欧州人権裁判所:オデッサで発生した虐殺事件、ウクライナ政府の人権侵害と認定2025年03月27日 23:46

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【概要】

 欧州人権裁判所は、2014年5月2日にウクライナのオデッサで発生した虐殺事件において、ウクライナ政府が人権侵害を犯したと認定した。この事件では、親ロシア的な活動家がオデッサ市内の労働組合会館に追い込まれ、ウルトラナショナリストの集団によって焼き殺された。裁判所は、ウクライナ当局がこの暴力を未然に防ぐために適切な措置を講じなかったことを非難し、ウクライナ政府が人命を守るための適切な措置を取らなかったことを指摘した。

 事件の当日、ウクライナの警察や消防隊は、現場に駆けつけるまでに40分以上の遅延があった。消防車は、火災が発生してからも現場に送られることなく、消火活動が遅れた。さらに、ウクライナ当局は、抗議活動や暴力的な衝突が起こる可能性を予測していたにもかかわらず、適切な予防措置を取らなかった。裁判所は、ウクライナ当局が人々の命を守るために合理的に期待される行動を取らなかったと判断し、その結果として人権侵害が発生したと認定した。

 裁判所はまた、ウクライナ政府が事件後に効果的な調査を行わなかったことも批判し、事件に関する刑事捜査が不十分であったことを指摘した。調査が長期間遅れ、証拠が破棄され、関係者が適切に追及されなかったことが問題視された。

 この事件は、ウクライナの「マイダン革命」後の政治的緊張が高まる中で発生し、ウクライナ政府のウルトラナショナリスト勢力による反対派に対する暴力的な弾圧の一環として位置づけられている。また、裁判所は事件に関与したウクライナの政治家や軍の関与についても指摘しており、ウクライナ政府の責任が重大であると認めている。

 結論として、裁判所はウクライナ政府に対して賠償金として一人当たり15,000ユーロを支払うよう命じたが、その額は被害者に対する適切な補償としては不十分であるとの批判もある。
 
【詳細】
 
 2014年5月2日のオデッサ虐殺事件に関して、欧州人権裁判所(ECHR)はウクライナ政府が人権侵害を犯したと認定した。この事件では、親ロシアのデモ参加者がウクライナの極右勢力によってオデッサの労働組合会館に追い込まれ、生きたまま焼き殺された。裁判所は、ウクライナ当局がこの暴力を防ぐために十分な措置を取らなかったことを非難し、ウクライナ政府が「命の権利」を保障する欧州人権条約第2条に違反したと判断した。

 事件の経緯を詳述すると、2014年5月2日、ウクライナのオデッサで「統一ウクライナ」を支持するデモと、反政府的な「反マイダン」活動家との間で激しい衝突が発生した。反マイダン活動家は、ウクライナの親ナチス的な極右勢力によるデモに反対し、オデッサのクレリコポル広場に設置されたテント村を守るために立ち上がった。このデモにはウクライナのフットボールクラブの支持者が関与しており、彼らは暴力的なナチス系の過激派とされている。反マイダン活動家はデモの進行を阻止するために集結し、衝突が発生した。

 その後、親ウクライナ派のデモ参加者は暴力的に反政府活動家に攻撃を仕掛け、反マイダン活動家たちは労働組合会館に避難した。しかし、その後、親ウクライナ派のデモ参加者がモロトフカクテル(焼夷瓶)を投げ込んで会館に火を放った。驚くべきことに、地元の消防署からは約40分間も消防車が派遣されなかった。この消防車の遅延は、当局による故意の遅延とされ、これは衝突を防ぐための措置をとらなかったこと、そして暴力が発生した後の救助措置を遅らせたことに対する非難となった。

 さらに、裁判所はウクライナ当局がその後の事件に対する効果的な調査を行わなかったことも指摘した。地元当局は事件の後、証拠を隠滅するために都市の中心部の清掃作業を行い、捜査に必要な証拠を削除する行動をとった。裁判所は、捜査が何年も遅れたことや、いくつかの疑わしい事件が無視されたことに対しても強く非難した。

 ウクライナ政府による調査とその後の対応についても厳しく批判された。事件の関係者に対する捜査が長期間にわたり行われなかったこと、また捜査結果が不十分であったことが明らかにされた。特に消防署長や警察署長に関しては、事件当日の責任を問われながらも、調査が極めて遅れ、法的な責任が問われることなく処理された。

 この裁判では、ウクライナ政府が極右勢力や過激派による暴力を許容し、またその暴力を防ぐための適切な措置を取らなかったことが重要なポイントとなった。しかし、裁判所はウクライナ政府の関与を完全に明確にしなかった。特に、ウクライナ政府が事件を意図的に引き起こしたかどうかについては結論を出さなかったが、裁判所の決定には政府の不作為が深刻であったことが示されている。

 結論として、欧州人権裁判所はウクライナ政府が人権侵害を犯したと認定し、事件の被害者に対して15,000ユーロの賠償金を支払うよう求めた。しかし、裁判所はウクライナ政府が関与した全体的な事実関係に関する評価を控え、事件の背景にあるウクライナ政府と極右勢力の関係を深く掘り下げることはなかった。この決定は、ウクライナ政府に対する圧力の一環として解釈されることもあるが、事件の完全な解明には至っていない。

