特定外来生物フイリマングースの根絶宣言2024年09月04日 12:58

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【桃源寸評】

 ☞ 奄美大島にフイリマングースが持ち込まれた際、十分な生態調査が行われなかった理由は、当時の生態系管理や外来種対策に関する知識や意識が不足していたことが大きい。

 理由

 1.知識の不足: 1970年代は、外来種が生態系に与える影響についての科学的理解が現代ほど進んでいなかった。そのため、外来種を導入する際に、十分な生態調査や影響評価が行われないことがあった。

 2.ハブ対策への焦り: 当時、ハブによる被害を減らすため、短期的な解決策としてマングースの導入が選ばれたが、ハブが夜行性であるのに対し、マングースは日中に活動するため、実際には効果がなかった。このような対策は、急を要する問題への対処として行われたため、生態系全体への影響が十分に考慮されなかった可能性がある。

 3.長期的視点の欠如: 短期的な解決策としての導入であったため、長期的な影響についての予測が行われず、マングースが繁殖して在来種に与える影響が過小評価されたと考えられる。
 
 理不尽な視点について

 マングースにとって、導入され、結果的に根絶されるという運命は確かに理不尽に思えるかもしれない。しかし、この問題の根源は人間の活動にある。人間の都合で生態系に持ち込まれた結果、マングース自身もまた、その生態系の中で不要な存在となってしまったのである。現在では、こうした誤りが二度と起こらないよう、外来種の導入には厳格な管理と評価が求められている。

 ☞ 人間が他の生命を殺して食べることに関して、さまざまな倫理的、宗教的、哲学的な議論がある。以下にいくつかの視点を紹介する。

 1.自然の循環: 一部の考え方では、人間も自然の一部であり、他の動物と同様に生態系の一部として生きるために他の生命を摂取するのは自然の一環とされている。捕食者が獲物を食べるように、人間も動物を食べることで生命を維持し、エネルギーを得ている。

 2.倫理的な視点: 倫理学では、動物の権利や苦しみの軽減を重視する立場がある。この視点からは、動物を殺すことが正当化されるのは、可能な限り苦痛を与えずに行う場合や、動物が持つ権利を尊重した場合に限られると考えられる。

 3.文化的・宗教的背景: 多くの文化や宗教には、動物を殺して食べることに関する独自の規範や儀式があるす。例えば、イスラム教やユダヤ教にはハラールやコーシャといった特定の食事規定があり、動物の殺し方に厳しいルールが定められている。

 4.人間中心主義: この考え方では、人間は他の動物よりも優位に立つ存在であり、食物連鎖の頂点にいるため、他の生命を利用する権利があると考えられている。この視点では、人間が他の生命を殺して食べることは自然であり、必要とされる行為と見なされる。

 5.持続可能性と共生: 近年では、持続可能な資源利用と他の生命との共生を重視する動きがある。ここでは、環境に与える影響や動物の福祉を考慮しつつ、人間が必要とする栄養を得るためにどのような選択が最善であるかが問われる。

 結局のところ、他の生命を殺すことの「権限」がどのように正当化されるかは、個々の信念、文化、倫理的価値観によって異なる。

 ☞ しかし、他の生命体に対する配慮があるのとないのでは重要な差が出てこよう。

 ☞ 天敵のフイリマングースが根絶されると、ハブやネズミなどが…。
 又候、何やらの生き物を根絶する羽目になるかも。
 つまり、鼬ごっこである。

 根絶宣言か…、<背筋が寒くなる>。

【寸評 完】

【概要】

 2024年9月3日(火)、奄美大島除菌事業の検討会議において、2023年度末までの対策の結果を有識者から評価された。科学的な評価に基づき、外来種である小型のインドマングースは奄美大島から根絶されたと結論付けました。

