外務省条約局長柳井・外務省アジア局長谷野 ― 2022年06月26日 13:30

第050回国会 衆議院本会議 第7号 昭和四十年十月二十一日(木曜日)午
後二時開議
外務大臣 椎名 悦三郎
議員 井手 以誠
内閣総理大臣 佐藤 榮作
農林大臣 坂田 英一
法務大臣 石井 光次郎
通商産業大臣 三木 武夫
○国務大臣(椎名悦三郎君) 去る六月二十二日に東京において署名い
たしました日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結に
ついて承認を求めるの件並びに財産権及び請求権に関する問題の解決並
びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴
う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案に関し、趣旨の御説
明をいたします。
わが国と近隣関係にある韓国との諸問題を解決して、両国及び両国民
間に安定した友好関係を樹立することは、平和条約によってわが国が国
際社会に復帰して以来のわが国の重要な外交上の課題でありまして、政
府は、韓国との国交を正常化するにあたり、諸懸案を一括して解決する
との基本方針に従って、十四年の長きにわたり困難な交渉を重ねてまい
りました。その結果、先般ようやく、基本関係、漁業、請求権及び経済
協力、在日韓国人の法的地位及び待遇、文化財及び文化協力、並びに紛
争解決のおのおのについての条約とそれに関連する諸文書について、韓
国政府との間で完全な合意に達し、去る六月二十二日に東京において署
名の運びとなった次第であります。
いま、これらの諸条約についてそのおもな点を御説明申し上げれば次
のとおりであります。
第一に、基本関係に関する条約は、善隣関係及び主権平等の原則に基
づいて、両国間に正常な国交関係を樹立することを目的とするものであ
ります。したがいまして、この条約は、両国間に外交関係及び領事関係
が開設されることを定め、併合条約及びそれ以前のすべての条約はもは
や無効であること、及び韓国政府が国際連合第三総会の決議第百九十五
号に明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府であ
ることを確認し、両国間の関係において国際連合憲章の原則を指針とす
ること等、両国間の国交を正常化するにあたっての基本的な事項につい
て規定しております。
第二に、漁業に関する協定は、漁業資源の最大の持続的生産性の維持
及び保存並びに合理的発展をはかり、両国間の漁業紛争の原因を除去し
て相互に協力することを目的とするものであります。この協定は、公海
自由の原則を確認するとともに、それぞれの国が漁業水域を設定する権
利を有することを認め、その外側における取り締まり及び裁判管轄権は
漁船の属する国のみが行なうこと、共同規制水域を設定して暫定的共同
規制措置をとることを定める等、両国間の漁業関係について規定してお
ります。
第三に、財産及び請求権の解決並びに経済協力に関する協定は、両国
間の財産、請求権問題を解決し、並びに両国間の経済協力を増進するこ
とを目的とするものであります。この協定は、両国及びその国民の財産
、権利及び利益並びにその国民の間の請求権に関する問題を完全かつ最
終的に解決することを定めるとともに、韓国に対する三億ドル相当の生
産物及び役務の無償供与並びに二億ドルまでの海外経済協力基金による
円借款の供与による経済協力について規定しております。
第四に、日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する
協定は、わが国の社会と特別な関係を持つ大韓民国国民に対して日本国
の社会秩序のもとで安定した生活を営むことができるようにすることに
よって、両国間及び両国民間の友好関係の増進に寄与することを目的と
するものであります。この協定は、これらの韓国人及びその一定の直系
卑属に対し、申請に基づく永住許可を付与すること、並びにそれらの者
に対する退去強制事由及び教育、生活保護、国民健康保険等の待遇につ
いて規定しております。
第五に、文化財及び文化協力に関する協定は、文化面における両国の
学術及び文化の発展並びに研究に寄与することを目的とするものであり
まして、また、一定の文化財を韓国政府に引き渡すこと等を規定してお
ります。
第六に、紛争の解決に関する交換公文は、両国間のすべての紛争を、
別段の合意がある場合を除くほか、外交上の経路を通じて解決すること
、及びそれができなかった場合には、調停によって解決をはかるものと
することを定めております。
以上を通観いたしますに、すでに累次の国会の本会議及び委員会にお
ける質疑等を通じて説明申し上げてまいりましたとおり、これらの諸条
約によって、長年にわたって両国間の国交正常化の妨げとなっておりま
したこれらの諸問題が一括解決されることとなり、こうして、両国間に
久しく待望されていた隣国同士の善隣関係が主権平等の原則に基づいて
樹立されることとなるわけであります。これらの諸条約の基礎の上に立
って両国間の友好関係が増進されますことは、単に両国及び両国民の利
益となるのみならず、さらに、アジアにおける平和と繁栄とに寄与する
ところ少なからざるものがあると信ずる次第であります。
次に、大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案について趣旨
の御説明をいたします。
さきに御説明いたしました財産及び請求権に関する問題の解決並びに
経済協力に関する協定は、その第二条において、日韓両国間の財産及び
請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決されることになったことを
確認し、日本国にある韓国及び韓国民の財産権に対しとられる措置に関
しては、韓国はいかなる主張もできないものとする旨を規定しておりま
す。この規定上、これらの財産権について具体的にいかなる国内的措置
をとるかはわが国の決定するところにゆだねられており、したがいまし
て、この協定が発効することに伴ってこれらの財産権に対してとるべき
措置を定めることが必要となりますので、この法律案を作成した次第で
あります。
この法律案は、三項及び附則からなっており、その内容は、協定第二
条3に該当する財産、権利及び利益について規定するものであります。
まず、第一項においては、韓国及び韓国民の日本国及び日本国民に対
する債権及び日本国または日本国民の有する物または債権を目的とする
担保権を消滅せしめることについて規定しております。第二項において
は、日本国または日本国民が保管する韓国及び韓国民の物についてその
帰属を定め、第三項においては、証券に化体された権利であって第一項
及び第二項の適用を受けないものについて、韓国及び韓国民はその権利
に基づく主張をすることができない旨を規定しております。なお、附則
におきまして、この法律案の施行の日を協定発効の日としております。
以上が、日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結に
ついて承認を求めるの件、並びに大韓民国等の財産権に対する措置に関
する法律案の趣旨でございます。(拍手)
○井手以誠君 私は、日本社会党を代表いたしまして、日韓条約の重要
な問題点について、佐藤総理の所信をただし、あわせてわが党の立場を
明らかにいたしたいと存じます。(拍手)
質問の第一は、領土管轄権と国連憲章の関係であります。
基本条約は、韓国の地位について、一九四八年の国連総会決議第百九
十五号(Ⅲ)を援用されております。そもそも朝鮮問題の発端は、朝鮮
民族の独立を約束した一九四三年のカイロ宣言にあり、これを引き継い
だポツダム宣言を日本が無条件に受諾したことにあります。御承知のと
おり、民族自決は国連憲章の大原則であります。その第一条に、民族の
同権と自決、第二条は、内政不干渉を宣言いたしておるのであります。
さらに、第百七条は、第二次大戦の戦後処理について、国連は関与でき
ないことを明記いたしておるのであります。以上明らかなように、当然
、朝鮮の管轄については、朝鮮民族みずから、朝鮮民族だけがきめる権
利を持っておるのであります。しかも、朝鮮代表が参加していない十七
年前の古い国連決議をもって、朝鮮の領土の分割をしいたり、片方の管
轄範囲をきめたりすることは、たとえ国連といえ、また、いかなる国も
許されないことであります。(拍手)したがいまして、基本条約に国連
決議を援用したことは、国連尊重を力説する佐藤内閣みずから国連憲章
に違反するものといわねばならぬのであります。(拍手)
質問の第二は、北朝鮮との関係であります。
政府は、ただいま、北朝鮮との関係は一切白紙であると説明されまし
た。今日、休戦ラインの北に朝鮮民主主義人民共和国政府が北朝鮮を有
効に支配していることは、厳たる事実であります。この北朝鮮とわが国
が、好むと好まざるにかかわらず、貿易や帰還問題などの関係を持つこ
とは必然であります。一方、全朝鮮を領土とした憲法を持っている韓国
政府が、この条約で日本が今後北朝鮮と外交関係を持つことを阻止する
ことができたと公言しておることは周知のとおりであります。この韓国
政府と北朝鮮政府は、不幸にして敵対関係にあります。したがいまして
、わが国が、武力北進、武力で全朝鮮を統一することを国是とする韓国
政府と基本関係を結べば、当然の反応としてわが国は北朝鮮と対立関係
に立たざるを得ません。ここに本条約の軍事的性格があるのであります
。(拍手)また、逆に、わが国が北朝鮮と何らかの接触をはかろうとす
れば、必ず韓国政府からの反発と抗議を招くでありましょう。現に国際
電気標準会議の経過を見ても明らかであります。
そこでお伺いをいたします。今後、北朝鮮とは対立関係に立ち、一切
の接触も持たないお考えなのか。それとも、朴政権の不当な横やりは退
け、実務的接触を進められるお考えなのか。総理は、先日、どこの国と
も仲よくすると言明されました。ケース・バイ・ケースは独立国の外交
には不見識であります。いずれの道をとられるか、明確にお答え願いた
いのであります。(拍手)
質問の第三は、請求権、経済協力の問題であります。
端的にお伺いいたします。政府は、従来、請求権は法的根拠のあるも
のに限ると公約してきました。この筋を通した解決方法を、何ゆえに経
済協力に切りかえられたのか。このことは、平和条約第四条に反しはし
ないのか。また、経済協力五億ドルの根拠と性格は何であるか。この協
定によって放棄される日韓双方の引き揚げ者の財産請求権は固有の権利
であって、法律上の疑義を残してはならないのであります。その解決策
を承りたい。
この請求権は、わが国三十六年間にわたる朝鮮統治の評価と深い関係
があるのであります。もし、本条約に調印した高杉首席代表の発言のよ
うであれば、五億ドルのつかみ金を出す必要はございません。また、植
民地支配の反省があるならば、当然正当な償いをしなくてはならぬので
あります。平和条約第四条は、南北全朝鮮に関する請求権であります。
総理は、北朝鮮の請求権をどう扱うつもりか、基本的な方針を明らかに
されたいのであります。(拍手)
申すまでもなく、この経済協力は、日本国民の金によって支払われる
ものでありますから、韓国民衆のため真に生かされねばなりません。い
やしくもアメリカ援助の二の舞いを演じたり、利権化されては断じてな
りません。相手が汚職に包まれている朴政権であり、日本の独占資本が
経済侵略を非難されているだけに、あえて申し上げます。経済協力の実
施に疑惑を招かない万全の用意があるのか、総理の所信を承りたいので
あります。(拍手)
質問の第四は、漁業協定であります。
漁業協定最大の眼目は、李ラインの撤廃であります。韓国側は、不法
きわまる李ラインの存続を言明しております以上、国防上、大陸だな保
護上の理由から、いつ国内法を発動するか、不安は依然として去りませ
ん。国内法を条約と同格に扱う韓国に対し、何ゆえ撤廃の確約を得られ
なかったのか。協定期間後また韓国側に主導権を握られ、李ライン復活
のおそれはないか、承りたいのであります。
わが国の海洋政策は、国際海洋法会議で明らかにされておるはずであ
ります。それが、この漁業協定によって無原則に、とほうもなくゆがめ
られました。今後、国際漁業に重大な影響を及ぼすものといわねばなら
ぬのであります。特に、第一領海をきめなかったことは重大な失態では
ないか。漁業専管水域十二海里全域に領海と同じ主権が及ぶおそれがご
ざいます。第二、韓国沿岸から四十海里以上も離れた済州島及び黒山島
をなぜ独立の島として取り扱わなかったのか。妥協にも限界があるので
あります。第三、済州島と本土間の広大な基線内水域は領海となるのか
。合意議事録に響いてある無害通航権とは、海洋法会議において領海内
と規定しておるではございませんか。第四、韓国の漁業専管水域におい
て、国際慣行として認められている十カ年の入漁権をなぜ放棄したか、
理由を承りたいのであります。
共同規制は、資源の保護から資源の折半に変わりました。しかも、わ
が国だけ一方的に規制されることは、重大な後退といわねばなりません
。特に指摘したいのは、わが零細漁民の打撃であります。すなわち、済
州島周辺における大資本の漁場確保と引きかえに、対馬−釜山間の一本
釣り漁場が大幅に狭められ、三千隻の零細漁船は千七百隻に減らされる
のであります。零細漁民こそ最大の犠牲者といわねばなりません。(拍
手)政府の補償と救済対策、あわせて拿捕漁船の補償を承りたいのであ
ります。
質問の第五は、竹島の帰属であります。
竹島問題は領土主権に関するものであります。この竹島を含む一括解
決が日韓交渉の基本方針であったことは、よもやお忘れではありますま
い。およそ国交回復にあたり、領土主権に関するものほど重要なものは
ないのであります。総理は、先日、紛争は条文によって解決すると言明
されました。竹島のタの字も入っていない交換公文で解決の条文と自信
がありますならば承りたいのであります。
ここで私が特に指摘したいのは、この紛争解決を調停にしたことであ
ります。漁業協定と請求権に関する協定には、仲裁委員会を設けて日韓
両国を拘束することにいたしております。しかるに、この交換公文には
、拘束力のない調停しか規定いたしていないのであります。何ゆえに領
土問題をわざわざ弱い調停にしたのか、不可解にたえません。これでは
竹島を放棄したも同然であるといわねばならぬのであります。(拍手)
質問の第六は、法的地位の問題であります。
この協定で定められた各種の待遇を受ける者は韓国民に限られ、朝鮮
の籍の者は全く受けられません。また、これに関連して、政府は、朝鮮
籍から韓国籍への切りかえを促進し、韓国籍から朝鮮籍への移動を認め
ない方針であります。これこそ三十八度線の対立を日本国内に持ち込み
、移転、居住の自由、国籍選択の自由をうたった世界人権宣言をじゅう
りんする態度といわねばならぬのであります。(拍手)政府は、即刻国
籍選択を自由にし、一切の差別をやむべきであります。人道主義の立場
から総理の所信をお伺いしたいのであります。
最後に、私は、朝鮮問題についてわが党の立場を明らかにいたします
。
わが国がカイロ宣言及びポツダム宣言を無条件で受諾した以上、当然
朝鮮民族の独立を承認しなければなりません。その場合、朝鮮民族がい
かなる政府をつくるかは、朝鮮民族がみずからきめる問題であります。
およそ一つの民族は一つの国家を持つのが国際法の原理、原則であり
ます。不幸にも、朝鮮には二つの政府が現に存在しております。これを
一民族一国家一政府の状態に到達させるには、朝鮮民族の努力にまかせ
、他の国はこれに干渉すべきではありません。(拍手)国連もまた関与
する権限はないのであります。日本は、中国問題の轍を踏んではならな
いのであります。アメリカが国連軍の名のもとに南朝鮮に置いている軍
隊を撤退すれば、北朝鮮には中ソの軍隊は一兵もいないのでありますか
ら、南北朝鮮の自主的統一は自然に達成されるでありましょう。こうし
てできた朝鮮の統一政府とわが国は正式に国交を樹立し、その際、三十
六年間の植民地統治に正当な償いをなすべきであります。
しかし、南北に二つの政府がある現状においては、南北の両政府とそ
れぞれ折衝し、経済、文化の交流を積極的かつ公平に行なうべきであり
ます。現に、インドやビルマは南北朝鮮の両方と領事関係を結んでおる
のであります。日本にこれができないはずはございません。こうした両
政府との接触、または三者協議の中に、経済協力、技術提携、漁業協定
、文化財返還などの問題は処理できるはずであります。
南北統一は朝鮮民族の悲願であります。南の一方とだけ国交を結んで
、北との対立に油を注いではなりません。統一できるような情勢をつく
ってやることこそ隣国のつとめであり、植民地統治を償う人の道であり
ましょう。わが党は、これこそアジアの平和と友好の道であると信ずる
ものであります。(拍手)
佐藤総理、この日韓条約に軍事的背景を否定なさるなら、その証拠と
して吉田・アチソン交換公文を破棄すべきであります。軍事協力を言明
する米韓当局に抗議すべきであります。そうして三矢計画とその関係者
を処分すべきであります。その勇気があれば最後に承って、私の質問を
終わる次第であります。(拍手)
○内閣総理大臣(佐藤榮作君) お答えいたします。
領土管轄権についてのお尋ねでありますが、これはすでにたびたびお
答えもいたしました。御承知のように、私どもは、国連の決議、これを
尊重いたしております。ただいま、国連自身が国連憲章違反だと、かよ
うに仰せられましたが、御承知のように、この国連の決議はその後毎年
確認されておりますので、これは国連憲章違反だとは思いません。私ど
もは、国連を尊重する、そういう立場でございますので、この決議を引
用することは、これは当然といわなければならない、かように御了承い
ただきます。(拍手)
また、第二の問題といたしまして、北鮮との関係についてのお尋ねで
ございます。北鮮との関係は、これもお答えいたしましたように、今回
の条約は触れておらない、また、在来の取り扱い方を変えない、こうい
うことを申し上げました。また、北鮮との関係においてはケース・バイ
・ケースでこれをきめていきますというお話をいたしておりますので、
重ねては申し上げません。ただ、お話のうちに武力北進ということばを
お使いになりましたが、私は、武力北進ということばは最近は聞かない
ように思います。これはだいぶ前にそんな話があったようですが、こう
いうことは聞かない。むしろ、今日で聞いておりますのは、北鮮自身が
、共産主義による南北の統一、こういうことをはっきり言っている。こ
の点のほうが、これは最近の話でございますから、御記憶を訂正される
ほうがいいかと思います。(拍手)
次に、請求権と経済協力の問題でありますが、請求権の問題につきま
しては、御指摘のように、私どもは、法的根拠のあるもの、また事実関
係で説明のできるもの、こういうことで日韓間でいろいろ交渉いたしま
した。しかし、何ぶんにももう古いことになったり、あるいはその後朝
鮮事変があったりして、事実関係などもなかなか説明しにくいというこ
とで、この請求権の問題の解決のできなかったことは、御承知のとおり
であります。
そこで、今度は、請求権の問題でなしに、両国の関係を正確に認識し
ていく、そういう点から、経済的に自立のできるように、またそういう
意味のわが国の協力が望ましいだろう、しかし、その経済協力をするこ
とによっていわゆる請求権の問題を完全に解決する、こういうことでこ
の経済協力に変わったこと、この点は御承知のことだと私は思います。
私は、ただいま申し上げるように、いつまでも話がまとまらないからと
いって日韓間の状態を正常化しないということはまことに残念である、
そういう意味で、両国が経済協力という形でこの問題を解決するという
ことになったのであります。(拍手)したがいまして、これは平和条約
第四条にはもちろん違反ではございません。
また、経済協力の金額が無償三億、有償二億、こういう五億ドルはど
こから出たかというお話でございますが、これは、韓国の経済建設に対
するわが国の熱意と、またわが国の負担と、こういう両点からいろいろ
折衝いたしまして、最終的にこの五億ドルというものにきまったのであ
ります。
また、この際に、個人の財産、請求権の問題を法律上疑義を残さない
ようにというお話がございます。御指摘のとおり、これも大事な問題で
ありますので、私どもは、今回の条約・協定締結によりまして何ら疑義
を残しておらない、かように思っております。
また、これで、いわゆる補償の問題なども、憲法との関係においては
関係を生じない、私はさような結論を持っておるのでございます。ただ
、拿捕漁船あるいは乗り組み船員等に対しましては、いわゆる憲法上の
問題ではございませんが、わが国の国民のまことに気の毒な状況に対し
まして、私どもが適当な救済措置をとること、これは当然である、かよ
うに考えまして、ただいま種々検討しておる最中でございます。
次に、北鮮の請求権の問題についてお触れになりました。これは、先
ほど申しますように、今回の問題は北鮮には何ら触れておらない、かよ
うな状態でございますので、この点も今回の条約・協定で北鮮との請求
権の問題には触れておりません。そこで、請求権の問題を解決する意思
ありやいなやということでございますが、ただいま交渉するような考え
は持っておりません。
また、経済協力が利権化してはならないというお話でございます。こ
れはそのとおりであります。また、疑惑を生じてもいけない、かように
私ども思います。いろいろ経済侵略だとか、こういうような疑念を持た
れるのでありますから、そういうことのないように、ことに、相手の国
におきましても、資金管理委員会を設けて、与野党の諸君がこの管理委
員会で経済協力の使い方をいろいろ審議するそうであります。また、調
達庁による一般競争入札、それらもはっきりいたしておるようでありま
す。また、わが国におきましても、この実施計画についての合意、ある
いは契約の認証等につきまして、これはわが国の経済関係、産業人も、
さような処置をとる予定でございます。したがいまして、ただいま経済
協力についてのいろいろの御心配がありますが、私は、そういうことも
なしに、円滑に経済の発展に役立つように使われるものだ、かように確
信いたしております。
次に、漁業協定についてのお尋ねであります。これも、たびたび李ラ
インについてお答えをいたしましたので、省略をいたしたいのでありま
すが、ただ、この機会にはっきりまた申し上げておきたいのは、李ライ
ンがどうあろうと、韓国側でどう説明しようと、漁業に関する限り、漁
業上の安全操業はできるのだ、これだけははっきり申し上げまして、漁
民の不安も一掃したいし、国民にも、李ラインの論争に巻き込まれない
ように御注意を願いたいと思います。(拍手)
また、この問題は、協定後においていわゆる六年たったらまた問題が
起こるのじゃないか、また韓国側にリードされることになるのじゃない
か、かような御心配を述べられましたが、私は、この期限経過後、両国
間におきましての親善友好関係、これは今日のような状態ではないと思
いますので、ただいまからいろいろ心配することは、これはいわゆる杞
憂ではないか、かように私は思います。
次に、領海の幅をなぜ取りきめなかったかというお尋ねであります
。御承知のように、漁業に関する取りきめでありますので、漁業水域、
それにつきましては十分規定を設けましたけれども、いわゆる領海の幅
というようなことについては、これは必要がない、こういう意味でこれ
をきめなかったのであります。御承知のように、領海、それから領海の
外は公海、こういうことになっておりますが、この領海、公海、そのも
のを接続しておるその関係におきましても、漁業水域という特殊な水域
を考え、そして沿岸国の排他的な管轄権を認めておる、こういうことで
ありますが、これはいわゆる領海からくる当然の排他的の権利とは違う
のであります。その点を御理解おき願いたいと思います。
済州島、黒山島の付近が、これは四十海里以上、この辺の基線の引き
方についてはどうも理論に合わない、納得がいかないという御指摘であ
ります。これは確かにそういう非難を受けるようになっております。こ
れは、両者の間においてむずかしい折衝をいたしました結果、いわゆる
紛争を残さないという、こういう意味で、いわゆる合意に達した、いわ
ゆる両者の歩み寄りの話し合いでございます。かように御了承いただき
たいのであります。(拍手)
合意議事録による無害通航権の問題についてもお触れになりました
。ことばが法律的なことばでございますが、私の理解するところでは、
先ほど申しましたように、漁業水域は領海とは違う。漁業に関して沿岸
国の排他的な管轄権を認めるので、領海及び漁業水域の無害通航の権利
を含む権利を合意議事録で確認したというのが、いわゆる無害通航権の
問題であります。これはいわゆる国際法上の問題としてでなくて、これ
はここまで確認したことが適当だった。かように私は思っております。
入漁権を放棄した理由、これも先ほども申しましたように、基線の問
題とこれが関係するのでありますが、私どもは交渉の途中においてこの
アウターシックスの問題を強く主張いたしましたけれども、韓国側はこ
れに対して反対した。両者におきましてがまんのできる範囲で今回の漁
業協定はいたしたのであります。今回私どもが特に必要だと強く主張い
たしましたのは、李ラインの実質的な廃止と操業実態の尊重、こういう
二つの点に重点を置いて話をいたしたのであります。ただいまのアウタ
ーシックスの問題は、もちろんこれは重大な問題でありますが、日韓間
におきましては暫定的にかような処置をとった、かように御了承いただ
きたいと思います。
次に、共同規制についてのお尋ねであります。零細漁民の救済をどう
するかという問題でありますが、これも、今回の日韓間の交渉におきま
しては、漁業の資源についての十分の調査ができておりません。したが
いまして、この資源についての調査が完了するまでは、現状においての
数量を制限するということがやむを得ない状態だ。しかし、この制限は
一方的に日本だけが受けるのではもちろんございません。日韓双方がこ
の規制を受けるという状態でございますので、日本だけが受けた、かよ
うにお考えになることは、これはひがみのように思いますし、さような
ことはございません。
また、この措置をとります場合に、沿岸漁業の実態、これを基礎に
置いております。したがいまして、沿岸漁業の零細漁民の実態、操業の
実態というものは私どもは十分考慮して、そうしてこれをきめたのであ
りまして、ただいまのお話のように補償の問題はもちろん起きておらな
い、かように思います。実態をそこなうものではないということを重ね
て申し上げておきます。
また、この問題が他の地域との交換で、対馬−釜山間の漁民は非常に
損をしたのだ、かようなお話でありますが、さような交換をした事実と
いうようなことはありません。いわゆる取引をしたことはありません。
大企業のために零細漁民が非常な不利益をこうむった、これまた事実を
しいるものでありますので、これは訂正をしていただきたいと思います
。
第五に、竹島の問題であります。私どもは、いままで、一括解決、何
事も全部を一括解決、かような方向で進んでまいりました。しかしなが
ら、残念ながら竹島の問題は解決をすることができなかった。これは御
指摘のとおり。私どもも、いままでの日韓交渉の大筋から申しまして、
全部を一括解決するのだ、かように申しておりましたその際に、この点
ができ上がらないことは、まことに遺憾でありますが、しかしながら、
この紛争解決の方向といいますか、その取り上げる方向はこれできまっ
たのでありますから、全然白紙の状態であるとか、あるいは竹島を放棄
するんだとか、さようなことは全然ございません。また、皆さま方の御
支援によりましても、ぜひとも私どもの固有の領土権は確保したい。幸
いにいたしまして、社会党の諸君も、これはわが国の固有の領土だ、か
ように主張しておられますし、政府はたいへんな御叱正、鞭撻を受けて
おる、かように感じておりますので、この上とも御協力を願います。(
拍手)
ただ、この取り扱いの方法が、調停かあるいは仲裁か、調停のほうが
弱いじゃないか、こういうような御指摘でありますが、調停か仲裁かと
いうことは、そのときどきの交渉の内容その他できまるのでありまして
、これは、必ずしも一がいに、どちらが弱いとか、どちらが強いとか、
かようには言えないと思います。
また、次に、法的地位についてのお尋ねがあります。御承知のように
、自分たちの意思によらないで国籍を失い、あるいは国籍を取得した、
かような状態でございますから、日本在住の諸君には、これは朝鮮人と
いい、あるいは韓国人といい、たいへんな問題があるだろうと思います
。こういう立場でいろいろ考慮もして、いままでの特殊的な事情にある
こと、これに十分の理解を与えて、今回の処置によって特に不都合な扱
い方を受けないように、そういうことを日本政府としては重点を置いて
この問題と取り組んでおるのであります。
韓国民についての処置は御承知のとおりでありますが、朝鮮国籍とい
うものにつきまして私どもが認めておらないというところで非常なむず
かしい問題、法律的な問題があるようであります。しかしながら、この
点は今回の問題で別に条約上の義務を生じておるわけではありません。
したがいまして、これは日本国内問題として処理するつもりであります
し、在来よりも悪い扱い方はもちろんしないつもりであります。
また、国籍の変更につきまして、御指摘のように、朝鮮から韓国への
国籍の変更を進めるが、韓国から朝鮮はこれを断わるとか、かようなこ
とはもちろんございません。どうか、そういうような不公平な処置をし
ておるというようなことがありましたら、これは御指摘を願いたいので
ありますが、ただいまのような状態でございますので、かような事実の
ないことをこの席からはっきり申し上げておきます。
次に、今回の問題は軍事的背景はないということをたびたび申し上げ
ました。また、ただいまこの問題についての社会党の考え方も伺いまし
た。これはもう社会党の考えとして、批判はいたしません。ただ、この
問題、軍事的な考慮、背景がないというその立場から、吉田・アチソン
交換公文を破棄しろ、こういうお話がございますが、御承知のように、
今回は日韓国交正常化の条約の批准をしておる、皆さん方に御審議をい
ただいておるのでありまして、これと関係のない吉田・アチソン交換公
文をここへ出されましても、これは私どもは、はい、さようでございま
すとは申せないのであります。これは全然別なものであります。かよう
に御了承いただきたいと思います。(拍手)
また、三矢研究をした者を処分しろというお話がございましたが、こ
の三矢研究は、御承知のように幕僚研究の作業でありまして、研究を行
なったこと自体は、職務上の義務に違反するものではありません。した
がいまして、その関係者を、三矢研究をしたからということで処分する
考えはございません。
以上、お答えいたします。(拍手)
○国務大臣(椎名悦三郎君) ほとんどすべての事項について総理から
お答え申し上げてありますので、私からはほんの一、二点補足するだけ
にとどめておきます。
第一の国連決議百九十五号、これは国連の使命に反して、かってに領
土を分割するというようなことをやったのではないかというお話でござ
いまして、総理は、そういうものではないということを明確に答えてあ
りますが、しかし、なぜそういうことになるかということを、ちょっと
簡単に申し上げます。
この朝鮮問題については、大戦終了後直ちにモスクワ会議が持たれま
して、英、米、ソ三国の間でいろいろ協議して、その協議の結果、さら
に米ソ共同委員会というのができて、そしてこれはすぐソウルで会議を
やっておるのでありますが、両者の意見が相当隔たりまして、そのまま
もうどうにも上げもおろしもならなくなった。そういうようなことを放
置しておくと、これは平和のためによくないというので、局面打開の意
味において、アメリカの要請によって設置されたのが、国連臨時朝鮮委
員会でございまして、あくまで朝鮮人民の意思を尊重して、そうしてり
っぱな統一政権をつくろうという使命を帯びてこれができ上がったので
あります。それで、この朝鮮委員会が現地におもむいて、そして北鮮の
ほうに立ち回ろうとしたところが、どうしても入れない。公正な人民の
選挙によって、それによる統一政府をつくるためのこの委員会の入国を
極力拒否して、どうしてもがえんじない。そこで、しかたなしに南鮮だ
けを監視いたしまして、そして自由意思による選挙が行なわれ、その選
挙の結果有効な政権ができた。この半分の機能しか発揮できなかったこ
とを、帰って国連総会に報告いたしました。国連総会は、その報告に基
づいて、朝鮮半島の一部分に大部分の人民が居住する地域にかくかくの
政権ができた、これはかくかくの理由でこの種の唯一の合法政権である
という、その報告に基づいて決議をし、それぞれ加盟国に若干の勧奨を
しておる。こういうことでございまして、この国連の臨時朝鮮委員会と
いうものの使命を粉砕したのは北鮮であります。(拍手)その結果、今
日の韓国政府というものが半島の一部分にできた。そういう事実を総会
がただこれを認定し、それを決定しただけの話であります。今回の基本
条約第三条は、それを受けて、韓国政府の性格は、かくかくのものであ
るということをいったにすぎないのでありまして、その国連の決議が不
当に領土を分割したというようなことは、これは全然当たらないことで
ございますから、さよう御了承を願います。(拍手)
○国務大臣(坂田英一君) 大体総理から全部お答えのようであります
から、ただ一点、御質問の零細漁業についてでありますが、沿岸漁業に
ついては、わが国の一方的声明で自主規制でありまするが、その内容と
しましては、出漁する沿岸漁船について、わが国沿岸漁業の実績を尊重
いたしましてでき上がっておるのでございまするから、その点御了承を
願いたいと思うのであります。なお、委員会においてよく……。(拍手
)
○国務大臣(石井光次郎君) さっきのお尋ねのうちで、韓国籍へ朝鮮
籍から切りかえを促進して、韓国籍から朝鮮籍への移動は認めない方針
であって、これはおもしろくないというお尋ねがございました。これは
在日朝鮮人の国籍欄に記載されておりましたものが、平和条約の際、平
和条約の発効によりまして、日本国籍を朝鮮の人たちが失ったものであ
り、朝鮮国籍に属しておった者が一律にその際に朝鮮という表示に切り
かえたのでございます。それで、その後に、韓国へ書きかえてもらいた
いという希望がたくさん出てまいりまして、本人の自由意思に基づいて
これはやったのでございまして、かつ、その大部分は、韓国代表部発行
の国民登録証を呈示させた上で韓国への書きかえを認めてきたような次
第でございまして、私のほうから、日本の側から無理にすすめたような
次第ではないのであります。それだけの準備と用意をしてやつ九のでご
ざいまするから、朝鮮へこの際韓国から切りかえということは、そう簡
単にはできるものではないということで、原則としては、これを認めな
いという方針をいまとっておるのでございます。(拍手)これは……(
発言する者あり)ただいま説明の途中でございます。原則としてそうい
う方針をとっておりまするので、これは私どもといたしまして、人道に
違反するとも、また、これは、さっきお話のありました人権宣言にも違
反することではなく、私どもはりっぱな道を通ってきたのだと、こうい
うふうに信じておるのでございます。(拍手)
○国務大臣(三木武夫君) 私に対しての御質問は、韓国に対する経済
協力が経済侵略になるのではないか、あるいは利権化の疑いはないかと
いう点でございますが、総理大臣からすでにお触れになりましたので申
し上げることもないのでありますが、要は、経済協力が国民的な基盤で
結びつかなければ日韓の友好関係は長続きしない、そういう点で、韓国
側においてもいろいろと新しい機構、調達方法を考えておるようでござ
いますし、われわれもまた、この実施計画を通じて相談にあずかる機会
がありますから、韓国の国民的な発展をはかれるように協力をいたした
いと考えておる次第でございます。(拍手)
第050回国会 衆議院日本国と大韓民国との間の条約及び協定等に関す
る特別委員会 第10号 昭和四十年十一月五日(金曜日)午前十時四十八分
開議
委員 石橋 政嗣
外務事務官
(条約局長) 藤崎 萬里
外務大臣 椎名 悦三郎
委員長 安藤 覺
委員長代理 長谷川 四郎
委員 戸叶 里子
内閣総理大臣 佐藤 榮作
内閣法制局長官 高辻 正巳
国務大臣 永山 忠則
○石橋委員 次に、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力
に関する協定についてお尋ねをしたいと思います。
最初に事務的なことでございますけれども、第二条の第二項の(a)
に、「千九百四十七年八月十五日」というのが出てまいるわけですが、
これはどういう時点を意味するのか、ちょっと御説明を願っておきたい
と思います。
○藤崎政府委員 これは終戦後日本におりました朝鮮人がだいぶ引き揚
げたりいたしました。それが大体終了するのにこの年の前半くらいまで
かかった。それから、このときに日韓間に民間貿易関係が開かれた、そ
ういうことでこの時点をとらえたわけでございます。
○石橋委員 この第二条の第一項におきまして「両締約国は、両締約国
及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに問締約国及
びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサ
ン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規
定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを
確認する。」とございますが、第四条の(b)項が全然出てきていない
というのはどういうわけでございますか。これは外務大臣にお尋ねいた
します。
○椎名国務大臣 条約局長に答えさせます。
○藤崎政府委員 平和条約四条(b)項でございますが、これは問題を
提起しているのではなくて、あそこでの軍令三十三号は処理の効力を承
認するということで、それは四条(a)項で全部カバーされておるもの
の一部について記述しておるわけでございます。
○石橋委員 (a)項で(b)項までカバーされておるというのが私に
は理解できません。平和条約を読んでみた場合に、どうしてそういう解
釈が出てまいりますか。
○藤崎政府委員 (a)項で、日本と韓国それぞれの国民の間の財産請
求権問題全般について特別取りきめの主題としているわけでございます
。(b)項では、韓国のほうにあった日本の財産、権利、利益について
在韓米軍当局がとった処理の効力を承認するということでございまして
、(b)項に書いてあることも(a)項の内容の一部をなしておるわけ
でございます。
○石橋委員 そうしますと、今度の日本と韓国との間で懸案事項をすべ
て解決するという際に、この(b)の問題については一切関係がないと
でもおっしゃるわけですか。
○藤崎政府委員 平和条約四条(b)項のものはすべて平和条約で処理
済みであった。したがって今回新たに処理する必要がなかったというこ
とでございましたら、お説のとおりでございます。
○石橋委員 (b)項の解決のためにいろいろといままで交渉が行なわ
れておるわけですね。この間にはアメリカまで介在していることはもう
御承知のとおりです。最終的に処理されたというものが今度出てこなけ
ればならないはずじゃありませんか。どこに出てきておりますか。
○藤崎政府委員 四条(b)項の問題はサンフランシスコ条約で処理さ
れてしまったわけでございますので、日韓間で新たに処理する問題じゃ
ないわけでございます。
○石橋委員 そうしますと、この間から問題になっております一九五七
年十二月三十一日の口上書、それから昭和三十二年十二月三十一日付、
日本国外務大臣と大韓民国代表部代表との間に合意された議事録のうち
、請求権に関する部分、こういったものは何のためにあるのですか。
○藤崎政府委員 韓国にある日本の財産、権利、利益といたしましては
、前にも御説明申し上げましたが、かりにあるとすれば、東のほうの大
韓民国の管轄区域が三十八度線以北に出た部分にあり得たわけだろうと
思います。ところが、これも前に申し上げましたように、北鮮当局が没
収処分をしておりまして、それを大韓民国側が休戦協定でその管轄のも
とに貫いたときには、また反逆分子のものとして没収したそうでござい
ます。したがいまして、日本の取り分に関する限りは、韓国には実体的
な財産、権利、利益というものは残っていなかった、こういうことは事
実でございます。ただそのほか、そういう部分に関する請求権と申しま
すか、文句をつける国際法上の権利とか、あるいはしばしば問題になっ
ております拿捕漁船の関係とか、そういうような軍令三十三号で処理さ
れなかったものが残っておるわけでございます。
○石橋委員 そういう理屈でいきますと、私はいままでの政府の国民に
対する説明というものとの間に矛盾があると思うのです。もうすでにこ
の第四条の(b)項は平和条約発効の時点で解決済み、こういう解釈を
おとりになっておられる。それじゃ一体いままで何をしておったのかと
いう問題がひとつ残りますが、それは別として、それではこの(b)項
の解釈について、従来の政府の考え方というものが変わったのかどうか
、確認したいと思います。というのは、この第四条(b)項において、
われわれはすべての日本国民の在韓財産というものを放棄したものでは
ない。すなわち、在韓米陸軍政庁法令第三十三号というのは国際法違反
である。これはへーグの陸戦法規違反である。また世界人権宣言からい
ってもおかしい。こういう立場を終始とってこられておったはずです。
われわれが放棄したのは、少なくとも外交保護権だけだ、こういう解釈
をとってこられたはずでございますが、この見解は変わりましたかどう
ですか、外務大臣にお尋ねします。
○藤崎政府委員 四条(b)項についての日本政府の解釈が、当初から
、日韓交渉に入るときに若干変わって、それが三十二年末にまたもとの
立場に戻ったということは、この前御説明申し上げましたが、そのこと
は三十六年に全部発表もいたしておりますし、皆さま御存じのとおりで
ございます。なお、この四条(b)項で財産、権利、利益というものは
全部処理されてしまったということは、これは平和条約の処理でござい
ます。これについて文句をつけない、もう国際法違反のことをやっても
日本政府としては文句をつけないということは、平和条約の十九条に規
定してございます。そういうことをこの問も御説明申し上げたわけでご
ざいます。
○石橋委員 私は、長くなりますから、いままで政府が国会を通じて国
民に説明しておりましたものを一々ここにあげません。簡単にお尋ねし
ますから、簡単に答えていただきたいのです。
この平和条約第四条の(b)項においてわれわれは――われわれはと
いうのは日本の政府はです。――国民の財産権の所属変更、移転まで承
認したのではない、外交保護権を放棄した、それだけだ、こういう解釈
をとってきた。これは間違いないでしょう。間違いないとすれば、いま
、その外交保護権は放棄したという従来の説をそのまま維持しておられ
るのか、それとも変更して、外交保護権まで放棄したというふうに変わ
ったのか、これは外務大臣、責任を持ってお答え願いたいと思います。
○椎名国務大臣 外交保護権の放棄であります。
○石橋委員 これはもうたいへんなことですね。従来の解釈、従来の政
府の国民に対する説明というものを百八十度変えております。そんなこ
とが一体許されますか。
○椎名国務大臣 変えておりません。
○石橋委員 外交保護権を放棄したものではないということをいままで
言ったことはないというのですか。
○椎名国務大臣 外交保護権の放棄である。
○石橋委員 ちょっと待ってください。聞き方が間違えました。
外交保護権を放棄しただけであって、個人の請求権を放棄したのでは
ないという解釈をとっておられたわけです。――もう一度お尋ねします
。国の財産権のみならず、個人の財産権の所属変更、移転まで承認した
というのであるならば、外交保護権のみならず、個人のそれぞれ持って
いるところの国際法上の請求権すら、個人の承諾なしに、不当にも国が
放棄したことになるのではないか、こういう意味です。正確を期して私
もお聞きします。
○椎名国務大臣 外交保護権だけを放棄したのであります。
○石橋委員 そうしますと、各個人は韓国に対して請求権を持っておる
、このように考えられるわけですか。
○椎名国務大臣 条約局長から答えます。
○藤崎政府委員 韓国で、昔だったら米軍、いまだったら韓国政府当局
が、それぞれの法令によってとった措置の効力を承認したわけでござい
ます。したがいまして、当該の日本人が自己の権利を向こうへ主張しよ
うとしても、これは向こうの国内法上の権利であるわけでございますが
、それは実際問題としては取り上げられないだろうということになるわ
けでございます。
○石橋委員 そうしますと外交保護権も放棄した。日本国民の個人のい
わゆる所有権というものも、これも全部、その当人の承諾なしに、日本
政府がかってに放棄した、こういうふうに認めていいですか。
○藤崎政府委員 前段におっしゃった外交保護権のことはそのとおりで
ございます。個人の請求権というものは向こうさんが認めないであろう
ということを申しているわけでございまして、この条約、協定で、そう
いうものを日本政府が放棄したということじゃないわけでございます。
○石橋委員 日本の政府は国民の生命、財産を保護する責任があるわけ
ですよ。それをかってに放棄したと同じ形になるじゃないですか。それ
に対して責任を持たないのですか。
○藤崎政府委員 それが外交保護権の放棄ということでございます。
○石橋委員 いままでは分けて説明しておったはずです。外交保護権は
放棄する。しかし個人の請求権は残る、こう言ってきたはずじゃないで
すか。では個人の請求権は残るというから、残ったつもりで韓国政府を
相手に訴訟を起こそうとしても、それは実際は無理でしょう、受け付け
ないでしょう。名目だけの請求権になるじゃないですか。権利はないの
とひとしいじゃありませんか。今度のこの協定の中で何らかの措置がと
られておれば別です。何にもとられておらないということは、実質的に
個人の請求権まで日本政府が抹殺したと同じじゃないですか。これはす
でに法律的な問題を離れます。外務大臣、その点について責任をお感じ
になりませんか。
○椎名国務大臣 先方のこれに対する措置として、国内法の問題につき
ましては、これは外交上の関係でございませんからしばらくこれに触れ
ませんが、とにかく外交上としてはあなたのおっしゃるような結論にな
るわけです。
○石橋委員 そうしますと、政府は外交保護権も放棄した、個人の請求
権も実質的に放棄した、しかもその請求権者、所有権者というものの承
諾は得ておりません。そうなれば、これは必然的に日本の憲法に基づい
て補償の義務を生ずる、このように考えますが、いかがです。
〔発言する者あり〕
○安藤委員長 お静かに願います。
○高辻政府委員 お答え申し上げます。
ただいま条約局長からお話がございました趣旨は、この外交保護権の
放棄ではある、しかしその在外財産自身は向こうの処理の問題であると
いうことをお話しになりましたが、要するにそれをもう少しかみ砕いて
申し上げますと、日本の国民が持っておる在外財産、その在外財産の運
命と申しますか、その法的地位と申しますか、そういうものはその所在
する外国の法令のもとにあるわけです。したがって、外国の法令におい
てその財産権の基礎が失われた場合に、日本の国民がそれを争うことが
できるかどうかということになりますと、それはその国の国内法の問題
になります。で、いま現在問題になっておりますのは、そういう措置が
あったとして、そういうものについて外交上の保護をする地位を放棄し
てということであって、財産権自身を日本が、たとえば収用をしてそれ
を放棄したというのとは違うわけでございます。ところで、憲法の二十
九条の三項によりますと、二十九条三項は、日本国がその公権力によっ
て収用した場合の規定であることは御承知のとおりでございます。した
がって、政策上の問題は別でございますが、憲法二十九条三項というこ
とを御引用になりましたその点については、私どもは憲法上の補償、法
律上の補償ということにはならないのではないかというふうに解してお
りま
○石橋委員 外務大臣は明確に言っているわけです。外交保護権は放棄
した、個人の請求権も実質的に放棄した、こう認めておられるのですよ
。だから、あなたに聞いているのではないのです。もう法律解釈はわか
っておる。だから内閣、政府の責任を私は追及しているんです。法律的
なことを聞いているんじゃない。とにかく所有権者の、請求権者の承認
も何もなく、かってに政府が放棄するというような行為が許されるか。
実質的に救済の道はないのです。回復しようとしてもその道はふさがれ
ておるという説明までなされておるのです。
〔委員長退席、長谷川(四)委員長代理着席〕
そうしますと、これは当然国家の利益のために国民の財産が充当された
という、こういう解釈をとらざるを得ません。賠償か賠償でないかとい
うことは争いのあるところでございましょうけれども、とにかくその中
に在韓財産、日本国民の財産というものが加味されておるということは
、これはもう否定できないと思う、何と言おうとも。国の利益のために
個人の財産が犠牲になっているのです。当然これは補償の問題が出てく
ると思います。いかがですか、外務大臣。総理大臣がおいでなら総理大
臣に聞きたいのですけれども。
○椎名国務大臣 個人の請求権を放棄したという表現は私は適切でない
と思います。高辻法制局長官が言ったように、政府がこれを一たん握っ
て、そしてそれを放棄した、こういうのではないのでありまして、あく
まで政府が在韓請求権というものに対して外交保護権を放棄した、その
結果、個人の請求権というものを主張しても向こうが取り上げない、そ
の取り上げないという状態をいかんともできない、結論において救済す
ることができない、こういうことになるのでありまして、私がもしそれ
を放棄したというような表現を使ったならば、この際訂正をいたします
。
それで、これに対する何か補償権というのが一体どうなるかというこ
とにつきましては、私は法制局長官の解釈に従いたいと思う。
○石橋委員 これは総理にお伺いしたいところなんです。あなたは先ほ
ど、実質的に放棄したと言っていいのかと言ったら、そういうことにな
るとはっきりおっしゃいました。それはもう正直な答弁ですよ。外交保
護権は放棄したけれども、個人の請求権は残っておると言ってみたとこ
ろで、それでは韓国に対して訴訟を起こして回復しよう、その道は閉ざ
されている。実質的に放棄したことになる。間違いないじゃありません
か。それなのに補償の義務はないという、そういう議論は成り立たない
と思います。これは総理が来てから私それでは確認をすることにいたし
まして、関連の申し入れがありますから譲ります。
○長谷川(四)委員長代理 関連質問の申し出がありますので、これを
許します。戸叶里子君。
○戸叶委員 先ほどの法制局長官のお答えの中で、私、どうしても納得
のいかない点がございますので、はっきりさしていただきたい。それは
まず第一に、韓国にあった日本人の財産は、アメリカの軍令三十三号で
これを取得されたわけです。没収はされておりません。取得をされまし
た。しかし、その後この軍令三十三号は国際法違反であるといろことは
この場でお認めになったわけです。その後におきまして、今度はその財
産というものが米韓の間の協定、一九四八年に結ばれた協定によって韓
国に移譲されたわけです。五条で移譲されております。しかし、その六
条においてはっきり言っていることは、法的にはっきりしている財産と
いうものは、その人の申し出があるまでは韓国がこれを管理すると言い
、さらにまた、もしも韓国と日本の間に特別の処理をきめない限りは、
所有者がいれば必ずその所有者に返るということがはっきり言われてい
るわけです。もしも特別の取りきめがあれば所有者にはいかないで済む
けれども、特別の取りきめがない限りはその所有者に返るということが
はっきり六条で示されてあるのです。だとするならば、先ほど法制局長
官がおっしゃいましたところの在外財産は向こうの措置である、しかも
この在外財産の法的地位というものは外国の法令のもとにある、こうい
うことをおっしゃったわけです。そうすると、外国の法令では、はっき
り米韓の問で日本人の財産というものは守られているんだ、申し出があ
れば正当なものは返さなければいけないのだということがきめられてあ
るわけです。そういうことを無視して財産権がないとおっしゃるのは私
はおかしいと思うわけです。その点はっきりさしていただきたい。
〔長谷川(四)委員長代理退席、委員長着席〕
○高辻政府委員 先ほど申し上げましたように、日本の在外財産、これ
はどこにあっても同じでございますが、その日本国の財産の運命と申し
ますか、その法的地位が当該財産の所在する外国の法制によって運命が
決するということは、これは一般理論として言うまでもないところだと
思います。ところで、軍令三十三号の処理の効力を承認する、この解釈
問題にかかるかもしれませんが、これにつきましては、外務当局から先
ほどお話がありましたような経緯を経まして、その効力を承認するとい
うことによって、日本の国民の財産については、その処理の効力を承認
するということで運命がきまっておるというようなことになる、それが
外交保護権の放棄そのものではあるけれども、それ自体の運命は実はそ
ういう協定によって決せられておる、こういう解釈になるわけでござい
ますので、結果は同じことになるんではないかと思います。
○戸叶委員 私が申し上げた質問に対してのお答えになっておりません
。私がお伺いいたしましたのは、一九四八年の九月の十一日だったかと
思いますが、米韓の間で協定を結んでおります。その協定の五条によっ
て、アメリカが取得したところの財産というものを韓国に移譲したわけ
です。トランスファーしたわけです。没収していない。それを没収して
やったんじゃないということの証明には、六条にはっきり示されてある
。法的にきちんとした財産というものはしばらく預かっておいて、そし
て申し出があればこれを返すのだ、しばらくの間管理しておくのだとい
うことが六条にある。しかもその次にあることは、別途の特別の取りき
めがない間は日本のものであるということがはっきり示されてあるので
す。いいですか。そういうふうに国内の法律できまるというのですかも
、向こうの国内の法律できまるというのですから、韓国はこれを知って
いるはずなんです。知っていたら、このとおり守ってもらったらいいじ
ゃないですか。それとも、日本人個人とそれから韓国政府との間に特別
の取りきめをしたのですか。してないはずです。個人個人がしてないは
ずです。
○藤崎政府委員 軍令三十三号の解釈につきましては、米国政府からも
明瞭な発表があるわけでございますので、疑問の余地はないと思います
。この米韓協定の第六条は、この文言にもございますように、韓国にあ
りました戦勝国、つまり連合国の国民の財産について日本側が戦争中に
何か措置をとっておって、それを日本の財産だと思って韓一国に渡しま
すと、連合国の国民が不利益をこうむることになりますので、その点に
ついての注意を喚起したものでございます。
○戸叶委員 そんなことを言つちやいけませんよ。六条には何と書いて
ありますか。大韓民国政府へ移譲された財産は、正当な所有者が適当な
時日内に返還を請求し、同所有者に返還されるまで大韓民国政府はこれ
を管理するとあるじゃありませんか。大韓民国政府に移譲された財産は
ですよ。アメリカはこのときに軍令三十三号を出したけれども、自分は
間違ったことをしているということを知っているから、意識してこうい
うものを出しているのですよ。それで全部韓国へなすりつけているので
すよ。それが一つ。
もう一つは、私は関連ですから全部まとめて言いますが、この前私が
ここで指摘をいたしましたように、日本の国会におきましては、この平
和条約のあとにおいてさえも岡崎さん、あるいは中川さん、あるいは高
橋条約局長、日本の個人の韓国へ置いてきた財産権はあるということを
はっきり言っております。私は速記を持っておりますけれども、そうい
うことを言っていられるはずなんです。だからそれはなぜかといえば、
韓国に財産があったのだという解釈できて、そして一九六一年、池田さ
んと朴氏と両方でもって、こうやっていたのでは解決できないから、何
とか法的地位の根拠のあるものだけにしようという話になって、その翌
年、金・大平メモで政治的に解決しようというふうになったわけだと思
います、歴史を見ますと。ですけれども、その間において一体いつ日本
人の韓国に置いてきた財産がなくなったかということは、みなふしぎで
しかたがない。うやむやのうちに消えちゃってるんですよ。いやしくも
日本人の個人の財産までこういう形でうやむやにされる。しかも国会に
おいてはあると言っておりながら、そういう形をとられるということは
、これは許すべからざることであると私は考えます。
○藤崎政府委員 最初アメリカと同様の解釈をとっておりながら、日韓
交渉のある段階においてこれと違った解釈をとったということは、この
間戸叶委員に申し上げたとおりでございます。しかし、アメリカ解釈と
同じ解釈をまたとるようになって以後において、日本政府当局の者が日
本国民の財産、権利、利益がそのまま残っているとお答えしたはずはな
いはずであると、かように考えます。
○石橋委員 それでは、やはりいままでの外務省の国民に対する説明と
いうものをここで少し取り上げなければ結論が出ないと思いますから、
読み上げてみたいと思います。これは外務省情報文化局が出しておりま
す「世界の動き」特集号の六であります。そのまま読みます。「わが国
が韓国に請求しているのは、そのうち私有財産の返還である。それは私
有財産尊重の原則が、歴史的にいつの時代にも認められてきた原則であ
るし、また朝鮮からの引揚者の利害がこの問題と密接に結びついている
からである。しかも、日本人が朝鮮に残してきた財産は、はるばるわが
国から渡鮮して三十余年の長きにわたり粒々辛苦働いた汗の結晶にほか
ならない。」、いいですか。これは外務省の文書ですよ。途中省略しま
す。「或る人の計算によると、終戦当時朝鮮には日本人の私有財産(す
なわち国有財産や公有財産は別として、個人財産と私企業財産だけの合
計)は約七百三十億円あったということである(当時は一弗は約十五円
であった)。今かりに、その中の六〇パーセントがいわゆる「三十八度
線」の北鮮にあり、四〇。パーセントだけが南鮮にあったと仮定して、
しかもさらにその六五パーセントが戦災で滅失したと推定すると、現在
韓国内には約百億円の日本人私有財産が残っている計算になる。その他
にも、帳簿尻の清算などを勘定に入れると日韓相互の請求権は次のよう
になる。日本が韓国から受け取るべき額約一四〇億円、日本が韓国に支
払うべき額約一三〇億円、差引受取額約二〇億円、そこで、かりに韓国
の主張のように、日本は韓国に対し請求すべきものは一銭も無く、請求
権の問題というものはもっぱら韓国が日本から受取る額の問題にすぎな
いということであれば、この人の計算に従えば、終戦当時の金で一二〇
億円を日本が韓国に支払わなくてはならないことになる。在韓財産の一
切合切をフイにした上に、さらにこのような巨額を支払うということは
、わが国民の決して納得しないところであろう。」、この外務省の見解
こそ現在の日本の国民の気持ちじゃないですか。これはそれじゃ、うそ
だというんですか。
○藤崎政府委員 ただいまお読み上げになりましたのは、昭和二十八年
十月二十二日の情報文化局長の談話でございまして、これは先ほど来申
し上げておりますように、日韓交渉のある段階において米国解釈とも、
平和条約締結の際の国会で御説明申し上げました政府の見解とも違った
、一番日本に腹一ぱいの主張を韓国との交渉の上でやっておった段階の
発表でございます。いまの見解とは違います。
○石橋委員 これは外務省の当時の正式見解であるということはお認め
になったから、それでいいです。
そこで、外務大臣にお聞きするのです。この当時の外務省のこの主張
、これこそはまさに日本国民感情にぴったりだということです。特に、
いま熱心に運動しておられますところの引き揚げ者の諸君の気持ちにぴ
ったりしたものがこれだということなんです。この見解がいつの時点に
どのような経過を経て変化を見たのか、これがいま問題になっているの
ですよ。少なくともこれが筋なんです。本論なんです。しかし、それを
変更せざるを得ない条件があったというならば、いつの時点、どのよう
なものによって解決したのか、変更があったのか。これは外務大臣が答
える責務がございますよ。
○椎名国務大臣 相当日本も悲惨な敗戦を喫して立ち上がったばかりで
ございまして、この韓国に対するいろいろな考えというものはかなり複
雑多岐なるものがあるのであって、それは一面の発露であるということ
は私も了解し得るのでありますが、それだけをもって今日の結末に達す
ることはできないのであります。いろいろな角度から、この両国の長い
問の歴史的関係等を考慮いたしました結果、今回の条約の調印を見たよ
うな次第であります。
○石橋委員 私、そのままこれを読み上げたわけですけれども、これが
当時の外務省の態度、ここから平和条約第四条の(b)が平和条約発効
の時点で解決したなんという結論がどうして出てきますか。妙な法律論
にすりかえないでください。少なくとも第四条の(b)項から出てくる
見解というものは、当時述べられておったこれであるはずです。それが
何らかの事情で変更を見ているのです。そのことによってたくさんの引
き揚げ者がたいへんな損害をこうむっておるのです。その人たちに対し
て親切な説明をするのは政府の責任じゃないですか。こういう理由で考
えを変えたのだからしんぼうしてくれ、そのかわりほうってはおかぬ、
こういう態度があってこそ政治と言えるんじゃないですか。総理が来な
ければ答えられないのでしたら、ここで待っていてもいいですよ。外務
大臣答えられないのですか。総理大臣が来なければ。
○椎名国務大臣 いま申し上げたような状況下において、全くもう廃墟
の中から立ち上がって、そうして一時は食うや食わずの状況でありまし
たが、だんだん立ち上がりを示してまいったのでありますが、韓国との
折衝過程においていろいろな複雑な国論というものが生起したという、
一つのそれはまあ断面を物語るものだと私は考えております。そういう
事情もあったということを十分に考慮に入れて今回のような結論に到着
したわけであります。
○石橋委員 実際の利害関係者がそれで納得いきますか。外務省が、先
ほど読み上げたような態度でがんばってくれておるときこそ、ああやは
り政府だ、われわれ国民のことをよく考えてくれてがんばってくれてい
ると、感謝しております。それを、何の相談もなしにいつの間にか消え
ちゃった、あれは交渉のかけ引きにちょいと言うただけです、そんなこ
とで済みますか。少なくとも、それではどの時点でどのような取りきめ
によってこういう考えが放棄されたのか。そこからひとつ説明してくだ
さい、外務大臣。
○椎名国務大臣 米国解釈をとって、そうして一切の請求権はこれを主
張しないということになったのは三十二年になってからであります。そ
のいきさつにつきましては条約局長から申し上げます。
○石橋委員 いいです。いいです。もう法律的にごちゃごちゃ言うとわ
からなくなるから、お互いにみんながわかるようにひとつやりましょう
。三十二年というのは、この平和条約第四条の解釈に関する米国政府の
見解を伝えた在日米国大使の口上書及び昭和三十二年十二月三十一日付
日本国外務大臣と大韓民国代表部代表との間に合意された議事録のうち
請求権に関係する部分、これですね。
○椎名国務大臣 さようであります。
○石橋委員 この時点で個人の財産権まで日本政府は放棄を認めた、一
つはこういうことですね。そして、後段において、ただし「平和条約第
四条(a)に定められているとりきめを考慮するにあたって関連がある
ものである。」、すなわち韓国が日本に請求しておるものと関連がある
ものである、こういう二つの柱にささえられた口上書であるということ
もお認めになりますね。
○椎名国務大臣 大体さようでございます。
○石橋委員 何で大体なんて言うんですか。そうしますと、この前段に
おいて、個人の請求権、財産権まで日本政府は放棄した、昭和三十二年
の十二月三十一日のこの時点で。しかし、韓国の対日請求権との関連の
上で考慮する、こういうことになった。これは明らかに日本政府はこの
時点で韓国の対日請求権との相殺のために日本国民の在韓財産を振り当
てたということになるじゃありませんか。それを認めたということにな
るじゃありませんか。その点、外務大臣いかがですか。
○椎名国務大臣 しかし、その後韓国の対日請求権というものを両国の
間で突き合わせてみたのでありますが、何しろ、法律上の根拠あるいは
事実関係、非常に不明確である。時間もたっており、その間に朝鮮事変
というものがありまして、これをいかに追求しても結論に到着すること
はむずかしいというので、これはあきらめて、そうして、別に経済協力
、無償・有償合わせて五億ドル、その経済協力を行なうこととともに、
それと並行して対日請求権はこれを終局的に完全に消滅させるというこ
とになったのでございますから、その関連の問題はもはやなくなった。
しかし、法律上の関係はありませんけれども、経済協力をするという問
題にいたします際に、やはりその問題を念頭に置いて問題の処理をした
ということは、これは言えるだろうと思います。
○石橋委員 そうしますと、やはり関連があるわけですね。有償・無償
五億ドルという額をきめるにあたって、日本国民が朝鮮に置いてきた財
産というものを十分に念頭に置いてその金額をきめた、そういう意味で
関連があるわけですね。
○椎名国務大臣 関連と言うと語弊がありますが、それを念頭に置いて
かような処理をした。あくまで経済協力は経済協力であります。さよう
に解釈しております。
○石橋委員 念頭に置いてという表現を使われるわけですけれども、関
連があるじゃありませんか。有償・無償合わせて五億ドルの援助をしま
しょうと、その金額をきめるにあたりまして、日本の国民が朝鮮に置い
てきた財産というものを念頭に置いて金額をきめた、関係があるじゃあ
りませんか。それだけの財産があそこにあったからこそ五億ドルで済ん
だということになるじゃありませんか。そうしますと、引き揚げ者の人
たち、財産を韓国に置いてきた人たちは、自分たちの財産というものを
国益に供したことになるのです。これは間違いありません、いままでの
一つ一つのお答えの中からも。
総理大臣はいま来られたので、経過を簡単に説明しますけれども、と
にかく、日本の外務省としては、個人のいわゆる私有財産、朝鮮に置い
てきた私有財産というものは、これはあくまで返してもらわなければい
かぬという立場を主張しておられた。これは、私が外務省の文書を読ん
だら、そのとおり承認いたしました。この私有財産を返してくれ、こう
いう政府の姿勢は、すべての日本国民の共感を受ける正しい姿勢であっ
た。それがいつの間にか変わってしまった。いつ変わったのですかと聞
いたら、昭和三十二年のアメリカの大使の口上書と日本の外務大臣と韓
国代表部代表との間に合意された議事録のうち請求権に関係する部分、
すなわち昭和三十二年十二月三十一日のこの取りきめの時点において考
えが変わった。もう請求しないということにした。個人の財産も請求し
ないということにした。ただし、平和条約第四条においていろいろと処
理をしなくちゃならぬ。取りきめをしなくちゃならぬ。その場合に、考
慮するにあたって関連があるものだ。すなわち、在韓日本国民の財産と
いうものを頭に置いて、そうしてやりなさいということを、日本、アメ
リカ、韓国の三国の間で合意に達した。そうすると、少なくとも有償・
無償五億ドルという金を日本が援助として、名前はどうあろうと、援助
として韓国にやるという場合に、五億ドルで済んだのは、たくさんの日
本人の私有財産が朝鮮にあったからだ、こういうことになる。これは間
違いないかと言ったら、外務大臣は間違いないと言う。それを念頭に置
いてやったと、こうおつしゃる。そうすると、在韓財産を持っておられ
る日本の国民としてみれば、国の利益のためにおれたちは財産をみんな
出したのだから、その分だけめんどうを見てください、こう言ってくる
のは筋です。そのほかに方法がないのです。もう一つの方法は、韓国に
対して、韓国の裁判所に訴えて返してくれという方法があるのですが、
これは実質的に不可能だという答弁も政府はしておられる。この放棄し
たことによって、口上書と合意議事録によって不可能になっておる。そ
れから、向こうの国内法で不可能になっておる。断然日本政府に補償の
義務が私は生ずると思います。これはいま在外財産問題審議会で審議し
ておることは、私百も承知です。しかし、少なくとも政府としては、何
とかしなくちゃならぬという気持ちに立たなければ、これは国民は納得
しない。特に引き揚げ者は納得しないということを申し上げたいのです
。この点、総理大臣の決意のほどを表明していただきたいと思います。
○佐藤内閣総理大臣 韓国にあった邦人の個人の財産の問題、これは、
私がちょうど不在中にいろいろ議論があったそうですか、ただいま石橋
君が御理解していらっしゃるように、また外務大臣が申し上げたように
、三億、二億、これは結局こういうものを念頭に置いてきまった、かよ
うに申しておる。その念頭に縫いたことが法律的な義務を生じておるか
どうか、これについては、法制局長官から、憲法上の問題はないと、か
ように答えたと思います。私は、いわゆる法律論としての法律上の問題
ではこれはないのだ、その点は明確にいままでの経緯から説明されたろ
うと思います。しかし、こういう問題、あるいは平和条約から見まして
も在外資産につきましてはいろいろの問題が残っておるわけであります
。いわゆる法律的な問題としては一応片がついておる、かように政府は
考えておりますが、一般的にいわゆる在外資産をいかに処理すべきか、
またどういうような実情にあるか等々につきまして、いわゆる在外財産
問題審議会というものができておる、そうして、ただいまそちらのほう
でいろいろ研究しておる、かような状態にあることも石橋君御承知のこ
とだと思います。政府自身は、ただいまの法律論、法律的な問題、いわ
ゆる憲法上の問題として処理するのではなくて、一般的な問題として、
こういうものをいかにするかというその調査をまずして、そうして、そ
の結論を出すという態度でございます。
○椎名国務大臣 補足して申し上げますが、請求権をこれに振りかえた
というような趣旨に私は申し上げたのではありません。念頭に置いて請
求権問題を処理した。やはり、もと一国をなしておった韓国が独立をし
たのであります。日本の財政事情も考慮しながら、新しく発足する韓国
というものに対して、お祝いと言っては語弊があるが、りっぱに育つよ
うにということで、主としてこの経済協力の問題は考えられておる。
私が申し上げたいのは、第二次大戦後に旧植民地がずいぶん分離いた
しました。そうして新しい独立国となったその際に旧宗主国がどういう
ことをやっておるかということを、私はこの際御参考までに申し上げて
みたいと思います。
イギリスでありますが、旧英領諸国の独立に際して行なった援助がま
ずあげられると思うのであります。すなわち、イギリスは、これら諸国
の独立の際に、経済開発援助その他の資金供与などによりまして、これ
まで十二ヵ国に対して合計約十四億ポンド、三十九億ドル、約四十億ド
ルの援助を行なったのでありますが、このうち大きなものとしては、イ
ンドに対する十億四千万ポンド、パキスタンに対する一億二千万ポンド
、セイロンに対する一億ポンド、ケニアに対する五千万ポンド等がおも
なるものでございます。
それから、このほか、フランスの旧仏領諸国の独立にあたって、それ
らの国との長期的経済友好関係の維持継続をはかるために経済協力協定
を締結いたしたのでありますが、これらの協定には資金協力を約束した
ものが多い。フランスが独立した旧仏領諸国に対して一九六〇年から一
九六三年までに供与した援助額は二十一億ドルに達しておる、こういう
状況であります。この点を御参考までに申し上げておきます。
○石橋委員 私はもう資料を持っています。聞きもせぬことを長々とお
やりになる。肝心なことはあんまり言わぬ。あなたのほうでお出しにな
っております「日韓予備交渉において両首席代表間に大綱につき意見一
致を見ている請求権問題の解決方式、昭和三十九年十二月十日」、これ
を見ても、はっきり書いてあるじゃないですか。三億ドル、二億ドルと
いうものをきめたときに、「上記無償、有償の経済協力の供与の随伴的
な結果として、平和条約第四条に基づく請求権の問題も同時に最終的に
解決し、もはや存在しなくなることが日韓間で確認される。」、もう相
殺していることははっきりしているのですよ。
そこで、総理大臣に最後にこの問題についてお尋ねしておきたいこと
は、この問題は、本来ならば直接政府が判断をして対処すべき問題であ
ったと私は思います。しかし、いまはもう審議会にかけておる。その審
議会が補償すべしという結論を出した場合には、必ずこれを実行される
、このことを声明なさらないと、関連を持っておる方々はこの条約、協
定に非常に不安を持っておりますから、ぜひひとつ言明しておいていた
だきたいと思います。
○佐藤内閣総理大臣 もちろん、審議会の答申といいますか、あるいは
その調査の結果につきましては、これは尊重したいと思います。尊重し
なければならない、かように思います。そういう場合に、政府は政府の
責任においてこれを処理していくという態度でございます。
○石橋委員 それじゃ、問題を移します。
いままでいろいろと質疑をいたしました。その中でも何度も総理はお
っしゃっておられるわけですが、日本政府としては南北朝鮮の統一を妨
害するとか阻害するとかいうようなことは毛頭考えておらぬ、こういう
ことをしきりに力説しておられます。しかし、そういうことばの裏で、
朝鮮民主主義人民共和国を法律的に無視すると言われるならば、それは
もうそのとおりだということも言っておられます。それから、質疑の中
でも、実際には北の国というものを交えなければ完全に処理できないよ
うな問題がありながら、韓国との間だけで何とかしてしまおうというよ
うな問題のあることもはっきりしてまいりました。とにかく、この条約
が発効すれば、日本と北のほうの部分の国とうまくいく条件というもの
は、どう見てもないわけです。悪化する条件があっても、これが今後は
よくなるだろうというような、そういう見通しを持つことは全然できな
いと思います。現に、韓国のほうでは、韓国の総理大臣はどんなことを
言っているかというと、ずいぶんひどいことを言っているのですよ。「
韓日国交が正常化されたことによって、わが政府や国家全体が力を合わ
せ、北韓の外交関係を結ぶのを積極的に防ぐべきであり、また、通商が
増加するのを、われわれが優先権を握ってこれを妨害するのに最善を尽
くすべきであり、また、文化的に交流するのを、われわれが最善を尽く
して防ぐべきである。」、これは丁一権総理が八月十四日の韓国の本会
議で述べたことばであります。ほかの部分も、私、たくさんここに控え
てきております。向こうのほうでは、とにかく、この日韓条約が発効し
たら、日本と北鮮の間というものを何が何でも妨害するのだ、こういう
ことを言っている事実というものは御承知でございますか。総理が、南
北統一ということをじゃましようとか妨害しようとかいう気持ちは毛頭
ないということを何度もおっしゃっておるので、それでは、向こう側は
こう言っておりますが、御承知ですかと、こう総理にお尋ねしておるわ
けです。
○佐藤内閣総理大臣 いま丁一権総理がどうしゃべったというようなお
話でございます。また、金日成がどういうようにしゃべったというよう
なことも新聞で伝えておりますが、これはまあ外国の問題ですから、あ
まりとやかく詮議しないほうがいいのだと私は思います。私は、ただい
まお尋ねになりました韓国、朝鮮の単一国家、この実現を――まあ石橋
君もそういうものが出現することをこれは希望しておられることだと思
います。私もそれを希望しておるのですが、今回の条約自身は、御承知
のように、北の部分についてはこの条約では何も取りきめてない。これ
は先ほど来のお話で非常に明らかになったと思う。私はしばしば申し上
げるのだが、北鮮の部分はこれは白紙でございます。今回そういうこと
については何ら取りきめをいたしておりませんということを申し上げて
おりますが、ただいまのお話から、もしも北と、それから韓国と、両方
を承認しろというような御議論でありますならば、それこそこの単一国
家の実現をはばむものじゃないか、私はそれを非常に心配する。だから
、ただいま単一国家の実現を心から願っておるというその立場におきま
して、どういう処置をとるのがいいのか、これが、ただいま言われるよ
うに、韓国を承認するのか、あるいは北を承認するのか、こういうこと
で石橋君の話も変わった結論になるのじゃないか、私はかように思いま
す。私どもが韓国を承認するという、これはもう最初から平和条約以来
ずっと交渉相手にしておる。ところが、北を承認した二十三ヵ国ですか
、これらの国々は、北を相手にして交渉して、そして韓国を相手にして
おらない。だから、この点をはっきり明確にしておかないと、ただいま
るる御説明になりましたが、私どもが南北の統一をはばむものでない、
このこととも関連のあるものでございますし、また、どういう立場にお
いて日本がただいまの韓国と交渉を持つか、また、北の部分についてど
ういう考え方を持っておるか、これの理解がなかなかいきにくいだろう
と、かように思いますので、よけいなことだったと思いますが、お答え
しておきます。
○石橋委員 私は、総理が南北の統一をほんとうに願うというならば、
この際、統一の方式などというものはあまり条件となさらないほうがい
いのじゃないかと思うのです。必ず国連方式ということをおっしゃるの
ですけれども、朝鮮の問題に関しては、国連は戦争の当事者なんです。
こういう条件のあることを念頭に置かれないと、国連方式で統一という
ことをしいることは、これは実現不可能ということにもなりかねぬわけ
です。だから、ほんとうに統一がいいのだ、希望しているのだというな
らば、国連方式などということを言わないで、話し合いによる平和的な
方法でやるならばいかなる方法でもいい、統一してもらいたいという気
持ちを持っている、こうお考えになりませんか。それならば一致します
。
○佐藤内閣総理大臣 残念ながら石橋君の御意見に同意するわけにまい
りません。私は国連を引き合いに出したと、かように申されるが、国連
こそはこの世界における唯一の平和機構でございます。だから、やはり
国連方式。また、国連自身が権威を持っておる。その立場から見ますと
、この国連方式というものは、ただ単に参考にすべきようなものでなし
に、これはやはり、これを採用するかしないかということは重大な問題
だ、かように私は思っております。
○石橋委員 これは、幾ら言っても、意見の違うということを総理おっ
しゃっているのですから、これ以上申しません。
そうしますと、今度の日韓会談、日韓条約、諸協定の成立というもの
は、決して軍事的な要素を持っておらぬという、そういう御説明に対し
て、私はお尋ねをいろいろしてみたいと思うのです。
まず第一に、これまた、韓国のほうではことごとに、反共体制の確立
、これができるのだということを言っております。これも私たくさんこ
こに控えてきておりますが、長くなりますから、韓日会談白書の一番最
後の結論のところだけ読みましょう。「韓日間の国交正常化は、単にわ
れわれにだけ関係のあることではなく、激動する国際情勢、とくに極東
における反共堡塁を強化するために是が非でも実現すべき命題であるこ
とにかんがみ、当事国である日本を初め、アメリカ、ひいてはドイツ等
の自由友邦諸国のこれに対する要請も高まっている。同時に韓日間の国
交正常化によって、韓、米、日の三角関係の連帯を強化して、国際的な
経済協力体制を促進させ、国家的には勝共統一のための自立経済体制の
確立と経済的繁栄を成就する基礎が築かれるということは、誰も否認出
来ない事実である。」、こういうふうに明確に言っております。国会に
おきます丁一権総理、李東元外務大臣、一貫してこういう立場をとって
説明をしておられます。反共堡塁、あるいは日本の経済援助によって韓
国の力が強くなって、勝共統一ができる、こういう考え方を韓国のほう
では終始主張し続けておるわけです。日本側では否定しておりますけれ
ども、向こうでは堂々と述べておりす。
とにかく、ここで言いたいことは、いま世界の焦点はアジアです、私
に言わせれば、ことしはアジアの年です。残念ながら、いい意味じゃな
いんです。世界じゅうの紛争がアジアであっちこっちで火をふいている
。まことに情けない状態ではございますが、そういう意味でのアジアの
年です。その危機は一体何が原因か。たどっていけば、結局アメリカと
中国というものが出てまいります。そして、このアメリカにつながる軍
事同盟を持った国として韓国が浮かび上がってきます。台湾が浮かび上
がってまいります。日本が浮かび上がってまいります。東の共産の側も
そういうことになります。この中でも特に、本来ならば一つの国である
べきところが大国の恣意によって不自然に分割されておるという部分が
最も危機的要素を多く持っております。朝鮮であり、ベトナムであり、
台湾です。非常に対立が激しい。その対立の激しいところで日本はどち
らを支持していますか。どちらと結んでおりますか。これはもう明々白
々です。対立する大きな二つの力の中にあって、日本は片一方の陣営の
アメリカと安保条約を結んでいるのです。韓国もアメリカと軍事条約を
結んでいるのです。台湾も結んでいるのです。この白書にもいわれてお
るように、ここで三つの国が軍事的にも結束を囲めることができた、こ
う言うのも決してゆえなきことではないかと私は思います。時間が急が
れておりますから、私は、その点では意見を述べるにとどめて、質問に
入ります。
八月十日の韓国の特別委員会におきまして、丁一権総理は、「韓国に
駐とんしている国連軍は国連決議によって派遣されており、また再び南
侵があるときには即時自動的に報復をしなければならない義務を持って
いる」こう述べておりますが、これは間違いない、こう判断されますか
。
○佐藤内閣総理大臣 いまのお尋ねになりましたことは、これは、国連
軍の韓国に駐留している目的が、南侵があればこれを守るということ、
こういうことだと思います。
ただ、先ほどの問題で、少し誤解を受けると困りますから、一言私は
、お尋ねではございませんが、お答えしておきたい。それは、いわゆる
反共体制ということばです。反共体制――なるほど私は共産党はきらい
なんだから、そういう意味で、いつも申し上げるように、日本の国は民
主主義で、そして自由主義で、この国をりっぱにするんだということを
いつも言っておる。だから、私は、そういう意味で反共だといわれるこ
とはたいへん光栄に思う。ただ、問題になりますのは、反共体制という
ことでなしに、反共軍事体制というのが問題なんです。軍事という二字
があるかないかでたいへん違ってくるのです。だから、国民自身は、先
ほど来言われる反共体制というそのことばの中に、軍事という、反共軍
事体制、こういうことに誤解をされないことを私は希望するのです。し
ばしば社会党の方は、いわゆる軍事的に入るんだ、かように言われます
が、それならば、諸君がしばしば主張するところの日本の憲法はどうな
さるのですか。日本の憲法は、はっきり、紛争を武力解決しないのだ、
戦争を放棄したんだ、こういうことをいっているじゃないですか。また
、自衛隊法は、はっきり自衛隊の目的というものを明確にしておる。こ
ういう法律があるにかかわらず、特に軍事体制、かようなことばを使わ
れることは――軍事体制は使われないが、それと開き間違うような、い
わゆる反共体制ということばで、そうしてこれを軍事体制に結びつけら
れることは、私はごめんこうむりたいのです。国民は十分この点を明確
にして理解してもらいたい。だから、同じように石橋君が習われるけれ
ども、私はそこは違っておる。私は共産党はきらいだけれども、いわゆ
る反共軍事体制、そういうものはつくっておらない。はっきり申し上げ
ます。
○石橋委員 それでは、いま私が丁一権総理のことばをそのまま用いま
して、このとおりかと言ったら、このとおりだとおっしゃったわけです
が、問題は、またそのあとにこういうのがあるのです。「日本が国連に
おける自由陣営国家の一員であるならば、国連軍のワクの中で、継続し
てこのような事態が到来するならば貢献するものと予想されます。」こ
ういうことを言っております。すなわち、再び南侵があったら、韓国に
おる国連軍は直ちに自動的に義務を果たす、その場合に日本は、国連支
持であり、自由主義陣営の一国であるから、この国連軍のワクの中で、
継続してこのような事態が到来するならば貢献するものと予想されると
言っておりますが、この点についてはいかがお考えですか。
○佐藤内閣総理大臣 いまの国連軍に協力するということが、軍事的に
のみ、あるいは派兵するとか、こういうように考えていらっしゃったら
、日本は憲法並びに自衛隊法でさようなことはございませんから、派兵
はいたさないということがわかるわけです。ただいま、国連に協力とい
うような意味では一体どうなのかということですが、いわゆる吉田・ア
チソン協定、覚え書きですか、交換公文、さらにまた、それを受けた岸
・ハーター交換公文というようなものがある。こういうことで、いわゆ
る軍事的な積極的な派兵というような問題ではございませんが、その他
の事柄におきまして、私どもが国連の目的遂行に容易なように協力する
ことはあり得る、かように理解していただきたいと思います。
○石橋委員 憲法があるから海外派兵なんかあり得ないとおっしゃいま
したが、従来の政府の説明を思い出していただきたいと思います。自衛
隊の海外派兵は憲法上できないけれども、国連軍として活動する場合は
別である、このように林法制局長官は答弁しておりますよ。また変わっ
たんですか。
○高辻政府委員 お答え申し上げます。
この国連軍の協力の問題でございますが、国連軍という場合にはいろ
いろな形のものがあることは御承知のとおりでありますが、武力の行使
にわたる面であれば、これはむろん憲法九条の容認するところでないこ
とは確かでございます。同時にまた、武力の行使の面に全くわたらない
という場合には、理論の問題としてはあり得ると思いますけれども、や
はり、南侵の場合にどうするというようなことになれば、これは武力の
行使を切り離しては考えられないと思いますので、先ほど総理が仰せに
なりましたように、憲法九条はこれを許さないということになると思い
ます。
○石橋委員 この点については、椎名外務大臣が、九月の二十三日、ニ
ューヨークの記者会見において、「平和維持のための国連活動に自衛隊
を海外に出すことをただいま検討中である」、こういうことを言ったと
いうのが日本の新聞には載ったんです。しかも、昭和三十五年の四月二
十八日の安保特別委員会におきまして、先ほど申し上げたように、林法
制局長官は、全然国連軍として自衛隊が出ていく場合は別問題だと言っ
ているんですよ。何だったら読んでみましょうか。当時の会議録の三二
ぺ−ジを開いてください。「かつて石橋委員にも私お答えしたことがご
ざいますが、いわゆる国連の決議あるいは国連軍あるいは国連警察軍と
いう問題と海外派兵という問題は、これはおのずから私は別問題だ、こ
れは私は可能だとは必ずしも申しませんけれども、いわゆる海外派兵の
問題とは別問題として考えるべき問題である、かように考えております
。」、はっきり言っていますよ。だから、全然封じられていないんです
、国連軍としての活動は。純然たる海外派兵というものと区分けして、
国連軍として自衛隊が動くという場合には何か幅があるんです。このこ
とだけは間違いないわけですね。これは私、総理大臣にお伺いしておき
ます。
○佐藤内閣総理大臣 先ほど来申し上げておるように、いわゆる法律論
が――あなた、法律的な議論をお聞きになりましても、これじゃなかな
か満足されぬのか知りませんが、それよりも、私ども、実際問題として
いかにこういう場合に処理するかということが政治家として一番大事な
ことなんです。私が先ほど来申し上げておるのは、法律論がどうあろう
と、また、先ほど来法制局長官も申しておりますように、いわゆる軍事
行動、戦闘行為はやらない、そういう場合はちょっと違うというような
議論で、私はだいぶん話が違うと思っておりますがね。
○石橋委員 瞬間を非常に急いでいるようですから、それじゃ、もう一
つお伺いします。
先ほど、南侵が始まったら自動的に在韓国連軍は報復行動を起こすと
おっしゃいましたが、その場合には戦場は朝鮮に限らぬということが国
連軍によって声明されておることを御承知でしょうね、総理大臣。
○佐藤内閣総理大臣 私はちょっとそれを記憶しておりませんので、事
務当局から説明させます。
○石橋委員 先ほど簡単にお認めになりましたけれども、非常に重要な
意味を持っているんです。私は北鮮のほうが南に侵入してくるかどうか
知りません。しかし、とにかく、そういう名目であろうと何であろうと
、北が南に侵入してきた、その場合は在韓国連軍は直ちに発動できるよ
うに、行動できるように、毎年、毎回国連決議をやっております。その
ことはお認めになりました。しかも、その場合は戦場は朝鮮半島に限ら
ぬぞということを国連軍は言明しているのですよ。外務大臣、知ってい
ますか。防衛庁長官、知っておりますか。これほどの重要なことをだれ
も知らないとは言えないはずです。知っている方はひとつお答えくださ
い。
○椎名国務大臣 どこでどういうふうにきまっているのか、私は知りま
せん。
○石橋委員 かくも重要なことを知らないでは、朝鮮問題に対処できな
いんです。それでは紹介いたします。これは、朝鮮戦争が、休戦協定が
結ばれて停戦になりました。そのときに、当時朝鮮に派兵をいたしまし
た十六ヵ国がワシントンにおきまして共同政策宣言を発表しているわけ
です。一九五三年七月二十七日のことであります。朝鮮休戦に関する十
六ヵ国の共同政策宣言、私はここに持っていますけれども、時間をとり
ますから主要な部分についてのみ読み上げますと「われわれは、国際連
合の原則に挑戦する武力攻撃が再発する場合には、世界平和のために再
び団結し、急速にこれに対抗することを確認する。このような休戦協定
の違反は重大な結果を招くものであるゆえに、戦闘行為を朝鮮国境内に
同根することは不可能となろう。」こういう声明をしているんですよ。
しかも、だれも知らないんです。すなわち、今度朝鮮で戦争が起きるよ
うなことになったならば、朝鮮から越えて中国の中に入っていく。休戦
のそのときに共同宣言をやっているんです。これほど重要な問題だとい
うことを、これこそ念頭に置いておいてください。こんなことも知らな
いで、簡単に、南侵があれば在韓国連軍が動くのは当然です、日本もあ
る程度の協力をするのは当然です、そんなことを言うから国民が心配す
るんですよ。
○椎名国務大臣 ただ、具体的にどこでどういうふうにきまったかとい
うことは知りませんでしたが、いまお読みになったことはここにありま
すが、これは当然のことだろうと思う。世界の、この極東の平和という
ものが脅かされる場合には、これに有効に対処するということは当然の
ことだと思います。
○石橋委員 今度あなた方の言う北鮮が南侵してきたら、国連軍が直ち
にこれに対抗する、そのときは朝鮮国境を越えて中国に行くのが当然だ
という。ほんとうですか。
○椎名国務大臣 まあ、そういう場合には、戦局が発展して、この地域
だけの軍事行動では済まされなくなるかもしらぬという政治的な見解を
ここに示しておるのである。でありますから、相手の出方がおとなしけ
れば適当にやる。それから、なお平和と安全が脅威されるならば、それ
に対して有効な方法をとるということになるのであります。ただ、この
場合は、あくまで防衛的な態度でこの問題を論じておる。
○石橋委員 この点について、鹿島守之助さんが訳した「アメリカと極
東」という書籍の中に、シャノン・マキューンが解説をした文がありま
す。そこにもはっきりと、戦争は朝鮮半島から中国本土にまで拡大する
ことになる、そういう意味だという解説が加わっておるということを申
し添えておきます。
それでは、次に最後の質問をいたします。韓国では、軍隊を出動して
デモを鎮圧し、言論を封殺し、そして国会においては憲法違反の単独採
決をやって、この条約、諸協定の批准を強行いたしました。日本におき
ましても、十月十二日のデモに対する警察官の態度などというものは、
はるかに警備の限界を越えておるということが問題になりました。私は
、ここで重大な警告をしておきたいと思います。
〔発言する者多し〕
○安藤委員長 御静粛に願います。
○石橋委員 警察は、中立公正、不偏不党、こういう立場を貫いていか
なくちゃならない、これはもう厳然たることだと思うのです。警察法の
第二条第二項を引き合いに出すまでもなく、第三条を引き合いに出すま
でもなく、不偏不党、公平中正ということは、これは警察の生命だと私
は思います。この警察が、生命ともいうべき中立性を放棄して、特定の
政党に奉仕して走狗となり下がるようなことがあったら、たいへんだと
私は思います。そういう意味合いにおきまして、これからもデモなどが
盛んに行なわれるわけですけれども、厳正中正な立場で警察は行動をし
ておるし、今後もするということを、国家公安委員長は言明できますか
。
○永山国務大臣 厳正公平に、中正に、不偏不党でやる考えでございま
す。
○石橋委員 それでは、警察官が警察の組織を利用いたしまして特定の
政党のために働いたという事実があった場合には、所定の手続をとって
厳重に措置をすると確約できますか。
○永山国務大臣 警察官の行為に不当なることがありましたときには、
厳重に処断をいたします。
第050回国会 参議院本会議 第8号 昭和四十年十一月十九日(金曜日)
午前十時五十六分開議
議員 草葉 隆圓
外務大臣 椎名 悦三郎
議員 森 元治郎
○草葉隆圓君
次に、請求権及び経済協力に関する問題でございます。本協定により
まして、わが国は将来十年にわたって、無償三億ドル、有償二億ドルに
相当する生産物及び役務を提供することになっておりまするが、これは
賠償の性質を有するものであるかどうか。また、請求権問題の処理と全
く無関係であると言い切り得るものであるかどうか。この点、外務大臣
の御答弁を伺いたいのであります。
また、本協定第二条によりまして、在韓日本財産の喪失はおおよそい
かほどであるか。そのうち、日本人の私有財産に対して、幾らかの補償
なり見舞いをなすことが適当であると考えられまするが、これは財政の
許す範囲内において、政府は今後これを考える意思があるかどうか。こ
の点は慎重に御検討をいただいて、御答弁を願いたいと存じます。
○国務大臣(椎名悦三郎君)
それから、請求権の問題と経済協力、これは、日本の対朝鮮請求権は
、軍令及び平和条約等のいきさつを経て、もはや日本としては主張し得
ないことになっておりますが、反対に、韓国側の対日請求権、この問題
について、この日韓会談の当初において、いろいろ両国の間に意見の開
陳が行なわれたのでありますけれども、何せ非常に時間がたっておるし
、その間に朝鮮動乱というものがある。で、法的根拠についての議論が
なかなか一致しない。それから、これを立証する事実関係というものが
ほとんど追及ができないという状況になりまして、これを一切もうあき
らめる。そうして、それと並行して、無償三億、有償二億、この経済協
力という問題が出てまいりました。何か、請求権が経済協力という形に
変わったというような考え方を持ち、したがって、経済協力というのは
純然たる経済協力でなくて、これは賠償の意味を持っておるものだとい
うように解釈する人があるのでありますが、法律上は、何らこの間に関
係はございません。あくまで有償・無償五億ドルのこの経済協力は、経
済協力でありまして、これに対して日本も、韓国の経済が繁栄するよう
に、そういう気持ちを持って、また、新しい国の出発を祝うという点に
おいて、この経済協力を認めたのでございます。合意したのでございま
す。その間に何ら関係ございません。英国であるとかフランスなんか、
旧領地を解放して、そうして新しい独立国が生まれた際にも、やはり、
この経済的な前途を支持する、あるいは新しい国家の誕生を祝う、こう
いう意味において相当な経済協力をしておる。その例と全然同じであり
ます。
○森元治郎君
次に、請求権、経済協力について伺います。
平和条約四条にちなんだ請求権の解決は、結局どんぶり勘定八億ドル
という経済協力に変わってしまったことは事実であります。条約に規定
したこの請求権解決の方法というのは一体どこへ飛んでいってしまった
のか。また、この八億ドルの積算の根拠は何か。韓国が日本に出してき
た対日請求八項目は、政府の計算でもせいぜい五千万ドルとはじいてお
ります。それが八億ドルにふくれ上がったのは驚きます。大蔵省、外務
省が試算するという五千ドルの根拠と八項目の内容を説明してもらいた
い。李承晩大統領が出した七十億ドルの対日請求権の要求は別としても
、韓国は大体これ一まで六−八億ドルの線で日本に要求をしております
。妥結したところを見ると、ちょうど向こうの数字にぴったり合うので
あります。ですから、これはほんとうのつかみ金、どんぶり勘定と見な
ければなりません。日本側も、個人の請求権はだんだん額を上げて、五
千万ドルぐらいあると、当時小坂外相が主張したことがあるらしい。こ
こに双方の要求額を、日韓交渉以来のものを順序をつけて明らかにして
もらいたいのであります。何年度はこっちは何千万ドル、向こうが幾ら
。ことに、韓国が二十八年ごろ、終戦時の評価で九十億円から百二十億
円の対日請求権があると言っていたのに対し、三十六年から八年の間に
八億ドルにはね上がってきたのは、どういうところをなめられたのか、
これらを明らかにするのが国民に対する政府の義務であります。
アメリカは、三十億ドル以上の経済協力を韓国につぎ込んでいます。
たいていの国は、援助というものがありますると、みな立ち直っていま
す。それがなぜできないのかというと、韓国がいたずらに反共を唱えて
軍事に狂奔し、アメリカの援助政策もまた軍事中心であったために、経
済の基盤が今日までとうとう固まっていないのであります。この誤った
考え方の根本を是正して平和共存の方針に切りかえなければ、このわれ
われの経済協力は、いっときのささえにしかなりません。日本の財界、
産業界は、不況打開のため韓国進出にしのぎを削っております。そして
安い労働力に目をつけております。韓国ではこの動きを日本の経済侵略
と見ている者が多く、一歩間違えば国交開始前よりももっとひどい状況
になります。この面からも条約締結はやめるべしと思うが、外務大臣の
見解を伺います。
政府は、北朝鮮に対する請求権が残ると言っております。残るのはあ
たりまえであります。日本は平和条約上、全朝鮮と請求権を処理すべき
義務があるからであります。北鮮政府とは、いつ交渉をやるのか。双方
の請求権はどのくらい残っているか、試算をしたものが当然あるはずで
ありますから、明らかにしてもらいたい。
なお、個人の財産請求権の保障については、再再政府から、審議会の
答申を尊重するというお話がありますが、この尊重するということは、
必ず実行する――お金が大きくちゃ、たまげちまう。そうでなくて、実
行してやるのだという御決心があるかどうか、承りたい。
これで終わりますが、これを要するに、この条約は、いろいろな面で
、将棋でいう詰めがなされていない。食い違いが多い。条約交渉の中間
報告といったような内容のものであります。基本条約と称せるものでは
ありません。妥協の産物たる条約でありまするから、これが実施された
暁には、条約締結の心組みの違いというものが、在日朝鮮人の法的地位
や待遇の問題に加えて、ことごとく日本にはね返ってまいることは必至
であります。もし、この条約がほんとうによいものであるならば、日本
におる朝鮮人がみな韓国籍になだれ込んで入っていくだろうと思います
。しかし、約六十万の在日朝鮮人のうち、韓国籍が依然二十万、あとの
北鮮系、中立系その他の朝鮮の人々は四十万――動かないのであります
。このことが、どういう条約であるかをりっぱに証拠立てているものと
思います。
私は、最後に、この条約はせっかく椎名さんが御苦心しておつけにな
ったが、もはや無効である、こう信じて私は終わります。(拍手)
○国務大臣(椎名悦三郎君)
それから請求権の問題に関して、請求権の行くえはどうなったか――
八項目の提示がありましたけれども、それを追及するということは、ほ
とんどもう不可能である。ということは、法的根拠なり、あるいは事実
関係というものがはっきりしなければならぬ。ところが、もう朝鮮事変
がその間に起こっているし、年月もたっている。それから、両者の法的
根拠に対する見解の相違というものは非常に著しいものがあり、これを
追及するということは、ほとんどもう百年河清を待つようなことになり
ますので、これをやめて、そうして経済協力一本でいくということにな
ったのでございますが、これは、請求権のかわりに経済協力をやるとい
うのではない。これはあくまで、新しい国をつくったから、そのお祝い
、それから、韓国が今後経済発展の上において少なくとも絶対に必要で
あろうという点を十分に勘案し、わが国の財政事情も十分に考えた上で
、有償二億、無償三億ドルというものが決定したのであります。これは
、イギリスあるいはフランスが、旧属領が独立して国をつくる場合に、
よくこういう手をやったのであります。これは私は、旧宗主国の当然の
義務、責任であろう、かようにまあ考えておる次第でございます。
以上が私の申し上げる点でございます。(拍手)
第120回国会 衆議院予算委員会 第16号 平成三年二月二十二日(金曜
日)
外務省条約局長 柳井 俊二
○柳井政府委員 ただいま御指摘の日韓請求権・経済協力協定でござい
ますが、御案内のとおり、この協定の第二条におきまして日韓両国及び
両国間の請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたということが確認
されておるわけでございます。そしてこの第二条の規定、もう少し詳し
い規定がございますが今ちょっとそれは省かせていただきますが、いず
れにいたしましてもこの第二条の規定は国民という点に、国籍に着目し
ているわけでございます。したがいまして、この協定及びこの協定を受
けまして、我が国では韓国の方々の請求権、財産請求権の問題を法律で
処理しております、消滅させておりますが、一定の例外はございますけ
れども、原則的には消滅をさせております。このような処理は、もしサ
ハリンに残留された方々の中で韓国籍をお持ちである方々があれば、そ
の方々にも、この協定と法律の適用があるということでございます。
○柳井政府委員 先ほど御説明申し上げましたのは、もし韓国籍の方々
がおられればという全く理論的なことでございますが、もし逆に韓国籍
の方方が全くおられないという状況で、ただいま先生がお話しになった
ようなことが恐らく実態だろうと思いますが、その場合には日韓請求権
・経済協力協定に基づく処理はサハリンの方々には及ばないということ
になるわけでございます。
御案内のとおり北朝鮮籍の方々の財産請求権の問題につきましては、
いまだ処理がなされていないわけでございまして、最近始められました
日朝国交正常化交渉の中で北朝鮮側と話し合っていくということになろ
うと思います。
第120回国会 参議院予算委員会 第15号 平成三年四月四日(木曜日)
外務省条約局長 柳井 俊
○政府委員(柳井俊二君) お答え申し上げます。
一つお断りいたしたいのでございますけれども、御質問の通告をいた
だきましてから韓国側にこの正文の確認をする時間がなかったものです
から、私とりあえず手持ちの仮訳に基づいて御説明させていただきたい
と思います。
ただいま御指摘の法律は一九七一年に公布されたものでございまして
、その第二条におきましてこの請求権申告の対象の範囲を規定している
わけでございます。二つの面から規定しております。第一点は人的な範
囲でございまして、第二点はこの請求の権利の範囲でございます。
まず、人的な範囲につきましてはこの第二条第一項におきまして、こ
の法律の規定による申告対象の範囲は、一九四七年八月十五日から一九
六五年六月二十二日まで日本国に居住したことのある者を除いた大韓民
国国民となっております。
次に、権利の範囲でございますが、そのような大韓民国国民が一九四
五年八月十五日以前、その後括弧はちょっと飛ばさせていただきますが
、八月十五日以前に日本国及び日本国民に対して有していた請求権等で
次の各号に掲げるものとするとございまして、次の各号というのが第一
号から九号までございます。そこで、一号から八号までは、例えば日本
銀行券でございますとかあるいは有価証券、預金、海外送金、寄託金、
保険金というようなものを挙げまして、九号のところで、日本国によっ
て軍人軍属または労務者として召集または徴用され一九四五年八月十五
日以前に死亡した者というものを挙げているわけでございます。
したがいまして、この法律におきましては、私、外国の法律でござい
ますから有権解釈はできませんけれども、少なくとも文理上はいわゆる
在日韓国人の方々は除かれておりまして、そして請求の権利の対象とい
う面におきましては、この九号におきまして四五年八月十五日以前に亡
くなった方だけが対象になっておりますので、一九四七年以降日本に居
住した在日韓国人というのはこの面でも落ちているわけでございます。
なお、具体的なことは別途また大統領令において定められております
。
○政府委員(柳井俊二君) いわゆる韓国との請求権・経済協力協定の
規定との関係でございますが、もとよりこの協定の方は日韓間の条約で
ございますので、韓国側の国内法とは趣旨、目的等において若干の相違
がございますので、この規定の表現ぶりが完全に一致するというもので
はないわけでございます。
ただ、ただいま御指摘の点につきましては、御案内のようにこの協定
の第二条におきまして、この括弧書き的なところはちょっと飛ばさせて
いただきますが、一項で「両締約国は、両締約国及びその国民の財産、
権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が
、」「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」と規
定しておりまして、第三項で、長くなりますから省きますが、要するに
、この財産、権利、利益につきましては、お互いに他方の締約国の管轄
下にあるものに対してとられた措置についてはいかなる主張もしない。
また、財産、権利、利益に当たらないような請求権につきましては、同
日、同日というのはこの協定の署名の日、署名の日以前に生じた事由に
基づくものに関してはいかなる主張もすることができない。いわゆる請
求権放棄という形で処理をしているわけでございます。
ただ、第二条の第二項におきましてそのような処理の例外というもの
が二つ挙げてございまして、ただいま御議論をされておられます在日韓
国人に直接関係ございますのは二項の(a)というところでございます
。二項の(a)は「一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日か
らこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるも
のの財産、権利及び利益」というふうに挙げてございまして、こういう
ものについては第二条の一項、一項は最終的な解決でございますから適
用があるといえばあるのでございますが、三項のようないわゆる請求権
放棄あるいは国内措置に対する請求権の放棄というものは適用がない、
そういう例外になっておるということでございまして、この部分の表現
は確かに対日民間請求権申告に関する法律の先ほど読み上げました表現
と一致しているわけでございます。
第121回国会 参議院予算委員会 第3号 平成三年八月二十七日(火曜日
)
外務省アジア局長 谷野作太郎
外務省条約局長 柳井 俊二
○政府委員(谷野作太郎君) 個々のケースによって当事者の方々のお
気持ち等は異なるのではないかと思います。一概に私の方から御説明す
る資料もございませんけれども、他方、いずれにいたしましても、先生
も御存じのとおりでございますが、政府と政府との関係におきましては
、国会等でもたびたびお答え申し上げておりますように、六五年の日韓
間の交渉をもってこれらの問題は国と国との間では完全にかつ最終的に
決着しておるという立場をとっておるわけでございます。
○政府委員(谷野作太郎君) 先ほど申し上げたことの繰り返しになり
ますが、政府と政府との間におきましてはこの問題は決着済みという立
場でございます。
○政府委員(柳井俊二君) ただいまアジア局長から御答弁申し上げた
ことに尽きると思いますけれども、あえて私の方から若干補足させてい
ただきますと、先生御承知のとおり、いわゆる日韓請求権協定におきま
して両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます
。
その意味するところでございますが、日韓両国間において存在してお
りましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでござい
ますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権
を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる
個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではご
ざいません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取
り上げることはできない、こういう意味でございます。
第121回国会 参議院外務委員会 第2号 平成三年九月五日(木曜日)
外務省条約局長 柳井 俊二
外務省アジア局長 谷野作太郎
○政府委員(柳井俊二君) ただいまの一九一〇年の条約についての御
指摘でございますけれども、日朝国交正常化交渉におきまして北朝鮮側
はこの条約、いわゆる日韓併合条約でございますが、これは強制を背景
に締結されたものであって当初より無効であるというような主張をして
いるわけでございます。
日本政府といたしましては、従来からいろいろな機会に御答弁申し上
げておりますとおり、この条約は一九六五年の日韓基本関係条約第二条
によりまして「もはや無効である」ということが確認されておるわけで
ございますが、一九一〇年の当時には有効に締結され実施されたもので
あるという考え方をどってきているわけでございます。ただ、このよう
な法的な評価の問題それからこの条約が締結されました当時の政治的そ
の他の背景とは別の問題であるというふうに考えておる次第でございま
す。
○政府委員(柳井俊二君) ただいま田先生から御指摘ございましたよ
うに、サンフランシスコ平和条約第二条には御指摘のような規定がある
わけでございます。この規定、第二条でございますが、これは御承知の
とおり領土の処理にかかわる規定でございまして、したがいましてこの
第二条で用いられておりますいわゆる請求権は最近問題になっておりま
す財産権的な請求権という意味ではございませんで、領土の領有関係の
主張にかかわる概念であるというふうに解しております。
他方、我が国と分離独立いたしました地域との間の財産・請求権の問
題の処理につきましては、サンフランシスコ平和条約ではむしろ第四条
の(a)項におきまして、日本国と現にこれらの地域の施政を行ってい
る当局との間の特別取り決めの主題とするという規定がございます。そ
のような規定に基づきまして、日韓におきましては御承知の一九六五年
のいわゆる日韓請求権・経済協力協定によりましてこの問題を完全かつ
最終的に解決したということでございます。
○政府委員(柳井俊二君) この点につきましても、ただいま田先生か
ら御指摘ございましたとおり、平和条約第四条(b)におきましては、
「日本国は、第二条及び第三条」、第三条はこの場合関係ございません
けれども、「に掲げる地域のいずれかにある合衆国軍政府により、又は
その指令に従って行われた日本国及びその国民の財産の処理の効力を承
認する」という規定があるわけでございます。したがいまして、これは
合衆国軍政府のとった措置を承認するということにとどまるわけでござ
いまして、北朝鮮におきましてのこのような処理というものはなかった
と思いますので、この北朝鮮におきましての財産の問題というのはこれ
とは基本的に別個の問題であるというふうに考えております。
北朝鮮におきまして我が国の財産等がどのように処理されたかという
ことの詳細につきましては。残念ながらよくわからない点が多いわけで
ございますが、ただ私ども承知している限りにおきましては、北朝鮮に
おきましていわゆる北朝鮮臨時人民委員会が一九四六年三月五日の北朝
鮮土地改革に関する法令というものによりまして、日本国、日本人及び
日本人団体の所有地を没収いたしまして、一九四六年八月十日の産業、
交通・運輸、逓信、銀行等の国有化に関する法令というもので日本国及
び日本人所有の施設を国有化したというふうに承知しております。なお
、一九四八年の九月八日に交付されました朝鮮民主主義人民共和国憲法
におきましても、日本国及び日本人の財産は国家、すなわち北朝鮮でご
ざいますが、の所有に属するとされておりまして、日本国及び日本人の
土地所有は永久に廃止されるというふうに規定されているものと承知し
ております。
いずれにいたしましても、我が国と北朝鮮との間におきましては両国
及び両国国民間の財産・請求権の問題は未解決のままで残っているわけ
でございますので、今後日朝国交正常化交渉の場でこの問題を解決して
いきたいというふうに考えているわけでございます。
○政府委員(柳井俊二君) ただいまの点は、先ほどもサンフランシス
コ平和条約に触れましたときに日本側の財産・請求権というものもこの
規定の対象になっていることを申し上げましたけれども、これはいろい
ろな戦後の請求権処理の問題で常に問題になってきたところでございま
すが、北朝鮮との関係につきましても、我が国が置いてきた財産の処理
という問題についての請求権というものはこれは交渉の対象になる問題
であるというふうに考えております。
○政府委員(谷野作太郎君) 北朝鮮側の主張は、いわゆる日本の統治
時代の人的な被害あるいは物的な損害、こういうものを賠償という形で
補償せよ、こういうことでございまして、私どもの立場は先ほど来条約
局長が申し上げているところでございますが、いずれにいたしましても
、そういった個別の先方からの請求に対しましてはやはり私どもといた
しましても客観的な事実をまず御開示いただきたい。帳簿を見せろとい
うことは言っていないと私は思います。必ずしもそういう具体的な表現
ではなかったとは思いますけれども、具体的な積算根拠を政府に示して
いただきたいという議論を始めております。
大臣が冒頭申し上げましたように、そういうことも含めて第四回目で
ようやくそういった具体的な論議を始めたということでございます。
○政府委員(柳井俊二君) ただいま御指摘の日韓基本関係条約の第三
条でございますが、第三条におきましては、御承知のとおり、「大韓民
国政府は、国際連合総会決議第百九十五号に明らかに示されているとお
りの朝鮮にある唯一の合法的な政府であることが確認される」というふ
うにうたっているわけでございます。そして、第三回総会で採択されま
したこの百九十五号の決議の前文に当たりますが第二項のところで申し
ておりますことは、単に唯一の合法的な政府と言っているだけではござ
いませんで、この総会が認識したところの政府というものにつきまして
いろいろなことを言っているわけでございます。
例えば、この大韓民国政府が全朝鮮の人民の大多数が居住している朝
鮮の部分に対して有効な支配及び管轄権を及ぼしている合法的な政府で
あるということでございますとか、また朝鮮のその部分の選挙民の自由
意思の有効な表明があったというようなこと、さらに当時設立されまし
た臨時委員会が観察した選挙に基づくものであるというようなこと、並
びにこの政府が朝鮮における唯一のこの種の政府であることを宣言すと
いうふうに言っているわけでございます。したがいまして、これを受け
まして基本関係条約で貝先ほど申し上げましたように、国連総会決議に
明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府という認
識を言っているわけでございます。
結論的には、北半分につきましては白紙であるという立場をとってい
るということでございます。
○政府委員(柳井俊二君) このたび北朝鮮と韓国双方が国連に加盟す
るということになれば、当然これは国連憲章に言う加盟の資格が認めら
れるということになるわけでございます。
他方、いわゆる朝鮮国連軍につきましては、ただいま田先生からも御
指摘がございましたように、当時ソ連の安保理欠席というような背景も
ございましたけれども、いずれにいたしましてもその拒否権が発動され
なかったために実現されたという経緯があったことは事実でございます
。そして、国連憲章との関係で言いますれば、この国連軍いわゆる朝鮮
国連軍の設立というものは国連憲章四十二条に基づくものではございま
せんで、いわゆる強制的な措置というものではございませんで、安保理
の勧告に対しまして加盟国が自発的に応じて編成されたものでございま
す。
このようにして編成され現に存在するいわゆる朝鮮国連軍の位置づけ
がどのようなものになるかということは、今後の朝鮮半島におきます南
北間の対話、そして軍事的な意味での均衡の問題、また軍縮の問題、そ
のようなものと総合的にあわせまして検討されていくものであろうとい
うふうに考えます。
いずれにいたしましても、これまでこのような国連軍の存在、そして
板門店におけるいろいろな接触というものが朝鮮半島の安定の維持に一
定の役割を果たしてきたということは言えるのではないかと思います。
第122回国会 衆議院国際平和協力等に関する特別委員会 第9号 平成
三年十二月二日(月曜日)
外務省アジア局長 谷野作太郎
外務省条約局長 柳井 俊二
○谷野政府委員 お答え申し上げます。
戦後の補償、賠償と申します場合に二とおりのことがあろうかと思い
ますが、一つは日本と交戦関係にあった東南アジアの国々でございます
が、これらにつきましては、戦後、法的な措置をとりまして、条約のも
とに逐一賠償を払って、それによって決着したということは先生御承知
のとおりでございます。もう一つは、日本から分離してまいりましたい
わゆる朝鮮半島等でございますが、これも先生御案内のように、長い交
渉の末に六五年、請求権の形でずっと議論をいたしましたけれども、結
局最終的には経済協力の供与ということでこれを決着いたしました。た
だいま、したがいまして残っております北側、北朝鮮との関係におきま
して同じような請求権の問題を今鋭意先方政府と交渉中であるというこ
とでございます。
○谷野政府委員 ただいま御答弁申し上げましたようなことで、多くの
国との間には、国と国との関係におきましてはこの問題はすべて決着済
みということでございます。他方、例えば韓国のようなところで民間の
間で補償を求める声が起こっておることは私ども承知いたしております
けれども、国と国との関係におきましては、この補償の問題というのは
すべて六五年の協定において決着済みというのが私どもの理解でござい
ます。
○柳井政府委員 お答え申し上げます。
ただいま先生から日韓あるいは日ソの間におけるいわゆる請求権の処
理の問題についてお触れになりました。また、中国との関係についても
御指摘がございましたが、いずれにいたしましても、例えば日韓請求権
・経済協力協定におきましては、両国間の問題といたしましては、先ほ
どアジア局長から答弁ございましたように、国家及び国民の請求権の問
題は「完全かつ最終的に解決された」というふうに規定しているところ
でございます。また、日ソにつきましても、一九五六年の日ソ共同宣言
におきまして、これは具体的には第六項でございますけれども、「日本
国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五年八月九日以来
の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ
他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄
する。」というふうに規定しているわけでございます。他方、中国につ
きましては、これは御案内のとおり、日中の国交正常化をいたしました
際に、中国の方から「戦争賠償の請求を放棄する」ということを宣言し
ているわけでございます。これも御案内のとおりでございますが、日中
共同声明の第五項におきまして、「中華人民共和国政府は、中日両国国
民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣
言する。」というふうに規定しているわけでございます。
第122回国会 参議院国際平和協力等に関する特別委員会 第3号 平成
三年十二月五日(木曜日)
外務省条約局長 柳井 俊二
委員 矢田部 理
○政府委員(柳井俊二君) 総理、外務大臣から御答弁あると思います
が、私の方から手短に御答弁を差し上げたいと思います。
矢田部先生もよく御承知のとおり、国連憲章におきましては、国際の
平和の維持のために大きく分けまして二つの方法が規定されているわけ
でございます。第一はいわゆる平和的解決でございまして、これは交渉
とか調停その他でございます。もう一つはいわゆる強制的な解決でござ
いまして、平和的な解決が不幸にして功を奏しなかった、そして侵略が
あった、あるいは平和が破壊されたという場合には、この憲章上の考え
では、国連軍というものを創設いたしまして、それによってそういう侵
略を実力をもって排除する、そういう考え方でございます。
ただ、現実の問題といたしましては、まだ国連軍は創設されていない
、こういうことでございます。
○矢田部理君 その解釈は間違っています。これも政府見解とも違う。
国家間では、日韓交渉とか日中交渉もそうでありますが、なかなかそ
ういう個別の被害者の積み上げで具体的積み上げをしてまとめるのは難
しいということで、日韓などでは、つかみでまとまったお金を差し上げ
て一応国家レベルでは処理をした経緯があります。しかし、個人と国家
との関係はそれで終わったわけではない。わかりますか。個人の請求権
を国内法的な意味で消滅をさせたものではない。
例えば日韓請求権協定。日韓両国が国家として持っている外交保護権
を相互に放棄はしたけれども、個人の請求権そのものを国内法的な意味
で消滅させたものではない。したがって、請求権が残っているというの
が日本政府の立場なんです。それはお認めになりますか。
○政府委員(柳井俊二君) 政府間で今までいろいろな取り決めをして
おりますけれども、そのいわゆる請求権の放棄の意味するところは外交
保護権の放棄であるという点につきましては、先生仰せのとおりであり
ます。したがいまして、例えば韓国政府が韓国の国民の請求権につきま
して政府として我が国政府に問題を持ち出すということはできない、こ
ういうことでございます。
ただ、個人の請求権が国内法的な意味で消滅していないということも
仰せのとおりでございます。
○政府委員(柳井俊二君) 条約上の処理につきましては、先ほど申し
上げたとおりでございますが、ただ我が国が賠償あるいは請求権の処理
に関連して支払いましたものを相手側でどのように国民に分配するかと
いうことは、それぞれ韓国なりあるいはその他の条約の相手国の国内的
な処理に任されたわけでございます。
したがいまして、我が国との関係で政府間でいわゆる請求権の放棄を
やったと申しましても、一切処理をしなかったということではございま
せんで、例えば韓国の場合では無償三億ドル、有償二億ドルだったと記
憶しておりますけれども、これを請求権、経済協力という形で支払った
、そして恐らくその一部が関係の個人にも韓国側で支払われたというふ
うに記憶しております。また、ほかの国につきましてもそのような関係
だったわけでございます。
しからば、そういうような処理をした上で、なおかつ日本の占領中あ
るいは戦争中に大変に苦労をされた方々がおられるわけでございますか
ら、その方々の個人個人に対して政策的にどのような補償をすべきかど
うか、そういう点につきましてはちょっと私の所管ではございませんの
で、その点は差し控えさせていただきたいと思いますが、法律的な関係
あるいは条約上の関係につきましては以上申し上げたとおりでございま
す。
第122回国会 参議院予算委員会 第3号 平成三年十二月十三日(金曜日
)
外務省アジア局長 谷野作太郎
外務省条約局長 柳井 俊二
委員 上田耕一郎
外務省欧亜局長 兵藤 長雄
内閣総理大臣 宮澤 喜一
○政府委員(谷野作太郎君) お答え申し上げます。
お尋ねの件につきましては、いろいろな数字が日本国内あるいは中国
なら中国側においてあるわけでございまして、政府としてこのような場
で有権的に申し上げ得る数字はないわけでございますけれども、一、二
例どういう数字が記載されておるかということでお聞き取りいただきた
いと思います。
例えば、日本の高校の教科書等には、中国においては約一千万人、フ
ィリピン等では約百万人、インドネシア、ベトナム等ではそれぞれ二百
万人という数字が記載されておるのを私ども承知いたしております。そ
れから他方、最近の人民日報等の報道によりますと、中国のある学者の
方は、日中戦争で犠牲になった中国の方の数字は二千万人というような
数字もございます。
いずれにいたしましても、いろいろな数字がございまして、遺憾なが
ら政府としてこういう場で確定的に申し上げる数字は、何せ戦争の混乱
中のことでございますから、ございません。御理解いただきたいと思い
ます。
○政府委員(谷野作太郎君) お答え申し上げます。
まず、冒頭に申し上げなければならないことは、詳細は時間の関係で
省きますものの、累次御答弁いたしておりますように、国と国との関係
におきましては、そのようなことは既に多くの場合決着済みであるとい
うことをまず申し上げたいと思います。
その上で、ただいま仰せのような先方からの要求、要請が日本の外務
省を通じて日本の政府に提起されておることも中国の場合は事実でござ
いますし、例えば先ほどちょっと言及いたしました中国の歴史学者の方
によれば、日中戦争によって損失した中国側の財産は約一千億ドルに上
るというようなこともございます。他方、中国とは別に、先生も御存じ
のとおりでございますが、補償要求ということになりますと、朝鮮半島
との関係で日本の法廷に、地方裁判所に、例えばサハリンに残留された
韓国・朝鮮人の方々の補償要求ということで既に提訴がされております
し、また最近の事例では、昨日も本委員会で御議論がありましたいわゆ
る従軍慰安婦の方々からの訴訟が提起されておるような状況でございま
す。
○政府委員(柳井俊二君) 官房長官からお答えがある前に私の方から
、これまでのいわゆる請求権の処理の状況につきまして簡単に整理した
形で御答弁申し上げたいと存じます。
御承知のように、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定の二条一項
におきましては、日韓両国及び両国国民間の財産・請求権の問題が完全
かつ最終的に解決したことを確認しておりまして、またその第三項にお
きましては、いわゆる請求権放棄についても規定しているわけでござい
ます。これらの規定は、両国国民間の財産・請求権問題につきましては
、日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄したことを
確認するものでございまして、いわゆる個人の財産・請求権そのものを
国内法的な意味で消滅させるものではないということは今までも御答弁
申し上げたとおりでございます。これはいわゆる条約上の処理の問題で
ございます。また、日韓のみならず、ほかの国との関係におきましても
同様の処理を条約上行ったということは御案内のとおりでございます。
他方、日韓の協定におきましては、その二条三項におきまして、一方
の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって同協定の署名の日
に他方の締約国の管轄のもとにあるものに対してとられる措置につきま
しては、今後いかなる主張もなし得ないというふうに規定しております
。この規定を受けまして、我が国は、韓国及び韓国国民のこのような財
産、権利及び利益、これはいわゆる法律上の根拠ある実体的権利である
というふうに両国間で了解されておりますが、そのようなものにつきま
して国内法を制定いたしまして処理したわけでございます。その法律に
おきましては、韓国または韓国国民の日本国または日本国国民に対する
一定の財産権を消滅させる措置をとっているわけでございます。
なお、いわゆる請求権という用語はいろいろな条約でいろいろな意味
に使われておりますが、この日韓の請求権・経済協力協定における請求
権と申しますものは、実体的な権利でない、いわゆるクレームとよく言
っておりますが、そのようなクレームを提起する地位を意味するもので
ございますので、当時国内法で特に処理する問題がなくしたがって国内
法を制定することはしなかったわけでございます。ただ、これはいわゆ
る請求権の問題が未処理であるということではございません。
以上にかんがみまして、このようないわゆるクレームの問題に関しま
しては、個人がこのようなクレームについて何らかの主張をなし、ある
いは裁判所に訴えを提起するということまでも妨げるものではないわけ
でございますが、先ほどアジア局長からも答弁申し上げましたように、
国家間の問題としては外交的には取り上げることはできないということ
でございます。
以上が日韓間のいわゆる財産・請求権問題の処理の状況でございます
。
○上田耕一郎君 柳井局長が言われたように、国と国との間では一応条
約で外交の保護権、これはなくなっている、政府間の請求権を放棄して
いるんですけれども、個人の請求についてはあるわけですね。これは今
大問題になりつつあって、韓国ではデモその他大問題になっている。
外務省にお伺いします。同じ敗戦国で第二次大戦の主役だったドイツ
では、こういうヨーロッパ諸国その他に対する被害にどういう補償をや
ってきましたか。
○政府委員(兵藤長雄君) ドイツが第三国に対していわゆる補償とい
う意味で行ったことについてまとめて御報告申しあげますと、まずイス
ラエルでございますけれども、一九五二年九月のユダヤ人難民のイスラ
エルにおける居住及び再統合の拡大のための財及び役務の行使に当てる
ための条約によりまして、総額三十四・五億マルクを支払っております
。一方、フランスを初めといたします十二の西側の国とは、一九五九年
から六四年にかけまして次々と取り決めによりまして、国は省かせてい
ただきますけれども、総額は九・九億マルク。さらに、一九六一年から
七二年にかけましてポーランド等東欧四カ国に向けまして、同じく個別
の取り決めによりまして総額一・二億マルクを支払ったというふうに承
知いたしております。
さらに、国際的な措置といたしまして、戦争により発生いたしました
難民支援を目的といたしまして、一九六〇年十一月に国連難民高等弁務
官と協定を締結いたしまして、当初四千八百五十万マルクの基金を設置
いたしまして、それをさらに八一年、八四年に追加取り決めによりまし
て八百五十万マルクの補充支出を行い、総額五千七百万マルクを支払っ
たというふうに承知いたしております。
○国務大臣(宮澤喜一君) 戦後、我が国が荒廃から立ち上がります段
階で、我々の先輩が平和の回復についていろいろな苦労をされました。
それはサンフランシスコ講和会議を初め多くの二国間条約、その中には
賠償協定もございましたが、あるいはまたいわゆる共同宣言といったよ
うなもの、いろんな形で国と国との関係は、先ほど政府委員が答弁を申
し上げましたように、ともかくも国民の負担において処理をされたわけ
でございます。それは先輩たちの非常な御努力のおかげであったと考え
ておるものでございまして、新たに個人が自分の立場からそういう請求
権を提訴してこられる、国と国との関係は処理されておるわけでござい
ますけれども、そういうことが起こってまいりました。
これはしかし、なかなか容易ならぬ問題でございます。事実関係の究
明ということもございましょうし、またここまで先輩が処理をされてぎ
た問題との関連もございましょうし、大変に難しい問題だと思いますが
、先ほど官房長官が、昨日も申し上げておりましたけれども、こういう
問題についてできるだけ事実関係の解明に当たりたい、まずそれを考え
ております。
第123回国会 衆議院予算委員会 第2号 平成四年二月三日(月曜日)
委員 山花 貞夫
外務省アジア局長 谷野作太郎
外務省条約局長 柳井 俊二
○山花委員 今のテーマにつきましては、総理の施政方針と外務大臣の
過日の方針と、似ているようで外務大臣のは、誠意を持ってやるという
ことがきちんと書いてあったので、そこのところを評価したいと思いま
す。これからもそういう姿勢で進んでいただきたいと思いますが、お答
えしてもここだけで議論とめるわけにはいきませんから本論に戻して、
先ほどの日韓首脳会談に戻して伺っておきたいと思うのですけれども、
韓国の政府は、その中で一つのテーマとして残った従軍慰安婦の問題に
ついて一月二十一日、韓国側でも各省庁の実務責任者会議を開いて、日
本政府に対して徹底した真相解明とこれに伴う適切な補償などの措置を
とるよう求めている、こういう方針が決まったそうです。韓国内の市民
運動が国連に持ち出すという問題もある。大体この問題については、政
府はずっと問題に触れないで、逃げて逃げて逃げてきましたね。実態、
真相究明、調査をすると言いながら、みずからこういうものがありまし
たという報告はなかった。市民運動や学者の先生がやっと見つけた資料
が世にあらわれて、そこから動き始めだというのが実態じゃなかったで
しょうか。
実は、この問題につきましては、これまで五点ほどの資料が集まった
ということのようでありますけれども、その後、四十七点ぐらいの新し
い資料が見つかったということにつきまして、これは私は行いません。
昨日それを入手いたしました、後ほど我々の同僚の伊東秀子議員がこの
問題に基づいて、新しい四十七点の資料に基づいて伺いたいと思います
ので、真相究明の努力につきましては、そうした資料を積極的に政府が
発表して、そして内外に明らかにする中でオープンな格好で進めていた
だきたいという、これからの予算委員会での問題について御紹介するに
とどめたいと思います。
さて、そこで、問題絞っていきまして、従軍慰安婦の補償の問題につ
きまして、現在の政府の基本的な考え方はどうなっているんでしょうか
、この点について伺いたいと思います。
○谷野政府委員 先生も御案内のとおりでございますが、本件につきま
しては、ただいま日本の国内におきまして訴訟の手続がとられておりま
す。政府といたしましては、その帰趨を見守るということでございます
が、あえて申し上げますれば、この種の問題も含めて法的には六五年の
日韓の正常化の折に決着済みであるというのが政府の立場でございます
。
○山花委員 決着済みであるということについてもう少し敷衍して御説
明をいただきたいと思います。なぜ決着したんですか。この点について
御説明いただきたいと思います。
○柳井政府委員 お答え申し上げます。
先生も御承知のとおり、一九六五年、昭和四十年の圧韓請求権経済協
力協定の第二条におきまして、日韓両国及び両国国民間の財産請求権の
問題がこの協定をもって完全かつ最終的に解決したということを確認し
ているわけでございます。また、この協定の第二条三項におきましては
、いわゆる請求権放棄についても規定しているわけでございます。
それで、これらの規定は、両国国民間の財産請求権問題につきまして
は日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄したことを
確認しているものでございまして、これ自体はいわゆる個人の財産請求
権そのものを国内法的な意味で消滅させるものではないということは、
今までも何度か御答弁申し上げたとおりでございます。
これらのいわゆる条約上の処理の問題でございますが、この日韓の場
合におきましては、これも御承知のとおり二条三項におきまして、一方
の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって同協定の署名の日
に他方の締約国の管轄のもとにあるものに対してとられる措置につきま
しては今後いかなる主張もなし得ないというふうに規定いたしまして、
一定の国民の権利、我が国におきましては韓国及び韓国国民の財産権等
を、法律をもって、法律を制定いたしまして消滅させたということでご
ざいます。
長くなりますのでこの程度にとどめますけれども、冒頭申し上げまし
たとおり、日韓両国間におきましては、両国間の問題といたしましては
この請求権の問題というものが完全かつ最終的に解決したということで
ございます。
○山花委員 短く伺いたいと思います。
完全かつ最終的に解決されたと説明しましたが、解決したということ
は、相手側に対して賠償金を払うなり和解金を払うなりしたということ
なのでしょうか。この点について伺います。
○柳井政府委員 簡単に要点だけお答えを申し上げますと、当時のこの
日韓の交渉におきまして、一方におきましては、ただいま申し上げまし
たように財産請求権の問題は完全かつ最終的に解決したということ、同
時にまた、我が国から経済協力といたしまして無償、有償の一定額の資
金を供与をすることを約束をし、これを実施したということでございま
す。このような形におきまして我が国から一定の資金が、具体的には財
産、役務ということでございますけれども、一定額の経済協力が行われ
た、そして同時に請求権の問題が解決された、こういうことでございま
す。
さらに、若干繰り返しになりますけれども、この財産請求権の問題に
つきましては、この協定によりまして、日韓間で外交的にこれを取り上
げることは行わないという形で解決したわけでございます。
○山花委員 私が伺ったところとちょっとずれたお答えになっているわ
けですけれども、お話は、無償三億ドルの供与、有償二億ドルの長期低
利の貸し付けという経済協力ということによって完全かつ最終的に請求
権問題については解決されたということの説明だったと思いますけれど
も、この無償、有償五億ドルの経済協力ということは、請求権との関係
ではどういう関係にあるんでしょうか。この点について、今の御説明で
はよくわかりません。御説明していただきたいと思います。
○柳井政府委員 当時の日韓国交正常化交渉におきましては、この請求
権の問題につきまして、先生も御承知のとおり大変に長いかつ複雑な、
困難な交渉が行われたわけでございます。その結果といたしまして、た
だいま先生もお触れになりましたように、無償三億、有償二億というこ
とがこの協定で約束され、実施されたわけでございます。
これは、この協定上は直接韓国及びその国民に対する補償と、直接そ
のような支払いという形では行われなかったわけでございますけれども
、ただ、先ほども申し上げましたように、経済協力という形で日本から
実質的には資金が韓国の方に行く。そして、一方におきましては、先ほ
ども若干触れましたように、請求権の問題につきましては、一定の場合
には請求権の放棄あるいは国内的な財産権の処理に対して相手側が主張
しないという形で解決をしたわけでございます。
したがいまして、経済協力と請求権の処理というものがこの協定のも
とにおいて並行的に行われ、俗に言えば一つの大きなパッケージとして
解決がなされたということでございます。
○山花委員 パッケージという言葉の意味がわかりませんね、聞いてお
って。この経済協力の性質は何だったんでしょうか。請求権問題の処理
あるいは請求権を解決するために肩がわりとしての五億ドルということ
だったんでしょうか。この点について伺いたいと思いますが。
○柳井政府委員 先ほども申し上げましたとおり、この経済協力という
のは韓国側の請求権あるいは請求に対する直接の支払いというものでは
ございませんけれども、日韓両国国家間におきましては一定の額の資金
が実質的には韓国側に支払われるわけでございますので、そのようなこ
とも考慮して、請求権の放棄等の形で請求権問題を解決した、そういう
一つの大きな外交的な交渉の結果であったということでございます。
○山花委員 経済協力を行うことになった、それで請求権がなくなった
。この関係はどういう関係なのですか。法律的な関係か何かあるのです
か、あるいは全く関係ない話なのですか。全く関係ないということにな
れば、この完全かつ最終的に解決されたということはわかりにくくなる
と思いますけれども、この点についてさらに伺いたいと思います。
○柳井政府委員 この点、若干繰り返しになって恐縮でございますけれ
ども、先ほど来申し上げておりますとおり、日韓請求権経済協力協定に
おきまして、一方においては請求権の放棄等の形での請求権問題の処理
、解決ということをなし、同時に並行的に経済協力というものを行うと
いう形で、この協定上、直接その請求権の補償というような形では規定
しておりませんけれども、しかし、全体としてはそれぞれが外交交渉上
関連を持って妥結に至ったということでございます。これを俗にパッケ
ージと、大きな形のパッケージということを言って申し上げているわけ
でございます。
○山花委員 ということですと、請求権の問題と経済協力の問題は全く
関係なかったんだと、関係なかったんだけれども、並行的に解決したか
ら一緒に整理したんだ、こういうことですか。要するに、法律的に、条
約上法律的には関係ない問題がたまたま一緒になって解決したと、外交
上政治的に解決したということですか。そういうことならそういうこと
でいろんなこれから出てくる問題についての対応の仕方が出てくると思
いますけれど、も、もう一遍そのパッケージの中身、わかりませんね、
聞いておって。全く関係ないものがたまたま一緒になってということな
のですか、それとも関係あるのですか。両方がパッケージということの
意味についてさらにちょっと伺いたいと思います。
○柳井政府委員 これは全く関係ないということではございませんで、
むしろ外交上一つの大きな交渉の中で関係があったからこそパッケージ
ということを申し上げているわけでございます。
繰り返しになりますが、請求権の補償という形で規定してはおりませ
んけれども、請求権の解決を考慮に入れて、日本側から見れば経済協力
を行う、また韓国側から見れば日本側から経済協力という形で実質的に
資金が供与されるということを考慮してこの請求権の問題を解決したと
いうことでございます。したがいまして、この規定上は請求権の補償と
いう直接の書き方はしておりませんけれども、全体としてこれは両者関
連して大きな一つの当時の外交上の判断として、これは両方、両側の判
断でございますけれども、この問題を解決したということでございます
。
当時既に日本の韓国に対する支配というものが終わって相当の年限も
たっておりました。具体的な請求権の積み上げ金額等についてもいろい
ろ議論が交渉上あったわけでございますけれども、相当の年月もたち、
また資料も必ずしも全部そろっているわけではないということも考慮い
たしまして、一つの大きな解決策ということで、一方においては経済協
