エルドアン大統領はロシア提案を「完全に支持」すると表明2025年05月12日 09:29

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【概要】

 2025年5月11日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアとの停戦を希望し、同年5月15日(木)にトルコでロシアのウラジーミル・プーチン大統領と個人的に会談する意志を表明した。これは、週末を通じて行われた両国間の提案の応酬の一環であり、アメリカ主導の和平努力に関連している。

 ゼレンスキー大統領は、「ロシアが戦争を終わらせることを真剣に検討し始めたのは前向きな兆候である」としつつ、まずは5月12日(月)からの30日間の無条件停戦が必要であると主張した。一方、ロシア側はこれに応じず、代わりに5月15日にトルコ・イスタンブールでの直接交渉を提案した。

 ウクライナおよび欧州の同盟諸国(フランスのマクロン大統領、イギリスのスターマー首相、ドイツのメルツ首相、ポーランドのトゥスク首相)は5月10日(土)にキーウでゼレンスキー大統領と会談し、5月12日からの無条件停戦を共同で提案した。この計画には欧州連合とアメリカのドナルド・トランプ大統領も支持を表明しており、プーチン大統領が応じなかった場合は追加制裁を科すと警告している。

 プーチン大統領は5月11日未明、無条件停戦を拒否しつつ、トルコでの直接交渉を提案し、その中で停戦に合意する可能性に言及した。ただし、彼は「一時的な停戦がウクライナに再軍備と動員の機会を与えるべきではない」として、恒久的な平和につながる停戦でなければならないと主張した。

 ゼレンスキー大統領は、5月15日にトルコに出向き「個人的にプーチンを待つ」と述べたが、それが5月12日からの停戦成立を条件とするかどうかは明確にされていない。プーチン大統領がトルコでの対面会談に応じるかについても、ロシア政府からの明確な発表はない。

 ドナルド・トランプ米大統領はSNS上で、ウクライナに対して「直ちに」プーチンの和平交渉案に同意すべきであると強調し、「少なくとも合意が可能か否かを確認する機会となり、それが不可能であれば、米欧は次の手段を講じることができる」と述べた。

 トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、プーチン大統領との電話会談で、ロシアの提案を「全面的に支持」すると伝え、会談の受け入れと支援を申し出た。エルドアン大統領は、フランスのマクロン大統領との別の電話会談でも「歴史的な転換点に来ている」と述べた。

 一方で、地上では戦闘が続いている。ロシアは、5月8〜10日の間に一方的に宣言した3日間の停戦終了後、5月11日(日)未明に大規模なドローン攻撃を再開した。ウクライナ空軍によれば、ロシアは6方向から108機の攻撃型ドローンおよび模擬ドローンを発射し、60機を撃墜、さらに41機の模擬ドローンが目標に到達しなかったとしている。

 ロシア国防省は、ウクライナ側が3日間のロシアの停戦を1万4千回以上「違反」したと主張した。ウクライナ外相は、ロシアの「停戦」は偽りであるとしてこれを否定している。

 さらに、ロシア・クルスク州のリリスクという町が、ウクライナ軍によるミサイル攻撃を受けたとする報道もあり、地元当局によるとホテルが損壊し3人が負傷したとされている。

【詳細】
 
 2025年5月10日、ウクライナの首都キーウにて、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、イギリスのキーア・スターマー首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相、ポーランドのドナルド・トゥスク首相らと共に、アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領に電話を行った。

 翌11日、ゼレンスキー大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対し、5月16日(木)にトルコで直接会談を行うよう呼びかけた。この動きは、週末にかけて展開された米国主導の和平努力に関する提案の応酬の一環である。ゼレンスキー大統領は、5月12日(月)からの即時停戦を改めて求め、「私は(トルコで)プーチンを待つ。個人的に。」とX(旧Twitter)上に投稿した。

 背景として、ウクライナおよび欧州の同盟国は、ロシアに対して無条件の30日間停戦を5月12日から実施するよう要求しており、その後に交渉を行うことを提案していた。一方、ロシアはこの提案を事実上拒否し、前提条件なしで5月16日にトルコ・イスタンブールでの直接交渉を提案した。

