもお話にございましたが、たとえば東西ドイツ、この場合におきまして、西ドイツあるいは東ドイツがそれぞれ他国との国交を開いた場合に、このような論議といいますか、こういった論戦がはたして世界の各国で行なわれておりましょうかどうか、これもひとつ参考に承っておきたいと思います。東西ドイツの場合、たとえば西ドイツが特定の国と外交を開く、それは東西ドイツの統一を妨害するじゃないか、あるいは東ドイツが特定の国と外交を開く、その場合に、これまた東西ドイツの統一を阻止するじゃないか、こういうような――たとえば日韓条約については、南北統一を阻止する、こういうことがわが国会でしょっちゅう論議されておりますので、そういうことがはたして行なわれておるかどうかということを承りたいと思います。

○田村参考人 これが安保のときから私ども非常に残念に思うのでありますが、ヨーロッパのことでありますと、ソ連といえどもひとつも問題にしないのです。ところが、日本がやったり、東洋のものがやると、朝鮮がやったりすると、問題にするのですね。西洋のような少し文化の発達したところでは、ドイツのような場合には、だれも問題にしません。ただわれわれはばかにされている。そんなばかにされているのは何かというと、そういうばかな、侮辱を招くような態度を日本の国内でやっているのです。だからそういうことをやられる。これが私の考え方であります。

○田村(良)委員 欧州各国では全く問題にならぬ、日本の国ではしきってそういことを社会党その他が気にして問題にする、まことに愚かなことが繰り返されているということを承りまして、情けない限りでありますが、しかしながら、この日韓条約の今度の批准承認にあたります審議を通じまして、これはまたそれぞれの立場から明確になると存じますので、この程度におきたいと思いますが、一つ気になることがありますので、参考にお伺いしたいと思いますが、南北の統一を促進する、こういうふうに常識では言われましても、北鮮のほうにおいては、たとえば選挙権の問題等については、選挙権を持てない、これを憲法で明示してある、そういうことを聞いてみますと、次のようなことが憲法に規定されております。朝鮮民主主義人民共和国の憲法十二条では、裁判所の判決により選挙権を剥奪せられたる者、これはまあ当然でしょう。次に、精神病者及び親日分子は選挙権及び被選挙権を有することはできない。一国の憲法に、日本の国と仲よくする人には選挙権も被選挙権もあわせて与えない、こういうような国が一体何をもって南北統一あるいは北鮮とか韓国の統一に対して真摯な態度で民族の統一を望んでいると言えるか。私は、この憲法において、日本の国と親しい交わりをしようとするその人々に対しては、精神病者と同じように選挙権も被選挙権も剥奪しているということをお聞きして驚いたのであります。こういったことにつきまして田村参考人はどういう御見解か、ひとつこれこそ参考に承っておきたいと思います。

○田村参考人 そういう憲法を響いた者が精神病者でありましょう。

○田村(良)委員 たいへんあっさりと御答弁をいただきました。実に私自身も驚いたのでありますが、このような問題につきまして、私は、将来の全朝鮮の統一の上にも、われわれ日本自身ではこれをいかように始末することもできないといたしましても……
 〔発言する者あり〕

○安藤委員長 お静かに願います。

○田村(良)委員 それぞれの国にいろいろな重大な問題が山積いたしておりますことをまことに憂慮するものであります。
 次は、経済協力についてでありますが、ただいま三参考人からいろいろな方面からお話がございました。これとても経済侵略につながる、経済侵略をするということでありますが、大体三十八度線を乗り越えてあの三年もの朝鮮動乱で、韓国というものの産業あるいは経済は一体どのように大きな被害を受けておったか。それをりっぱに復興し、そして韓国の産業、経済、民生を建て直すために、いかに多くの努力と、いかに多くの必要な経済的その他の問題をかかえているか。このたびの日本が行なわんとするあらゆる経済協力は、私はその意味でまことに重大な内容を持っていると考えますが、この国民がこれから行なわんとする経済協力についてすら、それは日本から韓国への経済侵略だ、こういうように言われます。この点につきまして、私は、一体現在韓国は最も真剣に何が一番経済協力として必要な問題であろうかということについて、どういうような御見解なりあるいは御意見をお持ちか、参考に承りたいと思います。
 私も若干の友人を持っておりますが、その友人の話を聞いて私自身も実は非常に考えさせられたことは、朝鮮動乱三カ年のときに、われわれは韓国の自由を守るために真剣に戦ってきた。ところが、あなたのほうは、口を開けば善隣外交とは言うけれども、包帯の一本、ガーゼの一枚も送ってくれなかった。病院船の援助すらくれなかった。そしてわれわれは三年間ほんとうに懸命の努力を払って韓国の自由、祖国の自由を守ってきた。こういうことにつきましては、韓国の国民感情としては、ただいま御手洗さんの言われましたような大きな日本に対する感情を持っておると思います。そういったような韓国の国民感情を十二分に理解を持って、長く傷ついた韓国に、いまこの一衣帯水のかなたの日本が、韓国の皆さんに対する真摯な、その経済の復興と再建のための真心の協力をするのだというような感覚で、私は接していかなければならぬと考えます。にもかかわりませず、わが国会において、いかにもこれが経済侵略だというようなことで、たびたび政府に迫るような質疑応答が行なわれますことは、まことに遺憾千万であります。あの傷ついた韓国、あの多くの失業者をかかえた韓国、そして不況に悩み、どうすれば国の生命を維持できるかと真剣に立ち上がろうとして十四年、わが日本とこの折衝を重ねまして、六月二十二日に調印を終わりました。この経済協力に対して、これは侵略だなどと申すことは、日本国民としては慎むべきではないかと考えるものでありますが、この点につきまして、…村先生のほうとしては、一体、韓国の現在の経済実情から見て、少なくとも韓国が最も切実に要求する経済協力は何であるのか。今朝のソウル放送では一部発表もされておりますが、この点について何かと参考意見を承りたいと思います。

○田村参考人 先ほども申し上げましたように、私は、経済問題は全然専門外でございます。全然わかりません門外漢でございますが、経済侵略といってやかましく叫ぶのは、経済協力とか経済援助をしてくれるなという表現でございますから、それを阻止しよう、日本の経済協力とか経済援助というようなものを好まない、阻止しよう。それはなぜかといえば、日本と経済的な協力をやればそれだけ民生が安定いたします。というと比較的に北のほうがそれだけ下がるわけでありまして、南がよくなればそれと比較的に北が悪くなる、その比較をすれば悪くなる、こういうので、なるべくならば南を貧乏に引きつけておこうという、これはやはり策謀でありまして、侵略と号してなるべくこれをとめたい、こういうように私は解釈をしておるわけであります。だから、この叫びがあればあるほど、その意味は、何とかして南のほうに繁栄と安定をもたらしてくれるな、それをもたらすことは、たびたびいわれるように、北のほうの目的には反することであります。また、北のほうがそれだけ地位が低下することでありますので、これが今度の日韓条約に反対する北の側のほんとうの腹でありましょう。自分らの地位が南に比較しまして今日よりも低下いたします。それはもうきわめて明らかです。その意味でそういうことを言われるのだろうと思います。
 それから朝鮮人の気持ちでありますが、これは去年国際法学会がございまして、韓国から多数の同学の者が参りました。そのときのいろいろな話に、やはりいまおっしゃったように国防の第一線、われわれは日本の国防は三十八度で押えているのだ、だからおまえさんら少し考えてくれなければいかぬ、共同の国防じゃないかということまで言われた人がありましたが、それはまあ大きく見れば、それはひとり日本と韓国ばかりでない。世界の各所にそういう例がたくさんあるのであります。であればこそ、われわれとしても、今度、これから三国を基調にいたしまして、できる限り協力をしようというのであります。ただ、向こうの受け入れ態勢が、いま御手洗さんがおっしゃったように、向こうのほうから協力してくれるのでなければ――先般も、ワシントンポストの新聞記者がいて、彼の帰りがけに私は会ったのですが、彼が言うのには、どうも実に朝鮮人というものは相互に憎しみ合い分裂をしておって、万人が認めて、やらねばならぬと大統領が考えられても、これができないというのであります。そのとき、私はまた、いやそれは日本もそれに近いのだと言ったのでありますが、そういうような状態でございますので、今度はたしてどういうふうに日本からの受け入れ態勢をつくるかということは、これは私は全然門外でありますが、そういうことのないことを切に大統領の手腕にまっておるわけであります。

○田村(良)委員 困っておる人が真剣に立ち上ろうとするときに、十四年間の折衝を経ましてここに経済協力の一応の妥結点を見た。それすら侵略だと称して、これを非難し、あるいは反対するということは、いまお話しのように、できるだけ韓国を貧乏にしておいて困らせてやろうというたくらみ以外の何ものでもない。私は、お隣りの国の人が何とかそうした困難かり、あるいはそうした苦しみから、貧乏から立ち上がろうとすることに対して、日本の国ができる限りの誠意ある協力をする、その一つのあらわれとして経済協力がなされるということについては、大きくこの問題を真剣に取り上げて、また、大きく国民の世論としても御理解を願わなければならぬ、このように考えたので、参考のために御意見を承ったのでありますが、ただいままことに明快な御意見を承りまじたので、この点を終わりたいと思います。
 次に、韓国自体の世論について、これは三先生から承りたかったのでありますが、お二人とも帰られましたが、ただいま水産団体や商工団体やあるいは大学の教授陣のお話や幾多の問題が出されましたが、ほとんどすべてが、日韓条約がかくなった以上、すみやかにその妥結を望み、また、すみやかにこれの実施を望んでおる。あるいは学生諸君は政治運動をやめて学園に帰れ、あるいは大学の教授は政治運動をやめてその学問の中正を守れ、こういうような各大学の教授の御意見等があるというようなことを、実はただいま承るのが初めてのようなことでありまして、こうしたことはどういう理由か、いま御手洗さんもお話しになったように、わが国の報道を通じてはほとんど出ておりません。われわれは、こういったことについて、きょう参考人の皆さん方からいろいろな貴重な御意見を承ったわけであります。この国会のきょうのこうした参考人の御意見、質疑を通じまして、私は、国民の皆さんにも、韓国におきまする各界の状態が、今日日本の国会で言われております経済の侵略だとか、軍事同盟につながるものだとか、いろいろな問題とは関係なしに、むしろ韓国自体はすみやかにこれの円満な成立を望んでおられるということについての御意見を承って、大きく意を強くした次第でありますが、さてそれに引きかえまして、私は国内の動向について田村先生の御所見を承っておきたいと思います。
 連日の新聞報道では、いわゆる日韓の条約批准を阻止するためにあらゆる院外の実力動員態勢を整える、何日は何万出て来い、何日は何万出て来い、何日を山場として国会周辺に圧力をかけろとか、いろいろなことが出ておりますが、公務員は国家、国民生活への奉仕者であります。したがって、公務員がその職場を放棄し、あるいは教職員がその授業を放棄して、全国から東京に集まる。公務員が公職を放棄して政治運動に参加をし、あるいは民主政治の中核でありますこの議会の審議が、万が一院外の勢力、議会外の勢力によって妨害を受けるということになれば、これは明らかに民主政治の否定であります。こういうことに協調するような問題がもし起こるとするならば、私はゆゆしい問題ではないかと考えます。この点について私は、この議場の中でわれわれは正々として審議をし、そうしてやがて時間の尽きるところ、これを採決によって決すべきであろうと存じますが、このような条約あるいは法律案、重大な国政の審議に対するこういったいわゆる院外の実力動員と称する動きに対しまして、はたして田村参考人におかれましてはどういうような御見解をお持ちか、私はまことに悲しむべき状態であろうと存じます。また、こういうことが、日韓条約の推進に大きく悪影響を受けるということは、まことに私は遺憾に思います。このような動きに対する参考人の御意見を承っておきたいと思います。
 〔発言する者あり〕

○安藤委員長 お静かに願います。

○田村参考人 さきのほうの韓国の世論のことにちょっと関連いたしますが、これはたいへん大事なことで、ベトナム問題をめぐりまして、アメリカの中の情報が日本に、いまの韓国の情報と同じでありまして、ほとんど伝わっていないのであります。アメリカでは、なるほど学校の先生なんかも反対の動きがあります。学校の先生といっても、先生にいろいろ種類がありまして、獣医学者だとかシェークスピアの研究者というのがあっても、そんなのは何人集めても大体普通の路傍の人と同じで、学者といっても、それが特別に権威があるわけでも何でもないわけであります。それと同様でありまして、それですらも、日本では非常に間違って報告されておる。これと同じようなことでありまして、そういうこともひとつ私は御参考に……。
 それから、私は政治学者ではありませんが、一体、院内の勝敗の数はきまっておるわけです。
 〔発言する者あり〕

○安藤委員長 お静かに願います。

○田村参考人 これは、選挙の終わった瞬間に院内での勝負はきまっておるわけです。ただ、どれだけこの審議を自由に、遺憾なきまでに尽くすかというだけでありまして、それ以外には何もないだろうと思います。もう院内における勝敗の数は選挙が終わった瞬間にきまっております。それだからやむを得ずこれを街頭にあって――ただ、私どもがこれに対して非常に印象を持っておりますのは、あれだけの人間を繰り出すときにどれだけの金が要るかということだけです、私の頭は。といいますのは、安保のときに、私は中央大学に奉職しておりましたが、このときに、これは御参考に申し上げておきたいのですが、五十人乗りくらいのバスを持ってきまして、学校の前に二台くらいおきまして、そうしてマイクのついた大きなメガホンを持って、ひとつこれから行ってくれというんです。そうして、諸君は決して前線に出さぬから、うしろに置いておくから行ってくれ、それでステップに足をかけますと、そのマネージャーが金を渡すんです。これはその前に明治大学というのがありまして、その明治大学の先生も同じような印象を持っておりました。ですが、これは千円札なんですね。そうして、後にその学生が検挙されました。それで、検事局で彼らが言うところによりますと、四百円と言っておるのです。弁当代二百五十円、日当百五十円、合わせて四百円、どの学生も全部検事の調書を見ますと四百円となっておる。しかし、われわれが目撃したのは千円札です。それは明治大学の先生もそうであります。そうして、この間も何か原子力潜水艦でもって横須賀へ――学校の教員に対して廊下のところで、これから東京駅に十一時に集まってくれ、これは教員組合から来るわけです。教員組合というのは月に百円くらいしか出さないのでありますが、横須賀までの往復、それから日当が出ます。それの費用というものは、一体教員組合から出るわけがないのです。そんな金はだれかが出さなければならない。それで教員が――生徒は別であります。生徒はまた別の筋で行っておりますが、教員がそうやって行く。こういうようなことで、この金は一体どこから出るかという問題であります。今度の日韓問題でも、おそらく大体見当がついておるのです。これは外から相当な援助があるのだということは何人も考えざるを得ないのであります。相当の金であると思います。それが一番の大きな問題であると私は思います。これは安いものでありまして、五億や十億の金で日韓条約の破棄ができるのだったら非常に安いもので、あるいは五十億でも五百億でも安いものでありまして、これは、私は、国民といたしましても、今日の参考人といたしましても、一番憂慮にたえないところでございます。(拍手)

○田村(良)委員 途中からお二人の参考人も所用のために退場されました。最後まで田村参考人にはお残りいただきまして、まことにふつつかな私の質問ないし要望に対しまして、いろいろと御意見の御開陣をいただきまして、まことにありがとうございます。日韓条約の承認、審議、重大な問題でありますけれども、反対という大きな声はしょっちゅう耳に聞こえますが、賛成ないしこれを御理解いただくという声はなかなかわれわれの耳には到達しにくい場面もあります。本日はわざわざ三名の御参考人においでをいただきまして、この日韓条約に対します最も問題ないし焦点となっておりました南北の統一やあるいは軍事同盟云々、ないしは経済侵略等の問題について、まことに明快な参考人の御意見を承りましたことは、本日の参考人より聴取するこの審議といたしましては、私はまことに有意義だったと、三人の参考人にあらためてお礼を申し上げまして、私の質疑を終わらせていただきたいのであります。(拍手)

○安藤委員長 以上をもちまして参考人に対する質疑は終了いたします。

 参考人各位には、本委員会の審査に資するため、きわめて長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。この際、委員長より厚くお礼を申し上げます。
 本日はこの程度にとどめ、次会は公報をもってお知らせすることとし、これにて散会いたします。
 午後四時二十七分散会

 第050回国会 衆議院日本国と大韓民国との間の条約及び協定等に関する特別委員会 第10号 昭和四十年十一月五日(金曜日)午前十時四十八分開議

【発言順】
 委員長      安藤 覺
 委員       石橋 政嗣
 外務事務官
(条約局長)      藤崎 萬里
 内閣総理大臣     佐藤 榮作
外務大臣      椎名 悦三郎
法務大臣      石井 光次郎
法務事務官
(入国管理局長)   八木 正男
 検事(民事局長)   新谷 正夫
内閣法制局長官    高辻 正巳
委員         横山 利秋
委員       楢崎 弥之助
農林大臣     坂田 英一
水産庁長官      丹羽 雅次郎
 外務事務官
(アジア局長)    後宮 虎郎
郵政大臣      郡 祐一
委員         岡田 春夫
日本電信電話公社総裁 米沢 滋
 委員         森本 靖
委員長代理      長谷川 四郎
委員         戸叶 里子

○安藤委員長 これより会議を開きます。
日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結について承認を求めるの件、日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定の実施に伴う同協定第一条1の漁業に関する水域の設定に関する法律案、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案、日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法案、右各件を一括して議題といたします。質疑を行ないます。石橋政嗣君。

○石橋委員 前回三点ばかりについて質問をいたしたあと、不当な中断を受けたわけでございますが、引き続いていろいろとお尋ねをいたしたいと思います。
問題は、まず無効となる条約、協定、議定書といったようなものが何件あるか、そのおもなものとともにお答えを願いたいわけです。

○椎名国務大臣 この前申し上げたのは、併合条約、それから併合以前の諸条約でそれぞれの規定に従って目的を達成して効力を失ったもの、こう述べたのでありますが、その具体的な条約の名前をあげろというお話でございますから、これは政府当局からお答えいたします。(「待て待て」と呼び、その他発言する者あり)政府委員から申し上げます。

○藤崎政府委員 一九四八年八月十五日に失効するのは、併合条約一件だけでございます。それ以前の、併合以前の条約は、それぞれ併合の際に失効してしまっておるわけでございます。

○石橋委員 私たちの理解では、そういうふうには思えないわけです。かりにそういう理屈があるかもしれませんけれども、少なくとも無効となるのは一件だけだというようなことはないと思います。その以前の分も全部含めて、それでは何件あるか、お答えを願いたい。

○藤崎政府委員 日韓併合の際に失効いたしましたのは五十二件、この独立のときに失効いたしましたのは、併合条約一件のみでございます。

○石橋委員 この問題は、ほかの点に関連をいたします意味においてお尋ねをしたわけですから、非常にあいまいでございますけれども、質問を次に移したいのでございますが、総理にお尋ねしたいのですが、いまの代表的な一九四八年八月十五日に効力を失うと指摘されております併合に関する条約、これは対等の立場で自主的に締結されたものであるというふうにお考えになっておられるかどうか、この点についてお答えを願います。

○佐藤内閣総理大臣 対等の立場で、また自由意思でこの条約が締結された、かように思っております。

○石橋委員 そこに問題があるのです。総理は、今回のこの審議を通じまして、盛んに隣国との友好関係の確立、善隣友好ということを説かれております。しかし、いまお尋ねをいたしましたこの併合条約が対等の立場で自主的に結ばれておるというような意識の中から、真の善隣友好などというものは私は確立できないと思うのです。いつから条約が無効になるのかというようなことは、非常に事務的なもののような印象を受けます。しかし、韓国側があれほど非常にきびしく、最初からなかったものだという主張をするその裏にある国民感情というものを理解できないで、どうして善隣友好を説くことができるかと私は言いたいのです。あなたはいま対等の立場で結ばれた条約だとおっしゃいましたが、当時のいきさつがいろいろなものに出てきておりますから、私、その中で、特に伊藤博文特派大使が当時の韓国の皇帝と会いましたときの会談を日本の天皇陛下に報告するという形で残しておりますものをちょっと読んでみたいと思います。これは外務省編さんの日本外交文書第三十八巻に載っておるものです。最初のほうは省略いたします、文書でお配りいたしますから。
 以上のごとく陛下の哀訴的情実談はほとんど幾回となく繰り返され、底止するところを知らず。大使はついにそのあまりに冗長にわたることを避け次のように言っております。
 大使 本案は帝国政府が種々考慮を重ねもはや寸毫も変通の余地なき確定案にして……今日の要は、ただ陛下の御決心いかんに存す。これを御承諾あるとも、またあるいはお拒みあるともごかってたりといえども、もしお拒み相ならんか、帝国政府はすでに決心するところあり。その結果は那辺に達すべきか。けだし貴国の地位はこの条約を締結するより以上の困難なる境遇に座し、一そう不利益なる結果を覚悟せられざるべからず。
 陛下 朕といえどもあにその理を知らざらんや。しかりといえども事重大に属す。朕いまみずからこれを裁決することを得ず。朕が政府臣僚に諮詢し、また一般人民の意向をも察する要あり。
 大使 一般人民の意向を察する云々のごさたに至っては奇怪千万と存ず。……人民の意向云々とあるは、これ人民を扇動し、日本の提案に反抗を試みんとのおぼしめしと推せらる。これ容易ならざる責任を陛下みずからとらせらるるに至らんことをおそる。何となれば貴国の人民の幼稚なる、もとより外交のことに暗く、世界の大勢を知る道理なし。はたしてしからば、ただこれをしていたずらに日本に反対せしめんとするにすぎず。昨今儒生のやからを扇動して秘密に反対運動をなさしめつつありとのことは、つとにわが軍隊の探知したるところなり。
これはほんの一部分であります。全文ここに持っておりますけれども……。
 こういうような態度で韓国の皇帝に迫って、そうして締結した条約、そういう条約を、対等の立場で自主的に結んだんだというような意識では、これはどうしたって善隣友好などというものを確立することはできないということを言いたいのです。
 聞くところによりますと、昨日自民党の方が呼ばれた参考人の方は、今度の日韓会談を、こういうたとえで評したそうであります。すなわち、押し売りの暴力団が玄関先にすわり込んだ、そのときに対処する方法は三つしかない、一つは、一一〇番に電話をするか、警官に引き渡す、もう一つは、こちらも暴力を用いて力でやっつける、第三は、金一封を包んでお引き取り願う、この三つしかない、今度の日韓会談の妥結は、第三の金一封の道を選んだんだ、これで李ラインのほうはお引き取り願ったけれども、竹島はいまだに居残っておる、こういう表現を用いたということを私聞きました。このような考え方を持っておる賛成論、韓国のほうで聞いたら何と思いますか。私は、自民党の中からこのような考え方に対して一言たしなめることばがあってしかるべきだと思います。それもないということは、いまあなたの意識の中に、併合条約が対等であり、自主的に結ばれたものであるというような、そういうものと一脈通ずるものがあるのです。私は非常に危険だと思います。もう一度御再考をお願いいたしたいと思います。

○佐藤内閣総理大臣 ただいま石橋君は御意見を交えてお尋ねでございますが、私は、ただいま、善隣友好の関係を樹立したい、これは前向きでものごとを解決したい、こういう気持ちでございます。ただいまの、過去を十分これも検討する、そのことが必要なことだ、これを私も全然必要でないとは申しませんけれども、この過去をせんさくすることも、あまり過ぎますと、これから樹立していこうという将来に、私は、必ずしもあっさりした気持ちになかなかなりにくい、こういう点を十分考えていただきたいと、かように思います。

○石橋委員 先ほども申し上げましたように、このいつから無効になるかといったような問題が争われておる。向こうは、なかったものと盛んに主張する。そのことばの裏には、いま私がるる申し上げたような心情がひそんでおるのです。これを理解することなくして、形だけ、いわば支配階級だけが御都合主義で握手をしても、善隣友好などというものは絶対に確立できないということを申し上げたいわけなんです。少なくとも、日本の国民と韓国の国民、全朝鮮の国民とが仲よくするということが、これがほんとうの善隣友好だと思うのです。そういう思想で今度の会談は進められておらないし、条約もそういうふうになっていないと私たちは思う。そのほんの一つの例として、いま私は明示したわけであります。しかし、このことは、これから先の質問の中でまた順次お尋ねをしたいと思うわけです。
 そこで、質問に入るわけでございますが、その前に外務大臣に確認をしておきたいことがございます。
 それは、新聞の報道によりますと、李外務部長官が十日ごろ、グエン・カオ・キ南ベトナム首相が十一日ごろ日本を訪問するということでございますが、事実でございますか。

○椎名国務大臣 李外務部長官は、公務のために渡米する途次、飛行機の都合で日本に一時立ち寄るということになっております。それから、南ベトナムのカオ・キ首相は、所用のために韓国を訪れるその途次に日本に立ち寄る、こういうことになっております。

○石橋委員 グエン・カオ・キ南ベトナム首相の訪日については、後刻お尋ねをしたいと思います。
 私がここでちょっと総理にお尋ねしておきたいと思いますことは、実は、十日に韓国の李外務部長官が日本に来る、それまでにぜひこの条約諸案件を衆議院で通過させるのだ、参議院においていわゆる自然成立を期するためにも、この李外相の訪日までに間に合わせるためにも、きょうあすじゅうにでもどうしても委員会を採決し、そして来週早々本会議を通す、こういうような意向を持っておるということを自民党の有力な人が言ったといううわさがございますが、総裁はそういうことを報告を受けておるか、あるいは指示をなさったことがあるか、このことだけ確認しておきたいと思います。

○佐藤内閣総理大臣 ただいまのお尋ねは、特に総裁というような名ざしでございましたが、私はかような点の相談も受けておりません。また、さような点についての指示もいたしておりません。誤解のないようにお願いしておきます。

○石橋委員 それでは、質問に入ります。
 前回お尋ねいたしました点とつながりを持つわけでございますが、政府は、日本が韓国を承認したのは平和条約発効の日だと、こう申しました。この点について私は承服しておらないわけであります。しかし、一応政府のその見解の立場に立ってお尋ねをしてみたいと思うわけですが、そうしますと、昭和二十年八月十五日の日本降伏以前から日本に在住いたしておりました朝鮮人は、いつまで日本の国籍を持っておったことになるわけですか。法務大臣にお尋ねいたします。

○石井国務大臣 二十七年の平和条約発効のころに失ったと思っております。

○石橋委員 非常に重要な問題でございますから、ころになんということをおっしゃらずに、私が指摘いたしました在日朝鮮人の方はいつまで日本の国籍を持っておったか、明確に年月日をひとつお示し願いたいと思います。

○石井国務大臣 平和条約発効の日が三十七年の四月二十八日でございますから、その日から日本の国籍を失ったわけでございます。

○石橋委員 韓国の独立した日は一九四八年八月十五日、韓国を承認した日は一九五二年四月二十八日、しかもこの一九五二年四月二十八日の平和条約発効の日まで日本の国籍を持っておったということになりますと、あなた方のいわゆる韓国というのは国籍だという立場をとりますならば、この間は二重国籍ということになりますが、お認めになりますか。

○石井国務大臣 日本から見ますれば日本の国籍だけでございます。

○石橋委員 法務大臣、あなたはこの間ここで答弁されたことをよもやお忘れになっておられないと思います。従来、朝鮮と登録証に書いてある分も韓国と書いてある分も、これは単なる符号であり、用語であるという見解をとってきたが、この誤りに気がついて、韓国という部分については昭和二十六年から国籍とみなすとおっしゃったじゃありませんか。そうすると、二十六年から二十七年の間は韓国の国籍と日本の国籍と両方あなたはお認めになっておることになるじゃありませんか。

○石井国務大臣 政府委員でお答えいたさせます。

○八木政府委員 法律上日本から見ますれば日本人でございますが、事実上韓国の国籍があったとすれば、二重国籍になります。

○石橋委員 これは、本会議におきまして総理大臣の答弁と石井法務大臣の答弁との食い違いが出てまいりまして、わがほうの横山委員から指摘があって、統一見解として出されたものです。石井法務大臣が政府を代表して統一見解を述べられたのだ。それから発する疑義を私はただしているのです。政府が責任を持って統一見解を出しておるのに、いまさら、事務当局に聞かなければわからぬ、そんな無責任なことがございますか。やはりこれは総理か法務大臣から責任を持ってお答え願っておきたいと思います。

○石井国務大臣 ただいま私が答えましたように、当時から日本国籍であったわけでございます。それから、いまから振り返ってみますると、客観的に見ますると三つのものがあったように見えるということでようございます。

○石橋委員 これは私は日本政府が見た場合と韓国から見た場合の違いを言っておるのじゃありませんよ。登録証に書いてある韓国というのは、日本側が、あなたのほうが国籍とみなすとおっしゃっておるのですよ。そして、いま今度お尋ねしたら、一九五二年の平和条約の発効の日までは日本の国籍もあったと言う。これも日本政府の見解。日本の政府の見解が二つに分かれているじゃありませんか。韓国の言い分と日本の政府の言い分とが違うならば、これはまだ問題を争うところがありますけれども、あなた方の言っておることが矛盾しておるじゃありませんか。

○石井国務大臣 それは分かれておりません。いま詳しく政府委員から説明します。

○石橋委員 分かれていないというからには、法務大臣自身がひとつ責任ある回答をしていただきたいと思います。

○新谷政府委員 お答えいたします。
 平和条約の発効までは、朝鮮人は日本の国籍を持っておったわけでございます。(発言する者あり)ただ、いま過去を振り返って考えてみますと、すでに韓国の独立ということがございますし、韓国側におきましてはそれを韓国人と扱っておったという事実はわれわれとしては理解できるという趣旨で法務大臣はお答えになったわけでございます。

○石橋委員 ただいま政府委員が何か不規則発言しておりましたが、聞き取れませんでした。その発言の上に立ってでもけっこうでございますから、法務大臣が明確に政府を代表して統一見解の続きでやってください。

○石井国務大臣 ただいまお答えしたとおりでございます。日本側は日本側として認め、韓国側は韓国側として認めたものを、そういう状態をわれわれはいま認めておるということを申し上げたのでございます。

○石橋委員 日本が韓国の独立を承認し、韓国というものを承認したのは平和条約発効の日だ、それまでは日本の国籍を持っておった、はっきりこれは間違いないのですね。これが第一点。それじゃ確認します。間違いないのですね。それから、この間の統一見解によりますと、従来韓国と書いてあろうと朝鮮と書いてあろうと、登録証に書かれておるものは単なる用語であり符号であったにすぎなかったが、今度は政府の統一見解としてこれは韓国の国籍とみなすと、こうこの間答弁されたことも、統一見解を示されたことも間違いないのですね。そうしますと、日本政府は二十六年から二十七年の間二つの国籍を認めたものが出てくる。筋が通らぬじゃないですか。おかしいと思われませんか。ここまで議論すれば総理も納得いくと思います。政府の統一見解ですから、それでは政府からお答え願います。

○佐藤内閣総理大臣 ただいまの国籍についてのいろいろの解釈のしかた、どうも石橋君と私どもの考え方と食い違っておるようですが、この点は法制局長官から説明をいたさせます。

○石橋委員 法律的なことはいまからお聞きしますよ。この間政府の統一見解として法務大臣から明示されましたことについての矛盾を私は聞いておるのです。法律的なことは、私はいまから法務省の局長に聞きます。従来の答弁も全部引用してお伺いします。どうしてもこれ以上総理大臣も法務大臣も答えられないというなら、私事務当局に質問します、あなたでなくて担当者に。あなたは責任外だよ。出番じゃないよ。

○佐藤内閣総理大臣 ただいま申しましたように、法制局長官から説明させますから、お聞き取りをいただきます。

○石橋委員 私はもう一ぺん外務省の事務当局に聞きますよ、条約局長に。
 〔発言する者あり〕

○高辻政府委員 私から一応お答え申し上げます。
 今回のいわゆる統一見解の要旨について若干誤解があるといけませんので、その要旨を繰り返して申し上げます。
 この統一見解の要旨は、将来大韓民国に書きかえられるものは言うまでもありませんが、そればかりでなく、過去において韓国または大韓民国に書きかえられた記載につきましても、それが大韓民国の国籍を示すものと考えざるを得ないので、いわゆる書きかえ問題については、今後将来このような見地に立って処理していこうというのがその趣旨でございます。このような見地をとったからといいましても、そのものが所属国の間で持つその国籍そのものの効果に、別にその将来の取り扱いをきめたそのことによって消長を及ぼすものではございませんし、また、このような見地に立って事を処理することにするからと申しまして、過去における事務的取り扱いを当然に左右するものでもございませんし、また、このことによって過去における事務的取り扱いがさかのぼって変更されることになるものでもございません。こういう意味で、実は、この統一見解の内容には、御指摘のありますようなこれが遡及するというような関係を生じない。いままで表示されておりましたものの取り扱いを将来どういうふうにするか、その取り扱いをどうするかということについての考え方、認識をどういう認識でもってやっていくかということでございまして、その者が過去における国籍がどうであったかということは、それぞれの実質的な関係においてきまるものでございます。つまり、統一見解の要旨によってこれがさかのぼってどうこうなるというものではもともとないのでございます。

○石橋委員 私は、この国籍問題というものも、もう少し真剣に考えてやってもらいたいと思う。在日朝鮮人の諸君が大きな関心を持っておるということをまず念頭に置いていただきたいのです。あまりにも事務的に、これはつじつまを合わせさえすればいいというような考え方を捨ててください。
 そこで、それでは法務省の事務当局にお尋ねします。
 国籍法のような国際公法については、未承認国のものを受け付けるわけにはいかぬ、認めるわけにはいかぬ、この見解には変化はないでしょうね。

○新谷政府委員 従来、法務省としましては、いまお話しのような見解に立って国籍事務の取り扱いをいたしております。国家を承認しておらないのでございますから、したがって、そういうものの国籍というものも私どもとしては考えるわけにはいかない、こういう見地に立って従来やってまいっております。

○石橋委員 その点からだけでもおかしいじゃないですか。私はこれは国際通念だと思いますよ。法律のイロハだと思う。私のようなしろうとでもわかる。国際公法たる国籍法は、未承認国のものを認めるわけにはいかぬ、いまも再確認いたしました。日本が韓国を承認したのは、先ほどから御返事がございましたように、昭和二十七年四月二十八日、それ以前は、韓国は独立し、現にその国があったにいたしましても、日本との関係においては未承認国です。その未承認国の戸籍の国内法に基づいて代表部がどのような証明をしようと、国際法からいって、それをもって国籍と認めることはできないじゃありませんか。どうなんです。

○新谷政府委員 確かに、国家を承認いたしますれば、その時点からその国家が承認国との関係におきまして存立することになりますし、また、その国を構成しておる国民というものも考えられるわけでございます。従来、事務の面で取り扱っておりましたのも、そういう国籍があるという取り扱いではございません。先ほど法務大臣、法制局長官がお答えになりましたように、過去を振り返っていま考えれば、韓国というものの独立があって、在外国民登録証制度というものが実施されてきておる。そういたしますと、私どものほうで認める認めないという問題とは別に、そういう客観的な事実があったではないかということがいま理解されるわけでございます。そこで、これから先の問題としては、韓国と書いてあるものについては、実質の国籍に合致するのであるから、これを国籍と見て、これからの措置はそういう扱いにしていこうというだけでございまして、過去にさかのぼっていままでの扱いを全部国籍と認めてやるという趣旨では毛頭ございません。

○石橋委員 少なくともあなたは法務省の民事局長、政府の中におきますいわば法律の番人です。そういう立場におる人がへ理屈を言ったのじゃ、韓国側と交渉したときに太刀打ちできないんですよ。この法的地位の交渉の祭に韓国側から矛盾をつかれておるじゃありませんか。そのときに日本の役人はぺしゃんこになったということを国会で言っていますよ。侮辱した発言をしておりますよ。もう少し権威を持って対外的な折衝もやっていただきたい。国籍法というものは承認国のものでなければ認めるわけにいかぬ。未承認国でもいいというならば、それでは、在日朝鮮人の中で、おれは国籍の欄に朝鮮民主主義人民共和国と書いてくれ、こういう要求をしてきたらどうします。受け付けますか。受け付けられないじゃないですか。未承認国だから受け付けられないでしょう。どうです。

○新谷政府委員 朝鮮人が朝鮮民主主義人民共和国の国民であるからそのように書きかえてくれと言ってまいりましても、これは受け付けるわけにはまいりません。その理由は、それが国籍であるからとか、国籍でないからという理由ではございません。繰り返して申し上げてきましたように、従来の取り扱いは、単なるこれは用語として、一つの記号のような観念で朝鮮ということを書いてきたわけでございます。外国人登録法上その記号ということを書くということも実はないわけでございますけれども、朝鮮人の特殊な地位に基づきまして、国籍を書くわけにいかなかった時代に登録制度というものが実施されたわけでございます。そこで、国籍を書くかわりに朝鮮という用語を用いて、一応日本に在住しておる特殊な地位にある朝鮮人であるということを示す意味において、そういう用語を用いたわけでございます。したがって、その用語をいかようにするかということは日本政府がきめるべきことでございまして、朝鮮人に、その用語をいかように変えてくれ、朝鮮民主主義人民共和国と変えてくれというふうな権利があるわけじゃございません。もっぱら日本の行政措置として、朝鮮という符号を用いて、国籍ではない、そういう特殊な朝鮮人であるということを示したものでございます。

○石橋委員 まともに私の質問に答えていただきたいのです。法律的にいま議論をやっているんです。あなたとやっているのは法律論でやっているんです。あなた方が、平和条約発効時までは在日朝鮮人は日本の国籍を持っておった、こういうことを言うから、従来の政府統一見解と食い違ってきた。これははっきりしております。そこで、もう一つ、従来の外人登録証に韓国と書いてあるのは国籍として取り扱う、こういうことをまた言っておる。そうしますと、二十六年から二十七年までの間は日本は韓国を承認しておりません。未承認国です。そのときに韓国の在日代表部が証明したものを持ってきたのだから、しかも本人の意思も加わっているのだから、だから国籍とみなすと、こうおっしゃる。そうすると、未承認国の間でも、それだけの手続をしさえすれば国籍としてみなせるというならば、本人の意思があり、何らかの方法によって北の側の国の証明書を持ってくれば認めざるを得ないじゃないですか。つじつまが合わないと言っているんですよ。
 この点に関連して関連質問があるそうですから、ちょっと譲ります。

○安藤委員長 関連質問の申し出がありますので、この際これを許します。横山利秋君。

○横山委員 きわめて簡単に一点だけ整理を政府側にしてもらいたいと思うのです。
 石橋委員からも出ましたが、私の質問に対して政府は二通りの答弁をしている。その一つは、石井法務大臣によって代表される、二十六年のときから、こういう答弁である。もう一つは、いまも民事局長並びに先般の八木入管局長から答弁された、二十七年平和条約のときからという答弁である。この二つは、明らかに政府内部において答弁が食い違っておる。ここをいつからなんだというはっきりした統一答弁をいただきたい。

○新谷政府委員 平和条約が発効いたしますまでは、朝鮮人は日本の国籍をもっておったわけでございます。平和条約が発効いたしました昭和二十七年の四月二十八日に日本の国籍を失った、こういうことになります。これは日本の国籍についての変動でございます。一方、いま考えますと、韓国の独立というものはそれ以前にあったわけでございます。その韓国の独立に伴って朝鮮人が韓国の国籍を取得するかどうかということは、これは韓国の国内法の問題でございまして、日本政府がこれをとやかく言う筋ではございません。しかし、いま韓国を承認し、れっきとした国家として日本政府がおつき合いをするという段階になっておるのでございますから、この際考えますならば、過去においてそのような事実があったということをわれわれは理解して、その理解の上に立ってこれからの外国人登録事務を処理するのが適当である、これが統一見解の趣旨でございます。

○横山委員 もう一点だけ。あなたの意図はわかったが、私の言っている統一見解がどこにさかのぼるかということについての答弁がなかった。統一見解で国籍がいつにさかのぼるかという点について政府の二通りの答弁がある、こういう意味だ。

○新谷政府委員 統一見解につきまして、国籍がさかのぼるということは申しておりません。いま申し上げるように、過去の事実は事実としてすなおにわれわれは理解しなければならないという前提に立ちまして、これから先の外国人登録事務の取り扱い上、韓国と書いてあるものは国籍をあらわしておるものと見て処理していくべきである、こういうことを申しておるのでありまして、過去にさかのぼって外国人登録上韓国と書いてあるものを国籍と認めるという趣旨ではございません。

○横山委員 私関連ですから、大臣に誠意のある答弁だけを伺って終わりたいと思うのでありますが、石井法務大臣は「二十六年でございますか、そのころ初めて日本で、韓国というものを朝鮮というところに入れて、それから韓国というものの登録をしたところにさかのぼると私は思っております。」、つまり、二十六年に国籍見解がさかのぼるとあなた自身が言っているから、私はだめを押している。

○石井国務大臣 私の言うたのは一つも民事局長の言うたのと違わないのであります。私の申したのは、韓国の国籍がその時分から韓国側にあるということを申しただけでございます。

○横山委員 関連質問ですし、石橋君の非常にたくさんの質問がありますから、私これで終わりたいと思うのでありますが、法務大臣のおっしゃっていることがよくわからないのであります。私のずっとどこまでさかのぼってあれは国籍であったというつもりか、どこまでさかのぼるか、これはいつからだという質問に対して、あなたは、二十六年までさかのぼる、つまり二十六年から、韓国独立のところから国籍だとわれわれはみなす、こういう答弁であった。ところが、入管局長や民事局長の答弁は、平和条約発効のときにはっきりすべきであった、しなかったことについては責任を感ずるけれども、しかし、あれが相手国を承認したときであるから、したがって、そのときからなすべきであったと思うから、そこへさかのぼる、こう言っておる。この二つの食い違いはきわめて明瞭ですよ。したがって、あなたが何かごろ合わせのようにおっしゃるということは、私は遺憾だと思う。もう一ぺん過去は過去としてはっきりお答えになることが大臣の責任上必要だと私は思う。

○石井国務大臣 それをよくごらんくださるとわかると思うのでありますが、はっきりその年号が、立ち上がったときわからなかった。そのころだと申し上げましたが、それは韓国籍に朝鮮籍から移り始めたころにさかのぼるのでありまするから、実際申しますると、それは二十六年ではなしに、二十五年から始まっておるのでございます。その点は、私のほうが――二十六年はもう一つ前にさかのぼります。それは別問題です。それは誤っておりますから。そこで、それは韓国側の人たちはどういうものであるかという韓国の国籍の問題で、それはその時分から韓国の国籍は韓国の国籍であるという心持ちを言うたのでございまして、それを私どものほうがどう扱うとかこう扱うとかいう問題は別問題のことでございます。

○安藤委員長 関連質問の申し出がありますので、これを許します。楢崎弥之助君。

○楢崎委員 農林大臣にお伺いをいたします。
 いまの問題に関連いたしまして、請求権問題の中で、合意議事録で、2の(h)の中で、「大韓民国による日本漁船のだ捕から生じたすべての請求権」を放棄しておるわけですが、ここにいう大韓民国による拿捕というその時期を明示してもらいます。(「関連がない」と呼ぶ者あり)いまの大韓民国の成立と関係があります。

○坂田国務大臣 拿捕の時期でございますか。

○楢崎委員 私がお伺いをいたしておりますのは、ここに大韓民国による日本漁船の拿捕に対する請求権のことが触れてあるのです。この大韓民国による拿捕、それが始まったのはいつからかと言っているのです。つまり、「大韓民国による」と書いてありますから、いつからの拿捕かと言っておるのです。「大韓民国」とここに書いてあります。大韓民国の拿捕がいつからかということを聞いておる。

○坂田国務大臣 それは李ラインの問題からです。それから始まっておるわけであります。

○楢崎委員 そうすると、李ラインが設定されたのは一九五二年一月十八日ですが、
そうですか。それ以降の拿捕漁船に関して請求権を放棄したわけですか。

○坂田国務大臣 水産庁長官から答弁いたさせます。

○丹羽政府委員 韓国の独立宣言の二十三年以来を対象に考えております。

○楢崎委員 聞こえませんでした。もう一ぺん。

○丹羽政府委員 韓国ができましてからの、二十三年からを考えております。(「何月何日だ」と呼ぶ者あり)韓国の独立の日は別といたしまして、二十三年の独立からを対象にいたしております。

○楢崎委員 明確ではありません。一九四八年何月何日からですか。はっきり言ってください。

○丹羽政府委員 独立宣言を八月十五日と理解いたしております。

○楢崎委員 関連ですから、これだけでやめます。いずれ私は漁業協定のときにこの問題は質問いたしますけれども、確認をいたしますが、それでは、一九四八年八月十五日以降の請求権をこれで放棄したと、あなたはいま答弁をされました。拿捕漁船は一九四七年から起こっております。その問題は留保をいたしておきます。

○石橋委員 いろいろと質疑応答を重ねたわけでございますけれども、この問題に関する限り、日本政府側の理論は全く首尾一貫してないのです。その点をみごとにまた韓国につかれておるのですね。先ほどもちょっと申しましたから、韓国の国会におきます議事録をちょっと一部分だけ読んでみたいと思います。これは向こうの法務局長が言っておるのです。「それは自己矛盾であり、明白な理論的矛盾です。これを指摘しました。事実、日本代表の二人は一言も言えず、ただ黙って答えなかったが、そのような態度では、専門委員の言うことは、事実はいま李代表が指摘した点に自分たちの理論的欠陥があることを自認します。」とまでに言っておるのです。この虚をつかれて、結局永住権がだんだん広がっていったと、その成果のほどを得々と述べていますよ。全く日本の交渉団の理論的矛盾がつかれて、その間隙に乗じて永住権をどんどん獲得できるものをふやしていった、こういうような説明を向こうでしておるのです。真偽のほどは別です。しかし、いままでのやりとりを聞いておりますと、こんな大きなことを向こうに言われてもしようがないんじゃなかろうかという疑問を私たちとしては持たざるを得ないのです。これは少なくとも日本の利益というものにも十分なつながりをある意味においては持っておる問題なんです。こういうふらふらした態度で外交交渉は私はできないと思います。もちろんただそれだけではないようです。聞くところによりますと、せっかく事務段階で合意に達しても、どこか妙なところから圧力がかかって、あれはもう少し何とかしてやれという話があったというようなことも伝わっております。また、事実、表に出ている部分としては、イニシアルまで終わったものをさらに拡大している。こういうあまり例もないようなことまでやっておる。これも知っております。とにかく、情けないといわざるを得ないのです。これが一国を代表して対外折衝をする日本代表の態度か、理論か、こういわざるを得ないのです。私はこのことを申し上げたいためにるる申し上げたのでございますが、そのほかに、さしあたって在日朝鮮人の中にこれで利害関係を生じてくる者が出てくるわけです。たとえば、これを単なる用語であると従来一貫して日本政府が言ってきたそのことばを信じてほうっておいた、いまになったら身動きもできなくなったというような人たちはどうなりますか。気の毒だとは思いませんか。とにかく実害をこうむっておることは間違いありません。この間横山君がいろいろと具体的な例をあげて、実害を与えている、こういうようなことを申しましたら、これに対して自民党の委員がインチキ質問だというふうな誹謗をいたしました。私も速記を調べてみましたが、何がインチキ質問かと言いたいのです。横山君は断定はしておりません。「この事案については却下されておると思われる。」こう言っております。こういうふうに思われるというものまで、断定したかのごとくかってにとって、こういう席で誹謗をし、議員を侮辱するというようなことは、私は許されないと思います。
 しかし、そのことはさておいて、もう一つだけこの法的地位の問題についてお尋ねをしておきますが、ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く外務省関係諸命令の措置に関する法律というのがございます。これは御承知だと思います。この第二条六項は、このいまわれわれが審議しております条約が発効した後も残るのでございますか。そして韓国籍を取得せざる在日朝鮮人には引き続き適用されるものでございますか。この点だけ法務大臣に確認しておきたいと思います。

○石井国務大臣 法律第百二十六号はこのまま残していくつもりでございまして、これによりまして、この今度の協定によりまして法的地位を持つことのできない、またそれによりまして永住権を獲得することのできない人たちで日本にずっとおる韓国人あるいはその他の朝鮮人という人たちをいままでどおりに扱っていこうというつもりでございます。

○石橋委員 もう一つお尋ねいたします。永住権を持つことのできた韓国人に養子縁組みをして養子になったという場合が出てくると思います。その場合は、その養子は永住権を持ちますか。

○新谷政府委員 永住権を取得しました韓国人の養子が永住の申請をいたしました場合でございますが、この場合には永住資格はございません。はっきり協定にも書いてございますが、直系卑属あるいは子として出生した者とございますので、出生の時点においてそういう血縁関係がある者という趣旨でございます。もちろんこれは申請者がそういう場合のことでございますが、過去にさかのぼりましてその父あるいは祖父が養子であったという場合は、これは全部含めてよろしい、このように考えております。

○石橋委員 どうも首尾一貫しませんね。それじゃ、あなた方、従来お答えしておられるのを聞いておりますと、先ほどもちょっと一部引用しましたが、国籍に関する部分、こういった戸籍法のようなものは、これは国際公法だ、この部分については承認国のものしか扱わぬ、しかし、国際私法に属するものについては、これは未承認国のものも扱う、こういうこと言っておられましたですね。そうすると、少なくとも国籍問題などよりは非常にやわらかなはずです。親子の問題とか、婚姻の問題とか、そういうものを、国際法の通念があるにもかかわらず、今度に限っては非常にきびしくしたというわけですか。

○新谷政府委員 この永住権を与えます者の範囲は、韓国国民の直系卑属あるいは子ということでございます。したがいまして、直系卑属なり子を考えます場合には、韓国民法上の子であるか、直系卑属であるかということを考えればよろしいわけでございまして、これは国際私法の問題とは全く関係ございません。

○石橋委員 少なくとも、まず最初にそれでは確認しておきたいのは、この国籍を確認する場合に、韓国の国籍というものが基礎になるわけでしょう。この点は間違いないですね。そうすると、この養子縁組みというのも韓国の国内法の問題ですね。したがって、日本に出てくるときは、養子縁組みのことまでがそのままなまで出てくるわけではないわけでしょう。向こうの国籍の中に一々そんな詳しいことまで書かれてくるわけですか。

○新谷政府委員 この養子であるかどうかということは、これはむろん韓国の国内法の問題でございます。特に国籍法の問題ではございませんで、韓国の民法の問題でございます。過去のものが養子であったという場合に、それがどういうふうな形であらわれるかということは、韓国の戸籍の上に載っているかどうかということによってきまると思います。

○石橋委員 これも争いのあるところでございますから、私もこれ以上申し上げません。時間をとるばかりですから。質問を次に移します。
 次は、今回提出されました諸条約、協定、おもなものは基本関係条約、それから請求権に関する協定、漁業協定というようなものになるわけですが、こういう一連の条約、協定に適用範囲というものがないのですね。これはまことにふかしぎだと思うのです。なぜ適用範囲を明示しなかったのか、外務大臣。

○椎名国務大臣 基本条約に韓国の有効な管轄範囲というのが明記されておりますので、それ以上書く必要はないと、こういうことであります。

○石橋委員 あなた、おかしいですね。管轄権の明示と適用の範囲とは違うとこの間答えているじゃありませんか。同じですか。

○椎名国務大臣 基本条約の第三条が適用範囲をきめたものではない、ただ、しかし、有効な管轄権の及ぶ範囲というのが、そのまま国連の決議を引用しておるということによってはっきりすると、こういうわけであります。

○石橋委員 これから私が議論を展開していくのに非常にポイントですから、念を押します。あなたは、十月十六日参議院の本会議におきまして、杉原荒太議員がこの問題について質問をしたのに対して、この第三条というのは基本関係条約の適用範囲を定めたものではない、韓国政府の基本的性格を明らかにしたにすぎない、こう答えております。いまの答弁と食い違っているじゃありませんか。

○椎名国務大臣 そのとおりであります。韓国の国家的性格を定めたものである。
○石橋委員 それじゃ、さっき適用範囲を聞いたら、第三条に書いてある、明示してあると言ったじゃありませんか。どっちかはっきりしてくださいよ。取り消すなり何なり。

○椎名国務大臣 その引用した百九十五号の決議をよく読んでみると、その中に有効な管轄範囲というのが定まっておりますが、それらを含めて、韓国の国柄、性格がこのようなものであるということを、三条がこれを認めて確認しておるにすぎないのであります。

○石橋委員 それじゃ、適用範囲はどこですか。

○椎名国務大臣 有効な管轄、支配を及ぼしているのは、結局今日においては休戦ライン以南であります。それで、これに関する一連の協約の内容について、結局この基本的な三条の条約がこれに適用されるということになると思います。

○石橋委員 これは聞いている人みんなわからないですよ。条約、協定の適用範囲はどこですか。最初は、第三条に明示しております。第三条に明示しておる管轄権が適用範囲だというふうにおっしゃった。それならばこの間の参議院の本会議における答弁と違うじゃないですかと言ったら、今度はそれを取り消した。さらに、それじゃ適用範囲はどこだと聞いたら、またもとに戻ってくる。第三条の管轄権、これは韓国の性格を規定したものだということは、もうわかりました。それと同時に、条約、協定の適用範囲にもなるのでございますか。イエスかノーかで答えてください。

○椎名国務大臣 ほかのこの諸協定の管轄範囲が問題になる場合には、この三条に引用した百九十五号の内容によってその範囲がきまる、こういうのであります。

○石橋委員 そうしますと、参議院におきます杉原質問に対する椎名外務大臣の答弁は誤りである。ここにおいて訂正をしていただきたいと思います。

○椎名国務大臣 基本関係において適用範囲をきめる必要はない、これに引用された百九十五号の内容が、他の諸協定の場合にどの範囲に適用されるかという場合には、これがものをいう、こういうわけでありまして、基本条約そのものは、適用範囲をきめる必要がないから、これをきめたものじゃない、こういうことを言っておるのです。

○石橋委員 基本条約においては適用範囲の必要がないという説をいま初めてお聞きしたわけですが、なぜ必要がないのですか。

○椎名国務大臣 基本関係の条約は、そういう性質のものじゃない。でありますから、三条に引用した百九十五号というものの内容から韓国がどういう範囲に有効な管轄権を持っておるかということが出てくるわけでありますが、三条そのものは適用範囲をきめたわけじゃない、基本条約はそういう性格のものじゃない、そういうことを申し上げておるのです。

○石橋委員 適用範囲のない条約なんというのを私は寡聞にしてあまり知らないのです。苦心のほどはわかります。この第三条の解釈というものが日本と韓国においてまるで違うという実情下において、そういわざるを得ないような立場はわかりますけれども、必要がないというのは、これは理屈になりませんですよ。やはりこの第二条そのものが適用範囲ですよ。そう考えざるを得ないです。これからの日本と韓国とのいろいろな取りきめをするという基本になるのじゃないですか。国交回復の基本になるのじゃないですか。それなのに、一体条約、協定が適用される範囲というものはどこかわからぬ、そんなばかなことはしろうとにだっておかしいとわかりますよ。それをあなたがおっしゃるならば、私は具体的な例をあげながら今後ひとつお尋ねをしてみたいと思うのです。
 漁業協定第一条第一項、これは農林大臣にお尋ねします。「両締約国は、それぞれの締約国が自国の沿岸の基線から測定して十二海里までの水域を自国が漁業に関して排他的管轄権を行使する水域(以下「漁業に関する水域」という。)として設定する権利を有することを相互に認める。」、こうあります。この場合、それでは韓国のいう自国の沿岸というその自国は、範囲はどこですか。

○坂田国務大臣 協定第一条には、いまお述べになったように、「両締約国は、それぞれの締約国が自国の沿岸の基線から測定して十二海里までの水域を自国の漁業に関して排他的管轄権を行使する水域として設定する権利を有することを相互に認める。」と規定してありまするが、ここにいう自国の沿岸とは、かかる漁業水域を設定して有効に管轄権を及ぼし得るような沿岸でなければならないわけでありまするので、その国が管轄権を及ぼしている沿岸に限られるべきものであると考えられるわけでございます。

○石橋委員 いまのところ、想定問答集にそのまま書いてあったから何とか答えましたけれども、農林大臣、よく聞いておってくださいよ。自国の沿岸ですから、日本は日本の領域に専管水域を設けるのです。韓国は韓国で自国と称するところに専管水域を設けます。日本が干渉できますか。韓国のほうでは体戦ライン以北にも専管水域があると言明しております。ちょっと紹介しましょうか。これは八月十四日の韓国の国会の本会議におきまして車農林部長官が言っておるのです。「休戦ライン以北にも専管水域があるかという質問でありますが、休戦ライン以北にも専管水域があります。専管水域は漁業協定第一条を見れば、締約国のどの国も自分の国から基線――基線には二つの種類がありますが、通常基線と直線基線、この基線で測定して十二マイルまで自国の沿岸から離れた水域を自国の専管水域とする権利が認められています。」間違いありません。「したがって、休戦ライン以北にもわが国の憲法でここがわが国の領土であると規定されています。そのような意味合いで、そこがわが国の領土である以上は、その領土からはかって十二マイルの専管水域があるのであります。」こう答えております。韓国の憲法は第三条において、「大韓民国の領土は、韓半島及びその附属島嶼とする。」こういうふうに明示している。これを日本のほうから、それはおかしいよと言えますか、相手の憲法のことに対して。それはだめだよと言えますか、農林大臣。あなた、言うつもりですか。

○坂田国務大臣 この協定第一条によりまして、そういうことが両国の合憲の上にこの協定ができ上がったのであります。しこうして、この漁業水域というのは、排他的管轄権を有する、その力を持っておる沿岸でないとその意味にはならないのでありまするがゆえに、管轄権を持たないそういう沿岸について漁業水域を定めるというような合意はいたしておらないのでありますから、それは、この以北の点においてのなにはあり得ない、こう考えます。

○石橋委員 それじゃ、あらためてお伺いします。
 通常基線に基づいて専管水域をつくると向こうが言った場合には、日本政府の合意が要りますか。

○坂田国務大臣 それは要りません。

○石橋委員 だから、初めて今度直線基線方式というものを日本は譲歩して韓国に認めました。この部分については日本の合意が要りますから、休戦ラインから北に設けようといったって、チェックできます。しかし、向こうは韓国の憲法をたてにとって、日本の政府が合意しないならば、われわれはこれは通常基線方式で専管水域を設けます、こうきたとき、どうしますか。

○丹羽政府委員 お答えいたします。
 専管水域とは、申すまでもなく、司法、立法、行政の管轄権を行使する権能でございますので、その権能のない地域に引きましても実効がないわけでございます。私どもは、韓国がそれを引いたといたしましても、それは意味のない線と、かように考える次第であります。

○石橋委員 そんな相手の国の憲法のことをとやかく言いなさんなと私は言っているのですよ。韓国は、自分の国の憲法で、全朝鮮半島は韓国の管轄権だと言っている。いいですか。だから、どうでもこうでも、意地でも専管水域を休戦ラインから北にもつくるのだと主張しているのです。そんなことを言ったってできっこないよというならば話は別ですよ。ところが、直線基線方式をとるならば、日本政府が承認しなければ、合意しなければできませんけれども、日本政府がどうしても承認しないならば、休戦ラインから北だけはしようがないから通常基線方式でこれは専管水域を設けるわ、こう出てきたらどうします。
 私は、これは外務大臣が適用範囲をぼやかすから言うのですよ。適用範囲のないような協定は意味がないのです。基本条約の三条でどっちにでも解釈のつくようなことをしてごまかしたつもりかもしれぬが、一つ一つの協定の内容を見ていけば、ごまかしがきかぬところが出てくるのですよ。そうでしょう。私はいま韓国側の主張を紹介しているわけです。絶対に休戦ラインから北にも専管水域をつくる、しかも、それはこの漁業協定第一条で「自国の沿岸」とちゃんと書いてあるのだから、おれのところの、自国の沿岸だと思っているのだから、おれはつくる権利がある、日本政府にごちゃごちゃ言わさぬ。対抗できないじゃないですか、明確にしておかなければ。百九十五号(III)なんか持ち出したってごまかしきかぬじゃありませんか。いかがです。

○坂田国務大臣 石橋さんともいうべき方がこれだけ言うてもおわかりにならぬというのはなんでございますが、いわゆる漁業水域は、おわかりであろうと思うので繰り返して言う必要もないと思いますが、これは、漁業水域というのは、御存じのとおりに、国際慣行でできておるものでもなければ、それを確認したというものではないので、今度両国がこういうことにしようということで、それに基づいてできた協定でありまするので、しこうして、それはいわゆる排他的専管権を持っていなければならぬ沿岸においてこそ有効なのでありますから、それはいかに韓国がそういうことを声明されましても、それは意味を持たない、こういうふうに考えるのです。石橋さんもそれはよく御存じのはずだと思っております。

○石橋委員 それでお答えができたと思っておられると、今度第二条にも関係が出てくるのですよ。いいですか。第二条では、「両締約国は、次の各線により囲まれる水域(領海及び大韓民国の漁業に関する水域を除く。)を共同規制水域として設定する。」とあります。そうしますと、この領海というものは何海里かということが問題になってまいります。あなたに直接お尋ねする場合には、そのことよりも、もう条約なしに、国際法の通念として排他的に漁業権を確保できる範囲というのは、一体それじゃ何海里までですか。

○坂田国務大臣 お答えしますが、領海は三海里であります。

○石橋委員 そうしますと、特別に両国の間においてとりきめのない限りは、三海里から外ならばこれは公海ですね。自由に行って魚がとれますね。

○坂田国務大臣 この協定がもしないと仮定すれば、領海三海里ということでいくわけであります。この協定が十二海里ということになりましたので、この十二海里はやはり排他的専管権を持っておりますから、その中へは入ってかってにやるわけにはいかない、こういうことであろうと思います。

○石橋委員 領海三海里ということを、あなたは外務大臣にかわってお答えになりました。だいぶ自信がおありでございます。そうしますと、ここで問題が出てきませんか。韓国は休戦ラインから北にも専管水域をつくるという。それを日本はチェックする方法はない。なぜならば、直線基線方式をとらないで通常基線方式でくる。いいですか。しかも、そのうち、協定があろうとなかろうと日本がいける部分がある、領海外は。そうですね。その点間違いありませんね。一つ一つ確認いたします。

○丹羽政府委員 お答えいたしますが、共同規制水域の外側の線は、先般地図でお示しいたしましたとおり、朝鮮半島周辺の全域に及んでおります。したがいまして、韓国、大韓民国の支配権の及ばない地域におきましては、その他のオーソリティーに属する領海とその外側の線との間が日韓両国の共同規制水域、かように相なるわけであります。

○石橋委員 私はそんなことを聞いているのではない。農林大臣にもわかるように聞いているつもりです。少なくとも、この第一条によれば、韓国が休戦ラインから北に専管水域を設けることを日本はチェックできないのですよ。基本条約の第三条の解釈が違うのですから。しかも、韓国には憲法があるのですから。自国の沿岸に専管水域を設けるということを日本政府も認めているのですから、対抗できません。かってにつくるかもしれぬ。つくると言っている。つくる方法は通常基線方式しかないのです。十二海里というものをつくって、これは韓国の専管水域だとがんばります。しかも、その休戦ラインから北の部分については、三海里から十二海里の間は、日本の解釈でいえば公海です。韓国の解釈でいえば韓国の専管水域です。この問題はどこでどう解決するのですか。最初からわかっている問題じゃありませんか。適用範囲が明確でなければこんな問題が出てくるということを申し上げたいのです。農林大臣、どうしてつくらせるのをやめさせますか、あなたは。

○坂田国務大臣 これは、同じことを繰り返すようで恐縮でありますが、それはできない。もしそういうことを強調するようなことがあれば、これはやはり紛争解決でいくよりほかないと思う。しかし、私は、必ずそういうことは韓国もやらないと確信しております。なぜかと申しますと、まだ発効しない現在においても、李ラインの拿捕のような問題にしても、調印後一つもそういうことが行なわれていないということを見ましても、大体それがわかるじゃないかと思う。

○石橋委員 確信の問題じゃないですよ。いままで政府は事あるごとに何と言っておりますか。当事者がどんなかってな解釈をしようとも、一たび条約、法律というものが生まれたら客観的に解釈は定まってくるのだ、こう言っているじゃないですか。この条文を読めば、どう読んでみても「自国の沿岸」としか書いてない。韓国の自国の沿岸といえば、向こうさんは、韓国憲法にちゃんと第三条で規定しているから、全朝鮮半島だ、だからつくる。しかも、先ほど御紹介申し上げたように国会で言明している。そこで、専管水域をもしっくる。そうしますと、日本は認めぬ。認めぬから入っていく。休戦ラインから北の三海里のところまでは、規制は受けておりますけれども入っていけます、制限内において。最初から紛争が起きることはわかっているじゃないですか。なぜそれを最初から解決しておかないのですか。どうです。それじゃ、そこには必ず入っていけますか、外務大臣。操業できますか。

○椎名国務大臣 そういう非常識なことは日本の漁船もやるまいと思います。でありますから、それを前提においてお答えするということはどうも適当でないと私は思います。さっきも申し上げたように、基本条約においては、おまえの領土はここからここまでである、おれの領土はここからここまでであるというようなことを書く必要がない。でありますから、第三条は、相手も、あるいはわがほうについても、領土の範囲をきめるというような趣旨のものじゃないということをさっきからお話をしておるのであります。ただ、あれは、今度できた韓国というものがこういう性格の政権であるということをいっておるのでありますが、しかし、これは、それぞれの具体的な協定ですな、関係協定において管轄の範囲がはっきりきまらなければならぬものがあります。いまの請求権の問題であるとか、漁業の問題であるとか、そういう場合のよりどころということになる。ただしかし、基本条約そのものは、おまえの領土はここからここまでというようなことは書いてないのでありまして、それを規定する目的の条文ではないということは、さっきから申し上げておるとおりであります。

○石橋委員 そうしますと、私この問いただいたこの地図に基づいて農林省にお尋ねします。外務大臣は、そんな非常識なことをすることは考えられないと言いました。しかし、先ほども言ったように、韓国の国会で車農林部長官が、つくると、専管水域があると言っておる。しかも、それを日本側が認めておるかのごとき疑いを持たれる地図じゃないですか。いいですか。この専管水域をちゃんと示しております。ところが、三十八度線、休戦ラインまでいかぬところで何と書いてあるかというと、「以北は低潮線より十二浬」と書いてありますですね。これはあなたのほうで出したんですよ。しかも説明の文書がついております。これにも、「大韓民国の漁業に関する水域の範囲をかりに図示したものであって、」と、ここでもちょいと逃げております。「かりに」と。いいですか。それから(4)には、やはり「以北に低潮線より十二浬」こういうふうに書いてあります。ここで韓国が言っておる主張を表向き認めたような体裁をとっておるといわれても、これ、しようがないじゃないですか。いかがです。

○丹羽政府委員 お答えいたしますが、備考にも御説明いたしておりますとおり、韓国が引きますところの専管水域は、韓国の権能でございまして、異議を申し立てない、権利を有することを相互に認めるという協定でございますので、どのように引くかは、この協定成立後の韓国政府の引き方でございます。したがいまして、地図で線を入れましたのは、わが国において想定をいたしました専管水域の線であるという御趣旨のことを念のため入れたのでございます。(4)に、「以北は低潮線より十二浬」ということばが不十分でございましたので、「大韓民国の沿岸については、これより北になおその低潮線から測定して十二浬までの水域を、漁業に関する水域として設定しうる意味である。」という意味は、大韓民国の管轄権の及ぶ範囲までという趣旨でございます。

○石橋委員 裏づけておるじゃないですか。「設定しうる意味である。」と書いてあります。「大韓民国の沿岸については、これより北になおその低潮線から測定して十二浬までの水域を、漁業に関する水域」すなわち専管水域「として設定しうる意味である。」と認めておるじゃありませんか。以北はどこまでいくんです。

○丹羽政府委員 お答えいたします。
 朝鮮半島の沿岸と書かないで、大韓民国の沿岸についてはここまできておると書いてあります。

○石橋委員 だから、その大韓民国のほうは、憲法三条で、自国は全朝鮮半島だ、こういっておるのですよ。そこに逃げ道をつくってやっておるじゃないですか。だから、休戦ラインまでだと明示しておれば問題ないのですよ。条約あるいは協定の中に適用範囲が明確になっておれば問題ないですよ。争いのあるところだから、向こうの主張が通る可能性がある。しかも、日本の農林省は、それを向こうで説明ができるようにちゃんと調子を合わせてやっておる。韓国の範囲というものに対して日本が制肘を加えることができますか、向こうの憲法を向こうで主張してくるのに。
 それじゃ、これは外務大臣にお伺いしましょう。あなたが非常識なことはするまいということでは片づかないんです、条文についてお尋ねしておるのですから。少なくとも「自国の沿岸」と書いてある以上、この自国とは大韓民国憲法で定められた範囲だと向こうが主張してきたときに、対抗できるだけのものがなくちゃならぬ。にもかかわらず、あなたは適用範囲はないと言う。これじゃ勝負にならぬと、こう申し上げているのです。向こうは形だけでもつくるかもしれませんよ。

○椎名国務大臣 基本条約第三条は、あくまで韓国の政権の性格を規定したものであって、しかし、その内容の一部をなすところの現に有効な支配と管轄権を及ぼしておる朝鮮半島の一部というのは、結局、今日においては休戦ライン以南ということにならざるを得ないのでありまして、第三条の目的は、もともと大韓民国の領土の広さを規定しようという趣旨のものではない。でありますから、ただ韓国の政権の性格を規定したものである。しかし、その内容である管轄権がどこまで及ぶかということは、関係の諸協約の管轄がどの範囲まで及ぶかという場合の、それは一つの基礎になっておる。そういうことは先ほどから申し上げてありますから、どうぞ誤解のないようにお願いいたします。

○石橋委員 とにかく、条文をこうやって一つ一つ見ていきますとすきがあるんです。争いがあるように見えますけれども、実際は韓国側の主張が相当通っているのではなかろうか。今後この条約協定が生きてきた場合に、条約の解釈上日本として非常に不利になるのではなかろうかと思われる部分があるわけなんです、現にこれ一つとってみても。向こうが自国の沿岸というのは、自分の国の憲法に定められた範囲における沿岸をさすんだから、休戦ライン以北にも専管水域がある。直線基線方式をどうしても日本がうんと言わないから通常基線方式でもつくる。これに対して対抗する手段を持たない。
 しかし、との疑問だけ呈して、問題は別の角度から一つだけお答えを願っておきますが、しからば、休戦ラインから以北につきましては、領海三マイル以遠の部分については、規制の範囲内において日本の漁船は安全に操業できるという保証を、総理大臣、外務大臣、なさいますか。

○椎名国務大臣 法律論としては、領海三海里以遠、外側は、これは専管水域というものを認めないのでありますから、そこまで行けるわけであります。行けるわけでありますけれども、実際危険であるかどうかということは、法律論だけではきまらない問題であ

○石橋委員 今度はもう私は条約を離れたのですよ、水かけ論をやらないために。日本の国民の問題ですよ。いいですか、少なくとも休戦ラインから以北にも規制水域は公海上に設定されております。専管水域の問題については争いがあるでしょう。あなた方の立場から言うならば、三マイル以遠、これは公海だから規制の範囲で操業できるという主張をしなくちゃつじつまは合わないでしょう。その点はいかがでしょうか。

○椎名国務大臣 それは法律上はできるはずでございます。

○石橋委員 できるはずでございますでなくて、できますよ。できるじゃありませんか。はずだとは何ですか。できると確認してようございますか。

○椎名国務大臣 いや、できると申し上げてもいいんですが、あなたは、それで危険はないか、安全であるかと、こうおっしゃるから、その安全であるか、危険があるかないかは、これは保証の限りでないが、とにかくそこまでは行ける。

○石橋委員 日本の国民が魚をいまからとりに行くのですよ。条約の解釈上によって、安心して魚をとりに行けるのか行けないのかわからないようなことを国会が承認できますか。なぜ、安心して魚をとりに行けるように、規制の範囲内で、日本政府が保証してやれないんですか。日本国民の生命、財産を守る義務を日本政府は持っているのですよ。それを安心して魚をとりに行けるか行けないかわからないような状態に放置しておく。そんなことで、日本の国会がどうして承認を与えることができますか。

○椎名国務大臣 私は、韓国はそういうことは――これに対して拿捕するとか、あるいはその他の強制力を用いるというようなことはやるまいと確信しております。

○石橋委員 韓国だけの問題ではありませんよ。北鮮の問題もありますよ。朝鮮民主主義人民共和国のほうは、韓国のほうに対して直線基線方式十二マイルというものを認めた、これをたてにとって新しい主張を起こしてくる可能性もあなたは考えているんじゃないかと思う。とにかく、公海だからかまわぬと、かってに以北のほうに規制水域を設けておいて、そうして、北鮮があるから安心して魚をとりに行けるかどうかもわかりません、すみますか、そんなことで。ここにも北を無視しようだってできない問題があるということです。少なくとも日本と朝鮮の間で話し合いをするからには、南北共通の問題がたくさんあるということです。
 総理大臣、いままでの議論で十分におわかりになったと思いますが、最初から安心して魚をとりに行けるかどうかわからないというようなところをつくる条約というものを、私たちが承知することができないという気持ちは理解できませんか。あなたも日本の国民の生命、財産を守る最高の義務を持った方です。いかがですか。

○佐藤内閣総理大臣 石橋君も、今回の漁業協定あるいは日韓基本条約、これは私どもがたびたび申しておりますから誤解はないだろうと思いますが、北の部分については白紙だ、今回協定を結んでいない、これは政府もちゃんとそのとおり考えております。そうして、同一朝鮮民族が単一国家をつくりたいという、これは民族の悲願であります。また、私どももこれをはばむわけにはいかない。これが、いわゆる国連方式によって平和のうちに統一国家を実現しようというこの韓国の考え方と、北の考え方が、遺憾ながらこの点において意見が一致しておらない。この実情も、これまた御承知のことだと思います。ただいまのような関係にございますので、ただいま、北の部分についてこの条約では一体どうだ、こうおっしゃいましても、この北の部分については、私どもはこの条約で何ら規定はしておらないのだということを申し上げるだけであります。

○石橋委員 私は二つお尋ねしておるのです。一つは、韓国の主張からいっても、法律論でいけば、休戦ライン以北には専管水域を設けることはできます。しかし、日本はそれを認めない。三海里以遠は認めない。ここに争いが一つあるのです。だから、安心して魚をとりに行けるかな、どうかなという心配が一つあります。それからもう一つは、朝鮮民主主義人民共和国のほうが、これをはたして許すかどうかという問題があります。二つあるのです。その二つを頭に置いて、とにかくこの条約ができてから、それじゃどこまで日本の漁船が規制の範囲において操業できることを政府は責任を持って保証しますか。休戦ラインから以北については、沿岸からどこまで……。

○坂田国務大臣 いまたびたびお答えしておるわけですが、つまり、漁業水域のほうは、自国の沿岸ということであると同時に、排他的管轄権を持っておるということでなければならないという意味のものでありますから、それはおのずと限界がきまってまいるわけであります。その点は、石橋さんもよく御存じであろうと思っておりますので、あまり繰り返して私も申し上げることを控えておったわけでございます。
 それから北とのいわゆる関係については、漁業協定は白紙で残されておる問題でございますので、これは、いまここで何とも申し上げることは、私の立場としてはできませんわけでございます。

○石橋委員 だから、あなたに聞いていないのです。私は総理大臣に聞いているのです。日本の国民が安心して魚をとりに行けるところはどこまでですかと聞いているのですよ。こんなわかりやすいことばはありませんよ。休戦ラインから以北について、規制の範囲内で日本の漁船が魚を安心してとりに行けるところはどこでございますか、こら聞いているのです。

○椎名国務大臣 安心して魚がとれる地域はどこかと、こうお尋ねになりますと、これは実際上の問題であって、私はそこまで言うわけにはまいらぬと思うのであります。ただ、何ら国際法上他の規制を受けないでとり縛る範囲はどうかということになりますと、領海以外、つまり公海においてはこれは自由に操業ができるはずでございます。

○石橋委員 これは全国民が聞いておるわけです。特に漁業関係者は重大な関心を持っております。なかんずく、西日本の漁業関係者は重大な関心を持っております。これで協定が発効すれば安心して魚をとりに行けるとあなた方は盛んに宣伝をされております。ところが、休戦ラインから北のほらについては、この協定によって規制水域を設けておきながら、その規制水域の中で沿岸からどこまでの部分ならば安心して魚をとりに行けるのかということを説明もできない。これじゃたいへんですよ。私たちはそれを納得するわけにいきませんよ。国民の利益を守るためにも、そんなあいまいな協定、条約を承認するわけにはまいりません。
 関連があるそうですから、譲ります。

○安藤委員長 関連質問の申し出がありますので、これを許します。楢崎弥之助君。

○楢崎委員 農林大臣にお伺いをいたします。
 いま石橋委員が指摘されました以北の部分の共同規制について、あなたは、公海だから朝鮮民主主義人民共和国の関係はないんだということで、かってに共同規制区域をきめられた。しかし、共同規制ということは、沿岸国もしくはいわゆる出漁をしておる国、そういった国の漁獲上の努力を無視してよいのですか。これは資源保護という意味があるんです。あるいは資源維持という意味があるんだから、そうした関係国の了解なしにできるのですか。少なくとも以北の部分については、北には朝鮮民主主義人民共和国があるわけです。その朝鮮民主主義人民共和国のこれは沿帯地帯である。あるいは出漁をしておる地帯である。その北の国の漁獲上の努力というものを無視して、そして単に日本と韓国だけで以北の部分の共同規制をするというあなた方の考え方自身が――佐藤総理は、北の国は白紙であると言った。石橋委員は北の国を無視しておると指摘されました。私は、この北のほらに共同規制区域をかってにつくる、沿岸国である朝鮮民主主義人民共和国のことを度外視してかってに共同規制区域をきめたということは、まさに無視どころか、朝鮮民主主義人民共和国を否認した態度であろうと思うのです。
 それではお伺いをします。共同規制区域は、共同規制ということは、沿岸国のそういった漁獲の状態を無視してできますか。

○坂田国務大臣 お答えいたしますが、共同規制水域のほうは、資源の保護ということを兼ねてやっておりますことは御存じのとおりでございます。これは、今度いわゆる大韓民国と日本との間においてこういう協定を結んでおるわけでございます。しかし、これは第三国を何も拘束しておるものではありません。つまり、これによって資源をでき得る限り維持していこう、擁護していきたい、こういうことでありますから、第三国に対して保護になっても障害になることは絶対ございません。そういうわけでございまするので、これは別に、しかもまた第三国を拘束するものでもないのでありまするから、その御心配はないと存じます。

○楢崎委員 共同規制ということは、その海域について関係のある利害国がそれぞれ話し合わないと、資源の維持という点からはその目的を達せられないではありませんか。私が申し上げたいのは、まさに、共同規制区域をつくるというならば、関係国、あの地域では、北のほうの海域では、あなた方が共同規制区域をつくったあの海域では、少なくとも日本と、あなた方が言う韓国と、それから朝鮮民主主義人民共和国、王国、あるいは中国、こういった国々の関係する海域であります。したがって、それらの沿岸国の話し合いなくては、ほんとうの資源保護という意味の共同規制区域は設けられないはずです。それを、北鮮を無視して、単に日本と韓国だけでああいう共同規制区域をつくったということは、私が指摘したいのは、まさに北鮮というものを否認をしておるのではないか。つまり、韓国側が言っておる、あの憲法にいう、全半島を韓国は支配をしておるという、それにあなた方が合わせておるんだということを私は言いたいのです。そういうことなんです。

○坂田国務大臣 だんだん意見が一致するようでありますが、つまり、北のほうを無視しておるというわけではないということは御了承をいただけたと思うのです。ただ、完全に資源を擁護するのにはどうするかということになれば、世界じゅうの国々が全部一致してきめるのが一番いいと思うが、そこまではなかなか容易ではないことでございます。現在の共同規制区域においても、まだ実は十分じゃございません。これはやはり、ほんとうから言えば、もっと科学的な研究をいたしまして、そして十分漁獲の資源の調査をはっきりさせて、その上でやっていくということが一番大事だ、根本であると思いますが、それがなかなかこれから相当時日も要するものでございますので、この規制区域においては、現実のいわゆる漁業の実態をそこなわないようにしていきながら、しかも漁業の資源を圧迫しないようにということを考えつつ、これができ上がっておるということを御了承願いたい。

○楢崎委員 いまの点は、これもいずれ漁業協定を本格的に審議するときに私は質問したいと思います。
 では、いま一つお伺いしておきます。竹島には、日本の地図では専管水域がない。では、島根、山口等のあの竹島水域に漁業権を設定しておる関係漁民は、竹島周辺に出漁できますか。

○坂田国務大臣 竹島の問題でございますが、つまり、漁業水域の問題にしても、この条約が発効してからお互いに設定することになることは御存じのとおりでございます。ですから、発効後の問題ではあると思います。しかし、竹島の問題につきましては、実はいろいろの紛糾の根本問題がまだ解決しておりませんので、私どもとしては、発効いたしましても、これに漁業水域を設けることについては、どういたそうかということについて検討中でございます。

○楢崎委員 私の聞いているのは、竹島に専管水域を設けるかどうかを聞いておるのではないのですよ。実際にこの協定がもし成立するならば、山口、島根の関係漁民が竹島周辺に出漁できますかということを聞いておる。出漁できますかということを聞いておる。できるかできぬか、現実の問題として答えてもらいたい。

○丹羽政府委員 お答えいたします。
 漁業関係におきましては、北鮮の問題も含めまして、明快に割り切れないで、安全をとって操業の指導をするという例は多々ございます。したがいまして、竹島につきましては、ここが紛争になっている現状でございますので、行政面では、竹島の周辺にはあまり操業しないような行政を当分続けたい、かように思っております。

○楢崎委員 では、いまの答弁は、竹島周辺には操業に行かないように指導するというわけですね。つまり、行けないということですね。

○丹羽政府委員 韓国が専管水域を引くか引かないか、あるいは引いた場合に、わがほうがこれに対して外交ルートを通じていかにするかという問題もございますが、法律的に行けないということではないのでございまして、行政指導として、行かないような指導をする、こういう趣旨でございます。

○楢崎委員 これから先は、関連でございますから、石橋さんに続けてもらいます。

○石橋委員 私は、次にいまの問題をお尋ねしようと実は思っておったわけです。それで一部分がわかったわけです。竹島の周辺にはなるべく漁船は近寄らないようにしろ、そういう行政指導をするという、日本政府としてはまことに弱腰の態度を示しておられますが、韓国のほうでは、独島周辺にも専管水域はある、つくる、これまた日本が合意しなければ通常基線方式によってつくる、こういうことを国会で再三言明いたしております。これは御承知ですか、農林大臣。

○坂田国務大臣 いまのことについては十分存じておりませんが、ただ問題は、兄貴分として、いま問題が……(「兄貴分というのは何だ」と呼ぶ者あり)それは、そういう関係がありまするから、この争いのあるところにわざわざ専管水域を設けていくということはおとなしくない、そういう考えであります。しかし、時によっては専管水域を設けるということにいたさなければならぬかもしれませんが、いま現在どうかということになりますと、いま検討中であるということを先ほど申し上げた。

○石橋委員 韓国の議会のことまでは知らぬとおっしゃいましたから、ちょっと簡単に紹介しておきます。八月十一日の韓国の特別委員会におきまして、農林部長官の車という人は、「その直線基線を使用することに関する交換公文にない海岸またはわが国の領土周辺にはこれは当然通常基線によって専管水域が引かれるということを申し上げまして、したがって、そのような原理によって独島周辺にはそのような専管水域が引かれるのでございます。」こう言っているんです。日本のほうは、なるべく近くに行って魚をとらないようにしろと行政指導するという。向こうのほうは、通常基線方式ででも専管水域を設けて、日本の漁船は絶対に近づけないという。いまの竹島問題についての両国の態度を、これは最も象徴的に、示していると私は思う。いかにも竹島は紛争問題であって今後いずれかの機会に平和的に話し合いによって解決するかのごとく国民に言っておりますけれども、ただこの一点を見ただけでも、完全に押されておる、こう考えて私はいいのじゃないかと思う。
 事実、向こうのほうの大臣は、国会において非常に微妙なことまで言っております。ということはどういうことかと言うと、速記録を読むのをやめまして、要約しますと、佐藤内閣は大体韓国の意を体している、すなわち、竹島の今後の取り扱いについては、佐藤内閣はとにかくわれわれの交渉の当事者であったんだから経緯を全部知っているからよくわきまえておる、しかし佐藤内閣永遠に続くものじゃない、あしたにでも倒れるかもしれぬ、そういう場合に、新しい内閣が出てきて、そんな過去の経緯は知らぬ、竹島問題は明らかにこの紛争に関する交換公文に該当するんだと言って、がたがた言ってきても、やってこれないような手はちゃんと打っておる、そこまで説明しているんですよ。なぜならば、調停に持ち込もうったって両国政府の合意が要るんだ、われわれ絶対に合意なんかしないんだから、しかも解決するとはいっておらぬ、こういうふうな説明まで加えておるんですよ。こういうふうに見ていきますと、現在の行政措置といい、とにかく竹島については実質的には放棄したのではなかろうかという国民のこの疑惑は、私は解消できないと思います。
 大体昼休みにしろという理事さんのほうからの指示でございますから、一応この程度にとどめて、あとは本会議終了後に続行させていただきます。

○安藤委員長 午前の会議はこの程度にとどめ、午後三時半より再開することとし、この際休憩いたします。
   午後零時四十八分休憩
     ――――◇―――――
   午後二時三十六分開議

○安藤委員長 休憩前に引き続き、会議を開きます。
 質疑を続行いたします。石橋政嗣君。

○石橋委員 最初に総理大臣にお尋ねをしておきたいと思うわけですが、今度の日韓会談にあたりましては、両国の間におきます懸案事、項はすべて一括解決する、こういうことを再三公約してまいっておるわけでございますが、この公約は果たしたとお考えになっておられるかどうか。すなわち、一括解決というものは公約どおり実現を見たとお考えになっておられるかどうか、お尋ねいたします。

○佐藤内閣総理大臣 公約どおり一括解決したと思っているかどうかというお尋ねでございますが、いま提案いたしております各項目、ごらんになってもおわかりになるように、全部がいわゆる文字どおり一括解決したと、こういうものではない。しかしながら、それぞれのものが最終的、また完全に片づいたものもありますし、竹島のような、その方向がきまったと、こういうようなものがございます。私は、ただいまお尋ねがありましたが、まずまず、いわゆる公約の線でこれらの条約あるいは協定、それぞれが片づいた、かように私は確信しております。

○石橋委員 厳密にいえば、竹島問題というものが解決を見ておらないという点からいって、一括解決とは言えないわけです。しかし、それだけではないわけで、平和条約の第四条に規定されております問題が一つ何ら解決を見ておらない。これはどういうわけでございますか。四条の(c)ですから、郵政大臣からでもけっこうです。外務大臣からでもけっこうです。

○郡国務大臣 折半をいたしますことは、すでに四条(c)項できまっておりますし、国交回復の基本的な問題でもございませんし、現に断線もいたしておる、技術的な点でもあるということで、交渉を後日に譲っております。

○石橋委員 いままで予算委員会や逓信委員会で、再三政府が言明しておるわけです。この平和条約第四条(c)項についても最終的に解決をするんだ、こういう態度を政府は何回となく明言しておられます。これをたな上げにしてしまって、ほかの問題についてのみ処理してしまうということになると、この問題の処理にあたってまた日本は不利になる、こういうふうに私は思うのです。というのは、第四条(c)項において、日本国と朝鮮との間の海底電線を分割するということは規定されておりますが、その分割の方法というものがむずかしいわけでしょう。日本側は対馬から釜山の間を分割しようという。韓国のほうは福岡から釜山までの間を分割しようという。双方に意見の違いがあるのです。この問題だけを切り離してたな上げしておいたときに、筋の通った話ができると思いますか。やはりこういう一連の問題を一緒に処理しておくというのが基本的な政府の態度でなくちゃならぬと思うし、いままでもそうするとおっしゃってきておるわけです。いまのような説明では納得がいかない。一体、それではこの分割についてどの辺まで話し合いがついておるのですか。

○郡国務大臣 四条(c)項によりまして、終点施設と、それを結びつける海底電線を折半いたすのでございます。特に不利になることはございません。この交渉の経過につきましては、外務当局からお答えいたします。

○石橋委員 そうしますと終点施設というのは、福岡ではなくて対馬であるという点については合意を見ておる、こういうわけですか。

○郡国務大臣 終点施設が対馬であります以上、当然のことと解釈いたしております。

○石橋委員 日本政府の主張はわかります。しかし向こうの主張はそうじやないのです。その両国の間で合意しておりますかと聞いておるのです。

○郡国務大臣 ただいま申しましたとおり、今後細目のとりきめはいたすことに相なっておりまするけれども、両者の間でいままで話を運んでおりまする点、これは先ほど申しましたように、外務当局からお答えをいたしまするが、終点施設と、その終点施設間の折半ということは疑いのないことでございます。問題はございません。

○石橋委員 それでは外務大臣にお尋ねしますが、ただいまの点は両国の間で意見の一致を見ておりますか。

○椎名国務大臣 担当局長からいたさせます。

○後宮政府委員 お答え申し上げます。二月に大臣が訪韓されまして、基本条約の問題を話し合いましたときに、できれば一緒に海底電線の問題も片づけようという計画はあったのでございますが、ほかの条項の問題で時間が長引きまして、結局これは、基本条約成立の必須の問題でもないから、具体的な交渉をあとに繰り延べようということで当時日韓間で話し合いがつきまして、基本条約の前文に、サンフランシスコ条約を想起するということを入れることによって、その中に例の四条(c)の問題も含んでおるという解釈をとったわけでございます。その後、この十月の二十八日でございましたか、代表部のほうからこちらへ接触がございまして、韓国側でも、この問題を、できればこの全体の条約が発効する前に片づけたいという意思を表示してまいりましたので、目下関係当局との間に交渉開始の日時等について協議して研究している段階、そういうところでございます。

○石橋委員 意見が一致しておらないからこそ間に合わなかったのでしょう。おかしいじゃないですか、そうでなければ。それでは、どのようにして分割するか。福岡-釜山間を分割するか、対馬-釜山間を分割するか、この最も大切なところが意見の一致を見ておらない。
 次に、日本と韓国との間だけでこの分割ができるわけですか。第四条の(c)項でいいますところの「分離される領域」というのは、一体平和条約においてはどこを、示しておるのか、この点は外務大臣にお尋ねします。
○椎名国務大臣 担当局長に答えさせます。

○藤崎政府委員 平和条約二条で日本から分離されます地域としましては、朝鮮全体であるということは前から答弁いたしたとおりでございます。第四条のその地域の当局というものといたしましては、日本政府は北鮮のいわゆる政権を、合法的な当局と認めておりませんので、これと何ら財産請求権の問題等について話し合いをすべき立場にないわけでございます。

○石橋委員 平和条約の話をしているのですよ。平和条約の第四条(c)項について、私は開いているのです。この第四条の(c)項によると――参考のために読みます。「日本国とこの条約に従って日本国の支配から除かれる領域とを結ぶ日本所有の海底電線は、二等分され、日本国は、日本の終点施設及びこれに連なる電線の半分を保有し、分離される領域は、残りの電線及びその終点施設を保有する。」とあるわけです。ここに出てまいりますところの「日本国の支配から除かれる領域」、「分離される領域」、これはどこをさしておるのか。

○藤崎政府委員 それは朝鮮全体でございます。

○石橋委員 ここにもはっきり出てきておるわけです。戦後処理の問題として、いま朝鮮の問題を取り上げておるわけですが、平和条約で規定された部分についても、韓国とだけで話し合いをしては解決のつかないというりっぱな例じゃないですか。いま条約局長認めたように、全朝鮮と日本とで分割しろというのです。これが平和条約の、われわれに対して、日本政府、日本国民に対して課した義務です。そうしますと、韓国とだけ話し合ったって、これは片づきませんでしょう。だからこそ今度は間に合わなかったのじゃないですか、外務大臣どうなんです。韓国とだけでこれは処理してしまうつもりですか。

○椎名国務大臣 韓国とだけで片づかない問題はこれだけではありません。請求権だってそのとおり。でありますから、休戦ライン以北の問題は残ったということになるわけであります。

○石橋委員 それではまた従来の政府発電と違います。総理も一括解決とおっしゃった。しかも、その一括解決の中には、この四条(c)項による海底ケーブルの分割というものが入るということもいま郵政大臣も確認した。いままで予算委員会、逓信委員会で再三言っておる。日本と韓国との問で話をつけるのだと言っておったことを、今度はまたきょうは訂正するのですか。

○郡国務大臣 支配から除かれる部分につきましては、わがほうの交渉いたすべき部分でございませんで、終点施設とその中間で分割をいたしますから、そういたしますと、事柄は日本と韓国の事柄でございます。それから先の支配から除かれました部分については、わがほうの関知するところではございません。
○石橋委員 全然政府内部の意思の統一がなされておりません。これは、どう読んだって藤崎局長が言ったとおりの解釈しか出てきません。日本国の支配から除かれる領域は、第二条で規定されているのです。分離される領域というのも平和条約で規定されているのです。これは全朝鮮です。したがって、この話し合いを進めるには、日本と韓国と、北の現にオーソリティーとしての政府と、三者によらなければ話し合いがつかないという結論が出てこなければならないはずです。従来の日韓会談で一挙にこの問題を解決するというのがおかしいのですよ、法理論からいっても。だから、それならそのようにあっさりとお取り消しになって、いままでのは間違いでした、うそを言っておりましたと、こう言えばいいのです。

○藤崎政府委員 私はケーブルの布設状況をよく実態を存じませんで先ほど答弁いたしましたが、実際には日本と朝鮮半島との間に結ばれているケーブルというのは、すべて韓国に上がっているそうでございまして、そうしますと、私が先ほど抽象的に申し上げたことが当てはまるようなケーブルはないので、全部日本と韓国政府の間で話はつく、そういう実態だそうでございます。訂正いたします。

○石橋委員 あなたに実態なんか聞きませんよ。私はちゃんと分けて聞いていますよ。あなたには法律のことを聞いているのです。平和条約の第四条(c)項でいうこの「日本国の支配から除かれる領域」、分離される領域というのは全朝鮮、だれが考えたってそうじゃないですか。法律のABCを知っている者ならみんなそうしか解釈出てきませんよ。全朝鮮の財産、日本から独立する。ところが、その相手が二つになっちゃったのです。どっちにやれというようなことを日本政府がかってにきめることはできませんよ、平和条約によって。幾ら施設が南にあるからといって、かってに南にやってよろしいという解釈がどうしてこの平和条約の四条の(c)項から出てまいりますか。
 そこで四条(c)項で厳密に解釈していけば、これは日本と韓国との間だけでは話し合いのつかない問題である、したがって、今度はほかの問題と切り離したんだと、これなら筋が通るのです。総理、いかがなんですか。

○郡国務大臣 御指摘の点は、日本から韓国を通って、そうして北鮮にケーブルがいっているということをおっしゃるのだと思いますが、終点施設というものは日本と韓国の間にあるのでありますから、両国で話がまとまれば、残りの部分はわがほうの支配から除かれておるのでございまして、関与するところじゃございません。

○安藤委員長 関連質問の申し出がありますので、この際これを許します。岡田春夫君。

○岡田委員 ちょっと関連ですから、一問だけ伺いたいのですか、郡郵政大臣、藤崎条約局長、海底ケーブルは北朝鮮に届いてないのですか、もう一度確認したい。

○郡国務大臣 ケーブルの北に達しておりますものが千酌、鬱陵島、元山であります。しかし、終点施設は韓国の鬱陵島でございます。

○岡田委員 あなたはいままではっきりその点言わなかったでしょう。あなたの、電電公社の財灘の中に、昭和四十年の施設として鬱陵島、元山というのがあるじゃないか、終点施設であろうがなかろうが。ここにあるのは、一切の終点施設からどこまで結ぶということが書いてあるのであって、海底ケーブル全体を言っておるのですよ。これは北朝鮮に及んでいるじゃないか。そういういいかげんなことを言っちゃだめですよ、あなた。財産にはっきり書いてあるじゃないか。条約局長、あなた、取り消しなさい。あるじゃないか。そういういいかげんなことを言っちゃだめですよ。われわれ知らないと思って、あなたごまかすのですか。われわれ調べてあるんだよ、あなた。いいかげんなことを言っちゃだめです。取り消しなさい。

○郡国務大臣 いまの公社の資産の点をお答えいたします。
 公社は海底ケーブルについての未処理資産を一括して未処理資産と掲げておりまするが、分割になります分は、先ほど来申し上げておりますように、日本と韓国の閥だけに問題が起こっております。

○石橋委員 一応私の提起しました問題点はわかったと思います。私は平和条約の四条のというものを忠実に実行しようと思えば、これは三者の間で、南北朝鮮と日本と、三者の間でやらなくちゃならない問題だと思う。決して日本と韓国だけの間で話し合いのつく問題ではないということを指摘したかったわけです。そういう問題がほかにもあるということを外務大臣もまたお認めになりました。請求権の問題でも、ある。たくさんあるのです。
 ところで、この海底ケーブルは、米軍が故障するまでずっと使ってきたわけです。この点は御承知だと思います。その使用料が払われておるわけでございますが、幾ら払われておるのか。いまその米軍からもらった使用料というものはどういうふうになっているのか、この点についてお答えを願いたいと思います。

○郡国務大臣 米軍と公社の間に協定を結びまして、二十九年八月一日にさかのぼりまして単位当たりの使用料を契約いたしました。受け取りました額が八億一千万円にのぼっております。(「二十九年の前はどうか」と呼ぶ者あり)その前に五億ございます。

○石橋委員 金額を、二十九年八月一日から三十八年八月十五日まで八億とおっしゃいました。その前はおそらく平和条約発効の二十七年四月一十八日から昭和二十九年七月三十一日までの分を言ったと思うのですが、それを五億と言いました。両方ともそのぽっきり聞違いございませんか。

○郡国務大臣 先ほどあるいは数字で取り違えておりましたらいま申し上げるとおりにお聞き取りを願いたいのですが、二十九年八月一日以降五億一千万でございます。

○石橋委員 先ほど八億と言ったのは五億一千万、五億と言ったのは七億七千八百万じゃないのですか。そっちのほうはそのままですか。

○郡国務大臣 二十九年八月一日以降五億一千万でございます。

○石橋委員 その以前の分ですよ、あなたが五億と言った。

○郡国務大臣 政府委員からお答えいたします。

○野口政府委員 お答えいたします。
 二十九年の七月三十一日以前が約八億円でございます。それ以後が五億一千万円でございます。

○石橋委員 この辺の、実際に金をもらったのですか、もらわぬのですか。もらったならば、正確な数字くらい事務当局は知っておらなければいかぬでしょう。どうなんですか、それは。最初に言ってくださいよ。もらったのか、もらわぬのか。もらったなら幾らなのか。

○郡国務大臣 ただいまの金額はそのとおり受け取っております。必要があれば電電公社のほうからお答えいたします。

○石橋委員 そうしますと、その使用料は今後どういうことになるのですか。日本政府が預かったという形になっておって、朝鮮に渡す分は保留しておる、こういうことになるのですか。それとも米軍のほうに返すということになるのですか。

○郡国務大臣 先ほど申しましたように、さかのぼりましてわがほうから、公社から米軍に返還をいたすことになっておりまするから、その折半点が決定いたし、先ほど来申しておりますように、終末地点の間の半分の分を米軍に返還いたすことに相なっております。

○石橋委員 問題は二つあるんですよ。先ほどから分けて私聞いているわけですけれども、契約が結ばれますまでの時点と、正式に契約が結ばれたあとの時点と、二つあるわけです。両方とも同じ扱いをなさるつもりですか。

○郡国務大臣 暫定的に話し合いを進めておりまして、正式契約の時期に至っておりません分も正式契約の場合と同じように扱うべきものと考えております。

○石橋委員 それはどういう立論に基づいてですか。

○郡国務大臣 折半の原則がきまっております以上、韓国に帰属すべきものは帰属すべきものと存じます。

○石橋委員 だから聞いているんですよ。韓国に返すのと米軍に返すのと違いますよ。あなた一緒くたに考えておらぬですか。なぜわざわざこう分けて私が聞くのですか。米軍と契約した二十九年の八月一日から以降の分は、これは折半が話し合いがつけば朝鮮に帰属するものは米軍に返して、米軍から朝鮮のほうに持っていってもらう。その前は契約は何にもないんでしょう。そうすると日本政府が直接朝鮮に返さなければいかぬわけでしょう。そうじゃないんですか。どうしてですか。それを聞いているのです。

○郡国務大臣 契約にございますとおり、二十九年八月一日以降の分は米国と韓国との問題であることを明らかにしております。さよういたしまするならば、その以前のものも当然同様に扱わなければ相ならぬものでございます。

○石橋委員 そんな理屈が通りますか。二十九年の八月一日、ここからの分はちゃんと契約がある。その前は契約がない。契約がないけれども、二十九年から実施した形と同じ扱いになる。何の根拠があってそうなりますか。先のほうに契約があって、あと契約なかったら既成事実で、そしてやったという理屈も、ある場合には成り立つかもしれません。逆じゃないですか。どうしてそんな立論が成り立ちますか。自分でもおかしいと思いませんか。

○郡国務大臣 すでに平和条約によって折半がきまっておるのでございます。さよういたしますならば、当然私が申したように扱うのがあたりまえでございます。

○石橋委員 この問題について、先ほども申し上げたように、全然話は進んでないんです。だから使用料のどの部分を何%向こうに返したらいいか、全然見当もつかないんです。あなたはいかにももうすぐ話し合いがつくようなことを言っておりますけれども、かりに日本と韓国との間だけで処理しようと思っても、なかなか簡単に片づく問題じゃないんです。こういうときに一括解決しておかなければ、ますます不利になります。日本側の立場は弱くなります。この意味はおわかりでしょう。法律論からいけば、私は韓国だけを相手にするのはおかしいということをまず申し上げておきます。一歩譲って、あなた方のような立場からいっても、いま一緒に片づけておかなければ、これでまた押されるじゃないですか。そういう点から一括解決というのも出てきたわけでしょう。とにかく、こういうおかしいことだらけなんですよ。この点についてまた関連があるそうですから譲ります。

○安藤委員長 関連質問がありますので、これを許します。岡田春夫君。

○岡田委員 郵政大臣、あなたに伺っておきますが、二十九年以前にさかのぼるというのはどういう法的根拠によりますか。

○郡国務大臣 平和条約が発効いたしまして、それによって折半がきまっております。そういたしますれば、韓国に属する部分の返還ということは、平和条約から当然さように考えなければ相ならぬことでございます。

○岡田委員 ではあなたに伺いますが、在日米軍に返すということをきめたのは、どういう協定ですか、それはいつの協定ですか。もっとはっきりしましよう。一九五五年の六月二十三日、日韓間の海底ケーブル料金及び使用条件、公社側吉澤営業局長、アメリカ側ファウツ、これの第七項に基づいてやったのでしょう。違いますか。

○郡国務大臣 吉澤・ダンパーマン間で契約をいたしました。

○岡田委員 それに間違いないですね。いいんですね。それでは協定の第七項に、「返還されるべき金額は、日本及び韓国間の協定に従って設定される専用回線の専用料のうち、日本及び韓国側で再分されるものと同一の基礎に基づいて決定されるものとし、且つ一九五四年八月一日にさかのぼるものとする。」、二十九年にまでしかさかのぼれないので、それ以前にはさかのぼれないことになっているじゃないか。あなたいいかげんなことを言っちゃだめですよ。協定は昭和三十年に結ばれた。料金の支払いは、二十九年の八月一日までの料金は在日米軍に払うということになっているのだ。それ以前の分は何も協定にないですよ。いいかげんなことを言っちゃだめですよ。

○郡国務大臣 それでありまするから、先ほど来たびたび二十九年八月一日にさかのぼり正式協定はいたしましたと、しかしその以前につきましても折半をいたした以上、すでに韓国に帰属した分は返すべきものであるということを申しておるのであります。同じことを絶えず申しております。

○岡田委員 それじゃあなたに伺いますが、権の協定は、あなた御存じのはずだ。今度請求権の協定の第二条第一項に基づいて、韓国が持っている日本に対する権利並びにその請求権は一切最終的に解決する。そしてそれに基づいて二条の第三項によって、国内法の手続によって、韓国の請求権は日本の国内においてこれはゼロになる。払う必要ないじゃないか。払う必要あるのか。あなた払わなければならないと言ったが、払う必要ないじゃないか。どうなんです。

○郡国務大臣 請求権の場合と、この米軍が支払いました使用料の場合と、こうして海底ケーブルについてきちんと平和条約できまっております以上、私が申しました別の考え方をすることは不可能でございます。

○岡田委員 そんなあなたいいかげんなことを言っちゃいけませんよ。さっきからあなた言っているじゃないの。海底ケーブルの終点間における北の部分は、その所有権は韓国なんでしょう。その所有権に基づく料金、それを日本がもらっておるんでしょう。それは請求権でしょう。違うの。その請求権も一切この中に――あなたよくごらんなさいよ。請求権の協定の第二条の一項には、平和条約第四条の(a)項を含めてその他一切の請求権と、こう書いてある。したがって、四条の(c)項もこの中に含むのだ、こう解釈せざるを得ないじゃないか。当然それじゃ払わなくてもいいことになるじゃないか。どういう解釈になるか。

○郡国務大臣 米軍とわがほうの公社とでいたしたことでございます。したがいまして、アメリカと韓国との関係が残っておるのです。わがほうの公社が米軍に対する関係でございますから、いまのお話とは別でございます。

○岡田委員 いまのケーブル問題について、二、三の点ちょっと関連的に御質問をいたしたいと思います。第一点は、この海底ケーブルは何に使っておりますか。それから日韓間に何本ありますか。この二つの点をまず伺います。
○郡国務大臣 元来一般通信用に使っておりました。しかしながら、終戦後は米軍が公社と契約をいたしまして使っておりました。海底ケーブルの数は十一本と心得ております。

○岡田委員 現在使用中のものは、朝鮮戦争以来、終戦以来十一本の中で二本でしょう。それからもう一つは、この二本は全部軍用線ですね。ケーブルの二本の中のいろいろな往復回線その他を入れると、五十六本のはずだ、全部軍用線のはずだが、この点をもう一度確認をしておきたいと思います。

○郡国務大臣 十一本のうち二本を使いまして、途中でいたんで修理をして、その後断線いたしましたことは御承知のとおりでございます。いかなる中身に使っておりますかは、もし必要があれば公社のほうからお答えいたします。

○米沢説明員 お答え申し上げます。先ほど申し上げましたように、電話ケーブルとしては二対でございます。そしてこのケーブルは、もう二年前に障害を起こしまして、全然使っておりません。それからどういう用途かといいますと、これは公社と米軍との間の契約によってやっておるのでありまして、それがどういうものであるか存じません。

○岡田委員 米軍によって取りきめている民間使用というのはありますか。米軍と取りきめたのは、軍用にきまっているじゃないか。そんなことはわかり切っているじゃないか。そんないいかげんなこと言っちゃいかぬ。もう一ぺんそれじゃ軍用であること――これは軍用であるかないかは非常に重要です。はっきりしておいてください。
 その次は、あなた二本使っているとお話しになりましたが、その二本のうちの一本、第二ケーブルの部分は、朝鮮戦争の当時において、アメリカがこれを修理した。それによって、この部分に関しては米軍の所有権に関するものでしょう。日韓の問題ではないでしょう。どうなんです。

○米沢説明員 お答え申し上げます。いまの米軍との関係でありますから、まあその範囲において行なわれていると思います。それから修理の問題でありますが、それは所有権はないことになっております。

○岡田委員 あなたはうそを言っちゃいかぬですよ。あなたはあとから総裁になったかもしらぬが、昭和三十一年の二月二十四日、電電公社を代表して、その当時の特設課長が、修理の個所三十キロは米軍の財産であるとはっきり言っているじゃないの。あなた、それはどうなんです。日韓の間だけで解決できる問題じゃないんじゃないか。郡さん、あなた日韓だけで解決できると言ったのはうそじゃないか。米軍の財産をどうするのですか。米軍の財産はどこの分なんだ。

○米沢説明員 お答え申し上げます。ただいまの部分は、米軍の財産でないと思っております。

○岡田委員 それじゃさっき私の言った、特設課長の言ったのは間違っておるのですか。

○米沢説明員 特設課長が申しましたのは間違いでございます。取り消しいたします。
 〔「そんなでたらめな話はない、本人が取り消しなさい」と呼び、その他発言する者あり〕

○安藤委員長 お静かに願います。

○岡田委員 でたらめなことを言ってはいけませんよ。聞違っているのでしょう。それじゃその点を……。
 時間がありませんからまとめて質問をしておきますが、郵政大臣、特設課長の言うのは間違っております。この点を郵政大臣は所管ですからね、明確にしてください。
 それからもう一つは、郵政大臣は、終点の地域間における二等分である、こういうように言われましたが、これは間違いありませんか。しかもその終点区間における二等分というのは、日本政府のいつからの態度ですか。

○郡国務大臣 終点施設間の二等分でありますことは、平和条約発効当時から変わらざる政府の意見でございます。公社の総裁が答えましたとおり、保守を公社がいたし、またその間――私その経過は明瞭にいたしませんが、かりに米軍が修理をいたしましても、その所有権は主張いたさないことに公社と話がついております。現在日本と韓国とが交渉いたしまして決定するのに、何ら支障のあることはございませ

○岡田委員 昭和三十五年五月十日、安保条約の特別委員会において、当時の横田副総裁は、福岡-釜山における、いわゆる終点間における二等分とは必ずしも言えない、対馬と釜山間の二等分と、その二つの態度をいま検討中であると答えておる。必要があれば読んでもよろしい。日本からするならば、当然これは日本の布設した海底ケーブルでありますから、日本の領域である対馬から、そしてその対馬と韓国の領域である釜山との間の二等分の説をとるという横田副総裁の立場というのは、一つの根拠があると思う。その根拠に基づかずして、ことさら釜山と福岡の間であるとあなたが言っているその根拠というのは、われわれにとってはわからない。あなたは初めから釜山と福岡の間だ、こういうように言っているが、この点については、非常に私はそういう態度は違うと思う。こういう点を明確にしてもらいたい。

○郡国務大臣 聞いていておわかりと思いますが、私は本日も対馬-釜山間ということばかり申しておりまして、おっしゃるように郡が福岡-釜山間などと申したことは一ぺんもございません。

○岡田委員 あとに関連があるそうですから、私は一括して伺います。
 一つは、平和条約の締結によって、北の部分の所有権は、当然これは韓国に移ったということになるわけですね。そうするならば、北の分に対してその料金を日本がもらうということは、おかしいではないか。北の分まで含めて使用料の料金を日本がもらうということは、おかしいではないか。それが一つ。
 第二の点は、先ほどその料金は二十九年前後と分けて合計十三億円であると、こう答えましたね。その十三億円以外に未払いになっている金紙があるはずだ。昭和三十五年の未払いの金額は、われわれは知っております。約四十億円であるということを横田副総裁は答えております。今日幾らになっているか。その二つの点を伺いたい。

○郡国務大臣 お尋ねにもございました米軍と公社との関係の二本の線は、日本と韓国の間の分でございます。したがいまして、日本と韓国との間の折半の問題でございます。それ以外に、韓国からさらに北にいっております分については、現在使ってもおりませんし、それからわがほうの支配から省かれております。
 それから、いま地位協定等によりましてわがほうと米軍との間の折衝がまとまりませんための料金の点をお話しになったようでございます。この点は日韓のケーブルとは全然関係のないものであることは、御承知のとおりでございます。

○岡田委員 郵政大臣、あなたは先ほど私は福岡とは言ったことはありませんと言われた。と同じように、私もあなたに言いましょう。私は、北朝鮮の分はどうなったかなどと聞いたことは全然ありません。私の言ったのは、北の部分というのは海底ケーブルの北の部分であって、韓国の分のことを言っているのだ。韓国の分については、平和条約に基づいてこの北の部分の所有権というのは韓国に移ったのだ、その移った部分まで含めて、それを電電公社が全額として使用料をもらうというのは、筋が通らないではないかということを聞いているわけだ。その点はどうなのかということを伺いたいというわけです。
 それから第二の点は、未払いの分については、当時の横田副総裁は、未払いとして四十数億円と言っています。これは明らかに関係があるからそう言っているのです。関係のあるなしにかかわらず、その金額を言いなさいよ。

○郡国務大臣 ケーブルに関係いたしません未払い金の点につきましては、公社の総裁からお答えいたします。

○岡田委員 いや、前の分の答弁は……。

○郡国務大臣 初めのお尋ねについてお答えいたします。
 協定が、区分がはっきりきまりました暁には米軍に公社が返還する約束のもとで米軍から受けておりますので、そのようにして公社が整理いたしておりますから、何ら疑義のあるところではございません。

○岡田委員 これは、あなたは疑義があるかないか知らぬ。疑義があるかないか明らかにするためには、その間の協定を全部明らかにしない限りは、国会の審議はできないです。
 それで、こういう協定があるはずです。電気通信電波に関する合意、アメリカと日本側との合意がある。電気通信サービス基本契約、日韓海底ケーブル料金及び使用条件に関する合意、いわゆる吉沢・ファウツ協定、それから米軍による日韓海底ケーブル使用についてという協定、覚え書き、これらをわれわれとしては見ない限りは、あなたがどういうように解釈をされようと、われわれとしては正当な判断ができないわけです。国会は審議するわけですからね。あなたは、やはり北の部分は韓国であるならば、われわれの常識から言うなら、その料金をアメリカが日本に払うのではなくて、韓国とアメリカとの合意ができた場合において韓国に払うべきなのであって、日本の電電公社に対して全体の部分を払うというのは、筋が通らないと思う。(「現にアメリカが払っておるじゃないか」と呼ぶ者あり)払っておるから問題なんだよ。大臣をやったくせにそんなことわかならいのか……。

○安藤委員長 岡田君、やじにとらわれずにやってください。

○岡田委員 そのように北の部分、日本が所有権を持たない部分の料金の支払いを電電公社が受けるということは、本来不当である。それはアメリカと日本の間の協定を結んでも、そのような協定それ自体がきわめて不当な協定といわざるを得ないということです。そういう点についての見解を伺いながら、同時に、これらのただいま申し上げた協定をここで出していただきたい。そうでなければ、われわれはこれについて明確なあなたの意見を了解するわけにはいかないわけですから、そういう点についても伺っておきます。

○郡国務大臣 協定によりまして折半が――地点等が明瞭になりましたときは合衆国と韓国との間で処理すべきことであるということを、協定ではっきりいたしました。そうして米軍が公社に払っておるのでございますから、何ら疑義はございません。
 なお、お話のありました公社と米軍の契約等は、相手方のあることでございます。これを発表すべきものではないと考えております。

○安藤委員長 関連質問の申し出がありますので、この際これを許します。森本靖君。

○森本委員 ここで、ちょっと関連ですから、簡単にやります。(「関連はよせ」と呼ぶ者あり)やかましい。要らぬことを言うな。関連でありますから簡単にやっておきますけれども、この問題についてはもう三年くらい前の……(発言する者あり)やかましい。要らぬことを言うな。

○安藤委員長 不規則発言は御遠慮願います。

○森本委員 三年前の予算委員会あるいはまた逓信委員会においてしばしば私が賛同をいたしまして、この問題については日韓交渉が完全に妥結する暁と同時に解決をつける、こういう約束になっておるわけであります。ところが、その問題がいまだにただいまの郵政大臣の説明では解決がついていない。そういう点については、私はやはり政府の怠慢であろうと思う。何回も何回も繰り返し私が質問をしたのであります。必ずこれは解決をつける。しかもこれは平和条約によっておるわけでありますから、対日請求権の問題とはおのずから別個になっていくわけであります。どうしてもそこに残ってきまするのは、先ほど来郵政大臣が言っておりますように、二十九年の八月から三十八年の八月の十五日までは一応政府の言い分をわれわれは認めるといたしまして、それについてはアメリカ軍と日本の公社との間において、これは協定がはっきりあるわけであります。海底ケーブル全長に対して料金を課しているので、韓国の財産と決定される区間に対しては昭和二十九年八月一日にさかのぼって米軍に対してこれを返還する、こういうことがはっきりあるわけでありますから、この問題については、そういうふうなかっこうにおいて政府が支払いをするということについては、まああなた方の主張からいくとするならばある程度妥当だろう、こう思うわけでありますけれども、二十七年の四月二十八日から二十九年の七月三十一日までの分については、そういう契約がないわけであります。そういう契約がありませんから、本来ならば郵政大臣が言っておるようなことからいくとしますならば、この二十七年の四月二十八日から二十九年七月三十一日までの間に米軍からもらっております総経費のうちの対馬と釜山間の半分は、韓国に返さなければならぬという結論になるわけであります。もっとも、それを返さなければならぬけれども、実際問題としては電車公社が修理その他をやっておるので、その修理代その他を差し引けば収支とんとんになって払う必要はない、こういうことになるとするならば、その間の経費を今回は明らかにしておかなければならぬ。
 それから三十八年にこのケーブルが切れてもはや使用にたえないという状態であるとするならば、この平和条約にありますところの海底電線の問題については、もうこれで終わりなら終わりということを今回の協定の際にはっきりと置かなければ、問題があとに残るわけであります。そういう点は国家的利益であります。そういう点を一つもこれは明らかにしておらぬわけであります。そういう点では明らかに政府としては、いわゆるこの海底ケーブルの平和条約にある項については職務怠慢ではないか。この際に、いま申し上げましたような問題については、一切解決をつけておくのが至当ではないか、こういうことであります。

○郡国務大臣 仰せのとおり、累次早く解決をいたそうというようなことをそのときどきの当局がお答えをいたしております。ただこのたび日韓の基本的な問題だけに限っていたします場合には、折半がすでにきまっている以上、これをなるべく近い機会に解決はいたすけれども、このたび特に協定をいたさないでも問題は残らぬであろう。それからただいま御指摘のとおり、確かに前の分は保守費と差し引けば取り上げるような金額もございませんし、すべて問題はむしろ御指摘のように限られておりまするから、このたびの協定の中に入れませんでも、近い時期に必ず解決できることと思っております。

○森本委員 近い時期に解決をつけると言いますけれども、これはもう四年ぐらい前から言っておる問題でありますし、いまからまた、この条約が結ばれて、おそらく二十七年から二十九年の間の問題においても、やれ保守費がどうの、実際におれのところはこれだけもらわなければならぬというような意見がいろいろ出てくると思うのです。そういう点については、今後海底ケーブルをやめて新しいマイクロウェーブならマイクロウェーブにするという交渉を行なう際において、この問題をまず解決をつけておかなければ、日本側としてはある程度不利益になる。現実に、すでに電電公社並びに国際電電が、こういう問題についての国内においても意見が違う。そうなってまいりますると、これは韓国と日本とが折衝するという段階になりましても、かなり私はむずかしい問題になると思う。だから、大臣がしばしば解決を、解決をということを言っておりますけれども、こういう問題については、私はこの協約、協定を審議する際に、こういうふうに解決がついておりますということを言ってもらいたかった。それは、しばしば外務大臣も郵政大臣もそういうことを言っておるわけであります。そういう点では、どういうわけか知らぬけれども、今回の韓国の基本条約について、非常にあわてて今回は合意に達した。だからこういうことをやる間がなかったのではないか、あるいは忘れておったのではないか。たまたま私がいろいろなことを言うから、あわてていまごろになって想定問答をつくって、そして答弁の資料をつくっておるというのが今日の郵政省並びに電電公社の実態であります。こういう点については、ひとつ十分に国家的な利益を考えながら、しかも平和条約にわざわざこの「海底電線」ということを入れた。この条項はなぜこういうものを入れたか、こういう通信というものに対する非常に大事な観点というものをひとつお忘れのないように、今後の問題については相当問題が残されておるわけでありますから、総理から最後にこの問題についての考え方を承っておきたいと思うわけであります。

○佐藤内閣総理大臣 ただいまの森本君の御意見は私も敬意を表します。これはまじめに、真剣にに、わが国の利益を擁護する、守る、こういう立場で、またこういう問題を長く置いては、たいへんむずかしい事態になりますから、できるだけ早くこれを解決するように、電電公社、郵政省を督励したい、かように思います。

○石橋委員 次に、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定についてお尋ねをしたいと思います。
 最初に事務的なことでございますけれども、第二条の第二項の(a)に、「千九百四十七年八月十五日」というのが出てまいるわけですが、これはどういう時点を意味するのか、ちょっと御説明を願っておきたいと思います。

○藤崎政府委員 これは終戦後日本におりました朝鮮人がだいぶ引き揚げたりいたしました。それが大体終了するのにこの年の前半くらいまでかかった。それから、このときに日韓間に民間貿易関係が開かれた、そういうことでこの時点をとらえたわけでございます。

○石橋委員 この第二条の第一項におきまして「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに問締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」とございますが、第四条の(b)項が全然出てきていないというのはどういうわけでございますか。これは外務大臣にお尋ねいたします。

○椎名国務大臣 条約局長に答えさせます。

○藤崎政府委員 平和条約四条(b)項でございますが、これは問題を提起しているのではなくて、あそこでの軍令三十三号は処理の効力を承認するということで、それは四条(a)項で全部カバーされておるものの一部について記述しておるわけでございます。

○石橋委員 (a)項で(b)項までカバーされておるというのが私には理解できません。平和条約を読んでみた場合に、どうしてそういう解釈が出てまいりますか。
○藤崎政府委員 (a)項で、日本と韓国それぞれの国民の間の財産請求権問題全般について特別取りきめの主題としているわけでございます。(b)項では、韓国のほうにあった日本の財産、権利、利益について在韓米軍当局がとった処理の効力を承認するということでございまして、(b)項に書いてあることも(a)項の内容の一部をなしておるわけでございます。

○石橋委員 そうしますと、今度の日本と韓国との間で懸案事項をすべて解決するという際に、この(b)の問題については一切関係がないとでもおっしゃるわけですか。

○藤崎政府委員 平和条約四条(b)項のものはすべて平和条約で処理済みであった。したがって今回新たに処理する必要がなかったということでございましたら、お説のとおりでございます。

○石橋委員 (b)項の解決のためにいろいろといままで交渉が行なわれておるわけですね。この間にはアメリカまで介在していることはもう御承知のとおりです。最終的に処理されたというものが今度出てこなければならないはずじゃありませんか。どこに出てきておりますか。

○藤崎政府委員 四条(b)項の問題はサンフランシスコ条約で処理されてしまったわけでございますので、日韓間で新たに処理する問題じゃないわけでございます。

○石橋委員 そうしますと、この間から問題になっております一九五七年十二月三十一日の口上書、それから昭和三十二年十二月三十一日付、日本国外務大臣と大韓民国代表部代表との間に合意された議事録のうち、請求権に関する部分、こういったものは何のためにあるのですか。

○藤崎政府委員 韓国にある日本の財産、権利、利益といたしましては、前にも御説明申し上げましたが、かりにあるとすれば、東のほうの大韓民国の管轄区域が三十八度線以北に出た部分にあり得たわけだろうと思います。ところが、これも前に申し上げましたように、北鮮当局が没収処分をしておりまして、それを大韓民国側が休戦協定でその管轄のもとに貫いたときには、また反逆分子のものとして没収したそうでございます。したがいまして、日本の取り分に関する限りは、韓国には実体的な財産、権利、利益というものは残っていなかった、こういうことは事実でございます。ただそのほか、そういう部分に関する請求権と申しますか、文句をつける国際法上の権利とか、あるいはしばしば問題になっております拿捕漁船の関係とか、そういうような軍令三十三号で処理されなかったものが残っておるわけでございます。

○石橋委員 そういう理屈でいきますと、私はいままでの政府の国民に対する説明というものとの間に矛盾があると思うのです。もうすでにこの第四条の(b)項は平和条約発効の時点で解決済み、こういう解釈をおとりになっておられる。それじゃ一体いままで何をしておったのかという問題がひとつ残りますが、それは別として、それではこの(b)項の解釈について、従来の政府の考え方というものが変わったのかどうか、確認したいと思います。というのは、この第四条(b)項において、われわれはすべての日本国民の在韓財産というものを放棄したものではない。すなわち、在韓米陸軍政庁法令第三十三号というのは国際法違反である。これはへーグの陸戦法規違反である。また世界人権宣言からいってもおかしい。こういう立場を終始とってこられておったはずです。われわれが放棄したのは、少なくとも外交保護権だけだ、こういう解釈をとってこられたはずでございますが、この見解は変わりましたかどうですか、外務大臣にお尋ねします。

○藤崎政府委員 四条(b)項についての日本政府の解釈が、当初から、日韓交渉に入るときに若干変わって、それが三十二年末にまたもとの立場に戻ったということは、この前御説明申し上げましたが、そのことは三十六年に全部発表もいたしておりますし、皆さま御存じのとおりでございます。なお、この四条(b)項で財産、権利、利益というものは全部処理されてしまったということは、これは平和条約の処理でございます。これについて文句をつけない、もう国際法違反のことをやっても日本政府としては文句をつけないということは、平和条約の十九条に規定してございます。そういうことをこの問も御説明申し上げたわけでございます。

○石橋委員 私は、長くなりますから、いままで政府が国会を通じて国民に説明しておりましたものを一々ここにあげません。簡単にお尋ねしますから、簡単に答えていただきたいのです。
 この平和条約第四条の(b)項においてわれわれは――われわれはというのは日本の政府はです。――国民の財産権の所属変更、移転まで承認したのではない、外交保護権を放棄した、それだけだ、こういう解釈をとってきた。これは間違いないでしょう。間違いないとすれば、いま、その外交保護権は放棄したという従来の説をそのまま維持しておられるのか、それとも変更して、外交保護権まで放棄したというふうに変わったのか、これは外務大臣、責任を持ってお答え願いたいと思います。

○椎名国務大臣 外交保護権の放棄であります。

○石橋委員 これはもうたいへんなことですね。従来の解釈、従来の政府の国民に対する説明というものを百八十度変えております。そんなことが一体許されますか。

○椎名国務大臣 変えておりません。

○石橋委員 外交保護権を放棄したものではないということをいままで言ったことはないというのですか。

○椎名国務大臣 外交保護権の放棄である。

○石橋委員 ちょっと待ってください。聞き方が間違えました。
 外交保護権を放棄しただけであって、個人の請求権を放棄したのではないという解釈をとっておられたわけです。――もう一度お尋ねします。国の財産権のみならず、個人の財産権の所属変更、移転まで承認したというのであるならば、外交保護権のみならず、個人のそれぞれ持っているところの国際法上の請求権すら、個人の承諾なしに、不当にも国が放棄したことになるのではないか、こういう意味です。正確を期して私もお聞きします。

○椎名国務大臣 外交保護権だけを放棄したのであります。

○石橋委員 そうしますと、各個人は韓国に対して請求権を持っておる、このように考えられるわけですか。

○椎名国務大臣 条約局長から答えます。

○藤崎政府委員 韓国で、昔だったら米軍、いまだったら韓国政府当局が、それぞれの法令によってとった措置の効力を承認したわけでございます。したがいまして、当該の日本人が自己の権利を向こうへ主張しようとしても、これは向こうの国内法上の権利であるわけでございますが、それは実際問題としては取り上げられないだろうということになるわけでございます。

○石橋委員 そうしますと外交保護権も放棄した。日本国民の個人のいわゆる所有権というものも、これも全部、その当人の承諾なしに、日本政府がかってに放棄した、こういうふうに認めていいですか。

○藤崎政府委員 前段におっしゃった外交保護権のことはそのとおりでございます。個人の請求権というものは向こうさんが認めないであろうということを申しているわけでございまして、この条約、協定で、そういうものを日本政府が放棄したということじゃないわけでございます。

○石橋委員 日本の政府は国民の生命、財産を保護する責任があるわけですよ。それをかってに放棄したと同じ形になるじゃないですか。それに対して責任を持たないのですか。

○藤崎政府委員 それが外交保護権の放棄ということでございます。

○石橋委員 いままでは分けて説明しておったはずです。外交保護権は放棄する。しかし個人の請求権は残る、こう言ってきたはずじゃないですか。では個人の請求権は残るというから、残ったつもりで韓国政府を相手に訴訟を起こそうとしても、それは実際は無理でしょう、受け付けないでしょう。名目だけの請求権になるじゃないですか。権利はないのとひとしいじゃありませんか。今度のこの協定の中で何らかの措置がとられておれば別です。何にもとられておらないということは、実質的に個人の請求権まで日本政府が抹殺したと同じじゃないですか。これはすでに法律的な問題を離れます。外務大臣、その点について責任をお感じになりませんか。

○椎名国務大臣 先方のこれに対する措置として、国内法の問題につきましては、これは外交上の関係でございませんからしばらくこれに触れませんが、とにかく外交上としてはあなたのおっしゃるような結論になるわけです。

○石橋委員 そうしますと、政府は外交保護権も放棄した、個人の請求権も実質的に放棄した、しかもその請求権者、所有権者というものの承諾は得ておりません。そうなれば、これは必然的に日本の憲法に基づいて補償の義務を生ずる、このように考えますが、いかがです。
 〔発言する者あり〕

○安藤委員長 お静かに願います。

○高辻政府委員 お答え申し上げます。
 ただいま条約局長からお話がございました趣旨は、この外交保護権の放棄ではある、しかしその在外財産自身は向こうの処理の問題であるということをお話しになりましたが、要するにそれをもう少しかみ砕いて申し上げますと、日本の国民が持っておる在外財産、その在外財産の運命と申しますか、その法的地位と申しますか、そういうものはその所在する外国の法令のもとにあるわけです。したがって、外国の法令においてその財産権の基礎が失われた場合に、日本の国民がそれを争うことができるかどうかということになりますと、それはその国の国内法の問題になります。で、いま現在問題になっておりますのは、そういう措置があったとして、そういうものについて外交上の保護をする地位を放棄してということであって、財産権自身を日本が、たとえば収用をしてそれを放棄したというのとは違うわけでございます。ところで、憲法の二十九条の三項によりますと、二十九条三項は、日本国がその公権力によって収用した場合の規定であることは御承知のとおりでございます。したがって、政策上の問題は別でございますが、憲法二十九条三項ということを御引用になりましたその点については、私どもは憲法上の補償、法律上の補償ということにはならないのではないかというふうに解しておりま

○石橋委員 外務大臣は明確に言っているわけです。外交保護権は放棄した、個人の請求権も実質的に放棄した、こう認めておられるのですよ。だから、あなたに聞いているのではないのです。もう法律解釈はわかっておる。だから内閣、政府の責任を私は追及しているんです。法律的なことを聞いているんじゃない。とにかく所有権者の、請求権者の承認も何もなく、かってに政府が放棄するというような行為が許されるか。実質的に救済の道はないのです。回復しようとしてもその道はふさがれておるという説明までなされておるのです。
 〔委員長退席、長谷川(四)委員長代理着席〕
そうしますと、これは当然国家の利益のために国民の財産が充当されたという、こういう解釈をとらざるを得ません。賠償か賠償でないかということは争いのあるところでございましょうけれども、とにかくその中に在韓財産、日本国民の財産というものが加味されておるということは、これはもう否定できないと思う、何と言おうとも。国の利益のために個人の財産が犠牲になっているのです。当然これは補償の問題が出てくると思います。いかがですか、外務大臣。総理大臣がおいでなら総理大臣に聞きたいのですけれども。

○椎名国務大臣 個人の請求権を放棄したという表現は私は適切でないと思います。高辻法制局長官が言ったように、政府がこれを一たん握って、そしてそれを放棄した、こういうのではないのでありまして、あくまで政府が在韓請求権というものに対して外交保護権を放棄した、その結果、個人の請求権というものを主張しても向こうが取り上げない、その取り上げないという状態をいかんともできない、結論において救済することができない、こういうことになるのでありまして、私がもしそれを放棄したというような表現を使ったならば、この際訂正をいたします。
 それで、これに対する何か補償権というのが一体どうなるかということにつきましては、私は法制局長官の解釈に従いたいと思う。

○石橋委員 これは総理にお伺いしたいところなんです。あなたは先ほど、実質的に放棄したと言っていいのかと言ったら、そういうことになるとはっきりおっしゃいました。それはもう正直な答弁ですよ。外交保護権は放棄したけれども、個人の請求権は残っておると言ってみたところで、それでは韓国に対して訴訟を起こして回復しよう、その道は閉ざされている。実質的に放棄したことになる。間違いないじゃありませんか。それなのに補償の義務はないという、そういう議論は成り立たないと思います。これは総理が来てから私それでは確認をすることにいたしまして、関連の申し入れがありますから譲ります。

○長谷川(四)委員長代理 関連質問の申し出がありますので、これを許します。戸叶里子君。

○戸叶委員 先ほどの法制局長官のお答えの中で、私、どうしても納得のいかない点がございますので、はっきりさしていただきたい。それはまず第一に、韓国にあった日本人の財産は、アメリカの軍令三十三号でこれを取得されたわけです。没収はされておりません。取得をされました。しかし、その後この軍令三十三号は国際法違反であるといろことはこの場でお認めになったわけです。その後におきまして、今度はその財産というものが米韓の間の協定、一九四八年に結ばれた協定によって韓国に移譲されたわけです。五条で移譲されております。しかし、その六条においてはっきり言っていることは、法的にはっきりしている財産というものは、その人の申し出があるまでは韓国がこれを管理すると言い、さらにまた、もしも韓国と日本の間に特別の処理をきめない限りは、所有者がいれば必ずその所有者に返るということがはっきり言われているわけです。もしも特別の取りきめがあれば所有者にはいかないで済むけれども、特別の取りきめがない限りはその所有者に返るということがはっきり六条で示されてあるのです。だとするならば、先ほど法制局長官がおっしゃいましたところの在外財産は向こうの措置である、しかもこの在外財産の法的地位というものは外国の法令のもとにある、こういうことをおっしゃったわけです。そうすると、外国の法令では、はっきり米韓の問で日本人の財産というものは守られているんだ、申し出があれば正当なものは返さなければいけないのだということがきめられてあるわけです。そういうことを無視して財産権がないとおっしゃるのは私はおかしいと思うわけです。その点はっきりさしていただきたい。
 〔長谷川(四)委員長代理退席、委員長着席〕

○高辻政府委員 先ほど申し上げましたように、日本の在外財産、これはどこにあっても同じでございますが、その日本国の財産の運命と申しますか、その法的地位が当該財産の所在する外国の法制によって運命が決するということは、これは一般理論として言うまでもないところだと思います。ところで、軍令三十三号の処理の効力を承認する、この解釈問題にかかるかもしれませんが、これにつきましては、外務当局から先ほどお話がありましたような経緯を経まして、その効力を承認するということによって、日本の国民の財産については、その処理の効力を承認するということで運命がきまっておるというようなことになる、それが外交保護権の放棄そのものではあるけれども、それ自体の運命は実はそういう協定によって決せられておる、こういう解釈になるわけでございますので、結果は同じことになるんではないかと思います。

○戸叶委員 私が申し上げた質問に対してのお答えになっておりません。私がお伺いいたしましたのは、一九四八年の九月の十一日だったかと思いますが、米韓の間で協定を結んでおります。その協定の五条によって、アメリカが取得したところの財産というものを韓国に移譲したわけです。トランスファーしたわけです。没収していない。それを没収してやったんじゃないということの証明には、六条にはっきり示されてある。法的にきちんとした財産というものはしばらく預かっておいて、そして申し出があればこれを返すのだ、しばらくの間管理しておくのだということが六条にある。しかもその次にあることは、別途の特別の取りきめがない間は日本のものであるということがはっきり示されてあるのです。いいですか。そういうふうに国内の法律できまるというのですかも、向こうの国内の法律できまるというのですから、韓国はこれを知っているはずなんです。知っていたら、このとおり守ってもらったらいいじゃないですか。それとも、日本人個人とそれから韓国政府との間に特別の取りきめをしたのですか。してないはずです。個人個人がしてないはずです。

○藤崎政府委員 軍令三十三号の解釈につきましては、米国政府からも明瞭な発表があるわけでございますので、疑問の余地はないと思います。この米韓協定の第六条は、この文言にもございますように、韓国にありました戦勝国、つまり連合国の国民の財産について日本側が戦争中に何か措置をとっておって、それを日本の財産だと思って韓一国に渡しますと、連合国の国民が不利益をこうむることになりますので、その点についての注意を喚起したものでございます。

○戸叶委員 そんなことを言つちやいけませんよ。六条には何と書いてありますか。大韓民国政府へ移譲された財産は、正当な所有者が適当な時日内に返還を請求し、同所有者に返還されるまで大韓民国政府はこれを管理するとあるじゃありませんか。大韓民国政府に移譲された財産はですよ。アメリカはこのときに軍令三十三号を出したけれども、自分は間違ったことをしているということを知っているから、意識してこういうものを出しているのですよ。それで全部韓国へなすりつけているのですよ。それが一つ。
 もう一つは、私は関連ですから全部まとめて言いますが、この前私がここで指摘をいたしましたように、日本の国会におきましては、この平和条約のあとにおいてさえも岡崎さん、あるいは中川さん、あるいは高橋条約局長、日本の個人の韓国へ置いてきた財産権はあるということをはっきり言っております。私は速記を持っておりますけれども、そういうことを言っていられるはずなんです。だからそれはなぜかといえば、韓国に財産があったのだという解釈できて、そして一九六一年、池田さんと朴氏と両方でもって、こうやっていたのでは解決できないから、何とか法的地位の根拠のあるものだけにしようという話になって、その翌年、金・大平メモで政治的に解決しようというふうになったわけだと思います、歴史を見ますと。ですけれども、その間において一体いつ日本人の韓国に置いてきた財産がなくなったかということは、みなふしぎでしかたがない。うやむやのうちに消えちゃってるんですよ。いやしくも日本人の個人の財産までこういう形でうやむやにされる。しかも国会においてはあると言っておりながら、そういう形をとられるということは、これは許すべからざることであると私は考えます。

○藤崎政府委員 最初アメリカと同様の解釈をとっておりながら、日韓交渉のある段階においてこれと違った解釈をとったということは、この間戸叶委員に申し上げたとおりでございます。しかし、アメリカ解釈と同じ解釈をまたとるようになって以後において、日本政府当局の者が日本国民の財産、権利、利益がそのまま残っているとお答えしたはずはないはずであると、かように考えます。

○石橋委員 それでは、やはりいままでの外務省の国民に対する説明というものをここで少し取り上げなければ結論が出ないと思いますから、読み上げてみたいと思います。これは外務省情報文化局が出しております「世界の動き」特集号の六であります。そのまま読みます。「わが国が韓国に請求しているのは、そのうち私有財産の返還である。それは私有財産尊重の原則が、歴史的にいつの時代にも認められてきた原則であるし、また朝鮮からの引揚者の利害がこの問題と密接に結びついているからである。しかも、日本人が朝鮮に残してきた財産は、はるばるわが国から渡鮮して三十余年の長きにわたり粒々辛苦働いた汗の結晶にほかならない。」、いいですか。これは外務省の文書ですよ。途中省略します。「或る人の計算によると、終戦当時朝鮮には日本人の私有財産(すなわち国有財産や公有財産は別として、個人財産と私企業財産だけの合計)は約七百三十億円あったということである(当時は一弗は約十五円であった)。今かりに、その中の六〇パーセントがいわゆる「三十八度線」の北鮮にあり、四〇。パーセントだけが南鮮にあったと仮定して、しかもさらにその六五パーセントが戦災で滅失したと推定すると、現在韓国内には約百億円の日本人私有財産が残っている計算になる。その他にも、帳簿尻の清算などを勘定に入れると日韓相互の請求権は次のようになる。日本が韓国から受け取るべき額約一四〇億円、日本が韓国に支払うべき額約一三〇億円、差引受取額約二〇億円、そこで、かりに韓国の主張のように、日本は韓国に対し請求すべきものは一銭も無く、請求権の問題というものはもっぱら韓国が日本から受取る額の問題にすぎないということであれば、この人の計算に従えば、終戦当時の金で一二〇億円を日本が韓国に支払わなくてはならないことになる。在韓財産の一切合切をフイにした上に、さらにこのような巨額を支払うということは、わが国民の決して納得しないところであろう。」、この外務省の見解こそ現在の日本の国民の気持ちじゃないですか。これはそれじゃ、うそだというんですか。

○藤崎政府委員 ただいまお読み上げになりましたのは、昭和二十八年十月二十二日の情報文化局長の談話でございまして、これは先ほど来申し上げておりますように、日韓交渉のある段階において米国解釈とも、平和条約締結の際の国会で御説明申し上げました政府の見解とも違った、一番日本に腹一ぱいの主張を韓国との交渉の上でやっておった段階の発表でございます。いまの見解とは違います。

○石橋委員 これは外務省の当時の正式見解であるということはお認めになったから、それでいいです。
 そこで、外務大臣にお聞きするのです。この当時の外務省のこの主張、これこそはまさに日本国民感情にぴったりだということです。特に、いま熱心に運動しておられますところの引き揚げ者の諸君の気持ちにぴったりしたものがこれだということなんです。この見解がいつの時点にどのような経過を経て変化を見たのか、これがいま問題になっているのですよ。少なくともこれが筋なんです。本論なんです。しかし、それを変更せざるを得ない条件があったというならば、いつの時点、どのようなものによって解決したのか、変更があったのか。これは外務大臣が答える責務がございますよ。

○椎名国務大臣 相当日本も悲惨な敗戦を喫して立ち上がったばかりでございまして、この韓国に対するいろいろな考えというものはかなり複雑多岐なるものがあるのであって、それは一面の発露であるということは私も了解し得るのでありますが、それだけをもって今日の結末に達することはできないのであります。いろいろな角度から、この両国の長い問の歴史的関係等を考慮いたしました結果、今回の条約の調印を見たような次第であります。

○石橋委員 私、そのままこれを読み上げたわけですけれども、これが当時の外務省の態度、ここから平和条約第四条の(b)が平和条約発効の時点で解決したなんという結論がどうして出てきますか。妙な法律論にすりかえないでください。少なくとも第四条の(b)項から出てくる見解というものは、当時述べられておったこれであるはずです。それが何らかの事情で変更を見ているのです。そのことによってたくさんの引き揚げ者がたいへんな損害をこうむっておるのです。その人たちに対して親切な説明をするのは政府の責任じゃないですか。こういう理由で考えを変えたのだからしんぼうしてくれ、そのかわりほうってはおかぬ、こういう態度があってこそ政治と言えるんじゃないですか。総理が来なければ答えられないのでしたら、ここで待っていてもいいですよ。外務大臣答えられないのですか。総理大臣が来なければ。

○椎名国務大臣 いま申し上げたような状況下において、全くもう廃墟の中から立ち上がって、そうして一時は食うや食わずの状況でありましたが、だんだん立ち上がりを示してまいったのでありますが、韓国との折衝過程においていろいろな複雑な国論というものが生起したという、一つのそれはまあ断面を物語るものだと私は考えております。そういう事情もあったということを十分に考慮に入れて今回のような結論に到着したわけであります。

○石橋委員 実際の利害関係者がそれで納得いきますか。外務省が、先ほど読み上げたような態度でがんばってくれておるときこそ、ああやはり政府だ、われわれ国民のことをよく考えてくれてがんばってくれていると、感謝しております。それを、何の相談もなしにいつの間にか消えちゃった、あれは交渉のかけ引きにちょいと言うただけです、そんなことで済みますか。少なくとも、それではどの時点でどのような取りきめによってこういう考えが放棄されたのか。そこからひとつ説明してください、外務大臣。

○椎名国務大臣 米国解釈をとって、そうして一切の請求権はこれを主張しないということになったのは三十二年になってからであります。そのいきさつにつきましては条約局長から申し上げます。

○石橋委員 いいです。いいです。もう法律的にごちゃごちゃ言うとわからなくなるから、お互いにみんながわかるようにひとつやりましょう。三十二年というのは、この平和条約第四条の解釈に関する米国政府の見解を伝えた在日米国大使の口上書及び昭和三十二年十二月三十一日付日本国外務大臣と大韓民国代表部代表との間に合意された議事録のうち請求権に関係する部分、これですね。

○椎名国務大臣 さようであります。

○石橋委員 この時点で個人の財産権まで日本政府は放棄を認めた、一つはこういうことですね。そして、後段において、ただし「平和条約第四条(a)に定められているとりきめを考慮するにあたって関連があるものである。」、すなわち韓国が日本に請求しておるものと関連があるものである、こういう二つの柱にささえられた口上書であるということもお認めになりますね。

○椎名国務大臣 大体さようでございます。

○石橋委員 何で大体なんて言うんですか。そうしますと、この前段において、個人の請求権、財産権まで日本政府は放棄した、昭和三十二年の十二月三十一日のこの時点で。しかし、韓国の対日請求権との関連の上で考慮する、こういうことになった。これは明らかに日本政府はこの時点で韓国の対日請求権との相殺のために日本国民の在韓財産を振り当てたということになるじゃありませんか。それを認めたということになるじゃありませんか。その点、外務大臣いかがですか。

○椎名国務大臣 しかし、その後韓国の対日請求権というものを両国の間で突き合わせてみたのでありますが、何しろ、法律上の根拠あるいは事実関係、非常に不明確である。時間もたっており、その間に朝鮮事変というものがありまして、これをいかに追求しても結論に到着することはむずかしいというので、これはあきらめて、そうして、別に経済協力、無償・有償合わせて五億ドル、その経済協力を行なうこととともに、それと並行して対日請求権はこれを終局的に完全に消滅させるということになったのでございますから、その関連の問題はもはやなくなった。しかし、法律上の関係はありませんけれども、経済協力をするという問題にいたします際に、やはりその問題を念頭に置いて問題の処理をしたということは、これは言えるだろうと思います。

○石橋委員 そうしますと、やはり関連があるわけですね。有償・無償五億ドルという額をきめるにあたって、日本国民が朝鮮に置いてきた財産というものを十分に念頭に置いてその金額をきめた、そういう意味で関連があるわけですね。

○椎名国務大臣 関連と言うと語弊がありますが、それを念頭に置いてかような処理をした。あくまで経済協力は経済協力であります。さように解釈しております。

○石橋委員 念頭に置いてという表現を使われるわけですけれども、関連があるじゃありませんか。有償・無償合わせて五億ドルの援助をしましょうと、その金額をきめるにあたりまして、日本の国民が朝鮮に置いてきた財産というものを念頭に置いて金額をきめた、関係があるじゃありませんか。それだけの財産があそこにあったからこそ五億ドルで済んだということになるじゃありませんか。そうしますと、引き揚げ者の人たち、財産を韓国に置いてきた人たちは、自分たちの財産というものを国益に供したことになるのです。これは間違いありません、いままでの一つ一つのお答えの中からも。
 総理大臣はいま来られたので、経過を簡単に説明しますけれども、とにかく、日本の外務省としては、個人のいわゆる私有財産、朝鮮に置いてきた私有財産というものは、これはあくまで返してもらわなければいかぬという立場を主張しておられた。これは、私が外務省の文書を読んだら、そのとおり承認いたしました。この私有財産を返してくれ、こういう政府の姿勢は、すべての日本国民の共感を受ける正しい姿勢であった。それがいつの間にか変わってしまった。いつ変わったのですかと聞いたら、昭和三十二年のアメリカの大使の口上書と日本の外務大臣と韓国代表部代表との間に合意された議事録のうち請求権に関係する部分、すなわち昭和三十二年十二月三十一日のこの取りきめの時点において考えが変わった。もう請求しないということにした。個人の財産も請求しないということにした。ただし、平和条約第四条においていろいろと処理をしなくちゃならぬ。取りきめをしなくちゃならぬ。その場合に、考慮するにあたって関連があるものだ。すなわち、在韓日本国民の財産というものを頭に置いて、そうしてやりなさいということを、日本、アメリカ、韓国の三国の間で合意に達した。そうすると、少なくとも有償・無償五億ドルという金を日本が援助として、名前はどうあろうと、援助として韓国にやるという場合に、五億ドルで済んだのは、たくさんの日本人の私有財産が朝鮮にあったからだ、こういうことになる。これは間違いないかと言ったら、外務大臣は間違いないと言う。それを念頭に置いてやったと、こうおつしゃる。そうすると、在韓財産を持っておられる日本の国民としてみれば、国の利益のためにおれたちは財産をみんな出したのだから、その分だけめんどうを見てください、こう言ってくるのは筋です。そのほかに方法がないのです。もう一つの方法は、韓国に対して、韓国の裁判所に訴えて返してくれという方法があるのですが、これは実質的に不可能だという答弁も政府はしておられる。この放棄したことによって、口上書と合意議事録によって不可能になっておる。それから、向こうの国内法で不可能になっておる。断然日本政府に補償の義務が私は生ずると思います。これはいま在外財産問題審議会で審議しておることは、私百も承知です。しかし、少なくとも政府としては、何とかしなくちゃならぬという気持ちに立たなければ、これは国民は納得しない。特に引き揚げ者は納得しないということを申し上げたいのです。この点、総理大臣の決意のほどを表明していただきたいと思います。

○佐藤内閣総理大臣 韓国にあった邦人の個人の財産の問題、これは、私がちょうど不在中にいろいろ議論があったそうですか、ただいま石橋君が御理解していらっしゃるように、また外務大臣が申し上げたように、三億、二億、これは結局こういうものを念頭に置いてきまった、かように申しておる。その念頭に縫いたことが法律的な義務を生じておるかどうか、これについては、法制局長官から、憲法上の問題はないと、かように答えたと思います。私は、いわゆる法律論としての法律上の問題ではこれはないのだ、その点は明確にいままでの経緯から説明されたろうと思います。しかし、こういう問題、あるいは平和条約から見ましても在外資産につきましてはいろいろの問題が残っておるわけであります。いわゆる法律的な問題としては一応片がついておる、かように政府は考えておりますが、一般的にいわゆる在外資産をいかに処理すべきか、またどういうような実情にあるか等々につきまして、いわゆる在外財産問題審議会というものができておる、そうして、ただいまそちらのほうでいろいろ研究しておる、かような状態にあることも石橋君御承知のことだと思います。政府自身は、ただいまの法律論、法律的な問題、いわゆる憲法上の問題として処理するのではなくて、一般的な問題として、こういうものをいかにするかというその調査をまずして、そうして、その結論を出すという態度でございます。

○椎名国務大臣 補足して申し上げますが、請求権をこれに振りかえたというような趣旨に私は申し上げたのではありません。念頭に置いて請求権問題を処理した。やはり、もと一国をなしておった韓国が独立をしたのであります。日本の財政事情も考慮しながら、新しく発足する韓国というものに対して、お祝いと言っては語弊があるが、りっぱに育つようにということで、主としてこの経済協力の問題は考えられておる。
 私が申し上げたいのは、第二次大戦後に旧植民地がずいぶん分離いたしました。そうして新しい独立国となったその際に旧宗主国がどういうことをやっておるかということを、私はこの際御参考までに申し上げてみたいと思います。
 イギリスでありますが、旧英領諸国の独立に際して行なった援助がまずあげられると思うのであります。すなわち、イギリスは、これら諸国の独立の際に、経済開発援助その他の資金供与などによりまして、これまで十二ヵ国に対して合計約十四億ポンド、三十九億ドル、約四十億ドルの援助を行なったのでありますが、このうち大きなものとしては、インドに対する十億四千万ポンド、パキスタンに対する一億二千万ポンド、セイロンに対する一億ポンド、ケニアに対する五千万ポンド等がおもなるものでございます。
 それから、このほか、フランスの旧仏領諸国の独立にあたって、それらの国との長期的経済友好関係の維持継続をはかるために経済協力協定を締結いたしたのでありますが、これらの協定には資金協力を約束したものが多い。フランスが独立した旧仏領諸国に対して一九六〇年から一九六三年までに供与した援助額は二十一億ドルに達しておる、こういう状況であります。この点を御参考までに申し上げておきます。

○石橋委員 私はもう資料を持っています。聞きもせぬことを長々とおやりになる。肝心なことはあんまり言わぬ。あなたのほうでお出しになっております「日韓予備交渉において両首席代表間に大綱につき意見一致を見ている請求権問題の解決方式、昭和三十九年十二月十日」、これを見ても、はっきり書いてあるじゃないですか。三億ドル、二億ドルというものをきめたときに、「上記無償、有償の経済協力の供与の随伴的な結果として、平和条約第四条に基づく請求権の問題も同時に最終的に解決し、もはや存在しなくなることが日韓間で確認される。」、もう相殺していることははっきりしているのですよ。
 そこで、総理大臣に最後にこの問題についてお尋ねしておきたいことは、この問題は、本来ならば直接政府が判断をして対処すべき問題であったと私は思います。しかし、いまはもう審議会にかけておる。その審議会が補償すべしという結論を出した場合には、必ずこれを実行される、このことを声明なさらないと、関連を持っておる方々はこの条約、協定に非常に不安を持っておりますから、ぜひひとつ言明しておいていただきたいと思います。

○佐藤内閣総理大臣 もちろん、審議会の答申といいますか、あるいはその調査の結果につきましては、これは尊重したいと思います。尊重しなければならない、かように思います。そういう場合に、政府は政府の責任においてこれを処理していくという態度でございます。

○石橋委員 それじゃ、問題を移します。
 いままでいろいろと質疑をいたしました。その中でも何度も総理はおっしゃっておられるわけですが、日本政府としては南北朝鮮の統一を妨害するとか阻害するとかいうようなことは毛頭考えておらぬ、こういうことをしきりに力説しておられます。しかし、そういうことばの裏で、朝鮮民主主義人民共和国を法律的に無視すると言われるならば、それはもうそのとおりだということも言っておられます。それから、質疑の中でも、実際には北の国というものを交えなければ完全に処理できないような問題がありながら、韓国との間だけで何とかしてしまおうというような問題のあることもはっきりしてまいりました。とにかく、この条約が発効すれば、日本と北のほうの部分の国とうまくいく条件というものは、どう見てもないわけです。悪化する条件があっても、これが今後はよくなるだろうというような、そういう見通しを持つことは全然できないと思います。現に、韓国のほうでは、韓国の総理大臣はどんなことを言っているかというと、ずいぶんひどいことを言っているのですよ。「韓日国交が正常化されたことによって、わが政府や国家全体が力を合わせ、北韓の外交関係を結ぶのを積極的に防ぐべきであり、また、通商が増加するのを、われわれが優先権を握ってこれを妨害するのに最善を尽くすべきであり、また、文化的に交流するのを、われわれが最善を尽くして防ぐべきである。」、これは丁一権総理が八月十四日の韓国の本会議で述べたことばであります。ほかの部分も、私、たくさんここに控えてきております。向こうのほうでは、とにかく、この日韓条約が発効したら、日本と北鮮の間というものを何が何でも妨害するのだ、こういうことを言っている事実というものは御承知でございますか。総理が、南北統一ということをじゃましようとか妨害しようとかいう気持ちは毛頭ないということを何度もおっしゃっておるので、それでは、向こう側はこう言っておりますが、御承知ですかと、こう総理にお尋ねしておるわけです。

○佐藤内閣総理大臣 いま丁一権総理がどうしゃべったというようなお話でございます。また、金日成がどういうようにしゃべったというようなことも新聞で伝えておりますが、これはまあ外国の問題ですから、あまりとやかく詮議しないほうがいいのだと私は思います。私は、ただいまお尋ねになりました韓国、朝鮮の単一国家、この実現を――まあ石橋君もそういうものが出現することをこれは希望しておられることだと思います。私もそれを希望しておるのですが、今回の条約自身は、御承知のように、北の部分についてはこの条約では何も取りきめてない。これは先ほど来のお話で非常に明らかになったと思う。私はしばしば申し上げるのだが、北鮮の部分はこれは白紙でございます。今回そういうことについては何ら取りきめをいたしておりませんということを申し上げておりますが、ただいまのお話から、もしも北と、それから韓国と、両方を承認しろというような御議論でありますならば、それこそこの単一国家の実現をはばむものじゃないか、私はそれを非常に心配する。だから、ただいま単一国家の実現を心から願っておるというその立場におきまして、どういう処置をとるのがいいのか、これが、ただいま言われるように、韓国を承認するのか、あるいは北を承認するのか、こういうことで石橋君の話も変わった結論になるのじゃないか、私はかように思います。私どもが韓国を承認するという、これはもう最初から平和条約以来ずっと交渉相手にしておる。ところが、北を承認した二十三ヵ国ですか、これらの国々は、北を相手にして交渉して、そして韓国を相手にしておらない。だから、この点をはっきり明確にしておかないと、ただいまるる御説明になりましたが、私どもが南北の統一をはばむものでない、このこととも関連のあるものでございますし、また、どういう立場において日本がただいまの韓国と交渉を持つか、また、北の部分についてどういう考え方を持っておるか、これの理解がなかなかいきにくいだろうと、かように思いますので、よけいなことだったと思いますが、お答えしておきます。

○石橋委員 私は、総理が南北の統一をほんとうに願うというならば、この際、統一の方式などというものはあまり条件となさらないほうがいいのじゃないかと思うのです。必ず国連方式ということをおっしゃるのですけれども、朝鮮の問題に関しては、国連は戦争の当事者なんです。こういう条件のあることを念頭に置かれないと、国連方式で統一ということをしいることは、これは実現不可能ということにもなりかねぬわけです。だから、ほんとうに統一がいいのだ、希望しているのだというならば、国連方式などということを言わないで、話し合いによる平和的な方法でやるならばいかなる方法でもいい、統一してもらいたいという気持ちを持っている、こうお考えになりませんか。それならば一致します。

○佐藤内閣総理大臣 残念ながら石橋君の御意見に同意するわけにまいりません。私は国連を引き合いに出したと、かように申されるが、国連こそはこの世界における唯一の平和機構でございます。だから、やはり国連方式。また、国連自身が権威を持っておる。その立場から見ますと、この国連方式というものは、ただ単に参考にすべきようなものでなしに、これはやはり、これを採用するかしないかということは重大な問題だ、かように私は思っております。

○石橋委員 これは、幾ら言っても、意見の違うということを総理おっしゃっているのですから、これ以上申しません。
 そうしますと、今度の日韓会談、日韓条約、諸協定の成立というものは、決して軍事的な要素を持っておらぬという、そういう御説明に対して、私はお尋ねをいろいろしてみたいと思うのです。
 まず第一に、これまた、韓国のほうではことごとに、反共体制の確立、これができるのだということを言っております。これも私たくさんここに控えてきておりますが、長くなりますから、韓日会談白書の一番最後の結論のところだけ読みましょう。「韓日間の国交正常化は、単にわれわれにだけ関係のあることではなく、激動する国際情勢、とくに極東における反共堡塁を強化するために是が非でも実現すべき命題であることにかんがみ、当事国である日本を初め、アメリカ、ひいてはドイツ等の自由友邦諸国のこれに対する要請も高まっている。同時に韓日間の国交正常化によって、韓、米、日の三角関係の連帯を強化して、国際的な経済協力体制を促進させ、国家的には勝共統一のための自立経済体制の確立と経済的繁栄を成就する基礎が築かれるということは、誰も否認出来ない事実である。」、こういうふうに明確に言っております。国会におきます丁一権総理、李東元外務大臣、一貫してこういう立場をとって説明をしておられます。反共堡塁、あるいは日本の経済援助によって韓国の力が強くなって、勝共統一ができる、こういう考え方を韓国のほうでは終始主張し続けておるわけです。日本側では否定しておりますけれども、向こうでは堂々と述べておりす。
 とにかく、ここで言いたいことは、いま世界の焦点はアジアです、私に言わせれば、ことしはアジアの年です。残念ながら、いい意味じゃないんです。世界じゅうの紛争がアジアであっちこっちで火をふいている。まことに情けない状態ではございますが、そういう意味でのアジアの年です。その危機は一体何が原因か。たどっていけば、結局アメリカと中国というものが出てまいります。そして、このアメリカにつながる軍事同盟を持った国として韓国が浮かび上がってきます。台湾が浮かび上がってまいります。日本が浮かび上がってまいります。東の共産の側もそういうことになります。この中でも特に、本来ならば一つの国であるべきところが大国の恣意によって不自然に分割されておるという部分が最も危機的要素を多く持っております。朝鮮であり、ベトナムであり、台湾です。非常に対立が激しい。その対立の激しいところで日本はどちらを支持していますか。どちらと結んでおりますか。これはもう明々白々です。対立する大きな二つの力の中にあって、日本は片一方の陣営のアメリカと安保条約を結んでいるのです。韓国もアメリカと軍事条約を結んでいるのです。台湾も結んでいるのです。この白書にもいわれておるように、ここで三つの国が軍事的にも結束を囲めることができた、こう言うのも決してゆえなきことではないかと私は思います。時間が急がれておりますから、私は、その点では意見を述べるにとどめて、質問に入ります。
 八月十日の韓国の特別委員会におきまして、丁一権総理は、「韓国に駐とんしている国連軍は国連決議によって派遣されており、また再び南侵があるときには即時自動的に報復をしなければならない義務を持っている」こう述べておりますが、これは間違いない、こう判断されますか。

○佐藤内閣総理大臣 いまのお尋ねになりましたことは、これは、国連軍の韓国に駐留している目的が、南侵があればこれを守るということ、こういうことだと思います。
 ただ、先ほどの問題で、少し誤解を受けると困りますから、一言私は、お尋ねではございませんが、お答えしておきたい。それは、いわゆる反共体制ということばです。反共体制――なるほど私は共産党はきらいなんだから、そういう意味で、いつも申し上げるように、日本の国は民主主義で、そして自由主義で、この国をりっぱにするんだということをいつも言っておる。だから、私は、そういう意味で反共だといわれることはたいへん光栄に思う。ただ、問題になりますのは、反共体制ということでなしに、反共軍事体制というのが問題なんです。軍事という二字があるかないかでたいへん違ってくるのです。だから、国民自身は、先ほど来言われる反共体制というそのことばの中に、軍事という、反共軍事体制、こういうことに誤解をされないことを私は希望するのです。しばしば社会党の方は、いわゆる軍事的に入るんだ、かように言われますが、それならば、諸君がしばしば主張するところの日本の憲法はどうなさるのですか。日本の憲法は、はっきり、紛争を武力解決しないのだ、戦争を放棄したんだ、こういうことをいっているじゃないですか。また、自衛隊法は、はっきり自衛隊の目的というものを明確にしておる。こういう法律があるにかかわらず、特に軍事体制、かようなことばを使われることは――軍事体制は使われないが、それと開き間違うような、いわゆる反共体制ということばで、そうしてこれを軍事体制に結びつけられることは、私はごめんこうむりたいのです。国民は十分この点を明確にして理解してもらいたい。だから、同じように石橋君が習われるけれども、私はそこは違っておる。私は共産党はきらいだけれども、いわゆる反共軍事体制、そういうものはつくっておらない。はっきり申し上げます。

○石橋委員 それでは、いま私が丁一権総理のことばをそのまま用いまして、このとおりかと言ったら、このとおりだとおっしゃったわけですが、問題は、またそのあとにこういうのがあるのです。「日本が国連における自由陣営国家の一員であるならば、国連軍のワクの中で、継続してこのような事態が到来するならば貢献するものと予想されます。」こういうことを言っております。すなわち、再び南侵があったら、韓国におる国連軍は直ちに自動的に義務を果たす、その場合に日本は、国連支持であり、自由主義陣営の一国であるから、この国連軍のワクの中で、継続してこのような事態が到来するならば貢献するものと予想されると言っておりますが、この点についてはいかがお考えですか。

○佐藤内閣総理大臣 いまの国連軍に協力するということが、軍事的にのみ、あるいは派兵するとか、こういうように考えていらっしゃったら、日本は憲法並びに自衛隊法でさようなことはございませんから、派兵はいたさないということがわかるわけです。ただいま、国連に協力というような意味では一体どうなのかということですが、いわゆる吉田・アチソン協定、覚え書きですか、交換公文、さらにまた、それを受けた岸・ハーター交換公文というようなものがある。こういうことで、いわゆる軍事的な積極的な派兵というような問題ではございませんが、その他の事柄におきまして、私どもが国連の目的遂行に容易なように協力することはあり得る、かように理解していただきたいと思います。

○石橋委員 憲法があるから海外派兵なんかあり得ないとおっしゃいましたが、従来の政府の説明を思い出していただきたいと思います。自衛隊の海外派兵は憲法上できないけれども、国連軍として活動する場合は別である、このように林法制局長官は答弁しておりますよ。また変わったんですか。

○高辻政府委員 お答え申し上げます。
 この国連軍の協力の問題でございますが、国連軍という場合にはいろいろな形のものがあることは御承知のとおりでありますが、武力の行使にわたる面であれば、これはむろん憲法九条の容認するところでないことは確かでございます。同時にまた、武力の行使の面に全くわたらないという場合には、理論の問題としてはあり得ると思いますけれども、やはり、南侵の場合にどうするというようなことになれば、これは武力の行使を切り離しては考えられないと思いますので、先ほど総理が仰せになりましたように、憲法九条はこれを許さないということになると思います。

○石橋委員 この点については、椎名外務大臣が、九月の二十三日、ニューヨークの記者会見において、「平和維持のための国連活動に自衛隊を海外に出すことをただいま検討中である」、こういうことを言ったというのが日本の新聞には載ったんです。しかも、昭和三十五年の四月二十八日の安保特別委員会におきまして、先ほど申し上げたように、林法制局長官は、全然国連軍として自衛隊が出ていく場合は別問題だと言っているんですよ。何だったら読んでみましょうか。当時の会議録の三二ぺ-ジを開いてください。「かつて石橋委員にも私お答えしたことがございますが、いわゆる国連の決議あるいは国連軍あるいは国連警察軍という問題と海外派兵という問題は、これはおのずから私は別問題だ、これは私は可能だとは必ずしも申しませんけれども、いわゆる海外派兵の問題とは別問題として考えるべき問題である、かように考えております。」、はっきり言っていますよ。だから、全然封じられていないんです、国連軍としての活動は。純然たる海外派兵というものと区分けして、国連軍として自衛隊が動くという場合には何か幅があるんです。このことだけは間違いないわけですね。これは私、総理大臣にお伺いしておきます。

○佐藤内閣総理大臣 先ほど来申し上げておるように、いわゆる法律論が――あなた、法律的な議論をお聞きになりましても、これじゃなかなか満足されぬのか知りませんが、それよりも、私ども、実際問題としていかにこういう場合に処理するかということが政治家として一番大事なことなんです。私が先ほど来申し上げておるのは、法律論がどうあろうと、また、先ほど来法制局長官も申しておりますように、いわゆる軍事行動、戦闘行為はやらない、そういう場合はちょっと違うというような議論で、私はだいぶん話が違うと思っておりますがね。

○石橋委員 瞬間を非常に急いでいるようですから、それじゃ、もう一つお伺いします。
 先ほど、南侵が始まったら自動的に在韓国連軍は報復行動を起こすとおっしゃいましたが、その場合には戦場は朝鮮に限らぬということが国連軍によって声明されておることを御承知でしょうね、総理大臣。

○佐藤内閣総理大臣 私はちょっとそれを記憶しておりませんので、事務当局から説明させます。

○石橋委員 先ほど簡単にお認めになりましたけれども、非常に重要な意味を持っているんです。私は北鮮のほうが南に侵入してくるかどうか知りません。しかし、とにかく、そういう名目であろうと何であろうと、北が南に侵入してきた、その場合は在韓国連軍は直ちに発動できるように、行動できるように、毎年、毎回国連決議をやっております。そのことはお認めになりました。しかも、その場合は戦場は朝鮮半島に限らぬぞということを国連軍は言明しているのですよ。外務大臣、知っていますか。防衛庁長官、知っておりますか。これほどの重要なことをだれも知らないとは言えないはずです。知っている方はひとつお答えください。

○椎名国務大臣 どこでどういうふうにきまっているのか、私は知りません。

○石橋委員 かくも重要なことを知らないでは、朝鮮問題に対処できないんです。それでは紹介いたします。これは、朝鮮戦争が、休戦協定が結ばれて停戦になりました。そのときに、当時朝鮮に派兵をいたしました十六ヵ国がワシントンにおきまして共同政策宣言を発表しているわけです。一九五三年七月二十七日のことであります。朝鮮休戦に関する十六ヵ国の共同政策宣言、私はここに持っていますけれども、時間をとりますから主要な部分についてのみ読み上げますと「われわれは、国際連合の原則に挑戦する武力攻撃が再発する場合には、世界平和のために再び団結し、急速にこれに対抗することを確認する。このような休戦協定の違反は重大な結果を招くものであるゆえに、戦闘行為を朝鮮国境内に同根することは不可能となろう。」こういう声明をしているんですよ。しかも、だれも知らないんです。すなわち、今度朝鮮で戦争が起きるようなことになったならば、朝鮮から越えて中国の中に入っていく。休戦のそのときに共同宣言をやっているんです。これほど重要な問題だということを、これこそ念頭に置いておいてください。こんなことも知らないで、簡単に、南侵があれば在韓国連軍が動くのは当然です、日本もある程度の協力をするのは当然です、そんなことを言うから国民が心配するんですよ。

○椎名国務大臣 ただ、具体的にどこでどういうふうにきまったかということは知りませんでしたが、いまお読みになったことはここにありますが、これは当然のことだろうと思う。世界の、この極東の平和というものが脅かされる場合には、これに有効に対処するということは当然のことだと思います。

○石橋委員 今度あなた方の言う北鮮が南侵してきたら、国連軍が直ちにこれに対抗する、そのときは朝鮮国境を越えて中国に行くのが当然だという。ほんとうですか。

○椎名国務大臣 まあ、そういう場合には、戦局が発展して、この地域だけの軍事行動では済まされなくなるかもしらぬという政治的な見解をここに示しておるのである。でありますから、相手の出方がおとなしければ適当にやる。それから、なお平和と安全が脅威されるならば、それに対して有効な方法をとるということになるのであります。ただ、この場合は、あくまで防衛的な態度でこの問題を論じておる。

○石橋委員 この点について、鹿島守之助さんが訳した「アメリカと極東」という書籍の中に、シャノン・マキューンが解説をした文があります。そこにもはっきりと、戦争は朝鮮半島から中国本土にまで拡大することになる、そういう意味だという解説が加わっておるということを申し添えておきます。
 それでは、次に最後の質問をいたします。韓国では、軍隊を出動してデモを鎮圧し、言論を封殺し、そして国会においては憲法違反の単独採決をやって、この条約、諸協定の批准を強行いたしました。日本におきましても、十月十二日のデモに対する警察官の態度などというものは、はるかに警備の限界を越えておるということが問題になりました。私は、ここで重大な警告をしておきたいと思います。
 〔発言する者多し〕

○安藤委員長 御静粛に願います。

○石橋委員 警察は、中立公正、不偏不党、こういう立場を貫いていかなくちゃならない、これはもう厳然たることだと思うのです。警察法の第二条第二項を引き合いに出すまでもなく、第三条を引き合いに出すまでもなく、不偏不党、公平中正ということは、これは警察の生命だと私は思います。この警察が、生命ともいうべき中立性を放棄して、特定の政党に奉仕して走狗となり下がるようなことがあったら、たいへんだと私は思います。そういう意味合いにおきまして、これからもデモなどが盛んに行なわれるわけですけれども、厳正中正な立場で警察は行動をしておるし、今後もするということを、国家公安委員長は言明できますか。

○永山国務大臣 厳正公平に、中正に、不偏不党でやる考えでございます。

○石橋委員 それでは、警察官が警察の組織を利用いたしまして特定の政党のために働いたという事実があった場合には、所定の手続をとって厳重に措置をすると確約できますか。

○永山国務大臣 警察官の行為に不当なることがありましたときには、厳重に処断をいたします。

○石橋委員 それでは、私は具体的な例をここで申し上げます。
 長崎県警察本部です。これは毎日佐世保警察署その他の署に逓送車を出して公文書などを発送いたしております。聞くところによりますと、それはまことに厳重なものだそうです。カバンにはかぎもかかっているそうです。これを毎日県警本部から佐世保の署に運んでおるそうであります。そして、長崎県には松浦署というのがございます。この松浦署からは、月水金、一週間に三回、松浦署あての分を佐世保署まで取りに行くことになっておるそうです。ところが、十月二十九日の金曜日、松浦署が受け取った逓送物の中に、自由新聞第二号十五部、第三号十五部が入っておったのであります。いいですか。警察の組織を通じて警察官が自由新聞を扱っているのです。しかも、この二号と三号というのは、社会党に対する誹謗の限りを尽くしております。いいですか。「社会党の反対理由はウソだ」、「大衆は国交回復強く期待」、「判明した社会党の脚本」、とにかく、自由民主党の機関紙が警察の組織を通じて警察官の手によって運ばれて、しかも署内においてこれを配付しておる、こういう事実があります。これに対してどういう御意見を持っておられますか。必要があれば名前もみんな発表します。

○永山国務大臣 内容については私もよく承っておりませんが、まあ、アカハタでも、その他いろいろの新聞を警察官も見ることはあるように考えております。内容については、またよく調べてみます。

○石橋委員 私は前提を申し上げているのです。警察官が警察の組織を通じて特定の政党の新聞を配達し、配付しておる、そういうことが許されるのですか。それじゃ、社会新報やアカハタを県警本部に持って行ったらやってくれますか。

○永山国務大臣 執務資料としていろいろなものを読んでおるようなことはあると存じます。

○石橋委員 私は、警察官が自由新聞を読まれることはかってですよ。自民党の方が警察官に渡すこともかってですよ。そんなことを何も言っていません。県警本部が逓送車をもって運搬をして、そうして末端の警察署まで運んで、そこで警察の幹部が配付をするというようなことが許されますかと聞いているのです。

○永山国務大臣 その具体的事実については聞き及んでおりません。

○石橋委員 総理大臣もいまの一問一答を聞いておられたと思います。私は、必要があれば名前も全部出そうと思います。とにかく、県警本部が警察の機能を利用いたしまして、そして自由新聞を――これは発行所は自民党の本部です。自由新聞を運搬し、配付していることが確認されているのです。こういうことが許されますか。いかがお考えです。

○佐藤内閣総理大臣 先ほど来永山公安委員長が、執務資料としてとっている、そういうものがある、こういうようなお話ですが、これはまあ公安委員長にまかしておけばいいように私は思っておりますので、私は直接これにタッチしません。

○石橋委員 少なくとも、この問題は私は非常に重要だと思います。重要だと思います。というのは、いま出ておりますのは一警察署の問題ですけれども、しかし、少なくとも県警本部から来ておると、こう言っているのです。そうすると、長崎県警に限らず、全国的に各県の県警を通じてやったのではなかろうかという疑いすら出てくるのですよ。もしそういうことをやるとするならば、これは自由民主党が、広報責任者かだれかがそういうことを依頼したということも考えられるのです。長崎県だけならば、自民党の長崎県連が、あるいは特定の自民党党員なり支持者なりが県警に頼んだ、そういうことも考えられます。とにかく、一つの政党の利益のために、公正なるべき警察官が動くということは、これは許されない。この許されないということだけでも表明できませんか。名前を言わなければ言えませんか。

○佐藤内閣総理大臣 お答えいたします。
 だいぶん事実を独断していらっしゃるようですが、私も、この事実はよく調べないとわからないだろう、先ほど来公安委員長も、全然これは扱わないと言っているわけじゃないので、公安委員長にまかしてある、私はかように申し上げているのです。

○石橋委員 私は、この問題は、警察の中立、警察官の中立性の維持という面で非常に重要な意味を持っていると思います。(「それなら名前を言え」と呼ぶ者あり)よし、それじゃ言う。佐世保署から松浦署まで運搬した者は、事務吏員の寺尾四十重という人であります。松浦署内において配付の任に当たった人は、松浦署次長の藤田茂美という警部の人です。私は、これらの人と県警本部長とを証人として喚問していただくことを要求いたします。

○安藤委員長 石橋君に申し上げます。
 ただいまの証人喚問の件につきましては、後刻理事会において御協議申し上げることにいたします。

○石橋委員 それでは、私は質問を終わります。

○安藤委員長 本日の会議はこの程度にとどめ、次会は公報をもってお知らせすることといたします。
 理事の方はお残りを願います。
 これにて散会いたします。
 午後六時十四分散会

 第050回国会 衆議院本会議 第9号 昭和四十年十一月九日(火曜日)

【発言順】
 議長 船田 中
 議員 楢崎 弥之助
 議員 西村 関一
 議員 帆足 計
 
○議長(船田中君) ただいまの投票中、井岡大治君が親指にけがをせられた事実があります。遺憾なことでありますから、実情を調査した上で、議長において処置いたします。
     ――――◇―――――
 外務大臣椎名悦三郎君不信任決議案(山本幸一君外四名提出)
(委員会審査省略要求案件)

○議長(船田中君) 山本幸一君外四名から、外務大臣椎名悦三郎君不信任決議案が提出されました。
 本決議案は、提出者の要求のとおり委員会の審査を省略して、議事日程に追加するに御異議ありませんか。
 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○議長(船田中君) 御異議なしと認めます。よって、日程は追加せられました。
 外務大臣椎名悦三郎君不信任決議案を議題といたします。

○議長(船田中君) 提出者の趣旨弁明を許します。楢崎弥之助君。
 〔楢崎弥之助君登壇〕

○楢崎弥之助君 私は、日本社会党を代表し、ただいま上程されました椎名外務大臣不信任決議案の趣旨説明を行ないたいと存じます。(拍手)
 まず、案文を朗読いたします。
 外務大臣椎名悦三郎君不信任決議案
 本院は、外務大臣椎名悦三郎君を信任せず。
 右決議する。
  〔拍手〕
 以下、その理由を申し上げます。
 理 由

 一、椎名外相は、日韓両国民の多数の反対をおしきって日韓条約の調印を実際に行なった最大の責任者である。
 日韓条約は南北両朝鮮の統一を阻害し、実質上の東北アジア軍事同盟の結成となり、日本独占資本の経済侵略をもたらし、かえって日韓両民族の真の友好を妨げるものである。
 しかも権名外相は条約が管轄権の範囲、李ライン、貿易問題など条約の基本的な重要事項について両国政府の間に全く意見の一致をみていないことを知りながら、これを国民にかくし、あえて調印を行なった最大の責任者である。

 一、椎名外相は一貫してアメリカ追随の外交に終始し、中国の国連代表権を否定し、吉田書簡問題にみられるように日中の国交回復、交流を阻害し、原潜寄港を許し、沖繩の軍事基地化を強め、アメリカのベトナム侵略戦争に協力するなど、日本の国民的利益と、アジアの平和に重大な障害を与えている。

 一、椎名外相はこれまでの国会審議を通じて明らかなように、外交上の定見がなく、外務大臣としての資格にかけるばかりでなく、国会におけるその答弁態度は、全く無責任、不真面目きわまるものである。
 これが本決議案を提出する理由である。

 さらに、私は、以下その理由を詳しく述べたいと思います。
 ときあたかも朝鮮戦争においてアメリカ軍の敗色が決定的となった一九五一年、すなわち、昭和二十六年十月九日、GHQ外交局長シーボルトの要請により開始された日韓会談は、十五年を経過した今日、まさにベトナム戦争においてアメリカ軍がどろ沼に足を突っ込み、抜き差しならない状態におちいったまさにこの時期に批准が強行されようとしております。朝鮮からベトナムへ、戦争に始まり、戦争の中で批准を待つ。この日韓条約の姿ほどその本質とその宿命を如実に物語るものはないといわねばなりません。 (拍手)
 同時に、締約国たる日韓両国のこの条約に対する取り扱いは一体どうであったでしょうか。
 まず、韓国のほうはどうか。朴政権は世論の総反撃にゆらぎながら、去る八月十四日、韓国の国会で野党欠席のまま売国与党の単独採決というファッショ的な手段で批准を強行したのであります。すなわち、韓国批准国会の特別委員会で質問が始まったのが八月五日夜からでありました。そして十一日夜、基本関係条約についての質問が終わり、在日韓国人の法的地位問題に移ったばかりのところで、突如与党は採決一分間という一方的な奇襲をもって特別委員会における採決を強行したのであります。この間、実質審議が行なわれたのはわずか二日間にすぎませんでした。さらに翌十三日には、与党議員と二人の無所属議員だけの変則国会で、もう一つの懸案でありました南ベトナムヘの戦闘部隊増派の可決を強行し、翌十四日同じく一党国会で、ついにおくめんもなく日韓条約の批准を強行したわけであります。まことに日本の政府・自民党も顔負けするほどのみごとな早わざであり、朴正煕が政治の舞台に登場してきた一九六一年五月十六日の軍事クーデターをまざまざと思い起こさせるほどのものでありました。
 しかも、これに反対する学生デモに対して、警官の暴行だけではあきたらず、八月二十五日、ついに朴政権は軍隊を出動させ、翌二十六日衛戌令を発動して徹底的な弾圧に乗り出したのであります。駐韓国連軍司令官がこの措置を承認したからであります。韓国における国連軍は、その沿革において国連憲章の規定と精神からはるかに遠く離れ、いかに変態的なものであるにしても、いやしくも国連軍という名を冠したものであります。いかにアメリカがベトナム戦争でベトコンからほんろうされて頭にきているとはいえ、韓国において、ベトコンと違い、何の武器も持たず素手でデモをしておる学生運動に対し、武力による弾圧を国連軍の名において承認したという事実は、国連の前途にとってまことに重大な意味を持つというべきでありましょう。(拍手)国連、国連と、国連を神さまのようにしている佐藤総理と椎名外相は一体この事実を何とごらんになりますか。
 ところが、おそれ入ったことがあります。九月に自民党広報委員会で出しました「日韓に新時代」というPR用のパンフレットでは、この韓国の強行批准について以下のようなことを言っているのであります。「韓国における反対運動は、当初から相当はげしいものでした。それは、屈辱外交あるいは売国外交であるという考え方に立っての反対論であったのです。そういう激烈な反対の声の中で、朴正煕大統領とその政府は、断乎所信に向って、国会承認にまでこぎつけたのです。朴大統領のこの識見と気概があったればこそ、韓国民の激情をおさえ、日韓友好への足歩を早めることができたといえましょう。われわれは、韓国国会の批准案採決を祝福するとともに韓国政府の、こうした真の祖国愛に深く敬意を表したいと思います。」と、PR用のパンフレットは言っておるのであります。
 これは全く聞き捨てのならない考え方であります。朴政権与党の単独採決という暴挙を、こんなにまで祝福し、反対運動を軍隊まで出動させて、事実上の戒厳令下に国民を弾圧している朴正煕政権が、佐藤内閣・自民党にとっては深く敬意を表さなければならない政府に見えるというのであります。(拍手)これはきわめて危険なファシズムの思想といわなければなりません。だからこそ政府・自民党は、祝福し敬意を表しておる朴政権のやり方と同じやり方で、日本の国会においても、ついに去る六日ペテンと暴力で一方的に特別委員会におけるわが党の質問を打ち切り、採決が行なわれてもいない日韓条約諸案件を本日の本会議で強行通過せしめようとしているのであります。
 しかも、どうですか。一昨日の日曜日に、私ども社会党がこの政府・自民党の暴挙を国民に訴えるために、都内各駅頭で街頭演説を行ないますと、各地とも日の丸をつけた右翼暴力団、あるいは自民党学生部なる雇い兵のニュースカーによって悪質な妨害を受けたのであります。あなた方自民党が、去る九月九日と十八日の二回にわたり、都内日本橋の料亭水光苑に、警視庁暴力取り締まり本部のリストに載っておる右翼暴力団を集め、自民党広報委員長山手滿男代議士が特に出席をして協力を頼んだという事実は、すでに明らかになっているところであります。(拍手)
 かくして、国会の中においては数の暴力をもってわれわれ野党の質問の口をふさぎ、さらにまた、本日は本院議長もその自民党に同調して、われわれの権利たる発言時間を制限するがごときは、全くファシズム的行為といわなければなりません。(拍手)国会の中においてもしかり、国会の外にあっては、暴力団とスクラムを組んで、国民に対するわれわれの訴えを妨害する。これがはたして選挙によって選ばれた議員によってつくられておる政府・与党のすることでありましょうか。(拍手)このようなファッショ的佐藤内閣と自民党に、今日を生きる国民と、やがて生まれてくる若き日本民族の将来の運命を左右するこの重大な条約の成否をどうしてまかせることができるでありましょうか。
 椎名外務大臣、あなたはこの危険な日韓条約諸案件の総仕上げをして、調印をし、本第五十回臨時国会において、去る十月二十一日本院でみずから批准のための趣旨説明を行ないました。あなたの責任はまことに重大であります。以下、私は本条約案の本質と内容を通じて、あなたの外交方針の無定見と反動性を明白にし、あなたの外交能力の無能さをもあわせ、その責任を追及せんとするものであります。(拍手)
 まず第一に、あなたが今国会に承認を求めるためにお出しになっている日韓条約案は、一体条約なんでありましょうか、私どもから見れば、日韓会談の中間報告をまとめた一片の紙きれにすぎないように思われるのであります。なぜならば、意思の合致、合意の成立が条約の必須の要件であることぐらいは、外務大臣ともあろう人が御存じないはずはないと思うからであります。ところが、どうでありますか。特別委員会で審議にちょっと入っただけで、重要な問題点について日韓両国の解釈が百八十度違っていることが明白になってまいりました。
 佐藤内閣と朴政権は、日韓条約に調印しておきながら、調印が終わったとたんに、合意したはずの内容に食い違いができて、まるっきり違う解釈をそれぞれの国民に対して宣伝し合ってきました。まるでお互いに国民をうまくごまかすことまで協定を結んできたのではないかと錯覚を起こすほどの巧みなごまかし合戦であります。(拍手)しかも、解釈の相違に対してどちらの国かが抗議をしたということも、ついぞ聞いたことがありません。まことにおかしな話であります。これでは日韓双方がお互いに都合のいいように自国の国民に宣伝し、ごまかすことを暗々裏に合意しているのだと勘ぐられてもしかたがないではありませんか。解釈が違っていれば、なぜ韓国に文句を言わないのですか。佐藤内閣と朴政権がそれぞれ自国民に説明しているところで、大きく食い違っている点がいろいろとありますが、そのおもなところを両国の国会における答弁を中心にして摘出してみますと、以下のような点であります。
 まず、領土管轄権の問題であります。この条約が適用される地域は一体どこなんでしょうか。この条約適用地域を明示することは、およそ条約と名のつくものにとっては一番大切で、基本の問題ではないでしょうか。それを椎名外務大臣は、石橋質問に答えて、基本条約に適用範囲を明示することは必要ないと言うんです。幾ら日韓、日韓で夜も日もないとはいえ、頭までポンカンになってしまわれたのではないでしょうか。しかし、椎名外務大臣、あなたは名優であります。適用範囲を基本条約で明示することが必要なことぐらいおわかりになっているのです。ところが、必要とわかっていても、それを明示できない理由があるからであります。
 なぜなら、韓国には、韓国の領土は韓半島及びその付属島嶼とするという憲法があって、朝鮮民主主義人民共和国の権威を認めておりません。そこで、幾ら共産主義がおきらいといわれる佐藤総理でも、北朝鮮に一つの権威が現実に存在しているという事実を否定するわけにいかないから、三十八度線以北には政権が存在するともしないとも言っていない、例の……

○議長(船田中君) 楢崎君、時間が超過しておりますから、簡潔に願います。

○楢崎弥之助君(続) 国連総会決議第百九十五号(Ⅲ)をわざわざ引っぱり出して基本条約第三条に持ってき、ごまかしをはかったのであります。すなわち、基本条約第三条の、「韓国政府は、国連総会決議第百九十五号(Ⅲ)に明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府であることが確認される。」という点においては、日本側は、この決議の中の、「臨時朝鮮委員会が観察し、協議することのできたところの地域で、かつ、朝鮮人民の大多数が居住している部分」という表現に着目をし、韓国の領土、領域には直接触れず、ただ管轄権が休戦ライン以南にしか及ばないと説明しているだけであります。現に、佐藤総理も、椎名外務大臣も、国会答弁で、現実には北朝鮮に一つの権威が存在しており、韓国の管轄権は休戦ライン以南に限られると言っております。ところが、韓国側では、これに対し、同じ決議の中の「朝鮮における唯一のこの種の政府である」という部分を強調しているのであります。すなわち、八月五日の日韓条約批准国会特別委員会で、李東元外務部長官は、日韓基本条約で、韓国政府が朝鮮半島における唯一の合法政府であることを日本に確認させたことによって、日本が北朝鮮と外交関係を樹立する道を完全に封鎖したという見解を、はずんだ口調で……

○議長(船田中君) 楢崎君、制限時間が超過しておりますから、すみやかに結論を願います。

○楢崎弥之助君(続) 答えております。そうかと思いますと、八月十一日の参院予算委員会では、藤崎条約局長は、国連決議をそのまま引用して、その趣旨にのっとってやるということで、主権とか領土権には触れていないと答弁し、先ほど申し上げました、今国会の日韓特別委員会における椎名外務大臣の石橋質問に対する答弁となってあらわれる。言っておることがまるで食い違って混乱し、何のことかさっぱりわからないではありませんか。実際的にも、この基本条約第三条についての解釈の不一致が、他の案件に及ぼすところは実に大きいといわなければなりません。なぜなら、請求権処理の問題や、漁業専管水域あるいは在日韓国人の範囲の問題などは、韓国の管轄地域を南朝鮮の部分に限定するかしないかで、実際の取り扱いは大きく違ってこざるを得ないからであります。(拍手)このようなあいまいな国連総会決議第百九十五号(Ⅲ)が、日韓基本条約の一番基礎だというのでありますから、また何をか言わんやであります。
 次に、基本条約の解釈で両国の見解が対立しているもう一つの問題は、第二条であります。すなわち、旧条約失効の時期についてであります。朝鮮を日本が植民地化した日韓併合条約などの旧条約をどう扱うかという問題でありますが、条文には、いつから無効であるのか、時期が明記されてはおらず、ただ、すべて「もはや無効である」と……

○議長(船田中君) 楢崎君、すみやかに結論を願います。

○楢崎弥之助君(続) 規定しただけで、どんなにでも解釈できるようになっているわけであります。この種の条約としては、きわめて異例であり、あいまいであります。そこで朴政権は、初めから無効であったという主張を固守し、貫いているのであります。これに対し、椎名外務大臣は、併合条約は、これに反する事実が発生したとき、すなわち、韓国が独立宣言をした一九四八年八月十五日に無効になったと答弁をしております。何ともはやあいまいなことでありますが、これは、それぞれ自国向け、都合のよい解釈ができるような仕組みになっているわけであります。(拍手)ここに両政府共謀の陰謀が隠されているのであります。
 大体、日韓会談における請求権問題というのは、朝鮮が日本の植民地であった時代に受けたいろいろの朝鮮人の被害項目を補償する問題で、南朝鮮の政権だけを相手に片のつく問題ではないばかりか、それをいいかげんに捨て去って、大平・金密約で朴政権に対する経済協力にすりかえることなどはできない性質のものであったはずであります。それをごまかしてすりかえたのでありますから、佐藤内閣としては、旧条約が当初から無効、すなわち朝鮮の植民地化が初めから不当であったと認めますと、賠償として、請求権に対する支払いをしなければならなくなります。(拍手)そうすると、経済協力という美名の経済侵略ができなくなるからであります。おまけに、朝鮮植民地化の旧条約が当初から無効であったとなると、在日朝鮮人の子弟の民族教育の中にある民族解放闘争の歴史を抹殺しにくくなるわけであります。(拍手)さらに文部省は、併合が正しかったというように、教科書を改悪までして、国民に併合の侵略性をごまかし、暗々のうちに侵略思想を植えつけて日本を軍国化しようとしているのが、ぐあい悪くなるからであります。(拍手)そこで旧条約は韓国政府成立まで有効に実施されたなどと国民に宣伝する必要が出てくるのであります。一方、朴政権の方では、いかにも……

○議長(船田中君) 楢崎君、制限時間をだいぶ超過いたしておりますから、すみやかに結論を願います。

○楢崎弥之助君(続) 旧条約は初めから無効で、不当であったことを主張したように言わないと、対日請求権を放棄してしまったことが韓国民にはっきり知られてしまうのが、何としてもおそろしいわけであります。ただでさえ売国奴とか反民族政権とかいわれている朴政権ですから、さも日本政府の言いなりにはなっていないようなポーズをつくるために、旧条約は初めから無効であったという主張を貫いたと国内向けに宣伝したいのであります。そういう双方の陰謀が一致したところで、もはや無効などというあいまいな表現が生まれ、調印を終わった瞬間から、正反対の解釈を平気でやっているのであります。まさにサル芝居ではありませんか。(拍手)
 いま一つ、椎名外務大臣は、大韓民国成立は一九四八年八月十五日であり、日本が韓国を承認したのは、サンフランシスコ平和条約発効の日、つまり一九五二年四月二十八日であるなどと、これまたあいまいなことを言われました。もしそうでありますならば、日本のほうから見れば、在日朝鮮人は、大韓民国成立の日から日本で正式に大韓民国を承認した平和条約発効の日まで、約四年間というものは、大韓民国と日本国の二重国籍を持つことになります。この点を特別委員会において石橋委員からさっそく追及され、あなたはしどろもどろになってしまいました。
 次に、紛争処理に関する交換公文では、竹島問題があります。その交換公文には竹島という文字はありません。しかし椎名外務大臣は、竹島以外に解決すべき紛争はないと……

○議長(船田中君) 楢崎君、制限の時間があまりにも超過いたしますから、発言の中止を命じます。
  〔発言する者多し〕
  〔楢崎弥之助君発言を継続〕

○議長(船田中君) 発言の中止を命じます。
  〔楢崎弥之助君なお発言を継続〕

○議長(船田中君) 楢崎君、発言の中止を命じました。すみやかに降壇してください。
  〔楢崎弥之助なお発言を継続〕

○議長(船田中君) 楢崎君、発言の中止を命じます。楢崎君、降壇を命じます。――執行を命じます。
  〔発言する者、離席する者多し、拍手〕
  〔楢崎弥之助君なお発言を継続、降壇〕
    ―――――――――――――
○議長(船田中君) 質疑の通告があります。順次これを許します。西村関一君。
  〔西村関一君登壇〕

○西村関一君 外務大臣椎名悦三郎君は、去る二月二十三日、第四十八回国会本会議において不信任決議案を出され、たとえ否決されたとはいえ、これを可とする者百四十八名から痛烈な批判を受けたのであります。いままた再度外務大臣不信任決議案を今国会に上程されるに至ったことは、椎名悦三郎君のためにまことに遺憾と思うところであります。(拍手)
 そこで私は、提案者にお伺いいたします。今国会の日本国と大韓民国との間の条約及び協定等に関する特別委員会における国会審議を通じて明らかであるように、椎名外務大臣の答弁は全く無責任かつふまじめきわまるものであり、外交上の定見に欠くるものであると断ずるがどう思われるでありましょうか。(拍手)たとえば基本条約第三条の規定は、休戦ラインの変更のあった場合どうするかとの戸叶、春日両委員の質問に対し、権名外務大臣は、基本条約第三条は変更しなければならないだろうと答えたが、その翌日の委員会においては、党内の突き上げがあったであろうと思われるが、宇野委員の質問に対して前言をひるがえしているのであります。
 また、椎名外務大臣は、委員の質問に対して、これをばかにしたようなふまじめな答弁をしております。たとえば松本七郎委員が竹島問題について、李東元韓国外務大臣の韓国国会における答弁を引用して、「韓国が竹島の周辺に専管水域を設けると言明しているが、向こうの設定をそのまま放置しておくのであるか。」と質問したのに対し、椎名外務大臣は、「まだ協定が発効しておりませんから、専管水域を設定しているはずがありません。いわんや独島の領有権はいま両国の紛争になっておりますから、さようなことはあり得ないわけであります。」と答えています。これほど人を食った答弁はないと思います。(拍手)国民を代表して心配している議員の真剣な質問に対して、条約が発効してないことは明らかであります、だからそういうのはないなど言ってごまかす、ふまじめ千万な答弁といわざるを得ません。(拍手)
 また、韓国の国内法である魚族の資源保護法の存続についての小坂委員の質問に対し、「国内法を適当な時期に廃止するということは、これは韓国側の条約に基づく義務である。」と外務大臣は答えているのであります。にもかかわらず、翌日の小坂委員の、そんなことを言っていいのですかとたたみかけるような質問に対し、大臣は、「当然改廃されることが望ましい。」と後退した答弁をして、一日でこんなふうに答弁が変わっているのであります。
 このように、韓国政府の見解と日本政府の食い違いはこれらだけにとどまらない。たとえば基本条約第二条の日韓合併条約の有効時期について、「もはや無効である」とあるが、「もはや」がいつであるかが問題であります。韓国では、この条約はもともと不法であるからなかったもので、効力は初めからないものだと主張しております。日本政府の見解は、条約そのものは有効であった、韓国の独立によって無効となった、一九四八年八月独立宣言のとき、事実上無効になったとの見解を示しております。そこに、三十六年間の日本の朝鮮支配に対する日本側の反省の問題等と深い関連を持つと考えます。日本政府の言うように不法性がなければ、国際法上正当に条約が成立し、日本は正当に全朝鮮を統治したことになり、そうなれば、三十六年間の朝鮮における悪政の問題は別として、日本政府の三十六年間の不法性は出てまいりません。そういう解釈では、日本の深いざんげと反省の問題は本質的に変わってまいります。そういう根本問題に対して朝鮮の人たちが大きな不満と積りを感じていることに椎名外務大臣は気がついていないのでありましょうか。
 椎名氏が基本条約の仮調印のためソウルにおもむかれたとき、金浦飛行場でメッセージを読み上げ、日本と韓国との一時不幸な時期があったことは、そのことに対して深く反省する、と言って、韓国の人々に好感を与えたと伝えられております。それはことばのあやだけであったのでしょうか。一片の外交辞令だけであったのでしょうか。

○議長(船田中君) 西村君、残りの時間がありませんから、なるべく簡単に願います。

○西村関一君(続) 次に、基本条約第三条の国連の決議百九十五号(Ⅲ)に示された唯一の合法政権とは何か。これにはその合法政権の領域についてのきめはありません。いわゆる韓国の領域はどこからどこまでかということがはっきりいたしておりません。領域の不確定な国家をこのような条約を結ぶのはおかしいと思われなかったのでしょうか。国連の総会決議百九十五号(Ⅲ)は拘束力のないものであります。権威のないものを、国家の基本関係を規律する基本条約に引用することは、国連ということばで条約の権威を裏づけようとする見せかけのトリックであったといわれてもしかたがないと思います。(拍手)国連決議が将来総会において重大な変化修正される、場合によれば撤回されないという確定はありません。基本条約に国連決議百九十五号(Ⅲ)を入れたことに対して、基本条約の権威はむしろなくなるのであります。外務大臣は、そういう事態は考えられないと答弁しておりますが、きわめて不適当であります。国連決議で権威づけたようなかっこうをしただけで、きわめて不安定な要素を持っているのであります。こういうことをきめたことは、少なくとも椎名外務大臣の不見識のそしりは免れないと思うのであります。(拍手)
 日本が、日本の反省と償いの意味をなぜこの条約の中に出さなかったのか。金額の問題ではありません。先進国が後進国に恵んでやるという形である。それが今度の経済協力の内容であります。これでは韓国の人々を納得させることはできません。三十六年間の日本の犯した罪悪に対する反省の内容は少しも出ていないのであります。(拍手)将来の日本独占の経済再侵略の心配を韓国の多くの人々に与えているのであります。

○議長(船田中君) 西村君、時間が超過しましたから、簡単に願います。

○西村関一君(続) 在日朝鮮人の法的地位につきましても、永住権を与える者と与えない者との間に大きな開きがある。北鮮系の人々との間に区別をし、差別をするという結果になるということは、きわめて妥当性を欠くものといわなければなりません。韓国籍を持った者のみにそのような永住権を与えるということになりますと、自己の利益のために朝鮮民主主義人民共和国の国籍から韓国籍にならざるを得ないというような事態を生じ、国籍選択の自由という人権の問題に反する事態が起こってこないとは保証できません。
 椎名外務大臣は、日本政府は条約正文をもって解釈するから正しいものであるというのは、まことに詭弁であります。韓国だって条約正文をもって日本政府とは全く正反対の解釈をいたしておるのであります。これは国内向けのPRであるというのは、日本外務大臣の言明としてはきわめて不謹慎、ふまじめであるといわなければなりません。(拍手)日本の解釈のみが最高、有権の解釈であることは言うをまたないという、こういう考え方。解釈について双方幾ぶんの違いがあっても、締結の次元ではそれほど問題にならず、履行のとき紛争の起こることがあり得る。

○議長(船田中君) 制限の時間が超過いたしました。結論を願います。

○西村関一君(続) ところが、日韓条約及び諸協定は、現在の次元であまりにも双方の解釈の相違が明白であり過ぎる。このことをもっと詰めてなぜ討議しなかったのか、政府の怠慢であり、外務大臣の責任といわなければなりません。(拍手)
 以上の点だけを考えても、椎名悦三郎君は歴代保守党内閣の中で最低の外務大臣であると思うが、どうか。(拍手)
 重光元外務大臣のごときは……

○議長(船田中君) 西村君、西村君、制限の時間がまいりましたから、発言の中止を命じます。
  〔発言する者多し〕
  〔西村関一君発言を継続〕
○議長(船田中君) 西村君、発言の中止を命じます。
  〔西村関一君なお発言を継続〕
○議長(船田中君) 西村君、降壇を命じます。――降壇を命じます。
  〔西村関一君なお発言を継続〕
○議長(船田中君) 執行を命じます。
  〔西村関一君降壇〕
  〔楢崎弥之助君登壇〕

○楢崎弥之助君 西村議員の御質問にお答えをいたします。
 私の考えも全くあなたの考えと同じであります。(拍手)外務委員会あるいは今度の日韓特別委員会における椎名外務大臣の態度は全く横柄であり、その答弁の内容は、すでに皆さん方も御承知のとおり、無定見、無責任きわまるものであります。さらに、西村議員の御質問は、あなたがもう少し言いたかったであろうところが、ついに議長によって発言を停止されましたから、私はむしろ外務大臣椎名悦三郎君が先ほども申し上げましたとおり、合意のできていない、条約の必須の要件である合意が成立していないこの日韓条約案なるものを国会になぜ提出したのか、その辺の意味について、私はそれを いろんな重要な点について両国政府はごまかしをたくさんやった結果、両国民に対する解釈、説明がここかしこで食い違うという奇妙な現象が生まれてきたわけであります。それはそのまま日韓基本条約と諸協定なるものがいかに不合理なものであるかを証明しているのであります。普通の国際通念では全く理解できないむちゃくちゃな外交交渉であります。
 椎名外務大臣、たとえあなたの思惑は別にあるとしても、あなたは大体締約国双方の政府の解釈が完全に食い違い、条約必須の要件たる合意の成立していない条約や協定をどだい調印するということ自体、国際法的には非常識きわまりない行為ではありませんか。(拍手)こういうことは双方の国民の誤解を生み出すもととなるものであって、友好親善どころの騒ぎではありません。つまりこのことは、日韓両政府ともふまじめで無責任で、懸案の合理的解決の意思など初めから持ち合わしてはいないのに、双方の国民をだますためにこんなものをでっち上げたということをみずから証明しているようなものであります。それに対して国民が反対いたしますと、軍隊まで出して弾圧するという気違いざたまでやり出すのでありますから、一体これが二十世紀の文明国のやることであろうかと言いたくなるわけであります。(拍手)
 しかもここで絶対に見のがしてはならないことは、日本政府の解釈とは全く食い違っているこのような韓国側の解釈は、韓国政府と与党の日韓条約批准国会における答弁で示されているものであり、しかも、その解釈によって、とにかく韓国国会は日韓条約諸案件を批准してしまっているという事実であります。そうなると、この韓国側の解釈はもはや審議の段階を通り越して、韓国政府としてはゆるぎない解釈として確定してしまったわけであります。もはやそれは動かせないものであります。
 そうなると、佐藤内閣と自民党のとるべき態度は二つに一つしかありません。すなわち、韓国政府の解釈に同調するか、でなければ条約、協定を破棄するか、その二つのうち一つを選ばない限り、この日韓条約は国際法的な両国の対立を固定化することになり、数多くの紛争の種を今後に残すことになります。国民に責任を持つ佐藤内閣は、このことを絶対にあいまいにし、ごまかしてはなりません。もし佐藤内閣が、少しでもこの点のごまかしをやるならば、国民は決してそれを許さないでありましょう。

○議長(船田中君) 楢崎君、所定の時間がありませんから、簡単に願います。

○楢崎弥之助君(続) このような矛盾、不合理を承知の上で、しかも野党の審議を暴力で打ち切ってまで、無理を承知で通そうとするその裏側にひそんでいる暗黒の理由とは一体何なのでありましょうか。そんなにまでして日韓条約を急いででっち上げなければならなかったその根本問題における佐藤、朴両政権の一致点とは一体何かということに国民は注目しなければならないと思います。両政府間にはいろいろの問題で不一致な点が歴然とあるにもかかわらず、それを押し切ってしまわなければならないほどの暗黒の強力な一致点があるという事実を幾ら佐藤内閣がごまかそうとしても、国民はそれを見のがしはしないでありましょう。もしそれを見のがすならば、日韓問題の本質と日韓条約の真のねらいがわからなくなるからであります。
 その重要な部分での一致点は、大きく分けて三つあります。
 その一つは、事実上、北朝鮮すなわち朝鮮民主主義人民共和国の否定であり、そのことは朝鮮民族の統一への悲願を押えて、これを人為的に分断し、固定化するねらいであります。さらに、国連憲章の原則尊重という規定の中に秘められている危険な軍事的側面であります。人間はうしろめたいところに触れられますと、ことさらにおこって大声を出すものであります。ちょうど弱い犬ほどよくほえるのに似ております。

○議長(船田中君) 楢崎君、結論を願います。

○楢崎弥之助君(続) 日韓条約の危険な軍事的側面にわが党が触れますと、自民党の諸君は必ずすぐ大声を張り上げてどなり散らします。まことに弱虫の犬に似ておるではありませんか。(拍手)もしこの軍事的側面がないことに確信が持てるなら、いま静かに落ちついていたらいかがなものでありましょうか。
 時間が来ましたから、これで答弁を終わります。(拍手)

○議長(船田中君) 帆足計君。-帆足計君。
  〔帆足計君登壇〕

○帆足計君 ただいま松崎議員の外務大臣不信任案趣旨説明並びにこれに対する西村議員の質疑応答は、いずれも議長による時間制限のため、十分にその意を尽くすことができませんでした。特に、私ども質問者に対する時間制限につきましては、議長において、あまりに早口で語られたために、議席においては全く聞き取れなかったのでございます。私は、楢崎議員より、まず議長の議事妨害によりまして、語らんとして語り得ざりし趣旨弁明のすべてを伺いたいと思います。(拍手)しかして、それによって各位とともに正否の判断をいたしたいと考えておる次第でございます。
 周知のように、与党各位が敬愛おくあたわざるアメリカ国会の例を見ましても、もし与党が、その衆を頼んで法案の尽くすべき審議を尽くさず、また世論の求める条令修正ないし改正の要望について、一片の誠意をすら示さぬ場合には、時としては、えんえん数時間ないし十数時間の長広舌をもって広く国民の世論に訴うること、これをいわゆるフィリバスターと称して与党に警告することは、野党当然の権利として認められておるのでございます。(拍手)このことは、すでに各位の御承知のことであろうと存じます。
 かつて「スミス議員ワシントンに行く」とかいう名画がありました。正義に燃える一青年議員が壇上のコップに水をついで渇をいやしながら、えんえん一昼夜に及ぶフィリバスターによりまして、西部開拓地における汚職の根絶を訴えるその姿は、この映画を見る者の心に深い感銘を与えたのでございます。(拍手)
 まず、提案者にお伺い申し上げたいことは、外務大臣は今次の日韓条約をもってアメリカの極東軍事戦略と関係はないという御答弁をなさっておられますが、今日アメリカの極東軍事戦略は、ハワイを後方の幕僚府といたしまして、グアム島、南ベトナム、フィリピン、台湾、沖繩、小笠原諸島、韓国、日本本土の米軍基地を、弧を描いて弓なりに結ぶ軍事環を構成いたしておりますことは周知のことでございます。(拍手)なかんずく、沖繩はその台風の目であり、沖繩と韓国を結ぶ一線が電車戦略の焦点となりつつあることは、戦略のイロハを心得る者として、だれしも憂慮しておる問題でございます。外務大臣は、日韓条約の審議にあたりまして、眼前に展開されるこの米軍軍事戦略の一環としての日韓条約の意義を全く無視いたすような説明をなさいましたが、かかる御答弁は、ことさらにアメリカ極東軍事戦略の本質を国民の前におおおうとするものであるか、さもなくば、米軍軍事戦略の危険性自体に対する認識の欠除というか、無知、無関心そのものの表明であるか、そのいずれであるかを私は知りたいのでございます。(拍手)
 提案者は、日本をめぐるアメリカの極東戦略、特に対ソビエト、対中国に対する戦略上、日本をアメリカの前戦基地に使い、中継ぎ基地にも使用し、今日原爆とロケットの時代におきましては、危険きわまる犠牲基地として利用しようとする可能性のあります軍事政策の一環として、日韓条約の危険性を事実に即して詳細に説明し、不信任案提出の根拠をもっと詳細に語っていただきたいと思うのでございます。
 今日、アメリカの軍事費は年間実に二十四兆億に達しておるのでございます。わが国の予算総額が三兆何がしであるのに比べまして、年間二十四兆億というアメリカの軍事予算がいかに膨大なものであるかということは想像に余りある次第でございます。いまや、今日の段階におけるアメリカの軍事独占資本主義は、かつてのパイオニア時代のアメリカと様相を異にしておりまして、年々二十四兆億の出血をなしながら、アジアの僚原を疾駆する恐龍の姿にも似ておるのでございます。
 かつてアイゼンハワー大統領がキャンプ・デービッドにおきまして、ソビエト首相フルシチョフ氏と世界平和について語り合いましたその直後に、アメリカ軍部は、アイゼンハワー元帥に正式の通知をもせずU2機を……

○議長(船田中君) 帆足君、簡単に願います。

○帆足計君(続) ソビエトの高空に飛しょうせしめて、その信を世界に失いましたが、みずから軍部を制御することができない苦杯を味わった老将軍アイゼンハワー元帥は、その訣別のことばにおいて、今日のアメリカの悲劇はかつての日本にも似ておる一面がある、アメリカの悲劇は、実に六百億ドルの軍事予算が、職業軍人及び軍需産業と結んで一大圧力団体を構成していることである、この圧力の前には大統領府の外交政策も動脈硬化となることを余はおそれると慨嘆し、暗にケネディ大統領に対して、来たるべき使命の重きことを示唆いたしておる。このエピソードは周知のことでございます。このようなアメリカ軍事経済独走の現状は、まさに満州事変前夜の日本軍事経済の膨張さながらの風景でありまして、トルーマン大統領といい、アイゼンハワー大統領といい、また、いまはなきケネディ大統領といい、さらには、海千山千といわれるジョンソン現大統領もまた、この巨大なる軍事経済の台風の前には、風にほんろうされる……

○議長(船田中君) 帆足君、結論を願います。

○帆足計君(続) 木の葉のごとき存在とも見られておるのでございます。(拍手)
 したがいまして、アメリカ軍事経済の台風の吹きすさぶがままに祖国をゆだね、身をゆだねております日本政府の外交政策は、世界歴史の流れの中におきまして、かりに安保条約の改定のあの大きな事件をかつての満州事変の段階にたとえますとするならば、今次の日韓会談は、まさに、歴史の流れの上において、かつての日支事変の段階にも当たる歴史の一こまであると思われるのでございます。(拍手)
 ベトナム戦争の前途はどうなるでしょうか。この戦争のエスカレーションが、やがてアジアに拡大いたします日に、ブーゲンビルも、ガダルカナルの悲劇も、祖国日本が再びこのような悲劇に巻き添えを食うことなきように、われわれは各位とともに極度に警戒せねばならぬと思う次第でございます。(拍手)
 以上の趣旨が、わが日本社会党が、今日世界戦争への危機をはらむ歴史の展望の中におきまして、さらに二十兆億をこえるアメリカ軍事費の溶岩の流れの中におきまして、ベトナムの戦禍のエスカレーションを前に、火中のクリを拾うなと、声を大にして諸君に訴えるゆえんでございます。

○議長(船田中君) 帆足君、時間が超過いたしましたから、結論を願います。

○帆足計君(続) 椎名外務大臣のお心に、このようにきびしい世界歴史の流れが正確に映じていないことを、遺憾ながらわれわれは指摘せざるを得ませんとともに、このような認識の甘さが、かくも安易に日本政府が日韓条約締結に対して足を踏み入れたゆえんであると思うのでございます。

○議長(船田中君) 帆足君、制限の時間が超過いたしましたから、発言の中止を命じます。――発言の中止を命じます。
 〔帆足計君発言を継続〕

○議長(船田中君) 帆足君、発言の中止を命じます。――帆足君、降壇を願います。降壇を願います。
 〔帆足計君なお発言を継続〕

○議長(船田中君) 執行を命じます。
 〔発言する者多し〕
 〔帆足計君なお発言を継続、降壇〕
 〔楢崎弥之助君登壇〕

○楢崎弥之助君 帆足議員の軍事的な側面についての御質問に対して、お答えいたします。
 私ども社会党が、この日韓条約が危険な軍事的な側面がある、これは実質的に東北アジア軍事同盟につながると言っておるゆえんのものについて、いま少しく説明をいたしたいと存じます。(拍手)
 まず、実態を見てください。日本の自衛隊の洋服、韓国軍隊の洋服、台湾軍隊の洋服、全部アメリカンスタイルであります。(拍手)使っておる武器がほとんどすべてアメリカ製であります。そして、使われておる軍隊用語は全部アメリカ語であります。指揮系統がまたアメリカに握られております。ヨーロッパのNATOという軍事同盟は、いわゆる統帥権を確実に持っておる各国が集まっておりますから、軍隊の洋服も違う、あるいは武器も違う。そこで、NATOは軍事同監ではありますけれども、いざといったときにその一致団結の力が弱い。それに比べて、現実に日本と韓国と台湾、この三国の軍隊は、そういう点では、一たん緩急あるときにはすぐ即座に共同作戦がとれる体制にあるということであります。さらに、一九五一年の九月八日に日米安保条約が結ばれました。その一月前、一九五一年の八月三十日には、アメリカとフィリピンの軍事防衛同盟が結ばれております。さらに、一九五三年の十月一日にはアメリカと韓国の軍事同盟ができ上がっておる。一九五四年十二月二日にはアメリカと台湾の軍事同盟ができ上がっております。そして、それらの軍事同盟は、すべて沖繩を適用範囲に含んでおります。かくて、韓国、日本、そして台湾、これらがアメリカを中心にして結びついております。さらに、韓国と台湾には軍事同盟があります。とするならば、ここで一つだけ糸が切れておるのが日本と韓国であります。(拍手)そこで、もし今度の日韓条約で、正常化という名のもとの、国連憲章を尊重するという名のもとの同盟ができ上るならば、これはまさしくこのアメリカを頂点として日本と韓国と台湾の軍事同盟が実質的にでき上がる。われわれが主張しておるゆえんのものはそこにあります。(拍手)
 さらに、本年二月二十七日、韓国の国会におきまして、野党の姜文奉議員がいわゆる暴露をいたしております。何と言ったか。それは、一九六二年、日本においてあの危険きわまりない三矢計画が行なわれるその前の年に、すでに、アメリカの要請によって日本と韓国の軍事提携の秘密要綱ができ上がっておるという事実であります。それは何か。いわゆるバッジシステム、防空管制装置のパイプを韓国と日本がつなぐという問題であります。さらに、朝鮮海峡に防潜網を張るという問題であります。さらに、韓国の軍隊の幹部を日本に連れてきて、日本の自衛隊の学校において幹部教育をするという問題、さらに、韓国の兵器を日本において調達、修理をするという問題、これらがすでに三年前に日本と韓国の間に秘密裏に協定が結ばれておるという事実を、韓国の野党の姜文奉議員が……

○議長(船田中君) 楢崎君、残りの時間がありませんから、簡単に願います。

○楢崎弥之助君(続) これを暴露いたしておるということは、何よりもこの日韓条約の危険な軍事的な側面をそのままあらわしておるとわれわれは思わざるを得ないわけであります。
 さらに、私は、この日韓条約がいまここで強行に通過せしめられようというこの瞬間に至る過去の経過をいささかたどってみたいと思うわけであります。すなわち、先ほど申しましたように、一九五一年から一九五四年にかけて、アメリカを中心とする日本と韓国とフィリピンと台湾の軍事同盟がそれぞれでき上がりました。さらに、一九六一年の一月にケネディ大統領が就任をいたし、そしてさっそく取りかかったのは、いままでのダレス路線による軍事戦略を大々的に変革いたしまして、ここでケネディの軍事大戦略なるものを策定したのであります。ケネディのグランドストラティジーという大戦略であります。これは、三つの戦争に対する形態、一つは核戦争、二つに普通戦争、三つ目に特殊戦争――ゲリラであります。そして、これらが全部連関し合って、いわゆる中国の封じ込めの作戦にこれがつながるわけであります。そして、その中国封じ込めの作戦に使われる部隊としては、一つ、日本、フィリピン、沖繩における米国の空軍……

○議長(船田中君) 楢崎君、制限の時間がまいりましたから、発言の中止を命じます。

 第050回国会 参議院本会議 第8号 昭和四十年十一月十九日(金曜日)午前十時五十六分開議

【発言順】
 議長     重宗 雄三
 外務大臣   椎名 悦三郎
 農林大臣   坂田 英一
 法務大臣   石井 光次郎
 議員     草葉 隆圓
 内閣総理大臣 佐藤 榮作
 文部大臣   中村 梅吉
 議員     森 元治郎
 副議長    河野 謙三
 議員     黒柳 明
 通商産業大臣 三木 武夫
 議員     向井 長年

○議事日程 第八号
 昭和四十年十一月十九日 午前十時開議
 第一 日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結について承認を求めるの件、日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定の実施に伴う同協定第一条1の漁業に関する水域の設定に関する法律案、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案及び日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法案(趣旨説明)
    ━━━━━━━━━━━━━
○本日の会議に付した案件
 一、この際法務大臣石井光次郎君問責決議案(稲葉誠一君外一名発議)(委員会審査省略要求事件)を議題とすることの動議(大矢正君外一名提出)
 一、日程第一 日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結について承認を求めるの件、日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定の実施に伴う同協定第一条1の漁業に関する水域の設定に関する法律案、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案及び日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法案(趣旨説明)
 一、請暇の件

○議長(重宗雄三君) ……(発言する者多く、議 場騒然、聴取不能)
     ―――――・―――――
○議長(重宗雄三君) これより本日の会議を開きます。(「議長、おかしいぞ」「やれ、やれ」「衛視何をするか」「衛視がんばれ」「休憩々々」と呼ぶ者あり、その他発言する者多く、議場騒然、聴取不能)御静粛に願います。――御静粛に願います。(議場騒然、聴取不能)
 稲葉誠一君外一名から、委員会審査省略要求書を付して、法務大臣石井光次郎君問責決議案が提出されました。
 また、大矢正君外一名から、賛成者を得て、この際、法務大臣石井光次郎君問責決議案(委員会審査省略要求事件)を議題とすることの動議が提出されました。
 これより本動議の採決をいたします。
 表決は記名投票をもって行ないます。本動議に賛成の諸君は白色票を、反対の諸君は青色票を、御登壇の上、御投票を願います。
 議場の閉鎖を命じます。氏名点呼を行ないます。
 〔議場閉鎖〕
 〔参事氏名を点呼〕
 〔投票執行〕
 〔「ノノミヤ一三君なんというのはいないぞ、もう一ぺんやり直せ」「訂正しろ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し〕

○議長(重宗雄三君) 野々山一三君、御投票願います。(発言する者多し)――すみやかに御投票願います。――御投票願います。(「訂正をしろ」と呼ぶ者あり)――すみやかに御投票願います。(「訂正しなさい、投票するから」と呼ぶ者あり)――野々山一三君、御投票願います。――御投票願います。――すみやかに御投票願います。――すみやかに御投票願います。(「誤りはすみやかに正せ」と呼ぶ者あり)――すみやかに御投票願います。――投票を願います。(「暫時休憩したらどうですか」と呼ぶ者あり)――すみやかに御投票を願います。――すみやかに御投票願います。
 ただいま行なわれております投票につきましては、自後五分間に制限いたします。時間がまいりますれば投票箱を閉鎖いたします。すみやかに御投票願います。――すみやかに御投票願います。――すみやかに御投票願います。――まだ投票なさらない諸君は、すみやかに御投票願います。――すみやかに御投票願います。
 制限時間に達しました。投票箱閉鎖。
 〔投票箱閉鎖〕

○議長(重宗雄三君) これより開票いたします。投票を参事に計算させます。議場の開鎖を命じます。
 〔議場開鎖〕
 〔参事投票を計算〕

○議長(重宗雄三君) 投票の結果を報告いたします。
 投票総数          百三十八票
 白色票             十九票
 青色票            百十九票
 よって、本動議は否決せられました。(拍手)
     ―――――・―――――
○議長(重宗雄三君) 日程第一、日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結について承認を求めるの件、日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定の実施に伴う同協定第一条1の漁業に関する水域の設定に関する法律案、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案及び日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法案(趣旨説明)、四件について、国会法第五十六条の二の規定により、提出者から順次趣旨説明を求めます。椎名外務大臣。
   〔国務大臣椎名悦三郎君登壇、拍手〕

○国務大臣(椎名悦三郎君) 去る六月二十二日に東京において署名いたしました「日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結について承認を求めるの件」並びに「財産権及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案」に関し、趣旨の御説明をいたします。
 わが国と近隣関係にある韓国との諸問題を解決して、両国及び両国民間に安定した友好関係を樹立することは、平和条約によってわが国が国際社会に復帰して以来のわが国の重要な外交上の課題でありまして、政府は、韓国との国交を正常化するにあたり、諸懸案を一括して解決するとの基本方針に従って、十四年の長きにわたり困難な交渉を重ねてまいりました。その結果、先般ようやく、基本関係、漁業、請求権及び経済協力、在日韓国人の法的地位及び待遇、文化財及び文化協力、並びに紛争解決のおのおのについての条約と、それに関連する諸文書について、韓国政府との間で完全な合意に達し、去る六月二十二日に東京において署名の運びとなった次第であります。
 いま、これらの諸条約について、そのおもな点を御説明申し上げれば、次のとおりであります。
 一に、基本関係に関する条約は、善隣関係及び主権平等の原則に基づいて、両国間に正常な国交関係を樹立することを目的とするものであります。したがいまして、この条約は、両国間に外交関係及び領事関係が開設されることを定め、併合条約及びそれ以前のすべての条約はもはや無効であること、及び、韓国政府が国際連合第三総会の決議第百九十五号に明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府であることを確認し、両国間の関係において国際連合憲章の原則を指針とすること等、両国間の国交を正常化するにあたっての基本的な事項について規定しております。
 第二に、漁業に関する協定は、漁業資源の最大の持続的生産性の維持及び保存並びに合理的発展をはかり、両国間の漁業紛争の原因を除去して相互に協力することを目的とするものであります。この協定は、公海自由の原則を確認するとともに、それぞれの国が漁業水域を設定する権利を有することを認め、その外側における取り締まり及び裁判管轄権は漁船の属する国のみが行なうこと、共同規制水域を設定して暫定的共同規制措置をとることを定める等、両国間の漁業関係について規定しております。
 第三に、財産及び請求権の解決並びに経済協力に関する協定は、両国間の財産、請求権問題を解決し、並びに両国間の経済協力を増進することを目的とするものであります。この協定は、両国及びその国民の財産、権利及び利益並びにその国民の間の請求権に関する問題を完全かつ最終的に解決することを定めるとともに、韓国に対する三億ドル相当の生産物及び役務の無償供与並びに二億ドルまでの海外経済協力基金による円借款の供与による経済協力について規定しております。
 第四に、日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する協定は、わが国の社会と特別な関係を持つ大韓民国国民に対して、日本国の社会秩序のもとで安定した生活を営むことができるようにすることによって、両国間及び両国民間の友好関係の増進に寄与することを目的とするものであります。この協定は、これらの韓国人及びその一定の直系卑属に対し、申請に基づく永住許可を付与すること、並びにそれらの者に対する退去強制事由及び教育、生活保護、国民健康保険等の待遇について規定しております。
 第五に、文化財及び文化協力に関する協定は、文化面における両国の学術及び文化の発展並びに研究に寄与することを目的とするものでありまして、また、一定の文化財を韓国政府に引き渡すこと等を規定しております。
 第六に、紛争の解決に関する交換公文は、両国間のすべての紛争を、別段の合意がある場合を除くほか、外交上の経路を通じて解決すること、及びそれができなかった場合には、調停によって解決をはかるものとすることを定めております。
 以上を通観いたしますに、すでに累次の国会の本会議及び委員会における質疑等を通じて説明申し上げてまいりましたとおり、これらの諸条約によって、長年にわたって両国間の国交正常化の妨げとなっておりましたこれらの諸問題が一括解決されることとなり、こうして、両国間に久しく待望されていた隣国同士の善隣関係が主権平等の原則に基づいて樹立されることとなるわけであります。これらの諸条約の基礎の上に立って両国間の友好関係が増進されますことは、単に両国及び両国民の利益となるのみならず、さらに、アジアにおける平和と繁栄とに寄与するところ少なからざるものがあると信ずる次第であります。
    ―――――――――――――
 次に、大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案について、趣旨の御説明をいたします。
 さきに御説明いたしました財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定は、その第二条において、日韓両国間の財産及び請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決されることになったことを確認し、日本国にある韓国及び韓国民の財産権に対しとられる措置に関しては、韓国はいかなる主張もできないものとする旨を規定しております。この規定上、これらの財産権について具体的にいかなる国内的措置をとるかは、わが国の決定するところにゆだねられており、したがいまして、この協定が発効することに伴ってこれらの財産権に対してとるべき措置を定めることが必要となりまするので、この法律案を作成した次第であります。
 この法律案は、三項及び附則からなっており、その内容は、協定第二条3に該当する財産、権利及び利益について規定するものであります。
 まず、第一項においては、韓国及び韓国民の日本国及び日本国民に対する債権及び日本国または日本国民の有する物または債権を目的とする担保権を消滅ぜしめることについて規定しております。第二項においては、日本国または日本国民が保管する韓国及び韓国民の物についてその帰属を定め、第三項においては、証券に化体された権利であって第一項及び第二項の適用を受けないものについて、韓国及び韓国民はその権利に基づく主張をすることができない旨を規定しております。なお、附則におきまして、この法律案の施行の日を協定発効の口としております。
 以上が、日本国と大韓民国との間の請求関係に関する条約等の締結について承認を求めるの件、並びに大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案の趣旨でございます。(拍手)
    ―――――――――――――
○議長(重宗雄三君) 坂田農林大臣。
   〔国務大臣坂田英一君登壇、拍手〕

○国務大臣(坂田英一君) 日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定の実施に伴う同協定第一条1の漁業に関する水域の設定に関する法律案について、その趣旨を御説明申します。
 まず、提案理由について申し上げます。
 日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定第一条におきまして、日韓両国は自国の沿岸から十二海里以内の水域を、自国が漁業に関し排他的管轄権を行使する水域、すなわち漁業に関する水域として設定する権利を相互に認めております。このことに伴い、わが国においても沿岸漁業の保護をはかるため、必要に応じ、かかる漁業に関する水域を設定し、当該水域においてわが国が行使する排他的管轄権に関し、大韓民国及びその国民に対する法令の適用を明らかにする必要があるのであります。これが、この法律案を提案いたしました理由であります。
 次に、この法律案の内容を御説明申し上げます。
 第一は、協定第一条1の漁業に関する水域を政令で定めることとする規定であります。なお、この漁業に関する水域は、その設定の目的及び趣旨等からして、最小必要限度にとどめるべきものでありますが、大韓民国漁船の装備の向上等に伴って、今後わが国沿岸における大韓民国漁業とわが国沿岸漁業との交錯を生ずることが多くなることも考えられ、これら情勢の変化に応じて漁業に関する水域を設定するため政令で定めることといたした次第であります。
 第二は、漁業に関する水域において大韓民国及びその国民が行なう漁業に関しては、わが国の法令を適用することとする規定であります。これにより、具体的に適用される主要な法律は漁業法でありますが、同法及びその委任命令により大韓民国及びその国民の行なう漁業が規制されるほか、これらの規定に違反した大韓民国国民については、罰則が課せられることとなるのであります。
 以上が日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定の実施に伴う同協定第一条1の漁業に関する水域の設定に関する法律案の趣旨であります。(拍手)
    ―――――――――――――
○議長(重宗雄三君) 石井法務大臣。
   〔国務大臣石井光次郎君登壇、拍手〕

○国務大臣(石井光次郎君) 日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法案について、その趣旨を説明いたします。
 日韓両国の友好関係を増進するためには、永年にわたりわが国に居住しております大韓民国国民にわが社会秩序のもとで安定した生活を営むことができるようにする必要があるのでございます。このような観点から、日韓協定の一つといたしまして「日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定」が締結されたのでございます。
 この法律案は、右の協定を誠実に履行するために必要となる永住許可、退去強制等について、出入国管理令の特別規定を設けようとするものでありまして、本文九カ条及び附則からなっているのでございます。
 以下この法律案の内容の概要を申し述べます。
 第一点は、大韓民国国民であって終戦前から引き続き日本に居住している者、及び、その直系卑属として一定期間内に日本で出生し、引き続き日本に居住している者のほか、永住を許可されているこれらの者の子として日本で生まれた者は、その申請によりまして、法務大臣の許可を受けて本邦で永住することができるものとしたことであります。法務大臣は、一般外国人の在留管理に当たっておりますので、これを主管大臣としたのでございます。
 第二点は、永住許可の申請、その審査及び許可について手続規定を設けたことであります。すなわち、申請者の便宜をはかりまして、申請手続の窓口事務は居住地の市町村の事務所において行なうべきものとしたのでありまするが、法務大臣が審査を行なうについて必要な事実調査は入国審査官または入国警備官をして行なわせるものとしたことであります。
 第三点は、永住許可を受けている者に対する国外退去強制事由について、一般外国人に対するよりも著しく制限を加えたことであります、すなわち、永住許可を受けている者に対しましては、内乱、外患、国交に関する罪や麻薬関係犯罪等の特定の罪によって課せられた場合のほか、七年をこえる重い刑に処せられた場合等に限って、退去強制の手続をとり得るものとされているのであります。
 第四点は、虚偽の申請をいたしまして永住許可を受けた者や、威力を用いて永住許可の申請を妨げた者に対する罰則を設けたことでございます。適正迅速かつ自由な申請手続を保障しようとする趣旨にほかならないのでございます。
 以上がこの法律案の趣旨でございます。(拍手)

○議長(重宗雄三君) ただいまの趣旨説明に対し、質疑の通告がございます。順次発言を許します。草葉隆圓君。
 〔草葉隆圓君登壇、拍手〕

○草葉隆圓君 私は、自由民主党を代表しまして、ただいま上程されました日韓関係諸案件につきまして、政府の所信をただそうとするものであります。
 その前に、一言伺いたいと存じますることは、戦後のわが国の国会におきまして、ことに外交案件に関しまして、激しい意見の対立があり、そのため国会の運営がややともいたしますると混乱してまいりましたことは、はなはだ不幸なことであると存じます。ことに、平和条約、安保条約など、わが国の独立と安全にとりまして最も重要な条約、しかも、国民の多数の賛成と支持とがありまするにもかかわらず、一部に暴力的手段をもってしてもこれに反対せんとする勢力がありますることは、まことに遺憾にたえないところであります。今回の日韓関係諸案件の審議にあたりましても、一部少数勢力の計画的妨害のため若干の混乱を見ましたことは、まことに残念であり、一部少数勢力が大多数の意見を制するために手段を選ばざる挙に出るということは、議会民主主義の根本をくつがえすものでありまして、断じて許すことのできないところであると存じます。(拍手、発言する者あり)これまで、わが国が自由陣営の諸国と条約を結ぼうとするたびごとに、共産陣営からの干渉が加えられ、これに呼応するかのごとく、一部勢力による国会の混乱が企てられてまいっておりますことは、遺憾ながら認めざるを得ないところであると存じます。この点は、わが国の政治の基本にかかわる重要な問題でありまするが、これに対し、総理大臣はいかように考えられるか、率直な所信を承りたいのであります。
 次に、日韓関係諸案件につきまして、以下具体的に若干の問題点についてお尋ねいたしたいと存じます。
 第一には、基本条約についてでございます。その第三条において、大韓民国政府の法的性格を規定しておりまするが、政府がしばしば説明されておりまするとおり、大韓民国政府は南朝鮮地域に管轄権を有する政府であると解されます。ところが、韓国側におきましては、いささかこれと異なった解釈を下しておるようでございまするが、これに関して政府はどのように考えられておるか。日本政府の考えと相当に相違しておる場合、今後本条約の適用上にも支障を生ずるおそれがあると思われまするが、もし、そうだといたしますると、どのようにこれを調整されんとするかという点を伺いたいのでございます。
 第二は、北鮮との関係についてであります。今回の諸条約等におきましては、北鮮に関しましては、どこにも、一言半句も触れておりません。この意味から、「北鮮に関しては白紙である」という従来の政府の見解はそのとおりであると存じます。したがって、北鮮に関する諸案件は、全く将来に残されておると思われるのであります。ここで問題となりまする点を考えますると、おのずから二つに分かれると存じます。その一つは、北鮮政権に対する取り扱いの問題であり、その二は請求権の問題、在日朝鮮人の問題、あるいはまた漁業等に関する問題であると存じます。第一は大きな政治問題であり、第二は行政的、実務的問題であると存じまするが、私はこの際、北鮮につきましては、今日、日韓友好条約等の問題を審議をしておりまする際でございまするから、これを論ずることは、あるいは当を得ないのではないかと存じまするから、これ以上これを深く検討することは、この際は割愛いたします。この問題については、二、三の以下触れまする問題を除き、あまり触れませんが、政府は今後十分これらの北鮮の問題に留意をして、将来禍根を残さないようにいたされんことをこの際特に希望し、これに対する政府の御所見を伺いたいと存じます。
 第三は、国連憲章の原則尊重の点でございます。これは従来、御案内のように、各国とこの種の条約を結ぶ際に明示されておる点でありまするが、ただ、今回、従来と異なりました点が二、三あります。今回の条約で従来と異なっておりまする点は、前文の中に「緊密」という二字を加えておる点でございます。また、第四条に、国連憲章の原則を指針とする旨を述べるにあたって、特に憲章の第二条の原則と、「第二条」という表現を用いなかったことであります。また、日華平和条約以外は、「相互の福祉及び共通の利益の増進」という文言を用いておりませんのに、ここに特にこれを入れた、こうした点を含みといたしまして、一部の論者の中には、これは軍事的色彩を有する条項であるかのごとき流説をなし、したがって、今後これを基本にして、軍事同盟が意図されるような流説をなし、国民を迷わす論をなすものがありまするが、これに対する政府の確固たる所見を伺いたいのでございます。
 なお、第二条に、「もはや無効」ということばがありまするが、併合条約等の無効の時期を明示されておりませんので、これに対する問題が生ずると思いまするが、これは決して併合条約が最初から無効であったというのではないと存ずるのでございまするが、この点、政府の見解を明らかにしていただきたいのであります。
 次に、請求権及び経済協力に関する問題でございます。本協定によりまして、わが国は将来十年にわたって、無償三億ドル、有償二億ドルに相当する生産物及び役務を提供することになっておりまするが、これは賠償の性質を有するものであるかどうか。また、請求権問題の処理と全く無関係であると言い切り得るものであるかどうか。この点、外務大臣の御答弁を伺いたいのであります。
 また、本協定第二条によりまして、在韓日本財産の喪失はおおよそいかほどであるか。そのうち、日本人の私有財産に対して、幾らかの補償なり見舞いをなすことが適当であると考えられまするが、これは財政の許す範囲内において、政府は今後これを考える意思があるかどうか。この点は慎重に御検討をいただいて、御答弁を願いたいと存じます。
 漁業協定についてお尋ねいたしたい第一点は、李ラインが撤廃さるるかいなかの点であります。一九五二年一月、いわゆる李承晩ライン設定以来、わが多くの漁民が、あるいは拿捕され、その他甚大な損害をこうむりました関係上、今次の日韓会談妥結の最も喜ばしい点の一つは、この漁業協定の成立によって、関係漁民の操業の安全が得られる点にあると存じます。しかしながら、一部の者の間には、現在、李ライン内の取り締まりの根拠法規であります漁業資源保護法が廃止されるような様子が現在見られませんところから、わが政府の再三の言明にもかかわらず、一部の論者は、李ラインの存続を説き、このために関係者に一まつの不安を与えておる事実に対しまして、この際、政府の明確なる御所見を伺いたいのでございます。
 なお、今次の漁業協定によりまして、沿岸基線から十二海里に漁業専管水域を設け得ることとなり、わが国は、関係国内法におきまして、これを政令で定めることといたしておりまするが、政府は具体的にどの地域に設定する方針であるか。また、わが国自身が、十二海里の専管水域を設けることによって、将来、第三国との漁業交渉に際しまして、一般的にこの方式を認めざるを得なくなるのではないかとの観測も行なわれておりまするが、この点、農林大臣の御所見を伺いたいのであります。
 次に、在日韓国人の法的地位及び待遇に関する問題についてお尋ねいたしたいと存じます。
 在日韓国人に永住権を与え、ただいまの説明のように、強制退去条件の緩和等の優遇措置を与えられました結果、今後百数十年にわたりまして相当数の韓国人が永住することとなり、いわゆる少数民族問題を生ずるおそれがはなはだ大なるものがあると存じまするが、これに対する問題点、及び同じ韓国人でありながら本協定に基づく特権を認められない人たちも生ずると思われますが、そういう関係の取り扱いは、一般外国人に対する処遇と全く同一の方針を貫かれる御方針であるか、また、これらの人たちには義務教育の均てん条項等は考えておいでになるかどうか、法務大臣並びに文部大臣の所見を伺いたいと存じます。
 また、最も困難な問題は、在日北鮮系の朝鮮人の取り扱いの問題であろうと存じます。そして、その子弟の教育につきましては、北鮮当局から多額の財政支援を受けて、いわゆる民族主義教育が行なわれているかのように言われておりまするが、文部大臣にお尋ねいたしたいと存じまする点は、どのような学校が経営され、どのような教育が行なわれておるか。そうして、日本政府は、これに対してどのような規制を行なっておるか、また将来これをいかように取り扱う方針であるか、伺いたいのでございます。
 次に、文化協力協定についてであります。この協定によりますると、文化財の引き渡しや文化施設利用の便宜供与を述べられておりまするが、日仏文化協定、日英文化協定等に見られまするような学者や技術者の人的交流に関する条項は全然見当たりません。なお、考えますると、両国の今後の友好の増進は、両国民の相互理解にあると存じます。その相互理解は、人的交流にまつべきところがはなはだ大と存じまするが、これに対する総理大臣の御見解を伺いたいのであります。
 次に、竹島問題についてであります。竹島が日本領土でありますることについては、政府の再三にわたる言明で明瞭であると存じまするが、この問題について、わがほうよりは三十二回の口上書を送り、先方よりは二十四回反論してまいっておりますが、不幸、この島は現在韓国の武装部隊によって占拠されたままになっております。政府は、今後、この竹島に関する日韓間の紛争をどのようにして解決するお考えであるか。わが国の一部には、今回の日韓交渉の妥結によりまして竹島問題の解決がそのめどを失ったのではないかと心配しておる向きもあるようでございます。竹島の領土権問題につきましては、その経済的価値の大小の問題よりも、本件が領土問題であるという性質から、これを等閑に付することは、わが国民感情が許さないところであろうと思われます。この問題は、あたかも北方領土の問題と同様に、相手国が武力占領をしておるからといって、その既成事実を是認すべきものではないと存じます。政府といたしましては、今後ともあらゆる平和的手段によりまして、すみやかに本件の解決をいたすべきものと存じまするが、外務大臣の御所見を伺いたいのでございます。
 最後に私は、佐藤総理大臣に対しまして、政府の対アジア外交の基本的態度について、その御所信を伺いたいと存じます。総理は、これまで、アジア諸国との間に善隣友好関係を樹立することを念願とされ、今回の日韓国交正常化はそのスタートラインに立つものであると述べてこられたのであります。確かに近隣の諸国と平和で安定した友好関係が設定されてまいりますることは、国民のひとしく念願とするところであり、その第一歩として、このたび韓国との間の国交が正常化されますことは、まことに慶賀にたえないところであり、その御努力に対しましては深く敬意と感謝の意を表するところでございます。しかしながら、ひるがえって考えますると、現在のアジア諸国の情勢を思いまするとき、不幸にして十分にそこには安定した状態があるとは申し得ないのでございます。とりわけ、共産主義者によりまして引き起こされておる動乱と戦禍によって、アジア各地の平和が著しく脅かされておるということは、まぎれもない事実でございます。わけても、中共の昨年十月の第一回核爆発実験以来、アジアにおきますこの種の不安は日ごとに増大の一途にあると申しましても過言ではないと存じます。共産陣営は、これまでに、わが国を含むアジア諸国に対して、あるときは利をもっていざない、あるときは核兵器をもってどうかつし、また、あるときは、国内の治安撹乱を扇動してきたのでございます。戦後、わが国は、自由陣営の有力な一員として、今日の国際的地位を築いてまいったのでございまするが、共産主義者による平和撹乱に対しましては、確固たる態度をもって臨むことこそ、アジアにおける真の平和外交を推進する道であると確信いたすのでございます。この意味から、このたび自由陣営の一翼をになって、アジアの平和と安定に寄与しようといたしておりまする韓国と、国交を正常化し、緊密な協力を達成しようといたしますることは、わが国の平和善隣外交推進の上から、まことに意義深いものであると存じます。佐藤総理は、こうした意味におきまして、アジア外交の基本的態度を今後とも十分堅持して、外交施策を推し進められるものと存じまするが、これに対する総理の率直なる御所信を承り、もって国民に強くこの点を理解を願いたいと存じます。
 以上をもって私の質問を終わらせていただきます。(拍手)
 〔国務大臣佐藤榮作君登壇、拍手〕

○国務大臣(佐藤榮作君) お答えいたします。関係大臣に、私が触れなかった点は後に説明させたいと思います。
 まず第一に、最近起こりました衆議院の特別委員会の審議なり、あるいは本会議等についての感じいかんというお尋ねでございますが、私はあの事態を見まして、まことに不幸なことだ、かように思います。私どもが今日最も力を入れなきゃならないことは、いかにして民主主義、民主政治を守り抜くかというところにあると言えます。この観点に立ちまして、私どもはどこまでも、正常なる議会主義、議会制度を守っていかなければならない、このことが最も大事であります。しかし、ただいままでの状態は、わが国において民主政治あるいは議会政治がやや未熟である、かような非難を国際的にも受けるようでございますが、さらに私どもは、との議会主義、これに徹するという考え方で努力しなければならないと思います。そのまず第一は、お互いにルールを守るということ、ルールを守らなければ正常な議会政治は絶対にございません。(拍手、発言する者あり)また、この民主政治のもとにおきましては、どうしても多数決原理は尊重しなければなりません。(拍手、発言する者あり)御指摘になりましたように、少数党の意見を――もちろん審議を尽くすことは望ましいことでございますが、院内外の勢力を動員して、そうして、この審議をはばむ、かようなことは私どもは避けなければならない、厳に戒めなければならないことなのであります。国民大多数の諸君は、これらの事柄につきまして正しい批判を下しておると私は思います。さような意味におきまして、われわれ政治家に課せられた責任はまことに重いのであります。今日の会議等におきましても、どうしても国会におきましては話し合いの場である、この原則に立ちまして、十分審議も尽くさなければなりませんが、運営等につきましても、各党が忌憚ない意見で話し合うことが最も望ましいことではないか、かように私は思うのであります。
 次に、管轄権の問題につきましてお話がございましたが、これは後ほど外務大臣からお答えをいたすと思います。私は、一民族が一国家を形成する、これはほんとうに望ましいことでございます。しかしながら、必ずしもすべての民族が一国家を形成するということにはなかなかならないのでありまして、ただいまこういう事態が起こることについては、ほんとうに民族の不幸だ、かように私は思います。ただいま韓国あるいは北鮮、こういう二つの政権があるという、こういうことを御指摘でございますが、ほんとうに残念なことだと思います。しかしながら、今回私どもが条約を締結いたしますのは韓国でありまして、北鮮には何ら触れておらない、これはいわゆる白紙の状態であるということでございます。しかし、今日までわが国は、サンフランシスコ平和条約締結以来、一貫して、韓国と関係、交渉を持ってまいっております。北鮮とは関係を持たない、かような方針をとってきたことも、これも皆さま方御承知のとおりだと思います。今日まで韓国を承認しておる七十二の各国も、北鮮とは関係を持っておりません。この点が一民族一国家と、こういう観点に立つと、まことに不幸な事態だと私どもは思います。国連におきましては、こういう事態に対して、いわゆる国連方式による民族統一国家をつくるようにというような勧告もされておるのでありますが、韓国はこれを承認した、しかし北鮮はこれを拒んでおる、こういう事態でございますので、一民族が一国家を形成するということは、まだまだたいへんむずかしい状態ではないかと、かように私は思います。今日の韓国との関係は、別に北鮮との問題については触れておるわけではございませんし、在来からの方針を変えるというような事態ではございません。したがいまして、在来から北鮮とはケース・バイ・ケースで人的交流なりあるいは経済的交流をするという考え方でおります。その考え方を今後も続けてまいるつもりでございます。
 次に、今回の条約が軍事的な色彩を持つものではないか、こういうような意見を一部で述べておるということでございますが、御承知のように、今回の書き方自身では、ちょうど日ソ共同宣言第三項に書いたような書き方をいたしております。いわゆる国連の尊重をしていく、国連の平和的条項、これを守っていく、お互いに協力をしていくということでございます。日ソ共同宣言で言われておることと、今回の日韓条約で私どもがとりました表現と、お比べになれば、別にこれは軍事的なものでないということが、はっきりわかると思います。日ソとの間におきまして軍事的な同盟を結ぶような考え方のないことも、皆さま方御承知のことだと思います。私は、何よりも申し上げたいのは、新憲法のもと、また自衛隊法のもとで、いわゆる外国と軍事的な同盟を結ぶような考え方は全然ないのだ、この点を申し上げたいのでございます。したがいまして、私は、いわゆる共産主義はきらいだ、かような意味から、しばしば私の考え方を申し上げ、また、日本の国が共産化されることは絶対に防ぐということを申しております。そういう意味から、一部では、反共同盟あるいは防共同盟を結ぶのではないかというような懸念をされますが、私が最も問題としておりますのは、この防共同盟あるいは反共同盟ということが、いわゆる軍事的な色彩を持つものだ、いわゆる反共軍事同盟、防共軍事同盟、こういうような考え方で国民に印象づけようとしておる、このことは、私は絶対に、ただいまも申すように、憲法や自衛隊法から、さような事態はつくらない、さようなことはいたさないということを申しておりますので、国民の皆さま方も、私の、共産主義はきらいだということ、共産主義を排撃するということと、ただいま社会党の一部から言われておるような軍事同盟というものとは、全然別なことだ、また、政府は軍事同盟には絶対賛成しないのだということを十分御理解いただけると、かように私は思います。(拍手)
 最後に、アジアにおけるわが国の外交の基本的姿勢、これについてのお尋ねがございました。私は、あらゆる機会に申し上げてまいりましたが、どこまでもわが国の安全を確保し、そうして繁栄をもたらす、同時に、この立場に立って、いわゆる平和に徹する外交をしていくのだ。したがいまして、善隣友好の関係はもちろんでございますが、いずれの国とも仲よくしていくのだということをしばしば申し上げました。いずれの国とも仲よくしていくが、そのためには、わが国の独立を尊重し、内政に一切干渉しない、内政不干渉の原則に立って、お互いに友好関係を樹立していく、こういうことでなければならないということもたびたび申してまいりました。この点では、国民の皆さま方も十分理解しておられることだと思います。しかしながら、御指摘にもありましたように、アジアの状態は、まことに不幸な状態をただいま現出しております。こういう際に、わが国の安全を守り、また平和に徹する、こういう場合に、わが国が確固たる態度で諸問題に取り組むこと、これは、もちろんその基本であるのでございます。私は、憲法のもとにおきまして、軍事的な力を持たず、また、一切の国際紛争は武力解決はしないのだ、いわゆる戦争は放棄した、このもとにおいて私どもが繁栄の道をたどる、また、国際的にお互いの生活が安定をし、繁栄であるならば、いくさなど考えられない、こういう意味から、私は、経済的に十分協力をし、また援助する、こういう態度をとっておるのでありまして、東南アジア諸地域に対しまして、経済的な交流なり、また援助計画なり、低開発国に対する積極的な支援をしておるのは、ただいま申し上げたように、平和に徹するわが国の考え方からでございます。お答えいたします。(拍手)
 〔国務大臣椎名悦三郎君登壇、拍手〕

○国務大臣(椎名悦三郎君) 基本条約第三条に関して、韓国の主張と日本の主張とが食い違っておると、これはどうかという御質問でございますが、基本条約第三条はいわゆる国連の決議を引用しておりまして、そして国連決議が規定しておるとおりの性格のこれは国である、政権である、政府であるということを言っておるのでございまして、引用されておる百九十五号の決議というものは、朝鮮人民の大部分が居住する半島の部分、それに対して有効な支配と管轄権を及ぼし得る政府ができた、その政府は国連の観察のもとに行なわれた自由選挙に基づくものである、で、この政府が、したがって朝鮮における唯一のこの種の政府であるということをうたっておるのでありますが、そのまま第三条において確認をしておる、こういうのでございます。それで、いま申し上げた国連の決議は、すなわち全半島に及ぶというのではなくて、現実に支配と管轄権が及んでおる、有効に及んでおる部分と、こういうことを言うわけでございますから、今日の状況から言うと、休戦ライン以南である。この管轄権の及ぶ範囲は、休戦ラインの以南であるということを言っておりまして、その以北に及ばないということを条約において確認しておるわけであります。ただ、韓国の当局者が、場合によっては、全半島が領域である、ただ、現実に不逞分子が北のほうを占拠しておって、その部分には及ばないというような考え方を述べており、そういう基本的な考え方を今回の基本条約で日本が承認したかのごとき誤解を生じせしめるような言い方をしているようでございますけれども、たとえ、いかなる言い方をしておっても、とにかく基本条約の正文からいいまして、休戦ライン以南であるということは、もう明瞭なことでございますので、われわれは、どこまでも、書きおろされた条約の正文をもととしてこれを解釈する、こういう態度をとって今後もいく所存でございます。
 それから「もはや無効」というのは、一体、当初から無効であったのか、それとも、かつては有効であったか、いつから無効であるかというような点が御質問の点だと思いますが、これは韓国が独立したときに併合条約は効力を失った。それから併合条約以外の条約は、それぞれその条約の内容に従って効力を失う。こういうことに解釈し、また、しからざるものは、併合条約の発効によって効力を失う、こういうふうに三段に解釈しております。これも聞くところによると、韓国の言い方とわれわれの主張と食い違うようでありますが、これらの点について、もし実際問題として、両国の利害が、今後条約発効後に衝突するというような場合には、十分にこれを解決する自信を持っておるわけであります。
 それから、請求権の問題と経済協力、これは、日本の対朝鮮請求権は、軍令及び平和条約等のいきさつを経て、もはや日本としては主張し得ないことになっておりますが、反対に、韓国側の対日請求権、この問題について、この日韓会談の当初において、いろいろ両国の間に意見の開陳が行なわれたのでありますけれども、何せ非常に時間がたっておるし、その間に朝鮮動乱というものがある。で、法的根拠についての議論がなかなか一致しない。それから、これを立証する事実関係というものがほとんど追及ができないという状況になりまして、これを一切もうあきらめる。そうして、それと並行して、無償三億、有償二億、この経済協力という問題が出てまいりました。何か、請求権が経済協力という形に変わったというような考え方を持ち、したがって、経済協力というのは純然たる経済協力でなくて、これは賠償の意味を持っておるものだというように解釈する人があるのでありますが、法律上は、何らこの間に関係はございません。あくまで有償・無償五億ドルのこの経済協力は、経済協力でありまして、これに対して日本も、韓国の経済が繁栄するように、そういう気持ちを持って、また、新しい国の出発を祝うという点において、この経済協力を認めたのでございます。合意したのでございます。その間に何ら関係ございません。英国であるとかフランスなんか、旧領地を解放して、そうして新しい独立国が生まれた際にも、やはり、この経済的な前途を支持する、あるいは新しい国家の誕生を祝う、こういう意味において相当な経済協力をしておる。その例と全然同じであります。
 それから、在外財産、この問題についてのお話がございましたが、終戦当時、朝鮮にあった在外財産につきましては、日本政府としては、確実な資料は所持しておらなかった。また、韓国政府も北鮮当局も、戦後、一切これらの問題に対しては公表しておらない。遺憾ながら、これらに関しましては、権威のある評価等は、われわれはできない状況にあります。で、いずれにいたしましても、その終局の処理は別問題にして、とにかく、その状況がどうなっておるかということをまず調べるために、過般、予算をもって、在外財産の調査をするということになっておるのでございまして、その問題につきましては、ただいまさような状況にあることを御了解願いたいと思うのであります。
 それから、竹島の問題でありますが、交換公文で、残された日韓間の紛争事項については条約発効後に普通の外交ルートによって折衝して問題の解決を見出すように努力する。しかし、外交ルートによって、この方法によって解決することができない場合には、両国の合意による調停の方法によって解決をするということが書かれてございまして、竹島問題は、日韓間の紛争問題として残された最大のものであり、この交換公文に書かれてある、いわゆる紛争問題に該当するわけであります。これは、御指摘のとおり、領土問題でございまして、なかなか両国が相譲らないというような状況にございますので、条約発効後、両国の間に友好的な雰囲気が出てまいるわけでございますから、その雰囲気のうちに穏やかに折衝を開始して、何らかの解決の方法を見出すべく今後とも努力したい、かように考えておる次第であります。(拍手)
 〔国務大臣坂田英一君登壇、拍手〕

○国務大臣(坂田英一君) 李ラインに関しましては、韓国側の漁業に関する一方的管轄権の及び得る範囲を、漁業水域に関する国際的趨勢をしんしゃくいたしまして、沿岸十二海里の漁業水域に限定することとする。その外側に帯状に設定されたる共同規制水域を含む公海における漁業取り締まりの権利及び裁判管轄権は、漁船の属する国のみが行使する、いわゆる旗国主義でありまするが、そういうことに協定で規定するほか、協定の前文においても、公海自由の原則が尊重さるべき旨規定されたことによりまして、実質的に撤廃され、その結果、従来、李ラインにおいて発生した不法不当な臨検、拿捕等の不幸な事件は、今後わが国の漁業及び漁船に対してはあり得ないことと相なりまして、日本漁民も安心して漁業に従事し得ることとなったのであります。李ラインは実質的に解消いたしておる次第でございます。
 第二番目の、この十二海里の沿岸までの漁業水域は、このほかの国にも影響しないかというお問いでございまするが、沿岸から十二海里までの漁業水域は、最近の国際趨勢をしんしゃくし、かつ、韓国の漁業の実情を勘案いたしまして、両国間において特別の合意をもって設定することといたしたものでございます。しかし、これは、いずれの国ともかような同様の協定をいたすということには限っておるわけではありませんのでありまして、これは、日本漁業の実益等を勘案いたしまして、ケース・バイ・ケースによって決定してまいるということにいたしておるわけでございます。
 それから、この漁業協定によって国内法が設定されて、政令によって日本の漁業水域をどこに設定するかという御質問でございまするが、これは、現在の韓国の漁業の実態等も考えますと、日本本土の沿岸どこにも設定する必要はいまのところないのでありまして、そこで、現在のところは、対馬沿岸に設定いたしたいということで検討中でございます。なお、将来において、韓国の漁業の発展その他によりまして必要がありまする場合においては、その際において設定することにいたし、その都合上、「政令で定める」ということにいたしたのは、そのわけでございまするので、御了承を願いたいと思います。(拍手)
 〔国務大臣石井光次郎君登壇、拍手〕

○国務大臣(石井光次郎君) 韓国人のうち永住権を持った者が、だんだん時がたつにつれて少数民族的な存在になりはしないかという御心配の御質問でございました。私ども、そういう問題は非常に注意しなくてはならぬと思うのでございます。この問題につきましては、先ほど法案の趣旨を申し上げたときに申し上げましたように、この永住権を持ってもらうには、どうしても日本の社会秩序のもとに安定した生活が韓国の人たちにできまするようにすることが、一番大事なことであるということを考えておるのでございまして、そういう方向に向かって行きまして、だんだんと、日本人そのものの生活と同じような生活をし、同じような状態に、その人その人の生活がなってまいりますれば、いつの間にか日本人と同じような状態になってくる。その中には、日本人になってしまう人もだんだんできてくるということを考えておるわけでございます。
 また、第二の御質問でありました、そういうことになりますと、永住権をもらえない人、同じように長い間日本人であって、また自分の意思でもなくして日本人となり、また自分の意思でなくして日本人から離されたという人が、たくさんあるわけでございます。こういう人たちとの差が、また、うんと出てくるのではないかということを御心配になる方がたくさんあるのでございます。私ども、その点は考えなくちゃならぬと思っております。これは、いままでも、こういう人たちの非常な特殊な立場を考えておりまして、あるいは生活保護の問題でありますとか、教育の問題とかいうことにつきましては、できるだけ、いままでもやってきたわけでありましょうが、これから先も、こういうものをいいかげんにするという考えはないはずでございます。
 それから、昭和二十七年の法律第百二十六号でございますか、それは、そのままにしてまいりまして、そして、いままでどおりに日本にずっとおれるということにいたしまして、そうしてその人たちの生活が、さっき申しましたように、永住権の人たちと同じような安定した生活がやっぱりできていくのでないと、やはり日本の社会の秩序の上にも悪影響を及ぼすわけでございます。そういうことにつきまして、できるだけの保護を――これは法律だけでできないのでございます。各方面の力によりまして、われわれの生活に溶け込んでいくような施策をだんだんとやっていくようにしたい、こういうふうに考えておるわけでございます。(拍手)
 〔国務大臣中村梅吉君登壇、拍手〕

○国務大臣(中村梅吉君) 教育に関係した御質問がございましたので、お答えをいたします。
 御承知のとおり、従来から、在日韓国人あるいは朝鮮人の子弟につきましては、義務教育に関して、公立の小学校、中学校等に、本人の希望があれば入学を許可して、日本人と同様に扱っております。その内容等につきましては、御承知のとおり、授業料を徴収しない、あるいは教科書の無償配付をするというようなことまでいたしまして、日本人と差別をいたしておりません。また、進学につきましても、進学の資格を認めておるわけでございます。今回の法的地位に関する協定第四条及びその合意議事録によりまして、そのことが、いわゆる協定上の日本の国の義務と確認をされたということでございまして、内容的には、この点については変化がないわけでございます。そのほかに、いわゆる民族教育のようなことをやっておる学校に対しては今後どうする考えかという御質問がございました。いわゆる朝鮮大学といわれておるように、完全な民族教育をやっておるものもございますが、これは、現在のところ、全然認可もされておりませんし、法的の資格を与えられたものでございません。今後これらをどう処置してまいるかにつきましては、文部当局といたしましては慎重に検討をいたしまして善処してまいりたいと、かように考えておる次第でございます。(拍手)

○議長(重宗雄三君) これにて三十分間休憩いたします。
 午後一時十分休憩
     ―――――・―――――
 午後一時四十九分開議

○副議長(河野謙三君) 休憩前に引き続き、これより会議を開きます。
 質疑を続けます。森元治郎君。
   〔森元治郎君登壇、拍手〕

○森元治郎君 私は、日本社会党を代表して、ただいま議題となりました日韓基本条約その他の案件について、政府の考えをただします。
 まず私は、これら案件がどろだらけになって本院に送られてきたことに痛憤するものであります。(拍手)衆議院において、慎重御審議を願いますという口の下から、委員会、本会議と、抜き打ちに万歳で強行可決したことは、わが議会民主政治破壊の暴挙であります。しかも、相手韓国の国会も力で突破いたしております。こんな国民を無視した条約の前途は、まことに暗いものがあると一、言わなければなりません。(拍手)また、衆議院段階にありながら、参議院の自由な審議権を拘束するような計画を練って、二院制の憲法のたてまえをじゅうりんした責任は重大であります。まだ本院が条約案件を手にしないうちから、批准書交換の口取り、全権の人選を新聞などに流していることは、本院への侮辱であり、総理は参議院の存在をいかに認識されておるかを伺います。私は、総理の口からは、好ましくないが合法だという御答弁は期待しておりません。われわれは、あすの議会政治、憲法擁護の立場から、総理の真実の御答弁を求めるものであります。
 次に、本論に入ります。
 今度の条約くらい、わけのわからない条約は見たことがありません。簡単にいえば、韓国は八億ドルあるいは十億ドルの金がほしい。日本は李ラインで魚がとりたい、安全に。――この辺から火がついたかと思うのであります。国交を正常化する相手の韓国というのは、一体どこをさすのか。休戦ライン以南であるとは聞いております。しかし、いやしくも国家という以上、そこに領土があり人民がある、それが存立の絶対条件であります。片方がないなんという国はないのであります。しかるに、政府は、この条約は、領土領域はきめておりません。必要はありませんと逃げております。なぜ逃げるのか。その理由、及び領域、領土というものはどこなのか。朝鮮は日本から離れた国でありまするから、鴨緑江から済州島の島までであることは、われわれは、かつて領有していた関係からよくわかるので、その辺の国境をはっきりと示していただきたいと思います。外務大臣、なぜ国連決議百九十五号を引用しなければその独立を裏書きできないのでしょうか。国家の承認の要件を満たすかどうかは、承認国が認定すれば足りるのであります。あの国と仲よくしよう、あれはいい国だ、これでたくさんなんであります。何で、よその古くさい十数年前の決議などを持ってきて、これを正当だと言わなければならないのか。この国連決議なるものも、今度の総会における、この二十回総会における中国代表権の投票の例に見られるように、いつひっくり返るかわからないのであります。そのときは一体どうするのか。合法じゃない政府だといったらどうなるのか。政府は、そのときには調整すると言っております。一体、領土、人民をどういうふうに調整するのか、伺います。
 また、朝鮮には二つの国家があるのか、一つの国家があるのか。政府は、北には一つの権威がある――それは朝鮮民主主義人民共和国をさすのでありますが、どういうものか、日本の政府は、何かあるとか、権威があるとか、念頭に置いてとか言って、名前も言わない。この名前は私が教えますが、朝鮮民主主義人民共和国であります。その権威があることは認め、一方、韓国の管轄権は休戦ライン以南で北に及ばないと言う。どうも、一般国民の方々は、二つの国家があるように考えられるのではないか。そうすると、おもしろいことになります。大韓民国政府というのは、休戦ライン以南にある韓国の中の唯一合法政府ではないか。韓国の中のですよ。そういうふうに考えるが、政府はどうでありますか。韓国は、その領土は韓半島全域と付属の島々であると憲法に規定している自分を日本は認めたのであるから、自分以外に国家はないと言う。ところが、椎名外務大臣は、衆議院の特別委員会で、「伝え聞くところによれば、あの国の憲法にはそう書いてあるようであります」――一体、他国と条約を結ぶときに、条約締結権の問題をはじめとして、相手国の憲法を知らずに条約を結べるのですか。条約第三条にある、大韓民国政府は、朝鮮における唯一の合法政府であるというのは、国連決議の都合のよい部分をつなぎ合わしたものであります。すなわち、日本は、台湾のように、南だけを認めたい、限定承認をしたい。韓国は、それでは困る。そこで、苦心の結果、第三条の文言が出てくるわけであります。国連決議には「唯一合法」とはないんですよ。「唯一」というのは前にあり、あとには「合法」とあるのですね。役人の法律屋の頭のいいのが、前と、うしろを取ってきて、「唯一合法」と、こうくっつけたのです。こういうごまかしであります。これは、何としても北の人民共和国を狭いところに押しつけて無視していきたい、これが、韓国へのサービスであり、アメリカへのサービスだ、などと思っているのでしょう。まことに残念であります。こんなあやふやなものを結んで、北とはケース・バイ・ケース――総理は、国会においては外国語らしいものは使わないでもらいたい、日本語でやっていただきたいが、北とはケース・バイ・ケースで、貿易も、人間の往来も、在日北鮮系の住民の処遇も、やると、先ほどの御答弁にありました。こんな、のんきなことを言ってたら、韓国は直ちに条約をぶち壊してくる、善隣友好などとたわけているうちに、この辺は戦雲に包まれるような騒ぎになると私は思います。総理、外務大臣、どういうふうにお考えになりますか。
 われわれの義務は、たとえ時間をかけても、南北統一にあらゆる援助をして、統一朝鮮と党々の国交を設定したほうがよいのであります。日本の平和と安全の道は、日本が一番よく知っておるのであります。これは、自主的にきめる国家の義務と権利であります。統一を阻止しているのは、佐藤総理はよく、国連方式による選挙を、北鮮が言うことを聞かないからだと言っております。私は、そんな簡単なものではないと思う。この統一をするには、まず、南北の対立を刺激するようなことをやらない、慎み、そして、おりあらば両者の話し合い、平和ムードをつくることを助けていくことだろうと思います。幾ら時間がかかってもかまいません。十四年もたっておるのだと総理は言うが、佐藤内閣はなくなり、お互いが死んでも、韓国もあれば北朝鮮もある。日本もあります。ここを戦争の場にしてはいけないのであります。それから、休戦協定の精神を生かすことであります。また、南北の対峙する兵力の削減、軍縮、国連軍の縮小から撤退への努力などをあげることができると思います。国連軍の駐兵は国連の決議によると言うかもしれません。政府はそう言って逃げております。しかし、派兵十六カ国は、これは、遠い国からアジアの国まで応援に来たのであります。もうとっくの昔に帰りましたが、この遠い国々は自分のことで手が一ぱいなのであります。ややこしい極東の端っこのことに巻き込まれたくないために、駐兵の決議が国連総会の決議として繰り返されておるにすぎないのであります。それが証拠に、この駐兵国十六カ国のうちで、国連が侵略者だときめつけた中華人民共和国を承認をしている国が五、六カ国あるのであります。あざやかな外交をやっております。五、六カ国ある。この事実を一体、政府はどうごらんになるのか。日本政府のやることとしては、国連の注意を喚起する、このことであろうと思います。政府の口にする国連尊重は、ときに無為無策の隠れみのにすぎません。同時に、およそ国際紛争や対立というものは、大きく外から客観情勢の展開に待たなければなりません。スケールの大きな外交であります。これは、佐藤さんのように、一体、将来の外交をどうするのだといえば、朝鮮とはこうする、あるいは中国とはどうする、ソビエトとはどうする、そういうような、個別的な、外務事務官みたいなことを言っているんじゃないんです。大きな外交であります。朝鮮休戦がまとまったのは、何でまとまったか。北と南がくたびれたことも原因でありますが、スターリンが死んだ後にマレンコフの時代になり、ソ連の平和的なゼスチュアが非常にあずかって力があったのであります。また、つい先ごろの核実験停止条約の成立というものが、どれほど米ソの対立と世界の緊張緩和に役立ったかを思い知るべきであります。佐藤総理大臣は、平和に徹し、南北の統一にもあらゆる努力をすると言っておられまするが、その外交展開の構想、具体策はどんなものでありますか。スケールの大きいところを伺います。
 また、けさの新聞を見ますと、外務大臣椎名さんはモスコーに行かれて、日ソ間の国交調整、できれば平和条約の下交渉に入ると書いてありますが、ここで一体、領土問題について目鼻がついて行くのか、においをかぎに行くのか、あるいは相互不可侵条約でもやろうという大きな手をぶちかけると同時に、アメリカ軍の沖繩徹退、択捉、国後を返せというぐらいのことを言うつもりなのかどうか。航空協定ができたから、お祝いのカクテールを飲むようでは困るのであります。また、対中共政策も、世界の大きな流れに沿って、いまや大きく転換すべきときであろうと思いますが、あわせて所信を承りたいと思います。
 なお、韓国は、この条約の意義について、日本と違いまして、共産主義侵略を防ぎ、極東の安全と平和維持について日本に期待していると言っております。総理は、いかなる形でも、軍事的に結果する協力はしないと断言できるかどうか、伺います。
 次に、具体的問題に入ります。それは竹島の問題であります。政府は、ほかの懸案と一括して解決すると断言されましたが、後には、せめて解決のめどだけはつけておきたいと、国会で割り引いて泣き言を言いましたが、これもだめ。竹島を一体放棄するのかどうか、総理に伺います。政府は、いや、そのために交換公文をつくってあるんだ、それには紛争はまず外交経路を通じて解決するものとする、できなかったら調停にかけるんだ、その紛争の中には竹島が入っているんだと、こういうふうな御答弁があります。一方、椎名外相は、条約の解釈について、社会党の皆さんは、うるさく言うけれども、それは条約の文に書いてあるとおりに御解釈下さい。――解釈します。交換公文に竹島という字が一体どこに入っている。(竹島を含む)とも含まないとも、何とも書いてないのであります。この答弁の矛盾を外務大臣から伺います。
 また、韓国は、もし日本があくまでその主張を曲げないならば交渉を打ち切ります、すぐ帰りますと言っておるようであります。いつでもこの態度。去る六月だと思う、調印のために季外務部長官が佐藤さんにお会いになったときに、これは向こうの議事録でありますからはっきりわかりませんが、議事録によれば、佐藤さんは何とか顔を立ててくれないかと言ったと――下品なことばであります。しかし、いまさらわが韓国としては、こんなことをやったらダイナマイトに火をつけるようなものだから、この交渉ができなくて条約をつぶしても、私は席をけって帰ると言ったと。そうしたら佐藤さんは音が出なくなった。何にも反響がなかったわけですね。それから調印に臨んだのでしょう。その間の事情をひとつ総理から明らかにしてもらいたい。どうも態度において、韓国と日本はどうも違うのであります。向こうが必死で、しつこいのであります。こっちは、ふわふわとしておる。一体、領土問題、これを総理は大きな問題と考えるのか、あるいは、たかが小さい岩礁だ、こう思われるのか、その認識のほどを伺いたいのであります。先ほど草葉隆圓君は、竹島に警備兵がおって、鉄砲を持って武装し、かまえている、こういうお話がありましたが、今日でもなおいるようであります。昔は巡視船に鉄砲を撃ちかけてきたことがあります。本条約には「国連憲章の原則を指針とする」と、うたっております。草葉さんも尋ねられ、総理もそのとおりだとおっしゃった。ところが、第二条にどう書いてあるか。領土保全その他について武力をもって威嚇し、これを行使してはならないと書いてあるのであります。条約関係に入るというのに、憲章違反を一体、政府はどう見ておるか。なぜかかる行動を黙認しておられるのか。私はこの事実を見て、まだ韓国、朝鮮の方々の中には、わがほうに対する警戒心が根強く残っていて、条約締結の情勢にはほど遠いという証拠のように考えられます。
 もう一つ大きな問題が竹島にあります。それは昭和二十七年、講和条約の年の六月でありますが、アメリカは竹島を爆撃場として日米合同委員会を通じて提起をしておる。日本は承知いたしましたので向こうへ出した。しかし、翌年の二十八年三月に、もう使用しないからといって日本に返された。これは皆さんも知っておられます。私も外務委員会でやりました。竹島は、平和条約で日本が放棄する地域のうちに入るのか入らないのかという決定というものは、条約起草者のアメリカがよく知っているはずであります。わがほうの個人の財産請求権を放棄せざるを得なくなった、例の在韓財産請求権問題で、韓国と日本の意見が対立した。日本はある、向こうはない。そのとき、条約起草者の行司に見解を求めたのであります。なぜ、この際に見解を求めないのか。アメリカは、また、なぜ長い間、これだけの紛争をやっているのに沈黙をしているのかも、まことに不可解であります。日米行政協定は、韓国領土の貸し借りをやったのか、外務大臣にお伺いをします。なお、この条約が実施され、円満なムードが出れば解決するときが来ると、外務大臣はおっしゃっておりますが、そんな約束がいつ、だれとの間にあるのか、単なる希望であるのか。これもお伺いをいたします。
 次に、文化財、文化協力協定について伺います。
 文化といいますと、「かおり高い」という、まくらことばがつくのが、普通であります。かおり高い文化。この協定を見ると、お互いに文化協力を緊密にしましょう、あんたのところから持ってきた文化財を返しましょう、この二つしかないのですね。ひどい、冷たい条約であります。冷たい協定であります。文化協定といえば、まあ文化人もたくさんおられるが、もうたくさんの条項でいろいろなことを取りきめて、大いにそれをやろうという意欲を燃やしているのですが、日本が、過去についての深い反省とあたたかい気持ちを持って、本来あるべきところへ戻してやるというところが見えないのは、どうしたことか。この点は、文部大臣、及び、気持ちでありまするから、佐藤総理大臣に伺います。
 文化協定といえば、どこでも、大体、判を押したようでありまするが、日本とフランスやイギリスやその他の国々と結んだ中には、両締約国は、相手国の広範な知的、芸術的及び科学的活動に緊密に協力するのがねらいであって――こんなふうに書いてあるのであります。文化協力こそ、民族の真の理解を深める最も大事なものと思うが、それがないのであります。政府・自民党は、文化、芸術のセンスがあるのかどうか、疑わざるを得ません。文部大臣は、いかに考えられまするか。
 文化財は、一体、向こうに引き渡すのか、返還するのか、要らないものだから持って行けというのか。どういうのか。この協定文には、「引き渡す」とありますが、気持ちを伺います。引き渡される品物、美術品、図書類の選定の基準は、一体何か。韓国の要求によるものであるのか、日本が選んでやったものか。この間を明らかにしてもらいたい。重要文化財に指定されたものがないのはどうしたわけか。国宝に指定されたものも入っていないようてありまするが、日本には韓国から――朝鮮から持ってまいったもので、このような重要文化財に指定されるものは一点もないのか、あっても引き渡さないのか、具体的に御答弁を願います。
 次に、去る三十三年に、百六点の文化財を韓国に親善のムードづくりの名目で送っております。これらの品は、一体いまどこに保存されておるか、これをお伺いします。やったのだから、どこへ行ったって、海の中に落ちても知らないでは、済まされないのであります。聞くところによると、その品々はあまりいいものがないらしい。首飾りの玉が欠けておったり、本といえば、筆で写し直した複製品が少なからずあって、貴重な品とは言いがたいものがあるといわれております。そこで、向こうは本国にこれを送ることができないで、何か日本の大使館の倉庫かどこかにぶち込んであるとかという話を聞くのであります。はなはだ大事な問題でありますから、この真偽のほどを明らかにしてもらいたいと思います。
 ただ、最も重大なことは、今回引き渡される文化財は、すべて韓国に由来するものであって、北鮮系のものは除かれているといいます。文化財は民族伝統の宝であります。政治権力の所在によって区別さるべきものではないと思います。文化財まで二つの朝鮮の考えを露骨にあらわすに至っては、これは気違いのさたであります。その理由をここに明らかにしてもらいたい。同時に、北鮮のものは一体何点ぐらいあるのか。今後いかにこれを処置するつもりか。向こうから要求があれば引き渡すのかどうか。
 終わりに、総理大臣に伺います。
 植民地の支配や侵略の過程で、西側の大国は、いろいろなものを本国に持ち込んで、博物館、美術館に飾っておりますが、これらは、それぞれ自分のあるべき国に返してやるのが筋だと思いまするが、政府の文化政策を伺いたいと思います。
 漁業関係に移ります。
 漁業関係といえば、何といっても李ラインの問題に帰着いたします。政府は、一貫して李ラインが不法不当だから撤廃させると公言してきましたが、結果を見ると、この協定によって実質的に撤廃されたとしております。しかるに韓国は、この協定は、李承晩大統領宣言の趣旨にかなうものであるから、いよいよもってその存在が明らかになったとしております。撤廃というのと実質的に撤廃というのとは、これは公約の大きな違反でありますが、何と説明されまするか。政府は、関係水域で安全操業ができればいいので、向こうが李承晩宣言のことばを、いつどこで使おうと、わが国は無関係だと言いまするが、このラインは、はなはだかってきわまる話でありますが、韓国の主権線と言っておりまするから、向こうの都合で、いつでも動き出すものであります。なるほど、漁業協定があっても、国防というような、国家非常の場合には、また別な観点から、どんな措置をとってくるかもわかりません。これは、こちらの知ったことじゃないでは済まないのであります。明快な措置をなぜとっておかなかったか、外務大臣、農林大臣に伺います。
 漁業の点からしても、韓国には漁業資源保護法という、李ラインを裏づける国内法があり、これを改廃する様子は全然ありません。政府によれば、どんなものがあったって、国際法は国内法に優先するから、韓国は協定の相手国である日本に対して、何らの拘束力を主張し得ないのだ、こう言っております。ところが、ちょっと理屈ぽくておもしろくありませんが、国際法と国内法との関係は、法理論として、昔から、国内法が上位であるとか、法域を異にするという二元論もあれば、政府の言う国際法上位論をとる国もあります。新興国、こういうのはナショナリズムが強いから、国内法が上になるのだという見解をとっているところも多いのであります。国家はそれぞれの立場をとれるので、他国の制肘は受けないものであります。こんな法理論を振り回して政治問題を解決しようというのは、これはわれわれは全然説得力はないと思いまするが、外務大臣の御所見を伺います。
 外務大臣は、また衆議院において、韓国の資源保護法は、この安全操業を取りきめた協定ができた以上、適当なときに廃止するのが条約に基づく義務であり、それを期待すると発言しております。かかる条約上の義務ならば、なぜ大好きな条約文に書き入れていないのか。国内法の改廃は韓国の国内問題だから、わが国は関知しませんという従来の政府の説明とも矛盾するのでありまするが、外務大臣の御答弁を伺いたい。
 政府は口を開けば、国際法や国際慣行は尊重しなければならないと言う。しかるに韓国の漁業水域の外側六海里の入り会い権の放棄をいたしております。韓国はその気前のよさにあきれておるようでありまするが、なぜ政府は、世界が長い年月かかってやっとでき上がってきた、この入り会い権というような国際慣行をあっさりと捨ててしまったのか。将来に大きな影響があると思いますので、農林大臣に伺います。
 韓国の管轄権の及ばない休戦ラインの北の朝鮮民主主義人民共和国のほうまで韓国の漁業水域を設定したり、共同規制水域まで合意をしてやっておられまするが、これは韓国が朝鮮の唯一の合法政府であることのかっこうをつけてやるためにやったことかどうか。また、日本漁船がこの方面の専管水域あたりに出漁して事故があった場合、それは韓国政府が責任をとってくれるのか、韓国と話し合えば片がつくのか、その辺のことも伺いたいのであります。
 次に、実質的な点をお伺いいたします。この協定によって日本は大きな漁獲高の影響を受けると思いまするが、その予想をひとつ数字で伺いたいことが一つ。もう一つは済州島付近の漁場であります。ここは黄金の漁場といいまして、済州局のこの左右――東西、ここにはたくさんの魚が集まってまいりまするが、何ぶんにもここには大きな潮流があり、左右に分かれて北進をいたします。ところが、この潮の速さは一時間五ノットもある。まき網で、これは共同規制水域の境目で一番魚がいるというところで網をおろせば、一時間で五海里は向こうの専管水域に入ってしまうのであります。だから、たくられてしまいます。そうすると、たくられないためには、少なくも十海里なり十五海里、あるいは二十海里、相当の距離まで下がって網をおろして、協定線のところで揚げる。風に押し流される、潮に流されるで、しかもこの辺はたくさんの船が込み合いまするから、たいへんな事故が起こってくる。しかも韓国にはみんなつかまってしまう。いい「えさ」になると思うのでありまするが、この辺について十分の対策と配慮を持っておられるのかどうか。また、韓国には魚の冷凍や保存施設も十分でないので、とった魚をそのまま日本の港に持ち込んでくることもあるでしょう。そうなれば市場は撹乱されると思うが、これにどういう手だてがありまするか。
 次に、請求権、経済協力について伺います。
 平和条約四条にちなんだ請求権の解決は、結局どんぶり勘定八億ドルという経済協力に変わってしまったことは事実であります。条約に規定したこの請求権解決の方法というのは一体どこへ飛んでいってしまったのか。また、この八億ドルの積算の根拠は何か。韓国が日本に出してきた対日請求八項目は、政府の計算でもせいぜい五千万ドルとはじいております。それが八億ドルにふくれ上がったのは驚きます。大蔵省、外務省が試算するという五千ドルの根拠と八項目の内容を説明してもらいたい。李承晩大統領が出した七十億ドルの対日請求権の要求は別としても、韓国は大体これ一まで六-八億ドルの線で日本に要求をしております。妥結したところを見ると、ちょうど向こうの数字にぴったり合うのであります。ですから、これはほんとうのつかみ金、どんぶり勘定と見なければなりません。日本側も、個人の請求権はだんだん額を上げて、五千万ドルぐらいあると、当時小坂外相が主張したことがあるらしい。ここに双方の要求額を、日韓交渉以来のものを順序をつけて明らかにしてもらいたいのであります。何年度はこっちは何千万ドル、向こうが幾ら。ことに、韓国が二十八年ごろ、終戦時の評価で九十億円から百二十億円の対日請求権があると言っていたのに対し、三十六年から八年の間に八億ドルにはね上がってきたのは、どういうところをなめられたのか、これらを明らかにするのが国民に対する政府の義務であります。
 アメリカは、三十億ドル以上の経済協力を韓国につぎ込んでいます。たいていの国は、援助というものがありますると、みな立ち直っています。それがなぜできないのかというと、韓国がいたずらに反共を唱えて軍事に狂奔し、アメリカの援助政策もまた軍事中心であったために、経済の基盤が今日までとうとう固まっていないのであります。この誤った考え方の根本を是正して平和共存の方針に切りかえなければ、このわれわれの経済協力は、いっときのささえにしかなりません。日本の財界、産業界は、不況打開のため韓国進出にしのぎを削っております。そして安い労働力に目をつけております。韓国ではこの動きを日本の経済侵略と見ている者が多く、一歩間違えば国交開始前よりももっとひどい状況になります。この面からも条約締結はやめるべしと思うが、外務大臣の見解を伺います。
 政府は、北朝鮮に対する請求権が残ると言っております。残るのはあたりまえであります。日本は平和条約上、全朝鮮と請求権を処理すべき義務があるからであります。北鮮政府とは、いつ交渉をやるのか。双方の請求権はどのくらい残っているか、試算をしたものが当然あるはずでありますから、明らかにしてもらいたい。
 なお、個人の財産請求権の保障については、再再政府から、審議会の答申を尊重するというお話がありますが、この尊重するということは、必ず実行する――お金が大きくちゃ、たまげちまう。そうでなくて、実行してやるのだという御決心があるかどうか、承りたい。
 これで終わりますが、これを要するに、この条約は、いろいろな面で、将棋でいう詰めがなされていない。食い違いが多い。条約交渉の中間報告といったような内容のものであります。基本条約と称せるものではありません。妥協の産物たる条約でありまするから、これが実施された暁には、条約締結の心組みの違いというものが、在日朝鮮人の法的地位や待遇の問題に加えて、ことごとく日本にはね返ってまいることは必至であります。もし、この条約がほんとうによいものであるならば、日本におる朝鮮人がみな韓国籍になだれ込んで入っていくだろうと思います。しかし、約六十万の在日朝鮮人のうち、韓国籍が依然二十万、あとの北鮮系、中立系その他の朝鮮の人々は四十万――動かないのであります。このことが、どういう条約であるかをりっぱに証拠立てているものと思います。
 私は、最後に、この条約はせっかく椎名さんが御苦心しておつけになったが、もはや無効である、こう信じて私は終わります。(拍手)
 〔国務大臣佐藤榮作君登壇、拍手〕

○国務大臣(佐藤榮作君) 冒頭に、衆議院における本案件の審議についての御批判がございました。私は草葉君の御意見に対しましてもお答えしたばかりでございますが、今日最も大事なことは、私どもが民主政治に徹するということである、議会政治を守るということである、かように思います。そういう意味におきまして、お互いに十分反省もし、そうして、今日の事態に対しまして、よりよき慣例をつくる、こういう方向で努力いたしたいものである、かように私は思います。
 今日、まだ条約の批准もできていないのに、だんだん大使を交換するとか、あるいは批准日程等について出ることは、不謹慎ではないかと、こういうおしかりを受けました。確かにそのとおりだと思います。しかしながら、事務当局がこれらの点について準備をすることは、これはお認めを願わなければならないと思います。また、それが、最近の新聞関係の連中はたいへん有能でございますから、こういうものをなかなか機密が保てない、そういうところで、ときに先ばしった記事等が出るのでございます。政府自身が国会を無視すると、かようなことはもちろんいたさないつもりでございますし、また、二院制度であります今日におきまして、参議院の良識はこれを十分私どもも尊重してまいるつもりでございますから、こういう点について誤解のないようにお願いをしておきます。
 次の問題は、国家の承認の問題でありますが、申し上げるまでもなく、サンフランシスコ平和条約が発効したとき承認したということになっております。
 なぜ国連総会決議百九十五号を引用したかというのでございますが、これは、韓国の性格をこの引用によって明らかにしておる、かように御了承いただきたいと思います。
 また、国際情勢の変化に伴って、この決議が変わることがある、そういう際はどうするのかということでございますが、まあ、今日の状態でなかなか想定のできかねる問題をお尋ねになりましても、お答えするわけには私はまいりません。
 また、領土、国境は一体どうなっているのか、こういうお尋ねでございますが、この点につきましては、先ほどの草葉君のお尋ねにもあったと思います。一民族が一つの国家を、統一国家を形成するということ、これは、心からその民族の願うところであり、私どももこの民族の悲願を達成さしたい、かように考えておるのでございますが、ただいま朝鮮におきましては、不幸にして二つの権威があるということ、これは百九十五号でもそういうことを認めておるわけでございますが、そういう事態に対しまして善処していくというのが今日の私どものあり方でございます。この点については、草葉君にもお答えしたように、平和条約以来、一貫して韓国と私どもは交渉を持ってきておりますので、この際に、一民族一国家とは申せ、そのたてまえから、ただいまも北との交渉を持つわけにはまいりません。
 また、北との各種の請求権なり、あるいは文化財等の問題、あるいは漁業等の問題につきましてもお尋ねがございましたが、今回、皆さま方の批准承認を求めるというところのものは、北鮮については全然いわゆる白紙でありまして、全然取りきめはしてございません。そして、それぞれの具体的案件につきまして、その具体的事情を勘案して、それに対する対策を立てていく、これも先ほど来申したとおりでございますので、省略さしていただきます。
 次に、もっとスケールを大きくして条約を締結すべきじゃないか、こういうことがございましたが、これは御意見として私も拝聴しておきますが、先ほど来、わが国のアジア外交、また、わが国の国際社会に処して進む方向、これは華葉君にお答えいたしましたので、それに譲らしていただきたいと思います。
 また、椎名君の訪ソの問題についてのお尋ねがございましたが、椎名君と私と、まだ十分それらの点について話し合っておりませんから、新聞記事になりましたところは、政府首脳部が相談をして、そうしてそれが記事になったものだ、かようには御理解いただかないで、ただいま、まだ十分相談をしておらない、かように御了承いただきたいと思います。
 次に、今回の条約が軍事的な協力関係を持つのではないかというお尋ねでございますが、先ほども申したように、軍事的な何らの考え方も持っておらないと、重ねて申し上げます。私ども、憲法からも、また自衛隊法からも、また韓国自身も、今回、日本に対して軍事的協力ということは、国会において説明しておる限りでは、さようなことはございません。これもはっきりいたしておりますので、もしその点に誤解があれば、韓国も同様な考え方をしておる、したがって、これは両国が一致して、軍事的な問題には触れておらないと御了承いただきたいと思います。
 次に、竹島の問題でございますが、竹島の問題については、これが岩礁であろうが、どうであろうが、小さな場所であろうが、私どもは、領土であるという、その立場に立ちまして、国民の非常な関心の深い問題である、かように思っておりますので、私どものかねて主張しておるように、これは在来からの固有の領土である――これは、あらゆる機会に私どもは主張してまいっております。また、この私どもの主張は、ぜひとも相手方も納得していただきたいものだと思います。ただいま、これが紛争であることは、かような意味におきまして、はっきりしておる。日本も固有の領土を主張しておるし、韓国も固有の領土ということを主張しておる。したがって、両国の意見が対立しておるのでありますから、これこそ紛争そのものである、かように私は思いますが、この問題について、将来これをいかなる方向で解決するかということは、外務大臣から説明しましたように、はっきりいたしましたので、今回は、ただいまこれをきめることはできない。私は、しばしば皆さま方に申し上げて、一括解決ということを公約してまいり度した。この意味におきまして、竹島が最終的な解決を見なかったということは、まことに遺憾、残念に思います。しかしながら、竹島を解決する方向、平和のうちに解決する方向、これがきまりましたことは、この意味におきまして、せめて国民に対して御理解を求めることができるように思うのであります。ただいま警察官等が竹島を占領しておるということでございます。これは、国際法上違法なものであることは申すまでもございません。したがいまして、わが国は厳重に重ねてこの抗議を繰り返しておるというのが今日の実情でございます。また、この竹島の帰属につきまして、交渉の途中において、日本政府が放棄したとか、あるいは竹島が韓国であるということを了承したとか、いろいろ言われておるようでございますが、交渉の際にはさようなことは全然ございません。この機会に、はっきり申し上げておきます。日本政府が韓国の領土であることを了承したとか、あるいは日本政府がこれを放棄した、かようなことは全然ございませんから、誤解のないようにお願いいたします。
 次に、文化交流についてのお尋ねでございますが、日韓両国は、御承知のように、歴史的にも、文化的にも、お互いに長い交流を重ねてまいりました。したがいまして、今回の親善友好関係を樹立するに際しまして、この文化交流、これに大いに力を入れ、大事に取り扱っていく考えでございます。森君から、どうもあまりに事務的であり、理想がないじゃないか、こういうような御批判、おしかりを受けたのでありますが、私どもの考え方は、どこまでも両国の文化を大事にしていく、また、その文化の交流を通じて、一そう親善関係を深めていく、かような考え方でございますので、これまた誤解のないように願っておきます。
 先ほど来、北鮮について申しましたように、北鮮については全然触れておりませんから、この点は御了承いただきたいと思います。
 それから、この条約はもはや無効であるというお話をなさいましたが、私は、この条約がいわゆるスタートラインに立っておるのだということをしばしば申し上げておると存じます。なぜ、かような考え方でやっておるかという、これはもう重ねて申さなくても御承知のごとく、終戦後二十年たった、そうして両国に親善関係を樹立することができない、しかも、両国の間においては、漁業上において、しばしば紛争をもたらしておるとか、あるいは多数の韓国人がわが国に在留していて、その法的地位もきまらなく、あるいはまた、これらの生活についての詳細なる話し合いもできておらない、まことに残念でございます。そういう意味から、どうしても親善友好関係を早く樹立したい、こういうことで今回の問題と取り組んだのであります。しかして、大多数の国民、これは、日本におきましても、韓国におきましても、この条約の成立を心から願っておるようでございますが、一部におきましては、これにやはり反対しておられる。その反対の理由が、韓国におきましては、大体韓国が非常に譲歩し過ぎたのではないか、こういう非難から、この条約に反対をしておられる。わが国におきましては、ずいぶん変わった考え方もあるようですが、一部の反対の方々は、やはり日本が少し譲り過ぎたのではないか、こういうことでございます。これは、両国国民において同じような考え方、わが国の立場により有利な、また韓国の止揚に、韓国民としては、より有利な条約を締結してほしい、それは、それぞれの国民の当然のことだろうと思います。ここに私は、十四年の間、長きにわたって妥結を見なかったものが、今日初めて妥協の所産としてこれができたのだ、こういうことが言えると思います。お互いがしんぼうして、そうして譲り得るものは譲り合って、そうしてこの条約が初めてできたと、私は確信をしております。それならば、これよりいいものが、まだできるかということでございますが、私は、今日つくったものが最善のものである、かような確信を持っておりますので、どうか皆さま方の御協力、御賛同を得たいと思います。
 〔国務大臣椎名悦三郎君登壇、拍手〕

○国務大臣(椎名悦三郎君) 大体総理の御答弁で大要は尽きておりますが、若干補足する意味で、また、私の名前をさしての御質問がございましたので、その点について申し上げたいと思います。
 韓国の憲法には、全半島に及ぶというように書いておるようでございますが、条約を結ぶ場合には、相手方の憲法まで承認するという趣旨ではないのであります。それで、基本条約では、韓国の憲法にどう書いてあろうと、とにかく百九十五号の決議を引用して、その引用された決議の中に、半島の一部、朝鮮民族の大部分、それに有効な管轄権、支配というものが及んだ政府が成立した。それが自由な選挙に基づくものでありまして、さらに、この半島においては、こういったような政府は、これが唯一のものである。こういうふうに書いてありますが、これをそのまま韓国政府の性格として、これを引用して、さらに、その内容については、いろいろな関係協定において、その解明の基礎をなしておる。こういうわけでございまして、韓国と条約を結ぶにあたって、お前の領土はここからここまでであるというようなことを言う必要はないのであります。そういう意味において、これは領域を規定する条文ではなくて、韓国の政府というものの性格を、概括的にこれを引用したというものにすぎないのであります。なお、ただいま申し上げたように、相手国の憲法まで承認するというような義務は、もともとないのであります。さよう御了承願います。
 それから第三条は、これは韓国政府を承認したものではない。韓国の承認は、すでに平和条約発効の際に承認をしております。でありますから、いま申し上げたような韓国の性格を述べておる、こういうのであります。
 「唯一合法」とは何か。これは非常にまぎらわしいじゃないかというような御質問でございましたが、いま申し上げるように、「朝鮮における唯一合法の政権」、こう言うと、非常に内容がばく然としてまいります。しかし、つぶさにこの引用した決議を見ますというと、半島の一部に朝鮮人民の大部分が住んでおって、それに対して有効な支配と管轄権を及ぼし得る政府ができたのだ、こういうことを言っていますから、そういう意味の「唯一合法」、こういうことでございますから、おのずから内容はしぼられておる。この点をひとつ御了承願います。
 それから、条約が発効して、両国の間に友好的な雰囲気が醸成されたという時を待って、この紛争の処理、すなわち竹島の紛争について解決をはかる。これは一体、向こうと取りきめたことであるか、それとも希望であるかということでありますが、ここらは、なかなかむずかしいところでありまして、この点を十分に心得ておいて、そうして、かような取りきめができたものであるというふうに御了承を願いたいと思うのであります。その問題について、それじゃ明確な取りきめがあるかと言いますと、刑にそれについて、「とこにそうろうをつけべくそうろう」といったような、そういうことは番いてありません。書いてありませんけれども、その点は十分に審議を重ね、十分な了解のもとにこういう文言ができておるのでありますから、われわれは、希望といえば希望、期待といえば期待かもしらぬが、確信をもって期待する、こういうふうに考えております。
 それから漁業の保護法が向こうに残った場合に一体どうかということでございますが。御指摘のとおり、韓国の国内法について、とやかく言う権利はございませんが、条約を円滑に施行し、これを守る意味においては、さような措置をとることをわれわれは強く期待しておる、そういう意味で申し上げた次第であります。
 それから経済協力が逆に経済侵略になるおそれが十分にあるということをお説きになりまして、そういうものはやめたらどうかというような、御意見か御質問かよくわかりませんが、これは、向こうは、りっぱな主権国でありまして、もしさようなことがあれば、向こうは、いかなる強制権も行ない得るのであります。少なくとも、韓国内において行なわれることにつきましては、十分な主権を行使することができるものでありまして、さような心配は全然無用であると私は考えております。
 それから請求権の問題に関して、請求権の行くえはどうなったか――八項目の提示がありましたけれども、それを追及するということは、ほとんどもう不可能である。ということは、法的根拠なり、あるいは事実関係というものがはっきりしなければならぬ。ところが、もう朝鮮事変がその間に起こっているし、年月もたっている。それから、両者の法的根拠に対する見解の相違というものは非常に著しいものがあり、これを追及するということは、ほとんどもう百年河清を待つようなことになりますので、これをやめて、そうして経済協力一本でいくということになったのでございますが、これは、請求権のかわりに経済協力をやるというのではない。これはあくまで、新しい国をつくったから、そのお祝い、それから、韓国が今後経済発展の上において少なくとも絶対に必要であろうという点を十分に勘案し、わが国の財政事情も十分に考えた上で、有償二億、無償三億ドルというものが決定したのであります。これは、イギリスあるいはフランスが、旧属領が独立して国をつくる場合に、よくこういう手をやったのであります。これは私は、旧宗主国の当然の義務、責任であろう、かようにまあ考えておる次第でございます。
 以上が私の申し上げる点でございます。(拍手)
 〔国務大臣中村梅吉君登壇、拍手〕

○国務大臣(中村梅吉君) お答えいたします。文化協定の前段のほうにつきましては、総理からお答えがございましたので、私は文化財について申し上げたいと思います。
 まず、今度の文化財引き渡しは、引き渡しか返還かと、こういうお話でございましたが、協定に明記されておりますとおり、引き渡しでございます。ただ、ここに至りますまでに、韓国側では返還ということばを要求し、こちら側は、返還の義務は筋合いではないから贈与しようというようなことで、しばらく折り合いがつきませんでしたが、相互に、そういうことにとらわれないで、引き渡しということで妥結をしようというので合意をいたしまして、明らかに協定にございまするように、引き渡しでございます。
 それから、文化財引き渡しについて何か基準があったのかというお説でございましたが、これは格別、基準があったわけではありませんので、相互の話し合いの結果、この引き渡し点数及び品目が決定いたした次第でございます。しいて腹づもり的のことがあるとすれば、日本側としまして、こちら側の腹づもりといたしましては、韓国に同種類のものがもあるものは、しいてそう返さなくてもよろしいじゃないかということで、日本にあるもの、あるいは韓国側で引き渡しを求めておるもので、同じ種類のものが韓国に現に存するものは、そちらはそちらで文化財の研究ができるのだから、よろしいじゃないかということで、こういうものを避けましたわけでございます。その結果がああいう品目になった次第でございます。
 なお、この中に、国宝及び重要文化財がないではないかということでしたが、これは故意にこうしたわけではありませんで、いま申し上げたような腹づもりで折衝しました結果妥結に達した品目のものにつきましては、国宝あるいは重要文化財に指定されているものは一点もございません。
 なお、今度の引き渡し品目について、韓国に由来するものであるということであるから、今後北鮮の要求があったらどうするかというお尋ねでございましたが、これは、いま北鮮とは、そういう問題が起こっておるわけでございませんので、目下のところ、われわれとしては全くの白紙でございます。
 なお、さかのぼりまして、昭和三十三年に百六点ほどの無償引き渡しをしておるという問題について言及がございましたが、この当時は、御承知のとおり、抑留日本人漁夫を何とか送還をしてもらいたい、日本にも非常に切実な問題をかかえておったわけです。かたがた、日韓交渉のまことに難航をしておった最中でございますので、両国間の友好関係に若干でも寄与するようにということで、当時百六点ほどを選びまして無償引き渡しをいたしましたような次第で、その後、これらの品物が韓国側でどういうように保管され、どう処置されておるかということにつきましては、実は、いままで国交も正常化されていない段階でございますから、私どもは、つまびらかでない次第で、今後国交が友好化されるならば、こういう点についても、せっかく引き渡した文化財でございますから、これらがどうなっておるかは、われわれのほうでも検討いたしたいと思いますが、現在では、つまびらかになっておらないというのが現状でございます。
 以上、お答えを大体終わったと思います。(拍手)
 〔国務大臣坂田英一君登壇、拍手〕

○国務大臣(坂田英一君) 漁業問題について四点ばかりお答え申します。
 アウター・シックスの出漁権を放棄した理由いかん、こういうのが一つ。漁業協定において、日韓両国とも十二海里までの漁業水域を設定することができる旨を合意したんでございまするが、その際に、わが国といたしましては、この漁業水域のアウター・シックスの出漁をいたさないことにいたしたわけでございます。それは、漁業協定の交渉にあたりまして、李ラインの実直的撤廃、それから操業実態の尊重、それに、まあいわば漁業の資源の保護的処置といったような問題に主眼を置いておったわけでありますが、大体においてその目的を達成できた考えでありまするので、大局的見地から、これらの問題は、韓国の特殊事情を見まして、出漁しないということにいたしたような次第でございます。
 それから第二番目の点でございまするが、済州島東西の水域は非常にいい漁場であるが、この水の流れが非常に速い。そこで、操業上非常に因る問題であり、何らかの処置ができなければならぬじゃないかという、そういう問題でございまするが、ごもっともなことでございます。元来、この済州島と韓国の本土との間の関係を、低潮線のいわゆる十二海里によってその線を引くことにきまったわけでありまするけれども、それをやりますというと、その外郭線の間に非常に深い切り込みができる、それらを残しておいては、かえって初めの閥紛争の種になるのじゃないかという問題と、また、韓国のいろいろの事情等をも勘案いたしまして、暫定的にそれらを韓国の漁業水域にその一部を入れることにいたしたわけでございます。そういう関係でありまするが、いまお説のとおり、非常に速いのでございまして、その地帯における操業関係は、十分これはひとつ考えなければならぬのでございます。元来、民間漁業協定の話し合いというものを準備中でございまするが、そういう問題を主として調整をとっていく考え方をもって進んでおるわけでございます。
 それから、共同規制水域における漁獲高は具体的にはどういうふうになっておるかという意味の御質問であったように思うのでございます。これは、共同規制の対象となっておりまする漁業の年間総漁獲量は十五万トンでございます。それに大体一〇%の許容量、したがって、最高限度は十六が五千トン、まあ内訳を申しますと、(「内訳はよろしい」と呼ぶ者あり)よろしゅうございますか。(笑声、拍手)そういうわけでございまするので、この合意されました漁獲量は、必ずしも協定上の規制となっておるものではないのでございまして、協定上は、最高出漁隻数をもって規制をいたしておるのでございまするが、この漁獲量は、その場合の指標となる数字というふうにいたしておるわけでございます。この漁獲量を取りきめるにあたりましては、わが国漁業の実態を考慮いたしまして交渉を行ない、おおむね国内としては実績に近いものでありますることを申し上げておきます。
 それから第四番目には、冷凍施設に乏しい韓国でありますから、生鮮魚そのものがわが国の市場に入ってくるということはお説のとおりでございまするが、今後これらの量が多く入ってくることは、これは将来ますます多くなると思うのであります。今後、これらの問題に対する対策といたしましては、輸入割り当て制度の適宜の運用、それからして、やはり韓国の冷凍、冷蔵施設等の充実を通じまして悪影響の防止をはかってまいる、そうして、ともどもに発展するように進めてまいりたいというふうに考えておる次第であります。(拍手)
 〔森元治郎君発言の許可を求む〕

○副議長(河野謙三君) 森君、何ですか。――答弁漏れがありますれば、自席において御質疑願います。
 〔「登壇々々」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し〕
 〔森元治郎君登壇、拍手〕

○森元治郎君 総理大臣に、けさの新聞に出ているソビエトとの外交調整についての私の質問があったわけですが、あれについて、もう一回答えていただきたい。
 それから、朝鮮が二つの国家であるのか一つの国家であるのか、あるいは台湾のように、台湾だけを限定承認するという方式もあるが、一体どっちの考えと見たらいいのか、非常に政府の説明がわからないから伺っているのが一つ。
 もう一つは、文化財というものを、昔の植民帝国の国が略奪して、ロンドンとかどっかへ持っていったものを、これはやはり現地のほうに返してやるのが順序じゃなかろうかということであります。
 それから、外務大臣に、相互の請求権の金額を、過去から今日まで、順番に出してもらえないか、知らしてもらえないか、こういうことを伺ったのであります
 〔国務大臣佐藤榮作君登壇、拍手〕

○国務大臣(佐藤榮作君) 重ねてお尋ねがありましたので、お答えいたします。
 まず第一は、二つの国家か一つかというお尋ねでございますが、これは、お答えいたしましたように、私どもは、サンフランシスコ平和条約以来一貫して韓国と交渉を持ってきた、北とは全然交渉を持っておらない、この事実を申し上げておきます。もう一つは、同一民族は単一国家でありたいという、これは民族の悲願であります。また、それを実現すべくわれわれも協力しておるのだということを申しました。ただいま、そういう関係にございますので、二つの権威があるかないか、こういう問題は、この条約の内容からも、二つの権威のあることは一応考えておるのだということは、おわかりになるだろうと思います。また、北のほうに関しては、一切、今回は交渉したわけではないのだということも、はっきり申し上げましたので、誤解はないように願いたいと思います。こういう、分裂国家とでも申しますか、単一民族が二つの権威をつくった、こういう国は朝鮮ばかりじゃございませんが、そういうところにおきましては、南を承認した国は北を承認しておらない、北を承認した国は南を承認しておらないというのが、これが今日の国際慣行になっております。したがいまして、七十二カ国が韓国を承認いたしておりますが、この七十二カ国は北を承認いたしておりません。二十三カ国は北を承認しておりますが、この二十三カ国は南を承認しておりません。したがいまして、ただいまのような形式的な、二つの国か、あるいは一つかということは、実際問題として処理する場合には、あまりに観念的な議論である、かように私は思います。
 次に、第二の問題で、ソ連についてのお尋ねでございます。私は、外務大臣がモスコーに行くという記事を見ました。今日、日ソ間の関係は、領事条約を結ぶとか、あるいは日ソ航空協定を結ぶとか、よほど親善関係が深まりつつありますが、しかし、この際に外務大臣がソ連に出かけるという記事を見まして、このことのお尋ねではなかったかと、かように思いましたから、まだ、私と外務大臣とでは、これを話し合っておりません。したがいまして、ただいま申し上げるような事態でないということをお答えしたつもりでございます。ただいま申し上げるように、両国の関係におきましては、いろいろ密接に親交が深まりつつある。まだ領土問題――国後、択捉、あるいは歯舞、色丹、あるいは安全操業等々の点につきましては全然交渉はございません。このことは、はっきり申し上げにおきます。
 その次には、植民地と旧宗主国との関係において、宗主国は文化財等を、植民地が独立した場合に戻すべきではないかというお尋ねでございます。私は、いわゆる法律的な義務、こういうようなものはないと思います。しかしながら、韓国と日本の場合におきまして文化財を返すこと、これは申すまでもなく、両国間のこれまでの文化交流、これを二つ考える。またもう一つは、韓国が南北問題――朝鮮事変等で文化財等も烏有に帰している、荒廃したと、こういうような意味で、わが国にある国有のもので、これは韓国の歴史を語るとか、あるいは過去の文化、これを国民に、示すと、こういうような意味におきまして意義のあることだと、かように思いますので、日本は今回の交渉におきましても、日本の文化財、それが国有であれば、その一部を返すことにきめたわけであります。また、民間におきましても、こういう事柄につきまして積極的に協力したいという、これは民間団体からもそういうような申し出があります。私は、両国の親善友好のためにたいへんいいことだと、かように思っております。ただ、この問題は、一般的には、法律的な責任があるとか、こういうものでないことを重ねて申し上げておきます。
 それから、請求権の金額の全額、これを明確にしろということでございますが、今日までこの請求権の金額等を明確にする実は資料等が十分ございません。また、在外資産――私ども日本人の持っていた私有財産等の金額がどうなっているか、こういうようなお尋ねもしばしば聞くのでありますが、これまた、そういうものを説明するはっきりした証拠書類といいますか、そういうものはない。非常に材料が不十分でございます。したがいまして、これもお答えすることができません。(拍手)
    ―――――――――――――
○副議長(河野謙三君) 黒柳明君。
   〔黒柳明君登壇、拍手〕

○黒柳明君 私は、公明党を代表いたしまして、議題になっております日韓条約及び関係案件について、若干質問したいと思います。
 まず第一に、これは特に大切な問題でありますので、重ねてお尋ねいたしますが、衆議院日韓特別委員会及び本会議における自民党の強行採決について、政府の見解をお伺いしたいと思います。
 新聞報道によりますと、田中自民党幹事長はこう言っております。「二院制を、憲法、国会法のたてまえからすなおに理解してもらいたい。極端にいえば、参議院は一日でも二日でも議了できるのだ」、これは驚くべき暴言であります。(拍手)いやしくも、国会議員は、憲法の基礎である国民の主権により、国民の信任を受けて国会に集まっているものであります。その討論が一日で済むか、一カ月で済むか、あるいはそれ以上かかるかは、政府・与党の独断できめることではなく、十分な討議の結果として、きまるべきものであります。さもなくして、どうして国民の信頼にこたえることができましょう。ところが、政府のとった態度は、単に参議院全体を無視するものであるばかりでなく、法を悪用して議会政治を踏みにじるものであり、憲法の基礎である国民の主権を踏みにじり、国民の信頼を裏切るものであります。また、国会法の諸条項に照らしてみて、この強行採決は、明らかに無効であると言えます。佐藤総理も、一日や二日で、はたして本条約が議了できると思いますか。参議院というものを、そのように、どうでもよいものだとお考えになっているのか、お答え願いたい。
 次に、特別委員会強行採決に至るまでの衆議院の審議を見ますと、あまりにも期間が短か過ぎます。たとえば、一九六〇年の安保改定を審議した国会議事録をごらんなさい。安保条約と地位協定が国会に提出されてから足かけ四カ月、三十七回の委員会が開かれて、審議を尽くしております。ところが、日韓条約の場合はどうでありましょうか。政府は、数多くの討議に必要な資料さえも提出せず、質問に対しては、はぐらかすことばかり熱心で、まともに答えようとせず、実際に審議が行なわれた期間も、わずかに八日間にすぎないのであります。しかも、ようやく審議が軌道に乗り出し、きめこまかな、国民生活に触れるような質問がこれから出るであろう、そういうときになって、前回の各党間の約束を無視して、いきなり二分間で強行採決が行なわれたのであります。しかも、衆院での審議は尽くされたと思う、参院ではさらに慎重審議したい、こう言うに至っては、全く国民をばかにしたものであります。(拍手) 佐藤総理みずからが謙虚なる態度を示さぬ限り、国会の審議は不可能になるものと思うのであります。この点について、はっきりした答えをお願いいたしたい。
 次に、本条約の根本的問題について質疑したいと思います。
 佐藤総理のスローガンである日韓友好の基本姿勢についてであります。それを最も端的にあらわしているのは、日韓基本条約第二条の、旧条約問題についての佐藤総理や椎名外相の考え方であります。そもそも、この旧条約問題とは、明治九年の日韓修好条規から明治四十三年の日韓併合条約に至るまでの数十件の条約、協定、議定書などを、どのように評価するかという問題であります。つまりこれは、日本が朝鮮を植民地化したという歴史的事実を、今日現代の世界の良識から見て、いかに評価すべきかという問題であります。この評価の態度においてこそ将来の友好の基礎となる問題であります。この過去の歴史をいかに考えるかという思想が、たとえば請求権の扱い方、経済協力の方法、在日韓国人の処遇など、これからのさまざまな具体的な問題の根本的な性格をきめるのであります。
 そこで、政府の思想を検討してみたいと思います。まず、外交責任者である椎名外相は、その著書の中で、朝鮮、台湾、満州の植民地化を「榮光の帝国主義」とたたえているほどでありますから、これは論外で、いまさら検討の要もないと思います。最も肝心なのは、最高責任者である佐藤総理の考えであります。総理は、さきに衆院の日韓特別委員会で、旧条約は「対等の立場で、自由な意思で結ばれたと思う」と答えております。現在でもその考えに変わりはないか、お答え願いたい。つまり、旧条約調印にあたっては、わが国の武力、威圧により、朝鮮が屈した実例が幾多あるのでございます。これは、将来の友好の基礎となるべき思想の問題であり、世界観の問題でありますから、まじめにお答え願いたい。
 次に、文部大臣にお願いいたします。大臣は、朝鮮の植民地化というものが、日本側の軍隊による圧力もなしに、これに対する朝鮮民族の抵抗もなく、あくまでもお互いに対等に自由な意思で行なわれたとお考えになりますか。歴史的な事実を根拠にしてお答え願いたい。また、文部大臣は、一九六〇年十二月十四日の国連総会で、すでに日本政府も賛成している「植民地諸国、諸人民に対する独立付与に関する宣言」という現代の世界の良識に照らして、朝鮮民族の過去の独立運動は正当なものであったか、それとも不当なものであったかを、はっきりお答え願いたい。これは、日韓両国の次の時代を背負う子供たちの教育にも関係のある、きわめて重大な問題でございます。
 次に、同じ問題について法務大臣の見解をお伺いします。その根本的な思想こそは、直接に日本民族と朝鮮民族が触れ合う問題、たとえば在日韓国人の国籍問題の扱い方、あるいは強制退去の方法などにも、本質的関係を持っているのであります。
 次に、同じ問題についての見解を通産大臣にお伺いします。大臣は、今日の対韓経済協力が、再び過去のような経済侵略にならないと保証できますか。この問題は、今日、日韓両国の一般国民のみならず、両国財界にも強い心配の声があるのであります。通産大臣は、過去の日本が朝鮮経済を植民地化した歴史についてどうお考えですか。また、これからの対韓経済協力が経済侵略にならないように、どんな対策を具体的に考えておられますか。それは経済協力協定の中に十分に明文化されてありますか、お答え願いたい。
 われわれは、これまでの政府答弁から判断して、佐藤内閣が真に日韓友好を考えているのかどうかに深い疑いを持っております。その意味で、佐藤内閣の唱える日韓友好の基本姿勢を確立していただくために、日韓基本条約第二条にいうところの旧条約を、全部討議資料として検討することを確約していただきたい。それは、昭和九年三月、外務省条約局で出した「旧条約彙纂」第三巻「朝鮮及び琉球之部」に全部含まれているはずでございます。そうして、その各条約について、その締結状況を外務省や総督府の資料によって調査し、歴史専門家たちの見解も聞いた上で、はたしてそれが、これまでの政府答弁のように、対等自由な意思で結ばれたものであるかどうか、佐藤総理並びに各大臣に確かめていただきたいのであります。われわれは、真実の意味の、日本民族と朝鮮民族の将来の友好のために、現代に語りかけている歴史の声を、すなおに再検討してみる必要があると思うのでございます。そういう誠実な道徳的な作業なしには、日韓基本条約第二条についての政府見解がはたして正しいかどうか、審議することはできないのであります。
 次に検討しなければならないのは、政府の唱えている国連中心主義のほんとうの意味は何であるかという問題であります。この問題は、今後の日韓関係を考える場合に、ぜひとも明らかにしておかねばなりません。なぜならば、日韓基本条約の前文と第四条では、日韓両国が国連憲章の原則によって協力することを繰り返して誓約しているからであります、その約束によって、今後日韓両国民が縛られていくのであります。韓国は国連加盟国ではありませんけれども、韓国政府は国連の朝鮮問題決議に忠実に従うことを義務づけられているのであります。日韓基本条約は、一九四八年十二月十二日の国連決議をよりどころにしておりますが、国連加盟国もまだ少なかった。こういう昔の決議には、今日いろいろ問題があります。したがって、十分な検討が必要となっています。具体的には、一九六三年十二月十三日、第十八回国連総会の決議十八号、さらに、そこにおいて再確認されている諸決議などを全文検討した上での条約であるか、お伺いしたい。なぜならば、政府は、それらの決議に、国連方式尊重の立場から賛成しておられるからであります。また、その内容を政府は出然国民に報告する義務があります。そういう当然の義務を果たさないでおいて、ただ頭から、政府のいう国連方式による協力を国民に押しつけるようなやり方は、民主主義の国においては許されません。それでは国民は、国連憲章の原則による協力をしろといわれても、何のことか、さっぱりわからないのであります。そういう資料をしっかりと検討した上で、初めて国民は、政府のいう国連方式が、はたして真の国連憲章の原則にかなっているかどうか、判定を下すことができるのであります。
 また、衆議院における外務省の答弁によりますと、日韓基本条約にいう国連憲章の原則とは、憲章第七章にいう強制措置、すなわち軍事問題ではなく憲章第一章第二条の原則のことだとのことでありますが、この原則は七項目ほどあるはずでありますから、それを、一つ一つの項目について国民の前にはっきり説明していただきたい。そうしてこそ初めて、政府は国民に対して国連憲章の原則による協力をお願いすることができるのであります。それが民主主義というものであります。憲章第一章第二条の第五号では、国連軍への援助を要請し、第七号には第七章の国連の強制措置が規定されております。しかも、日本は「日本国における国連軍の地位に関する協定」や、「吉田・アチソン交換公文等に関する交換公文」によって、在日米軍が朝鮮に対して行なう戦争の場合に、基地、資材、労力などによる協力を約束しており、しかも、韓国軍は在韓国連軍の指揮下にあります。すなわち、憲章第三十九条に基づく在韓国連軍の軍事行動との関係が出てまいります。このような米・日・韓三国の関係について、特に外務大臣の十分な説明をお願いいたしたいのであります。
 政府は、これまで国連中心主義を日本の国是としてきたわけであります。そのくせ、政府代表が国連総会でどのような活動を行なっているかについては、国会に満足な報告をしたこともありません。今度の第二十回総会からは、ぜひとも国会に詳しい報告を行なっていただきたいと思います。中国代表権問題、朝鮮問題、核拡散防止問題など、日本の対アジア外交と国民生活にも深いかかわりを持つ重大問題が国連では扱われており、それについての政府の活動報告さえも、ろくに行なわれないということでは、国民は、政府のいう国連中心主義の内容がわからないのであります。実のところ、これまでの政府の国連中心主義は、実は、アメリカ追従主義の別名にすぎないのであります。政府は、今後、この国連における活動を常に国民の前に報告して、検討を仰ぐという姿勢が必要であります。そういう国民に対する謙虚な姿勢もなしに、ただ政府の判断した国連中心主義を国民に押しつけることは、国連憲章の大目的である「人民の同権及び自決の原則」にも反すると思うがどうか。総理のお考えを承りたい。
 以上、参議院での慎重審議を約束した政府の立場として明快なる答弁をお願いいたします。(拍手)
 国務大臣佐藤榮作君登壇、拍手〕

○国務大臣(佐藤榮作君) お答えいたします。
 第一の、衆議院の審議の問題につきましては、もうすでに前二人の質問を受けまして、私お答えいたしましたので、重ねてお尋ねがございましたが、重ねてお答えすることだけは省略させていただきたいと思います。ただ、私は、この問題で重ねて申し上げますが、ただいま最も大事なことは、私どもが民主主義を守り抜くこと、同時にまた、議会制度、議会主義制度に徹することだ、かように思いますので、この点を重ねて申し上げます。このことは、法規、先例等を尊重することはもちろんでありますが、同時にまた、多数決の原理を尊重しない限り議会制度は守れない。この点をはっきり申し上げておきます。
 次に、衆議院における審議がたいへん短かったと、こういうお話でございます。確かに、会議を開きましたのは八日間であった、かように思いますが、しかしながら、特別委員会を設置して以来二十日間を空費いたしました。二十日も空費しておいて八日であった。何のためにこれは審議期間が短いか、(拍手)かようなことは私はたいへん問題だと思います。皆さま方にも、やはり同じように有効にこの審議期間を使うという態度であってほしいと思います。私は、今回のこの特別委員会の設置等につきましても、各党で非常に慎重に考えられ、また、相互に忌憚のない意見を述べられたのだと思いますが、今日までこの審議が始まらなかったということは、私は、参議院でありますだけに、非常に惜しまれてならないのであります。(拍手)どうか、この上とも審議を尽くす――政府の考え方を了とせられて、各議員の方々が審議を十分尽くすと、こういうことで御協力を願いたいと思います。
 また、田中幹事長の話を引き合いに出されまして、この種の暴言、これをおしかりを受けました。私は総裁といたしまして、幹事長につきましても、ただいまの御叱正を十分伝え、今後の反省のかてにいたしたい、かように思います。
 その次に、旧条約の問題に触れられましたが、これは私が申し上げるまでもなく、当時、大日本帝国と大韓帝国との間に条約が結ばれたのであります。これがいろいろな誤解を受けておるようでありますが、条約であります限りにおいて、これは両者の完全な意思、平等の立場において締結されたことは、私が申し上げるまでもございません。したがいまして、これらの条約はそれぞれ効力を発生してまいったのであります。これらの問題が、この基本条約第二条によりまして、もはや効力を失ったと、こういうことが規定されておるのであります。それらの点については、詳しくは外務大臣からお答えをいたさせたいと思います。
 最後に、自民党がいつも国連中心主義と、かように唱えておるが、国連中心主義とは一体何かと、こういうお尋ねであります。このこともしばしば申し上げたところでありますが、今日国際の平和機構としては、たよりになるものは国連でございます。現在の機構あるいは機能、それぞれが万全だとは私は絶対に申しません。しかしながら、国際的な平和機構として国連を尊重していく。また、その足らないところは、お互いの力によりまして改善もしていく、そうしてりっぱな国際的な平和機構として重きをなすように国連を取り上げていきたいと、かように思うのであります。ことに、私どもは、憲法のもとにおきまして、国際紛争は一切武力を用いない、こういうことを国民とともに誓った国でございます。世界に誇るべき憲法の精神、その精神から見ましても、ただいま申し上げるこの国連を、国際平和機構として、唯一の平和機構として、これを権威あらしめるということに最善を尽くしてまいりたいと思います。
 また、国連憲章の第二条の規定については、これは詳細に外務大臣からお答えをいたします。(拍手)
 〔国務大臣椎名悦三郎君登壇、拍手〕

○国務大臣(椎名悦三郎君) 基本条約第二条についてやや補足いたします。
 これは、従来の日韓間に締結された旧条約、それに対して、客観的にもはや無効であるという事実を宣言したものでございまして、これらの条約がしからばいつ無効になったのかという問題が残るのでございますが、日韓間の併合条約は、一九四八年八月十五日、すなわち朝鮮が日本の支配から離れたとき、すなわち韓国が独立を宣言したその口から失効したという解釈をとっております。それから併合前の諸条約は、それぞれ条約の所定の条件が成就した際に失効し、あるいはまた、併合条約の発効に際して失効するという解釈をとっております。
 それから、国連憲章第二条の各項目についての御質問でございましたので、それを逐一御説明申し上げます。御指摘のとおり、一般に国連憲章の原則とは、憲章第一章の第二条に規定された七項目を意味しておるのでありまして、国連自身及び国連加盟国の国際問題処理の基本を規定したものであるのであります。
 第一項目は、加盟国の主権平等をうたっております。いかなる国も、国連加盟国は主権平等であるという原則を打ち出しております。第二項は、国連憲章に基づく各加盟国の義務が規定されておるのでございますが、これは義務を忠実に実行すべきこと、これが第二項であります。
 それから国際間の紛争、これはあくまで平和的に処理すべきことである。これが第三項であります。第四項は、兵力の使用の制限でございまして、加盟国は、他の国の領土保全と独立に対して、兵力による威嚇とか兵力の現実の使用、そういうものは絶対に避くべきである、こういう事柄が規定してあります。すなわち、実力をもって威嚇する、あるいは実力を行使して領土を侵害し、独立を侵害するということは絶対にいけない、これが第四項であります。
 第五項は、国連が憲章に基づいてとる行動に対しては、各加盟国は援助を与えるべきである、こういうことが規定してあります。
 第六項は、平和と安全を維持するために非加盟国との協力を確保するように努力すべきである。加盟しない国とも、平和と安全の維持のために協力を惜しまない、そういう点を強調しておるのであります。
 最後に、第七項目といたしまして、国連は、加盟国の国内問題に互いに干渉してはいかぬ、国内干渉は禁止する、こういう点を強調しておるのであります。これが国連憲章の原則である。
 なお、ついでをもって申し上げますが、現実問題として、これだけでなかなか済まぬ場合がある。外部から思いがけない侵略をこうむる場合もある。そういう場合には、相手方が全然国連憲章の原則を無視して行動するのでございますから、これに対してはやはり有効な措置を講じなければならぬ。これがすなわち、個別的あるいは集団安全保障の行動をとって、そうして自衛権を行使することができるという国連憲章第五十一条の規定に該当するようなわけでございまして、原則は原則であるが、特殊の場合に対する適当なる行動というものは、また別に定めてあるのでありますが、これは普通に言う国連憲章の原則というものではないと、こういうことを御了解願いたいと思います。(拍手)
 〔国務大臣中村梅吉君登壇、拍手〕

○国務大臣(中村梅吉君) 私の見解を求められた点は二つあったかと思いますが、その一つのほうは、すでに総理、外務大臣からお答えがございました。すなわち、日韓の併合条約、これらは対等の立場で、自由の意思で結ばれたものと思うかどうかということでございましたが、総理、外務大臣からお答えがありましたとおり、私も同様に考えておりますので、省略をさしていただきます。
 次に、韓国における独立運動というものが正当と思うか不当と思うかと、こういう趣旨のお尋ねでございます。これは、見方によっては非常にいろんな問題があると思いますが、合併をされたり植民地化されたりしたところの地域の民族が、一つの民族意識として独立運動を起こす、あるいは独立運動をやるというようなことは、これは正当とか不当とかの問題ではなくして、常にあり得る、これは同然発生的なものであると思います。そこで、昔日の――その当時ならばいろんな考え方があったと思いますが、すでに今日では、一九六〇年の国連総会におきまして、「植民地諸国あるいは諸人民に対する独立賦与に関する宣言」というものが行なわれている。わが日本国もこれに対しては賛同をいたしておりますから、この国連の宣言の趣旨から見れば、韓国における独立運動というものは妥当なものであったと、こうわれわれは見るのが正しかろうと、かように私は考えております。(拍手)
 〔副議長退席、議長着席〕
 〔国務大臣三木武夫君登壇、拍手〕

○国務大臣(三木武夫君) 黒柳君は、経済協力が経済侵略の事態を生じないかという御心配からの質問が私にございましたが、御承知のように、経済協力の協定の第一条に、供与とか貸し付けは韓国の経済の発展に寄与するものでなければならぬということが、基本的な理念として規定をされておるのでございます。したがって、そういう基本的な理念に従って、韓国から実施計画が出るわけでございます。この韓国の意向は尊重をいたしたいと考えております。そこで、韓国から実施計画が出れば、日本の政府と協議をして、そうして政府の認証という段階を経て具体化されるのでありますから、経済侵略というものが生じる事態はないのでございます。ただ、日韓の両国の間には、いわゆる併合時代のこともございますから、できる限り細心の注意を払って、経済協力が経済侵略の誤解を生じないようにわれわれは努力をいたしたい所存でございます。
 また、併合をどう考えるかということは、総理大臣のお答えのとおりに考えております。(拍手)
 〔国務大臣石井光次郎君登壇、拍手〕

○国務大臣(石井光次郎君) 朝鮮の民族独立運動についてどう考えるかという問題――ただいま中村文部大臣からお答え申し上げました一九六〇年の国連の宣言にもありまするとおり、また、国連に日本も加盟をいたしておりますので、私どもも同様な考えを持っておるわけでございます。過去におきまして、日本と朝鮮との間には不幸な関係があったことは、いなめないことでございましたが、いまや、日韓協定が結ばれまして、韓国の独立を祝福しながら、日韓双方が善隣関係に入ろうとしておることは、まことに喜ばしいことでございまして、どうか、これからこれを出発点といたしまして両国関係がうまく進んでいくことを、私どもは期待しておるわけでございます。(拍手)
 〔「答弁がある」「議事進行」「通告順だ」「議長何してるんだ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し〕

    ―――――――――――――
○議長(重宗雄三君) 向井長年君。
   〔「議事規則でやってください」「議事進行、議事進行」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し〕

○議長(重宗雄三君) 演壇におられる議員は各自の議席にお着きください。――降壇を命じます。命令します。――衛視の執行を命じます。
 向井長年君。
 〔向井長年君登壇、拍手〕

○向井長年君 私は民主社会党を代表いたしまして、ただいま議題になりました日韓条約並びに関係法案等につきまして、基本的な問題に対して若干の質問をいたすものであります。
 質疑に入る前に、本案は、わが国にとってまことに重要な問題であり、国民の前に利害を明らかにし、慎重に審議しなければならないのにもかかわらず、さきに衆議院での自民党のとった暴挙は、いかなる理由があろうとも、われわれは断じて許すべからざるものであります。なお、本院においても、本日まで長期間空費し、審議を遅延したこと、並びにただいまも議長が衛視に執行を命じたような、こういう事態をたびたび生じたことは、まことに残念であり、遺憾としなければならぬと思います。常に良識の府といわれておる本院においては、国民の負託にこたえるためにも、また、本院の権威を保つためにも、今後審議半ばにおいて、質疑打ち切り、強行採決のごときは、断じてやるべきでないことを強く付言するとともに、かりそめにも、自然成立に追い込むがごときは、本院の威信をみずから失墜さすものといわざるを得ません。したがって、審議を十分尽くし、問題点を明らかにし、国民の納得のいく正常な運営をされるよう、本案に対する取り扱い上の問題として議長に強く要望するとともに、特に自民党佐藤総裁に対しましても、総裁の決意もあわせてお伺いいたしたいと存ずる次第でございます。
 われわれ民社党は、これまで日韓両国間に横たわる幾多の懸案事項を解決し、その友好関係を増進するために、国交の正常化をはかることに賛成の態度をとってまいったのであります。(拍手)
 その理由の第一は、すなわち、隣国との友好関係の樹立こそ、わが国の自主的かつ平和的外交の基本であると確信するからであります。隣国との国交は常にこれを閉ざされてはならないというところの外交の鉄則は、日韓関係についても当然であり、不動の真理でなければならぬのであります。われわれが真の平和を求め、他の国との友好を求めるならば、まず隣国に対しては、その政治体制が自由主義あるいは共産主義のいずれの国であろうとも、進んで国交を開き、善隣友好の関係を実現することが、わが国外交の第一歩でなければなりません。われわれの基本的態度は、隣国でありながら共産国家であるという理由をもってこれを敵視し、これらの諸国との国交をかたくなに閉ざさんとしているところの政府自民党の外交路線とは、根本的に相違するものであります。
 第二は、日韓の正常化がわが国の安全保障に重大な意義と価値を持つものと判断するからであります。わが国の平和的存在を保障する基礎条件は、まず、わが国を取り巻く隣国が、その信条や政治形態のいかんを乗り越えて、お互いの国が信頼し、自由と平和に徹した国家として発展する状態が確立されることであります。次には、現実に当面する国家的、民族的利益をいかに守るかということでなければならぬのであります。一九五一年、韓国において李承晩ラインが一方的に設定されて以来、韓国側によるわが国の漁船の拿捕は実に三百数十隻に及び、約四千名の漁民が不当に抑留され、しかも二十数名のわが国同胞が命を失っているのであります。抑留漁民の家族の悲惨さは多言するまでもありません。また、わが国には、一般概念の外国人でもない、日本人でもない在日朝鮮人が、約五十八万人在留いたしております。それらの人々は年々増加し、わが国にとっては最も憂うべき少数民族の禍根をつくり出しつつあるのであります。これらの問題を一刻も早く解決し、わが国の民族的利益を確保することこそ、わが国外交の重大な使命でなくて、一体何がわが国の外交でありましょう。われわれが日韓正常化に基本的に賛成してまいりました立場は以上の理由に基づくものでありますが、日韓交渉はまれに見る曲折と波乱の外交交渉であり、十四年の折衝が必要であったことが、交渉のあとを検討してみますと、双方それぞれ明快に説明をすることが容易でないような多くの譲歩と妥協、その結果として生じた条文の解釈上のあいまいさを残しておるのであります。
 そこで、私は、次の諸点について、総理並びに関係大臣に質問をいたしますが、明快なる答弁をお願いいたします。
 第一に総理にお伺いしたいことは、わが国がこのたび懸案の日韓問題を解決するにあたり、直接関係ある問題として、政府の北鮮に対する外交姿勢の問題であります。先般、総理の所信表明に対するわが党の曽祢議員の質問に答えて、総理は、「北鮮問題については在来の扱いを変える考えはない。今後ともケース・バイ・ケースで処理していく」と答えられております。これでは国民は納得しないのです。国連においても、また、わが国においても、現存する北鮮の政権は認めている以上、無関係の状態を続けるわけにはいきません。従来のかたくなな考え方を捨て、積極的に、 経済、文化並びに人事の交流と、貿易の推進をはかって、友好を深めていくことこそが、平和外交の基本方向でなければならないと思うが、総理はこの外交姿勢を、日韓条約批准にあたって、今後どう具体的に対処する考えがあるか、お聞きいたしたいのであります。
 次に、管轄権の範囲でありますが、今回の基本条約第三条において、国連決議第百九十五号を基礎として、三十八度線-政府の説明では休戦ライン以南としていることは、われわれも理解しているが、将来において、国連総会で重大な修正あるいは撤回等の決議が採択された場合、基本条約はどうなるか。条三条の更改、修正を必要とすることが予想されるが、韓国がこれに応じない場合には、事実上それは不可能となるが、政府のこれに対する対策はあるか。私がこういう質問をいたしますと、総理は、仮定の問題として、政府は軽く考えているように思うのでありますけれども、激流する国際情勢の中では、慎重に対処しなければ、悔いを千載に残す結果になると思うが、総理並びに外務大臣の所見をお伺いいたしたいのであります。
 次に、在日朝鮮人の法的地位に関する問題ですが、この問題も先ほどの質問者が触れておりますけれども、再度私は総理にお伺いをいたしたいと存じます。永住権の問題でありますが、永住権はその範囲があまりにも大幅であって、譲歩をし過ぎたとの不満の国民の声もあり、また、これがわが国の将来にとって解決しにくい少数民族の問題を形成する素地になるのではないかという危惧をする向きも、これまた多いのであります。しかし、過去の経緯から考えて、一応やむを得ないとも考えられるのでございますけれども、この協定の対象となり得る者は、在日朝鮮人五十八万人のうちわずかに二十二万人にすげないのであります。北鮮素等、約三十六万人は、この協定のらち外に置かれております。政府は、これに対していままでどおり取り扱っていくと言っているが、結局野放しのまま放置され、今後これらの韓国籍を持つ人々と、しからざる人々の相克摩擦が、日本国内において繰り広げられることは明らかであります。政府は、韓国籍を持たない者をどう処理しようとするのか、将来特別立法をつくる意思があるのか、あるいは法律百二十六号・出入国管理令を改正する意思があるのか。次に、子孫まで永住権を認めた韓国籍の人々の将来はどのようにしていく構想を持っているのか。法務大臣に答弁を願いたい。
 次に、竹島の帰属問題についてでありますが、日韓批准に関する韓国国会の議事録によれば、李外相は、独島は過去から現在に至るまでわが国の厳然たる領土であり、領有権の是非の余地は全くないと、明確に明言をいたしておるのであります。竹島そのものは日比谷公園程度の広さで、経済的価値はきはめて少なく、無人島であっても、その帰属は、領土主権の管轄範囲の決定であり、領海の範囲をきめる重要なことであり、わが国固有の領土として、寸土も侵されてはならない、いわば国の威信にかかわる重大な問題であります。これについて佐藤総理は、今回の竹島帰属の紛争解決に関する交換公文によって、竹島問題は平和的解決の道が開かれたと述べているが、何を根拠にしてこれを言われておるのか、国民はどう受け取っていいのか、迷っているのが現在の状態であります。明確な答弁をお願いいたします。
 なお、政府は、交換公文に竹島という名が示されていない問題に対して、竹島を除くと書いてないから、当然包含されると解釈しているようであるが、この点についても、今後具体的な解決方策をいかに進めていくのか、これまた、総理並びに外務大臣にお伺いをいたしたいと存じます。
 次に、漁業問題についてでありますが、時間があまりございませんので、ごく簡単に要点のみをお尋ねいたします。政府は、漁業協定が失効した場合、再び李ラインのごときは復活することはないと説明されておりますが、韓国政府当局は、李ラインの目的は三つある。第一は国防上の必要性、第二は水産資源の保護、第三は大陸だな資源保護、その一つである水産資源の目的は、今回の漁業協定で効果的に規制されたが、それ以外の目的を内包する平和線は、現在事実上、国内法的に認定された内容として健在していると言っておるのであります。これに対して、漁業協定が失効した場合、李ラインはどうなるのか、これまでの政府の説明だけでは実に不十分と言わなければなりません。政府の、国民が納得できる見解を示していただきたいと存じます。
 なお、漁業協定の漁獲に対する今後の実施について、必ず紛争が起こるおそれがございます。政府はこれに対する具体的監督指導等をいかにしようとしているのか、これまた外務大臣にお聞きをいたしたいのであります。
 次に、経済協力の問題についてでございますが、無償、有償、局間協力等について、総理はたびたび軍事同盟はあり得ない、こういう答弁をされております。私たちも当然のことと思います。しからばこの条約の意義は、経済提携でなければ意味はなくなるのではないかと思います。政府はこれに対して本気に取り組む姿勢があるのか、もしこれがあるとするならば、韓国あるいは日本間に、いま問題になっておるところのノリの問題なんか、たいした問題ではないではないか。これに対して具体的に、日本が本気で取り組もうとするならば、こういう問題を早急に片づけるべきではないかと思うのですが、総理大臣の所信を承りたいと存じます。
 経済協力のあり方では、今後の日韓関係並びに日韓条約の価値を失墜することはないとは言えないのでありまして、少なくとも韓国の経済の発展と国民生活の安定に寄与するものでなければならないのであって、いやしくも疑獄と汚職に結びつくようなことや、今後日本商社の見苦しい過当競争が、韓国の国内において惹起するようなことは、絶対あってはなりません。政府として確固たる保障と見通しをいかに考えておられるか、具体的に説明を願いたいのであります。
 なお、在外財産補償並びに漁民に対する補償等の質問は、時間がございませんから、私はきょうは省略をいたしまして、いずれ特別委員会において明らかにいたしたいと存じますが、最後に、われわれは冒頭に申し上げましたように、本条約の意義がわが国にとってプラスの面はどこにあるのか、マイナスの面はどれであるか、十分審議を尽くし、疑問点を国民の前に明らかにして、国民とともに理解していきたいと、われわれは考えております。政府の懇切丁寧な責任ある答弁を特に私は期待してやまないものであります。
 以上、私の質問を終わります。(拍手)
 〔国務大臣佐藤榮作君登壇、拍手〕

