ハンガリー、セルビア、スロバキアによる新たな中欧統合プラットフォーム ― 2025-04-22 18:09
【概要】
この分析は、ハンガリー、セルビア、スロバキアが新たな中欧統合プラットフォームを構築する可能性について論じている。実現の可能性は存在するが、その基盤は政権交代によって変化しやすい政治的・安全保障的関心ではなく、より持続的な経済的利益に置かれるべきであるとされている。
まず、セルビア共和国議会の「ディアスポラおよび周辺地域のセルビア人に関する委員会」の委員長であるドラガン・スタノイェヴィッチが2025年3月末、ロシア紙「イズベスチヤ」に対して、セルビアはハンガリーおよびスロバキアと提携を希望していると語った。この発言は、2025年4月初旬に署名されたセルビアとハンガリーの新たな軍事協力協定に先立つものである。
ただし、著者は、ハンガリーとセルビアの同盟には現実的な限界があると指摘している。たとえば、ハンガリーがクロアチアとの戦争に踏み切ってまでセルビアを防衛する可能性は低いと見られている。同様に、スロバキアがセルビアと同様の協定を結んだとしても、その支援の限界は明白である。
しかしながら、この3か国間の接近は、新たな中欧統合プラットフォームの基盤となりうる。背景には、ウクライナ紛争に対する立場の違いにより機能不全に陥っている既存のヴィシェグラード・グループ(V4:ハンガリー、スロバキア、チェコ、ポーランド)への不満がある。V4内部では、ロシアに対する現実的な外交姿勢を取るハンガリーのオルバン首相に対し、ポーランドやチェコの当局者が公然と批判を行った。また、スロバキアのフィツォ首相もオルバンと同様の方針を持っており、信頼を欠いているとされる。
このように、V4はウクライナ紛争への姿勢によって事実上、異なる方針を取る2つのブロックに分裂しており、ハンガリーとスロバキアの協力関係はその一方の中で強化されている。セルビアもこの2か国と同様に、国連総会でロシアに対して反対票を投じてはいるが、紛争の政治的解決を重視する姿勢を示している。主な違いとして、ハンガリーとスロバキアはEUの対ロ制裁に従っているが、セルビアはこれを拒否している。また、スロバキアはフィツォ政権前にウクライナに武器供与を行っていたが、ハンガリーは武器支援をしておらず、セルビアについては関与の疑いがあるものの、公式には否定している。
このような立場の共通性と軍事協力の可能性は、統合プラットフォームの安全保障的基盤となり得る。一方、経済的な基盤としては、中国が建設を進めているピレウス港(ギリシャ)からスコピエ(北マケドニア)、ベオグラード(セルビア)、ブダペスト(ハンガリー)を結ぶ高速鉄道がある。この鉄道は、ハンガリーとセルビア間の貿易を拡大し、スロバキアにも経済的波及効果をもたらすことが期待されている。
安全保障面では、三国が共有する不法移民対策が協力の柱となりうる。ただし、セルビアが先月警戒感を示したクロアチア、アルバニア、コソボによる軍事協力に対して、ハンガリーやスロバキアは同様の懸念を抱いていない。したがって、安全保障上の関心も三国で完全に一致しているわけではない。
政治的基盤としては、ロシアに対する現実的で実利的な外交姿勢が挙げられるが、これは政権の交代によって変化する可能性があるため、長期的な安定性には欠ける。従って、持続的な統合を目指すには、政治的・安全保障的利害よりも、政権の影響を受けにくい経済的利害を中心に据えるべきである。
最終的に、もしこのような変動が起きなければ、ハンガリー、セルビア、スロバキアによる新たな中欧統合プラットフォームは、ヴィシェグラード・グループに代わる実質的な枠組みとなりうる。さらに、将来的に周辺国の政権交代などにより政策が一致すれば、新たなメンバーを加える可能性も出てくる。
【詳細】
ハンガリー、セルビア、スロバキアによる新たな中欧統合プラットフォームの可能性をめぐるアンドリュー・コリブコ氏の論考に基づき、その内容を忠実に、より詳しく「である調」で解説したものである。
1. 背景:中欧における新たな連携模索の動き
