イラン:核兵器を含む軍事的核プログラムに移行する可能性2024年10月14日 11:37

Ainovaで作成
【概要】

 イランが現在の国際的圧力と特にイスラエルからの攻撃に直面し、核兵器を含む軍事的核プログラムに移行する可能性について述べている。

 まず、イスラエルは近年、イランの代理組織であるヒズボラやその他のミリシアに対して、リーダー暗殺や武器庫の破壊、戦闘員への攻撃などを繰り返し行っている。これは、イランの代理組織を弱体化させ、イランの抑止力を低下させることを目的としている。この状況下で、イランは直接イスラエルに対してミサイル攻撃を実施しており、従来の間接的な対応から転換を示している。

 イスラエルが軍事的優位性(エスカレーション・ドミナンス)を保つ中で、イラン内では核兵器開発の可能性を含む防衛戦略の見直しを求める声が高まっている。イランはこれまで、核計画が平和的な目的であると主張してきたが、最近の政治家たちの発言から、軍事的な核兵器開発に転換する可能性が示唆されている。

 さらに、イラン議会では「核産業の拡大」に関する法案が提出され、具体的な内容はまだ明らかではないものの、核兵器開発を含む可能性が取り沙汰されている。また、イランの指導層の中でも、抑止力強化のために核兵器開発を検討すべきだという意見が出ており、最高指導者ハメネイの核兵器禁止ファトワ(宗教令)が変更される可能性が議論されている。

 イランが軍事的な核プログラムを公然と宣言した場合、それはイスラエルとの抑止力のバランスを再び取り戻すことを目的としている可能性がある。しかし、この決定はイランにとって国際的な孤立を深め、地域的な核兵器競争を引き起こすリスクがあるとされている。
 
【詳細】

 特にイランとイスラエルの対立が緊張を増す中で、イランの核政策に対する圧力がどのように高まっているかを詳細に説明している。イスラエルの戦略的な優位性がイランの抑止力を損ない、イラン国内で軍事的な核兵器プログラムの採用を求める声が強まっている点を掘り下げている。以下は、さらに詳細な説明である。

 1. イランとイスラエルの関係の背景

 イランは、イスラエルと直接的な軍事衝突を避けながら、代理戦争戦略を通じて自国の影響力を拡大し、抑止力を維持してきた。イランが支援する代理組織としては、レバノンのヒズボラ、ガザ地区のハマスやパレスチナ・イスラム聖戦(PIJ)、イラクのシーア派武装勢力、さらにはイエメンのフーシ派などが挙げられる。これらの組織は、イスラエルやアメリカとの直接的な対立を避けながら、イランが中東全域で影響力を行使するための重要なツールとなっている。

 しかし最近、イスラエルがイランの代理組織に対する攻撃を強化している。イスラエルはヒズボラの指導者の暗殺や武器庫の破壊、大規模な戦闘員への攻撃を行い、イランの代理ネットワークに大きな打撃を与えた。これにより、イランの代理戦略は効果を失い始め、イランの抑止力が低下している。

 2. イランの反応:直接攻撃への転換

 イランは長い間、イスラエルとの直接的な軍事衝突を避け、代理戦争戦略を主軸に据えてきたが、最近のイスラエルの攻撃に対してはイラン本国からの直接攻撃に転換している。イランは過去6か月間に2度、イスラエルに対してミサイル攻撃を行った。これは、イランがこれまで取ってきた抑制的な対応からの明確な転換を示しており、代理戦争戦略の効果が低下していることを物語っている。イスラエルはこれらのミサイル攻撃に対して「厳しい報復」を約束しており、両国間の緊張はますます高まっている。

 3. エスカレーション・ドミナンスと核抑止力の再考

 イスラエルは現在、いわゆる「エスカレーション・ドミナンス」を確立しつつある。エスカレーション・ドミナンスとは、対立のエスカレーション(拡大)を相手にとって不利なものにし、相手が同様にエスカレーションできない状態を指す。この状況では、イランはイスラエルに対して同等の対抗手段を持たず、イスラエルの攻撃を効果的に抑止できない状況に陥っている。このため、イラン国内では、核兵器の開発を含む新たな抑止戦略を求める声が高まっている。

 特に、イランの指導層は、イスラエルの核兵器保有疑惑(公には認められていないが、広く信じられている事実)を念頭に置きながら、自国も核兵器を保有することで、イスラエルに対抗し得る抑止力を構築しようとしている可能性がある。

 4. 核兵器開発への動き

 イランの核政策はこれまで「民生用のみ」とされており、核兵器開発は公然と否定されてきた。最高指導者アリ・ハメネイは、核兵器の開発を禁止する宗教令(ファトワ)を出しており、公式にはイランは核兵器を作らないとされている。しかし、最近の情勢変化に伴い、このファトワの再考が求められていると報道されている。