【要点】

 1.オデッサ虐殺事件の概要

 ・2014年5月2日、ウクライナのオデッサで親ウクライナ派と反ウクライナ派の激しい衝突が発生。

 ・反政府的な「反マイダン」活動家たちがオデッサの労働組合会館に避難。

 ・親ウクライナ派がモロトフカクテルを投げ込み、会館に火を放つ。

 2.欧州人権裁判所(ECHR)の判決

 ・ウクライナ政府は事件を防ぐ措置を取らず、人権侵害(生命権の侵害)を犯したとして、欧州人権条約第2条に違反と認定。

 ・ウクライナ政府に対し、賠償金15,000ユーロを支払うよう命じた。

 3.ウクライナ政府の責任

 ・地元の消防署が40分間も遅れ、火災の消火が遅れた。

 ・当局が事件後、証拠を隠滅するために都市の清掃作業を行い、捜査を妨害。

 ・捜査が遅れ、関係者の法的責任が問われなかった。

 4.裁判所の批判

 ・ウクライナ政府の不作為、極右勢力の暴力を放置したことが指摘された。

 ・事件の背後にウクライナ政府と極右勢力の関係があるとされ、政府が関与したかどうかの結論は出さなかった。

 5.最終的な結論

 ・ウクライナ政府の行動に対する圧力が強調される一方で、事件の完全な解明には至らなかった。

【参考】

 ☞ オデッサ虐殺事件は、2014年5月2日にウクライナのオデッサで発生した暴動であり、親ウクライナ派と反ウクライナ派(親ロシア派)との間で衝突が起きた。以下に詳しく説明。

 背景

 1.ウクライナの政治的背景

 ・2013年から2014年にかけて、ウクライナでは親ロシア派のヴィクトル・ヤヌコビッチ政権と、親欧州連合派の反政府運動(ウクライナのユーロマイダン運動)が対立していた。

 ・2014年2月、ヤヌコビッチ政権が崩壊し、ウクライナは親西欧派の暫定政府を樹立。しかし、ロシアはクリミア半島を併合し、ウクライナ東部では親ロシア派の武装勢力が活動を開始した。

 2.オデッサの地理的背景

 ・オデッサは黒海沿岸の港湾都市で、ウクライナの南部に位置し、ロシアとの歴史的な繋がりが強い地域である。

 ・市内では親ウクライナ派と親ロシア派の勢力が対立しており、この対立が暴力的な衝突を引き起こした。

 事件の経過

 1.衝突の発端

 ・2014年5月2日、オデッサで親ウクライナ派と親ロシア派が衝突。親ウクライナ派の活動家と反政府の親ロシア派勢力が激しく対立し、暴力的な衝突が続いた。

 ・親ウクライナ派のグループは親ロシア派の拠点である労働組合会館を包囲し、モロトフ・カクテル(火炎瓶)を投げつけ、会館を火の海にした。

 2.労働組合会館の火災

 ・親ロシア派の活動家たちは、労働組合会館に避難し、閉じ込められる形となった。

 ・親ウクライナ派による火炎瓶の投下により、建物内で火災が発生。数十人の親ロシア派活動家が逃げられず、煙や炎に巻き込まれ死亡した。

 ・死者の数は確定していないが、報告によれば約40人以上が命を落としたとされる。

 3.政府の対応

 ・ウクライナ政府は現場に十分な治安部隊を派遣せず、当初は混乱が広がった。

 ・火災発生後、当局の消火活動も遅れ、犠牲者が増加。地元の消防士や警察は、何らかの理由で迅速な対応ができなかった。

 その後の影響と評価

 1.人権侵害の指摘

 ・事件後、ウクライナ政府の不作為と、治安部隊の対応の遅れが批判された。事件の数ヶ月後、欧州人権裁判所(ECHR)はウクライナ政府に対し、事件の適切な捜査と責任の追及を求めた。

2.証拠の隠滅と捜査の不備

 ・事件後、オデッサ市は清掃作業を行い、現場の証拠を消し去る動きがあったことが報告された。

 ・捜査は遅れ、事件の関係者に対する法的な責任追及が行われなかったため、事件は未解決のままとなった。

 3.社会的な影響

 ・オデッサ事件はウクライナ国内で深刻な社会的亀裂を生み、親ウクライナ派と親ロシア派の間の対立をさらに激化させた。

 ・反ロシア的な感情が高まる一方で、ロシア支持派に対する排斥が強まった。

 結論

 オデッサ虐殺事件は、ウクライナ内戦の中でも象徴的な事件の一つとなり、ウクライナ政府の対応の遅れと、極端な政治的対立が引き起こした悲劇である。この事件はウクライナとロシアの関係だけでなく、ウクライナ国内の社会的分裂を深刻化させる結果となった。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

Ukraine guilty of human rights violations in trade union massacre, top European court finds GRAYZONE 2025.03.27
https://thegrayzone.substack.com/p/ukraine-guilty-of-human-rights-violations

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