オランダ:「21世紀の海賊行為」 ― 2025年10月15日 18:21
【概要】
オランダ政府が中国企業Wingtechの子会社Nexperiaに対し、「オランダおよび欧州の経済安全保障にリスクをもたらす可能性がある」との懸念を理由に「極めて異例な」介入を決定し、中国側株主の正常な支配権を事実上剥奪したことに対し、強い抗議を表明している。
オランダのこの一連の行動は、でっち上げられた「国家安全保障」を口実とした中国企業への深刻な嫌がらせであり、中国企業が長年築き上げてきた資本と技術的成果を奪おうとする「21世紀の海賊行為」であると非難している。これは市場経済と公正な競争の原則に違反し、国際貿易ルールに反する行為であると指摘する。
中国は、国家安全保障の概念の過度な拡張と、特定の国の企業を標的とした差別的な動きに反対の姿勢を示しており、「中華人民共和国反外国制裁法」などの法的な枠組みに基づき、自国の正当な権利と利益を守る断固たる決意と十分な能力を有していると警告している。
【詳細】
オランダ政府は、2025年10月13日(日)に中国企業Wingtechの子会社Nexperiaへの介入を決定した。これに先立つ9月30日、オランダ経済省はNexperiaとその関連エンティティの事業決定を制限する行政命令を発出し、中国側株主から正常な支配権を奪った。Wingtechは、この中国系企業を標的とした差別的扱いに強い抗議の声明を発表している。
このオランダの行動は正常な商業規制を遥かに超え、露骨な政治的強制と差別的な含みを帯びており、合法的な株主の権利を制限する行為は市場経済と公正な競争の原則に違反し、国際投資家のEU市場に対する信頼を損なうものであると主張している。BBCがオランダ政府の声明が同社の事業が危険であると見なす具体的な理由を詳述していないと報じたこと、また、この動きが米国商務省による9月の対中規制強化に関連していると示唆されていることが言及されている。フィナンシャル・タイムズなどのメディアも、この極めて異例の行動が中国・EU間の緊張をさらに悪化させると警告している。
多くの識者は、米国の中国企業に対する極端な抑圧と安全保障の過度な強調が、オランダのNexperiaへの介入に対する外部支援と否定的な前例を提供したと見ている。中国外交部の報道官は、国家安全保障の概念の過度な拡張と、特定の国・企業を標的とした差別的措置に反対する立場を強調し、中国が自国の合法的権益を守る断固たる決意を有していることを強調した。
オランダ政府による「サプライチェーンの安全保障」を口実とした過度の干渉と、その後の合法性を装った資産接収の一連の行動は、同国の歴史における暗い章を想起させると論じている。「国家安全保障」が私掠免許として扱われ、「植民地時代の遺伝子」が21世紀に覚醒したとの皮肉な見方も紹介されている。Wingtechが2019年にNexperiaを買収して以来、同社が安定して健全な事業を維持し、オランダ経済に積極的に貢献してきた事実は指摘されている。
また、月曜日に中国税関総署が発表したデータによると、9月の中国の輸出は米ドル建てで前年比8.3パーセント増、輸入は同7.4パーセント増と、いずれも外部予想を上回っていることが示されており、これは中国経済の回復力と、米国の保護主義強化下でも世界との貿易・経済関係が深まっていることを示すものであると結論付けている。
【要点】
・オランダの介入と中国の反発: オランダ政府はNexperiaに対し経済安全保障を理由に介入し、中国側株主の支配権を制限したこと。中国側はこれを差別的で政治的な強制として強く抗議していること。
・「21世紀の海賊行為」: 本編集論はオランダの行動を、国家安全保障を口実にした「21世紀の海賊行為」であり、市場経済の原則に違反するものであると厳しく批判していること。
・米国の影響: オランダの行動は、米国の中国企業への抑圧的な措置と関連しているとの見方が示されており、ハイテク分野における西側諸国と中国の間の摩擦をエスカレートさせていること。
・中国の決意: 中国外交部は、国家安全保障の概念の過度な拡張に反対し、中国が自国の正当な権利と利益を守る断固たる決意と十分な能力を有していることを表明していること。
・中国経済の回復力: 9月の中国の輸出入データが外部予想を上回り、米国の保護主義下でも中国経済の回復力と貿易関係の深化が示されていること。
【桃源寸評】🌍
Nexperiaは、オランダに本社を置く半導体メーカーである。
同社は主に、電子機器の基礎となる汎用(コモディティ)半導体部品の製造と販売を専門としている。
1.主な製品群は以下の通りである。
(1)ディスクリート製品
・トランジスタ
・ダイオード(スイッチング、ツェナー、ショットキー、SiCなど)
・MOSFET（特に車載用パワーMOSFET)
・ESD(静電気放電)保護デバイス
(2)汎用ロジック製品
・標準ロジックIC
・ミニロジック
・電圧トランスレータ(レベルシフタ)
2.Nexperiaの製品
Nexperiaの製品は、自動車、通信インフラ、スマートフォン、産業機器、コンピュータなど、幅広い分野の電子機器に組み込まれている。特に、年間900億個にも上る信頼性の高い半導体部品を製造しており、ロジック製品や車載用ディスクリート製品においては世界的なリーダー企業の一つとして知られている。
3.Nexperiaが中国企業の傘下となった経緯
Nexperiaはもともと、オランダの半導体大手NXP Semiconductors社のスタンダード・プロダクツ事業部であった。NXPは、高機能なミクスド・シグナルICなどを扱うHPMS事業部に経営資源を集中させるため、汎用(コモディティ)半導体を扱うこの部門を分離・売却することを決定した。
(1)2017年の初めに、スタンダード・プロダクツ事業部は独立し、Nexperiaとして新会社となった。
(2)中国系投資グループによる買収(2017年)
・NXPから独立した際、Nexperiaは中国の投資ファンドであるJAC CapitalとWise Road Capitalを含む中国投資家グループによって買収された。
・この買収により、Nexperiaは独立企業として活動を開始した。
