ラブロフ:TASS通信との年末インタビュー ― 2025年01月07日 18:31
【概要】
ロシア外相セルゲイ・ラブロフはTASS通信との年末インタビューにおいて、2024年の主要な出来事とそれが2025年に与える影響について述べた。このインタビューではウクライナ紛争の進展や、西アジア、アジア太平洋地域における国際情勢について触れられた。
ラブロフは冒頭で、ドナルド・トランプ前大統領が報じられているように紛争の凍結を提案したり、ウクライナのNATO加盟を延期したり、西側の平和維持部隊を派遣するという計画について否定的な見解を示した。また、プーチン大統領が「特別軍事作戦」を終了させるための条件として提示した事項を改めて強調した。これには、紛争の根本的な原因を解消する法的拘束力のある合意が含まれている。
トランプ政権下で米露関係が改善する可能性については懐疑的な姿勢を示し、トランプが米国の二大政党によるロシア封じ込め政策に逆らわなければならない状況を指摘した。また、ウクライナのゼレンスキー大統領が失地回復の困難を認めたことについても言及し、実際の行動に反映されていないと批判した。
次に、ジョージアにおける「カラー革命」に関連する西側の政策について質問された際には、同国が「西側につくか否か」という二者択一の立場に追い込まれていることを非難した。さらに、ジョージアとの関係を正常化する用意があることを表明し、この外交的努力が進展すれば広範囲な影響を及ぼす可能性があると述べた。
シリア情勢に関しては、米国の制裁がアサド政権の国民生活改善を阻害し、結果的に失望を招いたことを指摘した。また、アサド政権が政治的反対派や近隣諸国(特にトルコ)との建設的な対話を進められていないことを批判した。
さらに、西アジアの状況については、未解決のイスラエル・パレスチナ問題がレバノンからイエメンに至る「暴力の弧」を形成していると述べ、イランとイスラエル間の緊張にも深刻な懸念を示した。ロシアが仲介役としての役割を果たす用意があることも改めて強調した。
アジア太平洋地域に関する話題では、北朝鮮との関係発展を進めるロシアの権利を主張するとともに、米国が台湾を通じて中国封じ込めのモデルを進めていると警告した。これがアジア太平洋地域の不安定化を招くリスクがあるとし、中国の領土保全を強く支持する姿勢を明確にした。
このインタビュー全体を通じて、新たな情報は少なかったが、2024年の重要な出来事を整理し、それが2025年に与える影響を示唆している。ウクライナ紛争の終結とそれに伴う政治的合意は、新冷戦の戦略的ダイナミクスを決定づける重要な要因となる。ラブロフの発言からは、ロシアが最大限の目標達成を目指しつつも、現実的な妥協がなされる可能性があることが読み取れる。
トランプ政権がこの紛争をどのように解決しようとしているかについては依然として不明であるが、ラブロフはウクライナの中立化というロシアの核心的利益を譲らない姿勢を示している。西アジアにおいては、ロシアが依然として重要な外交的プレイヤーであり、アジア太平洋地域においても軍事的な影響力を保っている。
ウクライナ紛争の結果次第では、ロシアがエネルギーを軸にEUとの部分的な関係改善を図り、中国への依存度を減らすシナリオも考えられる。一方で、目標を達成できなかった場合、中国に資源を安価で供給せざるを得なくなる可能性があり、その場合、ロシアの戦略的選択肢が制約される恐れがある。
トランプ政権がロシアの最大目標の一部でも達成を許容することは、米中対立において有利な立場を築くためにも重要である。ラブロフのインタビューは、ロシアが基本的立場を維持しつつも、現実的な選択肢を模索していることを示している。
【詳細】
ロシア外務大臣セルゲイ・ラブロフが2024年末にTASS通信とのインタビューで述べた内容を分析し、2025年における国際政治の展望を論じている。このインタビューでは、ウクライナ紛争の進展、グローバルな冷戦構造の変化、地域的な安全保障問題、そしてアジア太平洋地域の動向について多岐にわたる発言がなされている。
以下、具体的なポイントを解説する。
ウクライナ紛争とその戦略的影響
ラブロフは、ウクライナ紛争が2025年の国際政治において最も重要な問題であり、その終結が新冷戦の戦略的力学を大きく左右すると指摘している。彼は、アメリカのドナルド・トランプ前大統領が報道で述べた、紛争を凍結し、ウクライナのNATO加盟を遅らせ、西側の平和維持軍を派遣するという計画に反対し、プーチン大統領が掲げた「特別軍事作戦」の終了条件を再確認した。ロシアは、紛争の根本原因を解決する法的拘束力のある合意を求めている。