2025年3月下旬、セルビアのドラガン・スタノイェヴィッチ議員(ディアスポラおよび周辺地域のセルビア人に関する委員会の委員長)は、ロシア紙「イズベスチヤ」の取材に対し、セルビアがハンガリーおよびスロバキアとの戦略的提携を望んでいることを表明した。これに続き、2025年4月初旬にはベオグラードとブダペストの間で新たな軍事協力協定が締結された。
このような動きは、単なる二国間協力にとどまらず、より広範な地域的枠組み――すなわち中欧地域における新たな統合プラットフォーム――の可能性をも示唆している。
2. ヴィシェグラード・グループ(V4)の機能不全
この背景には、かつて中欧統合の中心的枠組みとみなされてきたヴィシェグラード・グループ(V4:ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー)の機能不全がある。V4は冷戦終結後、地域の経済・安全保障・EU統合政策を共有するための協議体として設立されたが、2022年以降のウクライナ紛争に対する各国の姿勢の違いが顕在化し、深刻な亀裂を生んでいる。
とりわけ、ポーランドおよびチェコの政権は、ロシアに対して強硬な立場を取り、ロシアとの関係改善を志向するハンガリーのオルバン政権に対し、公然と批判を行った。スロバキアにおいても、2023年に再登場したロベルト・フィツォ政権はオルバン政権に近いポピュリズム・ナショナリズム路線を取っており、これもまたV4内部の対立要因となっている。
その結果、V4は実質的に「親ロシア的現実主義」と「反ロシア的理想主義」に分裂し、それぞれが自陣営内での協力強化に舵を切るようになった。
3. ハンガリー・セルビア・スロバキアの共通項
こうした状況下で浮上してきたのが、ハンガリー、セルビア、スロバキアによる新たな協力軸である。三国には以下のような共通点が見られる。
a. ロシアに対する姿勢の共通性
三国はいずれも、国連総会におけるロシア非難決議には賛成しているが、戦争の早期政治的解決を支持する「現実主義的」立場を共有している。制裁対応には差があるものの(ハンガリーとスロバキアはEU制裁に従う一方で、セルビアは従わない)、ロシアとの完全断交には踏み切っていない。
b. 軍事協力の萌芽
ハンガリーとセルビアは既に軍事協力協定を結んでおり、スロバキアも将来的にこれに加わる可能性がある。ただし、仮に軍事同盟的枠組みが形成されたとしても、たとえば「ハンガリーがセルビアを防衛するためにクロアチアと戦う」といった極端な展開は現実的ではなく、軍事協力には自ずと限界がある。
c. 経済協力の展望
三国の連携において最も実利的で持続的な基盤となるのが経済協力である。その中心となるのが、中国が主導する「中東欧鉄道構想(China–Europe Land-Sea Express Route)」の一環である、ピレウス港からブダペストに至る高速鉄道計画である。この鉄道は、スコピエ(北マケドニア)とベオグラード(セルビア)を経由するため、セルビアの経済的地位を高めるだけでなく、ハンガリーとの貿易量の増加、さらにはスロバキアへの波及効果も期待されている。
d. 移民政策に関する協調
三国は、不法移民の流入に対して厳格な姿勢を取っており、これが安全保障分野における協力の基盤となり得る。もっとも、セルビアが警戒しているクロアチア・アルバニア・コソボの軍事協力枠組みに対して、ハンガリーやスロバキアはそれほどの危機感を持っていないため、全般的な脅威認識の一致は限定的である。
4. プラットフォーム構築の条件と限界
筆者は、仮にこの三国による統合プラットフォームが形成されるとしても、その基盤は政治的・安全保障的利害よりも、経済的利害に置かれるべきであると主張する。なぜなら、政治や安全保障の方針は政権交代によって容易に変動しうるが、経済的な相互依存関係は比較的長期的・構造的であるためである。
実際、仮にスロバキアで親EU的・反ロシア的な政権が復活すれば、現行の協力姿勢は一転する可能性がある。同様に、セルビアにおいても政権交代が起きれば、対ロ外交やEU政策は大きく揺らぐことになる。
したがって、政権の変化に左右されにくい「経済インフラの共有」「貿易の増大」「地域開発の連携」などを中核とした協力体制であれば、より永続的なプラットフォームとなりうる。