(2)Wingtech Technologyによる完全子会社化(2019年〜2020年)
・その後、中国のスマートフォン受託製造(ODM)大手であるWingtech Technology(聞泰科技)が、Nexperiaの株式を取得し始めた。
・2019年：Wingtech TechnologyがNexperiaの株式の75.86%を取得し、過半数の支配権を確立した。
・2020年：Wingtech Technologyが残りの株式を取得し、Nexperiaを完全子会社化した。
・この結果、Nexperiaはオランダに本社を置く半導体メーカーでありながら、中国のテクノロジー企業であるWingtech Technologyの完全な傘下に入ることとなった。
3.オランダ政府の具体的な措置
オランダ政府は、国家安全保障上の懸念、特に「深刻なガバナンス上の欠陥と行動」がオランダおよび欧州の重要な技術的知識と能力の継続性に脅威をもたらすとして、「極めて異例」とされる以下の措置を講じた。
(1) 行政命令による事業の制限(「凍結命令」)
・オランダ経済省は2025年9月30日(公表は10月13日)に、以下の内容を含む行政命令を発出した。
・資産・事業・人事の現状維持の強制: Nexperiaおよびその関連企業に対し、資産、知的財産権、事業運営、および人事に関して、1年間にわたり一切の変更を行うことを禁止した(実質的な「凍結命令」)。
(2) 裁判所を通じた経営支配権の剥奪
・オランダの裁判所も並行して介入し、以下の措置を講じた。
・CEOの解任(職務停止): Wingtech TechnologyのCEOである張学政(Zhang Xuezheng)を、Nexperiaの取締役としての職務から停止・解任した。
・独立管財人の設置: Wingtech Technologyが間接的に保有するNexperia株式の実質的に全ての議決権を、裁判所が選任した独立した管財人の管理下に置いた。これにより、WingtechはNexperiaに対する正常な管理権を一時的に喪失した。
・非執行取締役の任命: 会社に独立した非執行取締役が任命され、経営判断に対する決定権が与えられた。
・これらの措置により、オランダ政府は、Nexperiaの経営判断をブロックまたは覆す権限を得て、同社が持つ欧州における半導体技術と生産能力を外部(中国の親会社)への流出から保護することを試みている。
4.記事の主張
記事は、オランダ政府のNexperiaに対する措置を、法的な手続きを装った「国家の強奪行為」であると明確に非難している。
・「21世紀の海賊行為」と表現されている: オランダ政府の一連の行動は、中国企業が長年築き上げてきた資本と技術的成果を奪おうとする試みであり、「21世紀の海賊行為(21st-century piracy)」であると非難されている。
・「法的な偽装による強盗」と見なされている: この行為は、「国家安全保障」という口実の下で、資産の接収を合法的に装うものであり、「法的な偽装による強盗(robbery in legal disguise)」、すなわち「植民地時代の遺伝子」の覚醒だと風刺されている。
・国際ルールの露骨な蹂躙であると断じられている: この措置は、市場経済と公正な競争の原則に違反し、国際貿易ルールに反するものであり、「オランダによる国際ルールの露骨な蹂躙」であると論じられている。
5.措置の根拠と論争点
・オランダ政府は、この異例の措置を「国家安全保障上の懸念」とNexperiaの「深刻なガバナンス上の欠陥」を根拠としており、「戦時法」に相当するとも評される「物資供給法(Goods Availability Act)」を発動して介入した。
・記事の立場は、この「国家安全保障」の主張は「でっち上げられた(fabricated)」口実に過ぎず、欧米諸国が地政学的な対立の中で、市場競争ではなく「商業的な略奪」に訴えているという見解である。
・したがって、記事の立場からすれば、この措置は「オランダ国家の強奪行為」そのものであると主張されている。
6.中国側(Wingtechおよび政府)の対応策
(1) 外交的・公式な抗議の表明
・中国は、オランダ政府の措置に対し、公式なルートを通じて強い不満と抗議を表明している。
・Wingtech Technologyによる抗議: 親会社であるWingtech Technologyは、オランダ政府の措置に対し、「中国系企業を標的とした差別的待遇」として強い抗議の声明を発表している。
(2)中国外交部による非難と警告
・中国は、国家安全保障の概念を過度に拡張することや、特定の国の企業を標的とした差別的な動きに反対する姿勢を強調している。
・中国は、自国の正当かつ合法的な権利と利益を守る断固たる決意と十分な能力を有していると強く警告している。
(3) 法的対抗措置の準備
・中国は、自国の企業の権利を守るための法的な枠組みを対抗手段として用意していることを示唆している。
・「反外国制裁法」の強調: 中国の「中華人民共和国反外国制裁法」などの法的な枠組みが、中国企業の合法的権利を保護するための「強力な保護」を提供すると強調している。
・「不合理な手続きを覆す自信」の表明: 親会社であるWingtechは、オランダ政府の行政命令と裁判所の手続きの両方が法的根拠に欠けると主張し、不合理な手続きを覆す自信があるとの見解を示している。
(4)自国の利益と能力への自信の強調
・中国は、オランダの行動によって影響を受けるのは中国だけでなく、オランダ自身にも損害が及ぶことを警告し、自国の経済的な強靭さを強調している。
・「過小評価すべきではない」との警告: 中国の「確固たる決意と、自国の利益を守るための十分な能力」を、いかなる当事者も過小評価すべきではないと警告している。
・経済的強靭さの強調: 中国の輸出が外部予想を上回っている最新の経済データを引用し、米国の保護主義的措置がある中でも、中国の経済的回復力と世界との貿易関係の深化が続いていることを示している。
・歴史の潮流の認識の要求: オランダに対し、保護主義や単独行動主義ではなく、「開放性、包摂性、共有された繁栄」という歴史の潮流を認識するよう促している。
Nexperia is a semiconductor manufacturer headquartered in the Netherlands.
