仏のミシェル・バルニエ首相:就任からわずか3か月で辞任2024年12月05日 19:06

Microsoft Designerで作成
【概要】

 フランスのミシェル・バルニエ首相は、就任からわずか3か月で辞任する見通しである。これは、彼の政権が議会における不信任投票が可決され 、60年以上ぶりに政府が倒れる結果となったためである。この出来事は、フランスにとって6か月間で2回目の大規模な政治危機を引き起こしている。

 バルニエ氏は、欧州連合(EU)のブレグジット交渉官として知られるベテラン政治家であったが、今回の辞任により現代フランス史上最短の在任期間となる。不信任投票による政府の崩壊は、1962年にジョルジュ・ポンピドゥー首相の政権が倒れて以来のことである。

 この不信任投票では、極左勢力と極右勢力が共闘し、バルニエ政権を批判した。彼らは、議会での採決を経ずに強行された予算案が原因だと主張している。この予算案には、60億ユーロ(約630億ドル)の削減目標が盛り込まれ、大幅な財政赤字の縮小を目指していたが、特に極右「国民連合」(RN)は、労働者層に対して過度に厳しいと非難していた。

 この辞任は、大統領エマニュエル・マクロン氏の立場をさらに弱める可能性が高い。マクロン氏は、来年のパリオリンピックを控えた今年夏に解散総選挙を実施したが、これが裏目に出て現在の危機を招いたとされている。マクロン氏への辞任要求も高まっているが、大統領任期は2027年までであり、強制的に退任させることはできない。

 フランスでは2025年の予算案が成立しない可能性があるが、フランス憲法ではアメリカのような「政府閉鎖」を回避するための特別措置が認められている。

 この政治的混乱は、ドイツの連立政権崩壊によるEUの混乱をさらに悪化させ、間もなくホワイトハウスに復帰する予定のドナルド・トランプ次期アメリカ大統領にも影響を及ぼす可能性がある。

 トランプ氏は、今週土曜日に改修を終えたノートルダム大聖堂の除幕式に参加するためパリを訪問する予定であり、マクロン氏はそれまでに新首相を任命する意向であると報じられている。

 現在のフランスでは、安定した政府の不在や議会の分裂により、投資家はフランス国債や株式市場に不安を抱いている。最近では、フランスの借入コストがリスクの高いとされるギリシャを一時的に上回る事態も発生した。

 新しい首相が任命されたとしても、分裂した議会で法案や予算案を通過させるというバルニエ政権と同様の課題に直面することが予想されている。また、憲法上、新たな議会選挙は来年7月まで実施できない。

【詳細】

 フランスの政治情勢は、今回のミシェル・バルニエ首相の辞任によって、複雑さを増している。以下に、その背景と影響をさらに詳しく説明する。

 不信任投票の背景と内容
 
 バルニエ政権に対する不信任投票は、2024年12月4日にフランス国民議会で行われ、極右の「国民連合」(RN)と極左の「急進左翼連合」(LFI)が共闘して投票を主導した。議会での不信任案が可決された直接の要因は、議会の採決を省略して押し通された予算案である。この予算案では60億ユーロの支出削減が目標とされ、特に社会福祉や公共サービスに大幅な影響を与えると批判された。

 ・極右の立場:「国民連合」は、この予算案が労働者階級や地方住民に不当な負担を課すと主張し、マクロン政権とバルニエ内閣がエリート層に偏った政策を推進していると非難した。
 ・極左の立場:「急進左翼連合」は、財政削減が社会的平等を損なうとして、同様に予算案に反対した。

 この両極端の勢力が共闘したことで、議会の不信任案が成立し、バルニエ政権は倒れることとなった。これはフランスの政治において異例の出来事であり、1962年のジョルジュ・ポンピドゥー政権以来初めてのことである。

 ミシェル・バルニエ首相の政治的立場

 バルニエ氏は、欧州連合(EU)におけるブレグジット交渉の責任者としてその名を知られており、穏健で経験豊富な政治家として評価されていた。しかし、分裂した議会構成や、厳しい財政運営を求められる中での政権運営は困難を極めた。

 バルニエ氏の辞任により、彼は現代フランス史上最短の在任期間を記録することになった。この短命政権は、彼個人の能力や政策よりも、むしろマクロン大統領の政治的戦略の失敗に起因していると多くの専門家が指摘している。

 マクロン大統領の立場

 マクロン大統領は2027年までの任期を持つが、今回の事態で政治的立場が大きく弱まった。マクロン氏は、2024年夏の総選挙を通じて議会の支持を固めようと試みたが、結果として与党勢力の過半数を失い、議会がさらに分裂する結果を招いた。