力をなし、一方においては請求権問題の解決、放棄等の処理を行うとい
うことでございます。したがいまして、両者は交渉上関連をしていたと
いうことでございます。
○山花委員 請求権の補償ということではないけれども関連を有してお
った、こういう結論というふうに聞きました。
請求権というのはどんな中身があったんですか。その中身には例えば
慰安婦の皆さんの補償問題等は入っておったんですか、入ってなかった
んですか。
○柳井政府委員 当時、日韓国交正常化の大変長い複雑な、かつ困難な
交渉の中でいろいろな具体的な請求が韓国側からなされていたわけでご
ざいます。ただいまここにそのすべての資料を持っておりませんけれど
も、その結論といたしまして、日韓請求権経済協力協定の第二条の第一
項におきましては、ちょっとこれは短いので読ましていただきますが、
「両締約国は、両締約国及びその国民」、ちょっと間を飛ばしますが、
「の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関
する問題がこサンフランシスコ「平和条約第四条同に規定されたものを
含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」と
いうふうに規定しているわけでございます。したがいまして、交渉の過
程でいろいろな具体的な請求がなされた経緯がございますけれども、そ
のようなものをすべて含めて完全かつ最終的に解決されたということで
ございます。
この交渉の過程で出されました具体的な請求につきましては、例えば
対日八項目の請求というようなものもあったわけでございます。ただ、
いわゆる慰安婦の問題について当時具体的にそのような請求がなされた
というふうには私は承知しておりません。ただ結論といたしまして、あ
らゆる請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたということでこの条
約上の合意をしたということでございます。
○山花委員 今お話がありましたとおり、当時八項目の請求がありまし
た。その中に、今またお話がありましたとおり慰安婦の補償問題につい
てはその中には入っていなかったということです。入っていなかったの
に全部解決したという理屈はどこから出てくるんですか。全く相談して
いなかった、解決していなかった問題について整理できてないんじゃな
いですか。テーマの中に入っていなかったんだけれども解決したはずで
あるというその理屈について説明していただきたいと思います。今これ
はわかりませんね。
○柳井政府委員 お答え申し上げます。
ただいま申し上げましたとおり、いわゆる対日請求八項目というよう
なものがございまして、そのような中で韓国側が具体的に請求したもの
の中に、いわゆる慰安婦の問題というのが入っていなかったという経過
はあるわけでございます。ただ、それでは当時韓国側があらゆる問題に
ついて、あらゆる請求について具体的に請求をしたかということになり
ますと、これは大変に日本の統治時代のいろいろな問題、これを具体的
に請求するというのは種々困難があったと思います。
この請求権の処理の問題というのは、日韓に限りませんけれども、具
体的な問題の処理ということでいろいろ議論はいたしますけれども、そ
のような請求の根拠なり資料なりが必ずしもそろわないということも現
実でございます。そこで、交渉上ある一定の時期に妥結を図るというこ
とになりました段階におきまして、そのような具体的には触れることが
できなかったような問題も含めて請求権問題をすべて完全かつ最終的に
解決するという処理がしばしば行われるわけでございまして、繰り返し
になりますのでこれ以上申し上げませんけれども、先ほど読み上げまし
たように、日韓の条約の上では、そのような当時具体的に取り上げられ
なかった問題も含めてすべての請求権の問題が両国間では完全かつ最終
的に解決されたというふうに規定しているわけでございます。したがい
まして、この点につきましては、日韓両国政府間で合意の上でそのよう
な処理をしたということでございます。
○山花委員 議題として取り上げられていなかったということについて
は、今お話しのとおりでありまして、取り上げていなかったことについ
て解決したと言うのは、これは理屈に合わないというように思います。
この問題については、八項目の中で全体として対応しているわけであり
ますから、全体としてそういう理屈にならざるを得ないと考えるわけで
ありまして、また今資料の問題がありましたけれども、改めてこの問題
については取り上げていきたいと思っています。
最後に訴訟の問題について、訴訟の推移を見守るということだったわ
けですけれども、単に長い裁判を見守るだけでよろしいのでしょうか。
こうした問題について五年、十年長く続いていくならば、その間見守っ
ているということでは足りない、政治的な決断が必要なのではなかろう
か。この点について、これは官房長官がこの問題についてずっと担当し
ておった経過もおありになるようですから、この問題についてどういう
ように対応するお気持ちなのか、新しい議論も出てきておるようであり
ますから、この点についてまとめて伺っておきたいと思います。
○加藤国務大臣 私が累次記者会見等で申し上げてまいりましたことは
、このいわゆる韓国人慰安婦の問題につきましては、法的、条約的には
ただいま言いましたように個人の補償の問題は処理が終わっているとい
うのが政府の解釈でございます。ただいま条約局長が申しましたように
、しかし、個人の訴権をまたこれを奪うものではないので、現在進行さ
れております裁判において司法部がいかなる判断をするかを見守ってい
きたい、こう思っております。
ただ、この慰安婦の問題は、単にそれだけではない心の傷の問題とい
う点もございますので、我々はそういう観点から何をなし得るのかとい
うことを考えていかなければならないと思っておりますけれども、しか
し、それをどういう形にするのか、これからいろいろ政府としても慎重
に考えていかなければならない問題、またいろいろな意見をお伺いしな
がら考えていかなければならぬ問題だと思っております。
○山花委員 この問題については、裁判の訴状を一遍ごらんになってい
ただきたい、こういう気がいたします。大変分厚いものではありますけ
れども、この現物を読んでいただきたい。まさにこれまでの私たちの歴
史をそこから知らなければいけない。そして、その中にある苦難に満ち
た原告の皆さんのその叫びというものをぜひ直接聞いていただきたい。
そうした中で、官房長官も今この問題についての重要性について触れま
したけれども、この問題については、単なる裁判を見守るということで
は到底済まない問題だということを強調しておきたいと思います。
第123回国会 衆議院予算委員会 第4号 平成四年二月十九日(水曜日
委員 伊東 秀子
外務省条約局長 柳井 俊二
内閣総理大臣 宮澤 喜一
○伊東(秀)委員
あと次に、従軍慰安婦問題について質問を移らせていただきたいと思
います。
従軍慰安婦問題では、一月に宮澤さんは訪韓なさって、日本国の総理
として謝罪なさったその誠意には、私も大変敬意を表するものでござい
ます。しかし、そこにやはり裏づけになる補償がないということで、大
変韓国の方々も、それから日本の私も含めてやはり悲惨な実態、従軍慰
安婦の方々の実態を思うときに、非常に良心と誠意が問われているとい
うことを思うわけでございます。
平成三年の三月二十六日の参議院の内閣委員会で政府は、日ソ共同宣
言における請求権放棄の問題に関して、放棄したのは国家自身の請求権
及び国家が自動的に持っていると考えられる外交保護権であって、国民
個人からソ連またはその国民に対する請求権までは放棄していないとい
う御答弁をしておられます。
これを裏返しますと、つまり今従軍慰安婦の方々が日本国政府を相手
として損害賠償請求をしているわけでございますが、彼女らが個人とし
て日本国政府に対する請求権、損害賠償請求、それは何ら消滅していな
いというふうに受けとめていいわけでございますね。
○柳井政府委員 お答え申し上げます。
いわゆる請求権放棄の条約上の意味につきましては、これが国家の持
っている外交保護権の放棄であるということは、従来からいろいろな機
会に政府が答弁申し上げているとおりでございます。そして日韓の請求
権の処理でございますが、いわゆる日韓請求権・経済協力協定におきま
しては、ほかの場合よりも若干詳しい規定を置いておりますことは、先
生も御承知のとおりでございます。
御案内のことなので余り詳しく御答弁申し上げませんけれども、重要
な点でございますので、ポイントだけ申し上げさせていただきたいと思
います。
この日韓請求権・経済協力協定の第一条におきましては、いわゆる経
済協力のことを規定しているわけでございますが、第二条の第一項で、
日韓の両国間のあるいは両国民間の財産、権利及び利益並びに請求権に
関する問題が、「完全かつ最終的に解決されたこととなる」ということ
を確認しているわけでございます。そして二項では若干の例外、すなわ
ちこの協定による請求権処理の対象にならないものを挙げておりますが
、これは戦後の通常の日韓間の取引に基づく財産権というようなもので
ございますので、従軍慰安婦のような問題には関係ないわけでございま
す。そして三項におきまして、要点としては、財産、権利及び利益に関
する措置、国内的な措置、そして請求権につきましては「いかなる主張
もすることができない」ということを規定しているわけでございます。
そして、この三項の規定を受けまして、これも御承知のとおり、我が国
におきましては昭和四十年に財産権の処理に関する国内法を制定いたし
まして、いわゆる法令上の根拠のある実体的な権利につきましては、韓
国及び韓国国民が我が国において有するそういう財産権を消滅させる措
置をとったわけでございます。ただ、この場合におきまして、そのよう
な国内法上の根拠のない財産的価値を認められるいわゆる実体的権利と
いうものでない請求権につきましては、この法律の対象になっていない
わけでございます。
そこで、それではこのような意味の請求権は何かということになるわ
けでございますが、これはクレームとも言っておりますけれども、この
ような請求を提起する地位を意味すると考えております。いわゆる外交
保護権の放棄でございますから、そのような個人がこのようなクレーム
を提起するということまでも妨げるものではない。したがいまして、我
が国の裁判所に訴えを提起するというようなことは、そこまでは妨げて
おらないということでございます。
○伊東(秀)委員 裁判において請求する権利、つまり請求権は消滅し
ていないという結論だと思うのですが、それで、韓国において首相は、
補償の問題については裁判の行方を見守りたいということを両首脳会談
の中でも発言しておられます。しかし、今問われているのは、日韓基本
条約の締結の段階では、軍の関与は全くなかった、民間業者が勝手に連
れ歩いていたのだという事実のもとに締結した条約であり、さらに新し
い事実が出てきたときにその事実に基づいて宮澤総理は謝罪をした、そ
の新しい事実に対しての一つの加害国としてその誠意をどうあらわすか
、つまり道義的責任、政治的責任がこの問題では問われているのではな
かろうか、こう考えるわけでございます。
そこで、それに入る前に、まず現在の従軍慰安婦に関する軍の関与に
ついての首相の認識をお伺いしたいと思います。
訪韓の段階では、軍が何らかの形で関与していたことは否定できない
という大変消極的な事実認定のもとに謝罪なさったわけでございますが
、その後、私は二月二日に四十七点の新しい従軍慰安婦に関する資料を
入手いたしましたし、昨日さらに九点資料を入手いたしました。その入
手した資料では、総理の訪韓前の見つかっていた五点の資料にはないも
のがいろいろ出てございますが、総理はそういった新しい資料に基づく
内容を報告を受けているかどうか、さらに、その報告に基づいてどのよ
うな事実認識を持っておられるか、ちょっとお伺いいたします。
○伊東(秀)委員 今の御答弁では、大変消極的な、まあ言いづらいこ
とかもしれませんけれども、かつての戦争は聖戦であったというふうに
日本国政府は言っていたわけでございますから、言いづらいことなのか
もしれませんが、私が入手した文書にはっきり出ているわけでございま
すね。
それは昭和十三年の七月一日から七月三十一日までの歩兵第九旅団陣
中日誌というものの中に出てくるものでございますが、これは、昭和十
三年の六月二十七日に、北支那方面軍参謀長岡部直三郎という人から陸
軍の方面軍各部隊に指示した通牒としてこういうふうなものが出ており
ます。つまりこの北支那方面ですけれども、軍占拠地内の治安が大変悪
くなってきている。治安回復の進捗は遅々たるものである。その主なる
原因は、「軍人及軍隊ノ住民ニ対スル不法行為カ住民ノ怨嗟ヲ買ヒ反抗
意識ヲ煽リ共産抗日系分子ノ民衆煽動ノロ案トナリ治安工作二重大ナル
悪影響ヲ及ホスコト尠シトセス」。中略しますと、「日本軍人ノ強姦事
件カ全般ニ伝播シ実二予想外ノ深刻ナル反日感情ヲ醸成セルニ在リト謂
フ」。この軍の発行した文書に、日本軍の強姦事件がその占領地全般に
伝播しちゃってどうしようもない状況だ。だからこのような「軍人個人
ノ行為テ厳重取締ルト共ニ一面成ルヘク速ニ性的慰安ノ設備ヲ整へ設備
ノ無キタメ不本意乍ラ禁ヲ侵ス者ナガラシムルヲ緊要トス」。このよう
に軍の参謀長自身が、強姦とか放火とか住民に対する不法行為がもう蔓
延してどうしようもない、だから取り締まると同時に、もはや慰安所を
つくって何とかしなければいけないということを通牒として出している
わけですね。ここに見られることは、日本軍が、いかにこれは聖戦と言
いながら蛮行を繰り返していたかということの、この太平洋戦争の内実
が明らかにされるかと思いますし、女性をセックスの対象としか見ない
、この軍の発想というもの、これが非常に人道上も問題であるというこ
とを、軍自身の文書が裏づけているのではなかろうかと思われるわけで
ございます。
これは昭和十五年に、さらに軍紀振作対策という、支那事変の経験よ
り見たる軍紀振作対策という文書でございますが、陸軍省の副官の文書
にも、川原直一という人が出した文書の中にもはっきり出ておりまして
、もうこの支那事変の中で、中身だけ紹介させていただきますと、略奪
、強姦、放火、捕虜惨殺等、皇軍の本質に反する幾多の犯行を生じたた
めに、聖戦に対する内外の反感はもうどうしようもない状況に至ってい
るということがうたってあるわけでございます。このような目的から非
常に、何とも非人道的な目的から軍の慰安所が設置されたということが
資料上明らかになっておりますし、さらには、もう一つ重要な文書とし
ては、金沢大学の医学部の教授で、当時、軍の軍医大尉という位におら
れた早尾席雄と読むのでしょうか、この方の「戦場ニ於ケル特殊現象ト
其対策」という中にも同じようなことがありまして、さらには上海事変
、これは昭和十二年のころですが、大変強姦がふえたことと、中国での
商売の女性との接触から性病が軍隊に蔓延している。だから内地や朝鮮
半島の少女たちを、女たちを連れてきて、性病を予防して、その管理も
軍がやらなきゃいけないというようなことが書いてあるわけでございま
す。
こういった、本当にこの日本の戦争の本質にかかわるようなことを暴
露する形で、今回従軍慰安婦の方々の訴訟が提起されている。まさしく
、これは法的な責任などというものではなくて、私は、新たな日韓関係
の構築とか、国際社会で信義を求めたいという、首相の施政方針演説に
もございました。これから見て、まさしく道義的責任、政治的責任が問
われていることではなかろうか。この事実に誠実に対処するためには、
被害者になられた方々のいる国の方々に対して、申しわけなかったと、
誠意をこういう形で受け取ってくださいと自発的に補償を申し出るのが
、私は、本当に新しい日韓関係の構築につながると確信しているわけで
ございますが、そういった点については、首相はいかがお考えでござい
ましょうか。
○伊東(秀)委員 裁判の経緯を見守るということをおっしゃっていら
っしゃいますけれども、もう原告になられた方々は大変高齢である。戦
後五十年近く経ておりますし、しかも、ここには内閣法制局長官もいら
っしゃるように、この事件は戦前の事件である。戦前の事例を国家に対
して、国家の不法行為に対して損害賠償を請求する場合の法的な、適用
される法律があったのか。民法上は、天皇は神聖にして侵すべからずで
あり、天皇のもとにあった皇軍の不法行為は問われない状況、民法の適
用はないじゃないか。さらには、国家賠償法というのは昭和二十二年に
できた法律でございます。ですから、これが裁判にかかっているといっ
ても適用される法律はないわけでございまして、裁判の経緯を見守ると
いうのはまさしく時間稼ぎ、責任逃れの方便にすぎないじゃないか。本
当に誠意があり、新しい日韓関係の構築を真剣に模索するのであれば、
この韓国の国民感情、それはもう私などよりも、首相が一月に訪韓なさ
ったときにつぶさにごらんになったと思うのですけれども、それに政治
家の決断として何らかこたえるということ、それが今問われているのじ
ゃないかと思うわけでございます。
裁判の経緯を見守るということは、非常に責任逃れである。それはな
ぜかといいましたら、適用される法の問題、時効の問題、あらゆる、ま
た慰安所の中のあのおぞましい実態を重言しなければ、今原告になった
方々は損害賠償を受けられないのかという非常に人道上問われる問題が
あるわけでございます。こういったことを考えても、まだ首相は裁判を
見守るとおっしゃるのかどうか、いかがでしょうか。
○宮澤内閣総理大臣 先ほど条約局長からお聞き取りいただきましたよ
うな国と国との法律関係、それから訴訟について、個人が我が国の法廷
に訴訟を起こすということは、もとよりその個人の自由である、権利で
ある、ただ国家的な保護は受けないけれどもという、そういう法律関係
等々万般のことを考えてまいりますと、我々の先輩が我が国として、サ
ンフランシスコの講和条約を初め多国間あるいは二国間のいろいろな条
約、協定等によって、問題はともかく整理をされてきたという、過去の
そういういわば事実がございます。そういうことも考えながら問題を考
えてまいりませんとなりませんので、そういうことから先ほど申しまし
たようなお答えをいたしておるわけであります。
第123回国会 衆議院外務委員会 第2号 平成四年二月二十六日(水曜日
)
委員 土井たか子
外務大臣 渡辺美智雄
外務省条約局長 柳井 俊二
○土井委員 最近非常にニュースでクローズアップをされております従
軍慰安婦の問題も含めて強制連行をされた人たち、従軍した人もあれば
、あるいは日本の国内で炭鉱やまた建設現場や軍需産業なんかで強制労
働に従事した人もございますが、そういう人たちから補償の請求がある
ときに、もうこの問題は解決済みでございますという答弁を今までされ
てきた。解決済みとおっしゃる根拠はどこにあるのですか。
○柳井政府委員 御承知のとおり、一九六五年の日韓請求権・経済協力
協定におきましては、日韓両国及び両国国民の財産請求権の問題は日韓
間の問題として完全かつ最終的に解決したということが確認されている
わけでございます。これまた御承知のとおり、この解決と並行いたしま
して無償三億、有償二億ドルという経済協力を実施したものでございま
す。いわゆる個人の請求権にかかわる問題につきましても、この日韓間
における条約上の処理の対象となっていますことはこの条文上も明らか
でございます。したがいまして、日韓間の問題としてこの請求権の問題
は完全かつ最終的に解決したということでございます。
根拠と申しますのは、この一九六五年の日韓間の請求権・経済協力に
関する協定でございます。
○土井委員 柳井さんの御答弁というのは、外務省のその条約にかかわ
る御答弁としては大分に変遷しているのです。
先日予算委員会での御答弁で、今おっしゃった有償、無償五億ドルで
すね、これは一条の問題だと思いますが、後でおっしゃった完全かつ最
終的に解決という、これは二条の問題だと思いますが、これを大きなパ
ッケージとして解決がなされたとおっしゃっておる。これは法的に関係
しているのですか。
○柳井政府委員 この協定上は、ただいま先生おっしゃいましたとおり
経済協力の問題は第一条で規定しておりまして、いわゆる請求権、財産
請求権の問題は第二条で規定しているわけでございます。
この協定上、直接財産請求権の問題の解決のために五億ドルを支払う
というような規定はしておりませんけれども、これも先生御承知のとお
り、当時日韓の国交正常化に至る大変な長い、かつ困難な交渉の中で、
請求権の問題というのは非常に深く、幅広く討議されたわけでございま
す。ただ、もう当時既に戦後相当の時日がたっておりましたし、また第
二次大戦後におきましても朝鮮動乱ということもございまして、一つ一
つの請求権の積み上げ、あるいはその裏づけということができなかった
、非常に困難であったという事情があったわけでございます。その結果
、日韓間の交渉によりましてこの請求権の問題は一括してこの協定に規
定されているような形で最終的かつ完全に解決する、そしてそれととも
に経済協力を行うという形で決着したということでございまして、規定
上この経済協力の問題と請求権の問題を直接関連づけて書いてはござい
ませんけれども、この交渉の中で、先日予算委員会で私御答弁申し上げ
ましたけれども、一つの大きなパッケージとして関連づけられて解決し
たということでございます。
○土井委員 今の柳井さんの御答弁からしますと、請求権はこの日本か
ら出した金額によって放棄するという意味を持つというふうに聞こえる
のですが、当時の、これは請求権及び経済協力協定ですけれども、審議
をずっと読んでみますと、全く違いますよ。
椎名外務大臣の明確な答弁がある。一条と二条とはどういう関連にご
ざいますかという質問に対して、「法律的な関連性はございません。」
そうして、「経済協力はあくまで経済協力でございます。もしこれが賠
償的性格を帯びるものであれば、協定の細部にそれがあらわれるはずで
ありますけれども、そういうことはございません。あくまで経済協力と
して取り扱っております。」そして、経済協力の性格は何かという質問
に対して、「経済協力でございます。」繰り返しこれを答弁されて、「
請求権問題と経済協力とは、何ら法律上の因果関係はございません」と
答えられていますよ。「総計五億ドルの経済協力はあくまで韓国の経済
建設に役立てるため供与するものでございます。」と明確に答弁されて
いますよ。
今の柳井さんの御答弁と大分違うのです、これは、いつの間に変わっ
たのですか。当時は、この協定を締結することのための質問、答弁、そ
の場所での御答弁が、外務省の答弁としてそうだった。大臣の答弁とし
てそうだった。大臣が責任持って答弁された中身がそうだったのですよ
。
○柳井政府委員 私、先ほども御答弁申し上げましたとおり、この協定
上経済協力の問題と請求権の問題が法律的に関連して規定されていると
いうことではないということも申し上げている次第でございます。
ただ、この交渉の過程で、この請求権の問題が論じられる一方、それ
と並行して経済協力の問題も討議されまして、そして最終的には経済協
力を行う、そしてそれと並行して財産請求権の問題も解決するという一
つの大きな合意ができたわけでございます。したがいまして、私が御答
弁申し上げたことと、この協定を審議していただきましたときに当時の
椎名外務大臣その他政府の関係者が御答弁されたこととの間に、別段変
更とか矛盾とか、そういうことはないというふうに考えております。
○土井委員 大きなパッケージとしてわざわざ言われるところが紛らわ
しいのです、これ。よっぽど今私が申し上げた椎名外務大臣の答弁で、
はっきりしている。はっきりしていることを何だかわからない、誤解を
生ずるような紛らわしい表現につくり変える必要はないのです。だから
、その辺はまずはっきりしておいていただきたいと思うのですよ。
一条と二条というのは、法的因果関係はない、関連性はないというこ
とをはっきり答えられているのですから。大臣、よろしゅうございます
ね、これは。議事録に従って私は申し上げております。これは大臣から
お聞かせいただきたいと私は思いますよ。政治的な判断ですから、はっ
きり。
○柳井政府委員 条文は大変長いので、また先生もよく御存じでござい
ますので、これを読み上げるということはいたしませんけれども、(土
井委員「読んでくださらなくて結構です。議事録に従っているのです」
と呼ぶ)この協定上は、先ほども申し上げましたとおり、請求権の問題
と経済協力の問題が法的に直接関連づけて規定されているということで
はございません。
また、この協定の締結当時、当時の椎名外務大臣はこのように申され
ております。これはちょっと短いので引用させていただきますが、「請
求権の問題と経済協力、これは、日本の対朝鮮請求権は、軍令及び平和
条約等のいきさつを経て、もはや日本としては主張し得ないことになっ
ておりますが、反対に、韓国側の対日請求権、この問題について、この
日韓会談の当初において、いろいろ両国の間に意見の開陳が行なわれた
のでありますけれども、何せ非常に時間がたっておるし、その間に朝鮮
動乱というものがある。で、法的根拠についての議論がなかなか一致し
ない。それかも、これを立証する事実関係というものがほとんど追及が
できないという状況になりまして、これを一切もうあきらめる。そうし
て、それと並行して、無償三億、有償二億、この経済協力という問題が
出てまいりました。」云々というふうに申されております。
○土井委員 今私は議事録に従って申し上げているので、さらにそうい
うことの注釈というのは不要だと思うの。この点ははっきり、条文上に
ついてどういうふうに考えたらいいかということを私がお尋ねしたこと
に対するこれは裏づけになるそのときの議事録でございますから。よろ
しいですか。
さあそこで、ここで「完全かつ最終的に解決」とおっしゃっているこ
とは、いわゆる個人の請求権そのものを否定してはおられませんね。い
かがですか。
○柳井政府委員 条約上、先ほども先生がお触れになりましたとおり、
第二条でいわゆる財産請求権の問題を規定しているわけでございますが
、ここでは要するにこれらの問題が「完全かつ最終的に解決された」と
いうことを言っているわけでございます。ただいま申し上げましたのは
第二条の一項でございます。
そして、この同じ第二条の三項におきまして、ここはちょっと短いの
で読ませていただきますけれども、一定の例外がございますが、その例
外を別としまして、「一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益
であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対
する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民
に対するすべての請求権であって同日以前に生じた事由に基づくものに
関しては、いかなる主張もすることができないものとする。」この「同
日」というのは、この協定の署名の日、すなわち一九六五年の六月二十
二日でございます。
このように規定しておりまして、いわゆるその法的根拠のある実体的
権利、いわゆる財産権につきましては、この協定を受けて、我が国にお
きまして、韓国の国民の財産権を一定の例外を除いて消滅させる措置を
とったわけでございます。したがいまして、このような法律的な根拠の
ある財産権の請求につきましては、以後、韓国の国民は我が国に対して
、私権としても国内法上の権利としても請求はできない。そのような措
置をとることについて、この協定によりまして、ただいま読み上げまし
たこの二条の三項におきまして、韓国側としては、それに異議を申し立
てることはできないということでございます。
この二条の三項で「財産、権利及び利益」ということを言っておりま
すが、これは当時作成されました合意議事録におきまして、これは合意
議事録の二項の(a)というところでございますが、「「財産、権利及
び利益」とは、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての
種類の実体的権利をいうことが了解された。」ということになっており
ます。したがいまして、この二条の三項で言っております「財産、権利
及び利益」以外のもの、すなわち請求権というものがございます。これ
につきましては、ただいまの定義から申しまして法律上の根拠のない請
求、いわゆるクレームと言ってもいいと思いますが、そのような性質の
ものであるということでございます。
それで、しからばその個人のいわゆる請求権というものをどう処理し
たかということになりますが、この協定におきましてはいわゆる外交保
護権を放棄したということでございまして、韓国の方々について申し上
げれば、韓国の方々が我が国に対して個人としてそのような請求を提起
するということまでは妨げていない。しかし、日韓両国間で外交的にこ
れを取り上げるということは、外交保護権を放棄しておりますからそれ
はできない、こういうことでございます。
○土井委員 るるわかりにくい御説明をなさるのが得意なんですが、こ
れは簡単に言えば、請求権放棄というのは、政府自身が持つ請求権を放
棄する。政府が国民の持つ請求権のために発動できる外交保護権の行使
を放棄する。これであって、このことであって、個人の持つ請求権につ
いて政府が勝手に処分することはできないということも片や言わなきゃ
いけないでしょう、これは。今ここで請求権として放棄しているのは、
政府自身が持つ請求権、政府が国民の持つ請求権に取ってかわって外交
保護権を発動するというその権利、これでしょう。だから、個々の個人
が持つ請求権というのは生きている。個々の個人の持つ請求権というの
はこの放棄の限りにあらず、これははっきり認められると思いますが、
いかがですか。
○柳井政府委員 ただいま土井先生が言われましたこと、基本的に私、
正確であると思います。この条約上は、国の請求権、国自身が持ってい
る請求権を放棄した。そして個人については、その国民については国の
権利として持っている外交保護権を放棄した。したがって、この条約上
は個人の請求権を直接消滅させたものではないということでございます
。
ただ、先ほど若干長く答弁させていただきましたのは、もう繰り返し
ませんけれども、日韓の条約の場合には、それを受けて、国内法によっ
て、国内法上の根拠のある請求権というものはそれは消滅させたという
ことが若干ほかの条約の場合と違うということでございます。したがい
まして、その国内法によって消滅させていない請求権はしからば何かと
いうことになりますが、これはその個人が請求を提起する権利と言って
もいいと思いますが、日本の国内裁判所に韓国の関係者の方々が訴えて
出るというようなことまでは妨げていないということでございます。
○土井委員 結局は個人としての持っている請求権をお認めになってい
る。そうすると、総括して言えば完全にかつ最終的に解決してしまって
いるとは言えないのですよ。まだ解決していない部分がある。大いなる
部分と申し上げてもいいかもしれませんね。正確に言えばそうなると思
います。いかがですか。
○柳井政府委員 先ほど申し上げましたとおり、日韓間においては完全
かつ最終的に解決しているということでございます。ただ、残っている
のは何かということになりますと、個人の方々が我が国の裁判所にこれ
を請求を提起するということまでは妨げられていない。その限りにおい
て、そのようなものを請求権というとすれば、そのような請求権は残っ
ている。現にそのような訴えが何件か我が国の裁判所に提起されている
。ただ、これを裁判の結果どういうふうに判断するかということは、こ
れは司法府の方の御判断によるということでございます。
○土井委員 さあ、ここで外務大臣にお答えいただきたいと思うのです
が、これは今しきりに問題になっている、私自身も聞いて胸が詰まる思
いがするのですが、従軍慰安婦の人たちの問題、どう抗弁いたしまして
も日本国民として恥ずかしいです。大変恥ずかしいと私は思っている。
外務大臣はどうお思いになりますか。恥ずかしいとお思いになりません
か。いかがですか。
○渡辺(美)国務大臣 人を殺したり傷つけたり、そのような今おっし
ゃったような不幸な立場を強制したりするようなことは、全く戦争の罪
悪であって、恥ずかしいと思います。
○土井委員 恥ずかしいと思いますとおっしゃることについて、これは
具体的に問われているのは国政関与者の責任だということになると私は
思うのです。
実は一九八二年の六月に外務省が調査をされた結果を裁判所に対して
付言という形で、判決が出る資料になっているのです。おもしろいです
ね。これは私、最近初めて知ったのですけれども、なるほどと思ったの
ですよ。
これはどういうことかといいますと、台湾人元日本兵士の補償問題、
台湾人の台湾に在住しておられる方々十三名が原告となって日本政府に
補償請求を求めて東京地裁にそれが提訴されたのです。東京地裁さらに
東京高裁に参りまして、八五年の八月に東京高裁。地裁も高裁もいずれ
も棄却判決になりました。そのときに高裁は付言をこの判決にしたので
す。
どういうことを言っているかといいますと、「控訴人らは、ほぼ同様
の境遇にある日本人と比較して著しい不利益をうけていることは明らか
であり、……早急にこの不利益を払拭し、国際信用を高めるよう尽力す
ることが、国政関与者に対する期待である」と書いてある。
外務省がこの調査をされたのは「負傷または戦死した外国人に対する
欧米各国の措置概要」でございまして、ここで調査の対象になっている
のはアメリカ、イギリス、フランス、イタリア、当時の西ドイツの五カ
国なんです。いずれも外国人となった元兵士に対して自国民とほぼ同等
の年金または一時金を支給しているのです。この五カ国を見ますと、植
民地を持っていないカナダをここに加えたらまさしくサミットになるの
です。サミット参加国の中で、こういう問題に対してそっぽを向いて、
解決済みでございます、解決済みでございますと言い続けたのは日本だ
けですよ。日本だけがこれは特異な国ということになるわけであります
。
と同時に、先ほど財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力
に関する日本国と大韓民国との間の協定について二条の一をお出しにな
りましたが、その二条の二というところを見ますと、「この条の規定は
、次のものに影響を及ぼすものではない。」という中に、「一方の締約
国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間
に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益」とは
っきり書いてあるのですよ。
そうすると、韓国籍の人でも日本にその間おられる方については、こ
の条約は関係ないんです。そうすると、日本国民と同等の取り扱いをや
ってしかるべきであるにもかかわらず、外務大臣ここからが大事なんで
すよ、実はそれが全く外されてしまっているのであります。全く外され
てしまっている。
それは外務大臣も御存じだと思いますけれども、平和条約が発効する
と同時に日本では、戦争によって被害を受けた人たちに対する援護並び
に補償の法ができてまいりました。その皮切りは戦傷病者戦没者遺族等
援護法に始まる十三法、以後あります。すべてのその法律から国籍条項
を用意しました。日本国民でなければ、日本国籍を所有していなければ
この補償の対象でないということに法の上でなっているのですよね。国
籍条項と申し上げねばなりません。
私は、難民条約のときあるいは国際人権規約を審議するとき随分、国
内の外国籍の人に対する処遇に対して、年金もそう、保険もそう、住宅
もそう、改善されたことを覚えています、内国民待遇ということで。と
ころが、たった一点この問題だけが除外にされてきたんですが、なぜこ
れが問題にならなかったかといういきさつが杳としてわからない。
なぜこれだけを外されたんですか。ほかの年金にしたって保険にした
って、いろいろとそれ以前と違った、取り扱いを変えましょうというの
が難民条約や国際人権規約のときの国内的措置として問題になったんで
すよ。だけれども、この財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済
協力に関する日本国と大韓民国との間の協定では、影響を及ぼさないは
ずの在日の人たちを切り捨ててしまっているという格好になっているの
ですが、これは一体なぜですか。
○柳井政府委員 この協定の二項で二項の例外措置が規定されていると
いうことは、先生おっしゃるとおりでございます。この二項で(a)と
(b)という二つの例外がございまして、その(a)というのが先ほど
お読みになった例外でございます。
この意味するところでございますけれども、「千九百四十七年八月
十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したこと
がある」一方の締約国の国民ということを言っておりますが、これは実
際には主として在日韓国人の方々を指しているわけでございます。その
ような方々の財産、権利及び利益についてはこの規定の例外とするとい
うふうに述べているわけでございますが、先ほどちょっとお答えいたし
ましたとおり、この財産、権利及び利益というのは、合意議事録におき
まして、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類
の実体的権利をいう」ということが日韓間で了解されているわけでござ
います。したがいまして、そのような法律上の根拠に基づく財産的価値
を有する権利というものはこの協定上は例外にしている。
そして、先ほど申し上げました財産権を消滅させる法律を当時つくり
ましたけれども、その中でも、このような在日韓国人の方々の法律上の
根拠のある財産権は除いている、すなわち消滅させていないということ
でございます。その限りにおいて、この協定の処理の例外になっている
ということはそのとおりでございます。ただ、一般的なそういう法律に
基づかないいわゆる請求というものは、この規定の例外の対象ではない
わけでございます。
他方、いろいろな国内法で国籍条項があるということにつきましては
、これはそれぞれ所管の官庁におきましてその法律の制定の経過を承知
しておりますので、必要があればまた照会いたしたいと思います。
○土井委員 さあ、そこで外務大臣、今の御答弁はまたややこしい、わ
かりにくい御答弁でしたが、二点しっかり外務大臣に押さえておいてい
ただいて、そして最後に一言言って、私はこの質問は終えたいと思うの
です。
それは、今、日韓間の請求権並びに経済協力に関する協定と略して言
いましょう。この条文の中では、個人の持つ請求権についてこれは認め
られているということが一点。二点目は、第二条の二項のところで影響
を及ぼさないはずの在日韓国人に対して影響を及ぼして、そして当然認
めなければならない戦争による被害に対する手だてというのを、法律の
中で国籍条項をわざわざつくって対象としていないという問題です。こ
れは、この条約の二条の二項からしたらおかしい取り扱いなんですよ。
間違った取り扱いと申し上げましょう。したがって、二点申し上げたい
。
一つは、個人の持つ請求権というのは認められているんだから、した
がって提訴ということも当然あり得るんですが、先ほど御答弁を承って
おりますと、裁判の判決の結果をひとつ考えてというふうな御趣旨の御
答弁でもありましたが、だから私がわざわざ、外務省がかつて調査をな
すった結果を裁判所は付言としてこう言われていますよということを言
った意味があるのです。
もう一度言います。「ほぼ同様の境遇にある日本人と比較して著しい
不利益をうけていることは明らかでありこ裁判を起こした人がですよ、
「早急にこの不利益を払拭し、国際信用を高めるよう尽力することが、
国政関与者に対する期待である」と言っているんです。裁判所の判決と
いうのはいつ出るかわかりません、これは。二年かかるか三年かかるか
、場合によったら五年かかるかわからない。その判決が出るまではひた
すら待ち続けますというんじゃないのであって、問題は、「国際信用を
高めるよう尽力することが、国政関与者に対する期待である」、この点
に対して外務大臣は、先ほど予算委員会の場所でしょう、御答弁の中で
心あるこれに対しての対処の仕方ということがあってしかるべきだとい
う御趣旨の御答弁をなすったやに私は知っているわけでありますけれど
も。この二点、国籍条項を外すということの検討が一つ、あと一つは判
決を待つまでもなくこれに対してどのように考えていくかという問題、
いかがですか。
○渡辺(美)国務大臣 私は両方の意見もこれずっと聞いておるのです
が、やはり日本は法治国家でございますから、法律に書いてあるとおり
実行しなければならないということが一つだと思います。
ただ問題は、法律問題としては裁判所があとは結論をどう出すかとい
う問題でしょう。しかしこの従軍慰安婦の問題というのは、私は法律の
問題ということでなくて人道的な問題であって、政治問題であることは
間違いありません。大変痛わしい、胸の痛むような話でございまして、
まずその実態を調べなきゃならぬということで今官房を中心にして調べ
ておりますので、そういう実態の上にどういう政治判断をするかという
ことは、これは法律の問題じゃない問題でございますから、何らかの私
は、けじめと言っては語弊があるのかもしれませんが、結論を出す必要
があると考えております。
○土井委員 終わりますが、それは外務大臣いつごろですか、今結論を
出す必要があるとおっしゃる結論は。
○渡辺(美)国務大臣 調査の終わり次第、日本側でも調査をしている
し韓国側も調査はしておりますので、そう多年月を要することはないだ
ろうと思います。
○土井委員 きょうのところはこれで終えますけれども、法治国家とし
てという立場に立ては、締結した国際条約、国際法規並びにそれに従っ
て制定された国内法規、これを基礎に置いて考えても今の日本の取り扱
いというのはそれに反するというおそれが非常にあるということも私は
予言しておきまして、これは改めてまた申します。
ありがとうございました。
第123回国会 衆議院本会議 第7号 平成四年三月三日(火曜日)
山元勉
内閣総理大臣 宮澤喜一
○山元勉君 私は、日本社会党・護憲共同を代表し、ただいま提案のあ
りました外国人登録法の一部を改正する法律案について、宮澤総理並び
に関係大臣に質問いたします。
言うまでもなく、外国人登録法が対象としている約百七万人の外国人
は、さまざまな国籍と民族から成っております。しかしながら、その半
分以上をいわゆる在日韓国・朝鮮人が占めていることもまた事実であり
ます。そして、これらの人々の処遇は、我が国の外交政策と密接に関連
しており、日本政府が南北朝鮮に対して正当な敬意を払ってこそ、在日
韓国・朝鮮人を人間として処遇する前提条件が整備されることになるの
であります。
そこでお尋ねしますが、いわゆる核査寮問題も解決の方向にある今日
、日本と朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化交渉を、従来に比し、
より積極的な姿勢で、また、より速いテンポで進める考えはないのか。
また、従軍慰安婦問題や強制連行問題等に関連し、南北朝鮮及び日本に
居住する朝鮮半島出身者に誠意ある補償を行う考えはないのかどうか、
基本的姿勢の問題として、お尋ねいたします。(拍手)
次に、今回の法律案の是非を問う前提となる二つの大きな政策上の問
題点についてお伺いいたします。
第一に、いわゆる外国人犯罪と外国人登録制度の関係についてであり
ます。
まず、統計的に見て、近年の外国人犯罪がどういう傾向で推移してい
るか、そして、それぞれの犯罪を犯した者の正規の在留日数や在留資格
がどういう傾向にあるか、お尋ねいたします。そして問題は、そういっ
た外国人犯罪を抑止するために、外国人登録制度はこうでなくてはなら
ないということが果たして言えるかどうかであります。
我々が、いわゆる外国人犯罪と聞いてまず思い浮かべるのは、正規の
滞在日数が一年を超えることはなくしたがって外国人登録の指紋押捺と
は無関係な外国人であります。したがって、外国人犯罪を抑止するため
には、一年以上在留する外国人で、かつ特別永住者と永住者以外の者に
ついて指紋押捺を残さなくてはならないと言われても、納得がいかない
のであります。この点についての政府の見解はいかがですか、お尋ねを
いたします。(拍手)
第二に、日本国民と外国人の同一人性確認のあり方についてでありま
す。我々日本国民は、その同一人性確認のために、国によってつくられ
た証明書を常時携帯する義務を課せられているわけではありません。し
たがって、例えば外国船舶の出入りする港を歩いていて警察官や入管職
員等から職務質問され、その同一人性の証明を求められたとしても、当
該職務質問への応答または運転免許証や職場の身分証明書等の提示で足
りているわけでありますし、よほどの場合においても、第三者に電話で
連絡するなりして同一人性を証明してもらうこともできるわけでありま
す。しかし、外国人の場合は、特別永住者、永住者も含め、外国人登録
証の常時携帯及び提示義務が定められており、それは今回の政府の改正
案においても手つかずなのであります。
定住性の高い外国人にまで、日本国民にはないような煩雑な同一人性
確認のシステムを強要するのは、内外人平等を定めた国際人権規約に違
反する疑いが濃いと言わざるを得ません。とりわけ、東アジアの国々に
源流を持ち、我が国に長年居住する人々に常時携帯義務を課すのは、機
能的に見ても全く無意味であります。
日本人と称しても通用する容姿を持ち、かつ流暢な日本語を話す人々
について、この人は在日外国人だと識別している警察官等が、当該外国
人が合法的に在留する者であることを識別できないことはあり得ないの
ではないでしょうか。また、そこをも疑わざるを得ないとすれば、一人
一人の国民について、外国人ではないかどうか、もっと言えば、日本人
に成り済ました不法入国者、不法残留者でないかという点も含め、一々
疑わざるを得ないのではないでしょうか。
以上を踏まえ、我が国に在留する日本国民及び外国人の同一人性確認
のあり方について、政府の見解をお聞かせいただきたいと思います。(
拍手)
次に、法案について具体的にお尋ねいたします。
まず、指紋押捺制度についてであります。
先ほども触れましたように、外国人犯罪の抑止のために指紋押捺の全
廃はできないとの主張は説得力を持ちません。また、この制度は、内外
人平等を定め、かつ、非人道的または品位に欠く取り扱いの禁止を定め
た国際人権規約に違反することも明らかであります。我が国も既に批准
したこの国際人権規約に従い、いわゆる不法入国者や不法残留者も含め
、すべての外国人について人としての権利が保障されなければならない
のであります。
その観点からいたしますと、国際人権規約に違反する指紋押捺制度を
一部の外国人についてのみ残すということ、しかも、一年未満在留の者
は指紋が免除されている状態でそうするということは、それ自体が国際
人権規約に違反する施策と言えるのであります。
以上の理由により、我が党は、この法律案は、指紋押捺制度を完全に
廃止するものとして書き改めるべきと考えますけれども、政府の御見解
はいかがか、お伺いをいたします。(拍手)
次に、外国人登録証の常時携帯制度についてであります。
これも先ほど触れましたように、特別永住者、永住者も含め、外国人
登録証の常時携帯及び提示義務が定められており、それは今回の政府案
においても手つかずでありますが、これは国際人権規約の定める内外人
平等に反するばかりか、機能的に見ても、その存在意義を疑わざるを得
ないものであります。もちろん外国人登録証を持つ必要のない九十日未
満在留の外国人には、旅券または上陸許可書の常時携帯制度が定められ
ており、その旅券または上陸許可書の常時携帯まで国際人権規約違反と
すぐに断定できるわけではないことも事実であります。しかし、特別永
住者、永住者を含め一定水準以上の定住性を有する外国人にまで証明書
の常時携帯を義務づけることはいかがなものでありましょうか。この点
について改善する内容を盛り込む方向で法案の修正を行うべきかと考え
ます。見解をお尋ねいたします。(拍手)
第三に、外国人登録法の刑罰制度についてであります。
外国人登録法においては、ついうっかり申請をし忘れたような単純な
ミスに対してまでも「一年以下の懲役若しくは禁錮又は二十万円以下の
罰金」という重罰が科せられております。そして今回の改正案では、新
たに不署名罪という罪名に基づく刑罰制度が科せられようとしています
。しかし、逮捕や強制捜査に直結するこのような重罰制度をいろいろな
項目について設けるのはいかがなものでしょうか。
これに対し、日本国民の登録制度に関しての法である戸籍法と住民基
本台帳法においては、虚偽申請といった悪質な違反を除いた部分につい
ては過料、いわゆる過ち料で対応しております。この点についても内外
人平等に違反する疑いが濃いと言わざるを得ません。
また、外国人登録法の刑罰制度に基づく逮捕、強制捜査等が何らかの
政治的目的に使われるのではないかとの在日外国人の心理的負担の大き
さも考慮しないわけにはいきません。そこで、この点についても、戸籍
法と住民基本台帳法の類似規定との横並びを図りながら、過ち料を基本
とした制度に転換すべきであります。こういう方向で法案を書き直す考
えがないかどうか、お尋ねいたします。(拍手)
以上、私は、本法案の修正を求める立場に立って幾つかの点について
お尋ねをいたしましたが、最後に申し上げたいのは、第一に、外国人の
処遇を初めとする日本の人権状況を問う内外の世論、第二に、指紋押捺
制度廃止を九三年一月までに行うべしとした日本の韓国に対する国際公
約、第三に、参議院における与野党逆転等々四囲の状況を勘案して、政
府・自民党は野党との誠意ある対話に応じ、円満な問題解決に努めるべ
きだということであります。この点を特に強調して、私の質問を終わり
ます。(拍手)
○内閣総理大臣(宮澤喜一君) 日朝国交の正常化につきまして、この
問題は、第二次世界大戦後の日朝間の不正常な関係を正すという側面と
、それが朝鮮半島の平和と安定に資するものとなることが大切であると
いういわば国際的な側面、二つの面をあわせ持っております。我が国と
しては、国交正常化がこのような二つの面を有しているということを十
分考慮しつつ、また、原則的立場を踏まえながら、関係国とも緊密に連
絡をとりまして、誠意を持って交渉を継続していく所存でございます。
次に、いわゆる従軍慰安婦あるいは被強制連行者に対するお尋ねでご
ざいましたが、政府といたしまして、朝鮮半島地域のすべての人々に対
し、過去の一時期、我が国の行為により耐えがたい苦しみと悲しみを体
験されたことについて、深い反省と遺憾の意を表明いたしております。
また、いわゆる従軍慰安婦の問題につきましては、先般、私が韓国を訪
問いたしました際にも、衷心より遺憾と反省の気持ちを述べるとともに
、この問題についての日本政府の関与のあり方について誠心誠意調査を
行うということをお約束をし、また現にそれをいたしておるところでご
ざいます。
日韓両国間では、六五年の日韓請求権・経済協力協定により、御指摘
の補償の問題をも含め、日韓両国及び両国民間の財産・請求権の問題は
、完全かつ最終的に解決済みであります。また、これに並行して、五億
ドルの経済協力をも実施したことは、御承知のとおりでございます。
次に、日朝間の財産・請求権の問題につきましては、日朝国交正常化
交渉の場において、さらに話し合ってまいりたいと考えております。
それから、指紋の押捺は、外国人の同一性の確認の手段として合理的
であり、また必要な制度でございますから、永住者及び特別永住者以外
の外国人についてこれを維持しなければならないと思っておりますし、
このことは、国際人権規約にもとより反するものではございません。
それから、外国人登録法の改正法案審議に関しまして、参議院云々と
いう御指摘もございました。もとより審議に当たりまして、各党の御意
見を謙虚に承ることはもちろんのことでございます。
残りの問題は、法務大臣からお答えを申し上げます。(拍手)
第123回国会 衆議院予算委員会 第12号 平成四年三月五日(木曜日)
厚生省援護局長 多田 宏
外務省国際連合局長 丹波 實
外務省条約局長 柳井 俊二
○多田政府委員 韓国につきましては、日韓の協定に基づきまして別途
処理がされたというふうにされておりますので、韓国については帰化し
ても既に処理済みという理解でございます。その他の地域、台湾あるい
は北朝鮮といったようなところについては帰化することによって可能に
なる場合がある、こういう理解でございます。
○柳井政府委員 援護法につきましてはまた別途関係の省庁から御答弁
があると思いますが、日韓請求権経済協力協定につきましては、ただい
ま先生御指摘ございました第二条の二項で二つの例外を掲げているわけ
でございます。
その二つの例外と申しますのは、ただいま御指摘のように、その一つ
が、「一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の
署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権
利及び利益」というものはこの協定の二条の処理の対象外であるという
ふうに規定しているわけでございます。そして、この「財産、権利及び
利益」と申しますのは、この附属の、当時、協定締結のときに作成いた
しました合意議事録の二項の(a)というところで、「「財産、権利及び利
益」とは、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類
の実体的権利をいうことが了解された。」というふうになっているわけ
でございます。そのような意味におきまして、この二条二項の(a)では若
干わかりにくい書き方になっておりますけれども、実際には主として在
日韓国人の今申し上げましたような財産、権利及び利益につきましては
この条の規定は影響を及ぼさないというふうになっているわけでござい
ます。
で、御承知のとおりこの二条の三項におきまして、我が国におきまし
ては、当時国内法を制定いたしまして、いわゆる財産、権利、利益とい
うもので韓国の方々が持っておられるものを消滅させる措置をとったわ
けでございますが、その措置に言う財産、権利、利益というのはこの二
条に言っているものでございます。
○多田政府委員 私どもの理解では、請求権については特別合意に基づ
いて処理をされた、そしてその処理された対象の中には在日韓国人の請
求権も含まれているというふうに理解をいたしております。したがって
、そういう理解に立ちますと、既に処理済みで、一度日本国といたしま
してはその方々に何らかの処理をした対象の方々に対して別途また給付
というものを起こす、同じ事由に基づいて給付を起こすということは、
これは重複の問題が起きるわけでございますので、当然に給付の対象外
というふうに理解をしているわけでございます。
○柳井政府委員 日韓請求権経済協力協定締結当時の処理につきまして
、若干補足させていただきたいと存じます。
先ほど申し上げましたこの昭和四十年の法律でございますが、いわゆ
る日韓財産及び請求権に関する協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財
産権に対する措置に関する法律、正式の題名はもっと長いのでございま
すが、要約すればそういう法律を制定したわけでございまして、その一
項で、「次に掲げる大韓民国又はその国民の財産権であって、財産及び
請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国と
の間の協定第二条3の財産、権利及び利益に該当するものは、次項の規
定の適用があるものを除き、昭和四十年六月二十二日において消滅した
ものとする。」と、こういうふうに規定しているわけでございます。
そして、ここで対象にしておりますのは、この「協定第二条3の財産
、権利及び利益に該当するものはこと、こういうふうに言っております
ので、この協定の二条三項の規定している「財産、権利及び利益」とい
うものをここの法律の第一項の対象にしているわけでございます。そし
て、この協定の第二条三項におきましては、「2の規令に従うことを条
件としてこというのが頭にございまして、「一方の締約国及びその国民
の財産、催利及び利益」、それから後に請求権というものも規定してお
りますが、この「財産、権利及び利益」というのは、先ほど申し上げま
したように、合意議事録で要するに「法律上の根拠に基づき財産的価値
を認められるすべての種類の実体的権利」であるというふうに言ってい
るわけでございます。したがいまして、この法律で引いております「財
産、権利及び利益」というのは、この協定及び合意議事録で言っている
意味の財産的権利であるということでございまして、この協定二条三項
の冒頭に「2の規定に従うことを条件としてことございますので、この
二条二項の例外もここにはきいてくるということでございます。
○柳井政府委員 結論的な点だけお答え申し上げたいと思います。
最終的に解決したということを言っておりますのは、この二条に書い
てありますとおり、具体的にはこの二条の三項によって行われた処理に
ついて今後日韓間では問題を提起しないということでございます。
その処理には二つあるわけでございますが、この三項に規定してあり
ますとおり、これはもう先ほど申し上げましたので省略いたしますが、
要するに法律的な根拠のある実体的な権利については、まあ我が国でそ
れを消滅させる措置をとったわけですが、それについて韓国側はいかな
る主張もすることができないということで解決をしたわけでございます
。そして、実体的な権利でないもの、すなわち法律上の根拠のない、い
わゆるクレームといった方がいいと思、いますが、そのような請求権に
ついてもいかなる主張もできないということを二条の三項で言っている
わけでございます。そしてその中で、在日韓国人の実体的な権利につき
ましては、二条の二項の(a)で言っているとおり、これは消滅させていな
いということでございます。
まあ韓国側の措置につきましては、先生御指摘のとおり、韓国側の国
内法においても在日韓国人の場合は除いてあるというふうに承知してお
ります。
○柳井政府委員 前提になる協定上の問題につきまして、一点だけ確認
させていただきたいと存じます。
先ほど来御答弁申し上げておりますとおり、この財産請求権協定の二
条二項で除いておりますのはいわゆる実体的権利、すなわち国内法に根
拠のある財産、権利及び利益ということでございますので、そうでない
、国内法上の根拠のない、いわゆるクレームというものにつきましては
、この二条で例外を設けていないわけでございます。したがいまして、
問題の請求権が国内法上根拠のあるもの、すなわち実体的権利であるか
、あるいはそのようなものでない請求であるかによって結論は分かれて
くるわけでございまして、先ほど厚生省の方からお答えがありましたの
は、我が国の国内法上の根拠のないそのような請求につきましては、在
日韓国人のものも含めて、全体としてこの二条で処理がなされていると
いうことでございます。
その処理の意味は、三項の後段に書いてございますように、そのよう
な請求権についてはいかなる主張もすることができない。さらに言えば
、これは日韓間で相互に外交保護権を放棄した、すなわち国と国との間
でそのような請求の問題を持ち出すことはできない、そういう形で処理
をした。そのようなものについては、在日韓国人の例外条項というのは
ないわけでございます。
○柳井政府委員 ただいま御指摘の点についてだけ確認させていただき
たいと存じます。
二条の二項(a)で言っております「財産、権利及び利益」というのは
、先ほどもちょっとお答え申し上げましたが、合意議事録の二項の(a)と
いうところで「「財産、権利及び利益」とは、法律上の根拠に基づき財
産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが了解され
た。」そのように日韓両国間で合意されているわけでございます。した
がいまして、この協定二条二項の(a)で除外しております「財産、権利及
び利益」の中には、いわゆる法律上の根拠はないけれどもいろいろ請求
したいというようなもの、いわゆる請求権というものは含まれてないわ
けでございます。
それは三項の方を見ていただきますと明らかになるわけでございます
が、三項の前段の方では、先ほど申し上げましたように、「2の規定に
従うことを条件としてこということがまず冒頭ございまして、その後に
「財産、権利及び利益」については、他方の締約国で国内的な措置をと
っても文句を言わないということが前段で書いてございます。そして後
段で、「並びに」というところの後でございますが、「請求権」という
のを挙げておりまして、これについてもいかなる主張もできないという
ことを言っているわけでございます。
したがいまして、先ほどちょっと、この前の前の御質問の中で言って
おられました、訴えを提抽する権利はどうか。そこは、財産、権利及び
利益でない、単に請求を提起する個々人の権利というものは、外交保護
権の放棄という処理によっては、そういう訴えを提起するような権利ま
では殺していないということでございます。ただ、そこで言っている請
求権というのは、法律上の根拠のあるものではない、もろもろのクレー
ムを言っているということでございます。
○柳井政府委員 私の方から一点だけお答え申し上げたいと存じます。
先ほど来るる御説明申し上げましたのは、協定第二条二項で例外にし
ておりますのは韓国人の実体的権利ということでございます。したがい
まして、例外にしたのは、この協定締結当時韓国人の権利として我が国
の国内法上認められていたものがあれば、そのようなものは消滅させな
いという趣旨でございます。(「だから、帰化すればということです」
と呼ぶ者あり)いや、ですから、その帰化をする権利というものがどう
いうものであるか、これは少なくとも直接その給付の請求権になるとい
うものではないと私思いますけれども、帰化する権利というものが実体
的権利というふうには恐らく解されないであろうと思います。
第123回国会 衆議院予算委員会 第15号 平成四年三月九日(月曜日)
外務省条約局長 柳井 俊二
委員 伊東 秀子
内閣法制局長官 工藤 敦夫
外務省アジア局長 谷野作太郎
外務大臣 渡辺 美智雄
大蔵大臣 羽田 孜
○柳井政府委員 この問題につきましては、これまでいろいろな機会に
私どもの考え方、るる申し上げておりますので、それを繰り返すことは
いたしたくないと思います。
結論から申し上げますれば、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定
におきまして、その第二条で、財産請求権の問題が完全かつ最終的に解
決されたと規定しているわけでございますが、具体的には、この第二条
のそれ以下の規定におきまして、いわゆる国内法的根拠のある実体的権
利については、相手国でそれを消滅させる等の措置をとったとしてもそ
れに対して文句は言わない、それから、法律的な根拠のないその他の請
求についてもいかなる主張も行うことができないということでございま
して、財産権であれば、我が国の場合には、韓国及び韓国国民の財産権
を消滅させる法律を当時制定してこれを消滅させたわけでございます。
それ以外の請求につきましては、日韓間の問題としては、いわゆる外交
的にこれを取り上げることはしない、すなわち外交保護権を行使するこ
とはしないという意味で解決をしているということでございます。
○柳井政府委員 先ほども申し上げましたが、この協定上措置をとって
、そして権利を消滅させる等の国内的な処理をするということの対象は
、いわゆる「財産、権利及び利益」と協定で称しているものでございま
す。合意議事録で了解が確認されておりますように、このような「財産
、権利及び利益」というのは、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認
められるすべての種類の実体的権利をいうこと」が定義されて了解され
ているわけでございます。
いわゆる慰謝料請求というものが、いわゆるクレームというものがど
のようなものと国内法上観念されているかにつきましては、私必ずしも
つまびらかにいたしませんけれども、いわゆるこの「財産、権利及び利
益」というものには該当しないものが多々あろうと思います。そのよう
なものにつきましては、この協定上は、いわゆる財産、権利、利益とい
うもの以外の請求権というふうに観念しているわけでございまして、そ
のような請求権につきましては、国内的に、国内法的に処理をとるとい
うことはここでは想定しておりませんけれども、いずれにせよ、そのよ
うな問題を国家間で外交的に取り上げるということはこの協定の締結後
できないというのが当時の日韓間の合意であったというものでございま
す。
○柳井政府委員 当時の協定上の処理といたしましては先ほど申し上げ
たとおりでございまして、いわゆるクレーム、財産権以外の、実体的権
利以外のクレームにつきましては、外交保護権の放棄という形で決着を
図る一方、それと並行して経済協力というものを行ったわけでございま
す。いわゆる無償三億、有償二億という経済協力を供与いたしまして、
そういう全体の合意によってこの問題も含めて、日韓国家間では最終的
に解決したという処理を行ったわけでございます。
そして慰謝料等の請求につきましては、これは先ほど申し上げたよう
ないわゆる財産的権利というものに該当しないと思います。そのような
ものについては、いわゆる財産的な権利につきましては国内法的な処理
をしても文句を言わないという規定があるわけでございますが、それ以
外のものについては外交保護権の放棄にとどまるということで当時決着
をした。これはいわゆる請求を提起するという地位までも否定しないと
いう意味においてそのような権利を消滅させていないわけでございます
が、しかしそれが実体的な法律上の根拠を持った権利である、実体的に
法律上の根拠を持った財産的価値を認める権利であるというふうには当
時観念されなかったろうと思います。
○伊東(秀)委員 今の条約局長の御答弁を伺っていますと、慰謝料請
求権そのものは消滅してないという御答弁になるわけで、放棄したのは
外交保護権であるということをはっきりおっしゃいました。そうすると
、慰謝料請求、彼女たちが今問題にしているのは慰謝料の問題でござい
まして、そうしたら最終的に解決したとは言えないじゃないか、論理的
にも。全くそれは最終的に解決してはいない。
ただし、今もう一つ条約局長は重要なことを御答弁なさったと思いま
すが、彼女たちの権利は実体法上の根拠があるかないかというようなこ
とを問題になさいましたが、条約局長としては、慰謝料請求権は消滅は
してはいない、残っている、しかし、実体法上の根拠がある請求権では
ないという趣旨に御答弁なさったと伺ってよろしいでしょうか。
○柳井政府委員 協定の解釈に関します、いわゆる「財産、権利及び利
益」の定義につきましては、先ほど読み上げましたとおりでございます
。いわゆる慰謝料請求権というものが、この法律上の根拠に基づき財産
的価値を有すると認められる実体的権利というものに該当するかどうか
ということになれば、恐らくそうではないのだろうと私は考えます。い
ずれにいたしましても、昭和四十年、この協定の締結をいたしまして、
それを受けて我が国で韓国及び韓国国民の権利、ここに言っております
「財産、権利及び利益」について一定のものを消滅させる措置をとった
わけでございますが、そのようなものの中にいわゆる慰謝料請求という
ものが入っていたとは記憶しておりません。
○伊東(秀)委員 慰謝料請求権は入っていなかった。そうしたら、政
府がこれまで繰り返してきました彼女たちの請求権は完全かつ最終的に
解決したということが、全く答弁を覆さなければいけなくなると思いま
すが、官房長官、いかがでございましょうか。
○柳井政府委員 官房長官の御答弁の前に一点だけ補足させていただき
たいと存じますが、いわゆる個人の請求の問題については解決していな
いのじゃないかという御指摘もあるわけでございますけれども、先ほど
私答弁いたしましたとおり、この日韓請求権・経済協力協定におきまし
ては、これは繰り返しませんけれども、先ほど申し上げたような規定に
よって日韓両国間においては完全かつ最終的に解決を見たということで
合意がなされたということでございます。ただ、いわゆる法律的な根拠
に基づかない財産的な実体的な権利というもの以外の請求権については
、これは請求権の放棄と申しますことの意味は、外交保護権の放棄とい
うことでございますから、それを個人の当事者の方々が別途裁判所なり
なんなりに提起をされる、そういうような地位までも否定するものでは
ないということは、これまでもいろいろな機会に政府側として御答弁申
し上げているとおりでございます。
○伊東(秀)委員 そこが大変論理的に矛盾であるところでございまし
て、訴権があるのは当然である、だれでも裁判所に訴える権利はあるわ
けでございまして、訴権とそれから慰謝料請求権という実体法上の権利
とは全く別である。裁判所に訴える権利というのは手続法上認められて
いる訴権でございまして、今条約局長が答弁なさったのは、従軍慰安婦
だった方々の慰謝料請求権については消滅していない、これは解決の枠
外というふうに答弁されたわけですから、とすれば訴権にすりかわる論
拠は全然ないわけでございます。それがなぜ手続法上の裁判所に訴える
権利だけで実体法上の権利は消滅したんだということになるかが全く論
理矛盾である、そういうことで私は先ほど官房長官の御答弁を求めてい
るわけでございますので、もう一度、慰謝料請求権を当人の承諾なしに
国家が消滅させることはできないという条約局長の見解を前提にして、
何ゆえにそれでは政府は解決したと言うのか、この点を明快にお答えい
ただきたいと思います。
○柳井政府委員 官房長官へのお尋ねがどうやら私の答弁が原因になっ
ているようでございますので、一点だけ補足させていただきたいと存じ
ます。
先ほども申し上げましたとおり、我が国としては、この協定上外交保
護権を放棄した、そして関係者の方々が訴えを提起される地位までも否
定したものではないということを申し上げたわけでございますが、しか
らば、その訴えに含まれておりますところの慰謝料請求等の請求が我が
国の法律に照らして実体的な根拠があるかないかということにつきまし
ては、これは裁判所で御判断になることだと存じます。ですから、その
点についてはちょっと誤解があるといけませんので補足させていただき
ます。
○伊東(秀)委員 訴権があるのは、だれも訴権を否定されている人は
いないわけでございますから、訴権があることは当然である。問題は、
今問題になっているのは、訴権のあるなしじゃなしに、彼女たちの慰謝
料請求権、個人としてそれは消滅しないという答弁をされたわけですか
ら、それをなぜ解決したと言うかが問題だということを私は伺ったわけ
です。
それはおきまして、内閣法制局長官に伺いますが、条約でもって国家
が個人の精神的な損害に対する慰謝料請求、これを放棄できるかどうか
ということが第一点と、今政府はできないということを前提としつつも
、その残っている慰謝料請求権は裁判所に訴える権利、つまり訴権でし
かないんだというふうに非常に限定的にしているわけでございますが、
この二つの点に関する法制局の見解をお答えください。
○工藤政府委員 お答えいたします。
ただいま条約局長あるいは官房長官からもお答えございましたように
、現実に日韓の請求権協定といいますかで放棄しておりますのは、我が
国の外交保護権あるいは韓国の、双方の外交保護権でございますので、
そういう意味で外交保護権についての定めというもの自身が直接個人の
請求権とかこういったものの存否に消長を及ぼすものではない、こうい
うことだろうと思います。
次に、第二の点のお尋ねでございますが、それ自身につきましては、
現在訴訟になっておりまして、現実に裁判所でどのようないわゆる法規
の適用といいますか、そういうものが行われるか、私の方から予断を持
って申し上げることはいかがかと存じます。
○伊東(秀)委員 私は、裁判の中身のことをお伺いしているのではご
ざいませんで、今法制局長官がお答えくださいましたように、外交保護
権の放棄が個人の請求権の消滅には何ら影響を及ぼさない、とすれば、
全く影響を受けていない個人の請求権が訴権だけだという論理が成り立
つか否かという見解、解釈を伺っているのでございますが、いかがでし
ょう。
○工藤政府委員 お答えいたします。
訴権だけかというお尋ねでございますけれども、現実に訴えを起こし
まして、私もその内容を詳細には存じませんけれども、損害賠償請求を
されているわけでございます。その損害賠償請求について、いかなる取
り扱いがされるか、これは裁判所の判断にまつところであろう、こうい
うことでございまして、訴権だけであって、あと損害賠償請求権がある
とかないとか、そこの部分を私の立場で申し上げる……
○伊東(秀)委員 あるなしの問題じゃなくて、損害賠償請求権は消滅
しないと言いながら、それが訴権だけという論理が成り立つかどうかを
潤いておりまして、裁判所の判断をかわって言ってもらいたいと言って
いるのじゃないのでございますが、その点について、そういう論理が成
り立つかどうかを答えてください。
○工藤政府委員 訴権だけというふうに申し上げていることではないと
存じます。それは、訴えた場合に、それの訴訟が認められるかどうかと
いう問題まで当然裁判所は判断されるものと考えております。
○伊東(秀)委員 今の御答弁で、つまり今まで政府が、請求権は消滅
してすべて解決済みとかあるいは消滅していないけれどもそれは裁判所
に訴えるという権利のみだということが、大変論理的に矛盾であるとい
うことが明らかになったのではなかろうかと思います。
そこでその問題はおきまして、次にもう一つ、条約局長の二月三日の
御答弁に即してお伺いいたします。
二月三日の山花議員の質問に対して、柳井条約局長が、「日韓の条
約の上ではこ「当時具体的に取り上げられなかった問題も含めてすべて
の請求権の問題が両国間では完全かつ最終的に解決されたというふうに
規定しているわけでございます。したがいまして、この点につきまして
は、日韓両国政府間で合意の上でそのような処理をしたということでご
ざいます。」という答弁がございます。
そこで一点目。まず、私はここに請求権及び経済協力に関する協定、
議事録、すべての書類を持ってきておりますが、この最終的に解決され
たというふうに規定してあるというのはどこの部分に規定してあるので
しょうか。最終的に解決されたというのが、つまり対日八項目要求、こ
れも私ここに用意してございますけれども、これ以外に取り上げられな
かったこと、議題にならなかったこともすべて解決するというふうにこ
の協定に規定されているというふうにお答えになっているわけでござい
ますが、取り上げられなかった問題まで解決するというのがこの協定の
どこに書いてあるのか、教えていただけますでしょうか。
○柳井政府委員 それは協定の第二条の一項に、ここにいわゆるサンフ
ランシスコ平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて完全かつ最終的
に解決されたというふうに言っているわけでございまして、国交の正常
化でございますとかあるいは平和の回復ということを行います場合に、
平和条約あるいはこのような日韓間の協定等いろいろな条約を結びまし
て請求権の問題を解決するわけでございます。
その際に、大抵の場合は個々の請求項目についていろいろ議論をする
ということがあるわけでございまして、御指摘のとおり日韓の当時の交
渉におきましては、いわゆる八項目の請求というものが韓国側から出さ
れて、その請求に対する補償の積み上げというような話し合いもしたわ
けでございますが、当時既に戦後相当時間もたっていた、そしてその間
にいわゆる朝鮮動乱というものも介在したということで、一件一件の積
み上げではこれは到底解決のめどが立たないということで、いわゆる一
括解決方式というものが日韓間で基本的に合意されまして、そしてその
ような線に沿ってこの条約が起案され合意されたわけでございます。
この協定上の根拠ということになれば、それは「完全かつ最終的に解
決された」ということでございまして、これが八項目にあるかないかと
いうことで判断するというよりは、日韓間の請求権の問題を一括して全
部解決したと。そこで論議されたものもあったでしょうし、あるいは具
体的な論議の対象にならなかった請求というものもあったと思います。
しかし、そのような論議されなかったものあるいは場合によっては八項
目の請求の中に関係のあるものもあるかもしれませんが、論議されなか
ったものを後になってあれもあった、これもあったということでは、い
わゆる一括解決というのはできないわけでございますから、それはこの
条約の趣旨、そしてこの第二条の規定から申しまして、現在問題になっ
ているような請求についても、これは日韓間の問題としては一括、完全
かつ最終的に解決されたという趣旨であるということを申し上げた次第
でございます。
○伊東(秀)委員 今、取り上げられなかった問題も請求権もすべて解
決したというのは、条文上の規定としてはこの二条一項でしかないとい
うことが明らかになりました。しかしこれは、法の一般原則に反するの
ではなかろうかというふうに私は考えるわけでございます。
というのは、二つの理由から法の一般原則に反しております。一つは
、政府はこれまで昨年の十二月まで、軍の関与はない、民間人が勝手に
やっていたことだという公式見解をずっと表明してまいりました。つま
り、前提となる事実認識において全く新たな事実が判明したという、つ
まり、前提事実に錯誤があったということに法律上はなろうかと思いま
す。つまり、こういう場合には、契約の前提になる事実に変更が後で発
見され、かつその変更が全く予期できなかったような場合には、法の一
般原則として事情変更の原則というものがとられるわけでございます。
これは何も日本だけの問題ではなくて、フランスでは、例えば不予見
の理論とか、つまり予見できなかったことが契約の後に発見されたらそ
の契約の効力はなくなる、あるいはドイツでは行為基礎の理論と言われ
ておりまして、行為の前提となった、契約の前提となった基礎が崩れた
ときにはその基礎の上に立っていた契約は無効になるという論理がある
わけでございますが、こういった法の一般理論からいっても、全く事実
認識が変わってきた今も、しかも全然それが事実認定が違っていたため
に取り上げられなかったことに対して、それがこの請求権の中に入って
いるんだという論理はどうしてもとり得ないんじゃないか。その点につ
いて法制局長官にお伺いしますが、今のように、条約の解釈において法
の一般理論というものは適用になるということが私は当然だと思うので
すが、いかがでしょうか。
○柳井政府委員 法制局長官から御答弁がある前に、私の方から一点だ
けお答えさせていただきたいと存じます。
いわゆる慰安婦の問題につきまして、政府が関与したか否かという問
題が確かにあるわけでございますが、いずれにいたしましても、この日
韓の協定上は、韓国国民の我が国政府に対する請求あるいは財産権とい
うものだけではなしに、我が国の政府に対する請求ももちろんでござい
ますが、両国国民間の請求の問題あるいは財産権の問題というものも含
めてこの条約上の処理の対象にしているわけでございます。
○工藤政府委員 お答えいたします。
個別具体の事情を離れまして一般的にと申されますと、非常に私の方
もお答えしにくいわけでございますが、もちろん国内法的にも事情変更
といったようなものは一つの考え方として働き得ると思いますが、ただ
同時に、事情変更というものをただ安易に、容易に認めていくというの
もまた問題があるということだと存じます。
○伊東(秀)委員 今の御答弁で、安易には認められないけれども、そ
の考え方は条約を解釈する場合にも適用になるというふうに理解いたし
ます。
このことは、私は事前に質問通告の中にお渡ししておきましたが、法
制局長官にもう一度お伺いしますが、国際間の紛争を解決する場合の国
際司法裁判所規程の第三十八条の一項Cというところにも認められてい
るんですね。つまり、どういうものに準拠して国際的な紛争を処理する
かというときのその適用するものの中に、「文明国が認めた法の一般原
則」というふうに書いてございますが、つまり事情変更の、原則的なそ
の前提事実が変わった場合の条約の解釈に関するものが、この国際司法
裁判所規程の中では「文明国が認めた法の一般原則」という形で認めら
れているというふうに解釈してよろしいかどうか、いかがでしょうか。
○柳井政府委員 事情変更の原則等につきましていろいろ御指摘があっ
たわけでございますが、まず一般的な問題といたしまして、もとより各
国の国内法で認められた、事情変更の原則を含めましていろいろな原則
があるわけでございますが、そのようなものがそのまま国際法の原則と
して適用されるというものでないことは当然でございます。したがいま
して、もちろん国際法の解釈につきまして、いろいろ類推でございます
とかあるいは参考になるということが各国の国内法の中にあることは事
実でございますし、事情変更の原則というのも、特にその条約の無効取
り消し原因という観点から非常に議論されておりまして、これについて
は非常に議論の多いところでございます。
その条約の無効取り消し原因というのはただいまの問題ではございま
せんのでこれ以上触れませんけれども、例えばそういうような問題につ
きましては、国際間で条約法条約というようなもので合意されて、その
意味あるいはそれを適用する場合の一定の手続というものをきちっと決
めて適用するということになっているわけでございます。したがいまし
て、事情変更の原則というようなものがそのまま国際法に適用されると
いうことはむしろ言えない、そういう考え方はあるけれども、そのまま
の問題ではないということでございます。
他方、国際司法裁判所規程の三十八条一項には、御指摘のとおり法の
一般原則というものが挙げられているわけでございます。この三十八条
一項のいわゆる柱書きのところは、「裁判所は、付託される紛争を国際
法に従って裁判することを任務とし、次のものを適用する。」とありま
して、aとして条約等を挙げております。それからbとして、法として
認められたいわゆる国際慣習というのを挙げておりまして、そしてcと
して、「文明国が認めた法の一般原則」というものを挙げております。
さらにその他の点も書いておりますが、いずれにいたしましても、裁判
所が法の一般原則を適用するというのは、個々具体的な国際間の争いに
ついて、特に条約あるいは国際慣習法というようなもので解決ができな
いというような場合に「文明国が認めた法の一般原則」というものも適
用して判決を下すということでございまして、そのような個々具体的な
争訟を離れて何が国際的に適用される法の一般原則がということは言え
ないことでございます。
○伊東(秀)委員 それは当然でございまして、今回従軍慰安婦問題で
は大変日韓間の重要な、外交レベルには乗っているかどうか別に伺いま
すけれども、国民感情の問題として、これはもうどうしようもない状況
に来ているんじゃないかと思われるわけですね。
つい先日の新聞報道によりましても、三月一日の独立記念日を前に韓
国紙が韓国国民に日本観を問うた、アンケートをしたところ、日本人に
好感を持てないというのが六七・四%、日本という言葉を聞いただけで
気分が悪くなる、二六・一%、日本政府は南北統一に反対していると思
う、七九%、こういう形で大変反日感情がふだんより高まっている。そ
の大きな原因として従軍慰安婦、自分たちの民族がこれほど凌辱された
という事実が明るみになったことが大きく問題があるというふうに報道
されているわけですね。だからこそ、この問題は国際間のこういった条
約の解釈において非常に重要な問題になってくるであろうと私は考える
わけでございます。
しかも、先ほど読み上げました柳井条約局長の答弁では、もう解決済
みというのは、「日韓両国政府間で合意の上でそのような処理をしたと
いうことでございます。」というふうに答弁なさっておられますが、実
はそうではない、韓国の方にも、私は政府要人にもお会いしましたが、
それは別としまして、韓国政府はことしの一月二十一日、各省庁の実務
責任者会議を開いて、日本政府に対して徹底した真相究明と適切な補償
などを求めていくという、そういった方針を決定したというふうに伝え
られているわけですね。つまり、韓国政府はここで処理済みということ
には納得していないということがこの報道で明らかにされるわけでござ
いますが、そういう意味でも国際司法裁判所規程に用いられているよう
なこの法の一般原則ということは大変重要になろうかと思うわけでござ
います。
そこで、外務省にもう一度お伺いしますが、外交ルートを通じてこの
ような徹底した真相究明及び適切な補償というようなことが韓国政府か
ら伝えられておりますでしょうか。
○谷野政府委員 ただいま先生がお示しになりました韓国側の措置につ
いて、その部分を読み上げてみたいと思います。
まず徹底真相究明に努めてほしい、そしてこれを基礎に補償、賠償等
の問題について国内の専門家あるいは当事者の意見をよく聞いて、その
上で日本と外交交渉を展開する、こういうことでございまして、私の申
し上げたいのは、今までのところ韓国政府が外交ルートを通じまして日
本政府に要請してきておりますのは、まずは徹底して真相の究明をして
いただきたいということでございまして、補償あるいは賠償という話は
今のところございません。
○伊東(秀)委員 私が韓国の方からお伺いしたところでは、この問題
は非常に民族の尊厳の根幹にかかわる問題であり、基本的な新たな事実
が判明した現時点においては要求したから払うという性質のものではな
い。申しわけなかったというふうに謝罪するのであれば、日本側が信義
のある国として自発的に補償を申し出てくるというのが国際間の信義で
あろうと考える。だからそれを今は見守っている。ただし、日本政府が
あくまでも解決済みということを、前提を早急に変えないのであれば法
的な措置をとるということを、私は直接韓国の政府関係者の方からお伺
いいたしました。ということは、今は適切な補償の要求が外交ルートに
乗ってないにしても、早晩、いつまでも裁判を見守るとか決着済みとい
うことを繰り返している限り外交ルートに乗るであろうということが予
想されるわけでございます。
外交ルートに乗った場合どうなるかということを私は調べてみました
が、これは先ほど条約局長も条約の無効や取り消しの問題にちょっと触
れましたが、条約法に関するウィーン条約というのがございまして、こ
の四十八条というところに「錯誤」の項がございます。つまり、条約を
締結するときにその基礎をなしていた事実関係に錯誤がある場合には、
この場合は韓国側ですけれども、韓国側はこの条約の無効、だから、日
韓条約の一部、従軍慰安婦については請求済みと日本が主張し続けてい
るこの部分に関してのものをたとえ前提にしたにしても、これの無効を
主張して、国際的な、国連への平和的解決の協議の申し出とか、あるい
はそれでも日本政府が聞かない場合には国際司法裁判所へ訴え出るとい
うような重要な外交問題になるのではなかろうかということが予想され
るわけでございます。
こういったこれまでのことを前提にして、渡辺外務大臣、まだ真相究
明ができるまでは裁判の結果を見守るという態度を続けるのか、あるい
はとにかく新たな事実が発見された、しかもその前提事実には錯誤があ
った、条約の解釈としても錯誤無効という、一部条約の無効という問題
が外交ルートに乗るかもしれないということを前提にして、どうお考え
になりますでしょうか。お答えお願いいたします。
○渡辺(美)国務大臣 日韓条約が交渉が始まって締結されるまでには
十三年ぐらい長い時間がかかっているんです。当然その中では意見の違
いがあるから、交渉が長引いた。最初は賠償というようなことも出たで
しょう。いろいろ出ました。しかし、いや、こちらは別な意見を出した
、そして最終的には賠償でなくて、それで請求というようなものに決着
をつけようということになり、それは経済協力という形をとろう。で、
無償三億ドル、有償二億ドルということで決まったわけです。
じゃ、何でそれを算出したんだ、無償という金の中身を。これについ
ても私など当時の交渉の記録等に出ているところを見ると、やれ軍隊の
徴用だとかいろんな問題が出たそうです。出たけれども、それじゃそれ
らを全部金目にして、何が幾ら何が幾らと積み上げることは事実上、事
実上ですよ、これは不可能に近い、評価の仕方が。そこで、政治決着で
すから、こういうものは。だからそれはひっくるめて、それで無償三億
ドルでお金を差し上げますから、経済協力で、どういうふうにお使いに
なるも向こうにお任せする。それから有償については二億ドル出します
。当時は、まあ三百六十円ぐらいのレートだったと思いますが、予算も
今の恐らく十分の一ぐらいじゃないですか。正確なことはちょっとわか
りませんが、一千億円ぐらいの金を出したんですから、今でいえばまあ
数兆円か一兆円か、それぐらいの金額に匹敵するでしょう、経済の規模
あるいはGNPの大きさ、予算の規模等から比べると。そういう中です
から、当時としては日本の国力もそれほどじゃありませんし、かなりの
ものを出すことで決着がついたということですね。
そこで私は、法律論争をこれは幾らやっても同じことの平行線で、こ
れは繰り返したと思うのです。しかし、現実の問題として、大きな人道
問題としてこれが提起され、それでまた政治問題になっている。これは
事実ですから、だからこれは法律論争で負け勝ちを決めると言ったって
、実際は、それはそう簡単に決まる話じゃない。幾ら国際裁判所へ訴え
ようが何しようが、年数ばかりかかっちゃって、私は決着しないんじゃ
ないかと思う。したがって、非常に悲惨な方々ですから、だれが考えた
ってお気の毒だ、本当に申しわけないという気持ちはあるんですよ。だ
から、そういうものについて何か、まあ申しわけなかったというんなら
申しわけなかったようなことを、目に見える形で何かするのがやはり政
治かなという感じを受けているんです、実際は。
しかしながら、そうはいっても、じゃ、だれとだれがその対象なんで
すか、今訴え出た人だけなんですかと。すると、数名という話になっち
ゃうわけですね。だからもっと実際はいるんじゃないかというようなこ
ともあって、しかし、そういうような方の実態がわからないことにはや
りようがありませんから、裁判は裁判でそれは継続されるのは結構です
が、一方はそういうような実態調査をやって、大体この程度の人が確実
ということになれば、しかし、この問題についてやり方を間違うと、ど
んどんどんどん広がっていっちゃって、何のために日韓の条約を結んで
、ここで一切終わりと決めたかわけがわからなくなってしまいますから
ね。
そこらの兼ね合いも、これは日本としては国益の問題ももちろんあり
ますし、負担が多ければ多いほど日本国民が喜ぶという話じゃありませ
んから、これは国の税金との関係もあるわけですから、だから、ほかの
ところにどういうふうに広がるか広がらないかという問題も含めて、韓
国政府は政府として当時の軍人さんとかなにかには何がしのものを出し
たということも聞いていますよ。だから、そことの兼ね合いというもの
も一体どうなるのかというもの等も含めて考えなきゃならぬ。
しかし、お気の毒であったということも事実ですから、どういうふう
にするかは、これはまあそこらのところを全部見た上で解決をするとい
うのが政治じゃないかなというように私は思っているんですよ。しかし
、それは今訴えられている方の御希望どおりになるかどうか、それはわ
かりませんよ、それはわかるはずがないんですから。だから、そこらの
ところでどうなるかはもう少し調べていかないと結論は出せないと私は
考えています。
○伊東(秀)委員 大変積極的な御答弁で私としてはうれしいわけでご
ざいますけれども、今の御答弁で伺いますと、つまりだれが慰安婦であ
ったかが、調査というか真相究明は、だれが慰安婦であったか。つまり
、支払い先を確認しなければいけないということが、それがわかれば支
払います、軍が積極的に、しかも組織的また計画的に関与していたとい
う事実を前回私は明らかにしたわけでございますが、支払いはするけれ
ども支払い先を明確にしたい、そういうことと受けとめてよろしいんで
しょうか。
○渡辺(美)国務大臣 そこまで私は具体的に言っているわけじゃない
んですよ。何かの記念事業という問題もありましょうし、よく戦没者等
に忠霊碑を建てるというようなこともございましょうし、何かそれはこ
れから考えることであるが、しかし大体どれくらいの人数でいるかとい
うことも全くわからないのですね。もう三人や五人の解決なら話は簡単
ですよ。しかしそういうこと、実態がまずつかめなければ話のしようが
もちろんないわけですから、ですからそういう点については向こうでも
よく真相を究明をする、調査をしてみると言っているそうだし、我々の
方でも調査をしますと言っているわけですから、そこは友好国との間で
ございますから、よく相談をしながらやるということではなかろうかと
存じます。
○伊東(秀)委員 実態調査は当然しなければいけないことであります
し、宮澤首相も誠実な調査を韓国に約束してきたという事情もございま
すので当然かどば思いますが、ここに、日朝の交渉に出席しておられる
第六回交渉の中平代表の発言というものの中に大変気になるのがあるん
ですよ。従軍慰安婦の問題の噴出に驚いている、朝鮮の指摘する罪行の
真相が解明されるには何世紀かかるかわかもないというようなことを言
っているわけです。つまり、何世紀かかるかわからないような調査のこ
とを考えているとしたら大変問題なわけで、あくまでも誠実に、実態が
解明したら、形はともあれ支払う気持ちがあるということを前提にする
のかどうかのことは大変重要な問題だと思うんですね。払うか払わない
かはわからないけれども、何世紀かかってでもとにかくえっちらほっち
ら調査しましょうなんというんじゃ、大変国際関係の、重要な外交のパ
ートナーとしての韓国との日韓関係はますます悪くなるんじゃないかと
思うわけでございます。宮澤さんが初めての外国訪問に韓国を選ばれた
というのも、やはり北東アジアの平和とか安定にとって非常に重要なパ
ートナーだというお考えのもとに私は韓国にいらっしゃったんだという
ふうに理解しておりますし、やはり調査というからにはいつごろをめど
に何と何を明らかにするということを明確にしなければいけないんじゃ
ないかと思うわけですね。
それと、あとこういうことは、私が従軍慰安婦でしたということを名
のり出て受け取る側も非常に恥ずかしい。もう今お金が欲しくてこうい
う訴えをしているのではなくて、やはりあれは軍は関与してない、民間
人が勝手にやったんだというふうに言い切っていた政府の態度に対する
自分の屈辱に、汚辱にまみれた人生は何だったのかという、戦後五十年
たって彼女たちの人間としての憤りと憎しみが噴出したのが今回の訴え
であり、日本政府に対する請求だと私は思うわけでございますけれども
、そういう意味からいっても、だれに払うかわからないというんじゃな
しに、とにかくこういう事実が従軍慰安婦と言われる人たちに対して行
われた。そうすれば、とにかく、基金にするかあるいは記念碑を建てる
か歴史博物館を建てるか、あるいはそういった人たちの生活保障、名の
り出てきた人たちに蓋然性が証明されれば生活を援助いたしましょうと
、何らかの形をとるとか、そういったことが非常に私は、日本は経済大
国と言われているわけでございますけれども、大事なことじゃなかろう
かと思うわけでございます。そこまでもういま一歩踏み込まなければだ
めなんじゃないかなという気がするわけでございます。
それで、それを前提にしまして、また今までこういった措置が幾つか
とられておりますので、こういったことは考えられないかという形で提
起できる例があるわけでございますが、昭和六十二年の九月に台湾住民
の戦死傷者への補償という形で弔慰金を払っているんですね、議員立法
をつくって。こういう方法もあるのじゃなかろうかと思うわけですが、
これをすることに何か支障があるかどうか、この辺の見解はいかがでし
ょうか。
○渡辺(美)国務大臣 これは、日本の軍に徴兵されてそれで戦死した
方とか、それかも重度の負傷を受けて目が失明したとか、あるいは腕が
足がなくなったとか、いろいろなそういうような方、悲惨な方があって
何もされていない。そういうようなことで議員立法をされたことは事実
ですが、こういうのはどんどんそれはもう申し出がありますよ。だから
人の確定もしやすい。しかし、この従軍慰安婦の問題というのは、申し
出の問題というのはなかなか実際問題として、これは生存されておった
としても、あるいは遺族にしても薄々わかっておってもそれはなかなか
言いづらい問題ではなかろうかと私は思います。したがって、そういう
ものも含めて何らかの済まないという気持ちをあらわす何がいいか、そ
れは今後考えていきたい。それには一人一人の者がみんなわからなけれ
ばなんて、そんなことはそれはもう不可能ですから、大体大ざっぱなと
ころがわかれば政治的な配慮をしていくということ以外に私はないんじ
ゃないかという感じですよ。これは内閣で決まったわけじゃないからち
ょっと言い過ぎかもしらぬけれども、よく相談をしていきたいと思って
います。
○伊東(秀)委員 大変積極的な御姿勢でうれしいのですが、もう一つ
、立法は難しいとすれば、在韓被爆者への処置として、九〇年の五月に
盧泰愚大統領来日の折に、総額四十億円の支援を表明された。つまり、
人道的な立場から、本来ならもう日韓条約で決着しているけれども、政
治的な決断として、四十億円在韓被爆者への支援をしたわけですね。そ
して、医療費とか診療体制とか、あるいは福祉センターをつくるとか、
そういった韓国に住んでおられる被爆者の方々への四十億円予算措置を
して、去年十七億、ことしの平成四年度の予算でも二十三億円計上して
いるんですね。こういった措置は考えられないか。つまり、個々人を特
定しなければというんじゃなくて、もう政府の関与がここまで明らかに
なった、そうしたら、この在韓被爆者への措置的な一種の基金をつくっ
て、そして後は、基金の使い道は、当事者とかあるいは韓国にそういっ
た関係者が集まった機関をつくってもらって、その機関に任せるという
ような方法、これはいかがでしょうか。
○谷野政府委員 私の方から、事実関係だけ確認のために申し上げたい
と思いますが、在韓被爆者の問題、確かに四十億円の基金をつくりまし
た。ただいまお願いしております予算案でそのうちの二十三億円をお願
いしておるわけでございますが、その前提になりますのも、先生もお触
れになりましたように、六五年でこの種のことも含めて日韓間において
は決着済みだということを日本側は明確にいたしました上で、この問題
を特に取り出して、人道的な見地から何とかしてさしあげなければいけ
ないということで、四十億円の手当てを基金の形でさせていただいてお
るわけでございます。
○渡辺(美)国務大臣 私が今答弁した中で、大ざっぱな調査と言った
みたいですが、それは語弊がありますから訂正しますが、おおよそとい
う意味ですからね。正確な一人一人、何千何百何十何人という意味じゃ
ないという意味です。
それから、その後のことは、数字を挙げて何をするというような具体
的なことをここでまた申し上げられる段階ではない。
○伊東(秀)委員 いや、外相として、こういった政治的な解決、立法
までしなくても、基金を設置して、そして関係者の福祉に役立ててもら
うというような構想についてはいかがですかというお伺いをしているの
です。
○渡辺(美)国務大臣 そういうことがいいのか、もっと気持ちがすっ
きりするような形がいいのかも含めまして、それは内々、相談をする場
合は、内々話をするということじゃないのか。ここで一方的にこっちが
決めちゃってどうのこうのという話じゃないと私は思っています。まだ
その段階ではありません。
○伊東(秀)委員 内々というのは、韓国との間でというふうに私は理
解してよろしいんでしょうね。
それから、調査の問題にもう一回戻りますが、誠実な調査、それから
真相を徹底的に究明するというのであれば、今まで政府がやってきたよ
うな調査では大変私は、まさしくふまじめだと思うんですね。どういう
調査をやってきたかを伺いましたところ、ヒアリングを平成二年の六月
に五名、二日間にわたって厚生省の勤労局にもと勤めていたような人か
ら聞いたということとか、あと、やはり平成二年度に、二日から三日か
けて九万人の強制連行者の名簿を当たったが従軍慰安婦らしき人はいな
かったとか、それで、裁判が起きてから、昨年の十二月十二日に、自治
体への調査とか、六省庁に調査を指示したというのですけれども、もっ
と本格的に、韓国の方の方々も含めたり、韓国へ出かけていくぐらいの
実態調査が必要じゃないかと思うわけです。それには、たとえ数百万円
でも予算措置を講ずべきだと思うわけですが、この点について、大蔵大
臣、いかがでございましょうか。
○羽田国務大臣 この点につきましては、昨年の末から官房の中で調整
、調整といいますか連絡をとりながら調査を始めているということであ
りますし、また先ごろも、たしか先生に対する御答弁だったですか、総
理からも誠心誠意やります、調査をしていきたいということを申し上げ
て、実際に調査に各関係省庁が今当たっておるということでございまし
て、今予算的な問題があるというふうに私どもは聞いておりません。予
算的に、予算がないからどうこうということじゃなくて、各省の中でそ
れはやりくりしながら十分調査ができ得るものであろうというふうに考
えております。
○伊東(秀)委員 特別には予算措置は講じるつもりはないというふう
に御理解してよろしゅうございますでしょうか。
○羽田国務大臣 関係省庁の中でそれは手当てしながら対応しておると
いうふうに承知しております。
○伊東(秀)委員 ぜひともこの問題については、誠実にして現実的な
対処をお願いしておきたいと思います。
第123回国会 参議院予算委員会 第6号 平成四年三月二十一日(土曜日
)
委員 清水澄子
外務省条約局長 柳井 俊二
○清水澄子君 時間がなくて論争できませんけれども、日本人の女性を
慰安婦にしたことにも私は非常に大きな問題があると思っております。
しかし、朝鮮の女性たちにはさらに植民地支配という、そういうやはり
民族的な支配と差別があったという、この問題は私たちはやっぱり反省
しなきゃいけないと思うわけですね。それが、何か戦争一般論でこのお
話をしていらっしゃるところに、私は、この問題の深刻な取り組みなり
事態の受けとめ方がやっぱり弱いんじゃないかと非常に心配をしており
ます。
もう時間がございませんので、次にお尋ねいたしますけれども、それ
では、この日韓条約の請求権協定ですね、そういう中でこの従軍慰安婦
の補償問題というのはもうすべて解決されていたものなのか、どうなん
でしょうか。
○政府委員(柳井俊二君) お答え申し上げます。
結論的に申し上げますと、この昭和四十年の日韓請求権・経済協力協
定のもとで、御承知のとおり、日韓両国間の請求権の問題は完全かつ最
終的に解決したということが、この協定の第二条第一項に結論的に書か
れているわけでございます。詳細につきましては、御承知のことと存じ
ますが、この協定のもとで一方においては経済協力を行い、これと並行
して請求権の問題は一切解決したということになったわけでございます
。
その方法につきましては、必要あればまた詳しく御説明したいと思い
ます。
○清水澄子君 非常に矛盾だと思います。つい最近まではそういう事実
はなかったとおっしゃっておられて、どうして一九六五年にこの問題は
終わっていたのでしょうか。その関係をお話しください。
○政府委員(柳井俊二君) ただいま、最近までそういう事実はなかっ
たとおっしゃいましたことの意味を私は必ずしも十分に理解いたしませ
んでしたけれども、いずれにいたしましても、この請求権の問題は当時
の日韓間の長い交渉の中でいろいろ討議をされまして、当初は一件一件
の請求の事実を積み上げてそれを検討して、それに補償をするというよ
うな方法がとれないものかということで議論があったわけでございます
。
しかし、当時、もう既に戦後相当の時日を経ておりますし、またさら
には朝鮮動乱という大変大きな事件が介在いたしましたために、その裏
づけになる資料、事実関係等が明らかでたかった。また、双方の法律的
な考え方につきましても非常に大きな懸隔があったということで、結論
的には、一方において経済協力を行い、一方においてはこの請求権の問
題は一括解決するということでこの協定ができたわけでございます。
したがいまして、私どもが今までいろいろな機会に御説明申し上げて
おりますことと先ほど申し上げたこととの間に別に矛盾はないと思いま
す。
○清水澄子君 矛盾があります。矛盾がなければもう何にもしなくてい
いわけなんですね、法的にもすべてそれが完結しているならば。そうじ
ゃないんだと思います。
次に、じゃ、日韓条約のこの請求権協定の中から外れているものは何
なんですか。
○政府委員(柳井俊二君) 結論から申し上げれば、外れているものは
ございません。日韓両国間におきましては、請求権の問題はこの協定を
もって最終かつ完全に解決したということでございます。
○清水澄子君 では、北朝鮮の人たちは外れて、この中に含まれないの
ですね。そして、サハリン残留の韓国人の財産とか請求権補償、在日の
人たちもみんなこれは含まれていないということですか。
○政府委員(柳井俊二君) 先ほど申し上げましたことは日韓両国間に
おいては外れているものはないということでございまして、北朝鮮との
関係におきましては、まさに現在国交正常化の中でこういう問題を含め
て協議を行っているということでございます。
なお、サハリンの関係につきましては、この日韓の協定は韓国人とい
う、すなわち韓国の国籍ということで個人の方々をとらえておりますの
で、もしサハリンに韓国籍の方がおられれば、それはこの協定の対象に
なるということでございます。ただ、私の承知している限り、サハリン
におられる半島系の方々は、恐らく大部分は北朝鮮の国籍をお持ちであ
るか、あるいはソ連、現在はロシアでございますが、の国籍をお取りに
なったか、あるいは無国籍の方もあるというふうに聞いております。
○清水澄子君 それでは、しかし、日韓条約のこの協定第二条一項でい
う財産、請求権というのは、そしてこれが完全に解決されたとおっしゃ
っているのは、これはいつもおっしゃるように日韓両国の外交保護権の
問題であって、両国民の個人が持っている権利というものはいかなる理
由があろうとも国家が消滅させることはできないということは、これは
確認ができると思いますが、いかがですか。
○政府委員(柳井俊二君) ただいま御指摘の問題につきましては、以
前にも先生にお答え申し上げたことがございますが、ただいまおっしゃ
いましたとおり、いわゆる請求権放棄というものは、条約上の問題につ
いて申し上げますれば、まさに御指摘のとおり、外交保護権を放棄した
ということでございまして、この条約をもって個人の権利を国内法的な
意味で直接消滅させたというものではないわけでございます。
ただ、若干補足させていただきますと、この請求権・経済協力協定の
第二条の三項に具体的な請求権処理の規定があるわけでございますが、
ここでは一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益」、その後は
ちょっと長くなりますから飛ばしますが、「に対する措置並びに一方の
締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求
権」については「いかたる主張もすることができない」という形でいわ
ゆる外交保護権の放棄というものをやっているわけでございます。国に
ついては自分の権利を放棄するということでございます。そこで、ここ
で「財産、権利及び利益」と言っておりますのは、この合意議事録の方
で確認しておりますように、「「財産、権利及び利益」とは、法律上の
根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいう
」というふうに決められているわけでございます。
したがいまして、いわゆる従軍慰安婦の請求の問題というのはこのよ
うな実体的な権利というものではないわけでございますが、法律上の根
拠のある財産的な、実体的な権利というものにつきましては、我が国に
おいては、昭和四十年当時国内法を制定いたしまして、韓国の方々のこ
のような実体的な権利についてはこれを消滅させたという経過があるわ
けでございます。
第123回国会 決算委員会 第2号 平成四年三月二十五日(水曜日)午前
十時開議
委員 志賀 一夫
外務省アジア局
北東アジア課長 武藤 正敏
○志賀(一)委員 ぜひそれを解明していただくように、特に要求をし
ておきたいと思います。
次に、日本と韓国の当面の関係でも、戦後処理がされてないために大
変訴訟が多い。二、三を申し上げますと、元BC級戦犯の朝鮮人軍属と
遺族七名が平成三年十一月十二日に東京地裁、それから軍人軍属の遺族
七名、徴用された労働者の遺族六名、軍属一名の計十四名が平成三年十
二月十二日に東京地裁に提訴、韓国戦争犠牲者千百名が平成四年二月十
七日に対日補償を求めて訴訟というふうに、そのほかにも幾つかありま
すが、たくさんの方々が戦後補償を求めて裁判に提訴しているという事
態を考えますと、日韓協定で五億ドルの賠償、補償ですべて相済みだと
いう政府の一方的理解では日韓関係の正常化を期待することはできない
のではないか、この辺に対する見解をお聞きしたいと思います。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
政府といたしましては、朝鮮半島全域のすべての方々に対しまして、
過去の一時期、我が国の行為により耐えがたい苦しみと悲しみを体験さ
れたことにつきまして、深い反省と遺憾の意を累次の機会に表明してき
たところでございます。
日韓間におきましては、六五年の日韓請求権・経済協力協定によりま
して、御指摘の補償の問題を含めまして日韓両国及び両国民間の財産請
求権の問題は完全かつ最終的に解決済みということでございます。また
、これと並行いたしまして五億ドルの経済協力を実施してきたところで
ございます。
日朝間の財産請求権の問題につきましては、現在日朝国交正常化交渉
が行われておりますので、この場におきましてさらに話し合っていきた
いと考えております。
○志賀(一)委員 日朝関係の今後の話し合いで進めるというお話であ
りますが、こういう相次ぐ訴訟がなされた場合に、どういう方針で政府
としては対処されようとしているのですか、お伺いしたいと思います。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
私どもといたしましては、訴訟の行方を見守っていきたいと考えてお
ります。
○志賀(一)委員 結局、訴訟だけで相済むもので。はなくて、やはり
今後の日韓の間のこの問題についての話し合いが、国と国との間の話し
合いというものが極めて私は重要になっているのではないかというふう
に思います。
特に最近、韓国では政府側が、六五年日韓条約締結当時と違って新し
い事実が相次いで明らかになっておって、その当時の状況とは変わった
認識に立っているということでの、後から申し上げますが、元従軍慰安
婦の徹底究明と補償要求を政府に対してしている事実があります。これ
についてはどう思いますか。
○武藤説明員 日韓の財産請求権の問題につきましては、完全かつ最終
的に解決済みという立場でございます。
○志賀(一)委員 今、解決済みだ、こういうようなお話でありますけ
れども、しかし、国と国との間の賠償については解決済みだということ
で、国際ルールからいえば必ずしも個人の補償はされていない、賠償と
補償は違う、こういう見解も当然国際ルール上あるわけでありますから
、単に一方的なそれだけの理由では朝鮮のみなさんが納得できないので
はないでしょうか。今後もこれらの問題は、韓国ばかりではなくて、北
朝鮮からも恐らく相次いで出てくるだろうと思うにつけても、それだけ
の解釈で通すことができると思いますか。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
これは何度もこれまで答弁申し上げているとおりでございまして、私
どもといたしましては、過去の一時期我が国の行為によって耐えがたい
苦しみと悲しみを体験されたことについて深い反省と遺憾の意を累次の
機会に表明してきたわけでございますけれども、財産請求権の問題につ
きましては、完全かつ最終的に解決済みということで御説明申し上げて
いるところでございます。
○志賀(一)委員 次に、今の問題は一応おきまして御質問いたしたい
と思いますが、昨年の十二月六日、元従軍慰安婦ら三十五名が約七億円
の補償要求を東京地裁に提訴、こういう問題が明らかになった段階で、
宮澤総理が訪韓した際に、一月十七日、韓国大統領からしかるべき措置
を要求されて、総理は韓国民に対し謝罪し、慰安婦問題についての調査
を継続して行う旨約束をいたしたことがありますが、その後の経過につ
いてお聞きをいたしたいと思います。
さらにまた、今回従軍慰安婦にかかわる関係資料が防衛庁の図書館か
ら見つかったことや、あるいはアメリカの大学教授が保管をしておった
資料でもこの問題に対する国としてのかかわりは明らかになっているわ
けでありますが、これら慰安婦に対して国としての補償をするというこ
とは当然のことだ、そういうふうに思いますけれども、お答えをいただ
きたいと思います。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
従軍慰安婦の問題につきましては、宮澤総理が先般韓国を訪問されま
した際に、衷心よりおわびと反省の気持ちを申し上げますとともに、日
本政府が関与していたか否かにつきまして誠心誠意調査を行いますとい
うことを申し上げたわけでございます。現在この調査を外政審議室を中
心といたしまして行っているところでございます。
先ほどからも御答弁申し上げておりますとおり、日韓の財産請求権の
問題というのは完全かつ最終的に解決済みということでございまして、
六五年当時予想できなかったことについてもこの協定により解決済みと
いう考え方でございます。
第123回国会 衆議院法務委員会 第4号 平成四年三月二十七日(金曜日
)
委員 高沢 寅男
北東アジア課長 武藤 正敏
法務省民事局長 清水 湛
賃金時間部企画室長 朝原 幸久
○高沢委員 そういう問題の一つとして従軍慰安婦の問題がありますね
。このことで、宮澤総理が韓国を訪問されて非常にそういうことについ
ての陳謝をされた、謝られた。謝られたけれども、そのことに対する償
いをこうするという具体的な問題の出し方は宮澤総理はなかったわけで
すから、今度は韓国の政府側から、政府ですよ、韓国の政府側から日本
に対してこの問題はやはり何とかしてもらわなきゃいかぬというような
ことも出ているということ、これは大臣も御承知かと思いますが、この
韓国のそういう動きについて、これは今度は外務省がおられますね、外
務省として韓国が本当に外交ルートで日本政府に対してそういう賠償を
求めてくるところまでいくのかどうか、あるいは今のところはそこまで
いかないが、韓国政府として強く日本に対しておれたちにはそういう権
利があるぞということを言っておられるのかどうか、その辺の状況判断
はどうですか。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
本年一月に宮澤総理大臣が訪韓されましたとき、二回首脳会談を行い
ましたけれども、第二回の日韓首脳会談におきまして盧泰愚大統領は、
いわゆる従軍慰安婦問題につきまして真相究明に引き続き取り組んでい
きたい、その上でしかるべき措置をお願いしたい旨発言されました。現
在の韓一国政府の公式見解は、大統領が言われたとおりであるというふ
うに私ども承知しております。
なお、つけ加えて申し上げますと、これに引き続きます首脳会談の直
後に行われました両首脳による共同記者会見におきましても、大統領か
ら、私は挺身隊など過去の問題に対し日本政府がより積極的に真相を究
明し、その結果に従って相当の措置を誠実に行うよう要請しましたとい
った発言がございました。
○高沢委員 今の武藤北東アジア課長の御説明の中に、盧泰愚大統領が
ちゃんとした調査をしてくれ、その調査に基づいて言うならばしかるべ
き措置を、こう言われたら、そのしかるべき措置という言葉の意味が、
これはまあ相手のことですからあなたから今確定的に言えといっても無
理でしょうが、しかしこれは極端に言えば、日本政府と韓国政府との間
におけるまた何かの賠償要求というような形になり得る可能性があると
いう性格のものなのかどうか、その辺の判断はどうでしょうか。
○武藤説明員 盧泰愚大統領がしかるべき措置と言われた内容について
、私ども推測する立場にはございませんけれども、いずれにいたしまし
ても法的には、先ほど先生もおっしゃいましたとおり日韓間では六五年
の日韓請求権経済協力協定によりまして、御指摘の問題も含めまして日
韓両国及び日韓両国民間の財産請求権の問題は、政府間の問題としては
完全かつ最終的に決着済みということでございます。
○高沢委員 今のお話では十年たてばそういう文書は整理していいとい
うふうな立場でのお答えがあったわけですが、それに関連しますけれど
も、今度は、昭和三十三年にこれは法務省の民事局長の心得通達という
ものが出ておりまして、こういう朝鮮人労働者に対する未払い賃金等の
供託書類、これが十年の時効の過ぎた後もその金を国庫へ納付するとか
あるいはその書類を整理してしまうとかいうふうなことはしてはいけま
せん、こういう当時の法務省の民事局長心得通達というのが出ているわ
けでありますが、これはどういう目的、どういうねらいでこういう通達
を出されたのか、それをお聞きします。
○清水(湛)政府委員 当時の朝鮮人労務者の未払い賃金の供託という
のは、一般の、例えば現在の会社の社員の賃金の供託と同じような弁済
供託という形でされるわけでございます。このような供託金につきまし
ては、民法の規定によりまして、供託のときから十年たちますと、十年
間供託金の還付請求がありませんと、時効によって消滅をする、これは
民法の規定によって消滅するという解釈がされているわけでございまし
て、この解釈は現在も変わってないわけでございます。
ところが、そういうことになりますと、この問題の供託というのは十
年たちますとすべて国庫に入れるということができるわけでございます
。しかしながら、昭和二十七年に平和条約というものが締結されまして
、その平和条約の四条だと思いますけれども、その四条の中で、朝鮮と
かそういう関係者の関係の請求権については特別に取り決めをする、そ
れによって処理をするということにされたわけでございます。そういた
しますと、十年たてば、例えば会計法の債権ですと五年たちますと当然
絶対的に消滅しますけれども、民法の規定による時効消滅でございます
ので、時効で消滅させるためには、日本政府の方でこれは時効によって
消滅したということを援用するという行為がありませんと時効によって
消滅するということにはならないわけでございまして、そういうような
平和条約の関係がございましたので、援用するかどうかということを暫
時留保するということで、とりあえず十年間によって、時効によって消
滅したという見解はもう変える余地はないけれども、これを援用して歳
入納付をするかどうかということについては請求権についての特別取り
決めが確定するまで待とうということで、当時この通達が出されたとい
うふうに私どもは理解しているわけでございます。
○高沢委員 今の清水局長の御説明でありますが、これは対日平和条約
の第四条の中の条項をもとにして御説明になったと思います。そうする
と、つまりこの平和条約第四条は、例えば韓国の人が日本に対して持っ
ている請求権、そういうものを処理するには、相手の韓国と日本との二
国間の協定に基づいて処理しなさいというようなことがこの平和条約の
第四条にあるわけですね。だから、中国人が日本に対して持っている請
求権処理は日中の条約の中で処理する、韓国の人は日韓の条約で処理す
る、こういうようなことになるわけだと思います。そして、その後、現
実に昭和四十年に日韓条約が結ばれて、請求権の協定もできた、となれ
ば、今やもうこの時効になった供託の関係はもはや国庫納付していいと
いう条件が整った、こういうふうに見てもいいわけでしょうか。この辺
、どうでしょう。
○清水(湛)政府委員 御指摘のように、昭和四十年の日韓請求権協定
によりまして、韓国民の日本国に対する請求権、これは供託金の還付請
求権は日本国に対する請求権になるわけでございますけれども、これは
放棄されたわけでございます。そして、さらにそういう請求権協定を踏
まえまして、協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置
に関する法律という法律までつくられまして、そういう韓国民の還付請
求権はもうないということが国内法においても明定されたという経緯が
あるわけでございます。
ただ、そこで私ども一つ問題になると考えますのは、韓国との間には
このようなことでございますから韓国民が請求権を行使することはあり
得ないわけでございますけれども、北朝鮮との関係においてどうなるか
という問題が残されておる。このことは必ずしも定かではございません
けれども、そういう問題があるのではないかということと、それから被
供託者として掲げられておられる方が韓国の方なのか北朝鮮の方なのか
、もし韓国、北朝鮮ということを区別するということになりますと、果
たしてその方は韓国の方なのか、いわゆる北朝鮮の方なのかということ
については判別資料は何もございませんので、現在のところそのまま供
託を持続させるという措置と申しますか、特段の措置をとらないという
ことにいたしておるというのが現状でございます。
○高沢委員 今のお答えに関連して幾つかお聞きしたいのですが、一つ
は北朝鮮の関係ですね。今、現に日朝の国交の交渉が行われているわけ
でありまして、したがってあの交渉の中で、私はいずれ妥結すると思い
ますが、その妥結に至る過程で北朝鮮側からこういう請求権は一体どう
するんだということは、必ず今度は日本政府に対して、日本の代表団に
対してそういう問題の提起が出てくるのじゃないかという感じがします
、これは外務省にお聞きしますけれども。日本と北朝鮮の交渉の中で、
今のところはまだそういう問題は出ていないということですか、もう出
ているのですか、どうでしょうか。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
日朝国交正常化交渉におきまして、経済的な問題につきましては現在
北朝鮮側と話し合っているところでございますけれども、現在までのと
ころ先生御指摘のような点についてまで議論は至っていないということ
でございます。
○高沢委員 私の理解するところでは、北朝鮮側は、戦争終了まで日本
が朝鮮を植民地として支配していたそのころに対する賠償、それから今
度は第二次大戦後今日までのいろいろの日本と北朝鮮との関係に伴う償
いというような両面の立場の主張が北朝鮮側はある、こう私は承知して
いるわけでありますが、この問題も戦争が終了するまでの間のことにも
関連するわけですね。今までのところはまだ具体的に北朝鮮側から出て
いないというふうにさっきは言われましたけれども、これから出る可能
性は、武藤課長、どう考えますか。
○武藤説明員 北朝鮮との国交正常化交渉におきまして経済的諸問題の
交渉の状況でございますけれども、現状は、日本側から、これは財産、
請求権として処理すべき問題であるということを御説明いたしまして、
こういった形で処理するためにはどういった事実について請求するのか
、その根拠となるものは何か、法律的な根拠は何かということを示して
いただきたいということをお願いしているところでございます。現在ま
でのところ、私どもこういった点について十分御説明いただいていない
わけでございますので、それ以上の問題についてまだなかなか今突っ込
んで議論できないという状況でございます。
○高沢委員 では、この問題は今後の問題ということでわかりました。
武藤課長、今度は、日韓の請求権協定によって、供託されたものの請
求権ということもこれでもうなしにした、こういう清水局長の先ほどの
御説明ですが、しかしこの日韓請求権協定のときにこれらの問題に触れ
て、例えば徴用された朝鮮人労働者の未払い賃金はどうだとか、それは
もうなしにしましょうとか、日韓協定のときにその種のことに触れた話
し合いがあって、それでもうなしというふうな合意になったのかどうか
、これはどうですか。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
韓国人労働者に対する未払い賃金の問題を含めまして日韓間の財産、
請求権の問題は、六五年の日韓請求権経済協力協定により完全かつ最終
的に解決済みということでございます。韓国側から対日請求要綱、いわ
ゆる八項目と言われるものでございますけれども、これが出されており
まして、完全かつ最終的に解決済みの内容でございますけれども、この
八項目に含まれるもの、また含まれないもの、すべて解決済みというこ
とでございます。
なお、被徴用者韓国人未収金の問題につきましては、対日請求要綱八
項目の中の第五項に含まれておりまして、そういった見地からもこれで
解決されているということは明らかだろうと思います。
○高沢委員 先ほどの清水局長の御説明の中で、この人は韓国なのかあ
るいはこの人は北朝鮮なのかという識別が非常に複雑で難しい。確かに
、日本にいる在日の人たちの中でも朝鮮という国籍を持っている人もい
る、韓国の国籍を持っている人もいる。だけれども、朝鮮という国籍を
持っている人も、よく聞いてみると出身は南朝鮮だという人が非常に多
いという状況の中で、そういう関係者の朝鮮人、韓国人、こちらは韓国
だ、こちらは朝鮮だという識別は現実には非常に難しい、私はこんなふ
うに思います。そういう難しいということを考慮してこの供託問題の処
理はなおそのままにして保留しているとさっき局長のお話がありました
が、そういうふうに理解していいですか。もう一度御説明願います。
○清水(湛)政府委員 昭和四十年の日韓請求権協定というのが、要す
るに現在の韓国だけの範囲に限定された協定であるということになりま
すと、朝鮮半島のその余の分の問題は積み残されることになるのではな
いか、こういう問題意識から私ども残しているわけでございますけれど
も、実際問題といたしましても、先生先ほど御指摘のようにどちらかわ
からない、私ども調べたわけではございませんけれども、一、二当たっ
てみますとそれはわからないというのは正直言ってそのとおりでござい
ますので、現在のところはそのままにせざるを得ないと考えているわけ
でございます。
○高沢委員 その点はよくわかりました。もっとも、この点はまた後で
ちょっと触れることになりますが、一応次に進みます。
それで次に、一九九〇年に韓国政府から要請があって、日本政府は強
制連行されてきた朝鮮人の名簿の調査をする、そのことを一昨年の五月
二十九日の閣議で決定をされた。そして、その調査の作業に取り組みを
されて今日に至っておる。その調査の中心のあれは労働省がおやりにな
るということも申し合わせされている、こう聞いているわけですが、労
働省、その復そういう強制連行の人たちの調査で今までにどの程度のこ
とがわかったのか。向こうの要請で始めたわけですから、それを韓国の
政府に報告するというか通告するというか、そういうことも当然必要に
なるかと思いますが、そういうふうなことは今までにどういうふうにさ
れてきたのか、現状を説明してください。
○朝原説明員 いわゆる朝鮮人徴用者にかかわる名簿の調査ということ
でございまして、これにつきまして労働省といたしましても調査してい
ったわけでございます。調査範囲としましては、都道府県あるいは公共
職業安定所等を中心にやっていったわけでございます。ただ、これに基
づきましての調査の結果自体は、私どもの職業安定局の方でやっており
まして、今ちょっと手元に資料を持ち合わせてございませんので、その
ことにつきましては今はお答えは控えさせていただきたいと思います。
○高沢委員 では、今言われた、ここでは説明できないという資料は、
また別途私の方へ説明をお願いしたいと思います。
ただ、ある程度まとまったものを韓国政府に対して、このくらいあり
ましたよということを報告というか通告をされたやに聞いておりますが
、その辺はどうですか。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
一昨年五月の盧泰愚大統領訪日時の日韓外相会談におきまして、韓国
側より、終戦前に徴用された方の名簿の入手について協力要請がござい
まして、これに日本政府として協力をすることを受けまして、労働省が
中心となって調査を行ったわけでございます。その結果、昨年三月、調
査によって存在が確認されました九万八百余名分の名簿を韓国側に引き
渡しました。
○高沢委員 戦争中に日本へ連れてこられた朝鮮人の数は百何十万とい
うふうに伝えられているわけですが、今のお話ではその中でとりあえず
九万という報告ですけれども、これはまだまだですね。これからそうい
う調査を当然続けて、より多くこの名簿を見つけていかなければいかぬ
ということだと思いますが、今後さらに進めて調べていくというのは労
働省が中心でしょうから、これからのやり方はどんなふうにやっていく
というふうなプランを持っておられるか、お考えを持っておられるか、
労働省の立場をお聞きしたいと思います。
○朝原説明員 先ほど外務省の方がおっしゃられたように九万人という
ような調査結果が出ておりますけれども、引き続きまして労働省といた
しましてはその調査を続けていくということで考えております。まだそ
の結果等についてはまとまった数字はありませんが、今現在もそういう
ふうな調査は引き続き行っているということでございます。
○高沢委員 先ほど私は、昭和二十一年に当時の厚生省の労政局長から
出された通達の中で三部の報告を二部は本省に置きなさい、一部は都道
府県の県庁に置きなさいと言っているけれどもそれは今どうなっている
んだと聞いたら、一切ない、そういうものは今一つも見つからないとい
うような報告であったわけですが、こういうものがあれば、その中に供
託をして、相手の朝鮮の人、当時は朝鮮の人もみんな日本名を名のって
いることが多かったからそうでしょうけれども、それにしても、だれだ
れ、だれだれ、だれだれ、それは幾ら、幾ら、幾らというものがあれば
ちゃんと資料が発見されるということになったと私は思います。そうい
うものが一つもなかった。しかし、これからさらに調査を進めますとい
うことになりますと、どういうところへ、どういう方法で調査をされる
お考えか、これを説明してください。なるほど、そういうやり方ならあ
る程度見つかるだろうとわかるような説明を願いたいと思います。
○朝原説明員 先生の御質問でございますけれども、我々としてもどこ
にあるかということがわかっていれば非常にわかりやすいのですけれど
も、実際どこにあるかということがわからない中で調査するということ
でございまして、非常に難しい状況にありまして、先ほど言いましたよ
うに、今までのところは九万人ほどについて判明したという状況なわけ
でございます。そういう状況ではございますけれども、これぞというこ
とはなかなか言えませんけれども、地道に我々といたしましても、この
問題につきます国民世論等の高まりあるいは関心の高まり等の中で、こ
ういう強制的に連れてこられた労働者の名簿等についてさらに新たな発
見が出てくるのではないかと考えておるところでございます。
○高沢委員 私が労働省に教えてあげると言っては大変失礼かもしれま
せんが、こういう方法はどうなんですか。戦争中に朝鮮人徴用工を使っ
ていた会社、企業はどれとどれとどれか、これは恐らくわかるでしょう
から、そういうところが名簿を持っているとすれば、持っているはずな
んであって、そういうところに照会されて、戦争中の朝鮮人の労務者を
使った名簿を出しなさい、資料を出しなさいということはできるのじゃ
ないですか。
それからもう一つは、日本でもそういう問題に非常に熱心に取り組ん
でいる個人や団体がありまして、そういう人たちがどことこへ行ってこ
ういう資料を見つけた、どこどこを探したらこういう名簿が見つかった
というような形で随分、言うならばボランティアの形で、あるいは別な
言葉でNGOと言っていいのかな、そういう運動をしている人が非常に
たくさんありますね。労働省はそういう人たちに協力を求めて、教えて
くれ、資料を提供してほしいというような形で求めるのも一つの方法じ
ゃないですか。どうですか。
○朝原説明員 関係のありそうな企業については前回の調査でもいろい
ろお聞きしたところでございます。今先生がおっしゃられたそういうふ
うな団体等を通じてのいろいろな情報提供がありましたら、我々として
は十分そういうものを受けてさらにその実態について明らかにしていき
たいと思っております。
○高沢委員 もう一つの方法は、さっき清水局長から、朝鮮、韓国のい
ろいろな状況を考慮して、既に十年の時効が済んだ、本来ならば国庫へ
納付すべき供託についてもそういう措置はとらないでなお留保している
というお話がありましたが、そういたしますと、供託を受けた全国の法
務局を調査されて、法務局がなおそういう資料を持っている、その法務
局の持っている資料を収集されることも最も有力な調査の方法としてあ
るのじゃないかと私は思いますが、これは労働省、法務省が協力されれ
ばそういうものが出てくるのじゃないですか。どうでしょう。
○清水(湛)政府委員 これは先ほど来答弁しておりますように、普通
の弁済供託という形でされたものでございまして、現実には年間六十万
件の供託があり六十万件の還付がある、常時数百万の供託案件がある、
こういうことになっているわけでございます。そういう状況の中で具体
的にその一々をチェックするということは非常に難しい問題があります
とともに、もう一つは、これはいささか形式論かもしれませんけれども
、供託書というのは利害関係人、つまりその供託金還付請求権を差し押
さえようとする者とか、供託金について相続人として還付を受けようと
する者とか、いわば銀行預金と同じような性格を持つものでございます
ので、そういう法律的な意味での利害関係を有する者にしか見せられな
いというようなことになっているわけでございまして、供託関係を通じ
て調査をするということは非常に難しいことではないかと私どもは今の
ところ考えているわけでございます。
○高沢委員 清水局長の答弁ですが、これはちょっといただけない。大
体この種の供託は、昭和二十一年、二十二年、二十三年、あのころのタ
イミングで供託されているわけです。ですから、そういう年に限って供
託された件数を調べるということはそんなに困難なことじゃないと思う
し、その供託がいずれもだれに幾ら、だれに幾らというような関係がち
ゃんと中身もある供託として出されているわけですから、それを調べる
ということをやれば、少なくも法務局で、もうそんな資料はありません
と言う法務局ならいざ知らず、法務局によってちゃんとありますと言う
法務局があるわけですから、そういうところを調べることは十分可能で
あると私は思います。
それから、今個人関係、権利関係に絡むからとおっしゃるけれども、
この場合は国がやる調査ですから、政府がやる調査ですから、したがっ
て政府の機関である法務省法務局にそういう資料の提供を求める。この
場合には供託をした企業と相手の朝鮮人、韓国人との権利関係というこ
とになるわけですから、そこへだれか第三者がしゃしゃり込んできてそ
の権利をとってしまうというようなこともあり得ないケースですから、
これはそこをちゃんと調査されるのが一番確実な道じゃないかと思うの
ですが、どうでしょう。
○清水(湛)政府委員 私ども一、二そういう例をたまたまわかってい
るものについて見たこともあるわけでございますけれども、日本名のも
のもかなりたくさんございますし、果たして正確な事実をそれによって
掌握することができるのかどうか。それから、私ども聞くところにより
ますと、供託後に未払い賃金、当時の供託額は一人について数十円とい
うような供託金額でございますけれども、これの還付を受けた方もかな
りおられるということでございまして、そういうものが果たして正確な
数字をあらわし得るものであるかどうかということについてもやはり問
題があるのではないか。そういうようなことを考えますと、先生の御指
摘ですから研究はいたしますけれども、なかなか難しい話ではないのか
なというふうに思っておる次第でございます。
○高沢委員 次へ進まなければいけませんが、じゃ、もう一回だけ言っ
ておきます。
朝鮮の人で日本名を名のった人は、例えば金さんは金山さんとか金本
さんとか、朴さんは新井さんとか大体決まった名前の名のり方をしてい
るケースが多いのですよ、そうでない人もあるかもしれませんが。です
から、名前が日本名だから判別はできないということだけではこれは通
らないことなのであって、そしてその当時に供託されたものと見れば、
大体中身は朝鮮人の労働者対象の供託なのですから、大体これは皆朝鮮
の人、韓国の人、こういうふうに見て私は間違いないと思っております
。そういう意味で、既に還付されたものがあったとしてもそれならその
還付された人の名前がわかるわけだし、まだ還付してないものはしてな
いものでその名前や金額があるわけですから、それを調べるということ
はぜひひとつやってもらいたい、やるべきだ、こういうことを要望とし
て申し上げます。
次へ進みますが、きょう本来お尋ねしたかったことは、これに関連し
て三菱重工の長崎造船所で働いていた金さんという韓国の人、この人か
ら実はこの供託に関連し三菱重工に対して自分の未払い賃金の請求が出
されているということに関連して、あとお尋ねをしたいと思います。
この金さんという方は、金順吉、韓国読みにすればキム・スンギルと
いう人だそうですが、この人が徴用工として昭和二十年の一月から八月
まで長崎の造船所で働いた。そして、長崎に原爆が落とされて、この人
のいた場所は爆心地から遠かったから幸い重大な障害は受けなくて、そ
してもうおれは帰ろうということで韓国へ帰ったそうです。
この人が昨年の夏長崎へやってきて、三菱重工に対して、私の未払い
賃金があるわけだがそれをひとつ払ってくれというふうに申し込んでき
た。それに対して三菱重工長崎造船所では、それはあなたの分も含めて
そういう朝鮮の人のものは全部昭和二十三年に供託しました、供託した
からもう我が社としては関係ないのだ、この件は済んでいるのだ、こう
いうふうに会社は答えるというやりとりから事が始まったわけですが、
この金さんは韓国の釜山にいる人だそうです。したがって、しょっちゅ
う日本に来るわけにいかないから、それで長崎造船所の労働組合にこの
交渉の権利を委任したということでもって、後この労働組合がいろいろ
会社側あるいは法務局あるいは県庁とやっておるということであります
。
供託したということに対してそれを確認しなければいかぬというの
で、造船の労働組合が昭和二十一年通達では各地方長官のところへ一部
残すということになっているから、そういう供託の資料がありますかと
言って県庁へ行ったら、もう県庁にはありません。それから、法務局へ
行ったら、長崎の法務局では、そういう資料はないという言い方あるい
は見せられないという言い方あるいは既にそういう資料を廃棄したとい
う言い方、何かいろいろの言い方で答えているらしい。要するに、ない
というふうに長崎の法務局では言っているということであります。それ
から、会社側もその供託の件を法務局へ聞きに行ったが、法務局ではそ
の供託の番号、ナンバーを言わなければ何も見せられないと答えられた
というのですね。
そこで、まことに奇怪なことでありますが、三菱重工長崎造船所が本
当に供託したとすれば、その供託書の正本は長崎造船所の会社が持って
おるわけです。それで、法務局にはその副本があるわけですね。したが
って、副本のあるなしは別として、まず本来持っているべき第一義的責
任者である長崎造船所がその大事な正本の供託の書類がない、こういう
状況にあるわけですが、これは三菱ほどの、三菱ともあろうものがそう
いう大事な書類が今ないというふうなことを、ああそうですか、ないで
すかということでは到底済まないことだと私は思うのですが、この辺は
法務省にお聞きしたらいいのか、やはり法務省でしょうな。今ないとい
うこのことを一体どう考えたらいいのか、お聞きしたいと思います。
○清水(湛)政府委員 御指摘のように、長崎の法務局に金順吉さんと
いう方の供託があるかどうかというお尋ねがあったということでござい
ます。そこで、現地の法務局でいろいろ調査をしてみたわけでございま
すが、金順吉さんを被供託者とする供託書副本は発見することができな
かった、見当たらなかったというふうに私どもは報告を受けているわけ
でございます。
もし、本当に三菱重工長崎造船所が供託をしているということであれ
ば、先生御指摘のように供託書正本はそちらにあるはずだということに
なるわけでございますけれども、これは三菱重工株式会社の内部の問題
でございますので私どもとしてはどういうことなのかちょっとわかりま
せんけれども、果たして供託がされたのかどうか、私どもの方からいた
しますと、供託書副本がございませんのでこの点についてはないという
事実だけをお答えすることしかできない、こういうのが現在の実情でご
ざいます。
○高沢委員 これは、同じ三菱で広島にも造船所があるのですね。それ
で、広島の三菱の造船所は同じ時期に同じように朝鮮人の労働者の未払
い賃金などを広島の法務局へ供託したというわけですが、広島でそうい
う供託の資料があるかどうか、この間、事前のあれでは法務省からはそ
れはあるというお答えでありましたが、もう一度ここで広島の状況を御
説明ください。
○清水(湛)政府委員 広島法務局には三菱重工新式会社がした供託が
ございます。たしかこれは昭和四十九年でございますか、三菱重工広島
造船所自身が、これは御本人は供託者でございますので当然そういう供
託関係の書類を閲覧することができるわけでございますが、閲覧をした
という事実がございます。
○高沢委員 同じ三菱で広島はある、長崎はない。このことを考えると
きに、一つの私の仮定の考えですが、そもそも供託したと言っているけ
れども、しなかったのではないのか。しなかったのならあるはずがない
。そして、しなかったのにしたと言っているのではないのか、こんなこ
とが一つのケースとして考えられる。
それから第二のケースは、供託はしたけれども、何らかの理由で長崎
の法務局が供託の金を国庫へ納入してしまったのか、それに関連して供
託の書類を廃棄してしまったのかというふうなことで今長崎法務局にあ
りません、こうなっているのかどうかですね。
それから第三は、十年の時効になる前に三菱が長崎の法務局へ一たん
供託したのを、あれはもうやめた、返してくれ、取り下げというのか取
り戻しというのか、そういうふうなことをやったのか、それで法務局に
は今は何もないということになっているのかな。こんなふうに、一のケ
ース、二のケース、三のケースでそれを考えてみたわけですが、私は素
人ですが、そういうケースの考え方はどうかな。法務省は専門家として
どうお考えですか。