○国務大臣(佐藤榮作君) お答えいたします。
 参議院は良識の府である、これはかねてから、皆さま方もあらゆる機会に言われているところでございます。ぜひともこの大事な条約の審議にあたりましては、十分慎重に、また詳細に、審議を尽くしていただきたいと思います。政府もまたそういう立場で、一時間をも、あるいは分秒をも惜しむような気持ちで、ぜひとも皆さま方が審議に万全を尽くされることを期待いたしておるのでありまして、政府もそういう立場で御協力するつもりでございます。よく説明するつもりでございます。
 また、衆議院の審議等につきまして、前質問者にも私お答えいたしましたとおり、この審議期間がずいぶん短いといわれながらも、二十日間も空費した、これは衆議院の経験でございますが、参議院におきましては、そういうことのないように、私どもも一そう勉強してまいるつもりでございます。そうして、今日最も憂慮されておる、いわゆる民主政治をほんとうに守ることができるだろうか、また、議会制度そのものは、日本民族にはたしてほんとうに理解され、受け入れられるような制度であろうか、かような疑問を持つ方ができておるようでございますが、私は最近の審議に際しまして、特にこれらの点を心配しておるものでございます。どうかこういう点について、私の考えについても御批判をいただきたいと思いますが、いわゆる良識の府である皆さま方にも、こういう意味の御協力を願いたい、心からお願いする次第でございます。これは政府と申すよりも、私、自民党の総裁として、特に皆さま方とともどもに、かような立場で審議を尽くしたいということをお誓いする次第でございます。
 次に、今回の日韓条約の性格、意義等につきまして、いろいろ御質疑がございました。このことは、両国国民にとりましてたいへん重大な意義を持つものであります。今日までこの種の善隣友好の関係を樹立することができなかったために、あるいは漁業の問題で幾多の紛争を引き起こしたり、また、在日朝鮮人の法的地位もきまらなかったり、あるいはまた、いろいろの問題が各方面にわたって起きていた。しかし、今回のこの条約締結によりまして、善隣友好を樹立することができ、いままでのこういうようなむずかしい、いわゆる非難を受けるような事態を改善することができる。かように私は思っておるのであります。私どもは、いわゆる善隣友好、同時に、平和に徹する考え方で外交を進めると、かように申しておりますが、その考え方の中には、いずれの国とも仲よくしていくということはしばしば申し上げたとおりであります。したがいまして、いわゆる共産主義の国であるからといって、かたくなに門戸を閉ざすと、こういうような考え方ではもちろんございません。しかしながら、私どもの安全を守る、また、国益と、国民の利益に合致する、こういう観点に立って、共産主義の国とつき合っていくのでありますから、共産主義の国におきましても、これらの日本の内政には干渉しない、あるいは独立は十分尊重する、本来のつき合いを仲よくやっていくのだと、こういうような気持ちが、一方的でなく、相手の国においても十分理解されて、それで初めて交渉が持てるのであります。私どもは、何事によらず、かたくなに国を閉じる、こういうこともいたしませんが、また、同時に、何らの主張なしにいずれの国とも仲よくする、こういうものでもないのでありますから、この点、誤解のないように願いたいと思います。私は、特に共産主義の国の方方が、わが国が平和を愛し、平和に徹しておる、この観点に立って、わが国の独立を尊重する、また、わが国も内政に干渉しない、お互いにその立場を尊重し合う。こういう気持ちになっていただくならば、共産主義の国だからといっても仲よくできるものだと、私はかように思います。ただ、ただいままでのところ、朝鮮におきましていわゆる共産主義の立場の政権も――権威もある。今日、韓国自身、これが朝鮮半島にありまして、国連におきましても、国連決議の百九十五号で申すような意味の独立国家としての韓国があるのでありますし、これと私どもは、平和条約以来、交渉を持っております。分立――同一民族が二つの権威に分かれておる、こういうような場合に、片一方と交渉を持った場合には、他のほうを相手にしないというのがそれぞれの国際的慣例であります。この点につきましてはすでに申し上げたとおりであります。したがいまして、わが国におきましては韓国と交渉を持つ、しかし、北鮮とはいわゆる事実問題として処理していくのだ、したがって、その具体的事実にいかに処していくかということは、いわゆるケース・バイ・ケースで、ものごとをきめてまいるのであります。ただ、今日問題になりますのは、この種の状態が一体いつまで続くだろうか。私は、たびたび申し上げますように、同一民族は、同一国家、単一国家をつくるということを心から願っております。それは国連でも指摘しておるとおりでありますので、国連の勧告もあるわけであります。しかしながら、ただいまの北鮮と韓国との関係は、朝鮮におきましても、国際的な、いわゆる東西冷戦を背景にして今日の状態ができておるのでありまするし、また、過去におきましても、朝鮮事変、この苦い経験がございます。したがいまして、容易に単一国家が実現するとは思わない次第でございます。だが、これをいつまでもかような状態で置いていい、かように私どもは思わないのでありますので、民主社全党の諸君が、同時に二つを承認しろというようなお考えでありますならば、私は、それには賛成いたしません。ただいま申し上げるように、国連方式による統一単一国家の実現に協力するわけであります。
 また、今回の問題は、漁業問題等、また経済協力等におきましても、軍事同盟的なものでないことは、これはもうすでに御承知のとおりでございます。たびたび説明いたしたとおりであります。
 そこで、具体的の事例として、ノリの問題などは、ぜひとも早く解決しろ、こういう御注意でございますが、私もさように考えますので、事務当局に、この点を急いで解決するように、すでに督促をしているような次第であります。
 問題は、重ねて申し上げますが、今回の日韓条約が持つ意義、まことに両国国民にとりまして重大な問題でありますので、この上とも慎重審議を尽くしてまいりたいと思いますし、また、国民の理解を十分得て、しかる上でりっぱに批准を得たいと、かように私は思う次第であります。(拍手)
 〔国務大臣椎名悦三郎君登壇、拍手〕

○国務大臣(椎名悦三郎君) 管轄権の問題について、私の名前をおさしになりましての御質問でありましたが、総理の御答弁によって、ほとんどつけ加えるところがないと思います。この引用された百九十五号の国連決議が、その後年々の総会においてこれを確認しておるのでありまして、相当な時間がたっておりますけれども、現在の客観情勢に適合したものでございますので、今回の条約でこれを引用したような次第であります。で、朝鮮の客観状態が全く一変するというような場合は容易に想定することができないのでありまして、そういう場合はいざ知らず、われわれは、この決議に基づく第三条の変更を近く予想するというようなことは、全然考えておらないということを申し添えておきます。
 それから、竹島と書いてない、これは御指摘のとおりでございますが、日韓間における紛争問題で、これほど長く、そうしてしかも深刻に取り扱われた紛争案件はないのであります。でありますから、紛争に関する交換公文において竹島を除くということが書いてない限りにおいては、これは竹島問題をまつ先に取り扱っておるということは、すでにこの交換公文の立案に協力した両方の当局がよく知っておるところでございます。ただ、独島なり竹島という名前を使わなかった。しかし、これはもう一番最大の紛争問題であるということを十分に念頭に置いて、かような交換公文ができたのでございますから、これは問題がございません。それの解決の方法は、申すまでもなく、通常の外交ルートによって解決できない場合には、双方の合意する方法によって調停にかける、こういうことになっておりますので、両国の友好的な雰囲気が十分に熟したのを見計らって、この問題の解決のために努力したい、かような考えでおるのでございます。
 なお、李ラインの問題について、漁業問題のほかに、大陸だなの問題と国防ラインの問題が残っておるというようなふうに拝聴したのでありますが、この大陸だなの問題については、これは国際法に認められておらない。他の国にこれを押しつけるということは、これは認められておりませんし、日本といたしましても、これは認める考えはない。それから、国防ラインというものは一体どういうものであるか、よくわかりませんが、日本も、かつては満蒙はわが国防のラインであるというようなことを言ったことがありますが、これは、ただ一つの想定にすぎない。でありますから、そこに何らの強制力も用いたわけじゃありませんので、どこからも文句が来なかったのでありますが、まあ、そういったような構想であるならば、これは無害であると私は考えるのであります。
 以上、御質問に対しましての私の答弁を終わります。(拍手)
 〔国務大臣石井光次郎君登壇、拍手〕

○国務大臣(石井光次郎君) 永住許可を受けておる者と、そうでなくしておる朝鮮人と、その間に待遇の差が出てくるので、相克摩擦が起こるようなことはないか、それに対する対策はないかというお尋ねでございました。永住許可を受けまする者に対する待遇が、いろいろ今度の協定で数えられていることは、御承知のとおりでございますが、永住許可を申請しない者につきましても、いままでどおりの待遇を変えるわけはないのでございまして、昭和二十七年の法律百二十六号は、そのまま生かしておきますので、日本にそのままおることができまするし、そうして、いままで待遇を受けておりました生活保護であるとか、あるいは小学校、中学校に入る、あるいはまた、そこを出まして上級学校に入れば、その道も開いてある、というようなこと等の待遇は、依然として受けるのでございまするし、別に、今度法的地位の協定ができまして、韓国人だけが永住権許可を得て、特別な待遇を得て、そうして、そうでない人たちの待遇がぐっと落とされるというようなことでもあれば問題だと思いますが、そういうことにならないのでございまするから、私は、問題は起こらないだろうと信じておるのでございます。そういたしまして、法律の百二十六号は、そのまま残していくつもりでございまして、この際これにかわる何か特別な立法を考えてないかということでございまするが、ただいまのところは、そういうことは考えていないのでございます。
 それからもう一つ、子孫まで安住権を認められた人々が将来一体どうなっていくのだというお尋ねでございました。だんだん長くなっていきますと、子や孫ができてまいります。これから五年たちまして、それから先の子供たちはどうなるかといいますると、その人たちは、効力発生後二十五年たったときにおいて振り返ってみて、一体どう扱うかということを、そのとき相談することに今度の協定はなっておるわけでございますから、そのときのぐあいで、続いてそういう人たちにも永住権で認められるかどうかというようなこと等がきまるわけでございますが、そうなるまでは、どうなるかわからないのでございます。しかし、長い間のことを考えますると、だんだんあとほど日本に同化していくのだろうと思います。ことばも日本語になり、生活状態もだんだん日本式になってくる。そうしていきますると、自然、さっき申しましたように、帰化する人も多くなってくるというようなことを考えますると、しまいには、だんだんと永住権者というものがなくなっていくのじゃないかとも想像し得るくらいでございますから、あまりこの問題は、いまのところは心配せずに、私どもは、ずっともう少し様子を見てみたいと考えておるわけでございます。(拍手)
 〔国務大臣三木武夫君登壇、拍手〕

○国務大臣(三木武夫君) 向井君の御質問にお答えをいたします。
 経済協力をめぐって、汚職、腐敗、これを防止しなければならぬ――全くわれわれもさように考えておるわけでございます。そういうことが防止できなければ、両国の尊敬、信頼、そういうものは生まれてこない。将来にわたって友好関係を樹立できないわけであります。そのためには、両国において気をつけなければならない。韓国政府においても、経済協力というものを全国民的なものにする。清潔なものにする、これは再々韓国政府も声明をいたしております。また、声明するばかりでなしに、受け入れ体制も、韓国はいま検討をしておる。たとえば、野党の諸君も入れた、与野党から入った資金管理委員会というものをつくって、そしてこれを経済協力に対する受け入れ体制の中心にしようとしておる。また資材、役務などに対しても、調達庁で一本に調達する、そうしてこれを入札制度にする、こういう制度を韓国で検討しているようである。わが国の側においても、韓国を舞台にして過当競争が繰り広げられては、これは非常な弊害が起きる。そういうことで、民間の協調体制をつくるために、われわれもできるだけ努力をいたしまして、韓国に対して、いやしくも、経済協力が、ほんとうに韓国の民生の安定、経済の発展を考えておるんだという、わが国の真意を誤解されることのないように、十分な注意をいたす所存であります。(拍手)
○議長(重宗雄三君) 藤田進君から質疑の通告に接しておりまするが、在席しておりませんので、棄権したものと認めます。
 これにて質疑は終了したものと認めます。
     ―――――・―――――
○議長(重宗雄三君) この際、おはかりいたします。
 小林章君から、病気のため十五日間、請暇の申し出がございました。これを許可することに御異議ございませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○議長(重宗雄三君) 御異議ないと認めます。よって、許可することに決しました。
 本日はこれにて散会いたします。
 午後四時四十九分散会

 第050回国会 参議院日韓条約等特別委員会 第2号 昭和四十年十一月二十二日(月曜日)午後四時十二分開会

【発言順】
 委員長       寺尾 豊
 外務大臣      椎名 悦三郎
 農林大臣      坂田 英一
 法務大臣      石井 光次郎
 外務省条約局長   藤崎 萬里
 法務省入国管理局長 八木 正男
 委員        藤田 進
 委員        亀田 得治

○委員長(寺尾豊君) 日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結について承認を求めるの件、日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定の実施に伴う同協定第一条1の漁業に関する水域の設定に関する法律案、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案、日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法案、
 以上衆議院送付の四案件を一括して議題とし、政府より提案理由の説明を聴取いたします。椎名外務大臣。

○国務大臣(椎名悦三郎君) ただいま議題となりました日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結について承認を求めるの件につきまして、提案理由を御説明いたします。
 政府は、大韓民国政府との間で昭和二十六年十月の予備会談以来両国間の諸懸案を解決して同国との国交を正常化するための交渉を行なってまいりました結果、先般ようやく全面的妥結に達し、昭和四十年六月二十二日に東京においてわがほう椎名外務大臣及び高杉代表と韓国側李外務部長官及び金大使との間で、基本関係に関する条約をはじめ、漁業に関する協定、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定、日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する協定並びに文化財及び文化協力に関する協定に署名を行ない、紛争の解決に関する交換公文を行なった次第であります。
 基本関係に関する条約は、本文七カ条からなっており、両国間に外交及び領事関係が開設されることを定め、また、韓国政府が国連第三総会決議第百九十五号に明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府であることを確認する等、両国間の国交正常化にあたっての基本的な事項について規定しております。
 漁業に関する協定は、本文十カ条からなり、附属書並びに韓国の漁業水域に使用される直線基線に関する交換公文及び済州島水域における韓国の漁業水域に関する交換公文があります。この協定は、公海自由の原則の確認、漁業水域の設定、暫定的共同規制措置等、両国間の漁業関係について規定したものであります。
 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定は、本文四カ条からなっており、これに協定と不可分の第一議定書及び第二議定書が附属しております。その内容は、両国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両国及びその国民の間の請求権問題の解決について規定するとともに、韓国に対する三億ドル相当の生産物及び役務の無償供与並びに二億ドルの海外経済協力基金による円借款の供与による経済協力について規定したものであります。
 日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する協定は、本文六カ条からなっており、戦前からわが国に居住している大韓民国国民及びその一定の直系卑属に対し永住許可を付与すること並びにそれらの者に対する退去強制事由及びそれらの者が日本国で受ける待遇について規定しております。
 文化財及び文化協力に関する協定は、本文四カ条及び附属書からなっており、両国民間の文化関係を増進させるための協力並びにその一環として一定の文化財を韓国政府に引き渡すこと等を規定しております。
 また、紛争の解決に関する交換公文は、別段の合意がある場合を除くほか、両国間の紛争は外交経路を通じて解決すること及びそれができない場合には調停によって解決をはかるものとすることを規定しております。
 これらの日韓諸条約の交渉については、すでに累次の国会の本会議及び委員会における質疑等を通じて明らかにしてきたとおり、政府としては、近隣関係にある韓国との問題をすみやかに解決して両国及び両国民間に安定した友好のきずなを樹立すべきであるとの考えから、諸懸案の一括解決の基本方針に従って困難な交渉を打開すべくあらゆる努力を重ねてまいった結果、今般これら六件の条約とそれに関連する諸文書について両国政府間において妥結を見るに至った次第であります。こうして、両国が久しく待望されていた隣国同士の善隣関係を主権平等の原則に基づいて樹立することが、両国及び両国民の利益となることは申すまでもありませんが、さらにアジアにおける平和と繁栄に寄与するところ少なからざるものがあると信ずるものであります。
 よって、ここに、これらの条約等の締結について御承認を求める次第であります。何とぞ御審議の上、本件につきすみやかに御承認あらんことを希望いたします。
 次に、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案の提案理由を御説明いたします。
 政府は、大韓民国との間の諸懸案を解決し国交正常化を行なうため、昭和四十年六月二十二日に東京において、日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約その他の諸条約に署名いたしましたが、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定は、その第二条において、日韓両国間の財産及び請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決されることになったことを確認し、日本国にある韓国及び韓国民の財産等に対してとられる措置に対しては、韓国はいかなる主張もできないものとする旨を規定しております。したがいまして、この協定が発効することに伴ってこれらの財産等に対してとるべき措置を定めることが必要となりますので、この法律案を作成した次第であります。
 この法律案は、三項及び附則からなっており、協定第二条3に該当する財産、権利及び利益に対する措置について規定するものであります。
 まず、第一項におきましては、韓国または韓国民の日本国または日本国民に対する債権及び日本国または日本国民の有する物または債権を目的とする担保権を消滅せしめることについて規定しております。
 第二項におきましては、日本国または日本国民が保管する物の帰属について規定しております。
 第三項におきましては、証券に化体される権利について、韓国または韓国民がその権利に基づく主張をすることができない旨を規定しております。
 なお、附則におきまして、この法律案の施行の日を協定発効の日としております。
 以上がこの法律案の提案理由及びその概要であります。
 何とぞ御審議の上、御賛成あらんことをお願いいたします。(拍手)

○委員長(寺尾豊君) 次に、坂田農林大臣。

○国務大臣(坂田英一君) 日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定の実施に伴う同協定第一条1の漁業に関する水域の設定に関する法律案の提案理由及びその内容を御説明申し上げます。
 まず、提案理由について申し上げます。
 日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定第一条におきまして、日韓両国は自国の沿岸から十二海里以内の水域を、自国が漁業に関し排他的管轄権を行使する水域、すなわち漁業に関する水域として設定する権利を相互に認めております。このことに伴い、わが国においても沿岸漁業の保護をはかるため、必要に応じかかる漁業に関する水域を設定し、当該水域においてわが国が行使する排他的管轄権に関し、大韓民国及びその国民に対する法令の適用を明らかにする必要があるのであります。これが、この法律案を提案いたしました理由であります。
 次に、この法律案の内容を御説明申し上げます。
 第一は、協定第一条1の漁業に関する水域を政令で定めることとする規定であります。なお、この漁業に関する水域は、その設定の目的及び趣旨等からして最小必要限度にとどめるべきものでありますが、大韓民国漁船の装備の向上等に伴って、今後わが国沿岸における大韓民国漁業とわが国沿岸漁業との交錯を生ずることが多くなることも考えられ、これら情勢の変化に応じて漁業に関する水域を設定するため政令で定めることといたした次第であります。
 第二は、漁業に関する水域において大韓民国及びその国民が行なう漁業に関しては、わが国の法令を適用することとする規定であります。これにより、具体的に適用される主要な法律は漁業法でありますが、同法及びその委任命令により大韓民国及びその国民の行なう漁業が規制されるほか、これらの規定に違反した大韓民国国民については罰則が課せられることとなるのであります。
 以上がこの法律案の提案の理由及び内容であります。何とぞ慎重に御審議の上、すみやかに御可決くださいますようお願い申し上げます。(拍手)

○委員長(寺尾豊君) 次に、石井法務大臣。

○国務大臣(石井光次郎君) 日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法案について、その提案の理由を説明いたします。
 日韓両国の友好関係を増進するためには、長年にわたりわが国に居住している大韓民国国民にわが社会秩序のもとで安定した生活を営むことができるようにする必要があります。このような観点から、日韓協定の一つとして、日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定が締結されたのであります。
 この法律案は、右の協定を誠実に履行するために必要となる永住許可、退去強制等について出入国管理令の特別規定を設けようとするものでありまして、本文九カ条及び附則からなっているのであります。
 以下この法律案の内容の概要を申し述べます。
 第一点は、大韓民国国民であって終戦前から引き続き日本に居住している者及びその直系卑属として一定期間内に日本で出生し、引き続き居住している者のほか、永住を許可されているこれらの者の子として日本で生まれた者は、その申請により、法務大臣の許可を受けて本邦で永住することができるものとしたことであります。法務大臣は、一般外国人の在留管理に当たっておりますので、これを主管大臣としたのであります。
 第二点は、永住許可の申請、その審査及び許可について手続規定を設けたことであります。すなわち、申請者の便宜をはかり、申請手続の窓口事務は居住地の市町村の事務所において行なうべきものとしたのでありますが、法務大臣が審査を行なうについて必要な事実調査は入国審査官または入国警備官をして行なわせるものとしたことであります。
 第三点は、永住許可を受けている者に対する国外退去強制事由について、一般外国人に対するよりも著しく制限を加えたことであります。すなわち、永住許可を受けている者に対しては、内乱、外患、国交に関する罪や麻薬関係犯罪等の特定の罪によって罰せられた場合のほか、七年をこえる重い刑に処せられた場合等に限って、退去強制の手続をとり得るものとされているのであります。
 第四点は、虚偽の申請をして永住許可を受けた者や威力を用いて永住許可の申請を妨げた者に対する罰則を設けたことであります。適正、迅速かつ自由な申請手続を保障しようとする趣旨に出たものであります。
 以上がこの法律案の提案の理由であります。何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御可決くださいますようお願い申し上げます。

○委員長(寺尾豊君) 政府委員から補足説明を聴取いたします。藤崎条約局長。

○政府委員(藤崎萬里君) 日本国と大韓民国との問の基本関係に関する条約等並びに財産権及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案の補足説明をいたします。
 去る六月二十二日に東京において日韓両国代表の間で署名されました基本関係、漁業、請求権及び経済協力、在日韓国人の法的地位及び待遇、文化財及び文化協力、並びに紛争解決に関する諸条約について、交渉経緯及び内容のおもな点を御説明申し上げれば次のとおりであります。
 第一に、基本関係に関する条約は、韓国がわが国より分離独立して以来、日韓両国間に懸案となっている諸問題を解決して国交を正常化するために、両国が過去の関係を清算して今後相互に友好的な関係を維推していく上で最も基本的な事項について合意を見た諸点を内容とするものであります。
 一般に、二国間において国交を開くためにこのような条約を結ぶことは必ずしも必要とされませんが、日韓間におきましては、過去の歴史的関係、韓国政府の特殊な国際的地位、日韓交渉の経緯等から見まして、このような条約を締結することによって将来の日韓関係を規律することが必要であると考えられた次第であります。
 この条約は、七カ条よりなり、その効力発生とともに両国間に外交関係が開設され、大使の交換が行なわれ、また、両国政府の合意する場所に領事館が設置されること、一九一〇年八月二十二日以前に大日本帝国と大韓帝国との間で締結されたすべての旧条約及び協定はもはや無効であることが確認されること、大韓民国政府は、国連総会決議第百九十五号(III)に明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府であることが確認されること、両国は相互の関係において国連憲章の原則を指針とするものとし、また、相互の福祉及び共通の利益を増進するにあたって、国連憲章の原則に基づいて協力するものとすること、両国間の貿易、海運その他の通商の関係を安定した基礎の上に置くための協定及び民間航空運送の協定の締結交渉をできる限りすみやかに開始すること等を内容としております。
 第二に、漁業に関する協定は、十カ条よりなり、附属書及び協定第一条の実施についての二交換公文があります。この協定は、漁業資源の最大の持続的生産性の維持及び保存並びに合理当発展をはかり、両国間の漁業紛争の原因を除去して相互に協力することを目的とするものであります。漁業問題については、韓国が昭和二十七年に一方的に設定したいわゆる李ラインをめぐって両国の立場が鋭く対立したため交渉は著しく難航いたしたのでありますが、この問題については、協定の前文において公海自由の原則の尊重が確認され、また第四条によってそれぞれの国が漁業水域を設定する権利を有することを認め、その外側における取り締まり及び裁判管轄権は漁船の属する国のみが行なうことと定められた結果、今後はこの協定による規制や制限以外には韓国によるわが国漁業に対する一方的措置はとり得ないことが確認され、漁業水域外の公海において韓国官憲による不法な拿捕抑留などの不幸な事件の発生がなくなることが協定上確保されたわけであります。このほか、協定は、共同規制水域を設定して暫定的共同規制措置をとること、両国間の漁業関係の秩序の維持、漁船の安全操業の確保、紛争解決のための措置等について規定しております。
 第三に、財産及び請求権の解決並びに経済協力に関する協定は、四カ条よりなり、二議定書が附属しております。この協定は、日韓両国間の歴史的な特別の関係にかんがみ、また両国間の将来の友好関係の確立という大局的な見地から韓国の経済の発展に寄与するため、同国に対し無償供与三億ドル及び長期低利の借款二億ドルの経済協力を行なうこととし、これと並行して両国間の請求権問題を完全かつ最終的に解決することについて規定しているものであります。
 わが国は、日韓間の請求権問題の解決にあたり、韓国側の請求項目のうち法的根拠があり、かつ事実関係も立証されるものについては支払いを認めるとの立場をとってきたわけでありますが、交渉の結果、法的根拠の有無について日韓間の見解に大きな隔たりがあること、また職後十数年を経過し、事実関係を正確に立証することはきわめて困難なことが判明するに至りました。このような日韓間の対立を放置し、日韓国交の正常化をいつまでもおくらせることは、大局的見地から見て適当でないことは明らかであるため、いわゆる大平・金了解を基礎として、わが国が韓国に対し経済協力を行ない、これと並行して、両国間の財産及び請求権に関する問題を完全かつ最終的に解決することとしたのであります。
 請求権問題の解決につきましては、協定第二条において、平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたことが規定されており、また、この条の規定による処理の対象から除かれる一定の財産、権利及び利益のほかは、この協定の署名の日に一方の国の管轄下にある他方の国及び国民の財産、権利及び利益に対する措置並びに一方の国及びその国民の他方の国及びその国民に対する請求権に関しては相互にいかなる主張もすることができないものとする旨が規定されております。
 経済協力に関しては、この協定は、韓国に対し三億ドルに相当する日本国の生産物及び日本人の役務を十年間にわたって無償で供与し、また、二億ドルまでの海外経済協力基金による長期低利の円借款を事業の実施に必要な日本国の生産物及び日本人の役務の調達に充てるものとして、同じく十年間にわたって供与することを定めております。
 また、協定の第一議定書は、前記の無償供与の実施手続として実施計画の決定、契約の締結及び認証、韓国使節団の設置等について規定し、第二議定書は清算勘定残高の返済及び返済のない場合の無償供与からの減額について規定しているものであります。
 第四に、日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する協定は、六カ条よりなり、日本国に居住し一定の要件を満たしている大韓民国国民に日本国の社会秩序のもとで安定した生活を営むことができるようにすることによって、両国間及び両国民間の友好関係の増進に寄与することを目的とするものであります。すなわち、この協定は、これらの韓国人に対してその申請に基づいて日本国での永住を許可することとするとともに、それらの者に対する退去強制事由の特例を定め、また、教育、生活保護、国民健康保険等についての一定の待遇を規定しております。
 との協定の対象となる韓国人は、戦前に日本人として来日し、現在まで引き続き日本国に居住している者及びそれらの者と密接なつながりを持つ一定の直系卑属であり、日本国の社会と特別な関係を有している者でありまして、その日本国における法的地位及び待遇の問題は、単にそれらの者自身の問題のみではなく、長い将来にわたりわが国の社会に影響を及ぼすものであって、今次の国交正常化にあたって日韓両国間において解決を必要とする重要な問題の一つであった次第であります。
 第五に、文化財及び文化協力に関する協定は、四カ条及び附属書よりなり、両国の文化における歴史的な関係にかんがみ、両国間の国交の正常化に伴い、両国間の文化的な交流が活発化することを予想して、両国の学術及び文化の発展並びに研究に寄与するため結ばれるものであります。
 この協定は、両国政府は両国民間の文化関係を増進するためできる限り協力すること、日本国政府は、韓国民がその文化財について有する深い関心及び朝鮮動乱で韓国の文化財の多くが焼失または散逸したことにかんがみ、文化交流の一環として附属書に掲げる文化財を両国政府間で合意する手続に従って協定の効力発生後六カ月以内に韓国政府に引き渡すこと、また、両国政府は、自国の美術館等学術及び文化に関する施設が保有する文化財について他方の国の国民に研究する機会を与えるため、できる限り便宜を与えること等を内容としております。
 第六に、紛争の解決に関する交換公文は、国交正常化にあたっての両国間の諸懸案の全面的解決の一環として、竹島の領有権をめぐる紛争問題の解決をはかることを目的として行なわれたものでありまして、これにより、両国間のすべての紛争は、別段の合意がある場合を除くほか、外交上の経路を通じて解決されること及びそれができなかった場合には、調停によって解決がはかられることとなるわけであります。
 なお、この交換公文には竹島という名前は明示されておりませんが、ここに言う「両国間の紛争」に竹島が含まれることは、この問題をめぐるこれまでの経緯から見ても客観的にきわめて明白であり、また条文解釈の問題としても、この公文に言う「両国間の紛争」に竹島問題を含まないという別段の合意がなされていない以上は、この問題がここに含まれることは明らかであります。
 次に、大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案につきまして――その立案の趣旨及び規定の内容の御説明を申し上げます。
 さきに御説明いたしました財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定は、その第二条3において、一方の国及びその国民の財産、権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄のもとにあるものに対する措置について、今後いかなる主張もなされ得ないことを規定しておりますが、協定の対象となるこれらの実体的権利について具体的にいかなる国内的措置をとるかにつきましては、当該締約国の決定にゆだねられております。したがいまして、わが国については、大韓民国及びその国民の実体的権利をどのように処理するかについて国内法を制定して、同条3に言う措置をとることが必要となったわけで、これがこの法律案を作成した理由であります。
 この法律案は、このような協定の規定が合意された趣旨に従い、第二条3に該当する韓国人の実体的権利については原則的にすべて処理することを規定しておりまして、第一項は、韓国または韓国民の財産権で、日本国または日本国民に対する債権及びその目的たる物と、日本国もしくは日本国民の所有物または債権を目的とする担保権を消滅せしめることについて規定しております。第二項においては、日本国または日本国民が保管する韓国または韓国民の物であって、協定第二条3の財産等に該当するものは、その保管者に帰属せしめることとし、第三項において、物に化体される権利で協定第二条3の財産等に該当するものは、前二項の適用を受けるものを除き、権利行使を停止し、その帰属については政令で定めることを規定しております。なお附則におきまして、この法律案は、協定発行の日から施行することを定めております。

○委員長(寺尾豊君) 八木入国管理局長。

○政府委員(八木正男君) 日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法案の条文について御説明申し上げます。
 日韓両国の友好関係を増進するためには、長年にわたりわが国に居住している大韓民国国民にわが社会秩序のもとで安定した生活を営むことができるようにする必要がございます。このような観点から、日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定――以下「地位協定」と略称します――が締結されました。
 この法律案は、右の協定を誠実に履行するために必要となる永住許可、退去強制について、一般法たる出入国管理令(昭和二十六年政令第三百十九号)の特別規定を設けたものでございます。この趣旨は題名においても明らかなとおりでございまして、この法律案に特別の規定がない事項は、出入国管理令の規定によることとなるのでございます。
 以下、この法律案の各案につき御説明申し上げます。
 第一条は、地位協定に基づく永住について規定したものでございます。
 日本政府は、地位協定第一条の規定に基づき、一定の要件を具備する大韓民国国民が一定の期間内に永住許可の申請をしたときは、日本国で永住することを許可することとなっております。地位協定第一条1及び2はこれらの永住の許可を受けられる者の範囲を次のように定めております。すなわち、大韓民国国民であって、
 (一) 昭和二十年八月十五日以前から申請の時まで引き続き日本に居住している者
 (二) 右(一)に該当する者の直系卓属として昭和二十年八月十六日以後地位協定発効の日から五年以内に日本で生まれ、その後申請の時まで引き続き日本に居住している者
 (三) 右(一)又は(二)に該当する者として永住を許可されている者の、その子として協定発効の日から五年を経過した後に日本で生まれた者がそれでございます。
 本条第一項は、右に述べた地位協定第一条1及び2に規定する大韓民国国民について、法務大臣の許可を受けて本邦で永住することができることとしました。すなわち、この許可を受けた者は、本法第六条第一項各号に掲げる退去強制事由に該当する場合を除き、終生その意に反して本邦外に退去させられることはないこととなるのであります。
 本条第二項は、右に述べた地位協定第一条1及び2に規定する大韓民国国民が同協定第一条1から3までに定める期間内、(これは原則として協定発効の日から五年以内または出生の日から六十日以内でございます。)この期間内に永住許可の申請をしたときは、法務大臣がこれを許可するものといたしました。法務大臣は、一般外国人の在留管理に当たっておりますので、これを主管大臣としたものでございます。
 第二条は、「日本国政府の定める手続に従い」と規定する地位協定第一条1及び2に基づき、永住許可の申請手続について規定したものでございます。
 第一項は、申請は、外国人登録、住民行政の面で申請者の最も身近にあるその居住地の市町村を窓口とし、申請者自身が当該市町村の事務所に出頭し、当該市町村の長に、法務省令で定めるところにより、永住許可申請書その他の書類及び写真を提出して行なわなければならないことを規定しました。ただし、写真は、十四歳に満たない者については提出することを要しないものとしました。
 なお、法務省令においては、提出書類は、永住許可申請書、旅券もしくはこれにかわる証明書または大韓民国の国籍を有している旨の陳述書、家族関係及び居住経歴に関する陳述書並びに外国人登録証明書とし、その様式、提出数等につき所要の規定を設け、また、提出すべき写真の規格及び提出数を規定する予定でございます。
 第二項は、代理申請について規定いたしました。地位協定に基づく永住許可の申請は、意思能力に基準を置き、できる限り本人の意思を尊重するというたてまえから、本人が十四歳以上であるときは、本人みずからこれをし、十四歳未満であるときは、親権を行なう者または後見人がかわってするものといたしました。
 第三項は、「疾病その他身体の故障」によりみずから出頭して申請をすることができない者につい七は、法務省令で定めるところにより、代理人を出頭させることができることを規定いたしました。法務省令においては、代理人の範囲、代理の順位及び代理関係の疎明方法について規定する予定であります。
 第四項は、市町村の長は、本条第一項に定める書類及び写真の提出があったときは、永住許可を受けようとする者が申請にかかる居住地に居住しているかどうか、及び提出された書類の成立が真正であるかどうかを審査をした上、これらの書類及び写真を都道府県知事を経由して法務大臣に送付しなければならないことを規定いたしました。ただし、すでに述べた旅券またはこれにかわる証明書及び外国人登録証明書については、その性質上法務大臣に送付することは適当でないので、法務省令においてこれを送付することを要しない旨を規定する予定でございます。書類等の送付について都道府県知事を経由することとしたのは、行政指導上の必要に基づくものでございます。
 第三条は、許可要件を具備しない者に対してあやまって永住許可をすることのないよう、許可要件に関する事実の調査につき規定したものでございます。
 第一項は、法務大臣は、審査のため必要があるときは、入国審査官または入国警備官に事実の調査をさせることができるものといたしました。
 第二項及び第三項は、入国審査官または入国警備官は、調査のため必要があるときは、関係人に対し出頭を求め、質問をし、もしくは文書の提示を求め、または公務所もしくは公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができることを規定いたしました。なお、旅券またはこれにかわる証明書がなく、国籍に関する陳述書を提出したときは、日本政府の権限ある当局の文書により大韓民国政府の権限ある当局に照会し、回答を得ることが合意されております。
 第四条は、永住許可書の交付及び外国人登録原票等への記載について規定したものであります。
 第一項は、法務大臣は、地位協定に基づく永住を許可したときは、永住許可書を都道府県知事及び市町村の長を経由して交付することを規定いたしました。永住許可の重要性にかんがみ、許可書を交付してその事実を本人に通知するためであります。
 第二項は、都道府県知事または市町村の長は、地位協定に基づく永住許可を受けた者にかかる外国人登録の写票または原票及び登録証明書にその旨を記載するものとすることを規定いたしました。外国人登録は在留外国人の居住関係及び身分関係を明確にして公正な管理に資するためのものでございますので、永住許可の事実を外国人登録上に反映させることが必要だからであります。
 第五条は、永住許可が効力を失う特殊な場合を規定したものでございます。地位協定に基づく永住許可であっても、出入国管理令上の在留資格と同様、本邦から再入国の許可を得ないで単純に出国し、または退去強制された場合等は失効するのでありますが、この規定はさらに大韓民国の国籍を失ったときは、その者は地位協定の対象とならなくなりますので、その永住許可は効力を失うことを明らかにしたものであります。
 第六条は、地位協定第三条に基づき、強制退去に関する出入国管理令第二十四条の特例を規定したものであります。
 第一項各号は、退去強制事由について、地位協定第三条(a)、(b)、(c)及び(d)を国内法に明確化したもので、第一号は同条(a)に、第二号は(b)前段に、第三号は(b)後段に、第四号は(c)前段に、第五号は(e)後段に、第六号は(d)にそれぞれ対応するものであります。
 第二項は、第一項第三号に定める「日本国の外交上の重大な利益を害した」ことの認定は、その事柄の性質上、法務大臣があらかじめ外務大臣と協議して行なわなければならないものとしたのであります。
 第三項は、退去強制の手続は出入国管理令に規定するところによるので、同令の規定で「第二十四条各号」とあるもののうち、地位協定に基づく永住許可を受けている者に適用されるべき手続規定については、「第二十四条各号」とあるのをこの法律の第六条第一項各号とすることを規定しております。
 第七条は、地位協定第五条に基づき、地位協定に基づく永住許可を受けた者について、この法律に特別の定めがある場合のほか、たとえば、出国の手続、再入国の許可等について一般法である出入国管理令の適用があることを、念のため規定したものでございます。
 第八条は、この法律の実施のための手続その他その執行について必要な細目的事項を法務省に委任することを規定したものであります。法務省令においては、第二条の規定により委任されているものを含め、提出書類の数、様式等を規定する予定でございます。
 第九条は、許可手続を適正、迅速かつ平穏円滑に行なうため、最少限度の罰則を規定したものであります。
 第一号は、地位協定に基づく永住許可の効果の大きいことにかんがみ、許可要件を欠く者に対して許可することのないよう虚偽の申請をして永住許可を受けまたは受けさせた者を処罰することを規定いたしました。
 第二号は、自由意思に基づく申請を他人が威力を用いて妨害することのないよう、これを処罰することを規定したものでございます。
 附則としまして、この法律は協定の効力発生の日から施行することを規定しております。

○委員長(寺尾豊君) 以上をもちまして補足説明は終わりました。
 直ちに質疑に入ります。藤田進君。

○藤田進君 議事進行、質疑に入る前に。質疑じゃないのですよ、議事進行だから。

○委員長(寺尾豊君) 私は藤田君を質疑のために指名をいたしました。

○藤田進君 議事進行のために、日韓問題に入る前段に、委員長はじめ意見を申し上げ、ただしたい。
 いま国民は、おそらく日韓条約に賛成の者はもとより反対の者でも、本月、十一月六日の衆議院特別委員会の事情、さらに引き続いて十二日における衆議院の事情、これらについてはおおむね有力な意見は出尽くしてもいる。それから見ると、日韓の問題について、委員会の運営をはじめ本会議の運営等を含めて、なぜもっと掘り下げた、政府は政府として、答弁を回避しないで、十分なる答弁をすると、そういう声がほうはいとして起きているときであります。ところが、一昨日、二十日の委員会の職権における事情、またその席上寺尾委員長は、決して強行採決であるとか、いやしくも非民主的な委員長の運営というものはしないということを確約したのは一昨日のことです。それが本日また繰り返し職権という、この委員会の招集をし、会派間のまとまりもないままにただいままでの運営をやってこられた。いわば衆議院における、かようなあるまじき違憲的なあの状態が、すでに参議院の自民党なり政府には感染してきてやることを証明するものです。私どもは、日韓問題については衆議院の事情を踏まえた上でさらに国民によく日韓の交渉なりその結果としての条約、協定を掘り下げてよく知ってもらおう、ついては、参議院の特殊事情として、みずからも言われているような委員が一名のところ、いわゆる小会派というか複雑な多数会派を持っている参議院としては、ほんとうに民主的に、しかも慎重に審議をするためには、理事懇談会にも応じ、特別委員会に名簿も送り、そうして一昨日の土曜日にも理事懇談会に臨んで、今後運営される日韓に対する方法についてるる協議をやってきた。そうして本日月曜日、二十二日に再び集まろうということで、私ども定刻にちゃんと出席して、いままでに政府に対してもできるだけ早目に資料を要求することのほうが適当であろうということで文書にし、そうして本日は各省庁の窓口の諸君にも来てもらって、いろいろ取り違いのないように、提出の時期を含めて相談をやってまいりました。さらに、委員長が議題として出してきたところの委員長及び理事打ち合わせ事項の委員会の持ち方、質疑の方法あるいは時間、質疑の順位あるいは公聴会の開会の要求に関する件、さらに今後の委員会の持ち方、これがようやく夕方四時前後になって自由民主党からも一つの提案があって、質疑順位については、まあ十人ぐらいまでとりあえずきめていったらどうだろうかということにも同調をして、これもきまりかけていた。ところが、全体の審議をいたします土俵というものが一体いつまでかという意思統一がないと、各会派においてもそれぞれの質問者に質問時間を割賦するわけにもまいりません。したがって、そのことを相談をしようということであり、公聴会については、自由民主党は中央公聴会を一日一回ということに対して、審議を深める意味においても、地方公聴会を少なくとも複数の数カ所設けたらどうだろうか、そのやり方については、能率のあがるようにというようなことになり、与党自民党の理事とされても、ここでいきなりきまらないから、ひとつ持ち帰って相談をしたいと、それじゃわれわれのほうも質問時間なり、あるいはその質疑順位なり公聴会について等、会派に相談をいたしますから、自由民主党も相談をしてもらいたい、その時間は十五分くらいで何とかならないだろうかと言ったのはむしろこちらのほうなんです。まあ十五分はともあれ、短時間の打ち合わせで集まって、委員長を囲んでの理事打ち合わせ会において、突如として、委員長が公約した、速記をつけての、おとといの無理はしない――今朝来打ち合わせ会でもしばしば委員長は言明した、そのようなことはいたしませんと言ったことに反して、ここに職権で開くということについては、伝え聞くところによると、委員長はそのような手荒なことはしたくない、そういうすべはとりたくないと言ってこられたように――私はこれは伝え聞くところですが――ところが、自由民主党を代表する五名の理事、またこれの背後にある機関が、しゃにむに委員長をして今日このような事態に追い込んだものと解するほかは実はない。(「そういうことはないぞ」と呼ぶ者あり)それじゃ、委員長がじきじきにこういうことを始めたのか、君にあとからまた答弁を願わなければならぬが。このようなことでは、国民が期待している外交問題については、ことに日韓の問題については問題が多い、衆議院はかかる事情だということで、出発点をお互いに踏まえて、委員長が公平に中立の立場で運営をされるということがなければ、これは先が思いやられるんです。私は、いきなり質疑に入ろうとされたけれども、そういうやり方について、委員長はどういう事情のもとにこうせざるを得なかったのか、委員長をしてだれがそうさせたかという、これは皆さん委員の中にも意見が出ているように、ぜひ聞きたい。こんなことで今後の委員会というものがスムーズに持てますか。何でもかでも多数がきめ、委員長を押し出して、押し上げて、突き上げていけばどうにでもなるんだと。私は、衆議院の事態等については、あらためて質疑の申し合わせができた日から佐藤総理大臣に、施政方針演説、所信表明、さらにしばしば言われているその政治に対するかまえというものと実際にやられておられることについては、どうしても国民の納得のいくようにたださなければなりません。きょうは委員長にまずこれをただしたい。
 繰り返して要約いたしますと、委員長が就任される委員会そのものも、必ずしも円満なスムーズな状態ではなかった。しかし、それはそれとして、就任された当初のあいさつなり質疑の中から、いま行なわれておるような、いやしくも職権でというようなことはいたしません、こういう明言をされているにかかわらず、今日このような取り運びをされたことについての経過と、委員長の所信と、また今後に対する――聞いてもむだかもしれない、言ったこととやることは違うのだ。しかし、あらためてここで聞きたい。
 第二点は、以上申し上げた要約としては、一体委員長としては、いま国民は何を望んでおるか。与党の理事打ち合わせ会における発言を聞くと、汽車をまず出してからの話にしようじゃないか、こう言うのですね。それじゃダイヤに組んでいない列車を出したらどうなりますか。いわんや、新幹線に乗るのか旧東海道線で行くのか、青森か下関かわからないままに、とにかくけんかをぶっ始めていけば何とかなるだろうというような、第二院の良識を期待されておる参議院の委員長としてそういうことでよいのかどうか。国民はどう考えておるというふうにあなたは把握されておるのか。これが第二の点であります。
 また第三の点は、理事打ち合わせ会等で、私ども議事の進行については全く献身的にやってきたはずです。滞りなく話し合いがきまって、最後まできめられないものについては、これはしようがないです。そこまでやってきたのだが、公明党を含めわれわれ野党の理事、これが打ち合わせ会において、委員長をしてかくあらしめた理由があったのかなかったのかはっきりしてもらいたい。それではほんとうに国民は失望するでしょう。
 あとさらにございますが、多くを申し上げて、答弁漏れになることは私の好むところでない。
 以上三点について、議事進行上、この際あなたのほんとうの心というものをまず御答弁をいただいて、私が納得いくものなら納得をして、あらためて質疑にも――質疑、質疑と言われますから――入りもいたします。きょうはこのまま入れるような状態ではないのです。わかりましたか、質問の要旨は。わからなければまだ言いますが、とりあえず三つについて納得のいく説明をしてもらいたい。

○委員長(寺尾豊君) お答えをいたします。
 一昨日、不肖私が各位の御推挽によりまして本特別委員会の委員長に選任をされました。そのときにごあいさつにも申し上げましたように、特に国民がこの日韓条約並びに案件等には深い関心を持っておる、できるだけすみやかに、できるだけまた綿密に審議をしてほしい、これは私は国民の声であろうと存ずるのであります。そのときに藤田さんその他から、確かに私に対して、審議は慎重にやるのか、また衆議院で行なったようなあの強行採決のようなものはやらないか――十分審議を尽くします、さような無理な採決は私はいたしませんということを確かに申し上げたのであります。しかし私は、本日のこの開会は、国民の期待に沿うものだと私は確信をいたしております。すでに衆議院が承認可決をされましてから十日を経過をいたしております。一昨日は、その特別委員会の構成も、参議院において皆さま方の御努力によってできました。不肖私が、微力の身をもって委員長にもさしていただきました。国民は――これは他院のことを申し上げてはなはだ私は申しわけがございませんが、衆議院では十分な審議が行なわれなかったんじゃないというような声も私は聞いております。しかし、衆議院には衆議院の事情があったのでありまするから、私はこれに対し七衆議院にとやかく言うものではございませんが、私はひたむきに、ひたむきにこれは一日も早く提案理由の説明を政府からも聞いて、関係閣僚がら、また、特に佐藤内閣総理大臣からは親切丁重なる説明がほしい、このことをするのが不肖私が委員長に当選をさせていただいた大きな使命であると、私は決意をいたしている次第であります。本日、理事会ということには銘打つことができなかったので、この点は遺憾でありますが、これは社会党さんの御都合もあって、理事懇談会ということによってほとんど四、五時間を通じて、この審審をいかにするか、公聴会をいつどういうふうな形においてやるかといったようなことについて、まことに真剣な、協力的な御審議をいただいたことを、私は藤田さんはじめ亀田さんその他にも、心から感謝をいたしておりますが、私がただ心配をいたしましたのは、すでに参議院に送付をせられて十日間を経過をしておる。あとわずかに十数日しかない。そうしてみれば、一昨日すでに特別委員会の構成ができたのでありまするから、昨日は休んで、本日はぜひにも委員会を開催したいということを、私は一昨日から本日にかけてしばしば同僚議員にも、また本日は、社会党の皆さまにもお願いを繰り返したのであります。しかし、不幸にしてこれが聞き届けていただかれなかったのであります。私はこのときは、私は身をもって本日の提案理由の説明並びに質疑等は、特に社会党さんからは有力なる議員各位が、質疑の通告もございまするから、ぜひにもきょうはやりたいといろことでやりましたので、やや行き過ぎた点があったかもしれませんけれども、私の真意は、国民にかくすることが期待にこたえるゆえんだと、こういうことでございましたので、何とぞひとつ各位の寛大なる御理解をお願いを申し上げたいのでございます。

○藤田進君 非常に苦しい前後矛盾だらけの御答弁ですが、これはまあ委員長の心情複雑なものがあろうかと思うけれども、それではあれですか、委員長としては、とにもかくにもこの委員会さえ開けば前に進むと、――それじゃお尋ねしますが、何ら破裂することもなければ、スムーズに過去の予算委員会その他の質疑の順位、各会派のね、そういうことも委員長が主宰されて、懇談会が相当進んで、そうしてこの辺でひとつきめたというのでなしに、きめかけということで、あとは持ち時間等について話してみようかと、いや公聴会はどうだと、先ほど指摘したとおり、いきなりここで開いて、じゃどうしようと言われたのですか。まだ打ち合わせ会では、委員長が開会を宣したならば、それじゃ何からやろう、質問はだれから立てよう、それじゃなんですか、いまのあなたの発言をみると、これから質疑に入るようなことを言われている。早くここへ来た者が質疑をやってよかったということになるのですか。早い者勝ち、始めたら時間はもうとにかく終わりまでやらせにゃしようがないだろうと、そういうことに、理の当然、なるでしょう。そういうことがあったのでは、わが参議院までが国民からの期待に反する。そういうことで、まず列車が出てからということじゃなしに、出る前にダイヤを組もう、経由路線はどこだということで、鋭意やっていた最中に、突如として、さあ四時だ四時だというようなことで、お忙しいはずの佐藤さんはじめちゃんとお待ちになっているということからみると、委員長が切なる国民の立場からその思うゆえをもってとおっしゃるが、相当これは計画的じゃありませんか。ねえ、どう。ここで開いて、さあ質疑に入る、ただいまからとおっしゃるけれども、どうする予定だったのですか。話し合いはもう一切無用、ただ、ていさい的にそこらで言わしておけばいい、時間が来たらとつちのものをやるんだと、そういうことしか思えないじゃないですか。どうしようと言われたのです。ここへ早く来た者が勝ちということなのか、自席からやってもいいのか、これじゃしかし、われわれ今後日韓特別委員会の理事として委員長から指名を受けてやっている者としては、さっぱりつかみどころがないじゃありませんか。私が言ってるのが無理ですか。しかし、それでも一昨日なり今朝来の打ち合わせ会で、とにかくごねて、順位もきめまい、それもだめ、これもだめでやってきたということじゃなかったでしょう。委員長のことばで表現を聞けば、協力してくれたというようなことだった、その協力している最中に、時間が来たらカチッというのは、一体どういうことかと言うのです。行き当たりばったり、質問者を立ててやっていいのですか。私は衆議院の事態その他については、わが会派あるいは他会派も同様でしょうが、総理ほかに日韓問題の大前提としてこれはただします、やりますが、まず政府を責める前に、わが参議院の委員会がこのていたらくで、一体どうなるのですか。委員会開いて、ただいまより質疑だとおっしゃるけれども、繰り返すようだが、どうしたらよかったのですか。われわれ非のあるところがあれば言ってください、ここで。

○委員長(寺尾豊君) お答えいたします。本日、社会党さんのほうからは、十数名の質疑通告がございました。したがいまして、私は本日委員会をぜひとも開きたい、そうして政府の提案理由の説明を求めて、質疑をお願いしたい。それからなお、いま公聴会そのほかの、あるいは持ち時間等の御相談も、かなりのところまで進んだので、本会議が終了いたしまして、理事懇談会を新しく開いていただいて、これらの問題を検討したい、かような実は考え方を持ったわけであります。

○亀田得治君 ちょっと関連。委員長の土曜日のあいさつからいたしまして、本日の事態は、先ほど藤田君から御指摘になったとおり、私もはなはだ遺憾であると考えております。で、委員長が先ほどお答えになったことをじっと聞いていたわけですが、一つは、現在の事態の全体に対する認識の狂いがあるのじゃないかという感じを持っておるわけです。この点がやはり考え方を改めておいてもらいませんと、これから毎日の委員会運営でたいへん困るのではないかと思います。
 その第一は何かといいますと、衆議院を本件が通った――通ったと自民党は称しておられるわけですが、まあこの問題は水曜日にわれわれお聞きしたいと思いますが、委員長の考えからいうと、衆議院を通って十日間ばかりの空白がある、捨て置けないんだと、こういう意味のことを先ほども言われます。しかし、なぜそのような空白が一体生じたのか。これは何といっても衆議院における前例を無視したあのような強硬態度というものがもたらしていることは、これはもう内外ともに認めておるところであります。衆議院の諸君がたいへんそのことで憤慨して、そうして現在でもまだ見通しがつきません。当然それは参議院に同じ形でありませんが、はね返る、常識であります。しかし、われわれ参議院としては、衆議院と多少違うわけでありまして、そういう中にありましてもできるだけの協力は委員長にしなければならぬ、こういう立場をとってやっておるわけであります。これは委員長もよく――先ほど若干そのことはお認めになっておるようですが、その点に重点を置いて考えてもらいたいと思うのであります。これが第一点。
 そうして第二は、それじゃ参議院における経過はどうであったか、衆議院においてあのようなことがあって、その後の経過はどうであったか。これは、議長を中心にして若干の収拾工作があったり、それに関連して各会派間にいろんな問題のあったことも御承知のとおり。いろいろな経過をたどって特別委員会が正式に発足したのは土曜日なんです。われわれ特別委員に議長から任命をされたのは土曜日。社会党としては、衆議院の事態に対する問題について根本的に憤慨をし、無効――否定する態度をとっておるわけであります。したがって、当然この特別委員会の発足というものがかなかむずかしいということは常識的に考えられると思う。内部のことまで申し上げる必要がありませんが、正真正銘特別委員の名簿がきまりましたのは、土曜日の社会党の参議院総会で十時半これがきまっておるわけであります。なぜきまりにくいのか。いま申し上げたような事情があるからでございます。何も特別委員の名簿の提出を渋るとか渋らぬとか、そんな問題じゃございません。これは重宗議長が一番その間の事情を知っておるはずであります。そういうわけで、土曜日にこの委員会が発足した。ぜひ委員長の互選なり理事の任命等構成を急ぐということで協力いたしました。わずか一日なんです。一日。一体、本気でこの重要な日韓関係案件に取り組むことのためにはそれで事足りるとお考えでしょうか。もしそんなことで、ただ形式的にわいわい押していけばいいというふうな感じを持っておられるとしたら、考えを持っておられるとしたら、これは改めてもらわなければなりません。お互いわれわれはみんな一見識を持った者がそろっておるわけであります。土曜日にに構成した。まだ発言者の順序も、提案者の与党のほうはどんなような一体構想を運営について持っておるのかもわからない。そういう状態のままで、子供じゃありません、だれが一体本格的にその中へ入っていくことができましょうか。ただ出て口を動かしておればいいという問題じゃないじゃないですか。こういうことは、われわれ委員長、理事の間では、おそらくわれわれの誠意も認められてわかってもらっておると思いますが、どうもそういう現場を離れておる背後にある何かのもの、そういうものが盛んにせき立てるようであります。委員長としてはそういうものに屈しないで、やはり野党の立場も考えて、ただ単に動物的に時間を使っていくというんじゃなしに、ほんとうに参議院らしい審議をするにはどうしたらいいのか、審議を深めるにはどうすべきか、そういう立場で検討をしてもらいたいと思うのであります。われわれがきまったのは土曜日ですよ、正式にきまったのは。それから本日の十時からずっと委員長、理事の懇談会を続けたわけですが、決してこれはむだなことをやったわけではございません。もしこれがなく、委員長職権でいきなり開いてごらんなさい。一体だれが質問する。先ほど藤田理事から指摘のありましたように、何も順序はきまっておらない。そこに先に来た者がこうしゃべると。そうなれば社会党のほうでもひとつだれかやってくれ、この重要な案件について質問するほうにしても、そのような不見識な質問ができましょうか。社会党の私たちの主張によってこの懇談会が持たれて初めてこれは軌道に乗っておるんじゃないでしょうか。確定案とまでは言っておらぬけれども、大体のかっこうというものがついておる、これならばひとつ水曜日にはどなたにやってもらおう、次はどなたにやっていただきたいというふうにわれわれも委員の皆さんにお願いもできるわけであります。何かこう理由なく引き延ばしておるのじゃないか、そういうつまらぬ憶測をしないで、ほんとうにお互いに腹をきめて、土俵に上がるときには上がってしっかりやると、こういうふうに委員長としては両方をうまく導いていかなければいかぬわけなんです。政府と与党だけわいわい言うておるから、何でもいい、ともかく口をあけてくれと。そんなものはもうほんとうの参議院らしい審議とは言えぬわけです。きょうは、資料につきましても、乱雑な委員会でやっている以上に、実は理事懇談会の中で討議が深められておるわけだ。この資料自身にしたって、この期間から言うならば、きょうあれだけ問題を掘り下げられたということは、これは大きな収穫なんです。もしあれだけのことをこの場でいきなりぶっつけ本番でやりだすと言ったら、どうしてこの二十数項目の資料の問題点に触れることができましょうか。そういうものですから、そのまず最初に、何か十日間の空白があった、そういうものが非常なこう出発点において間違った認識がある。われわれ委員としては、土曜日です。これはほんとうに。われわれが理事をやってくれということになりましたのも、土曜日にこれは本ぎまりになっておるわけです。理事になれば、それに対してしからば全体どういうふうにやっていこうか、自分一人で判断するわけにいかない。そういうわけですから、ひとつ委員長としては、若干まだ誤解をしておられるようでありまするので、しっかりとその辺についての考え方をもう一度明らかにしてほしい。そういたしませんと、水曜日からの運営というものがほんとうに論議々深めていくということに支障が出てくると思うわけです。先ほど藤田理事からの御質問にお答えになりましたが、私からも、大事な点ですから、もう一度お願いしたい。私は、若干、われわれの立場、気持ちというものをざっくばらんに申し上げた。そういう点についておそらく誤解をしておられたと思う。誤解があったんならあった、そういうような点についてもあわせてひとつ所見を承わっておきたい。

○委員長(寺尾豊君) お答えいたします。
 藤田理事並びに亀田理事から切々の御注意を賜わって、まことに私は不徳のいたすところだと存じております。しかし、私がぜひにも二十二日には委員会を開会いたしたい、まず政府の提案理由は聞かなければ審議に入れないからという一途の考えで実はこの委員会を開催をいたさざるを得なかったのでありますが、いろいろ御指摘をいただいて、私も(「反省したか」と呼ぶ者あり)――感ずるところはございました。(笑声)しかし、私のこの苦哀、国民に対する綿密なる審議をできるだけすみやかに始めなければならないという私の苦衷もお察しを願いたいと思うのであります。いろいろな面できわめて不肖でありまするから、いろいろの面で委員各位に御迷惑をかけたり、あるいは誤解を賜わったり、おしかりをいただいたりすることは、私の不徳のいたすところでございます。しかし、本意はただいま申し上げたとおりでございまするから、何とぞひとつ御了承を願いたいと思います。

○藤田進君 まあ古い政治家は、不徳とか、何かわけのわからぬ以心伝心とか、ああいうことなんだが、私が先ほどただしたそのお答えについてどうも聞き捨てならない点が一つあるので、その真意をさらに重ねてお伺いをしたい。いきなり開会して、レールも敷いてないし、ダイヤも組んでない。では一体どういうふうにしてただいまから質疑をしますかと申し上げたところ、お答えは、それらについてはさらに理事会ないし懇談会を開いてそこできめるようにしたいと、こう言われたと思うのです。だとすれば、質疑にいま入ると言ったことはまことに不徳のいたすところです。私もそれは認めます、あなたのおっしゃるとおり。ですから、レールを敷き、ダイヤを組んでいくという、そのことの努力をして、そうして完全な委員会の運営ができるようにして、そして質疑に入るということでいかがなんですか。

○委員長(寺尾豊君) 本日開会をいたしましたことについては、質疑を多数をやっていただくということではなかったのでございます。と申しますことは、時間も相当経過をいたしましたし、趣旨説明を聴取をいたしまして、一、二の通告のある質疑者の方に質問を願ったならばどうだろうか、こういうことで本日は質疑に――これは当たらないことばかもしれませんけれども、時間的にはあまり多くを費やすまい。やはり初めての特別委員会の発足でもあるし、政府の説明を聞くと同時に、一、二名の方に質疑を願うという、比較的時間を考慮をいたしました委員会を計画をいたしたわけでございます。皆さん方にいろいろ問題を投げかけたということは、確かに私も十分足りなかったところがあると思います。しかし、この日韓条約並びに案件については、第二院たる参議院といたしまして、その高い使命にかんがみて、十二分に綿密なる審議を行なうべきだということだけはいまも変わっておりません。ですから、そういうことにおいて皆さま方にもぜひ御協力が賜わりたい。私の皆さま方に対する不徳のためにいろいろ御意見があったようですから、そういう点には私としては十分今後考えていきたいと思っております。しかし、申し上げましたように、できるだけ審議を尽くして国民にこたえたいとの私の信念はさようなとおりでございまするから、御了承のほどをお願い申し上げたいと思います。

○亀田得治君 それなら、ひとつ理事懇談会を開いてもらって、もう少し先ほどから進みかけておるレールをちゃんとなおして、それから堂々と取り組もうじゃありませんか。だから、ひとつここで休憩してください。散会してください。

○委員長(寺尾豊君) 一応いまの藤田理事の質疑をお願いしたのでありまするから、藤田委員、ぜひひとつ質疑をやっていただきたいと思います。

○藤田進君 あなたが答弁されたのに、今後のダイヤなりそういういわば質問順位とか時間は、理事懇談会等を開いてこれは引き続き相談するといってさっき答えたばかりじゃないですか。それは委員長に伺いたいことはまだ山ほどあります。それを続けますか、委員長に対して。日韓の質疑に入る前の委員長に対する質疑をどうしても続けろと言われれば、非常にありがたい時間をいただくわけで、私はやりますが……。(「散会散会」と呼ぶ者あり)質問にまだ入れない。その前が詰まっているんだよ。だれから始めるというようなこともまだきめてないだろう。(「そんなとこでもそもそやらないで、理事懇談会をやれよ」「散会散会」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)

○藤田進君 委員長にさらに続けてということですから、機会を与えられて続けたいと思いますが、要するに、何回も申し上げるように、委員長、わからないはずはない。今朝来、おとといを含めて、理事懇談会の模様はもうお忘れないはずなんです。ここでは委員会を進めるについては一つのルールが必要です。国会法があり、国会規則があり、慣例がある。それにのっとったそれぞれの質疑者の順位もきめなければならぬ。たくさん出てきているから、だれかやってもらおうと思っている、そんなわけにはまいりませんよ。どうする。――ちょっと、自席に着くべきじゃないですか。人が質問しているときに失礼じゃないですか。何の話をしておるのか、それによって許すが……。(笑声)そうでしょうが委員長、何も無理を言っているのじゃない。特に参議院は、自由民主党あり、社会党あり、公明党、共産党、民社党、第二院クラブ、これだけあって、これは佐藤さん聞かれて、もっともだというふうな顔をしていますよ、国鉄に長くおられたんだから。いきなり機関車をくっつけて走らせればいいんだなんという、それは暴論ですよ。レールがあるのやらないのやら。われ勝ちにここで質問する時間はとにかくいつまででもいいというようなことではならないが、どうするんですかと言ったら、あなたは、それは理事懇談会でさらに相談をしてやりますということだった。これは当然な答弁ですよ。委員長、どう思いますか。長く申し上げてもあなたはポイントをはずすから、一問一問いきますから。

○委員長(寺尾豊君) 今朝ですね、あなたのほうから質問通告がございました、十数名。したがいまして、私は、本委員会においては、ひとつ時間も相当経過したことでありまするから、藤田委員の質問をぜひやっていただきたい、かようにお願いします。

○藤田進君 トップに御指名をいただこうとしたということは非常にありがたいように見えるが、非常に迷惑なんで、皆さんそれでいいの。(「反対」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)お聞きのとおりですよ。みんな了解していないんだから。これじゃ、社会党から出ている理事とはいいながら、委員長、せっかくの御親切かどうかしらぬけれども、わが会派が皆それはだめだぞとおっしゃるのに続けるわけにいくものじゃないですよ。

○委員長(寺尾豊君) けれども、今朝あなたのほうからは質問者を出されたのですから……。

○藤田進君 出したけれども、私がそのトップの順位でもないし、順位をきめてないんです。社会党から出てきたら、じゃ藤田から始めるなんていうことはきめていないでしょう、きょうもね、理事会で。まあたとえば出したその書面の一番初めに書いてあったから一番最初にやるものと解したとかということが言えるのならいざ知らず、私がまたトップに書いて出してないですよ。見ていただけばいい。ちょっと事務局見せてあげて。順位は不同ですよと、皆さん了解された、理事懇談会で。私どもは、だれにしようか、持ち時間によって、やる問題の内容によって、順序はきめてまいります。ですから、いきなり委員長から藤田おまえやれと言われても、いま聞いてみるとそういう事情です。だめなんです。ですから、次にだれがやるかというようなことも聞きたいけれども、それはもう聞いてみてもむだです。これはね、無理は言ってないです。そんなことじゃ、これ、公明党さんも、いやそうはいかぬぞということなんですから、そこを逃げて、おれがやると言われたら、委員長どうしますか。いわんや時間についてもです。それをやはりつくろうといって、令朝来、しかも四時ごろまでどんどん進んできている最中じゃないですか。なぜ四時がきたらぱっと列車を発車させなきゃならぬか。それは無理がありますよ。委員長、あなたも長年の国対をやられ、副議長をやられ、内閣には列して逓信委員長をやられ、(「大臣だよ」と呼ぶ者あり)逓信大臣、委員長じゃなかったか、ああ予算委員長だな。(笑声)大臣もやられ、それらの経歴から見てですね、いきなりもうここで藤田を言えばというわけに――わが会派のほうを了解させてもらえばあるいはやるかもしれぬが、了解しないと言っているんです。これは他会派もそうです。これじゃだめです。(「委員長、強行するからこういうことになる」「委員長答弁」と呼ぶ者あり)委員長、いまお尋ねいたしました。お答えはどうですか。まず委員長の御答弁から。(「散会散会」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)委員長いかがですか。先ほど聞いたのですがね、どういうやり方でこれを。理事ですから、議事進行についてはこうしてやっておるけれども、あなたが質疑に入れと言われて――それというのは、まだ会派のまとめがついていないわけです、他会派を含めてね。委員長せっかく言われても、では私やりましょうということで、なかなかこれ、私もまだ、これから議員生活が長いので、そう人をかき分けて早くやるというようなことは、これはむずかしいです。

○委員長(寺尾豊君) 先ほどの要旨をちょっと言ってください。

○藤田進君 先ほどの質問に対する委員長の答弁は――つまり、おととい、そしてきょう四時ごろまでに、委員長は主宰されたのだから御承知のように、質問の順位、各会派のね、したがって党内も、それぞれの会派の順位もきまる、それはどの程度の持ち時間でいこうというようなことが、きまりかけているのに、順位については、十番目くらいまでは、じゃこの辺はひとつ、きまりかけということで次へ進んでいこうと、こうなっておりましたね。そうなっておる最中に質疑しろとおっしゃっても、これは困るのじゃないですかと言ったところ、いやそれについては引き続き理事懇談会を開いてきめていきたいという、あなた答弁をされたわけです。それならそれで、そういうふうに処置されればいいし、いや、まあ質問要求が出ているから、とりあえず藤田を指名したのだとおっしゃるなら、いま皆さんに聞いたところ、お聞きのように、それはだめだぞと、よその会派からも大きな声が出ておった。そんな状態で、私が日韓の質疑に入れますか。したがって、議事進行として善処をわずらわしたいということを申し上げておる。筋の通った話でしょうが、これは。それはどうなんですか。あなた答弁されているのだから、それはそういうふうに処置される以外にないでしょう。

○委員長(寺尾豊君) 私は、やはり本日委員会を開会して、政府関係者の提案理由の趣旨説明がありましたから、それで、それに対しては、やはり委員会を開会したということからいくと、藤田委員に質疑を願いたい、それは、今朝の通告によってあなたを私は御指名を申し上げた、こういうことでありますからして……。

○藤田進君 そうすると、これから先の質疑順位なり持ち時間なりをきめてやるのが慣例ですよね。その点については、最後までそういうことなしに、委員長が、きょうは岡田宗司君、きょうは岩間君と、そういうやり方でおやりになるのですか。それはどうなるのですか。よく聞いておかないと……。

○委員長(寺尾豊君) 今後のことについては、先ほど申し上げましたように、理事懇談会において、すでに十番目くらいまでは一応先ほど内定をしたというような形になっておりますから、ですから、あなたから質問を願いたい、こういうわけなんです。

○藤田進君 今後のことというのは、いまからあとのことをいうわけです。いまからあとが今後です。

○委員長(寺尾豊君) 私の言うのは、この委員会を終了したあと理事懇談会を開いて、自後のことは御相談をするようになっておる、こういうことを申し上げたのです。

○藤田進君 きょうは番外でおまえやってみろということですか。持ち時間はどうなるのですか。からだの続く限りやってみよというのですか。お答え願いたい。これ、どうなるのです。

○委員長(寺尾豊君) それでは、本日はこの程度とし、二十四日午前十時から四案件についての質疑を行ないます。
 本日は、これにて散会いたします。

 第063回国会 参議院外務委員会 第7号 昭和四十五年四月十四日(火曜日)午前十時十四分開会

【発言順】
 委員        西村 関一
 大蔵大臣官房審議官 高木 文雄
 委員長       長谷川 仁
 外務省アジア局
 北東アジア課長   伊達 宗起

○西村関一君 続いて韓国との租税条約についてお尋ねをいたします。
 第一点は、五年ほど前に在韓日本商社が韓国政府から不当な課税を受けたということで、いわゆる課税問題が起こったのでございます。その後これはどういうふうに解決されたか。この問題が今回の租税条約でどのように解決されるとお考えになっておるか。

○政府委員(高木文雄君) 新聞等でかなり長い間報道されておりましたように、わが国の韓国における商社に対する課税問題というのが、昭和三十九年以来いろいろもめておったわけでございます。どういう点がもめておったかという点をちょっと御紹介いたしますと、一つは、日本の商社の支店がたくさん韓国にございますが、その支店の所得について法人税なり所得税なりを韓国側が課する場合に、その支店が得ましたところの収入の面についてはあまり問題がないのでございますけれども、私どもの考えから言うと、経費をこの辺ぐらいまで認めてくれて差額を所得と見てもいいじゃないかということに対して、いわば経費の認定が少しきついといいますか、なかなか認めてくれない。たとえば、こちらから物を出しました場合には、その出しました物につきましては、韓国における支店でいろいろ経費がかかっておるのは言うまでもありませんが、こちらの本国でもいろいろかかっておるわけでございますが、本国の経費もその所得の計算の際に見て、引いてもらわないとぐあいが悪いわけですけれども、その見方が若干辛いといいますか、十分に引いてもらえないという点が一つございます。それから、たとえば日本から品物を向こうへ輸出しまして、あるいはこちらでつくって持って行って向こうへ据えつけるというような場合に、それから得たところの会社の所得は、いわば税法上の租税条約のときにいつも問題になるといいますか、国際間でいつも問題になるんですが、その所得は、日本の国内で生まれてきた所得と韓国の中で生まれてきた所得と、いわゆる所得源泉が二つの国にまたがるわけでございますが、それをどこで線を切るかということについて、やはり若干争いといいますか、われわれ――われわれというよりは、商社として納得のいかなかった点があるのでございます。それからもう一点は、帳簿書類を、こちらの帳簿書類をよく見てもらって、その帳簿書類に基づいて実査をして計算をしてほしいのでありますけれども、国内でもよく問題でございますが、一種の標準課税的な行き方というようなことがございまして、主としてその三点で、所得税につきまして、また法人税につきまして問題があったわけでございますが、その後何度も話し合いをいたしまして、徐々に理解を深めてもらった問題でもございますので、特にそういった点、他の国との租税条約とは違いまして、今度の日本と韓国との租税条約では、かなり詳しく、いま申しましたあたりのところをどういう約束にしておこうかということをきめたわけでございますので、これで四、五年にわたりました問題はほとんど解決の道がついた。で、企業といたしましては、一体どういう税金がどういう計算でかけられるのかということが前もってわかっておれば、かりにそれが多少重いとか軽いということがあっても、それは計算ができますけれども、いままではそれがわからなかったものですから、非常に紛争があったわけであります。その点が明らかになったわけでございます。
 なおもう一点つけ加えさせていただきますが、ただいまのは所得税、法人税の問題でございますが、別に営業税の問題というのがございますけれども、これは日本で向こうに試案を出して、いろいろ仕事をします場合に、先方の税法で、何と言いますか、物を、本店・支店の関係で、日本の本店から品物を全部支店が一ぺん買い取った感じでものを考えて、そうしてそれを売ると、仕切り売買だというふうに判断する場合と、単に口銭といいますか、支店は窓口になって手数料だけが支店に帰属するのだという考え方で営業税の税率が違ってくる、また課税標準が違ってくるというような問題がありまして、これも争いの種ではあったのでございますけれども、この辺は、実はこちら側が先方の税制なりあるいはものの考え方なりについて十分理解がなかったというようなこともありまして、最近では関係商社とも、韓国側のものの考え方でよかろうということでいっておりますので、このほうは、今度の協定というよりは、事実上の解決はすでに済んでおるという形でございます。

○西村関一君 いままでの説明で大体わかったんですけれども、営業税につきましては、これはこの条約の二十条(1)でございます。必要に応じて協議できるということになっている。これは別途どういう解決をはかるというお考えになっているのか。営業税については「必要に応じ――協議することができる。」ということになっております。これはどういうことを意味するのか。

○政府委員(高木文雄君) 営業税の問題は、三つに分けて御説明することがおわかりやすいかと思いますが、一つは、例の請求権取引に関連する問題でございます。これにつきましては、従来から法人税のほうは請求権協定の議定書で免税になっているのですけれども、営業税については請求権協定には何らの規定がなかったということから従来紛争があったのでございますが、このほうは、今回の条約の議定書に定めを置きまして、この条約が発効しました後の取引については向こう側で営業税をかけないということに今回の租税条約の議定書の中で規定をいたしております。それから、いわゆる民借取引というのがございますが、請求権取引に比べればはるかに民間べースのものでございますけれども、これについてはやはり同じような紛争がございましたのですけれども、まあいろいろ議論をしてみますと、本来の性質としては、韓国側がこれに対して課税することが不当であるということはどうも言えない筋のものであろう。民借でございますので、これは韓国側が課税をしてくるのもまあ筋の通った話であろう。ただこれまで紛争がありましたのは、ある時期から突然課税されたものですから、そこで予想外といいますか、予定外のことであったというのでもめまして、これにつきましても、条約の議定書で、一九六七年以前の取引に関しましては免税扱いにする、それから、新しいものにつきましては、まあ事の性質にかんがみまして、課税されてもやむを得ないということに扱うことにいたしたわけでございます。さて一番問題は、いまの請求権取引、民借取引以外の一般取引の場合に、営業税はこれからどうなっていくかということでございますが、その点につきましては、ただいま先生から御指摘ありましたように、条約の二十条に規定がございまして、相互に協議してやっていくということにきめられておるわけでございます。ただその場合に、当面何か協議しなければならないような紛争があるかと申しますと、先ほど申しましたように、日本の商社の活動について仕切り売買である前提でものを考えるか、ただコミッションといいますか、口銭を取るという、口銭だけが支店へ帰属するという形で課税を受けるかという問題の争いがあったわけでございますけれども、その点は前者のほうでいってもやむなかろうということで、各商社とも最近はそういう前提で納めておりますので、今日ただいまの段階で一般取引について何か直ちに協議に入らなければならない問題はないと考えております。

○西村関一君 次に、この条約によりますと、企業利得に対する課税、これは従来のわが国との条約例ではあまり見ないエンタイア方式をとる。その理由はどこにあるのですか。

○政府委員(高木文雄君) 事業所得の課税に関しまする租税条約のきめ方は、ただいま御指摘のございましたように、二つ考え方がありまして、いわゆるエンタイア方式という考え方――総括主義という考え方と、帰属主義と言っておりますが、アットリピュータブルという考え方と二つございます。で、アットリビュータブルのほうが紛争が少ない、わかりやすいということで、最近わが国は各国と条約を結びます場合にはそういう考え方でいっておりまして、OECDのモデル条約でもそのようなものをモデルとしておるわけでありますが、わが国が一番最初に租税条約を結びましたアメリカと日本との間ではいわゆるエンタイア方式になっております。今回、日本側が韓国側に租税協定を結ぼうではないかという提案をいたしましたときに、まずそこらあたりをどういうスタンスで話を進めていくか、当然こちら側はアットリビュータブル方式を望んだわけでございますが、韓国側は日本とアメリカとの条約を見まして、日本はアメリカとの間ではエンタイア方式でやっているじゃないか、そうだとすれば、日本が今度は韓国と結ぶ場合にエンタイア方式でやっていかぬわけはないじゃないか、こういうことで、エンタイア方式を先方が希望したわけでございます。そこで、当方といたしましては、そこで議論をしておりますと実は入り口でなかなか奥に入れなくなりますので、かりにエンタイア方式であっても、その中の所得配分の問題とかあるいはいろんな点について考え方が合理的であれば、エンタイア方式についてさらにこまかい点についての課税原則が満足すべき内容のものができれば、名前といいますか、形式はエシタイア方式でもかまわないじゃないかということで議論を詰めていったわけでございますが、実はそのことに、その詰めることの作業にたいへん手間どりまして、条約の交渉に長くかかったわけでございますけれども、そうはいうものの、初めからアットリビュータブルでいこうではないかと言っておりますと、入り口のところでなかなか交渉が進まなくなってしまうものですから、そういう形式をとったものでありまして、そこで、結果から申しますと、非常に最後に両方の意見がうまく合ってまいりましたので、特に所得源泉についての詳細なルールをつくることができましたので、エンタイア方式をとりましたけれども、たいへん当方として不利だとか先方が有利だということなしに、ほどほどのところで話し合いがついたと確信をいたしております。
    ―――――――――――――
○委員長(長谷川仁君) 委員の異動について御報告いたします。
 ただいま高橋衛君が委員を辞任され、岩道道行君が補欠として選任されました。
    ―――――――――――――
○西村関一君 いまの御説明によりますと、エンタイア方式にしたところでわが国の企業が影響を受ける、不利な取り扱いを受けるということはないという見通しでこのようにしたと、結果的にはそういうことですね。

○政府委員(高木文雄君) そのとおりでございます。

○西村関一君 それから、船舶及び航空機の運航利得に関する課税でございます。これは本条約におきましては登録地主義をとっている。これは企業体主義と言われておる課税のやり方をしないでどうしてこの登録地主義をとることにしたか、その点お伺いしたいと思います。

○政府委員(高木文雄君) ただいま御指摘の船舶、航空機についての課税の原則として、企業体全部、たとえば日本の船会社なら船会社が持っております船が韓国へ行きましてそこで所得があがりました場合に、その船かどこに登録――といいますか、船籍を持っておろうと、それは免除しましょうということにするのが、まあ大体各国との間の常識といいますか、それが常例でございます。今回は、第一原則としまして、ただ、日本の船会社が持っておる船の全部ではなくて、日本に船籍があるか、韓国に船籍があるか、あるいは韓国が相互免除をやっている国、そこに船籍があるか、いずれかでなければ困るということにきまったわけでございますが、具体的には、実は韓国は非常にたくさんの国と船舶、航空機についての相互免除をしているようでございますので、実質的に企業体主義をとる場合とどこが違うかというと、非常に明確なのは台湾の場合でございます。つまり、もし日本の船会社が船籍を台湾に持っている船をもちましてそれで韓国のほうにそれを運航するという場合には、これは今回の条約、相互免除規定が適用にならぬということになります。なぜそういうことが起こりましたかと申しますと、これは先ほど申しますように、韓国は非常に多くの国と相互免除協定を結んでおるのでございますけれども、どういうわけか台湾との間で協定ができていないということでございまして、これは韓国側と台湾側とどちら側にどういう事情があるか私どもつまびらかにしておりませんけれども、そういう事情がありまして、それで、もしわが国が、またわが国のほうが台湾に船籍を置く船を持つということも現実的ではないのでございますけれども、この点で、韓国が免税しない国に登録されたものについては免除しないという希望が強く出ましたので、当方としてはほとんど実害がないという前提で、先方さんがその点を非常に強く主張されるならばそこは譲歩いたしましょうという形で、形式的には譲歩したかっこうになっております。

○西村関一君 最後にもう一点だけお伺いしたいと思いますが、日韓請求権及び経済協力協定に基づくところの無償三億ドル、有償二億ドル及び民間借款が当初三億ドル以上ということになっておったのでありますが、昭和四十二年の第一回日韓定期協議会の結果、二億ドル追加した。それはどういうふうに実施されているか、現状どういうふうになっているか。民間借款の中には船舶借款三千万ドル、漁業借款九千万ドル、これは一体どのように使われておるかどうかということをこの際お伺いしておきたいと思います。

○説明員(伊達宗起君) 御説明申し上げます。
 まず第一に、請求権協定に言っております二億ドルの有償の経済協力につきまして御説明申し上げます。現在、韓国側と協議いたしまして、こういう事業に融資をしようということで、日本側も一応金額をイヤマークと申しますか、コミットしたものが一億二千九百万ドル、それから、そのイヤマークいたしたものの中で、すでにもう五年度に入っておりますが、それが実施に移されまして、実際に政府から支払いが行なわれたもの、それが七千五百万ドルというのが有償の二億ドルについての数字でございます。
 次に、無償の経済協力三億ドルにつきましては、まず実施計画というものをつくっておりますが、その実施計画で現在までに両国政府間で合意されましたものが二億三千三百万ドル、その中で、これはまた認証という手続がございますが、契約ができ上がりますと日本政府において認証いたします。その認証の額が一億一千万ドルという数字になっております。
 次に、実際に実行されまして政府が支払いました額といいますのは、現在――この二月末現在でごさいますが――一億百万ドルというようになっております。以上が無償でございます。
 民間の信用供与に関しましては、承認しました実績は、ことしの二月末現在におきまして、一般プラント類が三億五千一百万ドル。漁業協力、これは漁船等の、沿岸漁業その他の漁業に対する信用供与でございますが、それは約二千万ドル。詳しく申し上げますと、一千九百四十四万ドルということになっております。その他船舶の輸出がございますが、これにつきましては、承認額は二千五百四十六万ドル。合計いたしまして三億九千六百万ドルというのが現在の数字でございます。
 以上でございます。

 第071回国会 衆議院商工委員会 第47号 昭和四十八年八月二十八日(火曜日)午前十時三十四分開議

【発言順】
 委員            板川 正吾
 国務大臣
(経済企画庁長官)      小坂善太郎
 外務省経済協力局外務参事官 菊地 清明

○板川委員 この二つの事件を見ますと、西独の場合には直ちに国交断絶ということまでは持っていかなかった。しかし、政府が韓国に与えておった総額七千万マルク、日本の金にしまして七十億円の火力発電所と農業用センターの建設のための経済援助を停止することを決定した。一時的とあなた強調しなくても、停止することを決定した。しかしこの事態は、表立って国交断絶を押し出したことではなかったけれども、事態の発展を見ては段階的にさらに強力な報復措置をとる覚悟がここで明らかにされた。そのために韓国側ではだんだん折れてきたという、金大中事件と同様な事件に対する西独側の一つの措置がとられたことは明らかであろうと思います。もう一つのアイヒマンの問題では、これはイスラエルとの外交関係をアルゼンチンは断絶をしたわけであります。いずれもそれは主権の侵害、独立国の威信を傷つけられたということに最大のポイントがあったと思います。
 そこで、その問題はまた別の機会といたしまして、西独では韓国との交渉で当時七千万マルク、日本の金で七十億円でありますが、この援助停止を決定した、そしてそういう措置によって、ついに最終的には十七名、拉致された全員が西独に帰ることができた、こういうことであります。
 そこで外務、通産、経済企画庁担当部門でお答え願いたいのですが、日本の対韓経済援助の今日までの実績はどういうふうになっておりますか。どういう実績がありますか。御承知のように、日韓条約による有償二億ドル、無償三億ドルですが、そのほかに閣僚会議に基づいた援助が決定されておりますが、現在までそうした経済援助の実績はどういう金額になっておるか、これを明らかにしてもらいたい。

○小坂国務大臣 御承知のように、いわゆる有償二億ドル、詳しく申しますと、一九六五年に締結されました財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定に基づいておりまする二億ドルと、それから交換公文を受けまして経済協力基金と韓国政府とが借款契約を締結するいわゆる円借款とがあるわけでございます。
 本年七月末現在では、有償二億ドルにつきましては、市外電話拡張、上水道整備、高速道路建設事業等のプロジェクトに対しまして約一億五千五百万ドルを供与しておりまして、また個別の円借款につきましては、コミットベースで約四百十一億円のうち六十二億円を具体的に貸し付けておるわけでございます。
 なお、借款契約を締結後チェックすることにいたしておりまして、基金は現在現地駐在員事務所の活用、相手国政府からの報告徴収等によりまして、当該案件の進捗状況について絶えず把握をいたしておりまして、また借款手続上、借款資金自体も相手国政府に直接流れる仕組となっておりませんので、借款資金については非常に厳格に行なわれておるというふうに強調いたしておるわけでございます。
 なおさらに詳しく申し上げますと、二億ドルのうちソウルの地下鉄は一九七一年十二月三十日、コミット額が二百七十二億四千万円、実行額が五十二億円。第一次商品援助、一九七二年七月一日のものは、コミット額が七十七億円、貸し付け実行額が十億円。通信施設拡充計画は一九七三年一月二十六日、コミット額が六十二億円、これが実行はゼロ、すなわち総額が先ほど申し上げましたようなことになっておるわけでございます。
 なお、交換公文によりまするものは四百十一億四千万円でございまして、そのうち六十二億円が実行されておるという状況でございます。

○板川委員 日韓条約、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定によって、無償として三億ドル、十年間均等として年間三千万ドル、さらに有償として海外経済協力基金より有償二億ドル、これまた十年間で年間二千万ドル、そのほか日韓閣僚会議によって、韓国に対する円借款が行なわれておる。これはコミットベースで、昨年までが二億八百万ドルということになっておる。さらに民間における投資あるいは延べ払い投資額は本年の三月末で二億二百万ドル、延べ払いについては、三十八年から四十八年の十年間で、ことしの三月現在では六億ドルをこえております。この膨大な、いわば対韓援助がなされておるわけであります。私どもが日韓条約に反対したのは、韓国だけにそういう経済援助をやるということについて、これはいかぬ、日本は朝鮮民族に多大な迷惑をかけてきたのだから、そういう経済援助なりをするならば、全朝鮮民族になすべきである、こういう考え方に立って日韓条約に反対したわけです。韓国に対する経済援助、われわれが消極的にもこれを認めつつあるのは、長い間日本が朝鮮民族に迷惑をかけた、その朝鮮民族の一方の人に一ほんとうは両方やりたいが、一方の韓国にこうした経済援助をすることは朝鮮を征服した日本の軍国主義の一つの贖罪、こういう気持ちでおるわけであります。そういう意味で、経済協力というものを消極的ながら認めざるを得ない、こう思っておったわけでありますが、ある週刊誌にはこういうことが書かれております。これは自民党の代議士の宇都宮徳馬さんの談話のようでありますが、こう書いてあります。「ソウル地下鉄建設のような明瞭な目的でも、三分の一は韓国の関係者に、三分の一は日本の関係者にまわり、実質使われるのは残りの三分の一にすぎないといわれるのだから、対韓援助は汚職の巣窟といわれても仕方がない。」「たしかに対韓経済援助は黒い霧に包まれていますね。金大中氏だけでなく、韓国の信頼すべき筋は”日本の経済援助は朴大統領を支えているだけで、韓国民のためにはなっていない”といっています。特にピンハネがひどい。一億の借款のうち、六千万ぐらいが消えてしまうという例もあるそうです。それでも利子をつけて返済しなければならないので、不実企業という、実質上倒産している企業が五十以上もあるといいます」、こういうことが宇都宮代議士談として載っておるのであります。
 私は、宇都宮代議士が事実こういう発言をしたかどうか、真偽のほどは知りません。そのことは問いません。しかしインドネシアの賠償の際に、いわば公然の秘密として同じような事実があったことを私も現地に行った際に伺ってまいりました。いわばそういうことは、真偽のほどは私自身もわからぬが、しかしこれはあり得ることであるという感じがいたします。そうしますと、われわれ日本国民が税金を納め、そしてそれが少なくとも朝鮮民族のある部分の人に――経済援助として幾らかでも戦時中、戦前の贖罪的な意味を持っておるのに、途中でそういうことになってはまことにわれわれは遺憾であるし問題であると思うのです。
 そこで伺いますが、経済援助の手続というのは一体どういう内容を持っておるのか。聞くところによりますと、これは相手韓国側から要望が出る、それを日本側が検討をする、日本側で援助のワクをきめる、予算をきめる、そして日韓両国で協議決定する、それを交換公文で取りかわす、こういう手続を経る、こういわれております。この資料等を見ましても、一応は表向きは鉄道設備改善事業とか漢工鉄橋復旧事業とか建設機械改良事業とか、とにかくいままで日韓条約の際にきめられた有償、無償の五億ドルというものは、具体的には、表向きはちゃんとした計画にのっとって金を出した、こういうようにいわれておりますが、はたしてこういう韓国が交換公文で約束したように、われわれの金が韓国国民のために、朝鮮民族のために、ほんとうに役に立っておるのかどうか。それをチェックすることはわれわれのほうとしてできないのかどうか。これは交換公文でどういう内容であったか私はわかりませんが、日本側として、必ずそれが国民のために公正に使われておるということをチェックすることができないのかどうか。きょうの朝日新聞の社説にはこう書いてあります。「こうして毎年、積み上げられる対韓経済協力は、わが国と他国との一般的な協力関係を、質量ともに大きくしのいできた。しかも韓国の場合は、事前の十分な事務的詰めもなしに、閣僚会議で政治的に借款供与の方向を合意することも、少なからずあった。このような経済協力が、韓国の建設に一体どのような役割を果たしたのか、まともに調査したものはわが国に一つもないといってよい。」朝日新聞の社説にはそういう論評があります。今度の事件で、日韓閣僚会議が延期されたことは当然でありますが、日韓閣僚会議の援助の取りきめ自体に私は問題、疑問が多々あるという感じがいたしております。そこで、この経済協力を不正なく約束どおり相手方が実行しているかどうかをチェックする機関というものは一体あるのかないのか、あるならどういう方法でおやりになっておるのか、それを伺いたい。

○菊地説明員 お答え申し上げます。
 経済協力のチェックをどうやっておるかという御質問でございますが、これは非常に技術的でたいへん詳細にわたるわけでございますけれども、ごく簡単に申し上げますと、まず日韓請求権経済協力協定に基づきます例の三億ドル、二億ドル、あの分につきましては、日韓合同委員会というのがございまして、これは毎年実施計画をそこにかけまして、それでどういうプロジェクト、どういう事業に幾ら使うということをあらかじめ日韓間で合意いたしましてそれに基づいて実施いたしております。それからはずれる場合は韓国側から一々その合同委員会にかけまして、日本側の了解を求めるというかっこうになっております。
 それから、先ほどの交換公文ベースの経済協力と称されるものでございますが、これは先ほど、事前の詰めなくして閣僚会議その他で安易にコミットをされておるではないかという御指摘ですけれども、これにつきましてはプロジェクトないし借款をやります場合には、必ず私たちの申しておるフィージビリティー調査というようなことをやりまして、それがはたして韓国の経済に役に立つか、韓国の経済発展の優先度はどうかということとか、全部そのプロジェクトそのものがはたして経済的なものかどうかというのを非常に技術的かつ経済的な見地からチェックいたしましてからコミットする、閣僚会議に上げるというふうなかっこうになっております。
 それから商品援助というものがございますが、これにつきましては日本から商品を持っていくわけですが、その商品の売り上げ代金につきましては、韓国政府においては産業合理化資金という資金を持っておりまして、これに売り上げのウォン貨を払い込むということになっております。それで、この産業合理化資金に関しましては、産業合理化資金法というものがございまして、これは韓国の産業開発のために使うということになっております。

○板川委員 向こうから申し入れがあり、こっちがその計画を聞いて、わが方が検討する、そして妥当と思われるものを考えてワクをきめて協議をする、これは請求権の問題と違う、閣僚会議で主として行なわれるものですね。円借款の問題ですね。一応は向こうがそういう計画をして出してくる、こちらがその計画を検討する、こういうことは当然だと思うのです。だけれども、実際それが約束どおり実行されているかどうかということを調査はできませんか、それをしておりませんかというのです。

○菊地説明員 実際に、はたして現実にその目的どおり使われているかどうかということに関しましては、先ほど申し上げました基金の駐在員がおってチェックする方法もございます。それから現実に経済協力の場合は、日本から物資、資材が韓国へ現実に渡るわけでございますけれども、その場合は貿管令によりまして輸出承認という手続がございます。ですから、輸出承認の際にはたしてこれが協定ないし交換公文に合致した商品であるかどうか、資材であるか、プラントであるかということを現実にチェックいたしております。それが最後のチェックでございます。
 それからもう一つ、協力がはたしてどういう効果を生んでいるかという、効果測定という問題、これは非常に大事な問題でございますけれども、これに関しましては、経済協力の効果測定チームというようなものをときどき派遣いたしまして、韓国に関しましてはかつて一回派遣したことがございますが、できれば今年度において派遣を考慮いたしておりますが、この効果測定ということは私たちとしても十分心にとめておる問題でございます。

○板川委員 それでは外務省に要求いたしますが、経済援助の効果測定調査を過去においてやったことがある、また今後したい、こう言っておりますから、過去において効果測定調査をした資料を当委員会に出していただきたいということを要望いたします。
 時間の関係もありますから結論に入りますが、一説によりますと、韓国の中央情報部、CIAの活動資金というのは、国家の機密資金として、議会の賛成を必要としない、こういわれております。したがって、必要とあれば幾らでも使える、こういうようにいわれております。その豊富な資金源はアメリカと日本の経済援助にその根源があるという説もあります。これは私も実態調査しておりませんが、そういう説を耳にいたします。かりにそれが事実であるとすれば、日本としてこんなばかな話はないわけであります。韓国の中央情報部の活動資金を日本が援助をし、その中央情報部員によって日本の主権が侵害をされ、威信が失墜をされた。そうして泣き寝入りをして、韓国のどうかつに屈して、大平大臣の最近の態度は、相手がノーといえば打つ手がないというような感じを持つわけでありますが、こういう問題は、国民は政府の出方に重大な関心を持って見守っております。田中内閣の決断と実行という公約は、私はこういう場合にひとつ断固たる行動に出るべきではないかというふうに、国民の一人として、国民の声として申し上げておきたいと思います。それがいわばほんとうの日本と朝鮮民族との友好の道につながる。間違った土台の上にほんとうの友好というのは築かれるはずはない。アメリカが世界各国に経済援助、軍事援助をしながら各国からきらわれているというのも、間違った土台の上に友好というものを築き上げようとしたからであると思います。日本もそうしたアメリカの二の舞いを踏んではならぬということを強調いたしまして、私の質問を終わります。
 
 第071回国会 参議院法務委員会 第22号 昭和四十八年九月十八日(火曜日)正午開会

【発言順】
 委員      佐々木静子
 外務省アジア局
 外務参事官   中江 要介
 法務大臣    田中伊三次

○佐々木静子君 いや、非常にいろんな意味においての第六感の発達していらっしゃる方だから、これもやはり先を見越して、やはり何かもう少し官僚サイドじゃない、いい御答弁を伺えるのじゃないかと思って私伺っているわけなんです。
 それから、いま刑事局長のおっしゃっている、私もこの第四項を除いてというふうに最初から申し上げているようなわけで、こういうふうなことで唯々諾々と外務省が承知したり、警察がこれはおかしいじゃないかと言わずに、これは参考人を呼んだりすると、これは次々第三、第四の問題が起こってくる。そうなると、こういう変なことだってこれはもう処罰されるというふうな土壌をつくるわけですから、やはりここはきわめて厳格に解釈してやっていただきたい。――実はいま中江参事官がお越しになりましたが、実はほんとうは外務省に伺うことですね。お越しにならなかったので、法務大臣にいろいろ御奮闘いただいているようなことなんですけれども、法務大臣は、こういうことにやはり日本の捜査権が侵害されるとかというようなことになればき然たる態度をとって臨むということを言っていらっしゃるわけで、私もその点は法務大臣に大いに御期待しているんですが、何と言っても、いま見ていると、外務省は弱腰で、どうも外務省にき然たる態度というものが一向に見られないわけですけれども、ひとつしっかりやっていただきたいと思うわけです。
 で、これはあとでまた別の委員会でゆっくり御質問があろうかと思うんですが、最初の発表では、こういうふうに金東雲氏が、日本の警察では物的証拠まできっちりある。動かすべからざる証拠だ。そして、そうなれば主権の侵犯だということは、これは法務大臣もおっしゃった。ところが、いまだにその断固たる措置というものが一向にとられずに、断固どころか、もううしろずさりばかりの措置がとられているわけですけれども、これはやはり強い措置がとれないというのは、結局日本がいま韓国にたくさんの投資をしているから、強い措置をとりたくてもとるにとれないのだということが、主として日本の財界、経済界からの突き上げがあって、いまの自民党政府ではどうすることもできないんだということが一般の声で、日本国民にしても、特に在日朝鮮、韓国人の方々も非常に歯がゆい思いをしているわけですが、いま韓国に対する外国人の直接投資というものが、これはニューズウイークなんかで最近のを見ますと、九九・七%というふうなところまで出ておりますけれども、外務省で把握していらっしゃるのはどのくらいになっているわけですか。

○説明員(中江要介君) 対韓経済協力の実態でございますけれども、いろんな種類に分かれておりまして、無償資金協力というのは、まず、昭和四十六年度から無償援助を行なっておりますが、これは四十六年度に一億三千万円、四十七年度に三億九千四百万円、四十八年度予算では五億六千三百万円と、こういうふうになっております。それから昭和四十年に御承知のように締結されました日韓請求権・経済協力協定と、協定に基づくものがございますが、これは四十年十二月から十年間に準賠償として総額三億ドルということになっております。いまのが無償でございまして、有償資金協力は、いま申し上げました日韓請求権・経済協力協定の有償資金のほうで、これは毎年二千万ドル、十年間にわたって二億ドル、こういうことになっております。
 この経済協力協定以外の円借款といたしましては五件ほどございまして、農水産業近代化借款、輸出産業育成及び中小企業振興借款、国鉄電化及びソウル地下鉄建設借款、商品援助、通信施設拡張計画借款、これの合計が、コミット額が六百六十八億四千万円、実行額はいままでで二百七十五億三千万円、こうなっております。
 それから、今度は民間ベースの資金協力といたしましては、延べ払い輸出が百四十二件で六億五百万ドル、それから直接投資、これが二億七百万ドル。
 いまの政府間及び民間ベースの資金協力のほかに、技術協力といたしましては、これは海外技術協力事業団を通じまして、昭和二十九年以来昨年末までに、研修員の受け入れが千四百五十名、専門家の派遣が二百七十三名等々ございます。そのほか、長期派遣中の専門家が地下鉄電化関係で五名、工業技術訓練センター関係二名というふうに、これはいろんなこまかい技術者が行っております。それから、プロジェクトベースの医療協力といたしまして、寄生虫対策、それから産業災害対策、そういった協力、それから開発調査といたしまして、首都圏の都市交通計画調査、農村開発計画調査、それから橋梁の総合開発計画調査、その他農業協力、こういった多方面にわたっているのが実情でございます。

○佐々木静子君 実は、ほんとうはもう少し早く来ていただいて、そういう御答弁をいただいて、あと外務省にもっと伺いたかったわけですけれども、私の持ち時間がないので、もう一、二問に終わらざるを得ないわけですが、これは日本のさる大商社の東南アジア方面の、韓国及び東南アジアの輸出をしている人たちの話では、やはり一九六七年ごろの、当初の日韓条約ができて間もなくの話ですけれども、韓国のリベートというものが、大体韓国へ何する場合は七%というのが常識であるという話を聞いておったわけですけれども、またこれは実は一流紙のソウル支局長などをしておられた方々のお話によると、韓国のほうから言わすと、これはリベートが韓国政府だけであるならば非常に楽なんだがという話が、これは実は具体的にも出ているわけなんですね。そこら辺で私どもは、やはりいまの自民党政府は強い態度がとれない、これはうっかり強い態度をとればどういうことが明るみに出てくるかわからないということから、外務省がいろんな思惑で強い態度がとれないのだということと思わざるを得ないわけなんですけれども、もしそういうことでないのであれば、そういうことでないなら、ないだけにきっちりとした態度をとっていただきたい。これは日本の面目にかけてもとっていただきたいと思うわけです。それで当初、警察のほうに最初お伺いをいたしましたけれども、私は警察がもっと証拠を実は持っていらっしゃるけれども、公表するわけにはいかないのだというふうに理解さしていただいているわけなんですけれども、さらにきっちりした、的確な捜査をできるだけ進めていただいて、内外にやはり日本の警察というものが、そういう政治力に動かされずに、しっかりした捜査が行なわれるのだということを、これは日本国民の一人として、ぜひとも知らしめていただきたいということを心よりお願いするわけです。とかくのうわさについて、これは、田中大臣は金大中事件について非常に御苦労いただいたわけでございますけれども、やはりそのような疑惑の目をもって見られているというのがこれはやはり事実でもございますので、閣僚の一人として、この件についての御見解を述べていただきたいと思います。

○国務大臣(田中伊三次君) 御懸念のような疑惑の余地のないように、しゃんとした態度で捜査を進め、対韓外交をやりたい、こういうふうに私は思うのでございます。ことに、御質問を通じて考えますことは、御質問の最初に出てきたことでありますが、何か捜査が政治によって左右されるようなことがあるのではないかという御心配をいただいている、私も同様の心配をしておるものでございます。捜査に政治が介入するということは断じて許されるべきことではない。警察御自身が仰せになっておりますように、実体、真実、真相とは何か、だれが犯人かということの究明に純粋に全力を入れるべきもの、これに政治が介入すべきものではない。そういうことのないように、腰の強い態度で捜査をあくまでも遂行をいたしまして、国民の皆さんの御期待に沿いたい、こう考えております。

 第080回国会 参議院予算委員会 第10号 昭和五十二年四月一日(金曜日)午前十時八分開会

【発言順】
 委員   野田 哲
 委員長  小川 半次
 厚生大臣 渡辺美智雄

○野田哲君 結構です。
 この件は、時間がございませんので、引き続いて調査を別の場でまたやっていきたいと思うので、別の問題について厚生大臣にお尋ねいたしますが、これは先般の玉置議員と同じような人権問題で御検討願いたいと思うのですが、昭和十九年に広島の三菱関係の工場に韓国人の徴用工が約三千人入所いたしました。昭和二十年八月二十一日に、この徴用工については解除するという方針を政府が決定をしております。
 そこで、三菱広島にいたこの徴用工は、八月三十日に徴用を解除されて、それから昭和二十年九月十五日に、二百四十六名の人たちが広島駅から帰途につきました。九月十七日に北九州市の戸畑から日本国籍の機帆船に乗ったところまでは明確になっているわけでありますが、この二百四十六名の韓国から強制的に就労させられた韓国人はいまだに行方不明で韓国には帰り着いておりません。この消息について、広島の心ある人たちがいろいろ調査をしておりましたところ、最近になりまして、長崎県の壱岐の芦辺町というところで、二十年の九月十七日から十八日ごろにかけて、大量の漂流死体がこの芦辺町の浜辺に流れ着いた、こういう事実がわかりました。そこで、芦辺町の人たちは身元不明の漂流死体ということで現地に埋葬しておるというところまではわかったわけでございますけれども、ちょうどこれは枕崎台風に襲われて玄界灘で遭難したんではないか、こういうふうに推定をされております。私、調査をした-会った人たちの名前も持っておりますので、これは何としても日本政府の責任において、戦時中に強制連行しておるわけでありますから、これはぜひ人権問題として具体的な調査をやって、判明した場合にはしかるべき異例の措置を講じていただきたい。このことを厚生大臣に要望したいと思うのですが、見解を承りたいと思います。

○国務大臣(渡辺美智雄君) お話しのことにつきまして、事務当局に何とか調査の方法はないかということを真剣に調べさしたわけでございます。ところが、これは当時、厚生省としては船を用意をして韓国に送ろうとしたんだけれども、この人たちはその配船を待ってられないということで、自分たちが船を借り上げて先に出てしまったと、そういうようなことなどで、なかなか現在の援護法その他の関係では法律上乗っかってこない。乗るっかってこないんだけれども、せっかく野田さんから言われておることだし、ともかくこれは人道問題であるから、何かうまいことをあしたの朝までに考えておけと。で、けさ参りまして、一晩考えたけれどもなかなかむずかしい、所管外の問題だと、所管外のことでは、それじゃ総理府とでも今度はひとつよく相談をしてみたらどうですかということで、もう少し調べてみたまえという程度までしか話が進んでおりません。もう少し調べてみます。

○野田哲君 一言だけ。いまの現状の中で最大限できることをやっていただくことをお願いを申し上げて、私の質問を終わります。(拍手)

○委員長(小川半次君) 以上をもちまして野田哲君の質疑は終了いたしました。

 第080回国会 参議院社会労働委員会 第10号 昭和五十二年五月十九日(木曜日)午前十時十分開会

【発言順】
 委員      浜本万三
 外務省アジア局
 北東アジア課長 遠藤 哲也
 厚生省援護局長 出原 孝夫
 理事      佐々木 満
 厚生大臣    渡辺美智雄

○浜本万三君 最後に希望しておきますが、とにかく後遺症の疑いがあるというので、関係従業員の方がその援護の措置を強く要望されておるわけでございますから、早急に実態を把握され調査されて、しかるべき措置を講じてもらいたいと思います。
 それから次は、戦後処理の問題についてたくさんあるのですけれども、外務省の方がおいでになっておりましたら、朝鮮人徴用工問題についてお尋ねしたいと思います。
 これはちょっと私の方で把握をしておる実情について申し述べますと、広島県の広島市にあります三菱重工に戦時中朝鮮人の方が多数徴用されまして、徴用工として戦争に協力をさせられたというものでございます。数は、一九四四年三千人の方が同工場に入所をされまして、そのうち二千人の人がすでに既婚者であったということなんでございます。広島県全体でいえば八万一千八百六十三人という数字があるんでございますが、いずれにしましても、そういうたくさんの方々が内地に連れてこられまして、いわば戦争に協力をさせられたわけでございます。
 ところが、この三菱造船の徴用工のうち二百四十一名、引率者は盧聖玉さんと言われておりますが、日本名が古川秀雄さんということになっておるんですが、その方が昭和二十年の九月十五日に広島駅を出発いたしまして、帰国中遭難に遭って全員死亡したらしい、こういう報道が今日行われておるわけなんでございます。この問題をめぐりまして、遺族の方が最近日本に来られましたし、また、広島県では当時朝鮮人の徴用工の方たちを指揮監督をしておりました方々が非常に責任を感じまして、日本の厚生省ないしは外務省に対しましていろいろ陳情行動をなさっておられるようでございますが、うちはその窓口ではないというので、すげなく断わっておられるような報告を私は聞いておるわけです。この問題について外務省はどのように実態を把握されて、これまでどういう措置をとってこられたか、お尋ねをいたします。

○説明員(遠藤哲也君) いま浜本先生御指摘の三菱徴用工の問題につきましては、実は一昨年からでございますか、広島におられるかつての徴用工の指導者をしておられました深川さん、それから先生御指摘の韓国側の代表の方の盧さんという方、私も何回かお目にかかって話し合いをしたことがあるわけでございます。ことに、この二百四十一名の方が一九四五年の九月十五日広島を出て、韓国へ帰国の途中、たしか枕崎台風であったと思いますが、その台風に遭って遭難しまして、その大部分が壱岐の島の海岸に遺体となって漂着したということ。それで、これらの方々の遺骨が戦後二十何年問その壱岐に埋葬されていたわけでございますけれども、昨年秋その遺族会の方々で発掘されたということも承知いたしております。私も先ほど申し上げた深川さん、あるいは盧さんとの何回かの話し合いで申し上げたわけでございますけれども、こういったこと、きわめてお気の毒なことだと思うわけでございます。
 ただ、そのときも私申し上げたわけでございますけれども、ちょっと非常に法律的なことを申し上げて恐縮でございますけれども、まず法律的に見ますと、この戦争中におきますいわゆる徴用韓国人に対しますいわゆる補償の問題につきましては、昭和四十年日韓国交回復のときの請求権協定によりまして、この補償の問題というのは日韓間ではすでに解決済みとなっておりまして、これは非常に残念というか、お気の毒なんでございますけれども、いわゆる法律的には外務省としては何ら手が打ちようがないということでございます。しかしながら、私は若干職務外になるかと思いますけれども、そのときも事情をお話をお聞きし、一度たとえば三菱重工の人と話し合ったらどうかということで、私は三菱重工の東京本社の人にも実は役所に来てもらいまして話し合いをし、三菱とそれからこの方々と、あるいは私どもを入れて話し合いの機会を持ってはということも申し上げ、たしか三菱重工と深川さんとの話し合いはあったかと私は聞いておりますけれども、いずれにしましても、私ども法律的にはもうすでに解決済みということで、手の打ちようがないわけでございますけれども、今後ともいわゆる人道的な立場から、どうも役所外という感じになるのでございますけれども、深川さんその他の方々とはいつでも喜んでお話し合いをしたい、こういうふうに考えております。

○浜本万三君 日韓会談で賠償を含む法律的な責任はもう解消した、こういうたてまえ論なんですが、たてまえ論で来るならば、ひとつたてまえ論をお伺いをしたいのです。
 敗戦後、日本政府は当時日本に来ておりました朝鮮人の方々を釜山まで責任をもって送還しろという占領軍命令ですか、そういうものがあったと私は聞いておるわけです。それがないとするならば、それらの方々をどこまで送り返せという指示ないしは命令が日本政府のどこにあったかということが問題なんでしょうが、外務省の方でないとすれば、政府としてはやっぱりこれは厚生省が責任があるのではないかと思いますが、そういう朝鮮人の方々はどこへだれが責任をもって送り返すことになっておったのですか、それじゃ。

○政府委員(出原孝夫君) 朝鮮人の送還につきましては、当時昭和二十年の八月二十一日に、「強制移入朝鮮人等の徴用解除方針」が次官会議で決定されまして、同じ年の九月一日に、「朝鮮集団移入労務者等の緊急措置の件」ということで通牒が出されております。その通牒の内容は、釜山までの計画的輸送を行うということと、必ず事業主側より引率者を付するということを骨子としたものでございます。この通牒は、厚生省勤労局長、健民局長、内務省管理局長、警保局長の連名によって行なわれております。

  〔委員長退席、理事佐々木満君着席〕

 同年十月十八日になりまして総司令部と日本政府代表との協議によりまして、引き揚げの送出問題については厚生省が中央の責任官庁になるということが決定されましたものでございます。

○浜本万三君 そうすると、日本政府としては釜山まで責任をもって送り返すということになっておったわけなんですが、帰ってないとするならばその責任を果たしていないことになりますが、これはどういうことになりますか。

○政府委員(出原孝夫君) これらの方々は、当時非常に配船のむずかしいという事情もあったようでございますが、政府の配船計画の中に、どうもお入りになっておらないで、その人たちがこれもはっきりいたさないのでございますけれども、その人たちの御配慮で自分たちでどうも船を調達されたのではなかろうかという感じがいたします。したがいまして、政府の正規の配船の外に出てしまわれたという方々でございますので、私どもの方は行政上の網から出てしまわれた方々ではなかろうかというように考えられます。

○浜本万三君 ちょっと理解しにくいのですが、当時の状況で九月の十五日ごろというのは、もう戦後約一カ月過ぎているわけでありますから、したがって物の動きなり、配船その他につきましても、十分役所があるいは占領軍が監督をし得た状況の中で送還計画は立てられて送還されておるのじゃないかと、私どもは関係者に話を伺いまして想像ができるわけなんですよ。しかも、広島駅から九州の終結点まで到着をしておることは間違いのない事実なんでございます。そうすると、全然日本政府の配船計画の中に入ってない、政府の計画に入ってないはみ出た行為をとったのだと、こうおっしゃるのですが、私はどうしても理解がしにくい。仮に百歩譲ってそうであったとしても、釜山まで送還をする責任が日本政府にあったとするならば、十分その方々の行動を掌握する責任があったのじゃないかと思うんですよ。二百四十名の大部隊ですから、そんなに一人や二人の方が朝鮮に密航して逃げてお帰りになるという事情ではぼくはなかったと思うんですよ。ちょっといまの局長の答弁は、事実に照らしまして、また状況を判断しても理解しがたい答弁だと思うんですがね。

○政府委員(出原孝夫君) 本件は、先ほどもお話がございましたように、昭和二十年の九月十五日に三菱広島造船所の職員が社命により引率者として広島を出られたと。同月十七日に戸畑港を出港したというように承知をいたしておりますけれども、当時戸畑港は引き揚げ指定港とはなっておらず、また記録によりますれば直接引き揚げ船を処理したことは私どもの方ではございませんので、そういう意味におきまして、私どもの方の引き揚げ船の関係ではないというように判断せざるを得ないということでございます。

○浜本万三君 そうすると、三菱の人が引率をしたということははっきりしておるのでありまして、政府の正規の指導に従わず三菱がそういう行動をとったということは、三菱に責任があるということになりませんか。

○政府委員(出原孝夫君) その辺の事情につきましては、私どもつまびらかにいたしておりません。

○浜本万三君 いずれにしても、帰るはずの人が釜山に到着をしてない。決定的な判断としては、枕崎台風で遭難し、全員死亡したらしい、この点ははっきりしておるわけでございます。しかし、先ほど局長が答弁されましたように、日本政府は送還をする義務があったと。三菱は九州の戸畑までこれを引率して行った。こういう条件から申しますと、政府が指導が不十分であったということも考えられまするし、特に死亡さした三菱の責任は私は大きいのじゃないかと思います。したがって、私は今日の段階になれば、政府と三菱が共同責任を持ってこの問題を解決する必要があるのではないかと思いますが、いかがですか。

○政府委員(出原孝夫君) これは私どもは、民間の船舶をどうも雇い上げられて出国されたのではなかろうかという意味におきましては、行政上の責任はないと考えております。しかしながら、人道上の問題としてあるいは善隣友好の立場から事実を究明することは必要なことであろうと考えておりますので、こちらにおいでの外務省あるいは労働省あるいは三菱等も私どもの方もよく連絡をいたしまして、事実の究明には努めたいというように考えております。

○浜本万三君 ともかく、向こうから遺族の代表の方が渡ってこられるし、そして事実をいろんな形で訴えていらっしゃることは間違いないと思うんです。日本人の外地で亡くなられました遺骨の引き揚げあるいはまだ帰っていらっしゃらない未帰還者の捜査等につきましても、人道的な立場からそれぞれの相手国に対しまして誠意を持って御協力をいただくようにお願いをしておるわけなんでございます。そういう立場から言えば、逆な立場から考えましても、日本政府はこの問題について三菱と協力をして早急に誠意を持ってこたえるべきではないかと思います。
 そこで、最後にお尋ねをいたすんですが、現在遺族の方も見えまして、三菱との間の話し合いをしたいということを言っておられるのですが、事実上はもう窓口でシャットアウトされておるような実情でございますから、ぜひ政府の方もこれは外務省と厚生省、両省で協力をいただきまして、三菱と遺族の方々との話し合いの場をつくっていただくようにあっせんをしてもらいたいと思いますが、いかがですか。
    ―――――――――――――
○理事(佐々木満君) この際、委員の異動について御報告いたします。
 本日、徳永正利君が委員を辞任され、その補欠として源田実君が選任されました。
    ―――――――――――――
○政府委員(出原孝夫君) 関係省よく相談をいたしまして対処いたしたいと考えます。

○浜本万三君 それでは、関係者の方の御協力をいただきまして、早急に誠意を持って遺族の方々に対処をしていただくように重ねて要望をいたしたいと思います。
 それから、そのほか戦後処理の問題につきましては、まだ未解決の問題がたくさんあるわけなんでございます。先ほど沖繩の問題についてもお話がございましたんですが、この問題を早急に早く解決をいたしまして、亡くなった方々に対する弔慰はもとより、遺族の方々に対しましても政府の配慮を十分いたさなければならぬと思っておるわけなんでございますが、戦後三十二年たちまして、いわば宗教的には三十三回忌、法要もことしが最後であろうというふうに言われておるわけでございますが、政府といたしましては、今後これらの未処理問題について、基本的にはどのような態度をもって対処されるのかお伺いしたいと思います。

○政府委員(出原孝夫君) 戦後、遺族援護法あるいは恩給の復活等によりまして、大筋、戦争犠牲者に対する援護の措置が逐次充実されてきたわけでございますが、三十年を経まして今日、その意味におきましては制度的にはほとんどきめの細かい対策までとられてまいったというように考えております。しかし、なお若干の問題が出る場合も予想はされますので、そういった問題が出ましたら適切に対処をいたしてまいりたいというように考えております。基本的には大方のきめの細かい問題も制度的には整理をされてきたというように私どもは考えております。

○浜本万三君 特に、最近陳情が非常に多くなっております問題としましては、従軍看護婦さんの問題とか、あるいはまた満蒙義勇隊、満州国軍人等に対する援護の措置を講じてもらいたいと、こういう御希望であろうと思うわけなんでありますが、これらの問題につきましてはどのような措置をおとりになるのかお尋ねをいたします。

○政府委員(出原孝夫君) 基本的には、私どもが所管しております遺族援護法は、旧軍隊、軍事に関する業務に協力をされておった場合あるいはそれに近いような強制力を受けておやりになっておられた場合ということで、障害あるいは亡くなられた方々の御遺族に対する援護を基本といたしております。いま新たに出てきております問題は、その意味におきましてはなかなか適合、対処のしがたい問題が多うございます。ただ、私どもが十分実情を承知していないで済んでおるというようなこともあるいはあるかもしれませんので、そういう意味におきまして関係者の方々からは十分実情をさらにお伺いをいたしたいというふうに考えておりますが、全般的に新しく出ておる問題につきましては、そういう意味におきましてなかなか困難なケースが多いんではなかろうかというように考えられます。

○浜本万三君 前回の委員会におきまして、わが党の片山委員からもお話がございましたんですが、一般戦災者に対する援護の措置が国との身分関係がないというのでいまだに放置をされておるわけでございます。したがって、私ども社会党といたしましては、政府の対策がなまぬるいというので、せんだって戦時災害援護法を提案いたしましてその実現に努力をしておるところでございます。しかし、この問題の前提となりますものは、一般戦災者の戦災の実態、今日の実態というものを明らかにすることが非常に必要ではないかと考えます。そこで、私は昨年の国会におきましても、早急にこの実態調査をするように政府に要求したところなんでございますが、厚生大臣はそのとき、全国身障者実態調査の中で調査をして、集計、点検中であるとお答えになったわけでございますが、その後の調査状況というのを承りますと、必ずしもはかばかしい状況ではないようでございます。聞くところによれば、大都会ほどこの調査に非協力であったという話を承っておるわけでございます。しかし、先ほども言いましたように、三十三年も戦後たったんですから、早急に一般戦災者の実態調査をすべきであると私は思うわけでございます。ところが、先だって片山委員の質問に対しまして、厚生大臣はまことにつれない返事をされておるわけでございます。そこで、私は重ねて、大臣に質問すればいいんですけれども、おられませんから、これは援護局長の方で大臣にかわるつもりで責任を持って答弁をしてもらいたいと思うんですが、確かに困難な事情はわかるんでございますけれども、調査に向けてぜひ努力をしてもらいたい、そういう誠意ある答弁を要求したいと思いますが、いかがですか。

○政府委員(出原孝夫君) 昭和五十年度に身体障害者実態調査の一環といたしまして、戦災者の方々の実情も身体障害者と比較することによって、明確なデータを得たいということで計画をしたんでございますが、御指摘のように、大都市の地域において御協力が得られませんでして、六〇%程度の実施にとどまったために、結果をそのまま使えないという状況になったことは、私どもにとっても非常に残念なことでございます。で、先日の御論議のときに片山先生からのお話がございましたので、そういう意味におきましてできなかったものをすぐにするということと、それからもう一つは私どものあるいは了解、御意見の聞き違いであったのかもしれませんけれども、悉皆調査――すべての人にわたっての調査を厚生省の方でやらないかというようなお話のようにも私ども受け取っておりましたので、そういう意味の調査はこれは技術的にほとんど不可能に近いものでございますので、そういう意味のお話を申し上げて、御了解をお願いするように申し上げたんでございますけれども、ただ過去の、五十年の調査で失敗をしたということは、いかにも私どもにとっても残念なことでございます。そういうような状況ができるだけ早く解消されることを願っておりますし、またこういう比較、検討する方の上において、なおいい方法があれば、これは非常にむずかしいことだと思いますけれども、そういった意味での検討を私どもも断念してしまったというわけではございません。次のできるだけいい機会を見つけて情勢の好転を待ちたいというように考えます。

○浜本万三君 まあ非常に、回りくどい話なんですが、調査するように、調査に向けて努力するということを、短い言葉でお答えできませんか。

○政府委員(出原孝夫君) 回りくどく申し上げましたが、結論はそういうことでございます。

○浜本万三君 続きまして、これも五十一年十月二十三日の委員会のときに私の方から検討をお願いした問題なんですが、広島県立病院のことなんですが、県立病院に勤務されておりました医療従事者の方が原爆で亡くなった。その問題についてぜひ救済してほしいという要望が遺族の方々から出ておったところでございます。十月二十六日ですか――日にち間違えましたが、そのときに出原局長の答弁では、県立病院の看護婦の公務死認定については旧防空法第六条の規定に基づく知事命令が出ていることが確認できれば、認定の方向で検討したいと、こういう旨の御答弁をいただいたわけです。すでに相当期間もたちましたし、申請も出ておることでもあるし、御検討をいただいたことでもあろうと思います。現在、検討いただいた結果はどのようになっておるか、お尋ねをしたいと思います。

○政府委員(出原孝夫君) 広島県当局と連絡をいたしまして、調査を実施をいたしておるわけでございますが、まだ完全な最終の結論にまでは到達いたしておりませんけれども、現在までの調査の状況から見まして、医師、薬剤師、看護婦等については旧防空法に基づく特殊技能者として処遇できるものであると考えられる条件にあるようでございます。なお、看護婦の見習い生につきましては、当時防空業務とは無関係の期末試験の受験中であるといったような資料もございますので、認定困難でございますけれども、なおその他の資料等を含めて検討をいたしておる段階でございます。まだ最終結論が出ておらないので、まことに恐縮でございますが、以上のような見通しと経過でございます。

○浜本万三君 ちょっと数字だけで私が把握しておる数字を申し上げまして、確認をいただきたいと思うのですが、現在請求が出ておるものは医師一名、看護婦十一名、看護婦講習生四名、薬剤師ゼロで、合計十六名。それから請求は出ていないけれども、死亡者が医師五名、看護婦二十五名、看護婦講習生二十七名、薬剤師一名、合計五十八名ということになっておりませんか。

○政府委員(出原孝夫君) 数字は御指摘のものと私どもが承知しております数字と一致いたしております。

○浜本万三君 そういたしますと、医師一と看護婦十一名、これは救済をされると。で、残っておる看護婦講習生については、そうすると親切な取り扱いはしたいと、こういうふうに理解してよろしゅうございますか。

○政府委員(出原孝夫君) こういうものは、やはり事実の認定あるいはそれに必要な直接、間接の証拠を必要といたしますので、そういう意味におきまして証拠のないものをというわけには私どもまいらないと思います。したがいまして、できるだけ御本人の場合にどうであったかということを明確にするように、ただ私ども先ほど申し上げましたような資料だけでこれはむずかしいというように断定するのも問題だと思いますので、もっといろいろ資料を探して差し上げたいということでございます。

○浜本万三君 死亡者の方々も、さっきの五十八名の、恐らく請求なさっておいでになると思うのでございますが、これに対しましてもすでに審査をなさっておられる、これまでの請求者と同じように親切な扱いを受けるものだと理解してよろしゅうございますか。

○政府委員(出原孝夫君) まだ申請が出ておりませんけれども、申請が出てまいりましたら私どもは同様に十分な応待をさせていただきたいというように考えております。

○浜本万三君 もう一つ残ってましたのが、広島電鉄家政女学校の死没者の方に対する取り扱いでございます。これはいままで何件申請をされまして、その申請について検討された結果、どういう結論が出つつあるんでしょうか、あるいは出とるんでしょうか。

○政府委員(出原孝夫君) 会社が把握しておりますと承知しております亡くなりました生徒の数は三十一名でございます。そのうち十五名の方々につきましてはすでに可決の裁定を済ませております。それから、五十一年五月に受け付けたもの六名ございますが、これがまだ終わっておりません。それから残り十名につきましては広島県におきまして、遺族に関する調査をしておられるところだというように承知をいたしております。

○浜本万三君 五月九日に申請されたものは従業員が四十件にはなっておりませんか。

○政府委員(出原孝夫君) 失礼しました。五十一年と申しましたのは、これは五十二年――ことしの五月でございますので。

○浜本万三君 それは十件というのは四十件になってませんか。十件というのは四十件じゃございませんか。生徒六件、従業員四十件ぐらいになってませんか。

○政府委員(出原孝夫君) 従業員のことは私ども承知をいたしておりません。

○浜本万三君 作業が進みつつあることを、私大変感謝をしたいと思うんですが、なお残っておる方々につきましては早急に検討をしていただきますようにお願いを申し上げたいと思うわけです。
 それから、さっき従業員の方は関係ないんですか、援護局と。

○政府委員(出原孝夫君) これは具体的に出てまいりましたら、私どもの方で検討してみなければならないというように考えておりますが、まだ具体的な内容についての相談を受けておりませんので、実情のいろいろお話を承っておるということはあるようでございますけれども、まだ具体的な話として検討する段階にまできておらないと思います。

○浜本万三君 具体的な話として検討してないというのはどういう意味なんですか。これは軍事従属会社としての従業員なんですから。

○政府委員(出原孝夫君) 申請をまだいただいておりませんのであれですが、具体的に徴用工であるということが明らかになりましたら、当然こちらの方での取り扱いの対象になり得るものであろうというように考えられます。具体的にまだ承知をいたしておりません。

○浜本万三君 当該会社が軍事従属会社であったことはもう明確なんでございまして、したがって、広島電鉄株式会社の方から従業員であったという証明と、それから原爆で死亡したという事実がはっきりされれば救済をされるというふうに理解してよろしゅうございますか。

○政府委員(出原孝夫君) 当該の方々がもしそうでございましたら、おっしゃるような性質のものでございます。

○浜本万三君 それから、今度は別な問題でお尋ねしたいと思います。
 昭和五十二年度の予算で、厚生省は予算要求をされましたが実現しなかった問題なんですが、七十歳以上の改氏婚の父母などに対する遺族年金などの支給及び旧陸、海軍部内の文官等に対する特別弔慰金の支給のことなんでございますが、これは実現しなかった最大の理由というのはどこにあるんでしょうか。

○政府委員(出原孝夫君) 七十歳以上の、要するによそにお嫁に行ってしまわれたお父さん、お母さん、まあお母さんが中心でございますが、につきましては、私どもが予算要求をいたしましたのは、戦後三十年を経まして、これらの方々の高齢化が著しいことにかんがみまして、もうよそに嫁に行かれたからといって、子供の年金については支給しないというようなことにしないで、差し上げたらいかがかということで予算要求をしたわけでございますが、よそに嫁に行かれた場合には、後で結婚された相手方が亡くなった場合に、妻としての遺族年金というようなものも受けられることになるわけでございます。したがいまして、いわば後婚者の年金等を考えまして、遺族補償全体の調整も必要ではなかろうかというようなこともございまして、五十二年度の予算では認められなかったという事情があるわけでございます。

○浜本万三君 これは大臣に今後の決意を伺いたいんですが、当然大臣も痛切にお感じになりまして予算要求なさったと思うんですが、このたびは実現しなかったと。次はぜひ実現させていただくように一層努力をいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 一度要求したことがございますから、またやりたいとは思っておりますが、厚生省の予算全体の問題の中で検討をしたいと思います。

○浜本万三君 次は、後順位者の遺族年金額の引き上げについてお尋ねするわけなんですが、この問題につきましては前回の委員会のときにも局長から、今後十分努力を続けていきたいと、前向きの答弁をいただいたわけなんですが、ところが今回も依然として答弁の趣旨が結果としてあらわれていないわけでございます。つまり、年額二万六千四百円ですか、月額にいたしまして二千二百円ということになりますと、わずか二百円ですかの引き上げになっておるわけでございます。それじゃどうも努力したという結果にならぬのじゃないかと思うんですが、いかがでしょうか。

○政府委員(出原孝夫君) 引き上げそのものはわずかではございますが、まあ結果的に引き上げをすることになったわけでございます。ただ、これを大きく上げるということにつきましては、恩給法による扶養遺族の加給額に対応する数字にこれはなっておりますので、年金額については総体として見る必要があるということから、後順位者についてのこれだけをというのはなかなか困難な事情がございます。今後の額改善につきましても、全体として引き上げていく中で、恩給等の他の制度における扶養遺族加給の改善に応じて、私どもの方もできるだけ改善できるような努力はしてまいりたいと思いますが、援護法単独でということはなかなか困難でございます。

○浜本万三君 いま恩給法の関連で非常に困難だというお話なんですが、しかし考えますと、昭和二十八年に恩給法が復活したことに伴いまして、後順位者であった遺族が公務扶助料に移行したとき、引き続き遺族年金を受ける内縁の妻に対する遺族年金の額は、昭和二十八年法第百八十一号、附則十八項によりまして、先順位者の額より低い、後順位者の額より手厚い額、すなわち一万二千円とされております。今回の改正でその額が八万四千円、月額にいたしまして七千円に引き上げられておるわけでございます。もちろん、その額についても低額ではないかと考えられますが、しかし、以上の経緯を考慮していただくならば、後順位者の遺族年金は少なくとも八万四千円程度には引き上げるべきではないかと考えられるわけでございます。後順位者の遺族年金の受給者というのは祖父母が非常に多いこと、恩給法と違いまして別の生計であっても支給するのでありますから、年金の名に値するだけに引き上げるべきではないかということを考えておるんですが、この点についてはいかがでしょうか。

○政府委員(出原孝夫君) こういう年金につきましては、基本的には一人の亡くなった方々に対しましては、一人が中心になるものでございますので、その次につける方々というものにつきましては、なかなか御事情はいろいろございますけれども、年金の額を大きくするということはむずかしい状況にあると考えます。御指摘のようなこともございますが、他制度との折り合いを見ながら決めるべき性格のものでございますので、私どもも今後とも増額には努力はしてまいりたいと思いますけれども、全体のバランスを考える必要があるということにつきまして十分御了承を願いたいと思います。

○浜本万三君 やっぱり年金という名がつくんですから、年金という名に値するような金額に引去上げていただくように、特にこれは要望いたしたいと思います。
 それから、特例遺族年金、特例障害年金、特例遺族給与金の額を引き上げてほしいという希望でございますが、これは内地等における勤務関連の傷病及びその傷病で亡くなられた遺族に支給されている特例遺族年金、特例障害年金などは、昭和四十六年に措置されて以来、その額は公務傷病にかかわる遺族年金の七割五分相当になっております。で、今改正案でも改善をされておりませんのですが、これをもう少し引き上げる必要はないかと思うんですが、いかがでしょうか。

○政府委員(出原孝夫君) これは恩給法におきます勤務関連年金である特例傷病恩給、特例扶助料等の場合と同様に、私どもの方の援護法におきましても勤務関連の年金におきましては七五%にしておるわけでございます。このようにしておりますのは、戦争の状況における勤務の特殊性に着目をして差等がついておるということで、かつ恩給法と直接かかわりを持っておるものでございますので、恩給法と並んで七五%ということは、この年金の性格上私どももやむを得ないではなかろうかというように考えております。

○浜本万三君 いずれにいたしましても、もう少しふやせるように努力をしていただきたいと思うわけです。
 それから、時間がないのであと一つお尋ねするんですが、遺族年金、遺族給与金の支払い回数をふやしていただきたいということでございます。これは昨日の委員会でも大分問題になったんでありますが、いろいろこう比較をしてみますと、原爆被爆者特別措置法の各種手当とかあるいは未帰還者留守家族の手当はこれは毎月払いになっております。それから、恩給法及び同じ戦傷病者戦没者遺族等援護法の障害年金は年四回払いになっておる、遺族年金、遺族給与金の支払い期日は年二回と非常に少ないわけであります。先日の委員会では金額が少ないものは回数がふやせないという御答弁があったようですが、これは年額七十二万円程度になるんじゃないかと思うんです。そうすると、きのうの答弁に比較すると金額は非常に多いわけなんでございます。七十二万円のお金をいただくということになりますと、年二回では少ないんじゃないか。きのうの答弁に比較をいたしまして、逆な立場から回数をふやしたらどうかというお尋ねをいたしたいと思います。

○政府委員(出原孝夫君) この点につきましては、御指摘のような問題を私どもも感じております。で、支払い期月をふやすことにつきましては、これは郵便局の窓口における支払い事務体制の問題もございますので、関係の省庁と検討もいたしてきておりますが、さらに検討をいたしまして、できるだけ早くに結論を得るように努力をいたしたいと、そのように考えております。

○浜本万三君 大臣、おられないので、大臣にかわって援護局長に大分答えていただいたんですが、一つだけ大臣にお尋ねしておきたいのですが、例の先ほどお尋ねいたしました朝鮮人の方々の戦時中徴用工として日本においでになった方のうちで、広島三菱造船所に勤めておられました方の二百四十一名のまだ朝鮮に帰っておられない方々があるわけです。その方の遺族が最近日本においでになりまして、厚生省や外務省、さらに働いておりました三菱造船所等にいろいろ話し合いをするために行動されておるんですけれども、いまだにらちがあかない。したがって、最後に私お願い申し上げましたのは、厚生省と外務省の方で十分連携をとっていただきまして、三菱造船所とも話し合いができるようにあっせんをしていただきたいということをお願いを申し上げたんです。国務大臣として、その問題についてのお考えを聞かしていただいて、ぜひひとつ誠意あるお気持ちを示してやっていただきたいと思います。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 先ほど局長から答弁があったと思いますが、法律上は行政上の責任はないというふうに考えられるんです。しかし、人道上の問題もございますし、韓国との友好善隣というような問題をからめまして、御趣旨が生かせるように十分外務省と連絡をとらせたい、かように考えております。

○浜本万三君 それじゃ、終わります。

 第091回国会 衆議院社会労働委員会 第4号 昭和五十五年三月六日(木曜日)午前十時四分開議

【発言順】
 委員      森井 忠良
 厚生省援護局長 松田 正
 厚生大臣    野呂 恭一
 委員      伏屋 修治

○森井委員 それでは、御決意のほどがわかってまいりましたので、本来でございますと新たな観点から開拓団について御指摘を申し上げたいと思っておりましたが、来年、私どもよりはるかに詳しい資料をお出しになることを楽しみにいたしまして、この問題に対する質問は終わりたいと思います。
 そこで、話題が若干変わりますが、この戦傷病者戦没者遺族等援護法などの外国人への適用の問題について御質問をしたいと思うわけでございます。
 これは在日韓国人あるいは在日朝鮮人の方からしばしば非常に強い要望が参っておりますので、御案内のとおりだと思うわけでございます。また、厚生大臣は、予算委員会等でも国民年金の加入の問題等でいろいろ指摘を受けられまして、頭を抱えていらっしゃったと聞いておるわけでございますが、実は大臣、この法律も外国人、なかんずく私が特に強調したい朝鮮人あるいは台湾人の方は当時日本人だったわけでございます。この方々が適用になっていないわけでございます。これはきわめて片手落ちだと私は思うのでありますが、恐らくこういう答弁が返ってくると思うのですね。それはすでに日韓平和条約で対日請求権はなくなっております、こうおっしゃるに違いない。しかし、戦前戦後を通じて現在もなお日本にいらっしゃるたとえば韓国人の方、朝鮮人の方を考えてみますと、韓国へ帰っていないのです。だから、請求権は済んだといっても、私どもは被爆者援護法等でよく言うのでありますが、本来原爆というのは国際法違反だからアメリカに損害賠償をすべきだ、しかし、これは平和条約で日本が対米請求権を放棄をした、しかし被爆した方々は請求権を放棄したわけじゃございませんから、放棄をした政府に国家補償を要求する、こういう論理の展開になっているわけですね。
 ところが、いま申し上げましたように、韓国人の方々、朝鮮人の方々は、これはなるほど韓国から見て対日請求権を放棄したとおっしゃっても、第一向こうに帰っていないのです。しかも、奇妙なことに戦前は日本人だったわけですね。ちゃんと日本の名前がついていました。私の友人なんかも、その当時朝鮮人の方がいらっしゃいまして、名前まで変えさせられまして日本人型の名前にされてしまいました。いま考えてみますと、日本国民の一員として非常に申しわけないことをしたと思っておるわけでありますけれども、とにかく戦争があった、原爆なら原爆が落ちた、そういうときには日本人としての軍人であり、日本人としての徴用工員であったわけです。どうしてそういった方々に援護法が適用にならないのでしょうか。

○松田(正)政府委員 戦傷病者戦没者遺族等援護法は、その法律の性格といたしまして、いろいろ議論があるところでございますけれども、現実の姿といたしましては軍人軍属、準軍属だけを対象にしておるわけでございますけれども、軍人軍属は原則は恩給法の適用があるのがたてまえでございまして、そういう意味では援護法は恩給法の補完をするという役目を担っているわけでございます。したがいまして、現在援護法が持っております日本国籍に対象を限るというのも、そういったような恩給法等の関連もこれあり、その一環としての援護法の性格を考えますときには、根っこになります恩給法の改正問題もあわせて検討いたしませんと国籍要件につきましての議論はなかなかむずかしいということでございますので、韓国籍あるいは台湾の方もございますけれども、そういった外国人の方につきましての援護法だけの適用というのは、現在のところ非常にむずかしいかと思います。
 それから、これは恐らく答弁はこうだろうとおっしゃっておりましたように、日韓関係につきましては一応請求権関係は終了をいたしておるというのが現行のたてまえでございますので、あえて申し上げればそういう問題もあるということでございます。

○森井委員 もう毎年質問をするものですから私の方が質問するのがいやになったのですが、局長がおかわりになったということでもう一度お伺いするのでありますが、軍需充足会社というのがありまして、徴用工でその当時の日本人は全部必要に応じて集められておりました。その中には現在の朝鮮人の方もいらっしゃったわけですね。これは日韓併合というふうな侵略的な行為によって日本人にさせられてしまったわけですからね。そして、軍需充足会社で亡くなった。
 皮肉なあるいはまた意地の悪い質問ですけれども、その当時日本人だったということはお認めになるわけでしょう。

○松田(正)政府委員 それはまさにそのとおりでございます。

○森井委員 ですから局長、恩給との絡み、いろいろわかりますよ。それは役所の人は必ずそう言うのです。私ども口が悪いものですから、そういうのを官僚的な発想だ、こう呼んでおるのですけれども、しかし、現に私どものように戦争を体験した者から見ますと、当時日本人として同じように軍の命令に従った。国籍は明らかに日本人だった。だから、援護法の二十四条でいけば死亡当時の国籍ですから、これは争いのないところ、日本人だから適用になるのです。ところが、今度は三十一条でしたか、受給者の国籍要件がこれまた日本人でなければならない、こうなっておるわけです。そこに問題があるわけですね。そういうことで除外していくというのは、もう私ども胸がちくちく痛みますよ。いま韓国にいらっしゃる、あるいは朝鮮民主主義人民共和国にいらっしゃるそういった戦争犠牲者の皆さんにまで適用しろということになりますと、いまの法律ではかなり無理が出てまいります。しかし、現に日本に居住しておられる、戦前もそうだった、徴用工員なら徴用工員になったときも同じだった、ずっと引き続いて日本にいらっしゃる方は、私はあなたがどんなに御説明をなさいましても、たとえば年金とか恩給とかいうものと一緒にはできないと思いますよ、これは国家補償なんだから。年金は野呂大臣が非常にお詳しいわけでありますが、年金は国家補償だ、こうおっしゃいましたから、日本語に直せば一緒ですけれども、中身は違うと私は思う。つまり、戦争によって日本が迷惑をかけた、そういう形で特別の観点から理解をしていかなければならぬと思うわけです。ですから、これは引き合いに出すのは私も気がひけるわけでございますが、おととしの本委員会におきまして、たまたま大臣が予算委員会でお留守のときに、その当時の戸井田政務次官がいらっしゃいましたから、これと同じ議論をいたしましたら、戸井田さんが、恐らくほろっとされたんだろうと思うのですけれども、それは確かにそうだ、こうお答えになっています。その一部で恐縮でありますが、「私は、そういった特殊な状況の中における特殊な判断というものがあっていいものと思います。そういう意味から考えて、前向きでひとつ検討をしてみたいと思います。」こういう答弁があるのです。大臣がたまたま予算委員会に出ておられまして、大臣の代行をなさった副大臣とも言うべき政務次官でありますけれども、私は政治家戸井田さんの人柄がそこでわかると思うのです。
 野呂厚生大臣だって私は全く同じだと思うのでありますが、いかがでしょうか。

○野呂国務大臣 先ほどの警防団とか開拓団とか、ちょっと舞台が広いものでございますからいま明確にお答えができないのは大変恐縮でございますが、確かに援護法と恩給法との関連、これも日本人であるという国籍が少なくとも要件であることは御承知のとおりでございます。しかも、この問題は外交ベースで処理さるべき一つの問題もある。だから、総理府とそれから私の方の厚生省と、さらに外務省、この三体が一体となって、つまり政府としてこの問題をどうするか、どの範囲まで検討されるのか。全部というわけにはまいりますまい。それだけに、たとえば受けている人が現在日本国籍を持っているとか、あるいは何年以上勤務しておったとか、いろいろ具体的な問題も考えて、しかもそれは国際的に当然認められるべきものかどうか。しかし、それならば在日朝鮮人の方々、韓国人の方々もいろいろ検討するとして、では台湾の国籍を持っていた人、これは一体どうするのだという問題にまで影響してまいるわけでございますから、単に国内だけの問題でないだけにこれは厄介な問題だと私は率直に考えるわけでございます。しかし、いまの御指摘のように、前向きにこれは政府の問題として一応検討しなければならないのではないか、こういうふうに考えますので、関係省庁と少し知恵をしぼって、従来に変わらざる答弁でなくてもっと具体的に、こういう点に問題がある、せめて問題点だけでもはっきりさせて、それが間違っているかどうか、あるいは御指摘が得られるならばそれは別として、そこまでひとつ詰めていきたい、かように考える次第でございます。

○森井委員 終わります。
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○伏屋委員 私は、今会期から社会労働委員のメンバーになりましたので、非常に認識のずれがあるかと思いますし、また先輩委員の皆様方が過去の審議の中でいろいろと発言なさったことと重複する面もあるかと思いますけれども、その面はあしからずお許しをいただきたいと思います。
 私は、まず最初に、先ほど森井委員の方から質問がございました、韓国人であるがゆえにいわゆるいま審議中の援護法の適用を受けられない、この問題について二、三質問をいたしたいと思います。
 仙台在住の三十九歳になる在日韓国人の記事がございます。その中に「日本の侵略戦争に強制的に協力させられて死んだ父を、こともあろうにその侵略戦争の象徴である靖国神社に合祀するなどもってのほかだ」という発言が記事になっております。「日本人として死んだから靖国にまつるというが、遺族補償は日本人でないからと一銭も出さない」こういうような記事がございますが、現在そういうような靖国神社の合祀の事実というものについてまず確認をいたしたいと思いますが、その点お答えを願いたいと思います。

○松田(正)政府委員 聞くところによりますと、実態としてそういう措置がとられている向きもあるということでございますが、この靖国神社合祀の問題については厚生省は全然関知をいたしておりません。

○伏屋委員 では、この問題についての基本的な問題にかかわりますので、厚生省が携わっておらないとすれば早急にそれを確認していただきたいと思いますが、その点どうですか。

○松田(正)政府委員 調査をいたすことができるかどうか、ちょっとここでは直ちにお答えいたしかねます。

○伏屋委員 では、その問題はそれくらいにしておきましょう。
 先ほど森井委員の方から、大臣の想定答弁というようなことも交えながら質問をされました。現在韓国人が韓国人であるがゆえに援護法の適用をされないということは、いわゆる私がここで想定いたしましても、大臣の答弁といたしましては日本国籍を有しないからというような答弁が返ってくるのではないかと思います。しかし、現実的には在日韓国人の皆さんはそれぞれ納税をしておられるわけでございます。税を納めておられるわけでございます。税は納めさせるけれども、そういう給付の対象というものでは完全に除外する、そういうところに非常に矛盾を感ずるわけでございますが、そのあたりのお考えはどうですか。

    〔委員長退席、住委員長代理着席〕

○松田(正)政府委員 援護法のたてまえは、国が戦争公務あるいはその公務に準ずべき業務について使用者という立場あるいは使用者に準ずべき立場として、その対象になる者について遺族年金なりあるいは障害年金という形で国家補償というかっこうで補償をするというのがたてまえでございます。したがいまして、現に国内に住んでおられる外国人の方が、所得税その他納税をさせるというたてまえとは全然異質のものだというふうに理解をいたしております。

○伏屋委員 先般、さきの予算委員会の集中審議の中でも、私どもの同僚議員の草川委員がいわゆる在日韓国人の年金問題について触れております。それに対しても、やはり日本国籍を有しないからという答弁に終始しておるように聞いております。しかし、いまの税の体系が違うというお話でございますけれども、税を納めておることにおいては事実でございます。そういう面も勘案するならば、その面をもう少し重視する中で考えていっていただきたい、こういうことを私は強く要望するわけでございます。
 もう一点、それと関連しまして、昨年の国会で批准になりました国際人権規約がございますが、それに関連しまして厚生省はこの援護法適用範囲というものをどのように考えられておるか、その辺をお伺いしたいと思います。

○松田(正)政府委員 援護法の適用につきまして国籍要件を柱としておりますのは、援護法の給付は本来軍人及び軍属あるいは準軍人を含めました軍人軍属というものに対する国家的補償の補完的地位を機能として営んでいるわけでございます。つまり、恩給法の適用にならない部分につきまして援護法が働いてくるというのが本来の制度の根本にあるわけでございまして、そういう意味で援護法だけが国籍要件云々ということにつきましては、恩給その他の関連等もございまして、なかなかむずかしい議論であろうかと思います。
 それから、国際人権規約、これは先般の国会で批准をされたわけでございますが、ちょっといま条文を持っておりませんけれども、たしか国家補償的な施策につきましてはこれを除くことができるような規定があったはずでございます。また、社会保障的な施策につきましても漸進的にこれを実施するというような規定もたしかあったわけでございまして、援護法の規定につきましては前者の国家補償ということで、これを各外国人に及ぼさないことをもって直ちに国際人権規約に違反するものではないというふうに了解をいたしております。

○伏屋委員 国家補償であるから国際人権規約に該当しないということでございますが、あくまでもこの国際人権規約というのは個人の尊厳性を重んじたのが主流でございます。そしてまた、その個人の尊厳からしましても国が個人的な差別を行ってはならない。これが主流であると私は考えております。そういうことから、一片の国家賠償法であるがゆえにこの世界人権規約には違反しない、その答弁では私はちょっと不満でありますので、再度答弁をいただきたいと思います。

○松田(正)政府委員 いま申し上げましたのは、形式的な、人権規約との関係でその法律関係はどうなるかということを申し上げたわけでございまして、世界のそれぞれの個々の人間が人間として尊重されるということについては、私も当然異存があるわけではございません。

○伏屋委員 この考えについて大臣のお考えもお聞きしたいと思います。

○野呂国務大臣 問題が二つになっておりまして、先ほど局長も答弁申し上げましたとおり、国際人権規約を批准した今日、国民年金について日本との関連をどう解決していくかという問題、もう一つは援護法を日本の軍人であったり軍属であった韓国人に対して適用すべきではないかというものと、問題を一緒には論議できないと思います。
 まず、国民年金の問題につきましては、いままでお答え申し上げておりますように、二十五年という長い間掛金を掛けていただいて、その結果支給の対象となるという性格を持っておる。したがいまして、途中で国に帰られたといった場合にその権利保全をどうするかという技術上の問題が出てくるではないか。したがって、いま日米間で協議をいたしておりますように、この種の問題については二国間協定方式で話を進めていかなければならない。しかし、韓国には国民年金もしくはこれに似通った制度というものがいまのところありません。したがって、日米間におきます二国間協定方式をもってしては解決の方向がいま見出されない。したがって、どういうふうにこれを持っていくかについては十分検討いたしますが、ただし、二国間協定方式で両国間で詰めていくということしかないではないか。いままでの韓国側との話し合いの過程では、この問題についてはこちらとして何も積極的な姿勢を示していない、日本側として回答いたしていないという経緯もございます。しかし問題は、日本と韓国とのいままでの深い関係というものを判断いたしますならば、これについても積極的に検討さしていただきたいということをお答え申し上げてきたわけでございます。
 さて、本論でございます、かつて日本軍人あるいは軍属であった韓国人あるいは朝鮮人に援護法を適用するかどうかという問題につきましては、恩給、援護法ともに日本人という国籍を必要とするということが大きな要素であることは御承知のとおりであります。この問題でございますから、仮に援護法は日本国籍を持たなくてもいいという判断はもちろんできない。ことに、恩給の補完的な性格である援護法といたしましては、恩給と絡んでこの問題を考えなければならぬということが第一点であります。
 第二点は、昭和四十年の日韓請求権協定の発効に伴ってこの問題はすでに解決したのだという一つの外交レベルの判断というものもあるわけでございますから、先ほども森井先生のときにお答え申し上げましたとおり、これは総理府、厚生省さらに外務省、こういう三者が一体になって政府としてこの問題をどう考えていったらいいのかということについて検討をさしていただきたいということを申し上げたわけでございます。どうぞそういうことで、この問題をどう処理すべきかということについて政府一体となって検討する機会を積極的につくってまいりたい、かように考えておりますので、御理解を願いたいと思います。

○伏屋委員 先ほど援護局長は、私も国が人を差別することがあってはならない、こういうふうに言われましたけれども、行政はそれを具体的にどのように現実化していくかということでございますので、その辺を世界人権規約にのっとって――先ほど大臣の答弁では、二国間のいわゆる賠償請求権の放棄とかいうようなことからもそういうことはあり得ないというようなことも話がありましたけれども、ただそういうふうに木で鼻をくくるような答弁ではなくて、いま大臣の答弁の中にはやや前向きな御答弁もございましたので評価をいたすのにやぶさかではございませんけれども、国が個人を差別しないということをいかに行政で具体化していくか、これにもっと積極的に取り組んでいかなければならない、このように私は強く要望する次第でございます。
 それから、年金の問題等も大臣は答えられましたけれども、外交ルートを通じながらそういう交渉を進め、二国間の中で、現に日本の国の中に韓国人が在住いたしておるわけでございますし、また日本妻といたしまして韓国にも日本人が在住いたしておるわけでございますので、そういう面からも二国間のさらなる密度のある交渉の中で、そういうものが韓国でも実現し、日本でもそういうような援護の手が差し伸べられるというような具体的方途を積極的に考えていただきたい、このように考える次第でございます。
 それから、二国間での賠償請求権の放棄ということでございましたけれども、冒頭に私が読ませていただいた方は三十九歳の仙台在住の在日韓国人でございます。この方の靖国神社の問題についての記事は冒頭に申し上げましたけれども、この方のお父さんがいわゆる海軍軍属としてボルネオで戦病死しておるということでございます。そういう方々は在日韓国人の中にたくさん見えると思うわけですね。だから、そういう方々に対して、いわゆる援護法は恩給法の補完だからというので、国籍を有しない者は対象外だというふうにしておられるわけでございますけれども、現在いろいろな面で日本に帰化をする韓国人もふえております。そういう帰化をされた方の両親に当たる方々がそのような戦傷あるいは戦病死をなさったという場合にはどういうふうな措置をとられるわけですか、お尋ねしたいと思います。

○松田(正)政府委員 国籍要件には二つございまして、亡くなられた方が日本国民であるということと、年金を受け取られる方がその方との生計維持関係とか、話はございますけれども、その方もその当時日本の国籍、現に日本の国籍を持っておる、こういうことでございますので、先生おっしゃる御趣旨は十分理解ができるわけでございますけれども、現行法上のもとではなかなか解決の困難な問題であろうかというふうに考えております。

○伏屋委員 いまの答弁は、いわゆる援護法の適用のときに受給者も国籍を有してないから困難であるという答弁と受け取りましたけれども、今後においてもそれは変わりないわけですか。

○松田(正)政府委員 直ちに結論を申し上げにくいわけでございますが、この方針は堅持をせざるを得ないものというふうに考えております。

○伏屋委員 重複して申しわけございませんが、現に生存しておる、いま私が読み上げました記事の三十九歳の方々、こういう方々はたくさんおると思うのですね。世界人権規約の中でも、国が個人を差別してはならない。そして、その人が帰化して日本の国籍を有したというふうになってきて、それが援護法の対象にならないということになると、明らかに差別をつけておるというふうに私は思うわけであります。その辺のところは弾力的にそういうような援護法の適用というものを考える意思があるかないか、その辺を再度お尋ねしたいと思います。

○松田(正)政府委員 二国間の問題、いま大臣からお話がございましたように、たとえば国民年金の問題等二国間協定というような方式も一応考えられるわけでございますが、援護法のたてまえ上、二国間で話をし合って適用するとかどうとかという余地はございませんし、大臣から申し上げましたように、そういったような韓国民と日本との間の請求権関係というのは、一応日韓の請求権協定で外交上のけりはつけておるわけでございます。そういうようなむずかしい問題もはらんでおりますので、いまにわかにどうこうするということは非常にむずかしい問題ではなかろうかと考えております。

○伏屋委員 韓国に帰られた方のことを聞いておるのではなくて、いわゆる在日韓国人の方で、帰化して日本国籍を有するというふうになった場合も、あくまでも先ほどの答弁のように、援護法の適用対象外ということになれば、世界人権規約から言っても明らかにこれは国が差別をしておる、このように考えられるわけですけれども、あくまでもやはり援護法の制定当時の考えのままいくのかどうか、もう一度お尋ねしたいと思います。

○松田(正)政府委員 遺家族援護法の適用に当たりまして、戦死をされた方あるいは公務で亡くなられた方、こういった方々の遺族年金、あるいはそういったことで負傷された方の障害年金その他給付があるわけでございますが、特に遺族年金について申し上げますと、これは戦死をされた方の死亡の当時を、その事実をもってまず判断をする、そして年金権が発生をしたときの事実をもって判断をするというのが基本的なたてまえでございます。したがいまして、後ほど日本国籍を取られたということでありましても、現行法の趣旨から申し上げますと、先生がおっしゃったようなことにはいたしかねるということでございます。

○伏屋委員 まことに不満でございますけれども、時間の関係もございますので、次の問題に移ってまいりたいと思います。

 第096回国会 社会労働委員会 第4号 昭和五十七年四月一日(木曜日)午後一時四分開議

【発言順】
 委員長          唐沢俊二郎
 委員           森井 忠良
 厚生省援護局長      北村 和男
 厚生大臣        森下 元晴
 外務省アジア局
 北東アジア課長     小倉 和夫
 法務省民事局第四課長    筧 康生
 労働省職業安定局庶務課長 高橋柵太郎

○唐沢委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案を議題とし、質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。森井忠良君。

○森井委員 今度の法案はいい点も非常に多いのですね。物価の値上がりが四・五%でございますから、五%以下でも法案の提出をなさったわけでございますから評価ができるわけでございます。ただ、玉にきずと申しますか、一つだけ悪い点があるのですね。それは例のスライド時期の一カ月おくれの問題です。これさえなかったら私どもはもろ手を挙げて賛成するところなんですが、残念でございます。なぜ一カ月おくらすのですか。

○北村政府委員 年金額の引き上げ実施時期につきましては、国の厳しい財政事情でありますとか、それから臨時行政調査会の第一次答申におきまして恩給の増額などを極力抑制することとされたこと、それから恩給など他の公的年金の引き上げ実施時期との関係、諸般の事情を考慮してそのような措置をとったものでございます。

○森井委員 いまぶすぶすっと返答がありましたけれども、それは理由にならないと思うのですね。よその恩給、年金等が一カ月おくれましたから私のところもおくれました、これではもう全く自主性がないじゃないですか。
 それではちょっとお伺いしますが、他の公的年金等が一カ月スライド時期がおくれるのはどういうわけですか。

○北村政府委員 ただいま申し上げました同様の事情によるもの、そのように考えております。

○森井委員 同様の理由というのが聞きたいわけです。なぜ一カ月おくらしたのか。理屈にならぬかもしらぬがあるんじゃないですか。公務員の賃金との関係とか、あるいはボーナスの関係とか私どももちらりほらり聞いていますが、少なくともこの法律は国家補償法ですね。ほとんどの年金というのは御案内のとおり社会保障ですね。社会保障についてあなたが説明をされるようにいろいろな事情でおくらさざるを得ないということがあるとすれば、百歩譲ってそれはまたお聞きすることがあると思うのですが、国家補償というのはあくまでも国民に国家の行為によって迷惑をかけた、これが基本だと思うのです。そうしますと、その迷惑をかけた本人が都合が悪いから金を払えない、こういうのと同じ理屈になるのです。これはずいぶん手前勝手な話で、社会保障というのはある意味で相関関係はあると思うのですが、国家補償というのは先ほど言いましたようにあくまでも字のとおり国家が補償するわけです。その点からいけば、私は社会保障と国家補償はみそもくそも一緒にした理屈だと思うのです。もう一遍考え直す意思はありませんか。

○北村政府委員 お説はまことにごもっともでございますが、何分先ほど申し上げたような事情と、それから援護法は旧軍人軍属に対します処遇のうち主として軍属に関する部分を受け持っているわけでございますが、軍人の恩給法も同様の措置をとったことに伴っての措置でございます。

○森井委員 これは率直なところあなたを責めても答弁非常につらいだろうと思うのです。大臣もつらそうな顔をして聞いていらっしゃいますからこれ以上申し上げませんが、明確に申し上げておきますが、きわめて不満でございます。先ほども金がないとおっしゃいましたけれども、先般の一般質問に関連をするわけでございますが、この際明確にしておいていただきたいと思うのですが、こういった国家補償法、それから厚生年金、国民年金あるいは原爆の諸手当等々一連のものが一カ月スライド時期がおくらされるわけでございますが、厚生省関係のそういった一カ月スライド時期をおくらすことによって削減される予算というのは幾らになるのか、お答えできる人から答えてください。

○北村政府委員 援護法関係分につきましては、一カ月六億でございます。厚生省全体のことにつきましては、ただいま調べてお答えを申し上げます。

○森井委員 では後で言ってください。私は大体百億だと聞いております。厚生省の九兆円になんなんとする予算の中でたった百億の金が出せませんか。
 せんだって一般質問のときに、私は第二薬局の問題を取り上げました。不正請求とは言いませんが、少なくとも脱法的な第二薬局によりまして、レセプトの枚数にしてざっと二千万枚くらいは第二薬局からの請求と言われております。処方せん料だけでも一枚五百五十円、五十五点ですから、二千万枚と言えば幾らになりますか。それだけでもう百億を超すのですよ。私どもがしばしば、第二薬局は社会的な公正からしてもおかしい、是正をしなさい、規制をしなさいと言っても、いまもって規制をしていない。第二薬局は去年から見ればふえているじゃないですか。去年の報告によると千七、いま第二薬局は千百をはるかに超しているでしょう。しかも、これは全部精密に調べたものじゃない。精密に調べれば恐らく千二百にも千三百にもなっておるかもしれない、調査をしてないのですから。
 しかし、かねがね指摘しておりましたように、いま申し上げましたように、第二薬局から請求される処方せん料だけ見ましても、百億を超すむだがある。これを直さないでおって金がないというのはどういうことですか。これ以上追及はしませんけれども、十分考えていただきたい、私は強く反省を促しておきます。あなたの所管じゃありませんからこれ以上申し上げません。ただ、金がないからといって、そういった戦争の犠牲者でありますとかお年寄りや障害者を泣かすということについては、私は激しい義憤を感じております。
 大臣、どうでしょうか、この点一点だけ。

○森下国務大臣 厳しいゼロシーリングという中で厚生行政、特に福祉行政が後退した、そういう中で一カ月約百億が出せなかったのかというようなお説でございます。私どもは、真に必要な内容のものは後退させないように全力を挙げてきたわけでございますけれども、全般の国家財政の中でごしんぼう願いたいということがこういう数字になってあらわれてきたわけでございます。
 ただ、先ほどもおっしゃいましたように、特例的にスライドだけはやらせていただいたということで、百点満点ではございませんけれども、厳しい財政情勢の中でこういう措置がとられたということをひとつ御賢察いただきまして、ごしんぼう願いたいというのが偽らざる気持ちでございます。

○森井委員 率直に申し上げますが、ことし、自民党多数でこの法律が仮に通るといたしますと一カ月おくれるのですが、それはことしだけの措置なのか、あるいは来年も引き続いてずっと一カ月おくれのままなのか。いつかも申し上げましたように、少なくともスライド時期の繰り上げについては年々苦労しながらようやく今日までのスライド時期に来たわけですね。それが一カ月おくれるということで音を立てて瓦解するような福祉の後退を私は感じるわけです。言われておりますようにことしはやむを得ないにしても、では来年以降どうなるのか、一カ月おくれのままなのか、戻してくれるのか、あるいは来年はもっとおくれるのか。
 来年のことを聞いたら鬼が笑うという話がありますが、そんなことじゃ許せませんよ。来年はもとに戻すと約束しなさい。局長どうですか。

○北村政府委員 大変厳しい事情は明年も変わらないということは想像できますけれども、私どもは、明年度の財政状況、諸般の情勢を勘案しながら予算要求の際までに態度を決めたい、そのように考えております。

○森井委員 態度を決めたいということなんですが、それじゃもう一つ、これは事務当局である援護局長に虚心坦懐に聞くわけですけれども、ことしの一カ月おくれるという措置は普通の状態ですか、そうじゃなくて、きわめて残念で申しわけないという気持ちなのか、あなたの心境をお伺いしたい。
 それから厚生大臣、恐縮でございますが、もう一度、いまのスライド時期の将来の問題について、事務当局の答弁の後お答えをいただいたら結構だと思います。

○森下国務大臣 ことしのように一カ月おくらすということはまだ決めておりません。やはり五十八年度の予算要求を取りまとめる段階で方針を決めたいということでございます。
 なお、昨年のあの厳しいゼロシーリングを出されたときは、実は五、六カ月もおくれた案であったのが、一カ月おくれにとどまったわけで、これは決して自慢にはなりませんけれども、五十八年度の予算がどういう厳しい情勢になるか、また反対に楽になるか、これはいまのところわからない段階でございまして、できるだけもとに戻すような努力はいたしますが、ここで明言はできません。

○森井委員 私といたしましては、いずれにしても来年はぜひもとへ戻していただくように、これは強く要求をいたしておきます。
 次の問題ですが、私の手元に一つの戦死公報が届いております。これは昭和二十二年八月十二日、広島県安佐郡亀山村長が出した戦死公報でございまして、あて名は張龍文殿、「戦歿者の件通報」、これが首題であります。「貴殿兄用碩殿昭和二十年六月三十日ルソン島方面に於て戦死せられた旨公報に接しましたので御通知申し上げると共にここに謹みて深甚の弔意を表します」、これだけの一枚の紙でございます。昭和二十二年ですから終戦後間もなくというわけでございますが、れっきとした日本の村の役場から日本人であります張さんに対しまして、お兄さんが亡くなられましたという戦死公報を届けたわけでございます。私はこれを見せられまして、これでもなお日本の政府は私たち遺族に対して何もしてくれないのですよと、涙ながらに訴えられました。
 もう申し上げるまでもありませんが、亡くなったときは戦争中です。これはルソン島で亡くなっていらっしゃいますが、日本人です。日本の軍人です。いろいろなことをやりました。日韓併合、あるいは戦争がひどくなりますと兵役法を改正して朝鮮人の方々まで戦争に巻き込んだ。もう多くは申し上げませんけれども、紛れもなく日本兵として戦死を遂げられたわけでございます。このあとまだ附属の文書もあるのでありますが、役場が主宰をいたしましてちゃんと遺族番号等つけまして合同の慰霊祭等も開いておられます。国の礎として亡くなった人たちだ、こう説明もしてございます。私は涙を禁じ得ませんでした。
 いまの戦傷病者戦没者遺族等援護法では、私どもが国会でたび重なる指摘をしておりますにもかかわりませず、国籍要件が依然として存在をしております。この法律によりますと二つ要件がありまして、亡くなったときその人が日本人であること、これは恐らく厚生省も異論のないところだろうと思うのです。ところが今度は受け取るべき人、障害者でありますとか遺族でありますとか、そういった方が受け取るときに日本人でなければ支給することができないという二通りの網がかぶさっておりまして、いま私が読み上げましたような人々は結局国家補償、援護の対象になっていない。
 局長、これはどういうわけですか。

○北村政府委員 御指摘のように、援護法には国籍要件がございます。これは先ほどもお答えを申し上げましたように、軍人軍属に対します国家補償は、軍人は主として恩給法で、それから軍属等につきましては主として援護法でこれを対象といたしております。いわば恩給法と援護法とは対をなすものでございまして、恩給法におきまして国籍要件を課しておりますので同様の取り扱いをしているわけでございます。

○森井委員 御承知のとおり、二月二十六日に台湾にいらっしゃる元日本兵の方々の国家補償を求める訴訟の判決が東京地裁でございまして、結果として請求は退けられたかっこうになっていますが、大きな注文がそこでついているわけですね。いまの日本の法律では支給することができないが、しかしこれはすぐれて政策の問題であるという指摘がなされております。
 私はいまでも十分理解ができないと思いますのは、たとえば陸海軍共済というのがございましたね。これは台湾の方も当然入っていらっしゃる。そして、この人たちは、陸海軍共済というのがなくなりましたから、したがって国家公務員共済組合連合会が継承して今日に至っていますね。いわゆる旧令共済と称されるものです。この旧令共済については、台湾にいらっしゃる方でも、あるいは韓国にいらっしゃる方でも朝鮮民主主義人民共和国にいらっしゃる方でも理論上は同じかと思いますけれども、これは支給可能なんですね。これが支給可能であってどうしてその枠にはまらなかった――――枠にはまらなかった方はいわゆる戦傷病者戦没者遺族等援護法で救済をする形になっているのですね。共済組合きちっとある人は旧令共済で救済をされているわけですから、その枠にはまらない方は戦傷病者戦没者遺族等援護法で、これは日本人とかそうでないとかという議論は別にいたしまして、法のたてまえとしては――――もう一度申し上げますと、陸海軍共済があった、それは国家公務員共済組合連合会が引き継いだ、そこで従来と同じように共済年金の支給が可能になっています。その範疇にはまらない人については戦傷病者戦没者遺族等援護法というのが昭和二十七年につくられました。できたときは軍人恩給も一緒です。しかし軍人恩給は一年たったら御承知のとおり恩給法の適用になりましてこれは逃げていきましたけれども――――まあ逃げたというと語弊がありますが、別の法律の適用になりましたけれども、いずれにしても援護法というのは、私に言わせれば、やはり陸海軍共済、それを引き継いだところの国家公務員共済組合連合会、これの補完として戦傷病者戦没者遺族等援護法が出された。

   〔委員長退席、今井委員長代理着席〕

 調べてみますと、結局どこが違うのか。旧令共済の場合は要するに内地勤務の人が中心になっている。そうでしょう。戦傷病者戦没者遺族等援護法はむしろ戦地勤務の人が対象になっている。これはお認めになりますか。

○北村政府委員 そのとおりでございます。

○森井委員 そうなりますと、内地勤務の人は救済ができる、今度の台湾の元日本兵なり軍属の方で言えば、私、調べる時間がなかったので、新聞の記事によれば、一名ですけれども旧令共済の受給者がいる。ですから、これは、一人ということは、理論上はまだおれば支給できるということだと思うのですけれども、内地勤務の人は救済をされて外地勤務の人は救済されないというのはなぜですか。同じ外国人で、これも差別になるのじゃないですか。

○北村政府委員 恩給法といい援護法といい、国と一定の使用関係にあった者に対して補償をすることになるわけでございまして、援護法におきます軍属等につきましても、いろいろな細かいケースはありましょうけれども、やはり国の一定の使用関係を前提にしておりますので、同様に国籍要件を課しているものだと考えております。

○森井委員 僕ちょっと聞き漏らしたのかもしれませんが、旧令共済は国籍要件はないのですよ。そして戦傷病者戦没者遺族等援護法、便宜上援護法と申し上げます。援護法にだけ――――それは恩給等もありますけれども、この件に関して言えば援護法は国籍要件がついている、旧令共済は国籍要件がない、こういうことと違いますか。

○北村政府委員 内地勤務、外地勤務によって当時の法制がどのように取り扱いをしたかということにつきましては、またいろいろ問題もあろうかと思いますが、結果的には旧令共済その他は掛金を掛けさしてこれに対する給付を行うということでございます。しかし恩給法、援護法は国の責任として、国家補償として行っているもので、取り扱いがおのずから変わってくるのではないかと存じます。

○森井委員 おのずと変わってくるとおっしゃいますが、戦地へ出向いた人に共済年金を掛けさせることができますか、軍人以外に軍属もたくさんおったわけですから。できないからこそやはりそういった方に均衡上戦傷病者戦没者遺族等援護法をつくらなければならなくなった、立法の過程からいけばそうだと私は思うのです。それは昔兵隊さんや軍属で労働組合でもあればわれわれも共済年金掛けさせろなんという議論があったかもしれません。それはないのだから、一枚の紙切れで戦地へ行かされたのですから、しかも戦争しておるときに年金の掛金なんて掛けられるはずがない。それでは内地と外地と均衡がとれないということで、戦傷病者戦没者遺族等援護法というのは制定をされた、こう理解するなら、法のもとに平等といういまの憲法のたてまえからしても、私は援護法に国籍要件があるというのはどうしても納得できない。
 先ほど申し上げましたように、具体的に日本の村の役場から、あなたのお兄さんは亡くなられましたよといって、戦死をなさった丁重な公報までお出しになっている。これは日本人だからということでしょう。そうして、ある日突然、本人の意思とは全く関係なしに国籍を剥奪をされたのです。これも私はむちゃくちゃだと思う。あのサンフランシスコ条約の当時、本当に日本の政府が親切なやり方をするのなら、本人の自由意思に任すべきだ。日本の国籍と韓国もしくは朝鮮民主主義人民共和国、扱い上は朝鮮ということになっているらしいですけれども、いずれにしても本人の選択でこれは二重国籍だってあり得るわけだから。しかも、金が絡むということになるのなら当然みんな日本国籍を置きますよ。実際には詐欺みたいなものなんだから。一方的に、日本人じゃなくなりましたから、本来支給すべきはずの障害年金、遺族年金等支給はしないことになりました、こういう理屈でしょう。しかも、大臣、これは長い間、一回や二回の国会じゃございません。毎年議論になっています。いみじくも台湾の元日本兵の方の一審の判決が出たことによって、いまようやく国内の世論というものが盛り上がりつつあるという状況です。
 いま台湾元日本兵の方々の問題については、私どもの先輩、同僚の議員の皆さんが超党派で議員連盟をおつくりになって、一生懸命研究をなさっていらっしゃいます。しかし、この人たちは日本の国にいらっしゃらない方なんです。当然この人たちも救済をしなければなりません。これも非常に必要なことだと思いますが、当面日本にいらっしゃって、肉親を失ったり、あるいはまた体に障害を持たれて呻吟をしていらっしゃる方の救済がなぜできないのですか。納得のいく答弁をしてください。

○森下国務大臣 国家補償でございます戦後処理の問題、まだ片づいておらない問題がたくさんございまして、私どもも非常に胸の痛む思いでございます。先般の中国におる日本人孤児の問題もそうでございますけれども、台湾人の元日本兵の問題、また北鮮、また韓国、そういうかつて日本人として戦場にお立ちになった方々の補償ができておらない。情的には私どもも非常に申しわけないという気持ちと同時に、これだけ日本が世界的にも経済大国と言われるほどの国になったわけでございますから、そういう点でも当然お報いしなければ申しわけない、そう思っております。
 しかしながら、先般の裁判でも、いまの法律では日本国籍がなければだめだというような判決が出ましたし、これを行政的にいかにしたらいいかという点につきまして、私どもも実は苦慮をしておるわけであります。そういうことで、法律的に解釈するといま局長が御答弁申し上げたとおりでございますけれども、やはり法律に温かい血を通わすのが政治でございまして、この台湾人元日本兵の問題も含めまして、厚生省としては前向きで検討しなければいけない問題である。非常にむずかしい問題だと思いますけれども、そういう気持ちでおることは、私も一旧軍人としての務めでもある、こういうことで努力をいたしたいと思っております。

○森井委員 大臣から前向きな御答弁をいただいたのですが、御案内のとおり昨年難民条約の批准に伴う関係国内法の改正がございました。いままでどうしても実現がしなかった、たとえば国民年金等への加入が認められることになってまいりました等々、幾つかの改善が出たわけですね。おととしまでは率直に申し上げまして余り変化はございませんでしたが、去年そういった在日外国人の皆さん、なかんずく朝鮮あるいは台湾の皆さんにも国民年金法等が適用されることになって喜ばしいことだと思うのですが、もうそこまで来ておるのですよ。先ほど局長が答弁をいたしました例の恩給とこの援護法だけになった、こう申し上げていいのです。あとちょっとなんですよ。ぜひひとつその点に御留意をいただきまして、来年には色よい返事がいただけますように強く私は要求をしておきたいと思うのです。来年までに御検討いただけますか。

○森下国務大臣 非常にむずかしい問題でございますが、全力を挙げてやっていきたい、検討いたすことを申し上げます。

○森井委員 それから事務当局にお願いをしておきますが、本来でございますと、私が先ほど読み上げました戦死公報に載っております張さんのような例の場合は、当然のことでありますが、国籍要件さえなければこれは援護法の対象になる可能性が非常に強いわけですから、ぜひひとつ記憶にとどめておいていただきたい、このことをお願い申し上げておきます。
 さて、次の問題ですが、大臣御案内のとおり、戦争犠牲者の救済というのは次から次へといろいろ問題が出てまいります。たとえばソ連に抑留された皆さんがいま抑留中の補償を求めて全国的な運動をしていらっしゃいます。私は当然の要求だと思っております。そういった方々の問題や、あるいは原爆被爆者の皆さんの国家補償法がまだできておりません。さらには、三月十日は東京大空襲でございましたけれども、あれだけのたくさんの方々が亡くなられましたけれども、これもいまもってまだ未解決でございます。私ども社会党は、戦時災害援護法等参議院へ出して毎年要求しておりますけれども、依然として実現をしていない。
 ただ、本委員会でも少しずつ進歩はあったわけでございまして、たとえば満蒙開拓青少年義勇軍、これは義勇開拓団まで広げていただきました。その前からいきますと、警防団でありますとかあるいは医療従事者でありますとか、いずれにいたしましても軍と身分関係等があった者、特別権力関係があった者等については、徐々にではありますけれども、少しずつ戦争犠牲者の枠は広がってまいりました。該当者の救済というのはそのまま突き放されて、遡及をしてもらえるという性質のものじゃないものですから、これは一年おくれればおくれるだけやはり損をするのですね。本当に気の毒にたえないと思うのです。しかし、いまからでも遅くはない。まだ救済をすればそれぞれの犠牲者に対します私どものささやかな気持ちは満たされるという感じもしてなりません。
 そこで、気になるのは、昭和四十二年に総理府総務長官あるいは大蔵大臣、それに党の役員等も入りまして、例の戦後問題はこれで終わりですという覚書みたいなものがございますね。その後、先ほど御披露申し上げました警防団、医療従事者等々が救済をされてきておりますから余り気にもならないような気もするのですけれども、いま行革旋風が吹いておりまして、いろいろな意味で後退をさせられておるという現実があるものですから、この際戦争犠牲者の救済について基本的には私どもまだ触れなければならない問題が頭にある。樺太の方もいっぱいある。大臣の中におありだと思うのでありますが、いっぱいある。しかし、それは同時にぱっとはできないということも財政上の理由からわかります。その意味で、緩急順序をつけなければいけないとも思うのですね。私どもも、それはよく理解できます。しかし、いま申し上げました四十二年の覚書で、例外はありましたけれども、基本的にはふやさないということなのか。物によっては、調査をして掘り起こしたらこれは深刻だというものもまだ出てくる。調査研究、その上に立って必要なものは救済していくという基本的な立場だけは大臣からぜひ明確にしていただきたいと私は思うわけでございますが、いかがでしょうか。

○森下国務大臣 私は、一応終わったと解釈しておりまして、その後いろいろと新しい問題が起こっておりますし、また、それに対する対処も行われておるわけでございますから、全部打ち切ったというふうには思っておりません。

○森井委員 次に、これを片づけていただかないと日本の戦後はまだ終っていない、そういう問題がございます。
 御案内のとおり、戦争中は、朝鮮からたくさんの、特に若い人々が中心になりまして、一片の徴用令書というものが発付をされまして、それをもらいますと、無条件で軍の命令に従いまして軍需充足会社等へ行かなければならない。朝鮮人の皆さんは、そういった徴用令書によっていわゆる応徴をして、そして肉親と別れ、過酷な労働を強いられた。これはもう私から御指摘を申し上げるまでもありませんが、無数に犠牲者がいらっしゃいます。
 そして、日本が戦争に負けまして、当然のことでありますけれども、政府の責任において祖国に帰ってもらうという作業が始まってまいりました。全部帰還をしていただいたはずなのに、実はたくさんの方々が途中で亡くなられました。
 特に私が御指摘を申し上げたいのは、昭和二十年の九月ないし十月に襲ってまいりました枕崎台風、阿久根台風、ちょうどそのときにぶつかった方々が、残念なことに、本来でしたら祖国に帰っていらっしゃるはずなのに帰っていらっしゃらない。いま遺族の人たちが一生懸命になって、血眼になって、せめて遺骨だけでもないものだろうかと捜査をしておられるわけでございます。戦後三十数年たちましたからとても生きてはいないだろうということから、現に韓国内には、いまもって帰ってこない、そういった遺族の方々が、せめて遺骨だけでも戻してほしいという叫びをもって、一生懸命遺族会等を結成していらっしゃいます。
 多くは申し上げませんが、その気持ち、ちょうどいま日本政府、厚生省が、かつて第二次世界大戦のときにアジアを中心に侵略戦争を行ってまいりました、激戦があちこちで繰り返されました、そして戦死をなさった方で、いまもってまだ遺骨が日本に帰還をしていない、こういうことで、厚生省みずからも外国へ出向かれまして遺骨の収集に当たっていらっしゃる。私は同じ気持ちではないかと思うのですが、この際、厚生省の重要な施策の一つとして海外へ遺骨収集をしていらっしゃるその動機と意義というものはどこにあるのか、伺っておきたいと思います。

○北村政府委員 旧戦域におきまして不幸な死を遂げられたかつての軍人、民間人が安らかに故郷のお墓に眠ることができるように、国民的合意の上でこれらの遺骨収集を行い、また慰霊巡拝、慰霊碑の建設等を援護局が行っているわけでございます。

○森井委員 確かにそのとおりですね。一刻も早くすべての遺骨が日本に帰ってきていただきますように、私どもとしてもこれからの政府の努力に期待をしたいと思っております。
 同時に、いま申し上げましたように、韓国にまだ遺骨が帰っていない。これは大変なことだと思うのですけれども、私は、具体的に先ほども申し上げました二つの台風によりまして長崎県の壱岐、対馬両島周辺にたくさんの遺骨が存在をしておることを聞いております。
 外務省はこの遺骨の問題について、聞くところによりますと、長崎県当局に対して調査を依頼をなさいました。四十九年ですね。どういう経過の報告であったのか、大要でよろしゅうございますからお答えをいただきたいのと、その報告に基づいて何をおやりになったのか、明らかにしていただきたいと存じます。

○小倉説明員 お答え申し上げます。
 ただいまの先生の御指摘なさいました調査につきましては、昭和四十九年当時に、いま先生の御指摘のございました遺族会の方々から、韓国にございます日本大使館を通じまして、遺骨の確認につき協力の依頼がございましたので、私どもの方から長崎県等に調査を依頼したことがございます。しかしながら、県、地方自治体からの当時の御返事では、何分相当な時間がたったことでもありますので、またその時間がたったということだけではなくて、遭難時の状況が台風ということでございましたので、遺体の氏名その他は確認できないという返答を得ております。
 それから先生がおっしゃいました第二の点、その後外務省として何をしたかという点でございますが、これはその後社会労働委員会におきましてもこの問題について御議論がございまして、私どももそういった御議論を受けまして、この問題の徴用された先であります三菱造船の方と遺族の方との話し合いの場みたいなものをつくったらどうかという御指摘もございましたので、私どもの方でそういう場をつくらせていただいてお話をするように奨励と言うとおかしゅうございますが、そのような機会を設けさせていただいた、そういうようなことをしております。

○森井委員 長崎県からの報告は、私はいま写しを持っておるわけですけれども、当時、対馬、壱岐に相当数の溺死体が漂着した事実については確認できた。これが第一ですね。それから二番目は、その遺体は韓国人の遺体である。その根拠として、当時の壱岐日報あるいは長崎新聞等々の新聞記事に加えて、「四十九年五月上旬遭難船員の遺族と称する者が、芦辺町を訪れている事実。死体処理に従事した者の証言、住民の風評等から、その大部分は韓国人であることが、ほぼ間違いないと推定される。」こういうふうになっていますね。
 これは外務省の御認識と一緒でしょうか。

○小倉説明員 そのとおりでございます。

○森井委員 そこで、そういう多数の遺体が漂着をしたことについて調査をしてみますと、こういう事実が明らかになっております。
 それは、昭和二十年九月十五日、広島にあります当時の名称で三菱重工業広島機械製作所、いまは広島造船所等になっておりますけれども、ここで働かされておりました徴用工の方が二百四十名にわたって祖国へ帰ることになった。九月十五日です。これは陸路でございますから、荒れ果てた広島駅から出発をしたものでございますけれども、そして北九州方面に到着をした。具体的には戸畑港から木船によって祖国への帰還をしようとした。
 ところが、当時のことでございますから、そのときは波静かな海であっても、途中で大あらしになった。戸畑を出たのは九月十七日。これはちゃんと目撃者もいらっしゃいまして、明確になっておるわけでございますが、その十七日、十八日といえば、枕崎台風が襲ってきた一番ひどいときです。ちなみに申し上げますと、この人たちは、先ほども申し上げましたように、三菱重工業広島工場で過酷な労働を強いられて、非常に苦労をした被爆者です。一人残らず被爆者ですよ。それが九月十七日に、一刻も早く帰りたいということから、危険ではありますけれども木船で出発をした。そして台風に襲われたというケースです。そして皮肉なことに、日本人としては申しわけない限りでございますけれども、台風が来たから、壱岐にあります芦辺町の芦辺湾内に船もろとも避難をしております。ところが上陸をさせない。警防団等が朝鮮人の皆さんを上陸させるなということで上陸をさせない。やむなく大あらしの中で船で過ごそうとしたけれども、船が転覆をした。こういうことが各種の証言で明らかになっています。
 それから、徴用工の皆さんといえば、単に広島、長崎だけじゃありません。御案内のとおり全国の炭鉱その他いろいろなところで強制労働をさせられておるわけでございますけれども、そういった方々が祖国へ送還をされることになった。もちろんこれは当時の内務省の通達によりまして。内務省の通達ですけれども各省協議をしておりまして、もちろん厚生省も一枚かんでおる、一枚どころが非常に重要な部分にかんでおりまして、内務省の警保局あるいは管理局、厚生省は健民局、勤労局といったところが一緒になりまして、そういった強制移住をさせられた朝鮮人の徴用工の皆さん方を朝鮮に送り返そうじゃないかという通達を出した。その通達には二つの意味があります。一つは、送り先は釜山であるということ。九州じゃありません、釜山まで送り届けるということが一つ。それからもう一つは、送り届ける場合に、必ず引率者を事業所の責任においてつける。この二つが骨子であります。そういった形で、いま申し上げました三菱の被爆徴用工だけでなくて、全国的に送還が始まったものと思われます。
 ですから、そういう意味からいけば、大部分の方は無事お帰りになった。木船を使われて行かれた方が中心になって大きな人的な被害が出たということでございまして、枕崎台風から約一カ月置いて阿久根台風というのがございました。ここでも大量の遭難者が出ておられるわけでございます、お気の毒にたえませんけれども。
 申し上げましたように、現地の人々、調査に行った方々の証言によりますと、壱岐の場合は、船は湾内まで来ている、芦辺湾まで来ているのに、まだかつての憲兵の威光等があった時代ですから、敗戦が八月十五日でございましょう、九月の十五日ですから、一カ月しかたっていない。大台風でようやくどうにか避難できそうだというので入ってきたその湾内、上陸を拒んだ。これは数々の証言がございます。遺骨を発掘した皆さんの話を聞きますと、親子がしっかりと抱き合って、ですから、お母さんらしい遺体がかわいい子供さんを抱いたままの状態で埋葬してあるというような涙ぐましい話を聞きました。一体こんなことをほっておいていいのかという感じが私はいたします。
 ちょっと話に出ましたから申し上げますが、最初は三菱と交渉されました。これは後で申し上げますが、未払い賃金その他補償の問題があるものですから、むしろ重点がそちらにいって、補償の問題と片づけて外務省も、先ほどの答弁のようにいままでの交渉のあっせん等をしてきておられる。ついでに申し上げますが、三菱はもうけんもほろろです。そんなことはあずかり知らぬ。よく外務省が言葉に使います、もう日韓条約によって請求権は放棄したんだからと。こういうことで、三菱は一切の債権も債務もありませんという形になっています。これも後で申し上げますが、ともかくそういうひどい仕打ちの中でこの問題が推移をしてきておるわけでございます。
 どうでしょう、ここまでの事実は、どこか間違っておりましょうか。

○北村政府委員 私どもが承知いたしておりますのは、先ほど先生からお話のありました四十九年当時の、長崎県から照会先の外務省に対する報告をちょうだいして知っておりますのと、それから五十二年当時でございますか、参議院の社会労働委員会でいろいろ御質疑があった内容については承知をいたしております。

○森井委員 外務省、どうですか。

○小倉説明員 先生がおっしゃいました事実関係につきましては、私どもが現在把握しているところとほぼ同じと思っております。

○森井委員 そこで、率直に申し上げまして、遺骨というのはあくまでも遺骨でございまして、どなたの遺骨かわからない。しかし、先ほど外務省もお認めになりましたように、大半が韓国の出身の方だ、そういうようなことについては把握ができるわけでございます。しかし、いずれにしても遺骨の大半というのは、これは氏名不詳でございます。聞くところによりますと、やはり宗教上の配慮でしょうか、埋葬されております、これは土葬ですけれども、発掘をしてみますと、何百という遺体が全部やはり朝鮮半島の方に向けて、祖国の方に向けてずっと埋葬してあったという証言がございます。
 やはり心ある人々が中心になりまして、韓国人遺骨等戦後処理をする会という会をおつくりになって、そしていろいろ運動をなさっている。矢も盾もたまらなくなって現地へ出向いて行かれ、芦辺町の町長さんの許可を得まして、埋葬がえのための発掘作業をやって、そしてそこで荼毘に付されて、八十六の遺体はとりあえず本土に持ち帰った。特に関係者が多いであろうと思われる広島まで運ばれて、現在広島県のお寺に安置をされているわけであります。これは八十六体ですから、まだ壱岐の島の一部でありまして、対馬その他打ち上げられた遺体は非常に多うございます。先ほど援護局長の御答弁にもございましたけれども、日本からかつての戦地でございました外国へ遺骨収集に行くのと同じ気持ちなら、やはり私はこの際何としても、ひとつ遺骨収集のための努力をすべきじゃないか、こう思うわけでございます。
 まず、その点について厚生省の考え方を承っておきたいと思います。

○森下国務大臣 戦後処理の問題として、遺骨収集問題は遺族の方の非常に強い願望でございまして、東南アジアまた太平洋地域へ毎年収集のために参っております。先般も実はフィリピンからか、遺骨が帰りまして、厚生省に仮安置をしてございます。これは、それぞれの関係の国でお許しを得るならば、また遺族の方が求めるならば、厚生省としては引き続いてやっていきたい、そういう強い姿勢でおるわけであります。宗教的にも、この遺骨に対する考え方は韓国の方と同じでございまして、その気持ちはわれわれはよくわかります。
 また、私どもが海外のそういう戦場であったところで、その地域、地域の方々が非常に人道的に遺骨収集のために御協力をいただいておるということを思いました場合、この問題につきましては積極的に御協力を申し上げるべきである。いろいろ行政上の責任はないと考えられておりますけれども、人道的な見地に立ってどういうことができるか、関係者間で十分検討してまいる考えでございます。

○森井委員 大臣が検討してくださるということでございますから、ぜひひとつよろしくお願いをしたいと思いますが、ここ七、八年前から何とかしなければという運動が起きているわけですが、その運動していらっしゃる人の一人は、かつて三菱重工の広島の工場で、徴用工の皆さん方を指導員として指導されておった方なんです。そういった方が中心になって、何とか遺骨をもとに戻してあげたいと、自分の費用を費やして日本国じゅう、といっても西日本ですけれども、あちこち走り回って、ようやく壱岐にそういったものがあるということを突きとめた、こういうことなんです。
 ただ、私ここでちょっと強調しておきたいと思いますことがあるのは、実は、現地で慰霊碑ができているのです。これは「大韓民国人慰霊碑」となっておりまして、これはいま写真を持っておりますけれども、りっぱな慰霊碑をつくっていただいております。これは、四十二年の三月十九日に芦辺町の布谷嘉治さん外二名の方が発起人になられまして、もちろんそういう善意に満ちた行いでございますから、町当局も協力をされ、具体的な支援もなさったようでございますけれども、りっぱな慰霊碑ができております。
 しかし、これは申し上げますように一部だけです。当然、いままで政府の手で慰霊の行事をやったことがない。私も不勉強で多くは知らないのですけれども、たとえば祐天寺というところに厚生省が韓国人の皆さん方の遺骨を現在預かってもらっていらっしゃいますね。毎年一回、丁重に弔っておられるというふうに聞いています。私は、先ほど大臣、御検討いただくわけでございますから、もうそれ以上の性急なことはいま申し上げませんけれども、いま御指摘をいたしましたように、現実にそういった慰霊をしなければならない状態でいまもって放置をされている遺骨があるということを、そういう意味では遺骨の問題について聞いていただくのは恐らく私の発言が初めてじゃないかと思うのですが、あとは昭和五十二年に参議院等でおやりになっていらっしゃいますけれども、三菱との補償の関係でいままで議論が続いたというふうに聞いています。
 その意味では、いま申し上げましたように、具体的に韓国の方々の墓地、といいますか、仮埋葬なさったところがあるわけでございますから、この際お願いをしておきたいと思うのですけれども、なるべく早い時期に現地調査等をまずおやりいただきたい。

  〔今井委員長代理退席、委員長着席〕

これは、現地へ行っていただきますと、たとえば当時の町の人が、あるいは町役場が具体的に救助活動をしたような事実、あるいは台風の状況、先ほど申し上げましたように日本の心ある人々が韓国人の皆さんの委託を受けて、土葬から荼毘に付してお寺へ持って帰ったときの経過等々は当然把握ができると思いますので、私は、そういった方々との話し合いも含めて、早急に現地調査をしていただきたいと思いますが、いかがでしょう。

○北村政府委員 ただいま大臣からお答えを申し上げましたような趣旨で事を運びたいと思っておりますし、また、昭和五十二年当時、当時の渡辺厚生大臣からも、御質問に対しまして、人道上の問題でもあり、また韓国との友好の問題もあるから十分に事務当局に外務省と連絡をとらせたいというような御発言もございます。十分検討をいたしたいと考えております。

○森井委員 この際、調査をしていただくように御検討願うということなので申し上げておきますが、遺骨を引き取ってもらう団体がございませんとこれは恐らくお困りだと思うのです。遺骨を引き取ってもらう団体は、これは社団法人でございますが、韓国にございます韓国原爆被害者協会、現在は辛泳洙さんという方が会長になっていらっしゃるようでございますけれども、この団体がたとえば去年十二月二十三日、広島県庁におきまして新聞記者等に語っておられるところを聞きますと、これはぜひ自分のところで受け入れさせていただきたい、しかもこのことは韓国政府の内諾を得ておる、そういう御発言がございました。外務省は遺骨を収集いたしましてもこれはまた後の処理が大変だと思うのですが、そういうことで、受け入れ団体は韓国原爆被害者協会、そしてまた、その下に遺族の会がございます。いま遺族は五十数人が明確になっておるわけでございますが、広島三菱重工徴用工韓国人被爆者沈没遺族会、大変長い名前ですが、これは盧長寿さんという方が会長をしていらっしゃいます。ちなみに申し上げますと、盧長寿さんという方は盧聖玉さん、これは日本流に読むので大変恐縮ですけれども、盧聖玉さんという弟さんを亡くされた方です。これもまた広島の三菱徴用工のいわゆる朝鮮人指導者として当時おられた方でございます。実はこの人が、盧聖玉さんという方が先ほど申し上げました九月の十五日、広島から出発して引率して釜山に送り届けようとして途中で海難事故に遭って亡くなられた、こういう経過の人でございますが、そういう団体が一つございます。これは韓国原爆被害者協会の下部団体のような、加盟団体になっておるようでございます。もう一つ、生き残りの皆さんの団体もあるわけでございまして、韓国人原爆被害者三菱徴用者同志会。どちらも昭和四十九年にできておるわけでございます。
 外務省は、いま申し上げましたように、厚生省の調査が終われば、当然外交ルートを通じて韓国政府に申し出をしていただかなければならない、私はこう思うわけでございます。そのお気持ちがあるのかどうなのかというのが一つ。
 それから、韓国原爆被害者協会の皆さんがこれからも外務省にお邪魔をされていろいろ具体的に相談もされるし、また外務省としても相談に乗っていただきたいと思いますけれども、そういった関係団体との話し合いについても引き続いて続行していただけるかどうか。後の部分については厚生省からも御答弁をいただきたいと思います。

○小倉説明員 第一の点につきましては、外務省の観点から見ましても、本件はいろいろな問題が絡んだものであるというふうに考えておりますが、同時に、厚生大臣も御指摘になられましたように、本件は人道的な問題であるというふうに思いますので、やはりそういった問題として、余り極度に法律論、政治論、政策論だけで割り切るべきものではない。その意味におきまして、私どもは、関係団体からもし私どものところに御相談があれば、喜んで私どものできる範囲内で御相談に応じたいというふうに思います。
 他方、韓国政府の問題につきましては、率直に申し上げますと、これは人道問題でありますが、同時に、韓国の方ないしいわゆる北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国の方々の言われます日帝三十六年のしがらみの問題でもございますので、やはりそういったいろいろな方々の過去のしがらみと心の傷跡ということも考えなくちゃいけないと思いますので、韓国政府の意向といったものも確かめながら、もし具体的な協力要請があれば前向きに検討したい、こういうふうに思います。

○森井委員 前向きに検討ということなんですが、いま申し上げましたように韓国の受け入れ団体が先ほど言いました社団法人で、したがって、政府が認めた団体がぜひ引き取りたい、こう言っておることが一つ。
 それから、すでに深川宗俊さんという方が、戦争中に徴用工の皆さんの指導に当たっておられた方なんですけれども、私の推定するところ自責の念に駆られて、何とかその人たちの遺骨だけでも送還をしたい、あるいはまた、三菱に対して少しでも損害賠償をさせてやりたい、こういう気持ちで交渉しておられるわけでございますが、その深川さんも数年前に、韓国大使館の全在徳さんという方に会っておられると私聞いております。状況が変わっておりますから一概には言えないのですけれども、先ほど話がありました当時の日本の駐韓大使でございました後宮大使も、問題について認識をされておるようでございますが、認識をされる前には、名称を忘れましたが韓国の厚生省に当たるようなところともすでに接触をされた上で、つまりその意味ではある程度外交ルートは前例に近いものがあるわけでございますから、ぜひひとつ外交ルートを通じて、今回の問題につきましても厚生省と連絡をとりながら前向きに進めていただきたいと思います。再度ひとつ御答弁を願います。

○小倉説明員 いま先生のおっしゃいましたことを踏まえまして、厚生省とも十分御相談の上、できる限りのことをしたいと思います。

○森井委員 次に、今度は三菱そのものの問題ですね。
 これは、先ほども申し上げましたように賃金の未払いがございまして、広島の法務局へ千九百五十一人分、金額にして約十八万円供託をしておられるということを私ども聞いておるわけでございます。これはちょっと換算の仕方がないのですが、台湾の元日本軍人あるいは軍属の方々は、郵便貯金その他たまっておるのが八千万円と聞いています。この分はやや金額が少なくて、三菱が供託した未払い賃金というのは十八万円。ちょっと計算をしてみたのですが、僕の計算によるとざっと三億円ぐらいになりますね、計算の仕方がいろいろありましょうが。しかし、依然として広島の法務局には十八万円弱の金額が供託をされておるわけでございます。
 私が広島の法務局に確認をいたしましたら、金額については明示はしておられませんが、こっちが一方的に言いましたら、大体そんなものでしょうという返事を私、感触として得ておりますけれども、これは物価スライドも何もないわけです。ですから、仮にいまから三菱が供託しておる分だけでも払うということになりましても、十八万円ほどもらったのではとてもじゃないけれども話にならない。
 ただ、私は、補償の問題はこれから交渉を続けていくとしても、実は名簿が非常に欲しいわけでございます。先ほど申し上げましたけれども、広島から出発をいたしました二百四十名の徴用工の皆さん、これは総勢でいくと二百四十六名になるようでございますが、徴用工の皆さんが昭和二十年の九月十五日に出発をなさった、ここなんです。そして、いま韓国内でもいろいろ遺族捜し等が行われておりますが、まだせいぜい四、五十人しか遺族が見つかっていない。先ほど御披露いたしました深川さん等がささやかな身銭を切って集めたカンパ等を、たとえわずかでも生活の足しになれば――これは話によりますと、遺族は大変な困窮をしていらっしゃるというふうに聞いています。せめて豚の一匹でも飼って、その一匹を二匹にして、三匹を四匹にして、少しでも生活の足しにしてください、韓国では豚という表現になるようですけれども、そういうことでささやかなお気持ちを届けられたことがある。しかし、何といいましても遺族が全部つかまらない、こういうことでございます。たまたま三菱が二千名近い人の未払い賃金を供託した。いまとなってはそれが唯一と言っていい手がかりになっているわけでございます。
 法務省、この名簿の公開はどういう場合に可能なんでしょうか。

○筧説明員 供託に関する書類をどういう場合にお見せできるかということに関しまして、御説明をさせていただきたいと思います。
 一般的な議論といたしまして、供託の関係と申しますのは、供託をした者、それから供託をされた者、被供託者と呼んでおりますが、この二人の私的な関係、私事の関係でございますので、一般的には、これを広く公開するとか公示をする、こういう性質になじまないものというように考えております。
 ただ、そうは申しましても、その供託に関する書類というのはあくまで供託の関係者に関係のある事柄でございますので、一定の要件を決めましてその書類の閲覧に応ずるということになっております。これは、供託に関する諸手続を定めました供託規則の三十九条というのがございまして、それに供託に関する書類の閲覧のできる場合、あるいはその要件が規定されているわけでございます。それを見ていただくとおわかりになるのでございますけれども、供託に関する書類というのは、「供託につき利害の関係がある者は、供託に関する書類の閲覧を請求することができる。」そしてまた、閲覧を請求しようとするときには、この規則に定めましたところの一定の様式の申請書を提出することを求める、こういう形式的な手続、それから閲覧を求める者の地位の限定、この二つの要件のもとに書類の閲覧ができるということになっておりますので、その限りにおいては、一種の公開と言ってもいいということになっておると思います。

○森井委員 これはまず事実を確認しますけれども、私が申し上げた供託はなされておるのかどうなのか。これをまずはっきりさせてもらって、その上でお答えをいただきたいと思います。
 先ほどの具体的な例で申し上げますと、いま申し上げましたように深刻な遺族捜しが始まっているのです。したがって、遺族の一人が、もちろん身分を明かすものがなければなりませんが、自分の分だけではなくて、先ほど申し上げました全部の方々の供託の閲覧ができるものなのかどうなのか。

○筧説明員 先ほど来先生が御指摘になっていらっしゃる事件であろうと思われる三菱重工業株式会社からの供託が、広島法務局にございます。
 それから、先ほどの閲覧ができるかどうかということに関するお尋ねでございますけれども、先ほど申しました「利害の関係がある者」と申しますのは、これは供託に関しますところの権利につきまして、法律上直接の利害関係を持つ者というように解されておりますので、供託金について払い戻しを受ける権利がある者というのは、この中に入るわけでございます。したがいまして、これは未払い賃金等ということでございますので、その未払い賃金等の相続人に該当する者は、この書類を見ることができるわけでございます。
 これまた一般論でございますけれども、その閲覧のできる書類の範囲と申しますのは、あくまでその当該権利者にかかわる部分というのが原則でございます。ただ、一つの供託で、一つの供託書に基づきましてたくさんの供託が一緒になされておる、これは一括供託というふうに私どもは呼んでおりますけれども、それは一つの供託書類の中にたくさんの権利が紛れ込んでおるという関係になりますので、その分離不可能な部分ということについては、当該権利者の一人からの閲覧においても、見せざるを得ないという言い方はちょっとあれでございますけれども、閲覧に供されるということになるわけでございます。

○森井委員 そうすると、具体的に三菱のものと思われるものについては一括供託ですか。

○筧説明員 さようでございます。

○森井委員 大分問題が明らかになってまいりました。
 労働省にお伺いしたいのですが、これは被爆徴用工の問題です。
 かつて労働省は厚生省の一部でした。本家は厚生省でございまして、労働省は戦後、昭和二十二年にできたわけですけれども、当時の健民局あるいは勤労局、そういったところとの絡みからいけば、被爆徴用工もしくは公務障害を受けられたような徴用工、そういった方々のお世話は労働省が引き継いで行うべきだと思うのですけれども、その点がどういう形になっておるかということが一つ。
 それから、被爆徴用工だけでなくて、強制労働をさせられた朝鮮人徴用工の方々が多かったわけですから、たとえば炭鉱等で過酷な労働を強いられて亡くなられたり、あるいは障害を受けられた方もあるのじゃないかと思うわけですけれども、いままで厚生省もしくは労働省でそういったお世話をなさったことがあるのかどうなのか、お伺いをしておきたいと思います。
○高橋説明員 お答えを申し上げます。
 先生御指摘のとおり、労働省職業安定行政組織が、沿革的には厚生省の勤労局あるいは都道府県勤労署の体制を引き継いだものであるというふうに言えるわけでございますが、何分にも労働省が発足をいたしましたのは昭和二十二年九月でございまして、当時すでに国家総動員法が廃止されておりまして、同法に基づきます徴用工に関する当時の関係資料は労働省に全く残されておらないために、その状況は明確でないわけでございます。
 なお、いろいろな徴用工に関します証明関係につきまして、特に朝鮮半島から来られた方々についてのいろいろな問題等につきまして、証明関係ということで、外務省に、私どもは労働省の権限云々ということではなくて、事人道的な問題として御協力をいたしているということが実情でございます。

○森井委員 今後は、いまお聞きのように、未払い賃金の問題とかあるいは補償の問題をめぐって、まだこれから交渉が続くわけです。率直に申し上げますと、厚生省にそれを引き継いで、いままでは厚生省が主にといいますか、タッチをしてきておられるわけですね。それから外務省も、もちろんこれは三菱の会社の方々をわざわざ外務省へ呼んで、当時の遠藤北東アジア課長でございましたけれども、いろいろ意見を聞いたりあっせんをなさったりした経過があるわけです。ただ、こういった徴用工の皆さんの問題については、いま答弁にありましたように、理論上の引き継ぎというのはやはり労働省だと思うのですね。だから逃げられませんよ。したがって、外務省、もちろん厚生省も援護法の所管官庁でもございますからかんでいただきたいと思いますが、いずれにしても三省が協力をして進めていただかなければならぬと思うのです。
 この点について労働省の御答弁をいただきたい。

○高橋説明員 できる限りの御協力を申し上げたいと思います。

○森井委員 大分煮詰まってまいりました。外務省も厚生省も、いま労働省が答弁をいたしましたけれども、これは改めて繰り返しませんが、具体的に申し上げておきますけれども、昭和五十二年五月十九日の参議院社会労働委員会におきまして、厚生省は渡辺厚生大臣、それから外務省は遠藤北東アジア課長御出席の上で、各省協議をしてこの問題の前向きな取り組みをいたします、こういう返事をいただいておるわけですけれども、これは引き続いて、いま労働省が一枚強力な支援部隊が加わりましたから、したがって三省協議してこの問題解決のために御協力をいただく、これは御努力ということになると思うのですが、こういうふうに理解をしてよろしゅうございましょうか。

○森下国務大臣 三省協力して努力いたします。

○森井委員 それでは、同じ問題でございましたから余り時間をとるのもどうかと存じますので、私の質問はこれで終わりますけれども、戦後処理の非常に重大な問題でもございますので、ぜひこの問題が一日も早く片づきますように、最後に大臣の御答弁をもう一度所信を含めてお伺いをして、終わりたいと存じます。

○森下国務大臣 森井議員より一連の戦後処理の問題、非常に詳しくまた切々たる訴えの中での質問でございました。先ほど申しましたように私も旧軍人の一人でございまして、まさに戦後処理、政治的に解決する責任のある一人でもございます。
 ただいまの不幸にも徴用工の方々が船の中で台風のため亡くなった、しかもほとんどの方が被爆者であったというようなお話を詳しく初めて聞いたわけでございますけれども、過去の経緯等もお聞きしますと大体間違いない、幸い受け入れの団体もございますし、また韓国政府も承知しておるようでございまして、この点先ほど申しましたように外務省、労働省ともよく協力いたしまして、努力することをお約束いたします。

 第098回国会 衆議院内閣委員会 第7号 昭和五十八年四月十九日(火曜日)午前十時二十五分開議

【発言順】
 委員       和田 一仁
 総理府恩給局長  和田 善一
 外務省アジア局
 中国課長       畠中 篤
 内閣官房内閣審議室長
兼内閣総理大臣
 官房審議室長     禿河 徹映


○和田(一)委員 それでは、もう一つ同じ附帯決議の中で、恩給の実施時期というものが現職公務員の給与よりおくれる、このおくれをなくすようにしよう、ために「特段の配慮をするとともに各種改善を同時期に一体化して実施するよう努めること。」こういう附帯決議がついておりました。この点についてどういう努力をされておるか、相変わらずこれだけのおくれというものは今後ともなかなか取り返せないのかどうか、この点についてお答えいただきたいと思います。

○和田政府委員 恩給年額の改定は、社会、経済の諸事情の変動に伴って恩給の実質的な価値を維持する、こういうことを目的にしておるわけでございます。それで、このような社会諸事情の変動をあらわす指標として何が適当であるかということで、現在のところ前年度の公務員給与の改善の結果によりどころを求めるのが最も適当であるという考え方に立ちまして、恩給増額の指標として前年度の公務員給与の改善の結果をとっておるわけでございます。この指標によりまして、五十七年度まで毎年恩給年額の改定をやってまいりましたので、恩給年額の水準そのものが必ずしもいわゆる一年おくれになっているとは言えないのじゃないかというふうに私どもは考えております。改定時期のあり方につきましては、いろいろなお考えがあろうと思いますけれども、他の公的年金等との関連も考慮しながら、これは慎重に検討を続けてまいりたい、このように考えております。

○和田(一)委員 それでは、同じ附帯決議の一番最後に出ております「かつて日本国籍を持っていた旧軍人軍属等に関する諸案件」について、これも検討を行う、こういう附帯決議がついております。この、かつて日本国籍かあった者で――戦後処理が済んでいないといういうのはもう数少ないと思うのですね。具体的に取り上げるとすれば元日本兵の台湾の方ぐらいではないかと思うわけです。その補償はやはり人道的見地からも解決していかなければならない大変大事な問題と考えているのですけれども、その補償の検討を行うということになっておりますけれども、どういう検討をされておるか、お聞かせいただきたいのです。

○畠中説明員 お答えいたします。
 戦死されました台湾人元日本兵の御遺族及び戦傷されました台湾人元日本兵に対しまして救済のための措置をとることにつきましては、関係各省いろいろ協議はしておりますが、日本と台湾との間の全般的な請求権の問題が未解決でありますこと、台湾以外の分離地域等との公平あるいはその波及の問題、さらにはわが国の厳しい財政事情等の問題を考慮する必要がございます。そういうことがございますために、したがいまして、政府といたしましては救済の措置をとることが非常にむずかしい状況にございますけれども、今後とも慎重に検討していく必要がある問題であると考えております。

○和田(一)委員 先般、台湾の人で元日本兵であった方の裁判がございました。かつて二十万と言われる台湾の人が旧日本軍の軍人軍属として徴用され、戦死された方も数多くあるわけです。そういう中で、この裁判を見たときに、いまの恩給法で適用を受けられないために個人的な訴訟でこれを解決しよう、こういうことで訴訟が行われて、そしていまの恩給法の性格、運用の論議というものが大分この裁判の中でされたようでございます。給与も宙に浮いてしまっておったり、これは未払い給与ですね、それから郵便貯金、債券、こういったものもそのまま供託されっ放しである、こういうようなことはやはり早く解決していかなければいけないことではないか、私はこう思うわけなんで、そういう意味を含めて前回も附帯決議がつけられておるというふうに理解をしておるわけなんです。にもかかわらず、こういう問題は相互にいろいろな問題が絡んでいてなかなか困難である、こういう一語に尽きているようでございますけれども、これについてはぜひ努力をしていただかなければいけない、こう思うわけです。
 先ほど来のいろいろな質問の中で、ダブるのでもうやめようかと思いましたけれども、長官の私的諮問機関である戦後処理問題懇談会はそのために設けられた委員会ではないかと私は思うのです。こういう懇談会をせっかくつくられて、予算もつけて、そしてこれを活用されている、こういうことのようでございます。五十七年十一月に開かれた第四回目の委員会では、先ほどの御答弁では、恩給問題、戦後処理、戦前戦後の恩給問題ですか、そういう問題やら、あるいはその前の委員会でも在外資産の問題その他についてと、こういうことがございますけれども、こういうところでこういう問題解決のための諮問をされている以上、前向きの検討がもっとされていいのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

○禿河政府委員 戦後処理問題懇談会におきましては、先ほども御答弁申し上げましたとおり、シベリア抑留者の問題、恩給欠格者の問題、在外財産の問題、この三つを中心といたしまして検討をお願いしておるわけでございます。もちろん、戦後処理問題ということを考えてみます場合に、この範囲を広げればこれは範囲も大変広くなり、実は種々さまざまの問題もあろうかと存じます。そういう問題につきましてことごとくこの懇談会で検討するということは事実上困難でもありますし、戦後処理問題というものを全般的にどう考え、どう受けとめていくべきかというこの懇談会の性格から申しましても、すべての事柄にまで論議の対象を広げていくということは必ずしも適当なものではないと考えております。
 特に、いまお話がございました台湾の旧日本兵に対します補償の問題ということになりますと、これは実はきわめて外交上の配慮を必要とする事項でもございます。そのこと自体、外交上非常に問題でありますと同時に、先ほど外務省の方から御答弁がありましたとおり、日台間の請求権問題全般の問題あるいは他の分離地域への波及あるいは公平の問題、そういうきわめて外交上の問題にわたってくるわけでございまして、やはりこの懇談会におきましてこの問題を取り上げて論議すること自体非常に問題でございまして、この問題については慎重に考えていくのが適当であろう、かように私は考えております。

○和田(一)委員 慎重にやるのはいいんですよ。慎重にやるのはいいんですけれども、たとえば韓国の場合には、戦死戦傷病者には六五年の日韓請求権あるいは経済協力、こういった協定で一括補償の解決ができているわけですね。しかし一方、台湾の人たちについては、戦争補償はもとより、軍人軍属として払うべき給料やあるいは戦死したときの葬祭料さえまだ未払いがあるとか、あるいは軍事郵便貯金をされていた、それも一括供託しているだけである、こういう実態がある以上、慎重審議は結構なんですけれども、じゃ、これはほおかぶりでこのまま何もしないでいていいというふうに考えているのかどうか。私は、もちろん何もそのことによっていろいろな紛争を起こす種にするというのではなくて、そういう道義的な責任をとる方向を政府としてもっと真剣に考えるべきではないか、こういうふうに思うからお尋ねしているのであって、それはこの問題がそう簡単にいくとは思いませんよ。だから、そういう懇談会でだめならばだめなように、もっと別のことでそれを考える。正規の外交ルートを通じてできないのなら、民間の機関を通してでも何とか補償しようというような姿勢が出てくるのかこないのか。その辺が一番大事ではないかと思うので、これは長官、いかがでしょうね。こういうものは必要ならば立法措置をとるなり何なりをしてでもやるべきなんでしょうけれども、そこまで一気にいかなければ、民間機関でいまあるルートを通してそういう補償ができないものかどうか。その辺をお聞して、私は質問を終わります。

○丹羽国務大臣 私もいま事務当局とちょっと耳打ちをしたんですけれども、事務当局は事務当局としての考えがございますが、私どもはお互い政治家でございますから、先生が御熱心に提唱していただくことをよく理解できます。正直申しまして、理解できますが、何と申しましても、私の名においていま懇談会をお願いして、戦後処理の問題としてどういう問題に取り組んでいただくか、どういう問題を取り上げるか、どういうふうに考えたらいいかということをいまお願いしておる段階でございますから、そこの中へ私どももこれをどうという押し込みはいたしませんけれども、そういう考えを持っておりませんが、先生の御指摘のようなその気持ちが伝わるようには努力したい、こう思っておりまするし、なおまた、そういう段階でございますから、いまほかの機関を設けてこれをどうこうということは考えていない、まずその御検討、御研究いただいた結果を踏まえてひとつやっていきたい、こう考えております。

○和田(一)委員 時間が来ましたので、それでは終わります。


 第098回国会 衆議院決算委員会 第5号 昭和五十八年五月十一日(水曜日)午前九時二十一分開議

【発言順】
 委員   中村 弘海
 北東アジア課長 小倉 和夫
 大蔵省主計局司
 厚生省援護局長 山本 純男
 法務省民事局第
 四課長     筧 康生
 厚生大臣    林 義郎

○中川委員 質疑に入る前に、ちょっと政府側にお願いをしたいのですが、非常に時間がありませんで、経過は前もって資料もお届けしておりますし御説明も申し上げておりますので、もうイエス、ノー、そうだあるいはそうでないというだけの御答弁を求めることが多いと思いますが、それはそういう御答弁にとどめていただいて、ほかの余分な説明は要りません。そうしないと間に合いませんので、お願いをしたいと存じます。そうしませんと、大臣の参議院に行かれる御予定にも差し支えがありますから、ひとつよろしくお願いいたします。
 委員長並びに同僚委員各位のお許しをいただいて、私は、本日は厚生行政の中の戦後処理の二つの問題について若干の質疑をさせていただきます。
 いずれも実は過去何回か国会でも取り上げられた問題でありまして、本日御出席の各省の所管の各位も一応は御承知の問題であると思いますが、過去の同僚議員の御指摘も踏まえて私自身が調査した限りでは、今日までの政府側の御答弁、あるいはこの質疑に基づいてお進めになろうとしている方向もしくは対策が、いずれも事実の誤認や不十分な理解のもとに進められるおそれがある、こう思いますので、あえて取り上げさせていただく次第であります。
 その第一は、戦時中の韓国人徴用工の問題。具体的には、昭和五十二年五月十九日の参議院の社労委員会と昭和五十七年四月一日の衆議院の社労委員会で取り上げられた三菱重工業広島造船所韓国人徴用工の問題であります。
 まず、国会質擬では、いま申し上げました昨年の四月一日の衆議院の社労委員会で森井忠良君が取り上げたものが比較的詳しくて、また最近のものでありますので、しかも政府も、この質疑に対する当時の森下厚生大臣の御答弁の線で対応策を検討している、あるいはこれから進めようとしていると思われますので、これに従ってお尋ねをさせていただく次第であります。
 要点のみ取り上げさせていただきますが、まず、昨年四月一日の質疑で、森井君から、戦時中三菱重工業広島造船所に徴用され被爆した韓国人二百四十人が、終戦後の昭和二十年九月十七日に福岡県戸畑港から木船で祖国に向け出発をした。ところが枕崎台風の襲来を受けて、長崎県壱岐郡芦辺町の芦辺湾内で遭難、転覆し、多数の死者が出た。遺体は同町に埋葬され、このうち八十六体はこの問題に取り組んでいる韓国の三菱徴用被爆者・遺家族・帰国遭難者・戦後問題対策会という会の手で発掘をされ、現在は広島県沼隈郡沼隈町の福泉坊に仮安置をされている。こうした事実を認めろ、こういうお尋ねに対して、政府側は、当時の外務省の小倉アジア局北東アジア課長さんが立たれて、ただいまの「事実関係につきましては、私どもが現在把握しているところとほぼ同じと思っております。」こういう御答弁をしまして、ほぼ全面的に事実を認めた形になっておるわけであります。これは外務省、議事録をお見せしましょうか。この点はよろしいでしょうね。この点、イエス、ノーで。

○小倉説明員 議事録に書いてあるとおりでございます。

○中川委員 さらに、その質疑者たる森井君から、人道的見地から、早い時期に政府として現地調査をし、外交ルートを通じて遺骨を祖国韓国の遺族の手に送還するよう、厚生省、外務省と、それから昔の厚生省の勤労局を引き継いだ観点から労働省、この三省が協力をして当たるように求めたのに対しまして、三省とも前向きに努力することをお約束をなさいまして、森下厚生大臣から最後に、「ただいまの不幸にも徴用工の方々が船の中で台風のため亡くなった、しかもほとんどの方が被爆者であったというようなお話を詳しく初めて聞いたわけでございますけれども、過去の経緯等もお聞きしますと大体間違いない、幸い受け入れの団体もございますし、また韓国政府も承知しておるようでございまして、この点先ほど申しましたように外務省、労働省ともよく協力いたしまして、努力することをお約束いたします。」こういう答弁がなされまして終わっておるわけであります。この点も、厚生省、間違いないと思いますが、議事録の点で……。

○山本(純)政府委員 そのとおりでございまして、今後その点について調査を進める予定をいたしております。

○中川委員 さて、これからが私のお尋ねをしたいところになるわけですが、まず一般論として、韓国人あるいは朝鮮半島からの徴用工という方々は、三菱重工のみならず、たとえば九州の炭鉱とか昔の日本製鐵とかを初め、一説には日本各地に十数万人も来ていた、こう言われておるわけでありますし、また、私の知り得る限りでは、広島県内だけでも九つの企業に来ていたと言われまして、その九社は未払いの賃金について供託をしている、こういうふうに言われているわけであります。本件の三菱重工だけじゃなくて、各地にそうした韓国人あるいは朝鮮半島からの徴用工が来ていたことは、これは事実として推認をされるわけでありますが、この点はいかがですか、厚生省。

○山本(純)政府委員 私どもとしては、一つには、徴用工の問題につきましては、かつての資料を引き継いだたてまえになっておるわけでございますが、残念ながらほとんどが現在残っておりませんので、おおよそ聞き知っておりますところでは、これ以外にもいろいろな企業で使われておったことがあるということだけは聞いております。

○中川委員 ちょっと法務省にお尋ねしますが、この三菱重工という会社は未払いの賃金を広島法務局に供託をしているわけですけれども、供託をしているのはこの三菱重工だけでありますか、ほかにもありますか、このことだけちょっと。

○筧説明員 三菱重工以外にも、同様な理由によって供託がされておるという事実がございます。

○中川委員 会社側にも私確かめてみたのですが、当時の状況はこういうことのようです。
 第一に、昭和十九年から二十年にかけて三菱広島造船所には、当時年齢二十二歳で、実はこれは後で大変大切なポイントになるのですが、いずれも二十代の若者たちばかりの徴用工、あるいは女子挺身隊、動員学徒計七千七百人がいたそうであります。このうち、朝鮮半島の方は約二千七百人であった。
 第二番目に、徴用工に対する待遇は、朝鮮半島人、台湾人、内地人の区別は全くなく平等であった。
 第三点目として、その後戦況が不利になるにつれて、朝鮮半島からの約二千七百人のこの徴用工は、寮からの逃亡者が相次ぎ、さらに原爆、終戦という事態を迎えて残存者が激減をし、終戦時まで残った者はわずか一割程度の約三百五十人だった。
 そして第四番目に、この三菱広島造船所に残った半島応徴工といいますか、半島から徴用工で来られた方、約三百五十人に対して、会社側が、終戦直後の大混乱で連絡船もとだえているので、もう少し見通しがつくまでこの三菱にいたらどうかと勧めたわけですが、徴用工の方々は、一刻も早く本国へ帰りたい、船は自分たちで探す、こう強く主張したため、本人たちの要望を入れて、寮で送別会を開き、賃金を精算して、寮費を支払って、広島で解散させた。そこで、先ほど申し上げましたように、終戦までいないで途中で離散をした徴用工の方々の賃金は、受取人が不在のため、昭和二十二年、広島法務局にすべてを供託している、こういうようなことになっておるわけであります。
 さて、そこで事実関係ですが、先ほどの、昨年の社労での御質疑にあった、壱岐郡芦辺町からこの会の手で発掘をされて、いま広島のお寺に仮安置をされております御遺骨、しかもこれは昨年の質疑で、この遺骨を祖国の遺族に送還をすべきだ、こういうことで、政府側が努力をすると約束されたわけでありますけれども、この御遺骨が昭和二十年に三菱重工をやめて韓国へお帰りになる徴用工のものである、こういう確証があるかどうかということなのであります。
 お手元に、先ほど大臣のところにも政府側にも、私、前もって当時の新聞をお渡ししてあります。ちょっとそれをどらんいただきたいのでありますが、まず一つは、この発掘は、昭和五十一年八月十日から八月十三日まで四日間、先ほど言いました市民グループである三菱徴用被爆者・遺家族・帰国遭難者・戦後問題対策会、この会が発掘をしたわけでありますけれども、その西日本新聞の八月十五日の線を引いた方をちょっとごらんいただきたいのですが、この「発掘で見つけた八十六人の遺骨は」三菱重工の徴用工のグループとは「別の遭難グループとみられ、被爆韓国人の遭難事件はまたも深いナゾに包まれてしまった。」こういう「深まるナゾ」という特集記事が十六日と二日間にわたって出ておるわけであります。
 この記事によりますと、確かに三菱重工徴用工の方が昭和二十年八月十七日の午前十時ごろ、二百四十六人を乗せて九州は戸畑港から出航したということは、この当時の目撃者の話でもどうも事実のようである。しかし、現実に発掘をしてみたところ、この最後の線のところに書いてありますが、「遺骨の中に意外なものが見つかった。明らかに子供のものとしか見えない小さな遺骨の数々、それに金歯。徴用工一行は全員が二十代の若者。」発掘をしたものも「ひょっとしたら徴用工一行のものではないのでは……」、こういう不安が発掘をしながら出てきた。
 しかも、との発掘を始める前から地元でいろいろ調べてみた証言や資料は、すべてがこの三菱徴用工であるという推理を否定するものばかりであった。たとえば、当時の芦辺町役場の課長さんは「遭難は確かに九月十八日にありました。しかしそれは役場の資料では朝鮮から内地へ引き揚げる途中の日本人なのですョ。死亡者はゼロ、救助五十三人となっていましてぬ。いま発掘している遺体は深川さん」、これは捜し出す会の代表さんでありますが、この「深川さんの捜している徴用工一行とは全く別の人たちですよ」、こういう御発言をしておるわけでございます。
 もう一枚めくっていただいて、「深まるナゾ」の下の方でありますが、実はこの芦辺町に流れついた方々の遭難は二回あった。一つは、いま申し上げましたように九月十八日に枕崎台風で遭難があった。しかしこの遭難は、いま役場の方のお話を紹介しましたように、朝鮮からの日本人の引き揚げ船であった。もう一つは、昭和二十年十月十日夜、つまり、先ほどの三菱徴用工の方が九月十七日に出発しているわけですが、その約一カ月ぐらい後、阿久根台風という台風がやってきて、この壱岐近海が大変な暴風雨圏に入った。そして、この暴風雨によって数え切れないほどの韓国人が流れついた。死体で百六十八人、救助したのが三十三人だった。現実には町役場の海難記録にも、昭和二十年十月十一日、身元不明の朝鮮人が遭難し、死亡者百五十四人、こういうことで記載された記録が残っておるわけであります。今回発掘したのはこのときの遺骨であり、三菱微用工の方々の九月十七、八日の壱岐遭難説とは大きく食い違う、こういうことになるわけでございます。
 そういうことで、昨年の質疑で出た芦辺町の白骨化した遺体が三菱徴用工のものであって、そういう徴用工の人たちの遺族会が遺骨を返せ、こういう運動も始まっておるから、政府は協力してお返ししなさい、それに対して、前向きに努力します、こういう御答弁が出ているのですが、実はその御遺骨であるという確証がない。むしろ三菱徴用工でない可能性の方が強いと思われるわけであります。
 これについて、この新聞もうお読みになったと思いますので、簡単でいいです。私のそう思うことが、この新聞記事なんかを含めて、間違っておるのか間違っていないのか。政府として、昨年の答弁のように、そういうことは事実において間違いないと外務省も御答弁なさった、そういうような観点で進めるのか。いや、ちょっと調べてみると違うよというお立場でいまおるのか。一言でいいから……。

○山本(純)政府委員 大変むずかしい内容でございますので、全部が正しいとか全部が誤りとかいうことは私ども判断つけかねておりまして、議事録を私もよく振り返りましたけれども、私どもとしては変わっておりません。もしできるならば、今回もう少し調査いたしまして私どもの判断を固めたいというふうに考えております。

○中川委員 変わってないというのはどういうことですか。質疑者は、その御遺骨は三菱徴用工のものであって、それが広島の方へ仮安置されておる、その御遺骨を韓国へ返せと言っておる。それに対して、事実においてそれは間違いはない、大体把握しておることはそのとおりだと言っておるのですが、その御遺骨が三菱徴用工であるという事実を前は認めたわけだけれども、これだけのことがあっても変わってないと言うのですか。

○山本(純)政府委員 ちょっとお時間をいただきまして、御遺骨の問題は大変微妙な点がございまして、これはある御遺骨がどなたのものであるかがきちんとわかることの方がむしろまれでございます。しかしながら、そういう遺骨である可能性がございます限りは、私どもとしては丁重にお扱いいたすということにいたしております。
 いまの状況から申しますと、この御遺骨が御指摘の徴用工の遺骨であるという証拠はまだ私ども持っておりません。しかしながら、当時非常に多くの韓国人の方が遭難なさったという事実は、これは認めざるを得ない。したがって、この御遺骨が、徴用工の方を含めまして韓国へ帰国される韓国籍の方々の御遺骨である可能性はかなり高いのではないかというふうに私どもは考えておりましたし、いまも、そういう立場から調査を進めよう、こういうふうに思っております。

○中川委員 要するに、この前の質疑では、そういうことなんだ、三菱徴用工の御遺骨なんだという立場で質疑して、事実関係について大体われわれが把握しているところもそういうことであります、間違いないということで外務省が実は答弁しておるわけですね。
 そういう答弁が出ているわけですが、結局はいま言われたように確証はない。可能性は確かにあるでしょう、大きな意味でね。徴用工を含めて、朝鮮半島から来られた方の御遺骨、それは韓国かどうかわかりませんよ。朝鮮半島北部の人かもしれない。そんなことはわからないですよ。しかし、全体として朝鮮半島から来た徴用工であったかもしれないという可能性はあるが、確証はない。しかも、この事実関係を見ても、三菱重工の徴用工であるという確証は全くありませんね。そういうことですな、いまの御答弁は。

○山本(純)政府委員 確証はいまのところは全くございません。

○中川委員 もう一つ、同じ地元の新聞で一枚配っていますが、これも参考までに見ておいてくださいね、この中国新聞の方もね。
 そういうことで、可能性としては、韓国人の徴用工の方々の遺骨かもしれない。それから、朝鮮半島でも北部へ帰る徴用工の方々の遺骨かもしれない。事実がはっきりしないまま別の御遺骨を三菱徴用工のものとして遺族に返したら、これは先ほども言われたように微妙な問題で、これは大変な問題ですよ。しかも、朝鮮半島北部の方の御遺骨を韓国へ返したら、これはまた外交問題にもなる。よろしいですか。だから、事実を調査することは大いに調査をしていただきたい。人道上の見地で、できることならば、それが事実ならば返してあげるべきです。それは当然のことです。しかし、事実をはっきりしないままに慎重さを欠いてそういうことをしたら、これはやはり問題になります。
 この会の代表である深川さんという方も、発掘当時は、この新聞で、「今回の遺骨は彼らのものであると私は信じたい。しかし、事実はあくまで事実としてとらえるべきものです。」こう語っておられる。ところが最近、ことしの二月三日の記事に、深川さんは韓国に行かれまして、深川さんによれば、五日間滞在をして、李晟雨さんという韓国政府の保健社会部医政局長さんにお会いをして、この御遺骨は三菱徴用工のものであるから一刻も早く遺族へ遺骨の引き渡しをすべきだ、そのようにする意味で日本政府と早期に話し合ってほしい、こう申し入れた。それで韓国政府は、外務部を通じて日本政府に遺骨送還を要請し、韓国政府としても受け入れのための予算を組む、こう答えた。つい最近、二月三日の記事ですよ。よろしいですか。深川さん自身も、事実はあくまで事実としてとらえるべきだと言っていながら、あくまで三菱徴用工のものだときめつけて、韓国まで行って申し入れておられるわけであります。
 外務省、韓国政府からこのことについて何か言ってきていますか。もし言ってきたらどうしますか。私は、確証はないがいいのですかというくらいの慎重な対応が必要だと思いますが、どうですか。一言でいいですよ。

○小倉説明員 本件につきまして、過去、若干非公式に照会があった経緯はあるようでありますが、正式に韓国政府から本件につきまして最近申し入れはございません。
 また、いま先生の御指摘の、しからば韓国政府から申し入れがあればどうするかということにつきましては、韓国政府からの申し入れの内容にもよると思いますが、まずその事実を調査する、それが先行すべきではないかというふうに考えております。

○中川委員 それは当然のことです。それでよろしいです。
 ついでに、関連してちょっと二つだけお尋ねしますが、本件の徴用工の債権債務の関係ですね。これはどうなっておるのでしょうか。
 国家間においては、私の理解するところでは、昭和四十年の日韓条約で、条約締結以前の両国及び両国民間の財産、権利及び利益並びに両国及び両国民間のすべての請求権は完全かつ最終的に解決されたものとする、この条項で国家間の問題は解決済みだと思います。これは後で外務省からちょっと確認をしたいと思います。
 それからもう一つ、三菱重工側と徴用工の方々の賃金の未払いの問題は、これは法務局へ供託しているわけでありますから、その関係も、債務は供託という行為によって弁済されたものとみなされると思うわけでありますが、その点、イエスかノーかだけでいいです。
 外務省と法務省、両方から……。

○筧説明員 供託の効果として弁済という効果が発生することはそのとおりでございます。

○小倉説明員 国と国との間の補償等の請求権の問題は、先生御指摘のとおり、昭和四十年の協定と議事録によりすでに解決済みでございます。

○中川委員 大臣、この件についてこれは最後なんですが、私は従来の国会の質疑や御答弁が人道上のものから出ているものだとは思います。そしてまた、先ほどの、発掘をされたり運動されたりしておられる深川さんらの御奔走も、それが人道上のものからだけ出ているものであるならば、その限りにおいて評価するのに全くやぶさかではないわけであります。そしてまた、もしそれが徴用工の遺骨だということがはっきりするならば、一刻も早く遺族に渡すことも当然のことだ、こう思うわけでありますが、しかし、先ほど言いましたような状況で、事実不明のものを措置すれば、別の人道上の問題も出てくる、また、外交上の問題も出てまいります。つい最近も「悪魔の飽食」などという小説、小説じゃない、ドキュメンタリーですか、事件がありまして、これはでっち上げだというようなことで騒がれました。そういう事実もしっかり確認しないのにもしそういうことをすれば、その二の舞になってしまうと思うのですね。そういう意味で、あくまでこれはやはり慎重に当たらないと大変なことになると思うのです。
 先ほど冒頭に言いましたように、当時の森下厚生大臣にもお会いをしてちょっとお話はしてみましたが、そうかということでありましたけれども、前の御答弁のあれは、たとえば被爆者であるとかなんとかということの表現の中に、そっくりそのまま徴用工の遺骨であるみたいな感じで受け取られている御答弁が出ているのですが、その辺はもう一回慎重に構えなければいけない、私はこう思っておるので、大臣にその御見解だけ一言ちょっとお伺いしたい。

○林国務大臣 中川先生、御地元のお話でもありますから、大変御熱心にお取り上げいただいておりまして、私も心から感謝を申し上げるところであります。
 いまお話がありましたように、やはり遺骨の問題というのは、ヒューマンな問題、人道的な観点という問題から考えなければいけないことは当然のことでありますが、先生も御指摘のように、やはりわからないところがたくさんあるんですね。年数もたっておりますし、いろんな事実関係がはっきりしないということも御指摘のようなことでありますし、私の方もそれは認めているところであります。そうしたことをやはり明らかにしながら、人道的な見地でやっていくということが大切なことではないか。間違ったことをしておったんでは後で大変なことになる、また、ひいては外交上の問題にも発展しかねないような話になれば非常に困ることになりますから、あくまでも事実は事実として冷静にお話し申し上げ、いろいろな措置をしていくということが一番大切なことではないかというふうに私は考えているところであります。

 第101回国会 参議院社会労働委員会 第7号 昭和五十九年四月十七日(火曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員      浜本 万三
 厚生省援護局長 入江 慧
 厚生大臣    渡部 恒三

○浜本万三君 それから次は、非常に古くて緊急な問題がございますので、ひとつお尋ねをいたしたいと思います。
 これは戦時中に徴用いたしました朝鮮人の皆さんの遺骨収集に関する問題でございます。大臣、よく御承知いただいていないとすれば困りますので、ちょっと簡単にいきさつを申し上げます。
 これは、戦時中に広島造船所並びに広島機械製作所に約二千八百人の朝鮮人の方を徴用いたしまして働いていただいておったわけでございます。そして、一九四五年六月に例の義勇兵役法というのが出まして、職域義勇隊として生産に従事をされておった方々でございます。この方々が広島で原爆に遭遇いたしまして被災をされ、戦争が終結をいたしますと同時に、八月二十五日には徴用が解除されました。同時に、内務省及び厚生省は、広島県に対しまして、これらの方々を事業主側が引率して母国に、釜山まで送り返すようにという命令を出したわけでございます。そしてその方々は、盧聖玉という人が引率者になりまして、二百四十一名の徴用工と徴用工の家族五人が合流をいたしまして、広島を出発し、下関経由で仙崎に向かったと言われておるわけでありますが、その後の消息が不明になっておる事件でございます。
 その後の調査によりまして、この二百四十六名の方々は帰国途中、台風に遭難したのではないかと、そういうことで調査をしていただいたわけでございます。
 広島県の中におきましても、この事件を人道的な立場から非常に憂慮されまして、深川宗俊さんという方が中心になりまして、遺骨の収集でありますとか、あるいは埋葬でありますとか、いうことを一生懸命行ってきたわけでございます。
 私もこの問題を田中さんが大臣のときに取り上げまして、いろいろ政府側に具体的な措置をお願いをしてまいりました。その後、衆議院の森井委員もこの問題を取り上げまして政府側に積極的な対策を講じていただくようにお願いをしてきたところでございます。
 そして、五十九年九月に政府側の調査をいただいた結果を発表いただいたわけでございます。しかし、残念ながらその後、調査報告書というものが出されて具体的な措置もお決めになっていらっしゃるわけでございますが、一向に事が進まない、そういう状態になっておるわけでございます。
 したがって、私といたしましては、その調査結果は一体どうなっておるのか、また、調査に基づいて今後行わなければならないこともお決めになっておるようでありますから、その内容についてお答えをいただきたい。
 それからもう一つは、緊急な事態と申しますのは、この盧聖玉さんの実兄が広島の原爆病院に原爆病の治療のために今入院をしていらっしゃるわけでございますから、本人のお兄さんがおられるときに何らかやっぱり政府側の人道的な温かい措置をしてもらいたいというのが私の気持ちでございますので質問をいたしておるわけでございます。お願いします。

○政府委員(入江慧君) ただいまの、広島県の三菱重工で働いておられた朝鮮半島の方々の問題でございますけれども、今御指摘のございましたように、昨年五月の十八日から二十九日にかけまして外務省と一緒に現地で調査をしたわけでございますが、その結果、朝鮮半島出身遭難者ということが推定されます埋葬遺骨が確認されました対馬につきましては、その報告書にも書いてございますように、遺骨を収集して、とりあえず対馬の美津島町町営の納骨施設におさめるということで、今年度それを行うということで、現在準備しておるわけでございます。
 またその際に、壱岐につきましては遭難者の遺骨が残っている可能性が非常にあると思われる箇所がございますので、そこを再調査するということを現在考えておりまして、その実施時期等につきましては外務省と現在詰めを行っているというのが現状でございます。
 それから、二点目に御指摘になりました、亡くなった方のお兄さんの盧長寿さん、私ども承知しておりますのは、今年三月初めに広島市においでになって入院治療中というふうに聞いておりますが、ただいま申し上げましたこの調査結果等につきましては、韓国政府を通じてこのお兄さんも御存じだと思いますけれども、御指摘のございましたように、何といいますか、非常に御遺族の方のお気持ちということも勘案しなければいけませんので、御本人の病状等を考えまして、適当な機会にどういうお考えかというようなことをお尋ねするという方向で外務省等と協議してまいりたいというふうに考えております。

○浜本万三君 今のお話によりますと、結局まだ何もやってないと、こういうことになるわけなんですね。
 外務省と協議してなさるということなのでございますが、それはいつごろになりますか。

○政府委員(入江慧君) まだ最終的に詰めておりませんが、できれば今年度前半にはやりたいというふうに考えております。

○浜本万三君 今年度前半。

○政府委員(入江慧君) はい。

○浜本万三君 私の希望は、今のお兄さんの盧長寿さんですか、この人が入院加療中のときに、ぜひそのような具体的な措置を行っていただくような方向で努力をしてもらいたいという希望があるわけなのでございます。
 これに関しまして、先ほど申しました深川宗俊さんという人が韓国側の代表者の方にお会いをいたしまして、どうなっておるかということを聞いておるわけなのでございますが、その方は、保健社会部医政局長及び保健社会部長官でございますが、この方々に会いましてどうしておるのかということを聞きますと、韓国政府としてはこれに対応する十分な用意があるが日本側の反応はない、こういうふうにおっしゃっておられるわけなのでございます。したがいまして、日本側の反応ということを向こうが期待しておられるとするならば、一刻も早く外務省と厚生省が協議をしていただきまして、調査結果に基づく具体的な措置を直ちに講じるように行動を起こしてもらいたいというのが第一のお願いです。
 それから第二は、できれば厚生省の代表がお兄さんの盧長寿さんに入院中にお会いをいたしまして、これまでの日本側の対応の内容について説明をされると同時に、御本人のいろんな御希望があると思いますから、そういう問題について詳しく聴取をされて、措置のできるものは措置をするというふうに取り計らってもらいたい。
 この二つを私はお願いしたいと思うんですが、大臣、いかがでしょうか。

○政府委員(入江慧君) 第一点の問題は、要するに私どもがわかっておりますのは、朝鮮半島出身者ということはわかっておりますが、それ以上のことがわかっておりませんので、御存じのように非常に微妙な問題もございます。したがいまして、これは外務省と相談さしていただきたいというふうに考えるわけです。
 それと、お兄さんが入院加療中に、要するに厚生省の代表が会ったらどうかという点につきましては、これまで外務省なり労働省等と一緒にこの問題、何といいますか、対応してきておりますので、そういう関係で相談して、今の御希望のような方向で検討をしていきたいというふうに考えます。

○浜本万三君 相談はいつごろまとまるんですか。相談相談というのはいつもお聞きするんですけれども、まとまる時期をちょっとおっしゃってくださいよ。

○政府委員(入江慧君) 実は、先ほど申し上げましたように、三月の初めにおいでになったというのを承知しましたのは、きのうお話を伺いまして、広島県を通じて確認したばかりでございますので、早速相談したいというふうに考えます。

○浜本万三君 大臣、ここでひとつ答弁をきちっといただきたいと思います。

○国務大臣(渡部恒三君) 浜本先生の御心配の壱岐、対馬の朝鮮人遺骨の再調査及び収集の問題、これは人道上も大変大きな問題であり、速やかに実施をしたいと考えております。
 ただ、いろいろの条件等もございますので、今政府委員から答弁がありましたが、御期待にこたえるように、できるだけ早くこれを実施するように、外務省及び地元関係機関と協議をしてまいりたいと思いますので、御了承いただきたいと思います。

○浜本万三君 答弁は極めて不満でございますが、時間が来ましたので質問を終わりたいと思います。

 第101回国会 衆議院社会労働委員会 第28号 昭和五十九年七月二十五日(水曜日)午前十時十八分開議

【発言順】
 委員      森井 忠良
 厚生省援護局長 入江 慧
 北東アジア課長 高島 有

○森井委員 
 さて、次の質問でありますが、これもここ二、三年、私が取り上げております旧三菱徴用工の問題でございます。
 若干の概要を御説明しておかなければならぬわけでありますが、先ほど申し上げましたような日本の軍国主義政策の一環といたしまして、戦争中、なかんずく戦争末期になりまして、朝鮮半島から徴用工を随分日本の国内に送り込んできたわけでございます。これは私といたしましても本当に胸の痛む話でありますけれども。大体二十二、三歳、一家の支柱で働き盛りというころに一通の徴用令書を出しまして、そして日本の内地に送り込んできた。広島には三菱重工という会社がございまして、これは軍需充足会社でありますが、約三千人ぐらいの方々が徴用工として働いておられた。八月六日になりまして原爆が投下されました。そのほとんどの方々が被爆者になられたわけであります。
 戦争が終わりましたから、当然のことでありますが、日本政府がマッカーサー司令部とも相談をした上で、これは丁重に朝鮮半島にお帰りをいただかなければならぬ、こういうことになりまして、それぞれ責任者をつけて釜山までお送りするということになっておりました。送還は順調にいったのでありますが、最後の一便が今もって着いていない。これは昭和二十年、一九四五年の一応九月十五日広島を出発したとなっておるわけでありますが、記録その他正確な出発をされたという日にちについては、残念ながらそれを証明するものはございません。
 私の手元に持っております資料でも一つあるわけでございますけれども、これは「三菱重工業株式会社広島機械製作所」という用せんを使って韓国の人に返事を出された文書がございます。
 というのは、うちの肉親が帰ってきていない。多分息子だと思うのですが、息子が帰っていない、どうなっているのでしょうかということで、今申し上げましたこの会社に問い合わせをした。問い合わせをいたしましたところ、問い合わせの返事を出しておるわけでありますが、昭和二十二年四月十七日、二十年が終戦でありますから、二年ばかりたっておるわけでありますが、まだ帰っていないということで問い合わせをいたしております。それに対する三菱重工側の回答の文書であります。たまたま私が手に入れました。
 〔委員長退席、愛知委員長代理着席〕
 それによりますと、趣旨は、あなたの問い合わせに対して御回答申し上げますという形になっておるわけでありますが、徴用解除が昭和二十年の八月三十一日、それから帰還の日が九月二十五日広島発、こうなっております。
 当時の記憶ですからはっきりしない。もう二年ほどたっていますから定かでない点もあるかもしれませんけれども、いずれにしても家族が帰っていないということについては、三菱重工からのこの文書によります返事でも明らかになっておるわけでございます。胸の痛む話でありまして、結局、広島を立ったけれども釜山まで着いていない。これはその後一人じゃありませんで、相当数の人が帰っていないということが明らかになりました。
 韓国では、今そういった遺族の方々五十名弱でありますが、遺族会をつくっていらっしゃいます。伝え聞きますと、年とった老母が村外れにまで、きょうは息子が帰ってくるんじゃないかと言って出迎えに出る。まだ帰っていない。しょぼしょぼとまた自分のうちに帰る。その繰り返しがあるというふうにすら私は聞いておりまして、本当に胸の痛む話でございます。
 事実として明らかになってまいりましたのが、約二百四十名、これは広島を立って、そしてどういうわけかわからないんでありますが、戸畑港からその当時の木船をチャーターしてそして出帆をした。運悪くその後で枕崎台風あるいは阿久根台風というものが襲っておるわけでございます。先ほど言いましたように、いずれにしても帰っていないということだけがはっきりしておるものですから、特にその当時、そういった朝鮮人の徴用工の皆さんを、指導員といっていろいろ指導しておられた方が、実際は過酷な労働を強いたということもあったんでしょう、反省の念に駆られまして、その有志がいろいろ捜索をされた。その結果、壱岐か対馬が、とにかくあの辺の島々で遭難をされたに違いない、そういうことで自費で調査をされました。もちろん韓国の関係団体の御協力もいただきました、御理解もいただきまして捜査をいたしました結果、壱岐の島に相当数の遺体が埋葬されておるということが明らかになって、発掘が始まったわけでございます。
 そういう経過でありまして、いずれにいたしましても、問題なのは、どういう経過かわかりませんけれども、正規のルートであります送還の方法がとられていない。例えば責任者が釜山まで行ってちゃんと送り届けるというようなこともしていないわけでありまして、その意味では手続上相当欠陥があったことはもう間違いがないわけでございます。第一、戸畑港というのもこれも送還のための指定をされた港じゃなかったというふうなこともあるわけでございます。
 そういうことで、私も本委員会で問題提起をいたしまして、去年大変御苦労なことでございましたけれども、厚生省は遺骨の調査団を出していただきました。そして去年に続きまして、ことしもまた六月に入りまして現地に出向いていただきました。簡潔でよろしゅうございますから、時間の関係もございますから、状況についてお聞かせをいただきたいと思うんです。

○入江政府委員 元朝鮮半島出身の徴用工の御遺骨の問題でございますが、今お話しのありましたとおり、厚生省は外務省と一緒になりまして、人道的な見地から昨年五月調査をいたしまして、その結果に基づきまして、ことしの六月十一日から二十二日にかけまして、引き続き再調査及び遺骨収集を行ったわけでございます。その結果、対馬につきましては、昨年確認いたしました箇所から四十五柱の遺骨が収集されました。なお、壱岐につきましては、昨年確認できなかった地域についてさらに発掘再調査いたしましたが、遺骨は発見できなかったという報告を受けております。
 なお、収集いたしました遺骨は火葬に付しまして、壱岐、芦辺町の納骨堂に安置、供養いたしております。
 この二回の調査を通じまして、かつて壱岐におきまして民間団体が収集いたしました遺骨等と対馬で収容いたしました遺骨の双方とも、朝鮮半島出身者の遺骨であるということは推定できるわけでございますが、今お話しのありました広島の三菱重工の徴用工の遺骨であるかどうかということは、残念ながら確認できなかったわけでございます。しかし、反面、発掘した遺骨の中にその徴用工のものが全く含まれていないと断定することもできないということでございました。
 今後、これらの地域から、当時遭難されました朝鮮半島出身者の方々の遺骨が発見される可能性というのは、この二回の調査によって、今後はないのではないかというふうに考えております。

○森井委員 去年の五月、ことしの六月、二回にわたって暑い中を調査をしていただきました。本当に、皆さんの御労苦には頭が下がる思いでございます。その結果、大臣、今お聞きのように、目的は旧三菱重工廣島機械製作所朝鮮半島出身徴用工の埋葬遺骨の調査ということで行っていただいたわけでございますけれども、三菱の者かどうかという確認はできなかった、そういうことでございます。
 ただ、厳然として残るのは、先ほど私が事実として申し上げました、広島を立って二百四十名ばかりの人が今もってまだ韓国に着いていない。このことはもう明確なんです。そして枕崎台風と阿久根台風という二つの大きな台風がある。その後一カ月以内に二回も大台風が起きて、そして多数の遺体が埋葬された、この事実だけはもうはっきりしております。
 私も、ここは神聖な委員会でありますから、やはり予断は申し上げません。三菱の者とはわかっていないわけでありまして、これはせっかくの皆さんの御苦労にもかかわらず、しかも目的をはっきりして行きながら、その部分については定かにできなかったという極めて残念な結果になっておるわけでございます。
 ただ、局長さん、朝鮮半島の方々の遺骨であるということについてはどうですか。

○入江政府委員 ただいま申し上げましたように、朝鮮半島出身者の遺骨であるということは推定できるわけでございますが、その三菱重工の徴用工の方の遺骨であるかどうかということは推定できないということでございます。

○森井委員 これは大事な部分ですから、やはり正確に答えていただきたいと思うんですよ。
 これはことしの六月二十六日の厚生省の発表、これで見ますと、推定とは書いてないのだな。「昨年の調査結果どおり、対馬については枕崎台風(昭和二十年九月十七日)、壱岐については阿久根台風(昭和二十年十月十日)の際に遭難した朝鮮半島出身者であると、極めて高い確度で推定し得るものである。」こうなっているのです。どうですか。

○入江政府委員 はしょって表現いたしまして、大変失礼いたしました。
 ことしの六月二十六日に援護局が発表いたしました文書によりますと、今お読みになりましたとおり、「対馬については枕崎台風(昭和二十年九月十七日)、壱岐については阿久根台風(昭和二十年十月十日)の際に遭難した朝鮮半島出身者であると、極めて高い確度で推定し得るものである。しかし、上記の収集した遺骨が、旧三菱重工広島機械製作所の徴用工のものであることを裏付ける資料は発見されていない。また、一方、これらの遺骨の中に当該徴用工のものが、全く含まれていないと断定するに十分な資料も発見されていない。」
 以上でございます。

○森井委員 そのとおりですね。ですから三菱のものかどうかはわからないけれども、朝鮮半島出身者のものであるというのは極めて高い確度で推定できるということですね。だからといって、私は無理をして結びつけようとは思わないのです。ただ、事実として日本を立った方々が今もって韓国に着いていない、このことは明確ですね。そして、その上に立ってたまたま、ほぼその時期に朝鮮半島出身者の方々の多数の遺体が打ち上げられて、それが現地の方々によって一たん埋葬された、こういうことだけは事実ですね。これは事韓国の皆さん方に関する問題ですから、非常に重要ですので一生懸命捜査されたのだと思う。去年どことしについて調査をされましたけれども、まあ厚生省としては、これは外務省も一緒に行っていただいたわけでありますが、両省としてはもう可能な限りの調査は済んだ、そういうことになるのですか。今後の調査の見通しについて、一言でいいですから答えてください。

○入江政府委員 昨年に引き続きましてことし参りましたときも、当時おられた方等を通じまして聞き込み調査等も行っておりますが、昨年収集いたしました資料以上の新しい資料は今回得られませんでしたので、これ以上の調査は行っても新しい資料は得られないというふうに私どもは考えております。

○森井委員 肉親のお骨は何としても欲しいという韓国の遺族の方々のお気持ちからすれば、もう日本政府としては去年どことし二回にわたって全力を尽くして捜した、しかしもうこれが限界でしょうということでありますから、私も御労苦を歩といたしましてやむを得ないことだと思っております。
 そこで問題は、遺骨の扱いですね。壱岐、対馬で皆さんが調査をされたもの以外に、広島のお寺に八十数体、これは冒頭に申し上げましたけれども、関係団体が、現地の役場や関係の在日韓国人の皆さんの団体などの御協力をいただきながら、別に安置をしてあるものとあわせての話でありますけれども、遺骨はちゃんと芦辺町に仮埋葬してあるわけですけれども、扱いとしてはどうなりましょうか。これはこっちから韓国に持っていくのですか、あるいは向こうから取りに来ていただくのですか。

○入江政府委員 今回調査いたしましたことにつきましては、外務省を通じまして韓国の方に説明してあるということでございまして、韓国政府から本件遺骨の引き取りの申し出がありますれば、その申し出の内容を外務省と協議いたしました上、人道的見地から韓国側の要望について前向きに対処していきたいというふうに考えております。

○森井委員 外務省にお伺いをするわけでありますが、去年一回目の調査がありましたね、そしてことしと二度おやりになったわけでありますけれども、事韓国人の方々の遺骨収集調査の問題ですから、やはり外交的に全然接触なしに行かれるということは万々考えられない。したがいまして、昨年とことし、恐らく正式の外交ルートとは言えないにしても、何らかの接触をお持ちになった上で現地調査をなさったものと思うわけでございますが、大使館側の感触はどうですか。外交の問題ですから、差しさわりのない範囲で結構でございます。

○高島説明員 御説明いたします。
 昨年の調査及びことし六月の再調査、発掘につきましては、それぞれ事前に外交ルートを通じまして韓国政府に説明いたしましたし、またその結果につきましても説明をいたしております。ただ、先方は我が方の説明を聞いたということでございまして、引き取りの問題についての意思表示は今のところございません。

○森井委員 私も韓国の皆さんの中で知り合いがございまして、例えば韓国原爆被害者協会、これは社団法人でございますし、厚生省は、韓国の被爆者の皆さんの渡日治療等についてこの団体と今までも接触をしておられるわけでありますが、そういった方々、あるいは先ほど申し上げました旧三菱徴用工の遺族会の方々、それぞれお話を聞いておるわけでありますが、今度日本政府が調査をしてくれたことについては非常に喜んでおられます。それでできることなら早く遺骨を引き取りたい。宗教上の観点からいけば、これが本当に自分の息子の遺骨だということはわからないわけでございます、しかしそれは、これが我々肉親の遺骨として何とかこの際引き取って、丁重に慰霊碑等もつくってそこへ葬りたい、こういう意思を私は聞いておるわけでございます。
 しかし、今外務省のお答えだと、まだ大使館側から何らの意思表示もないということでありますが、その点について、今申し上げましたように関係団体の皆さんの意向と若干食い違うわけですね。大使館側の方は意思表示がないということでありますが、ソウルにも日本の大使館があるわけですね。どういうわけで韓国側からの返事がないのか。非常にデリケートな問題だと思いますので答弁がしにくければ申し上げませんけれども、今申し上げましたように、日本の大使館からも現地の団体の皆さんの話を聞くことぐらいはできるのじゃないか。もちろん内政の問題でありますからデリケートな問題はありますけれども、大使館の仕事の一つとしては私はできなくはないのじゃないかという感じもいたしますが、いずれにいたしましても、もう去年調査に行ってまだ全くその返事がこないというのも妙な話でありまして、その点について外務省としてこれから何か方法はないのか、このまま韓国の返事をお待ちになるのか、そこらについてはどうでしょう。

○高島説明員 御指摘のとおり、この発掘いたしました御遺骨につきましては、韓国の方々のものであることは極めて高い確度で推定されるわけでございますので、最終的に韓国において安置されることが望ましいというふうに私どもも考えております。したがいまして、本日の委員会での先生のお話しも踏まえまして、私どもとしてはもう一度韓国政府に打診してみたいと存じます。

○森井委員 厚生省にお伺いするわけですけれども、たしか五月二十九日と聞いておりますが、遺族会の盧長寿さんという方がいらっしゃいますね。この人は今広島のある病院に入院をしておられまして、この人自身も被爆者なものですから今治療を受けておられるわけでありますけれども、この人とお会いになりましたね。どなたか係官を派遣されまして御意向を聞いたというふうに聞いておりますが、その模様について、差し支えなければこれもお知らせ願いたい。

○入江政府委員 広島の病院に入院をしておられました盧長寿さんには、ことしの四月下旬だったと思いますが、外務省と厚生省の担当官がお伺いしまして、昨年の壱岐、対馬におきます調査結果を御説明しますとともに、ことし引き続き再調査、遺骨収集を行いたいということを申し上げまして、何か御希望がございますかということを申し上げたわけですが、日本政府が昨年に引き続いて今回そういう努力をしてもらうことは非常に感謝しているというお話がございまして、ことしの調査にはぜひ現地に行きたいということでございましたが、現にことし六月の調査には、この盧長寿さんと五十一年に八十余柱の遺骨を収集されました深川宗俊さん、御一緒に壱岐、対馬両方においでになりまして、現地で作業を目前でごらんになって、同胞の遺骨収集についてこれだけ努力してもらって、同胞として感謝にたえないということを団長にお話しされたという報告を受けております。

○森井委員 私も実は会ったのですけれども、私には、今あなたが言われたようなことに加えまして、遺族会としては、三菱の徴用工の遺骨として受け取りたいというところまで話しておられました。そこで問題は、どうも三菱、三菱と言って大変恐縮なのですけれども、先ほど言いましたように因果関係はまだこの遺骨については明らかにされておりませんが、いずれにいたしましても、広島の法務局には、大方二千名近い方々の未払い賃金が、三菱によって供託をされているという事実があるわけでございます。あれやこれや結びつけますと、やはり三菱と言わざるを得ないという感じがするわけです。
 そこで外務省にお伺いしたいわけでありますが、もともとこの調査も、三菱の徴用工の遺骨じゃないかということで調査をしていただいたわけでございますが、因果関係を明らかにされなかったわけでありますけれども、どうでしょうか、突っ込んで三菱と話をする必要があるのではないか。理由は、もう既に外務省は一度、遠藤北東アジア課長の時代でしたけれども、三菱の方を役所へ呼ばれて意見も聞いておられる。そのときの話を私も間接的でありますけれども聞きましたけれども、そうかたくなな態度じゃない。それから遺族の方々も、最初は相当多額な補償要求というのを出しておられましたけれども、先ほど申し上げました盧長寿さん、あるいは韓国原爆被害者協会の会長さんなどの話を総合いたしますと、戦後ここまでたったし、この際目に角を立てて補償、補償と言わなくても、話がつくものなら折り合いたいと。実はお金も若干要るわけでございます。例えば遺骨を韓国にお届けをいたしましても、せめて慰霊碑ぐらいはつくりたい。それから、お骨を持っていけばせめて遺族の方々等にお線香代ぐらいは出したい。これは国の予算では出せないと思うわけでございます。そういたしますと、やはりこの際、すべての問題の解決ということで、補償とか何とかぎすぎすした話をいたしますと難しくなりますけれども、三菱さんもやはり韓国で品物をたくさん売っておられるわけですし、今申し上げましたように既成事実としてまだ帰っていないという徴用工の方があることも事実でありますし、そして法務局には、未払い賃金がその当時のお金にして十八万円弱、今の日本円に直すと恐らく三億を超すでしょう。それはまだ厳然として残っているわけでございます。ですから、そういったことを考えると、先ほど言いましたように、いろいろ議論はありましょうけれども、せっかく韓国側の諸団体も、もう一括解決をしていただけるならば金額の多寡はともかくとして解決をしたい、裁判だ何だということをしないと言っておるわけでありまして、先ほど言いましたように、直接ではありませんが、日本側の三菱重工側もそうかたくなな態度じゃないという形になれば、この際外務省どうでしょうか、今申し上げましたような事情を勘案をしていただいて、もう一回三菱重工側の意向等をくみ上げていただく、そして韓国の関係団体とも、これは私どももお手伝いはいたしますけれども、何らかの形で接触を持っていただく。今まで外務省は関係者の方々と持っていただいておるわけですから、この隠そういうふうな努力をする必要があると思うのですけれども、いかがでしょう。

○高島説明員 御指摘のとおり、昨年及びことし調査、発掘いたしました御遺体と三菱重工との因果関係というものは明確にはなっていないわけでございますけれども、しかし、二百数十名の三菱重工徴用工の方々が、帰国に際して遭難された可能性は、当時の状況から極めて強いということも御指摘のとおりでございます。そういう事情から、今先生が御指摘になられました例えば慰霊碑の建立費あるいはお線香代、こういったものにつきまして、外務省の立場といたしまして、三菱重工がそういう費用の負担を負うべきであるということを判断する立場には必ずしもないことはこれは申し上げざるを得ないわけでございますけれども、しかし、遺族の方々も三菱重工側と話し合って最終的にこの問題に決着をつけたいというお気持ちは、今の先生のお話しでもよくわかりましたので、本日のお話を踏まえまして、私どもも、外務省のという役所の立場を離れまして、三菱重工側に、どういうことができるのか、これは聞いてみたいと思います。

○森井委員 その場合、厚生大臣も、今お聞きのような事情でございますから、側面から、あるいは場合によっては政治家渡部先生としてアドバイス等をいただけるかどうか、これはぜひ私もお願いしたいと思っておりますし、その点についての大臣のお気持ちを承りたいと存じます。

○渡部国務大臣 今外務省の担当者からもそのような話がありましたので、外務省でいろいろのことをやってくれると思いますが、もし私で役に立つことがあれば、必要に応じてお役に立ちたいと思います。
○森井委員 終わります。(拍手)

 第103回国会 衆議院社会労働委員会 第1号 本国会召集日 昭和六十年十一月十四日(木曜日)午前十時一分開議

【発言順】
 委員      森井 忠良
 北東アジア課長 渋谷 治彦
 厚生省援護局長 水田 努
 厚生大臣    増岡 博之

○森井委員
 次に、遺骨送還の話であります。
 既に厚生省には、五十八年、五十九年、二年間にわたって壱岐、対馬の現地調査をしていただきました。あの終戦直後、母国へ帰ろうとされた徴用工の方々が枕崎台風、阿久根台風などなどによって遭難をされて相当数の方が亡くなられた、それに基づいて明確に、非常に高い確度で調査をしていただいたわけでありますけれども、依然としてまだ遺骨が母国に帰っていない。私が申し上げたいのは、その一点であります。
 つまり、二回にわたって調査をしていただきまして、そして現地の壱岐、対馬で一部民間団体が発掘をされて、もちろん役場の立ち会いのもとにされて、事実上厚生省の手が省けたという点もあるわけですけれども、いずれにしても、結論からいけば百二十数体もしくは百三十柱前後の遺体が明らかになり、そしてそれぞれの手で埋葬され、今具体的に言いますと芦辺町の納骨堂それから広島県福山市の福泉坊、二カ所に分けて仮安置がしてあるままであります。申し上げましたように、調査は去年終わりました。もちろん調査に行く前もこれは外交ルートを通じて韓国側の了解を得、それから調査が終わりまして、その結果も外交ルートを通じて韓国側に報告をするという形になっておるわけであります。
 私が漏れ承っておるところによりますと、ことしだけでも二回にわたって韓国側と外交的な話し合いが行われた、公式か非公式かは別にいたしまして、そういう形になっております。本当に遭難をされたのがわかっておって、しかも政府の手で、これは恐らく国内では初めてだと思うのでありますが、発掘調査が行われた。にもかかわらず、依然としてまだ我が国内に眠っておるということは、私は人道上本当に気になるわけであります。まず外務省にお伺いしたいのでありますけれども、一体これは、外交交渉でおくれておるのはどこに理由があるのですか。

○渋谷説明員 この問題につきましては、我が方の在韓国大使館を通じまして韓国側の意向等を照会しておりますけれども、残念ながら、目下のところ回答がございません。

○森井委員 先例もありまして、かつてB級、C級の軍人の戦犯の方々を送り帰したという例があるわけでありますが、これはちゃんと金浦空港などで、金浦だけではないけれども、引き取ってもらって、そして大使等を通じて一定の慰霊の措置がとられてきておりますね。聞きますと、韓国政府も、自国のそういう戦争の犠牲者でありますから、したがって、韓国政府もそれぞれ慰霊の措置をおとりになったと聞いておるわけであります。
 今回、回答がないと言われましたけれども、二回にわたってことしても一応接触しておられるわけでありますから、これは外交交渉の機微に触れる問題ですから私はこれ以上は質問をいたしませんけれども、非常に延引しておるということについては遺憾でありますし、これは私の想像でありますけれども、遺骨だけ持っていっても、そうですかと引き取っていただけるにはやや人道上の配慮に欠ける。例えば埋葬に要する費用でありますとか、遺族に対する、日本で言えばお線香代、お灯明料のようなものがやはりついていってほしいという当然の気持ちもあると私は思うわけであります。
 申し上げるまでもありませんが、その大部分は強制的に日本に連行された徴用工の方々であります。そこのところに視点を当てれば、私は、韓国側からどういう申し出があったかわかりませんけれども、一年以上この問題について韓国側からまだ全然回答がないということについては、今申し上げましたが、そういった埋葬料等のいわゆる財政的な問題、さらにまた、韓国側の遺族の方々のお気持ちも大事にしなければなりませんから、そういったお気持ち等があると思うのです。
 ただ、ここで明らかにしておきたいのでありますが、日本におきます韓国人の方々の団体、例えば居留民団の方々、私もいろいろ話を聞かしていただくわけでありますが、やはり一刻も早く母国へお帰し願いたい、そういう関係団体のお気持ちもまたはっきりしておるわけであります。したがって厚生省としては、そういった観点を踏まえて今どういうお考えなのかお伺いしたいと思います。

○水田政府委員 この問題につきましては、一昨年の三月、先生から、ひとつ人道的な立場から対処するようにということで、先ほどお話がございましたように、外務省と厚生省が協力し合いまして壱岐、対馬で調査をし、四十五柱の遺骨を収集いたしまして、民間で既に収集されております八十柱と両方合わせまして、かつての戦犯の遺骨の送還等の場合と同じく、外務省の御努力によりまして一日も早くこの御遺骨が祖国の地に帰れるようにということで鋭意外務省の方の御努力を願っているところでございまして、今彼安置されております二カ所の寺院については、私どもがいわゆる粗末に当たるようなことがないように関係の自治体を通じて十分配意を今後もしてまいり、先生の御指摘のとおり一日も早く御遺骨が祖国に帰れるように願っているものでございます。

○森井委員 外務省、回答がありませんということでしたけれども、申し上げましたように、これは外交の機微に触れますから、これ以上は私は言いたくないのですけれども、いつまでも放置しているのも困るわけですね。事前に韓国側の了解を得て現地調査をしたという経過もあるし、調査の結果もきちっと報告してあるわけでありますから、したがって、多分私が想像したような問題があって問題が前に進まないのじゃないかという感じもしますけれども、いつまでも待つわけにいかない。したがって、これからどうしようとされるのか、この点について外務省にお伺いをしたい。
 それから厚生省に対しては、先ほど言いましたように、いつまでも二カ所に分かれて、しかも仮安置されているのはまずいという気持ちがするのだけれども、その点、率直な感想だけ聞かしていただきたいと思います。一言でいいです。

○渋谷説明員 外務省としても、この問題は人道問題として重視しておりますので、委員御指摘の方向で引き続き努力してまいります。

○水田政府委員 私どもも、率直な気持ちを申し上げますと、いつまでも日本で仮安置という姿にしておくのは、御遺族のお気持ちを思いますと適切なことではないと考えておりますが、やはりこれは両国間のデリケートな問題があるものですから、それ以上の措置を、本安置することによって祖国に帰れないというような印象を与えるようなこともやはり問題だと思っておりまして、これは一日も早く祖国に戻すという形が一番至当な姿ではないかと考えております。

○森井委員 大臣、最後に、この問題もうお聞きをいただいたと思うのでありますが、大臣としての一層の御努力をいただきたいと思うのでありますが、いかがでしょうか。

○増岡国務大臣 この問題は前から言われておりまして、担当者、厚生省、外務省、それぞれ鋭意努力をしてくれたと思うわけでございます。しかし、何分にも年月がたっておることは大変申しわけないことでありますので、人道上の見地から、今後この問題解決のために鋭意努力をいたしたいと思います。

 第112回国会 参議院決算委員会 第2号 昭和六十三年四月十五日(金曜日)午前十時三十五分開会

【発言順】
 委員           峯山 昭範
 国務大臣
(内閣官房長官)      小渕 恵三
 外務大臣官房審議官    谷野作太郎
 厚生省保健医療局企画課長 萩原 昇

○峯山昭範君 それでは次に、在韓被爆者の問題についてお伺いをいたします。
 在韓被爆者の問題というのは非常に悲惨な問題でありますし、我々にとっては何となく忘れ去られていくような問題であります。実はきょうの質問に当たりまして、一九八六年十月に出されております日本弁護士連合会が調査をいたしました在韓被爆者問題第一次報告書というのを読ませていただきました。それで、これを読ませていただきましたら、本当にもう私たちといたしましてはこの被爆者の皆さん方にどういうふうに対応したらいいのかということで、私たちの気持ちとしてできる限りのことはしなくてはいけないなということをしみじみと感じているわけであります。
 私も、実は一昨年でありますけれども、広島へ参りまして、八月のちょうど夏でありましたが、大会のときに現場でいろんな方にお会いをいたしました。そしていろんな御意見もお伺いしたわけでありますが、非常に大事な問題がたくさんあります。きょうは順番にお伺いしていきたいと思うのでありますが、まず初めに官房長官、在韓被爆者の問題についての御認識、今どういうふうな御認識をお持ちか、その点を初めにお伺いしておきたいと思います。

○国務大臣(小渕恵三君) 数多くの朝鮮半島出身者が過ぐる大戦の折に被爆をされまして、なお多くの被爆者が韓国内で後遺症に苦しんでおられることにつきましては、心からお気の毒に思う次第でございます。しかし、この在韓被爆者問題につきましては、現在そうした方々が韓国人であるということで第一義的には韓国政府が国内問題として処理すべき問題であり、純粋法的に言えば、日韓間の請求権の問題は一九六五年の日韓請求権協定第二条により解決済みであるというのが我が国の立場でございます。しかし、今、峯山委員仰せのとおり、極めて人道的な性格の問題であることにかんがみまして、具体的な協力はどのようなことが可能であるかということにつきましては改めて検討いたしていきたいと思っております。具体的には、先般の日韓外相定期協議を受けまして実務者のレベルの調査団を派遣いたしまして、韓国側とあり得べき協力につき話し合いをさせていきたいというのが現在の政府の考え方でございます。

○峯山昭範君 官房長官、実は私、この質問に当たりまして質問の通告をたくさんしたわけでありますが、今官房長官からお話ございましたので、端的にきょうは質問しておきたいと思います。
 それは、実は新聞でもいろいろ報道されているわけでありますが、広島、長崎の被爆者の皆さん方というのは、これは正確じゃございませんが、日弁連の報告でも、韓国原爆被害者協会の話なんですけれども、生存被爆者は約五万人のうち、解放後約八千人が日本にとどまり、無事帰国できた者は約三万人、その後いろんなことや被爆が原因で多くが死亡して、現在約二万人の被爆者がいるはずであるというふうに推定をいたしております。
 そこで、今官房長官もおっしゃいましたように、この問題は、結局補償要求の問題とかいろんな問題等、日韓条約ですべて請求権等は消滅しているということも私は承知の上であります。しかし、実は官房長官も御存じのとおり、日弁連の報告の中にもありますが、一九七〇年に孫振斗さんという方が韓国から密入国をいたしまして、被爆者健康手帳というものの交付を求めた。ところがそれは却下されるわけですね。ところがこの問題は裁判になりまして、最高裁まで行きまして国が敗訴をいたしまして、そして孫振斗さんの勝訴になったということがあるわけです。これは実は日弁連の報告の中だけかと思いましたら、それだけじゃなしにその他の新聞報道の中にもこのことと同じことが書かれておりますので、きっとこれは間違いないであろうと私は思います。
 したがって、最高裁の判決は日本に現住する外国人被爆者にも原爆医療法を適用せよ、こういうふうに判決したということになっておりますから、このとおりだろうと私は思いますが、そういうことをずっと考えてみますと、私、きょうお願いしたいのは、一つは今までずっと続けてまいりました渡日治療というのがあります。これは韓国の都合でと言われておりますが、今打ち切りになっているわけであります。これを何とかもう一回復活できないかというのがまず第一の質問であります。

○政府委員(谷野作太郎君) 先生も御承知のとおりでございますけれども、ただいま仰せの渡日治療の問題につきましては、実は日本側では何とかこれを継続したいという方向で、人道的な見地からいたしましてもそれが望ましいことであることは言うまでもございませんものですから、厚生省の課長方がソウル等に行かれまして実は私どもの気持ちを、当時、昨年でございましたか、韓国側に訴え続けたわけでございます。しかしながら、韓国政府はその当時におきましては、いわゆる渡日治療につきましては、必要な者の治療はほぼ終わったのではないかという認識、そして第二点といたしましては、韓国の国内におきましても治療の体制は整備されてきておる、したがって国内での治療が可能になったと。この二つの理由によりまして、私どものお話し合いにもかかわりませず延長は必要がないというのが当時の韓国政府の立場でございました。
 しかしながら、その後最近に至りまして先般、先ほど官房長官から御答弁申し上げましたように、先方の外務長官から再びこの問題の提起がございまして、被爆者の援護につきまして日本側に恐らく相当な蓄積された経験もおありであろうから何とか協力してほしいというお話が改めて新しい政府からございまして、これを受けまして官房長官から御答弁ありましたように、私どもといたしましても何とか調査団の派遣も含めて御協力したいということでございまして、今、関係省庁とその辺の細目を協議いたしておるところでございます。

○峯山昭範君 そのとおりでしょうね。
 それで、これは官房長官、私もいろいろと調べてみたんです、何で打ち切りになったのか。そうしましたら、これはいろんな資料にも出てくるわけでありますが、要するに韓国側の表向きの理由は今お話しのとおりです。ところが実際は、重症の人や寝たきりの人やそういう人たちが、経済的な理由によって、とてもじゃないけれども日本まで来れないという人が非常に多いようです。しかも、この渡日治療の場合は、日本での治療費と滞在費というのは日本側が全部面倒を見ているようでありますが、渡航費とか、要するにいろいろ来る費用は全部韓国側が負担をする。そういうことになってまいりますと、非常に韓国の内部事情にもよる。しかも原爆の被災者だけではなしに、韓国の中にはベトナム戦争とか南北朝鮮戦争によるいわゆる被災者もたくさんいるわけです。そうしますと、そういう人たちと両方いろんな問題がたくさんあるものですから、とてもじゃないけれども対応できないような状態にある。それが実情のようであります。
 そこで私は、こういういろんなことを考えてみますと、実はこれはおととしの六月八日の新聞報道の中にもあるわけでありますが、これからの外相会談の中で出てくる話だろうと思うんですが、昭和五十四年に両国の間で話し合ったときに、一つは韓国の医師の日本での研修、それからもう一つは専門医の韓国への派遣、そして三番目が在韓被爆者の渡日治療、この三項目が合意されて、そしてその三項目めだけが実際は実施されているわけです。そういうふうな意味では、日本のこの治療のために、この一項目め、二項目めのこういう問題も日本側としては積極的に推進をしたらどうかというのが私の考えであります。
 それからもう一つは、韓国は本当に我が国にとりましてはお隣の国なんですから、相当予算をつぎ込んでも私はこの問題を解決するために一生懸命やってもらいたいという気持ちが強いわけでございます。もう時間の関係もありますから全部言ってしまいますけれども、その二つの問題と、それからもう一つは、渡日治療についても今度は外相会談で新たな援助の方向が検討されるわけですから、いろんなことを細かく突っ込んでお話し合いいただきたいというのが一つ。
 それからもう一つは、これは韓国の国内に原爆被災者のいわゆる治療をする病院をつくったらどうか。これは私が初めて言うんではなしに、前々からあるわけです。これは予算の問題、いろいろあると思いますが、提案する人たちは、そんな大きな病院でなくてもいい、小さな病棟、五十床ぐらいの病院でもいいというお話もあるわけでございまして、そんなにたくさん予算がかかるわけではございませんので、そういう病院をつくっていただいたらどうか。そして、その病院の運営の費用とかそういうようなものも日本政府が出す、そのくらいのことをやったらどうか。この日韓条約でいわゆる補償問題は解決しているとはいえ、これは日本の国として、明治以来日本の政府がとってきたいろんな問題と絡み合わせますと、とてもじゃないがそんな問題だけで解決できる問題ではありませんけれども、そういうことまで踏み込んでやるべきではないかなということをしみじみと私は感じているわけであります。したがいまして、そういう問題につきまして、まず初めにそれぞれの係の省庁の方から御答弁をいただきまして、最後に官房長官のお答えをいただきたいと思います。

○政府委員(谷野作太郎君) あるいは後ほど直接の御担当であります厚生省の方からいま少し詳細な御答弁があるかと思いますが、ただいま先生仰せの幾つかの点につきましては、そういう点もまさに踏まえまして、実務者が先方に参りまして、先方の考えておるところが那辺にあるか、いま一度じっくり協議をいたしまして私どもの考え方を固めたいと思っております。
 ただ、その中で幾つか御指摘がありました例えば病院の建設の問題でございますけれども、この問題につきましては、関係者の方から強い要請があることは私ども承知しておりますが、政府の部内の中にある議論といたしましては、韓国のような中進国以上のレベルに達した国に対して、いわば経済協力の言葉でいいます無償の援助で病院を建設するということについては政府の中でも強い異論もございまして、実情はなかなかそういうところで議論がいろいろ錯綜しておるというところでございます。
 それから、渡日治療にかかる費用につきましても、厚生省の方から御答弁があるかと思いますが、横並び等の問題も厚生省の側でおありになるようでございまして、渡日治療の費用を日本政府が負担することについては、なかなか韓国の御要望にはそのままこたえられないという問題があるようでございます。
 ただ、そのほかの例えば先生が仰せになりました、医療面での研修とか技術指導とか若干の機材供与ということにつきましては、私どもも先生のお考え等も十分踏まえまして、実務者が先方に参りましてじっくり先方と協議をしてまいりたい、かように考えております。

○説明員(萩原昇君) 厚生省といたしましても、渡日治療の継続の問題につきましては、今外務省の方からお話のありましたように、こちら側としては延長に応ずる考えもあるということでお話をしたわけでございますが、結局韓国側の事情で延長に至らなかったものでございます。
 原爆専門の治療を行う病院の建設につきましては、私どもの厚生省の立場から申し上げますと、現在の被爆者関係の予算は国内の医療及び諸手当の給付のためのものでございまして、これについて対応することは非常に困難でございます。外務省からの御答弁は、外務省の関係の費用での御答弁があったものでございますので、私どもも外務省とよくその立場をお聞きしながら対処してまいる必要があると思っております。
 それから、渡日治療の費用につきましても、外務省からもお答えがありましたけれども、他地域との均衡の問題もございますので、現在これに対して対応することは非常に困難であるというふうに考えております。

○峯山昭範君 官房長官がお答えになる前に一言。
 それは外務省とか今厚生省のお答えは、いわゆる従来の、そういうことなんですね。そういうことだから私はきょう質問しているわけでございまして、渡日治療も韓国側の都合によってと言っていますけれども、実際は要するに、日本側の滞在費とか日本での治療費とかそれは日本で出す。だけれども、日本に来る旅費とかいろんなものは全部韓国持ち、そういうふうになっていますから、非常に今は向こうも厳しいわけです、自分のところの予算の関係でしょうから。そこら辺のところをもう一歩何とかならないかなという問題があるわけです。ですから、これも非常にアフターケアの問題もありまして、日本で治療して、あと向こうへ行ってどうしようもないという問題もありますから、これはそこら辺のところをもう一歩何とか踏み込んでいただきたいなということが一つあるわけです。
 それから病院の問題も、韓国は発展途上国と違って先進国の仲間に入りつつあるような国ですから、いろんな問題もあるかもわかりませんが、私は韓国という国は日本の将来にとっても大変大事な国だと思っております。そういうような意味で、もう既に昔のことは昔のことと言って片づけてしまうには余りにもいろんな問題が残っている。やっぱり殴られた人というのはいつまでも覚えているわけです。ですから、そういうような意味では、日本としてはできるだけの誠意は見せ、できるだけのことはしなくてはいけないんじゃないかなと思っているわけでございまして、そういうことも踏まえまして、ただ予算がないからあかんというんじゃなしに、もう一歩踏み込んだ考え方、検討というのが必要なんじゃないかなということを私は感じるわけです。そういうような意味で官房長官のお答えをいただきたいと思います。

○国務大臣(小渕恵三君) 具体的事案につきましては、一応外務省、厚生省、現時点で御質問にお答えするとすればそういうことかと存じますが、韓国側も盧泰愚新政権が誕生されまして、そして我が方も宇野外務大臣が参られましたときに、改めてこの問題を政府ベースの問題として考えようということで調査団を派遣するということになったわけでございますので、今先生が御指摘をされた諸点につきましてどう解決したらよいかということを十分念頭に置きながら、調査団が相手方との話し合いを進めるようにいたすように考えていきたいと思っております。
 ただ、渡航費の問題等につきましても、立派な独立国として存在をしておりますので、なかなか独立国家同士のそれぞれメンツとかそういうものもございますので、そういうところも含めて、単に財政的な面だけで考えられるかどうかという点もございますので、あらゆる諸点から御意見の趣旨は踏まえながら検討していきたいというふうに思っております。

○峯山昭範君 それでは最後に、北方領土の墓参の問題についてお伺いをいたします。
 非常にこの問題は頭の痛い問題であります。いろいろといろんな経過はありますが、昭和五十一年以来中断しておりました墓参が一昨年ですか、六十一年からまた開始になりまして、六十一年、六十二年と実現をしているわけでございますが、ことしは大体どういうふうになりますでしょうか。

 第112回国会 衆議院内閣委員会 第7号 昭和六十三年四月二十一日(木曜日)午前十時二十分開議

【発言順】
 国務大臣(内閣官房長官)小渕 恵三
 委員長         竹中 修一
 委員          田口 健二
 内閣総理大臣官房
 外政審議室長      國廣 道彦
 委員          柴田 睦夫
 外務省アジア局長    藤田 公郎

特定弔慰金等の支給の実施に関する法律案
    〔本号末尾に掲載〕
    ─────────────
○小渕国務大臣 ただいま議題となりました特定弔慰金等の支給の実施に関する法律案につきまして、その提案理由及び内容の概要を御説明申し上げます。
 この法律案は、昨秋成立を見た議員立法、台湾住民である戦没者の遺族等に対する弔慰金等に関する法律に規定する弔慰金または見舞い金の支給の実施のための必要事項を定めるものであります。
 台湾住民である戦没者の遺族等に対する特定弔慰金等の支給につきましては、人道的精神に基づき、昭和六十三年度から速やかに必要な財政措置を講ずること、支給実施の事務は対外的配慮から日本赤十字社をしてつかさどらせることとされております。また、先般、昭和六十三年度予算編成に当たり、特定弔慰金等は戦没者等または著しく重度の戦傷病者一人当たり二百万円とすること、これを交付国債により一回払いで支給することといたしましたが、これを実施するためには、国債発行権限の付与、日本赤十字社への裁定権限の委任など新たに立法を必要とする事項がございます。そこで、このような支給実施のために必要な規定につきましてここに成案を得ましたので、今回、本法律案を提出した次第であります。
 次に、この法律案の概要について御説明申し上げます。
 第一は、特定弔慰金等の支給を受ける権利の裁定についてであります。
 特定弔慰金等の支給に当たっては、請求者の申請を待って、裁定という行政行為によって権利の存在を確定することとしております。また、この裁定の権限は、内閣総理大臣に属しますが、これを日本赤十字社に委任することとしております。
 第二に、特定弔慰金等の額及び記名国債の交付についてであります。
 特定弔慰金等の額は、戦没者等または著しく重度の戦傷病者等一人につき二百万円とし、記名国債をもって交付することとしております。この国債については、無利子とし、政府は、その償還の請求を受けたときには、直ちに全額について償還しなければならないこととしております。また、政府は、対象者にこの国債を交付するため、必要な限度で国債を発行することができることとしております。
 第三に、請求期限及び償還請求期限についてであります。
 特定弔慰金等の支給を受ける権利の請求につきましては昭和六十八年三月三十一日までに、交付国債の償還請求については昭和七十年三月三十一日までに、それぞれ行わなければならないこととしております。
 第四に、日本赤十字社の代理受領等についてであります。
 この法律によって交付される国債については、日本赤十字社が特定弔慰金等の支給を受ける権利を有する者の委任を受けて、その交付を受け、これを保管し、その償還の請求をし、償還金を受領することとしております。
 また、政府は、このような委任を受けた日本赤十字社以外の者に対して国債を交付し、またはその償還をすることができないこととしております。
 以上のほか、特定弔慰金等の支給対象者の範囲、特定弔慰金等の支給を受ける権利の承継及びその処分の制限、交付国債の処分の制限等について政令にゆだねる旨の規定及び日本赤十字社に委任した業務の監督に関する規定等を置いております。
 以上がこの法律案の提案理由及びその内容の概要であります。
 何とぞ、慎重御審議の上、速やかに御賛同くださいますようお願いいたします。

○竹中委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。
    ─────────────
○竹中委員長 これより質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。田口健二君。

○田口委員 私は、ただいま議題になりました特定弔慰金等の支給の実施に関する法律案について幾つかお尋ねをいたしたいと思います。
 まず、この法律案の趣旨は、今官房長官の御説明にもありましたように、昨年の百九国会において全会一致をもって成立をいたしました台湾住民である戦没者の遺族等に対する弔慰金等に関する法律に基づいて提案をされておるというふうに理解をいたしておりますし、そういう意味では、前回の法律の趣旨というものを改めて理解をしておく必要があるだろうというふうに思っております。
 昨年、本委員会において委員長の方から趣旨説明がありました内容について若干引用させていただきたいと思います。
 御承知のように、第二次世界大戦において多数の台湾の人々が日本の軍人軍属として動員され、戦死されたり負傷されたりした方も少なくないのでありますが、日本人の軍人軍属であった戦没者の遺族及び戦傷病者に対しては、戦後、戦傷病者戦没者遺族等援護法等の制定や軍人恩給の復活により、年金または一時金等が支給されております。
 しかるに、台湾の人々は、戦後、日本国籍を失った結果、援護法または恩給法が適用されないこととなったのであります。
 しかしながら、第二次世界大戦中、日本人の軍人軍属として動員された台湾の人々、特に戦没者の遺族や重度の戦傷病者の方々に対し、現状のままで推移することは、人道的観点からも許されることではないと存じます。
 したがいまして、この際、これらの方々に対し、弔慰等の意を表する趣旨で、弔慰金または見舞い金を支給するための法律を制定することが急務であると考え、ここに本起草案を作成した次第であります。
 というふうに説明がされております。
 なおまた、この法律が成立をするに当たりまして、本委員会では附帯決議が付されております。
 私は、この法案の趣旨並びに附帯決議の趣旨に従いまして、確認の意味でこれから幾つかの点についてお尋ねをいたしたいと思います。
 第一に、台湾住民である旧軍人旧軍属であった方々の数はどのくらいいらっしゃるだろうか、そのうち、今回の支給対象になる戦没者及び戦傷病者の数についてまずお伺いをいたしたいと思います。

○國廣政府委員 ただいま御質問のありました台湾住民であった日本の旧軍人旧軍属の数でございますが、台湾籍旧日本軍人軍属の総数は約二十一万人と聞いております。
 続きまして、今回の支給対象者の数でございますけれども、本件弔慰金等の支給対象者となる台湾住民戦没者及び重度戦傷病者としまして、現在までに日台双方で確認されております数は約三万名でございます。
 このほかにも、台湾側からは若干対象者がまだいるというふうなことも聞いておりますが、正確な数字の把握は、今後の台湾現地における調査を待たなければならない次第でございます。

○田口委員 次に、法第二条第一項に「著しく重度の障害の状態にあるもの」というふうに書いてあるわけですが、これはどの程度の障害を示すものか。さらに同項で「それぞれ政令で定める者に対し、政令で定めるところにより、これを行う。」というふうにありますけれども、この政令とは一体どういう内容のものであるか、お知らせをいただきたいと思います。

○國廣政府委員 ただいま第一の御質問の点につきましては、「著しく重度の障害」と申しますのは、人道的見地から戦没者と同様に配慮しなければならない程度の重度の障害と考えております。具体的に言いますと、恩給法に別表がございまして、その別表の中の特別項症から第四項症までの障害に該当する者を対象と考えております。
 第二の御質問の点につきましてお答え申しますが、政令の内容としましては、端的に申しまして、第一に支給対象者となる戦没者の遺族の範囲でございます。それから第二に、著しく重度の戦傷病者としてどの程度の障害の者を対象とするかということでございます。第三番目に、対象遺族につきまして優先順位をどのようにするかということでございます。また第四に、受給権者が受給資格を失う場合など、こういうことも定める必要があると思っております。
 その他若干ございますが、主な点は以上でございます。

○田口委員 同じく第二条の第二項に、「支給を受ける権利の裁定」として、「内閣総理大臣が行う。」ということになっています。これは当然のことであろうと思うのでありますが、私は今回の法案の趣旨から考えまして、裁定に当たっては、余りに法律的といいますか、しゃくし定規的に考えるのではなくて、十分法律の趣旨を生かして裁定というものは実施されるべきだと思いますけれども、その辺についてのお考えはどうでしょうか。

○小渕国務大臣 本件の措置につきましては、御指摘のとおり人道的立場に立って我が国の誠意のしるしとして支給するものでありますので、日赤におきます受給権の裁定に当たりましては、今委員御指摘のような趣旨を十分踏まえまして、弾力的にこれが行うことのできるように今後指導してまいりたい、このように考えております。

○田口委員 次に、第三条の請求期限でありますが、法案によれば「六十八年三月三十一日」ということになっています。ある程度の期限を付すのは当然のことであろうと思うのでありますが、これまた法案の趣旨からいいまして、今後どういうふうな作業手続になるのかよくわかりませんけれども、一日でもこれに間に合わなかった場合には却下ということになるのか。「六十八年三月三十一日」とした根拠をひとつお知らせいただきたいと思います。

○國廣政府委員 お答え申し上げます。
 国内の援護関係の各種特別交付金等はほとんど三年の消滅時効に係るものとしておりますが、本件は御高承のとおり海外の居住者に対する支給でありまして、台湾各地に居住する受給資格者に日本政府の今回の措置を承知させるのにも時間が必要であろうと考えます。したがいまして、申請漏れが生じないよう考慮しまして、三年ではなくて約五年間の請求期限にしたものでございます。ここに今御指摘の点に対する私どもとしましての配慮を御賢察いただきたいと思います。
 それでもなおかつ請求期限が過ぎた後のことにつきましては、法の建前としては特定弔慰金の支給を請求することはできないということでございますが、特に本件が相当有名にもなっております後にさらに五年ということにしておりますので、その最後の段階で問題が生じるようなことは万々ないと思います。ないようにさらに努力していきたいと思っております。

○田口委員 続いて、第四条の記名国債の償還請求が、同じように「七十年三月三十一日」という期限が付されておるわけでありますが、この辺の期限の設定の根拠についてもお尋ねをいたしたいと思います。

○國廣政府委員 本件におきまして発行されます国債は、請求者の希望の時期にいつでも全額償還請求できるという、極めて請求者の便宜を図ったものでございます。この措置は臨時の措置として行われるものでありますので、支給事務が無期限に続くという仕組みにすることはできません。償還請求にも何らかの期限をつけることが必要でございます。
 そこで、その期限の長さでございますが、償還請求の期限を約七年間としましたのは、他の場合と比べて比較的といいますか、精いっぱい長い期間を設定したというふうに御理解いただきたいと思います。

○田口委員 次に、第五条の代理受領の関係でありますが、日本赤十字社に対して業務を委任するという形になっておるわけです。日赤の方で関係者においでをいただこうと思ったのでありますが、なかなか御都合がつかないということでありますので、政府の方にお尋ねをいたします。
 日赤に委任をする業務の具体的な内容について若干お尋ねをしたいのでありますが、例えば、請求者の認定方法であるとか、あるいはこの償還金というのは個人個人に支給されるのか、あるいは一括をしてどこかの団体にこれを引き渡しをするのか。国債で支給するわけでありますから、今出てまいりました償還の場合には、これは一体日本の通貨でもって償還をするというのか、あるいは現地の台湾の通貨でもって支給をされるのか。また、日赤に対応する台湾側の窓口というのは一体どういうところがこれをやられるのか、そういう点についてわかっておりましたらひとつお知らせをいただきたいと思うのであります。

○國廣政府委員 日赤は、裁定の通知を受けた請求者の委任に基づきまして、委任者の名義の国債を代理して政府から受け取ります。そして、これを保管します。その後に、委任者の指定した日に国債の償還が行われるように代理して政府に対し国債の償還請求を行います。それで、その償還金を受領します。これを委任者に送金いたします。したがいまして、支給は請求者個々人に対して、その本人に対して行われます。
 台湾側のことについてでございますが、台湾に居住する委任者への送金につきましては、委任者個々の人の手に確実に現金が渡るようにすることになっておりまして、その仕事は、台湾の社会奉仕を業務とする機関、紅十字会でございますが、これを通じて行うことにしております。送金は日本で台湾元にかえて行う、こういう手配を考えております。

○田口委員 次に、第六条の政令委任の問題でありますが、受給権者の死亡による権利の承継など特定弔慰金等の支給を受ける権利の譲渡等の処分の制限について政令で定めるというふうに委任規定がございますが、これはどういうことでしょうか。

○國廣政府委員 お答え申し上げます。
 受給権者が現金を手にする前に死亡する場合がひょっとしたらあるかもしれません。その場合にもそのお金は遺族のだれかに対して支給することを考えております。
 そこで、まず受給権者が請求しないで死んだ場合には、その相続人が自己の名前で請求できるようにしたいと考えております。
 それから第二に、受給権者が支給の請求を行った後に死亡した場合におきましても、その相続人が同様に自己の名で支給を受けられるようにしたいと考えております。
 第三に、相続人が数人いる場合、その場合には、その一人のした請求は全員のためにしたものとみなし、その一人に対してした裁定は全員に対してしたものとみなすというふうに決めたいと考えております。
 特定弔慰金等の支給を受ける権利及び国債そのものについては、これは一身専属権でありますので、その処分を禁じなければいけないというふうに考えております。

○田口委員 次に、第八条の関係でありますが、「この法律を施行するための手続その他その施行について必要な細則は、総理府令で定める。」というふうに規定されておるわけでありますが、その総理府令の内容というものについて、わかっておればお知らせいただきたい。

○國廣政府委員 これは具体的なものに関してでございますが、例えて申しますと、支給請求書でございますね、それから裁定通知書及び日赤に対する国債の請求権等の委任書、そういう様式の指定、これをその主な内容として考えております。

○田口委員 次に、附則において施行期日を「三月を超えない範囲」、こういうふうにされておるわけでありますが、この「三月を超えない範囲内」としているその理由についてと、さらにまた「国債の発行の日は、昭和六十三年九月一日」というふうにしておるわけでありますが、この理由についてお伺いしたいと思います。

○國廣政府委員 法律の公布後施行までの間に法律の内容につきまして台湾住民に周知せしめることが好ましいと考えまして、「三月を超えない範囲」という期間を置くことにしたわけでございます。これは、第一には周知徹底のためにある程度の時間を置く必要があるということでございますが、また、これは例外的な場合だと思いますけれども、何らかの理由で今たまたま住民でない、それで、いきなりこういう法が行われて、本来住民であったのに受給の資格が得られないという気の毒なことが生じないように、若干日を置いておけばその間に住民としての手続といいますか、住居、住所を移転するというようなこともできようと思いまして、こういう配慮をしたものでございます。
 国債の発行の日の「六十三年九月一日」でございますが、これは国債につける日付の問題でございます。これは国債の交付の開始が可能となる日でありますので、その発行の準備の期間を考慮しまして、法の施行後一定期間を置くことが必要であります。特定弔慰金等の支給につきましては、その申請を九月一日から受け付けるという予定にしておりますので、この日と合わせて発行日とすることとしたのでございます。

○田口委員 それでは、今回の法案に対する昭和六十三年度における予算措置並びに来年度以降の所要経費等についてどのようにお考えになっておられるか、お尋ねをいたします。
○國廣政府委員 ただいま御質問の経費につきましては、六十三年度予算に国債償還金等約三百億円と、支給事務委託費としまして約一億四千万円計上しております。
 来年度以降の予算につきましては、予想処理件数、処理の難易度等が年の暮れになってよりはっきりしてくると思いますので、そういうことも勘案しつつ検討してまいりたいと思っております。

○田口委員 それから、冒頭私も今回の法案並びに先回の成立した法律の趣旨について申し上げましたが、本法案が成立後施行されて、最初にこの弔慰金というものが支給をされるのは一体いつごろになるのだろうか。この趣旨から考えまして、これはもう一刻も早く支給すべきであるというふうに私は思うわけでありますが、その辺の見通しについてお伺いをいたしたいと思います。

○國廣政府委員 支給を待ち望んでいる方々の中には、既に高齢に達した戦没者の父母等もおられますので、支給は一日も早く実施したいと考えております。その点、先生のお考えと全く同じでございます。特に高齢者の方々など早期支給が望ましいと考えられる方々については、日赤における権利の裁定等に当たりまして優先処理をしてもらうとか、そういうことも考えたいと思っております。
 第一号がいつかということにつきましては、これから台湾側と実施の話し合いをして、それからまた公募して、受け付けて、整理をしてということでございますので、そのいつかということは今自信を持って申し上げられませんが、第一回の現金支給というのは、できれば年内にはしたいというふうに思っております。

○田口委員 それでは外務省の方に、引き続いて官房長官にもお尋ねをいたしたいと思うのでありますが、今回の法案の内容というのは、言うならば戦後処理の問題の一つに入るだろうというふうに思うのであります。台湾の問題はこういう形で今回法案が提案されておるわけでありますが、同じようなケースというのがやはり台湾以外にも当然あるわけです。
 まず、韓国における同様ケースの場合の処理は今までどのようにされてきたか。韓国との間には日韓基本条約が結ばれ、国交も回復をしておるわけでありますが、韓国における処置の状況といいますか、これをまずお聞きをいたしたいと思います。

○藤田(公)政府委員 ただいま委員から同様のという御言及がございましたけれども、今回の措置は、今までも御説明ございましたように、いわゆる請求権問題の処理ということで行われるのではなくて、あくまでも人道的精神から我が国の国内法に基づく措置として行おうとするものだということでございます。
 委員御高承のとおり、台湾との間の請求権問題につきましては、サンフランシスコ平和条約第四条に規定されます特別取極を締結して処理することが、日中国交正常化の結果できなくなったという事情があるわけでございます。
 この前提を付しまして、委員お尋ねの韓国との関係でございますけれども、韓国人元日本兵の問題は、ただいま御言及のございました一九六五年の、昭和四十年でございますが、日韓請求権経済協力協定によりまして、日韓間の財産請求権問題の一環として両国政府間では解決済みということになっております。

○田口委員 官房長官にお尋ねをいたしたいと思うのであります。
 今、韓国に関する件については外務省の方から御答弁がありましたが、御存じのように、朝鮮半島は今分断をされた形で二つの国家が存在をする。特に北側の朝鮮民主主義人民共和国については、残念ながら今我が国とは国交が実は開かれてないわけですが、このいわゆる北側におられる同ケースの場合、当然これは今後の課題といいますか問題として残っていくだろう、だから、将来どういうことになるかはっきりわかりませんが、将来については当然この問題についても何らかの措置がされなければならないだろうというふうに思いますが、その辺の御認識はいかがでしょうか。

○小渕国務大臣 北朝鮮との間の請求権問題につきましては、今の段階で申し上げられることは、これは将来に残された問題であるという認識で政府としては考えております。

○田口委員 以上で終わります。どうもありがとうございました。

○竹中委員長 柴田睦夫君。

○柴田(睦)委員 去年の一〇九国会で成立しました台湾住民である戦没者の遺族等に対する弔慰金等に関する法律で我が党の態度は既に明らかなように、本案についても賛成の立場であります。また、この給付金の支給を受ける台湾住民の元日本兵は、戦前の絶対主義的天皇制のもとにおける植民地政策と侵略戦争による被害者だと考えております。したがって、日本政府が補償を行うのは人道的立場から当然であります。我が党の基本的立場を初めに明らかにしておきます。
 基本的な点について二、三質問いたします。
 初めに、政府は一九七二年の日中共同声明また一九七八年の日中友好条約によって、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であり、台湾が中国の不可分の領土の一部であることを認めました。今後の日中関係においてもこの立場を守るとともに、今の声明及び条約にも明記されております平和五原則を堅持する日中の外交関係を進めることは当然であると思いますけれども、本案の審議に当たりまして、改めて官房長官にこの点の見解を伺っておきます。

○小渕国務大臣 隣国中国との間におきまして長期安定的な関係を維持発展させていくことは我が国外交の一貫した主要な柱であり、政府といたしましても、今後とも日中共同声明、日中平和友好条約、日中関係四原則にのっとり、両国友好協力関係の発展を図っていく考え方でございます。

○柴田(睦)委員 平和五原則というのが書いてありますように外交関係の中心でなければならないことを強調しておきます。
 次に、今回の二百万円の性格は弔慰金、見舞い金ということになっております。台湾住民元日本兵は、日本人並みの補償として一人五百万円を請求する裁判を起こしました。また、日本の軍人軍属の恩給それから援護法による受給額などから見ましても、今回の二百万円の水準は不十分だと思います。これらと比べてみましても、二百万円の弔慰金という水準が低いということは否定できないのではないでしょうか。

○國廣政府委員 台湾側の裁判、原告の補償請求につきましてはもちろん私どもも存じておりますが、本件弔慰金及び見舞い金と申しますのは、御存じのとおり、人道的な立場から我が国の誠意のしるしとして関係遺族に支給するものでございます。今回決められました金額につきましてもそのような性格の給付として考えておりまして、種々の点を検討した結果、二百万円が適当なものであるという結論に達した次第でございます。

○柴田(睦)委員 結局、日本人として日本軍に入ったということでありますし、やはり日本人並みの補償をする、これが原点であると考えます。この原点から考えてみると、やはり低いのではないかということであります。
 次に、この弔慰金が本人に全額確実に渡るのだろうかという危惧が起きている問題であります。
 この問題は前々から指摘されてきた問題ですが、最近の報道を見ましても、現地には債権団などと呼ばれる団体が幾つもあって、遺族たちから補償要求運動の登録料や委託料を徴収したり、補償金の一、二割を報酬として納めるという契約をさせていると言っております。この点について、日本国外という限界はありますけれども、政府は必ず本人に全額渡るようにするためにどのような対策を講じておられるか、お伺いいたします。

○國廣政府委員 弔慰金等につきましては、現金が請求者本人の希望するときに確実に本人の手に渡るように、日赤から台湾の社会奉仕を業務とする機関に送金いたしまして、ここを通じて支給することにしております。同機関は、個人に必ず渡るようにという我が方の趣旨は十分理解した上で協力してくださるという態勢でございます。
 いかにして支払い受領を確認するかというようなことにつきましては、これから同機関と十分話して決めることでございまして、御指摘の点は遺漏なきようにする方針でございます。

○柴田(睦)委員 次は、国際間の公平という問題について伺います。
 政府は、台湾住民元日本兵の問題を処理していく過程で、この国際間の公平の問題を問題解決の障害の一つとして挙げてまいりました。今回の処理の過程でこの問題をどのように処理したのか、伺いたいと思います。

○國廣政府委員 先ほど申し上げましたように、今回の立法は、そもそも対外請求権の処理ではなくて、あくまでも人道的精神から我が国の国内措置として弔慰金等を支払うべく財政措置を講ずるものでございます。
 なお、第二次大戦に起因する我が国と関係国、地域等の請求の処理につきましては、北朝鮮及び台湾を除きまして、サンフランシスコ条約、日韓請求権経済協力協定等によって決着済みでございます。

○柴田(睦)委員 そうしますと、今回の処理で国際間の公平というような問題も処理された、クリアしたという立場で法案が出ているというふうに理解をさせていただきます。
 いわゆる外国籍を持つ元日本兵の問題というのは、台湾住民以外にも、中国本土、朝鮮、サハリン、南洋諸島などにもあります。今回台湾住民元日本兵の措置をとったという前例は、国際間の公平という点から見ますと、未処理の外国籍を持つ日本兵の問題にも門戸を開いたということになると思うのですが、そうですね。

○藤田(公)政府委員 今の委員の御言及は、北朝鮮のことを指すものであるともし御質問を理解いたしますと、この件につきましては、先ほど官房長官の御答弁がございましたように、北朝鮮との間の請求権の処理の問題は将来に残されている問題だという認識でおりまして、本件と同列には論じられない問題ではないかと存じます。

○柴田(睦)委員 国際間の公平ということを今までたびたび言われてまいりましたし、ここで一つの問題が国内法として解決していくということになれば、それはほかの同様な人たちにも及ぶのが当然だろうという質問であるわけです。それから、北朝鮮だけに限定して聞いたわけではございません。
 そこで、まとめて言えば、台湾住民元日本兵と同様な人々から請求があった場合には、日本政府としてはこれに応じて検討するということが基本的な政府の立場でなければならないと思いますが、そうですか。

○國廣政府委員 お答え申し上げます。
 本件は既に二十年以上の長い経緯がございまして、種々検討してきたものでございますが、日中国交正常化後に谷間に陥ったこの問題をいかに処理するかという、非常に微妙な問題を非常に複雑な環境のもとで処理してきたものでございます。
 同様な方々がまだいる場合にどうするかということについての御質問につきましては、本件の処理はそういう問題の処理とは切り離して考えたものであるということを御理解いただきたいと思います。それぞれの問題につきましては、それぞれの経緯及びそれを取り巻く環境を考えて処理しなければいけない問題だと思っております。

○柴田(睦)委員 時間が参りましたが、国際間の公平ということをたびたび言っておられました。だから、この問題が前例になるわけですから、それは当然国際的に同様な問題を解決するためにこれからも政府は検討すべきであるということを主張して、終わります。

○竹中委員長 これにて本案に対する質疑は終了いたしました。

 第112回国会 衆議院社会労働委員会 第10号 昭和六十三年四月二十一日(木曜日)午前十時五分開議

【発言順】
 委員        田口 健二
 北東アジア課長   田中 均
 委員        古川 雅司
 厚生省保健医療局長 北川 定謙
 厚生大臣      藤本 孝雄

○田口委員 私は、原爆被爆者特別措置法に関連をして幾つかお尋ねをいたしたいと思います。
まず最初に、外務省に在韓被爆者の問題についてお尋ねをいたしたいと思います。
去る三月二十一日にソウルで開催されました日韓外相定期協議の中で、この在韓被爆者の問題がテーマになったということが新聞などで報道されております。どういうことがこの外相定期協議の中で話し合われたのか、韓国政府としてはどういう意向を示されたのか、あるいはそれに対して日本政府としてはどのような対応を考えておられるのか、まずそのことをお尋ねいたしたいと思います。

○田中説明員 お答えを申し上げます。
御指摘のとおり、三月二十一日に日韓の外相定期協議が開かれまして、その席上、韓国側の崔侊洙外務長官から本件問題に触れられまして、日本については被爆者の治療の経験の蓄積というものがあるので、ぜひとも本件問題について綿密な協力をお願いしたい、こういう御趣旨の発言がございまして、宇野外務大臣から、本件については人道的な問題として日本側も非常に大きな関心を有している次第であり、一体どういった協力が可能かということを実務レベルの調査団を派遣して協議させましょう、こういう受け答えがあったわけでございます。これに対しまして崔侊洙外務長官の方からは、特段のコメントはございませんでしたけれども、私どもとしては、調査団の派遣を肯定的に受けとめておられるというふうに考えておりますし、今後できるだけ早い機会に調査団を派遣して、韓国側とどういった協力が可能かということを十分調査をしたいというふうに考えております。

○田口委員 実務者レベルといいますか、調査団を派遣する意向だということを今お伺いをしたのでありますが、例えば新聞報道などによりますと、現地に病院を建設する、あるいは医療技術者の研修を日本でやる、あるいは医療技術援助といいますか、そういうことなどが報道されているわけです。現在、外務省としては、その中身について、ただ調査団を派遣するということだけなのか、ある一定のものを考えておられるのか、その辺をひとつお伺いをしたいと思うのです。

○田中説明員 委員御案内のとおり、本件いろいろ経緯がございまして、過去五十六年から六十一年まで、日韓間の合意に基づきまして渡日治療というものを行っておったわけでございます。これが韓国政府の意思によりまして、むしろもはやほとんどの治療は済んだということ、それから韓国側で十分な治療体制ができています、したがって、その渡日治療は停止したいという申し出がございまして、渡日治療を打ち切った経緯がございます。
 その後、在韓被爆者団体を中心にいろいろな要望がございまして、私どもとしては、本件につきましては、少なくとも法的な問題としては決着がついておる問題である、ですから、賠償とかそういうことは考えられないわけでございますが、他方、人道的な観点から協力をすべきであるし、一体どういう協力ができるかということは政府部内でも種々検討しておるわけでございます。もちろん渡日治療の再開ということも韓国側次第では一つの方法であろうかと思いますし、また経済技術協力という観点から一体どういったことが可能か、技術協力の中で果たして具体的にどういう先方の要請があってどういうことが可能かということはいろいろ検討しておるわけですが、少なくとも韓国側の中の種々の考え方というのも十分確かめてみたいし、その結果に基づいて日本としてどういうことをするかということを決めたいというのが現在の状況でございます。

○田口委員 どうも外務省の認識というのは少し甘いというふうな感じが私はするわけです。在韓被爆者というのは、御存じのように、かつて戦時中に日本政府によって強制的に日本の本土の方に連れてこられて、さまざまな労働に従事する中で広島、長崎で実は被爆をされた方々なんですね。まさに日本政府の責任がそこにあるのですよ。ですから、そういう立場に立ってこの問題を考えていきませんと、確かに相手国政府があるわけですから、日本独自の考え方だけではうまくいかない点もあろうかと思いますけれども、やはり基本はそこに置いてこの問題には対応していかなければならないと私は思うのです。
 そこで、今もちょっと話が出ましたけれども、渡日治療の問題です。これは一昨年の十一月まで約五年間にわたって実施をされてきました。ところが韓国政府の事情によってこれが打ち切りになった。私は、今国内におられる被爆者の方はもちろんでありますが、在韓被爆者についても、既に戦後四十三年目をも迎えようとして被爆者自体が非常に高齢化をしている、そういう中で、被爆者の方々にとってみれば、今何が求められておるかといえば、やはり適切な治療を受ける、このことが非常に大事なことだと思うのですよ。ですから、今もお話がありましたが、少なくとも日本政府としては、やはりこの渡日治療を復活させていく、そういう立場で強力に韓国政府と話し合っていくべきではなかろうか、こういうふうに考えるのですけれども、外務省としてはどうなんですか。

○田中説明員 私どもといたしましても、委員御指摘のとおり、渡日治療の重要性ということは十分認識をしておりまして、それも当然一つの可能性として政府の中でも御相談を申し上げている次第でございまして、韓国側ともその点を踏まえて十分相談をしたいというふうに考えております。

○田口委員 それと韓国の原爆被害者協議会から日本政府に対して約二十三億ドルの補償請求がなされているわけです。これまた新聞報道によれば、去る二月二十五日に竹下総理が盧泰愚大統領の就任式に韓国に行かれた折に、この問題について具体的な要望もなされたというふうに聞いておるのでありますが、この辺の状況はどういうことになっていますか。

○田中説明員 委員御指摘のとおり、韓国の被爆者団体から御指摘のような補償、賠償請求というものがあるのは事実でございます。それが我が方の大使館を通じて要請がされておりますし、かつ竹下総理が訪韓をされた際に、外務省の担当局長が面談をしているということも事実でございます。
 他方、我が国といたしましては、少なくとも賠償云々の問題につきましては、一九六五年の請求権協定によってすべての補償、賠償問題は決着したということでございますし、そういう観点から補償問題、賠償問題に応じるのは困難であるというのが現在の考え方でございます。

○田口委員 それで厚生省の方にお尋ねをしたいと思うのでありますが、今外務省から見解を伺いましたが、とりわけその中でも、今申し上げました渡日治療の再開、これは直接関係からいえば厚生省が担当することになろうかと思うのですが、厚生省としての見解はどうなんでしょうか。

○北川政府委員 渡日治療の件につきましては、ただいま外務省の方から御答弁があった経緯であるわけであります。厚生省といたしましては、渡日治療の意思が韓国側から示されれば、今後とも人道上の見地から技術的には十分な用意をして渡日治療を再開する用意を持っておるわけでございます。
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○古川委員 私は、議題になっております原爆被爆者特別措置法改正案に関連いたしまして、厚生大臣に若干の質問をするものであります。
 終戦から四十三年の歳月を迎えているわけでございます。ことしもまた広島では八月六日、長崎では八月九日、この忘れ得ぬ暑い日を迎えるわけでございます。私はいつもこの時期になりますと井伏鱒二さんの「黒い雨」という本を繰り返し読むことにいたしております。すぐれた反戦文学の一つとして例えられておりますし、この中には核兵器云々とか戦争反対といった記述はございませんけれども、これほど生々しく、鋭く原爆の被害の実態を浮き彫りにした文学も少ないのではないかと思います。大臣も御就任以来大変お忙しい毎日だと思いますが、厚生大臣におなりになってから、この「黒い雨」という文学書をお読みになったかどうか、ひとつお伺いをしておきたいと思います。
 さて、昨年この同じ法案の改正に当たりまして附帯決議が決議されております。その冒頭には、国家補償の精神に基づく原子爆弾被爆者等援護法の制定を求める声は、一層高まってきた。また、原爆被爆者対策基本問題懇談会の意見書も、被爆者の援護対策は、広い意味での国家補償の精神で行うべきであるとの立場をとっている。
 政府は、原爆被害者が高齢化し、事態は緊急を要するものであるという認識に立ち、可及的速やかに現行法を検討して、次の諸点についてその実現に努めるべきである。
と、以下十項目にわたりまして決議をいたしているわけでございますが、厚生省におかれましては、この諸点につきまして、今日までどういう点を、たとえ一歩でも半歩でも前進をさせたか、その点をまずお触れいただきたいと思います。

○北川政府委員 附帯決議の第一にございます実態調査の結果でございますが、これを踏まえて対策の充実強化に努める、こういうことが指摘をされておるわけでございますが、厚生省といたしましては、六十三年度予算におきまして、この被爆者が非常に高齢化をしておるという状況に着目をいたしまして、がんの健康診断の体制を整備をするということで予算の措置をさせていただいたところでございます。そのほかの項目につきましても、それぞれ対応をさせている点があるわけでございますが、また御質問があれば、順次お答えをさせていただきたい、このように思います。

○古川委員 この一つ一つについて詳細にお伺いしていければよろしいのですが、時間の関係で、特に第一項目にございます「死没者を含む実態調査が行われたが、速やかに解析を行いその集大成を図るとともに、被爆者対策の充実に努めること。」このことに対しましては、作業は今どのように進んでいるのか、その点ひとつ御報告をいただきたいと思います。

○北川政府委員 昭和六十年に行いました原爆被爆者実態調査のうち生存者調査につきましては、昨年の六月に結果を取りまとめて既に公表させていただいたわけでございます。
 なお、死没者の調査につきましては、現在広島、長崎両市におきまして調査票を両市の原爆被爆者の動態調査等の既存の資料と照合を鋭意進めておるところでございまして、まだその取りまとめにはもう少し日にちがかかるということで、私どもとしては、今年度いっぱいをめどに公表させていただきたい、このように考えておるところでございます。
    〔野呂委員長代理退席、畑委員長代理着席〕

○古川委員 この厚生省の行いました被爆者実態調査とともに、日本被団協が独自で行いました原爆被害者調査、既にその内容が発表されておりますけれども、この両方を踏まえて被爆の実態というものがますます明らかになってきております。この解析を急ぐ、そして集大成をするということをひとつきちんと進めていただきたいと同時に、これまでしばしばこの委員会でも議論のありました、いわゆる自由記述部分についての取り扱い、これをいつどのようにしていくのか、この点にこの調査に協力をした被爆者の方々から大きな期待と、そしてまたぜひこれをあからさまに公表をしてほしい、広く知らしめてほしいという要望が続いているわけでございます。どのように受けとめていらっしゃいますか。

○北川政府委員 自由記載の欄には、被爆当時の思い出だとか当時の状況あるいは被爆者の立場からの御意見等を記述をしていただいて、大変貴重な資料であると私ども考えておるわけでございますが、現実問題としてこういうものを取りまとめるということはなかなか難しい点がございまして、その取りまとめに当たりましては、やはり被爆者の方々の不安だとかあるいは要望内容等がなるべくリアルに反映をされるようにということで、これを統計処理をいたさなければなりませんので、被爆者の考えられる御要望だとか手当の問題だとか健康診断の充実の問題だとか老齢化に対する問題だとかいろいろと項目を設けまして、そういうものにうまく当てはまるように分類、集計を現在進めておる段階でございまして、なるべく被爆者の声が反映できるように努力をしてまいりたい、このように思っております。

○古川委員 この自由記述部分については、これは解析とか分析とかそうした統計的な整理ではなくて、むしろもうありのままに一言一言を伝えるような、そういう扱いでもって公表をできないものか、ぜひそうしてほしいという要望が強いわけであります。この点をどうお考えになっているのか。そしてまた今作業を続けていらっしゃるということでございますが、大変御苦労なことだと思いますけれども、いつどうするのかという点については予定をお持ちでございますか。

○北川政府委員 何分にもこの自由記載欄に記載をされた件数が約七万から八万件というような膨大な数に上っておりまして、この中には余りお書きにならないところもございますが、非常に綿々とお書きになっておられる方もあるとか、非常に千差万別でございまして、こういうものをどういう格好で客観性を持たせて資料として公表するか、私どもも先生の御指摘のような気持ちを十分理解しながら作業をしたい、こういうふうに考えておるところでございます。何分にも技術的にどう処理するか、これはまだまだ非常に問題を抱えておるところでございまして、公表の時期も、先ほどの死没者調査と同じように六十三年度末までにはめどをつけたい、このように思っておるところでございます。

○古川委員 大臣にお伺いをいたしますが、前斎藤大臣が、昨年の決算委員会でございますけれども、私の質問に対しまして、この原爆被害の調査をまとめながらいわゆる原爆被災白書といったもの、その取りまとめを検討したいというふうに答弁をしておられます。これは死没者調査を含む国の被爆者実態調査やあるいはまた海外で収集をした原爆資料、そういったものをまとめて集大成をする、そして全世界に向けて、四十三年たつわけでありますけれども、被爆の悲惨さ、実態というものを大きく訴えていきたい。検討されるということで大臣が交代されたわけでございますが、現大臣はこの点についてはどのようにお考えで、またその作業はどこまで進んでいるのでありましょうか。

○藤本国務大臣 昨年の七月二十九日の決算委員会における古川先生の御質疑、私も会議録で拝見いたしました。被爆の被害の実態を明らかにする、そしてこれが被爆国家の一つの責任であろう、こういう御指摘に対して、前厚生大臣も前向きに答弁をされておるわけでございまして、私は、さらにそれを進めてまいる、かように考えておるわけでございます。御承知のように、昨年の六月に六十年の生存者調査の結果を発表しまして、これに加えまして、現在広島、長崎両市におきまして取りまとめを行っておられます死没者調査、また現在収集中の各種被災資料がまとまりますと、被爆者の現状、被害の状況が一層明らかになってくると思います。私といたしましては、死没者調査が六十三年度末までにまとまるわけでございますので、そういう資料を踏まえまして、具体的な取りまとめの方向について今後広島、長崎両市ともよく相談をさせていただきまして、集大成に向けて進んでまいりたい、かように考えております。

○古川委員 特にそうした被災の実態を集大成するという作業の中で、アメリカを初めとした海外に散っている被爆実態の資料といいますか、そういったものの収集ということについても当然必要になるわけでございまして、それを含めての被害白書ということになると思いますが、その辺はもう手をおつけになっているでしょうか。

○北川政府委員 これは基本的には広島、長崎両県市が非常に力を入れてやっておられる点でございまして、厚生省といたしましても、それらの動きを十分に見守りながら必要があれば協力をしていくという基本的な姿勢でやってまいるわけでございます。

○古川委員 この実態調査でございますが、厚生省のおやりになった実態調査も大変な作業であったということはよくわかります。しかし、とかく厚生省の調査というのは、どれだけ被害があったかという被害の数量的なもの、数で押さえる、そういう傾向が強く出ております。被団協の方でおやりになった、これはまたお一人お一人が大変な苦労をして積み重ねた調査でございますが、これはむしろ被害が人間にとってどれほど重いものであるか、悲惨なものであるかということを明らかにしようとした調査でございます。その調査の結果、それが浮き彫りになってきたわけでございます。厚生省としては、というよりも政府として、その辺をどう認識をしていらっしゃるのか。厚生大臣の私的諮問機関でありますいわゆる基本懇、昭和五十五年十二月十一日でありますから、もうかなりの年月を経ているわけでありますけれども、このときに答申をした意見書で、原爆被害、核戦争による被害を含めて戦争による被害は、すべて国民がひとしく受忍しなければならないとして、以来原爆被害者に対する援護法制定の要求も切り捨ててきた。これを最大唯一の口実にしてきたわけであります。しかし、こうした厚生省の調査、また被団協の調査の内容から見ても、こうした基本懇の答申、この考え方、いわゆる受忍しなければならないという認識、この表現はこのままでいいと大臣はお考えになっていらっしゃるかどうか。これは基本的な争点でございますけれども、原爆被害というのは人間にとって受忍できるのかどうか。原爆被害を国民に受忍させてよいのかどうか。これはこうした調査の内容が明らかになって、本当に被害の悲惨さというものがさらにはっきりしてまいりますと、ますますそういう疑問を持たざるを得ないのでありますが、厚生大臣はどういう認識を持っていらっしゃるのか。この表現をそのまま置いておいてよいとお考えなのかどうか、大臣からひとつよろしくお願いいたします。

○北川政府委員 先に、この被爆者対策基本問題懇談会の意見報告書について若干御説明をさせていただきたいと思います。
 基本的な理念といたしまして、戦争による一般の犠牲は、すべての国民がひとしく受忍しなければならないものである、これは原爆の被爆以外にも各所でいろいろな大きな被害を受けたわけでございまして、そういうもの全般を指して言っておられることであろうというふうに考えるわけでございます。
 そこで、厚生省といたしましては、従来から原爆関係二法によりましていろいろな対策をとっておるわけでございますが、これは原爆被爆者が受けました原爆の放射線による特殊な被害、こういうことでございまして、こういう特別の犠牲であるので、広い意味における国家補償の見地に立って対処するべきだ、こういうふうにこの報告書は記載をされておるわけでございますので、原爆の被害すべてを受忍するというふうに言っておるのではないと私どもは考えておるところでございます。

○藤本国務大臣 私も三十八年初当選以来、社労委員会に所属しておりました時期が長いわけでございまして、この原爆の援護法の問題、当時からいろいろ議論がございました。まさしく古くて新しい問題だと思います。今までのいろいろな経緯、経過も御承知のようなことでございまして、今の段階では、私どもとしては、広い意味での国家補償という考え方のもとに、原爆被害の甚大性をも考えまして、原爆二法という法律をつくり、その法律に基づきまして援護措置を講じておるわけでございまして、援護法の制定というところへは参っておりませんけれども、この法律の適用によりまして十分に効果を上げていくという考え方で対応しておるわけでございまして、今後ともそういう考え方で進まざるを得ないのではないかというふうに考えております。しかし、いろいろと難しいといいますか御指摘の点もございますので、その点については将来の課題の一つではあろうかというふうに考えております。

○古川委員 このいわゆる受忍の問題でありますが、これは先ほどの局長の答弁で、戦争全体の被害だ、そう言っているのであって、核爆弾の被害の悲惨さ、それを受忍しろと言っている意味ではないという意味にとれたわけでございますけれども、そういたしますと、もう一回この基本懇に考え直してもらって、そこのところははっきりさせる必要があるんじゃないか。あくまでも被害の実態がこうして明らかになってきている。さらに詳細に明らかになってきている。その調査結果というものは決して受忍できるものではないということがはっきりしている時点でございますので、この受忍しなければならないという認識について、また記述について、今大臣は課題だとおっしゃいましたけれども、これはもう一回、はっきりこの基本懇の答申が今日なお生きている以上、再検討をお願いする必要があるのじゃないかというふうに考えますが、いかがですか。

○北川政府委員 先ほど来大臣も御答弁をいただいておりますように、現在厚生省といたしましては、この原爆二法を最大限活用して、被爆者の放射線障害による健康被害という特別の犠牲という点に着目をいたしまして、今後とも十分必要な対応はさせていただく、こういうふうに考えさせていただきたいと思います。

○古川委員 原爆の被害について受忍しろと言っているのじゃない、そういうふうにとれる御答弁でありますけれども、私は、あくまでもこれはもう一度きちんと見直して、誤解のないように、また原爆の被爆者を初めとして受忍をさせる、させてもよいというこれまでのとらえ方についてはっきりさせる必要があるのじゃないかというふうに考えている次第でございます。次の質問に移りますけれども、もう一度その点確認をしておきたいと思います。
 次に、在韓被爆者の援助の問題でございますが、外務省おいでになっておりますか。――さきの日韓外相会談で、在韓被爆者への援助の再開が話し合われたと聞いております。これは報道で知っているわけでございますが、一昨年末の援助中断以降も再開を求める声が非常に強まっておりまして、この外相会談の中で、特にこれから話し合いの場を設ける、あるいはまた調査団を派遣するというようなことが明らかにされておりますけれども、そうした背景というのは、申し上げるまでもなく、一つには在韓被爆者の治療の要求の高まり。特に韓国原爆被害者協会、辛泳珠会長でございます。昨年の十一月末に日本政府に対して総額二十三億ドル、約三千億円の補償要求を提出をしたということがございます。もう一つには韓国政府側に生じた変化。五年間の期限切れになった一昨年末、援助継続を望まないという打ち切りを通告してきたのに対して、盧泰愚大統領は、戦後処理の問題の一環として在韓被爆者の窮状を救うための政府間交渉に対して非常に積極的な意欲を示しているというような背景があるわけでございますが、この点について外務省としてはどのようにお考えになっているのか。特に調査団を派遣するというようなことについては、いつごろ、どういう規模で、どういう内容で派遣をなさるのか。御答弁をいただきたいと思います。

○田中説明員 お答えを申し上げます。
 委員御指摘のとおり、三月の二十一日に日韓定期閣僚会議が開かれまして、その席上、韓国側の崔侊洙外務部長官から、本件問題について、日本は治療の蓄積というものを持っておられるので、この協力問題について綿密な検討をお願いしたいという御発言がございまして、宇野外務大臣の方から、日本側としても、本件は人道的な問題として非常に大きな関心を有している次第であり、一体どういった協力が可能なのか、実務レベルの調査団を派遣をしたい、こういう趣旨の発言をした次第でございます。
 この問題の背景等は、委員御指摘のとおりでございますけれども、日本側の立場といたしましては、少なくとも賠償、補償といった問題については、六五年の日韓請求権協定によって最終的な決着がついているわけでございます。
 他方、まさに人道的な問題として、一体今後どういった協力が可能かということは、きちんと検討をしたいということでございまして、御指摘がありました渡日治療の問題も、六十一年の段階では、韓国側の方からほとんど重症者に対する治療は済んだこと、それから韓国の国内で治療体制が整備されているということをもって打ち切りという韓国側の申し出があったわけでございまして、私どもといたしましても、渡日を再開する可能性、それから医療協力として何ができるか、そういった問題を含めまして、実務者レベルの調査団を派遣したいということでございます。
 お尋ねのタイミングでございますが、韓国の国内でも四月二十六日に国会議員選挙というものもございますし、私どもとしては、今後関係省庁とよく御相談をして日程を決めたいと思っておりますが、とりあえずは五月の下旬ごろをめどに派遣をしたいという考えでございます。

○古川委員 時間がなくなりましたので、最後にまとめてただいまの件についてお伺いいたします。
 最初に外務省の御説明でございましたけれども、この中に出てくる総額約二十三億ドルというこの金額、これは何か背景なりがあるのかどうか、またこれはお金で渡すというような形になるのか、その他治療というようなほかの形で渡すことになるのか、その辺はお考えになっていらっしゃるかどうか。
 また、大臣にお伺いいたしますけれども、在韓被爆者の援助の問題、先日四月十五日の参議院の決算委員会でもこの問題が出ておりまして、小渕官房長官が、基本的には、原則的にはこの問題は終わっている、しかし人道的に取り組むというふうに答弁をなさっているわけでございますが、厚生省御当局としては、この問題に基本的にこれからどう取り組んでいくのか。今外務省から御答弁がありましたとおり、非常に大きな変化が今起こってきているわけでございます。ひとつ大臣の御決意なりあるいは御認識をお披瀝いただきたいと思います。

○田中説明員 お尋ねの二十三億ドルという数字でございますが、私どもも、特段その数字の積算とかそういう背景がある、その背景については承知をしておりません。他方二十三億ドルのうちとりあえず十億ドルを日本側から供与してほしい、こういう要望が被爆者協会からは出ているということでございます。

○藤本国務大臣 荘韓被爆者の渡日治療の問題、これは私どもといたしましてはできる限りの対応をしてまいるという考え方でございまして、今まで韓国の国内問題ということでもございましたけれども、いろいろ協議の結果、そういうことになれば、最大限の御協力といいますか対応はしてまいる、かように考えております。

○古川委員 終わります。

 第112回国会 参議院内閣委員会 第7号 昭和六十三年四月二十六日(火曜日)午後一時三十分開会

【発言順】
 委員        峯山 昭範
 国務大臣
(内閣官房長官)   小渕 恵三
 外務大臣官房審議官 谷野作太郎

○峯山昭範君 平和友好条約が締結をされましてことしの十月でちょうど十周年を迎えるわけであります。昨年、共同声明の十五周年を記念いたしまして、衆参両院におきまして私どもは国会の決議をやったわけであります。その中でこの共同声明の趣旨をちゃんと守っていこうという決意を改めて述べたわけでありますが、共同声明の意を受けていわゆる平和友好条約が締結されてちょうど十周年になります。この十周年を迎えての政府としての考え方、決意等もあわせてお伺いしておきたいと思います。

○国務大臣(小渕恵三君) 御指摘のように、ことしは十周年を迎えるわけでございます。竹下総理も八月のしかるべき時期に訪中をいたしたいという意思も既に明らかにいたしておるところでございます。したがいまして、日中間の問題につきましては相互の努力によりまして、過去結びましたいろいろの条約並びに両国間で発せられました声明その他に従いまして両国間の永遠の平和を維持発展できるように、改めて十周年を機に政府として努力をいたしていきたい、こう考えております。

○峯山昭範君 それでは、本案の問題について一問だけお伺いしておきたいと思います。
 台湾人旧日本兵の問題につきましては、当内閣委員会におきましてもこの数年来議論をしてまいりました。幸いにしまして今回の法案によりまして一応の決着がつくということにつきましては、私どもある程度評価をしなきゃならないと思っております。特に東京高裁の判決の中にありました「現実には、控訴人らはほぼ同様の境遇にある日本人と比較し著しい不利益をうけていることは明らかであり、しかも戦死傷の日からすでに四〇年以上の歳月が経過しているのであるから、予測される外交上、法技術上の困難を超克して、早急にこの不利益を払拭し国際信用を高めるよう尽力することが国政関与者に対する期待であることを特に付言する。」ということがございまして、私どももこれは早急に我々としても取り組まなきゃいけないと思って取り組んだわけでございますので、その点はこれは全面的に賛成をしなきゃならないと思っております。
 そこで、この法案が成立した後の問題として、これと同じような問題がやっぱりいろいろ出てくるんじゃないかというふうに思っているわけです。それは韓国や北朝鮮の皆さん方にもやっぱり同じような問題がありますし、また戦時中我が国の占領下にありましたミクロネシアとかインドネシア、シンガポール、そういうところからもこういう請求が出てくるんじゃないかという問題もあるわけでありますが、この点については政府はどういうふうにお考えになっていらっしゃるのか、その見通し、対策等わかりましたら教えていただきたいと思います。

○政府委員(谷野作太郎君) お答え申し上げます。
 ただいま仰せのうち韓国の問題につきましては、先生も御承知のとおり、正常化の折の日韓請求権に係る協定によりまして既に決着済みでございます。その他、確かにただいま仰せの北朝鮮との間にはこの種の請求権の問題は残りますが、これは将来の問題というふうに私ども考えております。
 それから追加的に申し上げますと、ミクロネシアの問題につきましては、米国とミクロネシア協定第三条というのがございまして、「問題が完全かつ最終的に解決されたことに合意する。」ということが明確に規定されてございます。

 第113回国会 参議院内閣委員会 第8号 昭和六十三年十月二十五日(火曜日)午後五時三十分開会

【発言順】
 委員     久保田真苗
 内閣総理大臣 竹下 登

○久保田真苗君 まず、朝鮮半島情勢について総理の御認識を伺いたいと思います。
 過日、国連総会の場で、南北朝鮮の代表が初めて登壇いたしました。朝鮮半島は東アジアにおける安定と平和の焦点であることは言うまでもございません。
 この際、竹下首相が盧泰愚韓国大統領の演説をどのように受けとめておられるか、御所見を伺います。

○国務大臣(竹下登君) 国連の議題を整理しますのはたしか一般委員会というところでございますが、そこで、言ってみればオブザーバーである方の演説が行われたということは、私はすばらしいことだったなと思っております。
 したがって、この盧泰愚大統領の演説につきましては、南北首脳会談、それから平和都市構想また六者会談等、種々の新しい提案をされましたことは、韓国側の積極的かつ建設的な姿勢を示すものだというふうに私は高く評価をいたしておるところでございます。

○久保田真苗君 同様に、朝鮮民主主義人民共和国の姜錫柱外務次官の演説も続けて行われました。
 これに対して政府は必ずしも正式のコメントは出しておられないようですが、総理はどのようにこの演説を受けとめておられますか。

○国務大臣(竹下登君) この演説につきましても、我が方を含め多数の方が演説会場にそれぞれ姿を見せておられたということは、国際的に見ても評価が高いということであろうと思っております。
 内容自体につきましては、種々の機会に明らかにされておる従来の考え方を整理されたものでありまして、大変に新しい提案があったということでは必ずしもございませんが、しかし、我が国でございますとかあるいは米国でございますとか、そういう国に対し激しい非難が行われるというようなことがなかったというふうに、これは注目をいたしておるところでございます。

○久保田真苗君 私は、この際日本がなすべきこ とはまず北との関係を正常化すること、これが急務ではないかと思います。
 もちろん、南北を問わず朝鮮民族に対しては、日本は過去の歴史的な経緯を持っております。また、朝鮮問題は日本にとって最重要課題の一つでもあります。そして最も多く未解決の問題を残している地域でございます。特に朝鮮民主主義人民共和国との間には、日本の植民地支配終えんから四十三年もの長い間、政府間交渉は持たれぬまま、関係はないままに打ち過ぎたということは遺憾のきわみだと思っております。
 この間に共和国では、たびたびの戦禍から立ち直って国家建設に取り組み見事に復興もなし遂げてきたのでありますが、日本との関係は清算されないままでございます。
 遅きに失するとは言いながら今、日本がこの機に進んで清算を行い、朝鮮半島全体の民族の和解を進め、これに協力していくべきではないかと思いますが、そのような積極的な御意思がおありでしょうか。

○国務大臣(竹下登君) 朝鮮半島問題というのは、これは、申すまでもなく、一義的には南北両当事者の直接対話というものによって平和的に解決されていくべきものであるということが我が国のずっととっておる基本的な立場でございます。
 したがって、こうした観点から、早期に対話が再開されることを期待しておるというところでございます。特に、韓国政府が南北対話について従来以上に柔軟かつ建設的な姿勢を示しておられることを支持し、これを歓迎しておるところでございます。これは、例えば七月七日の特別宣言についても、官房長官が記者会見して冒頭発言をしておることでも明らかなことでございます。したがって、そういうものがますます進んでいく環境づくりのために、関係国と緊密に協力して可能な限りの貢献をしていかなければならないというふうに考えておるところでございます。
 したがって、我が国におきましても、日本社会党の山口書記長がお招きによって訪朝され、そして政府ではございませんけれども大変な汗をかいていただいてそれらについて私どもにもいろいろな貴重な情報を提供していただいておるということに対しては大変感謝をしておるということが事実でございます。

○久保田真苗君 現実には南北対立の一方に日本は加担してきましたし、他方を敵視する政策もとってきたと思います。しかし、武装して相互に対立する二つの朝鮮を望むということでは決してないんだろうと思います。
 この南北の分断について総理の御所見を伺いたいと思います。

○国務大臣(竹下登君) これは、御案内のとおりの歴史的経過があって、昭和四十年でございましたか、いわゆる日韓条約が締結されたわけでございます。その後のこの問題につきましては、先ほど申し上げましたように、基本的には南北両当事者間の話し合いというものの中で、私どもの今おっしゃった考え方も含め、それが実現していくものであろうという考え方の上に立っておるわけでございます。
 で、北朝鮮側からの前向きの反応を得まして、政府間交渉が早急に開始されるということ、こういうことから北朝鮮労働党代表団がお越しになることであれば、その機会を利用して直接対話の糸口にもしなきゃならぬなと考えておるところでございます。

○久保田真苗君 直接対話を開くということは結構なことでございますけれども、何と申しましても、今まで積み重なった四十年以上のブランクがございます。
 この際、具体的にはどのようなことをお進めになるおつもりでしょうか。

○国務大臣(竹下登君) 当面、我が国におきましては、いわゆる富士山丸問題が存在しておることも事実でございますが、今まで、あるいは第三国においてその実務者同士の接触の場所は私はあったと思うわけであります。しかし、これこそ歴史の中でいろんなことがございました。たしか日韓条約締結の年でございましたか、次の年でございましたか、例えば在日朝鮮人の方の墓参を初めて実行に移した。これは私が内閣官房副長官をしておりました若かりしころのことでございますが、その間にまた意図せざることもあったかと思うのでありますけれども、やはりそうした根気強い積み上げの中で今のような直接対話というようなものに結びついていくのではなかろうかと思います。
 そういうことを考えてみますときに、その環境は、国連演説に見られますごとく、従来よりもよくなっておるんじゃないかなと、私はこんな感じを持っておるところでございます。

○久保田真苗君 ただ、日本の立場として、客観的に眺めるというだけではなくて、やはり特別にこの問題は推進しなければならないというふうに考えておりますけれども、それにつけましても戦後処理問題が非常におくれてきているわけでございます。
 例えば、サハリンに在住する朝鮮人帰還問題、あるいは原爆の被爆者問題がございます。
 我が国では戦後処理問題は実に長い年月がかかっているのでございますけれども、その中でもお気の毒なのは、終戦時サハリンにいて家族がばらばらになったという人たちがございます。日本によって強制連行されたこの方々は、自動的に日本国籍を失い、そのため意思を聞かれることもなく置き去りにされたという事実がございます。これは韓国内でも非常に関心が大きいことが石橋訪韓団によって確認されておりますけれども、日本国内でも市民のボランティアが非常に熱心な対応をしているわけでございます。
 また、原爆の被爆者につきましては、日本人として被爆したにもかかわらず、その後放置され、日本人の救済もおくれたのですけれども、それ以上に何も行われなかった、このことは被爆の当事者にとっては実際の事実だろうと思います。
 こういう状態を一日も早く解消していただきたい、こう思うわけでございますけれども、総理の御所信を伺いたいと思います。

○国務大臣(竹下登君) 在サハリン韓国人問題、それから在韓被爆者の救済措置、二つについてのお尋ねでございます。
 政府は、従来から機会ありますごとにソ連側に本件の解決について働きかけてまいりました。と同時に、今も御指摘がありましたように、この議員懇の方々またあるいはボランティアの方々が長年にわたって携わってこられた努力に対しては心から感謝を申し上げておるところでございます。
 で、現実問題といたしまして、永住帰国が実現したケースもございます。したがって、今後とも粘り強い働きかけを継続していくという考え方であります。
 それで、本年度から本邦における親族再会に対する支援のための予算措置を講じたところでございますが、今後一層支援体制の充実に努める考え方でございます。五千八百万円でございますが、これが姿勢をあらわす一つの証左でもあるし、これが有効に機能することを私どもも期待をしております。
 それから、在韓被爆者の救済措置の問題でございます。
 本当に後遺症等で苦しんでおられる方もいらっしゃるわけでございます。この問題は、経過は先生おっしゃったとおりでございますが、今は韓国に在住する韓国人の方の問題でございますので、第一義的には韓国の国内問題という位置づけにはなるでございましょう。また、法的には、いわゆる一九六五年の日韓請求権協定のときに解決したという議論はあるわけでございますけれども、私は、これについては、今の先生のおっしゃった考え方あるいは人道的性格にかんがみまして、できる限りの対応を行わなきゃいかぬと考えて、現在具体的方途についていろいろ聞かされておりますが、これが検討中であるというふうにお答えすべきであろうと思います。

○久保田真苗君 対応してまた検討していただくということなんですが、私、この際申し上げたいのは三つの点です。
 まさに国際情勢の複雑な谷間の中で、最も気の毒な人道問題だということ。第二は、その原因の大きなものが日本自身にあるということ。そして第三には、この方たちがいずれも高齢化して、もう償うことのできないケースが続発しているということでございます。
 したがいまして、これについては思い切って迅速に、そして今までの遅々たるもの、微々たるものの範囲を遠く抜け出ていただきたい。サハリン関係で五千八百万円とおっしゃいました、被爆者について四千二百万円、合わせて一億円でございます。しかし、サハリン在住の朝鮮の方は三万五千人もいらっしゃるのに、来年度思い切った予算というのがたった百人分です。また、原爆の方も、もう七十七歳になる、生きているうちにやってほしい、そういう声も聞かされてまいりました。これは、今までのようなやり方でなく、ぜひ思い切ってやっていただきたいとお願いしておきます。
 次に、日本の軍事費についてでございます。
 朝鮮半島のデタント、民族の和解統一、こういうものに向かって日本が一番協力できるそのことは、竹下総理が国連総会で演説されましたような、軍縮をみずからこの日本がやってみせるというそのことが東アジアの軍縮機運、デタント機運の醸成に役立つものと思います。
 ところが、今年度の防衛費を見ましても、その伸び率はまさに世界一、実額でも巨大なものとなり、ミリタリー・バランスでもNATO並みの計算をすれば世界第三位ないし第三位グループに属するということでございます。これは国民世論にも反しております。また、近隣諸国、特に最近行われました北京でのパグウォッシュ会議でも大きな懸念が表明されているというふうに聞いています。
 今、このとうとうたるデタントの流れの中で、総理はみずから軍縮、軍事費削減、このことをお示しになる必要があるんじゃございませんか、御所信を伺います。

○国務大臣(竹下登君) 今の国際社会の平和と安全が依然として力の均衡によって維持されておるということを否定することは私はできないと思っております。
 しかし、米ソのINF条約に始まりまして、あるいはアフガニスタン、そしてイラン・イラク、こうした問題、さらには中東和平、それからカンボジア問題に対する当事者同士の話し合い、そういうような空気が醸成されておることは何よりも喜ばしいことだと思っております。
 我が国の防衛費というのは、それはそれといたしまして、五十一年に大綱が作成されました。それに伴いまして、それの水準の達成のために、第一次防からございましたが、途中で単年度主義に変わった時期もございましたけれども、いわゆる中期防というものを新たに策定し、これに基づいてその大綱達成のための努力を他の諸施策とのぎりぎりの調和を図りながら積み上げて今日に至っておるわけでございます。
 なかんずく、近隣諸国の問題、近隣諸国が脅威を感じておるのではないかという問題でございますが、これにつきましては、あくまでも我が国の平和憲法、非核三原則、そして専守防衛に徹する我が国の防衛に対する基本的な考え方を、いつも、どの機会をとらえても説明することによって理解を得ることができる問題である、こういうふうに考え、私もASEANあるいは中国等々訪問いたしましたが、その機会に必ずその問題については明確に説明する機会を積極的にとらまえて行っておるというのが現状でございます。
 したがって、私ども、大変表面的にいい雰囲気である、これを大いに歓迎しつつ、しかし、この問題はあくまでも現実というものに目を向けていくということもまた責任ある者として怠ってはならないことだというふうに考えておるところでございます。

