偉大な大統領になる条件2025年02月01日 19:43

Ainovaで作成
【概要】

 ドナルド・トランプが「偉大な」大統領と見なされるか、それとも「ひどい」大統領と評価されるかは、彼がアメリカ政治の分極化を克服し、新たな共通基盤を築くことができるかどうかにかかっている。

 歴史的に「偉大な」大統領とされる人物には、ジョージ・ワシントン(1789-1797)、エイブラハム・リンカーン(1861-1865)、フランクリン・D・ルーズベルト(1933-1945)がいる。彼らはいずれも国家存続の危機に直面し、それを乗り越えて国を変革した。一方、「ひどい」大統領としては、ウォレン・G・ハーディング(1921-1923)、ジェームズ・ブキャナン(1857-1861)、フランクリン・ピアース(1853-1857)などが挙げられ、彼らは大きな課題に対処できなかった。

 トランプの最初の任期(2017-2021)は歴史的に「偉大」とは評価されにくい。大統領ランキングでは最低評価を受けることもある。彼の政策の一部は支持者に好評であったが、国全体をまとめることはできず、政策の恒久的な定着にも失敗した。バイデン政権が多くの政策を即座に撤回したことが、その証左である。

 トランプが直面した主な課題は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックと国内の深刻な分極化であった。「ワープ・スピード作戦」によるワクチン開発は成功したが、彼の発言や対応は国民の分裂を深めた。分極化は過去20年以上にわたり拡大しており、ブッシュ、オバマ、バイデンといった歴代大統領もこれを抑えることができなかった。

 トランプには熱心な支持者層が存在し、その忠誠心は高い。彼は移民政策や経済政策で支持を固めており、再び大統領に就任した場合、国境封鎖や不法移民の強制送還を進めることで、支持層の満足度を維持すると考えられる。しかし、共和党を支持しない有権者の支持を広げることが課題となる。

 もしトランプが人工妊娠中絶、銃規制、医療制度改革といった国民の関心が高い問題に取り組み、民主党と協力して超党派の立法を進めることができれば、近年の大統領が達成できなかった成果を上げる可能性がある。共和党議員は大統領に反対しにくく、民主党も政策実現の機会を求めて妥協する可能性がある。

 このような形で国の分極化を抑え、政治的合意を形成できれば、トランプは「偉大な」大統領と見なされる可能性がある。しかし、そのような展開がなければ、過去の評価と大きく変わることはないと考えられる。

【詳細】

 ドナルド・トランプの大統領としての評価は、その在任中に直面した課題への対応と、それによるアメリカ社会および政治制度への影響に大きく依存している。

 歴史的に「偉大な」大統領と評価される基準

 「偉大な」大統領とされるためには、以下の要素が求められるとされる。

 1.重大な課題に直面すること:国家存続や社会秩序に関わる深刻な問題への対応が求められる。
 2.制度的な変革を遂げること:従来の枠組みを超えて新しい制度や政策を構築し、国家に恒久的な変化をもたらす。
 3.国民の支持を得ること:政策や指導力によって国民の広範な支持を獲得し、社会を団結させる。

 「偉大な」大統領の例

 ・ジョージ・ワシントン

 アメリカ独立後の初代大統領として、国家の基盤を築き、権力の平和的な移行を確立した。彼の指導により、アメリカは13の独立した州を一つの国家としてまとめ上げた。

 ・エイブラハム・リンカーン

 南北戦争と奴隷制廃止という二大課題に取り組み、国家分裂の危機を乗り越えた。リンカーンの指導により、アメリカは奴隷制を廃止し、国としての一体性を再構築した。

 ・フランクリン・D・ルーズベルト

 世界恐慌と第二次世界大戦に直面し、ニューディール政策を通じて政府の役割を拡大。アメリカを現代的な福祉国家へと転換させ、戦争を通じて国際的な超大国としての地位を確立した。

 トランプ政権の評価

 達成したこと

 ・経済政策:法人税減税や規制緩和を通じて経済成長を促進。失業率の低下や株価の上昇といった短期的な経済成果を上げた。
 ・司法の保守化:最高裁判事を含む多くの連邦判事を任命し、司法の保守化を進めた。

 課題への対応

 ・COVID-19パンデミック
 
 「ワープ・スピード作戦」により、迅速なワクチン開発を実現したが、パンデミック対応そのものは混乱を招いた。マスク着用やロックダウンに関する混乱したメッセージは、国民の間で対立を引き起こし、結果的に死亡者数の増加と社会の分裂を助長した。

 ・社会の分極化

 トランプは自身の支持者を強力に動員する一方で、反対派との対立を深めた。2021年の連邦議会襲撃事件は、トランプの煽動的なレトリックが一因とされ、彼の指導力への批判を強めた。