○清水(湛)政府委員 これは本当に仮定の事実で、理論的な可能性と
してお答えするしかないというふうに思うのでございますけれども、供
託がなければ供託書副本がないのはこれは当たり前ということになろう
かと思います。あるいは、供託はあったけれども、法務局の方でこれは
時効だということで処理をしてしまったということも、それは全くあり
得ないことではないのかなというような感じは、それはしないわけでは
ございません。しかし、これはまことに古い話でございまして、現在の
長崎の地方法務局の責任者としては、関係書類を調査したところ見当た
らない、これだけが責任を持って言える事実であるということでござい
ますので、その事実を超えていろいろ想像を交えて申し上げることは、
ちょっと現段階においては差し控えさしていただきたいというふうに私
ども思う次第でございます。
○高沢委員 それじゃ、先ほど三菱は広島ではちゃんとやって広島には
資料があるということが確認されました。
ではもう一つ。同じ長崎で戦争中に朝鮮人の労働者を使っていたとい
う企業はほかにあるわけですね。川南造船とかあるいは高島炭鉱とか、
そういうものが長崎にあるわけだから、そういう企業、会社は朝鮮人労
働者の未払い賃金のそういう供託をしているかどうか。その資料は今で
も長崎法務局にあるのかどうか。私は、これは一回法務省で、今ここで
お答えをもらえれば一番いいんだけれども、もしそうでなければまた改
めて調べてお答えをいただきたいと思うんです。もし、そういうところ
はちゃんとしている、しかし三菱はしていないということになると、ど
うも初めからしなかったんじゃないかというふうな感じにもなるわけで
すが、この辺のところはどうでしょうか。
○清水(湛)政府委員 私ども、三菱重工以外にどういう会社が供託を
したかということについては現在資料を持ち合わせておりませんので、
答弁は現段階ではちょっと留保させていただきたいと思います。
○高沢委員 それは結構です。今ここでの質問ですから、後で調べてい
ただいて、そのことのわかった結果をまた教えていただきたい、連絡し
ていただきたい、こう思います。
それで、そうなってまいりますと、供託をしたかしないかは一応別と
して、請求権者である金順吉さんからすれば、自分の受け取るべき権利
のあるそういう請求権はあるんだ、だけれどもとにかく今まで受け取っ
ていないというふうになりますと、これをとにかく私はもらいたい、請
求するというときに、請求の相手はその供託を受けた国であるのか供託
をすべきであった三菱重工であるのか、この辺は裁判の関係からすると
どっちになるんでしょう。
○清水(湛)政府委員 供託の事実があったという前提をとりますと、
金順吉さんは国に対して還付請求をするということになるわけでござい
ますが、この点については先ほど来御答弁申し上げておりますように時
効によって消滅し、かつ四十年の請求権協定によって、韓国の方のよう
でございますから絶対的に消滅をしているということでございますので
もう既にその請求権を行使することができない、こういうことになろう
かと思います。
それから、供託をしていないということになりますと、三菱重工に対
して未払い賃金の支払い請求をするということになろうかと思いますが
、これについても恐らく時効の問題が生じ、かつ先ほど来申し上げてお
りますような日韓請求権協定によって韓国民の日本国民に対する請求権
は放棄され、またそれに基づく国内法によってそういう権利が消滅して
いるということになろうかと思います。これは、三菱重工と金順吉さん
の関係について私どもが申し上げるべきことでは広いかもしれませんけ
れども、そういうふうなことになるのではないかというふうに思います
。国に対する関係においては請求権は絶対的に消滅している、このこと
についてはもう争う余地がないというふうに思う次第でございます。
○高沢委員 請求権者の金順吉さんからすれば、供託をしたという三菱
重工がそれを立証する大事な大事な書類を持ってない、しかも先ほども
言いました三菱ほどの大企業、ちゃんとした事務の体系の整っておる会
社がそれを証明する資料を持っていないということは、供託しなかった
という認定もできるし、供託をしたにしてもそれを証明するものを失っ
たということはやはり三菱重工の大きな責任である、当然そういうこと
になろうかと私は思います。そういう点において、その場合には金さん
から三菱重工に対して支払いの請求を提起する、裁判の提起もしたいと
いうふうに言っておられるようでありますが、いずれそういう展開にな
るかもしれませんが、私はそういうことになろうかと思うのであります
が、そのときに、さっきの局長の説明では、日本国民に対しての請求権
も既にないんだから、もう金さんはそういうことを三菱に対して提起す
る根拠というか権限もないんだ、こういうふうな御説明であったように
聞きますが、そう理解していいのか。あるいは権利があったにしても、
もう時間が四十年以上たっている、だから時効で、この請求は時効によ
っても請求できないというような意味も含めて何かお答えがあったよう
な気がしますが、それはそういうことなんでしょうか。どうですか。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
六五年の日韓請求権・経済協力協定第二条一項は、日韓両国及び両国
国民間の財産、請求権問題は完全かっ最終的に解決したことを確認して
おりますけれども、この規定は、日韓両国国民間の財産、請求権問題に
ついては日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄した
ことを確認するものでございまして、いわゆる個人の財産、請求権その
ものを国内法的な意味で消滅させているものではございません。同協定
におきましては、第二条三項におきまして、一方の締約国及びその国民
の財産、権利及び利益であって同協定の署名の日に他方の締約国の管轄
のもとにあるものに対してとられる措置については今後いかなる主張も
なされないと規定しておりますけれども、これを換言いたしますと、同
協定の対象となっているこれらの財産、権利及び利益について具体的に
いかなる措置をとるかについては他方の締約国の決定にゆだねられるこ
とを意味しております。
同規定を受けまして、我が国は韓国及び韓国国民に係る財産、権利及
び利益につき国内法を制定して処理してまいりました。
○高沢委員 私、素人だから、今の武藤課長の説明は、いろいろ言った
けれども、要するに三菱に対して金さんが請求を提起する根拠はもうな
いんだ、こういうことですか。わかりやすく言ってください、根拠はな
いのかあるのか。
○武藤説明員 日本国及び日本国民に対する債権については消滅してい
るということでございます。日本国民でございます。
○高沢委員 すると、仮に金さんが今度三菱を相手取って請求の裁判を
起こしたときに、もう裁判所は入り口で断るんですか。根拠はありませ
んよ、こうなるんですか。どうでしょう。それは裁判官の判断になりま
すか。裁判官が、これはやはり三菱は払うべきであるというふうな判断
もできるわけですか。
○清水(湛)政府委員 先ほど外務省の方からお答えがございましたよ
うに、四十年の請求権協定第二条に基づく日本の国内法としての法律が
別途制定されまして、この法律の中で日本国及び日本国民に対する債権
については消滅をするというふうに、国内法としてもそういう法律がつ
くられたわけでございます。
それで、先生の御指摘は、訴訟法的に申しますと、門前払いの判決を
するのかあるいは裁判所は本案について裁判をするのかといういささか
訴訟法的な分類に伴う御質問だというふうに考えますと、門前払いとい
うことではございませんで、やはり権利はもうこの法律の規定によって
消滅したという認定をして、請求棄却をするということになるのではな
いかというふうに私どもは思うわけでございます。ただ、これは先ほど
申しましたように三菱重工と金順吉さんの間の問題でございますから、
私どもが確定的にその間の訴訟がどうなるこうなるというようなことを
申し上げるべき立場ではないということは前提として御理解いただきた
いと思う次第でございます。
○高沢委員 もうこれで終わりますけれども、私はこれに関して、この
金順吉さんの委任を受けていろいろやっている長崎の造船の組合の人た
ちあるいは長崎でこの問題にかかわっておる我々社会党の仲間の人とか
、あるいは金さん本人と十分協議してこれからの対応をひとつ決めてい
きたいと思います。
ただ、一言言いたいことは、金さん自身は自分のそういう権利が供託
されているということ自体も知らされずに、全く知らずにずっと四十年
たってきて、そして今ここでもってそういう自分の権利があるというこ
とに気づいて求めてきたことに対して、もう済んでいるよというふうな
ことでは、それこそ日本の第二次大戦に対する責任として済まぬじゃな
いか、こんな感じが私はするわけです。これは最後に私の見解として申
し上げて、終わりたいと思います。
第123回国会 参議院予算委員会 第11号 平成四年四月一日(水曜日)午
前十時八分開会
委員 吉川 春子
外務省条約局長 柳井 俊二
国務大臣
(内閣官房長官) 加藤 紘一
外務大臣 渡辺 美智雄
○吉川春子君 永久保存の極秘文書は全部焼却されたんですね。そして
、今もうこれを各省に任されていて、それを禁止するような法律的な措
置は何もないんです。
この問題は別の委員会で引き続き取り上げていきたいと思いますが、
強制連行によって従軍慰安婦にさせられたことは否定しようもない。そ
して、しかも自分で書類を全部焼却しておいて、証拠が出るまで認めな
いということはもうけしからぬことだと思うんです。とりあえず、日本
政府がこの問題の関与を認めたのならば、次の質問に移りますが、何ら
かの補償をすべきではありませんか。
○政府委員(柳井俊二君) 日本国政府が当時関与したという前提に立
つ場合におきましてその補償の問題はどうかということでございますが
、これは御承知のことと存じますので長くは申しませんけれども、韓国
との関係につきましては、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定にお
きましてこの請求権の問題を処理したわけでございます。これも御承知
のとおりでございますが、結論的にはその第二条におきまして、このよ
うな請求権あるいは財産、権利、利益というような問題は日韓間では完
全かつ最終的に解決されたということが規定されているわけでございま
す。
○吉川春子君 外務大臣、今の論議はちょっときょうは時間がないので
しませんが、何らかの償いをすべきだと思いますが、いかがですか。
○国務大臣(渡辺美智雄君) これは私はかねて答弁をしておるんです
が、日韓両国の間では、国家間においてはこれはもう論争をすることは
ないんです。完全かつ最終的に解決がすべてついております。しかしな
がら、政治問題として、人道問題として騒ぎが起きておるわけでござい
ますから、これについては政治的な配慮のもとで解決するための何らか
のことを考えなければなるまいな、そう考えております。
○吉川春子君 官房長官、政府は関与を認めておられますが、総理は補
償については裁判の経緯を見るとおっしゃっています。そしてその後、
渡辺外相が政治的な配慮を行うという答弁を衆議院の予算委員会でもさ
れておりますが、これは政府として裁判待ちでなく何らかの政治的な判
断を、配慮をする、こういうふうに受け取ってよろしゅうございますか
。
○国務大臣(渡辺美智雄君) 私は、具体的にどうするこうすると言っ
ているんじゃなくして、要するに政府間政府はそれはすべて解決済みと
。しかしながら個人が日本の裁判所に訴え出ることまで拒否するという
ことはできません。それは個人の補償を求めて裁判に出ているわけです
から、その個人の補償問題というのは裁判で決着をつけてもらわなけり
ゃなるまい、さように考えております。
しかし問題は、それじゃ裁判に出ている人だけが慰安婦だったのかと
いうことになりますと、その数は非常に少ない数でございまして、こう
いうような者が他にあっても訴えて出るような性質の方は私は少ないん
じゃないか。例えば遺族とか何かが残っておっても、うちの係累のだれ
だれがこうだったというようなことで裁判に出てくるケースというもの
は、私は皆は出てこないと。また、政府が仮に名のりを上げてくれと言
ったからといって、名のり出るというケースは実際問題として私はそう
多いとは思っておりません。したがって、なかなか個人の補償というの
は難しいだろう、しかしながら何らかのことはやはりする必要があるん
じゃなかろうか、そういうことを言っておるのであって、これは総理の
答弁と少しも食い違いはありません。
○吉川春子君 そういたしますと、政府として裁判の経緯待ちではなく
て、今のようなことも含めて何らかの政治的な配慮をする、これが内閣
の方針である、このように受け取ってよろしゅうございますか。
○国務大臣(渡辺美智雄君) 内閣としてそういうことを閣議決定した
わけではありませんから内閣の方針とは言えないかもしれませんが、し
かし、調査をもう少しやってみて、どれくらいの規模でどんなふうな形
態であったのかということについては、これは私は韓国だけではないん
じゃないかと。もちろん内地からも、日本からもたくさん行っているわ
けですから、そこらのところをどうするかですね。
しかし、今問題が表面化しているのは、裁判に出ている方、または一
部韓国の世論も日本の世論もありましょうが、どういうふうにするかに
ついてもう少し実態がわからぬとなかなか結論が出ない。したがって、
鋭意その実態を正確に調べているというのが現状であります。
○国務大臣(加藤紘一君) 総理大臣もただいま渡辺外相がおっしゃら
れたとおりの気持ちでおります。
第123回国会 参議院内閣委員会 第4号 平成四年四月七日(火曜日)午
前十時二分開会
委員 翫 正敏
国務大臣
(内閣官房長官) 加藤 紘一
外務省アジア局審議官 竹中 繁雄
委員長 梶原 清
○翫正敏君 加藤官房長官に質問をいたします。
きのう四月六日、中国共産党の江沢民総書記が来日をいたしました。
江沢民総書記は今回の訪日に先立つ記者会見において、この訪日の意義
について、ことしは中日国交正常化二十周年であり、共同声明と友好条
約の基礎の上に、未来を見つめて一層の中日・関係の発展を推進したい
と述べておられます。日中両国間の一層の友好関係を深める上で、我々
日本人における原点は何といっても日中間の近代における歴史の事実を
直視し、日本が中国に対する侵略の非を率直に認め、謝罪をし、さらに
日本の侵略によって被害を受けられた方々に適切なる補償をすること、
また、過去の歴史を知らない若い世代の人たちに、その歴史の意味と教
訓を受け継ぐための教育をすることであろうと私は確信をいたしており
ます。
そこで、私はまず、日本国の国会議員の一人として、中国の人々にこ
の件について深く謝罪をしたいと思います。また同時に、一人の日本人
として、いや何よりも一個の人間として、日本の侵略行為に対する痛切
なる反省に立って、戦争責任、戦後責任を全うしていく所存であること
を表明いたします。
江沢民総書記は、戦争賠償の問題について、日本軍国主義が中国侵略
戦争を起こし、中国人民に大きな損害をもたらした、一部の戦争の残し
た問題は実事求是で厳粛に受けとめるという原則により、協議によって
善処すべきだと言っております。また、江沢民総書記に先立って銭其シ
ン外相も、中国への侵略戦争がもたらした複雑な問題。について日本政
府は当然適切に処理すべきだと言い、事実上民間の賠償請求権を認める
発言をしています。そして、江沢民総書記もまたこの外相のコメントを
公的な見解だと言っているところでございます。また、昨日四月六日の
宮澤首相との首脳会談においては、中国は前のことを忘れて未来を見る
、日本は前のことを忘れず後の戒めとすることが重要であると、このよ
うな発言をしたということが報じられております。
さて、日本のかつての侵略による被害に対する民間の賠償請求権の問
題については、昨年一九九一年三月、中風の国会であります全国人民代
表大会、全人代に建議が出されまして、昨年八月の海部前首相訪中時に
は海部首相あての請願書も出されているところであります。そして、こ
の三月二十日に始まった中国の全国人民代表大会には法案として提出を
されるところにまで民間の要求が高まってきているということが報道さ
れております。さらには、この国会に当たる全人代だけではなくて、重
慶市などのいわば地方議会においてもこの民間の賠償請求の動きは広が
りを見せております。
そこで、まず官房長官に総論的にお尋ねをしますが、昨年の全人代の
建議に始まりまして、続いておりますこれら一連の動きにつきまして、
その経過とか内容について、また、日本政府にあてて提出されたものな
どについてはそれをどのように受け取っているのか、受け取った上で、
現在政府としてはどういう処置や話し合いを進めているのかなとを含め
て、概略状況の報告をいただきたいと思います。
○国務大臣(加藤紘一君) 総論的に申しますと、アジア・太平洋を初
めとする関係地域の人々が過去の一時期、我が国の行為により耐えがた
い苦しみと悲しみを体験されたことにつきまして、我々は深い反省と遺
憾の意を表したいと思っておりますし、またこれはこれまで日本の総理
大臣が表明されてきたところでございます。我々はこのこうした過去の
過ちを直視し、歴史を正しく伝え、二度とこのような過ちは繰り返さな
いという戒めの心をさらに培って、養って、国際社会の一員としての責
務を果たしていくという心構えが肝要なことだと思っております。
なお、先生が今御質問になられましたここ一両年の中国におけるいろ
いろな動き、建議、その経過等につきましては担当者の方から、また御
質問があれば詳細にお答えいたしていきたいと思いますが、いわゆる賠
償等の問題につきましては、連合国及び戦後我が国より分離した地域と
の間の請求権の問題につきましては、我が国としてはサンフランシスコ
平和条約、二国間の平和条約その他の関連する条約等に従って誠実に対
応してきているところでございます。
中国との関係について申しますならば、戦争にかかわる日中間の請求
権の問題は一九七二年の日中共同声明発出後存在してないものと思って
おりますし、かかる認識は中国政府も累次明らかにされているところで
ございます。
○翫正敏君 そこで、条約と外交保護権の問題につきまして少し立ち入
って質問していきたいと思いますので引き続きお願いいたしますが、細
かい条約の解釈などについて政府委員の方から答弁があっても結構だと
思います。
民間の損害賠償請求権の問題につきましては、例えば日ソ共同宣言第
六項に、「日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五
年八月九日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び
国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を
、相互に、放棄する。」、こう書かれているところでありまして、この
条約の法的解釈について、これは国家の持つ外交保護権が放棄されたと
いうことであって決して個人の請求権が放棄されたものでは。ないと、
昨年三月二十六日の本内閣委員会において私の質問に対して政府は、外
務省の当局でありますが答弁をしたところであります。
それからまた、日韓請求権協定第二条の一項に、「両締約国は、両締
約国及びその国民一法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約
国及びその国民の間の請求権に関する問題がこ「完全かつ最終的に解決
されたこととなることを確認する。」、こういうふうに述べられている
ことについても同様の答弁を政府は、外務省として衆参の予算委員会な
どでしておるわけであります。ちょっと読みますと、平成三年八月二十
七日の参議院の答弁では、柳井俊二政府委員、「日韓両国間において存
在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということ
でございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外
交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、
いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというも
のではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使
として取り上げることはできない、こういう意味でございます。」、こ
う答弁されておることで明らかなのであります。
この国民の請求権ということに関して、日本と各国との戦後処理条約
、賠償協定、経済協力協定において、その基本的な枠組みはもちろんサ
ンフランシスコ平和条約でありますけれども、このサンフランシスコ平
和条約においては、第十四条の(b)に「連合国は、連合国のすべての
賠償請求権、戦争の遂行中に日本国及びその国民がとった行動から生じ
た連合国及びその国民の他の請求権並びに占領の直接軍事費に関する連
合国の請求権を放棄する。」、こう書かれてありまして、また第十九条
の(a)には、「日本国は、戦争から生じ、又は戦争状態が存在したた
めにとられた行動から生じた連合国及びその国民に対する日本国及びそ
の国民のすべての請求権を放棄しこ云々、こう述べられております。
ところで、連合国側の請求権放棄の条項であるこの十四条の(b)は
、一九五一年三月の原案におきましては、「戦争の遂行中に日本国及び
その国民がとった行動から生じた連合国の請求権」、こうなっておりま
して、「連合国」と「国民」という言葉が当初入っていなかったのでお
りますが、それでは範囲が不明確であるということで、日本政府が主張
したことによって「連合国及びその国民」という文言がわざわざ入れら
れたということであります。
当時、一九五一年十一月九日の参議院の平和条約及び日米安全保障条
約特別委員会においてこのことは明文において明らかにされております
。参考までに読みますが、昭和二十六年十一月九日の参議院、西村熊雄
政府委員、「その点は三月の原案では連合国の賠償請求権だけあったの
であります。それに対しまして、私どものほうから、それでは範囲が不
明確であると主張いたしまして、戦争遂行中日本国又は日本国民がとっ
た行動から生じた連合国政府又は連合国民の請求権という文句が入った
次第でございます。」、こういうように答弁しておられることからも明
らかなことであります。このように条約の文言に「国民」という言葉が
入っているかどうかということは実は大変重要な問題なのであり、厳密
にせねばならないことであります。
ところで、御承知のとおり、日中共同声明の第五項にはこのように述
べられております。「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のた
めに、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。」、
こう述べられております。ここには「国民」という言葉はありません。
したがって、民間の賠償請求権問題についての今までの政府の答弁に沿
って理解するならば、まず、どう考えましても、被害者個々人が直接責
任ある企業やまた日本政府に対して責任の範囲で請求するという、こう
いう権利があることは、これは、それが消滅していないということはも
ちろんのことでありますけれども、中国と日本との条約の場合、共同宣
言の場合には、この被害を代表して中国政府が交渉することができると
いう意味での外交保護権というものすら中国政府は放棄しないというこ
とになると思いますが、どうでありましょうか。
もちろん、現在中国政府は、被害者個々人が直接日本の企業や、また
その他政府などに接触し交渉することには干渉はしないのだ、こういう
立場をとっておりまして、賠償問題は解決済みであるという、先ほど官
房長官が答弁になりました日本国政府の考え方と大枠においては立場を
変えておらないことは私も理解をしておりますけれども、そういう意味
では外交保護権を行使するというところに至っていないことも事実であ
ります。しかし、江沢民総書記が述べておりますように、協議によって
善処すべき問題だ、こう言わざるを得ないほどに中国の民間の中でのい
わゆる民間賠償の要求が高まっているということも事実であろうと思い
ます。
かつて中国におきましては、日本の侵略の責任は日本軍国主義者にあ
るのであって日本人民にあるのではない、日本の人民に多大な負担をか
けるわけにはいかない、第一次世界大戦後のドイツのように莫大な賠償
を背負わされたことがかえってナチスの台頭を生むことになった、当時
の日本に莫大な戦争賠償を請求することは、かえって日本軍国主義の復
活につながるということで、戦争賠償を放棄したということを私は再三
いろんなもので読んで聞かされているところであります。私はここに中
国人の日本に対する、戦争に対する温情とか道義とかといったものを感
ぜざるを得ないわけであります。
サンフランシスコ条約の第十四条(a)にも、「日本国は、戦争中に
生じさせた損害及び苦痛に対して、連合国に賠償を支払うべきことが承
認される。しかし、また、存立可能な経済を維持すべきものとすれば、
日本国の資源は、日本国がすべての前記の損害及び苦痛に対して完全な
賠償を行い且つ同時に他の債務を履行するためには現在充分でないこと
が承認される。」、このように書かれております。ところで、現在の日
本はどうかといいますと、サンフランシスコ条約締結当時、また日中共
同声明発表当時の日本に比べれば、その経済的な力量は比べるもなく大
きくなっているわけであります。その証拠に、その結果といいますか、
これだけ経済大国になったのだからということで、人的な貢献も含めて
の日本の国際貢献のあり方というものが国会においても、また国民各層
においても大きな議論になっているというのが現状であります。
実際、日本は湾岸危機、湾岸戦争に際しましては、米国、多国籍軍に
対して増税をしてまで莫大な金額のお金を拠出いたしました。このこと
に関しては前回のこの委員会でも私質問をいたしましたが、まだこの使
途等について重大な疑義が残っておりますので、次の機会にはまた取り
上げていかなきゃならないことと思っておりますが、それはともかくと
して、私に言わさせていただくならば、日本がまず真っ先になすべき国
際貢献とは戦争にお金を出すことでないのはもちろんのこと、海外に自
衛隊を出すことではもちろんなく、これらの戦争の歴史というものを直
視する中からこれらは一番してはいけないことであって、この国際社会
に対して貢献するという立場からいうならば、まずかつての戦争の責任
、戦後責任というものを果たしていくということがなければならないと
思います。
中国の全人代に提出されたことで明らかなように、むしろ日本は莫大
な債務というもの、これを負っていると言わなければなりません。借り
ているものも返さずに、一体本当に国際貢献などということが成り立つ
ものでしょうか。疑問に思うわけであります。
そこで、加藤官房長官に、この中国の民間の戦争被害に対する賠償問
題、日中共同声明及び日中平和友好条約という立場に立って、この条約
と民間の戦争被害との関係の問題について、補償問題についてどのよう
に認識しておられるか、お答えをいただきたいと思います。
○説明員(竹中繁雄君) お答えいたします。
先生御指摘になりました日中共同声明でございますが、これは日中国
交正常化という大目的の達成のために、日中双方の基本的立場に関連す
るいろいろ困難な法律問題があったわけでございますが、これを政治的
に解決しょうということででき上がったものでございます。こういう経
緯もございますものですから、この賠償問題に関する規定におきまして
も、こうした事情を反映した表現ぶりになっているわけでございます。
日中共同声明第五項がサンフランシスコ平和条約における戦争にかかわ
る請求権に関する規定とは規定ぶりが異なっているというのも、その背
景はそのように御理解いただければありがたいと思います。いずれにせ
よ、戦争にかかわる日中間の請求権の問題はこの一九七二年の日中共同
声明発出後存在していないというのが我々の立場でございます。
○国務大臣(加藤紘一君) 今、審議官からお答えしたとおりでござい
ます。
○翫正敏君 資料に基づいて、るる説明をして質問したわけであります
けれども、では、そのことについて逐次外務省の方から、サンフランシ
スコ条約のときには、最初「国民」という言葉が入っていなかったのを
、日本政府が条約の協議の中で入れたということですね。こういう経過
の問題についてどうなのか、それが一点。
それからもう一点は、外交保護権の問題と条約との関係の問題。この
二つについてもう少し厳密に答弁してください。
○説明員(竹中繁雄君) 私、条約の専門の者ではございませんので、
必ずしも完全にお答えできるかわかりませんけれども、先ほど先生が引
用されました、当時の条約局長の答弁ぶりから拝察しますところ、先生
のおっしゃるような論点、「国民」という言葉を入れるかどうかという
ことに関してはあったんだろうと思われます。
○翫正敏君 外交保護権。
○説明員(竹中繁雄君) 国際法上の請求権については、一般に私人は
国際法上の主体とはなり得ないというのが国際法上の立場でございます
。外国人が個人の資格で日本政府に対し、政府官憲の行為に基づく損害
について補償を請求した場合に、これが認められるか否か、これは我が
国の国内法上の規定によるということだと認識しております。
○翫正敏君 国民の請求権という、国民のという文言があるなしにかか
わらず、まず確かめておきますが、従来の政府の見解や答弁を変更され
るわけなんですか、変更されないんですか。さっき私読みましたでしょ
う。昨年八月二十七日の参議院の予算委員会における柳井政府委員の答
弁の内容を読みましたね。変更されますか、されませんか。
○説明員(竹中繁雄君) 変更するつもりはございません。
○翫正敏君 それで、さっき言いましたように、一般的に、国民の請求
権という言葉が入っていようがいまいが、一人の人が例えば被害を受け
た、例えば労働賃金をもらってない、そういうようなものについて、そ
ういうものは条約によってなくなるものではないという、これは日本政
府の基本的な考え方であるということは私は理解しました、従前からそ
ういう答弁をいただいておりますから。その上で、なおかつ私がここで
問題にしているのは、日中共同声明の場合には、先ほどおっしゃっな言
葉では、いろんな政治的な状況の中でこの共同声明ができ上がったわけ
でしょうけれども、中国側が一方的に日本に対する賠償を放棄するとい
うことを声明した、わけですけれども、その中に国民のという言葉が入
っていないことの持っている重さ、これをどう受けとめるかと、こうい
うことをお尋ねしているわけですよ。ですから、外務省の方は結構です
から、官房長官の方でもう一度、政治的な配慮の中で請求権の放棄が中
国から一方的になされたというそのことと、そして、その文章の中に国
民のという言葉が入っていないということの重さ、これをやっぱり受け
とめる御答弁をぜひいただきたいと思うんです。重ねてお伺いしますが
、いかがですか。
○国務大臣(加藤紘一君) サンフランシスコ条約が締結されたときの
条約交渉の経緯等につきましては、ちょっと私も専門でないんでわかり
ませんけれども、いずれまた専門家から答弁させる機会をいただきたい
、こう思いますけれども、今、竹中審議官が申しましたとおり、いわゆ
る一九七二年の日中共同声明によりまして、いわゆる政府対政府、国家
間の請求権、国家間の賠償に関する請求権は中国側が放棄された。そし
て、その際に国民が訴える権利をなくしたものかどうかにつきましては
、いろいろこの国会で、過去累次御議論があったと思います。そして、
条約局長等が答弁しておりますように、個人の訴権、訴える権利という
ものは存在するけれども、それを政府が外交保護権をもって日本側に要
求する権利は中国側が放棄してくれたというふうに理解いたしておりま
す。
したがって、外交上個人が持っております訴える権利、日本政府に訴
える権利というのは、国際法上私人は主体上なり得ないわけでございま
すので、そうしますと、それはどう取り扱われるかにつきましては、先
ほど竹中審議官が申したとおり、日本の国内法上の規定によって処理を
されるという形になるものと理解しております。
○翫正敏君 それで、そういう政府の立場は、中国の方の現在の政府の
お立場も、民間の人たちが被害の請求をすることについては干渉しない
、タッチをしないということを言っておりますから、現在のところ、日
本政府の立場と中国政府の立場は、そういう意味では同じでありますの
で、外交上の問題はこの点に関しては起きていないと、こう理解をして
おります。
ただ、一方中国の国内においては、さまざまな形で民間の賠償を求め
る動きが数年前から起こっております。もっと前からもありましたが、
後からちょっと時間があれば言いますが、近年非常に高まっております
。そのことはやはり重く受けとめなければならないと、こう私は思うん
ですけれども、その中国における民間の賠償要求の動きが、全人代への
建議等も含めて各地区でのいろんな団体の動き、日本でもいろんな地区
におけるさまざまな民間団体の要求とか、動きというものが、もちろん
公害問題とかさまざまなことがございますけれども、中国においてもそ
ういう動きが活発になってきているということは、これは大きいこと、
重いこととして受けとめるべきだと、こう思うんですが、その点に関し
ていかがですか。どういうふうに受けとめておられますか。
○国務大臣(加藤紘一君) 同じ答弁になるかと存じますけれども、戦
争賠償の権限を相手側の国が放棄し、その状況のもとで、それぞれの国
の国民の皆さんがどういう訴える権利を有するか。この問題につきまし
ては、この委員会でも議論になりました朝鮮半島出身の慰安婦賠償の問
題等についても、我々の立場は累次申し上げてきたところでありまして
、訴権は存在する。したがって、日本の司法当局にそれを訴える権利は
有するけれども、しかしそれは日本国内法上によって処理をされていく
。そして、中国のことについても同じように理解しております。
今、先生が御指摘になりました、ことしの三月二十三日、中国の銭其
シン外相が記者会見で述べられておりますように、戦争賠償の問題につ
いては、中国政府は一九七二年の日中共同声明の中で明確に表明を行っ
ており、かかる立場には変化はないということは、従来中国政府が言っ
ておりますように、戦争賠償の問題は中国政府としては放棄した。そし
て、これは我々は、個人の訴権に対して外交保護権を行使しないという
ものであろうと理解しております。
○翫正敏君 次に行きますが、外交保護権を行使しないということ、こ
れが現在の中国の立場であることはよく理解をしておりますが、条約上
できないということとは同じではないわけで、その点について先ほどか
ら日中共同声明における「国民」という文言が入っていない問題につい
て質問をしましたが、回答が平行線でありますので、さらに機会があり
ましたらまたお尋ねしたいと思います。
ところで、さきにも触れました民間の賠償請求のこの件に関して、中
国外相のコメントを報ずる三月二十四日の東京新聞がございました。こ
れに対して日本の外務省の方の見解も同時に載せられておりましたが、
それによると、外務省は、従来どおり政府間の賠償問題は決着済みであ
ると、こう今おっしゃったようなことを述べた上で、「中国民間の賠償
請求は中国政府に対して行われるべきだ」と、こういうふうに述べたと
新聞には書かれておりますが、こういうふうにおっしゃったのかどうか
、その点をお答えいただきたいと思いますが、私は、もし外務省がこの
ようなことを新聞に発表したということならばゆゆしき問題だと、破廉
恥と言ってもいいんじゃないかと思うんですけれども、ちょっと事実関
係を確かめさせていただきます。
もし、中国に対しては折に触れて経済協力や経済援助をいろいろして
きた、こういうことを理由にしておられるのであれば、例えば日韓請求
権・経済協力協定のような取り決め、これに類するものがいつどのよう
な形で中国に対してなされたのか。そして、この国民の請求権という問
題について中国との間で議論をして、そういうことについてどんな形で
同意が得られたのか。そういうことを明確にしていただきたいと思いま
すし、そのような戦後処理というものも明確になされていないままに、
中国の方が一方的にこの請求権を放棄したのだからということをいいこ
とにして、中国人の民間人の要求は中国政府に請求しなさいというよう
なことは、これは先ほど恥知らずという言い方をしましたが、ちょっと
別の言い方をしますと恩知らずであると、こういうふうに言わなきゃな
らないんじゃないかと思うんです。そういう意味で、経済協力というよ
うなことではこの条約上の問題は解決しないのではないか、このように
思います。
それで、他の国の例をちょっと挙げておきますが、昨年八月、戦争末
期にフィリピンで起こりました日本軍によるパミンタハン大虐殺から奇
跡的に生き残って、そのときに銃剣で胸を五カ所刺された、後ろの方も
刺されておられましたが、そのせいで戦後もぜんそくがひどくて仕事に
満足につけなかったというガルシアさんという方が戦後の補償を求めて
日本に来られましたとき、私が外務省の方に同行をいたしました。その
とき訴えをされるガルシアさんに対して外務省の担当の方は、名前が今
問題なのではないので申しませんが、その担当の方は、日本とフィリピ
ンの間の賠償問題は、サンフランシスコ条約に基づいて一九五六年日比
賠償協定が結ばれ、日本の方から千九百八十億円お支払いをして解決い
たしましたと、こういうふうに答えたわけです。
そのときのやりとり、私まざまざと今も覚えておりますけれども、ガ
ルシアさんは裸になられて自分の傷跡を見せられまして、そしてその上
で、でも私は一ペソももらっておりませんと、こういうふうに言われて
、涙ながらに自分の被害というものをお訴えになった姿が忘れられない
わけであります。
現在、日本のODAというものが大きな金額になっております。しか
し、そのことがかえって軍事政権を支えることになってしまっていると
いう批判があったり、また、人権抑圧や環境破壊につながっているので
はないかという指摘などもされているところでありまして、ODAの問
題もやはり出発点は戦争賠償というような問題の解決に始まっていると
聞いておりますけれども、こういうことも順次今後取り上げていきたい
とは思っておりますけれども、こういう一つの例として、今のフィリピ
ンの方のお訴えを取り上げさせていただきました。
そこで、ちょっと質問したいわけでありますが、日中共同声明で中国
政府が放棄をしました戦争賠償とは一体どれくらいの額であるのか、こ
れを政府としてどう考えておられるのか、お聞かせください。
また、いかなる意味においても放棄されない個々人、民間の損害額
というもの、これは外交保護権の行使は中国政府はしないわけでござい
ますけれども、どういうふうに解決するかしないかの問題は別として、
とにかく金額として算出するとどれくらいのものになると日本政府は考
えておられるのか、お答えをいただきたい。もちろん被害額というもの
、人命というようなものに関する被害額を金銭で計算するなどというこ
とは、これはできないことであるという、こういう前提にもちろん立っ
ているつもりでございますけれども、あえてそれを換算するとどれくら
いになるのか。中国の全人代の方に提出されているものによりますと、
一国家間のものが千二百億ドルだと、米ドルでですね、こういうことに
なっております。民間のものが千八百億ドルであると、こういう建議が
なされております。
この金額について、官房長官は大き過ぎると思われるか、少な過ぎる
と思われるか、このくらいだと思われるか、御感想を述べていただきた
い。全然わからないと言うならば、ぜひ綿密な調査をされるべきではな
いかと、そういうことが日中友好の今後ということについて大事なので
はないかと、そう思います。
それで、もしサンフランシスコ条約の第二十一条「中国は、第十条
及び第十四条(a)2の利益を受ける権利を有し」に基づいて、サンフ
ランシスコ条約の締結国でない中国も、日本が旧満洲などに残した在外
資産などを処分する権利を得たのであるから、国民の請求権についても
サンフランシスコ条約に従って解決されたと、こういうふうな見解では
ないと思いますが、もしそういう見解であるとするならば、まずサンフ
ランシスコ条約の枠組みの中で、一九五二年四月に締結された中華民国
政府、現在の台湾政府との日華平和条約それから日中共同声明、この関
係も明らかにしていかなければならないと思います。日華平和条約にお
いては、請求権問題はまた別の「特別取極の主題とする」と、こういう
ことになっていたわけですが、その特別取り決めがなされることがない
ままに、一九七二年九月、日中共同声明において日本の方から中華人民
共和国政府を中国の唯一合法政府であるという承認をしたことによりま
して、日華平和条約は失効したということであります。確かに日華平和
条約には、「この条約及びこれを補足する文書に別段の定がある場合を
除く外、日本国と中華民国との間に戦争状態の存在の結果として生じた
問題は、サン・フランシスコ条約の相当規定に従って解決するものとす
る。」と、こういうふうに述べられております。
これによって、日華平和条約はサンフランシスコ条約を準用すること
で中国の対日請求権というものが放棄されたと、こういう見方も学者の
中にはあるようでありますけれども、それはやはり基本的に正しい理解
ではなくて、条約自体に請求権問題は別の取り決めをするということが
決められておって、それがそういうふうにできなかったというわけであ
りますから、この問題は別の定めがあってしかるべき場合と、こういう
場合に当たるのだと思います。
さらに、日華平和条約と同時に交わされた交換公文では、「この条約
の条項が、中華民国に関しては、中華民国政府の支配下に現にあり、又
は今後入るすべての領域に適用がある」と、こうされております。中国
大陸全体が中華民国政府、現台湾政府の支配下に今後入るというような
ことはとても考えられないことでございますので、日華平和条約の効力
はそもそも大陸には及ぶものではないと、こう理解すべきだと思います
。
そういう日華条約と日中共同声明との関係について考えた上で申し上
げたいのですが、そもそも日中共同声明は、他の協定などのようにサン
フランシスコ条約の枠組みの中でなされたものと、こういうふうに考え
るべきではないと思います。それは、「中華人民共和国政府は、台湾が
中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日
本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し一ポ
ツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」とありますように、日中
共同声明の歴史的起源はむしろ直接ポツダム宣言に立ち返っているもの
であると思います。
そのポツダム宣言の第八項を見ますと、「カイロ」宣言ノ条項ハ履行
セラルベク」、こう述べられておりまして、そのカイ呈り言の関連箇所
を若干引用してみますと、右同盟国、米国、中国、英国の目的は、日本
国より一九一四年の第一次世界大戦の開始以後において日本国が奪取し
、または占領したる太平洋における一切の島嶼を剥奪すること並びに満
洲、台湾及び瀞湖島のごとき日本国が中国人より盗取したる一切の地域
を中華民国に返還することにあり、日本国は、また暴力及びどん欲によ
り日本国が略取したる他の一切の地域より駆逐せらるべしと、このよう
に書かれております。これはもちろん国家の領土について言っているも
のでありますけれども、今日の私たちにおいては、かつての日本の侵略
によって中国から奪い取ったものを中国人に返し、そして殺し尽くし、
焼き尽くし、奪い尽くした、こういう中国人の命と物に対する補償とい
うものは今後も全力を挙げて取り組んでいかなければならないと、こう
思います。
具体的に、三月二十四日の東京新聞に掲載されました外務省の見解の
真意を外務省からお答えいただきますとともに、今ほど私の方から少し
く問題提起をしましたことについて官房長官のお考えをお聞かせいただ
きたいと思います。
○委員長(梶原清君) まず、外務省から答弁を命じます。
○説明員(竹中繁雄君) 最初に、先生の方から、三月二十四日の東京
新聞に外務省の関係者のコメントとして、民間人が賠償請求しているが
、それは中国政府にあるとか、こういうことを言ったというようなこと
の報道があったが事実がと、こういう御質問がございました。
先生の御指摘を踏まえまして、我々も調べてみたのですが、確かにか
かる報道がなされていることは確認いたしましたが、外務省関係者のい
かなる具体的発言を踏まえた報道であるのかというのは残念ながら承知
しておりません。私ども知っている限りでは、こういうことを言ってい
る者はおらないと……
○翫正敏君 ないと。
○説明員(竹中繁雄君) はい、ございません。
それから、法律的な問題で、日本国に対する中国の賠償請求のもとは
何かという御質問があったと思いますが、これに対する、日本国に対す
る賠償請求に係る問題については、政府の立場は、サンフランシスコ平
和条約の第十四条並びに日華平和条約の十一条及びその議定書1の(b
)により処理済みであるというのが法律的に見た場合の我々の立場でご
ざいます。
○翫正敏君 わかりました。
官房長官の方から。
○国務大臣(加藤紘一君) 先ほど翫先生が、いろんな条約等があって
も、個人が我が国政府に対していろいろ賠償請求する権利はあるだろう
という趣旨のことをおっしやられました。条約等の解釈等につきまして
は先ほど述べたとおりでございます。個人の訴権はあるものと思ってお
りますけれども、それに対する外交保護権は放棄されたものと日中両国
政府は理解しておるわけでございます。
ただ、その際に、それぞれ一人一人のアジアの国の国民の皆さんに、
日本はどう考えるかと、そして今日本は豊かになったじゃないかという
ような問題でございますけれども、その点につきまして、我々は、先ほ
ど申したように過去の一時期私たちの国の行為によって耐えがたい苦し
みと悲しみを与えたことについて深い反省と遺憾の意を心の中に持ち、
そしてそういう過去の過ちを先生が御指摘されておりますように、直視
して、その歴史を正しく伝えていかなければならない、そういう心構え
を持つべきではないかなと思っております。
そして、確かに一人一人の方に対する賠償の問題はいろんな議論があ
りますけれども、しかし、相手国政府も我々と合意したところでござい
ます。そういう問題のあることはわかりますけれども、しかし、それは
国と国との間でお互いに放棄し、そして今後我々は将来に向けて新しい
関係を築き、そして日本はその国の民生安定、発展のために日本のでき
得る限りの貢献をしていく、国全体に貢献していって、その国の民生の
安定と福祉の向上に御協力申し上げるという形で戦後考えてきたものだ
し、また、今後も我々は考えていかなければならないのではないかなと
思っております。
○翫正敏君 あと十五分残っていますけれども、自民党の方の出席もな
いようですので、しばらくちょっと留保させてください。速記とめてく
ださい。
○委員長(梶原清君) ちょっと速記をとめてください。
〔速記中止〕
○委員長(梶原清君) 速記を起こして。
○翫正敏君 外務省の新聞コメントはあれはそういう発言はしてない、
こういうふうに確認させていただきましたけれども、官房長官の方から
、私が再三質問して、中国の方からの請求権の放棄という問題、それか
ら「国民」という言葉が入っていないということの条約上の問題を含め
て重みを尋ねておりますが、全然前向きなお答えがないので非常に残念
に思います。これまで二十年の日中関係というものを今後さらに強固な
ものにしていくというような立場から考えましても、そして中国の国内
において民間の賠償要求というのは高まってきているというこの実情を
考えてみましても、やはり政府は従来のそういうかたくなな態度という
もの、こういう恩義を否定するような態度はよくないと思います。中国
の方は、暴に報いるに徳をもってすという、これは現在の政権の幹部の
言葉ではないかもしれませんが、そういうことで対日請求権をすべて放
棄したわけであります。
そういうことの持つ重みを十分受けとめていくというのは、私ども日
本の国会議員一人一人に課された課題でもあり、そしてそれは日本政府
の重大な責務であると私は痛感するものであります。
ところで、先ほどから触れております全人代に提出をされました建
議、法案などにおきましては、日本の侵略による中国の民間損害賠償額
千八百億ドル、こう算出されております。この額についてどう思うかと
いう質問をしましたけれども、何らのそれについての具体的なお答えも
ありませんでした。もう一度聞きますから、ちょっと考えておいてくだ
さい。
約二十四兆円、こう現在の円に換算するとなるようでありますが、こ
の内訳として、この建議書を見ますと五つのことが並べられております
。海部前首相あての請願書の内容と同じということなので、この請願書
の内容に即してこれを読み上げてみますと、一としまして、中国市民を
罪なく虐殺したことに対して負うべき賠償、殺害あるいは負傷させた中
国市民、負傷者、捕虜等については関係資料、統計によれば約一千万人
である。二番、中国人を強制的に苦役に服させたことに対して負うべき
賠償、関係資料、統計によれば約三百万人である。三番、有毒、化学及
び細菌武器を使用して中国市民に重大な支障をもたらしたことに対して
負うべき賠償。四番、中国の公的及び私的財産を略奪、破壊したことに
対して負うべき賠償。五番、中国においてアヘン侵略を行って、中国市
民に重大な損失を与えたことに対して負うべき賠償、こういう五点が挙
げられております。
ここで、この五点について一つ一つ詳しく確かめていかなければなら
ないわけでありますけれども、本日の質問だけではとても時間も足りま
せんので、今後に順次譲っていきたいと思います。
この二番にあります、中国人強制連行の問題についてだけ、それも中
国東北部、いわゆる旧満洲地区などに中国大陸において強制連行、強制
労働させられた例は今回はこれも除きまして、いろいろ除くのばかりで
ありますが除きまして、そして日本の国に強制連行された方が約四万人
、この問題に限って一、二ちょっと例を挙げて確かめてみたいと思いま
す。
なお、そのほかの南京大虐殺の問題、七三一部隊の細菌兵器人体実験
などの問題、毒ガス兵器の遺棄問題などについてもいろいろ資料を取り
寄せて調べておりますので、今後順次取り上げていきたい、このように
思っておるところでありますが、花岡事件について質問します。
終戦直後の一九四五年、昭和二十年六月三十日、秋田県大館市の郊外
で起きた事件である。日本政府は、戦争が激化する中で国内の労働力を
補うためにおよそ百万人の朝鮮の人たちを強制連行し、さらに一九四二
年、昭和十七年、東条内閣が閣議決定によっておよそ四万人の中国人を
日本国内の百三十五の事業所に強制連行したのである。花岡事件はこの
ような中で、日本官憲や企業側の極度の拷問と虐待に反抗して、およそ
七百人の中国人が蜂起した事件であります。そしてその結果四百十八人
が死亡しました。彼らは、当時残虐行為を行った日本の企業に対して合
計四十九億円の賠償と謝罪を要求しています。具体的には謝罪の要求と
いうものは、この企業が行いましたので一応済んだかと思いますが、あ
と一人当たり五百万円の補償というものを要求し、また大館市と中国の
北京市に、こういうことが二度と起きないようにという意味の記念館を
建ててくれという三点の要求をしておるわけであります。
これは、具体的には現在企業に対して中国の民間の団体がしておられ
るわけですから、これはこれでどういうふうに解決するかはそこの問題
だと思いますけれども、我が国政府はこれにどういう関係があるのかど
うかということをお聞きいたします。昭和十七年十一月二十七日、「華
人労務者内地移入に関する件」を閣議決定した、これは事実です
○説明員(竹中繁雄君) 昭和十七年十一月二十七日、「華人労務者内
地移入に関する件」という閣議決定がございました。
○翫正敏君 そうしますと、この強制連行の問題、中国人の強制連行、
日本国への四万人の方だけの問題に絞って今取り上げているんですが、
これについて現在中国の民間の人たちが団体をつくって、グループをつ
くって当該企業と交渉しておるというところでありますが、このことに
ついて政府は傍観者であって、その様子を見ておればよいということで
は済まないのではないか、日本政府に責任がある、こう私は思うんです
けれども、どういうお考えでしょうか。官房長官お述べください。
○国務大臣(加藤紘一君) いわゆる昭和十七年の十一月二十七日の閣
議決定のことでございますが、当時の国内の労働力不足を背景に中国人
労働者の移入を目的として行われたものと思っております。この風議決
定によれば、中国人労働者の移入は契約に基づいて行われることになっ
ておりますが、当時の詳しい事情については今明らかではございません
。この閣議決定を見てみますと、契約は二年であって、その後「二年経
過後遺当の時期において希望により一時帰国せしむること」とか、それ
から「華人労務者の食事は米食とせず華人労務者の通常食を給するもの
としこれが食糧の手当に付ては内地において特別の措置を講ずること」
とか、「華人の慣習に急激なる変化を来さざる如く特に留意すること」
ということなどがいろいろ書かれておりまして、この閣議決定そのもの
は移入されてきます中国人労務者の人に対してかなり配慮をした閣議決
定になっております。
しかし、当時どのような状況で、事実上どうであったかということに
つきましては、終戦直前の話でございますので、なかなか詳しい事情は
わかりません。ただし、当時の状況から、日本に来られた多くの中国人
労務者が不幸な状態に陥ったことは事実であろうと思っております。
また、花岡事件につきましては、今申しましたように、かなり不幸な
状況にあったということにつきましては、政府として甚だ遺憾なことだ
と思っておりますが、いわゆる請求権等の問題につきましては、先ほど
言いましたような政府の立場でございます。また、この事件については
民間の訴訟事件として提起されておりますので、その流れを見ていきた
いと思っております。
○翫正敏君 この事件だけではなくて、中国人強制連行というものは、
極秘と判こを押してあります昭和十七年の閣議決定に基づいて行われた
ものである以上、政府に責任があるということをお認めになるかどうか
が一点ですね。
それからもう一点は、先ほど、民間の賠償請求額は中国の全人代の方
に建議されておりますのでは千八百億ドルである、現在の日本円にして
約二十四兆円であるということになっていますが、この額についてどう
いうふうに受けとめておられるか、これについて二点お答えください。
○国務大臣(加藤紘一君) 当時のいわゆる華人労務者、中国人労務者
の移入に関しての状況がどういう事実関係であったかというのは、今具
体的に明らかでございません。それが強制的に移動させられたんではな
いかという今の御指摘、そして、政府がそれについてどういう責任があ
るのかという御質問でございましたけれども、当時のこと、事実関係が
明確でありませんので、なかなかコメントしにくいところだろうと思い
ます。
それから、いわゆる千八百億米ドルの訴訟の金額の高をどう思うかと
いうことでございますが、この童増という方が建議されております書き
物、建議を見ましても、根拠がなかなかわかりにくい、そういうものは
示されていないし、その数字についてはあえてコメントは申し上げない
ことにいたしたいと思います。
○翫正敏君 民間賠償と国家間の賠償を分けておられるというところに
非常に厳密さがあると私は思うんですが、この建議を見まして。そうい
うものに基づいてさまざまな民間団体の要求や訴訟などが起こされてい
る、こういうことだと思うので、そういうふうに分けているということ
の厳密さを、金額はさっきあなたお答えになったようによくわからない
らしいが、そういうようなことをどう思われるかをお答えいただきたい
。
それから、強制連行の問題については、当時の事実関係が明確でない
ので今のところ明確な答弁はできないと、こう理解をしましたが、その
場合、当然政府として事実関係をさらに詳細に調査をして責任が明らか
であるということが明確になればその立場に立って対処すると、こう理
解してよろしいか、二点をもう一度お伺いして、これで終わります。
○国務大臣(加藤紘一君) 戦争賠償責任と、それから中国人民と財産
に対する賠償請求と、これを分けていることが条約上、法律上どういう
ことになるのか、ちょっときょう条約の専門の人間が来ておりませんの
で、いずれまたその際には申し上げさせていただきたいと思います。
それから、先ほどの中国人労務者の強制移入という、連行とおっしゃ
いましたけれども、この問題につきましては、事実関係は明確でござい
ませんが、いずれにしましても、個人の国に対する請求権というものは
一九七二年の日中共同声明によって放棄されたものだと、それに対する
外交保護権は放棄されたものだと思っております。
○翫正敏君 とにかく調査してください。事実関係を調査してください
。これいいですか。先ほどは事実関係が明確でないということだったか
ら、事実関係だけは調査してください。事実関係も調査しないというこ
とじゃないでしょう。
○国務大臣(加藤紘一君) いずれにしましても、当時の状況というの
は終戦直前の混乱期でございますので、当時の詳しい事情についてはな
かなか明らかにするのに困難なところがあると思います。
第123回国会 参議院予算委員会 第13号 平成四年四月八日(水曜日)午
前九時一分開会
委員 清水 澄子
外務大臣 渡辺 美智雄
○清水澄子君 日中共同声明は、中国は「日本国に対する戦争賠償の請
求を放棄する」とありますし、日韓条約のように、国及びその国民の間
の請求権とはなっておりませんし、さらに日韓条約のように「完全かつ
最終的に解決」ということはうたわれていないわけです。
ですから、こういう場合に、中国の国民からの賠償請求がありました
場合、その扱いは韓国とおのずと異なってくるということになると思い
ますが、その点の御見解を外務大臣、お聞かせください。
○国務大臣(渡辺美智雄君) 私は日本の外務大臣ですから、日本の国
益も考えなければならぬのです、日本の国益も。政府に莫大な金を払え
払えと言うことは日本国民に払えと言うことでございますから、日本国
民がそういうコンセンサスであればそのように大きな動きになるかもし
れません。しかし政府間ではこれはもう解決済みということになってお
りまして、そういうことで、我々としては友好関係を促進するために中
国に対しましては円借款を初めエネルギー借款その他のいろんなことで
今後とも大いに協力してやっていこうと、そういうようなことをやって
おるわけであります。
しかし、中国の中の動きを我々はとめることはそれはできません。で
きませんが、しかし国家間の問題を大きくそこに切り傷を開いていくと
いうやり方は私は賛成いたしません。
○清水澄子君 その国益本位の国家主権の枠組みという考え方をむしろ
これから点検し直さなきゃならないのが今日の時代だと思うんです。し
かしそれをすべて補償金という形で私は申し上げているのじゃありませ
ん。ですから、どのように認識されているかというのは、こういう問題
が出てくる背景、そしてどれほど私たちは過去の克服に対して誠意と謙
虚さを持って対応してきたかというその問題を認識することが私は重要
だと思っていたんですけれども、相変わらず金が幾らかかるとかそうい
うところだけ、やはりそこに私は一番アジアの人々からの不信があると
思います。
そこで、三月二十四日の東京新聞に、そういう対日賠償請求に対して
、外務省はそういう問題は中国政府に行えばいいということの見解が出
ているわけですけれども、これは本当にそうなんですか。
○国務大臣(渡辺美智雄君) それは国民一人一人とどの国においても
日本政府が交渉をしたりどうこうすることは不可能なんです、実際問題
として。したがいまして、国家間の取り決めというものはいろいろござ
いましょうが、それはそれなりに国と国との間では問題を解決していか
なければいつまでたっても国交正常化というようなことはできません。
したがって、長い間、十数年かかってできなかったものを解決するため
にはお互いにある程度我慢し合うところは我慢し合ってやらなければな
らない、大きな大乗的見地に立ってやっておるわけであります。
しかしそのことによって、我々は戦争の被害でいろいろな御迷惑をか
けたことについて、それはまことに申しわけない、二度と再びこういう
ことを起こしてはならない、そしてまた復興のためにはできるだけの御
援助あるいはそういうようなことをやってまいりましょうということで
やってきておるわけでございますので、国益というのは政府だけの話じ
ゃなくて国民全体の問題でございますから、我々は今後とも日中間の問
題については誠心誠意仲よくやる方向で、またそれがいろんな国の国情
によってやり方は違いましょうけれども御協力を申し上げてきたところ
でありますし、今後もそういう方針でやってまいりたいと考えておりま
す。
第123回国会 衆議院法務委員会 第6号 平成四年四月十日(金曜日)
委員 高沢 寅男
外務省アジア局
北東アジア課長 武藤 正敏
法務大臣 田原 隆
法務省民事局長 清水 湛
○高沢委員 私は、前々回のこの法務委員会におきまして、戦争の終わ
るとき、長崎県の三菱重工の造船所で働いていた金順吉さんという徴用
工の人の賃金の未払い問題、今その方がまた日本へやってきて支払いを
求めている、この問題についてお尋ねいたしました。それで、なお若干
そのことでお尋ねしたいことがありますので、きょうこれからその質問
を申し上げたいと思います。なお、きょうは主として外務省関係でお尋
ねするようになると思いますが、もちろん法務省関係、また大臣の御見
解を求めることもありますから、よろしくお願いいたします。
まず初めに日韓請求権・経済協力協定、一九六五年の協定であります
が、この協定によって日韓両国はお互いに持っている請求権を相互に放
棄するということを約束し合ったわけでありますが、そのときに、その
お互いに放棄する請求権、日本から韓国に対してはこういう、こういう
、こういう請求権がある、ところが韓国から日本に対してはこういう、
こういう、こういう請求権がある、それぞれ具体的に挙げて、そしてそ
れを放棄するというふうな形にこの協定ができ上がったのかどうか。そ
ういう具体的な放棄する請求権をお互いに確認し合ったということがど
ういうふうに実態としてなっているのか。初めに、まずそれをお尋ねし
たいと思います。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
六五年の日韓請求権・経済協力協定でございますけれども、これによ
りましてどういうものを放棄したかという御質問でございました。
韓国側から、交渉の過程におきまして対日請求要綱、いわゆる八項目
というものが出てまいりまして、そして交渉を行ったわけでございます
けれども、日韓交渉におきましてはこの日韓間の財産・請求権問題は完
全かつ最終的に解決済みということでございまして、いわゆるこの八項
目を含めましてすべて解決済みということでございます。
ちなみに八項目、これをお読みいたしますと、
第一項朝鮮銀行を通じて搬出された地金と地銀の返還を請求する。
第二項 一九四五年八月九日現在の日本政府の対朝鮮総督府債務の弁
済を請求する。
第三項 一九四五年八月九日以後韓国から振替又は送金された全員の
返還を請求する。
第四項 一九四五年八月九日現在韓国に本社、本店又は主たる事務所
があった法人の在日財産の返還を請求する。
第五項 韓国法人又は韓国自然人の日本国又は日本国民に対する日本
国債、公債、日本銀行
券、被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請求権の弁済を請求する
。
第六項 韓国人(自然人及び法人)の日本政府又は日本人(自然人及
び法人)に対する権利の行使に関する原則。
第七項 前記諸財産又は請求権から生じた諸果実の返還を請求する。
第八項 前記の返還及び決裁は協定成立後即時開始し、遅くとも六カ
月以内に終了すること。ということになっております。
繰り返し申し上げますけれども、六五年の日韓請求権・経済協力協定
によりまして解決されましたものは、こういったものも含めましてすべ
て完全かつ最終的に決着済みということでございます。解決済みという
ことでございます。
○高沢委員 今韓国側からのそういう八項目の御説明がありましたが、
この際参考のために、日本側から対韓国でそれに類するような、これは
こういう請求権があるよというようなことの提示はあったのかどうか。
これはどうでしょうか。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
交渉の過程において一時請求したことがございましたけれども、ただ
、日本側の財産につきましては連合軍によって接収されておりましたの
で、具体的にこうこうこうということは現時点、現在資料として持って
おりません。
○高沢委員 今完全かつ最終的に清算されたということが説明があった
わけですが、どうも最近の韓国と日本との関係を見ますと決して完全か
つ最終的ではない、こう思わざるを得ない動きが次々に出ているわけで
あります。その一例として、一昨年韓国の盧泰愚大統領が来日されまし
たが、その際に、日本で、広島、長崎で原爆を受けた被爆の韓国の人た
ちに対する、これは補償というべきなのか何かあれですが、被爆者援護
基金として四十億円を支出するということが日本の政府の決定として決
められたわけであります。こういうふうな被爆に対するお金を四十億出
すということになった、この場合、さっきの協定の完全かつ最終的に決
着した、もう何もないんだということとこのことの関係は一体どうなる
のか、お聞きしたいと思います。
〔委員長退席、田辺(広)委員長代理着席〕
○武藤説明員 お答え申し上げます。
在韓被爆者に対しましては八一年から八六年まで渡日治療を実施して
まいりました。その後、九〇年五月に盧泰愚韓国大統領訪日の際に、当
時の海部総理より今後総額四十億円程度の支援を行うとの意図表明を行
ったわけでございます。これに基づきまして、治療費の支援ですとか健
康診断費支援それから健康福祉センター建設費支援を行うことにしたも
のでございます。これまでも繰り返し御説明申し上げましたが、日韓間
の財産・請求権というのは六五年の日韓請求権・経済協力協定によりま
して法的には解決済みでございます。
在韓被爆者の支援につきましては、先ほど御説明いたしましたとおり
、これは歴史的な経緯を踏まえまして、原爆という特殊な原因で後にそ
の後遺症等で悩んでいらっしゃる方々がいらっしゃるわけでございまし
て、こうした在韓被爆者の方々に対しまして医療面での支援を人道的な
観点から行うことにしたものでございます。したがいまして、こうした
支援は補償といった性格のものではございませんで、請求権協定の枠組
みに影響を与えるものではないということでございます。
○高沢委員 もう一つ具体例を挙げたいと思います。
本年の一月二十一日、韓国の政府は各省庁の実務責任者会議を開いて
、日本政府に対して従軍慰安婦問題での徹底した真相解明とそれに伴う
適切な補償などの措置をとることを求めるということを決定したわけで
すね。この韓国政府の決定によって、外交ルートで今まで日本の政府、
外務省に何かこのことについての申し入れがあったかどうか、まずそれ
をお聞きします。
○武藤説明員 韓国政府が一月二十一日に、日本に対しましていわゆる
従軍慰安婦問題の真相究明、補償、歴史教科書への反映等を求めること
及び韓国政府内に本件問題についての合同対策班を設置すること等を内
容といたします挺身隊問題に関する政府方針というものを発表したこと
は承知しております。私どもも報道資料等を入手してこれは承知してい
るわけでございますけれども、これまでのところ、韓国側からこの方針
に基づいた申し入れは来ておりません。
○高沢委員 今までのところは来ていないということでございますが、
しかし私は、これからそういうものは来る可能性がある、こう見るべき
ではないかと思います。
そういう要求が来たときに、日本の政府の対応としては、それは日韓
請求権協定でもはや完全かつ最終的に決着は済んでいるんだ、だからそ
ういう問題はもはやお聞きする余地はありませんというふうな対応をと
られるのかどうか、これはいかがですか。
○武藤説明員 韓国側からこうした申し入れが来た場合どういうふうに
対応するかといった仮定の質問にお答えするというのは、必ずしもこの
場では適当ではないと思いますけれども、いずれにいたしましても先生
おっしゃいましたとおり、日韓間の財産・請求権の問題は、日韓請求権
・経済協力協定により完全かっ最終的に決着済みでございまして、この
点については韓国政府の方でも御理解くださっているものと考えており
ます。
○高沢委員 私は、そういうふうな理解を韓国政府がもししていればこ
の種の要求は出てこないはずだと思います。しかし、この種の要求が出
てくるということは、あの協定の決着済みということではこれは決着で
きない問題というふうに先方は考えているからこの要求が出たのだろう
、こう思うのであります。先ほど原爆被爆者については、この請求権の
協定の問題とは別に人道上の措置として、非常に特殊な歴史的経過があ
ったから人道上の措置としてやった、こう言われるのでありますが、私
はこの従軍慰安婦などというケースの場合はなおさら特別な歴史的経過
を持っている、なおさら人道的な措置をしなければならぬ、こういう性
格のものではないかと思うのであります。しかし、そういうことに対し
て既に決着済みということで対応される考えか。あなたは外務大臣でな
いからそこまで聞くのはあるいは酷かもしれませんが、しかし条約上の
考えとしてはもはや決着済みということでそれは通すのだ、こういうお
立場がどうか、それを聞きます。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
昨年の八月十七日に、韓国の李相玉外務部長官が定例記者会見におき
まして、政府レベルにおいては一九六五年の韓日国交正常化当時に締結
された請求権及び経済協力協定を通じてこの問題が一段落しているため
、政府がこの問題を再び提起することは困難であるというようなことを
言っておられます。先ほどから申し上げておりますとおり、この問題に
つきましては、六五年の協定によりまして決着済みというのが法的な立
場でございます。
○高沢委員 そういたしますと、私、前回のときもお尋ねしたのであり
ますが、この問題について渡辺外務大臣は、これは何らかの措置は必要
である、こういうふうな発言をされているわけでありますが、この決着
済みという立場と何らかの措置が必要であるということとの相互の関連
は一体どうなるのか、あなたの立場でひとつ理解を示してもらいたいと
思います。
○武藤説明員 渡辺外務大臣が国会等の場におきまして、いわゆる従軍
慰安婦の方々に対し申しわけないというお気持ちを目に見える形で何か
するのが政治ではないかといった趣旨の御発言をなさっていらっしゃる
ということは、私どもとしてもよく承知しております。これは大臣の政
治家としてのお考えを述べられたものだと思います。
いずれにいたしましても、いわゆる従軍慰安婦の方々の補償の問題に
つきましては、現在訴訟が行われておりますし、この訴訟の行方を見守
っていきたいと考えております。さらに、まず、先般宮澤総理が韓国を
訪問されましたときも、事実関係について誠心誠意調査をしていきたい
というふうに言っておられますので、私どもとしてもこの調査に誠心誠
意専念したいと考えているところでございます。
○高沢委員 これから大臣に対するお尋ねになりますが、日本と韓国と
の関係で言うと、それこそ植民地支配をした経過であるとか、それが第
二次世界大戦につながっていった経過であるとか、非常に特殊な歴史的
な経過があります。そして、今次々にこの種の問題が出てくるというこ
とは、そういう歴史の経過の中から生まれてきているということであっ
て、協定ではもう済みましたというふうに幾ら言っても、しかしやはり
韓国の側からすれば、あるいは韓国の国民の側からすれば、これはどう
してもこのまま済ますわけにはいかないというふうなことが、原爆被爆
者の問題もそうやって出てきた、従軍慰安婦の問題もこうやって出てき
た。あるいは当時無理やりに日本人にさせられて日本の軍隊に入れられ
て戦死した人たち、そういう人たちに対する、これもまた何ら行われて
いないわけですね。日本の軍人は、あの戦争で戦死した人あるいは傷つ
いた人は、後で軍人恩給というものを受けておりますが、しかし韓国で
同じ立場の人は何らそういうものは受けていない。この人たちは、おま
えたちは日本人だぞ、植民地時代はそう言われた。そして、今度、いよ
いよ戦争が終わってそういう補償を受けなければならぬというときにな
ったら、おまえたちはもう正本人じゃないよ、日本の国民じゃないから
そういうものはやれないというふうな形で今日まで来ているわけですね
。
そういうことを数え上げれば切りがないほどあるのですが、そういう
ことが、今度は韓国の国民の側からすれば、これは何とかすべきだ、し
てほしいということがまた次々に出てくることは、私は歴史の経過から
いってやむを得ざることである、そしてその一つ一つをとってみると、
いずれも、さっき原爆の被爆者は人道上の措置である、こういう説明が
あったのですが、どれをとっても人道上の措置としてこたえるべきそう
いう性格のものじゃないか、私は実はこう思うのです。したがって、そ
ういうふうな立場で見たときに、この種の問題に日本の政府が、もう日
韓の請求権の協定で済んだ、こういうふうな対応だけで私はいけるもの
じゃないし、またいくべきものでもない、こう思うわけです。
協定を結んだ立場でそこをどうやるかはなかなか難しい問題はあろう
かと思いますが、しかしそれはそれとして、もう人道上という一つの前
例が原爆の被爆者の問題であるのですから、そういう人道上のというよ
うな前例を大いに前向きに、積極的に活用する、そして対応するという
ふうなことがこれから日韓の関係あるいは日本と朝鮮の関係等々で非常
に必要になるのではないのか、私はこう思います。渡辺外務大臣の何ら
かの措置というのも、恐らくそういう一つの政治的な判断があって出立
言葉じゃないかと思いますが、法務大臣、やはり国務大臣でおられるわ
けですから、今私の申し上げたようなことについてどういう御見解をお
持ちか、ひとつお尋ねをしたいと思うのです。
○田原国務大臣 法務大臣は国務大臣で内閣の一員でありますが、ただ
明確に所管が分かれておりますので、所管を越える問題について本来は
なかなかコメントできないと思いますけれども、ただ先生の人道的なお
気持ちは理解できるわけですが、渡辺先生が副総理として言われたか外
務大臣として言われたかわかりません。渡辺先生の方に直接お聞きして
おりませんので、それはそんたくして申し上げなければいけないし、私
は、大変悪うございますが、意見を差し挟むことを、コメントを控えさ
せていただきたいと思います。
○高沢委員 この辺は政治家として当然一言あってしかるべきだと思い
ますが、どうしても言われないのを無理やり言わせるというのも大変困
難でありますから、もう時間があれですから次へ進んでまいります。た
だ、進む前に、やはり内閣の一員としてこの種の問題は人道的に、前向
きに対応すべきであるということは、ひとつ十分腹の中に入れておいて
いただきたい、こんなふうに思います。
それで、また外務省になりますが、こういうことが次々に出てくる。
仮に、韓国の政府の政府ベースの問題でそういうことを要求してくる、
日本はもう済んでおるということになったときに、意見の違いが出ると
、そこにいわゆる紛争の解決というふうなことになってくる可能性があ
るのですが、日韓請求権協定の三条では、紛争の解決という項があって
、そういう紛争がもし生じたならば外交経路で解決するとか、どうして
もつかなければ仲裁委員会にかけるというふうな規定があるわけであり
ますが、この規定はどういう意味と目的を持って置かれたものであるの
か、そういうことを聞きたいと思います。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
日韓請求権・経済協力協定第三条は、この協定の解釈及び実施に関す
る両締約国間の紛争の解決のための手続を定めたものでございます。た
だ、御指摘の補償の問題も含めまして日韓間の財産・請求権問題が完全
かつ最終的に解決したことを確認したこの協定第二条の解釈及び実施に
つきましては、先ほど御紹介いたしました李相玉外務部長官の発言にも
ございますとおり、日韓間に紛争が生じているわけではございませんで
、協定三条の規定に基づいて解決すべき問題ではないというふうに考え
ております。
○高沢委員 そうすると、紛争の解決ということで該当するのは一体ど
ういうことなのですか。
この協定の第一条では三億ドル、二億ドルの経済協力が規定されてい
る。これは皆上げてしまったからもう済みですよ、今さらこれで何か紛
争が起きる可能性はない、それから第二条で完全かつ最終的に決着済み
、これももう紛争が起きる余地はない、こう言われるとすれば、もはや
紛争が起きる可能性は全然ない。この三条というのは一体何の意味があ
るのかということになるのですが、どうですか。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
第三条の規定に基づきまして具体的にこうこうこういった事例といっ
たことで想定しているわけではないというふうに承知しております。
○高沢委員 これは私の意見ですが、これから日韓の間で紛争が生ずる
とすれば、今言った請求権の問題、済んだと協定ではなっているが、こ
れは、済んだでは我々は納得できないという問題が出てくることが、こ
れからの紛争の可能性の大きなものを非常にはらんでいるということを
私は申し上げて、外務省もそのことはしっかり考えておいていただきた
い、こう思います。
それから、戦争中に徴用等で雇用されていた朝鮮の人に対する未払い
賃金等については供託の措置をとるようにということが昭和二十一年に
政府から通達がなされて、そして関係の企業は、多くは皆供託の措置を
とったということでありますが、その供託は十年で時効になるというこ
とが一方にあるわけですね。前にも清水局長からもお答えありました。
そして、十年で時効になるけれども、昭和三十三年の段階でもう時効に
なったからこれは済んだと言って国庫へ戻し入れということは、普通な
らやるのだそうですが、それはやるべきでない、そのまま置いておけと
いうことが、また昭和三十三年に通達が出された。それは日本と韓国、
日本と朝鮮、その間におけるこの種の問題の協定ができるまでというこ
とであったわけですが、日韓の協定は既にできたわけでありますが、そ
の後、そうやってずっと保留されていた供託のお金の国庫への戻し入れ
がなされたのか、今でもなされないで置かれているのか、この辺はどう
でしょう。
○清水(湛)政府委員 前回答弁申し上げましたように、本来ならこれ
は十年で時効消滅しているわけでございます。しかしながら、平和条約
で、朝鮮半島の地域に施政を行っている当局あるいはその住民の請求権
につきましては特別取り決めの対象とするということが定められました
。そういうようなことを背景といたしまして、本来なら当然行っていい
はずの時効による歳入納付という手続を見合わせようということで、昭
和三十三年の通達によりまして見合わせたわけでございます。その後、
日韓の問題につきましては、先ほど来御答弁がございますように請求権
協定がされまして完全に解決されたということになるわけでございます
。
ただしかし、日韓間の請求権協定というのは、北朝鮮との関係におい
てはその効力が及ばないのではないかというようなこと、これは外務省
の方でお答えになる問題でございますけれども、そういうような疑問も
ございましたので、韓国関係におきましては完全に消滅しているわけで
ございますけれども、供託されている方々が韓国の方々なのかあるいは
北朝鮮の方々なのかわからないというようなこともございまして、現在
、歳入納付の手続はとらないまま推移していると承知しているところで
ございます。
○高沢委員 もう五分前の通告が来ましたからあれですが、今現に北朝
鮮との国交交渉をやっておりますから、いずれまとまるまでにはこうい
う経済協力というか請求権というか、そういうものが、今度は日本と北
朝鮮の間で当然結ばれなければならぬ、こうなると思いますが、そのと
きに、今まで日韓で結んだものと全く同じものが果たしてできるのか、
北朝鮮側は、あれではだめだ、こういうものでなければだめだという主
張が当然に出てくると私は思います。そういうことにおいて、これから
の日本の外務省の対応も相当難しい、場合によれば思い切った決断をし
なければならぬという局面も来ると思いますが、それは一応指摘だけし
ておいて、時間がありませんから次へ行きます。
それで、問題の三菱重工の長崎造船所で働いていた金順吉さんのこと
ですが、要するに三菱重工は、それは供託したからもう済んだんだ、こ
ういう態度をとっているわけですね。金さんは、それに対して支払いを
求めるということで、これから裁判にも訴えようというようなことにな
っていますが、その供託をしたということが、三菱重工が供託書の正本
をちゃんと持っていて供託したことが証明されるということになるかと
いうと、それが文書がないのですね。つまり、供託したことが証明され
ない。されないとすれば、逆に考えれば、今度は供託をしなかったと結
局認識せざるを得ない。そうすると、金順吉さんの支払い請求に対して
は当然支払いをする責任がある、義務があるということになろうかと思
うのですが、この点はいかがですか。
○清水(湛)政府委員 これは私どもの方で答えるべき筋合いの問題で
あるかどうか、つまり金順吉さんという韓国の方が日本の法人である三
菱重工に対して請求権を持っているということになるのだろうと思いま
す。しかし、その請求権につきましては、先ほど請求権協定で日本国民
に対する請求権についても放棄がされることになっておりますので、そ
のことについて三菱重工がどういう御主張をなさるのかという問題であ
ろうかと思います。三菱重工と金順吉さんの間の関係でございますので
、私ども、それについてとやかく申し上げる立場にはないということだ
けを申し上げさせていただきたいと思います。
○高沢委員 三菱重工がどう答えるかということは確かに会社の立場で
すね。ただ、それに対して、支払いを求めるという金順吉さんの、言う
ならばまた権利はあるということを私としてはここで確認したいと思う
のです。それは具体的に訴訟ということになっていくかもしれませんが
、そういうことを私としては確認をしたいと思います。
それで、前回のときに、これとの関連で、三菱重工が本当に供託した
のかどうかを側面的に立証する一つとして、当時同じく長崎でそういう
朝鮮人徴用夫を使っていた高島炭鉱あるいは川南造船、これの供託をし
たかどうかの資料はどうかと実はお尋ねしたのですが、それを後で聞い
たら、川南造船という会社は登記上ない、それから高島炭鉱という会社
もない、したがってそういうことの探しょうがないという説明が法務省
から実はあったのです。
そこで、私ももう一度よく調べてみたら、高島炭鉱というのは三菱石
炭鉱業株式会社の高島横業所、それから川南造船も川南工業株式会社の
造船所ということがより正確にわかったので、この名前で、昭和二十一
年、二十二年、あのころの段階で未払い賃金の供託がなされたかどうか
を、その資料をお尋ねしたいと思いますが、今ここですぐにわからなけ
れば、別途また私の方へその連絡をいただきたいと思いますが、いかが
でしょう。
○清水(湛)政府委員 これは供託制度についての一般論でございます
けれども、いわば供託をする人からその相手方のために金を預かるとい
うことでございまして、供託をした方は供託金の取り戻し請求権がある
、供託をされた方は供託金の還付請求権があるということで、それぞれ
金銭債権を有する関係にあるわけでございます。したがいまして、この
供託につきましては、どういう方がどういう方に対して供託をしたかと
いうことは一般的に公開しない。その供託をされた方あるいは供託をし
た方御自身あるいはその相続人の方が、そういう者であるということを
証明して供託所に参りますと、その関係でその事実関係を明らかにする
ことがありますけれども、一般論としてこういう方がこれだけの供託を
していますということは申し上げることはでさない、私どもはそういう
扱いをしているわけでございます。
もちろんその前提といたしまして、そういう会社が、いや、供託をし
たからその供託の事実を確認したいとみずからそういうことを明らかに
して供託所へ来るということでございますと、それはいわばみずから公
開したわけでございますから問題はないと思うわけでございますけれど
も、一般論ということになりますが、そういう扱いをしているというこ
とについて御理解をいただきたいと思うわけでございます。
○高沢委員 もう終わっていて済みません。もう一問だけお許し願いま
す。
前回の質問のときに、三菱重工の長崎造船所はそういう供託をした資
料が何もない。ところが、広島の造船所は広島の法務局に対して供託を
していて、確かにその資料が確認できた、千七百何名の供託があったと
いうことは前回の委員会でもお答えがあったわけです。それは法務省か
ら調べていただいてそのことの確認があったわけですが、今度の三菱石
炭鉱業、それから川南工業、これも同じような意味において調べていた
だいて、つまりこれは求めている人が金順吉さんですから、したがって
三菱が供託したかどうかを、最も利害関係人であるこの人にそういうこ
ともまた資料として伝えてあげるということがあっていいのじゃないか
と私は思いますので、今の点を調べていただいて、私に教えてもらえば
今度金さんの方へそのこともお伝えすることもできるわけで、まるっき
り利害関係人でないということでもないので、その御配慮を願います。
○清水(湛)政府委員 広島で三菱重工が供託書を閲覧したという事実
はございますけれども、それはその前提として、三菱重工の広島造船所
は自分たちはこういう形で供託をしているということを対外的に公表い
たしまして、その供託の詳細を確認するということで三菱重工みずから
が供託所にそういう調査に来られたということでございます。そういう
意味におきましては、三菱重工としては供託の秘密をも公開しておると
いうことでございますので、私どももこの間ここでそういう事実がある
ということはお答えいたしたわけでございます。
三菱重工の長崎造船所につきましては、長崎造船所の方でも供託をし
たというふうにおっしゃいまして、金順吉さんもそのことを長崎造船所
で確認をいたしまして、そして私どもの方へやってまいりましたので、
長崎造船所としても供託の事実をいわば公開しているということになり
ますので、調べてみたわけでございますけれども、この間お答えいたし
ましたように、そういう関係書類が法務局には見当たらなかったという
ことで、そういう経過になっているわけでございます。
第126回国会 衆議院予算委員会 第26号 平成五年五月二十六日(水曜
日)午前九時一分開議
委員 宇都宮 真由美
外務省条約局長 丹波 實
外務省アジア局長 池田 維
内閣官房内閣外政
審議室長兼内閣総理大臣
官房外政審議室長 谷野 作太郎
○宇都宮委員 次に、PKOの問題はこれから日本がどう生きていくか
にかかわる問題でございまして、そのことはまた今までの、過去の生き
方をどう処理するかという問題にも共通点があると思いますので、ちょ
っと戦後補償の問題についてお尋ねしたいと思うんですけれども、その
前にいわゆる日韓条約、その解釈について二、三確認をさせていただき
たいと思うんです。
一つは、協定第一条第一項の無償三億ドルと有償二億ドルの経済協力
、それと同第二条第一項の「財産、権利及び利益」並びに「請求権に関
する問題」の解決、この二つは法律的には対価関係がないというふうに
言われていますけれども、政治的といいますか存在的といいますか、経
済協力するからまあ財産等の問題は解決したのだ、解決するから経済協
力するんだという意味においては対価関係にあると思うんですけれども
、そういう形で連動しているとは言えないのでしょうか。
○丹波政府委員 お答え申し上げます。
先生はこの問題に大変お詳しい先生でございますので、ごく簡単に経
緯を御説明申し上げたいと思いますけれども、日韓国交正常化交渉にお
きましてのこの財産請求権問題の討議は、法的な根拠があり、かつ事実
関係も十分に立証されたものについてのみ日本側がその支払いを認める
という前提に立って交渉を行ったわけでございますけれども、法的な根
拠の有無に関する日韓間の見解というものに非常に大きな隔たりがあっ
た。また、御承知のとおり戦後十数年を経過し、かつ朝鮮動乱が間にあ
ったということで、事実関係の立証自体も非常に難しかったということ
でございます。それで、しかしそのような状況の中でこのような両国の
対立を無期限に放置し、そのために正常化もおくれるということであっ
てはいかぬということで、両国が大局的な見地から考えてこの協定をつ
くったわけでございます。
そこで、両国の正常化後、韓国の民生の安定、経済の発展に貢献する
ことを目的といたしまして、韓国に対しまして経済協力を行うことが適
当であるということを考えましてこの協定を締結いたしまして、先生が
今おっしゃいましたとおり、第一条におきまして五億ドルの経済協力の
供与を合意するとともに、当時国会でも何度も説明申し上げましたが、
それと並行的にとかあるいはあわせてという言葉を使っておりますが、
それと並行的にあるいはあわせて、第二条におきまして両国間の財産、
請求権の問題を処理した。完全、最終的に処理したということでござい
ます。
先生今おっしゃいましたとおり、この第一条と第二条の間には法的な
直接のつながりはございませんけれども、当時の経緯を考えまするに、
そこにはやはり政治的なつながりがあった、あるいは人によっては政治
的なパッケージであったという言葉を使って説明される方もおられます
けれども、いずれにしても、そのような関係であったというのが歴史的
な事実ではないかと思います。
○宇都宮委員 次に、この協定第二条第一項の「財産、権利及び利益」
と「請求権」との関係についてお聞きしたいと思うんです。
それはどうしてかといいますと、この当時の合意議事録によりますと
、ここで言う「「財産、権利及び利益」とは、法律上の根拠に基づき財
産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが了解され
た。」というふうに書かれております。そしてまた、今までの外務委員
会とか予算委員会での議事録を見ますと、「財産、権利及び利益」とい
うのは法律上の根拠のある請求権である、そして「請求権」というのは
法律上の根拠のない請求権であるというふうな説明がなされております
。このような両方の説明からしますと、ほとんどの権利は「財産、権利
及び利益」の中に入って、いわゆる何というか全く根拠のない、言いが
かりをつけるようなものだけが「請求権」の中に入るというふうな感じ
にちょっと感じられるのです。
そこで、もう少しわかりやすく、「財産、権利及び利益」の中にはど
ういう権利が入って、「請求権」の中にはどういう権利が入るのか、具
体例を挙げて、かつ簡単に御説明いただきたいと思うのですけれども。
○丹波政府委員 いわゆる財産、権利、利益と請求権との区別でござい
ますけれども、「財産、権利及び利益」という言葉につきましては、日
韓請求権協定の合意議事録の中で、ここで言いますところの「財産、権
利及び利益」というのは、合意議事録の2の(a)ございますけれども
、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体
的権利」を意味するということになっておりまして、他方、先生御自身
今おっしゃいましたとおり、この協定に言いますところの「請求権」と
いいますのは、このような「財産、権利及び利益」に該当しないような
、法律的根拠の有無自体が問題になっているというクレームを提起する
地位を意味するということになろうかと思います。
具体的にとおっしゃいますので、ちょっと具体的に申し上げますと、
御承知のとおり、この第二条の三項におきまして、一方の締約国が財産
、権利及び利益、それから請求権に対してとった措置につきましては、
他方の締約国はいかなる主張もしないというふうな規定がございまして
、これを受けまして日本で法律をつくりまして、存在している実体的な
権利を消滅させたわけでございますけれども、まさにこの法律が対象と
しておりますのは、既に実体的に存在しておる財産、権利及び利益だけ
である。
具体的に申しますと、それは例示いたしますと、日本国あるいは国民
に対する債権あるいは担保権あるいは物権といったものを消滅させた。
これがまさに実体的な権利でございまして、請求権はなぜこの法律の対
象でなかったかと申しますと、まさにその消滅させる対象として請求権
というものが目に見える形で存在していないということだと思うのです
。
先生はもう弁護士の先生でございますので、これ以上あれする必要は
ないと思いますけれども、例えばAとBとの間に争いがあって、AがB
に殴られた、したがってAがBに対して賠償しろと言っている、そうい
う間は、それはAのBに対する請求権であろうと思うのです。しかし、
いよいよ裁判所に行って、裁判所の判決として、やはりBはAに対して
債務を持っておるという確定判決が出たときに、その請求権は初めて実
体的な権利になる、こういう関係でございます。
○宇都宮委員 今の御説明をお聞きしますと、財産、権利、利益の中に
入る権利というのは、例えばよく例に出されるのは郵便貯金の返還請求
権とか、そういうのが言われるのですけれども、一見して証拠上だれが
見ても権利が存在していると認められるような、判決書とか国の権利証
みたいな、そういうものだというふうに考えて、そしてそういうまだは
っきりしていない権利というのは、損害賠償請求権なども法律上の根拠
があるかないかといえば、私はあるんだろうとは思うのですけれども、
そういう損害賠償請求権とかあるいは慰謝料請求権、あるいは労働契約
に基づく賃金の支払い請求権なども、そういうはっきりした証拠がなけ
れば請求権の方に入るというふうに解釈してよろしいのでしょうか。
○丹波政府委員 これは条約、協定あるいは国内法でもそうかと思いま
すが、いかなる意味合いで請求権という言葉が使われているかというこ
とによって違うと思うのですが、しかし先生、一番重要なことは、請求
権につきましても、日韓両国、両政府の間では、国家あるいは国民の請
求権も相互に放棄され、完全、最終的に解決されておるというのが、こ
の問題につきましてのこの条約上の一番重要な問題ではないかと考えて
おります。
○宇都宮委員 重要な問題がどうかということをお聞きしたわけじゃな
くて、権利の分類が私の解釈で間違ってないでしょうかということを確
認させていただいたのですけれども。
○丹波政府委員 ですから、請求権という言葉がどういう文脈あるいは
どういう法律の中でどのような形で使われているかということによって
、そこは実体的なものを持っているのかどうかも違ってくるのではない
かと考えます。
○宇都宮委員 済みません。もう一回だけ確認させてほしいのですけれ
ども、証拠がはっきりしているかどうか、だれの目で見ても一見明らか
に存在すると見られるような権利が「財産、権利及び利益」の中に入っ
て、それがはっきりしないような権利が「請求権」なんだというふうに
一番最初例説明されたのではないのですか。
○丹波政府委員 先ほど申し上げましたとおり、この「財産、権利及び
利益」と申しますのは、法律上の根拠に基づきまして既に財産的価値を
認められています実体的な権利を意味しておる。それで、「請求権」と
申しますのは、「財産、権利及び利益」に該当しないような、法律的根
拠の有無自体が問題となっているようなクレームを提起する地位、それ
を意味しておるということでございます。
○宇都宮委員 今までの外務委員会等での議事録に書かれているとおり
の御答弁なんで、これ以上はやめますが、何でああいうわかりにくい説
明をするのか、私はよくわからないのですけれども。
いずれにしましても、財産、権利、利益の中に入るものも、請求権の
中に入るものも、条約上はその権利を消滅させていない。財産、権利、
利益に対する日本国の措置に対して、そしてまた請求権に対して、国家
は何らの主張もしない。要するに主語は国家であって、その権利が消滅
したことを条約で言っているわけではないと思うのです。この条約では
、要するに外交保護権の放棄を言っているだけの話で、権利自体の消滅
についてはこの条約は言っていないということはいいわけですね。
○丹波政府委員 お答え申し上げます。
この第二条の一項で言っておりますのは、財産、権利及び利益、請求
権のいずれにつきましても、外交的保護権の放棄であるという点につき
ましては先生のおっしゃるとおりでございますが、しかし、この一項を
受けまして三項で先ほど申し上げたような規定がございますので、日本
政府といたしましては国内法をつくりまして、財産、権利及び利益につ
きましては、その実体的な権利を消滅させておるという意味で、その外
交的な保護権のみならず実体的にその権利も消滅しておる。ただ、請求
権につきましては、外交的保護の放棄ということにとどまっておる。個
人のいわゆる請求権というものがあるとすれば、それはその外交的保護
の対象にはならないけれども、そういう形では存在し得るものであると
いうことでございます。
○宇都宮委員 韓国政府がその外交保護権を放棄したからといって、日
本の法律で直接その韓国人の権利を消滅させるという、その根拠は何な
んでしょうか。
○丹波政府委員 それは、何度も立ち戻りまして恐縮ですけれども、韓
国との請求権・経済協力協定の第二条一項を受けまして三項の規定があ
るものですから、日本政府が相手国、この場合韓国ですが、韓国政府及
び国民の財産、権利及び利益に対していかなる措置をとっても、相手国
あるいは相手国政府としてはいかなる主張もしないということになって
おるものですから、その意味で、日本政府がまさにこの財産、権利及び
利益というものを消滅させても、韓国としてはいかなる主張もしないと
いうことが規定されておるものですから、日本政府としてはそういう措
置をとったということでございます。
○宇都宮委員 それは韓国政府が何も言わないということで、韓国人が
何も言わないということまでは決めていないと思います。ちょっと長く
なりますので、もうこれでやめます。
次に、戦後補償の問題なんですけれども、いろいろあるんですけれど
も、韓国の従軍慰安婦の方の問題についてちょっと質問させてもらいた
いと思うんです。
政府の立場は、今言いました一九六五年の日韓間の請求権・経済協力
に関する協定、これで、戦後補償の問題については韓国及び韓国民との
間では既に解決済みであるという態度を繰り返して述べられております
。そしてまた一方では、この元従軍慰安婦の方には補償にかわる何らか
の措置をする必要があるというふうにも言われています。
この解決済みであるということと、何らかの補償をしなければならな
いということとの関係というのは、どういうふうに考えたらいいんでし
ょうか。法律的には解決済みだけれども、何らかのことをする政治的な
義務とかあるいは人道上の義務があるというふうにお考えなのか、それ
とも、義務はないけれども、まあするんだというふうに考えるのか。ど
ちらなんでしょうか。
○池田政府委員 いわゆる従軍慰安婦問題の法的な立場についてはただ
いま条約局長から御答弁があったとおりでございますけれども、本件の
性格にかんがみまして、道義的、人道的観点から、我々としては日本国
民の気持ちを何らかの形であらわすことはできないだろうかということ
で検討しているわけでございます。
○宇都宮委員 そこで、何らかの道義上の義務があるというふうに考え
られているんだろうと思うんですけれども、今まで私たちというか、元
慰安婦の方たちも、要するに事実の調査をしてほしいということを訴え
てまいりました。
それで、いろいろ政府の方でも文書の調査はなさって、昨年の七月に
も第一回目が発表されて、また二回目の調査の結果を発表するというこ
とでございますけれども、この書類とか文書とかの調査以外に、聞き取
り調査をなさるということを三月の参議院の予算委員会でおっしゃられ
ました。聞き取り調査の対象とか方法とか、具体的に決まっていれば御
説明願えますか。
〔委員長退席、石川委員長代理着席〕
○谷野政府委員 お答え申し上げます。
ただいま聞き取り調査ということでございましたが、私どもが行って
おります聞き取り調査は、当事者の方々の、慰安婦の方々から直接お話
を伺うということと、それから、それ以外のいわば関係者の、日本の方
も含めてですけれども、その方々からお話を伺うのと二通りあろうかと
思いますが、後者につきましては既にいろんな形でお話を伺っておりま
す。
難しいのは当事者の方々から直接お話を伺うということでございまし
て、私どもは、現在進めております調査をより完全なものにするために
は、当事者の方々から直接お話を伺うことが必要であろうという感じに
なっておりまして、ただいま外務省にお願いいたしまして、現地の大使
館を通じて当事者の団体の方々と連絡をとらしていただいております。
向こうの側でもいろんなお考えがあるようでございまして、いま少しく
、いつどういう形でやらしていただくか、時間がかかろうかと思います
が、何とか実現にこぎつけたいと思います。
○宇都宮委員 今まで、そういう証言の信憑性については疑問を持って
いるということで、私たちがそういう聞き取り調査を行うべきでないか
と言っても、行わないという方針だったと思うんです。
そしてまた、もう一つは、そういうもとの当事者の方に聞き取り調査
をすれば、その人たちは、強制的にやらされた、従軍慰安婦にさせられ
た、いわゆる強制連行されたというふうな証言をなさっている方が多い
わけです。そういう証言が出てくることは明らかだと思うんですけれど
も、この強制連行については政府はどのようにお考えなんでしょうか。
○谷野政府委員 まさに先生のただいまお話しのようなポイントも含め
まして、私どもは別に予断を持っているわけではございません。なすべ
きことは、なるべく真実を究明するということでございまして、それに
尽きると思います。そのような考え方に基づきまして調査を進め、聞き
取り調査も行うということでございます。
○宇都宮委員 だとすれば、この聞き取り調査をするということに方針
を変えたのはどうしてなんですか。何か理由があるんですか。
○谷野政府委員 聞き取り調査のお話だったと思いますが、政府は確か
にひところまで、この当事者の方々のプライバシー等の問題もあろうか
と思いまして、これの問題について若干消極的なことを述べておったか
と思いますけれども、その後、先ほど申し上げましたように、より実態
に迫るために、かつまた韓国側からも内々これを実施してほしいという
強い御要請がありまして、ただいまのところでは、先方の協力が得られ
ればということが条件でございますけれども、先方が応じてもいいとい
うことになりますれば、ぜひそのような段取りを進めたいと思っており
ます。
○宇都宮委員 この聞き取り調査に関して、なかなか難航している、い
ろいろと韓国の団体の方にも反対があるというのでなかなか難航してい
るというふうな報道がなされておりましたけれども、見通しといいます
か、特に元従軍慰安婦の方の聞き取り調査ができるかどうかの見通しと
、それに対します、どうすれば実現できるかというその方法など、どう
いうふうにしたいか考えていらっしゃれば、お伺いできますか。
○谷野政府委員 これは、先方の団体とのお話し合いは、外務省、出先
の大使館にお願いしてございますので、あるいは外務省の方からお答え
いただいた方がよろしかろうかと存じますが、私どもの承知いたしてお
るところでは、いろいろ先方にも、団体の方にこれに応ずるにおいても
いろんな条件とかお考えがあるようでございまして、その辺のところを
いま少しく解きほぐすために時間が必要だと思います。したがいまして
、相手のあることでございますから、私の方の立場でいつまでにという
ことはなかなか申し上げにくいわけでございます。
それから、しかりとすれば、どういう規模で、どういう形で、どこで
何人くらいということは、そういった話し合いを通じてお互いに合意を
して出てくる話でございまして、とにかく今は私どもの考え方を向こう
の団体の方に伝えて、私どもの考え方をわかっていただくというふうな
ことで努力をさせていただいております。
第154回国会 参議院 内閣委員会 第15号 平成14年7月16日(火曜日)午
前十時二分開会
【発言順】
外務省アジア大洋州局長 田中 均
男女共同参画担当大臣 福田 康夫
議員 岡崎 トミ子
外務省条約局長 海老原 紳
○政府参考人(田中均君) 国連の人権委員会とか国際場裏で議論が行
われているというのは、今、委員も御指摘のとおりでございますけれど
も、今御指摘のその従軍慰安婦の問題を含め、そういう大戦にかかわる
財産賠償請求権、その問題については、さっきも申し上げましたとおり
でございますけれども、サンフランシスコ平和条約という中で二国間の
条約も含めて処理がされてきておる。例えば、米国の連邦地方裁判所の
判決におきましても、戦争後に締結された一連の条約が日本に対するす
べての戦争請求権の解決を目的としていたことは明確であるという判示
をしているということでございます。
ですから、非人道的な行為であると、正にそういう言い方というのは
当然できると思うし、そのことに関しては河野官房長官の声明もそうで
ございますけれども、それに対して非常に強いおわびの気持ちというこ
とは持っているわけです。ですけれども、それに至る責任ということに
関しては二国間条約等で処理がされているということでございます。
○国務大臣(福田康夫君) 今はサンフランシスコ平和条約とか、そう
いったようなことで法的な面のお話をされました。委員のおっしゃるこ
とは、非人道的ということは、要するに、非人間的な行為とかいったよ
うな、そういう観点からの質問でもあったのではないかと、こういうふ
うに思います。
そういうことで、私から申し上げるのは、これは、私からこういう立
場で申し上げることが適当なものであるかどうか分かりませんけれども
、一個人の立場で申し上げれば、それは今の、戦後育った人間、私のよ
うな人間からすればそれはとんでもない非人間的なことであったと、こ
んなふうには思います。それは今の私の立場でそういうことは感じてい
るわけでございまして、その当時の社会でそれがどのように受け止めら
れていたのかということについては、私は正直言って分かりません。
○岡崎トミ子君 サンフランシスコ条約等、二国間条約ということにつ
いて度々触れられておりますけれども、この締結当時に慰安婦や中国人
そして朝鮮人強制連行問題は、これはどのように認識されていたんでし
ょうか。あれだけの大規模な戦争のすべての問題を一つの条約だとか二
国間条約とか協定ですべて解決できたというふうには考えられませんね
。講和条約、賠償協定などは基本的には国と国との戦争状態に終止符を
打つというもので、賠償も基本的に問題意識としては国と国との問題に
限定されていたんではないですか。
当時のその認識と、このことについてお答えいただきたいと思います
。
○政府参考人(田中均君) 委員御指摘のとおり、当時、戦争中に起こ
った個々の行動について、きちんとした事実関係をもってそれを一つ一
つ検証していくということは可能ではなかったというふうに思います。
可能でなかったがゆえに、これは韓国との請求権協定、一九六五年の基
本条約というのもそうでございますけれども、そういう個々の積み上げ
というのは可能でない、したがって一括してその請求権の問題を処理を
するという形になったわけでございます。
ですから、そういう意味でいけば、当時、その個々の問題について十
分検証はされていたかといえば、それはそうではないのかもしれません
。しかしながら、そういうことが不可能であるがゆえに全体として、政
府と政府の間で一括して請求権の問題について決着をしましょうという
国の意思として条約が締結されたというふうに考えております。
○岡崎トミ子君 それでは、個人の被害とか加害の問題まで完璧に解決
できたとは思っていないんですね。
○政府参考人(海老原紳君) お答え申し上げます。
この点に関しましては、先ほども答弁がありましたように、国家及び
国民の財産、請求権、これらの問題すべてがサンフランシスコ平和条約
、あるいはその後締結されました二国間の平和条約、あるいは今のお話
のありましたような、日韓の場合は一九六五年の日韓請求権・経済協力
協定によってすべて解決済みであるということでございまして、例えば
平成十三年の十月の十一日に東京高裁の判決というのがございます。こ
れはオランダ人の元捕虜、民間抑留者の損害賠償に関する控訴審の判決
でございますけれども、この判決におきまして、ちょっと読ませていた
だきますけれども、「連合国及びその国民と日本国及びその国民との相
互の請求権の問題は終局的に一切が解決された」というべきであるとい
うふうに判示されているところでございます。
○岡崎トミ子君 だから、考えていただきたいんですね。この平和条約
とか協定を私は否定しませんし、破棄してほしいなんというふうに言っ
ているわけでもないんですね。ここに含まれなかった問題に関して、又
は解決できていない問題について追加的に措置を講じる、あるいは補完
する、そのことが今求められているんだと思いますけれども、いかがで
すか。
○政府参考人(田中均君) 今、条約局長から御答弁申し上げましたよ
うに、正に国の意思として非常に多大の国民の税金を使って戦後処理を
する。それは、そういう個々の、死んだ方もおられます、死んだ方もお
られるし、強制的に日本に労働に連行した方もおられる、慰安婦のよう
な方もおられる。しかしながら、そういうことに対する責任の問題とい
うのはすべて一括して請求権協定で処理をする、サンフランシスコ平和
条約で処理をする、その後の二国間の条約で処理をするという選択をし
たわけでございます。その選択は日本国として支持をされ、諸外国にも
支持をされる形で処理がされてきたということでございます。
○岡崎トミ子君 どうしてもドイツの例を言わなければいけないと思い
ますけれども、ドイツも戦後、いろいろな追加措置を立法を行って実施
してきておりますよね。一昨年、二〇〇〇年に制定されました強制労働
補償基金はその総仕上げとされるもので、百五十万人を対象に総額五千
四百億円をドイツ政府と企業六千四百社が共同で出し合って設立をいた
しました。米国も一九八八年に、戦争中の日系人の強制収容への謝罪と
補償を立法で行っております。
なぜ日本ではできないんでしょうか。
○政府参考人(田中均君) ドイツの例につきましては、ドイツが分断
国家であったということがございまして、日本がサンフランシスコ平和
条約、その後の二国間の条約でやったような形で国と国との関係で処理
ができなかった。ドイツの場合にはナチスの犯罪ということで、むしろ
個人に対して種々の補償を行うという方式を選択をしたということでご
ざいますし、ドイツはその方式に従ってやってきている。
ですから、国と国との関係、政府と政府との関係で一括して処理をす
るのか、それともドイツのようにナチスの犯罪という形で一定の基金を
設けて個人に対して資金の支払をするのかという、その方法といいます
か、いずれも過去の責任、そういうものに対して国としてどういう対処
をするかという基本においては同じでございますけれども、そういう形
になっているということだと思います。
それから、米国の例を委員は指摘をされましたけれども、米国につい
ては、これはあくまで米国国民の問題、正に米国憲法の下で不平等な扱
いがされた。それに対して、日系人といえども米国国民に対しての支払
ということだと理解をしております。
○岡崎トミ子君 経過が異なるというのは、これは当然だと思いますね
。しかし、戦後補償に関して、世界はドイツを評価して日本を評価され
ておりません。これも事実ですよね。第二次世界大戦から半世紀以上も
たって、ドイツは既に総額七兆円に及ぶ支払を行ってきましたけれども
、まだやり残したことがあると政府と企業が一緒になって百五十万人も
対象とした補償基金を設立しているんです。立派じゃないですか。
確かに、ドイツ政府も、戦争犯罪を犯したのはかつてのナチス・ドイ
ツで現政府は責任を負わないと、法的責任の継承を否定しています。し
かし、パッチワークと言ったら申し訳ないかもしれないけれども、次々
に補償を行って、また歴代大統領や首相が被害地を訪問して、これは必
ずしもストレートに謝罪ではないけれども、心に刻む、過去の克服、許
しを請う、こういうことを誠実に語り続けてきております。謝罪という
ことは言葉であると同時にプロセス、過程だというふうに思います。幾
ら謝ったと加害者の方の側が一方的に主張しても、謝罪を受ける側の方
が納得して了解できるものでなければ意味はありません。
かつて、一九七〇年に当時のウィリー・ブラント西ドイツ首相がポー
ランドを訪れて、ワルシャワのユダヤ人ゲットー記念碑の前でひざまず
いて一言も言葉を発することがなかった。けれども、世界じゅうの人々
はそれを見て、ドイツは誠実に謝罪をして反省しているということを実
感したわけなんです。四月十七日にはラウ大統領がイタリア北部のマル
ザボットという小さな町を訪れまして、虐殺の跡地で、ドイツ人は暴力
と計り知れない悲しみをもたらした、後の世代もこの罪を直視しなけれ
ばならないと語っています。こういう誠意というものが問われているの
ではないかと思うんですね。ほかの国の立派な行為を、実はこうなんで
すよ、一括してやったのと、その選択なんですよというふうに暗に否定
しようとする、そういう態度は非常にこそくだというふうに思います。
女性のためのアジア平和国民基金ですね、この償い金に添えました総
理の手紙が被害者から送り返された。ドイツの補償に対して反対のデモ
が行われたとか、ドイツの首相の手紙に対して突き返されたなんという
ことはかつてなかったと思いますけれども、外交的に大失態で逆効果で
はないですか。どうですか。
○政府参考人(田中均君) 委員の前段の御指摘、ドイツはきちんとし
たことをやっていて日本はそうではないという趣旨のことを言われまし
たけれども、決してそうではない。日本も戦後処理、戦争処理、そうい
うことと同時に、やはり基本的な反省、歴史を直視するという形で、こ
れは近隣国との関係でも常に日本として意識をしてやってきていること
でございますし、それから東南アジア諸国に対する経済協力もそうでご
ざいますし、一連、やはり日本としては、戦後の状況において戦争処理
を行うと同時に、近隣諸国との間で信頼関係を作るという観点から外交
を展開してきているわけでございます。決して、ドイツが良くて日本が
悪いということではないんだというふうに思います。
それから、フィリピンのケースについてお話がありました。
これにつきましては、委員御案内のとおり、正に日本の道義的な意識
から、当時、一九九五年、村山内閣でございましたけれども、果たして
どういう形でこの慰安婦の問題に政府として対応するのが適当かという
ことで、ただ、国が直接、個人補償をすることはできないという前提の
中で、それでは民間の基金を使って、民間の国民の寄附をお願いをした
上で、それを個々の慰安婦の方々に償い金として支払をしようという形
で政府としての決定がされたわけでございます。
そういう形で、この慰安婦基金につきましては償い金、それから政府
の拠出から成り立っている福祉事業、それから福祉金と言う場合もござ
いますけれども、それから総理の手紙ということで、その手紙も付けた
上で個々の慰安婦で申請があった方に対してはお届けをしているという
ことでございます。
ただ、ただ、フィリピンにおいてそういう手紙を受け取りたくないと
いう御指摘があったので、御本人の事情を聞いたということでございま
す。
第186回国会 参議院外交防衛委員会 第4号 平成二十六年三月十七日
(月曜日)
委員 中西健治
外務大臣 岸田 文雄
○中西健治君 重要な隣国でありますから、是非そうした対話を促進し
ていただきたいと思いますが。
いろんな懸案事項について話をされたということでありましたけれど
も、幾つかの問題をちょっと取り上げたいと思いますが、今日の時間の
許す限りお話ししたいと思いますが、一つ目が、私は慰安婦の問題、あ
えて取り上げませんが、より経済的問題としてなじむものとして戦中の
徴用工の問題、これをお聞きしたいと思います。
朴槿恵政権は、殊更、安倍政権は過去の歴史を覆そうとしているとい
うことを諸外国に向けてこれまで発信してきていたと思います。この徴
用工問題については、もう平成二十一年に韓国政府自らが請求権協定で
外交上解決済みだという立場を明らかにしたものでありますけれども、
今またこうしたことについて蒸し返されてきているということについて
、過去の歴史を覆そうとしているのは、まさに私たちではなくてあちら
の国なのではないかということについてどう思われるでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) まず、日本と韓国との間の財産請求権の問
題、これは日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済み
であるというのが我が国の一貫した立場であります。これまでも、こう
した立場につきまして外交ルート等を通じまして様々なレベルに対して
韓国政府に向けて申入れを行ってきているところです。
そして、今委員からも御指摘がありましたこの旧民間人徴用工の問題
に関しましては、韓国政府も我が国と同様の認識に立っているというこ
とで、日韓請求権・経済協力協定で解決済みという立場については韓国
政府自身がこれを公表してきております。ですから、この件につきまし
ては、あくまでもこれは韓国政府自身が解決すべき問題であるというの
が我が国の考え方であります。
是非、今後とも我が国の政府の一貫した立場に基づいて、韓国政府が
早急かつ適切に対応することをしっかり求めていきたいと考えています
。
○中西健治君 韓国政府が適切に対応することを求めていくと、そうい
うことなんだと思いますが、最近、韓国政府の実務者から、日本企業が
原告側に見舞金を支払うことなどで和解できないかと暗に打診してきた
ということに対して、日本政府が和解に応じないと方針を韓国側に伝え
たとの報道がされておりますけれども、この事実関係はどうなっている
んでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) 詳細については申し上げるのは控えなけれ
ばならないと思いますが、いずれにしましても、こうした日本側の民間
企業と連絡を取りつつ、日韓間の財産請求権の問題に対する我が国の政
府の一貫した立場に基づき対応していかなければならないと思っていま
す。
是非この立場、従来の立場につきましてはしっかり堅持した上で、こ
うした民間企業ともしっかり連携しつつ日本側として対応していきたい
と考えています。
○中西健治君 私自身は、あちらの大審院、最高裁の判決が確定する前
にも、国際司法裁判所にこうした請求権協定の存在確認、これを求める
というようなことをするべきなんじゃないかなと思います。
そして、あと一つお聞きしたいと思いますが、南スーダンのPKOで
の韓国軍に対して銃弾一万発の無償提供を行った件でありますけれども
、この弾薬提供に当たっては、現地のやり取り以外にも韓国の駐日大使
館から外交ルートで日本政府に要請があったというふうに外務省の方か
ら以前伺いましたが、それは事実かどうか、御確認いただきたいと思い
ます。
第186回国会 参議院外交防衛委員会 第5号 平成二十六年三月二十五
日(火曜日)午後一時開会
委員 中西 健治
外務大臣 岸田 文雄
○中西健治君 もう一つ外務大臣にお伺いしたいと思いますけれども、
韓国の戦時中の徴用工についてはこれまで二度か三度この委員会でも取
り上げさせていただきました。新たなことが、同じような事案が中国で
も起こってきたということであります。中国の裁判所、北京市の第一中
級人民法院が訴えを受理したということでありますけれども、韓国につ
いては、先週の委員会でも外務大臣は、韓国政府自身が解決すべき問題
であると、ですので見守っていきたいと、こんなようなことをおっしゃ
られたと思います。私自身は、私がそこで申し上げたのは、あちらの大
法院の判決が確定する前にも国際司法裁判所に対して請求権協定の存在
の意義確認をするべきではないかということを申し上げました。
中国についても同じことが言えるのではないかと思いますけれども、
あくまで事態を見守って待つという姿勢なのか、それとも何らかの方策
を政府として行っていくのか、それについて御見解をお伺いしたいと思
います。
○国務大臣(岸田文雄君) 中国の状況について御説明もいただきまし
たが、まず、政府としましては、いわゆる中国人の強制連行そして強制
労働問題について、当時多数の方々が不幸な状況に陥ったことは否定で
きないと考えており、戦争という異常な状況下とはいえ、多くの方々に
耐え難い苦しみ、悲しみを与えたことは極めて遺憾であったと考えてお
ります。
そして、中国でのこの訴訟、この二月二十六日に提訴されて以降、政
府としては関心を持って状況を注視していますが、先般、中国の裁判所
において訴状が受理されたことは中国国内で類似の事案を誘発すること
にもなりかねず、日中間のこの戦後処理の枠組み、あるいは日中経済関
係への影響、こういったものに大きな、深刻な影響を与えることを懸念
せざるを得ない、このように考えております。
さきの大戦に係る日中間の請求権の問題については、日中共同声明発
出後存在しておらず、日本政府としては引き続き関心を持って状況を注
視し、そしてその上でしかるべく対応していく考えであります。
○中西健治君 状況を注視してばかりだということで、これ何らかのや
はり深刻な影響が日本の企業活動にも及びかねないという事柄だという
ふうに思いますので、是非何らかの知恵を絞って行動をしていただきた
いと思います。私が申し上げたのも一つの策なんではないかと思います
が、ほかに知恵も働かせられるのかもしれませんが、是非そうしたアク
ションも求めたいと思います。
私の質問はこれで終わらせていただきます。ありがとうございました
。
第186回国会 衆議院外務委員会 第9号 平成二十六年四月四日(金曜日
)
委員 玄葉 光一郎
外務大臣 岸田 文雄
○玄葉委員 まさにこれは難しい判断だと思いますけれども、総合的な
判断をしていかなきゃいけないんだろうというふうに思います。
国際法の観点で、また別の問題を一つだけお聞きしたいんですけれど
も、きょうは国際法にできるだけ特化して聞こうと思っていたんですが
、韓国、日韓関係、今度時間があったら一度じっくり全般的にやりたい
んですけれども、きょうは、国際法絡みでいうと、幾つかあるんですけ
れども、一つだけ聞きたいと思います。
いわゆる徴用工をめぐる裁判というのが、日本企業が敗訴しているわ
けであります。これは、もちろん個人の請求権においても、一九六五年
の日韓請求権・経済協力協定で完全かつ最終的に解決されたのだという
のが我々というか日本国政府の立場だというふうに思います。そういう
状況の中で、これは判決が確定する可能性が強いという状況になってま
いりました。
中国でもどうやら同じような動きがあって、日本企業がかつて強制連
行、炭鉱だとか建設現場だと思うんですけれども、連行して過酷な労働
を強いたという問題で、これまでは政治的に中国政府はこの訴えを受理
しなかった、中国政府は受理しなかったと言うと正確ではありませんが
、ただ、事実上中国政府の影響下にある司法が受理をしなかったという
ことでありますが、最近は受理をし始めたということで、日本企業二十
社くらいが訴訟リスクにさらされるという、これは大問題だと思うんで
す。
例えば、韓国で判決が確定したとすれば、これは国際法違反として日
本国政府としては争うということなのか、それとも、あくまで外交的な
解決を求めていくということなのか、その点についてお伺いをしたいと
思います。
○岸田国務大臣 御指摘の旧民間人徴用工の問題を含め、日本と韓国の
間の財産、請求権の問題につきましては、日韓請求権・経済協力協定に
より完全かつ最終的に解決済みである、これが我が国の政府の一貫した
立場であります。そして、こうした立場は、今までも外交ルートを通じ
まして、韓国政府のさまざまなレベルに対してしっかりと申し入れを行
い、伝えてきております。そして、韓国政府も、本件につきましては、
日韓請求権・経済協力協定で解決済みだという立場であると我々は承知
をしております。韓国政府自身も、こういった立場については正式に表
明をしてきております。
ですから、本件は、あくまでもこれは韓国政府自身が解決すべき問題
であると考えておりまして、我が国としては、韓国政府が早急かつ適切
に対応することを求めている、これが今現状の我が国の立場であります
。
我が国としましては、引き続き民間企業とも連絡をとりつつ、日韓間
の財産、請求権問題に対する我が国政府の一貫した立場に基づき、適切
に対応していきたいと思っております。状況を注視していきたいと考え
ています。
その上で、どういったことになるのか、その点につきましては、あら
ゆる可能性を念頭に適切に対応していきたいと存じますが、現状におい
ては、これは韓国の政府が適切に対応する問題であるということで、ま
ずは状況を注視していきたいと考えています。
○玄葉委員 中国はどうですか。つまり、中国は、恐らく中国政府とし
て、これまでと違って、もっと言うと、韓国政府とも違って、個人の請
求権あるいは民間の請求権は、日中共同声明の中で扱ったような形で請
求権放棄をいわゆる個人と民間はしていないんだみたいなことを中国政
府が言うのではないかというふうに思うんですけれども。
○岸田国務大臣 中国との間の請求権の問題については、日中共同声明
発出後、存在をしていないというのが我が国の立場であります。
そして、今回の訴訟につきましては、こうした訴訟の状況によっては
、戦後の日中の経済関係、経済協力、そういったものを揺るがしかねな
い大変大きな問題であると認識をしております。そうした認識のもとに
、引き続き注視をしていきたいと考えています。
第186回国会 参議院外交防衛委員会 第15号 平成二十六年五月十五日
委員 中西 健治
外務大臣 岸田 文雄
○中西健治君
それでは、話題を変えまして、日韓関係、お伺いしたいと思います。
あした東京で日韓局長級会議が行われるということでありますけれど
も、慰安婦問題や元徴用工の問題も話し合われることになるのではない
かというふうに考えております。韓国政府は、慰安婦問題で何らかの進
展がない限り日韓の首脳会談を行わないという立場を取り続けているか
と思います。中国も、靖国参拝や尖閣諸島について注文を付けて、それ
が解決されない限りは首脳会談を行わないという立場を堅持しているよ
うでありますが、先方の注文を聞かなければ首脳は会わないという、こ
うした態度が続くとすれば、幾ら我が国政府が努力しても、先方が考え
ることを変えることでしか解決できないということになってしまいます
が、何らかの打開策というものについて政府は今どのような考えを持っ
ていらっしゃるのか、聞かせていただきたいと思います。
○国務大臣(岸田文雄君) まず、日韓の局長級協議、本日開催する予
定になっております。この日韓の間の協議ですが、双方の関心事を取り
上げて協議を行うということになっておりますので、御指摘のように、
徴用工問題を始め様々な議題が取り上げられることになると想定をして
います。
中国との間においては、様々な難しい局面があり、個別の問題があり
ます。是非、難しい問題は存在いたしますが、こういった問題があるか
らこそ、前提条件付けることなく率直に話し合うことが重要だと我々は
訴え続けております。──失礼。済みません、中国でなく韓国でありま
す。韓国との間には様々な問題があります。韓国との間には難しい問題
があるからこそ議論をするべきだと申し上げております。
こうした局長級協議を始め様々なレベルでの対話、様々な分野におけ
る議論、こういったことを積み上げることによって是非高い政治のレベ
ルでの対話につなげていきたいと考えております。韓国側にもこういっ
た我々の姿勢、しっかり受け止めてもらいたいと思っております。そう
いった意味で、今回、日韓の局長級協議を行う意味はあると我々は感じ
ております。
是非、未来志向の日韓関係を実現するために、こうした努力は続けて
いかなければならないと認識をしております。
○中西健治君 対話がなければ何も始まらないというふうに思いますの
で、今日の局長級会議でも何らかの進展があることを私自身は願ってお
ります。
質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。
第186回国会 衆議院外務委員会 第17号 平成二十六年五月二十一日(
水曜日)
委員 小川 淳也
外務大臣 岸田 文雄
○小川委員
最後に、ちょっと大臣に胸をおかりしてお聞きしたいと思います。
先ほど鈴木委員が、商船三井の船舶の中国からの差し押さえに関して
御指摘になられました。日中韓の投資協定が最近になって発効されたと
いうふうにお聞きしています。御存じのとおり、日中、日韓との間には
、戦前戦中の強制徴用、強制雇用の問題をめぐって訴訟に発展していま
す。
私の理解では、人道的には私もいろいろ思うところがあります、この
方々の抱えておられる無念なお気持ちなりがもし晴らせるのであれば、
何とか官民挙げてこれはその方向に協力できたらという人道的な思いは
私にもあります。
しかし一方で、国際法的観点からいえば、日韓基本条約に伴う請求権
協定、それから日中平和友好条約に伴う両国間の合意を前提にすれば、
少なくとも法的には個々の損害賠償請求権はお互い放棄し、なかったこ
とになるという取り扱いを前提に日本企業は当該相手国との間で企業活
動をしているということになるんじゃないかと思います。
それからいいますと、後からはしごを外される形でこういう法的な損
害、法的請求に直面するということは極めて遺憾な重大な事態であり、
私が申し上げたいのは、投資協定の中身にもよると思いますが、国際仲
裁、ISD条項を発動して、きちんとした仲裁を求めていく、あるいは
その活路を研究するという日本政府の姿勢が中国、韓国に対する牽制効
果を持つのではないかという気がいたしますが、一連の私の提案、問題
意識に対してどうお考えになるのか、お答えいただきたいと思います。
○岸田国務大臣 日中、日韓の関係ですが、まず、中国との関係におき
ましては、日中間の請求権の問題、これは、日中共同声明発出後、存在
しないというのが我が国の立場であり、中国側も日中共同声明を遵守す
るという立場、これは変わりがないと承知をしております。
強制連行、強制労働に関する訴えですが、類似の事案を誘発すること
にもなりかねないと影響を深刻に懸念しておりますが、引き続き関心を
持って注視をしていかなければならないと思っています。
また、日韓の間ですが、財産、請求権の問題、これは日韓請求権・経
済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが我が国の
立場であり、そして、韓国政府も、我が国同様、この日韓請求権・経済
協力協定で解決済みという立場、これは今までも表明しておられました
。
ですから、日韓の間にある旧民間人徴用工問題、これはあくまでも韓
国政府自身が解決すべき問題であると考える、これが我が国の基本的な
立場であります。
その上で、投資協定との関係の御指摘がありました。中国と韓国とは
、それぞれ、日中投資協定、そして日韓投資協定を既に締結しておりま
すし、今月十七日には日中韓投資協定が発効しております。
中韓両国は、これらの協定に基づいて、我が国投資家の投資財産に対
して十分な保護、保障及び公正、衡平な待遇を与える、こうした義務を
負っていると考えております。
我が国としましては、こうした協定も踏まえながら、中韓両国に対し
て、我が国の投資家の投資財産が不当に侵害されることがないように、
適切に対応していきたいと考えております。
○小川委員 歴史問題、歴史認識を含めて、私は衝突を回避すべきは回
避すべきだと思います。しかし、法的にきちんとすり合わすべきはすり
合わすべきで、現政権には、そこのめり張りに、力点の置き方に若干ア
ンバランスがあるんじゃないか、私はそういう感想を持ちます。
加えて、きょうとにかく申し上げたかったのは、もはや日本は先進国
の大国という地位、位置に甘んじていられる時代は終わったという認識
がこれら全ての始まりではないかと思います。そのことを重ねて指摘さ
せていただき、質問を終わります。
ありがとうございました。
第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特
別委員会 第19号 平成二十七年七月十日(金曜日)
内閣総理大臣 安倍 晋三
委員 細野 豪志
外務大臣 岸田 文雄
○安倍内閣総理大臣 談話につきましては、我々、まさに七十年前、二
度と戦争の惨禍を繰り返してはならない、この誓いのもと、その後の日
本の平和国家としての歩みがあるわけでございます。
つまり、痛切な反省、そして、それに至るまで、二十世紀という世界
はどういう時代であったか、その中で日本がどういう行動をとり、どこ
に課題があり問題があり反省点があるのかということについて、まさに
、現在有識者の皆様に御議論をいただいているわけでございます。
そして、戦後の歩みは、まさに今申し上げた反省の上に立つ歩みであ
り、そして自由で民主的で、そして人権を守り、法の支配を貫徹させる
、そういう価値観を世界とともに共有する国として、地域やアジアの発
展のためにも貢献をしてきた。そのことについては我々は誇りを持つべ
きであろうということについても、きのう、あるシンクタンクのセミナ
ーにおいて述べたところでございますが、そうしたこと等々について今
御議論をいただいているところでございまして、この御議論を踏まえた
上において七十年における談話を発出していきたい、このように考えて
いるところでございます。
○細野委員 総理から朝鮮王朝についてはコメントがありませんでした
。
単純比較はできませんよ。もちろん歴史も違うし、それぞれ国民の理
解も違う、しかし、我が国は天皇家を持ち、それが国家のアイデンティ
ティーとして非常に継続している。それは一つ非常に大きいですよね。
途中、苦しい時代もあったけれども、そのときも天皇制をしっかり守っ
てきた。保守の政治家であれば、他国のものであっても、そういったも
のについてしっかりと見識を持って、そういう判断を日本がしたという
ことについては、これは反省をするという姿勢がないのは非常に残念で
すね。
そのことを指摘した上で、私は、この日韓関係というのを考えたとき
に、そういう歴史認識はしっかり持ちながら、我が国は、国際的なルー
ルに基づいて、さまざまな言うべきことは言っていかなければならない
というふうに思います。
そこで、先日の世界文化遺産登録についてのやりとりについて、これ
は日韓関係を考える上でも非常に重要だと思いますので、外務大臣にお
伺いをしていきたいというふうに思います。
まず、ちょっとパネルをごらんいただきたいと思います。これは、七
月の五日、世界文化遺産登録が決まったときに、我が国のユネスコの政
府代表部の大使が発言をした、声明と言ってもいいものだというふうに
思います。
英文で発表されておりますので、それをそのまま読みますと、「ブロ
ート アゲンスト ゼア ウイル」、これは意思に反してということですね
、「アンド フォースト トゥー ワーク アンダー ハーシュ コンディシ
ョンズ」、これは厳しい環境の下で働かされたというふうに日本語では
訳されている。
後段の部分をもう一度確認したいんですが、「フォースト トゥー ワ
ーク」というのは、これは受け身で「フォースト」、強制力が働かされ
たというふうに読めますね、このまま読むと。それに「トゥー ワーク」
という、これは動詞でそれを継いでいるだけで、これをそのまま、フォ
ーストを形容詞にしてワークを名詞形にすると、フォーストワーカーと
なるわけですね、そのまま、英文でいうと。
そして、ILOにおける強制労働の記述というのはフォーストレーバ
ーとなっている。
これを、違うんだと言って、強制労働について日本は認めたのではな
いという主張を日本政府としてはしているんです。私は認めるわけには
いかない、認めるべきではないという考えですよ、もちろん。しかし、
この説明は、もう少しきちっとしてもらわないと、なかなか国際的に通
用しないんじゃないかと思うんですが、まず、外務大臣に、どういう理
屈でそういうことになるのか、簡潔に御答弁いただきたいと思います。
○岸田国務大臣 まず、御指摘いただきました日本政府代表団の声明文
ですが、この中にあります「フォースト トゥー ワーク」という部分で
すが、対象者の意思に反して徴用されたこともあったという意味で用い
ています。
これは、一九四四年九月から一九四五年の八月、終戦までの期間にお
いて、朝鮮半島に適用された国民徴用令に基づいて、朝鮮半島出身者の
方も徴用された、こうしたことが行われたことを記述したものであり、
まずもって、これは従来から我が国が申し上げていることについて何ら
新しい内容を含むものではないということを説明させていただいており
ます。
そして、ILOの用語との区別について御指摘がありました。その部
分について申し上げますならば、国際条約において、強制労働ニ関スル
条約という条約が存在いたします。その中で、フォーストレーバーある
いはコンパルソリーレーバー、こうした強制労働というものはまずもっ
て禁止をされています。しかし、その中にあって、この第二条の二項と
いう部分において、戦時中の徴用などは含まれていないとされています
。よって、我が国がこの声明文の中で使っている言葉、これは国民徴用
令に基づく対応を述べているわけですから、国際条約上、強制労働に当
たるものではないと整理をしております。
そして、日韓の間における条約ということを考えますときに、朝鮮半
島出身者の徴用者を含め、日本と韓国との間の財産及び請求権の問題は
、一九六五年の日韓請求権そして経済協力協定、この条約によって完全
かつ最終的に解決済みである、こういった立場には全く変わりがないと
いうことであります。
これが我が国の立場でありますが、今回の日本側の発言についてです
が、従来の我が国の政府の立場を踏まえたものであり、強制労働があっ
たことを認めるものではないと繰り返し述べているわけですが、これは
韓国側にも明確に伝えておりますし、そして、韓国側とのやりとり、外
交上のやりとりを通じて、韓国政府は今回の我が国代表の発言を日韓間
の請求権の文脈において利用する意図はない、このように理解しており
、このことを韓国政府との間においてハイレベルで確認しているという
ことであります。
○細野委員 大臣、韓国の外交部のホームページを見ますと、強制的に
労働というふうに書いてあるんですよね、今回の声明について。はっき
り書いてあります、そういう表現で。ですから、請求権の文脈において
利用する意図はないというのは、それは何らか確認する文書などはある
んですか。
加えてもう一つ、徴用工の問題というのは訴訟になっていますね。仮
に韓国政府がそこは利用しないと言ったとしても、そういう訴訟におい
て利用される可能性について、ないと言い切れますか。
○岸田国務大臣 だから、先ほど申し上げましたように、この国際条約
、強制労働ニ関スル条約における整理をまずさせていただいております
。そして、その上で、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定の中で、
これは明示的にこの部分について完全かつ最終的に解決済みである、こ
うしたことが確認されていると我々は考えております。この部分につい
て、こうした考え方、立場について全く変更がないということをまず申
し上げたわけであります。
そして、そのことについて、韓国政府との間において、やりとりはも
う今までもさまざまなやりとりが行われているわけですが、我が国の立
場、これは明確に伝えています。
そして、今回のやりとりの中にあっても、その外交上のやりとりを通
じて、韓国政府側として、今回の我が国代表の発言、これを日韓間の請
求権の文脈において利用する意図はない、このことをハイレベルで確認
したということであります。
○細野委員 ちょっと、大臣、短目に答弁をお願いしたいんです。
裁判にもなっているわけですね、個別の。そこで利用されないという
ことについて、間違いなくそれはないというふうに大臣として言い切れ
ますか。
○岸田国務大臣 まず、韓国政府とはハイレベルで確認しているわけで
すが、何よりも、これは国際条約、そして日韓間における協定、条約に
おいてこの部分は確認されています。
条約を誠実に履行する、これは両国における当然果たさなければいけ
ない義務であると我々は考えています。
○細野委員 裁判については何も御発言はありませんでしたね。
世界文化遺産登録は確かに大変いいことですよ。しかし、非常に大き
な代償を払った可能性があるのではないかと私は思います。
総理、この言葉を改めてちょっと確認していただきたいんですが、こ
の「アゲンスト ゼア ウイル」という言葉は、これはどこかで聞いたこ
とがあるなと思っていろいろ調べたら、実は、河野談話の従軍慰安婦の
ところで二回使われている言葉なんです、意思に反してというのは。
ですから、徴用工と従軍慰安婦の問題を、多分、総理は非常に河野談
話というのを、これまで、どちらかというと批判をしてこられた立場で
すから、その河野談話よりも徴用工の問題が、同じ言葉が使われている
のがまず一点。
そして問題は、河野談話以上にと申し上げたのは、フォーストという
言葉は河野談話の従軍慰安婦のところにも出てきません。このフォース
トという言葉を、徴用工という、一九六五年の日韓基本条約が締結をさ
れたときに、全てもう明らかになっていて、請求権をもうここで放棄し
たという明確な外交上の事実があることについて、これだけ踏み込んで
言った、これは私は問題だと思いますよ。
ちょっと時間も限られていますが、総理、簡潔に御答弁いただけます
か。
○安倍内閣総理大臣 簡潔にまず申し上げますと、明確に、河野談話の
ときと混同させようという意図を感じるんですが、明確に、明確に違い
ます。
なぜ明確に違うか。
意に反してという言葉については同じであります。河野談話について
はそうであります。今回も、確かに意に反して。これは、徴用工におい
ても、みんな、工場や何かで働きたい、もちろんそういう人もいたかも
しれませんが、そうでなくても、これは徴用されますから、いわば国内
でもそうだったわけでありますから、これは徴用されますからそうであ
ります。そして、慰安婦のときにも、これはみんな、自分の意思ではな
くて、さまざまな、経済状況等も含めて、意に反する場合もあっただろ
うということであります。
しかし、あのときは、河野さんが、それは強制連行も認めているんで