 第114回国会 衆議院内閣委員会 第4号 平成元年三月二十三日(木曜日)午前十時十分開議

【発言順】
 委員         五十嵐広三
 外務大臣       宇野 宗佑
外務大臣官房審議官  谷野作太郎
 参考人
(日本赤十字社外事部長)近衛 忠煇
 外務省欧亜局長    都甲 岳洋

○五十嵐委員 非常に不満だ。これは、いつでもアイヌ問題については、僕は質問するたびに思うのでありますが、誠意がない。どうしてアイヌ関関を真剣に受けとめて検討しようとしないのか。私だけでない。毎回それぞれ議員がこのことについていろんな立場から御質問申し上げているのは御承知のとおりであります。もうそろそろ、知事や道議会からの正式な要請が出たのですから、まともにこれを受けとめて論議をしてほしい。そうでないからいつまでたったってアイヌの皆さんの非常な不満が残っていく。これは決していいことではないと僕は思います。ぜひこの際、なるべく早く誠意を持ってこの問題の検討に着手してほしい。それから、それを担当する場は一体どこなんだということ等はもうとにかく早くお示しをいただくように、そのことを強く要望を申し上げておきたいと思います。
 官房長官もお忙しいと思いますから、どうぞ。
 さて、大きく分けて二つ御質問申し上げたいというふうに思いますが、それは、大変お骨折りをいただいているサハリン残留韓国・朝鮮人問題、それからもう一つは在韓被爆者の問題、この二点についてお伺いをしたいというふうに思います。
 大臣は、今韓国内で世論調査をいたしますと、一体あなたはどこの国が一番好きで、嫌いですか、あるいはどこの国民が一番好きで、嫌いですかというような問いが出た場合に、残念ながら日本が嫌いな方の一番に出てくるというような状況になっていることは御存じでしょうか。

○宇野国務大臣 甚だ残念ながら、そのような傾向であるということは承知しております。

○五十嵐委員 大臣、日韓の間ですから、相当な行き来はあるし、むしろ今一番日本に観光等でおいでになっている外国人は韓国がアメリカを抜いて一番だというような報道もこの間あったところなのです。そうなのになぜ一体そうなのかということについて大臣はどうお考えになりますか。

○宇野国務大臣 やはり過去三十六年間の我が国の植民地化という問題、さらにはそうした中において創氏改名までさせた。金さんは金さんであってはいけない、何とか金山とか金村に変えろ、こういうことまでさせた。いろんなことを私は韓国の国会議員を初め関係者の方々から聞いております。だから私といたしましては、そうしたことが一番大きな問題として残っておるのではなかろうか、我々としては、異民族が異民族を統治することはできないし、またしてはいけない、こういう反省に今日立たなければならない、かように思っております。

○五十嵐委員 お話のように、日本の今までの過去における侵略的あるいは植民地支配的な歴史的経過というようなものがやはり抜きがたい朝鮮半島の人々の深刻な反日感情というものを生んできたというふうに我々は深く反省をしなければならぬというふうに思う次第であります。そういう深層の、民衆の真の信頼回復というものなしには本当の意味の日韓の友好というものはないのじゃないかというふうに僕は思うわけなんです。
 そこで、そういう中で盧泰愚大統領が五月下旬、公式訪日される。これはいろんな意味で、例えば民主化された韓国の大統領としていわば初めて訪日がなされる、あるいはこちら側としては、新天皇が初めて迎える国賓でもある。しかもまた、最近某新聞にも出ていましたが、新天皇の訪韓説なども伝えられていること等もあって非常に注目されるところであります。あるいは竹下総理のこの前の好ましからざる発言等の余波もあるわけでありますから、そういう中で盧泰愚大統領がお見えになる、この日本公式訪問の重要な意義というものが日韓の過去の歴史から生ずる諸問題に大きな区切りをつけるということと思われるのでありますが、これについて大臣の御見解をまずお伺いしたいと思います。

○宇野国務大臣 既に全大統領の時代に訪日がございました。率直に申しまして、韓国の国民の感情から申し上げますとこれも勇気の要ったことであると私たちは考えておりますし、それだけに韓国の大統領の訪日を我々は官民挙げて御歓迎申し上げたという経緯もございます。
 今回は、盧泰愚大統領は新しい民主主義によって選ばれた大統領である、一段と韓国が大きくなれた、そうしたもとでの大統領でございますから、さらに我々といたしましてもそうした意味を十二分にかみしめて、官民挙げて御歓迎申し上げる。そうして、やはり過去のいろいろな反省の上に私たちも立ちまして、今後はそれぞれが新しい時代のために新しい親善関係を結んでいく。そういう意味で私は大切な御訪問ではなかろうか、かように考えておる次第でございます。

○五十嵐委員 そういう意味では、具体的に両国間の歴史的な経過の中から一つの懸案として存在している問題で言えば、一つは在日韓国人の、特に三世などの法的地位の問題がありますし、それからサハリン残留の韓国・朝鮮人問題、あるいは在韓被爆者対策などがその主要なものとしてあろうというふうに思うのでありますが、これらの懸案について盧泰愚大統領訪日の折にかなり抜本的な話し合いをすることになるのか、まあなろうと思うのでありますが、その折に日本政府の誠意ある対応の用意はもちろんあると思うのでありますが、この辺の見解についてお伺いしておきたいと思います。

○宇野国務大臣 幸いなるかな、両国には既に基本条約締結、そのときに過去の歴史に反省をいたし、また私たちが宗主国として植民地を支配したということについても遺憾であった、そういうような表明がなされておりますが、私はやはりそういう心は常に忘れてはならない、そのときだけで終わりだと思ってはいけないので、常にそういう気持ちで隣国とは本当に打ち解けた関係を結ぶことが必要であろう、私はこう考えております。
 そこで、今御指摘の在サハリンの韓国並びに朝鮮人問題も、五十嵐委員いつも先頭に立っていただいて頑張っていただいていることに私は深甚の敬意を表し、また謝意も表したいと思っておりますが、先ほども私は申し上げたと存じますが、これは道義的責任を我が国が持たなければならない人道問題だ、我々としてはこういう責任で今後も対処していきたいと思います。また、今御指摘になられました原爆被爆者の問題に関しましても、人道的な問題として私たちはそれらの犠牲者に対しましても格段の配慮を払わなければならない。同時にまた、法的地位の問題に関しましても、基本条約を結ぶときにいろいろと問題がございましたが、ただいま仰せの、では第三世代に対してどうするかという問題は我々といたしましても今真剣に検討中である。そうした問題を含めまして、極力過去の忌まわしき、韓国の人たちからいいますと幻影を、また実績を払拭しなければならぬ、これには日本の方々の協力と格段の理解が必要である、こういう言葉に対しましても、私たちは謙虚に耳を傾けて両国親善を図らなければならぬ、こういうふうに思っております。

○五十嵐委員 外務省側の御努力もあって、あるいはソ連政府側の近年の深い理解というものもあって、サハリン残留の韓国・朝鮮人問題が私どもが思っていたよりずっとテンポの速い速度で進展を見ていますことは大変うれしいことだと思うのであります。殊に再会の数が非常にふえてきている。ふえてきているだけでなくて、日本に来て再会する人たちが今度は韓国に、故郷への一時訪問というようなことも昨年来、殊に今年は非常にふえてきている。こう言ってはどうかと思いますが、ややそれが一般化しつつあるということは、我々としては非常に好ましいことだと思っているわけであります。
 しかし同時に、再会の数がうんとふえてきているというようなこと、あるいはまた日本経由で韓国側に訪問しているというような事態は、そうなってきますとまたそれなりの新しい問題をいろいろ抱えることにもなってきている。従前はボランティアの皆さんが一生懸命苦労なされて、最近は政府側で若干の予算もお組みいただいておるわけでありますが、それまでは本当に我々が見ても頭の下がる思いがする御苦労を続けて世話をしていただいてきたわけであります。しかし、こうふえてまいりますと、なかなかボランティアだけの力ではどうにもならぬということになっていると思うのです。それでこの際、そういうものをきちっと対応できるような新しいシステムにしていこうということでさまざまに御検討いただいて、平成元年予算につきましてもそういうことを背景にしながらさまざまな内容の予算をお組みになったようであります。時間がありませんので余り詳しいことに触れるわけにはまいらないと思いますが、今度の予算を進める上で、今言うようなボランテイアに頼っていた状況からこの際赤十字にこの事業をしっかりと受け持ってもらおうでないか、昨年一年ぐらい実務者会議で日赤等の非常な御協力もいただいて、ややそういう方向が出てまいったわけでありますが、これらの実施の方向等についてこの機会に御説明を賜りたいと思います。

○谷野(作)政府委員 予算のお尋ねでございましたので簡単に御説明いたしたいと思いますが、仰せのように、先生の御指導、御意見等もちょうだいいたしまして、これから国会に御審議をお願いいたします平成元年度予算におきまして、この面での予算を抜本的に拡充させていただくことになっております。具体的な数字は五千八百万円をお願いしてございますが、これを在サハリン韓国人支援等特別基金拠出金というふうな形にいたしまして、ただいま先生仰せのように、日本赤十字社と、それから韓国側は大韓赤十字社、この間の共同事業としてこれを実施していきたいということで日赤の方にもただいまお話を進めているところでございます。

○五十嵐委員 日赤と大韓赤十字社の共同事業体でこの仕事を進めていくということは画期的な対応の仕方で、私ども非常に期待をしていきたいというふうに思うわけであります。
 そこで、お聞きしますと、この日韓の両赤十字社による共同事業体へ政府側から基金を拠出するということでの活動になってくるようでありますが、日本赤十字社としてはこれが受け入れについてもちろん御検討いただいていると思うのでありますが、それにつきましてはどのようにお考えになっておられるか、きょうは近衛外事部長さんにおいでいただいていますので、ちょっと御説明いただきたいと思います。

○近衛参考人 日赤といたしましては、この問題の人道的性格にかんがみまして、かねてより非常に強い関心を持ってまいりました。そして、その解決に努力してもらうべくジュネーブの国際赤十字委員会及びソ連赤十字に積極的に働きかけてまいりました。こういった背景がございますので、最近日本であるいは韓国での再会が徐々に実現しておるという傾向を大変うれしく存じております。また、先生を初めとして関係者の方々の御努力によりましてこの再会を支援すべく予算化の措置がとられておるということにつきましても、大変うれしく存じております。
 私どもといたしましては、この予算の成立を待って政府の方から正式に事業の委託を受けるというふうに理解をいたしておりますけれども、実際にこの予算が成立する前でありましても、この委託をされる事業の内容がはっきりいたしますれば、同様にこの事業の委託を受けます韓国の赤十字、また場合によりましてはソ連の赤十字とも十分協議をいたしまして、この実施の細目について詰めてまいりたい、かように考えております。また、実施をするに当たりましては、これまでこの再会の中心的な役割を果たしてこられましたボランティアの方々にも十分お知恵を拝借して、また今後の協力をお願いしてまいりたい、かように考えております。

○五十嵐委員 御説明を聞いて大変安心をいたしまして、うれしく存ずる次第であります。ぜひボランティアの皆さんの御協力を得ながら、日赤さんの御尽力を心から御要請申し上げたいと思う次第であります。
 ちょっとお伺いしますと、近衛部長さんは先般訪ソの折にソ赤にお寄りになられて向こうともお話をなされたということで、この点も大変敬意を表したいというふうに思うのであります。なかんずく、その折に日韓ソ三赤十字社のサハリン残留韓国・朝鮮人問題に関する協議というようなものをしようではないかということのお申し入れをなされたというふうにお伺いをしているわけであります。この点はかねがね我々が大変期待をしているところでありましたので、その点につきましても若干様子をお知らせいただければありがたいと思います。

○近衛参考人 この三社間で実務的な協議を持とうという提案につきましては、先生の御指摘のとおり、私どもから韓国の赤十字に対しましてもソ連の赤十字に対してもいたしております。韓国については、問題がない、いつでもこれに応じようということでございますけれども、ソ連の赤十字に関しましては、最近では十一月四日付で返事をもらっておりまして、従来どおり出入国の問題に関しては政府の権限であるということで、はっきりした回答は得ておらないのが現状でございます。ただ、今回委託の事業の内容がもう少し具体的になりますれば、こういう内容で私ども仕事をやっていきたい、その上でどういう協力が得られるかということを改めて打診できるのではなかろうかというふうに考えております。

○五十嵐委員 私もおととしと去年モスクワに参りまして、ソ連赤十字社のベネトクトフ社長とお目にかかって要請を申し上げた折に、この三赤十字社の点についてもお話をしたのでありますが、社長はいいのだけれども、しかし幹部が必ずしもそうということにはなっておらないようで、これはぜひひとつ力を合わせて進めてまいりたいというふうにも思うのですが、たまたまきのう、日ソ事務レベル協議でこの問題について日本側から御提案をいただいた、ソ連側からもこれについての一応の御見解が出されたようで、私はこれも非常にうれしく思うのでありますけれども、きのうの模様を簡単にお知らせいただきたいと思います。

○都甲政府委員 この点につきましては五十嵐先生に日ごろお世話になっておりますけれども、私どもといたしましても非常に重視しておりまして、昨日、事務レベル協議の一環として私と外務省のチジョフ太平洋・南東アジア諸国局長との間で会談いたしました際に、この問題を取り上げまして、私の方から、ソ連側が一般的にこの問題について前向きになってきておることを非常に高く評価すると申し上げたと同時に、具体的に三つの点を要請した次第でございます。
 一つは、日韓の赤十字が通じて現地調査をしたい、これについて協力してほしい、特にソ連側の赤十字の協力を得たいということ。それから、訪問のいろいろな手続等を円滑にするために日ソ韓の三赤十字の間で実務的な話し合いを持ちたいと考えておるのでぜひ協力してほしいということ。さらに、ソ連に親族を有する韓国人が観光旅行として訪ソして現地で親族に会えるということになれば、この解決の一方法として非常に有利であるということを向こうに申し入れまして、善処を申し入れた次第でございます。
 それに対しましてチジョフ局長の方から、第一点につきましては、これは赤十字同士で話し合ってもらったらいいのではないかということを言っておりました。第二の点につきましては、具体的な問題があれば、そのときに三社で話し合うということにしたらどうかと思うという回答をしておりました。それから第三の点につきましては、韓国人が観光旅行として訪ソするということは、現在特に閉鎖地域ということでなければ問題なく実施できると思うということを述べておりましたので、全体として前向きな対応があったと私は理解しております。

○五十嵐委員 まず、その前段の日韓ソ三赤十字社の会談につきまして、どうか今後とも促進についてよろしくお願い申し上げたいというふうに思います。
 近衛日赤外事部長さん、どうもありがとうございました。どうぞ、お忙しいところを恐縮でございました。
 今の都甲局長さんのお話の中に出てまいりましたが、きのうの日ソ事務レベル協議で、サハリンに親族を訪ねて韓国人が行こうというようなことは観光ビザであればそう問題はないのではないだろうかというチジョフ局長の話があったということは、これは私はもう本当にびっくりするくらいうれしい感じで受けとめたわけであります。これは長い間まさにそういう自由な相互交流というものこそ我々の念願していたところであって、最近ようやく日本経由でありますが韓国にやや一般的にサハリン残留韓国人の皆さんが行けるようになってきたというような上に、今度は離散家族の皆さんが、これはまたサハリンに訪ねていけるというような交流ができるということになりますと、一年前に我々も本当に何年かかるかと思っていたことでありまして、この点については非常に高く評価をいたしたいというふうに思う次第であります。
 ただ、少し懸念されるのは、まあ問題ないとは思いますが、韓国側は出国のときにビザか何かが要るのでしょうかな。これらについては問題ないと思いますが、この辺はいかがですか。

○都甲政府委員 お答え申し上げます。
 一般的に、ソ連の方におきましても、人道問題につきまして最近かなり柔軟な対応をしてきているという背景がございます。それから、韓国とソ連の間でも経済関係を中心としてかなりの実務関係が樹立されておりまして、その中で査証の問題等につきましてもかなり円滑な処理が最近はされているという乙とを伺っておりますので、私は本件が今後とも問題なく処理されていくのではないかという強い期待を抱いている次第でございます。

○五十嵐委員 ぜひ一層の御協力をお願い申し上げたいというふうに思います。
 ただ、そういうことになってまいりますと、予算の動かし方もさてどうなるのかということなどの新しい課題も出てまいりますので、これらはまたこれからいろいろひとつ御検討いただいて、新しい状況に対応して積極的にまた予算化してほしいというふうに思います。
 さて、同時に私は、そういうところまで非常に進展をしてきたのだけれども、そうなればなるように、もうここまでそういう問題が来たのだから、ひとつこれについてもちゃんと着目してやっていかなければだめだなというふうに思うのが、長い間、四十何年間待ちぼうけになっている、残されてきたひとりぼっちのおばあさん方です。暮らしも大変だ、しかもああいう儒教の強いところですから、ひとりぽっちで結局四十何年待ってきたというような方も少なからずあるわけです。そういう留守家族の実態については、去年、おととしですか、大韓弁護士協会の第二次報告でかなり詳細に出ておりまして、ごらんになっていると思いますが、もしあれでしたらまたお届けしたいと思いますが、それはやはり大変悲惨な実態がそこにあるというふうに思うわけであります。これについて何か方法はないかということが実は我々のいつも感ずるところなのであります。
 例えば、そういうおばあさん方について老人ホームのようなものを韓国側で計画をするというようなことになり、その計画について日本側の協力要請等があるというような場合、まあなかなか簡単にいかないことはよくわかるのでありますが、しかしいろいろ工夫を凝らして、例えば今のような日韓赤十字の共同事業というようなこともあるわけでありますから、そういうこと等も含めてさまざまな検討をしてみる、もしそういうことがあればということも適当でないかというふうに私は思うのでありますが、いかがですか。

○谷野(作)政府委員 先ほど御説明いたしましたように、親族の再会の支援のためにとりあえず五千八百万円の拠出金をお願いしてございます。したがいまして、当面は、この予算をお認めいただきますれば着実に実施していくことにしたいと思っておりますが、他方、ただいま先生から御提案のございました老人ホームの問題、これにつきまして韓国側の意向がそのようであるということでございますれば、それに対しまして日本側としてどういうことができるのか、検討させていただきたいと思います。

○五十嵐委員 大臣、本当に残されている方は大変でして、それはなかなか、お話のような一九六五年の経過がありますから簡単にいかないのはわかるのでありますが、しかし、これも大臣の言うような人道的立場といいますか、私なんかはやはり歴史的責任という言葉を一つつけたいところなんでありますが、そういう意味から、もし今言うような老人ホーム等の計画があれば、せめてそういうものについての援助というようなことについて検討をぜひしていただきたい。これはもちろん韓国側の要請があってのことだろうというふうに思いますが、そのことをぜひ御要望を申し上げたいと思いますが、一言あれば……。

○宇野国務大臣 先ほどからずっと日赤を初め関係政府職員の御答弁がございました。私も、テレビでも最近しばしば現状が報告されて、本当に同じ人間に生まれてこうしたことがあるのだろうかと思うほどお気の毒なことでございます。だから、ひとしお私も心を痛めておる一人である、そういうことでございますから、今申されたような面におきましても、我々といたしましては、できることは誠心誠意尽くさなければならない、かように思います。

○五十嵐委員 ぜひよろしくお願い申し上げたいと思います。
 あと、そう大した時間がないのでありますが、残された時間で在韓被爆者の問題をお願い申し上げたいと思います。
 よく我々は、日本人というのは世界で唯一の被爆国民である、こういうぐあいに言うのでありますが、しかし、実はそうでないわけで、広島、長崎で被爆をしたのは、我々とあわせて韓国・朝鮮人の方々、あるいはその他の国々の方もいたわけであります。そこで、いわゆる被爆した韓国人の状況というものについて政府側でどう把握しておられるのか。話す時間がそうありませんから、長い経過等については省略をしていただいて、特に現状といいますか、そういうようなことについての御報告を簡潔にいただきたいと思います。

○谷野(作)政府委員 被爆者の方の実数につきましては、韓国政府の推定あるいは直接の被爆者の協会の方々の推定等いろいろございますが、いずれにいたしましても、先生、経緯につきましては先刻御承知のとおりでございますのでごく簡単に御説明するにとどめたいと思いますが、過去におきまして八一年から五年間、渡日治療、日本に来ていただいて治療してさしあげるということで三百四十九人の被爆者の方を治療いたしました経緯がございます。ところがその後、韓国側は国内での治療も十分可能である等の理由でもう必要がない、一たんそういう段階、状況になりましたけれども、その後、新政権ができた等のことがございまして、新政権のもとで改めて先方から、直接の被爆者の方々の御意向も受けて、日本側にこの面での誠意ある姿勢をぜひ見せてほしいというお申し出がございまして、仄聞いたしますところによりますと、大統領御自身も大変この問題で御熱心であるというふうに伺っております。そういうことで、ただいま国会で御審議をお願いしております平成元年度予算におきまして、在韓被爆者支援のために四千二百万円の予算の計上をお願いしておる次第でございます。

○五十嵐委員 もう少しいろいろ詳しく聞きたいような気もいたしますけれども、時間がないから……。
 これはおたくの方になるのかどこになるのかわからないけれども、当時広島、長崎で被爆した韓国・朝鮮人はどのぐらいいたか。それから、今いわゆる在韓被爆者はどのぐらいの人数なのか。これは登録している数、未登録、それから被爆者協会が言っている数、かなり差があるようでありますが、その数字だけでよろしいのでございます。

○谷野(作)政府委員 先生お説のとおりいろいろな数字が実はございます。手元の資料によりますと、在韓被爆者として韓国政府に登録されている者が千二百九十四名、韓国政府の推定では未登録者を含めて約三千名というふうな数字がございます。他方、在韓被爆者協会、こちらの方の推定では約二万名の方がおられるのではないかという数字がございまして、いずれにいたしましても、その多くの方が非常に老齢でいらっしゃるということが大変人道的な問題となっております。

○五十嵐委員 これはどうなんでしょう、私さっき先に聞いた方で、被爆した状況は、当時広島在住の朝鮮人で広島で被爆した方々が五万人、うち死亡者三万人、それから長崎では二万人、うち死亡者約一万人、生き残った方々のうち二万三千人ぐらいが韓国に帰国した。現在、韓国原爆被害者協会、これは本部ソウルで辛泳洙さんが会長でありますが、約一万人の登録という数字もあるのでありますが、広島における原爆の被害の状況等はややこんなところと考えていいのですか。

○谷野(作)政府委員 厚生省の方でもう少し正確な数字を把握しておられると思いますが、申しわけございませんが、私の方ではとりあえずの手持ちの資料にそこまではございませんので、御容赦いただきたいと思います。

○五十嵐委員 はい、わかりました。そういうような数字になっているようであります。
 しかし、いずれにいたしましても、今年四千二百万円の予算を組んでもらったということは大変喜ばしいことだというふうに思います。ただ、そのほかにODAの医療技術協力による別枠援助というのが言われているわけでありますが、これについてもちょっと触れておいてほしいと思います。

○谷野(作)政府委員 日本政府としてどういうような御援助ができるかということはいま少しく詰めて、四月二日に両国の外務大臣の会議がございますので、その場で一つの大きな話題になろうかと思っておりますが、ただいま御指摘のODAといいますのは、恐らく日本からの医療協力を御念頭に置いてのことだと思いますが、この面につきましての韓国政府の具体的な考え方は現状ではいま一つはっきりしておりません。もし外務大臣会議等でその点につきまして具体的なお話がございますれば、またそれに沿った対応も可能かと考えます。

○五十嵐委員 ぜひひとつ、当初から言われているODAの技術協力につきましても積極的な御配慮をお願い申し上げたいというふうに思います。
 実は、盧泰愚大統領がこの前の大統領選挙の折に、在韓被爆者協会の陳情を受けられた。そして、報道によりますと、「大統領になれば、この問題を必ず解決する。日本との間で、被害補償問題を必ずただしていく。」こういうぐあいに答えて約束をしたと言われているわけであります。韓国国内の非常に重要な問題でありますから、大統領選挙等でも重要なテーマになるのは当然であろうというふうに思うわけでありますが、これは御承知ですね。

○谷野(作)政府委員 失礼いたしました。先ほど両国の外務大臣会議を四月二日と申し上げましたが、四月一日の誤りでございます。訂正させていただきます。
 それから、ただいまの先生のお話の点につきましては、そのような報道があることは私ども承知しておりますし、先ほど申し上げましたように、大統領御自身がこの問題に強い関心を寄せておられるということにつきましては韓国の政府から内内伺っておるところでございます。

○五十嵐委員 私は、やはりこの機会に、近く大統領がおいでになる折当然重要な討議の課題になると思うのでありますが、それこそ我が国の歴史的な責任の立場で積極的な問題解決への姿勢が望ましいというふうに要望を申し上げておきたいと思います。
 それから、一昨年の十一月、在韓被爆者協会から梁井大使に補償要求と原爆病院の建設についての要求があった。それから去年二月、竹下総理が訪韓の折にも協会の代表は総理に面会を要望いたしまして、この折にはアジア局長が対応しているようでありますが、これらの折の協会の要求内容、今私が若干触れたところでありますが、これらに対する日本政府の見解というと大げさになりますが、これらについてはどういうふうにお考えになっておられますか。

○谷野(作)政府委員 お話のとおり、八七年の十一月に韓国原爆被爆者協会の方々が大使館にお見えになりまして、梁井大使に対しまして在韓被爆者の損害補償として二十三億ドルという数字をお話しになりました。これはそもそも論を申し上げるつもりはございませんけれども、この問題についての基本的な日本政府の立場というのは、この問題は法的には六五年の請求権協定によって解決済みであるというのが一応法的な立場でございます。しかしながら、先ほど大臣からも御答弁申し上げましたように、これにはすぐれて人道的な性格、その側面があるわけでございますから、在韓被爆者の方々の治療援助等の面でどのような御協力が可能かということで、先ほど来お話ししておりまするような予算をお願いしておるところでございます。

○五十嵐委員 例えば、これも韓国政府側の要望があればといいますか、要望によるものでなくてはならぬわけでありますが、韓国内で在韓被爆者のための医療的なあるいは福祉的な政策について、それこそまた日韓赤十字の共同事業体ではないが、その種の工夫をしながら基金を拠出する等の援助の方法を考えるということもあろうというふうに思うのであります。そういうようなことの検討も含めて積極的に対応してほしいと思いますが、例えばそういうようなことというのは検討に値しますか。

○谷野(作)政府委員 先方政府からそのような御提案がありますれば積極的に検討させていただきたいと思っております。

○五十嵐委員 いよいよ時間のようでありますから、幾つか聞きたいことが残りましたが、また次の機会に申し上げたいと思います。
 そこで、サハリンの問題もそうでありますし、被爆者の問題もそうでありますが、大臣、いずれもことしは従前から見るとかなり多い予算をつけていただいておる、大変これは我々も感謝を関係者とともにいたしているところであります。しかし、それはいずれも入り口といいますか、と考えたいというふうに思うのですね。サハリンの場合は五千八百万、在韓被爆者の場合は四千二百万でありますから、そういうものを一つの土台にしながらひとつ一層の御尽力をそれぞれお願い申し上げたいというふうに思います。
 特に、今触れた在韓被爆者の出題について、これは御承知のように外務省と厚生省が一緒に去年の三月ですか、調査団を組織して韓国に行って、調査団の名前は在韓被爆者問題調査団というのですね、これの調査報告が出ている。その調査報告の最初の方に「本件問題の本質」というところがある。そこにこう書いてある。
 今回の調査における韓国側関係者との意見交換等を通じて明らかになったのは本件問題は韓国側にとり「心の問題」であるということである。即ち、
 (イ)在韓被爆者は在韓被爆者問題を日韓間の不幸な歴史を象徴する「戦後処理問題」の一つとしてとらえ、我が国の誠意ある姿勢を求めている。即ち、このような在韓被爆者の姿勢を一言でいえば、一九六五年の共同声明において明らかにされた「過去の歴史は遺憾であって深く反省している」との我が国立場が、本件問題においてどのように具体化されるのかを注目しているということである。
 (ロ)法的には日韓間の請求権問題は一九六五年の日韓請求権協定において解決済みである。在韓被爆者の多くも、そのような法的議論は承知しているが、全くの人道的立場から日本政府が政策として自発的に援助をすることは可能ではないかとの心情を持っている。
こういうぐあいに「本質」というところに書いてありまして、それに続いて「ありうべき対応」というのがずっと書いてあるのであります。それは省略いたします。
 大臣の御見解を伺いたいのはまさにここのところです。それは、やはり調査団はいろいろ調査をした、これは政府調査団でありますから。それがこういう「本件問題の本質」について率直に基本的な考え方を述べている。私は在韓被爆者の代表者の皆さんとも何遍か会っているが、私の印象ではもっと激しく、厳しく追及しているというふうに受けるのでありますが、少なくともこの政府調査団の報告においてもこのような心情というものについて報告書は語っているわけです。大臣としてもこの心情というものを報告書の中からもお酌み取りいただいて、この在韓被爆者の問題は非常に大事な時点を間もなく迎えるということになろうと思いますので、ぜひひとつ積極的に解決の御努力をいただきたいと思います。最後の御見解をいただいて、質問を終えたいと思います。

○宇野国務大臣 るるお述べになられました被爆者問題は確かに人道上の問題であり、また五十嵐委員先ほど申されましたが、歴史的な責任はないのかということになりますと、やはり我が国の統治にかかわる問題でもある、かように私たちは認識いたしております。ただ、請求権問題も既に解決でございますから、我々といたしましては今申された趣旨にのっとって、ひとつ心の問題としてこの問題を十分今後も心がけていかなければならないと思っております。いずれ崔長官も四月一日にお越してございまして、私との間においてまたこの問題が出ると思います。したがいまして、十分腹蔵なく意見を交わしたいと思いますし、そうしたことは盧泰愚大統領御来日ということも頭の中に描きながらお互いがいろいろの問題を語り合いたい、こういうことでございますので、まだ具体策がどうのこうのという段階ではございませんが、本日の御質問なり、また御指摘の点に関しましては私もまた誠意を持って対処いたしたい、かように思います。

○五十嵐委員 どうもありがとうございました。

 第116回国会 参議院社会労働委員会 第1号 平成元年十月五日(木曜日)午後零時四十二分開会

【発言順】
 委員 高桑 栄松

○高桑栄松君
 第二は、意見の聴取についてであります。
 まず、原爆被爆者代表七人と放射線影響研究所労働組合代表者から意見を聴取いたしましたが、その主なものは、国家補償としての原爆被爆者援護法を被爆四十五周年に制定すること。いわゆる黒い雨の降雨地域はすべて被爆地と認定すべきで、とりあえず、健康診断特例地域である大雨地域のほかに、多く降った地域を政府が調査して特例地域とすること。高齢化により要介護被爆者が増加しているので、介護手当の大幅増額と支給対象の拡大を行うこと。保養施設等原爆関係施設の助成措置及びその法的位置づけを行うこと。在日朝鮮・韓国人被爆者に対して国家補償による被爆者援護法を全面適用すること。朝鮮・韓国人被爆者の実態調査と援護を行うとともに、北朝鮮の被爆者に対し渡日治療等、日本、韓国の被爆者と同様の援護を行うこと。日本政府が韓国に原爆専門病院を建設し、医療の指導等の措置を講ずること。被爆三菱徴用工の遺骨を一刻も早く送還すること。原爆小頭症患者のための手当の大幅な増額等特別の措置を講ずること。死没者調査等各調査研究を集大成した原爆白書を作成すること。被爆二、三世に関し、健康と生活の実態調査、原爆二法の適用、健康診断の充実及び医療保障を行うこと。放射線影響研究所を日本に移管して世界的な機関に発展させるとともに、円高による米国の負担増を日本が肩がわりして、同研究所の運営と移転に支障のないようにすること。原爆被爆者援護法を制定し、その中で放射線影響研究所を位置づけ、財政基盤の強化を図ることであります。

 第118回国会 参議院法務委員会 第3号 平成二年五月二十四日(木曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員        矢原 秀男
 外務省アジア局
 外務参事官     大塚清一郎
 法務大臣      長谷川 信
 法務省入国管理局長 股野 景親
 警察庁警備局公安
 第三課長      伊達 興治

○矢原秀男君 きょうは時間の関係がございますので、この程度にしておきます。
 次に、外務省にお願いしたいんですが、在サハリン韓国人問題への対応でございますけれども、先般、日韓、韓日両議員連盟の合同によるサハリン訪問、こういうことがございまして、自民党の戸塚議員、公明党の草川議員、国会内でのその後記者会見の内容というものは外務省にも行っていると思うんですね。一つは日韓両赤十字共同事業体事務所のサハリンにおける設置、二番目には一時帰国――過去二回実現――のためのサハリン―韓国直行便を月一回運航、三番目には無縁故老の出国の認可。これはサハリン州の政府とは合意に達している、こういうふうなことでございますけれども、外務省のこれに対する現状の分析、そして今後の対応について既に反応を示していらっしゃると思うんですが、その点について明確に答えていただきたい。

○説明員(大塚清一郎君) 私ども在サハリンの残留韓国人の問題につきましては、従来から歴史的ないし道義的な責任ということを認識しておりますし、これまで人道的な解決という立場に立って最大限努力してきたところでございます。もちろん法的な側面については今申すまでもございませんが、請求権の問題は日韓請求権協定によって解決済みということは立場上はございますけれども、私どもとしましては人道的な立場に立ってどういうことができるかについていろいろ検討してきたところでございます。 ちなみに、韓国政府からは我が国に対していわゆる補償の要求といったような要求がなされている事実はございませんけれども、日本政府としましては歴史的、道義的責任の認識から人道的な解決という立場に立っていろいろ努力してきたところでございます。
 これからの対応という点についてでございますが、先ほども御指摘のとおり、最近、在サハリンの韓国人支援共同事業体による支援ということで大韓赤十字社が現地を訪問するなど、あるいは朝鮮人の離散家族会及びその現地当局との直接の協議が行われてきておりますけれども、そういった結果も踏まえて私どもこれからどういうことができるかということについて考えていきたいというふうに思っております。ちなみに、昭和六十三年度から私ども政府としまして予算措置を講じて離散家族再会などに対する支援事業の実施ということで、先ほども御指摘ございましたが、日韓両赤十字社が在サハリン韓国人支援共同事業体を設立しましていろいろと努力しているところでございます。最近、訪日あるいは訪韓する方々が急増してきておりますので、そういった状況も踏まえまして、外務省といたしましても今後とも最大限努力していきたいというふうに考えておるところでございます。

○矢原秀男君 また後日、こういう具体的な問題について深く伺っていきたいと思っております。
 法務大臣にお尋ねしますけれども、先ほども御答弁されておられましたけれども、二十五日の夕刻、法務省において両法務大臣が個別会談をされる、こういうことになりますが、協議内容の問題でございますけれども、先ほども御答弁されていらっしゃいましたが、第三世の問題についてはやはりこれは法務省を中心にいろいろとやっていらっしゃって大体日韓うまくいっているような段階と聞いております。問題は、重複で今いろいろ質問出ておりますけれども、在日韓国人のこれは歴史上の問題から待遇改善を図るよう主張をされる向こうはお立場にあろうかと思うわけです。そういう問題になると、一世、二世の方々にどういうふうに今度は第三世で解決した問題等について準用できるかというのがこれは問題点で、明日もそういう議題が出てくると思うんですね。
 そこで、僕は二点だけちょっと絞って時間の関係で伺いたいんですが、一つは外国人の登録証明書、これが常時携帯の義務の廃止を歴史上の観点から韓国の方々が要求をされていることは事実です。しかし、これは廃止がたとえできなくても、まず廃止にいくまでの段階、改善策というものについては検討する課題、これは技術的にも私は法務省にあろうかと思います。この問題は明日は必ず私は出てくると思います。
 法務大臣にこの一点まず明確に考えていらっしゃることを述べていただきたいことと、もう一つは指紋の押捺義務の廃止も来年一月の協議期限までにこれは多くが出てくると思うんです。日本側のお立場も私はよくわかっておりますけれども、そういう二点の問題について改めて法務大臣の御見解、あすどういうふうな気持ちで会談に臨まれるか伺いたいと思います。

○国務大臣(長谷川信君) 今お話しのとおり、明日会議が持たれることはおおむね間違いございません。
 今御指摘の点等々につきまして、もう既に合意している点は一応あれですが、委員おっしゃった二つの点、あるいはそのほかにあるかもしれませんが、ペンディングになっておる点については外交上の問題であり、また折衝の問題でありますので、今ここで全部あからさまにぶちまけて言っていいかどうかわかりませんが、少なくとも基本的には両国の親善友好のために、またそれを促進しなければならないということを腹におさめ、胸に秘めて、友好を前提として交渉に臨みたいということであります。意見が白と黒ほど離れているわけではございません。おおむねまとまっている点は御案内のとおりかなり出ておりますので、そういうことで最善を尽くしたいと思っております。余り細かくおっしゃっても、何しろ交渉事でございますので、この辺でひとつお許しを願いたいと思います。

○政府委員(股野景親君) 今先生から具体的に御指摘のございました指紋押捺の問題あるいは外国人登録証の問題についてでございますが、これは先生御高承のとおり、既に第三世代以降の問題について対処方針というものでの解決の方向性が打ち出してございますが、これはまだ、具体策についてはこれから取り組む課題でございます。したがって、この問題についてはこれからの具体策を研究するということについて我々の決意のほどを韓国側にもお伝えをしていくことになります。
 そこで、それに関連して、一、二世の問題について韓国側からの御要望があろう、こういう御指摘でございますが、既にいろいろな形で韓国側からもそういうことに関連しての御要望というものは我々同っておりますが、この問題につきましては、とりあえず我々としてまず今固まっておるところの対処方針というものの具体策をこれからつくっていく過程の中で一、二世という方々の関連の問題も考えていくということでございますので、これも今後の検討課題としてお受け取り願いたいと存じます。

○矢原秀男君 それで、検討課題の参考としてこれは法務省から私も書類をいただいたわけですが、諸外国における登録証明書携帯等の現状について、六十二年に法務省で調査をされていらっしゃいます、四十七の国ですね。これには二種類明示されています。外国人に対して登録証明書等の身分証明書携帯及び提示義務を課している国が二十一カ国、提示義務のみを課している国が八カ
国、こういうふうなデータが出ております。提示義務のみを課している国の八カ国には、先進諸国ではイギリス、西ドイツ、イタリア、オーストリア、あとインド、フィンランド、そういうふうな国がやっておるようでございますが、やはり一歩前進の提示義務のみを課している国の八カ国、これは大きな前進の一つの参考になるんではないかと私は思っているわけですが、この点については法務省としてはどういうふうに参考にされようとしているのか伺いたいと思います。

○政府委員(股野景親君) ただいま先生がお読み上げになられました状況は私どもの方で調査した結果を踏まえての御発言でございまして、私どももこの結果をひとつ我々の参考にすべきものと考えております。
 ただ、常時携帯義務と提示義務の関係はそれぞれの国の状況によっても違いまして、仮に常時携帯の義務がなくとも提示の義務がある場合に、提示の義務に対して罰則をかけておりますと、実質上持っておりませんと提示を求められたときに提示ができないということに伴う効果というものは非常に強いものがございます。そこで、この提示義務と常時携帯義務との関係はそれぞれの国の制度に応じて評価をすべきではないかと思っております。
 私ども日本の制度においては常時携帯をすること、それからもう一つ、求められたときに提示をすること、双方について法律上一つの強制規定を設けておるわけでございますので、この点はまず我々としては常時携帯という問題に着目して現在検討を行っておるところでございます。この点は、常時携帯ということの制度のゆえんがそもそも外国人の身分関係を即時的に把握するための手段として大変意味の大きいものでありますだけに、我々としてもこの問題の今後の検討はいろいろな面から検討する必要がある。特に、御存じのとおり最近不法就労者が非常に多いというような状況にありまして、即時的に身分関係を把握する必要というものも非常に強いという状況もございますので、今後についてはまずその常時携帯制度の運用面のあり方等も含めましていろんな角度からひとつ検討していくという立場で臨んでおる次第でございます。

○矢原秀男君 それで、私もイギリスに行かれた方のお話をちょっと伺っておりますと、これは法務省でも一回きちっとしていただきたいと思うんですけれども、提示を要求され、もし持っていない場合、そういうときは何十時間か猶予の時間を与えている、こういうふうに私はイギリスの関係で聞いたんですけれども、そういう点は法務省ではどこまで調べていらっしゃるのか、イギリスの場合。

○政府委員(股野景親君) 私も今ここでイギリスの制度についての詳しい情報を持ち合わせておりませんが、先生の御指摘のありました提示を求められて一定時間内に提示をすることについての時間枠といった配慮がなされているところがあって、イギリスもそうではないかという話を私どもも聞いたことがございます。この点につきまして、これも先ほど申し上げましたように、提示を求められたとき即時的に提示ができることが可能な場合はいいのでございますが、そうでなかった場合に、例えばその方の身柄を拘束するというような別の制度を設けているところもございますので、国によってこの点やっぱり事情があるんだろうと思います。
 では、日本でどうかという点でございますが、先ほど申し上げましたように即時的に判断できるという点が非常に重要でございます。その意味でなかなか時間枠という点についても難しい問題もあるなと考えておりますが、他方、かねてこの問題について国会で御論議いただきましたときにも、運用面でいろいろ配慮すべき点がある、例えば自分の生活の本拠のあるところで身分関係もはっきりしている状況にあって、家からほんの百メートルぐらいのところに出かけていくときにまで一々これを求めるのかと、こういったような御論議もいただいているというところもございますので、この点も先ほど申し上げました運用面のあり方というようなことをひとつ念頭に置いて検討をさせていただく、これまでもその点についての配慮を随分当局として行うよう努力してきているところであると存じております。

○矢原秀男君 私も今質問いたしておりますのは、歴史上に非常に不幸な状況があった、そういう方たちのことに対して質問しているわけですから、非常に幅のある、そういうものを今私は質問しているわけでございます。
 もう一つは、諸外国における指紋押捺の実施状況、これは四十九の国を六十一年に調査結果出されていらっしゃいますね。これも二つに分かれておりますが、二十五の国が外国人に対して指紋の押捺義務を課している。もう一つは、必要に応じて指紋の押捺義務を課している、これが九カ国。イギリス、西ドイツ、フランス、オランダ、ベルギー、スウェーデン、ノルウェー、ギリシャ、インド、こういうふうな状況になっておりますね。こういうふうな問題を見ておりますと、この指紋押捺の問題もやはり日韓においては大きな課題になっているわけでございますが、これらの国々、これはまた非常に参考になるんではないかなと私は思っているんですが、これは法務省としてはどういう見解ですか。

○政府委員(股野景親君) 委員御高承のとおり、この指紋押捺の効果というものは、同一人性を確定する手段として大変大きな意味があるという点でございます。そこで、各国ともそれぞれいろいろな形で同一人性を確定する方法というものをとっておるわけでございまして、例えば社会保険のカードというようなものを常時持っておるということが通常であるような場合には、これはそういうものが同一人性を特定できる一つの手段ともなるということでございますが、日本においてはまだそういう制度になっていないという状況がございます。
 他方、かねてからの国会での御指摘もいただいておりますので、指紋押捺ということにかわる同一人性特定のための制度の開発ということは、これは我々として真剣に取り組むべきことだと思いますし、今回の日韓協議におきまして示されましたところの三世以下の方々についての対処方針の中で、これについて早期に我々としてそういう開発を行うという決意を示しておりますので、この点はぜひ我々としても努力いたしたいと思いまして、現在鋭意研究開発中でございますが、これという結論をまだ得るには至っておりませんが、ぜひそれは努力をして早期にこれを開発するということで臨んでおります。

○矢原秀男君 私もこのイギリスの場合、法務省も御承知だと思うんですが、指紋押捺について十六歳以上の外国人に対し外国人登録証明書に署名だけすれば指紋押捺の義務はない。ただし、文盲の人は左親指を捺印していただく、押印していただく、こういうぐあいにイギリスの場合はなっている。先ほど申し上げた外国人の登録証明書携帯についても、イギリスでは常時携帯義務はない。ただし書きで提示義務はあるため、事実上携帯義務ありというような注釈になっておりますけれども。
 しかし、これは不幸なこういう歴史的な関係の中から、私はやはり在日韓国人の方々に対しては、これはまず廃止まではいかないけれども、運用面であるとか、もう一つ法的にも改善策を講ぜられる法務省の一つの大きなやっぱり検討案件ではないかなと思っているわけでございますが、この件について今質疑を交わした中でもう一回法務大臣の御答弁をしかと承りたいと思います。

○国務大臣(長谷川信君) 今委員からいろいろ御指摘あるいは御意見ございましたが、なお重ねて申し上げますが、明日、日韓両国の会議あることは、これは御承知のとおりでございます。どういう形で、今まで決まった分についてはこれは同じでございますが、今の指紋押捺の問題、それから携帯の問題、その他幾つかありますが、それらの点に日韓両国とも率直に話し合いをいたしまして一定の方向づけをいたしたいというふうに考えておりますが、どういうことになりますか、何しろ相手のある仕事でございますので、今ここで断定的にこういたします、ああいたしますということをはっきり申し上げることはできかねますが、最善の努力は払っていきたいというふうに思っております。

○矢原秀男君 警察庁、最後になって申しわけございませんが、最近、テロ、ゲリラ事件、こういうふうなことで国民生活に非常に不安を覚える形もあるわけでございますけれども、現況について事件の発生状況、こういうことの主なるものについてまず御報告をいただきたいと思います。

○説明員(伊達興治君) 極左暴力集団と私ども呼んでおりますが、一般的には過激派と言われております。これは昨年の四月から九〇年天皇・三里塚決戦、こういうことを唱え出しまして、目標は、かつては六〇年安保闘争、七〇年安保闘争と言いましたように、今は九〇年天皇闘争、こういうかけ声をかけ始めたわけであります。そして当面の最大の目標は、ことしの十一月の即位の礼、大嘗祭を粉砕する、彼らの言葉でいいますと爆砕する、爆発物で壊すというような、そんなニュアンスの言葉を使っているわけであります。
 その過程におきまして、昨年、とりあえずは四月二十八日、皇居わきの宮内庁宿舎の職員の住宅があるわけですが、そこの庭に彼らが得意とします圧力がま爆弾というのがあるのですけれども、それを車に乗せまして、そこへ運んで爆破させた。そしてこれが皇室闘争に向けての第一弾であるというようなことで昨年の四日二十八日に行っております。
 それから、この闘争というのは天皇・三里塚と絡ませておりまして、昨年後半からことしの初めにかけまして成田での団結小屋撤去の問題とか、そんな問題に絡みまして、成田絡みでもいろいろ行動を起こしております。そして、ことしの一月八日になりますと、京都の方と東京の方で同時に御所とそれから常陸官邸と両方に発射弾を飛ばすというようなこともやっております。
 それから、その後彼らは非常に警戒が厳しいところを避けるようにしまして、攻撃のターゲットを拡大してゲリラとかテロとかというようなものを繰り返してきているわけですけれども、最近の言い方としましては、基幹産業はもとより、運輸、通信、エネルギー、こういうところの産業までターゲットであるというようなことを言っております。あるいは皇居の問題に関しましては、これから即位の礼で使われる高御座、御帳合というものを京都御所から運ばなければなりません。それから礼宮殿下の婚礼があります。そして現在、盧泰愚大統領と天皇陛下の会談があります。こうしたものをすべて粉砕していく、こういうことを絶えず言っております。
 最近はテロ、ゲリラの傾向が、彼らは無制限、無制約といいますが、要するにターゲットを無限に拡大するという意味で、特に関西空港の専務宅、個人宅をねらうとか、それからこちらで言いますと全日空とかあるいは日本航空の会長とか社長宅をねらうとか、清水建設の社長宅をねらうとか、その他日本飛行機専務宅をねらうとか、そういう個人宅の入り口とか出口に時限式の発火物を仕掛けまして家を燃やすような方向に出てきたり、特に最近では動燃という動力炉・核燃料開発事業団が入っております三会堂ビルというのを三日十四日に爆破して地下の駐車場に火をつけています。この際には消防士の方が殉職されております。先ほど言いました鎌倉の日本飛行機専務宅の放火事件では御夫人が亡くなるというような、そういう犠牲が出ております。また御承知のように、最近は法務省関係のいろんな宿舎とか建物、車両、そんなところを燃やしてみたり、特に五月二十一日には近畿財務局が管理している合同宿舎の方に消火器様の爆発物を三個仕掛けまして、しかもトリック爆弾といいますか、最初の一発二発を短時間でやりまして、それから十分差の間隔を置いて今度三発を爆発させる。その間に人が集まっているところをねらってやるということですから、人の殺傷を明らかにねらっている、まさに個人テロの様相を深めているわけですけれども、その間に大阪入国管理局長あるいは消防士の方を初め四人の方が重軽傷を負われた。こんな状況で現在発展を見ております。

○矢原秀男君 今御報告をいただきましたように、確かに無制限、無制約の、そういう感じを非常に深くしております。市民生活を守っていただく、そういう意味では警察庁がどうしても表に立っていただいているわけですが、今後の対策ですね。やはり治安の上からもきちっとしていただきたいと思いますけれども、そういう今後の対策、どういうふうにやっていかれるのか伺いたいと思います。

○説明員(伊達興治君) そういう過激派がテロ、ゲリラをやる場合には秘密部隊が敢行するわけであります。非常に厳しい規律のもとで訓練されまして、お互い同士本当の名前もわからないような、そんな厳格な防衛態勢をとっております。しかも、事前に綿密な下見調査を行い、また警備が手薄で現場で逮捕されるといけないということで、そういうことを避けるような行動もとっております。さらには、時限装置を使う。あるいは車なんかについてもよそから盗んできたものを使うということで足がつかないようにする。あるいは、警察が現場に行ったときにはもう遠くに行ってしまっている。こんな形の行動をとってきます。徹底した証拠隠滅工作をとりまして、犯行に使ったものも後で燃やしてしまう。車両なんかも焼却してしまう。そういうことで大変困難をきわめるわけでありますが、私どもとしましては、こうしたテロ、ゲリラを防圧するために精いっぱいの努力をしてきたつもりでございます。
 例えば、昨年来千葉県の収用委員会の会長が襲撃された事件がありましたが、その犯人二人を、中核派の者ですけれども、割り出しまして逮捕し、さらに追加で二人の者を指名手配する。こういう措置をとっております。本年一月二十九日には埼玉県下におきまして、もう一つの過激派であります革労協狭間派の秘密アジトを摘発しまして、多数の爆弾あるいは手製挙銃、こうしたものを押収して活動家を逮捕しております。
 これらの摘発を含めまして、昨年からこれまでに秘密アジトを十四カ所、それから地下活動をしている秘密部隊員四十九人を摘発しております。今後ともこのように秘密部隊の摘発に全力を挙げるつもりでありますが、その一方でテロ、ゲリラを封じ込めるために、アパートローラーあるいは旅館、ホテル対策、さらには車両盗難防止対策、こうした諸対策を強力に推進してまいるつもりでございます。また、テロ、ゲリラの被害を受けるおそれのある個人テロの対象となる方々あるいは重要施設に対しましては、情勢に応じ、必要に応じ所要の警戒警備措置を講ずる所存でございます。
 さらに、最後に一言つけ加えたいのでありますが、テロ、ゲリラの防圧、検挙のためには、秘密部隊による武器の調達、車両の調達あるいは秘密アジトの設定、こうした不審動向が前段にあるわけでございます。そういう意味で、国民からの通報というような協力を得ることがこれらを徹底的に検挙するには不可欠のことと思います。そういう意味で、国民の理解、協力を得るために、さらに関係機関、団体とも連携をとりながら、きめ細かい総合的な施策を推進しまして、一層彼らの防圧に努めてまいりたいと思っておる所存でございます。

○矢原秀男君 じゃ最後に大臣、この問題について一つは法秩序の維持、二番目には治安対策、こういう立場から法務大臣としての御見解、決意を伺って終わりにしたいと思います。

○国務大臣(長谷川信君) 甚だ遺憾のきわみの事件でございまして、本当に国民各位に心配をかけているところであります。
 今警察の担当の方からいろいろ話がございますように、本当に努力して一生懸命やっていらして、今お話しのとおりいろいろ成果も上がっているのでございますが、今法務大臣としてはどうだということでございますが、捜査の段階でございますので私からコメントを申し上げることは本日のところはひとつ差し控えさせていただきたい。懸命な努力に対しまして心から本当にお礼を申し上げる次第でございます。頑張っていただきたいと思います。

○矢原秀男君 終わります。

 第118回国会 衆議院社会労働委員会 第8号 平成二年五月三十一日(木曜日)午前十時二分開議

【発言順】
 委員           渡部 行雄
 厚生大臣         津島 雄二
 厚生省年金局長      水田 努
 内閣総理大臣官房参事官  榊 誠
 外務大臣官房審議官    川島 裕
 内閣官房内閣外政審議室長 有馬 龍夫
 総務庁恩給局長      石川 雅嗣

○渡部(行)委員 まず大臣にお伺いいたしますが、ただいま議題となっております法案は、改正点そのものについては特に異議はございませんが、この法案のよって立つ基礎を掘り下げてまいりますと、いろいろな多くの問題に突き当たるのであります。
 例えばこの法律の沿革を調べれば明らかなように、大体日本の年金制度というものは、明治の初期に軍人を対象として発足してからいろいろな変遷をたどって、今日まで百十年余の経過を見ているのであります。その中で大きな出来事は、太平洋戦争の終結に伴い、連合国最高司令官の司令によって軍人恩給は一部傷病者の恩給を除いて廃止され、一定期間軍人恩給の空白が続いたのであります。そして、昭和二十七年の第十三回国会において戦傷病者戦没者遺族等援護法が制定されたのであります。そして、その翌年の昭和二十八年に恩給法が改正され、終戦後初めて軍人恩給が復活したわけでございます。
 こうした状況を考えますと、これらの変遷の中で、果たして公正、公平、かつ国民の納得を得ながらこの制度の改定が進められてきたのであろうかと考えれば、甚だ疑問なしとしないのであります。したがって、大臣は、この際、国際的観点と日本経済の見通しの上に立って、これらの国のために犠牲になられた人々に対する諸制度が本当に公平であるかどうか、また国民から喜んで受け入れられているのかどうか、さらに、この法律の網から外されているものはないかどうかなど、まだまだ再検討を要する問題がたくさんあると思うのでございますが、これに対する大臣のお考えをお聞かせ願いたいと思います。

○津島国務大臣 委員御指摘のとおり、確かに現在の我が国の年金制度を概観いたしますと、制度それぞれかなりの期間にわたっていろいろな経緯を積み重ねながら今日に至っておりますから、その長い歴史を通じてすべて同じような取り扱いになっているかと言われると、それぞあの方のこれまでの履歴その他によりまして違った結果になるという事実は私も否定するものではございません。しかし、制度そのものが相当の期間をかけてつくり上げられているということ、そして、それぞれの制度について既に相当数の方が現在のルールで参加をしておられるということを考えますと、それぞれ個々のグループの方について取り扱いの違いがあるという問題を完全に解消することは非常に難しいのではなかろうか。むしろ現在の制度を前提としながら、これを長期にわたって安定をさせていく、また少しでも条件を整備するということをしていくのが妥当ではないであろうかというのが、私の一般的な考え方でございます。

○渡部(行)委員 そこで、この恩給法の経緯の中で一番問題となっているのは、今軍恩欠格の問題でございますが、同じ軍人として国に奉公しながら除隊になって、ある方は役場に勤務する、あるいは学校の教師となってそこで働く。そういう方方が公務員として取り扱われるし、またその公務員については、かつて軍務に奉職した期間を共済年金期間に即座に通算されている、そして、それに基づいて年金の支給を受けているわけです。一方、同じ軍隊で苦労をし、あるいはその方と一緒に除隊して、自分は農業を営む、また隣の戦友は民間会社に勤める。ところがこういう方々は、全然国民年金にも厚生年金にもその軍務に服した期間が通算されない。こういうことが果たして公平、公正と言えるでしょうか。
 公務員制度とこの軍人勤続期間というものと、どういう兼ね合いで公務員だけがそういう恩恵を受けられるのか。そして同じ軍人として勤務しながら、農民や一般の会社員その他の方々は全然これを考えにさえ入れてもらえないでおる。これについて果たして公正、公平と言えるでしょうか。この問題で、実際軍恩欠格者として今果たしてどれだけの人数が残っておられるのか。また、今は戦後の状態と大分状況が変わりまして、年金の一元化という情勢にあるわけでございます。そうすると、この年金の一元化ということは、言ってみればすべて公的年金と考えても間違いではないと思います。だとすれば今こそ、この軍人恩給欠格者の人たちをこんなに苦しめなくても、その期間をいわゆる軍務に携わった期間を国民年金なり厚生年金の期間に通算してしかるべきではないかと考えるわけですが、その点についてほどのようにお考えなのか、明らかにしていただきたいと思います。

○水田政府委員 御質問の趣旨は、軍人恩給期間は共済組合は通算されているのになぜ厚生年金や国民年金に通算されないのかという点に尽きるかと思いますが、御案内のとおりに共済制度は恩給制度を承継した制度で、いわば一体の制度でございますので、恩給期間の対象になります軍歴期間が共済組合に通算されるのは私ども当然のことではないかと考えておる次第でございます。
 それではなぜ自営業者を対象とした国民年金あるいは民間サラリーマンを対象とした厚生年金に通算しないのか、こういう御指摘でございますが、国民年金、厚生年金とも自分の制度の加入期間で年金が受けられるように種々、制度発足時に配慮をいたしているところでございまして、例えば国民年金で和し上げますと、五年年金、十年年金あるいは十一年から二十四年年金まであるわけでございまして、給付の面につきましてもいろいろかさ上げ措置その他の配慮をいたしているところでございまして、私どもとしましては、社会保険の方式をとります厚生年金なり国民年金というものにつきましては、保険料を拠出していない期間を対象にすることはやはり根幹にかかわる問題としてできない、このように認識しておる次第でございます。

○渡部(行)委員 国民というのは、政治のもとに平等でありたいというのが国民の一番の気持ちなんですよ。それを最初から今の共済年金は軍人恩給の制度を引き継いだ、そういうようなことで、それだけを通算するというのはちょっとおかしいのではないか。もちろん通算するととに反対しているのではありませんよ。それなら、同じように国民に対してもこの通算をしてやって、そして国民の中に、同じ国のために一生懸命奉仕してきたのですから、当然その報いとして平等に取り扱ってもらいたいというのが国民の心理状態だと思うのです。それにこたえるのが政治ではないでしょうか。その点についてはいかがなものでしょうか。

○水田政府委員 厚生年金や国民年金につきましては、先ほど申し上げましたように、自分の制度の加入期間で年金がもらえるように基本的に措置がなされておるわけでございまして、先生御提案のように厚生年金や国民年金に軍人期間を通算するということになりますと、やはり同じく戦時下自営業を営んでいた者あるいは工場に勤めていた者、これらもバランス上国民年金あるいは厚生年金に対象期間として入れないとバランスを失する、こういう問題が起きてくるわけでございますが、そうなってまいりますと、ただでさえ現在の国民年金あるいは厚生年金は制度の維持に財政上の非常な困難を伴っているわけでございまして、膨大な追加費用を伴うということに相なるわけでございますので、財政上から見ても極めて私は困難ではないかと考えておる次第でございます。

○渡部(行)委員 これは全く私は、今のお答えは噴飯物だと思うのです。なぜかというと、財政がやり切れないからそこまで拡大できないのだ、こういうことは理由にならないと思うのですよ。これが敗戦後間もなくの話ならいざ知らず、今一兆五千億からのODAの予算を取って外国に援助しておる、こういう体制の中で、一般の人はこれは大変数が多いし、やると大変だという、そういう感覚でこの問題を見られたら、戦争に行った人たちは一体どのように考えるでしょうか。自分が行ったと考えて、その上で自分ならどういうふうに考えるかを考えていただきたいと思うのです。
 それで、それが正しいやり方だとすれば、それではなぜこの平和祈念事業の特別基金というものを設けて、しかも、恩給欠格者に対する書状、銀杯贈呈事業、こういうものまで起こして、基金の活用を特にこの人たちにやっていこう、こういうことを考えたこと自体、これは明らかに恩給制度の不公平性を証明したものだと私は思いますが、その点はいかがでしょうか。

○榊説明員 お答えいたします。
 今先生、私どもの方で所管しております平和祈念事業特別基金に関しての御質問ということでございますので、この基金ができました経緯につきまして御説明させていただきたいと思います。
 この基金ができましたのは、昭和六十三年五月に国会におきまして、平和祈念事業特別基金等に関する法律というものを御成立いただいたわけでございますが、この法案を提案いたしました考え方といたしましては、いわゆる戦後処理問題の中でも、シベリア抑留者の方々あるいは恩給欠格者の方々あるいは引揚者の方々、この三問題につきましては、非常に大変な御苦労をされたというそういう認識のもとに、国としての何らかの慰藉の気持ちを示したいということから、この基金をもちまして各般の慰藉事業を行わせていただく、恩給欠格者につきましては平成元年度から、今先生お話のありましたように、慰藉の念をあらわすという気持ちの関係で、一定の資格の人でございますが、書状あるいは銀杯を贈呈させていただく、こういう事業を始めさせていただいた次第でございます。

○渡部(行)委員 それでは、同じ戦地に行ってきた方でも、いわゆる共済年金に入っておられる方に対しては別にそういう特別な気持ちで慰藉の気持ちを表現する必要はない、こういうことなんですね。ですから、通算されない人だけは、気の毒だからそこで精神的な慰藉をするためにこういう制度でやったんだ。それをはっきりしてください。

○榊説明員 お答えいたします。
 恩給欠格者の方と言われますのは、六十三年度から元年度にかけまして、平和祈念事業特別基金の方で一応推計調査というのをやっておるわけですが、平成元年十月時点で約二百五十三万人、これは生存者の数でございますが、おられるだろう
この方につきましては、これは在職年が主として兵の場合には十二年未満の方ということで、在職年についてはもちろん長短があるわけでございますが、この方々、恩給を受けられない方の労苦につきまして、一律に、言ってみれば慰藉の念を示すということから行われている事業でございまして、その通算されないことに伴う慰藉の念を示すんだという考え方ではございませんで、むしろ、こういう方々が大変戦争中御苦労された、そういう労苦に対して国としての気持ちをあらわしたいということから行われた事業であるというふうに理解しているところでございます。

○渡部(行)委員 これは私も、むしろ経緯についてはあなたよりも知っているくらいなんだ。
 そこで、この基金の運用は今どのようにされてきたか、それを明らかにしてください。

○榊説明員 お答えいたします。
 平和祈念事業特別基金の現在の運営の状況ということでございますが、御承知のとおり、平和祈念事業特別基金は、六十三年の七月一日に認可法人として設立されてございます。
 具体的な事業につきましては、法律で具体的に事業名を書いてございますが、関係者の労苦に関しての資料収集あるいは労苦調査の関係あるいは講演会等一般の国民の理解を得るための各般の慰藉事業を行うとともに、個別の措置といたしまして、例えば恩給欠格者の方につきましては、先ほど申しましたように、一定の資格のある方に対して書状、銀杯を贈呈させていただいている。あるいはシベリア抑留者の方につきましては、御遺族の方も含めまして、例えば恩給等を受けておられない方につきましては書状、銀杯、国債の十万円、あるいは恩給を受けておられる方につきましては銀杯の関係は三つ重ねという形で、あるいは現地で亡くなられた方につきましても、平成元年度から書状、銀杯の贈呈事業を開始させていただいた。
 現在の状況は以上でございます。

○渡部(行)委員 それで、今度はシベリア抑留者の問題に移りますけれども、戦後強制抑留者に対しては、慰労品あるいは国債で十万円、それから銀杯、こういうふうになって、しかも、今軍人恩給をもらっている方にはこの十万円は差し上げない、そういうことでありますが、これはなぜ三つ重ねと単杯とに分けて支給したわけですか、その内容をお聞かせください。

○榊説明員 お答えいたします。
 シベリア抑留者に関しましての慰労事業につきましてのお尋ねでございますが、先生今お話のありましたように、現在の状況の中では、恩給受給者の方あるいは恩給を受けていない方におきましては、銀杯につきましてそれぞれ異なった種類になっているわけでございます。これの経緯につきましては、六十三年度の予算措置の中では、恩給受給者の方につきましても恩給をもらってない方と同様に単杯の銀杯だったわけでございますが、その後、恩給をもらっている方々から同様に慰労金十万円についても要求がございまして、結果においては慰労金十万円を出すということはしなかったわけでございますが、その辺の気持ちも酌んで、贈る銀杯につきましては三つ重ねという形で平成元年度からの事業として今取り組んでいるところでございます。

○渡部(行)委員 これは大体三つ重ねの対象の方と単杯の対象の方で今どのくらいおりますか。実際に、もう既に手渡して事務的に終わった方、あるいはまだ手渡さないためにこれから仕事を進めていく、こういう方の数字を教えてください。

○榊説明員 お答えいたします。
 シベリア抑留者に関しましての慰労品の請求処理状況について御説明いたしますと、平成元年度末の数字でございますが、恩給等非受給者、単杯の方でございますが、三月末現在で十五万七千件の請求がございます。そのうち十三万五千件処理させていただいているということでございます。それから恩給等受給者、この方は銀杯、三つ重ねでございますが、九万五千件の請求がございまして、三月末時点で三万三千件の処理をさせていただいた。それから先ほどちょっと補足しましたけれども、現地で亡くなられた方、この方につきましても元年度から新規に銀杯の贈呈を始めさせていただいているわけですが、この方につきましては、二千人の請求がございまして一千名の方に贈呈させていただいている、こういう状況でございます。

○渡部(行)委員 こんなのろのろの仕事をされておったのでは、まだもらえないうちに死んでいく人がたくさんいるわけです。せっかくつくられた国の政策でも、実際に何らの効果を発揮しないで、そして後から、死んでしまったところにその銀杯が贈られたり書状が贈られたりしておるというところもたくさんあるわけですから、もっと真剣になって、出すところはどんどんと出して、そういうことのないようにすべきだと思います。
 そして特に、政府の方では戦後処理は終わったというふうに理解しておるようだけれども、これは公式に国会として決議とかそういうもので決めたのではなくて、政府と自民党の申し合わせでそういうことができ上がっているのをあなたも御存じだろうと思うのです。しかし、このシベリア抑留者の問題というのは今まさに訴訟中なのでございます。これの結論が出ていない。そういうことを考えると、もっと慎重に取り扱わないと後で大変な問題になる。
 しかも、このシベリア抑留者の場合、昨年選挙間近になって五億円を一方の団体に交付して他方の団体には全然交付しなかった。つまりこれは、あなたが知っているように、シベリア抑留者の団体というのは二つに分裂しておるわけです。そして交付を受けなかった方の団体の方が人数が多いわけで、そういう一切を知っておりながらこの一方的なやり方をしたことはどういうわけですか、そこを教えてください。

○榊説明員 お答えいたします。
 今先生がお尋ねの件は、元年度の予算といたしまして、シベリア抑留者の特別の慰藉のため、元年度限りということで五億円の予算が計上されたわけでございます。この具体的な内容につきましては予算編成時には特に決められいていたわけではございませんで、現実的な使途につきましては、特別基金に対する補助として五億円を行うという形で予算がついたわけでございますが、具体的な使途につきましては、御承知のとおり特別基金の中に重要事項を審議いたします運営委員会というのが、これは民間の方から構成されます、関係者ももちろん含まれてございまして、十名の委員から成っておるわけでございますが、その委員会の場で一応使い道についての慎重な御論議をいただいた次第でございます。
 その委員会の考え方といたしましては、非常に貴重な五億円というお金でございますので、単年度で全部使い切ってしまうということよりは、むしろ基金といいますかファンドということで、それをもとにして運用益を生み出していこう、そういう運用益をもって永続的に、シベリア抑留者全員を対象にしてきめ細かな慰藉事業をやるのが適当なんじゃないか、こういう考え方になりまして、それで具体的な受け皿としてどこが適当なんだろうかということになったわけでございますが、御承知のとおり公益法人という法人は、不特定多数といいますか、広く関係者を対象にいたしまして公益活動を行うという性格の団体でもございますので、そこの公益法人の方へ助成をするというのが適当ではないか、こういう結論に至ったわけでございまして、それを受けまして、尊重いたしまして、政府側としても特別基金の方に五億円の補助を行ったという経緯でございます。

○渡部(行)委員 全く非常に巧妙なごまかしがなされているわけですよ。あなた、そんなことを言うけれども、全部知っているはずなんだ。この団体が二つに分かれた経緯からすべて知っているはずだ。何でその団体というものを認めないで、全体というものを認めないで、その一部の公益法人として財団法人をその対象にしたのか。財団法人という名前があれば、それで公益法人だとすべてが言えるわけじゃないのですよ。あなた、実態を完全に調べているのですか。

○榊説明員 お答えいたします。
 今申し上げましたように、五億円の補助を財団法人の方に助成したわけでございますが、この五億円の基金につきましては財団の中でも一応経理を別にしていただくという形で、事業としては財団が本来行う事業とは別な形で一応手当てをさせていただいているわけでございます。あるいは、その事業をやるにいたしましても毎年度特別基金の方の承認をとっていただくということでございまして、その対象となる事業につきましては、特定の団体の構成員を対象とするというよりも、そこに入っていない方も含めて全抑留者のために使われる金ということで助成したわけでございまして、私ども、その使途につきましては非常に公平な形で運営されていくべきものというふうに考えておる次第でございます。

○渡部(行)委員 このお金というのはシベリア抑留者全体が対象になっているのですよ。それをあなた、財団法人に入っている者だけが対象になっているような考え方を持っているようだけれども、おかしいんじゃないですか。大体平成元年というのは、もう選挙が間近に近づいているというのはだれでもわかっていたんだ。そういう時期に一方的に財団法人だけを対象にこういう重要な国民の税金を使わせるということはとんでもない話だ。そして運営委員のメンバーにだってそうでしょう。こっちでは両方から公平に出しなさいと言っているのに、一方からだけ出しているじゃありませんか。そういう不公平なことを、あなたはちょうちん持ちと同じなんだ。本当にそういうことでは困るので、これからはどういう運営をしようとしているのかはっきり言ってください。

○榊説明員 お答えいたします。
 元年度に先ほど申しましたように五億円の助成をいたしたわけですが、財団法人の方が事業主体となりまして、私ども慰藉基金と申しておるわけでございますが、五億円の運用をしているわけでございます。元年度の事業といたしましては地方三カ所、中央一カ所で慰霊祭が行われてございます。この慰霊祭につきましては、必ずしも財団の関係者だけで行っているわけではございませんで、新聞、広報等を通じまして広く抑留者全体に呼びかけを行ってございます。現実に行われた慰霊祭の方には、必ずしも当該団体の関係者だけではなくて、それ以外の団体の方、あるいは一般の、それらに加入されてない方も含めて非常に公平な形で事業が行われていると私ども承知している次第でございます。
 もう一点の運営委員の関係でございますが、確かに運営委員十名の中にそれぞれ三問題の関係者が一人ずつ入ってございます。御承知のとおり、シベリア関係者もお一人入っているわけでございます。しかし、この運営委員につきましては非常に公平に客観的に御審議をいただく機関という位置づけをしているわけでございまして、現在選ばれている方、この方はもちろん関係団体の役員もしているわけでございますが、そういうお立場で御参加をいただいているわけではございませんで、全抑留者を代表する立場での御発言なり御活躍をされているということでございまして、私どもそういう意味では、そういう立場を十分わきまえた意味での御活動をされているというふうに見受けている次第でございます。

○渡部(行)委員 慰霊祭を財団法人にさせたというけれども、私もシベリア抑留者なんですよ。はがき一本来ませんよ。そういうでたらめなやり方をあなたは全然見ようとしない。本当にこれは困ったものですよ。
 しかし、こんなこと長々とやっても仕方ないから先に進みますけれども、これからは同じような財団法人をつくれば、それは結局そういう助成の対象になるのですか。そこを明確に言ってください。

○榊説明員 お答えいたします。
 先生御質問のように、財団法人にすれば助成の対象になるのかという御質問でございますが、基金で行う事業につきましては、いろいろな事業を行っているわけでございますが、補助事業というのは確かにございます。そのうち補助事業の対象としてどのようなものを考えるかということになるわけでございますが、それは事業の内容なり性格なり、あるいは執行面等考慮いたしまして、総合的に補助対象が決まっていくわけでございます。ですから、必ずしもその事業内容、事業性格からすれば財団法人でなければ補助の対象にならぬというわけではございません。現実に、任意団体の方にも、昨年度におきましては、労苦調査に関係の調査を依頼をさせていただいておるというふうに聞いておるところでございます。

○渡部(行)委員 これは尽きることのない議論になりますから、この程度でやめておきます。
 次に、この間韓国から盧泰愚大統領が来て海部総理と大分いろいろお話をされたようでございますが、今韓国にある、日本とかかわり合っている諸問題というのはどういうものがありますか。まずそこをはっきりお聞かせ願いたいと思います。

○川島政府委員 お答えいたします。
 先般の日韓首脳会談におきまして海部総理より、過去の一時期の問題について言及されまして、謙虚に反省し率直におわびの気持ちを申し上げたいと述べられた上で、過去に起因する問題には一区切りをつけて新しい関係構築に向けてスタートを切りたいと申されたわけでございます。一方、盧泰愚大統領は、訪日の最後の記者会見におきまして、私を初め私の国民も、今後、過去の不幸な歴史についてはこれで一応決着がついたと思うであろうと確信いたしておりますと述べられまして、その意味で過去の問題については一区切りがついたという認識でございます。ただ、これは日本側としてこれで過去について忘れてしまっていいというような話ではないことはもとよりでございます。
 なお、これは歴史の認識についてでございまして、大統領の訪日に際しまして、その歴史の認識に加えまして過去に起因する問題というのが三点ございまして、一つは在日韓国人三世の問題、それからサハリンの韓国人の方の問題、それから被爆者の問題でございますけれども、それについてもやりとりがあって一応の解決の方向を見た、こういうことでございます。

○渡部(行)委員 新聞記事と大分違うようですね。新聞記事では、これは五月二十五日の夕刊ですが、「八月にも賠償請求提訴」、こういうふうな見出しで書かれているのです。それはどういうことかというと、お言葉、謝罪を根拠にして訴訟を起こすというわけです。また、海部総理は、「人道的観点から努力したい」、こういうことを言われておって、「残留韓国人や、最近ようやく韓国に帰国できた人たちとその家族、遺族が、日本政府に対し損害賠償を求める訴訟を八月にも起こすことになった。」こういうふうになっているのですが、こういう訴訟が起こされて、サハリンの残留韓国人、これは一体国籍はソ連にあるんじゃないでしょうか、そうすると、そういう国籍関係といわゆる朝鮮人という人種関係との問題はどういうふうにかかわってくるのか、そして、その請求権というのは一体あるのかないのか、その辺について御説明願いたいと思うのです。

○川島政府委員 まず、被爆者の問題につきましては、これはお気の毒な経緯がございますので、四十億円の支援というものを韓国側の被爆者支援事業に対してお出しするということで対応しております。
 サハリンの問題につきましては、ようやくお帰りになれる方たちなものですから、それの里帰りとか故国に帰られる費用等々を毎年お出ししている次第でございます。
 ただ、いわゆる賠償ということになりますと、これは国交正常化、昭和四十年でございますけれども、そのときの日韓請求権及び経済協力協定によって完全かつ最終的に解決しておる、こういうことでございます。

○渡部(行)委員 日韓条約ではそうなっているならば、総理がどうして努力をしたい、あるいは日本がかって朝鮮人を強制連行して、鉱山や軍需工 場で働かせた、そういうことについてもその名簿を探せ、こういうふうに総理は言っているのですね。名簿をつくるのではなく、大至急保管先を見つける、こういうふうに言われているのはどういう意味でしょうか。

○川島政府委員 強制連行の問題でございますけれども、これもまさに不幸な歴史の中の一つの側面だったわけでございまして、これは先般の大統領訪日のときの日韓の外相会談だったのでございますけれども、韓国側外相から中山外務大臣に対して、最近韓国内で強制連行の名簿を日本側に求めろという声が非常に強くなっているので協力をお願いしたいという提起がございまして、ですからこれについて、日本側にどういうものがあるかということを見た上で、いずれ韓国側にお答えしなくてはならないという状況ではございます。

○渡部(行)委員 それで、その名簿は実際にあったのですか。

○有馬政府委員 これは何分古いことでございますので、今、事実関係その他を関係があり得ると思われる省庁の方々に内閣に集まってもらって一緒に調査を開始しているところでございます。したがいまして、まだ御質問の趣旨に対してお答えができる段階には至っておりませんので、しばらく時間をおかしいただきたいということでございます。

○渡部(行)委員 これは幾ら戦時中とはいえ、外国人を国境を越えて自分の国に強制的に連れてくるとき、その人の現住所と本籍と名前とあるいは家族の名前まできちっと保管していると私は思うのですがね。そういう事務はかつてどこでやっていたのですか。

○有馬政府委員 今先生が取り上げられました最後の部分を含めて調査しているところでございます。

○渡部(行)委員 大体どこにあるという見当もつかないでどういう調査ができるのでしょうか。見当をつけてあるからこそ、これから調査をしてその人数を確認するというなら話がわかるけれども、どこにあるか全然わからないで調査する、調査すると言うのは、言葉だけの調査になって結局何にもわからなかった、大山鳴動してネズミ一匹も出なかったということになりはしないか、その点はいかがでしょうか。

○有馬政府委員 今本当に存在しているかどうかわからないのでございます。そして、当時このようなことをどこが所管していたかということを含めて調べているわけでございまして、繰り返して申しわけありませんが、何分にも古い話でございまして、関係あり得るところにお集まりいただいてそれを調べているということでございます。

○渡部(行)委員 そうすると、海部総理の言ったことは何のために言ったのだか何か全然わけがわからなくなってしまうのですね。そして八月にそういう関係している犠牲者の方々から訴訟が出されたときに、それは日韓問題の中で終わったのだということで、果たしてその締めくくりができるでしょうか。その辺についての見通しをお聞かせ願いたいと思うのです。

○川島政府委員 強制連行された韓国人の方たちのお話と申しますのは、国交正常化に至る大変長きにわたる交渉があったわけでございまして、そこでも一つの大きな問題としてずっと取り上げられてきた次第でございますけれども、当時の記録等々を洗ってみますと、請求権の法的根拠とか事実関係についていろいろ詰めてはみたのですが、結局のところ、終戦の混乱とそれから朝鮮動乱による韓国側の資料の散逸等によって積み上げて見るということができなくて、そうして一括解決するという形で決着が図られた、こういうことのようでございます。そこで、強制連行に関します請求権もその中で最終的に解決されたということになっております。
 サハリンの話につきましても、賠償ということになりますと、これは訴訟になりましても同じことだろうと思います。ただ、過去に起因する問題ということで、サハリンにいたしましても被爆者にいたしましても、そうは言ってもお気の毒であるので、何ができるかという観点から、サハリンの場合には、里帰りとか滞在費とかをできる限り御協力申し上げるし、それから原爆についても医療活動を全面的に支援させていただくとか、そういう形で引き続き配慮をやっていきたい、こういうことでございます。

○渡部(行)委員 サハリンの残留韓国人の方というのは何人おられるのですか。

○川島政府委員 お答えいたします。
 帰還促進団体の推定の数字でございますけれども、現在大体六万人ということでございます。このうちソ連国籍が七〇%ですから、四万人強、それから北朝鮮籍が二五%ですから、一万五千人でございますか、ということでございます。それで今韓国へ帰りたいということを望んでおられる方は約三千名、こういうふうに推定されております。

○渡部(行)委員 そこで、この問題は、韓国と日本の場合は日韓条約等があるからわりかた取り扱いやすいと思いますけれども、これから出てくるのは朝鮮民主主義人民共和国との関係が当然同じようなケースで出てくるのではないか、こう推察されるわけですが、そういう場合は日本政府はどのような身構えをしてそれに当たるのか、その辺の事情をお聞かせ願いたいと思います。

○川島政府委員 お答えいたします。
 まさに朝鮮半島に関しまして今までのところ決着しましたのは韓国との関係でございまして、北朝鮮との関係は全く白紙の状況でございます。したがいまして、これはまさに将来あり得べき日朝間の正常化の過程で処理されるべき大変重大な問題だ、こう認識しておりますし、そこで、まさに請求権の問題を含めていろいろと対応しなければならないと考えております。

○渡部(行)委員 そこで、こういう問題は戦後処理問題の範疇に入るのですか、それともそれ以外のどういう問題として取り扱われるのか、その辺の政治的位置づけをはっきりと教えていただきたいのです。

○川島政府委員 お答えいたします。
 北朝鮮に関する請求権等の話は、これは紛れもなく戦後処理の最後に残った話だろうと思います。その他の日韓間の問題、例えば、今御指摘になりましたサハリンの話等々は請求権という観点からですと国交正常化のときに解決済みということでございます。ただ、他方、人道的見地から大変お気の毒であるということで、サハリンあるいは被爆者の問題についてはさらに請求権、賠償とかいうのとは切り離して、不幸な過去にかんがみて対応してきた、こういうことでございます。

○渡部(行)委員 時間もありませんから、最後に恩給の問題で、支那事変及び大東亜戦争等従軍加算一覧表というものがあるわけです。そこで、この表はいつつくられたものか。また、この加算の基準というものはどういう基準によって加算年数なりそれが決められていったのか。そして、この加算を決めるとき、一カ月につき三カ月とか二カ月とかあるいは事変地は二カ月そして抑留加算は一カ月、こういうふうに決められたのは一体どういう根拠に基づいたのか、その辺をひとつお聞かせ願いたいと思います。

○石川政府委員 お答え申し上げます。
 ただいまの支那事変及び大東亜戦争等従軍加算一覧表がいつつくられたかという御質問でございますが、これは各加算等につきまして必要を認めて、これを勅裁という形でその都度決裁を得てきたものが戦後一つの表として整理され、まとめられた、こういうことで御理解をいただきたいと思います。
 なお、加算年等の問題でございますけれども、これは戦地勤務等勤務の危険性、特殊性といった実態に着目いたしまして、その在職年の評価を高める、そういう性格のものであるわけでございますが、この加算制度の枠組みにつきましては、戦前から恩給法においてきめ細かく決められたものでございます。また、いわゆる戦務加算年等の加算の程度それから加算の認められる期間及びその地域等は、先ほど申し上げましたが勅裁で定める こととされておりまして、戦時または事変のつど内閣告示で公示されたものであります。その内容は、実質的に戦時、事変の状況を掌握しておりました旧陸海軍省を中心に加算事由の生じた当時において種々検討の上決定されたものでございます。

○渡部(行)委員 その都度戦時中にやったというのはわかりますが、それでは、この抑留加算、これはいつの時点でやられたのですか。

○石川政府委員 ただいま御指摘の抑留加算につきましては、昭和四十年に設けたものでございます。その際には、戦後のこの時点において新たに加算制度を設けることの是非を含めて種々検討が行われたようでございますが、その結果、この間非常に苦労されたという実態等から新たな加算年制度を設けることにしたということでございます。
○渡部(行)委員 これは非常に問題があると思うのです。大体その一地域、激戦地においてはどのくらいの率で戦死をしたとか、あるいは負傷者が出たとか、そういうのが過去には考えられておったと思います。ところがこの抑留者でも、シベリア抑留者のように日清戦争よりも死んだ人の方が多いんですよ、率としても。そういうものがほとんど考えられていないで、非常に優遇された土地に抑留された方々と一緒に全部一律一カ月に一カ月、こういうまさに真心の入っていない、いいかげんな事務的なやり方でいいだろうか。こんなことで国民に納得させられるだろうか。まさに日本の一番ずるさがここに出ていると私は思うのです。こういうものについてはぜひ再検討をして、今の加算の数字が違っていくと恩給にも皆これが波及するわけですから、そういう点では洗い直しをして、もっと公平性を実現していただきたいと思います。
 最後に大臣に、今までいろいろ議論してきましたが、特に私は、厚生大臣は非常に誠実な人だと常日ごろ敬意を表しておるわけですが、ひとつそういう点で、こういう問題の総ざらいにある時期に再点検をしていく、そういう姿勢で臨んでいただきたいと思うのです。ひとつ大臣の決意のほどをお聞かせ願って、終わります。

○津島国務大臣 ただいま改めて戦争の傷跡を思い起こさせるような戦後処理の諸問題を承りまして、随分問題が残っているなという感を否めないのでございます。
 ただ厚生省の立場から申しますと、厚生省が引き揚げ援護の仕事を省の仕事として授かりまして以来、戦傷病者、戦没者遺族等に対する援護、遺骨収集、慰霊巡拝等の戦没者の慰霊事業、それから中国残留孤児等を初めとする引揚者の援護等の業務を担当しろというふうに明確に決まっておるわけでございます。これらの援護施策の充実については私としても一心にやりたいと思いますが、そのほかの問題につきましては、所掌の官庁の仕事を私どもとしてお手伝いできる点がございましたら、お手伝いをしてまいりたいというふうに考えております。

○渡部(行)委員 終わります。どうもありがとうございました。

 第118回国会 参議院内閣委員会 第5号 平成二年六月一日(金曜日)午前十時一分開会

【発言順】
 委員         吉岡 吉典
 外務大臣官房審議官  川島 裕
 国務大臣内閣官房長官)坂本三十次

○吉岡吉典君 官房長官出席の委員会ですので、今話題になっております朝鮮人強制連行問題について最初に少しお尋ねしておきたいと思います。
 まず最初に、次の三点についてお答えを願いたいと思います。それは、強制連行問題の調査ではこれまでこれに関連することで政府は調査なさってきたことがあるのかどうか、これが第一点です。第二点は、名簿はともあれ、強制連行した朝鮮人の人数の概数ぐらいは現在わかっているかどうかということです。三番目の問題は、この調査というのは、名簿づくりだけなのか、それとも朝鮮人の強制連行の非常にひどいやり方、また連行されてきた在日朝鮮人がいかに大変な苦難を強いられたか、こういうことをも含めて調査なさるのかどうなのか。以上三点、簡潔に結論だけで結構ですから。

○政府委員(川島裕君) お答えいたします。
 実は、朝鮮人の強制労働の件でございますけれども、これは日韓国交正常化は昭和四十年にできたわけでございますけれども、それに先立つ大変長い両国間の交渉がございまして、その過程で請求権の処理の一つの問題としてずっと韓国側とのやりとりがあったと承知しております。当初そういうまさに賠償等々の請求権の取り扱いで、法的根拠とか事実関係等について相当詰めようとしたようでございますけれども、終戦の混乱とか、それから朝鮮動乱による韓国側の資料の散逸等がございまして、結局個々の事例、個々の事案の積み上げという形で請求権の解決をすることができなかったということで、我が国から韓国に対して経済協力を行うこととして、これと……

○吉岡吉典君 調査したかどうかでいいんですよ。

○政府委員(川島裕君) 並行して請求権を解決するということで解決を見た、それで現在に至っている、こういうことと承知をいたしております。

○吉岡吉典君 概数はわからないかどうか。それはわからないということですか。今後の調査のテーマは。

○政府委員(川島裕君) したがいまして、概数等についてもわかっておりません。

○吉岡吉典君 今後の調査は。一々、私は三点聞いたんですから。今後の調査テーマ。

○政府委員(川島裕君) 今後の調査につきましては、まさに内閣の方の取りまとめにお願いして、どこにあるかということで調査を進めているところでございますけれども、まだ結論は出ていないということでございます。

○吉岡吉典君 名簿だけかどうかということを聞いているんですよ。

○国務大臣(坂本三十次君) それじゃ、三点目ですね。三点目は、この前の盧泰愚大統領が来日されたときに日韓外相会談がありまして、その席で韓国側から日本側に、強制連行者の名簿があったら提出を願いたいと、こういう依頼がありました。そこで私どもといたしましては、関係各省に当たって今調査をしておるという段階でございまして、韓国側から求められたのはその名簿を出してくださいということだけでありました。

○吉岡吉典君 私は今の報告を聞きまして、概数さえもわからないということを聞いて、日本政府は今まで調べようとも全然してこなかったことがこれで明らかになったと思います。
 資料が散逸したとおっしゃいましたけれども、残っている資料によっても朝鮮人がどれぐらい運れてこられたかということの概数は、民間人は戦後ずっとこの問題を研究してきまして答えをいろいろと出しております。私も三十年ほどこの問題をやってきました。ですから、いろいろな数字もあることも知っております。例えば、政府関係の資料によっても、百五十一万九千人以上の朝鮮人が強制的に連れてこられたという統計も、試算することができる政府の統計もあります。例えば、そのもとになる朝鮮総督府の資料なんか活字になって出て、ちゃんとこれは国会図書館にもあります。それから、人数がこういうのに比べて少ないのですが、公安調査庁が一九五三年に「朝鮮人労務者渡航状況調査表」というのを「在日朝鮮人の概況」という本の中でも彼らは出しております。
 先ほど日韓交渉でいろいろ論議があったという話がありました。このときには数字を挙げての話があったと私は推測しております。というのは、まさに日韓交渉の真っ最中に、元運輸大臣であった荒舩清十郎氏、故人ですけれども、この人が行われた講演があります。これは一九六五年十一月二十日の講演の一部ですけれども、徴用工に戦争中連れてきて成績がよいので軍隊に使ったが、この人の中で五十七万六千人が死んでいる、またこの間予算委員会でも問題になりましたが、朝鮮の慰安婦が十四万二千人死んでいると、こういう講演をなさっております。ですから、こういう数字を講演でしゃべれるということは、日韓交渉の過程で具体的な数字を挙げての交渉があったということだと思います。そんなものをもう忘れ去って概数さえもわからないというのでは、日本が朝鮮で行ってきたことについていかに反省のない態度をとり続けてきたかということを示すものだと私は言わざるを得ません。
 また、ハーバード大学のワグナーという教授が「日本における朝鮮少数民族」という本を書いております。これはGHQの資料も使って書いたものですが、この本によりますと、それまでに日本に来ていた者に加えて戦争中の八年間で百二十五万名の朝鮮人が産業に追加投入されたとこのワグナー教授は書いております。こういうふうに概数はいろいろな言い方があります。しかし、全くわからないということでは私は全然話にならないというふうに思います。
 同時に今、官房長官は名簿を求められたから名簿を提出するという話でした。外国に植民地支配を行い、相手に非常に大きい被害を与えた国として、求められたものを出すというだけでは私はいかぬと思いますね。在日朝鮮人はどういうふうにして日本に連れてこられたか、この日本への連れてき方というのはまことにひどいものなんですよね。
 これは元朝鮮総督府の顧問をやっておられた鎌田澤一郎さんという人が戦後お書きになっている本です。これをちょっと読んでみますけれども、こういう連れてき方をしたんですね。「もっともひどいのは労務の徴用である。戦争が次第に苛烈になるに従って、朝鮮にも志願兵制度が敷かれる一方、労務徴用者の割当が相当厳しくなって来た。
 納得の上で応募させていたのでは、その予定数に仲々達しない。そこで郡とか面(村)とかの労務係が深夜や早暁、突如男手のある家の寝込みを襲い、或いは田畑で働いている最中に、トラックを回して何げなくそれに乗せ、かくてそれらで集団を編成して、北海道や九州の炭鉱へ送り込み、」と、これは朝鮮総督府の顧問をやっている人が書いているわけですね。
 それから、地方のこういういろいろな研究が行われておりますが、その中には、当時、朝鮮に人狩りに行った人が自分自身で反省を込めて、憲兵と一緒に朝鮮に行って片っ端から働きそうな者はトラックに乗せて日本へ運び込んだんだと、こういうことを告白している、こういうものもあります。
 そういう資料というのは無数にあります。調べようと思えば幾らでも調べられる。向こうが名簿を出せと言ったから名簿を出すというふうなことだけでなくて、その名簿をめぐって、一体日本と朝鮮との間に何かあったのか、日本が朝鮮に何を行ったかということを抜きに名簿だけ渡したので片づくのかどうか、私はこれは片づかないと思います。官房長官、もう一度お伺いします。

○国務大臣(坂本三十次君) 名簿というのは最も正確な、最も事実をそこに凝縮できる一番の証拠になるものでありますから、そういう意味で、それはたくさんの方々のいろいろな説、概数がございましょうけれども、一番確かなものは、我が国の政府が責任を持って調査して、そういう名簿があればそれが一番やっぱり基本になる事実だ、そう私は思っております。それを依頼されたから、それならばひとつできる限り関係各省ずっと今調査をしておるという段階であります。
 そういうようなことで、この名簿の調査につきましては、韓国側は何もそれ以上のことは申しておりませんけれども、名簿そのものの提出ということは重大な問題を内蔵している、それが請求権にいくとかいかぬとかということよりも、名簿ということは最大の事実だというふうに私どもは真剣に考えて、そしてそれがあれば調査の上韓国側に提出をしたい、こういうふうに申し上げておるところであります。
 しかし、韓国側の基本姿勢も、歴史の事実はこれを共有すべきである、そして我が国も我が国によってもたらされた事実に対して、不幸を与えたんですからそれはもう過去を厳しく反省いたします、おわびをしますというようなことで歴史的認識を同じうし、それではひとつ将来に向けて協力をしようと韓国側も快く言っていただいたというのが現状でございます。そういう雰囲気の中で出された名簿の問題でございますが、事実関係を調べてくれというので私ども素直にそれに応じておる、こういうことでありまして、まだこの問題は調査中でありますから、確たることは、事実関係は申し上げるわけにはまだまいりません。

○吉岡吉典君 向こうから求められた名簿だけを出せば片づくという姿勢であっては、日韓の政府間は片づくかもしれませんが、朝鮮の一般国民はそれではおさまらないと私は思います。名簿だけだと言われますから私はそれ以上言いません。関東大震災の際、七千人に及ぶ虐殺事件、朝鮮の三・一独立運動のときにも七千五百人以上の虐殺等々に代表されるように日本が朝鮮で行ったこと、これを向こうから催促されるまでもなく、日本が朝鮮の植民地支配を反省するというならこちらの側から調査してきちっとさせていくという姿勢が必要だということを指摘しておきたいと思います。

 第120回国会 衆議院予算委員会 第16号 平成三年二月二十二日(金曜日)午前十時三十一分開議

【発言順】
 委員       五十嵐広三
 外務省条約局長  柳井 俊二
 郵政大臣     関谷 勝嗣
 外務省アジア局長 谷野作太郎
 運輸大臣     村岡 兼造
 国務大臣
(防衛庁長官)   池田 行彦
 通商産業大臣   中尾 栄一
 国務大臣
(北海道開発庁長官)
(沖縄開発庁長官) 谷 洋一

○五十嵐委員 これは厚生大臣、法務大臣は帰ったですね、外務大臣になりますか、戦後サンフランシスコ平和条約発効の日に日本国籍を喪失した、こういう見方が一つには、さっきのなんかもそうですね、あるのでありますが、サンフランシスコ条約は一九五二年四月二十八日、昭和二十七年ですか、そうなんだけれども、一方で、さっきもちょっと答弁の端に出たと思いますが当時出入国管理令なんかがあって、外国人とみなすというような扱いが当時あった。また同時に、ソ連引揚米ソ協定の中では引き揚げ対象者を日本人捕虜と一般日本人、こうなっている。そうなりますと、引揚者協定の中で一般日本人というものの中に当時朝鮮人が入るべきであったのか入るべきでなかったのかということなんですね。一九五二年にサンフランシスコ平和条約が発効して、その時点で我が国は国籍の扱い方は日本国籍から外しているわけですから、それまでは日本国籍なわけですから、そうすると、引揚者協定における一般日本人というのは、これは当時としては朝鮮人も入っているのではないかという感じもするのですがね。この辺のところはどんなものですか。

○柳井政府委員 平和条約関係につきましてお答え申し上げます。
 御指摘のとおり、我が国はサンフランシスコ平和条約第二条におきまして朝鮮の独立を承認したわけでございます。したがいまして、戦後の領土問題の処理は正式にはサンフランシスコ平和条約でなされたわけでございます。このときをもちまして朝鮮の方々は日本国籍を失ったというふうに考えられるわけでございます。
 ただ、その以前の段階におきまして、特に連合国との関係でどういうふうに取り扱われたかという点につきましては、私承知しておりません。朝鮮の独立につきましては、カイロ宣言そしてこれを引いたポツダム宣言でその方針は決まっておりましたけれども、正式にはサンフランシスコ平和条約で決まったということでございます。

○五十嵐委員 その辺についてもぜひひとつあわせていろいろお調べおきいただきたい。一遍また機会を見てお伺い申し上げたいと思うのです。
 そこで次にお伺いしたいのは、サハリン残留韓国・朝鮮人に関して、まあ韓国・朝鮮人というよりはサハリン残留韓国人に関して、日韓条約における請求権放棄というものは彼らに及ぶのかどうかということなんですね。これはどうですか。

○柳井政府委員 ただいま御指摘の日韓請求権・経済協力協定でございますが、御案内のとおり、この協定の第二条におきまして日韓両国及び両国間の請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたということが確認されておるわけでございます。そしてこの第二条の規定、もう少し詳しい規定がございますが今ちょっとそれは省かせていただきますが、いずれにいたしましてもこの第二条の規定は国民という点に、国籍に着目しているわけでございます。したがいまして、この協定及びこの協定を受けまして、我が国では韓国の方々の請求権、財産請求権の問題を法律で処理しております、消滅させておりますが、一定の例外はございますけれども、原則的には消滅をさせております。このような処理は、もしサハリンに残留された方々の中で韓国籍をお持ちである方々があれば、その方々にも、この協定と法律の適用があるということでございます。

○五十嵐委員 そういうことでしょうね。つまり、日韓基本条約協定時にサハリンにいた当時の朝鮮人の皆さんの国籍はどうなっているかということになると、もちろん韓国籍というのはないわけですね。それはすべてソ連国籍か北朝鮮国籍か無国籍ということですね。今の現状でいくと大体七五%ぐらいがソ連国籍でしょうか。それから無国籍者が五%かそのぐらいですね。北朝鮮国籍が二〇%ぐらいということだろうと思いますが。そこで、そうしますと今のお話のように、サハリンには当時、もう既に韓国籍の人はいないわけですから、したがって、これは日韓基本条約における請求権はサハリン在住者については及ばない、つまり韓国籍でない人には及ばない、こういう解釈でよろしいですね。

○柳井政府委員 先ほど御説明申し上げましたのは、もし韓国籍の方々がおられればという全く理論的なことでございますが、もし逆に韓国籍の方方が全くおられないという状況で、ただいま先生がお話しになったようなことが恐らく実態だろうと思いますが、その場合には日韓請求権・経済協力協定に基づく処理はサハリンの方々には及ばないということになるわけでございます。
 御案内のとおり北朝鮮籍の方々の財産請求権の問題につきましては、いまだ処理がなされていないわけでございまして、最近始められました日朝国交正常化交渉の中で北朝鮮側と話し合っていくということになろうと思います。

○五十嵐委員 郵政大臣にちょっとお伺いしますが、これはこの前私、外務委員会で少し質問した折に、去年の四月なんでありますが、もう少し関係各省と協議をして解決したい、こうお話しになっていた。それからやや一年近いわけでありますが、お手元のところに資料で行っていると思いますが、郵便貯金、サハリンの人たちは当時一生懸命働いて五円だとか三円だとかずっと預金をしていた。それが、帰ってこれないのですから、払い出すことも何もできないわけですね。それでそのままになっちゃっている。これは確定債務であるということはおっしゃっているわけですが、これについては支払えるということになったかどうか、ちょっとお伺いしたいと思います。

○関谷国務大臣 サハリンに在住している朝鮮半島出身者の郵便貯金につきましては、先ほど先生おっしゃられましたように、確定債務であるということがまず基本的な考え方でございまして、郵便貯金法上支払いの義務があるものと考えております。
 先ほどまた先生おっしゃられましたように、サハリンに在住している朝鮮半島出身者のうちでソ連籍と無国籍の方に対しましては、請求があれば郵便貯金法令に定める利率で計算をいたしまして、利子額を加えた額を支払うことといたします。
 なお、北朝鮮籍の方に対しましては、先般、日朝国交正常化交渉が開始されまして、我が国と北朝鮮との間で両国及び両国民の間の財産あるいはまた請求権問題が話し合われているところでございますので、現時点では、その交渉の成り行きを見守って北朝鮮の国籍の方には対処をしていきたい、そのように考えております。

○五十嵐委員 そこで、先ほどの局長の御答弁、それから今の大臣の御答弁で共通している点があるわけでありますが、北朝鮮国籍の方に関しては、これは今、日朝の交渉が現に行われているわけでありますからそれの成り行きを見たい、そして判断したいということだろうと思います。したがって、それ以外の人に関しては請求権はあるし、請求があればすぐ払う、こういうことだろうと思うのです。
 そこで、北朝鮮の方々に関してですが、今その日朝正常化交渉の推移を見て判断をしたいということは、要するに、かつて日韓基本条約を制定したときに、それぞれの個人の請求権というものを一括して国家がそれについての国家間の交渉をして解決をしたというようなことがあるわけですね。今回の日朝交渉というのも、そういう意味で一括した交渉の中で解決をすることがあり得るということでこれを留保しているというように解してよろしいですか。

○谷野政府委員 御案内のように交渉が、まだ話し合いが始まったばかりでございまして、ただいまの主題になっております個別の問題はまだ日朝間で話し合いの段階に至っておりませんけれども、私どもの現在の考え方は先ほど来御説明しておりますように、北朝鮮籍の方々につきましては、せっかく進行中の正常化交渉の中で、財産請求権の問題が話し合われるその中で、ただいま仰せのように一括して解決するということが私どもの考え方でございます。

○五十嵐委員 そうですね。そういうこともあり得るからここで留保するということであろうと、今のお答えのとおりであろうというふうに思います。これはもちろん今のは郵便貯金の話ですが、郵便貯金にかかわらず、一般的な請求権に関して、そのような判断でよろしいですか。

○谷野政府委員 仰せのとおりでございます。

○五十嵐委員 この後少し、なお一、二歩踏み込んで聞きたい気持ちもしますが、この問題はこの程度にいたしたいというふうに思いますので、どうぞお帰りいただいて結構です。
 あと残った時間わずかでありますが、サハリンの残留韓国・朝鮮人問題の経緯は今もう改めて言うまでもない、御承知のとおりで、大変御苦労をおかけしたし、我々としても贖罪の気持ちが大きいのでありますが、在韓被爆者に対する基金制度というものを四十億で去年決めて、平成三年はそのうちの十七億を予算化しようとしているわけですが、もうそろそろサハリン残留韓国・朝鮮人に関しても、毎年、以前は五千八百万、一億になり、ことしは一億二千万お願いをしておるわけでありますが、そういうことよりは、大体まあおかげさまでこの一月現在で一時帰国と肉親再会は二千七百人ぐらいになった。今年末で三千八百人ぐらいの人たちが一時帰国できるような状況にもなってまいりましたし、韓国とソ連の間も非常に友好的な状況になってきたわけでありますから、したがって、かなり韓国側に主体を持たせて、そしてもちろん母体としては日韓両赤十字の共同体でも結構だと思いますが、そういうようなところで自主的な運営をしていく、さまざまに、帰国費用だけでなくて、実態を見てみますと、なかなか永住帰国したお年寄りが生活に困っているとか待ちぼうけしていたおばあちゃんがこれまた年とってどうにもならないとか、いろいろなそういう細々した問題も実はあるようでありますから、そういうことに現実的に対応するという意味からいうと、やはりそれに即したような制度というものをそろそろつくった方がいいのではないか、毎年予算を組むよりは、基金のようなものをつくってそこで自主的な運営をしていくということが好ましい状況の時代に入ったのではないかというふうに私は思うのですが、その点についていかがですか。

○谷野政府委員 五十嵐先生からつとにそういうお考えを伺っておるわけでございますけれども、韓国政府は当面今のような、渡航費の支援を行っておるわけですが、そういう形の支援を続けてほしいということを言っております。
 ただ、貴重な御意見でございますので、引き続き検討させていただきたいと思いますが、私どもはとりあえずは今お話しの被爆者の手当ての方に今全力を注いでおりまして、御審議いただいております予算案でも何がしかの経費を計上させていただいておるわけでございまして、当面そちらの方をよろしくお願いいたしたいと思います。
  〔委員長退席、増岡委員長代理着席〕

○五十嵐委員 当面そちらの方も力を入れてもらわなきゃ困るのですが、ひとつ諸般の、先ほどからずっとこう話が出てきていることを総合的に考えれば、やはり必要でないか、私はそう思いますよ。個々にややこしいことではなくて総体的に解決する上では必要になってきている。例えば、今北朝鮮とのそういう国家間の交渉の中でそれを解決するということになったとしても、北朝鮮国籍以外の請求権が未解決のサハリンの人たちは一体どうなるのか、これはどこかやらなきゃということになるわけでしょう。それはやはり日ソ間でしょう、そんなような気もしますね。ですから、そういう課題も残っているということも含めながら我々が一体どうするのかということになると、こういう問題についてひとつ前向きに検討していただきたい、こういうことを、時間もありませんので御要望を申し上げておきます。
 最後に、関係大臣来ていてもらって本当に申しわけなかったのでありますが、ちょっと時間がありますからまとめてお聞きします。
 先ほど外務大臣からのお話も、サハリン、極東というのは今非常に重要な、さまざまなことで重要性というのは高まってきているというような意味からいって、サハリンとの直行便、これは飛行機それから海路があるわけですが、これらについてひとつ積極的にその開設促進をしていいのではないか。フェリーの場合は両国間でいろいろ話をしていて、定期航路もそう遠くないというふうには聞いておりますが、それをお願いしたいと思うし、それから飛行機に関しては、この間初めて民間航空機で北海道からサハリンに我々は飛ばさせていただいたのですけれども、一時間で行くのですね。今まではどうだったかというと、北海道から行くといったら、新潟へ出て、ハバロフスクへ出て、そして向こうへ行くわけですから、新潟で一泊し、ハバロフスクで一泊して二泊三日かかったのですから。それが、真っすぐ行けば一時間で済むのですから、それはぜひひとつそういうことの促進をしてもらいたい。
 この促進に当たって、ちょっと聞きますと、あそこは自衛隊の訓練空域になっているというようなこともあって、それが航路開設について問題があるやの意見もあります。しかしそうでもなさそうなようでありますが、この辺は防衛庁長官からちょっと御意見をいただきたいものというふうに思います。
 これらにつきまして、恐縮ですが、簡単でようございますから、それぞれお答えいただいて終えたいと思います。
 そしてまた、ちょうどきょうは開発庁長官も通産大臣もお見えいただいておりますので、天然ガスの問題が一つありまして、これの促進をぜひお願いしたい。かつ、我々が本当に期待しているのは、北海道にパイプライン構想をすること、これはもう二十何年も前からの構想で、それを願望しているわけですよ。ぜひこれについて通産大臣及び開発庁長官のお考え等も承れればと思います。
   〔増岡委員長代理退席、委員長着席〕

○村岡国務大臣 サハリンと北海道の間において人的交流が活発化することは、両国国民間の相互理解を深めるということで望ましいことであると考えております。
 先生先ほどおっしゃいましたとおり、今月の六日及び七日に東京で開催された日ソの海運当局間協議での合意に基づきワニノとかコルサコフとか、ウラジオストクは今後検討するということでございますが、日ソ間の海運企業の間で航路開設につき具体的な検討が鋭意進められると思いますので、その動向を見守りたい、こう思っております。
 また、航空の方につきまして、先生、十一日と十三日、新千歳とユジノサハリンスクでございますか、チャーター便ということで行ったようでございますが、チャーター便につきましてもケース・バイ・ケースで認めている、こういうことでございます。
 なお、いろいろ先生おっしゃいました先ほどの状況の中で運輸省としては別に支障はない、こういうふうに考えております。
 以上でございます。

○池田国務大臣 サハリンと北海道の間の直行便ということにつきましては、私ども、今具体的に照会なり打診というものがございませんので何とも申し上げられないわけでございますけれども、仮に一般論として申し上げるとすれば、そういうようなお話があり、そしてそれが訓練空域との関係で何らかの影響があるということになりましたら、それは運輸省の方とよくお話しまして調整してまいる、こういうことになろうかと存じます。

○中尾国務大臣 先ほどからの先生のお言葉を聞いておりまして、確かに日本の固有の領土というのは、明治十二、三年のころの唱歌集を見ましても、私どものころは台湾の果ても樺太もというような言葉がありましたが、千島の奥も沖縄もという意味で、確かに今もって歯舞、色丹、国後、択捉、これを私どもの固有の領土として主張する気持ちはわかりますが、サハリンはそういう意味では郷愁はございますけれども、そういう点では私どもの固有の領土ではない。そういう中に、今日の推移を見ましても、かといって天然ガスを初め、先生の御指摘のとおり大変に大きな資源宝庫である、これは無視できないと思うのです。
 私も、この間サハリンの問題をちょっと研究してみましたが、例えば場所からいってもオドプトですか、それからチャイウォ、これも私も天然資源の問題としてとらえてみましても、十六年前にも経団連などを中心に即座にやっているのですね。その経緯を、推移をたどりますと、全く先生の御指摘のとおり、北海道とパイプラインをつないで国内に、これは非常な大きな日本における天然ガス、ナチュラルリソーセスとしては大きな意味を持つものだなという感じはいたします。これは鋭意いろいろと研究する、検討する課題でございますから、エネルギー庁の方にも強く申し入れまして、私どもからも大きくこれは参考資料にしたいと思っております。ありがとうございました。

○谷国務大臣 お答えいたします。
 三点あろうかと思うのですが、第一点は、サハリンは何といっても北海道に一番近いところでございますし、従前は近くて遠い存在であったかもしれませんが、今後は近くて近いおつき合いを願うところだと思います。そういう意味におきまして、長期的に友好関係を結んでいくべきだと思っております。
 第二点につきましては、北海道開発局は寒冷地帯における地域開発の手法だとかあるいは寒冷地帯における土木工法であるとか優秀なものを持っておりますので、その技術を生かすことが可能であると思っております。
 第三点につきましては、今後の外交交渉等の推移を見まして、私ども政府の一員としての協力をさせていただきたいと思っております。
 以上でございます。

○五十嵐委員 委員長、どうも時間を経過して申しわけありません。どうもありがとうございました。

 第120回国会 参議院予算委員会 第13号 平成三年四月一日(月曜日)午前十時一分開会

【発言順】
 委員        竹村 泰子
 国務大臣
(内閣官房長官)   坂本三十次
 防衛庁防衛局長   畠山 蕃
 文部大臣      井上 裕
 内閣総理大臣    海部 俊樹
 法務省入国管理局長 股野 景親
 法務大臣      左藤 恵

○竹村泰子君 たくさん申し上げたいことがありますが、次に質問を予定しておりますので、次の機会に譲りたいと思います。
 強制連行の問題ですが、私は今後の日韓・日朝関係ということでお尋ねをしたいと思っております。
 昨年五月の予算委員会で私がお尋ねいたしました名簿の調査については、三月五日に公表された九万八百四人をもって調査は終了なのでしょうか。

○国務大臣(坂本三十次君) 政府全体として、全省庁の御協力を得て、労働省が中心になりましたけれども、誠心誠意努力した結果、とにかく九万幾らという名簿ができたわけであります。しかし、その後あちらこちらから、あるいは図書館だとか、あるいはまた民間団体だとか研究団体だとか、いろいろの情報もありまして、それらも総合して、そして今日の結論になったというわけであります。
 しかし、今後ともいろいろな情報などを基礎にしてできるだけの努力をしていきたいと思っております。

○竹村泰子君 さっき本岡委員の質問にもありましたけれども、この公表された名簿の数は、実際に連行されてきたとされる百万人から百五十万人とも言われます数の一割にも満たないんですね。その理由は何なんでしょうか。政府は本腰を入れたんでしょうか。マスコミなども及び腰だとかやる気がないとか書いておりますけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(坂本三十次君) 先ほども総理が答弁をされておりました。それは、我が国が過去の歴史の厳しい反省の上に立って、そして新しい日韓の将来を開くためにはどうしても誠意を尽くさなきゃならぬというようなことで名簿の調査もやったわけであります。政府全体としてそういう気持ちでやったわけであります。
 結果として少ないと言われまするけれども、私の目から見ましても、労働省を初め各省庁はできるだけのことはやった、誠意を尽くしてやったという気持ちだけはどうぞお酌み取りをいただきたいと思っております。何せ半世紀以上も前のことでありまするから、それはやっぱりなかなか難しい、至難のわざでもございましょうけれども、できるだけの努力をしたということだけは御理解をいただきたいと思います。

○竹村泰子君 私も、労働省がお出しになった通達ですか、そしてどんなところを調査されたかという報告をいただきました。確かにいろいろ大変だっただろうと思います。労働省職安局がなさったわけですからその御努力は認めますけれども、一つの例を申し上げましょう。
 ここにあります私のいただいた資料、例えば長野県が三名になっています。松代大本営のあった長野県、強制連行者が七千人から一万人投入されたという事実がいろいろな文献に紹介されて、体験者もいらっしゃる。しかし、ここにあるのは三名なんですね。松代大本営を掘られたと申しますか、そのことについて少し御説明いただけますでしょうか。

○政府委員(畠山蕃君) 防衛研究所というところに戦史部というのがございまして、そちらで資料を保管している関係で私の方から答弁させていただきますが、防衛研究所の保管する戦史資料によりますと、御指摘の松代大本営の工事といいますのは松代倉庫工事と称されまして昭和十九年秋に長野県長野市の松代地区において開始をされまして、完成することなく終戦を迎えたというふうに承知をいたしております。その目的につきましては米軍の空襲に対処するためというふうに言われておりますが、その内容もつまびらかではございません。
 なお、御質問に関連しまして、いろいろなところに強制連行された朝鮮人がその工事に従事していたのではないかということの御関連かと思いますけれども、防衛研究所の保管する戦史資料の中にはそのような事実は記載されておりません。確かにそのような文献があることは承知いたしておりますけれども、研究所の方の保管する資料の方にはそういうことは記載されておりませんので、必ずしも明らかではございません。

○竹村泰子君 いいかげんな答えをしていただいちゃ困ります。
 私も松代に調査に行ってきました。私はたくさんここに資料を持っておりますけれども、今その目的はつまびらかではないとおっしゃいましたね。あなたは事実を全く知らな過ぎます。松代大本営跡地と言われているわけでしょう。天皇の御座所と大本営、それからNHKなど報道機関、そういうものが入るために掘られたのはもうこれは明らかじゃないんですか。どうですか、目的がつまびらかではないなんて答えてもらっちゃ困りますよ。

○政府委員(畠山蕃君) まさに大本営の移転のための工事ということでつくられたことは間違いないわけでありますが、なぜ移転することになったかの目的については、米軍の空襲を避けるためであるというふうに聞いているけれどもそこは必ずしも明らかではないということを申し上げただけでございます。

○竹村泰子君 そういうのを詭弁と言うんです。いいかげんなことを言わないでください。
 文部省にお尋ねしますけれども、私たくさんいろいろ教科書をいただきました。これは次の機会に質問しようと思っていたんですが、今余り防衛庁がいいかげんなことをおっしゃるから。
 教科書に七千人ぐらいの強制連行労働者がここに投入されたと書いてあるのは、それではうそなのですか。何にも根拠はございませんと今おっしゃいましたけれども、文部省、お答えください。文部大臣、いかがですか。

○政府委員(畠山蕃君) 恐縮でございますけれども、私の言葉がちょっと足りなかったのかもしれませんが、大本営の移転のための工事としてつくられたことはこれはまさに御指摘のとおりでございまして、その後明らかになったと。ただ、先ほども申し上げましたように、それが、目的について米軍の空襲に対処するためというふうに言われているけれどもそこのところの記述はないからということをつけ加えて申し上げただけでございます。

○国務大臣(井上裕君) お答えいたします。
 通告をいただいておりませんので、そのことは私どもかかわりませんが、ただ、強制連行につきましては現在小中高等学校のそれぞれの教科書におきまして取り上げられております。

○竹村泰子君 人数は。

○国務大臣(井上裕君) これは通告がございませんので、人数は明らかではありません。

○竹村泰子君 私も持ってくればよかったんですけれども、まさかそんな、つまびらかではない、目的も定かではないというようなお答えが出るとは思わなかったものですから次の機会と思っていたんですが、私が文部省からいただきました教科書にはきちんと七千人という数字が入っている。これは後でごらんくだされば、幾つかの教科書に入っております。ですから、七千人の強制労働者が投入されたのではないか、あるいはもっと多かったかもしれないということは子供たちに教えていらっしゃるわけですよ、文部省。それなのにそういう事実を認められませんというふうなお答えをされるから私今怒ったんですが、このことはまた次の機会に譲りたいと思います。
 ですから、松代大本営は一体どういうものだったのかということを今お尋ねしていたんですけれども、七千名の人は名前がわからないという、官房からの通達が名簿を出しなさいということだから名前がわからないと。牛や馬のようにこき使われて酷使されて死んでいった人たちは、名前がないから名簿が出てこない。三名なんです。強制労働者の人たち七千名はどこへ行っちゃったんですか。私は、ですからこういう調査の仕方ではだめだということを申し上げているのでして、強制連行労働者というものは、さっき本岡さんの質問にもありましたけれども、従軍慰安婦のことも含めて、一体どういうことを私どもはやりました、そのことをおわびいたしますというのが、総理、当たり前ではないでしょうか。どうお思いになりますか。

○国務大臣(海部俊樹君) 私は、そういったことに対しましては、それすべてを踏まえて、我が国の行為によって過去に与えたことはたくさんあるわけでありますから、それに対しては厳しく歴史の反省に立って、その責任を感じながら、私は首脳会談のときにもそのことについては率直に申し上げた次第でございます。

○竹村泰子君 一片のこういった通知によっておざなりの調査をしたとしか思えないんですね。さらに有効な方法で責任ある全容の調査をするべきだと思います。いかがでしょうか、官房長官。

○国務大臣(坂本三十次君) 確かに日韓新時代をつくるといっても、口先だけではそれはできるものではありません。れんがを一枚一枚積み重ねるような現実的、地道な努力を重ねていかなければならぬと総理を初め私どもは考えておるわけであります。
 私は、松代のことは初耳でございますけれども、具体的な調査という点につきましては、もしそういう御指摘のような抜かりがあることがありましたら、その点はよくもう一度念を入れて調査をさせていきたいと思っております。

○竹村泰子君 終わったわけではないんですね。調査を続けていただきたいと思います。
 今国会に、日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法案というのを提出されましたが、その趣旨は、いわゆる日韓請求権・経済協力協定によって権利を失ったと申しますか、韓国からも日本からも補償を受けられない、援護を受けられない人たちが在日の人たちで存在するわけですけれども、これらの人々は一般外国人とは異なる存在であることに着目したものと考えておられますでしょうか。

○政府委員(股野景親君) ただいま委員御指摘のとおり、今国会に日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法案というものについての御審議をお願い申し上げております。
 これを提出させていただきました経緯というものは、これは日本政府としてかねて在日韓国人、朝鮮人の方々の日本における法的地位というものが、これらの方々の持っておられる歴史的な経緯とそれから日本社会における定住性、こういうものにかんがみまして、できる限りその法的地位を安定したものにすることが重要だ、こういう考えでできておるものでございますので、そういう考えに立ちまして出入国管理に関する特例というものをこれらの方々について定める、こういう内容になっております。

○竹村泰子君 昭和三十七年十月二十九日、援護三百十八号通知は、その解釈についてどう解しているか説明をしていただきたいと思います。

○政府委員(岸本正裕君) お答え申し上げます。
 朝鮮、台湾出身者につきましては、援護法の適用の日、昭和二十七年四月一日、この日には日本国籍を有していたわけでございますが、平和条約の発効、昭和二十七年の四月二十八日でございますが、この発効によりまして日本国籍を失うことが予定をされていたわけでございます。そこで、こうした外国人に対します補償につきましては、その帰属国の意向を尊重して、その帰属国との間で将来締結されるべき外交上の取り決めによりまして別途処理するということが定められていたわけでございます。そこで、援護法におきましては、附則第二項によりましてこれらの者を適用の対象から除外するということにしたわけでございます。

○竹村泰子君 「この規定は、個人の意志に関係なく国家間相互の条約等の一方的権力によつて国籍を変更させられた場合には適用されるべきではなく、」と書いてありますね。これは在日の方たちはどうなんですか。この適用はされないわけではないでしょうか。

○政府委員(岸本正裕君) 援護法では本則におきまして、遺族年金とか障害年金につきまして日本の国籍を失った場合にはその受ける権利が消滅するというふうに書いてあるわけでございます。文字どおりということになりますと、今申し上げましたように、平和条約の発効によりまして朝鮮、韓国国籍の方は日本の国籍を失った者ということになることでございますけれども、私どもといたしましては、このように個人の意思に関係なく国家間相互の条約等の一方的権力によって国籍を変更させられた場合にはこの規定は適用されるべきではない、こういうふうに考えておるわけでございます。
 したがいまして、今申し上げましたように、附則におきまして戸籍法の適用がされない者についてはこの援護法を適用しない旨の規定を置いたということでございます。その背景は、今申し上げましたように、国家間での特別取り決めということで解決をするということが定められていたということが背景にあるわけでございます。

○竹村泰子君 その国籍条項の件については、またゆっくりと次の機会に譲ります。
 B、C級戦犯の人々の中に韓国、朝鮮籍の方がおられた、このことを政府は認識しておられますか。

○国務大臣(左藤恵君) お尋ねのB級、C級戦犯として刑に処せられた者で朝鮮半島出身者の数につきまして、その正確な実態は把握いたしておりませんけれども、法務省で保管しております資料の中から氏名を調べてみますと、朝鮮半島出身者であろうと推定される方がおよそ百四十数人おられるということがわかっております。

○竹村泰子君 もう少し詳しく。

○国務大臣(左藤恵君) それで、B級戦犯として起訴されました総数というのは約五千七百名ということで、そのうち約四千四百名ぐらいの方が有罪になったわけでありますけれども、この戦犯に関します資料で法務省の取り扱いというのはどうなっているかということでございますが、実はA級戦犯につきましては公開をいたしております。それから、B級、C級の戦犯につきましては、プライバシーの問題とかいろんなことがございますので非公開を原則として、御本人または遺族等特定の方からの御要求に対しましては閲覧していただくということで、そうした資料は法務省で管理をしておるということでございます。

○竹村泰子君 外国人でありながら日本人として服役、今日本に在住しておられる方たちが四十八名おられます。まさに日本の国策による犠牲者ではないのでしょうか。
 詳しくは次回に譲りますけれども、韓国、朝鮮民主主義人民共和国をめぐる動きは、緊張緩和から南北和解、統一を求める機運が急速に進み、私たちは今、日韓、日朝関係を正す絶好の機会を得ていると思うわけです。日本政府は、否私たち日本国民は、植民地支配の清算をきちんと果たすため明確に表明しなければならないと思います。その上でこそ初めて真の国交が回復できるのではないでしょうか。総理の御見解を改めてお伺いします。

○国務大臣(海部俊樹君) 私どもは、日韓、日朝ともに隣国として、朝鮮半島の緊張緩和と平和的な統一に役立つようにできる限り努力もしなければならぬという基本に立って、日韓関係は首脳会談でこの間あのような取り決めもできましたし、日朝についてはただいま本格的な交渉を控えていろいろの努力をしておるところでございます。

○竹村泰子君 終わります。

 第120回国会 参議院予算委員会 第15号 平成三年四月四日(木曜日)午前十時一分開会

【発言順】
 委員      竹村 泰子
 法務省刑事局長 井嶋 一友 
 外務省条約局長 柳井 俊二
 厚生大臣    下条進一郎
 外務大臣    中山 太郎
 文部大臣    井上 裕
 大蔵大臣    橋本龍太郎

○竹村泰子君 人権の問題だと思います。死刑確定囚にしても人間でございますから、二十四時間テレビで監視されている気持ちを考えていただきたい。獄中者処遇につきましては私もまた続けていろいろと申し上げたいことがありますので、次の機会に譲りたいと思います。死刑廃止につきましては、ぜひ法務大臣の非常に寛容な温かい御厚情を心から期待しているところでございます。
 私は四月一日の質問で、B、C級戦犯の方々のことに触れました。九百二十七人の戦犯の方があの当時巣鴨プリズンにおられました。その中で二十九人の韓国・朝鮮籍の人と一人の台湾の人がおられたわけです。一九五二年七月この人たちが、私たちは日本の国によって強制的に連行され働かされたが、日本人ではないとして、人身保護法による釈放請求の裁判を起こしました。この変則的でいきなり最高裁という裁判で、どのような理由でどのような判決が行われたでしょうか。

○政府委員(井嶋一友君) 昭和二十七年七月三十日に出ました最高裁判所の請求棄却の判決の理由でございますが、いわゆる平和条約十一条が日本で拘禁されている日本国民に対して極東軍事裁判所等が科した刑を日本が執行することとしているところ、同条による刑執行の要件としては刑が科された当時日本国民であれば足り、その後日本国籍を喪失しても日本の刑執行義務に影響を及ぼさないことを判示したものでございます。

○竹村泰子君 平和条約発効後の国籍の喪失または変更も罪には影響がなかった、右の義務には影響を及ぼさなかったわけですね。
 日韓請求権協定によって最終解決が図られたといいますけれども、この協定を受けて韓国で制定されました対日民間請求権申告法では、在日の人たちの取り扱いはどうなっておりますか。

○政府委員(柳井俊二君) お答え申し上げます。
 一つお断りいたしたいのでございますけれども、御質問の通告をいただきましてから韓国側にこの正文の確認をする時間がなかったものですから、私とりあえず手持ちの仮訳に基づいて御説明させていただきたいと思います。
 ただいま御指摘の法律は一九七一年に公布されたものでございまして、その第二条におきましてこの請求権申告の対象の範囲を規定しているわけでございます。二つの面から規定しております。第一点は人的な範囲でございまして、第二点はこの請求の権利の範囲でございます。
 まず、人的な範囲につきましてはこの第二条第一項におきまして、この法律の規定による申告対象の範囲は、一九四七年八月十五日から一九六五年六月二十二日まで日本国に居住したことのある者を除いた大韓民国国民となっております。
 次に、権利の範囲でございますが、そのような大韓民国国民が一九四五年八月十五日以前、その後括弧はちょっと飛ばさせていただきますが、八月十五日以前に日本国及び日本国民に対して有していた請求権等で次の各号に掲げるものとするとございまして、次の各号というのが第一号から九号までございます。そこで、一号から八号までは、例えば日本銀行券でございますとかあるいは有価証券、預金、海外送金、寄託金、保険金というようなものを挙げまして、九号のところで、日本国によって軍人軍属または労務者として召集または徴用され一九四五年八月十五日以前に死亡した者というものを挙げているわけでございます。
 したがいまして、この法律におきましては、私、外国の法律でございますから有権解釈はできませんけれども、少なくとも文理上はいわゆる在日韓国人の方々は除かれておりまして、そして請求の権利の対象という面におきましては、この九号におきまして四五年八月十五日以前に亡くなった方だけが対象になっておりますので、一九四七年以降日本に居住した在日韓国人というのはこの面でも落ちているわけでございます。
 なお、具体的なことは別途また大統領令において定められております。

○竹村泰子君 対日民間請求権申告法が在日の人を除外した規定と、日韓協定二条二項(a)の表現とは全く一致しているのではないでしょうか。外務省、厚生省両方にお尋ねいたします。

○政府委員(柳井俊二君) いわゆる韓国との請求権・経済協力協定の規定との関係でございますが、もとよりこの協定の方は日韓間の条約でございますので、韓国側の国内法とは趣旨、目的等において若干の相違がございますので、この規定の表現ぶりが完全に一致するというものではないわけでございます。
 ただ、ただいま御指摘の点につきましては、御案内のようにこの協定の第二条におきまして、この括弧書き的なところはちょっと飛ばさせていただきますが、一項で「両締約国は、両締約国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、」「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」と規定しておりまして、第三項で、長くなりますから省きますが、要するに、この財産、権利、利益につきましては、お互いに他方の締約国の管轄下にあるものに対してとられた措置についてはいかなる主張もしない。また、財産、権利、利益に当たらないような請求権につきましては、同日、同日というのはこの協定の署名の日、署名の日以前に生じた事由に基づくものに関してはいかなる主張もすることができない。いわゆる請求権放棄という形で処理をしているわけでございます。
 ただ、第二条の第二項におきましてそのような処理の例外というものが二つ挙げてございまして、ただいま御議論をされておられます在日韓国人に直接関係ございますのは二項の(a)というところでございます。二項の(a)は「一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益」というふうに挙げてございまして、こういうものについては第二条の一項、一項は最終的な解決でございますから適用があるといえばあるのでございますが、三項のようないわゆる請求権放棄あるいは国内措置に対する請求権の放棄というものは適用がない、そういう例外になっておるということでございまして、この部分の表現は確かに対日民間請求権申告に関する法律の先ほど読み上げました表現と一致しているわけでございます。

○竹村泰子君 ですから、厚生大臣、この人たちは罪は日本人として受ける、けれども援護は本国からも日本からも受けられない、こういう谷間にある人々なのです。こういう人たちがいることを御存じでしたか。どのようにお考えになりますか。

○国務大臣(下条進一郎君) 今外務省からお話がありましたように、日韓の関係につきましては一通り今のような筋道で整理をいたしておるわけでございます。したがって、韓国の方の援護に関しましては、これは御承知のように援護法は恩給法に準拠しておりますので、その面での対象はすべて日本国籍にある者ということに限定しておりますので韓国の方には適用されないということで、サンフランシスコ条約の規定に基づきまして韓国の方との間は日韓の協定で決める、こういうことになっておりますので厚生省関係の法の適用はない、こういうことになるわけでございます。

○竹村泰子君 一つ例を申し上げます。川崎に住む石成基さんという方です。この人は日本海軍の軍属として徴用されて重傷を負い、今も入院生活を送っている在日の韓国人です。このほど県を通じまして国に対して戦傷病者戦没者遺族等援護法に基づく障害年金を求める行政審査請求をなさいました。石さんと同じ立場に立たされている在日の人たちは少なくありません。援護法の附則で「戸籍法の適用を受けない者については、当分の間、この法律を適用しない。」とあるのは、例えば日韓間で問題が解決されるまでという意味なのでしょうか。石さんは、戦時中は日本国籍を強要され、戦後は一方的に日本国籍を剥奪された。それでいて日本国籍がないから援護法が適用されないというのはおかしいと言っています。
 また、石さんは、今の厚生大臣はいい人ですかと応対した県援護課の職員に聞かれたそうです。そして、日本政府は自衛隊機の中東派遣を人道上の問題と言っているが、四十年以上も放置されている在日韓国・朝鮮人の戦後補償は人道問題ではないのかと聞いておられます。こういうことを、人間として、厚生大臣、どう思われますか。

○国務大臣(下条進一郎君) 石さんのお話は私も承っておりまして、戦時中に被弾をされて右の手をなくされたり、後また脳出血を起こされて大変に御苦労していらっしゃるお立場を重々伺いまして、御同情申し上げておりますし、また御病気が一刻も早くよくなられるようにと心から念願しているわけでございます。
 それで、今のお話でございますけれども、請求につきましては本年一月二十八日に神奈川県が受理いたしました。そして、二月四日に神奈川県の方から厚生省の方に進達されておりまして、現在厚生省において審査を行っているところでございます。具体的な処遇の内容についてはまだ申し上げられる段階ではございませんけれども、先ほどお話し申し上げたように援護法の規定によって行うということになるわけでございまして、援護法の規定は先ほど私が御説明したような形になっておるわけでございます。
 なお、大変お気の毒な事情でございますので、一般の社会保障の充実という形の中で何とか処理ができないものか、こう考えております。

○竹村泰子君 何とか即却下するようなことではなくて温かい血の通った救出の道を考えるときではないかと思います。よいお返事を期待しております。
 アメリカとカナダは、日系人の強制収容問題について謝罪と補償を決断して実行しました。ソビエトもポーランドのカチンの森の事件を認知し、またシベリア抑留について歴史の見直しを進め、徐々に名簿も公表されております。こうした歴史の清算を通して新たな国際社会でみずからの正義の実現を自国の将来のためにもとったものと私は考えるんですけれども、日本は調査すらまともにしようとしていない。これは国際情勢の流れに反するものであり、日本は良心を持たない国なのかと私は思うわけですけれども、外務大臣、この姿勢をどう思われますでしょうか。

○国務大臣(中山太郎君) 戦後日本は各国との賠償問題あるいは請求権の問題、いろいろと誠意を持ってやってまいりましたが、今委員から御指摘のように日本は良心を持っていないのかというお話でございますが、私は日本は良心を持って行動していると思っています。

○竹村泰子君 最近外国人教員の採用拡大とか、また高野連が朝鮮学校の大会参加を認めるとか、うれしいニュースが幾つかございます。また、日韓二十一世紀委員会が歴史教育の再考を求めるという意向を出しております。
 これは八九年秋の世論調査で、日本人の五人に一人が植民地支配を知らなかった。私は、若い人たちだけの調査だと五人に四人は知らないのではないかと思いますけれども、日韓の歴史認識の大きな差が改めて取り上げられておりますが、文部大臣、これはしっかりと教育の分野でやっていただきたい。あなたの責任ですが、どう思われますか。

○国務大臣(井上裕君) お答えいたします。
 私も日韓二十一世紀委員会最終報告書、抜粋でございますがよく見せていただきました。その主なものは三点ございました。それも見せていただきました。
 学校教育における我が国と朝鮮半島との近・現代史の取り扱いにつきましては、従来より国際理解と国際協調の見地に立って友好親善を一層進めるように指導してきたところであります。平成二年五月の盧泰愚大統領の来日及び本年一月の総理の訪韓を機に、日韓両国は政治、経済、文化の各分野において交流、協力する善隣友好の新しい時代を迎えることとなったことを考えております。学校教育におきましてもこの認識のもとに日韓両国民が相互に尊重し理解を深めるよう我が国と朝鮮半島の関係について一層適切な指導が行われる、これが大切であろう、このように考えております。

○竹村泰子君 しっかりお願いいたします。
 強制連行の調査や、援護、教育、法律などなどを考えますと、一省庁でできることではなく、省庁間の横の連絡がぜひ必要だと。きょうは総理がお留守ですし、官房長官も御都合でいらっしゃらないんですけれども、外務大臣、大蔵大臣、ひとつかわりにしっかり聞いておいていただきまして、総理府の中に総合的な審議会をつくっていただきたい。もしこれが実現できたら私は大ヒットだと思います。世界的にも、特にアジアの国々が大変注目をすると思いますし、このことは総理には後でしっかり私は御要望申し上げますが、閣議か何かで皆様からしっかりお伝えをいただけますようにどうかお願い申し上げます。いかがでしょうか。

○国務大臣(橋本龍太郎君) 確かに承りましたので、海部総理が帰国されたらそのとおりお伝えをいたしておきます。

○竹村泰子君 ありがとうございます。

 第120回国会 参議院決算委員会 第6号 平成三年六月十二日(水曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員      会田 長栄
 法務省民事局長 清水 湛

○会田長栄君 どうぞよろしくお願いいたします。
 もう一つは、これは法務省にお伺いしたいわけでありますが、朝鮮人労働者の未払い賃金問題について、実は新聞にも出ているようでありますけれども、未払い賃金供託金というのはどこの企業から何名分、金額にして幾ら今供託されて、それが時効停止、この通達を出しているんですか、その中身をちょっと聞かせてください。

○説明員(清水湛君) 御質問の通達は、昭和三十一年十二月六日付の法務省民事局長回答、あるいはさらにそれを集約した昭和三十三年三月十二日の民事局長通達の中身を問題とするものであるというふうに理解いたしますが、御承知のように、終戦時の混乱で一部支払いができなかったというような賃金等につきまして、これは朝鮮人、台湾人、中国人等に対するものでございますけれども、昭和二十一年ごろから民法四百九十四条の規定に基づく弁済供託がされた事実がございます。このような弁済供託に係る請求権というのは、供託のときから十年たちますと時効によって消滅するということになるわけでございまして、ちょうど三十一、二年ごろがその十年目ということになったわけでございます。
 そこで、当時この取り扱いが問題になったわけでございますけれども、法務省といたしましては、やはりこれは十年で時効消滅はすると、したがって還付請求なり取り戻しの請求があってもこれは応ずることができないけれども、しかし直ちに時効が完成したということで国庫にそのお金を納入してしまう、つまり歳入納付の手続をとるということまではする必要がない、つまり供託されたままで、そのままの状態にしておきなさいという趣旨の通達を昭和三十一年から昭和三十三年にかけて出したわけでございます。
 このような通達、回答がされた理由でございますけれども、先ほど申し上げましたように、当該供託金について消滅時効が成立するということを否定したものではございませんが、当時においては、日本国及びその国民と朝鮮及びその住民との間の財産並びに請求権、これは債権を含みますけれども、そういう処理につきましては、昭和二十七年に発効いたしました平和条約四条に基づく特別取り決めの主題とされておりましたので、この特別取り決めがされることによって最終的な決着が図られるということに実はなっていたわけでございます。
 十年で時効が完成するわけでございますけれども、これは民法上の時効でございますから、時効を援用するかどうかということは政府の選択として残されていたわけでございますが、そういうような状況もございますので、特別取り決めがされるまでの間はそのままにしておくということにいたしたわけでございます。
 その後、御承知のように、韓国との間におきましては昭和四十年に日韓請求権協定が締結されまして、韓国民の日本国政府及び日本国民に対する請求権はすべて放棄されたわけでございまして、その関係におきましては、いわゆる朝鮮人労働者の未払い賃金の供託に係る還付請求権等は既に絶対的に消滅しておるというのが現在の法的状態でございます。
 この件数、人数等についてお尋ねでございますけれども、いわゆる一般の民法の弁済供託の一態様としてされたわけでございまして、私ども正確にそのものだけを取り出した形での統計資料というものは現在のところ持っておりませんので、正確な数字をちょっとお答えすることができないということを申し上げさせていただきたいと思います。

○会田長栄君 もちろん法務省でも労働省でも、恐らく朝鮮人強制連行真相調査団というのがこれは結成されて、今調査に入っているということは御承知でしょう。そういう意味ではこの問題というのは非常に大事なことでありまして、それは日韓条約に基づいて韓国分については一定の整理はできているにしても、朝鮮半島は今朝鮮民主主義人民共和国というのと韓国という二つの国があるわけでありますから、半分はまだ解決されていないということでございまして、その点、誠意を持って今後当たってほしいということを申し上げて、私の質問は終わります。

 第120回国会 衆議院外務委員会 第14号 平成三年八月二日(金曜日)午後一時三十一分開議

【発言順】
 委員       高沢 寅男
 外務省アジア局長 谷野作太郎

○高沢委員 それでは今ここで読んでいただいたものをひとつ後でよろしくお願いします。
 それから、もう全く時間がわずかになりましたが、朝鮮の問題でひとつお尋ねをしたいと思います。
 今、日本と北朝鮮の交渉が行われておりますが、その交渉はいろいろの課題でかなりハードルがあるようですが、いずれそのハードルは越えられて妥結される、そして日本と北朝鮮の関係がちゃんと回復されるときが来る、こんなふうにも私は見ております。
 その過程で何といっても一つは日本がこの朝鮮を植民地支配をしたということに対する謝罪の問題、これはあの日韓条約ではそういう謝罪の表現は一切入ってないのです。したがって、今度の北朝鮮とのそういう交渉がまとまって協定が妥結される段階では私は必ずこのことは入るべきであるし、また相手もそのことを要求すると思いますが、それが一つ。
 それから第二は賠償問題。その戦後の償いというのは一応別にしましょう、これはもう両国政府の大変な争点になっています。これは別において、戦前の植民地支配に対する賠償という問題は当然北朝鮮との関係でも処理しなければいかぬ、こう思いますが、ただ、日韓条約では賠償とはっきりなってないのですね。請求権と経済協力というような形で処理されているのが日韓条約であって、北朝鮮との関係で賠償という形になったときに、これと韓国との関係はじゃどうなるのかということは当然出てくると私は思います。
 それからもう一つは、唯一合法の規定でありますが、日韓条約では、朝鮮半島における唯一合法の政府が韓国の政府だ、これは国連の決議を引用して入っているわけであります。これは私の理解では、恐らく北朝鮮の方も我が政府は朝鮮半島における唯一合法の政府だというような態度でずっと来たのじゃないかと思いますが、最近の新聞報道では、それをいわば改めて、自分たちの国の政府の管轄権の及ぶのは軍事境界線から北の部分であるということを認めたということは、実際上唯一合法の主張をやはり取り下げたということではないかと私は思います。
 そうすると、北朝鮮と我が国との間に結ばれる条約の中には唯一合法の規定は当然入らない、しかし日韓条約には唯一合法が入っている、この関係の処理をじゃどうするんだという問題が当然出てくると私は思いますが、きょうは考えられる限りで、謝罪の問題と賠償の問題と唯一合法の問題、これらが北朝鮮との間で結ばれたときに、それを今度は日韓条約との関係の整合性をどうやってつけるのかという日本と韓国の問題がまた当然出てくる、こう思いますが、一体その辺の見通しなり処理はどうされるか。
 それからもう一つ、最後で済みませんが、ここで、ことしは韓国も北朝鮮もともに国連に加盟するということになってまいりますが、これは恐らくともに国連加盟は認められるというふうになったときに、あの南北朝鮮の間がその後どんなふうに発展する可能性があるのか、日本政府の見通しとして国連加盟の場合はどうかということをお尋ねしたいと思います。
 三つずらずらと言って済みませんが、ひとつお答えをいただきたいと思います。

○谷野説明員 お答え申し上げます。
 まず、この不幸な過去についての認識の問題でございますけれども、これは歴代総理が国会等で御答弁申し上げておりますように、不幸な過去という場合に何も韓国だけではございませんで、朝鮮半島全体との関係で不幸な過去を持ったという認識でございまして、これに対する厳しい反省の念と遺憾の意というものは国会等で表明されております。いずれ北朝鮮と正常化に至ります場合に、そのような認識をどういうふうに日本政府として改めて明らかにするか、文書に認めるのかと
いうことも含めてそのときにきちんと処理しなければならない問題だと私どもは考えております。
 第二点の賠償の問題でございますけれども、これは私どもの理解は、一般に賠償といいますのは、戦争状態にあった国家間の関係をいわば平和条約に基づいて処理するときに使われる文言でありまして、戦敗国と戦勝国の間のいわゆる戦時賠償を普通指すというのが専門家の意見でございます。したがいまして、北朝鮮との関係ではそのような関係ではなかったわけでございますから、韓国との間で処理しましたように相互の請求権の問題ということで処理されるべきものだろうというふうに考えておりますし、既にそのような日本政府の考え方を三次にわたります正式の先方との会談で申し述べておるところでございます。
 第三点の、唯一の合法政府云々というお話でございますが、これは当委員会でも高沢先生からお尋ねを何回かにわたっていただいた記憶がございますけれども、文言は繰り返しませんが、要するに日韓基本条約の第三条というのは大変用心深い書き方になっておりまして、あのような書き方がしてある以上、あのことが北朝鮮との間で、北朝鮮との関係はいわば白紙に、どういう関係を構築するかということが白紙のまま残されて将来にゆだねられたわけでございまして、その作業を今やっておるわけでございます。したがいまして、第三条のあのように用心深く書かれたあの文言というのはそれなりに何ら変更なくそのまま残されるべきものであろう、条約の安定性ということからいってもそれがあるべきことであろうと思います。
 最後に、南北の、北朝鮮及び韓国の両者の国連への加盟ということにつきましては、私どもは、これが北朝鮮の側から発表されました時点におきまして大変歓迎すべきことであるという談話を官房長官がお出しになったことを記憶いたしておりますが、いずれにいたしましても、これが最も望ましい選択でありますし、その意味におきまして北朝鮮のこの面での大変な決断というものを歓迎いたしたいと思いますし、南北両方が国連に加盟する、もちろん将来統一の暁にはこれは一つの議席になるべきものでありましょうけれども当面は両者がそれぞれの議席を持って加盟するということは、やはり私どもは一番大切と考えております朝鮮半島の平和と安定というものに大変大きなプラスの効果を持つというふうに思いますし、その意味において大変歓迎しておるところでございます。

○高沢委員 終わります。

 第121回 参議院予算委員会 第3号 平成三年八月二十七日(火曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員        前畑 幸子
 外務大臣      中山 太郎
 委員        清水澄子
 外務省アジア局長  谷野作太郎
 外務省条約局長   柳井俊二
 労働省職業安定局長 若林之矩
 内閣総理大臣    海部俊樹
 委員長       中村 太郎
 委員        櫻井規順

○前畑幸子君 ありがとうございました。
 次に、ことしは開戦五十周年に当たり、アジアの戦後補償についてお聞きしたいと思います。
 十二月八日を目前にいたしまして、韓国を中心に日本の侵略と戦争行為によって被害を受けたアジアの人々が日本政府に謝罪と補償を求めて裁判に提訴するという準備を進めているということでございます。政府は、こうした動きに対していかなる認識をお持ちですか。総理の見解を聞きたいと思います。

○国務大臣(中山太郎君) 昨年十月の海部総理の施政方針演説におきましても、政府といたしましては、朝鮮半島地域のすべての人々に対し、過去の一時期、我が国の行為により耐えがたい苦しみと悲しみを体験されたことについて、深い反省と遺憾の意を表明していることは御存じのとおりでございます。
 今後は、このようなことを二度と繰り返してはならないという反省と決意の上に立ち、平和国家としての立場を堅持するとともに、未来に向けて新しい日韓関係を築いてまいりたいという政府の方針を堅持いたしております。

○前畑幸子君 前向きな日韓関係を一層進めていただきたいと思います。
 ここで、続きまして清水委員から関連質問をさせていただきます。

○委員長(中村太郎君) 関連質疑を許します。清水澄子君。

○清水澄子君 外務大臣、韓国では民間の中からどのような要求が起こっておりますでしょうか。

○国務大臣(中山太郎君) アジア局長から具体的に御説明を申し上げたいと思います。

○政府委員(谷野作太郎君) お答え申し上げます。
 韓国におきまして、最近、いわゆる強制連行者あるいは元軍人軍属の方々、サハリンの残留者の方々、元戦犯あるいはその家族の方々から補償あるいは未払いの賃金の支払い等を求めでいろいろな訴訟なりを行う運動が起こってきておりまして、私どもも報道等を通じてそのようなことを承知いたしております。

○清水澄子君 今、なぜこういう補償要求が出てきたのでしょうか。その理由をどうお考えでしょうか。

○政府委員(谷野作太郎君) 個々のケースによって当事者の方々のお気持ち等は異なるのではないかと思います。一概に私の方から御説明する資料もございませんけれども、他方、いずれにいたしましても、先生も御存じのとおりでございますが、政府と政府との関係におきましては、国会等でもたびたびお答え申し上げておりますように、六五年の日韓間の交渉をもってこれらの問題は国と国との間では完全にかつ最終的に決着しておるという立場をとっておるわけでございます。

○国務大臣(中山太郎君) 昨晩、私は委員会終了後に、来日中の韓国の外務次官と約四十分間会談をいたしましたが、政府間の関係は、韓国の外務省の次官のお言葉をかりれば、今日ほど日韓関係が円満にいっていることはないという御意見でございました。盧泰愚大統領の訪日、また海部総理の訪韓ということによって、日韓関係は未来に向けて共同のパートナーとしてこれから活躍をしていこう、またアジア・太平洋における行動についてもパートナーとして協力をやっていく、またグローバルな立場でも協力をしていこうということが日韓間の国際的な外交に関する基本的な認識であるということも、昨晩双方で確認をいたした次第であります。

○清水澄子君 そこで、今おっしゃいましたように、政府間は円滑である、それでは民間の間でも円滑でなければならないと思いますが、これまで請求権は解決済みとされてまいりましたが、今後も民間の請求権は一切認めない方針を貫くおつもりでございますか。

○政府委員(谷野作太郎君) 先ほど申し上げたことの繰り返しになりますが、政府と政府との間におきましてはこの問題は決着済みという立場でございます。

○政府委員(柳井俊二君) ただいまアジア局長から御答弁申し上げたことに尽きると思いますけれども、あえて私の方から若干補足させていただきますと、先生御承知のとおり、いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。
 その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。

○清水澄子君 七月十日の韓国の国会で、野党が強制連行された朝鮮人の未払い賃金を請求することについて質問したことに対し、韓国の李外相がそれは日本から返してもらう権利があるという趣旨の答弁をしておりますが、このこととどういう関係になりますか。

○政府委員(谷野作太郎君) 韓国政府も、先ほど私が御答弁申し上げましたところ、あるいは条約局長が御答弁申し上げたところとこの問題については同じ立場をとっておるわけでございます。
 ただいまお話のありました李相玉韓国外務大臣の発言がこの問題についてございますので、そのくだりを読み上げてみたいと思います。「よくご存じのように、政府レベルにおいては、一九六五年の韓日国交正常化当時に締結された、請求権及び経済協力協定を通じこの問題が一段落しているため、政府が」と申しますのは韓国政府がという意味ですが、韓国政府が日本との間において「この問題を再び提起することは困難である」、これが韓国政府の立場でございます。

○清水澄子君 意見がありますが、ちょっと先へ行きます。
 きょうは、韓国の挺身隊問題対策協議会の会長もそちらに来て傍聴をしております。この会は、昨年の六月、この予算委員会におきまして、政府答弁が非常に納得できないということで三十五万人の韓国の女性たちの怒りの中で組織された会であります。
 そして、私は今ここで御質問したいんですが、総理にお伺いします。政府は、今でも、従軍慰安婦問題に国は関与していないという認識でいらっしゃいますか。――いや、総理にお伺いいたします。

○政府委員(若林之矩君) ただいまの御質問は、通常国会におきます私の答弁との関係での御質問だと存じます。
 私ども、従軍慰安婦の問題につきましては、労働本省でいろいろ調査をいたしましたけれども、資料等がございませんでした。さらに、当時の勤労局あるいは勤労動員署で働いていた人につきましてもいろいろと聞いてみましたけれども、こういった方々の話でございますと、全く従軍慰安婦問題というものにはこれらの機関は関与していなかったということでございまして、私ども、そういうことになりますと、全くこの状況を把握する手だてがないということでございまして、政府が関与していたか否かを含めて状況を把握できないということでございます。

○清水澄子君 まことに論弁というよりも、日本政府というのがこれほど傲慢でうそつきだということに今本当に私も心から怒りを覚えております。
 と申しますのは、国家総動員法に基づいて挺身隊というのは徴用を受けたわけです。それと、今これだけ情報を持っている社会、前の体制と違うことは事実です。しかし、それは本当に誠意があれば調べる方法はいっぱいあります。私は今、時間がなくて持ってきませんでしたけれども、たくさんの手紙が来ています。自分は元軍人でこうしたという、本当にたくさんの資料を持ち出されて、日本政府がこういう答弁をしていることに自分たちも責任を感ずる、我慢できないという、そういう多くの日本の生存する実行行為者の皆さんからの資料さえ集まっているわけです。ですから、政府が本当にこれを集める気があればできると思います。
 最近、ソウルで元慰安婦の方が、今おっしゃったような答弁にもう我慢ができないということで名のり出られました。そして今、秋にやはり法廷に出て日本の蛮行を証言したいと言っているわけです。そしてまた、韓国の女性団体からもこの問題を韓国の国会で取り上げるよう要求が始まりまして、秋の国会の議題になるということを聞いているわけです。
 総理、日本政府の皆さん方の発言によって日韓の間の民間の友好ですら壊されていく、このことについて、これは大きな政治問題になる、外交問題になると思いますが、これは総理はどのように解決をされようとなさいますか、お答えいただきます。

○国務大臣(海部俊樹君) 日韓の問題につきましては、私自身も二度にわたる首脳会談で歴史の反省の上に立った認識を述べるとともに、未来志向型の日韓関係を築かなければならないということを盧泰愚大統領とも確認をし、また国会をお訪ねして与野党の指導者の皆さんともその問題については率直に話をしてきたところでありまして、厳しい反省に立った対応というものと、もう一つ、昨年五月二十五日の外相会談の際に、いわゆる朝鮮人徴用者等に関する名簿入手についての協力要請があったことは、これは労働省を中心に名簿調査を行っておるところでありますし、その結果、これまで九万人分の名簿を確認し、そのうち韓国政府への提出について保有者の了解が得られたものの写しを、本年三月五日、外務省が韓国側に提出したどころでありますが、政府は、こうした名簿の調査に専念したいと考えており、今後とも引き続いて労働省を中心として関係省庁が協力して誠意を持って対応してまいる所存でありますので、御理解をいただきたいと思います。
 また、冒頭にお尋ねありました朝鮮人従軍慰安婦の問題については、先ほど関係省庁で調査の結果を申し上げたとおりでありまして、全く状況がつかめない状況であるということでありますので、私もそのような報告を受け、今後とも努力をあらゆる面で考えていかなければならぬと思いますが、実情についてはでき得る限りの調査をさかのぼってしてきたということでございます。御理解をいただきたいと思います。

○清水澄子君 納得できません。
 アメリカやカナダは、日系人強制収容者の人権を回復するために四十年目からでも事実を調査する機関をつくって、そしてその実態を調査し、補償いたしました。私は、こうしたアメリカの民主主義を日本は見習うべきだと思います。
 ですから、日本でもぜひそういう調査委員会を設置していただきたい、そして今、御理解くださいじゃなくて、徹底して調査をするということをお約束いただきたいと思います。総理、御答弁お願いします。

○国務大臣(海部俊樹君) 今申し上げましたように、既に関係省庁で協力をしながら、引き続き調査を続けてまいります。

○清水澄子君 改めて質問いたします。
 ありがとうございました。(拍手)

○前畑幸子君 改めて調査するのではなく、日本に最も近い韓国、朝鮮のことを一番最初に考えて政治というものに取り組んでいただきたいと思います。
 次に、大蔵省に証券問題についてお聞きしたいと思います。
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○櫻井規順君 総理にお伺いします。
 実際民間のレベルでも、今北海道とサハリンといろいろな交流があります。あのクーデターの最中でもファクシミリが私どもの友人のうちに入ってくるというふうな状況があります。クーデターに勝利したときには万歳万歳というファクシミリが入っていたお宅もあるとのことであります。
 私は、問題は、アジアというところはそれぞれ有事のような事態を抱えている国が多い。その中でもってPKOをどう準備するか、有事のための自衛隊派遣をどう考えるかというよりもより決定的に重要なことは、もう御案内のとおりでありますが、環日本海の経済、文化、アジア全体の経済、文化、特に私は、環日本海の際、極東、シベリアとの交流の大切さというものを痛感するわけでありますが、その辺いかがでしょうか。

○国務大臣(海部俊樹君) 環日本海の関係を大切にしようという考え方は、私も基本的に同感でございます。
 問題は、その隣接する両国間にまだ平和条約の締結がされていないということが非常に不自然な状況でありますし、また国交の正常化がまだ図られていない国があるということも非常に不自然な状況であります。同時に、そういった半島の全体を挙げての平和と統一のためにも今いろいろ努力もしていかなきゃならぬし、特にソ連との間においては、領土問題を解決して平和条約を締結して、国と国との信頼関係というものを本当に揺るぎないものにしていく努力をしなければ、信頼と友好関係に基づく経済特区の発展というものもやっぱり両輪のように拡大均衡で進んでいかなければならぬというのが私どもの基本的な考えでございます。

○櫻井規順君 今の特に環日本海の関連諸国との問題で、種田議員から関連質問をさせていただきます。

○委員長(中村太郎君) 関連質疑を許します。種田誠君。

○種田誠君 今、櫻井議員の方から、アジアの外交問題また日本海を取り巻く経済問題などについての質疑があったわけでありますが、私はきょう午前の同僚議員の質問を聞いておりまして、総理、外務大臣にはアジアの人たちの声が届いていないのかな、今アジアでも世界の民主化の流れに乗ってまさに主体的な市民が人権や経済の自立、こういうことを真剣にまさぐっているときであります。まさに日本の戦後の責任処理をもう一度見直しをしなければならない。また、アジアの外交に関しても、このような大きな歴史の変化の中での変貌を遂げていかなければならない。こういう時期にあるわけでありますから、総理、外務大臣にはこれからの質問に対して新しい日本の外交政策を展開するんだというような視点でお答えをお願いしたいと思います。
 私、八月十五日から八月十八日まで、幸いに衆参十一名の若手議員で韓国を訪れることができました。十六日には、盧泰愚大統領にお会いすることもできました。さらには、高麗大学の崔教授の司会のもとに、韓国の与野党の国会議員十一名、私どもも十一名、真剣な議論を展開してまいりました。たくさん学びました。そのことを踏まえましてお聞きしたいと思います。
 まず一つには、総理に伺いたいんですが、八月十六日、盧泰愚さんにお会いしましたときに、私たち、ああそうか、帰ったらば真剣にやらなきゃいかぬなと思ったことがございます。盧泰愚さんの言葉の中に、「韓日の数千年の友好の歴史の中で、わずかな一時期の不幸な歴史をきれいに清算できないめは悲しい限りだ」、こういう言葉がございました。総理、この言葉をどのように受けとめますか。

○国務大臣(海部俊樹君) 今のお言葉は、確かに議員が盧泰愚大統領と交わされたお言葉だということの御報告でありますから、それは率直にお聞きしますが、私の立場で言わせていただくと、昨年盧泰愚大統領と私も東京で首脳会談をいたしましたときに、過去の歴史の反省に立って率直に私はおわびの気持ちも表明をしましたし、盧泰愚大統領は、そのような一時期の不幸な関係について歴史の正しい認識を率直に表明してもらったことについて自分は高い評価をする、過去のわだかまりを乗り越えて、これから日韓両国は未来志向の、アジアの中で平和を築いていく未来志向のパートナーとなっていかなければならぬということを自分は確認すると私に東京では盧泰愚大統領は言ってくれた。
 そして、その基本的な立場に立って、それなれば日韓両国にわだかまっておる問題を言葉だけじゃなくて具体的に誠意を持って片づけようと。そこで、問題になっておりました在日韓国人三世問題についても鋭意努力をして詰めまして、ことしの一月、私が韓国訪問をするまでに大筋において全部きちっと解決をして、そのことを報告もいたしました。盧泰愚大統領にはそういったことも理解を願ったと思います。
 同時に会談の中では、これで今後ともアジアの平和と安定のためにパートナーとなってやっていこう。そして、さらに一歩乗り越えて、朝鮮半島の平和のために南北朝鮮では首相級会談等を開いたりいろいろな努力をしておる。日本も、北の政府との関係は朝鮮半島の平和統一に役立つようにひとつ十分配慮して努力をしてほしいというようなやりとりまで重ねてきておりますので、私は、文字どおり、首脳会談で決めましたこれらの問題について未来志向に向けての共同作業を今後とも一層進めていかなきゃならぬ、このように受けとめております。

○種田誠君 それでは、外務大臣にお伺いいたします。
 シンポジウムの中で、韓国の与野党の国会議員十一名が十一名、韓国の世論や裁判などの成り行きを踏まえまして日本に対して個人の人権侵害に対しての救済をお願いしたい、求めたいという発言がございました。そして、私どもが訪韓しております十七日に李相玉外務大臣がこのような談話を発表いたしました。先ほど外務省のアジア局長さんは前の方だけしか言わなかったんですが、後ろがあるわけであります。「韓国政府として、日韓の過去に関連した問題に対して、引き続き慎重に検討し、対処していきたい」、このように述べられております。このことについて外務大臣ばと一のように受けとめられますでしょうか。

○国務大臣(中山太郎君) そのときの李長官の御発言が今議員がお話しのようなことであったかどうか。そのとおりだと私は思いますが、昨晩、私は韓国の外務省を代表する外務次官と四十分にわたって委員会終了後会談をいたしたわけであります。その会談において、韓国政府としては日韓間に現在政府間の問題はありません、こういうお話でございますから、この私と韓国の外務次官との正式な会議の場の話を信用するといった以外に政府としてはほかの考え方で対応する考え方はございません。

○種田誠君 私は今、海部総理、外務大臣の見解は見解として賜りたいと思うんですが、この盧泰愚大統領さらには韓国の外務大臣の発言をまとめるならば、韓国政府として決して問題が完全に清算されていないというふうに受けとめざるを得ないんではないだろうかなと思うわけであります。先ほども外務大臣は、政府対政府の間においては一切問題はございませんというお答えでした。問題は、政府対国民の間において問題があったかないかということを、すべてこれを韓国政府と国民というふうにして解決してしまうのが果して正しいのかどうかということですね。
 問題は、今日のように民主主義がグローバル化されまして、そして一人一人の市民の人権ということがまさに基になっての政治形態を展開していく、こういう時代だからこそ、もう一度一九六五年の日韓条約並びにそれに伴う協定書を私たちは素直に謙虚に見直す必要があるだろう、こう思うわけでありますが、総理大臣の御見解もしくは外務大臣の御見解を賜りたいと思います。

○国務大臣(中山太郎君) およそ国家と国家の外交というものは、その国民によって選ばれた政府間の正式な代表団による会議というものが合意をし、その合意された考え方が文書として両国の言葉で確認をされ署名をされて初めてこれが発効するのでございます。
 そのような手続を両国ともに正式なルートを通じて確認したのがこの一九六五年のお示しの我々二国間の問題の戦後の処理に関する公式な政府間確認でございますから、国民の中にはそれはなかなかその協定に御不満をお持ちの方もいらっしゃいます。韓国にもいらっしゃれば日本にもおられるかもわかりません。しかし、およそ民主主義の国家では、正式に選ばれた政府間が公式な国際条約にのっとって、その法規にのっとった二国間の外交交渉を通じてまとまったことによって両国の政府は合意をする、こういうことが国際慣例でございますから、そういうふうな基本的な問題を政府間で協議いたしました上は、両国の一人一人の方々の中に御不満がたとえあろうとも、それは政府間の合意事項ということで公式に外交的には確立された文書である、このように御理解をいただきたいと思います。

○種田誠君 それでは、今日、韓国はもとよりアジアの諸国においていまだ戦後清算が済んでいないということで、人権救済の視点からのこの民衆の声に対して日本政府はどのようにこたえていくというお考えでしょうか。

○国務大臣(中山太郎君) 第二次世界大戦におきまして日本国がアジア地域の方々に大変な御迷惑をかけたということは、過去にこの国会の委員会の席で総理が日本政府として公式に御意見を述べられていることはよく御理解をいただいているところであります。しかし、アジア地域にはまだその国の政情の不安定な条件とかいろんな問題がある国があります。そういう国との正式な国交がまだ開かれでおらず、そういう国に対しては処理が終わっていない国も確かにございます。現在、御案内のように、日朝の外交交渉もこの月末の三十日、三十一日、北京で行うことが両国間で合意されております。
 政府としては、誠意を持って国と国との関係を確立していく、そして問題を処理していく、こういう誠意を持った外交努力をやることによってアジア・太平洋における日本のこれからの信頼される国家としてのあり方というものを確立してまいらなければならない、こういうのが私の外務大臣としての考え方でございます。
 戦後、振り返っていただくとよくおわかりのように、焦土の中から立ち上がった日本が、やはりアジアというものはそれぞれの国は貧しい国が多い、お互いに助け合うという考え方で、経済力が出てきた日本がこのアジア・太平洋地域には我々の経済協力の六二・五%を提供しているわけであります。また、ASEAN拡大外相会議を通じ、いろんな面でアジア各国との連携もいたしております。
 ごらんいただくとよくわかるように、海部内閣が誕生して二年でございますけれども、東北といえばモンゴルから始まってインドに至るまでアジア・太平洋地域は海部総理がほとんど歴訪をされているわけでありまして、御案内のように、日韓の問題も解決しました。日朝も現在交渉しております。モンゴルも今回総理の訪問によって両国間の関係が確立しましたし、あわせて中国は名園に先駆けて日本が経済協力を再開したわけでありますし、カンボジア問題、ベトナムへの私の公式の訪問、こういうふうにいろんなことを考えていただきますと、日本政府はいかにアジア地域にその外交の力をつぎ込んでいるかということが十分御理解がいただけると思います。

○種田誠君 私も今外務大臣が述べられた一つのアジア政策に関して理解を示す部分は多々あるわけでありますが、問題は、日本のこれからの国際貢献にしても、さらにはまた日本のアジアにおける諸活動にしても、アジアの民衆の方々の理解をもらって、まさに大きな感謝の評価をいただけるような形でなければならないと思うわけであります。
 大事なことは、この戦後処理の中で、西ドイツにしてもカナダにしてもアメリカにしても、最近においてはソ連も東ドイツも、民衆に対する一定の戦後処理という形を明らかにしてきているわけであります。私たち戦後生まれの者でありますが、正の遺産と同時に負の遺産も背負って、そして私たちもこれを一つののどに刺さったとげとしてはっきりしたけじめをつけて、そしてアジアに対する貢献策を展開していくことが私は今日本の外交に求められるんではないだろうかなと、そう思うわけでありますから、重ねてこの点について外務大臣のお考えを伺いたいと思います。

○国務大臣(中山太郎君) 政府間の問題は問題といたしまして、御指摘のように、確かに民衆の間に、例えば在韓の被爆者の方々への日本の協力問題が出ておりました。この問題も海部総理訪韓のときに大方の話し合いを私どもはつけたわけでありますし、また在サハリンの韓国人の母国訪問についても日本政府は協力をいたしております。
 今年は、お示しのように、十二月八日で太平洋戦争を開始してちょうど五十年の記念すべき日を迎えるわけでありまして、日本政府といたしましては、この歴史的な時期に、アジア・太平洋を初め日本の戦火によって傷つき、家を失いあるいは家族を失った方々に改めて心からこの大戦への反省を明確にするとともに、今後アジア・太平洋に対する日本の協力を進めていく、このような考え方で現在対応をいたしております。

○種田誠君 最後に、ぜひとも今外務大臣が述べられたような視点でアジアの民衆の心をつかまえる外交をこれからも展開していただきたいと思います。
 終わります。(拍手)

 第121回国会 参議院予算委員会 第3号 平成三年八月二十七日(火曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員        前畑 幸子
 外務大臣      中山 太郎
 委員長       中村 太郎
 委員        清水 澄子
 外務省アジア局長  谷野作太郎
 外務省条約局長   柳井 俊二
 労働省職業安定局長 若林 之矩
 内閣総理大臣    海部 俊樹

○前畑幸子君 ありがとうございました。
 次に、ことしは開戦五十周年に当たり、アジアの戦後補償についてお聞きしたいと思います。
 十二月八日を目前にいたしまして、韓国を中心に日本の侵略と戦争行為によって被害を受けたアジアの人々が日本政府に謝罪と補償を求めて裁判に提訴するという準備を進めているということでございます。政府は、こうした動きに対していかなる認識をお持ちですか。総理の見解を聞きたいと思います。

○国務大臣(中山太郎君) 昨年十月の海部総理の施政方針演説におきましても、政府といたしましては、朝鮮半島地域のすべての人々に対し、過去の一時期、我が国の行為により耐えがたい苦しみと悲しみを体験されたことについて、深い反省と遺憾の意を表明していることは御存じのとおりでございます。
 今後は、このようなことを二度と繰り返してはならないという反省と決意の上に立ち、平和国家としての立場を堅持するとともに、未来に向けて新しい日韓関係を築いてまいりたいという政府の方針を堅持いたしております。

○前畑幸子君 前向きな日韓関係を一層進めていただきたいと思います。
 ここで、続きまして清水委員から関連質問をさせていただきます。

○委員長(中村太郎君) 関連質疑を許します。清水澄子君。

○清水澄子君 外務大臣、韓国では民間の中からどのような要求が起こっておりますでしょうか。

○国務大臣(中山太郎君) アジア局長から具体的に御説明を申し上げたいと思います。

○政府委員(谷野作太郎君) お答え申し上げます。
 韓国におきまして、最近、いわゆる強制連行者あるいは元軍人軍属の方々、サハリンの残留者の方々、元戦犯あるいはその家族の方々から補償あるいは未払いの賃金の支払い等を求めでいろいろな訴訟なりを行う運動が起こってきておりまして、私どもも報道等を通じてそのようなことを承知いたしております。

○清水澄子君 今、なぜこういう補償要求が出てきたのでしょうか。その理由をどうお考えでしょうか。

○政府委員(谷野作太郎君) 個々のケースによって当事者の方々のお気持ち等は異なるのではないかと思います。一概に私の方から御説明する資料もございませんけれども、他方、いずれにいたしましても、先生も御存じのとおりでございますが、政府と政府との関係におきましては、国会等でもたびたびお答え申し上げておりますように、六五年の日韓間の交渉をもってこれらの問題は国と国との間では完全にかつ最終的に決着しておるという立場をとっておるわけでございます。

○国務大臣(中山太郎君) 昨晩、私は委員会終了後に、来日中の韓国の外務次官と約四十分間会談をいたしましたが、政府間の関係は、韓国の外務省の次官のお言葉をかりれば、今日ほど日韓関係が円満にいっていることはないという御意見でございました。盧泰愚大統領の訪日、また海部総理の訪韓ということによって、日韓関係は未来に向けて共同のパートナーとしてこれから活躍をしていこう、またアジア・太平洋における行動についてもパートナーとして協力をやっていく、またグローバルな立場でも協力をしていこうということが日韓間の国際的な外交に関する基本的な認識であるということも、昨晩双方で確認をいたした次第であります。

○清水澄子君 そこで、今おっしゃいましたように、政府間は円滑である、それでは民間の間でも円滑でなければならないと思いますが、これまで請求権は解決済みとされてまいりましたが、今後も民間の請求権は一切認めない方針を貫くおつもりでございますか。

○政府委員(谷野作太郎君) 先ほど申し上げたことの繰り返しになりますが、政府と政府との間におきましてはこの問題は決着済みという立場でございます。

○政府委員(柳井俊二君) ただいまアジア局長から御答弁申し上げたことに尽きると思いますけれども、あえて私の方から若干補足させていただきますと、先生御承知のとおり、いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。
 その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。

○清水澄子君 七月十日の韓国の国会で、野党が強制連行された朝鮮人の未払い賃金を請求することについて質問したことに対し、韓国の李外相がそれは日本から返してもらう権利があるという趣旨の答弁をしておりますが、このこととどういう関係になりますか。

○政府委員(谷野作太郎君) 韓国政府も、先ほど私が御答弁申し上げましたところ、あるいは条約局長が御答弁申し上げたところとこの問題については同じ立場をとっておるわけでございます。
 ただいまお話のありました李相玉韓国外務大臣の発言がこの問題についてございますので、そのくだりを読み上げてみたいと思います。「よくご存じのように、政府レベルにおいては、一九六五年の韓日国交正常化当時に締結された、請求権及び経済協力協定を通じこの問題が一段落しているため、政府が」と申しますのは韓国政府がという意味ですが、韓国政府が日本との間において「この問題を再び提起することは困難である」、これが韓国政府の立場でございます。

○清水澄子君 意見がありますが、ちょっと先へ行きます。
 きょうは、韓国の挺身隊問題対策協議会の会長もそちらに来て傍聴をしております。この会は、昨年の六月、この予算委員会におきまして、政府答弁が非常に納得できないということで三十五万人の韓国の女性たちの怒りの中で組織された会であります。
 そして、私は今ここで御質問したいんですが、総理にお伺いします。政府は、今でも、従軍慰安婦問題に国は関与していないという認識でいらっしゃいますか。――いや、総理にお伺いいたします。

○政府委員(若林之矩君) ただいまの御質問は、通常国会におきます私の答弁との関係での御質問だと存じます。
 私ども、従軍慰安婦の問題につきましては、労働本省でいろいろ調査をいたしましたけれども、資料等がございませんでした。さらに、当時の勤労局あるいは勤労動員署で働いていた人につきましてもいろいろと聞いてみましたけれども、こういった方々の話でございますと、全く従軍慰安婦問題というものにはこれらの機関は関与していなかったということでございまして、私ども、そういうことになりますと、全くこの状況を把握する手だてがないということでございまして、政府が関与していたか否かを含めて状況を把握できないということでございます。

○清水澄子君 まことに論弁というよりも、日本政府というのがこれほど傲慢でうそつきだということに今本当に私も心から怒りを覚えております。
 と申しますのは、国家総動員法に基づいて挺身隊というのは徴用を受けたわけです。それと、今これだけ情報を持っている社会、前の体制と違うことは事実です。しかし、それは本当に誠意があれば調べる方法はいっぱいあります。私は今、時間がなくて持ってきませんでしたけれども、たくさんの手紙が来ています。自分は元軍人でこうしたという、本当にたくさんの資料を持ち出されて、日本政府がこういう答弁をしていることに自分たちも責任を感ずる、我慢できないという、そういう多くの日本の生存する実行行為者の皆さんからの資料さえ集まっているわけです。ですから、政府が本当にこれを集める気があればできると思います。
 最近、ソウルで元慰安婦の方が、今おっしゃったような答弁にもう我慢ができないということで名のり出られました。そして今、秋にやはり法廷に出て日本の蛮行を証言したいと言っているわけです。そしてまた、韓国の女性団体からもこの問題を韓国の国会で取り上げるよう要求が始まりまして、秋の国会の議題になるということを聞いているわけです。
 総理、日本政府の皆さん方の発言によって日韓の間の民間の友好ですら壊されていく、このことについて、これは大きな政治問題になる、外交問題になると思いますが、これは総理はどのように解決をされようとなさいますか、お答えいただきます。

○国務大臣(海部俊樹君) 日韓の問題につきましては、私自身も二度にわたる首脳会談で歴史の反省の上に立った認識を述べるとともに、未来志向型の日韓関係を築かなければならないということを盧泰愚大統領とも確認をし、また国会をお訪ねして与野党の指導者の皆さんともその問題については率直に話をしてきたところでありまして、厳しい反省に立った対応というものと、もう一つ、昨年五月二十五日の外相会談の際に、いわゆる朝鮮人徴用者等に関する名簿入手についての協力要請があったことは、これは労働省を中心に名簿調査を行っておるところでありますし、その結果、これまで九万人分の名簿を確認し、そのうち韓国政府への提出について保有者の了解が得られたものの写しを、本年三月五日、外務省が韓国側に提出したどころでありますが、政府は、こうした名簿の調査に専念したいと考えており、今後とも引き続いて労働省を中心として関係省庁が協力して誠意を持って対応してまいる所存でありますので、御理解をいただきたいと思います。
 また、冒頭にお尋ねありました朝鮮人従軍慰安婦の問題については、先ほど関係省庁で調査の結果を申し上げたとおりでありまして、全く状況がつかめない状況であるということでありますので、私もそのような報告を受け、今後とも努力をあらゆる面で考えていかなければならぬと思いますが、実情についてはでき得る限りの調査をさかのぼってしてきたということでございます。御理解をいただきたいと思います。

○清水澄子君 納得できません。
 アメリカやカナダは、日系人強制収容者の人権を回復するために四十年目からでも事実を調査する機関をつくって、そしてその実態を調査し、補償いたしました。私は、こうしたアメリカの民主主義を日本は見習うべきだと思います。
 ですから、日本でもぜひそういう調査委員会を設置していただきたい、そして今、御理解くださいじゃなくて、徹底して調査をするということをお約束いただきたいと思います。総理、御答弁お願いします。

○国務大臣(海部俊樹君) 今申し上げましたように、既に関係省庁で協力をしながら、引き続き調査を続けてまいります。

○清水澄子君 改めて質問いたします。
 ありがとうございました。(拍手)

○前畑幸子君 改めて調査するのではなく、日本に最も近い韓国、朝鮮のことを一番最初に考えて政治というものに取り組んでいただきたいと思います。
 次に、大蔵省に証券問題についてお聞きしたいと思います。

 第121回国会 参議院外務委員会 第2号 平成三年九月五日(木曜日)午後一時開会

【発言順】
 外務大臣     中山 太郎
 委員       田 英夫
 外務省アジア局長 谷野作太郎
 外務省条約局長  柳井 俊二
 委員長      大鷹 淑子
 教育局小学校課長 近藤 信司

○国務大臣(中山太郎君) 私は、今日までの日朝間の国交正常化交渉を振り返ってみて、第一回から今回の会談までいろいろと曲折はございましたが、やっと本来の議論すべき課題に入り得たという認識を持っております。いろいろ長い間の両国間の不幸な時間帯というものがございましたから双方いろいろな問題が蓄積しておりましたけれども、問題を一つ一つ議論しながらやっと基本的な問題に議論の窓口が開き始めたと。
 私は、今後この二国間の交渉についてはさらに誠意を持ってやっていくことが必要でございますし、また幸いなことに国連総会で南北が同時に加盟するといったような環境が国際的にも整備されてきたということは歓迎すべきことと、このような認識を持っております。

○田英夫君 確かにそういう状況になってまいりました。ただ、私に言わせていただければ、以前にもここで申し上げたのですが、外務省の外交交渉、特にソ連であるとか朝鮮民主主義人民共和国であるとかというような国を相手の交渉の場合に、交渉の入り口に何か大きな石のようなものを置いて、これをどけなければ内容に入らない、部屋に入って交渉に応じないというようなそういうやり方がどうもあるように思えてならない。今回の第四回の冒頭ももめましたけれども、その原因はそういうところにあるのじゃないか。李恩恵の問題とかあるいは核査察の問題とか、困難な問題をまず入り口に置くような気がしてならないのです。
 李恩恵の問題というのは、これも大分前にあのことが発表になった直後にこの外務委員会で私の意見を申し上げましたけれども、この問題は今後どういうふうに取り扱われるおつもりですか。

○政府委員(谷野作太郎君) 田先生から紆余曲折の末にやっと本交渉に入ったというお言葉がございましたけれども、恐らく今の李恩恵の問題を頭に置いての御発言だと思いますが、確かに冒頭にこの問題につきましてかなり北側と厳しいやりとりがございました。経緯は省略いたしますとして結局決着したラインといいますのは、この問題について日本側が希望するのであればいつでも実務レベルで協議には応じますということを確保した上で第四回の正式の会談に入ったわけでございます。
 入り口に大きな障害を置いたというお言葉でございましたけれども、国会でもたびたび御議論がありましたけれども、この問題を全く横に置いたままで何事もなかったように本会談を進めるということは、私どもは政府としてなかなかとり得ざる道ではなかったかと思っております。

○田英夫君 私は、今度の日朝交渉の朝鮮側の代表団長である円仁徹という人は三十数年来の友人でありますから、彼とも話しましたし、七月に日朝議連の代表団で朝鮮へ行きましたので、そこでも金日成主席初め現場の指導者とも会いましていろいろ向こう側の考えも聞きました。日本とのそういう交渉に臨む向こう側の基本的な理念といいますか、過去のことを含めてそういうものも聞いておりますが、日本側から考えたときに、かつてのことを含めてどういう点を基本的な姿勢として交渉に臨んでおられるのか、そうした点をひとつ大臣からお答えいただきたいと思います。

○国務大臣(中山太郎君) この交渉に当たる日本側の考え方といたしましては、やはり三十六年間に及ぶ日本の植民地時代におけるこの地域の方々が受けた精神的あるいは物的な被害、そういうものが現実に存在をしているといったことについては政府として基本的に海部総理が日本政府の考え方を国会等で申し上げておりますけれども、私どもはそのような不幸な過去を新しい一つの転換点としてこの日朝交渉を成功裏におさめて、一日も早く朝鮮半島全体が平和の中にアジアの国家として繁栄をしていく、そういうことに日本政府としては心から期待を持っているということでございます。

○田英夫君 私の考えも共通しているわけですけれども、ちょっと整理して意見を申し上げたいと思うのです。
 一つは、今大臣言われたとおり、過去の植民地支配に対する反省とそれを謝罪という形、それを どうあらわすかというところへ非常に今度の交渉の中身の問題が絡んでくると思いますが、それが第一の柱だと思います。
 二番目に、日本人は、植民地支配のときはもちろんですが、歴史的に朝鮮民族に対する不当な差別意識のようなものがあるのではないか。こういうことに対する反省も同時に大変大事ではないか。朝鮮民族は非常に誇り高い民族ですから、特に民族としての尊厳とか人権擁護とかということを大きな柱として考えておく必要があるのではないか。
 三番目に、やはり南北は統一されるべきだ、そのために日本は陰ながらということの方がいいと思いますが協力をするという、そうしたことも基本に持っていなければいけないのではないか。
 それから大臣を言われたとおり、もちろん日朝間の国交正常化ということはアジアの平和につながる、そういう平和の問題、これが四番目の柱だと思います。
 五番目の柱は、さっきソ連のところで申し上げたつまりイデオロギー主義にとらわれてはならないということ。先日も金日成主席に会ったときに、朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮式社会主義を厳守する、我々は地球の上に住んでいる以上地球の変化に沿っていかなければならないという発言がありました。これは非常に注目すべき発言だと思ったわけですが、同時に我々は朝鮮式社会主義を堅持していくと。我々式社会主義という、朝鮮語でウリ何とかというその言い方もあるようですが、こうしたことを考えたときに、率直に言ってアメリカの一部などにありますけれども、自分たちのイデオロギー、自分たちの考え方をよそに押しつけるという、そういうものがこの日朝交渉、日朝間の中にあってはならないということ。
 この五つが私は重要な柱だと思っています。その意味で、冒頭の植民地支配に対する反省ということ、この中から過去に対する謝罪をどうあらわすか、それが今賠償とか財産・請求権とかという言葉で容易に一致しない部分の一つになっているわけです。
 最初にお答えいただきたいのは、一九一〇年のいわゆる併合条約ですね。日本政府の側からすれば、日韓基本条約の第二条で無効とするということを書いてありますが、これはあの時点で無効だということであって、北朝鮮側はもう初めから不当であんなものは無効なものだと言っているようですけれども、日本政府は北朝鮮側との関係の中ではどう考えているのですか。

○政府委員(柳井俊二君) ただいまの一九一〇年の条約についての御指摘でございますけれども、日朝国交正常化交渉におきまして北朝鮮側はこの条約、いわゆる日韓併合条約でございますが、これは強制を背景に締結されたものであって当初より無効であるというような主張をしているわけでございます。
 日本政府といたしましては、従来からいろいろな機会に御答弁申し上げておりますとおり、この条約は一九六五年の日韓基本関係条約第二条によりまして「もはや無効である」ということが確認されておるわけでございますが、一九一〇年の当時には有効に締結され実施されたものであるという考え方をどってきているわけでございます。ただ、このような法的な評価の問題それからこの条約が締結されました当時の政治的その他の背景とは別の問題であるというふうに考えておる次第でございます。

○田英夫君 日韓基本条約で「もはや無効」という非常に微妙な言葉を使っているわけで、この問題も一つのテーマだとは思いますが、もう一つ今非常に日朝間で意見の違う請求権という問題ですね。請求権という言葉は、外交の今度のような場合に使う用語の意味と一般的な辞書に書いてあるような意味、辞書のような意味からすれば、何というか、金銭財産の貸し借りみたいなことになるわけですけれども、サンフランシスコ平和条約の第二条で、「日本国は、朝鮮の独立を承認し」、幾つかの島を含めて「朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」、こうあるわけです。この場合の請求権、英文で見るとクレームと書いてありますが、これと日朝交渉の中で今言われている請求権、政府が言っておられるのとは同じですか、違いますか。

○政府委員(柳井俊二君) ただいま田先生から御指摘ございましたように、サンフランシスコ平和条約第二条には御指摘のような規定があるわけでございます。この規定、第二条でございますが、これは御承知のとおり領土の処理にかかわる規定でございまして、したがいましてこの第二条で用いられておりますいわゆる請求権は最近問題になっております財産権的な請求権という意味ではございませんで、領土の領有関係の主張にかかわる概念であるというふうに解しております。
 他方、我が国と分離独立いたしました地域との間の財産・請求権の問題の処理につきましては、サンフランシスコ平和条約ではむしろ第四条の(a)項におきまして、日本国と現にこれらの地域の施政を行っている当局との間の特別取り決めの主題とするという規定がございます。そのような規定に基づきまして、日韓におきましては御承知の一九六五年のいわゆる日韓請求権・経済協力協定によりましてこの問題を完全かつ最終的に解決したということでございます。

○田英夫君 ちょうど条約局長からサンフランシスコ条約第四条の話が出ましたが、(a)同項はまさにそういう規定だと思うのです。それに基づいて今交渉しているということだと思いますが、(b)項のところで、アメリカが朝鮮で処理した、処理という言葉を使っていますが、つまり没収したという意味だろうと思いますが、日本国及び日本国民の財産は処理したものと認める、つまり没収されたことを認める、こういう条項が(b)項にあるわけです。これは実は韓国側がひそかに要求して入ったという説もあるようでありまして、したがってアメリカがと書いてあるわけですが、そうなると、北半分はソ連軍がかつての日本国並びに国民の財産を没収したと言われているわけですけれども、サンフランシスコ条約にはその問題は触れていませんから、今度の日朝交渉の中の朝鮮側の問題についてはないわけですね。ないと考えていいのですか。そうするとこの問題は、日本側からすれば交渉の一つのフリーな問題になると考えていいのですか。

○政府委員(柳井俊二君) この点につきましても、ただいま田先生から御指摘ございましたとおり、平和条約第四条(b)におきましては、「日本国は、第二条及び第三条」、第三条はこの場合関係ございませんけれども、「に掲げる地域のいずれかにある合衆国軍政府により、又はその指令に従って行われた日本国及びその国民の財産の処理の効力を承認する」という規定があるわけでございます。したがいまして、これは合衆国軍政府のとった措置を承認するということにとどまるわけでございまして、北朝鮮におきましてのこのような処理というものはなかったと思いますので、この北朝鮮におきましての財産の問題というのはこれとは基本的に別個の問題であるというふうに考えております。
 北朝鮮におきまして我が国の財産等がどのように処理されたかということの詳細につきましては。残念ながらよくわからない点が多いわけでございますが、ただ私ども承知している限りにおきましては、北朝鮮におきましていわゆる北朝鮮臨時人民委員会が一九四六年三月五日の北朝鮮土地改革に関する法令というものによりまして、日本国、日本人及び日本人団体の所有地を没収いたしまして、一九四六年八月十日の産業、交通・運輸、逓信、銀行等の国有化に関する法令というもので日本国及び日本人所有の施設を国有化したというふうに承知しております。なお、一九四八年の九月八日に交付されました朝鮮民主主義人民共和国憲法におきましても、日本国及び日本人の財産は国家、すなわち北朝鮮でございますが、の所有に属するとされておりまして、日本国及び日本人の土地所有は永久に廃止されるというふうに規定されているものと承知しております。
 いずれにいたしましても、我が国と北朝鮮との間におきましては両国及び両国国民間の財産・請求権の問題は未解決のままで残っているわけでございますので、今後日朝国交正常化交渉の場でこの問題を解決していきたいというふうに考えているわけでございます。

○田英夫君 そこで、確認をするのですけれども、請求権と言った場合に、財産・請求権という意味ですけれども、北朝鮮側に当然あると、それは人的物的被害に対する賠償という意味で向こうは言っているわけですが、日本側は、今の条約局長の御説明だと、サンフランシスコ平和条約にはアメリカのことしかないから一方的に北朝鮮側は憲法その他の法令によって没収しているのだけれども、日本側もかつての国の財産とかあるいは企業の工場等の財産に対する請求権はあるのだというふうに政府はお考えなのか、この点はどうですか。

○政府委員(柳井俊二君) ただいまの点は、先ほどもサンフランシスコ平和条約に触れましたときに日本側の財産・請求権というものもこの規定の対象になっていることを申し上げましたけれども、これはいろいろな戦後の請求権処理の問題で常に問題になってきたところでございますが、北朝鮮との関係につきましても、我が国が置いてきた財産の処理という問題についての請求権というものはこれは交渉の対象になる問題であるというふうに考えております。

○田英夫君 そこはこれから非常に重要なところになると思います。私も北朝鮮側のこの交渉を取材している人とかそういう人たちから北側の意見を聞くという形で接触してみますと、やはりこの点を非常に重視していますね。
 それで、私もこれは同感なのですけれども、私はさっきなぜ第四条の(b)のことを聞いたかというと、アメリカの方は明文で規定しているのです。そうすると、北半分のことは条約に関係がないから何もないけれども、当然援用して南半分と同じように考えるべきじゃないかと思う方が自然じゃないか。これは私の意見として申し上げておきます。
 それからもう一つの問題で、北朝鮮側は人的物的被害、例えば強制連行をされた人あるいは従軍慰安婦というような形で大変な被害を受けた人たちに対する賠償という形で支払え、こういうことを言っているわけですが、これに対して交渉の場で日本側は、それならば証拠を出せ、例えば郵便貯金通帳とか年金証書とか、それから徴用で賃金が不払いだったというようなことに対する証明できるものを出せ、こう言われたというのですが、これは事実ですか。

○政府委員(谷野作太郎君) 北朝鮮側の主張は、いわゆる日本の統治時代の人的な被害あるいは物的な損害、こういうものを賠償という形で補償せよ、こういうことでございまして、私どもの立場は先ほど来条約局長が申し上げているところでございますが、いずれにいたしましても、そういった個別の先方からの請求に対しましてはやはり私どもといたしましても客観的な事実をまず御開示いただきたい。帳簿を見せろということは言っていないと私は思います。必ずしもそういう具体的な表現ではなかったとは思いますけれども、具体的な積算根拠を政府に示していただきたいという議論を始めております。
 大臣が冒頭申し上げましたように、そういうことも含めて第四回目でようやくそういった具体的な論議を始めたということでございます。

○田英夫君 これも北朝鮮側の田仁徹団長自身も非常に怒りを込めて言っているのですが、血も涙もないと。大体五十年もたってそうした貯金通帳とかを持っているはずがないし、また強制連行や慰安婦で連れていかれた連中がそんな貯金できるような経済状態になかったじゃないかという言い方をしているわけですけれども、私もこれはちょっと血も涙もないな、こういう感じがしてなりません。
 そこで、強制連行の問題ですけれども、韓国の盧泰愚大統領も昨年来日されたときにこの問題に触れられた。日本側は、調べましょうということになったにもかかわらず、率直に言って厚生省、労働省などで責任のなすり合いのようなことがあって一向に調査は進んでいない。民間の人の努力で若干名簿が出てきたというような程度でしかないわけです。このことは実は冒頭申し上げた植民地支配に対する反省と謝罪ということからすると一番直接的に表にあらわれた問題で、これにどう対応するかということは単に北朝鮮だけでなくて中国、韓国を含めてあるいはアジア諸国を含めて非常に重要な問題で、日本政府のいわば怠慢のために今取り残された問題だと言わざるを得ないわけであります。
 私は、この際委員長にお願いをしたいのですけれども、ぜひ理事会で、この外務委員会に強制連行問題調査小委員会というものを置いていただいて改めて参議院として積極的にこの問題の調査を進めるということをすぐやっていただきたい。お願いをしておきたいと思います。

○委員長(大鷹淑子君) わかりました。

○田英夫君 そこで、例えば田仁徹団長は、ドイツがユダヤ人に対して補償を行ったそうした資料を集めてこれを参考にしているということも語っております。
 私の調査では、西ドイツですけれども、かつての西ドイツ政府は政府としても非常に積極的にユダヤ人に対する補償をやってきましたし、民間もやっております。日本は、例えば花岡事件などで鹿島建設は全くそうした補償措置をやろうとしていないわけであります。その他の企業も全くやっておりませんけれども、例えばドイツの場合はベンツ社、あの自動車のベンツ社だけで日本円にして一兆円を超す賠償をユダヤ人の団体などに支払っている。今もまたその支払いが続いているという状況だということを聞いております。
 したがってこの問題、いわゆる賠償・請求権の問題というのはこれから非常に大きくなるだろう。それをどう処理されるのか。時間がありませんから、きょうは私の方から一方的に申し上げましたけれども。
 そこで、海部総理はことしの五月にシンガポールでの演説の中で、過去の第二次世界大戦への反省ということを込めて学校教育の場でもきちんと教育をしたいと思うということを言われたわけですね。私は全くこれは同感なのでありますけれども、文部省がおいでになっていると思いますが、この海部演説を受けて文部省は五月以降具体的にどういう処置をとられましたか。

○説明員(近藤信司君) お尋ねの歴史教育の問題でございますが、本年五月に総理大臣から文部大臣に対しまして、我が国の次代を担う若者たちが我が国の近現代にわたる歴史を正確に理解するよう学校教育においても努めてもらいたい、こういう趣旨の御指示があったところでございます。
 この学校教育におきます我が国とアジアの近隣諸国との近現代史の取り扱いにつきましては、委員御案内のとおりでございますが、従来から国際理解と国際協調の見地に立ってその友好親善を一層進めるよう指導をしてきておるところでございますし、今回学習指導要領を改訂いたしまして、国際社会に生きる日本人の育成という観点から歴史学習の改善を図りまして、その趣旨につきましては文部省が作成しております指導書等においても、例えば小学校の場合で申し上げますと、我が国にかかわる第二次世界大戦について指導するに当たっては、これらの戦争において中国を初めとする諸国に我が国が大きな損害を与えたことについても触れることと、このように明確に示しておるところでございます。
 今後、文部省といたしましては、この新しい指導要領の趣旨に沿って児童生徒が我が国と韓国、中国を初めとするアジアの近隣諸国との近現代史を正しく理解いたしましてこれらの諸国との友好親善を深めていくよう各学校現場におきまして一層適切な指導が行われることが大切である、そういうふうに考えております。
 それで、総理から五月にそのような指示がございましたので、五月の末から各学校段階ごとに全国五地区で実施をいたしました教育課程講習会、これは今申し上げました新しい学習指導要領の趣旨をすべての都道府県に周知徹底する会でございますけれども、そういった会におきまして関係者に対してその趣旨を指導したところでございます。また、今後も教育課程講習会でありますとか都道府県の教育委員会のいろいろな会議がございますので、そういう場におきまして関係者に対しまして一層の指導に努めてまいりたい、かように考えておるところでございます。

○田英夫君 ぜひ文部省が今までよりもはるかに積極的にこの問題に取り組んでいただきたいとお願いをします。
 今大変いいことを言われましたけれども、従来は例の教科書問題というものが起こるようなそういう教科書検定のあり方であったし、むしろ逆だったと思います。
 これはここでお話ししたかもしれませんが、昨年韓国の高校生が夏休みに日本を訪問して、松代の旧大本営跡を見学したわけです。つまりあの大本営、穴はすべて強制連行された朝鮮の人たちが掘ったわけで、多くの犠牲者が出ている。そのことを韓国の教科書は詳細に教えているわけです。ところが、その折に松代の近くの長野県の高校の生徒とその韓国の生徒が交流をしたところが、韓国側がそのことを実は勉強に来たのだということを言ったら、日本の高校生は松代で朝鮮の人たちがひどい目に遭って多くの犠牲者が出たということを全く知らなかった。松代の近くの高校生ですら知らなかった。こういうことでその韓国の高校生が口々に私に訴えていたわけです。そういうことでは北朝鮮を含めて全く真の謝罪にはならないわけでして、この点は文部省に重ねてお願いをしておきます。
 日朝交渉の問題というのは、まだ核査察の問題とか管轄権の問題とかいろいろ問題があります。
 核査察のことも私の意見を言えば、果たして日朝間で日本側が要請をしたそれが解決しなければ前へ進まないみたいな話になる問題がなと。しかも、IAEAの協定を結ぼうというそういう状況の中でそんなに大きな石としておく必要があるかなと思います。
 管轄権の問題は、これは一番双方の意見が一致しつつある問題ではないかと思いますが、その中で一つ気になることは、日韓基本条約の第三条で韓国政府が朝鮮にある唯一の合法政権と、こううたってしまっているわけです。これとこの管轄権の問題とのかかわりはどういうふうに解決をされるわけですか。

○政府委員(柳井俊二君) ただいま御指摘の日韓基本関係条約の第三条でございますが、第三条におきましては、御承知のとおり、「大韓民国政府は、国際連合総会決議第百九十五号に明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府であることが確認される」というふうにうたっているわけでございます。そして、第三回総会で採択されましたこの百九十五号の決議の前文に当たりますが第二項のところで申しておりますことは、単に唯一の合法的な政府と言っているだけではございませんで、この総会が認識したところの政府というものにつきましていろいろなことを言っているわけでございます。
 例えば、この大韓民国政府が全朝鮮の人民の大多数が居住している朝鮮の部分に対して有効な支配及び管轄権を及ぼしている合法的な政府であるということでございますとか、また朝鮮のその部分の選挙民の自由意思の有効な表明があったというようなこと、さらに当時設立されました臨時委員会が観察した選挙に基づくものであるというようなこと、並びにこの政府が朝鮮における唯一のこの種の政府であることを宣言すというふうに言っているわけでございます。したがいまして、これを受けまして基本関係条約で貝先ほど申し上げましたように、国連総会決議に明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府という認識を言っているわけでございます。
 結論的には、北半分につきましては白紙であるという立場をとっているということでございます。

○田英夫君 実際には白紙じゃなくて、国連というものが今の現実には全く合わないことをやってしまっていたわけだと思うのです。つまり朝鮮戦争のときにアメリカ軍が実はアメリカ軍であるにもかかわらず国連軍という形になった。これは拒否権の問題でソ連側にもミスがあったかもしれませんけれども、今だにずっと国連軍が駐留をし、毎日正午になると板門店で国連軍と朝鮮民主主義人民共和国側とが接触をするということが続いてきている。そういう国連の態度を修正しませんと、今度南北が国連に同時に加盟するということは喜ばしいことだと大臣おっしゃったけれども、国連がこの問題をどうクリアするとお思いですか。国連はつまり北朝鮮を敵にして国連軍という軍隊を今だにずっと持ち続けてきているという状況の中で、その敵をメンバーに入れるということになるのじゃないですか。

○政府委員(柳井俊二君) このたび北朝鮮と韓国双方が国連に加盟するということになれば、当然これは国連憲章に言う加盟の資格が認められるということになるわけでございます。
 他方、いわゆる朝鮮国連軍につきましては、ただいま田先生からも御指摘がございましたように、当時ソ連の安保理欠席というような背景もございましたけれども、いずれにいたしましてもその拒否権が発動されなかったために実現されたという経緯があったことは事実でございます。そして、国連憲章との関係で言いますれば、この国連軍いわゆる朝鮮国連軍の設立というものは国連憲章四十二条に基づくものではございませんで、いわゆる強制的な措置というものではございませんで、安保理の勧告に対しまして加盟国が自発的に応じて編成されたものでございます。
 このようにして編成され現に存在するいわゆる朝鮮国連軍の位置づけがどのようなものになるかということは、今後の朝鮮半島におきます南北間の対話、そして軍事的な意味での均衡の問題、また軍縮の問題、そのようなものと総合的にあわせまして検討されていくものであろうというふうに考えます。
 いずれにいたしましても、これまでこのような国連軍の存在、そして板門店におけるいろいろな接触というものが朝鮮半島の安定の維持に一定の役割を果たしてきたということは言えるのではないかと思います。

○田英夫君 カンボジアの問題も触れたかったのですが、朝鮮問題で一つ今の御答弁に関連してぜひお願いをしたいのは、大臣も国連総会に行かれるようですから、今触れました国連と北朝鮮との関係というものを表立って大きく叫ぶ必要はないかもしれませんけれども、日本の今の日朝交渉をやっているという立場も考えて、国連側は実際には事務総長がやるかもしれませんが、円滑に北朝鮮が国連に加盟できるようなそういう役割を日本政府も果たしていただきたい。今のままですと大変ぎくしゃくするおそれがあるのじゃないか。実際は加盟できると思いますけれども。
 それからもう一つそれに関連して、例えばアメリカ下院のソラーズ外交委員会小委員長は核査察の問題に関連をして、この問題をそういう形でぎくしゃくやるよりも朝鮮半島を非核地帯にしたら一番いいではないかという提案を民社党の大内委員長にしておられますね。そういうことも我々は参考にすべきじゃないか。むしろ日本から言うべきことじゃないかな、こう思います。
 時間がなくなってしまいました。もうあと二分ぐらいですが、最後に大臣、カンボジアの問題、大変進展がありますね。SNCが一つの合意をすることに成功したようでありますが、長い間大臣もこの問題にかかわってこられましたが、今のその問題についての御感想を簡単に伺って終わりたいと思います。

○国務大臣(中山太郎君) カンボジアの和平問題については、今日までカンボジア四派の方々がいろいろと苦労をされ、あるいは国連のP5の和平案を中心に関係各国が議論をしてまいりましたけれども、最近シアヌーク殿下あるいはフン・セン
首相との間でいろいろと協議が行われてきたと思います。私は、その結果、パタヤにおける六月末の会議から始まったカンボジア人がカンボジア人の手で和平をつくる、平和をつくるというような一つの大きな理想というものが現実に四派の間で動き始めた、こういうふうに感じておりまして、私としてはこの動きを大変歓迎しております。
 先般も七〇%のいわゆる兵力削減、あとの三〇%の兵員及び武器というものはカントンメントで管理をするといったようなことも決められておりますし、来月予定されているパタヤの会議では恐らく残された選挙制度の問題が四派の間で協議をされるものと思います。そして、この選挙制度の問題で大方合意が見られれば、早ければ十一月にパリでの本格的なカンボジア和平会議というものが開催できるであろうという大きな期待を持って、日本政府としてもこの和平会議の成立へ向けてのできる限りの協力と、成立後のカンボジアの復興については格段の協力をしなければならない、このように考えております。

○田英夫君 ありがとうございました。

 第122回国会 参議院本会議 第4号 平成三年十一月十三日(水曜日)午前十時二分開議

【発言順】
 議員   矢田部理
 国務大臣 宮澤喜一

○矢田部理君 私は、日本社会党を代表して、宮澤総理を中心に、その政治姿勢と外交課題の二点に絞って質問いたします。
 まず、政治姿勢についてであります。
 リクルート疑獄に端を発した政治改革の基本は、金権腐敗の政治を一掃し清潔な政治を確立することであります。そのためには、政治倫理を重視し、疑獄や汚職に連座した政治家は再び政治の場に復権することは許さない体制をつくること、資産の公開はもとより、企業献金を廃止するなど政治資金の規制と透明化を図ることが大切であります。我が党は、このような立場から、政治倫理法の制定、政治資金規正法の抜本的改革を求める提案をいたしております。
 ところが、政府・自民党は、これら政治改革の中心課題をわき役に追いやり、金権政治の元凶は選挙制度にあると問題をすりかえ、小選挙区制の導入を策しました。選挙制度そのものは、民主主義の根幹にかかわる課題として、違憲状態にある一票の格差是正など緊急に改善しなければならないことはもとよりでありますが、自民党の一党長期支配をもくろむ小選挙区制の導入は断じて認めるわけにはまいりません。国民のコンセンサスを得、実りある政治改革を早急に実現するためには、政治倫理の確立、政治資金規制、一票の格差是正を論議の中心に据え、また他に先行させて進めるべきであると考えますが、総理の所見はいかがでしょうか。
  〔議長退席、副議長着席〕
 次に、総理のリクルート疑獄についての認識とその責任についてただしたいと思います。
 リクルート疑獄は、規模の大きさや構造の複雑さにおいて我が国政治史上空前のものであるだけではなく、議会制民主主義そのものを否定する契機をはらんでおります。株式その他、さまざまだ形を装った巨額の資金が政官界にばらまかれ、政治が国民の意思によって行われるのではなく、金権や利権によって曲げられている実態が白日のもとにさらされました。しかし、明るみに出たのは氷山の一角であり、いまだにその全容は解明されておりません。総理、あなたにかかわるリクルート疑惑もまさにその一つであります。
総理は、リクルートから一万株の未公開株を宮澤名義で購入したとされています。これに関してあなたは、私の不行き届きから迷惑をかけたと述べるにとどまり、自分は直接関与していたいということを言外ににじませた弁明をいたしております。そうであるとすれば、何が真実であるかを、株式代金払込証などいわゆる三点セットを提出するなどしてみずから証明すべきであります。なぜなら、あなたは当時の釈明で、当初第三者に勝手に名前を使われた、秘書がやったことであるとして再三にわたり前言を翻し、政治家としての信を失墜させたからであります。事実があなたの言うとおりだとしても免責されるわけではありませんが、しかし、いまだにあなたから疑惑の解明はなされておりません。
 それだけではありません。一九八七年の自民党総裁選挙に際して、あなたはリクルートの江副氏より五千万円の献金を受けています。にもかかわらずこれを隠し、政治資金規正法違反に問われているという新しい事実まで発覚しています。一国の首相という重い地位につくに当たって、あなたがこれらの一連の疑惑をどう明確にし清算するつもりたのかをただしたいのであります。いやしくも、国政にかかわる者が国政の基本にかかわる課題について、一選挙区の選挙でみそぎが済んだので、後は個人の倫理の問題であるなどという通り一遍の説明で国民を納得させることはできません。
 さらに、宮澤新政権がリクルート内閣であることも見逃すわけにはまいりません。総理自身がリクルート汚染の渦中の人であっただけに他人をたしなめる資格はありませんが、それにしても、戦後の二大疑獄事件であるロッキード、リクルートにかかわりを持った政治家を、政治改革が緒にもついていない段階で、なりふり構わず政治の第一線に復権させ党と政府の中枢に据えるということは天を恐れぬ所業であり、金権政治を一掃し清潔な政治を願う国民に対する重大な挑戦であります。
 総理だけではありません。新内閣には少なくとも数名のリクルート関係者がおられますが、代表して、内閣の中枢におられる外務大臣がおられませんので加藤官房長官から、その事実関係を明らかにし、どのように反省しいかなる責任をとろうとしているのか、答弁を求めます。
 次に、外交政策について伺います。
 戦後世界を大きく左右してきた東西の冷戦は終わりを告げ、世界は新しい時代に入りました。その特徴は、まず何よりも軍縮にあります。核兵器の大幅削減から通常兵力の削減、解体にまで及ぶなど、劇的な進展が見られることであります。第二の特徴は、ベルリンの壁の崩壊に象徴されますように、東西を隔てた障壁がなくなり相互の交流と協力が急速に進みつつあることであります。
 総理の所信表明では、確かに新しい世界平和の秩序を構築する時代の始まりとの認識が示されましたが、しかし、核兵器の削減への言及はあるものの、依然として軍事力の均衡と抑止論に立ち、通常兵力の削減や軍事ブロックの解体など、重要な動きには一言も触れておられません。これでは本格的な軍縮の時代への展望も熱意も感じ取ることができないのであります。また、市場経済の勝利をうたい、そのひずみに触れてはいますが、日本が推進すべき国際的な交流と協力の内容は明らかになっておりません。総理は時代認識をもっと明確に、また具体的に語るべきではないでしょうか。
 歴史の転換期において日本外交も新しい展開を求められておりますが、その前提として避けて通ることのできない課題に戦後責任問題があります。アジア諸国からしばしば日本に対する不満、抗議、非難の声が上がりますのも、その根底には、日本が植民地支配と侵略戦争の責任をあいまいにし、戦後責任を全うしてこなかったことにあると考えます。
 その重要な一つに強制連行問題があります。
 中国侵略から太平洋戦争へと拡大する中で国家総動員法がつくられ、百万人を超える朝鮮人、中国人が強制連行されました。しかし、いまだに連行された人々の名前さえわからず、生死不明の方も相当の数に上っております。それはアジアだけの問題ではありません。先般来日したベアトリックス・オランダ女王は、太平洋戦争で十万人以上の人が抑留されて、今なお痛みや苦しみに悩まされていると訴えています。これらの人々の苦痛や訴えに総理はどうこたえますか。
 同じ敗戦国であるドイツは、降伏した一九四五年の五月八日を心に刻む日と命名し、戦争責任とナチ時代の残虐行為の犯罪性を明確にして、国家として道義的、物質的な償いを積極的に行ってきました。ドイツ降伏四十周年でワイツゼッカー大統領は、「過去に対して目を閉じる者は、現在を見る目も失うであろう。非人間的なことを心に刻まない者は、新たな感染の危険に対して、またしても無抵抗となるであろう」と演説し、ドイツ首脳の厳しい歴史認識と心からの反省の気持ちを語っています。
 しかも、ドイツは物質面でも、五六年に連邦補償法をつくり、ナチの暴力支配のもとで迫害をされた人々に、年金などの方法で既に数兆円の支払いをしております。また、ナチの強制労働に服したポーランド人、その数は二百万人に上ると言われておりますが、ことしの十月に約四百億円の基金を設けて補償することを決定いたしました。
 戦勝国のアメリカも、第二次大戦で強制収容された日系人に対してブッシュ大統領が、金と言葉だけでは傷ついた思い出を消し去ることはできない、不正義をわびるという趣旨の手紙を添えて公式に謝罪し、生存者六万人に各二万ドルの補償金を支払いました。カナダもまた同種の措置をとりました。
 このような国際的な趨勢の中で、日本は、正式に謝罪し、戦後責任に本格的なけじめをつけてこたかったのであります。ですから、強制連行の名簿の収集ですら極めて消極的であり、補償問題に至っては国家間で決着済みと冷淡な態度をとり続けています。
 そこで、この際、総理に次のことを提案いたします。
 ことしは日中戦争六十年、パールハーバー五十年という節目の年に当たります。また、国際情勢が大きく変わるとき、日本外交も歴史的な転換を求められています。この新しい出発に当たって、政府が、アジアの人々に対し、また二千万を超える戦争犠牲者に対して、正式に侵略戦争の非を認め、反省と謝罪を表明し、平和に生きる決意を内外に明らかにするよう提案いたします。また、私は国会も公式の謝罪と平和の誓いを内容とする決議を行うことが必要だと思います。
 他方、言葉による謝罪だけではなく、強制連行問題を初めとする被害や実態を政府と国民が総力を挙げて調査、解明し、必要な補償その他の措置を講じ、史跡としての保存や資料の公開、教科書の記述を含めて正しい歴史を後世に伝えることなど、やるべきことはたくさんあります。これらを放置してどうして国際国家日本などと言うことができるのでしょうか。真の友好や国際協調はそこから始めるべきだと思います。改めて総理の見解と具体的な対応を伺いたいと思います。
 次に、我が国の国際協力のあり方を問題に供します。
 戦後責任を根本的に明らかにし清算した上で、我が国は平和と共生という理念の実現に積極的な役割を果たし、協力を惜しんではならないと思います。その中心には国連を置き、その役割や機能を強化しつつ、これに協力していくことが大切であります。同時に、日本国憲法の平和主義の原則を明確にし、その立場から、何をなすべきか、何ができるかを追求すべきであります。
 現在、人類の過半数が貧困に苦しみ、数億人が飢餓にあえぎ、一日に四万人の子供たちが死んでいっております。また、国内紛争や大規模災害などによる大量の難民が世界の各地で発生し続けています。さらに、熱帯雨林の消失、砂漠化、酸性雨、フロンガスなど主として先進工業国の産業活動に由来する地球環境の危機が進行しております。これらに対して、国際社会は十分な対策と対処できる組織を用意しておりません。冷戦が終わって国連の本領が発揮できる時代が訪れたと言われますが、国連の諸機関はいずれも、資金、人材などの不足に悩んでいたり実働組織を欠いております。
 その解決のために、次の三点を指摘しておきたいと思います。
 世界の軍縮はこのための資金、人材を生み出すことができるし、生み出すべきであります。二つ目には、高度化するテクノロジーは軍事に用いられるのではなく、このような人類の共生のために活用されるべきであります。そして、人々はこのような理想の実践に参加することが期待され、それを奨励、保証する体制が確立されるべきであります。これらの課題の実践を通して国際協力を実りあるものにしていくことが大事なのではないでしょうか。
 そこで、総理に、このような認識を私どもと共有することができるかどうかを問いかけたいのであります。
 国際開発協力、とりわけODAは、そのような人類的諸課題に対する人道的な観点からの国際協力の柱の一つとなるべきであります。
 今日、日本のODAは既に一兆六千億円に達し、今や世界のトップレベルにあります。しかし、それが利権の巣になったりして真に協力を必要としている貧困層には届かず、かえって住民の暮らしや環境破壊をもたらすなど、多くの問題点が存在しております。また、その予算や計画の内容については、国民の代表である国会がほとんど関与できない仕組みになってもいます。
 これらを抜本的に改善、改革するためには、ODA基本法を制定することが必要であります。これには、軍事にかかわらず、人権、環境を尊重し、住民の参加や情報の公開を進めるなど、一昨年六月の参議院本会議における決議の精神と内容が盛り込まれなければなりません。ODA基本法については、野党間で協力して成案を得、来年の通常国会に提出する予定でありますが、政府としてもこの趣旨を理解され成立に協力されるよう強く希望するとともに、総理の所見を伺っておきたいと思います。
 国際協力のもう一つの重要な課題は、人的協力であります。
 日本は、従来からの青年海外協力隊の活動などにとどまらず、自衛隊とは別個のより広い範囲での文民による民生中心、しかも常設の組織体制を一日も早く確立する必要があります。その活動分野は、開発協力や環境保全など長期に及ぶものから、PKO、災害救助、難民救済など緊急支援に属するものまで広範囲にわたるでありましょう。これらの国際的な要請にこたえるために、我が党はい憲法の平和主義を基本にして、非軍事、文民、民生という国際協力の三大原則を明らかにいたしました。このような方向で国際協力の分野を拡大し、常設の即応体制を整備することの方が国際的にも評価をされると思いますが、総理はどのように考えられるか、お伺いをしたいと思います。
 ところが、政府は、これらの我が党が提起した国際協力のあり方に背を向け、自衛隊の海外出動を中心としたPKO法案を国会に提出し成立を急いでおります。
 この法案は、海外における国際紛争地域で武力行使が想定される活動に自衛隊が部隊として参加するという内容のもので、憲法無視の法案であります。それは、参議院の「自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議」に反することはもとより、従来政府がとってきた武力行使の可能性を持つ平和維持軍には参加が困難としていた態度をも変更し、許しがたい内容となっております。それはまた、国土の防衛に限定されてきた自衛隊の性格や行動範囲を一変させ、歴代自民党政権がとってきた外交政策と防衛政策の大転換となるものでもあります。これに対して国民の大半が反対の態度を示し、近隣のアジア諸国からも批判と警戒の声が上がっているのは当然のことであります。
 我が党は、自衛隊の海外出動や軍事部門への参加は一切すべきでないという立場からこの法案に強く反対し、改めて撤回を求めるものであります。
 ここで、平和の枠組みづくりについて論じたいと思います。
 その第一は、日本とアジアの軍縮についてであります。
 世界は冷戦の時代から軍縮の時代に入りました。米ソは、最大の難点とされてきた海の核を含めて大幅な軍縮を明らかにし、実行に移そうといたしております。通常戦力につきましても、ソ連はさしあたり七十万を減らし、アメリカも大幅削減を検討中と伝えられます。ヨーロッパでは、ワルシャワ条約機構は既に解体し、NATOの軍縮も日程に上ってきています。これは、長年にわたって積み上はできた全欧安保協力会議CSCEの成功があずかって力あったものであります。これに対して、アジア・太平洋はヨーロッパとは異なった条件、歴史的背景を持っており単純ではないとは思いますが、冷戦の終結はこの地にも良好な影響を及ぼしつつあります。中ソの和解、南北朝鮮の国連加盟、中越和解とカンボジア和平など緊張緩和への胎動が始まっています。
 そこで、CSCEを土台にしてヨーロッパで発展しつつある平和と協力の精神をアジア・太平洋地域でも教訓としながら平和と協力の枠組みづくりを行っていくのが緊急の課題となっています。この地域における否定的条件をあげつらって消極的になるのではなく、困難を克服して、独自の形態と段階を持ったCSCEのアジア・太平洋版とを言うべきものを追求していく必要があると考えますが、総理の見解を伺います。
 他方、アジア・太平洋の平和と軍縮を進めるに当たっても、これに先んじて日程にのせなければならないのが日本の軍縮であります。
 冷戦終結後のソ連は、アジア・太平洋地域でも、基地の撤退、縮小、相当規模の軍備の削減を実行しつつあり、ソ連の国内事情等も考慮すれば、対ソ脅威論は既に説得力を失っております。これらの点で、日米安保条約解消の現実的展望が開けるとともに、一貫して軍拡路線を追求してきた日本の防衛政策を軍縮へ転ずる重要な機会が訪れていると言えます。
 総理、この際、日米安保条約の解消の方向と道筋を明らかにすべきではありませんか。また、思い切って日本自身の軍縮を提起し、中期防衛力整備計画の抜本的見直しを中心に、日本の軍事費と軍事力の削減の決意とその具体的なプログラムを明らかにすべきであると思いますが、いかがでしょうか。
 第二は、日朝交渉についてであります。朝鮮半島においては南北朝鮮の国連加盟が実現し、首相会談で直接対話も始まりました。日朝交渉も、植民地支配の歴史の完全な清算という大目的を踏まえ、国交正常化のために今後どのようなスタンスで、またどのようなテンポで交渉を進めようとしていくつもりか、総理の基本的な姿勢を明確にしていただきたいと思います。
 なお、対ソ支援につきましては、ソ連の厳しい現状にかんがみ、人道上、また平和の枠組みづくりという歴史的展望からも思い切った政策展開が必要だと思いますが、この点についても総理の見解を伺います。
 最後に、重要な内外の政治問題になっておる米の問題についてただします。
 ウルグアイ・ラウンドの妥結をめぐって、米の輸入自由化、関税化への圧力がピークに達しようとしております。とりわけ、輸出補助金等の問題をめぐって米欧間の妥協が成立すれば、風圧はもろに日本にかかってくると思われます。この重要な時期に、総理自身が米の部分自由化を示唆するような発言をすることは重大な背信行為であります。相互協力などのあいまいな言葉で逃げることなく、真意を明確にしていただきたい。米の完全自給を基本にしてきた日本農業に壊滅的な打撃を与える米の自由化、関税化は絶対に阻止すべきであり、そのことを強く求めておきたいと思います。
 質問を終えるに当たり、一言申し上げます。
 かつて、戦後政治の総決算か継承発展かが問われた時代がありました。もとより、戦後政治とは憲法を中心とする平和、人権、民主主義の政治であると思いますが、宮澤総理はそのいずれを選択されますか。あなたは後者だと理解しておりましたが、総裁選の一連の経緯や国会答弁を伺っておりますと、軌道修正をしているのではないかとの疑念を払拭できません。
 中国に「聡明を退け紛華を謝す」という言葉がありますが、これを総理に呈します。総理、右顧左べんすることなく、戦後政治を継承発展させ、これを国際的に開花させて、平和と軍縮、共生と協力のための国際政治を追求していただきたい。そこに憲法の理想を掲げ、一つの時代を画するようなイニシアチブを発揮し、信ずる道を歩まれんことを期待して、質問を終わります。(拍手)

   〔国務大臣宮澤喜一君登壇、拍手〕

○国務大臣(宮澤喜一君) まず、政治倫理の確立の問題でございますが、国民の政治に対する信頼を確固としたものにするためには、御指摘のように政治倫理の確立が不可欠でございます。また、あわせて、制度面におきましても、金のかからない、政治活動や政策を中心とした選挙が実現できるような仕組みとすることが必要であると存じます。
 政治資金のあり方は選挙や政治のあり方と密接な関連を持っておりますところから、選挙制度の改革と政治資金制度の改革を一体として実現するため、さきの国会に三法案を提出したところでございます。三法案は廃案とされましたが、国会で熱心な御審議をいただいておりましたので、その実績を踏まえ、政治改革協議会においてはこれをたたき台として各党間で十分御論議を尽くしていただき、実りある合意が得られることを念願いたしております。
 なお、国会議員の資産公開や政治倫理関係の問題は、議会制度協議会において各党間で御検討がなされていると承知をいたしておりまして、事柄の性格上、国会において適切な御結論が得られますことを期待いたしております。
 次に、私自身の問題について御指摘がございました。
 私の不行き届きから国民の皆様に御迷惑をかけたことを深く反省いたしております。同じ過ちを繰り返しませんよう、今後の政治活動を通じまして一生戒めてまいります。また、今後の国会での御議論につきましては、私として最善の努力をして対応をしてまいる考えでございます。
 政治的には、過般の選挙におきまして、このような過ちをもう一度起こすことなく新たに再度努力せよという有権者の信任をいただいたものと考えております。これらのことにつきましては、私の同僚各位も同じように心を戒めていることと存じます。私は、同僚各位が高い識見と有能な才能を精いっぱい発揮し、所を得て活躍されることを期待しているものでございます。
 次に、新しい時代の具体的な時代認識についてお尋ねがございました。
 国際社会に起こっております変化は、何百年に一度という大きなものであると存じます。ベルリンの壁の崩壊、そしてソ連共産党の解体という激変により、国際社会は冷戦後の新しい世界平和の秩序を構築する時代に入っておると存じます。このような時期に、国際社会においては、米ソによる核兵器の大幅な削減や、欧州における通常兵力の削減を含む軍備管理・軍縮の進展、ワルシャワ条約機構の解体等の大きな動きがございます。また、ソ連、東欧諸国の内外政にわたる改革についても支援努力が行われており、さらに開発途上国に対する経済協力につきましても引き続き国際的な取り組みが行われておるところでございます。
 次に、侵略戦争についてのいわゆる反省につきましてのお尋ねがございました。
 政府といたしましては、我が国が過去において戦争を通じ近隣諸国などの人々に対し耐えがたい苦しみと悲しみをもたらしたことへの厳しい反省を踏まえ、国際社会全体の平和と安定のためにより積極的な貢献を行っていくことが重要と認識いたしております。このような認識につきましては、さきの海部内閣におきましても、シンガポールにおける海部総理大臣の政策演説等、もろもろの機会に政府の立場を明らかにしてきているところでございます。政府としては、このような認識を踏まえ、不幸な歴史を二度と繰り返しませんよう決意を新たにするとともに、平和国家として世界の平和と安定のために貢献をしていくことが大事であると考えております。
 次に、強制連行問題についてお触れになりました。
 いわゆる朝鮮人徴用者に関する名簿の調査については、昨年五月二十五日、日韓外相会談の際に韓国政府から要請がございました。日本政府として協力することといたしまして、誠意を持ってできる限りの調査を行ったところであります。その結果、確認いたしました名簿の写し約九万人分を、本年三月、外務省が韓国政府に提出いたしました。政府としては、名簿の調査になお専念いたしたいと考えておりまして、引き続き関係省庁が協力して誠意を持って対応してまいる方針でございます。
 次に、補償の問題でございますが、戦争に係る日中間の請求権の問題は、一九七二年の日中共同声明発出後、存在していないものと考えております。被徴用者への補償の問題を含め日韓間の財産・請求権の問題は、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定により、完全かつ最終的に解決済みでございます。日朝間の財産・請求権の問題については、日朝国交正常化交渉の場においてさらに話し合っていく必要がございます。
 なお、学校教育におきまして、強制連行について小中高等学校のそれぞれの教科書に取り上げられているところでございますが、今後とも、児童生徒が我が国とアジアの近隣諸国との近代史、現代史を正しく理解し、これらの諸国との友好親善を深めるよう一層適切な指導が行われることが必要と考えております。
 なお、朝鮮人、中国人の連行に関する遺跡につきましては、文化財保護制度上の史跡として保存することは難しいということを聞いております。
 次に、貧困、飢餓、難民、環境破壊等の人類共通の課題への対応でございますが、東西間の冷戦後の新しい平和秩序を我々が模索している一方におきまして、国際社会には、環境破壊、貧困、開発途上国の抱える諸問題、難民など数々の問題が存在いたしております。我が国としては、これらの問題の一日も早い解決のために積極的に貢献していかなければならない立場にございます。この分野における我が国の貢献に対する国際社会の期待は特に大きいものがございまして、我が国として一層の努力を払わなければならないと存じております。
 なお、東西間の冷戦が終局しつつあるに伴いまして、先ほど矢田部議員の言われましたことでございますが、実は私もせんだって衆議院における御質問に対しまして、東西間の冷戦が終局して、そうして米ソ等々を初めとする軍縮が非常に進むということによりまして非常に大きな資金と資源が開放されるはずである、この開放された資金と資源は南北問題の解決に向かって投入されなければならない、いわば平和の配当の最大の受益者は南の国でなければならないということを申し上げておりまして、この点、認識を一にしておるかと存じます。
 ODAにつきましては、ODAの実施に際して国会に対しましても、援助を受ける国の立場も配慮しながら、できるだけ具体的な報告、資料の提出を行いますとともに、情報の公開にも努めてまいる所存でございます。我が国は、今や第一位、年によりまして世界第二位の援助国でございますので、いよいよその必要は大になると存じております。
 なお、我が国の国際的地位の向上に伴い、我が国が財政的貢献だけではなく人的貢献を行?ていくことが求められております。我が国の憲法のもとでできることは最大限に行っていくべきであろうと存じます。
 いわゆるPKO法案及び国際緊急援助隊法改正案はこのような考え方に基づくものでございまして、国際協調のもとに恒久の平和を希求する我が国憲法の理念に合致し、かつ国際社会の期待にこたえるものと存じております。また、これは我が国外交政策の一つの柱である国連中心主義に沿ったものでございます。このような憲法の基本理念のもとに、我が国が国連の平和維持活動に人的側面においても十分な協力ができる体制を整えることは、国際社会の一員としての急務であると存じております。
 次に、アジア・太平洋地域の問題について、CSCEのような機構、そういう平和の枠組みができないものであろうかという御指摘がございました。
 ヨーロッパにおきまして、CSCEが初期の段階ではございますが成功しつつあると存ぜられますが、ヨーロッパにおける環境条件とアジアとは、私はかなり異なっておるのではないかと思っております。幾つかの紛争地点がございまして、例えば朝鮮半島におきましてまだ南北の間には対峙がございますし、また日ソ間には平和条約がない、領土問題があるなど、カンボジアは解決の方向に向かっておりますけれども、一アジア地域、太平洋地域全体としては未解決の政治的対立や紛争が存在しております。したがって、CSCEのような会議が包括的ににわかに行われるような政治的環境は、いまだ整っているとは言えないのではないかと思っております。好ましいことでございますけれども、条件がそろっていないのではないか。
 したがいまして、個々の政治的対立や紛争の解決に向かって努力していくことが重要でございますし、この地域の多様性、複雑性を考えますならば、二国間関係の強化に一層努力するとともに、ASEAN拡大外相会議あるいはAPEC等々既存の協議の場を十分活用しつつ、今後の地域の平和と繁栄にできる限りの努力をしていかなければならないと存じます。
 次に、今日の国際情勢において、世界の平和と繁栄への流れが強くなっていることは喜ばしいことでございます。我が国の場合、引き続き、日米安保体制を堅持するとともに、基盤的防衛力構想を取り入れた防衛計画の大綱の基本的な考え方、これはもうしばらく国際情勢の動向を見きわめていく必要もあろうと存じております。
 日朝交渉につきまして、日朝国交正常化は、我が国にとっては、戦後の日朝間の不正常な関係を正すという側面と、朝鮮半島の平和と安定に資するべきであるという国際的な側面の二つの側面がございます。いずれも極めて重要。でございまして、我が国としては、関係国とも緊密に連絡をとりながら誠意を持って交渉に臨む所存でございます。
 朝鮮半島の核の問題につきましては、我が国は先般の盧泰愚大統領の非核化宣言を積極的に支持いたしたいと存じます。今後、日朝交渉等の機会に朝鮮民主主義人民共和国に対し、IAEA保障措置協定の早期かつ無条件の締結、完全履行を改めて求めますとともに、再処理施設保有の放棄を含む盧泰愚大統領の呼びかけに対し積極的に応ずることを強く期待する旨申し入れていきたいと存じます。
 対ソ支援につきましては、北方領土問題を解決して平和条約を締結することを最重要課題として、日ソ関係全体を均衡のとれた形で拡大するとの拡大均衡の立場に立ちつつ、ソ連における政治、経済、外交の各面にわたる抜本的改革の推進のために適切な支援を進めていく所存でございます。
 ウルグアイ・ラウンドについてもお尋ねがございました。
 所信表明で申し上げましたとおり、現在最終段階を迎えておりまして、我が国としては、他の主要国とともに、何とか年内に成功裏に妥結するように努力いたしております。ただ、たくさん問題がございます中で、御指摘の農業につきましては、ECの可変課徴金、これはECの設立そのものに関係した問題でございますが、あるいはアメリカのウエーバーといったような問題がありますほかに、いわゆる輸出補助金というものが一番貿易を不自然にしている大きな問題でございまして、それらの問題についての進歩がなければなりません。我が国の米につきましては、これまでの基本的方針のもとに、相互の協力による解決に向けて最大限の努力を傾注するつもりでございます。
 なお、戦後政治の総決算があるいは継承かというようなことにつきましてお話がございました。
 このように激しく変動しております国際政局の中で、我が国は新しい平和秩序の構築に向かって最大限の貢献をしなければならないと考えております。これはまた、国際協調の中で平和を実現し、自由と民主主義を守っていこうという我が国憲法が求めておるものと考えております。私は、このような時代認識を基本として、国民の御理解と御協力をいただきたがら国政に取り組んでまいりたいと存じます。(拍手)

 第122回国会 衆議院国際平和協力等に関する特別委員会 第9号 平成三年十二月二日(月曜日)午前九時四十分開議

【発言順】
 委員       沢藤礼次郎
 外務臣      渡辺美智雄
 外務省アジア局長 谷野作太郎
 外務省条約局長  柳井 俊二
 内閣総理大臣   宮澤 喜一
 国務大臣
(防衛庁長官)   宮下 創平
 
○沢藤委員 去る二十六日のこの委員会で、時間をいただいて質疑に参加さしていただきましたが、質問も不十分、御答弁も不十分という感を免れませんでした。幸いきょう、いわゆる差し戻しという形で再び発言の機会を与えていただきましたので、この前の一つの大きな流れをたどりながら、幾つかの点について質問申し上げてまいりたいと思います。
 まず第一は、PKO法案そのもの及びこれにかかわる強行採決について、アジア近隣の諸国がどのようにこれを受けとめているかということについてお尋ねをしたいわけであります。
 私の知る範囲では、各新聞あるいはテレビ、いわゆる国内世論も、そしてまたアジア近隣諸国の反応も、大変このことについては厳しく論評を加えている、こういうことに受けとめるわけでありますが、この前の二十六日の私の質問に対して、総理大臣は、アジア諸国の懸念ということから若干視点をそらされまして、PKOに日本がどう貢献するかどうかの問題ととらえているというふうに、PKO是非論の方に問題をずっとスライドさせたという感じがいたします。なお外務大臣も、アジア近隣諸国の影響、批判、反応ということからやはり答えをそらされまして、PKOが必要というときに当事国の同意を云々というふうな形で、私の質問には真っ正面から答えていただけなかったわけであります。
 本日は、あの時点プラス強行採決後の国内外の世論を背景といたしまして、アジア近隣諸国がどのようにこの問題を受けとめているとお考えなのか。なお、時間の関係上質問の焦点を絞ってまいりますが、このPKO法案及び強行採決に賛意を表しているアジア近隣諸国がございましたならば、国の名前を挙げていただきたいと思います。

○渡辺(美)国務大臣 このPKO法案については、かねて私からも答弁をさしていただいておりますように、年配者の方々が一部不安があるということは申し上げてございます。しかしながら、それは日本のお国がやることでありますから、それについては当然だというところもあれば、慎重にやってくださいというところもいろいろございますが、それはいかないとかどうとかという国は承知しておりません。
 中身がよくわからなかったということも事実でございます。国連の決定に従う、決議に従う、それから紛争当事者の同意を得なければ行かない、それからもう非強制であって中立的な立場だ、こういうことを説明すると大体みんなわかるんですよ。したがいまして、私といたしましては、日本だけが独自で行動するのは困るという国がございましたが、今言ったようなことを説明をいたしますと了解をしていただいております。

○沢藤委員 強行採決が行われた直後のことでありますが、中国外務省のスポークスマンは、二十八日の会見で、「歴史的な原因により、いかなる形にせよ日本が海外派兵することは極めて敏感な問題だ。我々は一貫して日本政府がこの問題の処理に当たって慎重に事を運ぶよう希望してきたが、中国政府の立場に変化はない」と言っております。韓国の野党あるいはフィリピンにおける大使館前デモ、あるいはシンガポールのゴー・チョクトン首相の言葉、引用しますが、「日本はいったん軍備増強を決意したら、極めて急速に実現する手立てを持っている」と警告している。「日本が最近、カンボジアでの平和維持活動参加など政治的役割の増大に熱心なことを指摘したうえで、背景として、米国の圧力と日本自身のナショナリズムの二点」を挙げている。「日本人の平和主義的な感情とアジア・太平洋諸国の第二次大戦の記憶というブレーキ抑制要因がある」けれども、「しかし、米国が孤立主義に陥って日米の同盟関係が崩壊したとき、日本が中国、ソ連、あるいは南北が統一した朝鮮によって脅迫されていると感じたときには日本は軍備増強に走りかねない、」というふうな意味で、各国ともやはり懸念を、批判を表明しているわけであります。
 これでもって同意を得た、あるいは賛同を得ているということになるでしょうか。具体的な国の名前を挙げてお答えください。

○渡辺(美)国務大臣 これは私は、外務大臣になる前ですが、個人的にゴー・チョクトン首相ともお会いをいたしました。そのときも、まあこの問題はセンシティブな問題だというまくら言葉、前の話がありまして、特に年配者の方にはそういう気持ちがあるということもお話がありましたが、いろいろ説明をいたしますと、それは当然のことでしょうと……(沢藤委員「国、国」と呼ぶ)ゴー・チョクトンさんはこれはシンガポールですよ。シンガポールの首相。
 そこで、結局いずれの国も日本が独自の行動ということをよくおっしゃるんですよ。それはそうじゃありませんと、もちろん同意がなければ、紛争している当事者の同意がなければ行かないわけですから、押しかけていくわけじゃないですから、そこのところがよくわかっていただかないと困ることなんです。
 それから、よく日米安保、これにつきましては、ぜひとも日米安保は持っていてもらいたいと言う国が多いですね。実際は。日本がアメリカと離れて独自の行動をとることの方はやはり心配があるんですよ。だから、アメリカと一緒にとか、あるいはそういう人的貢献は国連と一緒とか旗のもととか、言葉遣いはいろいろございますが、そういうことはおっしゃっておりました。
 それから中国におきましても、やはり慎重にやってくださいというお話がございました。これも外務大臣になる以前の話でございますが、しかし国連の要請によらなければ行かないわけですから、だから、お国は国連の五大国の一つでありますと、これはもう御承知のとおりですから、したがって、中国が反対という場合はそれはもちろん行かないということでございますので、そういう心配はないということはちゃんとわかってはいるんですよ、それは、実際は。
 しかし、立場がいろいろございますので、立場で皆さん、みんな物をおっしゃることも事実。ですから、まあどうこうというのではなくて、要するに慎重にお願いをしたいということですと言うから、それはさようでございます。慎重の上にも慎重にやらしていただきますと申し上げてあるわけであります。

○沢藤委員 今のお答えもやはりそらしているんですけれどもね。私は、出かけていく当事国のことを聞いているんじゃないんです。PKO、それから強行採決ということに対して、アジア近隣の諸国がどう見ているかということをお聞きしているわけです。
 それから、これは韓国の国防白書をどこかで引用された方もありましたが、十月二十八日に発表された韓国の国防白書、「日本は政治・軍事的影響力の拡大を追求」している、「日本は攻撃的性格の防衛力に変貌」しようとしているなどの記述を載せ、日本の軍事大国化への強い警戒心を示している、こういうふうにあります。
 それから、これはきのうちょっと手に入れたのですが、韓国で発行されている保守系の新聞、韓国語でどう読むかわかりません、京郷新聞というのがあるのですが、この中には「電撃通過」という言葉を使っているのですね。あの強行採決を「電撃通過」。そしてその中で、この法案の成否は戦後日本政治に大きな結節点をつくる画期的な事件として記録されるだろう、そして特に、自民党政権のいわゆる解釈改憲が、今やその限界に達している、もうその先は、いわゆる限界に到達したということは、今後の情勢変化によっては改憲が現実問題として台頭することもあり得る、こういうことを指摘しているわけです。それから、日本の徴兵制、核武装、海外派兵という、三つのタブーと見てきたんだけれども、今度のPKO法案が成立すればタブーの一角を大きく壊すことになる、崩すことになるという指摘もしております。
 こういう指摘に対して同じ答えでしょうかね。私は、少なくとも韓国あるいは中国は、PKO法案そのものあるいは強行採決には決して賛成していないと客観的にとらえざるを得ないのですが、どうでしょうか。

○渡辺(美)国務大臣 強行採決というのかどうか私わかりませんが、まあそれはどうかわかりませんけれども、私は、それはスムーズに採決、平穏裏に採決されることが望ましい、これはもう申すまでもないことでございます。
 また、韓国にいたしましても、日本が安保条約でアメリカと一緒にいるということについては、それはむしろ安心感があるんですよ、実際は。だから、どこかの国が、今指摘したようにアメリカからも離れて孤立した場合は日本はこうなるのじゃないかというような、それは想像をおっしゃったんだと思いますが、そういう心配がないように、我々は日米安保は今後とも堅持をいたしていきますということをそれのために言っているのであって、これは諸外国の方は、むしろ大多数の国は日米安保で安心していると言っても差し支えないと思いますよ。
 でありますから、日本がすぐ改憲をしてどうのこうのとおっしゃいますが、宮澤内閣は改憲はやらないし考えていない、こう言っているわけですから、しかも憲法はこれは平和憲法で、要するに、それは確かに自衛隊という名前は憲法には載っておりません。載っておりませんが、これは、必要があって自国防衛の場合においてはそれは何ら憲法違反でないという解釈で自衛隊が昭和二十九年にできた、これも皆さん御承知のとおりなわけであります。しかも、自衛隊はこれは自国防衛ということでやっておるわけですから、だから、質問の御趣旨は、ある紙に憲法の解釈がもうぎりぎりのところへ来ているというふうなお話がございましたが、それは割り切ってしまえば、日本の憲法というものは平和憲法であって、そして条約にはこれを守ると。日本は国連に加入をしておる、国連の中にはPKOの活動をちゃんとやるようになっておる、したがって国連に対する協力というものは憲法はこれを認めている、したがって、我々は、重火器等を持ち込むようなことはないが、国連の中に取り決められたあのような形をとっていくことは憲法違反でない、簡単に言えばそういうことじゃないのか、そう思っております。

○沢藤委員 前回に引き続きこの問題については、明快なというか、私が納得できる御答弁をいただけなかった、そう思います。ということは、結局、賛成しているあるいは支持している国の名前を挙げてくださいという再三の質問に対して、それに答えていない。ということは、私の方からすれば、これは挙げれないんだな、賛成を得ていないんだな、支持を得ていないんだなということに、そう考えざるを得ません。恐らく国民もアジア諸国民もそう思っているでしょう。これは水かけ論になりますから、そのように私としては確認せざるを得ないということを申し上げておきたいと思います。
 次に、PKO法案に盛られているいわゆる自衛隊の海外派遣ということに随分集中しているわけですけれども、これが十分に国内のコンセンサスも、それから特にアジア諸国からの支持も得られていない中でこれが行われようとしている、これは大変不幸なことでありますが、この前に、こういったことを強行する前に日本としてなすべきことが幾つかあると思うのです。そのうちの一つは、やはり戦後処理、戦争に対する賠償の問題があると思います。
 そこで、最近特に謝罪と補償を求める提訴の動きが出ているということは、これは明らかであります。これをどのように把握しておられるか。そしてあわせて、国家賠償と民間への賠償、個人への賠償について日本政府はどう考え、どう対応してきたかということをお聞きしたいと思います。

○谷野政府委員 お答え申し上げます。
 戦後の補償、賠償と申します場合に二とおりのことがあろうかと思いますが、一つは日本と交戦関係にあった東南アジアの国々でございますが、これらにつきましては、戦後、法的な措置をとりまして、条約のもとに逐一賠償を払って、それによって決着したということは先生御承知のとおりでございます。もう一つは、日本から分離してまいりましたいわゆる朝鮮半島等でございますが、これも先生御案内のように、長い交渉の末に六五年、請求権の形でずっと議論をいたしましたけれども、結局最終的には経済協力の供与ということでこれを決着いたしました。ただいま、したがいまして残っております北側、北朝鮮との関係におきまして同じような請求権の問題を今鋭意先方政府と交渉中であるということでございます。

○沢藤委員 答弁が一つ漏れています。国家補償と個人補償、民間補償の関係についてお願いします。

○谷野政府委員 ただいま御答弁申し上げましたようなことで、多くの国との間には、国と国との関係におきましてはこの問題はすべて決着済みということでございます。他方、例えば韓国のようなところで民間の間で補償を求める声が起こっておることは私ども承知いたしておりますけれども、国と国との関係におきましては、この補償の問題というのはすべて六五年の協定において決着済みというのが私どもの理解でございます。

○沢藤委員 こっちはそう思っても向こうはそう思っていないということがあったら、これはやはり外交としては大変大きなマイナスですね。最近の動向を見ますと、国に対する請求もあれば企業に対する請求もあれば、いろいろあるわけであります。
 そういった中で、中国の最近の状況としては、日中共同声明で放棄したのは戦争賠償である、南京大虐殺など人民に及ぼした重大な罪業に対する民間賠償については放棄していない、これが中国人民代表大会で論じられていることで、建議書が提出されている、これがあります。
 それから、日韓のことにつきましても、今お答えがあったのですが、日韓交渉に当たった当時の韓国外務部長官によりますと、当時は朴政権のころでありますけれども、「日本から時間をかけて賠償を取り立てるより、経済協力を引き出して、韓国経済の発展を急いだ方がいいと判断して、対日請求権を放棄した。しかし、放棄したのは国家の請求権であって、民間の請求権は含まれていない」と言っているんですね。
 ソビエトとの関係で日本政府は、これは国会答弁の中で欧亜局審議官が答えているようですけれども、ソ連に対しては、放棄した請求権は国家自身の請求権であって、日本の国民個人からのソ連に対する請求権は放棄したのではないと言っている。そうすると、日本は、韓国あるいは中国に対してはもう済んでいることだ、こう言っておきながら、ソ連に対しては個人に対する補償を意思表示している。この矛盾はどうなんでしょう。

○柳井政府委員 お答え申し上げます。
 ただいま先生から日韓あるいは日ソの間におけるいわゆる請求権の処理の問題についてお触れになりました。また、中国との関係についても御指摘がございましたが、いずれにいたしましても、例えば日韓請求権・経済協力協定におきましては、両国間の問題といたしましては、先ほどアジア局長から答弁ございましたように、国家及び国民の請求権の問題は「完全かつ最終的に解決された」というふうに規定しているところでございます。また、日ソにつきましても、一九五六年の日ソ共同宣言におきまして、これは具体的には第六項でございますけれども、「日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五年八月九日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄する。」というふうに規定しているわけでございます。他方、中国につきましては、これは御案内のとおり、日中の国交正常化をいたしました際に、中国の方から「戦争賠償の請求を放棄する」ということを宣言しているわけでございます。これも御案内のとおりでございますが、日中共同声明の第五項におきまして、「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。」というふうに規定しているわけでございます。

○沢藤委員 全くいわゆる外交官的な答弁だと思うんですね。新しい事象として、中国あるいは韓国、さっき申し上げたから繰り返しませんが、あれは国家に対する問題であった、個人に対する賠償は放棄したんじゃないということを言っている、このことに対してどうこたえるかということがある。
 そこで、確かに外交ということになれば外務大臣が行くとかあるいは局長が行っていろいろ話をする。外交辞令という言葉がありますから、かなりやわらかくといいますか、コンセンサスを得るような方向でいろいろ話し合われるということは理解できますが、しかし、本当に日本の外交あるいは日本の政府として大事なのは、バブルとは言いませんけれども、おふろに例えれば、上の方が熱い、下の方に冷たい水が残っているという、その国民の全体としての感情なりあるいは請求の動きなりをどうとらえるかということに心を配らなければ本当の外交にならないし、本当の友好関係の樹立にはならないと私は思う。
 私は中国には何回か訪問しました。社会党の正規の訪問団としても参りましたが、例えば熱烈歓迎ということで、いわゆる指導者が拍手をもって迎えてくれる。これはうれしいことなんです。ただ、村落に入っていきますと、その指導者が私たちの入っていくマイクロバスに向かって一生懸命手を振る、あるいは手をたたく、そして周辺にそれを同調を求めようとする、しかし、しいんと静まり返っている。ひょっと向こうを見ますと、暗いうちの中から年とったおばあさんといいますか老婆がじいっとこっちを見ている。その目つきの、目の色の本当に言うに言われぬ暗さ、これが私は民衆の心だと思うんですよ。ですから、外交、今お聞きしますと、はいこれは文書で決まっていました、もう決着済みです、しかし、それで片づいていない両国間の感情があるという事実をどう受けとめるかということなんです。外務大臣、お願いします。

○渡辺(美)国務大臣 感情の問題は御指摘のとおりだろうと。したがいまして、我々も中国初め戦争をやった国については、大変な苦痛を与えて、被害も与えたと、申しわけなかったという気持ちはもう持っておりますし、そういう表現をしておるわけであります。しかしながら、国と国との間で将来の日中友好のために賠償を放棄するということになったわけですから、それは困ります、払わしてくださいというわけにはいかないのですね。しかし、日中友好のためにというのですから、私どもは賠償を放棄されても、できるだけ協力するところは協力しなきゃならぬというつもりでやっておるわけであります。
 まあ民間の賠償の要求というのも個人的にあるというのはあるでしょう。しかしながら、日本政府とすれば、やはり賠償金を払うということは国民にそれだけ大きな負担を与えるということでございますから、賠償が大きければ大きいほどいいというわけにはこれはいかない。やはり国民の負担というものを考えれば、話し合いがついた中で、我々は相手も理解してくれるぎりぎりのところで妥結をしていくということが政府の建前じゃないか。まあ、個人的に訴えてこられるものを阻止することはできないでしょう。できないでしょうけれども、国の間でもうこれで終わりということの決まったものを、さらに政府が取り決めを乗り越えてそいつに対して対応していくということは私はいかがなものかと思っております。

○沢藤委員 日本外交の姿勢がよくわかりました。これをドイツ、アメリカ、カナダなどと比べますと、民間にも補償している。こちらから申し入れている。そして、大体金額にすれば、今お金の話が出ましたけれども、七兆円を超える賠償の内容になっているわけですね。アメリカだって、カナダだって、やっているわけですよ、個人に対しても。こういった違いが私は日本外交と他の外交との違いだと思うのです。少なくとも、特に同じ敗戦国であるドイツが周辺の国に対して払ったその気配り、こういったものが日本には完全に欠如している。この違いを私はみんなが見ていると思うのです、世界じゅうの人が。だからこそドイツはECの中で、ヨーロッパの中でみんなと一緒に仲よくやっていると、盧泰愚大統領がそう指摘されたんじゃありませんか。それに引きかえ日本と韓国の間にはまだ整理されていないものがあるということをあの国会の議場で指摘されたじゃありませんか。それを我々はどう受けとめるかという問題になるわけですよ。
 一片の外交文書で、終わったからもういいと。この前、外務大臣は、その感じ方、とらえ方の違いはやった方とやられた方の受けとめ方の違いだみたいな発言をなさって、あっと思ったのでしょうか、微妙に軌道修正をなさった、私の質問に対して。こういうことで、日本外交というのはどういうんだろう、人間の心を失った外交というのはどういうことだろう。条文、法解釈、厚い法令集、それでもって答弁し、それでもってもう終わったんだ、済んだんだと。よく聞こえてきますね、なあに済んだことじゃないかと。しかし、それは人間の声じゃありません、悪魔のつぶやきです。ドイツと日本の違いということをもう少し検証し、検討してみていただけませんか。これは私は外交の基本的な問題として、いずれ訴訟が出てくるわけですから、それに対する対応については、これはきちんとやっていただきたいということを申し上げておきたいと思います。
 時間の関係で次に進ませていただきます。
 PKOの前にやるべきことということで、私は今戦時賠償の話をしました。もう一つは、やはり国としての、あるいは国会としての、あるいは首相としての謝罪あるいは反省あるいは不戦の誓い、何回も触れました、それが必要だと思う。このことについてはこの前も質問したのですが、はっきりした御答弁はいただけなかった。これもやはりドイツを引き合いに出すわけですが、ワイツゼッカーのあの有名な演説に対比して、日本の政治、日本の哲学というのでしょうか、あるいは価値観というのでしょうか、こういったものの差が余りにも目立ち過ぎている。ですから、主体的にこっちは終わったんだといっても格差がある、ギャップがあるということは事実なんです。その事実は客観的な事実として受けとめなきゃならない。それをどう埋めていくかということに、私は国際派と言われる宮澤総理、そして人格非常に温かい渡辺外務大臣、これからの対処というものについて、国民が、世界じゅうが、特にアジア近隣が見守っているということをお忘れなく対応していただきたいと思います。
 これに関連して一つ、きょうの新聞でしたか、外務大臣が国に帰られて、来年の日中平和友好条約締結の記念に際して天皇陛下が訪中されることが望ましいというふうな意味を言われておりますね。そのことはそのとおりですか、そうお考えですか。

○渡辺(美)国務大臣 御質問が時々あるのでございますが、これは私は前提がありまして、皇室の問題でございますから、政府が一方的に決めるようなことはできません。しかしながら、中国からぜひ訪中してほしいという話があって、正常化二十周年の節目節目で、そういうような気持ちもよくわかりますから、できることならばそういう方向でお話ししてみるのがいいのかなという程度の感じを持っておるわけであります。

○沢藤委員 私は、むしろ外務大臣の発言を前向きに拝見し、受けとめたわけです。先ほど申し上げましたとおり、中国との往来の体験の中で何人かの中国の要路の人というのでしょうか、要人の方ともお話し合いする機会があったのですが、中国の方の率直な気持ちは、日本における天皇は象徴という存在ですから、あるいは若干受け取り方が違うかもしれませんが、やはり日本を代表する人といえば一番、中国の人は天皇を想起していますね。そして期待していますね。私は、これは非常に大きな区切りでもありますから、太平洋戦争五十年でもありますし、やはり韓国、あるいはいわゆる朝鮮半島の国、中国、そういったところにはおいでになって、あるいはもちろん総理大臣も行かれるでしょうが、きちんと今までのことを吐露なさったらどうか。オランダの女王がおいでになったときの歯切れの悪いような、恐らく外務省と宮内庁が苦心してつくっただろう表現、不幸な出来事とかなんとかというより、むしろすっきりと御本人の気持ちでもって訴えられるということの方がよろしいんじゃないかという気がするのです。これは中国の人と話し合ってみての感じです。
 昭和という時代の一つの歴史の中での出来事ですから、それが昭和から平成にかわったという区切りの時期でもあります。ですから、ここはやはり率直に日本としての反省、それに基づく意思表示というものはなさった方がいいんじゃないか、こういうふうに思うのですが、これは総理から御答弁願えますか。

○宮澤内閣総理大臣 この問題につきましての政府の考え方は既に何度がお答えを申し上げたとおりでございますが、また、例えば今年の五月に当時の海部総理大臣がシンガポールにおいてそれを明確に言われましたように、折々の機会におきましてそのような遺憾の意を政府としても表明をいたしておるところでございます。

○沢藤委員 この前もそういう、その程度といいますか、その範囲、非常に狭い範囲の答えしかいただけないということを、私は日本国民の一人として大変残念に思います。今の天皇は私と余り年齢が違っておられません。恐らくいろいろな体験、感想はあると思います。私は余り詳しくは触れませんけれども、一つの区切りをつけたいというお気持ちはあるのじゃないかとあえてそんたくいたします。このことをひとつ総理、胸に刻んでおいていただきたいと思います。
 PKOの前にやるべきこと、軍縮があります。こういう東西対立という図式、枠がなくなった時期、今こそチャンスじゃないだろうか。軍縮に対する意思表明、具体的なプログラムの提示。世界に対する、あるいはアジアに対する、日本は平和憲法を守るんだ、軍事大国にはならないぞと何回もおっしゃっているわけだ。そのあかしがないから不安になっている。大国化しているんじゃないかという不安がアジア近隣には特に強い。これに対する一つの答えとして、軍縮の意思とそのプログラムを明確にする必要があると思うのですが、いかがでしょうか。これは外務大臣ですか。――防衛庁長官。じゃお願いします。

○宮下国務大臣 御答弁申し上げます。
 たびたび申しておりますように、また、当委員会で議論がございますように、国際情勢がこのようにデタントといいますか、冷戦構造が終結いたしまして、しかもアメリカ・ブッシュ大統領の核兵器についてのイニシアチブが発表され、ソビエトの方でもこれに呼応するというようなことで現実にその方向に向かっていることは大変好ましいことでございまして、私どもとしてもこれを十分考慮に置きながら今後の防衛政策を考えていくということは当然でございます。
 しかしながら、一方、現在の自衛隊の整備の方針と申しますか、基本理念は、先生のたびたびの御指摘にありますように、軍事大国にはならない、専守防衛である、非核三原則、あるいは徴兵制はさっきお話もございましたがしない、そういう基本的な大きな枠組みのもとに我が国の防衛力の整備を図っているわけでございまして、しからばこの我が国の防衛力の水準が他国に脅威を与えるようなものであるかどうかという点については、あるいは見解が先生とまた分かれるかもしれませんが、私どもといたしましては、これはたびたび申し上げておりますように防衛計画の大綱、これは五十一年につくられたものでございますけれども、当時の緊張緩和の状況を踏まえまして、平和時において我が国として独立国家として必要最小限度の自衛力はどうあるべきか、そういう理念を大綱にまとめまして、この大綱に基づきまして現在の中期防衛力整備計画が定められております。
 そして平成三年度はその初年度としてこの整備が行われているわけでございまして、決して通常言われるような脅威対抗、相手が相当な兵力、武力を持っているからこれに対抗せにゃならぬということではございません。あくまで日米安保条約のもとで、そして我が国が必要最小限度の自衛力を保持するということで整備をやっているわけでございますから、今世界のこういう傾向があるからといって直ちに我が国の防衛力の水準をどうのこうのということはございませんで、あらかじめ平和時における防衛力の水準を定めたものというように私どもは理解しておりますので、その点は御了解いただきたいし、また防衛計画の中におきましても、こうした国際情勢あるいはそういったものを勘案して三年後には見直し、この二十二兆七千五百億円の範囲内で修正を行うことも、これは中期防衛力整備計画に規定いたしております。したがって、私どもとしては、こうした情勢を反映すべく今後検討を重ねてまいりますけれども、おっしゃられるように直ちに我が国の防衛力の削減というのは当たらないのではないかと思っておりますので、その点は御理解いただきたいと存じます。

○沢藤委員 この問題につきましては、世界史的な視点から、来るべき世紀は一体どういう世紀なのか、こういうことの基本的な認識というのでしょうか、考え方に大きく左右されると思うのですよ。このことについては後でもう一度触れますので、一たん先へ進ませていただきたいと思います。

 第122回国会 参議院国際平和協力等に関する特別委員会 第3号 平成三年十二月五日(木曜日)午前十時一分開会

【発言順】
 委員長       後藤 正夫
 委員        矢田部 理
内閣総理大臣    宮澤 喜一
 発議者       野田 哲
 発議者       堂本 暁子
 内閣法制局長官   工藤 敦夫
 外務省条約局長   柳井 俊二
 外務大臣      渡辺美智雄
 外務省国際連合局長 丹波 實
 国務大臣
(防衛庁長官) 宮下 創平       
 内閣審議官
 兼内閣総理大臣
官房参事官     野村 一成
消防庁長官     浅野大三郎

○委員長(後藤正夫君) ただいまから国際平和協力等に関する特別委員会を開会いたします。
 国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律案、国際緊急援助隊の派遣に関する法律の一部を改正する法律案及び国際平和協力活動等に関する法律案、以上三案を便宜一括して議題といたします。
 三案につきましては、既に趣旨説明を聴取しておりますので、これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言を願います。

○矢田部理君 宮澤総理にまず伺いたいと思いますが、今国会で最大の課題と言われておりますPKO法案の審議に当たって、衆議院の終末の段階で大変遺憾な事態が発生いたしました。委員会で異例の強行採決、これはもう議会制民主主義の基本にもかかわる問題でありますが、これについて宮澤総理はどんな受けとめ方をされておりますか。あれは国会でやったことであるからといって、御自分では馬耳東風といいますか、無縁のような言葉まで発せられたと伝えられておりますが、議会に対する宮澤総理の考え方がここに端的にあらわれているような感じもいたしておりますので、冒頭、釈明をいただきたいと思います。

○国務大臣(宮澤喜一君) 衆議院の特別委員会におきまして、各党とも終始熱心に御審議をいただきました。また、政府といたしましても全力を尽くしまして、最善を尽くしまして、お答えすべきはお答えをいたしたのでございましたけれども、御指摘のような事態が起こりまして大変残念でございます。
 ただ、各党でお話し合いがございまして、その後に事態を平穏のうちに収拾をせられましたことは結構なことであったと敬意を表するところでございます。

○矢田部理君 強行採決をして、異常な事態が続いたわけです。議会総体がその結果機能を停止するというような重大な事態を迎えたのに対して、あれは国会のことですと、人ごどのようなことを言われておったという話も伝えられておるんですが、あなたの認識はそういうことですかと、こう聞いているんです。

○国務大臣(宮澤喜一君) そのことは本会議でも申し上げましたので繰り返しませんでしたけれども、各党で御熱心な皆さんが全力を尽くされた、しかしああいうことになった、政府としても全力を尽くしたということを立ち話で廊下で記者諸君にいたしました。立ち話でございましたので徹底をいたさなかった嫌いがございますけれども、その際に、政府がこの事態にどういう責任をしょうかということでございましたから、政府としては全力をもって御質疑にお答えをしてまいったつもりである。ただ、委員会における事のお運びは、これは国会のことであるから、三権分立の立場からいえばあれこれ申すべきことではないと思う、こういうことを申しましたのがやや不徹底に伝わったということでございます。

○矢田部理君 本論に入っていきたいと思います。
 今度政府の提出したPKO法案なるものは、平和維持活動に名をかりた自衛隊の海外出動法である、派遣法であるというふうに私たちは考えておりますが、この政府の法案に対して、社会党としても野田さんを中心に独自の対案を出されました。この政府案に対して社会党として、また提案者としてどういうお考えに立っておられるのか、社会党案、野田さんたちが提出された法案の中身等に触れながら御説明をいただきたいと思います。

○委員以外の議員(野田哲君) 私たちが提案をいたしました国際平和活動に関する法律案は、まず第一は、政府案と一番性格の違う点は、非軍事・民生・文民を基調として積極的に国際的な平和活動を推進していこうとするものであります。
 そして、その第一は、国際平和協力活動の基本原則として、協力活動の範囲について非軍事・民生・文民、この立場を明確にしていることであります。そして、自衛隊の海外派兵や武力の行使、武器の携帯を明確に否定をしているものであります。二つ目には、自衛隊とは別個の組織として、国連平和維持活動及び人道的救援活動を行うための組織として国際平和協力機構を創設して、国連等からの要請にこたえようとするものであります。第三には、国際平和維持活動及び人道的な国際救援活動を行うために国際平和協力隊を派遣しようとするものであります。
 これが、私どもが提案をした法案の骨子と政府案との基本的に異なっている点についてでございます。どうぞよろしくお願いいたします。

○矢田部理君 今のお話を伺いますと、引き続き説明をいただきたいと思いますが、非軍事・文民・民生という三原則を立てて、しかも常設の組織を置くという考え方は、今日の国際社会のどのような要請にこたえようとしているのか。日本の国際協力のあり方を考えるについては非常に重要な問題点でありますので、その点を敷衍して説明いただきたいと思います。

○委員以外の議員(野田哲君) 矢田部議員も御承知のとおり、今日の国際情勢は、東西の対立という構図が大きく変わりまして、今一番世界の重要な課題は南北問題、これが一番重要な課題と言われております。
 そのような状態の中で、私どもとしては、今一番国際的な救援を求められている課題として飢餓、貧困、災害、難民、そして自然環境、このような人道と共生の立場からの救援が求められていると考えているところであります。軍事の力による解決やあるいは問題の抑止ではなくて、武器を持たない人々のつながりによる救援、展望を開いていく、このことが何よりも重要な課題であると考えているところであります。
 特に、私ども日本は、平和憲法を持ち、その憲法のもとでの最大限なし得る国際的な貢献、このことを一番重点的に考えていかなければならないと思います。そのためには今私ども日本は、軍事力を国際的に提供して、これによる活動よりも平和的な立場に立った文民による民生的な分野での貢献策、このことを最重点に考えるのが日本のとるべき道である、このように考えております。

○矢田部理君 宮澤総理にも同じ質問を申し上げたいのでありますが、宮澤さんはかつて日本国の憲法の特徴に触れながら、軍事的には日本は貢献ができない、非軍事的な貢献を中心にこれから国際政治に対応していくべきだ。例えば、「美しい日本への挑戦」などで語っておられるわけでありますが、野田さんからも今お話があったような認識、考え方についてはどうお考えでしょうか。

○国務大臣(宮澤喜一君) 我が国は、憲法によりまして軍事大国にならないことを決心いたしておりますし、また憲法九条もございまして、国権の発動としての武力行使をすることは海外においてできないという、これはもう確固としたことでございます。そういう意味では、アメリカのようにあるいはかってのソ連のように、軍事力を持って世界に影響を及ぼすということは本来的に我が国はできない立場である。しかし、世界の平和を願うということにおいて人後に落ちるものではございませんから、それ以外の方法において貢献するのが本筋である。こういうことは物の考え方として、恐らく国民の多くの方が考えておられることと思います。
 このたびの法案との関連でのお尋ねであろうかと存じますけれども、この点は、このたびの法案は、こういう世界の新しい冷戦後の時代になって、国連がいよいよ重要な役割をしなければならない。その国連の平和維持活動という非強制・中立、力を用いない、軍事力でない説得と国連の権威による平和維持活動に対して我が国も大いに協力をするということは、これは我が憲法の基本の考え方と一致するものである、こういう認識でございます。

○矢田部理君 今のような宮澤総理の説明とその変節の中身については後刻厳しく指摘をしていかなければならないと思います。
 引き続き野田さんに伺っておきたいのは、一部の議論の中に、PKOの中でも例えば停戦監視団ならいいではないか、あるいは国連なら自衛隊を出してもいいのではないかというような議論があるやに聞いておるのでありますが、この点についてはどのように考えておられるでしょうか。

○委員以外の議員(野田哲君) 今、矢田部議員から御指摘のあった点につきまして、私どもも停戦監視団がどのような性格を持っているものか、そしてその構成員はどのような立場の人が国連から求められているのか、こういう点について検討をいたしました。
 まず第一は、平和維持軍と停戦監視団との間の境といいますか、境界が非常に今までの事例に照らしてみるとわかりにくい点がある。例えば平和維持軍で停戦活動に参加をして、その延長線上においてその中から何人かの各国の将校が選ばれて停戦監視団を構成する、こういうケースが幾つかあるわけでございます。そういう点から私どもとしては、これはやはり職業軍人の構成によって行われている停戦監視活動であるから、日本としてはこれには参加できないのではないか、こういう見解を持っているところであります。
 もう一つは、戦時国際法によりまして、職業軍人といいますか、軍人でなければ戦時国際法の適用を受けがたい、こういうような内容になっていると承知をいたしておりますので、そういう点からも、今日本がこれに自衛隊を参加させるべきでない、こういう見解に立っているわけでございます。私どもとしては、そういう点から軍事的な活動、停戦監視団も含めて軍事的な分野での平和の貢献というものは日本の立場としてはやるべきでない、そういう点からも文民・民生、この点について一層強く推進をしていく、この立場が今一番日本の憲法の理念に照らしても、国際的な要請からいっても合致しているのではないか、そのように考えているところです。

○矢田部理君 発議者の一人であります堂本さんにちょっとお尋ねいたしますが、衆議院の一連の議論で、政府と国連の考え方の違いがかなり明白になってきました。その中身をただそうというようなこととあわせて、日本の国際貢献について国際社会なり国連はどんなことを求めているのか等々についてもお調べになってきたと伺っておりますが、かいつまんで内容を御紹介いただきたいと思います。

○委員以外の議員(堂本暁子君) お答えいたします。
 先月、国連本部を訪れ、PKOの責任者を初め十人の担当官に会うことができました。その発言の中で最も大事だと思ったことを御報告したいと思います。
 日本が憲法の制約、そして歴史的な事情あるいは判断から、国連にPKOを参加させることができないとすれば、それは国連の事務総長を初め国際社会はそれを理解し、了解するだろうというものでございます。どこの加盟国もPKOに参加することは義務づけられていませんということも言われました。また同時に、社会党が考えております法案の説明もさせていただきましたが、文民が貢献できる領域は多々ある、非常に大きくありますということも明快なお答えをいただきました。
 新しい世界の状況のもとで、安保理が決定したいわゆるブルーヘルメットだけが今求められているのではない。例えば、貧困そして難民が平和な生活を脅かす一つの大きな要因になっております。そういったところで活躍するホワイトヘルメット、あるいは今環境の破壊も多く進んでいますが、そういった環境保全のために活躍するグリーンヘルメット、そういった社会経済委員会で決定される平和維持活動もこれからは大変に大きくなるだろうということでございました。こういった領域こそ日本が最も実力を発揮できる領域であり、貢献できる領域なのではないかというお答えでございました。

○矢田部理君 そこで、宮澤総理、日本のこれからとるべき態度について、今、野田さんからも、それから堂本さんからも国際社会の要請などを受けた考え方が示されましたが、もともと総理自身も、軍事的な貢献よりも日本の得意な分野で貢献することの方が意味もあるし役にも立つ、経済中心の貢献論などを出された時期もございました。いずれにしても非軍事的な貢献を中心にやろうというお考えのように伺っておったのでありますが、どうも最近の総理の言動、とりわけ総理・総裁の座が近づくにつれて一歩一歩と変節をしていったのではないかという気がしてならないのであります。
 例えば、PKO法案についてもかつては、御承知のように、今出している法案の中心はPKF、平和維持軍に参画をすることであります。これに日本の武装部隊を本格的に出動させていくということが中心になっているのでありますが、この平和維持軍というものについても、あれは武力紛争に巻き込まれるおそれがある、危ない。だから、せいぜい参画ができても、その後方支援ぐらいが精いっぱいではないかというようなことをたしかことしの五月ごろには語っておられる。にもかかわらず先ほどのような答弁で、どこで変わったんですか。まず伺っておきましょう。

○国務大臣(宮澤喜一君) それは多分、国連の平和維持活動というものについての御見解が私の考えておりますことと違うのだと思います。
 きのうも本会議で申し上げたところでございますけれども、国連の平和維持活動は、いわゆる撃ち方やめという状態になりました後、その不安定な状況を国連の平和維持隊が恒久的な平和に導くという、それが最初の部分でございますので、ここで武力を行使したのでは何のために撃ち方やめをしたのかわからないのでございますから、武力を行使しない、そうして説得と国連の信用によって平和を恒久的なものにする、本来そういう性格を持ったものでございます。それは、昨日も本会議でどなたかの御質問の中にキプロス島の例を挙げておられました。武器を持たない、武力を使わないことがやっぱり一番大事なことだというのがこの本来の部分でございます。
 そういう意味で、これは、我が国が平和憲法を持ち、平和国家であるということと少しも矛盾しないのみならず、これから世界平和のために大きな役割を担うであろう国連のそういう活動に参加することは、これはもう湾岸危機のときにあれだけ国内に議論があって、人的貢献もしなければならないということは随分御議論になったわけでございますから、私は、それから出てまいる我が国としてのなすべきことであろう。もとより、それ以外のただいまお話もございましたたくさんの平和活動あるいは世界環境等々、我が国がしなければならないことはたくさんございますけれども、これもまたその一つであるというふうに考えておるわけであります。

○矢田部理君 人的貢献は何も自衛隊を中心にすることはないのでありまして、文民による組織をつくって、社会党が提案をしているように本格的に国際的な展開をする、これこそが平和憲法のもとでとるべき日本の道だと私は考えています。
 あなたも少なくともそう考えておられた節がある。(「そんなことはない」と呼ぶ者あり)静かにしなさい。平和維持軍への参加について、武力行使の心配が出てくる、その場合に直接戦闘に巻き込まれることになるなど問題点も多い、だから平和維持軍の本隊に参加することは問題だと、あなた言っておったのがことしの五月ですよ。湾岸戦争があってから後ですよ。先ほどのような説明とは質が違うじゃありませんか。
 総裁になるに当たって、小沢さんに呼びつけられてお会いしたそうでありますが、そのころを境に、小沢さんの考え方に同調をし、大きくあなたは変節をしたんじゃありませんか。PKO法案についても、批判的な態度を変えて、その推進を約束させられたんじゃありませんか。この点はいかがですか。

○国務大臣(宮澤喜一君) 湾岸戦争のときに私が申しましたのは、矢田部委員のおっしゃっているそのことと違いまして、いわゆる多国籍軍に我が国が参加するかどうかという問題であったわけです。これは平和維持軍と違うことでございます。多国籍軍に我が国が参加をすることは私はできないと思うと、こう言っておったし、今でもそう思っておるところでございます。
 一方で、今度は平和維持活動となりますと、これも私は明確に言っておるわけでございますけれども、これはかなり専門的な訓練と組織力を必要とするのであるから、突然ボランティアを集めてもそれは私は役に立つとは思えない、むしろ自衛隊のようなものでないといけないということは去年の段階で私は言っておるわけです。

○矢田部理君 小沢さんを中心とする自民党の調査会があります。国連協力のあり方などを議論して総裁に答申をするための調査会のようでありますが、その調査会の原案といいますか、内部で取りまとめつつある文書でしょうか、これが報道されたところによりますと、今度のPKO法案は自衛隊の海外展開の第一歩だ、いずれ国連軍だとか、今総理が否定をされた多国籍軍に参加を目指すのである、その憲法論をきちっとしたい、こういう趣旨の答申が出されようとしている。あるいはもう既に届いているのかもしれません。
 多国籍軍への参加、国連軍への参加、今の憲法のもとでできると思われますか。

○国務大臣(宮澤喜一君) いわゆる小沢調査会の検討は、まだもちろん最終にもなっておりませんし、原案というものもできていない。原案と称するものが一遍報道されましたので確かめましたけれども、そういうものもないそうでございます。
 ただ、これは私どもの党の中の調査会でございますから、いろいろな可能性を検討されることがいい、そういうことにむしろふたをしておくことはいけないのでございますから、自由に議論をされ、自由に検討をされることがいいと私は申し上げてございますけれども、それは一つのことでございます。
 次に、昨年の湾岸戦争のときのような多国籍軍に我が国が参加できるかどうかというお尋ねであれば、私はできないと思います。

○矢田部理君 国連軍への参加はいかがでしょうか。

○国務大臣(宮澤喜一君) それは、国連軍というものが存在いたしませんので、御定義をいただきませんとお答えのしようがありません。

○矢田部理君 確かに、国連憲章で国連軍の規定はございますが、いまだ正規の国連軍はできておりません。だから、私にかく定義しろと言っても定義はできないのでありますが、あの憲章に言う国連軍、これについてはどう考えられますかと、こういうことです。

○国務大臣(宮澤喜一君) 憲章の規定は必ずしも明らかでございませ人けれども、どういう状況の中で国連と特別協定を結ぶというようなことが書いてございますし、その特別協定というものがまたどういうものであるか明確でございません。
 いずれにいたしましても、かつてできたことがありませんし、具体的に議論されたこともございませんので、そういう状況で、仮定の問題としては、これは矢田部委員もおわかりいただきますように、明確なお答えができないような気がいたします。

○矢田部理君 どうも何か国連軍になると少し多国籍軍とは違って避けているように見えますが、それはそれとして、武力行使を少なくとも国連軍は肯定をいたしております。そういう肯定をする内容を持った国連軍への参加を総理としてはどう考えるかということを詰めて聞きたいと思います。

○国務大臣(宮澤喜一君) 大切な問題でございますから重ねて申し上げますが、国連軍というものがどういうものであるのか、どういう特別協定を結ぶのかというようなことがわかりません段階ではお答えをすることができないと思います。

○矢田部理君 何回も法制局や歴代の内閣が答えておりますよ、武力行使を内容とするような、肯定する国連軍への参加は憲法上できないと。この考え方を踏襲するのですか、しないのですか。

○委員長(後藤正夫君) 工藤法制局長官。

○矢田部理君 いや、宮澤さんに聞いているんですよ。
 ちょっと委員長、私が指名しない人を呼び出さないでください。

○国務大臣(宮澤喜一君) 法制局長官からお答えいたします。

○矢田部理君 今は法制局の解釈を聞くんじゃないんです。宮澤総理の政治家としての認識、物の考え方を私は今聞いておるのであります。

○国務大臣(宮澤喜一君) かねて法制局長官の見解云々とおっしゃいますから、まずそれをお聞きいただきたい、こう申しております。

○政府委員(工藤敦夫君) お答えいたします。
 ただいま委員お尋ねのいわゆる国連憲章に基づきます国連軍と申しますか、それにつきましては、私、昨年の十月でございますが、お答えしておりますところで、それをかいつまんで申し上げますと、まず我が国の従来の憲法解釈、これは、自衛隊は決して違憲ではない。しかし、そういうものから出てまいりますいわゆる武力行使の目的を持った海外派兵、こういったものにつきましては一般に自衛のための必要最小限度を超えるから、そういう意味では憲法上許されない。あるいは集団的自衛権のお話、そういうことを申し上げました上で、従来憲法九条の解釈につきましては、種々の解釈あるいは適用、こういった問題につきましての積み上げがまず国内的にございます。こういうことを申し上げました。
 それからその次に、一方で国連憲章上の国連軍、これにつきまして今総理からもお答えございましたように、国連憲章の七章に基づく国連軍、これはまだ設置されたことがないわけでございますし、この設置につきましては国連憲章におきましても特別協定を結ぶ、こういうふうなことも規定されております。さらに、この特別協定がいかなる内容になるかまだ判然としない、こういうことを申し上げた上で、今こういう問題を考えてまいりますと、現段階でそれを明確に申し上げるわけにはまいらない、かように申し上げたわけでございまして、できないとかできるというふうな形で明確に割り切ったお答えを申し上げているわけではございません。

○矢田部理君 国連軍の中身がわからないから明確な答えはできないということは、それはそうでしょう。私が申し上げているのは、国連は平和解決とか紛争の平和処理ということを基本にはしております。また、非常に大きな理念として掲げておりますが、同時に、国際紛争を解決するために他の手段がないときには、日本国憲法と違いまして武力で処理をする、解決をするという道も否定していないのであります。
 そこで、そのための国連軍の創設、それはいろんな特別協定とかなんかはありますけれども、そういう国連軍、つまり武力行使を容認する内容とする国連軍の行動があったような場合に、そういう国連軍についてあなたは参加をすることを認めますか認めませんかというふうに総理に伺っているんです。

○国務大臣(宮澤喜一君) ただいま法制局長官がお答えいたしましたことは、たまたま私が先ほどお答えしたことと全く同じでございます。私もそう思っております。

○矢田部理君 要するに、武力行使を否定していないでしょう、国連憲章は、あるいは国連軍は。それはどうですか。

○国務大臣(宮澤喜一君) 国連憲章の詳しいことでございましたら、それは政府委員が申し上げるべきだと思いますけれども、国連軍というものが存在をしていないのですし、特別協定というものがどういうものかわかりませんから、実体のないものをいい悪いと言うことができないということが先ほどから申し上げていることの真実でございます。

○矢田部理君 今、何か実体に即して答えてくれと言っているんじゃないんですよ。国連憲章は国連軍の創設を想定しています。その国連軍をつくるに当たっては特別協定その他が介在しなければなりませんから、それはそのとおりですが、その国連軍について国連憲章は、軍隊でありますから武力行使を否定していない。したがって、この特別協定等で武力行使を容認し認めるような国連軍が結成をされた場合に、あなたはそれに参画することの当否についてどう考えますかと聞いている。設問をよく聞いて答えてください。まだ国連軍がないから答えられないというんじゃなくて、武力行使とのかかわりで私は伺っているのであります。

○国務大臣(宮澤喜一君) 国連憲章の解釈のようでございますから、それは政府委員から申し上げます。

○矢田部理君 いや、いいです。
 渡辺さんにもちょっと伺っておきましょうか。渡辺さんも……

○委員長(後藤正夫君) 柳井条約局長。

○矢田部理君 いや、いいんです。あなたなんかに聞いてないよ。総理に聞いているんだ、総理に。聞いてない。ちょっとお待ちください。

○政府委員(柳井俊二君) 御指名いただきましたので……

○矢田部理君 委員長、議事の整理をお願いしたいのは、総理の認識を聞いているのが基本でありますから、総理以外の、法律解釈や国連憲章の解釈について聞きたいときにはその人を指名して聞きます。役人は余計なところへ出てこないようにしてください。今後の審議もそういうことを基本に仕切ってほしいと思います。

○政府委員(柳井俊二君) 私の方から手短に御答弁させていただきます。

○矢田部理君 いや、いいです。

○委員長(後藤正夫君) 速記をとめて。
   〔速記中止〕
○委員長(後藤正夫君) 速記を起こして。
 柳井条約局長、答弁願います。

○政府委員(柳井俊二君) 総理、外務大臣から御答弁あると思いますが、私の方から手短に御答弁を差し上げたいと思います。
 矢田部先生もよく御承知のとおり、国連憲章におきましては、国際の平和の維持のために大きく分けまして二つの方法が規定されているわけでございます。第一はいわゆる平和的解決でございまして、これは交渉とか調停その他でございます。もう一つはいわゆる強制的な解決でございまして、平和的な解決が不幸にして功を奏しなかった、そして侵略があった、あるいは平和が破壊されたという場合には、この憲章上の考えでは、国連軍というものを創設いたしまして、それによってそういう侵略を実力をもって排除する、そういう考え方でございます。
 ただ、現実の問題といたしましては、まだ国連軍は創設されていない、こういうことでございます。

○矢田部理君 そんな程度のことは知った上で、政治家としての所見、物の考え方を伺っているんですから、委員長、自分の頭をよく整理されて、私の質問に適切に指示していただきたい。あわせて、この政治的な論議のときに役人がちょこちょこ出てきて、事務的なことだとか技術的なことだといって前段で質問を遮るようなことをやめてほしい。その仕切りを委員長に厳重に申し入れておきたいと思います。
 そこで、渡辺さんもしばしばその種の発言をされておる。総裁選に臨むに当たって、国連軍に自衛隊の参加を認めるべきだ、憲法上問題があるとすればもっともっとやっぱり議論してしかるべきだということも言うのでありますが、あなたはやっぱり国連軍、これは武力行使、強制措置ということを否定しない軍隊というふうに想定をされている、構想をされているということでありますが、それについてどうお考えでしょうか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 自民党の総裁選挙のときはいろいろ言ったかもしれませんが、これは、自民党の総裁すなわち総理大臣とは限りませんから、自民党の総裁になったら必ず総理大臣になるという考えでは私はありません。それは国会というものがあるんですから、自民党の総裁になっても、自民党の一部が割れるとかなんかで野党が多数派をとれば、総裁にはなれても総理にはなれないということもありますので、総裁選挙で言ったことすなわち外務大臣の公約というわけではございませんので、あしからず御了承願います。

○矢田部理君 どうも宮澤さんも渡辺さんも総裁選のときは大分やり合ったようですが、ここへ来ると歯切れが悪いというか、抑えるのは、あの抑え方はわかりますけれども、どうして逃げるんですか。
 武力行使を否定しない、強制的な実力行動も容認している国連軍、憲章上はあるんです。国連軍に対する自衛隊の参加を考えるときには、ここが一番のポイントなんです。これについて政治的な所信を求められたら、中身がわからないから答えられませんじゃ国際政治に乗り出せますか。そういう事態がいつ来ないとも限らぬときに、日本政府はどういう対応をするんですか。渡辺さんなら、そこはわしはこう思うと、きちっと答えてみたらどうですか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 私も宮澤内閣に入閣することになって、それを認めているわけですから、宮澤総理と別なことを言うわけにはいかないわけですよ。
 ただ、こういう議論としては、議論ですよ、議論としては私はあると思います。もともと国連ができないきさつを考えると、第二次大戦でもうみんな戦争は嫌になった、だからもうここで二度と戦争はやるまいという考えが一つあるんですね。米ソも全部もう嫌ですから。ではどうするか。しかし、イラクのフセインみたいな人があらわれないとは限らない。そのときにどうするかということになれば、理想として、そのときはみんな金と兵隊を持ち寄ってそういうような無法者は押さえつけようというあれは発想ではなかったか。その前には国際司法裁判所その他いろんな平和的手続をまずやった上で、それでもだめならばということで決められたんだろうと、私はそう思っているんです、一政治家として。
 しかし、現実にはやはり米ソの対立というものがあって、朝鮮戦争も起きれば、ベトナム戦争も起きれば、キューバの革命も起きれば、アンゴラも起きればというようなことになって、拒否権という問題もあるから現実は安保理はまとまらない。したがって、そういうものは今までできなかったということですね。
 ところが、世の中大きく変わりまして、もうソ連も御承知のとおり。核兵器の縮小ということでは米ソがどんどん歩み寄って、なくす方向に向かって進んでいる。進行形ですよ、これ。これは理想的だと私は思うんですね。

○矢田部理君 手短に。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 短くね。ちょっと時間がかかるものですから、じゃ第一弾はこの程度で。

○矢田部理君 結論を言わないで下がっちゃだめでしょう。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 結論を言う前にやはり前提を言わないと、その結論だけを言われても私は困るわけですから。
 だから、その米ソの問題が非常に近づいて、将来どんどん軍備が縮小されると非常に私はいいことじゃないかと。そういうふうな仲になったときに、じゃだれが世界の警察官になるんだということの事態ができれば、私は、国連軍の問題というものは国連の中で改めて世界平和という問題が出たときにまともな議論として取り上げられる時代は必ず来る、まだその段階ではない、だから国連軍について今加盟オーケーとかどうとかいうことを申し上げる段階ではありませんということであります。

○矢田部理君 将来の政治論をどういうふうにつくっていくかと言っているんじゃなくて、今の憲法ということを踏まえなきゃだめでしょう。
 この憲法は、やっぱり武力行使と武力による威嚇というのを禁止しているわけです。そういう立場から見れば、国連軍であっても参加できないのではないかというのが一般的な議論ですよ、常識ですよ。かつて政府もそういうことを言ってきた。どうして今逃げなきゃならぬのですか。そして小沢調査会は、どこまで固まったかは知りませんが、このPKO法案を足場にして、いずれ国連軍とか多国籍軍、これを追求したいという方向づけをしているのであります。
 小沢さんを恐れているわけじゃないでしょうが、どうしてこういう重要な政治課題、憲法上の問題について、もうちょっと明確に答えられないんですか。日本の指導者がやっぱりそこはきちっと語ってしかるべきだ。それがないから、海部さんをもたもたしていると言って宮澤さんは海部さんの政治を批判しておったけれども、いろんな問題が発生したときに、世界的な動きが激しくなったときに対応ができないんじゃありませんか。定規がないから、きちっとしたこの解釈、考え方が固まっていないから、だからそのことを問うているのでありまして、総理にもう一回、国連軍の先ほどの問題について伺っておきたいと思います。

○国務大臣(宮澤喜一君) 国連軍というものは存在しませんし、特別協定というものもどういうものかわからないということをるる申し上げておるわけですが、どうでしょうか、それならばこういうふうにお答えすればいかがでしょうか。
 いわゆる海外派兵というものは、一般的に言えば、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣することというふうに考えますが、そういう海外派兵は我が国にとっては一般的に自衛のための必要最小限度を超えるものでありますので、憲法上許されないものと考えます。

○矢田部理君 さらにその言葉を続ければ、したがって国連軍といえども我が国は参加できませんということになりませんか。

○国務大臣(宮澤喜一君) ただいまお答え申し上げましたとおりであります。

○矢田部理君 どうもやっぱり気持ちの奥の方がかいま見られたような気がしてならないんです。つまり、国連軍に参加することを否定できないんですよ。従来の解釈の大きな変更になる可能性がある。これは非常に重要な問題ですから、ひとつ私は質問をこの点は留保しておきたいと思います。
 そこで、余り総論を長くやっていると本論に入る時間がなくなりますが、もう一つ聞いておきたいことは、私、本会議でも申し上げましたが、ちょうどことしはパールハーバー五十年、日中戦争六十年という非常に節目の年に当たりますけれども、どうも日本がアジアに進出をしたり国際協力をしたりするに当たっていつでも問題になりますが、戦後責任が基本的に果たされていない、明確なけじめがついていないということであります。この戦後責任について、総理及び外務大臣はどんなふうにお考えになっておりますか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) よくこれはパールハーバー五十周年ということでクローズアップをされて、大きな節目だと思います。私は、ちょうど開戦のときに中学五年生でありました。その当時は一方的な新聞しかもちろんありません。日本では勝った勝ったの大騒ぎでした。それから年を経て、結果を顧みて、いかに無謀な戦争をしかけてしまったか、まことに残念至極だと。そして、アメリカを含むアジアの諸国に大きな人的、物的損害を与えたことについては、これは深く反省をし、そういうようなことを二度と再び起こさないような決意で、そういうようないろんな新しい国際新秩序をつくるということについて我々は真剣に取り組んでいかなければならない、さように思っております。

○国務大臣(宮澤喜一君) ただいま外務大臣からお答えをしたとおりでございますけれども、我が国は、過去において我が国の行為がアジアあるいは太平洋を初めとする関係地域の人々に多大な苦痛と損害を与えてきたことを深く自覚しております。そして、二度とこのような不幸な歴史を繰り返さないことを決意しておる。そして、したがって戦後一貫して平和国家の道を歩み、国際社会の平和と繁栄に積極的に貢献すべく努力をしてまいりましたが、今後もそういう努力を続けるべきであると考えております。

○矢田部理君 戦後責任はもう果たし終えた、けじめがついているというお考えでしょうか、総理は。

○国務大臣(宮澤喜一君) 平和に対する貢献は永遠のものと考えております。

○矢田部理君 具体的に申しましょう。
 戦後責任の処理の中でどうしても大きくまだ残っておりますのが、先般の本会議でも申し上げましたが、強制連行です。百万を超える人、朝鮮や中国の人たちを戦争中に強制連行して強制労働に服させました。従軍慰安婦の問題もあります。この種の問題、非常に人道的な課題、人権上の問題でありますが、日本政府はいまだにこれにけじめ、決着はつけられていない。ドイツやアメリカでさえもというと失礼でありますが、アメリカもカナダも全部その補償に踏み切っているんです。これについて総理はどうお考えでしょうか。

○国務大臣(宮澤喜一君) いわゆる国家総動員法によって徴用を受けた人々、その中で韓国関連の方々については調査をするということで、そういう関連の方の、たしか九万人でございましたかと思いますが、調査をいたし、なお続けているところでございますが、法律的に申しますと、我々の先輩がサンフランシスコの講和条約を初め講和条約の結果として幾つかの国との間には賠償協定を結ばれました。また、その他いわゆる日中の国交正常化であるとか、日韓の共同声明であるとか、そういういろいろな方法におきまして、我が国の負っておりました賠償等々の法律上の処理は一応できておる。一つ朝鮮民主主義人民共和国との間の問題は残っておりますけれども、その他の国との間の法律的な処理は一応できておるというふうに考えております。

○矢田部理君 先般も本会議で答弁を伺いましたが、どうも総理は問題の本質をつかんでおられない。
 国家間の関係としては、日韓条約といいましょうか、一連の請求権協定などで一応けじめ、決着がついたというふうに制度的には言われております。そのことと、現に強制連行を受けた人々、直接の被害者と日本国政府、あるいは場合によっては日本の企業も含めてでありますが、との関係はいまだに清算をされていないというのがこの問題の基本なのであります。
 それをどう処理するかということで、例えばドイツはポーランドに対して基金制度を設ける、アメリカはブッシュ大統領が二万ドルずつ戦争中の日本人抑留者に支払う、こういう処理をして解決に進んでいるわけです、非常におくればせでありますが。そのことに日本政府もその事実や制度を認めて踏み込むべきではないかというのが私の主張なんですが、いかがでしょう。

○国務大臣(渡辺美智雄君) これは国際社会にいろいろな例があるかもしれません。また、個人的、人情的には同情するものも多々あるということも事実でしょう。しかし、我々としては、平和条約を結ぶ、そして国家間の正常化を図るという段階で個々のいろんな問題にそれぞれ政府が対応するということは、言うべくしてこれは非常に不可能に近い。そういうことであるので、一応賠償その他、請求ですか、あるいは賠償を払った国もありますが、そういう中で全部含まれているという解釈をとってきておるわけであります。

○矢田部理君 その解釈は間違っています。これも政府見解とも違う。
 国家間では、日韓交渉とか日中交渉もそうでありますが、なかなかそういう個別の被害者の積み上げで具体的積み上げをしてまとめるのは難しいということで、日韓などでは、つかみでまとまったお金を差し上げて一応国家レベルでは処理をした経緯があります。しかし、個人と国家との関係はそれで終わったわけではない。わかりますか。個人の請求権を国内法的な意味で消滅をさせたものではない。
 例えば日韓請求権協定。日韓両国が国家として持っている外交保護権を相互に放棄はしたけれども、個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではない。したがって、請求権が残っているというのが日本政府の立場なんです。それはお認めになりますか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) これは十分法律的な問題ですから、事務当局から説明させます。

○政府委員(柳井俊二君) 政府間で今までいろいろな取り決めをしておりますけれども、そのいわゆる請求権の放棄の意味するところは外交保護権の放棄であるという点につきましては、先生仰せのとおりであります。したがいまして、例えば韓国政府が韓国の国民の請求権につきまして政府として我が国政府に問題を持ち出すということはできない、こういうことでございます。
 ただ、個人の請求権が国内法的な意味で消滅していないということも仰せのとおりでございます。

○矢田部理君 渡辺さん、そういうことで個人の請求権は消滅していないんです。その個人から請求があったとき、現にあるわけですね。それぞれの国であるわけです。オランダでも、中国からも、あるいは朝鮮の人々にもこういう問題がずっと底流にある。底流だけではなくて、具体的にやっぱり行動として起きている。
 私は、なぜこのことを言うかというと、やっぱりこれから日本が国際協力を本格的にやるためには、もう一度半世紀近くもたった今日いまだに解決をされていない諸課題についてきちっとけじめをつけて、そこから国際貢献だとか協力だとかをするべきだという立場から申し上げているのでありまして、そういう請求権が残っている以上、それを政治的に解決する。アメリカもドイツもみんな最近になって、最近ここずっとやってきているんです。(「抑留者」と呼ぶ者あり)抑留者も請求したらいいです。
 こういうことを処理していくことが、ただ謝罪とか気持ちとかというだけでなくてもっと実質的に大事だということを申し上げて、この宮澤内閣、渡辺外務大臣、ぜひこれは踏み切ってほしいと思うんですが、いかがでしょうか。少なくとも重要な検討課題にのせる、渡辺外交の重要なポイントにするというふうにしたらどうでしょうか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) これは国際法上その他国益にも関する問題でもあります。一応政府間の条約を結んで、政府間では要求がないということになれば、他国の国民に随分被害を与えていますから、日本は中国であろうと何であろうと、今度はそういうような個人の請求を日本政府がじゃ全部受けて立つのかと、莫大な国民の負担になってくるわけであります。
 したがって、そういうこととの絡みもございますので、ソ連抑留者等についても、それは勝手に向こうが抑留したんだから、こちらからは、その抑留者はソ連政府に向かって請求をするかということの理屈もあるんでしょう。しかしながら、これはまだ条約をつくってありませんからどういうふうになっていくかわかりませんが、我々は国内の問題については、それはできるだけ抑留者とかなんかに対してお気の毒だということで、何らかの慰労の措置は講じております。しかし、同じ国内でも戦災者もあれば爆撃によって死んだ人もあるし、そういう人に対して国は一々補償も見舞いも出してないんですよ、現実は。
 戦争というのは、そういうようなことでまことに嘆かわしいことでありますが、どこまで広げていくのか、どこでとめられるのか、そういうようなものも含めまして、これは今までの慣例、国益、国の負担、総合的に考えなければならない問題ではないかと思います。

○矢田部理君 総合的に考えるのはいいんですが、渡辺さんね、みんなどこの国も頭を痛めているんですよ。一人一人に払うのはいかがかという国もある。しかし、アメリカのように一人二万ドルずつ払った国もある。それから、ポーランドについては基金というのを設けて、この基金の運用で処理できないかということで基金で処理をした国もある。それから、年金制度の適用をもう少し拡大する方向で処理ができないかと考えたドイツの国内の法律など、補償法があるわけです。そこをやっぱり検討をしてみる、一回これは自分でやってみる、難しいことは私ども承知していますよ、ということで踏み込めませんかと聞いている。

○国務大臣(渡辺美智雄君) この問題は、もうかねていろいろ議論が出たことでありますから、ある程度の検討の結果は出ているんじゃないかと思うので、事務当局、ちょっと答えてください。

○政府委員(柳井俊二君) 条約上の処理につきましては、先ほど申し上げたとおりでございますが、ただ我が国が賠償あるいは請求権の処理に関連して支払いましたものを相手側でどのように国民に分配するかということは、それぞれ韓国なりあるいはその他の条約の相手国の国内的な処理に任されたわけでございます。
 したがいまして、我が国との関係で政府間でいわゆる請求権の放棄をやったと申しましても、一切処理をしなかったということではございませんで、例えば韓国の場合では無償三億ドル、有償二億ドルだったと記憶しておりますけれども、これを請求権、経済協力という形で支払った、そして恐らくその一部が関係の個人にも韓国側で支払われたというふうに記憶しております。また、ほかの国につきましてもそのような関係だったわけでございます。
 しからば、そういうような処理をした上で、なおかつ日本の占領中あるいは戦争中に大変に苦労をされた方々がおられるわけでございますから、その方々の個人個人に対して政策的にどのような補償をすべきかどうか、そういう点につきましてはちょっと私の所管ではございませんので、その点は差し控えさせていただきたいと思いますが、法律的な関係あるいは条約上の関係につきましては以上申し上げたとおりでございます。

○矢田部理君 事務の人が説明する問題じゃないんですよ。説明はともかくとして、やっぱり政治的に問題を受けとめて処理をする姿勢を明確にすべきだ。
 労働省が今、朝鮮の人たちの名簿を集めているでしょう。この集まりぐあい、集めた結果これからどう処理するのか。労働省、どうですか。

○国務大臣(近藤鉄雄君) お答えをいたします。
 労働省におきましては、今御指摘の朝鮮人徴用者名簿の調査につきましては、昨年五月二十五日の日韓外相会議の際に、韓国側からいわゆる朝鮮人徴用者等の名簿の入手について協力要請がございました。これを受けまして日本政府としては、労働省を中心に、労働省本省、都道府県、公共職業安定所、関係する部局等について調査をいたしまして、現在九万人分の名簿を確認してございますが、これを保有者の了解を得て韓国政府に提出したところでございます。

○矢田部理君 そんなことはわかっているんです。これから先、集めるためにどうするのか、集めた名簿をただ向こうに渡すだけで終わりなのか。そうじゃないんでしょう。これについてお金を出すかどうかというのもまたいろいろあるんですよ。日本に強制連行されたまま戻ってこない、生死すら明らかにならないからお葬式も出せない、日本で埋まっているお骨を一体どういうふうにするかとか等々も含めて、全体的な補償というか広い意味での補償というか、そういう問題にやっぱり積極的に取り組んでいく、そしてまた、具体的な補償の問題も検討していくという姿勢こそが必要なんですが、最後に総理に、まとめてどうでしょうか、この問題についての扱いは。

○国務大臣(宮澤喜一君) 矢田部委員も御承知のように、戦後長いことかかりまして、そういう各国との間の法的な処理を実はいたしたところでございます。
 先ほど外務大臣も言われましたように、これは国内にもいろんな問題がございますので、そういうことをやはり総合的に考えませんとなかなか難しい問題があるんじゃないかと思います。

○矢田部理君 難しい問題だという認識の上に言うんですよ。難しい問題だというお答えをいただいても問いと答えにならないのでありまして、一度やっぱり検討してみる、宮澤内閣でこれから国際政治をやるに当たって重要な一つのテーマとして検討に入る、相談をしてみるというぐらいの答弁はできませんか。

○国務大臣(宮澤喜一君) 先ほど労働大臣からお答えがございましたように、被徴用者についてはその事実関係を調査いたしまして名簿をつくりつつあるというふうな、そういう努力はいろいろにいたしております。

○国務大臣(渡辺美智雄君) これは人道的立場とか、そういうようなところから見れば大きな問題があることは事実なんですよ。事実なんだけれども、やはり補償とかそういう問題になってきますと、すなわちイコール国民の税負担という話に直接結びつくわけですから、そうなりますと、現にインドネシアでも、日本軍に採用されて何年か使われておった、二年か三年か知りませんが、そういう人たちが、月給ももらえないで軍票をもらったら軍票がただになっちゃったとか、中国なんかでもたくさんあるわけですよ、実際は。だからそういうような、中国などは賠償まで放棄してくれているという中になりますと、これはそこまで取り上げていけば、人道上は理想的かもしらぬが、なかなかこれはもう収拾のつかないような大きな問題になってくるということで、やはり政府間で取り決めれば、その政府の中で処理してもらいたいと。
 したがって、インドネシアなどは大使館に押しかけてくるんですが、これはもう解決済みですということで、実際個人的に言えば気の毒だと思うのがありますが、日本の全体の国益も考えなきゃならない。国民がそいつを認めて、それは、税はうんと多くなってもいいと、国際貢献だから洗いざらい拾って、そういうものは個人的にみんなやったらいいという気なら別ですよ。
 しかし、そこは政府としてはまことにお気の毒ではあるけれども、どこかで線を引かざるを得ないというのが実際の、現況の苦しんでいる、苦悩の姿だということも御理解をいただきたいんです。

○矢田部理君 個々の話よりも、早く法案に入りたいんですが、どこの国も苦しんでいるんですよ。どこの国もやっていないわけじゃなくて、現にやっているんです。そして、請求権という個人の権利は依然として消滅をしておりませんという政府の答弁にもずっとなっているわけでしょう。
 そうだとすれば、大変だとか税負担が容易でないとかと言うだけでは説明にならないわけです。経済大国だとかそれに見合った国際貢献だとか、そういうことを言う以上、その原点とも言うべきことについて、きちっとした清算をする。難しいけれども一定のけじめをつけるということをしないと、いつまでも、例えばアジアの政府レベルが今度この問題についてどう反応しているかというのは後でやりますけれども、民衆レベルは物すごい不信感を持っていますよ。大変な懸念を表明しておりますよ、このPKOに基づく自衛隊派遣。その底流には、やっぱりそういう問題のけじめ、決着がついていない、そこにあることが大事なんです。
 総理、もう一回、難しい、回答できませんということじゃなくて、考えてみるぐらいのことは言えませんか。考えの一つにもなりませんか。

○国務大臣(宮澤喜一君) 御指摘になっていらっしゃいますことはよくわかっておるわけでございますけれども、そういうことの中で我々がいろいろ御迷惑をかけた、それもそのとおりでありますから、いろいろな条約あるいは法的な処理、賠償請求権等々で相手の国と苦労しながらここまでやってきたわけでございます。
 これでもう何もかも一切罪障は消滅いたしましたなんという考え方をしているわけではありませんで、済まないことをしたということはわかっておるわけでございますけれども、先ほどから外務大臣もるる言っておられますように、そういう問題を全面的に取り上げましたら、これは日本国民の税負担にもなりかねないことでございますから、ある意味で国と国との話し合いがついたところでひとつ了解をしてもらえないかというのが気持ちでございます。

○矢田部理君 そういう了解はしないということからこの問題が発生しているのでありまして、自衛隊の海外出動などを考えるなら、それより先にやるべきことがあるじゃないかというのがアジアの声なのであります。したがって、この点の質問も少し留保をしておきたいと思っております。
 そこで、問題の今度の法律でありますが、先ほどから指摘をしておりますように、初めに自衛隊ありきなんです。PKO総体ではなくて、野田さんからも指摘がありましたように、PKFなのであります。人道的な支援活動、文民分野にまで自衛隊が公然と乗り出していくという、文字どおりの自衛隊派遣法であります。
 これは憲法九条に違反することはもとよりでありますが、従来政府がとってきた態度、これにも明確に反します。自衛隊をつくったときの任務規定として自衛隊法三条がありますが、自衛隊の主たる任務は我が国を防衛することにあると。海外に展開することは一切しないと。(発言する者多し)

○委員長(後藤正夫君) 静粛にお願いいたします。

○矢田部理君 ちょっととめてください。私質問……(発言する者多し)

○委員長(後藤正夫君) 静粛にお願いいたします。御静粛に願います。
 矢田部君、質問があれば続けてください。

○矢田部理君 これだけ騒然としているんですから。

○委員長(後藤正夫君) 静粛に願います。

○矢田部理君 ということから、自衛隊そのものがもう大変な問題点をこのPKO法案については持っているわけでありますが、どうですか、これは従来の政府方針と違いませんか。武装部隊が出ていく、自衛隊が部隊として海外に展開をする、しかもPKF、平和維持軍は武力の行使を否定していないのであります。
 だから、宮澤総理も以前、総理・総裁になる前のころには、どうもやっぱり武力行使のおそれがある、これにかかわる可能性が強いと、そう言っていたじゃありませんか。法制局長官だってそう答えておった。ところが、今度は小ざかしい理屈をつけて、若干の前提条件を置いて、それなら大丈夫だと。本質が変わるわけじゃないのでありまして、その点、総理から答弁を求めます。

○国務大臣(宮澤喜一君) 先ほども申し上げましたように、国連の平和維持活動の基本は、非強制であり申立てあり、いわば力を用いずに国連の権威と説得により平和を確立するということでございますので、そういうふうに私は考えておりません。

○矢田部理君 平和維持ですから、平和を求める目的で行くことは私もわかりますよ。しかし、現場はいろんな条件、五条件とか何かありますが、随分いろんな紛争やトラブルが起こっているわけですね。武装部隊の出動もあるわけです。多くの犠牲者、七百人を超える犠牲者も出ております。そして国連は、後で議論しますけれども、単なる正当防衛的な武器の使用、武力の行使だけではなくて、自衛のためにその幅も少しく広げて武力の行使が可能だと言っている。
 ということになりますと、武力の行使を伴うようなことは間々多い。その可能性を秘めた平和維持軍には参加が難しいと言っておったのが従来の政府の見解たつ。たんでしょう。なぜ変わるんですか。どうして変えなきゃならぬのですか。やっぱり自衛隊が大きく羽ばたこう、海外に出かけていこうということがもともとの発想の基本にあるからじゃありませんか。どうやったら出かけていけるか、どうやったら憲法を小細工してうまくかいくぐれるかと、そういうことを中心に考えたのがこの法律じゃありませんか。(「牽強付会だ」と呼ぶ者あり)言葉をわかっているの、あんた、牽強付会って。
 今のような宮澤さんの説明は全然説得力ありませんよ。法制局長官、どうですか、今度お聞きしましょう。

○政府委員(工藤敦夫君) お答えいたします。
 従来、政府の平和維持隊的なものにつきましての見解といたしまして、昭和五十五年の稲葉議員に対する答弁書がございます。
 稲葉議員に対する答弁書におきまして、いわゆる平和維持活動のために編成されたものについて、個々の事例によりその目的・任務が異なるので、それへの参加の可否を一律に論ずることはできないけれども、その目的・任務が武力行使を伴うものであれば、自衛隊がこれに参加することは許されない、かようにお答えしているところでございます。
 この政府見解の趣旨でございますけれども、平和維持軍――当時、平和維持軍と言っておりましたが、平和維持隊の目的・任務が武力行使を伴うような場合には、通常これに参加した我が国自身が武力行使をすることが予想される、あるいは仮に我が国自身が武力の行使をしなくても、他の参加国が武力行使をすることによって我が国としても参加を通じましてそれと一体化すると評価される、したがって、みずから武力行使を行うと同じような評価を受けるおそれがある、かようなことから申し上げていたところでございます。
 それで、ただいま委員の御質問でございますが、私どもといたしましては、そのような評価を受けない姿、こういうことを考えてまいりますと、まずみずから武力を行使しない、あるいは他の平和維持隊の行動と一体化することによって武力行使という評価を受けない、こういうことが中心の問題になるわけでございます。
 したがいまして、今回の、今委員もおっしゃいましたいわゆる五原則、こういうものによりまして、紛争が起これは当然の、まず三つの前提を置きました。もう繰り返しませんが、同意、合意、中立、こういう三つの条件を置き、さらにそれが崩れるようなときにはそういう平和維持活動はやめる、撤収するということでございますし、さらに武力につきましては、今自衛と、あるいは多少範囲が広がってというふうな御指摘がございましたが、我が国の要員の生命、身体の防護、武器の使用はそういうものに限る、こういう前提を置きましたわけでございますから、そういう意味におきまして先ほどのような御懸念は解消するもの、こういうふうに考えたわけでございます。

○矢田部理君 そうしますと、もともとの、あるいは現に行われているPKFに条件抜きで参加をするということは憲法上問題がある、憲法の規定に抵触をするという考え方にまず立つのでしょうか。

○政府委員(工藤敦夫君) お答えいたします。
 憲法上違反するのかという御質問ですが、憲法上問題になりますのは武力の行使、こういうことでございますから、武力の行使に当たるようなことをすればもちろん問題でございます。
 したがいまして、武力の行使に当たる当たらない、それは一般的な形で申し上げるよりは、むしろ具体的にこういう条件を設定すればならない、あるいはこういうふうなおそれがあればそれはむしろ差し控えるというのが態度だろうと思います。

○矢田部理君 国連の関係文書によれば、日本の言う武器の使用を超えて自衛のためなら武力の行使ができる。そして自衛というのは、後でこれは詳細な議論をしますけれども、みずからを守るだけではなくて任務遂行を実力で妨害されたような場合にこれを排除することも含むと広くとるべきだ、こういう制度のもとで武力行使が行われる、容認をされておるということですが、これを前提とした場合に日本の憲法とのかかわりはどう考えますか。

○政府委員(工藤敦夫君) ただいま申し上げましたように、武力の行使が問題になるわけでございます。そういう意味で、今おっしゃられました任務の達成を実力をもって阻止するような企て、これに対して武器の使用をするというこれがすべて武力の行使に当たるとは私どもの方も思っておりません。いろんな形態があり得るだろうと思います。
 そういう中で、場合によってはそういうおそれもあるかなというふうなことが出てまいりました場合、それはやはり問題となり得ることでございますから、そういう部分について差し控える、むしろ謙抑的にかなり大幅に差し控えているというのが私どもの考え方でございます。

○矢田部理君 一つ一つの条件がいかにまやかしであるかということは後でまた逐一やりますけれども、もう一つやっぱり聞いておきたいのは、まさかのときに自分の命や近くにいる同僚の生命、身体を守るためには武器の使用ができるが、ばらばらにしかできない。それを指揮したり部隊としてやったり組織的にやったりすることはだめだと。そういう後段の組織としてやったり部隊としてやったりすると、これは憲法上問題があるという考え方でしょうか。

○政府委員(工藤敦夫君) 法案の二十四条におきましては、もう委員御承知のとおり、二十四条の三項だけあえて申し上げれば、「自衛官は」と、こういう形で書いてございます。そういう意味で、自衛官の武器使用という形で構成してあります。
 それで、今のお尋ねでございますが、集団的に行えばもうそれだけで問題か、こうおっしゃられますが、それは形態いかんによるわけでございまして、常にそれが集団になったから、例えば生命、身体を防衛するためにやむを得ない必要がある、そういうふうなとき集団であったから直ちに問題である、かようなことにはならないかと存じます。

○矢田部理君 部隊として行くわけでしょう。そうすると、部隊として武器を使用する、それは部隊の人たちの生命、身体を守るためであってもこれはいいんですか。端的に答えてください。

○政府委員(工藤敦夫君) 憲法の九条におきましては武力の行使が禁止されているわけでございます。一方、法案の二十四条におきましては武器の使用を考えておりまして、その武器の使用をこういう形で構成しているわけでございます。
 したがって、以前に出しました「武器の使用と武力の行使の関係」におきましても、武力の行使という概念、それに当たればもちろん問題でございます。そういう意味で私は、個々の実態に応じて判断すべき部分があるだろう、こういうふうに申し上げたわけでございます。

○矢田部理君 ですから私は、個々の事例じゃなくて、一々現場に行った自衛官が個々の事例を見て、これは憲法違反か違反でないかなどと考えているいとまはないんですよ。基準を示さなきゃならぬのでしょう。一人一人が鉄砲を撃ったり、身体を守るためにやることは――これは後で議論しますよ、これは前段の議論ですから。いいが、指揮をされちゃいかぬ、指揮しちゃならぬ。個々ばらばらにやりなさいと言うんでしょう。それを組織的にやったり部隊としてやったりすることはまずいからそう言うんでしょう。そうじゃないですか。

○政府委員(工藤敦夫君) これは、武力の行使につきまして、我が国の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為をいう、かようにかって申し上げたところでございます。そういう意味で、これに当たるようなことであればもちろん問題でございます。
 したがいまして、それに当たるようなケースにならないように、先ほどの武器の使用を正当防衛に限るというふうなことを申し上げたのも、それを大幅に下げました点で謙抑的に構成した、こういうふうなことでございます。

○矢田部理君 全然だめですよ、こんな答えでは。
 一緒に行った隊の司令官か責任者が、危なくなったから撃てと言ってはいかぬのでしょう。つまり、指揮命令権を行使してはならぬのでしょう。そういう指揮命令を行使するのは、憲法上問題があるから指揮命令を行使してはならぬと言っているんでしょう。その点はどうですか。

○政府委員(工藤敦夫君) 私が先ほどから申し上げておりますのは、指揮命令をした、撃てと言った場合にはすべて問題かということでございますから、決してすべて問題であるというふうに申し上げているわけではない、こういうことでございます。

○矢田部理君 そうすると、撃てと指揮命令をしてもよろしいということですか。

○委員長(後藤正夫君) 静粛に願います。

○政府委員(工藤敦夫君) そこは、全く仮定の問題を申し上げるのはいかがかと思いますが、例えば相手方によりましては、山賊、匪賊のたぐいのときに何かありましても、それは指揮したからといって決して問題になるわけではないだろうと思うんです。武力の行使になるわけではないだろうと思います。
 ただ、相手がどんな人であるかわからないという状態におきましては、相手を見きわめて、使う使わない、指揮をするしないというふうなことはとてもできません。そういう意味で、謙抑的に下がって、むしろ自衛官の生命、身体の防護というところで線を引いた、こういうことでございます。

○矢田部理君 全然違いますよ、それは。個々ばらばらにしか対応できない、指揮や命令をしてはならぬと言っていたのでしょう、今まで衆議院の説明は。せいぜい消極的に束ねるという程度であると。今度は、指揮命令もいいわけですね、山賊、匪賊なんという言い方は失礼な話だけれども。武装部隊が攻撃をかけてきたとか侵入してきた場合に、これに部隊として対応する、場合によっては鉄砲を撃つ、これはいいんですか。

○政府委員(工藤敦夫君) 後ほど防衛庁長官からもお答えがあると存じますが、いわゆる憲法上の禁止されているものの理念の話と、それから法案二十四条で構成されておりますいわゆる構成要件と申しますか、そういう構成の話と、この二つをぜひ御理解いただきたいと思うんです。
 私が申し上げましたのは、武力行使に当たるようなこと、これは違憲になる。したがいまして、そういうことは法案上およそ組み込めないわけでございます。そういうことを考えました上で、二十四条で個々に自衛官が行う、そういう意味でこの規定上個々の、個々のといいますか、自衛官がこういうことで使用することができるというふうに構成した。したがって、この二十四条の三項におきます話と、先ほどの憲法上の理念の話、この二つはぜひ御理解いただきたいと思います。

○矢田部理君 何を言っているのですかね。じゃ、こう聞きましょう。
 これは後の本格的な議論に残したいと思っておったんですが、国連の諸規則、諸方針は、任務遂行か実力で妨害された場合には、それを武力で反撃することもいいと言っていることは認めますね。その武力で反撃した行為は、日本の憲法からは許されない、こういう立場に立ちますか。

○政府委員(工藤敦夫君) お答えいたします。
 任務を実力をもって妨害する企てに対して実力で対抗する、こういうお尋ねでございます。それでは、それが全部武力の行使になって全部憲法違反か、こういうことには必ずしもならないだろうと思います。そういうことでございます。

○矢田部理君 全部なるか全部ならないかを聞いているのではなくて、基本はなるかならないかを聞いているんですよ。そんな、全部なるとかならないとか。もう一回答えなさい。

○政府委員(工藤敦夫君) 先ほども申し上げました繰り返しになりますが、まず第一に、平和維持隊というのは中立あるいは非強制、こういうふうなことでございます。そういうふうな段階におきまして今のような形のものがあり得る。あり得た場合に、それじゃ全く武力の行使に当たることはないのかとおっしゃられれば、あるいはあるかもしれない。とすれば、そういう意味で、そこの部分を押さえるということは、事実そう考えるべきことではなかろうかと存じます。

○委員長(後藤正夫君) 委員の皆様、静粛にしていただくようにお願いをいたします。

○矢田部理君 議論というのは、全部ないとか、ないとは言えないとか、あるいは一部あるかもしらぬという議論ではなくて、中心はやはりそこの制度としてはそういう制度になるわけだから、その制度を憲法上容認するかしないかということを議論として立てなければ、あなたこそ、まともな議論にならないんだな。少しずつ外して逃げまくる議論なんだ。いずれにしても、ここは後で本格的にやりますから。
 そこで、今度のPKO法案というのは、自衛隊を全面的に出そうと。ガラス細工と言いましたが、非常に無理な議論をこねて、幾つかの前提を置いて、その前提どおり進めば憲法違反にならないと。現場的に言えば極めてはかばかしい法律論を立てている。そして、これから先は細かい議論になりますから後にしますが、今までの自衛隊法だって、そんなことは言わなかった。国の防衛のためにつくろうと言った自衛隊。外には絶対に出さないと言ってきたんです。宮澤さんも、総裁選の最中でしたか、大分前でしたか、PKOでどうしても自衛隊を出すというのであれば、やはり法律の改正が必要だ、自衛隊の基本的な任務規定である三条の改正が必要だと言っていたのじゃありませんか。その点はどうでしょうか。

○国務大臣(宮澤喜一君) その最後のところだけ違いまして、法律を改正することが必要だということは申しました。

○矢田部理君 やっぱりそういう頭ですか。確かに今度の法律も百条改正の方でやっているんですね。自衛隊の基本的な任務というのは、さっき申しましたとおりですが、私どもは反対ですが、どうしても自衛隊に本格的な新しい任務を付与するということであるならば、やっぱり三条に真っ正面に取り組むべきではありませんか。百条の規定の延長線上で、南極に行くとか運動会に出かけていくとかいう線上の問題ではないのじゃありませんか。
 戦後、一貫してとってきた自衛隊の海外派兵に反対する立場を大きく変更して、いろんな名目は立てたり条件はつけたりしますが、初めて本格的にこれから自衛隊を海外に出していこう、場合によっては、その先に国連軍があったり多国籍軍が位置づけられるかもしらぬと、大きな安全保障政策や外交政策の転換点に立っているわけです。それをこそくなといいますか、百条以下の法律で扱うなどという性質のものではないのじゃありませんか。雑則ですよ。三条の任務規定、これは基本的な任務規定です。自衛隊にそういう基本的な任務を与えるのと違うんですか、これは。
 なぜそうなったかというと、これは一つ私の推測も交えて言えば、基本的な任務規定にかかわる防衛出動であるとか治安出動については国会承認が必要なんです。どうしても三条の規定の改正に持っていくと、国会承認の方に連動するかもしらぬ。恐れて百条以下の雑則で決めたのじゃありませんか。明白に三条に違反する、自衛隊の基本的な任務、方針に違反する内容なんです、これは。どう思いますか。

○国務大臣(宮下創平君) 自衛隊の本来の任務は、三条に直接侵略、間接侵略、公共の秩序維持ということで決められているのは今御指摘のとおりでございます。しかしながら、今回お願いしております法案におきましては、百条の七ということで自衛隊の任務として規定してございます。
 なるほど、八章でございますから雑則ということでもございましょう。しかし、これは任務として与えられておりますから、自衛隊法上の任務が与えられたわけで、これを我々は厳粛な任務として受けとめてこれを遂行していくわけでございますが、どこに違いがあるかと申しますと、この防衛出動あるいは治安出動等は我が国に対して重大な影響のある問題でございますし、国民の権利義務にも大変影響のあることでございまして、我が国としては、これはもう選択の余地はないわけですね。出動する、そして我が国の自由と安全と平和を守るということです。
 今回のPKOにつきましては、これは国連の要請に基づきまして、しかも国連の決議その他手続を経た上で、なおかつ我が国が自主的に判断をして、そして我が国の法律に基づく五条件その他厳格な規制がございますが、この要件に合致する場合にのみ我が国がこれに支援をいたすわけでございまして、この点は本来の三条にいう任務と異なると存じます。しかし、自衛隊の正確な任務であることは間違いありません。

○矢田部理君 説明に説得性がないんですよ。自衛隊が海外に出るというのはそう軽いものじゃないんですよ。
 防衛出動だとか治安出動も大変ですよ。それは日本国民も大変でありますが、自衛隊がアジア諸国に出かけていくということになれば、アジアの民衆やその地域の人たちにとっても、かねての戦争のこともある、それから環境や人権や暮らしのこともある。大変な受けとめ方で、その人たちの人権は軽視されてもいいというものじゃないんです。そう軽く、そういうものは日本人の人権に、三条は大変だからやるけれども、百条以下は人権は適当でいいんだという位置づけそのものがやっぱり問題なんだ。自衛隊だって行くとすれば、これは平和活動のために行くんだと言いますが、紛争地帯に行くわけですから、随分多くの人たちが血を流しています。七百人の人たちが死んでいます。物すごい不安定なところ、レバノンを見ましても、コンゴはもとよりでありますけれども、そう簡単に軽く物を考えるべき性質のものじゃないと私は思っているんです。
 そこでもう一つ、私は参議院の決議との関係を申し上げなければなりません。
 自衛隊法ができました。そして、今の自衛隊法の三条という任務規定を置きました。自衛隊法には相当な反対があった。反対はありましたが――宮澤さんもそのときおられた。自衛隊法ができた以上、反対派も賛成派もこぞって決めたのは、自衛隊を海外に出すことだけはやめましょう、この日本の国土を守る、日本を守るということだけにきっちり枠をはめましょう、そののりを越えることをしないという誓いをしたのが実はこの参議院決議なんです。自衛隊法の三条の任務規定とこの決議は一対のものとして、その後の日本の平和政策なり安全保障政策をあるいは自衛隊政策を仕切ってきたんです。この決議はその意味でやはり重いんです。この重さについて、当時宮澤総理も参議院におられて参画をしたわけでありますが、どんなふうに受けとめておられますか。

○国務大臣(宮澤喜一君) 昭和二十九年の本院における決議のお話でございますけれども、私どもは海外派兵というのは、先ほども申し上げましたけれども、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣することというふうに考えております。
 そのような意味で、昭和二十九年の本院の御決議がそういうことを排除されたものではないと私どもは考えておるところでございますけれども、もとより、本来この御決議をなされました本院の有権的な御解釈によるものでございます。私どもは実はそう考えております。

○矢田部理君 この決議は、今の宮澤さんのような弁解も一般的には予測して言っているんです。なかなかすばらしい文章といいますか、中身なんです。さわりだけあれしてみますと、「我が国が再び、戦前のごとき武装国家となる危険」、それから「自衛隊出発の初めに当り、その内容と使途を慎重に検討して」おかなければならない。したがって、そういう立場からいえば、「我が国土を守るという具体的な場合に限る」、国土を守ることに限るということをはっきりここでさせよう、自衛隊法についてですね。そして、特に宮澤さんの答弁との兼ね合いで言えば、憲法が拡張解釈されることは危険だ、いろんな名目をつけて海外に出かけていきたがる、その危険を一掃するために、一切海外に出動しないというのを国民の総意として決めようではないか、こういう誓いをしたのが実はこの決議なんです。
 ですから、ずっと長い文章ですからいろいろありますが、昔は、自衛のためといったとか、アジアの共栄とか平和のために出かけていった。そういう名目をつけることはやめさせよう、抑えよう。平和維持だって、武力との関係で決して武力が否定されていないんです。だからこそいろんな小細工をしなきゃならぬ、条件をつけなければならぬことになったのでありまして、そのことを考えますと、当時この決議に参画をされた宮澤さん、あなた心が痛みませんか。この決議をもう一回読んで、その深い意味のあるところを考えてみませんか。この決議に真正面から衝突をするような、この決議を全面的に否定するような海外展開法、これが今度のPKO法案ですよ。もう一度答弁を求めます。

○国務大臣(宮澤喜一君) あの御決議の背景は、私思いますのに、いわゆる憲法九条で軍事大国にならない、戦争というものは過去において、矢田部委員も今おっしゃいましたが、正義のためであるとかいろんな美名のもとに戦争というものはなされてきたのだが、そういうことはもう二度と繰り返してはならない、こういう御趣旨でああいう御決議があったのであろうと、私は当時を回想して考えております。
 したがいまして、いわゆる戦争をするためにもとより国連の平和維持活動に協力するわけではございませんので、そういうことを排除するという御意図の決議ではなかったのだろうと私は考えておりますけれども、これは本院の有権的な御解釈にゆだねなければならないところであるとは存じています。

○矢田部理君 このPKO法案に対するアジアの反応もやはりしかと受けとめてほしいと思うんです。中国は、いろんな説得や説明に行っても断じてイエスと言いません。韓国それから朝鮮民主主義人民共和国もそうでありますが、非常に強い反対を示しております。フィリピンでは、ここに御紹介をいたしますが、一昨日上院に、このPKO法案に批判をし、自衛隊の海外展開に重大な懸念、憂慮を表明するという決議案が上程をされました。これはいずれ可決をされる見込みです。シンガポールも同様です。
 私は、ここにフィリピン国会第五回通常国会で上院に出された決議の写しを持っておりますけれども、それは政府レベルのものだけではないんです。どちらかというと、政府レベルは日本からODAなどで経済援助をもらったり協力を受けたりしているものですから本心を言わない。遠慮がちに物を言っている。民衆レベルではもっともっと強い怒りや不安の声があります。それが底流にずっとあるんです。こういうアジアの人々の批判や不安や憂慮や懸念に対してどうお考えですか。

○国務大臣(宮澤喜一君) それは、殊に中国、韓国は我が国の過去の行動から被害を受けておられますから、我が国がこの際、国連の平和活動に協力しようというその意図そのものをいかぬというのではない、それはそれでよくわかることであるから、どうぞいろいろなこともあるので気をつけてしてほしい、こういう気持ちはしばしば寄せられておりまして、それは私どももこの法律が成りました際、これを施行いたします、実行いたしますときには十分心してしなければならないことと思っております。

○矢田部理君 上院に出された決議の内容は、上院議会は、日本の国会で現在審議されている国連平和維持活動協力法案がアジア・太平洋地域を平和、自由、中立地帯にしたいというASEAN諸国民の努力に反しているとの意見を表明するということを中身とするものでありますが、この立場から、この願望に沿って我々は憂慮の意思を表明する、こう結んであります。
 どうも大使館筋が動いて、何とか賛成してくれ、反対しないでくれと回っているそうでありますが、にもかかわらず上院がこういう決議をしようとして既に正式に提案をされているということはやはり重く見るべきだと思うんです。どんな条件があるとか、こういう原則があるとかいう説明では説明し切れない内容になっているということを心すべきだと思うんです。その点で、参議院の決議の意味も勝手に解釈をして、この決議とは関係がない、大丈夫だという扱いは私は賛成できません。院としても、この決議の持つ重みをきちっと位置づけなければならぬと考えております。従来からこの決議の問題は問題に供されてきましたが、これほど真っ正面からこの参議院決議に衝突をする法案は初めてであります。
 その点で、委員長、院としてもこの扱いをきちっと考えていただきたい。参議院としてもこれを黙って見過ごすわけにはまいらぬというふうに考えております。いかがでしょうか。

○委員長(後藤正夫君) ただいまの御発言については、理事会において協議をすることにいたします。

○矢田部理君 この扱いと今の委員長の発言については、午後、もう少し考えた上で、私から申し上げたいと思います。

○委員長(後藤正夫君) 午前の質疑はこの程度とし、午後一時まで休憩いたします。
   午前十一時五十四分休憩
     ―――――・―――――
   午後一時二分開会

○委員長(後藤正夫君) ただいまから国際平和協力等に関する特別委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き、三案について質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言を願います。

○矢田部理君 私は、午前中の最後の質疑で、今回出した政府のPKO法案は自衛隊の本格的な海外出動を求めるもので、かつて一九五四年に本院が決議をした「自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議」に反するものだと、本院にとってもこの問題は重大な問題なので、このまま結構ですと言うわけにはまいらぬということを申し上げましたところ、委員長から、理事会でその扱いについては協議をしますというお話がございました。その後、理事会等々はどういうふうに運ばれるつもりか、まず委員長に見解を伺いたいと思います。

○委員長(後藤正夫君) 本日の議事を終了した後に行うということにいたしたいと思います。

○矢田部理君 午前中の最後に私は申し上げたのでありますから、私の質問が終わってから扱いを決めますなどということでは了解できません。

○委員長(後藤正夫君) 速記をとめて。
   〔午後一時四分速記中止〕
   〔午後一時十八分速記開始〕

○委員長(後藤正夫君) 速記を起こしてください。
 この件につきましては、理事会で後刻協議することとし、明日の委員会において質問ができるよう理事会で設定をいたします。
 質疑を続けます。

○矢田部理君 今度の法案で非常に大きな問題になっておりますのは、午前中も一部議論をしましたが、武力の行使にかからしめることになるかどうかということが重要なポイントの一つであります。日本の政府は、武力の行使はだめでも武器の使用ならよろしい、妙な言葉の発明をしましてこの法案の説明に当たっておりますが、この問題を本格的に議論していきたいと思います。
 そこで、日本国憲法は当然のことながら武力の行使と武力による威嚇を禁じておりますが、国連の諸文書はこの点、平和維持軍についてどんな規定をしているか。衆議院でも問題になっておりますPKOのための標準運用ガイドライン、略してSOPということで議論されておりますが、などを含めてちょっと御説明をいただきたい。

○政府委員(丹波實君) 先生にお答え申し上げます。
 まさに先生が御引用になられました過去のSOPあるいは標準SOP、あるいは先生も御承知と思いますが、かつてのウ・タント事務総長がキプロスの平和維持隊について書きましたエードメモワール、そういった全体を総合いたしまして簡単に申し上げますと、PKFに参加いたします各国の部隊は武器を携行することができる。ただ、この武器はセルフディフェンス、自衛のためのみに使用が許される。その自衛とは次の二つを含むというのが大まかに申し上げた書き方でございまして、A、Bと分けて考えますと、A、要員の生命を防護するため。B、PKFの任務が実力により阻止された場合これに抵抗するため。このようなときに武器の使用が許されるというのが過去のいろんな文書及び慣行上の規定、規定と申しますか、そういう体系になってございます。

○矢田部理君 今、二つの類型を示されました。そのうち、日本の自衛隊がPKO法案で出動して、こちらは可能だがこちらはだめというような基準を示していただきたい。特に、任務遂行を力で妨げる試みに対する抵抗を含むというふうになっておるわけでありますが、四つばかり例示をされておりまして、直接攻撃に対する自衛、国連要員の生命への脅威、国連の安全が脅かされた場合、三つ述べております、これはSOPであります。そしてこの国連の安全が脅かされた場合も二つに分かれまして、国連の陣地及びその周辺へ紛争当事者の一方が他方に対抗するため力で侵入を試みる場合、それからもう一つは、国連の部隊に対する力による武装解除の試み、非常に具体的に例示、列挙しておるわけであります。このうちPKO法案で、自衛隊ができるものできないものを仕分けして答弁をいただきたいと思います。

○政府委員(丹波實君) 私が今手元に持っておりますのは、一九六四年のウ・タント事務総長のエードメモワール、これは公表された書類でございますが、まさに先生が挙げられたと同様など申しますか、類似したケースが幾つか挙がっております。しかし、問題は、この日本の法案上日本として武器が使用できるのは、法案二十四条の場合ということに限られておることは先生御承知のとおりでございます。

○矢田部理君 その二十四条から見て、このうちどれができ、どれができないかを示しなさいと言っている。

○政府委員(丹波實君) 私から答弁申し上げるのは適当かどうかあれでございますが、二十四条におきましては、「前条第一項の規定により小型武器の貸与を受け、派遣先国において国際平和協力業務に従事する隊員は、自己又は自己と共に現場に所在する他の隊員の生命又は身体を防衛するためやむを得ない」ときに武器の使用が認められるということで、まさにいろんな状況の発展の中で他の隊員の生命及び自己の生命を防衛するために武器の使用が認められる、こういうことでございます。

○矢田部理君 丹波さん、そう余りかわさずに、具体的に私が述べた、これとこれはだめだ、これは可能だとはっきり言ったらいいじゃありませんか。それとも日本の法律ではこれは全部できないということになりますか。

○政府委員(丹波實君) それでは、先生が挙げられたその例と全く一致したものかどうかは別といたしまして、例えばこのエードメモワールには、武器を用いた攻撃を受けた平和維持隊の監視所、施設及び車両の防衛、この場合に武器の使用が許されると、こう書いてございますが、国連の文書あるいは過去の慣行によりますと、そういう何と申しますか、PKFの任務が実力により妨げられたその瞬間にズドンと発射してよろしいというふうにはなっておりませんで、まず説得しなさい、それからまず空砲を撃ちなさいという、いろんな手続を全部尽くせということが書いてあるわけです。その過程でと申しますか、それにもかかわらず、結局向こうがいよいよ発射する。それはまさにこっちの生命が危なくなる状況でございまして、そういう状況であるならばそれは二十四条の適用になる条件でございまして、単に抽象的に任務が妨げられた、だからズドンと、そういうことでございません。
 ですから、先生が挙げられたそのイ、ロ、ハ、ニというものを一つずつ抽象的にとって、イの場合はイエス、ロの場合はノーと言うことはなかなか申し上げにくい。それは具体的な状況の発展によってこちらの生命が危なくなるかどうかが判断の基準だというふうに私たちは考えております。
 以上でございます。

○矢田部理君 個々の自衛隊の人が行くんですよ。現場に行って、国連が示した幾つかの基準がある。国連は、この場は鉄砲を撃てる、自衛のための武力の行使が可能だという基準を示しているときに、この基準のものはだめですよと。それはいろいろありますよ。日本の正当防衛だって、急迫不正の侵害だとか、必要やむを得ざるときとか、相当なる判断をするとか、いろんな手続や条件設定はありますよ。しかし、そういうもろもろのことを考えつつも、幾つかの項目を挙げているんですから、これはできますよ、これはできませんよということを示してやらなきゃ現場は混乱するだけですよ。その程度のことははっきりしませんか。そんないろんな周りの話をしてごまかそうとしてもだめですよ。

○政府委員(丹波實君) 申しわけありません。先ほど申し上げましたように、国連は先ほどのようなAとBとのケースの場合に武器の使用が認められるということでございまして、そういう場合に武器を使えと言っているわけでは決してございませんで、Bのケースでいろいろなケースを先生が挙げられました。
 私、先ほど御説明申し上げましたように、判断の基準は、こちらの生命が危なくなっているかどうかということが判断の基準でございます。

○矢田部理君 そんなこと何回も聞かなくたってわかっていますよ。その上で、この基準のうちできないもの、できるものを挙げなさい。Aはできるんでしょうか。それからBはだめなんでしょうか。そこをまずはっきりしなさい。

○政府委員(丹波實君) 先ほど申し上げましたA、Bと分けた場合のBのケースでありましても、こちらが説得をし、空砲を撃ち、その他いろいろな手だてを尽くしている途中で向こうが鉄砲でいよいよ発射しそうになったと。それはまさにこっちの生命が危なくなった場合でございますので、そういう場合にはこれは何と申しますか、Aに転じつつあるケースあるいはAに転じてしまったケース、その場合にはこの法案第二十四条により個々の自衛官は武器の使用を許される、こういうことになろうかと思います。

○矢田部理君 全く納得できません。

○委員長(後藤正夫君) 答弁者にお願いいたします。質問者の質問の趣旨にはっきり答えられるようにお願いをいたします。

○政府委員(丹波實君) 私の言葉に足りないところがありましたら申しわけございません。もう一度御説明申し上げたいと思います。
 国連の各種文書あるいは過去の慣行によりますと、PKFに参加する場合には武器を携行することが認められております。その武器がいかなる場合に使用できるかということを規定いたしております。それによりますと、これらの武器はセルフディフェンス、自衛の場合にのみ使用を許される。その自衛とは次の二つを含むというのが一般的な考え方で、A、自己の生命を防衛するため、B、PKFの任務が実力により阻止され、これに抵抗する場合。日本がPKFに参加するに当たりまして、けさほどの法制局長官の御答弁にもございましたけれども、Bのケースについて、一般的に日本が武器を使用するということについては憲法上議論があり得ると。したがって、Bについては、一般論としては、Bのケースということだけでは武器の使用はしない。しかしながら、Bのケースでございましても、説得、空砲を撃つ、そういうことで手続を尽くしている途中でこちらの生命が危なくなってしまった。これはこちらの生命を防護するために武器を使用するケースに当たるであろうということを申し上げたつもりでございます。

○矢田部理君 結局、Aの場合しかだめなんですよ。そして、Bの場合でもAになってきたと。Aの要件に当たる場合には、これはAの方の範疇に入るんであって、Bの方でやれるということではないんだから、そこをあなたは正確に言わないから、すりかえたりごまかしたりするから混線するんです、議論が。
 そこでもう一回、午前中の議論とつながるわけでありますが、今のPKO法案では個々の隊員が自己の責任七判断で対応するしかない。憲法上、直ちに違反するかどうかは別として、部隊として対応したり、組織として対応したり、上官が指揮をして対応することは今の法律ではできない。これは確認できるんですね。

○国務大臣(宮下創平君) この法律に基づきまして私どもが平和協力業務を実施する場合の武器使用に関してでございますが、このまず前提は、平和的な目的のためでございますから、私どもは武器使用を前提としておりません。ただし、限界的な場合には、今お話のございますように、二十四条三項によりまして、自己の生命または身体に危害が加えられるというときには、これに対していわば正当防衛、緊急避難的な意味で武器の使用ができるということを規定しておるわけでございまして、ただいま議論にありましたように、この任務遂行は組織としてやります。しかし、武器の使用につきましては個々の自衛官の判断によって行うということがはっきりと明定されておるわけでございます。

○矢田部理君 その前段の話を聞いているんです。だから、部隊としてやったり、組織としてやったり、上官が指示をしてやったりすることはできないんですねと、こう聞いている。そこだけイエスかノーか、答えてください。

○国務大臣(宮下創平君) そのように理解しております。

○矢田部理君 そこで、今度経過的に伺う。
 丹波さんは物知りだからいろいろ言われたが、SOPでも武力行使に至るまでの幾つかの段階があるわけですね。今言われたように、武装攻撃的なものがあった。まず第一には調停的な、何か話し合いとか、それから説得をしなさいと。そしてさらには、今度は警告に移りなさい、警告をしなさいと。その警告も最初は口頭でやりなさい。やがてピストルを撃ってもよろしい、銃を撃ってもよろしい。しかし、それは空に向かって撃つんですよ等々の手順、手続を経た上で、実効的な発砲、ねらい撃ちと言われているようでありますが、ができると、こういうんです。
 そうすると、日本の自衛隊は、隊として、組織としてどの段階までかかわれるんですか、かかわらないんですか。それはどういうふうに仕切りますか。

○国務大臣(宮下創平君) いろいろの想定がございますけれども、今先生の御指摘になったのは、任務遂行上いろいろ危害が加えられる状況になった、それに対しまして、直ちに発砲するのではなく、空砲を撃ったりいろいろな威嚇をやる、そしてなおかつそれでも危害が及んだときに武器使用に及ぶと。こういうプロセスは私はあり得ると思います。
 しかし、その判断はあくまでも自分の生命、身体に対する危害の防止でございまして、これはたびたび申しておりますように、刑法三十六条、三十七条の要件に該当するようなそういう状況のもとにのみ、個人の責任において武器使用を認めておるのがこの法案の趣旨でございますから、あくまで私どもはこの趣旨に沿ってやっていきたい。つまり、治安出動とかあるいは国内における防衛出動等の場合は、当然武力行使をして、この目的で我が国を守らなければなりませんけれども、この業務は海外における、外国における国連の要請に基づいた平和協力でございまして、武器使用が一般的に行われるような議論ではございません。これはあくまで……

○矢田部理君 ちょっと長過ぎるから簡単にしてください。

○国務大臣(宮下創平君) あくまで平和目的のためにやるわけでございますので、武器使用は限界的な場合にのみあり得ると。その限界的なことを申し上げているわけで、これはあくまで自衛官の個人の判断でやらせるという建前になっております。

○矢田部理君 私が申し上げているのは、個人でできるのはわかっているんですよ、武器の使用は。自分の身体か、わきにいる同僚の生命に影響がある場合しかできない。
 問題は、じゃ、部隊としてはどの程度までなら対応できるのか。武装勢力が押しかけてきたとか何か紛争が起こったときに、身に危険が迫ったときはそれは鉄砲撃てますよ。しかし、国連が言っておりますのは、いろんなケースがありますが、一応基準化しているわけですね、いろんなことを。最初は口頭でやりなさい、説得しなさい、その次は空砲を撃ちなさいと。いいですか。そこで私は、個人でどこまでから撃てるかとかやれるかということじゃなくて、日本の組織として行った部隊、武装部隊はどこまでこのランクの中では対応できるのかと聞いている。長官がわからないようじゃ隊員はどうにもならぬと思う。

○国務大臣(宮下創平君) 具体的にいろいろなケースを想定しておられるような感じがいたすわけでございますけれども、建前はあくまで、繰り返すようで恐縮でございますけれども、私どもは、この法の建前からいいますと先ほど申し上げたとおりで、法二十四条に該当する場合にのみ行われるわけでございまして、国連のSOPその他におきましての類型化について先ほど先生お尋ねでございますが、この類型の中にはいろいろのケースがあり得ると思いますね。しかし確かなことは、この法案の二十四条で、自己の生命、身体を守る場合にのみ個人が判断をしてやるということが明定されているということをたびたび繰り返して申し上げているわけであります。

○矢田部理君 私は個人がどこまでできるかを言っているんじゃない、部隊として行くわけですからね。
 端的に聞きましょう。いろんなランクのうち、空に向けておどかしの発砲をすることは、部隊としてはできるんですか、できないんですか。

○国務大臣(宮下創平君) これはケースとして、そういう差し迫った場合に直ちに武器使用をやることが当面の判断として合理的でない場合もございます。その場合は空砲等をもって、その手段によって、これは敵に危害を加えるわけではございません。つまり、二十四条の正当防衛その他の場合でなければ危害を加えちゃいかぬという規定がございますが、それに該当するわけではありませんから、その場合にはそういう威嚇その他の行動が行われ、そしてその後の経過によって二十四条の武器使用と、こういうことになるだろうと思います。

○矢田部理君 これはやっぱり大分問題は進んできたんですね。部隊として、組織としておどかしや空に向けた発砲はいいと、こういうことですね。

○国務大臣(宮下創平君) たびたび申しておりますように、この平和協力業務はあくまで平和的なために行うわけで、武器使用を前提といたしておりません。しかし、今想定されるような状況がよしんばあった場合の限界的なケースについて御議論であろうかと存じますが、そのような場合は今おっしゃったようなこともケースとしてあり得るだろう、こう申し上げておるわけです。

○矢田部理君 これはやっぱりかなり重大な発言なんですね。
 私は個人的な趣味でいろんなケースを想定してやっているんじゃないんですよ。国連が出したSOPというマニュアルがそういう幾つかの事例の場合に、国連軍として、平和維持軍としてどうするかということを指示した文書に基づいて聞いているわけです。その場合に、場合によっては空砲も撃てる、おどかしの弾も出せるということまで言うのであれば、これはもう大変なことなんであります。
 もう一つ聞きます。同じSOPでは、武力紛争が再発をした場合に、PKF、つまり平和維持部隊はその間に割って入ることがある。いいですか。当然そこは戦闘地域に入ることになる、戦闘に巻き込まれることになる。このPKFの部隊が攻撃を受けることも十分に考えられるのですが、このような身をもっての武装、紛争の鎮静あるいは兵力の引き離しを日本は引き受けるのですか、引き受けないのですか。