 2024年10月、イラン議会は「核産業の拡大」に関する法案を受け取り、その審議が行われる予定である。この法案が軍事的核開発を含むかどうかは不明であるが、イランの政権幹部や政治家たちの最近の発言から、核兵器開発に転じる可能性が示唆されている。例えば、エクスペディエンシー評議会のメンバーであるカマル・ハラジは、イランの抑止力が脅かされる場合には、核兵器開発を検討せざるを得ないと述べている。また、議会の議員約40名が、国家安全保障最高評議会に対し、核政策の見直しを求める書簡を提出した。

 5. 国際的な影響と地域への波及効果

 もしイランが軍事的核プログラムを宣言すれば、イスラエルとの対立における抑止力の均衡を取り戻すことを目的としていると見られるが、これは中東全体に深刻な影響を及ぼす可能性がある。まず、イランに対する国際的な圧力が一層強まり、アメリカを含む西側諸国がさらなる経済制裁を課す可能性が高い。また、イランの核武装は、すでに競争的な地域情勢に拍車をかけ、特にサウジアラビアなど他の中東諸国が核兵器開発を追求する動機を高める恐れがある。サウジアラビアは、イランが核兵器を保有した場合、自国も同様に核兵器開発に乗り出すと公言している。

 6. 核合意(JCPOA)の行き詰まり

 2015年に締結されたイラン核合意(JCPOA)は、イランに民生用核プログラムの追求を許す一方で、軍事転用可能な核施設への制約を課していた。しかし、2018年にドナルド・トランプ前大統領がアメリカをこの合意から離脱させたことで、状況は一変した。アメリカの制裁が再び発動され、イランは核施設への国際査察の一部を拒否している。

 これにより、イランは核兵器の製造に必要な高濃縮ウランを短期間で生産できる能力を持っていると見られており、専門家の間では、イランが数週間以内に兵器級ウランを生産できるとの見方もある。合意再開に向けた交渉は行き詰まっており、イランの新大統領マスード・ペゼシュキアンは交渉再開の意欲を示しているが、イスラエルによるイラン核施設への攻撃が行われれば、イランは核兵器開発に舵を切る可能性が高まるとされている。

 まとめ

 イランは、イスラエルの圧力と軍事的攻撃に対抗するため、新たな抑止戦略として核兵器開発を検討している可能性がある。もしイランが軍事核プログラムを進めれば、地域の安全保障情勢に重大な影響を与えるとともに、国際社会からの強い反発と制裁に直面することは避けられない。また、サウジアラビアをはじめとする他の中東諸国が同様の核武装に向かう可能性が高まり、中東での核競争が激化するリスクがあると言える。
 
【要点】

 ・イランは代理戦争戦略を通じて中東全域で影響力を拡大し、イスラエルとの直接的な軍事衝突を避けてきた。
 ・イスラエルがイランの代理組織に対する攻撃を強化し、イランの抑止力が低下している。
 ・イランは代理戦略の効果が低下したため、イスラエルに対して本国からの直接攻撃に転じた。
 ・イスラエルは「エスカレーション・ドミナンス」を確立し、イランは抑止力を失い始めている。
 ・イラン国内では、イスラエルの圧力に対抗するため、核兵器開発を求める声が強まっている。
 ・最高指導者アリ・ハメネイの宗教令により核兵器の開発は禁止されているが、最近の情勢変化で再考が求められている。
 ・イラン議会は「核産業の拡大」に関する法案を審議する予定で、核兵器開発への動きが示唆されている。
 ・イランが核兵器を開発すれば、イスラエルとの抑止力の均衡が取れる可能性があるが、中東全体の安全保障情勢に深刻な影響を与える。
 ・イランの核武装は、サウジアラビアなど他の中東諸国を核兵器開発に向かわせる可能性がある。
 ・2015年のイラン核合意(JCPOA)は行き詰まっており、イランが数週間以内に兵器級ウランを生産できる能力を持っているとされる。
 ・核合意の再開交渉は進展していないが、イスラエルの攻撃次第ではイランが核兵器開発に踏み切る可能性が高まっている。

【参考】

 ☞ エスカレーション・ドミナンスとは、軍事や戦略的な対立において、一方の当事者が対立をエスカレートさせた場合、相手側がそのエスカレーションに対抗する手段を持たないか、対抗手段があるとしても効果的に状況を改善できない状況を指す。この概念は、戦争や紛争における力の優位性を示しており、エスカレートすることで相手に大きな損害や不利益を与えることができるが、相手は同じようなレベルで応戦できない状態を意味する。

 具体的には、イスラエルとイランの対立において、イスラエルがイランの代理組織(ヒズボラなど)に対する攻撃を強化し、イランがそれに対抗する有効な手段を見出せない状況がこれに該当する。イスラエルは攻撃を続けることでイランに不利な状況を押し付け、イランが同等の報復やエスカレーションを行う手段や能力を持たない、あるいは行ったとしても自国に利益がないため、状況を悪化させられないという優位性を持っているのである。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

Israel pressure pushing Iran over the nuclear edge ASIATIMES 2024.10.11
https://asiatimes.com/2024/10/israel-pressure-pushing-iran-over-the-nuclear-edge/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=15b34d1610-DAILY_10_10_2024_COPY_01&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-15b34d1610-16242795&mc_cid=15b34d1610&mc_eid=69a7d1ef3c

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