The company mainly specializes in the manufacture and sale of general-purpose (commodity) semiconductor components that form the foundation of electronic devices.
1.The main product groups are as follows:
(1) Discrete products
・Transistors
・Diodes (switching, Zener, Schottky, SiC, etc.)
・MOSFETs (especially automotive power MOSFETs)
・ESD (Electrostatic Discharge) protection devices
(2) General-purpose logic products
・Standard logic ICs
・Mini logic
・Voltage translators (level shifters)
2.Nexperia’s products
Nexperia’s products are incorporated into a wide range of electronic devices such as automobiles, communication infrastructure, smartphones, industrial equipment, and computers. The company manufactures more than 90 billion reliable semiconductor components annually, and is known as one of the world’s leading companies in logic products and automotive discrete devices.
3.The process by which Nexperia came under Chinese ownership
Nexperia originally belonged to the Standard Products division of NXP Semiconductors, a major Dutch semiconductor company. NXP decided to separate and sell this division, which handled general-purpose (commodity) semiconductors, in order to focus its management resources on the HPMS division, which dealt with high-performance mixed-signal ICs and other advanced products.
(1) In early 2017, the Standard Products division became independent and was established as a new company called Nexperia.
(2) Acquisition by a Chinese investment group (2017)
・When Nexperia became independent from NXP, it was acquired by a group of Chinese investors, including the Chinese investment funds JAC Capital and Wise Road Capital.
・Through this acquisition, Nexperia began operating as an independent company.
(2) Complete acquisition by Wingtech Technology (2019–2020)
・Subsequently, Wingtech Technology (闻泰科技), a major Chinese smartphone ODM (Original Design Manufacturer), began acquiring shares in Nexperia.
・2019: Wingtech Technology acquired 75.86% of Nexperia’s shares, thereby securing majority control.
・2020: Wingtech Technology acquired the remaining shares and made Nexperia its wholly owned subsidiary.
・As a result, although Nexperia remains headquartered in the Netherlands, it became a full subsidiary of the Chinese technology company Wingtech Technology.
3.Specific measures taken by the Dutch government
The Dutch government, citing concerns over national security — in particular, “serious governance defects and conduct” posing a threat to the continuity of critical technological knowledge and capabilities in the Netherlands and Europe — took the following “extremely exceptional” measures.