○国務大臣(宮下創平君) 当問題は制度の仕組みでございますから、担当官の室長の方から答弁させていただきます。

○矢田部理君 国連は物すごくいろんな経験を蓄積して、ケーススタディーなどもやりながら、こういう場今いろんな原則なり標準のガイドラインをつくっているわけです。それに見合って自衛隊はどこまでやれるのかやれないのか。とりわけ最高指揮官が明確にその方針を持っていなければ、それは事務方で言ってくださいじゃちょっと説明にならぬのじゃありませんか。

○国務大臣(宮下創平君) SOPに必ずしも全体として拘束を受けるというものでないというように私は理解しております。
 その例としては、ただいま国連局長が御答弁申し上げておりますように、例としてA、Bのケースがあり、我が国としてはAのケースのみに武器使用が認められておる、そしてBの場合には武器使用はいたさないということを事前に国連に了解を得ているということでございますので、このように必ず国連のSOPが我が国の自衛隊に全部全面的に、拘束的にかぶさってくるといいますか、拘束を受けるということはないということはもう明瞭だと思います。

○矢田部理君 だから、そんなことはわかっているんです。国連の了解を得ているかどうか、また本格的な議論は後でやります。
 武力紛争が再発した場合に、それをやめさせるために間に割って入るという行動が想定されているんです、このSOPに。そのとき日本の自衛隊は出動するのかしないのか、危ないところは断るのか、ここを聞いているんです。

○政府委員(野村一成君) お答え申し上げます。
 ただいま先生御指摘の割って入るという言葉がございましたけれども、そういう状況と申しますのは、私どもの認識ではまさにこの法案にございます第一、第二、第三、合意、同意あるいは中立、そういった基本的なPKO活動のよって立つ前提が崩れている状態というふうに認識いたします。したがいまして、そういう場合にはこの法にのっとりまして中断という手続が八条に定められております。また、そういった状態が短期間にまとまらない場合には、収拾されない場合には、国連事務総長に適当な通告を与えることによりまして部隊の派遣そのものを終了させる、そういう仕組みになってございます。

○矢田部理君 今のケースは割って入らないと言うんですね。いっぱいケースがこのSOPには出ているんです。
 例えば、部隊として配置された、任せられた施設に攻撃があった、武装集団が入ってきたと。そこで、説得したが相手は帰らない。そこで、施設を占拠されたときには相手に明け渡すんですか、それとも何らかの手段、方法で守るんですか。それはどうですか。

○国務大臣(宮下創平君) あくまで平和的な手段によって私どもはこの任務を遂行するわけでございまして、そして二十四条に該当するような事態になった場合は武器使用をいたしますけれども、そうでない場合はこれは一時中断、つまり我が国は組織として武力行使を目的としておりませんから、したがって中断といいますと、具体的に言いますとその場から一時退避をさせるというような状況判断があろうかと思いますし、現実にはそういう行動をとるだろうと思います。そして、その上でそれが永続するような場合でありますと撤収といいますか、終結をするというような手順になっております。

○矢田部理君 もう一点、いっぱいありますが余りこればかりやっていると時間がなくなりますから。
 例えばこのSOPを見ますと、日本の部隊なら部隊が武器で威嚇された、あるいは包囲をされて武装解除を要求された。そこでどうしても武器を提供しろと言われたら日本は武装解除に応じることになるんですね。

○国務大臣(宮下創平君) これは、具体的ケースによりませんとなかなか一概に申し上げられないわけでございますが、一言で言えばそういうことでございますが、想定されたいろいろのケースの場合に、それじゃ武器をそのまま即刻渡すか渡さないかというのはそのときの状況判断によりますね。平穏なうちに話がつけばよろしいし、どうしても強制的な強制力によって危害が加えられるというような状況になりますれば、またあるいは二十四条の要件に該当するような状況に立ち至るかもしれません。そうなれば二十四条の規定によって武器使用を行う、こういうことであろうかと存じます。

○矢田部理君 私は、別に武器使用論者じゃないんですよ、武力行使論者じゃ全くないんであります。
 ただ、国連が幾つも設定しているケーススタディーといいますか、この種項目にほとんどこたえられない。自分がやられそうになったとき鉄砲を撃てる。物すごい平和なところへ行くんだ、停戦したところへ行くんだと言いますが、レバノンを見たってコンゴを見たって、それはキプロスでもあるときはそうですけれども、非常に紛争地域にある。ここへ行くわけですから、一たん合意はできたけれども、あと停戦の当事者はだれかという問題もありますが、完全に全部が合意しているとは限らぬのです、国連の状況を見ておりますと。
 渡辺外務大臣、これで自衛隊は役に立ちますか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 自衛隊の現場のお話でございますから、防衛庁長官に聞いてください。

○矢田部理君 渡辺外務大臣がPKO法案に対してどの程度認識しているかということをちょっと一言聞いただけですから、外務大臣。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 先ほど内閣の審議官が言ったように、あらかじめ任務の遂行で武器使用をしなければならないというようなことがわかっているような場合は、それはその部署には参加をしないということでありますし、それから部隊を組んでどうしても前面を説得しても突破してくるというような場合は、それはそいつを見逃す、そういう実例も幾つかあるようでありますから、やはりそれはこちらとしては急迫、自分が殺されるという差し迫った状態でない場合は武器は使用しない。
 ということになりますと、それは確かにそれじゃ使えないじゃないかという反論が、まだ出てこないがあるんだろうと思いますけれども、それはやむを得ないことでありまして、日本の憲法の制約がありますので、そういうところを選んで日本は日本なりに活躍をする。
 それから、この自衛隊の問題は、そこにも書いてあるように、それは輸送だとかいろんなことを自衛隊もできますと、民間もできますが自衛隊もできますという道を開いてあるわけですから、これは使い物にならぬという話じゃないんであって、たくさんの活動分野が極めて自己完結的にできる、そういう点で非常に便利だということは言えると思うんです。

○矢田部理君 そういう分野は何も自衛隊でなくてもいいんですよ。自衛隊を出した意味というのは、こういうやっぱり武力紛争的なものが再燃をしたり、非常に難しいところで処理をするためにこのPKFというのがあるのでありまして、そしてまた、そういう事案というのは私たちが数えただけでも随分方々で起こっている。七百人以上の人が亡くなっている。大変なことなんですよ。それを憲法の制約がある、それは幾らか意識しているんでしょう。それをうまくくぐろうとして幾つかの条件を設定して出かけていくものだから、現場の自衛隊、頭、まあ頭の話はしませんが、自衛隊はどうしていいかわからぬ。非常に混乱を引き出すような、広げるような内容にこれはなっているんじゃありませんか。もともと無理な自衛隊を出したことにその根本があるということを私は言いたい。
 次の問題に移りましょうか。
 自衛隊はどんな武器を持っていくのかということでありますが、一般の隊員には小型武器だと。自衛隊以外の人が行くのも小型武器を渡すらしい。これもどんなものでしょうかね。警察官は幾らか小型武器を持っている、海上保安庁も持っていますが。そうでないとこか役所の人が行くのも今度は小型武器、武器の訓練をしたり持ったりして出かけていくというのもいかがなことかと思いますが、そこは答えていただかなくて結構。
 問題は、自衛隊が部隊として参加する場合、国連総長からの要請があればその要請に基づいてどんな武器でも持っていける。これはもう完全な武装部隊の出動がここでは想定をされるし、法制的にはそれを許容しているということになるのでありますが、これは防衛庁長官に聞きましょうか。いかがでしょうか。

○国務大臣(宮下創平君) 自衛隊がこの任務につきます場合は、内閣総理大臣の定める実施計画に従って行うことになります。そして、その実施計画はいろいろの、基本方針でございますとか、国際平和協力業務の種類、内容、あるいは協力隊の規模とか構成とか装備について定めることになっておりますが、お尋ねばこの装備についてであります。
 この装備につきましては第六条に実施計画が決められておりますが、この第四項に、今私が申し上げました実施計画の内容になる装備については、武力による威嚇、武力行使の禁止の第二条の要件に合致し、なおかつ平和維持的な活動の要件に合致する、こういう趣旨に照らしましてこれを実施する必要な範囲内で決めるわけでございますが、この場合におきまして重要な点は、今御指摘のように、国際連合平和維持活動のために実施する国際平和協力業務でございますから、この装備は事務総長が必要と認める限度で定めることになっております。

○矢田部理君 制度はわかっている。中身を聞いているんだ。

○国務大臣(宮下創平君) したがって、今先生の御指摘のように、小型武器とか小型兵器とかいう限定になっていないのは、法文上そのとおりでございます。しかし、実際のPKOの今までの事例に徴しますと、けん銃、小銃、機関銃、あるいは場合によりまして兵員を輸送するため、これは輸送するためでございますが、装甲車等が一般的には使われておりまして、これを超えるようなものはケースとしてはないわけではございませんが、一般的にそれで足りるというように考えておりますが、これはあくまで実施計画でその装備を決めることになっております。
○矢田部理君 つまり、国連事務総長の要請があれば、それに適合するようにつくることになる。いいですか。制度論は余り説明しなくとも勉強済みですから、端的に答えてください。
 それじゃ、迫撃砲、機関砲、対戦車砲、これはバズーカですね、それから対戦車ミサイル、スティンガーという対空ミサイル、これは持てますか。

○国務大臣(宮下創平君) 装備につきまして、今私が実際の例を引用いたしまして大体その辺だろうということでございますが、ケースによりますとそういう迫撃砲等も持参している場合もございます。

○矢田部理君 わかりました。
 そこで、問題は迫撃砲などの言ってみれば小型火器ではなくて重装備、重大器といいますかね、重大器。これはSOPによれば軍司令官が管理することになっている。いいですか、軍司令官が管理する。そして、必要で使えというときには軍司令官が指示することになる。指揮することになる。そうすると、当然のことながら、迫撃砲を持っていって軍司令官の管理下に置かれる。それが解除し、指揮をして初めてそれが使えるということになれば、これは軍司令官の指揮下に置かれることになりはしませんか。指揮を受けることにならざるを得ないことになりませんか。そういうことも肯認、肯定をするんでしょうか。

○国務大臣(宮下創平君) この件につきましては事実関係の問題もございますし、私どもは今申しましたとおりの想定で大体、装甲車程度まではと考えておりますが、今先生御指摘のように、重大器についての国連の司令官の命令に従うかどうかという点につきましては、SOPに関することでございますし、武器の問題でございますから、私の方の局長ないし室長の方から答弁させていただきます。

○矢田部理君 答弁は結構でございます。
 どこを問題にしているかというと、日本の自衛隊は自分の身を守るためにしか原則的に使えない。したがって、自分の身を守るための迫撃砲なんという論理はないんですよ。ところが一方では、国連事務総長の要請があれば、あなたも認められたように、迫撃砲も持っていける。何のために持っていくんですか。自分の身を守るため、そして部隊を守ったり他の軍隊を守ったりすることはできないとも言っているんでしょう。そして、その迫撃砲は指揮官の管理下にある。指揮官が必要だから撃てということで、いわゆるその管理が解かれたり指揮がなけれはこれは使えない。法律そのものがこういう構成がおかしい。これはだめですよということを言いたい。

○国務大臣(宮下創平君) 迫撃砲の点に言及されましたが、これは私どもとしては今考えてはおらないところでございますが、例があると申しましたのは、これは私の聞き及んでいる限りにおきましては、照明弾のかわりに迫撃砲を使って夜間における監視その他をきちっとやるというように使われておるということも聞いておりますが、この点は事実関係でありますから、局長の方から答弁させます。

○矢田部理君 いや、説明は要らない。要りません。
 次の質問に入ります。
 しかじかかようなほどに、国連が目指している方向、確立した原則とこのPKO法案との間には大きな乖離がある、武器の使用だけでも。
 そこで、今度は正当防衛論の問題に移りたいと思うんです。
 その前に、法二十四条で武器の使用というのが可能になっておりますね。この法文を見ますと、自分と近くにいる自分の同僚、つまり自衛隊員でなきゃなりませんね、がやられたとき、やられそうになったときは武器の使用ができるが、新聞社の方々おられるが、ジャーナリストがそこで従軍しておった、これがやられそうになっても使えない。住民や外国の軍隊が一緒にいてもそれはやっちゃいかぬという規定ですよね、これは。そうでしょう。それはお認めになりますか。

○国務大臣(宮下創平君) 法文上は、自衛隊を部隊として派遣する場合は御承知のように二十四条の三項でございますが、一項はこれは一般的な隊員の問題でございます。三項の場合は、御指摘のように、法文上は「国際平和協力業務に従事する自衛官は、自己又は自己と共に現場に所在する他の自衛隊員若しくは隊員の」、これは必ずしも自衛隊員でない場合もございますね、隊員であればよろしい。「隊員の生命又は身体を防衛するためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で」「武器を使用することができる」、こういうことになっております。
○矢田部理君 それを知っているから、私は、ほかの人、外国の軍隊や住民やマスコミの人やいろんな人がいても、それがやられそうになっても弾は撃てませんというのがポイントの一つ。
 もう一つは、今度は正当防衛という立場から見ますと、弾を撃てるのは、急迫不正の侵害で自分がやられるときだけ撃てるんですね。あるいは近くにいた隊員の人たちがやられるときだけ撃てる。ところが、刑法上の正当防衛というのは守れる対象はもっと広いんです。自己または他人の権利の防衛なんです。他人というのは何も外国人と日本人を区別していないんです、刑法は。これは外国人と日本人、日本人の中でも隊員と隊員でない人を区別している。いいですか。こんな議論がありますか、立て方がありますか。撃っていいということじゃないんですよ。
 それから、正当防衛は権利の防衛でありますから、人がやられたときだけでなくて、こちらが持っていた食糧やいろんな武器なんぞを貯蔵しているところが襲われたときもこれはやれない。侵入して占拠されたときも、身体、生命に関係がない限りは動けない。こういう出動を予定しているんですよ、これは。いいですか。そして、自分がやられているときだけは撃ってもいいが、間違って撃ったらこれは正当防衛違反ですからね、当然日本の刑法で処罰をされる。それから、自分の命がやられないのに、危なくないのに撃ってしまった、二十四条の最初の方はそれは広いのでありますから。そして、これも過剰防衛だとか誤想防衛だとか、この範囲を超えているということで処罰をされる、こういう仕掛けになっているのがこの法律ですよ。それでもいいんですか。――いやいや、本部長がどう考えるかを聞いているんだ。あなたに聞いているんじゃないんだ。

○委員長(後藤正夫君) 野村内閣審議官。

○矢田部理君 ちょっと待ってくださいよ。私は大臣に……。

○国務大臣(宮下創平君) 大臣に対する答弁を求められておりますが、私からちょっと申し上げて、あと補足的に室長の方からさせていただきますけれども、この二十四条の武器使用は、先ほど読みましたように、条件がございます。しかし、四項で書いてありますことは、そういう武器使用の場合に際しても、刑法三十六条、三十七条の規定に該当する場合を除いては人に危害を加えてはならないということでございまして、あくまでこの平和協力隊が刑法の三十六条、三十七条を基点として認めておるものではないわけですから、そこはずれといいますか、対象領域が異なっております。
 先生御指摘のように、確かに正当防衛その他はもっと広いでしょう、対象範囲が。しかし、ここで言われているのは、派遣された自衛隊員の生命または身体の危害に対してのみこれを認めておる、しかしその場合には、三十六条あるいは三十七条の規定に該当する場合にのみ危害を与えてもこれは仕方ないことだと、こういうことを規定しているわけでございます。

○矢田部理君 そんなことはわかった上で申し上げているのでありますが、いずれにしましても、外国軍隊と共同行動をとる、場合によっては任務の分担をするときに、外国の軍隊は国連のSOPに従って任務遂行が妨害されても前に出ていける。うちの方は出ていけない。外国の軍隊がやられてもこれを助けに行けない。助けちゃならぬ。向こうが攻め込んで、向こうかというか、だれかが攻め込んできてもそれは黙っていなきゃならぬ。いいですか。
 そして、もっと比喩的に言えば、自分の生命、身体が危なくなったときに上官は部隊として対応できない。上官はこれを撃てとか何とかと指揮できない。その段階で、日本から出かけていくときには国連の要請だとか国家の名誉だとか誇りだとかといって送られていった人たちが、現場で紛争が起こってやられそうになったときには国家は逃亡してしまう、一人一人がばらばらに自分の責任と判断で対応しなさい。その判断が正当防衛に当たらずに人を殺してしまったり傷つけてしまったりすれば、これは当然殺人罪だとか傷害罪という処罰をするために国家がその段階でまた出張ってくる。こういうめちゃくちゃな法律なんです、この法律は。
 小沢さんだってと言うと失礼になりますが、小沢一郎さんが武力の行使だの武器の使用だのというわけのわからぬ議論をしてやることは反対だと、ごう言っている。指摘されるまでもなく本当にひどい法律なんです。到底批判に耐え得る法律じゃありません。
 特に自衛隊員の方々は、場合によっては命をかけて行くわけでしょう。こんな重要な、政策的にも国際政治にかかわるについても重要ですが、一人一人にとってみたならば、自分の生命、身体にもかかわるような大事な問題について、やられるときはばらばらに判断しなさいと、指揮官は横を向いている。国家は全部逃げちゃう。そして、どこか地球の果てかどうかは知りませんが、そこに置き去りにされる、自分の判断で守れと。これがこの法律ですよ。
 やっぱり宮澤さん、もう一回撤回して出直す必要があるんじゃありませんか。こんな国際貢献がありますか。

○国務大臣(宮下創平君) 総理のお答えの前に私から申し上げておきますが、これは私、言うまでもないというように、先生におしかりを受けるかもしれませんけれども、この平和協力隊はあくまで武器使用を原則とする業務ではございません。そして、過去の事例におきましても、武器使用の例というのは非常に少のうございます。
 確かに、七百三十五人亡くなっておるという事実も私ども承知しておりますが、これは言っていいことかどうかわかりませんが、あらゆる場合にそういうケースが非常に多いんだというような印象を与えてはいけませんので私はあえて申し上げますと、この二十三回ないし四回の出動で延べ五十万人この業務に参画しておるわけですね。その中で七百三十五ということで、決して人命は軽いものではございませんから私どもはこれを深刻に受けとめてはおりますが、あくまで我が国がやる平和協力隊というのは武器使用を前提といたしませんで、また多くの場合そのような実例になっておりまして、限界的な場合の武器使用についての今御議論だと私どもは承知しております。
 したがって、自衛隊を派遣された場合には、あらゆる国内の治安出動あるいは防衛出動の場合はまさに武器使用をもって我が国を守らなくちゃなりませんけれども、武力行使をやらなくちゃなりませんけれども、この海外における本法案に基づく協力業務はあくまで平和的なものでございます。
 今、法律案の審議でございますから、限界的なことについて議論されるのは当然でございましょう。しかし、これはあくまで限界的なものであります。私どもも議論に議論を重ねた末、憲法との整合性その他を考えて、そして国際貢献があとう限りできる道を選択したのが本法案でございますから、どうぞその点を御理解いただきたいと存じます。

○矢田部理君 どう思われますか、総理。

○国務大臣(宮澤喜一君) ただいま防衛庁長官が申し上げたとおりでございます。

○矢田部理君 これは後で本格的にまとめて答弁を求めなければなりませんが、その国連が立てた方針、SOPなどで確立した原則、それから現場でいろんなトラブルがあった場合にどういう方針や基準、考え方で臨むか、大きく日本の対応は距離があるわけです。もともと憲法上無理なものを出すからそういう距離をつくらざるを得ないことは当然ですが、出していけないものをごまかしでやるためにより無理が重なるわけです。ガラス細工か粘土細工になってしまう。
 そこで、ところが国連は、どんな文書を読んでも、統一の行動、統一の指揮で国連の差配下で動いてほしい、国連の基準に従って対応してほしいというのが国連のやっぱり一貫した文書の流れですよ。この自衛隊のさまざまな行動について、武器の使用について国連ときっちり話ができているんでしょうか。

○政府委員(丹波實君) 例えば今先生が統一という言葉でおっしゃられたので、恐らくいわゆる国連のコマンド、指図のことを念頭に置いての御質問と思いますけれども、先生も御承知のとおりの、最近国連が出しました派遣国と国連との間のひな型の協定の第七項に、国際連合のコマンドというものにつきまして、要するに国連は「配置、組織、行動及び指令について完全な権限を有する」という記載がございます。
 私たちがPKFに参加していくに当たって、このような国連のコマンドのもとに置かれるという点は、この国会ではっきり申し上げてきておるとおりでございまして、この点につきまして国連との間に考え方の違いは何らございません。

○矢田部理君 いつ、だれとだれとの間でどういうことが論議の対象になり、そしてそれについて国連は明確に文書その他の方式でそのことをきちっと認めたのでしょうか。国連がこれだけ幾つかのものを、ハマーショルド報告以降出しておって、一貫して指揮権の問題については、後でこれは本格的な議論をしますが、指揮と統制については書いておる、基準を示しておる。その一貫して、あるいは確立して出された国連の原則、これを排除するためには、少なくとも明確な文書による回答がなければ、そうですかと安心するわけにいかない。当たり前の話じゃありませんか。どうもそこが決してはっきりしていない。話がついている、国連にも申し上げている、理解を得ているという程度の抽象的な話ではだめなのでありまして、明確な文書回答、国連の基本方針の排除の文書が必要だというふうに思いますが、いかがでしょうか。

○政府委員(丹波實君) お答え申し上げます。
 このモデル協定と申しますのは、国連の過去四十三年間のPKO活動を通じて得られた慣行化されたと申しますか、そういった考え方を持ったものでございまして、この第七項につきましては日本政府としては異存はございません。したがいまして、そこは非常に明確になっておると私たちは考えております。

○矢田部理君 私がこれまで議論してきましたのは、国連は武力の行使です、自衛の範囲が違います、こちらは自分と近場の仲間の生命、身体の防衛しかできない、こういう大きなギャップがあるわけでしょう。それが同じ隊で平和維持軍に参加をする。何か問題があったときにこちらは下がらざるを得ない。そういうことで他の平和維持軍が安心して、あるいは日本を信用して一緒の隊列を組めますか。組めないんですよ。危なくて一緒にいられないんです、何かあったときに。
 しかし、それでもなおかついられるというのであれば、現場における信用や混乱の問題はもう一つ議論を大きくしていかなければなりません。少なくとも国連から文書で、さっき言ったように幾つかの何かケースがありますね。そういうものはやらなくてよろしい、日本の立場を認めるという明示の文書がやはり必要なのであります。そういう文書をもらっていますか。

○政府委員(丹波實君) 先ほど防衛庁長官もちょっと申し上げたことでございますけれども、矢田部先生の御議論を聞いておりますと、PKFについては武力行使あるいはそういった衝突が非常に日常茶飯事だというように聞こえますけれども、ちょっと御説明させていただきたいんです。過去の死者のことについておっしゃいましたけれども、申しわけありません、一例、二例だけ挙げさせていただきたいと思います。
 例えば、フィンランドはこれまでPKO、PKFに参加いたしまして三十六名の人間が死んでおりますけれども、活動中に亡くなられたのは五名でございまして、あと三十一名は例えば交通事故とか病気とか、そういうことで亡くなっておる。そういう者が全部入って七百何名という数字でございますので、そこのところは要するにそういうふうに御理解をいただきたいと思います。
 それから、今の御質問につきましては、先ほどから御説明申し上げておりますとおり、国連が最近このようなモデル、ひな形協定というものを出して、日本が将来こういうPKFに参加する場合に国連と何らかの取り決めも結ぶ、その中にこの種の規定を考えて入れていくということになりますので、そのときにそれははっきりするわけでございますが、基本的に、先ほど申し上げましたとおり、この七項の考え方に日本政府として現在この時点で何ら異存はございませんということを申し上げておる次第でございます。

○矢田部理君 日本は国際展開、国際協力に当たって汗を流さなきゃならない、それは大事などころです。私たちも、そのために文民の組織をつくっていこうというのであります。これは血を流すかもしれない。何も日常茶飯事などとまでは言っておりません。しかし、やはり危険なところに行くのだから慎重にこれは議論しなきゃならぬのです。それを冷やかしみたいな話をしてもらっちゃ困るのであります。
 人間の命や血にとって大変大事な問題だからこそ、我々真剣に問題を立てたり議論をしているのでありまして、そして今丹波さんが言ったように、どこかで具体化したときに協定を結ぶ際にその条件を入れればいいんだということでは、今天下を分けたような大きな議論になっているわけでしょう。そして、衆議院の議論ではっきりしたのは、国連の方針と日本政府の考え方、PKO法案の立て方は大きな乖離がある。それを今度どこかで具体的な例が出たときに協定を結ぶ際に調整すればいいんだなどということで容易に考えてもらっては困るのであります。国連にやはり明確にこの問題の答弁を求める、政府がやるべきですよ。
 そして、幾つかの典型例について私は申し上げました。それはSOPというものを初めガイドライン等々に全部それが細かく出ている。これを政府は手持ちで持っておりながら明らかにしない。これも明確に公表すべきだ。そして、徹底的にやっぱりここは論議をして、日本の政策の大きな転換点なのでありまして、過ちなきを期したいというのが私たちの心持ちなのでありまして、そこは誤解のないようにしてほしいと思います。
 そこで、指揮の問題に移ります。
 我が国が参加する平和維持軍につきまして国連に指揮権があるのか、それとも日本に指揮権が残っているのか、あるのかということについて、衆議院で随分争いになりました。私の整理でよければ、国連は一貫して国連にあると言っているんですね、指揮権は。それに対して日本側は、処分権が日本側に留保されているのであるから、懲戒とか処罰ですね、指揮権は依然として日本にあるんだという立て方になっているように思われるのですが、そういう整理でよろしゅうございますか。

○政府委員(野村一成君) お答え申し上げます。
 派遣国により提供されます要員は、PKOに派遣される問も派遣国の公務員としてこれを行うことになるわけでございまして、この間国連のコマンドのもとに置かれるわけでございます。
 ただ、先生は今国連の指揮権という言葉を使われましたけれども、私あえて国連のコマンドと申し上げておりますのは、これまでのいろんなPKF活動の慣行あるいはPKOに要員を提供している国と国連との間のいろいろな取り決めを踏まえまして、本年五月に作成、公表されましたいわゆるモデル協定というのがございまして、その第七項、八項にも反映されておりますとおり、国連のコマンドと申しますのは、派遣された要員あるいは部隊の配置等に関する権限でございまして、懲戒処分等の身分に関する権限は引き続き派遣する国の側が有する、そういうことでございます。

○矢田部理君 だから、日本に指揮権というか指揮命令権が、指揮監督権と言ってもいいと思いますが、あるんだという御主張ですかと、こう聞いている。

○政府委員(野村一成君) お答え申し上げます。
 ただいま申しました懲戒処分等、身分に関する権限は、これは派遣国が有するわけでございまして、そのとおりでございます。

○矢田部理君 そうすると、指揮権のメルクマールといいますか、基本部分は懲戒権のあるなしということにかかっているというふうに伺っていいでしょうか。

○政府委員(野村一成君) お答え申し上げます。
 私、最初の部分で派遣国の公務員として国際平和、PKO活動に従事するというふうに申し上げました。この法案の立て方といたしましても、基本的には我が国から派遣されます自衛隊の部隊につきましては、閣議で決定されます実施計画あるいは本部長が定めます実施要領に基づきまして国際平和協力業務を行うわけでございますが、その際に、業務の面に着目いたしますと、防衛庁長官の指揮のもとで平和協力業務を行うわけでございまして、そういった国内法の立て方をいたしておるわけでございます。

○矢田部理君 立て方や何か聞いているんじゃない。もう少し明快に答えなさい。指揮監督権のメルクマールは処分権かと、そう伺っていいかと、こう聞いているんです。

○政府委員(丹波實君) お答え申し上げます。
 先生のそのメルクマールという言葉の意味が必ずしも私正しく理解できるかどうかあれでございますけれども、指揮監督という場合に、先ほどちょっと七項を読み上げましたけれども、組織、行動、配置、そういったことに対する権限、これも一つのメルクマールでございますし、身分に対する処分権限、こういうことも一つのメルクマールであろうかと思います。

○矢田部理君 指揮権とか指揮監督権というのは、別に処分権がないからといって直ちに指揮監督権がなくなるというものではないでしょう。それはどうですか。

○政府委員(野村一成君) お答え申し上げます。
 我が国の国内法の立て方でございますけれども、一般に指揮または指揮監督と申します場合には、職務上の上司が下僚たる所属職員に対しまして職務上の命令をすること、または上級官庁が下級官庁に対しまして所掌事務につきまして指示または命令することを意味しておりまして、その違反行為に対して懲戒権等何らかの強制手段が伴うのが通例でございまして、そういった指揮または指揮監督の実態を私先ほど指揮と申しましたときに説明申し上げたつもりでございます。

○矢田部理君 そうすると、指揮監督と懲戒権とか処分権は不可分のものですか。懲戒権、処分権がない指揮監督権というのはないという言い方になりますか、なりませんか。

○政府委員(野村一成君) お答え申し上げます。
 私、指揮ないしは指揮監督と申します場合に、違反行為に対しまして懲戒権等何らかの強制手段を伴うのが通例であるというふうに申し上げました。

○矢田部理君 通例であることはわかったが、その次を聞いているんだ。それは不可分のものであって、それが外れると指揮監督権はないということになるのか、それがなくとも指揮監督権というのはあり得るのか、そこを聞いているんです。

○政府委員(野村一成君) お答え申し上げます。
 私、国内法のすべての体系で指揮または指揮監督ということを掌握しているわけじゃございませんけれども、基本的には、私先ほど申しましたとおり、懲戒権等何らかの強制手段を伴うのが通例であるということでございます。
 ただ、私、指揮または指揮監督というものについてこの法案との関連で御説明申し上げさせていただきたいのでございますけれども、それはやはり指図という言葉を国連のコマンドについては使っておるわけでございます。これは、まさに先ほどモデル協定で申し上げました国連のコマンドというのは、今私申し上げましたような指揮ないし指揮監督とは一致しないと、そういう趣旨で申し上げているわけでございます。

○矢田部理君 衆議院のやつを私なりに整理しますと、若干の要素はほかに入りますが、指揮監督権マイナス処分権イコール指図、こういう図式になるんです。単純化すればです、渡辺さんのようにわかりやすく言えばです。
 そこで、処分権があるのが通例だと言うが、通例でしょうか。
 消防庁、消防職員が隣の町に頼まれて行ったときの指揮権がどこにありますか。国土庁、災害対策基本法の発動で、災害対策のためにある県の職員が隣の県に手伝いに行ったときの指揮権はどこにありますか、処分権はどこが持ちますか。

○政府委員(浅野大三郎君) 消防職員につきましては、これは消防長でございますね、これが指揮監督をいたします。同時に懲戒等もその消防長が行うということに相なります。

○矢田部理君 では、正確に言いましょう。自治体消防です、自治体にある消防ですね。私が言ったのは、A村の消防夫が隣の村が火事だというので隣の村の村長さんから頼まれてお手伝いに行った、そのときの指揮監督はどこにありますかと聞いているんです。
 検察庁に聞いてもいいですよ。いいですか、検察官は捜査の際に司法警察員を指揮監督することができることになっている。処分権はどこにありますか、その命令に従わなかったときの。
 防衛庁にも聞きましょうか。例えば、韓国に派遣をされた国連軍。指揮監督権と懲戒権はどこが持っていますか。一斉に答えてみてください、どちらが通例だとか基本だとかということになるのか。この種の法律は幾らでもありますよ。

○政府委員(浅野大三郎君) 先ほど申しましたように、つまり自治体消防の消防機関の長である消防長でございますね、これがそこの消防職員を指揮監督し、また懲戒権等も持っておるわけでございますが、これがほかの市町村に応援要請を受けて行ったというような場合には、これは消防組織法の二十四条の四でございますが、これは、「応援を受けた市町村の長の指揮の下に行動する」、こういう規定を設けております。

○矢田部理君 隣の村の応援を受けた村長さんが指揮監督するんですよ。しかし、処分権は向こうに移らないですよ。もともと勤めておった町村の消防長が、問題があったら処分権を持っている。
 災害対策だって同じですよ。ある県から別の県に応援に行った応援先の知事さんの指揮監督を受ける、しかし処分権はもとの勤め先の知事が持っている。
 全部そういう体裁になっているのであって、処分権がないから国連の指揮監督ではなくてあれは指図だと。渡辺さん、指図なんという言葉は余りないんですよ、世の中に。あれは民事上の取引用語なんです。行政上の用語とか国際法上の用語じゃないんですよ。国連軍は明確に処分権は所属国が持っておるんです。朝鮮の国連軍、まああれは余りまともな国連軍じゃありませんが。しかし、指揮監督権はアメリカにあると安全保障理事会がはっきり決めているんです。NATOだって同じですよ、NATOの司令官が指揮監督権を持っている。これは幾つも、国際的にも事例がいっぱいあります。しかし、処分権は当該国が持っている、当たり前のことじゃありませんか。
 だから、処分権がないから、宮澤さん、大分衆議院で開き直って、国際公務員じゃないからなぜそこに指揮監督権がありますかと言われたが、あなたの理解は全然間違っていますよ。国際公務員じゃありませんよ、国連軍だって。消防署の人が隣の村に応援に行ったからといって隣の村の公務員になるわけじゃないんですよ。しかし、やっぱりこの指揮監督という命令系統はそういう重要な問題、消防だとか災害だとか軍事だとかいうところは一本通っていなければ統一行動、統一指揮、統一対処ができないということからこの議論は出てきているのでありまして、日本のこの法律の立て方は間違っているし、宮澤さんの答弁も大間違いです。
 だから、指図などというわけのわからぬ、指図証券だの何か本人が代理人に何とか指図するなんというあれは株式だの取引用語です、私法上の用語ですよ。法律学辞典見たってどこにも出てきやせぬ。私もそういう言葉は勉強したこともないぐらい。そんないいかげんを言葉を使ってこの問題をごまかしちゃいけませんよ。
 問題は、なぜそういうことになっているのか。指揮監督権が国連にあるということになると、後でも議論をしますけれども、これも大変な議論があるわけですが、国連の方針に反することが非常に難しい。例えば、さっきの武力の行使でもそうです。国連は任務遂行のための武力行使も可能だ、我が国はできないと。そこで、国連には指揮権がないんだ指揮権がないんだと言うわけです。
 特に、もう少し演説をすると、業務の中断なんという規定がある。危なくなったら逃げるということになっている。逃げるのかやめるのか中断がわかりませんけれども、この中身も詰めなければなりません。これほどこの国にもないんです。撤退というのは  参加というのは最初から行くときだから指揮権の発動がありますね。全部任務が終わったりなんかして撤退も、これもまた指揮権として留保されているんですが。業務執行中のさなかに日本独自の判断で勝手に仕事やめられたんじゃたまったものじゃない。そこで指揮ということあるいは指揮命令系統をそこで認めてしまう、それができないもので、苦肉の策で、これは渡辺さんの用語でしたね、苦肉の策でこんないいかげんな法律つくったんです。宮澤さん、そして政府、この指揮権と指図という問題は明白に間違いですから、これはやっぱり撤回すべきである、そしてこの法案を組み直すべきだというふうに思いますが、前提としてこの用語法やそれをもとにしてつくったあれこれの答弁については全部撤回してしかるべきと私は思います。
 まずは、用語の撤回を求めます。

○国務大臣(宮澤喜一君) これは、実は衆議院でも何度も御議論になりましたので、私よくその間の事情を存じておりますし、今の矢田部委員のおっしゃいましたこと、私、別に間違いだと思ってお答えしているのではないのでございますが、こういうことだったのでございますね。
 結局、おっしゃいます指揮監督のいわゆる指揮権と、それから国連のSOPなどにございますコマンドという言葉と、それからこの法律にもう一つ指図という言葉が使ってございます。そういう三つの言葉がございますものですから、それをめぐっていろいろ御議論があったわけでございますが、まず第一に、この維持活動に派遣される要員は国際公務員ではございません、我が国の公務員でございますから、そういう意味で我が国に指揮監督権があるということは、これは当然だとおっしゃいますし、そのとおりでございます。
 ところが、その次の問題は、先ほど政府委員が申し上げましたように、その要員がその部隊の組織、配備、移動については国連の事務総長またはその代理官のコマンドのもとに入る。それはあたかも矢田部委員が先ほど自治体消防が隣の村に行ったときに、作業については隣の村の村長でございますか何でございますか、指揮を受けるだろうとおっしゃいました、そういう作業そのもの、行動そのものはまさにそこの指揮を受ける、それはいわばこれがコマンドと言われるものでございますね。ですから、行った部隊はその組織なり配備なり行動なりについては、まさに国連のコマンドを受ける。それは隣の村の村長の指揮を受けるのと同じことでございます。そういうふうにこの中に書いてございます。
 そこで、その間をつなぎますために、その実施要領を書きますときに、その実施要領はコマンドにちゃんと服するようなふうに、その指図に服するようなふうに実施要領を書かなければならないと書いてありますのは、そこの間を調整するために言ったわけでございます。ですから、三つの言葉がございますものですから、おのおのをやや頭の中で混同が起こってはいけませんのでそういうふうに書き分けてある、そういうことでございます。
 ですから、先ほどから御引例になりました、自治体消防が隣に行って隣の村長の、町長の指揮を受けるだろうとおっしゃるのはまさにそうでございます。それはまさにコマンド、つまり組織、配備、行動については指図を受ける、そのとおりでございます。それが法律にそんなふうに書いてございます。

○矢田部理君 宮澤総理、あなたは衆議院で、国際公務員でもないのがどうして国連の指揮を受けるんですかと、こう言ったでしょう。何回も言ったでしょう一隣の村の公務員でもない者がどうして隣の村の指揮を受けるんですか。同じことじゃありませんか。
 連合軍をつくったり、まあ日本とアメリカとの関係は必ずしもそうではありませんがね、NATOとかそれから朝鮮に出るときの国連軍をつくったりするときには、どこが指揮監督の中枢になるかということは非常に大事なんですよ。これはまあそれに準じて恐らく消防だとか災害なんかもやっぱり縦の指揮命令系統の一貫性というものを重視してるんだと私は思っているんです。そのときには身分はもともとの出身の国や所属の行政機関に残しておっても、また最終的な処分権は残しておっても、出かけていくことを通してそのときから向こうの指揮、そこを承諾したときから、このPKOで言えば国連の指揮下に入るんです。そう今までも言ってきたんですよ、ことしの防衛白書だってそう書いてあります、国連の指揮を受けると。だれも混乱なんかしていませんよ。指図なんという言葉を出してくるから混乱するのでありまして、そういうことで軍とか、統一的な行動、対処を必要とする問題は全部そうなっている。
 ここで行政学の講義をするつもりはありませんが、メーヤーというドイツの有名な行政法学者が指揮の内容を全部言っていますよ。処分もそのごく一部なんでありまして、この指揮というのは非常にいろんな概念なんですね。そのうちの一部がないからといって、どうして指図などという新語を発明しなきゃならなかったんでしょうか。これがもともとおかしいんですよ。ごまかしをやろう、憲法もすり抜けよう、派兵と派遣を区別し、武力の行使と武器の使用を分ける。そして、今度は平和維持軍を、最初政府から来たのは維持軍になっておったのに、今度は文書がなかなか来ないと思っていたら、全部それを隊に直すために大変行政官庁は時間をかけている。翻訳文書も何も持ってきやしない。そういうごまかしとでたらめをやりながらこの法律をつくってきた。だから、その象徴が指図なんです。これは私は断固として撤回してもらうように要求します。

○国務大臣(宮澤喜一君) おわかりいただいたようでございますのでくどくは申しませんが、まさに矢田部委員がおっしゃいましたように、指揮ということはいろんな概念があるとさっきおっしゃいました。そのとおりだと思うんですね。
 それで、国連のコマンドに入るというのは、行動をするときに組織、配備、行動については、いわゆるオペレーションについてはコマンドに入りますと。そのとおりなんでございますね。ところが、私が、国際公務員じゃございません、国の公務員ですから指揮監督権は国にございますと申しました意味は、一番基本的な典型的な指揮の概念、つまり指揮に従わないときには懲戒ができるとか処罰ができるとかいう担保がついている、それを本来指揮監督権と申すのでございますから、本来的には。そういう意味では国連の指揮監督ではない、それは国の指揮監督でございますと、こう言ったわけでございます。

○矢田部理君 全然違いますよ。
 行政法の講義をする、講義というわけでもないが、改めて申し上げますが、この指揮というのは最終決定権、最後決定権だというふうに言われております。その最後決定をするに当たってはいろんな段階があります。例えば報告、査察、助言、指示、承認、再審査、撤回、命令、罷免、任今、代執行等々内容は多岐にわたるんです。そのうちの一つが欠けたからといって、指揮の本体がなくなって、別の言葉に置きかえなきゃ説明できないような体を崩すことはないのであります。最終的な決定権を指揮と言っているんであって、この平和維持軍の諸行動について、諸活動について最終的な決定権は国連にあるんです。安全保障理事会が任命した事務総長またはその人が指定をした現場の、現場というか、軍の司令官にあるわけです。そこはきちっと通っているのであります。ですから、これが行政法の基本の常識ですよ。
 改めて撤回を求めます。全然問題にならぬ。

○政府委員(野村一成君) 先ほど指揮ないし指揮監督の実態につきましては総理より御答弁ございましたとおりでございます。
 ただ、この法案の仕組みからいたしますと、まさにこの国連のコマンドという言葉との混乱を、用語との混乱を避ける意味で使ったわけでございまして、例えばこの実態に着目いたしまして、国連のコマンドの実態に着目いたしまして間違った理解をされては困るわけでございます。法案を。その意味で使っておるわけでございまして、例えばこの法案の第五条二項におきましては、本部長は、「所部の職員を指揮監督する」、あるいは第十二条五項におきましては、「本部長の指揮監督の下に」、そういうふうに「指揮監督」という言葉を用いでございます。そういうこの法案で用いられております指揮の用語との混同を避けるという意味がございまして、国連のコマンドの実態に着目いたしまして、私どもこの法案ではまさに指揮ないし指揮監督という言葉では適切な表現ではないと。
 じゃ、しからばどういう表現があるかということでいろいろ考えました。法令用語探索も行いました。その意味で、まさに上下関係あるいは命令服従の関係を内在しておらない、そういう用語例から探しました。一般的にそういう用語例の中から最も適当であるという言葉で指図を選んだわけでございまして、したがいまして、私どもこの言葉が、この法案の用語例といたしまして国連のコマンドというのを実態に着目して使う場合には最も適切な表現であるというふうに考えておる次第でございます。

○矢田部理君 日本政府は処分権については残していますよ、権限を。しかし、国連軍にあるいは平和維持軍に参画をしたというときから、指揮監督権はその作戦とか、さっき総理が言われたオペレーション等々については、作戦については向こうに指揮監督権が移るんです、コマンドですからね。指揮監督は向こうに移って日本の指揮監督権はなくなるんです、その問題に関する限り。
 ところが、日本の法制は、日本のそこにも指揮監督権、総理大臣や防衛庁長官の指揮監督権を残している。そういうことがあっては困りますよということで国連文書は再三にわたって指揮命令系統を統一してきている。国連の命令にのみ従って、自国や出身国の命令に従ってもらっちゃ困ると、こういう建前になっておるんですよ。ところが、日本の今度の法律の建前、立て方は、日本の総理大臣、つまり本部長や防衛庁長官にこの指揮命令権等をやっぱりそこでも残しておる。こんなことで国連協力ができるかということが私どもの立て方の非常に大きな問題点になっておりまして、これはだめですよ。こういうつくり方、立て方の今度の法案はやっぱり欠陥法案なんですよ、いいか悪いかは別にして。

○国務大臣(宮澤喜一君) 途中まではそのとおりで、最後のところはそうじゃないんで、そのコマンドに入るときは、それは日本が何か言ったらとてもできませんから、それは全部国連のコマンドの下に入るわけですよ。それはおっしゃるとおりなんです。ですから、そこを担保するために我々が実施要領を国連のコマンドに合うように書きます、そういうふうにこの法律が書いてあるわけなんです。
 ですから、国連がコマンドを混乱しないようにちゃんと書いてあるわけです。決してそこへ日本が何か余計なコマンドをごたごたするようなことをしてはならぬというために、適合するように指図をしなければならないと、こういうふうに書いてあるわけです。

○矢田部理君 そこで問題になるのが、日本政府の方針と国連の方針が一致していればいいですよ。武力の行使や武器の使用、いいですか、その指揮権の所在、さらには業務中断、物すごく矛盾しているわけです。現場においてはその矛盾がさらに拡大する。こういう適合するように書くというのは、その矛盾をきっちりやっぱり国連との間に詰めなけれはこの矛盾は解消できないんですよ。だから、ここは指図じゃないんですよ。指図というのは、それは調整的なニュアンスの言葉ですよ、どちらかといえば、あなたも言っているように、上下関係とか、強いものと弱いものと言っちゃなんですがね、そういう関係じゃない。
 その点で問題の立て方や受けとめ方が、宮澤さん、これは基本的に違う。やっぱり最も基礎的な問題ですから、ここは全部立て直してほしい、これは強く要請しておきます。

○国務大臣(宮澤喜一君) もうほとんどおっしゃることも私の申し上げることもくっついてきたんで、それで最後のところをこの法律がどうしておるか。どうしておるかと申しますと、実施要領の作成及び変更は、「事務総長又は派遣先国において事務総長の権限を行使する者が行う指図に適合するように行うものとする」、そういうふうにつくるんだと、実施要領を。そうしなきゃならぬということが法律に書いてあって、そこで両方が矛盾なく行われるようになっておるんです。

○矢田部理君 余り関係が違っていなければそれは適合論でいいんですよ。基本原則にかかわる部分に相当の開きがあるわけです。業務の中断なんて決めている国ありますか。
 ここは、業務の中断というのは、いいですか、指揮命令権をこちらに残していなければできないんですよ。それから、主権をそこで留保しようとしているわけです。それから、武器の使用についても国連の方針に従わない、憲法上。ガラス細工のような理屈をつくって武器の使用ということにしてしまいました。その誤りの根源の一つにその問題があるのであって、そこはやっぱり撤回してもらわなきゃだめです。

○政府委員(丹波實君) 先生、事実関係の問題について、例えば……

○矢田部理君 事実関係は要らないよ。事実の問題じゃない、概念の理解の問題だよ。

○政府委員(丹波實君) いえ、非常に重要な事実関係でございますのでちょっと説明させていただきたいと思います。過去……

○委員長(後藤正夫君) 静粛に願います。

○矢田部理君 委員長も勝手に指名しないでください。頼みもしない、求めもしないものを、委員長、指揮することないですよ。

○政府委員(丹波實君) 委員長から御指名をいただきましたので……

○矢田部理君 全然聞く必要ありませんよ。

○委員長(後藤正夫君) 説明中静粛にお願いいたします。

○政府委員(丹波實君) この法案を立法する過程におきまして外務省といたしまして、これまで平和維持隊に参加してきた多くの国の幾つかを選びまして聞きました。要するに、前提が崩れた場合にどのような行動をとったかという点でございますけれども、例えば、一九七四年サイプラスでクーデターが起こった際にトルコの軍隊がサイプラスに攻め込んできたことは、先生御承知のとおり、これはまさにPKFの前提が崩れた場合と私たち了解しておりますけれども、このときに、例えば参加しておりました英国の部隊は持ち場にとどまりましたけれども、侵入者に対して何らの行動もとらなかった、オーストリアの部隊はトルコ軍に対して口頭で移動の停止を申し入れましたが、武器の使用は行わず任務を中断した、それからデンマーク部隊は何らの措置をとることなくニコシアの本部に撤退した、こういうことでございます。
 それからもう一つ、国連レバノン暫定隊についても同じ事件がありましたけれども、時間の関係で省略いたしますけれども、前提がこのように崩れた場合に、参加各国が任務を中断した例はあるのでございます。
 そういうことでございますので、私たちもそういう場合には中断ができるということで国連に説明いたしまして、国連もそういう場合には確かにそうでしょうということであったということでございます。

○委員長(後藤正夫君) 速記をとめてください。
   〔速記中止〕
○委員長(後藤正夫君) 速記を起こしてください。
 宮澤内閣総理大臣。

○国務大臣(宮澤喜一君) 委員長からの御指名がございましたので。
 それで、さっきの指揮監督とコマンドと指図に当たります部分は、ともかく委員のおっしゃっていることも私にわかりましたし、私の申し上げることもおわかりいただいたというふうに思いますが、その次に仰せられました、しかしながらこの法律の立て方にはいろいろ国連のSOPとは違っているところがあって、例えばその一つはその行動を中断するというようなことである、もう一つは武器の使用の場合である、こういうお話がございました。それは実はそのとおりでございます。そのとおりでございますのは、我が国がこのような憲法を持っておりますものですから、いわばほかの国にはできても、我が国の憲法上避けた方がいいという幾つかのケースがあるものでございますから、それをこの法律に書いてあるわけでございますが、それにつきましては国連のSOPが一応想定しております標準モデルとは違いますから、国連の担当の次長にわざわざ、ことしの八月でございましたか、我々の五原則というものを説明いたしまして、それでよろしゅうございますかということで、それでよろしいというお返事があったわけでございます。
 この点は、もともと我々が我々の意思で自発的に協力するのでございますから、困ったときには国連はそれは要らないと言うでございましょうし、いいときにはそれでもお願いする、これは当然のことでございますので、国連の了解を得てこういう建前をとっております。これはほかの国のケースあるいはモデルとは違いますけれども、我が国がこういう憲法を持っておりますところからくるところのものでございますので、御理解をお願いいたしたいと思います。

○矢田部理君 全く了解ができません。
 衆議院の議事録を見てますと、指揮権は日本にある、指図しか国連はできないという前提で全部答弁、議論がなされています。ですから、大もとが違ってくれば、基本の理解が違ってくれば、当然その大もとから変えなきゃならない。全部答弁を見直してごらんなさい。私もこれを議論するまでには随分眺めてきたんです。全部指図ということを前提に、指揮権は日本に、国連平和維持軍に参加してもあるということを前提に各閣僚も政府委員も答弁してきているのでありまして、これは二本立ての指揮権になりますよ、そうしたら。こんな二本立て興行はだめですよ。
 ですから、これはきっちり、やっぱりもう一回政府はこの問題を整理して答弁し直さなきゃ、私は次の質問に入れませんよ。

○委員長(後藤正夫君) 速記をとめて。
   〔午後二時五十九分速記中止〕
   〔午後三時四十一分速記開始〕

○委員長(後藤正夫君) 速記を起こしてください。
 委員はそのままこの場にお残りいただきまして、十分間休憩をいたします。
   午後三時四十一分休憩
     ―――――・―――――
   午後四時四十二分開会

○委員長(後藤正夫君) ただいまから国際平和協力等に関する特別委員会を再開いたします。
 本委員会の議事を続行いたします。
 今まで理事会において協議をいたしました結果について申し上げます。
 コマンド、指揮、指図に関する答弁については、衆議院段階の答弁と本日の答弁並びに法律条文との関係を政府によって整理をして、文書によって見解を速やかに明らかにしていただくこととします。
 以上、御報告申し上げます。
 矢田部君の質疑は明六日続行をしていただくことにいたします。
 休憩前に引き続き、三案について質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言を願います。

 第122回国会 参議院予算委員会 第3号 平成三年十二月十三日(金曜日)午前十時一分開会

【発言順】
 委員       上田耕一郎
 外務省アジア局長 谷野作太郎
 外務省条約局長  柳井 俊二
 国務大臣    
(内閣官房長官)  加藤 紘一
 外務大臣     渡辺美智雄
 外務省欧亜局長  兵藤 長雄
 委員長      中村 太郎
 委員       吉岡 吉典
 内閣総理大臣   宮澤 喜一
 外務省北米局長  松浦晃一郎
 総理府賞勲局長  文田 久雄
 内閣審議官
 兼内閣総理大臣  
 官房参事官    野村 一成

○上田耕一郎君 十二月八日は、真珠湾攻撃、マレー半島上陸の五十周年記念でございました。
 十一月二十六日に日本政府に手交されたハル・ノート、この内容は、中国から撤退せよ、満州事変前に戻せということと、日独伊三国軍事同盟、これを事実上無効にせよという内容が中心だったことを見ても、この太平洋戦争に至る十五年間の推進力となった大きな問題は、一九三一年の中国東北地方侵略と一九四〇年の日独伊軍事同盟結成、この二つが大きかったと思います。
   〔委員長退席、理事井上吉夫君着席〕
ですから、我々はこの十五年戦争からどういう教訓を引き出すかということが最大の問題だと思います。
 外務省にお伺いします。
 十五年戦争でアジアの諸国民に与えた被害、特に死者、各国別にわかっていたら報告してください。

○政府委員(谷野作太郎君) お答え申し上げます。
 お尋ねの件につきましては、いろいろな数字が日本国内あるいは中国なら中国側においてあるわけでございまして、政府としてこのような場で有権的に申し上げ得る数字はないわけでございますけれども、一、二例どういう数字が記載されておるかということでお聞き取りいただきたいと思います。
 例えば、日本の高校の教科書等には、中国においては約一千万人、フィリピン等では約百万人、インドネシア、ベトナム等ではそれぞれ二百万人という数字が記載されておるのを私ども承知いたしております。それから他方、最近の人民日報等の報道によりますと、中国のある学者の方は、日中戦争で犠牲になった中国の方の数字は二千万人というような数字もございます。
 いずれにいたしましても、いろいろな数字がございまして、遺憾ながら政府としてこういう場で確定的に申し上げる数字は、何せ戦争の混乱中のことでございますから、ございません。御理解いただきたいと思います。

○上田耕一郎君 数字は確定できなくても、アジアの諸国民に与えた被害はほぼ二千万人、そう言われていることは今の外務省の説明でも事実で、最大の被害は中国で、中国では一千万人とか二千万人という数字が死者の数として出ているわけだ。
 外務省にお伺いします。
 これらの被害に対する補償要求が半世紀を経てこのアジアの各地で生まれております。例えば、きのうの新聞には、中国で非戦闘員一千万人の殺傷について二十四兆六千億円、この賠償請求が北京にある日本大使館に提出されたという報道がありますが、今補償要求の現状はどうなっていますか。政府、民間を含めて答えてください。

○政府委員(谷野作太郎君) お答え申し上げます。
 まず、冒頭に申し上げなければならないことは、詳細は時間の関係で省きますものの、累次御答弁いたしておりますように、国と国との関係におきましては、そのようなことは既に多くの場合決着済みであるということをまず申し上げたいと思います。
 その上で、ただいま仰せのような先方からの要求、要請が日本の外務省を通じて日本の政府に提起されておることも中国の場合は事実でございますし、例えば先ほどちょっと言及いたしました中国の歴史学者の方によれば、日中戦争によって損失した中国側の財産は約一千億ドルに上るというようなこともございます。他方、中国とは別に、先生も御存じのとおりでございますが、補償要求ということになりますと、朝鮮半島との関係で日本の法廷に、地方裁判所に、例えばサハリンに残留された韓国・朝鮮人の方々の補償要求ということで既に提訴がされておりますし、また最近の事例では、昨日も本委員会で御議論がありましたいわゆる従軍慰安婦の方々からの訴訟が提起されておるような状況でございます。

○上田耕一郎君 きのうも従軍慰安婦問題、一非常に心の痛む問題がここでも清水議員から出されました。
 加藤官房長官にお伺いしますが、調査するということです。きょうの新聞には、この間東京地裁に提訴された御本人の金さんの非常につらい話が、載っています。十五歳のときにぶん殴られて拉致された、中国の前戦基地に着いた日から将校の相手、慰安婦五人に兵隊約三百人、日に何十人もやってきて本当に地獄の日々だったと、青春を返せと言われているんですね。新聞によれば、十万人から二十万人という数字さえ出されている。もし加藤官房長官が調査されて政府、国の責任が明らかになった際、何らかの補償を考えますか。

○政府委員(柳井俊二君) 官房長官からお答えがある前に私の方から、これまでのいわゆる請求権の処理の状況につきまして簡単に整理した形で御答弁申し上げたいと存じます。
 御承知のように、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定の二条一項におきましては、日韓両国及び両国国民間の財産・請求権の問題が完全かつ最終的に解決したことを確認しておりまして、またその第三項におきましては、いわゆる請求権放棄についても規定しているわけでございます。これらの規定は、両国国民間の財産・請求権問題につきましては、日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄したことを確認するものでございまして、いわゆる個人の財産・請求権そのものを国内法的な意味で消滅させるものではないということは今までも御答弁申し上げたとおりでございます。これはいわゆる条約上の処理の問題でございます。また、日韓のみならず、ほかの国との関係におきましても同様の処理を条約上行ったということは御案内のとおりでございます。
   〔理事井上吉夫君退席、委員長着席〕
 他方、日韓の協定におきましては、その二条三項におきまして、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって同協定の署名の日に他方の締約国の管轄のもとにあるものに対してとられる措置につきましては、今後いかなる主張もなし得ないというふうに規定しております。この規定を受けまして、我が国は、韓国及び韓国国民のこのような財産、権利及び利益、これはいわゆる法律上の根拠ある実体的権利であるというふうに両国間で了解されておりますが、そのようなものにつきまして国内法を制定いたしまして処理したわけでございます。その法律におきましては、韓国または韓国国民の日本国または日本国国民に対する一定の財産権を消滅させる措置をとっているわけでございます。
 なお、いわゆる請求権という用語はいろいろな条約でいろいろな意味に使われておりますが、この日韓の請求権・経済協力協定における請求権と申しますものは、実体的な権利でない、いわゆるクレームとよく言っておりますが、そのようなクレームを提起する地位を意味するものでございますので、当時国内法で特に処理する問題がなくしたがって国内法を制定することはしなかったわけでございます。ただ、これはいわゆる請求権の問題が未処理であるということではございません。
 以上にかんがみまして、このようないわゆるクレームの問題に関しましては、個人がこのようなクレームについて何らかの主張をなし、あるいは裁判所に訴えを提起するということまでも妨げるものではないわけでございますが、先ほどアジア局長からも答弁申し上げましたように、国家間の問題としては外交的には取り上げることはできないということでございます。
 以上が日韓間のいわゆる財産・請求権問題の処理の状況でございます。

○国務大臣(加藤紘一君) 今、条約局長からお答えいたしましたように、日韓間の条約上の請求権の問題は、一般的に申し上げてそのようなことだろうと思います。
 従軍慰安婦等の問題につきましては、今委員御指摘のように、訴訟が提起されておりますので、その訴訟のそれぞれの主張等を見ながら、また事実関係を見ながら、行政的にどう対応していくか考えていきたいと思いますけれども、今のところここでコメントを申し上げられる段階にはまだ至っておりません。

○上田耕一郎君 では、渡辺外務大臣。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 官房長官がおっしゃったとおりです。

○上田耕一郎君 柳井局長が言われたように、国と国との間では一応条約で外交の保護権、これはなくなっている、政府間の請求権を放棄しているんですけれども、個人の請求についてはあるわけですね。これは今大問題になりつつあって、韓国ではデモその他大問題になっている。
 外務省にお伺いします。同じ敗戦国で第二次大戦の主役だったドイツでは、こういうヨーロッパ諸国その他に対する被害にどういう補償をやってきましたか。

○政府委員(兵藤長雄君) ドイツが第三国に対していわゆる補償という意味で行ったことについてまとめて御報告申しあげますと、まずイスラエルでございますけれども、一九五二年九月のユダヤ人難民のイスラエルにおける居住及び再統合の拡大のための財及び役務の行使に当てるための条約によりまして、総額三十四・五億マルクを支払っております。一方、フランスを初めといたします十二の西側の国とは、一九五九年から六四年にかけまして次々と取り決めによりまして、国は省かせていただきますけれども、総額は九・九億マルク。さらに、一九六一年から七二年にかけましてポーランド等東欧四カ国に向けまして、同じく個別の取り決めによりまして総額一・二億マルクを支払ったというふうに承知いたしております。
 さらに、国際的な措置といたしまして、戦争により発生いたしました難民支援を目的といたしまして、一九六〇年十一月に国連難民高等弁務官と協定を締結いたしまして、当初四千八百五十万マルクの基金を設置いたしまして、それをさらに八一年、八四年に追加取り決めによりまして八百五十万マルクの補充支出を行い、総額五千七百万マルクを支払ったというふうに承知いたしております。

○委員長(中村太郎君) 関連質疑を許します。吉岡吉典君。

○吉岡吉典君 今論議になりましたような問題、またきのう論議になりましたような中国あるいは朝鮮からいろいろ侵略戦争にかかわる問題が提起されるのは、日本が戦後、侵略戦争の責任のはっきりした解決をしてこなかった、そのためだと思います。政府の発言にはきれいな言葉が並べられますが、侵略戦争の反省というのは、きれいな言葉ではなく、一番痛いところにもメスをきちっと入れなくちゃならない、私はそう思います。
 戦後の日本、そういう立場に立って責任ある反省を示してきたと責任を持って言えるかどうか、総理にお伺いします。

○国務大臣(宮澤喜一君) 戦後、我が国が荒廃から立ち上がります段階で、我々の先輩が平和の回復についていろいろな苦労をされました。それはサンフランシスコ講和会議を初め多くの二国間条約、その中には賠償協定もございましたが、あるいはまたいわゆる共同宣言といったようなもの、いろんな形で国と国との関係は、先ほど政府委員が答弁を申し上げましたように、ともかくも国民の負担において処理をされたわけでございます。それは先輩たちの非常な御努力のおかげであったと考えておるものでございまして、新たに個人が自分の立場からそういう請求権を提訴してこられる、国と国との関係は処理されておるわけでございますけれども、そういうことが起こってまいりました。
 これはしかし、なかなか容易ならぬ問題でございます。事実関係の究明ということもございましょうし、またここまで先輩が処理をされてぎた問題との関連もございましょうし、大変に難しい問題だと思いますが、先ほど官房長官が、昨日も申し上げておりましたけれども、こういう問題についてできるだけ事実関係の解明に当たりたい、まずそれを考えております。

○吉岡吉典君 要するに、各国の国民は日本を許していないということが今もあらわれているわけです。それは日本が侵略戦争の責任を明確にしての反省を示していないからです。アジア諸国にはもちろん、アメリカにだって同じですね。
 私、去年の六月、内閣委員会で外務省から答弁を得ましてびっくりしましたけれども、戦後、真珠湾攻撃さえも一度も公式に謝罪したことはないというのが外務省の答弁でした。私、初めて知りました。それでよかったと思いますか、総理。

○国務大臣(宮澤喜一君) たまたま真珠湾五十年という日がごく最近ございましたので、私としては自分の考えを内外に申し上げたところでございます。
 ブッシュ大統領御自身も三つのスピーチをされて、それをお互いに読ませてもらったわけでございますけれども、基本的な考え方としては、それはいろいろやはりお互いに思いはある、殊にそこに来られたアメリカ人の人々に対してそういうことを言っておられるわけですけれども、しかし最後に言えば、我々はやはり将来に向かって物を考えなければならない、世界の平和と繁栄をもたらすということであれば亡くなった人も恐らく自分たちはむだに死んだのではないと思ってくれるであろう、こういうことで結ばれましたが、そのような気持ちでブッシュ大統領もおられるというふうに考えております。

○吉岡吉典君 五十年、一度も謝らなかったのでよかったかということを私は聞きました。それもう一度答えてください。

○国務大臣(宮澤喜一君) 私ばかりでなく、歴代の総理がこういうことについてはいろいろな場において遺憾の意を表明しておられます。

○吉岡吉典君 外務省ははっきり公式謝罪をしていないと言明したんですよ。外務省、確認してください。

○政府委員(松浦晃一郎君) 吉岡先生が言及しておられますのは、当時の岡本課長が真珠湾攻撃についての公式謝罪をしていないということを答弁したわけでございますけれども、それに言及されていると思いますが、先ほど来総理が御指摘になっておられますように、全体につきまして、今回も先ほど総理がお触れになりましたけれども、総理御自身の述べられたこと、私ここに持っておりますけれども、アメリカを初め、太平洋、アジア各地域の皆さんに耐えがたい打撃を与え、非常な御苦労、悲しみを与えることになって、我々としては深く責任を感じているということを言われました。
 それから、ブッシュ大統領の演説を受けまして外務大臣も談話も発表しておりまして、そこに、アジア・太平洋の人々に対しまして耐えがたい苦しみと悲しみをもたらしたことに深く反省をするということをおっしゃっておられますことを改めて申し上げたいと思います。

○吉岡吉典君 過去には言及したくないということです。
 ブッシュ大統領の演説の話が出ましたけれども、私は新聞報道の見出しに非常に重要なものがあると思いました。「過去を忘れ前進を」という見出し、あるいは「過去より未来を」、要するに過去は忘れて将来を語ろうということのようです。総理もそれが気に入ったようで、過去ではなくというように今おっしゃったと私はとりました。過去の侵略戦争はやっぱり忘れていこうということですか。
 私、そこでお伺いします。そういう日本の政府、日本の侵略戦争を明確に反省できないから、他国にも言うべきことが言えない。ブッシュ大統領がこの間、原爆投下についても発言し、謝罪しないというだけでなく、正しかったと言った。それでいいんですか。日本政府の公式態度を教えてください。

○国務大臣(宮澤喜一君) 私自身は過去を忘れていいなんてことを申しておりません。ブッシュ大統領のこの間の演説は、そういう趣旨があったということを申し上げたのであります。そういうお互いの精神でございますから、ブッシュ大統領がそう言われることについては、我々もやはり両国の将来あるいは世界平和への貢献ということを考えまして、そのように考えていくべきであろうと思います。

○吉岡吉典君 原爆はどうですか。

○国務大臣(宮澤喜一君) ただいまお答えを申し上げたとおりでございます。

○吉岡吉典君 答えになりません、それじゃ。
 原爆投下は正しかったというアメリカのブッシュ大統領の発言に対する日本政府の公式見解を教えてください。

○国務大臣(宮澤喜一君) この間、それより後に真珠湾でなされましたブッシュ大統領の演説に流れます基調、それは今、吉岡委員が言われたとおりの基調でございますが、そういう精神において考えてまいりたいと思います。

○吉岡吉典君 答えになりません。もう一度答えてください。答えになっていません。

○国務大臣(宮澤喜一君) ブッシュ大統領のこの問題の日米関係についてのお考えは、吉岡委員もまさに言われましたように、ホノルルにおいて述べられたそういうことでございますから、そういう全体の考えの中でこの問題を考えていけばいいと、私はそういうふうに申し上げておるわけです。

○吉岡吉典君 原爆投下についての発言さえできない、本当に情けない総理大臣だと思います。
 それでは、私はここで具体的にお伺いします。
 広島、長崎への原爆投下の直接責任者であったカーチス・ルメー、元空軍大将です。日本はこの人に勲一等旭日大綬章を贈った。非常にいいことをしたと思いますか。総理、あなたは広島ですから、はっきり答えてください。

○政府委員(文田久雄君) 私から叙勲の経緯について簡潔に御説明させていただきたいと存じます。
 お示しのルメー大将は、一九五七年、昭和三十二年以来、米国空軍の参謀副長をいたしておりまして、一九六一年、昭和三十六年以降は同参謀長をいたしております。そして叙勲当時に至っているものでありますが、米国空軍と我が国の航空自衛隊との緊密な遠路のもとにおきまして、我が国防衛力の拡充強化に関しまして、米軍の対日協力、援助に寄与するところ大であった、こういう功績に基づきましてお示しの叙勲をいたした次第でございます。

○吉岡吉典君 総理、私は総理に質問しました、いいことをしたと思うかと。どうですか。

○国務大臣(宮澤喜一君) ただいま賞勲局長の御説明でお聞き及びのとおりです。

○上田耕一郎君 お聞きのような半世紀なんですね。アジアの諸国民に対してそういう非常に無責任な態度をとっている。同じ戦争の主役のドイツと比べても、際立った対照は鮮明だと思うんですね。そうして、五十年たって自衛隊の海外派兵というんですから、アジア諸国が警戒と批判の声を上げるのは当然です。
 ここにスターズ・アンド・ストライプス、太平洋軍の準機関紙です。十月二十五日付にホーリー在日米軍司令官、中将の話が載っています。これに、今度のPKO法案についてホーリー在日米軍司令官は、アメリカの平和維持活動任務に日本が海外派兵できる法案と、そういう評価をしているんですからね。だから、在日米軍司令官は、アメリカのためにいよいよ自衛隊が海外派兵してくれる、そういうふうにはっきりスターズ・アンド・ストライプスのインタビューで述べているんですから。
 PKOの法案についてお聞きします。
 この柱は、言うまでもありませんが、一つは国連指揮下のPKO、PKFに自衛隊が参加できること。二つ目は、国連決議があれば、人道的国際救援活動ということで自衛隊が事実上多国籍軍的活動にも参加協力、実施できるという内容なんです。きょうはこの後者の問題についてお聞きします。
 この第三条二号の規定で人道的国際救援活動を実施できる要件、これはどうなっていますか。

○政府委員(野村一成君) お答え申し上げます。
 この法案で人道的な国際救援活動と定義、御指摘のとおり三条二号にございまして、具体的には四つに分けることができるかと思います。
 一つは、国際連合総会、安保理もしくは経済社会理事会の決議または、これ別表に掲げてございます主として国連機関でございますけれども、人道的な救援活動に従事している国際機関、そういう国際機関の要請に基づくものであるということ。
 次に、紛争に起因いたします被災民の救援または被害の復旧のための人道的な精神に基づく活動であるということ。
 三番目に、受け入れ国の同意がございまして、さらにそういった活動が行われます地域の属する国が紛争当事者である場合には、紛争当事者間に停戦の合意があるということでございます。
 さらに最後に、国連のPKOとして実施されるものではないこと。
 以上、四つの点でございます。

○上田耕一郎君 野村さん、ちょっとお伺いしますが、例えば湾岸戦争のような多国籍軍、湾岸戦争じゃなくてもいいですよ、ああいう多国籍軍的活動、それは軍事活動もやっているけれども、同時に付随的に人道的活動も、難民救済とかいろいろあるでしょう。そういう場合に、もし国連の決議があれば国際平和協力隊、つまり自衛隊はこの国際的救援活動、人道的活動ができるんですか。

○政府委員(野村一成君) お答え申し上げます。
 私、今いわゆるPKO法案に書いてございます人道的な国際救援活動の定義の内容について申し述べさせていただきました。御指摘の湾岸危機の際のいわゆる多国籍軍の活動につきましては、私先ほど申し述べました法案に定義された人道的な国際救援活動には該当いたさないというふうに考えております。したがいまして、我が国としまして、この法案の枠組みの中におきまして、今先生、後方支援とおっしゃられたと記憶しておりますけれども、そういったような活動はできないものというふうに考えております。

○上田耕一郎君 三条二号には「その他の国際機関又は国際連合加盟国その他の国」となっているんです。だから、湾岸戦争のときのようなあのような場合に、要件があればやれるかということを聞いているんです。

○政府委員(野村一成君) 私、今答弁申し上げましたが、いわゆる多国籍軍につきましてのそのものの活動、あるいは後方支援についてはできないということを申し上げたつもりでございまして、この法案に定めてございます要件に合致しますれば、例えば湾岸戦争の際の難民の救済、そういった活動についてはできる側面があるというふうに考えております。

○上田耕一郎君 明白なんですね。十一月二十日、衆議院でも特別委員会で社会党の伊東委員の質問に対して、こういう湾岸戦争のような場合でも、そういった点での要件、要請があればできるわけでございます。そう言っているんですよ。ですから、アメリカ中心の多国籍軍の活動でも、国連の決議があって、難民救済、医療あるいは通信とかいっぱい書いてありますよ。そういう場合には国連が決議すればできるんですよ。今アメリカの言いなりじゃありませんか、国連は。
 ですから、この法案でも、人道的救援活動という口実で自衛隊が多国籍軍の後方支援に、国連で決議さえすればどんどん出ることができる、こういう驚くべき法案になっている。私は、到底こういうものは許すことはできない。憲法違反は明白ですよ。しかも、集団自衛権にも踏み込むというようなことになっている。海外派兵を禁止した参議院の決議に違反じゃありませんか。当然これは廃案にすべきだ。首相、どう考えますか。

○国務大臣(宮澤喜一君) そこは、今大変正確に政府委員が答弁を申し上げておるところを、上田委員は何かずく湾岸戦争という現実に起こった事態へ話をお引き戻しになるわけです。そうですね。湾岸戦争という現実に起こった事態において、本当に後方支援とおっしゃるようなことをした場合に、それはやはりいわゆる一体論というものがあって、武力行使に当たりはしないかという危険も相当ございます。ですから、具体的にあの場合についてこういうことをするのがいいか悪いか、私はやはりそれは問題であろうと思っております。
 政府委員の申しましたことは、純粋に法律上のケースを申し上げましたので、上田委員のおっしゃいますように湾岸戦争という具体的なケースになれば、私はそういうふうに、今申しましたように感じます。

○上田耕一郎君 私は、法的な仕組みの危険性を問題にしているんで、その仕組みについては首相も反論できなかった、そう受け取っておきます。

 第123回国会 衆議院予算委員会 第2号 平成四年二月三日(月曜日)午前九時開議

【発言順】
 委員       山花 貞夫
 内閣総理大臣   宮澤 喜一
 外務省アジア局長 谷野作太郎
 外務大臣     渡辺美智雄
 外務省条約局長  柳井 俊二
 国務大臣     加藤 紘一
(内閣官房長官)

○山花委員 問題、山ほどありますけれども、東京宣言だけやっているわけにいきませんから、先に進みたいと思います。
 日韓首脳会談について伺いたいと思いますけれども、今回、端的に言って、訪韓の成果につきまして、施政方針でもちょっとお触れになっていますけれども、総理からまず伺いたいと思います。

○宮澤内閣総理大臣 かねてから、もしこの栄職を汚すことがあるとしましたら最初の訪問国はアジアの国にしたいと考えておりました。殊に韓国は、その中でも我が国と一番近い、しかも着々と力をつけてくる国でございますので、訪問をしたいと考えましたところ、先方からの御招待を受けることができました。参りまして、盧泰愚大統領との個人的な信頼感、日韓両国にまたがりますたくさんの問題についてお話をすることができましたし、また、両国ばかりでなく、今後のアジアあるいは世界の中における日韓の共同の平和友好の増進ということについても認識を深めることができたと考えております。

○山花委員 就任初の外国訪問に韓国を選んでアジア重視の外交姿勢というものを内外に示された、この点については私たちも評価できると思っているところであります。しかし一体どういうことだったのかということについて振り返ってみると、総理の意気込みとは違って、韓国国内の空気は必ずしも好意的ではなかったというのが、報道だけではなくて、事実だったんじゃないでしょうか。韓国のマスコミを見てみると、何の実りもなく両国間の感情の溝を深めただけだという厳しいものまであったと紹介されています。今回の韓国訪問の際にさまざまな形で浴びせかけられた非難に対して、戦後四十六年を経てなおこのような国民感情が残っているということについて、総理はどう受けとめているのか、この点について伺いたいと思います。

○宮澤内閣総理大臣 韓国訪問を決定いたしましたときに、恐らく韓国からいろいろな問題についてのお話があるであろう、それは必ずしも我々にとってすべて非常に愉快なことばかりではないということはよく承知をいたしておりました。したがって、むしろそういうお話を率直に先方からしてもらって、それに対する我々の考えも率直に述べまして、そしてお互いの問題をどうしていくかということを討議をしていく、そのことに意味があるだろう、いろいろ問題があることを知りながらそれを何となく避けておるということは、今後の日韓関係にとって決してよろしいことではありませんし、また、日本が韓国と今後アジアにおいてアジアのために一緒に仕事をしていくという意味でも、そういうわだかまりがあることはよろしくないことでございますので、私は、むしろそういうことを率直に承りに行った、自分のミッションの一つはそういうことであるということをあらかじめ考えておりました。

○山花委員 総理が今お話しのような立場で戦前の植民地支配等について反省の意思を表明したということにつきましては、その後、今回の国会におきまして初めて総理が公式に、かつての侵略戦争の対象となった諸国の皆さんに反省と遺憾の意を表した、このことについては私たちも評価するところであります。
 そして、今度の韓国の訪問、実は私たち国民の立場から見て印象に残ったことは二つのテーマじゃなかったでしょうか。一つは、一斉にマスコミが伝えました、第一回首脳会談におけみ盧泰愚大統領が正しい歴史認識を求めたこと、PKOの法案に懸念を表明したこと、これが一つです。もう一つは、元従軍慰安婦の問題について正式にしかるべき措置が求められたということ。日本がアジアの一員としてアジアの諸国と将来にわたって信頼関係を築いていくためには、何が原点なのか、必要なのかということが問われたというのが、今度の韓国訪問の一つの大きなお土産だったんじゃないでしょうか。
 昨年は大事な年でした。朝鮮半島に対する侵略の覇権を争って、かつての日清戦争、日露戦争、これに勝利した日本が、朝鮮半島から清国及びロシアの影響を排除して朝鮮を事実上植民地として治め、そして一九一〇年には日韓併合条約ができた。八十余年が過ぎたのであります。日中戦争から六十年、パールハーバーから五十年という昨年、私たちは、いわば節目の年として、日本の戦後責任と新しいアジアの関係、これが今日的課題だということをさまざまな機会に政府に対しても訴えました。
 私は、昨年この予算委員会におきましても、まず第一に、総理の国会における正式な謝罪が必要ではないだろうか、第二番目、国会決議が必要ではないだろうか、第三番目、そしてアジア諸国に対して必要な対応があるのではなかろうか、四番目、歴史教育の問題について提起をいたしました。幾つかの問題については、総理の方がこの問題について取り組んでいただいたということは承知しております。しかし、総理の反省と謝罪の言葉が、果たして朝鮮半島を初めとするかつての戦争犠牲者の心の中に届いているんだろうか。届いてなかったということが今度の韓国の経験ではないでしょうか。今その努力のあり方が問われているのではないでしょうか。韓国の民衆の感情を重視して、誠意ある回答をすべきであります。
 こういった問題は、この直近の日朝国交正常化交渉においても同様であります。総理の歴史的な認識の発言とは裏腹に、一月三十一日の交渉で日本側が日韓併合条約について、当時の一般国際法として認められている、当時日韓併合に異を唱えている国はなかった、こう言っていわば開き直った回答をしている。これでは、日朝交渉、これから先行きが心配です。日韓併合条約についての歴史的な認識を冒頭伺っておきたいと思います。総理大臣、外務大臣、どうぞ。

○谷野政府委員 お答え申し上げます。
 この点は、日韓正常化交渉の過程におきましても問題になったところでありますけれども、日本側のこのお尋ねの件についての立場は、要するに、お尋ねの条約は今やもはや無効であるというのが日本側の立場でございます。

○山花委員 今、よくわからなかったですね。聞いていてもだれもわからなかったと思いますね。今御指摘になったものは、当時の日本側の主張であって、韓国側の主張ではありませんよ。当時から意見の対立したまんま、日韓基本条約について現在でも意見の対立した部分じゃないですか。日本の立場を説明するだけではいけないと思っています。
 この日韓併合条約について、外務大臣、御認識はいかがですか。

○渡辺(美)国務大臣 これはまあ意見を異にするところはいろいろございましたが、しかし、日韓の正常化のための条約は結ばれて一応の解決を見たことでありますから、それをさらにもう一遍やり直しというわけにはまいらぬのです。

○山花委員 もう一遍やり直すということではなく、今私は、日朝の交渉でお役人はこういうことを言っておる、こういうことではこれからの日朝交渉は進みませんよ、こういうことを申し上げた次第でありまして、正しい歴史認識に基づいて日朝交渉についても臨むべきである、そして、韓国とのさまざまこれからまだ出てくる問題につきましても正しい歴史認識に基づいて臨むべきである、こう主張しているわけでありまして、この点について総理の答弁を求めたいと思うのです。

○渡辺(美)国務大臣 日朝交渉は誠心誠意今やっております。第六回目までやりました。しかしながら、日韓と条約を結んだことと全く別な次元で朝鮮半島の北半分である朝鮮民主主義人民共和国と条約を結ぶということは、実は考えられないのです。南と全く差をつけちゃうというわけにはいかない。やはり日韓との間でできた条約というものが一応頭の中に置かれて、その上で交渉は進められなければならないと私は考えております。

○山花委員 今のテーマにつきましては、総理の施政方針と外務大臣の過日の方針と、似ているようで外務大臣のは、誠意を持ってやるということがきちんと書いてあったので、そこのところを評価したいと思います。これからもそういう姿勢で進んでいただきたいと思いますが、お答えしてもここだけで議論とめるわけにはいきませんから本論に戻して、先ほどの日韓首脳会談に戻して伺っておきたいと思うのですけれども、韓国の政府は、その中で一つのテーマとして残った従軍慰安婦の問題について一月二十一日、韓国側でも各省庁の実務責任者会議を開いて、日本政府に対して徹底した真相解明とこれに伴う適切な補償などの措置をとるよう求めている、こういう方針が決まったそうです。韓国内の市民運動が国連に持ち出すという問題もある。大体この問題については、政府はずっと問題に触れないで、逃げて逃げて逃げてきましたね。実態、真相究明、調査をすると言いながら、みずからこういうものがありましたという報告はなかった。市民運動や学者の先生がやっと見つけた資料が世にあらわれて、そこから動き始めだというのが実態じゃなかったでしょうか。
 実は、この問題につきましては、これまで五点ほどの資料が集まったということのようでありますけれども、その後、四十七点ぐらいの新しい資料が見つかったということにつきまして、これは私は行いません。昨日それを入手いたしました、後ほど我々の同僚の伊東秀子議員がこの問題に基づいて、新しい四十七点の資料に基づいて伺いたいと思いますので、真相究明の努力につきましては、そうした資料を積極的に政府が発表して、そして内外に明らかにする中でオープンな格好で進めていただきたいという、これからの予算委員会での問題について御紹介するにとどめたいと思います。
 さて、そこで、問題絞っていきまして、従軍慰安婦の補償の問題につきまして、現在の政府の基本的な考え方はどうなっているんでしょうか、この点について伺いたいと思います。

○谷野政府委員 先生も御案内のとおりでございますが、本件につきましては、ただいま日本の国内におきまして訴訟の手続がとられております。政府といたしましては、その帰趨を見守るということでございますが、あえて申し上げますれば、この種の問題も含めて法的には六五年の日韓の正常化の折に決着済みであるというのが政府の立場でございます。

○山花委員 決着済みであるということについてもう少し敷衍して御説明をいただきたいと思います。なぜ決着したんですか。この点について御説明いただきたいと思います。

○柳井政府委員 お答え申し上げます。
 先生も御承知のとおり、一九六五年、昭和四十年の圧韓請求権経済協力協定の第二条におきまして、日韓両国及び両国国民間の財産請求権の問題がこの協定をもって完全かつ最終的に解決したということを確認しているわけでございます。また、この協定の第二条三項におきましては、いわゆる請求権放棄についても規定しているわけでございます。
 それで、これらの規定は、両国国民間の財産請求権問題につきましては日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄したことを確認しているものでございまして、これ自体はいわゆる個人の財産請求権そのものを国内法的な意味で消滅させるものではないということは、今までも何度か御答弁申し上げたとおりでございます。
 これらのいわゆる条約上の処理の問題でございますが、この日韓の場合におきましては、これも御承知のとおり二条三項におきまして、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって同協定の署名の日に他方の締約国の管轄のもとにあるものに対してとられる措置につきましては今後いかなる主張もなし得ないというふうに規定いたしまして、一定の国民の権利、我が国におきましては韓国及び韓国国民の財産権等を、法律をもって、法律を制定いたしまして消滅させたということでございます。
 長くなりますのでこの程度にとどめますけれども、冒頭申し上げましたとおり、日韓両国間におきましては、両国間の問題といたしましてはこの請求権の問題というものが完全かつ最終的に解決したということでございます。

○山花委員 短く伺いたいと思います。
 完全かつ最終的に解決されたと説明しましたが、解決したということは、相手側に対して賠償金を払うなり和解金を払うなりしたということなのでしょうか。この点について伺います。

○柳井政府委員 簡単に要点だけお答えを申し上げますと、当時のこの日韓の交渉におきまして、一方におきましては、ただいま申し上げましたように財産請求権の問題は完全かつ最終的に解決したということ、同時にまた、我が国から経済協力といたしまして無償、有償の一定額の資金を供与をすることを約束をし、これを実施したということでございます。このような形におきまして我が国から一定の資金が、具体的には財産、役務ということでございますけれども、一定額の経済協力が行われた、そして同時に請求権の問題が解決された、こういうことでございます。
 さらに、若干繰り返しになりますけれども、この財産請求権の問題につきましては、この協定によりまして、日韓間で外交的にこれを取り上げることは行わないという形で解決したわけでございます。

○山花委員 私が伺ったところとちょっとずれたお答えになっているわけですけれども、お話は、無償三億ドルの供与、有償二億ドルの長期低利の貸し付けという経済協力ということによって完全かつ最終的に請求権問題については解決されたということの説明だったと思いますけれども、この無償、有償五億ドルの経済協力ということは、請求権との関係ではどういう関係にあるんでしょうか。この点について、今の御説明ではよくわかりません。御説明していただきたいと思います。

○柳井政府委員 当時の日韓国交正常化交渉におきましては、この請求権の問題につきまして、先生も御承知のとおり大変に長いかつ複雑な、困難な交渉が行われたわけでございます。その結果といたしまして、ただいま先生もお触れになりましたように、無償三億、有償二億ということがこの協定で約束され、実施されたわけでございます。
 これは、この協定上は直接韓国及びその国民に対する補償と、直接そのような支払いという形では行われなかったわけでございますけれども、ただ、先ほども申し上げましたように、経済協力という形で日本から実質的には資金が韓国の方に行く。そして、一方におきましては、先ほども若干触れましたように、請求権の問題につきましては、一定の場合には請求権の放棄あるいは国内的な財産権の処理に対して相手側が主張しないという形で解決をしたわけでございます。
 したがいまして、経済協力と請求権の処理というものがこの協定のもとにおいて並行的に行われ、俗に言えば一つの大きなパッケージとして解決がなされたということでございます。

○山花委員 パッケージという言葉の意味がわかりませんね、聞いておって。この経済協力の性質は何だったんでしょうか。請求権問題の処理あるいは請求権を解決するために肩がわりとしての五億ドルということだったんでしょうか。この点について伺いたいと思いますが。

○柳井政府委員 先ほども申し上げましたとおり、この経済協力というのは韓国側の請求権あるいは請求に対する直接の支払いというものではございませんけれども、日韓両国国家間におきましては一定の額の資金が実質的には韓国側に支払われるわけでございますので、そのようなことも考慮して、請求権の放棄等の形で請求権問題を解決した、そういう一つの大きな外交的な交渉の結果であったということでございます。

○山花委員 経済協力を行うことになった、それで請求権がなくなった。この関係はどういう関係なのですか。法律的な関係か何かあるのですか、あるいは全く関係ない話なのですか。全く関係ないということになれば、この完全かつ最終的に解決されたということはわかりにくくなると思いますけれども、この点についてさらに伺いたいと思います。

○柳井政府委員 この点、若干繰り返しになって恐縮でございますけれども、先ほど来申し上げておりますとおり、日韓請求権経済協力協定におきまして、一方においては請求権の放棄等の形での請求権問題の処理、解決ということをなし、同時に並行的に経済協力というものを行うという形で、この協定上、直接その請求権の補償というような形では規定しておりませんけれども、しかし、全体としてはそれぞれが外交交渉上関連を持って妥結に至ったということでございます。これを俗にパッケージと、大きな形のパッケージということを言って申し上げているわけでございます。

○山花委員 ということですと、請求権の問題と経済協力の問題は全く関係なかったんだと、関係なかったんだけれども、並行的に解決したから一緒に整理したんだ、こういうことですか。要するに、法律的に、条約上法律的には関係ない問題がたまたま一緒になって解決したと、外交上政治的に解決したということですか。そういうことならそういうことでいろんなこれから出てくる問題についての対応の仕方が出てくると思いますけれど、も、もう一遍そのパッケージの中身、わかりませんね、聞いておって。全く関係ないものがたまたま一緒になってということなのですか、それとも関係あるのですか。両方がパッケージということの意味についてさらにちょっと伺いたいと思います。

○柳井政府委員 これは全く関係ないということではございませんで、むしろ外交上一つの大きな交渉の中で関係があったからこそパッケージということを申し上げているわけでございます。
 繰り返しになりますが、請求権の補償という形で規定してはおりませんけれども、請求権の解決を考慮に入れて、日本側から見れば経済協力を行う、また韓国側から見れば日本側から経済協力という形で実質的に資金が供与されるということを考慮してこの請求権の問題を解決したということでございます。したがいまして、この規定上は請求権の補償という直接の書き方はしておりませんけれども、全体としてこれは両者関連して大きな一つの当時の外交上の判断として、これは両方、両側の判断でございますけれども、この問題を解決したということでございます。
 当時既に日本の韓国に対する支配というものが終わって相当の年限もたっておりました。具体的な請求権の積み上げ金額等についてもいろいろ議論が交渉上あったわけでございますけれども、相当の年月もたち、また資料も必ずしも全部そろっているわけではないということも考慮いたしまして、一つの大きな解決策ということで、一方においては経済協力をなし、一方においては請求権問題の解決、放棄等の処理を行うということでございます。したがいまして、両者は交渉上関連をしていたということでございます。

○山花委員 請求権の補償ということではないけれども関連を有しておった、こういう結論というふうに聞きました。
 請求権というのはどんな中身があったんですか。その中身には例えば慰安婦の皆さんの補償問題等は入っておったんですか、入ってなかったんですか。

○柳井政府委員 当時、日韓国交正常化の大変長い複雑な、かつ困難な交渉の中でいろいろな具体的な請求が韓国側からなされていたわけでございます。ただいまここにそのすべての資料を持っておりませんけれども、その結論といたしまして、日韓請求権経済協力協定の第二条の第一項におきましては、ちょっとこれは短いので読ましていただきますが、「両締約国は、両締約国及びその国民」、ちょっと間を飛ばしますが、「の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題がこサンフランシスコ「平和条約第四条同に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」というふうに規定しているわけでございます。したがいまして、交渉の過程でいろいろな具体的な請求がなされた経緯がございますけれども、そのようなものをすべて含めて完全かつ最終的に解決されたということでございます。
 この交渉の過程で出されました具体的な請求につきましては、例えば対日八項目の請求というようなものもあったわけでございます。ただ、いわゆる慰安婦の問題について当時具体的にそのような請求がなされたというふうには私は承知しておりません。ただ結論といたしまして、あらゆる請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたということでこの条約上の合意をしたということでございます。

○山花委員 今お話がありましたとおり、当時八項目の請求がありました。その中に、今またお話がありましたとおり慰安婦の補償問題についてはその中には入っていなかったということです。入っていなかったのに全部解決したという理屈はどこから出てくるんですか。全く相談していなかった、解決していなかった問題について整理できてないんじゃないですか。テーマの中に入っていなかったんだけれども解決したはずであるというその理屈について説明していただきたいと思います。今これはわかりませんね。

○柳井政府委員 お答え申し上げます。
 ただいま申し上げましたとおり、いわゆる対日請求八項目というようなものがございまして、そのような中で韓国側が具体的に請求したものの中に、いわゆる慰安婦の問題というのが入っていなかったという経過はあるわけでございます。ただ、それでは当時韓国側があらゆる問題について、あらゆる請求について具体的に請求をしたかということになりますと、これは大変に日本の統治時代のいろいろな問題、これを具体的に請求するというのは種々困難があったと思います。
 この請求権の処理の問題というのは、日韓に限りませんけれども、具体的な問題の処理ということでいろいろ議論はいたしますけれども、そのような請求の根拠なり資料なりが必ずしもそろわないということも現実でございます。そこで、交渉上ある一定の時期に妥結を図るということになりました段階におきまして、そのような具体的には触れることができなかったような問題も含めて請求権問題をすべて完全かつ最終的に解決するという処理がしばしば行われるわけでございまして、繰り返しになりますのでこれ以上申し上げませんけれども、先ほど読み上げましたように、日韓の条約の上では、そのような当時具体的に取り上げられなかった問題も含めてすべての請求権の問題が両国間では完全かつ最終的に解決されたというふうに規定しているわけでございます。したがいまして、この点につきましては、日韓両国政府間で合意の上でそのような処理をしたということでございます。

○山花委員 議題として取り上げられていなかったということについては、今お話しのとおりでありまして、取り上げていなかったことについて解決したと言うのは、これは理屈に合わないというように思います。この問題については、八項目の中で全体として対応しているわけでありますから、全体としてそういう理屈にならざるを得ないと考えるわけでありまして、また今資料の問題がありましたけれども、改めてこの問題については取り上げていきたいと思っています。
 最後に訴訟の問題について、訴訟の推移を見守るということだったわけですけれども、単に長い裁判を見守るだけでよろしいのでしょうか。こうした問題について五年、十年長く続いていくならば、その間見守っているということでは足りない、政治的な決断が必要なのではなかろうか。この点について、これは官房長官がこの問題についてずっと担当しておった経過もおありになるようですから、この問題についてどういうように対応するお気持ちなのか、新しい議論も出てきておるようでありますから、この点についてまとめて伺っておきたいと思います。

○加藤国務大臣 私が累次記者会見等で申し上げてまいりましたことは、このいわゆる韓国人慰安婦の問題につきましては、法的、条約的にはただいま言いましたように個人の補償の問題は処理が終わっているというのが政府の解釈でございます。ただいま条約局長が申しましたように、しかし、個人の訴権をまたこれを奪うものではないので、現在進行されております裁判において司法部がいかなる判断をするかを見守っていきたい、こう思っております。
 ただ、この慰安婦の問題は、単にそれだけではない心の傷の問題という点もございますので、我々はそういう観点から何をなし得るのかということを考えていかなければならないと思っておりますけれども、しかし、それをどういう形にするのか、これからいろいろ政府としても慎重に考えていかなければならない問題、またいろいろな意見をお伺いしながら考えていかなければならぬ問題だと思っております。

○山花委員 この問題については、裁判の訴状を一遍ごらんになっていただきたい、こういう気がいたします。大変分厚いものではありますけれども、この現物を読んでいただきたい。まさにこれまでの私たちの歴史をそこから知らなければいけない。そして、その中にある苦難に満ちた原告の皆さんのその叫びというものをぜひ直接聞いていただきたい。そうした中で、官房長官も今この問題についての重要性について触れましたけれども、この問題については、単なる裁判を見守るということでは到底済まない問題だということを強調しておきたいと思います。

 第123回国会 衆議院予算委員会 第4号 平成四年二月十九日(水曜日)午前十時開議

【発言順】
 委員       伊東 秀子
 外務省条約局長  柳井 俊二
 内閣総理大臣   宮澤 喜一
 国務大臣     加藤 紘一
(内閣官房長官)
 外務大臣     渡辺美智雄
 委員長代理    中山 正暉
 内閣官房内閣外
 政審議室長
 兼内閣総理大臣  有馬 龍夫
 官房外政審議室長
 外務省アジア局長 谷野作太郎
 文部大臣     鳩山 邦夫               

○伊東(秀)委員
 あと次に、従軍慰安婦問題について質問を移らせていただきたいと思います。
 従軍慰安婦問題では、一月に宮澤さんは訪韓なさって、日本国の総理として謝罪なさったその誠意には、私も大変敬意を表するものでございます。しかし、そこにやはり裏づけになる補償がないということで、大変韓国の方々も、それから日本の私も含めてやはり悲惨な実態、従軍慰安婦の方々の実態を思うときに、非常に良心と誠意が問われているということを思うわけでございます。
 平成三年の三月二十六日の参議院の内閣委員会で政府は、日ソ共同宣言における請求権放棄の問題に関して、放棄したのは国家自身の請求権及び国家が自動的に持っていると考えられる外交保護権であって、国民個人からソ連またはその国民に対する請求権までは放棄していないという御答弁をしておられます。
 これを裏返しますと、つまり今従軍慰安婦の方々が日本国政府を相手として損害賠償請求をしているわけでございますが、彼女らが個人として日本国政府に対する請求権、損害賠償請求、それは何ら消滅していないというふうに受けとめていいわけでございますね。

○柳井政府委員 お答え申し上げます。
 いわゆる請求権放棄の条約上の意味につきましては、これが国家の持っている外交保護権の放棄であるということは、従来からいろいろな機会に政府が答弁申し上げているとおりでございます。そして日韓の請求権の処理でございますが、いわゆる日韓請求権・経済協力協定におきましては、ほかの場合よりも若干詳しい規定を置いておりますことは、先生も御承知のとおりでございます。
 御案内のことなので余り詳しく御答弁申し上げませんけれども、重要な点でございますので、ポイントだけ申し上げさせていただきたいと思います。
 この日韓請求権・経済協力協定の第一条におきましては、いわゆる経済協力のことを規定しているわけでございますが、第二条の第一項で、日韓の両国間のあるいは両国民間の財産、権利及び利益並びに請求権に関する問題が、「完全かつ最終的に解決されたこととなる」ということを確認しているわけでございます。そして二項では若干の例外、すなわちこの協定による請求権処理の対象にならないものを挙げておりますが、これは戦後の通常の日韓間の取引に基づく財産権というようなものでございますので、従軍慰安婦のような問題には関係ないわけでございます。そして三項におきまして、要点としては、財産、権利及び利益に関する措置、国内的な措置、そして請求権につきましては「いかなる主張もすることができない」ということを規定しているわけでございます。そして、この三項の規定を受けまして、これも御承知のとおり、我が国におきましては昭和四十年に財産権の処理に関する国内法を制定いたしまして、いわゆる法令上の根拠のある実体的な権利につきましては、韓国及び韓国国民が我が国において有するそういう財産権を消滅させる措置をとったわけでございます。ただ、この場合におきまして、そのような国内法上の根拠のない財産的価値を認められるいわゆる実体的権利というものでない請求権につきましては、この法律の対象になっていないわけでございます。
 そこで、それではこのような意味の請求権は何かということになるわけでございますが、これはクレームとも言っておりますけれども、このような請求を提起する地位を意味すると考えております。いわゆる外交保護権の放棄でございますから、そのような個人がこのようなクレームを提起するということまでも妨げるものではない。したがいまして、我が国の裁判所に訴えを提起するというようなことは、そこまでは妨げておらないということでございます。

○伊東(秀)委員 裁判において請求する権利、つまり請求権は消滅していないという結論だと思うのですが、それで、韓国において首相は、補償の問題については裁判の行方を見守りたいということを両首脳会談の中でも発言しておられます。しかし、今問われているのは、日韓基本条約の締結の段階では、軍の関与は全くなかった、民間業者が勝手に連れ歩いていたのだという事実のもとに締結した条約であり、さらに新しい事実が出てきたときにその事実に基づいて宮澤総理は謝罪をした、その新しい事実に対しての一つの加害国としてその誠意をどうあらわすか、つまり道義的責任、政治的責任がこの問題では問われているのではなかろうか、こう考えるわけでございます。
 そこで、それに入る前に、まず現在の従軍慰安婦に関する軍の関与についての首相の認識をお伺いしたいと思います。
 訪韓の段階では、軍が何らかの形で関与していたことは否定できないという大変消極的な事実認定のもとに謝罪なさったわけでございますが、その後、私は二月二日に四十七点の新しい従軍慰安婦に関する資料を入手いたしましたし、昨日さらに九点資料を入手いたしました。その入手した資料では、総理の訪韓前の見つかっていた五点の資料にはないものがいろいろ出てございますが、総理はそういった新しい資料に基づく内容を報告を受けているかどうか、さらに、その報告に基づいてどのような事実認識を持っておられるか、ちょっとお伺いいたします。

○宮澤内閣総理大臣 これは、官房長官を中心に各省庁がやっておりますので、官房長官から御報告をいたします。

○加藤国務大臣 政府の方でも六省庁を中心に資料調査を鋭意やっておりまして、幾つかの資料もまたこちらの方でも見つかっております。その状況につきましては、担当局長から報告させます。
○有馬政府委員 御指摘、御示唆のような資料がその後も出てきておりますが、まさにこれらを踏まえて、総理が韓国に行かれます前に、我が国として、従軍慰安婦の募集や慰安所の経営等に旧日本軍が何らかの形で関与していたことは否定できないということを言われ、そのような認識が引き続きこれらの資料によって裏づけられているということだと存じております。

○伊東(秀)委員 今の御答弁を聞きますと、何らかの形で関与したことは否定できないというこの事実認定、これは変わってないように聞こえるわけでございますね。
 それでは、私は資料に基づいて、時間もございませんのでこちらで事実を明らかにしたいと思うのですが、きょう委員長の許可を得まして事前にお配りしております資料を見ていただけたらと思うのですが、これは資料一というところを見ますと、昭和十九年五月に中山警備隊というところで出した軍人倶楽部の利用規定というものでございます。この第二条のところをごらんください。「第二軍人倶楽部ト称スルハ慰安所トス」と書いてございます。さらに第三条には、「部隊副官ハ軍人倶楽部ノ業務ヲ統轄監督指導シ円滑確実ナル運営ヲ為スモノトス」と書いております。さらに第四条には、「部隊附医官ハ軍人倶楽部ノ衛生施設及衛生施設ノ実施状況並二家族、稼業婦、使用人ノ保健、調理、献立等ノ衛生二関スル業務ヲ担任ス」となっております。第五条では、「部隊附主計官ハ軍人倶楽部ノ経理二関スル業務ヲ担任ス」、すべてこれを見ますとこの慰安所については軍が全面的に統括していたということが明らかになるわけでございます。
 さらには付表がついておりまして、一番最後を見ていただきたいのですが、その利用時間表とか第二軍人倶楽部、つまり慰安所の料金表までついております。これを見ますと、将校と准士官と軍属、こういうふうに分けて、値段もさらには時間も軍で区別していたということがはっきり出ているわけでございます。
 さらには、第二番目の資料二というものをごらんいただきたいのですが、この資料二の二枚目の昭和十七年の三月十二日に台湾軍の司令官から陸軍大臣あての電報でございまして、この内容は、「「ボルネオ」行キ慰安土人五〇名為シ得ル限リ派遣方南方総軍ヨリ要求セルヲ以テ」、つまり台湾の慰安婦の方五十名、なし得る限り派遣してほしいということを南方総軍から要求された、だから陸軍省としてはその先に書いてある経営者三名の渡航を認可してくださいという申請の電報でございます。それで、資料二の最初のページに返りますと、この電報に対して陸軍省の副官から台湾軍の参謀長あてに、先ほどの電報の件は認可しますという返電を打っているというものでございます。
 これを見ましても、明らかに軍が陸軍全体で組織的にこの慰安所を設置し、派遣からさらには経営、慰安婦の方々の衛生の状態の管理、経理まで携わっていたということが明らかになるわけでございます。
 三番目についでに申し上げますと、この資料二の三枚目の資料でございますが、これは同じく昭和十七年六月十三日に台湾軍の参謀長から陸軍省の副官あてに出した電報でございまして、「「ボルネオ」ニ派遣セル特種慰安婦五十名二関スル現地著後ノ実況人員不足シ稼業二堪ヘザル者等ヲ生ズル為尚二十名増加ノ要アリトシ」というふうに書いてございます。つまり、五十名要求したから送ったけれども、足りないから二十名の増加の要求があった、それでその二十名についての増加の了承をしてください、こういった電文になっているわけでございます。
 このように、これは伺いますと、首相が訪韓する前には多分首相はごらんになってなかったのではなかろうかと思うわけでございますが、ここまで明らかに軍が組織的、計画的に慰安所を設置していたということが明らかになるわけでございますが、この点について首相はいかがお考えでございますでしょうか。新しい事実に関してでございます。

○宮澤内閣総理大臣 訪韓いたしました段階でこの具体的な事実を知っておったわけではございませんけれども、当時既に入手いたしました各種の資料、情報等々から、あの当時訪韓で申しました基本的な認識は持っておりました。したがいまして、この資料はそのことを一層いわば裏づける資料でございましょうと思いますが、基本的な認識はあのときに既に間違いなく持っておりました。

○伊東(秀)委員 当時から、このように軍が組織的に慰安所を設置していたということは認識していたということでございますでしょうか。

○宮澤内閣総理大臣 当時私が持っておりました認識は、その当時日本政府がこのような従軍慰安婦の募集並びに慰安所の設営、経営に関して関与していたと考える理由がある、こういう認識でございますので、その認識は今日と大体同じでございます。

○伊東(秀)委員 渡辺外務大臣にお尋ねするのですけれども、渡辺外務大臣は一月十四日の夜のテレビでこのような発言をなさっております。能動的な関与かどうかはわからない、慰安婦の数を数えたり慰安所設置を許可したりという関与かもしれない、それは調べてみないとわからないというような趣旨のことを発言しておられます。つまり、この発言だと、あくまでも従的な、募集にちょっと手をかしてあげたんだとか、そういった関与かもしれないというような発言のようなんですが、新たな事実が出て、今私が読み上げました事実を見たら、これじゃ取り消さなきゃいけないと思うのですが、いかがでしょうか。

○渡辺(美)国務大臣 一月の十三日の当時はわからなかったわけでございますが、そのような資料が出てまいりますと、それは軍が関与したと認めざるを得ないというように思います。

○伊東(秀)委員 渡辺外相の大変誠実な御答弁で、当時はわからなかったけれども、新たに軍が関与していた、積極的に関与していたということがわかったということでございますが、さらに私が入手しました資料によりますと、大変、もう全面的というのがより一層明らかになるわけでございますね。
 というのは、「軍慰安所従業婦等募集ニ関スル件」という、昭和十三年の三月四日に出されております陸軍省の兵務課というところの文書なんですが、ここで、募集に関する件で、もうちょっと地元の憲兵や警察との緊密な連携をとるよう派遣軍も関与せよということを陸軍省が指示している文書でございますが、これの決裁をしている方が今村均、その後陸軍大将になられて、今村均回顧録という大変立派な本を私も今回読ませていただきましたが、そこの中に慰安所の部分も出てまいりました。そういう方が決裁しておりますし、さらには、当時の陸軍の次官が梅津美治郎という方でございまして、この方の決裁印もございます。梅津さんという方は、周知のとおり最後の参謀総長と言われた方で、そして日本がミズーリ号で降伏文書を調印するときの軍側の調印をした方でございます。もう十三年当時から、こういう形で軍の高官が関与していた。
 しかも、どういう関与をしていたかということの実態でございますが、沖縄の平山隊というところから出てきました平作命第五号という文書によりますと、慰安所が足りなくなったので、その増強のため一月十六日より十日間の予定をもって兵寮を築造した、そのために一部兵力を差し出したというような記述になっております。
 また、今回出てきた資料によりますと、これは資料三というところを、きょうお配りしたものをごらんいただきたいのですが、資料三の、表紙を入れて三枚目でございますが、これは慰安婦の方々の梅毒の検診を軍医が行った資料でございます。そこにはっきりと、「検査延人員」というところに、「内地人」「半島人」「中国人」という形で、半島人、つまり朝鮮半島の方々が、この報告では南京や蕪湖とかあるいは金壇とか鎮江というところに慰安婦として軍に働かされていたという事実がございますし、さらに、もっと私は、これはもう大変民族差別の象徴たるものだなと思うものは、昨日入手いたしました資料の中に、「昭和十三年三月 常州駐屯間内務規定」というのがございまして、その第九章に「慰安所使用規定」というのがあります。これはきょうの資料にはお配りしてないのですが、そこにその慰安所の料金が書いてあるわけでございますが、「使用時間ハ一人一時間ヲ限度トス」、支那人は一円、半島人は一円五十銭、内地人は二円、「以上ハ下士官、兵トシ将校(准尉含ム)八倍額トス」、こういうふうに書いております。つまり、こういう形で――委員長、お示ししてよろしゅうございますでしょうか。

○中山(正)委員長代理 はい、どうぞ。

○伊東(秀)委員 こういう形で、植民地支配をしてきた朝鮮半島の女性を強制的に、あるいは軍隊の方々の炊事とか洗濯とか身の回りの世話をするのだとか、あるいは兵器工場で働かせるのだというふうにだまして運行してきた女性たちを、慰安所で一日に十人も二十大もという日本兵の相手をさせていた。しかも、料金は内地人、半島人、支那人という形で差別をしていたという、非常に非道な実態が出ているわけでございます。
 こういうような状況でございますが、なぜこういう軍の慰安所を設置しなければならなかったのか、その点についてはどのような御意見をお持ちでいらっしゃいましょうか。

○加藤国務大臣 何せ古い話でもあり、明確にお答えできないことについては御理解いただきたいと思うのですけれども、発見された資料等を読んでみますと、当時の前線の状況から、軍の慰安所の管理運営に関与することを、軍の方が関与することが必要な状況がちょっとあったのではないかな、こう思っております。

○伊東(秀)委員 その必要な状況の中身はどのように把握しておられますでしょうか。

○加藤国務大臣 当時、日本軍が駐屯しておりました地域で現地の人たちと軍との間でいろんなトラブルが起きて、軍の規律がちょっと守られないようなところもあって、突き詰めて言いますと、そういう観点から、性的な慰安についての対処をしておかなければ、例えば強姦事件とか起きてしまうというような配慮が、軍の中にそういう声が出て、そしてこういう現地軍からの要請という形になったのではないかと思っております。

○伊東(秀)委員 今の御答弁では、大変消極的な、まあ言いづらいことかもしれませんけれども、かつての戦争は聖戦であったというふうに日本国政府は言っていたわけでございますから、言いづらいことなのかもしれませんが、私が入手した文書にはっきり出ているわけでございますね。
 それは昭和十三年の七月一日から七月三十一日までの歩兵第九旅団陣中日誌というものの中に出てくるものでございますが、これは、昭和十三年の六月二十七日に、北支那方面軍参謀長岡部直三郎という人から陸軍の方面軍各部隊に指示した通牒としてこういうふうなものが出ております。つまりこの北支那方面ですけれども、軍占拠地内の治安が大変悪くなってきている。治安回復の進捗は遅々たるものである。その主なる原因は、「軍人及軍隊ノ住民ニ対スル不法行為カ住民ノ怨嗟ヲ買ヒ反抗意識ヲ煽リ共産抗日系分子ノ民衆煽動ノロ案トナリ治安工作二重大ナル悪影響ヲ及ホスコト尠シトセス」。中略しますと、「日本軍人ノ強姦事件カ全般ニ伝播シ実二予想外ノ深刻ナル反日感情ヲ醸成セルニ在リト謂フ」。この軍の発行した文書に、日本軍の強姦事件がその占領地全般に伝播しちゃってどうしようもない状況だ。だからこのような「軍人個人ノ行為テ厳重取締ルト共ニ一面成ルヘク速ニ性的慰安ノ設備ヲ整へ設備ノ無キタメ不本意乍ラ禁ヲ侵ス者ナガラシムルヲ緊要トス」。このように軍の参謀長自身が、強姦とか放火とか住民に対する不法行為がもう蔓延してどうしようもない、だから取り締まると同時に、もはや慰安所をつくって何とかしなければいけないということを通牒として出しているわけですね。ここに見られることは、日本軍が、いかにこれは聖戦と言いながら蛮行を繰り返していたかということの、この太平洋戦争の内実が明らかにされるかと思いますし、女性をセックスの対象としか見ない、この軍の発想というもの、これが非常に人道上も問題であるということを、軍自身の文書が裏づけているのではなかろうかと思われるわけでございます。
 これは昭和十五年に、さらに軍紀振作対策という、支那事変の経験より見たる軍紀振作対策という文書でございますが、陸軍省の副官の文書にも、川原直一という人が出した文書の中にもはっきり出ておりまして、もうこの支那事変の中で、中身だけ紹介させていただきますと、略奪、強姦、放火、捕虜惨殺等、皇軍の本質に反する幾多の犯行を生じたために、聖戦に対する内外の反感はもうどうしようもない状況に至っているということがうたってあるわけでございます。このような目的から非常に、何とも非人道的な目的から軍の慰安所が設置されたということが資料上明らかになっておりますし、さらには、もう一つ重要な文書としては、金沢大学の医学部の教授で、当時、軍の軍医大尉という位におられた早尾席雄と読むのでしょうか、この方の「戦場ニ於ケル特殊現象ト其対策」という中にも同じようなことがありまして、さらには上海事変、これは昭和十二年のころですが、大変強姦がふえたことと、中国での商売の女性との接触から性病が軍隊に蔓延している。だから内地や朝鮮半島の少女たちを、女たちを連れてきて、性病を予防して、その管理も軍がやらなきゃいけないというようなことが書いてあるわけでございます。
 こういった、本当にこの日本の戦争の本質にかかわるようなことを暴露する形で、今回従軍慰安婦の方々の訴訟が提起されている。まさしく、これは法的な責任などというものではなくて、私は、新たな日韓関係の構築とか、国際社会で信義を求めたいという、首相の施政方針演説にもございました。これから見て、まさしく道義的責任、政治的責任が問われていることではなかろうか。この事実に誠実に対処するためには、被害者になられた方々のいる国の方々に対して、申しわけなかったと、誠意をこういう形で受け取ってくださいと自発的に補償を申し出るのが、私は、本当に新しい日韓関係の構築につながると確信しているわけでございますが、そういった点については、首相はいかがお考えでございましょうか。

○宮澤内閣総理大臣 大たいは実例についてるるお述べになられましたことは私も伺っていて、残念であるがそういう事実が過去においてあった、もともとそういう認識を持っておりましたので、韓国に参りましたときに、大統領に対しても韓国国民に対しても謝罪をいたしたわけでございます。
 そこで、次の問題でございますが、これはやはり今、私どもの方で、官房長官を中心に過去のそういう事例をもう少し資料を集めておりますし、また訴訟も提起されております。そういうことの経緯の中から、どういうふうにすべきか、訴訟等々の経緯も見ながら考えていかなければならない問題であろう。ただいまどうということをにわかに申し上げられる段階になっておりません。

○伊東(秀)委員 裁判の経緯を見守るということをおっしゃっていらっしゃいますけれども、もう原告になられた方々は大変高齢である。戦後五十年近く経ておりますし、しかも、ここには内閣法制局長官もいらっしゃるように、この事件は戦前の事件である。戦前の事例を国家に対して、国家の不法行為に対して損害賠償を請求する場合の法的な、適用される法律があったのか。民法上は、天皇は神聖にして侵すべからずであり、天皇のもとにあった皇軍の不法行為は問われない状況、民法の適用はないじゃないか。さらには、国家賠償法というのは昭和二十二年にできた法律でございます。ですから、これが裁判にかかっているといっても適用される法律はないわけでございまして、裁判の経緯を見守るというのはまさしく時間稼ぎ、責任逃れの方便にすぎないじゃないか。本当に誠意があり、新しい日韓関係の構築を真剣に模索するのであれば、この韓国の国民感情、それはもう私などよりも、首相が一月に訪韓なさったときにつぶさにごらんになったと思うのですけれども、それに政治家の決断として何らかこたえるということ、それが今問われているのじゃないかと思うわけでございます。
 裁判の経緯を見守るということは、非常に責任逃れである。それはなぜかといいましたら、適用される法の問題、時効の問題、あらゆる、また慰安所の中のあのおぞましい実態を重言しなければ、今原告になった方々は損害賠償を受けられないのかという非常に人道上問われる問題があるわけでございます。こういったことを考えても、まだ首相は裁判を見守るとおっしゃるのかどうか、いかがでしょうか。

○宮澤内閣総理大臣 先ほど条約局長からお聞き取りいただきましたような国と国との法律関係、それから訴訟について、個人が我が国の法廷に訴訟を起こすということは、もとよりその個人の自由である、権利である、ただ国家的な保護は受けないけれどもという、そういう法律関係等々万般のことを考えてまいりますと、我々の先輩が我が国として、サンフランシスコの講和条約を初め多国間あるいは二国間のいろいろな条約、協定等によって、問題はともかく整理をされてきたという、過去のそういういわば事実がございます。そういうことも考えながら問題を考えてまいりませんとなりませんので、そういうことから先ほど申しましたようなお答えをいたしておるわけであります。

○伊東(秀)委員 もう私としては、裁判の経過を見守る、適用される法もないような状況で、本当に彼女たちの救済はもう九九%政治的決断にかかっているという状況の中で、裁判を責任逃れの道具には使ってほしくない、心から切実にそう思います。
 次に、なぜ彼女たちが、どういう形で連行されてきたかということでございますが、ここに大変重要な証言をなさっている方がございまして、吉田清治さんという方でございますが、彼は戦時中、山口県の労務報国会下関支部の動員部長であった方でございます。彼自身が約千人近くの女性を下関から、朝鮮人の女性を従軍慰安婦に強制連行した。
 そのときの実態としては、十人か十五人がまず、吉田さんの部下ですね、十人か十五人が朝鮮半島に出張する。総督府の五十人あるいは百人の警官と一緒になって村を包囲し、女性を道路に追い出す。木剣を振るって若い女性を殴り、けり、トラックに詰め込む。一つの村から三人、十人と運行して警察の留置所に入れておき、予定の百人、二百人になれば下関に運び、下関からその必要とされる中国やあるいは仏印と言われるようなところ、あるいはフィリピン、あらゆるところに送ったということを証言しているわけでございます。そのときには、小さな子供を抱える母親もいた。子供たちが泣き叫ぶ、お母さんと言って泣きつくのをけ散らかして女性を連行していったということを証言しておられますし、これは今裁判になっておる原告の方々も同じことを言っているんですね。
 この原告のAさんの場合は、お嬢さん、お金を稼ぎに日本に行かないか、倉敷の軍服をつくる工場へ行けばお金を稼げるし、ミシンも買うことができるよと言われて、そして半強制的に埠頭に連れていかれた。そして船に乗せられた。それからもう自由はなくなった。で、数日後に軍の輸送船に乗せられてラバウルに到着した。ラバウルから教会に連れていかれて、そういった女性が二十人ぐらいいるところに連れていかれ、性行為を強いられた。嫌だというふうに拒否したところ殴られた。もう逃げることはできなかった。そういうことをこの原告の方も訴えておられます。
 さらには、一月の十四、十五、十六、大変日韓問題にまじめに取り組んでおられる市民団体の方が従軍慰安婦一一〇番というものを設置されたところ、三日間に二百三十件、三台の電話は鳴りっ放しだったと言われておりますが、そこに寄せられた言葉の中にも同じようなことはいっぱい出てきまして、例えば旧朝鮮国民学校の元教員だったという方の中には、昭和十八年ごろ六年女子のクラスを受け持っていたとき、校長に命じられて女生徒八人を挺身隊員として選別し送り出した。依頼には特に、できるだけ体格がよくて家が比較的貧しい者を選ぶようにと指示があった。当初は飛行機部品作業員の募集と聞いていた。後にそれが慰安婦だということを聞かされて、本当に申しわけないことをしたと思うというようなことが寄せられております。
 さらには旧海軍の元少年飛行士という人の証言の中には、昭和十九年四月中旬、南方への移動の途中で仲間と下関の旅館に泊まった。朝鮮人の若い娘さん三、四十人が泣いていたので事情を聞いたら、挺身隊として飛行機をつくったり鉄砲の弾をつくって日本人と一体となって働けるという、喜んで日本に来たのに、これから南方に連れていかれて慰安婦にさせられると泣いていたという、そういう証言も寄せられております。
 これについて首相はどういうふうに、連行の事実についてはどういうふうに認識しておられるのでしょうか。

○有馬政府委員 御指摘になりました吉田氏の著書の存在でありますとか、今の御紹介になりました一部の方々が話しておられるというようなこと、全部ではありませんけれども私ども捕捉いたしております。
 いずれにいたしましても、従前から御要請に応じて政府としては内閣官房が調整しながら、我が国政府がいわゆる朝鮮半島出身の従軍慰安婦の方々の問題にいかように関与してきたかは調査しているわけで、それを続けているわけであります。
 それから、今最後に御指摘になっておられますようなことは私どもが今調査しているこの段階ではこれを示唆するものはございません。

○伊東(秀)委員 強制連行の実態、慰安婦をどういうふうにして連れ出してきたかはまだ資料は見つかっていないということでございましたが、ここに日本の中にも、あるいは韓国に慰安婦と名のり出ている方々がもう十数人になっているというわけでございますが、ぜひその調査をすべきではなかろうか。韓国政府に対して宮澤総理は誠実なる調査ということを約束なさいました。
 そこで私は、どのような形で慰安婦の方々が戦地に送られたかということを明らかにするために、今紹介いたしました吉田清治さん、この方をこの国会において参考人としてお呼びすることを申請いたします。

○中山(正)委員長代理 伊東議員に申し上げます。
 後刻理事会において検討いたしたいと思います。

○伊東(秀)委員 この吉田清治さんも、もう御高齢でいらっしゃいます。戦後約五十年たつ、早くに取り調べないと生き証人の方々が亡くなってしまうという問題でございますので、ぜひとも誠実な実態調査の履行として、こういった生々しい現実、事実を知っておられる方々を調べていただきたい。吉田清治さんはこの委員会での参考人招請をここで申請したわけでございますが、そのほかにも日韓の合同実態調査を私はすべきではなかろうかと思いますが、その点についてはいかがでしょうか。

○谷野政府委員 お答え申し上げます。
 先ほど外政審議室長からお答えいたしましたように、内閣官房の御指示によりまして関係省庁におきまして、ただいま日本側におきましては鋭意調査を継続中でございます。他方韓国側におきましても同じような仕組みをつくりまして、韓国側は韓国側で調査を継続中のようでございますから、とりあえずはそれぞれの側でその調査を継続するということではなかろうかと思います。

○伊東(秀)委員 さらには、今政府は九万名余りの朝鮮人強制連行者の名簿を公表しておりますが、朝鮮人強制連行真相調査団という団体の調査では十四万一千九百十六名の名簿を公表いたしております。それは国内と韓国で独自に調査した結果でございますけれども、その中の朝鮮人帰国者初期名簿というところの百六十五名中百四十七名の女性が載っております。これは従軍慰安婦ではなかろうかと思われるわけでございますが、これをさらに裏づける資料がアメリカのスタンフォード大学に保存されていた文書の中から発見されております。
 それは一九四五年の十月及び十一月の二回にわたって沖縄に駐留していた米軍の報告書という形で報告されておりまして、この十月の報告書によりますと、「もう一つの公安問題は日本軍が沖縄に残していった慰安婦達だった。彼女達が統制区域内に絶えず問題を起こしていた。米軍は沖縄内すべてのこの女性達を集合させ、韓国に強制的に帰国させることを占領当局に報告し、帰国までの食料等の面倒をみて欲しいとも依頼をした。」そのほかにも四十名ほど集めたということがありまして、さらに十一月の報告によりますと、「沖縄その他のリュウキュウ諸島から集められた韓国慰安婦は無事帰国された。」という報告がございます。そして、この報告とともに、同じ百四十七名の女性のリストがついているわけでございまして、そのリストには、これがそのリストのコピーでございますけれども、韓国の住所と氏名がちゃんとついております。
 ですから、首相が本当に誠実に、実態調査を早急にしたい、調査を早急にしたいというのであれば、この名簿からでも住所と氏名をたどるということはできるかと思うんですが、いかがでございましょうか。

○有馬政府委員 御指摘の資料につきましては私ども承知いたしております。多分二つの資料が同一のグループに言及しているんだろうということも御推測のとおりではないかなと感じております。
 他方、その方々について調査をするということは、何と申しますか、それらの方々のプライバシーにもかかわることであって、いかがなものかと考えております。
○伊東(秀)委員 プライバシーの問題もあるかと思いますが、その辺は調査を非常に、やり方の問題でありまして、まず熱意の問題ではなかろうか。その名簿を掌握しておるのであれば、ぜひ調査に移ってもらいたい。
 さらには、あと、本当に調査をする気になるのであれば、強制連行で連れてきたその一九四四年以降は、朝鮮総督府の労働部というところが主体的に朝鮮半島から日本に労働者などを送り込んだわけでございまして、その朝鮮総督府が毎回の帝国議会への報告資料という形で動員の状況などを報告している、そういったことを私は文献上探しているわけでございますが、政府が多分この総督府からの議会に対する説明資料を保存しておられるであろう。これを公表して、その中から強制連行の、アメリカで爆撃の資料の中から発見された、約六十六万名いたというふうにいいながら九万名しか強制連行の名簿もまだわかっていない、こんなずさんなことではなしに、総督府の議会に対する説明資料でもって、強制連行の名簿、さらにその中から女性の従軍慰安婦と思われる方々の資料もわかるのではなかろうか。それを調査するということをここで、する気はないかどうかについてはいかがでしょうか。

○有馬政府委員 その御指摘の資料につきましても、現在関係官庁で行っております調査の過程で見つかりますれば、従来どおり公にしていく所存でございます。

○伊東(秀)委員 その総督府の資料、総督府作成の資料そのものは存在しているかどうか、それについてはいかがでしょうか。

○有馬政府委員 この資料に言及しております書き物もございますので、調べてみましたけれども、現段階ではきちっとわかっておりません。

○伊東(秀)委員 それから、今回明らかになりました問題に関してですが、首相は施政方針演説の中でも、歴史を正しく伝えること、事実を直視することが今後の、二度と過ちを犯さないためには大切であるということを強調なさっておられます。
 これは私は大変重要なことで、歴史的なこの日本の戦争に関する子供たちへの教科書問題、これにかかわることだと思うんですが、昭和五十五年の教科書検定におきましても、これは家永第三次訴訟で問題になったわけでございますが、南京大虐殺のころの強姦の多かった事実を削除させております。
 当時、教科書論争の一九八二年に大変に起こった当時、宮澤さんは官房長官であられました。それで大変お骨折りいただいたわけでございますが、こういった歴史的事実、日本の戦争の本質にかかわる強姦の実態などを、戦争にはっきものだからという調査官の修正意見で削除させた、こんなことを今後も続けるのかどうか、大変問題だと思うんですが、教科書の記述に関する首相の責任ある御答弁をお願いしたいと思います。

○鳩山国務大臣 総理の今回の国会演説、あるいはその前の韓国での政策演説、あるいは昨年の海部前総理大臣のシンガポール演説、大体皆同じような趣旨であろうと思っておりまして、今先生御指摘にありましたように、昭和五十七年当時の、総理が官房長官であられたころの官房長官談話、まあこのような観点で、いわゆる教科書の検定基準の中にも国際理解と国際協調という、そういう側面を取り入れていくということで、今ちょっと席に置いてきてしまいましたが、現在使われております小学校、中学校、高校の教科書は、一般の方が予想されるよりもはるかに近隣アジア諸国と日本との関係、近隣の諸国にいろいろな損害や迷惑をかけたということが相当記述をされるようになってきているわけでございます。
 ですから、既に従軍慰安婦の問題も、たしか一社だけ高校の歴史では日本史で取り上げられているわけでございまして、まあそういう意味では、私としては総理の先般の演説等の精神を踏まえてこれからも教育をやっていかなければならないと思っておりますし、現実に総理が韓国へ行かれてあのような話し合いをされたというようなことについては、きょうも見えておりますが、文部省の坂元初中局長が都道府県の教育委員会の主管部課長会議とかあるいは教育長を全部集めた会議等でも話をされているところでございます。
 ただ、教科書に何を書くかということについては、日本の教科書は国定教科書ではありませんで、民間の方に執筆をしていただいて発行をしていただく、その過程で検定を行っているわけでありますから、どの事象を取り上げるかというのはあくまでも執筆者や発行者にゆだねているということでございます。

○伊東(秀)委員 では、終わります。

 第123回国会 衆議院外務委員会 第2号 平成四年二月二十六日(水曜日)午前十時一分開議

【発言順】
 委員      土井たか子
 外務大臣    渡辺美智雄
 外務省条約局長 柳井 俊二

○土井委員 応分にというのがちょっとどうもね……。
 さてそこで、日本がよって立つ立場はアジアでございます。外務大臣もアジア外交を重視されております。宮澤首相は第一の訪問先を韓国にされました。これはやはり外交姿勢を見る場合には結構だというふうな評価があるのは当然だろうと私は思います。
 そこで、日本のアジアにおける信頼回復にとって大切なのは、戦後補償の問題に対して誠意を尽くすということであると私は思うのでありますが、この種の問題について問われているのは国政関与者の責任ではなかろうかと思うのです。大臣はどのようにお考えになりますか。

○渡辺(美)国務大臣 それは、アジアについて友好関係を保っていくということは当然我々の責任であります。

○土井委員 最近非常にニュースでクローズアップをされております従軍慰安婦の問題も含めて強制連行をされた人たち、従軍した人もあれば、あるいは日本の国内で炭鉱やまた建設現場や軍需産業なんかで強制労働に従事した人もございますが、そういう人たちから補償の請求があるときに、もうこの問題は解決済みでございますという答弁を今までされてきた。解決済みとおっしゃる根拠はどこにあるのですか。

○柳井政府委員 御承知のとおり、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定におきましては、日韓両国及び両国国民の財産請求権の問題は日韓間の問題として完全かつ最終的に解決したということが確認されているわけでございます。これまた御承知のとおり、この解決と並行いたしまして無償三億、有償二億ドルという経済協力を実施したものでございます。いわゆる個人の請求権にかかわる問題につきましても、この日韓間における条約上の処理の対象となっていますことはこの条文上も明らかでございます。したがいまして、日韓間の問題としてこの請求権の問題は完全かつ最終的に解決したということでございます。
 根拠と申しますのは、この一九六五年の日韓間の請求権・経済協力に関する協定でございます。

○土井委員 柳井さんの御答弁というのは、外務省のその条約にかかわる御答弁としては大分に変遷しているのです。
 先日予算委員会での御答弁で、今おっしゃった有償、無償五億ドルですね、これは一条の問題だと思いますが、後でおっしゃった完全かつ最終的に解決という、これは二条の問題だと思いますが、これを大きなパッケージとして解決がなされたとおっしゃっておる。これは法的に関係しているのですか。

○柳井政府委員 この協定上は、ただいま先生おっしゃいましたとおり経済協力の問題は第一条で規定しておりまして、いわゆる請求権、財産請求権の問題は第二条で規定しているわけでございます。
 この協定上、直接財産請求権の問題の解決のために五億ドルを支払うというような規定はしておりませんけれども、これも先生御承知のとおり、当時日韓の国交正常化に至る大変な長い、かつ困難な交渉の中で、請求権の問題というのは非常に深く、幅広く討議されたわけでございます。ただ、もう当時既に戦後相当の時日がたっておりましたし、また第二次大戦後におきましても朝鮮動乱ということもございまして、一つ一つの請求権の積み上げ、あるいはその裏づけということができなかった、非常に困難であったという事情があったわけでございます。その結果、日韓間の交渉によりましてこの請求権の問題は一括してこの協定に規定されているような形で最終的かつ完全に解決する、そしてそれとともに経済協力を行うという形で決着したということでございまして、規定上この経済協力の問題と請求権の問題を直接関連づけて書いてはございませんけれども、この交渉の中で、先日予算委員会で私御答弁申し上げましたけれども、一つの大きなパッケージとして関連づけられて解決したということでございます。

○土井委員 今の柳井さんの御答弁からしますと、請求権はこの日本から出した金額によって放棄するという意味を持つというふうに聞こえるのですが、当時の、これは請求権及び経済協力協定ですけれども、審議をずっと読んでみますと、全く違いますよ。
 椎名外務大臣の明確な答弁がある。一条と二条とはどういう関連にございますかという質問に対して、「法律的な関連性はございません。」そうして、「経済協力はあくまで経済協力でございます。もしこれが賠償的性格を帯びるものであれば、協定の細部にそれがあらわれるはずでありますけれども、そういうことはございません。あくまで経済協力として取り扱っております。」そして、経済協力の性格は何かという質問に対して、「経済協力でございます。」繰り返しこれを答弁されて、「請求権問題と経済協力とは、何ら法律上の因果関係はございません」と答えられていますよ。「総計五億ドルの経済協力はあくまで韓国の経済建設に役立てるため供与するものでございます。」と明確に答弁されていますよ。
 今の柳井さんの御答弁と大分違うのです、これは、いつの間に変わったのですか。当時は、この協定を締結することのための質問、答弁、その場所での御答弁が、外務省の答弁としてそうだった。大臣の答弁としてそうだった。大臣が責任持って答弁された中身がそうだったのですよ。

○柳井政府委員 私、先ほども御答弁申し上げましたとおり、この協定上経済協力の問題と請求権の問題が法律的に関連して規定されているということではないということも申し上げている次第でございます。
 ただ、この交渉の過程で、この請求権の問題が論じられる一方、それと並行して経済協力の問題も討議されまして、そして最終的には経済協力を行う、そしてそれと並行して財産請求権の問題も解決するという一つの大きな合意ができたわけでございます。したがいまして、私が御答弁申し上げたことと、この協定を審議していただきましたときに当時の椎名外務大臣その他政府の関係者が御答弁されたこととの間に、別段変更とか矛盾とか、そういうことはないというふうに考えております。

○土井委員 大きなパッケージとしてわざわざ言われるところが紛らわしいのです、これ。よっぽど今私が申し上げた椎名外務大臣の答弁で、はっきりしている。はっきりしていることを何だかわからない、誤解を生ずるような紛らわしい表現につくり変える必要はないのです。だから、その辺はまずはっきりしておいていただきたいと思うのですよ。
 一条と二条というのは、法的因果関係はない、関連性はないということをはっきり答えられているのですから。大臣、よろしゅうございますね、これは。議事録に従って私は申し上げております。これは大臣からお聞かせいただきたいと私は思いますよ。政治的な判断ですから、はっきり。

○柳井政府委員 条文は大変長いので、また先生もよく御存じでございますので、これを読み上げるということはいたしませんけれども、(土井委員「読んでくださらなくて結構です。議事録に従っているのです」と呼ぶ)この協定上は、先ほども申し上げましたとおり、請求権の問題と経済協力の問題が法的に直接関連づけて規定されているということではございません。
 また、この協定の締結当時、当時の椎名外務大臣はこのように申されております。これはちょっと短いので引用させていただきますが、「請求権の問題と経済協力、これは、日本の対朝鮮請求権は、軍令及び平和条約等のいきさつを経て、もはや日本としては主張し得ないことになっておりますが、反対に、韓国側の対日請求権、この問題について、この日韓会談の当初において、いろいろ両国の間に意見の開陳が行なわれたのでありますけれども、何せ非常に時間がたっておるし、その間に朝鮮動乱というものがある。で、法的根拠についての議論がなかなか一致しない。それかも、これを立証する事実関係というものがほとんど追及ができないという状況になりまして、これを一切もうあきらめる。そうして、それと並行して、無償三億、有償二億、この経済協力という問題が出てまいりました。」云々というふうに申されております。

○土井委員 今私は議事録に従って申し上げているので、さらにそういうことの注釈というのは不要だと思うの。この点ははっきり、条文上についてどういうふうに考えたらいいかということを私がお尋ねしたことに対するこれは裏づけになるそのときの議事録でございますから。よろしいですか。
 さあそこで、ここで「完全かつ最終的に解決」とおっしゃっていることは、いわゆる個人の請求権そのものを否定してはおられませんね。いかがですか。

○柳井政府委員 条約上、先ほども先生がお触れになりましたとおり、第二条でいわゆる財産請求権の問題を規定しているわけでございますが、ここでは要するにこれらの問題が「完全かつ最終的に解決された」ということを言っているわけでございます。ただいま申し上げましたのは第二条の一項でございます。
 そして、この同じ第二条の三項におきまして、ここはちょっと短いので読ませていただきますけれども、一定の例外がございますが、その例外を別としまして、「一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であって同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。」この「同日」というのは、この協定の署名の日、すなわち一九六五年の六月二十二日でございます。
 このように規定しておりまして、いわゆるその法的根拠のある実体的権利、いわゆる財産権につきましては、この協定を受けて、我が国におきまして、韓国の国民の財産権を一定の例外を除いて消滅させる措置をとったわけでございます。したがいまして、このような法律的な根拠のある財産権の請求につきましては、以後、韓国の国民は我が国に対して、私権としても国内法上の権利としても請求はできない。そのような措置をとることについて、この協定によりまして、ただいま読み上げましたこの二条の三項におきまして、韓国側としては、それに異議を申し立てることはできないということでございます。
 この二条の三項で「財産、権利及び利益」ということを言っておりますが、これは当時作成されました合意議事録におきまして、これは合意議事録の二項の(a)というところでございますが、「「財産、権利及び利益」とは、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが了解された。」ということになっております。したがいまして、この二条の三項で言っております「財産、権利及び利益」以外のもの、すなわち請求権というものがございます。これにつきましては、ただいまの定義から申しまして法律上の根拠のない請求、いわゆるクレームと言ってもいいと思いますが、そのような性質のものであるということでございます。
 それで、しからばその個人のいわゆる請求権というものをどう処理したかということになりますが、この協定におきましてはいわゆる外交保護権を放棄したということでございまして、韓国の方々について申し上げれば、韓国の方々が我が国に対して個人としてそのような請求を提起するということまでは妨げていない。しかし、日韓両国間で外交的にこれを取り上げるということは、外交保護権を放棄しておりますからそれはできない、こういうことでございます。

○土井委員 るるわかりにくい御説明をなさるのが得意なんですが、これは簡単に言えば、請求権放棄というのは、政府自身が持つ請求権を放棄する。政府が国民の持つ請求権のために発動できる外交保護権の行使を放棄する。これであって、このことであって、個人の持つ請求権について政府が勝手に処分することはできないということも片や言わなきゃいけないでしょう、これは。今ここで請求権として放棄しているのは、政府自身が持つ請求権、政府が国民の持つ請求権に取ってかわって外交保護権を発動するというその権利、これでしょう。だから、個々の個人が持つ請求権というのは生きている。個々の個人の持つ請求権というのはこの放棄の限りにあらず、これははっきり認められると思いますが、いかがですか。

○柳井政府委員 ただいま土井先生が言われましたこと、基本的に私、正確であると思います。この条約上は、国の請求権、国自身が持っている請求権を放棄した。そして個人については、その国民については国の権利として持っている外交保護権を放棄した。したがって、この条約上は個人の請求権を直接消滅させたものではないということでございます。
 ただ、先ほど若干長く答弁させていただきましたのは、もう繰り返しませんけれども、日韓の条約の場合には、それを受けて、国内法によって、国内法上の根拠のある請求権というものはそれは消滅させたということが若干ほかの条約の場合と違うということでございます。したがいまして、その国内法によって消滅させていない請求権はしからば何かということになりますが、これはその個人が請求を提起する権利と言ってもいいと思いますが、日本の国内裁判所に韓国の関係者の方々が訴えて出るというようなことまでは妨げていないということでございます。

○土井委員 結局は個人としての持っている請求権をお認めになっている。そうすると、総括して言えば完全にかつ最終的に解決してしまっているとは言えないのですよ。まだ解決していない部分がある。大いなる部分と申し上げてもいいかもしれませんね。正確に言えばそうなると思います。いかがですか。

○柳井政府委員 先ほど申し上げましたとおり、日韓間においては完全かつ最終的に解決しているということでございます。ただ、残っているのは何かということになりますと、個人の方々が我が国の裁判所にこれを請求を提起するということまでは妨げられていない。その限りにおいて、そのようなものを請求権というとすれば、そのような請求権は残っている。現にそのような訴えが何件か我が国の裁判所に提起されている。ただ、これを裁判の結果どういうふうに判断するかということは、これは司法府の方の御判断によるということでございます。

○土井委員 さあ、ここで外務大臣にお答えいただきたいと思うのですが、これは今しきりに問題になっている、私自身も聞いて胸が詰まる思いがするのですが、従軍慰安婦の人たちの問題、どう抗弁いたしましても日本国民として恥ずかしいです。大変恥ずかしいと私は思っている。外務大臣はどうお思いになりますか。恥ずかしいとお思いになりませんか。いかがですか。

○渡辺(美)国務大臣 人を殺したり傷つけたり、そのような今おっしゃったような不幸な立場を強制したりするようなことは、全く戦争の罪悪であって、恥ずかしいと思います。

○土井委員 恥ずかしいと思いますとおっしゃることについて、これは具体的に問われているのは国政関与者の責任だということになると私は思うのです。
 実は一九八二年の六月に外務省が調査をされた結果を裁判所に対して付言という形で、判決が出る資料になっているのです。おもしろいですね。これは私、最近初めて知ったのですけれども、なるほどと思ったのですよ。
 これはどういうことかといいますと、台湾人元日本兵士の補償問題、台湾人の台湾に在住しておられる方々十三名が原告となって日本政府に補償請求を求めて東京地裁にそれが提訴されたのです。東京地裁さらに東京高裁に参りまして、八五年の八月に東京高裁。地裁も高裁もいずれも棄却判決になりました。そのときに高裁は付言をこの判決にしたのです。
 どういうことを言っているかといいますと、「控訴人らは、ほぼ同様の境遇にある日本人と比較して著しい不利益をうけていることは明らかであり、……早急にこの不利益を払拭し、国際信用を高めるよう尽力することが、国政関与者に対する期待である」と書いてある。
 外務省がこの調査をされたのは「負傷または戦死した外国人に対する欧米各国の措置概要」でございまして、ここで調査の対象になっているのはアメリカ、イギリス、フランス、イタリア、当時の西ドイツの五カ国なんです。いずれも外国人となった元兵士に対して自国民とほぼ同等の年金または一時金を支給しているのです。この五カ国を見ますと、植民地を持っていないカナダをここに加えたらまさしくサミットになるのです。サミット参加国の中で、こういう問題に対してそっぽを向いて、解決済みでございます、解決済みでございますと言い続けたのは日本だけですよ。日本だけがこれは特異な国ということになるわけであります。
 と同時に、先ほど財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定について二条の一をお出しになりましたが、その二条の二というところを見ますと、「この条の規定は、次のものに影響を及ぼすものではない。」という中に、「一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益」とはっきり書いてあるのですよ。
 そうすると、韓国籍の人でも日本にその間おられる方については、この条約は関係ないんです。そうすると、日本国民と同等の取り扱いをやってしかるべきであるにもかかわらず、外務大臣ここからが大事なんですよ、実はそれが全く外されてしまっているのであります。全く外されてしまっている。
 それは外務大臣も御存じだと思いますけれども、平和条約が発効すると同時に日本では、戦争によって被害を受けた人たちに対する援護並びに補償の法ができてまいりました。その皮切りは戦傷病者戦没者遺族等援護法に始まる十三法、以後あります。すべてのその法律から国籍条項を用意しました。日本国民でなければ、日本国籍を所有していなければこの補償の対象でないということに法の上でなっているのですよね。国籍条項と申し上げねばなりません。
 私は、難民条約のときあるいは国際人権規約を審議するとき随分、国内の外国籍の人に対する処遇に対して、年金もそう、保険もそう、住宅もそう、改善されたことを覚えています、内国民待遇ということで。ところが、たった一点この問題だけが除外にされてきたんですが、なぜこれが問題にならなかったかといういきさつが杳としてわからない。
 なぜこれだけを外されたんですか。ほかの年金にしたって保険にしたって、いろいろとそれ以前と違った、取り扱いを変えましょうというのが難民条約や国際人権規約のときの国内的措置として問題になったんですよ。だけれども、この財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定では、影響を及ぼさないはずの在日の人たちを切り捨ててしまっているという格好になっているのですが、これは一体なぜですか。

○柳井政府委員 この協定の二項で二項の例外措置が規定されているということは、先生おっしゃるとおりでございます。この二項で(a)と(b)という二つの例外がございまして、その(a)というのが先ほどお読みになった例外でございます。
 この意味するところでございますけれども、「千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがある」一方の締約国の国民ということを言っておりますが、これは実際には主として在日韓国人の方々を指しているわけでございます。そのような方々の財産、権利及び利益についてはこの規定の例外とするというふうに述べているわけでございますが、先ほどちょっとお答えいたしましたとおり、この財産、権利及び利益というのは、合意議事録におきまして、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいう」ということが日韓間で了解されているわけでございます。したがいまして、そのような法律上の根拠に基づく財産的価値を有する権利というものはこの協定上は例外にしている。
 そして、先ほど申し上げました財産権を消滅させる法律を当時つくりましたけれども、その中でも、このような在日韓国人の方々の法律上の根拠のある財産権は除いている、すなわち消滅させていないということでございます。その限りにおいて、この協定の処理の例外になっているということはそのとおりでございます。ただ、一般的なそういう法律に基づかないいわゆる請求というものは、この規定の例外の対象ではないわけでございます。
 他方、いろいろな国内法で国籍条項があるということにつきましては、これはそれぞれ所管の官庁におきましてその法律の制定の経過を承知しておりますので、必要があればまた照会いたしたいと思います。

○土井委員 さあ、そこで外務大臣、今の御答弁はまたややこしい、わかりにくい御答弁でしたが、二点しっかり外務大臣に押さえておいていただいて、そして最後に一言言って、私はこの質問は終えたいと思うのです。
 それは、今、日韓間の請求権並びに経済協力に関する協定と略して言いましょう。この条文の中では、個人の持つ請求権についてこれは認められているということが一点。二点目は、第二条の二項のところで影響を及ぼさないはずの在日韓国人に対して影響を及ぼして、そして当然認めなければならない戦争による被害に対する手だてというのを、法律の中で国籍条項をわざわざつくって対象としていないという問題です。これは、この条約の二条の二項からしたらおかしい取り扱いなんですよ。間違った取り扱いと申し上げましょう。したがって、二点申し上げたい。
 一つは、個人の持つ請求権というのは認められているんだから、したがって提訴ということも当然あり得るんですが、先ほど御答弁を承っておりますと、裁判の判決の結果をひとつ考えてというふうな御趣旨の御答弁でもありましたが、だから私がわざわざ、外務省がかつて調査をなすった結果を裁判所は付言としてこう言われていますよということを言った意味があるのです。
 もう一度言います。「ほぼ同様の境遇にある日本人と比較して著しい不利益をうけていることは明らかでありこ裁判を起こした人がですよ、「早急にこの不利益を払拭し、国際信用を高めるよう尽力することが、国政関与者に対する期待である」と言っているんです。裁判所の判決というのはいつ出るかわかりません、これは。二年かかるか三年かかるか、場合によったら五年かかるかわからない。その判決が出るまではひたすら待ち続けますというんじゃないのであって、問題は、「国際信用を高めるよう尽力することが、国政関与者に対する期待である」、この点に対して外務大臣は、先ほど予算委員会の場所でしょう、御答弁の中で心あるこれに対しての対処の仕方ということがあってしかるべきだという御趣旨の御答弁をなすったやに私は知っているわけでありますけれども。この二点、国籍条項を外すということの検討が一つ、あと一つは判決を待つまでもなくこれに対してどのように考えていくかという問題、いかがですか。

○渡辺(美)国務大臣 私は両方の意見もこれずっと聞いておるのですが、やはり日本は法治国家でございますから、法律に書いてあるとおり実行しなければならないということが一つだと思います。
 ただ問題は、法律問題としては裁判所があとは結論をどう出すかという問題でしょう。しかしこの従軍慰安婦の問題というのは、私は法律の問題ということでなくて人道的な問題であって、政治問題であることは間違いありません。大変痛わしい、胸の痛むような話でございまして、まずその実態を調べなきゃならぬということで今官房を中心にして調べておりますので、そういう実態の上にどういう政治判断をするかということは、これは法律の問題じゃない問題でございますから、何らかの私は、けじめと言っては語弊があるのかもしれませんが、結論を出す必要があると考えております。

○土井委員 終わりますが、それは外務大臣いつごろですか、今結論を出す必要があるとおっしゃる結論は。

○渡辺(美)国務大臣 調査の終わり次第、日本側でも調査をしているし韓国側も調査はしておりますので、そう多年月を要することはないだろうと思います。

○土井委員 きょうのところはこれで終えますけれども、法治国家としてという立場に立ては、締結した国際条約、国際法規並びにそれに従って制定された国内法規、これを基礎に置いて考えても今の日本の取り扱いというのはそれに反するというおそれが非常にあるということも私は予言しておきまして、これは改めてまた申します。
 ありがとうございました。

 第123回国会 衆議院本会議 第7号 平成四年三月三日(火曜日)正午 本会議

【発言順】
        山元勉
 内閣総理大臣 宮澤喜一

○山元勉君 私は、日本社会党・護憲共同を代表し、ただいま提案のありました外国人登録法の一部を改正する法律案について、宮澤総理並びに関係大臣に質問いたします。
 言うまでもなく、外国人登録法が対象としている約百七万人の外国人は、さまざまな国籍と民族から成っております。しかしながら、その半分以上をいわゆる在日韓国・朝鮮人が占めていることもまた事実であります。そして、これらの人々の処遇は、我が国の外交政策と密接に関連しており、日本政府が南北朝鮮に対して正当な敬意を払ってこそ、在日韓国・朝鮮人を人間として処遇する前提条件が整備されることになるのであります。
 そこでお尋ねしますが、いわゆる核査寮問題も解決の方向にある今日、日本と朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化交渉を、従来に比し、より積極的な姿勢で、また、より速いテンポで進める考えはないのか。また、従軍慰安婦問題や強制連行問題等に関連し、南北朝鮮及び日本に居住する朝鮮半島出身者に誠意ある補償を行う考えはないのかどうか、基本的姿勢の問題として、お尋ねいたします。(拍手)
 次に、今回の法律案の是非を問う前提となる二つの大きな政策上の問題点についてお伺いいたします。
 第一に、いわゆる外国人犯罪と外国人登録制度の関係についてであります。
 まず、統計的に見て、近年の外国人犯罪がどういう傾向で推移しているか、そして、それぞれの犯罪を犯した者の正規の在留日数や在留資格がどういう傾向にあるか、お尋ねいたします。そして問題は、そういった外国人犯罪を抑止するために、外国人登録制度はこうでなくてはならないということが果たして言えるかどうかであります。
 我々が、いわゆる外国人犯罪と聞いてまず思い浮かべるのは、正規の滞在日数が一年を超えることはなくしたがって外国人登録の指紋押捺とは無関係な外国人であります。したがって、外国人犯罪を抑止するためには、一年以上在留する外国人で、かつ特別永住者と永住者以外の者について指紋押捺を残さなくてはならないと言われても、納得がいかないのであります。この点についての政府の見解はいかがですか、お尋ねをいたします。(拍手)
 第二に、日本国民と外国人の同一人性確認のあり方についてであります。我々日本国民は、その同一人性確認のために、国によってつくられた証明書を常時携帯する義務を課せられているわけではありません。したがって、例えば外国船舶の出入りする港を歩いていて警察官や入管職員等から職務質問され、その同一人性の証明を求められたとしても、当該職務質問への応答または運転免許証や職場の身分証明書等の提示で足りているわけでありますし、よほどの場合においても、第三者に電話で連絡するなりして同一人性を証明してもらうこともできるわけであります。しかし、外国人の場合は、特別永住者、永住者も含め、外国人登録証の常時携帯及び提示義務が定められており、それは今回の政府の改正案においても手つかずなのであります。
 定住性の高い外国人にまで、日本国民にはないような煩雑な同一人性確認のシステムを強要するのは、内外人平等を定めた国際人権規約に違反する疑いが濃いと言わざるを得ません。とりわけ、東アジアの国々に源流を持ち、我が国に長年居住する人々に常時携帯義務を課すのは、機能的に見ても全く無意味であります。
 日本人と称しても通用する容姿を持ち、かつ流暢な日本語を話す人々について、この人は在日外国人だと識別している警察官等が、当該外国人が合法的に在留する者であることを識別できないことはあり得ないのではないでしょうか。また、そこをも疑わざるを得ないとすれば、一人一人の国民について、外国人ではないかどうか、もっと言えば、日本人に成り済ました不法入国者、不法残留者でないかという点も含め、一々疑わざるを得ないのではないでしょうか。
 以上を踏まえ、我が国に在留する日本国民及び外国人の同一人性確認のあり方について、政府の見解をお聞かせいただきたいと思います。(拍手)
 次に、法案について具体的にお尋ねいたします。
 まず、指紋押捺制度についてであります。
 先ほども触れましたように、外国人犯罪の抑止のために指紋押捺の全廃はできないとの主張は説得力を持ちません。また、この制度は、内外人平等を定め、かつ、非人道的または品位に欠く取り扱いの禁止を定めた国際人権規約に違反することも明らかであります。我が国も既に批准したこの国際人権規約に従い、いわゆる不法入国者や不法残留者も含め、すべての外国人について人としての権利が保障されなければならないのであります。
 その観点からいたしますと、国際人権規約に違反する指紋押捺制度を一部の外国人についてのみ残すということ、しかも、一年未満在留の者は指紋が免除されている状態でそうするということは、それ自体が国際人権規約に違反する施策と言えるのであります。
 以上の理由により、我が党は、この法律案は、指紋押捺制度を完全に廃止するものとして書き改めるべきと考えますけれども、政府の御見解はいかがか、お伺いをいたします。(拍手)
 次に、外国人登録証の常時携帯制度についてであります。
 これも先ほど触れましたように、特別永住者、永住者も含め、外国人登録証の常時携帯及び提示義務が定められており、それは今回の政府案においても手つかずでありますが、これは国際人権規約の定める内外人平等に反するばかりか、機能的に見ても、その存在意義を疑わざるを得ないものであります。もちろん外国人登録証を持つ必要のない九十日未満在留の外国人には、旅券または上陸許可書の常時携帯制度が定められており、その旅券または上陸許可書の常時携帯まで国際人権規約違反とすぐに断定できるわけではないことも事実であります。しかし、特別永住者、永住者を含め一定水準以上の定住性を有する外国人にまで証明書の常時携帯を義務づけることはいかがなものでありましょうか。この点について改善する内容を盛り込む方向で法案の修正を行うべきかと考えます。見解をお尋ねいたします。(拍手)
 第三に、外国人登録法の刑罰制度についてであります。
 外国人登録法においては、ついうっかり申請をし忘れたような単純なミスに対してまでも「一年以下の懲役若しくは禁錮又は二十万円以下の罰金」という重罰が科せられております。そして今回の改正案では、新たに不署名罪という罪名に基づく刑罰制度が科せられようとしています。しかし、逮捕や強制捜査に直結するこのような重罰制度をいろいろな項目について設けるのはいかがなものでしょうか。
 これに対し、日本国民の登録制度に関しての法である戸籍法と住民基本台帳法においては、虚偽申請といった悪質な違反を除いた部分については過料、いわゆる過ち料で対応しております。この点についても内外人平等に違反する疑いが濃いと言わざるを得ません。
 また、外国人登録法の刑罰制度に基づく逮捕、強制捜査等が何らかの政治的目的に使われるのではないかとの在日外国人の心理的負担の大きさも考慮しないわけにはいきません。そこで、この点についても、戸籍法と住民基本台帳法の類似規定との横並びを図りながら、過ち料を基本とした制度に転換すべきであります。こういう方向で法案を書き直す考えがないかどうか、お尋ねいたします。(拍手)
 以上、私は、本法案の修正を求める立場に立って幾つかの点についてお尋ねをいたしましたが、最後に申し上げたいのは、第一に、外国人の処遇を初めとする日本の人権状況を問う内外の世論、第二に、指紋押捺制度廃止を九三年一月までに行うべしとした日本の韓国に対する国際公約、第三に、参議院における与野党逆転等々四囲の状況を勘案して、政府・自民党は野党との誠意ある対話に応じ、円満な問題解決に努めるべきだということであります。この点を特に強調して、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣宮澤喜一君登壇〕

○内閣総理大臣(宮澤喜一君) 日朝国交の正常化につきまして、この問題は、第二次世界大戦後の日朝間の不正常な関係を正すという側面と、それが朝鮮半島の平和と安定に資するものとなることが大切であるといういわば国際的な側面、二つの面をあわせ持っております。我が国としては、国交正常化がこのような二つの面を有しているということを十分考慮しつつ、また、原則的立場を踏まえながら、関係国とも緊密に連絡をとりまして、誠意を持って交渉を継続していく所存でございます。
 次に、いわゆる従軍慰安婦あるいは被強制連行者に対するお尋ねでございましたが、政府といたしまして、朝鮮半島地域のすべての人々に対し、過去の一時期、我が国の行為により耐えがたい苦しみと悲しみを体験されたことについて、深い反省と遺憾の意を表明いたしております。また、いわゆる従軍慰安婦の問題につきましては、先般、私が韓国を訪問いたしました際にも、衷心より遺憾と反省の気持ちを述べるとともに、この問題についての日本政府の関与のあり方について誠心誠意調査を行うということをお約束をし、また現にそれをいたしておるところでございます。
 日韓両国間では、六五年の日韓請求権・経済協力協定により、御指摘の補償の問題をも含め、日韓両国及び両国民間の財産・請求権の問題は、完全かつ最終的に解決済みであります。また、これに並行して、五億ドルの経済協力をも実施したことは、御承知のとおりでございます。
 次に、日朝間の財産・請求権の問題につきましては、日朝国交正常化交渉の場において、さらに話し合ってまいりたいと考えております。
 それから、指紋の押捺は、外国人の同一性の確認の手段として合理的であり、また必要な制度でございますから、永住者及び特別永住者以外の外国人についてこれを維持しなければならないと思っておりますし、このことは、国際人権規約にもとより反するものではございません。
 それから、外国人登録法の改正法案審議に関しまして、参議院云々という御指摘もございました。もとより審議に当たりまして、各党の御意見を謙虚に承ることはもちろんのことでございます。
 残りの問題は、法務大臣からお答えを申し上げます。(拍手)

 第123回国会 衆議院予算委員会 第12号 平成四年三月五日(木曜日)午前十時開議

【発言順】
 委員        筒井 信隆
 厚生省援護局長   多田 宏
 外務大臣      渡辺美智雄
 外務省国際連合局長 丹波 實
 外務省条約局長   柳井 俊二 
 厚生大臣      山下 徳夫      
 委員長代理     中山 正暉
 総務庁恩給局長   新野 博

○筒井委員 前回の総括質問の際には、主に平和外交の問題、外交の問題でいえば平和外交の問題をお聞きいたしました。きょうは人権の問題、人権外交の問題を主にお聞きをしたいと思います。
 先ほども外務大臣、地球は一つ、世界共生、この考え方を述べられました。そして、国際貢献の問題について種々お答えをされました。地球は一つ、世界の共生、そして国際貢献といった場合に、当然この地元の日本にいる外国人に対していろいろな形で差別的な扱いをしない、これが前提になるというふうに考えるわけでございまして、日本在住の外国人を対等に扱わないで、それで国際貢献とかあるいは地球は一つと言ったところで、これは自己矛盾だし、信用されないということははっきりしていると思います。さらに、これは前回も申し上げましたが、本当に平和的な立場で海外との関係を持っていく、そのためにはやはり日本が犯した戦争の問題に対して本当に心からの謝罪をして、補償をして、もう再びこういうことは繰り返さない、これを実際の日常的な態度でも明らかにすべきだということも言えるだろうと思うんです。
 そこで、きょうは、戦争犠牲者援護立法等の国籍条項における外国人差別の問題を中心にお聞きをしていきたいと思います。
 もう公明党の渡部議員も、戦争犠牲者援護立法についていろいろ質問をされております。重複は避けます。十三の戦争犠牲者援護立法に関して、国籍条項等で外国人に門戸を開放していない。さらに、あのときは出ませんでしたが、社会保障立法一般の方に目を向けてみますと、これは国民年金法等を含めて外国人にも、最近開放したところもございますけれども、結構開放されている。しかし、例えば生活保護法に関しては、これは開放されていない。
 厚生省の方に確かめたいんですが、今生活保護法に関しては、外国人には適用されておりませんね。

○多田政府委員 ちょっと担当の部局がただいま来ておりませんので、責任持った御答弁できませんので御勘弁願います。

○筒井委員 生活保護法に国籍条項はありませんが、運用上で外国人を適用をしてない、こういう中身になっているわけでございまして、この今挙げました戦争犠牲者援護立法あるいは社会保障立法、これらが全部で日本において三十ぐらい現在法律がございますが、それが一部は外国人にも適用になっている。しかし、一部は国籍条項あるいは戸籍条項等によって外国人に適用されてない。そして一部は、先ほどの生活保護法のように、国籍条項はないけれども、しかし運用上外国人に適用されてない。いろいろな形でばらばらの今法制度になっているわけでございまして、これはやはり一貫性がない。日本がこれから国際社会に打って出るに当たってやはり明確な一貫性を持つべきである。こんなばらばらの現在の法制度では、外国人との共生、世界との共生と言ったところでやはり信用されない、こう思うわけでございまして、このばらばらの状態について、外務大臣として意見をお聞かせいただきたいと思います。

○渡辺(美)国務大臣 私が申し上げましたのは、今後の外交の理想的な進むべき道についての考え方を申し上げたのです。地球は一つ、これは地球は二つと言う人はいませんから。また、一国だけの繁栄というのは許されないし、地球的規模でいろいろ外交はやらなきゃならぬ。
 具体的に言えば、酸性雨の問題のような公害問題にしても、麻薬でもテロでも難民でも、これは一国だけでできない。それから軍縮の問題も同じ。そういうような包括的な概念的なものを将来はみんなで一緒になって解決していくべきであるという趣旨で申し上げたのでありまして、今までの過去の我が国の何十年か前にできた次元と現在は違うわけですから、その法律がどういういきさつでどういうふうにできたという具体的な問題については、私は残念ながらお答えする知識を持ち合わせておりません。

○筒井委員 それぞれ法律ができないきさつ等は別のものがあると思うのです。しかし、現在において在日外国人に対してそういうばらばらの状態の扱いでいいと考えられているのかどうか、それを現在の問題としてお聞きをしているわけです。
 もう少し具体的に言いますと、十三の戦後犠牲者援護立法に関しては外国人適用なし、被爆者関係の二法に関しては、これは外国人が適用されている。そして社会保障立法関係に関しても、国民年金法等は、これはそんなに昔ではありませんが、やはり外国人に対しても適用される。しかし、生活保護法は、先ほど言いましたように運用で外国人が排除されている。こういう現在におけるばらばらの状態、これはやはり是正すべきではないか。これがやはり日本のこれからの世界において歩む道ではないか、こういう考え方、これについての御意見をお聞かせいただきたいと言っているわけです。

○渡辺(美)国務大臣 現実の問題として、国際国家日本ということになって、たくさんの外国人が日本に来て就労するというようなことになった場合には、例えば医療の問題というような場合に、外国人だから医療が現金でなければ受けられないというようなことでは実情にそぐわないということはあり得ると思いますので、いずれにせよ、法律の建前はどうなっているかわかりませんが、将来の問題といたしましては、それは国内と待遇が同じようにできるものはなるべくできるようにすることの方が望ましいと私は思います。

○筒井委員 その望ましい状況を早急にぜひ実現をしていただきたいと思います。少なくとも日本が加入している国際人権規約、これに反するようなそういう取り扱いは一刻も早く是正すべきだというふうに思うわけでございまして、その点、もう一点確認していただきたいと思いますが、日本が加入している国際人権規約等、これに少なくとも違反しない、こういう状態を一刻も早くつくり上げる、こういう点についての御意見を外務大臣、お聞かせいただきたいと思います。

○丹波政府委員 私の方からお答え申し上げさせていただきたいと思いますが、先生御承知のとおり、日本は市民的及び政治的権利に関する人権規約に加入してございます、B規約と呼ばれておりますけれども。ちなみにA規約も加入しておりますけれども。このB規約は、すべての者が生命に対する権利あるいは奴隷、強制労働の禁止あるいは移動の自由公平な裁判を受ける権利、表現の自由、集会・結社の自由等の権利を保障し、また法の前の平等の権利ということも規定しております。
 しかしながら、この法の前の平等と申しましても、合理的かつ客観的な差を設けるということを必ずしも排除するものではないというのが国際社会の解釈であると了解いたしております。先生がおっしゃっておられるその個々の法律につきましてそれではどういうところが合理的なのかという点については、所管の官庁の御説明にお任せしたいと思いますけれども、少なくともこの条約の解釈といたしましてはそういうぐあいになっておるということを御理解いただきたいと思います。

○筒井委員 その中の具体的な法律を例にしながら、制度を例にしながらお聞きをしたいと思いますが、戦傷病者戦没者遺族等援護法という法律がございます。遺族援護法というふうに略称されているようでございますが、この遺族援護法によりますと、日本の国籍を失ったときは障害年金や遺族年金などを受ける権利は消滅する、こういう規定がございます。
 しかし、この国籍条項、日本の国籍を失ったときは権利が消滅するという国籍条項は、サンフランシスコ平和条約の発効によって国籍を失った人に対しては適用されない。だから、この国籍条項だけであれば遺族援護法はその平和条約によって国籍を失った人にも適用されるという厚生省の通達があるようでございまして、しかし遺族援護法には戸籍条項というのがございまして、「戸籍法の適用を受けない者については、当分の間、この法律を適用しない。」こういう条項があるために遺族援護法が適用されてこなかったわけでございますが、しかし、以前は帰化すればこの遺族援護法が適用されておりました。帰化して日本国籍をとれば遺族援護法が適用される。ある意味で当たり前のことだと思いますが、これがまた日韓条約によってさらに扱いが変わってまいりました。
 この点について厚生省の方に確かめたいわけですが、日韓請求権及び経済協力協定、この協定が成立したことによって、帰化しても韓国人、韓国籍の人に対して遺族援護法を適用しない、こういう扱いをされているようでございまして、まずお聞きしたいのは、韓国籍についてはどうも通達ではっきりともう帰化してもだめだということを言っているようですが、北朝鮮については直接言ってないものですから、北朝鮮については今どういう取り扱いをされているのか、その点をお聞きしたいと思います。

○多田政府委員 韓国につきましては、日韓の協定に基づきまして別途処理がされたというふうにされておりますので、韓国については帰化しても既に処理済みという理解でございます。その他の地域、台湾あるいは北朝鮮といったようなところについては帰化することによって可能になる場合がある、こういう理解でございます。

○筒井委員 じゃ、通達では台湾出身者については従前どおりというふうに記載されておりまして、北朝鮮に関しては記載されておりませんでしたが、今のお答えで、北朝鮮についても従前どおり帰化すれば適用になる、そういうお答えで結構でございます。
 同時に、今韓国籍についてはもう帰化してもだめだという通達があり、今のお答えもそうでございました。その根拠が、日韓請求権協定で、戦後の問題、戦争の問題に関しては「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」完全かつ最終的に解決された、この協定があるからもう帰化してもだめなんだという根拠のようでございまして、通達でもそういうふうに規定をされております。
 しかしお聞きしたいのは、この日韓請求権協定の第二条の二項で、完全かつ最終的に解決されたことを確認するけれども、しかし一九四七年から一九六五年までの間に日本に居住した在日韓国人については、完全かつ最終的に解決したとは確認していない。だから、今言っている期間、一九四七年、昭和二十二年でございますが、それから昭和四十年までの間に日本に居住した在日韓国人についてはその完全かつ最終的に解決したことの例外規定がちゃんと日韓条約で置かれている。そうしますと、この期間において日本に居住した在日韓国人については、この日韓条約の後、現在においても帰化すれば遺族援護法が適用になる、こうなると思うのですが、その点どうでしょうか。

○柳井政府委員 援護法につきましてはまた別途関係の省庁から御答弁があると思いますが、日韓請求権経済協力協定につきましては、ただいま先生御指摘ございました第二条の二項で二つの例外を掲げているわけでございます。
 その二つの例外と申しますのは、ただいま御指摘のように、その一つが、「一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益」というものはこの協定の二条の処理の対象外であるというふうに規定しているわけでございます。そして、この「財産、権利及び利益」と申しますのは、この附属の、当時、協定締結のときに作成いたしました合意議事録の二項の(a)というところで、「「財産、権利及び利益」とは、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが了解された。」というふうになっているわけでございます。そのような意味におきまして、この二条二項の(a)では若干わかりにくい書き方になっておりますけれども、実際には主として在日韓国人の今申し上げましたような財産、権利及び利益につきましてはこの条の規定は影響を及ぼさないというふうになっているわけでございます。
 で、御承知のとおりこの二条の三項におきまして、我が国におきましては、当時国内法を制定いたしまして、いわゆる財産、権利、利益というもので韓国の方々が持っておられるものを消滅させる措置をとったわけでございますが、その措置に言う財産、権利、利益というのはこの二条に言っているものでございます。

○筒井委員 日韓協定の趣旨は、だからそういう趣旨で、私も指摘したとおりでございますが、そうしますと、「完全かつ最終的に解決された」のは、先ほど申し上げました期間日本に居住した在日韓国人を除いて発効している。先ほど申し上げました在日韓国人については日韓条約が制定される前からの状態と変わっていない。だからそれらの在日韓国人に関してはやはり今までどおり、その以前どおり帰化したらやはり遺族援護法が適用される、こういうことになるんではないですか、厚生大臣の方、お答えいただきたいと思います。

○多田政府委員 私どもの理解では、請求権については特別合意に基づいて処理をされた、そしてその処理された対象の中には在日韓国人の請求権も含まれているというふうに理解をいたしております。したがって、そういう理解に立ちますと、既に処理済みで、一度日本国といたしましてはその方々に何らかの処理をした対象の方々に対して別途また給付というものを起こす、同じ事由に基づいて給付を起こすということは、これは重複の問題が起きるわけでございますので、当然に給付の対象外というふうに理解をしているわけでございます。

○筒井委員 私は一般的なことを聞いているのではなくて、この日韓請求権協定で影響を及ぼさない、その日韓請求権協定の第二条一項の規定が、影響を及ぼさないその規定がある。それが在日韓国人の人たちだ。その人たちに関しては影響を及ぼさないんだから、日韓条約がある以前からの状態、つまり帰化すれば遺族援護法が適用になる、こういう状態になるのではないか、そういう質問なんです。だから、もう一度確認しますが、一般的に聞くとどうも、逃げられると言ったらちょっと表現がおかしいですが、「完全かつ最終的に解決されたこととなる」ということを確認しておりますけれども、しかしその後で、一定期間の間の在日韓国人に関してはその規定は適用されない、そういう規定があることは確かですね。

○柳井政府委員 日韓請求権経済協力協定締結当時の処理につきまして、若干補足させていただきたいと存じます。
 先ほど申し上げましたこの昭和四十年の法律でございますが、いわゆる日韓財産及び請求権に関する協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律、正式の題名はもっと長いのでございますが、要約すればそういう法律を制定したわけでございまして、その一項で、「次に掲げる大韓民国又はその国民の財産権であって、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条3の財産、権利及び利益に該当するものは、次項の規定の適用があるものを除き、昭和四十年六月二十二日において消滅したものとする。」と、こういうふうに規定しているわけでございます。
 そして、ここで対象にしておりますのは、この「協定第二条3の財産、権利及び利益に該当するものはこと、こういうふうに言っておりますので、この協定の二条三項の規定している「財産、権利及び利益」というものをここの法律の第一項の対象にしているわけでございます。そして、この協定の第二条三項におきましては、「2の規令に従うことを条件としてこというのが頭にございまして、「一方の締約国及びその国民の財産、催利及び利益」、それから後に請求権というものも規定しておりますが、この「財産、権利及び利益」というのは、先ほど申し上げましたように、合意議事録で要するに「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利」であるというふうに言っているわけでございます。したがいまして、この法律で引いております「財産、権利及び利益」というのは、この協定及び合意議事録で言っている意味の財産的権利であるということでございまして、この協定二条三項の冒頭に「2の規定に従うことを条件としてことございますので、この二条二項の例外もここにはきいてくるということでございます。

○筒井委員 最終的に解決されたのは在日韓国人に関するものを除いてだというのが日韓請求権協定で明確に決まっているわけでございます。
 それで聞いているのですが、しかもその韓国の方で、日本のこの日韓条約に基づいて無償三億ドルを使った韓国民に対する補償を実施しておりますが、その際に、やはり韓国の法律でもこの補償の対象から在日韓国人を除外しているわけでございまして、当然、日韓条約でその点は除外しているから韓国の法律でもその点を除外して補償を実施しているわけでございまして、だから、先ほど申し上げた期間の在日韓国人は韓国国内法でも除外されている。これは韓国国内法の方がある意味で日韓条約に忠実に従っているわけでございまして、長い説明はよろしいですから、最終的に解決されたのは在日韓国人を除いてであるかどうか、その点だけ外務省と厚生省の方にお聞きをしたいと思います、ほかの長い説明はいいですから。

○柳井政府委員 結論的な点だけお答え申し上げたいと思います。
 最終的に解決したということを言っておりますのは、この二条に書いてありますとおり、具体的にはこの二条の三項によって行われた処理について今後日韓間では問題を提起しないということでございます。
その処理には二つあるわけでございますが、この三項に規定してありますとおり、これはもう先ほど申し上げましたので省略いたしますが、要するに法律的な根拠のある実体的な権利については、まあ我が国でそれを消滅させる措置をとったわけですが、それについて韓国側はいかなる主張もすることができないということで解決をしたわけでございます。そして、実体的な権利でないもの、すなわち法律上の根拠のない、いわゆるクレームといった方がいいと思、いますが、そのような請求権についてもいかなる主張もできないということを二条の三項で言っているわけでございます。そしてその中で、在日韓国人の実体的な権利につきましては、二条の二項の(a)で言っているとおり、これは消滅させていないということでございます。
 まあ韓国側の措置につきましては、先生御指摘のとおり、韓国側の国内法においても在日韓国人の場合は除いてあるというふうに承知しております。

○筒井委員 今の日韓協定の三項も「2の規定に従うことを条件として、」つまり、「2の規定」というのは在日韓国人に関しては影響を及ぼさない、これを条件として、先ほども条約局長が説明されたようなそういう規定をされている。だから、三項も含めて、この最終的に解決したというふうに確認したのは在日韓国人を除いてである、このことはもうはっきりしているでしょう。今のお答えはそういう趣旨で言われたと思うのですが。
 それを前提に厚生省に、だから確かめたい、厚生大臣に確かめたいのですが、在日韓国人に関してはこの日韓条約は影響を及ばざない、明確に言っているわけでございまして、とすれば、日韓条約を理由として取り扱いを変えることはこれはできないんじゃないか。もう一度お聞きします。

○多田政府委員 私どもの理解といたしましては、これは在日韓国人の請求権の問題だというふうに理解をしておりまして、その請求権というものにつきましては、在日韓国人については処理されたというふうに理解をしているわけでございます。

○筒井委員 厚生省の方にさらに引き続き聞きますが、しつこいようですけれども、最終的に確認されたのは在日韓国人を除いてだといってはっきり日韓請求権協定で規定されている。そうはっきり在日韓国人を除いてだと規定されているのに、その規定を根拠に在日韓国人に関する法的な取り扱いを変えることは、これは無理なんじゃないか、間違いじゃないか、こういう質問なんです。その点に関するお答えをいただきたい、それ以外のお答えはいいですから。

○柳井政府委員 前提になる協定上の問題につきまして、一点だけ確認させていただきたいと存じます。
 先ほど来御答弁申し上げておりますとおり、この財産請求権協定の二条二項で除いておりますのはいわゆる実体的権利、すなわち国内法に根拠のある財産、権利及び利益ということでございますので、そうでない、国内法上の根拠のない、いわゆるクレームというものにつきましては、この二条で例外を設けていないわけでございます。したがいまして、問題の請求権が国内法上根拠のあるもの、すなわち実体的権利であるか、あるいはそのようなものでない請求であるかによって結論は分かれてくるわけでございまして、先ほど厚生省の方からお答えがありましたのは、我が国の国内法上の根拠のないそのような請求につきましては、在日韓国人のものも含めて、全体としてこの二条で処理がなされているということでございます。
 その処理の意味は、三項の後段に書いてございますように、そのような請求権についてはいかなる主張もすることができない。さらに言えば、これは日韓間で相互に外交保護権を放棄した、すなわち国と国との間でそのような請求の問題を持ち出すことはできない、そういう形で処理をした。そのようなものについては、在日韓国人の例外条項というのはないわけでございます。

○筒井委員 影響を及ぼさないとしているのは在日韓国人の「財産、権利及び利益」。権利、請求する権利を含めているわけでございまして、しかも国と国との今の請求権の問題を私は聞いているのではなくて、在日韓国人個人の権利の問題を聞いているわけで、全然今の答弁では答弁になっていないと思いますが、それだけを聞いていくわけにいかないので、もう一点だけ確かめて次に移りたいと思います。
 そうしますと、今の答えですと、韓国の法律で在日韓国人を排除している、これがおかしいということになるわけでございまして、韓国の法律だから日本は知らないというふうに言われるかもしれませんが、結局今のおかしな解釈で日本においても在日韓国人はその権利請求から排除されている。そして、韓国においても請求から排除されている。まさに両方から排除されている、こういう結果になっているわけでございまして、これは今の条約の解釈の問題を別にして、政治的にまさにおかしなことで、政治的には少なくとも是正すべきだと思いますが、外務大臣その点どうでしょうか。厚生大臣でも結構ですが。

○山下国務大臣 御満足のいくような答弁できるか、まことに私も勉強不足でございますが、先ほどからいろいろ答弁いたしておりますように、この種の財産請求権の問題につきましては、サンフランシスコ平和条約において特別取り決めの主題とされておりまして、韓国との間には既に昭和四十年に、日韓請求権協定によって法的にはもう処理をされているという、ただもう、そういう解釈しか私にはちょっとよくわからないのでございますけれども、したがって、またこれをやるということは二重になるというふうにしか私としてはお答えできないのでございますが。

○筒井委員 全然理解できないのですけれども、在日韓国人の財産、権利及び利益に関しては、この日韓条約の規定は影響を及ぼさないと明確に書いてあるわけですよ。この権利をも放棄したなんという日韓条約の規定は一切ないわけでして、今までの答弁、その点を逃げているわけですが、この権利の中に、第二条の二の(a)で言っている権利の中に、日本においてこういう請求する権利、これは入っていないというふうに考えておられるのでしょうか。もう一度済みませんが、その点。

○柳井政府委員 ただいま御指摘の点についてだけ確認させていただきたいと存じます。
 二条の二項(a)で言っております「財産、権利及び利益」というのは、先ほどもちょっとお答え申し上げましたが、合意議事録の二項の(a)というところで「「財産、権利及び利益」とは、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが了解された。」そのように日韓両国間で合意されているわけでございます。したがいまして、この協定二条二項の(a)で除外しております「財産、権利及び利益」の中には、いわゆる法律上の根拠はないけれどもいろいろ請求したいというようなもの、いわゆる請求権というものは含まれてないわけでございます。
 それは三項の方を見ていただきますと明らかになるわけでございますが、三項の前段の方では、先ほど申し上げましたように、「2の規定に従うことを条件としてこということがまず冒頭ございまして、その後に「財産、権利及び利益」については、他方の締約国で国内的な措置をとっても文句を言わないということが前段で書いてございます。そして後段で、「並びに」というところの後でございますが、「請求権」というのを挙げておりまして、これについてもいかなる主張もできないということを言っているわけでございます。
 したがいまして、先ほどちょっと、この前の前の御質問の中で言っておられました、訴えを提抽する権利はどうか。そこは、財産、権利及び利益でない、単に請求を提起する個々人の権利というものは、外交保護権の放棄という処理によっては、そういう訴えを提起するような権利までは殺していないということでございます。ただ、そこで言っている請求権というのは、法律上の根拠のあるものではない、もろもろのクレームを言っているということでございます。

○筒井委員 いや、今はそんな訴えを提起する権利やなんか聞いているんじゃなくて、以前、日韓条約が制定される前は帰化して障害年金を請求する権利、これはまず遺族援護法に基づく法的な権利だったわけでしょう。帰化して障害年金を請求する権利は別に実体上の法的な権利でも何でもないとか恩恵であったというお答えは厚生省も外務省もしないと思うのですが、障害年金を請求する法律上の権利、だから、この日韓条約の例外規定の中の権利の中へ当然含むわけでしょう。その権利については、まさに日韓条約へ影響を及ぼさないというふうにはっきり規定されているわけですよ。
 余りしつこくは聞きたくないんだけれども、しかし聞けば聞くほどちょっと逃げるから、これが法律的な権利であったでしょうという点、そしてそれは今度の日韓条約によって影響を受けないというふうになっているでしょうと、この二点だけちょっと確かめておきたいと思います。

○多田政府委員 日本国籍を有する方の請求という意味では、以前から韓国籍の方には請求権を、この法律に基づく給付の請求を権利として認めたことはなかったということでございます。
 帰化の権利というのがどういうふうに扱われるのかは私どもよくわかりませんけれども、帰化する権利というのがこの条約でどういうことになっているのか、ちょっと私の方でお答え申し上げかねます。

○筒井委員 意識的に誤解して答えられているようなんで先に進むことができないのですが、以前は、日韓条約が制定される前は、帰化すれば障害年金を請求する権利は認められていた、帰化すれば。その後は、今度は帰化しても障害年金を請求する権利が否定されているという実態だからそれを問題にしているわけなんですよ。帰化すれば障害年金を請求する権利が認められていたのに、それを日韓条約によって否定してしまった。しかし、日韓条約ではその権利に関しては、在日韓国人の権利に関しては影響を及ぼさないというふうに明確に規定があるわけですよ。その明確な規定があるのにそれを無視していることになるんではないか、こういう質問なんです。

○柳井政府委員 私の方から一点だけお答え申し上げたいと存じます。
 先ほど来るる御説明申し上げましたのは、協定第二条二項で例外にしておりますのは韓国人の実体的権利ということでございます。したがいまして、例外にしたのは、この協定締結当時韓国人の権利として我が国の国内法上認められていたものがあれば、そのようなものは消滅させないという趣旨でございます。(「だから、帰化すればということです」と呼ぶ者あり)いや、ですから、その帰化をする権利というものがどういうものであるか、これは少なくとも直接その給付の請求権になるというものではないと私思いますけれども、帰化する権利というものが実体的権利というふうには恐らく解されないであろうと思います。

○筒井委員 もう全然答えになっていないというふうに思うのですが、先ほど厚生大臣にもお聞きしましたが、こういう在日韓国人に関して、日本でも権利が排除されている、そして韓国においても排除されている、どこでも結局日韓条約を理由に排除されている。こういう政治的な状況について、先ほど詳しいことはよくわからないと言われましたけれども、その点をはっきりさせた上で適切な処置をとっていただきたいと思うわけでございまして、その点について、外務大臣と厚生大臣の見解をお聞きしたいと思いますが。

○渡辺(美)国務大臣 三十年近く前の話でございまして、いきさつその他私はよくわかりません。しかし、このことは政府として当然に法的な統一見解があるはずでございますので、さらに調べてみたいと考えます。あなたの話を聞いていればもっともだなというようにも考えられない前もないではないが、しかし、だからといって軽々にここで返事をするわけにもいきませんので、もう一辺よく検討いたしてみます。

○山下国務大臣 先ほど申し上げましたように極めて不勉強でございますが、ただ、戦争が終わりまして既に半世紀近くたってこういったはざまに置かれている人があるとするならばこれはやはり大切な問題であるし、また半世紀にわたってこれが処理できなかったということについて振り返ってみて、これは遺憾の点があるなどいう気がいたします。したがいまして、十分また私の方も勉強いたしまして、しかるべき時期にお答えいたしたいと思います。

○筒井委員 じゃ検討を、今言われた趣旨でお願いをしたいと思います。
 それから、この国籍条項というのは、遺族援護法に限らず、先ほども申し上げましたようにいろんな法律にあって、外国人を排除しているわけでございます。この国籍条項の趣旨をまず確認をしたいのですが、厚生省の援護局援護課長が出した通知で、国籍条項についてこういう説明をされております。「遺族援護法第三十一条には「日本の国籍を失ったときは遺族年金又は遺族給与金を受ける権利が消滅する」旨を規定されているが、この規定は、個人の意志に関係なく国家間相互の条約等の一方的権力によって国籍を変更させられた場合には適用されるべきではなく、個人の意志に基づく帰化等の方法によって国籍を失った場合にのみ適用される」、こういう通達があるわけでございまして、つまり、まとめますと、日本の国籍を失ったときは権利が消滅するというふうな国籍条項は、これはサンフランシスコ条約、平和条約によって国籍を喪失した、こういう人たちには適用されない、個人の意志に基づいて帰化等の方法によって国籍を喪失した場合にのみ適用される、こういう通達でございますが、そういう趣旨でよろしいですね。

○多田政府委員 先生御指摘のその規定はそのとおりでございますので、附則の二項の方の関係が出てきて制限されるという場合があるということでございます。

○筒井委員 国籍条項が遺族援護法にあって、さらに附則で先ほど言いました戸籍条項がある。国籍条項によっては、在日韓国人の人たちは、あるいは在日朝鮮人の人たち全体そうですが、平和条約によって一方的に国籍を喪失させられた人だから国籍条項の対象にはならない、しかし戸籍条項があるから、だから結局遺族援護法が適用されないことになる、こういう趣旨で、今もそう答えられたわけでございまして、だからもう一度確認しますが、国籍条項だけであるならば平和条約で国籍を失った人については権利が消滅しない、こういうことをもう一度確認しますが、よろしいですね。

○多田政府委員 給付制限の方の規定で書いてありますような、その条項によって停止されるというわけではないということでございまして、これはあくまでも戸籍の関係からきているものでございます。

○筒井委員 その点確認してお聞きしますが、恩給法にも同じような国籍条項がございます。日本の国籍を失ったときは権利が消滅する。恩給法にもそういう同じような権利消滅規定がありますが、しかし、これはそうしますと、今の解釈でいきますと、平和条約によって国籍を喪失した人はこの国籍条項の対象にならないで権利も消滅しないということになるわけでございまして、そうすると恩給法が在日韓国人等の人たちにも適用される。しかも、恩給法には、戸籍法、戸籍が適用されない人には権利を与えないという戸籍条項がありませんから、恩給法は、そうしますと、今の説明によりますと、在日韓国人等在日外国人にもやはり適用されることになるのではないですか。その点お聞きします。

○多田政府委員 恩給法につきましては総務庁の所管でございますので、総務庁から答弁をお願いしたいと思います。

○中山(正)委員長代理 筒井君に申し上げますが、後刻に保留をしていただきたいと思います。

○筒井委員 それじゃ別な質問をします。別な質問に入って、来られたらまた後に戻したいと思います。
 この外国人排除が国際人権規約に反するという点をお聞きをしたいと思います。
 先ほども出されましたが、市民的及び政治的権利に関する国際規約、これで人権規定や平等規定がございます。この市民的及び政治的権利に関する国際規約で平等規定がこういうふうに第二十六条で規定をされております。「すべての者は、法律の前に平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため、法律は、あらゆる差別を禁止し及び人種こ「出生又は他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する。」こういう同じ規定が世界人権宣言にも、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約にもあるわけでございまして、しかもこの市民的及び政治的権利に関する国際規約の第二条では、各国は人権実現、平等規定実現の義務が規定されているわけでございます。
 まず、こういう規定があって、そういう平等規定を実現する義務が我が日本国にもあるということ、これを確認していただきたいと思いますが、そうですね。

○丹波政府委員 一般論として申し上げて、先生が引用になられました、先ほど申し上げたB規約の第二条、第二十六条、先ほど私、法の前の平等ということを申し上げたときにはこれが念頭にあったわけですが、加盟国がこういうものを実施するために必要な措置をとるということは二条にも書かれておるとおりでございます。

○筒井委員 そうしますと、その義務に今日本は反しているのではないか、この点を確認したいんですが、二十六条に規定されている平等規定、この国籍による差別が二十六条の「他の地位」に該当するというふうに考えますし、そして今問題になっている在日韓国人等の人たち、この人たちに対する遺族援護法の適用に関しての問題ですが、この遺族援護法による年金というのは国籍のゆえに、国籍があるから支給されるのではなくて、日本の軍務とか、軍務に協力したり軍務についたり、そういう軍務協力業務を提供したゆえに支給される、こういうふうに考えるわけでございまして、そうしますと、それを国籍喪失したことによって遺族援護法の適用から外すというのは、この国際条約に違反をしているのではないか。この点に関して、外務省の見解をお聞きしたいと思います。

○丹波政府委員 お答え申し上げます。
 先ほどもちょっと触れましたけれども、先生も御承知のとおり、このB規約のもとに人権委員会というものが設置されておりまして、いろんな見解を出しております。その見解を読みますと、合理的かつ客観的な基準に基づく差異というものを設けることは必ずしも二十六条に違反するものではないという見解が示されております。
 それでは、個々の、先生が先ほど論じておられる法律がそういうものに当たるのかどうかという点については、これは関係の省庁から御聴取いただきたいというふうに思います。

○筒井委員 ちょっと問題途中ですが、恩給局長が来られましたので、先ほどの問題をお聞きをしたいと思います。
 先ほどの問題を簡単に要約しますと、遺族援護法における国籍条項に関して、この国籍条項は平和条約によって国籍を喪失した在日韓国人等の人たちに対しては適用されないという、先ほど厚生省の通達と答弁をいただきました。やはり恩給法でも同じ国籍条項があるわけでございまして、そうすると恩給法の方の国籍条項、ほとんど表現が一緒でございますけれども、これもやっぱり国籍条項には、平和条約によって日本国籍を喪失した在日の人たちに対しては適用されない、そう考えるべきではないか、その点お答えをいただきたいと思います。

○新野政府委員 恩給制度におきまして日本国籍の保持を恩給権の付与及び存続の要件としておりますのは、公務員と国との特殊な関係に立脚した国家補償的性格を有する制度という恩給の沿革ないし性格に由来するものでございまして、日本国籍の保持というのは戦前からの、この法律大正十二年にできましたが、それからの基本的約束事の一つになっておるところでございます。したがって、恩給法の国籍条項というのはそのまま現在まで有効に作用をしておるというふうに考えております。

○筒井委員 全然回答になっていないのですが、今問題になっているのは、日本の陸軍とか海軍の軍人とか、あるいはその要請に基づいて戦闘に参加した、さらには陸海軍内部の嘱託員とか雇員とか傭人、工員、こういうことによってまさに日本の海軍、陸軍等で働いた外国人について今お聞きしているわけでございまして、もう一度、だからそのことを前提にお聞きしますが、日本の国籍を失ったときは権利消滅するという国籍条項の対象に、平和条約によって日本の国籍を喪失したこの在日韓国人等の人たち、外国人の人たちは入るのか入らないのか、その点お聞きしたいと思います。

○新野政府委員 お尋ねの昭和二十七年四月二十八日のサンフランシスコ平和条約の発効に伴いまして朝鮮は日本の領土から分離されておりまして、朝鮮半島出身者に例をとりますと、日本の国籍を喪失したということでございますので、これらの者の恩給を受ける権利につきましては、恩給法第九条第一項第三号の「国籍ヲ失ヒタルトキ」ということに該当することにより消滅をいたしておるところでございます。

○筒井委員 そうしますと、同じ国籍条項で、恩給法においては平和条約によって日本国籍を失った人もその中に入る、そして援護法の方に関しては、先ほど確認しましたようにこれはその中に入らない。こんな矛盾、法律によって違う、あるいは省庁によって同じ国籍条項について全く解釈が正反対になる、こういう状態ですね、今現在。その点、ちょっと確認しておきます。

○新野政府委員 恩給につきましては、公務員が相当年限忠実に勤務して退職した場合、また公務による傷病のために退職した場合または公務のために死亡した場合におきまして、国が公務員との特殊な関係に基づきまして使用者として公務員またはその遺族に給付するものということで、すなわち国家補償的性格を有するものである、こういうふうに理解をしておるところでございまして、そのために公務員との関係ということで日本国籍を有する者という形になっておるわけでございまして、これはそうした公務員との関係という特殊な関係に基づいた制度でございますから、やはり国籍というものは従来から必要であるということになっておるところでございます。

○筒井委員 国籍が必要である、国籍条項があるのは二つの法律とも一緒なんです。そして、陸海軍を中心としたこれらの軍属、準軍属、これらの仕事についていた人に対する援護立法であることも一緒なんです。しかも、国籍条項というその表現自体も一緒なのに全く解釈が正反対に分かれている。一方は平和条約によって国籍を喪失した場合には国籍条項の対象にならない、一方はなる、こういう状態について外務大臣、御見解をお聞きしたいと思いますが。

○渡辺(美)国務大臣 これは純法律的な問題でございますから、追って法制局長官からでも権威のある答弁をしてもらいたいと思っております。

○筒井委員 厚生省の方にもう一度確認しますが、先ほどの解釈自体は、今の恩給法に関して、同じ国籍条項に関して正反対の解釈が総務庁の方からなされたわけですが、それを聞いた上でも変わりませんね。

○多田政府委員 私どもの解釈は、従来、先ほど申し上げたような解釈で来ておりまして、今のところそういう解釈でございます。

○筒井委員 これは本来法制局長官にも確かめるべきことかもしれません。
 その上で、もう一度外務大臣にお聞かせいただきたいのですが、こういうふうな国籍条項に関する解釈の区分がある。その法律的な問題、解釈の問題は別にして、やはり恩給法等を含めて、同じ日本の陸軍、海軍等の仕事についた人、そしていろんな苦労をして、あるいは体も今も投げ出したような、そういう場合があるわけでございまして、これらに対して全く国籍だけでもって一切援護を拒否しているという状態、これはやはり不合理だ、もう一度検討し直す、こういうことが必要ではないかと考えますが、いかがでしょうか。

○渡辺(美)国務大臣 検討し直す、どうのという約束はできませんが、本当に今まで長い間、こういう議論は余り皆さんの先輩からお聞きしたことはない。韓国を認めていればもっと早くこういうような議論は、私、出てきたんじゃないのかなという感じを受けないではありません。
 今おっしゃるように、朝鮮の人が日本人にさせられて、そしてその子孫が軍隊として徴兵された。それで、帰ってきたが、平和条約とともに国籍を失った。韓国へ帰ってしまった人は、こちらは、賠償じゃないが、経済協力をやって一切の責任は終わりよ。しかし、韓国に帰らずに日本に残っておった、しかし国籍は失ってしまった、そして日本に帰化した人もあれば帰化しない人もあるということですね。ですから、そうすると、人道的な立場から、日本人と同じように兵隊に行ってけがをしたり戦死をしたんだけれども、片っ方は何の恩恵もない、片っ方はある、だから人権上問題じゃないか。要約すると大体そういう御趣旨かなと思って、私聞いてみたんですよ。
 だから、先ほど言ったように、もっともだなと思わないわけではない、しかし法律上のいきさつその他いろいろありますから、ここで今はっきりした返事は申し上げられない。どうしてそういうようないきさつになったのかを含めまして、少し勉強をさせてもらいます。

○筒井委員 人権感覚にすぐれていると信じている外務大臣でございますので、ぜひ前向きの御検討をお願いをしたいと思います。
 先ほどの条約、人権規約等の問題にまた戻らさせていただきますが、遺族援護法、これが非常に中心的な法律なのでこれを例にお聞きしますけれども、これは厚生省の方に確かめたいんですが、国籍があるとかないとかのゆえに支給されるものではなくて、先ほど申し上げました、日本の陸海のいろんな軍務についていた、軍務を提供していた、あるいは軍務の協力をしていた、このことによって支給されるのが障害年金や遺族年金である、こういう趣旨でよろしいですね、厚生省。

○多田政府委員 この法律の立法の当時の議論あるいは提案理由説明というようなものをいろいろ見てみますと、GHQの指令を受けて恩給を停止された軍人等、または戦地勤務であったため旧令共済の対象から外された軍属等、こういう方々を救済しようという意図でこの法律ができ上がっているということでございますので、恩給法等の制約条件というのは一応引き継いたような形で立法を基本的には考えられているというふうに理解はされるところでございます。

○筒井委員 恩給法とまさに本質は一緒だと思いますけれども、総務庁の方にはこの質問を通告していないので、遺族援護法の方の形でお聞きしますけれども、今お答えされた厚生省の方で、先ほど指摘しました通達、これは平和条約の発効によって日本国籍を失った者もこの遺族援護法が適用になる、こう明確に答えて、そういう通達を出しておられるでしょう。
 もう一度言いますが、日本国籍を平和条約によって失った者もこの遺族援護法が適用される、こういう通達を出しているわけでございまして、だから明確に、国籍のゆえに支給されるのではなくて軍務等の提供をしたがゆえに支給されるんだ、その点ははっきりしているし、通達でもそのことを認めているんじゃないですか。もう一度お答えください。

○中山(正)委員長代理 厚生省多田援護局長、早く答弁してください。わからないと言ったら、後でまた連絡しますということで答弁してください。

○多田政府委員 もうちょっと整理して、また御答弁させていただきたいと思います。

○筒井委員 通達が今ありますので、それをお見せしてもよろしいですが、「個人の意志に関係なく国家間相互の条約等の一方的権力によって国籍を変更させられた場合には適用されるべきではなくこというのは国籍条項が適用されるべきではない、「個人の意志に基づく帰化等の方法によって国籍を失った場合にのみ」国籍条項が「適用されるものと解する。したがって、これらの朝鮮出身者、台湾出身者等はいずれも遺族援護法第三十一条第二号の規定が適用されないから、同法が適用されることとなる」。
 もう通達で出されていることをお聞きしているので、前もって私はこの問題についてはお聞きするというふうに通告していたので確かめているのですが、今、通達、その一部引用しているところを持っていますから、見た上でお答えいただいてもいいですが。

○中山(正)委員長代理 筒井議員、それを見せてやってくれますか。――ありますか。

○山下国務大臣 後刻、調査をいたしまして、お答えしたいと思います。

○多田政府委員 先ほど御答弁申し上げたところと同じでございますが、要するに、個人の意志に基づく帰化等の方法によって国籍を失った場合にのみ適用されるということでございます。

○筒井委員 だから、私が確認しているのは、全然別な面で答えているのですが、日本国籍を喪失した人に関しても、平和条約によって日本国籍を喪失した人に関してもこの遺族援護法が適用される、こういうことでよろしいですね。またそういう通達も出している。

○多田政府委員 日本国に帰化された方についてはそういうことでございます。

○筒井委員 この通達を私読んで言っているんで、日本国籍を喪失した人も、平和条約によって日本国籍を喪失した人に関しても同法が適用されることになる、こういう通達、こういう文書を出したことは間違いありませんね。しかし、その後で戸籍法の附則があるから別なんだということがありますが、しかし国籍が喪失されているからといってそのことを理由にこの法律が適用されないことはない、国籍がないとしても適用されることとなる、こういう通達を出していることは間違いないですね。

○多田政府委員 先ほど申し上げたとおりでございまして、法律の除外規定というのは、給付の除外規定については、これは任意のもの以外はその条項が適用にならないというふうに考えております。したがって……(「通達出したのか出さないのか」と呼ぶ者あり)通達は出しました。はい、そのとおりでございます。通達は、三十七年の十月二十九日の通達というのを先生はごらんになっておられると思います。その後さらに四十一年の十一月三十日の通達というのがございます。そこで具体的にさらにコメントがなされておりまして、「日韓協定の趣旨からは、同日以後韓国籍の者が日本に帰化し戸籍法の適用を受けることとなっても法の適用を受けることはできない」かどうかという照会に対して、それはできないという答えをしております。

○筒井委員 今私が読み上げた通達は確認されたというふうに、まあ当たり前な話でそんなに難しい問題ではないんですけれども、それを前提にお聞きしますが、そうしますと、国籍を喪失したからといって直ちにこの遺族援護法が適用されないとは言えない。ということは、遺族援護法というのは国籍のゆえに支給されるのではなくて、まさに軍務等を提供したから支給される、こう考えてよろしいわけでしょう。その点を確認したいわけです。

○中山(正)委員長代理 多田援護局長、その後の方の通達もはっきりさせてください。

○多田政府委員 考え方としてはそういうことでございます。

○筒井委員 そうしますと、外務省の方に国連人権委員会の見解についても前もって通告してありますが、それについてお聞きをしたいと思います。
 市民的及び政治的権利に関する国際規約に基づいて人権委員会が国連に設置をされました。そして、人権規定、平等規定、これに対する違反があるとの通報を受けて検討して人権委員会としての見解を採択する、こういう機関でございまして、フランス陸軍の軍務についていたセネガル人の退役軍人、この事件がこの国連人権委員会に一九八九年かかりまして、ここでこういう結論を出しております。
 セネガル人が、セネガルが独立したことによってフランス国籍を喪失した、フランス国籍を喪失したために年金の支給額がフランス人の退役軍人よりも低額となった、これはこの国際規約に反するのではないか、こういう事件でございました。まさに日本の先ほどの場合と一緒でございました。ただ違うのは、フランスの場合には、国籍を喪失した人に対してもやはりフランスに対して軍務を提供してくれたんだからということで低い金額ですが年金を支給していた、日本の場合には全く障害年金等をゼロにした、この違いがあるわけでございまして、それ以外、本質的には同じ問題でございますが、これは結局、外務省の方から言っていただきますか。このような取り扱い、国籍を喪失したことによって同じように軍務を提供したにもかかわらず年金額を低めて支給した、これが人権に関する国際規約に反すると人権委員会は判断したのかどうか、その点お答えをいただきたいと思います。

○丹波政府委員 先生が引用になられました、このセネガルの独立の前にフランス軍に従軍したセネガル人の恩給の関係につきましての人権委員会の見解は、セネガルの独立によりまして兵士の国籍がフランスからセネガルに変わったこと、それからアフリカ諸国にいる退役兵士やその家族をフランス当局が確認するのは困難であること、第三番目としてフランスと旧植民地とでは経済的、財政的、社会的状況が異なるという、これらの三つのことを考えたとしても合理的かつ客観的な基準に基づく取り扱い、差異を設ける取り扱いではないので、先ほど申し上げた二十六条の禁止する差別を構成するという見解を出したということでございます。そういう意味で、先生が今おっしゃった点はそのとおりだと思います。

○筒井委員 これに基づいてさらにお聞きしたいわけですが、こういうふうに日本の場合と本質的にはほぼ一緒のことについて、国連の人権委員会が平等規定に反する、合理的な区別ではなくて不合理な差別であるという判断をされたわけでございまして、この場合も理由づけも全く、先ほど私が申し上げました国籍による差別は二十六条平等規定の「他の地位」に該当する、そして年金は国籍のゆえに支給されるのではなくて軍務を提供したがゆえに支給される、セネガル人はフランス人と同じようにフランス軍務についていたのに年金を満額支給しないのは国籍による不合理な差別である、こういう結論を出したわけでございまして、今日本は国際貢献等も言いながら、国連中心主義と至言いながら、国連外交とも言い、国連の、世界の水準に合わせるというのが日本の外交のまさに最低限の条件だと思いますが、こういう人権委員会の結論を聞いた上で、外務大臣、どうお考えになりましょうか。

○渡辺(美)国務大臣 事実関係を一遍総ざらいをした上で、あなたのおっしゃることはよくわかりますから、国連社会において恥ずかしくないようにしていかなきゃならぬなという感じ、感じですよ、感じであります。

○筒井委員 終わります。

 第123回国会 衆議院予算委員会 第15号 平成四年三月九日(月曜日)

【発言順】
 委員長         山村新治郎
 委員          伊東 秀子
 外務省条約局長     柳井 俊二
 国務大臣(内閣官房長官)加藤 紘一
 内閣法制局長官     工藤 敦夫
 外務省アジア局長    谷野 作太郎
 外務大臣        渡辺 美智雄         
 大蔵大臣        羽田 孜

○山村委員長 これにて新盛君の質疑は終了いたしました。
 次に、伊東秀子君。

○伊東(秀)委員 社会党・護憲共同の伊東秀子でございます。
 まず外務省にお尋ねいたしたいと思います。
 従軍慰安婦の補償に関してでございますが、二月三日の我が党の山花議員の質問に対しまして政府は、従軍慰安婦の補償の問題について政府の基本的な考え方はどうかと聞いたのに対し、訴訟の手続がとられているので「その帰趨を見守る」、「あえて申し上げますれば、この種の問題も含めて法的には六五年の日韓の正常化の折に決着済みである」というふうにお答えになっておりますが、現在問題になっております請求というのは、個人が日本国政府に対して民族的な迫害及び人格権を侵害された、人間の尊厳を冒涜されたという精神的な損害に対する慰謝料請求でございます。こういったものが最終的に解決されたという答弁だということになるわけですが、それで間違いないでしょうか。

○柳井政府委員 この問題につきましては、これまでいろいろな機会に私どもの考え方、るる申し上げておりますので、それを繰り返すことはいたしたくないと思います。
 結論から申し上げますれば、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定におきまして、その第二条で、財産請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたと規定しているわけでございますが、具体的には、この第二条のそれ以下の規定におきまして、いわゆる国内法的根拠のある実体的権利については、相手国でそれを消滅させる等の措置をとったとしてもそれに対して文句は言わない、それから、法律的な根拠のないその他の請求についてもいかなる主張も行うことができないということでございまして、財産権であれば、我が国の場合には、韓国及び韓国国民の財産権を消滅させる法律を当時制定してこれを消滅させたわけでございます。それ以外の請求につきましては、日韓間の問題としては、いわゆる外交的にこれを取り上げることはしない、すなわち外交保護権を行使することはしないという意味で解決をしているということでございます。

〔委員長退席、中山(正)委員長代理着席〕

○伊東(秀)委員 そうしますと、外務省としては、一身専属権であると言われております慰謝料請求、精神的な損害に対する慰謝料請求というものはその者にしか専属し得ないし処分し得ないと言われている権利でございますが、これを完全かつ最終的にこの慰謝料請求権を国家が解決できるという立場に現在でも立っておられるということなんでしょうか。

○柳井政府委員 先ほども申し上げましたが、この協定上措置をとって、そして権利を消滅させる等の国内的な処理をするということの対象は、いわゆる「財産、権利及び利益」と協定で称しているものでございます。合意議事録で了解が確認されておりますように、このような「財産、権利及び利益」というのは、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうこと」が定義されて了解されているわけでございます。
 いわゆる慰謝料請求というものが、いわゆるクレームというものがどのようなものと国内法上観念されているかにつきましては、私必ずしもつまびらかにいたしませんけれども、いわゆるこの「財産、権利及び利益」というものには該当しないものが多々あろうと思います。そのようなものにつきましては、この協定上は、いわゆる財産、権利、利益というもの以外の請求権というふうに観念しているわけでございまして、そのような請求権につきましては、国内的に、国内法的に処理をとるということはここでは想定しておりませんけれども、いずれにせよ、そのような問題を国家間で外交的に取り上げるということはこの協定の締結後できないというのが当時の日韓間の合意であったというものでございます。

○伊東(秀)委員 今、私の質問にお答えいただいてないわけでございますが、私は、本問題、今韓国の女性たちが日本政府を訴えているのは個人としての慰謝料請求である。それが最終的に解決済みであるというのが政府の答弁でございますが、こういった一身専属権を国家が本人の承諾もなしに勝手に放棄できるのかどうかということの外務省の見解を簡潔に答えてください。

○柳井政府委員 当時の協定上の処理といたしましては先ほど申し上げたとおりでございまして、いわゆるクレーム、財産権以外の、実体的権利以外のクレームにつきましては、外交保護権の放棄という形で決着を図る一方、それと並行して経済協力というものを行ったわけでございます。いわゆる無償三億、有償二億という経済協力を供与いたしまして、そういう全体の合意によってこの問題も含めて、日韓国家間では最終的に解決したという処理を行ったわけでございます。
 そして慰謝料等の請求につきましては、これは先ほど申し上げたようないわゆる財産的権利というものに該当しないと思います。そのようなものについては、いわゆる財産的な権利につきましては国内法的な処理をしても文句を言わないという規定があるわけでございますが、それ以外のものについては外交保護権の放棄にとどまるということで当時決着をした。これはいわゆる請求を提起するという地位までも否定しないという意味においてそのような権利を消滅させていないわけでございますが、しかしそれが実体的な法律上の根拠を持った権利である、実体的に法律上の根拠を持った財産的価値を認める権利であるというふうには当時観念されなかったろうと思います。

○伊東(秀)委員 今の条約局長の御答弁を伺っていますと、慰謝料請求権そのものは消滅してないという御答弁になるわけで、放棄したのは外交保護権であるということをはっきりおっしゃいました。そうすると、慰謝料請求、彼女たちが今問題にしているのは慰謝料の問題でございまして、そうしたら最終的に解決したとは言えないじゃないか、論理的にも。全くそれは最終的に解決してはいない。
 ただし、今もう一つ条約局長は重要なことを御答弁なさったと思いますが、彼女たちの権利は実体法上の根拠があるかないかというようなことを問題になさいましたが、条約局長としては、慰謝料請求権は消滅はしてはいない、残っている、しかし、実体法上の根拠がある請求権ではないという趣旨に御答弁なさったと伺ってよろしいでしょうか。

○柳井政府委員 協定の解釈に関します、いわゆる「財産、権利及び利益」の定義につきましては、先ほど読み上げましたとおりでございます。いわゆる慰謝料請求権というものが、この法律上の根拠に基づき財産的価値を有すると認められる実体的権利というものに該当するかどうかということになれば、恐らくそうではないのだろうと私は考えます。いずれにいたしましても、昭和四十年、この協定の締結をいたしまして、それを受けて我が国で韓国及び韓国国民の権利、ここに言っております「財産、権利及び利益」について一定のものを消滅させる措置をとったわけでございますが、そのようなものの中にいわゆる慰謝料請求というものが入っていたとは記憶しておりません。

○伊東(秀)委員 慰謝料請求権は入っていなかった。そうしたら、政府がこれまで繰り返してきました彼女たちの請求権は完全かつ最終的に解決したということが、全く答弁を覆さなければいけなくなると思いますが、官房長官、いかがでございましょうか。

○柳井政府委員 官房長官の御答弁の前に一点だけ補足させていただきたいと存じますが、いわゆる個人の請求の問題については解決していないのじゃないかという御指摘もあるわけでございますけれども、先ほど私答弁いたしましたとおり、この日韓請求権・経済協力協定におきましては、これは繰り返しませんけれども、先ほど申し上げたような規定によって日韓両国間においては完全かつ最終的に解決を見たということで合意がなされたということでございます。ただ、いわゆる法律的な根拠に基づかない財産的な実体的な権利というもの以外の請求権については、これは請求権の放棄と申しますことの意味は、外交保護権の放棄ということでございますから、それを個人の当事者の方々が別途裁判所なりなんなりに提起をされる、そういうような地位までも否定するものではないということは、これまでもいろいろな機会に政府側として御答弁申し上げているとおりでございます。

○加藤国務大臣 条約局長が答弁したとおりでございます。

○伊東(秀)委員 そこが大変論理的に矛盾であるところでございまして、訴権があるのは当然である、だれでも裁判所に訴える権利はあるわけでございまして、訴権とそれから慰謝料請求権という実体法上の権利とは全く別である。裁判所に訴える権利というのは手続法上認められている訴権でございまして、今条約局長が答弁なさったのは、従軍慰安婦だった方々の慰謝料請求権については消滅していない、これは解決の枠外というふうに答弁されたわけですから、とすれば訴権にすりかわる論拠は全然ないわけでございます。それがなぜ手続法上の裁判所に訴える権利だけで実体法上の権利は消滅したんだということになるかが全く論理矛盾である、そういうことで私は先ほど官房長官の御答弁を求めているわけでございますので、もう一度、慰謝料請求権を当人の承諾なしに国家が消滅させることはできないという条約局長の見解を前提にして、何ゆえにそれでは政府は解決したと言うのか、この点を明快にお答えいただきたいと思います。

○柳井政府委員 官房長官へのお尋ねがどうやら私の答弁が原因になっているようでございますので、一点だけ補足させていただきたいと存じます。
 先ほども申し上げましたとおり、我が国としては、この協定上外交保護権を放棄した、そして関係者の方々が訴えを提起される地位までも否定したものではないということを申し上げたわけでございますが、しからば、その訴えに含まれておりますところの慰謝料請求等の請求が我が国の法律に照らして実体的な根拠があるかないかということにつきましては、これは裁判所で御判断になることだと存じます。ですから、その点についてはちょっと誤解があるといけませんので補足させていただきます。

○加藤国務大臣 条約上または法律上のかなり専門的なことでございますので、条約局長の答弁の方が正確かと存じます。私がかつて答弁申し上げましたのも、今条約局長が申し上げたとおり、双方の政府の間で外交上はこれは決着したものである、ただ、韓国の国内にいる方の一人一人の訴権というものを否定しているものでありませんという答弁はいたしております。それが、訴える権利というものがいわゆる手続法上のものであるのか、それとも実体法上のものであるのか、そういうような点につきましては、専門家の答弁の方にお任せしたいと思います。

○伊東(秀)委員 訴権があるのは、だれも訴権を否定されている人はいないわけでございますから、訴権があることは当然である。問題は、今問題になっているのは、訴権のあるなしじゃなしに、彼女たちの慰謝料請求権、個人としてそれは消滅しないという答弁をされたわけですから、それをなぜ解決したと言うかが問題だということを私は伺ったわけです。
 それはおきまして、内閣法制局長官に伺いますが、条約でもって国家が個人の精神的な損害に対する慰謝料請求、これを放棄できるかどうかということが第一点と、今政府はできないということを前提としつつも、その残っている慰謝料請求権は裁判所に訴える権利、つまり訴権でしかないんだというふうに非常に限定的にしているわけでございますが、この二つの点に関する法制局の見解をお答えください。

○工藤政府委員 お答えいたします。
 ただいま条約局長あるいは官房長官からもお答えございましたように、現実に日韓の請求権協定といいますかで放棄しておりますのは、我が国の外交保護権あるいは韓国の、双方の外交保護権でございますので、そういう意味で外交保護権についての定めというもの自身が直接個人の請求権とかこういったものの存否に消長を及ぼすものではない、こういうことだろうと思います。
 次に、第二の点のお尋ねでございますが、それ自身につきましては、現在訴訟になっておりまして、現実に裁判所でどのようないわゆる法規の適用といいますか、そういうものが行われるか、私の方から予断を持って申し上げることはいかがかと存じます。

○伊東(秀)委員 私は、裁判の中身のことをお伺いしているのではございませんで、今法制局長官がお答えくださいましたように、外交保護権の放棄が個人の請求権の消滅には何ら影響を及ぼさない、とすれば、全く影響を受けていない個人の請求権が訴権だけだという論理が成り立つか否かという見解、解釈を伺っているのでございますが、いかがでしょう。

○工藤政府委員 お答えいたします。
 訴権だけかというお尋ねでございますけれども、現実に訴えを起こしまして、私もその内容を詳細には存じませんけれども、損害賠償請求をされているわけでございます。その損害賠償請求について、いかなる取り扱いがされるか、これは裁判所の判断にまつところであろう、こういうことでございまして、訴権だけであって、あと損害賠償請求権があるとかないとか、そこの部分を私の立場で申し上げる……

○伊東(秀)委員 あるなしの問題じゃなくて、損害賠償請求権は消滅しないと言いながら、それが訴権だけという論理が成り立つかどうかを潤いておりまして、裁判所の判断をかわって言ってもらいたいと言っているのじゃないのでございますが、その点について、そういう論理が成り立つかどうかを答えてください。

○工藤政府委員 訴権だけというふうに申し上げていることではないと存じます。それは、訴えた場合に、それの訴訟が認められるかどうかという問題まで当然裁判所は判断されるものと考えております。

○伊東(秀)委員 今の御答弁で、つまり今まで政府が、請求権は消滅してすべて解決済みとかあるいは消滅していないけれどもそれは裁判所に訴えるという権利のみだということが、大変論理的に矛盾であるということが明らかになったのではなかろうかと思います。
 そこでその問題はおきまして、次にもう一つ、条約局長の二月三日の御答弁に即してお伺いいたします。
 二月三日の山花議員の質問に対して、柳井条約局長が、「日韓の条約の上ではこ「当時具体的に取り上げられなかった問題も含めてすべての請求権の問題が両国間では完全かつ最終的に解決されたというふうに規定しているわけでございます。したがいまして、この点につきましては、日韓両国政府間で合意の上でそのような処理をしたということでございます。」という答弁がございます。
 そこで一点目。まず、私はここに請求権及び経済協力に関する協定、議事録、すべての書類を持ってきておりますが、この最終的に解決されたというふうに規定してあるというのはどこの部分に規定してあるのでしょうか。最終的に解決されたというのが、つまり対日八項目要求、これも私ここに用意してございますけれども、これ以外に取り上げられなかったこと、議題にならなかったこともすべて解決するというふうにこの協定に規定されているというふうにお答えになっているわけでございますが、取り上げられなかった問題まで解決するというのがこの協定のどこに書いてあるのか、教えていただけますでしょうか。

○柳井政府委員 それは協定の第二条の一項に、ここにいわゆるサンフランシスコ平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて完全かつ最終的に解決されたというふうに言っているわけでございまして、国交の正常化でございますとかあるいは平和の回復ということを行います場合に、平和条約あるいはこのような日韓間の協定等いろいろな条約を結びまして請求権の問題を解決するわけでございます。
 その際に、大抵の場合は個々の請求項目についていろいろ議論をするということがあるわけでございまして、御指摘のとおり日韓の当時の交渉におきましては、いわゆる八項目の請求というものが韓国側から出されて、その請求に対する補償の積み上げというような話し合いもしたわけでございますが、当時既に戦後相当時間もたっていた、そしてその間にいわゆる朝鮮動乱というものも介在したということで、一件一件の積み上げではこれは到底解決のめどが立たないということで、いわゆる一括解決方式というものが日韓間で基本的に合意されまして、そしてそのような線に沿ってこの条約が起案され合意されたわけでございます。
 この協定上の根拠ということになれば、それは「完全かつ最終的に解決された」ということでございまして、これが八項目にあるかないかということで判断するというよりは、日韓間の請求権の問題を一括して全部解決したと。そこで論議されたものもあったでしょうし、あるいは具体的な論議の対象にならなかった請求というものもあったと思います。しかし、そのような論議されなかったものあるいは場合によっては八項目の請求の中に関係のあるものもあるかもしれませんが、論議されなかったものを後になってあれもあった、これもあったということでは、いわゆる一括解決というのはできないわけでございますから、それはこの条約の趣旨、そしてこの第二条の規定から申しまして、現在問題になっているような請求についても、これは日韓間の問題としては一括、完全かつ最終的に解決されたという趣旨であるということを申し上げた次第でございます。

○伊東(秀)委員 今、取り上げられなかった問題も請求権もすべて解決したというのは、条文上の規定としてはこの二条一項でしかないということが明らかになりました。しかしこれは、法の一般原則に反するのではなかろうかというふうに私は考えるわけでございます。
 というのは、二つの理由から法の一般原則に反しております。一つは、政府はこれまで昨年の十二月まで、軍の関与はない、民間人が勝手にやっていたことだという公式見解をずっと表明してまいりました。つまり、前提となる事実認識において全く新たな事実が判明したという、つまり、前提事実に錯誤があったということに法律上はなろうかと思います。つまり、こういう場合には、契約の前提になる事実に変更が後で発見され、かつその変更が全く予期できなかったような場合には、法の一般原則として事情変更の原則というものがとられるわけでございます。
 これは何も日本だけの問題ではなくて、フランスでは、例えば不予見の理論とか、つまり予見できなかったことが契約の後に発見されたらその契約の効力はなくなる、あるいはドイツでは行為基礎の理論と言われておりまして、行為の前提となった、契約の前提となった基礎が崩れたときにはその基礎の上に立っていた契約は無効になるという論理があるわけでございますが、こういった法の一般理論からいっても、全く事実認識が変わってきた今も、しかも全然それが事実認定が違っていたために取り上げられなかったことに対して、それがこの請求権の中に入っているんだという論理はどうしてもとり得ないんじゃないか。その点について法制局長官にお伺いしますが、今のように、条約の解釈において法の一般理論というものは適用になるということが私は当然だと思うのですが、いかがでしょうか。

○柳井政府委員 法制局長官から御答弁がある前に、私の方から一点だけお答えさせていただきたいと存じます。
 いわゆる慰安婦の問題につきまして、政府が関与したか否かという問題が確かにあるわけでございますが、いずれにいたしましても、この日韓の協定上は、韓国国民の我が国政府に対する請求あるいは財産権というものだけではなしに、我が国の政府に対する請求ももちろんでございますが、両国国民間の請求の問題あるいは財産権の問題というものも含めてこの条約上の処理の対象にしているわけでございます。

○工藤政府委員 お答えいたします。
 個別具体の事情を離れまして一般的にと申されますと、非常に私の方もお答えしにくいわけでございますが、もちろん国内法的にも事情変更といったようなものは一つの考え方として働き得ると思いますが、ただ同時に、事情変更というものをただ安易に、容易に認めていくというのもまた問題があるということだと存じます。

○伊東(秀)委員 今の御答弁で、安易には認められないけれども、その考え方は条約を解釈する場合にも適用になるというふうに理解いたします。
 このことは、私は事前に質問通告の中にお渡ししておきましたが、法制局長官にもう一度お伺いしますが、国際間の紛争を解決する場合の国際司法裁判所規程の第三十八条の一項Cというところにも認められているんですね。つまり、どういうものに準拠して国際的な紛争を処理するかというときのその適用するものの中に、「文明国が認めた法の一般原則」というふうに書いてございますが、つまり事情変更の、原則的なその前提事実が変わった場合の条約の解釈に関するものが、この国際司法裁判所規程の中では「文明国が認めた法の一般原則」という形で認められているというふうに解釈してよろしいかどうか、いかがでしょうか。

○柳井政府委員 事情変更の原則等につきましていろいろ御指摘があったわけでございますが、まず一般的な問題といたしまして、もとより各国の国内法で認められた、事情変更の原則を含めましていろいろな原則があるわけでございますが、そのようなものがそのまま国際法の原則として適用されるというものでないことは当然でございます。したがいまして、もちろん国際法の解釈につきまして、いろいろ類推でございますとかあるいは参考になるということが各国の国内法の中にあることは事実でございますし、事情変更の原則というのも、特にその条約の無効取り消し原因という観点から非常に議論されておりまして、これについては非常に議論の多いところでございます。
 その条約の無効取り消し原因というのはただいまの問題ではございませんのでこれ以上触れませんけれども、例えばそういうような問題につきましては、国際間で条約法条約というようなもので合意されて、その意味あるいはそれを適用する場合の一定の手続というものをきちっと決めて適用するということになっているわけでございます。したがいまして、事情変更の原則というようなものがそのまま国際法に適用されるということはむしろ言えない、そういう考え方はあるけれども、そのままの問題ではないということでございます。
 他方、国際司法裁判所規程の三十八条一項には、御指摘のとおり法の一般原則というものが挙げられているわけでございます。この三十八条一項のいわゆる柱書きのところは、「裁判所は、付託される紛争を国際法に従って裁判することを任務とし、次のものを適用する。」とありまして、aとして条約等を挙げております。それからbとして、法として認められたいわゆる国際慣習というのを挙げておりまして、そしてcとして、「文明国が認めた法の一般原則」というものを挙げております。さらにその他の点も書いておりますが、いずれにいたしましても、裁判所が法の一般原則を適用するというのは、個々具体的な国際間の争いについて、特に条約あるいは国際慣習法というようなもので解決ができないというような場合に「文明国が認めた法の一般原則」というものも適用して判決を下すということでございまして、そのような個々具体的な争訟を離れて何が国際的に適用される法の一般原則がということは言えないことでございます。

○伊東(秀)委員 それは当然でございまして、今回従軍慰安婦問題では大変日韓間の重要な、外交レベルには乗っているかどうか別に伺いますけれども、国民感情の問題として、これはもうどうしようもない状況に来ているんじゃないかと思われるわけですね。
 つい先日の新聞報道によりましても、三月一日の独立記念日を前に韓国紙が韓国国民に日本観を問うた、アンケートをしたところ、日本人に好感を持てないというのが六七・四%、日本という言葉を聞いただけで気分が悪くなる、二六・一%、日本政府は南北統一に反対していると思う、七九%、こういう形で大変反日感情がふだんより高まっている。その大きな原因として従軍慰安婦、自分たちの民族がこれほど凌辱されたという事実が明るみになったことが大きく問題があるというふうに報道されているわけですね。だからこそ、この問題は国際間のこういった条約の解釈において非常に重要な問題になってくるであろうと私は考えるわけでございます。
 しかも、先ほど読み上げました柳井条約局長の答弁では、もう解決済みというのは、「日韓両国政府間で合意の上でそのような処理をしたということでございます。」というふうに答弁なさっておられますが、実はそうではない、韓国の方にも、私は政府要人にもお会いしましたが、それは別としまして、韓国政府はことしの一月二十一日、各省庁の実務責任者会議を開いて、日本政府に対して徹底した真相究明と適切な補償などを求めていくという、そういった方針を決定したというふうに伝えられているわけですね。つまり、韓国政府はここで処理済みということには納得していないということがこの報道で明らかにされるわけでございますが、そういう意味でも国際司法裁判所規程に用いられているようなこの法の一般原則ということは大変重要になろうかと思うわけでございます。
 そこで、外務省にもう一度お伺いしますが、外交ルートを通じてこのような徹底した真相究明及び適切な補償というようなことが韓国政府から伝えられておりますでしょうか。

○谷野政府委員 ただいま先生がお示しになりました韓国側の措置について、その部分を読み上げてみたいと思います。
 まず徹底真相究明に努めてほしい、そしてこれを基礎に補償、賠償等の問題について国内の専門家あるいは当事者の意見をよく聞いて、その上で日本と外交交渉を展開する、こういうことでございまして、私の申し上げたいのは、今までのところ韓国政府が外交ルートを通じまして日本政府に要請してきておりますのは、まずは徹底して真相の究明をしていただきたいということでございまして、補償あるいは賠償という話は今のところございません。

○伊東(秀)委員 私が韓国の方からお伺いしたところでは、この問題は非常に民族の尊厳の根幹にかかわる問題であり、基本的な新たな事実が判明した現時点においては要求したから払うという性質のものではない。申しわけなかったというふうに謝罪するのであれば、日本側が信義のある国として自発的に補償を申し出てくるというのが国際間の信義であろうと考える。だからそれを今は見守っている。ただし、日本政府があくまでも解決済みということを、前提を早急に変えないのであれば法的な措置をとるということを、私は直接韓国の政府関係者の方からお伺いいたしました。ということは、今は適切な補償の要求が外交ルートに乗ってないにしても、早晩、いつまでも裁判を見守るとか決着済みということを繰り返している限り外交ルートに乗るであろうということが予想されるわけでございます。
 外交ルートに乗った場合どうなるかということを私は調べてみましたが、これは先ほど条約局長も条約の無効や取り消しの問題にちょっと触れましたが、条約法に関するウィーン条約というのがございまして、この四十八条というところに「錯誤」の項がございます。つまり、条約を締結するときにその基礎をなしていた事実関係に錯誤がある場合には、この場合は韓国側ですけれども、韓国側はこの条約の無効、だから、日韓条約の一部、従軍慰安婦については請求済みと日本が主張し続けているこの部分に関してのものをたとえ前提にしたにしても、これの無効を主張して、国際的な、国連への平和的解決の協議の申し出とか、あるいはそれでも日本政府が聞かない場合には国際司法裁判所へ訴え出るというような重要な外交問題になるのではなかろうかということが予想されるわけでございます。
 こういったこれまでのことを前提にして、渡辺外務大臣、まだ真相究明ができるまでは裁判の結果を見守るという態度を続けるのか、あるいはとにかく新たな事実が発見された、しかもその前提事実には錯誤があった、条約の解釈としても錯誤無効という、一部条約の無効という問題が外交ルートに乗るかもしれないということを前提にして、どうお考えになりますでしょうか。お答えお願いいたします。

○渡辺(美)国務大臣 日韓条約が交渉が始まって締結されるまでには十三年ぐらい長い時間がかかっているんです。当然その中では意見の違いがあるから、交渉が長引いた。最初は賠償というようなことも出たでしょう。いろいろ出ました。しかし、いや、こちらは別な意見を出した、そして最終的には賠償でなくて、それで請求というようなものに決着をつけようということになり、それは経済協力という形をとろう。で、無償三億ドル、有償二億ドルということで決まったわけです。
 じゃ、何でそれを算出したんだ、無償という金の中身を。これについても私など当時の交渉の記録等に出ているところを見ると、やれ軍隊の徴用だとかいろんな問題が出たそうです。出たけれども、それじゃそれらを全部金目にして、何が幾ら何が幾らと積み上げることは事実上、事実上ですよ、これは不可能に近い、評価の仕方が。そこで、政治決着ですから、こういうものは。だからそれはひっくるめて、それで無償三億ドルでお金を差し上げますから、経済協力で、どういうふうにお使いになるも向こうにお任せする。それから有償については二億ドル出します。当時は、まあ三百六十円ぐらいのレートだったと思いますが、予算も今の恐らく十分の一ぐらいじゃないですか。正確なことはちょっとわかりませんが、一千億円ぐらいの金を出したんですから、今でいえばまあ数兆円か一兆円か、それぐらいの金額に匹敵するでしょう、経済の規模あるいはGNPの大きさ、予算の規模等から比べると。そういう中ですから、当時としては日本の国力もそれほどじゃありませんし、かなりのものを出すことで決着がついたということですね。
 そこで私は、法律論争をこれは幾らやっても同じことの平行線で、これは繰り返したと思うのです。しかし、現実の問題として、大きな人道問題としてこれが提起され、それでまた政治問題になっている。これは事実ですから、だからこれは法律論争で負け勝ちを決めると言ったって、実際は、それはそう簡単に決まる話じゃない。幾ら国際裁判所へ訴えようが何しようが、年数ばかりかかっちゃって、私は決着しないんじゃないかと思う。したがって、非常に悲惨な方々ですから、だれが考えたってお気の毒だ、本当に申しわけないという気持ちはあるんですよ。だから、そういうものについて何か、まあ申しわけなかったというんなら申しわけなかったようなことを、目に見える形で何かするのがやはり政治かなという感じを受けているんです、実際は。
 しかしながら、そうはいっても、じゃ、だれとだれがその対象なんですか、今訴え出た人だけなんですかと。すると、数名という話になっちゃうわけですね。だからもっと実際はいるんじゃないかというようなこともあって、しかし、そういうような方の実態がわからないことにはやりようがありませんから、裁判は裁判でそれは継続されるのは結構ですが、一方はそういうような実態調査をやって、大体この程度の人が確実ということになれば、しかし、この問題についてやり方を間違うと、どんどんどんどん広がっていっちゃって、何のために日韓の条約を結んで、ここで一切終わりと決めたかわけがわからなくなってしまいますからね。
 そこらの兼ね合いも、これは日本としては国益の問題ももちろんありますし、負担が多ければ多いほど日本国民が喜ぶという話じゃありませんから、これは国の税金との関係もあるわけですから、だから、ほかのところにどういうふうに広がるか広がらないかという問題も含めて、韓国政府は政府として当時の軍人さんとかなにかには何がしのものを出したということも聞いていますよ。だから、そことの兼ね合いというものも一体どうなるのかというもの等も含めて考えなきゃならぬ。
 しかし、お気の毒であったということも事実ですから、どういうふうにするかは、これはまあそこらのところを全部見た上で解決をするというのが政治じゃないかなというように私は思っているんですよ。しかし、それは今訴えられている方の御希望どおりになるかどうか、それはわかりませんよ、それはわかるはずがないんですから。だから、そこらのところでどうなるかはもう少し調べていかないと結論は出せないと私は考えています。

○伊東(秀)委員 大変積極的な御答弁で私としてはうれしいわけでございますけれども、今の御答弁で伺いますと、つまりだれが慰安婦であったかが、調査というか真相究明は、だれが慰安婦であったか。つまり、支払い先を確認しなければいけないということが、それがわかれば支払います、軍が積極的に、しかも組織的また計画的に関与していたという事実を前回私は明らかにしたわけでございますが、支払いはするけれども支払い先を明確にしたい、そういうことと受けとめてよろしいんでしょうか。

○渡辺(美)国務大臣 そこまで私は具体的に言っているわけじゃないんですよ。何かの記念事業という問題もありましょうし、よく戦没者等に忠霊碑を建てるというようなこともございましょうし、何かそれはこれから考えることであるが、しかし大体どれくらいの人数でいるかということも全くわからないのですね。もう三人や五人の解決なら話は簡単ですよ。しかしそういうこと、実態がまずつかめなければ話のしようがもちろんないわけですから、ですからそういう点については向こうでもよく真相を究明をする、調査をしてみると言っているそうだし、我々の方でも調査をしますと言っているわけですから、そこは友好国との間でございますから、よく相談をしながらやるということではなかろうかと存じます。

○伊東(秀)委員 実態調査は当然しなければいけないことでありますし、宮澤首相も誠実な調査を韓国に約束してきたという事情もございますので当然かどば思いますが、ここに、日朝の交渉に出席しておられる第六回交渉の中平代表の発言というものの中に大変気になるのがあるんですよ。従軍慰安婦の問題の噴出に驚いている、朝鮮の指摘する罪行の真相が解明されるには何世紀かかるかわかもないというようなことを言っているわけです。つまり、何世紀かかるかわからないような調査のことを考えているとしたら大変問題なわけで、あくまでも誠実に、実態が解明したら、形はともあれ支払う気持ちがあるということを前提にするのかどうかのことは大変重要な問題だと思うんですね。払うか払わないかはわからないけれども、何世紀かかってでもとにかくえっちらほっちら調査しましょうなんというんじゃ、大変国際関係の、重要な外交のパートナーとしての韓国との日韓関係はますます悪くなるんじゃないかと思うわけでございます。宮澤さんが初めての外国訪問に韓国を選ばれたというのも、やはり北東アジアの平和とか安定にとって非常に重要なパートナーだというお考えのもとに私は韓国にいらっしゃったんだというふうに理解しておりますし、やはり調査というからにはいつごろをめどに何と何を明らかにするということを明確にしなければいけないんじゃないかと思うわけですね。
 それと、あとこういうことは、私が従軍慰安婦でしたということを名のり出て受け取る側も非常に恥ずかしい。もう今お金が欲しくてこういう訴えをしているのではなくて、やはりあれは軍は関与してない、民間人が勝手にやったんだというふうに言い切っていた政府の態度に対する自分の屈辱に、汚辱にまみれた人生は何だったのかという、戦後五十年たって彼女たちの人間としての憤りと憎しみが噴出したのが今回の訴えであり、日本政府に対する請求だと私は思うわけでございますけれども、そういう意味からいっても、だれに払うかわからないというんじゃなしに、とにかくこういう事実が従軍慰安婦と言われる人たちに対して行われた。そうすれば、とにかく、基金にするかあるいは記念碑を建てるか歴史博物館を建てるか、あるいはそういった人たちの生活保障、名のり出てきた人たちに蓋然性が証明されれば生活を援助いたしましょうと、何らかの形をとるとか、そういったことが非常に私は、日本は経済大国と言われているわけでございますけれども、大事なことじゃなかろうかと思うわけでございます。そこまでもういま一歩踏み込まなければだめなんじゃないかなという気がするわけでございます。
 それで、それを前提にしまして、また今までこういった措置が幾つかとられておりますので、こういったことは考えられないかという形で提起できる例があるわけでございますが、昭和六十二年の九月に台湾住民の戦死傷者への補償という形で弔慰金を払っているんですね、議員立法をつくって。こういう方法もあるのじゃなかろうかと思うわけですが、これをすることに何か支障があるかどうか、この辺の見解はいかがでしょうか。

○渡辺(美)国務大臣 これは、日本の軍に徴兵されてそれで戦死した方とか、それかも重度の負傷を受けて目が失明したとか、あるいは腕が足がなくなったとか、いろいろなそういうような方、悲惨な方があって何もされていない。そういうようなことで議員立法をされたことは事実ですが、こういうのはどんどんそれはもう申し出がありますよ。だから人の確定もしやすい。しかし、この従軍慰安婦の問題というのは、申し出の問題というのはなかなか実際問題として、これは生存されておったとしても、あるいは遺族にしても薄々わかっておってもそれはなかなか言いづらい問題ではなかろうかと私は思います。したがって、そういうものも含めて何らかの済まないという気持ちをあらわす何がいいか、それは今後考えていきたい。それには一人一人の者がみんなわからなければなんて、そんなことはそれはもう不可能ですから、大体大ざっぱなところがわかれば政治的な配慮をしていくということ以外に私はないんじゃないかという感じですよ。これは内閣で決まったわけじゃないからちょっと言い過ぎかもしらぬけれども、よく相談をしていきたいと思っています。

○伊東(秀)委員 大変積極的な御姿勢でうれしいのですが、もう一つ、立法は難しいとすれば、在韓被爆者への処置として、九〇年の五月に盧泰愚大統領来日の折に、総額四十億円の支援を表明された。つまり、人道的な立場から、本来ならもう日韓条約で決着しているけれども、政治的な決断として、四十億円在韓被爆者への支援をしたわけですね。そして、医療費とか診療体制とか、あるいは福祉センターをつくるとか、そういった韓国に住んでおられる被爆者の方々への四十億円予算措置をして、去年十七億、ことしの平成四年度の予算でも二十三億円計上しているんですね。こういった措置は考えられないか。つまり、個々人を特定しなければというんじゃなくて、もう政府の関与がここまで明らかになった、そうしたら、この在韓被爆者への措置的な一種の基金をつくって、そして後は、基金の使い道は、当事者とかあるいは韓国にそういった関係者が集まった機関をつくってもらって、その機関に任せるというような方法、これはいかがでしょうか。

○谷野政府委員 私の方から、事実関係だけ確認のために申し上げたいと思いますが、在韓被爆者の問題、確かに四十億円の基金をつくりました。ただいまお願いしております予算案でそのうちの二十三億円をお願いしておるわけでございますが、その前提になりますのも、先生もお触れになりましたように、六五年でこの種のことも含めて日韓間においては決着済みだということを日本側は明確にいたしました上で、この問題を特に取り出して、人道的な見地から何とかしてさしあげなければいけないということで、四十億円の手当てを基金の形でさせていただいておるわけでございます。
○渡辺(美)国務大臣 私が今答弁した中で、大ざっぱな調査と言ったみたいですが、それは語弊がありますから訂正しますが、おおよそという意味ですからね。正確な一人一人、何千何百何十何人という意味じゃないという意味です。
 それから、その後のことは、数字を挙げて何をするというような具体的なことをここでまた申し上げられる段階ではない。

○伊東(秀)委員 いや、外相として、こういった政治的な解決、立法までしなくても、基金を設置して、そして関係者の福祉に役立ててもらうというような構想についてはいかがですかというお伺いをしているのです。

○渡辺(美)国務大臣 そういうことがいいのか、もっと気持ちがすっきりするような形がいいのかも含めまして、それは内々、相談をする場合は、内々話をするということじゃないのか。ここで一方的にこっちが決めちゃってどうのこうのという話じゃないと私は思っています。まだその段階ではありません。

○伊東(秀)委員 内々というのは、韓国との間でというふうに私は理解してよろしいんでしょうね。
 それから、調査の問題にもう一回戻りますが、誠実な調査、それから真相を徹底的に究明するというのであれば、今まで政府がやってきたような調査では大変私は、まさしくふまじめだと思うんですね。どういう調査をやってきたかを伺いましたところ、ヒアリングを平成二年の六月に五名、二日間にわたって厚生省の勤労局にもと勤めていたような人から聞いたということとか、あと、やはり平成二年度に、二日から三日かけて九万人の強制連行者の名簿を当たったが従軍慰安婦らしき人はいなかったとか、それで、裁判が起きてから、昨年の十二月十二日に、自治体への調査とか、六省庁に調査を指示したというのですけれども、もっと本格的に、韓国の方の方々も含めたり、韓国へ出かけていくぐらいの実態調査が必要じゃないかと思うわけです。それには、たとえ数百万円でも予算措置を講ずべきだと思うわけですが、この点について、大蔵大臣、いかがでございましょうか。

○羽田国務大臣 この点につきましては、昨年の末から官房の中で調整、調整といいますか連絡をとりながら調査を始めているということでありますし、また先ごろも、たしか先生に対する御答弁だったですか、総理からも誠心誠意やります、調査をしていきたいということを申し上げて、実際に調査に各関係省庁が今当たっておるということでございまして、今予算的な問題があるというふうに私どもは聞いておりません。予算的に、予算がないからどうこうということじゃなくて、各省の中でそれはやりくりしながら十分調査ができ得るものであろうというふうに考えております。

○伊東(秀)委員 特別には予算措置は講じるつもりはないというふうに御理解してよろしゅうございますでしょうか。

○羽田国務大臣 関係省庁の中でそれは手当てしながら対応しておるというふうに承知しております。

○伊東(秀)委員 ぜひともこの問題については、誠実にして現実的な対処をお願いしておきたいと思います。

 第123回国会 参議院予算委員会 第6号 平成四年三月二十一日(土曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員              清水 澄子
 国務大臣            塩川 正十郎
(国家公安委員会委員長)
 内閣総理大臣          宮澤 喜一
 外務大臣            渡辺美智雄
 外務省アジア局長        谷野作太郎
 防衛庁長官官房長        村田 直昭
厚生省援護局長        多田 宏             
 警察庁長官官房長        井上 幸彦
 文部大臣官房長         野崎 弘      
 労働省労働基準局長    佐藤 勝美
国務大臣         加藤 紘一
(内閣官房長官)    
 内閣官房内閣外政審議室長    有馬 龍夫
 兼内閣総理大臣官房外政審議室長
 委員長             中村 太郎
 外務省条約局長         柳井 俊二 
 大蔵大臣            羽田 孜

○清水澄子君 昨日、自民党副総裁の金丸信氏が右翼に狙撃をされるという事件が起きました。今回の事件は幸いに銃弾が外れて未遂に終わりましたけれども、この数年、我が党の山口前書記長への暴行事件、また本島長崎市長への暗殺未遂事件など、言論封殺そして思想抑圧を目的とした右翼、暴力団のテロ行為が頻発しております。
 このような事件が起きるたびに政府は遺憾の意を表明しておりますけれども、凶悪な言論封殺事件が減っているという状況にはありません。今回の事件に対する総理の見解をお伺いしたいと思います。
 そしてまた、暴力団がよく使っておりますけん銃ですが、このけん銃が使用されていたことでもおわかりのように、右翼と暴力団との密接なつながりを考えなければいけないと思います。暴力団新法が施行されました後、暴力団の右翼への衣がえがふえているのではないか。これらにつきまして今後の対策をお伺いしたいと思います。

○国務大臣(塩川正十郎君) 最後に総理からお答えがあると思いますが、その前に事実関係を踏まえまして御説明申し上げたいと存じます。
 昨日、足利市で起こりました事件はまことに残念至極でございまして、しかもこのことは民主主義の制度維持ということにつきましても大変な危機状態だと私たちは認識しております。
 お尋ねの、この警備状況について遺漏はなかったかということでございますけれども、私たちは十分な警備体制はとっておったのでございますけれども、しかしこの際に警備体制、いわばVIPに対する警衛体制というものをやはり新しい観点から見直していかなきゃならぬと思います。それは何かといいますと、一言で言いまして、今まではいわば日本刀とかドスとか、そういう刺すことから守るということに重点を置いた警衛体制をとっておりましたが、最近におきましてはピストルが中心になってまいりまして、ピストルをいかにして防ぐかという体制をとっていかなきゃならないということでございまして、警衛体制の見直しをこの際に徹底的にやっていきたいと思っております。同時に、ああいう会場等におきまして、どうしてもやはり会場の雰囲気に合わないことが警備上起こってまいりますので、その点主催者の方々の警備に対する御理解をいただいて、そこへ要員の配置ということ等も御協力いただければ、こう思っております。
 それから、最近は非常に異様なスピードでピストルが密輸されてきておるといいましょうか、ふえてきております。しかも、世界各国からいろんなピストルが入ってきておりまして、今回足利で使用いたしましたピストルはブラジル製のピストルでございまして、そういうこと等を見まして、私たちは武器、兵器に対する、凶器でございますが、監視を一層強めなけりゃならぬと思っております。幸いにいたしまして、昨年武器、兵器等に対する、凶器でございますが、凶器等に対する法律改正をして取り扱いの改正をしていただきましたので、事前にこういう探索を強めて、これの徹底的な取り締まりをいたしたいと思っております。
 それから、最近暴力団と右翼との関係でございますが、まさにおっしゃるように、その境界がだんだんと不明確になってまいりまして、いわば暴力団の方から右翼へ流れていく者もございますし、右翼の方から暴力団的行動によって自分を売り出していこうということもございます。
 今回この事件に関係いたしました右翼の団体でございますが、豊島区にございます憂国誠和会という団体でございまして、構成員十人ぐらいでやっておるわけでございますが、この憂国誠和会というものの過去におきます右翼活動の実績はどうももう一つ定かではないのでございます。その中の一構成員というのがこの犯人でございまして、この犯人がいわば売名的に何か一仕事という意味を持ってやったのではないかなという感じもなきにしもあらずでございます。いわば右翼としての思想的背景というものが非常に何か希薄なような感じがいたしておりまして、その点におきましてはまさに暴力的行為というものと紙一重で動いておるような感じがいたします。
 でございますから、新しく暴力団の新法を実施いたすことにつきましては、同時にそういう右翼からの暴力団行為に対する流れというもの、これにつきましても十分に注意を払いながら、一層厳重な警衛に当たっていきたい、こう思っております。

○国務大臣(宮澤喜一君) 一切の暴力は民主主義の敵でありますが、いわんや人の命をねらうというようなことは言語道断、恥ずべきことであります。今、国家公安委員長からいろいろ申し上げましたが、従来、刀剣を主に考えられておった警備というものがガンに対して考えなければならないということになってまいりますと、これは実は新しい問題と考えなければならないであろうと思います。
 そもそも、民主主義というのが、政治家が有権者と一緒にまじり合うという、それが民主主義の一つの大事な要素でございますので、そこへガンというものが入ってまいりましたときには、警備当局がいろんな苦労を実は新しくしなければならないであろうと思いますが、その点は警備当局の警備に対する理解というものもお互いが持たなければならないであろうし、また今国家公安委員長が言われましたように、いわゆるガンについてのガンコントロールといいますか、我が国は麻薬と銃砲を何とか先進国と違って国に入れないでおるという、そこが非常に大事なところでございますが、それが今大変危ないところにきておるということで、これは国民的なやはり努力によりまして、この二つのものは何とか防いでまいらなきゃならないということを今度のことは示しておるのではないかと思っております。
 いずれにしても恥ずべきことでありまして、こういうことがないように、政府といたしましてさらに万全の努力をいたさなければならないと思います。

○清水澄子君 どうぞ厳しく対処していただくことを要望しておきます。
 次に、渡辺外務大臣は、昨日コズイレフ・ロシア外相との会談で、領土問題の交渉を行われたそうでございますけれども、本当に御苦労であると思います。
 原則としては、日ソ共同宣言の歴史的見解の線で一致したようでございますけれども、返還の具体的意思表示はどうだったんでしょうか。九月のエリツィン大統領の訪日に際して、返還の段階的または一括解決の見通しについてどのような感触を持ったか、お伺いしたいと思います。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 実は、まだ交渉中でありまして、今晩もまた続けてやるんです。
 我々の主張は、たまたま新政権ができてから、法と正義に従ってこの日ソ間の領土問題は解決しようということを言い出したので、これは全く私は同意見だと。だから、ありのままの、一八五五年の日露通好条約から、あるいは千島・樺太交換条約あるいはポーツマス条約、こういう中では、明らかにその条約が正常に結ばれたものですから、それを認めるということであれば、もうおのずからはっきりしているわけですね。サンフランシスコ平和条約で日本が千島列島を放棄したといっても、その前の三つの条約の中では択捉、国後は千島列島に入っていないわけですから、得撫島から北ですからね。だから、まずそういう条約を一遍はっきりさせてもらう、認めてもらうことと、それからやはり、せっかくこれから条約を結ぶにしても、守らないという条約であれば意味のないことですから。ところが、戦時中に結ばれた日ソの関係の中立条約、これは一九四五年に一方的に破棄をして攻め込んできたわけですね。それから一九五六年の共同宣言、これは条約ではないが両国の国会が批准しているわけですから。しかしこれは、それから四年たって安保騒動が起きると、これはもう終わったというふうなことで、そういうようなことでは困るんであって、今度の新政権は共産党を壊滅させて独裁的な全体主義的なやり方でなくて法と正義でやるとおっしゃるのでありますから、それは法と正義でその原点をもっと確認し合うことが大切だということが基本であって、終わりでもあり基本でもあるんです。
 ただ、やり方については、しかし現実の問題として四十五年間も占領しておって、それでそこに二万人余の人とそれから一万人近い軍人がおるわけですから、二万人余のソ連人がもう土着しちゃっているわけですね。だからこの問題は、現実の問題としてどうするかという問題でございますし、そこで魚をとって食ったりなんかして生きている人がいっぱいいるわけですから、現実的な対応の問題については柔軟にある程度現状を直視しながらひとつやっていこうじゃありませんかということの延長線上にまだあるということであります。

○清水澄子君 私は、昨年十二月の本予算委員会におきまして、従軍慰安婦問題について質問いたしました。その際に、政府がこの問題に誠実に対応しなければ、必ず日韓、日朝間の外交問題に発展するということを警告しておきました。
 その後、いろんな発展があったわけですけれども、現在、政府は調査をされておると思いますけれども、その進展状況と、今後の見通しについてお聞かせください。

○国務大臣(渡辺美智雄君) これは今、軍がある程度関与したということですね。はっきりしてきておりますが、どの程度のものであるか、地区によってもかなり違うような気がする。それに、従軍慰安婦になられた方々の中にも、千差万別のような状況があって、実態がわかっていない。したがって、今実態上では各省庁、できるだけの実態的な把握に一生懸命努めているというところであります。

○清水澄子君 六省庁ですから、じゃ一つずつおっしゃってください、どういう段階で何が出てきたかということを。

○政府委員(谷野作太郎君) それではまず、外務省の方からお答え申し上げます。
 このいわゆる従軍慰安婦の問題につきましては、昨年末、内閣官房の調整のもとに、関係省庁におきまして事実関係を調査せよというお達しかございました。そこで、私ども外務省といたしましても、保管中の文書について、ただいま誠心誠意、大臣から申し上げましたように、調査を実施しておるところでございます。
 何分、膨大な調査でございますので、いま少しお時間をいただきたいと思います。調査の結果が判明次第、内閣官房に御報告申し上げたいと存じます。

○政府委員(村田直昭君) お答えさせていただきます。
 防衛庁におきましても、昨年末、内閣官房の方からの調査依頼に基づきまして、防衛研究所を初め陸上、海上、航空の各自衛隊あるいは防衛大学校等の各機関等において、関係資料の有無について鋭意調査をしているところでございます。
 なお、これまでに新聞等で報道されたものを含めまして六十九件の資料が発見されておりまして、これらの資料につきましては、内閣官房の方に直ちに送付しておるという状況でございます。

○政府委員(多田宏君) 私どもの方も膨大な資料を念には念を入れて今さらに点検をいたしておりますので、まとまり次第、また内閣官房の方に提出したいと思っております。

○政府委員(井上幸彦君) お答えいたします。
 私どもの方でも、昨年末に内閣の方針を受けまして、警察庁はもとより全国都道府県警察に対しまして、関連の資料があるやなしやの調査を現在行っているところであります。現在のところ、これはという情報には接到していないところでありますが、なお念を入れて調査を続けているところでございます。

○政府委員(野崎弘君) お答え申し上げます。
 文部省におきましては、全国の公立図書館、国公立、私立大学の附属図書館に調査を依頼いたしました。現在も継続中でございますけれども、現在のところ、公立図書館関係で、沖縄県教育委員会から、同県の浦添市立図書館所蔵資料の中に当時の資料が転載されている旨の報告がございます。この件につきましては、内閣官房外政審議室の方に報告をしているところでございます。
 以上でございます。

○政府委員(佐藤勝美君) 労働省の状況でございますが、現在までのところ、省内関係部局及び関係機関におきまして所管する倉庫、書庫等を調査いたしましたが、朝鮮半島出身のいわゆる従軍慰安婦に関します公的資料は発見されておりません。
 当時の事情に詳しい行政関係者からもヒアリングを行いましたけれども、当該行政機関それから関係機関は、朝鮮半島出身のいわゆる従軍慰安婦については関与しなかったということを聞いておるところでございます。
 今後とも、この問題につきましては、労働省といたしましても関係省庁の一員として誠意を持って対応してまいりたいと存じます。

○清水澄子君 それでは、官房長官、現在集まっておりますだけの資料の中からで結構ですけれども、わかった分をお答えいただきたいと思います。
 まず、資料の中からで、なぜこの従軍慰安婦問題が起きたのか、その原因ですね。それとその設けた目的は何であったか。原因、目的、それから地理的な広がり、そして経営の実態、そういうものをお答えください。

○国務大臣(加藤紘一君) かつての日本軍が駐在しておりましたところの治安の問題を考えると必要にたったというような記述等も含めて、いろいろな背景があったようでございます。詳細につきまして外政室長からお答えいたします。

○政府委員(有馬龍夫君) 今、官房長官がおっしゃられましたことを若干具体的に申しますと、しかしそれでも何分古い話でございますので明確にお答えできるかどうかまだわかりませんけれども、発見された資料からは、当時の前線の状況からこのような施設を必要とするに至ったのではないかと思われます。
 そのような状況と申しますのは、前線における軍占領地内の日本軍人の住民に対する不法行為によって反日感情が醸成され、治安回復が進まないためこのような設備を整える必要があると判断されたことや、軍の構成員の健康管理を図る必要があったこと等の状況があったということが、見出されました資料から推察されております。
 それから、地域的な広がりについての御質問がございましたけれども、これもまた完全に調査を終えているわけではございませんので、包括的、網羅的にお答えすることはできませんけれども、中国、香港、フィリピン、マレーシア、インドネシア等に存在していたように思われます。

○清水澄子君 非常に不誠実ですね。先ほど自民党の斎藤議員が、政府の刊行物が非常に読みづらいとか、内容が非常に浅いとかということをおっしゃっていましたけれども、今私がここでお尋ねをしていることは、私が防衛庁からいただいた資料の中からだけでも全部ある程度お答えできることなんです。ですから、その事実を、非常に何か隊員の健康のためであるとか、それでは健康のために従軍慰安婦が必要になったんですか。そういうことは書いてないと思います。書かれている内容をもっと正確にお答えいただきたいと思います。
 なぜ必要であったか、そして治安というのは、なぜ治安が必要だったのか、全部書いてありますから、その書かれている資料の中から具体的にお示しください。

○政府委員(有馬龍夫君) 先生御指摘のとおりでございまして、既にお渡ししてございます資料の中に、私がいささか整理した形でお話しいたしましたことが盛られております。
 したがいまして、先ほど私が不法行為と申しましたのは、軍人の人たちのまさに現地の女性に対する不法行為が反日感情をもたらしている、そのようなことからこのような施設が必要になっていると。例えば昭和十三年ごろの一連の資料、その後もございますけれども、そういうようなものを整理したわけでございまして、なるべく正確にお伝えしたつもりでございます。

○清水澄子君 非常に正確ではございません。私は自分の時間が減ってしまうので非常につらいんですけれども、政府からいただいた資料の中の一つの例をとりましても、特に性的慰安所よりうくる兵の精神的影響は最も深刻にしてこれが指導監督の適否は士気の振興、軍紀の維持、犯罪および性病の予防等に影響するところ大なるを思わざるべからず、という目的が書いてあります。そして原因は、その現地における兵士の強姦であるということが明確に書かれているわけですね。どういうふうに強姦をしたためにその兵士たちを軍法会議にかけたかという数も全部出ておりますから、いろんな文献で今まで知っていただけではなくて、これは今一つだけ申し上げました。全部理由が書かれております。そういうことを私がここで、じゃわかった中から具体的にお答えくださいと申し上げても、こういう程度であるならば私は質問を続けられないと思います。

○政府委員(有馬龍夫君) 申しわけございませんが、今私は先生がおっしゃられましたまさにそれらの資料に沿ってそれを整理してお話ししたつもりでございました。したがいまして、もしもそれら一つ一つをということであれば可能な範囲でお答えさせていただきたいと存じます。

○清水澄子君 ですから、さっき申し上げました。
 じゃ、一つずつやってください。原因、目的、慰安所の数、慰安所の人数、わかった一つの例でいいです。それから地域的、民族的な広がり、年齢層、慰安所の経営の実態です。そしてその経営の許可証はだれが発行していたか、そしてまたこの慰安所の衛生管理はだれが行っていたか、まずそこまでお答えください。

○政府委員(有馬龍夫君) 衛生の管理は、資料によりますと、その現地におります軍医等がそれに当たっているようでございます。それから、慰安所の利用規定等につきましては何件かございます。それらにつきましては、どのような状況のもとで、どのような条件のもとでこれらの施設を利用することが可能であるかといったことが子細に指示として出ております。
 もう少し具体的ということでございましたら、ちょっと探させていただきたいと存じます。

○委員長(中村太郎君) 清水君の残余の質疑は午後に譲ることとし、午後一時まで休憩いたします。
   午前十一時五十四分休憩
     ―――――・―――――
   午後一時一分開会

○清水澄子君 先ほどのお尋ねしたことについて、ぜひ関係者からお答えください。

○政府委員(村田直昭君) 防衛庁から内閣官房に提出しておる資料は、先ほど申しましたように六十九点ございます。この六十九点の資料は非常に種々雑多なものがございまして、かつ先生がいろいろ言われました慰安所の数あるいは地域的広がり、年齢層あるいはそういうようなことについてそれぞれの資料に全部入っておるわけではございませんで、一部入っておるということでございまして、全体をまとめて統計的に出すということはなかなか難しいというのが現状でございます。例えば年齢というようなことにつきましても、年齢が載っている資料というのは幾つかございますけれども、それは例えば検査をしたときの年齢であるとかそういうことでございまして、それを一般に推しはかるというわけにはなかなかいかないというようなことでございますので、その点御理解をいただきたいと思います。

○清水澄子君 年齢層は入っていますから、何歳ぐらいまであったと言ってくださったらいいんです。ちょっとお昼に打ち合わせしましたので、どうぞその持っていらっしゃる資料の中でわかる範囲で、年齢層はどうだったとか、目的、原因はどうであったとか、先ほど打ち合わせしましたので、その点についてお答えいただきたいと思います。

○政府委員(村田直昭君) ただいまのお答えを繰り返すようになるわけでございますが、年齢層が載っている資料というのは私の見たところでは二つほどございますが、それは受診をしたといいますか、検査をしたときのそれぞれの女性の年齢であるというふうに承知しておりますけれども、それをもって全体の年齢というものを推しはかるわけにもいかないわけでございまして、六十九点のうちに数点載っておるということでございまして、御理解をいただきたいと思います。

○政府委員(有馬龍夫君) 私が御紹介するのが適切かどうかわかりませんけれども、先ほどの御質問を私伺っておりまして、それに従ってお話しいたします。
 例えば募集につきましては、「不統制ニ募集シ社会問題ヲ惹起スル虞アルモノ或ハ募集ニ任スル者ノ人選適切ヲ欠キ為ニ募集ノ方法誘拐ニ類シ警察当局ニ検挙取調ヲ受クルモノアル等注意ヲ要スルモノ少カラサルニ就テハ将来是等ノ募集等ニ当リテハ派遣軍ニ於テ統制シ」云々といったのがございます。
 それから、経営の実情、これも例えばでございますけれども、先ほどの昼の御要請がございましたので申し上げますと、例えば「外出日及時間左ノ如シ 兵 日曜日トシ十二時ヨリ十八時迄トス
 下士官水曜日トシ十二時ヨリ日夕点呼迄トス 営外者ニ関シテハ規定セズ」云々というのがございまして、そのほか、これには料金が載っております。
 それから、目的でございますけれども、例えば一つに「而シテ諸情報ニヨルニ斯ノ如キ強烈ナル反日意識ヲ激成セシメシ原因ハ各地ニ於ケル日本軍人ノ強姦事件カ全般ニ伝播シ実ニ予想外ノ深刻ナル反日感情ヲ醸成セルニ在リト謂フ」、この部分を紹介するようにという御示唆があって、それからさらに、「右ノ如ク軍人個人ノ行為ヲ厳重取締ルト共ニ」云々とございまして、「性的慰安ノ設備ヲ整へ設備ノ無キタメ不本意乍ラ禁ヲ侵ス者ナガラシムルヲ緊要トス」というのがございます。
 それから、輸送につきましては、いろいろございますけれども、例えば「娯楽所洲崎ヨリ二十六名、吉原ヨリ十五名、業者ニ於テ準備シアリ、十五日頃出帆ノ芝園丸ニテ輸送ノ予定ナリ、人員ノ数差支ナキヤ」請う返事、というのがございます。同じく、送れということでは、慰安婦を送ってくれといった要請の電報等がございます。
 それから、年齢につきましては、先ほど防衛庁の官房長が申しておりましたように、いろいろな場合がいろいろな場所に掲げられております。

○清水澄子君 年齢はいろいろな場所にいろいろな層がありますということでわかるでしょうか。私が見ましたところは、非常にお答えしにくいらしいので、二十歳から三十歳でありましたけれども、中には十五歳、十六歳の女性も見られました。ですから、そのことは何も集められた資料の中でその実態はどうだったかということをお伺いしているわけですから、余りそういうふうに事実を隠されないでお答えいただきたいと思います。
 次に、さっき経営の中で料金を伺いませんでしたけれども、それはどのように定められていたか、そしてその代価は本当に払われたのかどうかということですね。それから、出身地から移動したわけですから、出身地にどういうふうに帰したのか、帰還業務はどこの機関が担当したか、この点をお答えいただきたいと思います。

○政府委員(有馬龍夫君) 料金につきましては、支払っていたのかどうかというのはわかりませんけれども、支払っていたんだろうと思います。
 それから、出身地に輸送した、帰したという資料がございます。これは昭和二十年九月の資料でございますけれども、「信濃丸 鮮人三千五百搭載 室蘭十日発 釜山十四日着 鮮人揚陸 十五日発」という記載がございます。

○清水澄子君 料金は支払ったと思いますとおっしゃっていますけれども、私は実際に元慰安婦を名のり出られた方の九人にお会いしました。そういう中で軍票も代金も一銭ももらっていないという人たちが非常に多かったんです。ですから、やはりもっと事実というものをいろんな形で調査をしていただきたいと思います。
 次に、指揮命令者ですね、それは防衛庁に集まっている資料の中からはどういう方の名前がありましたか、お知らせください。

○政府委員(村田直昭君) 先生のお尋ねの指揮命令権者というのがどういう趣旨で御質問になっているか定かではございませんけれども、先生の御指摘の文書が仮に私どもが提出しているものの一番であるということであるならば、その決裁者は大臣の委任を受けて次官が決裁をしておるというような文書もございます。ただし、それが指揮命令権者であるかどうかということについては、何分この資料だけからは読み取れないんではないかなという感じでございます。

○清水澄子君 非常に皆さん本当にはっきりおっしゃらないんです。資料というのは過去のことですから、資料はあくまで資料だと思います。その中で私が見たのは、やはり軍司令官東久邇稔彦とはっきり書いてあります。それから、参謀総長梅津美治郎、陸軍大臣東条英機、はっきり書いてあるものははっきり、やっぱり私たちはそういう過去を、事実は明確に資料の中から明らかにして、全体をつかみながら私たちへの今後の大きな教訓にしていかなきゃいけない、そういうつもりでお尋ねしているのですけれども、もう一度お答えいただきたい。そういう最高指揮官の名前で、だれがその資料の中に出ていたかということをお答えください。

○政府委員(村田直昭君) お答えいたします。
 今先生が読み上げられた文書、ちょっと今私見ておりますのは、先ほど次官が決裁にたっておる「軍慰安所従業婦等募集ニ関スル件」につきましては、次官の梅津という判こが押してありますので、梅津次官が決裁をされたものと考えております。
 なお、はっきり資料でということでございまして、私どもとしては六十九件の資料を既に御提出しておりますので、ここに書いてあると言っていただくとぱっとわかるのでございますが、何せ厚い資料でございますので、何も私どもこれを隠しておるわけでも何でもないので、ここに出してあるわけでございますから、そういうふうに言っていただければ、そこの部分はまた御回答をいたしたいと思います。

○清水澄子君 実は沖縄の報告を読みますと、陣地内に慰安所をつくっております。慰安婦というのは非戦闘員であると思いますけれども、そういう戦場の中にそういう非戦闘員をとどめるということは当時のハーグ陸戦法規にも違反しているのではないかと思いますが、この事実を政府はどうお考えになりますか。

○政府委員(柳井俊二君) 事実関係を確認いたしませんと、戦時法規に違反するかどうかということの判断はなかなか難しいわけでございますが、いずれにいたしましても、基本的には民間人に対して人道的な取り扱いをすべしということは戦時法規の基本にあった考え方であろうと思います。
 ただ、いわゆる文民の保護に関しましては、これは先生も御承知のとおり、第二次大戦前におきましては必ずしも戦時法規の規定が明確でございませんで、これはむしろ一九四九年のジュネーブ条約、四つの条約がございますが、その中でいわゆる文民の保護に関する条約というところで初めて集大成されたというものでございます。

○清水澄子君 次に、名簿についてですけれども、あの資料を見まして、あれほど明確に各部隊の支隊まで、末端にまで何人と名前も全部名簿がございます。そういうことになれば、非常に名簿というのがはっきりしていたのではないかと思うわけですが、朝鮮での強制的に徴募した際の名簿というものは残っているのでしょうか。
 そしてもう一つは、慰安所の設置場所で憲兵隊がきちんと名簿を作成しているという報告が出てまいります。それは、性病を予防し管理するために非常に厳重な管理をしているために逆に名簿は明らかであったと思いますけれども、その点いかがですか。

○政府委員(村田直昭君) その全体の名簿がどのように管理されておったかということは、私どもが持っている防衛研究所の資料だけではわからないわけでございまして、それについてはさらにいろいろな方法で調べるということが必要じゃなかろうかと思いますけれども、私どもああいう報告書というか、昔の旧公文書等だけでなかなかわからないのではないか、事実私は承知しておりません。

○清水澄子君 ぜひそれは、今後の調査の中で具体的にお調べいただきたいと思います。
 それは、あの日韓条約協定のときの特別委員でありました自民党の荒松代議士が、同じく一九六五年の十一月二十日に秩父の地元の厚生会館で行った演説が雑誌にずっと載っているわけですけれども、その中に日本の軍隊が朝鮮慰安婦十四万二千人をやり殺したという、こういう話が出てまいります。非常に具体的な数字でございますが、よくこの慰安婦は十三万から二十万と言われているわけですけれども、当時、日韓条約協定特別委員の方であり、その翌年は運輸大臣になっていらっしゃる非常に政治的にも地位の高い方がこういう発言をしておられるわけですから、政府はこれを裏づけるような資料をお持ちであったのではないだろうかと思いますが、これについての当時の調査があったのでしょうか。もしないとすれば、今後調査をしていただくということをお願いいたします。

○政府委員(有馬龍夫君) 先般来官房長官がおっしゃっておられますように、見つかり得る資料は全部探そうということで、今調査を続けているところでございます。

○清水澄子君 じゃ、ぜひその名簿についても御調査いただきたいと思います。
 いろんな記録によりますと、慰安婦の大半は朝鮮の若い女性たちですけれども、なぜ朝鮮の女性が選ばれたのか、その理由を明らかにしていただきたいと思います。

○政府委員(有馬龍夫君) 構成の比率等は正確にわかっておりません。

○清水澄子君 それでは、どこの国の女性が資料の中から出てきたか、国別に御報告ください。

○政府委員(村田直昭君) 資料に基づいて、この資料からそういうのが出てきたものとしましては、朝鮮の方、それから台湾の方、それから半島の方と書いてあるのもあるんですが、等でございます。

○清水澄子君 またごまかされます。中国ともありましたし、フィリピンというのもあります。いろいろあるわけです。ですから、そういうお尋ねをしたときにはあくまでも資料に忠実にお答えいただきたいと思います。
 次に、朝鮮で若い女性たちを強制的に集めた、その場合の募集方法というのを明らかにしてください。そして、そのときに日本軍、警察が多数動員されておりますけれども、それらを動員するための法的根拠は何であったのかお聞かせください。

○政府委員(有馬龍夫君) 募集の実態についての資料は見つかっておりません。それから、法的な根拠というものもわかっておりません。

○清水澄子君 私はきょう、朝鮮女性を強制的に駆り出す役割を果たした元山口県労務報国会動員部長だった方を、こちらでその実態をお聞きしたいと思って参考人として要請しましたけれども、それが実現しなかったことは非常に残念です。
 私たちはみずからの過去の歴史というものについて、みんなが本当に謙虚に事実を認識するということが大事だと思うわけですが、これまで質問した中では、本当にこれが実態調査、鋭意調査をしているという中身であろうか。全体像はおぼろげにわかりましたけれども、今までの資料の中でも、私たち素人がやってももっと正確なある程度の全体像が出てまいります。そういうものを今後も徹底して調査をしていただきたい、これでは調査だと言えないと私は思うわけです。
 そこで、私は官房長官にお尋ねしますけれども、今お答えいただきました事実から、従軍慰安婦というのはやはりかつてのいわゆる帝国政府及び軍当局が戦争を遂行するための手段として、日本軍の軍人、兵士に性的慰安、これは旧軍隊が使っている言葉ですけれども、そういう性的慰安を与えるために朝鮮の女性を駆り出したものと見られますが、政府はこの事実をお認めになりますね。

○国務大臣(加藤紘一君) 政府が集めました資料につきましては、それが明確になったものから今先生のお手元にあるように公表いたしたりしておるわけでございますけれども、累次御答弁申し上げておりますように、いわゆる朝鮮半島出身の慰安婦の問題につきましては、かつての日本軍が何らかの形で関与していたということは確かなことのように思います。したがいまして、その旨政府としても従来からお答えいたしておりますし、またそういう認識を今も持っております。

○清水澄子君 宮澤総理はことしの一月に訪韓されました際に、従軍慰安婦について実に心の痛むことであり、まことに申しわけないと謝罪されております。そうして盧泰愚大統領からは、徹底した真相究明と、そしてしかるべき措置を要求されたという報道を私どもは見ておりますけれども、これまでの政府の調査されました事実、その報告に基づいて、総理は今後この謝罪の内容をどう具体化されようとしていらっしゃるのか、その考え方をお示しいただきたいと思います。

○国務大臣(宮澤喜一君) 先ほどからお聞き取りのとおり、たお誠心誠意調査を継続して、事実関係を究明いたしたいと思っております。
 それから、御承知のように、この問題につきまして訴訟が係属をいたしております。その訴訟の行方を見守ってまいりたいと今考えております。

○清水澄子君 訴訟というのはこれは別の問題です。今私たちがみずからの過去の歴史をこの国会においてどういうふうに認識するのか、そしてどうこれを解決していくのかというのは総理御自身の課題であり、責任であり、全国民の課題だと思っております。そういう裁判を見守るというのは第三者的な発言で許せないと思いますが、もう一度御自身のお考えをお答えいただきたいと思います。

○国務大臣(宮澤喜一君) 裁判を見守るというのは第三者的発言ではございません。訴えられておるのは国でございます。国と国との関連におきましては、これは御承知のように既に解決がついております。

○清水澄子君 じゃ、そのまま裁判がどうなるかを見守るだけで、今すぐ救済をしなければならない人々のことについては何ら考えないというこ」とになりますね。

○国務大臣(宮澤喜一君) 裁判の結果を見守って考えなければならない問題だ、こう申し上げておるわけでございます。

○清水澄子君 外務大臣、私どもはいろいろ新聞等でお見受けしているわけですけれども、衆議院の方でもこの問題が論議されて、非常に前向きな発言をされていらっしゃるわけですけれども、補償の必要性は考えていらっしゃるでしょうか。そのしかるべき措置というのはどういう方法で、何らかの誠意を示さなきゃならないという点についてどういうふうにお考えになっていらっしゃいますでしょうか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 私は、この問題は法律論争を幾らやっておっても、これはもう平行線である、補償問題はこれは請求権は放棄、これは両国政府は取り合わない、したがって国際法上は決着済み、これが政府の基本的立場だろうと思います。
 しかしながら、現実の政治問題として、そういうような慰安婦問題というのが新しく出てきて、それで非常な悲惨なことではあるが、戦争というものは常にそういうものがつきもので、殺された人もあれば、まことに残念なことだが、片手をとられたとか傷ついた人とかいろいろある。しかしながら、そういう方々には、軍人軍属の場合は相手国政府が何らかの措置をとってありますと。たまたま同じ従軍という名のもとで強制的に連れていかれたのかどうか実態よくわかりませんが、軍が関与をして、そういうような今いろいろお話があったようないきさつの中で慰安所というものがあった、従軍をしてきた人もいた。これもいろいろ本当に何といいますか、先ほど日本の吉原がどうとかこうとかという読み上げた中にもありましたが、当時は売春防止法もありませんから、そういうようなところから連れていかれた方とそうでない方があるいはあるのかもしらぬ。それらは実態を見なければよくわからないんです、実際のところが。
 しかし、これは何か解決をしたければ、政治問題になっていることは事実ですから、事実は事実、しかし個々にやるといってもこれもまた非常に難しい問題だと私は思います。人を特定するということが非常に困難。じゃ三人とか五人とかという訴え出た人はそれはわかるかもしらぬけれども、それ以外の人は、訴えたい人はわからないからいいということにはなかなかこれはもう難しい問題だなと。だから何とか実態をまずきちっとつかんだ上で、何か慰安といいますか慰霊といいますか、何かおわびのしるしというか、そういうことは何か考えなければなるまいたという感じですかねという話を衆議院でしたんです。
 それには、まず実態がわからぬことには手の打ちようがありませんので、できるだけ真実に基づいた実態を把握していただきたい。官房が中心になって今実態をいろいろ把握するために非常に御苦労をなさっているというのが実情でありますから、もう急に、一週間置きに言われたってそんなに事態はどんどんどんどんはっきりわかるわけじゃないんですよ。やっぱりそれは毎日のように言われているわけです、別な人から。だから、同じ話になっちゃうんです。ある一定の時間を置いた後で実態が解明すれば、そのときまでにはまたどういうふうな考えが出てくるか、もし少し調べさせていただきたいということを申し上げておる次第でございます。

○清水澄子君 実態というのがもっときちんと調べないと、今のさっきの状況では非常に部分的だと思います。この機会に総合的にやはり問題を明らかにしていく、そういう中でその次のいろんな対策が出るんだと思いますから、その点では私はやはりここで特にこれからの調査についてぜひお願いをしたいわけですけれども、これまでの調査の仕方は非常に不十分だと思います。
 それから、旧朝鮮総督府関係の資料とか旧内務省関係の資料、憲兵隊関係の資料などがまだ調査をされておりません。
 そしてまた、きょう参考人としてお願いをした元山口県労務報国会動員部長の吉田清治さんなどは、本当に非常に具体的な体験を持っていらっしゃるわけです。それからまた、今名のり出ている元従軍慰安婦の方々からの事実関係というのは参考になります。その方々の話を聞きますと、まるで私どもは慰安婦という仕事だけかなと思っていましたけれども、お伺いしますと看護婦の仕事もさせられた、しかも赤十字の帽子をつけて、それをかぶらされて一カ月間いろんな訓練を受けて看護婦もやらされたという報告も聞いております。ですから、そういう実際に体験した方から事実関係のヒアリングを私は積極的に行っていく、そういう姿勢がなければ本当の実態は解明できないと思うわけです。
 ですから、ぜひ今後の調査の中で、この従軍慰安婦や強制連行に関する政府所管資料をもっと全面的に調査され、体験者からもお話を聞かれて、そしてその資料を全面的に私は公開をしていただきたいと思いますし、またこの事実関係を徹底的に明らかにしていく、そういう真剣な取り組みに努力した上で、私は被害者の心に届くような謝罪とそして補償、救済措置を講じてほしいと思いますけれども、官房長官はその責任者ですが、その御決意いかがでございますか。

○国務大臣(加藤紘一君) 先ほど外務大臣から御答弁いただいたとおりでございます。
 まず、事実関係を誠心誠意調べていかなければならないと思っております。そしてまた法的措置の問題、補償の問題は、総理大臣が申されましたように、これは法的には決着済みですが、しかしそれは訴権を害するものではありませんから、それの訴訟の成り行きを見ていかなければならない。しかし同時に我々は、この間総理の訪韓によって謝罪の気持ちをあらわしたわけでございますし、また当時の方々の筆舌に尽くしがたい辛苦というものを考えれば何らかの措置というものを考えられないか、そういう骨組みで考えていきたいと思っております。そのためにも当時の事情がどうであったのか、そしてそれにかわる何らかの措置というものをどう考えていったらいいのか、それについて真剣に検討していきたいと思っております。

○清水澄子君 非常にまだ安易な姿勢がありありと出ていると思います。
 当時の実態がどうだったのかなんていうのはもう随分、私なんかは防衛庁のあの資料を見るだけでも本当に自分が読むのも恥ずかしいような状況が出ているし、今度逆にそういう対応を受けた朝鮮の女性たちやいろんな国の女性たちの人権とかその人たちの人生を考えたとき、本当に自分が日本人であるということについて恥ずかしいと思うようなところがいっぱいあるわけです。
 ですから、もっと真剣に御調査をいただきたいと思いますけれども、こういうものを調査するときに、大蔵大臣、その費用とか人数が必要だと思いますけれども、そういう予算を計上されているのでしょうか。そして、そういう心づもりはございますでしょうか。

○国務大臣(羽田孜君) 今それぞれ御報告、まだ全部が整っていないということで包括的な御報告ができないということだろうと思っておりますけれども、現在調査はそれぞれの役所の中で鋭意進められておるということで、そこに予算上の問題があるということは私ども承っておりません。
   〔理事井上吉夫君退席、委員長着席〕

○清水澄子君 予算上は必要ない、そうですか。防衛庁の皆さん方は、それこそ残業で大変だということを言っておられました。ですから、わずかの期間だけでもそういう状態で、やはり本当に徹底的に調査するには当然予算が伴うと思いますので、その点はぜひ御検討いただきたいと思います。
 次に、今ジュネーブで開かれております国連人権委員会で、NGOの国際教育開発協会の代表の方が、二月十七日にこの慰安婦問題を取り上げておりますし、それから二月二十五日には、韓国の女性団体が国連人権委員会にこの問題について申し立てをしております。また、今韓国内での従軍慰安婦の申告されている数が三月二日現在で百九十四人申告をされております。元慰安婦という方は六十八人、勤労挺身隊という方が八十六人、行方不明が四十人という、これは三月二日の数字ですけれども、こういうふうにまだ韓国の中でだんだん広がりが出てまいります。
 そこに加えて、今度台湾からやはり私は女性団体の訪問を受けたわけですが、そしてここに慰安婦の「慰」を入れ墨されたという女性にも会っているわけですけれども、そういう台湾、フィリピンの女性団体も今共同して国連人権委員会に提起をするという動きが出ているわけでございます。今や従軍慰安婦問題というのは、韓国、朝鮮との外交問題だけではなくなりつつある。世界は今、日本がさきの戦争で犯した、そしていまだに償おうとしない戦争と植民地支配の被害者、特に慰安婦にされた女性への深刻な生命と人権の侵害に対してみんなが注目をしております。
 総理は、国際的な女性の人権問題に発展をしてきた従軍慰安婦問題をどう見ておられるのか、先ほどのお考えで私は国際的に通用しなくなるんじゃないか、このことを心配しておりますけれども、どうぞ御見解をお述べいただきたいと思います。

○国務大臣(宮澤喜一君) 事は、戦争という避けなければならない争いによって実は生じたことでございます。まことに残念なことであったと思います。平時に起こり得べきことでないのでございますが、戦争ということに伴って五十年近く前にそういうことがあったということは大変に残念なことだ、そういう意味では関係方面に私は遺憾の意を表しておるわけでございます。

○清水澄子君 外務大臣も国連人権外交の立場から、この問題にどう対応していかれるかお答えいただきたいと思います。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 今、総理がお答えになりましたように、戦争というのは本当に悲惨な残虐な非道徳的な結果を生む、だから二度と再び起こしてはならないということであります。当然戦争は戦闘員同士が戦うというのが現実であって、しかも捕虜になった人はこういう待遇を受けるとかどうとかいろいろ国際の規約、条約等があるのでございますが、しかし戦争になりますと無差別な爆撃をしたりいろんなことがあって、この問のイラクでも何でもあるんですよ。小さな子供さんや何かは全く罪もとがも何にもないわけですから、そういう者がみんな巻き添えを食って、傷ついたり殺されたり、残虐なことが他にもたくさん実はあるんです。ですから、もう基本的にはそういうことをやらないということを我々は強く知っていかなきゃならない。
 ただ、法律上、いろんなことがあって、決まりがあって、はっきりしているものにはそれなりの補償はしておりますが、しかしながら全部の人に、戦争で被害を与えた人の個人個人の補償というようなものは言うべくしてこれは不可能、できないことであります。したがって、どこかで一応線を引いてきておるというのが今までの世界各国の取り扱いであります。
 しかしながら、特別な問題についてはどうするかというようなことは、どこで線を引くのかも含めまして、今の慰安婦の問題も、それじゃ日本から行った人はどうするんだという話にすぐこれはなってくるわけでございます。これは、じゃ日本人はいなかったのかというと、資料を見ますると、十対五とか六とか、場所によって多少はみんな違うわけです。しかし、圧倒的にやはり日本の人が多かった地域が多い。これも事実のようであります、私は部分しか見ておりませんからわかりませんが。そういうものも含めまして私は真剣に検討をしていかなきゃならぬ、そう思っております。

○清水澄子君 時間がなくて論争できませんけれども、日本人の女性を慰安婦にしたことにも私は非常に大きな問題があると思っております。しかし、朝鮮の女性たちにはさらに植民地支配という、そういうやはり民族的な支配と差別があったという、この問題は私たちはやっぱり反省しなきゃいけないと思うわけですね。それが、何か戦争一般論でこのお話をしていらっしゃるところに、私は、この問題の深刻な取り組みなり事態の受けとめ方がやっぱり弱いんじゃないかと非常に心配をしております。
 もう時間がございませんので、次にお尋ねいたしますけれども、それでは、この日韓条約の請求権協定ですね、そういう中でこの従軍慰安婦の補償問題というのはもうすべて解決されていたものなのか、どうなんでしょうか。

○政府委員(柳井俊二君) お答え申し上げます。
 結論的に申し上げますと、この昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定のもとで、御承知のとおり、日韓両国間の請求権の問題は完全かつ最終的に解決したということが、この協定の第二条第一項に結論的に書かれているわけでございます。詳細につきましては、御承知のことと存じますが、この協定のもとで一方においては経済協力を行い、これと並行して請求権の問題は一切解決したということになったわけでございます。
 その方法につきましては、必要あればまた詳しく御説明したいと思います。

○清水澄子君 非常に矛盾だと思います。つい最近まではそういう事実はなかったとおっしゃっておられて、どうして一九六五年にこの問題は終わっていたのでしょうか。その関係をお話しください。

○政府委員(柳井俊二君) ただいま、最近までそういう事実はなかったとおっしゃいましたことの意味を私は必ずしも十分に理解いたしませんでしたけれども、いずれにいたしましても、この請求権の問題は当時の日韓間の長い交渉の中でいろいろ討議をされまして、当初は一件一件の請求の事実を積み上げてそれを検討して、それに補償をするというような方法がとれないものかということで議論があったわけでございます。
 しかし、当時、もう既に戦後相当の時日を経ておりますし、またさらには朝鮮動乱という大変大きな事件が介在いたしましたために、その裏づけになる資料、事実関係等が明らかでたかった。また、双方の法律的な考え方につきましても非常に大きな懸隔があったということで、結論的には、一方において経済協力を行い、一方においてはこの請求権の問題は一括解決するということでこの協定ができたわけでございます。
 したがいまして、私どもが今までいろいろな機会に御説明申し上げておりますことと先ほど申し上げたこととの間に別に矛盾はないと思います。

○清水澄子君 矛盾があります。矛盾がなければもう何にもしなくていいわけなんですね、法的にもすべてそれが完結しているならば。そうじゃないんだと思います。
 次に、じゃ、日韓条約のこの請求権協定の中から外れているものは何なんですか。

○政府委員(柳井俊二君) 結論から申し上げれば、外れているものはございません。日韓両国間におきましては、請求権の問題はこの協定をもって最終かつ完全に解決したということでございます。

○清水澄子君 では、北朝鮮の人たちは外れて、この中に含まれないのですね。そして、サハリン残留の韓国人の財産とか請求権補償、在日の人たちもみんなこれは含まれていないということですか。

○政府委員(柳井俊二君) 先ほど申し上げましたことは日韓両国間においては外れているものはないということでございまして、北朝鮮との関係におきましては、まさに現在国交正常化の中でこういう問題を含めて協議を行っているということでございます。
 なお、サハリンの関係につきましては、この日韓の協定は韓国人という、すなわち韓国の国籍ということで個人の方々をとらえておりますので、もしサハリンに韓国籍の方がおられれば、それはこの協定の対象になるということでございます。ただ、私の承知している限り、サハリンにおられる半島系の方々は、恐らく大部分は北朝鮮の国籍をお持ちであるか、あるいはソ連、現在はロシアでございますが、の国籍をお取りになったか、あるいは無国籍の方もあるというふうに聞いております。

○清水澄子君 それでは、しかし、日韓条約のこの協定第二条一項でいう財産、請求権というのは、そしてこれが完全に解決されたとおっしゃっているのは、これはいつもおっしゃるように日韓両国の外交保護権の問題であって、両国民の個人が持っている権利というものはいかなる理由があろうとも国家が消滅させることはできないということは、これは確認ができると思いますが、いかがですか。

○政府委員(柳井俊二君) ただいま御指摘の問題につきましては、以前にも先生にお答え申し上げたことがございますが、ただいまおっしゃいましたとおり、いわゆる請求権放棄というものは、条約上の問題について申し上げますれば、まさに御指摘のとおり、外交保護権を放棄したということでございまして、この条約をもって個人の権利を国内法的な意味で直接消滅させたというものではないわけでございます。
 ただ、若干補足させていただきますと、この請求権・経済協力協定の第二条の三項に具体的な請求権処理の規定があるわけでございますが、ここでは一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益」、その後はちょっと長くなりますから飛ばしますが、「に対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権」については「いかたる主張もすることができない」という形でいわゆる外交保護権の放棄というものをやっているわけでございます。国については自分の権利を放棄するということでございます。そこで、ここで「財産、権利及び利益」と言っておりますのは、この合意議事録の方で確認しておりますように、「「財産、権利及び利益」とは、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいう」というふうに決められているわけでございます。
 したがいまして、いわゆる従軍慰安婦の請求の問題というのはこのような実体的な権利というものではないわけでございますが、法律上の根拠のある財産的な、実体的な権利というものにつきましては、我が国においては、昭和四十年当時国内法を制定いたしまして、韓国の方々のこのような実体的な権利についてはこれを消滅させたという経過があるわけでございます。

○委員長(中村太郎君) 以上で清水君の質疑は終了いたしました。(拍手)

 第123回国会 衆議院決算委員会 第2号 平成四年三月二十五日(水曜日)午前十時開議

【発言順】
 委員      志賀 一夫
 外務省アジア局 
 北東アジア課長 武藤 正敏
 外務省国際連合 
 局人権難民課長 吉澤 裕
 外務省アジア局 
 中国課長    樽井 澄夫

○志賀(一)委員 ぜひそれを解明していただくように、特に要求をしておきたいと思います。
 次に、日本と韓国の当面の関係でも、戦後処理がされてないために大変訴訟が多い。二、三を申し上げますと、元BC級戦犯の朝鮮人軍属と遺族七名が平成三年十一月十二日に東京地裁、それから軍人軍属の遺族七名、徴用された労働者の遺族六名、軍属一名の計十四名が平成三年十二月十二日に東京地裁に提訴、韓国戦争犠牲者千百名が平成四年二月十七日に対日補償を求めて訴訟というふうに、そのほかにも幾つかありますが、たくさんの方々が戦後補償を求めて裁判に提訴しているという事態を考えますと、日韓協定で五億ドルの賠償、補償ですべて相済みだという政府の一方的理解では日韓関係の正常化を期待することはできないのではないか、この辺に対する見解をお聞きしたいと思います。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 政府といたしましては、朝鮮半島全域のすべての方々に対しまして、過去の一時期、我が国の行為により耐えがたい苦しみと悲しみを体験されたことにつきまして、深い反省と遺憾の意を累次の機会に表明してきたところでございます。
 日韓間におきましては、六五年の日韓請求権・経済協力協定によりまして、御指摘の補償の問題を含めまして日韓両国及び両国民間の財産請求権の問題は完全かつ最終的に解決済みということでございます。また、これと並行いたしまして五億ドルの経済協力を実施してきたところでございます。
 日朝間の財産請求権の問題につきましては、現在日朝国交正常化交渉が行われておりますので、この場におきましてさらに話し合っていきたいと考えております。

○志賀(一)委員 日朝関係の今後の話し合いで進めるというお話でありますが、こういう相次ぐ訴訟がなされた場合に、どういう方針で政府としては対処されようとしているのですか、お伺いしたいと思います。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 私どもといたしましては、訴訟の行方を見守っていきたいと考えております。

○志賀(一)委員 結局、訴訟だけで相済むもので。はなくて、やはり今後の日韓の間のこの問題についての話し合いが、国と国との間の話し合いというものが極めて私は重要になっているのではないかというふうに思います。
 特に最近、韓国では政府側が、六五年日韓条約締結当時と違って新しい事実が相次いで明らかになっておって、その当時の状況とは変わった認識に立っているということでの、後から申し上げますが、元従軍慰安婦の徹底究明と補償要求を政府に対してしている事実があります。これについてはどう思いますか。

○武藤説明員 日韓の財産請求権の問題につきましては、完全かつ最終的に解決済みという立場でございます。

○志賀(一)委員 今、解決済みだ、こういうようなお話でありますけれども、しかし、国と国との間の賠償については解決済みだということで、国際ルールからいえば必ずしも個人の補償はされていない、賠償と補償は違う、こういう見解も当然国際ルール上あるわけでありますから、単に一方的なそれだけの理由では朝鮮のみなさんが納得できないのではないでしょうか。今後もこれらの問題は、韓国ばかりではなくて、北朝鮮からも恐らく相次いで出てくるだろうと思うにつけても、それだけの解釈で通すことができると思いますか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 これは何度もこれまで答弁申し上げているとおりでございまして、私どもといたしましては、過去の一時期我が国の行為によって耐えがたい苦しみと悲しみを体験されたことについて深い反省と遺憾の意を累次の機会に表明してきたわけでございますけれども、財産請求権の問題につきましては、完全かつ最終的に解決済みということで御説明申し上げているところでございます。

○志賀(一)委員 次に、今の問題は一応おきまして御質問いたしたいと思いますが、昨年の十二月六日、元従軍慰安婦ら三十五名が約七億円の補償要求を東京地裁に提訴、こういう問題が明らかになった段階で、宮澤総理が訪韓した際に、一月十七日、韓国大統領からしかるべき措置を要求されて、総理は韓国民に対し謝罪し、慰安婦問題についての調査を継続して行う旨約束をいたしたことがありますが、その後の経過についてお聞きをいたしたいと思います。
 さらにまた、今回従軍慰安婦にかかわる関係資料が防衛庁の図書館から見つかったことや、あるいはアメリカの大学教授が保管をしておった資料でもこの問題に対する国としてのかかわりは明らかになっているわけでありますが、これら慰安婦に対して国としての補償をするということは当然のことだ、そういうふうに思いますけれども、お答えをいただきたいと思います。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 従軍慰安婦の問題につきましては、宮澤総理が先般韓国を訪問されました際に、衷心よりおわびと反省の気持ちを申し上げますとともに、日本政府が関与していたか否かにつきまして誠心誠意調査を行いますということを申し上げたわけでございます。現在この調査を外政審議室を中心といたしまして行っているところでございます。
 先ほどからも御答弁申し上げておりますとおり、日韓の財産請求権の問題というのは完全かつ最終的に解決済みということでございまして、六五年当時予想できなかったことについてもこの協定により解決済みという考え方でございます。

○志賀(一)委員 ただいまそういう見解を表明されましたけれども、外務大臣は予算委員会でこのことについて、やはり国で何らかの対応が必要だということを認められておるわけでありますから、国としてのそれこそ人道的な立場に立った解決方法をぜひ検討してほしい、強く求めておきたいと思いますし、今の返答ではちょっと納得できません。
 先ほどの台湾の問題ともかかわりありますが、私はやはり問題があるんではないかと思います。それは何かと申しますと、中国との間に、日中の賠償要求を放棄ということでやったにもかかわらず、台湾については議員立法で一人二百万円という補償をいわば弔慰金ということでやっている、片や朝鮮半島の軍人軍属については既に両国間の了解事項でもう相済みだ、これだけでは通らないのではないかというふうに私は考えるわけですが、その辺はいかがでしょう。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 台湾の事情につきましては、中国課長が参っておりますので、中国課長からお答え申し上げるのが適当かと考えますけれども、韓国との関係におきましては、十三年間国交正常化交渉を行いまして話し合った結果が財産請求権・経済協力協定でございまして、この問題は解決しているという考え方でございます。

○志賀(一)委員 どうも最後の方になると何言っているんだかさっぱり聞こえませんね。もっと明確に答弁してください。
 やはりこれは、朝鮮の問題に対してもあるいは台湾の問題に対しても同じだと思うのですね。アジアの各国で日本がかつての侵略戦争で被害を与えた事実が明確であるわけですから、台湾については日中との間の協定で確認されて、もう賠償はしない、お互いに放棄しますということになり、対韓国については五億ドルで決着をしたという経緯がありますけれども、しかし、いずれにしても、かつては日本の軍人軍属として大変な犠牲を払い苦労をされた皆さんに対して、片方の台湾には弔慰金制度を法律でちゃんとつくり補償をして、片やについてはもう話し合いで済んだ、こういう不平等な取り扱いということは、私としては、今後の朝鮮半島の皆さんとの友好を一層深める、こういう意味で実に不愉快きわまるものだというふうに相手国から思われるのではないでしょうか。この辺についてどう思いますか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 戦後処理の問題につきましては、各国それぞれの事情に応じましてサンフランシスコ条約あるいは二国間で話し合ってやってきているところでございまして、この問題を処理するに当たって、韓国の場合では十三年間韓国政府と十分議論を尽くした上で解決しているわけでございまして、私どもといたしましては、財産請求権・経済協力協定によりまして完全かつ最終的に解決しているという考え方でございます。

○志賀(一)委員 いつまでも課長さん、あなたとの対話では平行線でありますので、いずれの機会に十分議論をしたいと思います。
 次に、報道によれば、中国、マレーシア、インドネシア、フィリピンなどアジアの戦争犠牲者からばかりでなく、米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの元戦争捕虜らの組織が昨年の九月、日本政府から一人二万ドルの補償金の支払いを国連人権委員会に訴えているのでありますが、これらに対して政府としてどのように受けとめ、今後どう対応されるのか、お伺いしたいと思います。

○吉澤説明員 ただいま御質問にございました米国等の元戦争捕虜からの国連に対する申し立てにつきましては、これは一九八七年ごろからアメリカ、イギリス、カナダ、オランダ、ニュージーランド、オーストラリア、合計六カ国の元戦争捕虜等で組織いたします民間の団体が国連に対しまして、個人または団体からの人権侵害の通報を取り扱う手続、これはいわゆる一五〇三手続というふうに言われておりますけれども、この手続に基づきまして国連に対し捕虜問題につきまして申し立てを行ったものでございまして、ただいま九一年という御指摘もございましたけれども、八七年から九〇年、九一年にかけてそのような申し立てがあったというふうに承知しております。
 この一五〇三という手続自体は通報者の保護という観点からすべて非公開の手続となっておりますけれども、ただその一般的な問題といたしまして、昨年の八月に国連の人権委員会の下にございます差別防止・少数者保護小委員会というところにおきまして、この一五〇三手続の一般的な適用範囲の問題といたしまして、第二次大戦中に生じた損害に関する賠償または救済のメカニズムとしてはこの一五〇三手続を適用することはできないという旨の決定がなされております。
 この差別防止・少数者保護小委員会の決定につきましては、今年の一月二十七日から三月六日に開かれました国連の人権委員会にお。きましても特に異議が出されておりませんので、今後将来この国連の人権委員会というものが別の決定をしない限り、この通報の手続につきましては、先ほど申し上げた昨年八月の差別小委員会の決定、すなわち、第二次大戦中に生じた損害に関する賠償または救済のメカニズムとしてはこの手続は適用できないという決定が適用されることとなると考えられますので、国連に申し立てる手続といたしましてはそういう形で終了したというふうに理解いたしております。

○志賀(一)委員 次に、中国の補償要求についてお聞きをいたしたいと思います。
 本年の三月二十日、北京で開かれる全国人民代表大会に中国侵略の戦争賠償として千八百億ドル、約二十四兆円を要求する案が提出されることになったというふうに報道されております。また、中国侵略の補償総額は三千億ドル、戦死者等に千二百億ドルは解決済みだが、南京虐殺など一般市民に対する被害補償として残る千八百億ドルを要求している。中国の一部である台湾への補償との関連の中では一方的に解決済みとは言い得ないのではないかというふうに思いますが、御見解をお聞きしたいと思います。

○樽井説明員 お答え申し上げます。
 御指摘のように、中国の全国人民代表大会、日本の国会に当たりますけれども、現在開催されております全人代において御指摘のような法案の提出の動きがあるというふうに私どもは承知しております。ただ、あくまでも現在先方の国会内の手続の話でございまして、国会の意思として決議をされたとか、そういった結果はまだ出ておらないものですから、私どもとしては現段階において具体的なコメントをするというのは不適切だろうと思いますので、差し控えさせていただきます。
 ただ、一般的に申し上げますと、先生先ほど御指摘になりましたように、日中間の戦争賠償及び請求権の話につきましては、日中共同声明、一九七二年に発出されましたけれども、日中共同声明で政府間では一応完全に決着を見ているという一つの現実がございます。当時中国政府は、いわゆる中国人民を代表して、当然政府でございますから全中国人民を代表して明確に戦争に係る請求権は放棄されたわけでございます。そういった立場は当然現在中国政府も維持されておりまして、一昨日でございましたか銭其シン外務大臣も記者会見でその点を改めて確認されております。したがいまして、いずれにしろ本件につきましては政府間の話にはなり得ないというのが私どもの認識でございます。
 
○志賀(一)委員 今一つの見解をいただいたわけでありますが、しかし、日中間のかつての協定は国と国との間の賠償についてであって個人に対する補償ではないということを中国政府の考え方として明らかにしている点もあるわけでありますから、必ずしも今の言うとおりではない。今後相次ぐ各地からの補償請求が裁判で行われるということに相なれば、やはり中国からも、個人の集団か何か知らぬけれども、相次いで出てくる可能性はある、それにどう対応していくのかという中でやはり問題はあり得るのではないかというふうに思いますので、その辺についてはどうお考えですか。

○樽井説明員 お答え申し上げます。
 先生御指摘の点は、私、大変個人的には理解申し上げますし、そういった動きが中国国内にあるというのも事実でございます。繰り返しになりますけれども、国と国との約束というのは少なくとも全国民を代表する政府と政府の約束でございますから、換言いたしますと、国民と国民との約束というふうに私ども理解しております。これが第一点でございます。
 第二点につきましては、いかなる国民にあっても物を言うのは自由でございますし、表現の自由というのは当然ございますから、中国の方がそれぞれの政治信条、お立場、考え方でどんなことをおっしゃっても、それは当然許されてしかるべきでございますし、私ども、そういった点についてとやかく申し上げることではございませんけれども、少なくとも、私が政府の立場として先生御指摘の件にお答えするとすれば、先ほど申し上げたように、いわゆる国を代表する、国民を代表する政府と政府の間で本件については明確に解決済みであるということでございます。
 一つ、例えば外国の個人が本件について対応するという場合、一つの理論的な可能性といたしましては、我が国の裁判所に訴えるとか、いろいろなそういった方法はあろうかと思いますけれども、少なくとも、私ども政府レベルの話には本件はなり得ないということでございます。

○志賀(一)委員 きょう、戦後補償という形でいろいろ議論をしてまいりましたが、どうも私の質問に対しまして十分答えていただく立場の方がおりませんので、いずれの機会がにまた取り上げてみたいと思っているわけであります。
 ただ、ここで参考までに、私は、この私の考え方にぜひ答弁をしていただける方がいればしてもいただきたいと思いますけれども、いないようですからやむを得ませんが、日本の戦後補償についての考え方とアメリカあるいはドイツと、国際的な流れというのはやはりかなり違うという点を指摘をしておきたいと思うのであります。
 アメリカを例にとれば、八八年八月、レーガン大統領は日系人補償法案に署名いたしました。これは、第二次世界大戦中強制収容所に収容した約十二万人の日系アメリカ人に対して、今後十年間に一人二万ドルの補償金を支払うことを内容とするものであります。
 アメリカ連邦議会は、一九八〇年議会にこの事件に関する調査委員会を設け、二年間、二十回に及ぶ聴聞と七百五十人を超える証言を聞き、当時の関係資料の収集と分析を行った。その結果、日系人の排除、拘禁は戦争遂行を妨げる危険性がないにもかかわらずなされたものであり、人種偏見、政治指導力の欠如によるものであると認定されたというふうに聞いておるわけであります。
 今回のこの日系人補償法は、大統領と議会がみずから犯した不正をみずから正したものであり、アメリカ・デモクラシーの復元を意味するものであり、我々の範とすべきに足るものではないかというふうに一つは思います。
 それから、実は統一ドイツにおきましても、ポーランド人に対する迫害、強制連行、そういうことに対して、まさに約百万人に対してつい最近補償をすることを決定したという、いろいろな事例がたくさんあるわけであります。
 したがって、日本も戦後補償を、単に台湾にだけ特別な補償制度をやるのではなくて、日本から被害を受けた、戦争で大変な犠牲を受けた各国に対して、もっと根本的な調査をした上で、やはり応分の我が国としての補償をする、こういうのがむしろ当然のことであり、それがやはりアジアにおける日本の信頼と友好を高めるゆえんのものになるであろうというふうに考えますと、今後の補償対策はもっと真剣に、もっと別な角度から再検討してしかるべきだろう、そういうふうに申し上げたいと思います。
 いずれこの問題については、御答弁いただける方が出席の場合にまた質問させていただく、そういうことで、きょうは私の質問を終わりたいと思います。ありがとうございました。

 第123回国会 衆議院内閣委員会 第6号 平成四年三月二十六日(木曜日)午前十時開議

【発言順】
 委員           上田 卓三
 厚生省援護局援護課長   戸谷 好秀
 法務省人権擁護局総務課長 佐竹 靖幸
 外務省国際連合
 人権難民課長       吉澤 裕
労働大臣官房参事官    後藤 光義
 国務大臣
(総務庁長官)       岩崎 純三

○上田(卓)委員 要するに、法律は人のためにあるわけで、法律のために法律があるということではないわけですから、バランスをとるというような言い方はおかしい。本当に、現実に罪のない子供たちが日本の、それも国際的に通用しない家族制度、戸籍法によって不当な差別を受けているということでありますから、早急にこの問題について解決を図るための法改正をぜひともしてもらいたい。また、これは立法府の我々の責任でもあろう、このように考えておるわけでございますので、引き続きこの問題について取り組んでまいりたい、そのことを申し上げたい、このように思います。
 次に移ります。
 日本政府は一九七九年に国際人権規約を批准し、八一年に難民条約の批准をしました。この結果、内外人平等の原則に立った国内法の見直しが必要となったわけでありますが、私自身、在日韓国・朝鮮人差別の関係で、郵便外務職への職員採用、高校総体、国体への外国籍生徒の参加、公営住宅への入居差別の撤廃、国民健康保険や国民年金の適用、し尿処理などの自治体補助金への外国人人口の算入など、国籍条項の撤廃に関する取り組みを進めてまいったわけであります。
 ところが、最近、人権規約に違反する国籍条項の存在が指摘されております。それが戦傷病者戦没者遺族等援護法などの旧日本軍の軍人軍属などに係る補償法であります。援護法は、軍務中の被害に対する国家補償制度と無拠出の社会保障制度という二つの側面を持っています。現在、三人の在日韓国人が援護法の適用を求めております。私の地元の東大阪に住む鄭高根さんは、大阪地裁で裁判中であります。神奈川県の石成基さん、それから陳石一さんは、厚生省へ不服申し立てを行っております。彼らは、いずれも戦争中は海軍軍属として戦闘に参加しており、国との身分関係は明らかであります。また、戦後も日本に在住しており、税金も納めてきた在日韓国人であります。日本人と同じように戦争で負傷し、戦後の日本で障害を抱えて厳しい生活をしているにもかかわらず、国籍条項によって障害年金の適用も受けられず、援護法の対象からも排除されているのが現実であります。
 こうした現実を一体どう受けとめるのか。厚生省は、何よりもこうした人々を長年排除してきた反省の上に立って、その上で、人権規約B規約二十六条とA規約九条の内外人平等の精神を生かして、日韓協定による在日韓国人の日本政府に対する個人請求権を幅広く解釈することが必要ではないか、このように思うわけであります。当事者の年齢を考えれば早急に対応することが問われております。厚生省の前向きな見解をお聞かせいただきたい、このように思います。

○戸谷説明員 お答えいたします。
 御指摘のいわゆる国際人権B規約第二十六条でございますが、差別的取り扱いの禁止ということでございますけれども、内外人の取り扱いについては合理的な差異を設けるということまで排除したものではないというふうに承知をいたしております。
 先ほどございました朝鮮半島並びに台湾出身者の方々の財産請求権につきましては、サンフランシスコ平和条約で、帰属国との取り決めにより別途処理することが定められていたという状況にございます。こうした援護法の制定経緯というものを踏まえますと、援護法の国籍要件には合理的な理由があり、人権規約違反には当たらないというふうに考えております。
 そこで、日韓請求権協定がこの特別の取り決めに当たるわけでございますが、日韓請求権協定第二条二(a)におきましては、同協定二条の規定は、在日韓国人につき一九四七年八月十五日から同協定の署名の日までの間に我が国に居住したことがある者の財産、権利及び利益には影響を及ぼすものではないと規定されているわけでございますが、補償を求める請求というのはこのような財産、権利及び利益には該当しないというふうに承知いたしております。したがいまして、在日の方々に対する補償問題というのは昭和四十年に締結された日韓請求権協定により解決されたというふうに考えております。
 そこで、御指摘のお三人の方々の裁判なり申し立てということでございますが、私どもといたしましては、委員御承知のとおり援護法には先ほど申し上げましたような国籍条項等がございまして、こうした規定を除外して適用するということはこの法律を所管する立場から不可能であるというふうに考えておりますので、御理解を賜りたいと思います。

○上田(卓)委員 外務省のB規約に関する第三回報告書では次のように述べております。第二条三「外国人の地位、権利」「外国人の権利については、基本的人権尊重及び国際協調主義を基本理念とする憲法の精神に照らし、参政権等性質上日本国民のみを対象としている権利を除き、基本的人権の享有は保障され、内国民待遇は確保されている。」外務省の報告書と厚生省の答弁とは余りにもかけ離れているわけであります。また、外務省の報告書は在日韓国・朝鮮人の人権状況についてわざわざスペースを割いて外国人登録法や公務員採用問題などに触れていますが、訴訟が一件、行政不服申し立てが二件も起こっている援護法の戸籍、国籍条項問題については一切触れておりません。市民団体は既にこの問題に関するカウンターリポートの提出を準備していますが、国連の場をかりるまでもなく、日本人自身がきちんとけじめをつけるべき問題ではないでしょうか。
 大阪の鄭さんの場合は裁判となっていますが、裁判所の判断を待つのではなくて、国会と外務省、厚生省がともに知恵を出し合って積極的に対処することが必要であります。外務省は国連で問題提起される前に関係省庁と調整してきちんと対処することが必要であります。厚生大臣には、ぜひ一度当事者に直接会っていただいて、生の声を聞いていただくことを要請したい、このように思うわけであります。国会でも、議員立法を含め何らかの方法がないものかどうかを検討することが必要であろうと思います。いずれにせよ、外務省、厚生省の早期の政治的決断が必要ではないかということを指摘をしておきたい、このように思います。
 それでは、次に進みます。
 人権擁護委員の活動についてでございますが、外務省は、国連への第二回報告書では、日本の人権擁護委員会制度を世界に例のない優秀な制度だと報告をされておるわけであります。ところが、現実の差別事件に対しては人権擁護機関は十分な機能を果たしていません。そのことは地対協意見具申の中でも指摘され、人権擁護機関の強化が提案されているところであります。
 人権擁護委員法は、国民に保障されている基本的人権を擁護し、自由人権思想の普及を図るために昭和四十二年に制定され、最近では昭和五十二年に改正されました。しかしながら、最近の国際化の中で、人権擁護委員会の仕組みが国際的な人権条約の水準に対応したものになっているかどうか、また民族差別や人種差別など国際的な人権問題に取り組むのに十分な体制がどうか、検討が必要であります。
 飛躍的にふえた在日外国人の人権を守るには、当事者である外国人を人権擁護委員会に入れることがぜひとも必要ではないでしょうか。人権擁護委員は国家公務員法の適用を受けませんし、地方自治体の首長の推薦ということですから、選挙権を有する者という国籍条項をあえてつける必要はありません。公務員も含めて、できる限り外国人に門戸を開いていくというのが人権規約の立場ですから、人権擁護委員の国籍条項廃止は当然ではないか、このように思うわけでありますが、法務省の見解をただしたい、このように思います。

○佐竹説明員 お答え申し上げます。
 ただいま人権擁護委員それから擁護委員法の関係で御指摘があったわけでありますが、念のために、人権擁護委員法は昭和二十四年でありまして、四十二年ではございませんので、その辺だけは御了解いただきたいと思います。
 まず、人権擁護委員の使命は人権擁護委員法に規定があるわけであります。そこでは、「国民の基本的人権が侵犯されることのないように監視し、若し、これが侵犯された場合には、その救済のため、すみやかに適切な処置を採るとともに、常に自由人権思想の普及高揚に努めること」、そういう規定になっております。そしてその理念は、世界人権宣言、国際人権規約の趣旨を実現するところにあるわけであります。
 近時、社会の国際化が進展する状況を踏まえ、人権擁護委員が行う啓発活動に当たりましても、昭和六十三年から国際化に伴う人権問題を重要な問題ととらえ、また昨年からは、国際化時代にふさわしい人権意識を育てよう、これを啓発活動の重点目標といたしまして、積極的な活動を展開してきているところであります。また、在日外国人が抱える人権問題につきましても、間口を広げ、外国人のための特設相談所を設けて、外国人の人権の擁護についても努力しているところであります。
 御指摘のように、現行の人権擁護委員法六条の第三項でありますが、そこにおいて、委員については「当該市町村の議会の議員の選挙権を有する住民」ということが要件となっているわけであります。このことから、外国人の人権擁護委員はいないわけでありますが、当局といたしましては、外国人の人権問題にも的確に対処するよう、こうした人権擁護委員の活動をより一層積極的に推進していきたい、そのように考えているところであります。

○上田(卓)委員 国際人権規約、難民条約、子どもの権利条約などの国際条約を批准している状況を踏まえて、国際化した日本社会の人権を守るために、人権擁護委員会の委員の国際化がぜひとも必要である、こういうことであります。また、部落差別を初めとするさまぎまな人権侵害事件の迅速な解決や社会啓発、社会教育を推進するためにも、人権擁護体制の抜本的な改革がぜひとも必要であります。そのための法改正も含めて、新たな改革が必要であることを強く指摘しておきたい、このように思います。
 次に、国際人権規約のA規約、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約について、十六条、十七条で報告義務が設けられておるわけであります。日本は一回目の報告を一九八一年から八六年の間に三回に分けて行いました。二回目の報告提出期限がことし六月に迫っているはずでありますが、報告書の作成状況はどうなっているのか外務省の説明を求めたい、このように思います。

○吉澤説明員 国際人権規約A規約の第十六条、十七条に基づきます報告書でございますけれども、これにつきましては、今月の二十四日に国連の事務局から、六月三十日を期限としてこの報告書を提出してほしいという正式な要請があったところでございまして、現在、報告すべき事項について検討中でございまして、今後直ちに関係省庁と密接に協議しつつ、できる限り早く報告書を作成いたしたいと考えているところでございます。

○上田(卓)委員 国連から文書が来ないから作成していない、できない、こういうことじゃなしに、当然報告をしなければならない時期にもう来ておるわけでありますから、早急に作成作業に入るべきだ、このように考えるわけであります。
 A規約の場合、その第六条で労働の権利について定めておるわけでありまして、雇用差別に対する日本政府の取り組みについて労働省にお伺いをいたします。
 日本の労働関係法令で採用時における雇用差別を禁止した法律は、男女雇用機会均等法以外にありますか。部落地名総鑑や身元調査によって就職差別が行われた場合、在日韓国・朝鮮人であることを理由に就職差別を受けた際に、法的救済はどうしますか。ILOが一九五八年に採択し、既に発効している雇用及び職業における差別禁止条約、いわゆるILO第百十一号条約は、雇用時の差別を禁止しております。日本政府はこれをまだ批准しておりませんが、どうするつもりなのか労働省の見解をただしたい、このように思います。

○後藤説明員 四点についてお尋ねがございました。逐次お答えをしてまいりたいと思います。
 まず、人権規約のA規約第六条についててございますが、これにつきましては、憲法第二十七条のほか、雇用政策の総合的、計画的な推進に関して定めております雇用対策法、それから職業安定機関が行う職業紹介、職業指導に関して定めております職業安定法、それから労働者の職業に必要な能力の開発、向上に関して定めております職業能力開発促進法等に基づきまして、労働の権利を保障するための諸施策を推進しているところでございますが、特に採用・選考における差別は労働の権利を保障していく上で大きな阻害要因となっていると考えておりますので、労働省といたしましては、その差別防止のため企業等に対する啓発指導を一層充実強化してまいりたい、このように考えているところでございます。
 それから第二点目でございますけれども、我が国の労働関係法令で採用時における雇用差別を禁止した法令といたしましては、先生御指摘の男女雇用機会均等法第七条におきまして、事業主に対して労働者の採用時に女子に対して男子と均等な機会を与えるように努力義務を課しておりますが、それ以外におきましては直接採用時における雇用差別を禁止した法令というものはございません。しかしながら、我が国におきましては基本的には憲法第十四条に法のもとの平等が規定されているほか、職業安定法第三条におきましては「何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない。」と規定しておるところでございまして、これらに基づきまして、採用時における差別の解消に努めているところでございます。
 第三点目のお尋ねでございますけれども、労働省といたしましては、かねてから同和関係住民の就職の機会均等を確保することが同和問題解決の中心的課題であるという認識のもとに、同和関係住民の雇用の促進と職業の安定を図るため、事業主が同和問題について正しい理解、認識を深め、応募者の適性、能力によって採否を決める公正な採用・選考を行うよう啓発指導を展開してきているところでございますが、まことに遺憾ながら、現在におきましても応募者の身元調査、本籍地の把握等を行うなど、就職差別につながるおそれのある事象が依然として後を絶たない状況にございます。また、在日韓国・朝鮮人の方々につきましても、今なお不適正な事象が見られるところでございます。同和関係住民であれ在日韓国・朝鮮人の方々であれ、就職に当たっての差別を解消するためには、人権尊重の観点に立って企業における公正な採用・選考システムの確立が重要である、このように考えておりますので、今後ともこうした観点から企業に対する啓発指導を重点として積極的にかつ粘り強く実施してまいりたい、このように考えているところでございます。
 最後に、ILOの条約についてのお尋ねがございました。ILO第百十一号条約は、雇用、職業に関する差別待遇を除去することを目的とする重要な条約であると理解をしているところでございます。しかしながら、本条約は雇い入れ時等の差別を除去するための立法措置を要求しているとともに、政治的意見など広範な差別事由を対象としているところでございます。このような差別の解消につきましては、我が国といたしましても行政指導を初め種々の方法により積極的に現在努力をしておるところでございますが、本条約の求めるよう直ちに一律的な形で規制する立法措置を講ずることにつきましては、これを早急に実施することはいろいろな事情から難しく、その批准については慎重に対処する必要がある、このように考えておるところでございます。

○上田(卓)委員 現行の労働法体系だけでは悪質な雇用差別については対処できないということが明らかではないだろうか、このように思います。また、外務省はA規約に関する次回の国連報告書の作成に当たってはこうした問題を十分に踏まえたレポートを作成していただきたい、そのことを強く要望しておきます。
 次に、国際人権規約B規約の選択議定書の批准の問題でございます。
 日本政府は第三回報告書においてB規約の選択議定書の批准問題につきまして、「本議定書は、人権の国際的保障のための制度として注目すべき制度であると認識している。しかし、締結に関しては、我が国司法制度との関係や制度の濫用のおそれも否定しえないこと等の懸念もあり、検討すべき多くの問題点が残されている。関係省庁間で検討中である。」こういうことであります。日本政府が検討中という理由で十年以上も批准を引き延ばしていることは、日本人と日本に住む外国人にとって重大な権利侵害ではないか、このように思うわけであります。選択議定書の批准国は既に六十カ国を超えており、各国はそれぞれ国内調整を図って人権に関する国際的な司法救済制度に参加しておるわけであります。議定書の批准については、昨年四月の参議院予算委員会で我が党の本岡昭次先生が詳しく質疑をいたしておりまして、中山外務大臣と丹波国連局長は積極的な答弁をしておったように思います。
 報告書に記載のある「関係省庁間で検討中」の中身あるいは「我が国司法制度との関係」「制度の濫用のおそれ」について昨年四月以降どのような研究が進んでおるのか、外務省と法務省の説明を求めたい、このように思います。

○吉澤説明員 B規約の選択議定書につきましては、この制度は、国際人権B規約に掲げます権利の侵害についてB規約の選択議定書締約国の管轄のもとにある個人からの通報を当規約に基づいて設置されたB規約の人権委員会が審理するというような制度でございまして、私どもはこの個人通報制度というものが人権の国際的保障のための制度として非常に注目すべき制度であるというふうに認識しているところでございます。
 先生御指摘ございましたとおり、昨年の本岡先生の御質問に対して丹波国連局長、中山前外務大臣が答弁いたしました後、昨年一年間に私ども関係省庁との検討会というものを開催いたしまして、このB規約に加入するに当たっての具体的な問題点を詰めるということで話し合いをしているところでございまして、そうした過程におきまして、私どもといたしましては、このB規約の人権委員会が我が国の実情を踏まえたような審理が尽くされるかどうかわからないといったような漠然とした理由ではなくて、我が国の国内法制上、場合によっては憲法も含めまして我が国の国内法制上、本当にぎりぎりどこに問題があるのかということを関係省庁と詰めるということで作業をしているところでございます。そうした関係省庁との勉強会の過程で具体的な我が国の国内法制度との関係化づいて問題を指摘していただいた省庁もございますし、そうした省庁ともなお一層の詰めを行って、できるだけ早くこの問題について結論を出すように努力していきたいと考えております。

○上田(卓)委員 早急に政府部内で調整を図り、条約批准に向けた国内法整備をぜひとも行っていただきたい。今後国際化の中でさまざまな人権問題の発生が予想されておるわけでありまして、そうした中で人権救済のために日本から国連へ個人通報が行えるよう早期に批准することを要請しておきます。
 次に、人種差別撤廃条約の批准問題について御質問申し上げたいと思います。
 この問題については、さきの予算委員会分科会で我が党の仙谷由人議員の質問に対して渡辺外務大臣が積極的な答弁を行っておるわけでありまして、当然のことだろうと思いますが、今国会が終わったら法務省と話して、みたい、四分六で締結をした方がいいんじゃないかという感じになってきたのは事実だ、真剣に勉強して次の国会に結論が出るようやっていきたい、このように述べておるわけであります。また、今国会において内閣官房から議院運営委員会に提出された法案一覧表の中の国会に提出を計画中の条約の中に人種差別撤廃条約が記載されておるわけであります。これらは外務省がこの条約の批准について積極的に取り組んでいる姿勢のあらわれだと解釈をいたしておるわけてありますが、外務省の条約批准に向けた前向きの決意を改めて確認をしたい、このように思います。
    〔委員長退席、井上(喜)委員長代理着席〕
○吉澤説明員 先生の御指摘ございました渡辺外務大臣の答弁は私どももよく承知しているところでございまして、そうした答弁も踏まえて政府部内の検討を一層進めていきたいと考えております。

○上田(卓)委員 この条約の批准に当たっては、人種差別思想の流布や人種差別の扇動を処罰する規定があるわけでありまして、表現の自由との関係で問題があると長年議論されてきたわけであります。表現の自由との調整は確かに慎重に取り扱う必要があります。しかし、この条約の批准に当たって最も重要なことは、人種差別の扇動や差別思想の流布が社会的に許されない行為であることを公に宣言し、市民を啓蒙するということに力点があるのではないか、このように思っておるわけであります。
 例えば最近のある週刊誌では、上野公園に大量に集まっているイラン人について、「イラン人〝大増殖〟」という見出しで報道されておるわけであります。上野を初め日本国内に査証免除、ビザなしで入国したイラン人が大量にいることは事実であります。また、週刊誌の報道の数日後、日本とイランとの短期滞在ビザの免除を一時留保するとの方針も出されたことは御存じのことだと思います。しかし、どのような結論を引き出すにいたしましても、いたずらに恐怖感や偏見を抱かせるような表現を使うことはどうでありましょうか。査証免除問題とは別にこの問題をとらまえ、こうした形の報道は、日本人とイラン人との友好関係に無用な偏見と差別意識を生む可能性があることは事実ではないでしょうか。また、テレビ番組などではアフリカ出身のタレントに対して肌の色を問題にしておもしろがるような企画も見られます。人種差別や民族問題についてのこうした無自覚な言動や表現が重大な差別につながることは十分に考えられる、このように思うわけであります。
 政府部内や国会内で人種差別撤廃条約の批准に向けたさまざまな研究や論議を始めることは、日本人のこうした無自覚な民族的偏見や人種的差別について国民の関心を高め、理解を深めることにつながる、このように考えておるわけであります。各政党や政府の幹部から無神経な民族や人種にかかわる発言がなされている日本の現状を考えたとき、こうした努力は早急に必要ではないか、このように考えておるわけであります。
 我が社会党は、政策審議会のもとに人種差別撤廃条約対策特別委員会を設置することに決定いたしました。部落問題のみならず、明日、集会とデモが予定されている北海道のアイヌ民族問題や、在日韓国・朝鮮人などの定住外国人その他の外国人の人権問題をとらえる上で、この人種差別撤廃条約が非常に重要な意味を持っている、このように思うわけでございまして、もう百三十の国々が既に批准をいたしておるわけでございまして、日本とアメリカとイスラエルとほんのわずかな国しかまだ批准してないという現状があるわけでございまして、本当に大変おくれておる、こういうことでありますので、早急に批准をするように最善の努力をしていただきたいし、我々もその努力を推し進めたいということを申し添えたい、このように思います。
 総務長官には大変お待たせいたしたわけでございますが、総務長官に残り時間真摯に私の意見を聞いていただきまして、正確なそして誠意ある答弁をひとつお願い申し上げたい、このように思います。
 さて、昨年十二月十一日の地対協意見具申、十二月二十日の政府大綱及び本年二月十四日の現行法五年延長の閣議決定を踏まえ、今後の同和行政に関する重要事項について総務長官の考えをお伺いをいたしたい、このように思います。
 まず最初に、同和行政の性格について答申は、「同和行政は、基本的には国の責任において当然行なうべき行政であって、過渡的な特殊行政でもなければ、行政外の行政でもない。部落差別が現存するかぎりこの行政は積極的に推進されなければならない。」としております。この認識は答申の基本的精神として今日においても、さらに今後においても重要であると思うが、大臣の所見をお伺いいたします。

○岩崎国務大臣 お答え申し上げます。
 同和対策審議会の答申で示されました「同和問題は人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり、日本国憲法によって保障された基本的人権にかかわる課題である。」との認識のもとに、政府は昭和四十四年以来、三たびにわたる特別措置法に基づき、二十三年にわたって各般の政策の推進に努め、相当の成果を上げてきたところでございます。
 しかしながら、一部に事業の取り組みがなおおくれている地域が見られることなどにより、平成四年度以降の物的事業量が相当程度見込まれ、また就労対策、産業の振興、教育、啓発など非物的な事業の面におきましても、なお今後とも努力を続けていかなければならない状況にございます。政府といたしましては、昨年十二月の地域改善対策協議会の意見具申を尊重して取りまとめました「今後の地域改善対策に関する大綱」に則しまして、現行の地対財特法の制定の趣旨を踏まえ、真に必要な事業に限って財政上の特別措置を五年間延長することとし、地対財特法の一部改正法案を御審議いただいておるところでございます。政府といたしましては、同和問題を一日も早く解決すべきであるという同対審答申の精神を受け継ぎながら、この問題の早期解決に向けて今後とも積極的に取り組んでまいりたいと考えております。

○上田(卓)委員 ところで、一九六九年の同和対策事業特別措置法制定以降、今日まで二十三年間、国、地方自治体の多くの努力によって、住環境を中心としてかなりの格差が解消されてきたことは事実であります。しかし同時に、二十三年間の取り組みにもかかわらず、今日においてもなお差別が現存していることも事実であります。この事実について大臣の認識をお伺いいたします。

○岩崎国務大臣 昭和四十四年以来、同和対策事業特別措置法、地域改善対策特別措置法、現行の地対財特法と三たびにわたる特別措置法に基づき、今日まで関係諸施策の総合的な推進に努め、その結果、昨年十二月の地域改善対策協議会の意見具申におきましても、「同対審答申で指摘された同和地区の生活環境等の劣悪な実態は大きく改善をみ、同和地区と一般地域との格差は、全般的には相当程度是正され、また、心理的差別についてもその解消が進み、その成果は全体的には着実に進展をみている。」との評価をいただいておるところでございます。
 しかしながら、同意見具申では、「心理的差別の解消は、同和関係者と一般住民との婚姻の増加がみられるなど改善の方向にあるものの、結婚や就職などに関連した差別事象が依然としてみられ、十分な状況とはいい難い。」としておるように、その解決に向けて今後とも努力をしていかなければならない課題であると認識をいたしております。今後とも心理的差別の解消に向けて、啓発活動について改めて創意工夫を凝らし、より積極的に粘り強く推進をしていく所存でございます。

○上田(卓)委員 ここで政府、とりわけ所管大臣であります岩崎総務長官に真剣に考えていただきたいのは、どうすれば部落差別が撤廃できるのかということであります。確かに、同対審答申はそのための有効な方策を総合的に提案をいたしております。その基本的な精神は今日においてなお実効力を持っていることは事実です。しかし、今日の社会の多様化、国際化という変化の中では多少間尺に合わなくなっているところもあり、問題解決の全能者とは言えない面もあるかと思います。私どもも真剣に考え、模索しているところでありますが、その結論の一つとして部落解放基本法ということで提案いたしておるわけでありますが、これとて完全無欠のものではなく、大いに議論の余地はあろうかと思います。
 いずれにいたしましても、部落差別撤廃の問題は党利党略的な見地から論じられるべき問題ではなく、国民的課題、全人類的課題として取り組み、それぞれの関係者が立場を超えて真剣に論議をし、一日も早い問題解決のための政策立案をする必要があるのです。この点について大臣の考え方をお聞かせいただきたいと思います。

○岩崎国務大臣 同和の問題を解決をし部落差別をなくすためには、我が国の社会経済の発展、国民の意識の多様化、国際化の進展等の中にございまして、この問題が国民的課題として普遍化していくことが重要であると認識をいたしております。すなわち、国民一人一人が同和問題をみずからの課題として主体的に取り組み、国及び地方公共団体やこの問題にかかわりの深い人たちだけではなく、国民の各界各層におきましても本問題解決のための方策について自由濶達な論議が行われる必要があると考えており、これらの幅広い議論を通じて同和問題の解決の筋道をつけられますよう、各般の施策の推進につきまして私といたしましても一層の努力をいたしてまいりたいと考えております。総務庁といたしましては、二十一世紀に差別を残してはならないというかたい決意を持ちまして、同和問題の一日も早い解決に向け関係省庁、地方公共団体、国民と一体となった取り組みに力を尽くしてまいる所存でございます。

○上田(卓)委員 そういう意味では、大臣にぜひともお願いしておきたいことは、我々は物的事業が特別措置として永続化することを望んでいるわけではないということであります。不必要になったものはやめればよいし、また必要なものはやればよい、このように考えております。その意味では、同和対策にかかわる事業は、物的、非物的を問わず、すべて部落差別撤廃のための条件整備事業であり、部落差別が解消すれば当然なくなるのが当たり前の性格であろう、このように思っております。したがって、物的事業がかな進捗したから一般対策へ移行云々とか最終法云々とかいうことを結論として先行させるのではなく、差別をなくするにはどうしたらよいのか、どうあるべきかという国民も関係者も納得できる論議を十分に行い、国民的コンセンサスを得ることのできる政策を打ち出すことこそ重点に置かれるべきだ、このように考えておるわけであります。
 さらにもう一点重要なことは、部落差別の問題は基本的には差別される側に問題があるのではなく、差別する人間に問題があり、そのような人間性をつくり出す社会システムに問題があるということであります。この点をしっかり押さえると同時に、差別は許すことのできない社会悪であるという観点から差別撤廃への方策を考えなければならないと思うわけでありますが、これらの点についての大臣の見解をお伺いしたい、このように思います。

○岩崎国務大臣 政府といたしましても、物的、非物的な事業の両面にわたって事業の迅速な実施を行い、地域改善対策はできる限り早期に目的を達成し一般対策に円滑に移行すべきものという認識のもとに、各般の施策の積極的な推進に努め、同和問題の解決に努めてまいったところでございます。地域改善対策のあり方を検討するに当たりまして、地域改善対策協議会におきましては幅広い議論が行われ、国民的コンセンサスを得ることができる意見具申の取りまとめに最大の努力が払われてきたものと理解をいたしております。したがって、政府といたしましては、こうした同協議会の意見具申を貴重なものとして受けとめ、これを尊重して具体的な施策を立案し推進してまいりました。このことは、昨年十二月の同協議会の意見具申を踏まえ、政府としても取りまとめた「今後の地域改善対策に関する大綱」におきましても同様でございます。今後とも同協議会におきまして残された課題について幅広く議論が行われ、今後の地域改善対策のあり方について御提言いただけるものと考えております。
 また、同意見具申が指摘をいたしておりまするように、同和問題の早期解決に向けて国民の一人一人が人権問題について一層理解を深め、みずからの意識を見詰め直すとともに、みずからを啓発していくということが求められております。このため、政府といたしましては、改めて国民的課題としての積極的な展開に向けて、地方公共団体、国民と一体となって粘り強く取り組んでまいる所存でございます。

○上田(卓)委員 そこで、「今後の地域改善対策について」とする地対協意見具申の中で触れられています「審議する機関」の問題について具体的にお尋ねいたしたいと思います。
 まず最初に、全国的な規模の調査や「今後の地域改善対策の在り方について審議する機関が引き続き必要である」との指摘は、部落差別の解消のためにさらに本格的な方策を審議する目的で審議機関が設置されるものと考えておりますが、大臣のお考えをお伺いいたしたい、このように思います。

○岩崎国務大臣 この問題につきましては、今国会でいろいろと御審議がございました。また、与野党間で熱心に御論議されてきております。私といたしましても、今後における重要な課題であるとの認識のもとに、これまでの経過を重く受けとめ、次のとおり考えておる次第でございます。
 平成三年十二月の地域改善対策協議会の意見具申を踏まえまして、同和問題の早期解決に向けて改めて国民的課題としての展開が重要であり、人権尊重の視点に立った取り組みが引き続き必要であることにかんがみ、同協議会の中に、心理的差別の解消に向けた啓発等のソフト面の推進、行政運営の適正化等基本的な課題を審議するための仕組みが設けられまするよう特段の配慮が行われることを同協議会に対してお願いいたしたいと考えております

○上田(卓)委員 最後に、全国規模の調査の問題でありますが、地対協意見具申は「これまでの地域改善対策の効果を測定し、同和地区の実態や国民の意識等について把握することは重要である。」と指摘しています。そこで、この全国実態調査について、今日の部落問題の精密な状況を把握するため、総合的かつ本格的な全国実態調査を早期に実施していただきたいと思いますが、大臣のお考えをお聞きいたしたいと思います。

○岩崎国務大臣 政府におきましては、最近では昭和五十年、六十年に同和地区の実態の把握を行ってきており、昨年十二月の地域改善対策協議会の意見具申を尊重し、これまでの地域改善対策の効果を測定し、同和地区の実態や国民の意識等について把握するための全国的規模の調査をしかるべき時期に行うことというのが政府の方針でございます。
 調査を行うに当たりましては、同意見具申におきまして指摘をされましたように、調査結果の客観性を保証できる実施体制、方法等について慎重に検討する必要があります。したがいまして、検討に着手をしていない現段階では、いつ調査を行うか確たることは申し上げかねますけれども、その検討に早期に着手をいたし、種々の条件整備をいたした上で、できるだけ早期にしっかりした調査を実施したいと考えております。

○上田(卓)委員 質問を終わりたいと思います。本当にありがとうございました。

 第123回国会 衆議院法務委員会 第4号 平成四年三月二十七日(金曜日)午後一時開議

【発言順】
 委員        高沢 寅男
 法務大臣      田原 隆
 外務省アジア局
 北東アジア課長   武藤 正敏
 労働省労働基準局
 賃金時間部企画室長 朝原 幸久
 法務省民事局長   清水 湛

○高沢委員 私は、今の外登法の審議に関連いたしますが、第二次世界大戦の段階において朝鮮人の徴用工あるいは強制連行の人たちを雇用している、その未払い賃金がどうなっているかというようなことを質問をしながら、現に今長崎でその具体的なケースも起きておりますので、それにも触れる形でひとつ質問をいたしたい、こう思う次第であります。
 初めに、これは法務大臣にお答えをお願いしたいのでありますが、第二次世界大戦で我が国が朝鮮あるいは韓国、中国、台湾あるいは東南アジア、こういう国々の人たちに非常に大きな被害を与えたわけでありますが、これは具体的に言えば例えば従軍慰安婦というふうな形であらわれたり、あるいは強制連行されて強制労働をさせられたというふうな人たちのケースであったり、あるいは日本へ連れてこられて働いていた朝鮮、韓国の人が広島、長崎の原爆によって被爆をしたというふうな人たちの問題であるとか、また日本軍に徴兵されていてそのために戦死した人、こういうふうな人たちであるとか、数えれば実に多くの被害を受けた人たち、こちらからすれば被害を与えた、そういう人たちがあるわけであります。
 これらの人たちに対して、今その関係国の中から、日本はその償いをすべきである、その責任をとるべきであるというような声が最近特に激しく燃え上がっているわけでありますし、また日本の国民の中からも、それは我々日本の戦争の反省の具体的な姿としてそういう人たちに対して謝罪もするあるいはまた償いもするということをすべきだという日本の国内の世論も非常に強く盛り上がっているわけであります。具体的には、我々日本社会党の立場で言いますと、昨年の十二月八日、あの真珠湾の戦争が始まった当日、社会党の田邊委員長がこのことについて演説をやりました。そして、日本はアジアの人たちに対して謝罪をすべきであるし、謝罪をするとすればその裏づけとしてはやはり償いをすべきであるというふうなことも社会党の委員長が党の見解として天下に表明したということもございますが、こういう意見、考え方、主張に対して法務大臣はどういう御所見をお持ちであるか、冒頭にそのことをお尋ねしたいと思います。

○田原国務大臣 高沢先生がただいまおっしゃったような過去の戦争が韓国を初め多くの国々の人々に非常に耐えがたい苦しみを与えたということは、恥ずかしい思いもするし悲しい気持ちでいっぱいですが、今後再びこういうことがあってはならないという気もします。ただ、その後のいわゆる責任、償いとかいう問題になりますと我が省を超えるものがございますので、総理官邸に官房長官が中心になって関係各省を調整してとりまとめておる状況でございますので法務省としてどうするということはお答え申し上げられませんが、私としては非常に苦しい、悲しみに満ちた感じでいっぱいであります。

○高沢委員 今の大臣のお答えでありますが、大臣は、法務大臣であると同時に国務大臣であります、そしてまた大変練達の政治家であります。したがいまして、そういうお立場で、日本の要するに責任の問題というか、償いをすべきであるという問題は、これはまさに日本国民がみんなで負っている責任だと私は思います。そういう日本国民を代表する政治家としてのお立場で、あなたのそれこそ御所見、そこにおのずからあなたの哲学もあるであろうし、そういう責任の観念もあるであろうし、そういうものを、総理官邸がやっているからということでなくて、やはり一回ここでずばりと御所見をお聞きしたい、こういうわけであります。

○田原国務大臣 無責任に勝手なことを言うのは私どうもできない性格でございまして、今私が真情を吐露したように、本当に何十年か前のことだけれども、あの時代は日本が大変思い上がった時代であり、近隣の諸国を初め世界各国の人につらい思いをさせた。これについては国際的な、外交的ないわゆる事務的なものでは解決したものも多々あるでありましょうけれども、人間として見た場合にはまだまだこれからその批判が続くであろう、これに耐えていかなきゃならぬが、同時に二度とこういうことがないようにするとか、また官邸の名前を出すと怒られますが、官邸で取り組んでいることに対して積極的に協力し、推進するという私の個人的立場は国務大臣としてとりたいと思っております。

○高沢委員 それではもうちょっと具体化してお尋ねしたいと思うのですが、この種の問題について今までの日本政府の立場は、それはもう日韓の条約ができております、日中の条約もできておりますというような形で、東南アジアの国ともそれぞれにもうそういう戦後処理の条約はできております、そういう中で賠償問題とか請求権の問題はもう解決済みでありますというのが今までの我が国政府の公式な立場であったわけでありますが、先ほど私が例示で申し上げたそれらのことは、今までそういう協定や条約がある、それでもう済んだんだ、こういうことでいいのかどうか、この辺の大臣の御判断はいかがでしょうか。

○田原国務大臣 私も先ほど国家間の実務的な、事務的なレベルのことでは解決していることが多々あると思うかと申し上げたのはその辺でございます。総理もこの前たしか申していたと思いますが、二国間、多国一遍でなくて二国間ずつやっているわけですから、二国間においていろいろそういう条約その他で解決しているかもしれないが、個人が物を言う権利を奪うのではない、何かそういう意味のことを総理が言っておられたと思いますけれども、私もそうだと思います。

○高沢委員 そういう問題の一つとして従軍慰安婦の問題がありますね。このことで、宮澤総理が韓国を訪問されて非常にそういうことについての陳謝をされた、謝られた。謝られたけれども、そのことに対する償いをこうするという具体的な問題の出し方は宮澤総理はなかったわけですから、今度は韓国の政府側から、政府ですよ、韓国の政府側から日本に対してこの問題はやはり何とかしてもらわなきゃいかぬというようなことも出ているということ、これは大臣も御承知かと思いますが、この韓国のそういう動きについて、これは今度は外務省がおられますね、外務省として韓国が本当に外交ルートで日本政府に対してそういう賠償を求めてくるところまでいくのかどうか、あるいは今のところはそこまでいかないが、韓国政府として強く日本に対しておれたちにはそういう権利があるぞということを言っておられるのかどうか、その辺の状況判断はどうですか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 本年一月に宮澤総理大臣が訪韓されましたとき、二回首脳会談を行いましたけれども、第二回の日韓首脳会談におきまして盧泰愚大統領は、いわゆる従軍慰安婦問題につきまして真相究明に引き続き取り組んでいきたい、その上でしかるべき措置をお願いしたい旨発言されました。現在の韓一国政府の公式見解は、大統領が言われたとおりであるというふうに私ども承知しております。
 なお、つけ加えて申し上げますと、これに引き続きます首脳会談の直後に行われました両首脳による共同記者会見におきましても、大統領から、私は挺身隊など過去の問題に対し日本政府がより積極的に真相を究明し、その結果に従って相当の措置を誠実に行うよう要請しましたといった発言がございました。
 〔田辺(広)委員長代理退席、星野委員長代理着席〕

○高沢委員 今の武藤北東アジア課長の御説明の中に、盧泰愚大統領がちゃんとした調査をしてくれ、その調査に基づいて言うならばしかるべき措置を、こう言われたら、そのしかるべき措置という言葉の意味が、これはまあ相手のことですからあなたから今確定的に言えといっても無理でしょうが、しかしこれは極端に言えば、日本政府と韓国政府との間におけるまた何かの賠償要求というような形になり得る可能性があるという性格のものなのかどうか、その辺の判断はどうでしょうか。

○武藤説明員 盧泰愚大統領がしかるべき措置と言われた内容について、私ども推測する立場にはございませんけれども、いずれにいたしましても法的には、先ほど先生もおっしゃいましたとおり日韓間では六五年の日韓請求権経済協力協定によりまして、御指摘の問題も含めまして日韓両国及び日韓両国民間の財産請求権の問題は、政府間の問題としては完全かつ最終的に決着済みということでございます。

○高沢委員 なおもうちょっと進めますと、このことについての国会のやりとりの中で渡辺外務大臣は、この件については何らかの措置は必要だと思うという言い方をされているわけですね。これは、外務大臣だから当然といえばそうでしょうけれども、やはり恐らく渡辺さんという政治家の立場から、外務省の役人の人たちのあれを乗り越える形で渡辺大臣の何らかの措置が必要だ、こういう発言があったかと私は思いますが、この辺の渡辺大臣の発言なり態度というものについて、法務大臣、同じ国務大臣としていかがお考えでしょうか。

○田原国務大臣 渡辺大臣は副総理でありまして、私たちから相当見上げるようなところにおられるし、渡辺大臣が通産大臣をしておるときに政務次官をやったりしたものですから、恐れ多くてとても気になって御批判など申し上げる立場にはございませんが、渡辺さんらしい表現をされたと思っております。