また、トランプ政権下でのロシア・アメリカ関係の改善については悲観的な見解を示した。ラブロフは、トランプがロシアをウクライナを通じて封じ込めようとするアメリカ国内の超党派的な合意に逆らわざるを得ない点を挙げている。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領が失地回復の困難を認めたことについても懐疑的であり、その目標が「勝利計画」に依然として盛り込まれていることを指摘した。
ジョージア(グルジア)との関係
ラブロフは、西側がジョージアに「西側か、それ以外か」という二者択一を迫っていると批判した。一方で、ジョージアが関係正常化に前向きであればロシアもそれを受け入れる用意があると述べた。この外交路線の進展は、カフカス地域における影響力を巡る今後の動きに重要な影響を与える可能性がある。
シリア問題と中東の安定
シリアに関しては、アメリカの制裁がアサド政権の経済改善を阻み、国民の失望を深めていると指摘した。また、アサド政権が政治的な反対勢力やトルコなど近隣諸国と建設的な対話を構築できていないことを批判した。中東全体については、イスラエル・パレスチナ問題の未解決が「暴力の弧」を形成し、レバノンからイエメンに至るまでの地域不安定化に繋がっていると述べた。
アジア太平洋地域と台湾問題
アジア太平洋については、アメリカが台湾を通じて中国を封じ込めようとしていることを批判した。ラブロフは、これはウクライナモデルの複製であり、地域の不安定化を引き起こすと警告した。同時に、ロシアが北朝鮮との関係を発展させる権利を強調し、中国の領土一体性への支持を改めて表明した。
総括
ラブロフのインタビューは、過去1年間の重要な出来事を総括し、それが2025年に与える可能性のある影響を予測するものであった。特に、ウクライナ紛争の行方が新冷戦の戦略的力学を大きく左右する点を強調している。ラブロフは、ロシアがこの紛争で最大限の目標を達成するために取り組んでいることを示唆しつつ、現実的な妥協が必要になる可能性も排除しなかった。
また、西側の圧力が続く中、ロシアが中国への依存を深めるシナリオを避けるため、エネルギーを基軸としたロシアとEUの部分的な和解が重要であると論じられた。このシナリオは、ロシアがより多面的な外交戦略を展開し、中国との過度な経済的依存を回避する手段として期待されている。
ラブロフの発言は、ロシアがウクライナでの中立的地位の回復、ジョージアとの関係正常化、中東における外交的影響力の維持、そしてアジア太平洋地域における軍事的存在感の確保を目指していることを示している。
【要点】
1.ウクライナ紛争
・ウクライナ紛争は2025年の国際政治で最重要課題であると述べた。
・プーチン大統領の「特別軍事作戦」終了条件として法的拘束力のある合意を求めている。
・トランプ前大統領による和平提案(紛争凍結や平和維持軍派遣)に反対。
・アメリカ国内のロシア封じ込め政策により、ロシア・アメリカ関係の改善は困難と指摘。
2.ジョージア(グルジア)との関係
・西側がジョージアに二者択一を迫っていると批判。
・ジョージアが関係正常化に前向きであればロシアも応じる意向を示した。
3.シリアと中東
・アメリカの制裁がシリアの経済改善を阻害していると批判。
・シリアのアサド政権が政治的対話を構築できていない点を問題視。
・イスラエル・パレスチナ問題の未解決が中東全体の不安定化を助長していると指摘。
4.アジア太平洋地域
・アメリカが台湾を通じて中国を封じ込めようとしていると非難。
・台湾問題はウクライナモデルの再現を狙ったものと警告。
・ロシアは北朝鮮との関係深化や中国の領土一体性への支持を明言。
5.ロシアの戦略的展望
・ウクライナ紛争の行方が新冷戦の力学に大きな影響を与えると強調。
・エネルギーを軸にEUとの部分的な和解を模索し、中国への過度な依存を回避する意向を示唆。
・ロシアは多面的な外交を展開し、地域的および国際的な影響力を維持する方針。
【引用・参照・底本】
Reviewing Lavrov’s Year-End Interview With TASS Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.07
https://korybko.substack.com/p/reviewing-lavrovs-year-end-interview?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=154316817&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