すねという質問に対して、そう捉えていただいて結構ですとお答えされ
たわけでございます。
今回は、まさに外務大臣が直ちに、直ちに記者会見の場において、こ
れは強制、フォーストレーバーを意味しないということを明確にし、か
つ、これは六五年の基本条約においての取り決めを覆すものではない、
そして、かつ、それをいわば徴用工の裁判等でこれは利用することもな
いということを明確にしているということをちゃんと記者会見で述べて
いるという点において、これはまさに全く違うということは申し上げて
おきたい、こういうことでございます。
そして、日本政府代表団の声明文にある、働かされた、「フォースト
トゥー ワーク」とは、対象者の意思に反して徴用されたこともあった
という意味で用いているわけでありまして、かつ、それは先方にもそう
伝えているわけでありまして、この岸田大臣の記者会見等に対して、そ
れは違うということを、今韓国側政府は、岸田外務大臣の記者会見にお
ける発言は間違っているということを今まで一度も言っていないという
ことは、まさに、これは確認された証左だろう、このように思うわけで
ございます。
なお、これは今、徴用されたということは、まさに一九四四年九月か
ら一九四五年八月の終戦までの期間に朝鮮半島に適用された国民徴用令
に基づき朝鮮半島出身者の徴用が行われたことについて記述したもので
あって、何ら新しい内容を含むものではないというのが日本の立場であ
り、それは先方にも伝えているわけでありまして、繰り返し大臣もそう
答えているわけであります。
そして、まさにそれに対して、それが間違っているということを、今
の表現については間違っているということを韓国側は表明していないと
いうことでございます。
そういう中で、新聞はいろいろ書いていますよ。韓国側の新聞はいろ
いろ書いておりますが、そういう韓国側の新聞の論拠において、今細野
議員はそれに質問をされているんだろう、このように思うところでござ
います。
○細野委員 二つだけ指摘をしたいと思います。
一つは、今総理は、フォーストという部分については何ら答弁されま
せんでしたね。ここは河野談話を超える言葉なんです。それは幾ら日本
語で取り繕ったところで、フォーストに強制性というのが形容詞にした
ときに出てくるのは、これはそういうふうに読まれても仕方がない部分
もありますよ。そのことを御答弁されなかった。
もう一つ申し上げると、韓国政府は、政府としては、これは徴用工の
問題について利用しないと言ったかもしれませんが、個別の裁判におい
て韓国人が言うことについて制約なんかできないですよ。裁判所はまた
別の判断をしますよ。
そこも含めて、確かにこれは、世界文化遺産登録をしたかったという
のはわかりますけれども、私は、代償は大きかったのではないかという
ふうに思います。しかも、それを、さんざん河野談話を批判してきた安
倍政権でやったということは、総理、しっかり認識をしていただいて今
後対応していただきたいという趣旨でこの質問をさせていただきました
。
第193回国会 参議院予算委員会 第11号 平成二十九年三月十三日(月
曜日)
委員 山谷 えり子
外務副大臣 薗浦 健太郎
○山谷えり子君 ありがとうございます。
外務省にお伺いをいたします。
韓国の政治、本当に国政、停滞状態にあるわけでありますが、そのよ
うな中で、朝鮮半島統治時代に徴用された人々の徴用工の像が釜山の総
領事館前あるいは港に建てられるという計画があるということで、先週
、外務省は韓国に申入れをしたと聞いております。どのような申入れを
したのか、そして日本の立場について御説明ください。
○副大臣(薗浦健太郎君) 御指摘の韓国の市民団体の動きは、間違い
なく日韓関係に好ましくない影響を与えます。また、我が国の総領事館
前に仮に設置されることになれば、領事関係に関するウィーン条約第三
十一条に照らして問題であると考えております。韓国側に対しては、在
韓国臨時代理大使から韓国外交部の東北アジア局長に対して強く申入れ
を行い、対応を求めました。
先方の反応については外交上のやり取りでございますので詳細は控え
ますが、一般論で申し上げれば、韓国側は、外交公館前に造形物を設置
するようなことは公館の保護に関する国際礼譲から望ましくないという
立場を表明してきております。
いずれにしても、民間人徴用工の問題も含めて、日本と韓国との間の
財産請求権の問題は、一九六五年の日韓請求権協定により完全かつ最終
的に解決済みであります。
第197回国会 衆議院本会議 第3号 平成三十年十月三十日(火曜日)
馬場 伸幸
内閣総理大臣 安倍 晋三
○馬場伸幸君 日本維新の会の馬場伸幸です。(拍手)
冒頭、通告をしておりませんが、先ほど速報で、韓国の大法院におい
て、新日鉄住金に対し、戦時中の徴用工への賠償金支払いを求める判決
が出ました。本件について、総理の見解をまずお尋ねいたします。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 馬場伸幸議員にお答えをいたします。
冒頭、先ほどの、徴用工問題に関する、韓国、大韓民国大法院の日
本企業に対する判決について御質問がございました。
本件については、一九六五年の日韓請求権協定によって、完全かつ
最終的に解決をしています。この判決は、国際法に照らして、あり得な
い判断であります。日本政府としては、毅然として対応してまいります
。
第197回国会 衆議院予算委員会 第2号 平成三十年十一月一日(木曜日
)
委員 岸田 文雄
内閣総理大臣 安倍 晋三
○岸田委員 我が国は、二〇一五年のNPT運用検討会議において大変
残念な思いをしました。ぜひ、二〇二〇年のNPT運用検討会議、日本
としてしっかりとした存在感を示していただきたいと思います。
そして、最後に、韓国についてお伺いいたします。日韓関係です。
北朝鮮情勢が動く中にあって、日韓、日米韓の連携はまことに重要で
す。また、ことしは日韓パートナーシップ宣言二十周年という節目の年
です。しかしながら、最近の日韓関係、好ましくない事態が立て続けに
起こっています。
先月だけでも、韓国国際観艦式への自衛艦派遣見送り、韓国国会議員
十数名による竹島上陸が行われました。そして、つい先日、三十日には
、韓国大法院が徴用工裁判に関する判決を言い渡し、日本企業に賠償を
命じました。これは明らかに一九六五年の日韓請求権協定に反し、両国
友好の法的基盤を根底から覆しかねない、こういった事態です。さらに
は、慰安婦問題で韓国政府が和解・癒やし財団の解散を示唆しています
。これは、世界が評価した二〇一五年十二月の日韓合意をないがしろに
するものであると思います。
こうした事態は、日韓関係あるいはアジア太平洋の安定、こういった
ものにもマイナスの影響を与える、このように心配をしています。
日韓関係をどのようにマネージしていくのか、これを、最後、総理に
お願いいたします。
○安倍内閣総理大臣 日韓関係については、九月の国連総会の際の文在
寅大統領との会談を始めさまざまな機会に、未来志向の日韓関係構築に
向けて協力していくことを累次確認してきたにもかかわらず、御指摘の
韓国主催国際観艦式における自衛艦旗掲揚の問題や韓国国会議員の竹島
上陸、あるいは韓国大法院の判決など、それに逆行するような動きが続
いていることは大変遺憾であります。
旧朝鮮半島出身労働者の問題につきましては、この問題については、
一九六五年の日韓請求権協定によって完全かつ最終的に解決しています
。今般の判決は、国際法に照らせば、あり得ない判断であります。日本
政府としては、国際裁判も含め、あらゆる選択肢を視野に入れて、毅然
として対応していく考えでございます。
なお、政府としては、徴用工という表現ではなくて、旧朝鮮半島出身
労働者の問題というふうに申し上げているわけでございますが、これは
、当時の国家総動員法下の国民徴用令においては募集と官あっせんと徴
用がございましたが、実際、今般の裁判の原告四名はいずれも募集に応
じたものであることから、朝鮮半島の出身労働者問題、こう言わせてい
ただいているところでございます。
日韓の間の困難な諸課題をマネージしていくためには、日本側のみな
らず、韓国側の尽力も必要不可欠でありまして、今回の判決に対する韓
国政府の前向きな対応を強く期待しているところでございます。
第197回国会 衆議院外務委員会 第2号 平成三十年十一月十四日(水曜
日)
委員 山川 百合子
政府参考人
(外務省大臣官房参事官) 田村 政美
理事 穀田 恵二
外務大臣 河野 太郎
政府参考人(外務省国際法局長)三上 正裕
○山川委員 ぜひ、真に必要な防衛力のあり方について、本当に議論を
していきたいというふうに思っております。よろしくお願いいたします
。
続いて、今度は日韓関係について、徴用工問題と、韓国における個人
に対する支援策について伺いたいと思います。先ほども御質問もござい
ましたが、私の方からもお伺いをしたいと思います。
徴用工問題をめぐる韓国の大法院による判決について、我が党の枝野
代表は記者会見で、判決は大変残念であり遺憾に思うと述べて、朝鮮に
よる日本人拉致問題などの解決には韓国との連携が不可欠だということ
を指摘し、韓国政府には、一九六五年の日韓請求権協定を踏まえて適切
な対応をとることを強く期待しているというふうに述べています。
当然ながら、私も枝野党首と同じ立場に立っている一人でございます
。
その上で、国家間の協定や合意のはざまで個人が忘れ去られてはなら
ないというふうに思います。国と国との話合いがありますが、それがど
うであれ、救済されるべき個人がどのように支援を受けてきたかという
課題について、私は民間の国際人道支援NGO出身者として大きな関心
を持っているわけであります。
一九六五年の日韓請求権協定から既に五十三年もの月日が経過してお
ります。今日の徴用工問題に至る、韓国における個人への支援策につい
て、時系列かつ具体的な御説明をお願いをいたします。
○田村政府参考人 お答え申し上げます。
韓国政府の措置について、日本政府として説明する立場にはございま
せんが、我々が、韓国政府が発表した資料等を御紹介させていただきま
す。
まず、韓国政府は、日本政府が日韓請求権協定に基づき供与した五億
ドルの一部を使用する形で、一九七五年から一九七七年にかけて、日本
国により軍人軍属又は労働者として徴集又は徴用され、一九四五年八月
十五日以前に死亡した者の遺族を対象として補償を支給しております。
さらに、二〇〇五年、韓国政府みずから設置した官民の共同委員会が、
日本から受領した無償資金のうち相当額を被害者の救済に使わなければ
ならない道義的責任があると発表したことを踏まえ、二〇〇七年及び二
〇一〇年に関連の支援法を制定していると承知しております。
この支援法等によって、死亡者の遺族だけではなく、行方不明者、負
傷者、治療等が必要な生存者、未収金被害者又はその遺族も対象に含め
る形で給付が実施されたものと承知しております。
○穀田委員 日本共産党の穀田恵二です。
きょうは徴用工問題について質問したいと思います。
韓国の大法院は、十月三十日、日本がアジア太平洋地域を侵略した太
平洋戦争中に徴用工として日本で強制的に働かされたとして韓国人四人
が新日鉄住金に損害賠償を求めた裁判で、賠償を認める判決を言い渡し
ました。
河野大臣は、この判決について、一九六五年の日韓請求権協定で完全
かつ最終的に終わった話であり暴挙だ、さらに、国際法に基づく国際秩
序への挑戦だと、韓国側を強く非難する姿勢を示されておられます。
改めて、この問題での河野大臣の所見を伺いたいと思います。
○河野国務大臣 今般の韓国大法院の判決は、日韓請求権協定に明らか
に反して、日本企業に対し不当な不利益を負わせるものであります。そ
ればかりか、今御指摘いただきましたように、一九六五年の国交正常化
以来築いてきた日韓の友好協力関係の法的な基盤を一方的かつ根本から
覆すものであって、極めて遺憾と言わざるを得ません。
日本政府としては、韓国政府に対しまして、このような国際法違反の
状態を直ちに是正することを含めた適切な措置を講ずるように強く求め
ているところでございまして、韓国政府が毅然とした対応をしてくれる
というふうに期待をしているところでございます。
○穀田委員 今の発言は、所信表明と、それから官房長官の記者会見と
大体同じ内容でずっと言っておられると拝察しました。
そこで、徴用工問題や強制動員の問題は、日本の植民地支配のもと、
朝鮮半島や中国などから多数の人々を日本本土に動員し、日本企業の工
場や炭鉱などで強制的に働かせ、劣悪な環境、重労働、虐待などによっ
て少なくない人々の命を奪ったという重大な人権問題であります。
本件の原告も、いわゆる、政府が言っていますけれども、募集などと
言っておりますが、その実態は甘言や暴力を伴うものだった。一日八時
間の三交代制で働き、月に一、二回程度しか外出を許可されず、月に二
、三円程度の小遣いが支給されただけだった。賃金全額を支給すれば浪
費するおそれがあると理由をつけ、本人の同意を得ずに、彼ら名義の口
座に賃金の大部分を一方的に入金し、その貯金通帳と印鑑を寄宿舎の舎
監に保管させた。賃金は結局最後まで支払われなかった。当初の話と全
く違う過酷な条件で働かされ、逃げ出さないように厳しい監視下に置か
れ、殴打されるなど体罰を振るわれたことが裁判で明らかになっていま
す。
そこで、外務省に聞きたいと思うんですけれども、元徴用工の請求権
については、政府は、日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決している
、判決は国際法違反だとの姿勢ですが、私はそうした政府の姿勢に重大
な問題があると思います。
韓国大法院の判決は、元徴用工の個人の請求権は消滅していないと判
定を下しています。この個人の請求権について、日本政府は国会答弁な
どで、請求権協定によって日韓両国間での請求権問題が解決されたとし
ても、被害に遭った個人の請求権を消滅させることはできないと公式に
繰り返し表明してきたはずであります。
私、当時の議事録を持ってきましたけれども、例えば一九九一年八月
二十七日の参議院予算委員会で、外務省の柳井条約局長は、日韓請求権
協定の第二条で両国間の請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたと
述べていることの意味について、「これは日韓両国が国家として持って
おります外交保護権を相互に放棄したということでございます。」と述
べ、「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというもの
ではございません。」と答えています。これは間違いありませんね。
○河野国務大臣 個人の請求権が消滅したと申し上げるわけではござい
ませんが、個人の請求権を含め、日韓間の財産請求権の問題は日韓請求
権協定により完全かつ最終的に解決済みでございます。
具体的には、日韓両国は、同協定第二条一で、請求権の問題は完全か
つ最終的に解決されたものであることを明示的に確認し、第二条三で、
一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての
請求権に対していかなる主張もすることができないとしていることから
、このような個人の請求権は法的に救済されません。
日韓請求権協定において、請求権の問題は完全かつ最終的に解決され
、個人の請求権は法的に救済されないというのが日本政府の立場でござ
います。
○穀田委員 日本政府の立場はそういうことだということを言っている
わけですけれども、問題は、今の説明は、簡単に言うと、国と国との請
求権の問題と個人の請求権を一緒くたにして、全て一九六五年の日韓請
求権協定で解決済みだ、個人の請求権もないとしているところに、そこ
に重大問題があります。
私が聞いているのは、請求権協定で個人の請求権は消滅したのか消滅
していないのかということを聞いているんです。外務省、お答えくださ
い。
○三上政府参考人 お答え申し上げます。
ただいま大臣より答弁申し上げたとおりでございますけれども、御指
摘の柳井条約局長の答弁につきましては、個人の財産権、請求権そのも
のを国内法的な意味で消滅させたものではない旨述べるとともに、日韓
請求権協定による我が国及び韓国並びにその国民の間の財産、権利、利
益並びに請求権の問題の解決について、国際法上の概念である外交的保
護権の観点から説明したものであるということでございます。
韓国との間におきましては、日韓請求権協定により、一方の締約国の
個人の請求権に基づく請求に応ずべき他方の締約国及びその国民の法律
上の義務が消滅し、その結果、救済が拒否されるということになってお
ります。
○穀田委員 いろいろありましたけれども、一番最初に言ったところが
肝心でして、消滅させたものではないということが肝心なんですね。
それで、柳井条約局長は、一九九二年の二月二十六日の外務委員会で
も「条約上は個人の請求権を直接消滅させたものではない」と答えて、
今お話あったように、結局のところ、そういう、訴求したり、いろいろ
なことをしても無駄よという話は出ているけれども、関係者の方々が訴
えを提起される地位までも否定したものではないとはっきり答えている
わけですね。
さらに、その訴えに含まれておりますところの慰謝料請求権等の請求
が我が国の法律に照らして実体的な根拠があるかないかということにつ
きましては、これは裁判所で御判断になることだと存じますと答えてい
るわけですね。
このように、たとえ国家間で請求権問題が解決されたとしても、個人
の請求権は消滅しない、そしてその訴えをどう判断するかは司法府の判
断になると繰り返し言明してきた。これが政府の公式の立場だと言って
よろしいですね。
○三上政府参考人 お答え申し上げます。
先ほど申し上げましたように、柳井条約局長の答弁は、請求権そのも
のを国内法的な意味で消滅させたものではないとしつつも、日韓請求権
協定による我が国及び韓国並びにその国民の間の財産、権利及び利益並
びに請求権の問題について、国際法上の概念である外交的保護権という
観点から説明したものでございますが、同時に、その日韓請求権協定と
申しますのは、先ほど大臣から答弁申し上げたとおり、完全かつ最終的
に解決されたとか、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその
国民に対する全ての請求権に関していかなる主張もすることができない
ということで、明確に個人の請求権が法的に救済されないということを
全体として書いているという理解でございます。
○穀田委員 何度もおっしゃるように、そう意味はないと言っているだ
けで、消滅したとは言っていないというところが大事なんですよ。すぐ
話をそらすわけだけれども、違うんですって。消滅していないというと
ころが、今、私が問うている問題なんですよ。やっても意味がない、そ
ういうことを言っているのは知っていますよ。
そこで、強制連行による被害者の請求権の問題では、中国との関係で
も問題になっています。
二〇〇七年四月二十七日、日本の最高裁は、中国の強制連行被害者が
西松建設を相手に起こした裁判で、被害者個人の賠償請求権について、
請求権を実体的に消滅させることを意味するものではなく、当該請求権
に基づいて訴求する機能を失わせるにとどまると判断しています。
この判決は知っていますね。
○三上政府参考人 はい、この判決は承知申し上げております。
○穀田委員 この判決は、日中共同声明によって個人が裁判上訴求する
機能を失ったとしながらも、実体的な個人の賠償請求権は消滅していな
いと判断し、債務者側において任意の自発的対応をすることは妨げられ
ないとまでして、日本政府や企業による被害者の回復に向けた自発的対
応を促したのであります。
この判決が手がかりとなって、被害者は西松建設との和解を成立させ
、西松建設は謝罪し、和解金が支払われたという経緯があります。
たとえ国家間で請求権の問題が解決されたとしても、個人の請求権を
消滅させることはない、政府が繰り返し言明してきたこの立場に立って
、被害者の名誉と尊厳を回復し、公正な解決を図るために冷静な努力を
今尽くすべきだ、このことを私は強調しておきたいと思います。
そして、韓国大法院の判決は、原告が求めているのは、未払い賃金や
補償金ではなく、朝鮮半島に対する日本の不法な植民地支配と侵略戦争
の遂行に直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員
への慰謝料、これを請求したものだとしている。そして、日韓請求権協
定の交渉過程で、日本政府は植民地支配の不法性を認めず、強制動員被
害の法的賠償を根本的に否定したと指摘し、このような状況では、強制
動員の慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれるとみなすことは
できないと述べています。
政府は、日韓請求権協定の締結に際し韓国側から提出された対日請求
要綱、いわゆる八項目に、被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請
求権と記されており、合意議事録には、この対日請求要綱の範囲に属す
る全ての請求が含まれているというけれども、その中に慰謝料請求権は
入っているのですか。外務省。
○三上政府参考人 お答え申し上げます。
そういう請求権も含めて、全て対象となっているという立場でござい
ます。(穀田委員「もう一度」と呼ぶ)
そういった請求権も含めて、日韓請求権協定で全てカバーされており
、解決済みという立場でございます。
○穀田委員 慰謝料請求権は入っているかと聞いて、ばくっと答えて、
入っていますと言われても困るんだよね。きちっと言ってほしいんです
よ。
一九九二年三月九日の衆議院予算委員会で、柳井条約局長は、日韓請
求権協定上、財産、権利及び利益というのは、「財産的価値を認められ
るすべての種類の実体的権利をいうことが定義されて了解されている」
と述べ、慰謝料等の請求につきましては、「いわゆる財産的権利という
ものに該当しない」と答えています。
つまり、請求権協定で個人の慰謝料請求権は消滅していないというこ
とではないんですか。
○三上政府参考人 お答え申し上げます。
請求権協定の二条でございますけれども、「両締約国は、両締約国及
びその国民の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請
求権に関する問題が、」と書かれておりますので、請求権協定で財産、
権利、利益と並んで、いわゆる請求権も入っているということでござい
ます。
○穀田委員 いつからそういうふうに範囲が拡大しているんですか。そ
んな話に書いていないですよ。
柳井条約局長は、その後にまた、「慰謝料請求権というものが、この
法律上の根拠に基づき財産的価値を有すると認められる実体的権利とい
うものに該当するかどうかということになれば、恐らくそうではない」
と答弁しているんですよ。
そしてさらに、「昭和四十年、この協定の締結をいたしまして、それ
を受けて我が国で韓国及び韓国国民の権利、ここに言っております「財
産、権利及び利益」について一定のものを消滅させる措置をとったわけ
でございますが、そのようなものの中にいわゆる慰謝料請求というもの
が入っていたとは記憶しておりません。」明確に慰謝料請求というもの
が入っていない、入っていたとは記憶していないと答えているわけです
よ。
したがって、個人の慰謝料請求権は請求権協定の対象に含まれていな
いということは明らかではありませんか。
○三上政府参考人 お答え申し上げます。
ちょっと柳井条約局長の全文が手元にないものですから、そこはお許
しいただきまして、先ほど申し上げたように、請求権協定の中には財産
、権利及び利益並びに請求権ということで入ってきているわけでござい
ます。柳井局長が実体的権利と申し上げたのは、その四つのうちの財産
、権利及び利益、確定的に実体的に存在しているものということだと理
解しております。それを日本国内法の措置法で消滅させたということを
言っていると思うんですが、請求権、慰謝料の請求権はその消滅させた
実体的権利の中に入っていない、ただ、請求権は請求権協定の中には入
っているので、この請求権協定で全てが解決されているということでご
ざいます。
○穀田委員 持っていないからというわけにはいきませんでね。そうい
うことを聞くと言っているわけだから。
じゃ、念のためにもう一度お読みしましょう。
一九九二年の三月九日に柳井さんは、「「財産、権利及び利益」とい
うのは、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類
の実体的権利をいうこと」が定義されて了解されているわけでございま
す。」と。「そして慰謝料等の請求につきましては、これは先ほど申し
上げたようないわゆる財産的権利というものに該当しない」と。明らか
にこの問題を問われて、これは該当しないということを答弁しているわ
けですよ。今ごろになってばくっと請求権の中に入ってますのやなんと
いう話が通用せえへんほど明確に言っている。ここをちゃんと見なあき
まへんで。
さらに、もう一度言いますと、いわゆる慰謝料請求権というものが、
この法律の根拠に基づき財産的価値を有すると認められる実体的権利と
いうものに該当するかどうかということになれば、恐らくそうではない
だろうと考えますと。
更にあるんですよ。
いずれにいたしましても、昭和四十年、この協定の締結をいたしまし
て、それで我が国で韓国及び韓国国民の権利、ここに言っております財
産、権利及び利益について一定のものを消滅させる措置をとったわけで
すが、そのようなものの中にいわゆる慰謝料請求というものが入ってい
たとは記憶していませんと。
だから、明らかに、この一連の請求権協定にかかわる交渉の過程で行
われた問題について慰謝料請求権というものは入っていないということ
を二度三度にわたって明確にしている。これがこの間の答弁ではありま
せんか。その答弁を否定するということですか。
○三上政府参考人 たびたび申しわけありません。答弁申し上げます。
柳井局長の答弁を否定するつもりはございません。日本国内の法律を
つくって、その実体的な財産、権利、利益については消滅させたわけで
す。しかし、請求権というのは、そういった財産、権利、利益のような
実体的権利と違う潜在的な請求権ですから、それは国内法で消滅はさせ
られていないということを柳井局長は言ったと思います。
国内法で消滅させたのは、実体的な債権とか、もうその時点ではっき
りしている財産、権利、利益の方でございまして、その時点で実体化し
ていない、請求権というのは、いろいろな不法行為とか、裁判に行って
みなければわからないようなものも含まれるわけですので、そういった
ものについては消滅はしていない。
したがって、最初に申し上げたように、権利自体は消滅していない。
しかし、裁判に行ったときには、それは救済されない、実現しませんよ
ということを両国が約したということだと思います。
○穀田委員 最後、いろいろ言っていますけれども、結局のところ、こ
れは、それぞれの国内法において消滅したとか消滅していないと言って
いるけれども、明らかに、この問題については、その慰謝料の請求権と
いうものは入っていないということは今の答弁で極めて明らかだと。し
かも、当時の答弁はそのとおりだということを確認しておきたいと思い
ます。
最後に、河野大臣にお伺いしたいんですけれども、一九六五年の日韓
基本条約及び日韓請求権協定の交渉過程で、日本政府が植民地支配の不
法性について認めた事実はございますか。
○河野国務大臣 ないと思います。
○穀田委員 ありませんよね。
そうすると、私は、日韓のこの基本条約、日韓請求権協定の交渉過程
で、日本政府が植民地支配の不法性についてやらなかったことを、これ
を公式に大臣が述べたということについては重要な意味が私はあると思
います。一切そういうことについては、一切と言っていませんけれども
、なかったということですから、一切なかったということだと思うんで
すね。
日韓基本条約は、一九一〇年の韓国併合をもはや無効と述べるだけで
、日本側の責任や反省については何ら触れていません。
そこで、私は思い出すんですが、私は京都に住んでいますから、小渕
内閣で官房長官を務められた野中広務氏は、二〇〇九年の新聞インタビ
ューに答えて、次のように語っています。
子供のころ、鉱山で働く朝鮮人が、背中にたくさんの荷物を背負い、
道をよろよろ歩く、疲れ切ってうずくまるとむちでぱちっとたたかれ、
血を流しながら、はうようにまた歩き出す、そんな姿を見てきました。
戦後六十四年が経過した今でも、戦争の傷は癒えていません。北朝鮮と
の国交回復、賠償の問題も残っています。多くの未解決の傷跡を見ると
き、まだまだ日本は無謀な戦争の責任がとれていない。そのこと自体が
被害者の方々にとって大きな傷になっていると思われ、政治家の一人と
して申しわけない思いです。こう語っておられます。
同じ京都にずっと活動してきたもので、非常に重い発言だと思います
し、園部には、住んでおられたところにはマンガン鉱もありまして、そ
ういうところで、こういう仕打ちを受けたということについて、政治家
としての思いを語られておられます。
その点では、外務大臣は、政治家としてのこういう点についての、ど
ういう思いをされますか。
○河野国務大臣 安倍政権として、歴史認識に関する歴代内閣の立場を
全体として引き継いでおり、今後も引き継いでいく考えでございます。
○穀田委員 その歴代歴史認識ということについていいますと、そうい
う歴史認識について、韓国のこの間の問題について反省をしたというこ
とについて、今の安倍政権がその話を述べたことは、少なくともありま
せん。
ことしは、日本の韓国への植民地支配への反省、痛切な反省と心から
のおわびということで、日韓両国の公式文書で、小渕恵三当時首相と、
一九九八年ですね、そして金大中大統領による日韓パートナーシップ宣
言から二十年の、二十周年の節目の年であります。日本政府が、私は、
過去の植民地支配と侵略戦争への真摯で痛切な反省を基礎に、この問題
の公正な解決方法を見出す努力を強く求めたいと思います。
先ほど述べたように、多くの未解決の傷跡を見るとき、まだまだ日本
は無謀な戦争の責任がとれていない、こうおっしゃっています。そうい
う意味でいいますと、私は、この問題の公正な解決、先ほど述べた努力
をする際に、日韓双方が、この徴用工の、元徴用工の被害者の尊厳と名
誉を回復するという立場から、冷静で真剣な話合いをすることが極めて
大切だということを述べて、質問を終わります。
第197回国会 参議院外交防衛委員会 第2号 平成三十年十一月二十日
(火曜日)
委員 白 眞勲
外務大臣 河野 太郎
○白眞勲君 では、ちょっと別の観点からなんですけど、北海道で戦争
中ダム現場で働いて、そこでお亡くなりになった韓国の方の御遺骨をふ
るさとにお返しするボランティア活動をされているお寺の御住職様のお
話を聞く機会があったんですけれども、発掘された遺体、遺骨の状態か
らしても、相当、当時、ダム現場の仕事が過酷であったことが想像され
るようなんですね。
そこで、外務大臣にお聞きしたいんですが、現在、韓国との間ではい
わゆる徴用工の問題で大臣もいろいろな機会に御発言をされていますけ
れども、事実、当時、半島から相当の数の人がやってきて、これ、日本
人と一緒に働いている。日本人の御遺骨もあるようなんですけれども。
そういう中で、まあ、私は思うんです、その人の一回しかない貴重な人
生に影響を及ぼしたということは確かだと思うんですね、歴史的な観点
からですね。補償するしないはどうであれ、それを踏まえた上で村山談
話というのは出ているというふうに思いますが、大臣のこの辺の御認識
はどうでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 安倍政権といたしましては、歴史認識に関
する歴代内閣の立場を全体として引き継いでおり、今後も引き継いでま
いりたいと思います。
○白眞勲君 その言葉が重要だと私は思うんですね。
今回の件について政府は、ICJに提訴することも含めて韓国側の出
方を注視しているという今状況だと思うんですけれども、今後どうなる
かは政府の考え方ですけれども、少なくとも今言及された内容というの
はやっぱり基礎として、この内容を基礎としてお話しすべきだと思いま
すが、その辺、外務大臣はいかがでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 請求権協定の話をされているのであれば、
この請求権協定によって全てのことは完全かつ最終的に終了していると
いう認識に何の変わりもございません。
○白眞勲君 ですから、そこに村山談話とか何かを、例えば話すときに
そういったことというのは話すべき、あるいは念頭に置くべきではない
かなというふうに思うんです。その辺はどうでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 請求権の問題は法的な問題でございますの
で、請求権協定で最終かつ完全に終了していると考えております。
第197回国会 衆議院予算委員会 第4号 平成三十年十一月二十六日(月
曜日)
委員 井野 俊郎
外務大臣 河野 太郎
○井野委員 ぜひ、総理におかれては、長年懸念だったこの日ロ平和条
約締結に向けて頑張っていただきたいと思っておりますし、我々も後押
しをしていきたいというふうに思っております。
さて、日ロとはちょっとまた話がかわりまして、最近ちょっとなかな
かうまくいっていないと私なりに思っているのが日韓関係でございます
。徴用工の裁判、そして慰安婦財団の解散など、韓国は立て続けに、日
韓関係を悪化させるような一方的な対応をとり続けているように感じら
れます。我々も、正直言って、あきれ果てているといいましょうか、大
変これについては困惑しているというか、どうしたらいいのかというよ
うな感じでありますし、その分、我が国民の多くは、やはり冷静に対応
しているのかなというふうに思っております。
こういった韓国の感情といいましょうか、そういった感情的に対応し
ている外交に対して、やはり我々は、もう一度きちんと冷静になっても
らいたいというふうに思っておりますし、冷静になってもらうために、
ただ抗議するというだけではやはり私は足りないのかなというふうに思
っておるんですけれども、以前、韓国の在韓大使を一時帰国させたりと
いう措置をとったように思いますけれども、今後、このような韓国に対
してどのような対応をとるのか。まず外務大臣、教えてください。
○河野国務大臣 ことし初めから、未来志向の日韓関係を築いていこう
という話を先方の外務大臣と繰り返ししていたにもかかわらず、それと
逆行するような動きがずっと続いているのは極めて残念だと思っており
ます。
日韓合意については、先方は、日韓合意の破棄は考えていない、ある
いは再交渉を求めることもないということを繰り返し述べておられます
ので、日韓合意についてはしっかりと韓国側の履行を求めていきたいと
思っております。日本側としては、日韓合意で課せられた義務は全てや
ってきているわけでございますので、先方にもしっかり履行していただ
きたいと思っております。
また、先般の大法院の判決は、これはもう一九六五年の国交正常化以
来の日韓両国の法的基盤を根本から覆すようなことでございますので、
これはもう韓国側にしっかりとした対応をしていただく以外にはないわ
けでございます。それがない場合には、国際裁判も視野に入れ、あらゆ
る選択肢を考えていかんというふうに思っております。
そういうことも考えておりますので、とりあえず、ハイレベルの交渉
を維持するために大使はこのまま置いておくつもりでございまして、一
時帰国は今のところ考えておりません。
○井野委員 我が国としては、まずは冷静に対応していくということだ
ということであります。それについては、我々も一緒になって感情的に
なってもだめだという先ほど外務大臣のお話だというふうに感じました
。それはそれで、私も、そういうふうに交渉をきちんと進めていき、対
応を改めていくということが何より大事だと思いますし、さはさりなが
ら、やはりこのままではいけないんだというふうに思いますので、ぜひ
その対応を誤らないようにしていただきたいというふうに思います。
もちろん、韓国では、実際問題、経済活動を行っている企業もありま
す。こういった日本企業の経済活動が萎縮しないように他方でしなけれ
ばならないというふうに思いますけれども、この点について、まず世耕
大臣はどのように考えているのか。
○世耕国務大臣 韓国は、日本にとりましては、中国、アメリカに次ぐ
三番目に貿易額が多い国であります。また、投資額の面で見ると、韓国
から見たら、対内直接投資は日本が一番なんです。そういう意味では、
いろいろな意味で企業のビジネスが日韓間では盛んに行われているわけ
でありますけれども、今起こっている諸問題が、両国企業の貿易ですと
か投資の意欲を冷やすことになれば、これはもう、日韓はお互い補完的
な経済関係があるわけでありますし、今サプライチェーンはグローバル
にいろいろな形でつながっていますので、こういったサプライチェーン
を毀損することにもなりかねないというふうに思っています。
こういった状況にならないように、まずは、日本政府として、外務省
とも連携をしながら、韓国政府に直ちに適切な措置を講ずるよう求めて
いくということ、そして、日本企業に対しては、日本政府がどういう立
場をとっているか、あるいは関連訴訟をめぐる韓国内の状況について、
経産省、外務省で連携をして情報提供をしっかりとやっていくというこ
とが重要だというふうに思っています。もう既に、今裁判で提訴を受け
ている企業向けの関係省庁合同説明会というのも何回も開かせていただ
いているところでございます。
○井野委員 ぜひ、世耕大臣、そういった日本企業の経済活動にも支障
がないように、さまざまなレベルで配慮していただきたいというふうに
思いますので、ぜひその点もよろしくお願いいたします。
世耕大臣はもう結構でございますので。
第197回国会 参議院国土交通委員会 第3号 平成三十年十一月二十七
日(火曜日)
委員 中野 正志
国土交通省海事
局長 水嶋 智
○中野正志君 大和堆から、この頃は北海道沖、大変広い面で北朝鮮漁
船、また、御存じをいただきますように、難破した船が相変わらず今ま
で以上に日本に揚がっているという現実もあるわけでありまして、是非
、海上保安庁を含めて頑張っていただきたいものだと思います。
韓国は隣国でありますけれども、大変残念ですけれども、民主的な手
続や約束事を軽んじられる向きがあります。徴用工の最高裁の異常な判
決しかり、また、最終的、不可逆的な解決を確認した二〇一五年の日韓
合意に基づいて日本政府が十億円を支出した例の和解・癒やし財団、こ
れを解散すると発表したり、国際社会の一員として、ぶっちゃまけて言
えば、韓国は未熟であるなということを認識せざるを得ません。
もう一つ、韓国のルール違反について申し上げます。
日本政府は、六日、韓国が自国の造船業界に過剰な補助金を支給して
いるのは国際的な貿易協定に違反しているとして、WTOへ提訴する手
続を開始したと発表されました。
造船業界は、二〇〇八年のリーマン・ショック前の好況期に各社も設
備投資をし、当然、よその国も大変な設備投資をして、世界的に供給過
多となっているそうでありますが、こうした中で、韓国が経営危機に陥
った自国の造船企業に政府系金融機関を通じて巨額な資金援助を行えば
、当然、市場の原理とは違う価格低下を生じさせてしまいます。
こういうことを一つ一つ国際的に提訴していくことは大切なことであ
ると思いますが、提訴の準備状況と、今後日本造船産業へどのような影
響があるのか、また、政府として、海洋国家日本、これはもうすごいブ
ランドでありますから、この海洋国家日本、再浮揚させていくためにも
、造船業界に対してどういう施策を講じていかれるのか、この機会にお
伺いをいたします。
○政府参考人(水嶋智君) お答え申し上げます。
世界の造船市場でございますが、先生御指摘のとおり、リーマン・シ
ョック前の新造船の大量発注とその後の需要の低迷によりまして供給能
力過剰の状態にあり、各国の造船業は厳しい状況にございます。
足下の業況といたしましては、二〇一八年に入りまして我が国造船業
の受注シェアは回復傾向にはございますが、韓国では数年前から経営難
に陥った自国造船所の救済等の公的助成が大々的に行われておりまして
、結果、供給能力過剰問題の解決を遅らせるとともに、我が国造船業に
大きな悪影響を及ぼしているところでございます。
これまで我が国は、OECD造船部会や日韓課長級会議の場におきま
して、韓国政府、公的機関による自国造船業に対する過度な支援は造船
市場を歪曲するものであり、造船業の供給能力過剰問題の早期解決を阻
害するものであると累次にわたり指摘してきたところでございます。ま
た、先月には海事局と韓国産業通商資源部との局長級協議を実施いたし
まして、韓国に対して我が国の懸念を改めて伝えるとともに、本問題の
友好的かつ迅速な解決の必要性を強く訴えましたが、措置の撤廃には至
っておりません。
このため、関連業界の要望も踏まえまして、関係省庁と協議の上、W
TO協定に基づく紛争解決手続を用いて本問題の解決を図ることとし、
十一月六日、韓国政府に対して当該手続に基づく二か国間協議を正式に
要請したところでございます。その後、韓国政府より協議要請に応じる
旨の回答がございまして、現在、外交ルートを通じて韓国政府と協議日
程等の調整を行っているところでございます。
当該手続を通じて韓国による市場歪曲的な措置が撤廃されることとな
れば、造船市場における公正な競争環境の確保が図れることになり、供
給能力過剰問題の早期解決、船価水準の回復等が期待されまして、我が
国造船業の更なる発展につながるものと考えておるところでございます
。
また、国土交通省におきましては、二〇二五年に世界新造船建造シェ
ア三〇%を獲得することを目的として、技術開発の促進など海事生産性
革命、i―Shippingと称する一連の施策を推進しているところ
でございまして、公正な競争環境の確保と併せまして、我が国造船業の
競争力強化に向けた取組を総合的に推進してまいりたいと考えておると
ころでございます。
○中野正志君 海上保安庁長官に、アジア各国への技術支援、お伺いを
したかったんでありますけれども、時間となりましたのでお許しくださ
い。
終わります。ありがとうございます。
第197回国会 衆議院外務委員会 第4号 平成三十年十一月二十八日(水
曜日)
委員 中曽根 康隆
外務大臣 河野 太郎
まず、日韓関係についてです。
私も、韓国は非常に好きな国ですし、大切な友人もたくさんおります
。近年の人的交流、また文化的交流がどんどん広がっていること、これ
は非常に喜ばしく思っております。だからこそ、この徴用工の問題とい
うのは非常に残念で仕方がありません。
大臣は、今回の十月三十日のこの新日鉄住金の大法院の判決、これに
ついてまずどういうふうにお考えになっているか、そして、いわゆる慰
安婦財団、この解散も発表されておりますけれども、こちらについての
政府の対応というのをお教えいただきたいと思います。
○河野国務大臣 委員御存じのとおり、ことしは金大中・小渕パートナ
ーシップ宣言二十周年といういわば節目の年でございますので、首脳間
、外相間、あるいはあらゆるレベルで、日韓、未来志向の関係を築いて
いこうということをことしの初めから約束し、韓国側、日本側、タスク
フォース、有識者会議を立ち上げて、さまざまな提言もいただきました
。そんな中で、残念ながら、この未来志向と全く逆行するような動きが
続いているというのは大変残念なことだと思っております。
さきの韓国の大法院におけるこの判決は、一九六五年の日韓国交正常
化以来の両国関係のいわば法的基盤を根本から覆すようなことになって
しまいまして、これはもう極めて遺憾な話でございますし、これはほか
の問題と違いまして、日韓の両国関係を規定している、いわば一番の底
が抜けてしまうような話でございますので、極めて深刻な状況にある。
それを韓国側に、しっかりと韓国の政府に認識をしていただいて、適切
な対応を至急とっていただく必要があろうかと思っております。
また、先般、慰安婦問題に関する日韓合意のもとで設立された韓国側
の財団を一方的に解散するという方針を韓国政府が発表いたしましたが
、これはもう日韓合意に照らして到底受け入れられるものではございま
せん。
この日韓合意という国際約束は国際社会からも極めて高い評価を得て
いるものでございますので、日本側としてはこの日韓合意で定められた
義務をしっかりと履行してまいりました。今、韓国側がこの日韓合意を
しっかり履行してくれるかどうか、日本だけでなく国際社会も注視して
いる中でございますので、引き続き韓国にはこの日韓合意を着実に履行
することを求めてまいりたいというふうに考えております。
第197回国会 衆議院安全保障委員会 第4号 平成三十年十一月二十九
日(木曜日)
委員 長島 昭久
外務大臣 河野 太郎
政府参考人
(外務省国際法局長) 三上 正裕
○長島委員 新会派、未来日本の長島昭久です。
両大臣、大変お疲れさまです。ラスト十分ですから、簡潔に御答弁を
いただきたいと思います。
本日の午前中にまた、韓国の最高裁、大法院におきまして新たな最高
裁判決が出ました。十月三十日の新日鉄に続いて今度は三菱重工にも賠
償命令、こういうことになったわけでありますが、こんなことを続けて
いると日韓関係も本当に破壊されますし、韓国でビジネスもやっていら
れないという話になりますよね。
河野大臣におかれましては、どこかでやはりけりをつけていただきた
い、この負の連鎖をどこかでとめなきゃいけない、こう思うんですが、
まず、きょうの判決に対する御所見を承りたいと思います。
○河野国務大臣 前回の大法院の判決、それから今回の大法院の判決を
含め、日韓請求権・経済協力協定に明らかに違反をし、一九六五年の国
交正常化以来築いてきたこの日韓両国の関係の最も根本的な法的基盤を
覆してしまうもので、これは極めて遺憾であり、断じて受け入れること
ができません。
韓国に対して、こういう国際法違反の状況をなるべく早く是正するこ
とを含め適切な措置を講ずるよう求めてきておりますので、韓国側にし
っかりと対応していただきたいと思っているところでございます。
○長島委員 今、大臣から国際法違反というお話がありましたが、幾つ
か、きょうはそういう意味で確認をさせていただきたいことがあります
。
一つは、まさに議論の大前提、国際法、国際条約のことについてであ
りますが、条約法に関するウィーン条約というものがございます。第二
十六条、「効力を有するすべての条約は、当事国を拘束し、当事国は、
これらの条約を誠実に履行しなければならない。」二十七条、「当事国
は、条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用すること
ができない。」コンメンタールによると、国内法だけじゃなくて、国内
事情を理由にしてはならない、こう解されるそうでありますが、これは
「当事国」と言うんですから、行政府や立法府のみならず、司法府も当
然のことながら拘束をすることになるんだろうというふうに思いますが
、韓国はこのウィーン条約を批准しているでしょうか。
○河野国務大臣 済みません、事前に通告がないものですから、確認し
ているところでございます。
○長島委員 していますよね。
○三上政府参考人 申しわけありません。
韓国も批准しております。
○長島委員 批准もしておりますし、韓国の憲法も私は調べてみました
が、韓国の憲法第六条は、我が国の九十八条二項とほぼ同じ、国際法遵
守の条文がございます。
したがいまして、ここまで条件がそろえばこういった判決は当然のこ
とながら出てこないはずなんですが、そこで、大事な点をもう一つ確認
をしたいんですけれども、個人の請求権という話がこの間何度も出てく
るわけでございまして、今回の韓国の大法院の判決は、元徴用工、私ど
もは、旧朝鮮半島出身労働者、いわゆる徴用工ですが、元徴用工の個人
の請求権は消滅していない、そういう判断を下しております。
日本政府は、柳井条約局長の答弁を始め、これまでも累次にわたって
、請求権協定によって日韓両国間での請求権問題が解決されたとしても
、被害に遭った個人の請求権を消滅させることはできない、こういう答
弁を繰り返してきているわけですが、この点を加味しながら、本当に日
韓の間で最終かつ完全にこの請求権の問題が解決したと言い切れるその
理由をるる述べていただきたいというふうに思います。
○三上政府参考人 お答え申し上げます。
個人の請求権を含め、日韓間の財産請求権の問題は、日韓請求権・経
済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが我が国政
府の一貫した立場であります。
具体的には、日韓両国は、同協定第二条1で、請求権の問題は完全か
つ最終的に解決されたものであることを明示的に確認しております。
また、第二条3で、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及び国
民に対する全ての請求権に関して、いかなる主張もすることができない
としておりますことから、慰謝料請求権も含め、一切の個人の請求権は
法的に救済されないということでございます。
○長島委員 今、救済されないという説明をされましたけれども、訴え
る権利は保障されているんでしょうか、個々人が。
○三上政府参考人 国内法的に、請求権そのものが消滅したという言い
方はしておりません。訴えることはできますけれども、それに応ずべき
法律上の義務は消滅しておりますので、救済が拒否されることになると
いう整理でございます。
○長島委員 訴える権利はあるんだけれども、その権利は救済されない
、こういう説明だと思うんですけれども、じゃ、どこがその救済の義務
を負っているんでしょうか、これは日韓の合意の中で。
○三上政府参考人 先ほど申し上げましたように、この請求権の問題に
つきましては、日韓請求権・経済協力協定によって、日韓の間で完全か
つ最終的に解決済みであるということでございます。そこに尽きるとい
うことでございます。
○長島委員 いや、ちょっとよく最後がわからないんですけれども。要
するに、個人として請求権、訴えることはできる、しかし、それは最終
的には裁判所に持ち込んでも救済されないんだ、その根拠は何ですかと
聞いているんですが。
○三上政府参考人 先ほど申し上げましたように、権利そのものは消え
るということは申し上げておりませんけれども、日韓協定におきまして
明確に、完全かつ最終的に解決された、それから、いかなる主張も請求
権に関してはすることができないということがセットになっていますの
で、これが全体としてこの問題については完全に解決済みであって、法
律上の救済ができないということでございます。
○長島委員 大臣、救済の道義的責任は韓国政府が負うというのが韓国
の政府の認識でもあり、日韓間の合意、コンセンサスじゃないんですか
。それは、二〇〇五年、盧武鉉政権のときに、これはもう軍事政権じゃ
なくて民主化された政権ですよ、当然のことながら。このときに日韓協
定にかかわる外交文書を全部公開して、その上で官民の合同チームでき
ちっと再検証した結果、この救済についての道義的責任は韓国政府が負
うものだというそういう結論であると認識しているんですけれども。そ
うであるからこそ、今回強い態度に日本は出られると認識しているんで
す。いかがですか。
○石川政府参考人 お答え申し上げます。
委員御指摘のとおり、盧武鉉政権時代、二〇〇五年におきまして、盧
武鉉政権の総理主宰のもとの官民共同委員会、ここにおいて、日韓請求
権・経済協力協定の法的効力の範囲及び韓国政府の対策の方向等につい
て検討した結果を発表しました。
その中で、官民協議会は、この旧朝鮮半島出身労働者に関連して請求
権協定を通じて日本から受け取った無償三億ドルは、強制動員被害補償
問題解決の性格の資金等について包括的に勘案されているとして、政府
は受領した無償資金のうち相当金額を強制動員被害者の救済に使わねば
ならない道義的責任があるという内容を発表したというふうに承知して
おります。
○長島委員 ですから、それに基づいて、二〇〇七年、二〇一〇年と韓
国は国内法をわざわざつくって、そういう方々に対する支援を行ってい
るんですよ。これは確認できませんけれども、恐らく、今回の原告の方
たちもこの法律に基づいて支援を受けているはずなんです。
こういうこともぜひ調べていただいて、最後、大臣、このまま何か角
突き合ってもしようがないと思うんですが、私、一つ提案があります。
仲裁委員会をぜひ開いていただきたい。
なぜならば、これまでずっと韓国の政府の姿勢を待っていてはどんど
んこのような訴訟が起こってしまう可能性がありますので、それにも歯
どめをかける意味でも仲裁委員会をぜひ開いていただきたいと思います
が、最後に一言だけお願いします。
○岸委員長 河野外務大臣、簡潔にお願いします。
○河野国務大臣 当然に、そうしたことも視野に入れて政府として対応
を考えております。
第197回国会 参議院法務委員会 第5号 平成三十年十一月二十九日(木
曜日)午前十時七分開会
【発言順】
委員 糸数慶子
外務大臣官房参事官 田村 政美
○糸数慶子君 沖縄の風、糸数慶子です。
横山委員長、私は、二十二日の法務委員会の冒頭で、この委員会運営
においては野党の意見を尊重し、誠実に対応していただくようお願いを
いたしました。残念ながら、誠実どころか余りの乱暴なこの委員会の設
置に怒りを禁じ得ません。恐らく、参議院の職員も役所の職員も議員事
務所も、多くがほとんど徹夜の作業を強いられたのではないかというふ
うに思われます。中立公平な立場であるべき委員長が、野党の意見に耳
を貸すことなく、理性を失い常軌を逸した委員会の運営をされているこ
と、そのことに強く抗議をし、質問いたします。
まず、徴用工をめぐる最高裁判決について伺います。
日本における朝鮮半島統治下で日本の製鉄所で労働を強いられたとし
、元徴用工の韓国人四人が損害賠償を求めた訴訟で、韓国の最高裁は十
月三十日、元徴用工のその請求を認めて、新日鉄住金に損害賠償の支払
を命じる判決を言い渡しました。
韓国の最高裁は二〇一二年五月、上告審で、植民地支配の合法性につ
いて日韓両国が合意しないまま協定を結んだ状態で、日本の国家権力が
関与した不法行為による損害賠償請求権が請求権協定で解決されたと見
るのは難しいとして個人請求は消滅していないと判断、二審判決を破棄
し、差し戻しました。ソウル高裁は、二〇一三年七月の差戻し審で新日
鉄住金に約四千万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。しかし、被
告の新日鉄住金は請求権は消滅したとする日本政府の見解に基づき上告
し、朴槿恵政権は判決を先延ばしにし、文在寅政権となって今回の判決
が出されたわけです。
この判決直後から、日本政府は、既に解決済みや、あり得ない判断な
どと抗議し、韓国政府を批判しています。河野外務大臣は即日、韓国の
李洙勲駐日大使を外務省に呼び、日韓請求権協定に明らかに違反し、国
際社会の常識では考えられないことが起きていると抗議をいたしました
。日本の企業や日本国民に不利益が生じないよう、直ちに必要な措置を
厳格にとってもらいたいと強く求めたと報じられています。
他国の独立した司法の判断が出たからといって、日本政府がこのよう
な抗議を行い、メディアの多くが解決済みなどと報道し、ネット上では
すさまじい韓国批判が行われていることに、正直戸惑い、違和感を覚え
ました。
一九一〇年、大日本帝国と大韓帝国は日韓併合条約を締結し、日本が
朝鮮半島を統治下に置き、三十六年に及ぶ植民地支配が始まりました。
韓国は武力を背景に不法に締結させられたと主張し、日本は国際法に基
づいて合法的に締結されたと主張したことから、認識の違いを超えるこ
とはできず、いわゆる玉虫色の決着をしたため、植民地支配に対する賠
償は行われませんでした。
そこで、外務省にお伺いいたします。
日本政府は、請求権は完全かつ最終的に解決されたという立場を取っ
ていますが、一九九一年八月二十七日の参議院の予算委員会で清水澄子
議員の、請求権は解決済みとされてまいりましたが、今後も民間の請求
権は一切認めない方針を貫くおつもりですかとの質問に対し、当時の外
務省の柳井俊二条約局長は、日韓請求権協定におきまして両国間の請求
権の問題は最終的かつ完全に解決したわけでございますと答弁した上で
、その意味するところについては何と答弁されているのでしょうか、外
務省の方にお尋ねいたします。
○政府参考人(田村政美君) お答え申し上げます。
個人の請求権を含め、日韓間の財産請求権の問題は、日韓請求権・経
済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが我が国政
府の一貫した立場でございます。
具体的には、日韓両国は同協定第二条一で請求権の問題は完全かつ最
終的に解決されたものであることを明示的に確認し、第二条三で一方の
締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての請求権
に関していかなる主張もすることができないとしていることから、この
ような個人の請求権は法的に救済されないものとなっております。
○糸数慶子君 「いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消
滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを
外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でご
ざいます。」というふうにそのときは答弁されています。完全かつ最終
的に解決されたと言いながら、実は請求権協定も曖昧な部分を残したま
ま政治決着が図られたということだと思います。
過去の外務省見解を振り返ることなく、外交の最高責任者が感情的に
韓国政府を批判することは、両国間の友好関係に水を差し、米朝首脳会
談以降、朝鮮半島情勢が大きく変わろうとする中、日本が蚊帳の外に置
かれてしまうのではないかと大変危惧しております。
法的な解決が行われても、日本が植民地支配したその道義的責任は消
えないのだということを申し上げ、次の質問に入りたいと思います。
第197回国会 参議院外交防衛委員会 第6号 平成三十年十二月四日(火
曜日)
委員 白 眞勲
外務大臣 河野 太郎
○白眞勲君 おはようございます。白眞勲でございます。立憲民主党で
ございます。
まず、質問通告していないんですけれども、大臣の認識として、ひと
つ外務大臣の認識としてお答えいただきたいんですけれども、韓国の徴
用工の判決の件です。
ちょっとこれ、文章を読みますので聞いていただきたいと思うんです
けれども。
韓国政府は卑劣でひきょうだ。請求権協定当時、政府が代表して金を
受け取ったのに、法の手先、この場合裁判官を意味するようですけれど
も、を通して慰謝料として賠償を再び求めるのが正しいのか、正しいと
言えるのか。韓国政府が補償すべきだ。日本は当時、個人賠償を直接し
て、こうした問題の発生を防ごうとしたが、韓国政府が全部手に入れた
んだよね。じゃ韓国政府に責任があるのでは。これ、引用はここまでで
す。あるいは、もう一つちょっと読みますね。対日請求権資金を受け取
り国家再建に成功したなら、国が、この国というのは韓国を指すのです
が、該当者を探して慰労、賠償しろ。どこのこじきのように日本に数十
年も物乞いしているのか。
これ、一体誰が書いた、投稿されたものか、お分かりになりますでし
ょうか。これは、私の出身の新聞社の韓国の朝鮮日報のインターネット
版に韓国の読者が投稿したものなんですね。最初の意見、最初の意見は
、これはインターネットですから賛成、反対でクリックするんですけれ
ども、この意見に賛成が二十八で反対二。後の方は、これもっと実はそ
の後すごい過激なことを書いてあるので、ちょっと私もこれ以上読み上
げられないなと思うぐらいなんですけれども、これが賛成二百十九、反
対十一なんですね。
もちろんこれが全てだということは言えないとは思うんですけれども
、私が申し上げたいのは、今回の件も含めて、例えば一部のマスコミの
中には韓国けしからぬ一辺倒で批判の記事を書きまくっているメディア
もありますよ。もちろん、それで嫌韓意識をあおろうとして、その方が
売れるかもしれない。しかしながら、一流のメディアならきちんと韓国
を取材してもらいたいなというふうに私は思っているんですね。
韓国にも、韓国と一概に言っても様々、やはり民主国家である以上は
今の徴用工の判決についても様々な意見があるということですし、私の
韓国の友人にも日韓関係の今後に心を痛めている方もたくさんいるとい
うことも事実です。
だからこそ、お互い隣同士で、私も今度、十三日から日韓議員連盟で
訪韓する予定で、胸襟を開いて韓国の議員たちとも話をしてみたいと思
いますけれども、日本政府としましても、やはり韓国政府側の出方を今
の段階では静かに見守るというスタンスであるなら、スタンスであろう
と私は思っていますが、この辺の大臣のお考えについて、よろしければ
お考えを聞かせていただきたいと思います。
○国務大臣(河野太郎君) 今年は、小渕・金大中パートナーシップ宣
言二十年という、言わば節目の年に当たります。
私も、ワシントンに留学をしていたときに、当時ワシントンの近郊に
いらっしゃった金大中さんの御自宅で飯を食わせていただいた、いろん
な話を直接伺ったという経験もあります。金大中大統領は、この日韓の
千五百年にもわたる長い関係の中で不幸な数十年のことがあったけれど
も、そのことだけでこの千五百年の関係を投げ捨ててはいかぬというこ
とをおっしゃっておりまして、それはもう私も全くそのとおりだと思っ
ております。
日本と韓国は、国交正常化するときにこの請求権協定を結び、それを
法的基盤として両国関係を築いてきたわけでございますから、この法的
基盤を今後もしっかりと日韓両国守りながら、未来志向の関係をしっか
り築いていきたいと思っております。韓国政府がしっかりとそうしたこ
れまでの歴史を踏まえて確実に対応を取ってくれるということを期待を
したいと思っております。
第198回国会 衆議院予算委員会 第10号 平成三十一年二月二十日(水
曜日)
委員 井上 英孝
外務大臣 河野 太郎
○井上(英)委員 この拉致問題の解決、前進に向けて、今晩の電話会
談、ぜひお願いをしたいというふうに思います。
また、北朝鮮も絡めた、やはり韓国との、今、日韓関係というのが非
常に懸念事項の大きいものになっています。その中でも、徴用工の問題
に関して、少し経過を踏まえさせていただきながら、質疑に入らせてい
ただきたいというふうに思います。
昨年十月に韓国の大法院が新日鉄住金に対して、戦時中、徴用工とし
て働かせていた旧朝鮮半島出身労働者三名に対しての慰謝料を払うよう
命じたということに端を発したいわゆる徴用工問題というのが、非常に
日韓関係を悪化させている。
先般、二月の十五日、ドイツのミュンヘンにおきましても日韓外相
会談が行われましたが、韓国政府からは何ら明確な回答というのがあり
ませんでした。
現状は、韓国は、差し押さえた日本企業の資産を現金化すべく、資産
売却の手続を進めているというふうにもお聞きをしています。
こういった状況の中で、当然、相手方もあることですし、これがあり
ます、あれがありますと恐らくおっしゃれないとは思いますけれども、
このような状況になっているということを、改めて、外務大臣、どのよ
うにお考えか、お答えいただけますでしょうか。
○河野国務大臣 旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題につきましては、
現在に至るまで、韓国政府が日韓請求権協定違反の状況を是正する具体
的な措置をとっておりません。
委員おっしゃいましたように、原告側による差押えの動きが進んでい
るということは、これは極めて深刻に捉えております。日本企業の正当
な経済活動を保護するという観点から、引き続き日本政府として適切に
対応してまいりたいと思っております。
一月の九日の時点で請求権協定に基づく協議を要請し、二月の十二日
だったと思いますが、回答の督促をいたしました。また、先般のミュン
ヘンでの日韓の外相会談の中でも、協議に応ずるように求めたところで
ございます。
日本政府としては、誠意を持って韓国政府がこの協議に応ずるものと
思っておりますが、万が一の場合には、さまざま対策を、対抗策をとら
ねばならぬというふうに考えております。
○井上(英)委員 対策をぜひとっていただきたいというふうにも思う
んですね、最悪の場合は。
ですから、韓国側は、逆に、日韓請求協定というものの土俵に上がっ
てしまうと、日本側に正当性があるということはやはりわかっているん
じゃないかなというふうに思うんですね。だからこそ、それには乗らず
、慰謝料の請求という新しい切り口が、日本企業にそういう形での支払
いを命じたというふうにも言われております。
しかし、韓国政府が韓国国民に補償を行わなかったことで生じる慰謝
料というのは、やはり韓国政府にしっかりと支払いをしていただくとい
うことが我々の恐らく思いではないかなと思いますし、また、目に見え
るような形で、対抗策と言うと強硬的に聞こえますけれども、やはり今
のままでは寛容過ぎるんじゃないかという気持ちもあります。
先ほど、いろいろな手があるということをおっしゃっておりましたけ
れども、その中で、よく一般的に言われているのは、国際司法裁判所へ
の提訴だとか、それから日韓請求権協定の中にある仲裁、そういった方
法もあるということを改めて確認をさせていただきたいと思うんですけ
れども、いかがでしょうか。
○河野国務大臣 先ほども申し上げましたように、我々としては、韓国
が誠意を持って協議に応じてくれるというふうに思っておりますが、万
が一の場合には、国際法に基づいて、国際裁判を含めたあらゆる選択肢
を検討する、既にしておりますし、万が一のときにはさまざまな対抗策
を発動する用意がございます。
○井上(英)委員 ぜひ、そういったことも考慮に入れて、総理を含め
、外務大臣を含めて、そして外務省の職員も含めて、決してそんな悪く
なるようなことを、当然、関係が悪くなることを考えているわけじゃな
いというふうに思いますし、真摯にやっていただいているというふうに
も思います。
ただ、一方で、今度は、韓国の国会議長によるブルームバーグ通信の
インタビューの件も近々にありましたけれども、そういったものをいろ
いろ聞いていると、やはりちょっと、その件に関しては、私、ちょっと
正確な数字はあれなんですけれども、報道ベースでは、八〇%以上の方
が議長の発言が不快だったという世論調査も出ているというふうにも聞
いています。これは、一国会議員というより一国民としても、やはりち
ょっとやられ過ぎなんじゃないかなというふうに思うんですね。
そういったことも含めて、当然、これから韓国との関係をやっていく
上において、国際世論というのも大事ですけれども、やはり国内世論、
国民一人一人の国内世論の大きい感覚というのも非常に大事にして、今
後も事に当たっていただきたいと思いますけれども、外務大臣として国
民世論についてどのようにお考えか、お答えいただけますでしょうか。
○河野国務大臣 今般の韓国の国会議長の発言は極めて無礼でありまし
て、外交部を通じ、謝罪と撤回を累次求めてきたところでございます。
特に、この場合、深刻だと私が思っておりますのは、この人物は、単
に国会議長というだけでなく、韓日議連の会長も務めた経験がございま
す。韓日議連あるいは日本側の日韓議連というのは、これまで、振り返
ってみれば、日韓両国関係が難しくなったときに、前へ出てそれぞれ話
をすると同時に、国内世論に向けてもこの両国関係の大切さというもの
を訴えてきたのが韓日議連の先輩方であって、私も、何人もそうした方
に韓国でお目にかかりましたけれども、本当に尊敬に値する立派な方々
でございました。
そうした歴史があるにもかかわらず、この韓日議連の会長まで務めた
人間がこのようなことを言うというのは、極めて深刻でありまして、先
般の外相会談の中でも、この件については本当に驚いたし、残念だとい
うことを先方にお伝えをいたしました。本来なら、外交部と韓日議連が
、今この問題の取りまとめをしている国務総理を両側で支えているべき
人がこういう状況では、本当に日韓関係、心配だ、外交部には、しっか
りとこの件、対応をお願いするということを申し上げてまいりました。
ただ、今、こういう人物でさえこのような発言をするということは、
少し強く相手に物を言うと、それに呼応して、わあっと盛り上げる、そ
ういうグループがあって、そこへ向けて発言をするというようなことが
繰り返されることになると、日韓両国関係にとっては必ずしも得策では
ありません。
こういう状況ではありますけれども、日韓、昨年、一千万人を超える
往来がございました。日本から韓国を訪れる方より、韓国から日本を訪
れる方の方が倍以上多いわけですけれども、日本から韓国を訪問する方
も二八%ふえたということを考えると、やはり、こういう状況の中でも
、お互いの行き来がしっかりあって、草の根で、人的交流の中で、お互
いの国民がお互いの国のことをよく理解をするというのは大事なんだろ
うと思いますので、こういう時期だからこそ、相手をののしるのではな
く、少し冷静になって、この両国関係の大切さというものをしっかり認
識ができる、そういう対応をきっちりやってまいりたいというふうに思
っております。
○井上(英)委員 言葉を悪くすれば、国民からは、ちょっと弱腰なん
じゃないかというような指摘をされるときもありますけれども、やはり
毅然とした態度で、先ほど言われるような、一部の方に受けるためにそ
ういう発言をされているということであるならば、やはり寛容過ぎるん
じゃないか。もう少し日本として、適切に返すことは返していくという
ことをやはりやっていくような必要もあると思いますので、ぜひ外務大
臣、頑張っていただけたらというふうに思います。
第198回国会 予算委員会第三分科会 第1号 平成三十一年二月二十七
日(水曜日)
兼務 小田原 潔
政府参考人
(外務省大臣官房審議官) 石川 浩司
○小田原分科員 自民党の小田原潔であります。
予算委員会の第三分科会、質問の機会をいただいて、ありがとうござ
います。
私は、ポスターもネクタイもオレンジ色がテーマカラーであります。
きょうは大臣も井野主査も同じ色で、一致団結して質問をさせていただ
きたいと思います。引き続き、我が国の国益を守り、国際社会で応分の
敬意を受ける活動をするために予算を有効に活用していただきたいと思
います。
私からは、日韓関係について質問をさせていただきたいと思います。
と申しますのも、外務大臣政務官を務めさせていただいておりました
二〇一六、一七年のころ、いわゆる少女像問題について随分と腐心をい
たしました。私自身は、歴史的認識の違いについてコメントするのを極
力避けました。
二〇一七年の一月の三十日に、ウォールストリート・ジャーナルに、
私は政務官として寄稿いたしました。それは、二〇一五年の十二月二十
八日に、いわゆる慰安婦問題については最終的かつ不可逆的な合意をし
たにもかかわらず、投稿の前年、一六年の十二月三十日に、釜山の領事
館の前にも少女像が設置されたことに大変落胆をし、無力感とは申しま
せんけれども、半ばあきれた気持ちになったというのが、今振り返れば
言えなかった本音であります。
投稿の内容は、不可逆的な合意をしたこと、そして、財団に十億円を
支出し、我が国はその責務を果たしていること、そして、翌年の十二月
三十日に、残念ながら新たな少女像が置かれてしまったこと、それは領
事関係に関するウィーン条約からしても問題であること、また、何より
も強調いたしましたのは、当時既に北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射
を繰り返していて、日韓は本来は力を合わせて無謀な挑発を抑止するべ
き、そういう間柄であるべきだということ、また、国際社会からもそう
いう役割を期待されているはずなのだということ、いわば、目を覚まし
てくれというような内容を寄稿させていただきました。
しかしながら、その翌年には、今度は、少女像をつくった御夫婦と同
じ方、同じ工房なのだと思うんですけれども、今度は徴用工の像という
のをおつくりになって、この手の活動というのはエスカレートするばか
りであるというふうに思われて仕方がありません。さらには、韓国の最
高裁の判決で、我が国の企業が賠償責任を負うという判決が出てしまっ
た。
少女像や徴用工の像も極めて問題であり、残念でありますが、我が
国の法人、個人の生命や資産、安全が脅かされるということを放置する
わけにはまいりません。まずは、この徴用工と言われるものの問題につ
いてどのように対処していくべきなのかについてお聞きをしたいと思い
ます。
今月、二月の八日に、アジア平和貢献センター共催シンポジウムとし
て、社団法人経済倶楽部が「東アジアにおける「法の支配」の構築に向
けて」というシンポジウムを開いています。
そこで、萬歳寛之早稲田大学教授は、徴用工に関する韓国大法院判決
の問題点を、日韓請求権と日韓経済協定だけでなく、日韓国交正常化の
一般的な文脈や日本の戦後補償裁判との関係で評価をしています。
「国際法の観点から見た韓国徴用工問題」と題して、韓国はサンフラ
ンシスコ条約に入っていないのに、徴用工判決では、戦争賠償だけでは
なく、債権債務関係を持ち出した、国交正常化とは、懸案事項を解決し
た上で将来関係を構築することを意味する、一九六五年の日韓国交正常
化の際の懸案事項は経済協力や個人の請求権だった。
朴正熙大統領が国民の当時の激しい世論を何とか説得をして国交の正
常化にこぎつけたその大きな判断材料は、韓国にとっては経済の発展、
我が国にとっては個人の請求権、これをそれぞれ折り合いをつけて国交
が正常化したというのが現実でありましょう。それが、ちょっと言い方
はラフになり過ぎかもしれませんけれども、別の要因でだんだんむしゃ
くしゃしてきたので、そのたびに我が国に謝れと言い出すようでは、健
全な関係は維持できません。私は、どのように、はっきり言えば、今現
在の新日鉄住金を差押えから救うべきかということにまずはエネルギー
を使わなければいけないと考えております。
また、皮肉なことに、特にPOSCOは、当初、世銀やアメリカ合衆
国からの資金拠出をまだ時期尚早ということで撤回された、それに対し
て、我が国の国交正常化に伴う資金を注入してでき上がった会社であり
ます。しかも、当時の八幡製鉄、富士製鉄、そして日本鋼管が技術供与
をして、世界品質にたえ得る製鉄会社となったという経緯があります。
二〇〇〇年には新日鉄と戦略的提携の契約を結んでいます。にもかか
わらず、当時、新日鉄が、鉄の芸術品と評されるほどの高品質の方向性
電磁鋼板、これは電力インフラに不可欠な変圧器の心臓部、鉄心に使う
ものでありますが、この品質が急に上がってきた。新日鉄のエンジニア
からすれば、独自の技術開発でこんな急速に品質が上がるわけないとい
う疑念がありました。
何と、その後、POSCOの社員が中国に機密情報を漏えいしたとい
うかどで、POSCOがその社員を訴えた。すると、その社員は法廷で
、もともとこの技術はPOSCOのものではなくて新日鉄のものだとい
う証言をした。結果的に、請求額が一千百五億四千百二十万円の請求額
でありましたが、二〇一五年の九月に三百億円の支払いで和解をした。
ただし、技術料を払うこと、そして、どの先に売っていくかということ
を事前に協議することということで代償を払ったわけであります。
我々からすると、多少うがったように聞こえるかもしれませんが、今
回の徴用工の判決、そして新日鉄住金の資産に手をつけるという、その
話合いをしようと言い出すということは、あたかも江戸のかたきを長崎
で討つつもりなのかと言わざるを得ません。
現在、差押えの対象になりそうなものは、新日鉄住金が持っている
POSCOの三・三二%の株式の持分か売上げ債権ではないかと言われ
ているようであります。
POSCOの持分は、ニューヨーク証券取引所の米国株式信託証書の
形、ADRと略しますが、で保管されているので、そう簡単には手がつ
けられないだろう、アメリカ合衆国で法的な手続をとり、それが許可さ
れなければ手をつけられないだろうと考えられているようですが、現在
、この徴用工判決に対抗すると申しますか、があったとしても、我が国
の当初の合意に基づき、我が国法人の資産を守るにはどのような対処を
されているか、答えられる範囲で結構でありますので、教えてください
。
○石川(浩)政府参考人 お答え申し上げます。
旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題につきましては、現在に至るまで
韓国政府が日韓請求権協定違反の状態を是正する具体的な措置をとらず
、加えて、原告側による差押えの動きが進んでいるということは極めて
深刻だというふうに思っております。
我が国としましては、韓国による協定違反の状態を解決すべく、韓国
政府に対して協定に基づく協議を引き続き要請しているところでござい
まして、韓国が当然誠意を持って協議に応じるものと考えております。
いずれにせよ、今御指摘のとおり、日本企業の正当な経済活動の保護
の観点、こういった観点から、引き続き、関係企業と緊密に連絡をとり
つつ、日本政府としての一貫した立場に基づき適切に対応してまいりた
いと思っております。
○小田原分科員 どうか、我々の目から見れば罪のない、現在新日鉄住
金で働いている人たち、そしてその財産を、国益をかけて守っていただ
きたいと思います。
次に、いろいろなところで議論になっているので、できるだけ手短に
いきたいと思うんですが、どうしても、我が国海上自衛隊のP1哨戒機
に対する火器管制レーダー照射事件について触れざるを得ません。
その後、韓国からいろいろな釈明がありました。テレビでも随分と国
民の目にさらされました。一国が潔白を証明するために国際社会で提出
する動画になぜ音楽をつけるのか、私にはやや理解ができないところが
ありますが、事の流れを普通の国民が類推するに、二そうあると言われ
ている大変小さな、漁船のような船を人道的に救助するために、なぜ海
上保安庁みたいなボートとか救命ボートではなくて、百三十五メートル
もある軍艦が行くのか。そこには、そもそも我が国の排他的経済水域で
ありますから、当然パトロールが及ぶであろうということは百も承知で
あったろうに、軍艦が行かなければいけない、それは、どうしてもその
状況を守らなければいけない理由があったのではないか。
また、一応と言うと失礼ですが、我が国と韓国は、日韓基本条約、貿
易協定、そして九八年の共同宣言を結んだ間柄であります。そういった
国の哨戒機に対してレーダー照射までしなければいけない、そうしてで
も追い払わなければいけない理由があったのではないか。
すなわち、その小さな二そうの船の中には、軽くて、かさばらなくて
、しかも値段の高いものが入っていたのか、決定的な人物が中にいたの
かと思わざるを得ない、ほとんどの国民はそう思っているのではないか
と思います。
第198回国会 参議院予算委員会 第7号 平成三十一年三月八日(金曜日
)
委員 浅田 均
外務大臣 河野 太郎
○浅田均君 考える気、考えたってもええという感じですね。
済みません、一分になってしまいました。何か進行に協力をしてしま
ったみたいで。
河野大臣、いらいらされていると思いますので、せっかくお越しいた
だいたので、麻生大臣はいてはるのが当然なのでね、わざわざお越しい
ただいたので、一問、二問質問をせぬとね。まあ、ええですわ。
韓国の徴用工訴訟についてお伺いしたいんです。
韓国の徴用工訴訟ですね、徴用工が賠償請求して、日韓請求権協定で
もうこれは片済みやと言うても、向こうの大法院が決めた。実際、日本
の会社に来て、これからどうされるんですか。
○国務大臣(河野太郎君) この旧朝鮮半島出身労働者に関する大法院
判決につきましては、日本企業に不利益が発生した場合には対抗措置を
とりたいというふうに思っております。現時点では、李洛淵国務総理が
韓国側でこの件について対応策をまとめていらっしゃるというふうに承
知をしておりますので、不利益が発生しない限り、それを待ちたいとい
うふうに思っております。
○浅田均君 国家の役割というのは国民の生命、財産を守ることだと常
におっしゃっているわけですから、この財産権の侵害、これは絶対守っ
ていただきたいということをお願い申し上げまして、質問を終わらざる
を得ないので、終わります。
第198回国会 衆議院財務金融委員会 第7号 平成三十一年三月十二日
(火曜日)
委員 丸山 穂高
財務大臣
国務大臣
(金融担当) 麻生 太郎
政府参考人
(財務省関税局長) 中江 元哉
政府参考人
(外務省大臣官房審議官)石川 浩司
○丸山委員 しっかり周知いただいて、状況を確認しながら、必要であ
れば指針を更に示していくとか、非常に大事な順番になっていくと思い
ますので、ぜひよろしくお願い申し上げたいというふうに思います。
関税、今回のを見ていますと、基本的には、しっかりやっていただき
たいなと我が党としても賛成なんですが、関税の関係で昨今気になると
ころで、ここも検討すべきじゃないかなというところが韓国の、徴用工
とは言いたくないですが、いわゆる徴用工、徴用された方々に対する訴
訟に関して、日本企業の資産を現地で差し押さえるというニュースがあ
る。それに対して、対抗措置として、国として関税の引上げを検討して
いるような記事が出ているんですけれども、これは飛ばしなのか、それ
ともしっかりそうしたものを検討されているのか、事実関係をお伺いし
たい。
同時に、もしこうした措置を適用する場合、関税を引き上げるという
のを適用する場合にはどんな手続が必要なんでしょうか。関税を見てい
て、法律上、こうした手続はないと思う、特定の国に対して関税を引き
上げるというのはないと思うんですけれども、そうした部分こそ、この
関税の改正というのは必要じゃないかな、検討するに値する部分じゃな
いかなと思うんですけれども、今回の法改正ではもちろんこういった部
分は入っていませんが、こうした部分、まずはお答えいただけますでし
ょうか。
○中江政府参考人 お答え申し上げます。
旧朝鮮半島出身労働者問題について、現在、日本政府は韓国政府に対
し、韓国による日韓請求権協定違反の状態を解決すべく、協定に基づく
協議を要請しているところと承知いたしております。
この協議要請に加えて、今後、日本政府としてどのタイミングで何を
行うかといった具体的内容については、官房長官から記者会見において
、我が方の手のうちを明らかにすることになりますので差し控えたいと
述べられているものと承知しております。
いずれにいたしましても、日本企業の正当な経済活動を保護する観点
からも、関係省庁と連携しつつ、適切に対応してまいりたいと考えてお
ります。
○丸山委員 検討するだけなら誰でもできちゃうんですね。私ですらで
きるし、逆に言えば、別に行政府じゃなくても一般の方でもできてしま
うし、もっといけば、小学生でも検討しますと言うことはできるので、
非常に聞いている方が歯がゆいですし、もっといけば、本当に検討され
ているのかなと、中身もおっしゃらないと余計考えるんですけれども。
関税を今回議論する中で、今記事に出ているような、もし関税を特定
の国に、韓国に対して対抗措置として当てるとしたら、これは関税法の
改正が要るわけですよ。少なくとも時間がかかるわけで、法改正ですか
らね、急に国会が開いていないときにできるわけがないですし、国会に
提出して議論しなきゃいけませんから非常に時間がかかるわけで、非常
に、今のを聞いているだけでも、関税一つとっても歯がゆいですし、そ
の他の対抗措置も、どう考えているのかもお述べにならないということ
は、非常に、本当に検討しているのかなというところを、聞いていらっ
しゃる皆さんは不安に思いますし疑問に思うと思うんですけれども、本
当に検討はされているんですか。それはどうなんですか。
○石川政府参考人 お答え申し上げます。
ただいま財務省からもございましたとおり、旧朝鮮半島出身労働者を
めぐる問題につきましては、現在に至るまで、韓国政府が日韓請求権協
定違反の状態を是正する具体的な措置をとらず、加えて、原告側による
差押えの動きが進んでいることは極めて深刻というふうに考えておりま
す。
我が国としては、韓国による協定違反の状態を解決すべく、韓国政府
に対して、協定に基づく協議を要請し、協議に応じるよう重ねて求めて
いるところでございまして、韓国側は当然誠意を持って協議に応じると
考えております。
この協議要請に加えまして、どのようなタイミングで何を行うかとい
った具体的な内容につきましては、我が方の手のうちを明らかにすると
いうことになるため、差し控えさせていただきたいと思います。
○丸山委員 毎回もうずっとそのお答えで、何をやっているのかなと、
お聞きになった皆さんはお思いになると思いますし、実は、慰安婦のと
きも同じことを、私、外務委員会で、あのときはちょうど岸田さんでし
たね、岸田外務大臣だったんですけれども、合意をしたという話をされ
て、本当に大丈夫ですか、慰安婦の問題も、財団をつくったけれどもこ
れは本当に解決するんですか、いつも、毎回ひっくり返っていますよと
いう話をそのときもしたんですけれども、いや、合意を守らせます、合
意を守らせますとずっと岸田大臣はおっしゃっていたんですけれども、
案の定、慰安婦の話もああいう状況になってしまった。
同様に、レーダー照射の件も、あと低空飛行の件もありますが、それ
はおいておいて、日本の企業の経済活動が損なわれる中で、しっかり対
抗措置というのは国としてはとっていかなきゃいけないし、もちろん、
こちらからあえて荒立たせることはないという気持ちもわかります、外
交がありますから。しかし、本当に聞いている皆さんは不安になると思
いますし、どんどんどんどん、韓国のいつものパターンだとやられると
思いますので、しっかり対応いただきたいとしか言えませんが、よろし
くお願いしたいと思います。
次に韓国がやってくるのは、恐らく、アメリカとか欧州の、自国だけ
じゃなくてほかの国の日本企業の、例えば今回、三菱重工業が対象にな
っていますが、彼らの、企業のほかの国にある資産を、その国の裁判所
に訴えて差押えにかかっていくというのが通常考えられると思うんです
けれども、欧州に対してやるんじゃないかみたいな話を彼らの弁護団が
既に述べています。このあたりをどのように考えられていて、どのよう
に対応されようと考えているのか、政府の見解をお聞かせください。
○石川政府参考人 お答え申し上げます。
委員がただいま御言及になりましたような、御指摘のような報道、こ
ういうことがなされていることについて我々も承知しております。また
、御指摘の、原告側はいろいろ発表していますが、その一々について政
府としてはコメントすることは差し控えたいというふうに思っておりま
す。
いずれにいたしましても、これまで政府として繰り返し申し上げてい
ますとおり、本件問題につきましては、日本企業の正当な経済活動の保
護の観点から、引き続き、関係企業と緊密に連絡をとりつつ、日本政府
としての一貫した立場に基づき、適切に対応させていただきたいと思っ
ております。
○丸山委員 きょう、関税の議論ですけれども、出てきている内容は非
常に細かい話が多くて、もちろん、それぞれの部分に関しては、関与し
ていることは非常に大事な大きな案件ですけれども、何かしら、こうい
う他国との関係で大きな影響がというのは比較的見られない案件です。
そうした中で、本当はこの関税にしてもこうした議論すべき案件がある
んですけれども、何となく政府の中では後手後手な感じのイメージを与
えてしまっているので、手のうちは明かせません、検討していますでは
説得力がありません。しっかりこれは前に進めていただきたいと思いま
すが、もう繰り返しになりそうなので聞きません。
ただ、この一連の韓国側の対応に対しては、政府側も憤りを感じてい
るのは、たびたび政府の閣僚の皆さんの御答弁を聞いていても思います
し、何かしらできないかというのは、恐らく、与党の皆さん、自民党の
中でも考えていらっしゃると思いますし、何とかしたいという思いを持
っていらっしゃる議員も多いと思うんですけれども、このあたり、本当
にそろそろ、ただ言うだけじゃなくて、しっかりと具体的に出していく
というのは、タイミングだと私は思うんですけれども、大臣、このあた
りも含めて、韓国の一連の対応等、国がどういうふうに対応していくべ
きか、大臣としてどのようにお考えになるか、お答えいただけますでし
ょうか。
○麻生国務大臣 外交の話なので外務省が所管しているところだと思い
ますが、対抗する措置というのが幾つもあるのはもう御存じのとおりな
ので、関税に限らず、送金停止とかいろいろな方法がありますので、ビ
ザの発給停止とかいろいろな報復措置があろうかと思いますけれども、
そういったものになる前のところで今交渉されているというところだと
思いますので。
私どもは与党をやっていますので、野党であおる立場じゃありません
ので、このことに関して、少なくとも、政府として、相手国のある話で
もありますので、きちんとした対応をやっていかないかぬと思っていま
すが、これ以上事が進んで実害がもっと出てきたということになってく
ると、これはまた別の段階になりますので、その段階では考えないかぬ
という、段階によって対応の仕方が変わってくるんだとは思っておりま
すけれども、いろいろなことを考えているかといえば、はい、考えてい
ます。
○丸山委員 最初の発言、いろいろな話が出ましたけれども、タイミン
グという話がありましたし、しっかり、国民の皆さんが見ていますし、
何より、韓国側も今結構センシティブなタイミングです、三・一独立運
動の百周年とか。そうですが、しかして、外交ですから、言うべきとこ
ろは言っていかないとあれだと思いますし、特にこの関税の議論をして
いるときにずっと思ったのは、そうした部分の大きな議論もなく細かい
話だけで済ませているのは非常に一人の議員としても危惧しますし、対
韓関係を見ていても気になる点なので指摘させていただきたいというふ
うに思います。
時間もなくなってきたんですが、これは質問じゃなくて、通告が時間
的に間に合わなかったのできょうはお話しかできないので、次に質問し
ようと思うんですけれども、大阪が、政令指定都市なんですが、堺市と
いうところの市長が、今、政治資金収支報告書の訂正の問題で荒れてい
るんですけれども、大きなニュースになっていまして、収支の訂正がぽ
ろぽろいっぱい出てきて、全部で二百個以上で、それが一億三千万円以
上の訂正をされるという形になるという非常に驚きの状況になっている
んです。
その市長から提出された資料をちょっと、出てきたので、きょう、ぺ
らぺら見ていてびっくりしたのは、税理士の方からそれは提出されてい
るんですけれども、タイトルは、竹山修身氏の政治団体における会計処
理に関する調査報告書というものです。
税理士の方なのに、絶対的な正確性が担保されるものじゃないとか、
あと、りそな銀行の通帳の残高証明がついているんですけれども、それ
が間違っているんだと。平成二十二年、二十五年、二十七年の額が一致
しませんが、銀行からの残高証明の誤りですと書いてあるんですけれど
も、通常の感覚で考えたら、銀行の残高証明が三年分も誤るなんて考え
られないですし、りそな銀行がまさか本当に残高証明を間違えて出した
というなら、これは銀行法上、問題だし、この委員会にも来ていただい
てしっかりりそな銀行に、どういうことだと聞いていかなきゃいけない
というふうに思っているんですが、時間ももう終わりますし、通告の関
係できょうはできませんでしたが、この話をまた次回触れさせていただ
きたいというふうに思います。
これで、時間が来ましたので終わります。ありがとうございました。
第198回国会 参議院外交防衛委員会 第3号 平成三十一年三月十二日
(火曜日)
委員 浅田 均
外務大臣 河野 太郎
○浅田均君 日本維新の会、浅田均でございます。
私は、韓国の徴用工訴訟についてお尋ねいたします。
日本政府は、賠償問題は一九六五年の日韓請求権協定で解決済みとの
お立場であります。したがいまして、韓国大法院の判決による新日鉄住
金の資産差押えを受けて請求権協定に基づく二国間協議を韓国政府に要
請しているということでありますが、これに対する韓国側の回答はどの
ようなものだったのでしょうか。外務大臣にお尋ねいたします。
○国務大臣(河野太郎君) 先般の日本側からの協議要請に対し、現時
点では韓国政府からの回答はございませんが、我々としては、韓国政府
が当然誠意を持って協議に応じるものと考えております。
○浅田均君 現時点で回答はないということですが、これ、私、こうい
うことを余り聞いたことがないので、この請求権協定というので訴訟と
か何かの場合は協議するというふうに協定書の中に書かれてあるわけで
すよね。だから、何か問題が生じた場合は協議しましょうということに
なっているのに、回答はないと。
やがて回答はあるだろうということですが、現実にもう訴訟手続とい
うかは前の方に進んでしまっているわけですよね。それでもやっぱり回
答を待たれるという基本的なお立場には変わりはないわけですね。
○国務大臣(河野太郎君) 日韓請求権協定でこの協議というものがう
たわれているわけでございますから、韓国政府として当然に協議に応じ
るものと考えております。
○浅田均君 それで、また、先般、私、予算委員会で河野大臣に質問さ
せていただいたんですが、この件に関しまして、李洛淵首相が対応策の
取りまとめに当たっているという御答弁でありました。
取りまとめの内容について報告は受けておられるんでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 李洛淵国務総理が、この問題で韓国政府の
中、取りまとめに当たっているわけでございます。外交上のやり取りの
詳細についてお答えをするのは差し控えさせていただきたいと思います
が、李洛淵国務総理にしっかりとした取りまとめ、対応策を出してきて
いただきたいというふうに思っております。
○浅田均君 取りまとめ作業に当たっているという段階で、この何か原
告団、原告側弁護団が日本にまで来て、本社に協議に応じよというよう
な話にまで進むんかというふうな疑問を持ってしまうんですが、取りま
とめ、やってます、やってますって、やるやる詐欺みたいな、やってま
す、やってますと言うてるだけなんと違うんですか。
○国務大臣(河野太郎君) 日本企業に不利益が発生する前に韓国政府
が対応をしてくれるものというふうに考えているところでございます。
李洛淵国務総理は日本のことをよく理解をされている方でございます
から、この問題が、日韓請求権協定という六五年の国交正常化以来、両
国間の法的基盤を成してきている協定であり、その法的基盤が根底から
覆されかねない出来事であるということはよく理解をいただいているわ
けでございますので、我々としては、李洛淵国務総理を中心に真摯に韓
国側が対応してくれるものと考えております。
○浅田均君 今の御答弁の中でも、大臣の発言にあったんですが、日本
企業に不利益が生じるという御発言を今もされました。
具体的にどういう事態を想定されているんでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 請求権協定に基づく協議を要請をし、我々
としては、韓国側がこの協議に誠意を持って応じてくれるものと思って
おりますが、万が一日本企業に不利益が及ぶようなことがあれば、日本
政府として対抗措置をとらざるを得なくなるわけでございます。
ただ、何をトリガーにしてどのようなことをやるかということを申し
上げるのは、こちら側の手のうちをさらけ出すことになってしまいます
ので、それについて、今、公の場で、何をトリガーにしてどういうこと
をやるかということを申し上げるのは差し控えているところでございま
すので、御理解をいただきたいと思います。
○浅田均君 私は、何が引き金になるかは聞いておりません。大臣が御
発言になっている、日本企業に不利益が生じると、不利益というものが
どういうものであると想定されているのかをお尋ねしているんです。
○国務大臣(河野太郎君) 日本企業に不利益が生じれば対抗措置をと
らざるを得ないということを常々申し上げてきておりますので、不利益
が生じるということイコールトリガーということになってしまいますの
で、その点についてのお答えを差し控えさせていただいております。
○浅田均君 分かりました。
そうしたら、不利益が生じると判断されると対抗措置と、不利益が生
じたと判断されるということをもって引き金を引くというふうに理解さ
せていただきます。
実際の話、これ、新日鉄住金を相手取った訴訟の原告側弁護士は、二
月十四日に、弁護士らが二月の十五日に東京の同社本社を訪れて協議を
要請したと、これに応じない場合は差し押さえた韓国内の資産について
売却命令を早期に裁判所に申請せざるを得ないと警告したと報道されて
います。
だから、韓国の大法院が認めて、差し押さえた新日鉄住金の差押え
物件を売却してもよいかというお伺いを裁判所に立てて、それで、了解
されたら売却すると、すなわち現金化するということだと思うんですけ
れども、これ、またあれですね、答えられませんよね。答えられないの
分かっていて聞くのもつらいんですが、質問ですので、お尋ねいたしま
す。
○国務大臣(河野太郎君) 日本政府として、日本企業の正当な経済活
動を保護するという観点から適切な対応を講ずる考えでございます。そ
のための様々な措置を検討してきているところでございます。
詳細につきましては、申し訳ございませんが、差し控えさせていただ
きたいと思いますが、しっかりとした対応ができるように努めてまいり
たいと思います。
○浅田均君 今はいいですけど、終わってから、いやいや、実はあのと
きこうやったんやという詳細をお知らせいただけたら非常に有り難いと
思います。どういう言語を使われたときはどういう作業をやっていると
いうことがこれから類推できますので、よろしくお願い申し上げます。
実際の話、これ、日本企業に不利益が生じたときをもってトリガー、
対抗措置をとるきっかけにするというふうに今おっしゃっているわけで
すが、向こうの原告側弁護団ですよね、差し押さえてそれを現金化する
と、報道ではいろいろされていますけれども、実際にそれ現金化されて
しまった時点で、大臣、総理もいつもおっしゃっております、国家の役
割というのは日本国民の生命と財産を守ることだと、その財産を守ると
いう点において、これをやられてしまうと国家の役割を果たせなかった
ということになってしまうんですが。
そういう御自覚を持っていろいろ対応されていただいているものだと
思うんですが、それにしても何かこう、レーダー照射事件始め、一方的
にやられ放題と。何か防戦一方で、こちらはまともに対応している、正
しい判断で正しい行動をしていると国民みんな思っていると思うんです
が、それに対して、何か日本はこう、何というのかな、言いがかりを付
けられ放題で、それに対して何も対抗できていないんではないかという
不満が国民の間にあると思うんですけれども、大臣はこういう国民の皆
さんの声に対してどういうメッセージを送られますか。
○国務大臣(河野太郎君) この大法院判決に関する係る問題は、先ほ
ど申し上げましたように両国の言わば法的基盤を損なう非常に大きな問
題でございますので、この問題については日本側として韓国側にしっか
りと対応することを求めてきているわけでございますし、必要ならば様
々な措置をとらなければならないというふうに考えております。
その他、先般の国会議長の発言ですとかレーダーの照射事件とか様々
ございますが、向こうが何か不適切な発言をしたからこちらも不適切な
発言をするという子供じみたことはすべきでないというふうに考えてお
りますし、また、韓国からは昨年一年間に七百五十万人を超える多くの
方が日本を訪問をしてくださっておりまして、日本側から韓国を訪問し
ている旅行者が二百五十万人を超え、両方合わせて一千万を超えるとい
う、両国の国民の交流はこれまでになく多い状況にございます。そうい
う中で、多くの方に日本に来ていただき、あるいは韓国を訪れていただ
き、両国を見ていただく、あるいはそれぞれの国民と実際に触れ合って
いただくということがこの両国の関係の強化には非常にいいことだと思
っております。
私としては、こうした国民の交流を更に強めていくということをやり
たいと思っておりまして、実は、昨年の前半、日韓両国、未来志向の関
係をつくろうということで、先方の康京和外交部長官と私と、それぞれ
有識者会議、タスクフォースを立ち上げて、日韓の未来志向の関係をい
かにつくるかという提言までいただいたところでございます。今こうい
う状況になってしまって残念ながらそこは進んでいないわけでございま
すが、両国のしっかりとした関係をつくっていく、そのためにもこの大
法院判決に係る問題、韓国側に適切に早期に対応していただきたいとい
うふうに思っております。
○浅田均君 韓国側に適切な対応を求めるということでありますが、他
方、この日韓請求権協定によりますと、これは第三条でありますが、両
国はこの協定の解釈及び実施に関する紛争は外交で解決し、まさにこの
段階だと思うんですね、今。で、解決しない場合は仲裁委員会の決定に
服するとなっております。
この三条二項で言うところの仲裁要請の公文というものを韓国政府に
発しておられるんでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 現在、協定第三条一に基づく協議を要請を
しているところでございます。今お尋ねの協定第三条二に基づく仲裁を
要請する公文を発出した事実はございません。
○浅田均君 そうしたら、ステージ、協議を求めるというステージであ
って、その次のステージで仲裁要請の公文ということになるという理解
でいいんでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) まず三条の一の、協議で解決をするという
ことになっておりまして、それにより解決することができなかった紛争
については、いずれか一方の政府が相手方に対して公文をもって仲裁を
要請するというふうに規定がされているわけでございます。
ただ、仲裁あるいは国際裁判の段階であっても、両国間が協議で問題
を解決するという可能性はあるわけでございますので、ステージが進ん
だからといって協議で問題を解決しないということにはならないわけで
ございます。
○浅田均君 ありがとうございます。次に聞こうと思っていたところま
で答えていただきまして、ありがとうございます。
それで、しつこいようでございますが、日本企業に不利益が発生した
場合というところで、何かもう既に新聞等では関税措置を講ずるという
ふうなことが書かれてありますけれども、仮に、仮にそういうことを考
えておられるのだとすれば、これは私はおやめになっていただきたいと
いうふうに思っております。
だまし討ちで、こう言うたら何かそこについて答えてくれはるん違う
かなという変なことは考えておりませんので御安心いただきたいと思う
んですが、やっぱり日本というのは貿易、自由貿易を拡大するという基
本的なスタンスでやっているわけですから、その日本が関税措置をもっ
て対抗措置とするならばそれは誤った判断だと私は思っておりますので
、ああいう報道に書かれてあることがもし事実であるとするならば方針
は変えていただきたいと思いますが、答えられないですよね。
○国務大臣(河野太郎君) 御意見は承りました。詳細についてお答え
をすることはお許しをいただきたいと思います。
第198回国会 参議院財政金融委員会 第7号 平成三十一年三月二十八
日(木曜日)
委員 藤巻 健史
財務大臣 麻生 太郎
委員 渡辺喜美
外務大臣官房参事官 田村 政美
○藤巻健史君 韓国との問題が大分混乱してきていますけれども、いわ
ゆる徴用工問題ですね、徴用された方々に対する訴訟において日本企業
の資産差押えが起こっていると思うんですけれども、それにやっぱりい
ろんな対抗処置を考えなくちゃいけないと思うんですけれども、アメリ
カが中国にやっているような関税引上げというのは一つの方法だと思う
んですよね。それを実際発動するかは別として、そういうような、うち
は、日本はそういうことだよということを示すということは韓国に対し
てもすごいプレッシャーになるかと思うんですけれども、いざというと
きにそういう法律がなければもう向こうも甘く見ちゃう、日本のことを
甘く見ちゃうと思うんで、要するに韓国を念頭にそういうような法律を
考える気があるのかどうか、大臣にお聞きしたいと思います。
○国務大臣(麻生太郎君) この旧朝鮮半島出身労働者のいわゆる問題
につきましては、これは今、日本政府が韓国政府に対して、いわゆる韓
国には、日韓請求権協定違反という状態がなっておりますので、それに
基づいて協議を要請しているというのが今の状況でありますけれども、
この協議要請に加えて、今後の対応についての対抗措置を聞いておられ
るんだと思うんですけれども、どのタイミングで何を行うかといった具
体的な内容というものにつきましては、これは手のうち明らかにするよ
うな話になりますので、これは差し控えさせていただきます。
今関税局長が答弁したように、この現行の関税関連法というのは、こ
れは御存じのようにWTO等々の国際ルールというものに沿って整備を
されているものですから、別途の措置を講ずる場合ということになりま
すと、これは対外的に効果、影響、様々な問題を考えて検討する必要が
あるというのは確かだと思いますので、これはどのようなものをやりま
すか、これはいろいろ検討が進められているのは事実ですけれども、そ
の内容についてここで述べることは差し控えさせていただきます。
○藤巻健史君 手口を明らかにするというのはおっしゃるとおりだと思
うんですけれども、ここに、法律に、日本の法律に例えばスペシファイ
、ある国をスペシファイして関税を上げるというようなことが書いてい
ないということは、我が国では関税を引き上げるという政策は今現在で
は取れませんよという手口を明らかにしちゃうようなことじゃないかと
思うんですよね。国際問題に関しても、アメリカでそういう法律がある
以上、日本も同じような法律を早めに作って用意しておくのがいいんじ
ゃないかなと思います。これは感想ですけど、一応感想を述べさせてい
ただきました。
------
○渡辺喜美君 自由貿易を国是とする我が国が報復関税を検討せざるを
得ないという状況になったんですね。恐らくこんな事態は初めてだろう
と思いますよ。お隣の韓国、文在寅政権は相当特異なイデオロギーを持
っている政権であります。御案内のように、反日統一思想とでもいうべ
き革新的イデオロギーに基づいて、慰安婦問題はちゃぶ台返しをする、
レーダー照射の事後対応しかり、そして、司法権の独立と言いながら実
際の独立はない徴用工問題しかりであります。
麻生大臣が、ついせんだって、衆議院の財金で、恐らくアドリブだ
とは思いますが、政治家としての御答弁をされた。非常にこれは効き目
があったと思いますね。問題は、その実効性が問われて足下を見透かさ
れないようにしていくことが大事であります。
人、物、金、こうした流れの中で、例えば今、韓国は非常に経済が苦
しい。学生さんは就活が大変なんですね。日本と真逆ですよ。そういう
中で、例えば日本に就活に来る学生がいる。麻生大臣の御答弁にもあり
ましたが、ビザの発給を制限する、こういうことは可能ですか。
○政府参考人(田村政美君) お答え申し上げます。
委員御指摘の韓国人を対象とする査証につきましては、現在、一般旅
券を所持する韓国人は、九十日以内の短期滞在の目的により日本に入国
しようとする場合に査証免除の対象となっております。
我が国としましては、韓国による日韓請求権協定違反の状態を解決す
べく、韓国政府に対し協定に基づく協議を要請し、協議に応じるよう重
ねて求めているところでございます。韓国側は、当然誠意を持って協議
に応じるものと考えております。この協議に加えまして、どのタイミン
グで何を行うかといった具体的な内容につきましては、我が方の手のう
ちを明かすことになるため、お答えを差し控えさせていただきたいと思
います。
いずれにしましても、日本企業の正当な経済活動の保護の観点からも
、国際裁判や対抗措置も含め、あらゆる選択肢を視野に入れて適切に対
応していく考えでございます。
○渡辺喜美君 誠意を持って対応してくれるとおっしゃいましたけれど
も、革新的イデオロギーを持った政権ですから、そんな甘い考えを持た
ない方がよろしいと思いますよ。
続いて、物でありますが、例えばフッ化水素をサムソンが半導体の洗
浄に使うんだといって申請してきたら、これは拒むことはまず無理でし
ょうね。一方、北朝鮮は、米朝首脳会談が失敗に終わったことを受けて
、また元の路線に行きつつある。北のミサイルは、一番の難関がヘッド
ですよ。ヘッドの部分は特殊な素材が使われておるわけですね。日本は
そういう素材を作る技術は持っている。
もし、こういうのが韓国経由で入っていったらどうするんですか。そ
こまで審査、ちゃんとやっていますか。
○政府参考人(飯田陽一君) お答えいたします。
ただいま御指摘のございました大量破壊兵器等に転用のおそれのある
貨物の扱いでございますけれども、この輸出につきましては、現在、外
国為替及び外国貿易法に基づきまして、経済産業大臣の許可が必要とい
うことになってございます。
許可申請が出た場合の取扱いでございますが、これは一般論でござい
ますけれども、個別の取引ごとに審査を行いまして輸出許可の是非を判
断するということになるわけでございます。
○渡辺喜美君 とにかく膨大な数の審査をやっておる。ところが、こう
いういまだかつて想定していない事態が発生しているわけですから、こ
れは余り甘く考えない方がいいですよ。この政権は今までの政権とはか
なり違います、文在寅政権はね。
一番手っ取り早くできそうなのが金ですよ。麻生大臣も、送金停止と
かという具体的なところに言及しておられます。現行ルールで可能です
か。
○政府参考人(武内良樹君) お答え申し上げます。
外為法第十六条第一項では、条約等国際約束の誠実な履行、国際平和
のための国際的な努力や我が国の平和及び安全の維持を要件として、送
金を含む支払について許可制とすることは可能とされております。
ただ、韓国への対抗措置については、政府としてあらゆる選択肢を視
野に入れて適切に対応していく考えでございますが、どのタイミングで
何を行うのかといった具体的な内容については現段階では明らかにでき
ないことを御理解いただきたいと思います。
○渡辺喜美君 とにかく、足下を見透かされないことが大事なんですよ
。アドリブとはいえ、大臣が国会で発言しておられるんですから、この
ことは非常に重いですよ。これは事務方としても心して掛かっていただ
きたい。
それから、直接投資、今、事後の届出制になっておりますが、これを
事前規制に変更して、内容の変更、中止を求めるということは可能です
か。
○政府参考人(武内良樹君) お答え申し上げます。
現行の外為法は、対外取引を原則自由としつつ、我が国経済の円滑な
運営、国際的な平和及び安全、公の秩序の維持の観点から、漁業、皮革
等の製造業、武器、麻薬等の製造業等、一定の業種に対する対外直接投
資について財務大臣への審査付事前届出義務を課しており、財務大臣は
、必要がある場合には投資の変更、又は中止の勧告、命令を行うことが
可能とされております。
御指摘のように特定の国に対する投資をすべからく事前審査に付する
ことにつきましては、特定の観点から特定の業種を指定していく現行法
の基本的な考え方とは大きく異なるところでございますが、韓国との関
係でどのようなタイミングで何を行うかについては、具体的な内容につ
いて現段階では明らかにできないことを御理解いただけたらと思ってお
ります。
○渡辺喜美君 現行ルールでは非常に難しい、ハードルがあるというこ
となんですね。
そうすると、先ほども議論があったように、関税法改正というのはか
なりハードルが高い。どうですか、大臣、こうした議論を踏まえて、大
臣の口から出た話でありますから、もう一度御答弁をお願いします。
○国務大臣(麻生太郎君) それこそ手のうちを明かすことになるの極
みですな、今のお話は。
ですから、そういった意味では、先ほど申し上げましたように、この
間申し上げましたように、こういったようなものが考えられるというこ
とだけ相手に認識してもらっておかなきゃいかぬところは確か。いざや
るということになったら、そういう状況になったら、そのときに対応さ
せていただきたいと存じます。
○渡辺喜美君 とにかく、実行可能なんだというメッセージを出してい
く必要があるんですよ。
日本には、古来、言霊信仰という信仰があるんですね。口から出た言
葉には魂が宿る。この魂の宿った言葉が国民の心にすとんと落ちれば非
常にハッピーになるという思想ですね。ところが、この言葉に魂がこも
っていないということになりますと言葉が空中浮遊してしまう。実行可
能なんだという魂を入れた検討をやっていただきたいと思います。
以上、終わります。
第198回国会 衆議院外務委員会 第7号 平成三十一年四月十二日(金曜
日)午前九時一分開議
【発言順】
委員 佐々木 紀
政府参考人
(外務省大臣官房参事官)安藤 俊英
○佐々木(紀)委員 これもやはりちょっと理解に苦しむんですよね。
こちらが建てかえしたいのでお願いしますと申請を出しておいて、わか
りました、では、建てていいですよと許可をもらって、いろいろ検討し
ておって期限が来たから、それもちょっと説明としては何か理解に苦し
むというか、もし明確にそこに何らかの意思があれば、はっきりと申し
上げるべきだと思うんですよね。
やはり今後、今から少し質疑を続けていきますけれども、元徴用工の
訴訟のこともあります、本当に、韓国との問題というのは、やはり毅然
と言うべきときに物事を言っていかないと、これはずるずるずるといっ
て結果的に変なことになりますので、ぜひそういった厳しい姿勢で対応
することを求めていきたいというふうに思います。
そこで、続いての新聞記事、新聞記事ばかりで恐縮ですけれども、徴
用工訴訟、近く差押申請、こんなような記事も最近多く見かけるわけで
ございます。元徴用工や元女子勤労挺身隊らが原告の訴訟で、日本企業
、三菱重工や新日鉄住金、現の日本製鉄でありますけれども、不二越に
対して資産差押えの動きが相次いでおります。
この確定判決がどのような形で出ているのか、あるいは、資産の差押
えの状況について御説明いただきたいと思います。
○安藤政府参考人 お答え申し上げます。
まず、訴訟の状況でございますけれども、韓国大法院は、昨年十月三
十日、日本製鉄に対し、慰謝料の支払い等を命じる判決を言い渡しまし
た。また、昨年十一月二十九日には、三菱重工に対して同様の判決を二
件言い渡しております。不二越に対する一連の訴訟につきましては、い
まだ確定判決は出ておりませんけれども、本年一月十八日、二十三日及
び三十日に、それぞれ第二審判決が出された状況と承知しております。
次に、資産差押えの現状でございます。
これらの訴訟について、原告側による各日本企業の資産差押えの動き
が進んでいると承知しております。
例えば、日本製鉄につきましては、原告側による資産差押えに関する
通知が日本企業側になされております。また、三菱重工につきましても
、確定判決に基づく資産差押えが、不二越につきましては、第二審判決
に基づく資産差押えの仮執行、これを原告側弁護団がそれぞれ発表して
いるというふうに承知しております。
○佐々木(紀)委員 確定判決が出たのは二社、そして、資産差押えが
もう既にされているというのが三社あるということです。
それに対して、では、日本政府はどのような対応をしてきたのかなと
いうふうに思うんです。繰り返し、韓国政府が日韓請求権協定違反の状
態を是正する具体的な措置をとっていないから大変遺憾ですみたいな、
こんなことを都度発表しておいでですけれども、やはりそろそろ何らか
の対抗措置を考えないといけない時期に来ているのではないか、そのよ
うに思うわけでもございます。
これは本当にこのままの状況ですと、どんどんどんどんこんなような
状況が助長されて、どんどん悪化をしていくのではないかなというふう
に懸念をされているところでもございます。
例えば、五日の新聞記事ですけれども、徴用工訴訟、今後も続出とか
、元徴用工八件追加提訴、新たに日本コークスも対象、こうなっている
んです。つまり、遺憾の意を発表してはいるんだけれども、何の措置も
していないから、どんどんどんどん向こうはちょっと調子に乗っている
んじゃないかなというふうに思うんです。
追加提訴のこの話も、中身を見ると、もう既に確定判決が出た、出た
にもかかわらず、また更に同様の原告を探して追加提訴をしているわけ
なんですよね。今回は遺族まで引っ張り出してきてやっているんです。
こんなことをしたら、いつ、どんな形で終わるのか全然見えてこないわ
けなんですよね。
したがって、そろそろ対抗措置を講じないと、これはどんどん日本企
業に損害というか、これは何も損害は発生していないんじゃないかみた
いなことも言う人もいますけれども、決してそうではないですよね。訴
訟対応するだけでもこれはリスクですし、資産の差押えももう既にされ
ているわけで、資産を動かせないわけですから、これは事実上もう損害
が発生していると言ってもいいんだなというふうに思います。
そこで、対抗措置をとるべきではないか、あるいは、その対抗措置に
ついて検討状況、どのような内容で、いつされるつもりなのか、その辺
についてお伺いしたいと思います。
○安藤政府参考人 お答え申し上げます。
委員御指摘のとおり、旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題につきまし
ては、現在に至るまで、韓国政府が日韓請求権協定違反の状態を是正す
る具体的な措置をとらず、加えて、原告側による差押えの動きが進んで
いることは極めて深刻と考えております。
我が国といたしましては、韓国による協定違反の状態を解決すべく、
韓国政府に対し、協定に基づく協議を要請し、協議に応じるよう重ねて
求めているところであり、韓国側は当然誠意を持って協議に応じるもの
と考えております。
この協議要請に加えて、どのタイミングで何を行うかといった具体的
な内容につきましては、政府内でさまざま検討しているところでありま
すけれども、我が方の手のうちを明らかにすることになるため、差し控
えさせていただきたいと思います。
それから、議員御指摘のとおり、日本企業の正当な経済活動の保護の
観点からも、国際裁判、対抗措置を含め、あらゆる選択肢を視野に入れ
て適切に対応してまいりたい、このように考えております。
○佐々木(紀)委員 もうそろそろその時期が来ていますから、しっか
り準備して、速やかに対抗措置をとっていただきたいというふうに思い
ます。
実際、今回のこの元徴用工の訴訟のことだけじゃなくて、これまでも
さまざまなことをやられているわけですよね。竹島に韓国の国会議員が
たびたび上陸したりとか、その周辺に海洋調査船を出したりとか、和解
・癒やし財団を一方的に解散したり、国際観艦式でのこともございまし
たし、火器管制レーダーの照射というのもありました。最近は、新札を
出すというと、それにまで何かいちゃもんをつけているわけですから、
本当にもう暴挙を繰り返しているわけなんです。これは国家間の合意も
常識も国際法も全部踏みにじる姿勢ですよ。これは、もう既に僕は機が
熟しているというふうに思います。ぜひ、この対抗措置を速やかにとる
ようにお願いをしたいというふうに思います。
ですから、先ほどの大使館の話も、何か手続上こんなことになってい
ますと言っていますけれども、これはやはり明らかに、大使館の前の少
女像、これを撤去しない限り、国際儀礼上無礼な状況を改善しないから
我々は建設しないんですよと、私はこれははっきり言うべきだと思いま
す。やはり、しっかりその都度その都度言って、対抗措置をとっていか
ないと、これはずるずるずるずると来ますから、下手すると日本がこれ
を容認しているみたいな話にまでなってくると、これは本当に困るわけ
なんです。しっかり国益に基づいた対応をとっていただきたいと思いま
す。
もうG20もすぐそこまで来ているわけでありますから、韓国の大統領
もお越しになるんだというふうに思います。こんな状況で来られるのも
、来られる方も本当に、何というか、つらいというか恥ずかしいという
状況だと思うので、速やかに対抗措置をとるなりし、この幕引きを図っ
ていただきたい、しっかりと毅然とした対応をしていただきたい、その
ように申し上げておきたいというふうに思います。
第198回国会 衆議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会 第3号 平
成三十一年四月二十四日(水曜日)
委員 丸山 穂高
外務大臣 河野 太郎
○丸山委員 大臣、どこかのぶら下がりか記者会見かわかりませんが、
二国間協議の呼びかけの話をされていましたが、一方で、G20が近づい
ていますので、そこでの日韓首脳会談は取りやめるかもしれないみたい
な記事も出ていて、このあたり、非常に気になるところなんですが、一
方で、韓国とはもうほかにもいろいろややこしい案件を、問題を抱えて
いまして、いわゆる徴用工、戦時中の朝鮮半島出身の労働者の件でも日
本企業は差し押さえられていますし、韓国に対する対応措置をどうする
かという話も、財金委でも麻生大臣と随分やったんですけれども、そう
いった意味では、一回冷却化するために、もう交渉をしない方がいいん
じゃないかという意見もあるわけです。でも一方で、二国間協議、そし
てG20に向けて日韓の首脳会談をどうするかという話題も出ていますが
、こうした二国間協議やG20での首脳会談については前向きにやられる
んでしょうか。いかがなんですか。
○河野国務大臣 G20は、まあG20と言っていますけれども、実際には
二十七カ国、それプラスさまざまな国際機関のトップがいらっしゃるわ
けで、時間的にも非常に制約があり、議長国ということもありますから
、総理のバイ会談のスロットというのが幾つとれるかというのはまだ確
定をしておりません。そういう意味で、G20でさまざまなバイの会談を
どうするかということは何も決まっていないというのが現実でございま
す。
日韓関係、委員おっしゃるように、さまざま難しい問題はございま
すけれども、まずは請求権協定の仕組みにのっとって、我々としてしっ
かりと韓国に請求権協定の中での協議ということを持ちかけております
し、当然に誠意を持って韓国側はそれに応ずると思っておりますので、
まず、請求権協定の中でしっかりと問題の解決を目指してまいりたいと
いうふうに考えております。
○丸山委員 もし、今回のをあえて前向きに捉えるとしたら、上級審の
動きが、まあ今回の動きが韓国に対して確定したわけで、これを分析し
ていろいろ日本はまだ水産物をほかの国にも、地域も含めると二十三カ
国ですかね、とめられているわけですよ。こうしたところへの提訴も含
めて、次の戦略としては具体的には考えていかなきゃいけないと思うん
ですけれども、こうした他の国に対する対応も前向きに考えていかない
と今回のは覆らないわけですから、言われてしまうわけだと思うんです
けれども、このあたりについてはどうお考えですか。
○河野国務大臣 当然に、WTOの提訴も含め、それぞれの国、地域に
対する働きかけの戦略というのを今考えているところでございまして、
外務省の中でのレビューが終わり次第、どうするか具体的に動いていき
たいというふうに思っております。
○丸山委員 ぜひ今回の、まあ私は失敗だと思いますけれども、これを
受けてしっかりと他の国についても対応をやっていただきたいというふ
うに思います。そこで必ずかち取って、それを前に進めるというのが非
常に大事なツールだと思いますので。
もう一つ大事なツールとしては、ちょっと長期化するかもしれません
が、先ほどWTOの不満を大臣もおっしゃいましたけれども、これは日
本もお金を出しているわけで、しっかりこれに対しておかしいことはお
かしいと言わなきゃいけませんし、特に、二審で終わっちゃって、これ
を差し戻す制度もありませんし、こうした意味では、これはしっかり訴
えていかなきゃいけないと思うんですけれども、こうしたWTO自体の
改革について、大臣、どう進められますか。
○河野国務大臣 WTOについて、差戻しができないとか、あるいはW
TOの中でどうも時代に合っていないよねという部分もございますし、
通報義務について余り機能していないのではないかというようなさまざ
まな論点がありますので、アメリカ、ヨーロッパを始め、このWTO改
革について、さまざまな国が今問題意識を持っているところでございま
す。
我が国としても、きちんとWTOの改革の必要なところは主張し、問
題提起をしていきたいというふうに思っております。
○丸山委員 ぜひそうした部分のロビーイングを前に進めていただきた
いですし、やはりこの上級審のメンバーにも入れ込んでいくというのは
非常に大事な部分だと思いますので、ぜひよろしくお願いします。
第198回国会 参議院外交防衛委員会 第14号 令和元年五月十六日(木
曜日)
委員 浅田均
外務大臣 河野 太郎
○浅田均君 それでは、日韓関係について河野大臣にお尋ねいたします
。
先般、韓国の李洛淵首相が徴用工問題の解決に関して、司法手続が進
む中で政府が対策を立てるのは限界があるというのが結論と発言されて
おります。G20首脳会議の前に政府見解を出すのは困難だと公で発言さ
れておるわけでありますが、外務大臣は徴用工問題についてこれから解
決に向けてどのように話を持っていかれようとされているのか、お尋ね
いたします。
○国務大臣(河野太郎君) この旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題に
つきましては、現在、日韓請求権協定に基づきまして韓国政府に協議の
要請をしているところでございます。
私としては、韓国政府がこの協議を受け入れて速やかに協議を始める
ことができるのではないかと期待をしているところでございますが、こ
の問題は韓国側で韓国政府が責任を持って対応されるべきものというふ
うに考えておりますので、日本企業に実害が出ないように韓国政府が対
応するものと考えておりますが、万が一そうでない場合には、日本政府
として必要な措置をとらざるを得ないというふうに考えているところで
ございます。
李洛淵国務院総理がこれまでこの問題に対応してこられたというふう
に私も認識をしておりますが、やや先日の発言については困惑をしてい
るところでございますが、私としては、これはもう日韓両国の国交の法
的基盤を損ないかねない事態でございますから、韓国政府の責任者とし
てそのようなことに発展しないようにしっかりと対応してくださるもの
と信じております。
○浅田均君 外務大臣が私と同じような御認識をお持ちだということを
知りまして安心しましたが、これからも取組の方をよろしくお願い申し
上げまして、また続きは次回質問させていただくということで、今回は
これで終わらせていただきます。ありがとうございました。
第198回国会 参議院決算委員会 第7号 令和元年五月二十日(月曜日
)
委員 古賀之士
外務大臣 河野 太郎
委員 浜口誠
外務大臣官房審議官 石川 浩司
○古賀之士君 そういった日韓関係の重要性を改めて認識した上で、今
度は河野外務大臣にお伺いをいたします。
先ほども質問があったかと思いますが、これについては通告をしてい
ない、今日の出来事でございますが、報道によりますと、韓国最高裁の
日本企業に徴用工への賠償を命じた判決をめぐって、一九六五年の日韓
請求権協定に基づいての仲裁委員会の設置を求める方針という報道がな
されておりますけれども、現状での見通し、そして見解を、是非、河野
外務大臣からお願いします。
○国務大臣(河野太郎君) 一月に請求権協定に基づく協議の申入れを
いたしました。それから四か月たつわけでございますが、韓国側は李洛
淵総理がこの問題の責任者として対応を検討されているということでご
ざいましたので、我々としては、韓国側が何らかの対応をしっかりして
くれる、そういうふうにも考えていたわけでございます。しかし、先般
、李洛淵総理が、政府の対応には限界があるというような御発言があり
ましたものですから、我が方としては、残念ながら、請求権協定に基づ
く仲裁に進まなければならないという判断をした次第でございまして、
今日の午前中に仲裁付託をしたことの通告を韓国側にしたところでござ
います。
この問題は日韓両国の言わば国交の法的基盤でございますので、それ
を損なうことがないように、韓国側としてはこの仲裁にしっかり応じて
いただきたいというふうに思っているところでございます。
-----
○浜口誠君 まあどうなるかまだ分からないので、なかなかすっきりと
御答弁できないお立場がにじみ出ておりましたが、やっぱりしっかりと
これ検討していく必要があると思いますし、予算も百二兆円という大規
模な予算を組んでいるんですから、その実態というのをちゃんと踏まえ
て、いろんな判断を的確に正確に慎重にやっていただきたいなというふ
うに思っております。
続きまして、元徴用工の件に。
今日、僕、元々しようと思っていたんですよ。しようと思っていて、
で、今日のニュース、うちの古賀委員もそうですし、松下委員の方から
も徴用工の仲裁委員会の設置と。僕の質問の中にも、第三者、第三国を
入れた仲裁の場を設ける次の一手を打つ必要があるんじゃないかという
ことを聞こうと思ったら、その答えがもう今日の外務省の動きの中で出
てきたということなので、そこの点はあえて聞きませんけれども。
そもそも論ですけれども、この韓国の旧徴用工の皆さんの最高裁判決
、一九六五年に日韓の請求権協定が締結されて、この請求権協定に対し
てのやっぱり締結内容を覆す、そういう判決だというふうに私は理解し
ているんですけれども、日本政府の見解と、なぜ韓国がこういった、最
高裁の判決とはいえ判決に至ったのか、そのことを韓国政府はどう受け
止めているのか、この辺の両政府の見解についてまずはお伺いしたいと
思います。
○政府参考人(石川浩司君) お答え申し上げます。
委員御指摘の、昨年の韓国大法院による一連の判決は、日韓請求権協
定に明らかに反しまして、日本企業に対し不当な不利益を負わせるもの
であるばかりか、一九六五年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協
力関係の法的基盤を根本から覆すものというふうに認識しております。
これらの判決に対する韓国政府の見解についてお尋ねでございますが
、我が国として韓国政府の見解について有権的に説明する立場にはござ
いませんが、我が国としては、韓国政府に対して、国際法違反の状態を
是正することを含め適切な措置を講ずることを求めてまいりたいと思っ
ております。
○浜口誠君 一方で、韓国の原告代理人は、韓国国内の訴えられている
日本企業の資産を差押えをして、それを現金化する手続にもう既に入っ
ていると。そういう背景もあって、仲裁委員会を今回設置しないといけ
ないという、そういう御判断にも至っているのではないかなというふう
には思っておりますけれども、実際訴えられている日本側の企業に対し
ての実害とか不利益、これ生ずる可能性があるというふうに認識してお
いた方がいいんでしょうか。その点はいかがですか。
○政府参考人(石川浩司君) お答え申し上げます。
委員御指摘のとおり、現在、本件につきまして原告側による差押え等
の動きが進んでいるというのはそのとおりでございまして、また、先般
、五月一日でございますが、原告側が発表のとおり、今後、差押資産の
売却に向けた手続が進められ、日本企業の資産が不当に売却される事態
となれば、我が国として断じて受け入れられず、政府としては事態を一
層深刻に捉えております。
その上で、日本企業への実害の具体的内容について現時点で予断を持
ってお答えすることは差し控えさせていただきたいと思います。
○浜口誠君 ちょっとこれは、今から聞くのは、先週の木曜日の段階で
は今日の仲裁委員会を要請するということは分かっていなかったので聞
きますけれども、今度、仲裁委員会を韓国側に今日開催を要請したとい
うことですけれども、この仲裁委員会が設けられれば、日本企業への実
害、不利益、これは回避ができるという認識でよろしいでしょうか。こ
れは、大臣、いかがですか。
○国務大臣(河野太郎君) この旧朝鮮半島出身労働者に関する韓国の
大法院判決というのは、日韓両国の国交正常化以来の最も根本的な法的
基盤を著しく損傷する、ダメージを与えるものでございますから、韓国
政府も当然にそうしたことは認識をされているというふうに考えており
ます。
我々としては、韓国政府が責任を持って日本企業に対する実害が及ば
ないような対策を取ってくれると信じてきたわけでございますが、先般
、その責任者でありました李洛淵総理が政府の対応に限界があるという
ような発言をされたことに我々は大変驚いておりまして、今まで協議を
要請してずっと待ってきたわけでございますが、ここできちんと仲裁の
プロセスに入っていきたいというふうに思っておりますので、こうした
仲裁のプロセス、あるいは必要ならば国際的な手法に訴えて、日本企業
に対する実害が及ばないようにきちんと対応を取っていきたいというふ
うに考えているところでございます。
○浜口誠君 是非、最後に河野大臣言われましたけれども、日本企業に
実害が及ばないように、これはもう政府としてしっかりとした対応をや
っていただくのはこれ当然だというふうに思っておりますので、韓国と
の間でしっかりそういう和解のプロセスが図られるように全力を尽くし
ていただくことをお願い申し上げ、質問を終わります。
ありがとうございました。
第198回国会 参議院外交防衛委員会 第16号 令和元年五月二十八日(
火曜日)
委員 浅田均
外務大臣 河野 太郎
外務大臣官房審議官 岡野 正敬
○浅田均君 日本維新の会、浅田均でございます。
ただいま議題となっております五つの条約、協定に関しましては、我
が方は自由貿易圏の拡大が日本にとっては必要だという立場でございま
すので、いずれも賛成であるという旨申し上げておきます。
それから、続いて、引き続きの質問なんですが、徴用工問題について
、先ほどもちょっと質問がありましたけれども、質問をさせていただき
たいと思います。
問題を整理しておきますと、これは一月に日韓請求権協定に基づく協
議要請をされたと。一月に協議要請をされて、それから四か月以上返事
がなかったということで次の段階に入られて、五月二十日に請求権協定
に基づく仲裁委員会への付託を通告されたということであります。これ
に対して、韓国側は、仲裁委員会の開催要求を保留している、すなわち
仲裁委員もまだ選んでいないということでありますが、これで間違いな
いんでしょうか。
それと、もし韓国側がこの仲裁委員会の開催要求に同意しなかった場
合、今後我が国はどのような手続を取るのか、併せて外務大臣にお答え
いただきたいと思います。
○国務大臣(河野太郎君) 仲裁委員の選任はたしか三十日以内という
ことでございますので、韓国側は今検討されているんだろうというふう
に思います。また、請求権協定に基づく仲裁の付託はいたしましたけれ
ども、その間に韓国側が請求権協定にのっとった対応策をきちんと出し
ていただければ大きく問題解決に前進をするわけでございますので、仲
裁の付託はいたしましたが、韓国側ではしっかりと文在寅大統領中心に
対応策を御検討いただけるのではないかというふうに考えているところ
でございます。
○浅田均君 協議要請をされて四か月間待たれたと。今回は、仲裁委員
会へ付託を通告して三十日以内に仲裁委員を選ぶか、あるいは請求権協
定にのっとって文在寅大統領あるいは李洛淵首相が適切な対応を取られ
るということを期待されておるわけでありますので、同意しなかった場
合どうするのかというのはちょっと答えにくいという答弁になろうかと
思いますけれども、それを承知であえて、どのような手続を取られるん
ですか、もし向こうが仲裁委員会に乗ってこなかった場合。
○国務大臣(河野太郎君) 請求権協定に基づく協議をお願いをしたわ
けでございますが、先方、李洛淵総理が中心となって対応策の検討をし
ているということでございましたので、我が方としてはその対応策を待
ちたいと思っていたわけでございます。
しかし、先般、今月の半ばに李洛淵総理が政府の対応には限界がある
というような御発言を公でされましたものですから、残念ながらこれ以
上待っていても対応がなされないという判断をして、まず協議から仲裁
に移行したところでございます。李洛淵総理が対応に限界があると、こ
うおっしゃる以上、韓国側はトップの文在寅大統領の下で検討していた
だかなければならないんだろうというふうに思っているところでござい
ます。
また、この仲裁申立て後の期間がたった場合については、我が方とし
て手のうちを明かすということは公では差し控えたいというふうに思っ
ているところでございます。
○浅田均君 我が方はどう対応するかというのは差し控えたいと、答え
ることは差し控えたいということでありますので、あえてもう一回お尋
ねしますけれども、日本にとってどういう選択肢があるんでしょうか。
三十日以内に韓国が仲裁委員を指名しない、乗ってこないという場合に
、日本としてどういう次のステップとして選択肢があるのか、お答えい
ただけませんか。
○国務大臣(河野太郎君) 様々な選択肢があろうかと思います。それ
は、国際司法の場で解決を図るということも当然その中には含まれるん
だろうというふうに思います。
○浅田均君 様々な対応、選択肢があって、そのうちの一つとして今I
CJのことも御発言いただきましたけれども、このICJの手続も、こ
れ韓国の同意がないと実現しないわけですよね。なかなか、今までのや
り取りを外側から見ていますと、向こうの主張は非常にかたくなである
というふうに私どもは受け止めるわけです。
それで、河野大臣、これからどういうふうにされていくのか、非常に
大変な問題であるというのは承知しておりますけれども、それをちょっ
と聞かせていただいて、私どもも安心するのか、あるいはこれからもっ
とこういうふうにされた方がいいんではないですかというふうに提言す
るとかしたいと思っておりますので、ICJへ行く可能性が高いという
ふうにお考えでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 御提案があればいつでも承りたいというふ
うに思っておりますが、我が方がどのようなことを考えているかという
のを公で申し上げるというのは、こちら側の手のうちさらしてゲームを
することになりかねないわけでございますので、それは差し控えたいと
思います。
○浅田均君 それは、外務大臣おっしゃること非常によく分かるんです
が、韓国政府としてそういう発言はないんですが、この日韓請求権協定
あるいはこの徴用工のような問題に関して調べていくと、一番問題にな
ると思われるのが、柳井条約局長の一九九一年八月の発言というところ
になると思います。それで、もちろん韓国側政府もこれをよく理解して
いた上でいろんな作戦を講じているんだと思います。
それで、皆さん方にその一九九一年八月の当時の柳井条約局長の請求
権に関する協定に関しての御発言を紹介しておきますと、柳井条約局長
は参議院の予算委員会で次のように御発言になっているわけであります
。「いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終
かつ完全に解決したわけでございます。」、これは河野大臣あるいは安
倍総理の御発言と一致するところでありますが、その次に、「その意味
するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそ
れぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれど
も、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放
棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求
権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません
。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げるこ
とはできない、こういう意味でございます。」というふうに答弁されて
おりまして、ここをこれからついてくると思うんですね。
これ、もう一度、この九一年の当時の柳井条約局長発言に関しての外
務省の御認識、御見解を伺っておきたいんですが。
○政府参考人(岡野正敬君) 個人の請求権を含め、日韓間の財産請求
権の問題は、日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済
みであるというのが日本政府の一貫した立場でございます。
具体的には、日韓両国は、ただいま申し上げました請求権協定第二条
一項で、請求権の問題は完全かつ最終的に解決されたものであることを
明示的に確認しております。それとともに、第二条三項で、一方の締約
国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての請求権に関
していかなる主張もすることはできないとしていることから、一切の個
人の請求権は法的に救済されないものというのが政府の理解でございま
す。
その結果、我が国及び韓国並びにその国民の間の請求権の問題につい
ては、日韓請求権・経済協力協定により、韓国及びその国民の請求権に
基づく請求に応ずべき日本及び日本国民の法律上の義務が消滅している
と、その結果、救済が否定されることになるということで、法的に解決
済みになっているというのが政府の一貫した立場でございます。
柳井答弁について御指摘がございましたが、当時の答弁は、そのやり
取りの中での文脈の中で、国際法上の概念である外交的保護権との関係
でどういうふうにして整理されるべきかという議論の中で説明があった
ものと理解しております。
○浅田均君 確認ですが、外交保護権の行使としては取り上げることは
できないと。だから、外国で何か損害を受けた人が訴えた場合、国がそ
れを言わば応援することはできないということを言われているだけであ
って、個人が請求することに関してノータッチであるよというふうに言
われたにすぎないというふうに私どもは受け止めるんですが、間違いな
いですか。
○政府参考人(岡野正敬君) 国と国との間の関係で外交保護権はどう
いうことかということになりますと、先ほど申し上げたとおりでござい
ます。
実際、今御指摘がありましたように、ある国が他方の国に対して訴え
ることができるかどうかということでございますけれども、請求権協定
の第二条一項及び第二条三項の規定を読めば明確に分かることは、日本
及び日本国民が相手方の請求に応ずべき義務というのは消滅していると
いうのが我々の協定の解釈でございます。
○浅田均君 それで、外交、国と国の間はそういう解釈が成り立つと思
うんですけれども、それは必ずしも個人が請求することを禁じていると
いうことではないというふうに受け止められるので、今回のこういう状
況に至っていると思うんですね。
だから、これから仲裁委員会あるいはICJへ進む可能性もあります
けれども、そういうところをついてこられると思いますので、国として
もどういう対応を取られるのか、これは注目していくしかないんですけ
れども、そういうところをついてくるということを肝に銘じて、河野大
臣あるいは所管、担当の方々におかれましては対応をよろしくお願いい
