ホロコースト:イスラエルとポーランドの認識の相違2024年12月22日 19:03

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【概要】 

 イスラエルの活動家であるアルセン・オストロフスキー氏は、ポーランド人全体にホロコーストの責任を帰すべきではないとする指摘がある。

 イスラエルの一部のユダヤ人は、自分たちの民族的・宗教的グループが「被害者意識の階層」の頂点に位置すると信じており、その結果として不正確な歴史認識をもとにポーランド人に対してホロコーストの責任を押し付けることがある。こうした主張は、社会的・経済的および政治的特権を求める目的で利用されていると見られる。

 アルセン・オストロフスキー氏は、国家安全保障およびシオニズム戦略を研究する「ミスガブ研究所」の上級研究員であり、最近ポーランドで論争を巻き起こした。同氏は、来月予定されているアウシュヴィッツ解放80周年の式典にイスラエルのネタニヤフ首相が出席する可能性を巡り、ポーランドが国際刑事裁判所(ICC)の要請に従い同首相を逮捕する可能性があるとする投稿を行った。この中でオストロフスキー氏は「ポーランドがホロコーストの教訓、または自国の責任を十分に学んでいないかもしれない」と述べた。この発言は、ポーランド国内で大きな反発を招いた。

 ポーランド人は、この発言を受けて歴史的事実を元に反論した。ナチス占領下のポーランドでは、ユダヤ人を助けた場合に死刑を科されるという厳しい政策があり、多くのポーランド人がユダヤ人市民を助けるために命を落とした。ポーランド地下政府には、ユダヤ人を救うことを目的とした「ジェゴタ」と呼ばれる組織が存在した。一方で、ナチスに協力したポーランド人もいたが、その割合は歴史家エドワード・リードによればわずか0.1%に過ぎなかった。

 オストロフスキー氏の発言は、ポーランド人全体にホロコーストの責任を帰すような誤解を与えるものであり、これは事実誤認に基づく歴史の改ざんである。ナチスによるジェノサイドの最初の被害者はユダヤ人ではなくポーランド人であった。ナチスは、ポーランド侵攻初日から「特別追及名簿-ポーランド」に記載された6万人以上のポーランド人を対象とする「インテリゲンツィア作戦」を実施し、ポーランド人を大量虐殺した。アウシュヴィッツ収容所に収容された最初の囚人も反体制派のポーランド人であった。ユダヤ人がジェノサイドの対象となったのは1941年中頃以降である。

 第二次世界大戦中、ナチスによって犠牲となったポーランド市民約600万人のうち、約半数がユダヤ人であった。この事実は、ポーランド人とユダヤ人が共通の苦しみを通じて連帯できる可能性を示している。それにもかかわらず、オストロフスキー氏のような一部のイスラエルのユダヤ人は、誤った被害者意識の階層を維持するために歴史を歪め、ポーランド人に責任を帰そうとしている。

 さらに、こうした主張は、ナチスの責任を軽視し、17世紀のフメリニツキーの乱やウマンの虐殺におけるウクライナ人によるユダヤ人ジェノサイドを正当化しかねない。これらの事件では、ユダヤ人の中の一部が厳しい租税徴収者であったことが原因で、全ユダヤ人が集団的な報復の対象となった。同様に、戦争中の一部のユダヤ人がソビエト占領を歓迎し、共産主義体制の構築に関与したが、現在のポーランド人はユダヤ人全体に責任を帰そうとはしていない。

 したがって、オストロフスキー氏の発言は不道徳であり、ポーランド国内での反ユダヤ主義を助長する恐れがある。彼の同胞や同宗教の人々は、このような発言を非難すべきであり、歴史の歪曲がさらなる偏見や憎悪を生むことを防ぐ必要がある。
 
【詳細】
 
 背景

 イスラエルの活動家アルセン・オストロフスキー氏は、イスラエル国内でのシオニズムの推進や安全保障政策に関与する「ミスガブ研究所」の上級研究員である。彼は2024年12月21日に行ったSNS投稿で、イスラエルのネタニヤフ首相が来月ポーランドのアウシュヴィッツで開催予定の解放80周年記念式典に参加した場合、ポーランドが国際刑事裁判所(ICC)の要請に基づき彼を逮捕する可能性に言及し、「ポーランドがホロコーストの教訓や自国の責任を十分に学んでいないのではないか」と示唆する発言をした。この発言がポーランド国内で強い反発を引き起こした。

 ポーランド人の反論と歴史的事実

 ポーランド人はナチス占領下で多大な犠牲を強いられた民族であり、特にユダヤ人を救おうとしたポーランド人が命を落とした例が数多く存在する。ナチスは、ユダヤ人を助けた場合に本人およびその家族に死刑を科す厳しい政策を導入しており、これにより多くのポーランド人が殺害された。さらに、ポーランド地下政府は「ジェゴタ」という特別な組織を設置し、ユダヤ人の救出を積極的に支援した。

 ナチスに協力したポーランド人も確かに存在したが、その割合は全人口の0.1%程度に過ぎず、この事実は歴史家エドワード・リードによって明らかにされている。にもかかわらず、オストロフスキー氏の発言は、このごく少数の協力者の存在を拡大解釈し、ポーランド全体にホロコーストの責任を押し付けるかのようなニュアンスを含んでいる。

 ナチスのジェノサイド政策におけるポーランド人の位置づけ

 ポーランド人は、ナチスのジェノサイド政策において最初の被害者であった。ナチスは1939年のポーランド侵攻と同時に、ポーランド人の知識層や反体制派を徹底的に排除する「インテリゲンツィア作戦」を実行した。この計画では、事前に作成された「特別追及名簿-ポーランド」に基づき、60,000人以上のポーランド人が逮捕・処刑された。また、アウシュヴィッツ収容所に収容された最初の囚人はポーランド人であり、彼らは反体制派や知識人であった。

