ポスト・アサド期のシリア崩壊回避策2024年12月08日 17:14

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【概要】  

 アンドリュー・コリブコ氏による「ポスト・アサド期のシリアが崩壊を回避するために必要な対策」

 現在、ポスト・アサド期のシリアは全面的な崩壊の危機に瀕しており、このままでは世界最大のテロ拠点となる可能性がある。この危機を回避するためには、以下の5つの対策が必要である。

 1. 軍および治安機関の維持

 アフガニスタン、イラク、リビアなどの国家崩壊の事例では、政権交代後に軍と治安機関が解体されることが共通点であった。一方で、シリア・アラブ軍(SAA)は依然として組織として存在しており、たとえ敗退を続けているとしても完全崩壊は避けなければならない。非テロリスト反政府勢力(NTAGO)と協力し、国家全体が制御不能になる事態を防ぐことが求められる。

 2. 政治改革の即時開始

 ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、土曜日のドーハ・フォーラムで、シリア政府とNTAGOが国連安保理決議2254を直ちに実行に移す必要性を強調した。この決議には、新憲法の制定や国連監視下での選挙実施など、大幅な政治改革が含まれている。アサド政権の改革拒否が今回の事態を招いたため、暫定首相ジャラリ氏による政治移行は肯定的な一歩である。

 3. ロシア作成の憲法草案の復活

 2017年1月のアスタナ会議で提案されたロシア作成の憲法草案が、今回の危機を防ぐ重要な手段となる可能性がある。この草案は当時、建設的な批評を受けつつも、アサド政権により拒否された。しかし、アサド大統領が退陣した今、状況に応じた修正を加えた上でこの草案を再び議論する必要がある。

 4. アラウィ派とクルド人の少数派保護

 現在、トルコ支援のハヤト・タハリール・アルシャム(HTS)勢力はアラウィ派の沿岸地域を完全には支配しておらず、また、米国支援下のクルド人が統治する北東部も独立を維持している。これらの地域をテロリストから守るために、ボスニア型の広範な連邦制を基にした自治権の付与が必要である。沿岸地域がロシアの影響下に置かれることで、安定が維持される可能性がある。

 5. ロシアの基地維持

 ロシアはこれまで、2015年以降アサド政権を支援しながらテロリストと戦ってきた。暫定政府がロシアの軍事基地維持を認めることは、国家防衛と沿岸地域の保護にとって不可欠である。ロシアが基地を撤退させれば、シリア国家はテロリストの脅威にさらされ、アラウィ派地域も危機に陥る可能性が高い。ロシアは、必要に応じて独立した沿岸国家を支援し、自国の安全保障を理由に基地を維持する可能性もある。

 このように、ポスト・アサド期のシリアが崩壊を回避し、さらなるテロリズムの拡散を防ぐためには、上記の5つの対策を速やかに実行する必要がある。仮に最悪の事態が発生したとしても、ロシアがテロリストを空爆し、独立した沿岸国家を支援することで、ある程度の被害を軽減できる可能性がある。

【詳細】

 アンドリュー・コリブコ氏の分析「ポスト・アサド期のシリア崩壊を防ぐために必要な具体策」について

 現在、シリアは深刻な混乱に直面しており、アサド大統領がダマスカスから逃亡したことで、国家崩壊のリスクが一層高まっている。このままでは、シリアは世界最大のテロの温床となり、地域や国際社会全体に重大な脅威をもたらす可能性がある。この危機を回避するためには、次の5つの具体的な措置を実施することが不可欠である。

 1. 軍および治安機関の維持

 過去の国家崩壊事例(アフガニスタン、イラク、リビア)では、軍と治安機関の解体が主要な混乱の原因であった。シリアの場合、シリア・アラブ軍(SAA)は現在も組織として存在しており、アルアウィ派が多く住む沿岸部に後退する可能性がある。
この組織を維持し、非テロリスト反政府勢力(NTAGO)との協力体制を構築することで、国家が無秩序状態に陥ることを防ぐ必要がある。特に、兵士や幹部の離反を防ぎ、最低限の秩序維持機能を確保することが求められる。

 2. 政治改革の即時開始

 シリア政府とNTAGOは、国連安保理決議2254(2015年採択)に基づいて迅速に改革を進める必要がある。この決議には以下のような具体的な改革措置が含まれる:

 ・新憲法の制定:国家体制を根本的に見直し、多様な民族や宗教の権利を保障する内容を含める。
 ・国連監視下での自由選挙:国内外の信頼を得るために透明性を確保する。
 ・政治的包摂:これまで疎外されていた反政府勢力や少数派を政治プロセスに参加させる。

