国家機密に関わる事案2025年07月05日 21:26

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【概要】

 中国国家安全部(MSS)は2025年7月5日、国家機密に関わる事案として、ある商人が海景不動産の宣伝目的で行ったライブ配信が、中国海軍の機密情報を意図せず流出させていたことを明らかにした。これにより、ライブ配信が国家機密漏洩の「窓口」となり得ることが警告された。

 国家安全部によれば、当該商人は、海景不動産や観光プロジェクトを宣伝するために、短編動画プラットフォームで複数回にわたりライブ配信を実施していた。しかし、配信者は周囲の地域が機密指定区域であることを認識しておらず、中国軍の重要な海軍港を背景にライブ配信を行い、機密性の高い海軍の活動を映し出していた。

 約2か月半の間に、数十回におよぶライブ配信が行われ、それぞれ数時間に及び、複数の海軍艦艇の停泊や動きが継続的に外部に晒された。

 通報を受けて、地元の国家安全機関が当該の配信活動を中止させ、過去の配信動画の削除を命じ、関係者に対して法的措置を講じた。さらに、該当する海軍港周辺の機密保持リスクに対応するための特別な点検が開始され、ホテル、民宿、住宅など、海に面した部屋や展望スペースから海軍港が直接見える施設に対して、「撮影禁止」「ドローン飛行禁止」といった警告表示の設置が求められた。加えて、これらの施設には、宿泊客や住民への注意喚起を行う義務が課された。

 国家安全部は、配信者の無意識な行動が外国の敵対勢力に利用される可能性を指摘し、一見無害に見える海景のライブ配信が、国家安全保障への現実的な脅威になり得ると警告した。

 特に、定時・定点・定角度で行われるライブ配信は、外国の諜報機関にとって「無料かつ便利なオンライン観察プラットフォーム」として利用される恐れがある。国家安全部の調査では、実際にある外国の諜報機関が国内の工作員に対し、こうしたライブ配信を監視し、中国の機密軍事区域に関する情報収集を行うよう指示していたことが判明している。

 さらに、ライブ配信中に視聴者から「対岸に見えるのは海軍港か?」「今いる部屋のリンク番号は?」といった質問が寄せられており、こうした発言が外国のスパイにとって有効な手がかりとなり、ライブ配信が「コスト不要・労力不要・維持不要」の情報源に変貌する可能性があることも指摘された。

 国家安全部は、一般市民に対して、ライブ配信や短編動画の撮影時には、自身の地理的位置や周囲の状況に十分注意を払い、機密性のある内容を安易に撮影・配信しないよう呼びかけた。また、閲覧数稼ぎや注目を集める目的で機密内容を利用することは厳に慎むべきであると強調した。 

【詳細】 
 
 2025年7月5日、中国国家安全部(MSS)は、自身の公式WeChatアカウントを通じて、国家安全に関わる具体的な事案を公表した。本事案は、ある商業目的のライブ配信行為が、結果として中国の海軍活動に関する機密情報の漏洩につながったものである。MSSはこれを受け、ライブ配信や短編動画の撮影・公開行為が国家安全保障に対して深刻な脅威となり得ると警告した。

 この事案においては、海景不動産や観光プロジェクトを宣伝するために、ある商人が短編動画プラットフォームを利用し、複数回にわたりライブ配信を実施していた。これらの配信は、海に面した宿泊施設や住宅、あるいはその他の建物から行われており、配信者は意図的ではなかったものの、その背後には中国人民解放軍の重要な海軍港が映り込んでいた。該当の海軍港は機密区域に指定されており、そこでは海軍艦艇の停泊や発着、その他の軍事的行動が日常的に行われていた。

 MSSの発表によれば、この商人は約2か月半の間に数十回ものライブ配信を行っており、それぞれの配信は数時間に及んでいた。配信においては、艦艇の種類、数、動向、時間帯など、通常は秘匿されるべき具体的な軍事情報が映像として公開される結果となった。

 この行為に対して、通報を受けた地元の国家安全機関は即座に対応を取り、配信活動の停止を命じた。さらに、過去に配信されたすべての動画コンテンツについて削除を指示し、当事者に対しては法的責任を追及する手続きが取られた。

 加えて、国家安全機関は当該の海軍港周辺地域における機密保持体制の見直しを目的とした特別点検を実施した。その一環として、海に面したホテル、民宿、住宅など、港を直接視認可能な施設に対しては、「撮影禁止」「ドローン飛行禁止」などの注意喚起の表示を義務付け、施設運営者には宿泊者や住民に対する口頭および書面での注意喚起の実施が求められた。

 MSSは、このような無自覚なライブ配信行為が、外国の敵対的な諜報機関によって利用される可能性が高いと強調した。特に、定時・定点・定角度で行われるライブ配信は、時間をかけて軍事施設や装備の運用状況を観察・分析する手段として、非常に有効な情報源となり得ると指摘した。実際に、MSSの調査により、ある外国諜報機関が中国国内の協力者に対して、海軍関連施設の近隣で行われる一般市民のライブ配信を常時監視するよう指示していたことが判明している。