環境省は、関係機関からの意見も踏まえ、この評価に同意しました。その結果、同省は、小さなインドマングースが奄美大島から根絶されたことを公式に宣言しました。

 小さなインドマングースについて

 小さなインドマングース(Herpestes javanicus)は、中東から中国南部、南アジアまでの広い地域に自生する肉食哺乳類です。オスは体長が約60cm、メスは50cm前後と、ニホンイタチより少し大きい。彼らは主に、バッタやコオロギなどの昆虫から、カエル、げっ歯類、ウサギなどの小さな脊椎動物まで、さまざまな動物を捕食する。

 2000年、奄美大島のマングースの生息数は10,000頭と推定され、奄美ウサギや琉球オオネズミなどの在来種に大きな影響を与えた。この脅威により、この小型のインドマングースは、2005年に日本の外来生物保護法により侵入種に指定された。

 導入と制御の歴史

 マングースは1910年に沖縄に導入され、野生に定着した。1979年頃、沖縄から奄美大島に約30羽のマングースが持ち込まれ、名瀬市周辺に放たれた。人口が増えるにつれ、農業や家畜の被害が明らかになり、1993年から地方自治体が捕獲を開始するようになった。

 1996年から環境省(当時は環境庁)と鹿児島県が4年間のモデルプロジェクトを開始し、捕獲方法の検討・開発を進めた。このプロジェクトでは、アマノウサギのような在来種の分布が著しく減少し、マングースの蔓延と相関していることが明らかになった。これを受けて、2000年に環境省と鹿児島県を巻き込んだ、より包括的な根絶計画が打ち出された。

 根絶の取り組み

 当初は、島全体での罠猟を集中的に行う必要があった。2005年に「アマミマングースバスターズ」と呼ばれる専門チームが結成された。彼らは島全体に30,000以上のトラップと300台の自動カメラを設置し、特別に訓練されたマングース探知犬を使用し、アクセスが困難な地域で殺鼠剤を使用した。彼らの絶え間ない努力により、マングースの個体数は大幅に減少し、最後に捕獲された個体は2018年4月に確認された。この捕獲から約6年間、マングースの存在の証拠は、罠、カメラ、または探知犬を通じて検出されなかった。

 根絶の評価

 根絶が完全であることを確認するために、根絶の確率を計算するために、収穫ベースモデル(HBM)と迅速根絶評価(REA)の2つのモデルが開発されました。2023年度末までに、これらのモデルでは、抹殺の確率をそれぞれ99.7%と98.9%と推定しました。これらの結果に基づき、専門家や環境省は、マングースの根絶を宣言することが適切であると判断した。

 グローバルな意義と将来のインプリケーション

 奄美大島以前は、マングースの個体群を根絶することに成功した島は世界で9つだけで、最大の島はファジュー島(115ヘクタール)でした。奄美大島での71,200ヘクタールに及ぶ撲滅は、生物多様性の保全における世界的な大きな成果を示している。アマミノクロウサギや数匹の両生類などの在来種の回復が記録されており、根絶の取り組みが生態学的にプラスの影響を与えていることがさらに強調されている。

 奄美大島市による小型のインドマングースの根絶に成功したことは、国内外の将来の外来種制御の取り組みにとって貴重なケーススタディとなる。しかし、同様の問題を防ぐためには、侵入種を侵入させない、放出させない、拡散させないという3つの基本原則を守ることが重要である。

【詳細】
 
 背景と経緯

 フイリマングースとは

 フイリマングース(学名: Herpestes javanicus)は、食肉目マングース科に属する哺乳類で、主に中東から南アジア、中国南部にかけての広い範囲に生息している。この動物は全長がオスで約60cm、メスで約50cmと、ニホンイタチより少し大きい程度の体格を持っている。繁殖期は奄美大島では主に3月から9月にかけてで、年に一度、2頭から7頭の子を産む。

 フイリマングースは、草食や昆虫食だけでなく、小型の無脊椎動物(バッタやコオロギなど)から、脊椎動物(カエルやネズミ、ウサギなど)まで幅広い動物を捕食する。そのため、奄美大島における希少な在来動物、例えばアマミノクロウサギやケナガネズミに大きな影響を与えた。2000年には奄美大島のフイリマングースの個体数が推定1万頭に達し、その生態系に重大なダメージを与えていた。こうした理由から、2005年には「特定外来生物による生態系に係る被害の防止に関する法律」(外来生物法)に基づいて、フイリマングースは特定外来生物に指定された。