たします。これから非常に重要な問題であって、これがうまくいかない
と、どんどんほかのところに波及しますので、対応方よろしくお願い申
し上げます。
後二時開議
外務大臣 椎名 悦三郎
議員 井手 以誠
内閣総理大臣 佐藤 榮作
農林大臣 坂田 英一
法務大臣 石井 光次郎
通商産業大臣 三木 武夫
○国務大臣(椎名悦三郎君) 去る六月二十二日に東京において署名い
たしました日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結に
ついて承認を求めるの件並びに財産権及び請求権に関する問題の解決並
びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴
う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案に関し、趣旨の御説
明をいたします。
わが国と近隣関係にある韓国との諸問題を解決して、両国及び両国民
間に安定した友好関係を樹立することは、平和条約によってわが国が国
際社会に復帰して以来のわが国の重要な外交上の課題でありまして、政
府は、韓国との国交を正常化するにあたり、諸懸案を一括して解決する
との基本方針に従って、十四年の長きにわたり困難な交渉を重ねてまい
りました。その結果、先般ようやく、基本関係、漁業、請求権及び経済
協力、在日韓国人の法的地位及び待遇、文化財及び文化協力、並びに紛
争解決のおのおのについての条約とそれに関連する諸文書について、韓
国政府との間で完全な合意に達し、去る六月二十二日に東京において署
名の運びとなった次第であります。
いま、これらの諸条約についてそのおもな点を御説明申し上げれば次
のとおりであります。
第一に、基本関係に関する条約は、善隣関係及び主権平等の原則に基
づいて、両国間に正常な国交関係を樹立することを目的とするものであ
ります。したがいまして、この条約は、両国間に外交関係及び領事関係
が開設されることを定め、併合条約及びそれ以前のすべての条約はもは
や無効であること、及び韓国政府が国際連合第三総会の決議第百九十五
号に明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府であ
ることを確認し、両国間の関係において国際連合憲章の原則を指針とす
ること等、両国間の国交を正常化するにあたっての基本的な事項につい
て規定しております。
第二に、漁業に関する協定は、漁業資源の最大の持続的生産性の維持
及び保存並びに合理的発展をはかり、両国間の漁業紛争の原因を除去し
て相互に協力することを目的とするものであります。この協定は、公海
自由の原則を確認するとともに、それぞれの国が漁業水域を設定する権
利を有することを認め、その外側における取り締まり及び裁判管轄権は
漁船の属する国のみが行なうこと、共同規制水域を設定して暫定的共同
規制措置をとることを定める等、両国間の漁業関係について規定してお
ります。
第三に、財産及び請求権の解決並びに経済協力に関する協定は、両国
間の財産、請求権問題を解決し、並びに両国間の経済協力を増進するこ
とを目的とするものであります。この協定は、両国及びその国民の財産
、権利及び利益並びにその国民の間の請求権に関する問題を完全かつ最
終的に解決することを定めるとともに、韓国に対する三億ドル相当の生
産物及び役務の無償供与並びに二億ドルまでの海外経済協力基金による
円借款の供与による経済協力について規定しております。
第四に、日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する
協定は、わが国の社会と特別な関係を持つ大韓民国国民に対して日本国
の社会秩序のもとで安定した生活を営むことができるようにすることに
よって、両国間及び両国民間の友好関係の増進に寄与することを目的と
するものであります。この協定は、これらの韓国人及びその一定の直系
卑属に対し、申請に基づく永住許可を付与すること、並びにそれらの者
に対する退去強制事由及び教育、生活保護、国民健康保険等の待遇につ
いて規定しております。
第五に、文化財及び文化協力に関する協定は、文化面における両国の
学術及び文化の発展並びに研究に寄与することを目的とするものであり
まして、また、一定の文化財を韓国政府に引き渡すこと等を規定してお
ります。
第六に、紛争の解決に関する交換公文は、両国間のすべての紛争を、
別段の合意がある場合を除くほか、外交上の経路を通じて解決すること
、及びそれができなかった場合には、調停によって解決をはかるものと
することを定めております。
以上を通観いたしますに、すでに累次の国会の本会議及び委員会にお
ける質疑等を通じて説明申し上げてまいりましたとおり、これらの諸条
約によって、長年にわたって両国間の国交正常化の妨げとなっておりま
したこれらの諸問題が一括解決されることとなり、こうして、両国間に
久しく待望されていた隣国同士の善隣関係が主権平等の原則に基づいて
樹立されることとなるわけであります。これらの諸条約の基礎の上に立
って両国間の友好関係が増進されますことは、単に両国及び両国民の利
益となるのみならず、さらに、アジアにおける平和と繁栄とに寄与する
ところ少なからざるものがあると信ずる次第であります。
次に、大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律案について趣旨
の御説明をいたします。
さきに御説明いたしました財産及び請求権に関する問題の解決並びに
経済協力に関する協定は、その第二条において、日韓両国間の財産及び
請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決されることになったことを
確認し、日本国にある韓国及び韓国民の財産権に対しとられる措置に関
しては、韓国はいかなる主張もできないものとする旨を規定しておりま
す。この規定上、これらの財産権について具体的にいかなる国内的措置
をとるかはわが国の決定するところにゆだねられており、したがいまし
て、この協定が発効することに伴ってこれらの財産権に対してとるべき
措置を定めることが必要となりますので、この法律案を作成した次第で
あります。
この法律案は、三項及び附則からなっており、その内容は、協定第二
条3に該当する財産、権利及び利益について規定するものであります。
まず、第一項においては、韓国及び韓国民の日本国及び日本国民に対
する債権及び日本国または日本国民の有する物または債権を目的とする
担保権を消滅せしめることについて規定しております。第二項において
は、日本国または日本国民が保管する韓国及び韓国民の物についてその
帰属を定め、第三項においては、証券に化体された権利であって第一項
及び第二項の適用を受けないものについて、韓国及び韓国民はその権利
に基づく主張をすることができない旨を規定しております。なお、附則
におきまして、この法律案の施行の日を協定発効の日としております。
以上が、日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約等の締結に
ついて承認を求めるの件、並びに大韓民国等の財産権に対する措置に関
する法律案の趣旨でございます。(拍手)
○井手以誠君 私は、日本社会党を代表いたしまして、日韓条約の重要
な問題点について、佐藤総理の所信をただし、あわせてわが党の立場を
明らかにいたしたいと存じます。(拍手)
質問の第一は、領土管轄権と国連憲章の関係であります。
基本条約は、韓国の地位について、一九四八年の国連総会決議第百九
十五号(Ⅲ)を援用されております。そもそも朝鮮問題の発端は、朝鮮
民族の独立を約束した一九四三年のカイロ宣言にあり、これを引き継い
だポツダム宣言を日本が無条件に受諾したことにあります。御承知のと
おり、民族自決は国連憲章の大原則であります。その第一条に、民族の
同権と自決、第二条は、内政不干渉を宣言いたしておるのであります。
さらに、第百七条は、第二次大戦の戦後処理について、国連は関与でき
ないことを明記いたしておるのであります。以上明らかなように、当然
、朝鮮の管轄については、朝鮮民族みずから、朝鮮民族だけがきめる権
利を持っておるのであります。しかも、朝鮮代表が参加していない十七
年前の古い国連決議をもって、朝鮮の領土の分割をしいたり、片方の管
轄範囲をきめたりすることは、たとえ国連といえ、また、いかなる国も
許されないことであります。(拍手)したがいまして、基本条約に国連
決議を援用したことは、国連尊重を力説する佐藤内閣みずから国連憲章
に違反するものといわねばならぬのであります。(拍手)
質問の第二は、北朝鮮との関係であります。
政府は、ただいま、北朝鮮との関係は一切白紙であると説明されまし
た。今日、休戦ラインの北に朝鮮民主主義人民共和国政府が北朝鮮を有
効に支配していることは、厳たる事実であります。この北朝鮮とわが国
が、好むと好まざるにかかわらず、貿易や帰還問題などの関係を持つこ
とは必然であります。一方、全朝鮮を領土とした憲法を持っている韓国
政府が、この条約で日本が今後北朝鮮と外交関係を持つことを阻止する
ことができたと公言しておることは周知のとおりであります。この韓国
政府と北朝鮮政府は、不幸にして敵対関係にあります。したがいまして
、わが国が、武力北進、武力で全朝鮮を統一することを国是とする韓国
政府と基本関係を結べば、当然の反応としてわが国は北朝鮮と対立関係
に立たざるを得ません。ここに本条約の軍事的性格があるのであります
。(拍手)また、逆に、わが国が北朝鮮と何らかの接触をはかろうとす
れば、必ず韓国政府からの反発と抗議を招くでありましょう。現に国際
電気標準会議の経過を見ても明らかであります。
そこでお伺いをいたします。今後、北朝鮮とは対立関係に立ち、一切
の接触も持たないお考えなのか。それとも、朴政権の不当な横やりは退
け、実務的接触を進められるお考えなのか。総理は、先日、どこの国と
も仲よくすると言明されました。ケース・バイ・ケースは独立国の外交
には不見識であります。いずれの道をとられるか、明確にお答え願いた
いのであります。(拍手)
質問の第三は、請求権、経済協力の問題であります。
端的にお伺いいたします。政府は、従来、請求権は法的根拠のあるも
のに限ると公約してきました。この筋を通した解決方法を、何ゆえに経
済協力に切りかえられたのか。このことは、平和条約第四条に反しはし
ないのか。また、経済協力五億ドルの根拠と性格は何であるか。この協
定によって放棄される日韓双方の引き揚げ者の財産請求権は固有の権利
であって、法律上の疑義を残してはならないのであります。その解決策
を承りたい。
この請求権は、わが国三十六年間にわたる朝鮮統治の評価と深い関係
があるのであります。もし、本条約に調印した高杉首席代表の発言のよ
うであれば、五億ドルのつかみ金を出す必要はございません。また、植
民地支配の反省があるならば、当然正当な償いをしなくてはならぬので
あります。平和条約第四条は、南北全朝鮮に関する請求権であります。
総理は、北朝鮮の請求権をどう扱うつもりか、基本的な方針を明らかに
されたいのであります。(拍手)
申すまでもなく、この経済協力は、日本国民の金によって支払われる
ものでありますから、韓国民衆のため真に生かされねばなりません。い
やしくもアメリカ援助の二の舞いを演じたり、利権化されては断じてな
りません。相手が汚職に包まれている朴政権であり、日本の独占資本が
経済侵略を非難されているだけに、あえて申し上げます。経済協力の実
施に疑惑を招かない万全の用意があるのか、総理の所信を承りたいので
あります。(拍手)
質問の第四は、漁業協定であります。
漁業協定最大の眼目は、李ラインの撤廃であります。韓国側は、不法
きわまる李ラインの存続を言明しております以上、国防上、大陸だな保
護上の理由から、いつ国内法を発動するか、不安は依然として去りませ
ん。国内法を条約と同格に扱う韓国に対し、何ゆえ撤廃の確約を得られ
なかったのか。協定期間後また韓国側に主導権を握られ、李ライン復活
のおそれはないか、承りたいのであります。
わが国の海洋政策は、国際海洋法会議で明らかにされておるはずであ
ります。それが、この漁業協定によって無原則に、とほうもなくゆがめ
られました。今後、国際漁業に重大な影響を及ぼすものといわねばなら
ぬのであります。特に、第一領海をきめなかったことは重大な失態では
ないか。漁業専管水域十二海里全域に領海と同じ主権が及ぶおそれがご
ざいます。第二、韓国沿岸から四十海里以上も離れた済州島及び黒山島
をなぜ独立の島として取り扱わなかったのか。妥協にも限界があるので
あります。第三、済州島と本土間の広大な基線内水域は領海となるのか
。合意議事録に響いてある無害通航権とは、海洋法会議において領海内
と規定しておるではございませんか。第四、韓国の漁業専管水域におい
て、国際慣行として認められている十カ年の入漁権をなぜ放棄したか、
理由を承りたいのであります。
共同規制は、資源の保護から資源の折半に変わりました。しかも、わ
が国だけ一方的に規制されることは、重大な後退といわねばなりません
。特に指摘したいのは、わが零細漁民の打撃であります。すなわち、済
州島周辺における大資本の漁場確保と引きかえに、対馬−釜山間の一本
釣り漁場が大幅に狭められ、三千隻の零細漁船は千七百隻に減らされる
のであります。零細漁民こそ最大の犠牲者といわねばなりません。(拍
手)政府の補償と救済対策、あわせて拿捕漁船の補償を承りたいのであ
ります。
質問の第五は、竹島の帰属であります。
竹島問題は領土主権に関するものであります。この竹島を含む一括解
決が日韓交渉の基本方針であったことは、よもやお忘れではありますま
い。およそ国交回復にあたり、領土主権に関するものほど重要なものは
ないのであります。総理は、先日、紛争は条文によって解決すると言明
されました。竹島のタの字も入っていない交換公文で解決の条文と自信
がありますならば承りたいのであります。
ここで私が特に指摘したいのは、この紛争解決を調停にしたことであ
ります。漁業協定と請求権に関する協定には、仲裁委員会を設けて日韓
両国を拘束することにいたしております。しかるに、この交換公文には
、拘束力のない調停しか規定いたしていないのであります。何ゆえに領
土問題をわざわざ弱い調停にしたのか、不可解にたえません。これでは
竹島を放棄したも同然であるといわねばならぬのであります。(拍手)
質問の第六は、法的地位の問題であります。
この協定で定められた各種の待遇を受ける者は韓国民に限られ、朝鮮
の籍の者は全く受けられません。また、これに関連して、政府は、朝鮮
籍から韓国籍への切りかえを促進し、韓国籍から朝鮮籍への移動を認め
ない方針であります。これこそ三十八度線の対立を日本国内に持ち込み
、移転、居住の自由、国籍選択の自由をうたった世界人権宣言をじゅう
りんする態度といわねばならぬのであります。(拍手)政府は、即刻国
籍選択を自由にし、一切の差別をやむべきであります。人道主義の立場
から総理の所信をお伺いしたいのであります。
最後に、私は、朝鮮問題についてわが党の立場を明らかにいたします
。
わが国がカイロ宣言及びポツダム宣言を無条件で受諾した以上、当然
朝鮮民族の独立を承認しなければなりません。その場合、朝鮮民族がい
かなる政府をつくるかは、朝鮮民族がみずからきめる問題であります。
およそ一つの民族は一つの国家を持つのが国際法の原理、原則であり
ます。不幸にも、朝鮮には二つの政府が現に存在しております。これを
一民族一国家一政府の状態に到達させるには、朝鮮民族の努力にまかせ
、他の国はこれに干渉すべきではありません。(拍手)国連もまた関与
する権限はないのであります。日本は、中国問題の轍を踏んではならな
いのであります。アメリカが国連軍の名のもとに南朝鮮に置いている軍
隊を撤退すれば、北朝鮮には中ソの軍隊は一兵もいないのでありますか
ら、南北朝鮮の自主的統一は自然に達成されるでありましょう。こうし
てできた朝鮮の統一政府とわが国は正式に国交を樹立し、その際、三十
六年間の植民地統治に正当な償いをなすべきであります。
しかし、南北に二つの政府がある現状においては、南北の両政府とそ
れぞれ折衝し、経済、文化の交流を積極的かつ公平に行なうべきであり
ます。現に、インドやビルマは南北朝鮮の両方と領事関係を結んでおる
のであります。日本にこれができないはずはございません。こうした両
政府との接触、または三者協議の中に、経済協力、技術提携、漁業協定
、文化財返還などの問題は処理できるはずであります。
南北統一は朝鮮民族の悲願であります。南の一方とだけ国交を結んで
、北との対立に油を注いではなりません。統一できるような情勢をつく
ってやることこそ隣国のつとめであり、植民地統治を償う人の道であり
ましょう。わが党は、これこそアジアの平和と友好の道であると信ずる
ものであります。(拍手)
佐藤総理、この日韓条約に軍事的背景を否定なさるなら、その証拠と
して吉田・アチソン交換公文を破棄すべきであります。軍事協力を言明
する米韓当局に抗議すべきであります。そうして三矢計画とその関係者
を処分すべきであります。その勇気があれば最後に承って、私の質問を
終わる次第であります。(拍手)
○内閣総理大臣(佐藤榮作君) お答えいたします。
領土管轄権についてのお尋ねでありますが、これはすでにたびたびお
答えもいたしました。御承知のように、私どもは、国連の決議、これを
尊重いたしております。ただいま、国連自身が国連憲章違反だと、かよ
うに仰せられましたが、御承知のように、この国連の決議はその後毎年
確認されておりますので、これは国連憲章違反だとは思いません。私ど
もは、国連を尊重する、そういう立場でございますので、この決議を引
用することは、これは当然といわなければならない、かように御了承い
ただきます。(拍手)
また、第二の問題といたしまして、北鮮との関係についてのお尋ねで
ございます。北鮮との関係は、これもお答えいたしましたように、今回
の条約は触れておらない、また、在来の取り扱い方を変えない、こうい
うことを申し上げました。また、北鮮との関係においてはケース・バイ
・ケースでこれをきめていきますというお話をいたしておりますので、
重ねては申し上げません。ただ、お話のうちに武力北進ということばを
お使いになりましたが、私は、武力北進ということばは最近は聞かない
ように思います。これはだいぶ前にそんな話があったようですが、こう
いうことは聞かない。むしろ、今日で聞いておりますのは、北鮮自身が
、共産主義による南北の統一、こういうことをはっきり言っている。こ
の点のほうが、これは最近の話でございますから、御記憶を訂正される
ほうがいいかと思います。(拍手)
次に、請求権と経済協力の問題でありますが、請求権の問題につきま
しては、御指摘のように、私どもは、法的根拠のあるもの、また事実関
係で説明のできるもの、こういうことで日韓間でいろいろ交渉いたしま
した。しかし、何ぶんにももう古いことになったり、あるいはその後朝
鮮事変があったりして、事実関係などもなかなか説明しにくいというこ
とで、この請求権の問題の解決のできなかったことは、御承知のとおり
であります。
そこで、今度は、請求権の問題でなしに、両国の関係を正確に認識し
ていく、そういう点から、経済的に自立のできるように、またそういう
意味のわが国の協力が望ましいだろう、しかし、その経済協力をするこ
とによっていわゆる請求権の問題を完全に解決する、こういうことでこ
の経済協力に変わったこと、この点は御承知のことだと私は思います。
私は、ただいま申し上げるように、いつまでも話がまとまらないからと
いって日韓間の状態を正常化しないということはまことに残念である、
そういう意味で、両国が経済協力という形でこの問題を解決するという
ことになったのであります。(拍手)したがいまして、これは平和条約
第四条にはもちろん違反ではございません。
また、経済協力の金額が無償三億、有償二億、こういう五億ドルはど
こから出たかというお話でございますが、これは、韓国の経済建設に対
するわが国の熱意と、またわが国の負担と、こういう両点からいろいろ
折衝いたしまして、最終的にこの五億ドルというものにきまったのであ
ります。
また、この際に、個人の財産、請求権の問題を法律上疑義を残さない
ようにというお話がございます。御指摘のとおり、これも大事な問題で
ありますので、私どもは、今回の条約・協定締結によりまして何ら疑義
を残しておらない、かように思っております。
また、これで、いわゆる補償の問題なども、憲法との関係においては
関係を生じない、私はさような結論を持っておるのでございます。ただ
、拿捕漁船あるいは乗り組み船員等に対しましては、いわゆる憲法上の
問題ではございませんが、わが国の国民のまことに気の毒な状況に対し
まして、私どもが適当な救済措置をとること、これは当然である、かよ
うに考えまして、ただいま種々検討しておる最中でございます。
次に、北鮮の請求権の問題についてお触れになりました。これは、先
ほど申しますように、今回の問題は北鮮には何ら触れておらない、かよ
うな状態でございますので、この点も今回の条約・協定で北鮮との請求
権の問題には触れておりません。そこで、請求権の問題を解決する意思
ありやいなやということでございますが、ただいま交渉するような考え
は持っておりません。
また、経済協力が利権化してはならないというお話でございます。こ
れはそのとおりであります。また、疑惑を生じてもいけない、かように
私ども思います。いろいろ経済侵略だとか、こういうような疑念を持た
れるのでありますから、そういうことのないように、ことに、相手の国
におきましても、資金管理委員会を設けて、与野党の諸君がこの管理委
員会で経済協力の使い方をいろいろ審議するそうであります。また、調
達庁による一般競争入札、それらもはっきりいたしておるようでありま
す。また、わが国におきましても、この実施計画についての合意、ある
いは契約の認証等につきまして、これはわが国の経済関係、産業人も、
さような処置をとる予定でございます。したがいまして、ただいま経済
協力についてのいろいろの御心配がありますが、私は、そういうことも
なしに、円滑に経済の発展に役立つように使われるものだ、かように確
信いたしております。
次に、漁業協定についてのお尋ねであります。これも、たびたび李ラ
インについてお答えをいたしましたので、省略をいたしたいのでありま
すが、ただ、この機会にはっきりまた申し上げておきたいのは、李ライ
ンがどうあろうと、韓国側でどう説明しようと、漁業に関する限り、漁
業上の安全操業はできるのだ、これだけははっきり申し上げまして、漁
民の不安も一掃したいし、国民にも、李ラインの論争に巻き込まれない
ように御注意を願いたいと思います。(拍手)
また、この問題は、協定後においていわゆる六年たったらまた問題が
起こるのじゃないか、また韓国側にリードされることになるのじゃない
か、かような御心配を述べられましたが、私は、この期限経過後、両国
間におきましての親善友好関係、これは今日のような状態ではないと思
いますので、ただいまからいろいろ心配することは、これはいわゆる杞
憂ではないか、かように私は思います。
次に、領海の幅をなぜ取りきめなかったかというお尋ねであります
。御承知のように、漁業に関する取りきめでありますので、漁業水域、
それにつきましては十分規定を設けましたけれども、いわゆる領海の幅
というようなことについては、これは必要がない、こういう意味でこれ
をきめなかったのであります。御承知のように、領海、それから領海の
外は公海、こういうことになっておりますが、この領海、公海、そのも
のを接続しておるその関係におきましても、漁業水域という特殊な水域
を考え、そして沿岸国の排他的な管轄権を認めておる、こういうことで
ありますが、これはいわゆる領海からくる当然の排他的の権利とは違う
のであります。その点を御理解おき願いたいと思います。
済州島、黒山島の付近が、これは四十海里以上、この辺の基線の引き
方についてはどうも理論に合わない、納得がいかないという御指摘であ
ります。これは確かにそういう非難を受けるようになっております。こ
れは、両者の間においてむずかしい折衝をいたしました結果、いわゆる
紛争を残さないという、こういう意味で、いわゆる合意に達した、いわ
ゆる両者の歩み寄りの話し合いでございます。かように御了承いただき
たいのであります。(拍手)
合意議事録による無害通航権の問題についてもお触れになりました
。ことばが法律的なことばでございますが、私の理解するところでは、
先ほど申しましたように、漁業水域は領海とは違う。漁業に関して沿岸
国の排他的な管轄権を認めるので、領海及び漁業水域の無害通航の権利
を含む権利を合意議事録で確認したというのが、いわゆる無害通航権の
問題であります。これはいわゆる国際法上の問題としてでなくて、これ
はここまで確認したことが適当だった。かように私は思っております。
入漁権を放棄した理由、これも先ほども申しましたように、基線の問
題とこれが関係するのでありますが、私どもは交渉の途中においてこの
アウターシックスの問題を強く主張いたしましたけれども、韓国側はこ
れに対して反対した。両者におきましてがまんのできる範囲で今回の漁
業協定はいたしたのであります。今回私どもが特に必要だと強く主張い
たしましたのは、李ラインの実質的な廃止と操業実態の尊重、こういう
二つの点に重点を置いて話をいたしたのであります。ただいまのアウタ
ーシックスの問題は、もちろんこれは重大な問題でありますが、日韓間
におきましては暫定的にかような処置をとった、かように御了承いただ
きたいと思います。
次に、共同規制についてのお尋ねであります。零細漁民の救済をどう
するかという問題でありますが、これも、今回の日韓間の交渉におきま
しては、漁業の資源についての十分の調査ができておりません。したが
いまして、この資源についての調査が完了するまでは、現状においての
数量を制限するということがやむを得ない状態だ。しかし、この制限は
一方的に日本だけが受けるのではもちろんございません。日韓双方がこ
の規制を受けるという状態でございますので、日本だけが受けた、かよ
うにお考えになることは、これはひがみのように思いますし、さような
ことはございません。
また、この措置をとります場合に、沿岸漁業の実態、これを基礎に
置いております。したがいまして、沿岸漁業の零細漁民の実態、操業の
実態というものは私どもは十分考慮して、そうしてこれをきめたのであ
りまして、ただいまのお話のように補償の問題はもちろん起きておらな
い、かように思います。実態をそこなうものではないということを重ね
て申し上げておきます。
また、この問題が他の地域との交換で、対馬−釜山間の漁民は非常に
損をしたのだ、かようなお話でありますが、さような交換をした事実と
いうようなことはありません。いわゆる取引をしたことはありません。
大企業のために零細漁民が非常な不利益をこうむった、これまた事実を
しいるものでありますので、これは訂正をしていただきたいと思います
。
第五に、竹島の問題であります。私どもは、いままで、一括解決、何
事も全部を一括解決、かような方向で進んでまいりました。しかしなが
ら、残念ながら竹島の問題は解決をすることができなかった。これは御
指摘のとおり。私どもも、いままでの日韓交渉の大筋から申しまして、
全部を一括解決するのだ、かように申しておりましたその際に、この点
ができ上がらないことは、まことに遺憾でありますが、しかしながら、
この紛争解決の方向といいますか、その取り上げる方向はこれできまっ
たのでありますから、全然白紙の状態であるとか、あるいは竹島を放棄
するんだとか、さようなことは全然ございません。また、皆さま方の御
支援によりましても、ぜひとも私どもの固有の領土権は確保したい。幸
いにいたしまして、社会党の諸君も、これはわが国の固有の領土だ、か
ように主張しておられますし、政府はたいへんな御叱正、鞭撻を受けて
おる、かように感じておりますので、この上とも御協力を願います。(
拍手)
ただ、この取り扱いの方法が、調停かあるいは仲裁か、調停のほうが
弱いじゃないか、こういうような御指摘でありますが、調停か仲裁かと
いうことは、そのときどきの交渉の内容その他できまるのでありまして
、これは、必ずしも一がいに、どちらが弱いとか、どちらが強いとか、
かようには言えないと思います。
また、次に、法的地位についてのお尋ねがあります。御承知のように
、自分たちの意思によらないで国籍を失い、あるいは国籍を取得した、
かような状態でございますから、日本在住の諸君には、これは朝鮮人と
いい、あるいは韓国人といい、たいへんな問題があるだろうと思います
。こういう立場でいろいろ考慮もして、いままでの特殊的な事情にある
こと、これに十分の理解を与えて、今回の処置によって特に不都合な扱
い方を受けないように、そういうことを日本政府としては重点を置いて
この問題と取り組んでおるのであります。
韓国民についての処置は御承知のとおりでありますが、朝鮮国籍とい
うものにつきまして私どもが認めておらないというところで非常なむず
かしい問題、法律的な問題があるようであります。しかしながら、この
点は今回の問題で別に条約上の義務を生じておるわけではありません。
したがいまして、これは日本国内問題として処理するつもりであります
し、在来よりも悪い扱い方はもちろんしないつもりであります。
また、国籍の変更につきまして、御指摘のように、朝鮮から韓国への
国籍の変更を進めるが、韓国から朝鮮はこれを断わるとか、かようなこ
とはもちろんございません。どうか、そういうような不公平な処置をし
ておるというようなことがありましたら、これは御指摘を願いたいので
ありますが、ただいまのような状態でございますので、かような事実の
ないことをこの席からはっきり申し上げておきます。
次に、今回の問題は軍事的背景はないということをたびたび申し上げ
ました。また、ただいまこの問題についての社会党の考え方も伺いまし
た。これはもう社会党の考えとして、批判はいたしません。ただ、この
問題、軍事的な考慮、背景がないというその立場から、吉田・アチソン
交換公文を破棄しろ、こういうお話がございますが、御承知のように、
今回は日韓国交正常化の条約の批准をしておる、皆さん方に御審議をい
ただいておるのでありまして、これと関係のない吉田・アチソン交換公
文をここへ出されましても、これは私どもは、はい、さようでございま
すとは申せないのであります。これは全然別なものであります。かよう
に御了承いただきたいと思います。(拍手)
また、三矢研究をした者を処分しろというお話がございましたが、こ
の三矢研究は、御承知のように幕僚研究の作業でありまして、研究を行
なったこと自体は、職務上の義務に違反するものではありません。した
がいまして、その関係者を、三矢研究をしたからということで処分する
考えはございません。
以上、お答えいたします。(拍手)
○国務大臣(椎名悦三郎君) ほとんどすべての事項について総理から
お答え申し上げてありますので、私からはほんの一、二点補足するだけ
にとどめておきます。
第一の国連決議百九十五号、これは国連の使命に反して、かってに領
土を分割するというようなことをやったのではないかというお話でござ
いまして、総理は、そういうものではないということを明確に答えてあ
りますが、しかし、なぜそういうことになるかということを、ちょっと
簡単に申し上げます。
この朝鮮問題については、大戦終了後直ちにモスクワ会議が持たれま
して、英、米、ソ三国の間でいろいろ協議して、その協議の結果、さら
に米ソ共同委員会というのができて、そしてこれはすぐソウルで会議を
やっておるのでありますが、両者の意見が相当隔たりまして、そのまま
もうどうにも上げもおろしもならなくなった。そういうようなことを放
置しておくと、これは平和のためによくないというので、局面打開の意
味において、アメリカの要請によって設置されたのが、国連臨時朝鮮委
員会でございまして、あくまで朝鮮人民の意思を尊重して、そうしてり
っぱな統一政権をつくろうという使命を帯びてこれができ上がったので
あります。それで、この朝鮮委員会が現地におもむいて、そして北鮮の
ほうに立ち回ろうとしたところが、どうしても入れない。公正な人民の
選挙によって、それによる統一政府をつくるためのこの委員会の入国を
極力拒否して、どうしてもがえんじない。そこで、しかたなしに南鮮だ
けを監視いたしまして、そして自由意思による選挙が行なわれ、その選
挙の結果有効な政権ができた。この半分の機能しか発揮できなかったこ
とを、帰って国連総会に報告いたしました。国連総会は、その報告に基
づいて、朝鮮半島の一部分に大部分の人民が居住する地域にかくかくの
政権ができた、これはかくかくの理由でこの種の唯一の合法政権である
という、その報告に基づいて決議をし、それぞれ加盟国に若干の勧奨を
しておる。こういうことでございまして、この国連の臨時朝鮮委員会と
いうものの使命を粉砕したのは北鮮であります。(拍手)その結果、今
日の韓国政府というものが半島の一部分にできた。そういう事実を総会
がただこれを認定し、それを決定しただけの話であります。今回の基本
条約第三条は、それを受けて、韓国政府の性格は、かくかくのものであ
るということをいったにすぎないのでありまして、その国連の決議が不
当に領土を分割したというようなことは、これは全然当たらないことで
ございますから、さよう御了承を願います。(拍手)
○国務大臣(坂田英一君) 大体総理から全部お答えのようであります
から、ただ一点、御質問の零細漁業についてでありますが、沿岸漁業に
ついては、わが国の一方的声明で自主規制でありまするが、その内容と
しましては、出漁する沿岸漁船について、わが国沿岸漁業の実績を尊重
いたしましてでき上がっておるのでございまするから、その点御了承を
願いたいと思うのであります。なお、委員会においてよく……。(拍手
)
○国務大臣(石井光次郎君) さっきのお尋ねのうちで、韓国籍へ朝鮮
籍から切りかえを促進して、韓国籍から朝鮮籍への移動は認めない方針
であって、これはおもしろくないというお尋ねがございました。これは
在日朝鮮人の国籍欄に記載されておりましたものが、平和条約の際、平
和条約の発効によりまして、日本国籍を朝鮮の人たちが失ったものであ
り、朝鮮国籍に属しておった者が一律にその際に朝鮮という表示に切り
かえたのでございます。それで、その後に、韓国へ書きかえてもらいた
いという希望がたくさん出てまいりまして、本人の自由意思に基づいて
これはやったのでございまして、かつ、その大部分は、韓国代表部発行
の国民登録証を呈示させた上で韓国への書きかえを認めてきたような次
第でございまして、私のほうから、日本の側から無理にすすめたような
次第ではないのであります。それだけの準備と用意をしてやつ九のでご
ざいまするから、朝鮮へこの際韓国から切りかえということは、そう簡
単にはできるものではないということで、原則としては、これを認めな
いという方針をいまとっておるのでございます。(拍手)これは……(
発言する者あり)ただいま説明の途中でございます。原則としてそうい
う方針をとっておりまするので、これは私どもといたしまして、人道に
違反するとも、また、これは、さっきお話のありました人権宣言にも違
反することではなく、私どもはりっぱな道を通ってきたのだと、こうい
うふうに信じておるのでございます。(拍手)
○国務大臣(三木武夫君) 私に対しての御質問は、韓国に対する経済
協力が経済侵略になるのではないか、あるいは利権化の疑いはないかと
いう点でございますが、総理大臣からすでにお触れになりましたので申
し上げることもないのでありますが、要は、経済協力が国民的な基盤で
結びつかなければ日韓の友好関係は長続きしない、そういう点で、韓国
側においてもいろいろと新しい機構、調達方法を考えておるようでござ
いますし、われわれもまた、この実施計画を通じて相談にあずかる機会
がありますから、韓国の国民的な発展をはかれるように協力をいたした
いと考えておる次第でございます。(拍手)
第050回国会 衆議院日本国と大韓民国との間の条約及び協定等に関す
る特別委員会 第10号 昭和四十年十一月五日(金曜日)午前十時四十八分
開議
委員 石橋 政嗣
外務事務官
(条約局長) 藤崎 萬里
外務大臣 椎名 悦三郎
委員長 安藤 覺
委員長代理 長谷川 四郎
委員 戸叶 里子
内閣総理大臣 佐藤 榮作
内閣法制局長官 高辻 正巳
国務大臣 永山 忠則
○石橋委員 次に、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力
に関する協定についてお尋ねをしたいと思います。
最初に事務的なことでございますけれども、第二条の第二項の(a)
に、「千九百四十七年八月十五日」というのが出てまいるわけですが、
これはどういう時点を意味するのか、ちょっと御説明を願っておきたい
と思います。
○藤崎政府委員 これは終戦後日本におりました朝鮮人がだいぶ引き揚
げたりいたしました。それが大体終了するのにこの年の前半くらいまで
かかった。それから、このときに日韓間に民間貿易関係が開かれた、そ
ういうことでこの時点をとらえたわけでございます。
○石橋委員 この第二条の第一項におきまして「両締約国は、両締約国
及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに問締約国及
びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサ
ン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規
定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを
確認する。」とございますが、第四条の(b)項が全然出てきていない
というのはどういうわけでございますか。これは外務大臣にお尋ねいた
します。
○椎名国務大臣 条約局長に答えさせます。
○藤崎政府委員 平和条約四条(b)項でございますが、これは問題を
提起しているのではなくて、あそこでの軍令三十三号は処理の効力を承
認するということで、それは四条(a)項で全部カバーされておるもの
の一部について記述しておるわけでございます。
○石橋委員 (a)項で(b)項までカバーされておるというのが私に
は理解できません。平和条約を読んでみた場合に、どうしてそういう解
釈が出てまいりますか。
○藤崎政府委員 (a)項で、日本と韓国それぞれの国民の間の財産請
求権問題全般について特別取りきめの主題としているわけでございます
。(b)項では、韓国のほうにあった日本の財産、権利、利益について
在韓米軍当局がとった処理の効力を承認するということでございまして
、(b)項に書いてあることも(a)項の内容の一部をなしておるわけ
でございます。
○石橋委員 そうしますと、今度の日本と韓国との間で懸案事項をすべ
て解決するという際に、この(b)の問題については一切関係がないと
でもおっしゃるわけですか。
○藤崎政府委員 平和条約四条(b)項のものはすべて平和条約で処理
済みであった。したがって今回新たに処理する必要がなかったというこ
とでございましたら、お説のとおりでございます。
○石橋委員 (b)項の解決のためにいろいろといままで交渉が行なわ
れておるわけですね。この間にはアメリカまで介在していることはもう
御承知のとおりです。最終的に処理されたというものが今度出てこなけ
ればならないはずじゃありませんか。どこに出てきておりますか。
○藤崎政府委員 四条(b)項の問題はサンフランシスコ条約で処理さ
れてしまったわけでございますので、日韓間で新たに処理する問題じゃ
ないわけでございます。
○石橋委員 そうしますと、この間から問題になっております一九五七
年十二月三十一日の口上書、それから昭和三十二年十二月三十一日付、
日本国外務大臣と大韓民国代表部代表との間に合意された議事録のうち
、請求権に関する部分、こういったものは何のためにあるのですか。
○藤崎政府委員 韓国にある日本の財産、権利、利益といたしましては
、前にも御説明申し上げましたが、かりにあるとすれば、東のほうの大
韓民国の管轄区域が三十八度線以北に出た部分にあり得たわけだろうと
思います。ところが、これも前に申し上げましたように、北鮮当局が没
収処分をしておりまして、それを大韓民国側が休戦協定でその管轄のも
とに貫いたときには、また反逆分子のものとして没収したそうでござい
ます。したがいまして、日本の取り分に関する限りは、韓国には実体的
な財産、権利、利益というものは残っていなかった、こういうことは事
実でございます。ただそのほか、そういう部分に関する請求権と申しま
すか、文句をつける国際法上の権利とか、あるいはしばしば問題になっ
ております拿捕漁船の関係とか、そういうような軍令三十三号で処理さ
れなかったものが残っておるわけでございます。
○石橋委員 そういう理屈でいきますと、私はいままでの政府の国民に
対する説明というものとの間に矛盾があると思うのです。もうすでにこ
の第四条の(b)項は平和条約発効の時点で解決済み、こういう解釈を
おとりになっておられる。それじゃ一体いままで何をしておったのかと
いう問題がひとつ残りますが、それは別として、それではこの(b)項
の解釈について、従来の政府の考え方というものが変わったのかどうか
、確認したいと思います。というのは、この第四条(b)項において、
われわれはすべての日本国民の在韓財産というものを放棄したものでは
ない。すなわち、在韓米陸軍政庁法令第三十三号というのは国際法違反
である。これはへーグの陸戦法規違反である。また世界人権宣言からい
ってもおかしい。こういう立場を終始とってこられておったはずです。
われわれが放棄したのは、少なくとも外交保護権だけだ、こういう解釈
をとってこられたはずでございますが、この見解は変わりましたかどう
ですか、外務大臣にお尋ねします。
○藤崎政府委員 四条(b)項についての日本政府の解釈が、当初から
、日韓交渉に入るときに若干変わって、それが三十二年末にまたもとの
立場に戻ったということは、この前御説明申し上げましたが、そのこと
は三十六年に全部発表もいたしておりますし、皆さま御存じのとおりで
ございます。なお、この四条(b)項で財産、権利、利益というものは
全部処理されてしまったということは、これは平和条約の処理でござい
ます。これについて文句をつけない、もう国際法違反のことをやっても
日本政府としては文句をつけないということは、平和条約の十九条に規
定してございます。そういうことをこの問も御説明申し上げたわけでご
ざいます。
○石橋委員 私は、長くなりますから、いままで政府が国会を通じて国
民に説明しておりましたものを一々ここにあげません。簡単にお尋ねし
ますから、簡単に答えていただきたいのです。
この平和条約第四条の(b)項においてわれわれは――われわれはと
いうのは日本の政府はです。――国民の財産権の所属変更、移転まで承
認したのではない、外交保護権を放棄した、それだけだ、こういう解釈
をとってきた。これは間違いないでしょう。間違いないとすれば、いま
、その外交保護権は放棄したという従来の説をそのまま維持しておられ
るのか、それとも変更して、外交保護権まで放棄したというふうに変わ
ったのか、これは外務大臣、責任を持ってお答え願いたいと思います。
○椎名国務大臣 外交保護権の放棄であります。
○石橋委員 これはもうたいへんなことですね。従来の解釈、従来の政
府の国民に対する説明というものを百八十度変えております。そんなこ
とが一体許されますか。
○椎名国務大臣 変えておりません。
○石橋委員 外交保護権を放棄したものではないということをいままで
言ったことはないというのですか。
○椎名国務大臣 外交保護権の放棄である。
○石橋委員 ちょっと待ってください。聞き方が間違えました。
外交保護権を放棄しただけであって、個人の請求権を放棄したのでは
ないという解釈をとっておられたわけです。――もう一度お尋ねします
。国の財産権のみならず、個人の財産権の所属変更、移転まで承認した
というのであるならば、外交保護権のみならず、個人のそれぞれ持って
いるところの国際法上の請求権すら、個人の承諾なしに、不当にも国が
放棄したことになるのではないか、こういう意味です。正確を期して私
もお聞きします。
○椎名国務大臣 外交保護権だけを放棄したのであります。
○石橋委員 そうしますと、各個人は韓国に対して請求権を持っておる
、このように考えられるわけですか。
○椎名国務大臣 条約局長から答えます。
○藤崎政府委員 韓国で、昔だったら米軍、いまだったら韓国政府当局
が、それぞれの法令によってとった措置の効力を承認したわけでござい
ます。したがいまして、当該の日本人が自己の権利を向こうへ主張しよ
うとしても、これは向こうの国内法上の権利であるわけでございますが
、それは実際問題としては取り上げられないだろうということになるわ
けでございます。
○石橋委員 そうしますと外交保護権も放棄した。日本国民の個人のい
わゆる所有権というものも、これも全部、その当人の承諾なしに、日本
政府がかってに放棄した、こういうふうに認めていいですか。
○藤崎政府委員 前段におっしゃった外交保護権のことはそのとおりで
ございます。個人の請求権というものは向こうさんが認めないであろう
ということを申しているわけでございまして、この条約、協定で、そう
いうものを日本政府が放棄したということじゃないわけでございます。
○石橋委員 日本の政府は国民の生命、財産を保護する責任があるわけ
ですよ。それをかってに放棄したと同じ形になるじゃないですか。それ
に対して責任を持たないのですか。
○藤崎政府委員 それが外交保護権の放棄ということでございます。
○石橋委員 いままでは分けて説明しておったはずです。外交保護権は
放棄する。しかし個人の請求権は残る、こう言ってきたはずじゃないで
すか。では個人の請求権は残るというから、残ったつもりで韓国政府を
相手に訴訟を起こそうとしても、それは実際は無理でしょう、受け付け
ないでしょう。名目だけの請求権になるじゃないですか。権利はないの
とひとしいじゃありませんか。今度のこの協定の中で何らかの措置がと
られておれば別です。何にもとられておらないということは、実質的に
個人の請求権まで日本政府が抹殺したと同じじゃないですか。これはす
でに法律的な問題を離れます。外務大臣、その点について責任をお感じ
になりませんか。
○椎名国務大臣 先方のこれに対する措置として、国内法の問題につき
ましては、これは外交上の関係でございませんからしばらくこれに触れ
ませんが、とにかく外交上としてはあなたのおっしゃるような結論にな
るわけです。
○石橋委員 そうしますと、政府は外交保護権も放棄した、個人の請求
権も実質的に放棄した、しかもその請求権者、所有権者というものの承
諾は得ておりません。そうなれば、これは必然的に日本の憲法に基づい
て補償の義務を生ずる、このように考えますが、いかがです。
〔発言する者あり〕
○安藤委員長 お静かに願います。
○高辻政府委員 お答え申し上げます。
ただいま条約局長からお話がございました趣旨は、この外交保護権の
放棄ではある、しかしその在外財産自身は向こうの処理の問題であると
いうことをお話しになりましたが、要するにそれをもう少しかみ砕いて
申し上げますと、日本の国民が持っておる在外財産、その在外財産の運
命と申しますか、その法的地位と申しますか、そういうものはその所在
する外国の法令のもとにあるわけです。したがって、外国の法令におい
てその財産権の基礎が失われた場合に、日本の国民がそれを争うことが
できるかどうかということになりますと、それはその国の国内法の問題
になります。で、いま現在問題になっておりますのは、そういう措置が
あったとして、そういうものについて外交上の保護をする地位を放棄し
てということであって、財産権自身を日本が、たとえば収用をしてそれ
を放棄したというのとは違うわけでございます。ところで、憲法の二十
九条の三項によりますと、二十九条三項は、日本国がその公権力によっ
て収用した場合の規定であることは御承知のとおりでございます。した
がって、政策上の問題は別でございますが、憲法二十九条三項というこ
とを御引用になりましたその点については、私どもは憲法上の補償、法
律上の補償ということにはならないのではないかというふうに解してお
りま
○石橋委員 外務大臣は明確に言っているわけです。外交保護権は放棄
した、個人の請求権も実質的に放棄した、こう認めておられるのですよ
。だから、あなたに聞いているのではないのです。もう法律解釈はわか
っておる。だから内閣、政府の責任を私は追及しているんです。法律的
なことを聞いているんじゃない。とにかく所有権者の、請求権者の承認
も何もなく、かってに政府が放棄するというような行為が許されるか。
実質的に救済の道はないのです。回復しようとしてもその道はふさがれ
ておるという説明までなされておるのです。
〔委員長退席、長谷川(四)委員長代理着席〕
そうしますと、これは当然国家の利益のために国民の財産が充当された
という、こういう解釈をとらざるを得ません。賠償か賠償でないかとい
うことは争いのあるところでございましょうけれども、とにかくその中
に在韓財産、日本国民の財産というものが加味されておるということは
、これはもう否定できないと思う、何と言おうとも。国の利益のために
個人の財産が犠牲になっているのです。当然これは補償の問題が出てく
ると思います。いかがですか、外務大臣。総理大臣がおいでなら総理大
臣に聞きたいのですけれども。
○椎名国務大臣 個人の請求権を放棄したという表現は私は適切でない
と思います。高辻法制局長官が言ったように、政府がこれを一たん握っ
て、そしてそれを放棄した、こういうのではないのでありまして、あく
まで政府が在韓請求権というものに対して外交保護権を放棄した、その
結果、個人の請求権というものを主張しても向こうが取り上げない、そ
の取り上げないという状態をいかんともできない、結論において救済す
ることができない、こういうことになるのでありまして、私がもしそれ
を放棄したというような表現を使ったならば、この際訂正をいたします
。
それで、これに対する何か補償権というのが一体どうなるかというこ
とにつきましては、私は法制局長官の解釈に従いたいと思う。
○石橋委員 これは総理にお伺いしたいところなんです。あなたは先ほ
ど、実質的に放棄したと言っていいのかと言ったら、そういうことにな
るとはっきりおっしゃいました。それはもう正直な答弁ですよ。外交保
護権は放棄したけれども、個人の請求権は残っておると言ってみたとこ
ろで、それでは韓国に対して訴訟を起こして回復しよう、その道は閉ざ
されている。実質的に放棄したことになる。間違いないじゃありません
か。それなのに補償の義務はないという、そういう議論は成り立たない
と思います。これは総理が来てから私それでは確認をすることにいたし
まして、関連の申し入れがありますから譲ります。
○長谷川(四)委員長代理 関連質問の申し出がありますので、これを
許します。戸叶里子君。
○戸叶委員 先ほどの法制局長官のお答えの中で、私、どうしても納得
のいかない点がございますので、はっきりさしていただきたい。それは
まず第一に、韓国にあった日本人の財産は、アメリカの軍令三十三号で
これを取得されたわけです。没収はされておりません。取得をされまし
た。しかし、その後この軍令三十三号は国際法違反であるといろことは
この場でお認めになったわけです。その後におきまして、今度はその財
産というものが米韓の間の協定、一九四八年に結ばれた協定によって韓
国に移譲されたわけです。五条で移譲されております。しかし、その六
条においてはっきり言っていることは、法的にはっきりしている財産と
いうものは、その人の申し出があるまでは韓国がこれを管理すると言い
、さらにまた、もしも韓国と日本の間に特別の処理をきめない限りは、
所有者がいれば必ずその所有者に返るということがはっきり言われてい
るわけです。もしも特別の取りきめがあれば所有者にはいかないで済む
けれども、特別の取りきめがない限りはその所有者に返るということが
はっきり六条で示されてあるのです。だとするならば、先ほど法制局長
官がおっしゃいましたところの在外財産は向こうの措置である、しかも
この在外財産の法的地位というものは外国の法令のもとにある、こうい
うことをおっしゃったわけです。そうすると、外国の法令では、はっき
り米韓の問で日本人の財産というものは守られているんだ、申し出があ
れば正当なものは返さなければいけないのだということがきめられてあ
るわけです。そういうことを無視して財産権がないとおっしゃるのは私
はおかしいと思うわけです。その点はっきりさしていただきたい。
〔長谷川(四)委員長代理退席、委員長着席〕
○高辻政府委員 先ほど申し上げましたように、日本の在外財産、これ
はどこにあっても同じでございますが、その日本国の財産の運命と申し
ますか、その法的地位が当該財産の所在する外国の法制によって運命が
決するということは、これは一般理論として言うまでもないところだと
思います。ところで、軍令三十三号の処理の効力を承認する、この解釈
問題にかかるかもしれませんが、これにつきましては、外務当局から先
ほどお話がありましたような経緯を経まして、その効力を承認するとい
うことによって、日本の国民の財産については、その処理の効力を承認
するということで運命がきまっておるというようなことになる、それが
外交保護権の放棄そのものではあるけれども、それ自体の運命は実はそ
ういう協定によって決せられておる、こういう解釈になるわけでござい
ますので、結果は同じことになるんではないかと思います。
○戸叶委員 私が申し上げた質問に対してのお答えになっておりません
。私がお伺いいたしましたのは、一九四八年の九月の十一日だったかと
思いますが、米韓の間で協定を結んでおります。その協定の五条によっ
て、アメリカが取得したところの財産というものを韓国に移譲したわけ
です。トランスファーしたわけです。没収していない。それを没収して
やったんじゃないということの証明には、六条にはっきり示されてある
。法的にきちんとした財産というものはしばらく預かっておいて、そし
て申し出があればこれを返すのだ、しばらくの間管理しておくのだとい
うことが六条にある。しかもその次にあることは、別途の特別の取りき
めがない間は日本のものであるということがはっきり示されてあるので
す。いいですか。そういうふうに国内の法律できまるというのですかも
、向こうの国内の法律できまるというのですから、韓国はこれを知って
いるはずなんです。知っていたら、このとおり守ってもらったらいいじ
ゃないですか。それとも、日本人個人とそれから韓国政府との間に特別
の取りきめをしたのですか。してないはずです。個人個人がしてないは
ずです。
○藤崎政府委員 軍令三十三号の解釈につきましては、米国政府からも
明瞭な発表があるわけでございますので、疑問の余地はないと思います
。この米韓協定の第六条は、この文言にもございますように、韓国にあ
りました戦勝国、つまり連合国の国民の財産について日本側が戦争中に
何か措置をとっておって、それを日本の財産だと思って韓一国に渡しま
すと、連合国の国民が不利益をこうむることになりますので、その点に
ついての注意を喚起したものでございます。
○戸叶委員 そんなことを言つちやいけませんよ。六条には何と書いて
ありますか。大韓民国政府へ移譲された財産は、正当な所有者が適当な
時日内に返還を請求し、同所有者に返還されるまで大韓民国政府はこれ
を管理するとあるじゃありませんか。大韓民国政府に移譲された財産は
ですよ。アメリカはこのときに軍令三十三号を出したけれども、自分は
間違ったことをしているということを知っているから、意識してこうい
うものを出しているのですよ。それで全部韓国へなすりつけているので
すよ。それが一つ。
もう一つは、私は関連ですから全部まとめて言いますが、この前私が
ここで指摘をいたしましたように、日本の国会におきましては、この平
和条約のあとにおいてさえも岡崎さん、あるいは中川さん、あるいは高
橋条約局長、日本の個人の韓国へ置いてきた財産権はあるということを
はっきり言っております。私は速記を持っておりますけれども、そうい
うことを言っていられるはずなんです。だからそれはなぜかといえば、
韓国に財産があったのだという解釈できて、そして一九六一年、池田さ
んと朴氏と両方でもって、こうやっていたのでは解決できないから、何
とか法的地位の根拠のあるものだけにしようという話になって、その翌
年、金・大平メモで政治的に解決しようというふうになったわけだと思
います、歴史を見ますと。ですけれども、その間において一体いつ日本
人の韓国に置いてきた財産がなくなったかということは、みなふしぎで
しかたがない。うやむやのうちに消えちゃってるんですよ。いやしくも
日本人の個人の財産までこういう形でうやむやにされる。しかも国会に
おいてはあると言っておりながら、そういう形をとられるということは
、これは許すべからざることであると私は考えます。
○藤崎政府委員 最初アメリカと同様の解釈をとっておりながら、日韓
交渉のある段階においてこれと違った解釈をとったということは、この
間戸叶委員に申し上げたとおりでございます。しかし、アメリカ解釈と
同じ解釈をまたとるようになって以後において、日本政府当局の者が日
本国民の財産、権利、利益がそのまま残っているとお答えしたはずはな
いはずであると、かように考えます。
○石橋委員 それでは、やはりいままでの外務省の国民に対する説明と
いうものをここで少し取り上げなければ結論が出ないと思いますから、
読み上げてみたいと思います。これは外務省情報文化局が出しておりま
す「世界の動き」特集号の六であります。そのまま読みます。「わが国
が韓国に請求しているのは、そのうち私有財産の返還である。それは私
有財産尊重の原則が、歴史的にいつの時代にも認められてきた原則であ
るし、また朝鮮からの引揚者の利害がこの問題と密接に結びついている
からである。しかも、日本人が朝鮮に残してきた財産は、はるばるわが
国から渡鮮して三十余年の長きにわたり粒々辛苦働いた汗の結晶にほか
ならない。」、いいですか。これは外務省の文書ですよ。途中省略しま
す。「或る人の計算によると、終戦当時朝鮮には日本人の私有財産(す
なわち国有財産や公有財産は別として、個人財産と私企業財産だけの合
計)は約七百三十億円あったということである(当時は一弗は約十五円
であった)。今かりに、その中の六〇パーセントがいわゆる「三十八度
線」の北鮮にあり、四〇。パーセントだけが南鮮にあったと仮定して、
しかもさらにその六五パーセントが戦災で滅失したと推定すると、現在
韓国内には約百億円の日本人私有財産が残っている計算になる。その他
にも、帳簿尻の清算などを勘定に入れると日韓相互の請求権は次のよう
になる。日本が韓国から受け取るべき額約一四〇億円、日本が韓国に支
払うべき額約一三〇億円、差引受取額約二〇億円、そこで、かりに韓国
の主張のように、日本は韓国に対し請求すべきものは一銭も無く、請求
権の問題というものはもっぱら韓国が日本から受取る額の問題にすぎな
いということであれば、この人の計算に従えば、終戦当時の金で一二〇
億円を日本が韓国に支払わなくてはならないことになる。在韓財産の一
切合切をフイにした上に、さらにこのような巨額を支払うということは
、わが国民の決して納得しないところであろう。」、この外務省の見解
こそ現在の日本の国民の気持ちじゃないですか。これはそれじゃ、うそ
だというんですか。
○藤崎政府委員 ただいまお読み上げになりましたのは、昭和二十八年
十月二十二日の情報文化局長の談話でございまして、これは先ほど来申
し上げておりますように、日韓交渉のある段階において米国解釈とも、
平和条約締結の際の国会で御説明申し上げました政府の見解とも違った
、一番日本に腹一ぱいの主張を韓国との交渉の上でやっておった段階の
発表でございます。いまの見解とは違います。
○石橋委員 これは外務省の当時の正式見解であるということはお認め
になったから、それでいいです。
そこで、外務大臣にお聞きするのです。この当時の外務省のこの主張
、これこそはまさに日本国民感情にぴったりだということです。特に、
いま熱心に運動しておられますところの引き揚げ者の諸君の気持ちにぴ
ったりしたものがこれだということなんです。この見解がいつの時点に
どのような経過を経て変化を見たのか、これがいま問題になっているの
ですよ。少なくともこれが筋なんです。本論なんです。しかし、それを
変更せざるを得ない条件があったというならば、いつの時点、どのよう
なものによって解決したのか、変更があったのか。これは外務大臣が答
える責務がございますよ。
○椎名国務大臣 相当日本も悲惨な敗戦を喫して立ち上がったばかりで
ございまして、この韓国に対するいろいろな考えというものはかなり複
雑多岐なるものがあるのであって、それは一面の発露であるということ
は私も了解し得るのでありますが、それだけをもって今日の結末に達す
ることはできないのであります。いろいろな角度から、この両国の長い
問の歴史的関係等を考慮いたしました結果、今回の条約の調印を見たよ
うな次第であります。
○石橋委員 私、そのままこれを読み上げたわけですけれども、これが
当時の外務省の態度、ここから平和条約第四条の(b)が平和条約発効
の時点で解決したなんという結論がどうして出てきますか。妙な法律論
にすりかえないでください。少なくとも第四条の(b)項から出てくる
見解というものは、当時述べられておったこれであるはずです。それが
何らかの事情で変更を見ているのです。そのことによってたくさんの引
き揚げ者がたいへんな損害をこうむっておるのです。その人たちに対し
て親切な説明をするのは政府の責任じゃないですか。こういう理由で考
えを変えたのだからしんぼうしてくれ、そのかわりほうってはおかぬ、
こういう態度があってこそ政治と言えるんじゃないですか。総理が来な
ければ答えられないのでしたら、ここで待っていてもいいですよ。外務
大臣答えられないのですか。総理大臣が来なければ。
○椎名国務大臣 いま申し上げたような状況下において、全くもう廃墟
の中から立ち上がって、そうして一時は食うや食わずの状況でありまし
たが、だんだん立ち上がりを示してまいったのでありますが、韓国との
折衝過程においていろいろな複雑な国論というものが生起したという、
一つのそれはまあ断面を物語るものだと私は考えております。そういう
事情もあったということを十分に考慮に入れて今回のような結論に到着
したわけであります。
○石橋委員 実際の利害関係者がそれで納得いきますか。外務省が、先
ほど読み上げたような態度でがんばってくれておるときこそ、ああやは
り政府だ、われわれ国民のことをよく考えてくれてがんばってくれてい
ると、感謝しております。それを、何の相談もなしにいつの間にか消え
ちゃった、あれは交渉のかけ引きにちょいと言うただけです、そんなこ
とで済みますか。少なくとも、それではどの時点でどのような取りきめ
によってこういう考えが放棄されたのか。そこからひとつ説明してくだ
さい、外務大臣。
○椎名国務大臣 米国解釈をとって、そうして一切の請求権はこれを主
張しないということになったのは三十二年になってからであります。そ
のいきさつにつきましては条約局長から申し上げます。
○石橋委員 いいです。いいです。もう法律的にごちゃごちゃ言うとわ
からなくなるから、お互いにみんながわかるようにひとつやりましょう
。三十二年というのは、この平和条約第四条の解釈に関する米国政府の
見解を伝えた在日米国大使の口上書及び昭和三十二年十二月三十一日付
日本国外務大臣と大韓民国代表部代表との間に合意された議事録のうち
請求権に関係する部分、これですね。
○椎名国務大臣 さようであります。
○石橋委員 この時点で個人の財産権まで日本政府は放棄を認めた、一
つはこういうことですね。そして、後段において、ただし「平和条約第
四条(a)に定められているとりきめを考慮するにあたって関連がある
ものである。」、すなわち韓国が日本に請求しておるものと関連がある
ものである、こういう二つの柱にささえられた口上書であるということ
もお認めになりますね。
○椎名国務大臣 大体さようでございます。
○石橋委員 何で大体なんて言うんですか。そうしますと、この前段に
おいて、個人の請求権、財産権まで日本政府は放棄した、昭和三十二年
の十二月三十一日のこの時点で。しかし、韓国の対日請求権との関連の
上で考慮する、こういうことになった。これは明らかに日本政府はこの
時点で韓国の対日請求権との相殺のために日本国民の在韓財産を振り当
てたということになるじゃありませんか。それを認めたということにな
るじゃありませんか。その点、外務大臣いかがですか。
○椎名国務大臣 しかし、その後韓国の対日請求権というものを両国の
間で突き合わせてみたのでありますが、何しろ、法律上の根拠あるいは
事実関係、非常に不明確である。時間もたっており、その間に朝鮮事変
というものがありまして、これをいかに追求しても結論に到着すること
はむずかしいというので、これはあきらめて、そうして、別に経済協力
、無償・有償合わせて五億ドル、その経済協力を行なうこととともに、
それと並行して対日請求権はこれを終局的に完全に消滅させるというこ
とになったのでございますから、その関連の問題はもはやなくなった。
しかし、法律上の関係はありませんけれども、経済協力をするという問
題にいたします際に、やはりその問題を念頭に置いて問題の処理をした
ということは、これは言えるだろうと思います。
○石橋委員 そうしますと、やはり関連があるわけですね。有償・無償
五億ドルという額をきめるにあたって、日本国民が朝鮮に置いてきた財
産というものを十分に念頭に置いてその金額をきめた、そういう意味で
関連があるわけですね。
○椎名国務大臣 関連と言うと語弊がありますが、それを念頭に置いて
かような処理をした。あくまで経済協力は経済協力であります。さよう
に解釈しております。
○石橋委員 念頭に置いてという表現を使われるわけですけれども、関
連があるじゃありませんか。有償・無償合わせて五億ドルの援助をしま
しょうと、その金額をきめるにあたりまして、日本の国民が朝鮮に置い
てきた財産というものを念頭に置いて金額をきめた、関係があるじゃあ
りませんか。それだけの財産があそこにあったからこそ五億ドルで済ん
だということになるじゃありませんか。そうしますと、引き揚げ者の人
たち、財産を韓国に置いてきた人たちは、自分たちの財産というものを
国益に供したことになるのです。これは間違いありません、いままでの
一つ一つのお答えの中からも。
総理大臣はいま来られたので、経過を簡単に説明しますけれども、と
にかく、日本の外務省としては、個人のいわゆる私有財産、朝鮮に置い
てきた私有財産というものは、これはあくまで返してもらわなければい
かぬという立場を主張しておられた。これは、私が外務省の文書を読ん
だら、そのとおり承認いたしました。この私有財産を返してくれ、こう
いう政府の姿勢は、すべての日本国民の共感を受ける正しい姿勢であっ
た。それがいつの間にか変わってしまった。いつ変わったのですかと聞
いたら、昭和三十二年のアメリカの大使の口上書と日本の外務大臣と韓
国代表部代表との間に合意された議事録のうち請求権に関係する部分、
すなわち昭和三十二年十二月三十一日のこの取りきめの時点において考
えが変わった。もう請求しないということにした。個人の財産も請求し
ないということにした。ただし、平和条約第四条においていろいろと処
理をしなくちゃならぬ。取りきめをしなくちゃならぬ。その場合に、考
慮するにあたって関連があるものだ。すなわち、在韓日本国民の財産と
いうものを頭に置いて、そうしてやりなさいということを、日本、アメ
リカ、韓国の三国の間で合意に達した。そうすると、少なくとも有償・
無償五億ドルという金を日本が援助として、名前はどうあろうと、援助
として韓国にやるという場合に、五億ドルで済んだのは、たくさんの日
本人の私有財産が朝鮮にあったからだ、こういうことになる。これは間
違いないかと言ったら、外務大臣は間違いないと言う。それを念頭に置
いてやったと、こうおつしゃる。そうすると、在韓財産を持っておられ
る日本の国民としてみれば、国の利益のためにおれたちは財産をみんな
出したのだから、その分だけめんどうを見てください、こう言ってくる
のは筋です。そのほかに方法がないのです。もう一つの方法は、韓国に
対して、韓国の裁判所に訴えて返してくれという方法があるのですが、
これは実質的に不可能だという答弁も政府はしておられる。この放棄し
たことによって、口上書と合意議事録によって不可能になっておる。そ
れから、向こうの国内法で不可能になっておる。断然日本政府に補償の
義務が私は生ずると思います。これはいま在外財産問題審議会で審議し
ておることは、私百も承知です。しかし、少なくとも政府としては、何
とかしなくちゃならぬという気持ちに立たなければ、これは国民は納得
しない。特に引き揚げ者は納得しないということを申し上げたいのです
。この点、総理大臣の決意のほどを表明していただきたいと思います。
○佐藤内閣総理大臣 韓国にあった邦人の個人の財産の問題、これは、
私がちょうど不在中にいろいろ議論があったそうですか、ただいま石橋
君が御理解していらっしゃるように、また外務大臣が申し上げたように
、三億、二億、これは結局こういうものを念頭に置いてきまった、かよ
うに申しておる。その念頭に縫いたことが法律的な義務を生じておるか
どうか、これについては、法制局長官から、憲法上の問題はないと、か
ように答えたと思います。私は、いわゆる法律論としての法律上の問題
ではこれはないのだ、その点は明確にいままでの経緯から説明されたろ
うと思います。しかし、こういう問題、あるいは平和条約から見まして
も在外資産につきましてはいろいろの問題が残っておるわけであります
。いわゆる法律的な問題としては一応片がついておる、かように政府は
考えておりますが、一般的にいわゆる在外資産をいかに処理すべきか、
またどういうような実情にあるか等々につきまして、いわゆる在外財産
問題審議会というものができておる、そうして、ただいまそちらのほう
でいろいろ研究しておる、かような状態にあることも石橋君御承知のこ
とだと思います。政府自身は、ただいまの法律論、法律的な問題、いわ
ゆる憲法上の問題として処理するのではなくて、一般的な問題として、
こういうものをいかにするかというその調査をまずして、そうして、そ
の結論を出すという態度でございます。
○椎名国務大臣 補足して申し上げますが、請求権をこれに振りかえた
というような趣旨に私は申し上げたのではありません。念頭に置いて請
求権問題を処理した。やはり、もと一国をなしておった韓国が独立をし
たのであります。日本の財政事情も考慮しながら、新しく発足する韓国
というものに対して、お祝いと言っては語弊があるが、りっぱに育つよ
うにということで、主としてこの経済協力の問題は考えられておる。
私が申し上げたいのは、第二次大戦後に旧植民地がずいぶん分離いた
しました。そうして新しい独立国となったその際に旧宗主国がどういう
ことをやっておるかということを、私はこの際御参考までに申し上げて
みたいと思います。
イギリスでありますが、旧英領諸国の独立に際して行なった援助がま
ずあげられると思うのであります。すなわち、イギリスは、これら諸国
の独立の際に、経済開発援助その他の資金供与などによりまして、これ
まで十二ヵ国に対して合計約十四億ポンド、三十九億ドル、約四十億ド
ルの援助を行なったのでありますが、このうち大きなものとしては、イ
ンドに対する十億四千万ポンド、パキスタンに対する一億二千万ポンド
、セイロンに対する一億ポンド、ケニアに対する五千万ポンド等がおも
なるものでございます。
それから、このほか、フランスの旧仏領諸国の独立にあたって、それ
らの国との長期的経済友好関係の維持継続をはかるために経済協力協定
を締結いたしたのでありますが、これらの協定には資金協力を約束した
ものが多い。フランスが独立した旧仏領諸国に対して一九六〇年から一
九六三年までに供与した援助額は二十一億ドルに達しておる、こういう
状況であります。この点を御参考までに申し上げておきます。
○石橋委員 私はもう資料を持っています。聞きもせぬことを長々とお
やりになる。肝心なことはあんまり言わぬ。あなたのほうでお出しにな
っております「日韓予備交渉において両首席代表間に大綱につき意見一
致を見ている請求権問題の解決方式、昭和三十九年十二月十日」、これ
を見ても、はっきり書いてあるじゃないですか。三億ドル、二億ドルと
いうものをきめたときに、「上記無償、有償の経済協力の供与の随伴的
な結果として、平和条約第四条に基づく請求権の問題も同時に最終的に
解決し、もはや存在しなくなることが日韓間で確認される。」、もう相
殺していることははっきりしているのですよ。
そこで、総理大臣に最後にこの問題についてお尋ねしておきたいこと
は、この問題は、本来ならば直接政府が判断をして対処すべき問題であ
ったと私は思います。しかし、いまはもう審議会にかけておる。その審
議会が補償すべしという結論を出した場合には、必ずこれを実行される
、このことを声明なさらないと、関連を持っておる方々はこの条約、協
定に非常に不安を持っておりますから、ぜひひとつ言明しておいていた
だきたいと思います。
○佐藤内閣総理大臣 もちろん、審議会の答申といいますか、あるいは
その調査の結果につきましては、これは尊重したいと思います。尊重し
なければならない、かように思います。そういう場合に、政府は政府の
責任においてこれを処理していくという態度でございます。
○石橋委員 それじゃ、問題を移します。
いままでいろいろと質疑をいたしました。その中でも何度も総理はお
っしゃっておられるわけですが、日本政府としては南北朝鮮の統一を妨
害するとか阻害するとかいうようなことは毛頭考えておらぬ、こういう
ことをしきりに力説しておられます。しかし、そういうことばの裏で、
朝鮮民主主義人民共和国を法律的に無視すると言われるならば、それは
もうそのとおりだということも言っておられます。それから、質疑の中
でも、実際には北の国というものを交えなければ完全に処理できないよ
うな問題がありながら、韓国との間だけで何とかしてしまおうというよ
うな問題のあることもはっきりしてまいりました。とにかく、この条約
が発効すれば、日本と北のほうの部分の国とうまくいく条件というもの
は、どう見てもないわけです。悪化する条件があっても、これが今後は
よくなるだろうというような、そういう見通しを持つことは全然できな
いと思います。現に、韓国のほうでは、韓国の総理大臣はどんなことを
言っているかというと、ずいぶんひどいことを言っているのですよ。「
韓日国交が正常化されたことによって、わが政府や国家全体が力を合わ
せ、北韓の外交関係を結ぶのを積極的に防ぐべきであり、また、通商が
増加するのを、われわれが優先権を握ってこれを妨害するのに最善を尽
くすべきであり、また、文化的に交流するのを、われわれが最善を尽く
して防ぐべきである。」、これは丁一権総理が八月十四日の韓国の本会
議で述べたことばであります。ほかの部分も、私、たくさんここに控え
てきております。向こうのほうでは、とにかく、この日韓条約が発効し
たら、日本と北鮮の間というものを何が何でも妨害するのだ、こういう
ことを言っている事実というものは御承知でございますか。総理が、南
北統一ということをじゃましようとか妨害しようとかいう気持ちは毛頭
ないということを何度もおっしゃっておるので、それでは、向こう側は
こう言っておりますが、御承知ですかと、こう総理にお尋ねしておるわ
けです。
○佐藤内閣総理大臣 いま丁一権総理がどうしゃべったというようなお
話でございます。また、金日成がどういうようにしゃべったというよう
なことも新聞で伝えておりますが、これはまあ外国の問題ですから、あ
まりとやかく詮議しないほうがいいのだと私は思います。私は、ただい
まお尋ねになりました韓国、朝鮮の単一国家、この実現を――まあ石橋
君もそういうものが出現することをこれは希望しておられることだと思
います。私もそれを希望しておるのですが、今回の条約自身は、御承知
のように、北の部分についてはこの条約では何も取りきめてない。これ
は先ほど来のお話で非常に明らかになったと思う。私はしばしば申し上
げるのだが、北鮮の部分はこれは白紙でございます。今回そういうこと
については何ら取りきめをいたしておりませんということを申し上げて
おりますが、ただいまのお話から、もしも北と、それから韓国と、両方
を承認しろというような御議論でありますならば、それこそこの単一国
家の実現をはばむものじゃないか、私はそれを非常に心配する。だから
、ただいま単一国家の実現を心から願っておるというその立場におきま
して、どういう処置をとるのがいいのか、これが、ただいま言われるよ
うに、韓国を承認するのか、あるいは北を承認するのか、こういうこと
で石橋君の話も変わった結論になるのじゃないか、私はかように思いま
す。私どもが韓国を承認するという、これはもう最初から平和条約以来
ずっと交渉相手にしておる。ところが、北を承認した二十三ヵ国ですか
、これらの国々は、北を相手にして交渉して、そして韓国を相手にして
おらない。だから、この点をはっきり明確にしておかないと、ただいま
るる御説明になりましたが、私どもが南北の統一をはばむものでない、
このこととも関連のあるものでございますし、また、どういう立場にお
いて日本がただいまの韓国と交渉を持つか、また、北の部分についてど
ういう考え方を持っておるか、これの理解がなかなかいきにくいだろう
と、かように思いますので、よけいなことだったと思いますが、お答え
しておきます。
○石橋委員 私は、総理が南北の統一をほんとうに願うというならば、
この際、統一の方式などというものはあまり条件となさらないほうがい
いのじゃないかと思うのです。必ず国連方式ということをおっしゃるの
ですけれども、朝鮮の問題に関しては、国連は戦争の当事者なんです。
こういう条件のあることを念頭に置かれないと、国連方式で統一という
ことをしいることは、これは実現不可能ということにもなりかねぬわけ
です。だから、ほんとうに統一がいいのだ、希望しているのだというな
らば、国連方式などということを言わないで、話し合いによる平和的な
方法でやるならばいかなる方法でもいい、統一してもらいたいという気
持ちを持っている、こうお考えになりませんか。それならば一致します
。
○佐藤内閣総理大臣 残念ながら石橋君の御意見に同意するわけにまい
りません。私は国連を引き合いに出したと、かように申されるが、国連
こそはこの世界における唯一の平和機構でございます。だから、やはり
国連方式。また、国連自身が権威を持っておる。その立場から見ますと
、この国連方式というものは、ただ単に参考にすべきようなものでなし
に、これはやはり、これを採用するかしないかということは重大な問題
だ、かように私は思っております。
○石橋委員 これは、幾ら言っても、意見の違うということを総理おっ
しゃっているのですから、これ以上申しません。
そうしますと、今度の日韓会談、日韓条約、諸協定の成立というもの
は、決して軍事的な要素を持っておらぬという、そういう御説明に対し
て、私はお尋ねをいろいろしてみたいと思うのです。
まず第一に、これまた、韓国のほうではことごとに、反共体制の確立
、これができるのだということを言っております。これも私たくさんこ
こに控えてきておりますが、長くなりますから、韓日会談白書の一番最
後の結論のところだけ読みましょう。「韓日間の国交正常化は、単にわ
れわれにだけ関係のあることではなく、激動する国際情勢、とくに極東
における反共堡塁を強化するために是が非でも実現すべき命題であるこ
とにかんがみ、当事国である日本を初め、アメリカ、ひいてはドイツ等
の自由友邦諸国のこれに対する要請も高まっている。同時に韓日間の国
交正常化によって、韓、米、日の三角関係の連帯を強化して、国際的な
経済協力体制を促進させ、国家的には勝共統一のための自立経済体制の
確立と経済的繁栄を成就する基礎が築かれるということは、誰も否認出
来ない事実である。」、こういうふうに明確に言っております。国会に
おきます丁一権総理、李東元外務大臣、一貫してこういう立場をとって
説明をしておられます。反共堡塁、あるいは日本の経済援助によって韓
国の力が強くなって、勝共統一ができる、こういう考え方を韓国のほう
では終始主張し続けておるわけです。日本側では否定しておりますけれ
ども、向こうでは堂々と述べておりす。
とにかく、ここで言いたいことは、いま世界の焦点はアジアです、私
に言わせれば、ことしはアジアの年です。残念ながら、いい意味じゃな
いんです。世界じゅうの紛争がアジアであっちこっちで火をふいている
。まことに情けない状態ではございますが、そういう意味でのアジアの
年です。その危機は一体何が原因か。たどっていけば、結局アメリカと
中国というものが出てまいります。そして、このアメリカにつながる軍
事同盟を持った国として韓国が浮かび上がってきます。台湾が浮かび上
がってまいります。日本が浮かび上がってまいります。東の共産の側も
そういうことになります。この中でも特に、本来ならば一つの国である
べきところが大国の恣意によって不自然に分割されておるという部分が
最も危機的要素を多く持っております。朝鮮であり、ベトナムであり、
台湾です。非常に対立が激しい。その対立の激しいところで日本はどち
らを支持していますか。どちらと結んでおりますか。これはもう明々白
々です。対立する大きな二つの力の中にあって、日本は片一方の陣営の
アメリカと安保条約を結んでいるのです。韓国もアメリカと軍事条約を
結んでいるのです。台湾も結んでいるのです。この白書にもいわれてお
るように、ここで三つの国が軍事的にも結束を囲めることができた、こ
う言うのも決してゆえなきことではないかと私は思います。時間が急が
れておりますから、私は、その点では意見を述べるにとどめて、質問に
入ります。
八月十日の韓国の特別委員会におきまして、丁一権総理は、「韓国に
駐とんしている国連軍は国連決議によって派遣されており、また再び南
侵があるときには即時自動的に報復をしなければならない義務を持って
いる」こう述べておりますが、これは間違いない、こう判断されますか
。
○佐藤内閣総理大臣 いまのお尋ねになりましたことは、これは、国連
軍の韓国に駐留している目的が、南侵があればこれを守るということ、
こういうことだと思います。
ただ、先ほどの問題で、少し誤解を受けると困りますから、一言私は
、お尋ねではございませんが、お答えしておきたい。それは、いわゆる
反共体制ということばです。反共体制――なるほど私は共産党はきらい
なんだから、そういう意味で、いつも申し上げるように、日本の国は民
主主義で、そして自由主義で、この国をりっぱにするんだということを
いつも言っておる。だから、私は、そういう意味で反共だといわれるこ
とはたいへん光栄に思う。ただ、問題になりますのは、反共体制という
ことでなしに、反共軍事体制というのが問題なんです。軍事という二字
があるかないかでたいへん違ってくるのです。だから、国民自身は、先
ほど来言われる反共体制というそのことばの中に、軍事という、反共軍
事体制、こういうことに誤解をされないことを私は希望するのです。し
ばしば社会党の方は、いわゆる軍事的に入るんだ、かように言われます
が、それならば、諸君がしばしば主張するところの日本の憲法はどうな
さるのですか。日本の憲法は、はっきり、紛争を武力解決しないのだ、
戦争を放棄したんだ、こういうことをいっているじゃないですか。また
、自衛隊法は、はっきり自衛隊の目的というものを明確にしておる。こ
ういう法律があるにかかわらず、特に軍事体制、かようなことばを使わ
れることは――軍事体制は使われないが、それと開き間違うような、い
わゆる反共体制ということばで、そうしてこれを軍事体制に結びつけら
れることは、私はごめんこうむりたいのです。国民は十分この点を明確
にして理解してもらいたい。だから、同じように石橋君が習われるけれ
ども、私はそこは違っておる。私は共産党はきらいだけれども、いわゆ
る反共軍事体制、そういうものはつくっておらない。はっきり申し上げ
ます。
○石橋委員 それでは、いま私が丁一権総理のことばをそのまま用いま
して、このとおりかと言ったら、このとおりだとおっしゃったわけです
が、問題は、またそのあとにこういうのがあるのです。「日本が国連に
おける自由陣営国家の一員であるならば、国連軍のワクの中で、継続し
てこのような事態が到来するならば貢献するものと予想されます。」こ
ういうことを言っております。すなわち、再び南侵があったら、韓国に
おる国連軍は直ちに自動的に義務を果たす、その場合に日本は、国連支
持であり、自由主義陣営の一国であるから、この国連軍のワクの中で、
継続してこのような事態が到来するならば貢献するものと予想されると
言っておりますが、この点についてはいかがお考えですか。
○佐藤内閣総理大臣 いまの国連軍に協力するということが、軍事的に
のみ、あるいは派兵するとか、こういうように考えていらっしゃったら
、日本は憲法並びに自衛隊法でさようなことはございませんから、派兵
はいたさないということがわかるわけです。ただいま、国連に協力とい
うような意味では一体どうなのかということですが、いわゆる吉田・ア
チソン協定、覚え書きですか、交換公文、さらにまた、それを受けた岸
・ハーター交換公文というようなものがある。こういうことで、いわゆ
る軍事的な積極的な派兵というような問題ではございませんが、その他
の事柄におきまして、私どもが国連の目的遂行に容易なように協力する
ことはあり得る、かように理解していただきたいと思います。
○石橋委員 憲法があるから海外派兵なんかあり得ないとおっしゃいま
したが、従来の政府の説明を思い出していただきたいと思います。自衛
隊の海外派兵は憲法上できないけれども、国連軍として活動する場合は
別である、このように林法制局長官は答弁しておりますよ。また変わっ
たんですか。
○高辻政府委員 お答え申し上げます。
この国連軍の協力の問題でございますが、国連軍という場合にはいろ
いろな形のものがあることは御承知のとおりでありますが、武力の行使
にわたる面であれば、これはむろん憲法九条の容認するところでないこ
とは確かでございます。同時にまた、武力の行使の面に全くわたらない
という場合には、理論の問題としてはあり得ると思いますけれども、や
はり、南侵の場合にどうするというようなことになれば、これは武力の
行使を切り離しては考えられないと思いますので、先ほど総理が仰せに
なりましたように、憲法九条はこれを許さないということになると思い
ます。
○石橋委員 この点については、椎名外務大臣が、九月の二十三日、ニ
ューヨークの記者会見において、「平和維持のための国連活動に自衛隊
を海外に出すことをただいま検討中である」、こういうことを言ったと
いうのが日本の新聞には載ったんです。しかも、昭和三十五年の四月二
十八日の安保特別委員会におきまして、先ほど申し上げたように、林法
制局長官は、全然国連軍として自衛隊が出ていく場合は別問題だと言っ
ているんですよ。何だったら読んでみましょうか。当時の会議録の三二
ぺ−ジを開いてください。「かつて石橋委員にも私お答えしたことがご
ざいますが、いわゆる国連の決議あるいは国連軍あるいは国連警察軍と
いう問題と海外派兵という問題は、これはおのずから私は別問題だ、こ
れは私は可能だとは必ずしも申しませんけれども、いわゆる海外派兵の
問題とは別問題として考えるべき問題である、かように考えております
。」、はっきり言っていますよ。だから、全然封じられていないんです
、国連軍としての活動は。純然たる海外派兵というものと区分けして、
国連軍として自衛隊が動くという場合には何か幅があるんです。このこ
とだけは間違いないわけですね。これは私、総理大臣にお伺いしておき
ます。
○佐藤内閣総理大臣 先ほど来申し上げておるように、いわゆる法律論
が――あなた、法律的な議論をお聞きになりましても、これじゃなかな
か満足されぬのか知りませんが、それよりも、私ども、実際問題として
いかにこういう場合に処理するかということが政治家として一番大事な
ことなんです。私が先ほど来申し上げておるのは、法律論がどうあろう
と、また、先ほど来法制局長官も申しておりますように、いわゆる軍事
行動、戦闘行為はやらない、そういう場合はちょっと違うというような
議論で、私はだいぶん話が違うと思っておりますがね。
○石橋委員 瞬間を非常に急いでいるようですから、それじゃ、もう一
つお伺いします。
先ほど、南侵が始まったら自動的に在韓国連軍は報復行動を起こすと
おっしゃいましたが、その場合には戦場は朝鮮に限らぬということが国
連軍によって声明されておることを御承知でしょうね、総理大臣。
○佐藤内閣総理大臣 私はちょっとそれを記憶しておりませんので、事
務当局から説明させます。
○石橋委員 先ほど簡単にお認めになりましたけれども、非常に重要な
意味を持っているんです。私は北鮮のほうが南に侵入してくるかどうか
知りません。しかし、とにかく、そういう名目であろうと何であろうと
、北が南に侵入してきた、その場合は在韓国連軍は直ちに発動できるよ
うに、行動できるように、毎年、毎回国連決議をやっております。その
ことはお認めになりました。しかも、その場合は戦場は朝鮮半島に限ら
ぬぞということを国連軍は言明しているのですよ。外務大臣、知ってい
ますか。防衛庁長官、知っておりますか。これほどの重要なことをだれ
も知らないとは言えないはずです。知っている方はひとつお答えくださ
い。
○椎名国務大臣 どこでどういうふうにきまっているのか、私は知りま
せん。
○石橋委員 かくも重要なことを知らないでは、朝鮮問題に対処できな
いんです。それでは紹介いたします。これは、朝鮮戦争が、休戦協定が
結ばれて停戦になりました。そのときに、当時朝鮮に派兵をいたしまし
た十六ヵ国がワシントンにおきまして共同政策宣言を発表しているわけ
です。一九五三年七月二十七日のことであります。朝鮮休戦に関する十
六ヵ国の共同政策宣言、私はここに持っていますけれども、時間をとり
ますから主要な部分についてのみ読み上げますと「われわれは、国際連
合の原則に挑戦する武力攻撃が再発する場合には、世界平和のために再
び団結し、急速にこれに対抗することを確認する。このような休戦協定
の違反は重大な結果を招くものであるゆえに、戦闘行為を朝鮮国境内に
同根することは不可能となろう。」こういう声明をしているんですよ。
しかも、だれも知らないんです。すなわち、今度朝鮮で戦争が起きるよ
うなことになったならば、朝鮮から越えて中国の中に入っていく。休戦
のそのときに共同宣言をやっているんです。これほど重要な問題だとい
うことを、これこそ念頭に置いておいてください。こんなことも知らな
いで、簡単に、南侵があれば在韓国連軍が動くのは当然です、日本もあ
る程度の協力をするのは当然です、そんなことを言うから国民が心配す
るんですよ。
○椎名国務大臣 ただ、具体的にどこでどういうふうにきまったかとい
うことは知りませんでしたが、いまお読みになったことはここにありま
すが、これは当然のことだろうと思う。世界の、この極東の平和という
ものが脅かされる場合には、これに有効に対処するということは当然の
ことだと思います。
○石橋委員 今度あなた方の言う北鮮が南侵してきたら、国連軍が直ち
にこれに対抗する、そのときは朝鮮国境を越えて中国に行くのが当然だ
という。ほんとうですか。
○椎名国務大臣 まあ、そういう場合には、戦局が発展して、この地域
だけの軍事行動では済まされなくなるかもしらぬという政治的な見解を
ここに示しておるのである。でありますから、相手の出方がおとなしけ
れば適当にやる。それから、なお平和と安全が脅威されるならば、それ
に対して有効な方法をとるということになるのであります。ただ、この
場合は、あくまで防衛的な態度でこの問題を論じておる。
○石橋委員 この点について、鹿島守之助さんが訳した「アメリカと極
東」という書籍の中に、シャノン・マキューンが解説をした文がありま
す。そこにもはっきりと、戦争は朝鮮半島から中国本土にまで拡大する
ことになる、そういう意味だという解説が加わっておるということを申
し添えておきます。
それでは、次に最後の質問をいたします。韓国では、軍隊を出動して
デモを鎮圧し、言論を封殺し、そして国会においては憲法違反の単独採
決をやって、この条約、諸協定の批准を強行いたしました。日本におき
ましても、十月十二日のデモに対する警察官の態度などというものは、
はるかに警備の限界を越えておるということが問題になりました。私は
、ここで重大な警告をしておきたいと思います。
〔発言する者多し〕
○安藤委員長 御静粛に願います。
○石橋委員 警察は、中立公正、不偏不党、こういう立場を貫いていか
なくちゃならない、これはもう厳然たることだと思うのです。警察法の
第二条第二項を引き合いに出すまでもなく、第三条を引き合いに出すま
でもなく、不偏不党、公平中正ということは、これは警察の生命だと私
は思います。この警察が、生命ともいうべき中立性を放棄して、特定の
政党に奉仕して走狗となり下がるようなことがあったら、たいへんだと
私は思います。そういう意味合いにおきまして、これからもデモなどが
盛んに行なわれるわけですけれども、厳正中正な立場で警察は行動をし
ておるし、今後もするということを、国家公安委員長は言明できますか
。
○永山国務大臣 厳正公平に、中正に、不偏不党でやる考えでございま
す。
○石橋委員 それでは、警察官が警察の組織を利用いたしまして特定の
政党のために働いたという事実があった場合には、所定の手続をとって
厳重に措置をすると確約できますか。
○永山国務大臣 警察官の行為に不当なることがありましたときには、
厳重に処断をいたします。
第050回国会 参議院本会議 第8号 昭和四十年十一月十九日(金曜日)
午前十時五十六分開議
議員 草葉 隆圓
外務大臣 椎名 悦三郎
議員 森 元治郎
○草葉隆圓君
次に、請求権及び経済協力に関する問題でございます。本協定により
まして、わが国は将来十年にわたって、無償三億ドル、有償二億ドルに
相当する生産物及び役務を提供することになっておりまするが、これは
賠償の性質を有するものであるかどうか。また、請求権問題の処理と全
く無関係であると言い切り得るものであるかどうか。この点、外務大臣
の御答弁を伺いたいのであります。
また、本協定第二条によりまして、在韓日本財産の喪失はおおよそい
かほどであるか。そのうち、日本人の私有財産に対して、幾らかの補償
なり見舞いをなすことが適当であると考えられまするが、これは財政の
許す範囲内において、政府は今後これを考える意思があるかどうか。こ
の点は慎重に御検討をいただいて、御答弁を願いたいと存じます。
○国務大臣(椎名悦三郎君)
それから、請求権の問題と経済協力、これは、日本の対朝鮮請求権は
、軍令及び平和条約等のいきさつを経て、もはや日本としては主張し得
ないことになっておりますが、反対に、韓国側の対日請求権、この問題
について、この日韓会談の当初において、いろいろ両国の間に意見の開
陳が行なわれたのでありますけれども、何せ非常に時間がたっておるし
、その間に朝鮮動乱というものがある。で、法的根拠についての議論が
なかなか一致しない。それから、これを立証する事実関係というものが
ほとんど追及ができないという状況になりまして、これを一切もうあき
らめる。そうして、それと並行して、無償三億、有償二億、この経済協
力という問題が出てまいりました。何か、請求権が経済協力という形に
変わったというような考え方を持ち、したがって、経済協力というのは
純然たる経済協力でなくて、これは賠償の意味を持っておるものだとい
うように解釈する人があるのでありますが、法律上は、何らこの間に関
係はございません。あくまで有償・無償五億ドルのこの経済協力は、経
済協力でありまして、これに対して日本も、韓国の経済が繁栄するよう
に、そういう気持ちを持って、また、新しい国の出発を祝うという点に
おいて、この経済協力を認めたのでございます。合意したのでございま
す。その間に何ら関係ございません。英国であるとかフランスなんか、
旧領地を解放して、そうして新しい独立国が生まれた際にも、やはり、
この経済的な前途を支持する、あるいは新しい国家の誕生を祝う、こう
いう意味において相当な経済協力をしておる。その例と全然同じであり
ます。
○森元治郎君
次に、請求権、経済協力について伺います。
平和条約四条にちなんだ請求権の解決は、結局どんぶり勘定八億ドル
という経済協力に変わってしまったことは事実であります。条約に規定
したこの請求権解決の方法というのは一体どこへ飛んでいってしまった
のか。また、この八億ドルの積算の根拠は何か。韓国が日本に出してき
た対日請求八項目は、政府の計算でもせいぜい五千万ドルとはじいてお
ります。それが八億ドルにふくれ上がったのは驚きます。大蔵省、外務
省が試算するという五千ドルの根拠と八項目の内容を説明してもらいた
い。李承晩大統領が出した七十億ドルの対日請求権の要求は別としても
、韓国は大体これ一まで六−八億ドルの線で日本に要求をしております
。妥結したところを見ると、ちょうど向こうの数字にぴったり合うので
あります。ですから、これはほんとうのつかみ金、どんぶり勘定と見な
ければなりません。日本側も、個人の請求権はだんだん額を上げて、五
千万ドルぐらいあると、当時小坂外相が主張したことがあるらしい。こ
こに双方の要求額を、日韓交渉以来のものを順序をつけて明らかにして
もらいたいのであります。何年度はこっちは何千万ドル、向こうが幾ら
。ことに、韓国が二十八年ごろ、終戦時の評価で九十億円から百二十億
円の対日請求権があると言っていたのに対し、三十六年から八年の間に
八億ドルにはね上がってきたのは、どういうところをなめられたのか、
これらを明らかにするのが国民に対する政府の義務であります。
アメリカは、三十億ドル以上の経済協力を韓国につぎ込んでいます。
たいていの国は、援助というものがありますると、みな立ち直っていま
す。それがなぜできないのかというと、韓国がいたずらに反共を唱えて
軍事に狂奔し、アメリカの援助政策もまた軍事中心であったために、経
済の基盤が今日までとうとう固まっていないのであります。この誤った
考え方の根本を是正して平和共存の方針に切りかえなければ、このわれ
われの経済協力は、いっときのささえにしかなりません。日本の財界、
産業界は、不況打開のため韓国進出にしのぎを削っております。そして
安い労働力に目をつけております。韓国ではこの動きを日本の経済侵略
と見ている者が多く、一歩間違えば国交開始前よりももっとひどい状況
になります。この面からも条約締結はやめるべしと思うが、外務大臣の
見解を伺います。
政府は、北朝鮮に対する請求権が残ると言っております。残るのはあ
たりまえであります。日本は平和条約上、全朝鮮と請求権を処理すべき
義務があるからであります。北鮮政府とは、いつ交渉をやるのか。双方
の請求権はどのくらい残っているか、試算をしたものが当然あるはずで
ありますから、明らかにしてもらいたい。
なお、個人の財産請求権の保障については、再再政府から、審議会の
答申を尊重するというお話がありますが、この尊重するということは、
必ず実行する――お金が大きくちゃ、たまげちまう。そうでなくて、実
行してやるのだという御決心があるかどうか、承りたい。
これで終わりますが、これを要するに、この条約は、いろいろな面で
、将棋でいう詰めがなされていない。食い違いが多い。条約交渉の中間
報告といったような内容のものであります。基本条約と称せるものでは
ありません。妥協の産物たる条約でありまするから、これが実施された
暁には、条約締結の心組みの違いというものが、在日朝鮮人の法的地位
や待遇の問題に加えて、ことごとく日本にはね返ってまいることは必至
であります。もし、この条約がほんとうによいものであるならば、日本
におる朝鮮人がみな韓国籍になだれ込んで入っていくだろうと思います
。しかし、約六十万の在日朝鮮人のうち、韓国籍が依然二十万、あとの
北鮮系、中立系その他の朝鮮の人々は四十万――動かないのであります
。このことが、どういう条約であるかをりっぱに証拠立てているものと
思います。
私は、最後に、この条約はせっかく椎名さんが御苦心しておつけにな
ったが、もはや無効である、こう信じて私は終わります。(拍手)
○国務大臣(椎名悦三郎君)
それから請求権の問題に関して、請求権の行くえはどうなったか――
八項目の提示がありましたけれども、それを追及するということは、ほ
とんどもう不可能である。ということは、法的根拠なり、あるいは事実
関係というものがはっきりしなければならぬ。ところが、もう朝鮮事変
がその間に起こっているし、年月もたっている。それから、両者の法的
根拠に対する見解の相違というものは非常に著しいものがあり、これを
追及するということは、ほとんどもう百年河清を待つようなことになり
ますので、これをやめて、そうして経済協力一本でいくということにな
ったのでございますが、これは、請求権のかわりに経済協力をやるとい
うのではない。これはあくまで、新しい国をつくったから、そのお祝い
、それから、韓国が今後経済発展の上において少なくとも絶対に必要で
あろうという点を十分に勘案し、わが国の財政事情も十分に考えた上で
、有償二億、無償三億ドルというものが決定したのであります。これは
、イギリスあるいはフランスが、旧属領が独立して国をつくる場合に、
よくこういう手をやったのであります。これは私は、旧宗主国の当然の
義務、責任であろう、かようにまあ考えておる次第でございます。
以上が私の申し上げる点でございます。(拍手)
第120回国会 衆議院予算委員会 第16号 平成三年二月二十二日(金曜
日)
外務省条約局長 柳井 俊二
○柳井政府委員 ただいま御指摘の日韓請求権・経済協力協定でござい
ますが、御案内のとおり、この協定の第二条におきまして日韓両国及び
両国間の請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたということが確認
されておるわけでございます。そしてこの第二条の規定、もう少し詳し
い規定がございますが今ちょっとそれは省かせていただきますが、いず
れにいたしましてもこの第二条の規定は国民という点に、国籍に着目し
ているわけでございます。したがいまして、この協定及びこの協定を受
けまして、我が国では韓国の方々の請求権、財産請求権の問題を法律で
処理しております、消滅させておりますが、一定の例外はございますけ
れども、原則的には消滅をさせております。このような処理は、もしサ
ハリンに残留された方々の中で韓国籍をお持ちである方々があれば、そ
の方々にも、この協定と法律の適用があるということでございます。
○柳井政府委員 先ほど御説明申し上げましたのは、もし韓国籍の方々
がおられればという全く理論的なことでございますが、もし逆に韓国籍
の方方が全くおられないという状況で、ただいま先生がお話しになった
ようなことが恐らく実態だろうと思いますが、その場合には日韓請求権
・経済協力協定に基づく処理はサハリンの方々には及ばないということ
になるわけでございます。
御案内のとおり北朝鮮籍の方々の財産請求権の問題につきましては、
いまだ処理がなされていないわけでございまして、最近始められました
日朝国交正常化交渉の中で北朝鮮側と話し合っていくということになろ
うと思います。
第120回国会 参議院予算委員会 第15号 平成三年四月四日(木曜日)
外務省条約局長 柳井 俊
○政府委員(柳井俊二君) お答え申し上げます。
一つお断りいたしたいのでございますけれども、御質問の通告をいた
だきましてから韓国側にこの正文の確認をする時間がなかったものです
から、私とりあえず手持ちの仮訳に基づいて御説明させていただきたい
と思います。
ただいま御指摘の法律は一九七一年に公布されたものでございまして
、その第二条におきましてこの請求権申告の対象の範囲を規定している
わけでございます。二つの面から規定しております。第一点は人的な範
囲でございまして、第二点はこの請求の権利の範囲でございます。
まず、人的な範囲につきましてはこの第二条第一項におきまして、こ
の法律の規定による申告対象の範囲は、一九四七年八月十五日から一九
六五年六月二十二日まで日本国に居住したことのある者を除いた大韓民
国国民となっております。
次に、権利の範囲でございますが、そのような大韓民国国民が一九四
五年八月十五日以前、その後括弧はちょっと飛ばさせていただきますが
、八月十五日以前に日本国及び日本国民に対して有していた請求権等で
次の各号に掲げるものとするとございまして、次の各号というのが第一
号から九号までございます。そこで、一号から八号までは、例えば日本
銀行券でございますとかあるいは有価証券、預金、海外送金、寄託金、
保険金というようなものを挙げまして、九号のところで、日本国によっ
て軍人軍属または労務者として召集または徴用され一九四五年八月十五
日以前に死亡した者というものを挙げているわけでございます。
したがいまして、この法律におきましては、私、外国の法律でござい
ますから有権解釈はできませんけれども、少なくとも文理上はいわゆる
在日韓国人の方々は除かれておりまして、そして請求の権利の対象とい
う面におきましては、この九号におきまして四五年八月十五日以前に亡
くなった方だけが対象になっておりますので、一九四七年以降日本に居
住した在日韓国人というのはこの面でも落ちているわけでございます。
なお、具体的なことは別途また大統領令において定められております
。
○政府委員(柳井俊二君) いわゆる韓国との請求権・経済協力協定の
規定との関係でございますが、もとよりこの協定の方は日韓間の条約で
ございますので、韓国側の国内法とは趣旨、目的等において若干の相違
がございますので、この規定の表現ぶりが完全に一致するというもので
はないわけでございます。
ただ、ただいま御指摘の点につきましては、御案内のようにこの協定
の第二条におきまして、この括弧書き的なところはちょっと飛ばさせて
いただきますが、一項で「両締約国は、両締約国及びその国民の財産、
権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が
、」「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」と規
定しておりまして、第三項で、長くなりますから省きますが、要するに
、この財産、権利、利益につきましては、お互いに他方の締約国の管轄
下にあるものに対してとられた措置についてはいかなる主張もしない。
また、財産、権利、利益に当たらないような請求権につきましては、同
日、同日というのはこの協定の署名の日、署名の日以前に生じた事由に
基づくものに関してはいかなる主張もすることができない。いわゆる請
求権放棄という形で処理をしているわけでございます。
ただ、第二条の第二項におきましてそのような処理の例外というもの
が二つ挙げてございまして、ただいま御議論をされておられます在日韓
国人に直接関係ございますのは二項の(a)というところでございます
。二項の(a)は「一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日か
らこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるも
のの財産、権利及び利益」というふうに挙げてございまして、こういう
ものについては第二条の一項、一項は最終的な解決でございますから適
用があるといえばあるのでございますが、三項のようないわゆる請求権
放棄あるいは国内措置に対する請求権の放棄というものは適用がない、
そういう例外になっておるということでございまして、この部分の表現
は確かに対日民間請求権申告に関する法律の先ほど読み上げました表現
と一致しているわけでございます。
第121回国会 参議院予算委員会 第3号 平成三年八月二十七日(火曜日
)
外務省アジア局長 谷野作太郎
外務省条約局長 柳井 俊二
○政府委員(谷野作太郎君) 個々のケースによって当事者の方々のお
気持ち等は異なるのではないかと思います。一概に私の方から御説明す
る資料もございませんけれども、他方、いずれにいたしましても、先生
も御存じのとおりでございますが、政府と政府との関係におきましては
、国会等でもたびたびお答え申し上げておりますように、六五年の日韓
間の交渉をもってこれらの問題は国と国との間では完全にかつ最終的に
決着しておるという立場をとっておるわけでございます。
○政府委員(谷野作太郎君) 先ほど申し上げたことの繰り返しになり
ますが、政府と政府との間におきましてはこの問題は決着済みという立
場でございます。
○政府委員(柳井俊二君) ただいまアジア局長から御答弁申し上げた
ことに尽きると思いますけれども、あえて私の方から若干補足させてい
ただきますと、先生御承知のとおり、いわゆる日韓請求権協定におきま
して両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます
。
その意味するところでございますが、日韓両国間において存在してお
りましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでござい
ますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権
を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる
個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではご
ざいません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取
り上げることはできない、こういう意味でございます。
第121回国会 参議院外務委員会 第2号 平成三年九月五日(木曜日)
外務省条約局長 柳井 俊二
外務省アジア局長 谷野作太郎
○政府委員(柳井俊二君) ただいまの一九一〇年の条約についての御
指摘でございますけれども、日朝国交正常化交渉におきまして北朝鮮側
はこの条約、いわゆる日韓併合条約でございますが、これは強制を背景
に締結されたものであって当初より無効であるというような主張をして
いるわけでございます。
日本政府といたしましては、従来からいろいろな機会に御答弁申し上
げておりますとおり、この条約は一九六五年の日韓基本関係条約第二条
によりまして「もはや無効である」ということが確認されておるわけで
ございますが、一九一〇年の当時には有効に締結され実施されたもので
あるという考え方をどってきているわけでございます。ただ、このよう
な法的な評価の問題それからこの条約が締結されました当時の政治的そ
の他の背景とは別の問題であるというふうに考えておる次第でございま
す。
○政府委員(柳井俊二君) ただいま田先生から御指摘ございましたよ
うに、サンフランシスコ平和条約第二条には御指摘のような規定がある
わけでございます。この規定、第二条でございますが、これは御承知の
とおり領土の処理にかかわる規定でございまして、したがいましてこの
第二条で用いられておりますいわゆる請求権は最近問題になっておりま
す財産権的な請求権という意味ではございませんで、領土の領有関係の
主張にかかわる概念であるというふうに解しております。
他方、我が国と分離独立いたしました地域との間の財産・請求権の問
題の処理につきましては、サンフランシスコ平和条約ではむしろ第四条
の(a)項におきまして、日本国と現にこれらの地域の施政を行ってい
る当局との間の特別取り決めの主題とするという規定がございます。そ
のような規定に基づきまして、日韓におきましては御承知の一九六五年
のいわゆる日韓請求権・経済協力協定によりましてこの問題を完全かつ
最終的に解決したということでございます。
○政府委員(柳井俊二君) この点につきましても、ただいま田先生か
ら御指摘ございましたとおり、平和条約第四条(b)におきましては、
「日本国は、第二条及び第三条」、第三条はこの場合関係ございません
けれども、「に掲げる地域のいずれかにある合衆国軍政府により、又は
その指令に従って行われた日本国及びその国民の財産の処理の効力を承
認する」という規定があるわけでございます。したがいまして、これは
合衆国軍政府のとった措置を承認するということにとどまるわけでござ
いまして、北朝鮮におきましてのこのような処理というものはなかった
と思いますので、この北朝鮮におきましての財産の問題というのはこれ
とは基本的に別個の問題であるというふうに考えております。
北朝鮮におきまして我が国の財産等がどのように処理されたかという
ことの詳細につきましては。残念ながらよくわからない点が多いわけで
ございますが、ただ私ども承知している限りにおきましては、北朝鮮に
おきましていわゆる北朝鮮臨時人民委員会が一九四六年三月五日の北朝
鮮土地改革に関する法令というものによりまして、日本国、日本人及び
日本人団体の所有地を没収いたしまして、一九四六年八月十日の産業、
交通・運輸、逓信、銀行等の国有化に関する法令というもので日本国及
び日本人所有の施設を国有化したというふうに承知しております。なお
、一九四八年の九月八日に交付されました朝鮮民主主義人民共和国憲法
におきましても、日本国及び日本人の財産は国家、すなわち北朝鮮でご
ざいますが、の所有に属するとされておりまして、日本国及び日本人の
土地所有は永久に廃止されるというふうに規定されているものと承知し
ております。
いずれにいたしましても、我が国と北朝鮮との間におきましては両国
及び両国国民間の財産・請求権の問題は未解決のままで残っているわけ
でございますので、今後日朝国交正常化交渉の場でこの問題を解決して
いきたいというふうに考えているわけでございます。
○政府委員(柳井俊二君) ただいまの点は、先ほどもサンフランシス
コ平和条約に触れましたときに日本側の財産・請求権というものもこの
規定の対象になっていることを申し上げましたけれども、これはいろい
ろな戦後の請求権処理の問題で常に問題になってきたところでございま
すが、北朝鮮との関係につきましても、我が国が置いてきた財産の処理
という問題についての請求権というものはこれは交渉の対象になる問題
であるというふうに考えております。
○政府委員(谷野作太郎君) 北朝鮮側の主張は、いわゆる日本の統治
時代の人的な被害あるいは物的な損害、こういうものを賠償という形で
補償せよ、こういうことでございまして、私どもの立場は先ほど来条約
局長が申し上げているところでございますが、いずれにいたしましても
、そういった個別の先方からの請求に対しましてはやはり私どもといた
しましても客観的な事実をまず御開示いただきたい。帳簿を見せろとい
うことは言っていないと私は思います。必ずしもそういう具体的な表現
ではなかったとは思いますけれども、具体的な積算根拠を政府に示して
いただきたいという議論を始めております。
大臣が冒頭申し上げましたように、そういうことも含めて第四回目で
ようやくそういった具体的な論議を始めたということでございます。
○政府委員(柳井俊二君) ただいま御指摘の日韓基本関係条約の第三
条でございますが、第三条におきましては、御承知のとおり、「大韓民
国政府は、国際連合総会決議第百九十五号に明らかに示されているとお
りの朝鮮にある唯一の合法的な政府であることが確認される」というふ
うにうたっているわけでございます。そして、第三回総会で採択されま
したこの百九十五号の決議の前文に当たりますが第二項のところで申し
ておりますことは、単に唯一の合法的な政府と言っているだけではござ
いませんで、この総会が認識したところの政府というものにつきまして
いろいろなことを言っているわけでございます。
例えば、この大韓民国政府が全朝鮮の人民の大多数が居住している朝
鮮の部分に対して有効な支配及び管轄権を及ぼしている合法的な政府で
あるということでございますとか、また朝鮮のその部分の選挙民の自由
意思の有効な表明があったというようなこと、さらに当時設立されまし
た臨時委員会が観察した選挙に基づくものであるというようなこと、並
びにこの政府が朝鮮における唯一のこの種の政府であることを宣言すと
いうふうに言っているわけでございます。したがいまして、これを受け
まして基本関係条約で貝先ほど申し上げましたように、国連総会決議に
明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府という認
識を言っているわけでございます。
結論的には、北半分につきましては白紙であるという立場をとってい
るということでございます。
○政府委員(柳井俊二君) このたび北朝鮮と韓国双方が国連に加盟す
るということになれば、当然これは国連憲章に言う加盟の資格が認めら
れるということになるわけでございます。
他方、いわゆる朝鮮国連軍につきましては、ただいま田先生からも御
指摘がございましたように、当時ソ連の安保理欠席というような背景も
ございましたけれども、いずれにいたしましてもその拒否権が発動され
なかったために実現されたという経緯があったことは事実でございます
。そして、国連憲章との関係で言いますれば、この国連軍いわゆる朝鮮
国連軍の設立というものは国連憲章四十二条に基づくものではございま
せんで、いわゆる強制的な措置というものではございませんで、安保理
の勧告に対しまして加盟国が自発的に応じて編成されたものでございま
す。
このようにして編成され現に存在するいわゆる朝鮮国連軍の位置づけ
がどのようなものになるかということは、今後の朝鮮半島におきます南
北間の対話、そして軍事的な意味での均衡の問題、また軍縮の問題、そ
のようなものと総合的にあわせまして検討されていくものであろうとい
うふうに考えます。
いずれにいたしましても、これまでこのような国連軍の存在、そして
板門店におけるいろいろな接触というものが朝鮮半島の安定の維持に一
定の役割を果たしてきたということは言えるのではないかと思います。
第122回国会 衆議院国際平和協力等に関する特別委員会 第9号 平成
三年十二月二日(月曜日)
外務省アジア局長 谷野作太郎
外務省条約局長 柳井 俊二
○谷野政府委員 お答え申し上げます。
戦後の補償、賠償と申します場合に二とおりのことがあろうかと思い
ますが、一つは日本と交戦関係にあった東南アジアの国々でございます
が、これらにつきましては、戦後、法的な措置をとりまして、条約のも
とに逐一賠償を払って、それによって決着したということは先生御承知
のとおりでございます。もう一つは、日本から分離してまいりましたい
わゆる朝鮮半島等でございますが、これも先生御案内のように、長い交
渉の末に六五年、請求権の形でずっと議論をいたしましたけれども、結
局最終的には経済協力の供与ということでこれを決着いたしました。た
だいま、したがいまして残っております北側、北朝鮮との関係におきま
して同じような請求権の問題を今鋭意先方政府と交渉中であるというこ
とでございます。
○谷野政府委員 ただいま御答弁申し上げましたようなことで、多くの
国との間には、国と国との関係におきましてはこの問題はすべて決着済
みということでございます。他方、例えば韓国のようなところで民間の
間で補償を求める声が起こっておることは私ども承知いたしております
けれども、国と国との関係におきましては、この補償の問題というのは
すべて六五年の協定において決着済みというのが私どもの理解でござい
ます。
○柳井政府委員 お答え申し上げます。
ただいま先生から日韓あるいは日ソの間におけるいわゆる請求権の処
理の問題についてお触れになりました。また、中国との関係についても
御指摘がございましたが、いずれにいたしましても、例えば日韓請求権
・経済協力協定におきましては、両国間の問題といたしましては、先ほ
どアジア局長から答弁ございましたように、国家及び国民の請求権の問
題は「完全かつ最終的に解決された」というふうに規定しているところ
でございます。また、日ソにつきましても、一九五六年の日ソ共同宣言
におきまして、これは具体的には第六項でございますけれども、「日本
国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五年八月九日以来
の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ
他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄
する。」というふうに規定しているわけでございます。他方、中国につ
きましては、これは御案内のとおり、日中の国交正常化をいたしました
際に、中国の方から「戦争賠償の請求を放棄する」ということを宣言し
ているわけでございます。これも御案内のとおりでございますが、日中
共同声明の第五項におきまして、「中華人民共和国政府は、中日両国国
民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣
言する。」というふうに規定しているわけでございます。
第122回国会 参議院国際平和協力等に関する特別委員会 第3号 平成
三年十二月五日(木曜日)
外務省条約局長 柳井 俊二
委員 矢田部 理
○政府委員(柳井俊二君) 総理、外務大臣から御答弁あると思います
が、私の方から手短に御答弁を差し上げたいと思います。
矢田部先生もよく御承知のとおり、国連憲章におきましては、国際の
平和の維持のために大きく分けまして二つの方法が規定されているわけ
でございます。第一はいわゆる平和的解決でございまして、これは交渉
とか調停その他でございます。もう一つはいわゆる強制的な解決でござ
いまして、平和的な解決が不幸にして功を奏しなかった、そして侵略が
あった、あるいは平和が破壊されたという場合には、この憲章上の考え
では、国連軍というものを創設いたしまして、それによってそういう侵
略を実力をもって排除する、そういう考え方でございます。
ただ、現実の問題といたしましては、まだ国連軍は創設されていない
、こういうことでございます。
○矢田部理君 その解釈は間違っています。これも政府見解とも違う。
国家間では、日韓交渉とか日中交渉もそうでありますが、なかなかそ
ういう個別の被害者の積み上げで具体的積み上げをしてまとめるのは難
しいということで、日韓などでは、つかみでまとまったお金を差し上げ
て一応国家レベルでは処理をした経緯があります。しかし、個人と国家
との関係はそれで終わったわけではない。わかりますか。個人の請求権
を国内法的な意味で消滅をさせたものではない。
例えば日韓請求権協定。日韓両国が国家として持っている外交保護権
を相互に放棄はしたけれども、個人の請求権そのものを国内法的な意味
で消滅させたものではない。したがって、請求権が残っているというの
が日本政府の立場なんです。それはお認めになりますか。
○政府委員(柳井俊二君) 政府間で今までいろいろな取り決めをして
おりますけれども、そのいわゆる請求権の放棄の意味するところは外交
保護権の放棄であるという点につきましては、先生仰せのとおりであり
ます。したがいまして、例えば韓国政府が韓国の国民の請求権につきま
して政府として我が国政府に問題を持ち出すということはできない、こ
ういうことでございます。
ただ、個人の請求権が国内法的な意味で消滅していないということも
仰せのとおりでございます。
○政府委員(柳井俊二君) 条約上の処理につきましては、先ほど申し
上げたとおりでございますが、ただ我が国が賠償あるいは請求権の処理
に関連して支払いましたものを相手側でどのように国民に分配するかと
いうことは、それぞれ韓国なりあるいはその他の条約の相手国の国内的
な処理に任されたわけでございます。
したがいまして、我が国との関係で政府間でいわゆる請求権の放棄を
やったと申しましても、一切処理をしなかったということではございま
せんで、例えば韓国の場合では無償三億ドル、有償二億ドルだったと記
憶しておりますけれども、これを請求権、経済協力という形で支払った
、そして恐らくその一部が関係の個人にも韓国側で支払われたというふ
うに記憶しております。また、ほかの国につきましてもそのような関係
だったわけでございます。
しからば、そういうような処理をした上で、なおかつ日本の占領中あ
るいは戦争中に大変に苦労をされた方々がおられるわけでございますか
ら、その方々の個人個人に対して政策的にどのような補償をすべきかど
うか、そういう点につきましてはちょっと私の所管ではございませんの
で、その点は差し控えさせていただきたいと思いますが、法律的な関係
あるいは条約上の関係につきましては以上申し上げたとおりでございま
す。
第122回国会 参議院予算委員会 第3号 平成三年十二月十三日(金曜日
)
外務省アジア局長 谷野作太郎
外務省条約局長 柳井 俊二
委員 上田耕一郎
外務省欧亜局長 兵藤 長雄
内閣総理大臣 宮澤 喜一
○政府委員(谷野作太郎君) お答え申し上げます。
お尋ねの件につきましては、いろいろな数字が日本国内あるいは中国
なら中国側においてあるわけでございまして、政府としてこのような場
で有権的に申し上げ得る数字はないわけでございますけれども、一、二
例どういう数字が記載されておるかということでお聞き取りいただきた
いと思います。
例えば、日本の高校の教科書等には、中国においては約一千万人、フ
ィリピン等では約百万人、インドネシア、ベトナム等ではそれぞれ二百
万人という数字が記載されておるのを私ども承知いたしております。そ
れから他方、最近の人民日報等の報道によりますと、中国のある学者の
方は、日中戦争で犠牲になった中国の方の数字は二千万人というような
数字もございます。
いずれにいたしましても、いろいろな数字がございまして、遺憾なが
ら政府としてこういう場で確定的に申し上げる数字は、何せ戦争の混乱
中のことでございますから、ございません。御理解いただきたいと思い
ます。
○政府委員(谷野作太郎君) お答え申し上げます。
まず、冒頭に申し上げなければならないことは、詳細は時間の関係で
省きますものの、累次御答弁いたしておりますように、国と国との関係
におきましては、そのようなことは既に多くの場合決着済みであるとい
うことをまず申し上げたいと思います。
その上で、ただいま仰せのような先方からの要求、要請が日本の外務
省を通じて日本の政府に提起されておることも中国の場合は事実でござ
いますし、例えば先ほどちょっと言及いたしました中国の歴史学者の方
によれば、日中戦争によって損失した中国側の財産は約一千億ドルに上
るというようなこともございます。他方、中国とは別に、先生も御存じ
のとおりでございますが、補償要求ということになりますと、朝鮮半島
との関係で日本の法廷に、地方裁判所に、例えばサハリンに残留された
韓国・朝鮮人の方々の補償要求ということで既に提訴がされております
し、また最近の事例では、昨日も本委員会で御議論がありましたいわゆ
る従軍慰安婦の方々からの訴訟が提起されておるような状況でございま
す。
○政府委員(柳井俊二君) 官房長官からお答えがある前に私の方から
、これまでのいわゆる請求権の処理の状況につきまして簡単に整理した
形で御答弁申し上げたいと存じます。
御承知のように、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定の二条一項
におきましては、日韓両国及び両国国民間の財産・請求権の問題が完全
かつ最終的に解決したことを確認しておりまして、またその第三項にお
きましては、いわゆる請求権放棄についても規定しているわけでござい
ます。これらの規定は、両国国民間の財産・請求権問題につきましては
、日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄したことを
確認するものでございまして、いわゆる個人の財産・請求権そのものを
国内法的な意味で消滅させるものではないということは今までも御答弁
申し上げたとおりでございます。これはいわゆる条約上の処理の問題で
ございます。また、日韓のみならず、ほかの国との関係におきましても
同様の処理を条約上行ったということは御案内のとおりでございます。
他方、日韓の協定におきましては、その二条三項におきまして、一方
の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって同協定の署名の日
に他方の締約国の管轄のもとにあるものに対してとられる措置につきま
しては、今後いかなる主張もなし得ないというふうに規定しております
。この規定を受けまして、我が国は、韓国及び韓国国民のこのような財
産、権利及び利益、これはいわゆる法律上の根拠ある実体的権利である
というふうに両国間で了解されておりますが、そのようなものにつきま
して国内法を制定いたしまして処理したわけでございます。その法律に
おきましては、韓国または韓国国民の日本国または日本国国民に対する
一定の財産権を消滅させる措置をとっているわけでございます。
なお、いわゆる請求権という用語はいろいろな条約でいろいろな意味
に使われておりますが、この日韓の請求権・経済協力協定における請求
権と申しますものは、実体的な権利でない、いわゆるクレームとよく言
っておりますが、そのようなクレームを提起する地位を意味するもので
ございますので、当時国内法で特に処理する問題がなくしたがって国内
法を制定することはしなかったわけでございます。ただ、これはいわゆ
る請求権の問題が未処理であるということではございません。
以上にかんがみまして、このようないわゆるクレームの問題に関しま
しては、個人がこのようなクレームについて何らかの主張をなし、ある
いは裁判所に訴えを提起するということまでも妨げるものではないわけ
でございますが、先ほどアジア局長からも答弁申し上げましたように、
国家間の問題としては外交的には取り上げることはできないということ
でございます。
以上が日韓間のいわゆる財産・請求権問題の処理の状況でございます
。
○上田耕一郎君 柳井局長が言われたように、国と国との間では一応条
約で外交の保護権、これはなくなっている、政府間の請求権を放棄して
いるんですけれども、個人の請求についてはあるわけですね。これは今
大問題になりつつあって、韓国ではデモその他大問題になっている。
外務省にお伺いします。同じ敗戦国で第二次大戦の主役だったドイツ
では、こういうヨーロッパ諸国その他に対する被害にどういう補償をや
ってきましたか。
○政府委員(兵藤長雄君) ドイツが第三国に対していわゆる補償とい
う意味で行ったことについてまとめて御報告申しあげますと、まずイス
ラエルでございますけれども、一九五二年九月のユダヤ人難民のイスラ
エルにおける居住及び再統合の拡大のための財及び役務の行使に当てる
ための条約によりまして、総額三十四・五億マルクを支払っております
。一方、フランスを初めといたします十二の西側の国とは、一九五九年
から六四年にかけまして次々と取り決めによりまして、国は省かせてい
ただきますけれども、総額は九・九億マルク。さらに、一九六一年から
七二年にかけましてポーランド等東欧四カ国に向けまして、同じく個別
の取り決めによりまして総額一・二億マルクを支払ったというふうに承
知いたしております。
さらに、国際的な措置といたしまして、戦争により発生いたしました
難民支援を目的といたしまして、一九六〇年十一月に国連難民高等弁務
官と協定を締結いたしまして、当初四千八百五十万マルクの基金を設置
いたしまして、それをさらに八一年、八四年に追加取り決めによりまし
て八百五十万マルクの補充支出を行い、総額五千七百万マルクを支払っ
たというふうに承知いたしております。
○国務大臣(宮澤喜一君) 戦後、我が国が荒廃から立ち上がります段
階で、我々の先輩が平和の回復についていろいろな苦労をされました。
それはサンフランシスコ講和会議を初め多くの二国間条約、その中には
賠償協定もございましたが、あるいはまたいわゆる共同宣言といったよ
うなもの、いろんな形で国と国との関係は、先ほど政府委員が答弁を申
し上げましたように、ともかくも国民の負担において処理をされたわけ
でございます。それは先輩たちの非常な御努力のおかげであったと考え
ておるものでございまして、新たに個人が自分の立場からそういう請求
権を提訴してこられる、国と国との関係は処理されておるわけでござい
ますけれども、そういうことが起こってまいりました。
これはしかし、なかなか容易ならぬ問題でございます。事実関係の究
明ということもございましょうし、またここまで先輩が処理をされてぎ
た問題との関連もございましょうし、大変に難しい問題だと思いますが
、先ほど官房長官が、昨日も申し上げておりましたけれども、こういう
問題についてできるだけ事実関係の解明に当たりたい、まずそれを考え
ております。
第123回国会 衆議院予算委員会 第2号 平成四年二月三日(月曜日)
委員 山花 貞夫
外務省アジア局長 谷野作太郎
外務省条約局長 柳井 俊二
○山花委員 今のテーマにつきましては、総理の施政方針と外務大臣の
過日の方針と、似ているようで外務大臣のは、誠意を持ってやるという
ことがきちんと書いてあったので、そこのところを評価したいと思いま
す。これからもそういう姿勢で進んでいただきたいと思いますが、お答
えしてもここだけで議論とめるわけにはいきませんから本論に戻して、
先ほどの日韓首脳会談に戻して伺っておきたいと思うのですけれども、
韓国の政府は、その中で一つのテーマとして残った従軍慰安婦の問題に
ついて一月二十一日、韓国側でも各省庁の実務責任者会議を開いて、日
本政府に対して徹底した真相解明とこれに伴う適切な補償などの措置を
とるよう求めている、こういう方針が決まったそうです。韓国内の市民
運動が国連に持ち出すという問題もある。大体この問題については、政
府はずっと問題に触れないで、逃げて逃げて逃げてきましたね。実態、
真相究明、調査をすると言いながら、みずからこういうものがありまし
たという報告はなかった。市民運動や学者の先生がやっと見つけた資料
が世にあらわれて、そこから動き始めだというのが実態じゃなかったで
しょうか。
実は、この問題につきましては、これまで五点ほどの資料が集まった
ということのようでありますけれども、その後、四十七点ぐらいの新し
い資料が見つかったということにつきまして、これは私は行いません。
昨日それを入手いたしました、後ほど我々の同僚の伊東秀子議員がこの
問題に基づいて、新しい四十七点の資料に基づいて伺いたいと思います
ので、真相究明の努力につきましては、そうした資料を積極的に政府が
発表して、そして内外に明らかにする中でオープンな格好で進めていた
だきたいという、これからの予算委員会での問題について御紹介するに
とどめたいと思います。
さて、そこで、問題絞っていきまして、従軍慰安婦の補償の問題につ
きまして、現在の政府の基本的な考え方はどうなっているんでしょうか
、この点について伺いたいと思います。
○谷野政府委員 先生も御案内のとおりでございますが、本件につきま
しては、ただいま日本の国内におきまして訴訟の手続がとられておりま
す。政府といたしましては、その帰趨を見守るということでございます
が、あえて申し上げますれば、この種の問題も含めて法的には六五年の
日韓の正常化の折に決着済みであるというのが政府の立場でございます
。
○山花委員 決着済みであるということについてもう少し敷衍して御説
明をいただきたいと思います。なぜ決着したんですか。この点について
御説明いただきたいと思います。
○柳井政府委員 お答え申し上げます。
先生も御承知のとおり、一九六五年、昭和四十年の圧韓請求権経済協
力協定の第二条におきまして、日韓両国及び両国国民間の財産請求権の
問題がこの協定をもって完全かつ最終的に解決したということを確認し
ているわけでございます。また、この協定の第二条三項におきましては
、いわゆる請求権放棄についても規定しているわけでございます。
それで、これらの規定は、両国国民間の財産請求権問題につきまして
は日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄したことを
確認しているものでございまして、これ自体はいわゆる個人の財産請求
権そのものを国内法的な意味で消滅させるものではないということは、
今までも何度か御答弁申し上げたとおりでございます。
これらのいわゆる条約上の処理の問題でございますが、この日韓の場
合におきましては、これも御承知のとおり二条三項におきまして、一方
の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって同協定の署名の日
に他方の締約国の管轄のもとにあるものに対してとられる措置につきま
しては今後いかなる主張もなし得ないというふうに規定いたしまして、
一定の国民の権利、我が国におきましては韓国及び韓国国民の財産権等
を、法律をもって、法律を制定いたしまして消滅させたということでご
ざいます。
長くなりますのでこの程度にとどめますけれども、冒頭申し上げまし
たとおり、日韓両国間におきましては、両国間の問題といたしましては
この請求権の問題というものが完全かつ最終的に解決したということで
ございます。
○山花委員 短く伺いたいと思います。
完全かつ最終的に解決されたと説明しましたが、解決したということ
は、相手側に対して賠償金を払うなり和解金を払うなりしたということ
なのでしょうか。この点について伺います。
○柳井政府委員 簡単に要点だけお答えを申し上げますと、当時のこの
日韓の交渉におきまして、一方におきましては、ただいま申し上げまし
たように財産請求権の問題は完全かつ最終的に解決したということ、同
時にまた、我が国から経済協力といたしまして無償、有償の一定額の資
金を供与をすることを約束をし、これを実施したということでございま
す。このような形におきまして我が国から一定の資金が、具体的には財
産、役務ということでございますけれども、一定額の経済協力が行われ
た、そして同時に請求権の問題が解決された、こういうことでございま
す。
さらに、若干繰り返しになりますけれども、この財産請求権の問題に
つきましては、この協定によりまして、日韓間で外交的にこれを取り上
げることは行わないという形で解決したわけでございます。
○山花委員 私が伺ったところとちょっとずれたお答えになっているわ
けですけれども、お話は、無償三億ドルの供与、有償二億ドルの長期低
利の貸し付けという経済協力ということによって完全かつ最終的に請求
権問題については解決されたということの説明だったと思いますけれど
も、この無償、有償五億ドルの経済協力ということは、請求権との関係
ではどういう関係にあるんでしょうか。この点について、今の御説明で
はよくわかりません。御説明していただきたいと思います。
○柳井政府委員 当時の日韓国交正常化交渉におきましては、この請求
権の問題につきまして、先生も御承知のとおり大変に長いかつ複雑な、
困難な交渉が行われたわけでございます。その結果といたしまして、た
だいま先生もお触れになりましたように、無償三億、有償二億というこ
とがこの協定で約束され、実施されたわけでございます。
これは、この協定上は直接韓国及びその国民に対する補償と、直接そ
のような支払いという形では行われなかったわけでございますけれども
、ただ、先ほども申し上げましたように、経済協力という形で日本から
実質的には資金が韓国の方に行く。そして、一方におきましては、先ほ
ども若干触れましたように、請求権の問題につきましては、一定の場合
には請求権の放棄あるいは国内的な財産権の処理に対して相手側が主張
しないという形で解決をしたわけでございます。
したがいまして、経済協力と請求権の処理というものがこの協定のも
とにおいて並行的に行われ、俗に言えば一つの大きなパッケージとして
解決がなされたということでございます。
○山花委員 パッケージという言葉の意味がわかりませんね、聞いてお
って。この経済協力の性質は何だったんでしょうか。請求権問題の処理
あるいは請求権を解決するために肩がわりとしての五億ドルということ
だったんでしょうか。この点について伺いたいと思いますが。
○柳井政府委員 先ほども申し上げましたとおり、この経済協力という
のは韓国側の請求権あるいは請求に対する直接の支払いというものでは
ございませんけれども、日韓両国国家間におきましては一定の額の資金
が実質的には韓国側に支払われるわけでございますので、そのようなこ
とも考慮して、請求権の放棄等の形で請求権問題を解決した、そういう
一つの大きな外交的な交渉の結果であったということでございます。
○山花委員 経済協力を行うことになった、それで請求権がなくなった
。この関係はどういう関係なのですか。法律的な関係か何かあるのです
か、あるいは全く関係ない話なのですか。全く関係ないということにな
れば、この完全かつ最終的に解決されたということはわかりにくくなる
と思いますけれども、この点についてさらに伺いたいと思います。
○柳井政府委員 この点、若干繰り返しになって恐縮でございますけれ
ども、先ほど来申し上げておりますとおり、日韓請求権経済協力協定に
おきまして、一方においては請求権の放棄等の形での請求権問題の処理
、解決ということをなし、同時に並行的に経済協力というものを行うと
いう形で、この協定上、直接その請求権の補償というような形では規定
しておりませんけれども、しかし、全体としてはそれぞれが外交交渉上
関連を持って妥結に至ったということでございます。これを俗にパッケ
ージと、大きな形のパッケージということを言って申し上げているわけ
でございます。
○山花委員 ということですと、請求権の問題と経済協力の問題は全く
関係なかったんだと、関係なかったんだけれども、並行的に解決したか
ら一緒に整理したんだ、こういうことですか。要するに、法律的に、条
約上法律的には関係ない問題がたまたま一緒になって解決したと、外交
上政治的に解決したということですか。そういうことならそういうこと
でいろんなこれから出てくる問題についての対応の仕方が出てくると思
いますけれど、も、もう一遍そのパッケージの中身、わかりませんね、
聞いておって。全く関係ないものがたまたま一緒になってということな
のですか、それとも関係あるのですか。両方がパッケージということの
意味についてさらにちょっと伺いたいと思います。
○柳井政府委員 これは全く関係ないということではございませんで、
むしろ外交上一つの大きな交渉の中で関係があったからこそパッケージ
ということを申し上げているわけでございます。
繰り返しになりますが、請求権の補償という形で規定してはおりませ
んけれども、請求権の解決を考慮に入れて、日本側から見れば経済協力
を行う、また韓国側から見れば日本側から経済協力という形で実質的に
資金が供与されるということを考慮してこの請求権の問題を解決したと
いうことでございます。したがいまして、この規定上は請求権の補償と
いう直接の書き方はしておりませんけれども、全体としてこれは両者関
連して大きな一つの当時の外交上の判断として、これは両方、両側の判
断でございますけれども、この問題を解決したということでございます
。
当時既に日本の韓国に対する支配というものが終わって相当の年限も
たっておりました。具体的な請求権の積み上げ金額等についてもいろい
ろ議論が交渉上あったわけでございますけれども、相当の年月もたち、
また資料も必ずしも全部そろっているわけではないということも考慮い
たしまして、一つの大きな解決策ということで、一方においては経済協
