米国通商代表部(USTR):2025年版「国家貿易推定(NTE)」報告書2025年04月01日 22:39

Microsoft Designerで作成
【概要】

 米国通商代表部(USTR)は3月31日、2025年版「国家貿易推定(NTE)」報告書をトランプ大統領と議会に提出した。この報告書は、米国の輸出業者が直面する貿易障壁と、それを削減するためのUSTRの取り組みを詳細に記載したものであるとされている。

 この報告書では、オーストラリア、韓国、中国、欧州連合(EU)、カナダを含む複数の国の政策が貿易障壁として指摘されている。

 オーストラリアに関しては、同国の医薬品産業、生物安全保障措置、ソーシャルメディア企業にニュース使用料の支払いを義務付ける法律が問題視されている。これに対し、オーストラリアのアルバニージー首相は「生物安全保障制度を損なうことはない」と述べ、これらの措置は交渉対象外であると明言した。

 韓国については、報告書が21項目の非関税障壁を指摘している。これには、30カ月齢以上の牛からの米国産牛肉製品に対する制限、デジタル貿易に関する規制(ネットワーク使用料、オンラインプラットフォーム事業者に対する規制提案、位置情報データの輸出制限など)が含まれる。韓国の産業通商資源部は、報告書の内容を精査し対応策を検討するとしている。

 中国に対しては、「政府の指導や規制支援により、中国企業を優遇しつつ、輸入品、外国製造業者、外国のサービス提供者の市場参入を制限している」と主張している。これに対し、中国のシンクタンク「中国とグローバル化センター」の上級研究員であるHe Weiwen氏は、「中国の産業補助金政策は世界貿易機関(WTO)の規則に厳格に従っており、WTOが定義する禁止補助金は存在しない」と指摘し、米国の主張を否定した。また、米国自身も産業補助金を広範囲に使用しており、「アメリカ・ファースト」政策は世界の貿易規範を損なっていると述べた。

 EUについては、「米国の製品やサービスは、EU市場への参入と維持において依然として障壁に直面しており、米国の労働者と企業が大西洋横断貿易の恩恵を受ける機会を制限されている」と報告書が主張している。

 カナダに関しては、乳製品、鶏肉、七面鳥、卵産業における供給管理制度が米国産品の輸出拡大を著しく制限していると批判されている。

 中国国際貿易学会の上級研究員であるLi Yong氏は、「この報告書は、米国が世界各国に対して予定している相互関税を正当化するための道具にすぎない」と指摘し、「米国の視点と基準のみに基づいており、客観的な現実とは乖離している。保護主義に根差したものだ」と述べた。

 米国は4月2日を期限として「相互関税(reciprocal tariffs)」を導入する予定であり、これは各国が米国製品に課している関税率と同率の関税を米国が外国製品に適用するというものである。

 中国商務部(MOFCOM)は2月20日の記者会見で、「米国が関税を武器として他国を威圧することをやめるよう求める。貿易戦争は無意味であり、勝者を生まない」との立場を表明している。

【詳細】

 米国通商代表部(USTR)による2025年版「国家貿易推定(NTE)」報告書と各国の反応

 1. 米国通商代表部(USTR)の報告書の概要

 米国通商代表部(USTR)は3月31日、2025年版「国家貿易推定(NTE)」報告書をトランプ大統領と米議会に提出した。この報告書は、米国の輸出業者が直面しているとされる貿易障壁を詳細に記載し、それらの削減に向けたUSTRの取り組みを説明するものである。

 この報告書は、米国の貿易相手国の政策や規制を「貿易障壁」として列挙しており、特にオーストラリア、韓国、中国、欧州連合(EU)、カナダなどが批判の対象となっている。

 今回の報告書の発表は、米国が4月2日に予定している「相互関税(reciprocal tariffs)」の導入と密接に関連している。相互関税とは、各国が米国製品に課している関税率に応じて、米国がその国からの輸入品に対して同じ率の関税を課す措置である。

 2. 各国に対する主な指摘事項

 (1) オーストラリアに対する批判

 USTRの報告書は、オーストラリアの以下の3つの分野を貿易障壁として問題視している。

 ・ニュース・メディア交渉規則(News Media Bargaining Code)

  ⇨ オーストラリア政府は、GoogleやFacebookなどのソーシャルメディア企業に対し、ニュースコンテンツの使用に関する対価をメディア企業に支払うことを義務付けている。この措置が、米国のテクノロジー企業にとって不利益であると指摘されている。

 ・医薬品産業(Pharmaceutical Industry)

  ⇨ オーストラリアの医薬品価格の規制が、米国の製薬会社にとって不利な状況を生んでいると批判されている。

 ・生物安全保障措置(Biosecurity Protections)

  ⇨ オーストラリアの厳格な生物安全保障規制が、米国の農産品輸出に影響を与えているとされる。

 これに対し、オーストラリアのアルバニージー首相は、「生物安全保障制度を損なうことはない」と述べ、これらの政策については譲歩しない姿勢を示した。

 (2) 韓国に対する批判

 USTRの報告書は、韓国に関して21の非関税障壁を指摘している。その中でも特に問題視されたのは以下の点である。

 ・農産品の検疫規制(Sanitary and Phytosanitary Barriers)

  ⇨ 30カ月齢以上の牛からの米国産牛肉製品に対する輸入制限が課されている。

 ・デジタル貿易に関する規制(Digital Trade Barriers)