 奄美大島への侵入と影響

 フイリマングースが奄美大島に持ち込まれたのは1979年頃で、沖縄島から30頭程度が持ち込まれ、名瀬市朝仁赤崎周辺に放獣された。この導入により、マングースは急速に分布を拡大し、農業や畜産業に被害をもたらした。地元の市町村は1993年からマングースの捕獲を開始し、環境庁(現・環境省)および鹿児島県は1996年から4年間にわたり、分布や個体数の調査および捕獲手法の検討を進めた。

 このモデル事業の結果、マングースの分布拡大と同時に、アマミノクロウサギなど多くの在来種がその生息域を縮小していることが明らかになり、早急な対策が求められるようになった。そのため、2000年から環境庁と鹿児島県は防除事業を開始し、2001年以降は環境省単独で実施されるようになった。

 防除対策の強化と組織的な取り組み

 初期の防除活動では、道路沿いでの捕獲のみではマングースの分布域を縮小させるには不十分であることが判明した。これを受けて、林内を含むより広範な地域にわなを設置するなど、より綿密な対策が必要とされた。

 2005年に外来生物法が施行され、フイリマングースが特定外来生物に指定されたことを契機に、環境省は「奄美マングースバスターズ」というプロフェッショナルな防除チームを結成した。このチームは、島全域にわたり3万個以上のわなと300台以上の自動撮影カメラを設置・管理した。また、マングース探索犬を導入し、特に対策が困難な地域では殺鼠剤を利用した方法も実施した。

 さらに、捕獲わなの改良や探索犬とハンドラーの連携による新たな個体捕獲手法の開発など、あらゆる手段を駆使して防除活動を進めてきた。このような地道な努力が実を結び、2018年4月に最後の1頭が捕獲されて以降、約6年間にわたりマングースの生息が確認されていなかった。

 根絶の判断と科学的評価

 根絶確率の算出

 マングースの根絶を確実にするためには、捕獲数がゼロになった後も、引き続き捕獲・探索の努力を続けることが重要である。マングースの根絶確率を評価するために、エリアベースの根絶確率算出モデル(HBM: Harvest-based Model)と個体ベースの根絶確率算出モデル(REA: Rapid Eradication Assessment)という2つのモデルが考案された。

 2023年度末までの防除作業のデータを基に、HBMで99.7%、REAで98.9%という高い根絶確率が示された。これらの結果を踏まえ、環境省は関係機関との協議の上で、2024年9月3日にフイリマングースが奄美大島から根絶されたことを公式に宣言した。

 根絶の意義と今後の展望

 世界的な意義

 奄美大島でのフイリマングースの根絶は、世界的に見ても非常に重要な成果である。これまでにマングースが根絶された島は世界に9島のみであり、その中でも奄美大島は、面積が71,200ヘクタールと、これまでの最大規模の島での根絶成功事例である。この成果は、奄美大島の生物多様性保全において重要な意味を持つ。

 防除活動の結果、アマミノクロウサギやアマミハナサキガエル、オットンガエル、アマミイシカワガエルなどの在来種の回復が確認され、さらにオオトラツグミやアマミヤマシギなど多くの種で生息域が改善されたことが報告されている。これらの成果は、奄美大島が2021年7月に世界遺産に登録されたことにも貢献している。

 持続的な防除の重要性

 奄美大島における成功事例は、今後の国内外での外来種対策の参考となるだろう。特に、侵略的外来種の根絶を目指す際には、その生態を十分に理解し、分布域全体をカバーする防除作業が必要である。また、再度の侵入を防ぐため、外来種被害予防三原則「入れない・捨てない・拡げない」を徹底することが求められる。