(1) Administrative order imposing operational restrictions (“freeze order”)
・On September 30, 2025 (announced on October 13), the Dutch Ministry of Economic Affairs issued an administrative order that included the following provisions.
・Enforced status quo of assets, operations, and personnel: Nexperia and its related companies were prohibited, for one year, from making any changes to their assets, intellectual property, business operations, or personnel (in effect, a “freeze order”).
(2) Revocation of management control through court intervention
・The Dutch courts also intervened concurrently and took the following actions.
・Dismissal (suspension) of the CEO: Zhang Xuezheng, CEO of Wingtech Technology, was suspended and removed from his position as a director of Nexperia.
・Appointment of an independent trustee: All voting rights associated with Nexperia shares indirectly held by Wingtech Technology were placed under the control of an independent trustee appointed by the court. This effectively stripped Wingtech of normal managerial control over Nexperia.
・Appointment of non-executive directors: Independent non-executive directors were appointed to the company and granted decision-making authority over management matters.
・Through these measures, the Dutch government effectively obtained the power to block or overturn Nexperia’s management decisions, thereby seeking to protect the company’s semiconductor technology and production capabilities in Europe from being transferred externally (to its Chinese parent company).
4.The article’s main argument
The article explicitly denounces the Dutch government’s actions toward Nexperia as a form of “state robbery” disguised as legal procedure.
・Described as “21st-century piracy”: The Dutch government’s actions are characterized as an attempt to seize the capital and technological achievements that a Chinese company had built over many years — a form of “21st-century piracy.”
・Viewed as “robbery in legal disguise”: These actions are portrayed as an attempt to legitimize asset seizure under the pretext of “national security,” amounting to “robbery in legal disguise,” and satirically described as the awakening of “colonial-era genes.”
・Declared as a blatant violation of international rules: The measures are argued to violate the principles of market economy and fair competition, and to contravene international trade rules — a “blatant trampling of international rules by the Netherlands.”
5.Basis and points of controversy regarding the measures
・The Dutch government justified these exceptional measures on grounds of “national security concerns” and “serious governance defects” within Nexperia, invoking the “Goods Availability Act,” which is said to be comparable to wartime legislation, to intervene.
・From the article’s standpoint, this “national security” rationale is nothing more than a “fabricated” pretext, reflecting how Western countries, in the context of geopolitical rivalry, resort to “commercial plunder” rather than market competition.
・Accordingly, from the article’s perspective, these measures constitute nothing less than an act of “state robbery” by the Netherlands.
6.China’s (Wingtech and government) responses
(1) Diplomatic and official protest
・China expressed strong dissatisfaction and protest through official channels in response to the Dutch government’s measures.
・Protest by Wingtech Technology: The parent company, Wingtech Technology, issued a strong statement condemning the Dutch government’s actions as “discriminatory treatment targeting Chinese enterprises.”
(2) Denunciation and warning by the Chinese Ministry of Foreign Affairs
・China emphasized its opposition to the excessive expansion of the concept of national security and to discriminatory moves targeting specific countries’ enterprises.
・China issued a strong warning that it possesses both the firm resolve and ample capability to safeguard its legitimate rights and interests.
(3) Preparation of legal countermeasures
・China indicated that it has legal frameworks in place to protect the rights of its companies as countermeasures.
・Emphasis on the “Anti-Foreign Sanctions Law”: China stressed that its “Anti-Foreign Sanctions Law of the People’s Republic of China” and other legal frameworks provide “powerful protection” for the legitimate rights of Chinese enterprises.
・Expression of confidence in overturning “unreasonable procedures”: Wingtech, the parent company, asserted that both the administrative order and the court proceedings initiated by the Dutch government lack legal basis and expressed confidence in overturning these unreasonable measures.
(4) Emphasis on confidence in national interests and capabilities
・China warned that the Netherlands’ actions would not only harm China but also damage the Netherlands itself, while emphasizing the resilience of its own economy.
・Warning “not to underestimate”: China warned that no party should underestimate its “firm determination and sufficient capability to protect its national interests.”
・Emphasis on economic resilience: Citing recent economic data showing that China’s exports exceeded external expectations despite U.S. protectionist measures, China highlighted its ongoing economic resilience and deepening global trade relations.
・Call to recognize the trend of history: China urged the Netherlands to recognize the historical trend toward “openness, inclusiveness, and shared prosperity,” rather than resorting to protectionism and unilateralism.