5. 将来的な拡張の可能性
もしこの三国による協力が安定的に機能すれば、それは「第二のヴィシェグラード・グループ」として、政治的に機能不全に陥った既存のV4に代わる現実的枠組みとなり得る。さらに、周辺諸国においても選挙を通じて政権交代が進み、創設国と政策が合致するようになれば、新たな加盟国の参加もあり得る。
以上より、ハンガリー、セルビア、スロバキアの三国が主導する中欧統合プラットフォームは、ウクライナ紛争を契機とした地域再編の中で浮上してきた実利的構想であり、政治的イデオロギーよりも経済的実益を中心とすることによって、より安定的かつ拡張可能な枠組みとなる可能性があると結論づけられる。
【要点】
1.中欧における新たな連携の動き
・セルビアの議員が、ハンガリーおよびスロバキアとの戦略的提携を希望しているとロシアメディアに表明(2025年3月)。
・2025年4月にはハンガリーとセルビアが新たな軍事協力協定を締結。
・この連携は一時的なものではなく、将来的に中欧の新たな統合プラットフォームとなる可能性がある。
2.ヴィシェグラード・グループ(V4)の機能不全
・V4(ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー)は、ウクライナ戦争への対応で内部対立が激化。
・ポーランド・チェコは反ロシア的姿勢を強化し、親ロ的なハンガリーを批判。
・スロバキアは親ロ的なフィツォ政権が復活し、ハンガリーに接近。
・結果として、V4は事実上分裂状態にある。
3.ハンガリー・セルビア・スロバキアの共通点
(1)ロシアへの姿勢
・国連ではロシア非難決議に賛成しているが、対話による解決を重視。
・制裁への対応は異なるが、いずれもロシアとの断交を避けている。
(2)軍事協力の兆し
・ハンガリーとセルビアが軍事協定を締結。
・スロバキアの将来的な参加も視野に入るが、集団防衛的な枠組みではない。
(3)経済協力の可能性
・中国主導の鉄道構想(ピレウス~ブダペスト)により、三国の経済連携が強化される。
・セルビア経由でハンガリーやスロバキアとの物流・貿易が拡大する見通し。
(4)不法移民対策
・三国は不法移民に厳しい姿勢を取っており、安全保障分野で連携の余地がある。
・ただし脅威認識にばらつきがあり、軍事協力には限界がある。
4.プラットフォーム構築の条件と留意点
・政治や安全保障よりも、経済を中心とする協力体制の方が安定的。
・政権交代が起これば、対ロ外交や欧州政策は大きく変わる可能性がある。
・経済連携は政権交代の影響を受けにくく、長期的視点に適している。
5.将来の展望
・この三国による連携が発展すれば、「第二のヴィシェグラード・グループ」となり得る。
・他の中欧諸国も、選挙や外交方針の変化に応じて将来的に加わる可能性がある。
以上の通り、コリブコ氏は、中欧における新たな現実主義的協力体制の萌芽を分析し、政治的な理念よりも経済的な利益と構造的連携を重視することが、長期安定につながると論じている。
【参考】
☞ セルビアの議員ドラガン・スタノイェヴィチ(セルビア国外セルビア人問題委員会委員長)が、ハンガリーおよびスロバキアとの戦略的提携を希望しているとロシアメディア『イズベスチヤ』に表明した理由は、以下の点に集約される。
1.地政学的背景と連携の必要性
・共通の地政学的位置
ハンガリー、スロバキア、セルビアはいずれも中欧および東バルカンに位置し、共通の安全保障課題や経済的利益を持っている。これらの国々は、欧州連合(EU)やNATOとの関係に差異はあるものの、地域的安定と影響力拡大を図るうえで、協力関係が有益であると認識されている。
2.ヴィシェグラード・グループ(V4)の機能不全への対応
・既存の中欧協力体制の限界
ウクライナ戦争をめぐる立場の違いにより、従来のV4(ハンガリー、スロバキア、ポーランド、チェコ)は分裂状態にある。特にハンガリーとスロバキア(フィツォ政権)は、対ロ外交で親ロシア的傾向があり、ポーランド・チェコと対立している。
・新たな枠組みの模索
このような状況下で、ハンガリーとスロバキアを含む新たな地域連携枠組みを提案することで、セルビアはV4に代わる中欧プラットフォームの形成を狙っている。