 政策の恒久性

 トランプの多くの政策は、後任のジョー・バイデン政権により撤回された。パリ協定からの離脱や移民政策の強化など、トランプ時代の象徴的な政策は迅速に覆されたため、恒久的な変革をもたらしたとは言い難い。

 今後の可能性

 トランプが再び大統領に就任した場合、彼の評価は以下のような要因によって左右される。

 1.分極化の克服

 政治的に分裂した国をどのようにまとめるかが重要である。民主党と共和党の対立を和らげ、超党派の立法を実現できれば、評価は大きく向上する可能性がある。

 2.経済・安全保障政策

 経済の好転や国民の安全保障に寄与する政策を実施し、その成果が広く認識されることが求められる。

 3. 国際関係の構築

 対中国やロシアとの関係において、アメリカの利益を守りつつ安定した国際秩序を築けるかが問われる。

 トランプがこれらの課題を乗り越え、国民の支持を得て恒久的な制度的変革をもたらすことができれば、「偉大な」大統領と評価される可能性がある。しかし、分極化がさらに深まり、国内外で混乱を招くようであれば、「ひどい」大統領として歴史に刻まれるだろう。
 
【要点】

 「偉大な」大統領の評価基準
 
 ・重大な課題に直面すること(国家存続や社会秩序に関わる問題への対応)
 ・制度的な変革を遂げること(国家に恒久的な影響を与える政策を実施)
 ・国民の支持を得ること(政策や指導力で広範な支持を集める)

 歴史的に「偉大な」大統領の例

 ・ジョージ・ワシントン:国家の基盤を築き、民主的な政権交代を確立
 ・エイブラハム・リンカーン:南北戦争を勝利に導き、奴隷制を廃止
 ・フランクリン・D・ルーズベルト:ニューディール政策で大恐慌を克服し、第二次大戦で勝利

 トランプ政権の評価

 達成したこと

 ・経済政策:法人税減税・規制緩和で短期的な成長を促進
 ・司法の保守化:最高裁を含む多くの保守派判事を任命

 課題への対応

 ・COVID-19パンデミック

  ⇨ ワクチン開発を迅速化(ワープ・スピード作戦)
  ⇨ 一方で、マスク・ロックダウンに関する混乱したメッセージが社会分裂を助長

 ・社会の分極化

 ・支持者の動員に成功する一方で、反対派との対立が激化
 ・2021年の連邦議会襲撃事件で批判を受ける

 政策の恒久性

 ・多くの政策がバイデン政権により撤回

  ⇨ 例:パリ協定離脱、移民政策強化など

 今後の評価のポイント

 1.分極化の克服(政治的対立を緩和できるか)
 2.経済・安全保障政策の成果(成長と国民の安全を確保できるか)
 3.国際関係の構築(中国・ロシアとの関係を安定させられるか)

 結論

 ・課題を克服し、国民の支持を得て恒久的な変革をもたらせば「偉大な」大統領となる可能性あり
 ・分裂を深め、混乱を招けば「ひどい」大統領として歴史に刻まれる

【引用・参照・底本】

Will Trump go down as a great or awful president? 2025.01.29 ASIATIMES
https://asiatimes.com/2025/01/will-trump-go-down-as-a-great-or-awful-president/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=7aca4900b3-DAILY_31_01_2025&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-7aca4900b3-16242795&mc_cid=7aca4900b3&mc_eid=69a7d1ef3c

フェンタニル戦争2025年02月01日 20:05

Microsoft Designerで作成
【概要】

 アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領は、中国がアメリカのオピオイド危機に関与しているとして、10%の追加関税を課すことを脅しとした。これに対し、中国はオピオイドの一種であるフェンタニルを製造するために必要な前駆化学物質の主な供給元であり、両国はこの物質の取引を制限する措置を講じている。しかし、フェンタニルの密輸ルートは直接的な中国からアメリカへの輸送から、メキシコを経由してアメリカに密輸される形に変化している。

 フェンタニルなどの合成オピオイドは比較的新しい薬物であるが、アヘンは19世紀の貿易戦争や戦争において長い歴史を持つ。最初のアヘン戦争(1839-42年)では、イギリスが中国との貿易不均衡を解消するために、中国市場にアヘンを大量に流入させた。この結果、中国では多くの市民がアヘンに依存するようになった。1839年、アヘン依存の拡大に対処するため、中国皇帝は林則徐(リン・ツーシュ)を広州に派遣し、アヘンの流入を阻止し、貯蔵されていたアヘンを破壊した。イギリスのアヘン商人はこれに激怒し、中国側の対応が自由貿易の原則に反するとして、賠償を要求し、イギリス政府に軍事的対応を求めた。