【寸評 完】 💚
【引用・参照・底本】
Netherlands should not underestimate China's resolve, capability to protect its rights: Global Times editorial GT 2025.10.14
https://www.globaltimes.cn/page/202510/1345566.shtml
オランダ政府が中国企業Wingtechの子会社Nexperiaに対し、「オランダおよび欧州の経済安全保障にリスクをもたらす可能性がある」との懸念を理由に「極めて異例な」介入を決定し、中国側株主の正常な支配権を事実上剥奪したことに対し、強い抗議を表明している。
オランダのこの一連の行動は、でっち上げられた「国家安全保障」を口実とした中国企業への深刻な嫌がらせであり、中国企業が長年築き上げてきた資本と技術的成果を奪おうとする「21世紀の海賊行為」であると非難している。これは市場経済と公正な競争の原則に違反し、国際貿易ルールに反する行為であると指摘する。
中国は、国家安全保障の概念の過度な拡張と、特定の国の企業を標的とした差別的な動きに反対の姿勢を示しており、「中華人民共和国反外国制裁法」などの法的な枠組みに基づき、自国の正当な権利と利益を守る断固たる決意と十分な能力を有していると警告している。
【詳細】
オランダ政府は、2025年10月13日(日)に中国企業Wingtechの子会社Nexperiaへの介入を決定した。これに先立つ9月30日、オランダ経済省はNexperiaとその関連エンティティの事業決定を制限する行政命令を発出し、中国側株主から正常な支配権を奪った。Wingtechは、この中国系企業を標的とした差別的扱いに強い抗議の声明を発表している。
このオランダの行動は正常な商業規制を遥かに超え、露骨な政治的強制と差別的な含みを帯びており、合法的な株主の権利を制限する行為は市場経済と公正な競争の原則に違反し、国際投資家のEU市場に対する信頼を損なうものであると主張している。BBCがオランダ政府の声明が同社の事業が危険であると見なす具体的な理由を詳述していないと報じたこと、また、この動きが米国商務省による9月の対中規制強化に関連していると示唆されていることが言及されている。フィナンシャル・タイムズなどのメディアも、この極めて異例の行動が中国・EU間の緊張をさらに悪化させると警告している。
多くの識者は、米国の中国企業に対する極端な抑圧と安全保障の過度な強調が、オランダのNexperiaへの介入に対する外部支援と否定的な前例を提供したと見ている。中国外交部の報道官は、国家安全保障の概念の過度な拡張と、特定の国・企業を標的とした差別的措置に反対する立場を強調し、中国が自国の合法的権益を守る断固たる決意を有していることを強調した。
オランダ政府による「サプライチェーンの安全保障」を口実とした過度の干渉と、その後の合法性を装った資産接収の一連の行動は、同国の歴史における暗い章を想起させると論じている。「国家安全保障」が私掠免許として扱われ、「植民地時代の遺伝子」が21世紀に覚醒したとの皮肉な見方も紹介されている。Wingtechが2019年にNexperiaを買収して以来、同社が安定して健全な事業を維持し、オランダ経済に積極的に貢献してきた事実は指摘されている。
また、月曜日に中国税関総署が発表したデータによると、9月の中国の輸出は米ドル建てで前年比8.3パーセント増、輸入は同7.4パーセント増と、いずれも外部予想を上回っていることが示されており、これは中国経済の回復力と、米国の保護主義強化下でも世界との貿易・経済関係が深まっていることを示すものであると結論付けている。
【要点】
・オランダの介入と中国の反発: オランダ政府はNexperiaに対し経済安全保障を理由に介入し、中国側株主の支配権を制限したこと。中国側はこれを差別的で政治的な強制として強く抗議していること。
・「21世紀の海賊行為」: 本編集論はオランダの行動を、国家安全保障を口実にした「21世紀の海賊行為」であり、市場経済の原則に違反するものであると厳しく批判していること。
・米国の影響: オランダの行動は、米国の中国企業への抑圧的な措置と関連しているとの見方が示されており、ハイテク分野における西側諸国と中国の間の摩擦をエスカレートさせていること。
・中国の決意: 中国外交部は、国家安全保障の概念の過度な拡張に反対し、中国が自国の正当な権利と利益を守る断固たる決意と十分な能力を有していることを表明していること。
・中国経済の回復力: 9月の中国の輸出入データが外部予想を上回り、米国の保護主義下でも中国経済の回復力と貿易関係の深化が示されていること。
【桃源寸評】🌍
Nexperiaは、オランダに本社を置く半導体メーカーである。
同社は主に、電子機器の基礎となる汎用(コモディティ)半導体部品の製造と販売を専門としている。
1.主な製品群は以下の通りである。
(1)ディスクリート製品
・トランジスタ
・ダイオード(スイッチング、ツェナー、ショットキー、SiCなど)
・MOSFET（特に車載用パワーMOSFET)
・ESD(静電気放電)保護デバイス
(2)汎用ロジック製品
・標準ロジックIC
・ミニロジック
・電圧トランスレータ(レベルシフタ)
2.Nexperiaの製品
Nexperiaの製品は、自動車、通信インフラ、スマートフォン、産業機器、コンピュータなど、幅広い分野の電子機器に組み込まれている。特に、年間900億個にも上る信頼性の高い半導体部品を製造しており、ロジック製品や車載用ディスクリート製品においては世界的なリーダー企業の一つとして知られている。
3.Nexperiaが中国企業の傘下となった経緯
Nexperiaはもともと、オランダの半導体大手NXP Semiconductors社のスタンダード・プロダクツ事業部であった。NXPは、高機能なミクスド・シグナルICなどを扱うHPMS事業部に経営資源を集中させるため、汎用(コモディティ)半導体を扱うこの部門を分離・売却することを決定した。
(1)2017年の初めに、スタンダード・プロダクツ事業部は独立し、Nexperiaとして新会社となった。
(2)中国系投資グループによる買収(2017年)