3.ロシアに対する「現実主義的」姿勢の共有
・対ロシア政策の共通点
三国はいずれも国連でのロシア非難には賛成しているが、戦争の早期終結と対話による解決を支持しており、西側諸国の「軍事支援一辺倒」には距離を置いている。
・外交的孤立の回避
西側の制裁圧力が強まる中で、類似の立場をとる近隣諸国と連携することで、セルビアは外交的な孤立を避け、バランス外交を維持しやすくなる。
4.経済・インフラ連携の強化
・中国の「一帯一路」プロジェクトへの関与
中国が建設を進めるピレウス港~ブダペスト間の高速鉄道は、セルビアを通過することで同国に地政学的・経済的利益をもたらす。この路線は、ハンガリー・スロバキアとの接続を強化するものであり、地域経済の統合を促進する。
5.セルビアの国益:多国間協力による戦略的安定性の確保
・NATO加盟国との関係強化
ハンガリーおよびスロバキアはいずれもNATO加盟国であり、セルビアは非加盟であるが、軍事協力を通じて間接的な安全保障の安定化を図ることができる。
・地域連携による対抗構造の構築
セルビアにとって、アルバニアやクロアチアなどとの安全保障上の緊張に対抗するには、同様の立場の国々と連携することが戦略的に重要と考えられる。
このように、セルビアがハンガリーおよびスロバキアとの戦略的提携を希望する背景には、外交・安全保障・経済の三次元において多国間協力による自国の影響力と安定性を強化する意図がある。
☞ ハンガリー・スロバキアとの戦略的提携を望む理由
1.既存の中欧連携(ヴィシェグラード・グループ)の機能不全
・ウクライナ戦争をめぐる立場の違いで、ハンガリー・スロバキアとポーランド・チェコが対立。
・ハンガリーとスロバキアはロシアとの関係において現実主義的であり、セルビアと親和性がある。
2.対ロシア政策の一致
・国連ではロシアを非難する一方、三国とも戦争の早期政治解決を支持。
・西側の軍事支援に対して懐疑的な姿勢を共有。
3.中国主導の高速鉄道プロジェクトの地経学的価値
・ギリシャのピレウス港からブダペストへ至る高速鉄道がセルビアを通過。
・ハンガリーとセルビア間の物流・貿易が強化され、スロバキアにも波及効果が期待される。
4.軍事協力の具体的進展
・セルビアとハンガリーが2025年4月初旬に軍事協力協定を締結。
・将来的にスロバキアとの協定にもつながる可能性がある。
5.不法移民対策という共通の安全保障課題
・三国ともバルカンルート経由の不法移民対策を重視している。
・クロアチア・アルバニア・「コソボ」の軍事協力を脅威と見なすセルビアにとって、共同対処の枠組みが有益。
6.政治的立場の類似性
・ハンガリー(オルバン政権)・スロバキア(フィツォ政権)・セルビア(ヴチッチ政権)はいずれもナショナリズム・現実主義的外交を特徴とする。
・政治的価値観の近さが、協力関係を築く土壌を提供。
7.将来的な中欧統合枠組みの創出
・V4に代わる中欧の新たな統合プラットフォームの核として三国が機能する可能性。
・他国(例:オーストリア、ブルガリアなど)が将来参加する道も開かれる。
このように、セルビアが提携を望む背景には、現実的な安全保障と経済利益の追求、および価値観と外交姿勢の一致がある。特に、不安定化しつつある既存の地域協力体制に代わる新たな枠組みの必要性が、その動機を強く後押ししている。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
Can Hungary, Serbia, & Slovakia Pioneer A New Central European Integration Platform? Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.21
https://korybko.substack.com/p/can-hungary-serbia-and-slovakia-pioneer?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=161777852&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