○高沢委員 武藤課長にお尋ねしますが、とにかくあなたの上司である外務大臣が何らかの措置という言い方をされたとき、あなた方はその何らかの措置とは一体どういうことになるのか、どういうことにするのかというようなことを大体省内で協議されていますか。どうですか。

○武藤説明員 渡辺大臣が国会等の場におきましていわゆる従軍慰安婦の問題について、申しわけないという気持ちが目に見える形で何かするのが政治ではないかといった趣旨の御発言をされましたことは事実でございますし、私どももそれは十分承知しております。これは大臣が政治家としてみずからの心情を述べられたものだというふうに私ども考えておりますけれども、これについて現時点で事務当局としてあれこれ申し上げることは差し控えさせていただきたいと思います。

○高沢委員 じゃ、これはここまでにして、いずれ機会を改めてまた大臣にいろいろお聞きすることがあろうかと思いますが、次に行きたいと思います。
 ここに資料がありますが、昭和二十一年の十月十二日に当時の厚生省労政局長、こういう名前で、しかしこれはその後労働省へ移された、こういうふうに聞いているわけでありますが、その局長名で「朝鮮人労務者等に対する未払金その他に関する件」こういう通牒が各地方長官あてに、その当時は日本はまだ都道府県の知事は公選になってないからいわゆる官選の知事の時代、そういう知事さんにあてて通牒が出されたということであります。その通牒の内容は、要するに戦争が終わるまで日本の企業で朝鮮人の労務者が働いていた。そして、その人たちに対する、帰国してしまったとか等々の状況の中で、払うべき賃金でまだ払ってない未払い賃金であるとかまた出すべき退職金であるとか、あるいはそういう人たちに強制的に貯金をさせたそういう貯金の払い戻しであるとか等々、そういうものの扱いを、これをひとつ供託の措置をとるように、それぞれのそういう人たちを使っていた事業所に対して指導するように、こういうふうな通達が出されたわけでありますが、この通達が出されたということについて、今度は労働省になりますが、その当時どういう状況、またどういう目的を持ってこの通牒を出されたと認識されているか、御説明を願います。

○朝原説明員 お答えさせていただきます。
 当時、非常に日本も戦後の混乱期にございました。また、韓国あるいは朝鮮の方に御帰国するというようなことで、そういう外国人、特に朝鮮人の方々についてどこにいらっしゃるかというようなことは非常に難しい状況にあったわけでございます。そういうようなことから、もし居場所等がなかなかわからないというような場合については供託という手段によってそういうふうな賃金債権をきちんとしておくようにということでこのような通達がなされたというふうに理解しております。

○高沢委員 この通牒の中にこういう言葉もあるのですね。「追って本件供託事務については、司法省民事局長と打合せ済につき念の為申添へる。」この場合の司法省というのは今は法務省ですね、法務省の民事局長。この当時、今の労働省の労政局長からこういう通達が出された。出すに当たって法務省の民事局長に協議があった、打ち合わせがあったということ、これは法務省としては今そのことをどういうふうに掌握されておりますか。

○清水(湛)政府委員 お答えいたします。
 民法の規定によりますと、債権者の居所が不明であるとかあるいは債権者が債権を受領することができないというような場合には弁済供託をすることが一般的に認められているわけでございまして、これは現在そも労働者の賃金を支払うことができない、居所不明あるいは受領不能等によって支払うことができないという場合には供託することができるわけでございますけれども、そういうような一般的な民法の供託の規定によって供託をすることとしてよろしいかということに対しまして、法務省の方ではそれは差し支えないことであるという御返事を差し上げた、こういうふうに承知をいたしておるわけでございます。

○高沢委員 そういう場合に、支払うべき相手がとりあえずいないというような状況でそういう供託をするというときに、こういう供託はしてあるよということを相手に知らせて、相手が、じゃ、自分の取り分が行けばもらえるというふうなことで手続をとってその分を受領するというふうにさせて初めて弁済が成り立つわけですね。そういうときの供託をした相手の人に対してこういうふうに供託してあるよということを通告する義務というか責任というか、これはどんなふうになるのですか。

○清水(湛)政府委員 もともと居所がわからないということで供託されたものでございますので、当時の供託所としてはこういう供託がされたということを通知することができなかった。つまり、そういう場合には通知をする必要がないという扱いに現在なっているわけでございます。

○高沢委員 それから、この通達の中には、そうやって事業主が供託の手続をとった場合は、その供託書の番号とか供託の年月日、供託した場所の名前、受取人の氏名、受取人の本籍地とか、雇用、解雇の時期、解雇の事由、未払い金の内訳などなどを記載した報告書を地方長官に三部出しなさいということが書いてあるわけです。この三部出しなさいということの意味というかねらいというか、これはどういうことでこういう条件がつけられたのか、これはどうでしょうか。

○朝原説明員 三部なぜ提出させたかということについて必ずしもはっきりした当時の資料等は残っておりませんけれども、推測の域は出ませんけれども、そういうふうな状況について、当時未払い賃金について所掌しておった地方長官がしっかりそれらのことについて把握しておくということでなかったかと考えております。

○高沢委員 なぜ三部がということで、これは労働省からの御説明あるいは法務省からの御説明では、三部という中の二部はこれを本省の方へ送りなさい、一部は県庁に保管しておきなさいというふうな意味で三部、こういうことであったと聞くのですが、本省へ送られてきた二部というものが今労働省に、何々県から来たもの、何々県から来たものという書類というものがあるのかどうか。それからもう一つは、今度は各都道府県に一部ずつは残されていたはずであるわけですが、そういうものが今でもある、こういう都道府県があるのかどうか、この辺の現状はどうですか。

○朝原説明員 お答えいたします。
 実は、その件につきまして平成二年十二月に大学の図書館において未払い賃金の供託名簿が発見されたというようなことで新聞報道がなされまして、そういうことを踏まえまして平成三年二月に、賃金の未払い問題を所管いたします労働省労働基準局及び都道府県労働基準局、この地方事務というのは、その後労働省ができまして都道府県に労働基準局ができた際に移管されておりますので、この労働基準局において関係資料の存否について調査いたしましたけれども、今までのところ発見されなかったということでございます。

○高沢委員 念を押しますが、要するにどこにもそういうものは発見されなかった、こういうことですか。

○朝原説明員 そのとおりでございます。

○高沢委員 そうすると、その当時といえば今から四十年以上前の話になりますけれども、確かにそういう文書が本省へ送られてきたはずであるし、確かにそういうものが各県庁にその段階ではあったはずでありますが、それが今どこにもない、一つもない、こういうことになっているのは一体どういうわけでしょうか。その理由はどんなふうに考えますか。

○朝原説明員 一つは、当時労働省ができまして、その際文書の移管等が行われたわけでございますが、そのときの県から都道府県労働基準局への移管あるいは厚生省から労働省への移管の際の問題があったかと思います。
 それともう一つ、しっかり移管されたといたしましても、通常、文書の保存年限というものがございまして、これらの書類については長くても十年というふうなことでございまして、そういうことから当時の文書については現存していないというふうに考えております。

○高沢委員 今のお話では十年たてばそういう文書は整理していいというふうな立場でのお答えがあったわけですが、それに関連しますけれども、今度は、昭和三十三年にこれは法務省の民事局長の心得通達というものが出ておりまして、こういう朝鮮人労働者に対する未払い賃金等の供託書類、これが十年の時効の過ぎた後もその金を国庫へ納付するとかあるいはその書類を整理してしまうとかいうふうなことはしてはいけません、こういう当時の法務省の民事局長心得通達というのが出ているわけでありますが、これはどういう目的、どういうねらいでこういう通達を出されたのか、それをお聞きします。

○清水(湛)政府委員 当時の朝鮮人労務者の未払い賃金の供託というのは、一般の、例えば現在の会社の社員の賃金の供託と同じような弁済供託という形でされるわけでございます。このような供託金につきましては、民法の規定によりまして、供託のときから十年たちますと、十年間供託金の還付請求がありませんと、時効によって消滅をする、これは民法の規定によって消滅するという解釈がされているわけでございまして、この解釈は現在も変わってないわけでございます。
 ところが、そういうことになりますと、この問題の供託というのは十年たちますとすべて国庫に入れるということができるわけでございます。しかしながら、昭和二十七年に平和条約というものが締結されまして、その平和条約の四条だと思いますけれども、その四条の中で、朝鮮とかそういう関係者の関係の請求権については特別に取り決めをする、それによって処理をするということにされたわけでございます。そういたしますと、十年たてば、例えば会計法の債権ですと五年たちますと当然絶対的に消滅しますけれども、民法の規定による時効消滅でございますので、時効で消滅させるためには、日本政府の方でこれは時効によって消滅したということを援用するという行為がありませんと時効によって消滅するということにはならないわけでございまして、そういうような平和条約の関係がございましたので、援用するかどうかということを暫時留保するということで、とりあえず十年間によって、時効によって消滅したという見解はもう変える余地はないけれども、これを援用して歳入納付をするかどうかということについては請求権についての特別取り決めが確定するまで待とうということで、当時この通達が出されたというふうに私どもは理解しているわけでございます。

○高沢委員 今の清水局長の御説明でありますが、これは対日平和条約の第四条の中の条項をもとにして御説明になったと思います。そうすると、つまりこの平和条約第四条は、例えば韓国の人が日本に対して持っている請求権、そういうものを処理するには、相手の韓国と日本との二国間の協定に基づいて処理しなさいというようなことがこの平和条約の第四条にあるわけですね。だから、中国人が日本に対して持っている請求権処理は日中の条約の中で処理する、韓国の人は日韓の条約で処理する、こういうようなことになるわけだと思います。そして、その後、現実に昭和四十年に日韓条約が結ばれて、請求権の協定もできた、となれば、今やもうこの時効になった供託の関係はもはや国庫納付していいという条件が整った、こういうふうに見てもいいわけでしょうか。この辺、どうでしょう。

○清水(湛)政府委員 御指摘のように、昭和四十年の日韓請求権協定によりまして、韓国民の日本国に対する請求権、これは供託金の還付請求権は日本国に対する請求権になるわけでございますけれども、これは放棄されたわけでございます。そして、さらにそういう請求権協定を踏まえまして、協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律という法律までつくられまして、そういう韓国民の還付請求権はもうないということが国内法においても明定されたという経緯があるわけでございます。
 ただ、そこで私ども一つ問題になると考えますのは、韓国との間にはこのようなことでございますから韓国民が請求権を行使することはあり得ないわけでございますけれども、北朝鮮との関係においてどうなるかという問題が残されておる。このことは必ずしも定かではございませんけれども、そういう問題があるのではないかということと、それから被供託者として掲げられておられる方が韓国の方なのか北朝鮮の方なのか、もし韓国、北朝鮮ということを区別するということになりますと、果たしてその方は韓国の方なのか、いわゆる北朝鮮の方なのかということについては判別資料は何もございませんので、現在のところそのまま供託を持続させるという措置と申しますか、特段の措置をとらないということにいたしておるというのが現状でございます。

○高沢委員 今のお答えに関連して幾つかお聞きしたいのですが、一つは北朝鮮の関係ですね。今、現に日朝の国交の交渉が行われているわけでありまして、したがってあの交渉の中で、私はいずれ妥結すると思いますが、その妥結に至る過程で北朝鮮側からこういう請求権は一体どうするんだということは、必ず今度は日本政府に対して、日本の代表団に対してそういう問題の提起が出てくるのじゃないかという感じがします、これは外務省にお聞きしますけれども。日本と北朝鮮の交渉の中で、今のところはまだそういう問題は出ていないということですか、もう出ているのですか、どうでしょうか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 日朝国交正常化交渉におきまして、経済的な問題につきましては現在北朝鮮側と話し合っているところでございますけれども、現在までのところ先生御指摘のような点についてまで議論は至っていないということでございます。

○高沢委員 私の理解するところでは、北朝鮮側は、戦争終了まで日本が朝鮮を植民地として支配していたそのころに対する賠償、それから今度は第二次大戦後今日までのいろいろの日本と北朝鮮との関係に伴う償いというような両面の立場の主張が北朝鮮側はある、こう私は承知しているわけでありますが、この問題も戦争が終了するまでの間のことにも関連するわけですね。今までのところはまだ具体的に北朝鮮側から出ていないというふうにさっきは言われましたけれども、これから出る可能性は、武藤課長、どう考えますか。

○武藤説明員 北朝鮮との国交正常化交渉におきまして経済的諸問題の交渉の状況でございますけれども、現状は、日本側から、これは財産、請求権として処理すべき問題であるということを御説明いたしまして、こういった形で処理するためにはどういった事実について請求するのか、その根拠となるものは何か、法律的な根拠は何かということを示していただきたいということをお願いしているところでございます。現在までのところ、私どもこういった点について十分御説明いただいていないわけでございますので、それ以上の問題についてまだなかなか今突っ込んで議論できないという状況でございます。

○高沢委員 では、この問題は今後の問題ということでわかりました。
 武藤課長、今度は、日韓の請求権協定によって、供託されたものの請求権ということもこれでもうなしにした、こういう清水局長の先ほどの御説明ですが、しかしこの日韓請求権協定のときにこれらの問題に触れて、例えば徴用された朝鮮人労働者の未払い賃金はどうだとか、それはもうなしにしましょうとか、日韓協定のときにその種のことに触れた話し合いがあって、それでもうなしというふうな合意になったのかどうか、これはどうですか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 韓国人労働者に対する未払い賃金の問題を含めまして日韓間の財産、請求権の問題は、六五年の日韓請求権経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みということでございます。韓国側から対日請求要綱、いわゆる八項目と言われるものでございますけれども、これが出されておりまして、完全かつ最終的に解決済みの内容でございますけれども、この八項目に含まれるもの、また含まれないもの、すべて解決済みということでございます。
 なお、被徴用者韓国人未収金の問題につきましては、対日請求要綱八項目の中の第五項に含まれておりまして、そういった見地からもこれで解決されているということは明らかだろうと思います。

○高沢委員 先ほどの清水局長の御説明の中で、この人は韓国なのかあるいはこの人は北朝鮮なのかという識別が非常に複雑で難しい。確かに、日本にいる在日の人たちの中でも朝鮮という国籍を持っている人もいる、韓国の国籍を持っている人もいる。だけれども、朝鮮という国籍を持っている人も、よく聞いてみると出身は南朝鮮だという人が非常に多いという状況の中で、そういう関係者の朝鮮人、韓国人、こちらは韓国だ、こちらは朝鮮だという識別は現実には非常に難しい、私はこんなふうに思います。そういう難しいということを考慮してこの供託問題の処理はなおそのままにして保留しているとさっき局長のお話がありましたが、そういうふうに理解していいですか。もう一度御説明願います。

○清水(湛)政府委員 昭和四十年の日韓請求権協定というのが、要するに現在の韓国だけの範囲に限定された協定であるということになりますと、朝鮮半島のその余の分の問題は積み残されることになるのではないか、こういう問題意識から私ども残しているわけでございますけれども、実際問題といたしましても、先生先ほど御指摘のようにどちらかわからない、私ども調べたわけではございませんけれども、一、二当たってみますとそれはわからないというのは正直言ってそのとおりでございますので、現在のところはそのままにせざるを得ないと考えているわけでございます。

○高沢委員 その点はよくわかりました。もっとも、この点はまた後でちょっと触れることになりますが、一応次に進みます。
 それで次に、一九九〇年に韓国政府から要請があって、日本政府は強制連行されてきた朝鮮人の名簿の調査をする、そのことを一昨年の五月二十九日の閣議で決定をされた。そして、その調査の作業に取り組みをされて今日に至っておる。その調査の中心のあれは労働省がおやりになるということも申し合わせされている、こう聞いているわけですが、労働省、その復そういう強制連行の人たちの調査で今までにどの程度のことがわかったのか。向こうの要請で始めたわけですから、それを韓国の政府に報告するというか通告するというか、そういうことも当然必要になるかと思いますが、そういうふうなことは今までにどういうふうにされてきたのか、現状を説明してください。

○朝原説明員 いわゆる朝鮮人徴用者にかかわる名簿の調査ということでございまして、これにつきまして労働省といたしましても調査していったわけでございます。調査範囲としましては、都道府県あるいは公共職業安定所等を中心にやっていったわけでございます。ただ、これに基づきましての調査の結果自体は、私どもの職業安定局の方でやっておりまして、今ちょっと手元に資料を持ち合わせてございませんので、そのことにつきましては今はお答えは控えさせていただきたいと思います。

○高沢委員 では、今言われた、ここでは説明できないという資料は、また別途私の方へ説明をお願いしたいと思います。
 ただ、ある程度まとまったものを韓国政府に対して、このくらいありましたよということを報告というか通告をされたやに聞いておりますが、その辺はどうですか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 一昨年五月の盧泰愚大統領訪日時の日韓外相会談におきまして、韓国側より、終戦前に徴用された方の名簿の入手について協力要請がございまして、これに日本政府として協力をすることを受けまして、労働省が中心となって調査を行ったわけでございます。その結果、昨年三月、調査によって存在が確認されました九万八百余名分の名簿を韓国側に引き渡しました。

○高沢委員 戦争中に日本へ連れてこられた朝鮮人の数は百何十万というふうに伝えられているわけですが、今のお話ではその中でとりあえず九万という報告ですけれども、これはまだまだですね。これからそういう調査を当然続けて、より多くこの名簿を見つけていかなければいかぬということだと思いますが、今後さらに進めて調べていくというのは労働省が中心でしょうから、これからのやり方はどんなふうにやっていくというふうなプランを持っておられるか、お考えを持っておられるか、労働省の立場をお聞きしたいと思います。

○朝原説明員 先ほど外務省の方がおっしゃられたように九万人というような調査結果が出ておりますけれども、引き続きまして労働省といたしましてはその調査を続けていくということで考えております。まだその結果等についてはまとまった数字はありませんが、今現在もそういうふうな調査は引き続き行っているということでございます。

○高沢委員 先ほど私は、昭和二十一年に当時の厚生省の労政局長から出された通達の中で三部の報告を二部は本省に置きなさい、一部は都道府県の県庁に置きなさいと言っているけれどもそれは今どうなっているんだと聞いたら、一切ない、そういうものは今一つも見つからないというような報告であったわけですが、こういうものがあれば、その中に供託をして、相手の朝鮮の人、当時は朝鮮の人もみんな日本名を名のっていることが多かったからそうでしょうけれども、それにしても、だれだれ、だれだれ、だれだれ、それは幾ら、幾ら、幾らというものがあればちゃんと資料が発見されるということになったと私は思います。そういうものが一つもなかった。しかし、これからさらに調査を進めますということになりますと、どういうところへ、どういう方法で調査をされるお考えか、これを説明してください。なるほど、そういうやり方ならある程度見つかるだろうとわかるような説明を願いたいと思います。

○朝原説明員 先生の御質問でございますけれども、我々としてもどこにあるかということがわかっていれば非常にわかりやすいのですけれども、実際どこにあるかということがわからない中で調査するということでございまして、非常に難しい状況にありまして、先ほど言いましたように、今までのところは九万人ほどについて判明したという状況なわけでございます。そういう状況ではございますけれども、これぞということはなかなか言えませんけれども、地道に我々といたしましても、この問題につきます国民世論等の高まりあるいは関心の高まり等の中で、こういう強制的に連れてこられた労働者の名簿等についてさらに新たな発見が出てくるのではないかと考えておるところでございます。

○高沢委員 私が労働省に教えてあげると言っては大変失礼かもしれませんが、こういう方法はどうなんですか。戦争中に朝鮮人徴用工を使っていた会社、企業はどれとどれとどれか、これは恐らくわかるでしょうから、そういうところが名簿を持っているとすれば、持っているはずなんであって、そういうところに照会されて、戦争中の朝鮮人の労務者を使った名簿を出しなさい、資料を出しなさいということはできるのじゃないですか。
 それからもう一つは、日本でもそういう問題に非常に熱心に取り組んでいる個人や団体がありまして、そういう人たちがどことこへ行ってこういう資料を見つけた、どこどこを探したらこういう名簿が見つかったというような形で随分、言うならばボランティアの形で、あるいは別な言葉でNGOと言っていいのかな、そういう運動をしている人が非常にたくさんありますね。労働省はそういう人たちに協力を求めて、教えてくれ、資料を提供してほしいというような形で求めるのも一つの方法じゃないですか。どうですか。

○朝原説明員 関係のありそうな企業については前回の調査でもいろいろお聞きしたところでございます。今先生がおっしゃられたそういうふうな団体等を通じてのいろいろな情報提供がありましたら、我々としては十分そういうものを受けてさらにその実態について明らかにしていきたいと思っております。

○高沢委員 もう一つの方法は、さっき清水局長から、朝鮮、韓国のいろいろな状況を考慮して、既に十年の時効が済んだ、本来ならば国庫へ納付すべき供託についてもそういう措置はとらないでなお留保しているというお話がありましたが、そういたしますと、供託を受けた全国の法務局を調査されて、法務局がなおそういう資料を持っている、その法務局の持っている資料を収集されることも最も有力な調査の方法としてあるのじゃないかと私は思いますが、これは労働省、法務省が協力されればそういうものが出てくるのじゃないですか。どうでしょう。

○清水(湛)政府委員 これは先ほど来答弁しておりますように、普通の弁済供託という形でされたものでございまして、現実には年間六十万件の供託があり六十万件の還付がある、常時数百万の供託案件がある、こういうことになっているわけでございます。そういう状況の中で具体的にその一々をチェックするということは非常に難しい問題がありますとともに、もう一つは、これはいささか形式論かもしれませんけれども、供託書というのは利害関係人、つまりその供託金還付請求権を差し押さえようとする者とか、供託金について相続人として還付を受けようとする者とか、いわば銀行預金と同じような性格を持つものでございますので、そういう法律的な意味での利害関係を有する者にしか見せられないというようなことになっているわけでございまして、供託関係を通じて調査をするということは非常に難しいことではないかと私どもは今のところ考えているわけでございます。

○高沢委員 清水局長の答弁ですが、これはちょっといただけない。大体この種の供託は、昭和二十一年、二十二年、二十三年、あのころのタイミングで供託されているわけです。ですから、そういう年に限って供託された件数を調べるということはそんなに困難なことじゃないと思うし、その供託がいずれもだれに幾ら、だれに幾らというような関係がちゃんと中身もある供託として出されているわけですから、それを調べるということをやれば、少なくも法務局で、もうそんな資料はありませんと言う法務局ならいざ知らず、法務局によってちゃんとありますと言う法務局があるわけですから、そういうところを調べることは十分可能であると私は思います。
 それから、今個人関係、権利関係に絡むからとおっしゃるけれども、この場合は国がやる調査ですから、政府がやる調査ですから、したがって政府の機関である法務省法務局にそういう資料の提供を求める。この場合には供託をした企業と相手の朝鮮人、韓国人との権利関係ということになるわけですから、そこへだれか第三者がしゃしゃり込んできてその権利をとってしまうというようなこともあり得ないケースですから、これはそこをちゃんと調査されるのが一番確実な道じゃないかと思うのですが、どうでしょう。

○清水(湛)政府委員 私ども一、二そういう例をたまたまわかっているものについて見たこともあるわけでございますけれども、日本名のものもかなりたくさんございますし、果たして正確な事実をそれによって掌握することができるのかどうか。それから、私ども聞くところによりますと、供託後に未払い賃金、当時の供託額は一人について数十円というような供託金額でございますけれども、これの還付を受けた方もかなりおられるということでございまして、そういうものが果たして正確な数字をあらわし得るものであるかどうかということについてもやはり問題があるのではないか。そういうようなことを考えますと、先生の御指摘ですから研究はいたしますけれども、なかなか難しい話ではないのかなというふうに思っておる次第でございます。

○高沢委員 次へ進まなければいけませんが、じゃ、もう一回だけ言っておきます。
 朝鮮の人で日本名を名のった人は、例えば金さんは金山さんとか金本さんとか、朴さんは新井さんとか大体決まった名前の名のり方をしているケースが多いのですよ、そうでない人もあるかもしれませんが。ですから、名前が日本名だから判別はできないということだけではこれは通らないことなのであって、そしてその当時に供託されたものと見れば、大体中身は朝鮮人の労働者対象の供託なのですから、大体これは皆朝鮮の人、韓国の人、こういうふうに見て私は間違いないと思っております。そういう意味で、既に還付されたものがあったとしてもそれならその還付された人の名前がわかるわけだし、まだ還付してないものはしてないものでその名前や金額があるわけですから、それを調べるということはぜひひとつやってもらいたい、やるべきだ、こういうことを要望として申し上げます。
 次へ進みますが、きょう本来お尋ねしたかったことは、これに関連して三菱重工の長崎造船所で働いていた金さんという韓国の人、この人から実はこの供託に関連し三菱重工に対して自分の未払い賃金の請求が出されているということに関連して、あとお尋ねをしたいと思います。
 この金さんという方は、金順吉、韓国読みにすればキム・スンギルという人だそうですが、この人が徴用工として昭和二十年の一月から八月まで長崎の造船所で働いた。そして、長崎に原爆が落とされて、この人のいた場所は爆心地から遠かったから幸い重大な障害は受けなくて、そしてもうおれは帰ろうということで韓国へ帰ったそうです。
 この人が昨年の夏長崎へやってきて、三菱重工に対して、私の未払い賃金があるわけだがそれをひとつ払ってくれというふうに申し込んできた。それに対して三菱重工長崎造船所では、それはあなたの分も含めてそういう朝鮮の人のものは全部昭和二十三年に供託しました、供託したからもう我が社としては関係ないのだ、この件は済んでいるのだ、こういうふうに会社は答えるというやりとりから事が始まったわけですが、この金さんは韓国の釜山にいる人だそうです。したがって、しょっちゅう日本に来るわけにいかないから、それで長崎造船所の労働組合にこの交渉の権利を委任したということでもって、後この労働組合がいろいろ会社側あるいは法務局あるいは県庁とやっておるということであります。
 供託したということに対してそれを確認しなければいかぬというので、造船の労働組合が昭和二十一年通達では各地方長官のところへ一部残すということになっているから、そういう供託の資料がありますかと言って県庁へ行ったら、もう県庁にはありません。それから、法務局へ行ったら、長崎の法務局では、そういう資料はないという言い方あるいは見せられないという言い方あるいは既にそういう資料を廃棄したという言い方、何かいろいろの言い方で答えているらしい。要するに、ないというふうに長崎の法務局では言っているということであります。それから、会社側もその供託の件を法務局へ聞きに行ったが、法務局ではその供託の番号、ナンバーを言わなければ何も見せられないと答えられたというのですね。
 そこで、まことに奇怪なことでありますが、三菱重工長崎造船所が本当に供託したとすれば、その供託書の正本は長崎造船所の会社が持っておるわけです。それで、法務局にはその副本があるわけですね。したがって、副本のあるなしは別として、まず本来持っているべき第一義的責任者である長崎造船所がその大事な正本の供託の書類がない、こういう状況にあるわけですが、これは三菱ほどの、三菱ともあろうものがそういう大事な書類が今ないというふうなことを、ああそうですか、ないですかということでは到底済まないことだと私は思うのですが、この辺は法務省にお聞きしたらいいのか、やはり法務省でしょうな。今ないというこのことを一体どう考えたらいいのか、お聞きしたいと思います。
  〔星野委員長代理退席、委員長着席〕

○清水(湛)政府委員 御指摘のように、長崎の法務局に金順吉さんという方の供託があるかどうかというお尋ねがあったということでございます。そこで、現地の法務局でいろいろ調査をしてみたわけでございますが、金順吉さんを被供託者とする供託書副本は発見することができなかった、見当たらなかったというふうに私どもは報告を受けているわけでございます。
 もし、本当に三菱重工長崎造船所が供託をしているということであれば、先生御指摘のように供託書正本はそちらにあるはずだということになるわけでございますけれども、これは三菱重工株式会社の内部の問題でございますので私どもとしてはどういうことなのかちょっとわかりませんけれども、果たして供託がされたのかどうか、私どもの方からいたしますと、供託書副本がございませんのでこの点についてはないという事実だけをお答えすることしかできない、こういうのが現在の実情でございます。

○高沢委員 これは、同じ三菱で広島にも造船所があるのですね。それで、広島の三菱の造船所は同じ時期に同じように朝鮮人の労働者の未払い賃金などを広島の法務局へ供託したというわけですが、広島でそういう供託の資料があるかどうか、この間、事前のあれでは法務省からはそれはあるというお答えでありましたが、もう一度ここで広島の状況を御説明ください。

○清水(湛)政府委員 広島法務局には三菱重工新式会社がした供託がございます。たしかこれは昭和四十九年でございますか、三菱重工広島造船所自身が、これは御本人は供託者でございますので当然そういう供託関係の書類を閲覧することができるわけでございますが、閲覧をしたという事実がございます。

○高沢委員 同じ三菱で広島はある、長崎はない。このことを考えるときに、一つの私の仮定の考えですが、そもそも供託したと言っているけれども、しなかったのではないのか。しなかったのならあるはずがない。そして、しなかったのにしたと言っているのではないのか、こんなことが一つのケースとして考えられる。
 それから第二のケースは、供託はしたけれども、何らかの理由で長崎の法務局が供託の金を国庫へ納入してしまったのか、それに関連して供託の書類を廃棄してしまったのかというふうなことで今長崎法務局にありません、こうなっているのかどうかですね。
 それから第三は、十年の時効になる前に三菱が長崎の法務局へ一たん供託したのを、あれはもうやめた、返してくれ、取り下げというのか取り戻しというのか、そういうふうなことをやったのか、それで法務局には今は何もないということになっているのかな。こんなふうに、一のケース、二のケース、三のケースでそれを考えてみたわけですが、私は素人ですが、そういうケースの考え方はどうかな。法務省は専門家としてどうお考えですか。

○清水(湛)政府委員 これは本当に仮定の事実で、理論的な可能性としてお答えするしかないというふうに思うのでございますけれども、供託がなければ供託書副本がないのはこれは当たり前ということになろうかと思います。あるいは、供託はあったけれども、法務局の方でこれは時効だということで処理をしてしまったということも、それは全くあり得ないことではないのかなというような感じは、それはしないわけではございません。しかし、これはまことに古い話でございまして、現在の長崎の地方法務局の責任者としては、関係書類を調査したところ見当たらない、これだけが責任を持って言える事実であるということでございますので、その事実を超えていろいろ想像を交えて申し上げることは、ちょっと現段階においては差し控えさしていただきたいというふうに私ども思う次第でございます。

○高沢委員 それじゃ、先ほど三菱は広島ではちゃんとやって広島には資料があるということが確認されました。
 ではもう一つ。同じ長崎で戦争中に朝鮮人の労働者を使っていたという企業はほかにあるわけですね。川南造船とかあるいは高島炭鉱とか、そういうものが長崎にあるわけだから、そういう企業、会社は朝鮮人労働者の未払い賃金のそういう供託をしているかどうか。その資料は今でも長崎法務局にあるのかどうか。私は、これは一回法務省で、今ここでお答えをもらえれば一番いいんだけれども、もしそうでなければまた改めて調べてお答えをいただきたいと思うんです。もし、そういうところはちゃんとしている、しかし三菱はしていないということになると、どうも初めからしなかったんじゃないかというふうな感じにもなるわけですが、この辺のところはどうでしょうか。

○清水(湛)政府委員 私ども、三菱重工以外にどういう会社が供託をしたかということについては現在資料を持ち合わせておりませんので、答弁は現段階ではちょっと留保させていただきたいと思います。

○高沢委員 それは結構です。今ここでの質問ですから、後で調べていただいて、そのことのわかった結果をまた教えていただきたい、連絡していただきたい、こう思います。
 それで、そうなってまいりますと、供託をしたかしないかは一応別として、請求権者である金順吉さんからすれば、自分の受け取るべき権利のあるそういう請求権はあるんだ、だけれどもとにかく今まで受け取っていないというふうになりますと、これをとにかく私はもらいたい、請求するというときに、請求の相手はその供託を受けた国であるのか供託をすべきであった三菱重工であるのか、この辺は裁判の関係からするとどっちになるんでしょう。

○清水(湛)政府委員 供託の事実があったという前提をとりますと、金順吉さんは国に対して還付請求をするということになるわけでございますが、この点については先ほど来御答弁申し上げておりますように時効によって消滅し、かつ四十年の請求権協定によって、韓国の方のようでございますから絶対的に消滅をしているということでございますのでもう既にその請求権を行使することができない、こういうことになろうかと思います。
 それから、供託をしていないということになりますと、三菱重工に対して未払い賃金の支払い請求をするということになろうかと思いますが、これについても恐らく時効の問題が生じ、かつ先ほど来申し上げておりますような日韓請求権協定によって韓国民の日本国民に対する請求権は放棄され、またそれに基づく国内法によってそういう権利が消滅しているということになろうかと思います。これは、三菱重工と金順吉さんの関係について私どもが申し上げるべきことでは広いかもしれませんけれども、そういうふうなことになるのではないかというふうに思います。国に対する関係においては請求権は絶対的に消滅している、このことについてはもう争う余地がないというふうに思う次第でございます。

○高沢委員 請求権者の金順吉さんからすれば、供託をしたという三菱重工がそれを立証する大事な大事な書類を持ってない、しかも先ほども言いました三菱ほどの大企業、ちゃんとした事務の体系の整っておる会社がそれを証明する資料を持っていないということは、供託しなかったという認定もできるし、供託をしたにしてもそれを証明するものを失ったということはやはり三菱重工の大きな責任である、当然そういうことになろうかと私は思います。そういう点において、その場合には金さんから三菱重工に対して支払いの請求を提起する、裁判の提起もしたいというふうに言っておられるようでありますが、いずれそういう展開になるかもしれませんが、私はそういうことになろうかと思うのでありますが、そのときに、さっきの局長の説明では、日本国民に対しての請求権も既にないんだから、もう金さんはそういうことを三菱に対して提起する根拠というか権限もないんだ、こういうふうな御説明であったように聞きますが、そう理解していいのか。あるいは権利があったにしても、もう時間が四十年以上たっている、だから時効で、この請求は時効によっても請求できないというような意味も含めて何かお答えがあったような気がしますが、それはそういうことなんでしょうか。どうですか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 六五年の日韓請求権・経済協力協定第二条一項は、日韓両国及び両国国民間の財産、請求権問題は完全かっ最終的に解決したことを確認しておりますけれども、この規定は、日韓両国国民間の財産、請求権問題については日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄したことを確認するものでございまして、いわゆる個人の財産、請求権そのものを国内法的な意味で消滅させているものではございません。同協定におきましては、第二条三項におきまして、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって同協定の署名の日に他方の締約国の管轄のもとにあるものに対してとられる措置については今後いかなる主張もなされないと規定しておりますけれども、これを換言いたしますと、同協定の対象となっているこれらの財産、権利及び利益について具体的にいかなる措置をとるかについては他方の締約国の決定にゆだねられることを意味しております。
 同規定を受けまして、我が国は韓国及び韓国国民に係る財産、権利及び利益につき国内法を制定して処理してまいりました。

○高沢委員 私、素人だから、今の武藤課長の説明は、いろいろ言ったけれども、要するに三菱に対して金さんが請求を提起する根拠はもうないんだ、こういうことですか。わかりやすく言ってください、根拠はないのかあるのか。

○武藤説明員 日本国及び日本国民に対する債権については消滅しているということでございます。日本国民でございます。

○高沢委員 すると、仮に金さんが今度三菱を相手取って請求の裁判を起こしたときに、もう裁判所は入り口で断るんですか。根拠はありませんよ、こうなるんですか。どうでしょう。それは裁判官の判断になりますか。裁判官が、これはやはり三菱は払うべきであるというふうな判断もできるわけですか。

○清水(湛)政府委員 先ほど外務省の方からお答えがございましたように、四十年の請求権協定第二条に基づく日本の国内法としての法律が別途制定されまして、この法律の中で日本国及び日本国民に対する債権については消滅をするというふうに、国内法としてもそういう法律がつくられたわけでございます。
 それで、先生の御指摘は、訴訟法的に申しますと、門前払いの判決をするのかあるいは裁判所は本案について裁判をするのかといういささか訴訟法的な分類に伴う御質問だというふうに考えますと、門前払いということではございませんで、やはり権利はもうこの法律の規定によって消滅したという認定をして、請求棄却をするということになるのではないかというふうに私どもは思うわけでございます。ただ、これは先ほど申しましたように三菱重工と金順吉さんの間の問題でございますから、私どもが確定的にその間の訴訟がどうなるこうなるというようなことを申し上げるべき立場ではないということは前提として御理解いただきたいと思う次第でございます。

○高沢委員 もうこれで終わりますけれども、私はこれに関して、この金順吉さんの委任を受けていろいろやっている長崎の造船の組合の人たちあるいは長崎でこの問題にかかわっておる我々社会党の仲間の人とか、あるいは金さん本人と十分協議してこれからの対応をひとつ決めていきたいと思います。
 ただ、一言言いたいことは、金さん自身は自分のそういう権利が供託されているということ自体も知らされずに、全く知らずにずっと四十年たってきて、そして今ここでもってそういう自分の権利があるということに気づいて求めてきたことに対して、もう済んでいるよというふうなことでは、それこそ日本の第二次大戦に対する責任として済まぬじゃないか、こんな感じが私はするわけです。これは最後に私の見解として申し上げて、終わりたいと思います。

 第123回国会 参議院予算委員会 第11号 平成四年四月一日(水曜日)午前十時八分開会

【発言順】
 委員        吉川 春子
 委員長       中村 太郎
 国務大臣 
(内閣官房長官)    加藤 紘一
 外務大臣       渡辺 美智雄
 内閣官房内閣外
 政審議室長兼
 内閣総理大臣
 官房外政審議室長  有馬 龍夫
 労働省職業安定局長  若林 之矩
 外務省条約局長    柳井 俊二
 国務大臣  
(防衛庁長官)     宮下 創平
 文部大臣       鳩山 邦夫
 文部省初等中等    
 教育局長       坂元 弘直
 外務省アジア局長   谷野 作太郎


○吉川春子君 まず、官房長官、外務大臣にお伺いいたします。
 従軍慰安婦問題について、宮澤総理も、当時、日本政府が従軍慰安婦の募集並びに慰安所の設置、経営に関与していたとの認識を示しておられます。私はここに、昭和十二年から二年半、中隊の非公式の写真班として従軍した村瀬氏の御遺族の了解を得て、「軍直営の売春宿」の中から二枚の写真を拡大して持っています。
 委員長、これを大臣にお示ししたいんですけれども、よろしいでしょうか。

○委員長(中村太郎君) どうぞ。
   〔資料を示す〕

○吉川春子君 それの一枚は、「皇軍萬歳」と書かれた下に「第六慰安所 櫻樓」、「登樓者心得」、そして従軍慰安婦の名札が十数枚読めます。もう一枚は、トラックの後ろに乗せられた慰安婦たちです。
 この写真を見て、両大臣の感想をお伺いしたいと思います。

○国務大臣(加藤紘一君) 今、見せていただきましたけれども、具体的にどういう状況での写真なのかちょっとわかりませんので、コメントもしにくいところでございます。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 私も官房長官と同じであります。

○吉川春子君 私は、今初めてお示ししたんじゃなくて、実は昨日から質問通告はしてありますので、本の名前もお教えしております。パネルにしたのはきょうですけれども、やはりそういう大臣の御認識では大変残念だと思いますが、それを見て何にもお感じにならないんでしょうか。

○国務大臣(加藤紘一君) 質問通告の中にございましたが、いわゆるゼロックスでコピーされたもので余り明確な写真でもございませんで、また、今そのパネルを見せていただきました。しかし、どういう状況で、どういう場所で、内地なのか外地なのかもわかりませんので、ちょっとコメントしにくいところでございます。

○吉川春子君 官房長官、先月私は議員会館で元朝鮮人従軍慰安婦の方の二人の生々しい証言を聞きました。一人は、十六歳のとき学校で日本の国花ではなくアサガオの刺しゅうをしたことをとがめられて警察に呼び出され、そこで暴行され、抵抗して気を失って、気がついたら福岡だったと。もう一人は、村長に言われて工場に働きに行くつもりでしたけれども、旧満州の慰安所に連れていかれたといいます。彼女たちは、私だって人並みに結婚して子供を産んで幸せな生活がしたかったのにと涙ながらに訴えておりました。
 政府は、本人の意思に反して従軍慰安婦に駆り立てた事実のあること、それはお認めになりますか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) もう、いずれにしても戦争というものは、我々の常識では全く想像の及ばないような悲惨な場面をつくったりあるいは人を殺したり、無差別な爆撃を、罪もとがもない人を爆撃したりというようなことがたくさんあるわけであります。その中にそのような事態があったことは、私は認めざるを得ないと存じます。

○吉川春子君 戦争一般に解消し切れない問題をこれは含んでいると思いますが、官房長官も今外相がおっしゃったように、こういう意に反して従軍慰安婦にしたという事実をお認めになりますか。

○国務大臣(加藤紘一君) 何らかの形でいわゆる慰安所の開設と運営に旧日本軍が関与したということは私たち認めざるを得ない事実であろうと思っておりますし、旧日本軍との関係で言えば、政府はその事実についてお認めし、また謝罪しなければならない、こう思っております。
 個々具体的にどういう形で募集されたかということにつきましては、いろんな事実もあり、またいろんな説もあり、今政府としては鋭意調査しているところでございます。

○吉川春子君 いろいろな形がありました。ただ、その中で自分の意思に反して従軍慰安婦にさせられた、そういう場面もたくさん証言としてあるんですけれども、政府はそういう事実も中に含まれている、少なくともそういう事実もあったということは、官房長官お認めになりますか。

○国務大臣(加藤紘一君) 戦争中のことでございますので、現に慰安婦問題とは別ですけれども、強制連行という事実もございました。そういうことも事実でありますし、また慰安婦の募集につきましてごく自然な形で行われたか、それとも強制的にされたのかというところも含めて現在調査中でありまして、いずれにしろ、戦争中のことでございますのでいろんな不自然な形があったのかと思っておりますが、現在調査中でございます。

○吉川春子君 官房長官は一月の記者会見で、旧日本軍が従軍慰安婦の募集に関与していたことをお認めになったわけですが、その根拠になった資料を示していただいて、その部分を読み上げていただきたいと思うんです。

○政府委員(有馬龍夫君) 一月十三日に官房長官が我が国の考え方をお話しになりました際に、私どもが入手しておりました資料、そのうちの募集に係ります部分につきましては、趣旨は、募集について、我が国の募集に当たり軍の威信を保持し、並びに社会問題を惹起させないために、募集に当たる人物の選定を軍が適切に行うようにとの趣旨、こういうものがございます。実際に全文引用いたしますと長くなりますけれども、趣旨は今申し上げたとおりでございます。
 それから、経営につきましても、当時入手しておりました資料の中に、どのような状況でこれが開業され、どのような施設を持っており、何人ぐらい、しかしそのうちの何人というのも、それぞれどのような役割を果たしていたかわかりませんけれども、そのような言及がございます。それから、衛生状況についても記したものがございました。それらに基づいて新聞記者と会見となったわけでございます。

○吉川春子君 私が伺っているのは募集についての資料だけです。その募集を認めるに至ったものについて、全文じゃないんですけれども、趣旨ではなくて具体的にその部分を読み上げてください。

○政府委員(有馬龍夫君) 
 支那事変地二於ケル慰安所設置ノ為内地ニ於テ
 之カ従業婦等ヲ募集スルニ当リ故ラニ軍部了解
 等ノ名義ヲ利用シ為ニ軍ノ威信ヲ傷ツケ且ツ一
 般民ノ誤解ヲ招ク度アルモノ或ハ従軍記者慰問
 者等ヲ介シテ不統制ニ募集シ社会問題ヲ惹起ス
 ル度アルモノ或ハ募集ニ任スル者ノ人選適切ヲ
 欠キ為ニ募集ノ方法誘拐ニ類シ警察当局ニ検挙
 取調ヲ受クルモノアル等注意ヲ要スルモノ少カ
 ラサルニ就テハ将来是等ノ募集等ニ当リテハ派
 遣軍ニ於テ統制シ之ニ任スル人物ノ選定ヲ周到
 適切ニシ其実施ニ当リテハ関係地方ノ憲兵及警
 察当局トノ連係ヲ密ニシ以テ軍ノ威信保持上
 並ニ社会問題上遺漏ナキ様配慮相成度依命通牒
 ス

○吉川春子君 今お読みいただきました資料によりますと、募集とは名ばかりで、詐術を用いたり誘拐まがいのいわゆる強制連行が横行していたことを証明しているのではないでしょうか。官房長官、いかがですか。

○政府委員(有馬龍夫君) 本人の意思に反してここで書かれておりますような事態があったのかどうか、いろいろなお話も承っておりますし、そのような報道がございます。日本政府が現在行っております調査というのは、日本政府がいかなる形で関与していたのであろうか、それを調べているところであって、その日本政府の立場というものが募集に当たってここで述べられているわけでございます。

○吉川春子君 そういう行為が横行したので、それを防ぐための通牒が出されたというふうに読める資料であると思います。
 労働省にお伺いしますが、従軍慰安婦だけでなくて、もちろん多くの朝鮮人が強制連行されています。政府もその名簿を収集していますけれども、その場合の強制連行の定義はどういうことでしょうか。

○政府委員(若林之矩君) 強制連行ということについての明確な概念というものはございません。したがいまして、私どもは名簿の調査に当たりまして、当時の入国の経緯を明らかにすることは極めて困難でございますので、労働省といたしましては、国民徴用令が施行されました昭和十四年以降終戦までの間に、入国経緯のいかんにかかわらず国内の事業所において労働に従事していた朝鮮人労働者に関する名簿の調査を対象といたしております。

○吉川春子君 それでは、その国家総動員法に基づく徴用のほかに、例えばどういう形態があったわけですか。

○政府委員(若林之矩君) 入職経路につきましては、徴用、官あっせん、募集の三種類があったと思われます。
 徴用につきましては、ただいま御指摘ございました国家総動員法第四条に基づきます国民徴用令によるものでございます。徴用の前段階といたしまして、文書、募集人等による募集でございますとかあるいは職業紹介所の職業紹介によります官あっせんが行われまして、それでも必要な労働者が集まらない場合に徴用が行われたというふうに考えられます。

○吉川春子君 昭和十九年、一九四四年の八月二十二日、国家総動員法に基づいて女子挺身勤労令が出されましたが、これが強制連行の法的根拠になっているわけです。勤労動員に応じない場合の刑罰は、この勅令ではどうなっていますか。

○政府委員(若林之矩君) 女子挺身勤労令の第十七条によりますと、この挺身勤労をしない者に対しましては、地方長官は必要あると認める場合においては国家総動員法第六条の規定に基づいて挺身勤労を受ける請求、または申請に係る工場、事業場等に就職をすることを命ずることができるとされておりました。この場合に、当該地方長官の命令に違反した者につきましては、国家総動員法第三十六条によりまして一年以下の懲役または千円以下の罰金に処することとされておりました。

○吉川春子君 昭和十九年といえば第二次世界大戦の末期ですので、ここから強制連行が始まったわけではなくて、もちろんずっと前から行われていたわけですけれども、女子を強制連行する少なくとも根拠法がここでできたということになります。そして、一九四四年以降はまさに懲役刑を伴う、そして当時の千円以下ですから物すごい多額の罰金を伴う勤労令の発令によって、これまでも行ってきた強制連行に法的根拠を与えたわけです。朝鮮半島から女子勤労挺身隊として女性たちが動員されてきました。そして、もちろん工場で働かせることを名目にしながら、その中のある部分、かなりの部分を従軍慰安婦にしたという証言は、梨花大学の前教授の尹さんを初めたくさんあるわけですけれども、政府はこういう事実を否定されますか。

○政府委員(谷野作太郎君) ただいまお示しのような数字も含めまして、いろいろなことがこの件につきましては証言もあり、言われておるわけでございます。そこで、日本側におきましては、内閣官房の御指示で今真相の究明に向けて鋭意調査中でございます。他方、韓国の側におきましても組織をつくりまして、六月末までと伺っておりますけれども、一体どのようなことだったのかということで、とりあえずは真相の究明に全力を挙げようということで作業が進行しておるというふうに聞いております。

○吉川春子君 労働省にもう一度お伺いしますけれども、少なくとも昭和十九年以降、この勤労令の出された後は女子の朝鮮人強制連行――従軍慰安婦をちょっとさておいてもいいです、答弁がややこしくなりますから、その根拠になったということまでは認められますか、そこまでですか。

○政府委員(若林之矩君) 朝鮮人の女子の方が、日本の工場、事業場で勤労に従事していたという事実はございますけれども、それがどういう法令上の根拠でなされたか、そこのところは明らかではございません。

○吉川春子君 内閣委員会での労働省の答弁と違いますよ。労働省、誠意を持ってもう一度答えてください。そこまでは根拠だって内閣委員会では答えたじゃありませんか。局長と課長の答弁で違っていいんですか。

○政府委員(若林之矩君) 先ほど申し上げましたように、日本の工場、事業場で働いておられました朝鮮人の方々の入職経路というのは、それを現時点で明確にするということは大変に困難でございます。先ほど申しましたように、三つの種類の入職経路もございます。したがいまして、それがどういう法令によって現実にそこに働いておられたかということを現時点で明らかにするということは、これは大変もう難しいことでございまして、そこのところは御理解を賜りたいと存じます。

○吉川春子君 それでは、刑罰をもって強制的に朝鮮半島から労働者を引っ張ってこれる法的な根拠がほかにあったとおっしゃるんですか。

○政府委員(若林之矩君) もし仮に徴用というような形で朝鮮人の方を日本に連れてくるということでございますと、もとよりこの総動員法の体系によることは申し上げるまでもありません。

○吉川春子君 徴用も強制連行の範囲に含めて考えるということですから、最初からそういうふうにおっしゃっていただければよかったと思います。
 外務大臣、官房長官、政府は強制連行によって連れてきた朝鮮女性を従軍慰安婦にしたということをなかなかお認めにならないわけですが、そこで伺いますが、それでは、十万とか二十万とかいった朝鮮人従軍慰安婦はみずからの意思によって進んで従軍慰安婦になったと、そのようにお考えでしょうか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 慰安婦の問題はいろいろありまして、内地からも募集をしたと。当時は御承知のとおり遊郭というようなものがあって、そこには残念なことながら人身売買で来られた、来たような人もたくさんおったということは、私は事実だと思います。進んでなった人もそれは中にはあるかもしれませんが、必ずしもそういう人ばかりじゃないと。
 それから、徴用の問題は、私はちょうどそのころ学徒から兵隊に行くときでありましたからよく知っておりますが、内地の日本人のどんないい家庭のお嬢さんでも全部徴用で軍需工場等で働かされたということは事実であります。

○吉川春子君 朝鮮の非常によい家庭の方も、内地のよい家庭と大臣がおっしゃるので私もあえて、朝鮮のよい家庭の方もこの徴用令によって引っ張られて従軍慰安婦になったと、こういう証言もあるわけです。
 そこで、政府は証拠隠滅をしているということを私は申し上げたい。それは証拠がない、今調査中だとおっしゃっているんですけれども、戦後、政府は内務次官通牒を出して事実を隠ぺいするということをやったじゃありませんか。その内務次官通牒を示してください。

○政府委員(若林之矩君) ただいま御指摘のような内務次官通達と申しますものについての資料は残されておりません。そういったことで事実を確認することは困難でございます。

○吉川春子君 労働省もこの内務次官通牒を御存じありませんか。

○政府委員(若林之矩君) 私ども、そういったような事実を持っておりません。

○吉川春子君 全く政府の答弁は、私、ひきょうだと思うんですよね。労働省が私にこの本を教えてくれたんじゃないですか。「消された朝鮮人強制連行の記録」という本があります。この中に元山口県労務報国会動員部長吉田清治さんという方の記録が載っているわけですけれども、その中にこういうふうに書いてあります。
 朝鮮人への迫害の歴史的記録は残っていない。公式記録や関係文書は、敗戦直後に内務次官通牒に基づいて、全国都道府県知事の極秘緊急命令書が、各警察署長あてに送達されてきた。私が関係した山口県労務報国会下関支部の場合は、当時の下関警察署特高係の署員を指揮して、完全に焼却した。その中にはもちろんすべての徴用関係書類と、朝鮮人勤労報国隊出陣記念写真もあった。
 こういうふうに言っているんですけれども、こういうことも御存じないですか。

○政府委員(若林之矩君) そういった書籍がございまして、そういった記述があることは私ども承知いたしております。

○吉川春子君 この通牒は戦後なんですね。戦後の文書も残っていないというのはどうしてでしょう。

○政府委員(若林之矩君) 御承知のとおり、労働省は昭和二十二年に発足いたしたわけでございまして、こういったような徴用関係の事務所掌というものは労働省に引き継がれていないわけでございます。もとより私どもこれまでもいろいろな形で倉庫その他の文書を調査もいたしましたけれども、そこにございませんし、また所掌上もそういったようなことになっているわけでございまして、御理解を賜りたいと存じます。

○吉川春子君 政府は、現在はそれでは自分に都合悪い公文書でもきちんと保管して後世に引き継ぐようにしているんですか。間違っても証拠隠滅で焼却してしまうようなことは法律で禁止しているんですね。

○国務大臣(加藤紘一君) 政府は公文書はきっちり保存してございますし、それで機密の保持の観点から公表してないものもあります。しかし、それを廃棄するとかということは現在の仕組みの中ではないと理解いたしております。

○吉川春子君 防衛庁、外務省、こういう書類をきちっと保護して、焼却してはいけないというような禁止する法律などありますか。

○国務大臣(宮下創平君) 防衛庁におきます公文書の保存、管理についてのお尋ねでございますが、これにつきましては、これは訓令を設けて整理しておりますけれども、重要なものは永久、その他のものについてもそれぞれの文書の重要性を勘案しまして、五年、三年、一年と期限を定めて保存することといたしております。有期限の保存文書につきましては、保存期間を経過してもなお保存する必要があるというように認められた場合にはその期間を延長ができますし、その必要がないと認めたときは廃棄を命ずることができるようになっております。
 防衛庁におきましては、法律、政令等の制定改廃に関するものや、一般命令、通達で特に重要なもの、その他特に永久保存の必要があると認めるもの等は永久保存することといたしておりまして、恣意的に文書を焼却とか廃棄するようなことは現在いたしておりません。

○国務大臣(加藤紘一君) 先ほどの私の答弁がちょっと足りなかったと思いますが、防衛庁長官のおっしゃいますように、それぞれの各省庁で書類の性格により保存期間が定められて、その期間は保存されるということだと思います。

○吉川春子君 永久保存の極秘文書は全部焼却されたんですね。そして、今もうこれを各省に任されていて、それを禁止するような法律的な措置は何もないんです。
 この問題は別の委員会で引き続き取り上げていきたいと思いますが、強制連行によって従軍慰安婦にさせられたことは否定しようもない。そして、しかも自分で書類を全部焼却しておいて、証拠が出るまで認めないということはもうけしからぬことだと思うんです。とりあえず、日本政府がこの問題の関与を認めたのならば、次の質問に移りますが、何らかの補償をすべきではありませんか。

○政府委員(柳井俊二君) 日本国政府が当時関与したという前提に立つ場合におきましてその補償の問題はどうかということでございますが、これは御承知のことと存じますので長くは申しませんけれども、韓国との関係につきましては、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定におきましてこの請求権の問題を処理したわけでございます。これも御承知のとおりでございますが、結論的にはその第二条におきまして、このような請求権あるいは財産、権利、利益というような問題は日韓間では完全かつ最終的に解決されたということが規定されているわけでございます。

○吉川春子君 外務大臣、今の論議はちょっときょうは時間がないのでしませんが、何らかの償いをすべきだと思いますが、いかがですか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) これは私はかねて答弁をしておるんですが、日韓両国の間では、国家間においてはこれはもう論争をすることはないんです。完全かつ最終的に解決がすべてついております。しかしながら、政治問題として、人道問題として騒ぎが起きておるわけでございますから、これについては政治的な配慮のもとで解決するための何らかのことを考えなければなるまいな、そう考えております。

○吉川春子君 官房長官、政府は関与を認めておられますが、総理は補償については裁判の経緯を見るとおっしゃっています。そしてその後、渡辺外相が政治的な配慮を行うという答弁を衆議院の予算委員会でもされておりますが、これは政府として裁判待ちでなく何らかの政治的な判断を、配慮をする、こういうふうに受け取ってよろしゅうございますか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 私は、具体的にどうするこうすると言っているんじゃなくして、要するに政府間政府はそれはすべて解決済みと。しかしながら個人が日本の裁判所に訴え出ることまで拒否するということはできません。それは個人の補償を求めて裁判に出ているわけですから、その個人の補償問題というのは裁判で決着をつけてもらわなけりゃなるまい、さように考えております。
 しかし問題は、それじゃ裁判に出ている人だけが慰安婦だったのかということになりますと、その数は非常に少ない数でございまして、こういうような者が他にあっても訴えて出るような性質の方は私は少ないんじゃないか。例えば遺族とか何かが残っておっても、うちの係累のだれだれがこうだったというようなことで裁判に出てくるケースというものは、私は皆は出てこないと。また、政府が仮に名のりを上げてくれと言ったからといって、名のり出るというケースは実際問題として私はそう多いとは思っておりません。したがって、なかなか個人の補償というのは難しいだろう、しかしながら何らかのことはやはりする必要があるんじゃなかろうか、そういうことを言っておるのであって、これは総理の答弁と少しも食い違いはありません。

○吉川春子君 そういたしますと、政府として裁判の経緯待ちではなくて、今のようなことも含めて何らかの政治的な配慮をする、これが内閣の方針である、このように受け取ってよろしゅうございますか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 内閣としてそういうことを閣議決定したわけではありませんから内閣の方針とは言えないかもしれませんが、しかし、調査をもう少しやってみて、どれくらいの規模でどんなふうな形態であったのかということについては、これは私は韓国だけではないんじゃないかと。もちろん内地からも、日本からもたくさん行っているわけですから、そこらのところをどうするかですね。
 しかし、今問題が表面化しているのは、裁判に出ている方、または一部韓国の世論も日本の世論もありましょうが、どういうふうにするかについてもう少し実態がわからぬとなかなか結論が出ない。したがって、鋭意その実態を正確に調べているというのが現状であります。

○国務大臣(加藤紘一君) 総理大臣もただいま渡辺外相がおっしゃられたとおりの気持ちでおります。

○吉川春子君 防衛庁長官、第二次世界大戦の末期、大臣のふるさとの信州に松代の象山ごう、これが掘られたわけですけれども、この目的とか内容、規模についてお教えいただきたいと思います。

○国務大臣(宮下創平君) お尋ねの大本営及び政府中枢機関の移転のためのごうを掘ったわけでございますけれども、私ども防衛庁の防衛研究所の保管する戦史資料がございますが、これによりますと、これは「戦史叢書」という中に書かれておりますが、いわゆる松代大本営の工事は松代倉庫工事と軍は呼ぶとこうなっておりますが、松代倉庫工事と称されまして昭和十九年の秋に開始をされております。
 当時、陸軍省が大本営と政府中枢機関の移転を考慮いたしまして現在の長野県の松代地区に、これは各種倉庫となっておりまして、今申したとおりでございますが、この建設のために地下洞窟作業を実施していたものでございます。いわゆる松代大本営工事の規模につきましては、当時の戦史資料によりますと、いわゆる倉庫、これはコ工事と軍は正確には言っておった。倉庫工事の庫をとったと思います。コ工事として四カ所、それから倉庫の内部施設としては間仕切り室等大小合わせて約六十室等の規模が示されております。その後、二十年に完成することなくこれは終戦を迎えたものでございます。
 ここに原文もございますけれども、今申したのが大要でございまして、なお細部のいろいろ実施の方針とか要領とかございますが、そういう点について必要であれば政府委員からお答えさせていただきますが、問題の視点は、委員の御指摘の点は、今の質問にございませんでしたけれども、当該工事におきまして朝鮮人が強制連行されていたというような事実があるのではないかという視点だと存じます。この点につきましては、防衛庁の防衛研究所で保管しているこの戦史資料に関する限りは出てまいっておりません。しかし、私、長野県でございますので、いろいろこの松代の朝鮮人の犠牲者の慰霊碑の建立の問題等もございまして、こうした文書も私の方に寄附依頼、募金依頼等もあります。ボランティアでそういう慰霊碑を建立しようということでございますが、そういう中には記述は一応されております。
 しかし、その根拠等が明確でありませんので、私も委員の御指摘がございましたのでちょっと問い合わせいたしましたけれども、必ずしもその根拠が明らかになっていないという点は申し上げなければならない、こう思います。

○吉川春子君 長野市のこの松代象山地下ごうの資料にも、朝鮮人の強制連行による労働者が七千人ぐらい動員されてという記述があります。
 ところで、防衛庁長官、この工事の現場の近くに朝鮮人慰安婦のいた慰安所があった事実は御存じですか。

○国務大臣(宮下創平君) 私は残念ながら選挙区が異なりまして、まだそこは拝見したことがないんで、これは羽田大蔵大臣の選挙区でございますので、私としては存じておりません。

○国務大臣(羽田孜君) 私の選挙区じゃなくて、長野県第一区でございますけれども、ただ私は史跡散歩なんていうのをやっておりましたもので、このごうをみずから見学したことがございましたし、またそういった中で朝鮮の人たちが大変な苦しみの中で働いておったということを小さなころからよく承知をいたしております。

○吉川春子君 これが全長四十二キロもあるとこの資料には書いてありますが、今五百メートルの見学コースが設けられて、多い日では一千人以上の見学者があります。そしてこれを保存してほしいという要求があるんです。象山ごうとそれから朝鮮人慰安所ですね。これは長野市も実は財政規模の余り大きくない自治体でございますので、もう三千万以上支出して実は非常に困っているわけです。
 大蔵大臣、何らかの財政措置も含めてこういう戦争の悲惨な歴史的な資料を、いや長野県だけじゃありませんよ、一般論としてこういうものをやはり保存していくべきではなかろうかと思いますが、いかがでしょうか。

○国務大臣(羽田孜君) 私も長野市が、しかも長野市の教育委員会がこれを管理しておるということを承知しておりますし、また一部はたしか東大ですか、地震研究所に使われているということも承知しております。ただ、これはそういったことで保存されておるということで、今どういうあれでやったらいいのかということを言われましても、ああいうものを保存する場合には文化庁等が関係をするわけでありますけれども、私ども今ここでどうこうということをコメントすることは財政当局という立場ではちょっと難しいと思います。

○吉川春子君 これは私調べました。もう文化財のいかなる制度をもってしても保存できないんです。そして日本政府は戦争資料館あるいは記念碑あるいはさまざまな資料の保存というものを国の責任として一カ所もやっていないんです。これはゼロじゃないとおっしゃるんだったらぜひ答弁してほしいんですけれども、何にもやっていないんです。
 それで私は、やはりこういう悲惨な歴史をとどめるためにも、松代象山こうは一例でございますけれども、こういうものについてやはり政府が財政的にもきちっと面倒を見て保存する必要があるんじゃないか、こういうふうにお伺いするわけですけれども、いかがでしょうか。文部大臣の御見解を伺います。

○国務大臣(鳩山邦夫君) 先生、もう文化庁の方はおあきらめのような様子でございましたから、よく理解をしていただいていると思いますが、要するに、史跡、名勝、天然記念物の中の史跡ということになるのでありましょうが、史跡ということになりますと、やはり一定の年限が経過いたしませんと、新しくても史跡でいいということになれば日本の国じゅうが史跡で埋まってしまうわけでありますから、文化財保護法としては、古墳、貝塚、城址などの遺跡で歴史上、学術上価値が高く重要なものを、そしてまた広く一般に認められて定着しているものの中から文部大臣が指定するということになっておりまして、最も新しいものがちょうどこの明治の初めぐらいのものでありますから、その明治の初めぐらいから太平洋戦争までの年限が何年あるんでしょうか、六十年あるんでしょうか、七十年あるんでしょうか、ですから二十一世紀の半ばぐらいになりますとそういう議論もできるかと思います。

○吉川春子君 そういう質問の趣旨ではありませんで、私は、この痛ましい朝鮮人の強制連行、そういう証拠を、日本にとっては心痛むことだけれども、これを残すことがやはり本当に再び侵略戦争を起こさない上で必要だ、そういう観点から申し上げています。そして、朝鮮人の従軍慰安婦の方、名のり出ない方が多いと予想されますので、やはり再び侵略戦争を起こさない、このことが非常に重要ではないかというふうに思うわけです。
 時間の関係でその次の質問に移りますけれども、私は、そういう意味で侵略戦争について日本の政府は反省を十分していない。これをしっかり反省して、しかも学校でもきちっと教えて再びこういうことを起こさないようにすることが一つこの問題についても非常に重要なことだと思います。
 それで、まさに文部大臣にお伺いいたしますけれども、小学校の社会科で、近代の日本、第二次世界大戦についてどういうふうに教えるというふうに学習指導要領ではなっていますか。

○国務大臣(鳩山邦夫君) この点ではこの委員会でも何度も御答弁申し上げておりますように、昭和五十七年ごろのいろいろな問題を受けて、教科書の検定基準に国際理解、国際協調ということを取り入れまして、当然教科書の内容も変わってまいりましたし、新学習指導要領の平成元年作成の指導書でも、例えば小学校については我が国にかかわる第二次世界大戦について指導するに当たっては、「これらの戦争において、中国をはじめとする諸国に我が国が大きな損害を与えたことについても触れる」と示しているところでございます。これは学習指導要領に基づいた指導書でございますけれども、そのような形でございますので、現在使われておりますさまざまな学校段階の教科書も私はかなり御満足いただけるものとは思っております。

○吉川春子君 学習指導要領には書いてないが、指導書に書いてあるというお話でした。
 指導書は文部省の立場で言うと法的拘束力があるんですか。

○政府委員(坂元弘直君) 指導書については法的拘束力はございません。学習指導要領が法的拘束力を持つものでございます。

○吉川春子君 その学習指導要領で第二次世界大戦についてどういうふうに教えているかと私はお伺いしました。
 ついでに伺います。中学校の学習指導要領で戦争をどういうふうに教えることにしていますか。

○政府委員(坂元弘直君) 先ほど御質問がありました小学校の学習指導要領では、「日華事変、我が国にかかわる第二次世界大戦、日本国憲法の制定などについて調べて、戦後は民主的な国家として出発したことを理解すること。」というふうになっておりまして、そこの解説として先ほど大臣が御説明しましたような指導書の解説があるわけでございます。
 中学校では、「第二次世界大戦と日本」というところがございまして、「中国などアジア諸国との関係を扱い、経済の混乱と社会問題の発生や軍部の台頭から戦争に至る経過を理解させるとともに、戦時下の国民の生活に着目させる。」と。それで、この中学校の学習指導要領の指導書の中で、アジア諸国との関係の中で、「大戦が人類全体に多くの惨禍を及ぼしたことを踏まえ、世界平和の実現に努めることが大切であることを理解させるようにする。」という指導書の解説がございます。

○吉川春子君 文部省が法的拘束力があるとおっしゃる学習指導要領で、なぜ侵略戦争について教えないんですか。まずそのことを伺います。

○政府委員(坂元弘直君) 学習指導要領は、学校における教育課程の大綱的な基準でございます。そして、その学習指導要領を体系的に具現したものが文部省の検定を行った教科書でございます。まさに、学校では学習指導要領で子供たちに授業を行うのではなくて、主たる教材である教科書を中心にして授業を展開しているわけでございます。その教科書の中では、小学校でもあるいは中学校でも、中国に侵略した、アジアに侵略した、それから朝鮮にも大変大きな迷惑をかけたということが記述されているわけでございますので、学習指導要領に戦争の性格について侵略戦争であるとかないとかというふうに触れる必要は今のところないというふうに私どもは考えております。

○吉川春子君 とんでもないあれですね。つまり第二次世界大戦、太平洋戦争を教えるについて一番大切なことをいろいろ理由をつけてその学習指導要領の中に書いていない。これは高等学校の学習指導要領でも同じですけれども、まさに日本政府が侵略戦争に対する反省を全くしていない、ほとんどしていない、そのことが学校教育の中にもあらわれている一つの動きだと思います。
 それで、先ほど来指導書指導書というふうに大変おっしゃいますので、じゃ指導書について伺いますが、学習指導要領に基づいて中学の社会科の指導書がありますね。その中で第二次世界大戦のことについてどういうふうに書かれていますか。その部分を読んでください。

○政府委員(坂元弘直君) 先ほども読み上げましたが、「我が国にかかわる第二次世界大戦については、アジア・太平洋地域において連合国と戦って敗れたことについて指導する。これらの戦争において、中国をはじめとする諸国に我が国が大きな損害を与えたことについても触れる」というふうに書いてございます。
 それからちなみに、先ほどこの学習指導要領を具現化した教科書というふうに触れましたが、中学校の歴史の教科書にはすべて、八種類ございますが、すべて中国に侵略したというふうに教科書では触れているところでございます。

○吉川春子君 ちょっと委員長、ちゃんと答弁させてください。
 中学校の指導書に何て書いてあるかと私は質問しているんですよ。自分の都合のいいところだけしか読まないじゃないですか。

○政府委員(坂元弘直君) 失礼しました。
 「我が国をめぐる動きや「アジア諸国との関係」、さらに戦争中の国民の生活や行動の有様に着目させる。また、大戦が人類全体に多くの惨禍を及ぼしたことを踏まえ、世界平和の実現に努めることが大切であることを理解させるようにする。」と。それから、この中学校の教科書でどう書いてあるかということは先ほど説明したとおりでございます。

○吉川春子君 私が持っている指導書にはこういうふうに書いてあります。
 「「我が国の政治・外交の動き」については、うちつづく恐慌と社会生活の不安、労働争議や小作争議の激化、財閥の成長、政党の無力化などに触れ、それらが背景となって軍部の台頭を招き、やがて大陸への進出につなかったことを理解させる。」指導書でなぜ「侵略」をまだ「進出」というふうに書いているんですか。その点答えてください。

○政府委員(坂元弘直君) まことに恐縮ですが、そこの部分の指導書のところを私持ってきておりません。大戦、戦争についてどう触れているのかというところを中心に御質問があるだろうということでございましたので、先ほど読み上げたような部分のところだけしか用意してきておりません。

○吉川春子君 そんないいかげんな答弁でいいと思いますか。自分たちの都合のいい小学校の指導書は盛んに何遍も答弁して、あれだけ問題になった進出、侵略の問題をまだ「進出」と書いているんですよ、指導書で。そういうこと御存じないはずないでしょう。こんなのなくたって答えられるじゃないですか。なぜ「進出」を「侵略」に直してないんですか。

○政府委員(坂元弘直君) 先ほどお答え申し上げましたとおりに、学習指導要領それから指導書で子供たちに教えるわけではございません。それを具現化した教科書で教えるわけでありまして、教科書の方には、先ほど御説明しましたとおりに、八種類の中学校の教科書はすべて日本の中国への侵略というような形で触れているわけでございまして、私どもとしてはそれを変える必要はないというふうに考えております。

○吉川春子君 「進出」を「侵略」と書き改めるかどうかというので物すごい国際問題になったじゃないですか。それがなぜいまだにそのまま続いていて、教科書だけ「進出」から。「侵略」になっていますと言ったって、文部省の責任はそれじゃ免れないんですよ。このことをどう考えますか、大臣答えてください。

○国務大臣(鳩山邦夫君) 第二次世界大戦において、アジアの近隣諸国にいわば迷惑をかけたということは事実だと思いますし、そのことを国際理解あるいは国際協調という観点できちんと教えていくべきだということで、教科書の検定基準も変わり、そして学習指導要領を今度新しく変えるに当たっても、そのような面で記述が充実していくような方向になっていると考えております。
 また、学習指導要領に基づいて作成される教科書に既に相当なことが書き込まれているわけですから、それらをもって教育が行われていく。全国の教育長を集めた会議、あるいは教育委員会の主管部課長会議、あるいは教育課程講習会等でも、国際協調というのでありましょうか、昨今のアジア諸国と友好関係を保っていくためにということで、文部省としても坂元局長自身が出向いていろいろと御説明をしている経緯もございます。例えば、海部総理のシンガポール演説、あるいは宮澤総理の韓国国会での演説、あるいは今国会での演説、歴史をできるだけ正しく伝えていこうという趣旨のことを、そういう動きがあったことを全国の教育関係者にお伝えをしているわけでございますから、そういう形できちんと教育ができると思っております。

○吉川春子君 指導書の「進出」を「侵略」と書き改めるのはいつですか。

○政府委員(坂元弘直君) 指導書を書き改めるという考えは持っておりません。
 戦争そのものをどういうふうに評価するかということについては、先ほど教科書について、教科書はほとんど中国への侵略戦争というふうに書いているわけでございますが、例えば列強も中国へ進出しているというような事実もあるわけでして、そういうものを含めて一般的に指導書では「進出」というふうに書いているところでございます。

○国務大臣(鳩山邦夫君) その問題を深く議論しますと、結局、歴史という学問は何であるかということに私が言及しなければならなくなるわけなんです。
 ですから、最近のこととして、アジアの近隣諸国に迷惑をかけたというふうに私も思いますよ。したがいまして、そういうような形で侵略戦争というような記述で教科書ができ上がってきてもそれはきちんと教科書として通用しているわけでございますし、それは我が国が反省をしなければいけない点も多いと思いますが、歴史というものはそもそもいわゆる演繹的な学問ではないわけで帰納的な学問だし、帰納的な学問であるがゆえにそれぞれの国や地域によっておのずから取り上げる事象というものも違ってくるし見え方も違うのは、これは当然のことだろうと思うわけです。
 例えば、ローマ帝国がどういうことをしたかということも、当時の歴史だっていろいろとローマの方々やヨーロッパの方々にとっては興味深いと思いますし、日本と朝鮮半島の歴史でも、それは高句麗の好太王のころはどうだったのか、白村江の戦いのときはどうだったのか、二一七四年の文永の役と一二八一年の弘安の役に元冠が攻めてきたときに朝鮮の方々も一緒に日本を攻めたのではないか、あれは侵略だったのではないか、そういうところまでやっぱり議論しなければならないということにもなりかねないと私は思っておりますから、歴史というのは大変難しいが、しかし最近の近・現代史の教え方については国際協調、国際理解という観点で教えましょうということで精いっぱいの努力をいたしております。

○吉川春子君 文部大臣も、侵略でなくて進出でよろしい、こういうことですか。

○国務大臣(鳩山邦夫君) いわゆる教科書をもとに授業が進められておりますが、中学の歴史の教科書のすべてがいわゆる侵略的な事実を認めた書き方をしていることに対して私は何も異議を差し挟むような気持ちはありません。

○吉川春子君 文部省が教科書を執筆しているんですか。

○国務大臣(鳩山邦夫君) よく聞いていただきました。
 これは、日本は国定教科書ではありませんから著作者が書かれる、当然発行する会社といろいろと相談をして書かれると思います。その中身について学習指導要領に基づいて、あるいは検定基準に基づいて検定をさせていただいている、こういうことでございます。

○吉川春子君 文部省は書いていない、教科書は執筆者によって「侵略」と書かれているけれども、文部省のそれのもとになる検定の基準ともなる指導書が「進出」になっている。それでいいのかということを聞いているんです。

○国務大臣(鳩山邦夫君) 少なくとも、侵略戦争であると書いてある教科書を検定で不合格にはいたしておりません。

○吉川春子君 そういう質問じゃないですよ。私時間がないんで困るんですよ、そんな時間稼ぎ。

○政府委員(坂元弘直君) 学習指導要領は検定の基準になりますが、指導書は直接検定の基準にはなっておりません。

○吉川春子君 あくまでも文部省は侵略でなくて進出でいくと言っていますのでは外務大臣、日本は進出でよろしいんでしょうか、侵略じゃなくて。

○政府委員(谷野作太郎君) 私から御答弁するわけでございますから、過去のお尋ねの件につきましての御議論、総理大臣の御答弁の内容を御説明いたしたいと思います。
 いろいろなことがございますが、最近の例におきましては、宮澤総理が予算委員会におきましてこのように述べておられます。「我が国が過去において、戦争を通じて近隣諸国等の国民に対し重大な損害を与えたのは事実であります。かかる我が国の過去の行為について、侵略的事実を否定することはできないと考えております。」、そういう御答弁がございます。他方、過去におきましては、例えば宇野総理のときには、「軍国主義の侵略であることお述べになった御答弁例もございますし、海部総理におかれましては、太平洋戦争について侵略戦争であったという認識を総理は有しておられるかという問いに対しまして、平成二年の予算委員会でございますが、私はそういう認識を持っておるという御答弁もございます。
 いろいろな御答弁があるということを申し上げておきます。

○吉川春子君 外務省も進出でいいんですね。

○政府委員(谷野作太郎君) 私どもは、この問題につきましては総理が述べられておるところをそのように外務省としても考えておるということだと思います。

○吉川春子君 文部大臣、じゃ確認します。侵略じゃなくて進出なんですね、日本がしたことは。

○国務大臣(鳩山邦夫君) 私はそう申し上げているわけではありません。つまり、実際の教育というものは教科書に基づいて行われているわけでございますから、教科書にいわゆる侵略的事実という事柄がいろいろ書かれていることについて、例えば高校の歴史の教科書には既に従軍慰安婦について触れているのが一社ありますね。また女子、女子が入っておったかわかりませんが、挺身隊について触れているものもあるわけですね。私どもはそういうような教科書を認めているわけですから、そこからすべてを考えていただきたいと思います。

○委員長(中村太郎君) 速記をとめて。
   〔速記中止〕
○委員長(中村太郎君) 速記を起こして。

○国務大臣(鳩山邦夫君) 私としては、この指導書の書き方を変えるつもりはありません。
 あえて解釈まで申し上げれば、この八七二ページにある「大陸への進出につながった」と書いてありますことは、その当時の歴史的な背景の中で、その日本の目もまた大陸の方へ行ったという非常に一般的な物事を書いてあるものと思っております。いろいろ大陸への利益と言うんでしょうか、利権というものもあったかもしれませんが、そういう日本の態度がその後の大きな戦争に結びついていったという前段階のことを書いている「進出」という言葉だと、私は文章からいえば理解しております。

○吉川春子君 驚くべき答弁を文部省からいただきました。
 最後に、私はもう一つ質問します。
 日本の社会科教科書の侵略戦争に関する記述は、そういう文部省の態度からいっても当然少ないんです、諸外国に比べても。文部省も過去これについてはさまざまな干渉を行ってきました。従軍慰安婦問題を含む戦争責任問題は教科書の執筆者、現場教師の実践の自主性を最大限に尊重して干渉しない、そのことは約束できますか。

○国務大臣(鳩山邦夫君) 教科書の検定の周期も長期化いたしまして、もちろん今回新学習指導要領に基づいて新しい教科書がつくられていくわけですが、我が国の教科書の編成の仕方、編成というか作成の仕方というものはいわば民間活力によっているわけでございまして、民間の方がお書きになる。もちろん学習指導要領に重きを置いて書いていただいて、それに照らしてでき上がったものを私どもが検定するということですから、いわば中身の大もとについては民間の発意のような部分があるわけでありましょう。
 したがって、先ほども申し上げましたように、例えば総理がいろいろ演説をされた事柄とか、あるいは時の話題とか、例えば盧泰愚大統領が日本にお見えになって日韓友好というような機運が高まりますと当然それらの記述が自然に多くなるとか、そういう傾向はあるわけで、それらについてはそういうものかというので文部省は検定をさせていただいているという事情があります。教科書はそのような形で時代とともに変化することは十二分にあり得ると思います。

○吉川春子君 大臣、端的に簡潔な御答弁で結構でございますが、今後、日本の侵略戦争についてあるいは朝鮮人従軍慰安婦について、教科書の中にも、今は一社ですけれども、多数登場するでありましょうし、現場の教師たちもこれを使って実践すると思います。そういうことについて、文部省は干渉しない、その自主性を尊重するということを一言おっしゃってください。

○国務大臣(鳩山邦夫君) それはそのとき判断をすることでございます。

○吉川春子君 不十分ですが、終わります。

 第123回国会 参議院内閣委員会 第4号 平成四年四月七日(火曜日)午前十時二分開会

【発言順】
 委員         翫 正敏
 国務大臣
(内閣官房長官)    加藤 紘一
 外務省アジア局審議官 竹中 繁雄
 委員長        梶原 清

○翫正敏君 加藤官房長官に質問をいたします。
 きのう四月六日、中国共産党の江沢民総書記が来日をいたしました。江沢民総書記は今回の訪日に先立つ記者会見において、この訪日の意義について、ことしは中日国交正常化二十周年であり、共同声明と友好条約の基礎の上に、未来を見つめて一層の中日・関係の発展を推進したいと述べておられます。日中両国間の一層の友好関係を深める上で、我々日本人における原点は何といっても日中間の近代における歴史の事実を直視し、日本が中国に対する侵略の非を率直に認め、謝罪をし、さらに日本の侵略によって被害を受けられた方々に適切なる補償をすること、また、過去の歴史を知らない若い世代の人たちに、その歴史の意味と教訓を受け継ぐための教育をすることであろうと私は確信をいたしております。
 そこで、私はまず、日本国の国会議員の一人として、中国の人々にこの件について深く謝罪をしたいと思います。また同時に、一人の日本人として、いや何よりも一個の人間として、日本の侵略行為に対する痛切なる反省に立って、戦争責任、戦後責任を全うしていく所存であることを表明いたします。
 江沢民総書記は、戦争賠償の問題について、日本軍国主義が中国侵略戦争を起こし、中国人民に大きな損害をもたらした、一部の戦争の残した問題は実事求是で厳粛に受けとめるという原則により、協議によって善処すべきだと言っております。また、江沢民総書記に先立って銭其シン外相も、中国への侵略戦争がもたらした複雑な問題。について日本政府は当然適切に処理すべきだと言い、事実上民間の賠償請求権を認める発言をしています。そして、江沢民総書記もまたこの外相のコメントを公的な見解だと言っているところでございます。また、昨日四月六日の宮澤首相との首脳会談においては、中国は前のことを忘れて未来を見る、日本は前のことを忘れず後の戒めとすることが重要であると、このような発言をしたということが報じられております。
 さて、日本のかつての侵略による被害に対する民間の賠償請求権の問題については、昨年一九九一年三月、中風の国会であります全国人民代表大会、全人代に建議が出されまして、昨年八月の海部前首相訪中時には海部首相あての請願書も出されているところであります。そして、この三月二十日に始まった中国の全国人民代表大会には法案として提出をされるところにまで民間の要求が高まってきているということが報道されております。さらには、この国会に当たる全人代だけではなくて、重慶市などのいわば地方議会においてもこの民間の賠償請求の動きは広がりを見せております。
 そこで、まず官房長官に総論的にお尋ねをしますが、昨年の全人代の建議に始まりまして、続いておりますこれら一連の動きにつきまして、その経過とか内容について、また、日本政府にあてて提出されたものなどについてはそれをどのように受け取っているのか、受け取った上で、現在政府としてはどういう処置や話し合いを進めているのかなとを含めて、概略状況の報告をいただきたいと思います。

○国務大臣(加藤紘一君) 総論的に申しますと、アジア・太平洋を初めとする関係地域の人々が過去の一時期、我が国の行為により耐えがたい苦しみと悲しみを体験されたことにつきまして、我々は深い反省と遺憾の意を表したいと思っておりますし、またこれはこれまで日本の総理大臣が表明されてきたところでございます。我々はこのこうした過去の過ちを直視し、歴史を正しく伝え、二度とこのような過ちは繰り返さないという戒めの心をさらに培って、養って、国際社会の一員としての責務を果たしていくという心構えが肝要なことだと思っております。
 なお、先生が今御質問になられましたここ一両年の中国におけるいろいろな動き、建議、その経過等につきましては担当者の方から、また御質問があれば詳細にお答えいたしていきたいと思いますが、いわゆる賠償等の問題につきましては、連合国及び戦後我が国より分離した地域との間の請求権の問題につきましては、我が国としてはサンフランシスコ平和条約、二国間の平和条約その他の関連する条約等に従って誠実に対応してきているところでございます。
 中国との関係について申しますならば、戦争にかかわる日中間の請求権の問題は一九七二年の日中共同声明発出後存在してないものと思っておりますし、かかる認識は中国政府も累次明らかにされているところでございます。

○翫正敏君 そこで、条約と外交保護権の問題につきまして少し立ち入って質問していきたいと思いますので引き続きお願いいたしますが、細かい条約の解釈などについて政府委員の方から答弁があっても結構だと思います。
 民間の損害賠償請求権の問題につきましては、例えば日ソ共同宣言第六項に、「日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五年八月九日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄する。」、こう書かれているところでありまして、この条約の法的解釈について、これは国家の持つ外交保護権が放棄されたということであって決して個人の請求権が放棄されたものでは。ないと、昨年三月二十六日の本内閣委員会において私の質問に対して政府は、外務省の当局でありますが答弁をしたところであります。
 それからまた、日韓請求権協定第二条の一項に、「両締約国は、両締約国及びその国民一法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題がこ「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」、こういうふうに述べられていることについても同様の答弁を政府は、外務省として衆参の予算委員会などでしておるわけであります。ちょっと読みますと、平成三年八月二十七日の参議院の答弁では、柳井俊二政府委員、「日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。」、こう答弁されておることで明らかなのであります。
 この国民の請求権ということに関して、日本と各国との戦後処理条約、賠償協定、経済協力協定において、その基本的な枠組みはもちろんサンフランシスコ平和条約でありますけれども、このサンフランシスコ平和条約においては、第十四条の(b)に「連合国は、連合国のすべての賠償請求権、戦争の遂行中に日本国及びその国民がとった行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権並びに占領の直接軍事費に関する連合国の請求権を放棄する。」、こう書かれてありまして、また第十九条の(a)には、「日本国は、戦争から生じ、又は戦争状態が存在したためにとられた行動から生じた連合国及びその国民に対する日本国及びその国民のすべての請求権を放棄しこ云々、こう述べられております。
 ところで、連合国側の請求権放棄の条項であるこの十四条の(b)は、一九五一年三月の原案におきましては、「戦争の遂行中に日本国及びその国民がとった行動から生じた連合国の請求権」、こうなっておりまして、「連合国」と「国民」という言葉が当初入っていなかったのでおりますが、それでは範囲が不明確であるということで、日本政府が主張したことによって「連合国及びその国民」という文言がわざわざ入れられたということであります。
 当時、一九五一年十一月九日の参議院の平和条約及び日米安全保障条約特別委員会においてこのことは明文において明らかにされております。参考までに読みますが、昭和二十六年十一月九日の参議院、西村熊雄政府委員、「その点は三月の原案では連合国の賠償請求権だけあったのであります。それに対しまして、私どものほうから、それでは範囲が不明確であると主張いたしまして、戦争遂行中日本国又は日本国民がとった行動から生じた連合国政府又は連合国民の請求権という文句が入った次第でございます。」、こういうように答弁しておられることからも明らかなことであります。このように条約の文言に「国民」という言葉が入っているかどうかということは実は大変重要な問題なのであり、厳密にせねばならないことであります。
 ところで、御承知のとおり、日中共同声明の第五項にはこのように述べられております。「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。」、こう述べられております。ここには「国民」という言葉はありません。したがって、民間の賠償請求権問題についての今までの政府の答弁に沿って理解するならば、まず、どう考えましても、被害者個々人が直接責任ある企業やまた日本政府に対して責任の範囲で請求するという、こういう権利があることは、これは、それが消滅していないということはもちろんのことでありますけれども、中国と日本との条約の場合、共同宣言の場合には、この被害を代表して中国政府が交渉することができるという意味での外交保護権というものすら中国政府は放棄しないということになると思いますが、どうでありましょうか。
 もちろん、現在中国政府は、被害者個々人が直接日本の企業や、またその他政府などに接触し交渉することには干渉はしないのだ、こういう立場をとっておりまして、賠償問題は解決済みであるという、先ほど官房長官が答弁になりました日本国政府の考え方と大枠においては立場を変えておらないことは私も理解をしておりますけれども、そういう意味では外交保護権を行使するというところに至っていないことも事実であります。しかし、江沢民総書記が述べておりますように、協議によって善処すべき問題だ、こう言わざるを得ないほどに中国の民間の中でのいわゆる民間賠償の要求が高まっているということも事実であろうと思います。
 かつて中国におきましては、日本の侵略の責任は日本軍国主義者にあるのであって日本人民にあるのではない、日本の人民に多大な負担をかけるわけにはいかない、第一次世界大戦後のドイツのように莫大な賠償を背負わされたことがかえってナチスの台頭を生むことになった、当時の日本に莫大な戦争賠償を請求することは、かえって日本軍国主義の復活につながるということで、戦争賠償を放棄したということを私は再三いろんなもので読んで聞かされているところであります。私はここに中国人の日本に対する、戦争に対する温情とか道義とかといったものを感ぜざるを得ないわけであります。
 サンフランシスコ条約の第十四条(a)にも、「日本国は、戦争中に生じさせた損害及び苦痛に対して、連合国に賠償を支払うべきことが承認される。しかし、また、存立可能な経済を維持すべきものとすれば、日本国の資源は、日本国がすべての前記の損害及び苦痛に対して完全な賠償を行い且つ同時に他の債務を履行するためには現在充分でないことが承認される。」、このように書かれております。ところで、現在の日本はどうかといいますと、サンフランシスコ条約締結当時、また日中共同声明発表当時の日本に比べれば、その経済的な力量は比べるもなく大きくなっているわけであります。その証拠に、その結果といいますか、これだけ経済大国になったのだからということで、人的な貢献も含めての日本の国際貢献のあり方というものが国会においても、また国民各層においても大きな議論になっているというのが現状であります。
 実際、日本は湾岸危機、湾岸戦争に際しましては、米国、多国籍軍に対して増税をしてまで莫大な金額のお金を拠出いたしました。このことに関しては前回のこの委員会でも私質問をいたしましたが、まだこの使途等について重大な疑義が残っておりますので、次の機会にはまた取り上げていかなきゃならないことと思っておりますが、それはともかくとして、私に言わさせていただくならば、日本がまず真っ先になすべき国際貢献とは戦争にお金を出すことでないのはもちろんのこと、海外に自衛隊を出すことではもちろんなく、これらの戦争の歴史というものを直視する中からこれらは一番してはいけないことであって、この国際社会に対して貢献するという立場からいうならば、まずかつての戦争の責任、戦後責任というものを果たしていくということがなければならないと思います。
 中国の全人代に提出されたことで明らかなように、むしろ日本は莫大な債務というもの、これを負っていると言わなければなりません。借りているものも返さずに、一体本当に国際貢献などということが成り立つものでしょうか。疑問に思うわけであります。
 そこで、加藤官房長官に、この中国の民間の戦争被害に対する賠償問題、日中共同声明及び日中平和友好条約という立場に立って、この条約と民間の戦争被害との関係の問題について、補償問題についてどのように認識しておられるか、お答えをいただきたいと思います。

○説明員(竹中繁雄君) お答えいたします。
 先生御指摘になりました日中共同声明でございますが、これは日中国交正常化という大目的の達成のために、日中双方の基本的立場に関連するいろいろ困難な法律問題があったわけでございますが、これを政治的に解決しょうということででき上がったものでございます。こういう経緯もございますものですから、この賠償問題に関する規定におきましても、こうした事情を反映した表現ぶりになっているわけでございます。日中共同声明第五項がサンフランシスコ平和条約における戦争にかかわる請求権に関する規定とは規定ぶりが異なっているというのも、その背景はそのように御理解いただければありがたいと思います。いずれにせよ、戦争にかかわる日中間の請求権の問題はこの一九七二年の日中共同声明発出後存在していないというのが我々の立場でございます。

○国務大臣(加藤紘一君) 今、審議官からお答えしたとおりでございます。

○翫正敏君 資料に基づいて、るる説明をして質問したわけでありますけれども、では、そのことについて逐次外務省の方から、サンフランシスコ条約のときには、最初「国民」という言葉が入っていなかったのを、日本政府が条約の協議の中で入れたということですね。こういう経過の問題についてどうなのか、それが一点。
 それからもう一点は、外交保護権の問題と条約との関係の問題。この二つについてもう少し厳密に答弁してください。

○説明員(竹中繁雄君) 私、条約の専門の者ではございませんので、必ずしも完全にお答えできるかわかりませんけれども、先ほど先生が引用されました、当時の条約局長の答弁ぶりから拝察しますところ、先生のおっしゃるような論点、「国民」という言葉を入れるかどうかということに関してはあったんだろうと思われます。

○翫正敏君 外交保護権。

○説明員(竹中繁雄君) 国際法上の請求権については、一般に私人は国際法上の主体とはなり得ないというのが国際法上の立場でございます。外国人が個人の資格で日本政府に対し、政府官憲の行為に基づく損害について補償を請求した場合に、これが認められるか否か、これは我が国の国内法上の規定によるということだと認識しております。

○翫正敏君 国民の請求権という、国民のという文言があるなしにかかわらず、まず確かめておきますが、従来の政府の見解や答弁を変更されるわけなんですか、変更されないんですか。さっき私読みましたでしょう。昨年八月二十七日の参議院の予算委員会における柳井政府委員の答弁の内容を読みましたね。変更されますか、されませんか。

○説明員(竹中繁雄君) 変更するつもりはございません。

○翫正敏君 それで、さっき言いましたように、一般的に、国民の請求権という言葉が入っていようがいまいが、一人の人が例えば被害を受けた、例えば労働賃金をもらってない、そういうようなものについて、そういうものは条約によってなくなるものではないという、これは日本政府の基本的な考え方であるということは私は理解しました、従前からそういう答弁をいただいておりますから。その上で、なおかつ私がここで問題にしているのは、日中共同声明の場合には、先ほどおっしゃっな言葉では、いろんな政治的な状況の中でこの共同声明ができ上がったわけでしょうけれども、中国側が一方的に日本に対する賠償を放棄するということを声明した、わけですけれども、その中に国民のという言葉が入っていないことの持っている重さ、これをどう受けとめるかと、こういうことをお尋ねしているわけですよ。ですから、外務省の方は結構ですから、官房長官の方でもう一度、政治的な配慮の中で請求権の放棄が中国から一方的になされたというそのことと、そして、その文章の中に国民のという言葉が入っていないということの重さ、これをやっぱり受けとめる御答弁をぜひいただきたいと思うんです。重ねてお伺いしますが、いかがですか。

○国務大臣(加藤紘一君) サンフランシスコ条約が締結されたときの条約交渉の経緯等につきましては、ちょっと私も専門でないんでわかりませんけれども、いずれまた専門家から答弁させる機会をいただきたい、こう思いますけれども、今、竹中審議官が申しましたとおり、いわゆる一九七二年の日中共同声明によりまして、いわゆる政府対政府、国家間の請求権、国家間の賠償に関する請求権は中国側が放棄された。そして、その際に国民が訴える権利をなくしたものかどうかにつきましては、いろいろこの国会で、過去累次御議論があったと思います。そして、条約局長等が答弁しておりますように、個人の訴権、訴える権利というものは存在するけれども、それを政府が外交保護権をもって日本側に要求する権利は中国側が放棄してくれたというふうに理解いたしております。
 したがって、外交上個人が持っております訴える権利、日本政府に訴える権利というのは、国際法上私人は主体上なり得ないわけでございますので、そうしますと、それはどう取り扱われるかにつきましては、先ほど竹中審議官が申したとおり、日本の国内法上の規定によって処理をされるという形になるものと理解しております。

○翫正敏君 それで、そういう政府の立場は、中国の方の現在の政府のお立場も、民間の人たちが被害の請求をすることについては干渉しない、タッチをしないということを言っておりますから、現在のところ、日本政府の立場と中国政府の立場は、そういう意味では同じでありますので、外交上の問題はこの点に関しては起きていないと、こう理解をしております。
 ただ、一方中国の国内においては、さまざまな形で民間の賠償を求める動きが数年前から起こっております。もっと前からもありましたが、後からちょっと時間があれば言いますが、近年非常に高まっております。そのことはやはり重く受けとめなければならないと、こう私は思うんですけれども、その中国における民間の賠償要求の動きが、全人代への建議等も含めて各地区でのいろんな団体の動き、日本でもいろんな地区におけるさまざまな民間団体の要求とか、動きというものが、もちろん公害問題とかさまざまなことがございますけれども、中国においてもそういう動きが活発になってきているということは、これは大きいこと、重いこととして受けとめるべきだと、こう思うんですが、その点に関していかがですか。どういうふうに受けとめておられますか。

○国務大臣(加藤紘一君) 同じ答弁になるかと存じますけれども、戦争賠償の権限を相手側の国が放棄し、その状況のもとで、それぞれの国の国民の皆さんがどういう訴える権利を有するか。この問題につきましては、この委員会でも議論になりました朝鮮半島出身の慰安婦賠償の問題等についても、我々の立場は累次申し上げてきたところでありまして、訴権は存在する。したがって、日本の司法当局にそれを訴える権利は有するけれども、しかしそれは日本国内法上によって処理をされていく。そして、中国のことについても同じように理解しております。
 今、先生が御指摘になりました、ことしの三月二十三日、中国の銭其シン外相が記者会見で述べられておりますように、戦争賠償の問題については、中国政府は一九七二年の日中共同声明の中で明確に表明を行っており、かかる立場には変化はないということは、従来中国政府が言っておりますように、戦争賠償の問題は中国政府としては放棄した。そして、これは我々は、個人の訴権に対して外交保護権を行使しないというものであろうと理解しております。

○翫正敏君 次に行きますが、外交保護権を行使しないということ、これが現在の中国の立場であることはよく理解をしておりますが、条約上できないということとは同じではないわけで、その点について先ほどから日中共同声明における「国民」という文言が入っていない問題について質問をしましたが、回答が平行線でありますので、さらに機会がありましたらまたお尋ねしたいと思います。
 ところで、さきにも触れました民間の賠償請求のこの件に関して、中国外相のコメントを報ずる三月二十四日の東京新聞がございました。これに対して日本の外務省の方の見解も同時に載せられておりましたが、それによると、外務省は、従来どおり政府間の賠償問題は決着済みであると、こう今おっしゃったようなことを述べた上で、「中国民間の賠償請求は中国政府に対して行われるべきだ」と、こういうふうに述べたと新聞には書かれておりますが、こういうふうにおっしゃったのかどうか、その点をお答えいただきたいと思いますが、私は、もし外務省がこのようなことを新聞に発表したということならばゆゆしき問題だと、破廉恥と言ってもいいんじゃないかと思うんですけれども、ちょっと事実関係を確かめさせていただきます。
 もし、中国に対しては折に触れて経済協力や経済援助をいろいろしてきた、こういうことを理由にしておられるのであれば、例えば日韓請求権・経済協力協定のような取り決め、これに類するものがいつどのような形で中国に対してなされたのか。そして、この国民の請求権という問題について中国との間で議論をして、そういうことについてどんな形で同意が得られたのか。そういうことを明確にしていただきたいと思いますし、そのような戦後処理というものも明確になされていないままに、中国の方が一方的にこの請求権を放棄したのだからということをいいことにして、中国人の民間人の要求は中国政府に請求しなさいというようなことは、これは先ほど恥知らずという言い方をしましたが、ちょっと別の言い方をしますと恩知らずであると、こういうふうに言わなきゃならないんじゃないかと思うんです。そういう意味で、経済協力というようなことではこの条約上の問題は解決しないのではないか、このように思います。
 それで、他の国の例をちょっと挙げておきますが、昨年八月、戦争末期にフィリピンで起こりました日本軍によるパミンタハン大虐殺から奇跡的に生き残って、そのときに銃剣で胸を五カ所刺された、後ろの方も刺されておられましたが、そのせいで戦後もぜんそくがひどくて仕事に満足につけなかったというガルシアさんという方が戦後の補償を求めて日本に来られましたとき、私が外務省の方に同行をいたしました。そのとき訴えをされるガルシアさんに対して外務省の担当の方は、名前が今問題なのではないので申しませんが、その担当の方は、日本とフィリピンの間の賠償問題は、サンフランシスコ条約に基づいて一九五六年日比賠償協定が結ばれ、日本の方から千九百八十億円お支払いをして解決いたしましたと、こういうふうに答えたわけです。
 そのときのやりとり、私まざまざと今も覚えておりますけれども、ガルシアさんは裸になられて自分の傷跡を見せられまして、そしてその上で、でも私は一ペソももらっておりませんと、こういうふうに言われて、涙ながらに自分の被害というものをお訴えになった姿が忘れられないわけであります。
 現在、日本のODAというものが大きな金額になっております。しかし、そのことがかえって軍事政権を支えることになってしまっているという批判があったり、また、人権抑圧や環境破壊につながっているのではないかという指摘などもされているところでありまして、ODAの問題もやはり出発点は戦争賠償というような問題の解決に始まっていると聞いておりますけれども、こういうことも順次今後取り上げていきたいとは思っておりますけれども、こういう一つの例として、今のフィリピンの方のお訴えを取り上げさせていただきました。
 そこで、ちょっと質問したいわけでありますが、日中共同声明で中国政府が放棄をしました戦争賠償とは一体どれくらいの額であるのか、これを政府としてどう考えておられるのか、お聞かせください。
 また、いかなる意味においても放棄されない個々人、民間の損害額というもの、これは外交保護権の行使は中国政府はしないわけでございますけれども、どういうふうに解決するかしないかの問題は別として、とにかく金額として算出するとどれくらいのものになると日本政府は考えておられるのか、お答えをいただきたい。もちろん被害額というもの、人命というようなものに関する被害額を金銭で計算するなどということは、これはできないことであるという、こういう前提にもちろん立っているつもりでございますけれども、あえてそれを換算するとどれくらいになるのか。中国の全人代の方に提出されているものによりますと、一国家間のものが千二百億ドルだと、米ドルでですね、こういうことになっております。民間のものが千八百億ドルであると、こういう建議がなされております。
 この金額について、官房長官は大き過ぎると思われるか、少な過ぎると思われるか、このくらいだと思われるか、御感想を述べていただきたい。全然わからないと言うならば、ぜひ綿密な調査をされるべきではないかと、そういうことが日中友好の今後ということについて大事なのではないかと、そう思います。
 それで、もしサンフランシスコ条約の第二十一条「中国は、第十条及び第十四条(a)2の利益を受ける権利を有し」に基づいて、サンフランシスコ条約の締結国でない中国も、日本が旧満洲などに残した在外資産などを処分する権利を得たのであるから、国民の請求権についてもサンフランシスコ条約に従って解決されたと、こういうふうな見解ではないと思いますが、もしそういう見解であるとするならば、まずサンフランシスコ条約の枠組みの中で、一九五二年四月に締結された中華民国政府、現在の台湾政府との日華平和条約それから日中共同声明、この関係も明らかにしていかなければならないと思います。日華平和条約においては、請求権問題はまた別の「特別取極の主題とする」と、こういうことになっていたわけですが、その特別取り決めがなされることがないままに、一九七二年九月、日中共同声明において日本の方から中華人民共和国政府を中国の唯一合法政府であるという承認をしたことによりまして、日華平和条約は失効したということであります。確かに日華平和条約には、「この条約及びこれを補足する文書に別段の定がある場合を除く外、日本国と中華民国との間に戦争状態の存在の結果として生じた問題は、サン・フランシスコ条約の相当規定に従って解決するものとする。」と、こういうふうに述べられております。
 これによって、日華平和条約はサンフランシスコ条約を準用することで中国の対日請求権というものが放棄されたと、こういう見方も学者の中にはあるようでありますけれども、それはやはり基本的に正しい理解ではなくて、条約自体に請求権問題は別の取り決めをするということが決められておって、それがそういうふうにできなかったというわけでありますから、この問題は別の定めがあってしかるべき場合と、こういう場合に当たるのだと思います。
 さらに、日華平和条約と同時に交わされた交換公文では、「この条約の条項が、中華民国に関しては、中華民国政府の支配下に現にあり、又は今後入るすべての領域に適用がある」と、こうされております。中国大陸全体が中華民国政府、現台湾政府の支配下に今後入るというようなことはとても考えられないことでございますので、日華平和条約の効力はそもそも大陸には及ぶものではないと、こう理解すべきだと思います。
 そういう日華条約と日中共同声明との関係について考えた上で申し上げたいのですが、そもそも日中共同声明は、他の協定などのようにサンフランシスコ条約の枠組みの中でなされたものと、こういうふうに考えるべきではないと思います。それは、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し一ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」とありますように、日中共同声明の歴史的起源はむしろ直接ポツダム宣言に立ち返っているものであると思います。
 そのポツダム宣言の第八項を見ますと、「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルベク」、こう述べられておりまして、そのカイ呈り言の関連箇所を若干引用してみますと、右同盟国、米国、中国、英国の目的は、日本国より一九一四年の第一次世界大戦の開始以後において日本国が奪取し、または占領したる太平洋における一切の島嶼を剥奪すること並びに満洲、台湾及び瀞湖島のごとき日本国が中国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還することにあり、日本国は、また暴力及びどん欲により日本国が略取したる他の一切の地域より駆逐せらるべしと、このように書かれております。これはもちろん国家の領土について言っているものでありますけれども、今日の私たちにおいては、かつての日本の侵略によって中国から奪い取ったものを中国人に返し、そして殺し尽くし、焼き尽くし、奪い尽くした、こういう中国人の命と物に対する補償というものは今後も全力を挙げて取り組んでいかなければならないと、こう思います。
 具体的に、三月二十四日の東京新聞に掲載されました外務省の見解の真意を外務省からお答えいただきますとともに、今ほど私の方から少しく問題提起をしましたことについて官房長官のお考えをお聞かせいただきたいと思います。

○委員長(梶原清君) まず、外務省から答弁を命じます。

○説明員(竹中繁雄君) 最初に、先生の方から、三月二十四日の東京新聞に外務省の関係者のコメントとして、民間人が賠償請求しているが、それは中国政府にあるとか、こういうことを言ったというようなことの報道があったが事実がと、こういう御質問がございました。
 先生の御指摘を踏まえまして、我々も調べてみたのですが、確かにかかる報道がなされていることは確認いたしましたが、外務省関係者のいかなる具体的発言を踏まえた報道であるのかというのは残念ながら承知しておりません。私ども知っている限りでは、こういうことを言っている者はおらないと……

○翫正敏君 ないと。

○説明員(竹中繁雄君) はい、ございません。
 それから、法律的な問題で、日本国に対する中国の賠償請求のもとは何かという御質問があったと思いますが、これに対する、日本国に対する賠償請求に係る問題については、政府の立場は、サンフランシスコ平和条約の第十四条並びに日華平和条約の十一条及びその議定書1の(b)により処理済みであるというのが法律的に見た場合の我々の立場でございます。

○翫正敏君 わかりました。
 官房長官の方から。

○国務大臣(加藤紘一君) 先ほど翫先生が、いろんな条約等があっても、個人が我が国政府に対していろいろ賠償請求する権利はあるだろうという趣旨のことをおっしやられました。条約等の解釈等につきましては先ほど述べたとおりでございます。個人の訴権はあるものと思っておりますけれども、それに対する外交保護権は放棄されたものと日中両国政府は理解しておるわけでございます。
 ただ、その際に、それぞれ一人一人のアジアの国の国民の皆さんに、日本はどう考えるかと、そして今日本は豊かになったじゃないかというような問題でございますけれども、その点につきまして、我々は、先ほど申したように過去の一時期私たちの国の行為によって耐えがたい苦しみと悲しみを与えたことについて深い反省と遺憾の意を心の中に持ち、そしてそういう過去の過ちを先生が御指摘されておりますように、直視して、その歴史を正しく伝えていかなければならない、そういう心構えを持つべきではないかなと思っております。
 そして、確かに一人一人の方に対する賠償の問題はいろんな議論がありますけれども、しかし、相手国政府も我々と合意したところでございます。そういう問題のあることはわかりますけれども、しかし、それは国と国との間でお互いに放棄し、そして今後我々は将来に向けて新しい関係を築き、そして日本はその国の民生安定、発展のために日本のでき得る限りの貢献をしていく、国全体に貢献していって、その国の民生の安定と福祉の向上に御協力申し上げるという形で戦後考えてきたものだし、また、今後も我々は考えていかなければならないのではないかなと思っております。

○翫正敏君 あと十五分残っていますけれども、自民党の方の出席もないようですので、しばらくちょっと留保させてください。速記とめてください。

○委員長(梶原清君) ちょっと速記をとめてください。
   〔速記中止〕
○委員長(梶原清君) 速記を起こして。

○翫正敏君 外務省の新聞コメントはあれはそういう発言はしてない、こういうふうに確認させていただきましたけれども、官房長官の方から、私が再三質問して、中国の方からの請求権の放棄という問題、それから「国民」という言葉が入っていないということの条約上の問題を含めて重みを尋ねておりますが、全然前向きなお答えがないので非常に残念に思います。これまで二十年の日中関係というものを今後さらに強固なものにしていくというような立場から考えましても、そして中国の国内において民間の賠償要求というのは高まってきているというこの実情を考えてみましても、やはり政府は従来のそういうかたくなな態度というもの、こういう恩義を否定するような態度はよくないと思います。中国の方は、暴に報いるに徳をもってすという、これは現在の政権の幹部の言葉ではないかもしれませんが、そういうことで対日請求権をすべて放棄したわけであります。
 そういうことの持つ重みを十分受けとめていくというのは、私ども日本の国会議員一人一人に課された課題でもあり、そしてそれは日本政府の重大な責務であると私は痛感するものであります。
 ところで、先ほどから触れております全人代に提出をされました建議、法案などにおきましては、日本の侵略による中国の民間損害賠償額千八百億ドル、こう算出されております。この額についてどう思うかという質問をしましたけれども、何らのそれについての具体的なお答えもありませんでした。もう一度聞きますから、ちょっと考えておいてください。
 約二十四兆円、こう現在の円に換算するとなるようでありますが、この内訳として、この建議書を見ますと五つのことが並べられております。海部前首相あての請願書の内容と同じということなので、この請願書の内容に即してこれを読み上げてみますと、一としまして、中国市民を罪なく虐殺したことに対して負うべき賠償、殺害あるいは負傷させた中国市民、負傷者、捕虜等については関係資料、統計によれば約一千万人である。二番、中国人を強制的に苦役に服させたことに対して負うべき賠償、関係資料、統計によれば約三百万人である。三番、有毒、化学及び細菌武器を使用して中国市民に重大な支障をもたらしたことに対して負うべき賠償。四番、中国の公的及び私的財産を略奪、破壊したことに対して負うべき賠償。五番、中国においてアヘン侵略を行って、中国市民に重大な損失を与えたことに対して負うべき賠償、こういう五点が挙げられております。
 ここで、この五点について一つ一つ詳しく確かめていかなければならないわけでありますけれども、本日の質問だけではとても時間も足りませんので、今後に順次譲っていきたいと思います。
 この二番にあります、中国人強制連行の問題についてだけ、それも中国東北部、いわゆる旧満洲地区などに中国大陸において強制連行、強制労働させられた例は今回はこれも除きまして、いろいろ除くのばかりでありますが除きまして、そして日本の国に強制連行された方が約四万人、この問題に限って一、二ちょっと例を挙げて確かめてみたいと思います。
 なお、そのほかの南京大虐殺の問題、七三一部隊の細菌兵器人体実験などの問題、毒ガス兵器の遺棄問題などについてもいろいろ資料を取り寄せて調べておりますので、今後順次取り上げていきたい、このように思っておるところでありますが、花岡事件について質問します。
 終戦直後の一九四五年、昭和二十年六月三十日、秋田県大館市の郊外で起きた事件である。日本政府は、戦争が激化する中で国内の労働力を補うためにおよそ百万人の朝鮮の人たちを強制連行し、さらに一九四二年、昭和十七年、東条内閣が閣議決定によっておよそ四万人の中国人を日本国内の百三十五の事業所に強制連行したのである。花岡事件はこのような中で、日本官憲や企業側の極度の拷問と虐待に反抗して、およそ七百人の中国人が蜂起した事件であります。そしてその結果四百十八人が死亡しました。彼らは、当時残虐行為を行った日本の企業に対して合計四十九億円の賠償と謝罪を要求しています。具体的には謝罪の要求というものは、この企業が行いましたので一応済んだかと思いますが、あと一人当たり五百万円の補償というものを要求し、また大館市と中国の北京市に、こういうことが二度と起きないようにという意味の記念館を建ててくれという三点の要求をしておるわけであります。
 これは、具体的には現在企業に対して中国の民間の団体がしておられるわけですから、これはこれでどういうふうに解決するかはそこの問題だと思いますけれども、我が国政府はこれにどういう関係があるのかどうかということをお聞きいたします。昭和十七年十一月二十七日、「華人労務者内地移入に関する件」を閣議決定した、これは事実です

○説明員(竹中繁雄君) 昭和十七年十一月二十七日、「華人労務者内地移入に関する件」という閣議決定がございました。

○翫正敏君 そうしますと、この強制連行の問題、中国人の強制連行、日本国への四万人の方だけの問題に絞って今取り上げているんですが、これについて現在中国の民間の人たちが団体をつくって、グループをつくって当該企業と交渉しておるというところでありますが、このことについて政府は傍観者であって、その様子を見ておればよいということでは済まないのではないか、日本政府に責任がある、こう私は思うんですけれども、どういうお考えでしょうか。官房長官お述べください。

○国務大臣(加藤紘一君) いわゆる昭和十七年の十一月二十七日の閣議決定のことでございますが、当時の国内の労働力不足を背景に中国人労働者の移入を目的として行われたものと思っております。この風議決定によれば、中国人労働者の移入は契約に基づいて行われることになっておりますが、当時の詳しい事情については今明らかではございません。この閣議決定を見てみますと、契約は二年であって、その後「二年経過後遺当の時期において希望により一時帰国せしむること」とか、それから「華人労務者の食事は米食とせず華人労務者の通常食を給するものとしこれが食糧の手当に付ては内地において特別の措置を講ずること」とか、「華人の慣習に急激なる変化を来さざる如く特に留意すること」ということなどがいろいろ書かれておりまして、この閣議決定そのものは移入されてきます中国人労務者の人に対してかなり配慮をした閣議決定になっております。
 しかし、当時どのような状況で、事実上どうであったかということにつきましては、終戦直前の話でございますので、なかなか詳しい事情はわかりません。ただし、当時の状況から、日本に来られた多くの中国人労務者が不幸な状態に陥ったことは事実であろうと思っております。
 また、花岡事件につきましては、今申しましたように、かなり不幸な状況にあったということにつきましては、政府として甚だ遺憾なことだと思っておりますが、いわゆる請求権等の問題につきましては、先ほど言いましたような政府の立場でございます。また、この事件については民間の訴訟事件として提起されておりますので、その流れを見ていきたいと思っております。

○翫正敏君 この事件だけではなくて、中国人強制連行というものは、極秘と判こを押してあります昭和十七年の閣議決定に基づいて行われたものである以上、政府に責任があるということをお認めになるかどうかが一点ですね。
 それからもう一点は、先ほど、民間の賠償請求額は中国の全人代の方に建議されておりますのでは千八百億ドルである、現在の日本円にして約二十四兆円であるということになっていますが、この額についてどういうふうに受けとめておられるか、これについて二点お答えください。

○国務大臣(加藤紘一君) 当時のいわゆる華人労務者、中国人労務者の移入に関しての状況がどういう事実関係であったかというのは、今具体的に明らかでございません。それが強制的に移動させられたんではないかという今の御指摘、そして、政府がそれについてどういう責任があるのかという御質問でございましたけれども、当時のこと、事実関係が明確でありませんので、なかなかコメントしにくいところだろうと思います。
 それから、いわゆる千八百億米ドルの訴訟の金額の高をどう思うかということでございますが、この童増という方が建議されております書き物、建議を見ましても、根拠がなかなかわかりにくい、そういうものは示されていないし、その数字についてはあえてコメントは申し上げないことにいたしたいと思います。

○翫正敏君 民間賠償と国家間の賠償を分けておられるというところに非常に厳密さがあると私は思うんですが、この建議を見まして。そういうものに基づいてさまざまな民間団体の要求や訴訟などが起こされている、こういうことだと思うので、そういうふうに分けているということの厳密さを、金額はさっきあなたお答えになったようによくわからないらしいが、そういうようなことをどう思われるかをお答えいただきたい。
 それから、強制連行の問題については、当時の事実関係が明確でないので今のところ明確な答弁はできないと、こう理解をしましたが、その場合、当然政府として事実関係をさらに詳細に調査をして責任が明らかであるということが明確になればその立場に立って対処すると、こう理解してよろしいか、二点をもう一度お伺いして、これで終わります。

○国務大臣(加藤紘一君) 戦争賠償責任と、それから中国人民と財産に対する賠償請求と、これを分けていることが条約上、法律上どういうことになるのか、ちょっときょう条約の専門の人間が来ておりませんので、いずれまたその際には申し上げさせていただきたいと思います。
 それから、先ほどの中国人労務者の強制移入という、連行とおっしゃいましたけれども、この問題につきましては、事実関係は明確でございませんが、いずれにしましても、個人の国に対する請求権というものは一九七二年の日中共同声明によって放棄されたものだと、それに対する外交保護権は放棄されたものだと思っております。

○翫正敏君 とにかく調査してください。事実関係を調査してください。これいいですか。先ほどは事実関係が明確でないということだったから、事実関係だけは調査してください。事実関係も調査しないということじゃないでしょう。

○国務大臣(加藤紘一君) いずれにしましても、当時の状況というのは終戦直前の混乱期でございますので、当時の詳しい事情についてはなかなか明らかにするのに困難なところがあると思います。

 第123回国会 参議院予算委員会 第13号 平成四年四月八日(水曜日)午前九時一分開会

【発言順】
 委員          清水 澄子
 外務省アジア局長    谷野 作太郎
 外務大臣        渡辺 美智雄
 外務省北米局長     佐藤 行雄
 内閣総理大臣官房審議官 高岡 完治
 外務省国際連合局長   丹波 實

○清水澄子君 きょうは私は、戦後補償における個人の請求権並びに政府の基本的な認識やその姿勢についてお尋ねをしたいと思います。
 これまで政府は、戦争犠牲者または日本の植民地支配によって生じました被害者個人の請求権及び補償問題を国家間の外交保護権の放棄によってもうすべて解決済みという形で処理をされてきました。しかし現在、韓国並びにアジア諸国からこの日本の戦後補償のあり方を問う声が高まってきたというその理由は、これはやはり米ソ冷戦が崩れてきた、そういう中で特にアジアの民主化が進んできた一つのあらわれだと思いますし、それから国際的に見ましても非常に個人の人権の拡充とか国際人権保障の規範という観点から、いろいろ過去の問題のあり方それから今日の人権という立場からすべての政策を重視していくという、そういう非常に大きな世界の民主化という流れがあると思うわけですけれども、政府はそういう問題についての非常に基本的な認識、施策への転換がおくれていると思います。私はきょうはそうした人権の視点から、これまでの戦後補償や請求権問題についてお尋ねをしたいと思います。
 そこで最初に、最近中国におきまして旧日本軍の南京虐殺など民間補償の声が高まっておりまして、全人代で賠償請求の法案提出の動きとか、地方の人代までもそういう動きが起きているわけですけれども、政府はこうした動きをどのように認識しておられますでしょうか。

○政府委員(谷野作太郎君) お答え申し上げます。
 ただいま御指摘のように、中国におきましては全人代に向けましてそのような一部の方々の動きがあるということは私どもも承知いたしております。正式の議題として全人代で議論してほしいということだったようでございますけれども、御案内のように全人代はもう終了いたしました。
 中国側の内々の説明でございますと、二千人を超える代表の中のごく一部の三十名ぐらいの方々の動きだったということでございます。また、毎年、全人代になりますと数多くの、千を超えるそのような要請がなされるということを聞きました。その中の一つであったということでございます。
 いずれにいたしましても、全人代は終わりまして、議案にはならずに終わったということでございます。
 それから、改めて申し上げるまでもございませんが、中国政府との間では、この種のことも含めて日中間の請求権の問題は七二年の共同声明発出以降存在していないということは、私どもの認識のみならず中国政府の認識でもございます。

○清水澄子君 昨年八月に海部首相が訪中されました際に、この民間賠償の原案となりましたそういう請願書が出されたわけですけれども、そのポイントはどういうものでしょうか。

○政府委員(谷野作太郎君) 昨年八月に海部総理が御訪中されましたが、その前に、訪中に先立ちまして中国の市民の方々百八名の方の連名で、北京の共同通信を通じてでございましたが大使館に送付されてきたものでございます。
   〔委員長退席、理事井上吉夫君着席〕
 内容は、長いものでございますけれども、要するに日本の軍国主義によって罪なく殺害されたり迫害された我が国の民間の幾多の市民の被害要求は放棄されていない、そういう立場に立っておりまして一九三一年から四五年までの間の中国の民間のこうむった損失千八百億ドルの賠償を求めるということでございます。算出の根拠あるいはその法律的な根拠、その点は必ずしもいただいた書簡によりましても明らかではございません。

○清水澄子君 日中共同声明は、中国は「日本国に対する戦争賠償の請求を放棄する」とありますし、日韓条約のように、国及びその国民の間の請求権とはなっておりませんし、さらに日韓条約のように「完全かつ最終的に解決」ということはうたわれていないわけです。
 ですから、こういう場合に、中国の国民からの賠償請求がありました場合、その扱いは韓国とおのずと異なってくるということになると思いますが、その点の御見解を外務大臣、お聞かせください。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 私は日本の外務大臣ですから、日本の国益も考えなければならぬのです、日本の国益も。政府に莫大な金を払え払えと言うことは日本国民に払えと言うことでございますから、日本国民がそういうコンセンサスであればそのように大きな動きになるかもしれません。しかし政府間ではこれはもう解決済みということになっておりまして、そういうことで、我々としては友好関係を促進するために中国に対しましては円借款を初めエネルギー借款その他のいろんなことで今後とも大いに協力してやっていこうと、そういうようなことをやっておるわけであります。
 しかし、中国の中の動きを我々はとめることはそれはできません。できませんが、しかし国家間の問題を大きくそこに切り傷を開いていくというやり方は私は賛成いたしません。

○清水澄子君 その国益本位の国家主権の枠組みという考え方をむしろこれから点検し直さなきゃならないのが今日の時代だと思うんです。しかしそれをすべて補償金という形で私は申し上げているのじゃありません。ですから、どのように認識されているかというのは、こういう問題が出てくる背景、そしてどれほど私たちは過去の克服に対して誠意と謙虚さを持って対応してきたかというその問題を認識することが私は重要だと思っていたんですけれども、相変わらず金が幾らかかるとかそういうところだけ、やはりそこに私は一番アジアの人々からの不信があると思います。
 そこで、三月二十四日の東京新聞に、そういう対日賠償請求に対して、外務省はそういう問題は中国政府に行えばいいということの見解が出ているわけですけれども、これは本当にそうなんですか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) それは国民一人一人とどの国においても日本政府が交渉をしたりどうこうすることは不可能なんです、実際問題として。したがいまして、国家間の取り決めというものはいろいろございましょうが、それはそれなりに国と国との間では問題を解決していかなければいつまでたっても国交正常化というようなことはできません。したがって、長い間、十数年かかってできなかったものを解決するためにはお互いにある程度我慢し合うところは我慢し合ってやらなければならない、大きな大乗的見地に立ってやっておるわけであります。
 しかしそのことによって、我々は戦争の被害でいろいろな御迷惑をかけたことについて、それはまことに申しわけない、二度と再びこういうことを起こしてはならない、そしてまた復興のためにはできるだけの御援助あるいはそういうようなことをやってまいりましょうということでやってきておるわけでございますので、国益というのは政府だけの話じゃなくて国民全体の問題でございますから、我々は今後とも日中間の問題については誠心誠意仲よくやる方向で、またそれがいろんな国の国情によってやり方は違いましょうけれども御協力を申し上げてきたところでありますし、今後もそういう方針でやってまいりたいと考えております。

○清水澄子君 それでは次に、アメリカ、カナダの日系人強制収容に対する謝罪と補償はどのような方法で個々人に対して行われたのか、説明いただきたいと思います。

○政府委員(佐藤行雄君) これはアメリカ及びカナダそれぞれの国の事情に基づいたことでございますので事実関係だけ簡単に申し上げますが、アメリカにつきましては、いろいろ経緯がございましたけれども、強制移転収容された日系米人、日系永住者に対して議会が謝罪をいたしまして、そして一人当たり二万ドルの補償金を支給するということにいたしております。
 カナダにつきましては、これは政府が不公正な取り扱い、人権侵害ということを認めまして、一人当たり二万一千カナダドルを支給するということになっております。

○清水澄子君 個々人にどういうふうな手渡し方がされましたか。

○政府委員(佐藤行雄君) 外国のことですので我々それまで詳しくは承知しておりませんが、アメリカについては、一人一人に小切手を出して、それとともにブッシュ大統領からのメッセージが添えられていると聞いております。カナダについては詳しく承知しておりません。

○清水澄子君 これが日本の外務省ですね。驚きました。アメリカもちゃんと大使館に、こちらに来て、そして日本の国内に申請をしてくださいということでいろんな広告を出しましたし、カナダなんかは日本の国内の九カ所に、ホテルに申請する場所を設置して、そして広告まで出しているわけです。そして一人一人にちゃんとアメリカの場合はブッシュ大統領の手紙をつけ、カナダもマルルーニ首相のサインの入った手紙をつけているわけです。
 その中にははっきり、金額や言葉だけで失われた年月を取り戻して痛みを伴う記憶をいやすことはできません、しかし道徳的な意味だけでなく実体的な方法でこの問題を処理することが我々の決意を象徴していますからどうぞ受け取ってください、そういうふうにアメリカもカナダもみずからの行為の誤りを認めて、そしてそれぞれ個人に対して誠実に手渡していくというそういう対応をされております。
 ですから、そういうことは外国のことだからわかりません、こういう言葉で、これが外務省の姿勢でよろしいでしょうか。

○政府委員(佐藤行雄君) 私が申し上げましたのは基本的に米国民、もちろん日系人、永住者も入っておりますが、基本的に米国の政府あるいは米国が米国民に対して、またカナダがカナダの日系人及び永住者に対して行ったことでございますので、我々として余り有権的にいろいろなことをここで御説明する立場にはないということでございます。

○清水澄子君 人間の誠意と配慮のないところに人権尊重はありません。そしてまた戦後補償というのはそういう配慮と誠意が必要なわけです。そういう中で、皆さんのところに行っているかどうか知りませんけれども、日本が台湾人に元日本兵の弔慰金支給で出されたこの書類と、その一つ一つに謝罪をつけブッシュ大統領やカナダ首相のサインをつけて皆様方にどうぞ私たちの誠意を受け取ってくださいというそういう文書を見たとき、こういうことは外国のことだからいいんですか、そういう台湾の人たちに。ただこれは一枚の通告でしょう。お金を払うようになりました。こういうところに非常に戦後補償とかこういう問題についての配慮と謙虚さが足りない、ここをどう直していくかということで、人権という問題を大切にする日本の姿勢をやはりつくり直す必要があるということで私は主張しているわけですが、これでもまだ外務省はそんなことは勝手だとおっしゃるんですか。(「日系人はアメリカ人なんだ」と呼ぶ者あり)

○政府委員(佐藤行雄君) 台湾に対する問題は、私は担当でございませんので承知しておりませんけれども、アメリカとカナダとの比較において議論をされておられましたけれども、私が先ほど申し上げましたのはアメリカもカナダも基本的にはアメリカ国民である日系人、カナダ国民である日系人に対する補償ということを基本に置いて考えたものでございますので、その点において我が国としてあるいは私の立場から御説明する立場にはないということを申し上げたわけであります。

○清水澄子君 日系人だけではなかったんです、ちゃんと日本国籍の人も半分いたわけです。ですから、そういうことすら学ぼうとしない、その基本姿勢がアジア諸国から問題になっているんだということはもっと外務省自身が認識をしていただきたいと思います。外務大臣、どうお考えになりますか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) ただいま北米局長が答弁したとおりであります。

○清水澄子君 日本は国際人権規約を批准しているわけですけれども、B規約二十六条は法のもとにおける平等の権利を規定しているわけです。しかし、政府はシベリア抑留者に対して日本人には慰労金を払って首相の賞状を渡しているわけですけれども、在日朝鮮人は同じようにシベリアで八年間抑留させられて、そして日本の兵隊としてそこで抑留されてきたわけですけれども、この人にはやはり国籍条項を求めて補償を除外しているわけです、これらの手当を。金昌錫さんという方がその本人ですけれども、それで九一年に日弁連は政府に対して是正の勧告を出しているわけですけれども、政府はどのような措置をなさったでしょうか。

○政府委員(高岡完治君) 先生ただいま御指摘のように、昨年の五月に、私ども、内閣総理大臣あるいは平和祈念事業特別基金の理事長あてに日弁連の会長名で勧告をいただいております。
 その勧告の趣旨は、繰り返しになりますが申し上げますと、基金法の四十三条それから四十四条の規定する戦後強制抑留者またはその遺族に対する慰労品の贈呈および慰労金の支給について、日本国籍をかつて保有し、かつ引き続き日本に在住する旧植民地出身者に対してもその適用がなされるよう運用を行い、必要な立法措置を講じられたいという内容のものでございます。そういう勧告をいただきまして、私ども総理府といたしましてはいろいろと慎重に検討を行ってきたところでございます。
 まず、最初の四十四条でございますけれども、一連のいわゆる戦後処理問題をどう処理していくかということで、私どものこの慰労金の制度というのはいわば一番最後の制度として発足をした制度でございます。その発足に際しましては、国が戦後強制抑留者の皆様方の御労苦に対して慰謝の気持ちをあらわすという趣旨で支給したものでございまして、それに際しましては、援護等を初めとする戦後処理制度に関します他のいろいろな措置との均衡も考慮をいたしまして、この国籍を持っているといういわゆる国籍条件を付加したものでございます。
 それから四十三条につきましては、慰労品の贈呈ということでございます。日弁連の御勧告のように、確かに法律上は国籍要件を規定しておりません。しかし、この慰労品の贈呈につきましても慰労金と同様に、大変厳しい気象条件のもとで大変な御苦労をされました方々に対して国として慰労の趣旨といいましょうか、慰労の気持ちをあらわすために品物をお贈りするという制度でございまして、同じ法律の中に慰労金という制度もございますものですから、そういった制度、先ほど申し上げました平和祈念基金制度以外の制度におけるいろいろな取り扱いの仕方といったものも加味をいたしまして、運用上国籍要件を加味したものでございまして、私どもは、関連する諸制度との均衡から、こういう国籍要件を付加したものはいろいろな御意見はあろうかとは思いますけれども妥当なものではないかと考えておるわけでございます。
 それから、この日弁連の勧告の中では憲法論だとかいろんなことがございますけれども、私どもといたしましてはこういう慰労金の趣旨のようなもので出されるものにつきまして直ちにこれが憲法第十四条の規定に違反するものであるというふうには理解をしていないところでございます。どうぞ御理解を賜りたいと存じます。

○清水澄子君 カナダやアメリカの例を挙げましたとき非常に自民党さんはやじを飛ばしましたけれども、向こうの皆様方がおっしゃっているのは、こういう過去の不正な過ちに対して償いをするときは言葉とか法を乗り越えなきゃならないということを言っております。今もただ法律の問題だけをおっしゃっているわけですけれども、政府は九二年十二月に国連人権規約委員会に対して報告書を提出しております。その内容を読みますと、外国人の権利については参政権以外はそれは日本国民と同じ待遇が確保されている、こういう報告書が出されているわけですけれども、これは事実に反しているのではありませんでしょうか。
 さきのシベリア抑留者の在日朝鮮人の除外、また埼玉県の陳石一さんとか神奈川県の石成基さんとかまた大阪の鄭商根さんたちは、やはり戦傷病者戦没者遺族等援護法から、同じ日本軍として傷疾軍人になっているんですが、適用を除外されているわけですね。これについて今異議を申し立て、裁判で争っているわけですけれども、そういうことがこの報告書では、事実から反したことで平等になっているということを書かれているわけです。
 私は、この秋、国連人権規約委員会で審査される前に、事実に反するこの報告を修正される必要があると思いますけれども、ぜひ大臣、御意見ください。

○政府委員(丹波實君) 先生にお答え申し上げます。
 おっしゃるとおり、昨年の十二月十六日にいわゆるB規約第四十条に基づきますところの第三回目の報告を行っております。その中で、先生がおっしゃったとおり、「外国人の権利については、基本的人権尊重及び国際協調主義を基本理念とする憲法の精神に照らし、参政権等性質上日本国民のみを対象としている権利を除き、基本的人権の享有は保障され、内国民待遇は確保されている。」という回答を行っております。これは、参政権とか公務員となる権利のような、もともと外国人に当然には認められないような権利を除きまして、外国人も日本国民と同様に基本的な人権を保障されているという趣旨を述べたものでございます。
 先生も御承知のとおり、B規約の第二十六条は、B規約人権委員会が先生の御承知の例のフランス国のセネガル軍人の年金問題で見解を示したときに、その見解の中に、この二十六条の法のもとの平等の問題であっても、合理的かつ客観的な基準で差異が設けられることは許容されるという趣旨の見解と読み取れるものをもう出しておるわけでございます。御指摘があった点、すなわち基本的人権の保障について、参政権等の権利以外の、内外人が同様に扱われているという以外につきまして、参政権等の権利を除きますと内外人が同様に扱われているという趣旨を述べていることにつきましては、先ほど申し上げたような合理的な差異の範囲内にあるという考え方でございますので、何ら記述はしていないということでございます。
 問題は、それでは何が合理的かつ客観的な基準かという点につきましては、それぞれの処理を行った関係省庁からその考え方を御聴取いただきたいというふうに考えます。
 以上でございます。

○清水澄子君 本当に官僚の皆さんというのは、ただ法文の文言を読み上げるだけなんですね。現実にその人たちが日本の国内で生活の保障もなく人権がじゅうりんされているという問題をどうするかということを私は申し上げているのであって、そういう点で、何も法律上問題ありませんと。それは、法律はそれをやらないことを決めているわけですから、問題があれば改正していく、見直すということが、私はこれからの二十一世紀の人権とか環境とか軍縮を中心にしたそういう世界の流れの中に日本が本当に国際的な協力、そしてそれこそ名誉ある地位を獲得することだと思うものですから、そのことをお尋ねしているわけです。
 大臣、どうぞ御見解を述べてください。

○国務大臣(渡辺美智雄君) 個々の問題を取り上げますと、いろいろな矛盾点といいますか、いろいろ気の毒なケースとかそういうのは私は必ずあると思うんです。あると思うんですが、そういうことを言っておったらなかなか条約の加盟もできないとか、そういう問題、どちらをとるかということになりますと、小異を捨てて大同につくということか、あるいは小異を残したままで大同につくということか、いずれにせよ立場を決めなきゃならないことが往々ございます。
 例えば日ソの関係も同じでございまして、鳩山内閣のときに共同宣言を発して国交の、一応の外交関係の正常化を図る。そのときも、ソ連側は一方的に日本の中立条約を破って進撃してきて、そして日本人を六十万人も拉致して、それで五万人近くが強制労働と飢えと寒さの中で死んでいった、これは事実でございますから、そのときの賠償金を全部よこせ、人道上当たり前ではないかという主張が正しいんです、これは。正しいんだけれども、しかしそれをやっておったのでは日ソの国交正常化ができないということになってあの共同宣言が生まれたということでありますから、個々の問題を取り上げるといろんな問題が実はございます。
 そういうようなことで、しかしながらシベリアに抑留されて何の補償も受けなかった人たちはお気の毒ではないかと、これも事実。したがって、それはソ連から本当はもらうべきものを放棄をしてしまった、現実は。しかし日本政府は何もしないということで大きな国内の問題になって、我々といたしましては、それに今総理府が説明したような慰謝の行為、それをやって、そしてひとつそれで勘弁してくださいということをやってきたということでございますから、それらの点も並行的にバランスをとって考えていただきたい、そう思うのであります。

 第123回国会 衆議院法務委員会 第6号 平成四年四月十日(金曜日)午前十時開議

【発言順】
 委員      高沢 寅男
 外務省アジア局
 北東アジア課長 武藤 正敏
 法務大臣    田原 隆
 法務省民事局長 清水 湛

○高沢委員 私は、前々回のこの法務委員会におきまして、戦争の終わるとき、長崎県の三菱重工の造船所で働いていた金順吉さんという徴用工の人の賃金の未払い問題、今その方がまた日本へやってきて支払いを求めている、この問題についてお尋ねいたしました。それで、なお若干そのことでお尋ねしたいことがありますので、きょうこれからその質問を申し上げたいと思います。なお、きょうは主として外務省関係でお尋ねするようになると思いますが、もちろん法務省関係、また大臣の御見解を求めることもありますから、よろしくお願いいたします。
 まず初めに日韓請求権・経済協力協定、一九六五年の協定でありますが、この協定によって日韓両国はお互いに持っている請求権を相互に放棄するということを約束し合ったわけでありますが、そのときに、そのお互いに放棄する請求権、日本から韓国に対してはこういう、こういう、こういう請求権がある、ところが韓国から日本に対してはこういう、こういう、こういう請求権がある、それぞれ具体的に挙げて、そしてそれを放棄するというふうな形にこの協定ができ上がったのかどうか。そういう具体的な放棄する請求権をお互いに確認し合ったということがどういうふうに実態としてなっているのか。初めに、まずそれをお尋ねしたいと思います。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 六五年の日韓請求権・経済協力協定でございますけれども、これによりましてどういうものを放棄したかという御質問でございました。
 韓国側から、交渉の過程におきまして対日請求要綱、いわゆる八項目というものが出てまいりまして、そして交渉を行ったわけでございますけれども、日韓交渉におきましてはこの日韓間の財産・請求権問題は完全かつ最終的に解決済みということでございまして、いわゆるこの八項目を含めましてすべて解決済みということでございます。
 ちなみに八項目、これをお読みいたしますと、
 第一項朝鮮銀行を通じて搬出された地金と地銀の返還を請求する。
 第二項 一九四五年八月九日現在の日本政府の対朝鮮総督府債務の弁済を請求する。
 第三項 一九四五年八月九日以後韓国から振替又は送金された全員の返還を請求する。
 第四項 一九四五年八月九日現在韓国に本社、本店又は主たる事務所があった法人の在日財産の返還を請求する。
 第五項 韓国法人又は韓国自然人の日本国又は日本国民に対する日本国債、公債、日本銀行
券、被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請求権の弁済を請求する。
 第六項 韓国人(自然人及び法人)の日本政府又は日本人(自然人及び法人)に対する権利の行使に関する原則。
 第七項 前記諸財産又は請求権から生じた諸果実の返還を請求する。
 第八項 前記の返還及び決裁は協定成立後即時開始し、遅くとも六カ月以内に終了すること。ということになっております。
 繰り返し申し上げますけれども、六五年の日韓請求権・経済協力協定によりまして解決されましたものは、こういったものも含めましてすべて完全かつ最終的に決着済みということでございます。解決済みということでございます。

○高沢委員 今韓国側からのそういう八項目の御説明がありましたが、この際参考のために、日本側から対韓国でそれに類するような、これはこういう請求権があるよというようなことの提示はあったのかどうか。これはどうでしょうか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 交渉の過程において一時請求したことがございましたけれども、ただ、日本側の財産につきましては連合軍によって接収されておりましたので、具体的にこうこうこうということは現時点、現在資料として持っておりません。

○高沢委員 今完全かつ最終的に清算されたということが説明があったわけですが、どうも最近の韓国と日本との関係を見ますと決して完全かつ最終的ではない、こう思わざるを得ない動きが次々に出ているわけであります。その一例として、一昨年韓国の盧泰愚大統領が来日されましたが、その際に、日本で、広島、長崎で原爆を受けた被爆の韓国の人たちに対する、これは補償というべきなのか何かあれですが、被爆者援護基金として四十億円を支出するということが日本の政府の決定として決められたわけであります。こういうふうな被爆に対するお金を四十億出すということになった、この場合、さっきの協定の完全かつ最終的に決着した、もう何もないんだということとこのことの関係は一体どうなるのか、お聞きしたいと思います。
  〔委員長退席、田辺(広)委員長代理着席〕

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 在韓被爆者に対しましては八一年から八六年まで渡日治療を実施してまいりました。その後、九〇年五月に盧泰愚韓国大統領訪日の際に、当時の海部総理より今後総額四十億円程度の支援を行うとの意図表明を行ったわけでございます。これに基づきまして、治療費の支援ですとか健康診断費支援それから健康福祉センター建設費支援を行うことにしたものでございます。これまでも繰り返し御説明申し上げましたが、日韓間の財産・請求権というのは六五年の日韓請求権・経済協力協定によりまして法的には解決済みでございます。
 在韓被爆者の支援につきましては、先ほど御説明いたしましたとおり、これは歴史的な経緯を踏まえまして、原爆という特殊な原因で後にその後遺症等で悩んでいらっしゃる方々がいらっしゃるわけでございまして、こうした在韓被爆者の方々に対しまして医療面での支援を人道的な観点から行うことにしたものでございます。したがいまして、こうした支援は補償といった性格のものではございませんで、請求権協定の枠組みに影響を与えるものではないということでございます。

○高沢委員 もう一つ具体例を挙げたいと思います。
 本年の一月二十一日、韓国の政府は各省庁の実務責任者会議を開いて、日本政府に対して従軍慰安婦問題での徹底した真相解明とそれに伴う適切な補償などの措置をとることを求めるということを決定したわけですね。この韓国政府の決定によって、外交ルートで今まで日本の政府、外務省に何かこのことについての申し入れがあったかどうか、まずそれをお聞きします。

○武藤説明員 韓国政府が一月二十一日に、日本に対しましていわゆる従軍慰安婦問題の真相究明、補償、歴史教科書への反映等を求めること及び韓国政府内に本件問題についての合同対策班を設置すること等を内容といたします挺身隊問題に関する政府方針というものを発表したことは承知しております。私どもも報道資料等を入手してこれは承知しているわけでございますけれども、これまでのところ、韓国側からこの方針に基づいた申し入れは来ておりません。

○高沢委員 今までのところは来ていないということでございますが、しかし私は、これからそういうものは来る可能性がある、こう見るべきではないかと思います。
 そういう要求が来たときに、日本の政府の対応としては、それは日韓請求権協定でもはや完全かつ最終的に決着は済んでいるんだ、だからそういう問題はもはやお聞きする余地はありませんというふうな対応をとられるのかどうか、これはいかがですか。

○武藤説明員 韓国側からこうした申し入れが来た場合どういうふうに対応するかといった仮定の質問にお答えするというのは、必ずしもこの場では適当ではないと思いますけれども、いずれにいたしましても先生おっしゃいましたとおり、日韓間の財産・請求権の問題は、日韓請求権・経済協力協定により完全かっ最終的に決着済みでございまして、この点については韓国政府の方でも御理解くださっているものと考えております。

○高沢委員 私は、そういうふうな理解を韓国政府がもししていればこの種の要求は出てこないはずだと思います。しかし、この種の要求が出てくるということは、あの協定の決着済みということではこれは決着できない問題というふうに先方は考えているからこの要求が出たのだろう、こう思うのであります。先ほど原爆被爆者については、この請求権の協定の問題とは別に人道上の措置として、非常に特殊な歴史的経過があったから人道上の措置としてやった、こう言われるのでありますが、私はこの従軍慰安婦などというケースの場合はなおさら特別な歴史的経過を持っている、なおさら人道的な措置をしなければならぬ、こういう性格のものではないかと思うのであります。しかし、そういうことに対して既に決着済みということで対応される考えか。あなたは外務大臣でないからそこまで聞くのはあるいは酷かもしれませんが、しかし条約上の考えとしてはもはや決着済みということでそれは通すのだ、こういうお立場がどうか、それを聞きます。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 昨年の八月十七日に、韓国の李相玉外務部長官が定例記者会見におきまして、政府レベルにおいては一九六五年の韓日国交正常化当時に締結された請求権及び経済協力協定を通じてこの問題が一段落しているため、政府がこの問題を再び提起することは困難であるというようなことを言っておられます。先ほどから申し上げておりますとおり、この問題につきましては、六五年の協定によりまして決着済みというのが法的な立場でございます。

○高沢委員 そういたしますと、私、前回のときもお尋ねしたのでありますが、この問題について渡辺外務大臣は、これは何らかの措置は必要である、こういうふうな発言をされているわけでありますが、この決着済みという立場と何らかの措置が必要であるということとの相互の関連は一体どうなるのか、あなたの立場でひとつ理解を示してもらいたいと思います。

○武藤説明員 渡辺外務大臣が国会等の場におきまして、いわゆる従軍慰安婦の方々に対し申しわけないというお気持ちを目に見える形で何かするのが政治ではないかといった趣旨の御発言をなさっていらっしゃるということは、私どもとしてもよく承知しております。これは大臣の政治家としてのお考えを述べられたものだと思います。
 いずれにいたしましても、いわゆる従軍慰安婦の方々の補償の問題につきましては、現在訴訟が行われておりますし、この訴訟の行方を見守っていきたいと考えております。さらに、まず、先般宮澤総理が韓国を訪問されましたときも、事実関係について誠心誠意調査をしていきたいというふうに言っておられますので、私どもとしてもこの調査に誠心誠意専念したいと考えているところでございます。
  〔田辺(広)委員長代理退席、委員長着席〕

○高沢委員 これから大臣に対するお尋ねになりますが、日本と韓国との関係で言うと、それこそ植民地支配をした経過であるとか、それが第二次世界大戦につながっていった経過であるとか、非常に特殊な歴史的な経過があります。そして、今次々にこの種の問題が出てくるということは、そういう歴史の経過の中から生まれてきているということであって、協定ではもう済みましたというふうに幾ら言っても、しかしやはり韓国の側からすれば、あるいは韓国の国民の側からすれば、これはどうしてもこのまま済ますわけにはいかないというふうなことが、原爆被爆者の問題もそうやって出てきた、従軍慰安婦の問題もこうやって出てきた。あるいは当時無理やりに日本人にさせられて日本の軍隊に入れられて戦死した人たち、そういう人たちに対する、これもまた何ら行われていないわけですね。日本の軍人は、あの戦争で戦死した人あるいは傷ついた人は、後で軍人恩給というものを受けておりますが、しかし韓国で同じ立場の人は何らそういうものは受けていない。この人たちは、おまえたちは日本人だぞ、植民地時代はそう言われた。そして、今度、いよいよ戦争が終わってそういう補償を受けなければならぬというときになったら、おまえたちはもう正本人じゃないよ、日本の国民じゃないからそういうものはやれないというふうな形で今日まで来ているわけですね。
 そういうことを数え上げれば切りがないほどあるのですが、そういうことが、今度は韓国の国民の側からすれば、これは何とかすべきだ、してほしいということがまた次々に出てくることは、私は歴史の経過からいってやむを得ざることである、そしてその一つ一つをとってみると、いずれも、さっき原爆の被爆者は人道上の措置である、こういう説明があったのですが、どれをとっても人道上の措置としてこたえるべきそういう性格のものじゃないか、私は実はこう思うのです。したがって、そういうふうな立場で見たときに、この種の問題に日本の政府が、もう日韓の請求権の協定で済んだ、こういうふうな対応だけで私はいけるものじゃないし、またいくべきものでもない、こう思うわけです。
 協定を結んだ立場でそこをどうやるかはなかなか難しい問題はあろうかと思いますが、しかしそれはそれとして、もう人道上という一つの前例が原爆の被爆者の問題であるのですから、そういう人道上のというような前例を大いに前向きに、積極的に活用する、そして対応するというふうなことがこれから日韓の関係あるいは日本と朝鮮の関係等々で非常に必要になるのではないのか、私はこう思います。渡辺外務大臣の何らかの措置というのも、恐らくそういう一つの政治的な判断があって出立言葉じゃないかと思いますが、法務大臣、やはり国務大臣でおられるわけですから、今私の申し上げたようなことについてどういう御見解をお持ちか、ひとつお尋ねをしたいと思うのです。

○田原国務大臣 法務大臣は国務大臣で内閣の一員でありますが、ただ明確に所管が分かれておりますので、所管を越える問題について本来はなかなかコメントできないと思いますけれども、ただ先生の人道的なお気持ちは理解できるわけですが、渡辺先生が副総理として言われたか外務大臣として言われたかわかりません。渡辺先生の方に直接お聞きしておりませんので、それはそんたくして申し上げなければいけないし、私は、大変悪うございますが、意見を差し挟むことを、コメントを控えさせていただきたいと思います。

○高沢委員 この辺は政治家として当然一言あってしかるべきだと思いますが、どうしても言われないのを無理やり言わせるというのも大変困難でありますから、もう時間があれですから次へ進んでまいります。ただ、進む前に、やはり内閣の一員としてこの種の問題は人道的に、前向きに対応すべきであるということは、ひとつ十分腹の中に入れておいていただきたい、こんなふうに思います。
 それで、また外務省になりますが、こういうことが次々に出てくる。仮に、韓国の政府の政府ベースの問題でそういうことを要求してくる、日本はもう済んでおるということになったときに、意見の違いが出ると、そこにいわゆる紛争の解決というふうなことになってくる可能性があるのですが、日韓請求権協定の三条では、紛争の解決という項があって、そういう紛争がもし生じたならば外交経路で解決するとか、どうしてもつかなければ仲裁委員会にかけるというふうな規定があるわけでありますが、この規定はどういう意味と目的を持って置かれたものであるのか、そういうことを聞きたいと思います。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 日韓請求権・経済協力協定第三条は、この協定の解釈及び実施に関する両締約国間の紛争の解決のための手続を定めたものでございます。ただ、御指摘の補償の問題も含めまして日韓間の財産・請求権問題が完全かつ最終的に解決したことを確認したこの協定第二条の解釈及び実施につきましては、先ほど御紹介いたしました李相玉外務部長官の発言にもございますとおり、日韓間に紛争が生じているわけではございませんで、協定三条の規定に基づいて解決すべき問題ではないというふうに考えております。

○高沢委員 そうすると、紛争の解決ということで該当するのは一体どういうことなのですか。
 この協定の第一条では三億ドル、二億ドルの経済協力が規定されている。これは皆上げてしまったからもう済みですよ、今さらこれで何か紛争が起きる可能性はない、それから第二条で完全かつ最終的に決着済み、これももう紛争が起きる余地はない、こう言われるとすれば、もはや紛争が起きる可能性は全然ない。この三条というのは一体何の意味があるのかということになるのですが、どうですか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 第三条の規定に基づきまして具体的にこうこうこういった事例といったことで想定しているわけではないというふうに承知しております。

○高沢委員 これは私の意見ですが、これから日韓の間で紛争が生ずるとすれば、今言った請求権の問題、済んだと協定ではなっているが、これは、済んだでは我々は納得できないという問題が出てくることが、これからの紛争の可能性の大きなものを非常にはらんでいるということを私は申し上げて、外務省もそのことはしっかり考えておいていただきたい、こう思います。
 それから、戦争中に徴用等で雇用されていた朝鮮の人に対する未払い賃金等については供託の措置をとるようにということが昭和二十一年に政府から通達がなされて、そして関係の企業は、多くは皆供託の措置をとったということでありますが、その供託は十年で時効になるということが一方にあるわけですね。前にも清水局長からもお答えありました。そして、十年で時効になるけれども、昭和三十三年の段階でもう時効になったからこれは済んだと言って国庫へ戻し入れということは、普通ならやるのだそうですが、それはやるべきでない、そのまま置いておけということが、また昭和三十三年に通達が出された。それは日本と韓国、日本と朝鮮、その間におけるこの種の問題の協定ができるまでということであったわけですが、日韓の協定は既にできたわけでありますが、その後、そうやってずっと保留されていた供託のお金の国庫への戻し入れがなされたのか、今でもなされないで置かれているのか、この辺はどうでしょう。

○清水(湛)政府委員 前回答弁申し上げましたように、本来ならこれは十年で時効消滅しているわけでございます。しかしながら、平和条約で、朝鮮半島の地域に施政を行っている当局あるいはその住民の請求権につきましては特別取り決めの対象とするということが定められました。そういうようなことを背景といたしまして、本来なら当然行っていいはずの時効による歳入納付という手続を見合わせようということで、昭和三十三年の通達によりまして見合わせたわけでございます。その後、日韓の問題につきましては、先ほど来御答弁がございますように請求権協定がされまして完全に解決されたということになるわけでございます。
 ただしかし、日韓間の請求権協定というのは、北朝鮮との関係においてはその効力が及ばないのではないかというようなこと、これは外務省の方でお答えになる問題でございますけれども、そういうような疑問もございましたので、韓国関係におきましては完全に消滅しているわけでございますけれども、供託されている方々が韓国の方々なのかあるいは北朝鮮の方々なのかわからないというようなこともございまして、現在、歳入納付の手続はとらないまま推移していると承知しているところでございます。

○高沢委員 もう五分前の通告が来ましたからあれですが、今現に北朝鮮との国交交渉をやっておりますから、いずれまとまるまでにはこういう経済協力というか請求権というか、そういうものが、今度は日本と北朝鮮の間で当然結ばれなければならぬ、こうなると思いますが、そのときに、今まで日韓で結んだものと全く同じものが果たしてできるのか、北朝鮮側は、あれではだめだ、こういうものでなければだめだという主張が当然に出てくると私は思います。そういうことにおいて、これからの日本の外務省の対応も相当難しい、場合によれば思い切った決断をしなければならぬという局面も来ると思いますが、それは一応指摘だけしておいて、時間がありませんから次へ行きます。
 それで、問題の三菱重工の長崎造船所で働いていた金順吉さんのことですが、要するに三菱重工は、それは供託したからもう済んだんだ、こういう態度をとっているわけですね。金さんは、それに対して支払いを求めるということで、これから裁判にも訴えようというようなことになっていますが、その供託をしたということが、三菱重工が供託書の正本をちゃんと持っていて供託したことが証明されるということになるかというと、それが文書がないのですね。つまり、供託したことが証明されない。されないとすれば、逆に考えれば、今度は供託をしなかったと結局認識せざるを得ない。そうすると、金順吉さんの支払い請求に対しては当然支払いをする責任がある、義務があるということになろうかと思うのですが、この点はいかがですか。

○清水(湛)政府委員 これは私どもの方で答えるべき筋合いの問題であるかどうか、つまり金順吉さんという韓国の方が日本の法人である三菱重工に対して請求権を持っているということになるのだろうと思います。しかし、その請求権につきましては、先ほど請求権協定で日本国民に対する請求権についても放棄がされることになっておりますので、そのことについて三菱重工がどういう御主張をなさるのかという問題であろうかと思います。三菱重工と金順吉さんの間の関係でございますので、私ども、それについてとやかく申し上げる立場にはないということだけを申し上げさせていただきたいと思います。

○高沢委員 三菱重工がどう答えるかということは確かに会社の立場ですね。ただ、それに対して、支払いを求めるという金順吉さんの、言うならばまた権利はあるということを私としてはここで確認したいと思うのです。それは具体的に訴訟ということになっていくかもしれませんが、そういうことを私としては確認をしたいと思います。
 それで、前回のときに、これとの関連で、三菱重工が本当に供託したのかどうかを側面的に立証する一つとして、当時同じく長崎でそういう朝鮮人徴用夫を使っていた高島炭鉱あるいは川南造船、これの供託をしたかどうかの資料はどうかと実はお尋ねしたのですが、それを後で聞いたら、川南造船という会社は登記上ない、それから高島炭鉱という会社もない、したがってそういうことの探しょうがないという説明が法務省から実はあったのです。
 そこで、私ももう一度よく調べてみたら、高島炭鉱というのは三菱石炭鉱業株式会社の高島横業所、それから川南造船も川南工業株式会社の造船所ということがより正確にわかったので、この名前で、昭和二十一年、二十二年、あのころの段階で未払い賃金の供託がなされたかどうかを、その資料をお尋ねしたいと思いますが、今ここですぐにわからなければ、別途また私の方へその連絡をいただきたいと思いますが、いかがでしょう。

○清水(湛)政府委員 これは供託制度についての一般論でございますけれども、いわば供託をする人からその相手方のために金を預かるということでございまして、供託をした方は供託金の取り戻し請求権がある、供託をされた方は供託金の還付請求権があるということで、それぞれ金銭債権を有する関係にあるわけでございます。したがいまして、この供託につきましては、どういう方がどういう方に対して供託をしたかということは一般的に公開しない。その供託をされた方あるいは供託をした方御自身あるいはその相続人の方が、そういう者であるということを証明して供託所に参りますと、その関係でその事実関係を明らかにすることがありますけれども、一般論としてこういう方がこれだけの供託をしていますということは申し上げることはでさない、私どもはそういう扱いをしているわけでございます。
 もちろんその前提といたしまして、そういう会社が、いや、供託をしたからその供託の事実を確認したいとみずからそういうことを明らかにして供託所へ来るということでございますと、それはいわばみずから公開したわけでございますから問題はないと思うわけでございますけれども、一般論ということになりますが、そういう扱いをしているということについて御理解をいただきたいと思うわけでございます。

○高沢委員 もう終わっていて済みません。もう一問だけお許し願います。
 前回の質問のときに、三菱重工の長崎造船所はそういう供託をした資料が何もない。ところが、広島の造船所は広島の法務局に対して供託をしていて、確かにその資料が確認できた、千七百何名の供託があったということは前回の委員会でもお答えがあったわけです。それは法務省から調べていただいてそのことの確認があったわけですが、今度の三菱石炭鉱業、それから川南工業、これも同じような意味において調べていただいて、つまりこれは求めている人が金順吉さんですから、したがって三菱が供託したかどうかを、最も利害関係人であるこの人にそういうこともまた資料として伝えてあげるということがあっていいのじゃないかと私は思いますので、今の点を調べていただいて、私に教えてもらえば今度金さんの方へそのこともお伝えすることもできるわけで、まるっきり利害関係人でないということでもないので、その御配慮を願います。

○清水(湛)政府委員 広島で三菱重工が供託書を閲覧したという事実はございますけれども、それはその前提として、三菱重工の広島造船所は自分たちはこういう形で供託をしているということを対外的に公表いたしまして、その供託の詳細を確認するということで三菱重工みずからが供託所にそういう調査に来られたということでございます。そういう意味におきましては、三菱重工としては供託の秘密をも公開しておるということでございますので、私どももこの間ここでそういう事実があるということはお答えいたしたわけでございます。
 三菱重工の長崎造船所につきましては、長崎造船所の方でも供託をしたというふうにおっしゃいまして、金順吉さんもそのことを長崎造船所で確認をいたしまして、そして私どもの方へやってまいりましたので、長崎造船所としても供託の事実をいわば公開しているということになりますので、調べてみたわけでございますけれども、この間お答えいたしましたように、そういう関係書類が法務局には見当たらなかったということで、そういう経過になっているわけでございます。

○高沢委員 それじゃ、これで終わります。

 第123回国会 参議院国際平和協力等に関する特別委員会公聴会 第1号 平成四年五月二十六日(火曜日)午前十時一分開会

【発言順】
 委員        尾辻 秀久
 弁護士       佐藤 欣子
 札幌大学教授    小林 孝輔
 帝京大学法学部教授 渡辺 洋三

○尾辻秀久君 ただいまの先生の御意見でPKO法案に反対なさる方々の御心配の一つは片づいたんじゃないか、こう思うわけでございます。
 もう一つの御心配でございますが、アジアの諸国の皆さんがいろいろまさに心配をなさるということについて先生の御意見を伺ってみたいと思います。
 私はこの議論をずっと聞いておりまして、一遍御専門の方にお尋ねしてみたいなと思っていることが一つございました。それは、日本の戦後処理を国際法的に見たらどのように評価されるのか、これはアジアの皆さん方の感情とは別に、国際法的に見たらどうなるんだろうと思いながらこの議論を聞いておりましたので、いい機会でございますから、先生の御意見を伺ってみたいと存じます。

○公述人(佐藤欣子君) まず第一の御質問でございますが、アジア諸国の反応ということでございます。
 しかし、アジアといっても広うございますね。東北アジア、中国とか韓国、北朝鮮、それから南西アジアヘ南アジア、インド、パキスタン、バングラデシュというような国もございます。それから東南アジアもございます。いろいろなところがございます。アジアの反応といいましても、ですから私どもが考えるときは、特に韓国とかあるいは中国という国々がどういう反応をされるか、これはよく言われるように慎重にしてほしいということでございますね。
 しかしながら、先ほども申し上げましたように、確かに日本だってもちろん慎重でございます。それは何も日本がしなくてもいいことで、自衛隊にお願いをするというようなことはする必要がないと言いますが、もちろん十分に慎重でございますけれども、しかし、おまえの国は黙っている、口は出すな、金だけ出せばいいんだと言われることは一体日本国民にとって耐えられることでございましょうか。
 中国は誇りを持って五百人の工兵隊を出した。おまえの国は金だけ出せ、黙っている、手も出すことはないということを言われては、それは国際社会におけるみそっかすではないでしょうかと私は申し上げたいわけでございます。そのようなことであって一体よろしいのでございましょうかということでございます。しかも、カンボジアにまかれた地雷というものはほとんどが中国製であるというふうに私は承っている次第でございます。次に、アジア諸国で、UNTACですね、カンボジアに派遣している国々を見ますと、これは実はアジアの国々も非常に多いわけでございますね。インドネシア、マレーシア、バングラデシュ、それからシンガポール、フィリピン、パキスタン、それから中国というような国々も参加している。もちろんロシアも参加していらっしゃるわけでございます。オーストラリア、カナダその他も参加していらっしゃる。ドイツ、アメリカ等も参加している、オランダも参加している、イギリスも参加している、フランスも参加しているというわけでございます。
 ですから、私どもがいたずらに一部の国々の御反対を恐れて、あるいはその方々がちょっと文句を言うかもしらぬということで、世界的に地球上の国々のことを考えないで行動をするということは非常に視野狭窄症のおそれがあるのではないかというふうに私は思うわけでございます。
 ですから私は、アジアの反発とおっしゃいますけれども、先ほども申し上げましたけれども、カンボジアのさまざまな要人がぜひ日本にも参加してほしいと言っていることも明らかでございます。それからUNTACの明石さんにしても、やはり日本も参加してほしいと思っていらっしゃる気持ちは本当によくわかるわけでございます。このような行為に日本も地道に参加するということが必要であるというふうに私は思うわけでございます。
 さらに、先ほどの御質問でございますけれども、戦後処理の問題でございます。
 日本は、戦争に敗れてから講和条約を結ぶまで、昭和二十七年に講和条約を結んだわけでございますけれども、東京裁判というような私どもの歴史にとってまさに忘れがたい事件もございました。このことも私どもは十分考えていかなければいけないと思いますけれども、しかしこのように戦後処理についてはサンフランシスコ条約というのがございます。そのようなことで、また二国間の平和条約その他の条約に従って日本国が誠実に戦後処理問題に対応してきたということは否定することができないことであると私は思うわけでございます。
 主要諸国、例えばいろんな地域との賠償問題あるいは財産・請求権の問題、あるいは日本がいわゆる分離した国々、日本が植民地にしていた国々の間の問題というようなところの処理というものは、もちろん韓国については日韓請求権・経済協力協定というものが一九六五年に結ばれて、両国、両国民間の財産・請求権問題は完全かつ最終的に解決されたということが確認されているわけでございます。そして日本は無償では三億ドル、有償では二億ドルの経済協力を供与したわけでございます。
 また、中国に関しましては、中国の賠償請求権は中国側が放棄をいたしたわけでございますけれども、その後、日中共同声明というものが出た以上は一切そういう問題は存在していないということになっているわけでございます。日本はこのことを大いに多としてさまざまな経済協力をしてきたことは申し上げるまでもないわけでございます。
 台湾についても、サンフランシスコ平和条約及び日華平和条約に基づいて処理をされるということであったわけでございますけれども、日中国交正常化によってそういう取り決めを結ぶことができなくなっているわけでございます。
 そのほか、賠償協定でミャンマー、ベトナム、インドネシア、フィリピン等にはそれぞれ処理をいたしているわけでございます。
 このようなことで、我が国としては誠実にその国に対してあるいは国民に対して賠償あるいは補償ということに当たってきたわけでございまして、日本も今こそ豊かになりましたけれども、大変戦後苦しい時代を経たわけでございます。ほとんど四十年ぐらいの間は日本人はもう本当に苦しい思いで一生懸命働いてきたわけでございまして、その私どもの先代の努力というものを私たちは無にするようなことをしてはならないとつくづく思うわけでございます。

○尾辻秀久君 それじゃまた、一生懸命整理させていただきながら聞いておりますので、私の理解したところを整理させていただきますと、日本とアジア諸国との関係は国際法的に見ても日本は誠実に戦後処理をしてきた、そしてまた諸国の皆さんの感情としても、今日本がPKOに行くことに対して決して反対はなさらないというふうに先生は考えておられる、このように理解をさせていただきますし、もしまた違いましたら後ほど御指摘をいただきたいと思います。
 せっかく三人の先生方にお越しいただきまして御質問申し上げないのも余りにも失礼でございますので、残り時間が少ないんですが、小林先生にまず一つ聞かせていただきます。
 先ほどちょっと気になったんですが、PKO法案が国連憲章違反だというふうにおっしゃったと私は理解をいたしたんです。それで理由を一生懸命聞いていたんですが、時間の関係で先生詳しくお述べになりませんでしたが、そこのところをいま一度御説明をいただけませんでしょうか。

○公述人(小林孝輔君) 国連憲章につきましては、先ほど申しましたように、二条三項でその精神を言っていると私は思うのでありますが、それは国際紛争を平和的に解決し、国際間の安全を保障するということであります。そういう規定から見ると、その国連憲章の理念、趣旨、規定に違背するのではないか、そういうことであります。

○尾辻秀久君 これ以上ここで議論するときじゃないと思いますので、先生のお説を伺ったところで、渡辺先生にも一問、もう極めて素朴な質問をさせていただきたいと思うんです。
 先ほど先生が、従来のPKO、いいものもあって悪いものもあったよと言われました。今、私どもが一番問題にしているといいますか、目下のところ急務だなと思っていますのがカンボジアでございますから、このUNTAC、先生はどういうふうに評価をしておられるか。まだ途中でございますが、今後どういうふうになるのか。先生のお使いになった言葉で言えば、いいPKOになりそうかどうか、先生の率直な御意見を伺わせていただければと思います。

○公述人(渡辺洋三君) UNTACそれ自身は、私は、今動いているところですからいいとも悪いともまだ判断しかねるという状況です。しかし、こういう状況のもとでカンボジアの間に中立同意があって動くという、それは原則は守られていますから、さっきのイラク・クウエートの監視団なんかとは違うという意味ではそれ自体を否定はしておりません。しかし、日本が加わることについては、さっき言ったようにちょっと疑問はありますけれども、それ自身は、日本は自衛隊が加わらなくともいろんな参加の仕方はあるだろうと思っております。私は、そういう非軍事の協力はもっと積極的に、これは日本政府のみならず日本の国民全体がやるべきだとは思っております。

○尾辻秀久君 それでは、最後にまた佐藤先生にお尋ねをいたしますが、先生が言われました最後の国民感情のことでございます。
 私は、掃海艇の派遣などで国民の皆さんのこうしたことに対する御理解というのは最近十分できてきたと思っておるんですが、先生はどういうふうに思っておられるか、最後に、ごらんのとおりに五分残っておりますので五分でお述べをいただげればと思いますので、よろしくお願いいたします。

○公述人(佐藤欣子君) 日本国民は、戦後長いこと非武装・中立、あるいはとにかくどんなことがあっても戦わない、不戦の誓いということを国是にしてきたわけでございます。私どもが本当に戦没者追悼の日に不戦を誓っているその日に、世界の各国では、戦没者追悼の日に戦うことを誓っている。自分たちの先代、自分たちの親たちが自分たちのために戦ってくれた、自由を守ってくれた、それに対して自分たちも恥じないように戦うんだということを誓っているということを日本国民は実は知らなかったわけでございます。それで、誓っていることも知らないし、すべての国がみんな不戦を誓っているんだというような幻想を持って生きてきたわけでございます。それが我が国の長いことの国是でございます。日本がこの国是からどうやって目覚めていくのかということはなかなか難しいことであろうかと思うわけでございます。
 ですから、問題は、政府ないしはそのリーダー、指導者あるいは政治家の皆様方あるいはさまざまな分野の方々が、やはり自分の信じることを断固として主張されるということが必要であろうと私は思うわけでございます。その意味で、国民の九九%が賛成したからやりましょう、八〇%が賛成したからやりましょうというのは実は民主主義に似て非なものである。リーダーたるものは断固として決意を持って国民にその信を問い、自分の考えることを訴えていかなければならないのではないかと私は思うわけでございます。その意味で、国会の皆様方の責任、責務も非常に大きいものがあるというふうに思うわけでございます。国民感情というものはなかなか難しいものでございます。その意味ではマスコミも大きな責任があると思います。
 それからまた、国民感情ということについて言えば、東南アジアあるいはアジアの方々が日本人に対して持つ感情というものも複雑なものがあろうかと思うわけでございます。私どもがいかに努力をしてもその記憶、追憶というものはなかなか消し去ることはできない、一代、二代ではなかなか消えないものかもしれません。私どもは、平和というものは長い息をもって、親交という、平和友好というものは長いレンジのもとに考えなければならないと思うわけでございます。
 もちろん私どもは、日本人が経済力がついてきたあるいは強くなったというようなことで傲慢になり、自分たちの考えることが一番正しいのだというような考えを持ったり、あるいは貧しい国をばかにするというようなことがあってはならない。醜い日本人になってはならない。そして、この富を世界のために、そして日本のためにも本当にためになるように使っていかなければならないというふうに私は考える次第でございます。

○尾辻秀久君 きょうは本当にいろいろ御意見いただきまして、ありがとうございました。最後は私どもを励ましていただきまして、心して頑張っていかなきゃいけないなと、こういうふうに思ったところでございます。
 二分残っておりますが、終わります。

 第126回国会 衆議院予算委員会 第9号 平成五年二月十六日(火曜日)午前十時開議

【発言順】
 委員        水田 稔
 内閣総理大臣    宮澤 喜一
 厚生大臣官房審議官 佐々木 典夫
 外務省条約局長   丹波 實
外務省欧亜局長  野村 一成
 委員長       粕谷 茂
 厚生大臣      丹羽 雄哉
 内閣官房内閣
 外政審議室長兼 
 内閣総理大臣官房
 外政審議室長    谷野作太郎
 郵政大臣      小泉純一郎

○水田委員 私は、戦後約半世紀を経た今日、アジアの各国からいろいろな問題で戦後未処理の問題についての要求が出されてくるわけであります、この戦後補償問題についてまずお伺いをしたいと思うわけでございます。
 今、日本が大きな経済力を持って各国から国際貢献ということを要求される、そしてアジアヘ自衛隊まで出す、こういうことになっておるわけでありますが、第二次世界大戦で各国に与えた被害というのは大変大きなものがありました。国交回復で平和条約が結ばれ、あるいは戦後処理の問題が賠償として終わっておる、こういう問題もあるわけでございますけれども、実際には今なお、例えば日本人として、日本の軍人として戦死をした、あるいは大けがをして体が不自由になっておる、しかしそれに対する補償は全くない、そういった問題や、あるいはまた、今政府が調査しておるけれども、従軍慰安婦の問題であるとかあるいは軍票の問題等々がアジアの各国から要求されておるわけです。
 宮澤内閣のある大臣は、悪かったことはごめんなさいと謝るのが当たり前ではないか、こういう話があったのですが、国際貢献をするにしても、やはりこの第二次世界大戦でアジアの各国に与えた、日本のやってきたことに対して、悪かったことはきちっとごめんなさいと言うべきではないか。それは言葉だけで言うのではなくて実際の行為としても示さなければならぬと思うわけでございます。
 そこで、宮澤総理は一月十六日、東南アジアをずっと歴訪されてバンコクで演説をしておるわけであります。その中で、「日本が、二度と軍事大国になることはないということであります。」そう言われて、「これは日本国民の過去の反省に基づく強い意思であり、今後もこの道を踏み外すことはありません。」そして最後のところで、「歴史の教訓が活かされていくよう、わが国における教育の充実に一層意を用いて参る所存であります。」こう言われておるわけであります。
 ただ、これと、一九九一年に海部元総理がASEANを訪問されてそこでお話ししておるのと、大分トーンがダウンしておるわけですね。
 海部総理のときには、その部分について言いますと、
 今世紀前半の歴史を振り返り、多くのアジア・太平洋地域の人々に、耐えがたい苦しみと悲しみをもたらした我が国の行為を厳しく反省するものであります。我が国民はそのような悲劇をもたらした行動を二度と繰り返してはならないと固く決意し、戦後四十数年に亘り、平和国家の理念と決意を政策に反映する努力をしてきました。日本の国際的貢献への期待が高まっている今日、我が国民一人一人がアジア地域ひいては国際社会の平和と繁栄のために如何なる貢献ができるかを考えるに当たって、何よりも先ず日本国民すべてが過去の我が国の行動についての深い反省にたって、正しい歴史認識を持つことが不可欠であると信じます。私は、我が国の次代を担う若者達が学校教育や社会教育を通じて我が国の近現代にわたる歴史を正確に理解することを重視して、その面での努力を一段と強化することと致しました。
こう述べておるわけですね。それに比べますと、極めて要約されたといいますか、内容的に、ありきたりなお話でしかないと思えるわけですね。
 今、先ほど申し上げましたいわゆる軍人として戦死したあるいは戦傷された、あるいはまた従軍慰安婦の問題、あるいは強制連行で労働させられたそういう人たちに対する、あるいはまた日本の歴史教育のあり方について、どういうぐあいに、国際社会の中における日本の第二次世界大戦の残された問題の処理についての宮澤総理の基本的なスタンスといいますか、取り組みの心構えをまず冒頭お伺いしておきたいと思います。

○宮澤内閣総理大臣 海部、当時の総理大臣が、今御引用になられました演説は、一九九一年の五月にシンガポールにおいてなされたものでございます。私が今回バンコクにおいて演説をいたしましたときも、もとより、我が国を代表して前総理がされましたこの所信につきまして、十分それを私存じました上で、さらにその上で申しましたわけでございまして、私の過去における我が国の行動についての遺憾の意の表明が決してそのゆえに薄かったという意味ではございません。十分、総理大臣が、過去において海部総理がなされましたことの上に、さらに今日的な意味で、立場で申したことでございます。
 それで、そのようなことが我が国の基本的な態度でございますが、法律的には、連合国あるいは我が国から分離した国々との間で、いわゆる請求権の問題等々、法律的な処理は一応終わっておるわけでございますが、なおその後、慰安婦という問題が出てまいりまして、我が国も実情について調査をいたしつつございますが、どのようなことをすれば苦しみを受けられた方々への我々の陳謝の表現になるかということを、各方面の御意見を伺いつつあるところでございます。
 それらのことは我々の過去の行いに対するいわば償いということでございますけれども、同時に大切なことは、将来に向かつて同じ過ちを繰り返さないということであると思います。それは一つは、やはり我々のしたことを正しく我々あるいは後に継ぐ世代に認識をしておいてもらうということでありまして、それは一つはやはり教科書、教育の問題であると思います。
 先般、私の私的諮問機関として、アジア問題についての懇談会を有識者によって昨年かなり長いことかけてお願いをいたしましたが、その中で一つ言われておりますことは、教科書の記述というものは実はかなり今や正確に客観的になっておる。ただ、学校の教科の運びにおいて、一番近代に近いところに関することでありますために、そこまで授業が行かないうちに学期が終了してしまうということが非常にしばしばあることだそうでございまして、したがって、せっかく教科書に正しい記述を、必要な記述をしていながら、学童生徒がそれを読む機会がないままに学期が終了しておるそうでございます。これはやはりひとつ何か工夫をしてもらわなければならない問題だというふうに感じます。
 それからもう一つは、同じくアジア懇談会において、将来に向けて我々にとって大事なことは、やはりこの過去の行為の反省の上に立って憲法をつくり、そして戦後の日本がこういう道を歩んできた、この道を踏み誤らないことが我々として過去についての反省の一番大切なあかしであるという種類の指摘がございまして、これはまさに私どもが大切にしておかなければならない指摘であるというふうに考えております。

○水田委員 以下、個別の問題についてお伺いしたいと思うのです。
 これは厚生省になりますか、植民地だった朝鮮、台湾の人が、当時日本人ということで、日本の軍人軍属あるいは準軍属といいますか、強制、いわゆる徴用のような形で引っ張られた。そういう人たちが、軍務とかあるいはそういう徴用で仕事についた人が、それぞれどのくらいおられたのか。そして、その中で戦死とかあるいは戦傷者というのはどれだけおると把握しておられるのか。まず伺いたいと思います。

○佐々木(典)政府委員 まずお尋ねの中で、さきの大戦での戦没者でございますが、全体の中で、軍人軍属、さきの大戦全体で邦人約三百十万人亡くなっております。しかしながら、その中で朝鮮半島出身の方というのは二十四万人程度というふうに承知をいたしてございます。

○水田委員 戦死者が朝鮮の人で二十四万ですか。朝鮮だけじゃなくて台湾もありますからね。台湾も相当行っていますから。

○佐々木(典)政府委員 御説明を申し上げます。
 全体で先ほど申しました二十四万人というのを朝鮮半島出身の軍人軍属ということで理解をしておりますが、その中で亡くなった方につきましては二万二千人というふうな数字で私ども把握をいたしてございます。

○水田委員 私の持っておる資料では、朝鮮でいわゆる軍務に服した者が二十四万二千、戦死者が二万二千。台湾が、徴集された者が二十万七千で、戦死者が三万人。間違いないですか。もう何遍もそこから来ても、時間とりますから。
 それでこの人たちにどういうような補償を日本はしたのか。法律上の問題はいいですから、何をしたかだけを答えてください。今の人数の確認と補償をした事実を答えてください。

○佐々木(典)政府委員 まず、台湾の関係について申し上げます。
 台湾の関係につきましては、全体で軍人軍属二十万人を召集いたしてございますが、その中で亡くなった方は三万人強というふうに承知をいたしてございます。
 それから、具体的に、朝鮮半島出身の方、台湾出身の方々、軍人軍属として軍務につかれた方にどういうふうな対応があったかということでございますが、この点につきましては、我が国の、私ども厚生省の所管をいたしております戦傷病者戦没者遺族等援護法で申しますと、基本的に、この法律につきましては国籍要件を設けて、それから……(水田委員「そんなこと聞いてない。どういう補償をしたかと。してなければしてないでいいんです。台湾にはどういうぐあいにした、朝鮮はどうしたかというのを」と呼ぶ)わかりました。
 いわゆる分離独立国、分離独立地域の方々の問題でございます。この問題につきましては、ちょうどサンフランシスコ平和条約に基づきまして、国家間の取り決め、外交上の取り扱いにゆだねるというふうな扱いにされておりますので、これにつきましてはそれぞれ国家間の外交上の取り扱いにゆだねるということでございます。
 それで、韓国との関係につきましては、御承知のとおり、昭和四十年の日韓協定によりまして法的な解決がなされて今日に至っているというふうなことでございます。
 なお、台湾につきましては御案内のとおりで、国交がない状況でございます。これにつきましては、昭和六十二年度において特別弔慰金という制度が国会においてお決めいただき、二百万円の弔慰金がこれまで交付をされてきたという経過があることは御承知のとおりでございます。

○水田委員 外務省、まあ大臣おられませんから。諸外国で、いわゆる例えば植民地で、それが独立した、しかしその本国の軍人として戦死したあるいは戦傷を負った人、外国ではどういうぐあいに扱われておりますか。

○丹波政府委員 諸外国の例につきましては、その統合の経緯あるいは併合の経緯と申しますか、あるいは分離の経緯、いろいろ違いがございますのでケース・バイ・ケースでございまして、一つの規則としてこうであるということを申し上げることはなかなか困難であろうかと存じます。
 今問題になっておりますところの朝鮮地域、これは二つに分かれておりますけれども、それから台湾との関係につきましては、日本とこれらの国または地域との特殊な関係でそれぞれの処理が行われ、あるいは一定の処理が今後の将来に任されておるという状況になっておることは先生御承知のとおりでございます。

○水田委員 外務省の調査結果で、負傷または戦死した外国人に対する欧米各国の措置概要というのが一九八二年の六月に出されておるわけですね。これによりますと、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、当時の西ドイツ、いずれも外国人元兵士等に対し自国民とほぼ同様の一時金または年金を支給している、こういうぐあいに外務省の調査であるわけですね。具体的にそういうふうにはっきり答えてくださいよ。これは外務省の出した報告でありますから。

○野村(一)政府委員 恐縮ですが、私はドイツの例についてちょっと説明させていただきたいと思うのでございますけれども、ドイツの場合には主としてナチスによる被害者に対する補償ということでなされておりまして、三つに大きく分けていいかと思います。
 第三国に対して行った補償としまして、イスラエルには五二年の補償協定によりまして三十四・五億マルク、フランスほか西欧十二カ国につきましては総額九・八六億マルク、ポーランドほか東欧四カ国については一・二億マルクということでございます。
 そのほかに国際的な措置としましてUNHCRとの協定もございますけれども、特にドイツの場合、国内法の制定によりまして、ドイツ国民であろうがあるいは第三国人を問わずに、かつてのドイツ地域に居住しておりましたナチスによる被害者に対して補償を行うという措置をとっておりまして、その総額は九一年一月までで合計七百億マルク、そういったことを承知しております。

○水田委員 野村局長、まだそこまで質問いってないのですよ。後でそれは出るところです。
 実際外務省が出しておるのでは、兵士として、その国の兵士として働いて戦死したりけがをしたら、当然それは独立して外国になろうとも全部出す、そういうことをやっておるわけですね。
 ですから、今お聞きになって、総理大臣、それから厚生大臣、外務大臣おられませんが、当時日本人として日本のために命を捨てたんです。何もしないのです。ですから、法律とか条約とかそんなのは関係ないですよ。関係ないです。人間として、日本人として。それで、我々は経済力をもってこれからおたくの国に貢献しますというようなことを言って、心の底から、いや、ありがたいと思いますか。これは人間として、日本民族としてですね。
 ですから、法律や条約の問題でなくて、そのことが今問われておるのじゃないでしょうか。どこの国も、自分の国のために働いて戦死した、けがをした人に対しては、どうあろうともそれにちゃんと面倒を見るというのは、これは国際的にも世界的な人間の情、人情じゃないでしょうか。そのことが今問われている。
 私は、そのことについて総理大臣なり、これからどうするかは別の問題ですよ、だけれども、厚生大臣に、そのことをどう思われるか。日本のために、当時は日本人としてやった。今は国際的な条件で国が分かれて別の国になった。しかし、現実に死んだ人の遺族がおるわけですね。あるいはけがをして苦労をしておる。その人たちに何も日本はしないのです。それでその国と友好をやろうと言ったところで、人間の倍としてそういうものがわいてくるかどうか。それが今戦後処理の問題として問われておるのではないでしょうか。 総理と厚生大臣にお答えいただきたいと思います。

○丹波政府委員 総理あるいは関係の大臣から御答弁になる前に、申しわけありませんけれども私から、先生が今論じておられますこの三つの国または地域との関係で戦後いかなる処理が行われてきたかという問題について簡単に御説明させていただきたいと思います。(水田委員「委員長、全く聞いておりません。私は、法律、条約の問題じゃなくて、日本人として、人間としての情として聞いておるのですから」と呼ぶ)

○粕谷委員長 議事をちょっと整理します。
 条約局長、質問者は大臣に答弁を求めていますから、私から厚生大臣を指名しますから、答弁を中止してください。
 厚生大臣。

○丹羽国務大臣 お答えをいたします。
 援護法のあり方については、もう先生に御指摘するまでもないわけでございますが、この日本国民に限定をしておるというのは、御案内のように援護法そのものが国籍要件を有する恩給法に準拠しておる、まずこれが第一でございます。
 それから、先ほどちょっと政府委員の方から言いかけましたけれども、サンフランシスコ平和条約において朝鮮半島や台湾などのいわゆる分離独立地域の方々に対する財産や請求権の問題は、国との取り決めによって決める、こういうことでございますので、私は援護年金を適用することは適当でない、こう考えておりますけれども、先ほど政府委員の方から申し上げました韓国であるとか、あるいは台湾の方に二百万円の弔慰金を出したというのは、人情というか人道的な立場からこういうようなことを行った、こういうことでございます。あとは北朝鮮についてのみ残されておる、こういうことで御認識をいただきたいと思います。

○宮澤内閣総理大臣 今厚生大臣がお答えを申し。上げたとおりでありますけれども、韓国との関連で申しますならば、日韓協定がございまして、この関連は韓国政府において処理をされるという、そういう前提のもとに日韓の間で御承知のように無償、有償の協定が結ばれたということと承知をいたしております。
 台湾につきましては、これは日中の国交正常化という問題がございましたために、台湾との間にそのような了解に達することができない状態のものになりましたこともありまして、法律が出されまして、我が国から一定の金額の支払いをしたというふうに承知をいたしております。

○水田委員 条約とか法律上にはそのとおりで、私も否定しません。私がお伺いしたのは、これは国民、日本の国民全体を含めて、同じ日本国民として国籍を持たして、植民地として、そして戦争へ参加さして死なせた。それに対して何にも現実にはしないんですね、してない。向こう、本人にとってみれば、あるいは遺族にとってみれば何もしてくれない。その日本というものを信用しろといったって信用するわけがない。そのことが今問われておるんじゃないですか。どう解決するかというのはこれから知恵を出したらいいと思うんですね。
 例えば台湾でも二百万、今一人の命が、まあ貨幣価値が違います、台湾と日本では違うけれども、二百万で終わりか。日本人で二百万出すと言うたら怒るでしょう、恐らく、戦死した人に。私は昨年五月行って、烏来で三人の子供を死なせた人、だから六百万もらった、お父さんが。子供のために記念碑をつくる、それでカンパしてくれと言って、やっていましたよ。本当にああ、あの戦争で三人も息子を死なせたんだと、しみじみ思ったです、私は。
 ですから、本当は台湾でもあれで済んだとは私は思いませんがね。例えば、朝鮮民主主義人民共和国はまだやっていませんからこれからやればいいんでしょうね。しかし、韓国は日韓条約によって済んだと言うけれども、韓国で現実に、あるいは国内で、日本の国内で、在日の韓国の人たちですね、そういう人たち、いっぱいおるわけですね。
 私が聞いたのでは、昭和二十年の六月に戦死をした、そして公報をもらった、しかし現実には日韓条約が結ばれて、もらえなくなった。それで帰化すればもらえるといって一生懸命帰化の手続をして帰化したんです。そうしたら、それは日韓条約が結ばれる前に帰化してなければもらえぬというので、もらえない。遺族の中では、実際もらっておるとみんな思っておるんです。本人は何にも言わない。そういう思いで暮らしておる遺族もおるわけですね。ですから、日本の中でも韓国でもそういう問題がある。
 私はそのことを法律とか条約じゃなくて、そういう人たちに対して日本人として、日本の国民として、日本国として、そういう形で使った人たち、あるいは亡くなった人たちに対してきちっとした補償をするという、どういう形でするかは別として、することがアジアの国々から日本が信頼される国になる。国際貢献をするのでもそれを清算した上でするのと、それをそのままにして、それはもう法律上済んだんだ、あるいは条約上済んだんだということで済ますのがアジアの中の日本としていいのかどうか、そのことが今問われておる。そのことを私は申し上げておるので、総理、厚生大臣、それは法律上、条約上で、私もそのとおり全部読んでいます。ただ、外国では国が変わってもちゃんと補償しておる事実がある。
 それから、日本がこれまで国籍条項でやってこられなかった中で、一九七九年に国際人権条約に、八〇年に難民条約にそれぞれ加入した、それによって社会保障関係、国民年金とか児童手当あるいは公共住宅へ外国人が入る、そういう門戸開放をしてきたわけですね。やってないのはここのところだけなんです。ここの、いわゆる軍人恩給にかかわる、いわゆる遺族補償のところだけが今残ってきておるのですね。だから、日本が国際社会の中で生きていく場合に、ほかの問題はだんだんだんだん、国連との関係もあり、国際社会の中でやはり当たり前のことをするようになってきておるのですね。そこのところだけかたくなに頑張っておるわけですね。
 ですから、これは人権条約に加入したという中で社会保障関係全部をやって、そして例えば同じものでも被爆二法がありますね。原爆医療法とそれから特別措置法、これは国籍条項がないのですね。だから、そういうぐあいに日本の考え方を変えていけば、国内だけの問題、いわゆる条約とかそういうものは関係ないわけですね。やろうと思えばできるのです。そのことを今考えるべきじゃないかと申し上げておるわけです。
 例えば国連の中で、人権委員会で、これはフランス兵として使われたセネガルの兵隊が、フランスが途中でフランス人と値上げする分を差をつけたのです。これはけしからぬというので、これは訴えて、申し立てをして、一九八九年の四月に国際人権規約二十六条に違反しているという結論を国連が出しておるわけですね。ですから、外国になったからといって、そういうことで見捨てることが、条約とか、お互いの条約によってとか、清算したとか、それで一切が済む問題じゃなくて、現実にそういう処理を次々やっておるわけです。
 これは直接関係はありませんが、御承知のとおり、アメリカとカナダが日系人を戦争中に強制収容した。これも四十数年たって、それはよからぬことであったということでちゃんと補償をしておりますね。ですから、これはその国の物の考え方で私はできることじゃないかと思うわけです。
 そこで、私は、例えば日本が冷たいのは、総理、これは考えてほしいのは、台湾の日本兵として戦死した人たちに対してどういうものを、お金は二百万出したのですが、どういう文書をつけたかというと、これ一枚なんです。これはどういうことが書いてあるかというと、日本赤十字社が出しておるのですね。「下記のとおり裁定したので通知します。」と、こう書いてある。日本人でシベリアへ抑留された人には銀杯と、「あなたの戦後強制抑留中の御苦労に対し銀杯を贈り、衷心より慰労します。」と、日本人に対してこう。台湾の人、戦死した人に対して、たったこれだけなんですよ。日本のために命を落として大変御苦労だった、あるいは相済まぬと、そういうあれは全くないのです。これは日本のあり方というのが、先ほどから言いますように、日本人として日本のために死んだ人に一体何をしたのかということが問われておるのじゃないでしょうか。
 アメリカ、カナダは、ちゃんと日本の人たちを強制収容したことは相済まぬと、そういう文書をつけて、もう今世界のどこにおるかもわからない、日本なら日本へ帰っておる人でも、国籍が日本になっておる人でも、全部それは出しておるのですね。そういうことが国際的な、戦争によるいろんな問題を起こしたことの戦後処理の大事なあり方ではないんだろうか、そういうぐあいに思うのですね。
 ですから、そのことについて、私は法律上の問題じゃないのです。それは確かに総理大臣が、いや、考えると言うたら、それはもう大変、まあすぐ何かをしなきゃならぬということでしょうが、そういう問題意識、問題をそういうぐあいに受けとめてほしいのです、私は。その点はいかがでしょうか。
 厚生大臣、法律の問題じゃないのです。本当に考えてください。隣の人が命が危なくなったときに助けに行って死んだと、そのときにどう言いますか、みんな、いや済まなんだな、できるだけのことはその人にするでしょう。しかも自分の意思じゃなくて、日本の国籍を持たされて、そして日本の軍人として日本を守るために働いて死んだ。それに対して、いろんな条約やあれはある。しかし、現実に日本は何もしない。日本の国も、日本の国民はそれは当たり前だと思っておる。そういう国を、相手の人たちが日本を信用するかという、そういうことが今問われておるのです。もしお答えいただけるのであればお答えいただきたいと思います。

○丹羽国務大臣 まず原爆二法でございますけれども、これは健康手当であるとか医療手当であるとか、こういう観点から行っておるわけでございます。
 それで、補償の問題につきましては、先ほどから申し上げでおりますように、いわゆる請求権の中でこの問題はきちんと処理する。ですから、包括的に補償の問題というのは処理しておる、こういうふうに私ども受けとめております。
 先ほどから申し上げて、繰り返しになって恐縮でございますが、先ほどから先生御指摘の問題につきましては、人道的な立場から処理する、こういうことで御理解をいただきたいと思っております。

○水田委員 人道的な立場から処理すると言うなら、何らかのことをするということですね。もう一遍正確に答えてください。

○丹羽国務大臣 ですから、処理をするというのは、先ほど総理からもお話がございましたように、韓国とは昭和四十年に日韓協定が締結されまして、このとき韓国人に対する補償は法的にすべて解決されておるわけであります。
 それから、北朝鮮、台湾出身者については未処理でございますが、台湾出身者につきましては、先ほど政府委員からお答えを申し上げましたように特別弔慰金として二百万円を差し上げておる、こういうことでございます。

○水田委員 さっきの答弁は、人道的に処理をするということですから、これからの問題なのです。今答えたのは、今までこういう人道的に処理をしましたということで、先はないわけですよ。
 だから私が申し上げておるのは、あなた、日本人なら、それは現実に二万何千人あるいは三万人が、死んだ人たちが住んでいるのですよ。朝鮮半島へ行き、あるいは日本の国内でも在日韓国人ではそういう人がおられます。そこへ行って、日本のために戦死した人には何もしていない、何もしていない。それで当たり前だと、日本人としてそう思いますか、厚生大臣。私は相済まぬと思いますね。それはできるだけのことはすべきだろうと思いますよ。そのことを聞いておるのですよ。法的なことは私は、それは難しいことはわかるし、どうするかは皆さんで知恵を出したらいいと思うのです。
 そこで、これは総理も聞いていただきたいのです。これは貨幣価値も違いますが、戦後日本が賠償とか準賠償とか、いろいろな在外資産の喪失等足しますと、その時期によってこれは違うので、換算が、一ドルを幾らにするか、ちょっと古い時代のもありますから若干は違うのですが、全体で一兆百十九億七千三百十一万円を賠償その他で支払ったあるいは無償供与をした、そういう数字があるわけです。これは、外国に対してあの戦争であれだけの被害を与えてそれだけのことをやっておるのです。
 日本の国内では、いわゆる戦傷病者の援護法やあるいは被爆者の分も入れて、あるいは軍人恩給も一九五三年から復活しておりますから、それらを足して、一九五二年から九〇年までに累計で約三十一兆円払っておるわけですね。単純な金額の比較はできませんが、被害を与えた日本が、さっき言いましたように、朝鮮の人には一銭も払わぬ、台湾の人は死んで二百万。そのトータルがこの一兆百十九億。日本の戦死その他被害を受けたのには三十一兆円で、なお毎年毎年これから二兆円払っていくのですね。だから、これは、被害を与えた方に対してはそれほどしないで、自分たちがいわゆる戦争で負った傷については、お互い仲間としての思いやりがけた違いなのですね。国際的にそれが通用するのだろうか。
 さっき野村局長から、これはもっと後に言おうと思ったのですが、先に答弁の方が出ましたが、例えばドイツの場合、これは御承知のとおり、今までに、九一年一月までに、これはもちろんユダヤ人に対する大変な弾圧をやっておりますから、八百六十四億マルク、約六兆九千億円を払っておるわけですね。二〇三〇年までにはさらに千二百億マルク、ですから九兆六千億で、まだまだこれは払い続けていくわけですね。ユダヤの人たちに対しては、例えばイスラエルに今四割住んでいる、あるいはアメリカに四割住んでいる、あるいはドイツの中に、それ全部、どこに住んでおろうとこれは支払いをするわけですね。このうち一時金が二割で年金が八割ですから、たくさんな額がまだ年々こういうぐあいに送られておるわけですね。
 ですから、こういうことを考えると、これは総理大臣、総理大臣の立場ではなかなかお答えにくいのかもしれませんけれども、いわゆる国籍条項ということだけで、それはもう仕方がないんだということにはならぬのじゃないか。これは、日本が犯してきたいろいろな過ちをアジアの国々できちっと清算をするという点からいえば、何らかの検討をして解決のための努力をするということは必要ではないだろうかと思うのですが、その点いかがでしょうか。

○宮澤内閣総理大臣 先ほど来、日韓の協定のお話が出ておりまして、私はそのころのことをかなりよく知っておりますので、一九六五年であったと思います。大変な経緯がありまして、ともかく有償、無償ということで妥結をしたわけですが、あのときの率直な感じで申しますと、我が国が韓国の人々で我が国の軍務に服した人々に何かを払うというような、お互いにそういう関係でなかったと申しますか、もっとある意味で、今日とは違ったややとげとげしい関係と申しますか、そういうことで、そういうことも含めまして韓国政府が自分の方でと、こちらもそれじゃそういうことでという、基本的にはそういう関係であった。
 きょうになってみますと、もっと長い年月が流れましたので、水田委員の言われますような我々のそういう法律問題を超えた、いろいろな済まないことをした、御苦労をかけたという感情がありますことは私は事実だと思います。が、それから先はどうしても法律的なお答えになってしまうわけですが、戦後、我々は我々でかなり戦後の苦しい中からそういう各国に対する約束、あるいは条約上の義務はとにかく履行いたしましたということ、法律的にはそれはもうそういうことであろうと思いますので。
 今になってだんだん、お互い歴史として当時を振り返るだけの余裕ができてまいりました。いかにもお気の毒なことをした、こういうことはもう一遍してはならぬなという思いは強うございますけれども、実際それを具体的な何かの形であらわすということになりますと、これはまたいろいろ新しい問題になってまいるのではないか。せめても我々がそういう気持ちを持ち、そうしてそういう過ちを二度と起こさないということ、まずそういう気持ちをいろいろな形で両国あるいはお互いの間の親善関係ということで大切にしていくということではないかというふうに、お気に召さない答えかもしれませんけれども、考えます。

○水田委員 条約、法律を盾に言われるわけですが、私が言いましたように日本民族がやはりアジアで生きていくために大事なことですから、人権規約とかあるいはまた難民条約に入りますと、国内でいえば法律的には国籍条項というのがあるわけですね。それもだんだん取っ払っていっておるわけですから、そういう点では、一つ決まればそれが金科玉条ではなくて、そこからやはり現実に置かれておる日本のアジアにおける状況ということも考えながら、これからも私はぜひ検討してもらいたい、やれる方法を考えてもらいたい。これはそういう要望で、この問題については終わりにしたいと思います。というのは、後にまだ従軍慰安婦の問題も同じような問題がありますから。
 続いて従軍慰安婦の問題について。これは、政府は当初、全く関与してない、軍は関与してない、そして民間の業者が従軍慰安婦を連れ歩いたんだと、そういうことを言われたのでありますが、資料が出てまいりまして、軍がこれを管理し関与しておったということが明らかになったわけです。
 今問題は、強制連行ということかどうか、この点についてまだ確たるものがない、こういう言われ方をしておるわけでありますが、私は小学校をソウルで卒業いたしまして、あの国を知っておりますし、ここ数年も何回か参りました。例えば、私がいわゆる日本人だとわかっても、電車の中で若い子は席を立ってちゃんと譲ってくれます。非常に儒教の教えの色濃く残った国でありますから、そういう国で男女の関係等は日本とはけた違いに厳しいものが今でもある。当時もそうだったわけです。
 私は、また戦争中、上海、青島をずっと見てまいりました。上海、青島で、朝鮮の人たちだけのそういう慰安所が現実にあった。そこでは十代から二十になるかならぬか、そういう女性だった。ですから、その韓国の人たちが自発的な意思で――日本では当時昭和三十三年までですか、遊郭があって、そういうことが存在していましたからね。そういう人たちが外地へも行っておったことは事実です。しかし、朝鮮の若い娘さんたちがそういうところへ自発的に行くということはあり得ぬという、あの国の教えからして。そういう点から、私はそこには強制力が働いたであろうということを想像するわけです。
 ただ、日本での調べで、まだ第二回の調査結果を御報告になるようでありますけれども、私は日本の中にもそういう資料はないことはないんじゃないか。あるいは韓国の、戦争で焼けたのもあるかもしれませんけれども、あそこの昔でいう府それから面というような、市とかこちらでは町ですね、そういうところを探してみれば、あるいは本当にそこへ行って聞き取り調査をすれば、そういうことはわかるんじゃないか。
 私は、そういう努力を日本政府が積極的に韓国に働きかける。そういうことがなければ、これは本当に日本が誠意を持ってこの事実を、一番問題になっておるのは強制連行の実証ということが一番韓国も疑問に思っておるし、日本が本気でやっておるのかどうか。そういうことですから、その点はそういうことをやるべきではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
 それから、調査がどこまで進んでいるかということをお聞かせいただきたいと思います。

○谷野政府委員 調査の点をお話しいたしたいと思いますが、とりあえず私どもの外政審議室というところで各省庁にお願いして取りまとめておりますので、そのことをお話ししたいと思います。
 お話がございましたように、昨年の七月に一応の結果を発表させていただきました。そして、その後さらに若干の資料が見つかっておりますので、そんなこともあって、引き続き調査を私どもの内閣から関係の省庁にお願いしております。
 ただ、ただいま先生のお話の強制的なことであったかどうかということに関しましては、ただいままでのところ、日本側の資料に関する限り、これを裏づけるものは発見されておらないということでございます。
 それから、韓国に渡って調査をしたらどうだというお話がございましたけれども、これは若干外国のことでございますし、私どもというよりむしろ韓国政府で、韓国政府の自主的な努力でこの従軍慰安婦の問題は調査をしておりますので、とりあえずは韓国政府側の作業にまちたいと思っております。

○水田委員 強制連行の事実はないというような言い方は、僕はこれは間違いだと思うのですね。調査した結果、またそれが明確にわからぬということでしょうね。
 私が申し上げたように、日本で考える以上にあの国では女性の身持ちというのは厳しい国です。現実に、ここにおられる人でも外地へ行かれた人で目にされた方はあると思うのです。朝鮮の若い娘さんがそういう慰安所におったことは事実ですからね。それが自発的なあれで行くということは、ほとんど考えられない国柄なんですね。今でもそういう儒教の教えが色濃く残っておる社会ですからね。
 それを、こちらの調べが十分でなくて、そんなことはないということを言えば、それは韓国は一番そのことを言っておるのでしょう。強制連行の実証ということを韓国は言っておるし、そしてそのために韓国政府は従軍慰安婦問題で、国内に居住している被害者に対する補償金を支給する方針を決めた。そして、日韓請求権協定で完全かつ最終的な解決を見た諸問題には従軍慰安婦問題は含まれていないというのが、韓国の公式的な立場でしょう。
 そういう中で解決をするために、日本で各省庁にお願いして出してもらったぐらいでは出てこぬでしょう。それは余りいいあれじゃないですからね、実際出てくれば。恥ずかしいことを日本がしたという、そういうあれですから。ですから、それは例えば特別なチームを官房長官のもとへでもつくってやるぐらいのことを、わからぬでもやるぐらいのことは、韓国に対して、あるいは従軍慰安婦として苦労された人たちに対する誠意として日本はすべきじゃないんですか。
 それからもう一つは、今申し上げましたように、これは日韓請求権協定で最終的な解決を見た諸問題には含まれないという韓国の見解については、どういうぐあいにお考えか。
 それからもう一つは、今特別なチームをつくってでも積極的な調査をするという姿勢を示すべきじゃないかと思うのですが、その二点についてお答えいただきたいと思います。

○谷野政府委員 ただいまのお尋ねのうち請求権絡みの話につきましては、条約解釈の絡む問題でございますから外務省から御答弁いただいた方がよろしいと思いますが、私が先ほど申し上げましたのは、強制的なことはなかったというふうに日本政府の判断として断定的に言っておるわけではございません。そういう資料が今日までのところ、そういうものを裏づける資料が各省庁の作業にもかかわらず日本側の資料として発見されておらないということを申し上げたわけでございます。
 それから、チームを内閣のもとにつくってはどうかということも再三国会でも御議論がございますけれども、ただいまのところ、むしろ各省庁の現在の陣容の中で、外務省は外務省、防衛庁は防衛庁で非常に一生懸命なさっておりまして、かつ、かなりいろいろな資料が出てきておるわけでございまして、とりあえずは当面はただいまのような形で作業を継続させていただきたいと思っております。

○水田委員 官房長官が九〇年の六月の二十三日に毎日新聞でこういうことをおっしゃってますね。「ODAももちろん大事だが、こうした歴史への贖罪に関する部分にも、旧来の発想を飛躍させ十分な光を当てなければならない。それが近隣諸国に対して「日本の平和への意思」を客観的に担保することになり、窮極の「日本の平和と安全」へと結実するからだ。」こう書いている。私、全く同感なんですね。
 そういう点で、先ほど申し上げました軍人として戦死した者に対する補償の問題なりこの従軍慰安婦の問題というのは、そういう面を含んでいると思いますね。官房長官に就任されたわけですから、そういう点では、このときは単に衆議院議員としておられたわけですが、申し上げますように、どこのセクションがやるといっても、厚生省でまあやってくれというのを出しても、そのためにもう血眼になってなかなかやれないだろうと思うのです。ですから、そこを進めるためにひとつ何らかの知恵を出して、こたえられる――恐らく私よりもっと年の上の人をずっと聞き取りやっても大分の事実がわかると思うのですね。私は、戦争に負けたとき二十ですから、そのときで今申し上げたような朝鮮での経験や上海、青島での経験を申し上げることができるのですが、そういう人たち、まだまだ元気で生きておられますから、やる気なら私は出ると思うのですね。単に各省庁から、あれば出してくれというようなことでこれははっきりするわけはないわけであります。
 もう一つは、そういう事実がもし明らかになった場合どうされるのか。これは総理大臣、まさに人権侵害の問題で、これは賠償の問題とは全然別の問題だろうと思うのですね。ですから、そういうことがあった場合には、実際にそれを認めた上できちっと謝罪、補償すべきだろうと思いますし、それから、これは単に朝鮮半島の問題だけじゃなくて、今や中国大陸あるいは台湾、フィリピン、インドネシア、あるいはまたインドネシアにおられたオランダの人たちにもあるわけです。そういう点に対しての調査も進めておられるのかどうかですね。
 台湾は今国交がありませんが、私昨年参りましたら、台湾も、他国にきちっとするのであれば同様のことを我が国のそういう人たちにもするようにと、こういうことも、今はやめられましたが、カク行政院長からのお話がありました。ですから、そういう国々はどういう調査をしておるのか。あるいはもしそういう点が明らかになった場合、私は本気でやればそういう点は明らかになると思うのですが、どういう補償をされようと考えるのか、お伺いしたいと思います。

○谷野政府委員 朝鮮半島以外にもあるではないかというお話でございましたけれども、既に国会でも御報告しておりますけれども、これまで発見された資料の中にも、例えばフィリピン等にその種の施設があったというような資料が発見されております。何も対象を朝鮮半島に限っておるということではございません。
 それから、どのような措置をとるかということでございますが、韓国は、とりあえずはごの真相究明を尽くしてくれと言っておりまして、私どもはそういう韓国側の気持ちを受けて先ほど御説明したような作業を各省庁にお願いしておるわけでございますけれども、それを受けてどういうふうに対応するかということにつきましては、先ほど総理からも御答弁あったかと存じますけれども、このことについて日本としてどういうふうに日本としての気持ちをあらわすかということを考えてみたいということは、総理、官房長官等が国会等でも申し上げておるところでございます。
 とりあえずは、繰り返しになりますけれども、韓国政府の最も関心の強い、真相をとにかくきわめるというところに私どもの努力を傾注しておるというのが現状でございます。

○水田委員 これは総理に、私申し上げましたように、厚生省ですか、外務省ですか、これをやっておるのは。(宮澤内閣総理大臣「外政審議室」と呼ぶ)失礼しました。体制を強化して、一日も早い実態解明というのが、これは誠意を示すことになると思いますので、その努力をお願いしておきたいと思います。
 時間がもう大分経過しましたので、教科書問題。先ほど総理から御答弁の中で、大分進んできておる、こういう言われ方をしたわけです。あの言われ方の中に、あれは本当は教えはそこまで行かないのです。試験、今のいわゆる入試問題が事実を教えない。そこまで試験に出ぬからその前でとまってしまって、書いてあっても行かぬというのです。そこは、ひとつそういうぐあいに御理解をいただきたいと思います。
 そこで、言われましたが、実は私はこのくらい日本の高等学校ですか、大体九〇%から九五%、三冊の教科書を使っておる。それと、日本語で書いてある分で日本で手に入る中国とか韓国全部の本の比較をしたもの、こんな厚いものを中国、韓国がつくったわけです。
 その中の一部を申し上げます。これが韓国の三・一事件のあれ。日本ではこれだけ書いてあります。韓国ではこれだけのことが書いてありますね、ということです。それから、これはちょっとクラスが違うのかもしれませんけれども、日本の、シンガポールについてはこれだけ書いてあるのです。「日本軍に抵抗するとみなした六千人以上もの中国系住民の生命を奪ったのを初めここう書いてある。シンガポールの教科書ではもう具体的にそのことが、どういうぐあいに拷問されて、あるいはその後また献金五千万ドル出すとか、そういうようなのが全部書いてあるんですね。ですから、やはり書き方が違うわけです。もちろん日本だけが悪いんじゃなくて、中には、ああそこまで日本のことを書かぬでもというのも日本から見ればあるわけですね。
 ですから私は、教科書、アジアの国々が将来に向かってお互い信頼関係を打ち立てるためには、共同でひとつここのところは、例えば豊臣秀吉が朝鮮出兵したときにどういうことをやったのか、それはどうだったのかというのは、それは同じような、やはり向こうが、日本がけしからぬだけではなくて、逆にそこらを書き方を変えるというようなこともあるかもしれません、それは。あるいは植民地支配のときの状況とか、そういうことを共同でやるということも一つ必要じゃないか。
 ヨーロッパではそういうことを既にやられておるわけです。それは、長い期間にわたってそれぞれの国々の友好関係を保つためにはそのことが大事なので、教科書では書き方が悪いと文句を言うだけでそのときそのとき感情的なことになるんじゃなくて、あるいは仲のいいところまで悪くなるんじゃなくて、こういう歴史を経て今こういう関係にあるということがお互いが理解できる、そういう教科書の編成をやるべきではないかと思うのですが、この点についての、総理に先ほど教科書を御答弁いただいたので、御答弁いただきたいと思います。

○宮澤内閣総理大臣 お互いの間の歴史を専門家たちが共同で研究し合うということは、私は非常に大事なことであると思いますし、たしかそういう試みが、この問題につきまして我が国と韓国の間であったと思いますけれども、両国の学者の間でなされているように私は理解をいたしております。
 ただそれは、我が国は国定教科書をつくっておりませんので、いわば民間の間のと申しますか、学者の間の共同研究になる。それによって教科書がつくられていくということになりますれば国民の理解を助けることになりますけれども、国がやるということではございません。しかし、そういうことは有意義なことと思います。

○水田委員 これはひとつ簡単に答えていただきたいのですが、台湾へ行きますと軍事郵便貯金、通帳を持っておる人がたくさんおられます。香港へ行ったら、軍票をたくさん持って、けしからぬと、こういう話ですね。ここらあたりはどういうぐあいに処理をされるお考えか、お答えいただきたいと思います。

○小泉国務大臣 台湾の方の軍事郵便貯金については、我が国の国内法上支払い義務を有しているものであり、政府として何らかの形で契約上の債務を履行しなければならない立場にあると思っております。
 しかし、まず日台間の全般的な請求権問題との関連をも考慮する必要があること、また、いかなる形での債務履行が実際的かは慎重に見きわめる必要があること等の問題があり、関係省庁と調整を図り、早期解決に向けて取り組んでいるところであります。
 郵政省としても、引き続き関係各省庁間で意見の調整が図られ、早期に解決されるよう努力していきたいと思っております。

○水田委員 大蔵大臣、今おられませんから、軍票の問題は後で。

 第126回国会 参議院予算委員会 第7号 平成五年三月二十三日(火曜日)午前十時一分開会

【発言順】
 委員          清水 澄子
 内閣官房内閣外
 政審議室長兼
 内閣総理大臣
 官房外政審議室長     谷野 作太郎
 国務大臣(内閣官房長官) 河野 洋平
 外務省条約局長      丹波 實
 警察庁長官官房長     垣見 隆
 外務省アジア局長事務代理 高野 紀元
 委員長          遠藤 要
 内閣総理大臣       宮澤 喜一
 外務大臣         渡辺 美智雄
 外務省国際連合局長    澁谷 治彦
 委員           本岡 昭次
 運輸大臣         越智 伊平
 運輸省鉄道局長      秦野 裕

○清水澄子君 ぜひそれは実行していただきたい。また、それを実行しなければこの問題は解決されていかないと思います。
 次に、政府はよく強制に関する資料がないと言うわけですけれども、岩波で「昭和天皇の終戦史」というのが最近出ました。これを読みましてもはっきり、敗戦のとき、二週間の空白期のときにこれは徹底して文書を燃やしたということをここに書かれています。それが軍からの指令で、そして警察のルートを通じて余りにもたくさん燃やし過ぎて他のものまで燃やしたということが書かれているわけですけれども、こういう資料の隠滅というのは刑法でいう証拠隠滅罪に本来ならなるものだと思います。
 そういう意味で、資料がない、そういうものがないということの中で問題をいろいろ逃げていくのじゃなくて、やはりですからあらゆる人々の言葉、証言を聞いて、そして誠意をあらわすべきだ、こういうことを私は申し上げたいわけですが、もう一度そういう意味で聞き取り調査、それから民間の人たちの協力を得るということをお約束いただきたいと思います。

○政府委員(谷野作太郎君) 民間の方の御協力といいますか、先ほども御答弁いたしましたように、既に資料に当たるだけではございませんでいろいろな方々のお話を伺っておるということでございます。それから、聞き取り調査につきましては、先ほど来官房長官の御答弁のとおりでありまして、清水先生の御意見を重いものとして伺っておくということであろうかと思います。
 ただ、あえて申し上げますれば、従軍慰安婦の方々、時々東京に見えます。私自身かなり時間をかけてお会いいたしておりまして、全くこういった方々と私どもの間に接触がない、お話を伺っていないということではございません。

○清水澄子君 次に、補償にかわる措置とおっしゃっているんですが、その措置とはどういうもので、被害者に届くものなのかどうか、お答えください。

○国務大臣(河野洋平君) 国会においても繰り返しお答えをいたしておりますが、法的には日韓間では、従軍慰安婦問題に関する補償の問題を含めて日韓両国及び両国民間の財産・請求権の問題は、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが政府の立場でございます。これはまず大前提として委員も御承知のとおりでございます。
 ただし、その後この問題について累次申し上げてきたところでございますが、本件の問題の性格などにかんがみまして、つまり従軍慰安婦として筆舌に尽くしがたい辛苦をなめられた方々に対し我々の気持ちをいかなる形であらわすことができるのか、現在各方面の意見を聞きながら誠意を持って検討いたしておるところでございます。この検討を引き続きいたしておりまして、どういう形であらわすかについてはもうしばらくお時間をかしていただきたいと思います。

○清水澄子君 韓国では、日本が真相解明の前にこの基金構想を打ち出した、そのことに対して、まず日本というのはいつでも先に金で手を打つというやり方だということへの大きな国民的な反発が起きたわけです。そして、だから日本軍によるこの従軍慰安婦の生活支援というのは韓国人みずからの手で行おうと、挺身隊おばあさん生活基金募集国民運動本部というのができました。そして、韓国政府は生活保護や住宅などそういう生活支援をやはり予算化すべきだという国民の声が起きたわけです。
 ですから、そのことは一つは、もう解決済みというそういうことではなくて、やはり問題があったんだということを私たちが真摯に主体的に誠実に対応していくという中で私はこの問題を一緒に解決していかなきゃならないという立場で申し上げておりますので、ぜひそういう立場を貫いていただきたい。そうしなければこれは絶対相手の国民に納得を得られないということを再度私は申し上げたいんですが、官房長官、いかがですか。

○国務大臣(河野洋平君) 繰り返し申し上げることになりますが、金泳三大統領の御発言を私も伺いまして、大統領のお考えはお考えとして大変高い見地からの御判断というふうに伺いましたけれども、私どもには私どもの、先ほどから申し上げておりますように、筆舌に尽くしがたい辛い思い、悲しい思いをなさったに違いない方々に対する我々の気持ちをどうあらわすかということを考えているわけでございまして、この問題は大統領の御発言が仮にあったとしても、あるいはなくても、この我々の気持ちは変わりがないところでございます。

○清水澄子君 昨年十二月に韓国言論会館が日本リサーチセンターにアンケートを依頼しています。これによりますと、五〇%の日本人がやはり心からの謝罪と補償をしなければならないということを回答しております。そういう気持ちをやはりあらわすようなそういう手だてをぜひお願いをしたいと思います。
 次に、婦人及児童ノ売買禁止ニ関スル国際条約というものがあったわけですけれども、これに日本は加盟をしていたでしょうか。

○政府委員(丹波實君) 先生の御質問は、一九二一年九月にジュネーブで作成された条約のことをおっしゃっておられると思いますけれども、正式な表題は婦人及児童ノ売買禁止ニ関スル国際条約と思います。
 日本はこの条約には同じ年の七月の三十日に署名いたしまして、一九二五年の十二月十五日に日本に対して効力を発効されておる、そういうことでございます。

○清水澄子君 その条約の目的、内容は何ですか。

○政府委員(丹波實君) 実は、この条約の前に一九一〇年の五月に作成されました条約が一つございまして、醜業ヲ行ハシムル為ノ婦女売買禁止ニ関スル国際条約というものがあったわけです。
 今、先生が御質問の条約は十四条から成りまして、その前にできました一九一〇年条約に掲げられた未成年の婦人に対する違反行為の処罰のため一切の措置をとるべきことを定めているわけですが、この前の条約に掲げております未成年及び成年の婦女子に対する違反行為の未遂及び予備の処罰を確保するため必要な手段をとることを約するという、そういう条約でございます。
 この条約を含みます売春のための人身売買禁止に関する条約を一本化した条約として、さらに戦後一九五〇年に、人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約というものができておることも先生御承知のとおりだと思います。

○清水澄子君 その条約を批准されたときに、どのような留保条件をつけられたんでしょうか。

○政府委員(丹波實君) 先生の御質問は、冒頭で御質問になられた一九二一年の条約のことをおっしゃっておられると思いますが、この条約に、先ほど申し上げましたとおり、日本が一九二五年十二月に入りましたときに、日本政府としてこの条約の署名に当たりまして次に申し上げる二つの留保と宣言を行っております。
 一つは留保でございますけれども、その内容は、この条約の「第五条ニ関スル確認ヲ延期スルノ権利ヲ留保」するということでございまして、要するに一九一〇年の条約は未成年の婦人と成年の婦人を区別しておるわけでございますけれども、この成年の基準で一九二一年条約第五条が満二十歳から二十一歳へ引き上げるということでございます。という意味は、当然未成年の年齢が下がるということで、未成年者の保護を厚くしようという目的でこういう規定があるわけですが、この部分につきまして留保したということです。しかしながら、一九二七年に至りましてこの留保を撤回しておるということでございます。
 次に、宣言でございますけれども、この条約への署名が朝鮮、台湾及び関東租借地を含まないという点を宣言で宣言しておるということでございます。

○清水澄子君 要するに、日本では十八歳や未成年者を売春のいわゆる公娼制度もあったわけですから、しかし国際的には一応つじつまを合わせなければならない、しかし、年齢は守れないというので二十一歳以上というのを留保したんだと思います。それから、その当時の植民地地域をそこから除外をしていたということになると思います。
 そこで、今度は警察庁にお尋ねいたしますが、やはり警察庁の方から昭和十三年に内務省発警第五号というのが各庁府県長官に出されているわけですけれども、その通達の内容と理由を御説明いただきたい。

○政府委員(垣見隆君) お答えいたします。
 ただいま委員御指摘の通達につきましては、関係省庁のいわゆる従軍慰安婦関係の資料調査において判明したものと思われますけれども、警察庁において保管、管理していたものではございませんで、その通達の発出の事実について、また内容について、警察庁として責任を持ってお答えをすることができませんことを御理解いただきたいと思います。

○清水澄子君 それでは、その資料の出てきたところからお答えください。

○政府委員(高野紀元君) お答え申し上げます。
 これは慰安婦に関連する資料の調査の一環として外務省の史料館にたまたまあった資料を外務省より提出したものでございますが、なぜこの資料が外務省にあったかというその経緯等については私ども必ずしもつまびらかにしておりません。

○清水澄子君 不親切ですね。その資料をお読みいただければいいんです。
 これは内務省発警第五号として内務省警保局長が各庁府県長官、知事にあてているわけですね。「支那渡航婦女ノ取扱ニ関スル件」、なぜ外務省史料館にあったかわからないとおっしゃるんですが、これを読めばはっきりわかります。婦女売買に関する国際条約に基づいてこの文書を出しているわけです。だから、これに違反をすると困るんだと。この中では、そういう売春を目的とする婦女の渡航は、いわゆる満二十一歳以上、特に性病のない者のみを日本からは北支と中支だけに限って外務省は身分証明書を発給すると書いてあるわけですわ。ちゃんとそれは行政として出されたことですから、こういうことはやっぱり明確に資料の中から明らかになったということをお伝えいただきたいと思うんです。
 そこで、官房長官、前に私はここで外務大臣が日本の女の人も多かったんですよとおっしゃったのが非常に気になっていたんですけれども、朝鮮からなぜ従軍慰安婦が大量に駆り出されたか。ちょうどこの文書が出た昭和十三年ぐらいから慰安所ができてまいります。その当時の国際社会では、婦人及び児童の売買は国際的な犯罪であるというそういう条約がつくられていた。ですから、日本も加盟をせざるを得なかったんだと思います。そして、売春を目的とする渡航というのは、やはりそれは犯罪ですから、日本政府は国内の女性を慰安婦に送る場合も限定せざるを得なかったわけですね。ですから、そこではっきり限定しておいた。そのかわりに朝鮮、台湾、関東租借地はこの条約の適用地域から除外をしてあるわけですから、植民地の女性が慰安婦の草刈り場になったというのは当然であると思うわけです。
 ですから、当然この慰安婦に朝鮮女性が多かったというのは、これだけでも私は日本政府ははっきりこれは政策的に行ったことだと、こういうことはこれでわかると思いますけれども、それをお認めになりますか。どうぞ。

○政府委員(谷野作太郎君) ただいまのお話は、私どもがただいま行っております調査作業に一つの参考とさせていただきたいと思います。ありがとうございました。

○清水澄子君 どうぞ答えてください。

○委員長(遠藤要君) 委員長はこちらにおります。

○清水澄子君 はっきり政策だったというのはこれでおわかりだと思います。

○政府委員(谷野作太郎君) ただいま明らかになっております文書だけをもって政策という重いものであったかというふうに断定することはできないと思いますので、いま少しく私ども勉強させていただきたいと思います。

○清水澄子君 非常に率直じゃないと思いますけれども、じゃそれは改めて調査を約束していただきたいと思います。
 次に、総理にお伺いいたしますけれども、最近フィリピンのラモス大統領が来日されましたけれども、そのときにはどういう慰安婦についてのお話があったでしょうか。

○政府委員(高野紀元君) 今月十一日に行われました宮澤総理とラモス・フィリピン大統領との首脳会談におきまして、従軍慰安婦問題につきましてラモス大統領より、本件の早期解決を希望する旨の御発言がございました。これに対し宮澤総理より、衷心からのおわびと反省を述べ、同時に、日本政府としてさらに事実関係の調査を継続するとともに、我々の気持ちをいかなる形であらわすことができるのか、誠意を持って検討してきている旨の御発言をされました。

○清水澄子君 総理はどういうふうにお答えになったんですか。

○国務大臣(宮澤喜一君) ただいま政府委員が記録に基づいてお答えしたとおりでございます。

○清水澄子君 私は総理にお伺いしているんです。

○委員長(遠藤要君) 総理がただいまお答えになったでしょう。

○清水澄子君 いや、総理はそれに対してどういうふうにお答えになったかと。

○国務大臣(宮澤喜一君) ただいま政府委員が記録に基づいてお答えしたとおりです。

○清水澄子君 じゃ、総理は、フィリピンの従軍慰安婦というのは日本軍のフィリピン占領下で起きた問題、それから朝鮮半島の問題は旧植民地下で起きた問題なんですが、この二つの意味合いが違うということを御認識ですか。

○国務大臣(宮澤喜一君) ちょっとお尋ねの意味わかりかねます。

○政府委員(高野紀元君) 今の御質問に関しましては、政府といたしましては、さきの大戦中、フィリピンのようにその領域が我が国軍隊により占領されたことのある地域であれ、あるいは韓国等我が国の領域の一部であったが戦後独立した地域であれ、国籍、出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として筆舌に尽くしがたい辛苦をなめられたすべての方々に対し衷心よりおわびと反省の気持ちを申し上げて、我々の気持ちをいかなる形であらわすことができるかということを現在誠意を持って検討してきているという立場でございます。

○清水澄子君 それでは外務省の方、ハーグ陸戦法規の第四十六条と、それから一九二九年の捕虜の待遇に関するジュネーブ条約を説明してください。

○政府委員(丹波實君) ハーグの陸戦法規はジュネーブで作成されました条約でございまして、一九〇七年に作成されたものでございますけれども、陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約ということでございます。
 で、陸戦のまさに法規慣例に関します種々の規則が国際条約として締結、ここにまとめられておるということでございますが、特に今の先生の御質問との関連で申し上げれば、この第四十六条を御質問しておられると思いますけれども、第四十六条は「家ノ名誉及権利、個人ノ生命、私有財産並宗教ノ信仰及其ノ遵行ハ之ヲ尊重スヘシ」と。これは占領国の軍が被占領国のこういうものを尊重すべしということでございまして、それからその四十六条の最後の文章は、「私有財産ハ之ヲ没収スルコトヲ得ス」というふうになっておるわけでございます。
 それから、二つ画の条約は一九二九年の捕虜の待遇に関する条約でございますけれども、これは捕虜がその人格及び名誉を尊重されるべきであるという考え方に立って種々の規定が規律されておるということでございます。
 陸戦法規につきましては日本は加盟しておりますけれども、この一九二九年条約には日本は入っていないということでございます。

○清水澄子君 つまり、ハーグ陸戦法規の第四十六条というのは、日本は「家ノ名誉」なんということになっているんてすが、これはファミリーとなっています。家族の名誉。ですから、それは家族を構成されているすべての人々、女子、全部入れてのこれは権利であるということです。
 それから、このジュネーブ条約は批准していないと言いますけれども、これは第二次世界大戦が始まったときに連合国と日本はそれを守るという約束をしてあったはずですから、そのことはここで否定なさらない方が歴史を忠実に認識することになると思います。
 そこで、私はお尋ねしたいんですけれども、この二つの条約とも、やはり特に女性、こういう戦争中といえども最低個人の人権、一般民間人の人権を守らなきゃいけないと。そして、特に二九年ジュネーブ条約では、捕虜の人格とあわせてここに特に女性に対する一切の待遇、人権を守らなきゃいけないとなっているわけですけれども、フィリピン人、中国人、オランダ人の従軍慰安婦の場合は、敵国民に当たる一般市民に対して行った占領地の住民の保護義務に違反したということにおいて違いがあるのじゃないですかと私は先ほど伺ったんですけれども、特に二九年ジュネーブ条約、女性の尊厳を求めたその条約にも違反しているのではないか。この点について、外務大臣、いかがでございますか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) ちょっと法律の解釈上の問題ですから条約局長から解説をいたします。

○清水澄子君 解説は聞いていません。

○政府委員(丹波實君) 先ほどの二九年条約、私が日本は入っていないと申し上げた趣旨は、したがって日本は何でもできたということで申し上げたつもりはございません。私は、先生がここでおっしゃる捕虜の人格、名誉は尊重されるべきである、あるいは一般論として婦人はきちっと待遇せられるべきだという考え方は、こういう条約を持ち出すまでもなく、基本的なそれは国際社会に常に通用すべき考え方であるというふうに考えております。
 それから、ハーグの陸戦法規につきましても、先生御承知のとおり総加入条項がございまして、条約としては第二次大戦中にそのまま適用はならなかったかもしれませんけれども、しかし陸戦法規の中で言っております今の個人の生命とかあるいは家の名誉、権利を尊重しろという考え方も、これは国際社会に共通する考え方であったと思います。
 こういう考え方に照らして、先生が問題にしておられる従軍慰安婦の問題については、先ほど総理、官房長官以下政府から答弁しておりますとおり、その筆舌に尽くしがたいいろんな災難をかけて申しわけなかったということを累次我々は表明しておるということでございます。

○清水澄子君 それじゃ、その陸戦法規の第三条はどういうことが書いてありますか。

○政府委員(丹波實君) 条約附属書の方の第三条をおっしゃっておられると思いますけれども、そうでございましょうか。

○清水澄子君 一九〇七年の第三条。

○政府委員(丹波實君) 承知いたしました。
 先生がおっしゃっておられるのは附属書の方ではございませんで、本文の方の第三条と思います。
 これは、第一条が「軍隊に対する訓令」、それから第二条がその条約の適用について書かれておりまして、第三条として「前記規則ノ条項ニ違反シタル交戦当事者ハ、損害アルトキハ、之カ賠償ノ黄ヲ負フヘキモノトス。交戦当事者ハ、其ノ軍隊ヲ組成スル人員ノ一切ノ行為ニ付責任ヲ負フ。」ということが書かれてございます。

○清水澄子君 はっきりしています。損害賠償の責任は日本にあるということであります。
 次に、こういうことを総理はお聞きになっていて、この植民地下の女性であれ占領地における女性の虐待であれ、いずれもやっぱり日本は非常に非人道的なことをやってきたと思うわけですけれども、総理は、こういう女性を性的な奴隷にした慰安婦問題というのは、戦争当時ももちろん、及び今日の国際法から見ても、人道に対する罪の犠牲者とお認めになりますか。

○国務大臣(宮澤喜一君) 人道に対する罪というのはよくわかりませんので、お答えを正確にはいたしかねます。今法律的なやりとりでございますから、人道に対する罪というのをちょっと定義をしていただきますとお答えができると思いますが、非常に遺憾なことだということはもう申すまでもないことでございます。

○清水澄子君 それならば、極東軍事裁判のときの人道に対する罪というところを読んでください。

○政府委員(丹波實君) 極東国際裁判所条例ということに基づきまして極東軍事裁判が行われたわけですが、この条例の第五条の一八)、「人道に対する罪 即ち、戦前又は戦時中為されたる殺戮、職域、奴隷的虐使、追放其の他の非人道的行為、若は犯行地の国内法違反たると否とを問はず本裁判所の管轄に属する犯罪の遂行として又は之に関聯して為されたる政治的又は人種的理由に基く迫害行為。」、以上でございます。

○清水澄子君 総理、いかがですか。

○国務大臣(河野洋平君) ただいま条約局長から御説明を申し上げました人道に対する罪ということで、極東国際軍事裁判所が裁判をしたわけですけれども、同裁判において人道に対する罪について有罪とされた被告は存在しなかったものと承知いたしております。しかし、これは繰り返し申し上げますが、人道に対する罪について有罪とされた被告がなかったということを私が申し上げましても、そのことが委員が先ほどから述べておられます事柄について我が国がその罪の意識がないとか、そういうことを申し上げているわけではないことはぜひ誤解のないようにお願いをいたしたいと思います。
 いずれにせよ、いわゆる従軍慰安婦について我々が持っております気持ちというものは、この場で何回も申し上げたとおり、そのつらい悲しみ、そういった筆舌に尽くしがたい思いについて我々が何ができるか、何をしなければならないか、そういう思いは十分にあることをぜひ御理解いただきたいと思います。

○清水澄子君 重大なことをおっしゃったと思います。私はあえて言わなかったんですけれども、ここでわざわざ人道に対する罪というのがわからないとおっしゃるから極東軍事裁判を申し上げたので、そうしたらそれにはその該当者がいないとおっしゃるんですが、そうなると極東軍事裁判どうぞお調べください。はっきりあります。しかし、そういうことまで否定されるんでしょうか。私はこの問題は後に残しておきたいと思います。

○委員長(遠藤要君) ちょっと、質問者もありのまま尋ねるというか、もっと明確にせぬと。

○清水澄子君 じゃ、極東軍事裁判の結果も否定されるんでしょうか。

○政府委員(丹波實君) サンフランシスコ平和条約の第十一条におきまして、日本は極東国際軍事裁判所の判決の結果と裁判というものを受諾しておりますので、政府として極東軍事裁判の判決を否定するということはあり得ないわけでございます。
 今、官房長官が申し上げましたのは、先生も御承知のとおり、この極東国際裁判所は平和に対する罪、それから、先ほど申し上げたようなハーグの陸戦法規違反といったような通常の戦争犯罪、それから三つ目が人道に対する罪と三つの犯罪というものを基準に裁判した中で、直接人道に対する罪というものでその有罪の判決がおりたということにはなってないということで、前の二つによってその有罪ということは排除されてないわけでございますので、官房長官の御説明が極東軍事裁判上その判決を否定したという結論にならないことは先生御理解いただけると思います。

○清水澄子君 余り理解できないんです。
 女性の性的な奴隷化は重大な人権侵害だと思いますけれども、そういう侵害された人々の名誉の回復そして人権の回復をする私は義務があると思いますが、総理、そのことに同意なさいますでしょうか。

○国務大臣(宮澤喜一君) そのような耐えがたい苦痛をお与えしたことは、日本政府として極めて遺憾に思うということはしばしば申し上げておるとおりであります。

○清水澄子君 同意されますか、名誉回復をする、人権を回復することに。(発言する者あり)

○委員長(遠藤要君) 質問者以外の方は御発言は許しておりません。発言者以外の方には発言を許しておりませんので。

○政府委員(谷野作太郎君) したがいまして、ただいま日本政府におきまして進めておりますこの問題についての真相の解明ということがとりもなおさずそういう先生の今御指摘なさったことに通ずるのだと思います。韓国政府もそのように申しております。

○清水澄子君 総理、もう一度伺います。
 人権を侵害された人たちの人権を回復する義務、名誉を回復する義務があるんじゃないでしょうかということを申し上げているんです。

○国務大臣(宮澤喜一君) そういう意味で、今事実関係を一生懸命調査をしているということを申し上げておるわけです。

○清水澄子君 それでは本当に納得されないと思います。
 次に、昨年十二月十八異国連安保理でボスニア・ヘルツェゴビナヘの女性の残虐行為を非難する決議とかそのほかの戦争犯罪を裁く国際法廷の設置については賛成なさったんですが、そのことと過去のこの問題はどういう関連があるのでしょうか。これは外務大臣お答えください。

○政府委員(澁谷治彦君) 御指摘の安保理決議につきましては、私どもは賛成いたしました。これらの決議は旧ユーゴにおける悲惨な状況を見逃すことができないという国際社会の共通の意思表示をしたものとして私どもとしては賛成した次第でございます。

○清水澄子君 答弁になってない。過去の問題とどういう関連ですかと聞いたんです。
 国連で決議されたことと、過去のこの慰安婦問題とはどういうふうな関連性がありますかと聞いているんです。

○委員長(遠藤要君) 澁谷国際連合局長、発言を求めるときはもっと手を挙げて元気よく。

○政府委員(澁谷治彦君) 失礼いたしました。
 もちろん私どもといたしましては、こういう決議に対する態度を決する際には過去の問題についても十分意識しておりましたけれども、例えば従軍慰安婦の問題につきましては別途調査が行われておりますし、こちらの決議については現在の悲惨な旧ユーゴの状況について国際社会が共通の意思表示をしようとしている、そういう決議案に対して私どもとしては賛成をしたということでございます。

○清水澄子君 この決議は組織的な強姦の禁止、これは犯罪ということなんですね。ですから日本の外交には私は一貫性がないと思います。
 時間がありませんので次に参りますけれども、私はここで総理に四つの政策を提案したいと思うんです。
 総理はソウルで過去を直視する勇気を強調されました。私もそれ全く同感です。ですから、ぜひ歴史教育の中に従軍慰安婦問題を取り入れる努力をしていただきたい。
 それから第二には、第三者による中立公正な調査組織とそして歴史の研究機関、そういうものをはっきりつくっていく、そして民間の人の協力を得て、NGO等の協力も得ながらそこに政府が資金的にも援助をしていく、そういうことを考えたらと思います。
 そしてまた、ことしの政府予算では日本の戦没者のための戦没者追悼平和祈念館というのが二十億円で準備され、二年後に百二十三億円で完成することになっておりますけれども、日本には自国民の被害の記念館しかないというのが国際的にも非難を受けているわけです。ぜひこの加害的な責任を明らかにする歴史記念館の建設を私はここで希望いたします。そのことが後世に過去の問題を教訓として残すことになると思います。
 そして第四番目には、日本は戦後賠償は済んだと言われておりますけれども、ここに、実は外務省の資料の中に日本自身が第一次世界大戦のときにドイツに対して個人補償を求めた記録がございます。ですから、戦争の賠償問題というのはやはり個人の補償を含むのが一般的でありますので、ぜひ個人に届くようなそういう補償をしていただきたい。
 この従軍慰安婦問題というのが私は今後の日本のアジアの外交の試金石と考えておりますので、どうぞ総理、このことについての御見解をお願いしたいと思います。

○国務大臣(宮澤喜一君) 第一の問題につきましては以前にも申し上げておりますが、過去にありました事実は事実として後世の国民にも正直に伝えておく必要がある。それは学校教育の問題でもございますので、学習指導要領のことは昨日も文部大臣お答えでございましたが、そういうふうに考えます。
 それからあと三つの点は、先ほど官房長官が申し上げました我々のそういう謝罪の気持ちをどういう形で言い知れない苦労を、された方々に表明するかということを、この調査が済みましたときにやはり考えなければならないと思っております。

○清水澄子君 終わります。

○本岡昭次君 私は、総理、外務大臣を中心に、韓国併合に至るまでの歴史の真実を明らかにし、今までと違った強化された新たな日韓関係を構築しなければならないという立場で質問させていただきます。
 今日、冷戦構造の終えんに伴い、国際関係が流動化し国と国との相互依存が増大しています。日韓関係も新しい協力関係が求められています。しかしながら、両国民レベルの信頼関係が極めて脆弱であり、両国民の相互不信も増大しつつあると言われています。総理はこの相互不信増大の原因がどこにあるとお考えですか。

○国務大臣(宮澤喜一君) これは長い長い歴史をたどらなければならないことでございます。我々が我が国の歴史の中でいわゆる現在の韓国あるいは朝鮮半島の国々との幾つかの接触、いろいろな出来事に巻き込まれたことは今さら申し上げるまでもないことでございますが、そういう歴史的な背景、それから殊に最近で申しますれば日韓併合というようなことがございました。これは何としても韓国の人々にとってはやはり耐えがたい歴史であったと思いますが、そういったような背景というものはやはり無視することができない。
 我々としては、それはそれとして、我々の過去を反省することによって両国間の親善を積み上げていきたいと戦後一生懸命誠意を持って努力をいたしておるところでございます。

○本岡昭次君 基本的に総理と今のレベルでは認識が一致するので非常にやりやすいと思います。
 そこで、さらに細かく聞いていきますが、ことしの二月十五日、国連の人権委員会が開かれました。そこでスイスの国際的な人権組織である国際和解団体が、一九六三年国連総会に提出された国際法委員会の報告をもとに、日本の韓国併合の足がかりとなった一九〇五年の保護条約、第二次日韓協約は無効であるという報告を提出いたしておりますが、このことについて政府の見解を求めます。

○政府委員(丹波實君) 国連憲章のもとで国際法委員会というものができておることは先生御承知のとおりですが、国際法委員会は国際法の編さんその他の作業を行っておるわけですが、一九六三年に国連の国際法委員会におきまして条約法、現在ウィーンの条約法条約というのが既にできておりますが、条約法条約の審議過程の中で、一九六三年のILC、国際法委員会はILCと言っておりますが、ILCの年次報告に審議の議論が含まれておりまして、その中で国際条約の締結に際しまして国の代表者に対する強制が行われたと主張されたことのある条約の一つの例といたしまして、先生が今言及になられた一九〇五年の第二次日韓協約というものが言及されていたわけでございます。
 そのような強制が現実に行われたとかあるいはこの協約が無効であるというような断定的な議論は行われておりませんけれども、少なくともそういう例として一九六三年のILCの年次報告に挙がっておるものですから、それを根拠にスイスの先ほどのNGOが一九〇五年の日韓保護条約は無効であるという主張をしておられるのだろうと思いますが、しかし先生御承知のとおり、いろんな審議、議論がございましたが、最終的に一九六六年にILCが条約法条約の議論の関連で国連に出しました報告書の中では、この例というものは落としてあるわけです。
 したがいまして、私たちは確かに議論の過程でこの条約が一つの例として議論をされたことはあるけれども、最終的なILCの結論の部分からは落ちておるものですから、国際社会がコンセンサスとしてこの一九〇五年の条約を無効であると考えているんだという認識を私たちは持っておらないということでございます。

○本岡昭次君 そこの例が落ちているというところですね、読んでみてください。

○政府委員(丹波實君) まずILCでこの議論が行われておりましたときに、特別報告者として、これはイギリスの国際法学者ですけれどもウオルドッグという人がその報告者になりまして、ずっと報告した記録がございます。
 その該当のところをお読みいたしますと、ハーバードの研究草案は、そのような例として、つまり強制が行われた条約の例として幾つか、一七七三年、分割条約を受諾させるためのポーランド国会の包囲ということを言った後で、一九〇五年、保護条約の受諾を得るための韓国皇帝及び大臣に対する強制云々とありまして、それから一九三九年にボヘミア・モラビアに対するドイツの保護条約にチェコの大統領、外相の署名を得るためにヒトラー政権により用いられた身体的強制が挙げられるという報告になっておるわけですが、先ほど私が申し上げました一九六六年の最終報告書を見ますと、歴史上、条約の署名、批准を得るために、交渉者のみでなく立法機関の構成員に強制が行われた例は幾つか存在する。
 その例には国家自身に対する強制の一つの方法として、国家元首または大臣に対する強制と彼ら個人に対する強制とを完全に区別することが不可能な場合もあることは事実であるといたしまして、例えばとして先ほどのボヘミア・モラビアに関する例だけを挙げておりまして、一九〇五年の保護条約の例は挙がっていないということを申し上げた次第でございます。

○本岡昭次君 おかしいよね。ちょっと国語的にちゃんと読んでくださいよ。私ももらったんですよね。ここには、強制の一つの方法として国家元首または大臣に対する強制と彼ら個人に対する強制とを完全に区別することが不可能な場合もあることは事実である、例えばと、こうきておるということは、区別することが不可能なものについてこれだと書いてある。その前の三つは、これはもうはっきりと国家代表への個人的強制であるというふうに書いてある中に日本の一九〇五年の保護条約があるんですよ。そんなばかな説明してもらったら困りますね。

○政府委員(丹波實君) 言葉の足りないところがございましたら申しわけございませんけれども、重要なことは、いろんな学者先生方によって議論は行われましたけれども、一九六六年にILCとしてこの問題についての最終報告書を国連総会に上げたわけですが、その中には一九〇五年の保護条約は例としては挙がっておらない、いずれの意味でも例としては挙がっておらない、こういう趣旨でございます。

○本岡昭次君 それでは、一九六三年に年次報告を出しているでしょう。その中ではどう書いてありますか。

○政府委員(丹波實君) 一九六三年のILCの年次報告には、この条約法条約の中間草案に関する議論のコメンタリーが二つ挙がっておるわけですが、その一つは先ほど私が申し上げたウオルドックの報告です。これは先ほど大体のところをお読みいたしましたので省略いたしますが、それを受けでいろいろな議論が行われて、それを暫定的にまとめたのがやはり六三年の年次報告に載っておる。先生はそういう趣旨だろうと思います。
 その部分につきましてお読みいたしますと、ハーバードの研究草案は、そのような例として、そのようなというのは上の方で強制が行われたと主張されている例は幾つか存在するということを受けておるわけですが、もう一度繰り返しますけれども、ハーバードの研究草案は、そのような例として、一七七三年、分割条約を受諾させるためのポーランド国会の包囲、一九〇五年、保護条約の受諾を得るための韓国皇帝及び大臣に対する強制、それから一九一五年の例を挙げて、さらに最後の方で一九三九年の例を挙げておる。表現的にはウオルドックの報告と非常に近い表現になっておる次第でございます。

○本岡昭次君 またその議論は別にいたしますが、はっきりと国連のこの年次報告の中に、一九〇五年の日本の韓国に対する保護条約が個人に対する強制、脅迫によって締結されたものでこれは有効と言い得ない、要するに国際法上無効というふうに言われても仕方がないというふうな例に、四つの例の一つに挙げられているという、このことだけは私たちは忘れてはならぬ、このように思います。この議論はまた別の機会でさらに詳しくさせていただきます。
 それで次に、日韓の間では一八七六年の江華条約以降七つの条約が一九一〇年までに結ばれておりますが、その一つ一つを説明してください。

○政府委員(丹波實君) 実は御承知のとおり、一九一〇年に至るまで五十幾つの協定、条約が結ばれたと承知しておりますが、先生のおっしゃっておられる七つは主要な条約をおっしゃっておられると思います。
 以下が主要な条約ではないかというふうに考えます。ごくかいつまんで申し上げますと、まず明治九年、一八七六年二月二十六日に結ばれました日韓修好条規というのがございます。これは江華府において署名、調印されたものでございます。この修好条規は前文及び十二条から構成されまして、朝鮮国の自主独立をうたうとともに、日朝両国が双方の首都に外交問題につき協議するための使臣を置くこと、釜山に加えて二港を日本人の通商のために新たに開くこと、それから開港された地で日本人が朝鮮人に対して罪を犯した場合は我が国の裁判に服すること等が書かれてございます。
 次に、明治二十七年、一八九四年八月二十六日にソウルで調印された日韓両国盟約というものがございます。この盟約は前文と三条から構成されておりまして、清の軍隊を朝鮮国の国外に退去させ朝鮮の独立を堅固なものとすること、日本は清との戦争に当たり朝鮮はその兵たんを支援すること等を規定してございます。
 三番目には、明治三十七年、一九〇四年でございますが、二月二十三日にソウルで調印された日韓議定書がございます。この議定書は前文及び六条より構成され、日韓両国の親交の保持、韓国は行政の改善に関し日本政府の忠告を受け入れること、日本は韓国の皇帝の安全を保つこと、日本は韓国の独立を保証すること、第三国の侵害または内乱の場合、日本が必要な措置をとり、韓国もこれに便宜を与えること等を規定してございます。
 四番目に、明治三十七年、一九〇四年の八月二十二日、ソウルで調印されました第一次日韓協約というものがございます。この協約は三項から構成されておりますが、韓国は日本の推薦する日本人一名を財務顧問とすること、日本の推薦する外国人一名を外交顧問とすること、条約締結その他の重要な外交案件に関してはあらかじめ日本と協議すること等を規定してございます。
 五番目に、明治三十八年、一九〇五年十一月十七日にソウルで署名された第二次日韓協約がございます。この協約は前文及び五条から構成されておりまして、日本の外務省が韓国の外国に対する関係及び事務を監理指揮すること、日本は外交に関する事項を監理するため韓国皇帝のもとに一名の統監を置くこと等を規定してございます。
 残りは二つでございますが、六番目に当たりますが、明治四十年、一九〇七年七月二十四日、ソウルで署名されました、いわゆる第三次日韓協約というものがございます。この協約は前文及び七条から構成されておりまして、韓国は施政改善に関して統監の指導を受けること、韓国の法令制定及び重要な行政処分はあらかじめ統監の承認を受けること、韓国は統監の同意なくして外国人を雇用しないこと等を規定しております。
 七番目には、明治四十二年、一九一〇年でございますが、八月二十二日、ソウルで署名されました日韓併合条約がございます。これは前文及び八条から構成されておりまして、韓国皇帝は一切の統治権を日本皇帝に譲与すること、日本皇帝は韓国の統治権譲与を承認し韓国を日本に併合することを承諾すること、日本は韓国の施政を担任し韓人の身体及び財産を十分保護すること等を規定しておるということでございます。

○本岡昭次君 今のが一八七六年以降一九一〇年日韓併合に至る重要な諸条約なんです。日本の韓国植民地支配の着実な手順がうかがわれるわけなんですね。
 昨年の五月十一日、韓国ソウル大学の慎鏞廈教授の調査によりますと、一九〇五年締結の先ほどの第二次日韓協約、保護条約と言われているもの、それと一九〇七年の第三次日韓協約は韓国の皇帝の批准を得ていないということが調査の結果明らかになって、国際法上無効であるという主張をされております。
 私はことし二月に訪韓をいたしまして、この慎教授とも会いました。そして、関係者との間で面談でもっていろいろ話を聞き、資料も持って帰ってまいりました。韓国に保管されている日韓、韓日協約と向こうでは書いてありますが、こういう資料を者もらって帰りました。
 当時、大韓帝国は専制君主国であります。すべての外国との条約と勅命には皇帝の親筆署名と玉璽の捺印が必須条件なんです、条約締結には。日本国政府はこの当時、日本軍憲兵隊などを動員して大臣を威嚇して、そして同意を得て、高宗生帝の署名捺印を得て保護条約を強制締結しようとしたんです。しかし、五人の大臣が口頭で同意させられる、総理大臣は廊下へ日本軍憲兵隊の手によって引っ張り出されてしまうというふうなことが起こって、強引に皇帝の署名と国璽の押印をしてもらおうと思ったけれども最後まで皇帝がこれを拒否してやらなかったということなんですね。
 韓国のソウル大の慎教授が韓国に残っている史料を調査の結果そういう結論に達した、こういうことなんです。このとおりであるならば一九〇五年の保護条約が無効だと。皇帝の署名も捺印も何もない、こういう条約が果たして有効と言えるかという問題を提起されているんです。どうなんですか。

○政府委員(丹波實君) 韓国の学者先生それから北朝鮮の関係の方々も同様な主張をしておられるということは、報道その他により承知いたしておるところでございます。
 今、先生が指摘になられたこの二つの条約の韓国側の署名者は、まず一九〇五年の第二次日韓協約につきましては日本の外務大臣に当たる外部、韓国の言葉だと思いますが当時の外部大臣、それから第三次日韓協約につきましては先方は内閣総理大臣が署名しておりまして、一般論として申し上げて、外務大臣とか内閣総理大臣と申しますものは自国を当然に対外的に代表し得る資格を有するものでございまして、このような韓国側の代表と日本国の代表との間で合意の上で締結されまして実施に移された条約につきまして、今先生が御指摘の、あるいはさかのぼって韓国の学者先生などが指摘しておられるような専ら韓国側の国内の事情である事由を根拠として国際法上無効であるという主張は、私たちは有効にはなし得ないというふうに考えておる次第でございます。
 ちなみに、一言つけ加えさせていただきますと、このような実は論点をめぐりまして日韓の国交正常化、幾つか、財産・請求権の問題とともに三つ四つの大きな問題があったと思います。そのために十数年の期日を費やして交渉したわけですが、結局しかしでき上がった一九六五年の日韓基本関係条約の第二条では「千九百十年八月二十二日以前に大日本帝国と大韓帝国との間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認される。」という、こういう第二条に合意することによって日韓は前に進もうではないかということが合意された。確かに、しかし過去につきましてはいろいろな思いを日本政府としては御承知のとおり表明しておりますけれども、法的には第二条がこういう条約を条文で規定しておるということは非常にそれなりに日韓間で重要な意味を持っておるということを一言つけ加えさせていただいた次第でございます。

○本岡昭次君 いや、専ら韓国側の事情であるなんというようなことを私はここで納得するわけにいきませんね。韓国側の事情の立場に立って無効であるという主張を私たちは客観的に検証せないかぬのと違いますか。
 韓国のその当時の大韓国国制という日本の憲法に相当するものの第九条には、国の最高主権者である皇帝が直接諸般条約を締結すると明記されてあるんです。その人の印鑑がないものを一体客観的に専ら韓国の事情であるなんと言えるんでしょうか。
 また、韓国の皇帝である高宗は一九〇七年にいわゆるハーグ事件というものを起こす発端になる密書、抗議文というものをオランダのハーグで開かれた第二回万国平和会議の各国の人に渡そうとしたんです。ところが、それを阻止された。その文書の中にはっきりと、皇帝が自分の親書として、一九〇五年十一月十七日、日本公使と朴斉純が締結した条約五条について、皇帝高宗は初めから認めなかったし、署名も国璽の捺印もしなかった、二、皇帝はこの条約を日本が勝手に公布するのに反対をした、三、皇帝は独立の皇帝権を一毫も他国に譲与したことがない、四、外交権剥奪の強制条約は根拠のないものであり、ましてや内治上のものをどうして認めることができるか、認めたことがない、五、皇帝は日本統監が来て常駐することを許さなかったし、皇室権も一毫も外国人が思いどおりに行使することを許さなかったというようなことをやっているんですよね。
 そのことを専ら韓国側の事情であったなんというようなことで私は済ませることじゃないと思うんですがね。これはちょっとどうですか、外務大臣。

○国務大臣(渡辺美智雄君) これはいろいろ議論が私はあると思いますよ、率直に言ってね。
 日韓の新しい関係をつくろうというときも、これは十数年かかっているわけですから。で、もうお互いに主張が合わないと、その結果ある程度妥協といえば妥協ですが、今条約局長から説明があったように、向こう側は向こう側の言い分がある、こちらはこちらの言い分があるが、そこで過去のことを繰り返していろいろ言ったってまとまりゃせぬから、そこでこの協定ができた瞬間に、もはや今までの日本と韓国の間のいろんな条約とか協定はもう既に無効であるということを言ったわけですよ。既に無効。そのときからということであって、その辺が妥協の産物と言ってはしかられるかもしらぬが、そういうことで十数年の交渉に終止符を打ったという現実があるわけです。したがって、それを否定するというわけにもいかないですね、これは。
 ですから、いろいろ言えば先生のおっしゃることはごもっともだと私は思う点もありますし、いろいろありましょう。ありましょうが、そういうものを総合的に網羅した結果が新しい日韓関係のスタートでございますから、それをまたほごにしちゃう、やり直しというようなことをやったら、またこれ大変なことになってしまうので、我々としては新しい日韓関係というものをつくった日韓の協定、そういうものを基盤にして今後より一層の日韓友好を進めていくということが一番の私はいい方法じゃないか、そう思っております。

○本岡昭次君 まあ外交とか政治的な妥協とか国と国の関係とかいったようなものは、外務大臣のような立場でそれはやらなければならないことがあるでしょう。しかし、歴史上における真実とか事実というのは一つでありまして、そしてそのことを学問的に解明していく、あるいはまた不幸な過去とは何であったんだということを両国民が正しく認識するということは、私は別だと思うんですよ。私は正しく認識する必要があると言っておるんですよ。歴史的な妥協はわかっております。だから私は、韓国に対して先ほど言ったように、新しい関係でさらに強力な日韓関係をつくっていかにゃいかぬ、そのためにはという立場で物を言っておるつもりなんですが、誤解のないようにしてください。
 そうしたら、韓国の専らの都合だというふうな言い方をするならば、日本としてはどうであったのか。日本はどうなんですか、旧帝国憲法の第十三条をちょっと読んでください。

○政府委員(丹波實君) 大日本帝国憲法第十三条のただいまの該当のところは「天皇ハ」「諸般ノ条約ヲ締結ス」というふうになっておる次第でございます。

○本岡昭次君 それをもう少し解説してください。

○政府委員(丹波實君) ただいまお読み申し上げたところの趣旨は、条約を締結することを天皇の人権に属せしめるということでございます。
 で、先ほど先生が当時の韓国の憲法をお読みになられ、基本的には表現的には同じような趣旨かもしれませんが、いずれにしても二つ、一つは大変昔の話、それからもう一つは外国の話ですから、韓国の憲法については私がこの場で解釈を云々することはできないわけですが、大日本帝国憲法の条規につきましても、昔のことでございますけれども、それではこういう表現になっているからといって天皇陛下がすべての条約を批准されたかというと実はそうはなっておらない次第でございまして、むしろ先ほど申し上げました日本の総理大臣あるいは日本の外務大臣が署名することによって、場合によってはもちろん帝国議会の批准を経て発効するということもあったわけでございます。
 したがいまして、結論的に申し上げますと、こういうぐあいに書かれているからといってすべて天皇陛下が批准するということにはなっておらなかったという次第でございます。

○本岡昭次君 これは天皇の外交人権を定めたものなんですね。それで、批准する場合もあるしない場合もある、こうおっしゃいましたが、どういう場合に批准が必要でどういう場合はそれでは批准が必要でなかったんですか。また、どういう場合に天皇の署名とか国璽の捺印が必要でどういう場合は必要がなかったんですか。

○政府委員(丹波實君) 先ほど申し上げましたように、第十二条は「天皇ハ」「諸般ノ条約ヲ締結ス」と規定しておりまして、これは条約を締結することを天皇の人権に属せしめるということでございますけれども、この憲法は、日本による条約の締結に至る手続について明文で何ら特段の規定を置いておりません。条約の締結に当たって天皇の批准を要すると定めているわけでもない。したがいまして、個々の条約の締結に際して批准を要するか否かは、この条約の発効要件として、相手国との間の交渉において批准を要する旨の合意が行われるかといったようなことによってその状況が違ってきておるということだったと思います。

○本岡昭次君 そうしたら、先ほど説明された七つの条約に天皇はどうかかわったんですか、それぞれに。

○政府委員(丹波實君) 先ほどの七本の条約のうち批准されておりますのは一八七六年の最初に読み上げた条約でございまして、残りの六つの条約は天皇陛下によって批准はされておらないわけでございます。
 ちなみに、それではその江華条約と他の条約はどこが違うかということになりますけれども、六つの条約はいずれも大日本帝国憲法下で締結されたものでございます。江華条約につきましては、日本国旧憲法が制定されましたのは一八八九年でございますので、この江華条約はそれ以前の条約であったというところが違っておるのだろうと思います。

○本岡昭次君 それでは、天皇の批准を必要としない場合、この憲法第十三条との関係でどういう手続が要るんですか。

○政府委員(丹波實君) 一つ申し上げることができますのは、条約を結ぶ場合に、相手国との交渉の中で、この条約はお互いに批准まで手続を完了させようという合意があるかないか、これが非常に大きなファクターだと思います。相手国との間で明示のそういう批准条項を置いていない場合には批准しない、置いてある場合には批准するというのが一番一つの大きな例として申し上げることができると思います。

○本岡昭次君 私も外交資料館に行って全部見てきました。今おっしゃったように、最初の江華条約だけ天皇の親筆と玉璽がありまして、あとは全部ありませんでした。
 この憲法十二条の解釈についていろいろ勉強したんですが、ここにはこういう書き方がしてあるんです。「調印に依っては唯条件附に効力が生じ、批准に依ってそれが確定するのである。」、こういうふうに書いてありまして、やはり天皇の外交人権という立場からすれば、天皇の批准というものによってそれが最終的に確定する、私はこれは正しいと、こう思うんです。
 それから、天皇の批准を必要としないということの中に、「全権委員は、天皇から条約締結に付いての全権委任状を賜はつて居るもので、批准を留保して調印することも又は之を留保せずして調印することも、総て全権委員の機能に委任せらるるのである。」と、こういうことであって、天皇の外交人権を全権委任状という形でもって全権大使とか公使で行くんだと。ということは、これは全権委任状と。非常に重要な意味を持ちますね、天皇の外交人権を預かって行くんですから。
 そういう意味で、すべての条約の中にこれに臨んで署名捺印した人が全部天皇の全権委任状というものを皆所持して行ったんですか、どうですか。

○政府委員(丹波實君) 私たちこの点いろいろ外務省のかつての文書、保管を当たってみましたけれども、確たる記録は見つけることが今日までできなかったわけでございます。典型的には、一九〇五年の先ほどから御議論の対象になっていますところの保護条約ですけれども、当時、林特命全権公使がこの条約に署名しておるわけですが、この林公使に対する委任状というものは今までのところ記録としては見つかっていないということでございます。

○本岡昭次君 記録として見つかっていないといって、天皇の外交人権を代行していくという重要な書類が保存されていないということについて、私は納得できないんです。なかったと思うんです。出していなかったという方が正しいと思うんです。どうですか。

○政府委員(丹波實君) ちなみに、当時の閣議で林公使に対して条約締結の全権を委任するという閣議決定が行われておることは承知いたしておりますけれども、先生がおっしゃっておられる委任状そのものについては、今日までのところ記録を当たってきましたけれども、見つかっていないという次第でございます。

○本岡昭次君 全権委任状とは一体何なのか、正確にもう一遍解釈してください、ここで。

○政府委員(丹波實君) 私は、今手元に条約法条約というものを持っておりますけれども時これはもちろん今問題になっておる時点にはまだできていない条約でございますけれども、一つの考え方を示しておると思います。
 全権委任状と申しますのは、外国との条約交渉が調ったときに、それを確定する権限というものを自分は本国から与えられておりますということを相手方に正式に立証する通常は文書であると言うことができると思います。
 いろんなことが書かれておりますけれども、一つここに書かれておりますのは、その場合、例えば元首あるいは政府の長あるいは外務大臣といったような方々は、そういう書類を提示しなくても、そういう職務にあることそのこと自体によってその国を常に代表し得るという考え方が表明されております。
 それからもう一つは、出先の大使、公使、昔は公使、今はもうほとんど大使でございますが、の場合には、その国と本国との間の二国間の関係を処理する分に関しては自国を代表することができる。この場合には、いわゆる書面で全権委任状というものを提示しなくてもその大使であるという職務自体によって本国を代表し得るというそういう規定もある次第でございます。

○本岡昭次君 そうしたらここの結論として、委任状はなかった、委任状は保護条約を締結する林権助公使には出されていなかったというふうに私は判断してよろしいですね。

○政府委員(丹波實君) 丸い数字で申し上げて九十年前のことになるわけで、事柄は確かに先生おっしゃるとおり重要な事柄であったと思いますけれども、九十年あり、その間戦争とかいろんな問題があって、私たち記録を今後とも調べてみたいと思いますけれども、依然として今日までのところは見つかっていない。見つかっていないということが一九〇五年のときに委任状がなかったというそういう結論に今日の時点で到達し得るのかどうかにつきましては、ちょっとそこまではまだいかないのではないか。
 いずれにしても、今後とも探してまいりたいというふうに考えております。

○本岡昭次君 出していなかったんですよ。出ていなかったんです。
 私は、韓国へ行ってこういうコピーをもらってきました。(資料を示す)これは一九〇七年七月二十四日に当時の伊藤統監と李完用総理によって調印された第三次日韓協約のときに必要であった委任状なんです。だれの委任状であったかというと、韓国側の皇帝の全権委任状の謄本なんです。それで、ここに何にも書いていないわけです。要するに、これをつくってそして皇帝の委任を得ようとしたんですよ。ところが、皇帝はノーと言って応じなかったんですよ。応じなかったんですよ。
 こういうことから見ても、やはり委任状というものは双方の天皇、皇帝の外交人権を代行するものとして絶対必要であったんですよ。それをやらないでやってしまった。韓国側からすれば、もう完全に韓国の御事情ですなんというようなことを言っていられるものじゃない。これははっきりと言って有効性というものを、外務大臣の言っている観点じゃないんですよ、事実として国際法上手続が完全に不備であったというふうにこれは言わざるを得ないのであります。
 それで、そのことがきょうのこの新聞にちょっと出ておるんですが、外務省、外交当局は「全権委任状があったという記録はあるはずだが、昔のことなので保管がない。」と。こんな大事なものを、あるはずだが保管がないというようなことで、日本の国は、なんですか、外交文書を粗略に扱っているんですか。そして、仮に委任状がなくても大使や公使は条約を結ぶことができる、有効性は崩れていないと、こうなるんですね。とすると、一体、委任状とは何やということになってくるわけですよ。委任状がなくても済むんなら、何も委任状をつくらんと外務大臣や総理大臣がやればいいじゃないですか。
 一方、委任状というものが必要だとするということは一体何なのか、この問題をもう一遍解明してください。

○政府委員(丹波實君) 先ほど申し上げましたとおり、当時の林公使は閣議決定から見ましても全権委任を与えられ、かつ日本と韓国との間の問題を処理するというもともとのそういう機能を持って韓国に滞在しておるといういろんな状況からしても、私たちはこの条約が無効になるような形で締結されたという認識は持っておらない次第でございます。

○本岡昭次君 そうすると、訓令と同じことなんですか。ここにその当時の、書いてありますが、ここに訓令と書いてありますよ。全権委任状を出したとか全権委任とかいうが、訓令ですよ。訓令でもってこういうことができるんですか。

○政府委員(丹波實君) 先ほどから申し上げておりますとおり、その委任状の存否につきましては現在記録に当たっておるということでございますが、それにかぶせて一言御説明させていただきますと、先ほど全権委任状のところでも御説明申し上げましたけれども、総理大臣あるいは外務大臣あるいは派遣されている大使、当時は公使がヘッドでございますけれども、というものはその職にあるというそのこと自体によって二国間の関係を処理し得る、こういうふうな立場にあるわけでございます。その点だけ御説明させていただきたいと思います。

○本岡昭次君 絶対に今のはおかしいですよ。私はいろんな本を読みました。美濃部達吉氏、これ一番権威ある人ですよ。この人の十三条を読みましたけれども、今の条約局長の解釈がもしここへ入ったとしたら、これはもう全然この美濃部達吉博士の憲法第十三条の天皇の外交権の解釈が崩れてしまいます。そんなむちゃなこと言わせて、外務大臣、いいんですか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) これは法解釈の問題でありまして、いろいろ見方はあると思いますが、私が先ほど言ったことに実際は尽きる、そう思っているんです。
 個々の問題を取り上げますといろんな疑問点は私はあると思いますよ。確かに、先ほど七つの重立った条約、協定等は、あれだけを、あれだけを聞けばですよ、日本がやはりもうぎりぎり少しずつひねっていったということをほうふつさせるような形にはなっていることもそれは事実でしょう。事実でありますが、しかしそういうものを全部ひっくるめて、戦後、日韓の協定というものでちゃんと締めくくって新しい日韓関係をつくろうということになったわけですから、だから私は過去を認めないというわけじゃなくて、そういう今おっしゃるようなことも念頭にあって、我々としては韓国に対しては本当に過去にはいろいろの申しわけのないこともしたという意味も含めて、今後の日韓関係というものは今まで以上に一層有効な関係に持っていこうという気持ちを忘れていないということであります。

○委員長(遠藤要君) 本岡君の残余の質疑は午後に譲ることといたします。

○本岡昭次君 私は、一九九〇年の六月の六日だと思うんですが、この本院予算委員会で初めて従軍慰安婦の問題を取り上げました。それ以来、絶えずこの従軍慰安婦問題をどう解決したらいいかという問題の責任というものの重さを感じて今日までやってきました。先ほどの質問もいわばそのことのために私は質問したつもりであります。
 従軍慰安婦あるいは強制連行といった日韓の間に横たわるこの問題、つまり国際法上の重大な人権侵害というこの問題がどういうふうにすれば解決できるのかという、さまざまな方法がありますが、私は午前中の論議をやって、まず第一次、第二次、第三次と進められてきた日韓協約、その上にある一九一〇年の日韓併合条約、そうした問題が本当に国際法上瑕疵のないものであったのか、正当性を持ち得るものであったのか、あるいは道義的、道徳的という立場から見て、韓国の皆さんに胸を張って我々が誇り得るものであったのかどうか。そうしたところに私たちはきちっと足を置いて考えていかなければいけないということをつくづくと感じました。
 そういう立場から、政府はできないと言うだろうけれども、国際法上の違法性を日本政府として認めるというところから始めなければならない、こう思いますが、最後にこのことの見解を聞いておきたいと思います。

○政府委員(丹波實君) この点につきましての私たち政府の考え方と申しますか、気持ちにつきましては、私は先ほどの渡辺外務大臣の御説明の中に尽きていると思うんです。いろんな論議が日韓正常化交渉、十四年間、十数年間にわたって行われたことは、本当、先生御承知のとおりで、その中の非常に大きな論点がこの問題であったと。
 しかしながら、やはり日韓関係を正常化しないわけにいかない、正常化して発展させることが非常に重要であるという、そういう気持ちを含めてこの日韓の基本条約の第二条の中に、先ほど読みましたけれども、「千九百十年八月二十二日以前に大日本帝国と大韓帝国との間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認される。」と。これは当時の日韓両政府が本当にぎりぎりの妥協点を探ってこの表現を見つけたということで、ぜひ御理解いただきたいと思うんです。
 私は、今ここで先生に先ほどから御説明申し上げたことは何も政治的道義的にどうだということを申し上げているのではございませんで、本当に純粋に条約的、法律的な観点から、私は当時の条約局長ではございませんのでもう本当に少ない資料の中からこうであったであろうということで御説明申し上げたんで、そういうことも含めてぜひ御理解いただきたいというふうに考えます。

○本岡昭次君 総理に最後に伺っておきます。
 歴史の真実を認めない者は再び同じ過ちを繰り返す、こう言われております。今、本当にその歴史の過ちを認めた上で妥協したのかという問題が必ず問われると私は思うんです。
 金泳三大統領が、この従軍慰安婦問題の解決について日本に物質的な補償は求めない、そのことによって今後は道徳的に優位に立って新しい韓日関係の定着に向かうことができると発言されました。ある新聞は、社説で「日本の道義が試されている」と政府の誤りなき対応を求めました。
 私は、日本の朝鮮半島植民地支配が道徳に反する行為であり、国際法上違法であったというこのことを認める勇気のない限り、日本が韓国に対して道徳的に、優位とは言いません、対等の立場に立って新しい日韓関係を築くことができないのではないかと私は考えているんです。総理のお考えを最後にお聞かせください。

○国務大臣(宮澤喜一君) 午前中から大変に精細な条約等々に基づいての御議論を拝聴いたしておりました。また、政府委員も条約の見地からそれについてお答えをいたしておったわけでございます。
 結局、それが違法であるか違法でないかといったようなことは、渡辺外務大臣も言われましたように、一九六五年に日韓基本条約ができるに至りますまでの十数年の間、まさに議論をいわばされ尽くしたところであったと思います。その結果、第二条でございましたか、にああいうことで両者のいわばそれこそぎりぎりの妥協を図ったということでございましょう。そのことがむしろ大事ではないかという渡辺外務大臣のお考えは私もそのように思いますが、しかし、いずれにしても、日韓併合以来の一九六五年までの歴史あるいは敗戦までの歴史というものは決して我々にとって誇りにできるものではない。このようなことは二度と繰り返すまいというのが国民の決心であると思いますし、また私ども政府もそのような考え方から日韓の間の友好親善というものに努力をいたしておる。
 そういう中でこの慰安婦という問題が起こってきたわけでございますから、そういう立場から、我々として誠意を持ってこの問題についての、我々のいわば過去における過ちを陳謝する、その真心をどういう形であらわすことができるかということは、なお残された問題ではありますけれども、事実関係を偽りなく究明をして明らかにするということが、我々の過去の反省というものを現実に関係者にもわかってもらう一番大事な道であろうというふうに考えております。

○本岡昭次君 最後に、在日朝鮮人の子供たちが民族学校に通学する際、日本の子供たちと違ったパスを使っております。大変金銭的に不利な状態に置かれております。
 かつて村岡元運輸大臣は、この状態を指して民族差別であると、このようにも発言をされて、この民族差別を早期に解決しなければならぬとおっしゃいましたが、一体いつどのようにしてこの民族差別を解決するのか、伺っておきたいと思います。

○国務大臣(越智伊平君) 現行のJR通学定期制度は、他の民鉄と制度上の差異があり、国会等でも指摘されたところであります。また、村岡元運輸大臣、また奥田前運輸大臣も答弁をいたしておりますが、その趣旨に従って今鋭意JRの方で相談をしてもらっておる次第であります。

○本岡昭次君 いや、もっとはっきり言ってください。いつどういう方法で解決するのかということを。

○国務大臣(越智伊平君) もともとJRの料金につきましては、JRから申請がございましてそれを認可する制度になっております。村岡元大臣が御答弁申し上げたのは、次の運賃改定の時期、こういうことを言っておるようでありますのでございますから、今検討を指示しております。
 そういうことで、JRの方から申請があればということでございますが、なるべく早くやるようにと、こういうことでありますのでございますから、いついつということがただいま申し上げられない、こういう次第であります。

○本岡昭次君 いわゆる民族差別を解消するために運賃値上げをする、こういうことですか。

○国務大臣(越智伊平君) 民族差別というようなことでは、それで高くするというような気持ちは毛頭ございません。料金というのは全体的な料金の決定をいたしますのに、やはり一般乗客あるいは通勤定期あるいは学生定期あるいは身体障害者等の割引等々を考慮して全体の枠で決定しておるわけでありますから、朝鮮人学校についてもぜひ次の機会にやりたい、こういうことで相談をさせておる、検討をさせておると、これが実情であります。

○本岡昭次君 私は、大野元運輸大臣からずっと歴代の運輸大臣にこの話を持ちかけているんですが、一向にらちが明かないわけであります。運賃値上げをしなければこれが解決しない、その理由は何でですか。

○政府委員(秦野裕君) ただいままでの検討の経緯につきまして、若干補足して御説明させていただきます。
 先生ただいま御指摘ございましたように、従来から朝鮮人学校を初めとします通学定期の取り扱いにつきまして、各般の御意見をいただいております。現在までにJRを含めましていろいろ検討会を開いて検討を進めてきておるわけでありますが、この問題の解決のためには、やはり朝鮮人学校を含めます各種学校あるいは専修学校、そういうもの全体をどうするかというところの検討が必要になるわけであります。現在の検討の過程では、先生御案内のとおり、大学を含めました専修学校あるいは各種学校のグループ、それから高等学校のグループ、中学校のグループ、JRの場合この三段階に分かれておるわけであります。そこがいわば問題の所在でございまして、民鉄の場合にはそういう区別がございませんで、一本化されておるというところに一番先生今御指摘の問題の発生する源があるというふうに考えておるわけです。
 そこで、ことしになりまして、やはり民鉄並みにその通学定期の割引率を一本化する方向で検討してはどうかということで、各社に対しまして具体的な検討の内容を指示しておりまして、その結論を待って対処いたしたいというふうに考えておる次第でございます。

○本岡昭次君 なぜその民族差別を解消するために各種学校と一緒にならなければならぬのですか。

○政府委員(秦野裕君) これは各種学校にはいろいろな種類がございまして、先生御指摘の朝鮮人学校の問題もございますし、あるいはいわゆる専修学校の高等課程あるいは各種学校のいろいろな種類の学校というのがございますので、特に民族問題ということではございませんで、そうした大学生あるいは高校生とそうした専修学校なり各種学校との間の区別、これをなくす方向で検討しよう、こういうことで進めておるわけでございます。

○本岡昭次君 各種学校と一条校との間の格差を解消せよと言っているんじゃないんです。民族差別があるからなくせと。はい、民族差別がある、認めます、なくしますとおっしゃったんだから、ストレートにそのことをやってもらえばいいんじゃないですか。

○国務大臣(越智伊平君) 民族差別というようなことを考えておりません。朝鮮人学校だけをやりますと今度は逆差別になる、こういうことでございますから、私は、やはり日本人であろうとどこの国の方であろうと同じような方法でやっていきたい、こういうふうに思っておる次第であります。

○本岡昭次君 そうすると、村岡元運輸大臣がこれは民族差別だから解消せにゃいかぬということを取り消されるわけですか。

○国務大臣(越智伊平君) 村岡元運輸大臣が御答弁申し上げたことも私の考えと同じで、特別に朝鮮人学校だけをということでなしに、朝鮮人学校、民族差別のような受け取り方をされると困るからやりますと言っておるのは、それと並ぶものは全部一緒にやると、逆差別にならないようにみんな平等にやっていこう、こういうことであります。朝鮮人学校だけを取り上げてやりますと逆差別になると、でございますから、確かに朝鮮人学校の生徒もそういうことで引き下げをしたいと私は思いますけれども、それに並ぶものは全部一緒にやりたい、こういう気持ちであります。

○本岡昭次君 なぜ朝鮮人学校の子供たちがこれ差別だと言い、日本の子供と一緒にしてもらいたいと言っているんですか。そのことを全然わかってないじゃないですか。

○国務大臣(越智伊平君) よくわかっております。例えば、アメリカンスクールにしてもやっぱり同じように扱わないといけない、日本人もあるいは朝鮮人もアメリカ人もどこの国であっても同じように扱うと。私は、何も朝鮮人学校がだめだということでなしに、朝鮮人学校をやるとすれば、ほかの国も日本人も同じような制度については同じように引き下げたい、こういう気持ちであります。

○本岡昭次君 いや、もう涙が出るほど悲しいですよ。先ほど私が何でこんなに長い間議論したんだよ。全然わかってないんですよね。なぜ朝鮮人の子供たちが日本の私たちの身近におるのか。在日朝鮮人と在日アメリカ人と同じように判断すること自身が間違っているんですよ。そうでしょう。強制連行、先ほど私が長い間時間をかけて、ああしたことの結果、今、在日朝鮮人がおるんでしょう。その子供たちに対して私たちがこれから日韓、日朝、いろんな関係を仲よくしていくためにまず国内でやることがあるでしょうと、そのことの中の一つとして取り上げているんですよ。アメリカンスクールやとか専門学校とどうだこうだという問題以前の問題としてこの問題の解決をしていこうという認識が政府にあるのかないのか、これが問われているんじゃないんですか。そういう発言をするのはあなただけや。

○国務大臣(越智伊平君) JRの通学定期割引につきましては、学校教育法に基づきましてその適用範囲を定めているところであります。
 朝鮮人学校につきましては、学校教育法上各種学校としての位置づけをされておるわけでありますのでございますから、各種学校については平等に、同じようにやろうと、これが私ども運輸省の考え方であります。

○本岡昭次君 各種学校の中のじゃなくて、日本人の子供たちが日本の学校に通学していることと、朝鮮人学校の子供が通学していることの条件の差、通学定期のパスの差、それを民族差別だと過去の運輸大臣はとらえてどうしたら解決するかという苦労をしていただいたことと、全然発想が違うじゃありませんか。

○委員長(遠藤要君) そういうふうな疑いのないように改善するというんでしょう。

○政府委員(秦野裕君) 私どもの村岡元大臣の御発言で理解しておりますのは、いわゆる朝鮮人学校と日本人学校との間に定期の割引について差があるという趣旨でお答えになったんだというふうに私ども理解しております。
 そこで、それを合わせるにはどうすればいいかということで現在検討していることは、先ほど来御答弁申し上げているとおりであります。
 そこで、それをやります際に、朝鮮人学校だけを特別に従来の各種学校の中から抜き出してやるというよりは、この際、通学制度全体を見直した中でこれをやることが一番望ましいという方向で現在検討を進めているわけでございまして、決して差別をそのまま継続するのがいいというふうに申し上げているわけではございません。

○本岡昭次君 そうしたら、運賃を上げなければできなくなると、こうなるんでしょう。朝鮮人学校の子供たちのために運賃が上がったということになるんじゃないですか。

○政府委員(秦野裕君) したがって、制度の改正になるものでございますから、運賃改定の際にこれを行うのが一番スムーズに円滑に制度が移行できるということで、運賃改定の際に見直しを行いたいということを申し上げておるわけでございます。決して朝鮮人学校の制度を見直すことによって運賃が上がるという趣旨で申し上げているわけではございません。

○本岡昭次君 最後に一問。
 そうしたら、いつ運賃改定ができる予定なんですか。

○政府委員(秦野裕君) 現時点ではJR各社から申請の意思はまだ来ておりませんので、いつということは現時点では申し上げられません。

○本岡昭次君 はい、もう結構です。

 第126回国会 参議院内閣委員会 第3号 平成五年三月二十九日(月曜日)午後一時開会

【発言順】
 委員           翫正敏
 外務省欧亜局西欧第一課長 石川薫
 総務庁恩給局長      稲葉 清毅
 国務大臣         鹿野 道彦
(総務庁長官)
 国務大臣         河野 洋平
(内閣官房長官)
 外務省国際連合      神余 隆博
 
○委員長(守住有信君) 恩給法等の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本案の趣旨説明は前回既に聴取しておりますので、これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。

○翫正敏君 翫正敏です。私は恩給の問題を考えますときには、戦後補償のあり方、それをトータルに考える視点からこの恩給の問題を議論したいわけであります。
 そういう意味では、恩給担当の総務庁長官はもとより、官房長官にもぜひ質疑の内容に加わっていただいて御見解を伺いたいと、このように考えているところですのでよろしくお願いいたします。
 以前私は、この委員会でシベリア抑留者の請求権に関する質問をいたしまして、その中で請求権の放棄ということは国家自身の請求権及び国家が自動的に持っていると考えられている外交保護権の放棄ということであって、人間個々人の請求権というものまで国家が放棄をすることはできないということを答弁いただいたわけであります。
 そういうことに立って考えてみますと、特に戦後補償という問題は、日本とアジアの関係を考える上で避けては通れない問題となっております。戦後補償法が日本にはたくさん十幾つございますけれども、その中でも一番古い大正十二年から制定されておりますこの恩給法、前回、去年の審議のときにも私、国籍条項の問題を質疑いたしましたけれども、こういうようなところに日本の戦後補償のあり方、これの基本的な問題が内在していると、このようなことで質問をしたいわけであります。
 近年は特に従軍慰安婦の問題を初めとして、サハリン残留の韓国・朝鮮人の補償の問題、また在日韓国人の傷痕軍人の補償の問題、B、C級戦犯の補償の問題、韓国の太平洋戦争犠牲者遺族会の軍人軍属の人たちの補償の要求、さまざまなこういった補償要求がなされてきておるところでありますので、こういうものに対して我が国としてどのように対応していくかという、こういう重要な問題を考えますときにおきましても、この戦後補償法の一番原点たる恩給法のあり方、これを精査すべきであると、こう考えるところであります。
 ところで、最初に外務省の方に確かめたいのですが、欧米各国でございますが、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、ドイツ、この欧米各国における軍人に対する年金等の支給の実情について簡単に説明願いたいと思います。

○説明員(石川薫君) お答え申し上げます。
 委員ただいま御指摘の各国におきましては、かつて自国の軍隊に勤務中負傷しまたは疾病にかかった者、もしくはその遺族に対しましては、自国籍を有する者のみならず、よその国籍の者に対しましても年金または一時金を原則として支給していると、このように承知いたしております。

○翫正敏君 ただいまのは詳細の資料、外務省が作成した資料を私持っておりますけれども、要するに、アメリカにおきましてもイギリスにおきましてもフランスにおきましてもイタリアにおきましてもドイツにおきましても、この欧米各国では、すべて国籍の有無ではなくて兵役に服したかどうかというその観点に立って、服した軍人すべてに年金または一時金が、額の差はそれぞれの国によってあるようでございますけれども、支給がされている。
 この意味において、我が国の支給のあり方とは基本的に違う。こういうことで理解してよろしいでしょうか。

○説明員(石川薫君) お答え申し上げます。
 委員ただいま御指摘の各国につきまして、それでは申し述べたいと存じますが、基本的には委員の御理解で正しいと存じます。例えば、アメリカ、イギリス、イタリアの各国につきましては、原則として国籍による扱いの相違はないものと承知いたしております。
 他方、例えばフランスにつきましては、円いわゆるフランス領土の住民の年金額はそれぞれの国の物価等を考慮して算定している、場合によっては低いものもあるというふうに承知しております。
 ドイツにつきましても、近隣諸国とは条約がございますが、その条約に従いまして支給を行っている、このように承知いたしております。

○翫正敏君 では、日本における恩給制度の基本的性格というものは何なのか。これは総務庁の方からお答え願います。

○政府委員(稲葉清毅君) 日本国におきます恩給法におきましては、日本国籍の保持を恩給の受給権の要件としておるわけでございますが、これは、我が国の恩給制度が公務員と国との特別な関係に立脚した公務員年金制度である、そういう沿革ないしは性格に由来するものでございまして、これは、大正十二年の恩給法の制定以来今日に至るまでの我が国の恩給制度の基本的な約束事の一つとなっているところでございます。

○翫正敏君 ほぼ全額国庫負担の国家補償の性格である。本人の掛金を原資とするいわゆる社会保障の制度というものとは違うものだと、こういう理解でよろしいですか。

○政府委員(稲葉清毅君) ただいま委員のおっしゃいましたように、特に軍人の場合は全額国庫負担で、納付金もございませんし、そのような性格のものであるというふうに理解してよろしゅうございます。

○翫正敏君 総務庁長官、先ほどの欧米各国の例に比べて我が国がこのようになっているという、そういう実情でございますね。そのことを今聞かれまして率直にどのような感想といいますか、所感をお持ちか、ここでちょっとだけお聞かせ願いたいと思います。

○国務大臣(鹿野道彦君) ただいま恩給制度の基本的な性格というふうなことにつきまして恩給局長から答弁をいたしたわけでありますが、大正十二年、恩給制度が施行されてから、今答弁申し上げたような我が国としての基本的な考え方で対応しておる、こういうふうなことになるんではないかと思います。

○翫正敏君 いや、そういうことではなくて、欧米各国の軍人恩給の支給の実情というものと比較して、我が国の支給のあり方というものの基本的なことについてどのように今お考えかということをお述べください。

○国務大臣(鹿野道彦君) 各国のそれぞれの制度につきましては、それぞれの沿革やそれぞれの制度の考え方というふうなものがいろいろあるわけでございまして、我が国の恩給制度につきましても、今申し上げましたとおりにそのようなことでございますから、ただ単純に比較するというふうなことは必ずしも妥当ではないんではないか。いろいろな状況の中からそれぞれが判断をしたというふうなことではないかと思っております。

○翫正敏君 ところで、この我が国における恩給の最高支給額と最低支給額を総務庁の方から示してください。

○政府委員(稲葉清毅君) 現在、旧軍人恩給、普通恩給を受給されている方で最高額は、もとの階級が中将でこざいまして実在職年が三十四年の方がいらっしゃいますけれども、この方が年額約四百四十万円でございます。また、最低額につきましては、実在職年十二年以上で七十五歳未満の場合の方、こういった方は恩給年額の裁定された額に対しましてそれより高い最低保障額が適用されますが、その最低保障額が百五万四千八百円となっております。

○翫正敏君 本人の掛金を原資とするのではなくて、すべて国庫負担の国家補償という我が国の恩給制度の基本的性格というものにかんがみまして、在職時の階級による格差があるということの根拠はどこにあるんでしょうか。

○政府委員(稲葉清毅君) 確かに、恩給は国家補償的な性格は有するわけでございますけれども、やはりその沿革から申しましてこれは年金制度であるということには変わりないわけでございます。したがって、恩給は国家補償であるという議論がよくされるのでございますけれども、正確に言うと国家補償的な性格を有する年金制度である、こういうことになると思うのでございます。そうしますと、これは年金制度でございますから、それは退職当時の俸給、最近ではほかの年金制度は退職当時ではなくてさらに生涯的な給与というのもあると思うんですけれども、いずれにしても退職当時の俸給と在職の年数を基礎として算定されるということが基本でございます。これは、旧軍人、旧文官を問わず共通する原則でございます。
 したがいまして、旧軍人の場合、この退職時の俸給につきましては、従来から階級ごとに仮定俸給表というものを定めまして、それに基づいて恩給年額を計算してきたところでございまして、退職時の条件ということを考えれば、階級により恩給年額にある程度の差が生じるのはやむを得ないと思っているわけでございます。
 ただし、先生おっしゃいますように極めて大きな格差があるということは必ずしも妥当でないという御意見もございますし、旧軍人の恩給が、再出発に当たりまして、例えば兵隊さんの階級を二等兵、一等兵、上等兵、兵長とありましたのを兵長に一本化するというようなこと、あるいはその後においても、仮定俸給表等につきましてなるべく下に厚いような改善をするというようなこと、それから最低保障制度を導入する。そういったようなことにつきまして、できるだけ下に厚く上に薄いという改善をするように努めてきたところでございまして、戦前に比較しますと階級による差は非常に大きく縮小しているわけでございます。

○翫正敏君 縮小する努力はしているといいましても、基本的に恩給額が在職中の給与の額というものをもとにはじき出されております関係上、現在四倍以上の最高と最低の格差がついているわけです。こういうものはやっぱり基本的におかしいというふうに思います。おかしいと思うか思わないか、総務庁長官と官房長官におのおのお答え願いたいと思います。

○国務大臣(鹿野道彦君) ただいま答弁申し上げましたとおりに、恩給年額というのは退職当時の俸給と在職年数に応じて算定することとなっておりまして、そのことが恩給制度の基本ではないかと思います。したがいまして、階級により恩給年額にある程度の格差が生ずるということはやむを得ないものではないか、このように考えるところでございます。

○国務大臣(河野洋平君) 総務庁長官の御答弁と同意見でございます。

○翫正敏君 私は、これだけ大きい格差は不当であるので、この差をさらに縮める努力をすべきだという意見を申し上げておきたいと思います。
 国籍による差別が我が国の恩給にはあるということに戻りまして、もう一点お伺いしますが、国際人権規約B規約の第二十六条、このところには、「すべての者は、法律の前に平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため、法律は、あらゆる差別を禁止し及び人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する。」ということをうたっているわけでありますが、この規約と恩給法九条の国籍要件との関係を伺いたいと思います。
 初めに、外務省の方から、国際人権規約B規約がいつつくられて、どのように発効しているのかを説明してください。

○説明員(神余隆博君) 急な御質問をいただきまして、今担当の説明員がまだ参っておりませんので、できれば後刻正確に御報告させていただきたいと思います。私、必ずしも事実関係、この場で間違ったことを答えてもあれでございますので、大変申しわけありませんけれども。

○翫正敏君 じゃ、見えたらすぐ説明してください。よろしいですか。

○説明員(神余隆博君) そのようにします。

○翫正敏君 これはとにかく効力を発している条約でございます。我が国においても効力を発している条約でありますので、そういう前提に立って質問をします。
 サンフランシスコ条約が一九五二年、昭和二十七年の四月二十八日に結ばれまして、それによって日本の旧植民地出身の人が本人の意思とは関係なく日本国籍を失うということになりました。ある人は在日外国人となり、ある人は祖国の方で独立をされたわけでありますけれども、この人たちに恩給法九条の国籍要件を当てはめるのは極めて不当なことではないかというふうに思います。国際人権規約B規約二十六条に違反するものではないかと思うんですが、総務庁長官及び官房長官の御所見を伺いたいと思います。

○政府委員(稲葉清毅君) ただいま御指摘のように、恩給法の国籍条項が国際人権規約B規約第二十六条に違反するかどうかということにつきましては、そういったB規約の経緯等について後ほど外務省から御説明があるようでございますが、私ども恩給局が解釈権限を有しているわけではございませんけれども、ただ、この条項が合理的でかつ客観的な差を設けることまでも排除しているものではないというのが国際社会の解釈であるというふうに私どもは理解しているわけでございます。
 先ほども申し上げましたように、恩給法において日本国籍の保持を恩給受給権の要件としているのは、公務員と国との特別の関係に立脚した公務員年金制度という我が国の恩給制度の沿革ないし性格に由来するものでございまして、これは合理的であると同時にすべての人に適用しているわけなので、客観性を持つものであるというふうに考えているわけでございます。

○翫正敏君 では、両大臣も同一見解ですか。

○国務大臣(鹿野道彦君) ただいま答弁したとおりでございます。

○翫正敏君 じゃ、ちょっと別の資料に基づいて質問いたしますが、一九七九年、昭和五十四年七月に恩給局が発行しました「恩給相談ハンドブック」というものがございます。これがコピーですけれども、その問い四というところに、国籍を失った人が新たに日本国籍を取得したときに恩給をもらえるかどうか、そういう問いを出して、その答えと解説をしているわけであります。これの一番最後のところに、ある人に対しては特別の取り扱いがなされた、このように書かれておりますので、その特別な取り扱いをした理由ですね、それから具体的な件数、国籍の別、日本国籍を取得した日にち、また恩給を受けられるようになった日にちなどを順次説明してください。

○政府委員(稲葉清毅君) ただいまも申し上げましたとおり、恩給法は、日本の国籍を失ったときは恩給受給権を失うという旨規定しておりまして、昭和二十七年四月二十八日のサンフランシスコ平和条約の発効によって日本国籍を失った朝鮮半島及び台湾の出身の人々についてもこの規定が適用されて、恩給受給権は消滅することになるわけでございます。このことはこのハンドブックにも書いてあるわけでございますけれども、しかしながら、これらの人々のうち、平和条約の発効後比較的早い時期に日本に帰化して日本の国籍を取得して恩給の請求を行った人々につきましては、平和条約発効に伴う国籍喪失は本人の意思によらないものでございまして、平和条約には国籍の選択権については何も規定してないわけでございますけれども、本人の意思によらないわけでございます。
 その後、その方たちが日本に帰化したい、言いかえれば自分の意思で日本の国籍を選択するというふうな意思表示があったものと考えられること、それから、厚生省の方で所管しております援護法につきましては、帰化すれば援護法の適用を受けるとされておりまして、それとの均衡も配慮せざるを得ない、こういう事情がございまして、そういった方々についてはさまざまな見地から考えて、平和条約の発効によって国籍を失うということにはされたんだけれども、その後比較的早い時期に日本に帰化したい、言いかえれば日本の国籍をそのまま保持していたい、そういう意思表示がされた方につきまして、こういう人にまであえて国籍条項を適用していくのはいかがなものか、こういう見地から恩給を支給するとしたところでございます。
 しからば、それじゃそういう方たちは何人ぐらいいたのかというお尋ねでございますけれども、恩給の裁定件数が大変膨大でございまして、その中から帰化した者を完全に掌握するというのは非常に困難でございますけれども、随分調べさせていただきまして、現在把握しているところでは十二名でございます。そのうち、台湾出身者が七名、朝鮮半島出身者が五名という内訳になっております。
 なお、これは皆様非常に特殊なケースでございまして、例えばこういった十二名のうち五名ばかりは、昭和三十年にモロタイ島という島から帰還された方が五名ばかり含まれているんですけれども、例えばこの五名は台湾の出身者の方でございまして、いわゆる高砂族と言われていた方でございますけれども、昭和十八年に特別志願兵として入隊いたしまして、以後南方を転戦いたしまして、インドネシアのハルマヘラ島という島がありますけれども、そのかなり近くの小さな島のモロタイ島というところに配属されまして、そこで戦争をしているうちにジャングルの中で散り散りになって、その後もう日本の指揮系統が全く失われたところで皆さん再会いたしまして、そこで昭和三十年まで約十年間横井さんのような生活をしていた。
 そういう方が三十年に発見されて、日本に帰られて、平和条約のことも知らず、国籍を失ったということも知らず、いや我々は日本人として戦争に参加して、これでその場で日本に帰化したい、日本の国籍を継続したい、そういうような方が多うございまして、そういった方にまであなた方は日本人ではないよと言うのはなかなか難しい事情もございまして、そういう裁定を行っているわけでございます。昭和四十九年ぐらいまでに帰化された方についてこういったケースがあるということでございます。

○翫正敏君 昭和四十年ごろの国会の審議録やマスコミでの取り扱いではこういうものが出ていないというふうに思うんですけれども、該当者はどうしてこのような特別な取り扱いを受けることができるということを知ったのか、それを簡単に説明してください。

○政府委員(稲葉清毅君) これは何分にも古い話でございまして、先生おっしゃったように私どもも古い記録をいろいろ調べたのでございますけれども、例えば、そういうことについては、先生おっしゃいましたようにそういう措置があるということを公表しているわけではございませんけれども、ただ、恩給は請求を待って裁定するということをずっとやっておりますので、当時におきましても請求があったものについてはそういう措置をとっていると。あるいはお問い合わせがあったり照会があったりした場合にはそのようにお答えしているわけでございます。したがいましてハンドブックにもそのように書いてある、こういう事情でございます。
○翫正敏君 このハンドブックというのは何冊ぐらい印刷したんですか。

○政府委員(稲葉清毅君) ちょっと今資料の持ち合わせがございませんので、何冊かはわかりません。

○翫正敏君 要するに、ハンドブックに書いてあるからこれを見ればわかるじゃないかという、そういうことでは結局もらうべき資格がある人でも申請することができないというふうに思うんですね。やはり新聞にちゃんと載るとか、国会でそういう議論が行われて、それがマスコミに取り上げられるとかということがあって初めて該当者の人は知ることができると思うんです。そういうように思います。
 この要件を満たしている人で、まだ恩給をもらっていない人というのはそういう意味からいると思うんですね。そういう人がいるかいないかを調べるという気持ち、またさらに、もしそういう人がいて本人が申請をすれば今からでももらえるのかどうか、そういうことを説明してください。

○政府委員(稲葉清毅君) 原則として、恩給法においては国籍を失ったときは恩給の受給権を失う。ですから、帰化したとしてもその権利は回復しないというのが原則なんでございますけれども、しかし、先ほども申し上げましたように、平和条約発効後比較的早い時期に帰化をして恩給の請求をしたという例については特例的な措置として恩給の支給を認めているところでございます。
 今、先生からお尋ねのように、仮に、今後そのような人から請求があった場合には、どのような事情で帰化をして、どのような事情で請求がおくれたのか、そういった事情をよく聞いた上で慎重に検討させていただきたいと思っております。
 繰り返して申し上げますけれども、恩給の場合、非常に大勢の方を対象としておりますので、私どもとして受給権があるかないかということについて個々に掌握することはできませんので、すべて請求を待って審査しているというのが実態でございます。

○翫正敏君 日韓条約の対象とならない台湾出身者、朝鮮籍の人も同じであるということでいいですか。

○政府委員(稲葉清毅君) 日韓条約の対象とならない台湾籍の方あるいは北朝鮮籍の方につきましても、これは比較的早い時期に日本に帰化して、つまり、言いかえれば、平和条約発効時期において自分の意思で日本国籍を選択したであろうという推定ができる方につきましては、同じように扱うべきではないかと存じているわけなんでございますけれども、ただ、今後帰化するということになりますと、これは別の問題でございまして、あくまでも早い時期に帰化した方ということで考えさせていただきたいと思っております。

○翫正敏君 そこがちょっとあれなんですが、それ議論していると長くなりますので、そのうちまたやりたいと思います。
 さっき国際人権規約のB規約のことをお尋ねしましたので、外務省の方からこの条約の発効について説明してください。

○説明員(神余隆博君) 先ほどは大変失礼申し上げました。
 委員御質問の人権規約B規約、いわゆる市民的及び政治的権利に関する国際規約でございますが、これの署名日は一九七八年五月三十日でございます。そして批准書寄託、すなわち批准の日は一九七九年六月二十一日となっておりまして、それを受けまして、我が国について効力を発生いたしましたのが一九七九年九月二十一日というふうになっております。

○翫正敏君 それで、総務庁長官にお尋ねしたいんですけれども、総務庁の方から、事務方からでも最初は構いませんが、そもそもこの恩給法の九条において、国籍を失いたるときは恩給権が消滅するというふうになっているわけなんですけれども、この恩給法の九条の「国籍ヲ失ヒタルトキ」というのには、サンフランシスコ条約のようなこういう条約によって、本人の意思とは関係なく植民地の人たちが国籍を失うというような場合は想定されていなかったと考えるのが相当であろう、正しいのではないかと思うんですけれども、大正十二年の恩給法制定当時の立法の趣旨というものにかんがみていかがなものでしょうか。

○政府委員(稲葉清毅君) 委員ただいまお尋ねのように、私どもといたしましても、恩給法の制定当時において、今のような形で日本の領土が一部分割、独立することによって国籍の喪失をするというようなことまでを想定していたとは思えないわけでございます。しかしながら、昭和二十七年に平和条約を締結しましたときも、そのときに恩給法につきましてどういうふうに扱うかという議論は当時はなされていなかったようでございまして、そういったことは二国間条約にゆだねるということだったのかもしれませんけれども、いずれにしても恩給法においては、日本国籍を有しない者には恩給を支給しないという法律になっておりまして、現に外国人である人々については恩給受給権はないものと考えているわけでございます。

○翫正敏君 長官、いかがですか。

○国務大臣(鹿野道彦君) 今、恩給局長から答弁申し上げましたとおりに、基本的には、大正十二年の恩給法制定以来今日に至るまでの恩給制度そのものの基本的な考え方だ、こういうふうなことだと思います。

○翫正敏君 サンフランシスコ条約が発効して、その後に恩給法が復活しているわけですね。これが戦後補償法の基本というものになっているわけであって、国籍条項というものによって日本国籍以外の人を排除していないのは原爆の治療を受けられるというこのことだけでありまして、他のことについてはすべて国籍条項や国籍要件というものがあって日本人だけにしか補償しないという、これがやっぱり日本とアジアとの今後の関係を考えていく上においても非常にネックになっているのではないかと思うんですね。
 そういうことを考えてみますと、その大正十二年の法律が制定された当時にはこのような条約によって国籍を失うというようなことは想定されていなかったということなどにかんがみましても、やはりこのサンフランシスコ条約によって国籍を失った人に対する特別な配慮、措置というものは当然今後考えていかなければならない問題でないかというふうに思うんです。先ほどのハンドブックの例は極めて一つの古い一例でございますけれども、やはり特別な措置をここに講じているという前例もございますから思うんです。
 そこで、官房長官にちょっと最後に見解をぜひ承りたいんです。
 今後のことというふうに考えていただきたいんですが、サンフランシスコ条約によって一九五二年、昭和二十七年に日本国籍を失った人、このサンフランシスコ条約によって国籍を失った方の中でも特にまず在日外国人のことを考えて、そこを手がかりにして、さらに先ほどの国際人権規約というものにまで視点を広めながら問題を解決していくのがいいのではないかと思いますのでお尋ねするんですけれども、この在日外国人の人は日本の植民地支配によって日本の国籍を強要されました。そして、戦後日本に永住をしている特別な外国人というこういう性格を持っています。またずっと日本に税金を払い続けている、そういうもちろん外国人でもあります。
 サンフランシスコ条約と先ほどから何回も言っておりますけれども、恩給法が大正年間にできました時点では全く想定をされていなかった事態によって国籍を失ったということでございますし、さらには一九七九年の国際人権規約B規約発効から十年以上たっているというこういう現状でございます。
 国際社会の中で名誉ある地位を占めたいというこれが我が国の国是であると思いますけれども、そういうことからかんがみましても、まずこの恩給法第九条の国籍要件そのものを法律から撤廃するのがベストであるというふうに私は考えているものでありますけれども、当面のどころとして、サンフランシスコ条約で国籍を失ったすべての外国人に適用しないというふうにし、さらにはそこから国際条約、人権条約というものにまで日本の戦後補償というのを広めていくという、こういう法の弾力的運用というものの中で問題を解決をしていくというものが求められる方向なのではないかと思うのですけれども、官房長官はどのように今後の方向についてお考えでしょうか。

○国務大臣(河野洋平君) 先ほど来総務庁恩給局長等が御説明を申し上げておりますとおり、国と公務員との関係というものについて長い間の歴史の積み上げが一方でございます。大正十二年でございますか、この長い間の国と公務員との特別な関係というものに立脚した制度、この制度を見てみますとやはり国籍条項というものはその根幹に触れる重要なものだ、これが一つどうしてもあると思います。しかし一方で、今委員が御指摘になっておりますような問題もそうした考え方が一部にあるということも承知をいたしております。特に委員はかねてからこうした問題に着目をして御論議を展開しておられるということも承知をいたしております。
 そこで総務庁におかれましては、いろいろな角度で御検討をされたというふうに私は想像しておりますが、さまざまな角度から検討をした結果、本日の答弁になっておるということでございましょう。私といたしましては、この問題については総務庁の御判断を支持したい、こういうふうに思っているところでございます。

○翫正敏君 非常に残念です。戦後補償の問題というのは、外国の方からいろいろ従軍慰安婦の問題を初めとしてどんどん日本政府の方に要求が出てきている問題ですので、これをどうして解決していくかという重要な問題に関係しておりますから、ぜひ今後ともさらに検討を加えていっていただきたいということをお願いしておきたい、そういうふうに思います。
 議論は変わりますが、防衛庁の方にちょっと教育訓練の内容について質問しますので、担当の教育訓練の方お願いいたします。

第126回国会 衆議院厚生委員会 第8号 平成五年四月十四日(水曜日)午前九時三十五分開議

【発言順】
 委員             加藤 繁秋
 厚生大臣官房審議官      佐々木 典夫
 厚生大臣           丹羽 雄哉
 総務庁恩給局審議課長     小山 裕
 委員             伊東 秀子
 政審議室内閣審議官      木村 政之
 外務省アジア局北東アジア課長 武藤 正敏
 外務省アジア局南東アジア第二
 課長             林 景一
 外務省国際連合局人権難民課長 吉澤 裕
 委員長            浦野 烋興
 委員             草川 昭三
 委員             児玉 健次

○加藤(繁)委員 それでは、次の事実確認に移りたいと思います。
 遺族援護法ができたのは一九五二年ですね。そのときに、援護法の申請をされた方で朝鮮人の方が何人いたかということについてお伺いをしたいのです。

○佐々木(典)政府委員 援護法の成立いたしました昭和二十七年当時、在日の朝鮮半島出身の方がどの程度請求されたかというふうなお尋ねでございますが、在日の朝鮮半島出身者であるという点に着目いたしました統計はとっておりません。このため、今のお話につきましては把握することができておりません。

○加藤(繁)委員 把握できてないというお答えですね。
 もう一つお伺いしますが、現在もし援護法の戸籍条項、国籍条項がなければ、在日の朝鮮人で対象と思われるような人はどのくらいいるかということについては、事実をつかんでいますか。

○佐々木(典)政府委員 当初の状況を今申したわけでございますが、同様でございまして、在日の朝鮮半島出身者という点に着目しました統計はとっておりませんことから、数を把握いたしますことは困難でございます。
 なお、最近韓国籍の三名の方から障害年金の請求がありまして、それぞれについて却下した事例がありますことは、私どもも当然よく承知をいたしてございます。

○加藤(繁)委員 三人の方が今請求の裁判を起こしていますね。それについては承知している。それ以外に却下した事実というのは、何人いるかは統計はないけれども、そういう方がいらっしゃるという事実について認識しているかどうかについてはどうでしょうか。

○佐々木(典)政府委員 把握をいたしております例以外に却下した例があるかという点につきましては、過去に却下した例はあるというふうに考えます。何例あるか等は、今申しましたとおり把握はいたしてございません。例はあると思います。

○加藤(繁)委員 そういう例はあるけれども、統計はとっていないというのが現段階の認識ですね。
 そうするとこの人たちは、今度日韓請求協定に基づいて日本側が無償三億ドルを韓国に払った。韓国の側にしてみれば、対日民間請求申告法と同補償法をつくって補償を実施しているわけなんですけれども、問題は、その補償の内容につきまして申告法第二条で、「申告対象については、一九四七年八月十五日から一九六五年六月二十二日まで日本に居住したことのある者は除外した大韓民国国民」と定めているわけですが、こういう事実について、厚生省は事実として認めているかどうかについてはどうでしょうか。

○佐々木(典)政府委員 お尋ねは、韓国におきます対日民間請求権補償に関する法律の中での位置づけというふうなことかと思います。
 在日韓国人の方の補償請求の中身につきましては、国内法上の根拠を有します実体的権利でないということから、日韓協定によりまして法的には解決済みというふうな問題と承知しているわけでございますが、今お尋ねの韓国の国内法につきましては、厚生省の所管する制度でないという立場でございますものですから、詳しくは承知いたしてございません。
 そういう意味では、私の方から御答弁を申し上げるのは適切ではないと思いますが、私どもの保有しております資料を見ますと、いわゆる在日韓国人の方につきましては、韓国の国内法の対象からは除外されているというふうに見ております。

○加藤(繁)委員 現に在日の朝鮮人で日本の援護法からも除外されている人が、統計はないけれども、裁判を起こしている三人を含めて、その他にも何人かいるという事実はここで明らかである。同時に、その人たちは、韓国の法律からは対象外として除外されているということもここで明らかになった。この二つが明らかになっただろうと思います。
 問題は、韓国の側についてはそういう状況でありますけれども、北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国の方。これまで厚生省の立場は、韓国については日韓協定がありますから、そこですべて戦後処理は終わったんだ、こういう解釈に基づいて一切何もできないということでしたけれども、朝鮮民主主義人民共和国とはそういう戦後処理についての話し合いがまだされていないわけでございまして、そういう方についてはこの援護法の関係について一体どのような対応ができるのかということについて、お伺いをしたいのです。

○佐々木(典)政府委員 北朝鮮の旧軍人軍属の皆さんへの我が国の援護法の適用はどうなるのかというお尋ねでございます。
 実は、我が国の戦傷病者戦没者遺族等援護法は国籍要件を設けてございますけれども、国籍要件を設けまして日本人に対象を限定しているということにつきましては、援護法が恩給に準拠した法律であるということが一つと、もう一つ、昭和二十七年でございますけれども、サンフランシスコ平和条約において、朝鮮半島あるいは台湾などいわゆる分離独立地域に属する人々の財産・請求権の問題につきましては、帰属国との特別取り決めの主題とするとされた、こういったような考え方に基づきまして国籍条項が設けられているわけでございます。このような観点から、それはそれぞれの当時国との外交的処理にゆだねられているというふうなことでございます。
 韓国との間におきましては、その後、昭和四十年に日韓協定が結ばれて、財産・請求権問題は法的に一切解決済みというふうになっておりますことは御案内のとおりでございます。
 なお、北朝鮮の方々につきましては、これも御承知のとおり、日本との間における外交が成立してないということから、昭和二十七年のサンフランシスコ平和条約に基づきます当事国との特別な取り決め、それがまだなされておらない、外交的な処理がなされておらないというふうな状況でございます。

○加藤(繁)委員 外交的処理がなされてないから、帰化すればできるのですか。

○佐々木(典)政府委員 今、帰化をするならば北朝鮮の方々につきまして援護法が適用になるのかというふうなことでございます。
 実は、若干御説明させていただきますと、援護法におきます朝鮮半島それから台湾出身者の方が日本に帰化した場合の取り扱いにつきましては、昭和三十七年以降、私どもの援護課長通知によりまして、個人の意思に基づかない一方的国籍喪失は援護法の国籍喪失に当たらないという解釈をとりまして、年金等を支給するという取り扱いをしてきたところでございます。
 先ほど申しましたけれども、韓国籍の方につきましては、昭和四十年の日韓請求権協定の署名の日以降におきましては、たとえ我が国に帰化した場合であっても、援護年金は支給しないという扱いとされてまいったわけでございます。
 しかしながら、同通知におきます個人の意思に基づかない一方的国籍喪失は援護法の国籍喪失に当たらないとの解釈につきまして、昨年以降、各方面と御相談し、慎重に検討を重ねてまいりました結果、サンフランシスコ平和条約の発効に伴い日本国籍を喪失した者について、援護法において日本国籍を喪失していないものとして取り扱うことには法制的に無理があることが一つ、それから二つ目には、援護法は恩給法に準拠して制定された法律であるわけでございますが、恩給法における国籍喪失の解釈との整合性がとれないこと、この二点から、法律の解釈には無理があるというふうな結論に達したところでございます。
 そういうような考え方でございまして、今申しましたような状況から、従来三十七年からとっておりました解釈を変更したいというふうに思っている次第でございます。

○加藤(繁)委員 その通達を撤回するということですか、審議官。

○佐々木(典)政府委員 ただいまも申しましたけれども、昭和三十七年の通知につきましては、いろいろ検討の結果、法律解釈に無理があるという結論に達したところでございます。
 繰り返しになりますけれども……(加藤(繁)委員「いや、もう繰り返しは要らないですから、答えだけ。撤回するのですか、しないのですか、どっちですか」と呼ぶ)撤回するのかどうかということでございますが、三十七年通知におきます法律解釈に無理がありますので、これは変更せざるを得ないというふうに私どもとしては考えております。

○加藤(繁)委員 変更するそうですけれども、そうすると確認しますが、変更すれば北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国の方も帰化してもできない、こういうことですか。

○佐々木(典)政府委員 三十七年の通知の解釈を改めますと、無理になるというふうに考えます。

○加藤(繁)委員 そうすると、これまで国会の答弁で、例えばここに、平成四年五月十九日の参議院で木庭健太郎先生が質問をしております。そのときに、多田政府委員が朝鮮民主主義人民共和国の問題について「先ほど先生の御指摘ありました台湾の方々あるいは北朝鮮の方々、この方々についてはまだ特別取り決めが行われておらないという、解決済みでないという扱いでございますので、帰化されますと日本の法が適用になる。」こういうふうにお答えなさっているのですけれども、このお答えも間違いだった、こういうことですね。

○佐々木(典)政府委員 ただいま御説明申し上げさせていただきましたけれども、昭和三十七年にとっております国籍喪失の解釈には、法的に無理があるというふうな判断でございます。
 実は、今御指摘ございました昨年の国会におきます御答弁につきましては、昭和三十七年通知、それからこれに関連いたします昭和四十一年通知における法律解釈が正しいものという前提で御答弁を申し上げたものというふうに思っております。しかしながら、先ほど申しましたが、御指摘の答弁の後、各方面とも御相談をさせていただき、慎重に検討を重ねました結果、昭和三十七年通知に記載された法律解釈には無理があるという結論に達したものでございます。御理解を賜りたいというふうに存じます。

○加藤(繁)委員 もう一つは、三十七年に出した通達は間違いだったということでございますが、間違いだったということを今言うということは、三十一年間そのままにしておいたということでしょう。三十一年間そのままにしておったというその責任は一体どのようにとるおつもりですか。

○佐々木(典)政府委員 三十年間にわたって行政の判断として誤った扱いをしてきたことについてどうするんだということでございます。
 今回解釈を変更します。その取り扱いにつきましては、先ほども申しましたけれども、予算委員会等での御議論を踏まえまして私どもも真剣に、慎重に政府部内で検討しました結果、三十七年通知に示された法律解釈に無理があるというふうな結論に達したために変更するわけでございます。私どもといたしましては、今後このようなことが生じないよう十分留意をしてまいる所存でございます。御理解をお願いしたいと思います。

○加藤(繁)委員 三十一年間もほっておいて、この場で今後起きないようにしますと言ったら、ちょうど今政治的な腐敗がいっぱい起きておって、悪いことしたけれどももう二度といたしませんと言うのとよく似ているじゃないですか。その三十一年間、間違った措置をやってきたことについて、一体どのような責任をだれがとるのかということについて明快にお伺いしたいですね。今のじゃ納得できませんね。

○佐々木(典)政府委員 繰り返しの御答弁で恐縮なんでございますけれども、私どもも昨年の御指摘を踏まえましていろいろな角度から検討をさせていただきました結果、先ほど申しましたような解釈の変更をせざるを得ないというふうに判断をいたしたわけでございます。
 厚生省といたしましてこういう判断を示してきたということにつきましては、判断が甘かったということでおしかりを受けるわけでございますけれども、その点に関してはまことに恐縮をいたしておる次第でございます。二度とないように最大の留意をしてまいりますので、ひとつ御理解を賜りたいというふうに存じます。

○加藤(繁)委員 昭和三十七年に通達を出したときの条件が、例えば今日段階で変わった点があるのか。ほとんど条件は変わってないんじゃないですか。条件が変わってないにもかかわらず法律の解釈だけ変えるというのは、そんな勝手に、あのときはこうだったけれども今はこうだといって通達を変えてもいいのか、そのようなあいまいな行政を行っているということについて、丹羽大臣、どうでしょうか。

○丹羽国務大臣 今回の取り扱いは、昨年の予算委員会での御議論を踏まえて、十分政府部内において検討させていただいた法解釈論であるということをまず御理解を賜りたいと思っております。
 それで、先ほどから審議官の方から経緯等について御説明をさせていただいておりますけれども、御案内のように、朝鮮半島におきましては一九一〇年にいわゆる日韓併合というのが行われまして、本人の意思にかかわらず日本の国籍にさせられた。そして、そういう経過を経まして、不幸な時代を経まして、一九五二年にサンフランシスコ平和条約の発効によって、日本の国籍を喪失して併合前の国籍に戻った、こういうことでございます。ですから、これは個人の意思とは関係なく、大変残念な悲惨な戦争の結果としてこういうことになったわけであります。
 この問題につきましては、国と国との取り決めによって左右されたということが冷徹なる事実である、こういうことでございますけれども、長い行政の中には、時には結果的に判断が適切でなかったこともなきにしもあらずであります。とにかく大変不幸な出来事でございますけれども、そもそも昭和三十七年当時の援護課長通知というのは、私が想像するには、いわゆる善意の解釈からこういうものが出されたのではないか、こう思っておるわけでございます。要するに、国と国との取り決めによって決まっておることを、一片の課長通知によって国籍を云々すること自体どだい無理があったのではないか、顧みますればそういうように思っておるわけでございます。
 大変遺憾なことと存じておりますけれども、過ちを正すにはばかることなかれ、こういうような思いからこの際過去のことを精算をして、先ほどから申し上げたような解釈に正させていただいた、このようなことでございますので、御理解を賜りたいと思っております。

○加藤(繁)委員 これは三十七年当時と今と全然条件が変わってないし、今の大臣の答弁や審議官の答弁では、なぜ解釈を変えるのかというのが理解できませんね。しかも三十一年間という長い年月ですよ。去年出したことをことし変えるなら、それはまたわからぬこともないかもしれませんけれども、この三十一年間、営々とうとうと厚生省としてはそういう答弁をずっと繰り返してきて、きょうに至ってこれを変えるというのは、そんなこと私は納得できませんね。
 したがって、その責任の所在についてはもう少し明確に、具体的に答えてもらわなければ、これ以上質問できまんね。理事の方、ちょっと協議してくださいよ、あんな答弁じゃ納得できませんから。

○丹羽国務大臣 いずれにいたしましても、行政を担当する者の心構えといたしましては、法律を厳正に執行していくということがまず第一であります。今回のことを重く受けとめまして、今後このようなことが起きないように、とにかく戦争という悲惨な結果の中で生じた混乱であって、私どもが深く遺憾の意を表するとともに、二度とあのような過ちを犯さないということが私どもに課せられた責任である、このように考えているような次第であります。

○加藤(繁)委員 納得できませんね。ちょっと話してください。そんな答弁じゃだめです。

○丹羽国務大臣 それでは、加藤先生に改めて答弁をさせていただきます。
 三十年有余にわたって誤った解釈をしていたことに対し、心から遺憾の意を表したいと思っております。今後二度とこのようなことが起きないよう、厳に戒めていく覚悟でございます。なお、さまざまな未解決の問題につきましては、誠意を持って努力をしていく決意でございます。

○加藤(繁)委員 十分ではないですけれども、未解決の部分について今後誠意を持って努力するということですから、その部分に期待をして、次の質問に移っていきたいと思います。
 私は、恩給法と援護法が違うということで、恩給法の方に合わすということは下方修正ですから、いい方に本当は修正を図ってほしいと思いますけれども、そういうふうに厚生省として判断をしたということについては、今後新たな委員会の中でまた質問をさせていただきたいというふうに考えております。
 そこで今度は、同じ解釈についてですけれども、恩給局にお伺いをしたいと思います。
 実は私、恩給相談ハンドブックというのをここに持ってきているのです。この中で二百六十八ページに
 平和条約の発効により、本人の意思とは無関係に日本の国籍を喪失した韓国人等の場合には、日韓特別とりきめの効力発生の日、すなわち昭和四十年十二月十八日前に帰化して日本の国籍を取得すれば、平和条約発効のときに遡って恩給が受けられるような特別の取扱いがなされています。
こういうふうにあるわけです。そうしますと、恩給局の側はそれまでの厚生省の理解と実は同じだったということなんですけれども、それについて恩給局の御意見をお伺いしたいのです。

○小山説明員 お答え申し上げます。
 ただいま委員のおっしゃられましたように、恩給相談ハンドブックにそのような記述が書いてあることは確かでございます。
 ただ、この部分について御説明申し上げますと、まず基本的に申しまして、恩給法の場合は、日本の国籍を失ったときは恩給受給権を失うという旨の規定がございます。これにつきましては例外規定もございませんので、昭和二十七年にサンフランシスコ平和条約の発効によって国籍を失った方々、これらの方々についてもこの規定は適用されるというふうに解釈しております。
 ただ、こういった方々のうちで、平和条約が発効してから比較的早いうちに日本に帰化して恩給を請求された方、これらにつきましては、御承知のとおり平和条約発効に伴います国籍の喪失、これは本人の意思によるものではなかったという特別の事情がございますので、比較的早い時期に日本に帰化された方、これらの方々につきましては自己の意思により日本国籍を選択したものと考えられるのではないか。
 それから、先ほど来お話がありましたけれども、当時援護法におきましては、帰化すれば援護法の適用を受けるとされておりました関係もございまして、いろいろな見地から考えまして、このような方々まであえて国籍条項を適用するのはいかがか、そういう判断がございまして、極めて特例的な措置でございますけれどもそれらの方については恩給を支給した、そういった例はございます。

○加藤(繁)委員 そうすると、おかしいですね。厚生省と恩給局が解釈が違っていたのではなくて、恩給局も、個人の意思によるものの国籍離脱はだめだ、しかし、一方的に国籍離脱された者については、やはりそこまでのけるのはおかしいのではないかという理解をされていたのでしょう。したがって、厚生省が通達を撤回すれば、恩給局がそういうふうに理解しているということになりますと、今度は逆に厚生省と恩給局とまた理解が違うのじゃないですか。その点について審議官、いかがですか。

○佐々木(典)政府委員 お答えいたします。
 今、恩給局から御答弁がございましたけれども、先生お示しのハンドブックで取り上げられたケースというのは、あくまでも特例ということでやったというふうな御説明をちょうだいしておりまして、恩給法におきます国籍喪失という考え方につきましては、サンフランシスコ平和条約による国籍喪失は、当然国籍喪失に該当するという理解に立っているものというふうに私ども理解をさせていただいております。

○加藤(繁)委員 恩給局の方、特別な取り扱いをすると言いますけれども、このハンドブックの中には特別という字はありますけれども、ほんのわずかな期間だとか、余りにもしゃくし定規にするのはおかしいなどというのは書かれていないのです。したがって、このハンドブックによりますと、今でも帰化すれば恩給は支給できる、こういう解釈になるのですよ。それについてはいかがですか。
 そして同時に、もう一つ質問しますけれども、恩給法には戸籍条項がないのです。戸籍条項がないにもかかわらず、なぜ帰化という言葉を使うのか。援護法は確かに戸籍条項がありますから、帰化すれば国籍条項は適用されないけれども、戸籍条項が当分の間適用されない。したがって、帰化すれば戸籍条項が適用されないので、国籍については、一方的に国籍を離脱した者については適用しないという条項があるから、ですから援護法の適用になった。
 恩給法も、今言われるように、一方的にやった者についてはもうそれは当たらない、そこまでするのはかわいそうなんだ、そういうことをおっしゃいましたね。ということは、これまでの援護法の解釈と全く同じである。しかも同じであるという解釈に基づくならば、恩給法には戸籍条項がない。にもかかわらず、帰化という言葉はどういう法律に基づいて帰化すればというふうになったのか、お伺いしたいと思います。

○小山説明員 お答え申し上げます。
 恩給の場合におきましてそのような措置をとった、確かに帰化ということは恩給法には特に書いてございません。繰り返しの答弁でまことに恐縮でございますけれども、この恩給ハンドブックに書いてある措置、ここには現実が書いてあるわけでございまして、私が先ほど答弁いたしましたのは、そのような考え方によって、繰り返しますと、平和条約が発効してから比較的早い時期に帰化をされた方、この方について、この人の国籍に対する考え方と申しますか、それをどのように考えるかということだと思うのですけれども、比較的早い方については、仮に国籍の選択があったとすれば日本の国籍を選択されたのではないか、そのように考えて、行政的な措置として行ったというふうに私どもとしては理解しております。
 それから、委員の方から、今でも同じではないかということでございますけれども、前々から申し上げておりますように、帰化の時期が比較的早いというふうに考えておりますので、今の時点で帰化をされた方についてまで適用するのはどうかなという考え方はいたします。
 それから、恩給法には戸籍条項はないではないかということでございますがこれにつきましては、援護法と恩給法の立て方が違っておりますので、そのような観点から特に戸籍条項は置いていないわけでございます。
 帰化の関係でございますけれども、帰化について確かに恩給法には規定してございませんけれども、その帰化というものを、要するに平和条約の発効に伴って国籍を失った方、これらの方が比較的早い時期に帰化をされたという一つのシチュエーションをどのように理解するかという観点から行ったものでございます。

○加藤(繁)委員 この恩給ハンドブックは一九七九年に書かれたものでございます。そうしますと、比較的早い時期というのは、一九五二年にサンフランシスコ平和条約が結ばれて、援護法が五二年にできて、一九六五年に日韓協定が結ばれた。たとえ一九六五年に日韓協定が結ばれた以降でも、一九七九年までは十四年間あるのです。その十四年間はこの恩給ハンドブックで十分だという理解ですね。
 つまり、幾らか早い時期に帰化された方とお答えになりましたね。そうすると、一九七九年というのは幾らか早い時期というふうに考えていいのですか。つまり、この恩給ハンドブックは一九七九年に出した。その当時もし帰化すれば、この恩給ハンドブックどおり認めるのじゃないのですか。それともハンドブックにはこう書いているけれども、これは実は間違いであって、幾らか早い時期の者だけであったのだと。したがって、今例えば一九七九年だとしますと、これを持っていきましたら一体どのような処置をなさるのですか。

○小山説明員 この恩給相談ハンドブックの表現が適切であるかどうか、誤解を招くようなところがあるのではないかという御意見は承っておきたいと思いますけれども、先ほど来申し上げましたように、ここに書いてございますが、要するに「本人の意思とは無関係に日本の国籍を喪失した韓国人等の場合には、日韓特別とりきめの効力発生の日、すなわち昭和四十年十二月十八日前に帰化して日本の国籍を取得すればという、まず一つの条件が置かれているわけでございます。それで「平和条約発効のときに遡って恩給が受けられるような特別の取扱い」、「特別の取扱い」というその背景は、私が先ほどから御説明しているようなことでございます。
 したがいまして、確かにこの恩給相談ハンドブックが発行されましたのは昭和五十四年、一九七九年でございますけれども、ここに書いてあることの趣旨は、私が今答弁したようなことでございます。

○加藤(繁)委員 総務庁の方、申しわけないのですけれども、我々国民はこういう恩給ハンドブックを見てから相談に行くのですよ。こう書いている。ところが、書いているにもかかわらず、相談にいったら、いや、実はこれは速やかに早く帰化した方だけで、あとは関係ないのです、そんな不親切な行政をやっている。先ほど丹羽大臣が、三十一年間も間違いをほっておいて申しわけございませんでしたと言った。総務庁も同じ間違いがあるのじゃないですか。いかがですか。

○小山説明員 お言葉を返すようでまことに恐縮なんでございますけれども、確かに表現につきましていろいろな御議論を呼ぶようなところがあるとすれば、それは遺憾なことかと思いますけれども、考え方としてはそういうことでございまして、特に解釈が間違っているとか、そのようには考えておりません。

○加藤(繁)委員 解釈が間違っているんじゃないですか。表現が違うから解釈が違うのですよ。そんなでたらめなことを言っては困りますよ。表現が違うから解釈が違うのでしょう。この書いたとおり読めば、帰化すればできるのじゃないですか。しかも恩給法は帰化という言葉はないのです。にもかかわらず、堂々とこれは帰化すればというふうに書いている。法に基づかないものをこうやって恩給ハンドブックに書いて、しかもそれに基づいて申請に行ったら、これは明らかに解釈が違うという。非常に不親切な行政の指導だというふうに言わざるを得ませんね。
 したがって、この点については、私もきょう時間がありませんからこれ以上言いませんけれども、しっかりと申し上げておきます。
 厚生省はこのたび通達を撤回して、恩給法と統一した。しかし、その恩給法さえこういう矛盾があるということ。したがって、厚生省の方、恩給とのバランスをもしやるならば、この点について一体どうするのか、こういう協議もぜひしてもらわなければいけませんね。したがって、これまでの常識は、日韓請求権協定で谷間にある人がいるんだから、そういうことについてはできるだけ救っていこう、こういう方向で行政としては扱うということが私は一番大事じゃないかな、こういうふうに考えるので、ぜひそういうことを申し上げて、この点についてはこれで終わりますけれども、決してあきらめたというのじゃなしに、ぜひこれはしっかりしてくださいよ。
 さてもう一つ、こういうような矛盾が出てくるということは、もちろん国籍条項とかあるいは戸籍条項とかややこしく、最近ではこういう法律以外になかなか見つけるのは難しいということでございますけれども、この国籍条項や戸籍条項を一体なぜつくったのかということなんです。その理由についてお伺いをしたいと思います。

○佐々木(典)政府委員 遺族援護法におきましては、国籍条項のほかになぜ戸籍の規定があるのかというお尋ねでございます。
 援護法におきましては、昭和二十七年の制定でございますけれども、当時恩給を停止されました軍人等を救済するという趣旨で、国籍要件を有します恩給法に準拠して制定されたものでありますことが一つございます。それから二つ目には、サンフランシスコ平和条約におきまして、朝鮮半島や台湾などいわゆる分離独立地域に属する人々の財産・請求権の問題は、帰属国との特別取り決めの主題とすることとされた、この二点から国籍条項が設けられたというのがまず一つでございます。
 そして、それではなぜ戸籍条項が重ねてあるかという点でございますけれども、朝鮮半島及び台湾出身の方につきましては、サンフランシスコ平和条約の発効、これは昭和二十七年四月二十八日でございますが、この条約の発効によりまして日本国籍を喪失することとなったわけでございますが、援護法は同じ年の昭和二十七年四月一日から適用されておりましたわけで、これらの方々に対しましてはこの間の適用を除く、適用を排除することを明確にする趣旨で戸籍条項が設けられたものというふうに考えております。

○加藤(繁)委員 確かに援護法は四月一日で、サンフランシスコ条約が二十八日ですね。その間におきましては国籍があったものですから、援護法だけ戸籍条項をつくって除外した。しかし、どうしてそれほどまでにして除外しなければいけなかったのですか。

○佐々木(典)政府委員 どうしてこの規定が設けられたかということでございますが、繰り返しの御答弁になって恐縮でございますけれども、援護法につきましては、昭和二十七年制定当時の趣旨が、恩給を停止されました軍人等も含めての給付を行うということで、国籍要件を有する恩給法に準拠して制定されたことが一つ。それから、サンフランシスコ平和条約におきまして、朝鮮半島や台湾などいわゆる分離独立地域に属する人々の財産・請求権の問題は、帰属国との特別取り決めの主題、外交的処理にゆだねるというふうなことにされたことが国籍条項が設けられた趣旨であり、なお適用の期間のギャップがございますので、適用を除外する趣旨を明確にするということで、当時こういう立法がなされたというふうに考えております。

○加藤(繁)委員 そういうことを聞いているのではないのです。わざわざ援護法が四月一日にさかのぼって適用されるということになった。サンフランシスコ条約というのは二十八日に国籍が一方的に剥奪された。したがって、その間は、その法律そのものでいけば、つまり当時の朝鮮人、台湾人については援護法の適用になった。それを戸籍条項をつくってわざわざ除いたということで、どうしてそこまでして除かなければいけなかったのかということなんです。その点について明確にお答えくださいよ。

○佐々木(典)政府委員 繰り返しての御答弁で恐縮でございますけれども、外交的処理にゆだねるということにされたことに伴うものというふうに考えております。

○加藤(繁)委員 外交的処理というのは、サンフランシスコ条約で朝鮮人あるいは、台湾は台湾で別にやるとして、朝鮮人の問題については日韓の間で取り決めが行われる、つまり二国間で取り決めを行いなさい、こういうことがあったから、わざわざそこで除いたというふうに理解してよろしいですか。どうですか。

○佐々木(典)政府委員 昭和二十七年、サンフランシスコ平和条約が締結された。その時期に援護法が制定されたということで、当時サンフランシスコ平和条約におきまして、そういう当事国との間の特別取り決めにする、その主題とするということが予定されておりましたので、その外交的処理にゆだねられた、そういう理解でございます。

○加藤(繁)委員 そこで、大臣にちょっとお伺いをしたいのですけれども、私、きょうの質問は、まず在日ということに限って言えば、旧日本軍軍人軍属として徴用されたといいますか軍隊として使われた、その方で日本にいる人たちがいる。その方が日本の援護法は適用されていないというこの事実は、先ほどからの答弁でもう皆さんお認めになりました。その方は同時に韓国の申告法からも除外をされているということについて、これも厚生省は認めた。しかも援護法の戸籍条項をつくった理由は、二国間で処理されるからそういうものをつくったのだ、そういうお答えが今ありました。
 そうしますと、二国間で処理されるから戸籍条項をつくってやったけれども、現実に二国間で処理されないで、そのまま今まだ残っている人がいるという事実、これは大臣、認めることができますね。どうでしょうか。

○丹羽国務大臣 先ほどから審議官から繰り返し御答弁を申し上げておるわけでございますが、援護法は恩給法と同様に、対象者を日本の国籍を所有する者、これに限定をいたしておるわけでございます。そういう中で、韓国との間では昭和四十年に日韓協定が締結されまして、補償の問題は法的にはすべて解決済みであります。ただ、韓国内においていろいろな問題があるということは私も承知をいたしておりますけれども、御指摘の問題は韓国の国内の問題でございますので、私からこの問題について申し上げるような立場はない、こういうことで御理解を賜りたいと思っております。

○加藤(繁)委員 私は法的な問題を聞いているのではなくて、在日韓国人というのは、もちろん税金を納めています。永住権も与えられていますね。したがって、もうやっていることはほぼ日本の国民と同じなんです。
 その人たちの問題は韓国の問題だから日本は知らない、大臣は今そういうふうにお答えになりましたね。しかし、私はそういう法律論争をするつもりではなくて、具体的に、援護法からも疎外されて、しかし旧日本軍人として働いた、そういう人が現に韓国からも外されて日本に住んでいる人がいるという事実、これについて認めるかどうかなんです。別に法的な問題がどうとかということじゃなくて、それを認めるかどうかなんです。

○丹羽国務大臣 承知いたしております。

○加藤(繁)委員 したがって、両方から、いわば韓国からも日本からも適用されないという人がいるということがここで確認された。
 さあそこで問題は、つまり我々日本の旧の陸軍、海軍がやったことでございますけれども、当然日本の政府の責任ですね。この責任を、事実としてある問題を一体どのようにとっていくのか。確かに先ほどから言いますように、日韓協定があり、援護法があり、恩給法があるというとで、法的には非常に難しいでしょう。
 しかし、同じ人間だという、しかもその人たちを日本の軍隊が使ったというこの事実、そういうことから人道上的な何らかの特別な措置とか、あるいは一番最初に申し上げましたように、その人たちが何人いるかという事実関係もわからないということですから、したがって、当面はそういう事実関係から調査をしていって、そしてその調査に基づいて、今後人道上的立場から一体どのようなことができるのかというような方向性を示さなければいけないのではないか。
 法律は永遠です。けれども、命は限界がありますから、早くやらなければ、少し待ってくださいというのでは命は待ってくれない、こういうことがありますので、大臣、ぜひその点について方向性を明らかにしていただきたいと思うのです。

○丹羽国務大臣 補償の問題につきましては、先ほどから御答弁を申し上げておるわけでございますけれども、私どもは既に解決済みだ、こういう考え方に立っておるわけでございます。
 いずれにいたしましても、我々の先達たちによって大変悲惨な体験を強いられた韓国の方々を初め朝鮮半島の方々、さらに台湾の方々に対しまして、私どもは率直におわびを申し上げなければならない。そして、何よりも大切なことは、二度とこのような過ちを犯してはならない。平和への誓いを新たにすることがこれらの方々に対する最大の償いである、このように考えております。

○加藤(繁)委員 おわびをしなければいけないという認識は、私もそのとおりだと思いますのであれですけれども、二度と今後でなしに、これまでしてきたことの償いを、では一体どうするのかということについては、今の大臣の答弁ではちょっと私、聞き取れなかったのですけれども、それはどうなんでしょうか。

○丹羽国務大臣 法的にはすべて解決いたしておる、こういうことであります。

○加藤(繁)委員 私、きょうの質問の目的は、法的に解決しているというのはもう既に知っていますから。しかし、実態として残っているではないかということを申し上げたので、その点、大臣は認めましたね。したがって、その実態として残っていることについてどうするのかということについて、お伺いをしたいのですよ。

○丹羽国務大臣 繰り返してで恐縮でございますが、これは韓国国内の問題としてとらえておるわけであります。国と国との取り決めによって、この補償の問題というのは既に決着がついておるわけでございます。
 ただ、そういった立場を離れて、私どもが今後、国としてではなくて、いろいろな形において韓国の人々との友好をさらに深めて、そして我が国に対する、これまでの悲惨な体験を強いられた方々に対しましていろいろな面での精神的な償いというものは、時間をかけて韓国と朝鮮半島の方との友好というものをさらに深めていかなければならない、こういうような誓いを新たにいたしているような次第であります。

○加藤(繁)委員 大臣、政府間の話し合いは、それはもう日韓請求権協定で終わったということになりますから、政府間だけの話し合いというのは、なかなかそれは難しいでしょう。
 現に朝鮮人の方で終戦後向こうに帰れないという事情があったとか、あるいはもうそのまま日本に残って苦しい生活をやってきたという、しかもその上で税金も納め、みんなと同じように働いている、そういう日本の国内で働いている人たちなんですから、日本の政府としてもそれでもう終わったんだということじゃなくて、実態としてそういう人がいるということですからね。
 政府間で話をしていくといったら、なかなかそれは難しいに決まっておるのですから、したがって、それ以前に、同じ住んでいる人として在日韓国人だけ特別扱いするのではなしに、同じように扱っていくというのが私は法のもとの平等だと思いますので、ぜひそういう観点で、今すぐ何かしなさいというんじゃなしに、前向きでそういうことについては対処をしていく、事実関係についても洗っていくというような、そういうことをぜひ大臣から姿勢として私は伺いたいのですけれども、いかがでしょうか。

○丹羽国務大臣 加藤委員の御指摘は、御意見として承っておきたいと思います。

○加藤(繁)委員 私に続いて、今度伊東さんにやってもらいますから、ぜひその点についても引き続いて質問しますから。
 時間がありませんから、最後にもう一つだけ私お伺いしたいのですけれども、援護法は今度値上げになりますね。私は結構だと思います。この援護法が値上げになることはもちろんそうなんですけれども、遺族援護法も、恩給法もそうですが、何年後になくなるかというのは非常に失礼な話で、なかなか予測は難しいのですけれども、しかし、第二次世界大戦の関連者、そういう方が今中心ですから、いずれはこれはなくなっていくということでございます。
 そうしますと、いろいろな方がおっしゃいますけれども、例えば障害年金でいきますと、体に銃弾を受けたというだけではなかなか年金がもらえないとか、その程度によってもいろいろな段階があって、難しいということがありますね。したがって、いずれなくなっていくというこの段階において、その程度を少し範囲を広げていって、戦争に参加した人たちにとってはその程度に応じた範囲内でできるだけ枠を拡大して、援護法もそして恩給法の方でも見ていく。そういう趣旨が日本の国民に対する償いであるし、同時に起こさないという決意につながるのではないかなというふうに私は思うのですが、大臣、いかがでしょうか。大臣からお答えください。

○佐々木(典)政府委員 先に若干御説明をお許しいただきたいと思います。
 ただいま援護法の支給対象を、特に障害の範囲を拡大するといったような措置を検討すべきではないかというふうなお尋ねと思うわけでございます。
 具体的に障害給付に関して見てまいりますと、現在援護法に基づく給付の対象とならないのは第五穀症以下の障害というふうなわけでございますけれども、実はこの五穀症以下の障害ということにつきましては、身体に障害を有する方の福祉を図る基本法の性格を持っています身体障害者福祉法の対象とならない障害であるといった事情やら、あるいは国家公務員等共済組合法なり厚生年金保険法等に基づきます障害年金等の支給対象ともならない障害であるといったような状況でございます。
 障害の評価というのは難しゅうございますけれども、そういうふうな目から見ますと軽度の障害ということでございまして、他制度との均衡からも、なかなか援護法で給付するというようなことは困難であるというふうに考えております。
 ただ、第五穀症以下の公務上の障害を有する方でありましても、戦傷病者の方の特別の事情にかんがみまして、その障害について医療が必要な場合の医療の無料給付あるいはJRの無賃乗車の取り扱い等を戦傷病者特別援護法に基づき行っているというのが現状でございます。
 事実を先に御説明させていただきました。

○加藤(繁)委員 大臣、いかがですか。

○丹羽国務大臣 ただいま審議官の方から御答弁を申し上げたことの範疇でございますが、いずれにいたしましても、今直ちに障害者の範囲を拡大するということは、現実問題として大変不可能ではあると思いますけれども、現に認めておる中において柔軟な対応ができないかどうか、今後検討してみたいと思っております。

○加藤(繁)委員 終わります。

○浦野委員長 伊東秀子君。

○伊東(秀)委員 引き続き、加藤委員が問題にした点について、私も法律的に問題をちょっと取り上げさせていただきます。
 まず、戦争犠牲者及びその家族に対する援護または補償、これは国際人権規約等に見られるような生存権的基本権の補償であるという趣旨と同じく考えてよろしいものでしょうか。

○佐々木(典)政府委員 お答えいたします。
 援護法に基づきます補償はどういうふうな趣旨のものかというお尋ねでございますが、援護法におきましては、第一条におきまして「国家補償の精神」ということで規定しているわけでございます。この援護法につきましては、軍人軍属等国と一定の身分関係があった者が戦争公務によりまして死亡または障害の状態となった場合に、国が使用者の立場から補償するという趣旨のものというふうに理解をいたしております。

○伊東(秀)委員 直接的にお答えください。法はそう書いてございます。しかし、その法のもとになっている精神というのは、亡くなった者及びその家族の生存権を補償するという趣旨か否かを私は聞いているのでございます。