・NXPから独立した際、Nexperiaは中国の投資ファンドであるJAC CapitalとWise Road Capitalを含む中国投資家グループによって買収された。
・この買収により、Nexperiaは独立企業として活動を開始した。
(2)Wingtech Technologyによる完全子会社化(2019年〜2020年)
・その後、中国のスマートフォン受託製造(ODM)大手であるWingtech Technology(聞泰科技)が、Nexperiaの株式を取得し始めた。
・2019年：Wingtech TechnologyがNexperiaの株式の75.86%を取得し、過半数の支配権を確立した。
・2020年：Wingtech Technologyが残りの株式を取得し、Nexperiaを完全子会社化した。
・この結果、Nexperiaはオランダに本社を置く半導体メーカーでありながら、中国のテクノロジー企業であるWingtech Technologyの完全な傘下に入ることとなった。
3.オランダ政府の具体的な措置
オランダ政府は、国家安全保障上の懸念、特に「深刻なガバナンス上の欠陥と行動」がオランダおよび欧州の重要な技術的知識と能力の継続性に脅威をもたらすとして、「極めて異例」とされる以下の措置を講じた。
(1) 行政命令による事業の制限(「凍結命令」)
・オランダ経済省は2025年9月30日(公表は10月13日)に、以下の内容を含む行政命令を発出した。
・資産・事業・人事の現状維持の強制: Nexperiaおよびその関連企業に対し、資産、知的財産権、事業運営、および人事に関して、1年間にわたり一切の変更を行うことを禁止した(実質的な「凍結命令」)。
(2) 裁判所を通じた経営支配権の剥奪
・オランダの裁判所も並行して介入し、以下の措置を講じた。
・CEOの解任(職務停止): Wingtech TechnologyのCEOである張学政(Zhang Xuezheng)を、Nexperiaの取締役としての職務から停止・解任した。
・独立管財人の設置: Wingtech Technologyが間接的に保有するNexperia株式の実質的に全ての議決権を、裁判所が選任した独立した管財人の管理下に置いた。これにより、WingtechはNexperiaに対する正常な管理権を一時的に喪失した。
・非執行取締役の任命: 会社に独立した非執行取締役が任命され、経営判断に対する決定権が与えられた。
・これらの措置により、オランダ政府は、Nexperiaの経営判断をブロックまたは覆す権限を得て、同社が持つ欧州における半導体技術と生産能力を外部(中国の親会社)への流出から保護することを試みている。
4.記事の主張
記事は、オランダ政府のNexperiaに対する措置を、法的な手続きを装った「国家の強奪行為」であると明確に非難している。
・「21世紀の海賊行為」と表現されている: オランダ政府の一連の行動は、中国企業が長年築き上げてきた資本と技術的成果を奪おうとする試みであり、「21世紀の海賊行為(21st-century piracy)」であると非難されている。
・「法的な偽装による強盗」と見なされている: この行為は、「国家安全保障」という口実の下で、資産の接収を合法的に装うものであり、「法的な偽装による強盗(robbery in legal disguise)」、すなわち「植民地時代の遺伝子」の覚醒だと風刺されている。
・国際ルールの露骨な蹂躙であると断じられている: この措置は、市場経済と公正な競争の原則に違反し、国際貿易ルールに反するものであり、「オランダによる国際ルールの露骨な蹂躙」であると論じられている。
5.措置の根拠と論争点
・オランダ政府は、この異例の措置を「国家安全保障上の懸念」とNexperiaの「深刻なガバナンス上の欠陥」を根拠としており、「戦時法」に相当するとも評される「物資供給法(Goods Availability Act)」を発動して介入した。
・記事の立場は、この「国家安全保障」の主張は「でっち上げられた(fabricated)」口実に過ぎず、欧米諸国が地政学的な対立の中で、市場競争ではなく「商業的な略奪」に訴えているという見解である。
・したがって、記事の立場からすれば、この措置は「オランダ国家の強奪行為」そのものであると主張されている。
6.中国側(Wingtechおよび政府)の対応策
(1) 外交的・公式な抗議の表明
・中国は、オランダ政府の措置に対し、公式なルートを通じて強い不満と抗議を表明している。
・Wingtech Technologyによる抗議: 親会社であるWingtech Technologyは、オランダ政府の措置に対し、「中国系企業を標的とした差別的待遇」として強い抗議の声明を発表している。
(2)中国外交部による非難と警告
・中国は、国家安全保障の概念を過度に拡張することや、特定の国の企業を標的とした差別的な動きに反対する姿勢を強調している。
・中国は、自国の正当かつ合法的な権利と利益を守る断固たる決意と十分な能力を有していると強く警告している。
(3) 法的対抗措置の準備
・中国は、自国の企業の権利を守るための法的な枠組みを対抗手段として用意していることを示唆している。
・「反外国制裁法」の強調: 中国の「中華人民共和国反外国制裁法」などの法的な枠組みが、中国企業の合法的権利を保護するための「強力な保護」を提供すると強調している。
・「不合理な手続きを覆す自信」の表明: 親会社であるWingtechは、オランダ政府の行政命令と裁判所の手続きの両方が法的根拠に欠けると主張し、不合理な手続きを覆す自信があるとの見解を示している。
(4)自国の利益と能力への自信の強調
・中国は、オランダの行動によって影響を受けるのは中国だけでなく、オランダ自身にも損害が及ぶことを警告し、自国の経済的な強靭さを強調している。
・「過小評価すべきではない」との警告: 中国の「確固たる決意と、自国の利益を守るための十分な能力」を、いかなる当事者も過小評価すべきではないと警告している。
・経済的強靭さの強調: 中国の輸出が外部予想を上回っている最新の経済データを引用し、米国の保護主義的措置がある中でも、中国の経済的回復力と世界との貿易関係の深化が続いていることを示している。
・歴史の潮流の認識の要求: オランダに対し、保護主義や単独行動主義ではなく、「開放性、包摂性、共有された繁栄」という歴史の潮流を認識するよう促している。