この分析は、ハンガリー、セルビア、スロバキアが新たな中欧統合プラットフォームを構築する可能性について論じている。実現の可能性は存在するが、その基盤は政権交代によって変化しやすい政治的・安全保障的関心ではなく、より持続的な経済的利益に置かれるべきであるとされている。
まず、セルビア共和国議会の「ディアスポラおよび周辺地域のセルビア人に関する委員会」の委員長であるドラガン・スタノイェヴィッチが2025年3月末、ロシア紙「イズベスチヤ」に対して、セルビアはハンガリーおよびスロバキアと提携を希望していると語った。この発言は、2025年4月初旬に署名されたセルビアとハンガリーの新たな軍事協力協定に先立つものである。
ただし、著者は、ハンガリーとセルビアの同盟には現実的な限界があると指摘している。たとえば、ハンガリーがクロアチアとの戦争に踏み切ってまでセルビアを防衛する可能性は低いと見られている。同様に、スロバキアがセルビアと同様の協定を結んだとしても、その支援の限界は明白である。
しかしながら、この3か国間の接近は、新たな中欧統合プラットフォームの基盤となりうる。背景には、ウクライナ紛争に対する立場の違いにより機能不全に陥っている既存のヴィシェグラード・グループ(V4:ハンガリー、スロバキア、チェコ、ポーランド)への不満がある。V4内部では、ロシアに対する現実的な外交姿勢を取るハンガリーのオルバン首相に対し、ポーランドやチェコの当局者が公然と批判を行った。また、スロバキアのフィツォ首相もオルバンと同様の方針を持っており、信頼を欠いているとされる。
このように、V4はウクライナ紛争への姿勢によって事実上、異なる方針を取る2つのブロックに分裂しており、ハンガリーとスロバキアの協力関係はその一方の中で強化されている。セルビアもこの2か国と同様に、国連総会でロシアに対して反対票を投じてはいるが、紛争の政治的解決を重視する姿勢を示している。主な違いとして、ハンガリーとスロバキアはEUの対ロ制裁に従っているが、セルビアはこれを拒否している。また、スロバキアはフィツォ政権前にウクライナに武器供与を行っていたが、ハンガリーは武器支援をしておらず、セルビアについては関与の疑いがあるものの、公式には否定している。
このような立場の共通性と軍事協力の可能性は、統合プラットフォームの安全保障的基盤となり得る。一方、経済的な基盤としては、中国が建設を進めているピレウス港(ギリシャ)からスコピエ(北マケドニア)、ベオグラード(セルビア)、ブダペスト(ハンガリー)を結ぶ高速鉄道がある。この鉄道は、ハンガリーとセルビア間の貿易を拡大し、スロバキアにも経済的波及効果をもたらすことが期待されている。
安全保障面では、三国が共有する不法移民対策が協力の柱となりうる。ただし、セルビアが先月警戒感を示したクロアチア、アルバニア、コソボによる軍事協力に対して、ハンガリーやスロバキアは同様の懸念を抱いていない。したがって、安全保障上の関心も三国で完全に一致しているわけではない。
政治的基盤としては、ロシアに対する現実的で実利的な外交姿勢が挙げられるが、これは政権の交代によって変化する可能性があるため、長期的な安定性には欠ける。従って、持続的な統合を目指すには、政治的・安全保障的利害よりも、政権の影響を受けにくい経済的利害を中心に据えるべきである。
最終的に、もしこのような変動が起きなければ、ハンガリー、セルビア、スロバキアによる新たな中欧統合プラットフォームは、ヴィシェグラード・グループに代わる実質的な枠組みとなりうる。さらに、将来的に周辺国の政権交代などにより政策が一致すれば、新たなメンバーを加える可能性も出てくる。
【詳細】
ハンガリー、セルビア、スロバキアによる新たな中欧統合プラットフォームの可能性をめぐるアンドリュー・コリブコ氏の論考に基づき、その内容を忠実に、より詳しく「である調」で解説したものである。
1. 背景:中欧における新たな連携模索の動き