 さらに、配信中に視聴者から寄せられた具体的な発言にも警戒が必要である。MSSの発表では、「あれは海軍港ですか?」「今どこの部屋にいますか?リンク番号を教えてください」といった質問が実際に投稿されており、これらが配信者の注意を逸らしつつ、意図的に情報を引き出そうとする手口である可能性を示唆している。こうした発言が、外国のスパイにとって物理的な監視拠点を特定するための「誘導質問」として機能し得るとMSSは述べている。

 MSSは最後に、国民一人ひとりに対して、自身の位置情報や撮影対象が国家の機密施設に該当しないかを常に意識するよう呼びかけた。また、機密情報の存在に気付かずにそれを「話題性」や「注目」を集める手段として安易に公開する行為は、結果的に国家の安全保障を脅かすものであるとし、極めて慎重な対応が求められると強調した。
 
【要点】
 
 事案の概要

 ・中国国家安全部(MSS)は2025年7月5日、国家安全に関わる具体的事例として、ある商人によるライブ配信が中国軍の機密情報を漏洩させたことを公表。

 ・商人は海景不動産および観光プロジェクトの宣伝目的で、短編動画プラットフォームにて複数回のライブ配信を実施。

 ・背景に中国の重要な海軍港が映り込み、意図せずして軍事活動を配信していた。

 配信の具体的内容と影響

 ・配信は約2か月半にわたり継続され、数十回実施され、それぞれの配信時間は数時間に及んだ。

 ・中国人民解放軍の艦艇の種類、停泊状況、出入りのタイミングなどが繰り返し映像で公開された。

 ・これにより、機密性の高い海軍の運用状況が長期間にわたり外部に晒された。

 当局の対応

 ・通報を受けた地元国家安全機関が直ちに配信を停止させた。
 
 ・過去のライブ配信動画についても削除を命じ、関係者に対して法的措置を講じた。

 ・海軍港周辺における機密管理体制の見直しを目的とした特別点検を実施。

 機密保護措置の強化

 ・海軍港の見えるホテル、民宿、住宅などに「撮影禁止」「ドローン飛行禁止」の警告表示を義務付け。

 ・施設運営者に対し、宿泊客や住民への注意喚起の実施を指導。

 ・機密区域周辺での撮影・配信行為の監視強化を実施。

 MSSの警告と指摘

 ・ライブ配信が外国諜報機関による情報収集活動に悪用される可能性を警告。

 ・特に「定時・定点・定角度」のライブ配信は、軍事施設の監視に利用可能な「無料・便利な観察手段」となり得ると指摘。

 ・MSSの調査により、外国諜報機関が国内協力者にライブ配信の常時監視を指示していた事実が確認された。

 配信視聴者の発言による懸念

 ・視聴者から「対岸の施設は海軍港か?」「部屋のリンク番号は?」といった質問が投稿されていた。

 ・これらの発言は、配信者を通じて間接的に軍事拠点の特定を試みる「誘導的質問」である可能性がある。

 ・このようなコメントを通じて外国のスパイ活動が実質的に支援される危険性があると指摘。

 MSSの国民への呼びかけ

 ・撮影や配信の際、自身の地理的位置や周囲の施設が機密区域に該当しないかを常に確認するよう呼びかけ。

 ・機密情報を「注目集め」や「閲覧数稼ぎ」の手段に利用する行為は厳に慎むべきであると警告。

 ・一見無害な行為であっても国家の安全保障に対する重大なリスクとなり得ることを強調。

【桃源寸評】🌍

 個人によるデジタルメディア活用の自由と、国家の安全保障との間に存在する境界線が、極めて繊細であることを改めて示している。

 この事案は、個人による情報発信の影響力が国家レベルの安全保障に直結する可能性を示す具体例である。

 一般論として各国共通の安全保障上の観点から、軍事施設等に対する撮影や観察行為がなぜ問題視されるかを整理する。

 軍事施設と情報保護に関する国際的な常識

 ・多くの国々において、軍事施設・重要インフラは「戦略資産」と位置付けられており、国家機密の中核をなす。

 ・そのため、施設への立ち入りは禁止されているだけでなく、撮影・スケッチ・観察・記録行為も、明確に制限または禁止されていることが一般的である。

  遠距離からの撮影による情報収集の危険性

 ・現代のカメラや光学機器は、高倍率ズームや高解像度記録が可能であり、遠距離からでも軍用設備、兵器配置、車両ナンバー、警備体制などの詳細な情報を収集できる。

 ・ドローンやライブ配信機材の普及により、物理的に立ち入らずとも軍事施設を継続的に監視することが可能となっている。

 ・これにより、監視行為が従来よりもはるかに非侵入的かつ日常的な形で実現されるようになった。

 定点観測がもたらすインテリジェンス価値

 ・定点・定時の観測は、時間経過による変化(艦艇の出入り、兵員の移動、訓練頻度、建設活動)**を把握するために極めて有効である。

 ・諜報活動の分野では、こうした観測から活動パターンの特定、作戦準備の兆候の検出などが可能となる。