 ドナルド・トランプ大統領は11日にSNSで、ウクライナはプーチンによる和平交渉の提案を「直ちに受け入れるべきである」と主張し、会談の開催によって合意の可能性を判断できると述べた。「もし合意が不可能であれば、欧州と米国はその現実を把握し、次の対応に進むことができる」と投稿したうえで、「今すぐ会談せよ!」と強調した。

 ウクライナ側は依然として停戦の先行を求めており、ゼレンスキー大統領は「ロシア側が戦争終結に向けて考え始めたことは前向きな兆候である」と述べつつ、「停戦がなければ交渉の土台がない」と主張した。ロシア側は、停戦は交渉の中で合意され得ると述べたが、「ウクライナに再武装と動員の機会を与えるだけの一時的な停戦には意味がない」と強調した。

 ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は、プーチン提案について「非常に真剣であり、紛争の根本的な原因を解決するためのものだ」と説明し、「和平への真の意志の表れである」とした。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、プーチンと電話会談を行い、ロシアの提案を「完全に支持する」と述べた。また、フランスのマクロン大統領とも電話を交わし、和平努力における「歴史的な転機」に達したと述べた。

 ゼレンスキー大統領は、ロシアから停戦に関する「明確な回答」をまだ得ていないとしつつも、月曜からの停戦実施を引き続き期待していると述べた。また、欧州諸国首脳がプーチンが停戦に応じなかった場合には追加制裁を行うと約束していることにも触れ、「我々は見守る」と語った。

 ただし、現地では戦闘が続いている。ロシアは5月8日から10日まで自発的な3日間の攻撃停止を宣言していたが、それが終了した11日にはウクライナに対し大規模な無人機攻撃を再開した。ウクライナ空軍によると、ロシアは6方向から108機の攻撃用ドローンと模擬ドローンを投入し、うち60機を撃墜、41機はウクライナ側の妨害措置によって目標に到達しなかったという。

 ロシア国防省は、ウクライナが自ら宣言した停戦中に1万4千回以上の攻撃を行ったと主張しており、ウクライナ外務省はこの主張を「茶番」と批判している。また、ロシア・クルスク州のリリスク市に対してウクライナがミサイル攻撃を行い、ホテルが被害を受け3人が負傷したとする主張もなされている。

 ゼレンスキー大統領とプーチン大統領は2019年に一度だけ対面している。2022年9月、ロシアが4州を一方的に併合したことを受け、ゼレンスキー政権はプーチン大統領との交渉は不可能とする大統領令を発出していた。今回の直接対面呼びかけは、それ以来の初めてのものである。