2025年3月下旬、セルビアのドラガン・スタノイェヴィッチ議員(ディアスポラおよび周辺地域のセルビア人に関する委員会の委員長)は、ロシア紙「イズベスチヤ」の取材に対し、セルビアがハンガリーおよびスロバキアとの戦略的提携を望んでいることを表明した。これに続き、2025年4月初旬にはベオグラードとブダペストの間で新たな軍事協力協定が締結された。
このような動きは、単なる二国間協力にとどまらず、より広範な地域的枠組み――すなわち中欧地域における新たな統合プラットフォーム――の可能性をも示唆している。
2. ヴィシェグラード・グループ(V4)の機能不全
この背景には、かつて中欧統合の中心的枠組みとみなされてきたヴィシェグラード・グループ(V4:ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー)の機能不全がある。V4は冷戦終結後、地域の経済・安全保障・EU統合政策を共有するための協議体として設立されたが、2022年以降のウクライナ紛争に対する各国の姿勢の違いが顕在化し、深刻な亀裂を生んでいる。
とりわけ、ポーランドおよびチェコの政権は、ロシアに対して強硬な立場を取り、ロシアとの関係改善を志向するハンガリーのオルバン政権に対し、公然と批判を行った。スロバキアにおいても、2023年に再登場したロベルト・フィツォ政権はオルバン政権に近いポピュリズム・ナショナリズム路線を取っており、これもまたV4内部の対立要因となっている。
その結果、V4は実質的に「親ロシア的現実主義」と「反ロシア的理想主義」に分裂し、それぞれが自陣営内での協力強化に舵を切るようになった。
3. ハンガリー・セルビア・スロバキアの共通項
こうした状況下で浮上してきたのが、ハンガリー、セルビア、スロバキアによる新たな協力軸である。三国には以下のような共通点が見られる。
a. ロシアに対する姿勢の共通性
三国はいずれも、国連総会におけるロシア非難決議には賛成しているが、戦争の早期政治的解決を支持する「現実主義的」立場を共有している。制裁対応には差があるものの(ハンガリーとスロバキアはEU制裁に従う一方で、セルビアは従わない)、ロシアとの完全断交には踏み切っていない。
b. 軍事協力の萌芽
ハンガリーとセルビアは既に軍事協力協定を結んでおり、スロバキアも将来的にこれに加わる可能性がある。ただし、仮に軍事同盟的枠組みが形成されたとしても、たとえば「ハンガリーがセルビアを防衛するためにクロアチアと戦う」といった極端な展開は現実的ではなく、軍事協力には自ずと限界がある。
c. 経済協力の展望
三国の連携において最も実利的で持続的な基盤となるのが経済協力である。その中心となるのが、中国が主導する「中東欧鉄道構想(China–Europe Land-Sea Express Route)」の一環である、ピレウス港からブダペストに至る高速鉄道計画である。この鉄道は、スコピエ(北マケドニア)とベオグラード(セルビア)を経由するため、セルビアの経済的地位を高めるだけでなく、ハンガリーとの貿易量の増加、さらにはスロバキアへの波及効果も期待されている。
d. 移民政策に関する協調
三国は、不法移民の流入に対して厳格な姿勢を取っており、これが安全保障分野における協力の基盤となり得る。もっとも、セルビアが警戒しているクロアチア・アルバニア・コソボの軍事協力枠組みに対して、ハンガリーやスロバキアはそれほどの危機感を持っていないため、全般的な脅威認識の一致は限定的である。
4. プラットフォーム構築の条件と限界
筆者は、仮にこの三国による統合プラットフォームが形成されるとしても、その基盤は政治的・安全保障的利害よりも、経済的利害に置かれるべきであると主張する。なぜなら、政治や安全保障の方針は政権交代によって容易に変動しうるが、経済的な相互依存関係は比較的長期的・構造的であるためである。
実際、仮にスロバキアで親EU的・反ロシア的な政権が復活すれば、現行の協力姿勢は一転する可能性がある。同様に、セルビアにおいても政権交代が起きれば、対ロ外交やEU政策は大きく揺らぐことになる。
したがって、政権の変化に左右されにくい「経済インフラの共有」「貿易の増大」「地域開発の連携」などを中核とした協力体制であれば、より永続的なプラットフォームとなりうる。
5. 将来的な拡張の可能性