  ⇨ ネットワーク使用料の徴収

  ⇨ オンラインプラットフォーム事業者に対する規制提案

  ⇨ 位置情報データの輸出制限

 韓国政府は報告書の内容を詳細に分析し、対応策を検討する方針を示している。また、米国との関税交渉も継続する予定である。

 (3) 中国に対する批判

 USTRは報告書の中で、中国について次のような点を問題視している。

 ・産業補助金と市場アクセスの制限

  ⇨ 中国政府が国内企業に対し、「政府の指導や規制支援を通じて優遇措置を提供している」と主張している。

  ⇨ 米国の製造業やサービス業の市場参入が制限されていると指摘。

 これに対し、中国のシンクタンク「中国とグローバル化センター」の上級研究員であるHe Weiwen氏は、「中国の産業補助金政策は世界貿易機関(WTO)の規則に厳格に従っており、WTOが定義する禁止補助金は存在しない」と反論した。さらに、米国自身が産業補助金を大規模に利用している点を指摘し、「アメリカ・ファースト」政策こそが国際貿易秩序を損なっていると述べた。

 (4) 欧州連合(EU)に対する批判

 USTRはEUに対して、「米国の製品やサービスがEU市場への参入や維持において障壁に直面しており、米国の企業や労働者が欧州との貿易の恩恵を十分に受けられていない」と主張している。

 (5) カナダに対する批判

 カナダについては、「乳製品、鶏肉、七面鳥、卵産業における供給管理制度」が米国の輸出拡大を阻害していると指摘されている。

 3. 中国の反応と見解

 中国国際貿易学会の上級研究員であるLi Yong氏は、「今回の報告書は、米国が世界各国に対して予定している相互関税を正当化するための道具にすぎない」と批判した。

また、「この報告書は米国の視点と基準のみに基づいており、客観的な現実とは乖離している。米国の保護主義的政策を正当化するための一方的な主張にすぎない」と指摘した。

 4. 米国の相互関税(Reciprocal Tariffs)と今後の展開

 米国は4月2日を期限として、「相互関税(reciprocal tariffs)」の導入を予定している。この措置は、各国が米国製品に課している関税率と同じ率の関税を、米国がその国からの輸入品に適用するというものである。

 中国商務部(MOFCOM)は2月20日の記者会見で、「米国が関税を武器として他国を威圧することをやめるよう求める。貿易戦争は無意味であり、勝者を生まない」との立場を表明した。

 5. まとめ

 今回のUSTRの報告書は、米国の保護主義的政策を正当化し、相互関税の導入を推進する意図があるとみられる。これに対し、各国はそれぞれの立場を明確にし、反論を展開している。特に中国は、米国の主張を「一方的な保護主義」と批判し、WTOのルールに則った貿易政策を強調している。今後の展開として、相互関税の導入が世界貿易にどのような影響を与えるかが注目される。
  
【要点】 

 米国通商代表部(USTR)の2025年版「国家貿易推定(NTE)」報告書と各国の反応
 
 1. 報告書の概要

 ・2025年版「国家貿易推定(NTE)」報告書を3月31日に発表。

 ・米国の輸出業者が直面する貿易障壁を指摘。

 ・特にオーストラリア、韓国、中国、EU、カナダなどを批判。

 ・4月2日に予定される「相互関税(reciprocal tariffs)」導入と関連。

 2. 各国に対する主な指摘

 (1) オーストラリア

 ・ニュース・メディア交渉規則:GoogleやFacebookにニュース使用料を支払わせる政策を批判。

 ・医薬品価格規制:米国製薬企業に不利と指摘。

 ・生物安全保障措置:米国の農産品輸出に影響と主張。

 ・オーストラリア政府の対応:アルバニージー首相は譲歩せず。

 (2) 韓国

 ・農産品の検疫規制:30カ月齢以上の米国産牛肉製品の輸入制限。

 ・デジタル貿易規制:ネットワーク使用料の徴収、オンラインプラットフォーム規制、位置情報データの輸出制限。

 ・韓国政府の対応:報告書を精査し、対応策を検討。

 (3) 中国

 ・産業補助金と市場アクセス制限:米国企業の市場参入を阻害と主張。

 ・中国の反論:「産業補助金はWTO規則に準拠」「米国の保護主義が問題」と指摘。

 (4) 欧州連合(EU)

 ・市場参入の障壁:米国企業が欧州市場で不利な状況と主張。

 (5) カナダ

 ・供給管理制度:乳製品、鶏肉、七面鳥、卵産業の保護政策を批判。

 3. 中国の反応

 ・中国のシンクタンク:「報告書は米国の保護主義を正当化するための道具」と批判。

 ・中国商務部の立場:「貿易戦争は無意味」「米国の関税圧力に反対」。

 4. 米国の相互関税(Reciprocal Tariffs)

 ・4月2日導入予定:各国の米国製品に対する関税率と同率の関税を適用。

 ・貿易戦争の激化懸念:WTOルールとの整合性が議論に。

 5. まとめ

 ・米国はNTE報告書を通じて貿易障壁を批判し、相互関税導入を正当化。

 ・各国は自国の政策を擁護し、米国の一方的な主張と反論。

 ・今後、相互関税が世界貿易に及ぼす影響が注目される。

【引用・参照・底本】

USTR’s trade barriers report ahead of so-called reciprocal tariffs a false pretext to push US protectionist policies: Chinese expert GT 2025.04.01
https://www.globaltimes.cn/page/202504/1331308.shtml

コメント

トラックバック