 イギリス軍は一連の軍事的勝利を収め、1842年に南京条約を結び、中国の五つの港を開港させ、破壊されたアヘンの補償金を課し、香港をイギリスの恒久的拠点として占領した。その後、第二次アヘン戦争(1856-58年)では、イギリスとフランスが再度中国に軍事的敗北を与え、更なる貿易上の譲歩を求めた。

 アヘンやアヘン由来の製品は19世紀を通じて曖昧な地位を持ち、ラウダヌム(アヘンとアルコールを混ぜた薬)などは痛みや咳を和らげる薬として広く使用されていたが、同時に依存性があり、大量に摂取すれば致命的であることも認識されていた。

 現代においても、オピオイドは鎮痛薬として有効である一方で依存性のある精神活性物質としての側面も持ち続けており、製薬会社の積極的なマーケティングが依存症問題を引き起こした。アメリカ、カナダをはじめとする地域ではオピオイド依存症が蔓延しており、特に合成オピオイドであるフェンタニルは2016年に過剰摂取による死因としてヘロインを超える原因となった。

 中国は最初、アメリカの依存症問題に対して積極的に協力することに消極的であった。関税を課す脅威は、中国が協力する意欲を高めるものではなく、むしろアヘン戦争における「屈辱の百年」時代を連想させる。この時期、中国は外国勢力によって植民地化され、支配された歴史がある。

 現在、アメリカと中国の関係は大きく変化しており、オピオイド危機においてはその立場が逆転しているとも言える。しかし、過去の戦争の記憶を引き起こすような貿易戦争の脅しよりも、交渉を通じて解決策を見出す方が効果的である。バイデン前大統領の政権下では、交渉によりフェンタニルのアメリカへの流入を減少させる合意が成立しており、この合意は譲歩によってフェンタニルの国際的輸出を抑える手段としてモデルとなるものである。

【詳細】

 アメリカ合衆国と中国の間で繰り広げられている「フェンタニル戦争」は、アメリカ国内でのオピオイド依存症問題を巡る貿易摩擦の一環である。この戦争の引き金となったのは、ドナルド・トランプ大統領が中国に対して10%の追加関税を課すことを示唆したことであり、その理由は中国からアメリカに流入するフェンタニルの前駆化学物質が主な原因とされている。

 フェンタニルの流入とその背景

 フェンタニルは、強力な合成オピオイドであり、鎮痛効果が非常に強いことから医療現場でも使用されているが、その濫用によって多くの死亡者を出している。フェンタニルの過剰摂取による死亡者数は、オピオイド系薬物の中でも特に深刻であり、2016年にはヘロインを上回り、最も多くの死者を出す原因となった。

 フェンタニルの製造に必要な前駆化学物質は主に中国から供給されており、これがアメリカに違法に流入しているため、アメリカ政府は中国に対して取り締まり強化を求めてきた。最初は中国から直接アメリカへフェンタニルが輸送されていたが、現在ではメキシコを経由してアメリカに密輸されるケースが増えている。メキシコの製造業者がこれらの化学物質を使用し、フェンタニルを製造した後、アメリカに流通させるという新たな密輸経路が確立されたのである。

 アヘン戦争との関連

 今回のアメリカと中国の対立は、過去のアヘン戦争と一定の類似性を持つ。アヘン戦争は、19世紀半ばにイギリスと中国の間で発生した戦争であり、その背景には貿易不均衡の解消があった。イギリスは、中国との貿易で紅茶や絹、陶磁器を大量に輸入していたが、その対価として支払う銀が多すぎたため、貿易不均衡が発生していた。この状況を打開するために、イギリスはインドで栽培されたアヘンを中国に輸出することで貿易の均衡を取ろうとした。

 中国政府はこのアヘンの輸入に強い反発を示し、1839年に広州(現・広州)でアヘンを焼却する命令を出した。これに対してイギリスは軍事的な圧力をかけ、最終的に南京条約が結ばれた。この条約は、中国に対してアヘンの取り引きの自由化や、香港の割譲、賠償金の支払いなどを要求する内容だった。

 19世紀のアヘンと20世紀以降のオピオイド

 19世紀のアヘンは、貿易戦争の中で重要な役割を果たしたが、その後の時代においても、オピオイドは依存性のある薬物として使用され続けてきた。オピオイド系薬物であるラウダヌム(アヘンとアルコールを混ぜた薬)は、19世紀の西洋において痛み止めや咳止めとして使用されていたが、依存性が高く、大量に摂取すれば致命的なこともあった。このような薬物は、医療目的で処方されることもあったが、同時にその危険性が広く認識されることとなった。