○佐々木(典)政府委員 繰り返しになりますけれども、国家補償、国が戦争公務に基づきます死亡なり障害に対しまして、使用者の立場からその損失を補償するというふうな性格だということで考えております。

○伊東(秀)委員 では質問を変えて、今言った答弁に関して伺います。
 「国家補償の精神に基きこというのは、わかりやすく言えばどういうことなんでしょうか。

○佐々木(典)政府委員 お答え申し上げます。
 繰り返しになって恐縮でございますけれども、援護法の第一条で規定しております「国家補償の精神」というものにつきましては、軍人軍属等国と一定の身分関係があった者が戦争公務により死亡または障害の状態となった場合に、国が使用者の立場から補償する、そういった趣旨であるということであります。

○伊東(秀)委員 そうしますと、国が使用者である、そして、負傷した者はその被使用者であったという身分関係に基づいて発生する権利ということでございましょうか。

○佐々木(典)政府委員 繰り返し申し上げましたけれども、戦争公務による死亡なり障害に対しまして、国が使用者の立場から補償するという趣旨というふうに理解をいたしております。

○伊東(秀)委員 繰り返し同じこと言わないで、私が聞いた言葉に沿ってお答えいただきたいのですよ。つまり、一定の身分関係に即して発生するのか否かということを伺っているわけです。

○佐々木(典)政府委員 国の使用者の立場と申しました趣旨はそういう気持ちであったわけでございますが、国と一定の身分関係があった者を対象とするということでございます。

○伊東(秀)委員 つまり、その行為が行われた当時、発生した当時に国と一定の身分関係にあった者に対して補償するという趣旨だと今おっしゃいました。
 としますと、一定の身分関係にあった者であれば、当然すべての者に、一定の身分関係ですから契約関係と言えばいいのでしょうか、そういうものと同じ考え方に立たなければいけないと思うのですが、なぜそこに国籍による排除の論理と言えばいいのでしょうか、一定の国籍条項を持ってこなければいけないのか、その点についてお答えください。

○佐々木(典)政府委員 先ほど来繰り返し御答弁申し上げておりますけれども、援護法につきましては、恩給法に準拠して制定されてきたということが一つと、国籍条項がそういう趣旨で別途設けられているということでございます。使用者としての責任のほかに、援護法におきましては、受給要件として別途国籍要件が設けられているというふうに理解をいたしております。

○伊東(秀)委員 それでは、恩給法に関してお伺いしますが、恩給とはどのような関係に基づいて支給されるのでしょうか。

○小山説明員 恩給法についてお答え申し上げます。
 恩給の性格でございますけれども、これは公務員が相当年限忠実に勤務して退職した場合、公務による傷病のために退職した場合、または公務のために死亡した場合に、国が使用者として公務員またはその遺族に支給する。したがいまして、公務員と国との極めで特別な関係、それに準拠しているというふうに考えております。

○伊東(秀)委員 としますと、恩給法も公務員であったか否か、その身分関係に応じて発生するというふうに考えていいわけですね。

○小山説明員 恩給法によります受給の資格要件は、恩給法に詳細に規定されております。その規定に基づきますが、今委員のおっしゃられたように公務員としての身分、それが恩給受給権発生の要件でございます。

○伊東(秀)委員 としますと、それは、その関係にあった当時が問題になるというふうに考えていいわけですね。

○小山説明員 恩給受給権の発生は、その当時の身分関係かと考えます。ただ、その後の受給が継続されるかどうか、その後については国籍要件がかかってくるということになります。

○伊東(秀)委員 それは論理的にかかってくるのではなくて、政策の問題として国籍条項は出てくるのであって、権利の発生の原因は身分関係にある。国籍要件というのはその後の政策に基づいて設けられたというふうに考えてよろしいですね。

○小山説明員 恩給法、これは大正十二年に制定されておりますが、その当初からただいまと同じような国籍条項が置かれております。ですから、その後の政策的な判断によりという趣旨がよくわからないのでございますけれども、恩給法におきましては、現在の恩給制度が発足した当時から、先ほど申し上げましたような考え方に立っているということでございます。

○伊東(秀)委員 先ほど援護法の国家補償の精神ということを伺いましたときに、恩給法に倣った恩給法に倣ったというふうに大変言い逃れに近い言い方をなさっておられるわけでございますが、もう一度今度は厚生省の方に質問を戻します。
 戦争の犠牲の発生の当時、国との使用関係にあったという身分関係から発生した被害に対して補償するんだということであれば、通常の損害賠償ないしは損失補償の考え方に基づけば、当然発生時における身分関係が問題であるわけでございまして、補償のときの国籍の有無というのは問題にならないはずである。考え方としてそうなると思うのですが、その辺はいかがでしょうか。

○佐々木(典)政府委員 先ほど来援護法は恩給準拠ということを申し上げておりますけれども、若干御説明をさせていただきますと、援護法につきましては、GHQの指令を受けて出されました昭和二十一年勅令第六十八号によります恩給停止を受けていた軍人を含めまして、これに対する援護を行うために、恩給法に準拠して昭和二十七年に制定されたという経過は御案内のとおりであります。
 その後、昭和二十八年に軍人恩給の復活したことによりまして、軍人については原則として恩給法が適用されることになったことに伴い、これら恩給法が適用される者に対しては援護法は適用しない。その結果、軍人については恩給法、それから主として軍属、準軍属につきましては援護法で処遇することになった、こんなような経過がございまして、国籍の考え方につきましても、恩給法に準拠して整理がなされているものというふうに考えております。

○伊東(秀)委員 先ほど加藤議員も追及したように、恩給法においても先ほどの三一八通達に倣った形の解釈をしてきたから、恩給相談ハンドブックに書いたような取り扱いをしてきた。そして、従来どおり本人の意思と無関係に国籍を喪失した外国人の場合には、この国籍条項の適用はないという取り扱いをしてきたのだというお答えでございましたが、恩給法、援護法ともにそういう法の趣旨からそういう取り扱いをしたにもかかわらず、なぜ今回この二つともに去年の予算委員会で取り上げられたのでそういう解釈はやめたというふうにお考えになったのか、その理由をお述べ願います。

○小山説明員 まず、私の方からお答えさせていただきますけれども、先ほど加藤委員の御質問にお答えいたしました際に申し上げましたことは、私ども恩給法の解釈におきまして、本人の意思によらざる国籍喪失が恩給法の国籍条項の規定に当たらないという解釈ではございません。私どもといたしましては、サンフランシスコ平和条約によりまして国籍を失った方々についても、恩給法の国籍条項により恩給受給権は失ったという解釈でございます。
 ただ、比較的早期に帰化をされた方についてはその特別な事情を配慮したという趣旨でございますので、繰り返してはございますが、改めてお答えをさせていただきました。

○佐々木(典)政府委員 お答えいたします。
 先ほども御説明いたしてございますが、三十七年の通知の考え方をとったわけでございますけれども、当時の三十七年通知の考え方につきましては、昨年以来慎重に検討をしました結果、御答弁申しましたように、三十七年通知の解釈については無理があるということで、変更をするというようなことでございます。

○伊東(秀)委員 私が伺っているのは、無理があるというような判断、それはなぜそのように無理があるというように判断したのか。つまり、三十一年、それに無理がないと考えてずっとそれを適用してきた。それが突然無理があるというふうに変えた理由をお伺いしているのですよね。
 恩給法も、その方がより人道的だというお考えのもとから、早期に帰化した場合には援護法と同じような取り扱いをしてきたからこそ、恩給相談ハンドブックという国民向けの説明書にはわざわざ援護法と同じ取り扱いをいたしますよ。だから無理があるのは、むしろ恩給法をそういうふうに考える方向に合わせるべきであって、突然三十一年後にそれに無理があると判断した根拠をお伺いしているわけでございます。

○佐々木(典)政府委員 繰り返しの御答弁で恐縮でございますけれども、援護法におきます国籍喪失につきまして、サンフランシスコ平和条約、そういった条約によります個人の意思に基づかない一方的な国籍喪失は、援護法の国籍喪失に当たらないという三十七年の解釈につきましては、昨年来各方面と相談して慎重に検討した結果、先ほど申しましたようなことでございます。
 平和条約の発効に伴いまして日本国籍を喪失した者につきまして、援護法において日本国籍を喪失していないというのは法制的に無理があるというのは、検討の結果そうでございまして、これは法解釈としてやはり国籍喪失は国籍喪失というふうなことを――実は私どももこの帰化の事例等当たりますと、この十年ほどそういう事例も現実になかったような事情がございます。昨年国会の場において御指摘いただいて、改めて慎重に検討しました結果、先ほど来申し上げましたような経過ということでございますので、御理解を賜りたいと思います。

○伊東(秀)委員 何か書いたものを読むかのように同じことの繰り返しはかり言っているのでは、答弁にならないわけですね。
 解釈というのはいろいろ法解釈はできるわけで、やはり当事者に最も有利にという形で、非常に合理的な理由をもって三十七年も大きな検討の末に行い、三十一年間それを適用してきた。その法解釈が通用してきた。それがやはり無理だというのはなぜかということは、もう少し合理的理由を示さないと、オウム返しばかりやっていたのでは余りに厚生省の通達の問題点が浮かび上がるのではなかろうかと思われるから、何度も伺っているわけでございます。
 それで、外務省が一九八二年六月三日に、米、英、仏、伊、独の植民地出身者に対する戦後補償という調査を行っております。これは外務省による報告書でございますが、その調査報告書によりますと、アメリカにおいても、英国においても、フランスにおいても、イタリアにおいても、ドイツにおいても、戦後補償について国籍を支払うか支払わないかの要件にはしていない。こういった戦後補償、つまり援護金とかいった補償金の支払いの要件は、要件の発生する事故、戦争なら戦争の起きた時期にその国の構成員であったか否かに基づくということをはっきり調査報告書でうたっているのですね。支給額等については若干の違いのあるところもあるというふうに報告書はなされておりますが、これが外務省の報告書にも出ているわけでございます。
 こういう報告書があるにもかかわらず国籍要件をつけている合理性について、厚生省はどのようにお考えでしょうか。

○佐々木(典)政府委員 今お話がございました諸外国の状況については、詳しく存じないわけでございますけれども、例えば国際人権規約等の考え方等を見ましても、合理的な差別まで禁止したものではないというふうに私ども承知をいたしておるわけでございます。
 何度か申し上げておりますけれども、援護法におきましては、外交的処理にゆだねる、その他申しましたような事情で国籍条項が設けられているところでございまして、そういうふうな観点から合理性があるということで、我が国の法規としては国際人権規約等には違反していないというふうに思っております。
 なお、援護法の国籍要件の合理性につきましては、昨年の台湾人元日本兵の訴訟に関する最高裁判決におきましても、国籍条項を設けておることにつきましては認められているというようなことを承知いたしているところでございます。

○伊東(秀)委員 今そちらが答弁なさった台湾人元日本兵に対する上告審判決は、これは裁判所が判断する問題ではなくて、立法政策に属する問題だからという形で棄却しているわけでございまして、それが正しい、合理性があるということは一遍もおっしゃってはおりません。
 もう一つ、これは非常に重要な問題で、今後の法改正、しかも、あらゆるアジア諸国からの戦後補償の問題、従軍慰安婦等も絡めまして出てきているときに、なお厚生省がこれに合理性があるとする根拠を、法のできた経緯、つまり、かつての問題ではなくて、今なお国籍条項が必要だとする今日的な合理性の根拠を国民にわかりやすく箇条書きで答えてください。

○佐々木(典)政府委員 戦傷病者の援護法におきまして国籍要件を設けておりますこと、対象を日本人に限定しておりますのは、援護法が、恩給を停止された軍人等を救済するために、国籍要件を有する恩給法に準拠して制定されたものであることが一つ、それから、サンフランシスコ平和条約において、朝鮮半島や台湾などいわゆる分離独立地域に属する人々の財産・請求権問題は帰属国との特別取り決めの主題とするとされたこと、このことを理由に国籍要件が設けられているものというふうに、繰り返し御答弁申し上げているところでございます。

○伊東(秀)委員 それはもう何度も何度も先ほどから伺っておりまして、それは歴史的経緯である。しかし、歴史的経過はともかくとして、戦後四十数年たった今、諸外国の状況の調査も報告されている。しかも最高裁の判決も、これについては法のもとの平等の原則に反する差別であるということを園部裁判官が述べた上で、さらには、しかし裁判所の判断することではなくて、立法政策の問題というふうに言っているわけです。
 だから、現時点での立法政策の問題として、かつてじゃなくて今、なおこれを維持し続けなければいけないのだとする今日の言葉での合理性を挙げていただけないかというふうに私は質問しているわけでございます。
 それと、一つそれにかかわることでございますが、国連の規約人権委員会でのセネガル・ケースというのがございます。この中でもはっきりと、これはもうそちらも御存じだと思いますので詳しく説明はいたしませんけれども、かつてフランス領だったセネガル人が独立に伴ってセネガル国籍を取った。セネガル国籍を取った後、若干支給額が低くなったというケースにおける差別が問題になったわけでございますけれども、それに対して規約人権委員会の最終見解というのが一九八九年四月三日に出されまして、こういうふうに言っているのです。「年金は国籍のゆえに支給されるのではなく、過去においてなされた軍務のゆえに支給されるものである。」こういうふうにはっきりうたっているわけです。ところが、厚生省はそうではないというふうに言われる。
 この二つの歴史的経過、恩給法とサンフランシスコのことはわかりましたので、それを除いた、しかもこういう新しい人権委員会の最終見解ですら、年金等は国籍を要件に支給されるのではない、過去になされた軍務のゆえに支給されるものであるという見解があっても、なお国籍条項を維持しなければならない合理性について答えてください。

○佐々木(典)政府委員 合理性はなぜかということでございますけれども、若干補足をさせていただくわけでございます。
 先ほども申しましたけれども、平成四年四月二十八日の最高裁判決におきましては、台湾出身の兵の訴訟に対しまして台湾住民である軍人軍属が援護法及び恩給法の適用から除外されたのは、台湾住民の請求権の処理がサンフランシスコ平和条約及び日華平和条約により日本国政府と中華民国政府との特別取極の主題とされたことから、台湾住民である軍人軍属に対する補償の問題もまた両国政府の外交交渉によって解決されることが予定されたことに基づくものと解されるのであり、そのことには十分な合理的根拠があるものというべきである。
 したがって、憲法第十四条に違反するものとはいえない。というふうな判示をされておるわけであります。園部裁判官の少数意見等のついていることは、承知をいたしているところでございます。
 それから、セネガルのケースということでございます。
 先ほど申しましたけれども、国連の人権規約におきましては、合理的な差別までも禁止したものではないというふうに承知をいたしておりまして、ただいま最高裁の判決を長く読ませていただきましたけれども、合理的な根拠があるというふうな判示をちょうだいしているところでございますので、私どもとしては国籍条項、これは適法なものというふうに考えておるところでございます。

○伊東(秀)委員 過去の経緯についての合理性の問題を聞いているのじゃなくて、今後どうすべきかという将来の課題、今国際化社会と言われているこの時代にあってどうすべきか、しかも誠実な戦後補償の問題が、韓国や台湾やフィリピンやそのほか従軍慰安婦問題等を通して提起されている今日的課題としてどう考えるかということをお伺いしたいと思いますので、厚生大臣に今後の問題も含めて御答弁願います。

○丹羽国務大臣 先ほどから御答弁を申し上げておるわけでございますが、日韓問題については既に補償については解決済みである、こういうことでありまして、条約によって決められたものについて、この問題について私どもの方から何らかの方針を打ち出すということは、現実問題として、韓国国内の問題について私どもが何かを申し上げるということは、厳に慎ませていただきたいと思っております。
 セネガルの国の補償の問題については、私ちょっと不勉強でよくわかりませんけれども、それぞれの国にはそれぞれの実情があるわけでございまして、それに基づいてそのような法律が決められて、そのような補償がなされておる、こういうことでございます。
 私どもは、先ほどから申し上げましたように、日韓両国間におきましては、いわゆる日韓の締結においてこの問題が解決した、このように考えているような次第であります。

○伊東(秀)委員 日韓の問題については条約で解決済みだからという御答弁でございますが、先ほど最高裁の判決が問題になりましたけれども、日台間の負傷兵に関しては、人道的精神に基づきという形で見舞い金の支給がされている。だからこういうような形に基づくやり方だって、条約があったにしても、日台間にははっきり棚上げにされている部分があるわけでございますが、本来こういった問題は、このセネガルのケースにおける国連の規約人権委員会の最終見解にあらわれておりますように、国家補償の精神というよりは人道的精神、国境の壁のない人道的精神に基づきというような法の建前であるべきだと思いますが、その辺について厚生大臣はいかがお考えでいらっしゃいましょうか。

○丹羽国務大臣 台湾の問題につきましては、先生御承知のように、今国交が我が国との間で結ばれておらないわけでございます。そういう経過の中において、国交が断絶をいたしました時点、その以降におきまして、いわゆる特定弔慰金というものを一人当たり二百万円、あくまでも人道的立場からお支払いをした、こういうことでございます。

○伊東(秀)委員 台湾のことはわかりましたが、今後の課題としまして、こういった戦後補償について、国籍条項を今後も維持することについての合理性云々じゃなしに、より望ましい方向についての御見解はいかがでしょうか。

○丹羽国務大臣 いろいろな経過がありまして混乱も生じたことは、私先ほどからさきの委員にも申し上げたわけでございますけれども、私どもといたしましては、将来にわたってこの援護法の解釈が揺るぎないためにも、今後はひとつ国籍要件というものを大前提としながらこの問題に取り組んでいく決意であります。

○伊東(秀)委員 この国籍条件については撤廃する気はない、これを大前提に考えるというふうな御答弁かと思いますけれども、これはやはり大変問題ではなかろうか。
 今後日本が国際化社会、国際貢献というようなことを、貢献というより責務としてあらゆる問題に対して誠実に対処しながら、世界のさまざまな問題にどうかかわっていくかという時代に、みずからの国が行った戦争の犠牲者に対して、国籍の違う者はしなくていいんだ、条約という国と国の取り組みであって、個人の問題にまで入らなくていいんだという考え方であれば、今従軍慰安婦の問題で突きつけられている誠実な補償と謝罪という問題とはほど遠いことになり、信頼関係は取り結べないのではないかというふうに、私は大変残念に思っております。
 次の問題に移らせていただきますが、従軍慰安婦の問題につきまして外政審議室の方にまずお伺いします。
 韓国の方では金銭的な要求ではない、日本国家に対してもっときちんとした事実の確認、事実の調査を求めるというようなことが言われているとマスコミでは伝えられておりますが、その辺がどうなっているのか。さらに、台湾、フィリピン、こういったところに対する調査の状況等について御答弁願います。

○木村説明員 いわゆる従軍慰安婦の問題の調査につきましては、韓国側より真相究明を尽くしてほしいという要望は強く受けております。先生御指摘のとおりでございます。
 現在、政府を中心にいたしまして、昨年の七月に第一回目の調査結果を発表いたしましたけれども、その後も関係の六省庁に加えて、新たに法務省とか国会図書館とか国立公文書館において調査を進めております。
 それから、東南アジア諸国につきましても、今までは朝鮮半島出身者ということでやっておりましたが、もっと広くそれらの地域にも広げまして、今鋭意調査を行っている段階でございます。

○伊東(秀)委員 強制連行により連れてこられたか否かということが韓国との問題では大変問題になっているのではなかろうかと思いますが、そのような調査についてはどういう形で行っているのか。さらには従軍慰安婦当事者からの聞き取り調査を行ったか、あるいは行う予定があるか否かについてはいかがでしょうか。

○木村説明員 調査の最大のポイントは強制性の有無にあるということは十分認識をいたしておりまして、その点につきまして特に重点的に調査を進めております。
 関係者のヒアリングも今広く行っておりますし、それから韓国におられる慰安婦の方々から直接お話をお聞きするということにつきましても、現在韓国政府を通じてその意向を伝えておるところでございます。

○伊東(秀)委員 強制に関するヒアリングを行っているということですが、そのヒアリングは今どういう形で行っているのか。
 それから、その韓国の直接当事者への聞き取りというかヒアリング、それは日本政府としては何人くらいを対象に、いつごろ行いたいというような意向であるのか、その辺いかがでしょうか。

○木村説明員 強制性の有無についての調査をどのようにやっておるかということにつきましては、特に資料調査に加えて、関係者の方々からのお話もお聞きするという形でやっておるということだけを今申し上げられる段階でございます。
 それから、慰安婦の方々幾人かということにつきましては、その代表者からお聞きをするということで話を進めております。

○伊東(秀)委員 その関係者というのは、旧軍人とかあるいは連行に当たった人たちも含まれておりますでしょうか。

○木村説明員 詳しくは申し上げられませんが、旧軍人とかそれから朝鮮総督府の方々、そういうものを広く含めてやっております。

○伊東(秀)委員 そうしますと、昨年ですか、法的にはともかく、人道的と言えばいいのでしょうか、何らかの補償はしなければいけないのではないかと思う、例えば慰霊塔とおっしゃいましたか、何かそういうようなお話をちょっと渡辺外相が予算委員会でお答えになったこともございましたが、補償についての御意向はいかがなものなのでしょうか。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 いわゆる従軍慰安婦として筆舌に尽くしがたい辛苦をなめられた方々に対しまして我々の気持ちをいかなる形であらわすのか、各方面の意見も聞きながら誠意を持って検討したいということは、これまで何度も御答弁申し上げたところでございます。
 我々の気持ちをどういうふうにあらわすのか、これは私ども日本政府として自発的に考えていかなければいけない問題だと思いますけれども、我々の気持ちをあらわすに当たっては、やはりいろいろな方々の御意見を伺った方がいいだろうということで、いろいろな方々から直接間接にお話を伺いたいというふうに考えておりまして、日本国内、韓国その他の国々の方々とも意見交換をしているところでございます。
 現在までのところ、特に韓国からでございますけれども、真相究明に全力を尽くしてほしいというお話がございまして、我々もこれはできるだけのことをしたいというふうに考えております。また、こういう調査をしたらいいだろうとか、ああいう調査をしたらいいだろうとかいろいろ御意見もございますので、我々としても、できるだけそういった御意見を誠実に伺いながら取り組んでいきたいというふうに考えております。
 ただ、我々の気持ちをいかなる形であらわすかという点につきましては、この調査結果を待った上で考えるべきだというような御意見もございまして、我々内々いろいろ検討はしておりますけれども、現段階において、こういった形であらわすというようなことでまとまった意見というものはまだございません。

○伊東(秀)委員 大体いつごろをめどにそういった問題をまとめたいというような予定があるのかどうか。
 それから、台湾それからフィリピン、特にフィリピンは今回また提訴されたわけでございますけれども、台湾及びフィリピンに対してはどのような交渉を行っているのか、お願いいたします。

○武藤説明員 私、韓国を担当しておりますが、めどという先生の御質問についてだけお答えさせていただきたいと思います。
 私どもとしても、できるだけ早くこの問題の解決に努力をしていくということが大事だと考えておりますけれども、ただ他方、いろいろこういった調査をしてほしいというような御意見もございまして、まずその調査に誠実に取り組むというのが第一だと考えております。したがいまして、まだめども立っていないという状況でございます。

○林説明員 フィリピンの部分についてお答えを申し上げます。
 昨年の当時の加藤官房長官の声明の際から一貫して申し上げておりますことでございますけれども、私どものおわびと反省の気持ちといいますのは、国籍、出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として辛苦をなめられたすべての方々に対して向けられたものでございますし、そういう気持ちをいかなる形であらわすことができるのかということの検討に当たっても、やはり国籍、出身地のいかんを問わず検討していくということかと思います。
 フィリピンにつきましては、先般、三月の上旬、具体的には十一日でございますけれども、国賓として来日されましたラモス・フィリピン大統領が宮澤総理との首脳会談におきましてこの問題を提起されまして、この問題の早期の円満なる解決というものを希望するという旨表明されました。これに対しまして宮澤総理の方から、フィリピンの方々を含めまして、改めておわびと反省の気持ちを表明されまして、我々のこの気持ちをいかなる形であらわすことができるのか検討していきたいということを発言されました。こういう総理の発言も踏まえまして、さらに引き続き調査検討を進めていくということかと思います。

○武藤説明員 台湾につきましても、韓国、フィリピン、その他の国々と並行して検討を進めてきているところでございます。

○伊東(秀)委員 台湾とは今のような形での、政府レベルでの接触はないということなんでしょうか。

○武藤説明員 私、台湾につきましては必ずしも正確に承知していないわけでございますけれども、私が存じます限り、直接は接触していないように理解しております。

○伊東(秀)委員 次に、国連の関係に移ります。
 戦後補償の問題で、国連の人権委員会へだと思うのですが、政府が「市民的及び政治的権利に関する国際規約第四十条1(b)に基づく第三回報告」というのを出されておりまして、そのコメントの中の第二条関係というところの三項の部分に「外国人の地位、権利」というような部分がありまして、ここにこういうふうに報告しております。「外国人の権利については、基本的人権尊重及び国際協調主義を基本理念とする憲法の精神に照らし、参政権等性質上日本国民のみを対象としている権利を除き、基本的人権の享有は保障され、内国民待遇は確保されている。」というような報告を出しているわけでございます。
 先ほどはずっと厚生省にお伺いしたのですけれども、外務省にお伺いいたしますが、このような報告を出している。そして、一九七九年の九月二十一日に発効した国際人権規約とか、一九八二年の一月一日に発効した難民条約に基づいて、社会保障関係の国籍を理由にする差別的補償の継続というものをなくす方向に改正したわけでございますけれども、この報告に関しても今回の遺族援護等における国籍による差別ということには一切触れてない。これはどのようにお考えでいらっしゃいますでしょうか。

○吉澤説明員 我が国が一昨年の十二月に国連に提出いたしました市民的政治的権利に関する国際規約、略称人権規約の第四十条1に基づきます第三回目の報告書では、先生御指摘のとおり「外国人の権利については、基本的人権尊重及び国際協調主義を基本理念とする憲法の精神に照らし、参政権等性質上日本国民のみを対象としている権利を除き、基本的人権の享有は保障され、内国民待遇は確保されている。」このように記述しております。
 これは、参政権や公務員となる権利のようなもともと外国人には当然認められないような権利を除きまして、外国人も日本人と同様に基本的な人権は保障されている、こういう趣旨を述べたものでございます。
 B規約の第二条の1は、この規約の各締約国は、その領域内にあるすべての個人に対して、いかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する、このように述べておりまして、この人権規約には、国家から補償を受ける権利というような権利は明示的な規定はございませんけれども、人権規約の第二十六条に「すべての者は、法律の前に平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。」このようにございます。
 ただ、B規約の第二十六条の「法律による平等の保護を受ける権利を有する。」という権利につきましても、外国人と自国民との間に合理的な差異を設けることまで禁じているものではない、このように解されますので、第三回報告書もこのような合理的な差異が存在し得ることを当然の前提として書かれたものでございまして、援護法にある国籍条項が不合理なものであるというふうに言えないと考えれば、B規約報告書に御指摘のような記述があるということと援護法に国籍条項が設けられているということは矛盾するものではない、このように私ども考えております。
 それで、先生から、今度の報告書になぜこの援護法の国籍条項について記述がないのかという御質問がございましたけれども、私どもこの報告書をつくるに当たりましては、第二回目の報告書よりさらに、第二回の報告書の審査で委員の方々から質問が出されましたような事項を中心にいたしまして、例示を盛り込むとか内容を充実させたものでございますけれども、援護法の国籍条項につきましては、第二回の報告書の審査の際にも特に議論もなかったというようなこともございまして、特に今回の報告書には含めなかったのでございます。

○伊東(秀)委員 一昨年の十二月の報告書にはそういうことで載せなかったということでございますが、セネガルのケースでは、先ほどのことが人権委員会の最終見解として、この援護法と同じような形の問題、これは合理性のない差別であると。つまり、こういった戦争による疾病または負傷に対する障害年金等においては、国籍のゆえに支給されるべきではなくて、過去においてなされた軍務のゆえに支給されるものであるということが出ている。
 こういう状況の中では当然、しかも援護法等における国籍条項は、カウンターペーパーとして国連人権委員会に出されているのではないかと思います。外務省として非常に困難な局面に出会うんじゃなかろうかと思うのですが、外務省の見解としては、援護法における国籍条項の合理性につきましていかがでしょうか。

○吉澤説明員 このB規約の第二十六条におきましては、「すべての者は、法律の前に平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。」という規定がございまして、この第二十六条の規定というのは、不平等な扱いをする法律を設けることを基本的に禁止したものと考えられますけれども、しかし、それも外国人と自国民との間に合理的な差異を設けることまで禁じているものではない、このように解されるわけでございます。
 援護法にございます国籍条項が外国人と自国民との間に不合理な差異を設けるものかどうか、あるいは合理的な差異であるのかという点につきましては、基本的にはこの法律を所管する厚生省の方から御答弁すべき問題であると考えますけれども、その点につきましては先ほどから御答弁いただいているところというふうに承知しております。

○伊東(秀)委員 セネガル・ケースと今回加藤議員、私が問題にしているこの援護法における国籍差別というのは全く同じ局面でございまして、今後国連の場面で大変大きな問題になろうかと思いますので、厚生省、外務省という壁を超えまして、政府として前向きな形で、国籍における差別、これは合理性がない、むしろ日本国軍隊として勤務して負傷したか、疾病にかかったか、あるいは戦死したか、こういった事実に基づいて発生するんだというところでぜひ統一すべきだと私は考えます。
 それから、もう時間がございませんので、最後に伺います。
 同じく外務省でございますが、今従軍慰安婦の問題が国連に提訴されているわけでございますけれども、それに対する外務省の現在の進捗状況と言えばいいんでしょうか、どういうような状況にありますでしょうか。

○吉澤説明員 この従軍慰安婦問題との関連におきましては、国連の人権委員会の下部機関でございます差別防止・少数者保護小委員会というところにおきまして、昨年の八月に、戦争中に売春に従事することを強要されていた女性の状況に関して、現代的形態の奴隷制に関する作業部会、これは差別小委員会の下部機関でございますけれども、及びその差別小委員会が受け取った情報を重大な人権侵害の犠牲者に対する補償等についての権利に関する特別報告者、これはオランダ人のヴァン・ボーベンという人がやっておりますが、これに提出するように国連事務総長に要請するという旨の内容を含みます決議が採択されております。
 これに従いまして、その差別小委等で従軍慰安婦問題に関連してあった発言等がこの重大な人権侵害の犠牲者に対する補償等についての権利に関する特別報告者に提出されるわけでございまして、この特別報告者は本年八月の差別小委員会に最終報告書を提出することになっておりまして、従軍慰安婦に関する情報がどのように特別報告者によって扱われるかにつきましては、この特別報告者にゆだねられるものというふうに考えております。
 なお、ヴァン・ボーベン氏は、昨年の十二月に来日したわけでございますけれども、その機会に政府としても、ヴァン・ボーベン氏に政府の関係者がお会いして、政府の立場をお伝えしたところでございます。

○伊東(秀)委員 といいますと、オランダの方も国連に通報というか提訴しているということなのかどうかということと、それから、国連を通じないでオランダ政府と直接に従軍慰安婦問題で何らかの折衝を持ったことがあるか否か、この点はいかがでしょうか。

○吉澤説明員 先ほど申し上げましたヴァン・ボーベン氏は、国連の特別報告者、さらに申し上げれば国連の差別防止・少数者保護小委員会、略称差別小委員会によって任命された特別報告者でございまして、たまたま国籍がオランダ人である、こういう趣旨でございます。
 なお、従軍慰安婦問題につきましてオランダ政府との間でどのようなやりとりがあるかにつきましては、今すぐにお答えすることができませんので、必要があれば後ほど先生の方に御報告したいと思います。

○伊東(秀)委員 これで私の質問を終わらせていただきます。

○浦野委員長 草川昭三君。

○草川委員 草川であります。本会議の時間がございますから簡潔に質問をしますので、答弁の方も簡潔にお願いしたいと思います。
 厚生省における援護行政は戦後五十年近くの年月があるわけでありますが、私もきょうは最後に恩給の個別の問題を取り上げたいと思っておりますけれども、残された課題が非常に多いと思います。
 まず第一に、中国の残留孤児、中国の残留婦人等の問題についてお伺いをしたいと思います。
 引き揚げ援護の分野では中国の残留孤児の問題があります。過去二十三回にわたる訪日調査が行われており、六百四十人の方の身元が判明しておりますけれども、今後の肉親調査に対する厚生省の対応をお伺いしたいと思います。
    〔委員長退席、山口(俊)委員長代理着席〕

○佐々木(典)政府委員 お答えいたします。
 肉親調査につきましては、訪日調査が昭和五十五年度から開始されまして二十三回、今お話しのとおりでございます。実は現在も肉親捜しを求める者、つまり、孤児として新たに申し出がある者が年間二十人から三十人ほど新たなケースが出て良いっております。そういう状況でございますので、まとまった孤児のいる限り、集団での訪日調査を今後も実施していきたいというふうに考えております。そういうことで、平成五年も所要の予算を計上いたしているところでございます。
 それから、肉親調査に伴いまして、身元の判明しない孤児についての対応がございます。これまでも未判明孤児名鑑を作成しましたり、あるいは職員のキャラバン隊をつくりまして肉親調査班を出しましたり、最近は、当時の事情に詳しい元開拓団員等の関係者の方を調査員として都道府県に配置するといったようなことで、きめ細かな肉親調査を実施いたしているところでございます。
 引き続き何らかの手がかりが得られるように、場合によっては再訪日調査を行うといったようなことを充実してやってまいりたいというふうに思っております。

○草川委員 残留孤児の方については、肉親調査も当然のことながら、帰国後の定着自立促進対策というのが極めて大切だと思いますが、具体的な対応についてお伺いしたいと思います。

○佐々木(典)政府委員 おっしゃいますとおり、肉親を捜すことは入り口でございまして、その後いかに日本社会に軟着陸していくか、定着促進が重要でございます。
 五十年近くの間、日本とは異なる社会、文化の中で生活をしてきた帰国孤児等あるいはその家族の皆さんにとりましては、言葉の問題、生活習慣の違い、その他いろいろな困難に直面いたしております。こうした帰国孤児等の定着促進につきましては、私どもも引き続き重要な課題というふうに考えております。
 このため、具体的には、中国帰国孤児定着促進センターに四カ月間入所させるということが出発でございますが、ここでの日本語や生活習慣の集中的な指導を行った後、定着先においてさらに八カ月間中国帰国者自立研修センターに通わせ、日本語指導、生活指導、就労指導等を行うことによりまして、帰国後一年間を通じた自立支援体制を現在行っているところでございます。
 また、帰国後三年間につきましては、日常生活上の相談、各種指導等を行う自立指導員を派遣しておりますほか、さらに自立支援通訳、これは病院に行ったり、やや難しい言葉を要する場合等に使いますけれども、そういった施策を講じまして、一日も早く日本の生活に適応できるよう、自立支援体制の整備に努めてまいっております。引き続ききめ細かな支援の充実に努めたいというふうに思っております。

○草川委員 三年間のフォローというのですけれども、実際にはかなり問題が社会化しておるわけでありますので、ぜひその倍くらいの年数はフォローし、自立させてあげていただきたい、こう思います。
 また、中国残留の婦人の方々が最近テレビ等でも紹介をされまして、非常に我々も胸が痛いわけでありますけれども、かなり高齢化が進んでおると聞いております。その実態あるいは帰国援護についての見解をお伺いしたいと思います。

○佐々木(典)政府委員 お話がございましたとおりでございまして、中国残留婦人、当時残りましたときの年齢が高かったというふうな事情の方々でございますけれども、高齢化が進んできております。私ども厚生省では、現在のところ、いわゆる残留婦人等と言われる方々は千八百人程度いらっしゃるというふうに把握をいたしているわけでございます。
 この残留婦人等の問題につきましては、孤児の問題と並びまして今大変重要な問題と認識しております。実は従来から、その帰国援護に関しましては、帰国旅費を支給するとか、あるいは日本に帰ってくる場合の落ちつき先における自立指導員の派遣を行うといったような、基本的に残留孤児と同様の施策を講じてまいったところでございます。
 さらに今年度、平成五年度におきましては、帰国時に日本語や生活習慣の研修を必要とする者につきまして、中国帰国孤児定着促進センターに短期間入所させるというような新たな事業を始めることにいたしました。孤児と違って当時の日本の事情も知っておる、日本語も基本的には話せるということでございますが、長年日本語を使っていないという事情がございますので、孤児と並んで短期入所をする、より軟着陸できるようにする、こんなことをいたしてございます。
 あともう一つ、残留婦人につきましては、先生のお話にもございましたが、高齢化が進んでいる、孤児より年齢が高いということでございますために、特別の配慮が要るというふうに思っております。私どもといたしましては、残留婦人等で帰国を希望している者につきましては、必ずその希望がかなえられるようにするというようなことを目標にしまして、最大限の努力をしてまいりたいというふうに思っておる次第でございます。

○草川委員 ぜひお願いをしたいところであります。
 その次に、戦没者追悼平和祈念館、これはことしの予算も二十一億という形でついておりますし、事業規模としては百二十三億という計画になっております。さきの大戦における悲惨な国民的な体験を後世に伝えていくことは非常に重要だと思うわけでありまして、この施設の具体的な内容ということについてはまだ一歩明確ではございません。少し本施設の趣旨あるいは大体のイメージのようなものをこの際発表していただきたい。お願いをしたいと思います。

○佐々木(典)政府委員 お答えいたします。
 今年度予算を計上いたしております戦没者追悼平和祈念館、仮称でございますが、その設置の趣旨なりイメージはどうだということでございます。
 私どもとしましては、今年度を初めとしまして三年間で祈念館を建設したいというふうなことで考えているわけでございます。ただいま先生のお話にもございましたけれども、終戦五十周年を目前に控えました今日、若い世代の中には、さきの大戦によりまして三百万人を超える方々の生命が失われ、また国民全体が困難な生活を強いられたという事実さえ知らない者もふえてきており、さきの大戦で亡くなられた方々を悼む気持ちも日々薄れつつあるといったようなのが実情であるわけでございます。
 厚生省といたしましては、従来より慰霊碑の建設だとか追悼式の実施などの戦没者の慰霊、追悼事業を実施してまいったわけでございますけれども、このような状況を踏まえまして、戦没者を追悼する気持ちを新たにいたしますとともに、戦没者やその遺族の強い願いであります恒久平和の実現を祈念するために、戦没者追悼平和祈念館を建設するということにいたした次第でございます。
 この施設は、このような趣旨を実現いたしますために、一つには、国民の生活面から見た戦争の悲惨さと、戦中戦後を通しての国民の生活上の労苦を後世代に伝承できるような展示の事業を考えております。二つ目には、戦争のあった時代の国民生活の姿等の情報を広く提供することによりまして、戦時下の国民生活などの戦争に関する学習活動や研究活動を支援する情報提供、研修・研究支援事業といったようなことを考えておるところでございます。三つ目には、将来散逸のおそれのある社会的な価値の高い戦争に関する資料などを後の世代に伝承できるよう、関係機関との調整を図りつつ収集・保存を行う。大きくこの三つの事業を行うことを考えているところでございます。
 私どもとしましては、施設の機能面からは博物館的、図書館的、資料館的な諸機能を有するものと考えておりまして、広く国民に利用しやすい施設を目指して整備を図っていきたいというふうに考えておる次第でございます。

○草川委員 博物館的な施設ということもおっしゃったわけでありますが、実は私どもの地元にガダルカナル島の玉砕というのですか、引き揚げた方がお見えになりまして、この方が知多半島の先のところの山の私有地を開墾というのですか、ガダルカナル島のイメージでつくり直しまして、庭をつくりまして、全国から毎年ガダルカナルに派兵された方々を集めまして自分たちで亡き戦友の追悼をしている、こういう感動的な話もあるわけであります。
 こういう話というのは私、多分全国にもたくさん埋もれていると思います。そういう方々の心情がぜひ今回の戦没者の追悼平和祈念館の中に反映をするように、役所ペースではなくて、現実に体験された方々の意見を聞くような、モニターをされるようなことをして計画をぜひ進めていただきたい。まだすべて固まっているわけじゃないので、幾らでも私どもそういう点では紹介をし、協力をいたしますので、お取り上げのほどをお願い申し上げたいわけであります。
 その次に、シベリア抑留中の死亡者の遺骨の収集についてお伺いしたいと思うのです。
 海外戦没者の遺骨収集は、南方地域を初めとして、私が先ほど申し上げたガダルカナルもそうでございますが、平成三年度には戦後初めて旧ソ連に遺骨収集が実現をしたわけであります。それで、関係者の心情を踏まえるとき、できるだけ早期にシベリア抑留中の死亡者の遺骨収集を進めてほしいと思います。
 私もハバロフスクの現地のお墓へ行ってまいりました。それで、ハバロフスクの場合は飛行場の途中でございますので、日本人の方々もかなり立ち寄られているわけであります。手厚く処置はしていただいておりますけれども、我々としては胸の痛むところであるわけであります。そんな意味を含めまして、今までの実績と今後の方針についてお伺いをしたい、こう思います。
    〔山口(俊)委員長代理退席、委員長着席〕

○佐々木(典)政府委員 シベリア抑留中死亡者の慰霊事業、中でも遺骨収集の事業につきまして、実績あるいは今後どういう方針で臨むのかというお尋ねでございます。
 この問題につきましては、ソ連抑留中死亡者の遺骨収集、お話もございましたけれども、関係御遺族の心情を踏まえまして、実は昭和三十一年の日ソ共同宣言以来、機会あるごとに相手国と交渉をするなどの努力をしてまいったところでございます。
 その結果、平成三年四月に日ソ両国政府間で遺骨収集等の基本的枠組みを定めました協定を締結し、遺骨収集それから新たな埋葬地への墓参の道が開かれたというところでございます。この協定に基づきまして、平成三年十月にチタ州におきまして初めての遺骨収集を実施することができたわけでございます。このとき五十六柱の御遺骨を収集したところでございます。平成四年度におきましては本格的な遺骨収集に取り組むことといたしまして、ロシア連邦内のチタ州など五地域において遺骨収集を実施したところでございます。この結果、合わせて九百五柱の御遺骨を収集したというような状況でございます。
 本年度におきましては、本格的実施の二年目といたしまして、引き続き抑留中死亡者の九割以上を占めますロシア連邦内のチタ州、ハバロフスク地方、イルクーック州、プリモルスク地方、それから新たにアムール州、これらの地域の埋葬地におきまして遺骨収集を実施する予定といたしておるところでございます。
 以上のような状況でございますが、遺骨収集につきましては、本格的実施が始まったところでございますけれども、関係御遺族の心情、それから関係の皆さんの高齢化が進んでおること等にかんがみまして、その実施に最大の努力をしてまいりたいというふうに思っておる次第でございます。

○草川委員 関係遺族が高齢化をしているわけでありますので、ぜひ遺骨収集と並行して墓参を実施できるように計画を進めていただきたい、こう思うわけであります。
 いずれにいたしましても、死亡された方々は、ソ連で抑留中に亡くなった方は五万五千人、こう言われておるわけであります。しかも病弱のためソ連から旧満州あるいは北朝鮮関係に行った方々は、推定で四万七千人という資料もあるわけでありますので、これはぜひ私どもの希望をかなえていただきたい、こう思います。
 そこで、次に外務省の方に少し並行してお話をお伺いしたいと思うのですが、現在政府が行っておりますところの在サハリン韓国人の一時帰国支援事業というのがあるわけです。相当進んではおりますし、私どももある程度のことは承知をしているわけですが、今までの実績をまず報告していただきたい、こう思います。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 在サハリン韓国人の一時帰国支援事業でございますけれども、昭和六十三年度より予算措置を講じております。そして平成元年からは、日本赤十字社、そして大韓赤十字社が設立いたしました在サハリン韓国人支援共同事業体に拠出を行っております。この事業体を通じまして、昨年十二月現在の実績でございますけれども、これまで三千七百七十七人が韓国に一時帰国いたしております。

○草川委員 それで、本年度の政府の予算でございますけれども、この支援事業に対する拠出額というのは幾らになっていますか。

○武藤説明員 本年度の予算は一億二千五百三十七万四千円でございます。

○草川委員 昨年度の予算から五百三十七万四千円の調査費というのがついているわけです。これは私どもも日韓議員連盟の一員でございまして、韓国側からもこのサハリン残留韓国人の方々が非常に高齢化している等々の問題提起もございまして、簡潔な言い方をするならば、老人ホームのようなものとか、何かお年寄りがサハリンで集まるような集会場、あるいはまた一たん永住帰国をされたような方々が韓国で、特に大都市の近くに多いわけでございますが、地方にもそういう何か受け入れるようなものはできないのだろうか、いろいろと話し合いをしておるわけでございますが、そういうことも念頭に置いて調査費が計上されたのか、あるいはまたどのような調査が現在行われているのか、お伺いをしたいと思います。

○武藤説明員 お答え申し上げます。
 この調査費は、在サハリン韓国人の問題の将来の効果的な支援のあり方、これを検討することを目的といたしまして、いただいている調査費でございます。在サハリン韓国人の永住帰国の希望実態、これまでに韓国に永住帰国された方々の生活実態、こういったものを調査しております。
 昨年度につきましては、十一月に日本赤十字社がサハリンに調査団を派遣いたしまして、現地における永住帰国の希望の実態を調査いたしました。また、この調査には外務省からも担当官が同行いたしました。

○草川委員 ついでながら、これまでの永住帰国者の総数を報告していただきたいと思います。

○武藤説明員 これまでに百二十一名が共同体の事業によりまして韓国への永住帰国を実現しております。

○草川委員 実は、この永住帰国の第一号を行いましたのは私であります。私が当時サハリンに行きまして、もう八十近い方でございましたが、ハン・ウォンスさんという方がお見えになりまして、この方は無国籍だと言っておられました。その点は定かではございませんけれども、ちょうどソウルのオリンピックの前でございますが、その方をお連れをいたしましたのが第一号であります。その方はオリンピックのオープンセレモニーを見て亡くなられました。私自身としては、一人の日本人として感慨無量なものがあるわけでございます。
 この永住帰国をした、今トータルで百二十一名というようなことをおっしゃっていますが、受け入れ家族のある方々は成功してみえる場合もあります。あるいはまた、私がお連れをいたしましたお母さんでございますが、この方は御子息もサハリンに残っておりますし、受け入れ態勢のソウルでも非常に裕福な家庭でございまして、成功をしておみえになりますが、かわいい子供がサハリンにいるために、往来の自由ということを希望してみえる方もあるわけであります。
 あるいは、つい最近、たしかNHKのテレビだと思いますけれども、望郷の念絶ちがたくソウルに戻られて、家族もお見えになるんだけれども、家族との関係というのは必ずしも円満ではない、非常につらい状況がテレビで浮かび出されておりました。
 私は、この永住帰国者の数がふえてくることは大変ありがたいことだと思うし、本当にうれしいことだと思いますが、そのフォローアップというのですか、連れて帰って後どうなのかという問題について、もう少し関係者も深い関心を払わなければいかぬ、こんなように思っておるのでございます。その点はどのようにお考えか、お伺いしたいと思います。

○武藤説明員 私ども、在サハリン韓国人の韓国への永住帰国希望の数、当初は大体二百人前後ぐらいかというふうに考えておりましたけれども、昨年調査に行きましてわかりましたことは、現地の一つの団体、これはサハリン高麗老人協会でございますけれども、この調査によりますと、若い世代を含めまして一万二千人以上が永住帰国を希望しているということでございます。
 こうした増加の背景、これはいろいろな要因があると思います。昨今のロシア経済の混乱により、現地における将来の生活に希望が持てなくなったとか、こういったことが一番大きな原因だと思いますけれども、いろいろ原因はあろうかと思います。そういった状況もいろいろ調査をしなければいけないと思いますし、それから、今後永住帰国を行うに当たりましては、受け入れ国である韓国に大きな社会的、経済的な影響を与えるものだと思います。
 そこで、今後韓国政府の意見も十分聞きながら、また御本人たちのお考えもよく伺いながら、どういう支援を行うのが適当か、本年も引き続き調査を行っていきたいというふうに考えております。

○草川委員 かかるものは役所としては当然一定の限界があると思うのです。また後で従軍慰安婦の問題についても私はお伺いをしたいと思うのですが、いわゆる役所ベースで予算を立てた、さあ建物をつくったというところだけで終わるのではなくて、実際はボランティアの方々も含めたり、あるいは赤十字の方々等も入れまして、本当に日本人というものが過去の歴史的な反省をきちっと踏まえて、お互いに人間的な立場から話し合いをしていきませんと、せっかくの好意というのも逆になる場合もあるので、このサハリン残留韓国人の方々ばかりではなくて、そういう人間的な目でぜひひとつ今後の対応を立てていただきたいと思うわけであります。
 そこで、これは外務省に最後になりますが、在サハリンの韓国人の帰還には、今申し上げましたような共同事業体によって、かなりたくさんの方々が往来をしておみえになるわけです。
 これまで大韓航空のチャーター便がたしか使用されていたと思うのでございますが、御存じのとおり、韓国には、日本でいうならば全日空のようなアシアナ航空という航空会社もあるわけであります。ですから、私は、外務省、余り細かいことを承知しないかもわかりませんけれども、確かに大韓航空は一番大きい国策会社ではございますけれども、やはり現地の事情も考えて、交互に運用するとかあるいは適宜に利用するとかということの細かい配慮がないと、せっかくのとうとい予算も一方に偏ってしまうという反発もあるのではないかと思うのです。そういう点では現地の事情というのを十分把握をしながら、飛行機会社の選択についても配慮して運航をされるよう希望したいと思います。その点についてのお答えを願いたいと思います。

○武藤説明員 チャーター便の航空会社の決定でございますけれども、これは先生御指摘のとおり、共同事業体が行うということになっております。九二年の実績でございますけれども、十三回の事業のうち三回はアシアナ航空を利用しております。先生おっしゃるとおり、我々もいろいろなことに気を配りながらやっていかなければいけないというふうに考えております。

○草川委員 では、時間もどんどん過ぎておりますので、これは内閣の外政審議室の方にお伺いします。
 従事慰安婦問題について、先ほども出ておりますけれども、現状の状況ということをいま一度お答え願いたいと思います。

○木村説明員 いわゆる従軍慰安婦問題の調査につきましては、昨年七月に第一回目の調査報告をいたしましたが、その後調査範囲を広げまして、法務省、これはオランダの軍事裁判記録が保管されております。それから国立国会図書館、国立公文書館、ここにはGHQの資料などが保管されております。こういうところに調査対象を広げまして現在調査を行っております。
 それから、従来は公的な資料を中心に調査をするということでやってまいりましたけれども、なかなかこれという資料が出てまいりませんので、今は関係者からの直接の聞き取り調査ということも含めまして、調査を行っているところでございます。したがいまして、その一環で、韓国におられます慰安婦の方々からも直接お話をお聞きしたいということで、現在申し入れを行っているところでございます。

○草川委員 今、公的ないろいろな機関の調査資料、これももちろん大切でありますし、一口に関係者の話も聞くということでございますが、これははっきり申し上げて簡単なことではないのです。
 私どもサハリン残留韓国人問題を一番最初に取り上げたときには、ソ連側からの非常に強い批判がありまして、各政党ともぼろかすだったのですよ。サハリン残留の問題などを取り上げること自身がおかしいという批判ごうごうだったのです。それで、ソ連の嫌がることをなぜやるのか、こういう中で実は私どもはサハリン問題を取り上げてまいりました。
 ようやく今は政府の方も関心を持っていただいて、こういうことになっていますが、私は日韓議員連盟で長い間このことは話をし、いずれ従軍慰安婦問題が出てくる。だから従軍慰安婦問題については、本来は日韓議員連盟の、議員の立場でお互いが調査をしないと、役所同士が話をするようになって円満解決なんか、これは絶対できませんよ。だから、軽々しく関係者に会ってどうのこうのとおっしゃいますけれども、そこはまず人間として、我々自身が過去の歴史的な反省をどの程度本当に胸に置いておるかどうかという立場に立ちませんと、これは日韓の間でも、その他の国々との間の友好を逆にしてしまう可能性がある。現実にはそういう状況というのは生まれてきておるわけです。
 だから、まずその従軍慰安婦の方々にお会いされる前に、当時の従軍慰安婦を従事させたというボス、言葉が悪いですけれども、女衒という諸君もいるわけですよ。そういうような実態でいかに過酷なことを彼らがやったか、そういう中で日本の軍隊というものがどのように関与してきたのかということを正確につかみながら、そして、できたら役所ということよりも、もう少し有識者の方々がその当時の一番悲惨な目に遭った方々とひざを突き合わせてお話をするというようなことをしないと、今のペースで従軍慰安婦問題が進んでいきますと、私は日韓の関係にも非常にまずいことになると思っているのです。
 例を挙げると切りがないほど私ども知っております、私どもも韓国にたくさんの友人がいますから。だから、私どもは国会で従軍慰安婦問題を取り上げる場合にも、そういうことを配慮してやろうということで、私の友人にそういうことを伝えてきておるわけであります。
 私の申し上げておることがどの程度政府の方で御理解になっているのかどうか、あるいはまた誤解をされて、何か変な形でブレーキをかけておるように思われると心外でございますが、事、従軍慰安婦の問題は、まず日本の教科書の反省から始めるべきだ、そして、そういうのを態度で示しながら、役所が対応していただきたいということを申し上げておきたいと思います。
 時間がございませんので、最後に傷病恩給の問題について一つだけ事例を申し上げたいと思うのです。
 これは残念ながらまだ受給をされていない方でございますが、なぜおくれたかといいますと、この方はパラオ諸島のペリリュウ島及びガドブス島というところで飛行場を建設したわけです。それで、何回か敵前上陸のようなことをして飛行場をつくり、また、米軍の敵前上陸によってその島全体が玉砕になってしまった。本人がたまたま三回か四回の戦いの中で、最後に玉砕をするのですけれども、米軍に意識不明の中で助けられるというような方で、愛知県に米山という方がお見えになるわけであります。
 それで、この方がなぜ受給がおくれておるかといいますと、一口で言うならば、玉砕なものですから証明する人がいなかった。その玉砕のときに受傷したのも、当時の傷なのかどうかということについてわからないまま、ずっと長い年月がたったわけですが、米軍の方へ照会をしたところ、幸いにも米軍の方のカルテで、そういう日本の捕虜がしかじかかくかくの受傷をし、手当てをしたのがようやくわかったわけで、本人が申請をするという段階になりました。
 ところが、今度は本人が、戦後非常に苦労をして生活しておりますので、病気になってしまって受給がおくれた。やっと恩給局の方で審査会を開いていただきまして、恩給審査会の議決によって傷病恩給の給与というのが支給されることが決まったのです。申請の時期から支給ということになりましたので、昭和十九年のけがでございますけれども、平成四年五月という段階になったわけであります。こういう方々は気の毒でございますので、何とか遡及できないのかというのが私の要望でございますけれども、なかなかそれができないようでございます。
 ひとつきょうはそのことだけの問題提起で、時間がもう五分前になりましたので、最後に、私の質問全体について大臣から今後の所信をお伺いして、私の質問を終わりたいと思います。もしよかったら年金の話も答弁してください。

○丹羽国務大臣 先ほどから草川委員のさまざまな御提起を拝聴いたしまして、私なりに大変勉強させていただいたような次第であります。
 ただいまございました傷病恩給の請求でございますが、私から申し上げるまでもなく、まず一般論として申し上げさせていただきますけれども、請求に当たりましては、現在の傷病が旧軍人在職中の公務等に起因する傷病によるものである、こういうものをまず立証しなければならないわけであります。
 期間の経過等に伴いまして、本人の力だけでは資料などの整備が十分に整わない場合には、国や都道府県がこういった請求者の立場を十分に考慮いたしまして、提出可能な資料を収集できるように、かつての上司であるとかあるいは同僚等の現住所等を調査いたしまして、行ってきておるわけでございます。
 今、具体的に御指摘になりました問題につきましては、昭和十九年でございますか、十九年当時に遡及して適用できないかどうかという問題は、これは基本的な問題にかかわるわけでございますので、現時点においては極めて困難であるということを言わざるを得ないことを御理解賜りたいと思います。

○草川委員 以上で終わります。

○浦野委員長 児玉健次君。
○児玉委員 日本共産党の児玉健次です。
 援護法に関連して、ことしも旧ソ連抑留中死亡者の遺骨収集について簡潔にお尋ねをします。
 一昨年、旧ソ連政府から死亡者名簿が日本政府に渡されました。名簿に三万八千六百四十七名のお名前が載っているようですが、ソ連関係死亡者索引簿、そして留守名簿、こういった厚生省の資料と照合して、確認できたのは何人でしょうか。

○佐々木(典)政府委員 旧ソ連政府から引き渡されました死亡者名簿につきましての厚生省におきます照合作業の進捗状況のお尋ねでございます。
 平成三年四月十八日に旧ソ連政府から引き渡されました死亡者名簿につきましては、名簿登載者本人の特定を行い、遺族に対して名簿の記載内容をお知らせするということといたしまして、名簿と私どもの持っております資料との照合をやってきておるところでございます。
 名簿には三万八千六百四十七名分の氏名等が記載されていたわけでございますけれども、精査いたしますと二千名は重複しているというふうなことでこざいまして、重複者を除きますと三万六千六百名ということでございます。現在までにその約六割、約二万二千名でございますけれども、約六割につきまして本人の特定ができたというふうな状況でございます。
 若干実情を申しますと、旧ソ連政府から引き渡されました名簿につきましては、埋葬地ごとにおおむね名前と生年、生年月日ではございませんで生年、それから階級、そして死亡年月日、この四つが記載されているというだけでございまして、本人の特定に必要な部分であります本籍地あるいは生年月日、こういった基礎的な部分の記載がございません。このために照合の作業が大変困難をきわめているというのが実情でございます。しかしながら、未特定者につきましては引き続き再度の照合調査等を進めて、できるだけの努力をしてまいりたいというふうに考えております。

○児玉委員 その努力を強めていただくことと、抑留者の中で亡くなった方は約五万五千人だと私たちは聞いております。旧ソ連政府が持ってきた名簿は、それ自体完全なものとは言えません。しかし、この後の厚生省の遺骨収集事業において大いに参考にすべきだと私は考えます。
 名簿に五百七十二の埋葬地名がありますが、その場所、そして現在どのような状況になっているか、これらを遺骨収集事業と並行して調査することが今急がれると考えるのですが、この点はいかがでしょうか。

○佐々木(典)政府委員 ソ連におきます遺骨収集とそれから埋葬地のいわば全貌把握、どういうふうなことの努力をするのかということでございます。
 先ほども御答弁申し上げましたけれども、ようやく平成四年度から本格的な遺骨収集の事業を開始することができたわけでございますが、平成四年度におきましてその本格的な実施をしたこと、
 これを基礎といたしまして、今年度におきましても引き続き事業の推進を図るということにいたしてございます。遺骨収集につきましては、抑留中死亡者の九割以上を占めますロシア連邦のチタ州を含めまして、五地域の埋葬地において充実した体制で今年度は取り組みたいというふうに思っております。
 それで、お尋ねの、遺骨収集もさりながら、全埋葬地の位置、状況を把握する必要があるのではないかということでございます。
 実は、先ほども御紹介もございましたけれども、平成三年四月の日ソ間の協定締結の際に、約三万八千名分の死亡者名簿と五百四十九枚の埋葬地資料の提供があったわけでございますけれども、死亡者数につきましては、厚生省が把握いたしております数に比べまして約一万五千人を下回ったものというふうな状況でございまして、また、ちょうだいしました埋葬地資料につきましても、必ずしも埋葬地の現状を示すには不十分なも のがございます。当時の古いままの資料のコピーであったり、あるいは現実がその資料とは符合しないといったような状況でございます。
 埋葬地の現状調査につきましては、基本的に、日ソ間の協定の趣旨からまいりますと、本来は旧ソ連側において行うべきものと考えておるわけでございまして、したがいまして、機会あるごとに旧ソ連邦政府あるいはロシア連邦政府に埋葬地の現状調査の要請をいたしているところでございますが、いまだその先の回答は得られていないのが現状でございます。
 このため、厚生省といたしましては、旧ソ連政府から提供のありました埋葬地資料とともに、私どもが保管しております資料や、あるいは民間の墓参団の方々が大勢行かれるわけでございますけれども、民間墓参団等の方々から提供される情報等の活用、あるいは私どもが政府派遣という形で遺骨収集団あるいは墓参団を出しておりますけれども、その際に埋葬地の情報収集にさらに努めていくというふうなことで臨んでおるところでございます。

○児玉委員 大臣に申したいのですが、おととし私は櫻内衆議院議長を団長とした超党派の訪ソ議員団に参加しまして、そしてハバロフスクとイルクーツクの墓地に参ってきました。そのとき、故郷からはるか離れた場所で厳寒の中で亡くなられた方たちの無念さを思ったわけです。
 去年この場所での質問で、厚生省は五年間を目途に進めるという話でした。私は五年間を目途というのは、それはそれで大いに急ピッチにやっていただきたいと思うのですが、南海の遺骨収集を含めて、この事業の推進においては計画をきちっと立てて、そして遺族がもうお年寄りになっていますから、そういったことを踏まえてさらに規模を拡大して進めなければならぬ、こう思っておるのですが、大臣のお考えを伺いたい、こう思います。

○丹羽国務大臣 まず、半世紀経過をいたしまして、なお変わらないソ連抑留中死亡者の方々の御遺族の心情、心中をお察し申し上げますとき、言葉には言い尽くせない哀惜の情を禁じ得ないものでございます。国といたしましても、この問題に誠心誠意取り組んでいくことが私どもの重要な責務である、このように考えておるわけでございます。
 厚生省といたしましては、平成四年度から旧ソ連地域での遺骨の収集、墓参の本格的な実施に取り組んでおるわけでございます。先ほどから委員からも御指摘がございましたように、五万五千人の方々がお気の毒にお亡くなりになったということでありますが、現在の遺骨収集はざっと一千柱である、こういうことでございます。御遺族の方々の心情を踏まえつつ、また、これらの方々の高齢化が進んでおるということでございますので、一刻も早くこの遺骨収集、そして墓参、こういうものを実施しなければならない、こういうような決意でございます。
 今年度、平成五年度におきましては、五地域においてこういうことを計画させていただいておるような次第であります。

○児玉委員 さて、もう一つ伺いたいのですが、先ほども御質問がありました。厚生省が本年度の予算で戦没者追悼平和祈念館、仮称と言われていますが、これに着工される。厚生省はこの施設の性格について、戦没者追悼の意をあらわす施設であることに加え、国民の生活面から見た戦争の悲惨さと、戦中戦後を通しての国民の生活上の労苦を後世代に伝えることを目指す、こう言われております。
 私は、この施設が、よくありがちなんですが、戦史博物館的なもの、戦闘場面だとかそれから兵器だとか、そういったものを無批判的に展示し、結果として戦争を肯定するものになっては決してならない、こういうふうに考えます。広島、長崎の原爆被害、沖縄における厳しい地上戦の惨禍、各地における無差別空襲、こういった被害によって国民がどのような厳しい体験を余儀なくされたのか、この施設を見ることによって深い教訓が学び取れるようなものにならなければいけない、こう考えますが、いかがでしょうか。

○佐々木(典)政府委員 お答え申し上げます。
 戦没者追悼平和祈念館につきましては、設置の趣旨については、先ほど申し上げておりますので略させていただきますけれども、私どもとしましては、この施設につきましては、戦没者追悼の意をあらわす施設であることに加えまして、国民の生活面から見た戦争の悲惨さと、戦中戦後を通しての国民の生活上の労苦を後の世代に伝えることによりまして、恒久平和に資することを目指しているところでございます。
 事業内容といたしましては、このような性格を実現しますために、展示の事業だとか情報提供、研修・研究支援事業、あるいは資料の収集・保存事業を計画をいたしておるわけでございます。各事業の具体的内容につきましては、ただいま申しました本施設の趣旨あるいは性格に沿った内容とするために、今後有識者から成る委員会を設置いたしまして、意見を聞きながら検討をしてまいりたいというふうに考えております。

○児玉委員 私は、この施設が、日本国憲法の前文にあります政府の行為によって再び戦争の惨禍を繰り返すことがないようにすることを決意し、この決意を内外に示すものにする必要があるだろう、こう考えます。
 それにつけても、私自身が想起することを一つ述べておきたいのですが、一九八一年二月にローマ法王のヨハネ・パウロ二世が広島の原爆の地を訪れたことがあります。そのとき法王は、原爆慰霊碑の前にぬかずきながら、旧約聖書のイザヤ書にあります「彼らはその剣を鋤に打ちかえ、その槍を鎌に打ちかえる。国は国に向かいて剣を上げず、戦闘のことを再び学ばない」こういう言葉を引用して、「過去を振り返ることは、将来に対する責任を担うことです。広島を考えることは、核戦争を拒否することです。」こういう平和アピールを出されました。
 その後、法王は原爆資料館に行かれたのですが、「焼け焦げた学生服、ズボン、ゲートル。そして、熱線で溶けたアルミの弁当箱、裁縫針、貯金箱……。市民生活の営みに、突然襲いかかったことを示す遺品の数々に、法王は終始、寡黙であった。」と当時の新聞は伝えております。こういったものになっていかなければいけない、私はこう思うのですが、厚生省の考えをお聞きします。

○佐々木(典)政府委員 先ほども申し上げましたけれども、この施設の運営に当たりましては、施設の趣旨、性格に沿った内容とすべく、有識者から成る委員会を設置しまして、御意見を承りながら検討をしていく所存でございます。

○児玉委員 終わります。

 第126回国会 参議院厚生委員会 第9号 平成五年五月十一日(火曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員            栗原 君子
 厚生大臣官房審議官     佐々木 典夫
 労働省職業安定局庶務課長  青木 功
 外務省アジア局地域政策課長 小島 誠二
 厚生大臣          丹羽 雄哉
 厚生省保健医療局長     谷 修一
 総務庁恩給局審議課長    小山 裕
 委員            西田 吉宏
 外務省欧亜局ロシア課長   小町 恭士
 内閣総理大臣官房参事官   大坪 正彦
 委員            木庭 健太郎
 大蔵省主計局共済課長    五味 廣文
 委員            勝木 健司
 委員            西山 登紀子
 委員            粟森 喬
 厚生省年金局長       山口 剛彦
 厚生大臣官房総務審議官   瀬田 公和

○栗原君子君 私は、戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案につきまして、政府に御質問をいたします。
 日本の旧植民地下、韓国、朝鮮人戦争被害者の戦後補償と、さらには中国人強制連行、そのうちの何人かは広島で被爆され、多くのアジアの人たちが戦争によって二重、三重の苦しみの中で生きてこられました。中国人被爆者への人道的救済措置や中国残留婦人、そういった問題を中心にこれらに対する厚生省の見解をお聞きしたいと思います。
 第二次大戦後四十八年を迎えようとしていますが、いまだに日本国籍がないという理由だけで何らの補償もなく放置され、苦難の人生を強いられてきた人々の叫びに今日本政府は真剣に耳を傾けるべきだと思います。
 さて、今回出されました法律案でございますが、特別支給法の改正は今回で三回目でございます。昭和四十八年と五十八年、さらには平成五年、いつまでこれらを続けられるものか、そしてこの中でそれぞれ金額を引き上げております。その理由をお聞かせいただきたいと思います。
 そして、もう一点は、この中に「国家補償の精神」ということをうたっておりますけれども、このことについて最初にお伺いを申し上げます。お願いします。

○政府委員(佐々木典夫君) 今回の遺族援護法の改正案につきまして、どういう中身であるか、それからどういう考え方でこれを改正するものであるかということでございます。
 まず、戦傷病者戦没者遺族等に対しましてはこれまで各種の援護措置を講じてまいったところでございますけれども、本法律案は、戦傷病者戦没者遺族等の処遇の改善を図るため、援護年金の額を引き上げるとともに、戦没者の妻それから父母等に対し特別給付金を継続して支給することとするものでございまして、戦傷病者戦没者遺族等援護法、戦没者等の妻に対する特別給付金支給法、戦没者の父母等に対する特別給付金支給法、この三法を改正することといたしたものでございます。
 内容を御紹介させていただきますれば、第一に戦傷病者戦没者遺族等援護法の改正でございますが、これは、恩給法の公務扶助料等の基本額が改善されるわけでございます、二・六六%の引き上げがございますわけですが、援護年金の額をこの恩給の改善に準じて平成五年四月から引き上げるということが第一でございます。
 第二に、戦没者等の妻に対する特別給付金支給法の改正でございますが、これは、ただいまも御質問ございましたけれども、再継続分、現行百二十万円、十年償還の国債の交付をいたしてきたわけでございますが、この国債の最終償還を迎えることになります戦没者等の妻に対し特別給付金として百八十万円の国債、十年償還でございますが、これを継続して支給するといった改善を行うものでございます。
 もう一点、第三でございますが、戦没者の父母等に対する特別給付金支給法の改正でございます。これは四回目の継続分、七十五万円、五年償還というものでございますが、この国債の最終償還を迎えた戦没者の父母等に対しまして特別給付金として九十万円の国債、五年償還でございますが、これを継続して支給するといったような内容を盛り込んだものでございます。
 いずれも、特に特別給付金、後の二つにつきましては、それぞれ戦没者等の妻あるいは子を失った父母等に対する慰藉の気持ちをあらわすということで、その必要性は変更を見ておらない、変わりがございませんので、国として慰藉をあらわす、そういったことで今度の改正案を御提出しているということでございます。

○栗原君子君 私は、「国家補償の精神」なるものを少し触れていただきたいと思っておりましたけれども、この問題はなかったように思いますが。

○政府委員(佐々木典夫君) 援護法では、「国家補償の精神」に基づいて援護の措置を行うという考え方をとっているわけでございますが、その国家補償の精神とはどういうことかということでございます。
 援護法にいいます国家補償の精神とは、軍人軍属等国と一定の身分関係にあった者が戦争公務により受傷あるいは死亡した場合に国が使用者としての立場から援護を行う、そういった趣旨で国家補償の精神というものが規定されているというふうに考えております。

○栗原君子君 国家補償の精神、このことは、今までの政府のやってこられたことを見ますにつけて、日本国民だけについてうたっているものだろうと解釈をいたしております。
 さて、ここで私がお伺いいたしたいのは、韓国人強制連行にかかわる調査は、今まで労働省でしょうかあるいはまた外政審議室なんでございましょうか、それなりに実施をされているようですけれども、中国人についても強制連行の問題があったことを承知されていらっしゃるんでしょうか、どうなんでしょうか。

○説明員(青木功君) お答え申し上げます。
 いわゆる朝鮮人徴用者等の名簿調査につきましては、平成二年五月二十五日の日韓外相会談の際に韓国側から協力要請がございまして、日本国政府として協力をするということで、労働省を中心に調査を行っているところでございます。
 しかしながら、ただいまお話しございました中国人労働者の受け入れ問題については、労働省としてはその経緯等を含めて事実関係について承知をしていないところでございます。

○栗原君子君 実は、一九四二年、昭和十七年でございますけれども、「華人労務者内地移入二関スル件」というものを閣議決定いたしております。これに基づきまして中国人の強制連行を行ったという事実がございます。このことにつきまして、どの程度政府の方では把握をしていらっしゃるものか、お伺いいたします。

○説明員(小島誠二君) お答え申し上げます。
 先ほど御指摘の昭和十七年十一月の閣議決定でございますけれども、その趣旨は、当時の国内の労働力不足を背景に、中国人労働者の移入を目的として行われたものというふうに承知しております。
 これによりますれば、中国人労働者の移入は契約に基づき行われることとなっているわけでございます。しかしながら、当時の詳しい事情については明らかではございません。当時の状況から日本に来られた多くの中国人労働者が不幸な状態に陥ったということは遺憾と考えるわけでございますけれども、我が国政府といたしましては、戦争に係る日中間の請求権の問題は一九七二年の日中共同声明発出後は存在しないという立場でございます。
 いずれにいたしましても、我が国といたしましては、戦後一貫して平和国家としての道を歩んできたところでございますし、また今後とも平和国家として世界の平和と安定のために貢献していく、こういう考え方で進めていきたいと考えておるところでございます。

○栗原君子君 なかなか資料が見つからないなどと言われておりますけれども、実はここに私はそのコピーなるものを持っているわけなんですよ。当時、日本の若い男性が戦争に行かなければいけないから、それで朝鮮からの強制連行で炭鉱の仕事をさせるとか荷役の仕事をさせるとか、そういうことをやってきたわけでございますけれども、それでもまだ人が足りないというので中国から労務者を移入ということで国内に入れているわけなんです。
 それにつきまして、何人ぐらいの人が来たか、さらにはどういったところに働いたか、そして働きようはどうであったか、そこらあたりは全く御存じないのでしょうか、お伺いをいたします。

○説明員(小島誠二君) 関係者の証言等によりますれば、当時、多くの中国人が中国より連れてこられ、極めて不幸な状況に陥ったことは否定できないと考えるわけでございますけれども、いわゆる中国人強制連行につきましては、外務省として当時の事情を明らかにするような資料がなく、これら中国人の来日時の事情につきましては現時点においてはつまびらかではないという状況でございます。

○栗原君子君 さらには、これは一九六〇年の五月発行の雑誌「世界」、その中に載っておりましたので調べてみました。
 そういたしますと、「戦時下における中国人強制連行の記録」によりますと、外務省管理局が一九四六年、昭和二十一年の三月一日付をもって作成したものでございますけれども、「華人労務者就労事情調査報告書」なるもの、いわゆる外務省報告書と言われるものを出しているわけでございます。このことは御存じでございましょうか。

○説明員(小島誠二君) 今御指摘になりました昭和二十一年三月、外務省作成の調書でございますけれども、そういう調書を外務省が作成したということは聞き及んでおるわけでございますが、何分にも同調書が現存していないということでございまして、確定的なことは申し上げられないということでございます。
 こういう資料の有無につきましては、かつてこの国会におきましても同様の御質問をいただいたわけでございますけれども、その際、外務省といたしましてもいろいろな方面に手を尽くしたわけでございますが、そのような資料は残っていないという趣旨の答弁をしたというふうに承知しております。

○栗原君子君 ここにこういった写真が載っているわけでございますけれども、これが外務省報告書なんです。当時GHQが入ってきまして、日本で強制連行の事実があり、どういう働き方をさせたか、そういったことを書いたものでございます。
 それで、政府では、今おっしゃいましたように、昭和三十二年の三月二十五日、同じようにこの書類がないということをおっしゃっておられます。そして、一九六〇年ですから昭和三十五年の五月三日の御答弁でも、アジア局長さんが、「そういう調書がございますと、戦犯問題の資料に使われて非常に多数の人に迷惑をかけるのでないかということで、全部焼却いたしたそうでありまして」と、そういった答弁をしていらっしゃいまして、この間ずっとこの資料なるものがないということを答弁している。
 先ほどもないということをおっしゃいましたけれども、私は探しようが足りぬのじゃないか、このように思うんですね。ないところばかりを探していたのではないのでありまして、やはりあるところにはあるように思うんです。これを探す気持ちはあるのかないのかお聞かせください。

○説明員(小島誠二君) 先ほどGHQの資料に御言及がございました。これにつきましては、最近、日本で働いていた中国人の名簿等が発見された旨の報道がなされたということは承知しているわけでございます。
 先ほど来御答弁申し上げておりますように、このような資料の有無につきましては、かつて外務省としてもいろいろな方面に手を尽くしたわけでございます。しかしながら、そのような資料は残っていないという趣旨の答弁を国会においてさせていただいたと承知しておりますけれども、そのような状況は今も変わていないということで、まことに繰り返しで恐縮でございますが、そのような資料は残っていないということを繰り返させていただきたいと思います。

○栗原君子君 それでは、もう一つこれとあわせまして華人労務者就労てんまつ報告書なるもの、いわゆる事業所報告書と言われる全国百三十五カ所の事業所でつくられたものがあるんです。これは昭和二十一年の二月、一九四六年の二月ですから、外務省報告書よりも一カ月先にこのものが出されているわけなんですが、このことについてはどうでございますか。

○説明員(小島誠二君) お答え申し上げます。
 今御指摘のてんまつ書につきましても、私どもとしてはその内容等についてつまびらかにしないという状況でございます。

○栗原君子君 実は、当時中国人が強制連行された全国百三十五の事業所があるわけなんです。ここに私は地図を持っておりますが、これ全部で百三十五あるわけなんです。(図を示す)この一つ一つの事業所でそれぞれ報告書を出しているわけなんです。
 そして、中にこれがあるんですけれども、やっぱり私はこの問題をもう少し政府ではこだわってほしい、こう思うんです。あるところを探していただきたい。例えば外交史料館とか、あるいはまた国立の公文書館か国会図書館が、またGHQの資料などにも私はあるのじゃないかというような気がいたしますけれども、この問題をぜひ探していただいて取り組みをしていただきたいと思うんです。
 さて、私、このことを最初に申し上げましたのは、実はこの後に続くわけでございますが、戦時中に多くの中国人が中国において捕らえられて日本に連行され、過酷な労働に従事し、虐待や栄養失調などによってそのうちの多数がまた死亡した事実が存在しているわけです。
 中国人については何人ぐらい連行して、何カ所ぐらいで働かせ、また死亡者が何人いらっしゃったのか。全くこのことは、先ほど知らないとおっしゃいましたけれども、本当に知らないんでしょうか、もう一度お伺いいたします。

○説明員(小島誠二君) 先ほども御答弁申し上げたとおりでございまして、外務省といたしましては、当時の事情を明らかにするような資料がございません。したがいまして、これらの中国人の来日時の事情、今御指摘の詳細につきましては現時点においてはつまびらかでないということでございます。

○栗原君子君 実は、国会図書館の中の資料を私見ておりましたら、三万八千九百三十五名強制連行しているという事実、約四万名なんですけれども、そしてその中で八千人に近い人が日本の作業場で栄養失調あるいはまた過酷な労働等々によりまして亡くなっている事実があるわけなんです。このことをもう少し責任を持ってお調べいただきたいと思います。
 そこで、広島では市民運動の人たちが先日訪中をいたしまして、五人の在中被爆者を確認して帰られました。一九四五年八月六日、広島刑務所に収監されていた二人の在監証明書も発行されているわけでございます。市民運動の人たちが呼びかけて、私もこの呼びかけ人の一人に加えていただいておりますけれども、お互いがお金を出し合って、カンパを集めて年老いた中国人被爆者をお招きをいたしまして、渡日治療や検査を受けてもらうように今運動が進められているところでございます。
 そのうちのお一人は近く広島へおいでになることになっておりますけれども、政府として、このことに対してどのような対応をしていただけるものか、お聞かせをください。

○国務大臣(丹羽雄哉君) まず、中国からの強制連行の事実関係については、先ほど政府委員から御答弁を申し上げておるわけでございまして、十分にまだ把握し切れない部分があるようでございますけれども、そのような事実があって、戦時中に中国の方々が強制連行されまして、被爆されたということがございますれば大変お気の毒なことだ、このように考えておるわけでございます。
 そういう、先生などが中心となって広島の市民の方々がボランティアで訪中をなさって、そしてそういうような事実を確認していらっしゃる、こういうことでございますけれども、中国の方々が来日をなさいました際には、被爆の検査等の御希望があれば希望に沿って被爆の検査を行いまして、そしてもし被爆の事実が確認されれば、原爆二法に基づきまして被爆者健康手帳を交付いたします。そして、当然のことながら医療の給付、滞在される方に対しましては健康管理手当あるいは健康手当、こういったような支給などを十分柔軟的に対応するように考えていきたい、こう考えております。

○栗原君子君 実は、先日広島の市民団体の人が行きまして、三名の方にお会いをされまして、この三名とも被爆をしていらっしゃる方なんですけれども、その事実を確認して、当時のさまざまな状況をお聞きになってお帰りになられたわけでございます。
 そこで、市民団体は、広島市へも何とかこの人たちのことに対して誠意を示してほしいということを言っていかれました。そういたしますと、広島市は、本人の消息調査や中国政府への働きかけなどについては「中国への内政干渉になる」「国(厚生省)が行うべきことで、市が行うことはハミ出しになりできない」「日韓間のように日中間の何らかの協定ができない限りできない」、こういうことを広島市は言っております。当然であると思います。この程度は言うでありましょう。
 さて、それでは、厚生省がここで頑張ってくれなきゃ自治体とすればこれ以上はできないと、こういうことを広島市では言っているんです。最大限の努力をしていただけるものかどうかお伺いいたします。

○国務大臣(丹羽雄哉君) ただいま私から申し上げましたように、そういうような事実が確認されれば、前向きに最大限誠心誠意で対処していきたい、このように考えております。

○栗原君子君 ありがとうございます。
 それで、在韓被爆者につきましては、日韓請求権解決とは別に、韓国政府に対しまして四十億円を供与しているわけでございます。在中被爆者についても人道的な立場から同様の措置を講ずるべきだと私は思いますが、このことについてどう思われますか。

○政府委員(谷修一君) 在韓被爆者の問題につきましては、先生御指摘ございましたが、昭和五十六年に日韓両国政府の合意に基づいて在韓被爆者を広島あるいは長崎の病院に収容して治療等を実施したということでございまして、この背景としては、その当時両国政府の間での合意に基づいてこういうことを行ったということでございます。
 これは、外交問題でございますから外務省の方からの御答弁が適切かと思いますが、先ほども外務省の方からお話がございましたように、日中間につきましては現在そのようなことが行われておりませんので、厚生省といたしましては、外交ルートを通じたそういった話し合いの結果を踏まえて厚生省として対応をしていくべきことだというふうに考えております。

○栗原君子君 中国からも民間賠償の要求の声が上がっているやに聞くわけなんです。北京の日本大使館または直接外務省にも届いているかなという気もいたしますけれども、何件ぐらい届いて、どんな対応を今までしていらっしゃったのか、お聞かせください。

○説明員(小島誠二君) お尋ねの件でございますけれども、まず申し上げておきたいことは、戦争に係る日中間の請求権の問題といいますのは、先ほども御答弁申し上げましたように、一九七二年の日中共同声明発出後存在しておらず、こういう認識は中国政府も明らかにしているところでございます。
 次に、お尋ねのいわゆる民間賠償の請求でございますけれども、従来より我が国の在外公館等に対しまして時折書簡が参るわけでございます。こういう事実は確かにございます。ただ、地理的に中国に限らず、香港でございますとか東南アジアでございますとか、あるいは欧米等の現地の我が方の大使館等、我が方公館に書簡が寄せられることがございます。
 また、いつごろから寄せられているかということについて正確な記録もないわけでございまして、今私がこの時点でこれまで接到した書簡の件数について確定的なことは申し上げられないという事情にございます。

○栗原君子君 それでは、実はこういう新聞記事があるんですよ。
 数年前ですけれども、韓国の従軍慰安婦の問題が出たときに、当時の加藤官房長官が「何らかの措置」をということをおっしゃっておられるんです。そのことに対しまして、
 中国政府は「韓国と同様の救済措置を期待する」という意向を表明した。江沢民総書記は今年四月、日中共同声明で表明した態度(戦争賠償請求権の放棄)は変わらないとしながらも、「日本帝国主義が起こした侵略戦争は中国人民に大きな損失をもたらした。この戦争がもたらした問題は、お互いの協議を通じ、条理にかなったやり方で解決すべきだ」と語り、初めて民間損害賠償に言及した。
 すでに昨年三月、戦争賠償千二百億ドルは放棄したものの民間損害賠償額千八百億ドルは放棄していないとする建議書が全国人民代表大会に提出されている。
ということ。これは九二年、去年の七月の新聞であります。
 だから、今までみんな黙っておられたわけなんですけれども、もうそれなりにお年も召されまして、今言っておかなければいけない、そういう中からふつふつと私はこういうものが民間からも声としてこれから大きく出てくるんじゃないか、このように思うわけでございます。私は、日本政府は今まで中国が言わないことをいいことにしてきたんじゃないかなという気がいたしてなりません。中国の強制連行の問題とか、あるいは在中被爆者の問題とか、さまざまな問題についてこれからまたさらに誠意を持って取り組んでいただきたいと思いますので、ここでもう一度厚生大臣の御所見を伺いたいと存じます。

○国務大臣(丹羽雄哉君) 従軍慰安婦の問題につきましては、今政府の関係当局が鋭意検討をしておる、このように承っておるような次第でございます。
 いずれにいたしましても、この戦争を通じて各方面、各国に対しまして、多大ないわゆる犠牲といいますか言葉には言い尽くせないような犠牲を強いられたことに対しましては、心からお悔やみを申し上げるわけでございますけれども、いずれにいたしましても私どもはできる範囲の中で一つ一つ誠実に問題に取り組んでいきたい、こういうような決意を持っているような次第でございます。

○栗原君子君 ぜひ、中国に対しての誠意ある態度をこれからお示しいただきたいと存じます。
 そして、これもやっぱり中国からの問題でございますけれども、例の中国残留婦人の問題に入っていきたいと存じます。
 中国残留婦人交流の会というのがございまして、ここから再三にわたりまして陳情のあった日中両国政府による調書の相互突き合わせ及び本人たちへの帰国意思の有無など実態調査を行う方針を立て、実施の準備も完了しているわけでございますが、現在、中国政府の応諾待ちで待機中とのことでございます。実態調査はどのようになっているのかお聞かせください。

○政府委員(佐々木典夫君) 中国残留婦人等の意向調査についてのお尋ねでございます。
 実は、この問題につきましては、昨年来中国政府と鋭意折衝を続けてまいったところでございます。御案内のとおり、これまで中国残留婦人等の方々につきましては、日本への一時帰国あるいは永住帰国を希望する方に対しましては、帰国旅費だとかあるいは状況によって滞在費を支給するといったようなことで、援護措置を講じてまいったところでございます。
 しかしながら、戦後既に四十七年余が経過しているわけでございまして、残留婦人等の高齢化あるいは帰国に対する意識の変化等が見られますことから、厚生省としましては、できるだけ帰国、一時帰国も含めて日本に帰ることを希望する方々についてはその望みがかなえられるようにしていくというふうな考え方に立ちまして、帰国意向調査ということで仕組んでおるところでございます。
 実は、先般ようやく話がつきまして、去る四月の末でございましたけれども、一部の調査票を関係の方々にお送りするというふうなことで、調査に着手をしたという状況でございます。
 先ほども申しましたようなことでございまして、残留婦人の方々、高齢化等あるいはその後の意識の変化等ございますので、できるだけ帰国希望のある方についてはその希望が早期にかなえられますように、着手いたしました調査を早く進めまして、所要の措置をとってまいりたいと考えている次第でございます。

○栗原君子君 日中国交回復以後、国費による中国から日本への残留婦人の永住帰国者は何人おいでであったのか。そしてその中で、一時帰国をされた人は何人ぐらいいらっしゃって、私費で帰国された方もいらっしゃるのかどうか、お伺いいたします。

○政府委員(佐々木典夫君) 中国残留婦人等で、日中国交回復後、昭和四十七年でございますが、それ以降日本に永住帰国あるいは一時帰国、里帰りでございますが、した方々の数、あるいは私費の場合等の数でございます。
 私どもの把握で、中国残留婦人等のうちに日中国交正常化以後、平成五年三月三十一日、三月末までの数字で申しますと、永住帰国をした方が二千四百五十八人でございます。それから、一時帰国いわゆる里帰りでございますが、三千八百二十六人、この三千八百二十六人のうち、二度目の一時帰国、再一時帰国と言っておりますが、そういう方々四百八十五人を含んでおります。私どもは帰国の数字に関しましてはそういう把握をいたしてございます。
 それからなお、私費で帰国した者の人数についてのお尋ねがございましたが、この点につきましては、旅費等の支給を私どもからいたさないといったような事情もございまして、厚生省としましては私費帰国の人数につきましては把握ができてございません。

○栗原君子君 そこで、残留婦人に関する日中間の覚書の取り交わしが予定されていると聞いておりますけれども、どのようになっておりますでしょうか。

○政府委員(佐々木典夫君) 残留婦人に関します日中両国間での口上書についてのお尋ねでございますが、実はこの口上書の取り交わしにつきましては、近年ボランティア団体の方々によりまする中国残留婦人等の集団一時帰国、里帰りが大変盛んにここ数年来行われてまいったわけでございます。これに伴いまして、中国政府側から日中両国政府間で中国残留日本人の帰国に関する基本的取り決めをしておきたいというふうな申し入れがございまして、それ以後協議を重ねてまいったところでございます。
 どういうことかと申しますと、これは平成二年のころからの話でございますけれども、中国の公安部、担当部門から見ますると、それぞれ日本のボランティア団体が鋭意熱意を持って里帰り運動をやっていただくわけでございますが、それがやや、整然というとおかしいんですが、無秩序に行われて、中国側としては受け入れその他統一をある程度とってほしいというふうなにとが一つ発端でそんな申し出がございました。そんなことから、実は日中両国間で詰めてまいったところでございます。
 基本的にどんなことを考えているかというと、里帰り等を円滑にやっていただく、そして希望される方が滑らかに希望がかなえられるようにするというのが基本でございまして、そのような観点から、例えば里帰りをする場合は、それぞれのボランティア団体等がやっていただくわけでございますけれども、日本政府が、具体的には私ども厚生省の担当部門でございますが、全体の年間計画を取りまとめて中国政府に提出する、中国側の同意を得て事を進める。具体的には、年間計画あるいは具体実施段階で二カ月ほど前に具体的な人数等について連絡をするといったようなことが一つ。
 それから、実は里帰りをした際に、来たまま今度は中国に戻らないでそのまま日本に永住したいというふうな希望をされる方も間々出てまいります。しかしながら、そういったようなケースにつきましては、それでは中国に残った家族との関係、家庭問題をどうするか。その解決をやはりきちっとする必要があるといったようなことから、仮に一時帰国、里帰りで日本に参る、その場合でも、もしも永住帰国に切りかえるような場合は、その前にまず一度中国に戻って家庭問題を片づけてくるように、あるいはもし戻してもそんな事情がない場合は、日本政府が協力して家庭問題の解決のため関係者が努力をするといったようなことを盛り込む、こんなことでございます。
 あと、具体的に永住帰国する場合には、基本的に殊留婦人等、本人のみならず家族についても日本政府側もこれを円滑に迎え入れるようにするといったようなあたりが骨子でございまして、こんなような中身についてここ数年来話し合ってまいりました。
 現在の段階でございますと、案文の中身につきましてここ数年来積み上げてまいりましたので、基本的な合意がなされまして、現在外交ルートによりまして案文についての細部の協議を行っているという段階でございます。
 それで、基本的には、ただいま御紹介しました中身に沿いまして実態的には里帰り等が円滑に行われてきておる、これをきちっと両国間で文書化しておきたいということでございます。そう遠くない時期に口上書の交換ができると私ども期待をいたしております。

○栗原君子君 帰国の場合、肉親の承諾はいまだに絶対必要条件となっているのでしょうか。孤児の場合と同様、九一年から肉親の承諾は必要条件でなくなり、かわりに本籍県定住の原則が加わったわけでございます。このことが帰国を望んでいらっしゃる方に対して少し妨げになっているんじゃないかという思いがいたしますけれども、いかがでございましょうか。

○政府委員(佐々木典夫君) 残留婦人等が永住帰国いたします際に、基本的に本籍主義というか本籍地を定住先とするということを原則としている、その点について問題はないのかというお尋ねということで申し上げます。
 実は中国残留婦人等、これは孤児の場合も同様でございますけれども、帰国に当たりましては、基本的には在日親族がいらっしゃる場合は身内の方が受け入れていくということがいろんな意味で、あるいは先行き長く日本に住んで生活をしていくという上ではやはり望ましいと基本的には考えでございます。そういう意味では、第一義的には在日親族の居住地に定住をするということを基本といたしているわけでございます。
 しかしながら、今もお話がございましたけれども、身内がある、在日親族はあるわけでございますけれども、残留婦人等の受け入れをなさらないような場合も実は間々ございます。そういったようなケースにつきましては、やはり御本人の帰国の希望をかなえるというふうな観点から、平成三年度からいわゆる特別身元引受人制度ということで、これを適用することによりまして帰国の希望をかなえる、帰国の促進を図るといったようなことを行ってきているところでございます。
 この制度の適用に当たりましては、今申しましたような考え方から、基本的には本籍地に定住ということを原則といたしているところでございますが、実は現実問題としての定着に当たりましてはいろんなケースがございます。
 若干申しますと、定住希望地、これを自由に選択することにいたします場合は、実は帰国者が数カ所の大都市に皆集まる、大都市を希望するといったようなことがございます。どうも中国の場合は都市、農村間での住居の移動が自由でないために、日本においても一度例えば地方都市に定着をした場合には居住地が変えられないんじゃないかといったような考え方もあるようでございまして、それからまた、一般的に若い家族の大都市志向というようなこともありまして、大都市にかなり希望が集中するといったような事情がございます。
 そういった問題の場合は、実は公営住宅の確保だとかあるいは自立指導員の確保等、具体的に現実問題として困難な問題が出てまいりまして、かえって十分な帰国援護措置が講じにくいといった場面も生ずるわけでございます。したがいまして、基本的には極力本籍地という考え方をとるわけでございます。
 しかしながら、それじゃ画一的にやっているのかというと、そういうわけでございませんで、必ずしも本籍地にこだわることでなくて、いろんなケースがございますので、残留婦人等あるいは在日親族のいろいろな事情がございます。そういった事情にも十分考慮をしながら必要に応じて本籍地以外の定住についても弾力的に対処してまいっているところでございます。具体の例で申しますと、これまで本籍地以外に定住した例というのは数十例ございます。

○栗原君子君 本籍県定住の原則というものがあるために、残留婦人の方が帰国を希望していらっしゃいましても、出ていった親元といいますかそこも代がかわりましておいごさんとかめいごさんの代になりまして、命さらそういう見も知らないおばさんたちが帰ってきてくれたら大変迷惑だというような感じがあるように私は伺っているわけなんです。財産分与のことなどいろいろ絡んで難しい問題があるように思っておりますが、最大限の努力をしていただきたいと思います。
 それからもう一つは、永住帰国できない婦人に対して十年置きに二回の帰国といいますか里帰りの機会が与えられていますけれども、十年も待ちますと今七十歳の人は次の十年といったらもう八十歳、八十歳まで生きていらっしゃるかどうかわからないという状況でございますので、これをもっと五年なりに短縮をしてもらうことはできないのかどうか、お伺いをいたします。

○政府委員(佐々木典夫君) 一時帰国の十年に一度というふうな条件をもう少し緩和、短縮できないかというお尋ねでございます。
 実は、現行の再一時帰国制度につきましては、発足後十年余りを経過しまして、大方の残留婦人の方々が一時帰国を経験した段階で、つまりその段階でもう一度一時帰国を希望するという方がふえてまいりました事情がありましたので、昭和六十二年度から、いわば二度目の一時帰国ということで、おおむね十年経過した方あるいは在日親族の方が病気であるといったような緊急な事情がありまして急速帰国する必要が生じたような方々を対象としてこの制度を始めたわけでございます。
 現状では、一時帰国を経験した残留婦人等のうち、一時帰国後十年以上経過しても再一時帰国をしていない方がなお私どもの把握で九百人程度はいらっしゃるというふうに見ております。
 そこで、まず当面は、関係の方々に対してこの再一時帰国援護制度の周知を図ることによりましてその利用を促進することに努めますとともに、それから、先ほど申しました病気等の特別な事情があります場合には、十年経過という条件を弾力的に運用するという考え方もとっておりますので、こういったものも活用しながら残留婦人等の里帰りの希望にできるだけこたえていきたい、当面はそんなことでやってまいりたいというふうに思っております。

○栗原君子君 肉親が病気のときとか、亡くなりそうなとき、お葬式とかいろいろあると思うんですけれども、皆さんはお元気なうちに日本を見ておきたいというのがございますので、ぜひ十年置きに二回というのを短縮していただくようにまた考えて、少し柔軟性を持っていただきたい、このように思うわけでございます。当時、国策として渡満されたわけでございますので、残留婦人の方の戦中戦後の御苦労に対してもやっぱり国としての誠意を示していただきたい、このように思うわけでございます。
 続きまして、援護によるさまざまなそういった国籍とかそれから戸籍についてのお尋ねをいたしたいと思います。
 実は、政府は、去る四月十四日に、衆議院の厚生委員会におきまして近く援護法の国籍条項に関する解釈を変更する旨を明らかにされたわけでございますが、これについて私ども社会党としても検討をいたしました結果、どうも納得がいかない、こういうことになりました。この解釈変更の理由につきまして、厚生省の方は、昭和三十七年の通知を変更する理由として、法制的に無理があるということを一つに挙げておられまして、二つ目は恩給法解釈との整合性がとれない、こういったことをおっしゃっておられるわけでございますが、法制的に無理があるとはどのような無理であるのか、お伺いいたします。

○政府委員(佐々木典夫君) 援護法におきます国籍要件の解釈につきまして、実は三十七年の私どもの援護課長通知というふうなもので示しました解釈について、変更をいたしたいということで衆議院の御審議段階で御答弁を申し上げたわけでございますが、そのうちで法制的に無理があるということについて具体的なお尋ねでございます。
 実は、昭和三十七年におきます通知は、援護法にいいますところの日本国籍の喪失というものは個人の意思に基づいて国籍を失った場合に限られるという解釈を前提にして取り扱いを示しているものでございます。しかしながら、サンフランシスコ平和条約によります国籍喪失も国籍喪失には変わりがないということでございまして、日本国籍の喪失について、単に日本の国籍を失った者または失ったときと規定しております援護法の解釈においてのみサンフランシスコ平和条約による国籍喪失を別異に取り扱うことは困難である、こういったような考え方から、三十七年通知の解釈は法制的に無理があるというふうに考えたところでございます。

○栗原君子君 もう一点の、恩給法の解釈との整合性がとれていることは加藤議員が引用した当時の総理府の恩給局発行の恩給相談ハンドブックでも明らかであると思うのです。それでも整合性がとれていないというのはどういった理由があるのでしょうか。この問題は総務庁の恩給局の方からもあわせて御答弁をいただきたいと思っております。

○政府委員(佐々木典夫君) 解釈の変更に当たりまして、恩給法と援護法との解釈の整合性がとれないとは具体的にどのようなことなのかというお尋ねかと存じます。
 恩給法の解釈では、サンフランシスコ平和条約によって国籍を失った場合も国籍要件との関係で国籍喪失に該当することとされていると私ども承知をいたしておりまして、三十七年通知がとっている援護法の解釈はこれとの整合性がとれないものとなっているというふうに理解をしたものでございます。

○説明員(小山裕君) お答え申し上げます。
 恩給法でございますけれども、これは大正十二年に制定された法律でございますが、この第九条におきまして、日本国籍を失ったときは恩給受給権は消滅する旨の規定が置かれております。この規定につきましては例外的な規定も置かれておりません。これは例外にするという規定もございませんので、私どもといたしましては、昭和二十七年のサンフランシスコ平和条約の発効によりまして日本国籍を失った方々、これらの方々につきましてもこの規定が適用されるというふうに考えております。
 委員先ほどお示しになりました恩給ハンドブックの記述でございますけれども、これはあくまでもただいま申し上げましたような考え方を前提に置きまして、ただ、サンフランシスコ平和条約の発効によりまして国籍を失った方、これらの方々につきましては特に本人の御意思というものが確認されたというわけでもございません。そういう特別な事情がございますので、国籍条項は適用されるのでございますが、比較的早い時期に帰化された方々につきましては、仮に国籍の選択があったとすれば日本国籍を選択されたのではないかというふうな考え方に立ちまして特別な措置として行ったというものでございますので、恩給法の解釈につきましては、これらの方々につきましては恩給受給権は消滅しているというふうに考えられます。

○栗原君子君 この問題は、またいろいろ先では裁判ざたになってくるんじゃないかというような、こんなことが予想されるわけですけれども、そのとき政府はどういう御答弁をなさるのかなということを私は大変興味を持っているわけなんです。
 そして、先般の衆議院でのやりとりの中で、厚生大臣は、この通知は「善意の解釈からこういうものが出されたのではないか」、こういった御答弁をしていらっしゃるわけでございますけれども、私は、厚生行政というのは物事をまさに善意に、法を善意に解釈をすることによって実施されるように思うわけでございます。このことが私はぬくもりのある厚生行政につながっているんだろうと、このように思うんです。
 さて次に、この解釈変更の影響についてお伺いをいたしますけれども、厚生省及び総務庁の恩給局の善意がどのような効果を持ったか確認をさせていただきたいと思うんです。
 援護法は、国籍を失えば失権であり、戸籍のない者には適用せずと、こう書き分けているわけでございます。したがって、この通知がなかったとすれば、法の施行時に国籍のない者は自動的に除外されるため、その後また帰化して国籍を獲得してもやはり対象外となってしまいます。しかし、この通知によって旧植民地の国民は失権状態から免れることとなり、戸籍獲得によって権利再生という状況にまた置かれることになると思うんです。そこで、帰化すれば対象となる効果を持つ通知と理解されることになるわけでございますが、これらのことから私は次のことをお伺いさせていただきたいと思います。
 援護法の施行後、旧植民地の国民が日本に帰化し、この通知に該当して適用対象となったケースはどれぐらいあるものなんでしょうか。このことをちょっとお伺いをしたいと思います。

○政府委員(佐々木典夫君) 旧植民地出身の方が日本に帰化して、この通知でどのくらい適用になったかということでございますが、実は、旧植民地出身の帰化をした方が昭和三十七年通知に従って無年金との裁定を受けた件数につきましては、帰化者であるか否かによって区分した統計をとっておりませんことから把握はいたしてございません。

○栗原君子君 ぜひ調査できるものなら私は調査して御報告いただければと思います。
 次に、解釈変更をすれば、未解決の朝鮮民主主義人民共和国の方が帰化をされても適用されないことになるわけでございますが、これはやっぱり公平を欠くことにならないか、このように思うんです。このような不公平な取り扱いについて、政治的、道義的に朝鮮民主主義人民共和国の同意を得る必要があるのではないかなという気がいたしますけれども、ここらあたりはどのように解釈しておられますか。

○政府委員(佐々木典夫君) ただいまの御質問につきましては、この問題が援護法という我が国国内法の解釈について慎重に政府部内で検討した結果、昭和三十七年通知に示されました法律解釈に無理があると、そういった結論に達したことから変更するものでございまして、北朝鮮の同意を得る必要はないものというふうに考えてございます。
 なお、この扱いにつきまして、ここ十年ほど新たな帰化、それからそれに基づく裁定といったような事例がございませんで、実質的にもここ十年来そういったケースもないというのが実情でございます。

○栗原君子君 これの解釈を変更したら、今まで対象となって給付をされていた人に対してこれを打ち切ることになるんじゃなかろうかと思うんですけれども、この点はどうでございますか。

○政府委員(佐々木典夫君) 解釈を変更したことに伴いまして、従来取り扱いをしてきたものはどうなるかということでございます。
 三十七年通知におきます法律解釈には無理があるということでこれを変更せざるを得ないわけでございますけれども、しかしながら、これまで長期間にわたりましてこうした解釈をとってきた経緯もございますので、こうした解釈によって行ってきた取り扱いをどうするかにつきましては、経緯にも配慮しまして検討していきたいというふうに考えております。

○栗原君子君 ぜひ善意ある検討をお願いいたします。
 さて、続きまして私は旧植民地の戦争被害者への戦後処理、またここに戻っていきたいと思います。
 戦後処理の問題に戻ってまいりますけれども、一九九〇年に韓国の盧泰愚大統領が来日をしたときに、戦時中強制連行された朝鮮人の名簿と旧日本軍であった朝鮮人の軍人軍属名簿の引き渡し要求がありましたけれども、このことについてどういう解決がなされているのでしょうか。
 これは四月十四日に衆議院で加藤議員も質問をいたしておりまして、その中に、厚生省は、コピーが大変遅くなっていた、既に八割コピーをしたということを答弁していらっしゃることを私は議事録で確認をさせていただきました。
 それじゃ、あと二割のコピーが残っているのでございましょうが、いつこれは完了して韓国に返すことができるのかどうか、お聞かせください。

○政府委員(佐々木典夫君) 朝鮮半島出身の旧日本軍人軍属の名簿の引き渡しの関係でございます。
 若干経緯を申しますと、この朝鮮半島出身旧軍人軍属の名簿につきましては、平成二年八月に韓国政府から引き渡しの要請があったわけでございます。厚生省といたしましては、要請の趣旨に沿って協力すべく、旧陸海軍から引き継ぎました軍人軍属の名簿の調査作業を直ちに開始しまして、韓国政府に引き渡すための名簿のコピーの作業を進めてまいっているところでございます。
 では、具体的にいつ終えて引き渡しができるかというお尋ねでございますけれども、現在鋭意その作業を進めてまいっているわけでございますが、実は、この名簿のコピーの作業につきましては、名簿の対象者が相当多数に上るということ、それからまた、それぞれの資料が作成されましてから相当長年を経てかなり傷んでいる、損傷しているもの等も少なくございませんで、なかなか困難な作業を伴っているということでございます。私どもとしましては、できるだけ早い時期に外務省を通じて韓国政府に引き渡すことができるように努力をしていきたいというふうに思っております。
 先般、衆議院の審議で八割方というふうに申しましたけれども、それぞれのコピー、膨大な作業量と申しましたが、これが実に物理的に大きな作業を伴ってございます。私どもとしましては、事柄の性格上、できるだけ早く外務省を通じて韓国にお届けできるように、引き続き誠意を持って精いっぱい努力をしてまいりたいというふうに思っております。

○栗原君子君 今も、できるだけ早い時期にということをおっしゃっていただきましたけれども、まかり間違って来年に回るようなことはないですよね。

○政府委員(佐々木典夫君) これまで随分時間がかかっております。私どもも先ほど申しましたようにできるだけ早くという気持ちでございます。かなりのボリュームになりまして、実は八割方の段階で段ボール箱で五、六十箱になるような感じでございます。そんなものですから、やや愚直な作業をいたしてございますものですから、いましばらく時間が要ると思いますけれども、私どもとしては、関係課の職員、これは平常業務の合間を縫ってやるわけでございますが、ひとつ大いにピッチを上げまして御趣旨に沿うよう努力をしたいと思っております。

○栗原君子君 次に、この数年、アジア近隣諸国から、従軍慰安婦の問題を初めといたしましてさまざまな戦後処理や補償を日本に求める訴えが次々に起きてきておりますけれども、私は、こうした背景にはアジアの国々の、特にすぐお隣の韓国、朝鮮民主主義人民共和国もそうでございますが、戦後処理問題が放置されたままの状態であることが大きな原因になっているように思うわけでございます。
 韓国の元日本軍人軍属の戦後処理の問題、中でも、生死確認がなされていないということを大変現地では御心配でいらっしゃるようでございます。韓国にはいまだに、軍属あるいはまた軍人として日本の方に出されて、南方に行ってそのままになっている、そのために戸籍の整理は今まで全く手つかずにある、そういった遺族の人たちがたくさんいらっしゃると聞いているわけでございます。葬式あるいはまた法事もできずに多くの悲劇を生んでいるわけでございます。
 私は、韓国の遺族の気持ちといたしまして、戦争に駆り出した日本が生死の確認をする責任があると思うわけなんです。韓国の遺族の方もそのことをすごく望んでいらっしゃるようにお聞きをするわけでございますが、厚生省は戦後、韓国の遺族に対して直接生死確認の通知をした事実はあるものかないものか、もししていなかったらその理由をお聞かせいただきたいと思います。

○政府委員(佐々木典夫君) 韓国の遺族の方に対して生死確認の通知をしたのかどうかということでございます。
 実は、戦没者の遺族に対しまする死亡通知につきましては、昭和四十六年九月に、韓国政府からの要請に応じまして、全戦没者約二万二千人を登載しました死亡者連名簿を韓国政府に送付をいたしたところでございます。
 それから、そういった措置のほかに、関係御遺族から個別に照会があります場合には、私どもの保管をいたしまする資料を調査いたしました上で回答を行ってきているというところでございます。
 それから、先ほども申し上げましたけれども、厚生省が保管しております軍人軍属名簿につきましては、死亡者だけでなくて、全体の持っているものにつきましてできるだけ早い時期に韓国政府へ引き渡しができますよう、鋭意努力をいたしているところでございます。

○栗原君子君 私は、生死確認の問題というのは援護法以前の問題であろうと思うんですね。生きたか死んだか全く知らせていないという。当時は日本人だったわけです。日本人として駆り出されているわけなんですから、やっぱり駆り出した側の日本が私は責任を持って当然じゃなかろうかと思うんです。厚生省の方では、日本人に対しては生きたか死んだかというのを誠意を持って遺族に通知をしていらっしゃるんです。聞くところによりますと、現在生きていらっしゃる人に対してかつて三回も死亡の通知が行った。自分は生きているのに、三回も死亡通知が来ている。そこまで日本人に対してはやっているわけなんですけれども、全く韓国の人にはそういうことをしていないんです。
 ここに市民団体の人たちがつくられた資料があるんですよ。ずっと年齢があるんですけれども、ほとんど「不明」なんですね。軍人軍属、生きていらっしゃるかお帰りになられたか全くわからないという状況なんです。これらにつきまして、本当に基本的なことであろうと思いますので、生死確認ということ、遺族にきちっとお知らせをしていくということにぜひ努めていただきたいと思うんです。
 それからまた、遺族にとっては、軍人か軍属がそれから労務者で駆り出されたものかも全くわからない状況なんです。こうした補償問題以前の根本的な戦後処理を本当に急いでいただきたい、私はこういうことを思うわけでございます。
 そのために、窓口を開設してもらうことはできないものかと思うんです。例えば、韓国にあります日本大使館などに生死確認のための窓口を設置することはできないものかどうか、これをお尋ねをしたいと思うんです。
 これまで厚生省は、プライバシーの保護ということで、韓国の遺族などが要求している生死確認集団申請を受け付けてきませんでしたけれども、昨年の六月から集団申請を受け付けるようになったと伺っているわけでございます。遺族にとっては、委任状とか戸籍の関係の書類が必要だというのでありますけれども、もう代がかわったりいたしまして、どこかへ引っ越していかれたりとかいうことがありまして、その委任状などもなかなか取りにくい、戸籍の関係の書類なども取りにくいという状況があるようでございます。生死確認の手がかりは、当時日本が強制した創氏改名というのが入っておりまして、韓国のもとの名前でなくして日本名に改名しているわけでございますので、大変またこれが判明しにくくなっているわけでございます。余計に複雑に事がなっているわけでございます。軍人あるいは軍属だったのか、さらには労務者で徴用されたものであるのか、この区別が全くわからないという状況なんでございます。
 特に、私は労働省、外務省にお願いしたいのは、労務の徴用を受けて強制連行された多くの人たちの生死確認問題は、軍人軍属以上にまた深刻であるように、さまざまな事例を聞いているわけでございます。そのために、そういった窓口を開設してほしい、このように思うわけでございますが、いかがでございましょうか。

○説明員(青木功君) いわゆる朝鮮人徴用者等の皆さんの名簿に関しましては、先ほどもお答えを申し上げましたけれども、労働省といたしまして、全国の私どもの行政機関あるいは市区町村あるいは徴用者等を受け入れていた可能性のある事業所などすべてにわたって調査をいたしました。
 その結果、昨年十二月までに十万人を超える方々の名簿につきまして、私ども、ございますもので保有者の了解を得たものでございますが、すべて外務省を通じて韓国政府にお送りを申し上げました。現在のところ、韓国政府の方でこの名簿についてどういうふうな取り扱いをしていただいているかということは承知をしておりませんけれども、いずれにしろ日韓外相会談におきまして韓国側からの要請に基づきましてお送りをしたわけでございます。すべて行っております。
 そういうことで、韓国政府のこれからの取り扱いの方向なんかも参考にしながら、関係省庁と相談しながらただいまお尋ねの件について検討を進めてまいりたいと存じます。

○栗原君子君 ぜひその窓口を開設していただいて、問い合わせをどこへ問い合わせたらいいかそれもわからないような状況でいらっしゃるように思うんです。だから、韓国政府の御協力もいただいて、誠意あるそういった問い合わせの窓口というのを私はつくっていただきたい、このようにお願いをしておきます。
 さて、次に遺骨収集の件でございますけれども、実は韓国の遺族の方は、遺骨収集とかあるいは亡くなった現地に行って追悼もしたいというそういう願いを持っていらっしゃるわけでございます。韓国の太平洋戦争犠牲者遺族会というのがございまして、この中に二万人の人たちが加入をしておられる団体でございますが、会員のほとんどの皆さんがこのことを大変強く望んでいらっしゃるわけでございます。生死確認と同じように、遺骨の収集あるいはまた肉親が亡くなった現地に行って追悼をしたいという願いでございますので、ぜひこのことに誠意を持って取り組んでいただけないものかと思うんです。
 いただきました資料を見ますと、日本人の遺族の人とかあるいはまた慰霊とかいうことについては政府が積極的に取り組んでおられるように思うわけでございます。まだまだ不十分かもしれませんけれども、それなりに取り組みはしていらっしゃるわけでございますが、この韓国の人たちに対してこういったことをやっていただくことはできないものかどうか、お伺いいたします。

○政府委員(佐々木典夫君) 政府が実施しております慰霊巡拝に韓国人遺族の方が参加できるようにできないものかというお尋ねでございます。
 実は、御案内でございますけれども、慰霊巡拝は、さきの大戦によりまして犠牲となった方々の御遺骨を現実問題としてすべて収集することが物理的に困難であるといったような事情もございますので、昭和五十一年度から渡航費用の一部を国費で補助して参加遺族の協力を得て旧主要戦域において実施してきているというものでございます。
 この慰霊巡拝につきましては、現在の日本国を代表して日本政府として慰霊を行う趣旨でやっておりますので、韓国出身の方の御遺族の方々が参加することは困難であるというふうに私どもは考えております。

○栗原君子君 実はエニウェトク島とかいうところがありまして、かつてはブラウン島と言っていたところなんですけれども、ここは玉砕地だったんです。そこでは二百九十人の日本の兵隊が亡くなったんですが、二百九十人のうちの二百三十五人が朝鮮人だったんですよ。もう八〇%が朝鮮人、日本人は五十人しかいなかったんです。南の島々にたくさんそういった激戦地があるわけでございます。そういったところへぜひ行きたいという希望を遺族の方は持っていらっしゃるんですから、私はこのことにこたえていただきたいと思うんです。
 直接政府が遺族の方とか遺族の団体とお話しするのが難しいようなら、ぜひ、韓国の政府に対してこういったことを案内するということはできないものかどうか、お伺いをいたします。

○政府委員(佐々木典夫君) お答え申し上げます前に、事実関係で一つ御説明、御報告をさせていただきますと、ただいま先生お話ございました、ブラウン島とも言っておりますが、エニウェトク環礁と言っているようでございますけれども、これは東太平洋と申しましょうか、かなり離れたところでございまして、トラック諸島から千二百キロほど東北と、こういった説明があるようなところでございます。
 これは、今先生もお話しございましたが、玉砕の地ということでございまして、このエニウェトク環礁あるいはブラウン環礁、いろんな島がまたあるようでございますけれども、その中での戦没者の数というのは、私どもの把握では二千八百九十名というふうな数字を把握いたしてございます。そして、今先生がおっしゃいましたように、確かにその中に朝鮮半島出身の方も軍属としておられたというふうなことが見受けられます。しかし、二千八百九十名の中での数ということで、事実の問題として玉砕ではございますけれども、大半は実は日本の軍人であるというのが実態でございます。それは事実だけでございます。
 それから、じゃ具体的に今のようなことで韓国人遺族の慰霊巡拝の参加要請がある場合に、何らかの対応ができないかということでございます。
 私どもとしましては、先ほど申しましたような形で日本政府の代表ということでやってもらっているわけでございますので、なかなか困難というふうに考えておりますけれども、韓国政府が韓国政府として慰霊巡拝を行うということで日本政府に御相談がある場合には、私ども日本政府としてどのようなことができるか、これはまたよく検討してみたいというふうに思っております。

○栗原君子君 わかりました。恐らく韓国の遺族の方から韓国政府を通じてそういう申し入れもあろうかと思いますが、そのときは誠意を持って対応していただきますようにお願いをしておきます。
 次に、戦没者追悼平和祈念館についてお伺いいたします。
 これはここにありますように、戦後五十年を目途に日本政府は戦没者追悼祈念館、仮称でございますが、総工費百二十三億円で計画されているわけでございます。この中には、三百万人余もの人々の生命が失われと書いてあるわけでございます。
 私はここで一つお願いをしておきたいのは、これは海部総理のシンガポールでの演説でございますが、日本国民すべてが過去の我が国の行動についての反省に立って云々かんぬんと、いろいろあるんですけれども、大変日本国民が皆さんに迷惑をかけたという意味のことをシンガポールで海部さんは演説をしていらっしゃいます。そしてもう一方は、宮澤総理でございますけれども、訪韓のときに、私は過去の事実を直視する勇気、被害を受けた人々の感情への理解、そして二度とこうした過ちを繰り返さないという戒め、ずっとこれは続くんですが、そういった言葉を言っていらっしゃるんです。要するにこれは、私はお二人とも日本の加害のことを謝罪を含めておっしゃっておられるんだろうと思うんです。
 今回のこの平和祈念館なるものは、三百万人ということがありますけれども、三百万人というのは私は日本人だけの数のように思うわけでございます。これはぜひ、アジアのそういった国々で日本の戦争によって多くの犠牲者を出したそういう加害のこともこの平和祈念館の中に精神として入れていただくことができるものかできないものかお聞かせください。

○政府委員(佐々木典夫君) 今計画いたしております戦没者追悼平和祈念館に、アジア諸国に対する謝罪というか、そういったことも入れるべきでないかというお尋ねでございます。
 若干御説明をお許しいただきたいと思いますが、この平和祈念館の設置の趣旨でございますけれども、終戦五十周年を目前に控えた今日でございますが、若い世代の中には、さきの大戦によりまして三百万人を超える方々の生命が失われ、また国民全体が困難な生活を強いられたという事実さえ知らない者がふえてきておるわけでございます。さきの大戦で亡くなられた方々を悼む気持ちも日々薄れつつあるというのが実情ということでございます。
 そこで、厚生省としましては、従来より慰霊碑の建設だとか追悼式の実施などの戦没者の慰霊追悼事業を実施してまいったわけでございますが、このような状況を踏まえまして、戦没者を追悼する気持ちを新たにいたしますとともに、戦没者やその遺族の強い願いでありました恒久平和の実現を祈念するために戦没者追悼平和祈念館を建設することといたしたわけでございます。
 この施設の性格といたしましては、戦没者追悼平和祈念館は戦没者の追悼の意をあらわす施設であることに加えまして、国民の生活面から見た戦争の悲惨さと、戦中戦後を通しての国民の生活上の労苦を後世代に伝えることによりまして恒久平和に資することを目的といたしております。そういったようなことから、アジア諸国等に対します謝罪は目的としてはおりません。
 本施設の設置及び運営に当たりましては、アジア諸国を初めとします戦争の被害をこうむった国々の国民感情を十分配慮しまして、日本国民の平和への願いが伝わりますよう細心の努力を払うというふうなことでおります。
 それではこの平和祈念館は具体的にどういったことをやるかということでございますが、国民生活の面から見た戦争の悲惨さと戦中戦後を通しての国民生活上の労苦を後世代に伝えるという趣旨を実現いたしますために、展示事業、情報提供、研修、研究支援事業、それから資料の収集保存事業、こういった事業を計画いたしてございます。各事業の具体的内容につきましては、ただいま申しました本施設の趣旨、性格に沿った内容といたしますために、今後、有識者から成ります委員会を設置しまして意見を聞きながら検討していくというふうなことで考えております。
 具体的にこの趣旨、目的の範囲内でどのような情報提供を行っていくか、今申しました有識者から成る委員会の意見を聞きながら検討してまいりたいというふうに考えております。

○栗原君子君 今、重大なことをおっしゃったと思うんです。アジア諸国への謝罪を目的としていないというんですよね。そういう精神で政治を担当していらっしゃること、私はとっても怖いと思うんです。これ問題になるんじゃないかと思うんですよ、今の発言は。私はそう思うんです。
 もう時間がなくなりますけれども、遺族の方も高齢化していらっしゃるし、それからまだまだ、韓国また朝鮮民主主義人民共和国を初めとする中国とかさまざまなアジアの国々に対して、戦争の謝罪は終わっていないと思うんです。私はこのことが国際貢献のまず第一歩になるんじゃないか、このように思うわけです。
 歴史は五十年にして繰り返されると言われておりますけれども、既に今カンボジアにPKOが出ておりまして、死者が二人も出ております。先日、小泉郵政大臣が重大な発言をしてくださった、よく言ってくださったなという気持ちが私はするわけでございますが、ここで厚生大臣に最後にお尋ねをいたします。
 きょう援護法の審議をしているわけでございますが、厚生大臣の平和に対する願い、そういったことをお聞かせいただければと思います。

○政府委員(佐々木典夫君) 一言だけ。
 ただいま御説明したわけでございますが、申し上げました設置の目的、趣旨に沿いまして、具体的に展示あるいは情報提供等の事業の中でどのような内容としていくかにつきましては、設置の趣旨に従って有識者から成ります委員会で十分意見を聞きながら適切な対応をするように努力をしてまいりたいというふうに思っておりますので、御理解賜りたいと思います。

○国務大臣(丹羽雄哉君) 御案内のように、さきの大戦において三百万人余もの方々のとうとい犠牲、失われたことに対しまして、私どもこのような過ちを再び起こしてはならないと、まず平和への決意を新たにいたしておるような次第でございます。
 厚生省といたしましても、これまで戦後一貫いたしまして、六百万人余もの引き揚げの問題、そして先ほど来先生から御指摘をいただいております中国の残留孤児の問題、あるいは朝鮮半島におきますさまざまな問題、さらにソ連の抑留問題、こういったような悲惨な状況が続いておるわけでございます。
 私どもは、こういった戦後処理に関しまして、ひとつ誠心誠意、中国残留孤児の問題を初めとする引き揚げ援護の問題、さらに国交が我が国と必ずしも十分でないということから、ソ連の抑留死亡者の遺骨収集の問題あるいは墓参の問題、こういった問題がまだ残されているわけでございます。こういった問題を一つ一つ解決していくことが、私はいわゆる平和を実現する上において欠かすことができない問題だと、このように考えておるような次第でございます。

○栗原君子君 終わります。

○西田吉宏君 質問いたします。
 今も大臣の御答弁にありましたように、さきの戦争では三百万人以上の犠牲者が出た、こういうことでありますが、この大戦が終わりを遂げてもう間もなく五十年を迎えようとしているわけでございます。当時、苦難に満ちた中で、祖国の安泰を願いながら、さらに家族を案じながら戦場またあるいは遠い異郷の地で倒れられた戦没者の方々がいたことを今思うときに、悲痛の思いが胸に迫るものがあるのでございます。戦争で障害を負われた戦傷病者の方々の今日までの苦労について、私どもは忘れることはでき得ません。
 そこでお尋ねいたしますが、今議題になっております援護法の一部改正についてですが、大臣から、障害年金、遺族年金等の支給額を恩給に準じて引き上げるとともに、戦没者の妻及び父母に対して特別の給付金を継続して支給するとの提案理由の説明を先般お伺いしたところであります。
 これは国家補償の精神に基づき、このような戦傷病者の方々や戦没者遺族の方々の援護の向上に資することを目的とするものと考えておるのでありますが、今回の法改正の概要について厚生省からまずお伺いをしたいと思うのであります。

○政府委員(佐々木典夫君) 今回の援護法の改正案の概要でございますけれども、戦傷病者戦没者遺族等に対しましてはこれまで各種の援護措置を講じてまいったところでございますが、この法律案は、戦傷病者戦没者遺族等の処遇の改善を図りますために、援護年金の額を引き上げますとともに、戦没者等の妻、戦没者の父母等に対しましての特別給付金を継続して支給することといたすものでございます。戦傷病者戦没者遺族等援護法、それからそのために戦没者等の妻に対する特別給付金支給法、戦没者の父母等に対する特別給付金支給法、この三つの改正をお願いするというものでございます。
 改正の中身は、援護法の改正につきましては、恩給法の公務扶助料等の基本額が二・六六%引き上げられますことに伴いまして、援護年金の額を恩給の改善に準じて引き上げるということでございます。それから、戦没者等の妻に対します給付金につきましては、現在百二十万の特別給付金を百八十万の国債として継続して支給する。それから、戦没者の父母等に対します給付金につきましては、現在七十五万の給付金でございますが、これを九十万ということで改善をして継続して支給する、こういった中身でお願いをしているところでございます。

○西田吉宏君 そこで、恩給法を補完する援護法に基づく年金改善、これは恩給並び、こういうことのように私は理解をいたしておりますけれども、総務庁に恩給の改善のお考えについてまずお伺いします。
 さらには、もう一点お伺いしておきます。
 戦没者遺族等の皆さん方から、恩給の引き上げについて人事院勧告の公務員給与上昇率を適用して増額を図られたい、こういう要望が出ておりますけれども、対象者が大変高齢化してきております。先ほどもお話しのとおりであります。さらに受給者そのもの自体も漸減をいたしております。こういうことを考慮いたしますと、要望されておるこの問題について、総務庁はどのようにお考えなのかお伺いしたいと思います。
○説明員(小山裕君) まず、恩給の改善の考え方でございますけれども、恩給の改善に当たりましては、恩給が国家補償的性格を有するものであること、そういった特殊性を考慮しながら、公務員給与の改定、物価の変動等そういった諸般の事情を総合的に勘案した上で恩給年額の実質的な価値を維持する、これを基本にこれまでも改善を図ってきたところでございまして、今後ともこういった基本的な考え方に沿って恩給行政を進めてまいりたいと考えております。
 それから、人勧のアップ率を適用して増額改定をしてほしい、これは日本遺族会等の受給者の団体から御要望がある。これは私どもとしてもよく承知しているところでございますけれども、恩給の改定の指標につきましては、従来からそのときどきにおいて社会経済事情等を勘案しながら最も適切な改善指標を採用するという考えで進めてまいったところでございます。それで、現在の諸情勢のもとでは、公務員給与の改定率と物価の上昇、これらを総合勘案する方式というものが最も適当ではないかと考えている次第でございます。
 ただ、このいわゆる総合勘案方式を行うに際しましても、できるだけ公務員給与の上昇率のウエートを高めるということについては配慮しているところでございますので、そういったところを御理解いただければと思っております。

○西田吉宏君 もう一つわからぬ。人事院勧告の八割を基本にする、さらには物価上昇率、こういうことを大体の基本に置いてやっておられるんですが、僕が言っているのは、受給者が減ってきたこういう中で、いわゆる要望されておるのについての対応はいかがなものか、このようにお聞きをしているんです。御答弁はそういうことですから、どうぞ考えていただきたいということを要望にしておきますから、お願いします。
 そこで、先ほど来、さきの大戦問題で残された問題、韓国や中国を初めいろいろ御議論があったところでありますが、私は角度を変えてぜひこの問題をお伺いしたいと思うんです。
 さきの大戦を考えますと、まず、旧ソ連における抑留問題なんです。これは御承知のように、後ほどまたお伺いの中で申し上げますが、約六十万人の方々が抑留をされた、そして約六万人の方が亡くなられたということであります。この事実は絶対忘れることはでき得ない私ども日本人としての問題であります。
 そこで、この悲惨な事実は、御案内のように昭和十六年の四月に結ばれた日ソ中立条約、すなわち不可侵条約であります。これをソビエト側の方は無視をして、ポツダム宣言受諾直前の八月八日に旧ソ連軍が一方的に宣戦布告をした。旧満州、さらには旧樺太等に侵入したという外交上の問題に起因すると思うのであります。
 このような条約違反とも言うようなこの事実の問題、この問題について外務省はどのようにお考えになっておるのか、外務省お見えになっておったらこれ御答弁いただきたいと思います。

○説明員(小町恭士君) お答えいたします。
 ただいま先生御指摘の、日本とソ連の間にございました日ソ中立条約を無視いたしましてソ連側が戦闘行為を開始した件でございますが、これにつきましては、一九四一年四月二十五日に発効いたしました日ソ中立条約は、ソ連側からの廃棄通告によりまして一九四六年四月二十五日に失効することになっておりましたけれども、ソ連は、同条約が依然有効でございました一九四五年八月九日に対日宣戦布告を行いまして日本に対して戦闘行為を開始したわけでございます。このことは、お互いの領土保全と不可侵を尊重することを定めておりますこの条約に違反するものであると認めております。

○西田吉宏君 最近、北方四島においてビザなし渡航が実施をされているようであります。具体的にどのような形で行われておるのか、超法規的なのかどうなのか、この辺についてもお伺いをしたい。過去の経緯等を踏まえつつ政府の御見解を伺いたい、このように思います。

○説明員(小町恭士君) お答えいたします。
 今先生御指摘のいわゆるビザなし渡航というものは、一九九一年四月にゴルバチョフ大統領訪日の際に両国間で合意されたものでございますけれども、いわゆる領土問題の解決に資するという目的を持って北方四島の住民と日本国民との間の交流を促進するものでございます。
 昨年四月第一回が始まりまして、昨年、北方四島に住んでおりますロシア人の方々が四回、それから日本側から三回訪問団が訪問いたしまして、ことしも四月から交流が始まっておりますけれども、ことしにつきましても昨年を上回る交流をやっていきたいと思います。
 目的は、この交流の結果、特に北方四島に住んでおりますロシア人の人々が持っております日本についての誤解や不安を解消することにあるわけでございまして、そういった不安が解消されつつあるというふうに我々は受けとめております。
 こういった交流を通じまして、領土交渉によい影響が出てくることを期待しております。

○西田吉宏君 日本を理解さすんだということで僕は一定の理解はいたしますけれども、今現在、日本列島全体で、しかもここでサミットが開かれる中で大変領土問題が言われているんです。こういう中で私は大変不可解な問題だな、こういうふうに考えますことが一点。
 それからもう一点は、かつて衆議院でもこの議論があったと思うんですけれども、我が国固有の領土だと我々は言っているんです。ところが、ソビエトのビザをもらって北方領土へ取材に入ったというようなマスコミもあるんです。だからこの辺はきちっと外務省、私は日本を理解してもらうということは理解できますけれども、外交上の問題ですからきちっとやってもらいたい、こういうふうにあとは要望しておきたい、こう思います。
 抑留者の悲惨な生活状況については出版物が出ておりますけれども、私もこれを読みました。これでうかがうことができます。政府において、総理府の平和祈念事業特別基金、これはたしか昭和六十三年設立の分で五年をめどに大体二百億基金が造成をされる、今後四百億円に拡大の予定だ、こういうふうに聞いておるところでありますが、こういう問題でいわゆる出版物等調査を含めてやっておるようでありますけれども、この事業の趣旨及び調査等による当時の生活状況をどのように把握しておられるのか、この点について総理府の方からお伺いしたい。

○説明員(大坪正彦君) お答え申し上げます。
 ただいま先生言われましたとおり、昭和六十三年から平和祈念事業特別基金法に基づきまして平和祈念事業をやっておるわけでございます。
 この趣旨といたしますところは、先ほど先生言われましたシベリアあるいはモンゴルヘの戦後強制抑留された方、それから元軍人軍属で在職年が短いために恩給の資格年限に満たないいわゆる恩給欠格者の方、それから戦後海外から引き揚げられた方、この三分野の方々に対しまして、その御労苦に対しまして慰藉の念を示す事業、これを平和祈念事業として私ども総理府で行っている状況でございます。
 具体的には、そのやり方は二つのやり方をやっておりまして、一つには、関係者の方々、個々の方々にその御労苦に対して慰藉の念を示す内閣総理大臣名の書状等を贈呈する個別の慰藉事業、それからもう一つは、先と言われました調査研究も含めまして私ども一般慰藉事業というふうに言っておりますけれども、広く一般国民の方々にそういう苦労というものをお伝え申し上げて、それを通して慰藉の念を示すという一般慰藉事業をやっておるわけでございます。
 その調査研究の一環としまして、どのような苦労があったのか、どのような苦労を皆さんされたのかということを三分野の方々それぞれにお聞きをして、今先生のお手元にありますような本、それはシベリアだけの本でございますが、三分野それぞれにこういう本をつくっております。今それを日本国内の図書館を中心に配っておるわけでございますが、それを通しまして、皆さんの苦労というものを国民の方々に知っていただきたいということでの事業をやっておるわけでございます。

○西田吉宏君 それで、苦労された抑留者に対しての何らかの措置を行うことは当然国として必要なことであると私は考えるんです。平和祈念事業特別基金においてこれらの方々に対して慰藉事業を実施しているようでありますが、この概要について総理府にさらにお伺いをしたい、このように思います。
 もう一方、厚生省にお伺いをいたしますが、日本への帰国を願いつつ旧ソ連地域において非命に倒れられた方々に対して、国として遺骨収集、墓参などを積極的に行うべきだ、このように私は考えるのでありますが、厚生省のお考えをお伺いしたい。さらに、実施計画があるのならばお示しをいただきたい、このように思います。

○説明員(大坪正彦君) 先に、個別の措置のお話についてさらに御説明させていただきます。
 三分野の方々につきましてそれぞれ個別の措置といいますか個別の慰藉事業をやっておるわけでございますが、まず、シベリア抑留の方々に対しましては、恩給をもらっておられない方には十万円の慰労金、それから銀杯、書状、この三点セットをお渡ししております。それから恩給を受給されている方につきましては、十万円は御遠慮いただいて、そのかわり銀杯を三つ重ねということで、書状と銀杯三つ重ね、これを恩給受給されている方にはお出ししております。
 それから、いわゆる恩給欠格者の方につきましては、全員ではございませんで、外地経験があってさらに加算年を入れて在職三年以上勤務された方に限らせてはいただいておりますけれども、書状と銀杯それから慰労の品、この三点セットの個別の慰藉事業をやっております。
 それから、引揚者の方に対しましては、書状をお出しするという個別の慰藉事業をやっております。

○政府委員(佐々木典夫君) ソ連抑留中死亡者の遺骨収集、墓参等についてお答え申し上げます。
 ソ連抑留中死亡者の遺骨収集、墓参等の慰霊事業につきましては、関係御遺族の心情を踏まえ、また、昭和三十一年の日ソ共同宣言以来機会あるごとに実は相手国ソ連側と交渉を進めてまいったわけでございます。
 その結果、平成三年四月に日ソ両国政府間におきまして遺骨収集等の基本的枠組みを定めました協定が締結を見た次第でございます。これに基づきまして遺骨収集、それから新たな埋葬地への墓参の道が開かれたところでございます。
 この平成三年の協定に基づきまして、平成四年度から本格的に遺骨収集、それから墓参に取り組むこととしたわけでございまして、平成四年度におきましては、ロシア連邦内のチタ州ほか五地域におきまして遺骨収集を実施したところでございます。合わせて九百五柱の御遺骨を収集したところでございます。また、墓参につきましても、チタ州等四つの地域におきまして実施をしたということでございます。
 今後でございますが、本年度におきましては、本格的実施の二年目といたしまして、引き続き抑留中死亡者の九割以上を占めますロシア連邦内のチタ州、ハバロフスク地方、イルクーツク州、プリモルスク地方、それからアムール州、この五つの地域におきまして遺骨収集及び墓参を実施する予定といたしております。
 以上のような形で遺骨収集、墓参を実施することといたしてございますが、その本格的実施が始まったばかりでございますけれども、関係御遺族の心情、それから何分にも関係の皆さんの高齢化が進んでおりますことにかんがみまして、その実施につきまして最大の努力をいたしてまいりたいというふうに考えております。

○西田吉宏君 時間がございませんので、答弁も端的に言ってください、僕も端的に質問いたします。
 ゴルバチョフ当時の大統領が平成三年四月に訪日をいたしております。このときに遺骨収集等に関する日ソ間の協定が締結されたことは今おっしゃったとおりです。ソ連抑留中の死亡者の名簿、当時は三万八千人、このようにお聞きしておりますけれども、これを提供された、こう聞いております。日本への帰国を願いつつ旧ソ遠地域において非命に倒れられた方々の氏名を明らかにすることは遺骨収集と並んで重要な事業である、このように思うのであります。
 名簿登録者の特定作業の進捗状況、先ほどは韓国で段ボール箱六十杯ほどあるんだ、こういうお話ですけれども、じゃソビエトの問題、今現在の進捗状況はどのように進んでいるのか、この辺をお聞かせください。時間がないから端的に言ってください。

○政府委員(佐々木典夫君) ゴルバチョフ大統領来日時に提供がありました名簿は、三万八千名ほどの氏名が記載されております。実は、いろいろ精査いたしますと二千名の重複があったというようなことで、重複者を除きました三万六千六百名について整理をいたしまして、現在までに、約六割でございますけれども、二万二千名について特定ができたというような状況でございます。これまでに現住所が把握できた一万一千三百名の遺族に名簿の記載内容をお知らせいたしてございます。
 ただ、何分田ソ連政府から引き渡されました名簿につきましては、埋葬地ごとに氏名、生年、生年、月日じゃございません、生年だけなんですが、それから階級と死亡年月日が記載されておるにとどまっておりまして、本人の特定に必要な本籍地だとかあるいは生年月日といったような記載が欠けております関係で、照合作業には困難を伴っておるというのが実情でございます。
 しかしながら、さらに引き続き努力をしていきたいというふうに思っております。

○西田吉宏君 今三万八千人のうち二万二千人までできた、こういうことですから、私は、さらに、現ロシア政府が個人資料として保管していると聞いておる、六万人ほどと言われておりますから、特定作業を進捗させるためにこれらの資料を入手すべきだ、このように思うんです。そういうお考えはどうなんですか。

○政府委員(佐々木典夫君) ただいまも申しましたけれども、先般提供を受けましたソ連側提供の名簿、抑留死亡者名簿につきましては今ございましたとおりで、数の上でも実は私どもが把握しております数に満たないということで、提供された名簿がそのすべてというふうに考えておらないところでございます。
 そこで、厚生省といたしましては、ロシア政府によりまして詳細な死亡者の個人資料が保管されていることを承知いたしておりますので、その個人資料の提供が得られますればただいまの氏名の特定等は確実に進捗できるものと考えておりますので、外交ルートを通じまして、ロシア政府に対して未提供分の名簿も含めまして詳しい資料の提供方について申し入れを行いまして、実は昨年来職員を派遣する等、鋭意交渉を行ってまいっております。
 私どもとしましては、やはりソ連側から提供を受けた名簿が、先ほど申しましたように足らない点等がございますので、できる限り多くの名簿登載者を特定して遺族にお知らせできますように、ただいまの個人資料等の早期入手に努めまして努力をしてまいりたいと思っております。

○西田吉宏君 それでは、あと中国残留孤児、さらには中国残留婦人関係についてお伺いしたい、こう思うんです。
 中国残留孤児さらには残留婦人問題についてのそもそもの始まりは、先ほど申し上げましたように、昭和二十年の旧ソ連軍の参戦に起因するものだと私は考えるのであります。
 満州地域等の一般邦人は、混乱のうちに避難を開始した。多くの者は着のみ着のままで、また徒歩で避難をした、そういうような状態であると私は聞いております。もちろん食料や衣料も不足をしており、不安も募る、こういう状況であったわけであります。このことをきちっと覚えておかなければならない。
 この記述が案外日本人にはわからない。残留孤児はわかるんだけれども、どこに起因があるかということは案外日本人は知らない、こう思うんです。我々日本人はこれは心に銘記しておかなければならない記述だ、このように考えておるところであります。厳冬の中を徒歩等でさまよいながら随分多くの犠牲者を出したわけであります。
 そこでお伺いをいたしますが、昭和五十六年の三月から開始された訪日調査等を通じて、このような中国残留孤児、残留婦人の方々は現在で何人ぐらい把握されているのか、どのような施策が講じられておるのか、先ほどもお話がありましたけれども、私からも端的にお伺いしておきたい、このように思うのであります。
 さらに、時間の関係がありますからもう一つ関連してお伺いをしておきます。
 五十年近くもなりますと、関係者、特に中国残留婦人などは高齢化が大変進んでおります。この問題に対する厚生省、先ほどもお考えがございましたけれども、私はまた角度を変えて申し上げておるのでありますから、その辺の認識等についてもお伺いをいたしたいと思います。

○政府委員(佐々木典夫君) 中国孤児あるいは残留婦人等の調査の実施状況あるいは孤児数、婦人数等でございます。
 平成五年四月一日現在で、日中両国政府間で把握をいたしております残留孤児数は二千四百五十七名でございます。それから、中国に在住しております婦人等は千八百名程度というふうに私ども把握いたしてございます。
 これまで中国残留孤児のうち、訪日調査によりまして身元が確認された者が千二百三十四名、約五〇%でございます。それから、訪日調査は平成五年度におきましても引き続き実施するということにいたしております。
 それから、訪日調査によりましても身元が判明しなかった孤児も相当あるわけでございますけれども、身元未判明孤児につきましては、孤児名鑑を作成して全国の市町村に備えたり、あるいは当時の事情に詳しい元開拓団関係者を調査員としまして各都道府県に配置するなど、きめ細かな肉親調査を実施いたしてございます。
 具体的な対応策としましては、残留孤児あるいは残留婦人等の帰国に当たりましては、従来より帰国旅費や自立支度金の支給あるいは落ちつき先における自立指導員、自立支援通訳の派遣といった施策を講じておるところでございます。
 本年度におきましては、従来は孤児のみを対象としておりました定着促進センターでの研修についても、残留婦人等のうち日本語に不安があるといったような方などを対象としまして、必要のある者をセンターへ短期入所させるといったような措置を講じているところでございます。

○西田吉宏君 時間がございませんので、戻りますけれども一点だけお伺いをしたいんです。
 先ほどの質問の関連にもなりますけれども、サンフランシスコ条約で国籍をお外しになった方、この問題が出ました。終戦当時、例えばまだ若い方で子供を残しながら夫は戦死してしまった。そしてあの混乱の中で生きていくのにどうしようにも頼る人がいない、したがって再婚をした。しかし、子供を連れて再婚するんですから、なかなかうまくいかなかった。離婚をしてしまった。その後も、この援護法も恩給法も全然その問題について適用されない。こういうことで、法は法だからわからぬことはないんですけれども、先ほど言いますように高齢化してきた。受給者も漸減してきた。
 こういうことで、こういう問題はもう一度考える問題じゃなかろうか、こう思うんですが、ひとつ厚生省の方からこの問題についてお伺いをしておきたい。簡単に言ってください、僕はあと二分しかないから。

○政府委員(佐々木典夫君) ただいまの先生の御指摘につきましては、よく調べさせていただきたいと思います。後ほど御報告させていただきたいと思います。

○西田吉宏君 前向きに検討してくれるということですか。

○政府委員(佐々木典夫君) 御趣旨をさらにちょうだいいたしまして検討させていただきたいと思います。

○西田吉宏君 そうですか。
 大臣、冒頭申しましたように、戦後半世紀近くたったわけであります。戦没者らの遺族も高齢化をしてきております。痛ましい戦争と今日の繁栄の基礎を築いてくれた私どもの先人であり先輩である、こう思うわけであります。やっぱりこれも一つの日本の歴史の中の記述に残しておかなければならない。そう考えると、私も、終戦のときには国民学校五年生であった者がもう今この年になってきておるんです。もう最後の年代だな、こういう気がしてならないわけであります。
 ソ連のいわゆる参戦に伴いまして、ソ連の抑留者問題、さらには抑留中に死亡された方々の問題、または中国残留孤児、残留婦人、こういうものの援護施策について今後とも積極的にひとつ施策の進展を図ってもらいたい、このことを要望しながら、大臣の御所見をお伺いして、質問を終わりたいと思います。

○国務大臣(丹羽雄哉君) 先生からただいま御指摘を賜りましたように、戦後半世紀を迎えようとしておるわけでございますけれども、ただいま御指摘のあったようなソ連の抑留中の死亡者の遺骨収集の問題であるとか、あるいは墓参の慰霊事業であるとか、さらに先ほどから御議論を賜っております中国残留孤児あるいは中国残留婦人の帰国の問題、さらに定着の促進の問題、こういったさまざまな問題についてなお私どもが力を注がなければならない問題が残されていることは紛れもない事実であります。
 これらの問題につきましては、いずれにいたしましても、関係者のお気持ちというものを十分に尊重しながら、先ほど御指摘ありましたように、皆様方大変高齢に達しておるわけでございますので、できるだけ速やかに最善の努力をしていく決意でございます。

○委員長(細谷昭雄君) 本案に対する午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時まで休憩いたします。
   午前十一時五十八分休憩
     ―――――・―――――
   午後一時二分開会
○委員長(細谷昭雄君) ただいまから厚生委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き、戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案を議題といたします。
 質疑のある方は順次御発言願います。

○木庭健太郎君 戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案の審議に当たりまして、まず冒頭、午前中も議論がありました三十七年通知、いわゆる帰化した北朝鮮、台湾出身者の取り扱いの問題についてお尋ねをしたいと思います。
 この問題は、私、去年同じことを質問いたしました。そして、明快な答弁をいただいたわけでございます。明快な答弁とは何かというと、帰化した場合は、この場合まだ北朝鮮、台湾については正式な条約が結ばれておりませんので、帰化した場合は援護法の適用となります、そういう御答弁をいただきました。昨年の五月十九日の質疑でございます、一年たっていないわけです。
 午前中も少し何かそういうお答えをされていたようですけれども、国会で明確に答弁されたものが、わからないうちに突然そんなふうになってしまう。あの答弁は一体何だったのか。私は、国会に対する答弁というのは、一応責任を持った形での答えだと思っております。その意味では極めて遺憾である。
 普通、政府が方針を変えたりする場合は、私どもが質問をしても、検討いたします、勉強いたします、そう何回も繰り返しをなさって、その上でもなかなか答えが出てこない。ところが、この問題に関しては、明確に答えておきながら、一年もたたないで全く違う法解釈をする。前国会の場合、そういう検討を始めた、そういうことも考えなくちゃいけない、そういう御答弁があっているなら私もその結果として受けとめざるを得ません。しかし、言い切られたことが一年もたたずに変更になる。どういう趣旨なのか御説明をいただき、どういうふうな形で変わったのかの答弁をいただきたいと思います。

○政府委員(佐々木典夫君) お答えをいたします。
 昨年の当委員会で、北朝鮮の方々については帰化すれば援護法の適用をするという取り扱いをしてきていると、その旨の答弁をしているにもかかわらず、これを変更する答弁をしている、この間の事情を御説明するようにということでございます。
 実は、三十七年通知、それからその通知の解釈を前提といたします四十一年通知における取り扱いでございますけれども、援護法におきます朝鮮半島及び台湾出身者が日本に帰化した場合の取り扱いにつきましては、昭和三十七年以降援護課長通知によりまして、個人の意思に基づかない一方的国籍喪失は援護法の国籍喪失に当たらないとの解釈をとり、年金等を支給する取り扱いとされてきたところでございます。
 なお、韓国籍の方につきましては、日韓請求権協定の署名の日、昭和四十年六月二十二日でございますが、以降において、たとえ我が国に帰化した場合であっても援護年金等は支給しない取り扱い、このような取り扱いがなされてまいったわけでございます。
 しかしながら、同通知におきます個人の意思に基づかない一方的国籍喪失は援護法の国籍喪失に当たらないとの解釈について、昨年以降、各方面と御相談し、慎重に検討を重ねた結果、一つに、サンフランシスコ平和条約の発効に伴い日本国籍を喪失した者について、援護法において日本国籍を喪失していないものとして取り扱うことには法制的に無理があること、二つには、援護法は恩給法に準拠して制定された法律であるわけでありますが、恩給法における国籍喪失の解釈との整合性がとれないこと、この二点からその法律解釈には無理があるとの結論に達したところでございます。
 以上のことから、昨年の当委員会での御答弁を変更せざるを得ないということでございまして、まことに申しわけなかったものと考えておるところでございますが、御理解を賜りたいというふうに思っております。

○木庭健太郎君 理解賜れと言われても、理解賜れないですよ。大臣もよくわかるでしょう、国会答弁というのがどういうものかというのは。その辺が今回の厚生省の対応というのは私は非常に不明確である。
 じゃ、各方面と検討されたとおっしゃいましたから、各方面とはどことどことどこと、だれとだれと、いつ、何回、どういう慎重な審議をなさったのか、御答弁いただきます。

○政府委員(佐々木典夫君) お答えをいたします。
 昨年、実は恩給法との解釈の違いにつきまして、軍人と同じ援護対象者を対象とする援護立法であり、なおかつ恩給法、援護法ともに国籍条項があり、なおかつ同じような表現の国籍条項のもとで恩給法におきます国籍喪失の解釈と援護法におきます解釈の食い違いを御指摘いただきました経過がございまして、以降、この解釈につきまして、慎重に検討をしてまいったということでございます。
 それで、ただいま具体的に関係各方面とどのような形で検討してきたのかというお尋ねでございますが、この問題に関しましては、国籍条項や援護法にあります戸籍条項のそもそもの趣旨、それから国籍の喪失を通知によって限定できるか、それから恩給法の解釈との整合性などにつきまして、総務庁恩給局や内閣法制局との御相談をするとともに、厚生省内部におきましても慎重に検討を重ねてまいったところでございます。
 その結果、先ほど申しましたような法的に解釈に無理があるという結論に達しまして、今回解釈の変更をせざるを得ないと判断をいたした次第でございます。

○木庭健太郎君 慎重に審議をなさったとおっしゃいますけれども、これは要するに個人の権利にもかかわる重大な問題でございます。それならば、こういう問題についてのそういう整合性がないという問題を指摘されたならば、厚生省内にきちんとした検討委員会を設けられて、その上で他省庁とも検討し、もしくはこういった問題の関係機関の方にも御相談をする、それが慎重というんじゃないでしょうか。どういう形でやられたかというのが明確じゃないですね。厚生省は慎重にやっていると言うけれども、考え方を変えただけでしょう。何を慎重にされたがが見えてこないんですよ。
 じゃ、毎月何回も何回も会議を開かれてやられたんですか。検討委員会を設置されてやられたんですか。どういう慎重な検討をなされたんですか。

○政府委員(佐々木典夫君) どのような形での慎重な検討をしてきたかというお尋ねでございます。
 私ども、省内に検討委員会をつくるというような形をとっての検討はしてまいりませんでしたけれども、社会・援護局内そして官房で繰り返し検討、相談をさせていただき、それから先ほども申しましたけれども、関連いたします総務庁恩給局それから内閣法制局とも何度となく検討、御相談をさせていただいた上で結論を出した次第でございます。

○木庭健太郎君 先ほど、この取り扱い、いわゆる帰化した方がどれくらい援護法の適用になったかという質問が午前中あっておりました。
 さきの衆議院の法案審議のときに厚生省がおっしゃっているのは、この十年間はなかったとおっしゃっていたんじゃないですか。調べられたんじゃないですか。都合の悪いことは言わない。調べたなら調べた結果をお話しになればいいじゃないですか。どういう状況だったからどう判断したという、経過はどんなことになっているんですか。

○政府委員(佐々木典夫君) 帰化者からの裁定の状況等でございます。
 実は、先ほども御答弁申しましたけれども、日本に帰化した援護年金等の請求をしあるいは裁定を受けた者の数につきましては、帰化者か否かによって区分した統計をとっていないということ、あるいは裁定原本が膨大でございまして、過去にさかのぼってすべてを調査することは実際上不可能であることから、全体の把握をすることは困難というふうなことでございます。
 しかしながら、先ほども御答弁申しましたけれども、最近の状況につきましては、この十年につきましては帰化に伴います新たな申請あるいは裁定等はございませんでした。そのことは確かに確認をいたしたところでございます。

○木庭健太郎君 これをお決めになるときに大臣に御相談されたんですか。

○政府委員(佐々木典夫君) 先ほど御答弁申しました関係省庁あるいは私どもの局、官房とも御相談の上、大臣にも御報告、御了解を賜りまして国会で御答弁申し上げました、あるいは今回御答弁を申し上げているというような考え方をとっているところでございます。

○木庭健太郎君 大臣、この問題というのは物の考え方だと私は思っているのでございます。
 確かに、恩給法の今のあり方から考えていけば、結論として法解釈としてこういう結果にならざるを得ない。それを三十一年間放置したということに対して非常な問題が厚生省として残るということになるわけです。
 別の考え方もあるわけでございます。私は、前回のこの法案の審議のときに何を指摘したかというと、国籍要件というのはこれからの時代の中でどう考えていけばいいかということを指摘しました。
 なぜかというと、日本も難民条約締結後はこういう国籍要件の問題についてはだんだんなくす方向で検討をし、今実質国籍要件が残っているものは援護法それから恩給法そして生活保護法、私の記憶ではこの三つが中心になっていると思います。ほかの問題では随分なくなってまいりました。それが世界の一つの流れでもある。
 日本が真の国際国家になるためにはどうすればいいか、そういうものを検討するときの一つの試金石がこういう問題ではないかという指摘もいたしました。それは、今の厚生省の考え方からいったらかなり難しいことも知っております。知っておるから指摘もし、そういう問題も検討しなければならない、その流れの中でこの問題の質問もいたしたわけでございます。
 考えるならば、要するにこの帰化の問題は、確かに現行法上でいけば極めて整合性がない。国と国の取り決めという問題で難しい問題もある。それがわかっていながらこの課長通知が出ていた。課長通知一片で決めることが問題だ、厚生大臣はそうおっしゃっている。それもそうでしょう。ただ、今の時代の流れの中でこれをどう考えるかが大事なんじゃないか。
 例えば、考え方として、この通知は通知として、解釈としては極めて難しいところも残しておいて、国籍要件という問題を本格的に考えるに当たって再検討するという方法もある。この帰化という問題について、慎重な検討をなさったならば、本来は法解釈を変えるのか、それともこれをきちんと残すために逆に言えば法制化の道をとるということもできるわけです、特例措置で。やろうと思えばできないはずはないんです。
 そこは、逆に言えば、厚生省の皆さんの判断というよりは、大臣がこの戦後の問題をどうお考えになり、今の時代、国際化社会の中でどういうふうに日本の国を位置づけていくかという問題を考え、それから一つは戦後責任の問題がずっと大きな問題としてクローズアップされている、その中でどうとらえるかという、まさに大臣が判断すべき問題である。
 だから、正直言って、厚生省が結論を出す前に、大臣としてはこういう問題についても何回か事前にお聞きになり、その中で考えた上での結論であるのかどうかというのが私は極めて疑問である。官僚の方々が一生懸命に現行法制を考えて、見てきて、その枠内だったらこうだという結論を出して大臣に持っていった。大臣は、しょうがないなと。これじゃ、大臣がいらっしゃる意味がなくなってしまうんじゃないかとすら私は思います。
 基本的考えが大臣と私とどう違うのかは別問題として、慎重な検討とおっしゃるならば、そういった問題も含めてこれは検討すべき問題ではなかったのか、私はそのように考えますけれども、大臣の御所感を伺いたいと思います。

○国務大臣(丹羽雄哉君) 戦争という非惨な結果、さまざまな問題がきょうも午前中からいろいろ御指摘されておるわけでございまして、そういう中で私どもが予期し得ないようなことが、またその当時わからなかったようなことが次から次へと生じてきておる。こういう中で、私どもは、基本的に私どもができる範囲の中で精いっぱいの誠心誠意の取り組み方をしておる。こういう基本的なスタンスにおいてはまさに木庭先生と私のスタンスは同じではないか、こう考えております。
 この戦傷病者戦没者遺族援護法でございますが、この問題は、先ほどから審議官が御答弁を申し上げておるわけでございますけれども、基本的に、これが発足した当時から、この適用範囲でございますが、まず恩給法に準拠しておる、このことであります。それから二番目といたしましては、朝鮮半島やあるいは台湾などいわゆる分離独立地域においてはもう既に外交的な解決にゆだねられておるわけでございます。こういうことでありますので、この問題で要するに国籍要件を撤廃するということは現実的に不可能であるということも、また先生もバランス感覚がすばらしい先生でございますので、十分に御理解を賜っておるようでございます。
 そういういわばいろんなところから、大変いろいろな過去の経過があったわけでございますけれども、やはり不勉強な点があったこともこれは率直に認めざるを得ないと思います。しかし、三十七年の課長通知でございますけれども、いわゆる国と国との条約を一片の課長通知によってこういうような方針を出すということにどだい私は無理があったのではないか。
 そういう意味において、いろいろな考え方があったわけでございますけれども、やはり私ども行政というのは長い歴史の中で、これはもう本当にお許しをいただきたいのでございますが、人間のやることでありますので過ちもなきにしもあらずでありまして、過ちを正すことにはばかることなかれ、こういうことで、この際率直に深くこの問題について今までのことは間違っていたということを、今後揺るぎない行政の継続性等を維持していくためにもやむを得ないのではないか、こういう判断に立ちまして、先ほどから御答弁を申し上げているような解釈にさせていただいたということで御理解をいただきたいと思います。

○木庭健太郎君 御理解と言われても、この問題に関しては経過、たどり方からいって、バランスの問題もあるでしょう、でも、どちらかというと、今後の方向性としてこの国籍要件という問題はいずれ真剣に取り組まざるを得ないと私は思っているんです。今後の方向性として、各国がどういう対応をしているかまで指摘したいですけれども、きょうはやりませんが、そういった問題も含めてきちんとやるべき問題であるし、本来これはもう即座に撤回していただきたいような、私の主張でございます。
 それはそれとして、水かけ論みたいになってしまいますのでこれ以上は言いませんけれども、ただ、厚生省の方にきちんと申し上げておきたいのは、国会答弁を本当にどう考えていらっしゃるかということについては、私は今、質問を直ちにやめて、理事会に諮ってもらって、何なんだこれということをやってもいいくらいの本当は気分でもいるんです。その辺は、今後どういう方向性でやっていくということが見えるのであればそのことをきちんと御答弁をいただきたいし、言ったことを百八十度返すようなことを、全く本人のあずかり知らないところで突然持ち出してというようなやり方は余りにもやり方として非礼であるということを申し述べておきたいと思っております。
 この問題だけやるともう時間がなくなってしまいますので、あとほかの問題を幾つか聞きたいと思います。
 一つは、私の地元であります福岡県北九州市の小倉南区にありました東京第二陸軍造兵廠曽根製造所における毒ガス障害の実態の問題でございます。
 これも昨年社会党の浜本先生が指摘をなさっておりまして、当時はまだ状況がよくわからないということでございましたけれども、その後調査した結果、どういう実態が明らかになったのかというのをまず明らかにしていただきたいと思います。

○説明員(五味廣文君) この曽根の製造所の件につきましては、正規の職員として雇用されておりました方々は旧令共済組合員でございまして、現在国家公務員等共済組合連合会がその仕事を受け継いでおります。したがいまして、大蔵省の方から御答弁をさせていただきます。
 この旧東京第二陸軍造兵廠の曽根製造所でございますが、ここで砲弾に忠海の製造所でつくられました化学ガス、いわゆる毒ガスを充てんする作業をしておったということでございまして、私どもいろいろ調査をいたしました結果、その作業の大体の概要はつかめました。
 イペリット、ホスゲン等のガスを砲弾に充てんする作業をここでしておったということでございます。ただ、公式記録がございませんので、どのくらいの規模のことが行われていたかという詳細についてははっきりいたしませんけれども、そういった作業が行われておりましたことは事実でございます。また、その充てん作業に従事をいたしました結果として、こういったガスに被爆をいたしまして呼吸器障害等の後遺症を持つに至った方がおられるということもはっきりしてまいりました。
 したがいまして、今般、こういったことについて御指摘のように措置をとるということにしたわけでございますが、具体的な被害の実態というのはまだ現在はっきりしておりませんが、この四月から旧令共済組合員でございました方々につきましては救済措置を開始いたしまして、本年の四月二十日に第一回の調査委員会、これは一般障害者としての認定をして障害手当等の支給を行うということのための審査委員会でございますが、これを四月二十日に開催をいたしましたところ、三百五十二名の方がここに申請をなさいました。このうち三百十二名の方が一般障害者として確認をされたということでございます。
 なお、まだこういったことに対する新たな申請等も出てくるかと存じますが、今後こういった措置を続けてまいりますと実態がさらに明らかになってくるということであろうと思いますが、とりあえず現時点で明らかになっておりますのはそのようなことでございます。

○木庭健太郎君 この製造所に関しましては本年度から健康診断も実施するというふうに聞いておるんですけれども、その内容、対象者数について大蔵、厚生両省からお伺いしたいし、医療費、各種手当の支給についてもどういうふうな形を考えているかを教えていただきたいと思います。

○説明員(五味廣文君) 曽根製造所の従業員の方に対します救済対策、旧令共済組合員でありました方たちにつきましては、先ほど申し上げましたようにこの四月一日から救済措置を開始しております。
 その内容は、忠海の被害者の方と全く同様でございますが、一つは一般障害者としての認定、これをお受けになりますと医療費、これは自己負担当分が支給をされる。それから健康管理手当といたしまして、ガス疾病等と診断された方は平成五年度の単価で月額三万一千四百四十円、また、さらに介護を要するという方につきましては、一般介護では月額十万千三十円、家族介護の場合には月額二万九十円という介護手当が支給をされることになります。
 なお、ガス疾病と診断を受けました後に、当分の間医療を受ける必要がない、一時的に治ったようであるというような診断を受けられたけれどもやはり再発のおそれもある、このような方の場合には、保健手当という手当がございまして月額一万五千七百二十円が支給されることになります。
 なお、曽根の場合にはまだ開始をしたばかりでございますので該当者がございませんが、このほかに認定患者という制度がございまして、一般障害者としての確認を受けられた方のうち症状が療養が必要であるというように認定をされた方、この方には別途療養の給付として自己負担金相当が支給されますほかに、特別手当という形で月額九万四千三百二十円、医療手当という形で、これはこの認定の患者さんのうち療養を受けている方について、一定の要件を満たす方につきまして月額三万三千六百五十円または三万一千四百四十円、入院日数、通院日数等に応じてこの二種類ございます。また、介護を要する方については月額十万一千三十円、家族介護の場合には月額二万九十円、こういった各種医療手当等が支給されることとなっております。
 それから、健康診断につきましては、これらに加えまして、毎年該当なさる方について健康診断を実施する、こういうことになっております。

○政府委員(谷修一君) 旧陸軍の曽根製造所におきますいわゆる動員学徒等の方々の実態につきましては、私どもまだ十分に把握はしておりませんが、その当時の工場長さんの話によりますと、百五十人ぐらいそういう方がおられたのではないかというふうに聞いております。
 ただいま大蔵省の方からも御答弁ございましたけれども、この旧曽根製造所におられたそういった一般の方と申しますか、そういう方に対しての措置といたしましては、平成五年度から、現在広島県の大久野島の旧陸軍造兵廠忠海里造所の関係でやっております対策と同様の措置をとるということで考えておりまして、具体的には健康診断あるいは健康管理の手当あるいは介護手当等の支給をするということで考えておりますが、これはこれから実施をするということでございます。

○木庭健太郎君 この毒ガス被害について、今まで明確な証拠がないということでなかなか救済の手がなかったんですけれども、今回、ようやく半世紀ぶりにこういうことが動き始めたということは私は画期的なことだと思っているんです。
 ただ、この曽根製造所、半世紀近くたっておりますので、もう既に亡くなった方もいらっしゃるとお聞きしております。救済を受けないまま毒ガス障害というもので亡くなった方がいらっしゃる。そういう人たちについても、人数とか実態、まだ生きていらっしゃる方がいますから、そういう方たちからぜひ調査をこの際きちんと行っておく必要があるんじゃないか。また、これらの方々に対しても何らかの形で弔慰というものがあらわせないものなんだろうかどうだろうかというような点について、見解があれば伺っておきたいと思います。

○説明員(五味廣文君) 先ほども申しましたが、現在その実態が非常にわかりづらい状況でございますが、この救済措置をこれから続けてまいります過程で、亡くなられた方等、こういった実態も徐々に明らかにできるのではないかというふうに考えております。
 また、既に亡くなられた方に対します弔慰というお話でございますが、こういったお話、確かにお仕事をなさいまして補償を受けることなくお亡くなりになった方がいらっしゃるはずであろうと存じますけれども、忠海里造所の場合にもそういった方への特別な措置ということは行っておりませんし、私どもといたしましては、何はさておき、現在こういったガスの後遺症に悩んでおられる皆様方は高齢でもいらっしゃいますし、こういう方の救済に最善を、万全を尽くしたいということで、累次にわたりまして対象となる疾病の範囲も拡大をしてまいりましたし、また、忠海における分廠の追加あるいは今回の曽根製造所の追加というような形で、限られた予算の中で最大限の努力をしてこういう方たちの救済に遺漏なきを期したいということでやっております。
 私どもといたしましては、こういった方たちの、現在苦しんでおられる方たちの救済ということにとにかく最善を尽くすということを第一にしてまいりたいと存じておることでございますけれども、今後、実態がいろいろ明らかになってまいりましたならば、またそういう段階でいろいろ関係方面とは御相談をする必要があろうかとは存じます。
 ただ、申し上げましたように、やはり現在悩んでおられる方の救済を第一義に考えてやっていきたいというのが私どもの基本的な考え方でございます。

○木庭健太郎君 大臣にお尋ねしておきます。
 この毒ガス障害というのは、どちらかというと気管支、呼吸器系の疾患が多いというようなことで、いわゆる内部の重複障害なんですね。そうすると、手をなくしたとか足をなくしたというような身体的な障害に比べて、援護法の適用という問題についても難しいというような実態がある。この辺は、昨年私も社会党の浜本委員のいろいろ指摘を聞いていて、ああなるほどなと思ったことも随分ございました。
 そういう中で、被害者の中からは、独自に援護法制定という声も実際に出ておりますし、もう少し強い援護措置の拡充というような話も実際に出ております。昨年、大臣ではございませんでしたけれども、そういう援護法をつくっていただきたい、また適切な援護措置を講じてもらいたいという浜本委員の質問に対して、当時の山下大臣が、私もこの問題を初めて知った、ひとつこの問題、今から勉強させてもらいますというような答弁をなさっております。勉強というのをどうとらえるかは別として、何かを考えてみたいという話はしているわけです。先ほどの三十七年通知と違って言い切っていないわけでございまして、きちんとそういう話をしているわけです。
 それを受けて、ぜひ丹羽厚生大臣のお考えをお聞きして、もう時間になってしまいました。ほかの問題ありましたけれどもそれはやめまして、最後に大臣から見解を聞きまして、私の質問を終わりたいと思います。

○国務大臣(丹羽雄哉君) 毒ガス障害者の救済措置は、限られた地域における限られた対象者の救済であります。したがいまして、立法措置によらない行政上の措置として行っていくことの方が私は現実的な対応策ではないか、こう考えております。
 先ほどから御質問いただいております旧陸軍の造兵廠曽根製造所でございますが、御案内のように今年度から新たな救済制度を発足させておるわけでございまして、手当額につきましても従来よりその引き上げの充実を図ってきておるわけでございますが、今後とも、障害者の方々の実態を十分に踏まえつつ、ひとつ弾力的に救済措置の充実に努めていきたい、こういう考え方でおるわけでございます。

○勝木健司君 昨日の毎日新聞に載っておったわけでありますけれども、ロシアで抑留日本人の墓地が確認されたと報道されております。その中で、シベリア各地の収容所で刑期を終えた日本人が国営の農場あるいは工場で働かされて、亡くなると共同墓地に葬られ、その人数は「たくさんだよ、たくさん」と地元の老人が語っていたという報道であります。
 今、若い世代の中には、さきの大戦で約三百万人もの方々のとうとい命が失われた、また国民全体が困難な生活を強いられたという事実さえも知らない人たちがふえてきていると言われておるわけでありますが、戦後半世紀がたとうとしているにもかかわらず、「二度と祖国の土を踏むことなく、極寒の地に倒れた日本人の墓があり、雪に埋もれていた。」というこの記事に触れまして、二百四十万人とも言われておる海外での戦没者の方々の遺骨収集あるいは慰霊追悼事業も、今審議されております恩給法あるいは援護法による年金の支給等による遺族援護と並んで重要ではないか。とりわけ、これまでなかなか遺骨収集が望めなかった地域の遺骨収集等の慰霊事業はこれまで以上にしっかり進めていただきたいと感じておるわけでありますが、遺骨収集事業のこれまでの実施状況、特に最近の十年間の状況についてお伺いをいたしたいと思います。

○政府委員(佐々木典夫君) 遺骨収集事業の実施状況でございます。
 海外戦没者の遺骨収集につきましては、講和条約発効後の昭和二十七年度から開始をいたしました。その結果、海外戦没者約二百四十万人、沖縄、硫黄島を含むわけでございますけれども、そのうちの約百二十二万人の遺骨を収集したところでございます。残る遺骨につきましては、実は所在が不明であったり、あるいは海没遺骨であったり、あるいはまた相手国の事情等によりまして遺骨収集が望めないといったような遺骨が大半でございます。遺骨収集が可能である確実な遺骨情報があります場合、及び相手国の事情によりまして遺骨収集が可能となりました場合には、今後とも引き続き遺骨収集に努力をしてまいりたいというふうに考えております。
 なお、新たに遺骨収集が可能となりました旧ソ連地域につきましては、平成四年度から本格的に実施してきているところでございますが、関係御遺族のお気持ち、及びその高齢化が進んでおりますことにかんがみまして、できるだけ速やかな収集に努力をしてまいりたいと考えております。
 それから、ただいまここ十年ほどの遺骨収集の状況を特にお尋ねがございました。昭和五十八年から平成四年までの状況を見ますと、収集回数で見ますと年間六回から九回実施いたしてございます。収集遺骨数は年間約九百柱から、多い年で三千柱というふうな数となっておるところでございます。この十年足してみますと、トータルで収集回数が七十四回実施いたしておりまして、約一万七千五百柱の遺骨を収集している、こんな状況でございます。

○勝木健司君 旧ソ連地域におきます抑留者問題、特に抑留中の死没者の問題は、一昨年の捕虜収容所に収容されていた者に関する協定によりまして、遺骨収集事業も本格的に開始されるようになったわけでありますが、関係遺族の心情、またその家族の高齢化が進んでいることもありまして、早期にこの問題を進めていただきたいと思うわけであります。
 未帰還者の状況の調査なりあるいは新たな埋葬地に関する情報を積極的に収集していただきたい、そして早期に遺骨収集や墓参ができるように努力をしていただきたいところであります。先ほどもありましたけれども、今後の具体的な遺骨収集あるいは墓参事業の予定についてお伺いをしたいと思います。

○政府委員(佐々木典夫君) 旧ソ連地域におきます遺骨収集あるいは墓参等の事業につきましては、平成四年度からようやく本格的な実施を見るに至ったわけでございます。この結果、平成四年度におきまして、五つの地域におきまして遺骨収集等を進めてまいったところでございますが、平成五年度におきましても、本格実施の二年度目といたしまして引き続き精力的に実施をしていきたいと考えております。
 特に遺骨収集につきましては、抑留中死亡者の九割以上を占めておりますロシア連邦の五つの地域の埋葬地について重点的に実施をしたいというふうに思っております。具体的には、チタ州、ハバロフスク地方、イルクーツク州、それからプリモルスク地方、新たにアムール州を加えた五つの地域について遺骨収集を実施し、あわせて墓参も実施してまいりたい、かように考えております。
 いずれにしましても、この事業は大変おくれてスタートいたしておりますので、最大限の力を注いで臨んでまいりたいというふうに思っております。

○勝木健司君 次に、南方地域における遺骨の収集事業は、長期間にわたって実施されてきておるわけでありますけれども、相手国との関係などから、収集の実現は困難ではないかとも言われておる地域もあるわけであります。これも、関係者の心情を踏まえますと、今後も外務省を通じて相手国の状況把握にぜひ積極的に努めていただきたい、そして精力的に遺骨収集の実現に向けて折衝をしていただきたいと思うわけであります。厚生省のお考えを伺っておきたいと思います。

○政府委員(佐々木典夫君) 先ほども御答弁させていただきましたけれども、昭和二十七年度から五十年度までは計画実施ということで三次にわたる計画をもって実施してまいりました。五十一年度以降は、確度の高い遺骨の情報があります地域について遺骨収集を行うということで臨んでおるところでございます。平成四年度におきましては、旧ソ連地域のほかに東部ニューギニアなどの地域におきまして遺骨収集を実施したところでございます。
 厚生省といたしましては、引き続きこれまでに情報が寄せられております遺骨につきましてはできるだけ速やかに収集を行うという方針でおりまして、平成五年度におきましても、フィリピンを初めとする地域において引き続き実施をする予定といたしてございます。今後、新たな残存遺骨に関する情報があります場合は、これらの遺骨についても可能な限り収集の努力をしてまいりたいと思っております。

○勝木健司君 さきの大戦で沈没の船舶数が徴用船を含めて三千二百六十隻あった、そしてこれに伴う死没者が三十五万八千五百人と推定されておるわけでありますが、そのうち、これまでに百十数隻の沈没船から約四千六百柱の遺骨が収集されておるということであります。
 この沈没艦船内の遺骨収集については、特に遺骨が人目にさらされて遺骨の尊厳が著しく損なわれているというような特殊な状況にもあるというふうに聞いております。今後の沈没艦船内の遺骨収集の取り組みの予定についてもお尋ねをいたしたいと思います。

○政府委員(佐々木典夫君) 沈没艦船の遺骨収集につきましては、古くからの考えでございますけれども、基本的には航行中の死亡者につきましては水葬に付するということが広く行われてきたといったような事情がございまして、こういう点に着目しまして、一般的には海自体が戦没者の永眠の場所であるというような考え方に基づきまして原則としては行わないという考え方できておるわけでございます。
 しかし、今お話がございましたけれども、遺骨が人目にさらされて遺骨の尊厳が著しく損なわれるような特別な状況にあり、かつ沈没艦船内の遺骨収集が技術的にも可能な場合には、遺骨収集を行うという考え方でこれまでやってきておるところでございます。
 以上のような考え方に基づきまして、これまで沈船は相当数あるわけでございますけれども、御遺骨の尊厳が損なわれるようなもの、これについては、なおかつ技術的な点も考慮してこれらの収集を進めていく、こういう考え方で臨んでおるところでございます。

○勝木健司君 今後とも、積極的に精力的に情報収集等、早期に遺骨収集を進めていっていただきたいと思うわけであります。
 しかし、相手国との関係等からすべての遺骨を収集することは物理的にも実現が困難だろうと思います。そういうことからいたしますと、遺骨収集とあわせて並行して、主要戦域の慰霊巡拝も今後とも積極的に進めるべきではないかと思うわけでありますが、お考えをお聞きしたいと思います。
 あわせて、懸案となっておりましたインド地域の戦没者の慰霊碑の建立についてでありますが、昨年、ラオ首相が来日の際に原則的な合意が得られ、建立されることになったわけでありますが、このように慰霊巡拝のほかに、旧主要戦域ごとに地域で亡くなられた戦没者を慰霊し、恒久平和への思いを込めて海外戦没者慰霊碑を建立していくということも平和国家を目指す上で望ましいことではないかと思われるわけであります。現在までの戦没者慰霊碑の建立状況及び今後の予定についてもあわせてお伺いいたします。

○政府委員(佐々木典夫君) まず、慰霊巡拝についてでございます。
 慰霊巡拝は、相手国の事情等によりましてすべての遺骨を収集することが物理的に困難なことから、政府の行う遺骨収集を補完するものといたしまして、旧主要戦域となりました地域等におきます戦没者を慰霊するため、日本政府の事業という形で御遺族の参加を得て昭和五十一年度から実施をしてまいっているところでございます。
 平成四年度におきましては、旧ソ連地域の墓参の本格的実施を初め、フィリピン等の四地域におきまして慰霊巡拝を実施したところでございます。平成五年度におきましては、中国など四つの地域の実施を予定いたしてございます。四つの地域、中国のほかアリューシャン列島、それから中部太平洋、マーシャル・ギルバート諸島でございます。それからインド、そして旧ソ連といった地域でございます。このような形で平成五年度の実施を組んでございますが、この慰霊巡拝につきましては今後とも引き続き実施をしてまいりたいというふうに考えております。
 それから、海外戦没者慰霊碑の関係でございます。
 厚生省といたしましては、旧主要戦域の中心となるべきような地域一カ所を選びまして、それからある程度遺骨収集等のめどがついたという段階で戦没者の慰霊碑を建立するということでやってまいっております。これまで海外九カ所、それから硫黄島に慰霊碑を建立してまいったところでございます。
 今後の建立計画といたしましては、一つはインドネシア地域でございます。インドネシアも長年なかなかインドネシア政府と話がつかなかったわけでございますが、インドネシア政府との協議が調いまして、西イリアンのビアク島というところに建立することといたしまして用地の選定を終えた段階ということでございます。
 それからインド地域につきましては、平成四年六月、今先生のお話にもございましたラオ首相が訪日されました際に、原則的な合意が得られまして、これに基づきまして五年度中の建設ということで準備を進めておるところでございます。
 それからさらに、旧ソ連地域でございますけれども、これまで旧主要戦域に建立してまいりました戦没者慰霊碑と同様の趣旨で、抑留中死亡者の慰霊と平和への思いを込めてロシア連邦内に建設をしたいというふうに考えておりまして、平成五年度におきましては慰霊碑建立のための調査、それから碑の設計を行うということで考えでございます。
 そのような形で今計画をしておるところでございます。

○勝木健司君 平成五年度の予算におきまして、新しい慰霊追悼事業として戦没者追悼平和祈念館の建設が予定されておるわけでありますが、この戦没者追悼平和祈念館は、ただ単に戦没者の慰霊とかあるいは追悼を行うだけではなく、我が国が戦後平和の礎の上に飛躍的な経済発展を遂げた陰には、国内の一般市民を含めて約三百万人にも及ぶとうとい犠牲があったということ、そして戦争の悲惨さ、また戦中戦後の国民全体が困難な生活を強いられたことを後世代に伝えることによって、恒久平和の実現に寄与するよう積極的な位置づけを当然持つべきではないかと思うわけでありますが、この施設の目的、性格について確認をしておきたいと思います。

○政府委員(佐々木典夫君) 戦没者追悼平和祈念館につきましては、今先生のお話もございましたように、戦後五十年近くたちまして、若い世代がふえ、戦争を知らない者がふえてきているといったような状況等を踏まえまして、戦没者を追悼する気持ちを新たにいたしますとともに、戦没者やその遺族の強い願いでございます恒久平和の実現を祈念するということで建設をしたいということでございます。
 この祈念館につきましては、戦没者追悼の意をあらわす施設であることに加えまして、国民の生活面から見た戦争の悲惨さと戦中戦後を通しての国民生活上の労苦を後世代に伝えることによりまして、恒久平和に資する施設を目指していくといったところでございます。

○勝木健司君 この戦没者追悼平和祈念館は、全国の戦没者遺族にとりましても当然シンボル的な施設になるものと思われますが、建設予定地選定の考え方について厚生省の見解をお伺いしておきたい。
 あわせて、この戦没者追悼平和祈念館、そしてその事業については慎重に運営をしていただきたい。できるだけ有識者の意見を聞いて、日本の国民はもとより諸外国の方々の理解も得られるようなものにしていくことが必要になってくるだろうというふうに思いますので、この施設の具体的な内容を決定していく手順、進め方についてもあわせてお尋ねをしておきたいと思います。

○政府委員(佐々木典夫君) 戦没者追悼平和祈念館の建設予定地の選定の考え方でございますが、この祈念館の建設予定地につきましては、追悼、慰藉にふさわしい地であるかどうか、あるいは周辺施設との相乗的な効果が期待できるかどうか、あるいは交通が至便であるかどうかといったような観点から慎重に検討しました結果、東京都千代田区九段南、九段会館の前庭の駐車場の一画に建設することといたしているところでございます。
 それから、祈念館の内容を具体的に決定していく手順はどうかということでございます。ただいま慎重な手続を経てという御指摘もございました。
 先ほど来申し上げておりますような本施設の趣旨あるいは性格を実現する観点から、各事業の具体的な内容につきましては、これに沿ったものとなりますよう、今後有識者から成ります委員会を設置しまして意見を聞きながら適切なものとなるよう努めてまいりたいと思っております。

○勝木健司君 時間が参りましたので、最後に、厚生大臣にお伺いをしたいと思います。
 カンボジアでお二人の若い、またしかもとうとい命が犠牲になったわけであります。お二人の御冥福をお祈りするとともに、御遺族の方々にも哀悼の意を表する次第でありますが、これまでのカンボジアの内戦の経過をテレビ等で見てみますと、戦争の悲惨さというものを改めて私も痛感をいたします。とともに、PKOの活動、またこの援護法が毎年審議されておるという中で、戦争中ばかりでなく戦後も多かれ少なかれ、命あるいは身体、財産の犠牲を余儀なくされているといったことを痛感いたしておるわけであります。
 私たちは、今日の平和で繁栄した社会の中にあって、今後ともさきの大戦で多くの方々が犠牲となられたことを忘れてはならないと思います。再来年に戦後五十周年を迎えるわけでありますが、その節目として、私は、この戦没者追悼平和祈念館が、特に近隣諸国に配慮して国内外に恒久平和を誓う、そしてあわせて慰霊追悼事業の中心的な施設として建設されることを期待いたしたいと思うわけでありますが、厚生大臣の決意についてお伺いをしたいと思います。

○国務大臣(丹羽雄哉君) まず、戦没者追悼平和祈念館でございますが、先ほど来審議官からも御答弁申し上げておるわけでございますが、戦没者を追悼する気持ちを新たにするとともに、戦争の悲惨さと戦中戦後を通じての国民の生活の労苦、悲惨さ、こういうものを後世代に伝えて、再びこのような過ちを起こしてはならない、これがまさに戦没者やその遺族の方々に報いることである。あわせて、アジアを初め世界の国々に対しまして、我が国の恒久平和、この誓いを新たにすることがこの戦没者追悼平和祈念館の趣旨であります。
 平成七年が終戦五十周年に当たることでありますので、この平和祈念館でございますけれども、平成七年の開館を目指しまして、今年度には設計と一部着工、こういうことを目指していきたい、このように考えているような次第でございます。
○勝木健司君 終わります。

○西山登紀子君 戦後処理問題で未解決の問題は非常に多く残っているわけですが、きょうは中国残留孤児について質問をいたします。
 中国残留孤児対策として身元引受人制度というのがあるわけですけれども、親族の未判明の孤児の方が帰国とそして定住を希望した場合の身元引受人、これはボランティアの方ですね。そしてまた、平成元年からは身元が判明していましても特別の事情で引き取りがない場合に、特別身元引受人制度というのが発足をしております。
 私も、地元で懇談をしたり調査をしてまいりましたけれども、こういう身元引受人の方々は、単なる名義上の引受人ではなくて、定住とか自立促進のためにお役所に一緒に行ってあげたり、買い物にも行ってあげたり、中国に残してきた家族との連絡、日本語や習慣の教育、相談、とにかく全く親がわりをしておられるということをお聞きいたしました。
 中でも、名づけ親になるわけですね。日本の名前を持っていないわけですから、御自分の名前から一文字とって新しい名前をつくる、そういうこともやっておられました。また同時に、連れて帰ったお子さんが登校拒否になったとか、そういう教育上の問題までいろいろとアドバイスをする。それからまた、悲しいことですが、お葬式の世話まで、全く身元がいらっしゃらない方ですからそういうお世話までなさっている。帰国した孤児の一家の方にとってはまさに頼れる唯一の親族、そういうふうな状態であるということをお聞きしたわけです。
 そこで、大臣にお聞きしたいわけですけれども、単に名義上だけではなくてまさに親がわりのように面倒を見ておられますこの身元引受人の役割と、そしてこの制度をどのように評価しておられるかお聞きをいたします。

○国務大臣(丹羽雄哉君) 身元引受人でございますが、日本に永住帰国いたしました身元が未判明な孤児世帯の方々が、帰国をいたしましてから四カ月間所沢にございます定着促進センターでの研修を修了いたしました後、定着先におきまして日本におきます日常生活の相談や助言を親身になって行っていただいておるわけでございます。
 昭和六十一年度末から行われておりまして、現在、登録者が千三百四十一人おられて、既に八百七十世帯をあっせんしていただいておるわけでございます。
 帰国者世帯は、このセンターで学んだとはいいましても日本での実生活にはまだまだ月日が浅いということで大変戸惑いがあるわけでございます。そういう中で、日本社会への適応には相当な困難を伴っておるわけでございまして、この身元引受人の方々は、今先生が御指摘になったような教育上の問題であるとかさまざまな問題、日常の問題について大変御努力、御苦労をいただいておりまして、大変重要な役割を担っておりまして、心から深く感謝をいたしておるところであります。

○西山登紀子君 身元引受人の役割についてなんですが、「中国残留孤児の身元引受人の募集について」という要項があります。それによりますと、「日常生活上の諸問題の相談」、「自立更生に必要な助言、指導」、この二点を書いてございますが、それに間違いはないでしょうか。

○政府委員(佐々木典夫君) 身元引受人の募集の広報の記載につきましては、今お話のあったとおりでございます。基本的役割は、身元未判明の孤児世帯の身元引き受け、孤児世帯の最も身近にあって孤児世帯が一日も早く自立をして生活を営めるよう相談、助言をしていただくということで、具体的には、日常生活上の諸問題の相談、自立更生に必要な助言、指導をお願いしているところでございます。

○西山登紀子君 厚生省の社会・援護局長名で、身元引受人の登録をされた方にこういう「身元引受人登録のお知らせ」という文書が参ります。身元引受人の方の名前、登録番号を記入した文書なんですが、その文書に、当然のことなんですけれども同じ役割が書いてございます。このように書いているんですね。
 身元を引受けていただく身元未判明帰国孤児世帯が決まったときは、当該孤児世帯の身元を引受けて、近隣に住まわせるなどし、一日も早く自立した生活を営めるように援助していただくため、次の役割を行っていただきます。
  (1) 日常生活上の諸問題の相談
  (2) 自立更生に必要な助言・指導
 くどいようですけれども、これ以外に身元引受人の役割はありませんでしょうか。

○政府委員(佐々木典夫君) 今、先生が御紹介になりました通知に記載されている内容につきましては、お話のあったとおりでございます。

○西山登紀子君 具体的にお聞きしたいと思うんですけれども、身元引受人の方々が身元保証人、入居だとか入学だとか就職などの身元保証人になる、このような役割も担っておられるのではないでしょうか、お聞きします。

○政府委員(佐々木典夫君) 身元引受人がいろんな意味での保証人、学校あるいは就職等の身元保証を担っているんではないかというお話でございます。
 実は、身元引受人が未判明孤児世帯を引き受けました場合には、当初お願いしております日常生活上の諸問題の相談ということであるわけでございますけれども、その延長で、多くの場合、今お話にもございましたが、御自身が各種保証人になっていただくようなことをやっていただいていることは承知をいたしてございます。しかし、過重な負担をかけないようにしなければならないものと考えておりまして、関係機関とは協議を続けているところでございます。

○西山登紀子君 私が懇談をいたしました身元引受人の方々は、みんなそういった保証人をされておるわけです。そして、これは非常に不合理だ、政府の責任転嫁ではないかということで非常に怒っておられました。
 具体的には、定住するための公営住宅に入居する場合にも保証人とされていたわけです。京都の場合は、定住になった方、定住を希望された帰国者の方は優先的に府営住宅に入居ができるわけですけれども、なぜかその場合にも入居の保証人を身元引受人がなさっていらっしゃるわけです。府営住宅の場合は二人要りますから、身元引受人の方御本人と、そしてその身元引受人の方が探してきた親戚だとか知人の方、そういう方々になってもらう、こういうことが現実にあるわけです。
 身元引受人の方々の御指摘は、中国残留孤児というのは日本の侵略戦争の犠牲者なんだ、そして戦後処理の一つとして政府の方針によって帰国をしている人たちなんだから、民間住宅の入居契約ならばともかくも、公営住宅に入居するのになぜ保証人が必要なのか、こういう御意見を言われる方もありました。そしてまた、そういう身元引受人の方が保証人にならなければ住宅に入れないということ自体、非常に精神的な負担になるし、まさかのときの責任を思うと非常に不安が募る。それでも保証人になっていらっしゃるわけです。
 そういうことですので、公営住宅に入るような場合には、保証人がなくてもいいようにするかあるいは別の公的な保証人を充てるか、ともかくも政府と自治体の責任で解決をしていただきたいと思うのですけれども、どうでしょうか。

○政府委員(佐々木典夫君) 今お話がございましたが、この身元引受人制度につきましては、本来、身元未判明孤児の早期帰国受け入れ、定着促進を図るために編み出された一つの現実的な方策という面がございまして、現実問題として身元引受人の方々の善意に支えられて成り立っている部分が多いというのも今お話のあった現実でございます。
 若干言わせていただきますと、実は、中国残留日本人孤児が日本に帰ってくるというのに当たりまして、身元が判明をしておる方につきましては身元引受人が親族であるわけでございますけれども、身元の未判明な方については身元の保証人がいない、その結果帰国がかなわないというのが現実問題として昭和五十七、八年孤児肉親調査が始まったときに遭遇したわけでございます。
 そこで、この制度につきましては、これは大臣の私的諮問機関でございますけれども、中国残留日本人孤児問題懇談会から、身元未判明孤児の受け入れについて、肉親にかわって相談相手となり助言、指導を行う身元引受人制度を創設するということでの御提案を昭和五十七年八月にいただいたわけでございます。
 ここは、肉親の有無にかかわらず、つまり身元の未判明孤児も日本に帰国をさせる、そのためには、保証人という法的な義務を負う形ですと現実になかなかなっていただけない、そういったような事情から、相談、助言を行う身元引受人という制度を編み出してボランティアの方々に御協力をいただく、そのことで入国に当たりまして必要な、入管手続等で必要な身元保証人にかわって身元引受人の制度をつくるということでやってまいったところでございます。そのようなことで、この身元引受人につきましては、孤児が定住後身近な相談相手として孤児の世話を願う、保証人とは法的に違うという形で位置づけてスタートをいたしてきた経過がございます。
 しかし、その知恵で出てまいったわけでございますが、現実問題としては、先ほどお話がございました就職あるいは住宅の手当て等に保証人が要る場合、こういった身元のない孤児でございますものですから他に頼る人がいない、勢い身元引受人ということで、相談、指導ということでお世話になった方のところにおすがりするといったような形で、先ほど申しました善意の延長の上で現実的にお力をいただいているというのが姿、そういった面がございますことはおっしゃるとおりでございます。

○西山登紀子君 経過説明は私もわかっているわけですよ。ですから、どうするか、改めていただけないかということをお伺いしているんですから、その点をはっきりと。

○政府委員(佐々木典夫君) それで、先ほども申させていただきましたけれども、具体的に各種保証人になっていただいている実態がございますので、できる限り過重な負担をかけないようにしていく必要がある、それがやはり引き続き協力を得ていくゆえんであるというふうに考えますので、関係機関と協議をしてまいっておるところでございます。
 具体的な問題で、公営住宅の入居の関係につきまして、私どもも関係省庁と保証人制度の改善方について協議をしてまいったところでございますが、公営住宅の運営につきましては各自治体はそれなりの意義のもとに条例を決めておるといったようなことで、保証人をつけずに入居することがなかなか難しいというのがこれまでの経過でございます。しかし、なお引き続き努力をしたいというふうに思っております。
 それから、就職の問題につきましては……

○西山登紀子君 またそれは聞いていないです。質問をちゃんと聞いて答えていただかないと、私も時間が十分じゃありませんので、よろしくお願いいたします。
 公営住宅のことについてもるる経過はわかっているわけですけれども、問題は保証人がいなければ家に入れないんですね、孤児の方は。じゃ、どうするんですか。身元引受人の方はそういう事情だからやむなく自分が保証人になっていらっしゃるんです。それはやはり政府と自治体の責任で解決すべきだ、そういう方向性をはっきりさせておきたいと思うんですが、どうですか。

○政府委員(佐々木典夫君) 先ほど申しましたように、身元引受人制度の仕組みを一つ現実的な方策として編み出してきておりまして、これはボランティアで御協力をいただくということで位置づけております。しかし、先ほど申しましたように、この制度が円滑にいくという形では、できるだけ負担を少なくしていく必要があるというふうに考えておりますので、なおいろんな角度からの研究はしてまいりたいと思っております。

○西山登紀子君 時間がありませんので、次の質問、就職の問題に入りたいと思うんです。
 就職する場合も保証人を身元引受人の方がされているわけです。この身元保証人というのは非常な責任を負うわけでありまして、昭和八年四月に身元保証ニ関スル法律という法律がつくられているぐらい、非常に身元保証人の損害賠償義務というのが大きいわけです。こういう法律ができた後でも、まだまだこの身元保証人というのは万一トラブルが発生した場合には一定の責任を負う、民法上の責任を問われるという存在なんですが、こういうことまで善意のボランティアの方、身元引受人にさせるのは大変酷だと私は思います。
 養護施設なんかの場合には、子供たちが卒園して就職する場合には施設長が身元保証人になっているわけですから、社会福祉事務所長だとかあるいは市町村長だとか、公的な保証人制度に変えるようにこの点も検討していただきたいと思いますが、どうですか。

○政府委員(佐々木典夫君) 就職の保証人の扱いにつきましては、労働省の協力をいただきまして昭和六十二年七月から雇用促進事業団が実施する身元保証制度の適用を受けられることとなりまして、公共職業安定所を介して就職する場合には雇用促進事業団に身元保証を行ってもらうというふうな仕掛けを講じたところでございます。
 この制度につきまして、厚生省としましては、その活用が進みますように、必ずしも今まで十分な広報等行き渡っていない面があるようでございますので、引き続きこの活用方等を図っていきたいというふうに思っております。

○西山登紀子君 今おっしゃいました雇用促進事業団が保証人になるという制度ですけれども、私がお伺いした自立指導員、これはベテランの方なんですが、その自立指導員の方も含めて身元引受人の万五人の方にお伺いしても、だれ一人としてその制度があるということを御存じなかったわけです。ついこの間聞いたばかりのことです。
 ですから、仕掛けをつくったとおっしゃっておりますけれども、仕掛けがうまく作動していないというのが実態です。ですから、すぐに手を打っていただいて、こういう身元引受人の方が保証人になって就職をしなければいけない、こういう状況をなくしていただきたいと思いますし、また、職安を通じない職業のあっせんの場合にもこういうふうなことが起こらないように厚生省が検討をしていただけるかどうかお聞きをしたいと思います。

○政府委員(佐々木典夫君) 就職に当たりましての身元保証の仕組みにつきましては、労働省の御協力で先ほど申しましたような仕組みがとれたわけでございます。
 今、先生のお話の中で、現実に身元引受人あるいは自立指導員として第一線におられる方々が十分承知をされていないというふうな御指摘がございました。私どもも、なお改めていろんな機会、課長会議あるいはブロック会議等の機会にさらにこの徹底をし、活用が図れるようにいたしたいと思います。
 それから、職業安定所を通じないで就職をするという場合にはこれは無理なわけでございますが、できる限り、ケースはいろいろあると思いますけれども、職安を通した形で雇用が結ばれる場合は極力この制度も活用していただく、利用するというふうなことでやっていただく必要があると考えております。

○西山登紀子君 先ほども言いましたように、国内の孤児といいますか養護施設の子供たちは、施設長が保証人になる、こういう方向もあるわけですから、民間の職業あっせん、就職の場合にも身元引受人が保証人にならなくてもできるようにその点も研究をしていただきたいと思います。
 それから、時間がなくなってきたんですが、手当の問題です。現在、月二万円ということなんですが、これはその労苦の報酬としては非常に少ないのではないかと思いますので、思い切った引き上げと、それから非課税措置の要望も強く出されておりましたので、その二点の対応を検討していただきたいのですが、いかがでしょうか。

○政府委員(佐々木典夫君) 身元引受人に対します手当につきましては、日本に永住帰国しても身寄りがない孤児世帯を引き受けて、先ほど来ございますように日常生活上の相談なり助言を行っていただく、そういうことでスタートしたものでございます。スタートしました際は、六十年度一万二千円ということでございましたけれども、毎年物価上昇等改善を講じまして、現在の二万円、年間二十四万円というようなことになっているところでございます。
 それから、課税の問題が今お話にございましたが、実はこの種の謝金につきましては非課税扱いができるのかどうか、関係当局に事務レベルで協議した経過がございます。ですけれども、非課税扱いになる見通しが得られなかったという経緯がございます。そんなことで、なかなか困難とは考えますけれども、なおどういうふうなことができるのか、研究はしてみたいというふうに思っております。

○西山登紀子君 最後に、この身元引受人問題の厚生省のいろいろ出されております文書について、改めていただきたい問題を含めて大臣にお伺いしたいと思います。
 私は、この身元引受人の方々のお話を聞いておりまして本当に頭が下がる思いです。戦争の犠牲となった孤児の方々への特別の思い入れがなくてはとても引き受けることができないことではないかと思っています。
 ところが、厚生省が出しておられる文書、「中国残留孤児の身元引受人の募集について」、それかも「身元引受人希望申請書」、「身元引受人登録のお知らせ」、「身元引受通知書」、こういう文書が出されていてこういう仕事をなさっていらっしゃるんですが、よく見てみますと、身元引受人の募集の中には「応募下さるようお願いいたします。」と書いてあります。しかし、その次の申請書は、「身元引受人となることを希望するので申請します。」というふうに自分が希望して申請するという文章になっております。そして名前を書いて申請をしましたら、今度は厚生省が認めて登録をしたから知らせるという文章になっておりまして、最後に行きます「身元引受通知書」というのには、「この度、」「身元引受人となっていただくことといたしましたので、通知いたします。」、こういう文章で終わっているんですね。
 私は、身元引受人の方々の御苦労を聞いた後にこの文書をずっと読んでみたので、本当に唖然といたしました。最初はお願いをしたけれども、最後の方になると、本人が希望してなったのでまるで登録をしてやったというふうな感じに受け取られてしまう。
 こういうふうなボランティアの方々の御苦労、その善意に支えられて、孤児の皆さんが祖国日本に帰ってきて希望に満ちた生活を送ろうとしておられる。それを支えておられるこういう人たちに対して、これでは余りにも心が通わないんじゃないか。こういう文書についても漸次改善することとあわせまして、大臣のこういうボランティアの方々の御苦労にこたえていただく決意のほどをお聞かせください。

○国務大臣(丹羽雄哉君) 身元引受人の方は、先ほど来先生からも御指摘がございましたように、大変重要な役割を担っております。ボランティアの方々が中心となって、親身になって御相談、御指導を賜っておるわけでございまして、これらの御苦労に対しまして心からまず感謝の意を表したいと思っております。
 この身元引受人制度の改善でございますけれども、私どもといたしましても、その文書は初めて私も知ったわけでありますが、いわゆるお役所的な言葉ではないか、こういうふうに私も拝聴しておったわけでございますが、いずれにいたしましても、感謝の気持ちがこの身元引受人の方々に伝わるように、連絡や通知文書において今後十分に配慮していきたい、このように考えております。

○粟森喬君 今回の改正点を含めまして、本法は戦後処理にかかわる法案の重要な根幹をなすものだという理解をしております。したがって、改正点について私としても賛成をする立場でございますが、るる同僚議員からもいわゆる戦後処理の問題でいろいろな問題が出ております。だんだん日がたつと同時に新たな問題も出され、そして懸案事項も幾つか取り残されているということに、厚生省全体がこれからどう対応するかという問題にかかわっていると思います。
 そこで、私の方で一つ特徴的にお尋ねをしたいんですが、沖縄の厚生年金の問題でございます。
 私は、予算委員会でも、なおかつこの厚生常任委員会でもいろいろとやりとりをやっています。結論のところをこれまでの経過として確認をする意味で申し上げたいと思いますが、前の大臣は沖縄県当局と常に意見交換を行うというふうに言明をされ、いずれにしても平成二年度に改定をしたわけでありますが、もう一回検討しようということになっているからしばらく時間をかしてほしい、こういうふうに言われました。これは議事録に残っております。
 その上で、沖縄の厚生年金問題の取り扱いについて、これまで厚生省それから関係の内閣内政審議室、沖縄開発庁などが参画をいたしまして、このことについて一定の結論を出された文書というのを私は手元にいただいております。
 私が問題提起をしたときもそうなんでございますが、現行の制度上の問題でやるのには限界があるという前提で私どもはこの問題を提起しているわけです。にもかかわらず、ここで出された論点整理の中では、いわゆる遡及措置などを現行の法でやることは絶対できない、こんなことしたら年金の根幹にかかわる問題だというふうに強い反論の指摘です。そんなこと言われなくてもわかっていることを、何とかしろというふうに言ったにもかかわらず、まず大上段からそうでございます。
 中を見ますと、そんなことをしたら、例えば「既に死亡した者からの保険料の徴収」をしなければならぬとか、「障害又は遺族となった者への給付等により年金に関する事実のすべてを復元することが必要である。」とか、断片的かもしれませんが、前向きの結論が全然ない。しかも、「仮に遡及適用を行う場合、現行の特例措置の解消が問題となる。」、問題となるという意味は、場合によってはこれは解消しますよ、こういう意味にもとりかねない、そういう表現で締めくくっているわけであります。
 私は、厚生省が厚生年金に対するいわゆる主管省庁として、結果としてそういう立場に、この段階でそういう論議づけをしなければならなかった理由がどうしてもよくわからないわけです。私はこう思っていたわけです。一つは、特別立法をやっていくのかどうか。もう一つは、みなし規定をつくって、この場合に出てくる問題は財源の問題が当然あると思います。この二つに限って論及をして、それでだめだったというならまだわかりやすいのでございますが、余りにも過去の主張の繰り返しということについてはどうしても納得いきかねるような感じがいたしますので、この点についてまず厚生省の見解をお尋ねしたいと思います。

○政府委員(山口剛彦君) 先生も御承知のように、この問題は大変経緯のある問題でございますので、御指摘の点に焦点を合わせて若干私どもの見解も含めまして整理をさせていただきますと、沖縄の厚生年金の問題につきましては、四十七年の本土復帰のとき、それから平成二年の二回にわたって特例措置を講じてきまして、年金の現行の制度の中では精いっぱいのことをやったと。しかし、沖縄県の御要望として、それでは現実の格差が解消していないではないかということで問題がクローズアップされているわけでございますが、沖縄県がこの問題に対処をするためにこうしてくれという強い要望がございましたのは、今先生が御指摘のあった本土の現行厚生年金制度の発足時の昭和二十九年までさかのぼって年金制度を適用してほしい、ぜひこれをやってほしいという強い御要請であったわけです。
 こういう御要請は、本土復帰のときにも、さかのぼって適用をすることはできないのかというこども沖縄でも十分議論をされて、それはちょっと制度的にも実際上も無理だということでできなかったという経緯のある問題でございます。
 しかし、沖縄県としては、先生御指摘のありましたような、立法とかのことを講じて何とかこの問題を実現できないのか、そうでなければ格差が全部埋まることにはならないのではないか、こういう強い御要請であったわけでございます。
 それで、昨年の五月に、大変難しい問題ですけれども、そういった問題の検討を政府としてもしよう、それにはまた沖縄県の方も参加をしていただこうということで、副知事さんにも参加をしていただきまして、沖縄県が従来からの御要望である二十九年までさかのぼって年金制度を適用するということにどうしてもこだわるのであれば、それを少し徹底的に議論をしてみようではないかということでやりました。
 詳しいことは申し上げませんけれども、これは制度的にも社会保険という原則をとっている今の年金制度、それから御指摘にもございました実務上の問題、それから厚生年金は労使の折半というのが原則でございますが、状況もよくわからないし、全額国庫負担でやれということでございますので、費用負担の面でもどうしても越えがたい障害があるので、御要望をもとに何らかの措置がとれないかということで検討会を設けたわけですけれども、制度化を展望するということは困難だ、どうかということを整理させていただきました。
 沖縄県としても、現時点ではさかのぼって適用するという状況はちょっと無理があるかなということで、そこのところについては現時点では私どもは御理解をいただきつつあるというふうに考えております。
 なぜ私どもがこんなにこだわるのかということについては、立法をもしするということであれば、これは中身が決まれば立法できないということもございませんし、国会にお諮りしてできることですから、特別立法をつくらなければいかぬからというようなことでこの問題にちゅうちょをしているということではございません。
 では財源だろう、こういうことですが、財源も、全額国庫負担で厚生年金の費用負担の原則をがらがらと変えよということをあくまでもこだわられるということであれば、財源だけの問題ではありませんけれども、財源の量の問題もともかく、考え方の問題としても私どもは大きな問題として指摘をせざるを得ないと思っておりますが、財源の問題があるからできない、こういうことでもない。
 これも一つの大きな問題ですけれども、そのほかにも、この三月に、それではということで、さかのぼり適用ということは難しいので、沖縄県の方もそれにかわる提案を自分たちもしたいということで新しい提案もいただいておりますので、それを素材にいたしまして検討会で真剣に取り組まさせていただきたいということで今鋭意やっているという状態でございます。

○粟森喬君 答弁を聞いていて感じるわけでございますが、沖縄県が結果として本土復帰がおくれたことにかかわる問題の価値の認識が、やはり行政の側の皆さんと沖縄の人とそれから日本国民全体が共通の認識に立たないとこの問題はどうしても解決できない、こういうことだと思います。
 その意味で申し上げると、その期間掛けるにも掛けられなかった状況について、過去の分で全部清算済んでいるじゃないか、過去の改正で全部終わっていると言っても、依然として問題が残るようなやり方というのは、この種の戦後処理というのでしょうか、やっぱり問題があると思います。ぜひとも、そういう意味では、三月二十九日に沖縄から提出された新しい提案というのも私も承知をしていますので、この問題の処理も含めましてきちんとやっていただかなければならない、こういうふうに思うわけでございます。
 そこで、厚生大臣にぜひともこの部分で確認をさせていただきたいわけでございますが、いずれにしても、この問題で新しい提案を沖縄県が、譲歩するというか、期間の問題を昭和二十九年というところからじゃなくその期間を限ってきたという、そういう提案をされました。ただ、この提案の中でも事業主負担分などの問題については依然としてまだきちんとしていないわけですが、これはもう大臣がある意味では政治決断をしていただかないと、つまりあれやこれやの理屈、過去の理屈を全部突き合わせると、どうしても未解決な部分が残ってしまう、そのことが結果として沖縄の年金問題を引きずっている経過になっているんじゃないかということを、私は過去の関係者の方の御意見を聞いてもそんな部分を感ずるわけでございます。
 そこで、厚生大臣として、今回の新しい沖縄からの提案に対して、これを少なくとも基本にして解決をしていただけると、こういう立場で理解してよろしいのかどうか、その部分についてお尋ねをしたいと思います。

○国務大臣(丹羽雄哉君) ただいま年金局長の方から御答弁を申し上げさせていただいたわけでございますけれども、この沖縄の問題につきましては大変いろいろ難しい問題もございます。そういう中で、昨年の十月に、まず沖縄県が要望しておりました遡及の適用につきましては、御理解を賜りまして適当でない、そういうことでまた新たな角度から提案がもう一度なされたわけでございます。
 今回の県の試案でございますが、先生も御指摘いただいたように、事業主の負担であるとかあるいは実際に働いていた期間の証明の方法など、県におきましてもさらに詰める問題がある、こういうようなことでございますのでさらに十分に詰めていただきまして、いずれにいたしましても、この問題につきましては大変現実的な提案と受けとめまして、今後検討会において基本的にはこの案をもととして沖縄県と引き続き検討を行っていきたい、こういうふうに考えております。

○粟森喬君 ぜひともそういうふうにお願いをしたいと思います。
 そこで、本法と直接関係ないわけでございますが、もう一点質問をさせていだきたいと思います。
 厚生大臣もたしか出席をされたはずでございますが、今度のWHOの総会で中嶋WHO事務局長が再任をされました。このニュースと関連をして、ことしに入りましてからこの問題が、私どもが聞くのはマスコミ情報とかある種の情報紙を通じて聞く部分がほとんどでございますが、いずれにせよ結果として決戦投票までいった。事実上これは、指名をもらって普通は無投票で再選されるという常識のルールから見ると、かなり際立った選出のあり方だったと思います。
 それで、そのことの是非を論ずるというのは私は余り適当ではないんじゃないかと思いますが、私どもも、国際的にWHOが果たさなければならない役割の中で、日本政府といいますか厚生省のかかわり方として、これから大切にしていただきたいという意味で幾つかのことについてお尋ねをしたい、こういうふうに思います。
 その一つは、今回、欧米と言われる諸国からいわゆる日本政府が推薦をする中嶋氏に対して、日本政府の支援のあり方であるとかそれから会計上の処理について、不法とは言わないけれども処理の仕方が非常にまずい、不透明というような記事が何回か出されておるんです。まず一つは、日本政府のいわゆる支援のあり方、特に財政的な部分としてそういう意味で非がなかったのか、どの部分を指されているというふうに理解をしているのか。同時に、このような経過の中で、いろんな会計処理上の問題が出されたんですが、このことについて厚生省としても何らかの調査をして事実関係の掌握に努められたのかどうか、このことについてお尋ねをしたいと思います。

○政府委員(瀬田公和君) 先生の御質問に若干事実の経過でちょっと御説明をさせていただきたいと思います。
 先生既に御承知でございますが、この一月二十日にWHOの執行理事会におきまして、中嶋事務局長が次期の事務局長候補ということで賛成多数で選出をされたわけでございます。その後、現中嶋事務局長の仕事において事務の執行上会計処理等に問題があるのではないかということが指摘をされまして、イギリスの会計検査院の院長を最高責任者といたします外部監査委員会というものが設立をされて監査に当たったわけでございます。そして、この四月二日にWHOに対する外部監査報告が取りまとめられたわけでございます。その内容は、一といたしまして、重大な不正というものはなかったということが第一点。ただし、一九九二年の後半に行われましたWHOの契約の中には経理手続上若干の不備のあるものがあったというふうな御指摘であったわけでございます。
 日本の政府といたしましては、WHOの加盟国の政府といたしまして、WHOの事務局に対して、今後こうした不備のような問題が再発することのないようにということで、早急に必要な措置をとるように要請したところでございます。それから、中嶋事務局長といたしましては、この外部監査委員会による監査報告の公表後の記者発表等におきまして、必要な是正措置を早急にとりたいということを明確に述べております。また、WHOの総会の前に実際に一部組織の改革を実施いたしまして、また総会の事務局長演説におきましても、さらに組織の改革、運営の改善をするということをかたくお約束をしているという状況でございます。
 この五月五日に総会が行われたわけでございますが、ここで次期事務局長の選挙が行われまして、さきの一月の執行理事会で指名を受けた中嶋事務局長の再選が賛成多数によりまして実現をいたしたことは御承知のとおりでございます。こうした経過によりまして、中嶋事務局長としては、本年の七月から第二期の五年間の任期に入ることになるわけでございますが、厚生省といたしましても、できるだけ中嶋事務局長の二期目のお仕事をバックアップしていきたいというふうに考えている次第でございます。

○粟森喬君 時間がありませんので、厚生大臣に最後にお尋ねをしておきたいと思います。
 厚生大臣自身が出席をしたそのときの雰囲気を含めまして、やはり日本政府としてバックアップといいますかフォローアップを具体的にどうするかということについて考えていかないと、WHOの事務局長たる中嶋さんという人は厚生省の出身の人じゃないにしても、やっぱりきちんとした対応が必要だ。
 それから、私どももWHOに対する情報を必要なときしかいただいていないということで、できるだけ私たちはいろんなこれからのことも聞かせていただきたいし、我々もそこに何らかの意見を持っていくということは大事なことだと思いますので、厚生大臣として、これからの厚生省としてといいますか大臣としての支援する対策について、もしございましたら答弁願いたいと思います。

○国務大臣(丹羽雄哉君) 中嶋事務局長でございますが、マニラのWHO西太平洋地域事務局長などを経まして、大変経験の長い方でございます。当初は御自身の意思によりまして事務局長に立候補したわけでございますけれども、私どもといたしまして、今回の選挙におきまして事務局長のこれまでの実績を評価いたしまして強く推薦をしたことは紛れもない事実でございます。
 私も現地に行っておりまして、大変厳しい御批判がございました。特に欧米諸国においてその意見が大変強いわけでございます。中嶋事務局長がどちらかというと開発途上国を中心としたいわゆる衛生面や医療面に力を入れてきたとか、いろいろな問題点がありまして、若干いろいろ難しい国際的な問題や国の事情によっていろいろな反発等があって、誤解の面もあったと思いますけれども、それはそれといたしまして、率直に申し上げましてこれだけの批判票があったことも紛れもない事実でございます。私どもは、これを謙虚に受けとめまして、今後中嶋事務局長に対しまして、運営の改善、これは来年のWHOの総会ではっきりした改善策を示すということを彼自身が演説の中で明らかにいたしておりましたけれども、こういうことを私どもは適切なアドバイスを行っていきたい、このように考えております。
 そして、運営面でございますが、特に組織の改革、こういうことが強く要請されたわけでございますので、立場上私どもが前面に出てやるということは適切なことかどうか大変難しい問題がありますけれども、何と申し上げましても、中嶋事務局長イコール日本政府ということではないんですが、やはりこういったような経過もございますので、私どもは、我が国のいわゆる国際社会における医療貢献あるいは衛生面、こういったものの一つの我が国の姿勢が問われるものとして、ひとつ適切なアドバイス、指導を行っていく決意でございます。

 第126回国会 衆議院予算委員会 第26号 平成五年五月二十六日(水曜日)午前九時一分開議

【発言順】

 委員          宇都宮 真由美
 外務省条約局長     丹波 實
 外務省アジア局長    池田 維
 内閣官房内閣外政
 審議室長兼内閣総理大臣 
 官房外政審議室長    谷野 作太郎

○宇都宮委員 次に、PKOの問題はこれから日本がどう生きていくかにかかわる問題でございまして、そのことはまた今までの、過去の生き方をどう処理するかという問題にも共通点があると思いますので、ちょっと戦後補償の問題についてお尋ねしたいと思うんですけれども、その前にいわゆる日韓条約、その解釈について二、三確認をさせていただきたいと思うんです。
 一つは、協定第一条第一項の無償三億ドルと有償二億ドルの経済協力、それと同第二条第一項の「財産、権利及び利益」並びに「請求権に関する問題」の解決、この二つは法律的には対価関係がないというふうに言われていますけれども、政治的といいますか存在的といいますか、経済協力するからまあ財産等の問題は解決したのだ、解決するから経済協力するんだという意味においては対価関係にあると思うんですけれども、そういう形で連動しているとは言えないのでしょうか。

○丹波政府委員 お答え申し上げます。
 先生はこの問題に大変お詳しい先生でございますので、ごく簡単に経緯を御説明申し上げたいと思いますけれども、日韓国交正常化交渉におきましてのこの財産請求権問題の討議は、法的な根拠があり、かつ事実関係も十分に立証されたものについてのみ日本側がその支払いを認めるという前提に立って交渉を行ったわけでございますけれども、法的な根拠の有無に関する日韓間の見解というものに非常に大きな隔たりがあった。また、御承知のとおり戦後十数年を経過し、かつ朝鮮動乱が間にあったということで、事実関係の立証自体も非常に難しかったということでございます。それで、しかしそのような状況の中でこのような両国の対立を無期限に放置し、そのために正常化もおくれるということであってはいかぬということで、両国が大局的な見地から考えてこの協定をつくったわけでございます。
 そこで、両国の正常化後、韓国の民生の安定、経済の発展に貢献することを目的といたしまして、韓国に対しまして経済協力を行うことが適当であるということを考えましてこの協定を締結いたしまして、先生が今おっしゃいましたとおり、第一条におきまして五億ドルの経済協力の供与を合意するとともに、当時国会でも何度も説明申し上げましたが、それと並行的にとかあるいはあわせてという言葉を使っておりますが、それと並行的にあるいはあわせて、第二条におきまして両国間の財産、請求権の問題を処理した。完全、最終的に処理したということでございます。
 先生今おっしゃいましたとおり、この第一条と第二条の間には法的な直接のつながりはございませんけれども、当時の経緯を考えまするに、そこにはやはり政治的なつながりがあった、あるいは人によっては政治的なパッケージであったという言葉を使って説明される方もおられますけれども、いずれにしても、そのような関係であったというのが歴史的な事実ではないかと思います。

○宇都宮委員 次に、この協定第二条第一項の「財産、権利及び利益」と「請求権」との関係についてお聞きしたいと思うんです。
 それはどうしてかといいますと、この当時の合意議事録によりますと、ここで言う「「財産、権利及び利益」とは、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが了解された。」というふうに書かれております。そしてまた、今までの外務委員会とか予算委員会での議事録を見ますと、「財産、権利及び利益」というのは法律上の根拠のある請求権である、そして「請求権」というのは法律上の根拠のない請求権であるというふうな説明がなされております。このような両方の説明からしますと、ほとんどの権利は「財産、権利及び利益」の中に入って、いわゆる何というか全く根拠のない、言いがかりをつけるようなものだけが「請求権」の中に入るというふうな感じにちょっと感じられるのです。
 そこで、もう少しわかりやすく、「財産、権利及び利益」の中にはどういう権利が入って、「請求権」の中にはどういう権利が入るのか、具体例を挙げて、かつ簡単に御説明いただきたいと思うのですけれども。

○丹波政府委員 いわゆる財産、権利、利益と請求権との区別でございますけれども、「財産、権利及び利益」という言葉につきましては、日韓請求権協定の合意議事録の中で、ここで言いますところの「財産、権利及び利益」というのは、合意議事録の2の(a)ございますけれども、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利」を意味するということになっておりまして、他方、先生御自身今おっしゃいましたとおり、この協定に言いますところの「請求権」といいますのは、このような「財産、権利及び利益」に該当しないような、法律的根拠の有無自体が問題になっているというクレームを提起する地位を意味するということになろうかと思います。
 具体的にとおっしゃいますので、ちょっと具体的に申し上げますと、御承知のとおり、この第二条の三項におきまして、一方の締約国が財産、権利及び利益、それから請求権に対してとった措置につきましては、他方の締約国はいかなる主張もしないというふうな規定がございまして、これを受けまして日本で法律をつくりまして、存在している実体的な権利を消滅させたわけでございますけれども、まさにこの法律が対象としておりますのは、既に実体的に存在しておる財産、権利及び利益だけである。
 具体的に申しますと、それは例示いたしますと、日本国あるいは国民に対する債権あるいは担保権あるいは物権といったものを消滅させた。これがまさに実体的な権利でございまして、請求権はなぜこの法律の対象でなかったかと申しますと、まさにその消滅させる対象として請求権というものが目に見える形で存在していないということだと思うのです。
 先生はもう弁護士の先生でございますので、これ以上あれする必要はないと思いますけれども、例えばAとBとの間に争いがあって、AがBに殴られた、したがってAがBに対して賠償しろと言っている、そういう間は、それはAのBに対する請求権であろうと思うのです。しかし、いよいよ裁判所に行って、裁判所の判決として、やはりBはAに対して債務を持っておるという確定判決が出たときに、その請求権は初めて実体的な権利になる、こういう関係でございます。

○宇都宮委員 今の御説明をお聞きしますと、財産、権利、利益の中に入る権利というのは、例えばよく例に出されるのは郵便貯金の返還請求権とか、そういうのが言われるのですけれども、一見して証拠上だれが見ても権利が存在していると認められるような、判決書とか国の権利証みたいな、そういうものだというふうに考えて、そしてそういうまだはっきりしていない権利というのは、損害賠償請求権なども法律上の根拠があるかないかといえば、私はあるんだろうとは思うのですけれども、そういう損害賠償請求権とかあるいは慰謝料請求権、あるいは労働契約に基づく賃金の支払い請求権なども、そういうはっきりした証拠がなければ請求権の方に入るというふうに解釈してよろしいのでしょうか。

○丹波政府委員 これは条約、協定あるいは国内法でもそうかと思いますが、いかなる意味合いで請求権という言葉が使われているかということによって違うと思うのですが、しかし先生、一番重要なことは、請求権につきましても、日韓両国、両政府の間では、国家あるいは国民の請求権も相互に放棄され、完全、最終的に解決されておるというのが、この問題につきましてのこの条約上の一番重要な問題ではないかと考えております。

○宇都宮委員 重要な問題がどうかということをお聞きしたわけじゃなくて、権利の分類が私の解釈で間違ってないでしょうかということを確認させていただいたのですけれども。

○丹波政府委員 ですから、請求権という言葉がどういう文脈あるいはどういう法律の中でどのような形で使われているかということによって、そこは実体的なものを持っているのかどうかも違ってくるのではないかと考えます。

○宇都宮委員 済みません。もう一回だけ確認させてほしいのですけれども、証拠がはっきりしているかどうか、だれの目で見ても一見明らかに存在すると見られるような権利が「財産、権利及び利益」の中に入って、それがはっきりしないような権利が「請求権」なんだというふうに一番最初例説明されたのではないのですか。

○丹波政府委員 先ほど申し上げましたとおり、この「財産、権利及び利益」と申しますのは、法律上の根拠に基づきまして既に財産的価値を認められています実体的な権利を意味しておる。それで、「請求権」と申しますのは、「財産、権利及び利益」に該当しないような、法律的根拠の有無自体が問題となっているようなクレームを提起する地位、それを意味しておるということでございます。

○宇都宮委員 今までの外務委員会等での議事録に書かれているとおりの御答弁なんで、これ以上はやめますが、何でああいうわかりにくい説明をするのか、私はよくわからないのですけれども。
 いずれにしましても、財産、権利、利益の中に入るものも、請求権の中に入るものも、条約上はその権利を消滅させていない。財産、権利、利益に対する日本国の措置に対して、そしてまた請求権に対して、国家は何らの主張もしない。要するに主語は国家であって、その権利が消滅したことを条約で言っているわけではないと思うのです。この条約では、要するに外交保護権の放棄を言っているだけの話で、権利自体の消滅についてはこの条約は言っていないということはいいわけですね。

○丹波政府委員 お答え申し上げます。
 この第二条の一項で言っておりますのは、財産、権利及び利益、請求権のいずれにつきましても、外交的保護権の放棄であるという点につきましては先生のおっしゃるとおりでございますが、しかし、この一項を受けまして三項で先ほど申し上げたような規定がございますので、日本政府といたしましては国内法をつくりまして、財産、権利及び利益につきましては、その実体的な権利を消滅させておるという意味で、その外交的な保護権のみならず実体的にその権利も消滅しておる。ただ、請求権につきましては、外交的保護の放棄ということにとどまっておる。個人のいわゆる請求権というものがあるとすれば、それはその外交的保護の対象にはならないけれども、そういう形では存在し得るものであるということでございます。

○宇都宮委員 韓国政府がその外交保護権を放棄したからといって、日本の法律で直接その韓国人の権利を消滅させるという、その根拠は何なんでしょうか。

○丹波政府委員 それは、何度も立ち戻りまして恐縮ですけれども、韓国との請求権・経済協力協定の第二条一項を受けまして三項の規定があるものですから、日本政府が相手国、この場合韓国ですが、韓国政府及び国民の財産、権利及び利益に対していかなる措置をとっても、相手国あるいは相手国政府としてはいかなる主張もしないということになっておるものですから、その意味で、日本政府がまさにこの財産、権利及び利益というものを消滅させても、韓国としてはいかなる主張もしないということが規定されておるものですから、日本政府としてはそういう措置をとったということでございます。

○宇都宮委員 それは韓国政府が何も言わないということで、韓国人が何も言わないということまでは決めていないと思います。ちょっと長くなりますので、もうこれでやめます。
 次に、戦後補償の問題なんですけれども、いろいろあるんですけれども、韓国の従軍慰安婦の方の問題についてちょっと質問させてもらいたいと思うんです。
 政府の立場は、今言いました一九六五年の日韓間の請求権・経済協力に関する協定、これで、戦後補償の問題については韓国及び韓国民との間では既に解決済みであるという態度を繰り返して述べられております。そしてまた一方では、この元従軍慰安婦の方には補償にかわる何らかの措置をする必要があるというふうにも言われています。
 この解決済みであるということと、何らかの補償をしなければならないということとの関係というのは、どういうふうに考えたらいいんでしょうか。法律的には解決済みだけれども、何らかのことをする政治的な義務とかあるいは人道上の義務があるというふうにお考えなのか、それとも、義務はないけれども、まあするんだというふうに考えるのか。どちらなんでしょうか。

○池田政府委員 いわゆる従軍慰安婦問題の法的な立場についてはただいま条約局長から御答弁があったとおりでございますけれども、本件の性格にかんがみまして、道義的、人道的観点から、我々としては日本国民の気持ちを何らかの形であらわすことはできないだろうかということで検討しているわけでございます。

○宇都宮委員 そこで、何らかの道義上の義務があるというふうに考えられているんだろうと思うんですけれども、今まで私たちというか、元慰安婦の方たちも、要するに事実の調査をしてほしいということを訴えてまいりました。
 それで、いろいろ政府の方でも文書の調査はなさって、昨年の七月にも第一回目が発表されて、また二回目の調査の結果を発表するということでございますけれども、この書類とか文書とかの調査以外に、聞き取り調査をなさるということを三月の参議院の予算委員会でおっしゃられました。聞き取り調査の対象とか方法とか、具体的に決まっていれば御説明願えますか。
    〔委員長退席、石川委員長代理着席〕

○谷野政府委員 お答え申し上げます。
 ただいま聞き取り調査ということでございましたが、私どもが行っております聞き取り調査は、当事者の方々の、慰安婦の方々から直接お話を伺うということと、それから、それ以外のいわば関係者の、日本の方も含めてですけれども、その方々からお話を伺うのと二通りあろうかと思いますが、後者につきましては既にいろんな形でお話を伺っております。
 難しいのは当事者の方々から直接お話を伺うということでございまして、私どもは、現在進めております調査をより完全なものにするためには、当事者の方々から直接お話を伺うことが必要であろうという感じになっておりまして、ただいま外務省にお願いいたしまして、現地の大使館を通じて当事者の団体の方々と連絡をとらしていただいております。向こうの側でもいろんなお考えがあるようでございまして、いま少しく、いつどういう形でやらしていただくか、時間がかかろうかと思いますが、何とか実現にこぎつけたいと思います。

○宇都宮委員 今まで、そういう証言の信憑性については疑問を持っているということで、私たちがそういう聞き取り調査を行うべきでないかと言っても、行わないという方針だったと思うんです。
 そしてまた、もう一つは、そういうもとの当事者の方に聞き取り調査をすれば、その人たちは、強制的にやらされた、従軍慰安婦にさせられた、いわゆる強制連行されたというふうな証言をなさっている方が多いわけです。そういう証言が出てくることは明らかだと思うんですけれども、この強制連行については政府はどのようにお考えなんでしょうか。

○谷野政府委員 まさに先生のただいまお話しのようなポイントも含めまして、私どもは別に予断を持っているわけではございません。なすべきことは、なるべく真実を究明するということでございまして、それに尽きると思います。そのような考え方に基づきまして調査を進め、聞き取り調査も行うということでございます。

○宇都宮委員 だとすれば、この聞き取り調査をするということに方針を変えたのはどうしてなんですか。何か理由があるんですか。

○谷野政府委員 聞き取り調査のお話だったと思いますが、政府は確かにひところまで、この当事者の方々のプライバシー等の問題もあろうかと思いまして、これの問題について若干消極的なことを述べておったかと思いますけれども、その後、先ほど申し上げましたように、より実態に迫るために、かつまた韓国側からも内々これを実施してほしいという強い御要請がありまして、ただいまのところでは、先方の協力が得られればということが条件でございますけれども、先方が応じてもいいということになりますれば、ぜひそのような段取りを進めたいと思っております。

○宇都宮委員 この聞き取り調査に関して、なかなか難航している、いろいろと韓国の団体の方にも反対があるというのでなかなか難航しているというふうな報道がなされておりましたけれども、見通しといいますか、特に元従軍慰安婦の方の聞き取り調査ができるかどうかの見通しと、それに対します、どうすれば実現できるかというその方法など、どういうふうにしたいか考えていらっしゃれば、お伺いできますか。

○谷野政府委員 これは、先方の団体とのお話し合いは、外務省、出先の大使館にお願いしてございますので、あるいは外務省の方からお答えいただいた方がよろしかろうかと存じますが、私どもの承知いたしておるところでは、いろいろ先方にも、団体の方にこれに応ずるにおいてもいろんな条件とかお考えがあるようでございまして、その辺のところをいま少しく解きほぐすために時間が必要だと思います。したがいまして、相手のあることでございますから、私の方の立場でいつまでにということはなかなか申し上げにくいわけでございます。
 それから、しかりとすれば、どういう規模で、どういう形で、どこで何人くらいということは、そういった話し合いを通じてお互いに合意をして出てくる話でございまして、とにかく今は私どもの考え方を向こうの団体の方に伝えて、私どもの考え方をわかっていただくというふうなことで努力をさせていただいております。

 第126回国会 参議院逓信委員会 第12号 平成五年六月一日(火曜日)午後一時十二分開会

【発言順】
 委員          及川 一夫
 郵政省簡易保険局長   江川 晃正
 郵政省貯金局長     山口 憲美      
 外務省条約局法規課長  伊藤 哲雄
 外務大臣官房外務参事官 河村 悦孝
 郵政大臣        小泉 純一郎      
       
○及川一夫君 今まで一時間四十分きめの細かい質問をさせていただきました。どちらかというと、今までの質問は、これからの簡保事業の発展ということを願いながら質問させていただいたわけですが、簡保事業や郵貯関係にもそれぞれ国際的な課題というものが存在しているんじゃないか、課題のうちでも陽の課題と陰の課題というのがあるわけですが、陽の課題については大いに歓迎をするわけでありますが、陰に近いような立場で問題をとらえなければいけない、しかし何としても問題を解決をしなければいけない、こういう前提に立って少しく質問させていただきたいと思います。
まず第一に、江川局長でも山口局長でもどちらでもよろしいのですが、戦前における簡易保険、郵便年金、さらには軍事貯金ですか、郵貯ですか、というようなものが存在をしておりましたけれども、報告書の隅々を見ると、それとなくそういうお金がある、あるいは支払った件数があるというようなことが報告されていますよね。したがって、現状についてまず明らかにしていただきたいということを申し上げます。

○政府委員(江川晃正君) 簡易保険と年金について私の方からお答えさせていただきます。
 韓国及び北朝鮮につきましては、終戦前、日本内地で簡易保険、郵便年金に加入し、終戦後、韓国または北朝鮮に帰った韓国または北朝鮮の住民の有する契約というのがございますのは事実ですが、契約件数及び保険金額は不明でございます。
 この契約に係る保険金等の請求権につきましては、韓国住民が加入していた簡易保険、郵便年金の契約に係る保険金等の支払い請求権は、昭和四十年十二月の日韓協定によって、一部を除きその権利は消滅している。それから北朝鮮住民が加入していた簡易保険、郵便年金の契約に係る保険金等の支払い請求権は、北朝鮮との間に財産及び請求権の処理についての取り決めがないことから未解決のままとなっております。その支払いについては、現在北朝鮮との間で国交正常化の交渉が行われており、その結果を待って対処したいと考えており、保険金等の支払いは保留しているところでございます。
 二つ目の事案で、台湾住民が加入していた簡易保険、郵便年金の契約につきましては、件数は推定で百九十万件、保険金額は推定で約五億三千万円でございます。その契約に係る権利義務の決済は、昭和二十七年八月の日華平和条約により、その両国の特別取り極により措置することとなっていましたが、この特別取り極が結ばれないまま、昭和四十七年九月の日中共同声明によって同条約が終了し、未解決のままになっております。その支払いにつきましては、現在、関係省庁と調整を図っているところでございます。
 樺太と関東州の住民が加入していた簡易保険、郵便年金の契約につきましては、樺太が件数推定で約二十二万件、保険金額推定約七千万円、関東州等が件数推定約七十万件、保険金額推定約一億七千万円でございました。この支払いにつきましては、樺太住民が加入していた簡易保険、郵便年金の契約については、ロシア国籍及び無国籍の人から請求があれば支払い可能と考えております。関東州等の住民が加入していた簡易保険、郵便年金の契約につきましては、中国国民から支払い請求があれば、法的には支払う義務があるものと考えております。
 最後になりますが、南洋諸島に係る簡易保険、郵便年金につきましては、現地住民の簡易保険、郵便年金の加入はございませんでした。
 以上でございます。

○政府委員(山口憲美君) 委員お尋ねの郵便貯金の関係について御説明させていただきます。
 一つは軍事郵便貯金というのがございます。これは戦時中に全戦域にわたる約四百余の野戦郵便局あるいは海軍の軍用郵便所において預け入れされた通常郵便貯金というふうなものでございます。それからもう一つは外地郵便貯金というのがございます。これは第二次世界大戦の終結によりまして、日本から行政権が分離したいわゆる外地等の郵便局で預け入れをされた郵便貯金、この二つでございます。
 この二つにつきまして軍事郵便貯金等という形で御説明をさせていただきますが、まず韓国の方の軍事郵便金等につきましては、日韓請求権・経済協力協定に基づきまして制定されました日本の国内法によりまして、原則として権利は消滅をしているということでございます。
 それから北朝鮮の方の軍事郵便貯金等につきましては、現在、日朝国交正常化交渉によりまして財産・請求権問題について交渉中でございますので、その成り行きを見守っているというふうなことでございます。
 それから台湾の方の軍事郵便貯金等につきましては、日台間の請求権問題につきまして、サンフランシスコ平和条約それから日華平和条約におきまして、特別取極を締結して処理することが予定をされていたわけでございますが、日中国交正常化の結果がかる措置ができなくなったという事情がございます。この問題につきましては、日台間の全般的な請求権問題との関連を考慮する必要があるというふうなこと、いかなる形での債務履行が実際的か慎重に見きわめる必要があるというふうなことから、その取り扱いを現在政府部内で検討をさせていただいているというふうなことでございます。
 それから関東州の方が有する軍事郵便貯金につきましては、日本国内法上の権利が確認されるものにつきましては、国内で支払い請求があれば支払いができるということでございます。
 それから南洋地域の方が有する軍事郵便貯金等につきましては、昭和四十四年の日米協定及び交換公文によりまして権利は消滅をしているということでございます。
 それから樺太でございますが、樺太の外地郵便貯金は、在住の方につきましては国籍が旧ソ連籍、無国籍あるいは北朝鮮籍の方などが問題となるわけでございますが、旧ソ連籍及び無国籍の方につきましては、日本国内法上の権利が確認されるものにつきましては、国内での支払い請求があれば支払いが可能ということでございます。北朝鮮籍の方につきましては、先ほどお話し申したこととの関連で、日朝正常化交渉の成り行きを見守っているということ、それから仮に韓国籍の方がおられたということになりますと、原則として権利は消滅をしているというふうなことでございます。なお、地域名等につきましては、ちょっと古い地域名で言わさせていただきました。
 なお、外地郵便貯金につきましては、現在高が千八百二十九万口で二十億一千四百万円、それから軍事郵便貯金につきましては七十三万口で二十二億三百万円でございます。
 以上でございます。

○及川一夫君 大体文書を読み上げていますから、ストレートに初めて聞いた方は余りようわからなかったというふうに思います。したがって、今答弁されたことについては、私は一覧表にして提出をしてもらえぬかということをまずお願いしておきたいというふうに思います。
 実は、台湾の皆さんから郵便貯金あるいは簡易保険問題について、支払い請求というのが現実に裁判にかけられて、日本の裁判所でそれが否定をされたりしているという現実が率直に言ってあるわけであります。しかし、元日本兵という立場の人のみならず、一般の韓国人やあるいは台湾人にしても、日本の簡易保険や郵便貯金というものに金を納めて、いろいろ国策的な意味での協力もしたということがあって、この問題は大きな二国間があるいは国際問題になるか、いずれにしても大変な問題になるんじゃないかという気がしてしょうがないわけであります。
 したがって、これまでの国会における議論を見ますと、衆参両院の予算委員会で多少出ているんですけれども、突っ込んだ議論に要するになっていないというふうに思います。しかも、郵便貯金や簡易保険ということになれば、予算委員会も政策討議の場ですから問題にしてもらって結構なんだけれども、やはりこの逓信委員会が相当突っ込んだ形で、外務省あたりが正面切っていろいろ対応しなければならぬときには、即刻それに対応できるようなものをつくっておくべきだというか、態度決定をしておくべきだとか、そういう気持ちがして私はならないのであります。
 そういう意味で、私なりに整理をしますと、両局長から答弁いただきましたけれども、次のようなことでいいのかどうか、これをまず確かめたいと思います。
 まず国別に申し上げると、韓国というお国との関係では、日韓協定というものを締結したので、要するにすべて解決済みである、これが日本政府といいますか、今局長が言った立場であるというふうに一つ確認をしたい。
 それから朝鮮民主主義人民共和国、俗に北朝鮮と言っておりますが、これは今交渉中ということでありますから、当然問題はそのままになっているという形なので、交渉中ということで北朝鮮の場合は権利は消滅をしていないというふうに理解
してよろしいか。
 それから台湾の問題につきましては、日中共同声明というものが出てまいりまして、不幸にして国交断絶、こういう事態になってしまったので、それまで交渉しつつあった問題がそこで中断をされているということになっているわけで、したがって、これは当然日本側は支払っていかなければならないものではあるけれども、交渉相手がなくなったわけですから、そのまま凍結状態にあるというふうに理解をしてよろしいか。
 それからもう一つ、関東州、これは我が国が植民地政策や何かで占領したりなんかしたわけじゃありませんから、現実に関東州ということで中国からお借りをしておった、租借をしておったというふうに私は理解をいたしております。したがって、中国領だということになりますと、日中共同声明によって、賠償請求の問題を含めてすべて周恩来さんの発言によっていわば賠償請求が全くない、したがって、すべてこれも解決済みという認識に我が国は立っているというふうに理解してよろしいか。
 それから樺太の問題につきましては、ロシア、旧ソ連領ということになっております。これは外務省にも聞かなければいけないのですが、国交の関係は回復しておっても、平和条約というものが存在をしていないという限りでは必ずしも一〇〇%正常化されていないということになると、やはり私は台湾と同じような問題があるんじゃないかと思うんです。先ほどの局長の話によれば、支払いをしたということが報告になっているので、これは支払うときには支払えるというものだというふうに私は皆さんの報告というものを整理してみました。
 以上のような理解でいいかどうかという問題について、これはむしろ外務省に聞いた方がいいと思うので、外務省いかがですか。

○説明員(伊藤哲雄君) お答えいたします。
 ただいまの先生の整理で国家間の請求権の処理としてはおおむね正しかろうと思います。ただ、若干敷衍してより正確に御説明いたしますと、まず、韓国との間では日韓協定により解決済みとおっしゃいましたが、より正確に言えば、日韓協定により国家間の問題としては解決済みであって、さらに日韓請求権・経済協力協定に基づきまして、日本で国内法を制定して、確定債務を消滅する国内法的措置をとっております。そういう意味で、先生がおっしゃるように、確定債務も含めて解決済みということでございます。
 続きまして北朝鮮につきましては、先生もおっしゃったように、ただいま日朝国交正常化交渉をやっておりますので、こうした請求権の問題も含めて現在両国間で交渉中ということでございます。
 続きまして台湾でございますが、これも先生おっしゃったように、日中共同声明によって台湾との間で特別取極を締結することができなくなりました。そういうことから、いわゆる国家間での請求権の処理ができなくなった、そういう状況にあるわけでございます。 最後に樺太でございますが、先生は、旧ソ連、ロシアとの間で平和条約が締結されていないので全面的に国交が正常化されていない、そこで台湾と同じような、確定債務請求権の問題についてもそういう問題があるのではないかという御意見でしたが、正確に申し上げますと、確かに現在の日ロ間では平和条約が締結されておりませんが、これは唯一領土問題が未解決ということで平和条約が締結されておりませんので、それ以外の通常平和条約に含まれるべき請求権、賠償の問題あるいは戦争状態終結の問題、こういう問題につきましては既に一九五六年の日ソ共同宣言によって解決済みでございます。その共同宣言の第六項に、「日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五年八月九日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、」「国民の」「すべての請求権を、相互に、放棄する。」ということでございますので、戦争の結果として生じた請求権につきましては、個人のものも含めまして国家間では解決済みと、そういうことでございます。

○及川一夫君 より鮮明になったと思います。
 ソ連、ロシアの問題については、私は意見というよりも疑問をちょっと提起しただけですから、今外務省が御説明になったようなものとして私も受けとめて、少なくともこの種問題では停滞なく対応できるというふうに理解をしておきたいと思います。
 そこで、次の問題としてお伺いしたいんですが、一つは韓国の問題であります。
 基本条約が結ばれて、経済に係る問題の協定もあるわけですが、結論として、いずれにしても三億ドル、二億ドル、無償、有償という形でもって軍事郵便とかあるいは外地郵便貯金とか簡保問題というのは解決をした、政府間ではという前提を置きながらも解決をしたというふうに理解をするとすると、韓国の個別の人がいわば郵貯問題で、問題あり、支払え、返してほしい、こう言ったときには、当然韓国政府がそれに対応する、こういう理解になると思うんですが、その辺は外務省どうですか。

○説明員(河村悦孝君) 今先生がおっしゃいましたように、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定におきまして、日韓間の財産請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたことが確認されております。このかかる解決に並行いたしまして、先ほど先生のおっしゃいました、韓国に対し五億ドルの経済協力を実施する旨が規定されております。
 このような日韓間の財産請求権問題の解決を受けまして、韓国政府は、一九七一年一月に対日民間請求権申告に関する法律を、さらに一九七四年十二月には対日民間請求権補償に関する法律を制定しております。これらの法律に基づきまして、韓国国民が日本国に対して有しております一定の民間請求権について補償措置を実施したものと承知しております。
 さらに、対日民間請求権申告に関する法律第二条の中では、この法律の規定による申告の対象の範囲を規定しておりまして、九項目にわたりこの法律にいう対日民間請求権の具体的内容を列挙しております。そしてこの中で、「日本国で預け入れ又は納入した日本国政府に対する一定の債権」との項目がございまして、郵便貯金もこの規定により一定の債権に含まれるものというふうに承知しております。

○及川一夫君 ここから先になると、郵政省が御存じかどうかわかりませんが、今外務省がお答えになったような形で、内容的にどう補償されたかということについてはおわかりですか。

○政府委員(江川晃正君) 我々としては存じ上げておりません。

○及川一夫君 これから問題がよくとも悪くとも日本に持ち込まれて郵政省相手に請求が出てくると、当然こたえていかなければいけませんわね。そのときに説得力のあるのは、韓国政府との間で一定の結論が出ました、解決しているんです、したがって、問題があるならばそれは韓国政府に言ってください、言えばこういうような措置がされるでありましょう、されるはずだというものを持って韓国の方々に対応するのと、今江川さんが言われたように、おれ知らぬという形で説得するというのは、これは大きな違いがあると思うんですよね。
 だから、私から言わしめれば、局長おわかりにならないなら、韓国で国内措置をされた内容について、外務省にその法律とか規定というものをとっていただいて、まずどう措置をされたかということを郵政省が理解しておかなきゃならぬのじゃないでしょうか。そういう意味では、外務省、法律をちょっと教えてくださいということを請求できないんですか、韓国に。

○説明員(伊藤哲雄君) ただいまの先生の御質問の点でございますが、先ほど外務省の方から答弁いたしました一九七四年十二月の韓国の法律でございますが、対日民間請求権補償に関する法律、これは日本に請求権を持つと主張する韓国の国民にどういう方式で補償するかというようなことを定めた法律でございます。
 その第四条に、日本国通貨一円に対し大韓民国通貨三十ウォンの支払いを行う、さらに百円未満の請求権については百円とみなす、そういう規定がございます。さらに、特に被徴用死亡者、つまり軍人、軍属で亡くなった方の遺族に対しては一人当たり三十万ウォンとする、こういう規定がございますので、結果について詳しいデータを韓国から入手したわけでございませんが、この法律に従えば、郵便貯金通帳の日本円での額面に対して大韓民国通貨三十ウォンで支払いを行う、そういう政策を韓国が持っていたということが明らかであると思います。

○及川一夫君 外務省、せっかくの答弁だけれども、郵貯問題、簡保問題とは今の答弁はちょっと違うような気がしますよ。恐らく台湾との関係で、元日本兵という人が戦死をしたとか負傷したとか、そして戦死をされた場合には遺家族をどうするかとか、そういう議論があって一定の補償というか、弔慰金というか、そういうものを日本政府は赤十字社を通してやったことがあるんでしょう。それとの兼ね合いで、韓国からも同じような個別の要求が出たことに対して、韓国政府として三十万ウォン、金額にすると十八万円です、日本円で言うと。そういうものを補償したという内容であって、ちょっと私は次元が違うんじゃないかなと思っているわけですよ。
 いずれにしても、時間がそうたくさんあるわけじゃないからあれだけれども、ぜひ外務省と協力し合って、韓国で本当にどういう措置をされているんだろうか、三億ドルとか二億ドルとか、無償、有償で日本政府が政治的決着を韓国との間で図った、そういう補償された財源というものがどう使われているのかにも私はいくと思うんで、そういった点は多少時間かかっても私ははっきりさせるべきじゃないかなというふうに実は思うんです。
 なぜ私がこんなことを言うかの問題なんですけれども、私は、韓国からは新たに韓国人個々人の問題として郵貯、簡保問題ではいろんな請求が出てくるように思えてならないんです。というのは、日韓協定を結ぼうとした時期、たしか昭和四十年ですか、あの時期に今日の大統領である金泳三先生は少なくとも野党の立場に立っておったと私は記憶しているんです。そして、我が社会党が日韓基本協定に反対をした理由がありますが、その理由とは違った意味で反対行動、運動を当時やっておったし、同時に、金泳三先生の今の取り巻きというのはそういう運動や行動に参加した人たちがかなりおられるわけですよ。
 ですから、いまだに我が国政府との間で問題になっていますが、日韓基本協定を結ぶに当たっては、少なくとも日本が犯した植民地政策の謝罪と反省というものがない限りそういう協定は結ぶべきではないという、そういう物の考え方が私は根底にあるというふうに見るわけです。
 したがって、そこに依拠してこれからの日韓関係をどうするか、あるいは郵貯問題だ、簡保問題だというものが出てきたときにどういう対応をしてくるかということになりますと、必ずしももろ手を挙げて賛成というふうな格好で提起するんではなしに、批判的な立場からやっぱり迫ってくるというふうに考えるべきではないのかなというふうに思うんです。それを我々は頭からげ飛ばすという発想ではなしに、やはり納得ずくというか、理解というものを前提にして対応すべきだと思うので、そのためにはより多く、韓国でどう対応されたのか、韓国政府がどのような措置をされたのかということを前もって把握しておく必要があるのではないかと思っているからだということなのであります。
 それと同時に、台湾の皆さんの要求も出てきますね。これはまだ措置をしていないわけですから、当然のこととして出てくると私は思うんです。しかし、これは日中共同声明で国交が断絶をしてしまったということがあるわけですから、国交を回復しないうちはなかなかもって問題解決の糸口をつかむことができないというのが現状だと思うんですよね。したがって、それまではじっと待っている、問題解決には走らないということでいいのかどうかということもあわせて考える必要があるんじゃないかというふうに思うんです。
 そういう点では、総理府にちょっとお伺いしたいんですけれども、平成元年当時、内閣総理大臣官房臨時特定弔慰金等業務室というのがありまして、ここでもって、台湾から出ておった、先ほど言った戦死者の問題とか負傷者の問題に対して二百万の弔慰金を出しているというのが一つあるわけです。これは何から出てきたかというと、産経新聞に対する投書があって、それに対する答えとして内閣総理大臣官房臨時特定弔慰金等業務室が当時出されたわけであります。今現在は内閣総理大臣官房管理室というふうにおっしゃるんですか。したがって、この回答を出されたいきさつについてちょっとお伺いしたいというふうに思います。

○説明員(関根康文君) 先生御指摘の記事の内容でございますが、元日本兵として戦没された者のうち、韓国出身者に対しては一人当たり五百万、台湾出身者に対しては一人当たり二百万というような内容の趣旨だったかと思いました。
 そういうことにつきまして、総理府といたしましては、一部指摘されている事実について違う関係がございましたので、台湾住民である戦没者の遺族等に対する弔慰金等の制度を所管する担当者から、本人あてに制度の趣旨、内容、事実関係等について御理解を賜るために御説明した、通知を出した、そういう事実でございます。

○及川一夫君 それで、こういう措置がとられたというのは、恐らく各党全会一致でもって対応されたということと私は教えられているのですが、そのとおりですか。

○説明員(関根康文君) そのとおりでございます。

○及川一夫君 そこで私はまた郵貯の問題や何かに戻るんですけれども、こういう措置をとられたというのは、何とかやはり問題を解決しなければいけない、国交が断絶しているから日本政府は知らぬというわけにもいかないということが、今後のことを含めて私は判断があったと思うんですよね。ですから私も賛成なんですけれども、ただやり方としては、政府間でやることができない、したがって日本の赤十字社と台湾の赤十字社とを通じて問題の解決に当たったという内容が実はここから出てくるわけです。ある意味ではすばらしい一つの知恵だと思うのであります。
 したがって台湾の問題で、いまだに支払いをしていない、国交が回復するまで待つという形でいくよりは、こういう赤十字社というものを通じて、日本の郵政省が証拠に基づいて支払いをしていくというようなことはできないことなんでしょうか。外務省が外交をするに当たって、そういう手段をとることについて問題があると考えられるかどうか、まずそれをお聞きしたいと思います。

○説明員(伊藤哲雄君) お答えいたします。
 ただいまの御質問の件ですが、元台湾人日本兵に対して二百万円の弔慰金を日本赤十字社、台湾赤十字社を通じて現在まで支払ってきているのは先生の御指摘のとおりでございます。
 ただ、この措置を行いました基本には、台湾住民である戦没者の遺族等に対する弔慰金等に関する法律という法律を国会で御審議いただきまして、超党派でこういう法律ができまして、これに基づき、予算措置をとってこれまでそういう支払を行ってきているわけでございます。
 したがいまして、戦後処理はいろいろな問題がございますが、特にこの台湾兵の問題につきましては、戦後処理の法的処理としての補償、そういうものではなくて、あくまでも人道的精神から我が国の国内的措置としての弔慰金の支給でございますので、果たしてそういう措置が適当かどうかということにつきましては、政府部内でもさまざまな問題について十分に議論をする必要がございますし、最終的にはやはり国会でお決めいただく問題がなと存じておる次第でございます。

○及川一夫君 そこで郵政大臣、これをやるということになれば、ある意味では閣議でも相談をせにゃいかぬだろうし、同時にまた、しかし政府が
前面に立つわけにもいかないというような問題を含んでいると私は思います。したがって、難しいなというふうなことを考えながらなんですが、現実に今、台湾戦没者議員懇というのがありますね。恐らくここでもって相談をされて、立法措置をされて、それで台湾問題の一つの問題点を解決したんだというふうに私は認識をしました。こんなところでも郵貯の問題、軍票の問題、いろんなことが話題にはなっているそうですから、郵政大臣、こんなところでひとつ相談をしてみるというふうにはならないものでしょうか。
 そして、台湾人が要求しておることに対して、いずれにしても支払っていかなきゃならぬということは、郵政省もその立場に立っているわけですから、支払うきっかけ、支払い方の問題を含めてどうするかということが限られた問題としてあると私は思うんですよ。そういったことを郵政大臣はお考えになる気はありませんか。

○国務大臣(小泉純一郎君) 外国との関係でいろいろ難しい点があるということは今のお話でわかるわけでありますが、台湾というのは特に中国とのいろいろな複雑な関係もありますし、この問題については今政府部内で検討中と聞いております。ですから、その対応を見るしかないと私は思っております。

○及川一夫君 率直に言って、きょう初めてこんなことを申し上げているわけですから、よしわかったというふうにはなかなかならないかもしれません。しかし、日を追って台湾人の人たちがさまざまな行動を我が国の国内で起こして、裁判という方法をとってくると見ざるを得ないというふうに私は思うんです。ですから、やっぱり海外との関係、他国との関係ですから、日本政府あるいは日本人の誠意を見せるためにも何らかの工夫を凝らして、そういうような要求に応じていくというか、実質的にそういう道を開いていくというか、そういうことを考えていかなければならぬのではないかというふうに率直に思うのであります。従軍慰安婦の問題も非常に大きな政治的な問題になりそうだというようなことも含めて、ぜひ郵政大臣にももう一考していただきまして、何かひとつ解決策がないかということをお考えいただきたいということを要請しておきたいと思います。
 次の問題に移りたいというふうに思います。
 それはまず、今回の法律の提案、私も賛成でございますが、この簡保事業というものに対して、民間保険と対置してあるわけですが、具体的に簡保事業は行き過ぎである、この点が問題だというようなことを指摘されたことがありますか。あったら具体的に内容としてどんなことが言われたのかということを教えていただきたいと思います。

○政府委員(江川晃正君) 古くは、十年前の五十八年の臨調の答申の中で、ちょっと私手元にございませんから正確な言葉の再現が難しゅうございますが、簡保が民業を圧迫しないようにという趣旨のことが書かれていたということは承知しております。それがその後の行革審の最終答申などでだんだん変化してまいりまして、平成二年でございますが、最新の第二次行革審の答申では簡保事業に対する個別の指摘はございませんで、郵政事業全般について、「官業は民業を補完しつつ適切な役割を果たしていくことを基本」というような表現であらわされております。
 もう一つの分野で申し上げますと、生保業界というのがございまして、三十社近くございますが、それらのいろいろな要望が時に一年に一遍ぐらい出てまいります。我々が予算要求をするとそれに見合っていろんな要望が出てくるということでございますが、そういう中で簡保について触れることもございます。それは、簡保と民保はお互いにそれぞれの機能を十分発揮して協調してやっていこうという趣旨のことを表現してよく出でございます。その中にたまたま、昨年ので申し上げますと、これは生命保険協会の協会としての言葉でございますが、官業である簡保は民間生保の補完に徹すべきものであるというふうに言ったりしております。
 同時に、会長と我々と話をしている世界の中では、簡保も民保もそれぞれの立場、それぞれの機能を持っているから、それぞれの機能を十分発揮して、お互いに相競って、全体として国民の利益の向上に資そうじゃないかというふうに話し合ったりしてきているところで、それが最近でございます。

○及川一夫君 そこで、簡保事業ということを考えた場合に、私は持論として、昔のように、みずからが他界した場合に残された者のことを考えていわば資産を残す、あるいは保険をもって死後の家族の生活を考えるという時代はもう去ったんじゃないかなと。むしろ、高齢化社会ということを言うならば、我が党の両議員が言われたように、いわば夫婦でもって長く生きる、そのための生活費をどうするかということを考える、それをまた前提にしたいわば生活システム設計というものを立てていくということが大事ではないのかと。
 つまり結論的に言えば、年金というものにウエートを置き、しかし年金も政治でもってすべてを補うということはもうできないということを考えるならば、やはり自助年金というものをお互いに奨励し合って、またその余裕がどのくらいあるかないかということも関係はするけれども、そういうことを意識した生活設計というものを立てていくべきだなというふうに思っているわけです。
 そういう目で今の簡保事業の現状を見ると、項目はあるけれども、シェアを見ると必ずしもそういう事態になっているとは思えない。保険・年金総額を足してみて、その中で一体年金の占める割合はどのぐらいかなということを計算してみると、百五十八兆のうち七千二百億ぐらいが要するにこの年金保険ということに実はなっているわけですよね。だから、パーセントにしてみれば一%にもなりません。それこそ〇・五%ということになるような数字になっているではないか。そういうシェアにしか達していないから、かなりこれから簡保事業のあり方のウエートを、やはり年金というものを含めた保険事業ということにステップを変えていくということが非常に大事ではないかなというふうに思うんですが、いかがですか。

○政府委員(江川晃正君) 先生御指摘のことは、これからの世の中を考えますと全くそうだなと思うところでございます。年金が現在少ないのは、何といいましても、衣がえしてスタートをしたのが十二年前の昭和五十六年でございますので、まだ言ってみれば幼児期なのかもしれません。ということが一つと、もう一つは、今までは年金についてはそこまで深く需要が認められていなかったんではないかと考えられます。
 ちょっと私ごとで恐縮でございますが、私、昨年七月に簡保局長になりましたときに、民間の生保会社の社長のあいさつ文というのを二、三年にわたって全部ちょっと見たわけです。どこの社長も大体二年前のあいさつで言っていたことは、ことしは年金元年という言葉を言っておりました。各社がこれからは高齢化社会に向かって年金が新しい商品だぞということで注目し、力を入れて、そして売り出そうという工夫をし始めるときじゃなかったかなと思います。
 そういう点で、私たちの方も五十六年に始めた新年金のラインは正解だったなと思いますし、あわせて、先ほどもちょっと申し上げたのですが、年金そのものにつきましても幾つかの改善を自来やってきたりして進めてきたところです。より一層個人年金がこれからますます高齢化社会の中で、先生おっしゃいますように亡くなってからではなくて、自分の亡くなる前に立てると言うと変ですが、それまでの人生を豊かにさせるための道具として年金というのは非常に重要になってきたというふうに考えておりまして、おっしゃいますような重要な施策としてこれからますますここに力を入れて、国民の需要に見合う、きめ細かいニーズに立った年金を仕上げていきたい、また売り出していきたいと考えているところでございます。

○及川一夫君 最後になりますが、広告宣伝費の問題についてちょっと意見を言わせていただきたいと思います。
 どうでしょう、逓信委員会として、広告宣伝費ということをとらえて意見が出るというのは初めてじゃないかなというふうに認識しているわけです。というのは、いつから一体広告宣伝という予算項目が出てきたのかなということが一つと、それから宣伝費について民間の動向というものを見ると、電通広告社でもあるいは雑誌講談社でも、さらには博報堂でもかなり広告事業というのが逼迫をしてきて、逼迫するということは各会社とも広告宣伝費というものをぐぐっと絞っているわけですよね。したがってなかなか競争も厳しいし、なかなか収益も上がるような状態じゃない。はてどうするかということできゅうきゅうとしているような状況ですわね。
 そういう中で郵政の広告費というものを見ると、大体毎年毎年上昇傾向をたどってきているし、民間産業界からいえば、官ですから、結構な話だということになるんだろうというふうに思うんだけれども、宣伝費のかけ方について、これはどういう考え方でこれからも対置されようとしているのか。今年の予算はもう成立しているんですから、それにどうのこうの言うわけじゃないけれども、宣伝のあり方を含めて郵政省としての考え方を聞かせてほしいということであります。

○政府委員(江川晃正君) 国営事業でございますから、宣伝につきましては品位といいますか、節度を保ったことでやっていきたいと考えるのがまず大原則でございます。PRの経費、宣伝の経費というのは、五年度でいきますと、簡保で申し上げますと十億少し強ぐらい予定してございますが、それはすぐテレビとかラジオとかというふうに思い浮かべますが、同時に、各郵便局でパンフレットをつくったり、チラシをつくったり、何かつくったりということ全部含めての話でございます。それらを節度を保った形でPR活動に努めていきたいなと思っているところでございます。

○及川一夫君 終わります。

 第127回国会 衆議院内閣委員会 第2号 平成五年九月九日(木曜日)午前十時七分開議

【発言順】
 国務大臣   武村 正義
(内閣官房長官)
 委員     原田 昇左右
 委員     松本 善明

○武村国務大臣 たびたびの御意見でございますが、山花委員長も、先ほど申し上げたように金浦空港をおりて劈頭の声明で、私は今回は社会党の委員長として参りましたと明快にあいさつをなさっているわけでもありますから、ぜひそのように御理解をいただきたいと思うのでありますが、それにしましても、今後閣僚等につきましては、本人はきちっとそういう前提で物を言いましても、報道その他の関係もございますし、あるいは一般的には誤解を招くような場合もあるわけでございますから、十分今の御意見は、今後の私ども政権全体にとりましても参考にするために、一つの御意見として拝聴をさせていただきます。
 それで、この補償問題につきましては、既にたびたび細川総理も申し上げてきているわけでございますが、サンフランシスコ条約や二国間の国際条約等々によりまして国と国の関係で賠償や財産請求権の問題がきちっと解決しているという国においては、もはや賠償の問題は存在しないというのが政府の見解でございます。韓国につきましては、当然そういう意味では従軍慰安婦の補償の問題も、この一九六五年の日韓請求権・経済協力協定の締結によりまして解決を見ているという認識を持っております。
 ただ、この問題につきましては、御承知のように前内閣におきまして河野官房長官が既に、いわゆる従軍慰安婦として数多くの苦痛を経験され、心身にわたりいやしがたい傷を負われたすべての方々に対し、どのようにしておわびと反省の気持ちをあらわしていくか、このことが残っている、このことについては政府としては今後も鋭意検討をさせていただきたいという発表がなされておりまして、このことを私ども新政権も受け継いでいるつもりでございます。賠償、補償の問題は終わっておりますけれども、この申しわけないという気持ちをどう表現していくか、あらわしていくか、その課題が残っているという認識でおります。御了解を賜りたいと存じます。

○原田(昇)委員 私の発言を参考にするなんという生易しい話では、本当は私は納得しません。官房長官、ともかく閣内不統一にならないようにしっかりと、閣僚がまさに海外に行って発言するのは、よほど内閣の方針をわきまえてやってもらわなければ大変なことになりますよ。
 ここに一つ新聞記事がありますが、おととい、九月七日の新聞記事「戦後補償要求十九兆三千億円」、全部、何か各国の、中国その他のものも加えると十九兆三千億になるだろう、こういう数字も出ておるわけでありまして、私たちは、この問題について政府がしっかりした処理をしなければいかぬというように思います。ただ、国が謝罪するということは大変なことでありまして、バックにこういう膨大な補償要求を含んでおるということも頭に入れて、よく閣僚を指揮していただかないと、これはもう何をやっているんだということになるのではないかと思います。この問題については、いずれ御本人にぜひ来てもらいまして、篤と話を承りたい。
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○松本(善)委員 最後に、戦後補償と山花大臣の件、先ほども問題になりましたが、これをお聞きして終わりにしたいと思います。
 官房長官は、山花国務大臣が韓国で言われた、韓国人元留学生の同窓会の席上で言われた、誠意ある補償のための措置は不可欠、この発言は明らかに一歩踏み込んだものであろう、だからこそ個人の発言だ、社会党の委員長としての発言だろう、こういうような趣旨の御答弁でありました。
 官房長官に伺いたいのは、これは内閣の方針とは違うということをはっきり言われるのかどうか。
 それからもう一点は、官房長官も先ほど河野前官房長官の発言を引用して答えておられましたけれども、記者会見でも、官房長官は何らかの措置を検討するという考えは示唆されていると思います。細川内閣として、この従軍慰安婦問題について、仮にこの山花国務大臣の発言を否定をされるのであれば、どういうことをやろうとしているのか、その中身をお答えいただきたいと思います。

○武村国務大臣 先ほどもお答えを申し上げましたが、戦争が終わって、国と国の関係でどうその責任を償っていくかというのが賠償あるいは財産請求権の問題であろうかと思いますが、今日まで長い歳月の中で、今日までの政権が苦労をされてそれぞれの国と対応をしてこられて、そういった話し合いの中で一つ一つ解決をしてきているわけであります。
 日本と韓国の問題につきましては、先ほども申し上げましたように、日韓基本条約やその後の協定によりまして、植民地支配の時代のあらゆる財産請求権について長い論議が行われて、その中には当然従軍慰安婦の問題も含まれているわけですが、その結果ああした協定が締結をされたわけであります。そのことを踏まえております以上、これをもう一度修正するような考え方を政府がとることはできないという考え方でございます。韓国政府におきましても、新聞紙上で御承知のとおり、このことで具体的な新たな補償要求はしないということが表明されているように伺っておりまして、私どもはその姿勢を貫いていきたい。
 ただ、河野官房長官のときの政府の見解は、従軍慰安婦について多面的に調査をされた結果が報告をされまして、そのことに対しても率直に反省とおわびが表明されておりまして、なお、この気持ちをあらわす何らかの措置を今後検討さしていただく、こういう表現で結ばれておりまして、私どもはそのことも継承をしているという認識でございますので、その何らかの措置ということで目下政府内部でいろいろと論議をいたしているところでございます。まだその具体的な内容にまで話が詰まっておりません。その辺を御了解いただきたいと存じます。

○松本(善)委員 そうすると、山花国務大臣の言われる誠意ある補償のための措置は不可欠というのは事実上否定をされた答弁と伺いましたけれども、私は、先ほど来御答弁されておりますが、上原国務大臣の場合も同じですけれども、細川内閣の場合は、閣僚は勝手に思っていることを言っていいということになるのですか。そうなりますと、国民は、言っていることとやっていることと違うんじゃないか。外国からも不信を招きかねない。そういう点については細川内閣は自由濶達にやるという方針でありますか。それを伺って終わりにしたいと思います。

 第128回国会 参議院本会議 第3号 平成五年九月二十四日(金曜日)午前十時一分開議

【発言順】
 国務大臣 細川 護煕
 国務大臣 山花 貞夫

○国務大臣(細川護煕君)
 次に、従軍慰安婦問題についてお尋ねがございましたが、日韓両国の間では、従軍慰安婦問題についての補償の問題を含めて、日韓両国と両国民間の財産請求権の問題は一九六五年の日韓請求権・経済協力協定によりまして完全かつ最終的に解決済みというのが政府の立場でございます。
 他方、従軍慰安婦として数多くの苦痛を経験され、心身にわたっていやしがたい傷を負われた方々がおちれるのは事実でございますし、政府としては、人道的観点に立って、これらの方々に対しどのようにしておわびと反省の気持ちをあらわすかについて今鋭意検討をしているところでございます。
 今回の山花大臣の訪韓は社会党の委員長として訪韓されたものでありまして、その発言もそのような立場からの発言であると考えられますが、いずれにしても、山花大臣の御発言は、さきに述べましたような政府の考え方を山花大臣なりの表現で言われたものと理解をいたしております。

○国務大臣(山花貞夫君)
次に、私の韓国訪問に関する発言に対しての御質問にお答えいたします。
 御質問にありましたとおり、従軍慰安婦の問題につきまして補償措置は不可欠であるとの趣旨の考えを示したと伝えられているとの御指摘でありますが、御指摘の声明につきましては正確に引用させていただきますと以下のとおりです。「社会党委員長としての立場から、この場をかり、改めて懸案事項に関して我が党の立場を明らかにしておきたいと思います。第一に、過去の植民地支配について、日本は誠実な謝罪を行い、関連国際条約と道義的責任の観点から、両国国民の納得できる措置を講ずるべきです。」と申し上げたところでございます。また、この点につきましては他の場所におきましても発言しておりますが、あくまでも両国民が納得できお措置を真剣に考えるべきだといたしておるところでございます。
 現在大きな問題となっている従軍慰安婦問題につきましては、前政権におきましても大変御苦労されて対応してきていることは承知しているところでございます。
 ことしの八月四日に出されました当時の河野官房長官談話におきましても、「政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多くの苦痛を経験され、心身にわたりいやしがたい傷を負われたすべての方々に対し心からおわびと反省の気持ちを申し上げる。また、そのような気持ちを我が国としてどのようにあらわすかということについては、有識者の御意見なども徴しつつ、今後とも真剣に検討すべきものと考える。」とされているところでございます。また、「なお、本問題については、本邦において訴訟が提起されており、また、国際的にも関心が寄せられており、政府としても、今後とも、民間の研究を含め、十分に関心を払ってまいりたい。」、これが前政権当時の考え方として発表されていることについては御承知のとおりでございます。
 私は、この前政権の官房長官談話に深い感銘を受けるとともに、私も同様の気持ちでいっぱいであることを踏まえ、韓国においては社会党委員長として発言いたし、また、これまでの政府の考え方も十分承知をし踏まえたものであると考えているところでございます。
 なお、従軍慰安婦問題に関する国会論議は我が国のみならず韓国の国民の皆さんも大きな関心を寄せているところでございます。大河原議員におかれましても、何とぞ問題の所在と日韓両国民の友好と善隣の推進という観点から特段の御理解を賜りたいと存ずるところでございます。
 第三点、カンボジアPKOの経験を踏まえてのPKO活動に対する考え方についての御質問をいただきました。
 議員の御指摘のとおり、私もまた、現地に派遣され無事帰国された自衛隊員の皆様の労をねぎらい、そして同時に、中田さん、高田さんお二人の貴重な命が奪われ、負傷者が出たことについて深く悲しみ、哀悼の意を表するものでございます。そして、このカンボジアにおける貴重な経験を踏まえ、今後のPKO活動に生かすことは当然であり、派遣五原則の的確な運用を初め、現行法の今後の運用において十分な検討が必要であると考えます。法におきましては見直し条項もございます。今後も活発な議論があってしかるべきと考えております。
 連立政権におきましては、国際平和協力法の的確な運用を図るため、十分に議論する中で、その合意に基づいて対処してまいりたいと考えているところでございます。(拍手)

○国務大臣(山花貞夫君) 答弁に先立って一言申し上げます。
 片山議員は、なぜか一度ならずも私が日本社会党の委員長でないとして御質問されておりましたが、なお日本社会党の委員長でございます。そうした責任ある立場でお答えをさせていただきたいと思います。
 六つの質問をいただきましたが、まず社会党の韓国に対する関係。
 平和憲法を持つ日本は全方位外交に基づいてすべての国家との友好を進め、もって自国の安全保障を確保することを基本にしていると考えます。日本が最も近い隣国である韓国と友好関係を強化していることは当然であります。また我が党は、我が国と大韓民国とが自由と民主主義という基本的価値を共有しており、その意味においても一層関係強化を図るべきものと考えております。
 両国国民の納得できる措置ということについて御質問をいただきました。日本が過去の戦争行為に対して心からの謝罪を行い、あわせて犠牲者に対して両国国民が納得できる措置を講ずることは、日本がアジアの一員として将来にわたって積極的な役割を果たす上で不可欠なことであると考えます。
 両国国民の納得できる措置というのは、賠償問題は解決済みとした日韓基本条約の取り決め、日韓請求権・経済協力協定の内容等を踏まえつつ、犠牲者の苦痛に心を寄せながら、人道的な立場から日本としての道義を示すため、国民レベルで納得し理解できる措置を検討していくべきである、こうした気持ちを込めたものでございます。
 なお、従軍慰安婦の問題につきましては、八月四日、官房長官談話の精神を受け継ぎながら、さきの武村官房長官の内閣委員会での答弁も踏まえて検討さるべきものであると考えております。
 次に、国会決議に関連してですけれども、私はまず、さきの太平洋戦争において数百万人もの日本の国民が戦火の犠牲になったことに対して衷心より哀悼の意を表するものであります。同時に、アジアと連合国の軍人軍属、市民、女性、子供たちが日本の軍国主義の犠牲になった事実に誠実に向かい合おうとすれば、過去の戦争が侵略戦争であったことは否定することのできない歴史的な事実であると考えるものであります。
国会決議にどのような表現を盛り込むかにつきましては、超党派の合意を得るために十分な議論の上で国会でお決めいただくべき問題であると考えているところでございます。

 第128回国会 参議院国際問題に関する調査会 第1号 平成五年十一月十日(水曜日)午後一時開会

【発言順】
 委員          島袋 宗康
 外務省総合外交政策局長 柳井 俊二
 委員          矢野 哲朗

○島袋宗康君 あと一点ですけれども、さきの大戦で、我が国がアジア・太平洋地域の諸国民に対する多大な惨害を及ぼしたということはよく御承知でありますけれども、そういったアジア・太平洋諸国との間で信頼関係を築き上げるためには、やはり戦争につながる日本の責任あるいは補償の問題に目を背けるということは、これはできないんじゃないかというふうに私は思っております。
 この戦後補償の問題については、私は百二十六回国会の予算委員会の中でも宮澤総理、それから河野官房長官にも質問をいたしまして、政府の見解をただしたわけであります。先日の韓国での総理の発言や、また一連の総理発言からすると、新政権のこの問題に対する姿勢というものが従来の自民党政府とかなり違った、そして際立った発言をなさっているというふうなことからいたしますと、やはり具体的に新政権としてこの問題についてどう進めようとしているのかというふうなことをやっぱり国民の皆さんも知りたいし、また私としてはアジア・太平洋地域との一番接点にあります沖縄の選出議員ておりますから、やはりその問題解決なしには東南アジア諸国、太平洋の皆さんとの交流というものはそれがネックになってなかなか前進しないんじゃないかというふうに予想されるわけです。そういった意味で、ぜひこのことについて一定の方向性を示してもらった方がいいのじゃないかというふうに思うわけです。
 したがって、細川政権がそういった戦後処理あるいは補償の問題というふうなものをどのように考えておられるのか、その償いというんですか、そういうものを外務省としても、あるいは総理大臣のお考えというものをどのようにお話しされているのか、具体的にまたどういう対応をしていくのかというふうなことが極めて私は重要だと思いますけれども、その辺について外務省の御見解をお伺いしたいんです。

○政府委員(柳井俊二君) ただいま御指摘の過去の戦争あるいは植民地支配に対する認識の問題につきましては、特に韓国との関係では、先週末、細川総理が非常に率直かつ具体的な表現で認識を述べられまして、この点につきましては韓国内では高く評価されているというふうに承知しております。
 過去の我が国の行為をどう認識するかという一つの心の問題と申しますか、姿勢の問題ということが、特にアジア諸国との関係で非常に大事であるということは御指摘のとおりだと存じます。また、あの大戦は非常に広範囲の戦場で戦われましたので、広くアジア・太平洋、そしてさらには英国のような国あるいはオランダといった国との接点も実はあるわけでございまして、そういう観点から過去の行為に対する評価を率直に言われたということはよかったというふうに考えております。
 それからもう一つ、心の問題とももちろん関係はございますが、いわゆる補償、賠償の問題でございます。この点につきましては、御案内のとおり、我が国はサンフランシスコ宇和条約を初めとして平和条約あるいは賠償協定、請求権協定等の締結によりまして、戦後、関係諸国との間でこの問題を処理してまいりまして、賠償の支払い、請求権に対する補償あるいは経済協力といった形で誠実に処理をしてきたわけでございまして、そういう点では私どもとしてはこの補償、賠償の問題というのは一応整理、決着がついているというふうに考えておる次第でございます。
 ただ、これも御承知のとおり、北朝鮮との間では、昨年来、正常化交渉が暗礁に乗り上げておりますので、北朝鮮との関係におきましてはそういう補償の問題というのはまだ未解決であるということでございます。
 それからもう一つ、台湾との関係につきましても、これも御承知のとおりサンフランシスコ平和条約では台湾との特別取り決めによってこういう問題を解決するということになっていたわけでございますが、これが進展しないうちに日中国交正常化ということが起こりまして、その後、台湾と政府レベルの交渉ができなくなったということで未解決の問題が残っておる次第でございます。ただ、その中で、元日本兵であった台湾の方々につきましては議員立法によって一定の補償が行われたわけでございます。そういうことで、未解決の相手もございますけれども、基本的には私どもとしてはこういう補償、賠償の問題は決着済みであるというふうに考えております。
 ただ、いわゆる慰安婦の問題でございますが、これは非常に女性の尊厳を傷つけた、人道的に遺憾な行為があったということでございますので、ことしの八月四日に官房長官談話が出されておりますが、その中で調査結果を発表したわけですけれども、その中で核心のところに触れさせていただきますと、「本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。」という認識を述べまして、その後でそういう方々に対しまして、「心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。」ということを言っているわけでございます。そのほかに、そのような気持ちを我が国としてどのようにあらわすかということについては、有識者の御意見なども徴しつつ、今後とも真剣に検討すべきものと考えるということが一つ。それからもう一つは、歴史の教訓として今後の研究あるいは教育に生かしていくということを言っているわけでございます。
 そこで、日韓関係におきましては、この慰安婦の問題も含めて、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定によって最終的かつ完全に解決済みということではございますが、こういう特殊な問題でございますので、何らかのことができないかということで現在検討をしているところでございます。ただ、過去にさかのぼって補償あるいは賠償の問題をこのような問題についてやり直すということはできないと思いますので、何らか別な、より未来志向的な考え方で何かいい案はないかということで現在関係者の間で相談しているところでございます。

○矢野哲朗君 今、補償の関係で台湾のことについての言及があったものですから、私はっとしたんであります。先ほどの大島委員の質問に対して、日中共同声明の枠内で慎重にというふうな答弁があり、先週、同様な質問を羽田外務大臣に私もさせていただいたのでありますけれども、同様な答弁。当時は私もいたし方ないかなというふうなことで聞かせていただいたのでありますけれども、日曜日に細川総理が韓国に行かれて、あれまで言及した会話に及んだということになりますと、片やあの姿勢たるやしょうがないのかな、一部韓国にも評価されたということがありますからね。
 しかし、忘れちゃいけないのは、やっぱり対台湾との関係かなということをつくづく感じたわけです。ですから、先週の外務委員会のときの答弁はそれでいいのかな、こう感じたのでありますけれども、きょうの柳井局長の答弁についてはそこまでの配慮も必要だったんじゃないのかな、対台湾に対してですね、細川総理があそこまで韓国で発言をなさったという後の話でありますから。日中共同声明の枠内で慎重に対応したいということだけじゃ何か寂しいものを感じるということで、その辺の考え方、もう具体的にそろそろアクションを起こさなければいけないようなときを迎えたような感じがいたします。
 ですから、先ほどの答弁ですと、どうも今までどおりと。まあ結構今までどおりやったって実態はうまくいっているじゃないかというような半面気持ちがあるかもしらぬけれども、その辺での今後の展開というものを私は相当期待したいんです。ですから、そこら辺の考え方をちょっとお聞きしておきたい。

○政府委員(柳井俊二君) 先ほどお答え申し上げましたのは、主として経済関係ということとの関連でお答えしたわけでございますが、御承知のように新政権ができまして最初の所信表明の際に、総理の方から、より一般的に過去の戦争あるいは植民地支配ということについての反省とおわびの気持ちを表明されておるわけでございまして、この間はたまたま韓国にいらっしゃいましたので韓国との関係について触れられたわけでございます。基本的な考え方といたしましては、そういう反省とおわびの気持ちというのは韓国だけを対象とするものではございませんで、過去の戦争あるいは植民地支配に関係した国々あるいは人々、地域というものをすべて対象にしているというふうに考えております。
 ただ、台湾との関係につきましては、やはり日中間の基本的な枠組みというものがございますので、その枠内で実務的に進めていくべきものである、そちらの方はそういうふうに考えております。

○矢野哲朗君 ですから、それじゃ今までどおり、一歩も変わらないということになるでしょう。だから、それでは済まなくなってきた事態があると私は思うんですよ。もう時間がないものですから、その辺は前向きな対応をひとつ期待したいと一言つけ加えさせていただきます。

 第129回国会 参議院法務委員会 第3号 平成六年六月二十日(月曜日)午前十時五分開会

【発言順】
 委員      栗原 君子
 法務省民事局長 濱崎 恭生

○栗原君子君 

 さて、時間も参りますけれども、最後になりますが、私は供託金のことについて、どなたが御答弁くださるのかわかりませんけれども、お伺いをいたします。
 実は、外国人の方が日本で徴用工として働いておられまして、戦後本国に帰られるときに会社側は地元の法務局に対してその外国人の労働者の賃金を供託しているわけでございます。これにつきまして、きちっとまだ名簿も残っておりますし、それからぜひ自分たちの働いた賃金だからお返しをいただきたいというようなこともあるわけでございますが、この供託というのはどういったことを注意しながら供託金はお受けになるのか、お伺いいたします。

○政府委員(濱崎恭生君) 一般論としてお答えさせていただきますが、供託というのはいろんな種類がございまして、一番代表的なものがいわゆる弁済供託でございます。そのほかに担保供託でございますとか執行供託でございますとか選挙供託、そういったものがございますが、御質問は弁済供託に関するものと思われますので、そういう観点でお答え申し上げます。
 この弁済供託というのは、債権者が債務の弁済を拒んでいる場合、あるいは債権者が弁済を受領することができない場合、さらに債権者がだれであるかということを確知することができない場合、こういった場合に供託をすることができるという、これは民法の規定でそうなっているわけでございます。
 その規定を受けて供託に関する規定があるわけですが、手続的には供託規則で詳細の規定を定めておりまして、供託しようとする者は、その供託の種類に従った供託書を供託所に提出して供託をしていただく。主要な事項といたしましては、供託者の氏名、住所、それから供託を受ける者、被供託者が特定できるときは、その者の氏名、住所、それから供託の原因事実、供託の金額、そういったものが代表でございますが、そういう事項を供託書に記載して提出をしていただく。その場合に、今申しましたような弁済供託でございますれば、どういう理由で供託をするのかという理由についても記載をしていただく、こういう手続をとっていただくわけであります。

○栗原君子君 だから、住所とか名前とかいいかげんなことでは供託は受けることはありませんよね。先ほどおっしゃいましたように、どういう理由で供託を受けるとか、それから住所もきちっと番地まで書いて、はっきりいつでも言われたら返せるような状況で供託は受けておりますよね。イエスかノーかでお答えください。

○政府委員(濱崎恭生君) 供託の受理は、いわゆる書面審査、形式審査でございまして、供託を受ける被供託者の氏名、住所についても、供託者がこういう氏名、こういう住所ということで書いてこられればそれに従って供託を受ける、あとは全然違った人を被供託者にして供託したような場合にはその供託の効力が後で問題になるということでございまして、受け付けの段階では特に御本人の住所等を供託所で調べて受理を決するということではないわけでございます。
 それから、住所の件でございますが、現行の供託規則は昭和三十四年に制定されたものでございますが、その前の供託に関する規則では、被供託者については必ずしも氏名、住所ということになっておりませんで、供託物を受け取るべき者の指定を要する場合は、その者の表示というようなことで、その被供託者を特定できる事項を記載すればいいというような概括的な規定になっておりましたことをあわせて申し上げたいと思います。

○栗原君子君 時間が参りましたけれども、どうぞ法務大臣を中心にされまして、また法務当局が国民に信頼される省庁としてますますまた御活躍なさいますように祈念を申し上げて終わりたいと思います。
 ありがとうございました。終わります。

 第130回国会 参議院決算委員会 第5号 平成六年九月十六日(金曜日)午前十時二分開会

【発言順】
 委員         清水 澄子
 厚生省社会・援護局長 佐野 利昭
 厚生大臣       井出 正一
 外務省条約局長    折田 正樹

○清水澄子君 では、次に厚生大臣にお伺いいたします。
 在日韓国人の援護年金の請求の問題なんですが、七月十五日に元日本軍の軍属でありました石成基さん、陳石一さんの障害年金の請求却下取り消しの裁判の判決が東京地裁で出されました。この裁判で、原告側より証拠として日韓請求権協定についての韓国外務部の見解が提出されているわけですけれども、その見解を見ますと、在日韓国人の戦傷者は日本政府に援護補償を請求することができるというふうになっております。厚生省は、この見解に基づいて新たに在日韓国人の戦傷者が障害年金を申請したときどのように対応なさるのでしょうか、お答えください。

○説明員(佐野利昭君) 今お尋ねの件でございますけれども、先生よく御承知のとおり、戦傷病者戦没者遺族等援護法におきましては、その対象者を日本国籍を有する者に限定をされているという、そういう国籍要件が設けられているわけでございます。これは、遺族援護法が恩給を停止された軍人等を救済するために国籍要件を有する恩給法に準拠して制定されたものであるということでありますし、また、この援護法が制定された当時の背景といたしましては、サンフランシスコ平和条約において朝鮮半島や台湾などいわゆる分離独立地域に属する人々の財産請求権の問題は帰属国との特別取り決めの主題とするということとされていたという歴史的な経緯によるものでございます。
 ところが、韓国との間では、財産請求権問題に関する特別取り決めといたしまして昭和四十年に日韓協定が締結されまして、補償の問題は在日韓国人を含めまして法的には解決済みとなっているというふうに私どもは承知いたしております。
 なお、恩給法あるいは遺族援護法の国籍要件の合理性につきましては、既に台湾人の元日本兵が補償を求めた事件に関する最高裁判決が平成四年に出ておりますが、ここでも認められているところでございます。
 したがいまして、現在の状況におきましては、厚生省としては、在日韓国人の戦傷病者が障害年金を請求されましても、これに対しては却下をせざるを得ないというのが法律的な取り扱いでございます。

○清水澄子君 経過はよくわかっておりますので、質問時間がもう限られてますから協力していただきたいと思います。
 次に、厚生大臣、いろいろそういう経過はあると思いますけれども、今回のこの件について裁判の判決ではやはり行政、立法側の不作為が指摘されておるわけです。
 今回の在日韓国人の戦傷者がどこからも救済されないというそういう谷間に置かれているわけでございますけれども、厚生大臣はこういう問題について、やはり戦後五十年という大きな節目に当たってこういう問題も何らかの私は対策を立てる必要があるんじゃないかと考えますけれども、大臣はどのようにお考えになるでしょうか。

○国務大臣(井出正一君) あれは七月十五日の地裁の判決だったんでございますが、厚生大臣として被告人の立場におりまして、私は生まれて初めてでございました。一応国の主張が認められたという意味ではほっとしながらも、正直なところ個人的には心に残るものがあることも事実であります。
 しかし、先ほど来お答えしておりますように、この在日韓国人の皆さんに対する補償の問題は昭和四十年の日韓協定において完全かつ最終的に解決済みとなっているという認識なものでございますから、元日本軍軍属の方には大変お気の毒ではありますが、遺族援護法の国籍要件を撤廃することはできかねる、大変お気の毒だと思っておりますが、そういうことでございます。

○清水澄子君 大臣、じゃ一人の人間としてこのままでいいと。例えばこの中の一人が援護法の法制定当時からその支給対象になっていれば一人四千七百万円というそういう支給を受けているわけですね。これは厚生省の計算なんですよ。
 ですから、そういうことが日本の方で法的にそれを排除してきてしまって、そしてその人たちは何らの措置を受けられないという中で、大臣として一人の個人としてどうですか、人間としてはどのようにお考えになりますか。

○国務大臣(井出正一君) 先ほど来申し上げていますように大変心痛むのでありますが、どうも遺族援護法以外で何かできないかというようなことになりますと、これは厚生省としての範囲を超えてしまうものですから、まことに残念でございますが、厚生省としては御要望のような方向を打ち出せない点を御理解いただきたいと思うのであります。

○清水澄子君 本当に日本というのは法律で四角四面で、やはり人権というのはどこかで問題が、これは何か救済されなければいけないという問題が起きてきたらどこかで検討すべきことだと思うんですが、そういう点もう一度検討していただきたいと思います。
 そこで、それでは今までの御答弁の中でも、日韓条約でこれは解決済みだと全部日本側は説明をされているわけですね。
 ところが、さっきの裁判所に提出されました韓国の外務省の書類、これは外務部長官が出しているんです。これはことしの一月二十六日に請求権協定の二条二項に対する韓国政府の立場というのでここに見解を述べているわけですけれども、これが裁判所に出されているわけですね。そしてその中身は、私がさっき申し上げましたように、この在日韓国人の戦傷者は日本政府に援護補償を請求することができるということがここにはっきり述べられているわけです。
 そうすると、日本政府がもう解決済みと言っていることとここで明らかに解釈が食い違っていると思います。その点で外務大臣はこの食い違いがあるということはお認めになりますか。

○説明員(折田正樹君) 委員御指摘の韓国外務部の見解は原告側証拠として提出されたものでございますけれども、在日韓国人戦傷者のいわゆる補償請求権が日韓請求権・経済協力協定第二条二(a)の「財産、権利及び利益」に当たり、したがいまして同協定の解決対象には含まれていないというのが考えでございます。韓国外務部の言いますいわゆる補償請求権が何を意味するのかは必ずしも明らかではございませんけれども、これが戦傷病者戦没者遺族等援護法に基づく権利ということでございますれば、先ほど来厚生省の方から御説明がございましたように、同法の国籍条項及び戸籍条項により、韓国人に対して同法律の適用はなく、そのほかにも在日韓国人戦傷者の請求を根拠づける法的根拠は見当たらない次第でございます。
 日韓協定上の「財産、権利及び利益」というのは、別途、合意議事録二(a)というのがございまして、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいう」というふうになっておりますところ、今申し上げましたとおり在日韓国人戦傷者の請求には法的根拠が見当たらないということでございますので、我が国といたしましては、これらの請求は協定上の「財産、権利及び利益」には当たらない、そういうことで協定上の請求権として完全かつ最終的に解決されたものと考えている次第でございます。

○清水澄子君 私が質問したことに答えてください。私は解釈を聞いていません。食い違っているということはお認めになりますかということを伺いました。

○説明員(折田正樹君) 私どもの理解するところでは韓国外務部の見解は、日韓協定第二条二(a)において同条第一項の完全かつ最終的な解決の対象から除外されている「財産、権利及び利益」が「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいう」という点を含めまして日韓請求権・経済協力協定そのものの考え方について日本政府と異なる見解をとっているものではないというふうに思いますが、在日韓国人のいわゆる補償請求権が法的根拠を有する実体的権利であって日韓協定に言う財産、権利、利益に該当するかどうかという点が異なっているということでございます。

○清水澄子君 もう時間がありませんので、これで終わりますけれども、食い違っているというこのことをやはり明確にひとつ大臣、研究してください。お願いします。

 第131回国会 参議院予算委員会 第3号 平成六年十月十八日(火曜日)午前九時二分開会

【発言順】
 委員       竹村 泰子
 内閣総理大臣   村山 富市
 外務省アジア局長 川島 裕
 外務省条約局長  折田 正樹
 厚生大臣     井出 正一
 外務大臣     河野 洋平

○竹村泰子君 一層努力をするという総理の今のお言葉に期待をして、早期解決に向けてぜひ御尽力くださるようにお願いしたいと思います。
 それでは、五十年問題に移りたいと思います。
 ことし八月三十一日、村山総理は、戦後処理に関する問題、この気持ちを国民の皆様に十分分かち合ってもらうため幅広い国民参加の道をともに探究していきたいと発言をなさいました。これは昨年八月四日、当時の河野官房長官のおわびの気持ちをどうあらわすかという発言を受けたものと考えてよろしいでしょうか。

○国務大臣(村山富市君) 今の委員御指摘、昨年八月に発表されました当時の官房長官の談話を受けたものというふうに私は承知をいたしております。

○竹村泰子君 五十嵐官房長官に対する質問は後に回しまして、去年の七月十五日、東京地裁で、元日本軍人・軍属の石成基さん、陳石一さんの補償を却下するという判決が出ました。この判決は、国籍差別の当否についての判断を回避し、立法不作為の状況にあると指摘し、いわばボールを国会に投げ返したものと言えるのではないかと思います。
 日本人として徴用され軍属となった陳さんは、船で軍需物資を運ばされていましたが、敗戦直前の一九四五年四月に連合軍機の攻撃を受けて左足切断の重傷を負いました。戦後、戦傷病者戦没者遺族等援護法により元軍人・軍属に給付される障害年金を請求いたしますと、日本国籍がないことを理由に拒否されました。
 サンフランシスコ条約に伴い、韓国、台湾など日本の旧植民地出身者は日本の国籍を失ったことになりました。条約発効を待つかのようにその二日後に施行された援護法は、日本国籍がない人には適用しないということになっているわけでございます。陳さんは五月、心待ちにしていた判決を待たず亡くなってしまわれました。
 この問題について、河野外務大臣にお伺いをいたします。
 裁判の過程で、東京地裁に原告側より提出されました韓国外務省の外務部長官の見解があります。どなたか外務省の方、これを読んでみてください。

○政府委員(川島裕君) 若干長いものですから、最後の結論のところだけ読ませていただきます。
 以上のように、在日韓国人(戦傷者)の補償請求権は一九六五年請求権協定の解決対象に含まれていない。戦争犠牲者の補償請求権とは、国家の服務義務の賦課による義務者の役務提供という公法的勤務契約関係において、個人が被った被害及び犠牲に対し国家から補償を受ける権利として補償適用要件を充足させる被害者に対し、国家は一種の行政債務を負うものであるので、在日韓国人戦傷者は日本政府に対し、援護補償を請求することができるものと判断する。

○竹村泰子君 今お読みいただいたところの前にもいろいろと解説がございまして、日本は完全かつ最終的に解決されたと言っているわけですが、この協定二条二項によりますと、そうではないのだということを韓国の外務部の公式の文書でそういうふうに言っておられるわけですね。
 それによりますと、在日韓国人の戦傷者は日本政府に援護補償を請求できるということに韓国側はなっているわけです。これは明らかに日本政府と韓国政府の間で日韓請求権協定の二条二項についての見解が食い違っていると思うのですが、河野外務大臣、どうお考えになられますでしょうか。

○政府委員(折田正樹君) 法律的な考え方について御説明させていただきたいと思います。
 私どもの理解するところでは、韓国側の見解は、日韓協定二条二項で完全かつ最終的な解決の対象から除外されている財産、権利及び利益が、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められているすべての実体的権利を言うということを含めて、日韓協定そのものの解釈について我が国政府と異なるということではございませんで、日本の、我が国の国内法上、在日韓国人のいわゆる補償請求権が法的根拠を有する実体的権利に当たるかどうかという日本法の解釈が異なっているわけでございます。
 しかし、日本法を有権的に解釈し得るのは日本側であるわけでございますので、韓国側の見解により日本政府の立場が影響を受けるものではないというふうに考えております。
 私どもといたしましては、在日韓国人のいわゆる補償請求権は日本の法律上の根拠を有する実体的な権利ではないので、この問題は協定により日韓間では完全かつ最終的に解決されたもの、その中に含まれていると考えております。

○竹村泰子君 そういう日本側の態度とそれから韓国のこういう態度との間で、はざまでこの方たちはどこからも救いかないわけです。
 厚生大臣、厚生省は陳さん、石さんの請求を二回にわたって却下しておられますね。どういうお考えでしょうか。

○国務大臣(井出正一君) 今、委員の御質問、最初に去年の七月十五日と言われましたが、ことしの七月十五日ですね、あの裁判。

○竹村泰子君 ごめんなさい。間違えました。

○国務大臣(井出正一君) 却下した結果、裁判に訴えられて、それが七月十五日、判決が出たのでありますが、国籍条件が設けられているという点がキーポイントであります。
 これは一つには、遺族等援護法が恩給を停止された軍人等を救済するために国籍要件を有する恩給法に準拠して制定されたものであること、もう一つは、ただいま御議論ありました当時の背景として、サンフランシスコ平和条約において、朝鮮半島や台湾などいわゆる分離独立地域に属する人々の財産請求権の問題は帰属国との特別取り決めの主題とすることとされていたことによるものであります。
 対韓国との間では、財産・請求権問題に関する特別取り決めとして、昭和四十年に日韓請求権・経済協力協定が締結されて、補償の問題は在日韓国人を含めて法的には解決済みとなっているという認識のもとで却下したわけであります。

○竹村泰子君 外務大臣、この日韓両政府の条文についての見解の食い違いというか、見解の違いといいますか、これと東京地裁の立法不作為の状況というこの判決を踏まえて考えるならば、私は政府として独自にこの問題解決のための手だてを講じるしかないのではないか、あるいは日韓請求権協定三条にあります仲裁を申し立てるべきであると思いますけれども、外務大臣それから厚生大臣に御見解を伺いたいと思います。
 このわずかの人数の方たちです、十二人足らずです、今わかっているのは。この方たちを救う手だではありませんか。

○国務大臣(河野洋平君) 竹村議員のお気持ちは私は十分理解できます。
ただ問題は、法律的には、先ほど外務省条約局長から申しましたように、国家間の問題としてはこれは終わっていると。問題は、国家間でやりとりをする問題ではなくて、他の角度から何か考える方法があるかどうかということになるのではないかというふうに思います。
 外務大臣の立場としては所管外の問題というふうに思いまして、これ以上私の立場から申し上げることは控えたいと思います。

○国務大臣(井出正一君) 私個人としても、実はあの判決、心に残るものはあるのでございますが、遺族等援護法の解釈、運用を超える問題でありますので、厚生省として意見を申し上げる立場にないことを御理解いただきたいと思います。

○竹村泰子君 そんな血も涙もないような答弁でよろしいのでしょうかと官房長官にお聞きしたかったのですが、まだお戻りじゃありませんので。
 これは外務大臣、国連人権小委員会でも三人の委員から国籍差別が指摘されておりますことは御存じだと思いますけれども、私は総理に一言感想を伺いたいと思います。

○国務大臣(河野洋平君) 竹村議員が御指摘の問題は、昨年十月二十七日及び二十八日、市民的及び政治的権利に関する国際規約、いわゆる国際人権B規約に基づき設置されているB規約人権委員会において、我が国政府が提出した第三回報告について審査が行われて、この審査の席上三人の委員から、これはたしか十八人ぐらいの委員だったと思いますが、そのうちの三名の委員からこの問題について指摘があったという問題でございます。
 これらの問題について質問があったということは承知をいたしておりますが、一般論として申し上げれば、不合理な差異を設けることを禁じていると。これは不合理な差異を設けることを禁じているものであって、内外人の取り扱いについて合理的な差異を設けることまで排除しているわけではないというのが公式見解でございます。

○竹村泰子君 合理的であるかどうかはそれは見解が食い違うところだと思いますが、最後に私は提案を少し申し上げて終わらせていただこうと思います。
 八〇年代以来、三人の閣僚が歴史認識で辞任しております。そこで私たちは、今、世界でも有数の経済大国である日本が国際社会においてそれにふさわしい存在としてあるためには、過去を直視した歴史の重みを背負っていかなければならないと考えますが、いかがでしょうか。
 そのためには、日本のイニシアチブで関係諸国からの研究者の参加を得て、五年くらいをめどに、さきのアジア・太平洋戦争にまつわるあらゆる角度からの歴史研究、調査活動を展開します。資料収集、分析はもちろん、高齢化が進む強制連行、従軍慰安婦等被害者からの聞き取りも実態把握の作業を急ぎ、きちんと行います。明年の戦後五十年は一つの歴史の節目であり、きっかけにすぎず、その取り組みを契機として日本国政府は、国民がきちんと過去を直視し、その誠意で向き合う姿を全世界に息長く見せる必要があると考えます。
 総理、議論をお聞きになっていて、最後に一言御感想、御所見を伺いたいと思います。

○国務大臣(村山富市君) 私は、さきの大戦におきまして、これまでも繰り返し申し述べましたように、我が国が過去の一時期に行った侵略行為や植民地支配が国民に多くの犠牲をもたらしたのみならず、アジアの近隣諸国に対しましても、また国民の皆さん方に対しましても、今なお大きな傷跡を残しているという認識に立って厳しい反省をしなければならぬという立場はそれなりに踏まえておるつもりでございます。
 そうしたことも含めて、我が国は不戦の誓いを新たにしながら恒久平和に向けて努力していかねばならぬという国民的な大きなやっぱり役割を担っておる。さきの大戦に対する私のこのような認識については、恐らく国民の皆さんも御理解をいただいているというふうに思いますけれども、そうしたものも踏まえてこの五十年を契機に、今、御指摘にありましたような歴史を直視しながら各国との交流も深めて、そしてこの歴史をしっかり踏まえた上で、二度とこうした過ちが起こらないようにしていくのが我が国に与えられた課題ではないかというふうに考えて、これからもそういう決意で取り組みをしていきたいというふうに思っているところでございます。

○竹村泰子君 終わります。

 第131回国会 参議院厚生委員会 第9号 平成六年十二月六日(火曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員        竹村泰子
 厚生省保健医療局長 谷 修一
 厚生大臣      井出 正一

○竹村泰子君 そういうことで日本が在外の被爆者に対しても温かい手をもっと差し伸べることができるように、大臣、ぜひ御配慮を賜りたいというふうに強く要望しておきます。
 さて、この被爆者援護法で在外の問題を出しましたついでにと言ってはなんですが、これの方がむしろ重要なことなのですが、数多くの援護関係の法案の中でただ一つ国籍条項がないのでございます。従来の関連二法もございませんでした。いわゆる内外人平等の精神に基づく法律であるわけであります。しかし、このお出しいただいた資料を見ましても、私たちが御迷惑をかけたアジアの国々の方々のことはどこにもない。そして、全くそういった観点はないのではないかとさえ言いたくなるほどないわけです。
 そして、私は援護関係法案の中でただこの従来の二法だけかと言いましたけれども、厚生大臣に私もう何回も何回もお願いをしております旧軍人軍属の方たちにすら国籍条項で隔てをつくって、日本の軍隊に連れてきて戦わせた軍人軍属の人、そして今在日の方、韓国からも日本の政府からも何の援助も受けられていないこの谷間の方たちを何とか救っていただきたいとお願いをしてまいりましたが、この七月十五日の裁判の判決は、これは国の立法不作為であるということで、国がきちんと法のもとでやらなければならないことだとボールを投げ返してきているわけでございます。
 こういう問題もあることを踏まえつつ、厚生省が援護ということで旧植民地の人たち及び侵略をしていった国々の人たちをいかに締め出すか、国籍条項でもっていかに隔てようかとしか考えてこなかったのではないかと思うくらい厳しい国籍条項の壁があってどうすることもできない。そして、そのわずかな軍人軍属の在日の人たちに対してすら救いの手を差し伸べられていない現状、こういうことがあるわけなんです。
 外国人被爆者の問題にちょっと触れたいというふうに思います。旧植民地である朝鮮半島出身者の方たち、この被爆者の問題についてお尋ねしていきたいと思います。
 一九四四年十二月末現在で広島県内には、旧内務省警保局の記録によりますと八万一千八百六十三名の朝鮮人の方が住んでおられたとされています。この中で警保局は、朝鮮から徴用で強制連行をしてきた数を六千名程度というふうに記しているんですけれども、これは何人ぐらいだったかわかりますでしょうか。

○政府委員(谷修一君) 第二次世界大戦の末期、あるいは原爆投下当時、かなりの数の朝鮮人の方たちが徴用工として広島あるいは長崎市におられたということは承知しております。
 ただ、厚生省におきましてそのような強制連行あるいはそういった徴用工の方に対する資料は保管しておりませんので、その具体的な数について私どもは承知をいたしておりません。

○竹村泰子君 一九四五年のあの八月六日、広島市内には一体どのくらいの朝鮮人の方たちがおられたのか。公式の調査は数字としてあらわれていないのですが、民間の団体などの聞き取り調査、大変な御努力によって出てきた数字によりますと、広島県内には約五万二千から五万三千人の朝鮮人の方が居住していたのではないだろうかと。そのほとんどが爆心地から四キロから四・五キロ以内に居住しておられたということが想定されているわけであります。
 それは、承認等の条件が非常に厳しいとされる被爆手帳の交付されている朝鮮人被爆者の方たちが二千名近くいらっしゃる。この数字は局長、わかりますね。二千名近くと言ってよろしいでしょうか。

○政府委員(谷修一君) 現在、原爆二法というのは国籍のいかんを問わず国内に居住をされる方に対して適用されるということでございまして、私ども国籍別の人数というのを把握しておりません。
 ただ、関係団体の調査の中では、広島県内の在住者で約二千人、長崎市内で約百人というような調査があるということは承知をしております。

○竹村泰子君 そう大きく外れた数字ではないということですね。
 長崎でもそうですけれども、広島での朝鮮人被爆者の存在を考えたとき、なぜそんなにたくさんの朝鮮人の方が広島に当時いらっしゃったのかということを考えなければならないのではないかと思いますが、大臣はこの点どのようにお考えになっていらっしゃいますでしょうか。

○国務大臣(井出正一君) 原爆投下当時、かなりの数の朝鮮人の方が徴用工として広島、長崎にいらっしゃったと聞いております。
 また、広島に大変多かったというわけですが、これは広島が戦前の中国地方の中心地であったこと等も多くの朝鮮人の方たちがいらっしゃった理由の一つであるんじゃないかと考えておりますが、正確な理由については承知しておりません。

○竹村泰子君 そういうことをお聞きしているのではなくて、大臣の御所見で結構なんです、役所の書いた答弁は結構なんですけれども。
 なぜそんなにたくさんの人たちがよその国にいて原爆を受けねばならなかったのだろうか、大臣はそれをどのようにお考えになられますでしょうか。もし来なければ被爆しなくてよかったんです。徴用のことを今おっしゃいましたけれども、ですからこれは日本の国が強引に連れてきたと、そうじゃない人もたくさんいると思いますけれども、強制的に連行してきた人たちがいるということはもちろん大臣はおわかりになっての御答弁でいらっしゃいますか、どうですか。

○国務大臣(井出正一君) 朝鮮人の方の被爆者数については、先ほど申し上げましたように正確に把握できてはおりません。したがって、明確になっておらないわけでございますが、日本に徴用されかつ被爆された方が多数おられることはまことに重い意味を持っていると考えておるところであります。
 なお、これらの方々のうち国内在住の方については、これまでも原爆二法に基づき医療の給付や諸手当の支給等の施策を講じてきたところでございます。

○竹村泰子君 大臣、申しわけありませんが、この方たちが被爆をした責任はだれにあるとお考えでしょうか。

○国務大臣(井出正一君) 戦争によって朝鮮半島からこちらへ徴用をした結果こういう悲惨な事態に遭われたという意味で、戦争が原因だと思います。

○竹村泰子君 最後が聞こえなかったのですが。

○国務大臣(井出正一君) 戦争でございます。

○竹村泰子君 戦争が責任なんですか。ということは、戦争をしていた国の責任だということでよろしいんですね、そういうことですね。いかがでしょうか。

○国務大臣(井出正一君) それは、戦争は国と国との戦いでございましたから、そういった戦争を遂行したという意味では国の責任があろうかと思います。

○竹村泰子君 広島では約三万人、長崎で一方から二万、合計四万から五万人もの朝鮮人の方が異郷の地で瞬時に命を奪われてしまったということです。この重みを、敗戦五十年という節目を迎えるに当たりまして、私はぜひいま一度問い直すことが必要だと考えますけれども、どうお考えになりますでしょうか。

○国務大臣(井出正一君) 今回御審議いただいておりますこの新法を悲惨な原爆投下という事態から数えて五十年という節目に提出するのも、今先生がおっしゃったような意味があろうかと思っております。

○竹村泰子君 まあ物足りないんですが。
 私の尊敬する画家で丸木位里、俊という原爆をかき続けてきた画家がおりますけれども、この絵の中に「からす」という絵がございます。私も何回も見まして、その都度深い感動とショックを受ける絵であります。
 それは、長崎で被爆した朝鮮の方たちが亡きがらをほうっておかれた。日本人の亡きからは片づけられるんだけれども朝鮮の方たちの亡きがらはほうっておかれる、それにカラスが群がっていくという大変残酷な絵なんですけれども、朝鮮人被爆者の方は、今日までその生と死を問わず不当な差別に苦しんでこられたわけであります。そういう差別に苦しまれた歴史の上に現在の敗戦五十年があるということを思いますとき、私どもは今この被爆者援護法を審議している中で、やはりこういったアジアへの視点、私たちが苦しめ続けたために被爆をしなければならなかったこの四万とも五万とも言われる方たちへの視点をぜひ重く受けとめなければならないというふうに思います。
 厚生大臣、この被爆者援護法制定を一つの契機に、これをスタートにぜひこの外国人被爆者問題、とりわけ旧植民地出身者である朝鮮人被爆者問題、この被爆者というのはもちろん被爆手帳を持っておられるいわゆる被爆者じゃなく、当時広島や長崎で居住しておられそして原爆の被害を受けた人たち全体のことを言っているんですけれども、この人たちのことを国として、国の責任で朝鮮人被爆者の実態調査、私冒頭に調査のことをお聞きいたしましたのはそういったことがあるんですけれども、ぜひその実態調査に取り組んでいただきたい。
 もちろん日本人の方々の調査も、亡くなられた方が毎年のように八月十五日に名簿に追加されていくという事実は私もよく知っておりますのでその困難性は本当によくわかりますけれども、どんどん高齢化していく朝鮮人の方たち、関係者の方たちが御存命のうちに何とか聞き取り調査ぐらいはきちんと、日本の国に住んでおられるわけですから、もちろん在韓の被爆者の方々もたくさんおられますけれども、何とかきちんとした調査をしていただきたい、その取り組む姿勢を示していただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

○国務大臣(井出正一君) 被爆者の方々につきましては、先生御存じのように昭和四十年以来十年ごとに、国籍を問わず国内のすべての被爆者の方々の就学や所得等の生活状況あるいは健康状態等についての調査を行っております。来年はちょうど十年でございますからその調査をきちっとやろう、こう考えておるところでありまして、在日の朝鮮人の被爆者の皆さんについてもこの中に当然含まれると思っております。
 在韓の被爆者の方々がいらっしゃることは私も承知をしておりますが、これは主権を有するそれぞれの国との関係もありますものですから、厚生省がすぐ韓国へ調査団を派遣するということはなかなか難しい、こう考えておりますが、もし外交ルートからの要請なんかあったとすればどのようなことができるかは検討していかなくちゃならぬ、こう思っております。

○竹村泰子君 第四十条に、「国は、原子爆弾の放射能に起因する身体的影響及びこれによる疾病の治療に係る調査研究の推進に努めなければならない。」という項が第一項にございますけれども、この中にぜひただいまの視点も入れていただきたいと私確認させていただいてよろしいでしょうか。ただいまの大臣の御答弁、そういう意味にとらせていただいてよろしゅうございますでしょうか。

○政府委員(谷修一君) 今、大臣が申し上げましたことは、来年予定されておりますいわゆる実態調査、昭和四十年代から十年置きにやってまいりました実態調査のことを御答弁されたと理解をしております。
 この四十条につきましては、もちろん広い意味での調査及び研究でございますが、当面この中で具体的に想定をしておりますのは、財団法人放射線影響研究所におきます調査研究というものを法的に位置づけて、将来にわたります原爆被爆の影響というようなことを調査研究していこうというようなことでこの四十条というものを法律の中に入れさせていただいたわけでございます。

○竹村泰子君 医療的な部分を中心にということでありますけれども、さっき私が申しましたように附帯決議がつけられておりますから、ぜひそのような調査をきちんと進めていただきたいというふうに思います。
 これは私、通告しておりませんのですが、もしおわかりだったら教えてください。その次の四十一条にあります「平和を祈念するための事業」、これは大臣、どのようなことを考えておられるのか。この文章だけではわからないんですけれども、何か案がおありでしたら教えていただきたいと思います。

○国務大臣(井出正一君) 原爆死没者の慰霊施設なども一つ考えております。慰霊や平和祈念、国内外の情報の収集、あるいは国際協力、交流等による国際貢献といった事業を行えるんじゃないかということを検討してまいりたいと考えております。
 広島、長崎には既に平和資料館というようなものがございますから、こうした施設と重複しないような、例えば国内外に散在する資料を総合的に把握できるような機能とか、死没者に関するさまざまな情報が検索できるような機能とか、あるいは国際協力のコーディネーターとしての機能を果たせるようにするとか、こういった国でなければできないような役割が果たせるように地元とも十分相談しながら進めていきたい、こう考えております。

○竹村泰子君 これは国の主管で原爆資料館みたいな、被爆資料館のようなそういうものをつくるとか、何かそういう事業を考えておられるわけですか。

○国務大臣(井出正一君) さようでございます。

○政府委員(谷修一君) 既に広島、長崎には平和記念館などの資料館はございますので、ただこうした施設と重複しないよう国においてこの施設を設置したいということでございます。
 具体的には先ほどちょっと大臣からもお話ございましたような、国際的な機能も含めた国内外の資料を総合的に把握できるような機能というようなものも考えていきたいと思っております。

○竹村泰子君 平和祈念事業というと今私は冷やっとするわけですけれども、平和祈念館というものが百二十三億円の予算を計上され、しかも予算執行を二十数億円ですか、しながらとんざしているということで、これをどうなさるおつもりか。
 きょうは時間がありませんから私はここで深入りいたしませんけれども、やはりこういった事業に対する国民の税金の使い方というものは本当に真剣にしていただきたい。いいものをつくられるならそれは私たちだって賛成いたしますし、国がきちんとした姿勢でこういった被爆者のために、あるいは資料が散逸しないようにとか、そういうものを国民の声を聞きつつ、私たちの声も聞きつつきちんと立案してくださるならばそれは何も反対はいたしませんけれども、前述のそういう祈念事業のようになってしまいますとやっぱりこじれにこじれてしまいますから、これは慎重にきちんと、何年かかってもいいから立派なものをつくっていただきたいというふうに思います。
 きょうは私は、核兵器の究極的な廃絶と恒久平和の確立を全世界に訴えるためと、国の責任においてきちんとした、放射能に起因する健康被害を他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、この法案が出され審議されているということを非常に重く見、そしてこのことに意義を感じて幾つか質問をさせていただきました。
 来年は戦後五十年でございますから、私たちもどうかいろいろな問題できちんとアジアの方たちにも顔向けができるように、そしてそれがアジア外交のスタートの第一歩となれるようなそういう姿勢を示していただきたいと強く要望して、終わりたいと思います。

 第132回国会 参議院外務委員会 第6号 平成七年三月十七日(金曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員          清水 澄子
 外務省アジア局長    川島 裕
 外務大臣        河野 洋平
 政策局国際社会協力部長 高野 幸二郎
 外務省条約局長     折田 正樹
 護局援護企画課長    北場 勉

○清水澄子君 次に、従軍慰安婦問題についてお尋ねしたいと思います。
 これまでも当外務委員会で私はいろんな質問をしてきたわけですけれども、現在政府が進めているような対応というのは国内的にも非常にいろんな意見が出ておりますが、私はきょうは特に、とりわけ国際的な世論ですね、これについては、政府の対応に対する世論というのは非常に厳しいものがあります。政府はここで政策判断を誤ると、国際的な女性への人権問題として、また日本の戦後処理問題として私は禍根を残すことになるのではないかということで非常に深く憂慮しております。
 そこで、この慰安婦問題に対する国際世論の関心について質問をさせていただきたいと思います。
 まず、国連の有力なNGO団体であり、また国連の諮問機関でもあります国際法律家委員会、いわゆるICJの慰安婦問題に関する報告書についてでありますけれども、昨年の十一月二十五日の実は与党の従軍慰安婦問題小委員会において、外務省は、ICJ報告書は政府に渡されていない、そして日本政府とは何ら面会せずに報告書を作成したということを発言されました。
 ところが、私どもはずっとその後この報告書をもらっております。外務省も当然あると思いますが、この報告書には、読みますと、第七章に「日本政府の立場」というのが書かれています。その中で、ICJの調査団が当時の外務省のアジア局次長の高野審議官とか藤井新・北東アジア課長補佐と面会していることがきちんと報告書に書かれているわけです。にもかかわらず、なぜ外務省は面会をしていないとかそれを余りよく知っていないとかという報告になったのか、その理由をぜひ御説明いただきたいと思います。

○政府委員(川島裕君) まさに報告書を入手していないということと、それから高野審議官でしたか会った事実があったわけですけれども、それについて接触をしていないということを十一月二十五日の従軍慰安婦問題小委員会において申し上げたわけでございます。これは全くの事実誤認でございまして、申し開きの余地もないんですけれども、部内におきまして担当部局を昨年の夏以降ちょっと主管が変わったものでございますから、それで事実誤認が生じたということで、これはその後、小委員会において、まことに申しわけない次第で、正確な事実を申し上げるとともに陳謝申し上げた次第でございます。
 その後、十二月九日にまさにその国際法律家委員会の担当の方々が外務省にいらっしゃいましたので、外務省の方から、同委員会作成の従軍慰安婦に関する報告書に関して、同年九月、中間報告がジュネーブの日本政府代表部に送付されてコメントを求められていたこと、それから最終報告が十一月未に同代表部に送付されていたという事実について、内部の手違いにより事実誤認があったということを認めまして、これによって、大変申しわけなかったということをおわび申し上げた次第でございます。これに対しまして、先方、国際法律家委員会の方からこの対応について非常に懸念が表明されたということでございます。

○清水澄子君 そのコメントされた中身はどういうことをコメントされたんでしょうか。

○政府委員(川島裕君) コメントを求められていたということでございまして、日本政府の方からコメントを特にこれこれであるというようなことは申し上げた経緯はございません。ただ、そもそも作成の過程で日本政府と接触がなかったかのごとく従軍慰安婦小委員会で申し上げたのは全くの事実誤認だったということでございます。

○清水澄子君 これまでこういう国会で報告しているようなことをきちんとコメントされていますよ。これが全部この報告書に出ています。ですから、国際的にこの報告書が扱われているのに、私は外務省というのはそういう問題の情報ということについて非常に何か軽視をされているのじゃないかと思いますが。

○政府委員(川島裕君) コメントと申しますのは、昨年の九月に中間報告がジュネーブの代表部に送付されまして、それに対してコメントを求められたのについてはコメントをしていないということでございます。
 他方、日本のいろんな、どういう立場で対応しているか等々については、先ほど御質問の中でございましたアジア局の高野審議官が訪日された国際法律家委員会の方たちといろいろ意見交換というか説明を行う機会があったと、こういうことでございます。

○清水澄子君 中身を聞いています。何をコメントされましたか、どういうふうに。もっと簡単に言ってください。

○政府委員(川島裕君) コメントというのは、昨年の九月に中間報告が出された際にそれについて国際法律家委員会の方からコメントを求められたということでございますが、これについてのコメントをしたということはございません。
 その前に、その一年くらい前だと思いますけれども、高野審議官と国際法律家委員会の間で、これは主として日本政府の立場というか、どういう状況にあるかを取材しにいらしたのではないかということでございますけれども、やりとりは、いろいろ対話をしたということでございます。ですから、コメントというふうには受けとめておりません。その時点ではまだ報告書とかそういうものの準備の段階だったわけでございます。

○清水澄子君 では、私は今はそういうふうに受けとめておきますけれども、この報告書には書いてあります、どういうふうに話されたかということが。それは今まで国会でも言っておられるように、すべての請求権が最終的かつ完全に解決されているんだというふうなことを話をされております。だけれども、それもされていないんでしたら、またそのいない事実を  もう結構です。
 そこで、その次に入りますけれども、このICJの報告によりますと、現在、日本政府は賠償義務を継続しているというふうに位置づけているんですね、この報告では。そして、さらに日韓協定、日比賠償協定では個人の権利侵害に関する請求権は含まれていない、これはICJの見解ですよ、としているわけです。これは日本政府の従来からの主張、完全かつ最終的に解決されたという主張と真っ向から対立することになるんですけれども、これに対して政府はどういう反論をされるわけですか。

○政府委員(川島裕君) 法的立場について申しますれば、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定の第二条一におきまして、日韓両国及び両国民間の財産・請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたということを確認する旨規定されております。したがいまして、いわゆる従軍慰安婦問題についても、日韓国交正常化交渉の過程で従軍慰安婦問題ということで請求が行われなかったとしても、この問題を含めてすべての財産・請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたということは同協定により確認されているとの立場でございます。
 ただ、さはさりながら、まさに昨年の八月三十一日の内閣総理大臣の談話というものを御記憶がと思いますけれども、そもそもあの談話の発出の一つの契機となりましたのが慰安婦問題でございました。そして、先ほどの質問のやりとりのございました平和友好交流計画をこの談話において発足させたわけでございますが……

○清水澄子君 ちょっと済みません、私の質問だけに答えてください。なぜ反論しなかったんですか。そういう意見が違う報告書が出されたならば、なぜ反論しないんですか。
 国際社会とか国際会議で出されている報告書を違うならば違うという意見を出さないと、そのままその報告書がずっと出回っております。ですから、その点でこれに対する政府の反論とは何かとお聞きしたんですが、それについてなぜ反論されなかったんですか。

○政府委員(川島裕君) 国際法律家委員会だけではなくていろいろな非政府機関の法律の見解が従軍慰安婦の問題を含めましていろいろな形で開陳されておりますけれども、非政府機関のいろいろな法律の議論について一つ一つ日本政府としてこれに反論するということはいたしておりません。
 これは先ほど申しましたとおり、日本の法的立場ということはかねてから申している次第でございますし、慰安婦問題の日韓の脈絡では先ほど申した請求権・経済協力協定により解決されたという立場でございまして、それをいろいろな場においてもう一度非政府団体に対して申し上げるということはやっておりません。

○清水澄子君 大臣にお尋ねいたします。
 ICJは昨年の九月二日にジュネーブの日本政府代表部に慰安婦問題に関する最終報告書の草稿を渡したわけですが、これを公表せずに、しかも受け取っていないというさっきの発言、私が質問したところ、それは事実誤認であったとかいろんなことをおっしゃったわけですけれども、内部の手違いとかそういう問題ではやはりこの扱いは済まされない国際信義にかかわる重大な問題になってきているんですね。ですから、いろんな意味で国際的な反発がとても増幅されていっているということを私は指摘をしたいんです。
 そして、最近、社会開発サミットで村山首相はNGOをパートナーと位置づけるという演説をしていらっしゃるんですけれども、これからの時代、日本はNGO団体をとても軽視しているのじゃないかと思います。特にICJというのは非常に権威のあるNGOなんですね。国連に登録されているこういう国際的なNGOの報告書を無視するというふうな扱いですね、こういう態度というのは私はやっぱり納得ができません。
 ですから、国際的にますます日本政府の姿勢に対する反発が起きているんですけれども、このようなことが起きたことに対して外務大臣はどのようにお考えになりますか。

○国務大臣(河野洋平君) 事実誤認があったということを認めて、これは認める認めないではなくて実際に明らかな事実誤認でございましたので、これは外務省としてまことに申しわけないことであったということを与党の会合でおわびを申し上げております。これは国際的な問題ではなくて、政府と与党の委員会における発言に対するおわびでございます。
 そのことが国際的な問題となるかどうかという点は私にはよく理解ができませんが、それはそれとして、いずれにせよNGOとの連携を強めていこうということを私どもは考えております。これは主としてまずは日本国内のNGOとの連携というものが頭にあるわけでございますが、国際的な活動をする上で国際的なNGOとの連携というものも当然考えなければならないというふうに思います。

○清水澄子君 このことが国際問題になるということが理解できないとおっしゃるところが、感覚がやっぱりずれているんだと思います。こういう報告書が世界じゅう回って、そして日本の外務省は知らないと言ったということも全部報告されていますから、今、国連というところではやっぱりNGOの存在、発言というか、非常にある意味で重要な位置を占めているわけで、そういう意味の感覚が問われていますよね。そういうことと、今この慰安婦問題等の問題が非常にそこへ重複してしまっているということを私は指摘を申し上げているわけです。
 それで次に、国連の人権委員会で、女性に対する暴力問題のクマラスワミ特別報告官が、今度、従軍慰安婦問題で調査のために訪日されますね。日本政府はこの二月二十四日にジュネーブでクマラスワミ特別報告官の招待を発表しましたけれども、これは国連からの正式な調査となると思うんですけれども、どのような内容の受け入れ要請があって、どのような日程で来られるのか、御説明いただきたいと思います。

○政府委員(高野幸二郎君) 御指摘のとおり、人権委員会の主要議題の一つでございます女性に対する暴力、これについての特別報告者でありますクマラスワミ女史が、彼女の任期三年間における任務の遂行の一環といたしまして、日本を初め関係国を訪問したいという意向を持っているのはそのとおりでございます。
 ただいま委員おっしゃいましたとおり、先月、御本人から我が方のジュネーブ代表部の方に訪日の申し入れがございました。それを受けまして、私どもは喜んで受け入れたいということを同女史に申し上げた次第でございます。
 ただ、いつごろお見えになるのかまだ具体的な連絡がございませんで、私ども今御連絡を、多分これは人権センターを通じて参ると思いますが、御連絡があるのをお待ちしているという状況でございます。御連絡があり次第、日程及びその他、訪日といいますか滞日中のことにつきましては、私ども最大限誠意を持って対応させていただきたいと思っているところでございます。

○清水澄子君 具体的日程なり決まったときには、ぜひ御連絡いただきたいと思います。
 次に、国連の女性に対する暴力問題委員会のクマラスワミ特別報告官は、昨年の十一月二十二日に、この人権委員会で討議する予備報告書を人権委員会に提出をしております。この予備報告書における慰安婦問題についての骨子は、一つは、国際人道法のもとでの犯罪としての認定とあるわけですね。そしてもう一つは、武力紛争時に犯された暴力の被害女性のための補償による救済。この二点が骨子になっています。
 そこで、私は、一般論としてでいいです、別に慰安婦とかかわらなくていいですが、一般論として政府は、この報告書で言う性的奴隷行為の国際人道法のもとでの犯罪としての認定という部分についてはどのような御見解をお持ちでしょうか。

○政府委員(折田正樹君) クマラスワミ女史の予備報告書は、私どもも勉強させていただいていますし、女性に対する暴力全般について幅広く論じたものでございます。その中に、いわゆる従軍慰安婦に対する部分があるのはそのとおりでございます。そして、今、委員御指摘のように、国際人道法上の犯罪というところにも記述がございます。
 ただ、私どもといたしましては、この国際人道法上の犯罪なるものがどのような根拠、規定に基づく主張であるのか必ずしもつまびらかにしないのでコメントするのはなかなか難しいわけでございますが、いずれにしましても、こういう問題から生じます請求権の問題は、これまでも累次申し上げておりますように、サンフランシスコ平和条約、あるいは韓国の場合でしたら……

○清水澄子君 一般論を聞いております、この問題に対する。日本の経過は今聞いておりません。今のこういう見解に対して、一般論としてどういうふうに受けとめられますかと聞いています。

○政府委員(折田正樹君) 一般論として、先ほど申し上げましたように、国際人道法上どのような根拠でどのような規定で御主張なされているのかというのを我々つまびらかにいたしませんものですから、ちょっとコメントをするのは差し控えさせていただきたいということでございます。

○清水澄子君 ではもう一つの、武力紛争時に犯された暴力の被害女性のための補償による救済という、この報告書の全般的なものをお読みだと思いますけれども、その中には二つある、私は今その二番目の方を申し上げた。これも一般論で結構です。政府はどのような見解をお持ちですか。

○政府委員(折田正樹君) 一般論として申し上げますと、国際法上得る権利が果たして個人も有しているのかという問題だろうと思いますけれども、国家が国際違法行為を行った場合、被害国に対する加害国の賠償義務については国際法上確立しておりますけれども、それでは個人に国際法の主体性が認められるのかということになりますと、そこまでは国際法上確立しているとは言えないのではないかというのが私どもの一般論としての考え方でございます。

○清水澄子君 この報告書のパラグラフ二九〇には、「一九九二年七月、日本の首相は、日本軍が広範な政府運営の売春所網において、何万もの女性に性的奴隷としての労働を強いたことを認めて謝罪した。」とあります。
 政府は、パラグラフ二九〇のこの記述をお認めになりますか。もし認められないとすればどの部分かということをちょっと簡潔に言ってください。

○政府委員(高野幸二郎君) このパラグラフ二九○の話は、今、委員おっしゃいましたとおり、九二年七月という時点を限定しております。その時点との関連で私ども、日本国総理が云々ということは承知しておりません。
 ただ、九二年の七月に当時の官房長官から、従軍慰安婦問題につきまして政府の関与があったと認められることを云々の調査結果を当時発表いたしました。その際あわせて、いわゆる従軍慰安婦として筆舌に尽くしがたい辛苦をなめられたすべての方々に衷心よりおわびと反省の気持ちを表明したという経緯はございます。

○清水澄子君 これは当時官房長官だった外務大臣が報告をされたわけですけれども、外務大臣、日本政府が従軍慰安婦問題について認めだというのは、このパラグラフ二九〇による一九九二年七月ということになりますね。それで、そのことが改めて確認ができるかどうか。そして、一九九二年七月以前には、日本政府にとって慰安婦問題というものは余り意識していなかった、いわゆる存在していなかったということになりますけれども、これは私はもうこれ以上追及しませんから、どうぞ率直に御意見をお聞かせください。

○国務大臣(河野洋平君) ちょっと私、原文を申しわけありませんが見ておりませんので、その原文と合わせて確認をしろと言われるとちょっと今直ちにできませんが、間違いなくその当時官房長官でございました私は、従軍慰安婦問題についてのそれ以前、大分前からこの問題についての調査をずっといたしておりまして、その調査の結果をもとにして発表いたしました。その調査の結果を発表すると同時に、先ほど政府委員が御答弁申し上げましたように、私の気持ちを述べたものでございます。
 発表の時点はその時点でございますが、清水議員も長く関心をお持ちでありましたように、かなり以前からこの問題については政府としても関心を持ち、調査をずっと続けてきた経緯がございます。

○清水澄子君 さっき私がお尋ねしたときに、二九〇のパラグラフについてはこの記述を認めるかというときに、首相という表現だけは別として、あとはお認めになりますか。

○国務大臣(河野洋平君) ちょっと申しわけありません。ただいまの答弁を若干修正させていただきます。
 九二年の発表ということであると、実は私ではなくて加藤官房長官であったと思います。したがいまして、私の今の答弁は、九三年の発言ということに訂正をさせていただきます。九二年の部分については、申しわけありませんが、ちょっと手元にございません。

○清水澄子君 九三年の場合はそういう形でお認めになりますね。
 それで、先ほどの二九〇というパラグラフの部分はお認めになりますか。

○政府委員(高野幸二郎君) このパラグラフ二九○に書いてあることの趣旨におきましては、現実に東京での九二年七月の官房長官の発言とほぼ同趣旨がというふうに私どもとしては考えております。

○政府委員(折田正樹君) ちょっと一点だけ補足させていただきますと、パラグラフ一九〇に性的奴隷という言葉が使っでございます。政府の発言の方にはそういう言葉はございません。
 国際法上、奴隷とは何かということでございますが、日本はいわゆる奴隷条約というのには加わっていないわけでございますけれども、その奴隷条約で定義されているのは、その者に対して所有権を伴う一部または全部の機能が行使される個人の地位または状態を言うということで、まさしく所有権を伴うような感じの定義になっているわけでございます。
 今度の従軍慰安婦問題が果たしてこういう表現にぴったりと当てはまるかどうかというところも問題があろうかというふうに思います。

○清水澄子君 きょう、ちょっと余り論争する気はしませんが、慰安婦なんという言葉は英語にもありませんので、その点どうぞ御理解ください。こういう性的奴隷という表現に国際的にはなっております。
 そういう御認識であるということだけはきょうここで明らかにされましたから、これはまたいろいろ議論をしなければならないことがあるかとも思います。
 そこで、今度は二九一のパラグラフなんですけれども、これもぜひ大臣に私はお聞きいただきたいと思います。この報告書のパラグラフ二九一には、
 第二次大戦後約五〇年が経過した。しかし、この問題は、過去の問題ではなく、今日の問題とみなされるべきである。それは、武力紛争時の組織的強姦及び性的奴隷制を犯した者の訴追のために、国際的レベルで法的先例を確立するであろう決定的な問題である。象徴的行為としての補償は、武力紛争時に犯された暴力の被害女性のために「補償」による救済への道を開くであろう。ということがここで明確に報告書として提起をされて、そしてこの報告書は国連人権委員会に正武に報告をされている文書でございます。
 そして、この文書は、国連の文書として広く一般に公布されておりますし、現在ニューヨークで開かれております第三十九回国連女性の地位委員会においても報告され議論されている問題でありますので、そういう意味でやはり政府も改めてこの従軍慰安婦問題というのは女性の重大な人権問題として国際的に非常に新たな問題になっているという認識をされないと、私は今後非常に大きな政策的なずれというんですか、問題が起きてくるのではないかと思って今までこういう問題について質問してまいりました。ですから今後は、私は、政府は十分にその点を自覚をしていただきたいと思います。大臣、よろしゅうございますか。

○国務大臣(河野洋平君) それぞれのパラについてお尋ねでございますけれども、実は大変恐縮ですが、私が今見ておりますものと訳文が大分違うのでございまして、これはいずれが正確かということはよくわかりませんので、ちょっとその……

○清水澄子君 原文、あります。

○国務大臣(河野洋平君) いや、原文はもちろん持っておりますけれども、その内容について一字一句を議論することはこの際、申しわけありませんが留保させていただくことといたしまして、今の議員の御認識について申し上げれば、私ども政府としてはかねてから、この従軍慰安婦問題についていえば、二国間関係は、繰り返しで恐縮でございますが、国と国との関係は決着がついておるということを一貫して申し述べてきております。
 しかしながら、国と国との関係は決着がついているけれども、一人一人の心の痛みといいますか、そういうものは残っている人もいるし、いない人もいるということだろうと思います。ひどく痛みを感じている人もいれば、余り痛まない人もいるということはございます。傷つけられた方、傷つけた方、あるいはそれが非常に身近な事象としてある人、ない人、それによってさまざまなのだと思います。したがって、個人がいろいろとそれについて議論をなさる、あるいは議論だけでなくて具体的な行動をなさるということはあるだろうと思います。
 したがって、平和友好交流計画を村山総理の指示で私どもは実施しようといたしておりますし、それについても議員にはいろいろ御意見がおありだと伺っておりますが、私は広く国民の皆さんの理解と協力が得られることを期待しているわけでございます。

○清水澄子君 これはその本人の心の痛みの問題だけじゃないですね。やはり日本の姿勢とか日本の人権に対する認識が問われていることだと思いますが、きょうはもう、でも議事録に残るでしょうから。それが今後どういう論議を呼ぶか、私はむしろそういう認識の方に心配をいたします。
 次の質問に入りますけれども、既に私は外務省に韓国の外務部が出された文書をお渡ししておりますけれども、まずこの文書によりますと、韓国政府は日本政府に対して、郵便貯金それから保険金、未払い賃金などの日本政府が保管している文書について返還を要求しているということになっているわけですけれども、そのような韓国政府からの返還要求が出ているのでしょうか。簡潔に言ってください。

○政府委員(川島裕君) 出ておりません。

○清水澄子君 それからもう一つ、韓国のこの外務部の文書によりますと、韓国政府は韓国の遺族代表を現地の慰霊行事に参加させる方法を日本政府に検討してほしいというふうに要請をしているとあるわけですけれども、そのような事実はありますか。

○政府委員(川島裕君) 遺骨の返還問題につきましては韓国側とやりとりが過去にございまして、我が国の誠実な対応を求めてきているわけでございます。その際に、東南アジア等に散在する民間保有の遺骨の調査、収集等の問題に韓国側が触れたことはございましたけれども、正式に現地慰霊行事への参加を要請したことはないわけでございます。

○清水澄子君 厚生省、来てくださっていますね。
 厚生省にもし韓国政府からそういう要請があったとき、韓国の遺族代表を現地の慰霊行事に参加させるというそういう用意はありますか。簡潔に言ってください。

○説明員(北場勉君) 結論から申しますと、大変難しいというふうに考えております。
 私どもがやっております慰霊巡拝、慰霊事業といいますものは、戦没者の遺骨が返還されないという日本人遺族の心情あるいはその要望に基づきまして、日本人遺族の慰謝という観点から昭和五十一年から行っておりまして、具体的な派遣団の構成は、厚生省職員それから日本人遺族、戦友会関係などの民間人を充てておりますが、民間人の方には渡航費用の一部を補助するという一方、これはあくまでも日本政府の事業としてやるということから、民間の方々は厚生省職員の指揮監督に従い、日本政府派遣職員と一体とした行動をお願いしているというような状況でございますので、このような趣旨、形態で行っております私どもの慰霊事業に韓国人の御遺族に参加いただくのは難しいのではないかと思っております。

○清水澄子君 これもちょっと外務大臣、ぜひ考えていただきたいんですが、今、特にこれは韓国の遺族会の皆さんからの要望が強いですけれども、この方々は旧日本軍人として徴用されたり、そして日本の当時の戦争遂行の国策の犠牲になった人たちです。ですから、そういう人たちの要請をどういうふうにしたら人道的な面で満たすことができるのか。私は、これは厚生省よりも外務省の積極的にこの道を開く努力が必要だと思いますけれども、この問題について、遺骨収集とか慰霊巡礼とか、こういう問題は厚生省が援護政策のノウハウをちゃんと持っているわけですから、それを生かすような形でぜひ御検討いただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

○国務大臣(河野洋平君) これは基本的に厚生省の問題だと思いますので、厚生省の意見をよく聞きたいと思います。

○清水澄子君 厚生省は外務省のと意っていますし、外務箱は厚生省と。だから、そういうやり方じゃなくて、本当に人道の問題として今後ひとつぜひ両方で御検討いただきたいと思います。ぜひ意志統一して、やはりこういう問題こそ解決のためにひとつ努力していただきたいと思います。
 次に、今度は東アジア戦略報告と沖縄米軍基地問題についてですけれども、アメリカの国防総省は二月二十七日に東アジア戦略報告を発表いたしました。この報告書では、東アジア地域の米軍をもう削減はやらないで今後も十万人の体制をとるとしております。そして、日本の米軍基地を極東有事の前進基地として評価をしております。
 こういう状況の中で、沖縄は戦後五十年たってもなおかつ県面積の一一%がこの軍事基地で占められている。沖縄ではまだ戦後が続いているということになります。総理府が三月四日に発表いたしました世論調査を見ましても、沖縄県民の五四%は日本の安全に米軍基地というのは不要だという回答を示しているわけですけれども、大臣はこの沖縄の米軍基地に対する沖縄県民感情をどのように認識しておられますか。

 第134回国会 参議院厚生委員会 第1号 平成七年十月三十一日(火曜日)午前十時二分開会

【発言順】
 委員         栗原 君子
 厚生省社会・援護局長 佐々木 典夫

○栗原君子君 社会党の栗原君子でございます。私は時間が短いものですから、一問一答をやっておりますと大変時間がなくなってしまいますので、二、三問ずつ質問をし、そして答弁をいただきたいと存じます。大きくは三点について御質問をいたします。
 まず、第一点でございますけれども、在日韓国・朝鮮人の旧日本軍傷痕軍人・軍属の戦後補償について質問をいたします。
 一九四二年、海軍軍属としてマーシャル群島で勤務中、重傷を負い右腕を失った旧日本軍属の在日韓国人鄭商根さんが年金請求却下の処分取り消しなどを求めた訴訟の判決が去る十月十一日、大阪地方裁判所でありました。大阪地裁は、国籍や戸籍がないことを理由に在日韓国人戦傷者への年金支払いを拒否している援護法について、法のもとの平等を定めた憲法第十四条に違反する疑いがあるとの判決を下しました。
 本来なら一九六五年の日韓請求権で解決していなければならないものでありますけれども、法の谷間になっている件でございます。戦後五十年たった今もなお正当な補償を受けることのできない在日韓国人の皆さんに人道的立場から立法による救済措置を図ってほしいと思います。
 まず第一。初めに、鄭商根さんが第四項症に当たるとした場合、障害年金を受給できたとしたら、これまで受け取れたであろう年金額の累計はどのくらいになりますか。
 二つ目。日本の軍人・軍属としてさきの大戦で死亡、負傷した韓国人、朝鮮人の数はどれぐらいになりますか。
 三点目。大阪地裁判決後、厚生省の佐々木典夫社会・援護局長は談話を発表されました。その中で局長は、今後判決内容を詳しく検討し、関係省庁と相談すると言われています。今この大阪地裁判決の内容をどのように受けとめられておりますか。また、関係省庁とはどのような御相談をなさったのでありましょうか。
 以上、三点について御答弁いただきたいと思います。

○政府委員(佐々木典夫君) 三点お尋ねがございましたので、順次お答えをさせていただきます。
 まず最初の、大阪地裁原告の鄭商根さんが四項症に当たるとした場合に、これまでの年金額はどのくらいになるかという点でございます。
 お尋ねの点で、仮定の話でございますので仮定計算で機械的にやってみたわけでございますが、第四項症と申しますのは、「腕関節以上ニテ一上肢ヲ失ヒタル者」というところに該当するというふうな受けとめをいたしたわけでございますが、昭和二十七年四月の法施行当時から平成七年十月分までの累積で四千八百八十八万円余というふうに仮定計算をされるところでございます。障害年金の額でございます。四項症に相当する戦傷病者に支給される障害年金の額ということで仮定計算をいたしますと、今申し上げた数字になろうかと思います。
 それから、日本人の軍人・軍属としてさきの大戦で死亡あるいは負傷された韓国あるいは朝鮮の人の数でございますが、さきの大戦におきます朝鮮半島出身の旧日本軍人・軍属数につきましては約二十四万人というふうに私ども把握をいたしております。このうち戦没者数、亡くなられた方は約二万二千人であると把握をいたしてございますが、戦傷病者につきましては把握をいたしておりません。
 それから、大阪地裁の判決内容をどのように受けとめておるか、あるいは関係省庁とどんな相談をしているかというお尋ねでございますが、今お話がございましたが、十月十一日の大阪地裁の国籍要件訴訟判決を受けまして、私より、憲法第十四条違反を理由として本件却下処分の取り消しを求めることができないという国の主張は認められましたが、判決理由中には国側の立場と必ずしも一致しない点があるやにも見受けられることから、今後判決の内容を詳しく検討し、関係省庁と相談してまいりたいという旨の談話を出させていただきました。
 正確に今申し上げたとおりなのでございますが、実はそのときの問題意識は、詳細な検討の時間のいとまがございませんでしたが、さっと見る限りで、判決理由は、日韓請求権・経済協力協定の締結後におきましては、日韓両国のいずれからも在日韓国人に対する補償の道が閉ざされたにもかかわらず、これらの者を援護法の対象外としていることは憲法十四条に違反する疑いがあるとしているわけでございますが、この点につきましては、韓国との間では日韓請求権・経済協力協定によりまして、韓国人の補償の問題は在日韓国人を含めて法的には完全かつ最終的に解決済みとなっているという、協定についての我が国政府の解釈の全面否定につながるというふうに考えられたところでございます。
 それから、平成四年の四月でございますが、台湾出身元日本兵の恩給法、援護法の国籍条項に関する最高裁判所の判決がございますが、これは国籍条項が違憲となる理由はないという判示であったわけでございますが、これとも異なる判断というふうに思えました。したがって、この問題につきましては、政府といたしましては重大な問題であるというふうな認識をいたしましたので、事これは条約の解釈の基本にもかかわる話でございますから、厚生省といたしましては外務省、法務省等とも慎重に相談する必要があるというふうな認識をしたところでございます。
 とりあえずそんな認識をいたしましたが、判決の内容を精査する、よく分析、評価する、政府のこれまでの考え方との違い等をよく詰めてみる、そしてその後の訴訟への対応を慎重に相談したいと、こんな趣旨で談話を出させていただいたところでございます。
 今の受けとめを申しますれば、厚生省としましては、先ほど申しました韓国との間では、日韓請求権・経済協力協定によりまして韓国人に対する補償の問題は在日韓国人を含めて法的に解決済みとなっていると承知をいたしておりますので、援護法の国籍要件の撤廃は極めて困難な問題であると考えているところでございます。
 なお、大阪地裁国籍要件訴訟判決につきましては、十月二十日に原告により控訴がなされましたので、今後控訴審においてどのような対応をしていくか、引き続き法務省、外務省等関係省庁とよく相談をして対応してまいる考えでございます。