 現在の暫定首相であるジャラリ氏のリーダーシップの下、このプロセスを加速することが求められる。これにより、国家としての統一性を維持し、内戦や外部干渉のリスクを減少させることが期待される。

 3. ロシア作成の憲法草案の復活

 2017年1月にアスタナ会議で提示されたロシア作成の憲法草案は、当初、シリアの統治構造を柔軟化し、自治権拡大を図ることを目的としていた。しかし、アサド大統領はこの草案を拒否し、現在の危機を招いた要因の一つとなった。この草案を基盤とし、以下の改訂が必要である:

 ・地方自治の拡大:クルド人やアルアウィ派などの少数民族が自治権を享受できる体制を構築する。
 ・権力分散:中央集権的な体制を見直し、地域ごとのニーズに対応する柔軟性を持たせる。

 この草案の復活は、国内外の利害関係者の信頼を回復し、シリアが統一国家として機能を維持するための基盤となる。

 4. 少数派の保護

 アルアウィ派やクルド人は、シリアにおける重要な少数派であるが、テロ組織や他国からの干渉にさらされる危険がある。特に以下の地域が焦点となる:

 ・アルアウィ派沿岸地域:トルコ支援のハヤト・タハリール・アルシャム(HTS)の脅威を受けている。この地域を防衛するため、ロシアが主導する保護体制を強化する必要がある。
 ・クルド人統治地域:米国の支援下にあるが、米軍撤退の可能性が高まっている。この場合、ロシアや国際社会がクルド人地域の安全を保障する役割を果たす必要がある。

 これにより、少数派への迫害を防ぎ、シリア国内での大規模な人道危機を抑制することが可能となる。

 5. ロシアの軍事基地維持

 ロシアは2015年以降、テロリストに対する空爆を通じてシリア政府を支援してきた。暫定政府がロシアの基地維持を認めることは、以下の点で重要である:

 ・国家防衛の継続:ロシア軍が撤退すれば、シリア政府はテロリストの攻撃に対して脆弱となる。
 ・地域安定の維持:特にアルアウィ派地域がHTSの支配下に陥ることを防ぐために必要不可欠である。

 さらに、ロシアはシリア沿岸地域を独立国家として支援し、これを国際的に承認することで、自国の安全保障を確保しながら地域安定を図る可能性がある。

 結論

 ポスト・アサド期のシリアが国家崩壊を防ぎ、地域や国際社会への脅威を最小限に抑えるためには、上記の5つの対策を直ちに実行する必要がある。仮に最悪の事態が避けられない場合でも、ロシアが主導する形でテロ対策と少数派保護が進められることで、ある程度の安定を取り戻すことが可能である。これらの措置は、シリアの未来を左右する鍵となるであろう。

【要点】 

 1.軍および治安機関の維持

 ・シリア・アラブ軍(SAA)の組織を解体せず、非テロリスト反政府勢力(NTAGO)と協力体制を構築する。
 ・国家の秩序維持を図り、無秩序な状態に陥ることを防ぐ。

 2.政治改革の即時開始

 ・国連安保理決議2254(2015年)に基づき、新憲法の制定や国連監視下での自由選挙を迅速に実施する。
 ・暫定首相ジャラリ氏の下、包括的な政治プロセスを推進する。

 3.ロシア作成の憲法草案の復活

 ・2017年のアスタナ会議で提案された草案を基に、地方自治権拡大や権力分散を含む体制改革を進める。
 ・中央集権から柔軟な地方自治への転換を図ることで、多様な民族や地域の権利を保障する。

 4.少数派の保護

 ・アルアウィ派沿岸地域とクルド人統治地域を重点的に保護し、テロリストや外部勢力の脅威を防ぐ。
 ・ロシアや国際社会の支援を活用し、少数派への人道危機を防ぐ体制を構築する。

 5.ロシアの軍事基地維持

 ・ロシア軍が基地を維持し、暫定政府と協力してテロリストへの防衛体制を強化する。
 ・アルアウィ派地域の安全を確保しつつ、地域の安定に寄与する可能性を追求する。

 これらの措置を実施することで、シリアの国家崩壊を回避し、国際的なテロの温床となる事態を防ぐことが可能である。

【引用・参照・底本】

Here’s What Has To Happen To Prevent Post-Assad Syria From Collapsing Andrew Korybko's Newsletter 2024.12.08
https://korybko.substack.com/p/heres-what-has-to-happen-to-prevent?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=152784175&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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