 ・特にオープンソース・インテリジェンス(OSINT)の分野では、民間人による動画・写真・SNS投稿が分析対象として活用されている実態がある。

 各国における類似の規制・事例

 ・米国では、軍事基地や空軍施設周辺での撮影は禁止または制限されており、違反すれば逮捕や起訴されるケースがある。

 ・ロシアでは、軍港・兵器製造施設・核関連施設の周辺での撮影行為は国家機密法違反として厳罰の対象となる。

 ・イスラエルでは、軍関係施設や警察インフラを撮影した外国人観光客が即時拘束・国外退去とされた例がある。

 ・インド、パキスタン、中国、北朝鮮などにおいても、戦略拠点の撮影・投稿がスパイ行為とみなされる危険性が極めて高い。

 カメラや配信技術の進化に対する制度の対応

 ・法制度の多くは、かつての「物理的な接近」に基づく脅威を想定して設計されているが、現代では遠隔からの観測や配信による情報流出が中心課題となっている。

 ・これにより、各国では従来の立ち入り禁止区域だけでなく、視認可能範囲の建物・空間に対する規制強化が求められている。

 総 論

 撮影やライブ配信がたとえ無意識であっても、繰り返し・固定視点・高解像度の記録であれば、それ自体が「観測装置」として機能し得る。

 国家にとって軍事施設の位置や運用状況は極めて重要な機密であり、それが個人の配信行為によって第三者(敵対勢力)に漏洩するリスクは、全世界的に深刻化している。

 よって、ライブ配信や撮影行為における「無意識な機密漏洩」は、もはや中国に限らず、世界各国共通の国家安全保障上の課題となっている。

 このように、現代の通信・撮影技術の発展に伴い、各国は新たな形態の情報漏洩に対する法的・物理的対策を急速に強化している。配信・撮影行為は個人の自由の範疇に属するが、軍事施設に関する限り、それが他国による敵対的情報収集の手段と化す可能性を常に念頭に置かねばならない。

 古来の格言「君子危うきに近寄らず」は、現代社会における情報リスクや国家安全との関係においても、極めて示唆に富む指針となり得る。

 以下に、個人がこの考え方をどのように適用し得るかを、「自己防衛」の観点を中心に述べる。

 君子危うきに近寄らず ― 現代的解釈と適用

 ・この格言は、「賢明な者は、危険の可能性がある場所や行動をあらかじめ避ける」との意味を持つ。

 ・軍事施設や機密性の高いインフラ周辺は、法的・国家的な制限や監視が厳しく設定されている区域であり、そこに無自覚に近づくことは、無意識のうちに法令違反・安全保障上の対象者となるリスクを孕む。

 個人が避けるべきリスクの具体例

 ・軍港、空軍基地、通信施設、レーダー塔など、視認可能でも撮影・配信が制限される場所での記録行為。

 ・周囲に「撮影禁止」「立ち入り禁止」「国家安全区域」などの表示があるにもかかわらず、無視・軽視して近づく行為。

 ・ドローンやスマートフォンを用いた興味本位の撮影・投稿。

 ・ライブ配信中の視聴者からの誘導的な質問(例:「あれは軍港か?」「その建物の名称は?」)に無警戒に応じる行為。

 「自己防衛」としての慎重姿勢

 ・情報機器が個人の日常に深く入り込む現代において、法令違反の意図がなくとも、結果的に国家の監視対象となり得る。

 ・特に外国での旅行や滞在中、軍事関連施設や空港、政府庁舎の周辺での撮影行為は、即時拘束や事情聴取の対象となる場合がある。

 ・無用な疑念や調査対象となることを避けるためにも、「疑わしきには近づかず・映さず・触れず」という姿勢は、情報時代における個人の自衛策として極めて有効である。

 「知らなかった」では済まされない時代

 ・国家安全法やスパイ防止法は、**意図の有無を問わず、「結果として機密を漏らした行為」**に対して責任を問う条項を含むことが多い。

 ・よって、「知らなかった」「撮っただけ」「個人的な記録だった」といった弁明は通用しない場合がある。

 ・これは個人にとって、無知が最大のリスクとなることを意味しており、慎重かつ防衛的な行動こそが安全を守る。

 結 語

 したがって、「君子は危うきに近寄らず」という言葉は、現代の一般市民にとっても、特に情報環境が高度にネットワーク化され、すべてが記録・分析され得るこの時代において、極めて合理的かつ現実的な行動指針である。

 無用な好奇心や軽率な情報発信が、自身を国家間の情報戦の「意図せぬ媒介者」として巻き込む可能性を秘めていることを自覚し、適切な距離感を保つことが、賢明な「自己防衛」である。

【寸評 完】🌺

【引用・参照・底本】

China's top state security authority warns sea-view livestreams may leak military secrets GT 2025.07.05
https://www.globaltimes.cn/page/202507/1337677.shtml

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