○栗原君子君 今、在日でいらっしゃる戦傷病者の方というのは私は人数は大変少ないと思います。一九六四年に帰化したら認めるということを政府が言いましたときに十七人中十五人が帰化をされまして、二人しか残っておられなかったわけでございます。今日でもそんなに大勢の人数ではなくて、二けたいらっしゃるかどうかなというぐらいではなかろうかと。あとは日韓請求権協定によって日本政府はすべて解決したというようなことを言っております。
 それとまた、在日の韓国人は補償の対象にはなっていないということを韓国の政府では言っているわけですから、日本政府と韓国政府の法の谷間に置かれている方でありますので、もう皆さん高齢化していらっしゃるわけでございますから、ぜひ人道的な立場で高度な政治判断によって解決をしていただきたいと思います。
 それから、戦傷病者の方の却下したものについては把握をしていないということでございましたが、実はここへ私は遺族年金とか弔慰金についての却下の通知書を持っておりまして、(資料を示す)これにはきちんとどれだけ却下をしたということが番号が打ってあるわけでございますから、わからないことはないであろうというようなことを思ったわけでございますが、時間がないのでこの件についてはまだ改めて質問もさせていただきたいと存じます。

 第136回国会 参議院厚生委員会 第4号 平成八年三月二十六日(火曜日)午後二時三十一分開会

【発言順】
 委員          釘宮 磐
 厚生省社会・援護局長  佐々木 典夫
 内閣総理大臣官房参事官 東 良信
 厚生大臣        菅 直人

○釘宮磐君
 それでは、法案の審査について何点か御質問をさせていただきたいと思います。
 まず、戦傷病者戦没者遺族等援護法の一部改正に関する法律案についてお伺いをしたいと思います。同援護法のいわゆる国籍条項についてまず伺いたいと思います。
 第二次世界大戦中、日本軍属として戦地において戦傷を受けたいわゆる在日韓国人の同援護法に基づく障害年金の請求に対して、平成六年七月十五日、東京地裁において在日韓国人の戦後補償は立法不作為の状態にあるとの判決が出され、また平成七年十月十一日、大阪地裁において援護法の国籍条項に違憲の疑いがあるとの判決が出ています。
 地裁の判決とはいえ、一方では立法不作為を指摘し、他方では違憲状態を指摘しています。政府としてどのような対応をされるおつもりなのか、御説明をお願いします。

○政府委員(佐々木典夫君) 御質問のございました平成六年七月の東京地裁、それから平成七年十月の大阪地裁のそれぞれ援護法の国籍条項にかかわります判決につきましては、中身といたしましては、まず東京地裁の判決におきましては、援護法の国籍要件には十分な合理性があるとした上で、在日韓国人が日韓両国のいずれからも何らの補償も受けられない状態となっていることはその意味では立法不作為の状況にあるが、その不作為の状況について適否ないし当否を軽々に評することは適当でないというふうなものでございました。
 それから、平成七年の十月十一日でございますが、大阪地裁判決は、結論としては国側の勝訴としつつ、日韓請求権・経済協力協定の締結後においては、日韓両国いずれからも在日韓国人の元軍人・軍属に対する補償の道が閉ざされており、援護法の国籍要件により何らの補償給付を行わず、重大な差別を生じさせる取り扱いは憲法十四条に違反する疑いがあるといったようなものでございます。今、先生のお話のとおりでございます。
 対応としまして、しかしながらこの問題につきましては、特に大阪地裁の判決について申しますと、韓国との間におきましては日韓請求権・経済協力協定、いわゆる日韓協定によりまして、韓国人に対する補償の問題は在日韓国人を含めて法的には完全かつ最終的に解決済みとなっているという日韓請求権・経済協力協定に関する我が国政府の解釈が受け入れられていないのではないかというふうに考えるところでございます。
 また、実はこの事案に類似いたしまして、平成四年四月、台湾住民元日本兵に関します最高裁判決におきましては、援護法の国籍条項には十分な合理的根拠があるとされておりまして、ここに示された考え方と大阪地裁判決は異なる判断があるというふうに私どもは受けとめておるところでございます。
 したがいまして、厚生省といたしましては、大阪地裁判決につきましては条約の解釈にかかわる重大な問題があると認識をいたしております。いずれの訴訟につきましても、原告側より控訴がなされまして現在東京高裁、大阪高裁において係争中でございますが、法務省、外務省等とも相談をしながら、控訴審においてただいま申しましたような国としての考え方を主張しているところでございます。

○釘宮磐君 この問題は、戦後もう五十年が過ぎて、最近ではいわゆる地方公共団体の長や議会の議員に対する選挙権を付与すると、在日外国人に対しての参政権の問題等も判例等ではこれを認めていくべきだというような判例、学説が変化してきているわけでありますが、私はこのあたりで援護法の国籍条項を見直す考えはないのかどうか、そのように考えるわけですが、いかがですか。

○政府委員(佐々木典夫君) 今お尋ねのありましたこの件につきましては、在日の韓国人であられた元日本軍人・軍属の方々にとりましては大変お気の毒なことであると私ども思うわけでございますが、先ほど申し上げさせていただきましたように、韓国人に対します補償の問題につきましては、日韓請求権・経済協力協定によりまして国家間の問題として在日韓国人を含めまして法的には解決済みであるということでございますので、援護法の国籍要件ということでの解決は極めて難しい問題である、困難であると考えておるところでございます。

○釘宮磐君 次に、女性のためのアジア平和国民基金について、これは総理府の主管ですが、見えていますか。
 女性のためのアジア平和国民基金ができてほぼ七カ月、現在までの募金額及び従軍慰安婦制度解明の調査研究の進捗状況、これについてちょっと説明をしてください。

○説明員(東良信君) お答えいたします。
 女性のためのアジア平和国民基金に対しまして全国の国民の皆様からお寄せいただきました募金の額の総額というのは、三月十五日現在で約二億一千三百万円になっているというふうに承知しております。
 また、二点目のお話でございますけれども、それについてお答えしたいと思いますが、女性のためのアジア平和国民基金の目的というものは、従軍慰安婦の方々に対する国民的な償いをあらわすことということと、それから女性の名誉と尊厳を脅かす今日的な問題に取り組むことということでございます。これらの目的を達成するための事業の一つといたしまして、いわゆる従軍慰安婦問題に関する資料の収集と整備というものに取り組むということにしておるということでございまして、現在当基金におきましてそのあり方を含め検討中、小委員会とかそういうものをつくりましてやっているというふうに承知しております。
 以上でございます。

○釘宮磐君 募金の額が現在までで二億一千万ということだそうでありますが、これは村山総理が当時最大限の努力を傾注するという約束をして華々しくスタートしたわけでありますが、実質的に今現在で二億一千万。これは対象となる方々が千人を超えるのではないかと言われているわけですけれども、これじゃ一人当たり二十万ぐらいしかならないわけで、村山総理がいわゆる五十年を契機にこの問題についてこの基金をつくることによってアジアの皆さんに日本の誠意を示していこうということだったわけでありますが、これでは極めて私はお寒い限りだというふうに思います。
 何が原因でこういう、当初の目標額はどれぐらいだったのかもあわせてちょっと聞かせていただけませんか。

○説明員(東良信君) この問題につきましては、当初から国民の皆さんの御理解をいただくということが大変難しい問題であるということで一生懸命にPR等々の活動をしていたということでございまして、私ども、今もそうでございますけれども、国民の皆さん、また特に労働団体、それから財界等々へのお願いというものを一生懸命やっているところでございます。したがいまして、そういう努力を重ねた上でそれなりの答えが出てくるということだというふうに考えております。と申しますのも、最近になりますと相当の金額が十日置き、または一カ月置きぐらいに入ってくるということでございますので、もうしばらくこういうことで努力をさせていただきたいというふうに思っております。
 それから、二つ目でございますけれども、目標額は幾らだという御質問でございますけれども、これは率直に申し上げまして、これができるときにはいろいろなお話がございましたけれども、やはり国民の皆さんの気持ちを集めるということでございますので、目標額は立てないという形で一生懸命に集めたいというふうに考えていたというところでございます。

○釘宮磐君 もしこの基金が失敗をすれば、これはまさに日本政府と国民に対して改めて国際的な不信感が増幅してくるということも考えられるわけですから、この問題については政府はもっと積極的にやっていかなければならない、私はこのことをお願いしておきたいと思います。
 時間がありませんので、最後に国民年金法による年金の額等の改定の特例に関する法律案について二点ほどお伺いをしたいと思います。
 この法律案の提案理由の中で、減額改定の据え置きの理由として「現下の社会経済情勢等」を挙げていますが、具体的にはどのようなことを指しておられるのか、お聞きをしたいと思います。

○国務大臣(菅直人君) 今回の趣旨は最初に申し述べたとおりでありますが、一つは非常に下落幅が小さい幅であるということと、もう一つはやはり従来は右肩上がり、つまりは物価も上がっている中でそれに少しでも早く追いつこうということで物価スライドという、完全スライドという形で制度がだんだんとそちらに変わってきたという経緯があったと思うわけです。今回はある意味では初めて物価が下がった中でどう対応するかということでありまして、先ほど塩崎委員からのお話の中でもありましたが、議論としていろいろな考え方はあると思うんですが、金利が低くなってせっかくの貯金をしても利息が小さいとか、そういったこともこうした現下の経済情勢という中には含まれて考えているところです。

○釘宮磐君 ならば私は、これは一方で負担をしている現役世代に対してもこのことについてやっぱり説明があってしかるべきではないか、このように思います。この点については私の意見として申し上げさせていただきたいと思います。
 それから最後に、先ほど塩崎委員の質問の中にもありました右肩上がりの経済成長を前提としたスライド制、これが今後は右肩上がりというよりはなだらかな姿に変わっていくんだろうというふうに思うわけですが、そうなりますとこのスライド制のあり方そのものを見直していかなければいけないのではないか、これは年金審議会や社会保障制度審議会等でも指摘をされているようでありますが、この点についてお伺いをし、さらにこの審議会での検討スケジュールがわかればそれもあわせてお伺いをして、私の質問を終わりたいと思います。

○国務大臣(菅直人君) 今お話がありましたとおり、従来のようにずっと物価が上がっていくという時代から状況が変わっておりますし、また今後若干の上下動があるにしても小幅な物価変動が繰り返される可能性も十分あるわけでありまして、そういう場合に必要な事務経費などを考えますと、現在の物価スライドのあり方というのも見直す必要があるのではないかと思っております。
 例えば、先ほども申し上げましたように、物価の変動幅がある一定の小さい範囲の中で動く場合はその幅を超えたときに、累積が超えたときに初めて改定を行うという形なども考えられるのではないかと思っております。
 いずれにいたしましても、年金審議会等において幅広い観点から御審議いただきたいと考えておりまして、時期的には遅くとも次期財政再計算期までには結論を得たいと考えております。

 第140回国会 衆議院厚生委員会 第6号 平成九年三月十九日(水曜日)午前十時一分開議

【発言順】
 委員            岡田 克也
 北東アジア課長       別所 浩郎
 厚生省社会・援護局長    亀田 克彦
 務省アジア局北東アジア課長 別所 浩郎
 厚生大臣          小泉 純一郎
 --------
 委員             枝野 幸男
 外務省アジア局北東アジア課長 別所 浩郎
 厚生省社会・援護局長     亀田 克彦
 厚生大臣           小泉 純一郎

○岡田委員 それでは、次に外務省に聞きたいと思います。
 日韓請求権・経済協力協定、この中で、在日韓国人の皆さんの扱いでありますけれども、基本的には、在日韓国人の皆さんの「財産、権利及び利益」を除いてすべての請求権についてはいかなる請求もすることができない、こういうことになっておって、それではこの在日韓国人の皆さんの「財産、権利及び利益」とは何かというところで、合意議事録によれば、具体的には「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいう」ということになっているので、したがって、法律に基づく実体的権利と言えない援護法等に基づく権利というものは結局どこからも見られなくなってしまった、こういうふうに考えてよろしいでしょうか。

○別所説明員 お答えいたします。
 今先生がおっしゃったとおりでございまして、日韓請求権・経済協力協定の二条で、日韓両国及びその国民の「財産、権利及び利益」並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたということが書かれているわけでございますが、同じく二条の2の(a)では、いわゆる在日韓国人の方々につきましては、その方々の「財産、権利及び利益」には影響を及ぼすものではないと規定している一方、御指摘のとおり、ここで言いますところの「財産、権利及び利益」とは、合意議事録の2の(a)で明らかなとおり、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利」のみに限定されているわけでございまして、国籍条項があるということの関係で、在日韓国人からの支給請求は法律上の根拠に基づくものとは言えない、したがいまして、ここで言いますところの「財産、権利及び利益」に該当するものではない、そういう解釈でございます。

○岡田委員 今の解釈は日本の外務省の解釈というか考え方でございますが、韓国の方は同じように考えているのでしょうか。別の言い方をしますと、在日韓国人の皆さんというのは韓国政府によって何らかの補償を受けているのでしょうか。

○別所説明員 この協定の解釈自体につきましては、日本と韓国の間で解釈の相違はないというふうに理解しております。

○岡田委員 後の方の質問はどうですか。在日韓国人の皆さんが韓国政府によって何らかの補償を受けているのか、在日韓国人以外の、今韓国に在住の皆さんとの間に何らかの扱いの違いがあるのかどうかという点についてはどうでしょうか。

○別所説明員 失礼いたしました。
 在日韓国人の方々につきましては、韓国政府からは補償を受けておられません。そういう意味では、韓国に在住の方々との間に差異があるというのはそのとおりでございます。

○岡田委員 外務省の考え方によれば、そのことは、つまり韓国に在住の方と日本に在住の在日韓国人の皆さんの間に違いが出るのは、それはいわば韓国の国内問題である、こういうことになるのかもしれません。しかし、現実に、いわば法の谷間のような状態で在日韓国人の皆さんが、かつてはともに日本人として相手側と戦いながら、一方で日本人はこの援護法によって補償を受けている、あるいは、韓国におられる韓国人の皆さんは政府によって、日本の援護法のような手厚いものではないにしても何らかの補償を得た、その中で在日韓国人の皆さんだけが何らの補償もないまま取り残されているという事実があるわけであります。
 このことはもう既に訴訟になっておりますが、例えば大阪地裁の判決では、一般の日本人と在日韓国人の皆さんを比べたときに、在日韓国人の皆さんに対して何らの補償給付を行わず、重大な差別を生じさせる取り扱いは憲法十四条に違反する疑いがあると言わざるを得ない、こういうふうに言っているわけでありますが、この判決についてどういうふうにお考えでしょうか。

○亀田政府委員 御指摘の大阪地裁の判決でございますが、平成七年の十月に出てございます。この判決におきましては、憲法十四条を理由といたしまして厚生大臣が行いました援護年金の請求却下処分の取り消しを求めることはできない、こういう意味で国側の主張が認められたわけでございますが、先生今御紹介いただきましたように、この判決理由の中で、ちょっと読み上げさせていただきますと、「日韓請求権・経済協力協定の締結後においては、日韓両国のいずれからも在日韓国人に対する補償の途が閉ざされたにもかかわらず、これらの者を援護法の適用対象外としていることは、憲法十四条に違反する疑いがある」というふうに判決理由の中で述べられております。
 それで、私ども厚生省の考え方でございますけれども、一つには、これまで出てまいりましたように、この日韓協定の締結によりまして、韓国人の補償の問題は在日韓国人を含めまして法的には解決済み、こういうふうに理解をいたしておるわけでございまして、したがいまして、この協定の締結によりまして我が国の方が国籍要件を見直さなければいけない、こういうような状況がこの締結によって生じたというふうには私ども考えられないわけでございます。
 また、この援護法の国籍要件の合理性につきましては、平成四年の四月でございますが、台湾住民の方の請求の関係で最高裁判決が出ておりまして、援護法の国籍要件は合理的である、こういう判決になっておるところでございます。
 そういうようなことから、厚生省といたしましては、大阪地裁判決の、憲法違反の疑いがある、この理由は受け入れがたい、こういうふうに考えておるところでございます。
 本件につきましては、現在、大阪地裁から大阪高裁の方に係属中でございますが、私ども、法務省、外務省とも相談しながら、今申し上げましたような主張を述べておる、こういう状況でございます。

○岡田委員 今、裁判中の問題ですから、ここで断定的なことは言えないだろうと思います。
 憲法十四条との関係で違反しているかどうかというのは、そういう問題がもちろん今あるので裁判で争われているわけですが、それはちょっと横に置いたとして、それでは現実問題として、先ほど言いましたように在日韓国人の皆さんが、日本側はそれは協力協定が結ばれたことによって韓国側に球が渡った、こういうふうに理解をしたのだと思いますが、しかし、韓国政府からは何らの補償もされていないということをもって、現実に何の補償も得られていないというそういう現実になっているわけでありますが、そのことについてどういうふうにお考えでしょうか。

○亀田政府委員 若干繰り返しになりますけれども、朝鮮等のいわゆる分離独立地域に属する方々の財産・請求権の問題につきましては、昭和二十七年のサンフランシスコ平和条約におきまして、二国間の外交交渉により解決する、こういうふうにされたわけでございまして、その後、韓国との間では、昭和四十年の日韓協定によりましてこの補償問題は在日韓国人を含めまして法的には解決済み、こういうふうになっておると承知をいたしております。
 したがいまして、在日韓国人の方々につきまして、今先生からお話ございましたけれども、補償を行うというようなことは、申し上げましたようなこれまでの我が国の戦後処理の基本的な枠組みを崩すことにもなりますので、大変難しいことだというふうに考えております。

○岡田委員 恐らく、サンフランシスコ平和条約を結んだときに、今のような形で在日韓国人の皆さん、日本にとどまられるということがどこまで予想されたかという問題も一つあると思います。もちろん国籍は韓国であるかもしれませんけれども、現実には日本でそのまま生活しておられるわけで、若干、法律的には国籍韓国ということですが、それだけでは割り切れない問題があることは間違いないことだというふうに私は思うわけであります。
 それからもう一つは、技術的な問題かもしれませんが、在日韓国人あるいは在日朝鮮人、こういうことなんですが、それじゃ、そういうことはきちっと分けられるのか。韓国政府に、在日韓国人の皆さんに補償しなさい、こう言ったところで、日本におられる朝鮮人の皆さんあるいは韓国人の皆さん、これをきちっと分けることができるのかという問題もあるのではないかと思いますが、その点についてはいかがでしょうか。

○亀田政府委員 現実に何らかの措置をするということになりますれば、先生御指摘のような技術的な問題も出てこようかと思いますけれども、現実に私ども、国籍要件を撤廃するとか何らかの措置をするのは困難だ、こういう立場でございますので、その辺の技術的な事柄につきましては現時点では検討いたしておりません。

○岡田委員 外務省に聞きたいと思います。
 こういう形で、かつて日本人であった皆さんが在日韓国人ということで日本人と違う扱いを受けている、このことはやはり、自分たちは差別されているのだ、こういう気持ちにつながる、そういうことは容易に想像できるわけでありますが、そして、そのことが日本と韓国の関係というものに対してどういう影響を及ぼすだろうか。この問題にきちんと対処しておかないと、後々まで日韓両国の間に大きな傷跡を残すことになるのではないかということを私は懸念しているわけでありますが、その点について外務省としてのお考えを聞かせていただきたいと思います。

○別所説明員 今先生おっしゃったような意味で、日韓関係にこの問題がどういう影響を及ぼしているか、あるいは及ぼし得るかというのはなかなか難しい問題でございますが、この問題の背景あるいは援護法が立法された当初の事情等につきましては、先ほど厚生省の方から御答弁があったとおりでございまして、私どもといたしましては、こういういろいろな事情をもとに立法された援護法ということでございますので、やはり援護法の主管官庁たる厚生省さんの御検討を、まあ御検討というか、厚生省さんがお考えになられる話ということで、私どもとしても関心は有しておりますけれども、援護法自体については私ども主管外でございますので、今のような対応でまいりたいと思います。

○岡田委員 今のお話を聞くと、何となく消極的権限争いという感じを受けるわけであります。
 実はこの問題、今までも議論をした中で、私も議事録を読み返してみましたが、たしか井出厚生大臣だったと思いますが、当時の厚生大臣だったと思いますが、何とかしたいと思っている、しかし法的にはなかなか難しい問題だというようなことも言われていたように記憶をしております。まさしくそういう問題ではないかというふうに思います。法律的に詰めていけば、あるいは今政府がお考えのようなことになるのかもしれません。
 そこで、憲法十四条との関係その他で国籍条項や戸籍条項を憲法違反だからこれを取り消せ、こういうことになると、もちろんそういうことはできないというお答えになると思うのですが、そういった問題から一歩離れて、現実に今ある事態を何とかするために、戸籍法、援護法から少し離れるかもしれませんが、何らかの特別立法その他でこういった法律のはざまにある皆さんに対して政府としての気持ちを伝える、こういうことは十分可能なことではないか、こういうふうに私は思っているわけですが、この問題について最後に、厚生大臣、政治家としての厚生大臣の御見解を聞かせていただきたいと思います。

○小泉国務大臣 戦争の傷跡が深いとつくづく思いますが、在日韓国人の方、お気の毒だと思う気持ちは同じだと思うのですが、いろいろ調べて見、国籍条項あるいは日韓の条約等を考えると、これはやむを得ないのかな、私の手に負えない、そう思っております。

○岡田委員 私が申し上げましたのは、日韓協定とかあるいは援護法の世界ではなくて、今裁判でやっていることもありますからそれはそれとして、それとは別の観点で何らかの日本政府としての誠意を伝えることができないか、こういうことを申し上げたわけであります。
 台湾については、若干ケースは違いますけれども、ある意味では同じようなことについて特別立法をしたわけでありますが、そういうお考えは政府にはありませんでしょうか。厚生大臣。

○亀田政府委員 台湾につきましては、厚生省でとった措置ではございませんけれども、日中共同声明によりまして日華条約が失効した、そういうことで平和条約に基づくところの二国間の外交交渉というものが不可能になっておる状態、そういうことに着目して、二百万円だったと思いますが、弔慰金あるいは見舞金を支給した、こういうふうに聞いておりますけれども、韓国につきましては、先ほどから申し上げておりますように、日韓協定というものがございまして、それによってこの問題については完全かつ最終的に解決をした、こういうふうに私ども理解をしておるところでございますので、そういう状況において、別途の何らかの措置をするということも、これは大変難しい問題ではなかろうかというふうに率直に感じておるところでございます。

○岡田委員 恐らく局長に聞けばそういうお答えしか返ってこないのはやむを得ないと思います。
 ただ、先ほど申し上げましたように、そういう従来の法律の考え方ではなくて、現実にしかし両国の谷間に入ってしまっていることについて、何らかの、援護法の体系とは少し離れたところの考え方で対処するという道があってもいいのではないか、そういうふうに考えて御質問申し上げたわけでございます。
 この点につきまして、ぜひ厚生大臣にも御検討いただければありがたいと思います。いつも歯切れのいい大臣ですから、少し前進が見られるかなと思って質問させていただきましたが、先ほどのお答えで大変残念でありました。しかし、なお検討を続けていただきたい、御要望申し上げておきたいと思います。
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○枝野委員 民主党の枝野でございます。
 戦傷病者戦没者遺族等援護法の今回の改正については基本的には賛成の立場でございますが、先ほど岡田先生からも御質問がありました、在日韓国・朝鮮人の年金受給権の問題についてお尋ねをさせていただきたいと思います。
 まず、確認的にお尋ねをさせていただきますが、在日韓国・朝鮮人の皆さんの年金請求権の問題に絡む協定として、一九六五年の日韓請求権協定がございます。この二条の二項(a)では、「一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益」というものについては日韓請求権協定が「影響を及ぼすものではない。」というふうになっております。この「財産、権利及び利益」というのはいわゆる実体的権利であるという言い方をしていますが、この実体的権利であるのかどうかという判断は国内において一義的にはだれが行うのでしょうか。

○別所説明員 個別の法の、例えばこの援護法でございますが、個別の法の適用の問題につきましては、それぞれの法の所管官庁が行うということになります。

○枝野委員 それでは厚生省にお尋ねをしなければならないと思いますが、そもそも、戦傷病者戦没者遺族等援護法で支給をされる年金というものは法的にはどういうものなんでしょうか。逆に言えば、その年金の請求権というものは法的にはどういう権利なんでしょうか。

○亀田政府委員 御質問の御趣旨に正確にお答えすることになるかどうかわかりませんが、援護法に定めるところの援護年金、障害年金と遺族年金がございますけれども、この援護年金につきましては、援護法によりましてこの請求が可能になる、こういう性格のものでございますので、そういう意味では、援護法の制定によりまして新たに該当対象者に権利を付与することになったもの、そういうものではないかというふうに考えております。

○枝野委員 いや、ですから、なぜこの人たちに、今の対象の皆さんに払うという行為が出てきたのかという根拠をお尋ねしているわけです。
 つまり、例えば阪神・淡路大震災の被災者の皆さんに対する個人補償をすべきだという声を強く上げていますが、そういったことはできないのだということが政府の一貫した姿勢であります。なぜこの戦傷病者や戦没者の遺族の方に対する年金の支給というものはできるのですか。

○亀田政府委員 先生御案内のとおりでございますが、援護法には、その対象者を日本国籍を有する者に限定する、こういう国籍要件が設けられておるわけでございます。そういうことから、在日韓国人の方々を含めまして韓国人の方についてはこの援護法が適用されない、こういうことになっております。

○枝野委員 いや、そういうことを聞いているのじゃなくて、何の理由もなく、この人にはいわゆる補償、お金を上げますよということを国が税金を使ってできるわけではないでしょう。できませんよね。だから、阪神大震災の被災者というくくりであったとしても個人補償はできないのですよね。ところが、この対象の人たちに対しては税金からお金を出してもいいということになっているわけですよ。なぜいいのですか。根拠は何なんですか。

○亀田政府委員 難しい質問でございますが、根拠は、援護法が国会で制定をされた、そういうところにあろうかと思います。

○枝野委員 それはすごくいい。そうすると、逆に言えば、阪神大震災の被災者の人たちに対する個人補償も国会で通れば構わないわけですね。

○亀田政府委員 阪神大震災の個人補償の問題につきましてはコメントする立場にございませんけれども、国会が国権の最高機関でございますので、国会で御決定になればその可能性はあるのではないかというふうに感じております。

○枝野委員 ちょっと通告のところからずれていってしまっているのですが、大事な話ですから。
 だとしたら、何で政府は出さないのですか。こんなに、阪神大震災の被害者の人たちは大変なんだ、個人補償すべきじゃないかという声が、世論が盛り上がっているのに、政府が法的にそんなことできないと言っているから話が進んでいないのですよ。これは、担当は社会・援護局はちょうどいいのじゃないのかな。多分、所管なんじゃないですか、やるとすれば。違うのかな。どうですか。

○亀田政府委員 厚生省社会・援護局では災害救助法という法律を所管いたしておりまして、大きな災害が起きた当初の応急的な、応急的ということでございますので、急場の、その場しのぎと申しますか、とりあえずと申しますか、そういう対策を行う、こういうことになっております。したがいまして、個人補償、こういう問題につきましてはコメントする立場にはないと思っております。

○枝野委員 わかりました。それでは、国務大臣たる小泉大臣にお尋ねをします。
 今の議論を聞いていただいたとおり、局長さんは、法律さえつくれば、どういった対象にどういうお金を出す出し方をしても構わないのですよとおっしゃっておるわけです。ということは、阪神大震災の被災者というくくりで個人補償をすることも、国会が最終的に議決をすれば構わないのだということをおっしゃっているわけです。だとすれば、これは政府として、阪神大震災の被災者に対する個人補償を進めない理由というのが、今までは、法的に私有財産制とかなんとかいろいろなことを言って、政府が後ろ向きのことをやってきたからこの話はなかなか進んでいないのですね。どうもちょっと整合性がとれなくなってしまうのじゃないかなと思うのですが、いかがですか。

○小泉国務大臣 それは財源の問題もあると思います。どこまでやっていいのか。現行法でいろいろ支援、援助している。そこまでやるのが妥当かどうかという問題があると思います。

○枝野委員 逆に言えば、財源の問題とかということがむしろメーンなんだということであれば、そちらの話は進みやすくなるので、大変ありがたい御答弁をいただいたと思っています。
 今度は局長に、本題に戻りますが、それにしても、何らの理由もなくこの話というのはお金を出しているのですか。単に国会が決めたからということだけで、この年金はお金を出しているのですか。国民の中の一定の人たちに絞ってお金を出しているということは、何らかの理由が、政策的な理由なり法的な理由がなければ一般的にはお金を出しませんね。ほかの人たちとは区別をしてこの人たちにお金を払っているということについては、何らかの政策的な目的か、あるいは法的な根拠か、どちらかが存在をしているからお金を出しているのじゃないですか。

○亀田政府委員 援護法が制定された当時の議事録あるいは援護法の現在の第一条の「目的」、この辺を眺めてみますと、当時、軍人恩給が停止されておる。二十七年当時でございます。こういう状況が一方にございました。そういう状況下で、戦傷病者あるいは戦没者の遺族、こういう方々の状況、こういうものを背景にいたしまして、国家補償の精神に基づきましてそういう方々に言ってみれば手厚い援護をする、こういうような政策判断と申しましょうか、立法の背景、理由と申しますか、そういうことでこの法律が制定されたのではないかというふうに考えております。

○枝野委員 その言葉を出していただきたかったのですが、二つしか考えられないと思うのですよ。この対象の人たちにお金を出すということの裏づけとなることは、政策目的としての福祉目的なのか、それとも、法的にいわゆる損失補償を行っているのか、どちらかしかちょっと考えにくいのですよ。どちらなんですかね。

○亀田政府委員 これも大変難しい御質問でございまして、当時の資料あるいは議事録等を見ても、明確にその辺の説明はないわけでございますけれども、法律第一条に「国家補償の精神に基き」「援護する」こういうことになっております。「国家補償の精神」というのは、申し上げるまでもなく、国と軍人あるいは軍属の雇用契約、こういうものを背景にした補いと申しますか補償的なもの、そういうことを言っておるのであろうというふうに考えられますし、また、「援護」と言っております。「援護」というのは援助に近い言葉ではなかろうかと思います。
 そういう意味で、先生おっしゃいます社会福祉と申しますか、社会保障と申しますか、そういう色彩もあるのではなかろうか、両方の色彩があるのではなかろうかというふうに私は考えております。

○枝野委員 本当に後段の目的を言ってよろしいのですか。社会保障的な目的だとしたら、この法律に基づく年金とかの支給に、例えば所得要件とかそういったものがありますか。ありませんよね。それで、社会保障的な、社会福祉的な目的ということをおっしゃって整合性がとれますか。

○亀田政府委員 正確な意味で、社会保障あるいは社会福祉というような言葉を使うと正確ではないのかもしれませんが、当時の資料などを見ますと、例えば恩給、遺族の恩給の場合ですが、階級によって結果的にこの額が変わってくる、ところが、援護年金の遺族年金の方は階級とかなんか関係ありませんで、一律になっておるわけでございます。そういうことに、社会保障と申しますか福祉と申しますか、そういう色彩が出ておる、こんなことを書いておる資料もあるわけでございます。そういうような意味で申し上げました。

○枝野委員 要するに、基本的に、なぜこの法律で年金を支給するのかといえば、公法上の損失補償なんですよね。要するに、軍属として雇用契約があって、そこでけがをしたり命を失ったりとかしたということがあったのだけれども、そうやって特殊な、国民なりなんなりの全体の中から特定の一部の人だけにそういった犠牲を強いたことに対する穴埋めをするということの意味だ。そして、一般的に、公法上の損失補償というのは公平の見地から行われる。つまり、損害賠償と違って、補償というのは、国の不当行為、違法行為に基づいたものではなくて、適法行為であったけれども、それによって生じた穴というものは、特定の一部の人だけがかぶった穴なんだから、それは国民全体で埋めましょうという公平の見地からだと思います。
 だとすると、そもそもこの法律をつくったところで、その同じような条件で、つまり軍属としてその当時の日本軍と雇用契約にあって、同じようにけがをした人がいたとしたら、公平の見地から考えたら、国籍があるのかないのかにかかわらず、穴があいている以上、そこは埋めなければならないという政策目的、この法律の目的からすれば、国籍の有無は基本的には関係ないのじゃないですか。

○亀田政府委員 分離独立地域の方々の話を別にいたしますと、この援護法で国籍要件を設けましたのは、恩給法、恩給法というのも先生もう御案内のように国との雇用関係に基づいておるわけでございます。この恩給法に準拠してこの援護法の国籍要件を設けた、こういうことでございます。恩給法につきましては、大正時代でございますけれども、法律ができたときから国籍要件がある、こういうことでございまして、先生御指摘の、法のもとの平等に反するというようなことはないのではなかろうかというふうに認識をいたしております。
 また、分離独立地域の方々につきましては、先ほど来出ておりますように、平和条約で別途の解決をする、こういうことになっておりましたからこの国籍要件をそのままにしておいた、こういうことでございますので、それもこの法のもとの平等に反する、こういうことにはならないのではないかというふうに考えております。

○枝野委員 後段の方は余り関係ないのですよ。前段の方が問題なんですよ。
 要するに、この法律をつくったときにどうだったか。そのときの段階で平等違反が存在をしていたとすれば、その段階で具体的な権利にはなっていなくても、実体的権利としては発生しているわけですから、その実体的な権利がこの日韓協定に基づいて生き残るという話になるわけですよ、在日の人に限っていえば。それは、韓国本土にいらっしゃる方は請求権協定で請求権は全部処理済みという話になりますが、日本にいる人に限っていえば、この援護法ができたところで、そこで不公平があるということで、憲法に基づいて抽象的請求権が発生していれば、具体的な請求権になっていなくても、実体的権利ということでは抽象的権利でも権利ですから、それはこの協定の二条二項(a)に該当するということになるというふうに判断するのが筋ではないか。
 そして、この法律ができたときの問題点としては、確かに、恩給との横並びというのは、それは立法者の意思とか歴史的な背景というものはあるでしょうけれども、それは、恩給が国籍要件だからこちらも国籍要件を入れたからといって平等違反にならないという理屈にはならないわけで、恩給法とは目的が違うわけですから、恩給とは全く一致はしないわけですから。恩給は階級ごとに違うわけで、まさに一種の契約的なものに基づく給与の後払い的な側面というのが非常に強いわけですから、全く同じものではないわけですから、恩給があるのだからこっちも国籍要項があってもおかしくないという理屈にはならないわけで、それ以上の説明をなさっているとは到底思えないというふうに思っています。
 時間も切れますので、この問題については、そういった法的な側面をしっかりと見直していくと、これについて、少なくとも在日韓国・朝鮮人の皆さんについては立法措置をとるということは決しておかしくない、むしろ法的にはその方が素直なんだという結論になると私は思っているということを指摘させていただきます。

 第140回国会 参議院厚生委員会 第4号 平成九年三月二十五日(火曜日)午後三時二十一分開会

【発言順】
 委員             菅野 壽
 厚生省社会・援護局長     亀田 克彦
 厚生大臣           小泉 純一郎
 委員             今井 澄
 外務省アジア局北東アジア課長 別所 浩郎

○菅野壽君 戦傷病者戦没者遺族等援護法の一部を改正する法律案について、本日は国籍要件の問題に絞ってお伺いさせていただきたいと思います。
 この問題については、かねてより同僚議員から質問がありましたが、私もこの一月に台湾に参りまして、旧日本兵の皆様方と懇談する機会がございました。こうした意味でも、この問題について一刻も早い解決を望むものであります。
 そこで、本日はまずこの援護法立法時において国籍要件を付したそもそもの考え方についてお伺いしたいと思います。また、同法附則において戸籍条項を付した理由についてもあわせてお聞かせ願いたいと思います。

○政府委員(亀田克彦君) 援護法は昭和二十七年に御制定をいただいたわけでございますが、この法律におきまして先生御指摘の国籍要件を設けました考え方でございますが、当時の資料等を検討いたしますと二つあった、こういうことになってございます。
 一つは、この援護法が、これは大正年間に恩給法というのができておりますけれども、この恩給法に準じた形でこの援護法ができたわけでございますが、その恩給法に国籍要件が設けられていた、それに準じたというのが一つでございます。
 それから二つ目には、昭和二十七年に援護法を制定いたしますときには既にサンフランシスコ平和条約が調印はされておりまして、予定に具体的に上っておったわけでございます。この平和条約の中におきまして、朝鮮半島、また御指摘の台湾などいわゆる分離独立地域に属する方々の財産・請求権の問題につきましては、これは個々の法律ではなくて二国間の外交交渉により解決を図る、こういうように予定をされたおった、こういうことが二つ目の理由、考え方というふうに理解をしておるところでございます。
 それからまた、援護法の附則におきまして、御指摘のように戸籍条項が設けられておるわけでございますが、これは先ほどもちょっと申し上げましたけれども、分離独立地域に属する人々がサンフランシスコ平和条約によりまして日本国籍を失うことになったわけでございますが、これが平和条約の発効の日ということで昭和二十七年の四月二十八日でございます。
 それに対しまして援護法は少し前の昭和二十七年の四月一日から適用されたわけでございまして、そういう時間的なずれということから、そういう時間的なものを背景にいたしまして、これらの分離独立地域の方々の財産・請求権の問題はサンフランシスコ平和条約において二国間の外交交渉により解決される、こういうふうに予定をされておりましたことから国籍要件とともにこの戸籍条項を設けた、こういうことでございます。

○菅野壽君 今、戸籍条項について御説明をいただきましたけれども、厚生省の見解も二転三転したように記憶しております。
 昭和三十六年当時の厚生省の通知の内容及びその趣旨について御説明いただきたいと思います。

○政府委員(亀田克彦君) 御指摘の通知でございますが、昭和三十七年に出ておりますけれども、これは御指摘の援護法の国籍条項につきまして、個人の意思に関係なく国家間双方の条約等の一方的権力によって国籍を喪失させられた場合にはこの戸籍条項は適用されるべきではない、こういう考え方に立ちまして、分離独立地域の出身者が日本に帰化することによりまして、その後日本の戸籍法の適用を受ける、こういうことになった場合には援護法の適用がある、こういうふうにこの通知でしたわけでございます。

○菅野壽君 一片の通知によって市民の権利関係が百八十度変わってしまったということは、法治国家としては元来許されざるべきものと思います。このことを指摘しておきます。
 さて、近年、この国籍条項に関する訴えが相次いで提訴され、判決が幾つか出ております。この問題に関する裁判の動向、これまでの一連の判決の概要及び政府の見解、対応についてお伺いいたします。

○政府委員(亀田克彦君) この国籍要件関係の訴訟でございますが、現在四件が係属中でございまして、このうち二件につきましては、一つは平成六年七月十五日に東京地裁で、それからもう一つは平成七年十月十一日に大阪地裁でそれぞれ判決が出ておるところでございます。
 まず、平成六年の東京地裁判決でございますが、判決の主文は、援護法の戸籍条項は憲法十四条に反するものではないと、こういう国側の主張は認められたわけでございますが、判決理由の中におきまして、ちょっと読み上げますと、「在日韓国人が日韓両国のいずれからも何らの補償も受けられない状態となっていることは、その意味では、立法不作為の状況にある」が、その「不作為の状況について、その適否ないし当否を軽々に評することは適当ではない」、こういうふうに述べられておるところでございます。
 また、平成七年の大阪地裁の判決でございますけれども、これも判決主文におきましては、憲法十四条を理由として援護年金の請求却下処分の取り消しを求めることはできない、こういう国側の主張は認められたわけでございますが、同じく判決理由の中におきまして、日韓請求権・経済協力協定の締結後においては日韓両国のいずれからも在日韓国人に対する補償の道が閉ざされたにもかかわらず、これらの者を援護法の適用対象外としていることは憲法十四条に違反する疑いがあるというふうに述べられておるところでございます。
 厚生省といたしましては、この大阪地裁の判決理由につきましては、一つには、韓国との間では昭和四十年に日韓協定が締結されまして、韓国人の補償の問題は在日韓国人を含めまして法的には解決済み、こういうふうになっておるわけでございますから、当該協定を締結したことによって我が国が国籍要件の見直し等を行わなければならない、こういう状況が生じたとは到底考えられないというふうに考えておるところでございます。
 また、援護法の国籍要件の合理性につきましては、先生から台湾のお話がございましたけれども、台湾住民、元日本軍軍人・軍属が補償を求めました事件につきまして平成四年四月に最高裁の判決が出ておりますけれども、援護法の国籍要件は合理的だ、こういうふうに認められておるところでございます。
 ちょっと長くなりましたけれども、この二つのことから厚生省といたしましては大阪地裁の判決理由の中で述べられておりますことにつきましてはちょっと受け入れがたい、こう考えておるところでございます。
 この二つの訴訟につきましては、現在それぞれ東京高裁、それから大阪高裁と上の段階に係属中でございまして、私どもといたしましては法務省あるいは外務省と相談をいたしまして、今申し上げましたようなことを国の主張ということで申し述べておる段階でございます。

○菅野壽君 今御説明があったとおり、平成六年の東京地裁では在日韓国人の戦後補償は立法不作為の状況にあると指摘されています。また、七年の大阪地裁判決においては違憲の疑いありとされております。さらに、平成四年四月の最高裁判決は、台湾住民である軍人・軍属への措置は立法政策に属する問題として、むしろ国会並びに政府にボールを投げかけた判決であると解釈しております。
 戦争中、同じ日本兵として戦い、傷ついた人々に対し区別なく援護の手を差し伸べることはまさに政治の役割ではないかと思いますが、最後に厚生大臣の御見解を承りたいと思います。

○国務大臣(小泉純一郎君) 今のお話を伺っていまして、戦争の傷跡というのは本当に深いなと思いました。
 二国間の問題、国籍の問題、特に韓国と台湾という日本の特殊な関係を考えまして、本当に複雑だなと。しかも、台湾という問題は中国との関係もあります。より複雑にしていると思います。そういうことから、政治的な判断以上に法的な判断を求めて今それぞれの理由が述べられたわけでありまして、今後この問題について政治的に何らかの措置を行うというのは困難ではないか、もう私の手には負えないと、申しわけないがそう考えざるを得ないと思います。

○菅野壽君 要望でございますが、先ほど南野議員が看護婦さんの補償の件でお話しされました。
 私は戦後、臨東三、臨時東京第三陸軍病院、現在の国立相模原病院におりまして、百六十人の看護婦さんの手当てをした一人でございます。そのときに、手のない、足のない看護婦さん方が百六十人おいででございました。主に長野日赤、前橋日赤から派遣された看護婦さんであります。どうしてあなたは手がないの、足がないのと言ったら、ビルマ戦線だった、足がないともうほとんどその場で戦死した、手をやられだからこそ、足があったからこそ助かってきたと。
 手のない兵と足のない兵が両手、両足のない兵と今度はけんかをします。そうすると、いつも両手、両足のない兵が負けます。というのは、おい、おまえは北支だろう、満州だろう、手のない人が足のない人は北支だろう、満州だろうと言います。おまえさんたちは軍医、看護兵を煩わせて助かったんだろう、我々は南方戦線で足をやられたらもうそれでおしまいだと言って、両手、両足のない人に論争では勝っておりました。
 という現実の中で、私は臨東三で二千人の傷病兵を取り扱い、その中に百六十人の看護婦さんがおりました。それはビルマ戦線でマンダレーから引き揚げる途中にやられた人です。軍医さんは倒れた馬のいい肉ばかり食べてきた、我々看護婦はその中の臓物しが食べられなかった、それでも生き残ってきたんですよと。そして、友達はみんな倒れた、そうしたら泥沼の中を私は帯で胴をくくって引っ張ってきた、そして事絶えたとき、黙って後ろを見ないでその帯を離して帰ってきた、それで私は助かった、そういう戦線の中を私は生き抜いてきたという看護婦さんたちの話を聞いて私は涙しておりました。
 そしてまた、南野先生がさっき力説された看護婦さんの援助に対して、どうかひとつ非常に温かい御配慮を賜らんことを私は希望して終わります。

○今井澄君 民主党・新緑風会の今井澄でございます。
 今の菅野先生の質問に引き続くような形で、援護法における国籍条項の問題について御質問をしたいと思います。
 この問題はたびたび本委員会でも取り上げられてきたところでありますが、これもかつて質問としてありましたが、最初に事実関係として、第二次世界大戦で、私は特に朝鮮半島の出身者のことを中心に伺いたいと思います。
 日本の軍人・軍属として徴用された朝鮮人、韓国人は何人いたのか、またそのうち戦争で亡くなられた方及び負傷された方は何人いたのか、まず事実関係をお尋ねいたします。

○政府委員(亀田克彦君) さきの大戦におきます朝鮮半島出身の旧日本軍の軍人・軍属数でございますけれども、旧陸海軍の作成した資料によりますと約二十四万人、こういうふうに把握をいたしてございます。
 また、戦没者数でございますけれども、これは旧陸海軍の資料をもとに厚生省が昭和四十六年に取りまとめたものでございますが、約二万二千人、こういうふうに把握をいたしてございます。
 また、戦傷病者数でございますけれども、これは大変恐縮でございますけれども、旧陸海軍の資料の中に、これは日本人も含めてでございますけれども、戦傷病についての記載は一般的にない、こういうことでございますので把握できておりません。

○今井澄君 そうですが。戦傷病者の人数は把握できない。
 推測もできないですか。

○政府委員(亀田克彦君) 日本人の場合は戦傷病者特別援護法という法律がございまして、これに基づきまして、御案内でございますが、戦傷病者手帳というものを出しております。この数字を見ますと大体こんなものかな、戦傷を受けられた方はこんな人数かなと。今の時点で約十万人でございます。
 そういうことでございますが、朝鮮半島御出身の方につきましては、戦傷病者特別援護法につきましても国籍要件がございまして適用されていないということでございますので、全くの推測もできない、こういう状況でございます。

○今井澄君 それでは、日本の国籍を取得せずに日本に永住している朝鮮半島の出身者の戦傷病者や遺族で障害年金や遺族年金等を請求した方、これは却下されておるわけですが、その方の数はどのぐらいおられるのでしょうか。

○政府委員(亀田克彦君) 在日の朝鮮人あるいは韓国人の戦傷者、あるいは遺族で援護年金の請求を却下された方の数でございますけれども、私どもの実態を申し上げさせていただきますと、これまでの裁定件数が約百六十六万件、却下件数だけでも三万二千五百件、こういうことでございましてすべてを正確に把握する、こういうのは困難な状況でございますが、これまでに私ども裁定原本を当たるなどできるだけの努力をして調査いたしましたところ、現時点で把握できておりますのは十六名でございます。

○今井澄君 その十六名のうち、訴訟中のものが先はどのように四名の方ですか。
 そうしますと、あと十二名の方はどういうふうになっているんでしょうか。

○政府委員(亀田克彦君) 先生御指摘のように、訴訟中の方が四名でございます。それから、この訴訟中の方は障害年金の方が却下になって四名の方でございます。それ以外に二名、障害年金で却下になった方がおられます。それから、残りの十名ですが、これは遺族年金の方で却下になられました方でございます。いずれにいたしましても、現時点でできるだけの努力をして把握した数字でございます。

○今井澄君 これはたしか衆議院でそういう質問があったときにはわからないということだったですよね。
 その後お調べになったわけですね。

○政府委員(亀田克彦君) その後新しいところからさかのぼっていきまして、これは原本といいましても認容になりましたものも一緒になっていたりしまして大変なあれでございますけれども、さかのぼってできるだけの調査をいたしました。

○今井澄君 そういうふうに一生懸命調べていただくことは非常に大事なことだと思うんです。
 実は本日の質問に先立って昨日、厚生省の担当の方に御説明を伺ったら、わからないと。国籍別に分類していないと言うので、私はそれは職務怠慢じゃないかということをきのうの午後申し上げたんです。現に、衆議院の予算委員会要求資料、ことしの二月十七日には、「「申立者国籍別」の統計はない」、こういうふうに書いて出されているんですよね。やればできるじゃないですか。
 しかも、私が申し上げたいのは、きょうこういう答弁が返ってきたから一歩前進だと思いますけれども、この衆議院に出された資料は一九八八年、昭和六十三年からの数字があって、この中の国籍別はわからない、国籍別だけじゃなくて事項別もわからない、分類していないという話だったんですよね。ところが、例えばわかっている限りでも、一九七三年には名古屋市在住の梁さんと朴さんという御夫婦が亡くなられた長男の補償のことを問い合わせたときに、厚生省はそれは日韓協定で一括解決されているからだめだという回答を既にしているんですね。その後も幾つもそういうのがあるんですよ。ですから、衆議院に出された資料の一番最初のところ以前に厚生省はこういう認識を持ってしかるべきなんですよ。国籍要件で却下せざるを得なかった、にもかかわらず分類していなかったとすれば、やっぱりこれは職務怠慢なんですよね。やればできると、一晩で。ここまでできるということですからね。
 さらにもっとさかのぼれば、一九六二年に大島渚さんが「忘れられた皇軍」というのでテレビ放映がされて、非常にそのことで厚生省の方法では出てこなかった方たちが出てきて帰化をしてもらえるようになった人もいるわけですよね。そういう意味で、やっぱりもうちょっと、そういう本当に困っている人の立場を考えて厚生行政というのはやられるべきものだと思います。それにしても、そういう御返事があったので私は前進だと思っております。
 現在訴訟中の皆さんや、訴訟はしておられないけれども申請をして却下された方五人のことは、かつて同僚の竹村議員が詳しくこの委員会でもこういう方がおられるということを述べられたので、きょう私は申し上げませんが、訴訟を起こされた四人の方で既にお二人、鄭商根さんとそれから陳成一さんはもう亡くなっているわけですね。何の補償というか、そういうものを受けられずに亡くなっているわけですが、そういう訴訟の中で、先ほど菅野委員の御質問にお答えになったように、東京地裁判決では立法不作為の状況にある、大阪地裁の判決では憲法十四条等に違反する疑いがあると言わざるを得ないというふうな判決もあって政治の方に任されたということだと思います。
 そこで、実は一九九五年、一昨年のちょうど今ごろ、三月十六日に、やはりこの援護法の審査のときの質問に対して当時の厚生大臣がこう答えておられるんですね。ちょうど戦後五十年であると、「政府全体でぜひ取り組んでいかなくちゃならぬまさに大事な時期だな、こう考えておるところでございます。」と。厚生省だけではどうしようもない、政府全体で取り組まなきゃいけないという認識を当時の厚生大臣は示しておられるんですね。
 先ほどの厚生大臣のお話は大変後ろ向きの御答弁だったように思いますが、厚生省としてはこの間、これは厚生省だけでは解決できない、政府全体として取り組むという当時の大臣の答弁を受けて何かの努力をされましたか、法務省なり外務省なり。

○政府委員(亀田克彦君) 先生御指摘の平成七年三月十六日の井出元大臣の御答弁でございますが、先生もお読みになられましたように、「私ども与党の方の五十年問題プロジェクトチームでもこの問題が論議もされております。したがいまして、まさに戦後五十年という節目の年でもありますから、私としても何らか政府全体でぜひ取り組んでいかなくちゃならぬまさに大事な時期だな、こう考えておるところでございます。」というような答弁をされておられます。
 そういうことで、先生御指摘の井出元大臣の御答弁でございますけれども、これは当時、与党三党の戦後五十年問題プロジェクトチームにおきまして、戦後諸問題の一つの項目として旧植民地出身の軍人・軍属等の補償問題というものが議論されておったわけでございまして、そういうことを踏まえた御答弁ではないかなと、こういうふうに考えておるところでございます。
 その後、この戦後五十年問題プロジェクトチームにおきましては……

○今井澄君 いや、厚生省としての対応を聞いているんです。

○政府委員(亀田克彦君) 平成八年三月に最終的な取りまとめが行われたところでございますが、この問題につきましては合意ないしは解決に至らなかったものと、こうされておるところでございまして、私どもといたしましてもこの新たな取り組みをする、こういう状況には至っていないと、こういう認識でおります。

○今井澄君 私は、非常に厚生省に対しても不信感を抱かざるを得ない経過があるんです。
 翌年度の十月三十一日のこの厚生委員会の大臣答弁なんですが、そのときの大臣は何と言われたかというと、私も検討はしてみましたが、残念ながらなかなか解決方法がないと。それで、実はその経過として、対象の人数が少ないんじゃないだろうかということがこの委員会でも何回もなされているんですが、いやなかなか人数は少なくないようだと、いろいろと大勢いるようだというふうな答弁をその当時の大臣はしておられるんですね。これは何を意味するかといいますと、井出大臣の答弁を受けて何とかならないかと厚生省が動いたのではなくて、むしろそんなことをし出すと広がって大変なことになりますよというので次の大臣を説得したとしか見えないんですよね。私は、これは非常に不信感を抱きますね。
 そこで、もう一つですが、時間がなくなってきましたが、外務省、お見えですね。
 ちょっとお尋ねしたいんですが、実はこのことでもうこれは解決済みだ、解決済みだと言うけれども、実は韓国の外務部はそういう見解をとっていないということを御承知だと思います。訴訟を起こした四人の方が韓国外務部あてに請願を出したと、それに対する回答として、韓国外務部としては在日韓国人の戦傷者は日本政府に対して援護補償を請求することができるものと判断されると。
 このことは、毎年末に両国のアジア局長級会議が行われていると思いますが、そこで毎年出されているのではないですか、韓国側から。

○説明員(別所浩郎君) 先生御指摘のとおり、日韓局長級協議というのが毎年行われておりまして、これは平成三年に外務大臣同士で合意いたしました覚書に沿いまして在日韓国人の法的地位及び待遇に関する関係の話をしているわけでございますが、御指摘のとおり、近年韓国側から、援護法の国籍条項を撤廃して在日韓国人への補償の道を開いてほしい、そういう要望は出てきております。

○今井澄君 それで、さらにこの方たち及び亡くなった方の遺族は韓国の国会に請願をしまして、国会でもこちらで言う外務委員会に当たるところで今取り上げられつつあるんですね。これはやっぱり大きな国際問題になってくる可能性もあるわけです。
 しかも、御承知のとおり、今いわゆる先進国と言われる諸国の中では日本以外はみんなそういう旧植民地の人たちの補償をしているんですよね。日本だけなんですね、やっていないのは。これは国連でも人権委員会で取り上げられています。
 最後に、厚生大臣、こういうことで、先はどのような御答弁ではなく、やっぱりこれは国際的な問題であり、人権の世紀を前にしての問題であるんですね。しかも、裁判でもそういうことが言われているんです。前向きの御答弁を、御決意をお願いしたいと思うんです。

○国務大臣(小泉純一郎君) 御期待にこたえられなくて本当に申しわけないんですが、本当にお気の毒だと思います。しかし、これ以上の措置は困難だと思います。

○今井澄君 終わります。

 第142回国会 参議院国民福祉委員会 第4号 平成十年三月十九日(木曜日)午後四時三十九分開会

【発言順】
 委員             竹村 泰子
 外務省総合外交
 政策局国際社会協力部長    上田 秀明
 外務省アジア局中国課長    佐藤 重和
 厚生省社会・援護局長     炭谷 茂
 厚生大臣           小泉 純一郎
 外務省アジア局北東アジア課長 佐々江 賢一郎
 委員長            山本 正和

○竹村泰子君 民主党の竹村泰子でございます。
 この問題、戦傷病者戦没者遺族等援護法の問題につきまして、私は毎年のように、九四年、九五年、九六年というふうに厚生や予算で質問をさせていただいております。小泉厚生大臣に質問申し上げますのは多分初めてだと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 日本は、戦時に約四十五万人の朝鮮人、台湾人を軍人軍属として服務させ、そのうち約五万人が亡くなっておられます。傷病者数は未公表であります。戦後の占領下では、非軍国主義化推進のため軍人恩給などは廃止され、一般的な社会保障制度の中に統合されました。
 しかし、一九五二年四月、対日平和条約が発効して日本が主権を回復すると、まず戦傷病者戦没者遺族等援護法が制定され、翌年には軍人恩給も復活しております。これら十四本の援護諸法によりまして、現在毎年約一兆五千億円が支出されております。被爆者援護法以外にはすべてただし国籍差別が存在しているわけであります。
 在日韓国人の戦傷軍属石成基さんは右腕を失いましたが、同じ戦傷を負う日本人は、五二年四月から九八年三月までに石さんと同じ条件であればおよそ七千万円の補償を受けられたと、私の調査ではそうなっております。石成基さんは、国籍を理由に皆無であります。
 そこでお伺いをいたします。
 援護法の国籍条項は、人権の国際的保護に反しないのでしょうか。国連との関係で考えていきたいと思います。
 国連の規約人権委員会における日本政府第三回報告、報告をしなければならない決まりでありますけれども、この九三年十月に第三回の報告をしているわけでありますけれども、ここにおいて在日外国人に対する戦後補償責任の問題として三人の委員から指摘を受けております。最終コメントでも「主要な懸念事項」ということで、規約人権委員会から指摘を受けております。
 その「主要な懸念事項」という項をちょっと御紹介いたしますと、
 委員会は、日本において、在日韓国・朝鮮永住者、部落社会の成員、アイヌ少数民族などの社会集団に対する差別的慣行が日本に存続していることについて懸念を表明する。刑事法の下で、永住権のある外国人が証明書を常時携帯義務を負い、日本国籍者にはこれが適用されないことは、規約と合致してない。更に、旧日本軍に従軍した韓国朝鮮及び台湾出身者で、もはや日本国籍を有していない者が、年金において差別されている。
こういう国連人権委員会の「主要な懸念事項」というのが九三年十一月五日に指摘をされております。
 このコメントに対して、政府はどう対処するのでしょうか。

○政府委員(上田秀明君) 御指摘の国連人権規約、いわゆるB規約のもとでつくられておりますB規約人権委員会で、委員の方々からの指摘があり、かつ懸念ないし勧告等のことで、今、先生御指摘のような指摘があったことはそのとおりでございます。
 その際、我が方の政府の代表として、その委員会におきまして我が方の政府代表から以下のような趣旨の説明を行っております。
 援護法による援護は、軍人軍属等の一定の戦争犠牲に対する国家補償的な性格を有しており、その支給範囲、内容等は極めて高度な政策的判断を要する立法政策上の事項である。同法の立法をめぐる諸事情の一つである我が国と朝鮮半島、及び台湾との間の財産請求権の問題については、我が国とこれら地域との間で何らかの特別取り決めを締結することにより解決していくことが念頭に置かれていたと考えられる。こうした事情のもとで援護法の国籍要件が存在している。こういうような説明を行っております。
 このB規約人権委員会からの指摘等に対します我が方の最終的な対応、いろんな場面があるかと思いますけれども、それにつきましては、それぞれの事項についてのことを担当される関係の省庁からの御説明にお任せしたいと考えておりますけれども、一般論として申し上げますれば、人権B規約につきましても、不合理な差別を設けることを禁じるものでありまして、内外人の取り扱いについて合理的な差異を設けることまで排除しているわけではないというふうに理解をしております。

○竹村泰子君 なぜこれが合理的な差異なのでしょうか。そういうお答えを国連でもずっとしておられるわけですね。
 この記録を見ますと、アギラーさんというコスタリカの方の質問は、
 現在、彼らは、他の日本軍人であった人々に与えられている権利の享受を奪われています。彼らのある者は、過去において日本国籍を有していましたが、戦後の状況により、他国の市民となり、また、日本軍に属していたことを理由に、彼らは彼らの国において差別されています。そのほか、日本国民である退役軍人と日本国民でない退役軍人との差もあります。国籍を有する者は退役軍人恩給を受ける資格がありますが、朝鮮・韓国人、台湾人の(旧日本兵で あった)者は資格を持っていません。
このことを三人の委員から指摘をされているわけですけれども、日本政府の答弁は、一貫して「立法政策の問題であり、その政策決定は極めて高いオーダーのものです。」「廃止することは困難です。」というふうにずっと答えておられるのです。
 そこでお伺いいたしますが、私、手元に九七年六月にお出しになりました第四回報告の仮訳をいただきました。この中には、この問題が第三回、この前の指摘でこういうふうに三人もの委員から指摘をされ、しかも「主要な懸念事項」というふうに言われているにもかかわらずこの中にはほとんど触れられていない。このわけを聞かせてください。

○政府委員(上田秀明君) 先ほど申し上げましたように、それぞれの委員会等の場で提示あるいは指摘を受けました事項につきましても、もちろん我が方で担当の関係省庁等にもお話をして対応をするわけでございまして、間髪を入れずに次の機会にお答えあるいは御説明できることもございましょうが、今の問題につきましては先ほど申し上げましたような我が方の見解でございますので、次の機会でありました第四回のときには深く触れておらないというのが実情でございます。

○竹村泰子君 ちょっとよくわからない答弁なんですが、これは五年ごとですよね。ですから、この前の審査で主要な懸念だというふうに言われたのは九三年であります、一年ほど審査をしたわけで。この九七年六月にお出しになったのはことしの秋ごろでしょうか、審査を終えて審査結果が報告されるはずですね。五年ごとの報告で、どうしてそれを触れずに済ませられるのですか。どうもよくわかりません、私。その次になると十年たつわけでしょう。何を待っているわけですか。

○政府委員(上田秀明君) 繰り返しになりまして恐縮でございますが、関係の御当局のさまざまな御検討もあろうかと思いまして、私どもといたしましては、今度の審査その他で御質問等にお答えする、あるいは御指摘にお答えすることもあろうかと思いますが、ただいまの報告につきましては先ほど申し上げたようなとおゆでございます。

○竹村泰子君 これは大臣には後でお聞きいたしますけれども、援護法の問題です。厚生省が主管であるわけで、厚生省がうんと言えばいいことなのかもしれませんけれども、こういう状況であるということをどうぞおわかりいただきたいと思います。
 八二年六月、外務省の「負傷又は戦死した外国人に対する欧米各国の措置概要」という調査によりますと、米、英、伊、仏、独、いずれも外国人元兵士等に対して自国民とほぼ同様の補償を行っております。
 この五カ国、もう大臣はお気づきだと思いますが、カナダが入れば現在のサミット参加国であります。カナダは植民地がなかったので該当者はいません。サミットの参加国で、戦後補償で差別を設けているのは日本だけなのではないでしょうか、いかがでしょうか。

○説明員(佐藤重和君) ただいま御指摘がございましたとおり、外務省において一九八二年に欧米各国の施策状況というものを調査いたしました。いわゆる外国人の元兵士の人々に対していかなる措置を行っているかということについて調査を行ったわけでございます。
その調査結果によりますと、その当時の時点でございますけれども。米、英、仏、伊及び当時の西独でございますが、こうした各国では外国人の元兵士等に対し年金ないし一時金を支給しているということでございました。
ただ、具体的な支給の内容でございますけれども、その年金の種類あるいは金額といったことにつきましては、各国において、例えばフランスやドイツにおいては金額あるいは種類において……

○竹村泰子君 済みません、時間がないので。わかっているからいいです。

○説明員(佐藤重和君) はい。自国民と若干差を設けているというケースもございます。また、米国についてもそういったケースがございます。

○竹村泰子君 途中で遮りまして申しわけありません、時間が少しなものですから。
それでは、お尋ねいたしましょう。
これは私、前にも聞いていることなんですけれども、国連の規約人権委員会は、フランスが旧植民地のセネガル人兵士の年金を途中から据え置いた、やめたんじゃないですよ、金額を据え置いたことに対して、八九年、国籍による差別だと判定しました。判定した理由は、セネガル人もフランス人も提供した軍務は同じであるということです。フランスは、この決定に従いましてその後是正措置をとりました。
 厚生大臣、お伺いいたします。現在国籍条項の廃止を求めて訴訟中の在日韓国人と援護法の対象となっている日本人との間に、軍務提供における差異があったとお思いですか、どうですか。大臣、お願いいたします。

○政府委員(炭谷茂君) まず、軍務提供については日本人と在日の韓国人の方との差はなかったんじゃないかというふうに思います。

○竹村泰子君 どうお思いですか。

○国務大臣(小泉純一郎君) 今、政府委員が答弁しましたように、同じような軍務提供がなされたのではないかと思っております。

○竹村泰子君 日本は人権規約の議定書を批准していないので、既に批准を済ませていたフランスのような規約違反の判定がなかっただけではないのかと私は思います。そういう隘路を求めてというか逃げ道を求めて、何とか逃れようという長年の何か姿勢が見えるような気がしてならないのです。
 けさの毎日新聞は一面トップで、従軍慰安婦問題について「個人に補償を」と。韓国の新しい金大中政権の朴定洙外交通商相が十八日、毎日新聞など複数の報道機関と会見して、これまで私どもも戦後補償の問題、従軍慰安婦の問題、いろいろかかわってまいりましたけれども、韓国政府がこのように正式に向こうから日本は個人に補償するべきだと言ったのは恐らく日韓条約以降初めてではないかというふうに思います。これは在日の朝鮮、韓国の方たちのことは触れておりませんけれども。
 日韓請求権協定では、戦後処理は完全かつ最終的な解決がされたと日本政府は主張しておりますけれども、在日韓国人の戦傷病者、戦没者の戦後補償はその枠外ではないかと韓国政府は在日の戦傷病者の補償について協定の第二条第二項(a)を根拠に日本側の対応を求めていることは、外務省はよく御存じだと思います。
 毎年年末に開かれている日韓局長会議で、韓国側は在日韓国人の戦傷病者の戦後補償問題を毎年提起しているのではないでしょうか。これまでの日本政府の対応はどうなっておりますか。

○説明員(佐々江賢一郎君) ただいま先生が御指摘になりましたように、この問題については従来から日韓の当局間で話し合いが行われております。
 とりわけ、平成三年一月に日韓両国の外務大臣間で在日韓国人の法的地位及び待遇に関する覚書に署名を行って以降、この問題に関する日韓局長級協議を年一回程度実施しております。その協議の場におきまして、韓国側より、援護法の国籍条項を撤廃して在日韓国人への補償の道を開いてほしいという要望が寄せられております。
 これに対しましては、日本側からは、この問題については六五年の協定第二条第一項によってこのような韓国の側の主張を含めて完全かつ最終的に解決されたことになるということが日本政府の立場であるということを回答しているわけでございます。

○竹村泰子君 もうそれは言わずともおわかりのとおり、戦後五十二年たっております。旧軍人軍属であった在日の外国人に対して、高齢に達した今なお戦後処理の諸問題は残っており、人道的な見地に立って、関係省庁が一体となって必要な措置を図るべきではないかと思いますが、厚生大臣、そして外務省、両方にお尋ねを申し上げます。

○国務大臣(小泉純一郎君) お話を伺っていまして、これは実にお気の毒なことだなと思いますけれども、この問題は長年言われてきて、いつも解決していない。日本だけの問題じゃない、二国間の問題がある。また、植民地等、かつての韓国、台湾等の問題、この人々の財産請求権の問題については、既に昭和二十七年のサンフランシスコ平和条約において、二国間の外交交渉により解決することとされ、韓国との間では昭和四十年の日韓協定により、韓国人についての補償問題は在日韓国人を含めて、法的には解決済みと承知しております。これはもう今の段階で、厚生省だけとか私の判断では解決できない問題だと私は心得ております。
 したがって、非常にお気の毒なんですが、事情を聞けば聞くほど、本当にこれは不公平だなとか、お気の毒だなという気持ちはわかります。在日韓国人である元日本軍軍人軍属の方々にとっては、私はふんまんやる方ない気持ちも十分わかりますが、現時点で何らかの救済措置を講ずることは、もはや困難ではないかなというふうに残念ながら考えております。

○委員長(山本正和君) 外務省、よろしいか。

○竹村泰子君 同じ答えだったら結構です、時間がない。毎年同じ答えを聞かされておりますので。
 小泉大臣、今のお答え、大臣のお立場として、確かに壁が厚いのはよくわかりますけれども、これは厚生省が、年金差別があったのだと、これは国際的にも問題にされているんだということで、年金差別をなくします、在日の人たちにきちんと差し上げますと言ったら、韓国政府は別にそのことを困りますとか、いや辞退しますとか、やめてくださいとかと言うわけはないので、二国間の問題とおっしゃいましたけれども、それはぜひお考えをいただきたいと思います。
 数々裁判が起こされておりますが、判決理由で、立法の不作為、東京地裁、違憲の疑い、大阪地裁、その他大津地裁も立法措置を講じるかは国会の裁量として立法府にげたを預けております。共通していることは、戦後処理に未解決の問題があり、法の谷間で、母国からも疎外され、そして日本からも外国人だと言われ、その谷間で苦しみ、悲しんで死んでいかれます。一昨年も一人、鄭商根さんという大阪の方が亡くなられました。それに立法府として、政治的な解決策を求められているのではないでしょうか。
 せめて被害者の声を聞く公聴会あるいは参考人質疑のような形で、これは委員長にお願いでございますけれども、じかに声を聞いてあげてほしいと、そういうお願いをしたいと思いますが、委員長、いかがでございましょうか。

○委員長(山本正和君) 後ほど理事会において、ただいまの御意向については協議いたします。
 それでは、竹村君、時間が参りました。

○竹村泰子君 ありがとうございました。

 第143回国会 衆議院外務委員会 第7号 平成十年十月十四日(水曜日)午前十時開議

【発言順】
 委員   玄葉 光一郎
 外務大臣 高村 正彦

○玄葉委員 日韓の問題で一言、一言申し上げたいというか、お尋ねをしたいと思います。
 今回の日韓共同宣言の成果を外務大臣としてどのようにお考えになっておられるか。特に、今回は共同宣言でいわば反省とおわびが文書化されました。そのことで、いわば過去の歴史への区切りがついたというふうに考えてよいのかどうか。その点について外務大臣にお伺いをいたします。

○高村国務大臣 日韓共同宣言では、過去に関する小渕総理大臣の認識の表明に対し、金大中大統領がこれを真摯に受けとめ、評価すると同時に、両国の過去の不幸な歴史を乗り越えて、和解と善隣友好協力に基づいた未来志向的な関係を発展させるため、お互いに努力することが時代の要請である旨表明したことが明確にされております。これによって両国間の歴史認識をめぐる問題には一つの区切りがついた、こう考えております。
 韓国側としても、これによってこの問題に区切りをつけ、未来志向的な日韓関係を築くべく、我々とともに努力を重ねていく決意を示しているわけであります。

○玄葉委員 一つの区切り、そういう表現を使われたわけでありますが、そうすると、今後政府レベルで過去の問題について触れるということはないというふうに考えてよいのか、いや、それは今後もあるというふうに考えてよいのか。やや抽象的な質問ですが、御答弁いただきたいと思います。

○高村国務大臣 政府レベルで、かつてあったように、歴史認識をめぐってこうだああだと言い合うような形で触れられるようなことはもうないのだと認識しておりますし、金大中大統領も、政府レベルで韓国側から言うことはない、こういうふうに言っておられるわけであります。

○玄葉委員 今回、反省とおわびが文書化されたということで、一部には、新たな補償の問題が出てくるのではないかという懸念もあるわけでありますが、それは杞憂ですか。

○高村国務大臣 それは杞憂であります。
 日韓間における財産請求権の問題は、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定により、完全かつ最終的に解決済みであり、政府レベルにおいて新たに補償の問題が出てくることはないと考えております。

○玄葉委員 最後にもう一つだけ関連してお尋ねしたいのは、両国間の安保対話と防衛交流が今回うたわれました。
 私、質問するということできのう取り寄せたんですけれども、一九八三年と八四年の日韓共同声明というのがあるのですね。何か、文書化されたのは三度目だそうでありまして、八三年と八四年、中曽根総理と全斗煥大統領の共同声明があって、なるほどなと思いましたけれども、あのときは、安保対話とか防衛交流という言葉が全くないのですね。全くないですね。そういう意味では、韓国との相互理解もかなり進んだのかなと思って、これは素直に、私はきのう文書を見て喜んだわけであります。
 ただ、行動計画も読ませていただきましたけれども、まだまだ踏み込み不足だというふうに思う感も一方で実はあるのですね。行動計画には、年一回の局長級の対話であるとか、あるいは防衛長官と国防相の相互訪問であるとか、そういうことまで書いてございました。ただ、できれば日米のような、外務大臣とか防衛庁長官が韓国の国防相あるいは外務大臣と定期的に会合を持つというようなことまで本当は考えなければいけないんじゃないかな、そう思っているわけでありますが、その点について最後にお聞きをして、質問を終えたいと思います。

○高村国務大臣 私、防衛政務次官のときに国防長官のカールーチ氏とお会いしたときに、カールーチ氏の方から、日韓安保ということを考えてみたらどうか、安全保障条約という意味じゃないんだと思いますが、そういうことを考えたらどうかと。盧泰愚大統領に会ったときにそういうことを言ったら、盧泰愚大統領は否定しなかった、だけれども時期尚早だ、こう言った。その会談の後、相手方の人が追っかけてきて、今のことは表へ出さないでくれとわざわざ言った。そういう時期を見れば、感無量、随分進んだな、こういうふうに私自身思っているわけであります。
 両国の位置する北東アジアを含めた国際社会における平和と安全を確保する上で、日韓両国が安全保障分野での協力を行っていくことは、日韓共同宣言の精神に沿ったものであります。この観点から、我が国としては、相互理解と信頼関係の増進を図ることを目的として日韓安全保障対話を本年六月に実施し、今後少なくとも年一回、継続して実施するとともに、両国の防衛交流につき、国防、防衛当局間の相互訪問等人的交流や対話チャンネルの拡充等を通じ拡大強化していく方針であるわけであります。
 このように、日韓両国が安全保障対話や防衛交流を双方の努力により進めていくことにしたのは、隣国たる日韓両国の友好国としての協力のあらわれでありますが、日韓安保条約の締結といった特定の具体的目標を視野に入れるには、まだまだそういう時代ではない……(玄葉委員「日韓安保」と呼ぶ一日韓安全保障条約みたいなものを視野に入れるというようなところではない、こういうふうに思っております。

○玄葉委員 どうもありがとうございました。以上で終わります。

 第145回国会 衆議院内閣委員会 第3号 平成十一年三月九日(火曜日)午前十時三十分開議

【発言順】
 委員         佐々木 秀典
 総務庁恩給局長    桑原 博
 外務大臣官房審議官  安藤 裕康
 総務庁長官      太田 誠一
 内閣官房長官     野中 広務
 委員長        二田 孝治
 委員         河合 正智
 厚生省社会・援護局長 炭谷 茂

○佐々木(秀)委員 ただいま、国と公務員との特別な関係というお話があった。この特別な関係というのは、法律的な性格としてはどういうように説明なさるのですか。特別な関係というだけではわからない。

○桑原政府委員 それぞれの公務員についてはそれぞれの法律がございまして、公務員としての責務または義務、守るべきこと等々のことが記載されているわけでございます。それぞれの法律に基づいてその義務を忠実に果たしたという、果たすという、特別な国との関係、それを指して私どもは国と公務員との特別な関係というふうに考えております。
 全部一律というふうにはない場合もあるかと存じます。

○佐々木(秀)委員 言ってみれば、軍人なども今度はこの後で入ってくるわけですけれども、公務員に対しての特別な関係ということを考えると、国としては、どうも公務員、いわゆるお役人を民間人よりも偏重しているのではないかというふうな指摘もなされないではないようにも思われるわけですね。
 それからもう一つは、本人だけではなしに、遺族にもこれが支給されるという法律的な性格は、これはどういうことなのですか。恩給受給権の相続という観点なのか、それともその公務員本人を支えてきた家族に対する慰労というような要素が加わっているのか、この辺の性格はどうなのでしょう、遺族にまで支給されるその根拠というか合理性ですね。

○桑原政府委員 今の御質問に対しては、私どもも、特別これといった理由が法律に書かれているということではなくて、従来から恩給の意義とか性格に関する学説等がいろいろございます。中には、恩恵という説もございますし、恩恵または保険料であるという説もございます。それから報酬の一部だという説もございます。
 ただ、いずれにしろ、公務員というのは一般の民間の人たちに比べれば、特別に義務を課せられている。守秘義務も含め、しかもいろいろな命令の義務もございます。そういったものに対して、国として、万一のことがあった場合には、国家補償といったような性格も持った性格を有しているものとして位置づけられている。したがって、公務員が公務のために命を落とされた場合については、その生活の保障といったものも含めて、一種の国家補償的な性格を有しているものというふうに私どもは考えております。

○佐々木(秀)委員 このような問題については、法理論的にも、またいろいろな社会的な要因を考えても、本来は議論のあるところだと私は思うのですけれども、きょうは余り時間もありませんから、この程度にしておいて、また機会を改めて時間の余裕のあるときにこのような論議をしていきたいと思うのです。
 それによって、結局、恩給というもののあるべき姿といいますか機能というか、今まで随分大きな役割を果たしてきているのはわかるし、それからまた、大変な公費、国費が投入されていることもわかるわけですけれども、そのあり方の問題などについても考える必要が私はないわけではないと思っているのですが、とりあえずはこの程度にしておきたいと思います。
 しかし、それにしても、今の恩給受給の権利に関連して、恩給法が国籍条項というものを定めている。恩給法の第九条で年金恩給受給権の消滅事項という規定がございますが、この第三号に「国籍ヲ失ヒタルトキ」というのがある。これがいわゆる国籍条項と言われていて、日本の国籍を有しない者についてはこの適用がないことになっている。
 これは、恩給だけではなしに、その後、第二次大戦後に、いわゆる戦争犠牲者に対する戦後補償としてさまざまな法律がつくられておりますけれども、そういう法律についてもやはりこの受給の資格の点で国籍要件がかかっているのが多いというか、ほとんどであるわけですね。
 国籍条項を我が国の恩給法は制定当初から置いているということの意味、これについて御説明いただきたいと思います。

○桑原政府委員 先生御指摘のように、恩給法においては、大正十二年の法律制定以来、日本国籍の保持を恩給受給権の付与または存続の要件としております。このことは公務員年金制度としての我が国の恩給制度の沿革及び性格に由来するものでございまして、制度創設以来今日に至るまでの恩給制度の基本的な約束事といったものの一つというふうに考えております。

○佐々木(秀)委員 約束事、ちょっとよくわからない、どうしてこの規定を置いたかということの合理性がよくわからないのです。
 言ってみれば、先ほどお話があったように、公務員として国のためにというか、国の仕事を通じて国民全体のために尽くした人々に対する慰労ないしは生活保障というような意味合いを持っているということになるんだと思うのですけれども、そうだとすれば、その後に日本の国籍をさまざまな理由で失うことになっても、かつて日本の国籍を有して、公務員として、あるいは軍人などとして働いたという事実はあるわけですね。
 そういう功労のあった人にも、やはり国としては御苦労さまでしたということで金銭の支給をするということは、私はあっても不思議ではないことだと思うのに、なお日本の国籍を失ったということが欠格事由になるというのは、どうも制度の趣旨からすると合わないのではないか、そごする面があるのではないかと思われるのだけれども、その辺はどういうように合理的な説明をなさっているのか、あるいは納得されておられるのか。それはどうなんですか。

○桑原政府委員 大変難しいところでございまして、ただ、恩給法ができた当時の公務員という考え方は、現在でも公務員のかなりの部分には国籍要件というのを入れてございますけれども、当然、日本の中で公務員として働く者について国籍要件を問うというのは、非常にその当時とすればもっともな考え方であったろうというふうに思います。
 それと、その後、そういう国籍というものについて、そう簡単に移動のあるべき性格のものではなかろうということがその当時想定されたのではなかろうかというふうには思います。
 ただ、一番最初に、公務員になって年金を受けるというところまで一つの約束事として組み入れる中にそういう条件がついていたということで、先ほど私は恩給制度というものの中の一つの約束事、当初から公務員になるときから一つの約束事として入っているというふうに申し上げたわけでございます。

○佐々木(秀)委員 時間が限られておりますので、先に進みたいと思います。
 そこで、私が特にきょうお聞きをしたいのは、たしか一九八二年の六月の三日に、外務省は諸外国、特にアメリカ、イギリス、フランス、イタリア、ドイツについて、その当時は西ドイツですけれども、戦争後、参加した植民地出身者などに対して戦後補償がどうなっているかという調査をされたと聞いております。
 その結果、これらの国では、程度に多少の違いはあるにしても、旧植民地出身者や外国人であって、その当該国の軍人として働いた人々に対しては、内国人と同様に補償しているという報告が出ていると承知をしておりますけれども、外務省はこういう調査をしたことはございますか、報告を出したこと。

○安藤説明員 お答え申し上げます。
 先生御指摘のとおり、一九八二年当時、国会の渡辺議員、米沢議員等からの要請に基づきまして、外務省が欧米諸国において、かつて軍人軍属として従軍し戦死戦傷した旧植民地あるいは旧領土の住民に対して何らかの補償措置を講じているかどうかについて調査をした経緯はございます。
 その結果でございますが、まず年金等支給の有無につきましては、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア及び西独は、外国人元兵士等に対し、年金または一時金を支給しておりました。ただし、各国ともにそれぞれ国内根拠法令を有していたということと、もう一つは、今先生からも御指摘がございましたけれども、支給している年金等の金額あるいは種類につきましては、自国民に対し支給しているものよりも少なく、あるいは、取り扱い上差異がある国もあったというふうに承知しております。

○佐々木(秀)委員 今お聞きをしましたように、程度の差はあるにしても、基本的には、外国人であっても、国籍を持っているかどうかの有無にかかわらず、内国人と同一の考えに基づいて補償しているというのが外国の態度なのです。これに比べて、日本の場合には非常に厳しいわけですね。国籍条項が働いている。
 特に問題なのは、さっき申し上げましたように、御案内のように、日本は朝鮮半島、それから台湾、これを植民地化して、それで、特に朝鮮については、いわゆる創氏改名というようなことで名前まで日本名にさせる、日本語を使うことを強制するというようなことで、日本臣民として扱った。戦争が激しくなると、最初のうちはどうもこの人たちを軍人にすることはしなかったようですけれども、恐らく戦争が始まった三年目ぐらいからだろうと思いますが、いよいよ兵力も払底してきて、その補充として朝鮮の方々も日本人として徴兵する、そしてこの人たちを戦争に駆り立てるということをやった。その結果、命を失ったりあるいは重傷を負ったりした人たちが相当な数に上っている。これは後で、数字がわかっているんだったらお聞きしたいんです。
 こういう方々は、自分の意思にかかわらず、日本国籍を持たされていたわけです。ところが、そのまま日本国籍を持っているんだとすれば、恩給の適用もそれから後で出てくる戦後補償各立法についても当然適用の対象になるんだろうと私は思うんだけれども、この国籍条項がひっかかっている。そして、昭和二十七年、講和条約の発効とともに、この日を期して旧植民地出身者の日本国籍は剥奪してしまったわけです。外国人としてしまった。これは、この人たちの意思を問うてやったわけではない。
 さっきの恩給局長のお話だと、国籍条項がありますけれども、これはむしろ自分の意思で日本国籍を離れた人については、恩給の受給資格をなくする、そのことは自認しているということも言えるんだろうと思うんだけれども、しかしこの朝鮮の方々あるいは台湾の方々の場合は違うわけです。自分の意思と全く関係なしに、制度的に、一方的にこの資格を剥奪されて、そしてこの恩給法についてもその他の戦後補償の法律関係についても受給対象から外されているということは、今の外国の例から見ると、私はどうも納得がいかないのではないかと思うんです。
 これについては、実は昨年ですけれども、平成十年の六月、全国の主要都道府県民生主管部長連絡協議会というのが広島で行われまして、そこで政府、各省庁に対して要望書が出ているわけです。
 その要望書というのは、戦傷病者戦没者遺族等援護法、これは恩給法そのものではないけれども、恩給法に関連して、ここから出てきているものです。「戦傷病者戦没者遺族等援護法における国籍条項・戸籍条項の撤廃又はこれに代わる補償制度の創設について」の要望。この法律についても、国籍条項、戸籍条項が設けられているために、これを持っていない旧日本軍の軍人軍属の戦死傷者とその遺族は補償の給付を受けられない状況にある。特に在日外国人については、同法制定当時その解決が予定されていたが、その後の政府間協定の締結等によっても何ら補償を受けられない状況となっている。ついては、これら在日外国人を救済するための適切な措置を講じられたいという要望があるわけです。
 それから、この種の人々から日本の裁判所に対して、幾つも幾つもの裁判が出ています。その中で、例えば、一九九五年、平成七年ですけれども、元日本軍人として第二次大戦に参戦して、片腕を失ったという大変な重傷を負った人ですが、韓国人の金成壽さんという方、この方は在日じゃありませんけれども、この方が恩給請求棄却処分の取り消し、恩給請求したんだけれどもけられた、その処分の取り消しを求めて東京地方裁判所に訴えを起こしたんです。
 これについて、実は去年の七月三十一日に東京地裁が判決を出しました。この判決では、金さんの請求自体は棄却しているんですけれども、その理由の中で、原告が日本人とは著しい格差のあるということを指摘した上で、何らかの補償、救済の措置が望ましい、立法的に解決されるべき問題だ、こういうように述べているわけです。
 ほかにも、同種の事件で、請求は棄却したけれども、同じように立法的な措置あるいは行政的な解決の方策を求めるという意見を述べている判決というのは、随分たくさんあるわけです。
 こういうようなこと、先ほどの部長連絡協議会の要望書などともあわせて、政府としてはこうしたことについて、つまり救済の外に置かれている人たちについて何らかの措置を講じなくてもいいのかどうか、この辺について御感想を含めてお聞きしたいと思うんですけれども、これは総務庁長官と官房長官、手短にそれぞれからお答えをいただければありがたいと思います。

○太田国務大臣 今の国籍条項に関連することでございますけれども、これまで国籍条項について、憲法の十四条に反するのではないかとかあるいは国連の人権B規約の二十六条に反するのではないか、そういうふうな御指摘がなされてきたということは承知をいたしておりますけれども、国籍条項そのものが憲法に反しているということではなくて、諸外国の例を見ても、そのことが各国によって、国籍条項がある国とない国と半々ぐらいに、アングロサクソンの二つの国は国籍条項がない、あと、独、仏、伊はあるということで、他の方法でもって対応しているということでございます。
 ですから、憲法違反であるかどうかということになれば、今の国籍条項は憲法違反でないということでございます。それにのっとって恩給法がずっとやってきておるものでございますから、この枠の中で何か考えることはできないのかということに対しては、これはなかなか難しいということだろうと思うんですね。
 もう少し広い視野で考えることはできないかなということは、私も議員としては考えるところでございます。総務庁の長官としては、この枠の中で仕事をしている立場では、なかなか思い至らないということでございます。

○佐々木(秀)委員 官房長官にもお答えいただきたいんですが、今、個人としては、議員としてはとおっしゃった。これは、ひとつ突っ込んで、やはり総務庁長官としてお考えいただきたいと私は思うんです。
 さっき言ったように、裁判所からもいろいろ促しの意見が出ているんですね。加えて、今もお話がありましたけれども、国連の規約人権委員会では、一九九三年十一月四日、日本政府第三回の報告書審議後の意見で、朝鮮半島や台湾出身者で、旧日本軍に従軍したが現在日本国籍を有していない者が恩給等において差別されていると指摘した。去年の十一月の五日、日本政府第四回の報告書審議の後の最終意見でも、これらの点が改まっていないではないかという指摘がなされているんです。
 こういうような国際関係の動向というものを、他国とも比較してのことですけれども、やはり日本政府としては重く受けとめていただいて、本当だったら、この国籍条項を撤廃すればこれは解決しちゃうんです。だけれども、これが難しいとすれば、何らかの別な措置をとるお考えはあるのかどうか。
 例えば、官房長官御案内のように、従軍慰安婦の方々については政府の肝いりで、これは民間の協力を得ながらですけれども、いわゆるアジア女性基金制度というのをつくった。これが十全に機能しているかどうかということについては問題があるようにも言われていますけれども、例えばこうした方法、便法による解決ということだって考えられないではない。
 何にしても、私は、この救済の外に置かれ、あるいは特に在日の朝鮮・韓国人の方でこの救済のはざまにおられる方というのは、見逃しにできない国際的な問題だろう、あるいは人権問題だろうと考えております。官房長官、この辺についてのお考えをお聞かせいただきたいと思います。

○野中国務大臣 佐々木委員からそれぞれ、我が国の戦後処理の一環として残されておる問題について御指摘がございました。ただいま政府委員並びに総務庁長官からお答えをいたしましたけれども、大正十二年の恩給法を背景といたしましたまま、戦後のそれぞれの問題を処理した側面がなしとしません。
 もう一つは、日韓請求権・経済協力協定におきまして、国家と国家の補償で問題を片づけて、個人的問題は自国内の問題として処理をした。そのときに、在日韓国人の方々についての処理を双方とも明確にしないまま今日に及んできた。
 したがって、韓国にいらっしゃいます旧日本軍等に参加をされた方には一定の措置が韓国政府において行われましたけれども、在日の韓国人の皆さん方には措置がされておらないという経過でやってまいりました。まして在日の朝鮮人の方は、よりその枠から疎外をされ、国交が樹立されておりませんから、そのままになっておるわけでございます。
 委員が先ほど来御指摘になりましたように、サンフランシスコ条約によって、みずからの意思に基づかずに日本国民たる権利を剥奪をされたわけでございまして、それだけに、重い戦後処理を私どもは背負っておるという認識に立っておるわけでございます。
 法律で経過をしてきた経過は経過として、一九九九年という一九〇〇年代の最後の年に当たって、果たしてこういう問題を積み残したまま、いいのかどうか。あるいは、先ほど裁判所の所見として申されました、この訴人の訴訟をそのまま受け入れることはできないけれども、この人たちに何らかの救済的配慮があっていいのではないかという裁判所の御提起等も考えますときに、私どもは、今までの経過は経過といたしましても、人道的、国際的な戦後処理の問題をこの一九〇〇年代を締めくくる年において考えるべきではなかろうかと考え、内閣においても、この問題に前向きに対処する協議をやっていきたいと思っておる次第であります。

○佐々木(秀)委員 ただいまの官房長官のお話は、事柄の本質を正確に理解されていることだと思います。この点については敬意を表したいと思いますけれども、もう二十一世紀を目前にして、戦後五十年以上を経た今、私は、まだ戦後は終わっておらないということを、つくづくこの問題を通じて考えざるを得ません。
 今もお話しのように、一番気の毒なのは在日の韓国・朝鮮人の方々だと思うのですね。全く救済の外に置かれております。
 しかし、先ほど指摘をいたしました、私が例示として出しました恩給訴訟、この方は在韓の方なんですね。在韓の方でも、やはりまだそういう救済措置は十分じゃない、日本の政府として責任をとってもらいたいということで裁判をやっているわけですからね。しかも、この方々というのは、みんなもう老齢化しております。
 日本人に対しては、いろいろな意味で、この戦後補償問題というのは非常に手厚くなっているし、拡大をされてきていると私は思うのです。それだけに、自分の意思によらないで他国のために軍人として働かされ、あるいは軍属として働かされ、そのために大変な苦労をした。命を失い、あるいは体を傷つかせた。それなのに、おまえさんはもう外国人だよということでほっておかれるというのは、私は、人道的に見ても全くこれは認めがたいことだ、このままにしておけないことではないかと思うのですね。日本としても恥ずかしいことだと思うのです。
 どうか、いろいろな苦労があるのはわかりますけれども、私どもとしても知恵を絞りたいと思いますので、政府としても今世紀中にこれらの問題に決着がつけられるように工夫、努力をされたい。
 そのことを特に要望し、またその点についてはいろいろと協議をさせていただきたいということを申し上げて、一応質問を終わりたいと思います。
 ありがとうございました。

○二田委員長 次に、河合正智君。

○河合委員 公明党の河合正智でございます。
 佐々木先生が、在韓の方につきます裁判例のことについて御質問されましたけれども、私は、東京高裁の昨年九月二十九日判決を中心にお伺いさせていただきたいと存じます。これは、御案内のように、在日韓国人の元日本軍属障害年金訴訟控訴審判決でございます。
 若干経緯を御説明させていただきますと、朝鮮半島出身者で日本軍属、日本軍人として戦争に従事された方々は、サンフランシスコ平和条約で日本が朝鮮の独立を承認したことから日本国籍を喪失しましたけれども、同条約におきまして、朝鮮半島等の分離独立地域の住民等の財産請求権の問題につきましては、関係国間の特別取り決めの主題とされました。日本と韓国との間には、右特別取り決めの一つとして、昭和四十年に日韓請求権協定が締結されまして、右経済協力により導入されました資金によりまして、韓国政府が自国民の対日民間請求権につきまして一定の補償をいたしましたけれども、在日、日本においでになる韓国の方につきましては、これらの補償対象者から除外されたわけでございます。
 したがいまして、恩給法また援護法には、それぞれ日本国籍を喪失した場合等を失権事由として定めておりますし、援護法につきましては、この裁判例で争われましたように、附則に定められている戸籍条項がございます。したがいまして、在日韓国人につきましては、現に、いずれの国からも補償を受けられないという現実があるわけでございます。
 そこでお伺いさせていただきますが、恩給法に係る国籍要件訴訟につきまして、現在係争中のもの、何件ですか。また、戦傷病者戦没者遺族等援護法に係る国籍要件をめぐる係争中のものは何件ですか。それぞれお答えをいただきたいと存じます。

○炭谷政府委員 まず、援護法関係について御説明いたしますと、現在、三件ございます。

○桑原政府委員 お答えいたします。
 必ずしも全部が恩給というわけではございません。国籍条項をめぐって出ている案件というのは、私どもが関与している訴訟の中で九件ございます。

○河合委員 ありがとうございます。
 この高裁判決は、結果としては国側が勝訴しておりますけれども、実はこの判決は、裁判所の所見を付言として申し述べております。
 そこを、ちょっと長くなりますけれども、引用させていただきたいと思います。
 援護法が外国人をその対象から除外したのは、外国人に対しては賠償問題として考慮するべき筋であるとの思想からでもあったとしても、在日韓国人は、日本国籍を有し、日本の軍人軍属として戦争に従事したもので、援護法の適用開始時においては日本国籍を有していたと解される。その立場は日本国籍を有する者に近いものであったというべきであって、戦争の相手に属する外国人と同様の賠償問題とするよりは、日本国籍を有する者に準じて処理する方が実態に即してより適切であると言える。援護法が、軍人軍属であった者またはその遺族に対する生活援助法的側面をも有するものであるとしても、在日韓国人の右のような立場及び現に日本において居住していること等を考慮して、三点にわたりまして付言をいたしております。
 一つは、日韓両国の外交交渉を通じて、日韓請求権協定の解釈の相違を解消し、適切な対応を図る努力をすべきであると申しております。
 この問題につきまして、ちなみに日韓請求権協定によりますと、第三条第一項、これによって解決できない場合は、同条二項ないし四項によりまして、仲裁委員会を設置すると規定されているところでございます。
 ちなみに、この原告、石さんそれから亡くなりました陳さんは、現に一審判決後、韓国政府に対しまして、日本政府に対する仲裁要請を求める請願書を提出しているところでございます。
 これに対しまして外務省はどのようにお取り組みになられるおつもりか、お答えいただきたいと存じます。

○安藤説明員 お答え申し上げます。
 日韓両国及び両国民間の財産請求権の問題は、在日韓国人に係るものも含めまして、ただいま先生御指摘の日韓請求権・経済協力協定によりまして、完全かつ最終的に解決済みであるというのが私どもの立場でございまして、これを韓国側との外交交渉によって解決すべき問題とは現時点では考えておりません。
 ただ、先生御指摘のように、昨年九月の東京高裁の判決で、先ほど先生が述べられましたような意見が付されているということは、私どもも十分承知しております。

○河合委員 次に、この判決は、付言の第二といたしまして、援護法の国籍条項及び援護法の附則を改廃して、在日韓国人にも同法適用の道を開くなどの立法をすべきであると述べておりますけれども、恩給法の国籍条項を改廃する用意があるかどうか、また援護法の国籍条項及び附則戸籍条項を改廃する用意があるかどうか、その件につきまして、総務庁長官及び厚生省にお伺いさせていただきます。佐々木先生の質問と重なりますので、簡潔で結構でございます。

○太田国務大臣 ただいま、恩給法そのものを途中で変えるということは、多分、約束事でありますので、さまざまな問題が起きてくると思うわけであります。ですから、恩給法とは別のことをもし、先ほど総務庁長官としては、つまり、その法律に基づいて仕事をしている者として、その法律を変えるというのはなかなか申し上げにくいと申し上げたわけでありますけれども、要するに、国務大臣としては、当然内閣が提案権を持っておるわけでございますから、よく関係各大臣と相談をしてそこは考えてまいりたいと思います。

○河合委員 それでは、恩給法に限って先にちょっとお伺いさせていただきます。
 現実に起きてしまったこの問題について解決する、そのための特例法といたしまして、日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法というのが平成三年に制定されておりますけれども、そこで定められております特別永住者、この方たちに対して、恩給法の適用につきましては内国民待遇されるべきであるとする特例法を仮に考えるとしたら、それについて総務庁長官は、今の総務庁長官の思想に合致すると私は思いますが、どのようにお考えになりますでしょうか。

○桑原政府委員 先ほど大臣から御説明したとおり、恩給法については長いことこういう制度でやってまいりました。これから新たに資格要件を取る方々が出てこないという一つの制度としての宿命を負っております。
 ただ、長い間こういう制度でやってきた過去の問題もございますので、この恩給制度の枠内で特例法をとって処理をするというのは、技術的には大変難しいことかというふうに思います。先ほど大臣申し上げたとおり、恩給法の枠内という観点ではなかなか理論が立ちにくいし、過去とのバランスといったような問題もあろうかというふうに考えております。

○河合委員 御案内のように、今、日本国政府のとっております態度は、国籍条項等に関しましては、恩給法と援護法と同じ考え方をとっておられると私は存じております。したがいまして、この同じ問題、国籍要件につきまして、国籍条項を改廃する用意があるかどうかという点と、特例法をつくって対処することについてどのように考えるかにつきまして、厚生省のお考えをお伺いしたいと思います。

○炭谷政府委員 援護法の国籍要件につきましては、我が国の戦後処理の基本的な枠組みを背景として、先ほど来御説明のございます恩給法の国籍要件に準拠して設けられているものでございます。韓国の方々に対する補償の問題は、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定によって、在日韓国人を含めて、法的に完全かつ最終的に解決済みとなっていると承知いたしているわけでございます。したがいまして、援護法の枠内で国籍要件を見直したり、また先生御案内の特例法をつくるという、援護法の枠内ではなかなか難しい問題だろうというふうに思っております。

○河合委員 さらに、先ほど私が申し上げました高裁判決の付言の第三の提言でございますけれども、「在日韓国人の戦傷病者についてこれに相応する行政上の特別措置を採ることが、強く望まれる。」と結んでいるところでございます。
 そこで今、各省、総務庁長官からもお答えいただきましたように、現在の各省の段階ではいかんともしがたい、動かしがたいという答弁でございました。
 そこで、官房長官にお伺いさせていただきたいと思うわけでございますが、この高裁判決の後、各社報道されておりますが、その中の代表的な報道としまして、朝日新聞の報道をお伝えさせていただきます。
 九八年九月二十九日夕刊でございますが、戦争で右腕を失い、脳血栓で左半身が麻痺した石さん、七十六歳でございます。それから、亡くなってしまった陳さんの遺影を抱えたその奥さんとお子さん。この判決に対して、「車いすの石さんは、目を見開いたまま無言だった。」と報道されております。
 私は、第二次大戦に対する官房長官の切々たる思いを本会議等でお聞きしているところでございます。
 二十世紀というのは暴力と戦争の世紀だったと言われておりますけれども、この戦争によって引き起こされました悲惨な現実を解決して、先ほど長官がおっしゃいました平和の二十一世紀にバトンタッチしていくということは、私たち日本国民共通の願いでもあると思うところでございます。
 政府の最も責任あるお立場にあられる長官といたしまして、この現実を政府としてどのように解決されようとされているのか。
 ちなみに、台湾の方たちに対しましては、特定弔慰金という法律をつくって知恵を絞った歴史もございますし、また、公務員ではない日本赤十字社の従軍看護婦さんの処遇につきましては、やはり一九七八年八月三日の各党合意によって解決しているという、日本政府としてのにじむような努力の跡もあるわけでございますが、一九九九年という、節目ということをおっしゃいました官房長官の思いを込めて、ぜひともこれに対する政府のお考えをお聞かせいただきたいと存じます。

○野中国務大臣 先ほどの佐々木委員、引き続いて、ただいま河合委員からの御指摘は、それぞれ、我が国が、法律事項は法律事項といたしましても、取り残してまいりました戦後処理の多くの問題の特徴的な問題であろうと思うわけでございます。
 一方において、国際国家としてそれぞれ我が国は円借款やあるいはODA等で多大の貢献をしておるわけでございますけれども、その陰で、取り残された人的な傷跡を深刻に残しておるわけでございます。
 ただいま政府委員がお答えをいたしましたように、現行の恩給法あるいは援護法等でとても解決はつかないと思うわけでございますけれども、委員が御指摘になりましたように、かつて台湾住民に対する特例ともいうべき特定弔慰金が議員立法において行われた経過もあるわけでございます。これと同じようにというわけにもいかないかもわかりませんけれども、しかし、新しい世紀を迎えるに当たって、やはり何としてもこういう問題を処理しておかなくてはいけないという私は使命感のようなものを持っておるものでございます。
 どの程度にやることが、また新たなる矛盾を生むことになるかもわかりません。そして、特に韓国の方々は、日韓請求権・経済協力協定によって個人補償をしないということで、韓国政府において、かつて日本軍人軍属であった人たちに対する措置がされたわけでございます。けれども、それが、先ほど申し上げましたように、在日の人たちに及ばなかったという問題点を残しておるわけでございますので、この問題につきましては、日韓両国でまた話し合いをしなければなりませんし、また、その額によって在韓のかつての人たちの不満をまた惹起することになってもいけないわけでございます。
 さような万般の問題を考えながら、なお我々は、今この世紀末にどういう措置をしておくことが多くの国の人たちの気持ちを和らげ、そしてお互いにこの一九〇〇年代、二十世紀を締めくくるに当たって、新しい世紀への道につないでいける我々の責任というものが果たせるかということを考えまして、それぞれ、委員の御指摘のありましたような問題を含め、あるいは東京高裁の求められておる所見に基づきながら、私どもとして検討をさせていただくことをお答えとして申し上げておきます。

○河合委員 誠実な御答弁に感謝申し上げます。ぜひともこの点につきましては実現をしていただきますことを切望いたしまして、質問とさせていただきます。
 ありがとうございました。

 第145回国会 衆議院厚生委員会 第5号 平成十一年三月十二日(金曜日)

【発言順】
 委員                 山本 孝史
 厚生大臣               宮下 創平
 総務庁恩給局審議課長         黒羽 亮
 内閣総理大臣官房外政審議室長事務代理 竹内 春久
 務大臣官房審議官           樽井 澄夫

○山本(孝)委員 おはようございます。
 大臣には連日御苦労さまでございます。きょうもよろしくお願い申し上げます。
きょうは時間が限られておりますので、少し質問の順番を変えて質問をさせていただきたいと思います。申しわけありません。
 まず最初に、今回の戦傷病者戦没者遺族等援護法にかかわって御質問をさせていただきたいというふうに思います。
 大臣も既に御存じのように、今、在日韓国人元軍属の石成基さん、亡くなられた陳石一さんから、この援護法に基づいて障害年金の請求がありまして、それについては却下するということの取り消しを求めておられる訴訟の控訴審判決、昨年の九月でございますが、東京高裁が示した所見がございます。もうごらんいただいていると思いますが、その所見について大臣のお受けとめをまずお伺いをさせていただきたいと思います。
 所見の一つの部分にこういう表現がございます。控訴人石及び亡陳ら在日韓国人は、援護法の制定後既に四十六年以上経過しているのに、日韓両国のいずれからも何らの補償を受けられないまま、いわば放置された状態になっている、こういうふうに所見は述べておりますが、この放置されているというふうに所見が述べている点について大臣の御所見をまずお伺いしたいと思います。

○宮下国務大臣 御指摘の東京高裁の判決は援護法の国籍要件にかかわるものでございますが、高裁の判決でも、これは十分な合理的な根拠があって憲法十四条には違反しないという判断を示した上で、何らかの立法措置または行政措置をとることが望まれる旨付言してございます。
 今委員の御指摘のように、これを放置されているのではないかということでございますが、この韓国人に対する補償の問題は、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定によりまして、この協定に述べられておりますように、在日韓国人を含めて法的には完全かつ最終的に解決済みということとなっております。
 私どもとしては、これによって解決を見ておるというように理解をしておりまして、放置されておるというような基本的認識は持っていないところでございまして、裁判所の所見として付言もされておられるようでございますけれども、それらの措置については困難な状況にあるというように申し上げておきます。

○山本(孝)委員 在日韓国人も含めて既に法的に解決済みであって、したがって、放置している状態にはないという御認識をお示しいただいているわけですが、同じくこの高裁の所見の中で、「人道的な見地からしても、また、国連の規約人権委員会から関心課題(懸念事項)として指摘されていることに照らしても、速やかに適切な対応を図ることが、我が国に課せられた政治的、行政的責務でもあるというべきである。」こういうふうにも述べているわけですが、この点についてはどういうふうに受けとめておられますか。

○宮下国務大臣 御指摘の付言の中で、国連の規約人権委員会がこの問題を関心課題、つまり懸念事項として指摘しておることに触れられているのは今御指摘のとおりでありますが、国際人権規約では合理的な理由に基づきます取り扱いの差異までも禁止したものではないというように承知いたしておりまして、この点については、この判決本体の中でも示されておることでございます。
 それで人権委員会の問題は、平成五年、十年、二回意見を述べておられるようでございますが、私ども、この援護法で定めている国籍要件というのは、今回の判決でも認められたとおり合理的な根拠のあるものであるということからして、人権規約違反にはならないというように解しております。

○山本(孝)委員 重ねての御質問で申しわけございませんが、「速やかに適切な対応を図ることが、我が国に課せられた政治的、行政的責務でもある」こういう所見を述べているわけですね。
 きょう、大臣としては、厚生大臣という行政の長に立っておられるお立場での御答弁と、政治家としての宮下創平先生の御答弁と、二通りの御答弁があり得るのだろうというふうに思います。
 今、厚生大臣というお立場でお考えになれば、官僚のお書きになった答弁のようなことになるのだと思いますが、「我が国に課せられた政治的、行政的責務でもあるというべきである。」というところをどう受けとめるかというところだと思うのです。私、ここは、こういう言い方をしてはなんですが、政治家としてどう受けとめるか、あるいは人間としてどう受けとめるかというところが、この所見に述べられているものを読む側の立場の心の問題だというふうに思います。
 実は、御承知のとおり、三月九日の内閣委員会で、我が党の佐々木議員あるいは公明党の河合議員の質問に対して、野中官房長官がお答えになりまして、あるいはその日の午後の記者会見でも同じくこの問題についてお触れになって、あの日は三回、野中官房長官は御答弁というかお考えを披瀝されておられます。
 繰り返して申し上げて失礼でございますが、現状認識としてお示しになったのは、一つ、日韓平和条約で国家間の補償問題は片づけたが、個人的問題は自国内の問題として処理した、そのとき、在日韓国人の方々についての処理を双方とも明確にしないまま今日に及んだ。二つ目、したがって、在日の方には措置がされていない。大臣は先ほどいわば放置された状態になっているとは認識していないとおっしゃいましたが、野中官房長官は在日の方には措置がされていないという認識をお示しになりました。三つ目、サンフランシスコ条約でみずからの意思に基づかずに日本国民たる権利を迫害されたわけで、それだけに私たちは重い戦後処理を背負っているというお考えもお示しになられました。ここははっきりしているのですね。
 これは、佐々木議員の質問あるいは河合議員の質問への御答弁、あるいは午後の記者会見においても同じ趣旨でお考えを述べておられます。
 あわせてその解決策としてもお考えを述べておられまして、法律の経過は経過として、一九〇〇年代の最後の年に当たってこういう問題を積み残したままでいいのか、救済的配慮があっていいのではないかとの裁判所の提起も考えるとき、内閣としても前向きに協議していきたいと佐々木議員に御答弁されておられます。
 河合議員に対しては、韓国にいる旧日本軍人や軍属の方々には韓国政府によって補償が行われたが、在日の方々には補償が行われないまま今日に至っている、今世紀末にどういう措置がお互いの気持ちを和らげるのか、我々の責任を果たせるのか検討していくとお答えになっておられます。
 午後の記者会見で、これは新聞報道でしか私存じ上げませんが、これからのアジアを考えると、韓国政府等と十分に話し合いながら解決に向かって努力するのが内閣の大きな責務であると考えるとはっきり述べておられるわけですね。大きな新聞記事あるいはテレビ報道を含めて、内閣のお考えとして述べておられる。
 今厚生大臣のお考えをお示しになられた部分は、大臣としての御所見なのか、あるいは個人の御所見なのか。そこはつまびらかではありませんが、野中官房長官のお答えと、今冒頭でお聞きしました厚生大臣のお考えは必ずしも一致していないというふうに思うのですが、そこはどういうふうにお考えになっておられるのでしょうか。

○宮下国務大臣 佐々木委員初め二名の方に官房長官が発言をされておることは承知しておりまして、今委員の御指摘のとおりでございます。
 この官房長官の発言は、在日韓国人の元日本軍人等の問題について検討する旨を発言したというのはそのとおりでございますが、しかしながら、先ほど来申し上げておりますように、私どもとしては、政府としては、四十年の日韓請求権・経済協力協定によりまして、繰り返しで恐縮でございますが、完全かつ最終的な解決済みとなっておるという処理をいたしておりまして、援護法の適用を含めて何らの特別措置を講ずることは困難であると私も考えております。
 しかし、野中官房長官がそのようなことをおっしゃられたので、私も真意を確かめつつ、これは内閣としてというお言葉もありましたので、その点は確かめてありますが、官房長官の御発言というのは、この問題を戦後残された大きな問題の一つとしてとらまえまして、人道的あるいは国際的立場に立って、政治家としての一種の使命感といいますか、そういうものによりましてお気持ちを率直に述べられたものだと私は理解いたしました。
 私の方としては、きょうの委員会でもその論議が行われる予定であるという旨も申し上げ、まだ内閣としてどうするかという具体的な指示その他もありませんし、きょうはこの援護法の改正法案の御審議をいただくので、そういった中で、野中官房長官の個人の政治的信念を吐露されたものという理解でいいですなという念押しをしながら、ここに出席させていただいております。
 したがいまして、見解は見解として、これを直ちに検討せよとかいう指示が内閣全体としてあったものでもございません。そういう意味で、きょうの御審議は、これは今までの既存の援護法の枠組みの中で御審議をいただいておりますので、そういった枠内での御審議をお願いしたい、そう思うわけでございます。

○山本(孝)委員 これはきょうの法律案の審議に非常にかかわっている問題でして、この法律に基づいて訴訟が行われているわけですから、この問題は大変重要な問題でありまして、一番関連している問題だろうと思います。
 今、政治家の使命感として個人的な御見解を率直に披露されたものだということでおっしゃっておられますが、繰り返しになりますが、内閣の大きな責務であるという形でしっかりとお答えになって、しかも、二人の違う議員からの御質問に同じようにお答えになって、私も委員会の中でお答えぶりを聞いておりましたけれども、非常に整理されたお考えを示されて、そして、その方法として何らかのことを考えていかなければいけないのではないかという方向性までしっかりお示しになっておられる。それは、時間を挟んで午後の記者会見においても同じようなお考えを述べておられる。
 三度にわたって述べられたお考えを、宮下厚生大臣としては、本日閣議の前後、あるいはきょうに至るまでの間に御本人からもう一度御見解を確かめられて、それは全く個人的見解であるんだということで、あの野中官房長官の発言は、宮下厚生大臣のお立場では、変な話ですが、いわば内閣としては否定をされておられる、あれは間違っていたんだというふうにここでお述べになっておられると理解してよろしいのでしょうか。 
 〔委員長退席、鈴木(俊)委員長代理着席〕

○宮下国務大臣 野中官房長官の、ただいま申しましたような政治家としての見識に基づいた発言であるということは、私もそれはあり得ることであろうと思います。
 ただ、今委員の御指摘のように、内閣としてという言葉もございます。しかしながら、全体として個人の見解を表明されたものということでございまして、内閣としてこの問題についてまだ十分な討議なり連絡なりしたわけではございません。
 この問題は、御承知のように、非常にいろいろの変遷を経まして、この問題の整理が今日までなされてきております。基本的には最高裁判所で、台湾の問題もございましたが、この国籍要件というのは違憲ではないということは主文で明確になっておりますので、私どもとしては、現在、その立場で物を考えておるということでございます。

○山本(孝)委員 国籍条項を外す外さないは選択肢の一つであって、そこは御検討されればいいことなんですね。
 最初に申し上げたように、所見としては幾つかの方策をお示しになっておられる、しかも、行政的な立場と政治的な解決と両方の道があるではないかということも裁判所としては述べているわけですね。ですから、最初に申し上げましたように、厚生大臣というお立場での御答弁と宮下創平という政治家としてのお立場と、お二通りあるでしょうねと申し上げているわけです。
 ここは厚生大臣のお立場でいけば、国籍条項を外すことはできぬ、これはもう解決済みなんだ、だから何らの手だてはない、それはお答えとしては私もわかります、そういうお答えがあるだろうということは。しかしながら、野中官房長官の内閣として協議をしますという重大な御発言があった後で、簡単に、いや、そんなことではないのだ、あれは個人的見解なんですということで否定してしまっていいのだろうか。
 内閣としてのきっちりとした協議をするのかしないのか。しないのですね。

○宮下国務大臣 これは、御発言後、時間等もそんなに経過しておりませんので、率直に申しまして十分な議論はしておりませんが、私としては、やはり援護法の今の建前からいって、これは立法政策上の問題としても、四十年の日韓の協議等の問題とも絡んでおりますし、他のいろいろの戦後処理の問題と関係しますので、非常に困難ですよということは申し上げてありますが、まだそれ以上の、協議の場とか、それを持つまでの時間的余裕はございませんのでそれはいたしておりませんが、この見解は、私政治家個人と厚生大臣としての立場を区別してというようにおっしゃいますが、私としてはこれは一体的なものでございます。
 私個人の見解をあえてこういう行政の責任者の立場で申し上げる立場にございませんからこれは申し上げませんが、基本的には一致すると御理解をいただいていくのが適切であろうかというように思うわけでございます。

○山本(孝)委員 もう一遍聞きますね。
 小渕内閣総理大臣としては、来週末に韓国を訪問される予定と聞いております。
 内閣として協議をしていこう、検討していこう、何とかこの問題にも取り組んでいこうということを野中官房長官がお話しになって、それが国内で大きく新聞で報道された。当然韓国にもその話は伝わっているでしょう、あの方たちは日本語がちゃんとわかるわけだから。日本のテレビも飛んでいるわけだから、そこは見ておられますよ。
 小渕総理は、富国有徳とおっしゃるのでしょう。徳があるとおっしゃっているのですよ。日本の国はこういう方向に行かなければいけないというお考えを示しておられるのですよ。
 サハリン残留の韓国人の施設が仁川にできて、新しく施設もオープンしたというような状況を迎えている中で、内閣官房長官がお話しになったこと、あれは違うんだ、内閣としては協議しません、厚生大臣はそんなものは協議する立場じゃないということで、この委員会で、今のこの場で完全に否定されてしまうのですか。小渕内閣としては、その方向でしか今後はやらないんだ、一切この問題に対しては門前払いなんだとふたをしてしまって、あの官房長官の発言はなかったことというふうにこの委員会の場でおっしゃっておられるわけですか。

○宮下国務大臣 私はそこまで申し上げているわけではございません。援護法を所管する厚生大臣として申し上げておるわけでございまして、内閣として改めて協議をするということで私どもに呼びかけがあれば、当然内閣の一員として協議に加わることを私はここで否定できないものでございまして、それは、そういうことになれば協議に加わるというのは当然なことでございます。

○山本(孝)委員 閣僚の一人であるところの官房長官が、閣僚のどなたの発言であれ、それは内閣の発言なんでしょう、そこで御発言になって、前向きにこっちに行こうとおっしゃっておられる。声をかけられたら私はその協議の場に参加してもいいと。そういうものですか、内閣というのは。官房長官があれほどはっきり明瞭におっしゃって、新聞等で報道されている。私は非常にいい方向だと思ったのですね。
 非常に解決は難しい。今の法律の中でやるのは難しいだろう。国籍条項を外すことも難しいだろう。しかし、何らかの方策があってしかるべきではないか。そういうことにならないのですか。だから、放置されている状態と受けとめるかどうか。
 法律の中では受けとめられないでしょう。しかし、現実に何ら補償を受けられずに、その谷間におられることも事実なんです。あの方たちは、石さんにしても、何度か日本政府からいいような話も聞かされているのですが、ここでまた裏切られるのですか。日本政府はまたうそをついているのですかという話は、国際的な信用問題になりませんか。
 国連の場だけの話ではないんです。同じことを繰り返していって、また、あれは違うのだと。閣僚の発言がそんな簡単に変わっていいんですか。内閣としてそんな簡単に扱っていいものなんでしょうか。
 これだけ長いことこの問題が来ているがゆえに、余計にあの発言は重い。したがって、呼びかけをされたら協議しますというのではなくて、援護法を所管している大臣としては援護法の枠内で処理をするのは難しいという意見は述べざるを得ないだろう、しかし、小渕内閣を支えている一員として、何らかの方策を考えていくという、その方向に持っていこうという答弁がなぜできないんですか。そういうふうなことでいいじゃないですか。協議していきましょうよということに、ぜひこの場でそういう確認をしていただきたいと思います。

○宮下国務大臣 協議がまとめられれば、閣僚の一員として当然見解を申し上げて本件の処理に当たらなければなりませんが、国籍要件の問題の上に立った援護法の措置を所管する大臣として、この援護法の国籍要件を外した扱い、そういう方向でいいんだということは、あの発言の前に事前の協議もいただいておりませんし、ただいまのところ、私どもとしては、所管大臣として、言うならば援護法の責任大臣としては、今の委員のおっしゃるように、そういうことが官房長官から言われたんだからそれに従うべきだというような性格のものではないと思っておりますから、これは閣内で十分議論がされることだと思いますので、それはしっかりとした協議をしなければならぬというように思っております。

○山本(孝)委員 重ねての質問で申しわけありません。
 援護法のことを説明されれば、援護法の枠内ではこうだということを厚生大臣としてお考えを述べられるだろう。それはそれでいいのです。協議をしていこうという内閣の姿勢を示された、その点を厚生大臣としても閣僚の一員として前に進めていく。
 だから、小渕内閣として、来週韓国を訪問されるわけでしょう、あの議論が日本の国内でまたこんなになっているのですかということにならないためにも、国際的な信用として閣僚の発言が重いのだということをしっかりと示すためにも、今ここで結論を出せと言っているのではない、自分も内閣の一員としてそこの場に積極的に参加していこう、援護法の問題を聞かれたらそこは難しいと言おう、しかし、内閣全体として何らかの解決の方向に向かう協議を進めていこうというお考えにあるのかないのかなんです。今聞いていると、ないとしか聞こえないですから。あるんでしょう。
  〔鈴木(俊)委員長代理退席、委員長着席〕

○宮下国務大臣 けさも閣議の前にちょっとお話をいたしましたが、時間がございませんので協議と言っていいのかどうかわかりませんけれども、先ほど申しましたような政治家個人としての見解である旨は確認をしてあります。
 しかしながら、今委員のおっしゃられるように、内閣という言葉も使っていらっしゃいますので、私どもはこれは重く受けとめざるを得ないということで、これは発言以来大変気にしていた点の一つでございますが、内閣の意思決定ということになりますれば、所管大臣等を含めて内閣全体として議論をして方向性を出さなければならないものだということは当然なことだと存じますので、私は協議をあえて拒否するものでも何でもないんです。呼びかけあるいは協議する必要があるとすればと言うと、ちょっと消極的に聞こえるかもしれませんが、私の方では問題点を積極的に提示して、現行法との関連その他をきちっと整理をして、あるいはこの問題の経緯等も踏まえてどういう結論を出すことが妥当であるか、積極的に参加をして述べるということは当然あり得ることだと思います。

○山本(孝)委員 当然あり得るのではなくて、ぜひそうしていただきたいと思います。それが内閣の責務だと思います。
 内閣としてというのは、答弁でもおっしゃっておられるし、御本人は記者会見でもおっしゃっておられるのですよ。だから、我々は、内閣としてこれは当然協議が始まるものだと思っているわけです。
 野中官房長官は、先般、私が予算委員会のときに違う問題で、きょうは社会・援護局長おられるのですが、所管の問題であるホームレス問題についてもぜひ内閣として御検討いただけませんかということで、すぐ引き取っていただいて、内政審議室でもう既に二回、三回と議論をしていただいているというふうに思います。
 そういうふうに、問題があればスムーズに機動的に動いていくという内閣でないと……。せっかく一つの方向性を示しておられる中で、要請があればとかあるいはそういうことが必要であればとかと言うのではなくて、やはり所管しておられる厚生大臣として、小渕内閣をどういう色づけにしていくのか、韓国を訪問する前のこの時期に、こんな議論をしているんです、厚生大臣はそんなことは全くうそですと言っているという話になったら非常に問題だというふうに私は思います。
 本来であれば、もう一度きちっとした内閣としての統一見解を示してください。協議もしないというふうにおっしゃるのか。協議しないならしないで結構ですよ、あれだけの発言を軽くひっくり返されるような内閣なのかということですから。統一見解をしっかりと示して、文書で少なくとも次回の厚生委員会の審議があるまでにお示しをいただきたいと思います。

○宮下国務大臣 こうした問題について今真剣な御議論をいただいておりますし、委員のような御意見にはごもっともな点がございますので、これは官房長官に状況をお伝えいたしまして、その判断のもとでどう対応するか内閣として決めなければならぬ問題であるということはお伝えいたします。

○山本(孝)委員 いやいや、厚生大臣も内閣の一員なんだから、小渕内閣として、あの発言を受けて協議をするのかしないのか、しっかりそこを文書で出してくれと言っているんです。

○宮下国務大臣 正式な閣僚会議でやるかどうかは別問題として、これは大変重大な問題でありますので、私も、先ほど申しましたように、ごく短時間でございましたが、直接官房長官とこの話をいたしましたが、これは協議というようなものではないでしょう。したがって、私は、協議の必要性があるだろうと思います、今おっしゃられるように。協議してどういうことになるか、結論をきちっと出すべきものだと思います。
 ただ、内閣としてと言っておられるから、私は協議をした方がいいと思いますけれども、内閣としていろいろの発言をなさる場合はやはり所管大臣その他と協議の上で、こうした積み重ねの努力の上の結果の処理でありますから、その是正問題でありますから、当然協議があって内閣としてということになるのが通常ではないかとは思います。
 そういうことだけちょっと申し上げさせていただきます。

○山本(孝)委員 答えになっていない。統一見解を出してくれるのかという質問だから。

○宮下国務大臣 委員の御要請は、統一見解ということですか。もう一回はっきり……。

○山本(孝)委員 内閣として協議しますと官房長官が委員会の席で二度お答えになり、記者会見でもそういうふうにお答えになっている。ここに内閣として協議をするという事実があるわけです。閣僚の一員としての官房長官の御発言がある。だから、内閣として協議をするのかしないのか。今、どう聞いていても、宮下厚生大臣としては協議しないんだというふうに聞こえるものですから。
 したがって、小渕内閣としては、この在日あるいは在韓の元日本軍人軍属の補償問題についてしっかり協議をします、それで速やかに、それは措置がとれるかどうかわかりませんが、検討していくという姿勢には変わりはないんだということの統一見解を文書できっちり示していただきたいというお話です。

○宮下国務大臣 これは官房長官が、内閣においてもこの問題に前向きに対処する協議をやっていきたいと思っておる次第でございますということで、官房長官の意思がここに明確に表明されておりますので、その趣意に従って協議はいたします。

○山本(孝)委員 それをあなたはさっきは個人的な政治家の見解だとおっしゃったから、個人的見解で、その話は今の話と違うじゃないですか。官房長官が言っているという話でいくのであれば、内閣としてしっかりしたものを出せばいいじゃないですか。

○宮下国務大臣 全体として取り扱いが過去の蓄積、解決から比べて極めて重大な問題であるということで念押しをいたしましたところ、政治家の信条に基づく発言であるということもございましたので、私はさように申し上げたわけでございまして、官房長官が前向きに対処する協議をやっていきたいということであれば、所管大臣として、当然内閣の一員として協議には加わるべきものだと思っております。

○山本(孝)委員 さっきおっしゃった、政治家の使命として率直に個人的見解を披瀝されたものであるということではなくて、これは内閣としての御発言であって、そこは宮下厚生大臣としてもその認識を持っていて、したがって、内閣としては協議をしていくというお考えなんだということで理解してよろしいですか。

○宮下国務大臣 先ほど来くどく申し上げておりますが、これは重大なことでありますので、私としては、きょうの閣議の前にも、この委員会で議論されますからという前提で、個人的見解ということできのうも詰めをしてあります、したがって、そういうことで対応いたしますよということを率直に申し上げたわけでございまして、これ以上私としては――両方事実が正しいわけでございますので、その個人的な見解だという表明が政治家としての個人的な信念の吐露であるということまで私は否定はできません。
 これは、公の場ではそういう発言がまだなされていないものでございますからここであえて申し上げましたが、基本的に、協議するということであれば、当然協議に参画して結論を出さなくてはいかぬ、そういう性格のものだと思います。

○山本(孝)委員 答弁になってないな、大臣。だから、協議をするんですか、しないんですかと言っているんです。

○宮下国務大臣 ですから、きょうの論議を踏まえまして、事柄はそう簡単なものでないことも申し上げた上で、きょうの委員会の模様等をお話しした上で、協議をするようにということは進言いたします。

○山本(孝)委員 進言を受けた人が、じゃ協議しようというのではなくて、内閣の一員であるあなたも含めて内閣として協議をするんですか。それは当然、協議をしようと官房長官がおっしゃっておられるんだから、協議をする必要がないということでおっしゃるのか、あるいは、わかった、協議しようということでおっしゃるのか、どっちなんですかということです。

○宮下国務大臣 協議の内容までは、私は官房長官ほど問題認識を前向きに持つだけの勇気はございません、いろいろな過去の経緯その他をよく存じ上げておりますから。
 しかし、協議をするということであれば、当然協議に参加して、これは私がそういったものを発議してどうだということは言えますけれども、そういう閣僚間の協議は官房長官の主宰によるものが多いわけでございますから、私がこの問題を前向きにやるから関係者は集まれと言うわけにもいかないという点は御理解いただけると思うんです。

○山本(孝)委員 私は、答弁としては大変不十分だし、きょうの話は全部当事者のところに行く話ですし、韓国でどういうふうにこの発言を受けとめておられるのか私はわかりませんけれども、しかし、どう考えても不透明だ。
 せっかく官房長官が前向きに協議していこうと。それは、裁判所が述べている所見の措置としては行政的な立場では非常に難しい部分があるだろう、国籍条項を外すのは難しいという厚生大臣のお立場もあるだろう、援護法の部分もあるでしょう。ただ、在日韓国人の部分について、それが全部処理済みであるかどうかというところは両国政府の間の考え方が違う。裁判所は明らかにこれは措置がされていないというふうに言っている。大きな不平等が生じていることは事実なんです。それをもう終わっているんだと簡単に言えないぐらいに大きな問題になっているんじゃないでしょうかということです。
 そこの問題をあれほどきれいに整理をされた御答弁で、全部の状況をおわかりになりながら、なおかつ、あえて困難を越えて検討していこう、協議していこうとおっしゃった小渕内閣を支える官房長官の御発言として、大変重いものがあるだろう。それを個人的見解なんだ、披露されたんだとここで簡単に、協議じゃなくて立ち話の中でそうおっしゃったのでとみずからおっしゃいましたけれども、そんな話の中で官房長官の発言を否定される話は困る。
 閣僚の一員としての御発言なんだから、官房長官がそうおっしゃったんだから、そこを尊重してともに協議をしていきますと答えるのが普通の閣僚の考え方であって、ああおっしゃっているけれども、あれは個人的見解で、法律なんかは難しいからと。それは協議の中でおっしゃればいいことである。当然内閣としては協議をしていくんだと。当たり前の話じゃないんですか。それほどにこの内閣は足並みが乱れるんですか。
 そんなに国際的な信用を落としてまで、この問題は難しいから協議するにも値しない、向こうから声をかけられれば協議するかもしれない、そんなふうにお答えになる問題ですか。考えれば考えるほど、この問題は難しいですけれども、しかし真摯に受けとめなければいけない問題であって、私はやはり内閣としてしっかりとした協議をされるべきだと思います。
 それすらもできないのでは、小渕内閣は国際的信用、富国有徳などというのはまさにうそだ、また日本政府はだまそうとしている、だから、アジアに対する補償事業は進まないんですよ。そんな人からお金をもらうわけにはいかないということになるんですよ。そこが何にもわかっていない。だから、私はこの問題を、きょういただいている時間の中でもう半分以上過ぎてしまいましたけれども、しつこく言っているわけです。
 日本政府の問題なんだ。日本国民の問題なんです。こんな政府を持っている日本国民の問題なんです。だから、そこをやはりよく理解をしていただきたいというふうに思います。
 同様に、在韓の元日本軍人の金成壽さんからも恩給請求が出ています。在韓の問題ですから、日韓請求権協定云々の話があることは十分に承知もします。わざわざ本も送ってきてくださいまして、私もいろいろと読ませていただきました。
 きょう、恩給局来ていただいていると思いますが、金成壽さんは南方戦線で右腕をなくされておられます。この右腕を公務でなくされたという前提ですが、なくされた場合にいかほどの恩給を受けることができるんでしょうか。恩給局、御答弁お願いします。

○黒羽説明員 お答え申し上げます。
 金成壽さんは戦傷により右腕を失われたということでありますので、その障害の程度は、恩給法に定める第二項症または第三項症に相当するものと思われます。
 したがいまして、仮にその傷病が公務に起因するものであり、かつ日本国籍を有する場合であったならば、増加恩給及び普通恩給が給付されることになります。
 試みに昭和二十八年四月から平成十一年三月までの支給額を計算してみますと、その総額は、第二項症であった場合一億八百万円程度、第三項症であった場合八千六百万円程度となります。

○山本(孝)委員 一億円ほどの恩給を受けることができる。実は、それを受けられないままでずっと来ているわけですね。
 恩給の話でどこまで事実関係を御存じなのかどうかと思って申し上げれば、旧朝鮮半島ですから、日本が日韓併合した後で、創氏改名で日本人名に変えさせられて、しかも、日本兵に志願をして、日本の軍隊で訓練を受けて、日本人と一緒に戦地へ赴いて、きさまとおれとという形で戦友になって一緒に戦って、それで負傷して、あのインドシナ半島の山岳地帯を何とか逃げ延びて、右腕を失い、足にも傷を負い、松葉づえをついて逃げて、ようやく帰ってきてという、多くの日本人が経験をしたあの戦地からの復員を果たしてようやく帰国したら、戦友たちは一億円以上の恩給をもらっている。自分に対しては、天皇の臣民、赤子と呼ばれ、そして日本皇軍の一員として参加しながら、同じ戦いをしながら、日本人の名前で戦いながら、何らの補償も受けられない。ここに物すごい補償の内外価格差があるというか元外国人兵士に対する差別、この状態を放置したままでずっと来ているわけです。それは国籍条項だとか、サンフランシスコ条約だとか、日韓請求権協定だとかなんとか言うけれども、しかし、そんな不平等を置いたままでずっとやってきていることでいいんだろうか。
 宮下厚生大臣は元防衛庁長官でいらっしゃる。自分のもとで働いている兵隊さんたちの中に、将来、国籍を問われて、あなたは同じように戦ったけれども補償の対象でない、そんなことがあり得るんですか。そんな状態でいいんでしょうか。どう受けとめておられるんでしょうか。

○宮下国務大臣 心情としてはよくわかる話でございまして、そのことがずっとこの背景にありながら、困難な状況の中で外交当局その他で折衝を重ねられまして、四十年に協力協定ができたわけでございます。そのときに、完全にこうした問題は解決済みであるということの認識を両国が持ったという事実も一方で重く受けとめざるを得ません。
 そして、今一億円の話が出ましたが、これは形式的なことを申し上げるようで恐縮ですが、実は私どもの所管は軍人あるいは傷痍軍人ではございません、軍属等、そういう方々の処遇に関する所管をいたしておりますので。恩給法は、申すまでもありませんが、総務庁の方でおやりいただいておることでございます。私どもは、それに準じた形で準軍属等の遺族の問題、該当者の問題等を処理しているわけです。
 したがって、これは内閣としていろいろの関係がございますので、先ほど申しましたように、真意を確かめながら官房長官と協議をしなければなりませんので、よく協議をさせていただくことはたびたび申し上げているとおりでございまして、その結論がどうなるかは私が今ここで予測できない問題でございます。
 私の立場からすると、極めて困難な問題だということだけは明確に申し上げておかざるを得ないということでございます。

○山本(孝)委員 軍人と軍属で所管している法律が違う、したがって、所管官庁が違いますというのは、それは法律上のお答えであって、軍属であれ軍人であれ、戦地に赴いて戦いに臨んでいるのは全く同じでございます。
 私より年上の方にそんなことを言うのは失礼だけれども、あの戦争状況の中でどういうふうにして人々が戦いを進めてきたのか、その結果としてどういう戦後の処理をされてきたのかということを思うときに、そこに軍人、軍属の差は余りないと私は思います。
 それから、恩給法であるからそれは総務庁の所管で、この委員会ではないという話ではなくて、どういう考え方でもって――私は、それは政治は心とか同情とかそんなものではできないのかもしれません、しかし、人間の思う心に基づいて政治が行われるべきであって、それがおっしゃった富国有徳の心だと理解をしております。そこをどこまでも法律で法律でというのでなく、心を開いて、現実を見据えて、その人の声に耳を傾けて、どういう措置が一番いいのかということを考えるべきだ。
 だから、私は、ここに参考人として在日韓国人の元軍属の方あるいは在韓の元日本人軍属の方にぜひ来ていただいて直接話を聞くのがいい、本で読んでみたりしているよりは直接聞いてみるのがいい、痛みはそれを与えられた側というか足を踏まれた側しかわからないんだと申し上げたんだけれども、残念ながら参考人は実現しませんでした。
 しかし、私は、それぐらいの姿勢があるべきだし、それをこの所見は望んでいるんだと思います。それすら法律論で建前でやっていくのでは、日本はいつまでたっても変わらぬじゃないかというふうに……。だったら、期待だけ持たせるな。期待を持たせて裏切るのは、二重に罪が重いと私は思います。
 時間がないので、アジア女性基金についてぜひお伺いをしておきたいと思います。
 従軍慰安婦への償い事業の寄附の実績と交付の実績をぜひ示していただきたいと思うわけであります。
 時間がありませんので、私の方から申し上げれば、寄附実績は、七年度に二億二千万、八年度二億一千万、九年度九百万、十年度は十二月末で二百万という形で激減をしております。この寄附が激減している状況、そして実態として何人の慰安婦の方に一人二百万円の国民からの募金が行き渡っているのか、そこのところの御説明をいただきたいと思います。

○竹内(春)政府委員 お答え申し上げます。
 ただいま先生が言及されました数字は、御指摘のとおりのことでございます。
 なぜ七年度、八年度にあった数字が、九年度、十年度については減ったかということにつきましては、一概には申し上げられない面もあろうかとは思いますが、アジア女性基金の趣旨に御理解を得た方々からの募金というのが基金の発足当初に集中した、現在は一巡したということかもしれないというふうに思っております。
 それから、このようにしていただきました募金を、元慰安婦の方々に一人当たり二百万円ということで償い金という形で支給をしておりますが、これまでに百名以上の元慰安婦の方々にこれをお届けしているということでございます。

○山本(孝)委員 何人の方に最終的にお渡ししようということでこの事業を進めておられるんですか。中国におられる従軍慰安婦の方たちにはどのように働きかけをしておられるんでしょうか。

○竹内(春)政府委員 アジア女性基金としては、慰安婦の認定を行っている当該国・地域の政府当局あるいはその委託を受けた関係団体が公表した数字をもとに、約三百名の元慰安婦の方に対して事業を実施する予定であるというふうに承知しております。
 中国の件については……。

○樽井説明員 中国についてのお尋ねでございます。
 基金の事業は、基本的には相手国政府並びに相手国政府から委任を受けました関係団体がまず慰安婦の認定を行っていただく、そういうものに基づきまして償い金等の事業を実施するということでございます。
 率直に申し上げまして、中国につきましてはまだその段階までに至っていないという状況でございまして、具体的な実施は行われておりません。ただ、引き続き基金といたしましては、その目的に照らしまして、中国政府、関係者の方々からそういった御提案があれば積極的に受けとめたいという状況でございますが、現在の状況におきましては、そういう動きはまだないという状況でございます。

○山本(孝)委員 引き続き、これは基金としておやりになるんじゃなくて、日本国政府全体としてどういうふうに事業を展開していくのかということも含めて、中国政府との間でしっかりとした交渉をしていただきたいというふうに思います。
 三百人とおっしゃったので、六億円のお金があれば現状では事業ができる。そうすると、募金としては二百万しか集まってこないというのは、どう考えたってこの事業の存在が忘れられているし、皆さん方も広報しておられないし、何をしていこうとしておられるのかわからない。実績すら出てこないのにお金を集めるという話はもともと無理なんで、そういう意味では当然の帰結になっているんだというふうに思います。もう事業そのものが忘れられているんだろうというふうに思うわけであります。
 外務省にお尋ねします。
 医療福祉支援事業への外務省の拠出金は、どのような対象者にどのような趣旨で出されているお金ですか。

○樽井説明員 お答えいたします。
 外務省の拠出金の目的でございますが、これはアジア女性基金に対しまして、医療、福祉の向上に関します事業、医療福祉支援事業等の事業に対しまして拠出しているということでございます。
 この根拠につきましては、平成七年六月、官房長官の発表、それを受けまして同年八月、閣議了解がございまして、それに基づきましてそういった拠出を外務省として行っております。

○山本(孝)委員 外務省がお出しになったお金は、基金を通じてどういう方たちにどういう目的で渡されているのですか。

○樽井説明員 外務省の拠出につきましては、基金を通じまして、関係各国政府並びに委任を受けました団体を通じまして、基本的には元慰安婦の方々に対する医療・福祉サービスに使われるという状況でございます。
 他方、国によりまして、例えばインドネシアでございますけれども、慰安婦の特定が困難であるということでございますものですから、インドネシア政府との覚書、合意に基づきまして、一般に老人の方々を対象とした事業等も行っておりますので、そういった事業にも拠出させていただいております。

○山本(孝)委員 外務省を通じて日本国民の税金が、いろいろな団体を通じて最終的には慰安婦の方たちに医療福祉事業として渡っていく。これを裏づけている根拠法はあるのでしょうか、あるいはどういう趣旨でこのお金を出しておられるのでしょうか。

○樽井説明員 先ほどもちょっと御答弁いたしましたが、この根拠につきましては、平成七年六月、慰安婦問題に関します官房長官発表というのを出させていただいておりまして、それに引き続きまして、同年八月、閣議了解がございます。これに基づきまして外務省として拠出を行っているわけでございます。(山本(孝)委員「趣旨は」と呼ぶ)
 まず、官房長官談話でございますけれども、元慰安婦の方々に対する医療、福祉など、お役に立つような事業を行うものに対し政府の資金等により基金が支援するというのが官房長官の発表の趣旨でございます。
 受けまして、閣議了解につきましては、政府としてこれに必要な協力を行うこととするという結論の閣議了解でございます。

○山本(孝)委員 そうすると、これは人道的立場あるいは道義的な立場から拠出をしているという理解をしてよろしいのでしょうか。御答弁ください。

○樽井説明員 おっしゃるとおりでございます。
 この問題につきましては、女性の尊厳を極めて深く傷つけた問題であり、心からのおわびと深い反省を示すというのが内閣の基本的な立場でございまして、そういう立場に基づきまして拠出をいたしております。

○山本(孝)委員 従軍慰安婦の置かれた状態をかんがみて、何らかのことをしなければいけない。国民からお金を集めてそれを届ける、あるいは、外務省としても拠出金を出して直接的な医療、福祉、すなわち、厚生に役立てるという形。その趣旨は、人道的あるいは道義的責任を感じてやっているんだと。
 厚生大臣、そういうスキームで、人道的、道義的思いを受けとめて、何らかの形で税金を出していっている。根拠法は別にあるわけではありません。官房長官が御発言され、すなわち、内閣の意思としてお示しになって、それを裏づけて今事業をしておられる、こういう流れだってあるわけです。だから、やる気になればできるはずで、対外的に表明しておられる部分を真摯にしっかりと受けとめていただきたいと私は思うわけであります。
 時間がありませんので、ここは指摘だけにとどめざるを得ないのかもしれませんが、女性基金の中で女性尊厳事業というのを行っておられます。
 私は、交付対象事業は見直すべきであろうと思います。国内団体にばかりお金を出して……。アジア女性基金がやるべきは、私なりの解釈でいくと、アジアの女性の地位向上あるいはアジアにおける女性の貧困と性暴力からの脱出に寄与できるような事業にお金が使われるべきであって、日本国内の団体に、その団体の是非を言っているわけではありません、基金としてお出しになる、交付事業としてやっておられるのが、どれだけアジアの女性の皆さんへの還元になっているのかというところはしっかりともう一度検証していただきたいと思います。
 あわせて、六億円規模の償い事業が済めば、ほとんど受け取ってもらえないわけですからこの事業としてはもうストップしていくのでしょう、その後どういうふうにお考えになっておられるのか。
 平成十年度の予算を聞きますと、女性尊厳事業で二億四千万円、外務省予算の、今おっしゃっている医療福祉支援事業で八千万円で、支出としては三億二千万円の支出になりますけれども、経常経費への補助金は、人件費、事務所費で約一億円の補助金をお出しになっておられる。
 団体を運営するために一億円を出して、実際の事業としては、国内団体、NPOへの補助事業であるとか、あるいは外務省のお金を、従軍慰安婦の人たちに三億二千万円のお金を流していくために、一億円の人件費、事務所費を出しておやりになっているというのは、非常に運営としては効率が悪過ぎると思います。しかも、やっておられる事業内容は、女性基金ができたときの本来の趣旨から明らかに離れているというふうに思いますので、そこはぜひ再検討していただきたいと思います。
 補償事業が、実際に受け取られないという展開になってしまいますと、国民から集めたお金が今は基金として残っている状態になっているわけで、そこの説明も、お金を出された寄附者のみならず、全国民に対して御説明をされる必要があるのではないか、それは義務ではないかと私は思いますが、補償事業を今後どうするのか、国民にどういう説明をされるのか、ちゃんとした情報公開をされるのか、その点を一点お伺いしておきたいと思います。

○竹内(春)政府委員 多くの点について御指摘をいただきました。受けとめさせていただいて、基金の方ともよく相談はさせていただきたいと思います。
 償い金の件について申し述べれば、現在、この事業はまだ継続中でございます。したがいまして、現段階では、基金としてもその事業をできるだけ展開するということで全力を挙げているところだと思いますので、私どもといたしましても、それを支援したいというふうに考えております。
 その後のことについて、今の段階で、まだ基金と具体的な相談をしているわけでもございませんので、明確なことをお答えすることはできませんけれども、先生の御指摘は基金の方にもしかと申し伝えて、よくよく相談、検討してみたいと思います。

○山本(孝)委員 償い事業は五年間という一種の期限を定めて始めていることですし、そういう意味では先は見えているというか、事業の性格、展開の今後の方向は見えているはずですし、お金を出された皆さんに対しての説明義務は、基金としても、基金をおつくりになった政府側としても、当然にあるものだと私は思います。だから、二百万しか集まってこない。出した人たちは、あのお金はどうなったんだろう、本当に従軍慰安婦のところに行ったんだろうかという思いでおられるはずですから、それはきっちりとした説明義務があるということをもう一度指摘をしておきたいと思います。それなりの対応をしてください。
 時間がありません。最後にもう一問だけ申し上げておきたいと思います。
 この三月二十七日に昭和館がいよいよ開館をいたします。日本遺族会が戦争遺児らへの慰藉事業をしてほしいという声を受けて構想がスタートして、長年の紆余曲折を経てようやく開館にこぎつけられたと思います。
 戦没者遺族が経験した戦中戦後の労苦を伝えるという目的で開館されるわけですけれども、年間の運営経費は五億八千七百万円、年間の入場予定者数は十万人とお聞きしております。初年度十万人ですから、恐らく二年度以降はどんどん減っていくのだろうと思います。初年度十万人としても、一人当たりの経費五千八百七十円。入館者一人当たり五千八百七十円をかけて十万人の方たちに何をメッセージとして伝えていくのか、何を持って帰っていただくのか。
 これは全額国庫補助金でございます。税金で運営される団体です。なぜ苦労することになったのかという背景についてはほとんど触れられません、陳列をするだけということになっています。すなわち、資料館なのか博物館なのか、その性格すら非常にあいまいである。
 そこで、陳列を通じてどのようなメッセージを後世に伝えるのかというのは、その担当者が一体どうすればいいのだろうと非常に迷われるだろう。公正で中立的な運営をしなければいけない、そういう陳列、展示、あるいはメッセージの伝え方をしなければいけないというのは、何回もこの委員会で指摘をしているところであります。そこをどうやって担保していくのか。
 十万人というのが、今後どういうふうな見通しを持っておられるのか。大変に高くついたなべかまの展示場じゃないかというふうに私は思いますけれども、そうならない、そういう苦言を呈せられないような施設にどうやってしていくのか、そこのお考えを最後にお聞きしておきたいと思います。

○宮下国務大臣 昭和館は、御指摘のようにこの二十七日に開館いたしますが、戦没者遺族の援護施策の一環として、戦中戦後の国民生活上の労苦にかかわる歴史的な資料や情報を収集、保存いたしまして、後世代にその労苦を知る機会を提供しようとするものでございます。
 その運営に当たりましては、厚生省と受託先の財団法人日本遺族会に第三者の有識者から成る委員会を設置いたしまして、公正中立な運営を図るようにいたしたいと思っております。
 それから、本施設が後世代に伝えようとする戦中戦後の国民生活上の労苦とは、戦没者遺族を初めとした国民一般が経験した生活上の困難、不便、不自由や精神的痛苦でありまして、陳列事業等を通じてこれらの労苦を来館者に伝えようとするものでございます。
 なお、年間来館者は、御指摘のように十万人を想定しておりますが、今後、陳列がえや特別企画展等の開催なども予定させていただいておりますので、さらに多くの来館者が恒常的に訪れるように努力はしていきたい、こう思っております。

○山本(孝)委員 質問時間がなくなりましたが、予想された答弁だったと思いますけれども、野中官房長官のあのホームレスに対しての対応の素早さも、そして、心を込めての歴史を踏まえての御発言も、ぜひ見習ってくださいと言うと失礼かもしれません、小渕内閣としての姿勢にしていただきたいと私は思う。
 ついでに付言すれば、厚生省が行っておられる遺骨収集も、日本人の遺骨収集には熱心であるけれども、朝鮮半島出身者の遺骨収集はこの援護事業の対象外ということで遺骨収集事業からは外されておられます。なぜ遺骨になってまで差別をしなければいけないんだ。日本へあれほどの傷を負って帰ってきても差別を受けなければいけないんだという思いに対し、日本は差別をする国じゃないんだという国際的なメッセージを発するためにも、ここは小渕内閣の一つの大決断だったと。私は勇断だと思っておりますので、その流れを厚生大臣がみずからとめることのないようにくれぐれもお願いを申し上げまして、質問を終わります。
 ありがとうございました。

 第145回国会 参議院予算委員会 第15号 平成十一年三月十六日(火曜日)午後一時四分開会

【発言順】
 委員       今井 澄
 内閣総理大臣   小渕 恵三
 内閣官房長官
沖縄開発庁長官  野中 広務
 外務大臣     高村 正彦
 外務省アジア局長 阿南 惟茂
 厚生大臣     宮下 創平

○今井澄君 これ以上は水かけ論になりますが、今の大人の世界の道徳の荒廃はひどいものですよね。私も土、日、自宅へ帰りますけれども、グリーン車の中のグリーン料金を払って乗る大人たちのマナーの悪さですよ、これが子供を悪くしているんだと私は思うんです。そういう意味では文部省だけが頑張ったってだめなんですよ。文部省だけが頑張るから変なところにひずみが出てくるんですよ。だから、文部省ももっとゆったりと構えてやっていただきたいと思います。
 さて、次の問題に移りたいと思いますが、やっぱり今の問題も戦後処理の問題にもかかわるわけですが、今恩給法あるいは戦傷病者戦没者遺族等援護法の審議が各委員会で行われている中で、いわゆる在日あるいは日本にいない人も含めて、かつて日本の軍人軍属であった外国人の国籍条項の問題が随分議論されております。私も実はずっと厚生委員会におりまして、毎年この援護法の問題で石成基さんたちの訴訟の問題取り上げてまいりました。
 ところが、ことしは、野中官房長官が去る九日の衆議院の内閣委員会、それからその後の記者会見において大変前向きな発言をされたということを私はうれしく受け取っておりました。それからもう一つ、十二日の参議院の総務委員会、これ私も出ておりましたが、自民党の海老原委員からこの問題そろそろ解決すべきではないかという質疑があり、やはり官房長官は前向きな御答弁だったんです。ところが、その後十二日に衆議院の厚生委員会が開かれて、宮下厚生大臣がなかなかかたい御返事をされたといううわさを聞きまして、速記録などを取り寄せてみたんです。
 厚生大臣も大変苦しい御答弁だったということはわかるわけですが、やはり基本的には、こういう日本の軍人軍属として働いた方に対して、強制的に日本国籍を奪っているわけですから、何とか対処することを内閣として、これは野中官房長官個人の心情とかあるいは援護法を守る厚生大臣の公的な立場とか、そういう個々のことではなくて、内閣全体の問題として、この国籍条項を撤廃するなり、それができないなら別途方策を講ずるなり、やるべき時期に来ていると思いますが、総理、いかにお考えでしょうか。

○国務大臣(小渕恵三君) 今、委員御指摘のように、この国籍条項の問題は、かねて国会でも長年取り上げられてきている問題でございます。ただ、政府といたしましては、恩給法の国籍条項は制度の基本的な約束事の一つとなっておるところでありまして、このような国籍条項を設けておりますのは制度の沿革及び性格に由来するものであり、現行法上、現に外国人であるこれらの人々を恩給制度の枠内で処理することは大変困難であり、慎重に検討すべきものであるというのが政府の公式の見解でございます。

○今井澄君 それは公式な見解はわかっておりますが、その中で、官房長官、これ官房長官としては、単なる個人、政治家としての心情だけではなく、内閣として取り組みたいということを言っておられると思うんですが、その点のお取り組みはいかがはかどっておりますでしょうか。

○国務大臣(野中広務君) 恩給法及び援護法等の取り扱いにつきましては、今、総理並びに宮下厚生大臣がそれぞれ委員会等でお答えになったとおりでございます。
 ただ、私は、内閣委員会等におきます質問に対しまして、佐々木委員なり河合委員なり、あるいは海老原委員なりにお答えをいたしましたのは、そういう中におきまして、それぞれ過去におきまして、金さんを初めとする高裁等の判決の中から、いわゆる立法府において考えられるべき措置ではなかろうかという問題提起がされておるわけでございます。私ども、一九〇〇年代の最後を終わって新しい世紀につなげるに当たりまして、こういう問題が整理をされないままに終始するということは後世のために決していいことではないと考えますとともに、ある意味において立法府として、かつて台湾問題等の弔慰金処理等が行われた経過もあるわけでございます。
 今回の場合、当然のこと、日韓条約においてそれぞれ決定された後、在韓のかつての日本軍人軍属についてはそれなりの個人措置がされておる経過等もございますし、その措置が在日の軍人軍属においてはされていないというところから問題が提起をされてきておるわけでございますので、韓国においてどのようにこれをお考えになるのか、あるいはそれが及ぼす影響等十分調査をした上で、なおこの問題については戦後処理の一つの問題として当然のこと、検討しなければならない重要な課題である旨を申し上げた次第でございます。
 現在、官房副長官のもとに外政審議室等におきまして、それぞれ韓国の対応の問題及び国内においてこれを措置する場合のさまざまな波及的な問題等を含めて検討をさせておるところでございます。

○今井澄君 外務大臣にお尋ねしたいんですが、日韓局長級協議というのが毎年あると思いますが、この問題で韓国側からこれを何とかしてくれという問題提起、毎年ここのところされているんではないですか。

○国務大臣(高村正彦君) 平成三年一月に日韓両国の外相間で、在日韓国人の法的地位及び待遇に関する覚書に署名を行って以降、右問題に関する今御指摘の日韓局長級協議を毎年実施しているわけであります。
 その協議の場において、近年韓国側より、援護法の国籍条項を撤廃して在日韓国人への補償の道を開いてほしいという要望が来ているわけであります。これに対して日本側からは、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定第二条一により、日韓両国の間では、在日韓国人の援護法に係る主張を含め両国及び両国民の間の請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認している旨、応答しているところでございます。
 韓国側に対してはそういう応答をすると同時に、韓国側の要望については関係省庁にお伝えしているところでございます。

○今井澄君 では、外務省内では検討を一切していないんですね。
 それで、関係省庁に伝えているというのはどこどこですか。

○国務大臣(高村正彦君) 正確にどことどこということは政府委員に答えさせてもいいですが、少なくとも厚生省には伝えているということでございます。

○政府委員(阿南惟茂君) 韓国との間の局長級会談、いろいろな事項を扱っておりますが、今の援護法等の問題は厚生省に御相談しております。

○今井澄君 では、ちょっと政府委員にお尋ねしますが、韓国側は、だけれどもこの問題は先ほどの大臣の答弁のように完全解決したものとみなしていないわけですよね。あるいは、解決したというふうになっていても何とかしてほしいという要望があるんじゃないですか。

○政府委員(阿南惟茂君) 先ほど外務大臣から御説明ございましたような説明をその都度行っているわけでございますが、韓国側からは、日本のそういう現行法上、対処は難しいということには理解が示されております。他方、何とか方法がないか、講じてもらいたい、検討をお願いすると、こういうことでございます。

○今井澄君 厚生省あるいは厚生大臣にお尋ねしたいんですが、昨年十月にいわゆる国連の規約人権委員会といわれる、正式な名前を言うと長いですが、市民的及び政治的権利に関する国際規約の実施を監視する規約人権委員会、こういうところに日本政府代表団が行きましていろいろ質疑があったわけですが、日本からは外務省、法務省、文部省、厚生省、労働省、警察庁と二十人ほど行っておられるようです。そこでコルビル委員という方から、昨年の九月二十九日の東京高裁判決、これは憲法違反ではないけれども何とかすべきではないかということを政府に求めているわけですが、それについて、その代表団で行った厚生省大臣官房精神保健課の杉中課長補佐という人が、この問題に対して速やかな対応を図ることが強く望まれるというコメントがされたことは承知していると。コメントがされたというのは判決でですね、この点については現在政府部内で判決内容を詳細に検討しているところであるというんですが、政府部内というのはどこで、どのような検討が進んで、現在どうなっているんでしょうか。

○国務大臣(宮下創平君) 昨年、ジュネーブで行われました国連の規約人権委員会の審査におきまして、御指摘のとおり、九月二十九日に東京高裁判決がありました直後でありますが、東京高裁判決の趣旨とその付言にかかわる部分につきましてコルビル委員が質問をいたしました。そして、日本代表団の厚生省の役人が政府部内で判決の内容を詳細に検討している旨の答弁をいたしておることは承知しておりますが、これは、一つは東京高裁判決が出てから間もなかったということもございますし、その係官は現段階で判決文の詳細な内容を検討している旨を答えたものというように私どもは理解しております。
 なお、この点は、御指摘の付言の中で、国際人権規約では合理的な理由に基づく取り扱いの差異まで禁止するものではないと承知しておるということで、これは高等裁判所の判決の中の付言にわざわざ人権規約を引用いたしまして、合理的な理由に基づく取り扱いの差異まで禁止したものではないと承知しておるということで、人権委員会の関心課題についても判決自体の中で言及されておられます。
 ただ、付言は、確かにおっしゃっているように、援護法の国籍条項を改廃して在日韓国人にも同法の適用の道を開くなどの立法措置や行政上の特別措置をとることが強く望まれると、こう書いてあります。
 その点の指摘を踏まえて官房長官の御発言になったと存じますけれども、私どもとしては、いろいろの積み重ねの中で今日までこうして来ておりますし、今外務省の答弁を聞いておりましても、韓国政府としては、このことの理解はしているが何とかしてほしいという局長会談の提案であったようにお伺いしております。
 私どもとしては、大変な積み重ねによって困難な状況の中で今日までの結論を得ておる国籍条項の問題でございますから、にわかに援護法を改正するということは考えておりません。

○今井澄君 それぞれのところでこの問題が来ているわけですけれども、かたくなな態度をそれぞれ今まではとってきたと思うんですね。しかし、今やはり一九〇〇年代を終わるに当たって、官房長官のお言葉ではありませんが、こういった問題について何らかの手が打てないのか。まさに人道上の問題であるだけではなく、日本としての二十世紀にお別れを告げる意味での責任を果たす問題としても、これは内閣挙げて取り組んでいただきたいと思うんですが、そういう意味で総理から何らかの前向きの御答弁をぜひお願いしたいと思いますが、お取り組みをお願いします。

○国務大臣(小渕恵三君) 政府としての見解は先ほど申し述べたところでございますが、官房長官御自身も真情を吐露されてこの問題の重要性を御指摘されたわけでございます。
 今、厚生大臣も、厚生大臣として援護法を預かる最高責任者としてそのような考え方をいたしておるわけでございますが、こうした問題について、先ほどの答弁の中で韓国側の御指摘もあるやに聞いておりますが、政府としては、従来の日韓の条約によりましてすべて決着しておるという立場ではございましょう。でありますが、今、官房長官のそのような御指摘もございました。今直ちにこのことを改変するということは率直に申し上げて難しいことだろうと思いますが、一つの問題提起として勉強させていただきたいと思います。

○今井澄君 御答弁ありがとうございました。

 第145回国会 参議院国民福祉委員会 第4号 平成十一年三月二十三日(火曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員         朝日 俊弘
 内閣官房内閣外
 政審議室長
 兼内閣総理大臣
 官房外政審議室長   登 誠一郎
 厚生大臣      宮下 創平
 厚生省社会・援護局長 炭谷 茂
 委員         沢 たまき
 委員         井上 美代
 委員         清水 澄子
 委員長        尾辻 秀久
 委員         堂本 暁子
 委員         西川 きよし
 法務大臣官房審議官  大林 宏 

○朝日俊弘君 民主党・新緑風会の朝日でございます。
 きょうは、ただいま御提案いただきました援護法等の一部を改正する法律案そのものにつきましては、ある意味では当然の措置でありますので、特に異論があるわけではありませんし、むしろ事務的な手続も含めてできる限り早急な対応が求められている、こう理解しておりますので、この法案の中身そのものについて、あるいは金額そのものについてとやかく申し上げるつもりはございません。
 ただ、そうはいっても、この問題とかかわって幾つかこれまでにも検討されてきた課題というか宿題というか、残っているというふうに私は思いますし、さらには、新しい課題も出てきているのではないかというふうに私なりに理解をしておりますので、そういう観点から大きく分けて二点ほどお尋ねをしたいと思っています。
 まず最初の点は、これはこの戦傷病者等だけにかかわらず、恩給法の問題ともかかわって、先日来、野中官房長官が衆議院あるいは参議院の委員会等において、改めてこの恩給法及び援護法等の国籍条項問題について検討をする必要があるというお答えを繰り返し述べられております。このこと自体、私は積極的に評価といいますか受けとめたいというふうに思っているわけです。
 まず、参議院の予算委員会総括質疑のところでも、三月十六日ですか、一番最後のところでこんなふうに述べられています。「現在、官房副長官のもとに外政審議室等におきまして、それぞれ韓国の対応の問題及び国内においてこれを措置する場合のさまざまな波及的な問題等を含めて検討をさせておる」と、こういうふうに官房長官はお答えになっているわけですが、外政審議室の方で何をどのようにどんな予定で検討されていこうとしているのか、現状について御報告をいただきたいと思います。

○政府委員(登誠一郎君) 御指摘の点につきましては、戦後処理の枠組みにもかかわります難しい問題でございますので、政府といたしましては、これまで本件補償の問題は完全かつ最終的に解決済みとの立場をとってきたことは御承知のとおりでございます。
 他方、今先生御指摘ございましたように、先日の委員会におきまして官房長官が示されたような問題意識もございます。そういうことから、今般関係省庁とも連携を図りつつ、改めて本件に対処するに当たっての種々の問題点について勉強を始めさせていただいたところでございます。
 まだ始めたばかりでございますので、しばらく時間的御猶予をいただきたいと思いますけれども、具体的には、従来の法制度あるいは法的側面、その内容、それから問題点、さらには戦後処理の枠組みとの関係、それから関係国における処理の状況などをさらに研究いたしまして、果たしてこの問題に対して現実的にとり得る方策というものがあるのかどうか、さらにその場合の波及効果はどういうものであろうかというようなさまざまな問題点がございますので、それをいろいろな角度から慎重に検討を進めていこうというふうに考えております。

○朝日俊弘君 確かにいろいろ検討をすべき課題があるということは私も承知しております。
 さて、今外政審議室の方から官房長官の発言を受けての取り組みの状況なり受けとめ方なりについて御報告がありましたが、その問題についていろいろ予算委員会での答弁などをお聞きしていますと、どうも厚生大臣はより慎重な態度といいますか、当然担当する大臣としてかなり慎重な発言をされているやに理解しますけれども、せっかくこの問題について野中官房長官がこのようにおっしゃり、それを受けて外政審議室の方で改めての検討作業に着手しているという状況を踏まえて、もう少し厚生大臣として積極的なというか前向きなというか、そういうお答えぶりができないものかといささか歯がゆく答弁をお聞きしているわけですが、改めてこの問題についての厚生大臣としてのお考えをお聞かせいただきたいと思います。

○国務大臣(宮下創平君) 官房長官の発言をめぐりましていろいろ御議論がございました。官房長官の真意をどう考えるかというような御質問もございましたものですから、私としては、官房長官としてはこの問題は戦後残された大きな問題の一つとして考えて、人道的、国際的な立場に立って、政治家としての使命感に基づいてその政治家としてのお気持ちを述べたものだというように、これは官房長官からも直接お伺いしておりますので申し上げました。
 他方、この問題の一番の核心は国籍条項でございます。恩給法は私の所管ではありませんが、この軍属等に対する援護の問題は私の所管でございます。こうした問題を含めまして、韓国出身の方々に対する補償問題というのは、たびたび申し上げておるように、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定によりまして、在日韓国人の問題を含めて完全かつ最終的に解決済みであるということが述べられておりまして、私どもとしてはこの援護法の国籍要件を、これが明定されておりますので、見直すというようなことは考えておりませんで、そういう意味で現行法の枠内で措置することは困難であるという旨を申し上げさせていただいております。
 他方、予算委員会の総括におきまして、今御指摘のように、総理にも御質問がありまして、総理大臣は、この問題は直ちに解決することは難しいんだということも述べられておりまして、他方勉強もさせていただきますと、こういう答弁になっております。
 今、外政審議室長からお話のございましたように、この問題についてまた勉強会をしたいということでございますから、これに対しては厚生省として別に異存はございません。ただ、現在の建前からすれば、国籍要件の撤廃その他、また立法上の措置を講ずることも困難だし、行政上のことも困難であるということを今の立場として申し上げておる、こういうことでございます。

○朝日俊弘君 きょう直ちに答えを求めるつもりはないんですが、ただ、これまでの経過なり現在の法制度的枠組みなりから考えて困難であるということをいささか強調され過ぎていて、今後の、じゃ何をどう検討するのか検討の余地なしみたいなお答えに聞こえるものですから、せめて所管する厚生大臣とすれば、野中官房長官もぜひこういう問題を次の世紀まで持ち越さないように何とかできないものかというような問題意識を述べられておりますので、ぜひそこのところは可能な限り問題意識を共有していただいて、内閣として一致した取り組みをしていただければありがたいし、ぜひそうすべきであるということを私の方からお願いをしておきたいと思います。
 この問題についてはこの程度にとどめまして、次に戦没者の遺骨収集事業の問題について幾つかお尋ねしたいと思います。
 きょう特に問題としたいのは、まだ海外に、あるいは例えば国内でも沖縄等では戦没者の遺骨がいまだに収集されていないという状態、残っているわけであります。
 まず最初に、これまで遺骨収集の事業というのがどんなふうに行われてきて、今どれぐらいまで到達して、今後どんなふうに進めていこうとされているのか、大まかな点についてちょっと御報告をいただきたいと思います。

○政府委員(炭谷茂君) 戦没者の遺骨収集につきましては、昭和二十七年度からまず南方地域から実施いたしております。また、それにおくれまして平成三年度から旧ソ連地域等における抑留中の死亡した方々についての遺骨収集が可能になったわけでございます。
 これまで、政府として約三十万柱の遺骨を収集いたしましたが、引き揚げられる際に持ち帰られたものもございますので、それらを含めますと、海外で戦没された方々は二百四十万人いらっしゃるわけでございますけれども、現在まで日本にお迎えしたのは百二十三万柱、約半分でございます。
 なお、南方地域につきましては、相手国の事情等により収集ができない地域を除きまして、おおむね終了したという状況でございます。もちろん、今後残存遺骨の情報が入る場合がございます。そういう場合は直ちに収集を行うという体制で臨んでいるわけでございます。
 一方、平成三年度から新たに遺骨収集が可能となりましたソ連地域につきましては、平成四年度から本格的に実施し、今年度までに八千六百八十二柱の遺骨を収集いたしました。
 なお、関係遺族や抑留経験者の高齢化が進んでおりますので、今年度、平成十年度から五カ年で遺骨収集を計画的に実施し、おおむね終了するように努力しております。
 また、モンゴル地域につきましても、平成六年度から実施いたしておりまして、今年度まで六百九十四柱の遺骨を収集し、来年度で最後の埋葬地を遺骨収集することによっておおむね終了するという状況でございます。

○朝日俊弘君 今、遺骨収集事業の概要についてお伺いしたわけですが、遺骨収集事業を実施していくに当たってやはり大変重要なことは、可能な限り身元を確認してちゃんと御遺族にお返しする、こういう努力がぜひとも必要だというふうに思います。もちろん、状況によっては遺骨が散乱してというか、とてもどれがどれというふうにはできないような状況もあるかと思いますけれども、可能な限り身元確認をし御遺族にお返しするという努力は最大限追求されるべきだというふうに思います。
 そこで、じゃこれまでの遺骨収集事業の中でこの身元確認、そして御遺族にお返しする、こういうことが一体どんなように工夫され努力され、結果としてどの程度そういうことができているのか、ちょっと事実について御報告をいただきたいと思います。

○政府委員(炭谷茂君) ただいまの御質問の関係でございますけれども、まず旧ソ連抑留中に死亡された方々の遺骨収集につきましては、比較的個別に遺骨が埋葬されておりますので、身元判明がかなり手がかりが得られる。例えば、身長、歯の状況、遺留品の有無というものを遺骨を収集する際に記録にとどめ、それぞれ一体ごとに焼骨して持ち帰っております。そして、日本に帰っていろいろな資料、例えば旧ソ連から持ち帰りました埋葬図などをもとにいたしまして身元確認というものの努力をしております。
 しかし、南方などの戦闘地域につきましては、このような身元の特定というのはなかなか難しゅうございますが、たまたまその身元の手がかりになるもの、例えば印鑑とか眼鏡とか万年筆というような個別の判定できるものがございましたら、それを持ち帰り、一体ごとに焼骨いたしまして日本へ帰り、身元判明の努力をいたしております。
 このような状況でございますので、旧ソ連、モンゴル地域につきましては、これまで九千三百七十六柱を収骨いたしまして、そのうち二百八十六柱の遺骨の身元が判明し御遺族にお返ししております。その割合は三%になっております。南方につきましては、先ほどのような事情で毎年数例にとどまっているのが現状でございます。

○朝日俊弘君 身元確認、多分地域によって大分違うんでしょうが、今御報告のあった旧ソ連の場合でもようやく三%というお話であります。しかも考えてみたら、遺留品がたまたまある遺骨のそばにあったからといってそれで自動的にそうだというふうに断定できるものでもなかろうと思いますし、そういう意味では身元確認の仕方というのは大変困難を伴うことは重々承知をしているわけですが、それにしてももう少し何とかならないものかというふうな気持ちを強く持ちます。特に、遺骨が散乱しているような状態はなかなか難しいとしても、せめて一体一体がきちっと見分けがつくというか識別できるというか、そういう状態で埋葬されている場合にその方の身元が何とか確認できないのかということについてはもっともっといろんな方法を検討すべきではないかと私は思います。
 最近、新聞報道でも報じられておりますが、身元確認のための一つの有効な方法としてDNA鑑定を求めるという声が強まってきていると理解しています。DNA鑑定という方法は、技術的には比較的最近になってある程度実用化できるようになってきた方法だと思いますし、最近では日本国内でも犯罪にかかわっての身元確認という形でしばしば使われている方法のようであります。
 この問題について、既に関係者の方から厚生省の方に、ぜひこういう方法を使って身元確認をしてほしいというお話が届いていると思うんですが、さて、この問題について、厚生省として今までどんなふうに受けとめ、どんな検討をされてきたのか、ちょっと検討状況についてお聞かせいただきます。

○政府委員(炭谷茂君) 今、先生がおっしゃいました遺骨のDNA鑑定につきましては、私ども昨年から遺族の方々から御要望を承っております。その気持ちをいろいろとお聞きしますと、やはりその気持ちを考えれば、私どもの援護施策としては検討しなければならない事柄の一つとして認識いたしているわけでございます。
 しかし、遺骨のDNA鑑定の導入につきましては、これまでの私どもの進めてきた遺骨の取り扱いのあり方を大きく変更するということになるわけでございますが、DNA鑑定を導入するかどうかに当たりましては、一つは技術的に可能かどうかということ、先生は可能というようなことのようでございますが、さらに関係者、専門家にお聞きしてみたいと思っております。それから二番目には、検体を外国から持ち出せるかどうか、そしてそれが日本に持ち込めるかどうかという可否についての検討。それから三番目には、戦没者や遺族の方々のプライバシーや倫理上の問題はどうなんだろうかと。そして最後には、費用負担のあり方等について多面的な検討が必要であると考えております。また、これについてはやはり遺族の方々の幅広い御意見もお聞きしなければならないというふうに考えておるわけでございます。
 このような問題がございますので、現在私ども厚生省におきまして、事務的に幅広い観点から検討を行っているところでございまして、今直ちにDNA鑑定を導入することは難しい状況にあると考えております。

○朝日俊弘君 今直ちに全面的にというふうに言われると難しいというトーンのお答えになるんだと思うんですけれども、私はまずできるところからというか、一定の条件が整ったところからやってみるべきではないかと思っているんです。
 先ほどDNA鑑定というのが技術的にどうかという問題もまだ残っているようにおっしゃったけれども、私はこれは技術的にはもう解決していると思うんですよ。でなきゃ刑事事件で鑑定に使ったりしないはずですし、技術的には可能だと思う。ただ、それを海外で、しかも戦没者としてどこにだれがどんなふうに埋葬されているのかわからないようなところで、しかも随分時代がたってうまくサンプルがとれるかどうかとか、そういう問題は多少あり得ると思いますけれども、DNA鑑定そのものの技術的問題というのはもうクリアされていると私は理解しているんです。だから、それを実際に適用するための方法論あるいは手続論として幾つか克服すべき課題がある、こういうふうに考えるべきだと思っているわけです。
 例えば、もう既に十分御承知だと思うんですが、沖縄であるざんごうというか洞窟の中に何人かがどうやら埋められているというか中に残されたままお亡くなりになった状態があると。ほぼ確実にその中に私の身内の者がいるはずだ、それを何とかしてほしい、こういう訴えがある。そのところに到達するまでの間に幾つか克服しなければいけない障害はあるようですけれども、しかし仮にそういう障害が取り除かれていってその遺骨を取り出すことができた状態のときに身元鑑定するとすれば、やっぱりDNA鑑定という方法は有効だと思うんですね。
 だから、役所とすればあらゆる可能性を検討して、こうなったらああなるだろう式のことがあって、今直ちにやれと言われてもとてもできませんという後ろ向きの慎重な答えについなりがちだと思うんですが、いやそうではない、今直ちに全面的にやれと言われると幾つか困難な課題が残るけれども、一定の条件のもとで一歩一歩前に進めるために取り組みたいという姿勢がぜひあってしかるべきだと私は思います。
 最後にこの点について、何らかの形で戦没者、そして遺族の方たちの思いに可能な限りこたえていただくための国としての支援策をぜひ検討してほしいと私は思いますが、この問題について大臣のお考えをお伺いして、私の質問を終わりたいと思います。

○国務大臣(宮下創平君) 御遺族の心情を思うときに、今御指摘のように、遺骨のDNA鑑定というのは援護施策の一環として検討すべき課題のように私も思います。
 ただ、今、炭谷社会・援護局長の言われたように、四点ばかり指摘されましたが、技術的可能性については私もそれは可能だと思いますけれども、遺骨と遺族の双方の鑑定が必要であるとか、いろいろ幾つかの問題点があると思います。それから、検体の国内への持ち込み、プライバシーの問題あるいは費用負担の問題等あるようでございます。
 ただ当面は、今、委員のおっしゃるように、私どもとしては、遺骨の身元が相当の蓋然性をもって特定できる可能性のあるケースにつきましては、これは経費負担の問題等まだはっきりいたしませんが、自費でDNA鑑定を行いたいという御遺族に対しましては個別に可能な範囲内で協力、つまり相手国とのまだ焼骨していない検体の持ち帰り折衝でありますとか、鑑定機関の紹介とか、そういった協力も行っていくこととしたいということでこの問題に取り組みたいと思っておりますので、御理解いただきたいと思います。

○朝日俊弘君 ありがとうございました。以上で質問を終わりますが、ぜひ二点だけ。
 一つは費用負担の問題、それから方法論として、仮にできるようになるまでの経過的措置として、つまり焼骨をする前に何らかの形でサンプルを残しておくことができないのかという問題を含めてぜひ御検討をいただきたい、このことを要望申し上げて、質問を終わります。
 ありがとうございました。

○沢たまき君 公明党の沢たまきでございます。
 私は、旧日本軍の軍人軍属だった在日韓国人の救済措置に関して伺ってまいりますが、提案されましたこの法案には賛成でございますし、朝日先生がちょっと伺ったのに重複してしまうかもしれませんが、伺ってまいりたいと思います。
 昨年の九月二十九日に東京高裁において厚生大臣を被控訴人とした障害年金請求控訴事件の判決に付言された裁判所の所見は、かなり強い調子で行政上の措置の必要性に言及しておりますが、大臣の御所見をまずお伺いしたいと思います。

○国務大臣(宮下創平君) たびたび申し上げておりますように、韓国人に対する補償の問題は、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定によりまして在日韓国人を含めて法的には完全かつ最終的に解決済みと考えておりまして、立法措置を講ずることは困難ではないかなと今考えております。
 なお、今御指摘の東京高等裁判所の判決、これは平成十年九月二十九日のポイントでございますが、これについても援護法の附則で国籍要件をやっていることについては合理性がある、それから国際人権規約に定める平等原則も合理的な理由に基づく法的区分を禁止するものではないというようなことが述べられておった上で、今委員の御指摘のように裁判所の所見として付言をされております。
 その条項には、「援護法の国籍条項及び本件附則を改廃して在日韓国人にも同法適用の途を開くなどの立法をすること、又は在日韓国人の戦傷病者についてこれに相応する行政上の特別措置を採ることが、強く望まれる。」という付言がございますが、立法措置につきましては先ほど申し上げたとおりでございます。
 それからまた、年金受給権の付与というような重要な事項を法律の根拠がなく行政上の措置として行うことは困難でございますので、不適当ではないかというふうに考えておることを申し上げます。

○沢たまき君 もう一つ、サンフランシスコ平和条約発効の際に主権を回復した日本が、同時に在日韓国人などの旧日本軍を外国人とした見解によって、それらの方々は日本国籍と同時に受給の資格も失ったわけですが、当時、在日韓国人でこの対象の方はどのくらいいらしたのか。また、その中で現在生存していらっしゃる方はどれくらいの数になるのか。遺族の方の実態の掌握はしているのでしょうか。

○政府委員(炭谷茂君) さきの大戦における旧日本軍軍人軍属の数は、旧陸海軍の作成した資料、これを私ども厚生省が引き継いでいるわけですけれども、朝鮮半島出身者については約二十四万人となっております。このうち、終戦時の戦没者の数は約二万二千人となっております。しかし、私ども陸海軍から引き継ぎました資料では、戦傷病者の数、現時点での生死、居住地について把握できる資料は保有しておりません。また、被徴用者などの準軍属の方、これが大変多いというふうに言われておりますけれども、これに関する資料は全くございません。
 したがいまして、旧日本軍軍人軍属の現在の状況、先生が御指摘されました事項につきまして、仮に在日の方々に限定したとしても、厚生省が現在保管している資料から追跡する方法はございません。

○沢たまき君 とすると、実態の調査はもうなすすべもなくできないということでしょうか。

○政府委員(炭谷茂君) 残念ながら、現在、私ども厚生省が旧陸海軍から引き継ぎました資料からは実態を把握する方法はございません。

○沢たまき君 野中官房長官が三月九日の衆議院の内閣委員会で、我が党の河合正智衆議院議員の質問に対して、何らかの援護措置が必要である、また午後の記者会見でも、韓国政府ともよく話し合い、可能な限り解決に努力したい、現内閣の大きな責任だと述べていらっしゃいますが、宮下厚生大臣は、先ほどもちょっと伺いましたけれども、どう受けとめていらっしゃるでしょうか。

○国務大臣(宮下創平君) 先ほど、冒頭に朝日委員の御質問にお答えしたとおりでございますけれども、官房長官としてはこの問題を戦後残された大きな問題の一つとしてとらえまして、人道的、国際的な立場に立って、政治家としての使命感によるお気持ちを率直に述べられたものだと私も受けとめさせていただいております。
 そして、この問題は法的には、今申しましたように、完全かつ最終的に解決済みとなっており、援護法の国籍要件を見直すなどの措置を講ずることは困難であると考えておりますが、また先日の予算委員会での総理の御答弁もございますが、この問題は直ちに解決することは難しい、しかし勉強はさせていただきますという御答弁でございまして、外政審議室を中心にお取り組みをいただけるということでございますので、厚生省として外政審議室の方で呼びかけがあればそれに応ずるということはもう当然のことだと存じます。

○沢たまき君 東京高裁の裁判所の所見は、国家間では補償問題は解決済みといっても、現実には旧日本軍の軍人軍属だった在日韓国人の方には何の補償もなされていないという事実に対して、提訴するに至った心情については十分理解できると述べています。しかも、在日韓国人の方は日本の三十五年間にわたる植民地支配の中で、日本に定住し、その中で徴兵されて、母国のためではなくて日本のために戦地に赴き、その上で恩給法、援護法の対象にならないという二重、三重、それ以上の屈辱を受けているわけです。
 裁判所の所見は、「日韓両国の外交交渉を通じて日韓請求権協定の解釈の相違を解消し、適切な対応を図る努力をするとともに、援護法の国籍条項及び本件附則を改廃して在日韓国人にも同法適用の途を開くなどの立法をすること、又は在日韓国人の戦傷病者についてこれに相応する行政上の特別措置を採ることが、強く望まれる。」としておりますが、官房長官はこのことを政府として重く受けとめて、信念を持って記者会見までされたのではないかと思います。
 私は、河合代議士に対する官房長官の答弁を読みまして大変に感動いたしました。まさに人間味あふれる政治の英断であると感じ入りました。
 昨年、韓国の金大中大統領が来日されて国会議事堂で演説されました。その際にも、二十一世紀において日本と韓国の新しい友好関係の幕あけを希望される内容に、私たち国民もまた韓国の国民も大感動を覚えたわけでございます。それは、日本と韓国は千五百年以上に及ぶ交流の歴史があり、日本と韓国は徳川三百年の鎖国時代さえも頻繁に往来しました。我々両国がよき隣人、よき友人として手を握り、二十一世紀を開拓していくのに克服できない障害はありません。千五百年にわたった日韓交流の歴史が我々を見守っています。また、世界化を志向する我々みんなの未来には、両国国民の厚い友好と親善が待っていることでしょうと、二十一世紀に新しい日本と韓国の友好交流の歴史を築かねばならないとの思いがひしひしと伝わってくる演説でございました。
 歴史をさかのぼれば、韓国は日本にとって文化、農業、それから技術の面で大恩人の国であります。野中官房長官も御答弁の中で、新しい歴史を迎えるに当たって、やはり何としてもこういう問題を処理しておかなくてはいけないという私に使命感のようなものがあると述べられておりますけれども、このことはまさに金大統領と心を一にした日韓友好の思いではなかったかなと思っております。
 厚生大臣の御見解を、二十一世紀の日韓関係のあるべき姿についてどうお考えなのかお伺いしたいし、また、在日韓国人の救済の方法があるとすればどういう方法があるか、あきらめずに解決を図るためにはどこまでも研究していくべきではないかなと思いますので、御所見を伺いたいと存じます。

○国務大臣(宮下創平君) 小渕総理大臣が三月十九日から二十一日まで韓国を訪問されました。そして金大中大統領と会談されました。その結果もきょう閣議で報告されましたけれども、それによりますと、日韓二国間関係につきまして、両首脳が昨年十月に署名されました日韓共同宣言及びその附属の行動計画が着実に実行に移されていることを確認し合い、これに満足の意を表明されたようであります。
 なお、対北朝鮮政策では、小渕総理から、金大中大統領の包容政策を支持するとともに、両首脳間で日韓米三国の緊密な連携が重要であることにつき意見の一致を見ましたということでございます。また、金大中大統領とともに北朝鮮に対しまして和解と交流を目指した対話の扉を開くように呼びかけたということであります。
 今回の訪問によりまして総理と金大中大統領との個人的信頼関係は一層強固なものとなりました。また、首脳会談において過去の問題は取り上げられず、未来志向の日韓友好協力関係はさらに前進したものと言えますという報告をいただきました。
 今、委員のおっしゃられるように、日韓両国の歴史的な長い関係、そしてまた植民地支配というようなこともございました。特殊な関係にございます。また、日本と非常に一衣帯水の間にもある朝鮮半島でありますから、我が国としてはこの交流というものは今後も継続し強化していかなければいけないと。
 なお、北朝鮮と韓国との関係が非常に円滑裏に統合その他合意されることが望ましいということは紛れもない事実でございまして、我が国としてもそういった方面で努力をしていかなければならないと思います。
 一方、今問題にされておりますこの国籍条項につきましては、長い歴史といいますか長い検討を経てこの結論を得たわけでございまして、私としては、今直ちにこの立法措置を変えるというのはいかがかなというように思っております。
 なお、先ほど申しましたように、外政審議室を中心にいたしまして、官房長官の指示によって勉強会をするということでございますので、厚生省としてはこれに協力をしていくという立場でございます。

○沢たまき君 小渕総理大臣が訪韓されたのでそのことを伺おうと思ったのですが、お答えをいただいてしまいましたので結構でございます。
 しかし、なるべくならば、法律がございましょうけれども、人間としてのこの心情はよくわかると裁判所もおっしゃってくださっております。私は、二十一世紀こそ人権そして平和の世紀だ、それを目指すべきだと思っておりますので、国民から負託を受けて選ばれた我々が自分自身の心の中に人権問題と平和というのを一人一人が強く思わない限り前進をしないと思っております。
 どうか、勉強会というのがございましたけれども、もう一歩進んで検討会というのを政府の中におつくりいただけないかな、そういう傾向はおありかどうかも最後に伺わせていただいて、質問を終わらせていただきたいと思います。

○国務大臣(宮下創平君) 沢委員から大変貴重な御意見をちょうだいいたしました。
 私どもとしても、当然そういうことを配慮しながら過去の積み上げをしてきたわけでございますが、なおその基本は失わないように今後とも検討していかなければいけないというように思っておりますから、外政審議室の検討にも参加をさせていただいて、どういう結論が出るかはともかくとして、この問題に取り組みはさせていただくつもりです。

○沢たまき君 ありがとうございました。質問を終わります。

○井上美代君 日本共産党を代表いたしまして質問をいたします。
 先ほど出されました戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案は、戦傷病者や戦没者の遺族などへの障害年金や遺族年金等の額を恩給法の改正による引き上げに準じて引き上げるものであり、賛成をいたします。
 この援護法による障害年金や特別弔慰金支給などについての改正案の審議に当たりまして、私が問題にしたいのは、第二次大戦で亡くなられた犠牲者の遺骨収集の問題で、先ほど戦没者数そしてまた遺骨送還数や残存遺骨数などについては既に答弁がされました。
 今日までもう既に戦後五十四年過ぎております。しかしながら、約半分しか遺骨の収集ができていないということについて、何としてもこれを、御苦労は多いと思いますが、やっていくということが非常に大事ではないかというふうに私は考えております。出ている数字は、大変な努力の中でやられたとは思いますが、極めてまだ遺憾な数字であるというふうに思うわけなんです。
 私は、国民福祉委員会の委員になってからこれらのいろんな関係資料を読ませていただいたり、数字についても見せていただいて、本当に驚き、そしていまだ第二次大戦が終わってはいないんだということを改めて感じているところでございます。遺族年金を支給するだけではなくて、遺骨収集をやり切って、そして遺族の方々に届け切るということが大変重要なのではないかということを非常に強く感じてまいりました。
 これまでの厚生省の努力は大変私は貴重なものがあるというふうに思いますが、不十分な点もまだあるのではないかというふうに思うものですから、私は、今この収集につきまして予算がどういうふうにつけられているのか、また収集体制がどのようになっているのかということをまずお聞きしたいと思います。

○政府委員(炭谷茂君) まず、遺骨収集の予算額でございますけれども、来年度の予算額は四億二千六百万円余りというふうになっております。
 この遺骨収集につきましては、私ども社会・援護局の職員が直接出かけております。したがいまして、特に今年度の例をとりますと、旧ソ連の地域について相当大規模な遺骨収集をやりまして、従来の約三倍程度の成果を上げております。
 したがいまして、その職員は、ほとんど女子の職員まで非常に気象条件の悪いところまで出ていただくということで、援護の職員が総がかりでやっているという事情でございます。中には、向こうで病に倒れまして、ヘリコプターで救急で運んで、こちらの国際医療センターに入院していただくという残念な一例もありましたように、大変私ども援護の職員は長期間にわたりまして努力をしているということをまず御理解いただきたいと思います。
 それとともに、遺族関係者、遺族会並びにまた学生のボランティアもこれに参加していただいておる、非常に活発な参加をしていただいております。そういうこともあわせまして、官民の相協力した体制で臨んでいるということを御報告させていただきたいと思います。

○井上美代君 私は、遺骨収集に関連して、旧日本軍が玉砕をいたしました硫黄島に絞って質問をさせていただきます。
 硫黄島は、小笠原群島の一つで、昭和二十年三月、第二次大戦末期の激戦地となって、そして玉砕の島として私たちは知っております。現在、米軍と自衛隊の基地になっておりますこの硫黄島では、戦死者、遺骨送還の数そしてまた残存遺骨数はどうなっておりますでしょうか。

○政府委員(炭谷茂君) 硫黄島につきましての戦没者の数は二万百人と把握いたしております。現在のところ、約八千柱の遺骨を収集して今日に至っております。

○井上美代君 硫黄島でも残存遺骨数は一万七十体ということですので、半分以上まだ残っているということになります。
 硫黄島の遺骨収集の体制や、また作業、そして島の中の収集場所、それがどういうところになっているのかということをお聞きしたいと思います。

○政府委員(炭谷茂君) 硫黄島は激戦地でございまして、実際に御遺骨があるところは深いざんごうとか非常に発見しにくいところにあるという状況のところが多々ございます。そのような状況で遺骨収集が困難をきわめているわけでございますが、やはり今先生が御指摘されましたように硫黄島の遺骨収集はまだ半分にも及んでいないというのが事実でございますので、私どもはこれに相当力を入れていかなければいけない。特に、先ほど私は南方地域については遺骨収集はおおむね終了したというふうに申しましたけれども、この硫黄島については例外だろうというふうに思っております。
 今年度の例をとりますと、私ども、事前にどのようなところに遺骨があるのか、その埋没した地下ごう等の調査をまず三週間行いました。その後、おおむね見当をつけまして四週間、一カ月にわたりまして厚生省の職員を六名派遣し、またこれに旧硫黄島の島民の方々の御協力、また自衛隊の方々の御協力も得まして相当の成果を上げております。
 ちなみに、平成十年度の収集いたしました遺骨は四十九柱でございまして、昨年度は十一柱、平成八年度は二十六柱、平成七年度は十六柱という状況でございますので、私ども、今年度は相当努力をしたというふうに考えております。もちろん、これからもさらに力を入れていかなければいけないというふうに考えているわけでございます。

○井上美代君 平成十年度が四十九柱ということで、大変頑張って御努力しておられるのはわかります。
 平成十年から米軍の基地の調査が始められているということで、ごうも見つかっているということを聞いております。また、自衛隊の基地の中は防衛庁から遺骨が見つかったというときに収集というようになっているようで、基地の中の情報というのはほとんどとれなくなっているということです。
 資料の最初のところに硫黄島の地図を入れてあります。右上の方が米軍基地です。あとずっとありますが、これが自衛隊の基地です。島全体が基地になっております。
 生き残った人の証言などに基づいて収集することもほとんどなくなっているようなんです。硫黄島の遺骨収集が始められたのは戦後七年たってからですが、あの島は、今御説明もありましたように、ごうに立てこもって戦ったわけです。ごうに入らなければ遺骨収集はできないわけなんです。そのごうも、基地をつくるときにブルドーザーで削られ、そして今コンクリートで固められ滑走路の下に埋められてしまっている。だから、残る一万以上の全部の遺骨を収集しようと思えば、基地をなくすということなしに遺骨を収集することはできません。
 そもそも最初から、玉砕の島に基地などがつくられたということ自身が問題であったというふうに思います。この間の遺骨収集についても、もっとやはりこの玉砕の島の硫黄島について真剣に考えていかなければいけなかったのではないだろうかというふうに思います。今はソ連も崩壊したのですから、それを無視して基地が強化されているところに問題があるのではないかというふうに私は思っております。
 基地によって日本の平和と安全を守るということを言っているんですけれども、昭和三十年六月につくられました陸上自衛隊幹部学校の「戦史 硫黄島作戦 講義要綱」というのがあるんです。資料の二枚目に表紙を入れておきましたけれども、これがその実物です。(資料を示す)
 この要綱の中を読みましたけれども、これは陸上自衛隊が硫黄島の戦争の戦訓を勉強するためにつくられたものなんです。敗戦十年後に講義要綱にして戦訓を教えているということに私は驚いております。遺骨収集もしないうちから戦争の教訓を生かしているのは本当にびっくりです。私は本末転倒ではないかというふうに考えているんですけれども、いかがお考えになりますでしょうか。
 この本の最後の付録のところに地図が出ているんです。この地図を見ますと、旧軍の部外秘になっている資料なんですけれども、全島要塞の塊であるこの島が米軍のB29のじゅうたん爆撃で一木一草までなくなっても、生き抜くためにアリの巣のように穴を掘ったということがわかります。
 その距離がずっと書いてあるんですけれども、これは皆様方のお手元の資料には入っておりませんけれども、生息用が十二・九キロ、そして交通路が三・二キロ、陣地が一キロ、貯蓄庫が〇・九キロ、総延べ十八キロというふうに書いてあります。この坑道の中には、爆弾や機関銃などでやられて死んだ方もいらっしゃるんですけれども、多くは地下ごうに閉じ込められて、地下からの硫黄の熱気の噴き出してくる中で蒸し焼きになって亡くなられた人もたくさんいらっしゃるということです。
 この島の遺骨を収集せずして、戦争が終わったとは言えないと私は思います。これをどうしても掘り起こすべきだというふうに思うんです。この基地を撤去してでも遺骨を収集していくということが今の私たち残された者に課せられた仕事だというふうに私は思いますが、大臣、戦争の体験も持っておられる大臣です、どのようにお考えでしょうか、ぜひ聞かせてください。

○国務大臣(宮下創平君) 私も、防衛庁長官をやりまして硫黄島をつぶさに拝見させていただきました。当時の激戦、これは極めてもう島全体が、本当に日本兵それから米兵が恐らく立錐の余地もないくらいじゃなかったかなと想像されるくらいの激戦地でございました。私も、摺鉢山等のざんごうその他の跡も拝見をいたしましたが、主としてそちらに非常に多くの戦没者がいらっしゃるというようなお話もお伺いしました。
 全体として、どのような状況で御遺骨があるかという点は必ずしも明確ではございません。しかし、硫黄島がそれだけの激戦の地でありながら、同時に我が国の防衛にとっても必要な地域であることは変わりないわけでございます。その後、自衛隊の基地もつくられ、そして現在は、特に厚木のNLPの関係の演習を、一千キロ離れておりますけれども、我が国としてはそちらでなるべくやっていただけるようにということで準備をして、いろいろの防衛上の需要を満たしておるということでございます。
 御遺骨については、これは祖国にとにかくお迎えするというのは国の責務でございますから今後とも続けてまいります。特に、硫黄島におきましては航空基地等の滑走路もございますので、その下がどのような状況になっているかということはなかなか今知る由もない点がございますが、いろいろ改修その他の機会には防衛庁の協力も得て、御遺骨の発掘といいますか、我が国へ戻す、故国へ戻すことを努力させていただきたいと思います。
 なお、今援護局長の言われましたように、かなり相当力を入れて、ここには厚生省の職員も七週間に及ぶ駐在もしております。それからまた、自衛隊の協力も非常に厚いというようにお伺いしておりますので、今後ともそういったことを踏まえながら、基地の機能も維持しながら、同時に、まだ半分以上残されておられるわけでありますので、さらに一層努力をしていきたい、このように考えておるわけでございます。

○井上美代君 今、大臣の答弁の中にもありましたように、この島が今NLPの基地になっておりまして、ソ連も崩壊した今、この基地が共同演習によって強化されているという問題については、私たちとしては本当に許すことはできないというふうに思っております。
 私、「總員名簿」というのを資料の三、四に入れてあります。これを見ますと、この中には「身上調書」などもありまして、茨城県で農業をやっていた笹目敬さんだとか、秋田県で農業をやっていた大場さんだとか、茨城県で理髪業をやっていた木村倉次郎さん、これは資料に入っております、そういう人たちがいらっしゃるということがわかります。
 また、別の資料があります。これは資料にはしてありませんけれども、「中隊家訓」、それから「敢闘の誓」とか、この中身を見ますと、「敢闘の誓」には「我らは全力を奮って本島を守りぬかん。」とかといって七つの項目の誓いがあります。このように、やはり最後まで戦い抜いて玉砕していかざるを得なかったという、その遺品から玉砕の生々しさというのが伝わってくるような中身があります。
 私は、資料の六にはがきを入れました。これは全くばらばらになっておりまして読めないんですが、そのばらばらのはがきを組んでみますと、判読できるのが川口金吾さんあてのものなんです。差出人に館という字が残っているのが見えると思いますが、館で全国の地名を探しますと函館しかないんですね。だから、私は北海道庁に電話をして硫黄島で戦死した川口金吾さんという人がいるかを調べましたら、確かにいらっしゃるということだったんです。その人は海軍上等水兵で、本籍は函館市の堀川町だと。そして、生年月日も明治四十二年五月二十一日生まれだと。遺族も、フチさん、息子さんの進さんがいらっしゃるということがわかりました。
 それで、総務庁恩給局に事前に調査を依頼してあるんですけれども、何か手がかりがあったかどうか、そして、手がかりがあったとすれば、私は進さんに手元に持っております遺品を返したいというふうに思っているんです。だから、ぜひ住所を調べてほしいというふうに思います。
 時間がありませんけれども、私はこうした貴重な遺品が十分調査もされずにいとも簡単に捨てられているのなら、これは重大なことだというふうに思っておりまして、これら貴重な遺品は日本にやはりきちんと持ち帰って、人も予算もつけて整理して遺族に返すのが筋ではないかというふうに思っております。出てくるのを待っていたのでは遺品を遺族に戻すことはできません。
 そういう意味で、最後に大臣の答弁を求めまして、私の質問を終わらせていただきたいというふうに思います。

○国務大臣(宮下創平君) お尋ねの遺留品の返還につきましては、誠意を持って遺族に返還できるようにすることが何よりも基本的に重要なことだと考えておりますので、所要の調査等を進めてまいります。
 今後とも、遺留品につきましては、当局で保管している資料などをもとにいたしまして当該遺留品を所持していた者の氏名などの特定を急ぎまして、そして返還できるものは御遺族のもとにお届けしたいというふうに考えております。

○井上美代君 恩給局にもお願いをしてありますので、答弁をお願いします。

○説明員(黒羽亮輔君) 先生からそのような御質問があるということで恩給局の方に保管しております過去の資料について調べてみましたところ、確かに昭和三十年代におきまして、お尋ねの方と思われます川口金吾さんという方、この方の次男の方、またその方が成年に達せられた後には次女の方が公務扶助料を受給されていたという事実を確認しております。ただ、現在は川口金吾氏の御遺族で恩給受給者の方はおられません。
 住所の方でございますけれども、私どもが保管してございますのは昭和三十年代の恩給請求時の資料でございまして、住所につきましてもこのときの住所がございます。ただ、個人情報でもございますので、この場でその当時の住所を公表するというのは御勘弁いただきたいと思います。

○井上美代君 ありがとうございました。質問を終わります。

○清水澄子君 社民党の清水です。
 本法案に賛成の上で、私も在日韓国・朝鮮人の元軍人軍属の救済について質問をさせていただきます。
 第二次世界大戦中、旧植民地出身の日本軍軍属は、日本人兵士と同様に砲弾にさらされて戦死をしたり、または負傷しました。戦後、サンフランシスコ平和条約の発効によって、政府は本人に国籍の選択の余地を与えることもなく一方的に日本国籍を奪ったわけです。そして、平和条約の発効後二日後に施行されました援護法において、在日韓国・朝鮮・台湾人が国籍条項あるいは戸籍条項の対象から外され、その後、一九六五年の日韓請求権協定によっても両国の解釈の違いが今日まで続いていまして、この人たちは法の谷間に放置され今日まで救済されることがございません。同じ戦場で負傷した日本人の元軍属の場合は、今回の援護法の改正によりまして、公務障害第一項症の例を見ましても、五百七十万九千円の障害年金となるわけです。旧植民地出身元軍属はこの場合も何らの補償がないわけです。しかし、この人たちはずっと戦後も日本に永住して税金を納めている在日韓国人元軍属であるわけです。
 私は、こういう人たちに対して、日本政府は人道上あるいは道義の面からも何らかの補償措置を実施するということを強く求めたいと思います。
 そこで、内閣外政審議室の方に伺いますが、先ほどから出ておりますように、三月九日の衆議院内閣委員会などやそれから記者会見、または参議院の予算委員会等で野中官房長官が非常に前向きな発言をされているわけです。しかも、二十一世紀の問題は今世紀を締めくくる年において人道的、国際的配慮から考えなきゃいけないという、私はそのお考えを心から歓迎したいと思います。
 特に、十六日の参議院予算委員会では内閣外政審議室に検討を指示したと発言をされていらっしゃるわけですけれども、外政審議室としてはどのような指示を受け現在どのような作業をされておられるでしょうか。

○政府委員(登誠一郎君) 先般の委員会における官房長官の答弁を受けまして、官房長官の方から私どもの方にこの問題を、今、先生も御指摘になりましたけれども、人道的、国際的な立場から果たしてとり得る措置があるのかないのかについて改めて検討するようにという指示がございまして、今その検討に着手しているところでございます。
 その検討の内容は、先ほども触れさせていただきましたけれども、関係省庁と緊密な連携を図りつつ、改めてこの問題に対処するに当たっての種々の問題点について勉強しておるところでございます。例えば、現在の法制度がどうなっているのか、あるいは戦後処理の枠組みとの関係、さらにはこの対象国は韓国でございますので、韓国の国内でどういうような措置がとられており、また韓国政府が現在どういうような立場をとっているのか、そういう点も踏まえました上で、何か可能なことがあるのかどうかということを改めて検討するということで勉強させていただいているというところでございます。

○清水澄子君 済みません。時間がありませんので、ぜひ外政審議室では、過去日本赤十字社の従軍看護婦の皆さんが、公務員ではなかったわけですけれども、恩給制度を準用して軍人に準ずる行政措置が行われた経緯があります。こういうような例も何ができるかという面でぜひ御検討いただきたいと思います。
 ちょっと御答弁いただかないで次に行きたいと思います。
 厚生大臣、銃撃で右腕を切断された在日韓国人の石成基さんが援護法に基づいて厚生大臣に障害年金を請求した控訴審判決では、東京高裁は昨年九月二十九日に請求を棄却したわけですけれども、立法措置とともに在日韓国人の戦傷病者についてはこれに相応する行政上の特別措置をとることが強く望まれると付言を行っております。戦後補償の裁判で、これほど明確に特別の行政措置をとることが強く望まれるとした判決は初めてであったと思います。それまでは違憲の疑いとか立法措置に言及した判決はあったわけですが、そういう意味でも私ども立法府の国会議員としての責任を感じているわけです。
 厚生大臣、この問題の担当大臣として、先ほどからいろいろお伺いしていますと、専ら防戦的な姿勢でいらっしゃると思うんです。年金は行政措置ではできないと発言されておりますが、それならば特別の救済のための法律をつくればいいわけでして、それはやるのかやらないのか、そこにやはり姿勢の問題、心の問題があると思います。例えば、フランスでは同じようなセネガルというフランス植民地時代の兵士の年金について、国連人権規約委員会にこれが訴えられて勧告がされたわけですが、それはフランスの兵士と同じような待遇をしているわけです。
 ですから、私は、政府も従来の法律や協定の枠組みのみを説明したりこだわっているのではなくて、やはりこれは非常に大きな人道上の問題であると思います。だから、何らかの救いの手を差し伸べる、それが私は正義であると思うわけです。
 もう戦後五十年以上もたって、この人たちが本当に日本軍人として召集され日本軍属として戦場で同じ日本人として戦ったわけですから、この人たちにぜひ大臣、何らかの救済を検討してみるというお答えをいただきたいと私は思いますが、よろしくお願いいたします。

○国務大臣(宮下創平君) 今朝来、朝日あるいは沢委員の方からも御指摘のあった点でございますが、そのとき申し上げましたように、私どもとしては、この国籍要件の問題は四十年の日韓請求権・経済協力協定によりましていろいろ議論の末確定したものでございまして、その後それに基づいて対応しております。
 一方、今御指摘のように、石成基さんの訴訟問題も起きまして、平成十年九月二十九日に東京高裁判決が出されました。国籍要件につきましては憲法十四条との関係では問題ない、これは支障はないということがはっきり断言されておりますし、また、国際人権規約による平等原則も合理的な理由に基づく法的区分を禁止するものではないのでこの点も問題ないということを述べた上で、なお付言として、今委員のおっしゃるように審理結果に基づく裁判所の所見を述べられております。
 これは、確かに高等裁判所の判決としてはそう数多くはないと私も思います。しかし、立法措置を講ずることにつきましては、私は今現在援護法の所管大臣でございまして、こうしたいろいろな過去の経緯それから国際交渉、そうしたものを踏まえて結論を得ており、基本的に高等裁判所もこの立場を認めておるわけでございますので、法改正はただいまのところ考えておりません。
 なお、法律によって国籍条項が合法化されておりますれば、それに基づく戦傷病者等についての年金支給等の問題も行政措置ではもちろんできませんので、こうした点は私も今特に考えておりませんが、ただ一方、野中官房長官の発言もあり、総理も、当面これを処理することが困難である旨を述べられた上で、なお勉強してみたいというような御発言が予算委員会の総括質疑でもございました。
 そういうことでございますから、今外政審議室長の言われたとおり、関係各省で検討を始めるということであれば、厚生省としても当然これは加わっていろいろの諸問題について討議をしていただくというのは当然だと存じます。

○清水澄子君 先ほど日韓共同宣言を含めて金大中大統領が日本に来られたときのごあいさつの問題など出ておりましたけれども、あのとき金大中大統領は、自分の方からはこれから過去の歴史については言わないと言われたわけです。そうすると日本人は、ああもうこれで終わったんだという受け取り方をしているというのは実に私は貧しいと思います。
 それは、私は金大中大統領とよくお会いしているわけですけれども、いつも私におっしゃるのは、これは日本自身が考えることである、こちらが言うことではないのだと。日本自身が自分で、自分たちの過去の問題についてどのような姿勢でどういうふうに解決していくかというのはあなた方自身の問題だからこちらは言わないと言っているだけだ、こういうことを言われます。ですから、これの方がもっと強いです。非常に厳しいです。
 ですから、何もおっしゃらなかったからもうこれで終わりというのではなくて、私たちが過去、韓国それから朝鮮半島の皆さん、台湾の皆さんもそうでしたけれども、植民地にして日本人という国籍まで与えて日本人として徴用したわけです。ですから、この問題については私たちが、今までの戦後の法律は確かにいろいろ問題があります。このことの議論は、私はもっと本当は討論するなら本格的に討論したいぐらいこの問題については随分研究もしました。だけれども、もう今その問題ではなくて、どのような解決の道があるかということをやっぱり現実に生きている人が、そうしてその人たちはそのまま非常に無念の中で日本で暮らしておられるわけです。それが、どんどん亡くなっていっているわけです。
 ですから、私は、一番の厚生省の心配は、むしろこの人たちを本当は救済したい、しかしこのことをやれば他の戦後補償問題に波及するのではないかというのが本心なんだろうと思うわけですね。でも、私は、一つでもやはり真摯に解決していくということが非常に必要なんじゃないか。特に、この元軍属の方々は七十歳を超えた高齢の方が多いわけですね。ですから、毎年亡くなっておられますから、私は一日も早い日本の良心的な、私たちもこういう努力をしましたというものを見せていきたいと思いますし、ぜひ、それは大臣が一番この担当でございますのでお願いをしたいと思います。
 政府は、難民条約を一九八二年に批准しました後、難民条約では国民年金や社会保障について内外人平等の原則ということがありますから、在日の方々や外国人も条約の批准によって年金を受けられるようになった、社会保障の権利を獲得したわけですね。そういう意味でも、やはり私は援護法についてももっと工夫をして、そしてこの人たちの心の傷といいますか、それをぜひ解消していただきたいし、私たち議員の方も努力していきたいと思いますので、ぜひ私は大臣にもう一度本当の本音で発言していただきたい。
 外政審議室が今後いろいろ作業されるときに、やはり積極的に問題提起、それからいろんな、数は把握していないとおっしゃいましたけれども、召集をしているわけですよね。あるものは大部分持っていらっしゃると思うんですね、ないものはしようがないんですが。しかし、それにはやはりこちらが誠意を持って、こういう解決をしたいということで呼びかけるならば、それはまた私たちの心は在日の皆さんたちに伝わるものと思います。しかし、そんなに大勢おりません、もうみんな亡くなっておりますから。
 ですから、大臣、最後にもう一度この問題に真剣に取り組むという御所見をいただきたいと思います。

○国務大臣(宮下創平君) まず、難民条約との関係でございますけれども、援護法による援護というのは、申し上げるまでもなく、軍人軍属等国と雇用関係にあった者が戦争、公務等により受傷、死亡した場合に、国が国家補償の精神に基づいてやるものでございまして、難民条約における国民年金や児童手当のように、公的な扶助及び援助等、難民条約にも規定されております社会保障に該当するものではございません。その区別ははっきりあるということをまず申し上げさせていただきます。
 そして一方、援護法による援護の問題は軍人軍属の中の軍属等を主体にしておりまして、軍人の処遇に関しては、恩給法というのが戦前からの法律で戦後復活したわけでございまして、それにおいても国籍条項等が同様に付されておるわけでございます。
 こうした問題は、確かにいろいろ委員の指摘されるように問題が提起されることは私も承知しております。台湾の問題も私も関与いたしまして、あの二百万円の給付等は、当時の日中の関係では非常に困難であるということで給付を決定させていただいた議員連盟の一人でもございます。そういうことでもございますが、本件は大変人道上あるいは国際的な問題が確かにございますけれども、私は援護法の今の主管大臣としては非常に消極的過ぎるとか否定的なニュアンスが強過ぎるとおしかりを受けておりますが、私としてはこれを守っていくという立場に変わりはございません。
 ただし、先ほど来申しておりますように、外政審議室におきまして万般の問題があると思います、これは。そういった問題を含めて御検討なさるということであれば、私どもとしてこれに参加して、そして意見を述べるということは当然あり得るということだと存じます。

○委員長(尾辻秀久君) 速記をとめてください。
   〔速記中止〕

○委員長(尾辻秀久君) 速記を起こしてください。

○堂本暁子君 ちょうど私、北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国から三日ほど前に帰ってきたところでございますけれども、三回ほどピョンヤンを訪ねて、今度で四回目になりますが、今回は反日感情が極度にひどくなっているというか悪くなっている状況でした。植民地時代にさかのぼってというか、植民地時代にオーバーラップしてそういった反日感情が盛り上がっているように思います。植民地支配を忘れていない、忘れようともしないという状況、これは日本にいては想像のつかない状況、向こうの指導者だけではなくて生活者の中にそういったものがあるということは行ってみないとわからない部分だというふうに思っております。
 戦後被害に関する補償ですけれども、未解決の部分がここにあるということも、この質問をするに当たって改めて感じております。国交正常化が急がれますけれども、まだ国交が回復していないので、具体的な対応については多分厚生省としても特にこの援護法の問題ではなかなか御発言できないかなと思うんですけれども、もし大臣に個人的な所見でもおありになれば伺いたい。
 それから、あえて外政審議室に残っていただきましたのも、そういったところまで今回調査をなさるというか検討にお入りになるのであればお考えなのかどうか伺いたいと思ってお残りいただきました。

○国務大臣(宮下創平君) 朝鮮半島出身者の財産とか請求権問題につきましては、もう言うまでもなくサンフランシスコ平和条約におきまして、我が国とこれら地域の施政当局との間の特別取り決めにより解決するということが決められておりまして、韓国につきましては、たびたび申し上げておりますように、四十年の日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みと、これは条約にも明記されております。
 一方、北朝鮮につきましては、まず国交正常化の問題がございます。国交が正常化することは我が国として大変望ましいことでございますが、相手がありますことでありまして、なかなかそれが進んでいないという状況だと理解しておりますが、国交が正常化されれば、サンフランシスコ平和条約におきまして特別協定を締結することでこれらの問題が韓国と同様に解決されることになるのではないかというように考えております。

○政府委員(登誠一郎君) ただいま厚生大臣から御答弁がございましたとおりでございます。
 一点だけ補足させていただきますと、北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国に対しましては、重ね重ね小渕内閣総理大臣ほかから国交正常化に前向きに対応するようにと呼びかけておりますので、正常化交渉が行われましたときにはこの問題を含めてあらゆる問題について意見交換をするということになろうと思います。
 先ほど来御答弁申し上げております援護法、恩給法の国籍条項との関係におきましては、これは韓国との間では、先ほども申し上げましたけれども、六五年の日韓基本条約で完全かつ最終的に解決済みというのが日本政府の立場でございますが、その中でさらに何ができるのかということで検討しているわけでございます。
 したがいまして、韓国出身の方の場合といわゆる朝鮮半島の北の方の御出身の方との対応は、この問題を扱うに当たっても違うかと思います。しかしながら、先生も御指摘の北側の問題についても、この問題解決に当たっては常に念頭に置いていきたいというふうには考えております。

○堂本暁子君 四十年の日韓協定が土台になっているわけですけれども、問題は、協定の内容が個々人の請求権を放棄するという内容だったために、今までの御質問の中でるる問題になっているような個人としては戦地に赴いた方たちが何ともやりきれないと申しますか、一つの差別を感じておられるのだと思います。
 法律的にはそういう仕切りになってきているわけですけれども、野中官房長官の御答弁はそういった意味で、二十世紀中に何とか、それは超法規的なのか、それともどういうことができるのか大変難しいとは思うんですけれども、近隣諸国との信頼醸成、それからアジアの平和というところまで考えますと、私は特に日本に滞在している方については何らかの解決があるといいなというふうに思います。
 帰りに中国に寄りましたけれども、中国でも今大変日本に対しての不安と申しますか、危惧が高まっているという時期になってしまいました。大変残念だと思いますが、いろいろな日本の側からすれば北朝鮮に対しては言いたいことも山のようにあるわけですけれども、それなりに両方の状況がこの半年間に極端に悪くなっているという状況、そしてそれに連鎖するような形でやはり中国との関係も大変悪くなっているという状況にあります。
 そこのところでどういう工夫がなされるのか、もう今大体お答えいただいたのであえて質問という形でできるかどうかわからないんですけれども、やはりドイツやイタリーに比べますと、私は日本の戦後処理が果たして的確だったのか、あるいは十分に迅速だったのかという感想をずっとそういうふうに思い続けてまいりました。
 例えば、ドイツやイタリーの場合、植民地から来ていた方については国籍を選択することができた。アフリカの独立した国の国籍を選んでもいいし、イタリーの国籍を選んでもいいというような措置をとったのに対して、日本は、在日の台湾の方や韓国、朝鮮の方たちに対して外国人の扱いをした。これがやはりずっと今まで尾を引いてきて、援護法の問題にも矛盾をはらんでしまったというふうに思います。
 大変に根が深いので、簡単には解決はしない。ましてや大臣のお立場では、この枠を守るとしか言いようがないとけさからずっとおっしゃっていらっしゃいますけれども、そこをどういうふうにやったらいいのかと思うのです。
 一国の安全保障の問題、それから今後アジアの発展の問題、そこまで大きく考えましたときに、私たち政治家としては、また行政府の方も同じだと思いますけれども、今日本は一つの岐路と申しますか、終戦直後から今までの五十年の間、また次の大事な節目のようなところに二十一世紀を前にして立たされているというふうに、特に北朝鮮のようなところとか中国へ行ってそこに身を置きますと、そこから日本を見ますと、こちらの言い分だけではなくて相手の立場に立ってみますと、日本がどう見えているか。やはり日本の方がはるかに大国なので、日本がここはとても大人になって対応していかなければならない時期なのではないかというような感想を持って帰ってまいりました。
 最後に、大臣に御所見が伺えればというふうに思います。

○国務大臣(宮下創平君) 堂本委員が北朝鮮を訪問され、また中国を訪問された生々しい御経験を踏まえての御見解でございます。貴重な御意見として私も感銘深く拝聴いたしました。
 その上で、日本としてこれからアジアの中でどういう立場をとっていけばいいのかということを考える際に、こうした過去の問題が相当なネックになって障害になっているというような事実があれば、これはやはり国際的、人道的な立場でいろいろ検討しなきゃならない点があろうかと存じますが、ただいまのところは私どもとしては、真摯な議論の末、国交回復をやった韓国の問題等でもございますので、こういう立場を貫かせていただいておりますが、なお、官房長官の発言を契機にいたしまして、これからのあるべき姿あるいは検討すべき項目について言及されましたので、外政審議室の方でそういった趣旨を生かされながら、波及の問題等もございますけれども、そういった問題を含めて検討なさるということであれば、私どもとしてもこれに参加をしてまいりたい、こう思っておるところでございます。

○堂本暁子君 ぜひとも、日本の法律家は大変すぐれているので、法律とかシステムを厳密に積み立ててくる国だと思いますけれども、やはり大変難しい国際的な局面に日本が立っているということだけはもうどなたも否定できないというふうに思いますので、そこの大所高所から、あるいは世界の中の日本、あるいはアジアの中の日本という観点から厚生省も外政審議室も対応していただくことをお願いして、質問を終わります。
 ありがとうございました。

○西川きよし君 よろしくお願い申し上げます。
 私の方からは、戦傷病者・戦没者遺族相談員制度についてお伺いをいたしたいと思います。
 来年度の予算ではこの方々に対する謝金といたしまして五千九百万円が計上されております。相談員の業務の内容、本当に大切なお仕事だと思います。いろんなところでいろんな方々が頑張ってくださっているんだなと実感をいたしますが、この相談員の皆さん方はどういうふうにして選ばれるのか、この方々の平均年齢などもお伺いできたらと思います。

○政府委員(炭谷茂君) 戦傷病者相談員、戦没者遺族相談員の業務内容でございますけれども、それぞれの援護制度の給付の受給、また利用可能な社会福祉施設等の紹介、生活上の問題など、さまざまな相談を受け、指導をしていただくということでございます。
 相談員の選定方法でございますけれども、都道府県区域内の住民の中から、社会的信望があり、かつ戦傷病者や戦没者遺族の援護について熱意と識見を有していると認められる方を都道府県知事から御推薦していただきまして、厚生省において決定いたしております。
 相談員の平均年齢につきましては、平成九年十月一日現在で、戦傷病者相談員は七十七・二歳、戦没者遺族相談員は七十三・三歳となっております。

○西川きよし君 来年度の援護関係予算の資料を拝見いたしますと、相談員の方々に対する謝金が二万五千円から二万五千百円に増額とございます。予算の総額は先ほども申しました五千九百万円ということでございます。こうした方々の活動も本当に大切なお仕事だと思いますので、ぜひ勉強させていただきたいということで、回を重ねるごとにどういう視点からお話をお伺いしたらいいのかということを悩むわけですけれども、今回はこれについてまずお伺いしたいと思います。
 そして、国会図書館に資料をお願いいたしましたところ、静岡県と沖縄県の資料をいただきました。それによりますと、戦傷病者の方々に対する相談はもちろんのこと、業務日誌を書いたり、また研修会に参加をされるということで、大変な御苦労をいただいているわけです。
 そうした中で、ただいま平均年齢をお伺いいたしましたら、七十七・二歳と七十三・三歳、いずれも御高齢でございますが、人生の先輩たちがこういうことで大変頑張っていただいておるわけです。本当にお元気で活躍をしていただいていることは結構なことだと思うわけですけれども、その後、後継者の問題などになりますとどういうふうになるのか、それをまた私たちは心配をいたします。その対応策、そしてこの制度について現状の評価と今後の取り組みについてもお伺いしたいと思います。

○政府委員(炭谷茂君) 現在、確かに先ほど私が御紹介いたしましたように、相談員の方々はなかなか高齢化されているわけでございます。
 ただ、相談員の方々は戦傷病者や戦没者の遺族と同様の体験をしており、その心情を身をもって理解できる戦傷病者の方やその奥様、また戦没者遺族自身が熱意と識見の双方の観点から適任というふうなことが多いわけでございまして、結果として相談員の平均年齢が高くなっているということは事実でございます。
 ただ、若い人の中にも、例えば、相談員としての研修会もやっておりますので、これからこのような研修会を通じて援護施策について御理解を深めていただく人が出ればそのような中からもやっていただくというふうなことも結構かと思っております。
 現在の相談員については大変活用されているようでございまして、現在確かに高齢化していらっしゃるというものの、それぞれの方々は心身ともお元気でございまして、熱意を持って職務に当たっていただいているというふうに考えております。
 もちろん資質の向上ということで研修を積んでいただくということも必要でしょうし、また、より適任の人を、これは任期が三年だったと思うんですけれども、より適任者を選んでいくということもこれから努めてまいりたいというふうに考えております。

○西川きよし君 なかなか地味なお仕事ではございますが、厚生省の方からよろしくお願いしたいと思います。
 次に、一つ心配なことをお伺いしたいと思います。
 中国残留邦人等に対する援護施策でございますけれども、まず、今日までの中国の残留邦人あるいは永住帰国者などの概況についてお伺いしたいと思います。

○政府委員(炭谷茂君) 中国残留邦人の方で日本へ永住帰国されました方は、昭和四十七年の日中国交正常化以降の人数で五千九百二人となっております。
 また、御参考までに、日本へ一時帰国した、再び中国へ戻られているわけでございますけれども、一時帰国した方は延べ五千八十一人となっております。

○西川きよし君 年々この中国残留邦人の方々も高齢化が進むわけですけれども、帰国を希望される邦人の方々には万全の援護施策が必要であると思います。そうした中で、偽装中国残留邦人家族の問題が大変大きく報道されております。
 昨年末、あるいはことしに入ってからの報道によりますと、平成九年には大阪入国管理局ですが、八割の在留資格申請が却下されました。あるいは、大阪府内に定住する七千五百人のうち約千人が偽装邦人家族であるということもわかりました。
 こういった内容が報道されているわけですけれども、これまでの状況について、ぜひ法務省にきょうはお伺いしたいと思います。

○説明員(大林宏君) お答え申し上げます。
 大阪入国管理局におきましては、平成八年ころから中国残留邦人の家族に係る入国申請が急増するとともに、偽装日系中国人の実態が明らかとなり、同九年から偽装日系中国人の摘発を開始し、現在に至っております。
 法務省におきましては、かかる事案の発生にかんがみ、厳正な審査を行うよう各地方入国管理局に指示してきたところでございます。
 なお、平成十年における中国残留邦人の家族に係る入国申請に関し、偽装日系中国人であることが判明し入国を認めなかった割合は、全国では約六〇%、大阪入管管内におきましては先生御指摘のとおり約八割に及んでおります。

○西川きよし君 こうした犯罪を防ぐというのは本当に入国管理局も大変だと思いますけれども、よろしくお願い申し上げたいと思います。
 また、その一方で、本当の残留邦人、その家族の帰国までもひょっとすれば影響があるのではないのかなというふうな指摘もされておるわけですけれども、今後、入国管理局ではこの問題についてどういうふうに対応していかれるのか。そしてまた、厚生省といたしましてはこうした犯罪に残留邦人の方々が巻き込まれないように未然にどういうふうにして防いでいかれるのか。大変大切な問題だと思いますが、まず法務省にお伺いして、続いて厚生省にお伺いしたいと思います。

○説明員(大林宏君) 中国の残留邦人の家族呼び寄せの案件につきましては、偽装日系中国人が増加したことにかんがみ、親族からの事情聴取を行い、あるいは保管資料を活用するなどして適正な審査を実施しているところでございます。
  このことが真正な中国残留邦人の家族の入国に及ぶことがあってはならないという先生の御指摘は当然のことでありまして、私ども、今後も適切な対応に努めてまいりたいと考えております。

○政府委員(炭谷茂君) 厚生省といたしましては、中国残留邦人の方々が不法入国事件に巻き込まれないようにするために、一つは、御本人に対しまして、日本にいらっしゃるときにまず文書でこのような事件が頻発しているということで注意を促しております。それが第一点でございます。
 第二点といたしましては、日本にいらっしゃって身元保証人の方、また自立指導員等のお世話になるわけでございますけれども、これらの方々に対しましてもこのような事件に巻き込まれないように注意をするよう、都道府県を通じて指導しております。
 今月も四日に援護関係の課長会議をやりまして、その席上でもこのようなことについて都道府県に指導したところでございます。

○西川きよし君 ぜひよろしくお願い申し上げたいと思います。
 本当に報道等々によりますと、絶対にパスポートを見せない、そしてしゃべらないというようなことの注意事項もたくさん報道されておるわけです。
 戦後、半世紀以上が経過しました。それで、この中国の情報の収集というようなことでも大変難しくなっているということでございますけれども、こうした犯罪が発生する中で、今後の中国残留孤児の肉親調査のあり方を厚生省としてはどういうふうに考えていかれるのか、厚生大臣に最後に御見解をお伺いして、私の質問を終わりたいと思います。

○国務大臣(宮下創平君) 中国残留孤児の肉親調査につきましては、これまで日本に来ていただきまして調査するなど最大限の努力をしてまいりました。しかしながら、今御指摘のように、戦後五十年を経過して関係者も高齢化するなど事実関係の解明等も次第に困難な状況になっておりますので、近年では、こうした事実関係の解明が困難な事例につきましては、厚生省の係官を現地に派遣いたしまして中国当局との共同調査を実施するなど、調査の推進に努めておるところでございます。
 ちなみに、平成十年は六十九人、これは厚生省の係官が参りまして、そのうち二十七人が来日をいたしました。ただ、判明は四名ということで非常に少ないわけです。
 そういった状況にありますけれども、人道上の見地から、中国政府の理解と協力を得ながら、とにかく一人でも多く孤児の方が肉親と再会できるように努めることは私どもの務めでありますので、引き続き努力し調査を継続することといたしたいと存じております。

○西川きよし君 よろしくお願いします。

 第145回国会 参議院総務委員会 第5号 平成十一年三月二十三日(火曜日)午前十時五分開会

【発言順】
 委員      日笠 勝之
 総務庁恩給局長 桑原 博
 総務庁長官   太田 誠一
 内閣官房長官  野中 広務

○日笠勝之君 公明党の日笠勝之でございます。
 この恩給法は百四条あるわけでございますが、一読いたしまして非常に難しい。内閣告示による常用漢字での法律でもございませんし、現代仮名遣いや送り仮名の遣い方でもない。おまけに、百四条あるうちの二十八条分が削除されておる。二八%分である。例えば、第五十一条に褫奪だとか、八十六条に賑恤金だとか、三十八条は今削除されておりますが辺陬だとか、非常に難しい漢字が羅列されておるわけですが、新入職員の方とか恩給法関係に配置転換になった方はどういう研修をされているんでしょうか。

○政府委員(桑原博君) 先生御指摘のように、恩給法は大正十二年に制定されて以来幾度かの改正を経て現在に至っておりまして、大変難解な法律というふうに言われております。
 この法律に基づく恩給事務の円滑な処理のために、都道府県の職員、それから国の職員を対象といたしまして年二回ぐらいの研修をしているところでございます。それでもってすぐ恩給全部がわかる一人前の職員を育成することはなかなか困難でございます。
 ただ、私どもの方は別といたしまして、都道府県とか各省関係の恩給の担当者というのは実は扱う件数が大変少のうなってまいっております。一件一件非常に特殊な事例というのが出てきた場合には個別具体に御相談をいただくということにしておりますけれども、研修では一般的な非常に出てきやすいような手続的なことについての研修を中心として、実務が円滑に進むように事例研究等を踏まえながらかなり初歩的なところの研修を中心として行わせていただいております。

○日笠勝之君 そういう中で、例えば附則の別表にも出てきますが、不具廃疾というような言葉も出てきたり、そういうことに対する疑念は研修を受ける職員の方から全然出てこないんですか、若い人だと思いますけれども、どうですか。

○政府委員(桑原博君) 本音のところでは若い職員もそういうものについてはいろいろ疑念があるといいますか御意見があろうかと思いますけれども、何せ出てくる書類自体大変古い参考資料等を踏まえて出てまいります。したがって、そういうものを当てはめながら仕事をしていくということでございまして、どっちかというと担当の職員は仕事についていくのが精いっぱいといった状況でやっているんではなかろうかというふうに思います。

○日笠勝之君 要は、支給を受ける方は年輩の方が多い。先ほどおっしゃったように平均年齢も相当高い。その方たちがわかりやすいのかもしれません。しかし、それは百六十万人ぐらいの方で、残りの一億二千万の方は、納税者の方は恩給法を見たってどういう根拠法に基づいて支給されているのかわからない。今言ったような不具だとか、ちょっと現代にはなじまないような言葉もばんばん出てきますね。そういう意味では、私は恩給法を全面的にこれは先ほど申し上げました常用漢字だとか現代仮名遣いだとかに合わせた改正をしたらいかがかなと。そして、先ほど申し上げましたように、百四条ある条文のうちの二十七条か八条分はもう削除で、二八%も削除されている法律なんです。
 そういうことで、大体毎年恩給法は改正になる方向でございますから、全面改正を考えるべきである、このことを申し上げたいんですが、長官、いかがですか。

○国務大臣(太田誠一君) 今の御指摘の話は事恩給法にとどまらず、我が国の法律全体について言えることではないかと思います。御趣旨を念頭に置いておきたいと思います。

○日笠勝之君 さて、官房長官にもお出ましをいただきました。先日の衆議院の内閣委員会での在日の韓国、北朝鮮の元軍人軍属の方々の補償の問題でございます。
 官房長官は、答弁を拝見させていただくと、非常に前向き、積極的に、誠実、誠意を持ってお答えなさっておるということはよくわかります。
 そこで、先ほど海老原議員の方からもこれに関して質問が出ましたけれども、恩給法の改正でそういう措置を講じようという長官のイメージなのか、恩給法でじゃなくて特別立法なり何かそういう規定でこれを解決しようとされておるのか、まずその辺のところを官房長官にお伺いしたいと思います。

○国務大臣(野中広務君) 先日来、それぞれ御指摘をいただいております、旧日本軍軍属としてかつての戦争に従事をしながら、なお日韓条約の外に置かれて今日その給付の恩典に浴すことのできない人たちの心情について、それぞれ委員各位から御指摘がございました。
 この指摘を踏まえまして、私どもといたしましては、現在の恩給法等の範囲を超える問題でございまして、このような問題につきましては現在の法の枠をもって措置することは困難だと思いますし、また韓国の方々に対する補償の問題につきましては、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定によりまして、在日韓国人を含めて法的には完全かつ最終的な解決済みということになっておるわけでございます。
 ただ、そういう中におきましても、現実に在日の皆さん方にはその何らの恩典が浴されておらないという状況が現に存するわけでございます。そういう問題につきまして、いつも申し上げますように、一九九九年というこの節目のときに、我々は積み残してきた戦後処理の一つとしてこれをとらまえなくてはならないのではないかということを私は申し上げてまいったわけでございます。内閣の外政審議室において今申し上げたような問題等を含めて検討させておるところでございまして、何らかの方法が講ぜられるよう一層努力をしてまいりたいと考えておるところでございます。

○日笠勝之君 外政審議室の方で検討されているのは、それは恩給法の世界なのか援護法の世界なのか、それを超えた新たな特別立法なり何らかの規定というか措置ということを考えておられるんですか。

○国務大臣(野中広務君) 恐らくそういうことにならざるを得ないと思っております。

○日笠勝之君 これは恩給局の方にお聞きします。
 国籍条項の件ですが、今外国人恩給は四十一名、予算書を見ますと七千三百万円余り計上されています。この外国人恩給というのはまさに国籍条項がないんだと思いますが、きちっと予算にも計上されておりますが、どういう根拠によって外国人恩給が支給されているんでしょうか。

○政府委員(桑原博君) 外国人恩給というのは、恩給法の規定によるものではございません。
 古くは、例えば一般的な言葉で言うと、お雇い外国人教授とか法律顧問とか技師とかいうことでいた方々に対して出されているものでございまして、相当長期間在職をいたしまして功績があった者に対し、内閣総理大臣の決定による外国人恩給規程というものの定めるところによりまして、財政法第十五条に規定する国庫債務負担行為予算により終身年金を給しているものでございます。

○日笠勝之君 ということは、外国人恩給というのは内閣総理大臣決定によってその根拠を見出すことができる、こういう理解ができるわけですね。
 それでは官房長官、恩給法とか援護法でない世界というと、旧台湾の軍人の方の弔慰金もございましたが、議員立法でこれを我々がやるべきなのか、ないしは先ほどの外国人恩給のような内閣総理大臣決定によるべきなのか、こういうことも考えられるわけですが、いかがでしょうか。

○国務大臣(野中広務君) 先ほど申し上げましたように、内閣の外政審議室において、さまざまな旧植民地出身の方々の補償のあり方について、現行の恩給法や援護法の国籍条件を見直すということではなかなか困難ではなかろうかということを踏まえながらも今議論をさせていただいておるところでございます。
 一方、委員御指摘のように、台湾におきます旧日本軍人軍属の扱い等の例も議員立法で行われた経過もあるわけでございますので、そういう方向をお願いしなければならないことにまた私どもも選択肢を求めなくてはならないかもわからないと存じておりますが、今は非常に極めて厳しい状況でございますけれども、何とかこれの救済の道はないかということで審議をさせていただいておる段階でございます。

○日笠勝之君 衆議院内閣委員会は三月九日でございました。
 つい先日、総理が韓国に行かれまして、日韓首脳会談がございましたが、そのときにもし在日の韓国人の方に何らかの補償、特に恩給などの補償ということになりますと、これは韓国政府の合意が要るのじゃなかろうかなと思います。ということで、日韓首脳会談ではこの問題については俎上に上がったのかどうか。
 それから、ちなみにもう一つ、在日外国人の参政権ということで今民主、公明で選挙権付与法を衆議院に提出していますが、この問題と、日韓首脳会談では俎上に上がったのでしょうか。お聞きになっていますか。

○国務大臣(野中広務君) 在日韓国人の方々の地方参政権につきましては、金大中大統領から会見の際に問題提起がされたようでございます。
 総理は、国内においてもその問題について強いお話もあり、かつ韓日の議員連盟の会長からも先般強い要請を受けたところでありますので、自由民主党の中にも諮るようにやってまいりたいというお話をされたと聞いております。
 そのほか、委員今おっしゃいました先ほどの軍人軍属の問題については、私は言及があったようには聞いておりません。

○日笠勝之君 本来ならば、せっかく積極的に官房長官が内閣委員会で三月九日におっしゃった、それを受けて金大中大統領にも何らかのコメントといいましょうかお話があってもしかるべきなのかなという感想を持ちますが、これから議員立法になるのか、先ほどもおっしゃいました内閣総理大臣決定になるのかわかりませんけれども、新たな措置を講じて戦後処理の問題を解決していこう、二十一世紀までそれを残さないようにしていこう、こういう官房長官の熱意ある御答弁に期待をするところでございます。
 それと、せっかく官房長官がいらっしゃいまして時間も若干ございますので、先日、これも三月十八日の衆議院において北朝鮮の核開発疑惑施設に対して総理は、会議録を読みますと、もし可能ならば我が国としてもそうしたものを視察云々ということで非常に意欲を示された。しかし、記者会見で長官の方は火消しに回ったというようなことで、大体いつも、国旗・国歌の法制化でも官房長官が積極的なのに総理の方が消極的と反対なんですが、何か攻守所を変えたような気がいたしますが、北朝鮮核開発疑惑施設に対して日本が参加をするという総理の衆議院における御答弁、これは現状、官房長官はどのように把握されておられますか。

○国務大臣(野中広務君) 総理は先日、一義的には米朝間の話であるけれども、可能ならば金倉里の施設への訪問に我が国も参加をした方がよいとの趣旨の発言をされました。
 これは、総理の年来からの考え方でございまして、我が国には核問題等にすぐれた学者等がおるわけで、しかもKEDOに我が国も応分の拠出をするとするならば、可能ならば我が国のそういう人たちもその訪問の中に加えられた方が一番透明度の中からもいいのではないか、こういう気持ちを率直に表明されたわけでございますし、そういう中からでき得れば訪問団の構成の中に入ればいいということを申されたわけでございます。
 この問題につきましては、御承知のように米朝間で非常に長い困難な問題を辛抱強く交渉してこられた経緯もあるわけでございます。今我が方がこれを言うことによって、せっかく積み上げられた第一回目の、来るべき五月と想像される核疑惑の問題の調査、訪問というのがそごを来すようなことになってはならないという思いもございまして、私の方はやや慎重な配慮を加えた会見での答弁をいたした次第であります。
 総理がお考えになる気持ち、そしてそれは一国の総理として国民の税金でこの問題を処理するに当たって、当然我が方がこれに関与することができれば可能な努力をしたいと思われる気持ちがにじみ出ておることは私どもも十分承知をしておるわけでございますが、いずれにいたしましても、核疑惑を何とか払拭するために米朝間の合意をもとにいたしまして、まずはこの成功を期待したいというのが私の会見にまた出たわけでございます。

○日笠勝之君 終わります。

 第145回国会 参議院日米防衛協力のための指針に関する特別委員会 第9号 平成十一年五月二十日(木曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員     沢 たまき
 外務大臣   高村 正彦
内閣官房長官 野中 広務

○沢たまき君 わかりました。
 次に、全世界は今日曲がりなりにも新しい秩序づくりという共通の目標に向かっていると思っております。しかし、武力のみによる秩序づくりは時代おくれと言わなければならないと思っております。ハードパワーから、東西冷戦を無血で終えんさせたというゴルバチョフ、レーガンの知性と勇気と対話で開かれたソフトパワーこそが新しい平和構築のためのキーワードになるのではないかと私は思っております。
 我が国としても、新しい秩序づくりに対し、特に人間の安全保障と地域紛争の予防などに主体的に真剣に取り組むべきではないかと思っておりますが、いかがでしょうか。
 ここでちょっとお話を変えますが、野中官房長官が、旧日本軍の軍人軍属だった在日韓国人の方々の恩給給付に対して何らかの方法でできないだろうかと検討するように指示をなさいました。今までは解決済みだという一辺倒でございましたけれども、余りにも不合理な扱いをされてきた在日韓国人の方々に、とてもすばらしく、希望を持って道を開こうとなさったことに大変感動しておる一人でございます。日韓の友好関係をさらに深めたいという官房長官の思いを大変感じました。私は、このような外交こそが大切であるし、私はこれこそが人道を重視した外交だと思っております。
 関連して伺いますが、恩給検討の件についてある一定の方向が出た段階で、将来、日韓合同の事務局レベルの検討委員会を設置して調整するというお考えはおありでしょうか。

○国務大臣(高村正彦君) 今の御質問の前半部分だけ私が答えさせていただきたいと思います。
 我が国が国際社会における責任ある主要国として冷戦後の新たな国際秩序の形成に主体的に取り組んでいくべきであるのは議員御指摘のとおりでございまして、政府としてこれまでもさまざまな分野で具体的な取り組みを進めてきているところでございます。
 人間の安全保障につきましては、人間中心の視点から、難民流出、環境、薬物、国際組織犯罪、貧困、対人地雷等、人間の生存、生活、尊厳を脅かす諸問題につき国際社会による一致協力した取り組みに貢献してきており、小渕総理の提唱により国連に人間の安全保障基金を設立したことはその代表例と言えるわけでございます。
 また、冷戦後も後を絶たない紛争の解決及びその予防のためには、紛争に発展するおそれのある事態をいち早く察知して迅速に対応するとの危機管理的な側面から、紛争の根本に存在する経済社会開発問題への取り組みといった長期的な側面に至るまで、包括的なアプローチが必要である、こう考えております。政府としても、このような認識のもと、昨年、紛争予防戦略に関する東京国際会議や第二回アフリカ開発会議、TICADⅡを開催する等しているわけでございます。
 政府としては、これら諸分野への取り組みについて、今後とも我が国外交の重要な柱と位置づけて不断の努力を積み重ねていく考えでございます。
 それで、野中官房長官の御発言の部分については官房長官が答えられるのが適切であると思いますので、そうさせていただきます。

○国務大臣(野中広務君) 私にお尋ねいただきました旧日本軍の軍人軍属である在日韓国人に対する恩給支給問題についてでございますが、基本的には、従来政府が申し上げておりました現在の恩給法等の範囲を超える問題でございまして、また、韓国の方々にかかわります財産請求権の問題につきましては、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定によりまして、在日韓国人の方々にも、かかるものを含めて法的に完全かつ最終的に解決済みであるという公式な立場の回答で終始してきたわけであります。
 しかし、現実にこれらの方々が置かれた状況を考えますときに、何とかして現在の状態を解消する方法はないのかというお尋ねがございまして、私といたしましても、関係省庁の協力も得て、ちょうど二十世紀の最後の時期でございますだけに、過去の幾つかの問題を先送りしてはならないという気持ちもございまして答弁を申し上げたところでございます。ただいま内閣外政審議室に、一つには従来の法制、法理性及び制度の問題点、二番目には戦後処理の枠組みとの関係の問題、三番目には韓国における処理の状況等につきまして調査検討を行わせているところでございます。
 なお、新しい検討組織についてのお話がございましたが、現在、既に日韓の間におきまして在日韓国人の法的地位に関する日韓局長級会議というのを随時行っております。先方からも指摘がございますので、この会議を通じましてなお整理し、前向きに対処してまいりたいと考えておるところでございます。

○沢たまき君 ありがとうございました。

 第145回国会 参議院本会議 第40号 平成十一年七月二十八日(水曜日)午後一時一分開議

【発言順】
 委員   清水 澄子
 国務大臣 小渕 恵三
 国務大臣 野中 広務
 国務大臣 有馬 朗人

○清水澄子君 私は、社会民主党・護憲連合を代表して、国旗及び国歌に関する法律案について、小渕総理並びに関係大臣に質問をいたします。
 国旗・国歌に関する法案が国民的な議論がないまま会期末直前に閣議決定され、延長国会の審議にゆだねられました。国旗・国歌の法制化は有史以来初めてのことであり、国会審議に十分時間をかけるべきであります。総理は三月の参議院予算委員会で「国会で十分御議論をいただいて」と私に答弁されましたが、本法案の衆議院での政府質疑はわずか二日でした。そもそも、法案の国会提出まで総理初め政府の態度は二転三転しましたが、総理は、国民の動向も踏まえなければならないので、法制化は考えていないと答弁をされていたのです。
 日本の国民は、自分たちの国の旗や歌について今初めて議論を始めたところであります。国民主権を尊重するなら、十分国民の声を聞くべきであります。それでこそ国民が納得する国旗・国歌ではないでしょうか。総理の見解をお伺いいたします。
 旧帝国憲法のもとで、君が代と日の丸は、天皇に忠誠を誓わせ、軍国主義へと国民を駆り立てました。また、日の丸はアジア太平洋地域における日本の侵略と植民地支配のシンボルとして使われました。
 ある十九歳の学生は投書で、日本との悲しい過去を持つ中国で君が代を歌えなかった。日本に生まれた以上、過去の歴史も背負っていかなければならない。君が代の法制化を急ぐのは、日本人の歴史に対する認識の甘さを象徴する恥ずべき行為に思えてくると訴えています。
 このような、明治以降、そして敗戦までの日の丸・君が代が果たした歴史についての総理の御認識を伺います。
 ドイツ、イタリアでは戦後、国旗・国歌を変えました。これに対し、戦前と戦後を漫然と継続させ、日の丸・君が代を国旗・国歌として法制化することに、戦争の犠牲を強いられた日本国民及びアジア太平洋地域の人々は納得をしておりません。
 一九九五年、戦後五十年に当たり、衆議院では歴史を教訓に平和への決意を新たにする決議が採択されましたが、本院では提案すらされませんでした。
 総理、国旗・国歌の法制化をする前に、過去の歴史の過ちを真摯に反省し、平和国家日本を宣言する必要があると考えますが、見解を伺います。
 在外公館ではつい最近まで君が代の英文訳を天皇の治世とするリーフレットを配布していたことに政府の認識が示されております。
 今回の法案提出に当たっても、当初の政府見解では、君が代の「君」は象徴天皇と解するのが適当とされましたが、天皇をたたえる歌という意味では旧帝国憲法下と同じであります。
 この問題に気づかれた総理は、その地位が主権の存する国民の総意に基づく象徴天皇とつけ加えました。さらに、「代」とは、広辞苑を引用して、時間的概念が転じて国、国家の意味があると答弁されております。
 その広辞苑では、「代」の②では「同一の氏族・系統・政体などが、引き続いて国家の主権を持つ期間。時代。」とあり、例として源氏の代、武家の代が挙げられ、そして③では「転じて、国。国家。また、その政治。時には政治的機関・朝廷・天皇の意にも用いる。」とあります。
 総理の答弁はこの一部を引用されたのでしょうが、このような君が代についての解釈は余りにも便宜的、御都合主義であり、朝令暮改の対応としか言いようがありません。政府の新たな解釈に多くの国民は納得しておらず、ましてやこれを教育の現場に持ち込めば、ますます教師や生徒に混乱をもたらすことは必至であります。
 一九五三年、当時の大達文部大臣は、参議院文部委員会で国民主権との関係で、文字にとらわれて言えば君が代は時代おくれであると答弁していますが、政府のくるくる変わる解釈は学問的にもまた歴史にたえ得るものであるという自信をお持ちでしょうか。総理の見解を伺います。
 同時に、文部大臣は、この解釈が教育上最も真理に基づくものであると確信されていますか、見解を伺います。
 天皇は国民統合の象徴とされていますが、実際には、皇室典範一条で、天皇の地位は、男系男子が継承すると規定されています。これは男子だけが皇族、女子は臣下へという家父長制度を象徴するもので、それを千代に八千代にわたってたたえる歌が果たして二十一世紀にふさわしいのでしょうか。
 今国会で制定された男女共同参画社会基本法の理念との関係において、総理はどのような見解をお持ちでしょうか。
 野中官房長官は、戦後補償問題に関連し、二十世紀に日本が起こしたことは今世紀中に解決したいと述べ、耳目を集めました。しかし、戦争で負傷した在日韓国・朝鮮人の元日本軍人軍属、旧植民地出身のBC級戦犯、そして日本軍人軍属であった台湾の皆さんなどは、いまだに何らの名誉回復や補償も受けていません。
 戦争に必要なときは日本人として駆り出し、戦後になれば国籍条項を設けて外国人だとし、補償から排除するという政府のこれまでの対応は、だれの目から見ても道義に反するものであります。
 朝鮮民主主義人民共和国との間では、一九一〇年の日韓併合以来八十九年を経た今日に至るも、過去の清算が行われず、国交正常化交渉の展望も全く見出せていないのが実情ではないでしょうか。
 政府はまず、これらの問題を解決することによって日本人の誇りを取り戻し、アジアの人々との和解と信頼回復のために努力すべきであります。
 官房長官は御自身の発言を実行されますか、決意を伺います。
 秋田市の中学校総合体育祭で、君が代を斉唱しない人が退場させられました。教育の現場と地域社会との接点で、このような排他的な状況がもたらされていることは非常に残念であります。国旗・国歌法が制定されれば、地域社会で君が代を斉唱しない人たち、国旗を掲揚しない人たちが村八分にされないという保証はありません。
 政府は米国の例をよく出されますが、米国では国旗・国歌の尊重規定があっても、憲法の保障する内心の自由との関連で、尊重義務の強制は憲法に違反することが判例で定着しております。政府はまずこの事実を認識すべきであります。
 日本国憲法第十九条で、思想、良心の自由は、これを侵してはならないと明記されていますが、総理は、国旗・国歌の法制化により国民の思想、良心の自由が侵されないことをどのように保証されますか、お答えください。
 次に、文部大臣にお伺いいたします。
 憲法で保障されている思想、良心の自由と、教育指導要領に言う指導のいずれが日本の法秩序の中で優位にあるか、見解を伺います。
 政府は、国旗・国歌法が制定されても日の丸・君が代は強制しないと答弁していますが、実際は職務命令に従わない教師は処分されています。
 憲法の思想、良心の自由は国民すべてに適用されるものであり、日の丸・君が代を強制しないと言うのであれば、教師に対しても強制しないことを担保する措置を示していただきたいと考えます。文部大臣の見解をお伺いいたします。
 周辺事態法、組織犯罪対策法案、住民基本台帳法改正案、国旗・国歌法案など一連の動きは、国民に対する国家統制を強め、憲法の平和主義、国民主権、基本的人権の尊重を形骸化するものであります。さらに、有事法制、憲法改正さえ日程に上り始めました。
 戦争の反省や痛みを忘れる政治や教育は、憲法が求める理念とは相入れないものであり、二十一世紀への展望を切り開くことは不可能であります。また、国旗・国歌法案は、戦後国民が築いてきた平和と民主主義を取り崩すものであり、歴史に大きな禍根を残すものであることを小渕内閣に強く警告して、私の質問を終わります。(拍手)
  〔国務大臣小渕恵三君登壇、拍手〕

○国務大臣(小渕恵三君) 清水澄子議員にお答え申し上げます。
 国旗と国歌の法制化に関し国民の声を聞くことについてお尋ねでありました。
 長年の慣行によりまして、日の丸・君が代がそれぞれ我が国の国旗・国歌であるとの認識が国民の間に広く定着していることを踏まえ、二十一世紀を迎えることを一つの契機として、これまで慣習法として定着してきた国旗と国歌を成文法で明確に規定することが必要と考え、法制化を行うことといたしたものであります。
 政府としては、参議院におきましても、御審議の上、本法律案が速やかに成立することを期待いたしております。
 日の丸・君が代と過去の歴史との関係についてお尋ねがありました。
 昭和二十年八月十五日以前に生起した出来事に対する認識と評価につきましては、歴史認識や歴史観の問題として整理すべきであり、日の丸や君が代はこれと区別して考えていくべきであると考えております。
 過去の歴史に対する我が国の対応についてお尋ねですが、先ほど申し上げましたとおり、昭和二十年八月十五日以前に生起した出来事に対する認識と評価につきましては、歴史認識や歴史観の問題として考えるべきものであり、日の丸・君が代はこれと区別して考えていくべきであると考えております。
 また、戦後五十年余を経て、我が国は今や平和と繁栄を享受する国となりましたが、過去の一時期に多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大な損害と苦痛を与えた事実を謙虚に受けとめるとともに、現在の我が国の平和と繁栄は先人の方々のとうとい犠牲の上に築かれたことを決して忘れることなく、今後とも、我が国はもとより世界の平和と繁栄に向かって力を尽くしていかなければならないと考えております。
 君が代に関する政府の解釈についてのお尋ねでありますが、君が代とは、その地位が主権の存する日本国民の総意に基づき天皇を日本国及び日本国民統合の象徴とする我が国のことであり、また君が代の歌詞も、そうした我が国の末永い繁栄と平和を祈念したものと解することが適当であると考えております。
 なお、このような考え方は、これまでの政府の答弁の趣旨を踏まえこれを論理的に整理したものであり、国民の皆様方の御理解をいただけるものと考えております。
 君が代と男女共同参画社会基本法の理念との関係についてお尋ねがありました。
 君が代につきましては、長年の慣行により国歌であるとの認識が広く国民の間に定着していることを踏まえ法制化を行うといたしたものでありまして、君が代の歌詞も、国民の総意に基づき天皇を日本国民及び日本国民統合の象徴とする我が国の末永い繁栄と平和を祈念したものと解することが適当であり、我が国の国歌としてふさわしいものと考えております。
 なお、君が代は皇位継承のあり方をうたったものではなく、男女共同参画社会基本法との関係で議論されるものではないと考えます。
 最後に、国旗と国歌の法制化と思想、良心の自由との関係についてお尋ねがありましたが、政府といたしましては、法制化に伴い、国民に対し国旗の掲揚、国歌の斉唱等に関し義務づけることは考えておりませず、現在の運用に変更が生ずることとならないことから、法制化により思想、良心の自由との関係で問題が生ずることにはならないものと考えております。
 残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)
  〔国務大臣野中広務君登壇、拍手〕

○国務大臣(野中広務君) 清水議員の私に対する御質問にお答えいたしたいと存じます。
 まず、在日韓国・朝鮮人の元日本軍人軍属の処遇についてのお尋ねでありますが、この件につきましては、現在の恩給法、援護法等の範囲を超える問題でございまして、また韓国の方々に係る財産請求権の問題についても、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定によりまして、在日韓国人の方々に係るものを含めまして日韓両国間では法的には完全かつ最終的に解決済みであります。
 しかし、清水議員も御指摘がございました例に見られるように、これらの方々の現在置かれた状況にかんがみまして何らかの処置が行えないかと考えまして、現在、関係省庁の協力も得て内閣外政審議室におきまして、一つには従来の法制・制度の問題点、二つには戦後処理の枠組みとの関係、三番目に韓国における処理の状況等につき調査、検討を急がせているところであります。
 次に、日朝関係についてのお尋ねでありますが、我が国は北朝鮮との関係につきまして、第二次世界大戦後の不正常な関係を正すという観点及び朝鮮半島の平和と安定に資するようにするという観点を踏まえまして、韓国、米国と緊密に連携をしながら対処をしていくという基本方針をとっております。
 こうした考えに基づきまして、政府は北朝鮮に対しまして、現在、両国間に存在しておる諸懸案の解決につき建設的な対応を示されるのであれば、対話を通じて関係改善を図る用意がある旨繰り返し呼びかけておるところでございますが、現時点において、残念ながら北朝鮮側より十分前向きな対応は示されておらないところであります。引き続き日朝間の改善に努力してまいりたいと考えております。(拍手)
  〔国務大臣有馬朗人君登壇、拍手〕

○国務大臣(有馬朗人君) 清水議員にお答え申し上げます。
 君が代の解釈についてのお尋ねでございますが、日本国憲法下における国歌君が代は、その地位が主権の存する日本国民の総意に基づく天皇を日本国及び日本国民統合の象徴とする我が国の末永い繁栄と平和を祈念したものと解釈することが適当であると考えております。
 次に、思想、良心の自由と学習指導要領に基づく指導との関係についての御質問でございますが、憲法第二十六条は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」と定めており、学習指導要領は、この憲法第二十六条の精神にのっとり、全国的に一定の教育水準を確保するとともに、教育の機会均等を実質的に保障するため、教育課程の基準として文部大臣が告示として定めているものでございます。
 一方、憲法第十九条に定められている「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」、このことは当然でございますが、国旗・国歌の指導は、憲法第二十六条の精神にのっとり、児童生徒に我が国の国旗と国歌の意義を理解させ、諸外国の国旗と国歌を含め、それらを尊重する態度を育てるため、学習指導要領に基づいて行われるところであり、思想、良心の自由を侵害するものではないと考えております。
 次に、法制化に伴う教員への指導に関するお尋ねでございますが、学校における国旗・国歌の指導について、教員は、学習指導要領に基づき、または校長の指示に従って、これを適切に実施する職務上の責務を負うものでございます。したがって、公立学校の教員は、公務員としての身分を有する以上、校長の職務上の命令に従い職務を遂行しなければならないものでございます。(拍手)

 第145回国会 参議院国旗及び国歌に関する特別委員会 第4号 平成十一年八月二日(月曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員          竹村 泰子
 内閣官房長官      野中 広務
 文部大臣        有馬 朗人
 文部省初等中等教育局長 御手洗 康
 厚生省社会・援護局長  炭谷 茂

○竹村泰子君 先日来、参議院でも国旗・国歌の審議が始まりまして、それぞれの立場でいろいろ御議論がございました。
 ただ、私は、この衆議院の審議が始まりましてから世論は微妙に動いているのではないかというふうに思うんです。アンケート調査などでも、慎重にするべきだという人と反対と答えた人を合わせると六割を超えるという、そういう動き、微妙に世論は動いてきているというふうな気がいたします。
 なぜこのように急いで法制化をされるのか、どうもよくわからない。一般の国民の皆様も、今までしないでおいて、なぜ今また急に法制化なのかということで大変戸惑っておられる。国会の中でようやく審議が始まったという感じであろうと思うんです。
 新ガイドライン、周辺事態関連法とセットなのではないかと言う方々もいらっしゃいます。国民の間には、アメリカのドル、軍事力による支配の中で、このままで行くと日本はアメリカの属国となってしまうのではないか、いやもうなりつつあるのではないかという不安があります。それに対する一つのあらわれとして日の丸・君が代を復活させる動きが出てきたと。突如として余りにも唐突に出してこられた。不幸な校長先生の自殺の事件があったからといっても、余りにも唐突過ぎるのではないか。
 先ほどもちょっと触れましたけれども、君が代法制化をめぐる意見は二分しておりまして、今の国会での成立にこだわらず議論を尽くすべきだという人は三人に二人に上り、今国会での成立を求める二三%を上回っています。法案に賛成と答えた人でも、五六%が議論を尽くすべきだとしている。朝日新聞の世論調査であります。
 そういった中で、国民の考え方と永田町の乖離がどんどん広がっているのではないでしょうか。急ぎ過ぎは危険だと思う人が過半数。衆議院の審議の段階では地方、中央の公聴会を五カ所で開いておられますけれども、官房長官は、こういった世論の微妙な動き方について、そしてまた、議論を尽くすべきだ、今の国会での成立にこだわらずにもっと議論を積み重ねるべきだという意見に対してどのようにお考えですか。

○国務大臣(野中広務君) 御審議をお願いいたしております日の丸・君が代につきましては、御答弁申し上げておりますように、長年の慣行によりまして国民の間に広く定着をしているところでございますが、成文法に根拠がないということをもって日の丸・君が代を我が国の国旗・国歌として認めないという意見が国民の一部にあることも事実でございます。また、そのことによりまして、大変不幸な事件を惹起したこともあるわけでございますので、国旗・国歌が慣習法として定着をしているだけでは不十分と考えまして、新しい世紀を迎える前に法制化を行うこととしたわけでございます。
 また、議論を尽くすべきという御意見が過半数を占めるという御指摘でございますけれども、今回の法制化をめぐりまして、改めて我が国の国旗・国歌、さらには戦後の我が国の歩みが国民各層の中で議論をされてきたということは、私は非常に好ましいことであったと思うわけでございます。
 最近の報道各社の世論調査では、質問項目が必ずしも同一ではないために、これらの結果から単純に委員が今おっしゃったような結論を導くことは、むしろ私は問題があると考えるわけでございます。
 例えば、七月に行われました最も直近の調査でございます共同通信社とその加盟社から構成される日本世論調査会が実施をいたしました世論調査のように、日の丸・君が代を国旗・国歌として法律に定めることに賛成とどちらかといえば賛成の者の比率が七一・三%という結果があらわれておる例を示すものでございます。
 政府といたしましては、さきにも述べましたとおり、日の丸・君が代は国民の間に広く定着しているものと考えておりまして、今回の法制化の趣旨は国民の皆様にも御理解をいただけるものと考えておるところでございます。
 いずれにいたしましても、国旗・国歌の法制化につきましては、最終的には国権の最高機関たるこの国会における御論議によって決していただくべき事柄であると考えております。私といたしましては、慎重御審議の上、今国会で成立をぜひお願いいたしたい次第でございます。

○竹村泰子君 新ガイドライン、通信傍受法、住民基本台帳法、国旗・国歌法と続いているこの国会審議でありますけれども、国民主権、民主主義を掲げて出発した戦後のいわゆるデモクラシーといいますか民主主義、私たちはこの五十四年の間一体何を勉強し、そして何を苦労してきたのだろうかと言っている人たちがたくさんおられます。このことについて官房長官の御見解をお伺いしたいと思います。

○国務大臣(野中広務君) 私どもは一九四五年にあの戦争に敗れまして、過去の戦争の歴史を反省し、そして償い、その中から新しい国づくりを始めようとしたと思うわけでございます。けれども、一方において、過去の我が国のかけがえのない、もっともっと長い長い歴史や文化を否定し、そしてそういう中から、すべてを悪として否定するところから新しい我が国民主主義のスタートを求めようとした面がなかったかと今振り返って思うわけでございます。
 そういう意味におきまして、謙虚なあの敗戦後の我が国の国家のありようを考える大切なときに、私は、むしろ朝鮮戦争が起こってしまいまして、経済的にも他国の不幸で我が国は経済復興をなすことになり、そして戦争に対する反省や点検も十分しないまま別な面で復権をしていった嫌いがあるのではなかろうか、そういうときに大切なものを取り残してきたのではなかろうかなと今思うことが多うございます。
 ただ、竹村委員は今、今国会におきまして、それぞれガイドラインやあるいは組織犯罪防止法、住民基本台帳法等をお挙げになりましたけれども、そのほか行政改革、政治改革、特に国会の改革などは明治の帝国議会以来の改革でございまして、まさに大きな歴史的改革をやり遂げたわけでございまして、橋本内閣以来の懸案事項であります、むしろまたそれ以前の村山内閣に端を発する改革でございましたけれども、ようやくここに来て、おかげさまで各党各会派の御理解を得て、そしてここに懸案となった法案が成立をいたし、あるいは成立をいたそうとしておりますことは、まことに意義深いことであろうと思うわけでございます。
 国旗・国歌の法案がそれに関連して出たように御指摘がございましたし、また今や、かく法案ができることがアメリカの属国であるかのごとき表現の中からこの法案が出たというのは、ある意味において全く荒唐無稽なことでございまして、我が国がみずからの国歌を、そしてみずからの国旗を国民が持つことを法定化するということは、世紀末における我が国の非常に新しいスタートになるのではないかとみずから私は考えておる次第でございます。

○竹村泰子君 全部国民が同じことを考えているわけではないのでありまして、そういうふうに思って非常に危険視をしている人々もおりますよということを申し上げているんですが、荒唐無稽というのは大変失礼な言い方だと思います。私も含めてそういう危惧を持っている人たちがたくさんおりますよということを言っているのでありまして、荒唐無稽という言葉は撤回していただきたいと思います。

○国務大臣(野中広務君) 私の表現が悪ければお取り消しをさせていただきます。
 ただ、私は、アメリカの属国に日本がなったんじゃないか、そういう中から国旗・国歌が出たんじゃないか、こうおっしゃるわけでございますので、そのことについては整合性がないということを申し上げた次第でございます。
 荒唐無稽が適切でないということであれば取り消させていただきます。

○竹村泰子君 私は、そういう短絡的な言い方をした覚えはありません。もしそう聞こえたらいけないので、私も気をつけて発言しようと思いますけれども、そういう一連の動きについて、一体戦後私たちは何をしてきたのだろうかと言っている大勢の学者たちもおりますし、そして今の動きを非常に危険視している人々もおりますということを申し上げているのでございます。
 それでは、少し変えまして、こういうことがありました。このことについてどのように私どもは考えるか。日の丸・君が代を推進していかれる方たちは、自国の国旗・国歌をきちんと尊重して、そして他国の、外国の国旗・国歌もちゃんと尊敬しよう、それが国際化であるというふうによくおっしゃる、この委員会の中でもかなりそういうふうに聞こえておりますけれども。
 これは九二年の福岡のことですが、一つの例として申し上げたいと思います。「在日韓国人少年の卒業・入学 親の願い学校を動かす」という記事であります。私は、これがすばらしいとか、こうあるべきだとか、こうするべきだとか言っているのではなくて、一つの例として申し上げております。
 少年は、六年間、本名の韓国名で通学。学校は、卒業式で韓国の国旗、太極旗、テグッキと言うんですね、その太極旗を日の丸とともに掲げて祝福をした。これはなかなか大変なことだったと思います。担任の先生の熱意、それから校長先生の決断、そして学校の中のみんなの理解、学びが随分あったんだろうと思います。そして、この少年が卒業して中学に行くというときに、中学へは日本の名前で行きたいと両親に言ったそうです。そして、五年生の担任であった先生がこの言葉にショックを受けられました。私たちは差別して教育をした覚えはないし、これはやっぱりきちんとこの少年を受け入れるやり方が足りなかったのではないかと思われたのかどうかわかりませんが、卒業の日には体育館の壇上正面に日の丸とともに韓国旗が飾られ、玄関にはハングルと日本語でおめでとうと書いてあったということで、式後、来賓からは日本の学校でそこまでする必要があるのかという声が出たり、いろいろな御意見があったようです。
 私は、国際化国際化とよく言われる中で、国際化というのはどういうことなんだろうかと。飛行機に自由に乗れて外国へもどんどん行けるようになった、英語をしゃべれる人が随分多くなってきたとか外国の友人がたくさんいるとか、国際化というのはどういうことなんだろうかというふうに時々考えます。私も大分前にこの記事を見て、よくここまでできたなという思いと同時に、この学校にはほかの国の人はいなかったのかなと思ったんですね。この新聞の記事の中にも、手放しで喜べぬ、複雑な思いだ、最低限のこれは国際感覚であると。
 今、いろんな国の人たちが日本に来て働いていたり、子供ができたり子供を連れてこられたりしておられます。行政筋がこうやって日の丸・君が代を、昨日から文部大臣もそれから御手洗さんもお答えになっておりますけれども、この法案が通りますとというふうに言っておられますが、何カ国かの人がその学校にいれば何カ国かの国旗が出せるのだろうか、それとも、日本に住んでいるんだから、何よりも日本の国旗が尊敬されねばならない、お前たちのところの国旗は物の数ではないというふうな感じになるのだろうか。こういうことについて文部大臣、どのようにお考えになりますか。

○国務大臣(有馬朗人君) 私たち、国際会議をやるときにはその参加者の旗を全部出すことがよく行われます。同じようなことが当然あってしかるべきでしょう。そこの校長先生たちが、例えば韓国の人、アメリカの人、ドイツ人あるいはタイ、そういう人々がそこにいて卒業するようなことがあれば、それをお祝いすることは私は全くおかしいことではない、むしろ勧めていいことだと思っております。

○竹村泰子君 これは悲しむべきことではないに違いないんですね。とっても喜ばしいことなんですけれども、そういうことが果たして現場でこの法律が制定された後にできるようになるのかどうか。(「関係ないよ」と呼ぶ者あり)ごめんなさい、まだ発言中でございます。それとも、そういった必要はないと。あくまでも学校長の判断なのでしょうけれども、こういうことで私が何を言いたいかといいますと、この委員会でもたびたび出ておりますけれども、なぜ卒業式、入学式に日の丸、つまり国家というものが意識されなければならないのでしょうか。それもあわせてお答えください。

○政府委員(御手洗康君) 卒業式、入学式に国旗を掲揚し、国歌を斉唱すると学習指導要領に書いてあるわけでございまして、国旗日の丸、国歌君が代を掲揚し斉唱する以外に各学校においてどのような形で子供たちの卒業、入学を祝うかというのは、各学校において十分御議論をいただき、地域の方々や父母の方々に御了解をいただいた上でそれが祝われる形になっていく、これは各学校あるいは設置者である教育委員会の判断にゆだねられているところでございます。
 特に、入学式、卒業式におきましてこのように国旗を掲揚し、国歌を斉唱すると学習指導要領に規定をしておりますのは、社会科や音楽の授業を通じまして国旗や国歌に対します正しい理解、我が国の国旗・国歌のみならず、諸外国の国旗や国歌に対しての正しい理解と、国歌君が代をきちっと正しく歌えるように、こういう指導と相まちまして、学校におきます一年に一度あるいは二度、そういった節目におきまして、子供たちが実際の行動場面におきまして国旗に対しあるいは国歌に対しきちっとした態度がとれる、あるいはきちっと国歌が歌える、そういった実際に教育活動として試される非常に有意義な場でございますので、一年間の中で最低限入学式と卒業式におきましてこのような義務づけを行って、各学校における教育課程の実施をすべての学校にお願いしているということでございます。

○竹村泰子君 今いみじくもおっしゃいましたけれども、この法制化によって国旗・国歌の扱いといいますか、国旗観、国歌観というものが明らかに違ってくるということですね。

○政府委員(御手洗康君) 文部大臣からも再三お答えをしておりますように、今回の法制化によりまして、学習指導要領におきます国旗・国歌の取り扱いというものを変えるものではないと私ども理解をしているところでございますので、今申し上げましたような指導のあり方、それは今までも文部省としては指導を行ってきたところでございますし、法制化後におきましてもその趣旨で指導を行うということにつきまして今後とも変わりはないということで御理解いただきたいと思います。

○竹村泰子君 教育現場でどういうふうになっていくのかということはもう少し後で議論をしたいというふうに思います。
 国際化という問題で、例えばこれもよくこの委員会でも聞かれましたし、それからよく一般的に言われることですけれども、アメリカでは学校に星条旗をいつも掲揚していて、生徒たちは星条旗に対する誓いの言葉を暗唱して毎日唱えさせられているということで、一人の日本に在住のアメリカの学者がこんなことを言っていらっしゃいます。
 確かに、アメリカではほとんどすべての教室に星条旗が飾ってあって、私も少なくとも一日一回星条旗に対する誓いを唱えた。部活があれば部活のときにも、スポーツの試合があればその前にも、それから学校の集会とかには必ず星条旗に誓いを立てさせられたということを言っておられるんです。
 けれども、だからといって、アメリカの若者たちが平和を愛し、星条旗に誓いを立てたごとく、本当の世界の平和のために戦争を望まず平和を望んでいるのかというと、決してそうではない。アメリカは戦争に行く若者たちをちゃんと育ててきたわけです。朝鮮戦争に行く、ベトナム戦争に行く、パナマ侵攻に向かう、グレナダ侵攻に向かう、そして湾岸戦争にも出かけていく。星条旗に何を誓うかということは別といたしまして、やはり国旗・国歌というものに対する思い、これは、無理やり強制的に何かをやらされても、それがその力になっていくということではないのかもしれないというふうに思うのです。国旗とか国歌とかを学校教育の中に中心的に置かないということ、これが国家の原理を教育の中心にしないということなのではないか、私はそういうふうに思うんです。
 アメリカの話でちょっとややこしくなりましたけれども、そういう形で私どもは、何か昔の体制を引きずっているかのような日の丸・君が代に対しては、戦中、日の丸・君が代を立てて日本が何をしたのかというようなことを、ワイツゼッカー大統領の演説ではありませんが、過去に目を閉ざす者は現在にも盲目となるということのとおり、やはりきちんと子供たちにも知ってもらわなければいけない。そこのところをいいかげんにして、すとんと都合よく飛び越えてしまって、日の丸は美しいから、君が代は荘厳だから、そういうことを言って真の国際人と言えるのだろうか、どうなのだろうか。官房長官、どうお思いになられますか。

○国務大臣(野中広務君) 私も、過去の歴史を直視しなければならないし、またそういう中から、新しい憲法のもと、この五十四年間平和で、今日の近代国家を構築することのできたことを厳粛に考えていかなくてはならないと存じておるところでございます。

○竹村泰子君 国内に七十万人住んでおられる在日韓国・朝鮮の方々、この方たちがなぜ今現在日本に住んでいなければならないのかということは、もう十分おわかりのとおりだと思います。日本が侵略をしていったアジアの国の人々、こういった方々が日の丸・君が代に侵略戦争の足音を聞かれるというのは、これは当然のことであろうと思います。また、沖縄の人々は、日の丸の旗のもとに戦った日本兵士、つまり皇軍によって殺された歴史を持っておられるわけです。これも私たちはよく知っていることであります。
 これらの方たちは数で言うとどれぐらいになりますでしょうか。数千万人を下らないのではないかと思います。これらの人々の気持ちを、もちろん野中官房長官はそういったことがよくおわかりの方でいらっしゃると私は見ておりますし、この後また質問させていただきますことも野中さんが発言をされていることに非常に関係をしてまいりますので、ここでちょっと御感想を聞かせていただきたいと思います。

○国務大臣(野中広務君) 過去の戦争の歴史にはいろんな背景があったと思います。私どもが今それを一つずつ検証して、そしてそれに評価を加えるべき私は知識も、また材料も持ち合わせないわけでございます。
 ただ、そういう中において、現に中国に渡り、あるいはその他アジア各国に我が国から軍隊が出ていって、そしてその地域において戦争が行われ、それぞれ両方の人たちが犠牲になり、またその中において中国を初めとする東南アジアの国々の人たちが大きな犠牲を強いられたという現実は覆い隠すことのできない事実であろうと思うわけでございます。
 また、三十六年間にわたる植民地支配によりまして、朝鮮半島から連行された多くの方々が、当時、石炭やマンガン鋼の厳しい労働条件のところで働かされ、あるいは劣悪な条件での土木工事に従事されておられた状況は私も目の当たりに見て知っております。そういう方々が今日なお二世、三世となって、一世の方もいらっしゃいますけれども、在日でいらっしゃる現実は我々も厳しくこれをとらまえていかなくてはならないと思っておるわけでございますし、また、この方々の中にまだ傷のいえておらない問題が残されておることも十分承知をしておるわけであります。
 また、お触れになりましたように、沖縄は我が国唯一の地上戦が行われまして、軍隊だけでなく沖縄県民も十数万人大きな犠牲になられ、また戦後二十七年間米国の支配下に、占領下に置かれました。その後我が国に復帰いたしましたけれども、なお産業はまだまだ内地と肩を並べる状況にも至っておりませんし、雇用の状況もまことに厳しいわけでございます。
 しかし、政府といたしましては、復帰以来熱心に沖縄振興のために努力をいたしてまいりまして、徐々に沖縄の自立への道はできつつあるわけでございます。
 一方しかし、日本の米軍基地の七五%を沖縄県に担っておっていただくという現実があるわけでございまして、これまた橋本前総理のときにクリントン大統領にお願いをし、そして普天間の飛行場の返還を求め、またこれがクリントン大統領の理解されるところとなって、代替ヘリポートをもって、今沖縄県の稲嶺知事を中心といたしまして、SACOの合意に基づく米軍の基地の整理縮小のために、何とかして沖縄県民の重圧を少しでも和らげたいと努力をしておるところでございます。
 また、非常に困難な条件が随分重なっておりますけれども、明年七月開催されますサミットにつきましては、日本で初めて地方で開催をするわけでございますけれども、このサミットを、沖縄県で首脳会議を開催すると小渕総理が決断をされまして、それぞれ多くの条件を克服しながらサミットが円滑にできるように、それがまた沖縄県の振興に結びつくように、そして過去の傷を少しでもいやすことができればと、今政府を挙げて取り組んでおるところでございまして、私どもはその一つ一つを振り返りながら過去を検証し、そういう厳粛な反省の上に立ち、なおそれを補い償う、そういう努力を怠ってはならないと存じておるところでございます。

○竹村泰子君 今、数千万人を下らない方たちがいらっしゃるのではないかと申し上げたんですが、日の丸から受けるショックのなかなか消し去れない方たちですね。そこで私は、アジアへの情報発信が必要なのではないか、もしこれを法制化されるのであればやはり何らかの情報発信が必要ではないかというふうに思うんです。
 そこで、野中官房長官がずっと積極的な姿勢を見せておられます。平成十一年三月九日の衆議院の内閣委員会において、サンフランシスコ条約によって、みずからの意思に基づかずに日本国民たる権利を剥奪されたこの旧軍人軍属の在日の方たち、帝国臣民として日本軍に徴用された在日の韓国・朝鮮の方たち、そして手や足を負傷され、あるいは片目をとられ、そういう形で帰ってこられて、しかし日本人に非常に手厚く支給される、これはもうごく当たり前のことですけれども、戦傷病者戦没者遺族等援護法、この障害年金が支給されないという不公平をどう考えればいいのでしょうか。これは国連の人権委員会でも当然何回も指摘をされております。一九九九年という一九〇〇年代の最後の年に当たって、果たしてこういう問題を積み残しでいいのかどうかということを私ども委員会でも何回も、あるいは予算委員会などでも野中官房長官が発言していらっしゃることをお聞きいたしました。
 三月十六日の参議院の予算委員会においては、「現在、官房副長官のもとに外政審議室等におきまして、それぞれ韓国の対応の問題及び国内においてこれを措置する場合のさまざまな波及的な問題等を含めて検討をさせておるところでございます。」と述べていらっしゃいます。そして、これは援護法ですから当然厚生省が管轄なんですが、厚生省も、宮下厚生大臣が国民福祉委員会において、「外政審議室の検討にも参加をさせていただいて、どういう結論が出るかはともかくとして、この問題に取り組みはさせていただくつもりです。」というふうに述べておられます。
 ところが、ことしの六月二十一日、初の和解協議が決裂をしたんですね。これは、姜富中さん、七十九歳。滋賀県に住んでおられる在日の韓国人の方が、日本国籍がないのを理由にこの戦傷病者戦没者遺族等援護法に基づく障害年金を支給しないのは違憲として、三回ですか、年金請求を却下している国の処分取り消しなどを求めた訴訟の控訴審で、この野中さんの発言もあって、そして予算委員会での発言もあり、和解協議が今度は成立をするのではないかと非常に期待をしておりましたが、大阪高裁で国側が和解を拒否、協議は即日打ち切られた。
 これはもちろん司法の問題でありますから、三権分立の中で非常にお答えしにくいのはわかっておりますけれども、厚生省もおいでいただいていると思いますが、ここまで来ていて、そして野中発言があって、何回もマスコミにも取り上げられ、私たちも随分期待をしていた。今生き残っておられて、サンフランシスコ平和条約によって除外された方たちというのは本当に限られている。御家族、御遺族みんな入れても百二十五人ですか、御当人というか本人ということになりますと、私どもが把握しておりますだけで、もう先日もお一人亡くなられましたので五人か六人しかいらっしゃらない。こういう中で、なぜ和解を拒否したのでしょうか。官房長官にももしお答えいただければ幸いです。

○政府委員(炭谷茂君) 在日韓国人の元軍人軍属の方々の問題につきましては、援護法など現行制度の枠組みを超える問題でございます。昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定により、法的には完全かつ最終的に解決済みとなっているところでございます。
また、先生ただいま御指摘の訴訟につきましては、在日韓国人の元軍人軍属の方が原告でございますが、援護法に基づく障害年金の支給を求めていらっしゃる行政事件訴訟でございます。国側としては、原告の請求を却下した処分について適法であるという立場をとっている以上、和解にはなじまないものであると考えております。
 このような理由から本件の和解には応じないこととしたわけでございまして、既に判決期日も十月十五日に定められておりますので、その判決を待ちたいと考えているわけでございます。

○国務大臣(野中広務君) 今、政府委員からも答弁いたしましたように、さきの戦争によります賠償及び財産、さらにその請求権の問題につきましては、答弁申し上げておりますように、サンフランシスコ平和条約あるいは二国間の平和条約及びその他関連する条約などに従いまして、一応誠実に対応をしてきたところでございます。これらの条約等の当事者国との間では既に法的に解決済みであることは委員もおっしゃっておるとおりでございます。
ただ、委員から御指摘がございますように、在日韓国人の元軍人軍属等の問題は、現在残された問題で、この人たちが置かれておられる立場を考えますときに、現在何とかしてこの二十世紀末に解決すべき重大な課題の一つである、また司法になじまない、人道的な、我々政治が決断をするべき問題だと考えまして、ただいま内閣外政審議室におきまして、先ほど御指摘がございましたように、従来の援護法を初めとする法制・制度の問題点、あるいは戦後処理の枠組みの関係、韓国における処理の状況等、それぞれ関係部門にわたりまして調査、検討を急いでやらせておるところでございます。

○竹村泰子君 いつごろその結果は国会に御報告がございますでしょうか。

○国務大臣(野中広務君) 可能な限り早く調査結果を得て、そして総理を初め関係政府内の意思を統一したいと考えておるところでございます。

○竹村泰子君 可能な限りということで、いつごろになるのか大変含みのあるお言葉なのですけれども、そういった経過があり、そしてそういう歴史認識を持たれている野中官房長官のお言葉に私は敬意を払いますとともに、非常に期待をしているところでございます。
 ところで、これは七月九日の朝日新聞ですが、細川元首相が「論壇」に投稿をしておられました。皆様もごらんになったと思いますけれども、このような言葉がございます。
 今回の法制化の背景には、二十世紀のことは二十世紀中に片をつけておきたいとする政府首脳の強い意欲があったと伝えられる。しかし片をつけるとすれば、それは戦争の反省とアジア諸国民との和解であり、何事もなかったかのように日の丸・君が代を二十一世紀に伝えることではない。
 中略ですが、君が代も、
 文言には手を触れず、変幻自在の解釈で事態を糊塗しようとする政府のやり方は、憲法九条でもおなじみだ。憲法にしても国歌にしても、つぎはぎの解釈で言い逃れようとする態度は、諸外国の不信を買うだろう。根本の問題は、政府が過去と対決しようとしていないことである。
と、かなりずばりと言っておられます。
 私が先ほどちょっと触れました、真の国際化とは何なのだろうか。私どもがずっと言い続けてまいりましたとおり、あったことはあったこととしてきちんとそれを踏まえ、そしてしかるべき後に新しい友情をつくり上げていくということでないと真の国際化ということはあり得ないだろう、特にアジアの国々に対しては。そう思うわけですけれども、この細川元首相の言葉についてどのように思われますでしょうか。

○国務大臣(野中広務君) 私も、あれを見せていただきまして、細川元総理がおっしゃっておるすべてではありませんが、大筋の流れについて同様の認識を持ちました。ならば、なぜ細川さんはみずから総理のときにこの問題に手をつけてくださらなかったんだろうと思う残念さを私は感じた次第であります。

○竹村泰子君 それはみんな同感するところでございます。ただ、そう感じるからといって、それはそんなに簡単にすぐ手をつけてぱっとできるということではありません。ですから、やはり国旗・国歌の特別委員会で今議論がされておりますけれども、性急にこういう形で、細川さんも言っているとおり、延長が決まってからまことに唐突に出されてきて、そして急にぱっと法制化しようという形でのやり方というのは、国民の信頼は得られないのではないでしょうかと申し上げているわけでございます。
 そこで、教育分野への影響について少しお尋ねをしたいというふうに思います。
 先日の参議院本会議で私どもの広中和歌子議員が、「国旗・国歌の法制化による立法効果、強制力についてお伺いいたします。」と、その代表質問の終わりの方で触れておられます。
 教育現場では長い間日の丸・君が代をめぐり多くの混乱があった。ことし二月の広島で起きた不幸な事件が契機となって、政府は自自公路線で強硬に日の丸・君が代を法制化しようとしていると。官房長官は、少なくとも教育公務員として公務員法に基づいて職責を得る人は、我が国の法律に忠実であるべきだと考えておりますと述べておられます。「本法案が根拠となって、学習指導要領の国旗掲揚と国歌斉唱の指導に一層の強制力を持たせることのないよう、」という質問がありまして、そしてそれに対する答弁を求めたわけでございます。結局は強制になるのではないかというのがマスコミの論説あるいは社説等でございます。
 例えば、秋田市では先月、中学生たちの体育大会の開会式で市体育協会の会長が、国旗掲揚、国歌斉唱のとき座っていた人は出ていただきたいと発言をしたり、君が代の伴奏ができなかった先生は処分を受けたり、広島市では秋葉忠利市長が就任式で登降壇の際、日の丸に一礼をしなかったことが三月の市議会で非礼だと問題になったり、さまざまなことが、日の丸・君が代の法制化が社会的強制の空気を生んでいく。学校ばかりか、社会全体に対してこういった影響が出ていくのではないかというふうに思います。
 私どもが一番やっぱり心配しますのは入学式、卒業式での問題点でありますけれども、現在ほとんどの学校現場で日の丸を掲揚し、君が代を斉唱することが浸透しているわけでありますが、このことについて二つ問題点があると思います。
 第一に、日本国憲法第十九条に定められている思想及び良心の自由に抵触することがどうしても否定し切れないということ。第二に、児童生徒には学校から強制されているという感情を植えつける傾向が大きいということであります。
 今、アンケート調査などで法制化に反対と回答を寄せている人の割合は二十歳代で最大となっていますけれども、この年代は、この国のほとんどの学校現場の入学式、卒業式において日の丸を掲揚し、君が代を斉唱することが浸透した時期に義務教育を受けた人たちであります。
 入学式、卒業式における国旗掲揚、国歌斉唱が、逆に国旗・国歌に対する反発を招いているのではないでしょうか。このような国旗・国歌の意義についての指導を阻害してしまう傾向にならないでしょうか。文部大臣、どうお考えになりますか。

○国務大臣(有馬朗人君) 私はたびたび同じことを申し上げておりますけれども、学習指導要領は変えない、そういうふうに申し上げているわけでありまして、しかし予言と実際はどうなるか、これは私も自然科学者といたしましてさまざま予言をしたことがありますけれども、それはわからない。
 しかしながら、我々は努力するということを申し上げているわけでありまして、指導要領を変えずに現在のままで、ただ説得するというようなことは、これはもちろん今までと同じようにさせていただくことがありますが、内心の自由まで立ち入らずにちゃんとやっていきたいと申し上げている次第であります。

○竹村泰子君 何度も私もお聞きいたしました。しかし、大事なことですから。
 今も、この法案が成立しても学習指導要領による学校での日の丸・君が代の指導を強めることはないとおっしゃっていらっしゃいますが、各都道府県の教育委員会とか各市町村の教育委員会とかがこれを後ろ盾に、法制化されたんだからということで、独自の判断で学校現場に対して非常に強い強制力、圧力を強めるというおそれもございますね。これまでの現状を見ていると否定はできませんね、いかがですか。

○政府委員(御手洗康君) 小中高等学校におきます学校教育は、基本的にはそれぞれの地方自治体の自治事務ということで、学校の管理運営、教育が行われる。
 ただし、その際に、文部大臣の定める全国的な基準としての学習指導要領に従ってやっていただくということでございますので、当然、法制化前でありましょうと法制化後でありましょうと、各都道府県の教育委員会あるいは市町村の教育委員会は、学校を管理する学校設置者である地方教育行政機関といたしまして、学習指導要領に従って適切な国旗・国歌の取り扱いが各学校でなされるということに対する責務を有するものでございますので、法制化の前後を問わず、きちっとした指導が行われていない学校があり、市町村があり、都道府県があるとすれば、それは従前どおり、あるいは従前にも増してきちっとした指導をしていただくということになろうかと存じます。(発言する者あり)

○竹村泰子君 発言中ですから静かにしてください。
 今、御手洗さんがお答えになられましたけれども、七月三十日のこの委員会で御手洗さんは、法制化されればさらに指導の徹底が図られるようにしたいと答弁をされました。これは明らかに、石垣一夫衆議院議員の質問主意書に対する答弁書、国旗の掲揚、国歌の斉唱に関し義務づけるようなことは考えていない、現行の運用に変更が生じることはないという旨に真っ向から対立していませんでしょうか。どうでしょうか。

○政府委員(御手洗康君) 学習指導要領に基づいて、各学校におきまして、音楽の授業あるいは社会科の授業あるいは特別活動におきまして国旗・国歌の適切な取り扱いがなされるということは、現行の学習指導要領におきまして当然のことでございます。ただ、国会で成文法として国旗・国歌に関する法律が成立しました暁には、やはりそれはそれなりに学校現場におきまして国旗・国歌の正しい理解を促進するという教育的意義は私はあろうかと存じます。
 そういったものを踏まえまして、各都道府県教育委員会あるいは市町村教育委員会におかれましても、より正しい理解を進めるための努力をしていく、文部省としてもそれを支援していくということについては、私どもとしては従来どおり進めさせていただきたいと思っているところでございます。

○竹村泰子君 私が言っているのは、答弁にずれがありますねと言っているんです。
 確かに、石垣一夫さんの質問主意書の答弁をお書きになったときには審議が始まっていたのかな、まだでしたか、(「まだだ」と呼ぶ者あり)まだですね。始まっていなかったときかもしれませんけれども、これは政府見解が明らかに食い違っていませんかと言っているんです。違いますか。
○政府委員(御手洗康君) 基本的に異なっていないと思っております。

○竹村泰子君 何ですか。聞こえませんでした。

○政府委員(御手洗康君) 文部省の指導、あるいは私が三十日に答弁いたしました答弁の趣旨は、政府見解に異なっているものとは考えておりません。

○竹村泰子君 入学式、卒業式における国旗掲揚、国歌斉唱に関する都道府県教育委員会への対応について、法制化されればさらに指導の徹底が図られるようにしたいという答弁は、六月十一日における政府の答弁書、現行の運用に変更が生じることはないという旨に矛盾しておりませんか。

○政府委員(御手洗康君) 学習指導要領に基づきまして各学校で、例えば卒業式、入学式におきます国旗掲揚、国歌斉唱が行われるということが建前で、私どもはそれについて今までも随分努力をしてまいりました。
 したがいまして、行われていない学校がある、あるいはなかなか行いづらい都道府県が一部に存在する、そういうことについてこれまで、そういう現状を認めるという趣旨では今回の政府答弁書もないと思っているわけでございまして、政府答弁書は、そういったことが実際に行われていない学校を現状のまま追認している、そういったところまで従前と変わらないというのか、あるいはそういった学校や都道府県に対しましては、文部省としても教育委員会としてもそういうふうな指導をしてきたわけでございますので、それは法律が成立した後も変わらないという趣旨でございます。(発言する者あり)

○委員長(岩崎純三君) 御静粛に願います。

○竹村泰子君 私が聞いているんですから、黙っていてください。
 あなたの答えはわかりません。私が聞いているのは、これまでと変わるんですねと聞いているんです。法制化されればさらに指導の徹底が図られるようにしたい、文部大臣は何回も変わらないと答えていらっしゃる。でも、変わるのですねと聞いているんですよ。変わるんですね。

○政府委員(御手洗康君) 「さらに」という言葉をどのように受けとめていただくかという国語の問題もあろうかと思いますけれども、引き続きという趣旨でございます。

○竹村泰子君 「さらに」ということは新たにということでしょう。なおその上に積んで徹底が図られるようにしたいということでしょう。いいかげんな答えをしちゃだめですよ。

○国務大臣(有馬朗人君) 私は変わっていないと思います。
 ただ、一つはっきりすることは、今まで君が代というものが国歌であるか、国旗は日の丸であるかというふうなことに疑問を持っておられる方がおられた、その点に関してははっきりするということは申し上げられると思います。こういう点で、今まではっきりしないと言っていた人に対して、これははっきりするよ、はっきりこういうふうなことですよというふうなお話をすることがしやすくなると思います。

○竹村泰子君 何回も何が変わるのだと言われ、この審議の中で文部大臣もお答えになりました。何が変わっていくんですか、法制化したらどうなるのですかと衆議院でもずっと聞かれていらっしゃいます。私も議事録を読みました。でも、有馬文部大臣は何も変わりませんとおっしゃっていますね、何回も。でも、さらにこれを強化したい、徹底が図られるようにしたいというのは、変わるのですねと私は聞いているんです。(発言する者あり)

○委員長(岩崎純三君) 御静粛に願います。

○国務大臣(有馬朗人君) もう一度私から明確に申し上げますと、文部省としては、学習指導要領に基づく学校におけるこれまでの国旗・国歌の指導に関する取り扱いを変えるものではないと考えております。今後とも学校における指導の充実に努めてまいりたい、こういうことは繰り返しお返事申し上げているし、ただ、そのときにもう一つ申し上げていることは、今回の法案は国旗・国歌の根拠について慣習であるものを成文法としてより明確に位置づけるものである、こういうことも繰り返し申し上げております。
 したがいまして、学校教育において国旗・国歌に対する正しい理解をさらに促進するものと考えているわけでありまして、そういう意味で意義のあることと受けとめている次第でございます。

○竹村泰子君 何回も同じことを言っても同じ答えが返ってくるだけであれば仕方がありませんが、私は野中さんに一つ確認的に質問をさせていただきたいと思います。
 将来にわたってこの法律に尊重規定や義務規定を加える意図がない旨、確認をさせてください。そのようなことはありませんですね。

○国務大臣(野中広務君) この法律案が今国会におきまして可決、決定をさせていただいて成立をいたしましたならば、現内閣において、この国旗・国歌について尊重義務を与えたり、あるいはそういう処置を織り込むようなことはございません。

○竹村泰子君 少なくとも教育公務員として公務員法に基づいて職責を得る人は我が国の法律に忠実であるべきだという御答弁、これは教職員指導の強化を意味するものではない、そして、とりわけ子供たちに対して思想、信教の自由や内心の自由を強制するものではないと私は確認させていただきたいと思いますが、それでよろしゅうございますでしょうか。
 もう一度御答弁をお願いいたします。

○国務大臣(有馬朗人君) おっしゃるとおりであります。それで結構です。
 それからもう一つ、ちょっとつけ加えさせていただきたいんですが、私も先生と同じ考えでありまして、戦前戦後の客観的な事実については子供たちにしっかり教えなきゃいけないと思っております。
 こういう意味で、歴史教育というもの、特に近現代史の教育が極めて大切だということは認識しております。そういうことを正しく日本の児童生徒に教えること、こういうこともやはり国際理解を深める上で重要なことだと思っておりますので、このことをつけ加えさせていただきます。

○竹村泰子君 これはことし八月号の「世界」にも載っておりますけれども、この法案が国会に提出されましてから本当に一週間ぐらいの間に、東大の学者たちが中心になられまして、インターネットを利用してわっと学者たちの、決して政治学とかそういう関係の学者ではない、哲学とかあるいは数学とか、これまで余りそういったことに発言をしてこなかった学者たちあるいは大学院生、学生たち、そういった人たちが「「日の丸・君が代の法制化」に反対する共同声明」というのを一週間のうちにわっと署名を集められまして共同声明が出ております。
 その内容を御紹介するには時間が足りませんので、きょうはそれはやめますけれども、「一度も法制化されたことのなかった国旗・国歌を、法制化によって正当化しようとするこの動きが、主として学校教育の場を念頭において進められていること」を非常に懸念しているということが書かれております。
 それから、「「日の丸」・「君が代」とは何であったのかという過去を直視する討議さえ行われず、日本の近代国会の成立が引き起こしてきた国の内外の出来事についての十分な歴史認識と反省を行わず、まさにそうした議論を終息させるために、無言のままに国家のシンボルを法制化するこのようなやり方は、この国の未来にとって重大な禍根を残すのではないかと私たちは危惧します。」と言っておられます。私もまさにそのとおりだと思うんです。
 ですから、先ほども申し上げましたけれども、今国会で何を急いでそんなに法制化を拙速にするのか、もっと国民の皆さんと一緒にいろんな意見を闘わせながら議論して、次の通常国会とかあるいは臨時国会とか、そういう形で議論を続けていくことができないものなのでしょうか。
 時間の関係がございますので、野中官房長官にお答えをいただきまして、私の質問を終わります。

○国務大臣(野中広務君) 政府といたしましては、法案を国会に提出いたしておりますので、どうぞ国会におかれまして慎重御審議の上、可決いただくことを期待いたしております。

 第145回国会 参議院決算委員会 第1号 平成十一年九月八日(水曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員             本岡 昭次
 内閣官房長官・沖縄開発庁長官 野中 広務
 外務省アジア局長       阿南 惟茂

○本岡昭次君 私は、内閣官房の中にあります外政審議室が所管しております従軍慰安婦問題について、きょうは質問をいたします。
 去る七月十四日、野中官房長官も御存じのように、台湾の旧日本軍元従軍慰安婦九人が、東京地裁に対して日本政府に謝罪と一人一千万の賠償を求める提訴を行いました。この訴訟を支援する台湾慰安婦関係資料の調査と研究プロジェクト指揮者である朱徳蘭氏は、今回の訴訟について次のように述べています。
 日本政府が引き起こした戦争によって慰安婦となってしまった彼女たちの人生は破壊されてしまい、人間としての尊厳も失われてしまった。このような強者の弱者に対する、男性の女性に対する原始的、野蛮な虐待行為は全人類より戒められるべきである。今日の我々は、歴史的証拠とその被害者の供述を得た。我々は、日本政府に対して控訴を行い、元慰安婦及び全世界に対する謝罪と損害賠償の支払いを要求する。
 我々のこのような行為が日本政府に相手にされない、若しくは原告の敗訴に終わった場合、我々は国際法廷への控訴を行うと訴えています。
 二十世紀も残り一年有余で終わろうとしています。人生の終えんを目前に、今勇気を奮い起こして過去の告発に踏み切った台湾の被害女性に対して、政府や私たち国会議員に今求められていることは、このお訴えに対して誠実にこたえていくことでなければならないと思います。
 この台湾からの慰安婦訴訟を日本政府はどのように受けとめますか。まず、野中官房長官にお聞きいたします。

○国務大臣(野中広務君) お尋ねの訴訟につきましては、八月九日、裁判所から訴状の送達を受けまして、第一回口頭弁論期日が十一月の二日に指定をされたと伺っておるところでございます。
 今、委員から御指摘がございました台湾の旧日本軍元従軍慰安婦九名の方々の訴訟についてでございますが、我が国政府といたしましては、委員御承知のとおりに、平成五年八月四日の内閣官房長官談話のとおり「慰安所は、当時の軍当局の要請により設置されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。」ということでございまして、この事実をもって私どもとしても今日までアジア女性基金を中心として、何とかしてこういう方々の長い苦痛に報いたいと努力をしてきたところでございます。

○本岡昭次君 この台湾の今回の裁判の基礎資料はこういう膨大なものです。「台湾慰安婦調査研究資料集」ということでありまして、今、官房長官から政府が調査した結果に基づくお話がありましたが、この膨大な一九九九年七月に出された資料、私もこれをずっと読んで研究いたしました。
 要するに、日本統治時代の台湾における台湾総督府が国策会社として設立した台湾拓殖株式会社が、第二次世界大戦遂行に当たって慰安婦を日本軍の軍需必需品として扱い、慰安所の建設、慰安婦の募集、慰安婦の管理及びそれに関する作業工程と資金調達、出入国の申請、営業管理に至るまで、すべてにおいてこの台湾拓殖株式会社は軍部、政府、企業の高度な共同作業として進めていた事実が明らかにされております。この資料で明らかなんです。この台湾拓殖株式会社の監督者は台湾総督府と日本政府の拓務省ですから、拓務大臣により一九三九年、昭和十四年に帝国議会に台湾拓殖株式会社の業務概要が説明資料として提出されているという事実もこの中に出ております。
 外政審議室はいろいろと調査をされておりますが、台湾において慰安婦を軍需必需品として日本政府と共同作業を行ってきたとされている台湾拓殖株式会社についての調査を行いましたか。ぜひ調査を行って、朱徳蘭氏の調査事実を確認すべきであります。
 この「「従軍慰安婦」関係資料集成」、これは女性のためのアジア平和国民基金が外政審議室の調査、政府の調査を資料集にしておるんです。立派な仕事をしております。これは評価します。これが六集までありまして十万円なんです。私は自分の金を出して買いまして、それを全部調べてみましたけれども、残念ながら台湾拓殖株式会社のいわゆる従軍慰安婦にかかわる資料はありません。
 このように、至るところにまだたくさん残されているんですね。ぜひとも、この台湾拓殖株式会社が一体何をやったのかという問題を政府の手によって調査してもらいたいと思いますが、いかがですか。

○国務大臣(野中広務君) 今、本岡委員御指摘の台湾拓殖株式会社が慰安所を建設したとする資料が台湾において発見されたとの報道は、私どもとしても承知をいたしております。
 政府といたしましては、いわゆる従軍慰安婦問題につきまして、その取り組みの一環としてこれまでも新しい情報に接しました場合には十分な関心を払って、さらに資料の収集に努力してきたつもりでございます。本件につきましても、その資料の入手について努力をしてまいりたいと考えております。

○本岡昭次君 こうした日本政府の行った行為に対しての謝罪と賠償を求める旧日本軍元従軍慰安婦被害女性らによる訴訟は、一九九〇年の韓国女性による告発以来今日まで韓国、オランダ、フィリピン、中国の各被害者によって既に十件が提起されております。訴訟に加わった元慰安婦被害者は七十八名、そして被害賠償請求総額は約十八億円になる。十八億円なんです。我々、今何かというと何兆円というようなことがすぐ言葉に出ますけれども、金額的に見ればこういうことなんであります。今回新しく提起された台湾からの訴訟は、日本政府と国会が法的責任を明らかにして一日も早い立法による解決を求めての提起と私はとらえております。
 女性のためのアジア平和国民基金、今、官房長官も述べられましたこの女性のためのアジア平和国民基金が、台湾の元従軍慰安婦被害者の人たちに対して一九九七年五月、九八年二月に続いてことしの三月三十日に三度目の償い金を受け取ってくださいという広告を、この広告はこういう広告なんですが、広告を台湾全域に出したんです。(資料を示す)受け取ってくださいというようなものを。今回の広告には、小渕恵三首相のいわゆるおわびの手紙もそこに掲載されてあるんです。しかし、おわびの手紙そのものがまた被害者の怒りを買うんです。
 どういうことかというと、手紙には「わが国としては、道義的な責任を痛感しつつ、おわびと反省の気持ちを踏まえ、」と、こう結ばれておるんです。しかし、その被害者の皆さんの気持ちは、日本政府が負うべきは道義的責任だけではないだろうということなんです。過去において女性を暴行し、傷つけた、これは明らかに犯罪ではないのか。だから、その犯罪に対する法的賠償責任というものを日本政府が痛感しないで道義的責任だけで片づけられたのではたまらぬという気持ちが、やっぱり訴訟に駆り立てていくということになっているんです。
 ここのところを官房長官はいかがお考えでしょうか。

○国務大臣(野中広務君) 御指摘のこのたびの台湾の方々の訴訟につきましては、他の訴訟と同じように法律に基づいて適正に対処してまいりたいと基本的に考えておるわけでございます。
 委員が御指摘になりましたいわゆる従軍慰安婦問題につきましては、政府はこの問題が多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であるとの認識のもとに、これまでもおわびと反省の気持ちをさまざまな機会に表明してきたところでございます。また、台湾を含む関係国・地域の元慰安婦の方々に対する償いの事業も既に行ってきたところでございまして、この目的として設立されましたアジア女性基金にさらに最大限の努力と協力をしていきたいと考えておるところでございます。

○本岡昭次君 いや、私がお尋ねしたのは、この道義的責任というレベルでの議論が多くの訴訟に駆り立てていっているんだということで、官房長官もやはり道義的責任でしかないというふうにお考えなのか。それとも、やはり法的な責任、いわゆる賠償責任というんですか、従軍慰安婦に駆り立てて、そこで集団的強姦、性的奴隷というふうな状況に追い込んだことが道義的責任で済ませられるようなことなのかどうなのか。ここのところを私たちが明確にしない限りこの問題は解決しないと思うのですが、その点について官房長官の率直なお考えをひとつお聞かせいただきたいと思います。

○国務大臣(野中広務君) 現実を承知しない私が、当時の問題について具体的なみずからの感想を申し上げるべき立場にないわけでございますけれども、少なくとも委員御承知のように、一九九三年八月四日に政府は旧日本軍の関与を認めまして、従軍慰安婦の募集や活動が強制的であった、さらに被害女性の名誉と人間の尊厳を深く傷つけ心にいやしがたい傷を負わせたことを反省しおわびするという当時の河野官房長官の談話を行いまして、政府は従来とりました施策を改めまして、御承知のように先ほど来申し上げておりますアジア女性基金を創設することによりまして、当時の軍の関与のもと多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であるとの認識のもとに、おわびと反省の気持ちをアジア女性基金で対応してきたわけでございます。
 今日まで、この対応によりましてそれぞれ台湾を初めとする地域の関係された女性の方々がこれを受け取っていただいておる、また受け取りを拒否していらっしゃる方もございます。また、そうすることを国としてやめてもらいたいというお考えの国もあるわけでございますけれども、政府といたしましては、この平成五年八月の河野官房長官談話からスタートをいたしました従軍慰安婦問題についての処理を今後も誠実に繰り返し続けていきたいと考えておるところでございます。

○本岡昭次君 官房長官として、道義的責任か、そうであるのかないのかというところに踏み込んでいくことをちょっと逃げておられるようで、ここでまた押し問答しても肝心な質問ができませんから、またそれは別の機会に譲ることにします。
 私は、道義的責任というレベルでこの問題を解決しようとする限りいつまでもこれは続いていく、官房長官が二十世紀に起こったことは二十世紀できちっと片をつけようじゃないかということであるならば、私たち自身がそこに一歩踏み込まなければ問題は解決できないということを強く申し上げて、この問題はまた次の機会に議論をしたいと思います。というのは、きょうは決算委員会でございますから、金目の問題に入らぬといかぬと思いますので、それでは質問を変えていきます。
 そこで、今、女性のためのアジア平和国民基金の事業が韓国、台湾、フィリピンを中心としてうまく進展しているのかどうかという問題なんです。
 私が九年前に予算委員会で質問をしたときは、政府は、いや、そんなことは国はかかわっておりません、民間の方がそういう慰安婦を連れ歩いてそういう慰安所をつくったということは聞き及んでおりますがということで完全に逃げたんです。最初そこからスタートしたんですから。そうでないだろうと言って私が資料を集めてきて詰めて、海部総理がそれではもう一遍調査してみましょうということで、一九九一年、九二年と調査をして、先ほどおっしゃる当時の河野洋平官房長官がやはり日本の軍隊が関与したということをそこで初めて明らかにして一歩前へ行ったんです。僕はそのときは高く評価したんです。
 しかし、問題はそれから先が悪かったわけなんです。何が悪かったかというと、国が関与したけれども、国の責任で処理できないから国民から募金をして、その集めた募金で償い金として慰安婦の皆さんにお渡ししましょう、こういう政策を打ち出したことが、今度は、せっかくそういう国の責任を認め、国の関与を認め、事実をある程度明らかにして、日本の政府として総理のおわびの手紙まで出してというところへいったにもかかわらず、被害者の方が受け取らない、あるいは各国の被害者の皆さんを応援しているNGO等が拒否をして裁判に訴えてくるというふうなことになっておりまして、まことに私にしてもこれは不幸なことだと思うんです。その根源は何かというと、先ほど言った道義的責任を我々が乗り越えることができるのかどうかということにかかっているんです。
 それで、国民基金がいろいろその後やってきました。一九九五年に政府は運営経費として補助金四億八千百四十八万円を計上しました。国民基金にです。
 このお金は、今も毎年四億八千万円台のお金を国民基金を運営するために支出いたしております。そして、今度は、慰安婦の皆さんにお渡しする償いのお金は国民から集めたお金で渡すというんです。それで、国民から集めたお金は五億を切っておるんです。
 簡単に言えば、この四億八千百四十八万円という補助金を出すならば、四億八千万、そのお金を慰安婦の皆さんに渡せば国のお金が渡ったことになるんですよ、渡す方法を法律できちっと決めて。ところが、そういうごまかしをやってしまったんです。国民基金という財団法人を運営するための補助金は国から出す、慰安婦の皆さんに渡す分は国民の基金だと。こういうことをやったものですから、うまくいかなくなってしまった。せっかく総理大臣のおわびの手紙も、恥ずかしいことに受け取らないというふうなことをされるような状況になってきているんです。
 そこで、政府はさらにこういうことをやりました。一九九六年七月から、一般会計の外務省予算から十年間で七億円規模の財政支出を国民基金関係事業拠出金として行って、元慰安婦に対して、韓国、台湾の人には三百万円、フィリピンには百二十万円を償い金と同時支給する医療・福祉支援事業ということで、その実施を始めたんです。また、これは外務省を通して国の予算を一般会計から渡すんです。
 ところが、それは皆さん方に対する償いのお金ということじゃなくて、医療・福祉支援事業というふうな回りくどいことをして、年がいっておられるからお医者さんに行くこともあるでしょう、助けましょう、年がいっておられて住む家がなかったらお困りだろうから、家を建ててください、また家を修理するお金が要ったら渡しましょうというふうなことで渡したんです。
 私はそのときも、七億円も出すのなら、なぜそのお金を従軍慰安婦の皆さんにお渡ししないのかと言ったんですが、渡さない、同じ国から金が出ているのに。こういう間違いをやった。
 そして、現在どうか。韓国、フィリピン、台湾、調査によって約三百人の方が特定された。そして、この三百人に対して償い金と医療・福祉支援事業を進めてきて四年経過しました。平成十一年の三月三十一日、やっと三百人のうちの百十七人の被害者が償い金と医療・福祉支援を受け取られたようでありますが、半数以上の方はこの受け取りを拒否されている。そして、さらにその上に、韓国では一九九八年四月、国民基金の支援を受けた七人を除いて、韓国政府自身が償い金と同額の日本円に直すと二百万円のいわゆる政府支援金を元慰安婦の方に支給し、日本政府に誠意ある謝罪と責任ある措置を求めて国民基金に事業中止を要求したんです。
 だから、それ以上、韓国に対してできなくなってしまったんです。償い金の支給をしてもらっては困る、国民基金のその事業は中止してもらいたいということがあってできなくなった。そしてまた、その後、先ほど言った外務省が出してきていた医療・福祉支援事業のお金も、韓国政府に対して、これを何とか使ってもらいたい、そしてこれは個々人に渡すというよりも、施設をつくって、そこをその人たちが使えるようにしてくださいということで、韓国の赤十字を通してそういうことを依頼していった。しかし最近、韓国の赤十字もそういうことはできませんといって拒否の返事が返ってきた。こういうふうにして八方ふさがりになっておるんです、国民基金のその方の仕事も。にもかかわらず、官房長官はまだこれを続けるとおっしゃる。
 そして、同じように台湾でも、一九九七年五月に、償い金と医療・福祉支援事業を拒否されている元慰安婦、被害者の方々に、台湾当局が毎月六万円の生活支援金と、償い金同額を貸付金として皆にお渡しした。日本政府と話し合って、そのお金がきちっと道義的なお金じゃなくて、これはやはり国に法的責任があるという立場でお金が出てきたら後で返してくださいという貸付金という名目で台湾の人にみんなざっと渡したんです。だから、台湾の方はそれをもらったからもうそれでいいと。それで困って、先ほど言ったように、何とか受け取ってくださいと広告を出したんです。私は、こんなのは日本の恥の上塗りだと思うんです。
 また、フィリピンでも一部の慰安婦の方は、フィリピンが一番たくさん受け取っておられるようですが、日本国民の善意の償い金は受け取りますと、ありがたくいただきますと。しかし、あくまで日本政府の公式謝罪と補償を要求するために総理のおわびの手紙は受け取りませんと言ってそれを拒否している、それで裁判に訴えている、こういうこと。
 そして、フィリピンの人権委員会というのが国会の中にあるんですが、そこが日本に対してきちっとした国の法的な補償をやってもらいたいというふうな決議を国会の中で上げるという状況に今動いてきているんです。
 官房長官、今私が時間をかけて申し上げましたけれども、これは事実なんです。私はこんなところでうそは言えませんから。私は私なりにきちっと調査をした上でやって、だから明らかに国民基金の仕事は行き詰まってしまっているんです。できなくなってしまっているんです。にもかかわらず補助金を、毎年四億八千万近い金をずっと出し続けるのですかという問題が一つあるんです。行き詰まったら、やはりその行き詰まりを打開して、問題が解決する新しい政策を提示するということでなかったらこれはどうにもならぬじゃないですか。
 例えはよくありませんが、水を飲みたくない馬に飲め飲めと言っても飲みたくないものは飲まぬという例えがあるように、よかれと官房長官がおっしゃったように、精いっぱい日本としてやれることはここまでですと言って出したけれども、やっぱり受け取れない、受け取らないということで膠着状態をいつまで続けるんだと。事態はだんだんと悪くなるばかりなんです。
 だから、この国民基金の問題解決のやり方というのはこのあたりで一遍総括をして、改めてその被害者の皆さんと関係国と、どうしたらこの問題が解決できるのかということを真摯にやっぱり話し合うというところから始めなければ、日本がよかれとやっても受け取る側の人が受け取れないという場合は、これは話し合いにならぬでしょう。やはりどうすれば受け取っていただけるのか、どうすればこのお金を受け取られるのかという受け取る相手側の気持ち、相手側の考え方、条件、そういうものと、私たちならここまでできますというものが話し合う。補償といったらみんなそうでしょう、漁業補償にしたって農業補償にしたって一方的にこっちから突きつけるものじゃないんです。だから、そういうふうなことをやらないでやったからこういう問題が起こったんだから、もう一度ここは出直すべきだ。私は官房長官は物すごい勇気のある方だと思っているけれども、やっぱりこういうことにきちっと出直す勇気が要ると思う。
 官房長官、今すぐとは言いません。やはりお互いによく考えてみなきゃいかぬことがあると思う。私も十年間近くこのことをほとんど私費でやってきたんです、あれはばかじゃないかなと言われながらも。だけど、これは日本の正義です。アジアと日本、これからの二十一世紀、長いおつき合いをせないかぬのに、この問題もよう解決せんとやれたものじゃない。
 だから、一度これを見直すために考える、話し合う、一遍踏みとどまられたらどうですか。がむしゃらにどっどっとできもしないことを、その中で御苦労いただいた原文兵衛元議長、理事長がお亡くなりになりましたけれども、随分苦しまれたと思います。私も二度三度会いましたけれども、本岡君、苦しいんだといつもおっしゃっていました。これしかないからこれをやるんだと、理解してくれと。だけど、ここまで来ればもう考え直すときではないか。
 官房長官、一遍考え直そう、話し合おうということになりませんか。もうぎょうさん言うているのに、私はまだたくさん質問せないかぬことがありますので、ひとつ一言だけこの辺で。

○国務大臣(野中広務君) 委員はもう十分承知でございますので、長い経過を申し上げる気持ちはありません。
 ただ、今御指摘のように、アジア女性基金の理事長として長年困難なお仕事にトップに立って御苦労を賜りました原文兵衛前参議院議長が御逝去されました。生前中の御苦労を心から私ども感謝し、原文兵衛理事長が私にも幾たびかいろんな御苦労のさまざまをお話し賜りました。
 既に、百三十数名にわたる方々がこの基金を受け取っていただき、また中には感謝のお手紙も寄せていただいて、喜んでおられる方もあるわけでございます。そういう経過も踏まえながら、基本的には、委員には申しわけありませんが、今後ともアジア女性基金の事業を忠実に私どもとしてもやってまいり、それが日本国民と日本政府の本問題に対する真摯な気持ちであることを関係各国やあるいは関係者の皆さんに理解が得られるように、最大限の努力を傾けてまいりたいと考えておる次第であります。
 特に、韓国政府あるいは台湾等におきましても政府としてのお考えもあるようでございますので、十分そういう気持ちをも聞きながら、今後一方において、今申し上げましたように、この基金が国民の良識と政府としての真摯な態度として理解がいただけるようにしながら、現実的な対応について十分考えてまいらなければならないと存じております。

○本岡昭次君 その国民基金に対する償い金をことしも予算は四億何ぼか出されたようですが、しかし実際に集まったのは二百何十万とかいうことが新聞に出ておりましたが、事実はそういうことなんです。だから、実態はどんどんと変わってしまっているということを知っていただかなければならぬと思います。
 それでは、別の角度から問題を出してみます。
 先ほど言ったように、国民基金に対する外務省の医療・福祉支援事業というものが、外務省予算のどういうところから出ているのかというのを調べるのに随分困ったんです。そうすると、名前はこういうことになっている。国連女性関連拠出金という名目で出ているんですね。これが国民基金に対して、女性のためのアジア平和国民基金に出されておるんです。この拠出金について、私はもう我慢ならぬことがありますので、質問します。
 平成八年度の拠出金額は当初予算一億四千五百五十万円出して、さらに二月の段階の補正予算のときに四億八千九百六十九万円出しました。平成九年度、一億九千十八万円、平成十年度、八千六十八万円、平成十一年度、一億六千五百六十八万円、四年間で合計十億七千百七十三万円の拠出金額、これは外務省が国民基金に出したんです。国民基金が使ったんじゃないんです。
 それで、国民基金はその拠出金を医療・福祉支援事業の予算として計上するんです。そして、国民基金が四年間で十億七千百七十三万円拠出されたお金で現在まで、八年度に使ったのが三千八百十二万円、九年度で一億六千六百六十一万円、十年度で一億三千四百十二万円、三年間の合計で三億三千八百八十六万円しか使っていないんです。ところが、十億という金が使っても使わなくても外務省から行くんです。これは結構な仕組みになっておるんです。
 それで、私は、先ほど言ったように平成九年一月三十日の予算委員会で平成八年の補正予算を審議したときに、国連女性関連拠出金四億八千九百六十九万円を補正計上しているが、これは必要ないのではないかと言ったんです。何のために補正するのかというのは、先ほど言いましたように、当初予算として一億四千五百五十万円出ているんです。それを使い切って足らないなら補正しなさいと。ところが使い切っていない。今言ったように八年度は三千八百十二万円しか使っていないんです。一億四千五百五十万円で十分事足りるのに何で四億八千九百六十九万円も補正したのか。それほど日本の財政は豊かだったんでしょうか。会計は潤沢だったんでしょうか。
 それで、その理由を尋ねたんです、なぜかと。こういう理由を挙げておる。外務省は、十年間という期間の前倒しと、初年度の集中実施の必要があるのでこれだけのお金が要るんだ、初年度に集中すると言うんです。外務大臣もまた、池田外務大臣が、四億八千九百六十九万円の補正がなければ初年度の医療・福祉支援事業に支障が出るからと言って私の意見を退けたんです。
 結果はどうですか。支障が出る出ぬどころじゃない、全然使われていないじゃないですか。前倒しをする必要がある、集中して実施する必要があるといって国会で、ここに会議録を持っていますが、答弁を外務省はしたんです。一体これはどういうことになっておるんですか。
 しかも、この国民基金の資産を見ると、預金残高五億五千七百十六万円、流動資産七億八千五百七万円、正味財産八億二千四百十五万円を保有しておるんです。これは、国民基金として償い金で集めたお金五億弱使えなかった分が残っておるのと、あとは外務省経由で拠出金として使いもせぬのにどんどんと出している、ことしも出している。そんなずさんなことが許されるんですか。
 私は、当時のその答弁に立った人たちに言いたいんです。一体何が前倒しですか、集中実施ですか。国会審議を本当に愚弄するんですよ、こんなものは。本当に許すことができない。金額は少額です、何兆円とかいうお金ではない。だけれども、これは仕組みの問題なり国会で答弁をするときのそのあり方の問題です。何でもいい、そのときごまかして、もう言ってしまえば後は知らぬ。ところが、私みたいな者がおって、その後追及しておる人間がおるということを知っておいてもらわなければ困る。実施計画の裏づけのない無責任な拠出金の大盤振る舞い、これをやった総理府と外務省に私は責任をとってもらいたいと思う。ここでの発言のです。
 一遍ここでそのことの答弁をしてみてください。前倒し、何の前倒しをした、集中実施、何の集中実施をした、何で金だけをどんどんとそこへ送り込むんだと。

○説明員(阿南惟茂君) 当時の委員会での先生の御質問、外務省側の御答弁申し上げた内容は先生が今おっしゃったとおりでございますが、あの時点で集中実施、前倒しと申し上げましたのは、これは先生も御承知と思いますが、事業発足当初、今もそうでございますが、対象になる総数は約三百名という想定で事業を始めたわけでございます。
 最初は十年という事業計画を、対象の方々がお年寄りということもあってこれは五年ぐらいの期間でやらなくちゃいかぬということで、そういう前倒しを当時想定し、そしてその集中実施というのは、もしこの三百人の方が事業開始と同時に申請をされ、支払いと申しますか、こういう支給を要請されてきた場合にはこれだけの金が要る、そういうことの手当てをしておかないとこの女性のための基金の事業発足に当たって事業の基盤が確固たるものにならない、こういう考えでこういう予算を要求させていただき、ちょうだいしたわけでございまして、前回もそういう趣旨を御答弁申し上げたと理解しております。

○本岡昭次君 そんなことを聞いているんじゃない。その結果どうなったんですかと言っているのに、前倒しされていない、集中実施もされていない。金が余り返っているのに、その後毎年同じように拠出金を一億、一億と出し続けている。何を根拠にそういうものを出し続けているんですか、国民の税金を。

○説明員(阿南惟茂君) 先ほど先生が御指摘になりました全体、外務省から出ている十億七千百七十二万円、そして使われたのが約三億三千九百万円、残りが五億六千七百万円という状況でございます。これは、当初平成八年度、補正も含めまして六億三千五百万円をいただきました。それは、今申し上げましたように三百名の方が集中的に申請してこられた場合の備えということで、事業を円滑に遂行するための当初の措置でございました。
 それ以降の平成九年、十年、十一年は、先ほど先生も額をおっしゃいましたが、九年、一億九千万円とか、次の年は八千万円強とかというふうに実際の支出に見合わせて予算を要求させていただいておりまして、それはそういう支出に見合った額になっております。十一年は、オランダでの事業に八千五百万円程度の予算要求をさせていただいたということでございます。
 今、五億六千七百万円が残っているという事実は確かにございますが、これは当初の考えで、今でもまだ未払いの方々が基金として事業をやっていく上で集中的に申請を出された場合にはそれに速やかにおこたえしなくちゃいかぬ、そのための財政的な手当てはしておかなくちゃいかぬ、そういう考えが継続しておりまして、それでこういう予算をお願いし執行している、こういうことでございます。

○本岡昭次君 それは、計画はしばしば計画どおりいかないことがあると思います。だけれども、現に先ほど言ったように韓国にしても台湾にしてもこの問題についていろんな障害が起こってうまく前へ進まないという実態が今起こっている。しかし、お金だけはどんどんと出していくという、こういうある意味で非常にずさんなやり方を外務省、外政審議室、国民基金という関係の中でやっている。
 もし、そういうお金を出せるのなら、そのお金を直接日本国の法的責任というものを明らかにした上で法律に基づいてきちっと出せば、もうそれで一遍に解決する問題なんです。それを難しく難しくやって、そして今のように外務省が全然責任の持てないことに対して、補助金とかこういう拠出金という金で言われたら言われたなりに出してくる。予算を要求したとおりできたのかできなかったのかという精査を恐らくしていないでしょう。この仕組みそのものが問題であるし、もう事実、全体として行き詰まっているということを私はこの会計からも見ることができる、こう言っているんです。
 官房長官、どうですか。そういう面からもちょっと見直すということについて心を動かしていただいてもいいんじゃないですか。

○国務大臣(野中広務君) この問題につきましては、委員御承知のとおりに平成七年八月に、三党連立の中で合意をいたしまして閣議了解をいたしまして決定した経過があるわけでございますので、この経過に至るまでには旧日本軍によるいわゆる従軍慰安婦なるものの実態についてさまざまな議論を重ね、そしてそういう中からそれぞれ関係各国の状況をも踏まえながら、当時としてはアジア女性基金としてやっていくことが一番この人たちの人格形成の上に傷つけないことだというように考えて実施をされたものだと思うわけでございます。
 それだけに、経過のありますもので、しかも原理事長はお亡くなりになりましたけれども、この基金は厳然として残って、関係者も努力をいただいておるところでございますので、せっかくこの事業をなお円滑に進め、関係各国並びに関係者のより理解が得られるようにいたしてまいらなければならないと思います。
 ただ、委員が御指摘のように、現実にこれを拒否しておられる方々も、あるいは訴訟を提起しておられる方々も、現存することもまた事実でございます。その事実のあることを十分私ども踏まえて、基金の皆さんともよく実態を協議していきたいと考えておるところでございます。

○本岡昭次君 私がいま一つ大きな問題だと思うのは、日本国内だけでなくて国際的にこの問題が議論になり、特に国連の人権委員会あるいはILO、こうしたところにその議論がどんどんと進んでいるということなんです。私も国連の人権小委員会に四回ばかり参りましたけれども、この問題は、だんだんと議論が下火になっていくかと思うと、そうではないんです。だんだんと深く広く広がっていくんですね。
 ことしの八月二日から二十八日にかけて開かれた国連人権促進保護小委員会五十一会期においても、組織的強姦、性奴隷制及び奴隷類似慣行の決議というふうなものが行われたんです。何か非常に難しい決議ですが、簡単に言えば慰安婦問題決議案ということであるようであります。
 それで、この国連人権小委員会の委員は二十五人おります。その二十五人のうち、この決議案を提案したのがアメリカ、イギリス、中国、韓国、ベルギー、ノルウェー、メキシコ、ブラジル、コロンビアなど、委員十五人で共同提案されているんです。アメリカ、イギリス、中国、韓国、こういうところを含めて。そしてこれが可決されております。
 この中に、従軍慰安婦問題について主なものを拾い出してみますと、次のようなものがあるんです。
 一項目めに、慰安婦問題について国際法上日本に法的責任があるとした昨年のマクドゥーガル特別報告官の報告書を評価する、日本に法的責任があるというふうに言っているんです。それから四項に、軍隊の全行為に対して、国家に賠償責任の義務があることを規定したハーグ条約を再確認すること。それから十三項に、慰安婦問題など戦時下における組織的暴力問題で、国家と個人の責任は平和条約によって消滅しないことを確認するというのがあるんです。十五項に、今回の決議案の原則を次期五十六会期人権委員会で承認するよう勧告する。来年の一月の人権委員会でしょう。それから、人権小委員会五十二会期、来年の夏ですね、慰安婦問題の検討をすることを決定する。また来年の夏もやりますと、こうなんです。毎年毎年やるんです。私もこの夏の人権小委員会に四回行ってきましたけれども、ずっとやっている。それで、日本の代表がそこで責められている。
 野中官房長官にお聞きしますけれども、今ここにも出ておりますが、元慰安婦の個人補償問題に対する見解が、今おっしゃるように道義的ということは超えられないんだ、国民基金によって解決するしか方法がないんだとおっしゃっているその根拠の中に、戦後の二国間条約によってすべて解決済みというふうに政府は見解を出している。日韓基本条約の問題とか、基本的にはサンフランシスコ平和条約もありますけれども、そういう二国間による条約によって解決しているんだという立場に立っている。しかし、国連人権小委員会の決議は、先ほど言ったように、平和条約があっても国際法で認められた国家の損害賠償責任は存続するというふうに、ここでそういう立場を明記してこれからも議論をしていくというのです。だから、政府の見解というのは国際的にはだんだんと孤立していく、それで厳しい国際法上の批判にさらされていくということになる。残念ながら私はそう見ます。
 そこで、政府は、やはりこうした国際社会の意見にも謙虚に耳を傾けて、これに従って国の法的責任を認めることから、すなわち道義的責任を越えていくということですね、この慰安婦問題の解決を図るべきだと私は考えるんですが、官房長官は頑としてそういうお考えはないとの先ほどの答弁で、まことに残念であります。
 だけれども、私は申し上げておきます。そのことを抜きにして解決もないし、やがて私たちはそういうことをやらざるを得なくなると思います。それはもう時代の流れだと思います。
 それではお聞きしますけれども、台湾の慰安婦問題はどのような平和条約によって解決済みになったと言うんでしょうか、はっきりお聞かせください。台湾と日本はどういう関係に今あるんですか。

○国務大臣(野中広務君) 委員が御指摘になりましたように、いわゆる従軍慰安婦問題も含めまして、さきの大戦に係ります賠償並びに財産請求権の問題につきましては、先ほどお触れになりましたように、我が国といたしましてはサンフランシスコ平和条約あるいは二国間の平和条約、その他関連する条約等に従いまして誠実に対応してきたところでありまして、これらの条約等の当事国との間では解決済みであるとの立場をとってきておるわけで、この立場には変わりないわけでございます。
 我が国と台湾との間の財産請求権問題につきましては、我が国と台湾の施政当局との間の特別取り決めにより処理することとなっておったのでありますが、この取り決めが結ばれないまま日中国交正常化が実現をいたしました結果、台湾の施政当局との間で今申し上げたような処理を行うことができなくなってきたわけでございます。
 したがいまして、従軍慰安婦問題につきましては、先ほど来申し上げておりますように台湾の方を含めて、先ほど委員からその広告等について厳しい御指摘がございましたけれども、台湾につきましてもアジア女性基金で一九九七年五月以来、事業内容等について新聞広告等を掲載して事業を開始しておるところでございます。
 政府といたしましては、この問題に対して、我が国国民と我が国政府の真摯な気持ちのあらわれでありますアジア女性基金を通じた取り組みに引き続き最大限の努力をしてまいりたいと思うわけでございます。頑固な説明に終始して委員の御期待にこたえられるほどの答弁ができないのはまことに申しわけなく存じますが、現実の問題としてアジア女性基金が現存いたしておるわけで、それぞれ関係者の皆さんは、亡き原前参議院議長を中心にいたしまして真摯な努力を傾けていただいておるわけでございます。
 実際に御努力いただいております皆さん方とも、今後委員が御指摘になったような問題等の意見交換は、十分私どももこの時点に立ってやらせていただかなくてはならない問題の重要なことだと考えております。

○本岡昭次君 河野官房長官が一歩大きく踏み込まれた。さらに野中官房長官がと期待をしておったんですが、残念です。
 そこで、これだけはひとつはっきり答えていただきたいと思います。
 二国間条約で解決しているから日本の国の法的責任はもうないんだ、賠償責任もないんだというその問題と、一方、外務省の条約局長等は従軍慰安婦の皆さんの個人の請求権というふうなものは、例えば韓国の方であれば日韓請求権協定が結ばれていても残されているんだ、個人の請求権は放棄されていないということも一方でおっしゃっています。
 そこで、私は思うんですが、日本の戦後補償、わけてもこの従軍慰安婦問題、自分が長く取り組んできただけに、官房長官、この問題の解決が被害者の自然死、お亡くなりになるというその時効にかけて、問題を解決しようとしたけれども皆亡くなられてしまったというふうな状況のところ、それで一つの問題の解決だというふうなことにしてはならぬと思うんです。このまま行ったらそうなるでしょう。戦争という国家の行為によってもたらされたこの重大な人権侵害に対して、戦争を遂行した国の政府、アジアに対しては日本が、はっきり正義の立場に立って自国の不正義を率直に認めて謝罪し、可能な限りの補償をすることは、私は国際社会における条理であると思います。
 そこで、それでは政府や国会が、元慰安婦被害者の損害補償請求問題を解決するための新たな立法措置があればどうなるのかということです。私は、かつてそのための議員立法を参議院に、廃案になりましたけれども提出したことがございます。しかし、そこで大きな問題になったのは、その種の法律は条約違反、憲法違反になるのではないかということで法制局がたじろぐんです。私はそれはおかしいと思う。おかしいと思っても、法制局がきちっとやらなければ議員が議員立法を出せないという仕組みの中で、これは大変なことなんです。
 そこで、これだけははっきりさせていただきたいんですが、国会議員が、今何ぼ野中官房長官に申し上げても、いやもう動かれへんのだ、変えられないんだとおっしゃる。そうすると、変える方法は、議員立法を提出して、そしてそれを法律にして、外務省が今どんどん出しているお金をそこへ入れて出せば新たな税金をそこへ投入する必要はない、今でもどんどんお金が出ているんですから。あとは出し方の問題だと私は思うんです。それは法律がないから出せない。その人たちに、道義的という言葉を超えて、法的責任というものをうたって被害者の皆さんに渡す、被害者の皆さんが納得して受け取っていただくという内容を持った法律をつくって、法律を通してお金を出す以外にないと私は思うんです。それは我々議員でできるわけです。議員立法としてやれるわけです。
 ところが、その議員立法をつくることになると、それは条約違反であるとか憲法に違反するとかいう論議が出てくるんですが、官房長官、そういうことになるんですか。

○国務大臣(野中広務君) 先ほど来申し上げておりますとおりに、過ぐる大戦の賠償並びに財産及び請求権の問題につきましては、従来から申し上げておるとおりに、サンフランシスコ平和条約や二国間の平和条約、さらにはその他に関連する条約等に従いまして誠実に対応をしてきたところでございます。これらの条約等の当事国としての間では解決済みであるわけでございます。
 これらの条約等を踏まえた上で、いわゆる従軍慰安婦問題につきまして、新たな立法を含めどのような措置をとるかは、これら条約等が規定している問題ではないと考えられるところでございます。
 また、そのような措置をとることが憲法上の問題を生じせしめることはないと考える次第であります。

○本岡昭次君 そうしますと、我々議員がこの従軍慰安婦問題を解決する一つの方途として、謝罪と一定の金額を被害者の皆さんに補償するという内容を盛り込んだ議員立法を出し、そしてそれが成立するというそのこと自身には問題ないというふうに今おっしゃったわけで、これは非常に私にとって朗報であります。
 というのは、アメリカも戦時中、日系アメリカ人が日系であることをもって強制収容されたんですね、たくさん。それで、財産を奪われ、いろんな人権上の大きな侵害を受けた。それで、戦争が終わって、この人権侵害をされたことに対して謝罪と賠償をせよということを裁判で訴えた。しかし、最高裁判所では、だめだ、それは認められないといって退けられた。そこで、今度はアメリカの議会が動き始めて七年間かかって議員立法をつくって、そして市民自由法というまことにいい法律の名前なんですが、そういう法律をつくって、そんな難しい賠償がどうのこうのじゃなくて、市民自由法をつくって、そして一人当たり二万ドルと大統領の署名入りのおわびの手紙、そこには道義的というようなことは書いていない、あなたの人権を侵害したことを申しわけなく思うと、こういう意味です。
 そういうことで、私の親戚も一人その対象者がいて二万ドルをもらって、このお金はアメリカの人のお金だからこのお金はアメリカへ行って使うと言って、夫婦で旅行してアメリカで使って帰ってきました。
 やはりそういうのを見て、アメリカでも七年間もかかって議員立法をつくってやらにゃいかぬほどの難しい問題だという認識を私は持っておるんですね。だから、やはり今のような政府のかたくなな態度を破っていくためには、これは国会議員の良識においてやる以外にはないんじゃないかというふうに私は思っておるようなわけであります。
 これからそういうことで大いに頑張っていきたいと思いますので、どうか官房長官、ひとつ支援をしていただきたいということを申し上げまして、私の質問は終わりたいと思います。
 どうもありがとうございました。

 第146回国会 参議院国民福祉委員会 第3号 平成十一年十一月二十五日(木曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員   清水 澄子
 厚生大臣 丹羽 雄哉

○清水澄子君 ぜひ公正な、そしてだれしもが納得する判断をお示しくださるように再度要望しておきます。
 次に、ちょっと順番を変えますけれども、戦争で負傷した在日韓国人元軍属に内外人平等の原則に沿った補償をすべきであるということについて質問をいたします。
 日本の戦争とこの植民地統治が残した問題の中には、二十世紀を終えようとしている今でも未解決のものが幾つもあるわけです。去る十月十五日に大阪高裁で判決がありました在日韓国人のいわゆる傷痍軍人ですね、戦傷軍属の補償問題もその一つでございます。こういう同じような訴訟が四件あるわけですけれども、いずれの判決の場合でも必ず付言で強く国に解決を促しておるわけです。
 とりわけ今回の大阪高裁の判決は、日韓請求権によって日本と韓国のいずれからも補償が受けられなくなっているその時点から憲法十四条の平等条項に違反する疑いがあると。それからさらに、国際人権規約を批准して以降は差別的取り扱いを禁じた自由権規約二十六条に違反する疑いがあるということを指摘しています。そして、国会ではできるだけ速やかに在日韓国人である軍人軍属等に対する差別的取り扱いを憲法十四条あるいはB規約二十六条に適合するように是正することを要求しているわけです。そしてさらに、やはり国会が今後も何らの是正措置も行わないで、そしてその是正に必要な期間を経過したような場合は立法不作為が国家賠償法上の違法な行為と評価され得るという判断を示しているわけです。
 その後、報道によりますと、自民党ではこの問題に関連して調査会が設置されて、一時金または見舞金として二百万円から八百万円の支給を検討されていると報道されているわけでございますけれども、この方々は一時金と見舞金で、この人たちの主張の本旨はそういうものではないわけです。自分たちは戦争中は日本人として戦争に駆り出された、そして日本人として軍務につかされた。戦後、補償となると今度は外国人として排除されて一円の補償も受けていないのであるということなんです。
 ですから日本政府は、やはり判決のように、対象者の年齢は高うございますから、国際社会の理解が受けられるような内外人平等の原則に立ったそういう補償を早急に実施すべきであると私は特に強く訴えたいと思います。
 この問題は内閣として取り組まれると思うんですけれども、援護法の担当大臣は厚生大臣でございますので、ぜひ大臣の前向きの決意をお伺いしたいと思います。

○国務大臣(丹羽雄哉君) 先生御案内のように、この問題は古くて新しい問題でございます。何回となく国会の場で提起されておるわけでございますが、在日韓国人の元軍属などに対する補償問題は、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定によって法的には既に最終的な解決済み、こういうことになっておるわけでございます。
 したがいまして、援護法の国籍要件を見直して、これらの方々に対して要するに補償の援護法を適用するということは、それで障害年金などを支給するということは現実問題として不可能だ、まずこう考えておるような次第でございます。
 しかしながら、在日韓国人の元軍属などに対する補償の問題につきましては、現在、内閣外政審議室におきましてさまざまな問題点について調査検討が行われていると承知いたしております。援護法そのものを改正することは考えておりませんけれども、この内閣外政審議室の結果を踏まえまして、厚生省といたしましてもそれに応じて必要な対策を講じたい、このように考えているような次第でございます。

○清水澄子君 ぜひ本当に、国際的に皆さんが評価をされるような内容にしていただくことをお願いいたします。

 第147回国会 衆議院厚生委員会 第2号 平成十二年二月二十五日(金曜日)午前十時一分開議

【発言順】
 委員         遠藤 和良
 厚生省社会・援護局長 炭谷 茂

○遠藤(和)委員 よくわかりました。
 次に、新しい話、別な話にしますが、在日の旧植民地の出身者、韓半島の人とか台湾の人に対する戦後補償の問題についてお伺いしたいと思います。
 かつて日本の軍人軍属として徴用されていながら、戦後は国籍があったために何の補償も受けることができないでいる在日の旧植民地出身者がおります。その方々が日本人と同等の年金とか恩給の給付を求める訴訟が続いているわけですけれども、これについて厚生省はどのように認識をしておりますか。

○炭谷政府参考人 現在、援護法においては国籍要件というものが設けられているわけでございます。これは、法制定のときに、同様に国籍要件を設けております恩給法に準拠して制定されたということが一つございます。また、昭和二十七年にサンフランシスコ平和条約において、朝鮮半島や台湾との関係については、軍人軍属等の補償などを含めた請求権の問題は、我が国とおのおのの国との外交交渉による特別取り決めによって解決するということが明文で定められているわけでございます。
 そこで、韓国との関係についてだけ申しますと、昭和四十年に日韓請求権・経済協力協定が締結され、軍人軍属等の補償問題も含めて法的に既に完全かつ最終的に解決済みのものというふうに協定に明記されているわけでございます。こうしたことで、援護法の適用が受けられないという事態が生じているわけでございます。

○遠藤(和)委員 今、歴史的な経過の説明があったのですが、私は、今訴訟が起こっているのだけれども、そのことについてどう理解をしているかということを聞きました。時間がないので、自分で答えます。
 大阪高裁で判決が出まして、判決文そのものではありませんが、その骨子を、三点あります、若干申し上げますと、援護法に国籍要件を設けたことには、立法当時、在日韓国人の賠償問題が日韓の特別取り決めの対象とされていた等の事情があり、直ちに憲法十四条違反とは言えない。ですから、これはこのままでいいですという判断ですね。
 しかし、日韓協定締結により、在日韓国人軍属等に日韓いずれからも補償がされないことが明らかとなった後には、国籍要件の根拠に事情変化があったものであり、憲法十四条及び国際人権規約に違反する疑いがある、したがって、国(国会)には、できるだけ速やかに憲法や人権規約に適合するよう是正することが要請されている、こういう司法判断が出ています。ですから、この問題は国会あるいは国がやはりきちんと解決しなければならないという話ですね。
 それからもう一つ、三点目ですが、しかし、国会には広範な立法裁量権があること等から、現段階においては、立法不作為に基づく国家賠償請求は容認されない、また厚生大臣の援護法に基づく障害年金請求の却下処分それ自体は無効とは言えないということでございますから、直ちに違憲ではないけれども国にはそういうことを考え、実行する責務が生じているということですよね。
 ですから、国会にはそれを法律で立法して救済することがあるでしょうし、内閣にはそれをきちっと議論をして閣法として提出をする、こういうふうなことが司法から要請されていると私は受けとめているわけですね。
 それで、前の野中広務官房長官の時代に、二十世紀に起こったことは二十世紀に解決しなければならない、こういうふうなお話がありまして、この問題についても、在日の外国人と遺族に何らかの補償をしなければいけないということで政府部内で検討をしているということになっていると思います。
 二十世紀中に解決すべきというのは、もうあと一年ないわけですから、これを早く結論を出さなければいけない。与党の方も、自民党では議員立法を考えていらっしゃるようですし、私たちもこの検討を始めているわけですが、内閣の中ではどういうふうな検討がどの程度進んでいるのか、閣法を出してきちっと解決する考え方でいるのかどうか、この辺の準備状況、検討状況をちょっと教えてもらいたいと思います。

○炭谷政府参考人 ただいま先生が御指摘されましたように、現在、政府において、野中前官房長官の時代の指示に基づきまして、在日韓国人の旧軍人軍属等の問題に対する検討が行われております。現在中心になっております内閣外政審議室において、本件に対処するに当たっての種々の問題点、具体的に申しますと、現在の法制や制度の問題、また戦後処理の枠組みとの関係、また韓国における処理状況などの諸問題につきまして調査検討が行われております。
 まだ具体的な結論には至っておりませんが、これに対して厚生省としても必要に応じ協力をして、検討に参画しているところでございます。