 現代においては、アメリカを中心に製薬会社の積極的な販売活動が行われ、オピオイド系薬物(特にオキシコドンなどの鎮痛薬)の使用が広がった。しかし、これらの薬物が依存症を引き起こし、さらには違法薬物(ヘロインやフェンタニル)の使用を助長する結果となった。特にフェンタニルは医療用途で使われる一方、密輸される形で流通し、過剰摂取を引き起こす原因となっている。

 中国の立場とアメリカのアプローチ

 アメリカは中国に対してフェンタニルの流入を防ぐための協力を求めてきたが、中国は当初、積極的に協力する姿勢を見せなかった。中国にとって、アメリカからの圧力に対して反発があり、アヘン戦争における屈辱の歴史が影響を与えている。この歴史的な背景により、中国政府はアメリカからの関税脅威に対しても協力的な態度を取ることは難しく、むしろ逆効果となる可能性が高い。

 そのため、フェンタニルの流入問題に対しては、過去の戦争や対立を繰り返すのではなく、国際的な協力を通じて解決を図ることが求められる。実際、バイデン前政権は中国と協力し、フェンタニルの流入を減少させるための合意を結ぶことに成功した。このような交渉を通じて、双方が利益を見出す形での解決策が望ましい。

 結論

 アメリカと中国のフェンタニルを巡る対立は、アヘン戦争に端を発する長い歴史を持つ問題であり、現在も薬物問題という形で双方に影響を与え続けている。貿易戦争や関税を通じて一方的な圧力をかけることは、過去の歴史を繰り返す結果を招くだけであるため、より建設的な交渉と協力による解決策が求められる。
 
【要点】

 ・フェンタニル問題: アメリカ合衆国でのオピオイド依存症問題の一環として、フェンタニルが過剰摂取による死亡原因のトップに。中国はフェンタニルの前駆化学物質の主な供給国。
 ・密輸経路: 初めは中国からアメリカへ直接流入していたが、現在ではメキシコを経由して密輸されるケースが増加。
 ・アヘン戦争との類似性: 19世紀のアヘン戦争も、イギリスが中国にアヘンを輸出して貿易不均衡を解消しようとした背景があり、中国がアヘン取締りを強化するとイギリスが軍事的に反発した。
 ・アメリカと中国の対立: トランプ大統領は中国に10%の追加関税を課すと警告したが、この対応は過去のアヘン戦争における中国の屈辱的な歴史を思い起こさせ、協力を得にくくする可能性が高い。
 ・オピオイドの歴史: 19世紀のラウダヌム(アヘンとアルコールを混ぜた薬)から、現代のオピオイド(オキシコドン、フェンタニル)まで、依存性の問題が続いている。
 ・国際協力の重要性: アメリカは中国に対して協力を求めているが、過去の歴史を踏まえた戦争的アプローチは逆効果となるため、交渉と協力が解決策となる。
 ・バイデン政権の対応: バイデン前政権は中国と協力し、フェンタニルの流入を減少させるための合意に成功しており、協力的な解決策が鍵となる。

【引用・参照・底本】

Opiate War: US-China in a fearsome fentanyl fight 2025.01.31 ASIATIMES
https://asiatimes.com/2025/01/opiate-war-us-china-in-a-fearsome-fentanyl-fight/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=7aca4900b3-DAILY_31_01_2025&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-7aca4900b3-16242795&mc_cid=7aca4900b3&mc_eid=69a7d1ef3c

オーストラリアの野党:中国との関係を重視する姿勢を強める2025年02月01日 20:26

Microsoft Designerで作成
【概要】

 オーストラリアの野党が中国との関係を重視する姿勢を強めているという記事である。ピーター・ダットン野党党首は、オーストラリアの中国との貿易関係を強化することを選挙戦略として重要視しており、アルバニージー政府よりも強固な関係を築くと語った。ダットンは、過去に中国との関係に対して懐疑的な立場を取っていたが、現在はトーンを柔らかくし、貿易関係の強化を優先する姿勢を示している。

 ダットンは、「中国との関係は我々のビジネスにとって重要であり、平和の維持が必要だ」とも述べ、過去の強硬な発言と対照的に穏やかな言葉を使っている。この変化には、オーストラリア国内の中国系オーストラリア人の有権者層を意識した面がある。特に、中国系オーストラリア人の投票行動が、2022年の選挙でリベラル党に対して厳しい影響を与えたことが背景にある。

 また、ダットンは自由貿易協定の重要性を強調し、過去の政府が築いた中国との経済的なつながりを再強化する意向を示している。オーストラリアと中国の関係は、ターニングポイントを迎え、過去の緊張が和らぎつつあるが、今後の政治的変動や経済的リスクが関係の先行きを左右する可能性がある。