ロシア外相セルゲイ・ラブロフはTASS通信との年末インタビューにおいて、2024年の主要な出来事とそれが2025年に与える影響について述べた。このインタビューではウクライナ紛争の進展や、西アジア、アジア太平洋地域における国際情勢について触れられた。
ラブロフは冒頭で、ドナルド・トランプ前大統領が報じられているように紛争の凍結を提案したり、ウクライナのNATO加盟を延期したり、西側の平和維持部隊を派遣するという計画について否定的な見解を示した。また、プーチン大統領が「特別軍事作戦」を終了させるための条件として提示した事項を改めて強調した。これには、紛争の根本的な原因を解消する法的拘束力のある合意が含まれている。
トランプ政権下で米露関係が改善する可能性については懐疑的な姿勢を示し、トランプが米国の二大政党によるロシア封じ込め政策に逆らわなければならない状況を指摘した。また、ウクライナのゼレンスキー大統領が失地回復の困難を認めたことについても言及し、実際の行動に反映されていないと批判した。
次に、ジョージアにおける「カラー革命」に関連する西側の政策について質問された際には、同国が「西側につくか否か」という二者択一の立場に追い込まれていることを非難した。さらに、ジョージアとの関係を正常化する用意があることを表明し、この外交的努力が進展すれば広範囲な影響を及ぼす可能性があると述べた。
シリア情勢に関しては、米国の制裁がアサド政権の国民生活改善を阻害し、結果的に失望を招いたことを指摘した。また、アサド政権が政治的反対派や近隣諸国(特にトルコ)との建設的な対話を進められていないことを批判した。
さらに、西アジアの状況については、未解決のイスラエル・パレスチナ問題がレバノンからイエメンに至る「暴力の弧」を形成していると述べ、イランとイスラエル間の緊張にも深刻な懸念を示した。ロシアが仲介役としての役割を果たす用意があることも改めて強調した。
アジア太平洋地域に関する話題では、北朝鮮との関係発展を進めるロシアの権利を主張するとともに、米国が台湾を通じて中国封じ込めのモデルを進めていると警告した。これがアジア太平洋地域の不安定化を招くリスクがあるとし、中国の領土保全を強く支持する姿勢を明確にした。
このインタビュー全体を通じて、新たな情報は少なかったが、2024年の重要な出来事を整理し、それが2025年に与える影響を示唆している。ウクライナ紛争の終結とそれに伴う政治的合意は、新冷戦の戦略的ダイナミクスを決定づける重要な要因となる。ラブロフの発言からは、ロシアが最大限の目標達成を目指しつつも、現実的な妥協がなされる可能性があることが読み取れる。
トランプ政権がこの紛争をどのように解決しようとしているかについては依然として不明であるが、ラブロフはウクライナの中立化というロシアの核心的利益を譲らない姿勢を示している。西アジアにおいては、ロシアが依然として重要な外交的プレイヤーであり、アジア太平洋地域においても軍事的な影響力を保っている。
ウクライナ紛争の結果次第では、ロシアがエネルギーを軸にEUとの部分的な関係改善を図り、中国への依存度を減らすシナリオも考えられる。一方で、目標を達成できなかった場合、中国に資源を安価で供給せざるを得なくなる可能性があり、その場合、ロシアの戦略的選択肢が制約される恐れがある。
トランプ政権がロシアの最大目標の一部でも達成を許容することは、米中対立において有利な立場を築くためにも重要である。ラブロフのインタビューは、ロシアが基本的立場を維持しつつも、現実的な選択肢を模索していることを示している。
【詳細】
ロシア外務大臣セルゲイ・ラブロフが2024年末にTASS通信とのインタビューで述べた内容を分析し、2025年における国際政治の展望を論じている。このインタビューでは、ウクライナ紛争の進展、グローバルな冷戦構造の変化、地域的な安全保障問題、そしてアジア太平洋地域の動向について多岐にわたる発言がなされている。
以下、具体的なポイントを解説する。
ウクライナ紛争とその戦略的影響
ラブロフは、ウクライナ紛争が2025年の国際政治において最も重要な問題であり、その終結が新冷戦の戦略的力学を大きく左右すると指摘している。彼は、アメリカのドナルド・トランプ前大統領が報道で述べた、紛争を凍結し、ウクライナのNATO加盟を遅らせ、西側の平和維持軍を派遣するという計画に反対し、プーチン大統領が掲げた「特別軍事作戦」の終了条件を再確認した。ロシアは、紛争の根本原因を解決する法的拘束力のある合意を求めている。