○遠藤(和)委員 質問の時間が終了しましたので、これで終わります。ありがとうございました。

 第147回国会 衆議院 内閣委員会 第1号 平成12年3月8日(水曜日)午後零時三十九分開議

【発言順】
 委員     岩田 順介
 総務庁長官  続 訓弘
 委員     河合 正智
 内閣官房長官 青木 幹雄

○岩田委員
 第二次世界大戦において、二十四万人を超える朝鮮半島の方々、二十一万を超える台湾出身の方々が旧日本軍の軍属や軍人として徴兵され、また、多数が亡くなられたという事実が現実にあります。戦後になって、この日本人の軍人軍属であった戦没者の遺族及び戦傷病者に対しては、戦傷病者戦没者援護法または軍人恩給の復活によって年金または一時金が支給されている、こういう現状であります。
 しかし、それらの法律は日本国籍が問題になります。サンフランシスコ平和条約により日本国籍を離脱した特別永住者に対する戦争被害に関する補償は、同条約に基づく二国間の取り決めにゆだねられました。
 その後の経緯を申し上げれば、在日韓国人については、政府は昭和四十年の日韓請求権の協定締結によって解決をしている、こういうふうに言っております。したがって、韓国政府は韓国国内の戦没者のみを対象として見舞金を支給いたしました。在日韓国人は日韓のはざまで何ら補償はない、これは長官がおっしゃっておったとおりであります。
 同様に、台湾出身者においても、二国間の取り決めが困難になった状況を受けて、昭和六十二年に台湾住民である戦没者の遺族等に対する弔慰金等に関する法律を制定して、見舞金や弔慰金を支給した。しかし、在日台湾人は何らの措置も講じられずに現在に至っている。
 これらの特別永住者は、戦後もずっと日本人と同様に生活をして納税義務も果たしてこられたわけですね。その期間、援護法の制定があったけれども、制定後既に四十八年もたっている。それから、日韓請求権協定の締結後においてもう既に三十五年もたっている。なお現在も公務上の傷病等による障害に苦しんでいる方々が多いことは、御承知のとおりだと思います。社会的なハンディを負っていますけれども、どうしてもこれらの問題は差別的な取り扱いであるというふうに我々は認識をして、是正をするように立法作業を進めているところであります。
 大まかに、いわゆる当時の台湾の方々、朝鮮半島の方々が今どういうふうに取り扱われているかという現状を若干申し上げましたが、そういう認識で立法措置することは当然だと思いますが、長官の理解が得られますでしょうか。

○続国務大臣 今、日韓関係二十四万人、日台関係二十一万人、そしてまた事実関係をいろいろとお述べになりました。まさにそのとおりだと私、認識しております。
 したがいまして、この問題につきましては、先ほども恩給法の枠内では処理できないけれども、同時に、例の裁判所の判決等を受けて、先ほど申し上げましたように、前内閣官房長官の時代にこの問題を何とか解決すべく努力する必要があるということで、外政審議室を中心に議論を進めている、こういう状況でございます。その議論を進めるということは、やはり何らかの結論を出すための議論だと私は思いますので、今しばらく時間をかしていただきたい。
 同時に、今お述べになりましたことは、私もそのとおりだと理解しております。

○河合委員
 まず、この判決に裁判所の所見がついております。ちょっと引用させていただきます。
 第二次世界大戦に伴ってこうむった悲惨な戦争被害について、日本国籍を有する軍人軍属等が援護法に基づき相応な補償を受けているのに対し、在日韓国人である軍人軍属等は戦後長期間にわたって日本及び韓国のいずれからも何らの補償を受けられないという状況に置かれていることが契機となって提起された訴訟であり、当裁判所としてもその点を十分認識している。
 また、日韓請求権協定の締結や人権規約の批准といった新しい事態が生じた後も、何ら是正されないまま放置され、政治的な解決はもちろん、人道的な見地からの解決も何ら進展していない、その是正を求めるために訴訟を提起せざるを得なかった心情についても、裁判所なりに相応の理解をしているという所見を述べられております。
 そして、判決文では、日韓請求権協定の締結により、在日韓国人軍属等がこうむった戦争被害について、日本及び韓国のいずれからも補償がされないことが明らかとなった昭和四十年六月二十二日、ちなみにこの日は日韓請求権協定締結の日でございますが、その日以降は、援護法に基づく給付を一切行わないことは憲法十四条に違反する疑いがあるとまで判決文で述べているところでございます。
 さらに、国はB規約を批准しており、昭和五十四年、一九七九年九月二十一日、この日日本は批准したわけでございますが、その国内的効力が発効しているのに、在日韓国人軍属等に援護法に基づく給付を一切行わないことは、右人権規約に違反する疑いがある、このようにも述べております。
 そして、さらに、国会が今後も何らの是正措置も行わずその是正に必要な期間を経過したような場合には、新たな立法措置をしない立法不作為、すなわち国家賠償法上の違法な行為と評価されることがあり得るとまで判決文で述べております。
 そして、さらに、先ほど申し上げました所見に戻りますと、その是正は、第一義的には、立法機関である国会において行うべきものと考える、在日韓国人である軍人軍属等の援護の問題を再検討し、日本が国際社会において占める役割や地位をも十分考慮の上、国籍条項及び戸籍条項の改廃を含め、本件の問題に関して、国際社会からも十分納得が得られるような是正措置がとられることを期待するものでありますと結ばれているわけでございます。
 この大阪高裁の判決につきまして、官房長官の御所見をお伺いさせていただきたいと存じます。
 次に、一九六五年六月二十二日、先ほど申し上げました日韓請求権協定の締結において、日韓両国間の財産請求権問題は完全かつ最終的に解決された、そして同協定は在日韓国人の財産、権利、利益には影響を及ぼさないということが確認されたわけでございます。
 この問題につきまして、すなわち在日韓国人の補償問題につきまして、日本政府は一切この解決済みの問題の中に含まれるというふうに解釈しておりますが、一方、韓国政府は同協定の影響を受けない財産、権利、利益に該当するので、請求権協定に基づく五億ドルの補償の対象にはならないと解釈しているわけでございまして、両国の解釈に完全な食い違いがございます。
 このような場合、同協定第三条では、外交上の経路を通じて解決すること、同条第一項、また、これにより解決できない場合は仲裁委員会を設置して解決する、同条第二項ないし第四項としているところでございますが、政府はこの手続を怠ってきたのではないですか。この点もお伺いさせていただきます。
 さらに、在日韓国人等の方は、実態は日本国民と全く等しい、日本で働き、日本で納税している方たちでございます。先ほど申し上げました野中官房長官にお伺いしたとき私が引用しました東京高裁の判決、平成十年九月二十六日判決の裁判所の所見では、援護法が外国人をその対象から除外したのは、外国人に対しては損害賠償問題として考慮するべき筋であるとの思想からであったとしても、在日韓国人は日本国籍を有し、日本の軍人軍属として戦争に従事したもので、援護法の運用開始時にはまさに日本国籍を有していたと解されるから、その立場は日本国籍を有する者に近いと言うべきである。日本国籍を有する者に準じて処理する方が実態に即してより適切であると言える。そして、現に日本に長年にわたって居住されているということを考慮すると、三つの点をこの所見で述べられているわけでございますが、そのうちの二つでございます。一つ、日韓両国の外交交渉を通じて日韓請求権協定の解釈の相違を解消し、適切な対応を図る努力をする、もう一つは、在日韓国人の戦傷病者について、これに相応する行政上の特別措置をするということを提言しております。
 行政府の長である長官にお伺いさせていただきたいと存じます。

○青木国務大臣
 本件につきましては、現在の恩給法、援護法等の範囲を超える問題でございまして、また、韓国の方々に係る財産請求権の問題については、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定により、在日韓国人の方々にかかわるものを含めて、日韓両国間では既に法的には完全かつ最終的に解決済みであるということは、議員御承知のとおりであります。
 しかしながら、これらの方々の置かれた状況にかんがみ、野中前官房長官の御指示を契機として、関係省庁の協力も得て、内閣外政審議室において、戦後処理の枠組みとの関係等、本件に対処するに当たっての種々の問題点につき調査検討が行われてきたところであります。また、私自身も、この問題につきまして、昨年の十一月、関係者の皆さんからかなりの時間をかけていろいろな事情をお聞きしてまいりました。
 本件は、係属中の提訴を含めて種々の経緯のある難しい問題と認識いたしておりますが、人道的観点からの検討が与党内で開始をされていると承知いたしております。この席に御同席の虎島先生を中心にそういう議論がなされておりますが、そういう議論が始まったということは、今議員おっしゃいましたように、大阪高等裁判所の判決を受けて、この問題は立法機関である国会において十分対応すべきである、その意を酌んだものでもあろうと私も考えております。
 本問題につきましては、私の前任の野中長官が、二十世紀を締めくくるに当たって私どもが十分検討し、解決しなきゃいかぬ問題だということを強く言っております。私も、この問題の解決に向けては、野中長官と同じ使命感と熱意を持って今後とも対応していきたい、そういうふうに考えております。

 第147回国会 参議院 法務委員会 第2号 平成12年3月14日(火曜日)午後二時一分開会

【発言順】
 委員      福島 瑞穂
 法務省民事局長 細川 清

○福島瑞穂君 では、今還付請求をしますとこれは受け取れますか。

○政府参考人(細川清君) ですから、法律上の要件があるかどうかということを判断するわけでございますが、御指摘のような方の場合には、まず日韓請求権協定がございまして、それに基づいて法律が制定されておりますので、韓国籍の方につきましては特別法に基づいて請求権が消滅しているということになりますので、これは払い渡しに応ずることはできないという結論になるわけでございます。

○福島瑞穂君 新聞によれば、例えば六万余人がいたんじゃないかとか、未払いは二億三千七百万円ではないか。当時のお金で、調査団が調べたところによると三十三万人分、五千万円。当時の五千万円ですから物すごい金額になると思うんですね。
 それで、今、日韓協定の話がありましたが、一九九一年八月二十七日、柳井外務省条約局長は国会答弁で、日韓両国政府が国家として持っている外交保護権を相互に放棄したというだけにすぎず、個人の請求権を消滅したものではないと答えておりますが、いかがですか。

○政府参考人(細川清君) 柳井条約局長の答弁は承知しておりまして、私どももそのとおりだと考えております。
 供託金の、問題の供託金還付請求権は、日韓請求権協定自体によってなくなったわけではなくて、この協定を踏まえて制定された国内立法、これは非常に長い名前の法律でございますが、これによって消滅したということでございます。そういうふうに私どもは供託を担当する立場としては理解しているところでございます。

○福島瑞穂君 これもまた本当にひどい話だと思うのは、戦争中働いて賃金があった、その未払い賃金はでも戦後すぐ供託をされてしまった。この日韓条約ができるのは一九六五年です。戦後二十年間本人に通知がされなかったわけですね。本人たちは知ることができれば返せと言うことはできたと思うんですが、なぜこれは二十年間放置されたんでしょうか。

○政府参考人(細川清君) サンフランシスコ平和条約におきましてこれは別途取り決めるということになっておりまして、ただいま御指摘のときに日韓の間の協議が調って日韓請求権協定が締結された、このように理解しているところでございます。

○福島瑞穂君 日韓条約を締結するまでも時間があるのに、本人たちへ通知すらされなかったと。通知したけれども届かなかったということではないですね。通知すらされなかったと。それはやはり怠慢というか、問題があったと考えますが、いかがですか。

○政府参考人(細川清君) これは供託自体が住居所不明ということで供託されておりますので、当然通知はできないわけでございます。

○福島瑞穂君 一度でも戸籍、住民票、住所のあるところに通知などはなされたんでしょうか。

○政府参考人(細川清君) ただいまお答え申し上げたとおりでございまして、供託所の方から通知を申し上げたことはありません。

○福島瑞穂君 先ほど日韓条約と法律百四十四号の話をされました。では、お聞きします。
 北朝鮮籍の人が返せと言ったら、これは返してもらえるんでしょうか。

○政府参考人(細川清君) 先ほど申し上げました請求権協定及び法律は、これは韓国の国籍のある方に適用があるわけでございますので、それ以外の方の場合には供託法の他の要件が満たされているということになれば払い渡し請求に応じることは可能でございます。

○福島瑞穂君 払い戻しの法的要件は満たしているのでしょうか。

○政府参考人(細川清君) 御本人である、あるいは御本人の相続人であるということを証明していただいて、あとは供託法の定める手続に従って払い渡し請求をしていただければよろしいわけでございます。

○福島瑞穂君 時間が来ましたので、これは今宙ぶらりんの状態で多額のお金が国に保管をされております。今の金額でも多額ですから、当時のお金に、当時と今との貨幣価値を考えれば莫大なお金が宙ぶらりんのまま保管をされています。これについてはきちっと対応する必要があると考えますので、また今後もよろしくお願いします。

○政府参考人(細川清君) 私、今、ただいま若干不正確なことを申し上げたんですが、政令二十二号、昭和二十五年の政令二十二号が適用あるものは、時効が別に政令で定める日まで来ないということになっていますから、この適用あるものは、先ほど言ったような方々については時効が来ていないので、そのほかの要件が満たされれば請求できるというのが一番正しいお答えでございます。

 第147回国会 参議院 総務委員会 第5号 平成12年3月23日(木曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員     菅川 健二
 内閣官房長官 青木 幹雄

○菅川健二君
 それから、本題の恩給法でございますけれども、これに関連いたしまして、長年懸案でございました旧植民地出身で旧日本軍人軍属であった特別永住者につきましては、国籍条項等がございまして、何ら措置されていないという大変谷間に長い間置かれておるわけでございます。昨年十月の大阪高裁の判決におきましても、障害年金の不受給は違憲の疑いがあるということで、裁判長は、国が今後できるだけ速やかに是正措置をとられるようにという所見を出されておるわけでございます。
 これにつきましては、政府におかれても、前の野中官房長官が、たしか二十世紀に積み残しの問題は二十世紀中に解決しなければならないという強い決意でこの問題に当たられておるやに聞いておったわけでございますが、現長官におかれてもそういった問題は引き継がれておると思うわけでございますが、二十世紀も間もなく過ぎ去ろうとしておるわけでございまして、この点につきまして速やかに結論を出すべきであろうかと思いますが、その後の経緯なり今後の見通しについてお聞かせいただきたいと思います。

○国務大臣(青木幹雄君) 本件につきましては、現在の恩給法、援護法等の範囲を超える問題でありまして、また韓国の方々にかかわる財産請求権の問題につきましては、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定によって、在日韓国人の方々にかかわるものを含めて日韓両国間では法的には完全にこれは解決済みであると、そういう前提に立っております。
 しかしながら、議員今おっしゃいましたように、これらの方々の置かれている状況、人道的な問題にかんがみまして、野中前官房長官の御指示を契機として、関係省庁の協力も得て、内閣においては内閣外政審議室において戦後処理の枠組みとの関係と本件に対処するに当たっての種々の問題点につき調査検討を今日まで行ってきたところであります。私も、昨年の十一月、関係者からの要望をひざを交えてよくお聞きする機会を得ることもできました。
 本件につきましては、継続中の問題も含めて種々経緯ある難しい問題という認識はいたしておりますけれども、議員今おっしゃったように、二十世紀に起きたものは二十世紀に法以前の問題として人道的に解決しなければいけない、それがやはり一つの政治の大きな役割だと、そういうふうに考えております。
 私が仄聞するところによりますと、与党・自由民主党においてもこの問題において昨日ある程度の結論が得られ、これから三党間において話が行われると聞いておりますし、また議員が所属していらっしゃいます民主党においてもこの問題について鋭意検討が進められておる、そういうふうに承知いたしておりますので、そういう議論を踏まえて政府といたしましても前向きな対応を続けていきたい、そういうふうに考えております。

 第147回国会 衆議院 厚生委員会 第5号 平成12年3月24日(金曜日)午前十時開議

【発言順】 
 委員   山本 孝史
 厚生大臣 丹羽 雄哉

○山本(孝)委員
 きのうの質問通告と順番が最初のところで入れかわっておりまして申しわけありませんが、最初の質問は、特別永住者の元日本軍人軍属への戦後補償問題でございます。
 昨年の三月九日に内閣委員会がございまして、私も傍聴しておりましたけれども、当時の野中官房長官が、ただいま申し上げました特別永住者の元日本軍人軍属への戦後補償の問題について、内閣として前向きに対処したいという御答弁がございました。ちょうどそれから一年がたっております。
 その後、各党でそれぞれいい案はないだろうかということで協議が進んでいるところでございますけれども、その後の審議の中で、宮下厚生大臣は、内閣として取り扱うことは無理であるという御答弁をこの委員会でもいただきました。しかし、その後、大臣も御承知のように、昨年の十月十五日に、大阪高裁が判決と所見を述べました中で、現状は法のもとの平等を定めた憲法十四条や国際人権B規約二十六条に違反する疑いがあるというふうに明確に述べたところであります。
 このように大阪高裁が述べた所見というものについて、まず大臣はどのように受けとめておられますでしょうか。御見解をお聞かせいただきたいと思います。

○丹羽国務大臣 援護法には国籍要件が設けられており、朝鮮半島出身者など日本の国籍を有しない方には同法は適用されない、まずこれが原則でございます。
 このような国籍要件が設けられましたのは、朝鮮半島などの分離独立地域に属する人々の補償、財産あるいは請求権などの問題は、昭和二十七年のサンフランシスコ平和条約において、それぞれの二国間の特別取り決めにより解決するものとされたものでございます。
 その中で、韓国との関係については、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定によって、在日韓国人元軍属等の問題を含めまして、法的には完全かつ最終的に解決済みのものとなっているような次第でございます。
 御指摘の大阪高裁の判決でございますが、判決そのものは、今申し上げましたような国側のこれまでの主張が基本的には認められて勝訴になっている、こういうふうに私どもは受けとめておるような次第でございます。

○山本(孝)委員 ただいまの御答弁は、厚生大臣としての国の見解をお述べになったということだと思います。
 かねてからどなたもおっしゃっておられますように、法律には国籍条項があるので、したがって、この問題は現行法では取り扱いができない、朝鮮半島出身の方たちについては日韓請求権協定でもう既にこれは解決済みであるという趣旨をお述べになったわけですけれども、これは大臣御承知のように、在日韓国人の場合は、今韓国からも日本政府からもどちらからも全く補償を受けていないという状態で長年放置されてきておられる。片や、同じように日本軍に参加をしながら、日本の方たちは恩給法あるいは戦傷病者法等で大変手厚く援護を受けておられる。
 しかし、同じように日本国内に長年住みながら、その状態にないということは差別的状態であると裁判所は言ったわけです。こういう状態にあるということ、国会の側の立法措置が必要であるということも述べたわけですけれども、これは大臣としては先ほどの御見解だと思うんですけれども、政治家として、国会議員のお一人として、こういう状態をどのように受けとめておられるのでしょうか。

○丹羽国務大臣 今、私は、厚生大臣という公職におるわけでございます。今申し上げましたように、法的には完全かつ最終的に解決済み、こういうことでございますが、野中前官房長官の御発言を契機にいたしまして、これらの方々の置かれた状況を十分に配慮しながら、現在、内閣外政審議室におきまして、この問題に対処するに当たってのさまざまな問題点につきまして調査検討が行われているところでございまして、厚生省といたしましても、必要に応じて協力を行っていきたい、こう思っております。
 率直に申し上げて大変難しい問題でございますが、現在、与党内でも、議員立法を前提として、委員も御指摘のようないわゆる人道的観点からの検討が進められている、こういうふうに承知をいたしておるわけでございますので、当面、その状況を見守っていきたい、このように考えているような次第でございます。

 第147回国会 参議院 国民福祉委員会 第13号 平成12年3月30日(木曜日)午前十時一分開会

【発言順】
 委員   佐藤 泰介
 厚生大臣 丹羽 雄哉
 委員   堂本 暁子

○佐藤泰介君 国家による戦争で被害を受けた方々に国家が補償をする、特にこの援護法は軍人軍属などであった方とその遺族を援護することを目的に制定されています。
 今、大臣からも大変高齢化しているというお話がございましたけれども、受給者の方々もこの援護法による金銭の受け取りよりも家族一緒に障害なくその人生を全うした方がよかったと思われていることだと私は思っております。
 さて、国家補償、すなわち国の責任を証明していると言えるこの援護法の規定は、この戦争によって被害を受けられた方に対してすべてに平等であると考えるのですが、既にこの委員会でもいろいろ質疑はされたと思いますが、国籍条項によって制限が設けられております。日本に在住してもう五世が生まれている現在の特別永住者に関してもこの援護法の国籍条項のため適用がされておりません。
 日韓請求権協定の解釈の論争に終始したり、日朝交渉の結果待ちに終始したりしています。政府間の政治的交渉のおくれが、該当者がどんどん亡くなっていかれることを座視しているようにしか私には思えませんが、特別永住者に何らかの措置を講ずるとした場合、受給資格に該当する人数、あわせて旧植民地出身者を軍人軍属とした欧米諸国の補償の現状について説明をしていただけますでしょうか。

○国務大臣(丹羽雄哉君) 厚生省は、旧陸海軍から引き継いだ軍人軍属に関する人事資料等を保管いたしておるわけでございますが、これによりますと、朝鮮半島の出身の旧軍人軍属の人数は全体でおよそ二十四万人でございます。そのうち戦没者はおよそ二万人になっております。
 これらの保管資料から戦傷病者の方がどのぐらいいらっしゃるか、また現時点での生死の状況であるとか、あるいは在日の方がどのぐらいいらっしゃるかという居住地につきましては、現在明らかにすることができておりません。
 なお、準軍属につきましては、日本人の場合を含め厚生省には記録が残っておらない状態でございます。

○堂本暁子君 私も戦傷病者戦没者遺族等援護法で朝鮮半島出身の方についての質問をしたいと思いましたが、今同僚議員の質問には本当に心痛むものがございました。後ろにいらしていらっしゃるとすればどの方なんでしょうか。
 大変な御苦労をなさったということで、私も本当に胸がかきむしられるような思いがいたしました。
 やはりこういった法律と申しますか、制度の谷間に落ちてしまう方がいらしてはいけないんだということをつくづく思いますし、それからある程度きょうのお話で、私は大臣にお願いしたいのは、人数もそう多くない、それから、私の父もアメリカにおりましたから、敵国ということでキャンプに入れられて、そしてそのまま亡くなりましたけれども、やはり戦争というのは本当に個人の意思とは別にその人の不幸を招くものだし、日本は責任を持たなきゃいけないというふうに思います。だから、清水さんの質問を補うのであれば、私は、超法規的な措置をとっていただきたい、そんな気がしています。
 私自身は大変短い時間しかお願いしていませんが、去年は三月二十三日に同じ質問がございました。そのとき私は、議事録を見てみたら、ちょうど北朝鮮から帰ってきて三日目だったんですね。それで、去年のちょうど今ごろピョンヤンに参りましたけれども、大変反日的なムードが強くて、ホテルから外にも出てほしくないと言われるほどの反日感情の渦の中におりました。当時の厚生大臣、そしてさらに内閣の外政審議室長に、今後正常化交渉があったときに、どうか南北の隔てなくそういった対象になる方たち、日本の軍人あるいは軍属として戦った方たちに関しての補償をぜひお願いしたいということを申し上げまして、その御答弁は、今後国交正常化のときには当然対象にする問題である、含む問題であるという御答弁でした。
 それから一年たちまして、今ちょうど国交正常化についての話し合いがスタートしてまいりました。そういったときに、やはり南北の別なく、そしてやはり日本人として戦地に行った方たちやそういった方たちの補償というのはこれから交渉していくべきだと思っております。その件について大臣の御所見を伺いたいというふうに思います。

○国務大臣(丹羽雄哉君) 朝鮮半島など分離独立地域の出身者の財産・請求権の問題につきましては、昭和二十七年のサンフランシスコ平和条約において我が国とこれらの地域の施政当局とのいわゆる特別取り決め、外交交渉により解決されていることとされております。
 このうち、もう私から繰り返し申し上げることもないのでございますが、韓国との間では昭和四十年に日韓請求権・経済協力協定が締結されまして、完全かつ最終的に解決済みとされておるわけでございます。これを受けまして、韓国政府は昭和四十九年に在韓国の戦没者遺族に対しまして三十万ウォンの補償金を支給する、こういう措置を講じておるわけでございます。
 また、北朝鮮につきましては国交正常化の問題がございますので、サンフランシスコ平和条約で予定されております特別取り決めを締結することが今できない大変不幸な状況にございます。しかしながら、在日の方々につきましては現に置かれている状況を十分に配慮しながら、人道的な観点から検討が与党内で行われていると承知をいたしております。与党内では、サンフランシスコ平和条約により日本国籍を離脱した者であっても国内に永住している者については、出身地域を問わず対象とする案が検討されているというふうに聞いておるわけでございます。
 ただ、これは他国におられる方でございますので、日本政府が他国というようなそれぞれの主権を持っている問題、それを通り越して何らかの措置を行うということは、この主権の問題とも大変微妙に絡んでいるということはぜひとも御理解を賜りたいと思っております。

 第147回国会 衆議院 決算行政監視委員会第一分科会 第1号 平成12年4月20日(木曜日)午前九時開議

【発言順】
 出席分科員 栗原 博久
 内閣審議官 高田 稔久

○栗原(博)分科員 政務次官からも低額の方々の加算とかというお話がございました。後ほどまた私も、恩給欠格の方々も取り上げさせていただきますが、こうして今、国家予算に占めます率がピークの八・七から今日ずっと下がっておるわけであります。
 恩給というものは、戦争に従軍した方々に対する国家補償もさることながら、戦争をやったら国家は甚大な被害をこうむるし、また未来永劫にわたってその補償をせねばならぬという、そういうものを国民に示すためにも、私は恩給というものは一つの意義のあるものだと思っているんですよ。だから、絶対に戦争をしてはならない、戦争を行ったらいつまでもこのような国家補償が続くんだということの一つの示しを示すために、私はこれは大変大切なものだと思っておるわけであります。
 そういう中で、最近、議員立法でございますが、四月十八日に三党で合意いたしております、在日韓国人の旧軍人等に対します弔慰金のことについて、ちょっとお聞きしたいと思うのでございます。
 昭和六十二年に台湾特定弔慰金制度というものがございまして、台湾住民であって戦没者の遺族に対して弔慰金を支払うという法律が施行されました。当時、台湾出身の日本の旧軍人あるいは軍属は約二十一万人でありまして、そのうち約三万人の方々がその対象となって、戦没者あるいはまた重度の戦傷病者に対しましては、お一人二百万の国債などが支払われたという事例がございます。これは、日本赤十字社が代理受領しまして、台湾の方の赤十字の方を通じて払ったわけであります。
 これと同じように、今度は、さきの大戦におきまして、約二十四万人を超える朝鮮半島の出身者が日本の旧軍人軍属として軍務に服して、多くの方々が戦死されたり、あるいはまた戦傷病を負っているということです。しかしながら、これらの者につきましては、かつて戦後、サンフランシスコ平和条約の発効に伴いまして、要するにサンフランシスコ条約にちゃんとそれは明記してあるわけですが、日本の国籍を離脱したために、恩給法とかあるいはまた戦傷病者戦没者遺族等援護法等が適用になっていない、日本の国内法の適用外なわけであります。
 そういう中で、国籍の関係でそうなったと思うんですが、この議員立法を私ども計画しておりますが、これに対しまして担当所管官庁としてどのようなお取り組みをお考えになっているかについて、これは回答できない範囲もあると思いますが、前の台湾の特定弔慰金のこともございますから、それを見習って、御回答できる範囲でひとつ御回答いただけますか。

○高田政府参考人 本件につきましては、今先生御指摘のとおり、現在の恩給法あるいは援護法等の範囲を超える問題であります。また、韓国の方々にかかわる財産請求権の問題につきましては、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定によりまして、在日韓国人の方々にかかわるものを含めて、日韓両国間では法的には完全かつ最終的に解決済みであります。
 しかし、これらの方々の置かれた状況にかんがみ、野中前官房長官の御指示を契機といたしまして、内閣の外政審議室におきまして、関係省庁の協力も得て、戦後処理の枠組みとの関係ですとか、あるいはこの問題に対処するに当たっての種々の問題点につき調査検討を行ってきたところでございます。
 本件、係属中の訴訟を含めて種々経緯のある難しい問題であると認識をしております。今まさに先生御発言ありましたように、議員立法を前提として、人道的観点からの検討が与党内でまさに鋭意進められていると承知をしておりまして、政府といたしましては、目下その検討状況を見守っておるところでございます。 

○栗原(博)分科員 サンフランシスコ条約の発効、並びに日本とこれらの関係国との間に昭和四十年にきっちりとこの補償問題は片がついておりますが、しかし、今日に至ってそれがまたもう一度ぶり返してまいっておるわけであります。
 私は、実は、質問を申し上げたことは、別に在日韓国人あるいは中国人に対するものに反対であるというようなことではないんですよ。申し上げるのは、一たん国際間において取り決めが終わっている、それをもう一度ぶり返す。そうしますと、国内に恩給支給年限に達しない多くの方々、戦地で激烈な戦いをいたしまして、戦友の多くの方々を眼前に亡くしながら、そして悲惨な戦いを戦い抜いてまいりまして、また、引き揚げてきて人生ががらっと変わった方々がおられる。約二百五十三万人の恩欠の方々がおられるわけであります。
 あるいはまた、たしか昭和二十年の九月ごろですか、旧ソ連、モンゴルに、本人の意思を無視されまして、もう戦争は終わっているのにもかかわらず、軍などの権力者に有無を言わさず連れていかれた。それによって過酷な労働を強いられながら、引き揚げてまいりましてからも、私どもの先輩も多くの方々がおられますが、亡くなった方もたくさんおられます、私のお世話になった方々が。本当に、体にあるいは内蔵に疾患を伴って亡くなっている方々がおられました。帰還者が四十七万三千人。現地で無念の死を遂げた方々が五万五千人おられる。あるいは、そのほか引揚者の方々が約二百六万人。
 こういう方々に対して、本来、恩給措置をやはりされるべきだ。引き揚げた方が民間であったときには恩給対象とならない。軍人とかあるいはまた国家機関に勤めた方は、恩給としてちゃんと引き揚げてきてからも加算されているけれども、民間であったゆえに、それも国家の意思に基づいて外国に赴任したわけですが、そういう方に何ら、恩給支給年限が達していないということで支給されていないわけですね。
 私は、台湾の方々あるいはまた在日の方々、特に台湾の場合もその軍歴票なんか恐らくないと思いますから、あっても——今恩欠の方々とかそういう方が、恩給制度の方へいろいろ申請しましても、軍歴の関係で証明するものがないということで却下になる例もたくさんあるわけですね。しかし、こういう台湾の方々については、割合と、私はゆったりした審査であると思うんですよ。
 ただ、私は、やはり日本の国民に対して、ずっと今まで運動を展開してまいりましてもうそろそろ八十歳、九十歳になる方々、今でも、ほんのわずかの差で恩給がもらえなかった、私どもは金だけじゃないんだ、国家に身を挺して、戦友の死を眼前にしながら戦ってきた、これに対して書状とか何か銀杯だけでは済ませられないと言う。
 だから、こうしてピークで八・七%、今は一・六%ですか、国家予算に恩給の占める割合。こういうとき、こういう制度をもうやるんだ。在日韓国、在日の方々についてやる、それはいいことだ。あわせて、こういう恩欠の方々を初めとする方々にもっと真剣に、やはり同じようなまなざしでこの問題の解決を行うことがまさしく法治国家であり、また、今後とも国民に未来永劫にわたって平和を誓う国家であると私は思うのであります。
 そういうことで、長官おられますから、ぜひひとつこのことについての御所見を、個人的な見解で結構でございます、それは別に御発言されましたからそれを私が云々とは申しませんが、御答弁賜れればと思うのでございます。

 第147回国会 参議院総務委員会 第10号 平成十二年五月三十日(火曜日)午前十時開会

【発言順】 
 委員     千葉景子
 弁護士    金 敬得
 発議者  加藤 六月
 内閣官房長官 青木 幹雄
 委員     櫻井充
 発議者    竹村泰子

○千葉景子君 本日は、与党の発議者の皆様も、そして民主党提案者の竹村先生も、そして金弁護士も、本当にありがとうございます。このような審議がこの場で行われますことに、私も改めて心から皆さんにも敬意を表させていただきたいというふうに思っております。
 本来であれば、どういう問題が今問われているのかということを、当事者の皆さんに来ていただいてその生の声をお聞かせいただくことが私は本当はよかったのではないかというふうには考えております。残念ながらそういうことができませんので、若干私の方から、一体今どういう問題があるのだということを、昨年の十一月二十日に在日の姜富中さんが小渕前総理に出された文書、そしてきょう金先生の参考人の資料としてお出しいただいておりますやはり姜富中さんの思い、私の方で若干、せっかくの機会でございますので引用させていただきたいというふうに思っております。姜富中さん。
 私は韓国農家の次男として生まれ、十四歳の頃一人で日本に渡り、一九四二年、「呉海軍」に徴用工として連行されました。数日後、総員集会があり、上官は「諸君たちは只今から大日本帝国の皇国臣民である。立派な呉海軍軍属である。二年間働いてくれ。給料は各自の家へ送金する。また生命保険も掛けてあるから安心してくれ」と言われ、第十九設営隊に配属されました。同年十二月、皇軍兵士としてソロモン群島、ラバウル、ムンダ、コロンバンガラ島、ブイン、ブカ、ポニスの各地に連行され、知らぬうちに海岸警備隊員にされ、敵の昼夜を問わない空爆、艦砲射撃を受ける最前線で、恩賜の煙草三本を貰い、皇国臣民として天皇のため、一億国民のため立派に任務を遂行せよとの命令を受け、伝馬船で爆弾を輸送中に敵の戦闘機の機銃掃射を受け「右手」「右目」を失ったのです。
 「私は日本人と同等の補償と、謝罪を求めています。このことなくしては、私の戦争は終わりません。」「国会議員の皆さん、日本が民主主義の国として、差別をなくし、欧米諸国のようにきちんとした戦争責任を果たすよう、強く要望します。私は補償だけを、目的にしておりません。日本政府の戦争責任が正しく実現されることが、これからの世代の人たちに国境を超えた真の信頼と友好を、生み出してくれると信じております。」。
 大変私も、心を本当に動かされる言葉でもございます。こういう皆さんの問題が今この場で審議をされるということでございますが、金先生にきょうはわざわざお越しをいただきました。この間、裁判などにも携われ、一体今、日本の国会は裁判所からどんなことを求められているんだろうか。それから、この参考資料にもございますように、韓国の側でもやはり憲法裁判所の判断が出て、韓国としてのある意味では考え方も示されているのではないかというふうに思います。
 そんな点を先生の方から、大変短い時間で恐縮とは存じますけれども、お話しいただければ大変ありがたく思います。

○参考人(金敬得君) 当事者にかわりまして若干の意見を述べさせていただきます。きょうはお招きいただきましてありがとうございました。
 私は約十年ぐらい前に、今、横浜の病院におられます石成基さん、きょう皆様に資料をお渡ししておりますが、という方に初めて出会いました。マーシャル群島で爆撃を受けて右腕を切断した方でございます。今、第三項症ということでございまして、もしこの方が日本国籍を有しておるならば現在まで受領できた年金額は八千万円に達する人でございます。しかし、韓国人であるがゆえに全く補償を受けられずに現在まで至っておる人でございます。
 この方が、今病院に伏せっておりますが、よく言われる言葉の中に、私どもはぬれぞうきんだと。戦前は天皇の赤子だということでおだてられて、戦争が終わればぽいと捨てられたと、よくこういう言葉を口に出します。五二年に援護法ができまして国籍条項が設けられるわけですが、同じ日本帝国臣民として戦争に従事しながら、戦争が終わったら国籍がないという形で切り捨てられるということは納得できないということで、政府、各官庁に何度も請願に足を運んでおります。しかし、そのときの言葉は、日韓請求権協定ができればこれはあなた方の問題も解決されるから、それまで待てというのが一つの回答でございました、日本政府の。
 しかし、一九六五年の、先ほどのアジア局長の答弁にもありましたが、六五年に日韓請求権協定が成立するのでございますが、この日韓請求権協定に関しましては、日本側政府の考えは先ほどアジア局長が答えたとおりでございますが、韓国側はこれとは全く逆の立場をとっております。韓国在住の韓国人に対しては日本政府の解釈と一致しておりますが、在日韓国人の財産、権利、利益に関しては、これは日韓請求権協定第二条において協定の対象外となっておるということで、したがって韓国が国内法でつくられた法律の中からも協定の対象外である在日韓国人は除外されたわけでございます。
 言ってみれば、韓国政府に対して要求すればそれは日本政府が責任を負うべきである、また日本政府に対して要求をすればそれは韓国政府が責任を負うべきであると、こういう状況で、言ってみればキャッチボールのような形で実は現在まで至ったということでございます。
 韓国政府の答弁は一貫しております。これは皆様のお手元の資料に、ことしの三月三十日の憲法裁判所、石成基さん等日本で訴訟を提起しております方々が、九八年に韓国の憲法裁判所に、日本の政府に対して韓国政府の側から仲裁委員会の開催要請をしてほしいと、これは日韓請求権協定の第三条で定められた条約上の権利でございますので、それを何とか行使してもらえないかということを憲法裁判所に訴え出たものでございます。
 しかし、これは、そういう高度の政治問題は政府の裁量であるので、中身としては、韓国政府は日韓請求権協定で解決しておらないというふうな解釈をとっておるけれども、それを仲裁という申し入れをするところまでは日韓の外交上のさまざまな問題を考慮してするところではないと、現状では、そういう答弁になっておりますが、しかしその中身については終始一貫したものがあるわけでございます。
 もう一人、東京高裁の判決の原告であります陳石一さん、九四年に亡くなりましたが、この方はボルネオ沖で爆撃を受けまして左足を切断した方でございます。この方と私はお会いして、よく言った言葉が、切断されてなくなった左足の足の裏がかゆくて仕方がないと。神経があるわけですね、その足をかきたいんだけれどもかけない。これは、彼が日韓の間に、石成基さんと同じように日韓両政府に何度も何度も訴えるわけですが、隔靴掻痒の感があって、何度もどちらに言っても答えが出ないという、彼のこの間の苦しみをそういう自分の足のかゆみに比喩して言った言葉だと思います。
 とにもかくにも、非常に議員の方々の御苦労、そういう日韓の間で非常に意見の一致がないままに今回法案が提出されておる御苦労はわかるわけでございますが、東京高等裁判所の九八年の判決は、これは日本の司法消極主義といいますか、高度の政治問題であるので日韓の請求権協定の解釈自体は回避いたしました、日本の東京高等裁判所は。しかし、日本に住んでいる在日韓国人は日本国民に準じて処理するのが事案にふさわしいという付言を出しております。今回提出されたその法案が、果たしてこの付言に十分こたえ得るものになっておるのかどうなのかということをよく御審議いただきたいと思います。
 それから、先ほど帰化をした方も今回この中に含まれておるという河合議員のお答えがございましたが、実は日本の援護行政は、日韓請求権協定までに帰化をすれば在日韓国人、台湾人、朝鮮人は援護法の適用を受けられるという措置を長らくとってきていました。
 私が存じております、これは訴訟はしておりませんが、大阪に在住しておりますある在日韓国人の婦人は、夫がフィリピン戦線で戦死した方でございます。この方は実は帰化をしたのでございます。帰化をしたんですが、帰化の許可が一九六六年、日韓請求権協定の一年後でございました。帰化をすれば年金がもらえると思って帰化をするんですが、帰化をした時期が日韓請求権協定後であったがゆえに何らの補償を受けられずにいる。
 こういう方々に対しては、日本の遺族会の方が寄附をもらいに来るらしいです。あるいは近所の人々が、戦死した人の遺族だという話を聞いて、いいね、年金たくさんもらえてと言うらしいのです。しかし、彼女は日本の戦後社会の中で帰化をしたということを伏せて、そういう声も出せずに、一体自分の夫の戦死は何であったんだろうか、日本における戦後というのは何であったんだろうかと、いつも私どもとお会いしたらそういう発言をいたします。
 そういう在日韓国人の心情からいきますと、今回出ております与党案と野党案、何とか一本にして合体して法案がつくれないものだろうかというのは希望でございますが、先ほど千葉景子議員の御発言がありました姜富中さんは、こういうことも言っております。なぜ私どもがこういう補償を求めるか、これは補償だけを目的としているのではありません。「日本政府の戦争責任が正しく実現されることが、これからの世代の人たちに国境を超えた真の信頼と友好を、生み出してくれると信じております。」と言っております。
 陳石一さん、きょうはその御子息の方が傍聴に見えておりますけれども、陳石一さんはいつもこういうことを言っておりました。「私にとって日本という国は何だったのか、また、日本にとって私は何だったのか」と。実は、この陳石一さんの疑問は、日本で生まれ育った私どもは二世になりますが、在日韓国人、一世も含めて、いつもそれを考えながら戦後生きてきた人間でございます。大日本帝国憲法下、日本帝国臣民として日本に来た人々でございます。
 しかし、戦後、日本国憲法のもとで、日本国憲法は主権在民、基本的人権の尊重、恒久平和主義が三権確立されておりますが、我々在日韓国人は、主権在民の民と日本の社会でいつそういう認識を日本の社会に持ってもらえて、それから基本的人権の主体となり得るか。
 なぜそれを求めるかといいますと、まさに我々こそ植民地支配あるいはそういう侵略主義の犠牲であって日本に住むことになった、国籍と居住は分かれておりますが。いかなる人間も民族や国籍を選んでこの地に生まれることができません。しかし、この二十一世紀を目前にするこの現状にありまして、在日韓国人はそういう侵略主義、植民地主義の犠牲であるけれども、何とか日韓の溝、間隙を埋めることによって、それはみずからの日本における人権を確立することによって、本当の日本の平和の使者として、アジアにおける平和の使者として日韓のかけ橋の役割をしていきたい、そういう願いがあるから実はこういう運動をしておるわけでございます。
 今回の法案が提出された御苦労は非常に理解いたしますが、しかし日本と韓国の日韓請求権協定に関する見解の不一致がこのような状態のままでこのような法案がつくられざるを得ないということに対して、やはり若干の在日韓国人としての懸念といいますか、今後ますます日韓の見解が縮まるような御努力もしていただくということをお願いして、簡単でございますが、終わらせていただきます。
 どうもありがとうございました。

○千葉景子君 ありがとうございました。
 今、金参考人からのお話がございましたが、与党の提案者の皆さんにも本当に御苦労をいただいたことに私も敬意を表させていただく次第でございます。ただ、裁判などでも憲法十四条あるいは自由権規約二十六条に違反をしているのではないかという付言があるなど、与党の皆さんの案で本当に十分だろうかという若干そういう気がいたします。
 いかがでしょうか。多分この案をまとめられたきっかけというのは、いろいろな関連の訴訟の判決というのも一つの大きなきっかけではなかったかと思うんですけれども、この判決をどう受けとめられ、そしてこの立法がそれに即したものかどうか、どういう御見解、御認識をお持ちなのか、お聞かせいただければと思います。

○衆議院議員(加藤六月君) 冒頭、ただいま参考人の金敬得さんのお話、皆さん方と同じように熱い思いをしながら承りました。
 ただいま千葉委員の御質問でございますが、援護法や恩給法に国籍要件が設けられているのは、朝鮮半島などの分離独立地域に属する人々の補償、すなわち財産請求権等でありますが、の問題は、昭和二十七年のサンフランシスコ平和条約において、それぞれの二国間の外交交渉により解決することと、こうされていることが一番大きな問題でございます。それからその次は、先ほど来もう既に外務省からも答弁がありましたが、その中で韓国との関係につきましては、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定によって在日韓国人の問題を含めて法的には完全かつ最終的に解決済みとなっておるわけでございます。
 したがいまして、国籍要件は憲法や国際人権規約に違反するものでないと考えております。御指摘の東京高裁、大阪高裁の判決でも、判決そのものは以上申し上げましたような国側のこれまでの主張が基本的に認められて国勝訴となっておると考えておるところでございます。
 しかしながら、韓国政府が昭和四十九年に講じた措置においても在日韓国人の方々は対象外とされ、結果的にこれらの方々に対しては日韓いずれの国からも措置が講じられていない現状にあることは裁判所の指摘を待つまでもないことでございます。このことが私たちが人道的精神に基づいて所要の措置を講じようとする本法律案を提案した趣旨でございますので、よろしく御理解のほど、お願い申し上げる次第でございます。

○千葉景子君 実は、戦後のさまざまな課題というのは政府で積極的に本来もっと取り組むべきものではなかったかというふうに思っています。まだまだ戦後処理問題としても、慰安婦問題あるいは軍票問題、強制連行問題あるいは捕虜の問題、BC級戦犯の問題等々、裁判になったりしている問題が本当に数多くございます。
 野中前官房長官は、今世紀中の問題は今世紀中に解決をして次世紀には持ち込さない、こういう決意も示されました。また、サミットの構成国、もうじき開催をされますけれども、戦後処理というのが適切に行われて、我が国が一番おくれているという指摘もございます。ドイツでは百億マルクの基金を設けて戦後処理をきちっとしようという動きが出ております。
 こういうことを考えますと、この戦後補償問題について、政府として本当にもうあと残された期間もわずかです。きょうお話がございましたように、当事者に当たる皆さんも本当に高齢になっている。こういうことも含めまして積極的な取り組みが求められているのではないかと思いますが、官房長官にその決意をお尋ねして、私の部分は終わらせていただきたいと思います。

○国務大臣(青木幹雄君) ただいま加藤議員の方から、法的な問題については今までこういう経過を経てきっちり処理はされておりますというお話がございました。また、裁判においてもそういう処理がなされております。
 しかしながら、私どもは、今おっしゃいましたような、二十世紀、ことしで終わりでございます。二十一世紀にかけて、やはり二十世紀に起きたいろいろな不幸なことは法的な問題を離れて人道的な立場でできる限りのことはしなければいけないということで、努力を今後とも続けていく覚悟でございます。
 そういう観点に立って恐らく議員立法として今回の法案が提出されたものと私は理解をいたしておりまして、今後とも人道的な立場に立って、政府としても、法の問題だけじゃなくてそれを離れた時点でもできる限りの努力は今後とも一生懸命続けていく覚悟でございます。

○櫻井充君 民主党・新緑風会の櫻井充です。
 民主党の提案者の方にまず御質問させていただきますが、今回の法案で民主党案と与党案の大きな違いというのはどういうところにあるんでしょうか。
○委員以外の議員(竹村泰子君) 民主党案と与党案の大きな違いというのは幾つかございますけれども、最も大きな違いは与党案が弔慰金という名の一時金を支給するということでございます。これは、弔慰金、見舞金という性格であるのに対しまして、私どもの案は平和条約による国籍離脱者である旧軍人軍属等であった方々及び遺族に対して特別障害給付金または特別遺族給付金を支給しようとするものでございます。戦傷病者に対しましては、日本国籍の人々と同じ年金支給とし、遺族の方々にはその障害が重度であった方々に三百万円の支給をするというものでございます。
 その理由につきましては、また別途述べさせていただきます。

○櫻井充君 今ちょうどそこを聞こうと思っていたところでございますが、そうしますと、与党案では一時金であるけれども民主党案では障害年金であると。まず、この理由についてお話しいただければと思います。

○委員以外の議員(竹村泰子君) その御質問でございますが、先ほどの金弁護士の参考資料にもありましたけれども、被害者の旧日本軍軍人軍属の方々は、八月十五日の日本の敗戦前に日本軍に徴用され軍属として従事中負傷した朝鮮、韓国の方々であり、現在日本に居住している方々でございます。援護法は、国籍条項によってこれらの元日本国軍属を同法の適用対象から外しております。
 その後、日韓請求権協定が締結をされ、在日の人々は日本及び母国韓国どちらからも、先ほど金弁護士のお話にもありましたとおり、どちらの国からも補償を受けられなくなりました。
 在日の方々は、日本に居住し、納税の義務を果たし、日本人と苦楽をともにした人々でございます。にもかかわらず、日本人の旧軍人軍属と比べて、先ほど金額が、恐らく日本人であったら八千万円以上の既に支給を受けている方たちだというお話がございましたけれども、日本人と比べて著しい不利益を長年にわたりこうむってこられました。
 大阪高裁は、一九九九年十月、国籍で差別するのは憲法十四条、国際人権B規約二十六条に違反すると、姜富中さんの判決で違憲判断も示しております。
 八二年、外務省調査で明らかになっておりますけれども、米、英、仏、伊、西独が、いずれも外国人元兵士に自国民と同様の一時金または年金を支給しております。
 したがいまして、人道的な立場から、特別障害給付金や特別遺族給付金を日本人と同じ形で支給すること、非常にそういった法律が急務であると考えたからでございます。

○櫻井充君 それに対して、今度は、遺族の方に対しては年金ではなくて一時金ということになっておりますが、その理由はどうしてでございましょうか。

○委員以外の議員(竹村泰子君) 援護法等あるいは恩給法等における遺族という定義がいろいろとございますが、それはちょっと時間の都合で省かせていただきますけれども、基本的には政策判断の問題でございますが、遺族については一時金の支給としたことの理由は次のような二点が挙げられます。
 戦傷病者本人に対する特別措置は、現在も障害に苦しむ、そして将来にわたってハンディを負って生活していかざるを得ない戦傷病者本人に対して政治的、政策的な配慮から社会保障的な支援を行おうとするものでございます。このような趣旨からすれば、遺族につきましては、肉親を失ったり、肉親が重度戦傷病者となったことによりさまざまな困難に直面してきたことは考慮されるべきといたしましても、継続的な支援の必要性が認められる戦傷病者本人とは少し事情が異なるのかなと言えると思います。
 遺族につきましても、戦傷病者本人と同様に、援護法の例にすることといたしますと、配偶者以外の遺族に対する遺族年金の支給要件がかなり限定されておりますため、多くの遺族は遺族年金の支給要件に該当しなくなってしまいまして、五万円の弔慰金を支給されるだけにとどまる可能性も高く、必ずしも遺族の方々の利益にかなうものとはならないように思われます。
 したがいまして、遺族に対しては、その労苦等に対し慰藉の念をあらわすため、一時金の支給を行うのが妥当ではないかと考えました。

○櫻井充君 それでは次に、官房長官にお伺いいたします。
 日本は戦時中、戦時に約四十五万人の韓国・朝鮮人の方、そして台湾人の方を軍人軍属として服務させておりました。そのうち約五万人の方々が亡くなっているということでございますが、傷病者数については公表されておりませんが、およそどのぐらいだとお考えでございましょうか。

○国務大臣(青木幹雄君) 朝鮮半島及び台湾出身の軍人軍属のうち、戦傷病者については、資料の制約等もあり、政府として現在正確なものは把握をいたしておりません。
 したがって、本法案の対象となる在日の戦傷病者数についても、施行後における申請を待たないと把握困難な状態でございますが、今までの全体の給付件数約三万件のうちの重度戦傷病者は約二百人等から考えますと、百人は超えることはないであろうと、そういうふうに考えております。

○櫻井充君 それでは、ちょっと別の質問をさせていただきます。

 第151回国会 衆議院厚生労働委員会 第19号 平成十三年六月八日(金曜日)午前九時三十分開議

【発言順】
 委員     小沢 和秋
 厚生労働大臣 坂口 力

○小沢(和)委員 法案への質問に先立ちまして、一昨日に引き続いて、韓国人原爆被爆者の郭貴勲さんの問題をお伺いしたいと思うのです。
 一昨日の大臣答弁では、関係省庁との間で控訴するかどうかについて協議するということでした。ところが、先ほどの答弁では、まだやっていない、きょう終わったら取り組むというお話でした。忙しいのはわかりますけれども、いささかがっかりいたしました。
 それで、私が申し上げたいのは、昨晩私は判決の全文を読みました。私が改めて強調したいのは、第一に、三菱広島の韓国人元徴用工の人々の裁判と、郭さんの裁判は全く違うということであります。
 元徴用工の人々は、韓国にいて援護法の適用を求めたわけでありますが、これは今の援護法の手続には乗らないということは私でもわかります。それに対して、郭さんは、日本に来て援護法にのっとって手続をし、認定されて手当も受け始めました。それが、韓国に帰るたびに適用を打ち切られ、また日本に来て手続をするということを五、六回も繰り返しております。だから、彼の手元には、無効になった手帳が何冊もあるということであります。こんな不合理なことはないと思うのです。しかも、法律に書いてもいない、単なる通達でこれをやっております。
 同じ厚生省の所管でも、戦傷病者戦没者等援護法などの措置は海外に出ても継続しております。その点でも片手落ちではないでしょうか。このことを指摘した判決に潔く服するべきではないか。改めてお尋ねをします。

○坂口国務大臣 私も、まだ忙しい中ではございますが、徐々にではございますけれども、先日の判決文を全文読みかけております。そして、その判決文は、入り口は違いますけれども、中に入ってみますと、やはり広島のときと同じような議論が繰り返されていることも事実でございます。これはもうごらんをいただければおわかりのとおりでございます。私も何度も何度も読み返しておるところでございます。
 そうした内容もじっくり読み、ただし私は広島の方をまだ十分に読んでおりませんので、広島の方も十分読ませていただきながら、そして私は、最終的にいろいろな皆さん方の御意見もお聞きをして、そして私の意見も申し上げて、そして決断をしたいと思っているところでございます。
 おしかりを受けまして大変申しわけないわけでございますが、本日までこの法案、そして参議院の方には確定給付の方がかかっておりまして、両方をやっておりましたために、なかなか体があきませんで、そのことに全面的に取り組む時間がなかったものでございますから、お許しをいただきたいと存じます。

○小沢(和)委員 あと一言二言言いたいのですが、郭さんは、韓国から徴兵で広島に連れてこられて、日本軍の兵士として被爆しております。このことはこの間も申し上げたわけですが、彼を被爆者にしたのは、そういう意味では日本政府の直接の責任であり、これに対する償いをする責任があると思います。その責任を認めるなら、判決に従えないはずはないと思います。
 もう一言言いたいのは、郭さん一人が裁判をしているように見えますけれども、それは、被爆者たちが海外に居住しているために、ハンセン病患者たちのように集団で裁判を起こしたりすることができないだけでありまして、同じ気持ちでいる人々が、韓国、北朝鮮、中国、アメリカ、ブラジル等に数千人もおります。
 先ほども話が出ましたが、昨日私のところにも、海外日系人協会から、「在外被爆者に対する被爆者援護法適用の要望について」という文書が郵送されてまいりました。これを読むと、最近三年続けて海外日系人大会で、海外在住日本人の被爆者手帳所持者に健康管理手当をということが取り上げられております。郭さんの裁判は、これらの声を代表したものだと思います。ハンセン病患者たちと同じように、この人々も皆高齢化しております。そういう人道的な考慮も含めて、控訴を断念すべきではないか。重ねてお尋ねします。

○坂口国務大臣 よく検討させていただきたいと思います。

○小沢(和)委員 それでは、先に進みたいと思います。

 第169回国会 衆議院厚生労働委員会 第19号 平成二十年六月四日(水曜日)午前九時五分開議

【発言順】
 委員     阿部 知子
 厚生労働大臣 舛添 要一

○阿部(知)委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。
 引き続いて、きょう、この審議が終了した後、被爆者問題、特に在外被爆者問題で、これも各党派のこぞっての賛成で、在外被爆者について、今まで在外から、すなわち、例えば韓国から、ブラジルから、アメリカから手帳の申請ということができませんでしたけれども、被爆者の皆さんも御高齢になり、わざわざ日本に来てくださらなくても何とかこれが可能になるようにという、これは与野党のいろいろなお取り組みの中で、この法案も委員長が提案してくださることになっております。
 これも大変にありがたいことでありますが、私は、それに関連して、きょうは舛添大臣に二点、主な点ですが、ちょっとお伺いをさせていただきたいです。
 実は、これは昨年の十一月に、いわゆる三菱の徴用工裁判というのがございまして、強制連行されてこられて三菱で働いておられて被爆して、その後韓国に帰られて、しかし、この間の、被爆者手帳を持っていても国内にいないと使えないという四〇二号通達によって被害を受けたから、国はその四十人の方に、お一人当たり百二十万円の賠償金を支払えという最高裁判決でございました。
 このことに関しまして、当委員会でも、たしかこの直後、細川委員の方から御質疑で、今回は四十人の原告であったけれども、同じような方がまだまだおられるだろう、そういう方については今後どのように取り組まれるのかということを大臣にお聞きして、そのような検討をしていただくというお話でありましたが、どのように進んでおりますか。

   〔吉野委員長代理退席、委員長着席〕

○舛添国務大臣 この問題は、昨年の十一月一日の最高裁判決を受けての対応なんですが、問題は、国家賠償にかかわるものですから、どうしても今の法制上、司法の判断をいただかないといけない。
 ですから、個々個別のケースについて司法の方で判断していただければ、例えば直ちにそれを和解して迅速にお支払いする、賠償をお支払いするという形ができます。ですから、これを周知徹底して、ぜひそのアクションをとっていただきたい。そのことによって、私どもの方も、国としても迅速に対応したい、そういう方針でいきたいと思っております。

○阿部(知)委員 今、大臣は大変にいい答弁をしてくださいまして、実は、例えばこの三菱の徴用工の問題では、当初四十六人で始めた裁判が、十二年間の経過の中で、亡くなられて十五人の方の賠償にしかならなかったというか、現実には生きて賠償を受けられた方はなかったということで、今大臣がおっしゃった、提訴を起こしてくれたら速やかに和解、この速やかに和解というところに二重、三重の意味がございますので、今も大臣は明確に御答弁でありましたので、そこはお尋ねいたしませんとして、よろしいですよね。はい。
 そして、ちょうど同じように薬害のヤコブ病という問題が起きましたときに、当時、坂口大臣でありましたが、同じように提訴問題が問題になって、未提訴者、まだ提訴していない方についても、提訴後は未和解原告らと同様とする、とにかく、あくまでも提訴して早期和解という以上に、裁判で認めていただいてすぐ和解する、それは大事なことなんですが、しかし、もう一歩踏み込んで何らかの早期な全面的な解決を目指そうとする姿勢、坂口大臣に当時お示しいただきましたが、こういう点については、舛添大臣はいかがこの問題をお考えでしょうか。

○舛添国務大臣 昨年来の、例えばC型肝炎の問題ですと、これは訴訟がずっと続いていました。今の原爆症もそうです。ただ、今お話しになっている問題は、最高裁の判決が確定しておりますから、これをもとにすべて判断できるということで、いろいろな立法措置、それはまた時間がかかります。財務省との間の調整とか、政府部内の調整も必要です。
 そういうことを考えますと、先ほど申し上げましたように、最高裁は最終審ですから、もうこの判決が確定していますから、これを最大限活用する、それが一番皆さん方の御意向を酌んだ形で御支援申し上げる道だ、そういうふうに確信しております。

○阿部(知)委員 大変前向きな御答弁、ありがとうございます。
 もう一つ、今回、在外からの被爆者手帳の申請が可能になるとして、一番問題が残るのは、朝鮮民主主義人民共和国、いわゆる北朝鮮と総称されております、俗称と申しますか、と言われております地域にお暮らしの在外被爆者であろうかと思います。
 普通、在外被爆者でこの手帳を申請しようとするとき、在外公館に行って、そこから日本に来るわけですが、残念ながら北朝鮮には、我が国の在外公館という形では、国交がないゆえに何ら窓口が置かれておりません。しかし、被爆したという事実は一つでございます。
 実は、二〇〇一年に、恐らく外務省と厚生労働省の調査団が北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国にも出向かれて、在外被爆者、特に北朝鮮にお暮らしの方の実態も把握はしておられる。少なからぬ数、二千人近くかと思います、おられるわけです。その方たちにも、今回この衆議院で後々、すぐ後、委員長が御提案いただきます海外からの申請可能に道を開いたということが、同じように波及できるような道は何かないものか。
 ぜひここは、舛添大臣に外務省ともお話をしていただきまして、私は、事は人道ですから、本当に一刻も早くその方の被爆という状況に報いる道が立つべきと思いますが、大臣はどのようにお考えでしょう。

○舛添国務大臣 私は、在外被爆者の方、韓国の方も、ブラジルにおられる方も、アメリカにおられる方ともお会いできました。しかし、残念ながら北朝鮮におられる方々にお会いすることはできません。それは、もう御承知のように、今の日朝の関係がこういう関係であるからでありまして、外交関係の樹立を含め、これは外交全体にわたる大きな問題だというふうに思います。
 そのような中で、何とか今委員がおっしゃったようなことが実現できないか。人道的だということをおっしゃいましたが、実を言うと、平成十三年のこの調査、これは北朝鮮側の調査ですけれども、朝鮮被爆者協会の調査で、千三百五十三名中生存者九百二十八名。ところが、ことしの四月だと、もう三百八十二人に生存者が減っています。それだけお亡くなりになったということですから、そういう意味でも、これはぜひ、北朝鮮の政府も人道的な立場に立たれて、しかるべき手を打っていただければと私も思いますが、これは外務当局とも相談の上、何ができるかを検討してみたいと思います。

○阿部(知)委員 今大臣が細かな数値で御紹介いただきましたのは、御指摘の平成十三年の外務省と厚生労働省合同の調査になってございますが、その一年前年に、日弁連、日本弁護士連合会がやはり同じように実態調査をされて、この数値が一千九百五十三名ということになっております。
 確かに昔のことで、実態がどのくらいなのかという把握も難しいという、今大臣もお述べいただいた、またこれからもどんどん亡くなっていくという中ですので、ぜひ重ねてこの点は大臣にも御尽力をいただけたらと思います。これもよろしくお願い申し上げます。

 第185回国会 参議院外交防衛委員会 第7号 平成二十五年十一月二十一日(木曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員   金子洋一
 外務大臣 岸田 文雄
 委員   中西健治

○金子洋一君 是非、現場の皆さんの意見をきちんと取り入れて、しかも、特に自衛隊の皆さんに関しては全員が危機管理要員であるというくらいの認識を是非持って当たっていただきたいと思います。
 それでは、投資協定について入らせていただきます。
 まず、何本も投資協定出ております。この投資協定の目的は、投資に当たって予見可能性とかあるいは法的安定性を強化するためのものだというふうに聞いております。そうした観点から、特に日中韓の投資協定を中心にお尋ねをさせていただきます。
 まず、これは最近非常に話題になっておりますし、ゆゆしき問題なんですけれども、かつて日本の軍需工場に動員をされた現在の韓国人の元徴用工の皆さんからの個人請求の問題でございます。
 私は、これは大変おかしな話で、個人請求権については日韓の条約でこれはもう既に解決済み、もし請求をするんだったら韓国の政府に対して韓国人の皆さんが請求をすべきだというふうに思っております。
 そこで、大変残念なことに、韓国の司法は、日本の企業に対して個人の請求権が残っているという、そういう判断を下しました。これに対して我が国の政府はどうやって今後対応していくんでしょうか。どうやって対抗していくんでしょうか。その点、これはどなたにお尋ねすればいいですか。大臣、お願いします。

○国務大臣(岸田文雄君) 日韓間の財産そして請求権の問題は、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが我が国の一貫した立場であります。
 これまでも、この問題につきましては、例えば九月に行われました日韓外相会談におきましても、私から直接、韓国尹炳世長官に対しまして本件を提起させていただきましたし、また様々なレベルを通じまして韓国政府に対して申入れを行ってきております。そして、この問題に関しましては、韓国政府自身も、我が国同様、日韓請求権・経済協力協定で解決済みという立場であったと承知をしております。今日までの発言、資料を通じましてもそういった立場に韓国政府もあるというふうに承知をしております。ですから、この問題はあくまでも韓国政府自身が解決するべき問題であると基本的に認識をしております。
 こうした認識に立ちまして、今後とも、我が国政府の一貫した立場に基づいて韓国政府が適切に対応することを求めていきたいと思っております。是非、韓国政府が適切に対応することを期待したいと考えます。

○金子洋一君 ありがとうございます。
 第二次世界大戦以降に独立をした国に対して元の国が個人的な請求権を認めた例というのはないと思います。是非とも断固とした立場で取り組んでいただきたいと思います。
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○中西健治君 これについても、是非毅然とした態度で臨んでいただきたいと思いますが。
 こうした状況の中、そして、先ほどもありましたけれども、韓国では、戦時の民間徴用工、これについて日本企業が敗訴が三つ続いていると。こんなような状況の中で幾ら投資協定が発効したとしても、一方で投資に水を差すようなことが進んでいる中においては、外交上の観点から批准のタイミングを見極める、こんな考慮をしたりすることはないんでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) まず、日中韓の投資協定ですが、これは日中韓三か国による経済分野での初めての法的な枠組みを構築するものであります。ですから、経済的な意義のみならず、この三国間の関係強化という外交上の意義も有していると考えております。
 そして、日中関係、日韓関係、それぞれ今難しい局面の中にありますが、日中関係は我が国にとりまして最も重要な二国間関係であり、個別の問題があっても是非両国関係全体に影響を及ぼさないように努力をしなければならない、戦略的互恵関係のこの基本的な考え方にのっとって日中関係しっかりコントロールしていかなければならないし、対話のドアは絶えずオープンにしている、こういったことを我が国としましてもしっかりと説明をさせていただいています。日韓関係につきましても、大切な隣国であり、大局的な見地から二十一世紀にふさわしい未来志向の関係を共に構築していきたい、こういった考えに立っています。
 今回、日中韓投資協定を国会にお諮りするのも、こうした考えに基づいてお願いをしているということであります。

 第186回国会 参議院外交防衛委員会 第4号 平成二十六年三月十七日(月曜日)午後一時開会

【発言順】
 委員   中西 健治
 外務大臣 岸田 文雄

○中西健治君 重要な隣国でありますから、是非そうした対話を促進していただきたいと思いますが。
 いろんな懸案事項について話をされたということでありましたけれども、幾つかの問題をちょっと取り上げたいと思いますが、今日の時間の許す限りお話ししたいと思いますが、一つ目が、私は慰安婦の問題、あえて取り上げませんが、より経済的問題としてなじむものとして戦中の徴用工の問題、これをお聞きしたいと思います。
 朴槿恵政権は、殊更、安倍政権は過去の歴史を覆そうとしているということを諸外国に向けてこれまで発信してきていたと思います。この徴用工問題については、もう平成二十一年に韓国政府自らが請求権協定で外交上解決済みだという立場を明らかにしたものでありますけれども、今またこうしたことについて蒸し返されてきているということについて、過去の歴史を覆そうとしているのは、まさに私たちではなくてあちらの国なのではないかということについてどう思われるでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) まず、日本と韓国との間の財産請求権の問題、これは日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが我が国の一貫した立場であります。これまでも、こうした立場につきまして外交ルート等を通じまして様々なレベルに対して韓国政府に向けて申入れを行ってきているところです。
 そして、今委員からも御指摘がありましたこの旧民間人徴用工の問題に関しましては、韓国政府も我が国と同様の認識に立っているということで、日韓請求権・経済協力協定で解決済みという立場については韓国政府自身がこれを公表してきております。ですから、この件につきましては、あくまでもこれは韓国政府自身が解決すべき問題であるというのが我が国の考え方であります。
 是非、今後とも我が国の政府の一貫した立場に基づいて、韓国政府が早急かつ適切に対応することをしっかり求めていきたいと考えています。

○中西健治君 韓国政府が適切に対応することを求めていくと、そういうことなんだと思いますが、最近、韓国政府の実務者から、日本企業が原告側に見舞金を支払うことなどで和解できないかと暗に打診してきたということに対して、日本政府が和解に応じないと方針を韓国側に伝えたとの報道がされておりますけれども、この事実関係はどうなっているんでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) 詳細については申し上げるのは控えなければならないと思いますが、いずれにしましても、こうした日本側の民間企業と連絡を取りつつ、日韓間の財産請求権の問題に対する我が国の政府の一貫した立場に基づき対応していかなければならないと思っています。
 是非この立場、従来の立場につきましてはしっかり堅持した上で、こうした民間企業ともしっかり連携しつつ日本側として対応していきたいと考えています。

○中西健治君 私自身は、あちらの大審院、最高裁の判決が確定する前にも、国際司法裁判所にこうした請求権協定の存在確認、これを求めるというようなことをするべきなんじゃないかなと思います。
 そして、あと一つお聞きしたいと思いますが、南スーダンのPKOでの韓国軍に対して銃弾一万発の無償提供を行った件でありますけれども、この弾薬提供に当たっては、現地のやり取り以外にも韓国の駐日大使館から外交ルートで日本政府に要請があったというふうに外務省の方から以前伺いましたが、それは事実かどうか、御確認いただきたいと思います。

 第186回国会 参議院外交防衛委員会 第5号 平成二十六年三月二十五日(火曜日)午後一時開会

【発言順】
 委員   中西 健治
 外務大臣 岸田 文雄

○中西健治君 もう一つ外務大臣にお伺いしたいと思いますけれども、韓国の戦時中の徴用工についてはこれまで二度か三度この委員会でも取り上げさせていただきました。新たなことが、同じような事案が中国でも起こってきたということであります。中国の裁判所、北京市の第一中級人民法院が訴えを受理したということでありますけれども、韓国については、先週の委員会でも外務大臣は、韓国政府自身が解決すべき問題であると、ですので見守っていきたいと、こんなようなことをおっしゃられたと思います。私自身は、私がそこで申し上げたのは、あちらの大法院の判決が確定する前にも国際司法裁判所に対して請求権協定の存在の意義確認をするべきではないかということを申し上げました。
 中国についても同じことが言えるのではないかと思いますけれども、あくまで事態を見守って待つという姿勢なのか、それとも何らかの方策を政府として行っていくのか、それについて御見解をお伺いしたいと思います。

○国務大臣(岸田文雄君) 中国の状況について御説明もいただきましたが、まず、政府としましては、いわゆる中国人の強制連行そして強制労働問題について、当時多数の方々が不幸な状況に陥ったことは否定できないと考えており、戦争という異常な状況下とはいえ、多くの方々に耐え難い苦しみ、悲しみを与えたことは極めて遺憾であったと考えております。
 そして、中国でのこの訴訟、この二月二十六日に提訴されて以降、政府としては関心を持って状況を注視していますが、先般、中国の裁判所において訴状が受理されたことは中国国内で類似の事案を誘発することにもなりかねず、日中間のこの戦後処理の枠組み、あるいは日中経済関係への影響、こういったものに大きな、深刻な影響を与えることを懸念せざるを得ない、このように考えております。
 さきの大戦に係る日中間の請求権の問題については、日中共同声明発出後存在しておらず、日本政府としては引き続き関心を持って状況を注視し、そしてその上でしかるべく対応していく考えであります。

○中西健治君 状況を注視してばかりだということで、これ何らかのやはり深刻な影響が日本の企業活動にも及びかねないという事柄だというふうに思いますので、是非何らかの知恵を絞って行動をしていただきたいと思います。私が申し上げたのも一つの策なんではないかと思いますが、ほかに知恵も働かせられるのかもしれませんが、是非そうしたアクションも求めたいと思います。
 私の質問はこれで終わらせていただきます。ありがとうございました。

 第186回国会 衆議院外務委員会 第9号 平成二十六年四月四日(金曜日)午前九時一分開議

【発言順】
 委員   玄葉 光一郎
 外務大臣 岸田 文雄

○玄葉委員 まさにこれは難しい判断だと思いますけれども、総合的な判断をしていかなきゃいけないんだろうというふうに思います。
 国際法の観点で、また別の問題を一つだけお聞きしたいんですけれども、きょうは国際法にできるだけ特化して聞こうと思っていたんですが、韓国、日韓関係、今度時間があったら一度じっくり全般的にやりたいんですけれども、きょうは、国際法絡みでいうと、幾つかあるんですけれども、一つだけ聞きたいと思います。
 いわゆる徴用工をめぐる裁判というのが、日本企業が敗訴しているわけであります。これは、もちろん個人の請求権においても、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定で完全かつ最終的に解決されたのだというのが我々というか日本国政府の立場だというふうに思います。そういう状況の中で、これは判決が確定する可能性が強いという状況になってまいりました。
 中国でもどうやら同じような動きがあって、日本企業がかつて強制連行、炭鉱だとか建設現場だと思うんですけれども、連行して過酷な労働を強いたという問題で、これまでは政治的に中国政府はこの訴えを受理しなかった、中国政府は受理しなかったと言うと正確ではありませんが、ただ、事実上中国政府の影響下にある司法が受理をしなかったということでありますが、最近は受理をし始めたということで、日本企業二十社くらいが訴訟リスクにさらされるという、これは大問題だと思うんです。
 例えば、韓国で判決が確定したとすれば、これは国際法違反として日本国政府としては争うということなのか、それとも、あくまで外交的な解決を求めていくということなのか、その点についてお伺いをしたいと思います。

○岸田国務大臣 御指摘の旧民間人徴用工の問題を含め、日本と韓国の間の財産、請求権の問題につきましては、日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みである、これが我が国の政府の一貫した立場であります。そして、こうした立場は、今までも外交ルートを通じまして、韓国政府のさまざまなレベルに対してしっかりと申し入れを行い、伝えてきております。そして、韓国政府も、本件につきましては、日韓請求権・経済協力協定で解決済みだという立場であると我々は承知をしております。韓国政府自身も、こういった立場については正式に表明をしてきております。
 ですから、本件は、あくまでもこれは韓国政府自身が解決すべき問題であると考えておりまして、我が国としては、韓国政府が早急かつ適切に対応することを求めている、これが今現状の我が国の立場であります。
 我が国としましては、引き続き民間企業とも連絡をとりつつ、日韓間の財産、請求権問題に対する我が国政府の一貫した立場に基づき、適切に対応していきたいと思っております。状況を注視していきたいと考えています。
 その上で、どういったことになるのか、その点につきましては、あらゆる可能性を念頭に適切に対応していきたいと存じますが、現状においては、これは韓国の政府が適切に対応する問題であるということで、まずは状況を注視していきたいと考えています。

○玄葉委員 中国はどうですか。つまり、中国は、恐らく中国政府として、これまでと違って、もっと言うと、韓国政府とも違って、個人の請求権あるいは民間の請求権は、日中共同声明の中で扱ったような形で請求権放棄をいわゆる個人と民間はしていないんだみたいなことを中国政府が言うのではないかというふうに思うんですけれども。

○岸田国務大臣 中国との間の請求権の問題については、日中共同声明発出後、存在をしていないというのが我が国の立場であります。
 そして、今回の訴訟につきましては、こうした訴訟の状況によっては、戦後の日中の経済関係、経済協力、そういったものを揺るがしかねない大変大きな問題であると認識をしております。そうした認識のもとに、引き続き注視をしていきたいと考えています。

 第186回国会 参議院外交防衛委員会 第15号 平成二十六年五月十五日(木曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員   中西 健治
 外務大臣 岸田 文雄

○中西健治君 
 それでは、話題を変えまして、日韓関係、お伺いしたいと思います。
 あした東京で日韓局長級会議が行われるということでありますけれども、慰安婦問題や元徴用工の問題も話し合われることになるのではないかというふうに考えております。韓国政府は、慰安婦問題で何らかの進展がない限り日韓の首脳会談を行わないという立場を取り続けているかと思います。中国も、靖国参拝や尖閣諸島について注文を付けて、それが解決されない限りは首脳会談を行わないという立場を堅持しているようでありますが、先方の注文を聞かなければ首脳は会わないという、こうした態度が続くとすれば、幾ら我が国政府が努力しても、先方が考えることを変えることでしか解決できないということになってしまいますが、何らかの打開策というものについて政府は今どのような考えを持っていらっしゃるのか、聞かせていただきたいと思います。

○国務大臣(岸田文雄君) まず、日韓の局長級協議、本日開催する予定になっております。この日韓の間の協議ですが、双方の関心事を取り上げて協議を行うということになっておりますので、御指摘のように、徴用工問題を始め様々な議題が取り上げられることになると想定をしています。
 中国との間においては、様々な難しい局面があり、個別の問題があります。是非、難しい問題は存在いたしますが、こういった問題があるからこそ、前提条件付けることなく率直に話し合うことが重要だと我々は訴え続けております。──失礼。済みません、中国でなく韓国であります。韓国との間には様々な問題があります。韓国との間には難しい問題があるからこそ議論をするべきだと申し上げております。
 こうした局長級協議を始め様々なレベルでの対話、様々な分野における議論、こういったことを積み上げることによって是非高い政治のレベルでの対話につなげていきたいと考えております。韓国側にもこういった我々の姿勢、しっかり受け止めてもらいたいと思っております。そういった意味で、今回、日韓の局長級協議を行う意味はあると我々は感じております。
 是非、未来志向の日韓関係を実現するために、こうした努力は続けていかなければならないと認識をしております。

○中西健治君 対話がなければ何も始まらないというふうに思いますので、今日の局長級会議でも何らかの進展があることを私自身は願っております。
 質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

 第186回国会 衆議院外務委員会 第17号 平成二十六年五月二十一日(水曜日)午前九時一分開議

【発言順】
 委員   小川 淳也
 外務大臣 岸田 文雄

○小川委員 ありがとうございます。
 私どもは現在お尋ねをする側の立場ですので、心配な点あるいは至らなかったと思われる点を申し上げる立場であります。実際に交渉の場に臨んでおられる方々には、ちょっと私どもからは想像を上回る御苦労なり、御苦心なり、あるいは知恵の働かせどころなりというものがあろうと思いますので、そういうことに対しては十分敬意を払いたいと思います。
 そういう意味では、今おっしゃったように、いろいろな知恵を相手国ごとに働かせて何とか協定の締結にこぎつけていくという努力はこれからも奨励されるべきことなんでしょう。ただし、まだ三十カ国余りという大変おくれた事態、状況にあるということを前提にすれば、どの国とどういう協定を結んだかは、今後拡大するに当たって、次なる交渉国から足元を見られかねないということもまたあるわけでありまして、そういったことも含めて頭に置きながら、引き続き、十分いろいろな角度から鋭意努力を進めていただきたいと思います。
 これはもう指摘にとどめますが、もう一国のモザンビークとの間では、これはいただいた資料を見ますと、先ほどの話に戻りますが、早くから途上国を射程に置いていた中国、韓国との関係でいえば、日本は、アフリカ諸国はまだ真っ白ですよね。
 恐らく、東南アジアだってそんなに何年も成長の時代は続かないと思いますよ。そして、地球上最後の成長のチャンスはアフリカということに恐らくなるんでしょう。
 であれば、この真っ白なアフリカ諸国、今回モザンビーク一国でありますが、大変貪欲な姿勢で交渉を進めていく必要があると思います。その点、時間の関係で指摘にとどめます。
 最後に、ちょっと大臣に胸をおかりしてお聞きしたいと思います。
 先ほど鈴木委員が、商船三井の船舶の中国からの差し押さえに関して御指摘になられました。日中韓の投資協定が最近になって発効されたというふうにお聞きしています。御存じのとおり、日中、日韓との間には、戦前戦中の強制徴用、強制雇用の問題をめぐって訴訟に発展しています。
 私の理解では、人道的には私もいろいろ思うところがあります、この方々の抱えておられる無念なお気持ちなりがもし晴らせるのであれば、何とか官民挙げてこれはその方向に協力できたらという人道的な思いは私にもあります。
 しかし一方で、国際法的観点からいえば、日韓基本条約に伴う請求権協定、それから日中平和友好条約に伴う両国間の合意を前提にすれば、少なくとも法的には個々の損害賠償請求権はお互い放棄し、なかったことになるという取り扱いを前提に日本企業は当該相手国との間で企業活動をしているということになるんじゃないかと思います。
 それからいいますと、後からはしごを外される形でこういう法的な損害、法的請求に直面するということは極めて遺憾な重大な事態であり、私が申し上げたいのは、投資協定の中身にもよると思いますが、国際仲裁、ISD条項を発動して、きちんとした仲裁を求めていく、あるいはその活路を研究するという日本政府の姿勢が中国、韓国に対する牽制効果を持つのではないかという気がいたしますが、一連の私の提案、問題意識に対してどうお考えになるのか、お答えいただきたいと思います。

○岸田国務大臣 日中、日韓の関係ですが、まず、中国との関係におきましては、日中間の請求権の問題、これは、日中共同声明発出後、存在しないというのが我が国の立場であり、中国側も日中共同声明を遵守するという立場、これは変わりがないと承知をしております。
強制連行、強制労働に関する訴えですが、類似の事案を誘発することにもなりかねないと影響を深刻に懸念しておりますが、引き続き関心を持って注視をしていかなければならないと思っています。
 また、日韓の間ですが、財産、請求権の問題、これは日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが我が国の立場であり、そして、韓国政府も、我が国同様、この日韓請求権・経済協力協定で解決済みという立場、これは今までも表明しておられました。
 ですから、日韓の間にある旧民間人徴用工問題、これはあくまでも韓国政府自身が解決すべき問題であると考える、これが我が国の基本的な立場であります。
 その上で、投資協定との関係の御指摘がありました。中国と韓国とは、それぞれ、日中投資協定、そして日韓投資協定を既に締結しておりますし、今月十七日には日中韓投資協定が発効しております。
 中韓両国は、これらの協定に基づいて、我が国投資家の投資財産に対して十分な保護、保障及び公正、衡平な待遇を与える、こうした義務を負っていると考えております。
 我が国としましては、こうした協定も踏まえながら、中韓両国に対して、我が国の投資家の投資財産が不当に侵害されることがないように、適切に対応していきたいと考えております。

○小川委員 歴史問題、歴史認識を含めて、私は衝突を回避すべきは回避すべきだと思います。しかし、法的にきちんとすり合わすべきはすり合わすべきで、現政権には、そこのめり張りに、力点の置き方に若干アンバランスがあるんじゃないか、私はそういう感想を持ちます。
 加えて、きょうとにかく申し上げたかったのは、もはや日本は先進国の大国という地位、位置に甘んじていられる時代は終わったという認識がこれら全ての始まりではないかと思います。そのことを重ねて指摘させていただき、質問を終わります。
 ありがとうございました。

 第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第19号 平成二十七年七月十日(金曜日)午前九時開議

【発言順】
 内閣総理大臣 安倍 晋三
 委員     細野 豪志
 外務大臣   岸田 文雄

○安倍内閣総理大臣 談話につきましては、我々、まさに七十年前、二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない、この誓いのもと、その後の日本の平和国家としての歩みがあるわけでございます。
つまり、痛切な反省、そして、それに至るまで、二十世紀という世界はどういう時代であったか、その中で日本がどういう行動をとり、どこに課題があり問題があり反省点があるのかということについて、まさに、現在有識者の皆様に御議論をいただいているわけでございます。
そして、戦後の歩みは、まさに今申し上げた反省の上に立つ歩みであり、そして自由で民主的で、そして人権を守り、法の支配を貫徹させる、そういう価値観を世界とともに共有する国として、地域やアジアの発展のためにも貢献をしてきた。そのことについては我々は誇りを持つべきであろうということについても、きのう、あるシンクタンクのセミナーにおいて述べたところでございますが、そうしたこと等々について今御議論をいただいているところでございまして、この御議論を踏まえた上において七十年における談話を発出していきたい、このように考えているところでございます。

○細野委員 総理から朝鮮王朝についてはコメントがありませんでした。
 単純比較はできませんよ。もちろん歴史も違うし、それぞれ国民の理解も違う、しかし、我が国は天皇家を持ち、それが国家のアイデンティティーとして非常に継続している。それは一つ非常に大きいですよね。途中、苦しい時代もあったけれども、そのときも天皇制をしっかり守ってきた。保守の政治家であれば、他国のものであっても、そういったものについてしっかりと見識を持って、そういう判断を日本がしたということについては、これは反省をするという姿勢がないのは非常に残念ですね。
 そのことを指摘した上で、私は、この日韓関係というのを考えたときに、そういう歴史認識はしっかり持ちながら、我が国は、国際的なルールに基づいて、さまざまな言うべきことは言っていかなければならないというふうに思います。
 そこで、先日の世界文化遺産登録についてのやりとりについて、これは日韓関係を考える上でも非常に重要だと思いますので、外務大臣にお伺いをしていきたいというふうに思います。
 まず、ちょっとパネルをごらんいただきたいと思います。これは、七月の五日、世界文化遺産登録が決まったときに、我が国のユネスコの政府代表部の大使が発言をした、声明と言ってもいいものだというふうに思います。
 英文で発表されておりますので、それをそのまま読みますと、「ブロート アゲンスト ゼア ウイル」、これは意思に反してということですね、「アンド フォースト トゥー ワーク アンダー ハーシュ コンディションズ」、これは厳しい環境の下で働かされたというふうに日本語では訳されている。
 後段の部分をもう一度確認したいんですが、「フォースト トゥー ワーク」というのは、これは受け身で「フォースト」、強制力が働かされたというふうに読めますね、このまま読むと。それに「トゥー ワーク」という、これは動詞でそれを継いでいるだけで、これをそのまま、フォーストを形容詞にしてワークを名詞形にすると、フォーストワーカーとなるわけですね、そのまま、英文でいうと。
 そして、ILOにおける強制労働の記述というのはフォーストレーバーとなっている。
 これを、違うんだと言って、強制労働について日本は認めたのではないという主張を日本政府としてはしているんです。私は認めるわけにはいかない、認めるべきではないという考えですよ、もちろん。しかし、この説明は、もう少しきちっとしてもらわないと、なかなか国際的に通用しないんじゃないかと思うんですが、まず、外務大臣に、どういう理屈でそういうことになるのか、簡潔に御答弁いただきたいと思います。

○岸田国務大臣 まず、御指摘いただきました日本政府代表団の声明文ですが、この中にあります「フォースト トゥー ワーク」という部分ですが、対象者の意思に反して徴用されたこともあったという意味で用いています。
 これは、一九四四年九月から一九四五年の八月、終戦までの期間において、朝鮮半島に適用された国民徴用令に基づいて、朝鮮半島出身者の方も徴用された、こうしたことが行われたことを記述したものであり、まずもって、これは従来から我が国が申し上げていることについて何ら新しい内容を含むものではないということを説明させていただいております。
 そして、ILOの用語との区別について御指摘がありました。その部分について申し上げますならば、国際条約において、強制労働ニ関スル条約という条約が存在いたします。その中で、フォーストレーバーあるいはコンパルソリーレーバー、こうした強制労働というものはまずもって禁止をされています。しかし、その中にあって、この第二条の二項という部分において、戦時中の徴用などは含まれていないとされています。よって、我が国がこの声明文の中で使っている言葉、これは国民徴用令に基づく対応を述べているわけですから、国際条約上、強制労働に当たるものではないと整理をしております。
 そして、日韓の間における条約ということを考えますときに、朝鮮半島出身者の徴用者を含め、日本と韓国との間の財産及び請求権の問題は、一九六五年の日韓請求権そして経済協力協定、この条約によって完全かつ最終的に解決済みである、こういった立場には全く変わりがないということであります。
 これが我が国の立場でありますが、今回の日本側の発言についてですが、従来の我が国の政府の立場を踏まえたものであり、強制労働があったことを認めるものではないと繰り返し述べているわけですが、これは韓国側にも明確に伝えておりますし、そして、韓国側とのやりとり、外交上のやりとりを通じて、韓国政府は今回の我が国代表の発言を日韓間の請求権の文脈において利用する意図はない、このように理解しており、このことを韓国政府との間においてハイレベルで確認しているということであります。

○細野委員 大臣、韓国の外交部のホームページを見ますと、強制的に労働というふうに書いてあるんですよね、今回の声明について。はっきり書いてあります、そういう表現で。ですから、請求権の文脈において利用する意図はないというのは、それは何らか確認する文書などはあるんですか。
 加えてもう一つ、徴用工の問題というのは訴訟になっていますね。仮に韓国政府がそこは利用しないと言ったとしても、そういう訴訟において利用される可能性について、ないと言い切れますか。

○岸田国務大臣 だから、先ほど申し上げましたように、この国際条約、強制労働ニ関スル条約における整理をまずさせていただいております。そして、その上で、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定の中で、これは明示的にこの部分について完全かつ最終的に解決済みである、こうしたことが確認されていると我々は考えております。この部分について、こうした考え方、立場について全く変更がないということをまず申し上げたわけであります。
 そして、そのことについて、韓国政府との間において、やりとりはもう今までもさまざまなやりとりが行われているわけですが、我が国の立場、これは明確に伝えています。
 そして、今回のやりとりの中にあっても、その外交上のやりとりを通じて、韓国政府側として、今回の我が国代表の発言、これを日韓間の請求権の文脈において利用する意図はない、このことをハイレベルで確認したということであります。

○細野委員 ちょっと、大臣、短目に答弁をお願いしたいんです。
 裁判にもなっているわけですね、個別の。そこで利用されないということについて、間違いなくそれはないというふうに大臣として言い切れますか。

○岸田国務大臣 まず、韓国政府とはハイレベルで確認しているわけですが、何よりも、これは国際条約、そして日韓間における協定、条約においてこの部分は確認されています。
 条約を誠実に履行する、これは両国における当然果たさなければいけない義務であると我々は考えています。

○細野委員 裁判については何も御発言はありませんでしたね。
 世界文化遺産登録は確かに大変いいことですよ。しかし、非常に大きな代償を払った可能性があるのではないかと私は思います。
 総理、この言葉を改めてちょっと確認していただきたいんですが、この「アゲンスト ゼア ウイル」という言葉は、これはどこかで聞いたことがあるなと思っていろいろ調べたら、実は、河野談話の従軍慰安婦のところで二回使われている言葉なんです、意思に反してというのは。
 ですから、徴用工と従軍慰安婦の問題を、多分、総理は非常に河野談話というのを、これまで、どちらかというと批判をしてこられた立場ですから、その河野談話よりも徴用工の問題が、同じ言葉が使われているのがまず一点。
 そして問題は、河野談話以上にと申し上げたのは、フォーストという言葉は河野談話の従軍慰安婦のところにも出てきません。このフォーストという言葉を、徴用工という、一九六五年の日韓基本条約が締結をされたときに、全てもう明らかになっていて、請求権をもうここで放棄したという明確な外交上の事実があることについて、これだけ踏み込んで言った、これは私は問題だと思いますよ。
 ちょっと時間も限られていますが、総理、簡潔に御答弁いただけますか。

○安倍内閣総理大臣 簡潔にまず申し上げますと、明確に、河野談話のときと混同させようという意図を感じるんですが、明確に、明確に違います。
 なぜ明確に違うか。
 意に反してという言葉については同じであります。河野談話についてはそうであります。今回も、確かに意に反して。これは、徴用工においても、みんな、工場や何かで働きたい、もちろんそういう人もいたかもしれませんが、そうでなくても、これは徴用されますから、いわば国内でもそうだったわけでありますから、これは徴用されますからそうであります。そして、慰安婦のときにも、これはみんな、自分の意思ではなくて、さまざまな、経済状況等も含めて、意に反する場合もあっただろうということであります。
 しかし、あのときは、河野さんが、それは強制連行も認めているんですねという質問に対して、そう捉えていただいて結構ですとお答えされたわけでございます。
 今回は、まさに外務大臣が直ちに、直ちに記者会見の場において、これは強制、フォーストレーバーを意味しないということを明確にし、かつ、これは六五年の基本条約においての取り決めを覆すものではない、そして、かつ、それをいわば徴用工の裁判等でこれは利用することもないということを明確にしているということをちゃんと記者会見で述べているという点において、これはまさに全く違うということは申し上げておきたい、こういうことでございます。
 そして、日本政府代表団の声明文にある、働かされた、「フォースト トゥー ワーク」とは、対象者の意思に反して徴用されたこともあったという意味で用いているわけでありまして、かつ、それは先方にもそう伝えているわけでありまして、この岸田大臣の記者会見等に対して、それは違うということを、今韓国側政府は、岸田外務大臣の記者会見における発言は間違っているということを今まで一度も言っていないということは、まさに、これは確認された証左だろう、このように思うわけでございます。
 なお、これは今、徴用されたということは、まさに一九四四年九月から一九四五年八月の終戦までの期間に朝鮮半島に適用された国民徴用令に基づき朝鮮半島出身者の徴用が行われたことについて記述したものであって、何ら新しい内容を含むものではないというのが日本の立場であり、それは先方にも伝えているわけでありまして、繰り返し大臣もそう答えているわけであります。
 そして、まさにそれに対して、それが間違っているということを、今の表現については間違っているということを韓国側は表明していないということでございます。
 そういう中で、新聞はいろいろ書いていますよ。韓国側の新聞はいろいろ書いておりますが、そういう韓国側の新聞の論拠において、今細野議員はそれに質問をされているんだろう、このように思うところでございます。

○細野委員 二つだけ指摘をしたいと思います。
 一つは、今総理は、フォーストという部分については何ら答弁されませんでしたね。ここは河野談話を超える言葉なんです。それは幾ら日本語で取り繕ったところで、フォーストに強制性というのが形容詞にしたときに出てくるのは、これはそういうふうに読まれても仕方がない部分もありますよ。そのことを御答弁されなかった。
 もう一つ申し上げると、韓国政府は、政府としては、これは徴用工の問題について利用しないと言ったかもしれませんが、個別の裁判において韓国人が言うことについて制約なんかできないですよ。裁判所はまた別の判断をしますよ。
 そこも含めて、確かにこれは、世界文化遺産登録をしたかったというのはわかりますけれども、私は、代償は大きかったのではないかというふうに思います。しかも、それを、さんざん河野談話を批判してきた安倍政権でやったということは、総理、しっかり認識をしていただいて今後対応していただきたいという趣旨でこの質問をさせていただきました。

 第193回国会 参議院予算委員会 第11号 平成二十九年三月十三日(月曜日)午前八時五十八分開会

【発言順】
 委員    山谷 えり子
 外務副大臣 薗浦 健太郎

○山谷えり子君 ありがとうございます。
 外務省にお伺いをいたします。
 韓国の政治、本当に国政、停滞状態にあるわけでありますが、そのような中で、朝鮮半島統治時代に徴用された人々の徴用工の像が釜山の総領事館前あるいは港に建てられるという計画があるということで、先週、外務省は韓国に申入れをしたと聞いております。どのような申入れをしたのか、そして日本の立場について御説明ください。

○副大臣(薗浦健太郎君) 御指摘の韓国の市民団体の動きは、間違いなく日韓関係に好ましくない影響を与えます。また、我が国の総領事館前に仮に設置されることになれば、領事関係に関するウィーン条約第三十一条に照らして問題であると考えております。韓国側に対しては、在韓国臨時代理大使から韓国外交部の東北アジア局長に対して強く申入れを行い、対応を求めました。
 先方の反応については外交上のやり取りでございますので詳細は控えますが、一般論で申し上げれば、韓国側は、外交公館前に造形物を設置するようなことは公館の保護に関する国際礼譲から望ましくないという立場を表明してきております。
 いずれにしても、民間人徴用工の問題も含めて、日本と韓国との間の財産請求権の問題は、一九六五年の日韓請求権協定により完全かつ最終的に解決済みであります。

 第197回国会 衆議院本会議 第3号 平成三十年十月三十日(火曜日)

【発言順】
       馬場 伸幸
内閣総理大臣 安倍 晋三

○馬場伸幸君 日本維新の会の馬場伸幸です。(拍手)
 冒頭、通告をしておりませんが、先ほど速報で、韓国の大法院において、新日鉄住金に対し、戦時中の徴用工への賠償金支払いを求める判決が出ました。本件について、総理の見解をまずお尋ねいたします。
 さて、今国会から、演壇に残り時間がわかるタイマーが設置をされました。これです。この小さい、しかし意味のある改革がなぜ今まで実現しなかったのか、理解に苦しみます。
 昨日、高市議運委員長が国会改革の私案を「平成のうちに」衆議院改革実現会議メンバーに提示をしたという理由で、本会議の開始が四十五分おくれました。この時間を金額に換算すると一体幾らになるのでしょうか。国会改革を実現するという高市委員長の熱い思いが国会の無駄遣いになるという皮肉な結果になったことは非常に残念であります。
 納税者の納得度の高い政治の実現を目指して行動することが日本維新の会であるということを申し上げ、本題に入ります。
 消費税率引上げについて質問いたします。
 安倍総理は、消費税率引上げを二度延期しましたが、先日、来年十月に税率を一〇%に引き上げる閣議決定をいたしました。年々増加する社会保障費に充てるためという聞こえのよい説明ですが、増税は増税です。日本維新の会は、消費税率の引上げには断固として反対いたします。
 増税の前にすべきことがあります。それは、言うまでもなく行財政改革です。政治家が身を切る改革を行い、それに始まる行財政改革を役所の協力と信頼を得ながら進め財源を確保するのが、本来最初にやるべきことのはずです。
 ところが、今の自民党が行っていることは全く逆ではないでしょうか。野党時代の自民党のマニフェストには、議員定数の削減など国民の求める改革を必ず断行するとありました。しかし、実際には、さきの国会で参議院定数を六議席もふやしてしまいました。まさに政治家のための政治であり、消費税増税等で国民にさらなる負担を押しつけるというのであれば、当然、議員定数は削減すべきです。
 また、九十七兆七千億円もの一般会計予算において、本当に全ての事業の必要性が高く、適正に使われていると言えるでしょうか。国民の皆さんには震災復興特別税として平成四十九年までの増税をお願いしておきながら、議員の歳費はあっという間にもとに戻していませんか。さらに、またまた公務員給与を上げるおつもりですか。見直されるべき歳入や歳出はまだまだ数多くあります。
 そこで、総理に質問いたします。
 国民の皆さんに増税をお願いする前に、やるべきこととして、行財政改革の推進や、総理御自身が身を切る行動をとる意思はおありでしょうか。御自身の問題としてお答え願います。
 前回、消費税率を引き上げたとき、景気は大きく冷え込みました。安倍総理は、消費税率引上げによる消費の落ち込みを軽減させるために、住宅や自動車の購入を支援する安易な減税策を検討されていますが、しょせん小手先の措置にすぎません。
 軽減税率の適用ルールは、複雑であるだけでなく、議論も不十分なままです。簡素、公平、中立という租税原則にも反しているような制度設計のまま強引に消費税率を上げることは、国民の負担を増すばかりでなく、税制そのものへの信頼を損ないかねません。また、場当たり的な増税分のポイント還元や商品券の配付等で、行政コストに見合った効果が本当に得られるのでしょうか。
 軽減税率の導入による減収分の代替財源の見込みもない中、政府の方向性には疑問を感じざるを得ません。
 総理に質問します。
 増税をしても経済に影響を及ぼさないよう特別の措置を講じると指示されましたが、本当に実効性のあるものとお考えでしょうか。また、軽減税率の適用による減収と、ポイント導入等に係る財源はどう手当てされるのでしょうか。お答え願います。
 公務員給与について質問します。
 五年続けて引き上げられている国家公務員の給与ですが、人事院の調査は、五十人以上の事業所を対象として、中小零細企業が除外されることから、国民全体の給与の実情を反映していません。プライマリーバランスの黒字化が幾度となく先送りされている現状を考えれば、人事院勧告があっても政府の判断で給与引上げを見送る取組があってもよいはずです。まして、消費税増税で国民に負担を求めながら公務員給与は引き上げるとは、到底信じられません。
 そこで、総理に質問いたします。
 政府が人事院勧告での給与引上げを見送れないのはなぜでしょうか。政権を支える役所の反発が怖いというのであれば、それは政治家自身が身を切る模範を示していないからではないでしょうか。お答え願います。
 憲法改正について伺います。
 総理は、憲法改正を臨時国会の重要課題に挙げながらも、所信表明演説では、ごく短く言及しただけでした。我が党は憲法論議に真摯に取り組みますが、総理の本気度へ疑問を抱いています。日本維新の会は、憲法改正項目として、教育無償化、統治機構改革、憲法裁判所の設置の三項目について、条文案を確定させて提案をしているところであります。
 教育無償化について、自民党の憲法改正たたき台素案は、教育の充実にとどめていますが、教育無償化にまで踏み込んだ上で、国民に問うべきです。
 第二子以降の子供に対し、認可保育所等への直接給付による保育の無償化を実現した兵庫県明石市は、五年連続で人口がふえています。重要な点は、第二子以降を支援対象にしたことであり、子供を二人以上育てたい夫婦が明石市に移り住み、平成二十八年度には、合計特殊出生率は一・六四にまで上がっています。
 新三本の矢で出生率一・八を目標に掲げておられますが、全国平均の合計特殊出生率は一・四三と二年連続で低下しました。
 そこで、総理に質問いたします。
 合計特殊出生率が下がり人口減少の歯どめがかけられない現実を直視し、少子化の根本対策になり得る教育無償化を憲法改正によって国是とすることについて、どうお考えでしょうか。お答え願います。
 次に、外国人に対する新たな在留資格について質問いたします。
 日本における外国人労働者数は百二十八万人。この十年で二・六倍に伸び、今も伸び続けています。OECD加盟国中の外国人移住者統計では、日本は二〇一五年に第四位と、事実上は移民大国となりつつあります。
 政府が少子化対策をおざなりにしてきた結果の労働力不足を補うために、高度人材や技能実習という言葉でごまかし続けてきた現状を直視し、建前ではなく、本気で移民をどうするかということも含めた国民的議論を始めるべきであります。
 一方で、中南米諸国には日系移民が二百万人以上居住し、その多くが四世です。ことしの七月一日から始まった新しい日系四世の受入れ制度は我が日本維新の会が主張してきたことであり、総理の判断を高く評価しています。所定の要件を満たせば日系四世も通算五年間滞在することが可能になりましたが、既に日系二世、三世の方には定住資格が認められており、それと比べると、まだまだ制度としての魅力に乏しいものだとも言われています。
 そこで、総理に質問いたします。
 外国人労働者問題については、日系四世についても滞在期間を限定することなく、定住資格を認めるなど要件の緩和が必要と考えますが、いかがでしょうか。
 また、これまでの高度外国人人材と技能実習生としての未熟練労働者制度は、制度と実態とに乖離があります。そこをどのように認識しておられるのか。また、つけ焼き刃的な外国人受入れ政策ではなく、不足分野の労働力確保に向けて、抜本的な見直しをどのように進めるおつもりでしょうか。それぞれ具体的にお答え願います。
 次に、地方分権について伺います。
 国立社会保障・人口問題研究所の予測によると、二〇五三年の日本の人口は一億人を割り込むと推計されています。急激な少子化や都市圏への人口流入から、二〇四〇年には自治体の半数が消滅するとまで言われています。
 こうした中で、政府は、現実感に乏しい地方創生を掲げていますが、このような人口、社会構造の変化を見据えるならば、国家百年の大計として、抜本的な統治機構改革を行うべきではないでしょうか。
 地方が衰退し切ってしまう前に、政府が進めている地方創生を速やかに見直し、さらなる市町村合併や道州制等、統治機構改革を見据えた大きな議論に移行すべきではないでしょうか。総理の所見をお聞かせください。
 次に、ふるさと納税についてお聞きをいたします。
 ふるさと納税における返礼品競争が過熱している現状から、総務大臣は、返礼品を寄附額の三割以下にすることと、地方団体地域内で生産された物やサービスの提供に限ることという要請を出しました。しかし、地方自治法第二百四十五条の四の技術的な助言といいながらも、従わない自治体へはふるさと納税制度の控除対象から外すという強硬策を打ち出すのはいかがなものでしょうか。名指しされた大阪府泉佐野市の千代松市長は、寄附額三割以下の根拠が不明で、地域内で生産の定義が不明確という反論をしています。
 中央政府の意向に従わない自治体はふるさと納税の控除対象から外すという姿勢は、まさにお役所的な横並び主義であり、政府が進めようとしている地域活性化や地方分権に逆行しているのではないでしょうか。
 そこで、質問いたします。
 地方創生に十分な貢献と効果のあるふるさと納税に、どうして努力している自治体の取組へ水を差すような規制をかけるのか。なぜ、もっとふるさと納税を促進させないのでしょうか。お考えをお答え願います。
 最後に、NHKの受信料について伺います。
 規制改革推進会議において携帯電話料金の引下げについて議論されていますが、むしろ下げるべきはNHKの受信料ではないでしょうか。
 例えば、スポーツ番組や娯楽番組は、有料契約者だけが放送を見ることができるようスクランブル放送とすること、公共放送機関としての役割を整理し、見ない人の受信料は下げることで国民の負担を軽減すべきではないでしょうか。
 NHKにおける業務見直しや料金体系の見直しについて、総理の御所見をお伺いします。
 総理は、所信表明演説において、これまでの常識を打ち破らなければならないという決意を述べられていました。しかし、それは本当に具現化されるのでしょうか。常識を打ち破る改革には既得権と戦う覚悟が必要です。
 私たち日本維新の会は、若い世代の持つ将来不安を解消し、未来に希望を持って暮らすことのできる社会の実現を目指しています。世代間格差を解消するとともに、既得権を打破し、新しい提案をする政党として、国民の皆さんのための改革に全身全霊で取り組んでまいりますことをお約束申し上げ、質問といたします。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

    〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇〕

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 馬場伸幸議員にお答えをいたします。
 冒頭、先ほどの、徴用工問題に関する、韓国、大韓民国大法院の日本企業に対する判決について御質問がございました。
 本件については、一九六五年の日韓請求権協定によって、完全かつ最終的に解決をしています。この判決は、国際法に照らして、あり得ない判断であります。日本政府としては、毅然として対応してまいります。
 行財政改革についてお尋ねがありました。
 安倍内閣においては、例えば薬価制度の抜本改革など、改革努力や歳出削減努力を積み重ねることにより、一般歳出や社会保障費の伸びについて、経済・財政再生計画の目安を達成してきたところであり、今後とも、徹底的な重点化、効率化など、歳出削減努力に取り組んでまいります。
 行政改革についても、これまでも行政事業レビューなどの取組を不断に進めてきたところであり、引き続き取り組んでいきます。
 なお、政治に要する費用の問題は、議会政治や議員活動のあり方、すなわち民主主義の根幹にかかわる重要な課題であり、国会において国民の代表たる国会議員が真摯に議論を行い、合意を得る努力を重ねなければならない問題であると考えております。
 消費税率引上げに関する対策についてお尋ねがありました。
 来年十月に予定されている消費税率引上げに当たっては、前回の三%引上げの経験を生かし、あらゆる施策を総動員し、経済に影響を及ぼさないよう全力で対応してまいります。
 具体的には、消費税率引上げ分の税収のうち半分を国民の皆様に還元します。子育て世代に大胆に投資し、来年十月一日から幼児教育を無償化します。軽減税率を導入し、家計消費の四分の一を占める飲食料品については、消費税を八%のまま据え置きます。引上げ後の一定期間に限り、中小小売業に対し、ポイント還元といった新たな手法による支援を行うなど、引上げ前後の消費を平準化するための十分な支援策を講じます。自動車や住宅といった大型耐久消費財について、来年十月一日以降の購入にメリットが出るように、税制、予算措置を講じます。
 二〇一九年度、二〇二〇年度の当初予算について臨時特別の措置を講ずることとしており、その具体的な内容等については、各年度の予算編成過程において検討してまいります。財源等については、今後、年末に向けて、税制改正及び予算編成のプロセスにおいて検討してまいります。
 公務員の給与についてお尋ねがありました。
 労働基本権が制約されている国家公務員の給与については、その代償措置としての人事院勧告制度を尊重するとの基本方針のもと、民間の水準を踏まえて決定されております。
 こうした中にあっても、安倍政権においては、厳しい財政事情を踏まえ、国家公務員の総人件費に関する基本方針に沿って、給与制度の総合的見直しの実施や定員合理化等を行うことなどにより、人件費の抑制に努めてきたところであります。
 今後も、国家公務員の給与については、人事院勧告制度を尊重し、国の財政状況、経済社会情勢など国政全般との関連を考慮しつつ、しっかり検討を進めてまいります。
 憲法改正による教育無償化への取組についてお尋ねがありました。
 憲法改正の内容については、私は今、内閣総理大臣として答弁しており、今後、国会の憲法審査会において議論されるであろう御党の提案についてこの場でお答えすることは差し控えさせていただきたいと思います。
 その上で、お尋ねですのであえて申し上げますと、自民党が示した改憲四項目の中にも教育の充実が含まれておりますが、私は、子供、若者こそ我が国の未来であり、世代を超えた貧困の連鎖を断ち切り、家庭の経済事情にかかわらず、子供たちが夢に向かって頑張ることができる日本、政権などのいかんにかかわらず、それが保障される国でありたいと考えています。
 いずれにせよ、憲法改正は、国会が発議し、最終的には国民投票により決められるものです。憲法審査会において、政党が具体的な改正案を示すことで、国民の皆様の理解を深める努力を重ね、与党、野党といった政治的立場を超えて、できるだけ幅広い合意が得られると確信しています。
 日系四世の受入れ制度、高度人材と技能実習生、外国人材の受入れ拡充についてお尋ねがありました。
 本年七月一日から開始した日系四世の受入れ制度は、若年層の日系四世の方を受け入れ、日本文化を習得する活動等を通じて日本に対する理解や関心を深めてもらい、もって、日本と現地日系社会との結びつきを強めるかけ橋になる人材を育成することを目的としています。
 そのため、一定程度の期間、日本に在留していただいた後、帰国して御活躍いただくことが期待されることから、最長五年間在留できることとしたものですが、今後、本制度の実施状況を踏まえ、本制度で受け入れた日系四世の方々の将来の在留資格のあり方について検討してまいります。
 高度人材に関しては、専門的、技術的な労働市場の発展を促し、我が国労働市場の効率性を高めることが期待される人材として受入れを促進しているものであります。
 また、技能実習制度は、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う人材、人づくりに協力することを目的とする制度ですが、一部の監理団体や受入れ企業において労働関係法令違反や人権侵害が生じている等の指摘があることから、制度を見直し、昨年十一月に技能実習法が施行され、制度の適正化を図っているところです。
 新たな受入れ制度は、深刻な人手不足に対応するため、現行の専門的、技術的分野における外国人の受入れ制度を拡充し、真に必要な業種に限り、一定の専門性、技能を有し、即戦力となる外国人材を就労の資格で我が国に受け入れようとするものです。
 政府として、これまで積極的、継続的に検討を重ねてきたものであり、本制度の趣旨や内容について広く御理解いただけるよう取り組んでまいります。
 人口減少時代を見据えた地方の活性化、統治機構改革についてお尋ねがありました。
 地方の活力なくして日本の再生なし。安倍内閣は発足当初から、人口減少の克服と地域活性化を一体として実現することを目指す地方創生を政策の柱として取り組んできており、今後ともあらゆる施策を総動員してまいります。
 その上で、国と地方のあり方を根底から見直す大きな改革である道州制の導入については、現在、引き続き与党において検討がされており、政府としても連携しつつ取り組んでまいります。
 また、市町村合併後のあり方については、他の市町村と連携して行政サービスを提供する取組も含め、市町村みずからが最も適したものを選択できるように進めていくことが重要であると考えています。
 いずれにせよ、地方分権改革、さらには国と地方のあるべき姿については、御党の御主張などを含め、引き続き建設的な議論を続けてまいります。
 ふるさと納税についてお尋ねがありました。
 ふるさと納税は、ふるさとや地方団体の取組を応援する納税者の気持ちを橋渡しするとともに、地方団体がみずから財源を確保し、さまざまな施策を実現するために有効な手段となっています。
 一方で、一部の地方団体が過度な返礼品を送付し多額の寄附を集めていることが制度そのものに対する批判につながっていることから、制度の見直しの検討を始めたところです。
 一定のルールの中で、地方団体が切磋琢磨できる環境を整えることにより、ふるさと納税制度を健全に発展させていきたいと考えています。
 NHK受信料についてお尋ねがありました。
 受信料は、公共放送が社会的使命を果たすために必要な財源を、広く国民・視聴者全体に公平に御負担いただいているものであります。
 その上で、NHKにおいては、その経営が、国民・視聴者が負担する受信料により支えられているとの強い認識を持ち、徹底して国民・視聴者目線に立った、業務の合理化、効率化、ガバナンス改革に全力で取り組んでもらわなければなりません。
 そうした努力を重ねることで、NHKには、値下げを含む受信料水準のあり方について不断に検討を行ってもらいたいと考えています。(拍手)
○副議長(赤松広隆君) これにて国務大臣の演説に対する質疑は終了いたしました。

 第197回国会 衆議院予算委員会 第2号 平成三十年十一月一日(木曜日)午前八時五十九分開議

【発言順】
 委員     岸田 文雄
 内閣総理大臣 安倍 晋三

○岸田委員 我が国は、二〇一五年のNPT運用検討会議において大変残念な思いをしました。ぜひ、二〇二〇年のNPT運用検討会議、日本としてしっかりとした存在感を示していただきたいと思います。
 そして、最後に、韓国についてお伺いいたします。日韓関係です。
 北朝鮮情勢が動く中にあって、日韓、日米韓の連携はまことに重要です。また、ことしは日韓パートナーシップ宣言二十周年という節目の年です。しかしながら、最近の日韓関係、好ましくない事態が立て続けに起こっています。
 先月だけでも、韓国国際観艦式への自衛艦派遣見送り、韓国国会議員十数名による竹島上陸が行われました。そして、つい先日、三十日には、韓国大法院が徴用工裁判に関する判決を言い渡し、日本企業に賠償を命じました。これは明らかに一九六五年の日韓請求権協定に反し、両国友好の法的基盤を根底から覆しかねない、こういった事態です。さらには、慰安婦問題で韓国政府が和解・癒やし財団の解散を示唆しています。これは、世界が評価した二〇一五年十二月の日韓合意をないがしろにするものであると思います。
 こうした事態は、日韓関係あるいはアジア太平洋の安定、こういったものにもマイナスの影響を与える、このように心配をしています。
 日韓関係をどのようにマネージしていくのか、これを、最後、総理にお願いいたします。

○安倍内閣総理大臣 日韓関係については、九月の国連総会の際の文在寅大統領との会談を始めさまざまな機会に、未来志向の日韓関係構築に向けて協力していくことを累次確認してきたにもかかわらず、御指摘の韓国主催国際観艦式における自衛艦旗掲揚の問題や韓国国会議員の竹島上陸、あるいは韓国大法院の判決など、それに逆行するような動きが続いていることは大変遺憾であります。
 旧朝鮮半島出身労働者の問題につきましては、この問題については、一九六五年の日韓請求権協定によって完全かつ最終的に解決しています。今般の判決は、国際法に照らせば、あり得ない判断であります。日本政府としては、国際裁判も含め、あらゆる選択肢を視野に入れて、毅然として対応していく考えでございます。
 なお、政府としては、徴用工という表現ではなくて、旧朝鮮半島出身労働者の問題というふうに申し上げているわけでございますが、これは、当時の国家総動員法下の国民徴用令においては募集と官あっせんと徴用がございましたが、実際、今般の裁判の原告四名はいずれも募集に応じたものであることから、朝鮮半島の出身労働者問題、こう言わせていただいているところでございます。
 日韓の間の困難な諸課題をマネージしていくためには、日本側のみならず、韓国側の尽力も必要不可欠でありまして、今回の判決に対する韓国政府の前向きな対応を強く期待しているところでございます。

○岸田委員 終わります。ありがとうございました。

 第197回国会 衆議院外務委員会 第2号 平成三十年十一月十四日(水曜日)午前九時開議

【発言順】 
 委員             山川 百合子
 政府参考人
 (外務省大臣官房参事官)   田村 政美
 委員長            若宮 健嗣
 理事             穀田 恵二
 外務大臣           河野 太郎
 政府参考人(外務省国際法局長)三上 正裕

○山川委員 ぜひ、真に必要な防衛力のあり方について、本当に議論をしていきたいというふうに思っております。よろしくお願いいたします。
 続いて、今度は日韓関係について、徴用工問題と、韓国における個人に対する支援策について伺いたいと思います。先ほども御質問もございましたが、私の方からもお伺いをしたいと思います。
 徴用工問題をめぐる韓国の大法院による判決について、我が党の枝野代表は記者会見で、判決は大変残念であり遺憾に思うと述べて、朝鮮による日本人拉致問題などの解決には韓国との連携が不可欠だということを指摘し、韓国政府には、一九六五年の日韓請求権協定を踏まえて適切な対応をとることを強く期待しているというふうに述べています。
 当然ながら、私も枝野党首と同じ立場に立っている一人でございます。
 その上で、国家間の協定や合意のはざまで個人が忘れ去られてはならないというふうに思います。国と国との話合いがありますが、それがどうであれ、救済されるべき個人がどのように支援を受けてきたかという課題について、私は民間の国際人道支援NGO出身者として大きな関心を持っているわけであります。
 一九六五年の日韓請求権協定から既に五十三年もの月日が経過しております。今日の徴用工問題に至る、韓国における個人への支援策について、時系列かつ具体的な御説明をお願いをいたします。

○田村政府参考人 お答え申し上げます。
 韓国政府の措置について、日本政府として説明する立場にはございませんが、我々が、韓国政府が発表した資料等を御紹介させていただきます。
 まず、韓国政府は、日本政府が日韓請求権協定に基づき供与した五億ドルの一部を使用する形で、一九七五年から一九七七年にかけて、日本国により軍人軍属又は労働者として徴集又は徴用され、一九四五年八月十五日以前に死亡した者の遺族を対象として補償を支給しております。さらに、二〇〇五年、韓国政府みずから設置した官民の共同委員会が、日本から受領した無償資金のうち相当額を被害者の救済に使わなければならない道義的責任があると発表したことを踏まえ、二〇〇七年及び二〇一〇年に関連の支援法を制定していると承知しております。
 この支援法等によって、死亡者の遺族だけではなく、行方不明者、負傷者、治療等が必要な生存者、未収金被害者又はその遺族も対象に含める形で給付が実施されたものと承知しております。

○山川委員 ありがとうございます。

○若宮委員長 次に、穀田恵二君。

○穀田委員 日本共産党の穀田恵二です。
 きょうは徴用工問題について質問したいと思います。
 韓国の大法院は、十月三十日、日本がアジア太平洋地域を侵略した太平洋戦争中に徴用工として日本で強制的に働かされたとして韓国人四人が新日鉄住金に損害賠償を求めた裁判で、賠償を認める判決を言い渡しました。
 河野大臣は、この判決について、一九六五年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に終わった話であり暴挙だ、さらに、国際法に基づく国際秩序への挑戦だと、韓国側を強く非難する姿勢を示されておられます。
 改めて、この問題での河野大臣の所見を伺いたいと思います。

○河野国務大臣 今般の韓国大法院の判決は、日韓請求権協定に明らかに反して、日本企業に対し不当な不利益を負わせるものであります。そればかりか、今御指摘いただきましたように、一九六五年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の法的な基盤を一方的かつ根本から覆すものであって、極めて遺憾と言わざるを得ません。
 日本政府としては、韓国政府に対しまして、このような国際法違反の状態を直ちに是正することを含めた適切な措置を講ずるように強く求めているところでございまして、韓国政府が毅然とした対応をしてくれるというふうに期待をしているところでございます。

○穀田委員 今の発言は、所信表明と、それから官房長官の記者会見と大体同じ内容でずっと言っておられると拝察しました。
 そこで、徴用工問題や強制動員の問題は、日本の植民地支配のもと、朝鮮半島や中国などから多数の人々を日本本土に動員し、日本企業の工場や炭鉱などで強制的に働かせ、劣悪な環境、重労働、虐待などによって少なくない人々の命を奪ったという重大な人権問題であります。
 本件の原告も、いわゆる、政府が言っていますけれども、募集などと言っておりますが、その実態は甘言や暴力を伴うものだった。一日八時間の三交代制で働き、月に一、二回程度しか外出を許可されず、月に二、三円程度の小遣いが支給されただけだった。賃金全額を支給すれば浪費するおそれがあると理由をつけ、本人の同意を得ずに、彼ら名義の口座に賃金の大部分を一方的に入金し、その貯金通帳と印鑑を寄宿舎の舎監に保管させた。賃金は結局最後まで支払われなかった。当初の話と全く違う過酷な条件で働かされ、逃げ出さないように厳しい監視下に置かれ、殴打されるなど体罰を振るわれたことが裁判で明らかになっています。
 そこで、外務省に聞きたいと思うんですけれども、元徴用工の請求権については、政府は、日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決している、判決は国際法違反だとの姿勢ですが、私はそうした政府の姿勢に重大な問題があると思います。
 韓国大法院の判決は、元徴用工の個人の請求権は消滅していないと判定を下しています。この個人の請求権について、日本政府は国会答弁などで、請求権協定によって日韓両国間での請求権問題が解決されたとしても、被害に遭った個人の請求権を消滅させることはできないと公式に繰り返し表明してきたはずであります。
 私、当時の議事録を持ってきましたけれども、例えば一九九一年八月二十七日の参議院予算委員会で、外務省の柳井条約局長は、日韓請求権協定の第二条で両国間の請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたと述べていることの意味について、「これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。」と述べ、「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。」と答えています。これは間違いありませんね。

○河野国務大臣 個人の請求権が消滅したと申し上げるわけではございませんが、個人の請求権を含め、日韓間の財産請求権の問題は日韓請求権協定により完全かつ最終的に解決済みでございます。
 具体的には、日韓両国は、同協定第二条一で、請求権の問題は完全かつ最終的に解決されたものであることを明示的に確認し、第二条三で、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての請求権に対していかなる主張もすることができないとしていることから、このような個人の請求権は法的に救済されません。
 日韓請求権協定において、請求権の問題は完全かつ最終的に解決され、個人の請求権は法的に救済されないというのが日本政府の立場でございます。

○穀田委員 日本政府の立場はそういうことだということを言っているわけですけれども、問題は、今の説明は、簡単に言うと、国と国との請求権の問題と個人の請求権を一緒くたにして、全て一九六五年の日韓請求権協定で解決済みだ、個人の請求権もないとしているところに、そこに重大問題があります。
 私が聞いているのは、請求権協定で個人の請求権は消滅したのか消滅していないのかということを聞いているんです。外務省、お答えください。

○三上政府参考人 お答え申し上げます。
 ただいま大臣より答弁申し上げたとおりでございますけれども、御指摘の柳井条約局長の答弁につきましては、個人の財産権、請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではない旨述べるとともに、日韓請求権協定による我が国及び韓国並びにその国民の間の財産、権利、利益並びに請求権の問題の解決について、国際法上の概念である外交的保護権の観点から説明したものであるということでございます。
 韓国との間におきましては、日韓請求権協定により、一方の締約国の個人の請求権に基づく請求に応ずべき他方の締約国及びその国民の法律上の義務が消滅し、その結果、救済が拒否されるということになっております。

○穀田委員 いろいろありましたけれども、一番最初に言ったところが肝心でして、消滅させたものではないということが肝心なんですね。
 それで、柳井条約局長は、一九九二年の二月二十六日の外務委員会でも「条約上は個人の請求権を直接消滅させたものではない」と答えて、今お話あったように、結局のところ、そういう、訴求したり、いろいろなことをしても無駄よという話は出ているけれども、関係者の方々が訴えを提起される地位までも否定したものではないとはっきり答えているわけですね。
 さらに、その訴えに含まれておりますところの慰謝料請求権等の請求が我が国の法律に照らして実体的な根拠があるかないかということにつきましては、これは裁判所で御判断になることだと存じますと答えているわけですね。
 このように、たとえ国家間で請求権問題が解決されたとしても、個人の請求権は消滅しない、そしてその訴えをどう判断するかは司法府の判断になると繰り返し言明してきた。これが政府の公式の立場だと言ってよろしいですね。

○三上政府参考人 お答え申し上げます。
 先ほど申し上げましたように、柳井条約局長の答弁は、請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではないとしつつも、日韓請求権協定による我が国及び韓国並びにその国民の間の財産、権利及び利益並びに請求権の問題について、国際法上の概念である外交的保護権という観点から説明したものでございますが、同時に、その日韓請求権協定と申しますのは、先ほど大臣から答弁申し上げたとおり、完全かつ最終的に解決されたとか、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての請求権に関していかなる主張もすることができないということで、明確に個人の請求権が法的に救済されないということを全体として書いているという理解でございます。

○穀田委員 何度もおっしゃるように、そう意味はないと言っているだけで、消滅したとは言っていないというところが大事なんですよ。すぐ話をそらすわけだけれども、違うんですって。消滅していないというところが、今、私が問うている問題なんですよ。やっても意味がない、そういうことを言っているのは知っていますよ。
 そこで、強制連行による被害者の請求権の問題では、中国との関係でも問題になっています。
 二〇〇七年四月二十七日、日本の最高裁は、中国の強制連行被害者が西松建設を相手に起こした裁判で、被害者個人の賠償請求権について、請求権を実体的に消滅させることを意味するものではなく、当該請求権に基づいて訴求する機能を失わせるにとどまると判断しています。
 この判決は知っていますね。

○三上政府参考人 はい、この判決は承知申し上げております。

○穀田委員 この判決は、日中共同声明によって個人が裁判上訴求する機能を失ったとしながらも、実体的な個人の賠償請求権は消滅していないと判断し、債務者側において任意の自発的対応をすることは妨げられないとまでして、日本政府や企業による被害者の回復に向けた自発的対応を促したのであります。
 この判決が手がかりとなって、被害者は西松建設との和解を成立させ、西松建設は謝罪し、和解金が支払われたという経緯があります。
 たとえ国家間で請求権の問題が解決されたとしても、個人の請求権を消滅させることはない、政府が繰り返し言明してきたこの立場に立って、被害者の名誉と尊厳を回復し、公正な解決を図るために冷静な努力を今尽くすべきだ、このことを私は強調しておきたいと思います。
 そして、韓国大法院の判決は、原告が求めているのは、未払い賃金や補償金ではなく、朝鮮半島に対する日本の不法な植民地支配と侵略戦争の遂行に直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員への慰謝料、これを請求したものだとしている。そして、日韓請求権協定の交渉過程で、日本政府は植民地支配の不法性を認めず、強制動員被害の法的賠償を根本的に否定したと指摘し、このような状況では、強制動員の慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれるとみなすことはできないと述べています。
 政府は、日韓請求権協定の締結に際し韓国側から提出された対日請求要綱、いわゆる八項目に、被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請求権と記されており、合意議事録には、この対日請求要綱の範囲に属する全ての請求が含まれているというけれども、その中に慰謝料請求権は入っているのですか。外務省。

○三上政府参考人 お答え申し上げます。
 そういう請求権も含めて、全て対象となっているという立場でございます。(穀田委員「もう一度」と呼ぶ)
 そういった請求権も含めて、日韓請求権協定で全てカバーされており、解決済みという立場でございます。

○穀田委員 慰謝料請求権は入っているかと聞いて、ばくっと答えて、入っていますと言われても困るんだよね。きちっと言ってほしいんですよ。
 一九九二年三月九日の衆議院予算委員会で、柳井条約局長は、日韓請求権協定上、財産、権利及び利益というのは、「財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが定義されて了解されている」と述べ、慰謝料等の請求につきましては、「いわゆる財産的権利というものに該当しない」と答えています。
 つまり、請求権協定で個人の慰謝料請求権は消滅していないということではないんですか。

○三上政府参考人 お答え申し上げます。
 請求権協定の二条でございますけれども、「両締約国は、両締約国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、」と書かれておりますので、請求権協定で財産、権利、利益と並んで、いわゆる請求権も入っているということでございます。

○穀田委員 いつからそういうふうに範囲が拡大しているんですか。そんな話に書いていないですよ。
 柳井条約局長は、その後にまた、「慰謝料請求権というものが、この法律上の根拠に基づき財産的価値を有すると認められる実体的権利というものに該当するかどうかということになれば、恐らくそうではない」と答弁しているんですよ。
 そしてさらに、「昭和四十年、この協定の締結をいたしまして、それを受けて我が国で韓国及び韓国国民の権利、ここに言っております「財産、権利及び利益」について一定のものを消滅させる措置をとったわけでございますが、そのようなものの中にいわゆる慰謝料請求というものが入っていたとは記憶しておりません。」明確に慰謝料請求というものが入っていない、入っていたとは記憶していないと答えているわけですよ。
 したがって、個人の慰謝料請求権は請求権協定の対象に含まれていないということは明らかではありませんか。

○三上政府参考人 お答え申し上げます。
 ちょっと柳井条約局長の全文が手元にないものですから、そこはお許しいただきまして、先ほど申し上げたように、請求権協定の中には財産、権利及び利益並びに請求権ということで入ってきているわけでございます。柳井局長が実体的権利と申し上げたのは、その四つのうちの財産、権利及び利益、確定的に実体的に存在しているものということだと理解しております。それを日本国内法の措置法で消滅させたということを言っていると思うんですが、請求権、慰謝料の請求権はその消滅させた実体的権利の中に入っていない、ただ、請求権は請求権協定の中には入っているので、この請求権協定で全てが解決されているということでございます。

○穀田委員 持っていないからというわけにはいきませんでね。そういうことを聞くと言っているわけだから。
じゃ、念のためにもう一度お読みしましょう。
 一九九二年の三月九日に柳井さんは、「「財産、権利及び利益」というのは、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうこと」が定義されて了解されているわけでございます。」と。「そして慰謝料等の請求につきましては、これは先ほど申し上げたようないわゆる財産的権利というものに該当しない」と。明らかにこの問題を問われて、これは該当しないということを答弁しているわけですよ。今ごろになってばくっと請求権の中に入ってますのやなんという話が通用せえへんほど明確に言っている。ここをちゃんと見なあきまへんで。
 さらに、もう一度言いますと、いわゆる慰謝料請求権というものが、この法律の根拠に基づき財産的価値を有すると認められる実体的権利というものに該当するかどうかということになれば、恐らくそうではないだろうと考えますと。
 更にあるんですよ。
 いずれにいたしましても、昭和四十年、この協定の締結をいたしまして、それで我が国で韓国及び韓国国民の権利、ここに言っております財産、権利及び利益について一定のものを消滅させる措置をとったわけですが、そのようなものの中にいわゆる慰謝料請求というものが入っていたとは記憶していませんと。
 だから、明らかに、この一連の請求権協定にかかわる交渉の過程で行われた問題について慰謝料請求権というものは入っていないということを二度三度にわたって明確にしている。これがこの間の答弁ではありませんか。その答弁を否定するということですか。

○三上政府参考人 たびたび申しわけありません。答弁申し上げます。

 柳井局長の答弁を否定するつもりはございません。日本国内の法律をつくって、その実体的な財産、権利、利益については消滅させたわけです。しかし、請求権というのは、そういった財産、権利、利益のような実体的権利と違う潜在的な請求権ですから、それは国内法で消滅はさせられていないということを柳井局長は言ったと思います。
 国内法で消滅させたのは、実体的な債権とか、もうその時点ではっきりしている財産、権利、利益の方でございまして、その時点で実体化していない、請求権というのは、いろいろな不法行為とか、裁判に行ってみなければわからないようなものも含まれるわけですので、そういったものについては消滅はしていない。
 したがって、最初に申し上げたように、権利自体は消滅していない。しかし、裁判に行ったときには、それは救済されない、実現しませんよということを両国が約したということだと思います。

○穀田委員 最後、いろいろ言っていますけれども、結局のところ、これは、それぞれの国内法において消滅したとか消滅していないと言っているけれども、明らかに、この問題については、その慰謝料の請求権というものは入っていないということは今の答弁で極めて明らかだと。しかも、当時の答弁はそのとおりだということを確認しておきたいと思います。
 最後に、河野大臣にお伺いしたいんですけれども、一九六五年の日韓基本条約及び日韓請求権協定の交渉過程で、日本政府が植民地支配の不法性について認めた事実はございますか。

○河野国務大臣 ないと思います。

○穀田委員 ありませんよね。
 そうすると、私は、日韓のこの基本条約、日韓請求権協定の交渉過程で、日本政府が植民地支配の不法性についてやらなかったことを、これを公式に大臣が述べたということについては重要な意味が私はあると思います。一切そういうことについては、一切と言っていませんけれども、なかったということですから、一切なかったということだと思うんですね。
 日韓基本条約は、一九一〇年の韓国併合をもはや無効と述べるだけで、日本側の責任や反省については何ら触れていません。
 そこで、私は思い出すんですが、私は京都に住んでいますから、小渕内閣で官房長官を務められた野中広務氏は、二〇〇九年の新聞インタビューに答えて、次のように語っています。
 子供のころ、鉱山で働く朝鮮人が、背中にたくさんの荷物を背負い、道をよろよろ歩く、疲れ切ってうずくまるとむちでぱちっとたたかれ、血を流しながら、はうようにまた歩き出す、そんな姿を見てきました。戦後六十四年が経過した今でも、戦争の傷は癒えていません。北朝鮮との国交回復、賠償の問題も残っています。多くの未解決の傷跡を見るとき、まだまだ日本は無謀な戦争の責任がとれていない。そのこと自体が被害者の方々にとって大きな傷になっていると思われ、政治家の一人として申しわけない思いです。こう語っておられます。
 同じ京都にずっと活動してきたもので、非常に重い発言だと思いますし、園部には、住んでおられたところにはマンガン鉱もありまして、そういうところで、こういう仕打ちを受けたということについて、政治家としての思いを語られておられます。
 その点では、外務大臣は、政治家としてのこういう点についての、どういう思いをされますか。

○河野国務大臣 安倍政権として、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでおり、今後も引き継いでいく考えでございます。

○穀田委員 その歴代歴史認識ということについていいますと、そういう歴史認識について、韓国のこの間の問題について反省をしたということについて、今の安倍政権がその話を述べたことは、少なくともありません。
 ことしは、日本の韓国への植民地支配への反省、痛切な反省と心からのおわびということで、日韓両国の公式文書で、小渕恵三当時首相と、一九九八年ですね、そして金大中大統領による日韓パートナーシップ宣言から二十年の、二十周年の節目の年であります。日本政府が、私は、過去の植民地支配と侵略戦争への真摯で痛切な反省を基礎に、この問題の公正な解決方法を見出す努力を強く求めたいと思います。
 先ほど述べたように、多くの未解決の傷跡を見るとき、まだまだ日本は無謀な戦争の責任がとれていない、こうおっしゃっています。そういう意味でいいますと、私は、この問題の公正な解決、先ほど述べた努力をする際に、日韓双方が、この徴用工の、元徴用工の被害者の尊厳と名誉を回復するという立場から、冷静で真剣な話合いをすることが極めて大切だということを述べて、質問を終わります。

 第197回国会 参議院外交防衛委員会 第2号 平成三十年十一月二十日(火曜日)午前十時九分開会

【発言順】 
 委員   白 眞勲
 外務大臣 河野 太郎

○白眞勲君 では、ちょっと別の観点からなんですけど、北海道で戦争中ダム現場で働いて、そこでお亡くなりになった韓国の方の御遺骨をふるさとにお返しするボランティア活動をされているお寺の御住職様のお話を聞く機会があったんですけれども、発掘された遺体、遺骨の状態からしても、相当、当時、ダム現場の仕事が過酷であったことが想像されるようなんですね。
 そこで、外務大臣にお聞きしたいんですが、現在、韓国との間ではいわゆる徴用工の問題で大臣もいろいろな機会に御発言をされていますけれども、事実、当時、半島から相当の数の人がやってきて、これ、日本人と一緒に働いている。日本人の御遺骨もあるようなんですけれども。そういう中で、まあ、私は思うんです、その人の一回しかない貴重な人生に影響を及ぼしたということは確かだと思うんですね、歴史的な観点からですね。補償するしないはどうであれ、それを踏まえた上で村山談話というのは出ているというふうに思いますが、大臣のこの辺の御認識はどうでしょうか。

○国務大臣(河野太郎君) 安倍政権といたしましては、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでおり、今後も引き継いでまいりたいと思います。

○白眞勲君 その言葉が重要だと私は思うんですね。
 今回の件について政府は、ICJに提訴することも含めて韓国側の出方を注視しているという今状況だと思うんですけれども、今後どうなるかは政府の考え方ですけれども、少なくとも今言及された内容というのはやっぱり基礎として、この内容を基礎としてお話しすべきだと思いますが、その辺、外務大臣はいかがでしょうか。

○国務大臣(河野太郎君) 請求権協定の話をされているのであれば、この請求権協定によって全てのことは完全かつ最終的に終了しているという認識に何の変わりもございません。

○白眞勲君 ですから、そこに村山談話とか何かを、例えば話すときにそういったことというのは話すべき、あるいは念頭に置くべきではないかなというふうに思うんです。その辺はどうでしょうか。

○国務大臣(河野太郎君) 請求権の問題は法的な問題でございますので、請求権協定で最終かつ完全に終了していると考えております。

 第197回国会 衆議院予算委員会 第4号 平成三十年十一月二十六日(月曜日)午前八時五十九分開議

【発言順】
 委員   井野 俊郎
 外務大臣 河野 太郎

○井野委員 ぜひ、総理におかれては、長年懸念だったこの日ロ平和条約締結に向けて頑張っていただきたいと思っておりますし、我々も後押しをしていきたいというふうに思っております。
 さて、日ロとはちょっとまた話がかわりまして、最近ちょっとなかなかうまくいっていないと私なりに思っているのが日韓関係でございます。徴用工の裁判、そして慰安婦財団の解散など、韓国は立て続けに、日韓関係を悪化させるような一方的な対応をとり続けているように感じられます。我々も、正直言って、あきれ果てているといいましょうか、大変これについては困惑しているというか、どうしたらいいのかというような感じでありますし、その分、我が国民の多くは、やはり冷静に対応しているのかなというふうに思っております。
 こういった韓国の感情といいましょうか、そういった感情的に対応している外交に対して、やはり我々は、もう一度きちんと冷静になってもらいたいというふうに思っておりますし、冷静になってもらうために、ただ抗議するというだけではやはり私は足りないのかなというふうに思っておるんですけれども、以前、韓国の在韓大使を一時帰国させたりという措置をとったように思いますけれども、今後、このような韓国に対してどのような対応をとるのか。まず外務大臣、教えてください。

○河野国務大臣 ことし初めから、未来志向の日韓関係を築いていこうという話を先方の外務大臣と繰り返ししていたにもかかわらず、それと逆行するような動きがずっと続いているのは極めて残念だと思っております。
 日韓合意については、先方は、日韓合意の破棄は考えていない、あるいは再交渉を求めることもないということを繰り返し述べておられますので、日韓合意についてはしっかりと韓国側の履行を求めていきたいと思っております。日本側としては、日韓合意で課せられた義務は全てやってきているわけでございますので、先方にもしっかり履行していただきたいと思っております。
 また、先般の大法院の判決は、これはもう一九六五年の国交正常化以来の日韓両国の法的基盤を根本から覆すようなことでございますので、これはもう韓国側にしっかりとした対応をしていただく以外にはないわけでございます。それがない場合には、国際裁判も視野に入れ、あらゆる選択肢を考えていかんというふうに思っております。
 そういうことも考えておりますので、とりあえず、ハイレベルの交渉を維持するために大使はこのまま置いておくつもりでございまして、一時帰国は今のところ考えておりません。

○井野委員 我が国としては、まずは冷静に対応していくということだということであります。それについては、我々も一緒になって感情的になってもだめだという先ほど外務大臣のお話だというふうに感じました。それはそれで、私も、そういうふうに交渉をきちんと進めていき、対応を改めていくということが何より大事だと思いますし、さはさりながら、やはりこのままではいけないんだというふうに思いますので、ぜひその対応を誤らないようにしていただきたいというふうに思います。
 もちろん、韓国では、実際問題、経済活動を行っている企業もあります。こういった日本企業の経済活動が萎縮しないように他方でしなければならないというふうに思いますけれども、この点について、まず世耕大臣はどのように考えているのか。

○世耕国務大臣 韓国は、日本にとりましては、中国、アメリカに次ぐ三番目に貿易額が多い国であります。また、投資額の面で見ると、韓国から見たら、対内直接投資は日本が一番なんです。そういう意味では、いろいろな意味で企業のビジネスが日韓間では盛んに行われているわけでありますけれども、今起こっている諸問題が、両国企業の貿易ですとか投資の意欲を冷やすことになれば、これはもう、日韓はお互い補完的な経済関係があるわけでありますし、今サプライチェーンはグローバルにいろいろな形でつながっていますので、こういったサプライチェーンを毀損することにもなりかねないというふうに思っています。
 こういった状況にならないように、まずは、日本政府として、外務省とも連携をしながら、韓国政府に直ちに適切な措置を講ずるよう求めていくということ、そして、日本企業に対しては、日本政府がどういう立場をとっているか、あるいは関連訴訟をめぐる韓国内の状況について、経産省、外務省で連携をして情報提供をしっかりとやっていくということが重要だというふうに思っています。もう既に、今裁判で提訴を受けている企業向けの関係省庁合同説明会というのも何回も開かせていただいているところでございます。

○井野委員 ぜひ、世耕大臣、そういった日本企業の経済活動にも支障がないように、さまざまなレベルで配慮していただきたいというふうに思いますので、ぜひその点もよろしくお願いいたします。
 世耕大臣はもう結構でございますので。

 第197回国会 参議院国土交通委員会 第3号 平成三十年十一月二十七日(火曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員      中野 正志
 国土交通省海事
 局長      水嶋 智

○中野正志君 大和堆から、この頃は北海道沖、大変広い面で北朝鮮漁船、また、御存じをいただきますように、難破した船が相変わらず今まで以上に日本に揚がっているという現実もあるわけでありまして、是非、海上保安庁を含めて頑張っていただきたいものだと思います。
 韓国は隣国でありますけれども、大変残念ですけれども、民主的な手続や約束事を軽んじられる向きがあります。徴用工の最高裁の異常な判決しかり、また、最終的、不可逆的な解決を確認した二〇一五年の日韓合意に基づいて日本政府が十億円を支出した例の和解・癒やし財団、これを解散すると発表したり、国際社会の一員として、ぶっちゃまけて言えば、韓国は未熟であるなということを認識せざるを得ません。
 もう一つ、韓国のルール違反について申し上げます。
 日本政府は、六日、韓国が自国の造船業界に過剰な補助金を支給しているのは国際的な貿易協定に違反しているとして、WTOへ提訴する手続を開始したと発表されました。
 造船業界は、二〇〇八年のリーマン・ショック前の好況期に各社も設備投資をし、当然、よその国も大変な設備投資をして、世界的に供給過多となっているそうでありますが、こうした中で、韓国が経営危機に陥った自国の造船企業に政府系金融機関を通じて巨額な資金援助を行えば、当然、市場の原理とは違う価格低下を生じさせてしまいます。
 こういうことを一つ一つ国際的に提訴していくことは大切なことであると思いますが、提訴の準備状況と、今後日本造船産業へどのような影響があるのか、また、政府として、海洋国家日本、これはもうすごいブランドでありますから、この海洋国家日本、再浮揚させていくためにも、造船業界に対してどういう施策を講じていかれるのか、この機会にお伺いをいたします。

○政府参考人(水嶋智君) お答え申し上げます。
 世界の造船市場でございますが、先生御指摘のとおり、リーマン・ショック前の新造船の大量発注とその後の需要の低迷によりまして供給能力過剰の状態にあり、各国の造船業は厳しい状況にございます。
 足下の業況といたしましては、二〇一八年に入りまして我が国造船業の受注シェアは回復傾向にはございますが、韓国では数年前から経営難に陥った自国造船所の救済等の公的助成が大々的に行われておりまして、結果、供給能力過剰問題の解決を遅らせるとともに、我が国造船業に大きな悪影響を及ぼしているところでございます。
 これまで我が国は、OECD造船部会や日韓課長級会議の場におきまして、韓国政府、公的機関による自国造船業に対する過度な支援は造船市場を歪曲するものであり、造船業の供給能力過剰問題の早期解決を阻害するものであると累次にわたり指摘してきたところでございます。また、先月には海事局と韓国産業通商資源部との局長級協議を実施いたしまして、韓国に対して我が国の懸念を改めて伝えるとともに、本問題の友好的かつ迅速な解決の必要性を強く訴えましたが、措置の撤廃には至っておりません。
 このため、関連業界の要望も踏まえまして、関係省庁と協議の上、WTO協定に基づく紛争解決手続を用いて本問題の解決を図ることとし、十一月六日、韓国政府に対して当該手続に基づく二か国間協議を正式に要請したところでございます。その後、韓国政府より協議要請に応じる旨の回答がございまして、現在、外交ルートを通じて韓国政府と協議日程等の調整を行っているところでございます。
 当該手続を通じて韓国による市場歪曲的な措置が撤廃されることとなれば、造船市場における公正な競争環境の確保が図れることになり、供給能力過剰問題の早期解決、船価水準の回復等が期待されまして、我が国造船業の更なる発展につながるものと考えておるところでございます。
 また、国土交通省におきましては、二〇二五年に世界新造船建造シェア三〇%を獲得することを目的として、技術開発の促進など海事生産性革命、i―Shippingと称する一連の施策を推進しているところでございまして、公正な競争環境の確保と併せまして、我が国造船業の競争力強化に向けた取組を総合的に推進してまいりたいと考えておるところでございます。

○中野正志君 海上保安庁長官に、アジア各国への技術支援、お伺いをしたかったんでありますけれども、時間となりましたのでお許しください。
 終わります。ありがとうございます。

 第197回国会 衆議院外務委員会 第4号 平成三十年十一月二十八日(水曜日)午前九時開議

【発言順】
 委員   中曽根 康隆
 外務大臣 河野 太郎

○中曽根委員 皆さん、おはようございます。自由民主党の中曽根康隆でございます。
 本日は、貴重な質疑の機会をいただきまして、ありがとうございます。
 まず冒頭、河野大臣の日ごろからの積極的な活動に心から敬意を表する次第でございます。世界じゅうを飛び回り、また、御自身の言葉で、そして英語で、各国のリーダーに日本の立場をしっかりと伝えていただいていることというのは、確実に日本の世界におけるプレゼンスを上げていると確信しております。改めて、国民を代表して感謝を申し上げる次第でございます。
 本日は、日・EU・EPAについて質疑をさせていただきますけれども、その前に二点だけ、日韓関係と、そして外務省の予算、ちょっと細かいんですけれども、特に在外大使館の車についてちょっとお伺いをしたいと思います。
 まず、日韓関係についてです。
 私も、韓国は非常に好きな国ですし、大切な友人もたくさんおります。近年の人的交流、また文化的交流がどんどん広がっていること、これは非常に喜ばしく思っております。だからこそ、この徴用工の問題というのは非常に残念で仕方がありません。
 大臣は、今回の十月三十日のこの新日鉄住金の大法院の判決、これについてまずどういうふうにお考えになっているか、そして、いわゆる慰安婦財団、この解散も発表されておりますけれども、こちらについての政府の対応というのをお教えいただきたいと思います。

○河野国務大臣 委員御存じのとおり、ことしは金大中・小渕パートナーシップ宣言二十周年といういわば節目の年でございますので、首脳間、外相間、あるいはあらゆるレベルで、日韓、未来志向の関係を築いていこうということをことしの初めから約束し、韓国側、日本側、タスクフォース、有識者会議を立ち上げて、さまざまな提言もいただきました。そんな中で、残念ながら、この未来志向と全く逆行するような動きが続いているというのは大変残念なことだと思っております。
 さきの韓国の大法院におけるこの判決は、一九六五年の日韓国交正常化以来の両国関係のいわば法的基盤を根本から覆すようなことになってしまいまして、これはもう極めて遺憾な話でございますし、これはほかの問題と違いまして、日韓の両国関係を規定している、いわば一番の底が抜けてしまうような話でございますので、極めて深刻な状況にある。それを韓国側に、しっかりと韓国の政府に認識をしていただいて、適切な対応を至急とっていただく必要があろうかと思っております。
 また、先般、慰安婦問題に関する日韓合意のもとで設立された韓国側の財団を一方的に解散するという方針を韓国政府が発表いたしましたが、これはもう日韓合意に照らして到底受け入れられるものではございません。
 この日韓合意という国際約束は国際社会からも極めて高い評価を得ているものでございますので、日本側としてはこの日韓合意で定められた義務をしっかりと履行してまいりました。今、韓国側がこの日韓合意をしっかり履行してくれるかどうか、日本だけでなく国際社会も注視している中でございますので、引き続き韓国にはこの日韓合意を着実に履行することを求めてまいりたいというふうに考えております。

 第197回国会 衆議院安全保障委員会 第4号 平成三十年十一月二十九日(木曜日)午後二時二十三分開議

【発言順】
 委員        長島 昭久 
 外務大臣      河野 太郎
 政府参考人
(外務省国際法局長) 三上 正裕

○長島委員 新会派、未来日本の長島昭久です。
 両大臣、大変お疲れさまです。ラスト十分ですから、簡潔に御答弁をいただきたいと思います。
 本日の午前中にまた、韓国の最高裁、大法院におきまして新たな最高裁判決が出ました。十月三十日の新日鉄に続いて今度は三菱重工にも賠償命令、こういうことになったわけでありますが、こんなことを続けていると日韓関係も本当に破壊されますし、韓国でビジネスもやっていられないという話になりますよね。
 河野大臣におかれましては、どこかでやはりけりをつけていただきたい、この負の連鎖をどこかでとめなきゃいけない、こう思うんですが、まず、きょうの判決に対する御所見を承りたいと思います。

○河野国務大臣 前回の大法院の判決、それから今回の大法院の判決を含め、日韓請求権・経済協力協定に明らかに違反をし、一九六五年の国交正常化以来築いてきたこの日韓両国の関係の最も根本的な法的基盤を覆してしまうもので、これは極めて遺憾であり、断じて受け入れることができません。
 韓国に対して、こういう国際法違反の状況をなるべく早く是正することを含め適切な措置を講ずるよう求めてきておりますので、韓国側にしっかりと対応していただきたいと思っているところでございます。

○長島委員 今、大臣から国際法違反というお話がありましたが、幾つか、きょうはそういう意味で確認をさせていただきたいことがあります。
 一つは、まさに議論の大前提、国際法、国際条約のことについてでありますが、条約法に関するウィーン条約というものがございます。第二十六条、「効力を有するすべての条約は、当事国を拘束し、当事国は、これらの条約を誠実に履行しなければならない。」二十七条、「当事国は、条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない。」コンメンタールによると、国内法だけじゃなくて、国内事情を理由にしてはならない、こう解されるそうでありますが、これは「当事国」と言うんですから、行政府や立法府のみならず、司法府も当然のことながら拘束をすることになるんだろうというふうに思いますが、韓国はこのウィーン条約を批准しているでしょうか。

○河野国務大臣 済みません、事前に通告がないものですから、確認しているところでございます。

○長島委員 していますよね。

○三上政府参考人 申しわけありません。
 韓国も批准しております。

○長島委員 批准もしておりますし、韓国の憲法も私は調べてみましたが、韓国の憲法第六条は、我が国の九十八条二項とほぼ同じ、国際法遵守の条文がございます。
 したがいまして、ここまで条件がそろえばこういった判決は当然のことながら出てこないはずなんですが、そこで、大事な点をもう一つ確認をしたいんですけれども、個人の請求権という話がこの間何度も出てくるわけでございまして、今回の韓国の大法院の判決は、元徴用工、私どもは、旧朝鮮半島出身労働者、いわゆる徴用工ですが、元徴用工の個人の請求権は消滅していない、そういう判断を下しております。
 日本政府は、柳井条約局長の答弁を始め、これまでも累次にわたって、請求権協定によって日韓両国間での請求権問題が解決されたとしても、被害に遭った個人の請求権を消滅させることはできない、こういう答弁を繰り返してきているわけですが、この点を加味しながら、本当に日韓の間で最終かつ完全にこの請求権の問題が解決したと言い切れるその理由をるる述べていただきたいというふうに思います。

○三上政府参考人 お答え申し上げます。
 個人の請求権を含め、日韓間の財産請求権の問題は、日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが我が国政府の一貫した立場であります。
 具体的には、日韓両国は、同協定第二条1で、請求権の問題は完全かつ最終的に解決されたものであることを明示的に確認しております。
 また、第二条3で、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及び国民に対する全ての請求権に関して、いかなる主張もすることができないとしておりますことから、慰謝料請求権も含め、一切の個人の請求権は法的に救済されないということでございます。

○長島委員 今、救済されないという説明をされましたけれども、訴える権利は保障されているんでしょうか、個々人が。

○三上政府参考人 国内法的に、請求権そのものが消滅したという言い方はしておりません。訴えることはできますけれども、それに応ずべき法律上の義務は消滅しておりますので、救済が拒否されることになるという整理でございます。

○長島委員 訴える権利はあるんだけれども、その権利は救済されない、こういう説明だと思うんですけれども、じゃ、どこがその救済の義務を負っているんでしょうか、これは日韓の合意の中で。

○三上政府参考人 先ほど申し上げましたように、この請求権の問題につきましては、日韓請求権・経済協力協定によって、日韓の間で完全かつ最終的に解決済みであるということでございます。そこに尽きるということでございます。

○長島委員 いや、ちょっとよく最後がわからないんですけれども。要するに、個人として請求権、訴えることはできる、しかし、それは最終的には裁判所に持ち込んでも救済されないんだ、その根拠は何ですかと聞いているんですが。

○三上政府参考人 先ほど申し上げましたように、権利そのものは消えるということは申し上げておりませんけれども、日韓協定におきまして明確に、完全かつ最終的に解決された、それから、いかなる主張も請求権に関してはすることができないということがセットになっていますので、これが全体としてこの問題については完全に解決済みであって、法律上の救済ができないということでございます。

○長島委員 大臣、救済の道義的責任は韓国政府が負うというのが韓国の政府の認識でもあり、日韓間の合意、コンセンサスじゃないんですか。それは、二〇〇五年、盧武鉉政権のときに、これはもう軍事政権じゃなくて民主化された政権ですよ、当然のことながら。このときに日韓協定にかかわる外交文書を全部公開して、その上で官民の合同チームできちっと再検証した結果、この救済についての道義的責任は韓国政府が負うものだというそういう結論であると認識しているんですけれども。そうであるからこそ、今回強い態度に日本は出られると認識しているんです。いかがですか。

○石川政府参考人 お答え申し上げます。
 委員御指摘のとおり、盧武鉉政権時代、二〇〇五年におきまして、盧武鉉政権の総理主宰のもとの官民共同委員会、ここにおいて、日韓請求権・経済協力協定の法的効力の範囲及び韓国政府の対策の方向等について検討した結果を発表しました。
 その中で、官民協議会は、この旧朝鮮半島出身労働者に関連して請求権協定を通じて日本から受け取った無償三億ドルは、強制動員被害補償問題解決の性格の資金等について包括的に勘案されているとして、政府は受領した無償資金のうち相当金額を強制動員被害者の救済に使わねばならない道義的責任があるという内容を発表したというふうに承知しております。

○長島委員 ですから、それに基づいて、二〇〇七年、二〇一〇年と韓国は国内法をわざわざつくって、そういう方々に対する支援を行っているんですよ。これは確認できませんけれども、恐らく、今回の原告の方たちもこの法律に基づいて支援を受けているはずなんです。
 こういうこともぜひ調べていただいて、最後、大臣、このまま何か角突き合ってもしようがないと思うんですが、私、一つ提案があります。仲裁委員会をぜひ開いていただきたい。
 なぜならば、これまでずっと韓国の政府の姿勢を待っていてはどんどんこのような訴訟が起こってしまう可能性がありますので、それにも歯どめをかける意味でも仲裁委員会をぜひ開いていただきたいと思いますが、最後に一言だけお願いします。

○岸委員長 河野外務大臣、簡潔にお願いします。

○河野国務大臣 当然に、そうしたことも視野に入れて政府として対応を考えております。

○長島委員 ありがとうございました。

 第197回国会 参議院法務委員会 第5号 平成三十年十一月二十九日(木曜日)午前十時七分開会

【発言順】
 委員        糸数慶子
 外務大臣官房参事官 田村 政美

○糸数慶子君 沖縄の風、糸数慶子です。
 横山委員長、私は、二十二日の法務委員会の冒頭で、この委員会運営においては野党の意見を尊重し、誠実に対応していただくようお願いをいたしました。残念ながら、誠実どころか余りの乱暴なこの委員会の設置に怒りを禁じ得ません。恐らく、参議院の職員も役所の職員も議員事務所も、多くがほとんど徹夜の作業を強いられたのではないかというふうに思われます。中立公平な立場であるべき委員長が、野党の意見に耳を貸すことなく、理性を失い常軌を逸した委員会の運営をされていること、そのことに強く抗議をし、質問いたします。
 まず、徴用工をめぐる最高裁判決について伺います。
 日本における朝鮮半島統治下で日本の製鉄所で労働を強いられたとし、元徴用工の韓国人四人が損害賠償を求めた訴訟で、韓国の最高裁は十月三十日、元徴用工のその請求を認めて、新日鉄住金に損害賠償の支払を命じる判決を言い渡しました。
 韓国の最高裁は二〇一二年五月、上告審で、植民地支配の合法性について日韓両国が合意しないまま協定を結んだ状態で、日本の国家権力が関与した不法行為による損害賠償請求権が請求権協定で解決されたと見るのは難しいとして個人請求は消滅していないと判断、二審判決を破棄し、差し戻しました。ソウル高裁は、二〇一三年七月の差戻し審で新日鉄住金に約四千万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。しかし、被告の新日鉄住金は請求権は消滅したとする日本政府の見解に基づき上告し、朴槿恵政権は判決を先延ばしにし、文在寅政権となって今回の判決が出されたわけです。
 この判決直後から、日本政府は、既に解決済みや、あり得ない判断などと抗議し、韓国政府を批判しています。河野外務大臣は即日、韓国の李洙勲駐日大使を外務省に呼び、日韓請求権協定に明らかに違反し、国際社会の常識では考えられないことが起きていると抗議をいたしました。日本の企業や日本国民に不利益が生じないよう、直ちに必要な措置を厳格にとってもらいたいと強く求めたと報じられています。
 他国の独立した司法の判断が出たからといって、日本政府がこのような抗議を行い、メディアの多くが解決済みなどと報道し、ネット上ではすさまじい韓国批判が行われていることに、正直戸惑い、違和感を覚えました。
 一九一〇年、大日本帝国と大韓帝国は日韓併合条約を締結し、日本が朝鮮半島を統治下に置き、三十六年に及ぶ植民地支配が始まりました。韓国は武力を背景に不法に締結させられたと主張し、日本は国際法に基づいて合法的に締結されたと主張したことから、認識の違いを超えることはできず、いわゆる玉虫色の決着をしたため、植民地支配に対する賠償は行われませんでした。
 そこで、外務省にお伺いいたします。
 日本政府は、請求権は完全かつ最終的に解決されたという立場を取っていますが、一九九一年八月二十七日の参議院の予算委員会で清水澄子議員の、請求権は解決済みとされてまいりましたが、今後も民間の請求権は一切認めない方針を貫くおつもりですかとの質問に対し、当時の外務省の柳井俊二条約局長は、日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終的かつ完全に解決したわけでございますと答弁した上で、その意味するところについては何と答弁されているのでしょうか、外務省の方にお尋ねいたします。

○政府参考人(田村政美君) お答え申し上げます。
 個人の請求権を含め、日韓間の財産請求権の問題は、日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが我が国政府の一貫した立場でございます。
 具体的には、日韓両国は同協定第二条一で請求権の問題は完全かつ最終的に解決されたものであることを明示的に確認し、第二条三で一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての請求権に関していかなる主張もすることができないとしていることから、このような個人の請求権は法的に救済されないものとなっております。

○糸数慶子君 「いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。」というふうにそのときは答弁されています。完全かつ最終的に解決されたと言いながら、実は請求権協定も曖昧な部分を残したまま政治決着が図られたということだと思います。
 過去の外務省見解を振り返ることなく、外交の最高責任者が感情的に韓国政府を批判することは、両国間の友好関係に水を差し、米朝首脳会談以降、朝鮮半島情勢が大きく変わろうとする中、日本が蚊帳の外に置かれてしまうのではないかと大変危惧しております。
 法的な解決が行われても、日本が植民地支配したその道義的責任は消えないのだということを申し上げ、次の質問に入りたいと思います。

 第197回国会 参議院外交防衛委員会 第6号 平成三十年十二月四日(火曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員   白 眞勲
 外務大臣 河野 太郎

○白眞勲君 おはようございます。白眞勲でございます。立憲民主党でございます。
 まず、質問通告していないんですけれども、大臣の認識として、ひとつ外務大臣の認識としてお答えいただきたいんですけれども、韓国の徴用工の判決の件です。
 ちょっとこれ、文章を読みますので聞いていただきたいと思うんですけれども。
 韓国政府は卑劣でひきょうだ。請求権協定当時、政府が代表して金を受け取ったのに、法の手先、この場合裁判官を意味するようですけれども、を通して慰謝料として賠償を再び求めるのが正しいのか、正しいと言えるのか。韓国政府が補償すべきだ。日本は当時、個人賠償を直接して、こうした問題の発生を防ごうとしたが、韓国政府が全部手に入れたんだよね。じゃ韓国政府に責任があるのでは。これ、引用はここまでです。あるいは、もう一つちょっと読みますね。対日請求権資金を受け取り国家再建に成功したなら、国が、この国というのは韓国を指すのですが、該当者を探して慰労、賠償しろ。どこのこじきのように日本に数十年も物乞いしているのか。
 これ、一体誰が書いた、投稿されたものか、お分かりになりますでしょうか。これは、私の出身の新聞社の韓国の朝鮮日報のインターネット版に韓国の読者が投稿したものなんですね。最初の意見、最初の意見は、これはインターネットですから賛成、反対でクリックするんですけれども、この意見に賛成が二十八で反対二。後の方は、これもっと実はその後すごい過激なことを書いてあるので、ちょっと私もこれ以上読み上げられないなと思うぐらいなんですけれども、これが賛成二百十九、反対十一なんですね。
 もちろんこれが全てだということは言えないとは思うんですけれども、私が申し上げたいのは、今回の件も含めて、例えば一部のマスコミの中には韓国けしからぬ一辺倒で批判の記事を書きまくっているメディアもありますよ。もちろん、それで嫌韓意識をあおろうとして、その方が売れるかもしれない。しかしながら、一流のメディアならきちんと韓国を取材してもらいたいなというふうに私は思っているんですね。
 韓国にも、韓国と一概に言っても様々、やはり民主国家である以上は今の徴用工の判決についても様々な意見があるということですし、私の韓国の友人にも日韓関係の今後に心を痛めている方もたくさんいるということも事実です。
 だからこそ、お互い隣同士で、私も今度、十三日から日韓議員連盟で訪韓する予定で、胸襟を開いて韓国の議員たちとも話をしてみたいと思いますけれども、日本政府としましても、やはり韓国政府側の出方を今の段階では静かに見守るというスタンスであるなら、スタンスであろうと私は思っていますが、この辺の大臣のお考えについて、よろしければお考えを聞かせていただきたいと思います。

○国務大臣(河野太郎君) 今年は、小渕・金大中パートナーシップ宣言二十年という、言わば節目の年に当たります。
 私も、ワシントンに留学をしていたときに、当時ワシントンの近郊にいらっしゃった金大中さんの御自宅で飯を食わせていただいた、いろんな話を直接伺ったという経験もあります。金大中大統領は、この日韓の千五百年にもわたる長い関係の中で不幸な数十年のことがあったけれども、そのことだけでこの千五百年の関係を投げ捨ててはいかぬということをおっしゃっておりまして、それはもう私も全くそのとおりだと思っております。
 日本と韓国は、国交正常化するときにこの請求権協定を結び、それを法的基盤として両国関係を築いてきたわけでございますから、この法的基盤を今後もしっかりと日韓両国守りながら、未来志向の関係をしっかり築いていきたいと思っております。韓国政府がしっかりとそうしたこれまでの歴史を踏まえて確実に対応を取ってくれるということを期待をしたいと思っております。

○白眞勲君 大臣、いい答弁ありがとうございます。こういう答弁ずっとしてくれれば、私も非常に気分がいいんですけれども。
 では、日EU経済連携協定についてお聞きいたしたいと思いますが。

 第198回国会 衆議院予算委員会 第10号 平成三十一年二月二十日(水曜日)午前八時五十九分開議

【発言順】
 委員     井上 英孝
 外務大臣   河野 太郎
 内閣総理大臣 安倍 晋三

○井上(英)委員 この拉致問題の解決、前進に向けて、今晩の電話会談、ぜひお願いをしたいというふうに思います。
 また、北朝鮮も絡めた、やはり韓国との、今、日韓関係というのが非常に懸念事項の大きいものになっています。その中でも、徴用工の問題に関して、少し経過を踏まえさせていただきながら、質疑に入らせていただきたいというふうに思います。
 昨年十月に韓国の大法院が新日鉄住金に対して、戦時中、徴用工として働かせていた旧朝鮮半島出身労働者三名に対しての慰謝料を払うよう命じたということに端を発したいわゆる徴用工問題というのが、非常に日韓関係を悪化させている。
 先般、二月の十五日、ドイツのミュンヘンにおきましても日韓外相会談が行われましたが、韓国政府からは何ら明確な回答というのがありませんでした。
 現状は、韓国は、差し押さえた日本企業の資産を現金化すべく、資産売却の手続を進めているというふうにもお聞きをしています。
 こういった状況の中で、当然、相手方もあることですし、これがあります、あれがありますと恐らくおっしゃれないとは思いますけれども、このような状況になっているということを、改めて、外務大臣、どのようにお考えか、お答えいただけますでしょうか。

○河野国務大臣 旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題につきましては、現在に至るまで、韓国政府が日韓請求権協定違反の状況を是正する具体的な措置をとっておりません。
 委員おっしゃいましたように、原告側による差押えの動きが進んでいるということは、これは極めて深刻に捉えております。日本企業の正当な経済活動を保護するという観点から、引き続き日本政府として適切に対応してまいりたいと思っております。
 一月の九日の時点で請求権協定に基づく協議を要請し、二月の十二日だったと思いますが、回答の督促をいたしました。また、先般のミュンヘンでの日韓の外相会談の中でも、協議に応ずるように求めたところでございます。
 日本政府としては、誠意を持って韓国政府がこの協議に応ずるものと思っておりますが、万が一の場合には、さまざま対策を、対抗策をとらねばならぬというふうに考えております。

○井上(英)委員 対策をぜひとっていただきたいというふうにも思うんですね、最悪の場合は。
 ですから、韓国側は、逆に、日韓請求協定というものの土俵に上がってしまうと、日本側に正当性があるということはやはりわかっているんじゃないかなというふうに思うんですね。だからこそ、それには乗らず、慰謝料の請求という新しい切り口が、日本企業にそういう形での支払いを命じたというふうにも言われております。
 しかし、韓国政府が韓国国民に補償を行わなかったことで生じる慰謝料というのは、やはり韓国政府にしっかりと支払いをしていただくということが我々の恐らく思いではないかなと思いますし、また、目に見えるような形で、対抗策と言うと強硬的に聞こえますけれども、やはり今のままでは寛容過ぎるんじゃないかという気持ちもあります。
 先ほど、いろいろな手があるということをおっしゃっておりましたけれども、その中で、よく一般的に言われているのは、国際司法裁判所への提訴だとか、それから日韓請求権協定の中にある仲裁、そういった方法もあるということを改めて確認をさせていただきたいと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○河野国務大臣 先ほども申し上げましたように、我々としては、韓国が誠意を持って協議に応じてくれるというふうに思っておりますが、万が一の場合には、国際法に基づいて、国際裁判を含めたあらゆる選択肢を検討する、既にしておりますし、万が一のときにはさまざまな対抗策を発動する用意がございます。

○井上(英)委員 ぜひ、そういったことも考慮に入れて、総理を含め、外務大臣を含めて、そして外務省の職員も含めて、決してそんな悪くなるようなことを、当然、関係が悪くなることを考えているわけじゃないというふうに思いますし、真摯にやっていただいているというふうにも思います。
 ただ、一方で、今度は、韓国の国会議長によるブルームバーグ通信のインタビューの件も近々にありましたけれども、そういったものをいろいろ聞いていると、やはりちょっと、その件に関しては、私、ちょっと正確な数字はあれなんですけれども、報道ベースでは、八〇%以上の方が議長の発言が不快だったという世論調査も出ているというふうにも聞いています。これは、一国会議員というより一国民としても、やはりちょっとやられ過ぎなんじゃないかなというふうに思うんですね。
 そういったことも含めて、当然、これから韓国との関係をやっていく上において、国際世論というのも大事ですけれども、やはり国内世論、国民一人一人の国内世論の大きい感覚というのも非常に大事にして、今後も事に当たっていただきたいと思いますけれども、外務大臣として国民世論についてどのようにお考えか、お答えいただけますでしょうか。

○河野国務大臣 今般の韓国の国会議長の発言は極めて無礼でありまして、外交部を通じ、謝罪と撤回を累次求めてきたところでございます。
 特に、この場合、深刻だと私が思っておりますのは、この人物は、単に国会議長というだけでなく、韓日議連の会長も務めた経験がございます。韓日議連あるいは日本側の日韓議連というのは、これまで、振り返ってみれば、日韓両国関係が難しくなったときに、前へ出てそれぞれ話をすると同時に、国内世論に向けてもこの両国関係の大切さというものを訴えてきたのが韓日議連の先輩方であって、私も、何人もそうした方に韓国でお目にかかりましたけれども、本当に尊敬に値する立派な方々でございました。
 そうした歴史があるにもかかわらず、この韓日議連の会長まで務めた人間がこのようなことを言うというのは、極めて深刻でありまして、先般の外相会談の中でも、この件については本当に驚いたし、残念だということを先方にお伝えをいたしました。本来なら、外交部と韓日議連が、今この問題の取りまとめをしている国務総理を両側で支えているべき人がこういう状況では、本当に日韓関係、心配だ、外交部には、しっかりとこの件、対応をお願いするということを申し上げてまいりました。
 ただ、今、こういう人物でさえこのような発言をするということは、少し強く相手に物を言うと、それに呼応して、わあっと盛り上げる、そういうグループがあって、そこへ向けて発言をするというようなことが繰り返されることになると、日韓両国関係にとっては必ずしも得策ではありません。
 こういう状況ではありますけれども、日韓、昨年、一千万人を超える往来がございました。日本から韓国を訪れる方より、韓国から日本を訪れる方の方が倍以上多いわけですけれども、日本から韓国を訪問する方も二八%ふえたということを考えると、やはり、こういう状況の中でも、お互いの行き来がしっかりあって、草の根で、人的交流の中で、お互いの国民がお互いの国のことをよく理解をするというのは大事なんだろうと思いますので、こういう時期だからこそ、相手をののしるのではなく、少し冷静になって、この両国関係の大切さというものをしっかり認識ができる、そういう対応をきっちりやってまいりたいというふうに思っております。

○井上(英)委員 言葉を悪くすれば、国民からは、ちょっと弱腰なんじゃないかというような指摘をされるときもありますけれども、やはり毅然とした態度で、先ほど言われるような、一部の方に受けるためにそういう発言をされているということであるならば、やはり寛容過ぎるんじゃないか。もう少し日本として、適切に返すことは返していくということをやはりやっていくような必要もあると思いますので、ぜひ外務大臣、頑張っていただけたらというふうに思います。
 次に、本年六月二十八日、九日で、日本で初となるG20が大阪で行われます。このG20において、やはり今、TPPからアメリカが抜ける、さらにはEUからイギリスが脱退するなど、国際協調路線というのが非常に崩れそうになっておる中で、日本の存在感というのを際立たせる上でも非常に大事なG20の会議でもありますし、ぜひそこで日本の存在感というのを明確に発揮していただきたいと思いますけれども、総理、このG20に向けてどのようにお考えか、お聞かせいただけますでしょうか。

○安倍内閣総理大臣 六月の大阪G20においては、世界のさまざまな課題があります。さまざまな課題に向けてしっかりと議論をする中において、課題解決に向けて日本もリーダーシップを発揮していきたいと思います。
 貿易におきましては、グローバリズム、グローバル化による急速な変化への不安や不満が、時には保護主義への誘惑を生み出し、国と国の間に鋭い対立も生み出しているところであります。だからこそ、さまざまな不安や不満に向き合い、そして、公正なルールを打ち立てていくことで自由貿易を進化させていくことが必要だろうと思います。
 こういう考え方のもと、このG20においては、首脳たちと議論をし、この方向で取りまとめていきたい、こう思っていますが、特にAIやIoT、ビッグデータが世界を一変させようとしている時代に、データこそ新しい付加価値の源泉であります。G20サミットでは、データガバナンス、そして電子商取引に焦点を当てて議論をする大阪トラックの開始を提案し、WTO改革に新風を吹き込みたい、こう思っています。
 このG20には、今、米中の貿易摩擦が懸念されていますが、米国も中国もそれぞれ、トランプ大統領、そして習近平主席が出席を予定しているわけでございますが、さらには、EU、ロシア、さまざまな国々のリーダーが集まるわけでありますから、しっかりと議論をし、この新しい時代に向かってのルールづくりを大阪からスタートしたい、こう思っています。
 また、地球規模的な課題について、例えば気候変動の問題もありますし、そして海洋プラスチックごみ問題もあります。また、質の高いインフラ、また女性、そして保健等をテーマとして取り上げ、国際社会における取組をリードしていく考えであります。

○井上(英)委員 G20が成功をするためにも、指導力をぜひ発揮していただきたいというふうに思います。

 第198回国会 予算委員会第三分科会 第1号 平成三十一年二月二十七日(水曜日)午前八時開議

【発言順】
 兼務          小田原 潔
 政府参考人
(外務省大臣官房審議官) 石川 浩司

○小田原分科員 自民党の小田原潔であります。
 予算委員会の第三分科会、質問の機会をいただいて、ありがとうございます。
 私は、ポスターもネクタイもオレンジ色がテーマカラーであります。きょうは大臣も井野主査も同じ色で、一致団結して質問をさせていただきたいと思います。引き続き、我が国の国益を守り、国際社会で応分の敬意を受ける活動をするために予算を有効に活用していただきたいと思います。
 私からは、日韓関係について質問をさせていただきたいと思います。
 と申しますのも、外務大臣政務官を務めさせていただいておりました二〇一六、一七年のころ、いわゆる少女像問題について随分と腐心をいたしました。私自身は、歴史的認識の違いについてコメントするのを極力避けました。
 二〇一七年の一月の三十日に、ウォールストリート・ジャーナルに、私は政務官として寄稿いたしました。それは、二〇一五年の十二月二十八日に、いわゆる慰安婦問題については最終的かつ不可逆的な合意をしたにもかかわらず、投稿の前年、一六年の十二月三十日に、釜山の領事館の前にも少女像が設置されたことに大変落胆をし、無力感とは申しませんけれども、半ばあきれた気持ちになったというのが、今振り返れば言えなかった本音であります。
 投稿の内容は、不可逆的な合意をしたこと、そして、財団に十億円を支出し、我が国はその責務を果たしていること、そして、翌年の十二月三十日に、残念ながら新たな少女像が置かれてしまったこと、それは領事関係に関するウィーン条約からしても問題であること、また、何よりも強調いたしましたのは、当時既に北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射を繰り返していて、日韓は本来は力を合わせて無謀な挑発を抑止するべき、そういう間柄であるべきだということ、また、国際社会からもそういう役割を期待されているはずなのだということ、いわば、目を覚ましてくれというような内容を寄稿させていただきました。
 しかしながら、その翌年には、今度は、少女像をつくった御夫婦と同じ方、同じ工房なのだと思うんですけれども、今度は徴用工の像というのをおつくりになって、この手の活動というのはエスカレートするばかりであるというふうに思われて仕方がありません。さらには、韓国の最高裁の判決で、我が国の企業が賠償責任を負うという判決が出てしまった。
 少女像や徴用工の像も極めて問題であり、残念でありますが、我が国の法人、個人の生命や資産、安全が脅かされるということを放置するわけにはまいりません。まずは、この徴用工と言われるものの問題についてどのように対処していくべきなのかについてお聞きをしたいと思います。
 今月、二月の八日に、アジア平和貢献センター共催シンポジウムとして、社団法人経済倶楽部が「東アジアにおける「法の支配」の構築に向けて」というシンポジウムを開いています。
 そこで、萬歳寛之早稲田大学教授は、徴用工に関する韓国大法院判決の問題点を、日韓請求権と日韓経済協定だけでなく、日韓国交正常化の一般的な文脈や日本の戦後補償裁判との関係で評価をしています。
 「国際法の観点から見た韓国徴用工問題」と題して、韓国はサンフランシスコ条約に入っていないのに、徴用工判決では、戦争賠償だけではなく、債権債務関係を持ち出した、国交正常化とは、懸案事項を解決した上で将来関係を構築することを意味する、一九六五年の日韓国交正常化の際の懸案事項は経済協力や個人の請求権だった。
 朴正熙大統領が国民の当時の激しい世論を何とか説得をして国交の正常化にこぎつけたその大きな判断材料は、韓国にとっては経済の発展、我が国にとっては個人の請求権、これをそれぞれ折り合いをつけて国交が正常化したというのが現実でありましょう。それが、ちょっと言い方はラフになり過ぎかもしれませんけれども、別の要因でだんだんむしゃくしゃしてきたので、そのたびに我が国に謝れと言い出すようでは、健全な関係は維持できません。私は、どのように、はっきり言えば、今現在の新日鉄住金を差押えから救うべきかということにまずはエネルギーを使わなければいけないと考えております。
 また、皮肉なことに、特にPOSCOは、当初、世銀やアメリカ合衆国からの資金拠出をまだ時期尚早ということで撤回された、それに対して、我が国の国交正常化に伴う資金を注入してでき上がった会社であります。しかも、当時の八幡製鉄、富士製鉄、そして日本鋼管が技術供与をして、世界品質にたえ得る製鉄会社となったという経緯があります。
 二〇〇〇年には新日鉄と戦略的提携の契約を結んでいます。にもかかわらず、当時、新日鉄が、鉄の芸術品と評されるほどの高品質の方向性電磁鋼板、これは電力インフラに不可欠な変圧器の心臓部、鉄心に使うものでありますが、この品質が急に上がってきた。新日鉄のエンジニアからすれば、独自の技術開発でこんな急速に品質が上がるわけないという疑念がありました。
 何と、その後、POSCOの社員が中国に機密情報を漏えいしたというかどで、POSCOがその社員を訴えた。すると、その社員は法廷で、もともとこの技術はPOSCOのものではなくて新日鉄のものだという証言をした。結果的に、請求額が一千百五億四千百二十万円の請求額でありましたが、二〇一五年の九月に三百億円の支払いで和解をした。ただし、技術料を払うこと、そして、どの先に売っていくかということを事前に協議することということで代償を払ったわけであります。
 我々からすると、多少うがったように聞こえるかもしれませんが、今回の徴用工の判決、そして新日鉄住金の資産に手をつけるという、その話合いをしようと言い出すということは、あたかも江戸のかたきを長崎で討つつもりなのかと言わざるを得ません。
 現在、差押えの対象になりそうなものは、新日鉄住金が持っているPOSCOの三・三二%の株式の持分か売上げ債権ではないかと言われているようであります。
 POSCOの持分は、ニューヨーク証券取引所の米国株式信託証書の形、ADRと略しますが、で保管されているので、そう簡単には手がつけられないだろう、アメリカ合衆国で法的な手続をとり、それが許可されなければ手をつけられないだろうと考えられているようですが、現在、この徴用工判決に対抗すると申しますか、があったとしても、我が国の当初の合意に基づき、我が国法人の資産を守るにはどのような対処をされているか、答えられる範囲で結構でありますので、教えてください。

○石川(浩)政府参考人 お答え申し上げます。
 旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題につきましては、現在に至るまで韓国政府が日韓請求権協定違反の状態を是正する具体的な措置をとらず、加えて、原告側による差押えの動きが進んでいるということは極めて深刻だというふうに思っております。
 我が国としましては、韓国による協定違反の状態を解決すべく、韓国政府に対して協定に基づく協議を引き続き要請しているところでございまして、韓国が当然誠意を持って協議に応じるものと考えております。
 いずれにせよ、今御指摘のとおり、日本企業の正当な経済活動の保護の観点、こういった観点から、引き続き、関係企業と緊密に連絡をとりつつ、日本政府としての一貫した立場に基づき適切に対応してまいりたいと思っております。

○小田原分科員 どうか、我々の目から見れば罪のない、現在新日鉄住金で働いている人たち、そしてその財産を、国益をかけて守っていただきたいと思います。
 次に、いろいろなところで議論になっているので、できるだけ手短にいきたいと思うんですが、どうしても、我が国海上自衛隊のP1哨戒機に対する火器管制レーダー照射事件について触れざるを得ません。
 その後、韓国からいろいろな釈明がありました。テレビでも随分と国民の目にさらされました。一国が潔白を証明するために国際社会で提出する動画になぜ音楽をつけるのか、私にはやや理解ができないところがありますが、事の流れを普通の国民が類推するに、二そうあると言われている大変小さな、漁船のような船を人道的に救助するために、なぜ海上保安庁みたいなボートとか救命ボートではなくて、百三十五メートルもある軍艦が行くのか。そこには、そもそも我が国の排他的経済水域でありますから、当然パトロールが及ぶであろうということは百も承知であったろうに、軍艦が行かなければいけない、それは、どうしてもその状況を守らなければいけない理由があったのではないか。
 また、一応と言うと失礼ですが、我が国と韓国は、日韓基本条約、貿易協定、そして九八年の共同宣言を結んだ間柄であります。そういった国の哨戒機に対してレーダー照射までしなければいけない、そうしてでも追い払わなければいけない理由があったのではないか。
 すなわち、その小さな二そうの船の中には、軽くて、かさばらなくて、しかも値段の高いものが入っていたのか、決定的な人物が中にいたのかと思わざるを得ない、ほとんどの国民はそう思っているのではないかと思います。

 第198回国会 参議院予算委員会 第7号 平成三十一年三月八日(金曜日)午後一時一分開会

【発言順】
 委員   浅田 均
 外務大臣 河野 太郎

○浅田均君 考える気、考えたってもええという感じですね。
 済みません、一分になってしまいました。何か進行に協力をしてしまったみたいで。
 河野大臣、いらいらされていると思いますので、せっかくお越しいただいたので、麻生大臣はいてはるのが当然なのでね、わざわざお越しいただいたので、一問、二問質問をせぬとね。まあ、ええですわ。
 韓国の徴用工訴訟についてお伺いしたいんです。
 韓国の徴用工訴訟ですね、徴用工が賠償請求して、日韓請求権協定でもうこれは片済みやと言うても、向こうの大法院が決めた。実際、日本の会社に来て、これからどうされるんですか。

○国務大臣(河野太郎君) この旧朝鮮半島出身労働者に関する大法院判決につきましては、日本企業に不利益が発生した場合には対抗措置をとりたいというふうに思っております。現時点では、李洛淵国務総理が韓国側でこの件について対応策をまとめていらっしゃるというふうに承知をしておりますので、不利益が発生しない限り、それを待ちたいというふうに思っております。

○浅田均君 国家の役割というのは国民の生命、財産を守ることだと常におっしゃっているわけですから、この財産権の侵害、これは絶対守っていただきたいということをお願い申し上げまして、質問を終わらざるを得ないので、終わります。

○委員長(金子原二郎君) 以上で浅田均君の質疑は終了いたしました。(拍手)

 第198回国会 衆議院財務金融委員会 第7号 平成三十一年三月十二日(火曜日)午前八時三十三分開議

【発言順】
 委員          丸山 穂高
 財務大臣
 国務大臣
(金融担当)      麻生 太郎
 政府参考人
(財務省関税局長)    中江 元哉
 政府参考人
(内閣府大臣官房審議官)米澤 健君
 政府参考人
(外務省大臣官房審議官)石川 浩司

○丸山委員 日本維新の会の丸山穂高でございます。
 私からも質問させていただきたいと思いますが、大臣、関税はずっと暫定税率という形で何年も続いていると思うんですけれども、さすがにこんなに続いて暫定というのは違和感もありますし、ちょっと問題じゃないかなと思うんです。長く続いているものは、毎回言っていますけれども、基本税率化していくというのが普通の考えだと思うんですけれども、この点、どうして暫定税率が長く続いているものを基本税率化しないのか、このあたり、どのように解釈されているんですか。

○麻生国務大臣 暫定税率の適用期限の延長というのは、これまでの年度の改正において、基本税率とすることを含めて検討を行ってきたんですが、短期的に関税率を見直す必要性が認められない品目については、これは基本税率化しますというのが一点。
 その時々の国内産業とか国際交渉の状況とか政策上の必要性等々を踏まえて常に見直しを行う必要のある品目については暫定税率を延長してきたところですが、平成三十一年度におきましては、同様な検討を行った結果、現行の暫定税率が適用されておる品目、麦芽等々、四百十一品目がありますけれども、これは、いろいろ検討させていただいた結果、政策上の必要性を踏まえて常に見直しを行うべきであるというのを考えた上で、適用期限を一年延長する必要があると判断をされたと理解をしております。
 来年度以降も、基本税率化の要否を含めて関係省庁と常に引き続き協議をして、必要に応じて基本税率化というものを行うなど、常にこういったものは見直しを行っておかねばならぬのであって、その時々の情勢を踏まえて対応していかねばならぬものだと考えております。

○丸山委員 去年もたしか同じような答えをいただいたと、私、去年はあれでしたけれども、おととし質疑したときにそのような答えをいただいたと思うんですけれども、ずっと暫定なので、やはり見ている方、審議する方は、もうそろそろ本当に固定化するものは固定化したらいいと思うし、見直しが要ると思いますが、ここで言っても同じ、堂々めぐりだと思いますので、しっかりと、これは見られているということを意識いただければというふうに思います。
 ホエーの話を、きょうほかの委員もされていましたが、これは非常に、私も、方向性としてはしっかりやっていただきたい方向性だと思うんですが、ただ、メーカーの側から見てみたときに、今、粉ミルクをつくっているメーカーがほぼ、液体の方をつくるところもあって、逆に、粉と液体の競合の部分から、なかなか液体に移るというインセンティブは湧きにくいんじゃないかなと非常に思っているところがあって。
 今後、災害のときの対応等考えたときに、熊本地震等で、こうした液体の乳幼児用のミルクというのが必要だということで、特に海外のものを現地にということだったようなんですが、結局、何か被災地の方の話を聞いていると、余っていたとか、やはりなじみがないので、どうしても粉ミルクの方をお求めになるとか。
 でも、一方で、私も独身なので、何で知っているんだという話じゃなくて、聞く話だと、やはり粉ミルクだと、まず溶かして、温めて、人肌にしてみたいな、非常に手間ですから、そういった意味で、災害面でも、そして需要の面でも、液体ミルク、ぜひ、今までの規制を取り払ってやっていただくというのは非常に大事だと思うんですけれども、税制上、うまくインセンティブもつけていかないと、結局、粉ミルクの方が今多い中で、彼らとしても、余りインセンティブがメーカー側も湧かないんじゃないかなと非常に危惧するんです。
 こうした部分、この間の所得税関連の税法でも、いろんなインセンティブを考えて、住宅にしてもやっていらっしゃいましたけれども、こういったところをうまくインセンティブをやっていただくのは非常に財務省の税としても大事な観点だと思うんですけれども、こうした観点でお考えになることはないですかね。いかがでしょうか。

○中江政府参考人 お答え申し上げます。
 今般の改正におきまして、災害時や外出時の授乳を簡便に行うニーズが高まる中、粉ミルクにかわる新たな選択肢となり得る液体ミルクの普及を促進する観点から、昨年八月に、厚労省の所管である乳等省令において、調整液状乳の定義、規格基準が設定されたところでございまして、それを受ける形で、今般、液体ミルク製造用ホエーを関税割当て制度の対象として、低い関税率一〇%を適用することとしたものでございます。
 委員から御提案のありましたインセンティブづけにつきましては、まずは、今回の改正の効果について、関税割当ての利用状況をよく見ていく必要があると考えております。
 その上で、液体ミルクの普及に係る政府全体の取組状況を総合的に勘案しつつ、ミルク製造用ホエーの税率水準等について慎重な検討をしていきたいというふうに考えております。

○丸山委員 需要を見ながらしっかりやっていただきたいと思いますし、何より、今後、災害時の対応というのは、自治体にしても国にしても考えていかなきゃいけないと思います。
 粉ミルク、もちろん防災の観点から備蓄されているものは多いと思うんですけれども、液体ミルクに関してもこうした災害の観点から備蓄を調えることでそれがまず一つの需要になりますし、今まで余り皆さんにとってなれ親しんでいないものがこうした部分からそこにつながっていくみたいなものも生じると思いますので、防災の観点から、液体ミルク、国として備蓄していくというのは一つ大事な鍵になっていくというふうに思うんです。
 液体ミルクも、実は保存期間が短いのでなかなか難しいというのもありますが、逆に、短いからこそ、入れかえることで需要も生まれるかなと、変な言い方ですけれども。例えば、もう期限が切れそうなのは、大体、防災用品で、皆さんにどうぞとお配りしたり、サンプルでお配りになったりされています、防災訓練のときに。そういったところからも普及は考えられますし、こうした防災の観点、そもそもの防災でも大事ですし、先ほど述べたようなインセンティブや皆さんになれ親しんでいただくという意味でも意味があると思うんです。
 防災の備蓄もやはり、自治体へもしっかり国として指示いただくのは非常に大事だと思うんですけれども、このあたり、具体的にどうお考えでどのようにされるつもりなのか、お答えいただけますか。

○米澤政府参考人 お答え申し上げます。
 委員御指摘のように、乳児用液体ミルクにつきましては、開封してそのまま飲ませることが可能でございますし、飲用水やお湯の確保が困難な災害時にも有効であるというふうに考えてございます。また、関係の方々の関心も非常に高いと承知してございます。
 今月から全国で順次販売が開始されたばかりということでもございますので、内閣府といたしましては、まずは、災害時における乳児用液体ミルクの活用などにつきまして自治体へ周知を行うことなどを検討してまいりたいと考えてございます。

○丸山委員 しっかり周知いただいて、状況を確認しながら、必要であれば指針を更に示していくとか、非常に大事な順番になっていくと思いますので、ぜひよろしくお願い申し上げたいというふうに思います。
 関税、今回のを見ていますと、基本的には、しっかりやっていただきたいなと我が党としても賛成なんですが、関税の関係で昨今気になるところで、ここも検討すべきじゃないかなというところが韓国の、徴用工とは言いたくないですが、いわゆる徴用工、徴用された方々に対する訴訟に関して、日本企業の資産を現地で差し押さえるというニュースがある。それに対して、対抗措置として、国として関税の引上げを検討しているような記事が出ているんですけれども、これは飛ばしなのか、それともしっかりそうしたものを検討されているのか、事実関係をお伺いしたい。
 同時に、もしこうした措置を適用する場合、関税を引き上げるというのを適用する場合にはどんな手続が必要なんでしょうか。関税を見ていて、法律上、こうした手続はないと思う、特定の国に対して関税を引き上げるというのはないと思うんですけれども、そうした部分こそ、この関税の改正というのは必要じゃないかな、検討するに値する部分じゃないかなと思うんですけれども、今回の法改正ではもちろんこういった部分は入っていませんが、こうした部分、まずはお答えいただけますでしょうか。

○中江政府参考人 お答え申し上げます。
 旧朝鮮半島出身労働者問題について、現在、日本政府は韓国政府に対し、韓国による日韓請求権協定違反の状態を解決すべく、協定に基づく協議を要請しているところと承知いたしております。
 この協議要請に加えて、今後、日本政府としてどのタイミングで何を行うかといった具体的内容については、官房長官から記者会見において、我が方の手のうちを明らかにすることになりますので差し控えたいと述べられているものと承知しております。
 いずれにいたしましても、日本企業の正当な経済活動を保護する観点からも、関係省庁と連携しつつ、適切に対応してまいりたいと考えております。

○丸山委員 検討するだけなら誰でもできちゃうんですね。私ですらできるし、逆に言えば、別に行政府じゃなくても一般の方でもできてしまうし、もっといけば、小学生でも検討しますと言うことはできるので、非常に聞いている方が歯がゆいですし、もっといけば、本当に検討されているのかなと、中身もおっしゃらないと余計考えるんですけれども。
 関税を今回議論する中で、今記事に出ているような、もし関税を特定の国に、韓国に対して対抗措置として当てるとしたら、これは関税法の改正が要るわけですよ。少なくとも時間がかかるわけで、法改正ですからね、急に国会が開いていないときにできるわけがないですし、国会に提出して議論しなきゃいけませんから非常に時間がかかるわけで、非常に、今のを聞いているだけでも、関税一つとっても歯がゆいですし、その他の対抗措置も、どう考えているのかもお述べにならないということは、非常に、本当に検討しているのかなというところを、聞いていらっしゃる皆さんは不安に思いますし疑問に思うと思うんですけれども、本当に検討はされているんですか。それはどうなんですか。

○石川政府参考人 お答え申し上げます。
 ただいま財務省からもございましたとおり、旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題につきましては、現在に至るまで、韓国政府が日韓請求権協定違反の状態を是正する具体的な措置をとらず、加えて、原告側による差押えの動きが進んでいることは極めて深刻というふうに考えております。
 我が国としては、韓国による協定違反の状態を解決すべく、韓国政府に対して、協定に基づく協議を要請し、協議に応じるよう重ねて求めているところでございまして、韓国側は当然誠意を持って協議に応じると考えております。
 この協議要請に加えまして、どのようなタイミングで何を行うかといった具体的な内容につきましては、我が方の手のうちを明らかにするということになるため、差し控えさせていただきたいと思います。

○丸山委員 毎回もうずっとそのお答えで、何をやっているのかなと、お聞きになった皆さんはお思いになると思いますし、実は、慰安婦のときも同じことを、私、外務委員会で、あのときはちょうど岸田さんでしたね、岸田外務大臣だったんですけれども、合意をしたという話をされて、本当に大丈夫ですか、慰安婦の問題も、財団をつくったけれどもこれは本当に解決するんですか、いつも、毎回ひっくり返っていますよという話をそのときもしたんですけれども、いや、合意を守らせます、合意を守らせますとずっと岸田大臣はおっしゃっていたんですけれども、案の定、慰安婦の話もああいう状況になってしまった。
 同様に、レーダー照射の件も、あと低空飛行の件もありますが、それはおいておいて、日本の企業の経済活動が損なわれる中で、しっかり対抗措置というのは国としてはとっていかなきゃいけないし、もちろん、こちらからあえて荒立たせることはないという気持ちもわかります、外交がありますから。しかし、本当に聞いている皆さんは不安になると思いますし、どんどんどんどん、韓国のいつものパターンだとやられると思いますので、しっかり対応いただきたいとしか言えませんが、よろしくお願いしたいと思います。
 次に韓国がやってくるのは、恐らく、アメリカとか欧州の、自国だけじゃなくてほかの国の日本企業の、例えば今回、三菱重工業が対象になっていますが、彼らの、企業のほかの国にある資産を、その国の裁判所に訴えて差押えにかかっていくというのが通常考えられると思うんですけれども、欧州に対してやるんじゃないかみたいな話を彼らの弁護団が既に述べています。このあたりをどのように考えられていて、どのように対応されようと考えているのか、政府の見解をお聞かせください。

○石川政府参考人 お答え申し上げます。
 委員がただいま御言及になりましたような、御指摘のような報道、こういうことがなされていることについて我々も承知しております。また、御指摘の、原告側はいろいろ発表していますが、その一々について政府としてはコメントすることは差し控えたいというふうに思っております。
 いずれにいたしましても、これまで政府として繰り返し申し上げていますとおり、本件問題につきましては、日本企業の正当な経済活動の保護の観点から、引き続き、関係企業と緊密に連絡をとりつつ、日本政府としての一貫した立場に基づき、適切に対応させていただきたいと思っております。

○丸山委員 きょう、関税の議論ですけれども、出てきている内容は非常に細かい話が多くて、もちろん、それぞれの部分に関しては、関与していることは非常に大事な大きな案件ですけれども、何かしら、こういう他国との関係で大きな影響がというのは比較的見られない案件です。そうした中で、本当はこの関税にしてもこうした議論すべき案件があるんですけれども、何となく政府の中では後手後手な感じのイメージを与えてしまっているので、手のうちは明かせません、検討していますでは説得力がありません。しっかりこれは前に進めていただきたいと思いますが、もう繰り返しになりそうなので聞きません。
 ただ、この一連の韓国側の対応に対しては、政府側も憤りを感じているのは、たびたび政府の閣僚の皆さんの御答弁を聞いていても思いますし、何かしらできないかというのは、恐らく、与党の皆さん、自民党の中でも考えていらっしゃると思いますし、何とかしたいという思いを持っていらっしゃる議員も多いと思うんですけれども、このあたり、本当にそろそろ、ただ言うだけじゃなくて、しっかりと具体的に出していくというのは、タイミングだと私は思うんですけれども、大臣、このあたりも含めて、韓国の一連の対応等、国がどういうふうに対応していくべきか、大臣としてどのようにお考えになるか、お答えいただけますでしょうか。

○麻生国務大臣 外交の話なので外務省が所管しているところだと思いますが、対抗する措置というのが幾つもあるのはもう御存じのとおりなので、関税に限らず、送金停止とかいろいろな方法がありますので、ビザの発給停止とかいろいろな報復措置があろうかと思いますけれども、そういったものになる前のところで今交渉されているというところだと思いますので。
 私どもは与党をやっていますので、野党であおる立場じゃありませんので、このことに関して、少なくとも、政府として、相手国のある話でもありますので、きちんとした対応をやっていかないかぬと思っていますが、これ以上事が進んで実害がもっと出てきたということになってくると、これはまた別の段階になりますので、その段階では考えないかぬという、段階によって対応の仕方が変わってくるんだとは思っておりますけれども、いろいろなことを考えているかといえば、はい、考えています。

○丸山委員 最初の発言、いろいろな話が出ましたけれども、タイミングという話がありましたし、しっかり、国民の皆さんが見ていますし、何より、韓国側も今結構センシティブなタイミングです、三・一独立運動の百周年とか。そうですが、しかして、外交ですから、言うべきところは言っていかないとあれだと思いますし、特にこの関税の議論をしているときにずっと思ったのは、そうした部分の大きな議論もなく細かい話だけで済ませているのは非常に一人の議員としても危惧しますし、対韓関係を見ていても気になる点なので指摘させていただきたいというふうに思います。
 時間もなくなってきたんですが、これは質問じゃなくて、通告が時間的に間に合わなかったのできょうはお話しかできないので、次に質問しようと思うんですけれども、大阪が、政令指定都市なんですが、堺市というところの市長が、今、政治資金収支報告書の訂正の問題で荒れているんですけれども、大きなニュースになっていまして、収支の訂正がぽろぽろいっぱい出てきて、全部で二百個以上で、それが一億三千万円以上の訂正をされるという形になるという非常に驚きの状況になっているんです。
 その市長から提出された資料をちょっと、出てきたので、きょう、ぺらぺら見ていてびっくりしたのは、税理士の方からそれは提出されているんですけれども、タイトルは、竹山修身氏の政治団体における会計処理に関する調査報告書というものです。
 税理士の方なのに、絶対的な正確性が担保されるものじゃないとか、あと、りそな銀行の通帳の残高証明がついているんですけれども、それが間違っているんだと。平成二十二年、二十五年、二十七年の額が一致しませんが、銀行からの残高証明の誤りですと書いてあるんですけれども、通常の感覚で考えたら、銀行の残高証明が三年分も誤るなんて考えられないですし、りそな銀行がまさか本当に残高証明を間違えて出したというなら、これは銀行法上、問題だし、この委員会にも来ていただいてしっかりりそな銀行に、どういうことだと聞いていかなきゃいけないというふうに思っているんですが、時間ももう終わりますし、通告の関係できょうはできませんでしたが、この話をまた次回触れさせていただきたいというふうに思います。
 これで、時間が来ましたので終わります。ありがとうございました。

 第198回国会 参議院外交防衛委員会 第3号 平成三十一年三月十二日(火曜日)午後一時三十分開会

【発言順】
 委員   浅田 均
 外務大臣 河野 太郎

○浅田均君 日本維新の会、浅田均でございます。
 私は、韓国の徴用工訴訟についてお尋ねいたします。
 日本政府は、賠償問題は一九六五年の日韓請求権協定で解決済みとのお立場であります。したがいまして、韓国大法院の判決による新日鉄住金の資産差押えを受けて請求権協定に基づく二国間協議を韓国政府に要請しているということでありますが、これに対する韓国側の回答はどのようなものだったのでしょうか。外務大臣にお尋ねいたします。

○国務大臣(河野太郎君) 先般の日本側からの協議要請に対し、現時点では韓国政府からの回答はございませんが、我々としては、韓国政府が当然誠意を持って協議に応じるものと考えております。

○浅田均君 現時点で回答はないということですが、これ、私、こういうことを余り聞いたことがないので、この請求権協定というので訴訟とか何かの場合は協議するというふうに協定書の中に書かれてあるわけですよね。だから、何か問題が生じた場合は協議しましょうということになっているのに、回答はないと。
 やがて回答はあるだろうということですが、現実にもう訴訟手続というかは前の方に進んでしまっているわけですよね。それでもやっぱり回答を待たれるという基本的なお立場には変わりはないわけですね。

○国務大臣(河野太郎君) 日韓請求権協定でこの協議というものがうたわれているわけでございますから、韓国政府として当然に協議に応じるものと考えております。

○浅田均君 それで、また、先般、私、予算委員会で河野大臣に質問させていただいたんですが、この件に関しまして、李洛淵首相が対応策の取りまとめに当たっているという御答弁でありました。
 取りまとめの内容について報告は受けておられるんでしょうか。

  〔理事宇都隆史君退席、委員長着席〕

○国務大臣(河野太郎君) 李洛淵国務総理が、この問題で韓国政府の中、取りまとめに当たっているわけでございます。外交上のやり取りの詳細についてお答えをするのは差し控えさせていただきたいと思いますが、李洛淵国務総理にしっかりとした取りまとめ、対応策を出してきていただきたいというふうに思っております。

○浅田均君 取りまとめ作業に当たっているという段階で、この何か原告団、原告側弁護団が日本にまで来て、本社に協議に応じよというような話にまで進むんかというふうな疑問を持ってしまうんですが、取りまとめ、やってます、やってますって、やるやる詐欺みたいな、やってます、やってますと言うてるだけなんと違うんですか。

○国務大臣(河野太郎君) 日本企業に不利益が発生する前に韓国政府が対応をしてくれるものというふうに考えているところでございます。
 李洛淵国務総理は日本のことをよく理解をされている方でございますから、この問題が、日韓請求権協定という六五年の国交正常化以来、両国間の法的基盤を成してきている協定であり、その法的基盤が根底から覆されかねない出来事であるということはよく理解をいただいているわけでございますので、我々としては、李洛淵国務総理を中心に真摯に韓国側が対応してくれるものと考えております。

○浅田均君 今の御答弁の中でも、大臣の発言にあったんですが、日本企業に不利益が生じるという御発言を今もされました。
 具体的にどういう事態を想定されているんでしょうか。

○国務大臣(河野太郎君) 請求権協定に基づく協議を要請をし、我々としては、韓国側がこの協議に誠意を持って応じてくれるものと思っておりますが、万が一日本企業に不利益が及ぶようなことがあれば、日本政府として対抗措置をとらざるを得なくなるわけでございます。
 ただ、何をトリガーにしてどのようなことをやるかということを申し上げるのは、こちら側の手のうちをさらけ出すことになってしまいますので、それについて、今、公の場で、何をトリガーにしてどういうことをやるかということを申し上げるのは差し控えているところでございますので、御理解をいただきたいと思います。

○浅田均君 私は、何が引き金になるかは聞いておりません。大臣が御発言になっている、日本企業に不利益が生じると、不利益というものがどういうものであると想定されているのかをお尋ねしているんです。

○国務大臣(河野太郎君) 日本企業に不利益が生じれば対抗措置をとらざるを得ないということを常々申し上げてきておりますので、不利益が生じるということイコールトリガーということになってしまいますので、その点についてのお答えを差し控えさせていただいております。

○浅田均君 分かりました。
 そうしたら、不利益が生じると判断されると対抗措置と、不利益が生じたと判断されるということをもって引き金を引くというふうに理解させていただきます。
 実際の話、これ、新日鉄住金を相手取った訴訟の原告側弁護士は、二月十四日に、弁護士らが二月の十五日に東京の同社本社を訪れて協議を要請したと、これに応じない場合は差し押さえた韓国内の資産について売却命令を早期に裁判所に申請せざるを得ないと警告したと報道されています。
 だから、韓国の大法院が認めて、差し押さえた新日鉄住金の差押え物件を売却してもよいかというお伺いを裁判所に立てて、それで、了解されたら売却すると、すなわち現金化するということだと思うんですけれども、これ、またあれですね、答えられませんよね。答えられないの分かっていて聞くのもつらいんですが、質問ですので、お尋ねいたします。

○国務大臣(河野太郎君) 日本政府として、日本企業の正当な経済活動を保護するという観点から適切な対応を講ずる考えでございます。そのための様々な措置を検討してきているところでございます。
 詳細につきましては、申し訳ございませんが、差し控えさせていただきたいと思いますが、しっかりとした対応ができるように努めてまいりたいと思います。

○浅田均君 今はいいですけど、終わってから、いやいや、実はあのときこうやったんやという詳細をお知らせいただけたら非常に有り難いと思います。どういう言語を使われたときはどういう作業をやっているということがこれから類推できますので、よろしくお願い申し上げます。
 実際の話、これ、日本企業に不利益が生じたときをもってトリガー、対抗措置をとるきっかけにするというふうに今おっしゃっているわけですが、向こうの原告側弁護団ですよね、差し押さえてそれを現金化すると、報道ではいろいろされていますけれども、実際にそれ現金化されてしまった時点で、大臣、総理もいつもおっしゃっております、国家の役割というのは日本国民の生命と財産を守ることだと、その財産を守るという点において、これをやられてしまうと国家の役割を果たせなかったということになってしまうんですが。
 そういう御自覚を持っていろいろ対応されていただいているものだと思うんですが、それにしても何かこう、レーダー照射事件始め、一方的にやられ放題と。何か防戦一方で、こちらはまともに対応している、正しい判断で正しい行動をしていると国民みんな思っていると思うんですが、それに対して、何か日本はこう、何というのかな、言いがかりを付けられ放題で、それに対して何も対抗できていないんではないかという不満が国民の間にあると思うんですけれども、大臣はこういう国民の皆さんの声に対してどういうメッセージを送られますか。

○国務大臣(河野太郎君) この大法院判決に関する係る問題は、先ほど申し上げましたように両国の言わば法的基盤を損なう非常に大きな問題でございますので、この問題については日本側として韓国側にしっかりと対応することを求めてきているわけでございますし、必要ならば様々な措置をとらなければならないというふうに考えております。
 その他、先般の国会議長の発言ですとかレーダーの照射事件とか様々ございますが、向こうが何か不適切な発言をしたからこちらも不適切な発言をするという子供じみたことはすべきでないというふうに考えておりますし、また、韓国からは昨年一年間に七百五十万人を超える多くの方が日本を訪問をしてくださっておりまして、日本側から韓国を訪問している旅行者が二百五十万人を超え、両方合わせて一千万を超えるという、両国の国民の交流はこれまでになく多い状況にございます。そういう中で、多くの方に日本に来ていただき、あるいは韓国を訪れていただき、両国を見ていただく、あるいはそれぞれの国民と実際に触れ合っていただくということがこの両国の関係の強化には非常にいいことだと思っております。
 私としては、こうした国民の交流を更に強めていくということをやりたいと思っておりまして、実は、昨年の前半、日韓両国、未来志向の関係をつくろうということで、先方の康京和外交部長官と私と、それぞれ有識者会議、タスクフォースを立ち上げて、日韓の未来志向の関係をいかにつくるかという提言までいただいたところでございます。今こういう状況になってしまって残念ながらそこは進んでいないわけでございますが、両国のしっかりとした関係をつくっていく、そのためにもこの大法院判決に係る問題、韓国側に適切に早期に対応していただきたいというふうに思っております。

○浅田均君 韓国側に適切な対応を求めるということでありますが、他方、この日韓請求権協定によりますと、これは第三条でありますが、両国はこの協定の解釈及び実施に関する紛争は外交で解決し、まさにこの段階だと思うんですね、今。で、解決しない場合は仲裁委員会の決定に服するとなっております。
 この三条二項で言うところの仲裁要請の公文というものを韓国政府に発しておられるんでしょうか。

○国務大臣(河野太郎君) 現在、協定第三条一に基づく協議を要請をしているところでございます。今お尋ねの協定第三条二に基づく仲裁を要請する公文を発出した事実はございません。

○浅田均君 そうしたら、ステージ、協議を求めるというステージであって、その次のステージで仲裁要請の公文ということになるという理解でいいんでしょうか。

○国務大臣(河野太郎君) まず三条の一の、協議で解決をするということになっておりまして、それにより解決することができなかった紛争については、いずれか一方の政府が相手方に対して公文をもって仲裁を要請するというふうに規定がされているわけでございます。
 ただ、仲裁あるいは国際裁判の段階であっても、両国間が協議で問題を解決するという可能性はあるわけでございますので、ステージが進んだからといって協議で問題を解決しないということにはならないわけでございます。

○浅田均君 ありがとうございます。次に聞こうと思っていたところまで答えていただきまして、ありがとうございます。
 それで、しつこいようでございますが、日本企業に不利益が発生した場合というところで、何かもう既に新聞等では関税措置を講ずるというふうなことが書かれてありますけれども、仮に、仮にそういうことを考えておられるのだとすれば、これは私はおやめになっていただきたいというふうに思っております。
 だまし討ちで、こう言うたら何かそこについて答えてくれはるん違うかなという変なことは考えておりませんので御安心いただきたいと思うんですが、やっぱり日本というのは貿易、自由貿易を拡大するという基本的なスタンスでやっているわけですから、その日本が関税措置をもって対抗措置とするならばそれは誤った判断だと私は思っておりますので、ああいう報道に書かれてあることがもし事実であるとするならば方針は変えていただきたいと思いますが、答えられないですよね。

○国務大臣(河野太郎君) 御意見は承りました。詳細についてお答えをすることはお許しをいただきたいと思います。

 第198回国会 参議院財政金融委員会 第7号 平成三十一年三月二十八日(木曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員        藤巻 健史
 財務大臣      麻生 太郎
 委員        渡辺喜美
 外務大臣官房参事官 田村 政美

○藤巻健史君 韓国との問題が大分混乱してきていますけれども、いわゆる徴用工問題ですね、徴用された方々に対する訴訟において日本企業の資産差押えが起こっていると思うんですけれども、それにやっぱりいろんな対抗処置を考えなくちゃいけないと思うんですけれども、アメリカが中国にやっているような関税引上げというのは一つの方法だと思うんですよね。それを実際発動するかは別として、そういうような、うちは、日本はそういうことだよということを示すということは韓国に対してもすごいプレッシャーになるかと思うんですけれども、いざというときにそういう法律がなければもう向こうも甘く見ちゃう、日本のことを甘く見ちゃうと思うんで、要するに韓国を念頭にそういうような法律を考える気があるのかどうか、大臣にお聞きしたいと思います。

○国務大臣(麻生太郎君) この旧朝鮮半島出身労働者のいわゆる問題につきましては、これは今、日本政府が韓国政府に対して、いわゆる韓国には、日韓請求権協定違反という状態がなっておりますので、それに基づいて協議を要請しているというのが今の状況でありますけれども、この協議要請に加えて、今後の対応についての対抗措置を聞いておられるんだと思うんですけれども、どのタイミングで何を行うかといった具体的な内容というものにつきましては、これは手のうち明らかにするような話になりますので、これは差し控えさせていただきます。
 今関税局長が答弁したように、この現行の関税関連法というのは、これは御存じのようにWTO等々の国際ルールというものに沿って整備をされているものですから、別途の措置を講ずる場合ということになりますと、これは対外的に効果、影響、様々な問題を考えて検討する必要があるというのは確かだと思いますので、これはどのようなものをやりますか、これはいろいろ検討が進められているのは事実ですけれども、その内容についてここで述べることは差し控えさせていただきます。

○藤巻健史君 手口を明らかにするというのはおっしゃるとおりだと思うんですけれども、ここに、法律に、日本の法律に例えばスペシファイ、ある国をスペシファイして関税を上げるというようなことが書いていないということは、我が国では関税を引き上げるという政策は今現在では取れませんよという手口を明らかにしちゃうようなことじゃないかと思うんですよね。国際問題に関しても、アメリカでそういう法律がある以上、日本も同じような法律を早めに作って用意しておくのがいいんじゃないかなと思います。これは感想ですけど、一応感想を述べさせていただきました。
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○渡辺喜美君 自由貿易を国是とする我が国が報復関税を検討せざるを得ないという状況になったんですね。恐らくこんな事態は初めてだろうと思いますよ。お隣の韓国、文在寅政権は相当特異なイデオロギーを持っている政権であります。御案内のように、反日統一思想とでもいうべき革新的イデオロギーに基づいて、慰安婦問題はちゃぶ台返しをする、レーダー照射の事後対応しかり、そして、司法権の独立と言いながら実際の独立はない徴用工問題しかりであります。
 麻生大臣が、ついせんだって、衆議院の財金で、恐らくアドリブだとは思いますが、政治家としての御答弁をされた。非常にこれは効き目があったと思いますね。問題は、その実効性が問われて足下を見透かされないようにしていくことが大事であります。
 人、物、金、こうした流れの中で、例えば今、韓国は非常に経済が苦しい。学生さんは就活が大変なんですね。日本と真逆ですよ。そういう中で、例えば日本に就活に来る学生がいる。麻生大臣の御答弁にもありましたが、ビザの発給を制限する、こういうことは可能ですか。

○政府参考人(田村政美君) お答え申し上げます。
 委員御指摘の韓国人を対象とする査証につきましては、現在、一般旅券を所持する韓国人は、九十日以内の短期滞在の目的により日本に入国しようとする場合に査証免除の対象となっております。
 我が国としましては、韓国による日韓請求権協定違反の状態を解決すべく、韓国政府に対し協定に基づく協議を要請し、協議に応じるよう重ねて求めているところでございます。韓国側は、当然誠意を持って協議に応じるものと考えております。この協議に加えまして、どのタイミングで何を行うかといった具体的な内容につきましては、我が方の手のうちを明かすことになるため、お答えを差し控えさせていただきたいと思います。
 いずれにしましても、日本企業の正当な経済活動の保護の観点からも、国際裁判や対抗措置も含め、あらゆる選択肢を視野に入れて適切に対応していく考えでございます。

○渡辺喜美君 誠意を持って対応してくれるとおっしゃいましたけれども、革新的イデオロギーを持った政権ですから、そんな甘い考えを持たない方がよろしいと思いますよ。
 続いて、物でありますが、例えばフッ化水素をサムソンが半導体の洗浄に使うんだといって申請してきたら、これは拒むことはまず無理でしょうね。一方、北朝鮮は、米朝首脳会談が失敗に終わったことを受けて、また元の路線に行きつつある。北のミサイルは、一番の難関がヘッドですよ。ヘッドの部分は特殊な素材が使われておるわけですね。日本はそういう素材を作る技術は持っている。
 もし、こういうのが韓国経由で入っていったらどうするんですか。そこまで審査、ちゃんとやっていますか。

○政府参考人(飯田陽一君) お答えいたします。
 ただいま御指摘のございました大量破壊兵器等に転用のおそれのある貨物の扱いでございますけれども、この輸出につきましては、現在、外国為替及び外国貿易法に基づきまして、経済産業大臣の許可が必要ということになってございます。
 許可申請が出た場合の取扱いでございますが、これは一般論でございますけれども、個別の取引ごとに審査を行いまして輸出許可の是非を判断するということになるわけでございます。

○渡辺喜美君 とにかく膨大な数の審査をやっておる。ところが、こういういまだかつて想定していない事態が発生しているわけですから、これは余り甘く考えない方がいいですよ。この政権は今までの政権とはかなり違います、文在寅政権はね。
 一番手っ取り早くできそうなのが金ですよ。麻生大臣も、送金停止とかという具体的なところに言及しておられます。現行ルールで可能ですか。

○政府参考人(武内良樹君) お答え申し上げます。
 外為法第十六条第一項では、条約等国際約束の誠実な履行、国際平和のための国際的な努力や我が国の平和及び安全の維持を要件として、送金を含む支払について許可制とすることは可能とされております。
 ただ、韓国への対抗措置については、政府としてあらゆる選択肢を視野に入れて適切に対応していく考えでございますが、どのタイミングで何を行うのかといった具体的な内容については現段階では明らかにできないことを御理解いただきたいと思います。
○渡辺喜美君 とにかく、足下を見透かされないことが大事なんですよ。アドリブとはいえ、大臣が国会で発言しておられるんですから、このことは非常に重いですよ。これは事務方としても心して掛かっていただきたい。
 それから、直接投資、今、事後の届出制になっておりますが、これを事前規制に変更して、内容の変更、中止を求めるということは可能ですか。

○政府参考人(武内良樹君) お答え申し上げます。
 現行の外為法は、対外取引を原則自由としつつ、我が国経済の円滑な運営、国際的な平和及び安全、公の秩序の維持の観点から、漁業、皮革等の製造業、武器、麻薬等の製造業等、一定の業種に対する対外直接投資について財務大臣への審査付事前届出義務を課しており、財務大臣は、必要がある場合には投資の変更、又は中止の勧告、命令を行うことが可能とされております。
 御指摘のように特定の国に対する投資をすべからく事前審査に付することにつきましては、特定の観点から特定の業種を指定していく現行法の基本的な考え方とは大きく異なるところでございますが、韓国との関係でどのようなタイミングで何を行うかについては、具体的な内容について現段階では明らかにできないことを御理解いただけたらと思っております。

○渡辺喜美君 現行ルールでは非常に難しい、ハードルがあるということなんですね。
 そうすると、先ほども議論があったように、関税法改正というのはかなりハードルが高い。どうですか、大臣、こうした議論を踏まえて、大臣の口から出た話でありますから、もう一度御答弁をお願いします。

○国務大臣(麻生太郎君) それこそ手のうちを明かすことになるの極みですな、今のお話は。
 ですから、そういった意味では、先ほど申し上げましたように、この間申し上げましたように、こういったようなものが考えられるということだけ相手に認識してもらっておかなきゃいかぬところは確か。いざやるということになったら、そういう状況になったら、そのときに対応させていただきたいと存じます。

○渡辺喜美君 とにかく、実行可能なんだというメッセージを出していく必要があるんですよ。
 日本には、古来、言霊信仰という信仰があるんですね。口から出た言葉には魂が宿る。この魂の宿った言葉が国民の心にすとんと落ちれば非常にハッピーになるという思想ですね。ところが、この言葉に魂がこもっていないということになりますと言葉が空中浮遊してしまう。実行可能なんだという魂を入れた検討をやっていただきたいと思います。
 以上、終わります。

 第198回国会 衆議院外務委員会 第7号 平成三十一年四月十二日(金曜日)午前九時一分開議

【発言順】
 委員          佐々木 紀
 政府参考人
(外務省大臣官房参事官)安藤 俊英

○佐々木(紀)委員 これもやはりちょっと理解に苦しむんですよね。こちらが建てかえしたいのでお願いしますと申請を出しておいて、わかりました、では、建てていいですよと許可をもらって、いろいろ検討しておって期限が来たから、それもちょっと説明としては何か理解に苦しむというか、もし明確にそこに何らかの意思があれば、はっきりと申し上げるべきだと思うんですよね。
 やはり今後、今から少し質疑を続けていきますけれども、元徴用工の訴訟のこともあります、本当に、韓国との問題というのは、やはり毅然と言うべきときに物事を言っていかないと、これはずるずるずるといって結果的に変なことになりますので、ぜひそういった厳しい姿勢で対応することを求めていきたいというふうに思います。
 そこで、続いての新聞記事、新聞記事ばかりで恐縮ですけれども、徴用工訴訟、近く差押申請、こんなような記事も最近多く見かけるわけでございます。元徴用工や元女子勤労挺身隊らが原告の訴訟で、日本企業、三菱重工や新日鉄住金、現の日本製鉄でありますけれども、不二越に対して資産差押えの動きが相次いでおります。
 この確定判決がどのような形で出ているのか、あるいは、資産の差押えの状況について御説明いただきたいと思います。

○安藤政府参考人 お答え申し上げます。
 まず、訴訟の状況でございますけれども、韓国大法院は、昨年十月三十日、日本製鉄に対し、慰謝料の支払い等を命じる判決を言い渡しました。また、昨年十一月二十九日には、三菱重工に対して同様の判決を二件言い渡しております。不二越に対する一連の訴訟につきましては、いまだ確定判決は出ておりませんけれども、本年一月十八日、二十三日及び三十日に、それぞれ第二審判決が出された状況と承知しております。
 次に、資産差押えの現状でございます。
 これらの訴訟について、原告側による各日本企業の資産差押えの動きが進んでいると承知しております。
 例えば、日本製鉄につきましては、原告側による資産差押えに関する通知が日本企業側になされております。また、三菱重工につきましても、確定判決に基づく資産差押えが、不二越につきましては、第二審判決に基づく資産差押えの仮執行、これを原告側弁護団がそれぞれ発表しているというふうに承知しております。

○佐々木(紀)委員 確定判決が出たのは二社、そして、資産差押えがもう既にされているというのが三社あるということです。
 それに対して、では、日本政府はどのような対応をしてきたのかなというふうに思うんです。繰り返し、韓国政府が日韓請求権協定違反の状態を是正する具体的な措置をとっていないから大変遺憾ですみたいな、こんなことを都度発表しておいでですけれども、やはりそろそろ何らかの対抗措置を考えないといけない時期に来ているのではないか、そのように思うわけでもございます。
 これは本当にこのままの状況ですと、どんどんどんどんこんなような状況が助長されて、どんどん悪化をしていくのではないかなというふうに懸念をされているところでもございます。
 例えば、五日の新聞記事ですけれども、徴用工訴訟、今後も続出とか、元徴用工八件追加提訴、新たに日本コークスも対象、こうなっているんです。つまり、遺憾の意を発表してはいるんだけれども、何の措置もしていないから、どんどんどんどん向こうはちょっと調子に乗っているんじゃないかなというふうに思うんです。
 追加提訴のこの話も、中身を見ると、もう既に確定判決が出た、出たにもかかわらず、また更に同様の原告を探して追加提訴をしているわけなんですよね。今回は遺族まで引っ張り出してきてやっているんです。こんなことをしたら、いつ、どんな形で終わるのか全然見えてこないわけなんですよね。
 したがって、そろそろ対抗措置を講じないと、これはどんどん日本企業に損害というか、これは何も損害は発生していないんじゃないかみたいなことも言う人もいますけれども、決してそうではないですよね。訴訟対応するだけでもこれはリスクですし、資産の差押えももう既にされているわけで、資産を動かせないわけですから、これは事実上もう損害が発生していると言ってもいいんだなというふうに思います。
 そこで、対抗措置をとるべきではないか、あるいは、その対抗措置について検討状況、どのような内容で、いつされるつもりなのか、その辺についてお伺いしたいと思います。

○安藤政府参考人 お答え申し上げます。
 委員御指摘のとおり、旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題につきましては、現在に至るまで、韓国政府が日韓請求権協定違反の状態を是正する具体的な措置をとらず、加えて、原告側による差押えの動きが進んでいることは極めて深刻と考えております。
 我が国といたしましては、韓国による協定違反の状態を解決すべく、韓国政府に対し、協定に基づく協議を要請し、協議に応じるよう重ねて求めているところであり、韓国側は当然誠意を持って協議に応じるものと考えております。
 この協議要請に加えて、どのタイミングで何を行うかといった具体的な内容につきましては、政府内でさまざま検討しているところでありますけれども、我が方の手のうちを明らかにすることになるため、差し控えさせていただきたいと思います。
 それから、議員御指摘のとおり、日本企業の正当な経済活動の保護の観点からも、国際裁判、対抗措置を含め、あらゆる選択肢を視野に入れて適切に対応してまいりたい、このように考えております。

○佐々木(紀)委員 もうそろそろその時期が来ていますから、しっかり準備して、速やかに対抗措置をとっていただきたいというふうに思います。
 実際、今回のこの元徴用工の訴訟のことだけじゃなくて、これまでもさまざまなことをやられているわけですよね。竹島に韓国の国会議員がたびたび上陸したりとか、その周辺に海洋調査船を出したりとか、和解・癒やし財団を一方的に解散したり、国際観艦式でのこともございましたし、火器管制レーダーの照射というのもありました。最近は、新札を出すというと、それにまで何かいちゃもんをつけているわけですから、本当にもう暴挙を繰り返しているわけなんです。これは国家間の合意も常識も国際法も全部踏みにじる姿勢ですよ。これは、もう既に僕は機が熟しているというふうに思います。ぜひ、この対抗措置を速やかにとるようにお願いをしたいというふうに思います。
 ですから、先ほどの大使館の話も、何か手続上こんなことになっていますと言っていますけれども、これはやはり明らかに、大使館の前の少女像、これを撤去しない限り、国際儀礼上無礼な状況を改善しないから我々は建設しないんですよと、私はこれははっきり言うべきだと思います。やはり、しっかりその都度その都度言って、対抗措置をとっていかないと、これはずるずるずるずると来ますから、下手すると日本がこれを容認しているみたいな話にまでなってくると、これは本当に困るわけなんです。しっかり国益に基づいた対応をとっていただきたいと思います。
 もうG20もすぐそこまで来ているわけでありますから、韓国の大統領もお越しになるんだというふうに思います。こんな状況で来られるのも、来られる方も本当に、何というか、つらいというか恥ずかしいという状況だと思うので、速やかに対抗措置をとるなりし、この幕引きを図っていただきたい、しっかりと毅然とした対応をしていただきたい、そのように申し上げておきたいというふうに思います。

 第198回国会 衆議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会 第3号 平成三十一年四月二十四日(水曜日)午後二時開議

【発言順】
委員   丸山 穂高
外務大臣 河野 太郎

○丸山委員 大臣、どこかのぶら下がりか記者会見かわかりませんが、二国間協議の呼びかけの話をされていましたが、一方で、G20が近づいていますので、そこでの日韓首脳会談は取りやめるかもしれないみたいな記事も出ていて、このあたり、非常に気になるところなんですが、一方で、韓国とはもうほかにもいろいろややこしい案件を、問題を抱えていまして、いわゆる徴用工、戦時中の朝鮮半島出身の労働者の件でも日本企業は差し押さえられていますし、韓国に対する対応措置をどうするかという話も、財金委でも麻生大臣と随分やったんですけれども、そういった意味では、一回冷却化するために、もう交渉をしない方がいいんじゃないかという意見もあるわけです。でも一方で、二国間協議、そしてG20に向けて日韓の首脳会談をどうするかという話題も出ていますが、こうした二国間協議やG20での首脳会談については前向きにやられるんでしょうか。いかがなんですか。

○河野国務大臣 G20は、まあG20と言っていますけれども、実際には二十七カ国、それプラスさまざまな国際機関のトップがいらっしゃるわけで、時間的にも非常に制約があり、議長国ということもありますから、総理のバイ会談のスロットというのが幾つとれるかというのはまだ確定をしておりません。そういう意味で、G20でさまざまなバイの会談をどうするかということは何も決まっていないというのが現実でございます。
 日韓関係、委員おっしゃるように、さまざま難しい問題はございますけれども、まずは請求権協定の仕組みにのっとって、我々としてしっかりと韓国に請求権協定の中での協議ということを持ちかけておりますし、当然に誠意を持って韓国側はそれに応ずると思っておりますので、まず、請求権協定の中でしっかりと問題の解決を目指してまいりたいというふうに考えております。

○丸山委員 もし、今回のをあえて前向きに捉えるとしたら、上級審の動きが、まあ今回の動きが韓国に対して確定したわけで、これを分析していろいろ日本はまだ水産物をほかの国にも、地域も含めると二十三カ国ですかね、とめられているわけですよ。こうしたところへの提訴も含めて、次の戦略としては具体的には考えていかなきゃいけないと思うんですけれども、こうした他の国に対する対応も前向きに考えていかないと今回のは覆らないわけですから、言われてしまうわけだと思うんですけれども、このあたりについてはどうお考えですか。

○河野国務大臣 当然に、WTOの提訴も含め、それぞれの国、地域に対する働きかけの戦略というのを今考えているところでございまして、外務省の中でのレビューが終わり次第、どうするか具体的に動いていきたいというふうに思っております。

○丸山委員 ぜひ今回の、まあ私は失敗だと思いますけれども、これを受けてしっかりと他の国についても対応をやっていただきたいというふうに思います。そこで必ずかち取って、それを前に進めるというのが非常に大事なツールだと思いますので。
 もう一つ大事なツールとしては、ちょっと長期化するかもしれませんが、先ほどWTOの不満を大臣もおっしゃいましたけれども、これは日本もお金を出しているわけで、しっかりこれに対しておかしいことはおかしいと言わなきゃいけませんし、特に、二審で終わっちゃって、これを差し戻す制度もありませんし、こうした意味では、これはしっかり訴えていかなきゃいけないと思うんですけれども、こうしたWTO自体の改革について、大臣、どう進められますか。

○河野国務大臣 WTOについて、差戻しができないとか、あるいはWTOの中でどうも時代に合っていないよねという部分もございますし、通報義務について余り機能していないのではないかというようなさまざまな論点がありますので、アメリカ、ヨーロッパを始め、このWTO改革について、さまざまな国が今問題意識を持っているところでございます。
 我が国としても、きちんとWTOの改革の必要なところは主張し、問題提起をしていきたいというふうに思っております。

○丸山委員 ぜひそうした部分のロビーイングを前に進めていただきたいですし、やはりこの上級審のメンバーにも入れ込んでいくというのは非常に大事な部分だと思いますので、ぜひよろしくお願いします。

 第198回国会 参議院外交防衛委員会 第14号 令和元年五月十六日(木曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員   浅田均
 外務大臣 河野 太郎

○浅田均君 それでは、日韓関係について河野大臣にお尋ねいたします。
 先般、韓国の李洛淵首相が徴用工問題の解決に関して、司法手続が進む中で政府が対策を立てるのは限界があるというのが結論と発言されております。G20首脳会議の前に政府見解を出すのは困難だと公で発言されておるわけでありますが、外務大臣は徴用工問題についてこれから解決に向けてどのように話を持っていかれようとされているのか、お尋ねいたします。

○国務大臣(河野太郎君) この旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題につきましては、現在、日韓請求権協定に基づきまして韓国政府に協議の要請をしているところでございます。
 私としては、韓国政府がこの協議を受け入れて速やかに協議を始めることができるのではないかと期待をしているところでございますが、この問題は韓国側で韓国政府が責任を持って対応されるべきものというふうに考えておりますので、日本企業に実害が出ないように韓国政府が対応するものと考えておりますが、万が一そうでない場合には、日本政府として必要な措置をとらざるを得ないというふうに考えているところでございます。
 李洛淵国務院総理がこれまでこの問題に対応してこられたというふうに私も認識をしておりますが、やや先日の発言については困惑をしているところでございますが、私としては、これはもう日韓両国の国交の法的基盤を損ないかねない事態でございますから、韓国政府の責任者としてそのようなことに発展しないようにしっかりと対応してくださるものと信じております。

○浅田均君 外務大臣が私と同じような御認識をお持ちだということを知りまして安心しましたが、これからも取組の方をよろしくお願い申し上げまして、また続きは次回質問させていただくということで、今回はこれで終わらせていただきます。ありがとうございました。

 第198回国会 参議院決算委員会 第7号 令和元年五月二十日(月曜日)午後一時開会

【発言順】
 委員        古賀之士
 外務大臣      河野 太郎
 委員        浜口誠
 外務大臣官房審議官 石川 浩司

○古賀之士君 そういった日韓関係の重要性を改めて認識した上で、今度は河野外務大臣にお伺いをいたします。
先ほども質問があったかと思いますが、これについては通告をしていない、今日の出来事でございますが、報道によりますと、韓国最高裁の日本企業に徴用工への賠償を命じた判決をめぐって、一九六五年の日韓請求権協定に基づいての仲裁委員会の設置を求める方針という報道がなされておりますけれども、現状での見通し、そして見解を、是非、河野外務大臣からお願いします。

○国務大臣(河野太郎君) 一月に請求権協定に基づく協議の申入れをいたしました。それから四か月たつわけでございますが、韓国側は李洛淵総理がこの問題の責任者として対応を検討されているということでございましたので、我々としては、韓国側が何らかの対応をしっかりしてくれる、そういうふうにも考えていたわけでございます。しかし、先般、李洛淵総理が、政府の対応には限界があるというような御発言がありましたものですから、我が方としては、残念ながら、請求権協定に基づく仲裁に進まなければならないという判断をした次第でございまして、今日の午前中に仲裁付託をしたことの通告を韓国側にしたところでございます。
この問題は日韓両国の言わば国交の法的基盤でございますので、それを損なうことがないように、韓国側としてはこの仲裁にしっかり応じていただきたいというふうに思っているところでございます。
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○浜口誠君 まあどうなるかまだ分からないので、なかなかすっきりと御答弁できないお立場がにじみ出ておりましたが、やっぱりしっかりとこれ検討していく必要があると思いますし、予算も百二兆円という大規模な予算を組んでいるんですから、その実態というのをちゃんと踏まえて、いろんな判断を的確に正確に慎重にやっていただきたいなというふうに思っております。
 続きまして、元徴用工の件に。
 今日、僕、元々しようと思っていたんですよ。しようと思っていて、で、今日のニュース、うちの古賀委員もそうですし、松下委員の方からも徴用工の仲裁委員会の設置と。僕の質問の中にも、第三者、第三国を入れた仲裁の場を設ける次の一手を打つ必要があるんじゃないかということを聞こうと思ったら、その答えがもう今日の外務省の動きの中で出てきたということなので、そこの点はあえて聞きませんけれども。
 そもそも論ですけれども、この韓国の旧徴用工の皆さんの最高裁判決、一九六五年に日韓の請求権協定が締結されて、この請求権協定に対してのやっぱり締結内容を覆す、そういう判決だというふうに私は理解しているんですけれども、日本政府の見解と、なぜ韓国がこういった、最高裁の判決とはいえ判決に至ったのか、そのことを韓国政府はどう受け止めているのか、この辺の両政府の見解についてまずはお伺いしたいと思います。

○政府参考人(石川浩司君) お答え申し上げます。
 委員御指摘の、昨年の韓国大法院による一連の判決は、日韓請求権協定に明らかに反しまして、日本企業に対し不当な不利益を負わせるものであるばかりか、一九六五年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の法的基盤を根本から覆すものというふうに認識しております。
 これらの判決に対する韓国政府の見解についてお尋ねでございますが、我が国として韓国政府の見解について有権的に説明する立場にはございませんが、我が国としては、韓国政府に対して、国際法違反の状態を是正することを含め適切な措置を講ずることを求めてまいりたいと思っております。

○浜口誠君 一方で、韓国の原告代理人は、韓国国内の訴えられている日本企業の資産を差押えをして、それを現金化する手続にもう既に入っていると。そういう背景もあって、仲裁委員会を今回設置しないといけないという、そういう御判断にも至っているのではないかなというふうには思っておりますけれども、実際訴えられている日本側の企業に対しての実害とか不利益、これ生ずる可能性があるというふうに認識しておいた方がいいんでしょうか。その点はいかがですか。

○政府参考人(石川浩司君) お答え申し上げます。
 委員御指摘のとおり、現在、本件につきまして原告側による差押え等の動きが進んでいるというのはそのとおりでございまして、また、先般、五月一日でございますが、原告側が発表のとおり、今後、差押資産の売却に向けた手続が進められ、日本企業の資産が不当に売却される事態となれば、我が国として断じて受け入れられず、政府としては事態を一層深刻に捉えております。
 その上で、日本企業への実害の具体的内容について現時点で予断を持ってお答えすることは差し控えさせていただきたいと思います。

○浜口誠君 ちょっとこれは、今から聞くのは、先週の木曜日の段階では今日の仲裁委員会を要請するということは分かっていなかったので聞きますけれども、今度、仲裁委員会を韓国側に今日開催を要請したということですけれども、この仲裁委員会が設けられれば、日本企業への実害、不利益、これは回避ができるという認識でよろしいでしょうか。これは、大臣、いかがですか。

○国務大臣(河野太郎君) この旧朝鮮半島出身労働者に関する韓国の大法院判決というのは、日韓両国の国交正常化以来の最も根本的な法的基盤を著しく損傷する、ダメージを与えるものでございますから、韓国政府も当然にそうしたことは認識をされているというふうに考えております。
 我々としては、韓国政府が責任を持って日本企業に対する実害が及ばないような対策を取ってくれると信じてきたわけでございますが、先般、その責任者でありました李洛淵総理が政府の対応に限界があるというような発言をされたことに我々は大変驚いておりまして、今まで協議を要請してずっと待ってきたわけでございますが、ここできちんと仲裁のプロセスに入っていきたいというふうに思っておりますので、こうした仲裁のプロセス、あるいは必要ならば国際的な手法に訴えて、日本企業に対する実害が及ばないようにきちんと対応を取っていきたいというふうに考えているところでございます。

○浜口誠君 是非、最後に河野大臣言われましたけれども、日本企業に実害が及ばないように、これはもう政府としてしっかりとした対応をやっていただくのはこれ当然だというふうに思っておりますので、韓国との間でしっかりそういう和解のプロセスが図られるように全力を尽くしていただくことをお願い申し上げ、質問を終わります。
 ありがとうございました。

 第198回国会 参議院外交防衛委員会 第16号 令和元年五月二十八日(火曜日)午前十時一分開会

【発言順】
 委員        浅田均
 外務大臣      河野 太郎
 外務大臣官房審議官 岡野 正敬

○浅田均君 日本維新の会、浅田均でございます。
 ただいま議題となっております五つの条約、協定に関しましては、我が方は自由貿易圏の拡大が日本にとっては必要だという立場でございますので、いずれも賛成であるという旨申し上げておきます。
 それから、続いて、引き続きの質問なんですが、徴用工問題について、先ほどもちょっと質問がありましたけれども、質問をさせていただきたいと思います。
 問題を整理しておきますと、これは一月に日韓請求権協定に基づく協議要請をされたと。一月に協議要請をされて、それから四か月以上返事がなかったということで次の段階に入られて、五月二十日に請求権協定に基づく仲裁委員会への付託を通告されたということであります。これに対して、韓国側は、仲裁委員会の開催要求を保留している、すなわち仲裁委員もまだ選んでいないということでありますが、これで間違いないんでしょうか。
 それと、もし韓国側がこの仲裁委員会の開催要求に同意しなかった場合、今後我が国はどのような手続を取るのか、併せて外務大臣にお答えいただきたいと思います。

○国務大臣(河野太郎君) 仲裁委員の選任はたしか三十日以内ということでございますので、韓国側は今検討されているんだろうというふうに思います。また、請求権協定に基づく仲裁の付託はいたしましたけれども、その間に韓国側が請求権協定にのっとった対応策をきちんと出していただければ大きく問題解決に前進をするわけでございますので、仲裁の付託はいたしましたが、韓国側ではしっかりと文在寅大統領中心に対応策を御検討いただけるのではないかというふうに考えているところでございます。

○浅田均君 協議要請をされて四か月間待たれたと。今回は、仲裁委員会へ付託を通告して三十日以内に仲裁委員を選ぶか、あるいは請求権協定にのっとって文在寅大統領あるいは李洛淵首相が適切な対応を取られるということを期待されておるわけでありますので、同意しなかった場合どうするのかというのはちょっと答えにくいという答弁になろうかと思いますけれども、それを承知であえて、どのような手続を取られるんですか、もし向こうが仲裁委員会に乗ってこなかった場合。

○国務大臣(河野太郎君) 請求権協定に基づく協議をお願いをしたわけでございますが、先方、李洛淵総理が中心となって対応策の検討をしているということでございましたので、我が方としてはその対応策を待ちたいと思っていたわけでございます。
 しかし、先般、今月の半ばに李洛淵総理が政府の対応には限界があるというような御発言を公でされましたものですから、残念ながらこれ以上待っていても対応がなされないという判断をして、まず協議から仲裁に移行したところでございます。李洛淵総理が対応に限界があると、こうおっしゃる以上、韓国側はトップの文在寅大統領の下で検討していただかなければならないんだろうというふうに思っているところでございます。
 また、この仲裁申立て後の期間がたった場合については、我が方として手のうちを明かすということは公では差し控えたいというふうに思っているところでございます。

○浅田均君 我が方はどう対応するかというのは差し控えたいと、答えることは差し控えたいということでありますので、あえてもう一回お尋ねしますけれども、日本にとってどういう選択肢があるんでしょうか。三十日以内に韓国が仲裁委員を指名しない、乗ってこないという場合に、日本としてどういう次のステップとして選択肢があるのか、お答えいただけませんか。

○国務大臣(河野太郎君) 様々な選択肢があろうかと思います。それは、国際司法の場で解決を図るということも当然その中には含まれるんだろうというふうに思います。

○浅田均君 様々な対応、選択肢があって、そのうちの一つとして今ICJのことも御発言いただきましたけれども、このICJの手続も、これ韓国の同意がないと実現しないわけですよね。なかなか、今までのやり取りを外側から見ていますと、向こうの主張は非常にかたくなであるというふうに私どもは受け止めるわけです。
 それで、河野大臣、これからどういうふうにされていくのか、非常に大変な問題であるというのは承知しておりますけれども、それをちょっと聞かせていただいて、私どもも安心するのか、あるいはこれからもっとこういうふうにされた方がいいんではないですかというふうに提言するとかしたいと思っておりますので、ICJへ行く可能性が高いというふうにお考えでしょうか。

○国務大臣(河野太郎君) 御提案があればいつでも承りたいというふうに思っておりますが、我が方がどのようなことを考えているかというのを公で申し上げるというのは、こちら側の手のうちさらしてゲームをすることになりかねないわけでございますので、それは差し控えたいと思います。

○浅田均君 それは、外務大臣おっしゃること非常によく分かるんですが、韓国政府としてそういう発言はないんですが、この日韓請求権協定あるいはこの徴用工のような問題に関して調べていくと、一番問題になると思われるのが、柳井条約局長の一九九一年八月の発言というところになると思います。それで、もちろん韓国側政府もこれをよく理解していた上でいろんな作戦を講じているんだと思います。
 それで、皆さん方にその一九九一年八月の当時の柳井条約局長の請求権に関する協定に関しての御発言を紹介しておきますと、柳井条約局長は参議院の予算委員会で次のように御発言になっているわけであります。「いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。」、これは河野大臣あるいは安倍総理の御発言と一致するところでありますが、その次に、「その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。」というふうに答弁されておりまして、ここをこれからついてくると思うんですね。
 これ、もう一度、この九一年の当時の柳井条約局長発言に関しての外務省の御認識、御見解を伺っておきたいんですが。

○政府参考人(岡野正敬君) 個人の請求権を含め、日韓間の財産請求権の問題は、日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが日本政府の一貫した立場でございます。
 具体的には、日韓両国は、ただいま申し上げました請求権協定第二条一項で、請求権の問題は完全かつ最終的に解決されたものであることを明示的に確認しております。それとともに、第二条三項で、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての請求権に関していかなる主張もすることはできないとしていることから、一切の個人の請求権は法的に救済されないものというのが政府の理解でございます。
 その結果、我が国及び韓国並びにその国民の間の請求権の問題については、日韓請求権・経済協力協定により、韓国及びその国民の請求権に基づく請求に応ずべき日本及び日本国民の法律上の義務が消滅していると、その結果、救済が否定されることになるということで、法的に解決済みになっているというのが政府の一貫した立場でございます。
 柳井答弁について御指摘がございましたが、当時の答弁は、そのやり取りの中での文脈の中で、国際法上の概念である外交的保護権との関係でどういうふうにして整理されるべきかという議論の中で説明があったものと理解しております。

○浅田均君 確認ですが、外交保護権の行使としては取り上げることはできないと。だから、外国で何か損害を受けた人が訴えた場合、国がそれを言わば応援することはできないということを言われているだけであって、個人が請求することに関してノータッチであるよというふうに言われたにすぎないというふうに私どもは受け止めるんですが、間違いないですか。

○政府参考人(岡野正敬君) 国と国との間の関係で外交保護権はどういうことかということになりますと、先ほど申し上げたとおりでございます。
 実際、今御指摘がありましたように、ある国が他方の国に対して訴えることができるかどうかということでございますけれども、請求権協定の第二条一項及び第二条三項の規定を読めば明確に分かることは、日本及び日本国民が相手方の請求に応ずべき義務というのは消滅しているというのが我々の協定の解釈でございます。

○浅田均君 それで、外交、国と国の間はそういう解釈が成り立つと思うんですけれども、それは必ずしも個人が請求することを禁じているということではないというふうに受け止められるので、今回のこういう状況に至っていると思うんですね。
 だから、これから仲裁委員会あるいはICJへ進む可能性もありますけれども、そういうところをついてこられると思いますので、国としてもどういう対応を取られるのか、これは注目していくしかないんですけれども、そういうところをついてくるということを肝に銘じて、河野大臣あるいは所管、担当の方々におかれましては対応をよろしくお願いいたします。これから非常に重要な問題であって、これがうまくいかないと、どんどんほかのところに波及しますので、対応方よろしくお願い申し上げます。

 第200回国会 参議院本会議 第2号 令和元年十月八日(火曜日)午前十時一分開議

【発言順】
議員   長浜 博行
内閣総理大臣 安倍晋 三
議員     世耕 弘成

○長浜博行君 立憲・国民.新緑風会・社民の長浜博行です。
 会派を代表して、総理の所信について質問をいたします。
 今年も夏から秋にかけて度重なる台風や集中豪雨等により各地に大きな被害が生じました。質問に先立ち、お亡くなりになられた方々に哀悼の意を表しますとともに、被害に遭われた皆様に心からお見舞いを申し上げます。被災地が一日も早く復興するように、私どもとしても全力で支援に取り組んでまいります。
 まずは、千葉県を中心として広範囲に被害が生じた台風第十五号について、千葉県民の一人として政府の初動対応の遅れについてお伺いをいたします。
 台風第十五号は、九月八日にかけて伊豆諸島付近を、九日朝にかけて関東地方を襲いましたが、千葉市で毎秒五十七・五メートルの最大瞬間風速を記録するなど、場所によっては観測史上最大となりました。
 この暴風によって各地で約二千本もの電柱が倒れました。このため、千葉県内では広域にわたる停電により通信網が遮断され、地方自治体は軒並み混乱に陥り、被害状況の把握もままならない事態が続きました。さらに、停電の解消までに二週間以上を要する事態となり、多くの被災者が電気も水道も電話も使えない不自由極まりない生活を余儀なくされました。
 その際の政府の初動対応について、菅官房長官が初閣議後の記者会見で台風第十五号について一切触れていないことからも明らかでございますが、新内閣は十一日の組閣の対応に忙殺され、全て官僚任せで後手に回っていたと断ぜざるを得ません。全閣僚出席の閣僚懇談会についても、第一回目は十三日であり、台風の通過から四、五日も経過をしております。
 そこで、お伺いをいたします。
 閉会中に開会された衆参の災害対策特別委員会において、政府の判断として非常災害対策本部や関係閣僚会議を設置、開催しなかったと答弁していますが、新旧大臣間における台風第十五号に係る災害対策の引継ぎについて時間や余裕がなかったために、これらが設置、開催されなかったのではないですか。そのため、官僚任せの関係省庁災害警戒会議や関係省庁災害対策会議の開催を政府一体の対応として殊更強調しているのではないですか。
 内閣改造と災害への対応と、この場面でどちらが国家にとって重要事であったと判断されているのか、総理の見解をお伺いをいたします。
 また、政府、千葉県、各市町村と東京電力の間の連絡はどのように行われていたのでしょうか。特に、東京電力の復旧見通しが二度も修正されることとなりましたが、政府としても確認、チェックする必要があったと思います。今回の見通しの甘さについて、単に検証するだけではなくて、国として電力事業者が迅速かつ正確に公表できるような態勢づくりを早急に行っていく必要があると思いますが、いかがでしょうか。政府の答弁を求めます。
 次に、台風第十五号の復旧に係る今後の政府の対応についてお伺いをいたします。
 今回は、一部損壊住宅への修理費に対して地方自治体が被災者に交付する補助金に対し、特例的に防災・安全交付金と特別交付税により財政支援すると伺っております。
 先日の本院の災害対策特別委員会において、武田大臣は、一部損壊等に係る地方自治体への財政支援について各種制度の柔軟な適用に努めると述べられましたが、そもそも現在の損害基準は現実の被災状況の分類として適切なのでしょうか。今後同様の災害が生ずることを想定して、新たに基準を見直し、恒久的な支援措置を制度化することもお考えでしょうか。総理の見解を伺います。
 加えて、送電線を始め老朽化したインフラへの対策、そして、間伐も行われず溝腐れ病等に侵されるなど手入れの行き届かない森林をどうするのか、先月末に各自治体に初めて配分された森林環境譲与税との関連を含めて、御答弁を願います。
 以下、内政、外交等の個別の課題について御質問をしてまいりますが、時間の制約上、昨日の衆院での枝野代議士との重複をなるべく避けて行います。
 外交、安全保障に目を転じますと、安倍政権の重視する外交政策は八方塞がりの状態であります。ロシアとの北方領土返還交渉や北朝鮮による日本人拉致問題はいずれも進展が見られず、日韓関係は最悪の状況に陥り、米国との貿易交渉では一方的な譲歩を行ったようにも見受けられます。
 まず、中東情勢についてお伺いします。
 九月十四日、サウジアラビアの石油施設が攻撃を受け、石油の生産が一時止まるという事態が発生をいたしました。イギリス、ドイツ、フランスの各首脳はこれをイランの責任とする声明を既に発表しておりますが、声明について政府の認識を伺います。
 また、米国が提唱しているホルムズ海峡における有志連合構想、海洋安全保障イニシアチブですが、これについて伺います。
 まず、政府として中東ホルムズ海峡の現状についてどのような御認識を持っておられるのか、総理の答弁を求めます。
 また、現行法上、自衛隊は有志連合に参加できるのでしょうか。あるいは新たな法整備が必要となるのでしょうか。総理の答弁を求めます。
 次に、日ロ関係についてお伺いをいたします。
 昨年十一月、総理はロシアのプーチン大統領との会談において、一九五六年の日ソ共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させることで合意されました。その後、総理も河野前外務大臣も、北方領土は日本固有の領土であるとの我が国の基本的立場を公の場で発言することを封印してしまいましたが、肝腎の領土交渉での進展の道筋は全く見えておりません。
 総理は、プーチン大統領との個人的な関係を過度に重視し、ロシア側の出方を見誤ったのではないですか。領土交渉で何ら進展がないままに、北方領土に対する我が国の主張の基本ラインを大きく後退させてしまった総理の対ロシア外交は稚拙のそしりを免れないと考えますが、総理の認識を伺います。
 次に、北朝鮮の核・ミサイル問題と今後の日朝交渉の方針についてお伺いをいたします。
 この問題については、米朝プロセスを中心に、北朝鮮の非核化を実現するための交渉が進められています。この間、北朝鮮は短距離弾道ミサイル等を日本海に向け繰り返し発射しており、このような挑発行為は我が国にとって直接的な脅威であり、かつ、地域の安全保障環境を不安定にするものとして看過できません。
 しかも、十月二日には、北朝鮮が発射した弾道ミサイルが日本海の我が国排他的経済水域、EEZ内に落下をしました。その際、自衛隊のイージス艦は日本海に一隻も展開していなかったとの報道がありますが、我が国政府として、北朝鮮の弾道ミサイルの発射探知、追尾などは万全であったと言い切れるかどうか、総理の明確な答弁を求めます。
 また、昨日、水産庁は会見で、漁業取締り船「おおくに」が大和堆において北朝鮮の漁船と衝突したと説明をしています。最近の大和堆周辺水域における漁業取締り方針と今回の衝突事案に関する事実関係の詳細について、今分かっている範囲で結構でございますので、政府に伺います。
 さらに、日朝関係における最大の懸案事項である拉致問題は全く進展を見せていません。総理は、金正恩委員長と条件を付けずに向き合わなければならないとの考えを表明しておりますが、金正恩委員長は、米国、韓国、中国、ロシアの各国と首脳会談を既に開催しており、日本だけが取り残されているのが現実であります。
 安倍外交は、これまでどのような成果を得たのでしょうか。そして、今後、どのように対北朝鮮外交を進めるおつもりなのでしょうか。拉致被害者問題も含めて、総理のお考えを拝聴したいと思います。
 アフリカ外交についてお伺いをいたします。
 八月末に横浜で第七回アフリカ開発会議、TICAD7が開催をされました。一九九三年にスタートしたこの会議は諸外国に先駆けてアフリカの成長を目指したものですが、現在までの成果はどのように評価をされておられますか。アフリカに対する直接投資残高及び年間輸出額でも日本は十位以内に入っていないのではないですか。お答えをお願いします。
 また、我が国としては、国連加盟国の約四分の一を占めるアフリカ諸国との関係を今後どのように構築していこうとされておられますか。総理はアフリカ各国に対する日本からの民間投資を拡充させたいと発言をされておりますが、ODAとの連携も含め、どのような戦略をお持ちか、そして、中国の対アフリカ外交、戦略をどのように認識しておられるかも併せて、総理の御所見を伺います。
 地球環境問題についてお伺いをいたします。
 先月、スウェーデンの十六歳の環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんが国連本部で開催された気候行動サミットで演説し、若者世代を裏切るような選択をするならば絶対に許さないと各国の指導者らに温暖化対策の実行を迫りました。あのトランプ大統領も着席をされておられたようでございます。次代を担う若者により良い環境を引き継いでいくことは現世代の責務であります。
 グテーレス国連事務総長は、温暖化が進む現状を気候非常事態と捉え、二〇五〇年までの温室効果ガスの実質排出ゼロなどを各国に求めており、サミットでは六十五か国がその求めに応じたとのことであります。
 このように、各国の対策が加速する一方、総理はこの会議に参加しませんでした。温暖化への危機感、温暖化対策の重要性を認識するのであれば、日程を最優先して総理の認識を示すべきだったのではないですか。
 総理の気候変動問題に対する御認識及び気候行動サミットを欠席した理由、経緯について総理の説明を求めます。
 次に、我が国の温室効果ガス削減のための対策についてお伺いします。
 我が国は、長期戦略の目標が大きく見劣りするだけではございません。ESG投資の流れもあり、国際的にダイベストメントが広がり、特に石炭火力の削減が強く求められているにもかかわらず、政府は、環境アセスメントなど既存の政策の寄せ集めで何とかしのごうという姿勢でございます。
 また、世界の潮流となっているカーボンプライシングについては、ヨーロッパ諸国はもちろんですが、中国も段階的な導入を開始をしております。我が国は、何度も政府部内で同じような検討を繰り返すばかりで、いつになったら導入は実現するのでしょうか。低炭素化、それに続くカーボンニュートラルの実現のためには、イノベーションに過剰な期待をするのではなく、カーボンプライシングなどの具体的な対策の早期の導入が必要と考えますが、総理の御認識をお伺いします。
 次に、廃プラスチック問題についてお伺いをいたします。
 六月に大阪で開催されたG20サミットでは、海洋プラスチックごみによる新たな汚染を二〇五〇年までにゼロにすることを目指す大阪ブルー・オーシャン・ビジョンが合意をされました。これについては、主要国が共同して海洋プラスチック問題の解決を目指す第一歩として評価する声がある一方で、三十年先という目標設定では遅過ぎること、プラスチックの使用削減について触れていないこと、法的拘束力のある国際的枠組みではないことなどから、不十分との批判もございます。この内容で果たして十分な効果を上げることができるのでしょうか。総理の御見解を伺います。
 我が国の廃プラスチック処理は、欧州ではリサイクルに位置付けられていない焼却処理による熱回収の割合が高いことが指摘をされております。これは、循環型社会形成推進基本法に定める3R、リデュース、リユース、リサイクルですが、これの優先順位と異なっており、地球温暖化問題の観点からも問題と言えます。また、これまで我が国は廃プラスチックの一部を輸出してきましたが、中国等の輸入規制、バーゼル条約における規制強化などにより、国内の廃プラスチック処理が逼迫し、熱回収優先から脱却できないことも懸念をされます。
 我が国は、環境先進国として、過剰に使われているプラスチックの使用抑制や代替製品の利用を促進することでプラスチックに依存した社会からの脱却を目指すべきと考えますが、総理の御見解を伺います。
 次に、財政、金融に関してお伺いをいたします。
 いわゆるアベノミクスの失敗により、財政健全化も後退をしております。非現実的な高い成長率を想定してもなお目標の達成は困難と見込まれており、また、百兆円超えの予算規模が既成事実化する中、政権が本気で財政健全化に取り組むのであるならば、堅実な具体策を提示すべきではないでしょうか。総理の御見解を求めます。
 アメリカではFRBが二会合連続で政策金利の利下げを決定し、欧州ではECBが量的緩和の再開を表明いたしました。こうした中、日銀が金融政策方針を現状維持としたことへの評価について、政府の見解を伺います。
 米中貿易摩擦の影響により海外経済は減速し、下振れリスクが高まっている中、安倍政権は消費増税を断行しました。今後、消費が大きく落ち込むことが危惧をされております。日銀は、物価安定目標に向けたモメンタムが損なわれるおそれが高まる場合、ちゅうちょなく追加的な金融緩和措置を講ずるとしております。増税後の内需の状況次第では更なる追加緩和を行うべきであるとお考えでしょうか。総理の認識をお伺いをいたします。
 一方、普通国債発行残高に占める日銀の保有割合が五割を占めるなど、日銀の資産買入れは限界に達しつつあります。また、銀行業界からは、マイナス金利の深掘りに対し、企業の投資行動に与える効果を疑問視する声が上がっています。日銀による追加緩和の余地、有効性について、総理の見解を伺います。
 大規模な金融緩和により、様々な副作用が現れております。貸出金利の低下により銀行の収益は圧迫され、特に体力の弱い地方銀行は経営が苦しく、スルガ銀行等が不正融資に走る一因になったとの指摘がございます。また、約六割の地方銀行が十年後の二〇二八年度に最終赤字になるという日銀の試算もあります。地域金融の現状に対する総理の認識、健全な地域金融に向けた課題について、政府の見解をお伺いをいたします。
 二年連続で基準地価が上昇しています。超低金利による資金調達コストの低下等を背景に、内外の投資マネーが国内投資を過熱しているとの見方があります。基準地価の上昇や地域間格差に関する総理の御見解を伺います。
 また、人気観光地等における外資による不動産取得の動きを警戒する指摘もあります。こうした海外マネーの流入に対する総理の考え方をお伺いをいたします。
 さらに、銀行による不動産向け融資が過熱状態にあり、貸出残高ももう既にバブル期を超え、最高水準となっております。これは実需によるものなのでしょうか、それとも投機によるものなのでしょうか。総理の御認識を伺います。
 次に、同一価値労働同一賃金の実現に向けた取組についてお伺いをいたします。
 昨年六月、働き方改革関連法が成立し、来年四月から正規、非正規といった雇用形態による不合理な待遇差を禁止する改正規定が適用されることとなります。しかしながら、企業の準備は必ずしも整っているとは言えない状況にあり、制度の周知もまだ不十分な状況にあるのではないでしょうか。政府は、施行日を前に、どのような対策と周知を図っていくのでしょうか。その進捗状況及び把握状況について政府の説明を求めます。
 パワーハラスメント対策については、さきの通常国会において、企業に対して措置義務を課す改正労働施策総合推進法が成立をいたしました。しかし、ハラスメント行為そのものの禁止規定がない点や、当事者、被害者の範囲が限定的である点で不十分な内容であると言わざるを得ません。私どもは野党共同で、セクハラ行為自体を禁止する対案や社外からのパワハラも規制する対案を提出をしましたけれども、与党の賛同を得ることができませんでした。
 しかし、本年六月には、ILO総会において仕事の世界における暴力とハラスメントに関する条約が採択をされ、日本政府も賛成票を投じました。今後は、条約の批准に向けた更なる国内法の整備に早急に取り組む必要がありますが、その検討状況について政府に説明を求めます。
 また、今もハラスメントに苦しむ労働者の方々がいる現状を踏まえ、日本企業の九九%は中小企業とも言われる中で、大企業、中小企業に関係なく早期に法律を施行する必要があるとの指摘もございますけれども、政府の御見解はいかがでしょうか。
 次に、女性と就職氷河期世代に対する就労支援についてお伺いをいたします。
 近年、女性の就業者数は約三千万人となり、今や女性の労働参画は我が国の成長を支える重要な柱であります。総理はしばしばアベノミクスの成果として就業者数が増えていることを強調されておりますが、女性についてその雇用形態を見ると、就業者の五五%がパート、アルバイトなど不安定な非正規雇用でございます。また、出産を契機に離職する割合は五〇%近くと、依然として高い状況にございます。さらに、賃金など構造的な男女間格差がいまだに存在する中、その是正に向けた政府の取組もまだまだ不十分です。働く意欲のある女性のキャリア形成やキャリア継続のため、従来の施策を検証した上でより実効性のある就労支援を図る必要があると考えますが、総理はどのようにお考えでしょうか。
 就職氷河期世代に対しては、政府は、骨太の方針二〇一九において、非正規雇用者や長期無業者など百万人に対して三年間の集中的な支援を行い、正規雇用者を三十万人増やすことを目指すとしております。しかし、その内容は総花的で、各省の従来からの施策の延長線という感が否めません。三十万人の正規雇用化の根拠とその実行可能性、その後のフォローアップなど、どのように考えているのか、総理の御見解を伺います。
 みんなちがって、みんないい。
 新しい時代の日本に求められるのは、多様性であります。みんなが横並び、画一的な社会システムの在り方を根本から見直していく必要があります。多様性を認め合い、全ての人がその個性を生かすことができる。そうした社会をつくることで、少子高齢化という大きな壁も、必ずや克服できるはずです。
 私の言葉ではありません。四日にこの議場で行われた第二百回国会における安倍内閣総理大臣所信表明演説の中の一節でございます。感激をいたしました。やっと気付いてくださったのか。しかし、幾らほえても張り子の虎、すなわち中身がない、では演説を聞かれた国民は失望をしてしまいます。不言実行、有言更なりであります。
 これからが私の質問でございます。
 来年の東京オリンピック・パラリンピック大会に向けてユニバーサルデザインの町づくりや心のバリアフリーの取組が行われていますが、価値観やライフスタイルの多様化が進んでいる現状からすればまだまだ不十分です。共生社会の実現のため、誰一人取り残さないという強いメッセージを政治の側が発することが求められております。
 私どもは、誰もが個人として尊重される多様性ある社会を目指して、手話言語法案、情報コミュニケーション法案、LGBT差別解消法案等の法案を衆議院において共同提案しております。しかし、与党は一切審議に応じておりません。
 手話は、コミュニケーション手段であると同時に、日本語と同等の第一言語です。聾者が手話言語を習得する機会を拡大し、手話文化の継承、発展を図る手話言語法案、そして、全ての視聴覚障害者等に対し、情報の取得やコミュニケーション手段についての選択の機会を確保、拡大していく情報コミュニケーション法案の制定が今こそ求められていると考えます。総理のお考えをお聞きを申し上げます。
 民間の調査によりますと、日本ではLGBTなどの性的マイノリティーに該当する方の割合が八%以上に達すると言われております。いわゆるソジハラスメント、SOGIハラスメントですね、対策については、さきの通常国会において女性活躍推進法等改正案に対する両院の附帯決議にも盛り込まれ一定の前進が見られましたが、その進捗状況について政府の説明を求めます。
 さらに、性的指向や性自認にもかかわらず、誰もが差別されることなく自由に生きる社会を実現するため、行政機関、事業者による不当な差別的取扱いの禁止やハラスメントの防止についてはしっかりと法律で定める必要があると考えますが、総理の御所見を伺います。
 性別を問わずその個性と能力を十分に発揮することができるジェンダー平等社会を実現するため、野党会派共同で選択的夫婦別姓法案や性暴力被害者支援法案等の法案を提案をしておりますが、これまた与党は一切審議に応じておりません。特に、選択的夫婦別姓については、本年七月に日本記者クラブで開かれた七党首討論会で、制度導入に賛成かとの質問に対し、ただお一人、自民党総裁であられる総理だけが手を挙げず、大きな話題となったところでございます。
 国際社会の共通目標である持続可能な開発目標、SDGsでは、ジェンダー平等の実現を掲げております。総理は、さきの通常国会で、SDGsの達成に尽力し、SDGsの強い担い手たる日本の姿を国際社会に対して示す旨述べておられました。にもかかわらず、選択的夫婦別姓の導入を求める国連の勧告は放置したままでございます。
 総理は、先月の国連本部の会合で、SDGsに関する実施指針を年内に改定し、新たな取組を示す方針を表明されましたが、その取組に選択的夫婦別姓を入れるつもりがあるのか、また、婚姻後も姓を変えない権利を認めることこそが、SDGsが目指す誰一人取り残さない社会の実現につながるのではないでしょうか。総理の御見解を伺います。
 天皇陛下が五月一日に即位をされ、御即位に伴う式典が間近に迫ってまいりました。国民の一人としてお喜びを申し上げますとともに、今年三月の予算委員会でも私は同様の質疑をさせていただきましたけれども、幾つかの課題に対して政府の対応は遅きに失すると言わざるを得ません。
 まず、皇族、とりわけ男性皇族の減少に伴う問題でございます。
 平成二十九年の退位特例法の附帯決議では、安定的な皇位継承、女性宮家の創設等が先延ばしすることのできない重要な課題と位置付けられ、皇位継承後、政府は速やかに検討を行うこととされています。
 我々野党としても、この問題について党内議論を進めてきました。一方、これまで政府は、一連の式典に全力を尽くした上で対応するとの見解を示すにとどまっております。速やかに本格的な検討を進めていくべきだと考えますが、今後の検討スケジュールはどのようになっておられるでしょうか。総理の御答弁を求めます。
 また、象徴天皇の在り方を今後とも堅持し、安定的な皇位継承を確保していくためには、国民のコンセンサスを得ながら進めていくことが重要でございます。そのためには、国民の総意を探り、現実的な解決策を導き出す、国民の代表が集う場であるこの国会において真摯な議論を行うことが求められているのではないでしょうか。総理の見解をお伺いをいたします。
 次に、このことも予算委員会でやりましたが、恩赦についてお伺いをいたします。
 政府は、天皇陛下が即位を宣言される今月二十二日の即位礼正殿の儀に合わせて恩赦を実施する方向で調整を行っていると報道をされています。皇室の慶弔事に伴う恩赦としては、一九九三年六月の天皇皇后両陛下の御結婚以来、二十六年ぶりとなるそうでございますが、国民には正直、なじみのない制度です。
 そこで、まずお伺いしますが、国民にはなじみのない恩赦という制度について、歴史的意義について、政府の説明を求めます。国民に分かりやすいようにお願いをいたします。
 また、恩赦は、更生への励みになるという意見がある一方で、三権分立の原則から、行政の権限で司法の判断を変えるのが適切なのかという疑問も指摘をされており、恩赦の実施についてはどのように国民の理解を得るおつもりなのでしょうか。政府の答弁を求めます。
 加えて、今回の恩赦は、被害者への配慮や再犯防止推進の観点から、罰金刑を受けた人の資格制限などを回復する復権だけを対象に実施する方向で調整が進められているとも伺っておりますが、その過程では、公平性や透明性を確保し、国民への十分な説明が必要ではありませんか。今後、恩赦が実施される場合、その対象となる罪や刑の種類をどのように定め、どのような手続によって実施されることになるのか、政府の説明を求めます。
 最後に、耳の痛い話かもしれませんが、長期政権の弊害について申し上げなければなりません。
 森友学園への国有地売却問題、加計学園の獣医学部新設問題、毎月勤労統計の不正疑惑、金融庁審議会の報告書受取拒否事案、イージス・アショアの配備候補地への説明の不手際等々、政権の緩み、おごりは枚挙にいとまがございません。そして、ここが重要なところでもありますが、官僚のそんたくが行政の中立公平性をゆがめていると言われるような事態に、残念ながらなってしまっております。また、憲法、法律、規則にのっとって要求する言論の府である国会、予算委員会の開催要求を無視するなど、その強権的体質は看過できません。長きをもってよしとせず、というよりは、権力は腐敗をする、絶対的権力は絶対に腐敗をするというジョン・アクトンの言葉で本日の質問を閉じさせていただきたいと思います。
 御清聴、誠にありがとうございました。(拍手)

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 長浜博行議員にお答えをいたします。
 政府においては、台風の接近前から防災担当大臣が出席して関係省庁災害警戒会議を開催したほか、停電の解消に時間を要している状況等を踏まえ、九月十日には防災担当大臣も出席して第一回関係省庁災害対策会議を開催し、その後、これまでに同会議を合計十四回開催するなど、対応を強化してきたところです。
 十一日の組閣後の私の記者会見では、冒頭において、災害の初動対応の状況等を踏まえ、自衛隊も派遣し、昼夜を分かたず停電の復旧作業を進めていること、現場主義で住民の方々へのきめ細かな支援を行っていく方針であること等を表明いたしました。
 また、翌十二日には新任の武田防災担当大臣も現地入りし、十三日には閣僚懇談会においてその報告も聴取の上、改めて私より必要な指示を行いました。
 このような政府全体で切れ目のない対応を行ってきており、内閣改造により台風第十五号に関する政府の対応が遅れたという指摘は当たりません。
 また、今回の停電対応においては、台風第十五号の上陸直後から、東京電力や千葉県内の自治体に政府職員を派遣し、政府、自治体と東京電力の間で緊密な連携を図ってまいりました。
 しかしながら、停電の復旧について、当初の見通しから大幅な遅れが生じたことは事実です。停電の復旧見通しを迅速かつ的確に公表することは重要であり、政府全体の検証チームや経済産業省の審議会において、被害状況を把握するための体制面の課題を含め、徹底的かつ客観的に検証してまいります。
 台風十五号による災害からの復旧対応についてお尋ねがありました。
 今般の台風第十五号による暴風雨により、極めて多くの家屋に被害が生じ、被災者の方々の日常生活に著しい支障が生じたことから、災害救助法の制度を拡充して、一部損壊の住宅のうち、屋根等に日常生活に支障を来す程度の被害が生じた住宅については、恒久的な制度として支援の対象とすることといたしました。
 また、今回の停電への対応に関しては、送配電設備の保守点検や設備投資の状況などについて、専門家により構成される経済産業省の審議会において客観的かつ徹底的に検証してまいります。
 被災した森林の復旧整備に当たっては、森林整備事業として支援を行うとともに、所有者のみでは手入れが行き届かない森林については、森林経営管理法に基づき、市町村が公的に管理する制度を円滑に運用してまいります。
 さらに、今年度から森林環境譲与税が市町村に譲与されているところであり、補助事業と併せ、市町村等による森林整備が進むよう取り組んでまいります。
 これらの対応を含め、台風第十五号による災害からの復旧について、政府として全力で取り組んでまいります。
 中東ホルムズ海峡の現状についてお尋ねがありました。
 我が国政府は、先般のサウジアラビアの原油施設への攻撃を強く非難しています。ホーシー派の能力に鑑みれば、本件攻撃がホーシー派によってなし得るものと考えることは困難ですが、本事案の評価については、引き続き、関係国と連携しつつ、情報収集、分析を進めていきます。
 我が国の原油輸入の約八割が通過するホルムズ海峡における航行の安全を確保することは、我が国のエネルギー安全保障上、死活的に重要です。ホルムズ海峡付近では、六月の我が国関係船舶への攻撃事案を含め、航行の安全に影響を及ぼすような事案が複数発生しており、同海峡を含む中東地域における緊張の高まりを懸念しています。我が国としては、今後も関係国と緊密に連携しつつ、地域の緊張緩和のため、粘り強い外交努力を継続していきます。
 米主導海洋安全保障イニシアチブについては、関係国とも連携しながら情報収集及び分析を行いつつ情勢を注視しているところであり、予断を持ってお答えすることは差し控えます。
 いずれにせよ、中東における我が国関係船舶の航行の安全を確保するためにどのような対応が効果的かについては、原油の安定供給の確保、米国との関係、イランとの関係といった点も踏まえつつ、様々な角度から検討を行い、総合的な判断を行ってまいります。
 日ロ平和条約交渉についてお尋ねがありました。
 私は、北方領土返還要求全国大会のたびに元島民の代表の方々とお会いし、元島民の皆様のお気持ちに寄り添いながらロシアとの交渉を進めています。
 長門会談では私とプーチン大統領が自らの手で平和条約を締結するとの真摯な決意を表明して以降、新しいアプローチで問題を解決するとの方針の下、航空機による元島民の方々のお墓参りが三年連続で実現し、本年はこれまで何年も訪問できなかった場所にも訪れることができました。北方四島における共同経済活動についてもパイロットプロジェクトが始まっています。このように、北方四島において日ロのこれまでにない協力が実現しています。
 北方領土は、我が国が主権を有する島々です。政府としてこの立場に変わりはなく、平和条約交渉の対象は四島の帰属の問題であるというのが日本側の一貫した立場です。北方領土に対する我が国の主張は基本ラインを大きく後退させたとの指摘は全く当たりません。
 十月二日の弾道ミサイル対応についてお尋ねがありました。
 我が国に飛来する弾道ミサイルへの対処を含め、我が国の防衛や緊急事態への対処に直接必要となるような情報については、我が国独自の情報収集に加えて、同盟国である米国との情報協力により、万全の態勢を取っているところ、十月二日の北朝鮮による弾道ミサイル発射に際しても、政府としては情報収集、警戒監視に万全を期したところです。
 政府としては、今後とも、一層の緊張感を持って情報収集及び分析と警戒監視に全力を挙げ、いかなる事態にあっても国民の命と平和な暮らしを守り抜いてまいります。
 大和堆周辺水域における漁業取締り方針と今回の衝突事案に関する事実関係についてお尋ねがありました。
 日本海大和堆周辺の我が国排他的経済水域における北朝鮮漁船等による操業は、違法であるのみならず、我が国漁業者の安全操業の妨げにもなっており、極めて問題であると考えております。このため、我が国漁業者が安全に操業できる状況を確保することを第一に、水産庁漁業取締り船及び海上保安庁巡視船を重点的に配備し、放水等の厳しい対応によって我が国排他的経済水域から退去させています。
 今回の衝突事案については、十月七日午前九時七分頃、日本海大和堆の我が国排他的経済水域内において水産庁取締り船と北朝鮮籍と見られる船舶が接触し、漁船が沈没しましたが、水産庁取締り船が救助に当たり、漁船の乗組員によれば全員が救助されたとの返答を受けました。
 救助された乗組員については、北朝鮮籍と見られる他の漁船に移乗しており、また、今回沈没した漁船による違法操業は確認されていないこと等から、身柄の拘束といった強制措置は行わず、水産庁取締り船が厳重に警告の上、我が国排他的経済水域から退去させております。また、北朝鮮側に対し、北京の大使館ルートを通じて抗議を行っております。
 政府としては、引き続き、我が国排他的経済水域内での外国漁船による違法操業の防止のため、毅然として対応してまいります。
 拉致問題についてお尋ねがありました。
 昨年六月及び本年二月の米朝首脳会談において、トランプ大統領が私の考えを直接金正恩国務委員長に伝えてくれたことは、大きな成果でありました。
 五月にトランプ大統領が国賓として訪日した際には、拉致被害者の御家族と再び時間を取って会ってもらい、御家族の皆様の話にじっくりと耳を傾けていただきました。その際、拉致被害者の御家族から手紙をお渡しし、それに対し、後日、トランプ大統領から御家族を勇気付ける直筆の返事が送られてきました。これを御家族は大変温かい気持ちで受け止めておられます。
 九月の国連総会の際の日米首脳会談では、私からこのことに言及しつつ、大統領の拉致問題への一貫した支持に謝意を表し、今後とも日米間で緊密に連携していくことを確認しました。
 また、G20大阪サミットの際に行われた日中首脳会談においては、習近平主席から、六月の中朝首脳会談において日朝関係に関する私の考えを金正恩委員長に伝えたとの発言があり、その上で、習主席から、拉致問題を含め、日朝関係改善への強い支持を得ました。
 韓国も、昨年四月の南北首脳会談を始めとする累次の機会において、北朝鮮に対して拉致問題を提起しています。
 拉致問題の解決に向けては、我が国自身が主体的に取り組むことが重要です。私自身、条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う決意です。御家族も御高齢となる中、一日も早い解決に向け、引き続き米国等と緊密に連携しながら、冷静な分析の上に、あらゆるチャンスを逃すことなく果断に行動してまいります。
 今後とも、我が国として、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して国交正常化を目指してまいります。
 アフリカ外交についてお尋ねがありました。
 TICADは、一九九三年のスタートから現在に至るまで、アフリカのオーナーシップを尊重しつつ、国際社会とのパートナーシップを促進し、国連の関連機関やNGOも広く参加する、他に例を見ない透明性が確保された開かれたフォーラムとして高く評価されていると認識しています。
 アフリカに対する直接投資や年間輸出は十位以内に入っておらず、今後拡大していく大きな潜在性があることを踏まえ、今回のTICAD7では、TICAD史上初めて政府首脳と民間企業が直接対話するセッションとして官民ビジネス対話を開催しました。
 アフリカは、世界の四分の一以上を占める五十四か国を擁する二十一世紀最大のフロンティアです。我が国は、アフリカとの関係を強化し、アフリカ自身が主導する発展を力強く後押ししていきます。そのため、経済分野においては、ODAも戦略的に活用しながら、アフリカにおけるビジネス環境改善に貢献し、アフリカへの民間投資を促進していく考えです。
 政府として、第三国のアフリカに対する外交戦略についてお答えする立場にはありませんが、我が国としては、引き続き、日本の強みや日本らしさを生かした取組を行っていく考えです。
 気候変動問題に対する認識についてお尋ねがありました。
 国連気候行動サミットについては、宮中行事のため出席することがかないませんでしたが、我が国は、パリ協定に基づき本年六月に策定した長期戦略において、今世紀後半のできるだけ早期に脱炭素社会を実現することを目指す旨公表しています。
 国連総会の機会にグテーレス事務総長と会談を行った際には、私から、日本政府は、パリ協定の下で果たすべき責任はしっかりと果たし、気候変動問題に対し貢献していく旨表明しました。我が国は、長期戦略に基づき、イノベーションに光を当て、環境と成長の好循環を加速し、気候変動対策を推進し、世界の脱炭素化を牽引してまいります。
 低炭素化やカーボンニュートラルの実現のための具体的な対策についてお尋ねがありました。
 昨年十月のIPCC一・五度C特別報告書によれば、二〇五〇年前後にカーボンニュートラルを実現する必要があるとされています。
 こうした脱炭素社会の実現は、これまでの延長線上の発想や取組では困難であり、人工光合成や水素社会の実現など、非連続なイノベーションを起こすことが不可欠です。
 このため、先般の大阪サミットでは、G20の研究機関を結び、世界の英知を結集するRD20の創設に合意するとともに、環境投資を一層促進するための情報開示に向けた国際スタンダードづくりなどの具体的な取組を進めています。まさに今週、世界トップレベルの研究者、産業界、金融界が一堂に会するグリーンイノベーションサミットを我が国で初めて開催いたします。世界の脱炭素化という究極の目標の実現に向かって、我が国はこれからもリーダーシップを発揮してまいります。
 プラスチックについてお尋ねがありました。
 海洋プラスチック問題の解決については、世界全体での取組が欠かせません。大阪ブルー・オーシャン・ビジョンについて、様々な御意見があることは承知しておりますが、先般のG20サミットでは、新興国も参加する形で、二〇五〇年までに新たな汚染をゼロにするとのビジョンを共有できたことは大きな一歩であると考えています。さらに、今回は、具体的な実施枠組みでも合意し、今後、各国の取組をフォローアップすることでビジョン実現に向けて効果が生まれるよう道筋もつくることができたと考えています。その際、プラスチックの海洋流出をいかに防ぐかが必要であり、使用を過度に抑制するのではなく、ごみの適切な回収、処分、海で分解される新素材の開発などに重点的に取り組んでまいります。
 その上で、持続可能な社会を実現する観点から、本年五月に策定したプラスチック資源循環戦略に基づき、使用の合理化やバイオプラスチックへの転換、リサイクル設備の増強などにも取り組んでまいります。
 財政健全化についてお尋ねがありました。
 安倍内閣では、経済再生なくして財政健全化なしとの基本方針の下、財政健全化に大きな道筋を付けてまいりました。この結果、政権交代前と比較して、国、地方を合わせた税収は約二十八兆円増加し、今年度予算における国の税収は過去最高、六十二兆円を超えるとともに、新規国債発行額は約十二兆円減少し、安倍内閣発足以来七年連続で減少しているところです。今後とも、経済再生と財政健全化の両立を図り、二〇二五年度のプライマリーバランス黒字化、同時に債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指してまいります。
 金融政策についてお尋ねがありました。
 金融政策については、各国の中央銀行が経済情勢を含む様々な状況を踏まえ判断するものであると考えており、具体的にコメントすることは控えたいと思います。
 我が国においては、日本銀行が経済、物価、金融情勢を踏まえつつ十分に議論した上で適切に判断されるものと考えており、黒田総裁は、追加緩和についても、政策のベネフィットとコストをしっかり比較考量した上で適切な措置を考えていく旨、説明されております。政府としては、引き続き日本銀行が二%の物価安定目標の実現に向けて努力をされることを期待しております。
 地域金融の現状と健全な地域金融に向けた課題についてお尋ねがありました。
 現時点において地域銀行の資本基盤は充実しておりますが、その経営環境は低金利環境の継続や人口減少等の影響により年々厳しさを増しています。政府としては、地域銀行が将来にわたる健全性を確保し、金融仲介機能を継続的に発揮することが重要と考えており、地域銀行に対して地域経済への貢献に向けた取組を促してまいります。
 地価上昇の要因などについてお尋ねがありました。
 今般の地価上昇は、景気回復などの背景にオフィス需要が堅調であることと、訪日外国人の増加などにより店舗やホテルの建設需要が高まっていることなどによるものであります。地方圏においても商業地の地価が平成三年以来二十八年ぶりに上昇に転じ、地価の回復傾向が地方にも広がっています。
 このように、現下の地価上昇は、土地の利便性、収益性などを反映した実需に基づくものであり、現時点において外資による不動産取得が懸念される状況にあるとは考えていません。
 銀行による不動産向け融資についてお尋ねがありました。
 銀行による不動産向け貸出しについては、足下の貸出残高は過去最高水準にある一方、貸出残高の伸び率は低い水準であり、一九八〇年代後半に生じた不動産バブル時とは異なっています。銀行による不動産向け融資が実需か投機かについて一概に申し上げることは困難ですが、政府としては、将来にわたり金融システムの安定性が確保されるよう、銀行の貸出動向等を注視し、適切な対応を行ってまいります。
 同一労働同一賃金についてお尋ねがありました。
 同一労働同一賃金の施行に向け、大企業のみならず、特に中小企業・小規模事業者に対し、周知や支援を図ることが重要と認識しています。このため、全都道府県に設置した働き方改革推進支援センターにおいて、中小企業そして小規模事業者へのセミナーや個別相談を実施するほか、都道府県労働局において事業主向け説明会を開催する等の支援を行っております。このような取組を通じ、同一労働同一賃金の実現に向けた取組を政府として全力で支援してまいります。
 仕事の世界における暴力とハラスメントについてお尋ねがありました。
 仕事の世界における暴力とハラスメントはあってはならないことであり、新たな国際労働基準の必要性、意義は大きいと考えられたため、日本政府としてもこの条約に賛成したところです。条約批准との関係では、国内法制との整合性を今後更に検討する必要がありますが、まずは、先般成立したハラスメント防止対策を強化する改正法の着実な実施等を通じ、暴力とハラスメントのない世界の実現に向けて引き続き尽力してまいります。
 改正労働施策総合推進法についてお尋ねがありました。
 パワーハラスメントの予防、解決に向けた事業主の取組を推進するため、本年五月末に成立した改正法では、事業主に対し、パワーハラスメントの防止のための相談体制の整備等の措置を義務付けました。改正法の施行日は、中小企業については、その負担に配慮し、十分な準備期間を設けるため、大企業の施行から二年間程度は努力義務としていますが、その間も可能な限り早期にパワハラ防止措置を講ずることができるよう、十分な支援措置を講じてまいります。
 働く女性の就労支援についてお尋ねがありました。
 安倍内閣では、女性活躍の旗を高く掲げて政策を打ってきており、この六年間で子育て世代の女性就業率は八・八ポイント上昇し、過去最高、今や二十五歳以上の全ての世代で米国を上回っています。正規雇用で働く女性の就業者数も着実に増加しています。政府としては、さきの通常国会で成立した改正女性活躍推進法の円滑な施行や、育児休業などの両立支援制度の普及等を通じて、引き続き女性の継続的な活躍を進めるための環境を整備してまいります。
 就職氷河期世代についてお尋ねがありました。
 雇用環境が厳しい時期に就職活動を行った就職氷河期世代の方々の活躍の場を更に広げるため、三年間の集中プログラムに基づき、きめ細かな伴走型の就職相談体制の確立や、受けやすく即効性のあるリカレント教育の確立といった支援策により、これまでの二倍のペースでの就業促進を目指すとともに、社会参加への支援が特に必要な方々には、息長く寄り添った支援を行ってまいります。また、実績のフォローアップについても、内閣官房に設置した就職氷河期世代支援推進室と関係府省が連携し、定期的に施策の進捗状況を確認しながら、また民間ノウハウも活用しつつ、政府を挙げて支援に取り組んでまいります。
 共生社会の実現についてお尋ねがありました。
 視覚や聴覚に障害のある方など、障害者の自立と社会参加の支援は、共生社会を目指す上で重要であると考えています。
 御提案の法案については、その取扱いも含め、国会において御議論いただくべきものと考えていますが、政府としては、昨年三月に策定した第四次障害者基本計画に基づき、手話通訳者の派遣や点訳等による支援を行うとともに、それらを担う人材を育成、確保するなど、情報アクセシビリティー、意思疎通支援の充実に向けた取組を進めています。
 障害や難病のある方々がその個性を発揮して生き生きと活躍できる社会をつくり上げるため、今後とも障害者施策の充実に取り組んでまいります。
 SOGI、ソジハラスメント対策についてお尋ねがありました。
 本年五月末に成立したパワーハラスメント防止対策の法制化等を内容とする改正法の附帯決議においては、その指針の策定に当たり、性的指向、性自認に関するハラスメントも雇用管理上の措置の対象になり得ること等を明記することとされています。
 現在、指針等については附帯決議の内容も踏まえた検討を進めており、今後、年内を目途に策定し、改正法の円滑な施行に向けて取り組んでまいります。
 性的指向、性自認への差別やハラスメントについてお尋ねがありました。
 性的指向、性自認に対する偏見や差別はあってはならず、多様性を受け入れる環境づくりが重要と考えます。
 政府としては、性的指向、性自認に関する啓発の充実や適切な相談対応、人権侵害の疑いのある事案への迅速な救済、パワハラ防止対策に関する改正法の着実な施行などを通じて、全ての人がお互いの人権や尊厳を大切にし、不当な差別やハラスメントのない社会の実現に向けてしっかりと取り組んでまいります。
 SDGsと選択的夫婦別氏制度についてお尋ねがありました。
 まず、御指摘のSDGsについては、人間の安全保障の理念に基づき、誰一人取り残さない社会を実現すべく、教育や保健の分野を始めとして国際社会の取組をリードし、SDGsの達成に向け貢献してまいります。
 他方、夫婦の別氏の問題については、家族の在り方と深く関わるものであり、国民の間に様々な意見があることから、その対応についてはSDGsの議論とは別に慎重な検討が必要と考えております。
 安定的な皇位継承に関する今後の検討スケジュールと議論の在り方についてお尋ねがありました。
 安定的な皇位の継承を維持することは、国家の基本に関わる極めて重要な問題です。男系継承が古来例外なく維持されてきたことの重みなどを踏まえながら、慎重かつ丁寧に検討を行う必要があります。
 また、女性皇族の婚姻等による皇族数の減少等については、皇族方の御年齢からしても先延ばしすることはできない重要な課題であると認識しています。この課題への対応等については様々な考え方、意見があり、国民のコンセンサスを得るためには十分な分析、検討と慎重な手続が必要です。
 政府としては、まずは、天皇陛下の御即位に伴う一連の式典や行事が国民の皆様の祝福の中でつつがなく行われるよう全力を尽くし、その上で、衆参両院の委員会で可決された附帯決議の趣旨を尊重し、対応してまいります。
 恩赦についてお尋ねがありました。
 現行憲法下の恩赦は、犯罪をした者の社会生活上の障害を取り除き、社会復帰を促すといった刑事政策的意義が重視されています。
 国家の慶弔禍福の際に恩赦を実施するかどうかや、実施する場合の内容については、内閣において、このような恩赦制度の趣旨や先例、社会情勢、国民感情等の諸般の状況を総合的かつ慎重に勘案して判断すべきものと考えています。
 恩赦を実施する場合には、その内容は閣議で決定し、天皇の認証、官報掲載等の手続を経ることとなります。実際に恩赦を実施する場合は、政府として、その内容及び趣旨を国民の皆様に御理解いただけるよう、真摯に説明することとなります。(拍手)

○世耕弘成君 自由民主党の世耕弘成です。
 私は、自由民主党・国民の声を代表して、安倍総理大臣の所信表明演説について質問をいたします。
 冒頭、八月の九州北部豪雨、先月の台風十五号など、相次ぐ自然災害の猛威にさらされた全国の皆様に、心からのお見舞いを申し上げます。特に、過去最高クラスの勢力で関東に上陸した台風十五号の被害は甚大でありました。政府には、千葉県を始めとした被災者の皆様に対して柔軟な支援を継続いただけますよう要請を申し上げます。
 昨日は、我が国EEZ内で北朝鮮漁船が水産庁の船に衝突、沈没するという事案が発生しました。我が国の主権がしっかりと行使されたのか、今後、政府には説明を尽くしていただきたいと思います。
 さて、私の座右の銘は臨済録にある随処作主という言葉であります。どのような立場になっても主体的に行動することの大切さを説いた言葉であります。
 私は、官房副長官、経産大臣として六年八か月余、内閣の内側から政権を支えてまいりました。内閣を離れ、参議院自民党幹事長という新たな立場となった今、改めて随処作主の精神で、今度は熟議の参議院という立場から、支えるべきは支えつつも、申し上げるべきことはしっかりと申し上げさせていただくという姿勢で臨んでまいります。
 私は、安倍総理と約二十年もの長きにわたって政治行動を共にしてまいりました。その根底には、総理の政治理念への共鳴があることはもちろんですが、どのような難局に直面しても冷静沈着で余裕を失わず、人の意見によく耳を傾ける。数え切れないほど同席をさせていただいた外国首脳との会談では、相手の提起した論点一つ一つ丁寧に応答し、相手の心をわしづかみにしていく。そして、難病を経験されたからでしょうか、人に対して何とも言えない優しさを示される。そういう総理の人柄に強く引かれたという面もまた大きいものがあります。
 しかし、国会審議の現場では、時々私の知る総理とは異なった一面がかいま見えることがあります。私は、安倍政権に否定的な立場の方にお会いすることがあると、その理由を尋ねるのですが、答弁のときの居丈高な態度が気に食わない、やじに一々反応するところが嫌いだといった理由を挙げる方が少なくありません。総理のふだんの人となりを知る者として、これほど残念で、もったいなく感じることはありません。
 総理、これからの国会審議では、是非、謙虚で丁寧な対応に徹していただくよう、強くお願いしたいと思います。
 さて、私たちは直近、選挙を経験いたしました。私は、自分の選挙は脇に置いて、全国三十都道府県を仲間の応援に回り、多くの有権者と触れ合いました。そこで聞かれたのは、政治の安定の継続を求める声であり、そのとおりの選挙結果が出たと思っています。
 しかし一方で、国民各層が将来に関して漠然とした不安を持っていることも痛感しました。配偶者が亡くなった後、一人でどう生活していけばいいのか、幼い子供が成人するまでの教育費を負担できるのだろうか、四十歳を超えた子供が正社員として就職できていないがどうすればいいのかといった、人それぞれの不安の声を数多く聞かせていただきました。
 こういった不安こそが、数字には明確に表れているアベノミクスの成果を国民が実感できない、消費にお金が回らない大きな原因だと考えます。
 全世代型社会保障改革を単なる制度論、予算論に終わらせることなく、国民が持つ将来への不安に政治がしっかりと向き合うことこそが重要だと考えますが、総理の御見解をお伺いします。
 直近の選挙を経験してきた参議院自民党としても、これら不安の声を集約し、政策的なスポットライトを当てる活動を充実させていくことを宣言したいと思います。
 特に不安の声が強く聞かれたのが、人口減少に苦しむ地方です。もちろん安倍内閣でも、地方に希望を持ってもらえるよう、地方創生の旗印の下、様々な取組を進めてまいりました。単に地方への再配分を進めるのではなく、それぞれの地域の自主性と独自の戦略を後押しするという地方創生の考え方は決して間違ったものではなかったと考えております。しかしながら、それぞれの地域の経済的な自立という最終的な目標には残念ながらまだ至っていないということは事実として受け止めなければなりません。
 私は、経産大臣の立場から、地域の経済的自立を目指した様々な取組を進めさせていただきました。例えば、スタートアップ企業一万社から百四十一社を選んだJ―Startup事業です。有力なスタートアップ企業というと、どうしても大都市に集まってしまいますが、なるべく幅広い地方から発掘するよう腐心をいたしました。
 例えば、山形県鶴岡市のスパイバー社は、世界で初めて人工合成のクモの糸を量産し、革新的な素材企業として注目を集めています。また、新潟県妙高市のコネクテックジャパン社は、独自の半導体チップ基板実装技術を誇る半導体ベンチャーですが、この技術もまた世界初のものであります。
 地域経済が真に自立をしていくためには、こうした革新的な企業が次々と生まれ、地域活力の源、そして雇用の場となっていかなければなりません。地域経済の中心的な担い手となる地域未来牽引企業の選定を全国で進めさせていただいたのも、この思いからであります。
 必要は発明の母とも言いますが、地域の厳しい状況は、裏を返せば、新たなテクノロジー活用に向けた格好の舞台であるとも言えます。過疎地における自動運転の走行実験の進展などが今後期待されます。
 来年度から地方創生は第二期のスタートを迎えるわけですが、こうした観点から、地方の真の自立に向けた地方創生のあるべき姿について、総理のお考えをお聞かせください。
 しかし一方で、最低限の医療体制すら整っていないのに、地方の自立、地方創生と立派なことを言われても困る、運転免許を返納して買物にも満足に出かけられない、後継者がおらず、年齢的に体力の限界で、地域にとって重要な事業を廃業せざるを得ないといった痛切な声が聞こえてきます。
 これらの問題は、過疎地に限った問題ではなく、いずれ近い将来都市部も直面する問題です。足下では人口流入の続く東京も、二〇二五年には人口のピークを迎え、その後にはピークアウトの局面に入っていきます。東京も含めた全国で確実に対処を迫られる問題として捉え、国民の不安の声に向き合っていく必要があります。
 そこで無視できないのが、国の財政支出の在り方であります。
 アベノミクス三本の矢については、第一の大胆な金融政策が我が国経済の大きな転換点となったのは周知のとおりであります。また、第三の矢、成長戦略についても、経産省で担当させていただいた様々な政策のほか、観光、農業などの分野に至るまで、道半ばとはいえ、内閣としてかなりのことをやってきたものと評価をしております。
 他方、第二の矢、機動的な財政政策は、果たして本当にやり切ったと言えるのでしょうか。大胆な金融緩和が続く中でも、国民の間のデフレマインドは根強く残っています。十二分の対策を講じてはいるものの、先日から実施された消費税率の引上げや、さらには不透明さを増す世界経済の情勢を踏まえれば、もう一段機動的な財政政策に目を向けることも必要ではないかと感じております。
 また、先ほどから申し上げている国民の将来への不安や地方の痛切な声に向き合っていくためにも、ある程度の財政出動は必要なのではないでしょうか。そして、将来への不安を解消することが消費を促進し、真のデフレ脱却につながると考えます。
 日本の財政には決して余力がないわけではありません。
 昨年の新経済・財政再生計画では、二〇二五年度の国、地方を合わせたプライマリーバランスの黒字化、債務残高対GDP比の安定的な引下げという目標を堅持することになりました。確かに、この二つの指標を見れば、我が国の財政状況はG7諸国の中でも最悪です。
 一方、単純な財政収支の対GDP比を見ますと、我が国の赤字は三・七%と、フランスの三・六%、米国の三・九%などと比較しても大差のない水準であります。すなわち、足下では、我が国の財政運営は諸外国と比べて極端にアクセルを吹かしている状況にはないと言えます。先ほど触れました再生計画では、財政再建目標と併せ、経済再生なくして財政健全化なしとの基本方針も確認されました。
 国の財務の健全性を見る場合、債務残高対GDP比率を重視するのが国際的な常識であります。本年七月の中長期の経済財政に関する試算においても、経済成長が実現されたケースでは、債務残高対GDP比の安定的な引下げが予想されています。経済の再生、下支えと国民の不安解消に必要な支出は大胆に行うべきとの方針は、政府とも共有できるものと考えます。
 現下の不安定な経済情勢や国民の不安を考えれば、更なる財政出動を図るべきと考えますが、いかがでしょうか。総理の御見解を伺いたいと思います。
 冒頭、台風十五号の被害について触れました。二週間以上を掛けてようやくおおむね解消されるに至った今回の停電は、電力の安定供給というふだんは意識もされないテーマについて、国民に大きな問いを投げかけてきたように感じております。
 今回の事案では、人口密度が低く迂回して送電できるネットワークがないエリアで停電が長期化しました。経営コストを下げ、料金を下げれば消費者は喜びます。そのためには、インフラ投資は当然最小限に抑えられます。しかし、それ一辺倒で本当に消費者のためになるのか。我々はもう一度しっかり考えなければならないのではないでしょうか。
 他方、関西電力の事件でエネルギー業界の在り方に国民から疑念を持たれたことは、残念の極みであります。
 ポピュリズムではなく、しかしながら村の内輪の論理でもないバランス、国際的な議論にも堪えられる現実性、こうした観点を備えた責任のあるエネルギー政策が今こそ必要だと言えるのではないでしょうか。
 昨年、私は、経産大臣として、第五次エネルギー基本計画の策定を担当しました。そこでは、二〇三〇年の再エネ主力電源化を明確に宣言するとともに、バランスと現実性を考慮し、CO2排出ゼロの電源として再エネと原子力を合わせて四四%、CO2を排出する電源として化石燃料由来のものを五六%とする二〇三〇年のエネルギーミックス目標を維持をいたしました。
 化石燃料を用い続ける我が国の計画は、海外から批判を受けることもあります。しかし、教条主義的に化石燃料を排除するだけではなく、現実的にCO2効率を改善をしていくという我が国の姿勢には、そのような批判は全く当たりません。
 例えば、蒸気を高温高圧にしてCO2排出を抑える超超臨界圧発電を途上国で導入することは、世界の環境改善に大きく貢献します。
 日本がやらなければ、質の低い石炭火力発電所が各国で増えてしまうだけという現実もあります。しかも、この技術については、我が国のオペレーション能力は世界でも指折りです。中国も着手し始めていますが、単に製造できるということと運営できるということは大きく違います。運営も含めた総合的な技術力を生かして効率化を進めていくことは、我が国から世界への大きな貢献となるのではないでしょうか。
 もちろん、石炭火力への資金を絞るダイベストメントの潮流も無視できない中、世界におけるレピュテーションリスクにも目を向ける必要はあります。
 バランスの取れた現実的なエネルギー政策を目指していくということについて、総理のお考えをお聞かせください。
 冒頭、参議院選挙について触れましたが、選挙において、国民の皆様から寄せられる不安、その裏返しとしての自民党への期待として私が数多く耳にしたのが、緊迫する安全保障環境への対応です。
 去る十月二日、北朝鮮から弾道ミサイルが発射され、我が国の排他的経済水域内に落下しました。北朝鮮の弾道ミサイル発射は関連する安保理決議に違反するものであり、我が国としても厳重に抗議の意思を示さなければなりません。
 ただし、今回のミサイル発射の脅威は、単にEEZ内に落ちたというだけではありません。日米両国政府を始めとする各国当局等の発表では、今回のミサイルは、迎撃が困難なロフテッド軌道で、しかも、沖合から発射されたとのことです。北朝鮮は、近年、ミサイルによる攻撃能力を迅速かつ着実に上げています。昨今、入手できる画像では、発射台付車両を用いて同時に多数のミサイルを発射することができるようになっています。固体燃料を用いたミサイルを発射台付車両や潜水艦から発射されると、事前に燃料注入等を把握し、迎撃に備えることができないので、我が国への脅威は格段に高まっています。
 これまで、弾道ミサイルへの対処能力の向上を図るために、政府ではイージス艦の追加配備などに努めてまいりましたが、船である以上、整備や補給の関係で港に戻る必要があり、二十四時間三百六十五日休みなく対応することにはかなり無理が掛かっています。
 日本全土を二十四時間三百六十五日守り抜くためには、陸上から弾道ミサイルににらみを利かせるイージス・アショアの配置が不可欠であることは間違いありません。イージス・アショアの配備により、弾道ミサイル攻撃に対する抑止力も大きく向上します。
 しかし、配置される地元住民の皆さんへの不安に寄り添う説明がなされなければ、地域で理解が深まることもありません。イージス・アショアが我が国国民の安全、安心を守り抜くために不可欠であることや、しっかりとした調査結果に基づいて候補地選定の理由を説明することはもちろん、住民の皆様の不安が解消されるよう、親身になって誠実に対応していくことが大切ですが、安倍総理のお考えをお聞かせください。
 今お伺いした北朝鮮問題に関して無視できないのが、韓国との協力関係であります。
 最近、韓国は、日韓軍事情報包括保護協定、GSOMIAを更新しないという理解に苦しむ決定を行い、北朝鮮に誤ったメッセージを送っているという現実があります。対ロシア、対中国を含め、日韓の結束を国際社会に示していくことは死活的に重要だと考えます。
 一方、GSOMIA破棄に至る動きの引き金となった韓国側の不誠実な対応、すなわち、旧朝鮮半島出身労働者問題に関して国と国との約束を守らないこと、そして、兵器に転用されるおそれがある物質についての韓国側の管理体制に不十分な点がある中で、日本からの申入れにもかかわらず、十分な意見交換の機会が長年なくなっていたことについては、毅然たる対応が必要であることは論をまちません。各種世論調査でも、こうした政府の姿勢は国民の支持を強く受けています。
 こうした難しい状況の下、韓国とどのように向き合い、どういうきっかけで両国関係を健全な関係に戻していくのか、総理の御見解を伺いたいと思います。
 次に、日本外交の基幹ともいうべき日米関係、特にその貿易関係についてお伺いをいたします。
 現地時間の九月二十五日、日米首脳会談において、総理とトランプ大統領は、日米貿易交渉の最終合意を確認し、共同声明に署名をされました。また、先刻、ワシントンで協定への署名が行われました。昨年九月の日米首脳会談において交渉を開始することで一致してから僅か一年、米国側の要求事項が相当強いものであったにもかかわらず、安全保障上の脅威を理由に導入をちらつかせていた自動車への追加関税を回避するとともに、米国産米の輸入枠も設けず、さらには日本の農業輸出を後押しする成果を得る形でまとめられたことに、交渉に当たられた茂木大臣始め関係者の努力は高く評価されるべきだと考えます。
 今回の日米貿易協定の主な成果を改めてお示しいただくとともに、それがどのように我が国の経済産業にメリットをもたらすかという点について、総理の御見解をお伺いいたします。
 同じく貿易関係では、我が国はRCEPの交渉にも臨んでいることを忘れるわけにはいきません。
 日中韓やASEAN、インド、オーストラリア、ニュージーランドを含み、妥結をすれば、世界人口の約半分、世界の国内総生産、そして貿易額でも約三割を占めるアジアで最大の自由貿易圏となるRCEPは、メガ経済連携協定であります。同時に、アジアを中心とする参加国の経済活性化だけではなく、関税自由化に今まで後ろ向きであった中国やインドを自由貿易圏へと組み込む点でも大きな意義があります。
 そのような背景もあって、私自身、経産大臣当時、RCEPの交渉には並々ならぬ決意を持って臨んでまいりましたが、関税引下げ交渉が大きく進んだこともあって、目標とする年内妥結も不可能ではない状況になりつつあると認識をしております。
 世界において保護主義の流れが強まる中、TPP11、日EU・EPA、日米貿易協定、そして、そこにRCEPが加われば、世界の主要な貿易協定に主導的立場で参加をしている日本は、今や世界の自由貿易の要となっているということになるわけであります。
 総理は、このRCEP交渉を我が国の国益という観点からどのように位置付けておられ、早期実現に向けてどのような方針で交渉に臨むお考えか、御見解を伺いたいと思います。
 続いて、日中関係についてお尋ねします。
 既に両政府間で合意をされていますが、来年春には習近平国家主席の国賓としての来日が決まり、日本と中国との間に良好な関係構築の機運が高まっています。中国ではちょうど建国記念日である国慶節を迎えましたが、安倍総理のお祝いメッセージがテレビやネットで広く視聴され、話題になっているとの報道もあります。
 日中関係の安定及び深化は、東アジアはもちろん、世界全体の繁栄に寄与することは明らかですが、一方で、世界各地での中国の影響力の拡大、特に港湾の権益などの中国国有企業などへの売却には注意を払う必要があります。
 このような情勢下、中国が推進する一帯一路政策についても、アフリカやタイにおけるいわゆる第三国協力など、我が国の国益を一つ一つ慎重に検討しながら、是々非々で進めていくことが肝腎だと考えます。
 こうした中、総理はどのように対中外交を進めていかれる御計画か、見解を伺いたいと思います。
 外交に関しては、ロシアとの関係も無視できません。
 安倍総理とプーチン大統領の会談は通算二十七回にも及び、私も、官房副長官として、またロシア経済分野協力担当大臣として、そのほとんどに間近で同席をし、両者の強固な信頼関係を目の当たりにしてまいりました。
 いまだ両国間で平和条約が締結できていないという不幸な状態から脱却するために、まず求められるのは、言うまでもなく、北方領土の返還に向けた動きであります。プーチン大統領であっても、現下のロシア国内での支持率低下状況などを踏まえると、大きな決断はできないという見方もありますが、強力な指導者であるプーチン大統領でなければ、この問題は難しいと私は考えます。
 この動きを加速させるべく、また、我が国企業のロシア市場への展開などを促進させるべく、八項目の協力プランをベースとして、対ロシア経済関係構築に努めてまいりました。北極圏における巨大なLNGプロジェクトの実現から、平均寿命の短いロシアに対するヘルスケア分野での協力など、数多くの成果が生まれてきています。
 一方で、八月のメドベージェフ首相の択捉島訪問や七月の竹島上空へのロシア空軍機の領空侵犯など、我が国として看過し難い事案も継続的に発生しています。
 こうした状況下、総理は、現在のロシア側の姿勢をどのように分析しておられるのでしょうか。また、どのような道筋で北方領土の返還や平和条約の締結を思い描かれているのでしょうか。御見解をお聞かせください。
 今年六月には、日本がホスト国となったG20サミットが開催され、総理は、データの自由な流通や電子商取引に関するルール作りを目指す大阪トラックを宣言されました。我が国やアメリカなどがデータの自由な流通を訴え、プライバシーを重視するEUはむしろ規制を強化することに熱心である一方、中国は国家主導によるデータの管理を主張するなど、国によって様々な考え方がある中で、来年六月に予定されているWTO閣僚会議までに実質的な進展を目指すと安倍総理が強調されたことは、政治的な推進力を与えたものとして評価をされます。
 大阪トラックのコンセプトを実現するためには、信頼性のある自由なデータ流通、すなわちデータ・フリー・フロー・ウイズ・トラスト、DFFTを確立させなければなりません。本年一月のダボス会議で安倍総理は、経済成長のエンジンはもはやガソリンではなくデジタルデータで回っていると主張されましたが、消費者や企業行動が生み出す膨大なデータについて、国をまたいで活用できる体制構築が今後の課題となります。ウイズ・トラストの信用の部分については、どこの国であればデータを共有できるのか、外交的な見極めが必要となってきます。
 我が国が標榜するコネクテッドインダストリーズの構築に関しては、企業と企業、機械と機械、人と人がデータを通してつながり、様々な製品やサービスが遠隔地で相互に連携する世界が描かれています。日本を支えてきた物づくり産業は、コネクテッドインダストリーズにより、ロボット、自動走行、ヘルスケアなどの次世代ビジネスへと発展する可能性を秘めています。
 日本の製造現場には正確なデータが大量に蓄積をされており、これらの利活用によって価値創出ができれば、日本が新たに強みを発揮していける領域を持つことができます。
 今後、どのような方向で大阪トラックを進めながら国際的なルールを創設し、それを我が国の経済産業の発展にどのように生かしていくのか、総理の戦略をお聞かせください。
 来年は、いよいよ東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されます。
 東京オリンピック・パラリンピックが日本にもたらす経済効果は三十兆円を超えるとも言われています。現在、ラグビーワールドカップが我が国で開催され、日本代表の三連勝もあって大きな盛り上がりを見せていますが、東京オリンピック・パラリンピックはこれを上回る盛り上がりを見せるものと思われます。
 ただ、肝腎なのはその後であります。この盛り上がりの火を消さないためにどのようにすべきか。そうした観点から、私は経産大臣当時、文字どおり身命を賭して二〇二五年の大阪・関西万博の誘致に取り組み、政府、国民が一丸となって何とかこれを実現することができました。
 東京オリンピック・パラリンピック、そして「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとして実施される大阪・関西万博、これらを通じて、総理はどのように日本全体の活性化につなげることを考えておられるのか、特に冒頭お尋ねした地方創生との関係も踏まえて御見解を伺いたいと思います。
 我々自民党は、さきの参議院選挙において、改憲議論を進める候補者か議論しない候補者かを選ぶ選挙であると訴えてまいりました。そして、参議院選挙の結果は、憲法改正について少なくとも議論すべきだという国民の審判があったことは明白であります。
 参議院選挙後の八月末から九月初めにかけて行われた世論調査でも、憲法改正に向けて各党が国会で具体的な議論をすべきという回答は七七%、内閣支持層では八四%、内閣不支持層でさえも七〇%となっています。選挙直後の別の新聞社による緊急世論調査では、今後、国会の憲法審査会で憲法改正に向けた議論が活発に行われることを期待するとした人は六六%となっています。各種世論調査も国民の声は憲法改正については少なくとも議論はすべきだということを示しています。
 しかし、忘れてはなりませんが、憲法改正の発議はあくまでも国会自身が行うものであります。行政府が行うものではありません。また、憲法改正は安倍政権のレガシーづくりにあるわけでもありません。憲法の審議を進めていく責任は国会にこそあります。熟議の院たる参議院として、建設的な議論を進める環境を我々は整えていかなければなりません。
 憲法改正の最後の判断は国民のものであります。この臨時国会において各党が憲法改正に対するそれぞれの意見をしっかりと開陳をし、さすがは参議院だと言われるような審議を進めようではありませんか。
 そこで、最後に、総理に参議院における憲法改正に関する議論に期待するところをお尋ねをし、私の代表質問を終わらせていただきます。(拍手)
 
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 世耕弘成議員から御質問をいただきました。
 質問の冒頭、厳しい、友情のゆえだと思いますが、厳しい御忠告もいただいたところでございますが、この忠告を拳々服膺し、そして、野党の皆様からも謙虚で丁寧な総理大臣だと言っていただけるように努力を重ねてまいりたいと、このように思います。
 全世代型社会保障改革についてお尋ねがありました。
 全世代型社会保障への改革は、安倍内閣の最重要課題です。これまでの社会保障システムの改善にとどまることなく、システム自体の改革を進めることで、子供からお年寄りまで全ての世代が安心できる社会保障制度へ改革を進めてまいります。
 その大きな第一歩として、消費税の使い道を見直し、十月一日から、三歳から五歳まで全ての子供たちの幼児教育、保育を無償化しました。来年四月からは、真に必要な子供たちの高等教育の無償化を行います。
 今後、国民の声にしっかりと向き合いながら、年金、医療、介護、労働など社会保障全般にわたって人生百年時代を見据えた改革を果断に進め、令和の時代にふさわしい誰もが安心できる社会保障制度を大胆に構想してまいります。
 地方創生についてお尋ねがありました。
 地方が真に自立するためには、未来への可能性あふれる産業、若者にとって魅力あふれる雇用の場をつくり上げることが必要です。
 地域社会に根付き、地域経済のバリューチェーンの中心的な担い手である地域未来牽引企業は、その核となるものです。さらには、特色ある農林水産物、観光資源など、それぞれの地方ならではの強みを生かすことで引き続き地方創生を力強く進めてまいります。
 ベンチャー企業の柔軟な発想力と行動力も、地域経済の活性化に向けた大きな力となっています。J―Startup事業による海外展開などの支援、地方へ移住し起業する際には最大三百万円を支給する制度など、地方にこそチャンスがあると考える若者たちの新しいチャレンジを後押しすることで魅力と活力あふれる地域経済をつくり上げてまいります。
 財政出動についてお尋ねがありました。
 安倍内閣としては、引き続き、経済再生なくして財政健全化なしとの基本方針の下、経済最優先で国民生活の安定に取り組んでいます。
 足下の我が国の経済については、輸出を中心に弱さが続いていますが、雇用・所得環境の改善や高い水準にある企業収益など、内需を支えるファンダメンタルズは引き続きしっかりしていると認識しております。
 その上で、米中間の貿易摩擦、英国のEUからの離脱など不透明さを増す世界経済の先行きをしっかりと注視し、下振れリスクが顕在化する場合にはちゅうちょすることなく機動的かつ万全の対策を講じ、経済の成長軌道を確かなものとします。
 バランスの取れた現実的なエネルギー政策の実現についてお尋ねがありました。
 エネルギー政策については、かねてより、安全性という大前提の下、いわゆる3Eの重要性が強調されてきましたが、安定供給の確保、経済効率性の追求、地球環境問題への対応といった視点について、世耕議員御指摘のとおり、バランスよく考慮することが必要と考えます。
 まず、資源の乏しい我が国においては、エネルギー源を多様化することで、化石燃料だけに依存しないエネルギーミックスを実現することが必要です。
 第二に、東日本大震災以降多くの原発が停止する中で、震災前と比べて電気料金が家庭用で約二三%アップしている現状を踏まえれば、経済効率性も踏まえた責任あるエネルギー政策を進めなければなりません。
 さらに、地球環境問題への対応も必要です。我が国自身、徹底した省エネと再エネの主力電源化などに取り組むと同時に、新興国においても、火力発電の高効率化などのイノベーションで世界全体での気候変動対策をリードしてまいります。
 3E、そして海外における潮流など様々な観点について、世耕議員御指摘のとおり、バランスをしっかりと取りながら、今後とも、責任あるエネルギー政策、現実的なエネルギー政策を展開してまいります。
 イージス・アショアの配備についてお尋ねがありました。
 厳しい安全保障環境の中、弾道ミサイルの脅威から我が国全域を二十四時間三百六十五日、長期にわたり切れ目なく防護することを可能とし、国民の命を守り抜くため、イージス・アショア二基の導入はどうしても必要です。
 こうした安全保障政策については、国民の皆様や地元の方々の御理解がなければ進めていくことはできないところ、イージス・アショアについて、説明資料の誤りや緊張感に欠けた不適切な対応があったことは極めて遺憾です。
 イージス・アショアの配備の決定に当たっては、あくまでも正確なデータに基づく客観的な検討が前提です。今後、調査の外部委託や専門家による検証などを通じ、不適切な調査を徹底的にやり直し、住民の皆様の不安が解消されるよう、正確で丁寧な説明を行うべく全力で取り組んでまいります。
 日韓関係についてお尋ねがありました。
 韓国は重要な隣国であり、北朝鮮問題を始め日韓、日米韓の連携が重要であります。日韓関係の根本を成す日韓請求権協定の違反状態を放置するなど、信頼関係を損なう行為を続ける韓国に対し、まずは国際法に基づき、国と国との約束を遵守することにより、日韓関係を健全な関係に戻していくきっかけをつくることを求めます。
 日米貿易協定についてお尋ねがありました。
 本協定は、まさに本日未明、米国ワシントンDCにおいて署名が行われました。
 我が国の幅広い工業品について、米国の関税削減、撤廃が実現します。日本の自動車、自動車部品に対しては、二三二条に基づく追加関税は課されないことを直接トランプ大統領から確認しました。
 農林水産物については、過去の経済連携協定で約束したものが最大限であるとした昨年九月の共同声明に沿った結論が得られました。とりわけ、我が国にとって大切な米について、関税削減の対象から完全に除外いたしました。さらには、米国への牛肉輸出に係る低関税枠が大きく拡大するなど新しいチャンスも生まれ、国益にかなう結果が得られたと考えています。それでもなお残る農家の皆さんの不安に対しても、万全の対策を講じてまいります。
 そして、今回の協定を、全国津々浦々、我が国経済の更なる成長につなげるため、年末に向けて、与党のお力も借りながら、総合的なTPP等関連政策大綱を改正する考えであります。
 具体的には、日本企業、日本産品等による新たな海外展開への支援、国内産業の競争力強化、農林水産業の生産基盤の強化、新市場開拓の推進の三つの柱に沿って万全の対策を講じてまいります。
 RCEP交渉についてお尋ねがありました。
 世界的に保護主義への懸念が高まる中で、これまでも我が国は、自由貿易の旗手として、TPPを始め自由で公正なルールに基づく経済圏を世界へと広げるために力を尽くしてまいりました。
 そうした中で、RCEPは、TPPに参加していない中国やインドを含めた十六か国が参加する枠組みであり、こうした国々の間で二十一世紀の経済ルールが共有されることは、この地域の安定と更なる繁栄に大きく寄与するものであると考えます。
 世耕議員にも大臣時代には強いリーダーシップを発揮をしていただき、常に議論をリードをしていただきました。その結果、RCEP交渉は大詰めを迎えております。関税引下げにとどまることなく、知的財産や電子商取引などのルールを含めた野心的な協定の早期妥結に向けて、引き続き我が国は主導的な役割を果たしてまいります。
 対中外交についてお尋ねがありました。
 昨年、日中関係は完全に正常な軌道に戻りました。来年の桜の咲く頃には習近平国家主席を国賓としてお迎えし、首脳間の往来だけでなく、経済交流、青少年交流など、あらゆるレベルでの交流を拡大し、日中関係を新たな段階へと押し上げ、日中新時代を切り開いていく決意です。
 御指摘のあった一帯一路については、インフラの開放性、透明性、経済性、債務の持続可能性といった国際社会共通の考え方を十分に取り入れた形で実施されることで、地域と世界の平和と繁栄に前向きに貢献していくことを期待しています。
 また、日中第三国市場協力については、このような国際社会共通の考え方に合致する形で、第三国の利益となるようなウイン・ウイン・ウインの企業間協力を推進していく考えです。
 日ロ平和条約交渉に関してお尋ねがありました。
 これはもう世耕議員御承知のとおり、ロシアとの交渉がうまくいくかは、静かに交渉できるかに懸かっています。交渉に悪影響を与えないためにも、現在のロシア側の姿勢をどのように分析しているかについて述べることは差し控えます。
 その上で、長門での会談で、私とプーチン大統領が、自らの手で平和条約を締結するとの真摯な決意を表明して以降、新しいアプローチで問題を解決するとの方針の下、航空機による元島民の方々のお墓参りが三年連続で実現し、本年はこれまで何年も訪問できなかった場所にも訪れることができました。元島民の方々からも高い評価をいただいております。
 北方四島における共同経済活動についても、パイロットプロジェクトが始まっています。このように、北方四島において、日ロのこれまでにない協力が実現しています。
 政府として、八項目の協力プランを含め、幅広い分野で日ロ協力を進めていく中で、領土問題を解決して平和条約を締結するとの基本方針の下、引き続きロシアとの交渉に粘り強く取り組んでいく考えです。
 大阪トラックについてお尋ねがありました。
 AI、IoT、ビッグデータが世界を一変させようとしている時代において、データこそが新しい付加価値の源泉です。世耕議員御指摘のとおり、とりわけメード・イン・ジャパンの信頼に裏打ちされた我が国の物づくり現場が有する豊富なデータは、我が国にとって大きな強みとなるものです。そして、このデータの国境を越えた自由な流通、活用を促すことで、ソサエティー五・〇時代のイノベーションを大きく加速し、我が国産業に新たな成長の可能性を生み出すことができると考えます。
 ただし、そのためには、自由な流通の前提となるプライバシーやセキュリティーの適切な保守、保護について、透明性が高く、公正かつ互恵的な国際ルールを整備することが必要です。こうした考え方の下、本年一月のダボス会議で、私から、データ・フリー・フロー・ウイズ・トラストという考え方を提唱しました。そして、六月のG20大阪サミットでは、米国のトランプ大統領、中国の習近平主席を始め二十七か国の首脳、WTO事務局長らの参加を得て、大阪トラックを立ち上げたところです。
 国際的な新たなルール作りに向けて、WTOの屋根の下、日本として引き続き主導的な役割を果たしてまいります。
 東京オリンピック・パラリンピック競技大会、大阪・関西万博についてお尋ねがありました。
 世界の注目が集まるオリンピック・パラリンピック、万博の開催は、全国の地域の魅力、日本の科学技術を世界にアピールし、地方創生、地域活性化等を通じた強い経済の実現につながる絶好の機会です。このため、東京大会では、参加国・地域と自治体との相互交流を図るホストタウンの取組等を通じて、開催地のみならず地域性豊かな日本各地の魅力を世界に発信し、地方創生、地域活性化につなげてまいります。
 また、大阪・関西万博は、成長戦略と連携させて、特に日本各地の観光地や地域資源を活用しながら、SDGsへの貢献、イノベーションの促進、インバウンド拡大による地域振興を進めてまいります。
 政府としては、地方の強みや魅力を最大限に引き出すため、今後とも、地方の皆様の情熱、独自の創意工夫を後押ししてまいります。
 憲法改正についてお尋ねがございました。
 憲法審査会の運営を始め参議院での憲法改正議論の在り方については、まさに参議院において、国会においてお決めいただくことであり、内閣総理大臣としてお答えすることは差し控えたいと考えております。
 その上で、お尋ねですのであえて申し上げれば、御指摘のとおり、さきの参議院選挙や最近の世論調査を通じて示された国民の皆様の声は、憲法改正について議論を行うべきであるというものであります。自民党は、既に憲法改正のたたき台を提示しています。立憲民主党を始め野党各党においても、それぞれの案を持ち寄っていただき、憲法審査会の場で国民の期待に応える活発な議論を行っていただきたいと思います。
 良識の府たる参議院において、与党、野党の枠を超えた議論が深められることを期待しております。(拍手)

 第200回国会 参議院本会議 第3号 令和元年十月九日(水曜日)午前十時一分開議

【発言順】
 議員     片山 虎之助
 内閣総理大臣 安倍 晋三

○片山虎之助君 
 現在の日韓関係は、国交正常化以降最悪とも言われています。
 文大統領は南北協調、半島統一への執着が強く、その分強い反日的な姿勢になっている感じがします。今回、一連の事態に日本政府は毅然と対応し、安易に妥協すべきでないと考えますが、一方、文大統領の任期満了まで二年間、このまま最悪な日韓関係を続けることが両国の将来のためによいのかどうか迷います。総理の今後の御認識をお伺いします。
 日中関係は急速に改善しつつあるという見方が多い昨今ですが、尖閣諸島周辺海域への中国公船の執拗な侵入や、東シナ海における中国による一方的な資源開発、さらには一帯一路構想の強引とも言える推進は一向に変えることなく続いています。これらには今後どのように対処されるおつもりですか。
 また、米中貿易問題は単なる貿易摩擦を超えて対立を深め、覇権争いの様相を呈しています。争いが長期化するのは必至です。長期の覇権争いに入った米中二国間で我が国はどういう立ち居振る舞いをするのがよいのか、御認識を伺います。
 安倍総理は、近時、金正恩委員長と条件を付けずに向き合うとの考えを再三表明されていますが、一向に事態進展は見られません。
 北朝鮮は五月から十一回にわたり新型のミサイルを発射し、二日朝発射のミサイルは島根県沖のEEZ内に着水、潜水艦発射弾道ミサイル、SLBMとの推定です。これは日本にとって深刻な脅威です。どう対処されますか。
 五日の米朝実務者協議は不調に終わりました。七日にはEEZ内で北朝鮮の漁船と衝突事故が発生しました。このような中で、今後の北朝鮮との交渉をどのように進めるお考えですか。お伺いします。
 さて、最後に、日本維新の会は、今後我が国にいかなる困難な事態が内外に出現しようとも、新しい令和の御代にふさわしい維新改革を成し遂げるため、全力で邁進していくことをお約束して、私の代表質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 片山虎之助議員にお答えをいたします。
 日韓関係についてお尋ねがありました。
 韓国は重要な隣国であり、北朝鮮問題を始め日韓、日米韓の連携が重要であります。
 日韓関係の根本を成す日韓請求権協定の違反状態を放置するなど、信頼関係を損なう行為を続ける韓国に対し、まずは国際法に基づき、国と国との約束を遵守することにより、日韓関係を健全な関係に戻していくきっかけをつくることを求めます。
 対中外交及び米中関係についてお尋ねがありました。
 尖閣諸島周辺海域を含む東シナ海における一方的な現状変更の試みについては、引き続き冷静かつ毅然と対応してまいります。私自身、首脳会談において、東シナ海の安定なくして日中関係の真の改善はないとの認識に基づき、日本側の強い懸念を伝えてきています。
 一帯一路については、インフラの開放性、透明性、経済性、債務の持続可能性といった国際社会共通の考え方を十分に取り入れた形で実施されることで、地域と世界の平和と繁栄に前向きに貢献していくことを期待しています。
 米中間で安定的な経済関係が構築されることは、日本のみならず、世界全体の持続的な経済成長に不可欠です。貿易制限措置の応酬はどの国の利益にもなりません。我が国は、いかなる貿易上の措置もWTO協定と整合的であるべきと考えています。こうした日本の基本的な立場については、これまでもトランプ大統領や習近平主席を始め米国及び中国の双方に対して、私自身を含め様々なレベルで伝えてきています。
 北朝鮮問題についてお尋ねがありました。
 弾道ミサイル発射が安保理決議違反であることは明白であり、こうした立場については、例えば先般のG7の際に行った日米首脳会談で、冒頭、私から北朝鮮の短距離弾道ミサイルの発射は安保理決議違反であり極めて遺憾である旨述べ、トランプ大統領から完全に理解する旨の発言があるなど、累次の機会に確認してきたところであります。引き続き、米国と緊密に連携し、安保理決議の完全な履行に努めてまいります。
 同時に、我が国としても、弾道ミサイルの発射を始めとする北朝鮮の軍事動向について、引き続き米国等と緊密に連携しながら、必要な情報の収集、分析及び警戒監視に全力を挙げるとともに、ミサイル防衛能力の強化を着実に進めてまいります。
 日本海大和堆周辺の我が国排他的経済水域における北朝鮮漁船による操業は極めて問題であり、政府としては、引き続き、我が国排他的経済水域内での外国漁船による違法操業の防止のため、毅然として対応してまいります。
 拉致問題の解決に向けては、我が国自身が主体的に取り組むことが重要であり、私自身、条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う決意です。御家族も御高齢となる中、一日も早い解決に向け、引き続き、米国等と緊密に連携しながら、冷静な分析の上にあらゆるチャンスを逃すことなく果断に行動してまいります。
 いずれにせよ、今後とも、我が国として、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して国交正常化を目指してまいります。(拍手)

 第200回国会 経済産業委員会 第6号令和元年十二月三日(火曜日)午前十時開会

【発言順】
 委員         岩渕 友
 経済産業大臣     梶山 弘志
 外務省大臣官房参事官 田村 政美

○岩渕友君 日本共産党の岩渕友です。
 本件は、北朝鮮を仕向地とする全ての品目の輸出入を全面的に禁止するという措置について、外為法に基づき承認を求めるものです。北朝鮮に対する貨物の輸出入の全面禁止措置という我が国独自の制裁措置は、二〇〇六年十月に北朝鮮による核実験を契機として、北朝鮮を対話の道に復帰させ、核問題の外交的解決を図るための手段として実施をされているものです。
 前回、二〇一七年の制裁措置延長後も北朝鮮は、その年の九月に六回目の核実験を実施、四月から十一月にかけて弾道ミサイルを十回発射するなど、度重なる国連安保理決議違反への対処として、二〇一七年には、北朝鮮への制裁措置を強化するなどとした四つの新たな国連安保理決議がいずれも全会一致で採択をされております。
 その後、朝鮮半島をめぐる情勢は大きく変化をしております。二〇一八年の六月には史上初の米朝首脳会談が開催をされて、その後、二回の会談が行われております。昨年四月には南北首脳会談も開かれるなど、北朝鮮の核・ミサイル問題の対話による平和的解決を目指す動きというのは大きく前進をしてきています。
 これらの前向きな変化は、いろいろな曲折はありますけれども、朝鮮半島の非核化と北東アジア地域の平和体制構築への一体的、段階的な発展につながるよう期待をしたいと思っております。その上で、本件には、北朝鮮を対話の道に復帰をさせて、核問題などの外交的な解決を図る手段として賛成をするものです。
 ところで、朝鮮半島の南、韓国をめぐる問題についてお聞きをしたいと思います。
 日本と韓国の間では貿易と人の交流が急減をしております。その発端となったのが、日本が韓国に対して行った、韓国向けの半導体材料の輸出規制の強化です。当時の世耕経産大臣は、元徴用工問題への対抗措置ではないというふうに述べた上で、元徴用工問題について、韓国との信頼関係が著しく損なわれたと指摘をして、安全保障上の輸出管理は信頼関係が前提のため規制強化に踏み切ったと、こういうふうに説明をしました。
 財務省の貿易統計によると、十月の日本の対韓輸出は前年同月比で二三・一%減で、十二か月連続で前年同月を下回るということになっています。韓国の十月の日本車の販売は、前年同月比六割減の大幅な落ち込みということになっています。日本のビールが韓国で特に人気だということなんですけれども、日本の九月の韓国向けビール輸出は僅か五十八万円で、前年同月の七億八千四百八十五万円から激減をして、十月について言うと何とゼロ円ということになっているわけなんですね。そのほかにも、観光など様々な業界に影響が広がっていて、日本企業だけではなくて日本経済への影響も懸念をされる事態ということになっています。
 こうした下で、輸出管理に関する日韓両政府の局長級の政策対話の開催が発表をされました。この政策対話の開催がおよそ三年半ぶりだということで、そのための準備会合が、まさにあした、四日ですよね、ウィーンで開かれるということになっています。
 両国関係の悪化を食い止めて、関係を改善、進めていくということが重要だと考えるわけですけれども、大臣はどのような立場で当たっていくのでしょうか。

○国務大臣(梶山弘志君) 経済産業省としては、まさに輸出管理の視点から、こういう措置をとらせていただきました。
 今委員御指摘のように、十二月十六日の週に韓国との輸出管理政策対話が行うことになったわけですけれども、これ三年半ぶりであります。輸出管理をめぐる情勢認識等について意見交換をするほか、輸出管理の問題の懸案の解決に資するべく、両国の輸出管理について相互に確認をする予定としております。
 日本側としては、通常兵器キャッチオール制度の不備や審査体制の脆弱性、そして韓国側の輸出管理制度、運用が不十分である点について議論することを想定をしております。このような対話を通じて、韓国との間で大量破壊兵器等の不拡散に向けた協力が進むことを期待をしております。
 カテゴリーをAからBに分けたときの理由というのが、先ほども申しましたけれども、この政策対話がずっと三年ほど、その当時では三年ほど、申し入れてもなかなか実現がしなかったという点が一点、そして先方の輸出管理体制が非常に脆弱な体制、人数も含めて、質も含めて脆弱な体制であったということ、あと、キャッチオール体制が法制化されていない、法に当てはまっていないということもあってさせていただいたわけですけれども、こういった点が解消するようなものであれば将来また回復する可能性はあると思いますけれども、まずはそういった初歩的な確認をさせていただくということがまず第一であります。
 そして、三品目につきましても、これは輸出国側としての責任ということで、輸出国側の課題もあるわけですけれども、こういったものがしっかり管理した上で輸出されるように、兵器につながらない用途になるようにということでのやり取りをしっかりとしていくということになると思います。

○岩渕友君 GSOMIAは継続ということになりましたけれども、日韓関係の根本的解決には程遠いというのが実情です。
 そもそもの発端は、日本政府が元徴用工をめぐる韓国大法院の判決に対して真摯に向き合わなかったということがあります。二〇一八年の十月三十日、韓国の大法院は韓国の元徴用工への慰謝料請求を求める判決を行いました。これに対して、安倍首相は、その後の十一月一日の衆議院の予算委員会で、この問題は一九六五年の日韓請求権協定によって最終的に解決している、今般の判決は国際法に照らせばあり得ない判断と答弁をしています。
 けれども、政府は、請求権協定によって日韓両国間の請求権問題が解決されたとしても、被害に遭った個人の請求権を消滅させることはできないと公式に繰り返し表明をしてきました。
 さらに、原告が求めているのは、未払賃金や補償金ではなくて、朝鮮半島に対する日本の不法な植民地支配と侵略戦争の遂行に直結をした日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員への慰謝料の請求です。慰謝料の請求は、政府のこれまでの答弁でも、いわゆる財産的権利というものに該当しないとされてきました。
 十一月二十二日に、韓国政府がGSOMIAについて、いつでも効力を終了できるという条件付きで終了通告の効力を停止すると発表したことを受けて、茂木外務大臣が名古屋のホテルで記者会見を行っています。日韓関係の根本にある問題について、これ何と述べているでしょうか。

○政府参考人(田村政美君) お答え申し上げます。
 委員御指摘の韓国政府による発表を受けて、十一月二十二日、茂木外務大臣は臨時会見を実施し、その中で、概要以下のとおり発言しております。
 本日、韓国政府から日韓GSOMIAの終了通告を停止する旨の通告がありました。北朝鮮問題等への対応のため、安全保障上の日韓、そして、日米韓の緊密な連携が重要であります。現下の地域の安全保障環境を踏まえ、韓国政府としてもこのような戦略的観点から今回の判断をしたものと受け止めております。言うまでもなく、GSOMIAの問題と輸出管理は全く別の問題であります。輸出管理につきましては、韓国側からWTOプロセスを中断するとの通報があったことを受け、今後、関係当局間で対話がなされていくものと承知しています。現下、最大の課題、そして根本にある問題は、旧朝鮮半島出身労働者問題であり、韓国側に対して、一日も早く国際法違反の状態を是正するよう引き続き強く求めていきたいと思います。
 以上でございます。

○岩渕友君 日韓当局者の対話が再開をされるということなんですけれども、過去の植民地支配への真摯な反省の立場を土台にしなければ、解決の道は開かれていきません。
 二〇〇二年の日朝平壌宣言の第二項では、日本側は、過去の植民地支配によって朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのおわびの気持ちを表明したとあります。これは、北朝鮮だけではなくて、韓国に対しても言えることですよね。大臣にお聞きします。

○国務大臣(梶山弘志君) 先ほど外務省からありましたように、一九六五年の国交回復時にその問題は終わっているということで、解釈の違いがあると思っております、韓国との間には。
 ただ、北朝鮮の件につきましては、この日朝平壌宣言に基づいてこれからの対応方針というものを考えていくという政府の考え方に間違いはございません。

○岩渕友君 今お話があった日韓請求権協定前の過去の植民地支配の認識が北と南で違うというのはおかしいと思うんですね。日韓パートナーシップ宣言でも同じ認識が示されております。日朝平壌宣言は、核、ミサイル、拉致、植民地支配の清算といった問題を包括的に解決をして国交正常化を目指す方向を示しています。
 政府は、日朝平壌宣言、日韓パートナーシップ宣言に基づいて外交努力を強めるべきだということを強く求めるものです。同時に、不法な植民地支配によって強制動員された元徴用工の慰謝料請求、人権救済を命じた大法院判決に真摯に向き合うことを強く求めたいと思います。
 次に、放射能汚染水をめぐる問題についてお聞きします。
 九月十日、当時の原田環境大臣が、東京電力福島第一原発事故により発生をした汚染水浄化後の処理水について、思い切って放出して、それを希釈するという選択肢しかないという発言をしたことに対して、福島県内外から批判の声が上がって、その影響は韓国も含めて国外にも及びました。
 全国漁業協同組合連合会の幹部が環境省を訪れて、発言は絶対に許されない、全国の漁業者を代表して断固反対するとともに撤回を求める、本格操業の再開を心待ちにしている地元漁業者の不安、国内外での風評被害の広がりなど、我が国の漁業の将来に与える影響は計り知れないという抗議文を提出するなど、厳しく批判をしました。
 この発言に対する大臣の認識をお聞きします。

○国務大臣(梶山弘志君) 御指摘の原田前環境大臣の発言につきましては、あくまでも個人的な意見として述べたものと認識をしております。個々の意見に対するコメントは差し控えたいと考えております。
 経済産業省としましては、多核種除去設備、いわゆるALPS等で浄化処理した水の取扱いを議論する小委員会において丁寧な検討、議論を行った上で、政府としての結論を出していく方向であります。

○岩渕友君 原田前環境大臣の発言は、生活となりわいの再建に懸命に取り組んでいる被害者の努力を踏みにじるものです。また、今大臣がおっしゃったように、浄化処理汚染水をめぐっては、経済産業省で、小委員会で議論が重ねられている最中なわけで、結論は出ていないんですよね。こうした議論も踏みにじる暴言だと言わなくてはなりません。
 時間が来ておりますので、続きはまたこの後質問をしたいと思います。
 以上です。

亡國の基2022-01-26 16:25

繪本道化遊全
 亡國の基 2022.01.26

 『アメリカ樣 全』宮武外骨 著

 四-四頁
 日米親善關係の繪葉書概目

 米國水師提督ペルリ肖像の和文説明付、三條実美筆の題辭=親仁善隣 幕末黑船繪巻十六枚
 伊豆下田史蹟了仙寺繪葉書十二枚
 下田港の哀話唐人お吉繪物語十六枚
 我國最初の米國領事館、ハリス等十六枚
 唐人お吉三十六史圖、お吉お福の古文書八通
 玉泉寺米國水兵の墓、米人墓参寫眞等四枚
 日米條約の全文
 久里濱のペルリ上陸記念碑
 明治八年米人クラーク設計の札幌時計臺
 筑前二島の日米板硝子株式會社工場
 東京帝國劇場に於ける米國魔術師
 紐育ウツドローンの野口英世博士の墓
 米國廻航艦隊歡迎紀念寫眞前後取交十八枚
 宙返り飛行家と松井須磨子
 自転車曲乘り
 米國觀光団横濱上陸の寫眞、東京市内見物
 大阪商船の阿米利加丸
 横濱グランドホテル
 平和の人形使節、あずま京子さん、答禮人形乘船の天津丸等八枚
 神戸港メリケン波止場

 以上の外に、嘉永より昭和までに於ける種々雑多の日米關係繪葉書八十余枚
侵略主義軍閥敗亡の結果、今や我日本國は、アメリカ樣の領地となつて其支配を受けて居るが、國土大小の差はあつても、昔は對等の交際で、斯くも親善であつたと示すのが本旨

 五-五頁
 亡國の基と題する繪葉書帖

 我國の敗戦は官僚や軍閥が財閥と結托して軍國主義侵略主義の発展を計らんとしたがモトであるから、彼らが揃つて我國を亡ぼしたと断言してよいが、その外に亡國の原因となつた事物が種々ある、軍閥が惡いと云ふても、その軍閥を跋扈せしめたのは國民である、官僚や財閥の外に、多くの國民が漸次軍閥の惡を増長せしめたのである、それで繪葉書類別集成の中に「亡國の基」と題する一帖を製作してある、其帖の内容は、國民が軍人を崇拝して薩摩の吉之助を大西郷と呼んだり、東郷平八郎を軍神と稱したり、さては衒死を遂げた乃木希典等を祭つた乃木神社を建てたりしたのがイケナイ、又國民が戦勝を祝して旅順陥落祝の提灯行列等をやつたのもイケナイ、是等はいづれも軍人を増長せしめたのである、尚又軍人は政治に關与すべからずの原則を破つて總理大臣になつたりした事が度々あつた、それを國民が默認した等も軍閥跋扈の原因である、其外國民が武運長久の祈念をしたのも軍國主義助成であつた
 それで此帳には、以上の繪葉書を集め、尚南洲神社、東郷神社、二百三高地と稱した美人の束髪、シンガポール陥落記念ハガキ等も入れてある

引用・参照・底本

『アメリカ樣』宮武外骨 著 (蔵六文庫, 1946)
『繪本道化遊全』宮武外骨 著 明治四十四年二月十日發行 雅俗文庫
(國立國會圖書館デジタルコレクション)

堀 直虎 信州須坂藩主2022-01-30 21:21

近世自殺者列傳
『近世自殺者列傳 全』再生外骨編纂

 堀 直虎 信州須坂藩主 明治元年(慶應四年)正月十六日自殺 2022.01.30

 通稱は堀内藏頭、幕府の若年寄、兼外國奉行であつた、『贈位事歴書』や『殉難志士人名錄』などに據つて『大日本人名辭書』に左の如く記してある。
 勤王家、資性穎悟、能く藩治の宿弊を改革して善政を施し、殊に國典に通じ深く尊皇敬神の念を懐けり、慶應三年十二月幕府の若年寄となる。四年正月徳川慶喜伏見に反し戰敗れて江戸城に歸るや議論紛糾を極む、直虎即ち大儀名分を力説し、慶熹に勸むるに恭順を以てし、言遂に容れられざるを見るや意を決し同月十七日遂に江戸城西の丸に諫死す、大正十三午二月從五位贈らる此苦諫して自殺した事が、將軍をして大政返還の意を決せしめた一助に成つたと見れば、徒爾の死でなく、明治維新の基礎を作つた石コロの一つと見てよからう

引用・参照・底本

『近世自殺者列伝』宮武外骨 編 1931 半狂堂主人 (宮武)外骨
(国立国会図書館デジタルコレクション)