Nexperia is a semiconductor manufacturer headquartered in the Netherlands.
The company mainly specializes in the manufacture and sale of general-purpose (commodity) semiconductor components that form the foundation of electronic devices.
1.The main product groups are as follows:
(1) Discrete products
・Transistors
・Diodes (switching, Zener, Schottky, SiC, etc.)
・MOSFETs (especially automotive power MOSFETs)
・ESD (Electrostatic Discharge) protection devices
(2) General-purpose logic products
・Standard logic ICs
・Mini logic
・Voltage translators (level shifters)
2.Nexperia’s products
Nexperia’s products are incorporated into a wide range of electronic devices such as automobiles, communication infrastructure, smartphones, industrial equipment, and computers. The company manufactures more than 90 billion reliable semiconductor components annually, and is known as one of the world’s leading companies in logic products and automotive discrete devices.
3.The process by which Nexperia came under Chinese ownership
Nexperia originally belonged to the Standard Products division of NXP Semiconductors, a major Dutch semiconductor company. NXP decided to separate and sell this division, which handled general-purpose (commodity) semiconductors, in order to focus its management resources on the HPMS division, which dealt with high-performance mixed-signal ICs and other advanced products.
(1) In early 2017, the Standard Products division became independent and was established as a new company called Nexperia.
(2) Acquisition by a Chinese investment group (2017)
・When Nexperia became independent from NXP, it was acquired by a group of Chinese investors, including the Chinese investment funds JAC Capital and Wise Road Capital.
・Through this acquisition, Nexperia began operating as an independent company.
(2) Complete acquisition by Wingtech Technology (2019–2020)
・Subsequently, Wingtech Technology (闻泰科技), a major Chinese smartphone ODM (Original Design Manufacturer), began acquiring shares in Nexperia.
・2019: Wingtech Technology acquired 75.86% of Nexperia’s shares, thereby securing majority control.
・2020: Wingtech Technology acquired the remaining shares and made Nexperia its wholly owned subsidiary.
・As a result, although Nexperia remains headquartered in the Netherlands, it became a full subsidiary of the Chinese technology company Wingtech Technology.
3.Specific measures taken by the Dutch government
The Dutch government, citing concerns over national security — in particular, “serious governance defects and conduct” posing a threat to the continuity of critical technological knowledge and capabilities in the Netherlands and Europe — took the following “extremely exceptional” measures.