力をなし、一方においては請求権問題の解決、放棄等の処理を行うとい
うことでございます。したがいまして、両者は交渉上関連をしていたと
いうことでございます。
○山花委員 請求権の補償ということではないけれども関連を有してお
った、こういう結論というふうに聞きました。
請求権というのはどんな中身があったんですか。その中身には例えば
慰安婦の皆さんの補償問題等は入っておったんですか、入ってなかった
んですか。
○柳井政府委員 当時、日韓国交正常化の大変長い複雑な、かつ困難な
交渉の中でいろいろな具体的な請求が韓国側からなされていたわけでご
ざいます。ただいまここにそのすべての資料を持っておりませんけれど
も、その結論といたしまして、日韓請求権経済協力協定の第二条の第一
項におきましては、ちょっとこれは短いので読ましていただきますが、
「両締約国は、両締約国及びその国民」、ちょっと間を飛ばしますが、
「の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関
する問題がこサンフランシスコ「平和条約第四条同に規定されたものを
含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」と
いうふうに規定しているわけでございます。したがいまして、交渉の過
程でいろいろな具体的な請求がなされた経緯がございますけれども、そ
のようなものをすべて含めて完全かつ最終的に解決されたということで
ございます。
この交渉の過程で出されました具体的な請求につきましては、例えば
対日八項目の請求というようなものもあったわけでございます。ただ、
いわゆる慰安婦の問題について当時具体的にそのような請求がなされた
というふうには私は承知しておりません。ただ結論といたしまして、あ
らゆる請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたということでこの条
約上の合意をしたということでございます。
○山花委員 今お話がありましたとおり、当時八項目の請求がありまし
た。その中に、今またお話がありましたとおり慰安婦の補償問題につい
てはその中には入っていなかったということです。入っていなかったの
に全部解決したという理屈はどこから出てくるんですか。全く相談して
いなかった、解決していなかった問題について整理できてないんじゃな
いですか。テーマの中に入っていなかったんだけれども解決したはずで
あるというその理屈について説明していただきたいと思います。今これ
はわかりませんね。
○柳井政府委員 お答え申し上げます。
ただいま申し上げましたとおり、いわゆる対日請求八項目というよう
なものがございまして、そのような中で韓国側が具体的に請求したもの
の中に、いわゆる慰安婦の問題というのが入っていなかったという経過
はあるわけでございます。ただ、それでは当時韓国側があらゆる問題に
ついて、あらゆる請求について具体的に請求をしたかということになり
ますと、これは大変に日本の統治時代のいろいろな問題、これを具体的
に請求するというのは種々困難があったと思います。
この請求権の処理の問題というのは、日韓に限りませんけれども、具
体的な問題の処理ということでいろいろ議論はいたしますけれども、そ
のような請求の根拠なり資料なりが必ずしもそろわないということも現
実でございます。そこで、交渉上ある一定の時期に妥結を図るというこ
とになりました段階におきまして、そのような具体的には触れることが
できなかったような問題も含めて請求権問題をすべて完全かつ最終的に
解決するという処理がしばしば行われるわけでございまして、繰り返し
になりますのでこれ以上申し上げませんけれども、先ほど読み上げまし
たように、日韓の条約の上では、そのような当時具体的に取り上げられ
なかった問題も含めてすべての請求権の問題が両国間では完全かつ最終
的に解決されたというふうに規定しているわけでございます。したがい
まして、この点につきましては、日韓両国政府間で合意の上でそのよう
な処理をしたということでございます。
○山花委員 議題として取り上げられていなかったということについて
は、今お話しのとおりでありまして、取り上げていなかったことについ
て解決したと言うのは、これは理屈に合わないというように思います。
この問題については、八項目の中で全体として対応しているわけであり
ますから、全体としてそういう理屈にならざるを得ないと考えるわけで
ありまして、また今資料の問題がありましたけれども、改めてこの問題
については取り上げていきたいと思っています。
最後に訴訟の問題について、訴訟の推移を見守るということだったわ
けですけれども、単に長い裁判を見守るだけでよろしいのでしょうか。
こうした問題について五年、十年長く続いていくならば、その間見守っ
ているということでは足りない、政治的な決断が必要なのではなかろう
か。この点について、これは官房長官がこの問題についてずっと担当し
ておった経過もおありになるようですから、この問題についてどういう
ように対応するお気持ちなのか、新しい議論も出てきておるようであり
ますから、この点についてまとめて伺っておきたいと思います。
○加藤国務大臣 私が累次記者会見等で申し上げてまいりましたことは
、このいわゆる韓国人慰安婦の問題につきましては、法的、条約的には
ただいま言いましたように個人の補償の問題は処理が終わっているとい
うのが政府の解釈でございます。ただいま条約局長が申しましたように
、しかし、個人の訴権をまたこれを奪うものではないので、現在進行さ
れております裁判において司法部がいかなる判断をするかを見守ってい
きたい、こう思っております。
ただ、この慰安婦の問題は、単にそれだけではない心の傷の問題とい
う点もございますので、我々はそういう観点から何をなし得るのかとい
うことを考えていかなければならないと思っておりますけれども、しか
し、それをどういう形にするのか、これからいろいろ政府としても慎重
に考えていかなければならない問題、またいろいろな意見をお伺いしな
がら考えていかなければならぬ問題だと思っております。
○山花委員 この問題については、裁判の訴状を一遍ごらんになってい
ただきたい、こういう気がいたします。大変分厚いものではありますけ
れども、この現物を読んでいただきたい。まさにこれまでの私たちの歴
史をそこから知らなければいけない。そして、その中にある苦難に満ち
た原告の皆さんのその叫びというものをぜひ直接聞いていただきたい。
そうした中で、官房長官も今この問題についての重要性について触れま
したけれども、この問題については、単なる裁判を見守るということで
は到底済まない問題だということを強調しておきたいと思います。
第123回国会 衆議院予算委員会 第4号 平成四年二月十九日(水曜日
委員 伊東 秀子
外務省条約局長 柳井 俊二
内閣総理大臣 宮澤 喜一
○伊東(秀)委員
あと次に、従軍慰安婦問題について質問を移らせていただきたいと思
います。
従軍慰安婦問題では、一月に宮澤さんは訪韓なさって、日本国の総理
として謝罪なさったその誠意には、私も大変敬意を表するものでござい
ます。しかし、そこにやはり裏づけになる補償がないということで、大
変韓国の方々も、それから日本の私も含めてやはり悲惨な実態、従軍慰
安婦の方々の実態を思うときに、非常に良心と誠意が問われているとい
うことを思うわけでございます。
平成三年の三月二十六日の参議院の内閣委員会で政府は、日ソ共同宣
言における請求権放棄の問題に関して、放棄したのは国家自身の請求権
及び国家が自動的に持っていると考えられる外交保護権であって、国民
個人からソ連またはその国民に対する請求権までは放棄していないとい
う御答弁をしておられます。
これを裏返しますと、つまり今従軍慰安婦の方々が日本国政府を相手
として損害賠償請求をしているわけでございますが、彼女らが個人とし
て日本国政府に対する請求権、損害賠償請求、それは何ら消滅していな
いというふうに受けとめていいわけでございますね。
○柳井政府委員 お答え申し上げます。
いわゆる請求権放棄の条約上の意味につきましては、これが国家の持
っている外交保護権の放棄であるということは、従来からいろいろな機
会に政府が答弁申し上げているとおりでございます。そして日韓の請求
権の処理でございますが、いわゆる日韓請求権・経済協力協定におきま
しては、ほかの場合よりも若干詳しい規定を置いておりますことは、先
生も御承知のとおりでございます。
御案内のことなので余り詳しく御答弁申し上げませんけれども、重要
な点でございますので、ポイントだけ申し上げさせていただきたいと思
います。
この日韓請求権・経済協力協定の第一条におきましては、いわゆる経
済協力のことを規定しているわけでございますが、第二条の第一項で、
日韓の両国間のあるいは両国民間の財産、権利及び利益並びに請求権に
関する問題が、「完全かつ最終的に解決されたこととなる」ということ
を確認しているわけでございます。そして二項では若干の例外、すなわ
ちこの協定による請求権処理の対象にならないものを挙げておりますが
、これは戦後の通常の日韓間の取引に基づく財産権というようなもので
ございますので、従軍慰安婦のような問題には関係ないわけでございま
す。そして三項におきまして、要点としては、財産、権利及び利益に関
する措置、国内的な措置、そして請求権につきましては「いかなる主張
もすることができない」ということを規定しているわけでございます。
そして、この三項の規定を受けまして、これも御承知のとおり、我が国
におきましては昭和四十年に財産権の処理に関する国内法を制定いたし
まして、いわゆる法令上の根拠のある実体的な権利につきましては、韓
国及び韓国国民が我が国において有するそういう財産権を消滅させる措
置をとったわけでございます。ただ、この場合におきまして、そのよう
な国内法上の根拠のない財産的価値を認められるいわゆる実体的権利と
いうものでない請求権につきましては、この法律の対象になっていない
わけでございます。
そこで、それではこのような意味の請求権は何かということになるわ
けでございますが、これはクレームとも言っておりますけれども、この
ような請求を提起する地位を意味すると考えております。いわゆる外交
保護権の放棄でございますから、そのような個人がこのようなクレーム
を提起するということまでも妨げるものではない。したがいまして、我
が国の裁判所に訴えを提起するというようなことは、そこまでは妨げて
おらないということでございます。
○伊東(秀)委員 裁判において請求する権利、つまり請求権は消滅し
ていないという結論だと思うのですが、それで、韓国において首相は、
補償の問題については裁判の行方を見守りたいということを両首脳会談
の中でも発言しておられます。しかし、今問われているのは、日韓基本
条約の締結の段階では、軍の関与は全くなかった、民間業者が勝手に連
れ歩いていたのだという事実のもとに締結した条約であり、さらに新し
い事実が出てきたときにその事実に基づいて宮澤総理は謝罪をした、そ
の新しい事実に対しての一つの加害国としてその誠意をどうあらわすか
、つまり道義的責任、政治的責任がこの問題では問われているのではな
かろうか、こう考えるわけでございます。
そこで、それに入る前に、まず現在の従軍慰安婦に関する軍の関与に
ついての首相の認識をお伺いしたいと思います。
訪韓の段階では、軍が何らかの形で関与していたことは否定できない
という大変消極的な事実認定のもとに謝罪なさったわけでございますが
、その後、私は二月二日に四十七点の新しい従軍慰安婦に関する資料を
入手いたしましたし、昨日さらに九点資料を入手いたしました。その入
手した資料では、総理の訪韓前の見つかっていた五点の資料にはないも
のがいろいろ出てございますが、総理はそういった新しい資料に基づく
内容を報告を受けているかどうか、さらに、その報告に基づいてどのよ
うな事実認識を持っておられるか、ちょっとお伺いいたします。
○伊東(秀)委員 今の御答弁では、大変消極的な、まあ言いづらいこ
とかもしれませんけれども、かつての戦争は聖戦であったというふうに
日本国政府は言っていたわけでございますから、言いづらいことなのか
もしれませんが、私が入手した文書にはっきり出ているわけでございま
すね。
それは昭和十三年の七月一日から七月三十一日までの歩兵第九旅団陣
中日誌というものの中に出てくるものでございますが、これは、昭和十
三年の六月二十七日に、北支那方面軍参謀長岡部直三郎という人から陸
軍の方面軍各部隊に指示した通牒としてこういうふうなものが出ており
ます。つまりこの北支那方面ですけれども、軍占拠地内の治安が大変悪
くなってきている。治安回復の進捗は遅々たるものである。その主なる
原因は、「軍人及軍隊ノ住民ニ対スル不法行為カ住民ノ怨嗟ヲ買ヒ反抗
意識ヲ煽リ共産抗日系分子ノ民衆煽動ノロ案トナリ治安工作二重大ナル
悪影響ヲ及ホスコト尠シトセス」。中略しますと、「日本軍人ノ強姦事
件カ全般ニ伝播シ実二予想外ノ深刻ナル反日感情ヲ醸成セルニ在リト謂
フ」。この軍の発行した文書に、日本軍の強姦事件がその占領地全般に
伝播しちゃってどうしようもない状況だ。だからこのような「軍人個人
ノ行為テ厳重取締ルト共ニ一面成ルヘク速ニ性的慰安ノ設備ヲ整へ設備
ノ無キタメ不本意乍ラ禁ヲ侵ス者ナガラシムルヲ緊要トス」。このよう
に軍の参謀長自身が、強姦とか放火とか住民に対する不法行為がもう蔓
延してどうしようもない、だから取り締まると同時に、もはや慰安所を
つくって何とかしなければいけないということを通牒として出している
わけですね。ここに見られることは、日本軍が、いかにこれは聖戦と言
いながら蛮行を繰り返していたかということの、この太平洋戦争の内実
が明らかにされるかと思いますし、女性をセックスの対象としか見ない
、この軍の発想というもの、これが非常に人道上も問題であるというこ
とを、軍自身の文書が裏づけているのではなかろうかと思われるわけで
ございます。
これは昭和十五年に、さらに軍紀振作対策という、支那事変の経験よ
り見たる軍紀振作対策という文書でございますが、陸軍省の副官の文書
にも、川原直一という人が出した文書の中にもはっきり出ておりまして
、もうこの支那事変の中で、中身だけ紹介させていただきますと、略奪
、強姦、放火、捕虜惨殺等、皇軍の本質に反する幾多の犯行を生じたた
めに、聖戦に対する内外の反感はもうどうしようもない状況に至ってい
るということがうたってあるわけでございます。このような目的から非
常に、何とも非人道的な目的から軍の慰安所が設置されたということが
資料上明らかになっておりますし、さらには、もう一つ重要な文書とし
ては、金沢大学の医学部の教授で、当時、軍の軍医大尉という位におら
れた早尾席雄と読むのでしょうか、この方の「戦場ニ於ケル特殊現象ト
其対策」という中にも同じようなことがありまして、さらには上海事変
、これは昭和十二年のころですが、大変強姦がふえたことと、中国での
商売の女性との接触から性病が軍隊に蔓延している。だから内地や朝鮮
半島の少女たちを、女たちを連れてきて、性病を予防して、その管理も
軍がやらなきゃいけないというようなことが書いてあるわけでございま
す。
こういった、本当にこの日本の戦争の本質にかかわるようなことを暴
露する形で、今回従軍慰安婦の方々の訴訟が提起されている。まさしく
、これは法的な責任などというものではなくて、私は、新たな日韓関係
の構築とか、国際社会で信義を求めたいという、首相の施政方針演説に
もございました。これから見て、まさしく道義的責任、政治的責任が問
われていることではなかろうか。この事実に誠実に対処するためには、
被害者になられた方々のいる国の方々に対して、申しわけなかったと、
誠意をこういう形で受け取ってくださいと自発的に補償を申し出るのが
、私は、本当に新しい日韓関係の構築につながると確信しているわけで
ございますが、そういった点については、首相はいかがお考えでござい
ましょうか。
○伊東(秀)委員 裁判の経緯を見守るということをおっしゃっていら
っしゃいますけれども、もう原告になられた方々は大変高齢である。戦
後五十年近く経ておりますし、しかも、ここには内閣法制局長官もいら
っしゃるように、この事件は戦前の事件である。戦前の事例を国家に対
して、国家の不法行為に対して損害賠償を請求する場合の法的な、適用
される法律があったのか。民法上は、天皇は神聖にして侵すべからずで
あり、天皇のもとにあった皇軍の不法行為は問われない状況、民法の適
用はないじゃないか。さらには、国家賠償法というのは昭和二十二年に
できた法律でございます。ですから、これが裁判にかかっているといっ
ても適用される法律はないわけでございまして、裁判の経緯を見守ると
いうのはまさしく時間稼ぎ、責任逃れの方便にすぎないじゃないか。本
当に誠意があり、新しい日韓関係の構築を真剣に模索するのであれば、
この韓国の国民感情、それはもう私などよりも、首相が一月に訪韓なさ
ったときにつぶさにごらんになったと思うのですけれども、それに政治
家の決断として何らかこたえるということ、それが今問われているのじ
ゃないかと思うわけでございます。
裁判の経緯を見守るということは、非常に責任逃れである。それはな
ぜかといいましたら、適用される法の問題、時効の問題、あらゆる、ま
た慰安所の中のあのおぞましい実態を重言しなければ、今原告になった
方々は損害賠償を受けられないのかという非常に人道上問われる問題が
あるわけでございます。こういったことを考えても、まだ首相は裁判を
見守るとおっしゃるのかどうか、いかがでしょうか。
○宮澤内閣総理大臣 先ほど条約局長からお聞き取りいただきましたよ
うな国と国との法律関係、それから訴訟について、個人が我が国の法廷
に訴訟を起こすということは、もとよりその個人の自由である、権利で
ある、ただ国家的な保護は受けないけれどもという、そういう法律関係
等々万般のことを考えてまいりますと、我々の先輩が我が国として、サ
ンフランシスコの講和条約を初め多国間あるいは二国間のいろいろな条
約、協定等によって、問題はともかく整理をされてきたという、過去の
そういういわば事実がございます。そういうことも考えながら問題を考
えてまいりませんとなりませんので、そういうことから先ほど申しまし
たようなお答えをいたしておるわけであります。
第123回国会 衆議院外務委員会 第2号 平成四年二月二十六日(水曜日
)
委員 土井たか子
外務大臣 渡辺美智雄
外務省条約局長 柳井 俊二
○土井委員 最近非常にニュースでクローズアップをされております従
軍慰安婦の問題も含めて強制連行をされた人たち、従軍した人もあれば
、あるいは日本の国内で炭鉱やまた建設現場や軍需産業なんかで強制労
働に従事した人もございますが、そういう人たちから補償の請求がある
ときに、もうこの問題は解決済みでございますという答弁を今までされ
てきた。解決済みとおっしゃる根拠はどこにあるのですか。
○柳井政府委員 御承知のとおり、一九六五年の日韓請求権・経済協力
協定におきましては、日韓両国及び両国国民の財産請求権の問題は日韓
間の問題として完全かつ最終的に解決したということが確認されている
わけでございます。これまた御承知のとおり、この解決と並行いたしま
して無償三億、有償二億ドルという経済協力を実施したものでございま
す。いわゆる個人の請求権にかかわる問題につきましても、この日韓間
における条約上の処理の対象となっていますことはこの条文上も明らか
でございます。したがいまして、日韓間の問題としてこの請求権の問題
は完全かつ最終的に解決したということでございます。
根拠と申しますのは、この一九六五年の日韓間の請求権・経済協力に
関する協定でございます。
○土井委員 柳井さんの御答弁というのは、外務省のその条約にかかわ
る御答弁としては大分に変遷しているのです。
先日予算委員会での御答弁で、今おっしゃった有償、無償五億ドルで
すね、これは一条の問題だと思いますが、後でおっしゃった完全かつ最
終的に解決という、これは二条の問題だと思いますが、これを大きなパ
ッケージとして解決がなされたとおっしゃっておる。これは法的に関係
しているのですか。
○柳井政府委員 この協定上は、ただいま先生おっしゃいましたとおり
経済協力の問題は第一条で規定しておりまして、いわゆる請求権、財産
請求権の問題は第二条で規定しているわけでございます。
この協定上、直接財産請求権の問題の解決のために五億ドルを支払う
というような規定はしておりませんけれども、これも先生御承知のとお
り、当時日韓の国交正常化に至る大変な長い、かつ困難な交渉の中で、
請求権の問題というのは非常に深く、幅広く討議されたわけでございま
す。ただ、もう当時既に戦後相当の時日がたっておりましたし、また第
二次大戦後におきましても朝鮮動乱ということもございまして、一つ一
つの請求権の積み上げ、あるいはその裏づけということができなかった
、非常に困難であったという事情があったわけでございます。その結果
、日韓間の交渉によりましてこの請求権の問題は一括してこの協定に規
定されているような形で最終的かつ完全に解決する、そしてそれととも
に経済協力を行うという形で決着したということでございまして、規定
上この経済協力の問題と請求権の問題を直接関連づけて書いてはござい
ませんけれども、この交渉の中で、先日予算委員会で私御答弁申し上げ
ましたけれども、一つの大きなパッケージとして関連づけられて解決し
たということでございます。
○土井委員 今の柳井さんの御答弁からしますと、請求権はこの日本か
ら出した金額によって放棄するという意味を持つというふうに聞こえる
のですが、当時の、これは請求権及び経済協力協定ですけれども、審議
をずっと読んでみますと、全く違いますよ。
椎名外務大臣の明確な答弁がある。一条と二条とはどういう関連にご
ざいますかという質問に対して、「法律的な関連性はございません。」
そうして、「経済協力はあくまで経済協力でございます。もしこれが賠
償的性格を帯びるものであれば、協定の細部にそれがあらわれるはずで
ありますけれども、そういうことはございません。あくまで経済協力と
して取り扱っております。」そして、経済協力の性格は何かという質問
に対して、「経済協力でございます。」繰り返しこれを答弁されて、「
請求権問題と経済協力とは、何ら法律上の因果関係はございません」と
答えられていますよ。「総計五億ドルの経済協力はあくまで韓国の経済
建設に役立てるため供与するものでございます。」と明確に答弁されて
いますよ。
今の柳井さんの御答弁と大分違うのです、これは、いつの間に変わっ
たのですか。当時は、この協定を締結することのための質問、答弁、そ
の場所での御答弁が、外務省の答弁としてそうだった。大臣の答弁とし
てそうだった。大臣が責任持って答弁された中身がそうだったのですよ
。
○柳井政府委員 私、先ほども御答弁申し上げましたとおり、この協定
上経済協力の問題と請求権の問題が法律的に関連して規定されていると
いうことではないということも申し上げている次第でございます。
ただ、この交渉の過程で、この請求権の問題が論じられる一方、それ
と並行して経済協力の問題も討議されまして、そして最終的には経済協
力を行う、そしてそれと並行して財産請求権の問題も解決するという一
つの大きな合意ができたわけでございます。したがいまして、私が御答
弁申し上げたことと、この協定を審議していただきましたときに当時の
椎名外務大臣その他政府の関係者が御答弁されたこととの間に、別段変
更とか矛盾とか、そういうことはないというふうに考えております。
○土井委員 大きなパッケージとしてわざわざ言われるところが紛らわ
しいのです、これ。よっぽど今私が申し上げた椎名外務大臣の答弁で、
はっきりしている。はっきりしていることを何だかわからない、誤解を
生ずるような紛らわしい表現につくり変える必要はないのです。だから
、その辺はまずはっきりしておいていただきたいと思うのですよ。
一条と二条というのは、法的因果関係はない、関連性はないというこ
とをはっきり答えられているのですから。大臣、よろしゅうございます
ね、これは。議事録に従って私は申し上げております。これは大臣から
お聞かせいただきたいと私は思いますよ。政治的な判断ですから、はっ
きり。
○柳井政府委員 条文は大変長いので、また先生もよく御存じでござい
ますので、これを読み上げるということはいたしませんけれども、(土
井委員「読んでくださらなくて結構です。議事録に従っているのです」
と呼ぶ)この協定上は、先ほども申し上げましたとおり、請求権の問題
と経済協力の問題が法的に直接関連づけて規定されているということで
はございません。
また、この協定の締結当時、当時の椎名外務大臣はこのように申され
ております。これはちょっと短いので引用させていただきますが、「請
求権の問題と経済協力、これは、日本の対朝鮮請求権は、軍令及び平和
条約等のいきさつを経て、もはや日本としては主張し得ないことになっ
ておりますが、反対に、韓国側の対日請求権、この問題について、この
日韓会談の当初において、いろいろ両国の間に意見の開陳が行なわれた
のでありますけれども、何せ非常に時間がたっておるし、その間に朝鮮
動乱というものがある。で、法的根拠についての議論がなかなか一致し
ない。それかも、これを立証する事実関係というものがほとんど追及が
できないという状況になりまして、これを一切もうあきらめる。そうし
て、それと並行して、無償三億、有償二億、この経済協力という問題が
出てまいりました。」云々というふうに申されております。
○土井委員 今私は議事録に従って申し上げているので、さらにそうい
うことの注釈というのは不要だと思うの。この点ははっきり、条文上に
ついてどういうふうに考えたらいいかということを私がお尋ねしたこと
に対するこれは裏づけになるそのときの議事録でございますから。よろ
しいですか。
さあそこで、ここで「完全かつ最終的に解決」とおっしゃっているこ
とは、いわゆる個人の請求権そのものを否定してはおられませんね。い
かがですか。
○柳井政府委員 条約上、先ほども先生がお触れになりましたとおり、
第二条でいわゆる財産請求権の問題を規定しているわけでございますが
、ここでは要するにこれらの問題が「完全かつ最終的に解決された」と
いうことを言っているわけでございます。ただいま申し上げましたのは
第二条の一項でございます。
そして、この同じ第二条の三項におきまして、ここはちょっと短いの
で読ませていただきますけれども、一定の例外がございますが、その例
外を別としまして、「一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益
であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対
する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民
に対するすべての請求権であって同日以前に生じた事由に基づくものに
関しては、いかなる主張もすることができないものとする。」この「同
日」というのは、この協定の署名の日、すなわち一九六五年の六月二十
二日でございます。
このように規定しておりまして、いわゆるその法的根拠のある実体的
権利、いわゆる財産権につきましては、この協定を受けて、我が国にお
きまして、韓国の国民の財産権を一定の例外を除いて消滅させる措置を
とったわけでございます。したがいまして、このような法律的な根拠の
ある財産権の請求につきましては、以後、韓国の国民は我が国に対して
、私権としても国内法上の権利としても請求はできない。そのような措
置をとることについて、この協定によりまして、ただいま読み上げまし
たこの二条の三項におきまして、韓国側としては、それに異議を申し立
てることはできないということでございます。
この二条の三項で「財産、権利及び利益」ということを言っておりま
すが、これは当時作成されました合意議事録におきまして、これは合意
議事録の二項の(a)というところでございますが、「「財産、権利及
び利益」とは、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての
種類の実体的権利をいうことが了解された。」ということになっており
ます。したがいまして、この二条の三項で言っております「財産、権利
及び利益」以外のもの、すなわち請求権というものがございます。これ
につきましては、ただいまの定義から申しまして法律上の根拠のない請
求、いわゆるクレームと言ってもいいと思いますが、そのような性質の
ものであるということでございます。
それで、しからばその個人のいわゆる請求権というものをどう処理し
たかということになりますが、この協定におきましてはいわゆる外交保
護権を放棄したということでございまして、韓国の方々について申し上
げれば、韓国の方々が我が国に対して個人としてそのような請求を提起
するということまでは妨げていない。しかし、日韓両国間で外交的にこ
れを取り上げるということは、外交保護権を放棄しておりますからそれ
はできない、こういうことでございます。
○土井委員 るるわかりにくい御説明をなさるのが得意なんですが、こ
れは簡単に言えば、請求権放棄というのは、政府自身が持つ請求権を放
棄する。政府が国民の持つ請求権のために発動できる外交保護権の行使
を放棄する。これであって、このことであって、個人の持つ請求権につ
いて政府が勝手に処分することはできないということも片や言わなきゃ
いけないでしょう、これは。今ここで請求権として放棄しているのは、
政府自身が持つ請求権、政府が国民の持つ請求権に取ってかわって外交
保護権を発動するというその権利、これでしょう。だから、個々の個人
が持つ請求権というのは生きている。個々の個人の持つ請求権というの
はこの放棄の限りにあらず、これははっきり認められると思いますが、
いかがですか。
○柳井政府委員 ただいま土井先生が言われましたこと、基本的に私、
正確であると思います。この条約上は、国の請求権、国自身が持ってい
る請求権を放棄した。そして個人については、その国民については国の
権利として持っている外交保護権を放棄した。したがって、この条約上
は個人の請求権を直接消滅させたものではないということでございます
。
ただ、先ほど若干長く答弁させていただきましたのは、もう繰り返し
ませんけれども、日韓の条約の場合には、それを受けて、国内法によっ
て、国内法上の根拠のある請求権というものはそれは消滅させたという
ことが若干ほかの条約の場合と違うということでございます。したがい
まして、その国内法によって消滅させていない請求権はしからば何かと
いうことになりますが、これはその個人が請求を提起する権利と言って
もいいと思いますが、日本の国内裁判所に韓国の関係者の方々が訴えて
出るというようなことまでは妨げていないということでございます。
○土井委員 結局は個人としての持っている請求権をお認めになってい
る。そうすると、総括して言えば完全にかつ最終的に解決してしまって
いるとは言えないのですよ。まだ解決していない部分がある。大いなる
部分と申し上げてもいいかもしれませんね。正確に言えばそうなると思
います。いかがですか。
○柳井政府委員 先ほど申し上げましたとおり、日韓間においては完全
かつ最終的に解決しているということでございます。ただ、残っている
のは何かということになりますと、個人の方々が我が国の裁判所にこれ
を請求を提起するということまでは妨げられていない。その限りにおい
て、そのようなものを請求権というとすれば、そのような請求権は残っ
ている。現にそのような訴えが何件か我が国の裁判所に提起されている
。ただ、これを裁判の結果どういうふうに判断するかということは、こ
れは司法府の方の御判断によるということでございます。
○土井委員 さあ、ここで外務大臣にお答えいただきたいと思うのです
が、これは今しきりに問題になっている、私自身も聞いて胸が詰まる思
いがするのですが、従軍慰安婦の人たちの問題、どう抗弁いたしまして
も日本国民として恥ずかしいです。大変恥ずかしいと私は思っている。
外務大臣はどうお思いになりますか。恥ずかしいとお思いになりません
か。いかがですか。
○渡辺(美)国務大臣 人を殺したり傷つけたり、そのような今おっし
ゃったような不幸な立場を強制したりするようなことは、全く戦争の罪
悪であって、恥ずかしいと思います。
○土井委員 恥ずかしいと思いますとおっしゃることについて、これは
具体的に問われているのは国政関与者の責任だということになると私は
思うのです。
実は一九八二年の六月に外務省が調査をされた結果を裁判所に対して
付言という形で、判決が出る資料になっているのです。おもしろいです
ね。これは私、最近初めて知ったのですけれども、なるほどと思ったの
ですよ。
これはどういうことかといいますと、台湾人元日本兵士の補償問題、
台湾人の台湾に在住しておられる方々十三名が原告となって日本政府に
補償請求を求めて東京地裁にそれが提訴されたのです。東京地裁さらに
東京高裁に参りまして、八五年の八月に東京高裁。地裁も高裁もいずれ
も棄却判決になりました。そのときに高裁は付言をこの判決にしたので
す。
どういうことを言っているかといいますと、「控訴人らは、ほぼ同様
の境遇にある日本人と比較して著しい不利益をうけていることは明らか
であり、……早急にこの不利益を払拭し、国際信用を高めるよう尽力す
ることが、国政関与者に対する期待である」と書いてある。
外務省がこの調査をされたのは「負傷または戦死した外国人に対する
欧米各国の措置概要」でございまして、ここで調査の対象になっている
のはアメリカ、イギリス、フランス、イタリア、当時の西ドイツの五カ
国なんです。いずれも外国人となった元兵士に対して自国民とほぼ同等
の年金または一時金を支給しているのです。この五カ国を見ますと、植
民地を持っていないカナダをここに加えたらまさしくサミットになるの
です。サミット参加国の中で、こういう問題に対してそっぽを向いて、
解決済みでございます、解決済みでございますと言い続けたのは日本だ
けですよ。日本だけがこれは特異な国ということになるわけであります
。
と同時に、先ほど財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力
に関する日本国と大韓民国との間の協定について二条の一をお出しにな
りましたが、その二条の二というところを見ますと、「この条の規定は
、次のものに影響を及ぼすものではない。」という中に、「一方の締約
国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間
に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益」とは
っきり書いてあるのですよ。
そうすると、韓国籍の人でも日本にその間おられる方については、こ
の条約は関係ないんです。そうすると、日本国民と同等の取り扱いをや
ってしかるべきであるにもかかわらず、外務大臣ここからが大事なんで
すよ、実はそれが全く外されてしまっているのであります。全く外され
てしまっている。
それは外務大臣も御存じだと思いますけれども、平和条約が発効する
と同時に日本では、戦争によって被害を受けた人たちに対する援護並び
に補償の法ができてまいりました。その皮切りは戦傷病者戦没者遺族等
援護法に始まる十三法、以後あります。すべてのその法律から国籍条項
を用意しました。日本国民でなければ、日本国籍を所有していなければ
この補償の対象でないということに法の上でなっているのですよね。国
籍条項と申し上げねばなりません。
私は、難民条約のときあるいは国際人権規約を審議するとき随分、国
内の外国籍の人に対する処遇に対して、年金もそう、保険もそう、住宅
もそう、改善されたことを覚えています、内国民待遇ということで。と
ころが、たった一点この問題だけが除外にされてきたんですが、なぜこ
れが問題にならなかったかといういきさつが杳としてわからない。
なぜこれだけを外されたんですか。ほかの年金にしたって保険にした
って、いろいろとそれ以前と違った、取り扱いを変えましょうというの
が難民条約や国際人権規約のときの国内的措置として問題になったんで
すよ。だけれども、この財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済
協力に関する日本国と大韓民国との間の協定では、影響を及ぼさないは
ずの在日の人たちを切り捨ててしまっているという格好になっているの
ですが、これは一体なぜですか。
○柳井政府委員 この協定の二項で二項の例外措置が規定されていると
いうことは、先生おっしゃるとおりでございます。この二項で(a)と
(b)という二つの例外がございまして、その(a)というのが先ほど
お読みになった例外でございます。
この意味するところでございますけれども、「千九百四十七年八月
十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したこと
がある」一方の締約国の国民ということを言っておりますが、これは実
際には主として在日韓国人の方々を指しているわけでございます。その
ような方々の財産、権利及び利益についてはこの規定の例外とするとい
うふうに述べているわけでございますが、先ほどちょっとお答えいたし
ましたとおり、この財産、権利及び利益というのは、合意議事録におき
まして、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類
の実体的権利をいう」ということが日韓間で了解されているわけでござ
います。したがいまして、そのような法律上の根拠に基づく財産的価値
を有する権利というものはこの協定上は例外にしている。
そして、先ほど申し上げました財産権を消滅させる法律を当時つくり
ましたけれども、その中でも、このような在日韓国人の方々の法律上の
根拠のある財産権は除いている、すなわち消滅させていないということ
でございます。その限りにおいて、この協定の処理の例外になっている
ということはそのとおりでございます。ただ、一般的なそういう法律に
基づかないいわゆる請求というものは、この規定の例外の対象ではない
わけでございます。
他方、いろいろな国内法で国籍条項があるということにつきましては
、これはそれぞれ所管の官庁におきましてその法律の制定の経過を承知
しておりますので、必要があればまた照会いたしたいと思います。
○土井委員 さあ、そこで外務大臣、今の御答弁はまたややこしい、わ
かりにくい御答弁でしたが、二点しっかり外務大臣に押さえておいてい
ただいて、そして最後に一言言って、私はこの質問は終えたいと思うの
です。
それは、今、日韓間の請求権並びに経済協力に関する協定と略して言
いましょう。この条文の中では、個人の持つ請求権についてこれは認め
られているということが一点。二点目は、第二条の二項のところで影響
を及ぼさないはずの在日韓国人に対して影響を及ぼして、そして当然認
めなければならない戦争による被害に対する手だてというのを、法律の
中で国籍条項をわざわざつくって対象としていないという問題です。こ
れは、この条約の二条の二項からしたらおかしい取り扱いなんですよ。
間違った取り扱いと申し上げましょう。したがって、二点申し上げたい
。
一つは、個人の持つ請求権というのは認められているんだから、した
がって提訴ということも当然あり得るんですが、先ほど御答弁を承って
おりますと、裁判の判決の結果をひとつ考えてというふうな御趣旨の御
答弁でもありましたが、だから私がわざわざ、外務省がかつて調査をな
すった結果を裁判所は付言としてこう言われていますよということを言
った意味があるのです。
もう一度言います。「ほぼ同様の境遇にある日本人と比較して著しい
不利益をうけていることは明らかでありこ裁判を起こした人がですよ、
「早急にこの不利益を払拭し、国際信用を高めるよう尽力することが、
国政関与者に対する期待である」と言っているんです。裁判所の判決と
いうのはいつ出るかわかりません、これは。二年かかるか三年かかるか
、場合によったら五年かかるかわからない。その判決が出るまではひた
すら待ち続けますというんじゃないのであって、問題は、「国際信用を
高めるよう尽力することが、国政関与者に対する期待である」、この点
に対して外務大臣は、先ほど予算委員会の場所でしょう、御答弁の中で
心あるこれに対しての対処の仕方ということがあってしかるべきだとい
う御趣旨の御答弁をなすったやに私は知っているわけでありますけれど
も。この二点、国籍条項を外すということの検討が一つ、あと一つは判
決を待つまでもなくこれに対してどのように考えていくかという問題、
いかがですか。
○渡辺(美)国務大臣 私は両方の意見もこれずっと聞いておるのです
が、やはり日本は法治国家でございますから、法律に書いてあるとおり
実行しなければならないということが一つだと思います。
ただ問題は、法律問題としては裁判所があとは結論をどう出すかとい
う問題でしょう。しかしこの従軍慰安婦の問題というのは、私は法律の
問題ということでなくて人道的な問題であって、政治問題であることは
間違いありません。大変痛わしい、胸の痛むような話でございまして、
まずその実態を調べなきゃならぬということで今官房を中心にして調べ
ておりますので、そういう実態の上にどういう政治判断をするかという
ことは、これは法律の問題じゃない問題でございますから、何らかの私
は、けじめと言っては語弊があるのかもしれませんが、結論を出す必要
があると考えております。
○土井委員 終わりますが、それは外務大臣いつごろですか、今結論を
出す必要があるとおっしゃる結論は。
○渡辺(美)国務大臣 調査の終わり次第、日本側でも調査をしている
し韓国側も調査はしておりますので、そう多年月を要することはないだ
ろうと思います。
○土井委員 きょうのところはこれで終えますけれども、法治国家とし
てという立場に立ては、締結した国際条約、国際法規並びにそれに従っ
て制定された国内法規、これを基礎に置いて考えても今の日本の取り扱
いというのはそれに反するというおそれが非常にあるということも私は
予言しておきまして、これは改めてまた申します。
ありがとうございました。
第123回国会 衆議院本会議 第7号 平成四年三月三日(火曜日)
山元勉
内閣総理大臣 宮澤喜一
○山元勉君 私は、日本社会党・護憲共同を代表し、ただいま提案のあ
りました外国人登録法の一部を改正する法律案について、宮澤総理並び
に関係大臣に質問いたします。
言うまでもなく、外国人登録法が対象としている約百七万人の外国人
は、さまざまな国籍と民族から成っております。しかしながら、その半
分以上をいわゆる在日韓国・朝鮮人が占めていることもまた事実であり
ます。そして、これらの人々の処遇は、我が国の外交政策と密接に関連
しており、日本政府が南北朝鮮に対して正当な敬意を払ってこそ、在日
韓国・朝鮮人を人間として処遇する前提条件が整備されることになるの
であります。
そこでお尋ねしますが、いわゆる核査寮問題も解決の方向にある今日
、日本と朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化交渉を、従来に比し、
より積極的な姿勢で、また、より速いテンポで進める考えはないのか。
また、従軍慰安婦問題や強制連行問題等に関連し、南北朝鮮及び日本に
居住する朝鮮半島出身者に誠意ある補償を行う考えはないのかどうか、
基本的姿勢の問題として、お尋ねいたします。(拍手)
次に、今回の法律案の是非を問う前提となる二つの大きな政策上の問
題点についてお伺いいたします。
第一に、いわゆる外国人犯罪と外国人登録制度の関係についてであり
ます。
まず、統計的に見て、近年の外国人犯罪がどういう傾向で推移してい
るか、そして、それぞれの犯罪を犯した者の正規の在留日数や在留資格
がどういう傾向にあるか、お尋ねいたします。そして問題は、そういっ
た外国人犯罪を抑止するために、外国人登録制度はこうでなくてはなら
ないということが果たして言えるかどうかであります。
我々が、いわゆる外国人犯罪と聞いてまず思い浮かべるのは、正規の
滞在日数が一年を超えることはなくしたがって外国人登録の指紋押捺と
は無関係な外国人であります。したがって、外国人犯罪を抑止するため
には、一年以上在留する外国人で、かつ特別永住者と永住者以外の者に
ついて指紋押捺を残さなくてはならないと言われても、納得がいかない
のであります。この点についての政府の見解はいかがですか、お尋ねを
いたします。(拍手)
第二に、日本国民と外国人の同一人性確認のあり方についてでありま
す。我々日本国民は、その同一人性確認のために、国によってつくられ
た証明書を常時携帯する義務を課せられているわけではありません。し
たがって、例えば外国船舶の出入りする港を歩いていて警察官や入管職
員等から職務質問され、その同一人性の証明を求められたとしても、当
該職務質問への応答または運転免許証や職場の身分証明書等の提示で足
りているわけでありますし、よほどの場合においても、第三者に電話で
連絡するなりして同一人性を証明してもらうこともできるわけでありま
す。しかし、外国人の場合は、特別永住者、永住者も含め、外国人登録
証の常時携帯及び提示義務が定められており、それは今回の政府の改正
案においても手つかずなのであります。
定住性の高い外国人にまで、日本国民にはないような煩雑な同一人性
確認のシステムを強要するのは、内外人平等を定めた国際人権規約に違
反する疑いが濃いと言わざるを得ません。とりわけ、東アジアの国々に
源流を持ち、我が国に長年居住する人々に常時携帯義務を課すのは、機
能的に見ても全く無意味であります。
日本人と称しても通用する容姿を持ち、かつ流暢な日本語を話す人々
について、この人は在日外国人だと識別している警察官等が、当該外国
人が合法的に在留する者であることを識別できないことはあり得ないの
ではないでしょうか。また、そこをも疑わざるを得ないとすれば、一人
一人の国民について、外国人ではないかどうか、もっと言えば、日本人
に成り済ました不法入国者、不法残留者でないかという点も含め、一々
疑わざるを得ないのではないでしょうか。
以上を踏まえ、我が国に在留する日本国民及び外国人の同一人性確認
のあり方について、政府の見解をお聞かせいただきたいと思います。(
拍手)
次に、法案について具体的にお尋ねいたします。
まず、指紋押捺制度についてであります。
先ほども触れましたように、外国人犯罪の抑止のために指紋押捺の全
廃はできないとの主張は説得力を持ちません。また、この制度は、内外
人平等を定め、かつ、非人道的または品位に欠く取り扱いの禁止を定め
た国際人権規約に違反することも明らかであります。我が国も既に批准
したこの国際人権規約に従い、いわゆる不法入国者や不法残留者も含め
、すべての外国人について人としての権利が保障されなければならない
のであります。
その観点からいたしますと、国際人権規約に違反する指紋押捺制度を
一部の外国人についてのみ残すということ、しかも、一年未満在留の者
は指紋が免除されている状態でそうするということは、それ自体が国際
人権規約に違反する施策と言えるのであります。
以上の理由により、我が党は、この法律案は、指紋押捺制度を完全に
廃止するものとして書き改めるべきと考えますけれども、政府の御見解
はいかがか、お伺いをいたします。(拍手)
次に、外国人登録証の常時携帯制度についてであります。
これも先ほど触れましたように、特別永住者、永住者も含め、外国人
登録証の常時携帯及び提示義務が定められており、それは今回の政府案
においても手つかずでありますが、これは国際人権規約の定める内外人
平等に反するばかりか、機能的に見ても、その存在意義を疑わざるを得
ないものであります。もちろん外国人登録証を持つ必要のない九十日未
満在留の外国人には、旅券または上陸許可書の常時携帯制度が定められ
ており、その旅券または上陸許可書の常時携帯まで国際人権規約違反と
すぐに断定できるわけではないことも事実であります。しかし、特別永
住者、永住者を含め一定水準以上の定住性を有する外国人にまで証明書
の常時携帯を義務づけることはいかがなものでありましょうか。この点
について改善する内容を盛り込む方向で法案の修正を行うべきかと考え
ます。見解をお尋ねいたします。(拍手)
第三に、外国人登録法の刑罰制度についてであります。
外国人登録法においては、ついうっかり申請をし忘れたような単純な
ミスに対してまでも「一年以下の懲役若しくは禁錮又は二十万円以下の
罰金」という重罰が科せられております。そして今回の改正案では、新
たに不署名罪という罪名に基づく刑罰制度が科せられようとしています
。しかし、逮捕や強制捜査に直結するこのような重罰制度をいろいろな
項目について設けるのはいかがなものでしょうか。
これに対し、日本国民の登録制度に関しての法である戸籍法と住民基
本台帳法においては、虚偽申請といった悪質な違反を除いた部分につい
ては過料、いわゆる過ち料で対応しております。この点についても内外
人平等に違反する疑いが濃いと言わざるを得ません。
また、外国人登録法の刑罰制度に基づく逮捕、強制捜査等が何らかの
政治的目的に使われるのではないかとの在日外国人の心理的負担の大き
さも考慮しないわけにはいきません。そこで、この点についても、戸籍
法と住民基本台帳法の類似規定との横並びを図りながら、過ち料を基本
とした制度に転換すべきであります。こういう方向で法案を書き直す考
えがないかどうか、お尋ねいたします。(拍手)
以上、私は、本法案の修正を求める立場に立って幾つかの点について
お尋ねをいたしましたが、最後に申し上げたいのは、第一に、外国人の
処遇を初めとする日本の人権状況を問う内外の世論、第二に、指紋押捺
制度廃止を九三年一月までに行うべしとした日本の韓国に対する国際公
約、第三に、参議院における与野党逆転等々四囲の状況を勘案して、政
府・自民党は野党との誠意ある対話に応じ、円満な問題解決に努めるべ
きだということであります。この点を特に強調して、私の質問を終わり
ます。(拍手)
○内閣総理大臣(宮澤喜一君) 日朝国交の正常化につきまして、この
問題は、第二次世界大戦後の日朝間の不正常な関係を正すという側面と
、それが朝鮮半島の平和と安定に資するものとなることが大切であると
いういわば国際的な側面、二つの面をあわせ持っております。我が国と
しては、国交正常化がこのような二つの面を有しているということを十
分考慮しつつ、また、原則的立場を踏まえながら、関係国とも緊密に連
絡をとりまして、誠意を持って交渉を継続していく所存でございます。
次に、いわゆる従軍慰安婦あるいは被強制連行者に対するお尋ねでご
ざいましたが、政府といたしまして、朝鮮半島地域のすべての人々に対
し、過去の一時期、我が国の行為により耐えがたい苦しみと悲しみを体
験されたことについて、深い反省と遺憾の意を表明いたしております。
また、いわゆる従軍慰安婦の問題につきましては、先般、私が韓国を訪
問いたしました際にも、衷心より遺憾と反省の気持ちを述べるとともに
、この問題についての日本政府の関与のあり方について誠心誠意調査を
行うということをお約束をし、また現にそれをいたしておるところでご
ざいます。
日韓両国間では、六五年の日韓請求権・経済協力協定により、御指摘
の補償の問題をも含め、日韓両国及び両国民間の財産・請求権の問題は
、完全かつ最終的に解決済みであります。また、これに並行して、五億
ドルの経済協力をも実施したことは、御承知のとおりでございます。
次に、日朝間の財産・請求権の問題につきましては、日朝国交正常化
交渉の場において、さらに話し合ってまいりたいと考えております。
それから、指紋の押捺は、外国人の同一性の確認の手段として合理的
であり、また必要な制度でございますから、永住者及び特別永住者以外
の外国人についてこれを維持しなければならないと思っておりますし、
このことは、国際人権規約にもとより反するものではございません。
それから、外国人登録法の改正法案審議に関しまして、参議院云々と
いう御指摘もございました。もとより審議に当たりまして、各党の御意
見を謙虚に承ることはもちろんのことでございます。
残りの問題は、法務大臣からお答えを申し上げます。(拍手)
第123回国会 衆議院予算委員会 第12号 平成四年三月五日(木曜日)
厚生省援護局長 多田 宏
外務省国際連合局長 丹波 實
外務省条約局長 柳井 俊二
○多田政府委員 韓国につきましては、日韓の協定に基づきまして別途
処理がされたというふうにされておりますので、韓国については帰化し
ても既に処理済みという理解でございます。その他の地域、台湾あるい
は北朝鮮といったようなところについては帰化することによって可能に
なる場合がある、こういう理解でございます。
○柳井政府委員 援護法につきましてはまた別途関係の省庁から御答弁
があると思いますが、日韓請求権経済協力協定につきましては、ただい
ま先生御指摘ございました第二条の二項で二つの例外を掲げているわけ
でございます。
その二つの例外と申しますのは、ただいま御指摘のように、その一つ
が、「一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の
署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権
利及び利益」というものはこの協定の二条の処理の対象外であるという
ふうに規定しているわけでございます。そして、この「財産、権利及び
利益」と申しますのは、この附属の、当時、協定締結のときに作成いた
しました合意議事録の二項の(a)というところで、「「財産、権利及び利
益」とは、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類
の実体的権利をいうことが了解された。」というふうになっているわけ
でございます。そのような意味におきまして、この二条二項の(a)では若
干わかりにくい書き方になっておりますけれども、実際には主として在
日韓国人の今申し上げましたような財産、権利及び利益につきましては
この条の規定は影響を及ぼさないというふうになっているわけでござい
ます。
で、御承知のとおりこの二条の三項におきまして、我が国におきまし
ては、当時国内法を制定いたしまして、いわゆる財産、権利、利益とい
うもので韓国の方々が持っておられるものを消滅させる措置をとったわ
けでございますが、その措置に言う財産、権利、利益というのはこの二
条に言っているものでございます。
○多田政府委員 私どもの理解では、請求権については特別合意に基づ
いて処理をされた、そしてその処理された対象の中には在日韓国人の請
求権も含まれているというふうに理解をいたしております。したがって
、そういう理解に立ちますと、既に処理済みで、一度日本国といたしま
してはその方々に何らかの処理をした対象の方々に対して別途また給付
というものを起こす、同じ事由に基づいて給付を起こすということは、
これは重複の問題が起きるわけでございますので、当然に給付の対象外
というふうに理解をしているわけでございます。
○柳井政府委員 日韓請求権経済協力協定締結当時の処理につきまして
、若干補足させていただきたいと存じます。
先ほど申し上げましたこの昭和四十年の法律でございますが、いわゆ
る日韓財産及び請求権に関する協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財
産権に対する措置に関する法律、正式の題名はもっと長いのでございま
すが、要約すればそういう法律を制定したわけでございまして、その一
項で、「次に掲げる大韓民国又はその国民の財産権であって、財産及び
請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国と
の間の協定第二条3の財産、権利及び利益に該当するものは、次項の規
定の適用があるものを除き、昭和四十年六月二十二日において消滅した
ものとする。」と、こういうふうに規定しているわけでございます。
そして、ここで対象にしておりますのは、この「協定第二条3の財産
、権利及び利益に該当するものはこと、こういうふうに言っております
ので、この協定の二条三項の規定している「財産、権利及び利益」とい
うものをここの法律の第一項の対象にしているわけでございます。そし
て、この協定の第二条三項におきましては、「2の規令に従うことを条
件としてこというのが頭にございまして、「一方の締約国及びその国民
の財産、催利及び利益」、それから後に請求権というものも規定してお
りますが、この「財産、権利及び利益」というのは、先ほど申し上げま
したように、合意議事録で要するに「法律上の根拠に基づき財産的価値
を認められるすべての種類の実体的権利」であるというふうに言ってい
るわけでございます。したがいまして、この法律で引いております「財
産、権利及び利益」というのは、この協定及び合意議事録で言っている
意味の財産的権利であるということでございまして、この協定二条三項
の冒頭に「2の規定に従うことを条件としてことございますので、この
二条二項の例外もここにはきいてくるということでございます。
○柳井政府委員 結論的な点だけお答え申し上げたいと思います。
最終的に解決したということを言っておりますのは、この二条に書い
てありますとおり、具体的にはこの二条の三項によって行われた処理に
ついて今後日韓間では問題を提起しないということでございます。
その処理には二つあるわけでございますが、この三項に規定してあり
ますとおり、これはもう先ほど申し上げましたので省略いたしますが、
要するに法律的な根拠のある実体的な権利については、まあ我が国でそ
れを消滅させる措置をとったわけですが、それについて韓国側はいかな
る主張もすることができないということで解決をしたわけでございます
。そして、実体的な権利でないもの、すなわち法律上の根拠のない、い
わゆるクレームといった方がいいと思、いますが、そのような請求権に
ついてもいかなる主張もできないということを二条の三項で言っている
わけでございます。そしてその中で、在日韓国人の実体的な権利につき
ましては、二条の二項の(a)で言っているとおり、これは消滅させていな
いということでございます。
まあ韓国側の措置につきましては、先生御指摘のとおり、韓国側の国
内法においても在日韓国人の場合は除いてあるというふうに承知してお
ります。
○柳井政府委員 前提になる協定上の問題につきまして、一点だけ確認
させていただきたいと存じます。
先ほど来御答弁申し上げておりますとおり、この財産請求権協定の二
条二項で除いておりますのはいわゆる実体的権利、すなわち国内法に根
拠のある財産、権利及び利益ということでございますので、そうでない
、国内法上の根拠のない、いわゆるクレームというものにつきましては
、この二条で例外を設けていないわけでございます。したがいまして、
問題の請求権が国内法上根拠のあるもの、すなわち実体的権利であるか
、あるいはそのようなものでない請求であるかによって結論は分かれて
くるわけでございまして、先ほど厚生省の方からお答えがありましたの
は、我が国の国内法上の根拠のないそのような請求につきましては、在
日韓国人のものも含めて、全体としてこの二条で処理がなされていると
いうことでございます。
その処理の意味は、三項の後段に書いてございますように、そのよう
な請求権についてはいかなる主張もすることができない。さらに言えば
、これは日韓間で相互に外交保護権を放棄した、すなわち国と国との間
でそのような請求の問題を持ち出すことはできない、そういう形で処理
をした。そのようなものについては、在日韓国人の例外条項というのは
ないわけでございます。
○柳井政府委員 ただいま御指摘の点についてだけ確認させていただき
たいと存じます。
二条の二項(a)で言っております「財産、権利及び利益」というのは
、先ほどもちょっとお答え申し上げましたが、合意議事録の二項の(a)と
いうところで「「財産、権利及び利益」とは、法律上の根拠に基づき財
産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが了解され
た。」そのように日韓両国間で合意されているわけでございます。した
がいまして、この協定二条二項の(a)で除外しております「財産、権利及
び利益」の中には、いわゆる法律上の根拠はないけれどもいろいろ請求
したいというようなもの、いわゆる請求権というものは含まれてないわ
けでございます。
それは三項の方を見ていただきますと明らかになるわけでございます
が、三項の前段の方では、先ほど申し上げましたように、「2の規定に
従うことを条件としてこということがまず冒頭ございまして、その後に
「財産、権利及び利益」については、他方の締約国で国内的な措置をと
っても文句を言わないということが前段で書いてございます。そして後
段で、「並びに」というところの後でございますが、「請求権」という
のを挙げておりまして、これについてもいかなる主張もできないという
ことを言っているわけでございます。
したがいまして、先ほどちょっと、この前の前の御質問の中で言って
おられました、訴えを提抽する権利はどうか。そこは、財産、権利及び
利益でない、単に請求を提起する個々人の権利というものは、外交保護
権の放棄という処理によっては、そういう訴えを提起するような権利ま
では殺していないということでございます。ただ、そこで言っている請
求権というのは、法律上の根拠のあるものではない、もろもろのクレー
ムを言っているということでございます。
○柳井政府委員 私の方から一点だけお答え申し上げたいと存じます。
先ほど来るる御説明申し上げましたのは、協定第二条二項で例外にし
ておりますのは韓国人の実体的権利ということでございます。したがい
まして、例外にしたのは、この協定締結当時韓国人の権利として我が国
の国内法上認められていたものがあれば、そのようなものは消滅させな
いという趣旨でございます。(「だから、帰化すればということです」
と呼ぶ者あり)いや、ですから、その帰化をする権利というものがどう
いうものであるか、これは少なくとも直接その給付の請求権になるとい
うものではないと私思いますけれども、帰化する権利というものが実体
的権利というふうには恐らく解されないであろうと思います。
第123回国会 衆議院予算委員会 第15号 平成四年三月九日(月曜日)
外務省条約局長 柳井 俊二
委員 伊東 秀子
内閣法制局長官 工藤 敦夫
外務省アジア局長 谷野作太郎
外務大臣 渡辺 美智雄
大蔵大臣 羽田 孜
○柳井政府委員 この問題につきましては、これまでいろいろな機会に
私どもの考え方、るる申し上げておりますので、それを繰り返すことは
いたしたくないと思います。
結論から申し上げますれば、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定
におきまして、その第二条で、財産請求権の問題が完全かつ最終的に解
決されたと規定しているわけでございますが、具体的には、この第二条
のそれ以下の規定におきまして、いわゆる国内法的根拠のある実体的権
利については、相手国でそれを消滅させる等の措置をとったとしてもそ
れに対して文句は言わない、それから、法律的な根拠のないその他の請
求についてもいかなる主張も行うことができないということでございま
して、財産権であれば、我が国の場合には、韓国及び韓国国民の財産権
を消滅させる法律を当時制定してこれを消滅させたわけでございます。
それ以外の請求につきましては、日韓間の問題としては、いわゆる外交
的にこれを取り上げることはしない、すなわち外交保護権を行使するこ
とはしないという意味で解決をしているということでございます。
○柳井政府委員 先ほども申し上げましたが、この協定上措置をとって
、そして権利を消滅させる等の国内的な処理をするということの対象は
、いわゆる「財産、権利及び利益」と協定で称しているものでございま
す。合意議事録で了解が確認されておりますように、このような「財産
、権利及び利益」というのは、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認
められるすべての種類の実体的権利をいうこと」が定義されて了解され
ているわけでございます。
いわゆる慰謝料請求というものが、いわゆるクレームというものがど
のようなものと国内法上観念されているかにつきましては、私必ずしも
つまびらかにいたしませんけれども、いわゆるこの「財産、権利及び利
益」というものには該当しないものが多々あろうと思います。そのよう
なものにつきましては、この協定上は、いわゆる財産、権利、利益とい
うもの以外の請求権というふうに観念しているわけでございまして、そ
のような請求権につきましては、国内的に、国内法的に処理をとるとい
うことはここでは想定しておりませんけれども、いずれにせよ、そのよ
うな問題を国家間で外交的に取り上げるということはこの協定の締結後
できないというのが当時の日韓間の合意であったというものでございま
す。
○柳井政府委員 当時の協定上の処理といたしましては先ほど申し上げ
たとおりでございまして、いわゆるクレーム、財産権以外の、実体的権
利以外のクレームにつきましては、外交保護権の放棄という形で決着を
図る一方、それと並行して経済協力というものを行ったわけでございま
す。いわゆる無償三億、有償二億という経済協力を供与いたしまして、
そういう全体の合意によってこの問題も含めて、日韓国家間では最終的
に解決したという処理を行ったわけでございます。
そして慰謝料等の請求につきましては、これは先ほど申し上げたよう
ないわゆる財産的権利というものに該当しないと思います。そのような
ものについては、いわゆる財産的な権利につきましては国内法的な処理
をしても文句を言わないという規定があるわけでございますが、それ以
外のものについては外交保護権の放棄にとどまるということで当時決着
をした。これはいわゆる請求を提起するという地位までも否定しないと
いう意味においてそのような権利を消滅させていないわけでございます
が、しかしそれが実体的な法律上の根拠を持った権利である、実体的に
法律上の根拠を持った財産的価値を認める権利であるというふうには当
時観念されなかったろうと思います。
○伊東(秀)委員 今の条約局長の御答弁を伺っていますと、慰謝料請
求権そのものは消滅してないという御答弁になるわけで、放棄したのは
外交保護権であるということをはっきりおっしゃいました。そうすると
、慰謝料請求、彼女たちが今問題にしているのは慰謝料の問題でござい
まして、そうしたら最終的に解決したとは言えないじゃないか、論理的
にも。全くそれは最終的に解決してはいない。
ただし、今もう一つ条約局長は重要なことを御答弁なさったと思いま
すが、彼女たちの権利は実体法上の根拠があるかないかというようなこ
とを問題になさいましたが、条約局長としては、慰謝料請求権は消滅は
してはいない、残っている、しかし、実体法上の根拠がある請求権では
ないという趣旨に御答弁なさったと伺ってよろしいでしょうか。
○柳井政府委員 協定の解釈に関します、いわゆる「財産、権利及び利
益」の定義につきましては、先ほど読み上げましたとおりでございます
。いわゆる慰謝料請求権というものが、この法律上の根拠に基づき財産
的価値を有すると認められる実体的権利というものに該当するかどうか
ということになれば、恐らくそうではないのだろうと私は考えます。い
ずれにいたしましても、昭和四十年、この協定の締結をいたしまして、
それを受けて我が国で韓国及び韓国国民の権利、ここに言っております
「財産、権利及び利益」について一定のものを消滅させる措置をとった
わけでございますが、そのようなものの中にいわゆる慰謝料請求という
ものが入っていたとは記憶しておりません。
○伊東(秀)委員 慰謝料請求権は入っていなかった。そうしたら、政
府がこれまで繰り返してきました彼女たちの請求権は完全かつ最終的に
解決したということが、全く答弁を覆さなければいけなくなると思いま
すが、官房長官、いかがでございましょうか。
○柳井政府委員 官房長官の御答弁の前に一点だけ補足させていただき
たいと存じますが、いわゆる個人の請求の問題については解決していな
いのじゃないかという御指摘もあるわけでございますけれども、先ほど
私答弁いたしましたとおり、この日韓請求権・経済協力協定におきまし
ては、これは繰り返しませんけれども、先ほど申し上げたような規定に
よって日韓両国間においては完全かつ最終的に解決を見たということで
合意がなされたということでございます。ただ、いわゆる法律的な根拠
に基づかない財産的な実体的な権利というもの以外の請求権については
、これは請求権の放棄と申しますことの意味は、外交保護権の放棄とい
うことでございますから、それを個人の当事者の方々が別途裁判所なり
なんなりに提起をされる、そういうような地位までも否定するものでは
ないということは、これまでもいろいろな機会に政府側として御答弁申
し上げているとおりでございます。
○伊東(秀)委員 そこが大変論理的に矛盾であるところでございまし
て、訴権があるのは当然である、だれでも裁判所に訴える権利はあるわ
けでございまして、訴権とそれから慰謝料請求権という実体法上の権利
とは全く別である。裁判所に訴える権利というのは手続法上認められて
いる訴権でございまして、今条約局長が答弁なさったのは、従軍慰安婦
だった方々の慰謝料請求権については消滅していない、これは解決の枠
外というふうに答弁されたわけですから、とすれば訴権にすりかわる論
拠は全然ないわけでございます。それがなぜ手続法上の裁判所に訴える
権利だけで実体法上の権利は消滅したんだということになるかが全く論
理矛盾である、そういうことで私は先ほど官房長官の御答弁を求めてい
るわけでございますので、もう一度、慰謝料請求権を当人の承諾なしに
国家が消滅させることはできないという条約局長の見解を前提にして、
何ゆえにそれでは政府は解決したと言うのか、この点を明快にお答えい
ただきたいと思います。
○柳井政府委員 官房長官へのお尋ねがどうやら私の答弁が原因になっ
ているようでございますので、一点だけ補足させていただきたいと存じ
ます。
先ほども申し上げましたとおり、我が国としては、この協定上外交保
護権を放棄した、そして関係者の方々が訴えを提起される地位までも否
定したものではないということを申し上げたわけでございますが、しか
らば、その訴えに含まれておりますところの慰謝料請求等の請求が我が
国の法律に照らして実体的な根拠があるかないかということにつきまし
ては、これは裁判所で御判断になることだと存じます。ですから、その
点についてはちょっと誤解があるといけませんので補足させていただき
ます。
○伊東(秀)委員 訴権があるのは、だれも訴権を否定されている人は
いないわけでございますから、訴権があることは当然である。問題は、
今問題になっているのは、訴権のあるなしじゃなしに、彼女たちの慰謝
料請求権、個人としてそれは消滅しないという答弁をされたわけですか
ら、それをなぜ解決したと言うかが問題だということを私は伺ったわけ
です。
それはおきまして、内閣法制局長官に伺いますが、条約でもって国家
が個人の精神的な損害に対する慰謝料請求、これを放棄できるかどうか
ということが第一点と、今政府はできないということを前提としつつも
、その残っている慰謝料請求権は裁判所に訴える権利、つまり訴権でし
かないんだというふうに非常に限定的にしているわけでございますが、
この二つの点に関する法制局の見解をお答えください。
○工藤政府委員 お答えいたします。
ただいま条約局長あるいは官房長官からもお答えございましたように
、現実に日韓の請求権協定といいますかで放棄しておりますのは、我が
国の外交保護権あるいは韓国の、双方の外交保護権でございますので、
そういう意味で外交保護権についての定めというもの自身が直接個人の
請求権とかこういったものの存否に消長を及ぼすものではない、こうい
うことだろうと思います。
次に、第二の点のお尋ねでございますが、それ自身につきましては、
現在訴訟になっておりまして、現実に裁判所でどのようないわゆる法規
の適用といいますか、そういうものが行われるか、私の方から予断を持
って申し上げることはいかがかと存じます。
○伊東(秀)委員 私は、裁判の中身のことをお伺いしているのではご
ざいませんで、今法制局長官がお答えくださいましたように、外交保護
権の放棄が個人の請求権の消滅には何ら影響を及ぼさない、とすれば、
全く影響を受けていない個人の請求権が訴権だけだという論理が成り立
つか否かという見解、解釈を伺っているのでございますが、いかがでし
ょう。
○工藤政府委員 お答えいたします。
訴権だけかというお尋ねでございますけれども、現実に訴えを起こし
まして、私もその内容を詳細には存じませんけれども、損害賠償請求を
されているわけでございます。その損害賠償請求について、いかなる取
り扱いがされるか、これは裁判所の判断にまつところであろう、こうい
うことでございまして、訴権だけであって、あと損害賠償請求権がある
とかないとか、そこの部分を私の立場で申し上げる……
○伊東(秀)委員 あるなしの問題じゃなくて、損害賠償請求権は消滅
しないと言いながら、それが訴権だけという論理が成り立つかどうかを
潤いておりまして、裁判所の判断をかわって言ってもらいたいと言って
いるのじゃないのでございますが、その点について、そういう論理が成
り立つかどうかを答えてください。
○工藤政府委員 訴権だけというふうに申し上げていることではないと
存じます。それは、訴えた場合に、それの訴訟が認められるかどうかと
いう問題まで当然裁判所は判断されるものと考えております。
○伊東(秀)委員 今の御答弁で、つまり今まで政府が、請求権は消滅
してすべて解決済みとかあるいは消滅していないけれどもそれは裁判所
に訴えるという権利のみだということが、大変論理的に矛盾であるとい
うことが明らかになったのではなかろうかと思います。
そこでその問題はおきまして、次にもう一つ、条約局長の二月三日の
御答弁に即してお伺いいたします。
二月三日の山花議員の質問に対して、柳井条約局長が、「日韓の条
約の上ではこ「当時具体的に取り上げられなかった問題も含めてすべて
の請求権の問題が両国間では完全かつ最終的に解決されたというふうに
規定しているわけでございます。したがいまして、この点につきまして
は、日韓両国政府間で合意の上でそのような処理をしたということでご
ざいます。」という答弁がございます。
そこで一点目。まず、私はここに請求権及び経済協力に関する協定、
議事録、すべての書類を持ってきておりますが、この最終的に解決され
たというふうに規定してあるというのはどこの部分に規定してあるので
しょうか。最終的に解決されたというのが、つまり対日八項目要求、こ
れも私ここに用意してございますけれども、これ以外に取り上げられな
かったこと、議題にならなかったこともすべて解決するというふうにこ
の協定に規定されているというふうにお答えになっているわけでござい
ますが、取り上げられなかった問題まで解決するというのがこの協定の
どこに書いてあるのか、教えていただけますでしょうか。
○柳井政府委員 それは協定の第二条の一項に、ここにいわゆるサンフ
ランシスコ平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて完全かつ最終的
に解決されたというふうに言っているわけでございまして、国交の正常
化でございますとかあるいは平和の回復ということを行います場合に、
平和条約あるいはこのような日韓間の協定等いろいろな条約を結びまし
て請求権の問題を解決するわけでございます。
その際に、大抵の場合は個々の請求項目についていろいろ議論をする
ということがあるわけでございまして、御指摘のとおり日韓の当時の交
渉におきましては、いわゆる八項目の請求というものが韓国側から出さ
れて、その請求に対する補償の積み上げというような話し合いもしたわ
けでございますが、当時既に戦後相当時間もたっていた、そしてその間
にいわゆる朝鮮動乱というものも介在したということで、一件一件の積
み上げではこれは到底解決のめどが立たないということで、いわゆる一
括解決方式というものが日韓間で基本的に合意されまして、そしてその
ような線に沿ってこの条約が起案され合意されたわけでございます。
この協定上の根拠ということになれば、それは「完全かつ最終的に解
決された」ということでございまして、これが八項目にあるかないかと
いうことで判断するというよりは、日韓間の請求権の問題を一括して全
部解決したと。そこで論議されたものもあったでしょうし、あるいは具
体的な論議の対象にならなかった請求というものもあったと思います。
しかし、そのような論議されなかったものあるいは場合によっては八項
目の請求の中に関係のあるものもあるかもしれませんが、論議されなか
ったものを後になってあれもあった、これもあったということでは、い
わゆる一括解決というのはできないわけでございますから、それはこの
条約の趣旨、そしてこの第二条の規定から申しまして、現在問題になっ
ているような請求についても、これは日韓間の問題としては一括、完全
かつ最終的に解決されたという趣旨であるということを申し上げた次第
でございます。
○伊東(秀)委員 今、取り上げられなかった問題も請求権もすべて解
決したというのは、条文上の規定としてはこの二条一項でしかないとい
うことが明らかになりました。しかしこれは、法の一般原則に反するの
ではなかろうかというふうに私は考えるわけでございます。
というのは、二つの理由から法の一般原則に反しております。一つは
、政府はこれまで昨年の十二月まで、軍の関与はない、民間人が勝手に
やっていたことだという公式見解をずっと表明してまいりました。つま
り、前提となる事実認識において全く新たな事実が判明したという、つ
まり、前提事実に錯誤があったということに法律上はなろうかと思いま
す。つまり、こういう場合には、契約の前提になる事実に変更が後で発
見され、かつその変更が全く予期できなかったような場合には、法の一
般原則として事情変更の原則というものがとられるわけでございます。
これは何も日本だけの問題ではなくて、フランスでは、例えば不予見
の理論とか、つまり予見できなかったことが契約の後に発見されたらそ
の契約の効力はなくなる、あるいはドイツでは行為基礎の理論と言われ
ておりまして、行為の前提となった、契約の前提となった基礎が崩れた
ときにはその基礎の上に立っていた契約は無効になるという論理がある
わけでございますが、こういった法の一般理論からいっても、全く事実
認識が変わってきた今も、しかも全然それが事実認定が違っていたため
に取り上げられなかったことに対して、それがこの請求権の中に入って
いるんだという論理はどうしてもとり得ないんじゃないか。その点につ
いて法制局長官にお伺いしますが、今のように、条約の解釈において法
の一般理論というものは適用になるということが私は当然だと思うので
すが、いかがでしょうか。
○柳井政府委員 法制局長官から御答弁がある前に、私の方から一点だ
けお答えさせていただきたいと存じます。
いわゆる慰安婦の問題につきまして、政府が関与したか否かという問
題が確かにあるわけでございますが、いずれにいたしましても、この日
韓の協定上は、韓国国民の我が国政府に対する請求あるいは財産権とい
うものだけではなしに、我が国の政府に対する請求ももちろんでござい
ますが、両国国民間の請求の問題あるいは財産権の問題というものも含
めてこの条約上の処理の対象にしているわけでございます。
○工藤政府委員 お答えいたします。
個別具体の事情を離れまして一般的にと申されますと、非常に私の方
もお答えしにくいわけでございますが、もちろん国内法的にも事情変更
といったようなものは一つの考え方として働き得ると思いますが、ただ
同時に、事情変更というものをただ安易に、容易に認めていくというの
もまた問題があるということだと存じます。
○伊東(秀)委員 今の御答弁で、安易には認められないけれども、そ
の考え方は条約を解釈する場合にも適用になるというふうに理解いたし
ます。
このことは、私は事前に質問通告の中にお渡ししておきましたが、法
制局長官にもう一度お伺いしますが、国際間の紛争を解決する場合の国
際司法裁判所規程の第三十八条の一項Cというところにも認められてい
るんですね。つまり、どういうものに準拠して国際的な紛争を処理する
かというときのその適用するものの中に、「文明国が認めた法の一般原
則」というふうに書いてございますが、つまり事情変更の、原則的なそ
の前提事実が変わった場合の条約の解釈に関するものが、この国際司法
裁判所規程の中では「文明国が認めた法の一般原則」という形で認めら
れているというふうに解釈してよろしいかどうか、いかがでしょうか。
○柳井政府委員 事情変更の原則等につきましていろいろ御指摘があっ
たわけでございますが、まず一般的な問題といたしまして、もとより各
国の国内法で認められた、事情変更の原則を含めましていろいろな原則
があるわけでございますが、そのようなものがそのまま国際法の原則と
して適用されるというものでないことは当然でございます。したがいま
して、もちろん国際法の解釈につきまして、いろいろ類推でございます
とかあるいは参考になるということが各国の国内法の中にあることは事
実でございますし、事情変更の原則というのも、特にその条約の無効取
り消し原因という観点から非常に議論されておりまして、これについて
は非常に議論の多いところでございます。
その条約の無効取り消し原因というのはただいまの問題ではございま
せんのでこれ以上触れませんけれども、例えばそういうような問題につ
きましては、国際間で条約法条約というようなもので合意されて、その
意味あるいはそれを適用する場合の一定の手続というものをきちっと決
めて適用するということになっているわけでございます。したがいまし
て、事情変更の原則というようなものがそのまま国際法に適用されると
いうことはむしろ言えない、そういう考え方はあるけれども、そのまま
の問題ではないということでございます。
他方、国際司法裁判所規程の三十八条一項には、御指摘のとおり法の
一般原則というものが挙げられているわけでございます。この三十八条
一項のいわゆる柱書きのところは、「裁判所は、付託される紛争を国際
法に従って裁判することを任務とし、次のものを適用する。」とありま
して、aとして条約等を挙げております。それからbとして、法として
認められたいわゆる国際慣習というのを挙げておりまして、そしてcと
して、「文明国が認めた法の一般原則」というものを挙げております。
さらにその他の点も書いておりますが、いずれにいたしましても、裁判
所が法の一般原則を適用するというのは、個々具体的な国際間の争いに
ついて、特に条約あるいは国際慣習法というようなもので解決ができな
いというような場合に「文明国が認めた法の一般原則」というものも適
用して判決を下すということでございまして、そのような個々具体的な
争訟を離れて何が国際的に適用される法の一般原則がということは言え
ないことでございます。
○伊東(秀)委員 それは当然でございまして、今回従軍慰安婦問題で
は大変日韓間の重要な、外交レベルには乗っているかどうか別に伺いま
すけれども、国民感情の問題として、これはもうどうしようもない状況
に来ているんじゃないかと思われるわけですね。
つい先日の新聞報道によりましても、三月一日の独立記念日を前に韓
国紙が韓国国民に日本観を問うた、アンケートをしたところ、日本人に
好感を持てないというのが六七・四%、日本という言葉を聞いただけで
気分が悪くなる、二六・一%、日本政府は南北統一に反対していると思
う、七九%、こういう形で大変反日感情がふだんより高まっている。そ
の大きな原因として従軍慰安婦、自分たちの民族がこれほど凌辱された
という事実が明るみになったことが大きく問題があるというふうに報道
されているわけですね。だからこそ、この問題は国際間のこういった条
約の解釈において非常に重要な問題になってくるであろうと私は考える
わけでございます。
しかも、先ほど読み上げました柳井条約局長の答弁では、もう解決済
みというのは、「日韓両国政府間で合意の上でそのような処理をしたと
いうことでございます。」というふうに答弁なさっておられますが、実
はそうではない、韓国の方にも、私は政府要人にもお会いしましたが、
それは別としまして、韓国政府はことしの一月二十一日、各省庁の実務
責任者会議を開いて、日本政府に対して徹底した真相究明と適切な補償
などを求めていくという、そういった方針を決定したというふうに伝え
られているわけですね。つまり、韓国政府はここで処理済みということ
には納得していないということがこの報道で明らかにされるわけでござ
いますが、そういう意味でも国際司法裁判所規程に用いられているよう
なこの法の一般原則ということは大変重要になろうかと思うわけでござ
います。
そこで、外務省にもう一度お伺いしますが、外交ルートを通じてこの
ような徹底した真相究明及び適切な補償というようなことが韓国政府か
ら伝えられておりますでしょうか。
○谷野政府委員 ただいま先生がお示しになりました韓国側の措置につ
いて、その部分を読み上げてみたいと思います。
まず徹底真相究明に努めてほしい、そしてこれを基礎に補償、賠償等
の問題について国内の専門家あるいは当事者の意見をよく聞いて、その
上で日本と外交交渉を展開する、こういうことでございまして、私の申
し上げたいのは、今までのところ韓国政府が外交ルートを通じまして日
本政府に要請してきておりますのは、まずは徹底して真相の究明をして
いただきたいということでございまして、補償あるいは賠償という話は
今のところございません。
○伊東(秀)委員 私が韓国の方からお伺いしたところでは、この問題
は非常に民族の尊厳の根幹にかかわる問題であり、基本的な新たな事実
が判明した現時点においては要求したから払うという性質のものではな
い。申しわけなかったというふうに謝罪するのであれば、日本側が信義
のある国として自発的に補償を申し出てくるというのが国際間の信義で
あろうと考える。だからそれを今は見守っている。ただし、日本政府が
あくまでも解決済みということを、前提を早急に変えないのであれば法
的な措置をとるということを、私は直接韓国の政府関係者の方からお伺
いいたしました。ということは、今は適切な補償の要求が外交ルートに
乗ってないにしても、早晩、いつまでも裁判を見守るとか決着済みとい
うことを繰り返している限り外交ルートに乗るであろうということが予
想されるわけでございます。
外交ルートに乗った場合どうなるかということを私は調べてみました
が、これは先ほど条約局長も条約の無効や取り消しの問題にちょっと触
れましたが、条約法に関するウィーン条約というのがございまして、こ
の四十八条というところに「錯誤」の項がございます。つまり、条約を
締結するときにその基礎をなしていた事実関係に錯誤がある場合には、
この場合は韓国側ですけれども、韓国側はこの条約の無効、だから、日
韓条約の一部、従軍慰安婦については請求済みと日本が主張し続けてい
るこの部分に関してのものをたとえ前提にしたにしても、これの無効を
主張して、国際的な、国連への平和的解決の協議の申し出とか、あるい
はそれでも日本政府が聞かない場合には国際司法裁判所へ訴え出るとい
うような重要な外交問題になるのではなかろうかということが予想され
るわけでございます。
こういったこれまでのことを前提にして、渡辺外務大臣、まだ真相究
明ができるまでは裁判の結果を見守るという態度を続けるのか、あるい
はとにかく新たな事実が発見された、しかもその前提事実には錯誤があ
った、条約の解釈としても錯誤無効という、一部条約の無効という問題
が外交ルートに乗るかもしれないということを前提にして、どうお考え
になりますでしょうか。お答えお願いいたします。
○渡辺(美)国務大臣 日韓条約が交渉が始まって締結されるまでには
十三年ぐらい長い時間がかかっているんです。当然その中では意見の違
いがあるから、交渉が長引いた。最初は賠償というようなことも出たで
しょう。いろいろ出ました。しかし、いや、こちらは別な意見を出した
、そして最終的には賠償でなくて、それで請求というようなものに決着
をつけようということになり、それは経済協力という形をとろう。で、
無償三億ドル、有償二億ドルということで決まったわけです。
じゃ、何でそれを算出したんだ、無償という金の中身を。これについ
ても私など当時の交渉の記録等に出ているところを見ると、やれ軍隊の
徴用だとかいろんな問題が出たそうです。出たけれども、それじゃそれ
らを全部金目にして、何が幾ら何が幾らと積み上げることは事実上、事
実上ですよ、これは不可能に近い、評価の仕方が。そこで、政治決着で
すから、こういうものは。だからそれはひっくるめて、それで無償三億
ドルでお金を差し上げますから、経済協力で、どういうふうにお使いに
なるも向こうにお任せする。それから有償については二億ドル出します
。当時は、まあ三百六十円ぐらいのレートだったと思いますが、予算も
今の恐らく十分の一ぐらいじゃないですか。正確なことはちょっとわか
りませんが、一千億円ぐらいの金を出したんですから、今でいえばまあ
数兆円か一兆円か、それぐらいの金額に匹敵するでしょう、経済の規模
あるいはGNPの大きさ、予算の規模等から比べると。そういう中です
から、当時としては日本の国力もそれほどじゃありませんし、かなりの
ものを出すことで決着がついたということですね。
そこで私は、法律論争をこれは幾らやっても同じことの平行線で、こ
れは繰り返したと思うのです。しかし、現実の問題として、大きな人道
問題としてこれが提起され、それでまた政治問題になっている。これは
事実ですから、だからこれは法律論争で負け勝ちを決めると言ったって
、実際は、それはそう簡単に決まる話じゃない。幾ら国際裁判所へ訴え
ようが何しようが、年数ばかりかかっちゃって、私は決着しないんじゃ
ないかと思う。したがって、非常に悲惨な方々ですから、だれが考えた
ってお気の毒だ、本当に申しわけないという気持ちはあるんですよ。だ
から、そういうものについて何か、まあ申しわけなかったというんなら
申しわけなかったようなことを、目に見える形で何かするのがやはり政
治かなという感じを受けているんです、実際は。
しかしながら、そうはいっても、じゃ、だれとだれがその対象なんで
すか、今訴え出た人だけなんですかと。すると、数名という話になっち
ゃうわけですね。だからもっと実際はいるんじゃないかというようなこ
ともあって、しかし、そういうような方の実態がわからないことにはや
りようがありませんから、裁判は裁判でそれは継続されるのは結構です
が、一方はそういうような実態調査をやって、大体この程度の人が確実
ということになれば、しかし、この問題についてやり方を間違うと、ど
んどんどんどん広がっていっちゃって、何のために日韓の条約を結んで
、ここで一切終わりと決めたかわけがわからなくなってしまいますから
ね。
そこらの兼ね合いも、これは日本としては国益の問題ももちろんあり
ますし、負担が多ければ多いほど日本国民が喜ぶという話じゃありませ
んから、これは国の税金との関係もあるわけですから、だから、ほかの
ところにどういうふうに広がるか広がらないかという問題も含めて、韓
国政府は政府として当時の軍人さんとかなにかには何がしのものを出し
たということも聞いていますよ。だから、そことの兼ね合いというもの
も一体どうなるのかというもの等も含めて考えなきゃならぬ。
しかし、お気の毒であったということも事実ですから、どういうふう
にするかは、これはまあそこらのところを全部見た上で解決をするとい
うのが政治じゃないかなというように私は思っているんですよ。しかし
、それは今訴えられている方の御希望どおりになるかどうか、それはわ
かりませんよ、それはわかるはずがないんですから。だから、そこらの
ところでどうなるかはもう少し調べていかないと結論は出せないと私は
考えています。
○伊東(秀)委員 大変積極的な御答弁で私としてはうれしいわけでご
ざいますけれども、今の御答弁で伺いますと、つまりだれが慰安婦であ
ったかが、調査というか真相究明は、だれが慰安婦であったか。つまり
、支払い先を確認しなければいけないということが、それがわかれば支
払います、軍が積極的に、しかも組織的また計画的に関与していたとい
う事実を前回私は明らかにしたわけでございますが、支払いはするけれ
ども支払い先を明確にしたい、そういうことと受けとめてよろしいんで
しょうか。
○渡辺(美)国務大臣 そこまで私は具体的に言っているわけじゃない
んですよ。何かの記念事業という問題もありましょうし、よく戦没者等
に忠霊碑を建てるというようなこともございましょうし、何かそれはこ
れから考えることであるが、しかし大体どれくらいの人数でいるかとい
うことも全くわからないのですね。もう三人や五人の解決なら話は簡単
ですよ。しかしそういうこと、実態がまずつかめなければ話のしようが
もちろんないわけですから、ですからそういう点については向こうでも
よく真相を究明をする、調査をしてみると言っているそうだし、我々の
方でも調査をしますと言っているわけですから、そこは友好国との間で
ございますから、よく相談をしながらやるということではなかろうかと
存じます。
○伊東(秀)委員 実態調査は当然しなければいけないことであります
し、宮澤首相も誠実な調査を韓国に約束してきたという事情もございま
すので当然かどば思いますが、ここに、日朝の交渉に出席しておられる
第六回交渉の中平代表の発言というものの中に大変気になるのがあるん
ですよ。従軍慰安婦の問題の噴出に驚いている、朝鮮の指摘する罪行の
真相が解明されるには何世紀かかるかわかもないというようなことを言
っているわけです。つまり、何世紀かかるかわからないような調査のこ
とを考えているとしたら大変問題なわけで、あくまでも誠実に、実態が
解明したら、形はともあれ支払う気持ちがあるということを前提にする
のかどうかのことは大変重要な問題だと思うんですね。払うか払わない
かはわからないけれども、何世紀かかってでもとにかくえっちらほっち
ら調査しましょうなんというんじゃ、大変国際関係の、重要な外交のパ
ートナーとしての韓国との日韓関係はますます悪くなるんじゃないかと
思うわけでございます。宮澤さんが初めての外国訪問に韓国を選ばれた
というのも、やはり北東アジアの平和とか安定にとって非常に重要なパ
ートナーだというお考えのもとに私は韓国にいらっしゃったんだという
ふうに理解しておりますし、やはり調査というからにはいつごろをめど
に何と何を明らかにするということを明確にしなければいけないんじゃ
ないかと思うわけですね。
それと、あとこういうことは、私が従軍慰安婦でしたということを名
のり出て受け取る側も非常に恥ずかしい。もう今お金が欲しくてこうい
う訴えをしているのではなくて、やはりあれは軍は関与してない、民間
人が勝手にやったんだというふうに言い切っていた政府の態度に対する
自分の屈辱に、汚辱にまみれた人生は何だったのかという、戦後五十年
たって彼女たちの人間としての憤りと憎しみが噴出したのが今回の訴え
であり、日本政府に対する請求だと私は思うわけでございますけれども
、そういう意味からいっても、だれに払うかわからないというんじゃな
しに、とにかくこういう事実が従軍慰安婦と言われる人たちに対して行
われた。そうすれば、とにかく、基金にするかあるいは記念碑を建てる
か歴史博物館を建てるか、あるいはそういった人たちの生活保障、名の
り出てきた人たちに蓋然性が証明されれば生活を援助いたしましょうと
、何らかの形をとるとか、そういったことが非常に私は、日本は経済大
国と言われているわけでございますけれども、大事なことじゃなかろう
かと思うわけでございます。そこまでもういま一歩踏み込まなければだ
めなんじゃないかなという気がするわけでございます。
それで、それを前提にしまして、また今までこういった措置が幾つか
とられておりますので、こういったことは考えられないかという形で提
起できる例があるわけでございますが、昭和六十二年の九月に台湾住民
の戦死傷者への補償という形で弔慰金を払っているんですね、議員立法
をつくって。こういう方法もあるのじゃなかろうかと思うわけですが、
これをすることに何か支障があるかどうか、この辺の見解はいかがでし
ょうか。
○渡辺(美)国務大臣 これは、日本の軍に徴兵されてそれで戦死した
方とか、それかも重度の負傷を受けて目が失明したとか、あるいは腕が
足がなくなったとか、いろいろなそういうような方、悲惨な方があって
何もされていない。そういうようなことで議員立法をされたことは事実
ですが、こういうのはどんどんそれはもう申し出がありますよ。だから
人の確定もしやすい。しかし、この従軍慰安婦の問題というのは、申し
出の問題というのはなかなか実際問題として、これは生存されておった
としても、あるいは遺族にしても薄々わかっておってもそれはなかなか
言いづらい問題ではなかろうかと私は思います。したがって、そういう
ものも含めて何らかの済まないという気持ちをあらわす何がいいか、そ
れは今後考えていきたい。それには一人一人の者がみんなわからなけれ
ばなんて、そんなことはそれはもう不可能ですから、大体大ざっぱなと
ころがわかれば政治的な配慮をしていくということ以外に私はないんじ
ゃないかという感じですよ。これは内閣で決まったわけじゃないからち
ょっと言い過ぎかもしらぬけれども、よく相談をしていきたいと思って
います。
○伊東(秀)委員 大変積極的な御姿勢でうれしいのですが、もう一つ
、立法は難しいとすれば、在韓被爆者への処置として、九〇年の五月に
盧泰愚大統領来日の折に、総額四十億円の支援を表明された。つまり、
人道的な立場から、本来ならもう日韓条約で決着しているけれども、政
治的な決断として、四十億円在韓被爆者への支援をしたわけですね。そ
して、医療費とか診療体制とか、あるいは福祉センターをつくるとか、
そういった韓国に住んでおられる被爆者の方々への四十億円予算措置を
して、去年十七億、ことしの平成四年度の予算でも二十三億円計上して
いるんですね。こういった措置は考えられないか。つまり、個々人を特
定しなければというんじゃなくて、もう政府の関与がここまで明らかに
なった、そうしたら、この在韓被爆者への措置的な一種の基金をつくっ
て、そして後は、基金の使い道は、当事者とかあるいは韓国にそういっ
た関係者が集まった機関をつくってもらって、その機関に任せるという
ような方法、これはいかがでしょうか。
○谷野政府委員 私の方から、事実関係だけ確認のために申し上げたい
と思いますが、在韓被爆者の問題、確かに四十億円の基金をつくりまし
た。ただいまお願いしております予算案でそのうちの二十三億円をお願
いしておるわけでございますが、その前提になりますのも、先生もお触
れになりましたように、六五年でこの種のことも含めて日韓間において
は決着済みだということを日本側は明確にいたしました上で、この問題
を特に取り出して、人道的な見地から何とかしてさしあげなければいけ
ないということで、四十億円の手当てを基金の形でさせていただいてお
るわけでございます。
○渡辺(美)国務大臣 私が今答弁した中で、大ざっぱな調査と言った
みたいですが、それは語弊がありますから訂正しますが、おおよそとい
う意味ですからね。正確な一人一人、何千何百何十何人という意味じゃ
ないという意味です。
それから、その後のことは、数字を挙げて何をするというような具体
的なことをここでまた申し上げられる段階ではない。
○伊東(秀)委員 いや、外相として、こういった政治的な解決、立法
までしなくても、基金を設置して、そして関係者の福祉に役立ててもら
うというような構想についてはいかがですかというお伺いをしているの
です。
○渡辺(美)国務大臣 そういうことがいいのか、もっと気持ちがすっ
きりするような形がいいのかも含めまして、それは内々、相談をする場
合は、内々話をするということじゃないのか。ここで一方的にこっちが
決めちゃってどうのこうのという話じゃないと私は思っています。まだ
その段階ではありません。
○伊東(秀)委員 内々というのは、韓国との間でというふうに私は理
解してよろしいんでしょうね。
それから、調査の問題にもう一回戻りますが、誠実な調査、それから
真相を徹底的に究明するというのであれば、今まで政府がやってきたよ
うな調査では大変私は、まさしくふまじめだと思うんですね。どういう
調査をやってきたかを伺いましたところ、ヒアリングを平成二年の六月
に五名、二日間にわたって厚生省の勤労局にもと勤めていたような人か
ら聞いたということとか、あと、やはり平成二年度に、二日から三日か
けて九万人の強制連行者の名簿を当たったが従軍慰安婦らしき人はいな
かったとか、それで、裁判が起きてから、昨年の十二月十二日に、自治
体への調査とか、六省庁に調査を指示したというのですけれども、もっ
と本格的に、韓国の方の方々も含めたり、韓国へ出かけていくぐらいの
実態調査が必要じゃないかと思うわけです。それには、たとえ数百万円
でも予算措置を講ずべきだと思うわけですが、この点について、大蔵大
臣、いかがでございましょうか。
○羽田国務大臣 この点につきましては、昨年の末から官房の中で調整
、調整といいますか連絡をとりながら調査を始めているということであ
りますし、また先ごろも、たしか先生に対する御答弁だったですか、総
理からも誠心誠意やります、調査をしていきたいということを申し上げ
て、実際に調査に各関係省庁が今当たっておるということでございまし
て、今予算的な問題があるというふうに私どもは聞いておりません。予
算的に、予算がないからどうこうということじゃなくて、各省の中でそ
れはやりくりしながら十分調査ができ得るものであろうというふうに考
えております。
○伊東(秀)委員 特別には予算措置は講じるつもりはないというふう
に御理解してよろしゅうございますでしょうか。
○羽田国務大臣 関係省庁の中でそれは手当てしながら対応しておると
いうふうに承知しております。
○伊東(秀)委員 ぜひともこの問題については、誠実にして現実的な
対処をお願いしておきたいと思います。
第123回国会 参議院予算委員会 第6号 平成四年三月二十一日(土曜日
)
委員 清水澄子
外務省条約局長 柳井 俊二
○清水澄子君 時間がなくて論争できませんけれども、日本人の女性を
慰安婦にしたことにも私は非常に大きな問題があると思っております。
しかし、朝鮮の女性たちにはさらに植民地支配という、そういうやはり
民族的な支配と差別があったという、この問題は私たちはやっぱり反省
しなきゃいけないと思うわけですね。それが、何か戦争一般論でこのお
話をしていらっしゃるところに、私は、この問題の深刻な取り組みなり
事態の受けとめ方がやっぱり弱いんじゃないかと非常に心配をしており
ます。
もう時間がございませんので、次にお尋ねいたしますけれども、それ
では、この日韓条約の請求権協定ですね、そういう中でこの従軍慰安婦
の補償問題というのはもうすべて解決されていたものなのか、どうなん
でしょうか。
○政府委員(柳井俊二君) お答え申し上げます。
結論的に申し上げますと、この昭和四十年の日韓請求権・経済協力協
定のもとで、御承知のとおり、日韓両国間の請求権の問題は完全かつ最
終的に解決したということが、この協定の第二条第一項に結論的に書か
れているわけでございます。詳細につきましては、御承知のことと存じ
ますが、この協定のもとで一方においては経済協力を行い、これと並行
して請求権の問題は一切解決したということになったわけでございます
。
その方法につきましては、必要あればまた詳しく御説明したいと思い
ます。
○清水澄子君 非常に矛盾だと思います。つい最近まではそういう事実
はなかったとおっしゃっておられて、どうして一九六五年にこの問題は
終わっていたのでしょうか。その関係をお話しください。
○政府委員(柳井俊二君) ただいま、最近までそういう事実はなかっ
たとおっしゃいましたことの意味を私は必ずしも十分に理解いたしませ
んでしたけれども、いずれにいたしましても、この請求権の問題は当時
の日韓間の長い交渉の中でいろいろ討議をされまして、当初は一件一件
の請求の事実を積み上げてそれを検討して、それに補償をするというよ
うな方法がとれないものかということで議論があったわけでございます
。
しかし、当時、もう既に戦後相当の時日を経ておりますし、またさら
には朝鮮動乱という大変大きな事件が介在いたしましたために、その裏
づけになる資料、事実関係等が明らかでたかった。また、双方の法律的
な考え方につきましても非常に大きな懸隔があったということで、結論
的には、一方において経済協力を行い、一方においてはこの請求権の問
題は一括解決するということでこの協定ができたわけでございます。
したがいまして、私どもが今までいろいろな機会に御説明申し上げて
おりますことと先ほど申し上げたこととの間に別に矛盾はないと思いま
す。
○清水澄子君 矛盾があります。矛盾がなければもう何にもしなくてい
いわけなんですね、法的にもすべてそれが完結しているならば。そうじ
ゃないんだと思います。
次に、じゃ、日韓条約のこの請求権協定の中から外れているものは何
なんですか。
○政府委員(柳井俊二君) 結論から申し上げれば、外れているものは
ございません。日韓両国間におきましては、請求権の問題はこの協定を
もって最終かつ完全に解決したということでございます。
○清水澄子君 では、北朝鮮の人たちは外れて、この中に含まれないの
ですね。そして、サハリン残留の韓国人の財産とか請求権補償、在日の
人たちもみんなこれは含まれていないということですか。
○政府委員(柳井俊二君) 先ほど申し上げましたことは日韓両国間に
おいては外れているものはないということでございまして、北朝鮮との
関係におきましては、まさに現在国交正常化の中でこういう問題を含め
て協議を行っているということでございます。
なお、サハリンの関係につきましては、この日韓の協定は韓国人とい
う、すなわち韓国の国籍ということで個人の方々をとらえておりますの
で、もしサハリンに韓国籍の方がおられれば、それはこの協定の対象に
なるということでございます。ただ、私の承知している限り、サハリン
におられる半島系の方々は、恐らく大部分は北朝鮮の国籍をお持ちであ
るか、あるいはソ連、現在はロシアでございますが、の国籍をお取りに
なったか、あるいは無国籍の方もあるというふうに聞いております。
○清水澄子君 それでは、しかし、日韓条約のこの協定第二条一項でい
う財産、請求権というのは、そしてこれが完全に解決されたとおっしゃ
っているのは、これはいつもおっしゃるように日韓両国の外交保護権の
問題であって、両国民の個人が持っている権利というものはいかなる理
由があろうとも国家が消滅させることはできないということは、これは
確認ができると思いますが、いかがですか。
○政府委員(柳井俊二君) ただいま御指摘の問題につきましては、以
前にも先生にお答え申し上げたことがございますが、ただいまおっしゃ
いましたとおり、いわゆる請求権放棄というものは、条約上の問題につ
いて申し上げますれば、まさに御指摘のとおり、外交保護権を放棄した
ということでございまして、この条約をもって個人の権利を国内法的な
意味で直接消滅させたというものではないわけでございます。
ただ、若干補足させていただきますと、この請求権・経済協力協定の
第二条の三項に具体的な請求権処理の規定があるわけでございますが、
ここでは一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益」、その後は
ちょっと長くなりますから飛ばしますが、「に対する措置並びに一方の
締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求
権」については「いかたる主張もすることができない」という形でいわ
ゆる外交保護権の放棄というものをやっているわけでございます。国に
ついては自分の権利を放棄するということでございます。そこで、ここ
で「財産、権利及び利益」と言っておりますのは、この合意議事録の方
で確認しておりますように、「「財産、権利及び利益」とは、法律上の
根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいう
」というふうに決められているわけでございます。
したがいまして、いわゆる従軍慰安婦の請求の問題というのはこのよ
うな実体的な権利というものではないわけでございますが、法律上の根
拠のある財産的な、実体的な権利というものにつきましては、我が国に
おいては、昭和四十年当時国内法を制定いたしまして、韓国の方々のこ
のような実体的な権利についてはこれを消滅させたという経過があるわ
けでございます。
第123回国会 決算委員会 第2号 平成四年三月二十五日(水曜日)午前
十時開議
委員 志賀 一夫
外務省アジア局
北東アジア課長 武藤 正敏
○志賀(一)委員 ぜひそれを解明していただくように、特に要求をし
ておきたいと思います。
次に、日本と韓国の当面の関係でも、戦後処理がされてないために大
変訴訟が多い。二、三を申し上げますと、元BC級戦犯の朝鮮人軍属と
遺族七名が平成三年十一月十二日に東京地裁、それから軍人軍属の遺族
七名、徴用された労働者の遺族六名、軍属一名の計十四名が平成三年十
二月十二日に東京地裁に提訴、韓国戦争犠牲者千百名が平成四年二月十
七日に対日補償を求めて訴訟というふうに、そのほかにも幾つかありま
すが、たくさんの方々が戦後補償を求めて裁判に提訴しているという事
態を考えますと、日韓協定で五億ドルの賠償、補償ですべて相済みだと
いう政府の一方的理解では日韓関係の正常化を期待することはできない
のではないか、この辺に対する見解をお聞きしたいと思います。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
政府といたしましては、朝鮮半島全域のすべての方々に対しまして、
過去の一時期、我が国の行為により耐えがたい苦しみと悲しみを体験さ
れたことにつきまして、深い反省と遺憾の意を累次の機会に表明してき
たところでございます。
日韓間におきましては、六五年の日韓請求権・経済協力協定によりま
して、御指摘の補償の問題を含めまして日韓両国及び両国民間の財産請
求権の問題は完全かつ最終的に解決済みということでございます。また
、これと並行いたしまして五億ドルの経済協力を実施してきたところで
ございます。
日朝間の財産請求権の問題につきましては、現在日朝国交正常化交渉
が行われておりますので、この場におきましてさらに話し合っていきた
いと考えております。
○志賀(一)委員 日朝関係の今後の話し合いで進めるというお話であ
りますが、こういう相次ぐ訴訟がなされた場合に、どういう方針で政府
としては対処されようとしているのですか、お伺いしたいと思います。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
私どもといたしましては、訴訟の行方を見守っていきたいと考えてお
ります。
○志賀(一)委員 結局、訴訟だけで相済むもので。はなくて、やはり
今後の日韓の間のこの問題についての話し合いが、国と国との間の話し
合いというものが極めて私は重要になっているのではないかというふう
に思います。
特に最近、韓国では政府側が、六五年日韓条約締結当時と違って新し
い事実が相次いで明らかになっておって、その当時の状況とは変わった
認識に立っているということでの、後から申し上げますが、元従軍慰安
婦の徹底究明と補償要求を政府に対してしている事実があります。これ
についてはどう思いますか。
○武藤説明員 日韓の財産請求権の問題につきましては、完全かつ最終
的に解決済みという立場でございます。
○志賀(一)委員 今、解決済みだ、こういうようなお話でありますけ
れども、しかし、国と国との間の賠償については解決済みだということ
で、国際ルールからいえば必ずしも個人の補償はされていない、賠償と
補償は違う、こういう見解も当然国際ルール上あるわけでありますから
、単に一方的なそれだけの理由では朝鮮のみなさんが納得できないので
はないでしょうか。今後もこれらの問題は、韓国ばかりではなくて、北
朝鮮からも恐らく相次いで出てくるだろうと思うにつけても、それだけ
の解釈で通すことができると思いますか。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
これは何度もこれまで答弁申し上げているとおりでございまして、私
どもといたしましては、過去の一時期我が国の行為によって耐えがたい
苦しみと悲しみを体験されたことについて深い反省と遺憾の意を累次の
機会に表明してきたわけでございますけれども、財産請求権の問題につ
きましては、完全かつ最終的に解決済みということで御説明申し上げて
いるところでございます。
○志賀(一)委員 次に、今の問題は一応おきまして御質問いたしたい
と思いますが、昨年の十二月六日、元従軍慰安婦ら三十五名が約七億円
の補償要求を東京地裁に提訴、こういう問題が明らかになった段階で、
宮澤総理が訪韓した際に、一月十七日、韓国大統領からしかるべき措置
を要求されて、総理は韓国民に対し謝罪し、慰安婦問題についての調査
を継続して行う旨約束をいたしたことがありますが、その後の経過につ
いてお聞きをいたしたいと思います。
さらにまた、今回従軍慰安婦にかかわる関係資料が防衛庁の図書館か
ら見つかったことや、あるいはアメリカの大学教授が保管をしておった
資料でもこの問題に対する国としてのかかわりは明らかになっているわ
けでありますが、これら慰安婦に対して国としての補償をするというこ
とは当然のことだ、そういうふうに思いますけれども、お答えをいただ
きたいと思います。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
従軍慰安婦の問題につきましては、宮澤総理が先般韓国を訪問されま
した際に、衷心よりおわびと反省の気持ちを申し上げますとともに、日
本政府が関与していたか否かにつきまして誠心誠意調査を行いますとい
うことを申し上げたわけでございます。現在この調査を外政審議室を中
心といたしまして行っているところでございます。
先ほどからも御答弁申し上げておりますとおり、日韓の財産請求権の
問題というのは完全かつ最終的に解決済みということでございまして、
六五年当時予想できなかったことについてもこの協定により解決済みと
いう考え方でございます。
第123回国会 衆議院法務委員会 第4号 平成四年三月二十七日(金曜日
)
委員 高沢 寅男
北東アジア課長 武藤 正敏
法務省民事局長 清水 湛
賃金時間部企画室長 朝原 幸久
○高沢委員 そういう問題の一つとして従軍慰安婦の問題がありますね
。このことで、宮澤総理が韓国を訪問されて非常にそういうことについ
ての陳謝をされた、謝られた。謝られたけれども、そのことに対する償
いをこうするという具体的な問題の出し方は宮澤総理はなかったわけで
すから、今度は韓国の政府側から、政府ですよ、韓国の政府側から日本
に対してこの問題はやはり何とかしてもらわなきゃいかぬというような
ことも出ているということ、これは大臣も御承知かと思いますが、この
韓国のそういう動きについて、これは今度は外務省がおられますね、外
務省として韓国が本当に外交ルートで日本政府に対してそういう賠償を
求めてくるところまでいくのかどうか、あるいは今のところはそこまで
いかないが、韓国政府として強く日本に対しておれたちにはそういう権
利があるぞということを言っておられるのかどうか、その辺の状況判断
はどうですか。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
本年一月に宮澤総理大臣が訪韓されましたとき、二回首脳会談を行い
ましたけれども、第二回の日韓首脳会談におきまして盧泰愚大統領は、
いわゆる従軍慰安婦問題につきまして真相究明に引き続き取り組んでい
きたい、その上でしかるべき措置をお願いしたい旨発言されました。現
在の韓一国政府の公式見解は、大統領が言われたとおりであるというふ
うに私ども承知しております。
なお、つけ加えて申し上げますと、これに引き続きます首脳会談の直
後に行われました両首脳による共同記者会見におきましても、大統領か
ら、私は挺身隊など過去の問題に対し日本政府がより積極的に真相を究
明し、その結果に従って相当の措置を誠実に行うよう要請しましたとい
った発言がございました。
○高沢委員 今の武藤北東アジア課長の御説明の中に、盧泰愚大統領が
ちゃんとした調査をしてくれ、その調査に基づいて言うならばしかるべ
き措置を、こう言われたら、そのしかるべき措置という言葉の意味が、
これはまあ相手のことですからあなたから今確定的に言えといっても無
理でしょうが、しかしこれは極端に言えば、日本政府と韓国政府との間
におけるまた何かの賠償要求というような形になり得る可能性があると
いう性格のものなのかどうか、その辺の判断はどうでしょうか。
○武藤説明員 盧泰愚大統領がしかるべき措置と言われた内容について
、私ども推測する立場にはございませんけれども、いずれにいたしまし
ても法的には、先ほど先生もおっしゃいましたとおり日韓間では六五年
の日韓請求権経済協力協定によりまして、御指摘の問題も含めまして日
韓両国及び日韓両国民間の財産請求権の問題は、政府間の問題としては
完全かつ最終的に決着済みということでございます。
○高沢委員 今のお話では十年たてばそういう文書は整理していいとい
うふうな立場でのお答えがあったわけですが、それに関連しますけれど
も、今度は、昭和三十三年にこれは法務省の民事局長の心得通達という
ものが出ておりまして、こういう朝鮮人労働者に対する未払い賃金等の
供託書類、これが十年の時効の過ぎた後もその金を国庫へ納付するとか
あるいはその書類を整理してしまうとかいうふうなことはしてはいけま
せん、こういう当時の法務省の民事局長心得通達というのが出ているわ
けでありますが、これはどういう目的、どういうねらいでこういう通達
を出されたのか、それをお聞きします。
○清水(湛)政府委員 当時の朝鮮人労務者の未払い賃金の供託という
のは、一般の、例えば現在の会社の社員の賃金の供託と同じような弁済
供託という形でされるわけでございます。このような供託金につきまし
ては、民法の規定によりまして、供託のときから十年たちますと、十年
間供託金の還付請求がありませんと、時効によって消滅をする、これは
民法の規定によって消滅するという解釈がされているわけでございまし
て、この解釈は現在も変わってないわけでございます。
ところが、そういうことになりますと、この問題の供託というのは十
年たちますとすべて国庫に入れるということができるわけでございます
。しかしながら、昭和二十七年に平和条約というものが締結されまして
、その平和条約の四条だと思いますけれども、その四条の中で、朝鮮と
かそういう関係者の関係の請求権については特別に取り決めをする、そ
れによって処理をするということにされたわけでございます。そういた
しますと、十年たてば、例えば会計法の債権ですと五年たちますと当然
絶対的に消滅しますけれども、民法の規定による時効消滅でございます
ので、時効で消滅させるためには、日本政府の方でこれは時効によって
消滅したということを援用するという行為がありませんと時効によって
消滅するということにはならないわけでございまして、そういうような
平和条約の関係がございましたので、援用するかどうかということを暫
時留保するということで、とりあえず十年間によって、時効によって消
滅したという見解はもう変える余地はないけれども、これを援用して歳
入納付をするかどうかということについては請求権についての特別取り
決めが確定するまで待とうということで、当時この通達が出されたとい
うふうに私どもは理解しているわけでございます。
○高沢委員 今の清水局長の御説明でありますが、これは対日平和条約
の第四条の中の条項をもとにして御説明になったと思います。そうする
と、つまりこの平和条約第四条は、例えば韓国の人が日本に対して持っ
ている請求権、そういうものを処理するには、相手の韓国と日本との二
国間の協定に基づいて処理しなさいというようなことがこの平和条約の
第四条にあるわけですね。だから、中国人が日本に対して持っている請
求権処理は日中の条約の中で処理する、韓国の人は日韓の条約で処理す
る、こういうようなことになるわけだと思います。そして、その後、現
実に昭和四十年に日韓条約が結ばれて、請求権の協定もできた、となれ
ば、今やもうこの時効になった供託の関係はもはや国庫納付していいと
いう条件が整った、こういうふうに見てもいいわけでしょうか。この辺
、どうでしょう。
○清水(湛)政府委員 御指摘のように、昭和四十年の日韓請求権協定
によりまして、韓国民の日本国に対する請求権、これは供託金の還付請
求権は日本国に対する請求権になるわけでございますけれども、これは
放棄されたわけでございます。そして、さらにそういう請求権協定を踏
まえまして、協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置
に関する法律という法律までつくられまして、そういう韓国民の還付請
求権はもうないということが国内法においても明定されたという経緯が
あるわけでございます。
ただ、そこで私ども一つ問題になると考えますのは、韓国との間には
このようなことでございますから韓国民が請求権を行使することはあり
得ないわけでございますけれども、北朝鮮との関係においてどうなるか
という問題が残されておる。このことは必ずしも定かではございません
けれども、そういう問題があるのではないかということと、それから被
供託者として掲げられておられる方が韓国の方なのか北朝鮮の方なのか
、もし韓国、北朝鮮ということを区別するということになりますと、果
たしてその方は韓国の方なのか、いわゆる北朝鮮の方なのかということ
については判別資料は何もございませんので、現在のところそのまま供
託を持続させるという措置と申しますか、特段の措置をとらないという
ことにいたしておるというのが現状でございます。
○高沢委員 今のお答えに関連して幾つかお聞きしたいのですが、一つ
は北朝鮮の関係ですね。今、現に日朝の国交の交渉が行われているわけ
でありまして、したがってあの交渉の中で、私はいずれ妥結すると思い
ますが、その妥結に至る過程で北朝鮮側からこういう請求権は一体どう
するんだということは、必ず今度は日本政府に対して、日本の代表団に
対してそういう問題の提起が出てくるのじゃないかという感じがします
、これは外務省にお聞きしますけれども。日本と北朝鮮の交渉の中で、
今のところはまだそういう問題は出ていないということですか、もう出
ているのですか、どうでしょうか。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
日朝国交正常化交渉におきまして、経済的な問題につきましては現在
北朝鮮側と話し合っているところでございますけれども、現在までのと
ころ先生御指摘のような点についてまで議論は至っていないということ
でございます。
○高沢委員 私の理解するところでは、北朝鮮側は、戦争終了まで日本
が朝鮮を植民地として支配していたそのころに対する賠償、それから今
度は第二次大戦後今日までのいろいろの日本と北朝鮮との関係に伴う償
いというような両面の立場の主張が北朝鮮側はある、こう私は承知して
いるわけでありますが、この問題も戦争が終了するまでの間のことにも
関連するわけですね。今までのところはまだ具体的に北朝鮮側から出て
いないというふうにさっきは言われましたけれども、これから出る可能
性は、武藤課長、どう考えますか。
○武藤説明員 北朝鮮との国交正常化交渉におきまして経済的諸問題の
交渉の状況でございますけれども、現状は、日本側から、これは財産、
請求権として処理すべき問題であるということを御説明いたしまして、
こういった形で処理するためにはどういった事実について請求するのか
、その根拠となるものは何か、法律的な根拠は何かということを示して
いただきたいということをお願いしているところでございます。現在ま
でのところ、私どもこういった点について十分御説明いただいていない
わけでございますので、それ以上の問題についてまだなかなか今突っ込
んで議論できないという状況でございます。
○高沢委員 では、この問題は今後の問題ということでわかりました。
武藤課長、今度は、日韓の請求権協定によって、供託されたものの請
求権ということもこれでもうなしにした、こういう清水局長の先ほどの
御説明ですが、しかしこの日韓請求権協定のときにこれらの問題に触れ
て、例えば徴用された朝鮮人労働者の未払い賃金はどうだとか、それは
もうなしにしましょうとか、日韓協定のときにその種のことに触れた話
し合いがあって、それでもうなしというふうな合意になったのかどうか
、これはどうですか。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
韓国人労働者に対する未払い賃金の問題を含めまして日韓間の財産、
請求権の問題は、六五年の日韓請求権経済協力協定により完全かつ最終
的に解決済みということでございます。韓国側から対日請求要綱、いわ
ゆる八項目と言われるものでございますけれども、これが出されており
まして、完全かつ最終的に解決済みの内容でございますけれども、この
八項目に含まれるもの、また含まれないもの、すべて解決済みというこ
とでございます。
なお、被徴用者韓国人未収金の問題につきましては、対日請求要綱八
項目の中の第五項に含まれておりまして、そういった見地からもこれで
解決されているということは明らかだろうと思います。
○高沢委員 先ほどの清水局長の御説明の中で、この人は韓国なのかあ
るいはこの人は北朝鮮なのかという識別が非常に複雑で難しい。確かに
、日本にいる在日の人たちの中でも朝鮮という国籍を持っている人もい
る、韓国の国籍を持っている人もいる。だけれども、朝鮮という国籍を
持っている人も、よく聞いてみると出身は南朝鮮だという人が非常に多
いという状況の中で、そういう関係者の朝鮮人、韓国人、こちらは韓国
だ、こちらは朝鮮だという識別は現実には非常に難しい、私はこんなふ
うに思います。そういう難しいということを考慮してこの供託問題の処
理はなおそのままにして保留しているとさっき局長のお話がありました
が、そういうふうに理解していいですか。もう一度御説明願います。
○清水(湛)政府委員 昭和四十年の日韓請求権協定というのが、要す
るに現在の韓国だけの範囲に限定された協定であるということになりま
すと、朝鮮半島のその余の分の問題は積み残されることになるのではな
いか、こういう問題意識から私ども残しているわけでございますけれど
も、実際問題といたしましても、先生先ほど御指摘のようにどちらかわ
からない、私ども調べたわけではございませんけれども、一、二当たっ
てみますとそれはわからないというのは正直言ってそのとおりでござい
ますので、現在のところはそのままにせざるを得ないと考えているわけ
でございます。
○高沢委員 その点はよくわかりました。もっとも、この点はまた後で
ちょっと触れることになりますが、一応次に進みます。
それで次に、一九九〇年に韓国政府から要請があって、日本政府は強
制連行されてきた朝鮮人の名簿の調査をする、そのことを一昨年の五月
二十九日の閣議で決定をされた。そして、その調査の作業に取り組みを
されて今日に至っておる。その調査の中心のあれは労働省がおやりにな
るということも申し合わせされている、こう聞いているわけですが、労
働省、その復そういう強制連行の人たちの調査で今までにどの程度のこ
とがわかったのか。向こうの要請で始めたわけですから、それを韓国の
政府に報告するというか通告するというか、そういうことも当然必要に
なるかと思いますが、そういうふうなことは今までにどういうふうにさ
れてきたのか、現状を説明してください。
○朝原説明員 いわゆる朝鮮人徴用者にかかわる名簿の調査ということ
でございまして、これにつきまして労働省といたしましても調査してい
ったわけでございます。調査範囲としましては、都道府県あるいは公共
職業安定所等を中心にやっていったわけでございます。ただ、これに基
づきましての調査の結果自体は、私どもの職業安定局の方でやっており
まして、今ちょっと手元に資料を持ち合わせてございませんので、その
ことにつきましては今はお答えは控えさせていただきたいと思います。
○高沢委員 では、今言われた、ここでは説明できないという資料は、
また別途私の方へ説明をお願いしたいと思います。
ただ、ある程度まとまったものを韓国政府に対して、このくらいあり
ましたよということを報告というか通告をされたやに聞いておりますが
、その辺はどうですか。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
一昨年五月の盧泰愚大統領訪日時の日韓外相会談におきまして、韓国
側より、終戦前に徴用された方の名簿の入手について協力要請がござい
まして、これに日本政府として協力をすることを受けまして、労働省が
中心となって調査を行ったわけでございます。その結果、昨年三月、調
査によって存在が確認されました九万八百余名分の名簿を韓国側に引き
渡しました。
○高沢委員 戦争中に日本へ連れてこられた朝鮮人の数は百何十万とい
うふうに伝えられているわけですが、今のお話ではその中でとりあえず
九万という報告ですけれども、これはまだまだですね。これからそうい
う調査を当然続けて、より多くこの名簿を見つけていかなければいかぬ
ということだと思いますが、今後さらに進めて調べていくというのは労
働省が中心でしょうから、これからのやり方はどんなふうにやっていく
というふうなプランを持っておられるか、お考えを持っておられるか、
労働省の立場をお聞きしたいと思います。
○朝原説明員 先ほど外務省の方がおっしゃられたように九万人という
ような調査結果が出ておりますけれども、引き続きまして労働省といた
しましてはその調査を続けていくということで考えております。まだそ
の結果等についてはまとまった数字はありませんが、今現在もそういう
ふうな調査は引き続き行っているということでございます。
○高沢委員 先ほど私は、昭和二十一年に当時の厚生省の労政局長から
出された通達の中で三部の報告を二部は本省に置きなさい、一部は都道
府県の県庁に置きなさいと言っているけれどもそれは今どうなっている
んだと聞いたら、一切ない、そういうものは今一つも見つからないとい
うような報告であったわけですが、こういうものがあれば、その中に供
託をして、相手の朝鮮の人、当時は朝鮮の人もみんな日本名を名のって
いることが多かったからそうでしょうけれども、それにしても、だれだ
れ、だれだれ、だれだれ、それは幾ら、幾ら、幾らというものがあれば
ちゃんと資料が発見されるということになったと私は思います。そうい
うものが一つもなかった。しかし、これからさらに調査を進めますとい
うことになりますと、どういうところへ、どういう方法で調査をされる
お考えか、これを説明してください。なるほど、そういうやり方ならあ
る程度見つかるだろうとわかるような説明を願いたいと思います。
○朝原説明員 先生の御質問でございますけれども、我々としてもどこ
にあるかということがわかっていれば非常にわかりやすいのですけれど
も、実際どこにあるかということがわからない中で調査するということ
でございまして、非常に難しい状況にありまして、先ほど言いましたよ
うに、今までのところは九万人ほどについて判明したという状況なわけ
でございます。そういう状況ではございますけれども、これぞというこ
とはなかなか言えませんけれども、地道に我々といたしましても、この
問題につきます国民世論等の高まりあるいは関心の高まり等の中で、こ
ういう強制的に連れてこられた労働者の名簿等についてさらに新たな発
見が出てくるのではないかと考えておるところでございます。
○高沢委員 私が労働省に教えてあげると言っては大変失礼かもしれま
せんが、こういう方法はどうなんですか。戦争中に朝鮮人徴用工を使っ
ていた会社、企業はどれとどれとどれか、これは恐らくわかるでしょう
から、そういうところが名簿を持っているとすれば、持っているはずな
んであって、そういうところに照会されて、戦争中の朝鮮人の労務者を
使った名簿を出しなさい、資料を出しなさいということはできるのじゃ
ないですか。
それからもう一つは、日本でもそういう問題に非常に熱心に取り組ん
でいる個人や団体がありまして、そういう人たちがどことこへ行ってこ
ういう資料を見つけた、どこどこを探したらこういう名簿が見つかった
というような形で随分、言うならばボランティアの形で、あるいは別な
言葉でNGOと言っていいのかな、そういう運動をしている人が非常に
たくさんありますね。労働省はそういう人たちに協力を求めて、教えて
くれ、資料を提供してほしいというような形で求めるのも一つの方法じ
ゃないですか。どうですか。
○朝原説明員 関係のありそうな企業については前回の調査でもいろい
ろお聞きしたところでございます。今先生がおっしゃられたそういうふ
うな団体等を通じてのいろいろな情報提供がありましたら、我々として
は十分そういうものを受けてさらにその実態について明らかにしていき
たいと思っております。
○高沢委員 もう一つの方法は、さっき清水局長から、朝鮮、韓国のい
ろいろな状況を考慮して、既に十年の時効が済んだ、本来ならば国庫へ
納付すべき供託についてもそういう措置はとらないでなお留保している
というお話がありましたが、そういたしますと、供託を受けた全国の法
務局を調査されて、法務局がなおそういう資料を持っている、その法務
局の持っている資料を収集されることも最も有力な調査の方法としてあ
るのじゃないかと私は思いますが、これは労働省、法務省が協力されれ
ばそういうものが出てくるのじゃないですか。どうでしょう。
○清水(湛)政府委員 これは先ほど来答弁しておりますように、普通
の弁済供託という形でされたものでございまして、現実には年間六十万
件の供託があり六十万件の還付がある、常時数百万の供託案件がある、
こういうことになっているわけでございます。そういう状況の中で具体
的にその一々をチェックするということは非常に難しい問題があります
とともに、もう一つは、これはいささか形式論かもしれませんけれども
、供託書というのは利害関係人、つまりその供託金還付請求権を差し押
さえようとする者とか、供託金について相続人として還付を受けようと
する者とか、いわば銀行預金と同じような性格を持つものでございます
ので、そういう法律的な意味での利害関係を有する者にしか見せられな
いというようなことになっているわけでございまして、供託関係を通じ
て調査をするということは非常に難しいことではないかと私どもは今の
ところ考えているわけでございます。
○高沢委員 清水局長の答弁ですが、これはちょっといただけない。大
体この種の供託は、昭和二十一年、二十二年、二十三年、あのころのタ
イミングで供託されているわけです。ですから、そういう年に限って供
託された件数を調べるということはそんなに困難なことじゃないと思う
し、その供託がいずれもだれに幾ら、だれに幾らというような関係がち
ゃんと中身もある供託として出されているわけですから、それを調べる
ということをやれば、少なくも法務局で、もうそんな資料はありません
と言う法務局ならいざ知らず、法務局によってちゃんとありますと言う
法務局があるわけですから、そういうところを調べることは十分可能で
あると私は思います。
それから、今個人関係、権利関係に絡むからとおっしゃるけれども、
この場合は国がやる調査ですから、政府がやる調査ですから、したがっ
て政府の機関である法務省法務局にそういう資料の提供を求める。この
場合には供託をした企業と相手の朝鮮人、韓国人との権利関係というこ
とになるわけですから、そこへだれか第三者がしゃしゃり込んできてそ
の権利をとってしまうというようなこともあり得ないケースですから、
これはそこをちゃんと調査されるのが一番確実な道じゃないかと思うの
ですが、どうでしょう。
○清水(湛)政府委員 私ども一、二そういう例をたまたまわかってい
るものについて見たこともあるわけでございますけれども、日本名のも
のもかなりたくさんございますし、果たして正確な事実をそれによって
掌握することができるのかどうか。それから、私ども聞くところにより
ますと、供託後に未払い賃金、当時の供託額は一人について数十円とい
うような供託金額でございますけれども、これの還付を受けた方もかな
りおられるということでございまして、そういうものが果たして正確な
数字をあらわし得るものであるかどうかということについてもやはり問
題があるのではないか。そういうようなことを考えますと、先生の御指
摘ですから研究はいたしますけれども、なかなか難しい話ではないのか
なというふうに思っておる次第でございます。
○高沢委員 次へ進まなければいけませんが、じゃ、もう一回だけ言っ
ておきます。
朝鮮の人で日本名を名のった人は、例えば金さんは金山さんとか金本
さんとか、朴さんは新井さんとか大体決まった名前の名のり方をしてい
るケースが多いのですよ、そうでない人もあるかもしれませんが。です
から、名前が日本名だから判別はできないということだけではこれは通
らないことなのであって、そしてその当時に供託されたものと見れば、
大体中身は朝鮮人の労働者対象の供託なのですから、大体これは皆朝鮮
の人、韓国の人、こういうふうに見て私は間違いないと思っております
。そういう意味で、既に還付されたものがあったとしてもそれならその
還付された人の名前がわかるわけだし、まだ還付してないものはしてな
いものでその名前や金額があるわけですから、それを調べるということ
はぜひひとつやってもらいたい、やるべきだ、こういうことを要望とし
て申し上げます。
次へ進みますが、きょう本来お尋ねしたかったことは、これに関連し
て三菱重工の長崎造船所で働いていた金さんという韓国の人、この人か
ら実はこの供託に関連し三菱重工に対して自分の未払い賃金の請求が出
されているということに関連して、あとお尋ねをしたいと思います。
この金さんという方は、金順吉、韓国読みにすればキム・スンギルと
いう人だそうですが、この人が徴用工として昭和二十年の一月から八月
まで長崎の造船所で働いた。そして、長崎に原爆が落とされて、この人
のいた場所は爆心地から遠かったから幸い重大な障害は受けなくて、そ
してもうおれは帰ろうということで韓国へ帰ったそうです。
この人が昨年の夏長崎へやってきて、三菱重工に対して、私の未払い
賃金があるわけだがそれをひとつ払ってくれというふうに申し込んでき
た。それに対して三菱重工長崎造船所では、それはあなたの分も含めて
そういう朝鮮の人のものは全部昭和二十三年に供託しました、供託した
からもう我が社としては関係ないのだ、この件は済んでいるのだ、こう
いうふうに会社は答えるというやりとりから事が始まったわけですが、
この金さんは韓国の釜山にいる人だそうです。したがって、しょっちゅ
う日本に来るわけにいかないから、それで長崎造船所の労働組合にこの
交渉の権利を委任したということでもって、後この労働組合がいろいろ
会社側あるいは法務局あるいは県庁とやっておるということであります
。
供託したということに対してそれを確認しなければいかぬというの
で、造船の労働組合が昭和二十一年通達では各地方長官のところへ一部
残すということになっているから、そういう供託の資料がありますかと
言って県庁へ行ったら、もう県庁にはありません。それから、法務局へ
行ったら、長崎の法務局では、そういう資料はないという言い方あるい
は見せられないという言い方あるいは既にそういう資料を廃棄したとい
う言い方、何かいろいろの言い方で答えているらしい。要するに、ない
というふうに長崎の法務局では言っているということであります。それ
から、会社側もその供託の件を法務局へ聞きに行ったが、法務局ではそ
の供託の番号、ナンバーを言わなければ何も見せられないと答えられた
というのですね。
そこで、まことに奇怪なことでありますが、三菱重工長崎造船所が本
当に供託したとすれば、その供託書の正本は長崎造船所の会社が持って
おるわけです。それで、法務局にはその副本があるわけですね。したが
って、副本のあるなしは別として、まず本来持っているべき第一義的責
任者である長崎造船所がその大事な正本の供託の書類がない、こういう
状況にあるわけですが、これは三菱ほどの、三菱ともあろうものがそう
いう大事な書類が今ないというふうなことを、ああそうですか、ないで
すかということでは到底済まないことだと私は思うのですが、この辺は
法務省にお聞きしたらいいのか、やはり法務省でしょうな。今ないとい
うこのことを一体どう考えたらいいのか、お聞きしたいと思います。
○清水(湛)政府委員 御指摘のように、長崎の法務局に金順吉さんと
いう方の供託があるかどうかというお尋ねがあったということでござい
ます。そこで、現地の法務局でいろいろ調査をしてみたわけでございま
すが、金順吉さんを被供託者とする供託書副本は発見することができな
かった、見当たらなかったというふうに私どもは報告を受けているわけ
でございます。
もし、本当に三菱重工長崎造船所が供託をしているということであれ
ば、先生御指摘のように供託書正本はそちらにあるはずだということに
なるわけでございますけれども、これは三菱重工株式会社の内部の問題
でございますので私どもとしてはどういうことなのかちょっとわかりま
せんけれども、果たして供託がされたのかどうか、私どもの方からいた
しますと、供託書副本がございませんのでこの点についてはないという
事実だけをお答えすることしかできない、こういうのが現在の実情でご
ざいます。
○高沢委員 これは、同じ三菱で広島にも造船所があるのですね。それ
で、広島の三菱の造船所は同じ時期に同じように朝鮮人の労働者の未払
い賃金などを広島の法務局へ供託したというわけですが、広島でそうい
う供託の資料があるかどうか、この間、事前のあれでは法務省からはそ
れはあるというお答えでありましたが、もう一度ここで広島の状況を御
説明ください。
○清水(湛)政府委員 広島法務局には三菱重工新式会社がした供託が
ございます。たしかこれは昭和四十九年でございますか、三菱重工広島
造船所自身が、これは御本人は供託者でございますので当然そういう供
託関係の書類を閲覧することができるわけでございますが、閲覧をした
という事実がございます。
○高沢委員 同じ三菱で広島はある、長崎はない。このことを考えると
きに、一つの私の仮定の考えですが、そもそも供託したと言っているけ
れども、しなかったのではないのか。しなかったのならあるはずがない
。そして、しなかったのにしたと言っているのではないのか、こんなこ
とが一つのケースとして考えられる。
それから第二のケースは、供託はしたけれども、何らかの理由で長崎
の法務局が供託の金を国庫へ納入してしまったのか、それに関連して供
託の書類を廃棄してしまったのかというふうなことで今長崎法務局にあ
りません、こうなっているのかどうかですね。
それから第三は、十年の時効になる前に三菱が長崎の法務局へ一たん
供託したのを、あれはもうやめた、返してくれ、取り下げというのか取
り戻しというのか、そういうふうなことをやったのか、それで法務局に
は今は何もないということになっているのかな。こんなふうに、一のケ
ース、二のケース、三のケースでそれを考えてみたわけですが、私は素
人ですが、そういうケースの考え方はどうかな。法務省は専門家として
どうお考えですか。