 特に、マクロン氏の「強権的な政策運営」が批判の対象となっている。今回の予算案の採決を議会で避けるため、フランス憲法第49条3項を適用したことが反発を招いた。これにより、議会の不信任投票が実現し、政権崩壊に至った。

 今後のフランス政治への影響

 政府運営の不透明化
 
 現時点で新首相の人選は進行中であるが、いかなる候補者も分裂した議会での多数派形成に苦労することが予想される。新政権が安定するまでの間、以下のような問題が懸念されている。

 ・2025年予算の成立:分裂した議会では予算案の審議が進まず、政府運営に支障を来す可能性が高い。ただし、フランス憲法には特別措置が含まれており、アメリカの「政府閉鎖」に類似する事態は回避可能とされる。
 ・議会選挙の制約:憲法上、次回の議会選挙は2025年7月まで実施できず、現在の膠着状態が長期化する恐れがある。

 EUおよび国際情勢への影響

 フランス国内の不安定化は、欧州連合全体にも波及する可能性がある。特に、ドイツでの連立政権崩壊が追い打ちをかけ、EUの意思決定が一層困難になることが懸念されている。また、アメリカではドナルド・トランプ次期大統領がホワイトハウスに復帰予定であり、これがEUとアメリカの関係に影響を与える可能性もある。

 市場への影響

 フランスの政治不安は、投資家心理にも悪影響を及ぼしている。フランス国債の利回りは一時的にギリシャを上回る水準に達し、株式市場も不安定な動きを見せている。この状況が続けば、フランス経済全体に悪影響を及ぼす可能性がある。

 トランプ氏訪問と政局の緊張

 12月7日には、改修を終えたノートルダム大聖堂の除幕式が予定されており、アメリカのトランプ次期大統領もパリを訪問する。この国際的なイベントを前に、マクロン大統領は新首相を任命し、政局の安定をアピールしたい考えである。しかし、これが実現するかどうかは現時点で不透明である。

 総括

 フランスは現在、政権の不安定化、議会の分裂、そして経済や外交面でのリスクを抱えた状況にある。ミシェル・バルニエ首相の辞任を契機に、フランス政治は一層不透明さを増しており、今後の動向に注目が集まっている。

【要点】 

 1.不信任投票の背景

 ・ミシェル・バルニエ首相の政権は、議会での不信任投票によって崩壊。
 ・原因は議会採決を省略して通過させた予算案(60億ユーロの削減を含む)。
 ・極右「国民連合」(RN)と極左「急進左翼連合」(LFI)が共闘し、不信任案を可決。

 2.ミシェル・バルニエ首相について

 ・欧州連合(EU)のブレグジット交渉官を務めたベテラン政治家。
 ・辞任により、現代フランス史上最短の在任期間となる。

 3.予算案への反発

 ・極右RN:予算案が労働者層に不当な負担を課していると非難。
 ・極左LFI:予算削減が社会的平等を損なうと批判。

 4.マクロン大統領の立場

 ・総選挙の実施により与党が過半数を失い、議会の分裂を招いた。
 ・憲法第49条3項を使った強権的な予算案通過が反発を増幅。
 ・大統領任期は2027年までで辞任不可だが、政治的立場は弱体化。

 5.今後の課題

 ・政府運営の不透明化:新首相が議会での支持を得るのは困難。
 ・2025年予算の成立:議会の膠着状態で審議が難航する可能性。
 ・議会選挙の制約:新たな選挙は2025年7月まで実施できない。

 6.市場への影響

 ・政治不安により、フランス国債の利回りが一時的にギリシャを上回る。
 ・株式市場も不安定な動きを見せている。

 7.国際的影響

 ・フランスの不安定化は、EU全体の意思決定に悪影響を与える懸念。
 ・アメリカではトランプ次期大統領の就任が控え、EUとの関係に影響。

 8.ノートルダム大聖堂除幕式

 ・12月7日に予定され、アメリカのトランプ次期大統領がパリ訪問予定。
 ・マクロン大統領はそれまでに新首相を任命し、政局安定を図る意向。

 10.総括

 ・政権の不安定、議会の分裂、経済・外交リスクが増大している。
 ・フランス政治の不透明さが国内外に影響を及ぼしている。

【引用・参照・底本】

France's Barnier to resign as no-confidence vote sparks new political crisis FRANCE24 2024.12.05
https://www.france24.com/en/europe/20241205-france-s-barnier-to-resign-as-no-confidence-vote-opens-new-political-crisis?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24-nl-quot-en&utm_email_send_date=%2020241205&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D

コメント

トラックバック