 このような長期間にわたる組織的かつ科学的な取り組みにより、奄美大島の生態系は大きく改善され、未来に向けた貴重な教訓が得られた。

【要点】

 ・フイリマングースの概要: フイリマングースはアジアを原産とする食肉目の哺乳類で、広範な動物を捕食する。
 ・奄美大島への侵入: 1979年頃に沖縄島から奄美大島に持ち込まれ、名瀬市周辺に放獣された。
 ・在来種への影響: マングースの急速な分布拡大により、アマミノクロウサギなど希少な在来種が生息域を縮小し、大きな生態系の被害が発生。
 ・防除対策の開始: 1993年から地元自治体が捕獲を開始し、2000年以降は環境庁(現・環境省)が防除事業を実施。
 ・特定外来生物指定: 2005年に外来生物法施行に伴い、フイリマングースが特定外来生物に指定される。
 ・「奄美マングースバスターズ」結成: プロフェッショナルな防除チームが結成され、島全域でのわな設置や探索犬の導入など、包括的な防除活動が行われた。
 ・防除活動の成果: 2018年4月に最後のマングースが捕獲され、約6年間にわたり生息確認がなくなった。
 ・根絶確率の評価: 2023年度末のデータを基に、2つのモデルで根絶確率が99%以上と評価される。
 ・根絶宣言: 2024年9月3日、環境省が公式に奄美大島からのフイリマングース根絶を宣言。
 ・根絶の意義: 世界最大規模の島でのマングース根絶成功事例であり、奄美大島の生物多様性保全に大きな貢献。
 ・今後の課題: 再侵入を防ぐため、外来種被害予防三原則「入れない・捨てない・拡げない」の徹底が求められる。

【参考】

 ☞ 「フイリマングース」と「インドマングース」は、実際には同じ種を指している場合があるが、呼び方が異なる理由にはいくつかの背景がある。

 1. 「フイリマングース」とは

 ・名称の由来: 「フイリマングース」という名称は、特に日本において、体に縞模様(フイリ)があることから名付けられたと言われている。ただし、この名称がインドマングース(Herpestes javanicus:一般的にインドマングース(Indian mongoose)として知られる)の特定の個体や亜種を指す場合もあるが、実際には同じ種であっても地域や文脈により異なる呼び方がされることがある。

 2. 「インドマングース」という名称の使用

 ・広く認識された名称: 「インドマングース」は、英語での「Indian Mongoose」に由来し、国際的にも広く知られている名称である。原産地であるインドやその近隣地域に由来するため、この名称が使われる。
 ・学術的な理由: 学術的な分類や国際的な文脈では、一般的に「インドマングース」の名称が使われることが多い。日本国内でも、特に外来種問題に関連して言及される場合には、この名称が用いられることが多い。

 3. 環境省が「フイリマングース」と呼ぶ理由

 ・地域特有の呼称: 日本国内での外来種対策や啓発活動において、地域の住民にとって親しみやすい名称や、特定の外見的特徴に基づく名称を使用することがある。「フイリマングース」は、そうした背景で使用されている可能性がある。
 ・誤解を避けるための使用: 「インドマングース」という名称は、別の種(Herpestes edwardsii:一般的にエドワードマングース(Edwards's mongoose)として知られている)を指すこともあるため、混乱を避けるために日本国内では「フイリマングース」という呼び方を使って区別している場合もある。

 4. 結論

 名称の選択: インドマングースとフイリマングースの名称の使い分けは、文脈や地域、そして対象とする読者に応じて行われている。環境省は、地域に特化した問題に取り組む際に、「フイリマングース」という名称を使用することで、住民への理解を促進しようとしていると考えられる。一方で、学術的または国際的な文脈では「インドマングース」という名称が広く認識されている。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

奄美大島における特定外来生物フイリマングースの根絶の宣言について 環境省 2024.09.03
https://www.env.go.jp/press/press_03661.html

奄美のマングース 環境省「根絶」宣言 希少種捕食で駆除 中日新聞 2024.09.04

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