 特に、オーストラリアの鉱物業界は、中国からの圧力に直面する可能性が高く、同国がその供給網に影響を与えることも懸念されている。オーストラリアの政府は、これらのリスクに対応するために、「オーストラリア製造未来」法案などを策定し、戦略的に鉱物処理業の税制優遇措置を導入する予定である。

 一方で、ダットンは中国に対して依然として警戒感を持ちながらも、その経済的利害を踏まえた現実的なアプローチを取る方針である。しかし、オーストラリアがどのような政権であっても、中国との関係は今後も複雑であり、両国の力関係や国際的な安全保障の状況により、予測が難しい展開を迎える可能性が高い。

【詳細】

 オーストラリアの野党である自由党(リベラル党)の党首、ピーター・ダットンは、オーストラリアと中国との貿易関係を強化する方針を鮮明にしており、選挙戦略としてもこれを強調している。ダットンは、オーストラリアの中国との関係が現政権の下で悪化しているとし、これを回復させることを公約に掲げている。彼は、「アルバニージー政府よりも強力な中国との関係を築く」と述べ、貿易関係を改善するための具体的な方針を示唆した。

 この発言は、ダットンの過去の中国に対する強硬な立場から大きな転換を示している。2021年、ダットンは中国政府について、「中国は他国を占領しようとしているわけではないが、オーストラリアを属国として扱う考えがある」と述べ、国際法の遵守を放棄することに対して警戒感を示していた。しかし、現在のダットンは、オーストラリアと中国の貿易関係を強化する必要があると認識し、そのためには「平和の維持」に努めるべきだと発言している。これは、彼のトーンがより穏やかになり、積極的な経済協力の重要性を強調していることを意味している。

 この変化は、オーストラリア国内における中国系オーストラリア人の投票行動に対する配慮があると考えられる。2022年の選挙では、自由党は中国系オーストラリア人の有権者層に対して大きな影響を受けた。自由党は、この層に対する関係を再構築し、支持を取り戻すことが必要だと認識している。そのため、ダットンは新たに中国系オーストラリア人とのつながりを強化するための施策を講じるとともに、オーストラリアの政府が築いた経済的なつながりを強化する意図を示している。

 また、ダットンが言及した自由貿易協定(FTA)の重要性も注目に値する。この協定は、アボット政権下で締結されたもので、オーストラリアと中国との貿易関係を強化する基盤となった。ダットンは、過去の政府が築いたこの関係を再評価し、相互尊重に基づく関係を再構築することを目指している。特に、オーストラリアは中国からの輸入品や資源を多く依存しているため、この協定はオーストラリア経済にとって重要である。

 しかし、オーストラリアと中国の関係は決して単純なものではない。両国の関係は、特に安全保障面での対立や摩擦によって複雑化している。オーストラリアは、中国の軍事的な拡張主義や、アジア太平洋地域における中国の影響力拡大を懸念しており、この点は今後も両国の関係において重要な課題である。また、中国がオーストラリア国内での外国の影響力を拡大しようとする動きや、サイバー攻撃、スパイ活動の疑惑なども、安全保障上のリスクとして存在している。

 オーストラリアの鉱物業界も、中国との関係におけるリスクを抱えている。中国はオーストラリアの鉱物資源を多く輸入しているが、中国の経済が停滞したり、両国間で対立が激化した場合、オーストラリアの鉱物業界は大きな影響を受ける可能性がある。特に、中国が鉱物の精錬を独占的に行っている現状では、オーストラリアの鉱物加工業に対する圧力が高まる恐れもある。このような状況下で、オーストラリアは鉱物加工を国内で行うための法案を通過させ、税制優遇措置を設けることで、リスク回避のための方策を講じている。

 中国との経済関係は改善されつつあるが、今後も両国の関係は複雑であり、どちらが主導権を握るかによって、オーストラリアの外交政策や経済政策に大きな影響を与えるだろう。中国の軍事力の強化や、アメリカとの対立が続く中で、オーストラリアはどのようにバランスを取るかが今後の重要な課題となる。また、アメリカとの貿易戦争や関税政策がオーストラリアの経済に与える影響も無視できない。もしアメリカと中国の関係が悪化すれば、オーストラリアはその影響を受け、輸出市場を再調整する必要が生じる可能性がある。

 ダットンは、これらの状況を踏まえ、オーストラリアの利益を守るために中国との関係を維持しつつ、国際的な安全保障環境にも配慮した柔軟な外交政策を追求していく必要があると認識している。
 