もしこの三国による協力が安定的に機能すれば、それは「第二のヴィシェグラード・グループ」として、政治的に機能不全に陥った既存のV4に代わる現実的枠組みとなり得る。さらに、周辺諸国においても選挙を通じて政権交代が進み、創設国と政策が合致するようになれば、新たな加盟国の参加もあり得る。
以上より、ハンガリー、セルビア、スロバキアの三国が主導する中欧統合プラットフォームは、ウクライナ紛争を契機とした地域再編の中で浮上してきた実利的構想であり、政治的イデオロギーよりも経済的実益を中心とすることによって、より安定的かつ拡張可能な枠組みとなる可能性があると結論づけられる。
【要点】
1.中欧における新たな連携の動き
・セルビアの議員が、ハンガリーおよびスロバキアとの戦略的提携を希望しているとロシアメディアに表明(2025年3月)。
・2025年4月にはハンガリーとセルビアが新たな軍事協力協定を締結。
・この連携は一時的なものではなく、将来的に中欧の新たな統合プラットフォームとなる可能性がある。
2.ヴィシェグラード・グループ(V4)の機能不全
・V4(ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー)は、ウクライナ戦争への対応で内部対立が激化。
・ポーランド・チェコは反ロシア的姿勢を強化し、親ロ的なハンガリーを批判。
・スロバキアは親ロ的なフィツォ政権が復活し、ハンガリーに接近。
・結果として、V4は事実上分裂状態にある。
3.ハンガリー・セルビア・スロバキアの共通点
(1)ロシアへの姿勢
・国連ではロシア非難決議に賛成しているが、対話による解決を重視。
・制裁への対応は異なるが、いずれもロシアとの断交を避けている。
(2)軍事協力の兆し
・ハンガリーとセルビアが軍事協定を締結。
・スロバキアの将来的な参加も視野に入るが、集団防衛的な枠組みではない。
(3)経済協力の可能性
・中国主導の鉄道構想(ピレウス~ブダペスト)により、三国の経済連携が強化される。
・セルビア経由でハンガリーやスロバキアとの物流・貿易が拡大する見通し。
(4)不法移民対策
・三国は不法移民に厳しい姿勢を取っており、安全保障分野で連携の余地がある。
・ただし脅威認識にばらつきがあり、軍事協力には限界がある。
4.プラットフォーム構築の条件と留意点
・政治や安全保障よりも、経済を中心とする協力体制の方が安定的。
・政権交代が起これば、対ロ外交や欧州政策は大きく変わる可能性がある。
・経済連携は政権交代の影響を受けにくく、長期的視点に適している。
5.将来の展望
・この三国による連携が発展すれば、「第二のヴィシェグラード・グループ」となり得る。
・他の中欧諸国も、選挙や外交方針の変化に応じて将来的に加わる可能性がある。
以上の通り、コリブコ氏は、中欧における新たな現実主義的協力体制の萌芽を分析し、政治的な理念よりも経済的な利益と構造的連携を重視することが、長期安定につながると論じている。
【参考】
☞ セルビアの議員ドラガン・スタノイェヴィチ(セルビア国外セルビア人問題委員会委員長)が、ハンガリーおよびスロバキアとの戦略的提携を希望しているとロシアメディア『イズベスチヤ』に表明した理由は、以下の点に集約される。
1.地政学的背景と連携の必要性
・共通の地政学的位置
ハンガリー、スロバキア、セルビアはいずれも中欧および東バルカンに位置し、共通の安全保障課題や経済的利益を持っている。これらの国々は、欧州連合(EU)やNATOとの関係に差異はあるものの、地域的安定と影響力拡大を図るうえで、協力関係が有益であると認識されている。
2.ヴィシェグラード・グループ(V4)の機能不全への対応
・既存の中欧協力体制の限界
ウクライナ戦争をめぐる立場の違いにより、従来のV4(ハンガリー、スロバキア、ポーランド、チェコ)は分裂状態にある。特にハンガリーとスロバキア(フィツォ政権)は、対ロ外交で親ロシア的傾向があり、ポーランド・チェコと対立している。
・新たな枠組みの模索
このような状況下で、ハンガリーとスロバキアを含む新たな地域連携枠組みを提案することで、セルビアはV4に代わる中欧プラットフォームの形成を狙っている。
3.ロシアに対する「現実主義的」姿勢の共有