(1) Administrative order imposing operational restrictions (“freeze order”)
・On September 30, 2025 (announced on October 13), the Dutch Ministry of Economic Affairs issued an administrative order that included the following provisions.
・Enforced status quo of assets, operations, and personnel: Nexperia and its related companies were prohibited, for one year, from making any changes to their assets, intellectual property, business operations, or personnel (in effect, a “freeze order”).
(2) Revocation of management control through court intervention
・The Dutch courts also intervened concurrently and took the following actions.
・Dismissal (suspension) of the CEO: Zhang Xuezheng, CEO of Wingtech Technology, was suspended and removed from his position as a director of Nexperia.
・Appointment of an independent trustee: All voting rights associated with Nexperia shares indirectly held by Wingtech Technology were placed under the control of an independent trustee appointed by the court. This effectively stripped Wingtech of normal managerial control over Nexperia.
・Appointment of non-executive directors: Independent non-executive directors were appointed to the company and granted decision-making authority over management matters.
・Through these measures, the Dutch government effectively obtained the power to block or overturn Nexperia’s management decisions, thereby seeking to protect the company’s semiconductor technology and production capabilities in Europe from being transferred externally (to its Chinese parent company).
4.The article’s main argument
The article explicitly denounces the Dutch government’s actions toward Nexperia as a form of “state robbery” disguised as legal procedure.
・Described as “21st-century piracy”: The Dutch government’s actions are characterized as an attempt to seize the capital and technological achievements that a Chinese company had built over many years — a form of “21st-century piracy.”
・Viewed as “robbery in legal disguise”: These actions are portrayed as an attempt to legitimize asset seizure under the pretext of “national security,” amounting to “robbery in legal disguise,” and satirically described as the awakening of “colonial-era genes.”
・Declared as a blatant violation of international rules: The measures are argued to violate the principles of market economy and fair competition, and to contravene international trade rules — a “blatant trampling of international rules by the Netherlands.”
5.Basis and points of controversy regarding the measures
・The Dutch government justified these exceptional measures on grounds of “national security concerns” and “serious governance defects” within Nexperia, invoking the “Goods Availability Act,” which is said to be comparable to wartime legislation, to intervene.
・From the article’s standpoint, this “national security” rationale is nothing more than a “fabricated” pretext, reflecting how Western countries, in the context of geopolitical rivalry, resort to “commercial plunder” rather than market competition.
・Accordingly, from the article’s perspective, these measures constitute nothing less than an act of “state robbery” by the Netherlands.
6.China’s (Wingtech and government) responses
(1) Diplomatic and official protest
・China expressed strong dissatisfaction and protest through official channels in response to the Dutch government’s measures.
・Protest by Wingtech Technology: The parent company, Wingtech Technology, issued a strong statement condemning the Dutch government’s actions as “discriminatory treatment targeting Chinese enterprises.”
(2) Denunciation and warning by the Chinese Ministry of Foreign Affairs
・China emphasized its opposition to the excessive expansion of the concept of national security and to discriminatory moves targeting specific countries’ enterprises.
・China issued a strong warning that it possesses both the firm resolve and ample capability to safeguard its legitimate rights and interests.
(3) Preparation of legal countermeasures
・China indicated that it has legal frameworks in place to protect the rights of its companies as countermeasures.
・Emphasis on the “Anti-Foreign Sanctions Law”: China stressed that its “Anti-Foreign Sanctions Law of the People’s Republic of China” and other legal frameworks provide “powerful protection” for the legitimate rights of Chinese enterprises.
・Expression of confidence in overturning “unreasonable procedures”: Wingtech, the parent company, asserted that both the administrative order and the court proceedings initiated by the Dutch government lack legal basis and expressed confidence in overturning these unreasonable measures.
(4) Emphasis on confidence in national interests and capabilities
・China warned that the Netherlands’ actions would not only harm China but also damage the Netherlands itself, while emphasizing the resilience of its own economy.
・Warning “not to underestimate”: China warned that no party should underestimate its “firm determination and sufficient capability to protect its national interests.”
・Emphasis on economic resilience: Citing recent economic data showing that China’s exports exceeded external expectations despite U.S. protectionist measures, China highlighted its ongoing economic resilience and deepening global trade relations.
・Call to recognize the trend of history: China urged the Netherlands to recognize the historical trend toward “openness, inclusiveness, and shared prosperity,” rather than resorting to protectionism and unilateralism.
【寸評 完】 💚
【引用・参照・底本】
Netherlands should not underestimate China's resolve, capability to protect its rights: Global Times editorial GT 2025.10.14
https://www.globaltimes.cn/page/202510/1345566.shtml