また、トランプ政権下でのロシア・アメリカ関係の改善については悲観的な見解を示した。ラブロフは、トランプがロシアをウクライナを通じて封じ込めようとするアメリカ国内の超党派的な合意に逆らわざるを得ない点を挙げている。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領が失地回復の困難を認めたことについても懐疑的であり、その目標が「勝利計画」に依然として盛り込まれていることを指摘した。
ジョージア(グルジア)との関係
ラブロフは、西側がジョージアに「西側か、それ以外か」という二者択一を迫っていると批判した。一方で、ジョージアが関係正常化に前向きであればロシアもそれを受け入れる用意があると述べた。この外交路線の進展は、カフカス地域における影響力を巡る今後の動きに重要な影響を与える可能性がある。
シリア問題と中東の安定
シリアに関しては、アメリカの制裁がアサド政権の経済改善を阻み、国民の失望を深めていると指摘した。また、アサド政権が政治的な反対勢力やトルコなど近隣諸国と建設的な対話を構築できていないことを批判した。中東全体については、イスラエル・パレスチナ問題の未解決が「暴力の弧」を形成し、レバノンからイエメンに至るまでの地域不安定化に繋がっていると述べた。
アジア太平洋地域と台湾問題
アジア太平洋については、アメリカが台湾を通じて中国を封じ込めようとしていることを批判した。ラブロフは、これはウクライナモデルの複製であり、地域の不安定化を引き起こすと警告した。同時に、ロシアが北朝鮮との関係を発展させる権利を強調し、中国の領土一体性への支持を改めて表明した。
総括
ラブロフのインタビューは、過去1年間の重要な出来事を総括し、それが2025年に与える可能性のある影響を予測するものであった。特に、ウクライナ紛争の行方が新冷戦の戦略的力学を大きく左右する点を強調している。ラブロフは、ロシアがこの紛争で最大限の目標を達成するために取り組んでいることを示唆しつつ、現実的な妥協が必要になる可能性も排除しなかった。
また、西側の圧力が続く中、ロシアが中国への依存を深めるシナリオを避けるため、エネルギーを基軸としたロシアとEUの部分的な和解が重要であると論じられた。このシナリオは、ロシアがより多面的な外交戦略を展開し、中国との過度な経済的依存を回避する手段として期待されている。
ラブロフの発言は、ロシアがウクライナでの中立的地位の回復、ジョージアとの関係正常化、中東における外交的影響力の維持、そしてアジア太平洋地域における軍事的存在感の確保を目指していることを示している。
【要点】
1.ウクライナ紛争
・ウクライナ紛争は2025年の国際政治で最重要課題であると述べた。
・プーチン大統領の「特別軍事作戦」終了条件として法的拘束力のある合意を求めている。
・トランプ前大統領による和平提案(紛争凍結や平和維持軍派遣)に反対。
・アメリカ国内のロシア封じ込め政策により、ロシア・アメリカ関係の改善は困難と指摘。
2.ジョージア(グルジア)との関係
・西側がジョージアに二者択一を迫っていると批判。
・ジョージアが関係正常化に前向きであればロシアも応じる意向を示した。
3.シリアと中東
・アメリカの制裁がシリアの経済改善を阻害していると批判。
・シリアのアサド政権が政治的対話を構築できていない点を問題視。
・イスラエル・パレスチナ問題の未解決が中東全体の不安定化を助長していると指摘。
4.アジア太平洋地域
・アメリカが台湾を通じて中国を封じ込めようとしていると非難。
・台湾問題はウクライナモデルの再現を狙ったものと警告。
・ロシアは北朝鮮との関係深化や中国の領土一体性への支持を明言。
5.ロシアの戦略的展望
・ウクライナ紛争の行方が新冷戦の力学に大きな影響を与えると強調。
・エネルギーを軸にEUとの部分的な和解を模索し、中国への過度な依存を回避する意向を示唆。
・ロシアは多面的な外交を展開し、地域的および国際的な影響力を維持する方針。
【引用・参照・底本】
Reviewing Lavrov’s Year-End Interview With TASS Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.07
https://korybko.substack.com/p/reviewing-lavrovs-year-end-interview?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=154316817&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email