【要点】

 ・ピーター・ダットンの方針転換

 オーストラリア自由党党首、ピーター・ダットンは、過去の中国に対する強硬な立場から転換し、貿易関係を強化する方針を打ち出している。

 ・中国との関係改善

 ダットンは、アルバニージー政府よりも強力な中国との関係を築くことを公約に掲げ、貿易関係の回復を目指している。

 ・中国系オーストラリア人への配慮

 2022年の選挙で自由党は中国系オーストラリア人の有権者層に大きな影響を受けた。ダットンはその関係を再構築し、支持を取り戻す意図を示している。

 ・自由貿易協定(FTA)

 ダットンは、アボット政権下で締結された自由貿易協定を再評価し、相互尊重に基づいた貿易関係を強化する方針。

 ・安全保障面での懸念

 オーストラリアは、中国の軍事的拡張主義やアジア太平洋地域における中国の影響力拡大を懸念しており、安全保障上の問題が引き続き存在。

 ・鉱物業界のリスク

 ・オーストラリアの鉱物業界は、中国への依存が高く、両国間の対立が激化すると経済に大きな影響を受ける可能性がある。

 ・鉱物加工業の国内強化

 オーストラリアは鉱物加工業を国内で行うため、法案を通過させ、税制優遇措置を設けてリスク回避策を講じている。

 ・アメリカとの貿易戦争の影響

 アメリカと中国の対立が激化すれば、オーストラリアはその影響を受け、輸出市場の再調整が必要となる可能性がある。

 ・ダットンの外交政策

 ダットンは、中国との関係を維持しつつ、安全保障環境にも配慮した柔軟な外交政策を追求する方針。

【引用・参照・底本】

Australia’s opposition overtly cozying up to China 2025.01.30 ASIATIMES
https://asiatimes.com/2025/01/australias-opposition-overtly-cozying-up-to-china/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=7aca4900b3-DAILY_31_01_2025&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-7aca4900b3-16242795&mc_cid=7aca4900b3&mc_eid=69a7d1ef3c

ウクライナの西部国境の変更可能性2025年02月01日 20:43

Microsoft Designerで作成
【概要】

 ウクライナの西部の国境が紛争後に変更される可能性は低いとされる。最近、ロシアの外務情報庁長官セルゲイ・ナリシュキンの提案が、ウクライナの西部国境変更に関する議論を再燃させた。ナリシュキンは、ポーランド、ハンガリー、スロバキアの歴史家を招いて、ウクライナの将来の分割に関する会議を開くことを提案した。この後、ルーマニアのポピュリスト政治家カリンプ・ジョルゲスクがウクライナの一部領土を主張した。ジョルゲスクは、ウクライナを「架空の国家」と呼び、ルーマニアがウクライナの北部ブコヴィナやその他の領土(旧トランスカルパチアなど)に利害関係を有していると述べた。

 これらの出来事は、ロシアがウクライナを三分割する計画を持っているという憶測を呼び起こした。計画では、ロシアは2022年9月に併合したウクライナの4つの地域を完全に取り込み、ポーランドやルーマニアの旧境界線付近にロシア軍を駐留させ、ロシア寄りの地域を作るとされ、ウクライナの隣国によって「争われる」部分が分割されるとされていた。しかし、このようなシナリオが実現する可能性は低いとされる。

 その理由として、特にポーランドがウクライナの大規模な少数民族(特に過激派)を自国に抱えたくないことが挙げられる。また、これらの国々は民族浄化を行いたくないと考えており、アメリカもそのような行為に反対するだろう。さらに、アメリカが西部ウクライナに平和維持軍を派遣する可能性があったとしても、ロシアがそれを承認する可能性は低いとされる。

 最も現実的なシナリオは、西部ウクライナの国境が変わらず、そのまま保持されることだとされる。これはアメリカのロシア封じ込め戦略の一環として、ウクライナの西部が変動する理由がないからである。アメリカは、ウクライナの西部を維持するために、資金を無駄にしないようにするだろう。仮にロシアがウクライナの「トランス・ドニエプル」地域に影響を与える場合、それは非西洋の平和維持軍が管理する非武装地帯となる可能性があり、この地域においてのみ変化が見られるかもしれない。しかし、このシナリオもアメリカがロシアに対して許容できない譲歩を要求するかもしれないため、現実的とは言えない。