○清水(湛)政府委員 これは本当に仮定の事実で、理論的な可能性と
してお答えするしかないというふうに思うのでございますけれども、供
託がなければ供託書副本がないのはこれは当たり前ということになろう
かと思います。あるいは、供託はあったけれども、法務局の方でこれは
時効だということで処理をしてしまったということも、それは全くあり
得ないことではないのかなというような感じは、それはしないわけでは
ございません。しかし、これはまことに古い話でございまして、現在の
長崎の地方法務局の責任者としては、関係書類を調査したところ見当た
らない、これだけが責任を持って言える事実であるということでござい
ますので、その事実を超えていろいろ想像を交えて申し上げることは、
ちょっと現段階においては差し控えさしていただきたいというふうに私
ども思う次第でございます。
○高沢委員 それじゃ、先ほど三菱は広島ではちゃんとやって広島には
資料があるということが確認されました。
ではもう一つ。同じ長崎で戦争中に朝鮮人の労働者を使っていたとい
う企業はほかにあるわけですね。川南造船とかあるいは高島炭鉱とか、
そういうものが長崎にあるわけだから、そういう企業、会社は朝鮮人労
働者の未払い賃金のそういう供託をしているかどうか。その資料は今で
も長崎法務局にあるのかどうか。私は、これは一回法務省で、今ここで
お答えをもらえれば一番いいんだけれども、もしそうでなければまた改
めて調べてお答えをいただきたいと思うんです。もし、そういうところ
はちゃんとしている、しかし三菱はしていないということになると、ど
うも初めからしなかったんじゃないかというふうな感じにもなるわけで
すが、この辺のところはどうでしょうか。
○清水(湛)政府委員 私ども、三菱重工以外にどういう会社が供託を
したかということについては現在資料を持ち合わせておりませんので、
答弁は現段階ではちょっと留保させていただきたいと思います。
○高沢委員 それは結構です。今ここでの質問ですから、後で調べてい
ただいて、そのことのわかった結果をまた教えていただきたい、連絡し
ていただきたい、こう思います。
それで、そうなってまいりますと、供託をしたかしないかは一応別と
して、請求権者である金順吉さんからすれば、自分の受け取るべき権利
のあるそういう請求権はあるんだ、だけれどもとにかく今まで受け取っ
ていないというふうになりますと、これをとにかく私はもらいたい、請
求するというときに、請求の相手はその供託を受けた国であるのか供託
をすべきであった三菱重工であるのか、この辺は裁判の関係からすると
どっちになるんでしょう。
○清水(湛)政府委員 供託の事実があったという前提をとりますと、
金順吉さんは国に対して還付請求をするということになるわけでござい
ますが、この点については先ほど来御答弁申し上げておりますように時
効によって消滅し、かつ四十年の請求権協定によって、韓国の方のよう
でございますから絶対的に消滅をしているということでございますので
もう既にその請求権を行使することができない、こういうことになろう
かと思います。
それから、供託をしていないということになりますと、三菱重工に対
して未払い賃金の支払い請求をするということになろうかと思いますが
、これについても恐らく時効の問題が生じ、かつ先ほど来申し上げてお
りますような日韓請求権協定によって韓国民の日本国民に対する請求権
は放棄され、またそれに基づく国内法によってそういう権利が消滅して
いるということになろうかと思います。これは、三菱重工と金順吉さん
の関係について私どもが申し上げるべきことでは広いかもしれませんけ
れども、そういうふうなことになるのではないかというふうに思います
。国に対する関係においては請求権は絶対的に消滅している、このこと
についてはもう争う余地がないというふうに思う次第でございます。
○高沢委員 請求権者の金順吉さんからすれば、供託をしたという三菱
重工がそれを立証する大事な大事な書類を持ってない、しかも先ほども
言いました三菱ほどの大企業、ちゃんとした事務の体系の整っておる会
社がそれを証明する資料を持っていないということは、供託しなかった
という認定もできるし、供託をしたにしてもそれを証明するものを失っ
たということはやはり三菱重工の大きな責任である、当然そういうこと
になろうかと私は思います。そういう点において、その場合には金さん
から三菱重工に対して支払いの請求を提起する、裁判の提起もしたいと
いうふうに言っておられるようでありますが、いずれそういう展開にな
るかもしれませんが、私はそういうことになろうかと思うのであります
が、そのときに、さっきの局長の説明では、日本国民に対しての請求権
も既にないんだから、もう金さんはそういうことを三菱に対して提起す
る根拠というか権限もないんだ、こういうふうな御説明であったように
聞きますが、そう理解していいのか。あるいは権利があったにしても、
もう時間が四十年以上たっている、だから時効で、この請求は時効によ
っても請求できないというような意味も含めて何かお答えがあったよう
な気がしますが、それはそういうことなんでしょうか。どうですか。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
六五年の日韓請求権・経済協力協定第二条一項は、日韓両国及び両国
国民間の財産、請求権問題は完全かっ最終的に解決したことを確認して
おりますけれども、この規定は、日韓両国国民間の財産、請求権問題に
ついては日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄した
ことを確認するものでございまして、いわゆる個人の財産、請求権その
ものを国内法的な意味で消滅させているものではございません。同協定
におきましては、第二条三項におきまして、一方の締約国及びその国民
の財産、権利及び利益であって同協定の署名の日に他方の締約国の管轄
のもとにあるものに対してとられる措置については今後いかなる主張も
なされないと規定しておりますけれども、これを換言いたしますと、同
協定の対象となっているこれらの財産、権利及び利益について具体的に
いかなる措置をとるかについては他方の締約国の決定にゆだねられるこ
とを意味しております。
同規定を受けまして、我が国は韓国及び韓国国民に係る財産、権利及
び利益につき国内法を制定して処理してまいりました。
○高沢委員 私、素人だから、今の武藤課長の説明は、いろいろ言った
けれども、要するに三菱に対して金さんが請求を提起する根拠はもうな
いんだ、こういうことですか。わかりやすく言ってください、根拠はな
いのかあるのか。
○武藤説明員 日本国及び日本国民に対する債権については消滅してい
るということでございます。日本国民でございます。
○高沢委員 すると、仮に金さんが今度三菱を相手取って請求の裁判を
起こしたときに、もう裁判所は入り口で断るんですか。根拠はありませ
んよ、こうなるんですか。どうでしょう。それは裁判官の判断になりま
すか。裁判官が、これはやはり三菱は払うべきであるというふうな判断
もできるわけですか。
○清水(湛)政府委員 先ほど外務省の方からお答えがございましたよ
うに、四十年の請求権協定第二条に基づく日本の国内法としての法律が
別途制定されまして、この法律の中で日本国及び日本国民に対する債権
については消滅をするというふうに、国内法としてもそういう法律がつ
くられたわけでございます。
それで、先生の御指摘は、訴訟法的に申しますと、門前払いの判決を
するのかあるいは裁判所は本案について裁判をするのかといういささか
訴訟法的な分類に伴う御質問だというふうに考えますと、門前払いとい
うことではございませんで、やはり権利はもうこの法律の規定によって
消滅したという認定をして、請求棄却をするということになるのではな
いかというふうに私どもは思うわけでございます。ただ、これは先ほど
申しましたように三菱重工と金順吉さんの間の問題でございますから、
私どもが確定的にその間の訴訟がどうなるこうなるというようなことを
申し上げるべき立場ではないということは前提として御理解いただきた
いと思う次第でございます。
○高沢委員 もうこれで終わりますけれども、私はこれに関して、この
金順吉さんの委任を受けていろいろやっている長崎の造船の組合の人た
ちあるいは長崎でこの問題にかかわっておる我々社会党の仲間の人とか
、あるいは金さん本人と十分協議してこれからの対応をひとつ決めてい
きたいと思います。
ただ、一言言いたいことは、金さん自身は自分のそういう権利が供託
されているということ自体も知らされずに、全く知らずにずっと四十年
たってきて、そして今ここでもってそういう自分の権利があるというこ
とに気づいて求めてきたことに対して、もう済んでいるよというふうな
ことでは、それこそ日本の第二次大戦に対する責任として済まぬじゃな
いか、こんな感じが私はするわけです。これは最後に私の見解として申
し上げて、終わりたいと思います。
第123回国会 参議院予算委員会 第11号 平成四年四月一日(水曜日)午
前十時八分開会
委員 吉川 春子
外務省条約局長 柳井 俊二
国務大臣
(内閣官房長官) 加藤 紘一
外務大臣 渡辺 美智雄
○吉川春子君 永久保存の極秘文書は全部焼却されたんですね。そして
、今もうこれを各省に任されていて、それを禁止するような法律的な措
置は何もないんです。
この問題は別の委員会で引き続き取り上げていきたいと思いますが、
強制連行によって従軍慰安婦にさせられたことは否定しようもない。そ
して、しかも自分で書類を全部焼却しておいて、証拠が出るまで認めな
いということはもうけしからぬことだと思うんです。とりあえず、日本
政府がこの問題の関与を認めたのならば、次の質問に移りますが、何ら
かの補償をすべきではありませんか。
○政府委員(柳井俊二君) 日本国政府が当時関与したという前提に立
つ場合におきましてその補償の問題はどうかということでございますが
、これは御承知のことと存じますので長くは申しませんけれども、韓国
との関係につきましては、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定にお
きましてこの請求権の問題を処理したわけでございます。これも御承知
のとおりでございますが、結論的にはその第二条におきまして、このよ
うな請求権あるいは財産、権利、利益というような問題は日韓間では完
全かつ最終的に解決されたということが規定されているわけでございま
す。
○吉川春子君 外務大臣、今の論議はちょっときょうは時間がないので
しませんが、何らかの償いをすべきだと思いますが、いかがですか。
○国務大臣(渡辺美智雄君) これは私はかねて答弁をしておるんです
が、日韓両国の間では、国家間においてはこれはもう論争をすることは
ないんです。完全かつ最終的に解決がすべてついております。しかしな
がら、政治問題として、人道問題として騒ぎが起きておるわけでござい
ますから、これについては政治的な配慮のもとで解決するための何らか
のことを考えなければなるまいな、そう考えております。
○吉川春子君 官房長官、政府は関与を認めておられますが、総理は補
償については裁判の経緯を見るとおっしゃっています。そしてその後、
渡辺外相が政治的な配慮を行うという答弁を衆議院の予算委員会でもさ
れておりますが、これは政府として裁判待ちでなく何らかの政治的な判
断を、配慮をする、こういうふうに受け取ってよろしゅうございますか
。
○国務大臣(渡辺美智雄君) 私は、具体的にどうするこうすると言っ
ているんじゃなくして、要するに政府間政府はそれはすべて解決済みと
。しかしながら個人が日本の裁判所に訴え出ることまで拒否するという
ことはできません。それは個人の補償を求めて裁判に出ているわけです
から、その個人の補償問題というのは裁判で決着をつけてもらわなけり
ゃなるまい、さように考えております。
しかし問題は、それじゃ裁判に出ている人だけが慰安婦だったのかと
いうことになりますと、その数は非常に少ない数でございまして、こう
いうような者が他にあっても訴えて出るような性質の方は私は少ないん
じゃないか。例えば遺族とか何かが残っておっても、うちの係累のだれ
だれがこうだったというようなことで裁判に出てくるケースというもの
は、私は皆は出てこないと。また、政府が仮に名のりを上げてくれと言
ったからといって、名のり出るというケースは実際問題として私はそう
多いとは思っておりません。したがって、なかなか個人の補償というの
は難しいだろう、しかしながら何らかのことはやはりする必要があるん
じゃなかろうか、そういうことを言っておるのであって、これは総理の
答弁と少しも食い違いはありません。
○吉川春子君 そういたしますと、政府として裁判の経緯待ちではなく
て、今のようなことも含めて何らかの政治的な配慮をする、これが内閣
の方針である、このように受け取ってよろしゅうございますか。
○国務大臣(渡辺美智雄君) 内閣としてそういうことを閣議決定した
わけではありませんから内閣の方針とは言えないかもしれませんが、し
かし、調査をもう少しやってみて、どれくらいの規模でどんなふうな形
態であったのかということについては、これは私は韓国だけではないん
じゃないかと。もちろん内地からも、日本からもたくさん行っているわ
けですから、そこらのところをどうするかですね。
しかし、今問題が表面化しているのは、裁判に出ている方、または一
部韓国の世論も日本の世論もありましょうが、どういうふうにするかに
ついてもう少し実態がわからぬとなかなか結論が出ない。したがって、
鋭意その実態を正確に調べているというのが現状であります。
○国務大臣(加藤紘一君) 総理大臣もただいま渡辺外相がおっしゃら
れたとおりの気持ちでおります。
第123回国会 参議院内閣委員会 第4号 平成四年四月七日(火曜日)午
前十時二分開会
委員 翫 正敏
国務大臣
(内閣官房長官) 加藤 紘一
外務省アジア局審議官 竹中 繁雄
委員長 梶原 清
○翫正敏君 加藤官房長官に質問をいたします。
きのう四月六日、中国共産党の江沢民総書記が来日をいたしました。
江沢民総書記は今回の訪日に先立つ記者会見において、この訪日の意義
について、ことしは中日国交正常化二十周年であり、共同声明と友好条
約の基礎の上に、未来を見つめて一層の中日・関係の発展を推進したい
と述べておられます。日中両国間の一層の友好関係を深める上で、我々
日本人における原点は何といっても日中間の近代における歴史の事実を
直視し、日本が中国に対する侵略の非を率直に認め、謝罪をし、さらに
日本の侵略によって被害を受けられた方々に適切なる補償をすること、
また、過去の歴史を知らない若い世代の人たちに、その歴史の意味と教
訓を受け継ぐための教育をすることであろうと私は確信をいたしており
ます。
そこで、私はまず、日本国の国会議員の一人として、中国の人々にこ
の件について深く謝罪をしたいと思います。また同時に、一人の日本人
として、いや何よりも一個の人間として、日本の侵略行為に対する痛切
なる反省に立って、戦争責任、戦後責任を全うしていく所存であること
を表明いたします。
江沢民総書記は、戦争賠償の問題について、日本軍国主義が中国侵略
戦争を起こし、中国人民に大きな損害をもたらした、一部の戦争の残し
た問題は実事求是で厳粛に受けとめるという原則により、協議によって
善処すべきだと言っております。また、江沢民総書記に先立って銭其シ
ン外相も、中国への侵略戦争がもたらした複雑な問題。について日本政
府は当然適切に処理すべきだと言い、事実上民間の賠償請求権を認める
発言をしています。そして、江沢民総書記もまたこの外相のコメントを
公的な見解だと言っているところでございます。また、昨日四月六日の
宮澤首相との首脳会談においては、中国は前のことを忘れて未来を見る
、日本は前のことを忘れず後の戒めとすることが重要であると、このよ
うな発言をしたということが報じられております。
さて、日本のかつての侵略による被害に対する民間の賠償請求権の問
題については、昨年一九九一年三月、中風の国会であります全国人民代
表大会、全人代に建議が出されまして、昨年八月の海部前首相訪中時に
は海部首相あての請願書も出されているところであります。そして、こ
の三月二十日に始まった中国の全国人民代表大会には法案として提出を
されるところにまで民間の要求が高まってきているということが報道さ
れております。さらには、この国会に当たる全人代だけではなくて、重
慶市などのいわば地方議会においてもこの民間の賠償請求の動きは広が
りを見せております。
そこで、まず官房長官に総論的にお尋ねをしますが、昨年の全人代の
建議に始まりまして、続いておりますこれら一連の動きにつきまして、
その経過とか内容について、また、日本政府にあてて提出されたものな
どについてはそれをどのように受け取っているのか、受け取った上で、
現在政府としてはどういう処置や話し合いを進めているのかなとを含め
て、概略状況の報告をいただきたいと思います。
○国務大臣(加藤紘一君) 総論的に申しますと、アジア・太平洋を初
めとする関係地域の人々が過去の一時期、我が国の行為により耐えがた
い苦しみと悲しみを体験されたことにつきまして、我々は深い反省と遺
憾の意を表したいと思っておりますし、またこれはこれまで日本の総理
大臣が表明されてきたところでございます。我々はこのこうした過去の
過ちを直視し、歴史を正しく伝え、二度とこのような過ちは繰り返さな
いという戒めの心をさらに培って、養って、国際社会の一員としての責
務を果たしていくという心構えが肝要なことだと思っております。
なお、先生が今御質問になられましたここ一両年の中国におけるいろ
いろな動き、建議、その経過等につきましては担当者の方から、また御
質問があれば詳細にお答えいたしていきたいと思いますが、いわゆる賠
償等の問題につきましては、連合国及び戦後我が国より分離した地域と
の間の請求権の問題につきましては、我が国としてはサンフランシスコ
平和条約、二国間の平和条約その他の関連する条約等に従って誠実に対
応してきているところでございます。
中国との関係について申しますならば、戦争にかかわる日中間の請求
権の問題は一九七二年の日中共同声明発出後存在してないものと思って
おりますし、かかる認識は中国政府も累次明らかにされているところで
ございます。
○翫正敏君 そこで、条約と外交保護権の問題につきまして少し立ち入
って質問していきたいと思いますので引き続きお願いいたしますが、細
かい条約の解釈などについて政府委員の方から答弁があっても結構だと
思います。
民間の損害賠償請求権の問題につきましては、例えば日ソ共同宣言第
六項に、「日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五
年八月九日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び
国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を
、相互に、放棄する。」、こう書かれているところでありまして、この
条約の法的解釈について、これは国家の持つ外交保護権が放棄されたと
いうことであって決して個人の請求権が放棄されたものでは。ないと、
昨年三月二十六日の本内閣委員会において私の質問に対して政府は、外
務省の当局でありますが答弁をしたところであります。
それからまた、日韓請求権協定第二条の一項に、「両締約国は、両締
約国及びその国民一法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約
国及びその国民の間の請求権に関する問題がこ「完全かつ最終的に解決
されたこととなることを確認する。」、こういうふうに述べられている
ことについても同様の答弁を政府は、外務省として衆参の予算委員会な
どでしておるわけであります。ちょっと読みますと、平成三年八月二十
七日の参議院の答弁では、柳井俊二政府委員、「日韓両国間において存
在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということ
でございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外
交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、
いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというも
のではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使
として取り上げることはできない、こういう意味でございます。」、こ
う答弁されておることで明らかなのであります。
この国民の請求権ということに関して、日本と各国との戦後処理条約
、賠償協定、経済協力協定において、その基本的な枠組みはもちろんサ
ンフランシスコ平和条約でありますけれども、このサンフランシスコ平
和条約においては、第十四条の(b)に「連合国は、連合国のすべての
賠償請求権、戦争の遂行中に日本国及びその国民がとった行動から生じ
た連合国及びその国民の他の請求権並びに占領の直接軍事費に関する連
合国の請求権を放棄する。」、こう書かれてありまして、また第十九条
の(a)には、「日本国は、戦争から生じ、又は戦争状態が存在したた
めにとられた行動から生じた連合国及びその国民に対する日本国及びそ
の国民のすべての請求権を放棄しこ云々、こう述べられております。
ところで、連合国側の請求権放棄の条項であるこの十四条の(b)は
、一九五一年三月の原案におきましては、「戦争の遂行中に日本国及び
その国民がとった行動から生じた連合国の請求権」、こうなっておりま
して、「連合国」と「国民」という言葉が当初入っていなかったのでお
りますが、それでは範囲が不明確であるということで、日本政府が主張
したことによって「連合国及びその国民」という文言がわざわざ入れら
れたということであります。
当時、一九五一年十一月九日の参議院の平和条約及び日米安全保障条
約特別委員会においてこのことは明文において明らかにされております
。参考までに読みますが、昭和二十六年十一月九日の参議院、西村熊雄
政府委員、「その点は三月の原案では連合国の賠償請求権だけあったの
であります。それに対しまして、私どものほうから、それでは範囲が不
明確であると主張いたしまして、戦争遂行中日本国又は日本国民がとっ
た行動から生じた連合国政府又は連合国民の請求権という文句が入った
次第でございます。」、こういうように答弁しておられることからも明
らかなことであります。このように条約の文言に「国民」という言葉が
入っているかどうかということは実は大変重要な問題なのであり、厳密
にせねばならないことであります。
ところで、御承知のとおり、日中共同声明の第五項にはこのように述
べられております。「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のた
めに、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。」、
こう述べられております。ここには「国民」という言葉はありません。
したがって、民間の賠償請求権問題についての今までの政府の答弁に沿
って理解するならば、まず、どう考えましても、被害者個々人が直接責
任ある企業やまた日本政府に対して責任の範囲で請求するという、こう
いう権利があることは、これは、それが消滅していないということはも
ちろんのことでありますけれども、中国と日本との条約の場合、共同宣
言の場合には、この被害を代表して中国政府が交渉することができると
いう意味での外交保護権というものすら中国政府は放棄しないというこ
とになると思いますが、どうでありましょうか。
もちろん、現在中国政府は、被害者個々人が直接日本の企業や、また
その他政府などに接触し交渉することには干渉はしないのだ、こういう
立場をとっておりまして、賠償問題は解決済みであるという、先ほど官
房長官が答弁になりました日本国政府の考え方と大枠においては立場を
変えておらないことは私も理解をしておりますけれども、そういう意味
では外交保護権を行使するというところに至っていないことも事実であ
ります。しかし、江沢民総書記が述べておりますように、協議によって
善処すべき問題だ、こう言わざるを得ないほどに中国の民間の中でのい
わゆる民間賠償の要求が高まっているということも事実であろうと思い
ます。
かつて中国におきましては、日本の侵略の責任は日本軍国主義者にあ
るのであって日本人民にあるのではない、日本の人民に多大な負担をか
けるわけにはいかない、第一次世界大戦後のドイツのように莫大な賠償
を背負わされたことがかえってナチスの台頭を生むことになった、当時
の日本に莫大な戦争賠償を請求することは、かえって日本軍国主義の復
活につながるということで、戦争賠償を放棄したということを私は再三
いろんなもので読んで聞かされているところであります。私はここに中
国人の日本に対する、戦争に対する温情とか道義とかといったものを感
ぜざるを得ないわけであります。
サンフランシスコ条約の第十四条(a)にも、「日本国は、戦争中に
生じさせた損害及び苦痛に対して、連合国に賠償を支払うべきことが承
認される。しかし、また、存立可能な経済を維持すべきものとすれば、
日本国の資源は、日本国がすべての前記の損害及び苦痛に対して完全な
賠償を行い且つ同時に他の債務を履行するためには現在充分でないこと
が承認される。」、このように書かれております。ところで、現在の日
本はどうかといいますと、サンフランシスコ条約締結当時、また日中共
同声明発表当時の日本に比べれば、その経済的な力量は比べるもなく大
きくなっているわけであります。その証拠に、その結果といいますか、
これだけ経済大国になったのだからということで、人的な貢献も含めて
の日本の国際貢献のあり方というものが国会においても、また国民各層
においても大きな議論になっているというのが現状であります。
実際、日本は湾岸危機、湾岸戦争に際しましては、米国、多国籍軍に
対して増税をしてまで莫大な金額のお金を拠出いたしました。このこと
に関しては前回のこの委員会でも私質問をいたしましたが、まだこの使
途等について重大な疑義が残っておりますので、次の機会にはまた取り
上げていかなきゃならないことと思っておりますが、それはともかくと
して、私に言わさせていただくならば、日本がまず真っ先になすべき国
際貢献とは戦争にお金を出すことでないのはもちろんのこと、海外に自
衛隊を出すことではもちろんなく、これらの戦争の歴史というものを直
視する中からこれらは一番してはいけないことであって、この国際社会
に対して貢献するという立場からいうならば、まずかつての戦争の責任
、戦後責任というものを果たしていくということがなければならないと
思います。
中国の全人代に提出されたことで明らかなように、むしろ日本は莫大
な債務というもの、これを負っていると言わなければなりません。借り
ているものも返さずに、一体本当に国際貢献などということが成り立つ
ものでしょうか。疑問に思うわけであります。
そこで、加藤官房長官に、この中国の民間の戦争被害に対する賠償問
題、日中共同声明及び日中平和友好条約という立場に立って、この条約
と民間の戦争被害との関係の問題について、補償問題についてどのよう
に認識しておられるか、お答えをいただきたいと思います。
○説明員(竹中繁雄君) お答えいたします。
先生御指摘になりました日中共同声明でございますが、これは日中国
交正常化という大目的の達成のために、日中双方の基本的立場に関連す
るいろいろ困難な法律問題があったわけでございますが、これを政治的
に解決しょうということででき上がったものでございます。こういう経
緯もございますものですから、この賠償問題に関する規定におきまして
も、こうした事情を反映した表現ぶりになっているわけでございます。
日中共同声明第五項がサンフランシスコ平和条約における戦争にかかわ
る請求権に関する規定とは規定ぶりが異なっているというのも、その背
景はそのように御理解いただければありがたいと思います。いずれにせ
よ、戦争にかかわる日中間の請求権の問題はこの一九七二年の日中共同
声明発出後存在していないというのが我々の立場でございます。
○国務大臣(加藤紘一君) 今、審議官からお答えしたとおりでござい
ます。
○翫正敏君 資料に基づいて、るる説明をして質問したわけであります
けれども、では、そのことについて逐次外務省の方から、サンフランシ
スコ条約のときには、最初「国民」という言葉が入っていなかったのを
、日本政府が条約の協議の中で入れたということですね。こういう経過
の問題についてどうなのか、それが一点。
それからもう一点は、外交保護権の問題と条約との関係の問題。この
二つについてもう少し厳密に答弁してください。
○説明員(竹中繁雄君) 私、条約の専門の者ではございませんので、
必ずしも完全にお答えできるかわかりませんけれども、先ほど先生が引
用されました、当時の条約局長の答弁ぶりから拝察しますところ、先生
のおっしゃるような論点、「国民」という言葉を入れるかどうかという
ことに関してはあったんだろうと思われます。
○翫正敏君 外交保護権。
○説明員(竹中繁雄君) 国際法上の請求権については、一般に私人は
国際法上の主体とはなり得ないというのが国際法上の立場でございます
。外国人が個人の資格で日本政府に対し、政府官憲の行為に基づく損害
について補償を請求した場合に、これが認められるか否か、これは我が
国の国内法上の規定によるということだと認識しております。
○翫正敏君 国民の請求権という、国民のという文言があるなしにかか
わらず、まず確かめておきますが、従来の政府の見解や答弁を変更され
るわけなんですか、変更されないんですか。さっき私読みましたでしょ
う。昨年八月二十七日の参議院の予算委員会における柳井政府委員の答
弁の内容を読みましたね。変更されますか、されませんか。
○説明員(竹中繁雄君) 変更するつもりはございません。
○翫正敏君 それで、さっき言いましたように、一般的に、国民の請求
権という言葉が入っていようがいまいが、一人の人が例えば被害を受け
た、例えば労働賃金をもらってない、そういうようなものについて、そ
ういうものは条約によってなくなるものではないという、これは日本政
府の基本的な考え方であるということは私は理解しました、従前からそ
ういう答弁をいただいておりますから。その上で、なおかつ私がここで
問題にしているのは、日中共同声明の場合には、先ほどおっしゃっな言
葉では、いろんな政治的な状況の中でこの共同声明ができ上がったわけ
でしょうけれども、中国側が一方的に日本に対する賠償を放棄するとい
うことを声明した、わけですけれども、その中に国民のという言葉が入
っていないことの持っている重さ、これをどう受けとめるかと、こうい
うことをお尋ねしているわけですよ。ですから、外務省の方は結構です
から、官房長官の方でもう一度、政治的な配慮の中で請求権の放棄が中
国から一方的になされたというそのことと、そして、その文章の中に国
民のという言葉が入っていないということの重さ、これをやっぱり受け
とめる御答弁をぜひいただきたいと思うんです。重ねてお伺いしますが
、いかがですか。
○国務大臣(加藤紘一君) サンフランシスコ条約が締結されたときの
条約交渉の経緯等につきましては、ちょっと私も専門でないんでわかり
ませんけれども、いずれまた専門家から答弁させる機会をいただきたい
、こう思いますけれども、今、竹中審議官が申しましたとおり、いわゆ
る一九七二年の日中共同声明によりまして、いわゆる政府対政府、国家
間の請求権、国家間の賠償に関する請求権は中国側が放棄された。そし
て、その際に国民が訴える権利をなくしたものかどうかにつきましては
、いろいろこの国会で、過去累次御議論があったと思います。そして、
条約局長等が答弁しておりますように、個人の訴権、訴える権利という
ものは存在するけれども、それを政府が外交保護権をもって日本側に要
求する権利は中国側が放棄してくれたというふうに理解いたしておりま
す。
したがって、外交上個人が持っております訴える権利、日本政府に訴
える権利というのは、国際法上私人は主体上なり得ないわけでございま
すので、そうしますと、それはどう取り扱われるかにつきましては、先
ほど竹中審議官が申したとおり、日本の国内法上の規定によって処理を
されるという形になるものと理解しております。
○翫正敏君 それで、そういう政府の立場は、中国の方の現在の政府の
お立場も、民間の人たちが被害の請求をすることについては干渉しない
、タッチをしないということを言っておりますから、現在のところ、日
本政府の立場と中国政府の立場は、そういう意味では同じでありますの
で、外交上の問題はこの点に関しては起きていないと、こう理解をして
おります。
ただ、一方中国の国内においては、さまざまな形で民間の賠償を求め
る動きが数年前から起こっております。もっと前からもありましたが、
後からちょっと時間があれば言いますが、近年非常に高まっております
。そのことはやはり重く受けとめなければならないと、こう私は思うん
ですけれども、その中国における民間の賠償要求の動きが、全人代への
建議等も含めて各地区でのいろんな団体の動き、日本でもいろんな地区
におけるさまざまな民間団体の要求とか、動きというものが、もちろん
公害問題とかさまざまなことがございますけれども、中国においてもそ
ういう動きが活発になってきているということは、これは大きいこと、
重いこととして受けとめるべきだと、こう思うんですが、その点に関し
ていかがですか。どういうふうに受けとめておられますか。
○国務大臣(加藤紘一君) 同じ答弁になるかと存じますけれども、戦
争賠償の権限を相手側の国が放棄し、その状況のもとで、それぞれの国
の国民の皆さんがどういう訴える権利を有するか。この問題につきまし
ては、この委員会でも議論になりました朝鮮半島出身の慰安婦賠償の問
題等についても、我々の立場は累次申し上げてきたところでありまして
、訴権は存在する。したがって、日本の司法当局にそれを訴える権利は
有するけれども、しかしそれは日本国内法上によって処理をされていく
。そして、中国のことについても同じように理解しております。
今、先生が御指摘になりました、ことしの三月二十三日、中国の銭其
シン外相が記者会見で述べられておりますように、戦争賠償の問題につ
いては、中国政府は一九七二年の日中共同声明の中で明確に表明を行っ
ており、かかる立場には変化はないということは、従来中国政府が言っ
ておりますように、戦争賠償の問題は中国政府としては放棄した。そし
て、これは我々は、個人の訴権に対して外交保護権を行使しないという
ものであろうと理解しております。
○翫正敏君 次に行きますが、外交保護権を行使しないということ、こ
れが現在の中国の立場であることはよく理解をしておりますが、条約上
できないということとは同じではないわけで、その点について先ほどか
ら日中共同声明における「国民」という文言が入っていない問題につい
て質問をしましたが、回答が平行線でありますので、さらに機会があり
ましたらまたお尋ねしたいと思います。
ところで、さきにも触れました民間の賠償請求のこの件に関して、中
国外相のコメントを報ずる三月二十四日の東京新聞がございました。こ
れに対して日本の外務省の方の見解も同時に載せられておりましたが、
それによると、外務省は、従来どおり政府間の賠償問題は決着済みであ
ると、こう今おっしゃったようなことを述べた上で、「中国民間の賠償
請求は中国政府に対して行われるべきだ」と、こういうふうに述べたと
新聞には書かれておりますが、こういうふうにおっしゃったのかどうか
、その点をお答えいただきたいと思いますが、私は、もし外務省がこの
ようなことを新聞に発表したということならばゆゆしき問題だと、破廉
恥と言ってもいいんじゃないかと思うんですけれども、ちょっと事実関
係を確かめさせていただきます。
もし、中国に対しては折に触れて経済協力や経済援助をいろいろして
きた、こういうことを理由にしておられるのであれば、例えば日韓請求
権・経済協力協定のような取り決め、これに類するものがいつどのよう
な形で中国に対してなされたのか。そして、この国民の請求権という問
題について中国との間で議論をして、そういうことについてどんな形で
同意が得られたのか。そういうことを明確にしていただきたいと思いま
すし、そのような戦後処理というものも明確になされていないままに、
中国の方が一方的にこの請求権を放棄したのだからということをいいこ
とにして、中国人の民間人の要求は中国政府に請求しなさいというよう
なことは、これは先ほど恥知らずという言い方をしましたが、ちょっと
別の言い方をしますと恩知らずであると、こういうふうに言わなきゃな
らないんじゃないかと思うんです。そういう意味で、経済協力というよ
うなことではこの条約上の問題は解決しないのではないか、このように
思います。
それで、他の国の例をちょっと挙げておきますが、昨年八月、戦争末
期にフィリピンで起こりました日本軍によるパミンタハン大虐殺から奇
跡的に生き残って、そのときに銃剣で胸を五カ所刺された、後ろの方も
刺されておられましたが、そのせいで戦後もぜんそくがひどくて仕事に
満足につけなかったというガルシアさんという方が戦後の補償を求めて
日本に来られましたとき、私が外務省の方に同行をいたしました。その
とき訴えをされるガルシアさんに対して外務省の担当の方は、名前が今
問題なのではないので申しませんが、その担当の方は、日本とフィリピ
ンの間の賠償問題は、サンフランシスコ条約に基づいて一九五六年日比
賠償協定が結ばれ、日本の方から千九百八十億円お支払いをして解決い
たしましたと、こういうふうに答えたわけです。
そのときのやりとり、私まざまざと今も覚えておりますけれども、ガ
ルシアさんは裸になられて自分の傷跡を見せられまして、そしてその上
で、でも私は一ペソももらっておりませんと、こういうふうに言われて
、涙ながらに自分の被害というものをお訴えになった姿が忘れられない
わけであります。
現在、日本のODAというものが大きな金額になっております。しか
し、そのことがかえって軍事政権を支えることになってしまっていると
いう批判があったり、また、人権抑圧や環境破壊につながっているので
はないかという指摘などもされているところでありまして、ODAの問
題もやはり出発点は戦争賠償というような問題の解決に始まっていると
聞いておりますけれども、こういうことも順次今後取り上げていきたい
とは思っておりますけれども、こういう一つの例として、今のフィリピ
ンの方のお訴えを取り上げさせていただきました。
そこで、ちょっと質問したいわけでありますが、日中共同声明で中国
政府が放棄をしました戦争賠償とは一体どれくらいの額であるのか、こ
れを政府としてどう考えておられるのか、お聞かせください。
また、いかなる意味においても放棄されない個々人、民間の損害額
というもの、これは外交保護権の行使は中国政府はしないわけでござい
ますけれども、どういうふうに解決するかしないかの問題は別として、
とにかく金額として算出するとどれくらいのものになると日本政府は考
えておられるのか、お答えをいただきたい。もちろん被害額というもの
、人命というようなものに関する被害額を金銭で計算するなどというこ
とは、これはできないことであるという、こういう前提にもちろん立っ
ているつもりでございますけれども、あえてそれを換算するとどれくら
いになるのか。中国の全人代の方に提出されているものによりますと、
一国家間のものが千二百億ドルだと、米ドルでですね、こういうことに
なっております。民間のものが千八百億ドルであると、こういう建議が
なされております。
この金額について、官房長官は大き過ぎると思われるか、少な過ぎる
と思われるか、このくらいだと思われるか、御感想を述べていただきた
い。全然わからないと言うならば、ぜひ綿密な調査をされるべきではな
いかと、そういうことが日中友好の今後ということについて大事なので
はないかと、そう思います。
それで、もしサンフランシスコ条約の第二十一条「中国は、第十条
及び第十四条(a)2の利益を受ける権利を有し」に基づいて、サンフ
ランシスコ条約の締結国でない中国も、日本が旧満洲などに残した在外
資産などを処分する権利を得たのであるから、国民の請求権についても
サンフランシスコ条約に従って解決されたと、こういうふうな見解では
ないと思いますが、もしそういう見解であるとするならば、まずサンフ
ランシスコ条約の枠組みの中で、一九五二年四月に締結された中華民国
政府、現在の台湾政府との日華平和条約それから日中共同声明、この関
係も明らかにしていかなければならないと思います。日華平和条約にお
いては、請求権問題はまた別の「特別取極の主題とする」と、こういう
ことになっていたわけですが、その特別取り決めがなされることがない
ままに、一九七二年九月、日中共同声明において日本の方から中華人民
共和国政府を中国の唯一合法政府であるという承認をしたことによりま
して、日華平和条約は失効したということであります。確かに日華平和
条約には、「この条約及びこれを補足する文書に別段の定がある場合を
除く外、日本国と中華民国との間に戦争状態の存在の結果として生じた
問題は、サン・フランシスコ条約の相当規定に従って解決するものとす
る。」と、こういうふうに述べられております。
これによって、日華平和条約はサンフランシスコ条約を準用すること
で中国の対日請求権というものが放棄されたと、こういう見方も学者の
中にはあるようでありますけれども、それはやはり基本的に正しい理解
ではなくて、条約自体に請求権問題は別の取り決めをするということが
決められておって、それがそういうふうにできなかったというわけであ
りますから、この問題は別の定めがあってしかるべき場合と、こういう
場合に当たるのだと思います。
さらに、日華平和条約と同時に交わされた交換公文では、「この条約
の条項が、中華民国に関しては、中華民国政府の支配下に現にあり、又
は今後入るすべての領域に適用がある」と、こうされております。中国
大陸全体が中華民国政府、現台湾政府の支配下に今後入るというような
ことはとても考えられないことでございますので、日華平和条約の効力
はそもそも大陸には及ぶものではないと、こう理解すべきだと思います
。
そういう日華条約と日中共同声明との関係について考えた上で申し上
げたいのですが、そもそも日中共同声明は、他の協定などのようにサン
フランシスコ条約の枠組みの中でなされたものと、こういうふうに考え
るべきではないと思います。それは、「中華人民共和国政府は、台湾が
中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日
本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し一ポ
ツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」とありますように、日中
共同声明の歴史的起源はむしろ直接ポツダム宣言に立ち返っているもの
であると思います。
そのポツダム宣言の第八項を見ますと、「カイロ」宣言ノ条項ハ履行
セラルベク」、こう述べられておりまして、そのカイ呈り言の関連箇所
を若干引用してみますと、右同盟国、米国、中国、英国の目的は、日本
国より一九一四年の第一次世界大戦の開始以後において日本国が奪取し
、または占領したる太平洋における一切の島嶼を剥奪すること並びに満
洲、台湾及び瀞湖島のごとき日本国が中国人より盗取したる一切の地域
を中華民国に返還することにあり、日本国は、また暴力及びどん欲によ
り日本国が略取したる他の一切の地域より駆逐せらるべしと、このよう
に書かれております。これはもちろん国家の領土について言っているも
のでありますけれども、今日の私たちにおいては、かつての日本の侵略
によって中国から奪い取ったものを中国人に返し、そして殺し尽くし、
焼き尽くし、奪い尽くした、こういう中国人の命と物に対する補償とい
うものは今後も全力を挙げて取り組んでいかなければならないと、こう
思います。
具体的に、三月二十四日の東京新聞に掲載されました外務省の見解の
真意を外務省からお答えいただきますとともに、今ほど私の方から少し
く問題提起をしましたことについて官房長官のお考えをお聞かせいただ
きたいと思います。
○委員長(梶原清君) まず、外務省から答弁を命じます。
○説明員(竹中繁雄君) 最初に、先生の方から、三月二十四日の東京
新聞に外務省の関係者のコメントとして、民間人が賠償請求しているが
、それは中国政府にあるとか、こういうことを言ったというようなこと
の報道があったが事実がと、こういう御質問がございました。
先生の御指摘を踏まえまして、我々も調べてみたのですが、確かにか
かる報道がなされていることは確認いたしましたが、外務省関係者のい
かなる具体的発言を踏まえた報道であるのかというのは残念ながら承知
しておりません。私ども知っている限りでは、こういうことを言ってい
る者はおらないと……
○翫正敏君 ないと。
○説明員(竹中繁雄君) はい、ございません。
それから、法律的な問題で、日本国に対する中国の賠償請求のもとは
何かという御質問があったと思いますが、これに対する、日本国に対す
る賠償請求に係る問題については、政府の立場は、サンフランシスコ平
和条約の第十四条並びに日華平和条約の十一条及びその議定書1の(b
)により処理済みであるというのが法律的に見た場合の我々の立場でご
ざいます。
○翫正敏君 わかりました。
官房長官の方から。
○国務大臣(加藤紘一君) 先ほど翫先生が、いろんな条約等があって
も、個人が我が国政府に対していろいろ賠償請求する権利はあるだろう
という趣旨のことをおっしやられました。条約等の解釈等につきまして
は先ほど述べたとおりでございます。個人の訴権はあるものと思ってお
りますけれども、それに対する外交保護権は放棄されたものと日中両国
政府は理解しておるわけでございます。
ただ、その際に、それぞれ一人一人のアジアの国の国民の皆さんに、
日本はどう考えるかと、そして今日本は豊かになったじゃないかという
ような問題でございますけれども、その点につきまして、我々は、先ほ
ど申したように過去の一時期私たちの国の行為によって耐えがたい苦し
みと悲しみを与えたことについて深い反省と遺憾の意を心の中に持ち、
そしてそういう過去の過ちを先生が御指摘されておりますように、直視
して、その歴史を正しく伝えていかなければならない、そういう心構え
を持つべきではないかなと思っております。
そして、確かに一人一人の方に対する賠償の問題はいろんな議論があ
りますけれども、しかし、相手国政府も我々と合意したところでござい
ます。そういう問題のあることはわかりますけれども、しかし、それは
国と国との間でお互いに放棄し、そして今後我々は将来に向けて新しい
関係を築き、そして日本はその国の民生安定、発展のために日本のでき
得る限りの貢献をしていく、国全体に貢献していって、その国の民生の
安定と福祉の向上に御協力申し上げるという形で戦後考えてきたものだ
し、また、今後も我々は考えていかなければならないのではないかなと
思っております。
○翫正敏君 あと十五分残っていますけれども、自民党の方の出席もな
いようですので、しばらくちょっと留保させてください。速記とめてく
ださい。
○委員長(梶原清君) ちょっと速記をとめてください。
〔速記中止〕
○委員長(梶原清君) 速記を起こして。
○翫正敏君 外務省の新聞コメントはあれはそういう発言はしてない、
こういうふうに確認させていただきましたけれども、官房長官の方から
、私が再三質問して、中国の方からの請求権の放棄という問題、それか
ら「国民」という言葉が入っていないということの条約上の問題を含め
て重みを尋ねておりますが、全然前向きなお答えがないので非常に残念
に思います。これまで二十年の日中関係というものを今後さらに強固な
ものにしていくというような立場から考えましても、そして中国の国内
において民間の賠償要求というのは高まってきているというこの実情を
考えてみましても、やはり政府は従来のそういうかたくなな態度という
もの、こういう恩義を否定するような態度はよくないと思います。中国
の方は、暴に報いるに徳をもってすという、これは現在の政権の幹部の
言葉ではないかもしれませんが、そういうことで対日請求権をすべて放
棄したわけであります。
そういうことの持つ重みを十分受けとめていくというのは、私ども日
本の国会議員一人一人に課された課題でもあり、そしてそれは日本政府
の重大な責務であると私は痛感するものであります。
ところで、先ほどから触れております全人代に提出をされました建
議、法案などにおきましては、日本の侵略による中国の民間損害賠償額
千八百億ドル、こう算出されております。この額についてどう思うかと
いう質問をしましたけれども、何らのそれについての具体的なお答えも
ありませんでした。もう一度聞きますから、ちょっと考えておいてくだ
さい。
約二十四兆円、こう現在の円に換算するとなるようでありますが、こ
の内訳として、この建議書を見ますと五つのことが並べられております
。海部前首相あての請願書の内容と同じということなので、この請願書
の内容に即してこれを読み上げてみますと、一としまして、中国市民を
罪なく虐殺したことに対して負うべき賠償、殺害あるいは負傷させた中
国市民、負傷者、捕虜等については関係資料、統計によれば約一千万人
である。二番、中国人を強制的に苦役に服させたことに対して負うべき
賠償、関係資料、統計によれば約三百万人である。三番、有毒、化学及
び細菌武器を使用して中国市民に重大な支障をもたらしたことに対して
負うべき賠償。四番、中国の公的及び私的財産を略奪、破壊したことに
対して負うべき賠償。五番、中国においてアヘン侵略を行って、中国市
民に重大な損失を与えたことに対して負うべき賠償、こういう五点が挙
げられております。
ここで、この五点について一つ一つ詳しく確かめていかなければなら
ないわけでありますけれども、本日の質問だけではとても時間も足りま
せんので、今後に順次譲っていきたいと思います。
この二番にあります、中国人強制連行の問題についてだけ、それも中
国東北部、いわゆる旧満洲地区などに中国大陸において強制連行、強制
労働させられた例は今回はこれも除きまして、いろいろ除くのばかりで
ありますが除きまして、そして日本の国に強制連行された方が約四万人
、この問題に限って一、二ちょっと例を挙げて確かめてみたいと思いま
す。
なお、そのほかの南京大虐殺の問題、七三一部隊の細菌兵器人体実験
などの問題、毒ガス兵器の遺棄問題などについてもいろいろ資料を取り
寄せて調べておりますので、今後順次取り上げていきたい、このように
思っておるところでありますが、花岡事件について質問します。
終戦直後の一九四五年、昭和二十年六月三十日、秋田県大館市の郊外
で起きた事件である。日本政府は、戦争が激化する中で国内の労働力を
補うためにおよそ百万人の朝鮮の人たちを強制連行し、さらに一九四二
年、昭和十七年、東条内閣が閣議決定によっておよそ四万人の中国人を
日本国内の百三十五の事業所に強制連行したのである。花岡事件はこの
ような中で、日本官憲や企業側の極度の拷問と虐待に反抗して、およそ
七百人の中国人が蜂起した事件であります。そしてその結果四百十八人
が死亡しました。彼らは、当時残虐行為を行った日本の企業に対して合
計四十九億円の賠償と謝罪を要求しています。具体的には謝罪の要求と
いうものは、この企業が行いましたので一応済んだかと思いますが、あ
と一人当たり五百万円の補償というものを要求し、また大館市と中国の
北京市に、こういうことが二度と起きないようにという意味の記念館を
建ててくれという三点の要求をしておるわけであります。
これは、具体的には現在企業に対して中国の民間の団体がしておられ
るわけですから、これはこれでどういうふうに解決するかはそこの問題
だと思いますけれども、我が国政府はこれにどういう関係があるのかど
うかということをお聞きいたします。昭和十七年十一月二十七日、「華
人労務者内地移入に関する件」を閣議決定した、これは事実です
○説明員(竹中繁雄君) 昭和十七年十一月二十七日、「華人労務者内
地移入に関する件」という閣議決定がございました。
○翫正敏君 そうしますと、この強制連行の問題、中国人の強制連行、
日本国への四万人の方だけの問題に絞って今取り上げているんですが、
これについて現在中国の民間の人たちが団体をつくって、グループをつ
くって当該企業と交渉しておるというところでありますが、このことに
ついて政府は傍観者であって、その様子を見ておればよいということで
は済まないのではないか、日本政府に責任がある、こう私は思うんです
けれども、どういうお考えでしょうか。官房長官お述べください。
○国務大臣(加藤紘一君) いわゆる昭和十七年の十一月二十七日の閣
議決定のことでございますが、当時の国内の労働力不足を背景に中国人
労働者の移入を目的として行われたものと思っております。この風議決
定によれば、中国人労働者の移入は契約に基づいて行われることになっ
ておりますが、当時の詳しい事情については今明らかではございません
。この閣議決定を見てみますと、契約は二年であって、その後「二年経
過後遺当の時期において希望により一時帰国せしむること」とか、それ
から「華人労務者の食事は米食とせず華人労務者の通常食を給するもの
としこれが食糧の手当に付ては内地において特別の措置を講ずること」
とか、「華人の慣習に急激なる変化を来さざる如く特に留意すること」
ということなどがいろいろ書かれておりまして、この閣議決定そのもの
は移入されてきます中国人労務者の人に対してかなり配慮をした閣議決
定になっております。
しかし、当時どのような状況で、事実上どうであったかということに
つきましては、終戦直前の話でございますので、なかなか詳しい事情は
わかりません。ただし、当時の状況から、日本に来られた多くの中国人
労務者が不幸な状態に陥ったことは事実であろうと思っております。
また、花岡事件につきましては、今申しましたように、かなり不幸な
状況にあったということにつきましては、政府として甚だ遺憾なことだ
と思っておりますが、いわゆる請求権等の問題につきましては、先ほど
言いましたような政府の立場でございます。また、この事件については
民間の訴訟事件として提起されておりますので、その流れを見ていきた
いと思っております。
○翫正敏君 この事件だけではなくて、中国人強制連行というものは、
極秘と判こを押してあります昭和十七年の閣議決定に基づいて行われた
ものである以上、政府に責任があるということをお認めになるかどうか
が一点ですね。
それからもう一点は、先ほど、民間の賠償請求額は中国の全人代の方
に建議されておりますのでは千八百億ドルである、現在の日本円にして
約二十四兆円であるということになっていますが、この額についてどう
いうふうに受けとめておられるか、これについて二点お答えください。
○国務大臣(加藤紘一君) 当時のいわゆる華人労務者、中国人労務者
の移入に関しての状況がどういう事実関係であったかというのは、今具
体的に明らかでございません。それが強制的に移動させられたんではな
いかという今の御指摘、そして、政府がそれについてどういう責任があ
るのかという御質問でございましたけれども、当時のこと、事実関係が
明確でありませんので、なかなかコメントしにくいところだろうと思い
ます。
それから、いわゆる千八百億米ドルの訴訟の金額の高をどう思うかと
いうことでございますが、この童増という方が建議されております書き
物、建議を見ましても、根拠がなかなかわかりにくい、そういうものは
示されていないし、その数字についてはあえてコメントは申し上げない
ことにいたしたいと思います。
○翫正敏君 民間賠償と国家間の賠償を分けておられるというところに
非常に厳密さがあると私は思うんですが、この建議を見まして。そうい
うものに基づいてさまざまな民間団体の要求や訴訟などが起こされてい
る、こういうことだと思うので、そういうふうに分けているということ
の厳密さを、金額はさっきあなたお答えになったようによくわからない
らしいが、そういうようなことをどう思われるかをお答えいただきたい
。
それから、強制連行の問題については、当時の事実関係が明確でない
ので今のところ明確な答弁はできないと、こう理解をしましたが、その
場合、当然政府として事実関係をさらに詳細に調査をして責任が明らか
であるということが明確になればその立場に立って対処すると、こう理
解してよろしいか、二点をもう一度お伺いして、これで終わります。
○国務大臣(加藤紘一君) 戦争賠償責任と、それから中国人民と財産
に対する賠償請求と、これを分けていることが条約上、法律上どういう
ことになるのか、ちょっときょう条約の専門の人間が来ておりませんの
で、いずれまたその際には申し上げさせていただきたいと思います。
それから、先ほどの中国人労務者の強制移入という、連行とおっしゃ
いましたけれども、この問題につきましては、事実関係は明確でござい
ませんが、いずれにしましても、個人の国に対する請求権というものは
一九七二年の日中共同声明によって放棄されたものだと、それに対する
外交保護権は放棄されたものだと思っております。
○翫正敏君 とにかく調査してください。事実関係を調査してください
。これいいですか。先ほどは事実関係が明確でないということだったか
ら、事実関係だけは調査してください。事実関係も調査しないというこ
とじゃないでしょう。
○国務大臣(加藤紘一君) いずれにしましても、当時の状況というの
は終戦直前の混乱期でございますので、当時の詳しい事情についてはな
かなか明らかにするのに困難なところがあると思います。
第123回国会 参議院予算委員会 第13号 平成四年四月八日(水曜日)午
前九時一分開会
委員 清水 澄子
外務大臣 渡辺 美智雄
○清水澄子君 日中共同声明は、中国は「日本国に対する戦争賠償の請
求を放棄する」とありますし、日韓条約のように、国及びその国民の間
の請求権とはなっておりませんし、さらに日韓条約のように「完全かつ
最終的に解決」ということはうたわれていないわけです。
ですから、こういう場合に、中国の国民からの賠償請求がありました
場合、その扱いは韓国とおのずと異なってくるということになると思い
ますが、その点の御見解を外務大臣、お聞かせください。
○国務大臣(渡辺美智雄君) 私は日本の外務大臣ですから、日本の国
益も考えなければならぬのです、日本の国益も。政府に莫大な金を払え
払えと言うことは日本国民に払えと言うことでございますから、日本国
民がそういうコンセンサスであればそのように大きな動きになるかもし
れません。しかし政府間ではこれはもう解決済みということになってお
りまして、そういうことで、我々としては友好関係を促進するために中
国に対しましては円借款を初めエネルギー借款その他のいろんなことで
今後とも大いに協力してやっていこうと、そういうようなことをやって
おるわけであります。
しかし、中国の中の動きを我々はとめることはそれはできません。で
きませんが、しかし国家間の問題を大きくそこに切り傷を開いていくと
いうやり方は私は賛成いたしません。
○清水澄子君 その国益本位の国家主権の枠組みという考え方をむしろ
これから点検し直さなきゃならないのが今日の時代だと思うんです。し
かしそれをすべて補償金という形で私は申し上げているのじゃありませ
ん。ですから、どのように認識されているかというのは、こういう問題
が出てくる背景、そしてどれほど私たちは過去の克服に対して誠意と謙
虚さを持って対応してきたかというその問題を認識することが私は重要
だと思っていたんですけれども、相変わらず金が幾らかかるとかそうい
うところだけ、やはりそこに私は一番アジアの人々からの不信があると
思います。
そこで、三月二十四日の東京新聞に、そういう対日賠償請求に対して
、外務省はそういう問題は中国政府に行えばいいということの見解が出
ているわけですけれども、これは本当にそうなんですか。
○国務大臣(渡辺美智雄君) それは国民一人一人とどの国においても
日本政府が交渉をしたりどうこうすることは不可能なんです、実際問題
として。したがいまして、国家間の取り決めというものはいろいろござ
いましょうが、それはそれなりに国と国との間では問題を解決していか
なければいつまでたっても国交正常化というようなことはできません。
したがって、長い間、十数年かかってできなかったものを解決するため
にはお互いにある程度我慢し合うところは我慢し合ってやらなければな
らない、大きな大乗的見地に立ってやっておるわけであります。
しかしそのことによって、我々は戦争の被害でいろいろな御迷惑をか
けたことについて、それはまことに申しわけない、二度と再びこういう
ことを起こしてはならない、そしてまた復興のためにはできるだけの御
援助あるいはそういうようなことをやってまいりましょうということで
やってきておるわけでございますので、国益というのは政府だけの話じ
ゃなくて国民全体の問題でございますから、我々は今後とも日中間の問
題については誠心誠意仲よくやる方向で、またそれがいろんな国の国情
によってやり方は違いましょうけれども御協力を申し上げてきたところ
でありますし、今後もそういう方針でやってまいりたいと考えておりま
す。
第123回国会 衆議院法務委員会 第6号 平成四年四月十日(金曜日)
委員 高沢 寅男
外務省アジア局
北東アジア課長 武藤 正敏
法務大臣 田原 隆
法務省民事局長 清水 湛
○高沢委員 私は、前々回のこの法務委員会におきまして、戦争の終わ
るとき、長崎県の三菱重工の造船所で働いていた金順吉さんという徴用
工の人の賃金の未払い問題、今その方がまた日本へやってきて支払いを
求めている、この問題についてお尋ねいたしました。それで、なお若干
そのことでお尋ねしたいことがありますので、きょうこれからその質問
を申し上げたいと思います。なお、きょうは主として外務省関係でお尋
ねするようになると思いますが、もちろん法務省関係、また大臣の御見
解を求めることもありますから、よろしくお願いいたします。
まず初めに日韓請求権・経済協力協定、一九六五年の協定であります
が、この協定によって日韓両国はお互いに持っている請求権を相互に放
棄するということを約束し合ったわけでありますが、そのときに、その
お互いに放棄する請求権、日本から韓国に対してはこういう、こういう
、こういう請求権がある、ところが韓国から日本に対してはこういう、
こういう、こういう請求権がある、それぞれ具体的に挙げて、そしてそ
れを放棄するというふうな形にこの協定ができ上がったのかどうか。そ
ういう具体的な放棄する請求権をお互いに確認し合ったということがど
ういうふうに実態としてなっているのか。初めに、まずそれをお尋ねし
たいと思います。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
六五年の日韓請求権・経済協力協定でございますけれども、これによ
りましてどういうものを放棄したかという御質問でございました。
韓国側から、交渉の過程におきまして対日請求要綱、いわゆる八項目
というものが出てまいりまして、そして交渉を行ったわけでございます
けれども、日韓交渉におきましてはこの日韓間の財産・請求権問題は完
全かつ最終的に解決済みということでございまして、いわゆるこの八項
目を含めましてすべて解決済みということでございます。
ちなみに八項目、これをお読みいたしますと、
第一項朝鮮銀行を通じて搬出された地金と地銀の返還を請求する。
第二項 一九四五年八月九日現在の日本政府の対朝鮮総督府債務の弁
済を請求する。
第三項 一九四五年八月九日以後韓国から振替又は送金された全員の
返還を請求する。
第四項 一九四五年八月九日現在韓国に本社、本店又は主たる事務所
があった法人の在日財産の返還を請求する。
第五項 韓国法人又は韓国自然人の日本国又は日本国民に対する日本
国債、公債、日本銀行
券、被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請求権の弁済を請求する
。
第六項 韓国人(自然人及び法人)の日本政府又は日本人(自然人及
び法人)に対する権利の行使に関する原則。
第七項 前記諸財産又は請求権から生じた諸果実の返還を請求する。
第八項 前記の返還及び決裁は協定成立後即時開始し、遅くとも六カ
月以内に終了すること。ということになっております。
繰り返し申し上げますけれども、六五年の日韓請求権・経済協力協定
によりまして解決されましたものは、こういったものも含めましてすべ
て完全かつ最終的に決着済みということでございます。解決済みという
ことでございます。
○高沢委員 今韓国側からのそういう八項目の御説明がありましたが、
この際参考のために、日本側から対韓国でそれに類するような、これは
こういう請求権があるよというようなことの提示はあったのかどうか。
これはどうでしょうか。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
交渉の過程において一時請求したことがございましたけれども、ただ
、日本側の財産につきましては連合軍によって接収されておりましたの
で、具体的にこうこうこうということは現時点、現在資料として持って
おりません。
○高沢委員 今完全かつ最終的に清算されたということが説明があった
わけですが、どうも最近の韓国と日本との関係を見ますと決して完全か
つ最終的ではない、こう思わざるを得ない動きが次々に出ているわけで
あります。その一例として、一昨年韓国の盧泰愚大統領が来日されまし
たが、その際に、日本で、広島、長崎で原爆を受けた被爆の韓国の人た
ちに対する、これは補償というべきなのか何かあれですが、被爆者援護
基金として四十億円を支出するということが日本の政府の決定として決
められたわけであります。こういうふうな被爆に対するお金を四十億出
すということになった、この場合、さっきの協定の完全かつ最終的に決
着した、もう何もないんだということとこのことの関係は一体どうなる
のか、お聞きしたいと思います。
〔委員長退席、田辺(広)委員長代理着席〕
○武藤説明員 お答え申し上げます。
在韓被爆者に対しましては八一年から八六年まで渡日治療を実施して
まいりました。その後、九〇年五月に盧泰愚韓国大統領訪日の際に、当
時の海部総理より今後総額四十億円程度の支援を行うとの意図表明を行
ったわけでございます。これに基づきまして、治療費の支援ですとか健
康診断費支援それから健康福祉センター建設費支援を行うことにしたも
のでございます。これまでも繰り返し御説明申し上げましたが、日韓間
の財産・請求権というのは六五年の日韓請求権・経済協力協定によりま
して法的には解決済みでございます。
在韓被爆者の支援につきましては、先ほど御説明いたしましたとおり
、これは歴史的な経緯を踏まえまして、原爆という特殊な原因で後にそ
の後遺症等で悩んでいらっしゃる方々がいらっしゃるわけでございまし
て、こうした在韓被爆者の方々に対しまして医療面での支援を人道的な
観点から行うことにしたものでございます。したがいまして、こうした
支援は補償といった性格のものではございませんで、請求権協定の枠組
みに影響を与えるものではないということでございます。
○高沢委員 もう一つ具体例を挙げたいと思います。
本年の一月二十一日、韓国の政府は各省庁の実務責任者会議を開いて
、日本政府に対して従軍慰安婦問題での徹底した真相解明とそれに伴う
適切な補償などの措置をとることを求めるということを決定したわけで
すね。この韓国政府の決定によって、外交ルートで今まで日本の政府、
外務省に何かこのことについての申し入れがあったかどうか、まずそれ
をお聞きします。
○武藤説明員 韓国政府が一月二十一日に、日本に対しましていわゆる
従軍慰安婦問題の真相究明、補償、歴史教科書への反映等を求めること
及び韓国政府内に本件問題についての合同対策班を設置すること等を内
容といたします挺身隊問題に関する政府方針というものを発表したこと
は承知しております。私どもも報道資料等を入手してこれは承知してい
るわけでございますけれども、これまでのところ、韓国側からこの方針
に基づいた申し入れは来ておりません。
○高沢委員 今までのところは来ていないということでございますが、
しかし私は、これからそういうものは来る可能性がある、こう見るべき
ではないかと思います。
そういう要求が来たときに、日本の政府の対応としては、それは日韓
請求権協定でもはや完全かつ最終的に決着は済んでいるんだ、だからそ
ういう問題はもはやお聞きする余地はありませんというふうな対応をと
られるのかどうか、これはいかがですか。
○武藤説明員 韓国側からこうした申し入れが来た場合どういうふうに
対応するかといった仮定の質問にお答えするというのは、必ずしもこの
場では適当ではないと思いますけれども、いずれにいたしましても先生
おっしゃいましたとおり、日韓間の財産・請求権の問題は、日韓請求権
・経済協力協定により完全かっ最終的に決着済みでございまして、この
点については韓国政府の方でも御理解くださっているものと考えており
ます。
○高沢委員 私は、そういうふうな理解を韓国政府がもししていればこ
の種の要求は出てこないはずだと思います。しかし、この種の要求が出
てくるということは、あの協定の決着済みということではこれは決着で
きない問題というふうに先方は考えているからこの要求が出たのだろう
、こう思うのであります。先ほど原爆被爆者については、この請求権の
協定の問題とは別に人道上の措置として、非常に特殊な歴史的経過があ
ったから人道上の措置としてやった、こう言われるのでありますが、私
はこの従軍慰安婦などというケースの場合はなおさら特別な歴史的経過
を持っている、なおさら人道的な措置をしなければならぬ、こういう性
格のものではないかと思うのであります。しかし、そういうことに対し
て既に決着済みということで対応される考えか。あなたは外務大臣でな
いからそこまで聞くのはあるいは酷かもしれませんが、しかし条約上の
考えとしてはもはや決着済みということでそれは通すのだ、こういうお
立場がどうか、それを聞きます。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
昨年の八月十七日に、韓国の李相玉外務部長官が定例記者会見におき
まして、政府レベルにおいては一九六五年の韓日国交正常化当時に締結
された請求権及び経済協力協定を通じてこの問題が一段落しているため
、政府がこの問題を再び提起することは困難であるというようなことを
言っておられます。先ほどから申し上げておりますとおり、この問題に
つきましては、六五年の協定によりまして決着済みというのが法的な立
場でございます。
○高沢委員 そういたしますと、私、前回のときもお尋ねしたのであり
ますが、この問題について渡辺外務大臣は、これは何らかの措置は必要
である、こういうふうな発言をされているわけでありますが、この決着
済みという立場と何らかの措置が必要であるということとの相互の関連
は一体どうなるのか、あなたの立場でひとつ理解を示してもらいたいと
思います。
○武藤説明員 渡辺外務大臣が国会等の場におきまして、いわゆる従軍
慰安婦の方々に対し申しわけないというお気持ちを目に見える形で何か
するのが政治ではないかといった趣旨の御発言をなさっていらっしゃる
ということは、私どもとしてもよく承知しております。これは大臣の政
治家としてのお考えを述べられたものだと思います。
いずれにいたしましても、いわゆる従軍慰安婦の方々の補償の問題に
つきましては、現在訴訟が行われておりますし、この訴訟の行方を見守
っていきたいと考えております。さらに、まず、先般宮澤総理が韓国を
訪問されましたときも、事実関係について誠心誠意調査をしていきたい
というふうに言っておられますので、私どもとしてもこの調査に誠心誠
意専念したいと考えているところでございます。
○高沢委員 これから大臣に対するお尋ねになりますが、日本と韓国と
の関係で言うと、それこそ植民地支配をした経過であるとか、それが第
二次世界大戦につながっていった経過であるとか、非常に特殊な歴史的
な経過があります。そして、今次々にこの種の問題が出てくるというこ
とは、そういう歴史の経過の中から生まれてきているということであっ
て、協定ではもう済みましたというふうに幾ら言っても、しかしやはり
韓国の側からすれば、あるいは韓国の国民の側からすれば、これはどう
してもこのまま済ますわけにはいかないというふうなことが、原爆被爆
者の問題もそうやって出てきた、従軍慰安婦の問題もこうやって出てき
た。あるいは当時無理やりに日本人にさせられて日本の軍隊に入れられ
て戦死した人たち、そういう人たちに対する、これもまた何ら行われて
いないわけですね。日本の軍人は、あの戦争で戦死した人あるいは傷つ
いた人は、後で軍人恩給というものを受けておりますが、しかし韓国で
同じ立場の人は何らそういうものは受けていない。この人たちは、おま
えたちは日本人だぞ、植民地時代はそう言われた。そして、今度、いよ
いよ戦争が終わってそういう補償を受けなければならぬというときにな
ったら、おまえたちはもう正本人じゃないよ、日本の国民じゃないから
そういうものはやれないというふうな形で今日まで来ているわけですね
。
そういうことを数え上げれば切りがないほどあるのですが、そういう
ことが、今度は韓国の国民の側からすれば、これは何とかすべきだ、し
てほしいということがまた次々に出てくることは、私は歴史の経過から
いってやむを得ざることである、そしてその一つ一つをとってみると、
いずれも、さっき原爆の被爆者は人道上の措置である、こういう説明が
あったのですが、どれをとっても人道上の措置としてこたえるべきそう
いう性格のものじゃないか、私は実はこう思うのです。したがって、そ
ういうふうな立場で見たときに、この種の問題に日本の政府が、もう日
韓の請求権の協定で済んだ、こういうふうな対応だけで私はいけるもの
じゃないし、またいくべきものでもない、こう思うわけです。
協定を結んだ立場でそこをどうやるかはなかなか難しい問題はあろう
かと思いますが、しかしそれはそれとして、もう人道上という一つの前
例が原爆の被爆者の問題であるのですから、そういう人道上のというよ
うな前例を大いに前向きに、積極的に活用する、そして対応するという
ふうなことがこれから日韓の関係あるいは日本と朝鮮の関係等々で非常
に必要になるのではないのか、私はこう思います。渡辺外務大臣の何ら
かの措置というのも、恐らくそういう一つの政治的な判断があって出立
言葉じゃないかと思いますが、法務大臣、やはり国務大臣でおられるわ
けですから、今私の申し上げたようなことについてどういう御見解をお
持ちか、ひとつお尋ねをしたいと思うのです。
○田原国務大臣 法務大臣は国務大臣で内閣の一員でありますが、ただ
明確に所管が分かれておりますので、所管を越える問題について本来は
なかなかコメントできないと思いますけれども、ただ先生の人道的なお
気持ちは理解できるわけですが、渡辺先生が副総理として言われたか外
務大臣として言われたかわかりません。渡辺先生の方に直接お聞きして
おりませんので、それはそんたくして申し上げなければいけないし、私
は、大変悪うございますが、意見を差し挟むことを、コメントを控えさ
せていただきたいと思います。
○高沢委員 この辺は政治家として当然一言あってしかるべきだと思い
ますが、どうしても言われないのを無理やり言わせるというのも大変困
難でありますから、もう時間があれですから次へ進んでまいります。た
だ、進む前に、やはり内閣の一員としてこの種の問題は人道的に、前向
きに対応すべきであるということは、ひとつ十分腹の中に入れておいて
いただきたい、こんなふうに思います。
それで、また外務省になりますが、こういうことが次々に出てくる。
仮に、韓国の政府の政府ベースの問題でそういうことを要求してくる、
日本はもう済んでおるということになったときに、意見の違いが出ると
、そこにいわゆる紛争の解決というふうなことになってくる可能性があ
るのですが、日韓請求権協定の三条では、紛争の解決という項があって
、そういう紛争がもし生じたならば外交経路で解決するとか、どうして
もつかなければ仲裁委員会にかけるというふうな規定があるわけであり
ますが、この規定はどういう意味と目的を持って置かれたものであるの
か、そういうことを聞きたいと思います。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
日韓請求権・経済協力協定第三条は、この協定の解釈及び実施に関す
る両締約国間の紛争の解決のための手続を定めたものでございます。た
だ、御指摘の補償の問題も含めまして日韓間の財産・請求権問題が完全
かつ最終的に解決したことを確認したこの協定第二条の解釈及び実施に
つきましては、先ほど御紹介いたしました李相玉外務部長官の発言にも
ございますとおり、日韓間に紛争が生じているわけではございませんで
、協定三条の規定に基づいて解決すべき問題ではないというふうに考え
ております。
○高沢委員 そうすると、紛争の解決ということで該当するのは一体ど
ういうことなのですか。
この協定の第一条では三億ドル、二億ドルの経済協力が規定されてい
る。これは皆上げてしまったからもう済みですよ、今さらこれで何か紛
争が起きる可能性はない、それから第二条で完全かつ最終的に決着済み
、これももう紛争が起きる余地はない、こう言われるとすれば、もはや
紛争が起きる可能性は全然ない。この三条というのは一体何の意味があ
るのかということになるのですが、どうですか。
○武藤説明員 お答え申し上げます。
第三条の規定に基づきまして具体的にこうこうこういった事例といっ
たことで想定しているわけではないというふうに承知しております。
○高沢委員 これは私の意見ですが、これから日韓の間で紛争が生ずる
とすれば、今言った請求権の問題、済んだと協定ではなっているが、こ
れは、済んだでは我々は納得できないという問題が出てくることが、こ
れからの紛争の可能性の大きなものを非常にはらんでいるということを
私は申し上げて、外務省もそのことはしっかり考えておいていただきた
い、こう思います。
それから、戦争中に徴用等で雇用されていた朝鮮の人に対する未払い
賃金等については供託の措置をとるようにということが昭和二十一年に
政府から通達がなされて、そして関係の企業は、多くは皆供託の措置を
とったということでありますが、その供託は十年で時効になるというこ
とが一方にあるわけですね。前にも清水局長からもお答えありました。
そして、十年で時効になるけれども、昭和三十三年の段階でもう時効に
なったからこれは済んだと言って国庫へ戻し入れということは、普通な
らやるのだそうですが、それはやるべきでない、そのまま置いておけと
いうことが、また昭和三十三年に通達が出された。それは日本と韓国、
日本と朝鮮、その間におけるこの種の問題の協定ができるまでというこ
とであったわけですが、日韓の協定は既にできたわけでありますが、そ
の後、そうやってずっと保留されていた供託のお金の国庫への戻し入れ
がなされたのか、今でもなされないで置かれているのか、この辺はどう
でしょう。
○清水(湛)政府委員 前回答弁申し上げましたように、本来ならこれ
は十年で時効消滅しているわけでございます。しかしながら、平和条約
で、朝鮮半島の地域に施政を行っている当局あるいはその住民の請求権
につきましては特別取り決めの対象とするということが定められました
。そういうようなことを背景といたしまして、本来なら当然行っていい
はずの時効による歳入納付という手続を見合わせようということで、昭
和三十三年の通達によりまして見合わせたわけでございます。その後、
日韓の問題につきましては、先ほど来御答弁がございますように請求権
協定がされまして完全に解決されたということになるわけでございます
。
ただしかし、日韓間の請求権協定というのは、北朝鮮との関係におい
てはその効力が及ばないのではないかというようなこと、これは外務省
の方でお答えになる問題でございますけれども、そういうような疑問も
ございましたので、韓国関係におきましては完全に消滅しているわけで
ございますけれども、供託されている方々が韓国の方々なのかあるいは
北朝鮮の方々なのかわからないというようなこともございまして、現在
、歳入納付の手続はとらないまま推移していると承知しているところで
ございます。
○高沢委員 もう五分前の通告が来ましたからあれですが、今現に北朝
鮮との国交交渉をやっておりますから、いずれまとまるまでにはこうい
う経済協力というか請求権というか、そういうものが、今度は日本と北
朝鮮の間で当然結ばれなければならぬ、こうなると思いますが、そのと
きに、今まで日韓で結んだものと全く同じものが果たしてできるのか、
北朝鮮側は、あれではだめだ、こういうものでなければだめだという主
張が当然に出てくると私は思います。そういうことにおいて、これから
の日本の外務省の対応も相当難しい、場合によれば思い切った決断をし
なければならぬという局面も来ると思いますが、それは一応指摘だけし
ておいて、時間がありませんから次へ行きます。
それで、問題の三菱重工の長崎造船所で働いていた金順吉さんのこと
ですが、要するに三菱重工は、それは供託したからもう済んだんだ、こ
ういう態度をとっているわけですね。金さんは、それに対して支払いを
求めるということで、これから裁判にも訴えようというようなことにな
っていますが、その供託をしたということが、三菱重工が供託書の正本
をちゃんと持っていて供託したことが証明されるということになるかと
いうと、それが文書がないのですね。つまり、供託したことが証明され
ない。されないとすれば、逆に考えれば、今度は供託をしなかったと結
局認識せざるを得ない。そうすると、金順吉さんの支払い請求に対して
は当然支払いをする責任がある、義務があるということになろうかと思
うのですが、この点はいかがですか。
○清水(湛)政府委員 これは私どもの方で答えるべき筋合いの問題で
あるかどうか、つまり金順吉さんという韓国の方が日本の法人である三
菱重工に対して請求権を持っているということになるのだろうと思いま
す。しかし、その請求権につきましては、先ほど請求権協定で日本国民
に対する請求権についても放棄がされることになっておりますので、そ
のことについて三菱重工がどういう御主張をなさるのかという問題であ
ろうかと思います。三菱重工と金順吉さんの間の関係でございますので
、私ども、それについてとやかく申し上げる立場にはないということだ
けを申し上げさせていただきたいと思います。
○高沢委員 三菱重工がどう答えるかということは確かに会社の立場で
すね。ただ、それに対して、支払いを求めるという金順吉さんの、言う
ならばまた権利はあるということを私としてはここで確認したいと思う
のです。それは具体的に訴訟ということになっていくかもしれませんが
、そういうことを私としては確認をしたいと思います。
それで、前回のときに、これとの関連で、三菱重工が本当に供託した
のかどうかを側面的に立証する一つとして、当時同じく長崎でそういう
朝鮮人徴用夫を使っていた高島炭鉱あるいは川南造船、これの供託をし
たかどうかの資料はどうかと実はお尋ねしたのですが、それを後で聞い
たら、川南造船という会社は登記上ない、それから高島炭鉱という会社
もない、したがってそういうことの探しょうがないという説明が法務省
から実はあったのです。
そこで、私ももう一度よく調べてみたら、高島炭鉱というのは三菱石
炭鉱業株式会社の高島横業所、それから川南造船も川南工業株式会社の
造船所ということがより正確にわかったので、この名前で、昭和二十一
年、二十二年、あのころの段階で未払い賃金の供託がなされたかどうか
を、その資料をお尋ねしたいと思いますが、今ここですぐにわからなけ
れば、別途また私の方へその連絡をいただきたいと思いますが、いかが
でしょう。
○清水(湛)政府委員 これは供託制度についての一般論でございます
けれども、いわば供託をする人からその相手方のために金を預かるとい
うことでございまして、供託をした方は供託金の取り戻し請求権がある
、供託をされた方は供託金の還付請求権があるということで、それぞれ
金銭債権を有する関係にあるわけでございます。したがいまして、この
供託につきましては、どういう方がどういう方に対して供託をしたかと
いうことは一般的に公開しない。その供託をされた方あるいは供託をし
た方御自身あるいはその相続人の方が、そういう者であるということを
証明して供託所に参りますと、その関係でその事実関係を明らかにする
ことがありますけれども、一般論としてこういう方がこれだけの供託を
していますということは申し上げることはでさない、私どもはそういう
扱いをしているわけでございます。
もちろんその前提といたしまして、そういう会社が、いや、供託をし
たからその供託の事実を確認したいとみずからそういうことを明らかに
して供託所へ来るということでございますと、それはいわばみずから公
開したわけでございますから問題はないと思うわけでございますけれど
も、一般論ということになりますが、そういう扱いをしているというこ
とについて御理解をいただきたいと思うわけでございます。
○高沢委員 もう終わっていて済みません。もう一問だけお許し願いま
す。
前回の質問のときに、三菱重工の長崎造船所はそういう供託をした資
料が何もない。ところが、広島の造船所は広島の法務局に対して供託を
していて、確かにその資料が確認できた、千七百何名の供託があったと
いうことは前回の委員会でもお答えがあったわけです。それは法務省か
ら調べていただいてそのことの確認があったわけですが、今度の三菱石
炭鉱業、それから川南工業、これも同じような意味において調べていた
だいて、つまりこれは求めている人が金順吉さんですから、したがって
三菱が供託したかどうかを、最も利害関係人であるこの人にそういうこ
ともまた資料として伝えてあげるということがあっていいのじゃないか
と私は思いますので、今の点を調べていただいて、私に教えてもらえば
今度金さんの方へそのこともお伝えすることもできるわけで、まるっき
り利害関係人でないということでもないので、その御配慮を願います。
○清水(湛)政府委員 広島で三菱重工が供託書を閲覧したという事実
はございますけれども、それはその前提として、三菱重工の広島造船所
は自分たちはこういう形で供託をしているということを対外的に公表い
たしまして、その供託の詳細を確認するということで三菱重工みずから
が供託所にそういう調査に来られたということでございます。そういう
意味におきましては、三菱重工としては供託の秘密をも公開しておると
いうことでございますので、私どももこの間ここでそういう事実がある
ということはお答えいたしたわけでございます。
三菱重工の長崎造船所につきましては、長崎造船所の方でも供託をし
たというふうにおっしゃいまして、金順吉さんもそのことを長崎造船所
で確認をいたしまして、そして私どもの方へやってまいりましたので、
長崎造船所としても供託の事実をいわば公開しているということになり
ますので、調べてみたわけでございますけれども、この間お答えいたし
ましたように、そういう関係書類が法務局には見当たらなかったという
ことで、そういう経過になっているわけでございます。
第126回国会 衆議院予算委員会 第26号 平成五年五月二十六日(水曜
日)午前九時一分開議
委員 宇都宮 真由美
外務省条約局長 丹波 實
外務省アジア局長 池田 維
内閣官房内閣外政
審議室長兼内閣総理大臣
官房外政審議室長 谷野 作太郎
○宇都宮委員 次に、PKOの問題はこれから日本がどう生きていくか
にかかわる問題でございまして、そのことはまた今までの、過去の生き
方をどう処理するかという問題にも共通点があると思いますので、ちょ
っと戦後補償の問題についてお尋ねしたいと思うんですけれども、その
前にいわゆる日韓条約、その解釈について二、三確認をさせていただき
たいと思うんです。
一つは、協定第一条第一項の無償三億ドルと有償二億ドルの経済協力
、それと同第二条第一項の「財産、権利及び利益」並びに「請求権に関
する問題」の解決、この二つは法律的には対価関係がないというふうに
言われていますけれども、政治的といいますか存在的といいますか、経
済協力するからまあ財産等の問題は解決したのだ、解決するから経済協
力するんだという意味においては対価関係にあると思うんですけれども
、そういう形で連動しているとは言えないのでしょうか。
○丹波政府委員 お答え申し上げます。
先生はこの問題に大変お詳しい先生でございますので、ごく簡単に経
緯を御説明申し上げたいと思いますけれども、日韓国交正常化交渉にお
きましてのこの財産請求権問題の討議は、法的な根拠があり、かつ事実
関係も十分に立証されたものについてのみ日本側がその支払いを認める
という前提に立って交渉を行ったわけでございますけれども、法的な根
拠の有無に関する日韓間の見解というものに非常に大きな隔たりがあっ
た。また、御承知のとおり戦後十数年を経過し、かつ朝鮮動乱が間にあ
ったということで、事実関係の立証自体も非常に難しかったということ
でございます。それで、しかしそのような状況の中でこのような両国の
対立を無期限に放置し、そのために正常化もおくれるということであっ
てはいかぬということで、両国が大局的な見地から考えてこの協定をつ
くったわけでございます。
そこで、両国の正常化後、韓国の民生の安定、経済の発展に貢献する
ことを目的といたしまして、韓国に対しまして経済協力を行うことが適
当であるということを考えましてこの協定を締結いたしまして、先生が
今おっしゃいましたとおり、第一条におきまして五億ドルの経済協力の
供与を合意するとともに、当時国会でも何度も説明申し上げましたが、
それと並行的にとかあるいはあわせてという言葉を使っておりますが、
それと並行的にあるいはあわせて、第二条におきまして両国間の財産、
請求権の問題を処理した。完全、最終的に処理したということでござい
ます。
先生今おっしゃいましたとおり、この第一条と第二条の間には法的な
直接のつながりはございませんけれども、当時の経緯を考えまするに、
そこにはやはり政治的なつながりがあった、あるいは人によっては政治
的なパッケージであったという言葉を使って説明される方もおられます
けれども、いずれにしても、そのような関係であったというのが歴史的
な事実ではないかと思います。
○宇都宮委員 次に、この協定第二条第一項の「財産、権利及び利益」
と「請求権」との関係についてお聞きしたいと思うんです。
それはどうしてかといいますと、この当時の合意議事録によりますと
、ここで言う「「財産、権利及び利益」とは、法律上の根拠に基づき財
産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが了解され
た。」というふうに書かれております。そしてまた、今までの外務委員
会とか予算委員会での議事録を見ますと、「財産、権利及び利益」とい
うのは法律上の根拠のある請求権である、そして「請求権」というのは
法律上の根拠のない請求権であるというふうな説明がなされております
。このような両方の説明からしますと、ほとんどの権利は「財産、権利
及び利益」の中に入って、いわゆる何というか全く根拠のない、言いが
かりをつけるようなものだけが「請求権」の中に入るというふうな感じ
にちょっと感じられるのです。
そこで、もう少しわかりやすく、「財産、権利及び利益」の中にはど
ういう権利が入って、「請求権」の中にはどういう権利が入るのか、具
体例を挙げて、かつ簡単に御説明いただきたいと思うのですけれども。
○丹波政府委員 いわゆる財産、権利、利益と請求権との区別でござい
ますけれども、「財産、権利及び利益」という言葉につきましては、日
韓請求権協定の合意議事録の中で、ここで言いますところの「財産、権
利及び利益」というのは、合意議事録の2の(a)ございますけれども
、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体
的権利」を意味するということになっておりまして、他方、先生御自身
今おっしゃいましたとおり、この協定に言いますところの「請求権」と
いいますのは、このような「財産、権利及び利益」に該当しないような
、法律的根拠の有無自体が問題になっているというクレームを提起する
地位を意味するということになろうかと思います。
具体的にとおっしゃいますので、ちょっと具体的に申し上げますと、
御承知のとおり、この第二条の三項におきまして、一方の締約国が財産
、権利及び利益、それから請求権に対してとった措置につきましては、
他方の締約国はいかなる主張もしないというふうな規定がございまして
、これを受けまして日本で法律をつくりまして、存在している実体的な
権利を消滅させたわけでございますけれども、まさにこの法律が対象と
しておりますのは、既に実体的に存在しておる財産、権利及び利益だけ
である。
具体的に申しますと、それは例示いたしますと、日本国あるいは国民
に対する債権あるいは担保権あるいは物権といったものを消滅させた。
これがまさに実体的な権利でございまして、請求権はなぜこの法律の対
象でなかったかと申しますと、まさにその消滅させる対象として請求権
というものが目に見える形で存在していないということだと思うのです
。
先生はもう弁護士の先生でございますので、これ以上あれする必要は
ないと思いますけれども、例えばAとBとの間に争いがあって、AがB
に殴られた、したがってAがBに対して賠償しろと言っている、そうい
う間は、それはAのBに対する請求権であろうと思うのです。しかし、
いよいよ裁判所に行って、裁判所の判決として、やはりBはAに対して
債務を持っておるという確定判決が出たときに、その請求権は初めて実
体的な権利になる、こういう関係でございます。
○宇都宮委員 今の御説明をお聞きしますと、財産、権利、利益の中に
入る権利というのは、例えばよく例に出されるのは郵便貯金の返還請求
権とか、そういうのが言われるのですけれども、一見して証拠上だれが
見ても権利が存在していると認められるような、判決書とか国の権利証
みたいな、そういうものだというふうに考えて、そしてそういうまだは
っきりしていない権利というのは、損害賠償請求権なども法律上の根拠
があるかないかといえば、私はあるんだろうとは思うのですけれども、
そういう損害賠償請求権とかあるいは慰謝料請求権、あるいは労働契約
に基づく賃金の支払い請求権なども、そういうはっきりした証拠がなけ
れば請求権の方に入るというふうに解釈してよろしいのでしょうか。
○丹波政府委員 これは条約、協定あるいは国内法でもそうかと思いま
すが、いかなる意味合いで請求権という言葉が使われているかというこ
とによって違うと思うのですが、しかし先生、一番重要なことは、請求
権につきましても、日韓両国、両政府の間では、国家あるいは国民の請
求権も相互に放棄され、完全、最終的に解決されておるというのが、こ
の問題につきましてのこの条約上の一番重要な問題ではないかと考えて
おります。
○宇都宮委員 重要な問題がどうかということをお聞きしたわけじゃな
くて、権利の分類が私の解釈で間違ってないでしょうかということを確
認させていただいたのですけれども。
○丹波政府委員 ですから、請求権という言葉がどういう文脈あるいは
どういう法律の中でどのような形で使われているかということによって
、そこは実体的なものを持っているのかどうかも違ってくるのではない
かと考えます。
○宇都宮委員 済みません。もう一回だけ確認させてほしいのですけれ
ども、証拠がはっきりしているかどうか、だれの目で見ても一見明らか
に存在すると見られるような権利が「財産、権利及び利益」の中に入っ
て、それがはっきりしないような権利が「請求権」なんだというふうに
一番最初例説明されたのではないのですか。
○丹波政府委員 先ほど申し上げましたとおり、この「財産、権利及び
利益」と申しますのは、法律上の根拠に基づきまして既に財産的価値を
認められています実体的な権利を意味しておる。それで、「請求権」と
申しますのは、「財産、権利及び利益」に該当しないような、法律的根
拠の有無自体が問題となっているようなクレームを提起する地位、それ
を意味しておるということでございます。
○宇都宮委員 今までの外務委員会等での議事録に書かれているとおり
の御答弁なんで、これ以上はやめますが、何でああいうわかりにくい説
明をするのか、私はよくわからないのですけれども。
いずれにしましても、財産、権利、利益の中に入るものも、請求権の
中に入るものも、条約上はその権利を消滅させていない。財産、権利、
利益に対する日本国の措置に対して、そしてまた請求権に対して、国家
は何らの主張もしない。要するに主語は国家であって、その権利が消滅
したことを条約で言っているわけではないと思うのです。この条約では
、要するに外交保護権の放棄を言っているだけの話で、権利自体の消滅
についてはこの条約は言っていないということはいいわけですね。
○丹波政府委員 お答え申し上げます。
この第二条の一項で言っておりますのは、財産、権利及び利益、請求
権のいずれにつきましても、外交的保護権の放棄であるという点につき
ましては先生のおっしゃるとおりでございますが、しかし、この一項を
受けまして三項で先ほど申し上げたような規定がございますので、日本
政府といたしましては国内法をつくりまして、財産、権利及び利益につ
きましては、その実体的な権利を消滅させておるという意味で、その外
交的な保護権のみならず実体的にその権利も消滅しておる。ただ、請求
権につきましては、外交的保護の放棄ということにとどまっておる。個
人のいわゆる請求権というものがあるとすれば、それはその外交的保護
の対象にはならないけれども、そういう形では存在し得るものであると
いうことでございます。
○宇都宮委員 韓国政府がその外交保護権を放棄したからといって、日
本の法律で直接その韓国人の権利を消滅させるという、その根拠は何な
んでしょうか。
○丹波政府委員 それは、何度も立ち戻りまして恐縮ですけれども、韓
国との請求権・経済協力協定の第二条一項を受けまして三項の規定があ
るものですから、日本政府が相手国、この場合韓国ですが、韓国政府及
び国民の財産、権利及び利益に対していかなる措置をとっても、相手国
あるいは相手国政府としてはいかなる主張もしないということになって
おるものですから、その意味で、日本政府がまさにこの財産、権利及び
利益というものを消滅させても、韓国としてはいかなる主張もしないと
いうことが規定されておるものですから、日本政府としてはそういう措
置をとったということでございます。
○宇都宮委員 それは韓国政府が何も言わないということで、韓国人が
何も言わないということまでは決めていないと思います。ちょっと長く
なりますので、もうこれでやめます。
次に、戦後補償の問題なんですけれども、いろいろあるんですけれど
も、韓国の従軍慰安婦の方の問題についてちょっと質問させてもらいた
いと思うんです。
政府の立場は、今言いました一九六五年の日韓間の請求権・経済協力
に関する協定、これで、戦後補償の問題については韓国及び韓国民との
間では既に解決済みであるという態度を繰り返して述べられております
。そしてまた一方では、この元従軍慰安婦の方には補償にかわる何らか
の措置をする必要があるというふうにも言われています。
この解決済みであるということと、何らかの補償をしなければならな
いということとの関係というのは、どういうふうに考えたらいいんでし
ょうか。法律的には解決済みだけれども、何らかのことをする政治的な
義務とかあるいは人道上の義務があるというふうにお考えなのか、それ
とも、義務はないけれども、まあするんだというふうに考えるのか。ど
ちらなんでしょうか。
○池田政府委員 いわゆる従軍慰安婦問題の法的な立場についてはただ
いま条約局長から御答弁があったとおりでございますけれども、本件の
性格にかんがみまして、道義的、人道的観点から、我々としては日本国
民の気持ちを何らかの形であらわすことはできないだろうかということ
で検討しているわけでございます。
○宇都宮委員 そこで、何らかの道義上の義務があるというふうに考え
られているんだろうと思うんですけれども、今まで私たちというか、元
慰安婦の方たちも、要するに事実の調査をしてほしいということを訴え
てまいりました。
それで、いろいろ政府の方でも文書の調査はなさって、昨年の七月に
も第一回目が発表されて、また二回目の調査の結果を発表するというこ
とでございますけれども、この書類とか文書とかの調査以外に、聞き取
り調査をなさるということを三月の参議院の予算委員会でおっしゃられ
ました。聞き取り調査の対象とか方法とか、具体的に決まっていれば御
説明願えますか。
〔委員長退席、石川委員長代理着席〕
○谷野政府委員 お答え申し上げます。
ただいま聞き取り調査ということでございましたが、私どもが行って
おります聞き取り調査は、当事者の方々の、慰安婦の方々から直接お話
を伺うということと、それから、それ以外のいわば関係者の、日本の方
も含めてですけれども、その方々からお話を伺うのと二通りあろうかと
思いますが、後者につきましては既にいろんな形でお話を伺っておりま
す。
難しいのは当事者の方々から直接お話を伺うということでございまし
て、私どもは、現在進めております調査をより完全なものにするために
は、当事者の方々から直接お話を伺うことが必要であろうという感じに
なっておりまして、ただいま外務省にお願いいたしまして、現地の大使
館を通じて当事者の団体の方々と連絡をとらしていただいております。
向こうの側でもいろんなお考えがあるようでございまして、いま少しく
、いつどういう形でやらしていただくか、時間がかかろうかと思います
が、何とか実現にこぎつけたいと思います。
○宇都宮委員 今まで、そういう証言の信憑性については疑問を持って
いるということで、私たちがそういう聞き取り調査を行うべきでないか
と言っても、行わないという方針だったと思うんです。
そしてまた、もう一つは、そういうもとの当事者の方に聞き取り調査
をすれば、その人たちは、強制的にやらされた、従軍慰安婦にさせられ
た、いわゆる強制連行されたというふうな証言をなさっている方が多い
わけです。そういう証言が出てくることは明らかだと思うんですけれど
も、この強制連行については政府はどのようにお考えなんでしょうか。
○谷野政府委員 まさに先生のただいまお話しのようなポイントも含め
まして、私どもは別に予断を持っているわけではございません。なすべ
きことは、なるべく真実を究明するということでございまして、それに
尽きると思います。そのような考え方に基づきまして調査を進め、聞き
取り調査も行うということでございます。
○宇都宮委員 だとすれば、この聞き取り調査をするということに方針
を変えたのはどうしてなんですか。何か理由があるんですか。
○谷野政府委員 聞き取り調査のお話だったと思いますが、政府は確か
にひところまで、この当事者の方々のプライバシー等の問題もあろうか
と思いまして、これの問題について若干消極的なことを述べておったか
と思いますけれども、その後、先ほど申し上げましたように、より実態
に迫るために、かつまた韓国側からも内々これを実施してほしいという
強い御要請がありまして、ただいまのところでは、先方の協力が得られ
ればということが条件でございますけれども、先方が応じてもいいとい
うことになりますれば、ぜひそのような段取りを進めたいと思っており
ます。
○宇都宮委員 この聞き取り調査に関して、なかなか難航している、い
ろいろと韓国の団体の方にも反対があるというのでなかなか難航してい
るというふうな報道がなされておりましたけれども、見通しといいます
か、特に元従軍慰安婦の方の聞き取り調査ができるかどうかの見通しと
、それに対します、どうすれば実現できるかというその方法など、どう
いうふうにしたいか考えていらっしゃれば、お伺いできますか。
○谷野政府委員 これは、先方の団体とのお話し合いは、外務省、出先
の大使館にお願いしてございますので、あるいは外務省の方からお答え
いただいた方がよろしかろうかと存じますが、私どもの承知いたしてお
るところでは、いろいろ先方にも、団体の方にこれに応ずるにおいても
いろんな条件とかお考えがあるようでございまして、その辺のところを
いま少しく解きほぐすために時間が必要だと思います。したがいまして
、相手のあることでございますから、私の方の立場でいつまでにという
ことはなかなか申し上げにくいわけでございます。
それから、しかりとすれば、どういう規模で、どういう形で、どこで
何人くらいということは、そういった話し合いを通じてお互いに合意を
して出てくる話でございまして、とにかく今は私どもの考え方を向こう
の団体の方に伝えて、私どもの考え方をわかっていただくというふうな
ことで努力をさせていただいております。
第154回国会 参議院 内閣委員会 第15号 平成14年7月16日(火曜日)午
前十時二分開会
【発言順】
外務省アジア大洋州局長 田中 均
男女共同参画担当大臣 福田 康夫
議員 岡崎 トミ子
外務省条約局長 海老原 紳
○政府参考人(田中均君) 国連の人権委員会とか国際場裏で議論が行
われているというのは、今、委員も御指摘のとおりでございますけれど
も、今御指摘のその従軍慰安婦の問題を含め、そういう大戦にかかわる
財産賠償請求権、その問題については、さっきも申し上げましたとおり
でございますけれども、サンフランシスコ平和条約という中で二国間の
条約も含めて処理がされてきておる。例えば、米国の連邦地方裁判所の
判決におきましても、戦争後に締結された一連の条約が日本に対するす
べての戦争請求権の解決を目的としていたことは明確であるという判示
をしているということでございます。
ですから、非人道的な行為であると、正にそういう言い方というのは
当然できると思うし、そのことに関しては河野官房長官の声明もそうで
ございますけれども、それに対して非常に強いおわびの気持ちというこ
とは持っているわけです。ですけれども、それに至る責任ということに
関しては二国間条約等で処理がされているということでございます。
○国務大臣(福田康夫君) 今はサンフランシスコ平和条約とか、そう
いったようなことで法的な面のお話をされました。委員のおっしゃるこ
とは、非人道的ということは、要するに、非人間的な行為とかいったよ
うな、そういう観点からの質問でもあったのではないかと、こういうふ
うに思います。
そういうことで、私から申し上げるのは、これは、私からこういう立
場で申し上げることが適当なものであるかどうか分かりませんけれども
、一個人の立場で申し上げれば、それは今の、戦後育った人間、私のよ
うな人間からすればそれはとんでもない非人間的なことであったと、こ
んなふうには思います。それは今の私の立場でそういうことは感じてい
るわけでございまして、その当時の社会でそれがどのように受け止めら
れていたのかということについては、私は正直言って分かりません。
○岡崎トミ子君 サンフランシスコ条約等、二国間条約ということにつ
いて度々触れられておりますけれども、この締結当時に慰安婦や中国人
そして朝鮮人強制連行問題は、これはどのように認識されていたんでし
ょうか。あれだけの大規模な戦争のすべての問題を一つの条約だとか二
国間条約とか協定ですべて解決できたというふうには考えられませんね
。講和条約、賠償協定などは基本的には国と国との戦争状態に終止符を
打つというもので、賠償も基本的に問題意識としては国と国との問題に
限定されていたんではないですか。
当時のその認識と、このことについてお答えいただきたいと思います
。
○政府参考人(田中均君) 委員御指摘のとおり、当時、戦争中に起こ
った個々の行動について、きちんとした事実関係をもってそれを一つ一
つ検証していくということは可能ではなかったというふうに思います。
可能でなかったがゆえに、これは韓国との請求権協定、一九六五年の基
本条約というのもそうでございますけれども、そういう個々の積み上げ
というのは可能でない、したがって一括してその請求権の問題を処理を
するという形になったわけでございます。
ですから、そういう意味でいけば、当時、その個々の問題について十
分検証はされていたかといえば、それはそうではないのかもしれません
。しかしながら、そういうことが不可能であるがゆえに全体として、政
府と政府の間で一括して請求権の問題について決着をしましょうという
国の意思として条約が締結されたというふうに考えております。
○岡崎トミ子君 それでは、個人の被害とか加害の問題まで完璧に解決
できたとは思っていないんですね。
○政府参考人(海老原紳君) お答え申し上げます。
この点に関しましては、先ほども答弁がありましたように、国家及び
国民の財産、請求権、これらの問題すべてがサンフランシスコ平和条約
、あるいはその後締結されました二国間の平和条約、あるいは今のお話
のありましたような、日韓の場合は一九六五年の日韓請求権・経済協力
協定によってすべて解決済みであるということでございまして、例えば
平成十三年の十月の十一日に東京高裁の判決というのがございます。こ
れはオランダ人の元捕虜、民間抑留者の損害賠償に関する控訴審の判決
でございますけれども、この判決におきまして、ちょっと読ませていた
だきますけれども、「連合国及びその国民と日本国及びその国民との相
互の請求権の問題は終局的に一切が解決された」というべきであるとい
うふうに判示されているところでございます。
○岡崎トミ子君 だから、考えていただきたいんですね。この平和条約
とか協定を私は否定しませんし、破棄してほしいなんというふうに言っ
ているわけでもないんですね。ここに含まれなかった問題に関して、又
は解決できていない問題について追加的に措置を講じる、あるいは補完
する、そのことが今求められているんだと思いますけれども、いかがで
すか。
○政府参考人(田中均君) 今、条約局長から御答弁申し上げましたよ
うに、正に国の意思として非常に多大の国民の税金を使って戦後処理を
する。それは、そういう個々の、死んだ方もおられます、死んだ方もお
られるし、強制的に日本に労働に連行した方もおられる、慰安婦のよう
な方もおられる。しかしながら、そういうことに対する責任の問題とい
うのはすべて一括して請求権協定で処理をする、サンフランシスコ平和
条約で処理をする、その後の二国間の条約で処理をするという選択をし
たわけでございます。その選択は日本国として支持をされ、諸外国にも
支持をされる形で処理がされてきたということでございます。
○岡崎トミ子君 どうしてもドイツの例を言わなければいけないと思い
ますけれども、ドイツも戦後、いろいろな追加措置を立法を行って実施
してきておりますよね。一昨年、二〇〇〇年に制定されました強制労働
補償基金はその総仕上げとされるもので、百五十万人を対象に総額五千
四百億円をドイツ政府と企業六千四百社が共同で出し合って設立をいた
しました。米国も一九八八年に、戦争中の日系人の強制収容への謝罪と
補償を立法で行っております。
なぜ日本ではできないんでしょうか。
○政府参考人(田中均君) ドイツの例につきましては、ドイツが分断
国家であったということがございまして、日本がサンフランシスコ平和
条約、その後の二国間の条約でやったような形で国と国との関係で処理
ができなかった。ドイツの場合にはナチスの犯罪ということで、むしろ
個人に対して種々の補償を行うという方式を選択をしたということでご
ざいますし、ドイツはその方式に従ってやってきている。
ですから、国と国との関係、政府と政府との関係で一括して処理をす
るのか、それともドイツのようにナチスの犯罪という形で一定の基金を
設けて個人に対して資金の支払をするのかという、その方法といいます
か、いずれも過去の責任、そういうものに対して国としてどういう対処
をするかという基本においては同じでございますけれども、そういう形
になっているということだと思います。
それから、米国の例を委員は指摘をされましたけれども、米国につい
ては、これはあくまで米国国民の問題、正に米国憲法の下で不平等な扱
いがされた。それに対して、日系人といえども米国国民に対しての支払
ということだと理解をしております。
○岡崎トミ子君 経過が異なるというのは、これは当然だと思いますね
。しかし、戦後補償に関して、世界はドイツを評価して日本を評価され
ておりません。これも事実ですよね。第二次世界大戦から半世紀以上も
たって、ドイツは既に総額七兆円に及ぶ支払を行ってきましたけれども
、まだやり残したことがあると政府と企業が一緒になって百五十万人も
対象とした補償基金を設立しているんです。立派じゃないですか。
確かに、ドイツ政府も、戦争犯罪を犯したのはかつてのナチス・ドイ
ツで現政府は責任を負わないと、法的責任の継承を否定しています。し
かし、パッチワークと言ったら申し訳ないかもしれないけれども、次々
に補償を行って、また歴代大統領や首相が被害地を訪問して、これは必
ずしもストレートに謝罪ではないけれども、心に刻む、過去の克服、許
しを請う、こういうことを誠実に語り続けてきております。謝罪という
ことは言葉であると同時にプロセス、過程だというふうに思います。幾
ら謝ったと加害者の方の側が一方的に主張しても、謝罪を受ける側の方
が納得して了解できるものでなければ意味はありません。
かつて、一九七〇年に当時のウィリー・ブラント西ドイツ首相がポー
ランドを訪れて、ワルシャワのユダヤ人ゲットー記念碑の前でひざまず
いて一言も言葉を発することがなかった。けれども、世界じゅうの人々
はそれを見て、ドイツは誠実に謝罪をして反省しているということを実
感したわけなんです。四月十七日にはラウ大統領がイタリア北部のマル
ザボットという小さな町を訪れまして、虐殺の跡地で、ドイツ人は暴力
と計り知れない悲しみをもたらした、後の世代もこの罪を直視しなけれ
ばならないと語っています。こういう誠意というものが問われているの
ではないかと思うんですね。ほかの国の立派な行為を、実はこうなんで
すよ、一括してやったのと、その選択なんですよというふうに暗に否定
しようとする、そういう態度は非常にこそくだというふうに思います。
女性のためのアジア平和国民基金ですね、この償い金に添えました総
理の手紙が被害者から送り返された。ドイツの補償に対して反対のデモ
が行われたとか、ドイツの首相の手紙に対して突き返されたなんという
ことはかつてなかったと思いますけれども、外交的に大失態で逆効果で
はないですか。どうですか。
○政府参考人(田中均君) 委員の前段の御指摘、ドイツはきちんとし
たことをやっていて日本はそうではないという趣旨のことを言われまし
たけれども、決してそうではない。日本も戦後処理、戦争処理、そうい
うことと同時に、やはり基本的な反省、歴史を直視するという形で、こ
れは近隣国との関係でも常に日本として意識をしてやってきていること
でございますし、それから東南アジア諸国に対する経済協力もそうでご
ざいますし、一連、やはり日本としては、戦後の状況において戦争処理
を行うと同時に、近隣諸国との間で信頼関係を作るという観点から外交
を展開してきているわけでございます。決して、ドイツが良くて日本が
悪いということではないんだというふうに思います。
それから、フィリピンのケースについてお話がありました。
これにつきましては、委員御案内のとおり、正に日本の道義的な意識
から、当時、一九九五年、村山内閣でございましたけれども、果たして
どういう形でこの慰安婦の問題に政府として対応するのが適当かという
ことで、ただ、国が直接、個人補償をすることはできないという前提の
中で、それでは民間の基金を使って、民間の国民の寄附をお願いをした
上で、それを個々の慰安婦の方々に償い金として支払をしようという形
で政府としての決定がされたわけでございます。
そういう形で、この慰安婦基金につきましては償い金、それから政府
の拠出から成り立っている福祉事業、それから福祉金と言う場合もござ
いますけれども、それから総理の手紙ということで、その手紙も付けた
上で個々の慰安婦で申請があった方に対してはお届けをしているという
ことでございます。
ただ、ただ、フィリピンにおいてそういう手紙を受け取りたくないと
いう御指摘があったので、御本人の事情を聞いたということでございま
す。
第186回国会 参議院外交防衛委員会 第4号 平成二十六年三月十七日
(月曜日)
委員 中西健治
外務大臣 岸田 文雄
○中西健治君 重要な隣国でありますから、是非そうした対話を促進し
ていただきたいと思いますが。
いろんな懸案事項について話をされたということでありましたけれど
も、幾つかの問題をちょっと取り上げたいと思いますが、今日の時間の
許す限りお話ししたいと思いますが、一つ目が、私は慰安婦の問題、あ
えて取り上げませんが、より経済的問題としてなじむものとして戦中の
徴用工の問題、これをお聞きしたいと思います。
朴槿恵政権は、殊更、安倍政権は過去の歴史を覆そうとしているとい
うことを諸外国に向けてこれまで発信してきていたと思います。この徴
用工問題については、もう平成二十一年に韓国政府自らが請求権協定で
外交上解決済みだという立場を明らかにしたものでありますけれども、
今またこうしたことについて蒸し返されてきているということについて
、過去の歴史を覆そうとしているのは、まさに私たちではなくてあちら
の国なのではないかということについてどう思われるでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) まず、日本と韓国との間の財産請求権の問
題、これは日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済み
であるというのが我が国の一貫した立場であります。これまでも、こう
した立場につきまして外交ルート等を通じまして様々なレベルに対して
韓国政府に向けて申入れを行ってきているところです。
そして、今委員からも御指摘がありましたこの旧民間人徴用工の問題
に関しましては、韓国政府も我が国と同様の認識に立っているというこ
とで、日韓請求権・経済協力協定で解決済みという立場については韓国
政府自身がこれを公表してきております。ですから、この件につきまし
ては、あくまでもこれは韓国政府自身が解決すべき問題であるというの
が我が国の考え方であります。
是非、今後とも我が国の政府の一貫した立場に基づいて、韓国政府が
早急かつ適切に対応することをしっかり求めていきたいと考えています
。
○中西健治君 韓国政府が適切に対応することを求めていくと、そうい
うことなんだと思いますが、最近、韓国政府の実務者から、日本企業が
原告側に見舞金を支払うことなどで和解できないかと暗に打診してきた
ということに対して、日本政府が和解に応じないと方針を韓国側に伝え
たとの報道がされておりますけれども、この事実関係はどうなっている
んでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) 詳細については申し上げるのは控えなけれ
ばならないと思いますが、いずれにしましても、こうした日本側の民間
企業と連絡を取りつつ、日韓間の財産請求権の問題に対する我が国の政
府の一貫した立場に基づき対応していかなければならないと思っていま
す。
是非この立場、従来の立場につきましてはしっかり堅持した上で、こ
うした民間企業ともしっかり連携しつつ日本側として対応していきたい
と考えています。
○中西健治君 私自身は、あちらの大審院、最高裁の判決が確定する前
にも、国際司法裁判所にこうした請求権協定の存在確認、これを求める
というようなことをするべきなんじゃないかなと思います。
そして、あと一つお聞きしたいと思いますが、南スーダンのPKOで
の韓国軍に対して銃弾一万発の無償提供を行った件でありますけれども
、この弾薬提供に当たっては、現地のやり取り以外にも韓国の駐日大使
館から外交ルートで日本政府に要請があったというふうに外務省の方か
ら以前伺いましたが、それは事実かどうか、御確認いただきたいと思い
ます。
第186回国会 参議院外交防衛委員会 第5号 平成二十六年三月二十五
日(火曜日)午後一時開会
委員 中西 健治
外務大臣 岸田 文雄
○中西健治君 もう一つ外務大臣にお伺いしたいと思いますけれども、
韓国の戦時中の徴用工についてはこれまで二度か三度この委員会でも取
り上げさせていただきました。新たなことが、同じような事案が中国で
も起こってきたということであります。中国の裁判所、北京市の第一中
級人民法院が訴えを受理したということでありますけれども、韓国につ
いては、先週の委員会でも外務大臣は、韓国政府自身が解決すべき問題
であると、ですので見守っていきたいと、こんなようなことをおっしゃ
られたと思います。私自身は、私がそこで申し上げたのは、あちらの大
法院の判決が確定する前にも国際司法裁判所に対して請求権協定の存在
の意義確認をするべきではないかということを申し上げました。
中国についても同じことが言えるのではないかと思いますけれども、
あくまで事態を見守って待つという姿勢なのか、それとも何らかの方策
を政府として行っていくのか、それについて御見解をお伺いしたいと思
います。
○国務大臣(岸田文雄君) 中国の状況について御説明もいただきまし
たが、まず、政府としましては、いわゆる中国人の強制連行そして強制
労働問題について、当時多数の方々が不幸な状況に陥ったことは否定で
きないと考えており、戦争という異常な状況下とはいえ、多くの方々に
耐え難い苦しみ、悲しみを与えたことは極めて遺憾であったと考えてお
ります。
そして、中国でのこの訴訟、この二月二十六日に提訴されて以降、政
府としては関心を持って状況を注視していますが、先般、中国の裁判所
において訴状が受理されたことは中国国内で類似の事案を誘発すること
にもなりかねず、日中間のこの戦後処理の枠組み、あるいは日中経済関
係への影響、こういったものに大きな、深刻な影響を与えることを懸念
せざるを得ない、このように考えております。
さきの大戦に係る日中間の請求権の問題については、日中共同声明発
出後存在しておらず、日本政府としては引き続き関心を持って状況を注
視し、そしてその上でしかるべく対応していく考えであります。
○中西健治君 状況を注視してばかりだということで、これ何らかのや
はり深刻な影響が日本の企業活動にも及びかねないという事柄だという
ふうに思いますので、是非何らかの知恵を絞って行動をしていただきた
いと思います。私が申し上げたのも一つの策なんではないかと思います
が、ほかに知恵も働かせられるのかもしれませんが、是非そうしたアク
ションも求めたいと思います。
私の質問はこれで終わらせていただきます。ありがとうございました
。
第186回国会 衆議院外務委員会 第9号 平成二十六年四月四日(金曜日
)
委員 玄葉 光一郎
外務大臣 岸田 文雄
○玄葉委員 まさにこれは難しい判断だと思いますけれども、総合的な
判断をしていかなきゃいけないんだろうというふうに思います。
国際法の観点で、また別の問題を一つだけお聞きしたいんですけれど
も、きょうは国際法にできるだけ特化して聞こうと思っていたんですが
、韓国、日韓関係、今度時間があったら一度じっくり全般的にやりたい
んですけれども、きょうは、国際法絡みでいうと、幾つかあるんですけ
れども、一つだけ聞きたいと思います。
いわゆる徴用工をめぐる裁判というのが、日本企業が敗訴しているわ
けであります。これは、もちろん個人の請求権においても、一九六五年
の日韓請求権・経済協力協定で完全かつ最終的に解決されたのだという
のが我々というか日本国政府の立場だというふうに思います。そういう
状況の中で、これは判決が確定する可能性が強いという状況になってま
いりました。
中国でもどうやら同じような動きがあって、日本企業がかつて強制連
行、炭鉱だとか建設現場だと思うんですけれども、連行して過酷な労働
を強いたという問題で、これまでは政治的に中国政府はこの訴えを受理
しなかった、中国政府は受理しなかったと言うと正確ではありませんが
、ただ、事実上中国政府の影響下にある司法が受理をしなかったという
ことでありますが、最近は受理をし始めたということで、日本企業二十
社くらいが訴訟リスクにさらされるという、これは大問題だと思うんで
す。
例えば、韓国で判決が確定したとすれば、これは国際法違反として日
本国政府としては争うということなのか、それとも、あくまで外交的な
解決を求めていくということなのか、その点についてお伺いをしたいと
思います。
○岸田国務大臣 御指摘の旧民間人徴用工の問題を含め、日本と韓国の
間の財産、請求権の問題につきましては、日韓請求権・経済協力協定に
より完全かつ最終的に解決済みである、これが我が国の政府の一貫した
立場であります。そして、こうした立場は、今までも外交ルートを通じ
まして、韓国政府のさまざまなレベルに対してしっかりと申し入れを行
い、伝えてきております。そして、韓国政府も、本件につきましては、
日韓請求権・経済協力協定で解決済みだという立場であると我々は承知
をしております。韓国政府自身も、こういった立場については正式に表
明をしてきております。
ですから、本件は、あくまでもこれは韓国政府自身が解決すべき問題
であると考えておりまして、我が国としては、韓国政府が早急かつ適切
に対応することを求めている、これが今現状の我が国の立場であります
。
我が国としましては、引き続き民間企業とも連絡をとりつつ、日韓間
の財産、請求権問題に対する我が国政府の一貫した立場に基づき、適切
に対応していきたいと思っております。状況を注視していきたいと考え
ています。
その上で、どういったことになるのか、その点につきましては、あら
ゆる可能性を念頭に適切に対応していきたいと存じますが、現状におい
ては、これは韓国の政府が適切に対応する問題であるということで、ま
ずは状況を注視していきたいと考えています。
○玄葉委員 中国はどうですか。つまり、中国は、恐らく中国政府とし
て、これまでと違って、もっと言うと、韓国政府とも違って、個人の請
求権あるいは民間の請求権は、日中共同声明の中で扱ったような形で請
求権放棄をいわゆる個人と民間はしていないんだみたいなことを中国政
府が言うのではないかというふうに思うんですけれども。
○岸田国務大臣 中国との間の請求権の問題については、日中共同声明
発出後、存在をしていないというのが我が国の立場であります。
そして、今回の訴訟につきましては、こうした訴訟の状況によっては
、戦後の日中の経済関係、経済協力、そういったものを揺るがしかねな
い大変大きな問題であると認識をしております。そうした認識のもとに
、引き続き注視をしていきたいと考えています。
第186回国会 参議院外交防衛委員会 第15号 平成二十六年五月十五日
委員 中西 健治
外務大臣 岸田 文雄
○中西健治君
それでは、話題を変えまして、日韓関係、お伺いしたいと思います。
あした東京で日韓局長級会議が行われるということでありますけれど
も、慰安婦問題や元徴用工の問題も話し合われることになるのではない
かというふうに考えております。韓国政府は、慰安婦問題で何らかの進
展がない限り日韓の首脳会談を行わないという立場を取り続けているか
と思います。中国も、靖国参拝や尖閣諸島について注文を付けて、それ
が解決されない限りは首脳会談を行わないという立場を堅持しているよ
うでありますが、先方の注文を聞かなければ首脳は会わないという、こ
うした態度が続くとすれば、幾ら我が国政府が努力しても、先方が考え
ることを変えることでしか解決できないということになってしまいます
が、何らかの打開策というものについて政府は今どのような考えを持っ
ていらっしゃるのか、聞かせていただきたいと思います。
○国務大臣(岸田文雄君) まず、日韓の局長級協議、本日開催する予
定になっております。この日韓の間の協議ですが、双方の関心事を取り
上げて協議を行うということになっておりますので、御指摘のように、
徴用工問題を始め様々な議題が取り上げられることになると想定をして
います。
中国との間においては、様々な難しい局面があり、個別の問題があり
ます。是非、難しい問題は存在いたしますが、こういった問題があるか
らこそ、前提条件付けることなく率直に話し合うことが重要だと我々は
訴え続けております。──失礼。済みません、中国でなく韓国でありま
す。韓国との間には様々な問題があります。韓国との間には難しい問題
があるからこそ議論をするべきだと申し上げております。
こうした局長級協議を始め様々なレベルでの対話、様々な分野におけ
る議論、こういったことを積み上げることによって是非高い政治のレベ
ルでの対話につなげていきたいと考えております。韓国側にもこういっ
た我々の姿勢、しっかり受け止めてもらいたいと思っております。そう
いった意味で、今回、日韓の局長級協議を行う意味はあると我々は感じ
ております。
是非、未来志向の日韓関係を実現するために、こうした努力は続けて
いかなければならないと認識をしております。
○中西健治君 対話がなければ何も始まらないというふうに思いますの
で、今日の局長級会議でも何らかの進展があることを私自身は願ってお
ります。
質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。
第186回国会 衆議院外務委員会 第17号 平成二十六年五月二十一日(
水曜日)
委員 小川 淳也
外務大臣 岸田 文雄
○小川委員
最後に、ちょっと大臣に胸をおかりしてお聞きしたいと思います。
先ほど鈴木委員が、商船三井の船舶の中国からの差し押さえに関して
御指摘になられました。日中韓の投資協定が最近になって発効されたと
いうふうにお聞きしています。御存じのとおり、日中、日韓との間には
、戦前戦中の強制徴用、強制雇用の問題をめぐって訴訟に発展していま
す。
私の理解では、人道的には私もいろいろ思うところがあります、この
方々の抱えておられる無念なお気持ちなりがもし晴らせるのであれば、
何とか官民挙げてこれはその方向に協力できたらという人道的な思いは
私にもあります。
しかし一方で、国際法的観点からいえば、日韓基本条約に伴う請求権
協定、それから日中平和友好条約に伴う両国間の合意を前提にすれば、
少なくとも法的には個々の損害賠償請求権はお互い放棄し、なかったこ
とになるという取り扱いを前提に日本企業は当該相手国との間で企業活
動をしているということになるんじゃないかと思います。
それからいいますと、後からはしごを外される形でこういう法的な損
害、法的請求に直面するということは極めて遺憾な重大な事態であり、
私が申し上げたいのは、投資協定の中身にもよると思いますが、国際仲
裁、ISD条項を発動して、きちんとした仲裁を求めていく、あるいは
その活路を研究するという日本政府の姿勢が中国、韓国に対する牽制効
果を持つのではないかという気がいたしますが、一連の私の提案、問題
意識に対してどうお考えになるのか、お答えいただきたいと思います。
○岸田国務大臣 日中、日韓の関係ですが、まず、中国との関係におき
ましては、日中間の請求権の問題、これは、日中共同声明発出後、存在
しないというのが我が国の立場であり、中国側も日中共同声明を遵守す
るという立場、これは変わりがないと承知をしております。
強制連行、強制労働に関する訴えですが、類似の事案を誘発すること
にもなりかねないと影響を深刻に懸念しておりますが、引き続き関心を
持って注視をしていかなければならないと思っています。
また、日韓の間ですが、財産、請求権の問題、これは日韓請求権・経
済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが我が国の
立場であり、そして、韓国政府も、我が国同様、この日韓請求権・経済
協力協定で解決済みという立場、これは今までも表明しておられました
。
ですから、日韓の間にある旧民間人徴用工問題、これはあくまでも韓
国政府自身が解決すべき問題であると考える、これが我が国の基本的な
立場であります。
その上で、投資協定との関係の御指摘がありました。中国と韓国とは
、それぞれ、日中投資協定、そして日韓投資協定を既に締結しておりま
すし、今月十七日には日中韓投資協定が発効しております。
中韓両国は、これらの協定に基づいて、我が国投資家の投資財産に対
して十分な保護、保障及び公正、衡平な待遇を与える、こうした義務を
負っていると考えております。
我が国としましては、こうした協定も踏まえながら、中韓両国に対し
て、我が国の投資家の投資財産が不当に侵害されることがないように、
適切に対応していきたいと考えております。
○小川委員 歴史問題、歴史認識を含めて、私は衝突を回避すべきは回
避すべきだと思います。しかし、法的にきちんとすり合わすべきはすり
合わすべきで、現政権には、そこのめり張りに、力点の置き方に若干ア
ンバランスがあるんじゃないか、私はそういう感想を持ちます。
加えて、きょうとにかく申し上げたかったのは、もはや日本は先進国
の大国という地位、位置に甘んじていられる時代は終わったという認識
がこれら全ての始まりではないかと思います。そのことを重ねて指摘さ
せていただき、質問を終わります。
ありがとうございました。
第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特
別委員会 第19号 平成二十七年七月十日(金曜日)
内閣総理大臣 安倍 晋三
委員 細野 豪志
外務大臣 岸田 文雄
○安倍内閣総理大臣 談話につきましては、我々、まさに七十年前、二
度と戦争の惨禍を繰り返してはならない、この誓いのもと、その後の日
本の平和国家としての歩みがあるわけでございます。
つまり、痛切な反省、そして、それに至るまで、二十世紀という世界
はどういう時代であったか、その中で日本がどういう行動をとり、どこ
に課題があり問題があり反省点があるのかということについて、まさに
、現在有識者の皆様に御議論をいただいているわけでございます。
そして、戦後の歩みは、まさに今申し上げた反省の上に立つ歩みであ
り、そして自由で民主的で、そして人権を守り、法の支配を貫徹させる
、そういう価値観を世界とともに共有する国として、地域やアジアの発
展のためにも貢献をしてきた。そのことについては我々は誇りを持つべ
きであろうということについても、きのう、あるシンクタンクのセミナ
ーにおいて述べたところでございますが、そうしたこと等々について今
御議論をいただいているところでございまして、この御議論を踏まえた
上において七十年における談話を発出していきたい、このように考えて
いるところでございます。
○細野委員 総理から朝鮮王朝についてはコメントがありませんでした
。
単純比較はできませんよ。もちろん歴史も違うし、それぞれ国民の理
解も違う、しかし、我が国は天皇家を持ち、それが国家のアイデンティ
ティーとして非常に継続している。それは一つ非常に大きいですよね。
途中、苦しい時代もあったけれども、そのときも天皇制をしっかり守っ
てきた。保守の政治家であれば、他国のものであっても、そういったも
のについてしっかりと見識を持って、そういう判断を日本がしたという
ことについては、これは反省をするという姿勢がないのは非常に残念で
すね。
そのことを指摘した上で、私は、この日韓関係というのを考えたとき
に、そういう歴史認識はしっかり持ちながら、我が国は、国際的なルー
ルに基づいて、さまざまな言うべきことは言っていかなければならない
というふうに思います。
そこで、先日の世界文化遺産登録についてのやりとりについて、これ
は日韓関係を考える上でも非常に重要だと思いますので、外務大臣にお
伺いをしていきたいというふうに思います。
まず、ちょっとパネルをごらんいただきたいと思います。これは、七
月の五日、世界文化遺産登録が決まったときに、我が国のユネスコの政
府代表部の大使が発言をした、声明と言ってもいいものだというふうに
思います。
英文で発表されておりますので、それをそのまま読みますと、「ブロ
ート アゲンスト ゼア ウイル」、これは意思に反してということですね
、「アンド フォースト トゥー ワーク アンダー ハーシュ コンディシ
ョンズ」、これは厳しい環境の下で働かされたというふうに日本語では
訳されている。
後段の部分をもう一度確認したいんですが、「フォースト トゥー ワ
ーク」というのは、これは受け身で「フォースト」、強制力が働かされ
たというふうに読めますね、このまま読むと。それに「トゥー ワーク」
という、これは動詞でそれを継いでいるだけで、これをそのまま、フォ
ーストを形容詞にしてワークを名詞形にすると、フォーストワーカーと
なるわけですね、そのまま、英文でいうと。
そして、ILOにおける強制労働の記述というのはフォーストレーバ
ーとなっている。
これを、違うんだと言って、強制労働について日本は認めたのではな
いという主張を日本政府としてはしているんです。私は認めるわけには
いかない、認めるべきではないという考えですよ、もちろん。しかし、
この説明は、もう少しきちっとしてもらわないと、なかなか国際的に通
用しないんじゃないかと思うんですが、まず、外務大臣に、どういう理
屈でそういうことになるのか、簡潔に御答弁いただきたいと思います。
○岸田国務大臣 まず、御指摘いただきました日本政府代表団の声明文
ですが、この中にあります「フォースト トゥー ワーク」という部分で
すが、対象者の意思に反して徴用されたこともあったという意味で用い
ています。
これは、一九四四年九月から一九四五年の八月、終戦までの期間にお
いて、朝鮮半島に適用された国民徴用令に基づいて、朝鮮半島出身者の
方も徴用された、こうしたことが行われたことを記述したものであり、
まずもって、これは従来から我が国が申し上げていることについて何ら
新しい内容を含むものではないということを説明させていただいており
ます。
そして、ILOの用語との区別について御指摘がありました。その部
分について申し上げますならば、国際条約において、強制労働ニ関スル
条約という条約が存在いたします。その中で、フォーストレーバーある
いはコンパルソリーレーバー、こうした強制労働というものはまずもっ
て禁止をされています。しかし、その中にあって、この第二条の二項と
いう部分において、戦時中の徴用などは含まれていないとされています
。よって、我が国がこの声明文の中で使っている言葉、これは国民徴用
令に基づく対応を述べているわけですから、国際条約上、強制労働に当
たるものではないと整理をしております。
そして、日韓の間における条約ということを考えますときに、朝鮮半
島出身者の徴用者を含め、日本と韓国との間の財産及び請求権の問題は
、一九六五年の日韓請求権そして経済協力協定、この条約によって完全
かつ最終的に解決済みである、こういった立場には全く変わりがないと
いうことであります。
これが我が国の立場でありますが、今回の日本側の発言についてです
が、従来の我が国の政府の立場を踏まえたものであり、強制労働があっ
たことを認めるものではないと繰り返し述べているわけですが、これは
韓国側にも明確に伝えておりますし、そして、韓国側とのやりとり、外
交上のやりとりを通じて、韓国政府は今回の我が国代表の発言を日韓間
の請求権の文脈において利用する意図はない、このように理解しており
、このことを韓国政府との間においてハイレベルで確認しているという
ことであります。
○細野委員 大臣、韓国の外交部のホームページを見ますと、強制的に
労働というふうに書いてあるんですよね、今回の声明について。はっき
り書いてあります、そういう表現で。ですから、請求権の文脈において
利用する意図はないというのは、それは何らか確認する文書などはある
んですか。
加えてもう一つ、徴用工の問題というのは訴訟になっていますね。仮
に韓国政府がそこは利用しないと言ったとしても、そういう訴訟におい
て利用される可能性について、ないと言い切れますか。
○岸田国務大臣 だから、先ほど申し上げましたように、この国際条約
、強制労働ニ関スル条約における整理をまずさせていただいております
。そして、その上で、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定の中で、
これは明示的にこの部分について完全かつ最終的に解決済みである、こ
うしたことが確認されていると我々は考えております。この部分につい
て、こうした考え方、立場について全く変更がないということをまず申
し上げたわけであります。
そして、そのことについて、韓国政府との間において、やりとりはも
う今までもさまざまなやりとりが行われているわけですが、我が国の立
場、これは明確に伝えています。
そして、今回のやりとりの中にあっても、その外交上のやりとりを通
じて、韓国政府側として、今回の我が国代表の発言、これを日韓間の請
求権の文脈において利用する意図はない、このことをハイレベルで確認
したということであります。
○細野委員 ちょっと、大臣、短目に答弁をお願いしたいんです。
裁判にもなっているわけですね、個別の。そこで利用されないという
ことについて、間違いなくそれはないというふうに大臣として言い切れ
ますか。
○岸田国務大臣 まず、韓国政府とはハイレベルで確認しているわけで
すが、何よりも、これは国際条約、そして日韓間における協定、条約に
おいてこの部分は確認されています。
条約を誠実に履行する、これは両国における当然果たさなければいけ
ない義務であると我々は考えています。
○細野委員 裁判については何も御発言はありませんでしたね。
世界文化遺産登録は確かに大変いいことですよ。しかし、非常に大き
な代償を払った可能性があるのではないかと私は思います。
総理、この言葉を改めてちょっと確認していただきたいんですが、こ
の「アゲンスト ゼア ウイル」という言葉は、これはどこかで聞いたこ
とがあるなと思っていろいろ調べたら、実は、河野談話の従軍慰安婦の
ところで二回使われている言葉なんです、意思に反してというのは。
ですから、徴用工と従軍慰安婦の問題を、多分、総理は非常に河野談
話というのを、これまで、どちらかというと批判をしてこられた立場で
すから、その河野談話よりも徴用工の問題が、同じ言葉が使われている
のがまず一点。
そして問題は、河野談話以上にと申し上げたのは、フォーストという
言葉は河野談話の従軍慰安婦のところにも出てきません。このフォース
トという言葉を、徴用工という、一九六五年の日韓基本条約が締結をさ
れたときに、全てもう明らかになっていて、請求権をもうここで放棄し
たという明確な外交上の事実があることについて、これだけ踏み込んで
言った、これは私は問題だと思いますよ。
ちょっと時間も限られていますが、総理、簡潔に御答弁いただけます
か。
○安倍内閣総理大臣 簡潔にまず申し上げますと、明確に、河野談話の
ときと混同させようという意図を感じるんですが、明確に、明確に違い
ます。
なぜ明確に違うか。
意に反してという言葉については同じであります。河野談話について
はそうであります。今回も、確かに意に反して。これは、徴用工におい
ても、みんな、工場や何かで働きたい、もちろんそういう人もいたかも
しれませんが、そうでなくても、これは徴用されますから、いわば国内
でもそうだったわけでありますから、これは徴用されますからそうであ
ります。そして、慰安婦のときにも、これはみんな、自分の意思ではな
くて、さまざまな、経済状況等も含めて、意に反する場合もあっただろ
うということであります。
しかし、あのときは、河野さんが、それは強制連行も認めているんで
すねという質問に対して、そう捉えていただいて結構ですとお答えされ
たわけでございます。