【要点】

 1.ウクライナ・欧州の対応

 ・2025年5月10日、ゼレンスキー大統領は英・仏・独・ポーランド首脳と共にトランプ米大統領と電話協議を行った。

 ・ウクライナおよび欧州各国は、5月12日からの無条件30日間停戦をロシアに提案し、その後の和平交渉を提案。

 ・ゼレンスキーは、5月16日にトルコでプーチンと対面会談する用意があると発言し、「私は(トルコで)プーチンを待つ」と投稿。

 ・ゼレンスキーは、停戦がなければ和平交渉の基盤が成立しないと主張。

 2.ロシアの対応

 ・ロシアはウクライナ側の提案を受け入れず、**停戦を条件としない会談(5月16日イスタンブール)**を提案。

 ・クレムリンのペスコフ報道官は、ロシアの提案は「非常に真剣」であり、「和平への真の意志の表れ」であると述べた。

 ・ロシアは、停戦のみを先行させれば、ウクライナ側が再武装・動員する時間を与えるだけで意味がないと主張。

 ・トルコのエルドアン大統領はロシア提案を「完全に支持」すると表明。

 3.アメリカ・トランプの動き

 ・ドナルド・トランプ米大統領はSNS上で、ウクライナはプーチン提案を受け入れるべきと発言。

 ・トランプは「今すぐ会談せよ!」と投稿し、和平合意の可能性を確認すべきと主張。

 ・会談で和平が不可能ならば、それを踏まえて欧米は次の対応を決定すべきと主張。

 4.現地情勢・戦闘状況

 ・ロシアは5月8〜10日まで「人道的配慮による」一方的攻撃停止を発表していたが、5月11日に無人機による大規模攻撃を再開。

 ・ウクライナ空軍は、108機のドローンのうち、60機を撃墜・41機を妨害と発表。

 ・ロシア国防省は「ウクライナは停戦中に1万4千回以上の攻撃を行った」と主張。

 ・クルスク州リリスク市では、ウクライナの攻撃によりホテルが被害を受け、3人が負傷したとされる(ロシア発表)。

 5.その他の重要情報

 ・ゼレンスキーとプーチンの唯一の直接対面は2019年。

 ・ゼレンスキー政権は2022年9月、プーチンとの交渉を禁じる大統領令を発出していた。

 ・今回の「トルコでの対面呼びかけ」は、事実上それを打ち破る新展開である。

【桃源寸評】

 多くの報道、特にSTARS AND STRIPESのような米国内向けのメディアでは、トランプ氏の圧力や介入が「プーチンの反応を引き出した」とする筋書きが好まれる傾向がある。だが実際には、ロシア側が「トランプ流」の一方的かつ恫喝的な交渉スタイルを嫌い、自らの主導で交渉の場を整えようとした可能性が十分に考えられる。

 2025年5月、ロシアのプーチン大統領がウクライナとの直接交渉の用意がある旨を表明し、トルコにおける対話の可能性が国際的に報じられた。同時期、米国のドナルド・トランプ大統領がSNSを通じて、ウクライナに対しプーチンの提案を受け入れるよう促した。この出来事に関し、一部の西側メディア、特に《Stars and Stripes》などの報道は、プーチンの動きがトランプの介入によって引き出されたかのような印象を読者に与えている。

 このような因果関係の逆転に基づくナラティブの虚構性を指摘し、プーチンによる決定がロシアの戦略環境に根ざした独自の判断であることを指摘する。

 プーチンの意思決定構造

 ロシアの国家安全保障および外交政策においては、大統領主導による戦略的意思決定が中心である。特にウクライナとの戦争においては、軍事的・外交的状況、国内経済、対中関係およびグローバル・サウスとの連携状況など、複合的要因を総合的に考慮したうえで、交渉や軍事行動の判断が下されている。

 2025年5月の対話提案も、戦場の膠着状態や国際的圧力を受けた上でのロシアの利益に資する戦略的対応であり、外部からの誘導による行動ではない。トランプ氏の発言はその直後に行われており、時系列上もロシア主導の発信を追認した形である。

 トランプの仲介姿勢とロシアの対応

 トランプ氏は2024年以降、自らの選挙戦略の一環として「ウクライナ戦争を24時間で終わらせる」と主張し、自身の外交手腕をアピールしている。しかし、ロシア政府やプーチン本人から、トランプによる仲介提案を受け入れる意思表示はなされていない。

 むしろ、2025年5月にプーチンが提案したのは、ウクライナ大統領ゼレンスキーとの直接会談であり、第三者の仲介を必要としない二国間交渉である。これは、ロシアの外交的主権を守る意図が強く反映された形式であり、トランプの介入を歓迎したものとは見なせない。

 米国発ナラティブの構造と問題点

 米国の一部報道機関は、国際政治の構図を「米国の影響力」に収束させる傾向を持つ。とりわけ、トランプの発言が国際秩序に影響を及ぼすという描写は、アメリカ中心主義的視座から出てくる典型である。

 《Stars and Stripes》などの報道が、プーチンの決断をトランプの言動と結びつけて描写した場合、それは本来戦略的に自立した判断を下しているロシア側の主体性を歪める表現である。プーチンは「動かされた」のではなく、「自ら動いた」のである。
 
 2025年5月のロシアによる交渉提案は、トランプ氏の呼びかけによって促されたものではない。プーチンは、国際政治と戦場の現実を踏まえて、独立した判断を下している。米国の一部報道に見られる「トランプがプーチンを動かした」という言説は、事実関係の誤認を招き、国際関係における力学を誤って伝える危険がある。

 現代の国際政治を正しく理解するためには、各国の指導者が示す行動の動機と背景を冷静に分析し、政治的な演出やメディアナラティブに惑わされない視座を持つことが求められる。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

Zelenskyy hopes for ceasefire with Russia and says he’ll be ‘waiting for Putin’ in Turkey personally STARS & STRIPES 2025.05.11
https://www.stripes.com/theaters/europe/2025-05-11/ukraine-president-ceasefire-talks-17755915.html?utm_source=Stars+and+Stripes+Emails&utm_campaign=Daily+Headlines&utm_medium=email

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