 結論として、西部ウクライナの国境変更に関する議論は実現の可能性が低く、ウクライナの「トランス・ドニエプル」地域に関する議論の方が現実的であるとされる。

【詳細】

 ウクライナの西部国境が紛争後に変更される可能性が低いという見解について、さらに詳しく説明する。

 ロシアの提案とルーマニアの主張

 最近、ロシアの外務情報庁(SVR)の長官であるセルゲイ・ナリシュキンがウクライナの将来に関する会議を提案し、ポーランド、ハンガリー、スロバキア、さらにはルーマニアがウクライナの一部を領有する可能性に関する議論を再燃させた。ナリシュキンは、これらの国々の歴史家を集めて、ウクライナの未来について議論を行い、ウクライナが分割される可能性があることを示唆した。また、ルーマニアのポピュリスト政治家カリンプ・ジョルゲスクは、ウクライナの一部領土、特に北部ブコヴィナや旧トランスカルパチア(現在のウクライナ領)をルーマニアが主張するべきだと述べた。ジョルゲスクは、ウクライナが「架空の国家」であり、その国境は人工的だとし、世界情勢が変化する中で国境も変わると強調した。

 これらの発言は、ウクライナが分割されるというシナリオに関する憶測を呼び起こした。具体的には、ロシアがウクライナを三分割する計画を持っているという噂が再び浮上した。この計画では、ロシアは2022年9月に併合したウクライナの4つの地域を完全に取り込み、残りの部分はポーランドやルーマニアなどの隣国が関与する形で分割されるとされていた。

 分割計画の現実性について

 しかし、このような計画が実現する可能性は極めて低いとされる。主な理由は、ポーランドやハンガリー、スロバキア、ルーマニアといった国々がウクライナの少数民族を受け入れることに消極的であるためである。これらの国々は、ウクライナの民族的な過激派を自国に受け入れることを避けたいと考えている。また、民族浄化を行うことは国際的に大きな反発を招くため、実際に領土を分割することは難しい。

 さらに、アメリカがこのような分割を容認することは考えにくい。アメリカは、ウクライナの西部を維持し、ロシアに対する防波堤とする戦略を取っているため、ロシアの影響力が強化されることを防ぎたいと考えている。仮に西部ウクライナに平和維持軍を派遣するシナリオがあったとしても、ロシアがこれを承認する可能性は低く、また、アメリカがその戦略を変えることも考えにくい。

 アメリカの役割とその戦略

 アメリカは、ウクライナに対してかなりの額の支援を行っており、その支援が無駄にならないようにするため、ウクライナの西部がロシアの支配下に入ることは避けたいと考えている。特に、ウクライナのドニエプル川西岸(現在のウクライナの中央部)については、アメリカが影響力を保持することを望んでおり、そのためにウクライナの西部の現状維持を支持する立場を取っている。

 また、アメリカが西部ウクライナに平和維持軍を派遣する場合、ロシアとの衝突を避けるために、軍隊を他の国々と混成して配置する可能性がある。これにより、隣国間で直接的な領土的な争いを回避する狙いがある。例えば、ポーランドの部隊とドイツの部隊が混在し、ルーマニアとフランスの部隊が同様に混在することで、隣国間の対立を防ぐという方法が考えられる。

 現実的なシナリオと結論

 結局のところ、ウクライナの西部の国境が変更される可能性は低いとされる。ロシアが西部ウクライナに対して大きな影響力を持つことは現実的ではなく、アメリカやEUもそのような変更を支持する理由はない。むしろ、ウクライナの「トランス・ドニエプル」地域(ドニエプル川東岸とロシアの占領地域の間)において、非西洋の平和維持軍による管理が行われる可能性があるが、これについてもアメリカの承認を得る必要があるため、簡単には進まない。

 そのため、ウクライナの西部国境は基本的に現状のままであり、これらの国々がウクライナを分割するシナリオは現実的な展開ではないと考えられている。
 
【要点】

 ・ロシアの提案:ロシアのSVR長官がウクライナの未来の分割について、ポーランド、ハンガリー、スロバキア、ルーマニアの歴史家と議論する提案を行った。
 ・ルーマニアの主張:ルーマニアのポピュリスト政治家カリンプ・ジョルゲスクが、ウクライナの一部(北部ブコヴィナ、トランスカルパチアなど)をルーマニア領とするべきだと主張。
 ・ウクライナ分割の計画:ロシアがウクライナを三分割し、ポーランドやルーマニアが一部を占領する可能性があるという憶測が再浮上。
 ・現実性の低さ

  ⇨ ポーランドやハンガリー、スロバキア、ルーマニアはウクライナの少数民族を受け入れることに消極的であり、民族的過激派を自国に受け入れたくない。
  ⇨ 民族浄化を避けるため、領土分割は難しい。
  ⇨ アメリカがこの分割を支持する理由はなく、ウクライナ西部の現状維持を望んでいる。

 ・アメリカの関与

  ⇨ アメリカはウクライナに大規模な支援を行っており、ウクライナ西部がロシアに支配されることを避けたい。
  ⇨ 平和維持軍が派遣される場合、ロシアとの衝突を避けるため、混成軍が配置される可能性がある。