・対ロシア政策の共通点
三国はいずれも国連でのロシア非難には賛成しているが、戦争の早期終結と対話による解決を支持しており、西側諸国の「軍事支援一辺倒」には距離を置いている。
・外交的孤立の回避
西側の制裁圧力が強まる中で、類似の立場をとる近隣諸国と連携することで、セルビアは外交的な孤立を避け、バランス外交を維持しやすくなる。
4.経済・インフラ連携の強化
・中国の「一帯一路」プロジェクトへの関与
中国が建設を進めるピレウス港~ブダペスト間の高速鉄道は、セルビアを通過することで同国に地政学的・経済的利益をもたらす。この路線は、ハンガリー・スロバキアとの接続を強化するものであり、地域経済の統合を促進する。
5.セルビアの国益:多国間協力による戦略的安定性の確保
・NATO加盟国との関係強化
ハンガリーおよびスロバキアはいずれもNATO加盟国であり、セルビアは非加盟であるが、軍事協力を通じて間接的な安全保障の安定化を図ることができる。
・地域連携による対抗構造の構築
セルビアにとって、アルバニアやクロアチアなどとの安全保障上の緊張に対抗するには、同様の立場の国々と連携することが戦略的に重要と考えられる。
このように、セルビアがハンガリーおよびスロバキアとの戦略的提携を希望する背景には、外交・安全保障・経済の三次元において多国間協力による自国の影響力と安定性を強化する意図がある。
☞ ハンガリー・スロバキアとの戦略的提携を望む理由
1.既存の中欧連携(ヴィシェグラード・グループ)の機能不全
・ウクライナ戦争をめぐる立場の違いで、ハンガリー・スロバキアとポーランド・チェコが対立。
・ハンガリーとスロバキアはロシアとの関係において現実主義的であり、セルビアと親和性がある。
2.対ロシア政策の一致
・国連ではロシアを非難する一方、三国とも戦争の早期政治解決を支持。
・西側の軍事支援に対して懐疑的な姿勢を共有。
3.中国主導の高速鉄道プロジェクトの地経学的価値
・ギリシャのピレウス港からブダペストへ至る高速鉄道がセルビアを通過。
・ハンガリーとセルビア間の物流・貿易が強化され、スロバキアにも波及効果が期待される。
4.軍事協力の具体的進展
・セルビアとハンガリーが2025年4月初旬に軍事協力協定を締結。
・将来的にスロバキアとの協定にもつながる可能性がある。
5.不法移民対策という共通の安全保障課題
・三国ともバルカンルート経由の不法移民対策を重視している。
・クロアチア・アルバニア・「コソボ」の軍事協力を脅威と見なすセルビアにとって、共同対処の枠組みが有益。
6.政治的立場の類似性
・ハンガリー(オルバン政権)・スロバキア(フィツォ政権)・セルビア(ヴチッチ政権)はいずれもナショナリズム・現実主義的外交を特徴とする。
・政治的価値観の近さが、協力関係を築く土壌を提供。
7.将来的な中欧統合枠組みの創出
・V4に代わる中欧の新たな統合プラットフォームの核として三国が機能する可能性。
・他国(例:オーストリア、ブルガリアなど)が将来参加する道も開かれる。
このように、セルビアが提携を望む背景には、現実的な安全保障と経済利益の追求、および価値観と外交姿勢の一致がある。特に、不安定化しつつある既存の地域協力体制に代わる新たな枠組みの必要性が、その動機を強く後押ししている。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
Can Hungary, Serbia, & Slovakia Pioneer A New Central European Integration Platform? Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.21
https://korybko.substack.com/p/can-hungary-serbia-and-slovakia-pioneer?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=161777852&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