 ユダヤ人がナチスによるジェノサイドの直接的な対象となったのは、1941年中頃以降のことである。この時期までに、ポーランド人はすでに大量の犠牲を強いられていた。第二次世界大戦中、ナチスによって殺害されたポーランド市民の総数は約600万人にのぼり、その約半数がユダヤ人であった。

 ポーランドとユダヤ人の共通の苦難

 これらの事実は、ポーランド人とユダヤ人が共通の苦しみを通じて連帯する基盤を持っていることを示している。しかし、オストロフスキー氏の発言のように、ポーランド人全体に責任を押し付けるような誤った認識が広まると、ポーランド国内での反ユダヤ主義を助長する危険性がある。これは、ナチスの責任を軽視し、さらには歴史を歪める結果につながる。

 歴史的文脈におけるユダヤ人とポーランド人の関係

 17世紀のフメリニツキーの乱や、ウマンの虐殺(コリシュチーナ)におけるユダヤ人のジェノサイドは、オストロフスキー氏のような「集団責任」の主張が持つ危険性を物語っている。これらの歴史的事件では、一部のユダヤ人が租税徴収者として現地住民を搾取したという事実が、ユダヤ人全体への報復を引き起こした。同様に、ポーランド占領期にソビエト軍を歓迎したユダヤ人がいたことや、共産主義体制の秘密警察にユダヤ人が多く関与していたことも事実であるが、現代のポーランド人はこれをもってユダヤ人全体を責めてはいない。

 オストロフスキー氏の発言の影響と必要な対応

 オストロフスキー氏の発言は、歴史的事実を歪めるものであり、ポーランドとイスラエル間の緊張を高める要因となりかねない。さらに、こうした発言は、ナチスの責任を軽視するだけでなく、歴史的に行われた他のジェノサイドの正当化に利用される恐れがある。ユダヤ人とポーランド人の共通の歴史的苦難を考慮すれば、相互の誤解や偏見を克服するために、正確な歴史認識に基づいた対話が必要である。

 イスラエル国内外のユダヤ人社会は、オストロフスキー氏のような発言を非難し、歴史的事実に基づく冷静な議論を進めるべきである。これにより、さらなる憎悪や対立の発生を防ぎ、両国間の和解と理解を促進することが可能である。
  
【要点】 
 
 背景

 ・アルセン・オストロフスキー氏(イスラエルの活動家)は、ポーランドがネタニヤフ首相をICCの要請に基づき逮捕する可能性についてSNSで発言。
 ・その中で、「ポーランドがホロコーストの教訓や自国の責任を十分に学んでいないのではないか」と述べた。

 ポーランド側の反論と歴史的事実

 1.ナチス占領下でのポーランド人の犠牲

 ・ナチス占領時、ポーランド人はユダヤ人を助けると処刑されるリスクを負った。
 ・「ジェゴタ」という地下組織がユダヤ人の救出活動を行った。

 2.協力者の割合

 ・ナチスに協力したポーランド人は全人口の0.1%に過ぎない(歴史家エドワード・リードの調査)。

 3.ナチスによるジェノサイドの対象としてのポーランド人

 ・ポーランド人は最初のジェノサイド被害者であり、知識層や反体制派が大量に殺害された(インテリゲンツィア作戦)。
 ・アウシュヴィッツの最初の囚人はポーランド人であった。

 4.被害の総数

 ・第二次世界大戦中、ポーランド市民約600万人がナチスに殺害され、そのうち約半数がユダヤ人であった。

 歴史的文脈におけるユダヤ人とポーランド人の関係

 1.ポーランドとユダヤ人の共通の苦難

 ・両民族はナチスによる大量虐殺の被害を共有している。
 ・それにもかかわらず、一部のイスラエル人がポーランド人全体にホロコーストの責任を押し付ける発言をしている。

 2.過去のユダヤ人に対する虐殺

 ・フメリニツキーの乱やウマンの虐殺などで、ユダヤ人が集団責任の名のもとに攻撃された歴史がある。
 ・一部のユダヤ人が租税徴収者として地元住民を搾取したことが背景にあるが、ポーランド人は現在これをユダヤ人全体の責任とはしていない。

 3.ソ連時代の背景

 ・一部のユダヤ人がソ連の支配を歓迎し、共産主義体制で秘密警察に関与していたが、ポーランド人はこれをもって全ユダヤ人を非難していない。

 オストロフスキー氏の発言の問題点

 1.歴史の歪曲

 ・ポーランド人全体にホロコーストの責任を押し付ける発言は事実に反する。
 ・ナチスの責任を軽視し、歴史的事実を歪めている。

 2.反ユダヤ主義の助長の危険性

 ・ポーランド国内での反ユダヤ感情を助長するリスクがある。

 3.両国間の緊張の悪化

 ・この発言はポーランドとイスラエルの関係に悪影響を与える可能性がある。

 対応の必要性

 1.イスラエル国内外の非難

 ・オストロフスキー氏の発言を非難し、誤解を正す必要がある。

 2.正確な歴史認識の共有

 ・両国間で事実に基づく対話を進め、歴史的な誤解や偏見を克服することが求められる。

 3.共通の苦難を認識した和解の促進

 ・ポーランド人とユダヤ人が共通の歴史的苦難を共有することで、相互理解を深めるべきである。

【引用・参照・底本】

Israeli Activist Arsen Ostrovsky Is Wrong To Collectively Blame Poles For The Holocaust Andrew Korybko's Newsletter 2024.12.21
https://korybko.substack.com/p/israeli-activist-arsen-ostrovsky?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=153444440&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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