今回は、まさに外務大臣が直ちに、直ちに記者会見の場において、こ
れは強制、フォーストレーバーを意味しないということを明確にし、か
つ、これは六五年の基本条約においての取り決めを覆すものではない、
そして、かつ、それをいわば徴用工の裁判等でこれは利用することもな
いということを明確にしているということをちゃんと記者会見で述べて
いるという点において、これはまさに全く違うということは申し上げて
おきたい、こういうことでございます。
そして、日本政府代表団の声明文にある、働かされた、「フォースト
トゥー ワーク」とは、対象者の意思に反して徴用されたこともあった
という意味で用いているわけでありまして、かつ、それは先方にもそう
伝えているわけでありまして、この岸田大臣の記者会見等に対して、そ
れは違うということを、今韓国側政府は、岸田外務大臣の記者会見にお
ける発言は間違っているということを今まで一度も言っていないという
ことは、まさに、これは確認された証左だろう、このように思うわけで
ございます。
なお、これは今、徴用されたということは、まさに一九四四年九月か
ら一九四五年八月の終戦までの期間に朝鮮半島に適用された国民徴用令
に基づき朝鮮半島出身者の徴用が行われたことについて記述したもので
あって、何ら新しい内容を含むものではないというのが日本の立場であ
り、それは先方にも伝えているわけでありまして、繰り返し大臣もそう
答えているわけであります。
そして、まさにそれに対して、それが間違っているということを、今
の表現については間違っているということを韓国側は表明していないと
いうことでございます。
そういう中で、新聞はいろいろ書いていますよ。韓国側の新聞はいろ
いろ書いておりますが、そういう韓国側の新聞の論拠において、今細野
議員はそれに質問をされているんだろう、このように思うところでござ
います。
○細野委員 二つだけ指摘をしたいと思います。
一つは、今総理は、フォーストという部分については何ら答弁されま
せんでしたね。ここは河野談話を超える言葉なんです。それは幾ら日本
語で取り繕ったところで、フォーストに強制性というのが形容詞にした
ときに出てくるのは、これはそういうふうに読まれても仕方がない部分
もありますよ。そのことを御答弁されなかった。
もう一つ申し上げると、韓国政府は、政府としては、これは徴用工の
問題について利用しないと言ったかもしれませんが、個別の裁判におい
て韓国人が言うことについて制約なんかできないですよ。裁判所はまた
別の判断をしますよ。
そこも含めて、確かにこれは、世界文化遺産登録をしたかったという
のはわかりますけれども、私は、代償は大きかったのではないかという
ふうに思います。しかも、それを、さんざん河野談話を批判してきた安
倍政権でやったということは、総理、しっかり認識をしていただいて今
後対応していただきたいという趣旨でこの質問をさせていただきました
。
第193回国会 参議院予算委員会 第11号 平成二十九年三月十三日(月
曜日)
委員 山谷 えり子
外務副大臣 薗浦 健太郎
○山谷えり子君 ありがとうございます。
外務省にお伺いをいたします。
韓国の政治、本当に国政、停滞状態にあるわけでありますが、そのよ
うな中で、朝鮮半島統治時代に徴用された人々の徴用工の像が釜山の総
領事館前あるいは港に建てられるという計画があるということで、先週
、外務省は韓国に申入れをしたと聞いております。どのような申入れを
したのか、そして日本の立場について御説明ください。
○副大臣(薗浦健太郎君) 御指摘の韓国の市民団体の動きは、間違い
なく日韓関係に好ましくない影響を与えます。また、我が国の総領事館
前に仮に設置されることになれば、領事関係に関するウィーン条約第三
十一条に照らして問題であると考えております。韓国側に対しては、在
韓国臨時代理大使から韓国外交部の東北アジア局長に対して強く申入れ
を行い、対応を求めました。
先方の反応については外交上のやり取りでございますので詳細は控え
ますが、一般論で申し上げれば、韓国側は、外交公館前に造形物を設置
するようなことは公館の保護に関する国際礼譲から望ましくないという
立場を表明してきております。
いずれにしても、民間人徴用工の問題も含めて、日本と韓国との間の
財産請求権の問題は、一九六五年の日韓請求権協定により完全かつ最終
的に解決済みであります。
第197回国会 衆議院本会議 第3号 平成三十年十月三十日(火曜日)
馬場 伸幸
内閣総理大臣 安倍 晋三
○馬場伸幸君 日本維新の会の馬場伸幸です。(拍手)
冒頭、通告をしておりませんが、先ほど速報で、韓国の大法院におい
て、新日鉄住金に対し、戦時中の徴用工への賠償金支払いを求める判決
が出ました。本件について、総理の見解をまずお尋ねいたします。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 馬場伸幸議員にお答えをいたします。
冒頭、先ほどの、徴用工問題に関する、韓国、大韓民国大法院の日
本企業に対する判決について御質問がございました。
本件については、一九六五年の日韓請求権協定によって、完全かつ
最終的に解決をしています。この判決は、国際法に照らして、あり得な
い判断であります。日本政府としては、毅然として対応してまいります
。
第197回国会 衆議院予算委員会 第2号 平成三十年十一月一日(木曜日
)
委員 岸田 文雄
内閣総理大臣 安倍 晋三
○岸田委員 我が国は、二〇一五年のNPT運用検討会議において大変
残念な思いをしました。ぜひ、二〇二〇年のNPT運用検討会議、日本
としてしっかりとした存在感を示していただきたいと思います。
そして、最後に、韓国についてお伺いいたします。日韓関係です。
北朝鮮情勢が動く中にあって、日韓、日米韓の連携はまことに重要で
す。また、ことしは日韓パートナーシップ宣言二十周年という節目の年
です。しかしながら、最近の日韓関係、好ましくない事態が立て続けに
起こっています。
先月だけでも、韓国国際観艦式への自衛艦派遣見送り、韓国国会議員
十数名による竹島上陸が行われました。そして、つい先日、三十日には
、韓国大法院が徴用工裁判に関する判決を言い渡し、日本企業に賠償を
命じました。これは明らかに一九六五年の日韓請求権協定に反し、両国
友好の法的基盤を根底から覆しかねない、こういった事態です。さらに
は、慰安婦問題で韓国政府が和解・癒やし財団の解散を示唆しています
。これは、世界が評価した二〇一五年十二月の日韓合意をないがしろに
するものであると思います。
こうした事態は、日韓関係あるいはアジア太平洋の安定、こういった
ものにもマイナスの影響を与える、このように心配をしています。
日韓関係をどのようにマネージしていくのか、これを、最後、総理に
お願いいたします。
○安倍内閣総理大臣 日韓関係については、九月の国連総会の際の文在
寅大統領との会談を始めさまざまな機会に、未来志向の日韓関係構築に
向けて協力していくことを累次確認してきたにもかかわらず、御指摘の
韓国主催国際観艦式における自衛艦旗掲揚の問題や韓国国会議員の竹島
上陸、あるいは韓国大法院の判決など、それに逆行するような動きが続
いていることは大変遺憾であります。
旧朝鮮半島出身労働者の問題につきましては、この問題については、
一九六五年の日韓請求権協定によって完全かつ最終的に解決しています
。今般の判決は、国際法に照らせば、あり得ない判断であります。日本
政府としては、国際裁判も含め、あらゆる選択肢を視野に入れて、毅然
として対応していく考えでございます。
なお、政府としては、徴用工という表現ではなくて、旧朝鮮半島出身
労働者の問題というふうに申し上げているわけでございますが、これは
、当時の国家総動員法下の国民徴用令においては募集と官あっせんと徴
用がございましたが、実際、今般の裁判の原告四名はいずれも募集に応
じたものであることから、朝鮮半島の出身労働者問題、こう言わせてい
ただいているところでございます。
日韓の間の困難な諸課題をマネージしていくためには、日本側のみな
らず、韓国側の尽力も必要不可欠でありまして、今回の判決に対する韓
国政府の前向きな対応を強く期待しているところでございます。
第197回国会 衆議院外務委員会 第2号 平成三十年十一月十四日(水曜
日)
委員 山川 百合子
政府参考人
(外務省大臣官房参事官) 田村 政美
理事 穀田 恵二
外務大臣 河野 太郎
政府参考人(外務省国際法局長)三上 正裕
○山川委員 ぜひ、真に必要な防衛力のあり方について、本当に議論を
していきたいというふうに思っております。よろしくお願いいたします
。
続いて、今度は日韓関係について、徴用工問題と、韓国における個人
に対する支援策について伺いたいと思います。先ほども御質問もござい
ましたが、私の方からもお伺いをしたいと思います。
徴用工問題をめぐる韓国の大法院による判決について、我が党の枝野
代表は記者会見で、判決は大変残念であり遺憾に思うと述べて、朝鮮に
よる日本人拉致問題などの解決には韓国との連携が不可欠だということ
を指摘し、韓国政府には、一九六五年の日韓請求権協定を踏まえて適切
な対応をとることを強く期待しているというふうに述べています。
当然ながら、私も枝野党首と同じ立場に立っている一人でございます
。
その上で、国家間の協定や合意のはざまで個人が忘れ去られてはなら
ないというふうに思います。国と国との話合いがありますが、それがど
うであれ、救済されるべき個人がどのように支援を受けてきたかという
課題について、私は民間の国際人道支援NGO出身者として大きな関心
を持っているわけであります。
一九六五年の日韓請求権協定から既に五十三年もの月日が経過してお
ります。今日の徴用工問題に至る、韓国における個人への支援策につい
て、時系列かつ具体的な御説明をお願いをいたします。
○田村政府参考人 お答え申し上げます。
韓国政府の措置について、日本政府として説明する立場にはございま
せんが、我々が、韓国政府が発表した資料等を御紹介させていただきま
す。
まず、韓国政府は、日本政府が日韓請求権協定に基づき供与した五億
ドルの一部を使用する形で、一九七五年から一九七七年にかけて、日本
国により軍人軍属又は労働者として徴集又は徴用され、一九四五年八月
十五日以前に死亡した者の遺族を対象として補償を支給しております。
さらに、二〇〇五年、韓国政府みずから設置した官民の共同委員会が、
日本から受領した無償資金のうち相当額を被害者の救済に使わなければ
ならない道義的責任があると発表したことを踏まえ、二〇〇七年及び二
〇一〇年に関連の支援法を制定していると承知しております。
この支援法等によって、死亡者の遺族だけではなく、行方不明者、負
傷者、治療等が必要な生存者、未収金被害者又はその遺族も対象に含め
る形で給付が実施されたものと承知しております。
○穀田委員 日本共産党の穀田恵二です。
きょうは徴用工問題について質問したいと思います。
韓国の大法院は、十月三十日、日本がアジア太平洋地域を侵略した太
平洋戦争中に徴用工として日本で強制的に働かされたとして韓国人四人
が新日鉄住金に損害賠償を求めた裁判で、賠償を認める判決を言い渡し
ました。
河野大臣は、この判決について、一九六五年の日韓請求権協定で完全
かつ最終的に終わった話であり暴挙だ、さらに、国際法に基づく国際秩
序への挑戦だと、韓国側を強く非難する姿勢を示されておられます。
改めて、この問題での河野大臣の所見を伺いたいと思います。
○河野国務大臣 今般の韓国大法院の判決は、日韓請求権協定に明らか
に反して、日本企業に対し不当な不利益を負わせるものであります。そ
ればかりか、今御指摘いただきましたように、一九六五年の国交正常化
以来築いてきた日韓の友好協力関係の法的な基盤を一方的かつ根本から
覆すものであって、極めて遺憾と言わざるを得ません。
日本政府としては、韓国政府に対しまして、このような国際法違反の
状態を直ちに是正することを含めた適切な措置を講ずるように強く求め
ているところでございまして、韓国政府が毅然とした対応をしてくれる
というふうに期待をしているところでございます。
○穀田委員 今の発言は、所信表明と、それから官房長官の記者会見と
大体同じ内容でずっと言っておられると拝察しました。
そこで、徴用工問題や強制動員の問題は、日本の植民地支配のもと、
朝鮮半島や中国などから多数の人々を日本本土に動員し、日本企業の工
場や炭鉱などで強制的に働かせ、劣悪な環境、重労働、虐待などによっ
て少なくない人々の命を奪ったという重大な人権問題であります。
本件の原告も、いわゆる、政府が言っていますけれども、募集などと
言っておりますが、その実態は甘言や暴力を伴うものだった。一日八時
間の三交代制で働き、月に一、二回程度しか外出を許可されず、月に二
、三円程度の小遣いが支給されただけだった。賃金全額を支給すれば浪
費するおそれがあると理由をつけ、本人の同意を得ずに、彼ら名義の口
座に賃金の大部分を一方的に入金し、その貯金通帳と印鑑を寄宿舎の舎
監に保管させた。賃金は結局最後まで支払われなかった。当初の話と全
く違う過酷な条件で働かされ、逃げ出さないように厳しい監視下に置か
れ、殴打されるなど体罰を振るわれたことが裁判で明らかになっていま
す。
そこで、外務省に聞きたいと思うんですけれども、元徴用工の請求権
については、政府は、日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決している
、判決は国際法違反だとの姿勢ですが、私はそうした政府の姿勢に重大
な問題があると思います。
韓国大法院の判決は、元徴用工の個人の請求権は消滅していないと判
定を下しています。この個人の請求権について、日本政府は国会答弁な
どで、請求権協定によって日韓両国間での請求権問題が解決されたとし
ても、被害に遭った個人の請求権を消滅させることはできないと公式に
繰り返し表明してきたはずであります。
私、当時の議事録を持ってきましたけれども、例えば一九九一年八月
二十七日の参議院予算委員会で、外務省の柳井条約局長は、日韓請求権
協定の第二条で両国間の請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたと
述べていることの意味について、「これは日韓両国が国家として持って
おります外交保護権を相互に放棄したということでございます。」と述
べ、「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというもの
ではございません。」と答えています。これは間違いありませんね。
○河野国務大臣 個人の請求権が消滅したと申し上げるわけではござい
ませんが、個人の請求権を含め、日韓間の財産請求権の問題は日韓請求
権協定により完全かつ最終的に解決済みでございます。
具体的には、日韓両国は、同協定第二条一で、請求権の問題は完全か
つ最終的に解決されたものであることを明示的に確認し、第二条三で、
一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての
請求権に対していかなる主張もすることができないとしていることから
、このような個人の請求権は法的に救済されません。
日韓請求権協定において、請求権の問題は完全かつ最終的に解決され
、個人の請求権は法的に救済されないというのが日本政府の立場でござ
います。
○穀田委員 日本政府の立場はそういうことだということを言っている
わけですけれども、問題は、今の説明は、簡単に言うと、国と国との請
求権の問題と個人の請求権を一緒くたにして、全て一九六五年の日韓請
求権協定で解決済みだ、個人の請求権もないとしているところに、そこ
に重大問題があります。
私が聞いているのは、請求権協定で個人の請求権は消滅したのか消滅
していないのかということを聞いているんです。外務省、お答えくださ
い。
○三上政府参考人 お答え申し上げます。
ただいま大臣より答弁申し上げたとおりでございますけれども、御指
摘の柳井条約局長の答弁につきましては、個人の財産権、請求権そのも
のを国内法的な意味で消滅させたものではない旨述べるとともに、日韓
請求権協定による我が国及び韓国並びにその国民の間の財産、権利、利
益並びに請求権の問題の解決について、国際法上の概念である外交的保
護権の観点から説明したものであるということでございます。
韓国との間におきましては、日韓請求権協定により、一方の締約国の
個人の請求権に基づく請求に応ずべき他方の締約国及びその国民の法律
上の義務が消滅し、その結果、救済が拒否されるということになってお
ります。
○穀田委員 いろいろありましたけれども、一番最初に言ったところが
肝心でして、消滅させたものではないということが肝心なんですね。
それで、柳井条約局長は、一九九二年の二月二十六日の外務委員会で
も「条約上は個人の請求権を直接消滅させたものではない」と答えて、
今お話あったように、結局のところ、そういう、訴求したり、いろいろ
なことをしても無駄よという話は出ているけれども、関係者の方々が訴
えを提起される地位までも否定したものではないとはっきり答えている
わけですね。
さらに、その訴えに含まれておりますところの慰謝料請求権等の請求
が我が国の法律に照らして実体的な根拠があるかないかということにつ
きましては、これは裁判所で御判断になることだと存じますと答えてい
るわけですね。
このように、たとえ国家間で請求権問題が解決されたとしても、個人
の請求権は消滅しない、そしてその訴えをどう判断するかは司法府の判
断になると繰り返し言明してきた。これが政府の公式の立場だと言って
よろしいですね。
○三上政府参考人 お答え申し上げます。
先ほど申し上げましたように、柳井条約局長の答弁は、請求権そのも
のを国内法的な意味で消滅させたものではないとしつつも、日韓請求権
協定による我が国及び韓国並びにその国民の間の財産、権利及び利益並
びに請求権の問題について、国際法上の概念である外交的保護権という
観点から説明したものでございますが、同時に、その日韓請求権協定と
申しますのは、先ほど大臣から答弁申し上げたとおり、完全かつ最終的
に解決されたとか、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその
国民に対する全ての請求権に関していかなる主張もすることができない
ということで、明確に個人の請求権が法的に救済されないということを
全体として書いているという理解でございます。
○穀田委員 何度もおっしゃるように、そう意味はないと言っているだ
けで、消滅したとは言っていないというところが大事なんですよ。すぐ
話をそらすわけだけれども、違うんですって。消滅していないというと
ころが、今、私が問うている問題なんですよ。やっても意味がない、そ
ういうことを言っているのは知っていますよ。
そこで、強制連行による被害者の請求権の問題では、中国との関係で
も問題になっています。
二〇〇七年四月二十七日、日本の最高裁は、中国の強制連行被害者が
西松建設を相手に起こした裁判で、被害者個人の賠償請求権について、
請求権を実体的に消滅させることを意味するものではなく、当該請求権
に基づいて訴求する機能を失わせるにとどまると判断しています。
この判決は知っていますね。
○三上政府参考人 はい、この判決は承知申し上げております。
○穀田委員 この判決は、日中共同声明によって個人が裁判上訴求する
機能を失ったとしながらも、実体的な個人の賠償請求権は消滅していな
いと判断し、債務者側において任意の自発的対応をすることは妨げられ
ないとまでして、日本政府や企業による被害者の回復に向けた自発的対
応を促したのであります。
この判決が手がかりとなって、被害者は西松建設との和解を成立させ
、西松建設は謝罪し、和解金が支払われたという経緯があります。
たとえ国家間で請求権の問題が解決されたとしても、個人の請求権を
消滅させることはない、政府が繰り返し言明してきたこの立場に立って
、被害者の名誉と尊厳を回復し、公正な解決を図るために冷静な努力を
今尽くすべきだ、このことを私は強調しておきたいと思います。
そして、韓国大法院の判決は、原告が求めているのは、未払い賃金や
補償金ではなく、朝鮮半島に対する日本の不法な植民地支配と侵略戦争
の遂行に直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員
への慰謝料、これを請求したものだとしている。そして、日韓請求権協
定の交渉過程で、日本政府は植民地支配の不法性を認めず、強制動員被
害の法的賠償を根本的に否定したと指摘し、このような状況では、強制
動員の慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれるとみなすことは
できないと述べています。
政府は、日韓請求権協定の締結に際し韓国側から提出された対日請求
要綱、いわゆる八項目に、被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請
求権と記されており、合意議事録には、この対日請求要綱の範囲に属す
る全ての請求が含まれているというけれども、その中に慰謝料請求権は
入っているのですか。外務省。
○三上政府参考人 お答え申し上げます。
そういう請求権も含めて、全て対象となっているという立場でござい
ます。(穀田委員「もう一度」と呼ぶ)
そういった請求権も含めて、日韓請求権協定で全てカバーされており
、解決済みという立場でございます。
○穀田委員 慰謝料請求権は入っているかと聞いて、ばくっと答えて、
入っていますと言われても困るんだよね。きちっと言ってほしいんです
よ。
一九九二年三月九日の衆議院予算委員会で、柳井条約局長は、日韓請
求権協定上、財産、権利及び利益というのは、「財産的価値を認められ
るすべての種類の実体的権利をいうことが定義されて了解されている」
と述べ、慰謝料等の請求につきましては、「いわゆる財産的権利という
ものに該当しない」と答えています。
つまり、請求権協定で個人の慰謝料請求権は消滅していないというこ
とではないんですか。
○三上政府参考人 お答え申し上げます。
請求権協定の二条でございますけれども、「両締約国は、両締約国及
びその国民の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請
求権に関する問題が、」と書かれておりますので、請求権協定で財産、
権利、利益と並んで、いわゆる請求権も入っているということでござい
ます。
○穀田委員 いつからそういうふうに範囲が拡大しているんですか。そ
んな話に書いていないですよ。
柳井条約局長は、その後にまた、「慰謝料請求権というものが、この
法律上の根拠に基づき財産的価値を有すると認められる実体的権利とい
うものに該当するかどうかということになれば、恐らくそうではない」
と答弁しているんですよ。
そしてさらに、「昭和四十年、この協定の締結をいたしまして、それ
を受けて我が国で韓国及び韓国国民の権利、ここに言っております「財
産、権利及び利益」について一定のものを消滅させる措置をとったわけ
でございますが、そのようなものの中にいわゆる慰謝料請求というもの
が入っていたとは記憶しておりません。」明確に慰謝料請求というもの
が入っていない、入っていたとは記憶していないと答えているわけです
よ。
したがって、個人の慰謝料請求権は請求権協定の対象に含まれていな
いということは明らかではありませんか。
○三上政府参考人 お答え申し上げます。
ちょっと柳井条約局長の全文が手元にないものですから、そこはお許
しいただきまして、先ほど申し上げたように、請求権協定の中には財産
、権利及び利益並びに請求権ということで入ってきているわけでござい
ます。柳井局長が実体的権利と申し上げたのは、その四つのうちの財産
、権利及び利益、確定的に実体的に存在しているものということだと理
解しております。それを日本国内法の措置法で消滅させたということを
言っていると思うんですが、請求権、慰謝料の請求権はその消滅させた
実体的権利の中に入っていない、ただ、請求権は請求権協定の中には入
っているので、この請求権協定で全てが解決されているということでご
ざいます。
○穀田委員 持っていないからというわけにはいきませんでね。そうい
うことを聞くと言っているわけだから。
じゃ、念のためにもう一度お読みしましょう。
一九九二年の三月九日に柳井さんは、「「財産、権利及び利益」とい
うのは、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類
の実体的権利をいうこと」が定義されて了解されているわけでございま
す。」と。「そして慰謝料等の請求につきましては、これは先ほど申し
上げたようないわゆる財産的権利というものに該当しない」と。明らか
にこの問題を問われて、これは該当しないということを答弁しているわ
けですよ。今ごろになってばくっと請求権の中に入ってますのやなんと
いう話が通用せえへんほど明確に言っている。ここをちゃんと見なあき
まへんで。
さらに、もう一度言いますと、いわゆる慰謝料請求権というものが、
この法律の根拠に基づき財産的価値を有すると認められる実体的権利と
いうものに該当するかどうかということになれば、恐らくそうではない
だろうと考えますと。
更にあるんですよ。
いずれにいたしましても、昭和四十年、この協定の締結をいたしまし
て、それで我が国で韓国及び韓国国民の権利、ここに言っております財
産、権利及び利益について一定のものを消滅させる措置をとったわけで
すが、そのようなものの中にいわゆる慰謝料請求というものが入ってい
たとは記憶していませんと。
だから、明らかに、この一連の請求権協定にかかわる交渉の過程で行
われた問題について慰謝料請求権というものは入っていないということ
を二度三度にわたって明確にしている。これがこの間の答弁ではありま
せんか。その答弁を否定するということですか。
○三上政府参考人 たびたび申しわけありません。答弁申し上げます。
柳井局長の答弁を否定するつもりはございません。日本国内の法律を
つくって、その実体的な財産、権利、利益については消滅させたわけで
す。しかし、請求権というのは、そういった財産、権利、利益のような
実体的権利と違う潜在的な請求権ですから、それは国内法で消滅はさせ
られていないということを柳井局長は言ったと思います。
国内法で消滅させたのは、実体的な債権とか、もうその時点ではっき
りしている財産、権利、利益の方でございまして、その時点で実体化し
ていない、請求権というのは、いろいろな不法行為とか、裁判に行って
みなければわからないようなものも含まれるわけですので、そういった
ものについては消滅はしていない。
したがって、最初に申し上げたように、権利自体は消滅していない。
しかし、裁判に行ったときには、それは救済されない、実現しませんよ
ということを両国が約したということだと思います。
○穀田委員 最後、いろいろ言っていますけれども、結局のところ、こ
れは、それぞれの国内法において消滅したとか消滅していないと言って
いるけれども、明らかに、この問題については、その慰謝料の請求権と
いうものは入っていないということは今の答弁で極めて明らかだと。し
かも、当時の答弁はそのとおりだということを確認しておきたいと思い
ます。
最後に、河野大臣にお伺いしたいんですけれども、一九六五年の日韓
基本条約及び日韓請求権協定の交渉過程で、日本政府が植民地支配の不
法性について認めた事実はございますか。
○河野国務大臣 ないと思います。
○穀田委員 ありませんよね。
そうすると、私は、日韓のこの基本条約、日韓請求権協定の交渉過程
で、日本政府が植民地支配の不法性についてやらなかったことを、これ
を公式に大臣が述べたということについては重要な意味が私はあると思
います。一切そういうことについては、一切と言っていませんけれども
、なかったということですから、一切なかったということだと思うんで
すね。
日韓基本条約は、一九一〇年の韓国併合をもはや無効と述べるだけで
、日本側の責任や反省については何ら触れていません。
そこで、私は思い出すんですが、私は京都に住んでいますから、小渕
内閣で官房長官を務められた野中広務氏は、二〇〇九年の新聞インタビ
ューに答えて、次のように語っています。
子供のころ、鉱山で働く朝鮮人が、背中にたくさんの荷物を背負い、
道をよろよろ歩く、疲れ切ってうずくまるとむちでぱちっとたたかれ、
血を流しながら、はうようにまた歩き出す、そんな姿を見てきました。
戦後六十四年が経過した今でも、戦争の傷は癒えていません。北朝鮮と
の国交回復、賠償の問題も残っています。多くの未解決の傷跡を見ると
き、まだまだ日本は無謀な戦争の責任がとれていない。そのこと自体が
被害者の方々にとって大きな傷になっていると思われ、政治家の一人と
して申しわけない思いです。こう語っておられます。
同じ京都にずっと活動してきたもので、非常に重い発言だと思います
し、園部には、住んでおられたところにはマンガン鉱もありまして、そ
ういうところで、こういう仕打ちを受けたということについて、政治家
としての思いを語られておられます。
その点では、外務大臣は、政治家としてのこういう点についての、ど
ういう思いをされますか。
○河野国務大臣 安倍政権として、歴史認識に関する歴代内閣の立場を
全体として引き継いでおり、今後も引き継いでいく考えでございます。
○穀田委員 その歴代歴史認識ということについていいますと、そうい
う歴史認識について、韓国のこの間の問題について反省をしたというこ
とについて、今の安倍政権がその話を述べたことは、少なくともありま
せん。
ことしは、日本の韓国への植民地支配への反省、痛切な反省と心から
のおわびということで、日韓両国の公式文書で、小渕恵三当時首相と、
一九九八年ですね、そして金大中大統領による日韓パートナーシップ宣
言から二十年の、二十周年の節目の年であります。日本政府が、私は、
過去の植民地支配と侵略戦争への真摯で痛切な反省を基礎に、この問題
の公正な解決方法を見出す努力を強く求めたいと思います。
先ほど述べたように、多くの未解決の傷跡を見るとき、まだまだ日本
は無謀な戦争の責任がとれていない、こうおっしゃっています。そうい
う意味でいいますと、私は、この問題の公正な解決、先ほど述べた努力
をする際に、日韓双方が、この徴用工の、元徴用工の被害者の尊厳と名
誉を回復するという立場から、冷静で真剣な話合いをすることが極めて
大切だということを述べて、質問を終わります。
第197回国会 参議院外交防衛委員会 第2号 平成三十年十一月二十日
(火曜日)
委員 白 眞勲
外務大臣 河野 太郎
○白眞勲君 では、ちょっと別の観点からなんですけど、北海道で戦争
中ダム現場で働いて、そこでお亡くなりになった韓国の方の御遺骨をふ
るさとにお返しするボランティア活動をされているお寺の御住職様のお
話を聞く機会があったんですけれども、発掘された遺体、遺骨の状態か
らしても、相当、当時、ダム現場の仕事が過酷であったことが想像され
るようなんですね。
そこで、外務大臣にお聞きしたいんですが、現在、韓国との間ではい
わゆる徴用工の問題で大臣もいろいろな機会に御発言をされていますけ
れども、事実、当時、半島から相当の数の人がやってきて、これ、日本
人と一緒に働いている。日本人の御遺骨もあるようなんですけれども。
そういう中で、まあ、私は思うんです、その人の一回しかない貴重な人
生に影響を及ぼしたということは確かだと思うんですね、歴史的な観点
からですね。補償するしないはどうであれ、それを踏まえた上で村山談
話というのは出ているというふうに思いますが、大臣のこの辺の御認識
はどうでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 安倍政権といたしましては、歴史認識に関
する歴代内閣の立場を全体として引き継いでおり、今後も引き継いでま
いりたいと思います。
○白眞勲君 その言葉が重要だと私は思うんですね。
今回の件について政府は、ICJに提訴することも含めて韓国側の出
方を注視しているという今状況だと思うんですけれども、今後どうなる
かは政府の考え方ですけれども、少なくとも今言及された内容というの
はやっぱり基礎として、この内容を基礎としてお話しすべきだと思いま
すが、その辺、外務大臣はいかがでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 請求権協定の話をされているのであれば、
この請求権協定によって全てのことは完全かつ最終的に終了していると
いう認識に何の変わりもございません。
○白眞勲君 ですから、そこに村山談話とか何かを、例えば話すときに
そういったことというのは話すべき、あるいは念頭に置くべきではない
かなというふうに思うんです。その辺はどうでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 請求権の問題は法的な問題でございますの
で、請求権協定で最終かつ完全に終了していると考えております。
第197回国会 衆議院予算委員会 第4号 平成三十年十一月二十六日(月
曜日)
委員 井野 俊郎
外務大臣 河野 太郎
○井野委員 ぜひ、総理におかれては、長年懸念だったこの日ロ平和条
約締結に向けて頑張っていただきたいと思っておりますし、我々も後押
しをしていきたいというふうに思っております。
さて、日ロとはちょっとまた話がかわりまして、最近ちょっとなかな
かうまくいっていないと私なりに思っているのが日韓関係でございます
。徴用工の裁判、そして慰安婦財団の解散など、韓国は立て続けに、日
韓関係を悪化させるような一方的な対応をとり続けているように感じら
れます。我々も、正直言って、あきれ果てているといいましょうか、大
変これについては困惑しているというか、どうしたらいいのかというよ
うな感じでありますし、その分、我が国民の多くは、やはり冷静に対応
しているのかなというふうに思っております。
こういった韓国の感情といいましょうか、そういった感情的に対応し
ている外交に対して、やはり我々は、もう一度きちんと冷静になっても
らいたいというふうに思っておりますし、冷静になってもらうために、
ただ抗議するというだけではやはり私は足りないのかなというふうに思
っておるんですけれども、以前、韓国の在韓大使を一時帰国させたりと
いう措置をとったように思いますけれども、今後、このような韓国に対
してどのような対応をとるのか。まず外務大臣、教えてください。
○河野国務大臣 ことし初めから、未来志向の日韓関係を築いていこう
という話を先方の外務大臣と繰り返ししていたにもかかわらず、それと
逆行するような動きがずっと続いているのは極めて残念だと思っており
ます。
日韓合意については、先方は、日韓合意の破棄は考えていない、ある
いは再交渉を求めることもないということを繰り返し述べておられます
ので、日韓合意についてはしっかりと韓国側の履行を求めていきたいと
思っております。日本側としては、日韓合意で課せられた義務は全てや
ってきているわけでございますので、先方にもしっかり履行していただ
きたいと思っております。
また、先般の大法院の判決は、これはもう一九六五年の国交正常化以
来の日韓両国の法的基盤を根本から覆すようなことでございますので、
これはもう韓国側にしっかりとした対応をしていただく以外にはないわ
けでございます。それがない場合には、国際裁判も視野に入れ、あらゆ
る選択肢を考えていかんというふうに思っております。
そういうことも考えておりますので、とりあえず、ハイレベルの交渉
を維持するために大使はこのまま置いておくつもりでございまして、一
時帰国は今のところ考えておりません。
○井野委員 我が国としては、まずは冷静に対応していくということだ
ということであります。それについては、我々も一緒になって感情的に
なってもだめだという先ほど外務大臣のお話だというふうに感じました
。それはそれで、私も、そういうふうに交渉をきちんと進めていき、対
応を改めていくということが何より大事だと思いますし、さはさりなが
ら、やはりこのままではいけないんだというふうに思いますので、ぜひ
その対応を誤らないようにしていただきたいというふうに思います。
もちろん、韓国では、実際問題、経済活動を行っている企業もありま
す。こういった日本企業の経済活動が萎縮しないように他方でしなけれ
ばならないというふうに思いますけれども、この点について、まず世耕
大臣はどのように考えているのか。
○世耕国務大臣 韓国は、日本にとりましては、中国、アメリカに次ぐ
三番目に貿易額が多い国であります。また、投資額の面で見ると、韓国
から見たら、対内直接投資は日本が一番なんです。そういう意味では、
いろいろな意味で企業のビジネスが日韓間では盛んに行われているわけ
でありますけれども、今起こっている諸問題が、両国企業の貿易ですと
か投資の意欲を冷やすことになれば、これはもう、日韓はお互い補完的
な経済関係があるわけでありますし、今サプライチェーンはグローバル
にいろいろな形でつながっていますので、こういったサプライチェーン
を毀損することにもなりかねないというふうに思っています。
こういった状況にならないように、まずは、日本政府として、外務省
とも連携をしながら、韓国政府に直ちに適切な措置を講ずるよう求めて
いくということ、そして、日本企業に対しては、日本政府がどういう立
場をとっているか、あるいは関連訴訟をめぐる韓国内の状況について、
経産省、外務省で連携をして情報提供をしっかりとやっていくというこ
とが重要だというふうに思っています。もう既に、今裁判で提訴を受け
ている企業向けの関係省庁合同説明会というのも何回も開かせていただ
いているところでございます。
○井野委員 ぜひ、世耕大臣、そういった日本企業の経済活動にも支障
がないように、さまざまなレベルで配慮していただきたいというふうに
思いますので、ぜひその点もよろしくお願いいたします。
世耕大臣はもう結構でございますので。
第197回国会 参議院国土交通委員会 第3号 平成三十年十一月二十七
日(火曜日)
委員 中野 正志
国土交通省海事
局長 水嶋 智
○中野正志君 大和堆から、この頃は北海道沖、大変広い面で北朝鮮漁
船、また、御存じをいただきますように、難破した船が相変わらず今ま
で以上に日本に揚がっているという現実もあるわけでありまして、是非
、海上保安庁を含めて頑張っていただきたいものだと思います。
韓国は隣国でありますけれども、大変残念ですけれども、民主的な手
続や約束事を軽んじられる向きがあります。徴用工の最高裁の異常な判
決しかり、また、最終的、不可逆的な解決を確認した二〇一五年の日韓
合意に基づいて日本政府が十億円を支出した例の和解・癒やし財団、こ
れを解散すると発表したり、国際社会の一員として、ぶっちゃまけて言
えば、韓国は未熟であるなということを認識せざるを得ません。
もう一つ、韓国のルール違反について申し上げます。
日本政府は、六日、韓国が自国の造船業界に過剰な補助金を支給して
いるのは国際的な貿易協定に違反しているとして、WTOへ提訴する手
続を開始したと発表されました。
造船業界は、二〇〇八年のリーマン・ショック前の好況期に各社も設
備投資をし、当然、よその国も大変な設備投資をして、世界的に供給過
多となっているそうでありますが、こうした中で、韓国が経営危機に陥
った自国の造船企業に政府系金融機関を通じて巨額な資金援助を行えば
、当然、市場の原理とは違う価格低下を生じさせてしまいます。
こういうことを一つ一つ国際的に提訴していくことは大切なことであ
ると思いますが、提訴の準備状況と、今後日本造船産業へどのような影
響があるのか、また、政府として、海洋国家日本、これはもうすごいブ
ランドでありますから、この海洋国家日本、再浮揚させていくためにも
、造船業界に対してどういう施策を講じていかれるのか、この機会にお
伺いをいたします。
○政府参考人(水嶋智君) お答え申し上げます。
世界の造船市場でございますが、先生御指摘のとおり、リーマン・シ
ョック前の新造船の大量発注とその後の需要の低迷によりまして供給能
力過剰の状態にあり、各国の造船業は厳しい状況にございます。
足下の業況といたしましては、二〇一八年に入りまして我が国造船業
の受注シェアは回復傾向にはございますが、韓国では数年前から経営難
に陥った自国造船所の救済等の公的助成が大々的に行われておりまして
、結果、供給能力過剰問題の解決を遅らせるとともに、我が国造船業に
大きな悪影響を及ぼしているところでございます。
これまで我が国は、OECD造船部会や日韓課長級会議の場におきま
して、韓国政府、公的機関による自国造船業に対する過度な支援は造船
市場を歪曲するものであり、造船業の供給能力過剰問題の早期解決を阻
害するものであると累次にわたり指摘してきたところでございます。ま
た、先月には海事局と韓国産業通商資源部との局長級協議を実施いたし
まして、韓国に対して我が国の懸念を改めて伝えるとともに、本問題の
友好的かつ迅速な解決の必要性を強く訴えましたが、措置の撤廃には至
っておりません。
このため、関連業界の要望も踏まえまして、関係省庁と協議の上、W
TO協定に基づく紛争解決手続を用いて本問題の解決を図ることとし、
十一月六日、韓国政府に対して当該手続に基づく二か国間協議を正式に
要請したところでございます。その後、韓国政府より協議要請に応じる
旨の回答がございまして、現在、外交ルートを通じて韓国政府と協議日
程等の調整を行っているところでございます。
当該手続を通じて韓国による市場歪曲的な措置が撤廃されることとな
れば、造船市場における公正な競争環境の確保が図れることになり、供
給能力過剰問題の早期解決、船価水準の回復等が期待されまして、我が
国造船業の更なる発展につながるものと考えておるところでございます
。
また、国土交通省におきましては、二〇二五年に世界新造船建造シェ
ア三〇%を獲得することを目的として、技術開発の促進など海事生産性
革命、i―Shippingと称する一連の施策を推進しているところ
でございまして、公正な競争環境の確保と併せまして、我が国造船業の
競争力強化に向けた取組を総合的に推進してまいりたいと考えておると
ころでございます。
○中野正志君 海上保安庁長官に、アジア各国への技術支援、お伺いを
したかったんでありますけれども、時間となりましたのでお許しくださ
い。
終わります。ありがとうございます。
第197回国会 衆議院外務委員会 第4号 平成三十年十一月二十八日(水
曜日)
委員 中曽根 康隆
外務大臣 河野 太郎
まず、日韓関係についてです。
私も、韓国は非常に好きな国ですし、大切な友人もたくさんおります
。近年の人的交流、また文化的交流がどんどん広がっていること、これ
は非常に喜ばしく思っております。だからこそ、この徴用工の問題とい
うのは非常に残念で仕方がありません。
大臣は、今回の十月三十日のこの新日鉄住金の大法院の判決、これに
ついてまずどういうふうにお考えになっているか、そして、いわゆる慰
安婦財団、この解散も発表されておりますけれども、こちらについての
政府の対応というのをお教えいただきたいと思います。
○河野国務大臣 委員御存じのとおり、ことしは金大中・小渕パートナ
ーシップ宣言二十周年といういわば節目の年でございますので、首脳間
、外相間、あるいはあらゆるレベルで、日韓、未来志向の関係を築いて
いこうということをことしの初めから約束し、韓国側、日本側、タスク
フォース、有識者会議を立ち上げて、さまざまな提言もいただきました
。そんな中で、残念ながら、この未来志向と全く逆行するような動きが
続いているというのは大変残念なことだと思っております。
さきの韓国の大法院におけるこの判決は、一九六五年の日韓国交正常
化以来の両国関係のいわば法的基盤を根本から覆すようなことになって
しまいまして、これはもう極めて遺憾な話でございますし、これはほか
の問題と違いまして、日韓の両国関係を規定している、いわば一番の底
が抜けてしまうような話でございますので、極めて深刻な状況にある。
それを韓国側に、しっかりと韓国の政府に認識をしていただいて、適切
な対応を至急とっていただく必要があろうかと思っております。
また、先般、慰安婦問題に関する日韓合意のもとで設立された韓国側
の財団を一方的に解散するという方針を韓国政府が発表いたしましたが
、これはもう日韓合意に照らして到底受け入れられるものではございま
せん。
この日韓合意という国際約束は国際社会からも極めて高い評価を得て
いるものでございますので、日本側としてはこの日韓合意で定められた
義務をしっかりと履行してまいりました。今、韓国側がこの日韓合意を
しっかり履行してくれるかどうか、日本だけでなく国際社会も注視して
いる中でございますので、引き続き韓国にはこの日韓合意を着実に履行
することを求めてまいりたいというふうに考えております。
第197回国会 衆議院安全保障委員会 第4号 平成三十年十一月二十九
日(木曜日)
委員 長島 昭久
外務大臣 河野 太郎
政府参考人
(外務省国際法局長) 三上 正裕
○長島委員 新会派、未来日本の長島昭久です。
両大臣、大変お疲れさまです。ラスト十分ですから、簡潔に御答弁を
いただきたいと思います。
本日の午前中にまた、韓国の最高裁、大法院におきまして新たな最高
裁判決が出ました。十月三十日の新日鉄に続いて今度は三菱重工にも賠
償命令、こういうことになったわけでありますが、こんなことを続けて
いると日韓関係も本当に破壊されますし、韓国でビジネスもやっていら
れないという話になりますよね。
河野大臣におかれましては、どこかでやはりけりをつけていただきた
い、この負の連鎖をどこかでとめなきゃいけない、こう思うんですが、
まず、きょうの判決に対する御所見を承りたいと思います。
○河野国務大臣 前回の大法院の判決、それから今回の大法院の判決を
含め、日韓請求権・経済協力協定に明らかに違反をし、一九六五年の国
交正常化以来築いてきたこの日韓両国の関係の最も根本的な法的基盤を
覆してしまうもので、これは極めて遺憾であり、断じて受け入れること
ができません。
韓国に対して、こういう国際法違反の状況をなるべく早く是正するこ
とを含め適切な措置を講ずるよう求めてきておりますので、韓国側にし
っかりと対応していただきたいと思っているところでございます。
○長島委員 今、大臣から国際法違反というお話がありましたが、幾つ
か、きょうはそういう意味で確認をさせていただきたいことがあります
。
一つは、まさに議論の大前提、国際法、国際条約のことについてであ
りますが、条約法に関するウィーン条約というものがございます。第二
十六条、「効力を有するすべての条約は、当事国を拘束し、当事国は、
これらの条約を誠実に履行しなければならない。」二十七条、「当事国
は、条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用すること
ができない。」コンメンタールによると、国内法だけじゃなくて、国内
事情を理由にしてはならない、こう解されるそうでありますが、これは
「当事国」と言うんですから、行政府や立法府のみならず、司法府も当
然のことながら拘束をすることになるんだろうというふうに思いますが
、韓国はこのウィーン条約を批准しているでしょうか。
○河野国務大臣 済みません、事前に通告がないものですから、確認し
ているところでございます。
○長島委員 していますよね。
○三上政府参考人 申しわけありません。
韓国も批准しております。
○長島委員 批准もしておりますし、韓国の憲法も私は調べてみました
が、韓国の憲法第六条は、我が国の九十八条二項とほぼ同じ、国際法遵
守の条文がございます。
したがいまして、ここまで条件がそろえばこういった判決は当然のこ
とながら出てこないはずなんですが、そこで、大事な点をもう一つ確認
をしたいんですけれども、個人の請求権という話がこの間何度も出てく
るわけでございまして、今回の韓国の大法院の判決は、元徴用工、私ど
もは、旧朝鮮半島出身労働者、いわゆる徴用工ですが、元徴用工の個人
の請求権は消滅していない、そういう判断を下しております。
日本政府は、柳井条約局長の答弁を始め、これまでも累次にわたって
、請求権協定によって日韓両国間での請求権問題が解決されたとしても
、被害に遭った個人の請求権を消滅させることはできない、こういう答
弁を繰り返してきているわけですが、この点を加味しながら、本当に日
韓の間で最終かつ完全にこの請求権の問題が解決したと言い切れるその
理由をるる述べていただきたいというふうに思います。
○三上政府参考人 お答え申し上げます。
個人の請求権を含め、日韓間の財産請求権の問題は、日韓請求権・経
済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが我が国政
府の一貫した立場であります。
具体的には、日韓両国は、同協定第二条1で、請求権の問題は完全か
つ最終的に解決されたものであることを明示的に確認しております。
また、第二条3で、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及び国
民に対する全ての請求権に関して、いかなる主張もすることができない
としておりますことから、慰謝料請求権も含め、一切の個人の請求権は
法的に救済されないということでございます。
○長島委員 今、救済されないという説明をされましたけれども、訴え
る権利は保障されているんでしょうか、個々人が。
○三上政府参考人 国内法的に、請求権そのものが消滅したという言い
方はしておりません。訴えることはできますけれども、それに応ずべき
法律上の義務は消滅しておりますので、救済が拒否されることになると
いう整理でございます。
○長島委員 訴える権利はあるんだけれども、その権利は救済されない
、こういう説明だと思うんですけれども、じゃ、どこがその救済の義務
を負っているんでしょうか、これは日韓の合意の中で。
○三上政府参考人 先ほど申し上げましたように、この請求権の問題に
つきましては、日韓請求権・経済協力協定によって、日韓の間で完全か
つ最終的に解決済みであるということでございます。そこに尽きるとい
うことでございます。
○長島委員 いや、ちょっとよく最後がわからないんですけれども。要
するに、個人として請求権、訴えることはできる、しかし、それは最終
的には裁判所に持ち込んでも救済されないんだ、その根拠は何ですかと
聞いているんですが。
○三上政府参考人 先ほど申し上げましたように、権利そのものは消え
るということは申し上げておりませんけれども、日韓協定におきまして
明確に、完全かつ最終的に解決された、それから、いかなる主張も請求
権に関してはすることができないということがセットになっていますの
で、これが全体としてこの問題については完全に解決済みであって、法
律上の救済ができないということでございます。
○長島委員 大臣、救済の道義的責任は韓国政府が負うというのが韓国
の政府の認識でもあり、日韓間の合意、コンセンサスじゃないんですか
。それは、二〇〇五年、盧武鉉政権のときに、これはもう軍事政権じゃ
なくて民主化された政権ですよ、当然のことながら。このときに日韓協
定にかかわる外交文書を全部公開して、その上で官民の合同チームでき
ちっと再検証した結果、この救済についての道義的責任は韓国政府が負
うものだというそういう結論であると認識しているんですけれども。そ
うであるからこそ、今回強い態度に日本は出られると認識しているんで
す。いかがですか。
○石川政府参考人 お答え申し上げます。
委員御指摘のとおり、盧武鉉政権時代、二〇〇五年におきまして、盧
武鉉政権の総理主宰のもとの官民共同委員会、ここにおいて、日韓請求
権・経済協力協定の法的効力の範囲及び韓国政府の対策の方向等につい
て検討した結果を発表しました。
その中で、官民協議会は、この旧朝鮮半島出身労働者に関連して請求
権協定を通じて日本から受け取った無償三億ドルは、強制動員被害補償
問題解決の性格の資金等について包括的に勘案されているとして、政府
は受領した無償資金のうち相当金額を強制動員被害者の救済に使わねば
ならない道義的責任があるという内容を発表したというふうに承知して
おります。
○長島委員 ですから、それに基づいて、二〇〇七年、二〇一〇年と韓
国は国内法をわざわざつくって、そういう方々に対する支援を行ってい
るんですよ。これは確認できませんけれども、恐らく、今回の原告の方
たちもこの法律に基づいて支援を受けているはずなんです。
こういうこともぜひ調べていただいて、最後、大臣、このまま何か角
突き合ってもしようがないと思うんですが、私、一つ提案があります。
仲裁委員会をぜひ開いていただきたい。
なぜならば、これまでずっと韓国の政府の姿勢を待っていてはどんど
んこのような訴訟が起こってしまう可能性がありますので、それにも歯
どめをかける意味でも仲裁委員会をぜひ開いていただきたいと思います
が、最後に一言だけお願いします。
○岸委員長 河野外務大臣、簡潔にお願いします。
○河野国務大臣 当然に、そうしたことも視野に入れて政府として対応
を考えております。
第197回国会 参議院法務委員会 第5号 平成三十年十一月二十九日(木
曜日)午前十時七分開会
【発言順】
委員 糸数慶子
外務大臣官房参事官 田村 政美
○糸数慶子君 沖縄の風、糸数慶子です。
横山委員長、私は、二十二日の法務委員会の冒頭で、この委員会運営
においては野党の意見を尊重し、誠実に対応していただくようお願いを
いたしました。残念ながら、誠実どころか余りの乱暴なこの委員会の設
置に怒りを禁じ得ません。恐らく、参議院の職員も役所の職員も議員事
務所も、多くがほとんど徹夜の作業を強いられたのではないかというふ
うに思われます。中立公平な立場であるべき委員長が、野党の意見に耳
を貸すことなく、理性を失い常軌を逸した委員会の運営をされているこ
と、そのことに強く抗議をし、質問いたします。
まず、徴用工をめぐる最高裁判決について伺います。
日本における朝鮮半島統治下で日本の製鉄所で労働を強いられたとし
、元徴用工の韓国人四人が損害賠償を求めた訴訟で、韓国の最高裁は十
月三十日、元徴用工のその請求を認めて、新日鉄住金に損害賠償の支払
を命じる判決を言い渡しました。
韓国の最高裁は二〇一二年五月、上告審で、植民地支配の合法性につ
いて日韓両国が合意しないまま協定を結んだ状態で、日本の国家権力が
関与した不法行為による損害賠償請求権が請求権協定で解決されたと見
るのは難しいとして個人請求は消滅していないと判断、二審判決を破棄
し、差し戻しました。ソウル高裁は、二〇一三年七月の差戻し審で新日
鉄住金に約四千万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。しかし、被
告の新日鉄住金は請求権は消滅したとする日本政府の見解に基づき上告
し、朴槿恵政権は判決を先延ばしにし、文在寅政権となって今回の判決
が出されたわけです。
この判決直後から、日本政府は、既に解決済みや、あり得ない判断な
どと抗議し、韓国政府を批判しています。河野外務大臣は即日、韓国の
李洙勲駐日大使を外務省に呼び、日韓請求権協定に明らかに違反し、国
際社会の常識では考えられないことが起きていると抗議をいたしました
。日本の企業や日本国民に不利益が生じないよう、直ちに必要な措置を
厳格にとってもらいたいと強く求めたと報じられています。
他国の独立した司法の判断が出たからといって、日本政府がこのよう
な抗議を行い、メディアの多くが解決済みなどと報道し、ネット上では
すさまじい韓国批判が行われていることに、正直戸惑い、違和感を覚え
ました。
一九一〇年、大日本帝国と大韓帝国は日韓併合条約を締結し、日本が
朝鮮半島を統治下に置き、三十六年に及ぶ植民地支配が始まりました。
韓国は武力を背景に不法に締結させられたと主張し、日本は国際法に基
づいて合法的に締結されたと主張したことから、認識の違いを超えるこ
とはできず、いわゆる玉虫色の決着をしたため、植民地支配に対する賠
償は行われませんでした。
そこで、外務省にお伺いいたします。
日本政府は、請求権は完全かつ最終的に解決されたという立場を取っ
ていますが、一九九一年八月二十七日の参議院の予算委員会で清水澄子
議員の、請求権は解決済みとされてまいりましたが、今後も民間の請求
権は一切認めない方針を貫くおつもりですかとの質問に対し、当時の外
務省の柳井俊二条約局長は、日韓請求権協定におきまして両国間の請求
権の問題は最終的かつ完全に解決したわけでございますと答弁した上で
、その意味するところについては何と答弁されているのでしょうか、外
務省の方にお尋ねいたします。
○政府参考人(田村政美君) お答え申し上げます。
個人の請求権を含め、日韓間の財産請求権の問題は、日韓請求権・経
済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが我が国政
府の一貫した立場でございます。
具体的には、日韓両国は同協定第二条一で請求権の問題は完全かつ最
終的に解決されたものであることを明示的に確認し、第二条三で一方の
締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての請求権
に関していかなる主張もすることができないとしていることから、この
ような個人の請求権は法的に救済されないものとなっております。
○糸数慶子君 「いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消
滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを
外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でご
ざいます。」というふうにそのときは答弁されています。完全かつ最終
的に解決されたと言いながら、実は請求権協定も曖昧な部分を残したま
ま政治決着が図られたということだと思います。
過去の外務省見解を振り返ることなく、外交の最高責任者が感情的に
韓国政府を批判することは、両国間の友好関係に水を差し、米朝首脳会
談以降、朝鮮半島情勢が大きく変わろうとする中、日本が蚊帳の外に置
かれてしまうのではないかと大変危惧しております。
法的な解決が行われても、日本が植民地支配したその道義的責任は消
えないのだということを申し上げ、次の質問に入りたいと思います。
第197回国会 参議院外交防衛委員会 第6号 平成三十年十二月四日(火
曜日)
委員 白 眞勲
外務大臣 河野 太郎
○白眞勲君 おはようございます。白眞勲でございます。立憲民主党で
ございます。
まず、質問通告していないんですけれども、大臣の認識として、ひと
つ外務大臣の認識としてお答えいただきたいんですけれども、韓国の徴
用工の判決の件です。
ちょっとこれ、文章を読みますので聞いていただきたいと思うんです
けれども。
韓国政府は卑劣でひきょうだ。請求権協定当時、政府が代表して金を
受け取ったのに、法の手先、この場合裁判官を意味するようですけれど
も、を通して慰謝料として賠償を再び求めるのが正しいのか、正しいと
言えるのか。韓国政府が補償すべきだ。日本は当時、個人賠償を直接し
て、こうした問題の発生を防ごうとしたが、韓国政府が全部手に入れた
んだよね。じゃ韓国政府に責任があるのでは。これ、引用はここまでで
す。あるいは、もう一つちょっと読みますね。対日請求権資金を受け取
り国家再建に成功したなら、国が、この国というのは韓国を指すのです
が、該当者を探して慰労、賠償しろ。どこのこじきのように日本に数十
年も物乞いしているのか。
これ、一体誰が書いた、投稿されたものか、お分かりになりますでし
ょうか。これは、私の出身の新聞社の韓国の朝鮮日報のインターネット
版に韓国の読者が投稿したものなんですね。最初の意見、最初の意見は
、これはインターネットですから賛成、反対でクリックするんですけれ
ども、この意見に賛成が二十八で反対二。後の方は、これもっと実はそ
の後すごい過激なことを書いてあるので、ちょっと私もこれ以上読み上
げられないなと思うぐらいなんですけれども、これが賛成二百十九、反
対十一なんですね。
もちろんこれが全てだということは言えないとは思うんですけれども
、私が申し上げたいのは、今回の件も含めて、例えば一部のマスコミの
中には韓国けしからぬ一辺倒で批判の記事を書きまくっているメディア
もありますよ。もちろん、それで嫌韓意識をあおろうとして、その方が
売れるかもしれない。しかしながら、一流のメディアならきちんと韓国
を取材してもらいたいなというふうに私は思っているんですね。
韓国にも、韓国と一概に言っても様々、やはり民主国家である以上は
今の徴用工の判決についても様々な意見があるということですし、私の
韓国の友人にも日韓関係の今後に心を痛めている方もたくさんいるとい
うことも事実です。
だからこそ、お互い隣同士で、私も今度、十三日から日韓議員連盟で
訪韓する予定で、胸襟を開いて韓国の議員たちとも話をしてみたいと思
いますけれども、日本政府としましても、やはり韓国政府側の出方を今
の段階では静かに見守るというスタンスであるなら、スタンスであろう
と私は思っていますが、この辺の大臣のお考えについて、よろしければ
お考えを聞かせていただきたいと思います。
○国務大臣(河野太郎君) 今年は、小渕・金大中パートナーシップ宣
言二十年という、言わば節目の年に当たります。
私も、ワシントンに留学をしていたときに、当時ワシントンの近郊に
いらっしゃった金大中さんの御自宅で飯を食わせていただいた、いろん
な話を直接伺ったという経験もあります。金大中大統領は、この日韓の
千五百年にもわたる長い関係の中で不幸な数十年のことがあったけれど
も、そのことだけでこの千五百年の関係を投げ捨ててはいかぬというこ
とをおっしゃっておりまして、それはもう私も全くそのとおりだと思っ
ております。
日本と韓国は、国交正常化するときにこの請求権協定を結び、それを
法的基盤として両国関係を築いてきたわけでございますから、この法的
基盤を今後もしっかりと日韓両国守りながら、未来志向の関係をしっか
り築いていきたいと思っております。韓国政府がしっかりとそうしたこ
れまでの歴史を踏まえて確実に対応を取ってくれるということを期待を
したいと思っております。
第198回国会 衆議院予算委員会 第10号 平成三十一年二月二十日(水
曜日)
委員 井上 英孝
外務大臣 河野 太郎
○井上(英)委員 この拉致問題の解決、前進に向けて、今晩の電話会
談、ぜひお願いをしたいというふうに思います。
また、北朝鮮も絡めた、やはり韓国との、今、日韓関係というのが非
常に懸念事項の大きいものになっています。その中でも、徴用工の問題
に関して、少し経過を踏まえさせていただきながら、質疑に入らせてい
ただきたいというふうに思います。
昨年十月に韓国の大法院が新日鉄住金に対して、戦時中、徴用工とし
て働かせていた旧朝鮮半島出身労働者三名に対しての慰謝料を払うよう
命じたということに端を発したいわゆる徴用工問題というのが、非常に
日韓関係を悪化させている。
先般、二月の十五日、ドイツのミュンヘンにおきましても日韓外相
会談が行われましたが、韓国政府からは何ら明確な回答というのがあり
ませんでした。
現状は、韓国は、差し押さえた日本企業の資産を現金化すべく、資産
売却の手続を進めているというふうにもお聞きをしています。
こういった状況の中で、当然、相手方もあることですし、これがあり
ます、あれがありますと恐らくおっしゃれないとは思いますけれども、
このような状況になっているということを、改めて、外務大臣、どのよ
うにお考えか、お答えいただけますでしょうか。
○河野国務大臣 旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題につきましては、
現在に至るまで、韓国政府が日韓請求権協定違反の状況を是正する具体
的な措置をとっておりません。
委員おっしゃいましたように、原告側による差押えの動きが進んでい
るということは、これは極めて深刻に捉えております。日本企業の正当
な経済活動を保護するという観点から、引き続き日本政府として適切に
対応してまいりたいと思っております。
一月の九日の時点で請求権協定に基づく協議を要請し、二月の十二日
だったと思いますが、回答の督促をいたしました。また、先般のミュン
ヘンでの日韓の外相会談の中でも、協議に応ずるように求めたところで
ございます。
日本政府としては、誠意を持って韓国政府がこの協議に応ずるものと
思っておりますが、万が一の場合には、さまざま対策を、対抗策をとら
ねばならぬというふうに考えております。
○井上(英)委員 対策をぜひとっていただきたいというふうにも思う
んですね、最悪の場合は。
ですから、韓国側は、逆に、日韓請求協定というものの土俵に上がっ
てしまうと、日本側に正当性があるということはやはりわかっているん
じゃないかなというふうに思うんですね。だからこそ、それには乗らず
、慰謝料の請求という新しい切り口が、日本企業にそういう形での支払
いを命じたというふうにも言われております。
しかし、韓国政府が韓国国民に補償を行わなかったことで生じる慰謝
料というのは、やはり韓国政府にしっかりと支払いをしていただくとい
うことが我々の恐らく思いではないかなと思いますし、また、目に見え
るような形で、対抗策と言うと強硬的に聞こえますけれども、やはり今
のままでは寛容過ぎるんじゃないかという気持ちもあります。
先ほど、いろいろな手があるということをおっしゃっておりましたけ
れども、その中で、よく一般的に言われているのは、国際司法裁判所へ
の提訴だとか、それから日韓請求権協定の中にある仲裁、そういった方
法もあるということを改めて確認をさせていただきたいと思うんですけ
れども、いかがでしょうか。
○河野国務大臣 先ほども申し上げましたように、我々としては、韓国
が誠意を持って協議に応じてくれるというふうに思っておりますが、万
が一の場合には、国際法に基づいて、国際裁判を含めたあらゆる選択肢
を検討する、既にしておりますし、万が一のときにはさまざまな対抗策
を発動する用意がございます。
○井上(英)委員 ぜひ、そういったことも考慮に入れて、総理を含め
、外務大臣を含めて、そして外務省の職員も含めて、決してそんな悪く
なるようなことを、当然、関係が悪くなることを考えているわけじゃな
いというふうに思いますし、真摯にやっていただいているというふうに
も思います。
ただ、一方で、今度は、韓国の国会議長によるブルームバーグ通信の
インタビューの件も近々にありましたけれども、そういったものをいろ
いろ聞いていると、やはりちょっと、その件に関しては、私、ちょっと
正確な数字はあれなんですけれども、報道ベースでは、八〇%以上の方
が議長の発言が不快だったという世論調査も出ているというふうにも聞
いています。これは、一国会議員というより一国民としても、やはりち
ょっとやられ過ぎなんじゃないかなというふうに思うんですね。
そういったことも含めて、当然、これから韓国との関係をやっていく
上において、国際世論というのも大事ですけれども、やはり国内世論、
国民一人一人の国内世論の大きい感覚というのも非常に大事にして、今
後も事に当たっていただきたいと思いますけれども、外務大臣として国
民世論についてどのようにお考えか、お答えいただけますでしょうか。
○河野国務大臣 今般の韓国の国会議長の発言は極めて無礼でありまし
て、外交部を通じ、謝罪と撤回を累次求めてきたところでございます。
特に、この場合、深刻だと私が思っておりますのは、この人物は、単
に国会議長というだけでなく、韓日議連の会長も務めた経験がございま
す。韓日議連あるいは日本側の日韓議連というのは、これまで、振り返
ってみれば、日韓両国関係が難しくなったときに、前へ出てそれぞれ話
をすると同時に、国内世論に向けてもこの両国関係の大切さというもの
を訴えてきたのが韓日議連の先輩方であって、私も、何人もそうした方
に韓国でお目にかかりましたけれども、本当に尊敬に値する立派な方々
でございました。
そうした歴史があるにもかかわらず、この韓日議連の会長まで務めた
人間がこのようなことを言うというのは、極めて深刻でありまして、先
般の外相会談の中でも、この件については本当に驚いたし、残念だとい
うことを先方にお伝えをいたしました。本来なら、外交部と韓日議連が
、今この問題の取りまとめをしている国務総理を両側で支えているべき
人がこういう状況では、本当に日韓関係、心配だ、外交部には、しっか
りとこの件、対応をお願いするということを申し上げてまいりました。
ただ、今、こういう人物でさえこのような発言をするということは、
少し強く相手に物を言うと、それに呼応して、わあっと盛り上げる、そ
ういうグループがあって、そこへ向けて発言をするというようなことが
繰り返されることになると、日韓両国関係にとっては必ずしも得策では
ありません。
こういう状況ではありますけれども、日韓、昨年、一千万人を超える
往来がございました。日本から韓国を訪れる方より、韓国から日本を訪
れる方の方が倍以上多いわけですけれども、日本から韓国を訪問する方
も二八%ふえたということを考えると、やはり、こういう状況の中でも
、お互いの行き来がしっかりあって、草の根で、人的交流の中で、お互
いの国民がお互いの国のことをよく理解をするというのは大事なんだろ
うと思いますので、こういう時期だからこそ、相手をののしるのではな
く、少し冷静になって、この両国関係の大切さというものをしっかり認
識ができる、そういう対応をきっちりやってまいりたいというふうに思
っております。
○井上(英)委員 言葉を悪くすれば、国民からは、ちょっと弱腰なん
じゃないかというような指摘をされるときもありますけれども、やはり
毅然とした態度で、先ほど言われるような、一部の方に受けるためにそ
ういう発言をされているということであるならば、やはり寛容過ぎるん
じゃないか。もう少し日本として、適切に返すことは返していくという
ことをやはりやっていくような必要もあると思いますので、ぜひ外務大
臣、頑張っていただけたらというふうに思います。
第198回国会 予算委員会第三分科会 第1号 平成三十一年二月二十七
日(水曜日)
兼務 小田原 潔
政府参考人
(外務省大臣官房審議官) 石川 浩司
○小田原分科員 自民党の小田原潔であります。
予算委員会の第三分科会、質問の機会をいただいて、ありがとうござ
います。
私は、ポスターもネクタイもオレンジ色がテーマカラーであります。
きょうは大臣も井野主査も同じ色で、一致団結して質問をさせていただ
きたいと思います。引き続き、我が国の国益を守り、国際社会で応分の
敬意を受ける活動をするために予算を有効に活用していただきたいと思
います。
私からは、日韓関係について質問をさせていただきたいと思います。
と申しますのも、外務大臣政務官を務めさせていただいておりました
二〇一六、一七年のころ、いわゆる少女像問題について随分と腐心をい
たしました。私自身は、歴史的認識の違いについてコメントするのを極
力避けました。
二〇一七年の一月の三十日に、ウォールストリート・ジャーナルに、
私は政務官として寄稿いたしました。それは、二〇一五年の十二月二十
八日に、いわゆる慰安婦問題については最終的かつ不可逆的な合意をし
たにもかかわらず、投稿の前年、一六年の十二月三十日に、釜山の領事
館の前にも少女像が設置されたことに大変落胆をし、無力感とは申しま
せんけれども、半ばあきれた気持ちになったというのが、今振り返れば
言えなかった本音であります。
投稿の内容は、不可逆的な合意をしたこと、そして、財団に十億円を
支出し、我が国はその責務を果たしていること、そして、翌年の十二月
三十日に、残念ながら新たな少女像が置かれてしまったこと、それは領
事関係に関するウィーン条約からしても問題であること、また、何より
も強調いたしましたのは、当時既に北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射
を繰り返していて、日韓は本来は力を合わせて無謀な挑発を抑止するべ
き、そういう間柄であるべきだということ、また、国際社会からもそう
いう役割を期待されているはずなのだということ、いわば、目を覚まし
てくれというような内容を寄稿させていただきました。
しかしながら、その翌年には、今度は、少女像をつくった御夫婦と同
じ方、同じ工房なのだと思うんですけれども、今度は徴用工の像という
のをおつくりになって、この手の活動というのはエスカレートするばか
りであるというふうに思われて仕方がありません。さらには、韓国の最
高裁の判決で、我が国の企業が賠償責任を負うという判決が出てしまっ
た。
少女像や徴用工の像も極めて問題であり、残念でありますが、我が
国の法人、個人の生命や資産、安全が脅かされるということを放置する
わけにはまいりません。まずは、この徴用工と言われるものの問題につ
いてどのように対処していくべきなのかについてお聞きをしたいと思い
ます。
今月、二月の八日に、アジア平和貢献センター共催シンポジウムとし
て、社団法人経済倶楽部が「東アジアにおける「法の支配」の構築に向
けて」というシンポジウムを開いています。
そこで、萬歳寛之早稲田大学教授は、徴用工に関する韓国大法院判決
の問題点を、日韓請求権と日韓経済協定だけでなく、日韓国交正常化の
一般的な文脈や日本の戦後補償裁判との関係で評価をしています。
「国際法の観点から見た韓国徴用工問題」と題して、韓国はサンフラ
ンシスコ条約に入っていないのに、徴用工判決では、戦争賠償だけでは
なく、債権債務関係を持ち出した、国交正常化とは、懸案事項を解決し
た上で将来関係を構築することを意味する、一九六五年の日韓国交正常
化の際の懸案事項は経済協力や個人の請求権だった。
朴正熙大統領が国民の当時の激しい世論を何とか説得をして国交の正
常化にこぎつけたその大きな判断材料は、韓国にとっては経済の発展、
我が国にとっては個人の請求権、これをそれぞれ折り合いをつけて国交
が正常化したというのが現実でありましょう。それが、ちょっと言い方
はラフになり過ぎかもしれませんけれども、別の要因でだんだんむしゃ
くしゃしてきたので、そのたびに我が国に謝れと言い出すようでは、健
全な関係は維持できません。私は、どのように、はっきり言えば、今現
在の新日鉄住金を差押えから救うべきかということにまずはエネルギー
を使わなければいけないと考えております。
また、皮肉なことに、特にPOSCOは、当初、世銀やアメリカ合衆
国からの資金拠出をまだ時期尚早ということで撤回された、それに対し
て、我が国の国交正常化に伴う資金を注入してでき上がった会社であり
ます。しかも、当時の八幡製鉄、富士製鉄、そして日本鋼管が技術供与
をして、世界品質にたえ得る製鉄会社となったという経緯があります。
二〇〇〇年には新日鉄と戦略的提携の契約を結んでいます。にもかか
わらず、当時、新日鉄が、鉄の芸術品と評されるほどの高品質の方向性
電磁鋼板、これは電力インフラに不可欠な変圧器の心臓部、鉄心に使う
ものでありますが、この品質が急に上がってきた。新日鉄のエンジニア
からすれば、独自の技術開発でこんな急速に品質が上がるわけないとい
う疑念がありました。
何と、その後、POSCOの社員が中国に機密情報を漏えいしたとい
うかどで、POSCOがその社員を訴えた。すると、その社員は法廷で
、もともとこの技術はPOSCOのものではなくて新日鉄のものだとい
う証言をした。結果的に、請求額が一千百五億四千百二十万円の請求額
でありましたが、二〇一五年の九月に三百億円の支払いで和解をした。
ただし、技術料を払うこと、そして、どの先に売っていくかということ
を事前に協議することということで代償を払ったわけであります。
我々からすると、多少うがったように聞こえるかもしれませんが、今
回の徴用工の判決、そして新日鉄住金の資産に手をつけるという、その
話合いをしようと言い出すということは、あたかも江戸のかたきを長崎
で討つつもりなのかと言わざるを得ません。
現在、差押えの対象になりそうなものは、新日鉄住金が持っている
POSCOの三・三二%の株式の持分か売上げ債権ではないかと言われ
ているようであります。
POSCOの持分は、ニューヨーク証券取引所の米国株式信託証書の
形、ADRと略しますが、で保管されているので、そう簡単には手がつ
けられないだろう、アメリカ合衆国で法的な手続をとり、それが許可さ
れなければ手をつけられないだろうと考えられているようですが、現在
、この徴用工判決に対抗すると申しますか、があったとしても、我が国
の当初の合意に基づき、我が国法人の資産を守るにはどのような対処を
されているか、答えられる範囲で結構でありますので、教えてください
。
○石川(浩)政府参考人 お答え申し上げます。
旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題につきましては、現在に至るまで
韓国政府が日韓請求権協定違反の状態を是正する具体的な措置をとらず
、加えて、原告側による差押えの動きが進んでいるということは極めて
深刻だというふうに思っております。
我が国としましては、韓国による協定違反の状態を解決すべく、韓国
政府に対して協定に基づく協議を引き続き要請しているところでござい
まして、韓国が当然誠意を持って協議に応じるものと考えております。
いずれにせよ、今御指摘のとおり、日本企業の正当な経済活動の保護
の観点、こういった観点から、引き続き、関係企業と緊密に連絡をとり
つつ、日本政府としての一貫した立場に基づき適切に対応してまいりた
いと思っております。
○小田原分科員 どうか、我々の目から見れば罪のない、現在新日鉄住
金で働いている人たち、そしてその財産を、国益をかけて守っていただ
きたいと思います。
次に、いろいろなところで議論になっているので、できるだけ手短に
いきたいと思うんですが、どうしても、我が国海上自衛隊のP1哨戒機
に対する火器管制レーダー照射事件について触れざるを得ません。
その後、韓国からいろいろな釈明がありました。テレビでも随分と国
民の目にさらされました。一国が潔白を証明するために国際社会で提出
する動画になぜ音楽をつけるのか、私にはやや理解ができないところが
ありますが、事の流れを普通の国民が類推するに、二そうあると言われ
ている大変小さな、漁船のような船を人道的に救助するために、なぜ海
上保安庁みたいなボートとか救命ボートではなくて、百三十五メートル
もある軍艦が行くのか。そこには、そもそも我が国の排他的経済水域で
ありますから、当然パトロールが及ぶであろうということは百も承知で
あったろうに、軍艦が行かなければいけない、それは、どうしてもその
状況を守らなければいけない理由があったのではないか。
また、一応と言うと失礼ですが、我が国と韓国は、日韓基本条約、貿
易協定、そして九八年の共同宣言を結んだ間柄であります。そういった
国の哨戒機に対してレーダー照射までしなければいけない、そうしてで
も追い払わなければいけない理由があったのではないか。
すなわち、その小さな二そうの船の中には、軽くて、かさばらなくて
、しかも値段の高いものが入っていたのか、決定的な人物が中にいたの
かと思わざるを得ない、ほとんどの国民はそう思っているのではないか
と思います。
第198回国会 参議院予算委員会 第7号 平成三十一年三月八日(金曜日
)
委員 浅田 均
外務大臣 河野 太郎
○浅田均君 考える気、考えたってもええという感じですね。
済みません、一分になってしまいました。何か進行に協力をしてしま
ったみたいで。
河野大臣、いらいらされていると思いますので、せっかくお越しいた
だいたので、麻生大臣はいてはるのが当然なのでね、わざわざお越しい
ただいたので、一問、二問質問をせぬとね。まあ、ええですわ。
韓国の徴用工訴訟についてお伺いしたいんです。
韓国の徴用工訴訟ですね、徴用工が賠償請求して、日韓請求権協定で
もうこれは片済みやと言うても、向こうの大法院が決めた。実際、日本
の会社に来て、これからどうされるんですか。
○国務大臣(河野太郎君) この旧朝鮮半島出身労働者に関する大法院
判決につきましては、日本企業に不利益が発生した場合には対抗措置を
とりたいというふうに思っております。現時点では、李洛淵国務総理が
韓国側でこの件について対応策をまとめていらっしゃるというふうに承
知をしておりますので、不利益が発生しない限り、それを待ちたいとい
うふうに思っております。
○浅田均君 国家の役割というのは国民の生命、財産を守ることだと常
におっしゃっているわけですから、この財産権の侵害、これは絶対守っ
ていただきたいということをお願い申し上げまして、質問を終わらざる
を得ないので、終わります。
第198回国会 衆議院財務金融委員会 第7号 平成三十一年三月十二日
(火曜日)
委員 丸山 穂高
財務大臣
国務大臣
(金融担当) 麻生 太郎
政府参考人
(財務省関税局長) 中江 元哉
政府参考人
(外務省大臣官房審議官)石川 浩司
○丸山委員 しっかり周知いただいて、状況を確認しながら、必要であ
れば指針を更に示していくとか、非常に大事な順番になっていくと思い
ますので、ぜひよろしくお願い申し上げたいというふうに思います。
関税、今回のを見ていますと、基本的には、しっかりやっていただき
たいなと我が党としても賛成なんですが、関税の関係で昨今気になると
ころで、ここも検討すべきじゃないかなというところが韓国の、徴用工
とは言いたくないですが、いわゆる徴用工、徴用された方々に対する訴
訟に関して、日本企業の資産を現地で差し押さえるというニュースがあ
る。それに対して、対抗措置として、国として関税の引上げを検討して
いるような記事が出ているんですけれども、これは飛ばしなのか、それ
ともしっかりそうしたものを検討されているのか、事実関係をお伺いし
たい。
同時に、もしこうした措置を適用する場合、関税を引き上げるという
のを適用する場合にはどんな手続が必要なんでしょうか。関税を見てい
て、法律上、こうした手続はないと思う、特定の国に対して関税を引き
上げるというのはないと思うんですけれども、そうした部分こそ、この
関税の改正というのは必要じゃないかな、検討するに値する部分じゃな
いかなと思うんですけれども、今回の法改正ではもちろんこういった部
分は入っていませんが、こうした部分、まずはお答えいただけますでし
ょうか。
○中江政府参考人 お答え申し上げます。
旧朝鮮半島出身労働者問題について、現在、日本政府は韓国政府に対
し、韓国による日韓請求権協定違反の状態を解決すべく、協定に基づく
協議を要請しているところと承知いたしております。
この協議要請に加えて、今後、日本政府としてどのタイミングで何を
行うかといった具体的内容については、官房長官から記者会見において
、我が方の手のうちを明らかにすることになりますので差し控えたいと
述べられているものと承知しております。
いずれにいたしましても、日本企業の正当な経済活動を保護する観点
からも、関係省庁と連携しつつ、適切に対応してまいりたいと考えてお
ります。
○丸山委員 検討するだけなら誰でもできちゃうんですね。私ですらで
きるし、逆に言えば、別に行政府じゃなくても一般の方でもできてしま
うし、もっといけば、小学生でも検討しますと言うことはできるので、
非常に聞いている方が歯がゆいですし、もっといけば、本当に検討され
ているのかなと、中身もおっしゃらないと余計考えるんですけれども。
関税を今回議論する中で、今記事に出ているような、もし関税を特定
の国に、韓国に対して対抗措置として当てるとしたら、これは関税法の
改正が要るわけですよ。少なくとも時間がかかるわけで、法改正ですか
らね、急に国会が開いていないときにできるわけがないですし、国会に
提出して議論しなきゃいけませんから非常に時間がかかるわけで、非常
に、今のを聞いているだけでも、関税一つとっても歯がゆいですし、そ
の他の対抗措置も、どう考えているのかもお述べにならないということ
は、非常に、本当に検討しているのかなというところを、聞いていらっ
しゃる皆さんは不安に思いますし疑問に思うと思うんですけれども、本
当に検討はされているんですか。それはどうなんですか。
○石川政府参考人 お答え申し上げます。
ただいま財務省からもございましたとおり、旧朝鮮半島出身労働者を
めぐる問題につきましては、現在に至るまで、韓国政府が日韓請求権協
定違反の状態を是正する具体的な措置をとらず、加えて、原告側による
差押えの動きが進んでいることは極めて深刻というふうに考えておりま
す。
我が国としては、韓国による協定違反の状態を解決すべく、韓国政府
に対して、協定に基づく協議を要請し、協議に応じるよう重ねて求めて
いるところでございまして、韓国側は当然誠意を持って協議に応じると
考えております。
この協議要請に加えまして、どのようなタイミングで何を行うかとい
った具体的な内容につきましては、我が方の手のうちを明らかにすると
いうことになるため、差し控えさせていただきたいと思います。
○丸山委員 毎回もうずっとそのお答えで、何をやっているのかなと、
お聞きになった皆さんはお思いになると思いますし、実は、慰安婦のと
きも同じことを、私、外務委員会で、あのときはちょうど岸田さんでし
たね、岸田外務大臣だったんですけれども、合意をしたという話をされ
て、本当に大丈夫ですか、慰安婦の問題も、財団をつくったけれどもこ
れは本当に解決するんですか、いつも、毎回ひっくり返っていますよと
いう話をそのときもしたんですけれども、いや、合意を守らせます、合
意を守らせますとずっと岸田大臣はおっしゃっていたんですけれども、
案の定、慰安婦の話もああいう状況になってしまった。
同様に、レーダー照射の件も、あと低空飛行の件もありますが、それ
はおいておいて、日本の企業の経済活動が損なわれる中で、しっかり対
抗措置というのは国としてはとっていかなきゃいけないし、もちろん、
こちらからあえて荒立たせることはないという気持ちもわかります、外
交がありますから。しかし、本当に聞いている皆さんは不安になると思
いますし、どんどんどんどん、韓国のいつものパターンだとやられると
思いますので、しっかり対応いただきたいとしか言えませんが、よろし
くお願いしたいと思います。
次に韓国がやってくるのは、恐らく、アメリカとか欧州の、自国だけ
じゃなくてほかの国の日本企業の、例えば今回、三菱重工業が対象にな
っていますが、彼らの、企業のほかの国にある資産を、その国の裁判所
に訴えて差押えにかかっていくというのが通常考えられると思うんです
けれども、欧州に対してやるんじゃないかみたいな話を彼らの弁護団が
既に述べています。このあたりをどのように考えられていて、どのよう
に対応されようと考えているのか、政府の見解をお聞かせください。
○石川政府参考人 お答え申し上げます。
委員がただいま御言及になりましたような、御指摘のような報道、こ
ういうことがなされていることについて我々も承知しております。また
、御指摘の、原告側はいろいろ発表していますが、その一々について政
府としてはコメントすることは差し控えたいというふうに思っておりま
す。
いずれにいたしましても、これまで政府として繰り返し申し上げてい
ますとおり、本件問題につきましては、日本企業の正当な経済活動の保
護の観点から、引き続き、関係企業と緊密に連絡をとりつつ、日本政府
としての一貫した立場に基づき、適切に対応させていただきたいと思っ
ております。
○丸山委員 きょう、関税の議論ですけれども、出てきている内容は非
常に細かい話が多くて、もちろん、それぞれの部分に関しては、関与し
ていることは非常に大事な大きな案件ですけれども、何かしら、こうい
う他国との関係で大きな影響がというのは比較的見られない案件です。
そうした中で、本当はこの関税にしてもこうした議論すべき案件がある
んですけれども、何となく政府の中では後手後手な感じのイメージを与
えてしまっているので、手のうちは明かせません、検討していますでは
説得力がありません。しっかりこれは前に進めていただきたいと思いま
すが、もう繰り返しになりそうなので聞きません。
ただ、この一連の韓国側の対応に対しては、政府側も憤りを感じてい
るのは、たびたび政府の閣僚の皆さんの御答弁を聞いていても思います
し、何かしらできないかというのは、恐らく、与党の皆さん、自民党の
中でも考えていらっしゃると思いますし、何とかしたいという思いを持
っていらっしゃる議員も多いと思うんですけれども、このあたり、本当
にそろそろ、ただ言うだけじゃなくて、しっかりと具体的に出していく
というのは、タイミングだと私は思うんですけれども、大臣、このあた
りも含めて、韓国の一連の対応等、国がどういうふうに対応していくべ
きか、大臣としてどのようにお考えになるか、お答えいただけますでし
ょうか。
○麻生国務大臣 外交の話なので外務省が所管しているところだと思い
ますが、対抗する措置というのが幾つもあるのはもう御存じのとおりな
ので、関税に限らず、送金停止とかいろいろな方法がありますので、ビ
ザの発給停止とかいろいろな報復措置があろうかと思いますけれども、
そういったものになる前のところで今交渉されているというところだと
思いますので。
私どもは与党をやっていますので、野党であおる立場じゃありません
ので、このことに関して、少なくとも、政府として、相手国のある話で
もありますので、きちんとした対応をやっていかないかぬと思っていま
すが、これ以上事が進んで実害がもっと出てきたということになってく
ると、これはまた別の段階になりますので、その段階では考えないかぬ
という、段階によって対応の仕方が変わってくるんだとは思っておりま
すけれども、いろいろなことを考えているかといえば、はい、考えてい
ます。
○丸山委員 最初の発言、いろいろな話が出ましたけれども、タイミン
グという話がありましたし、しっかり、国民の皆さんが見ていますし、
何より、韓国側も今結構センシティブなタイミングです、三・一独立運
動の百周年とか。そうですが、しかして、外交ですから、言うべきとこ
ろは言っていかないとあれだと思いますし、特にこの関税の議論をして
いるときにずっと思ったのは、そうした部分の大きな議論もなく細かい
話だけで済ませているのは非常に一人の議員としても危惧しますし、対
韓関係を見ていても気になる点なので指摘させていただきたいというふ
うに思います。
時間もなくなってきたんですが、これは質問じゃなくて、通告が時間
的に間に合わなかったのできょうはお話しかできないので、次に質問し
ようと思うんですけれども、大阪が、政令指定都市なんですが、堺市と
いうところの市長が、今、政治資金収支報告書の訂正の問題で荒れてい
るんですけれども、大きなニュースになっていまして、収支の訂正がぽ
ろぽろいっぱい出てきて、全部で二百個以上で、それが一億三千万円以
上の訂正をされるという形になるという非常に驚きの状況になっている
んです。
その市長から提出された資料をちょっと、出てきたので、きょう、ぺ
らぺら見ていてびっくりしたのは、税理士の方からそれは提出されてい
るんですけれども、タイトルは、竹山修身氏の政治団体における会計処
理に関する調査報告書というものです。
税理士の方なのに、絶対的な正確性が担保されるものじゃないとか、
あと、りそな銀行の通帳の残高証明がついているんですけれども、それ
が間違っているんだと。平成二十二年、二十五年、二十七年の額が一致
しませんが、銀行からの残高証明の誤りですと書いてあるんですけれど
も、通常の感覚で考えたら、銀行の残高証明が三年分も誤るなんて考え
られないですし、りそな銀行がまさか本当に残高証明を間違えて出した
というなら、これは銀行法上、問題だし、この委員会にも来ていただい
てしっかりりそな銀行に、どういうことだと聞いていかなきゃいけない
というふうに思っているんですが、時間ももう終わりますし、通告の関
係できょうはできませんでしたが、この話をまた次回触れさせていただ
きたいというふうに思います。
これで、時間が来ましたので終わります。ありがとうございました。
第198回国会 参議院外交防衛委員会 第3号 平成三十一年三月十二日
(火曜日)
委員 浅田 均
外務大臣 河野 太郎
○浅田均君 日本維新の会、浅田均でございます。
私は、韓国の徴用工訴訟についてお尋ねいたします。
日本政府は、賠償問題は一九六五年の日韓請求権協定で解決済みとの
お立場であります。したがいまして、韓国大法院の判決による新日鉄住
金の資産差押えを受けて請求権協定に基づく二国間協議を韓国政府に要
請しているということでありますが、これに対する韓国側の回答はどの
ようなものだったのでしょうか。外務大臣にお尋ねいたします。
○国務大臣(河野太郎君) 先般の日本側からの協議要請に対し、現時
点では韓国政府からの回答はございませんが、我々としては、韓国政府
が当然誠意を持って協議に応じるものと考えております。
○浅田均君 現時点で回答はないということですが、これ、私、こうい
うことを余り聞いたことがないので、この請求権協定というので訴訟と
か何かの場合は協議するというふうに協定書の中に書かれてあるわけで
すよね。だから、何か問題が生じた場合は協議しましょうということに
なっているのに、回答はないと。
やがて回答はあるだろうということですが、現実にもう訴訟手続とい
うかは前の方に進んでしまっているわけですよね。それでもやっぱり回
答を待たれるという基本的なお立場には変わりはないわけですね。
○国務大臣(河野太郎君) 日韓請求権協定でこの協議というものがう
たわれているわけでございますから、韓国政府として当然に協議に応じ
るものと考えております。
○浅田均君 それで、また、先般、私、予算委員会で河野大臣に質問さ
せていただいたんですが、この件に関しまして、李洛淵首相が対応策の
取りまとめに当たっているという御答弁でありました。
取りまとめの内容について報告は受けておられるんでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 李洛淵国務総理が、この問題で韓国政府の
中、取りまとめに当たっているわけでございます。外交上のやり取りの
詳細についてお答えをするのは差し控えさせていただきたいと思います
が、李洛淵国務総理にしっかりとした取りまとめ、対応策を出してきて
いただきたいというふうに思っております。
○浅田均君 取りまとめ作業に当たっているという段階で、この何か原
告団、原告側弁護団が日本にまで来て、本社に協議に応じよというよう
な話にまで進むんかというふうな疑問を持ってしまうんですが、取りま
とめ、やってます、やってますって、やるやる詐欺みたいな、やってま
す、やってますと言うてるだけなんと違うんですか。
○国務大臣(河野太郎君) 日本企業に不利益が発生する前に韓国政府
が対応をしてくれるものというふうに考えているところでございます。
李洛淵国務総理は日本のことをよく理解をされている方でございます
から、この問題が、日韓請求権協定という六五年の国交正常化以来、両
国間の法的基盤を成してきている協定であり、その法的基盤が根底から
覆されかねない出来事であるということはよく理解をいただいているわ
けでございますので、我々としては、李洛淵国務総理を中心に真摯に韓
国側が対応してくれるものと考えております。
○浅田均君 今の御答弁の中でも、大臣の発言にあったんですが、日本
企業に不利益が生じるという御発言を今もされました。
具体的にどういう事態を想定されているんでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 請求権協定に基づく協議を要請をし、我々
としては、韓国側がこの協議に誠意を持って応じてくれるものと思って
おりますが、万が一日本企業に不利益が及ぶようなことがあれば、日本
政府として対抗措置をとらざるを得なくなるわけでございます。
ただ、何をトリガーにしてどのようなことをやるかということを申し
上げるのは、こちら側の手のうちをさらけ出すことになってしまいます
ので、それについて、今、公の場で、何をトリガーにしてどういうこと
をやるかということを申し上げるのは差し控えているところでございま
すので、御理解をいただきたいと思います。
○浅田均君 私は、何が引き金になるかは聞いておりません。大臣が御
発言になっている、日本企業に不利益が生じると、不利益というものが
どういうものであると想定されているのかをお尋ねしているんです。
○国務大臣(河野太郎君) 日本企業に不利益が生じれば対抗措置をと
らざるを得ないということを常々申し上げてきておりますので、不利益
が生じるということイコールトリガーということになってしまいますの
で、その点についてのお答えを差し控えさせていただいております。
○浅田均君 分かりました。
そうしたら、不利益が生じると判断されると対抗措置と、不利益が生
じたと判断されるということをもって引き金を引くというふうに理解さ
せていただきます。
実際の話、これ、新日鉄住金を相手取った訴訟の原告側弁護士は、二
月十四日に、弁護士らが二月の十五日に東京の同社本社を訪れて協議を
要請したと、これに応じない場合は差し押さえた韓国内の資産について
売却命令を早期に裁判所に申請せざるを得ないと警告したと報道されて
います。
だから、韓国の大法院が認めて、差し押さえた新日鉄住金の差押え
物件を売却してもよいかというお伺いを裁判所に立てて、それで、了解
されたら売却すると、すなわち現金化するということだと思うんですけ
れども、これ、またあれですね、答えられませんよね。答えられないの
分かっていて聞くのもつらいんですが、質問ですので、お尋ねいたしま
す。
○国務大臣(河野太郎君) 日本政府として、日本企業の正当な経済活
動を保護するという観点から適切な対応を講ずる考えでございます。そ
のための様々な措置を検討してきているところでございます。
詳細につきましては、申し訳ございませんが、差し控えさせていただ
きたいと思いますが、しっかりとした対応ができるように努めてまいり
たいと思います。
○浅田均君 今はいいですけど、終わってから、いやいや、実はあのと
きこうやったんやという詳細をお知らせいただけたら非常に有り難いと
思います。どういう言語を使われたときはどういう作業をやっていると
いうことがこれから類推できますので、よろしくお願い申し上げます。
実際の話、これ、日本企業に不利益が生じたときをもってトリガー、
対抗措置をとるきっかけにするというふうに今おっしゃっているわけで
すが、向こうの原告側弁護団ですよね、差し押さえてそれを現金化する
と、報道ではいろいろされていますけれども、実際にそれ現金化されて
しまった時点で、大臣、総理もいつもおっしゃっております、国家の役
割というのは日本国民の生命と財産を守ることだと、その財産を守ると
いう点において、これをやられてしまうと国家の役割を果たせなかった
ということになってしまうんですが。
そういう御自覚を持っていろいろ対応されていただいているものだと
思うんですが、それにしても何かこう、レーダー照射事件始め、一方的
にやられ放題と。何か防戦一方で、こちらはまともに対応している、正
しい判断で正しい行動をしていると国民みんな思っていると思うんです
が、それに対して、何か日本はこう、何というのかな、言いがかりを付
けられ放題で、それに対して何も対抗できていないんではないかという
不満が国民の間にあると思うんですけれども、大臣はこういう国民の皆
さんの声に対してどういうメッセージを送られますか。
○国務大臣(河野太郎君) この大法院判決に関する係る問題は、先ほ
ど申し上げましたように両国の言わば法的基盤を損なう非常に大きな問
題でございますので、この問題については日本側として韓国側にしっか
りと対応することを求めてきているわけでございますし、必要ならば様
々な措置をとらなければならないというふうに考えております。
その他、先般の国会議長の発言ですとかレーダーの照射事件とか様々
ございますが、向こうが何か不適切な発言をしたからこちらも不適切な
発言をするという子供じみたことはすべきでないというふうに考えてお
りますし、また、韓国からは昨年一年間に七百五十万人を超える多くの
方が日本を訪問をしてくださっておりまして、日本側から韓国を訪問し
ている旅行者が二百五十万人を超え、両方合わせて一千万を超えるとい
う、両国の国民の交流はこれまでになく多い状況にございます。そうい
う中で、多くの方に日本に来ていただき、あるいは韓国を訪れていただ
き、両国を見ていただく、あるいはそれぞれの国民と実際に触れ合って
いただくということがこの両国の関係の強化には非常にいいことだと思
っております。
私としては、こうした国民の交流を更に強めていくということをやり
たいと思っておりまして、実は、昨年の前半、日韓両国、未来志向の関
係をつくろうということで、先方の康京和外交部長官と私と、それぞれ
有識者会議、タスクフォースを立ち上げて、日韓の未来志向の関係をい
かにつくるかという提言までいただいたところでございます。今こうい
う状況になってしまって残念ながらそこは進んでいないわけでございま
すが、両国のしっかりとした関係をつくっていく、そのためにもこの大
法院判決に係る問題、韓国側に適切に早期に対応していただきたいとい
うふうに思っております。
○浅田均君 韓国側に適切な対応を求めるということでありますが、他
方、この日韓請求権協定によりますと、これは第三条でありますが、両
国はこの協定の解釈及び実施に関する紛争は外交で解決し、まさにこの
段階だと思うんですね、今。で、解決しない場合は仲裁委員会の決定に
服するとなっております。
この三条二項で言うところの仲裁要請の公文というものを韓国政府に
発しておられるんでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 現在、協定第三条一に基づく協議を要請を
しているところでございます。今お尋ねの協定第三条二に基づく仲裁を
要請する公文を発出した事実はございません。
○浅田均君 そうしたら、ステージ、協議を求めるというステージであ
って、その次のステージで仲裁要請の公文ということになるという理解
でいいんでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) まず三条の一の、協議で解決をするという
ことになっておりまして、それにより解決することができなかった紛争
については、いずれか一方の政府が相手方に対して公文をもって仲裁を
要請するというふうに規定がされているわけでございます。
ただ、仲裁あるいは国際裁判の段階であっても、両国間が協議で問題
を解決するという可能性はあるわけでございますので、ステージが進ん
だからといって協議で問題を解決しないということにはならないわけで
ございます。
○浅田均君 ありがとうございます。次に聞こうと思っていたところま
で答えていただきまして、ありがとうございます。
それで、しつこいようでございますが、日本企業に不利益が発生した
場合というところで、何かもう既に新聞等では関税措置を講ずるという
ふうなことが書かれてありますけれども、仮に、仮にそういうことを考
えておられるのだとすれば、これは私はおやめになっていただきたいと
いうふうに思っております。
だまし討ちで、こう言うたら何かそこについて答えてくれはるん違う
かなという変なことは考えておりませんので御安心いただきたいと思う
んですが、やっぱり日本というのは貿易、自由貿易を拡大するという基
本的なスタンスでやっているわけですから、その日本が関税措置をもっ
て対抗措置とするならばそれは誤った判断だと私は思っておりますので
、ああいう報道に書かれてあることがもし事実であるとするならば方針
は変えていただきたいと思いますが、答えられないですよね。
○国務大臣(河野太郎君) 御意見は承りました。詳細についてお答え
をすることはお許しをいただきたいと思います。
第198回国会 参議院財政金融委員会 第7号 平成三十一年三月二十八
日(木曜日)
委員 藤巻 健史
財務大臣 麻生 太郎
委員 渡辺喜美
外務大臣官房参事官 田村 政美
○藤巻健史君 韓国との問題が大分混乱してきていますけれども、いわ
ゆる徴用工問題ですね、徴用された方々に対する訴訟において日本企業
の資産差押えが起こっていると思うんですけれども、それにやっぱりい
ろんな対抗処置を考えなくちゃいけないと思うんですけれども、アメリ
カが中国にやっているような関税引上げというのは一つの方法だと思う
んですよね。それを実際発動するかは別として、そういうような、うち
は、日本はそういうことだよということを示すということは韓国に対し
てもすごいプレッシャーになるかと思うんですけれども、いざというと
きにそういう法律がなければもう向こうも甘く見ちゃう、日本のことを
甘く見ちゃうと思うんで、要するに韓国を念頭にそういうような法律を
考える気があるのかどうか、大臣にお聞きしたいと思います。
○国務大臣(麻生太郎君) この旧朝鮮半島出身労働者のいわゆる問題
につきましては、これは今、日本政府が韓国政府に対して、いわゆる韓
国には、日韓請求権協定違反という状態がなっておりますので、それに
基づいて協議を要請しているというのが今の状況でありますけれども、
この協議要請に加えて、今後の対応についての対抗措置を聞いておられ
るんだと思うんですけれども、どのタイミングで何を行うかといった具
体的な内容というものにつきましては、これは手のうち明らかにするよ
うな話になりますので、これは差し控えさせていただきます。
今関税局長が答弁したように、この現行の関税関連法というのは、こ
れは御存じのようにWTO等々の国際ルールというものに沿って整備を
されているものですから、別途の措置を講ずる場合ということになりま
すと、これは対外的に効果、影響、様々な問題を考えて検討する必要が
あるというのは確かだと思いますので、これはどのようなものをやりま
すか、これはいろいろ検討が進められているのは事実ですけれども、そ
の内容についてここで述べることは差し控えさせていただきます。
○藤巻健史君 手口を明らかにするというのはおっしゃるとおりだと思
うんですけれども、ここに、法律に、日本の法律に例えばスペシファイ
、ある国をスペシファイして関税を上げるというようなことが書いてい
ないということは、我が国では関税を引き上げるという政策は今現在で
は取れませんよという手口を明らかにしちゃうようなことじゃないかと
思うんですよね。国際問題に関しても、アメリカでそういう法律がある
以上、日本も同じような法律を早めに作って用意しておくのがいいんじ
ゃないかなと思います。これは感想ですけど、一応感想を述べさせてい
ただきました。
------
○渡辺喜美君 自由貿易を国是とする我が国が報復関税を検討せざるを
得ないという状況になったんですね。恐らくこんな事態は初めてだろう
と思いますよ。お隣の韓国、文在寅政権は相当特異なイデオロギーを持
っている政権であります。御案内のように、反日統一思想とでもいうべ
き革新的イデオロギーに基づいて、慰安婦問題はちゃぶ台返しをする、
レーダー照射の事後対応しかり、そして、司法権の独立と言いながら実
際の独立はない徴用工問題しかりであります。
麻生大臣が、ついせんだって、衆議院の財金で、恐らくアドリブだ
とは思いますが、政治家としての御答弁をされた。非常にこれは効き目
があったと思いますね。問題は、その実効性が問われて足下を見透かさ
れないようにしていくことが大事であります。
人、物、金、こうした流れの中で、例えば今、韓国は非常に経済が苦
しい。学生さんは就活が大変なんですね。日本と真逆ですよ。そういう
中で、例えば日本に就活に来る学生がいる。麻生大臣の御答弁にもあり
ましたが、ビザの発給を制限する、こういうことは可能ですか。
○政府参考人(田村政美君) お答え申し上げます。
委員御指摘の韓国人を対象とする査証につきましては、現在、一般旅
券を所持する韓国人は、九十日以内の短期滞在の目的により日本に入国
しようとする場合に査証免除の対象となっております。
我が国としましては、韓国による日韓請求権協定違反の状態を解決す
べく、韓国政府に対し協定に基づく協議を要請し、協議に応じるよう重
ねて求めているところでございます。韓国側は、当然誠意を持って協議
に応じるものと考えております。この協議に加えまして、どのタイミン
グで何を行うかといった具体的な内容につきましては、我が方の手のう
ちを明かすことになるため、お答えを差し控えさせていただきたいと思
います。
いずれにしましても、日本企業の正当な経済活動の保護の観点からも
、国際裁判や対抗措置も含め、あらゆる選択肢を視野に入れて適切に対
応していく考えでございます。
○渡辺喜美君 誠意を持って対応してくれるとおっしゃいましたけれど
も、革新的イデオロギーを持った政権ですから、そんな甘い考えを持た
ない方がよろしいと思いますよ。
続いて、物でありますが、例えばフッ化水素をサムソンが半導体の洗
浄に使うんだといって申請してきたら、これは拒むことはまず無理でし
ょうね。一方、北朝鮮は、米朝首脳会談が失敗に終わったことを受けて
、また元の路線に行きつつある。北のミサイルは、一番の難関がヘッド
ですよ。ヘッドの部分は特殊な素材が使われておるわけですね。日本は
そういう素材を作る技術は持っている。
もし、こういうのが韓国経由で入っていったらどうするんですか。そ
こまで審査、ちゃんとやっていますか。
○政府参考人(飯田陽一君) お答えいたします。
ただいま御指摘のございました大量破壊兵器等に転用のおそれのある
貨物の扱いでございますけれども、この輸出につきましては、現在、外
国為替及び外国貿易法に基づきまして、経済産業大臣の許可が必要とい
うことになってございます。
許可申請が出た場合の取扱いでございますが、これは一般論でござい
ますけれども、個別の取引ごとに審査を行いまして輸出許可の是非を判
断するということになるわけでございます。
○渡辺喜美君 とにかく膨大な数の審査をやっておる。ところが、こう
いういまだかつて想定していない事態が発生しているわけですから、こ
れは余り甘く考えない方がいいですよ。この政権は今までの政権とはか
なり違います、文在寅政権はね。
一番手っ取り早くできそうなのが金ですよ。麻生大臣も、送金停止と
かという具体的なところに言及しておられます。現行ルールで可能です
か。
○政府参考人(武内良樹君) お答え申し上げます。
外為法第十六条第一項では、条約等国際約束の誠実な履行、国際平和
のための国際的な努力や我が国の平和及び安全の維持を要件として、送
金を含む支払について許可制とすることは可能とされております。
ただ、韓国への対抗措置については、政府としてあらゆる選択肢を視
野に入れて適切に対応していく考えでございますが、どのタイミングで
何を行うのかといった具体的な内容については現段階では明らかにでき
ないことを御理解いただきたいと思います。
○渡辺喜美君 とにかく、足下を見透かされないことが大事なんですよ
。アドリブとはいえ、大臣が国会で発言しておられるんですから、この
ことは非常に重いですよ。これは事務方としても心して掛かっていただ
きたい。
それから、直接投資、今、事後の届出制になっておりますが、これを
事前規制に変更して、内容の変更、中止を求めるということは可能です
か。
○政府参考人(武内良樹君) お答え申し上げます。
現行の外為法は、対外取引を原則自由としつつ、我が国経済の円滑な
運営、国際的な平和及び安全、公の秩序の維持の観点から、漁業、皮革
等の製造業、武器、麻薬等の製造業等、一定の業種に対する対外直接投
資について財務大臣への審査付事前届出義務を課しており、財務大臣は
、必要がある場合には投資の変更、又は中止の勧告、命令を行うことが
可能とされております。
御指摘のように特定の国に対する投資をすべからく事前審査に付する
ことにつきましては、特定の観点から特定の業種を指定していく現行法
の基本的な考え方とは大きく異なるところでございますが、韓国との関
係でどのようなタイミングで何を行うかについては、具体的な内容につ
いて現段階では明らかにできないことを御理解いただけたらと思ってお
ります。
○渡辺喜美君 現行ルールでは非常に難しい、ハードルがあるというこ
となんですね。
そうすると、先ほども議論があったように、関税法改正というのはか
なりハードルが高い。どうですか、大臣、こうした議論を踏まえて、大
臣の口から出た話でありますから、もう一度御答弁をお願いします。
○国務大臣(麻生太郎君) それこそ手のうちを明かすことになるの極
みですな、今のお話は。
ですから、そういった意味では、先ほど申し上げましたように、この
間申し上げましたように、こういったようなものが考えられるというこ
とだけ相手に認識してもらっておかなきゃいかぬところは確か。いざや
るということになったら、そういう状況になったら、そのときに対応さ
せていただきたいと存じます。
○渡辺喜美君 とにかく、実行可能なんだというメッセージを出してい
く必要があるんですよ。
日本には、古来、言霊信仰という信仰があるんですね。口から出た言
葉には魂が宿る。この魂の宿った言葉が国民の心にすとんと落ちれば非
常にハッピーになるという思想ですね。ところが、この言葉に魂がこも
っていないということになりますと言葉が空中浮遊してしまう。実行可
能なんだという魂を入れた検討をやっていただきたいと思います。
以上、終わります。
第198回国会 衆議院外務委員会 第7号 平成三十一年四月十二日(金曜
日)午前九時一分開議
【発言順】
委員 佐々木 紀
政府参考人
(外務省大臣官房参事官)安藤 俊英
○佐々木(紀)委員 これもやはりちょっと理解に苦しむんですよね。
こちらが建てかえしたいのでお願いしますと申請を出しておいて、わか
りました、では、建てていいですよと許可をもらって、いろいろ検討し
ておって期限が来たから、それもちょっと説明としては何か理解に苦し
むというか、もし明確にそこに何らかの意思があれば、はっきりと申し
上げるべきだと思うんですよね。
やはり今後、今から少し質疑を続けていきますけれども、元徴用工の
訴訟のこともあります、本当に、韓国との問題というのは、やはり毅然
と言うべきときに物事を言っていかないと、これはずるずるずるといっ
て結果的に変なことになりますので、ぜひそういった厳しい姿勢で対応
することを求めていきたいというふうに思います。
そこで、続いての新聞記事、新聞記事ばかりで恐縮ですけれども、徴
用工訴訟、近く差押申請、こんなような記事も最近多く見かけるわけで
ございます。元徴用工や元女子勤労挺身隊らが原告の訴訟で、日本企業
、三菱重工や新日鉄住金、現の日本製鉄でありますけれども、不二越に
対して資産差押えの動きが相次いでおります。
この確定判決がどのような形で出ているのか、あるいは、資産の差押
えの状況について御説明いただきたいと思います。
○安藤政府参考人 お答え申し上げます。
まず、訴訟の状況でございますけれども、韓国大法院は、昨年十月三
十日、日本製鉄に対し、慰謝料の支払い等を命じる判決を言い渡しまし
た。また、昨年十一月二十九日には、三菱重工に対して同様の判決を二
件言い渡しております。不二越に対する一連の訴訟につきましては、い
まだ確定判決は出ておりませんけれども、本年一月十八日、二十三日及
び三十日に、それぞれ第二審判決が出された状況と承知しております。
次に、資産差押えの現状でございます。
これらの訴訟について、原告側による各日本企業の資産差押えの動き
が進んでいると承知しております。
例えば、日本製鉄につきましては、原告側による資産差押えに関する
通知が日本企業側になされております。また、三菱重工につきましても
、確定判決に基づく資産差押えが、不二越につきましては、第二審判決
に基づく資産差押えの仮執行、これを原告側弁護団がそれぞれ発表して
いるというふうに承知しております。
○佐々木(紀)委員 確定判決が出たのは二社、そして、資産差押えが
もう既にされているというのが三社あるということです。
それに対して、では、日本政府はどのような対応をしてきたのかなと
いうふうに思うんです。繰り返し、韓国政府が日韓請求権協定違反の状
態を是正する具体的な措置をとっていないから大変遺憾ですみたいな、
こんなことを都度発表しておいでですけれども、やはりそろそろ何らか
の対抗措置を考えないといけない時期に来ているのではないか、そのよ
うに思うわけでもございます。
これは本当にこのままの状況ですと、どんどんどんどんこんなような
状況が助長されて、どんどん悪化をしていくのではないかなというふう
に懸念をされているところでもございます。
例えば、五日の新聞記事ですけれども、徴用工訴訟、今後も続出とか
、元徴用工八件追加提訴、新たに日本コークスも対象、こうなっている
んです。つまり、遺憾の意を発表してはいるんだけれども、何の措置も
していないから、どんどんどんどん向こうはちょっと調子に乗っている
んじゃないかなというふうに思うんです。
追加提訴のこの話も、中身を見ると、もう既に確定判決が出た、出た
にもかかわらず、また更に同様の原告を探して追加提訴をしているわけ
なんですよね。今回は遺族まで引っ張り出してきてやっているんです。
こんなことをしたら、いつ、どんな形で終わるのか全然見えてこないわ
けなんですよね。
したがって、そろそろ対抗措置を講じないと、これはどんどん日本企
業に損害というか、これは何も損害は発生していないんじゃないかみた
いなことも言う人もいますけれども、決してそうではないですよね。訴
訟対応するだけでもこれはリスクですし、資産の差押えももう既にされ
ているわけで、資産を動かせないわけですから、これは事実上もう損害
が発生していると言ってもいいんだなというふうに思います。
そこで、対抗措置をとるべきではないか、あるいは、その対抗措置に
ついて検討状況、どのような内容で、いつされるつもりなのか、その辺
についてお伺いしたいと思います。
○安藤政府参考人 お答え申し上げます。
委員御指摘のとおり、旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題につきまし
ては、現在に至るまで、韓国政府が日韓請求権協定違反の状態を是正す
る具体的な措置をとらず、加えて、原告側による差押えの動きが進んで
いることは極めて深刻と考えております。
我が国といたしましては、韓国による協定違反の状態を解決すべく、
韓国政府に対し、協定に基づく協議を要請し、協議に応じるよう重ねて
求めているところであり、韓国側は当然誠意を持って協議に応じるもの
と考えております。
この協議要請に加えて、どのタイミングで何を行うかといった具体的
な内容につきましては、政府内でさまざま検討しているところでありま
すけれども、我が方の手のうちを明らかにすることになるため、差し控
えさせていただきたいと思います。
それから、議員御指摘のとおり、日本企業の正当な経済活動の保護の
観点からも、国際裁判、対抗措置を含め、あらゆる選択肢を視野に入れ
て適切に対応してまいりたい、このように考えております。
○佐々木(紀)委員 もうそろそろその時期が来ていますから、しっか
り準備して、速やかに対抗措置をとっていただきたいというふうに思い
ます。
実際、今回のこの元徴用工の訴訟のことだけじゃなくて、これまでも
さまざまなことをやられているわけですよね。竹島に韓国の国会議員が
たびたび上陸したりとか、その周辺に海洋調査船を出したりとか、和解
・癒やし財団を一方的に解散したり、国際観艦式でのこともございまし
たし、火器管制レーダーの照射というのもありました。最近は、新札を
出すというと、それにまで何かいちゃもんをつけているわけですから、
本当にもう暴挙を繰り返しているわけなんです。これは国家間の合意も
常識も国際法も全部踏みにじる姿勢ですよ。これは、もう既に僕は機が
熟しているというふうに思います。ぜひ、この対抗措置を速やかにとる
ようにお願いをしたいというふうに思います。
ですから、先ほどの大使館の話も、何か手続上こんなことになってい
ますと言っていますけれども、これはやはり明らかに、大使館の前の少
女像、これを撤去しない限り、国際儀礼上無礼な状況を改善しないから
我々は建設しないんですよと、私はこれははっきり言うべきだと思いま
す。やはり、しっかりその都度その都度言って、対抗措置をとっていか
ないと、これはずるずるずるずると来ますから、下手すると日本がこれ
を容認しているみたいな話にまでなってくると、これは本当に困るわけ
なんです。しっかり国益に基づいた対応をとっていただきたいと思いま
す。
もうG20もすぐそこまで来ているわけでありますから、韓国の大統領
もお越しになるんだというふうに思います。こんな状況で来られるのも
、来られる方も本当に、何というか、つらいというか恥ずかしいという
状況だと思うので、速やかに対抗措置をとるなりし、この幕引きを図っ
ていただきたい、しっかりと毅然とした対応をしていただきたい、その
ように申し上げておきたいというふうに思います。
第198回国会 衆議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会 第3号 平
成三十一年四月二十四日(水曜日)
委員 丸山 穂高
外務大臣 河野 太郎
○丸山委員 大臣、どこかのぶら下がりか記者会見かわかりませんが、
二国間協議の呼びかけの話をされていましたが、一方で、G20が近づい
ていますので、そこでの日韓首脳会談は取りやめるかもしれないみたい
な記事も出ていて、このあたり、非常に気になるところなんですが、一
方で、韓国とはもうほかにもいろいろややこしい案件を、問題を抱えて
いまして、いわゆる徴用工、戦時中の朝鮮半島出身の労働者の件でも日
本企業は差し押さえられていますし、韓国に対する対応措置をどうする
かという話も、財金委でも麻生大臣と随分やったんですけれども、そう
いった意味では、一回冷却化するために、もう交渉をしない方がいいん
じゃないかという意見もあるわけです。でも一方で、二国間協議、そし
てG20に向けて日韓の首脳会談をどうするかという話題も出ていますが
、こうした二国間協議やG20での首脳会談については前向きにやられる
んでしょうか。いかがなんですか。
○河野国務大臣 G20は、まあG20と言っていますけれども、実際には
二十七カ国、それプラスさまざまな国際機関のトップがいらっしゃるわ
けで、時間的にも非常に制約があり、議長国ということもありますから
、総理のバイ会談のスロットというのが幾つとれるかというのはまだ確
定をしておりません。そういう意味で、G20でさまざまなバイの会談を
どうするかということは何も決まっていないというのが現実でございま
す。
日韓関係、委員おっしゃるように、さまざま難しい問題はございま
すけれども、まずは請求権協定の仕組みにのっとって、我々としてしっ
かりと韓国に請求権協定の中での協議ということを持ちかけております
し、当然に誠意を持って韓国側はそれに応ずると思っておりますので、
まず、請求権協定の中でしっかりと問題の解決を目指してまいりたいと
いうふうに考えております。
○丸山委員 もし、今回のをあえて前向きに捉えるとしたら、上級審の
動きが、まあ今回の動きが韓国に対して確定したわけで、これを分析し
ていろいろ日本はまだ水産物をほかの国にも、地域も含めると二十三カ
国ですかね、とめられているわけですよ。こうしたところへの提訴も含
めて、次の戦略としては具体的には考えていかなきゃいけないと思うん
ですけれども、こうした他の国に対する対応も前向きに考えていかない
と今回のは覆らないわけですから、言われてしまうわけだと思うんです
けれども、このあたりについてはどうお考えですか。
○河野国務大臣 当然に、WTOの提訴も含め、それぞれの国、地域に
対する働きかけの戦略というのを今考えているところでございまして、
外務省の中でのレビューが終わり次第、どうするか具体的に動いていき
たいというふうに思っております。
○丸山委員 ぜひ今回の、まあ私は失敗だと思いますけれども、これを
受けてしっかりと他の国についても対応をやっていただきたいというふ
うに思います。そこで必ずかち取って、それを前に進めるというのが非
常に大事なツールだと思いますので。
もう一つ大事なツールとしては、ちょっと長期化するかもしれません
が、先ほどWTOの不満を大臣もおっしゃいましたけれども、これは日
本もお金を出しているわけで、しっかりこれに対しておかしいことはお
かしいと言わなきゃいけませんし、特に、二審で終わっちゃって、これ
を差し戻す制度もありませんし、こうした意味では、これはしっかり訴
えていかなきゃいけないと思うんですけれども、こうしたWTO自体の
改革について、大臣、どう進められますか。
○河野国務大臣 WTOについて、差戻しができないとか、あるいはW
TOの中でどうも時代に合っていないよねという部分もございますし、
通報義務について余り機能していないのではないかというようなさまざ
まな論点がありますので、アメリカ、ヨーロッパを始め、このWTO改
革について、さまざまな国が今問題意識を持っているところでございま
す。
我が国としても、きちんとWTOの改革の必要なところは主張し、問
題提起をしていきたいというふうに思っております。
○丸山委員 ぜひそうした部分のロビーイングを前に進めていただきた
いですし、やはりこの上級審のメンバーにも入れ込んでいくというのは
非常に大事な部分だと思いますので、ぜひよろしくお願いします。
第198回国会 参議院外交防衛委員会 第14号 令和元年五月十六日(木
曜日)
委員 浅田均
外務大臣 河野 太郎
○浅田均君 それでは、日韓関係について河野大臣にお尋ねいたします
。
先般、韓国の李洛淵首相が徴用工問題の解決に関して、司法手続が進
む中で政府が対策を立てるのは限界があるというのが結論と発言されて
おります。G20首脳会議の前に政府見解を出すのは困難だと公で発言さ
れておるわけでありますが、外務大臣は徴用工問題についてこれから解
決に向けてどのように話を持っていかれようとされているのか、お尋ね
いたします。
○国務大臣(河野太郎君) この旧朝鮮半島出身労働者をめぐる問題に
つきましては、現在、日韓請求権協定に基づきまして韓国政府に協議の
要請をしているところでございます。
私としては、韓国政府がこの協議を受け入れて速やかに協議を始める
ことができるのではないかと期待をしているところでございますが、こ
の問題は韓国側で韓国政府が責任を持って対応されるべきものというふ
うに考えておりますので、日本企業に実害が出ないように韓国政府が対
応するものと考えておりますが、万が一そうでない場合には、日本政府
として必要な措置をとらざるを得ないというふうに考えているところで
ございます。
李洛淵国務院総理がこれまでこの問題に対応してこられたというふう
に私も認識をしておりますが、やや先日の発言については困惑をしてい
るところでございますが、私としては、これはもう日韓両国の国交の法
的基盤を損ないかねない事態でございますから、韓国政府の責任者とし
てそのようなことに発展しないようにしっかりと対応してくださるもの
と信じております。
○浅田均君 外務大臣が私と同じような御認識をお持ちだということを
知りまして安心しましたが、これからも取組の方をよろしくお願い申し
上げまして、また続きは次回質問させていただくということで、今回は
これで終わらせていただきます。ありがとうございました。
第198回国会 参議院決算委員会 第7号 令和元年五月二十日(月曜日
)
委員 古賀之士
外務大臣 河野 太郎
委員 浜口誠
外務大臣官房審議官 石川 浩司
○古賀之士君 そういった日韓関係の重要性を改めて認識した上で、今
度は河野外務大臣にお伺いをいたします。
先ほども質問があったかと思いますが、これについては通告をしてい
ない、今日の出来事でございますが、報道によりますと、韓国最高裁の
日本企業に徴用工への賠償を命じた判決をめぐって、一九六五年の日韓
請求権協定に基づいての仲裁委員会の設置を求める方針という報道がな
されておりますけれども、現状での見通し、そして見解を、是非、河野
外務大臣からお願いします。
○国務大臣(河野太郎君) 一月に請求権協定に基づく協議の申入れを
いたしました。それから四か月たつわけでございますが、韓国側は李洛
淵総理がこの問題の責任者として対応を検討されているということでご
ざいましたので、我々としては、韓国側が何らかの対応をしっかりして
くれる、そういうふうにも考えていたわけでございます。しかし、先般
、李洛淵総理が、政府の対応には限界があるというような御発言があり
ましたものですから、我が方としては、残念ながら、請求権協定に基づ
く仲裁に進まなければならないという判断をした次第でございまして、
今日の午前中に仲裁付託をしたことの通告を韓国側にしたところでござ
います。
この問題は日韓両国の言わば国交の法的基盤でございますので、それ
を損なうことがないように、韓国側としてはこの仲裁にしっかり応じて
いただきたいというふうに思っているところでございます。
-----
○浜口誠君 まあどうなるかまだ分からないので、なかなかすっきりと
御答弁できないお立場がにじみ出ておりましたが、やっぱりしっかりと
これ検討していく必要があると思いますし、予算も百二兆円という大規
模な予算を組んでいるんですから、その実態というのをちゃんと踏まえ
て、いろんな判断を的確に正確に慎重にやっていただきたいなというふ
うに思っております。
続きまして、元徴用工の件に。
今日、僕、元々しようと思っていたんですよ。しようと思っていて、
で、今日のニュース、うちの古賀委員もそうですし、松下委員の方から
も徴用工の仲裁委員会の設置と。僕の質問の中にも、第三者、第三国を
入れた仲裁の場を設ける次の一手を打つ必要があるんじゃないかという
ことを聞こうと思ったら、その答えがもう今日の外務省の動きの中で出
てきたということなので、そこの点はあえて聞きませんけれども。
そもそも論ですけれども、この韓国の旧徴用工の皆さんの最高裁判決
、一九六五年に日韓の請求権協定が締結されて、この請求権協定に対し
てのやっぱり締結内容を覆す、そういう判決だというふうに私は理解し
ているんですけれども、日本政府の見解と、なぜ韓国がこういった、最
高裁の判決とはいえ判決に至ったのか、そのことを韓国政府はどう受け
止めているのか、この辺の両政府の見解についてまずはお伺いしたいと
思います。
○政府参考人(石川浩司君) お答え申し上げます。
委員御指摘の、昨年の韓国大法院による一連の判決は、日韓請求権協
定に明らかに反しまして、日本企業に対し不当な不利益を負わせるもの
であるばかりか、一九六五年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協
力関係の法的基盤を根本から覆すものというふうに認識しております。
これらの判決に対する韓国政府の見解についてお尋ねでございますが
、我が国として韓国政府の見解について有権的に説明する立場にはござ
いませんが、我が国としては、韓国政府に対して、国際法違反の状態を
是正することを含め適切な措置を講ずることを求めてまいりたいと思っ
ております。
○浜口誠君 一方で、韓国の原告代理人は、韓国国内の訴えられている
日本企業の資産を差押えをして、それを現金化する手続にもう既に入っ
ていると。そういう背景もあって、仲裁委員会を今回設置しないといけ
ないという、そういう御判断にも至っているのではないかなというふう
には思っておりますけれども、実際訴えられている日本側の企業に対し
ての実害とか不利益、これ生ずる可能性があるというふうに認識してお
いた方がいいんでしょうか。その点はいかがですか。
○政府参考人(石川浩司君) お答え申し上げます。
委員御指摘のとおり、現在、本件につきまして原告側による差押え等
の動きが進んでいるというのはそのとおりでございまして、また、先般
、五月一日でございますが、原告側が発表のとおり、今後、差押資産の
売却に向けた手続が進められ、日本企業の資産が不当に売却される事態
となれば、我が国として断じて受け入れられず、政府としては事態を一
層深刻に捉えております。
その上で、日本企業への実害の具体的内容について現時点で予断を持
ってお答えすることは差し控えさせていただきたいと思います。
○浜口誠君 ちょっとこれは、今から聞くのは、先週の木曜日の段階で
は今日の仲裁委員会を要請するということは分かっていなかったので聞
きますけれども、今度、仲裁委員会を韓国側に今日開催を要請したとい
うことですけれども、この仲裁委員会が設けられれば、日本企業への実
害、不利益、これは回避ができるという認識でよろしいでしょうか。こ
れは、大臣、いかがですか。
○国務大臣(河野太郎君) この旧朝鮮半島出身労働者に関する韓国の
大法院判決というのは、日韓両国の国交正常化以来の最も根本的な法的
基盤を著しく損傷する、ダメージを与えるものでございますから、韓国
政府も当然にそうしたことは認識をされているというふうに考えており
ます。
我々としては、韓国政府が責任を持って日本企業に対する実害が及ば
ないような対策を取ってくれると信じてきたわけでございますが、先般
、その責任者でありました李洛淵総理が政府の対応に限界があるという
ような発言をされたことに我々は大変驚いておりまして、今まで協議を
要請してずっと待ってきたわけでございますが、ここできちんと仲裁の
プロセスに入っていきたいというふうに思っておりますので、こうした
仲裁のプロセス、あるいは必要ならば国際的な手法に訴えて、日本企業
に対する実害が及ばないようにきちんと対応を取っていきたいというふ
うに考えているところでございます。
○浜口誠君 是非、最後に河野大臣言われましたけれども、日本企業に
実害が及ばないように、これはもう政府としてしっかりとした対応をや
っていただくのはこれ当然だというふうに思っておりますので、韓国と
の間でしっかりそういう和解のプロセスが図られるように全力を尽くし
ていただくことをお願い申し上げ、質問を終わります。
ありがとうございました。
第198回国会 参議院外交防衛委員会 第16号 令和元年五月二十八日(
火曜日)
委員 浅田均
外務大臣 河野 太郎
外務大臣官房審議官 岡野 正敬
○浅田均君 日本維新の会、浅田均でございます。
ただいま議題となっております五つの条約、協定に関しましては、我
が方は自由貿易圏の拡大が日本にとっては必要だという立場でございま
すので、いずれも賛成であるという旨申し上げておきます。
それから、続いて、引き続きの質問なんですが、徴用工問題について
、先ほどもちょっと質問がありましたけれども、質問をさせていただき
たいと思います。
問題を整理しておきますと、これは一月に日韓請求権協定に基づく協
議要請をされたと。一月に協議要請をされて、それから四か月以上返事
がなかったということで次の段階に入られて、五月二十日に請求権協定
に基づく仲裁委員会への付託を通告されたということであります。これ
に対して、韓国側は、仲裁委員会の開催要求を保留している、すなわち
仲裁委員もまだ選んでいないということでありますが、これで間違いな
いんでしょうか。
それと、もし韓国側がこの仲裁委員会の開催要求に同意しなかった場
合、今後我が国はどのような手続を取るのか、併せて外務大臣にお答え
いただきたいと思います。
○国務大臣(河野太郎君) 仲裁委員の選任はたしか三十日以内という
ことでございますので、韓国側は今検討されているんだろうというふう
に思います。また、請求権協定に基づく仲裁の付託はいたしましたけれ
ども、その間に韓国側が請求権協定にのっとった対応策をきちんと出し
ていただければ大きく問題解決に前進をするわけでございますので、仲
裁の付託はいたしましたが、韓国側ではしっかりと文在寅大統領中心に
対応策を御検討いただけるのではないかというふうに考えているところ
でございます。
○浅田均君 協議要請をされて四か月間待たれたと。今回は、仲裁委員
会へ付託を通告して三十日以内に仲裁委員を選ぶか、あるいは請求権協
定にのっとって文在寅大統領あるいは李洛淵首相が適切な対応を取られ
るということを期待されておるわけでありますので、同意しなかった場
合どうするのかというのはちょっと答えにくいという答弁になろうかと
思いますけれども、それを承知であえて、どのような手続を取られるん
ですか、もし向こうが仲裁委員会に乗ってこなかった場合。
○国務大臣(河野太郎君) 請求権協定に基づく協議をお願いをしたわ
けでございますが、先方、李洛淵総理が中心となって対応策の検討をし
ているということでございましたので、我が方としてはその対応策を待
ちたいと思っていたわけでございます。
しかし、先般、今月の半ばに李洛淵総理が政府の対応には限界がある
というような御発言を公でされましたものですから、残念ながらこれ以
上待っていても対応がなされないという判断をして、まず協議から仲裁
に移行したところでございます。李洛淵総理が対応に限界があると、こ
うおっしゃる以上、韓国側はトップの文在寅大統領の下で検討していた
だかなければならないんだろうというふうに思っているところでござい
ます。
また、この仲裁申立て後の期間がたった場合については、我が方とし
て手のうちを明かすということは公では差し控えたいというふうに思っ
ているところでございます。
○浅田均君 我が方はどう対応するかというのは差し控えたいと、答え
ることは差し控えたいということでありますので、あえてもう一回お尋
ねしますけれども、日本にとってどういう選択肢があるんでしょうか。
三十日以内に韓国が仲裁委員を指名しない、乗ってこないという場合に
、日本としてどういう次のステップとして選択肢があるのか、お答えい
ただけませんか。
○国務大臣(河野太郎君) 様々な選択肢があろうかと思います。それ
は、国際司法の場で解決を図るということも当然その中には含まれるん
だろうというふうに思います。
○浅田均君 様々な対応、選択肢があって、そのうちの一つとして今I
CJのことも御発言いただきましたけれども、このICJの手続も、こ
れ韓国の同意がないと実現しないわけですよね。なかなか、今までのや
り取りを外側から見ていますと、向こうの主張は非常にかたくなである
というふうに私どもは受け止めるわけです。
それで、河野大臣、これからどういうふうにされていくのか、非常に
大変な問題であるというのは承知しておりますけれども、それをちょっ
と聞かせていただいて、私どもも安心するのか、あるいはこれからもっ
とこういうふうにされた方がいいんではないですかというふうに提言す
るとかしたいと思っておりますので、ICJへ行く可能性が高いという
ふうにお考えでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 御提案があればいつでも承りたいというふ
うに思っておりますが、我が方がどのようなことを考えているかという
のを公で申し上げるというのは、こちら側の手のうちさらしてゲームを
することになりかねないわけでございますので、それは差し控えたいと
思います。
○浅田均君 それは、外務大臣おっしゃること非常によく分かるんです
が、韓国政府としてそういう発言はないんですが、この日韓請求権協定
あるいはこの徴用工のような問題に関して調べていくと、一番問題にな
ると思われるのが、柳井条約局長の一九九一年八月の発言というところ
になると思います。それで、もちろん韓国側政府もこれをよく理解して
いた上でいろんな作戦を講じているんだと思います。
それで、皆さん方にその一九九一年八月の当時の柳井条約局長の請求
権に関する協定に関しての御発言を紹介しておきますと、柳井条約局長
は参議院の予算委員会で次のように御発言になっているわけであります
。「いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終
かつ完全に解決したわけでございます。」、これは河野大臣あるいは安
倍総理の御発言と一致するところでありますが、その次に、「その意味
するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそ
れぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれど
も、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放
棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求
権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません
。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げるこ
とはできない、こういう意味でございます。」というふうに答弁されて
おりまして、ここをこれからついてくると思うんですね。
これ、もう一度、この九一年の当時の柳井条約局長発言に関しての外
務省の御認識、御見解を伺っておきたいんですが。
○政府参考人(岡野正敬君) 個人の請求権を含め、日韓間の財産請求
権の問題は、日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済
みであるというのが日本政府の一貫した立場でございます。
具体的には、日韓両国は、ただいま申し上げました請求権協定第二条
一項で、請求権の問題は完全かつ最終的に解決されたものであることを
明示的に確認しております。それとともに、第二条三項で、一方の締約
国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての請求権に関
していかなる主張もすることはできないとしていることから、一切の個
人の請求権は法的に救済されないものというのが政府の理解でございま
す。
その結果、我が国及び韓国並びにその国民の間の請求権の問題につい
ては、日韓請求権・経済協力協定により、韓国及びその国民の請求権に
基づく請求に応ずべき日本及び日本国民の法律上の義務が消滅している
と、その結果、救済が否定されることになるということで、法的に解決
済みになっているというのが政府の一貫した立場でございます。
柳井答弁について御指摘がございましたが、当時の答弁は、そのやり
取りの中での文脈の中で、国際法上の概念である外交的保護権との関係
でどういうふうにして整理されるべきかという議論の中で説明があった
ものと理解しております。
○浅田均君 確認ですが、外交保護権の行使としては取り上げることは
できないと。だから、外国で何か損害を受けた人が訴えた場合、国がそ
れを言わば応援することはできないということを言われているだけであ
って、個人が請求することに関してノータッチであるよというふうに言
われたにすぎないというふうに私どもは受け止めるんですが、間違いな
いですか。
○政府参考人(岡野正敬君) 国と国との間の関係で外交保護権はどう
いうことかということになりますと、先ほど申し上げたとおりでござい
ます。
実際、今御指摘がありましたように、ある国が他方の国に対して訴え
ることができるかどうかということでございますけれども、請求権協定
の第二条一項及び第二条三項の規定を読めば明確に分かることは、日本
及び日本国民が相手方の請求に応ずべき義務というのは消滅していると
いうのが我々の協定の解釈でございます。
○浅田均君 それで、外交、国と国の間はそういう解釈が成り立つと思
うんですけれども、それは必ずしも個人が請求することを禁じていると
いうことではないというふうに受け止められるので、今回のこういう状
況に至っていると思うんですね。
だから、これから仲裁委員会あるいはICJへ進む可能性もあります
けれども、そういうところをついてこられると思いますので、国として
もどういう対応を取られるのか、これは注目していくしかないんですけ
れども、そういうところをついてくるということを肝に銘じて、河野大
臣あるいは所管、担当の方々におかれましては対応をよろしくお願いい
たします。これから非常に重要な問題であって、これがうまくいかない
と、どんどんほかのところに波及しますので、対応方よろしくお願い申
し上げます。