 ・トランス・ドニエプル地域:ウクライナのドニエプル川東岸とロシア占領地域の間で非西洋の平和維持軍による管理が行われる可能性があるが、これもアメリカの承認を得る必要があるため実現は難しい。
 ・結論:ウクライナの西部国境は現状維持の可能性が高く、分割計画は現実的ではない。

【引用・参照・底本】

Ukraine’s Western Borders Are Unlikely To Change After The Conflict Ends 2025.02.01 Andrew Korybko's Newsletter
https://korybko.substack.com/p/ukraines-western-borders-are-unlikely?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=156228086&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

中国:今後も世界経済に多くのサプライズをもたらす2025年02月01日 20:52

Microsoft Designerで作成
【概要】

 2025年1月20日、中国外交部(外務省)の毛寧報道官は定例記者会見で、中国経済に関する質問に答えた。記者からの質問は、国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミスト、グランシャ氏が2024年の中国経済成長率が5%であったことを発表し、IMFの予測を上回ったとして「サプライズ」と述べたことに関するものであり、IMFが2025年および2026年の中国経済成長見通しを上方修正した点についても言及された。

 これに対し、毛報道官は2024年の中国経済が成長目標を順調に達成し、経済規模が初めて130兆元を超えたことを強調した(1元は約21.3円)。また、その増加分は中程度の国の年間経済規模に相当すると述べ、中国経済の強靭性と潜在能力を示すものであり、世界中で中国経済に対する信頼を強める結果となったと説明した。毛報道官はさらに、中国が質の高い発展と高いレベルの開放を堅持し、経済の持続的な向上と好転の傾向を維持しており、今後も世界経済に多くの「サプライズ」をもたらすと述べた。

【詳細】

 2025年1月20日に中国外交部(外務省)の毛寧報道官は、定例記者会見で、中国経済の現状についての質問に答えた。記者が言及した内容は、国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストであるグランシャ氏が、2024年の中国経済成長率が予測を上回る5%を記録したことに対して、「サプライズ」と評価した点についてであり、またIMFが2025年および2026年の中国経済成長見通しを上方修正したことにも触れていた。

 毛報道官はこれに対して、2024年の中国経済が成長目標を順調に達成したことを強調した。具体的には、中国の経済規模が初めて130兆元(約2,770兆円)を超え、その増加分は中程度の国の年間経済規模に相当するという点を挙げた。このことは、中国経済が持つ強靭性と潜在力を示すものだとし、その結果として、世界中の国々が中国経済に対してより高い信頼を抱くようになったと述べた。

 さらに毛報道官は、中国が引き続き「質の高い発展」と「高いレベルの開放」を維持し続けていることを強調した。ここで言う「質の高い発展」とは、単に経済成長率を追求するのではなく、持続可能な成長、イノベーションの推進、環境への配慮を含む経済の質的向上を目指すものであり、これによって経済の構造改革が進むことを意味する。「高いレベルの開放」とは、中国が対外貿易や投資、技術交流をさらに拡大し、グローバル経済における役割を強化していくことを指している。

 毛報道官は最後に、これらの政策が中国経済の持続的な向上と好転を促進し、その結果として中国は今後も世界経済に「サプライズ」をもたらすだろうと述べ、世界市場における中国の影響力の拡大を示唆した。この発言は、2024年の経済成長の実績に基づき、今後も予想以上の経済的な成果を上げる可能性があるという自信を表している。
 
【要点】

 1.2024年の中国経済

 ・経済成長率は5%で、IMFの予測を上回った。
 ・経済規模が初めて130兆元を超え、その増加分は中程度の国の年間経済規模に相当。
 ・これにより、中国経済の強靭性と潜在能力が示された。
 ・世界中で中国経済に対する信頼が高まった。

 2.中国の経済政策

 ・質の高い発展: 持続可能な成長、イノベーション、環境への配慮を含む経済の質的向上を目指す。
 ・高いレベルの開放: 対外貿易や投資、技術交流を拡大し、グローバル経済での役割を強化。

 3.IMFの予測修正:

 ・2025年と2026年の中国経済成長見通しを上方修正。
 ・中国経済の成長は引き続き堅調と予測される。

 4.毛報道官の発言

 ・中国は今後も世界経済に「サプライズ」をもたらし、経済の持続的な向上と好転を維持すると強調。

【引用・参照・底本】

外交部「中国が世界経済により多くの『サプライズ』をもたらす」 人民網日本語版 2025.01.21
http://j.people.com.cn/n3/2025/0121/c94474-20268518.html